どこまでも手を伸ばす (ナナシ名無し)
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序章
カバディ少年の旅立ち


 カバディを始めたのは、今から二年ほど前の事。

 ちょうど中学二年生に成った頃だ。

 部活に入らずだらだらと一年目を過ごし、希薄な毎日に飽きてきていた時、幼なじみの薫に誘われ、カバディ部に入部した。

 次第にその魅力に取り憑かれ、日夜練習に明け暮れていった。

 ランニングをして持久力を身に付け、ラダーを踏み足のキレを磨く。

 攻撃手(レイダー)としてチームの戦力となったのは、カバディ部に入部して一年が経過したころだ。

 必死に戦い抜き、卒業までスタメンで居続けた。

 だがそれと同時に、己の身体に限界を感じていた。

 元来貧血気味で身体の弱かった僕は、技を磨くことで戦ってきた。だが、高校に入り、周りの体格が一段と大きなものになると身体能力(フィジカル)で劣る僕は必然的に戦力外となっていった。

 ならばと、様々な格闘技を調べ、己の技に取り込もうとした。失敗を積み重ねながらも、成功への階段を登っていった。

 結果として僕は強くなったが、ここで新たな問題が発生した。

 オーバーワークによる足の疲労骨折。

 入院を余儀無くされた僕は、二年前と同様に退屈な日々を送ることとなった。

 

 

「はあ…。練習…したいなあ」

 せっかく皆に追いついて戦えるようになったのに。今度は身体を壊してしまうとは。

「早く治らないかなあ」

 何度繰り返したのか数えるのも億劫になるほど溜め息をついた頃。

 病室の扉が慌ただしく開き、一人の男が入ってきた。

 引き締まった肉体、同学年とは思えない高身長。短く切りそろえられた髪と曇りなき瞳。

 僕のカバディ仲間、親友の雲寺薫の姿がそこにあった。

 

 

「お見舞いに来てくれたんだ。ありがとう薫」

「どう致しまして。今日はお前に用事があって来たんだ」

 用事?

「用事って何さ?」

「こいつをお前に渡そうと思ってな」

 そう言うと、薫はリュックサックから大きめの箱を取り出しこちらに差し出してくる。

「〈Infinite Dendrogram〉っていうゲームのハードだ。今世界的に人気なVRMMOなんだぜ」

 名前だけは聞いたような気がする。何かすごい品切れしてるんだっけ。

「滅茶苦茶リアルなゲームでな。実際にプレイヤーが意識ごとその世界に入って操作するとか何とか」

「随分アバウトな情報だね。大丈夫なの?」

「大丈夫さ!何たってこいつは本物(・・)だからな」

 本物?

「取り敢えず一回やって試してみてくれよ。気に入らなかったらそれでいいからさ」

「薫がそこまで言うんならいいけどさ」

「よっしゃ!それじゃ早速やるか。ここをこうしてだな――」

「分かったから、静かにね。他の人もいるから――」

 

 

 薫の勢いに押され、僕は〈Infinite Dendrogram〉を始めることになった。

 このゲームにより、僕の日常は大きく変化していく事になる。

 

 

 ◇

 

 

 気がつくと、僕は見知らぬ部屋にいた。

 部屋の内装を見ると、木造洋館の書斎といった印象を受ける。

 さらに、目の前には揺り椅子に腰掛けた猫が此方に向けて微笑んでいる。

「ようこそいらっしゃいましたー」

 そう猫は喋る。チュートリアル用のNPCだろうか。

「どうも。ここは、チュートリアル用のエリアにあたるんですか?」

「そうだよー。ここで色々設定してもらってから、〈Infinite Dendrogram〉に入ってもらうんだよー。あっ僕は管理AI13号のチェシャ。よろしくー」

「よろしくお願いします」

「それじゃあ、まず描画選択からだねー。サンプル流すからじっくり決めてー」

 チェシャがそういうと、周囲の景色が一変し北欧諸国のような美しい街が映る。

 賑やかに人々が行き交い、通りには屋台が立ち並んでいる。

「・・・すごい。これがゲーム?」

 過去遊んだ事のある美麗なゲームの記憶と照らし合わせてみるが、これほど綺麗な――否。自然体な物があっただろうか。

 どれほど作り込まれたオープンワールドの名作でも、これほどの物は見たことも聞いたこともない。

 時代錯誤な超技術に圧巻していた所に、更なる驚きが僕を襲う。

 視点がリアル視から3DCGに、さらにそこからアニメーションに。

 あまりの事に、脳が理解を拒むような光景がそこには広がっていた。

「こんなもの、どうやって・・・・・・」

「視覚で得た情報って、結局脳で処理するからねー。やりようはあるの。それでどれにする?後からアイテムを使って切り替えられるけど」

「リアル視でお願いします」

「オッケー。じゃあ次はプレイヤーネームを設定してもらうからねー」

 何にしよう。本名は流石にアウトだし、あまり深く考えるのも面倒くさいし。

 これほど凄いゲームなら部活に復帰してからもちょくちょくやるだろうからネタネームも止めたほうが良い。

 そういえば、こういう時はドイツ語訳を頼れって薫がよく言ってたなあ。

 ここはカバディに因んで、呼吸とか決闘とかを訳してみよう。確か薫がくれたカッコイいドイツ語集に載ってたはず。

 数秒間記憶を遡り答えを得る。両方を取り入れるのも語呂が悪いので呼吸を意味する“アーテム”を使おう。

「アーテムでお願いします」

「りょうかーい。それじゃ、次は容姿を設定してねー」

 チェシャがそう言うと、目の前にのっぺらぼうのマネキンと設定画面が現れる。試しに弄ってみるが、項目があまりにも多くどうすればいいのか分かりづらい。

「リアルの身体をベースにしたり出来ますか?」

「できるよー」

 マネキンが一瞬で見慣れた自分の姿になる。何か自分がもう一人いるみたいで気持ち悪いな。

 そこから肉付きを良くしたり、身長を伸ばしてみた。ちょうど、僕の理想としてきた体型通りに。

 この身体で試しに動かせるか聞いたところ、大丈夫とのこと。

 試しにその場で飛び跳ねたり、左右にステップを行う。

 だが、

「しっくりこないなー。動いてて違和感ある。これじゃあ部活に復帰できても変な癖が付いちゃうな」

 理想の体型を諦め、リアルの身体に戻す。完全にそのままにするのも色々と危ないので、顔や髪を弄ることにする。

 ゲームっぽく金髪にしようかな。瞳もそれに合わせて色を変えよう。

 結局、出来上がったのは顔立ちを少し整え、髪や目の色を変えただけの自分だった。まあいいか。これで。

「これでお願いします」

「りょうかーい。次は一般配布アイテムを渡すねー」

 チェシャが軽く手を振ると、何も無い空間から鞄が一つ落ちてくる。

「これが収納鞄。所謂アイテムボックスだねー。中は異次元空間になってるから、見た目以上に物を入れられるよー。アーテム君の物なら入るけどー、逆に言うとアーテム君の物以外は入らないからー」

 自分の物しか入らない、つまり他人の物を盗んでも入れられないと。

「まあ《窃盗》スキルとか使ったり、PKした相手から奪ったりは出来るけどねー」

 やっぱりそういうスキルもあるんだ。けど盗賊って終盤弱いイメージ何だよなあ。

「スキルのレベルの高い人は、直接異次元空間から盗んだり出来るけどねー。それ対策の防犯用アイテムボックスとか、容量大きめのとかもあるから。お金が貯まったら買ってみるといいよー」

 容量大きめ?ってことは無限に入れられるって訳じゃないのか。

「これの容量はどれくらいなんですか?」

「サイズは教室一個分くらいかな。重さは地球換算でだいたい1トンくらいー」

「結構入るんですね」

「商人とかやると足りなくなるみたいだけどねー。あ、アイテムボックスの類は耐久度が尽きると中身をぶちまけるからー。注意してね」

 それを狙う盗賊もいそうだなー。注意しとこう。

「じゃあ次は初期装備だねー。これがカタログ」

「ありがとうございます」

 渡されたカタログをみると、西洋風や中華風、和風の衣服やSFチックなスーツ。白衣や鎧まで。その種類は多岐に渡る。

 というか、このゲームのジャンルてファンタジーじゃないの?さっき城下町映像でてたけど。

 取り敢えず動きやすい奴にしよう。カバディのユニフォームとかないかな?流石にないか。じゃ適当なのでいいか。

 探すこと数分。僕が見つけたのは黒地のスポーツウェアの上下。あまり好みのデザインじゃないけど。まあいいか。

「これでお願いします」

「オッケー。武器はどうするー?」

 そうしてまたカタログを渡してくるが、いい加減このチュートリアルをさっさと終わらせたくなってきた。

 適当に決めよう。

「このナイフでお願いします」

「了解。それじゃこの装備と武器をアバターに着けてっと。次は路銀だねー。全部で5000リル。日本円だと五万円くらいだよー」

 渡されたのは五枚の銀貨。一枚1000リルか。

「これが尽きる前にお金を稼げるようになってねー。それじゃ、次は待望の〈エンブリオ〉だよー」

 〈エンブリオ〉?

「何ですか?それ」

「あれ知らなかったの?」

「はい。友人に勧められて大した説明もなく始めてるので」

「そっかー。じゃあ説明するねー。〈エンブリオ〉はプレイヤーのパーソナルを解析して全くのオリジナルへと進化する相棒みたいな物だよー。幾つかのカテゴリーに分類されてるんだけどー、聞いてく?」

「大丈夫です。後で友人に聞いてみることにします」

「オッケー。・・・はい移植は完了だよー」

 えっ?

 気づいた時には左手に輝く卵のような物。〈エンブリオ〉が移植されていた。・・・いつの間に。

「〈エンブリオ〉が孵化すると、その卵の代わりに紋章が現れるからー。それがプレイヤーと他の人達を見分ける証明書みたいな物だからー。そうでないと見分けつかないしねー」

 あれだけリアルなら確かにそうだろう。30年前のゲームの時点で現実と遜色ないと言われるほどだったんだから。

「紋章には、〈エンブリオ〉を格納する役割もあるからー。このゲームをプレイする中で、常に行動を共にすることになるから、大切にねー」

「もちろんです。せっかくの相棒ですし。大事にしますよ」

「じゃあ最後に、所属する国家を決めてねー」

 チェシャが広げたスクロール型の地図は、各国の首都を光の柱で示し、さらにそれぞれの街の様子を映し出す。

 

 騎士の国『アルター王国』。

 刃の国『天地』。

 武仙の国『黄河帝国』。

 機械の国『ドライフ皇国』。

 商業都市郡『カルディナ』。

 海上国家『グランバロア』。

 妖精郷『レジェンダリア』。

 

 どれも違った魅力があって素晴らしい。

 僕の選んだ服装だとどこへ行っても浮きそうだし、適当でいいか。

「アルター王国でお願いします」

「了解。因みになんでー?」

「何となくですね。後日本人が多そうなので」

「確かに好きそうだねー。それじゃあ、王都アルテアに飛ばすからー」

 

 

「あ、言い忘れてたけど、このゲームは自由だから。何をやってもいいよー。君が望むなら、英雄だろうと魔王だろうと。出来るのなら何をやってもいい」

 何だか古風なオープンワールドゲームのキャッチコピーみたいな言い文句だなぁ。

 そんな事を思っていると、チェシャの声音が真剣な物になり。

「〈Infinite Dendrogram〉へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」

 その言葉が耳に届くと同時に、僕の身体は宙へと投げ出された。

 

 

 こうして、〈Infinite Dendrogram〉に足を踏み入れた僕は、これから起こる様々な珍事の数々を全く予期していなかったのである。

 

 

 To be continued

 

 



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カバディ少年の出会い

受験の合間に気が向いた時に適当に投稿していきます。更新は不定期かつ亀の歩みですので、気が向いた時にでも思い出して読んでいただけたら幸いです。


 □アーテム

 

「・・・いくら何でも、いきなり落とされるとは思わなかったよ」

 チュートリアルを終え、城門付近へと落下してきた僕は、若干挙動不審になりながら門をくぐる。

 他の人も確認を受けている様子は無いし、この門は基本通行自由なのかな。

 門を抜けた先には、整備された石畳の通りとその両脇に立ち並ぶ屋台が見える。また、通りは人で溢れかえっており、中にはプレイヤーと思しき武装した者も多く見られた。

 取り敢えずジョブにでも就こうと思うが、どこへ行けば良いのか分からない。少し通りの端に寄り、メニュー画面を開く。

 マップの項目を見つけ、調べると、この通りを真っ直ぐ進んだ先にある噴水広場から、何本か通りが伸びており、ギルドはその周辺に点在していた。

 もしかして、ギルドってジョブ種ごとに分かれているタイプなのかな?

 

 

 ◇

 

 一番近い所のギルドに入り、受付で話を聞いたところ、ジョブに就く為には“ジョブクリスタル”が必要であり、就くことが出来るジョブもクリスタルによって異なるという答えを得た。

 また、ここは【戦士】を中心とした前衛戦闘職に就けるクリスタルがあるのでよければ就いていったらどうかとも言われた。

 オススメを聞いたところ、【適職診断カタログ】なるものを取り出してきた。

 どうやらアンケート形式の問いに答えていくことでその者に適したジョブを診断するアイテムらしい。

 試しに使ってみると、

「【拳士】に【闘士】、【狂戦士】に【蛮戦士】か。随分と偏った結果だなー」

 心当たりは無いでも無いけど。

 この中だとどれが良いんだろう?

 個人的に惹かれるのは【拳士】と【狂戦士】だけど。これって後で変えれたりするのかな?変えられるなら最初は適当でも良いけど。

 受付に質問してみると、ジョブは下級職・上級職・超級職と分かれており、下級職は50レベルまでで6つ。上級職は100レベルまでで2つ。超級職は条件さえ満たせば幾つでも就け、レベルに制限は無いが先着1人であること。また、ジョブはジョブクリスタルでリセットし就き直せるとのこと。

「じゃあ取り敢えず【拳士】に就こうかな。武器を持たなくて済むし」

 就き終わったらモンスター倒しに行こうかな。戦ってればそのうち〈エンブリオ〉も孵るでしょ。

 何だかワクワクしてきたなぁ。

 楽しみだ。

 

 

 ◇

 

 というわけで、僕がやってきたのは見晴らしの良い草原。

 所謂“初心者狩場”の1つだ。【パシラビット】や【リトルゴブリン】といった弱いモンスターの多いエリアで、見渡してみると、僕のような初心者が拙いながらも戦っているのが見える。

 その中でも特に目を引くのがビジネススーツに身を包んだ男性だ。その手に握る、〈エンブリオ〉と思しき鞄を振るい、中から飛び出た刃が鞭のようにしなって敵を切り裂く。

 ノコギリに削られたようなざらついた切り傷を晒しながら緑皮の小人が倒れ伏す。それはやがて光の粒となって消えていった。

「エグい武器だなー。僕のもあんな感じになるのかな。それはちょっと嫌だなー」

 というか何で鞄に収納されてるんだろう?標的に武器を持っていると悟られないためかな。

 ただの暗器じゃないか。

 

「さーて僕の相手してくれるのだーれかなー」

『ギギィ!ギギィ!』

「二匹も来ちゃった。まあいいや、さあかかってこい」

『ギャギィ!』

 強く腕を振り下ろす右のゴブリンに対し、左に軽く避け、振り下ろした後の右腕を掴む。そのまま足に力を込め、回転。遠心力の力を借り、もう1匹に向けて投げ飛ばす。

『グウェエ!』

 畳みかけるように、【拳士】の攻撃スキルを発動し倒れた状態の2匹に叩きつける。

『グヴェ』

 まだやられてないようだ。動こうとしている。

 立ち上がる前に再度攻撃スキルを叩き込む。

『グゲエエエエエ!!』

「うるさいなー」

 もう一発。

 ようやく倒れた。やっぱり【拳士】は攻撃力は低めなのかな。レベルが低いせいもあるだろうけど。

「次いくかー」

 次の獲物を探そうと起き上がった瞬間、視界の端に黒い軌跡を捉えた。

 咄嗟にその場から飛び退くと、先程まで僕の居た場所を黒い軌跡ーー“鞭のようにしなる刃”が掠める。

「何のつもりですか?」

「ありゃ、避けられちゃったか。お前目が良いな。ああ、何のつもりかってーとな、PKの練習だよ。うまく死角から奇襲したと思ったんだけどな」

 スーツ姿の男が、親しげに語りかけながらこちらへと詰め寄る。

 そういう手合いね。

「そうですか。大人しく殺されるのは嫌なので少々抵抗させて頂きますね」

「話が早くて助かるわ。じゃあ、やろうや」

 相手が右手の〈エンブリオ〉を構えたのに反応し、こちらも戦闘態勢に入る。姿勢を低くし、相手の動きに注視する。

 鞭のようにしなる刃は、先程の奇襲から考えてそこそこ射程が長い。にもかかわらず、相手は距離を詰めようとしている。近距離で真価を発揮するナニカを隠し持っているのか、それともこちらの攻撃を誘いカウンターを狙っているのか。

 相手の〈エンブリオ〉の形態があれだけとも限らない。そもそも鞄から鞭に変形しているのだ。まだ変形を残していても不思議ではない。

 また、こちらは〈エンブリオ〉をまだ使えない。【拳士】の攻撃力の低さを考慮すると、相手の広範囲攻撃を避け、距離を詰め、相手の抵抗を許さない程の連撃を加えるか。それともヒットアンドアウェイに徹するか。

「まずはっ」

 急加速。磨き上げてきた走りの技術を用い、間合いを一気に詰める。

 さあ、どうする?

「《変形:仕込み杖(モードチェンジ:ソードケイン)》」

 奴の〈エンブリオ〉が、高速で鞭から杖へと変形し、こちらへと迫る。

 確かにこれなら距離を詰めても戦えるだろう。もしかしたら剣よりも振りやすいかもしれない。

 

 だが、

「・・・ディ」

 僕には当たらない。

 

 すんでのところで急ブレーキ。首の皮を掠めるギリギリで避ける。そして、急発進。

 杖を振り終えた相手へと拳を振るう。狙うは顔面。

 もちろん攻撃スキルを乗せて、だ。確実にダメージを与えていこう。

「グハッ!?」

 綺麗に後ろへと吹っ飛んでいく。隠し玉があると思ったけど拍子抜けだな。だが、油断はしない。

 ここで距離を開かされれば、〈エンブリオ〉を鞭へと変形させ、此方を近づけさせない戦い方に変えてくるだろう。

 再度加速。追撃を狙う。

 

 

「ストーーーップ!」

 鼓膜が破れるかと思う程の大声が第三者より放たれた。まるで怪物の雄叫びと思える程の爆音。僕も相手も、一度闘争を中断した。

「何ですか?」

「邪魔すんなよ。こっからが良いとこだってのに」

 二人で声のした方を向く。そこにいたのは、小柄な少女。手には拡声器を持っている。この世界(ゲーム)に用意されていた物とは思えない。〈エンブリオ〉だろうか?

「何だじゃないわよ。あんたたちここがどこだか解ってんの?“初心者狩場”よ!“初心者(・・・)狩場”。他の初心者プレイヤーが大勢いんの。迷惑なのよあんたたち」

 10数メートル先から拡声器を使い、こちらへとまくし立てる。遠いな。

 彼女のいる方へと二人で歩きながら、それに答える。

「別に魔法を馬鹿みたいに撃ち合ってたわけでもねーんだし良いだろうが」

「あなたの声も十分迷惑だと思うんですが」

「うっさいわね!迷惑って言ったら迷惑なの!何初心者同士なのにいきなり対人戦始めてんのよ。初心者らしくレベル上げてなさいよ。レ・ベ・ル!」

 

「この人がふっかけてきたんですよ?」

「こいつノリノリで俺を殴ってきたんだぜ?」

 

「どっちでも良いわよ!とにかく、私の狩りに邪魔だから別のとこでやってくんない?」

 身長140センチ位の小さな身体をめいいっぱい使ってこちらへの怒りを露わにしてくる。

「わざわざ移動するの面倒臭い」

「嫌だな。何でお前の命令を聞かなきゃならなんのだ」

「じゃああんたら纏めて私がデスペナにしてやるわ。あっちで後悔なさい!」

 拡声器をこちらへ向け、声高に叫ぶ。

「では僕は街に戻るので、二人で勝手にやっててください」

「俺も街戻るわ。じゃあなチビ」

「チビとはなによ!あんたも待ちなさいってば」

 これ以上は本当に面倒だ。早く逃げよう。

 城門へとダッシュ。急いでその場から離れる。

 後ろからギャーギャーと騒ぐのが聞こえるけど気にしない。こういう時は逃げるに限る。

 

 

「待ちなさいってばー!」

 

 

 □【拳士】アーテム

 

 あれから数分。スーツの男と一緒に裏路地を利用しながら逃げ続け、なんとか爆音少女を振り切った。

「いやー走った走った。しつこい奴だなぁ」

「はあはあ・・・。どうする?・・・続きやる?」

「いや、もういいわ。なんか毒気抜けた」

「それじゃあ僕はこれで」

 もうスーツ男と一緒に行動する理由もない。今度は別の初心者狩場に行こう。そうして歩き始めた僕の肩を、スーツの男が掴み、止めてくる。

「なんですか?」

 今日ログインしていられる時間はあまり無い。いくら〈Infinite Dendrogram〉の中が三倍の時間になっていても無駄は避けたい。

「折角だしさ、俺達でパーティー作ろうぜ。気が合いそうだし」

 

 パーティー?こいつと?

 HAHAHA、ノー。

 

「いきなり殺しにくる奴とパーティーなんて組みたくない」

「まあまあそう言わずにさぁ。【拳士】のお前と【暗殺者】の俺の二人でPKを楽しもうぜ?」

「なんで僕のジョブを?」

 話した覚えはない。何かのスキルか?

「あ?スキルだよ。《看破》っていうな」

 なるほど、そういうのもあるのか。わざわざ《看破》なんて作るってことは、それを防ぐスキルもあるのだろう。

 情報は武器だ。出来れば早めにそうしたスキルが欲しいな。

「そんなことは良いからさ、パーティー組もうぜ?俺はクライム。トップPKを目指してる。こいつが俺の相棒(〈エンブリオ〉)、【キメラ】だ。よろしくな」

 まあ別にPKが特別嫌いって訳じゃないし良いか。

「・・・はあ、わかったよ。僕はアーテム。〈エンブリオ〉はまだ孵化してない。よろしくクライム」

 

 そんなこんなで、僕らはPKとなった。

 なったのだけど・・・。

 

「話は聞かせて貰ったわ!その話私も混ぜてもらうわよ」

 

 高らかにそう告げたのは、僕らを追いかけ回した少女。

 低身長・金髪・ツインテと、属性をてんこ盛りした彼女は、〈エンブリオ〉と思しき拡声器を片手に、僕らの前に現れた。

 

 

 To be continued.



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カバディ少年の〈エンブリオ〉

 □【拳士】アーテム

 

 

 

「話は聞かせて貰ったわ!その話私も混ぜて貰うわよ」

 

 

 

 ・・・・・・、さあてどうしようか。

 取り敢えず無視しとこう。そうしよう。

 

「それじゃあクライム、初心者狩場に戻ろうか。今日ログインしていられる時間もそんな残ってないし」

「・・・わかった。行こうぜ、お前の〈エンブリオ〉もそのうち孵るだろ」

 

 クライムも考えは同じようだ。

 そのまま何食わぬ顔でその場を離れようとする。

 

「ちょっと!無視してんじゃないわよ!私も混ぜなさいってば!」

 

「そういえばトップPKになるって言ってたけど、具体的に何するの?」

「あー、具体的には何にも考えてねーよ?」

「何で疑問系?」

 

「ちょっとー?ちょっとってば」

 

「細かいことは良いだろ?取り敢えずレベル上げて、いい装備手に入れて、強い奴を狩る。それだけだ。PKになろうがそれは変わんねー」

 何も難しいことは無い。

 ひたすらに強くなり、強敵に挑み、狩る。

 基本的なゲームの遊び方。

 PKもそれと対して変わらないとクライムは言った。

 強敵、か。

「・・・なんかワクワクしてきたかも」

「いいねー。お前もノリノリじゃねーか」

 

「待ちなさい!待たないと攻撃するわよ!」

 

 ・・・さて、流石にこれ以上無視するのは可哀想だ。足を止めて振り向き、応対する事にする。

 クライムも僕を見て足を止めた。

 

「そんなに一緒にPKしたいんですか?」

「さっきは俺らの戦い止めた癖によ」

 

「・・・やっと止まったわね。後数秒遅かったら、本当に攻撃するとこだったわ」

 

 まさか本気であの爆音を街中で放つつもりだったのか?僕らの戦いを迷惑行為だと止めたのに?

 そんな事したら確実に迷惑プレイヤーとして掲示板に晒されたり、NPCに捕縛されたりするだろうに。

 

 ・・・もしかしてこの子、馬鹿か?

 

「別にPKに興味があるわけじゃないわよ。あんた達、そこそこ強そうだし私の下僕一号・二号にしてあげようと思ったのよ」

 

 ・・・・・・この子は何を言っているんだ。

 ロールプレイか?ロールプレイだな。まさかこんな往年のラノベに出てきそうなコッテコテのキャラが素の筈がない。

 きっとそうに違いない。

 

 どうにか言いくるめて立ち去ろう。そうしよう。

 そう思った矢先、

 

「ああ?何でおめーみてーなチビに従わなきゃいけないんだ?」

 

 何やってんだクライム。

 ちょっと短気すぎやしませんかね。

 それともなに?

 君もそういうノリのロールプレイなの?チンピラAみたいな言動して。

 

 目指すはトップPKでしょ。ドカンと構えてようよ。

 

「じゃああんた達、私と勝負しなさい。私が勝ったら、あんた達は私の下僕よ」

「上等じゃねーか。お前に俺らが殺れるのか?」

 

 

 ああ、もう戦う流れになってる。僕まだ〈エンブリオ〉も孵化してないのに。

 

 ん?

 

 何か今変な感覚が。

 

 

「それじゃどこか開けた所に行きましょう?街の外がいいわ」

「おう、ぶっ殺してやらぁ」

 

 あっ、〈エンブリオ〉が孵化した。

 えーっと〈エンブリオ〉の説明はーっと。

 

 メニューを開き、〈エンブリオ〉の欄を探す。

 あー、なるほど。そういう能力か。

 

「おい、行くぞアーテム。こいつに俺らの力を見せつけてやろうぜ」

 

「ちょっとー、あんたも速く来なさいよ。それとも負けるのが怖い?」

 

「・・・ごめんごめん。今行くよ」

 取り敢えず、この爆音少女で試すとしよう。

 

 

 ◇

 

 

 □【拳士】アーテム

 

 さて、やって参りましたのは〈イースター平原〉。王都アルテアの東門を抜けた先にある初心者狩場の一つだ。

 初心者プレイヤー達が一生懸命に手持ちの武器を振るい、〈エンブリオ〉と共に戦っている。

 彼らのような真っ当な初心者に対して、いきなり対人戦を始めようとしている僕らは、極めて異質だろう。

 

 ・・・はあ。本当に何でこんなことに。

 

「それで?どっちが先にやるの?」

「俺に決まってんだろ。で、ルールはどうすんだ?デスペナになるまでやるわけにもいかねーだろ」

「初撃を当てた方の勝ちで良いんじゃない?」

 

「それでいいわ」

「異議なし」

 

 さて、邪魔にならないように離れておこう。

 十メートル位でいいかな?

 僕は邪魔にならぬよう距離をとり、二人へと視線を移す。二人は各々の〈エンブリオ〉を構え、準備万端といったところ。

 殺る気まんまんだなあ。表情が恐い。

 

 

「それじゃあ始めていい?」

 

 

「ああ」

「いいわよ」

 

 

「それじゃあいくよ。ーー始め!」

 これから起きるであろうアレ(・・)に備え宣言と同時に耳を塞ぐ。

 そして、

 

 

『《ハイパーヴォイス》!!』

 

 

 スキル名の発生と同時に放たれた爆音。その音の過ぎ去った後には、僅かに抉れた緑の大地と、遠くで横たわるクライムの姿があった。

 ・・・やっぱりこうなったか。

 ていうか頑丈だなクライム。デスペナになると思ったのに。

「頑丈ねあんた」

「いってー」

 爆音少女の声に答えるように、痛い痛いと言いながら、クライムがよろよろと立ちこちらへと歩いてくる。

「相手がメガホン持ってたんだから音による攻撃が来るって分かるでしょ普通。何で何の準備もなしにこの喧嘩買ったの」

「一応避けるつもりだったんだよ。速すぎてよけられなかったけどな」

 どう避けるつもりだったんだよ。

 相手の攻撃は音速だぞ?

 

 

「あんたもやる?」

 少女がポーションらしきものを飲み干すと、こちらに聞いてくる。

「当然」

 僕の〈エンブリオ〉の能力からすれば確実に勝てるだろう。それに今の攻撃は強力だが、欠点もある。そこを突けばいい。

 

 その場で軽く屈伸。

 それからクラウチングスタートの体勢になる。

 準備完了。

 

 

「クライム、いつでもいいよ」

「私もいつでもいいわよ」

 爆音少女がメガホンを此方に向けながらそういう。

 

 

 

「よーし始めるぞ。3,2,1ーー始め!」

 

 

 

「《爆天》」

『《ハイパーヴォ、っ!?』

 爆音は一つ。

 僕の背後で起きたソレのみ。

 相手のスキルが発生することはなく、僕の拳が爆音少女を突き飛ばした。

 

 

 音速の攻撃をどう攻略する?

 “相手の発声の前に攻撃すればいい(・・・・・・・・・・・・・・・)”。それが一番確実で楽な方法だ。

 

 

 

 《爆天》。

 生まれたての僕の〈エンブリオ〉、【爆天風刃 フラカン】のアクティブスキル。

 自身を弾丸の如く弾き出す、風の爆弾。

 

 

 別に本当に弾丸と同等の速さで進むわけではないと思う。

 けど、それで充分。例え音速の攻撃であっても、本人まで音速で動いているわけではないのだから。

 そして、彼女が発声を終える直前に、僕のスキルの発声は必ず終わる。

 

 

 7文字と4文字。

 

 どちらの方が速く読み終わるかなど、それこそ愚問というものだ。

 

 

 ◇

 

 

 □【暗殺者】クライム

 

 ありのまま今起こったことを話すぜ!

 俺が爆音に吹き飛ばされ負けた後、アーテムと爆音少女の戦いが始まったと思ったら、いつの間にか爆音少女が遠くへと吹っ飛んでいった。俺を一瞬で倒したあの爆音少女がだ。

 何を言ってるかわからねーと思うが俺も自分で何を言ってるのか良くわかんねー。

 だが一つだけ言えるのはアーテムの野郎が、爆音が放たれる寸前にあの爆音少女をぶっ飛ばしたってーことだけだ。

 

「すげーなアーテム!何やったんだ今?」

 スキルの反動か爆音少女と一緒に吹っ飛んでいったアーテムへ駆け寄り、その勝利を褒め、どんなスキルを使った結果こんな事になったのかを聞いてみるとする。

「ああ、〈エンブリオ〉が孵ったんだ。ほんのついさっき。それを使って、相手がスキルを使う前に殴り飛ばしたんだ。勢い強過ぎて自分まで吹っ飛んだけど」

 どうやらようやく〈エンブリオ〉が孵ったらしい。今の攻撃から考えて、爆発を使う〈エンブリオ〉か?けど、爆発の時、火は出てなかったよな。

 じゃあ何だ?風とかか?

 

 

「ていうか容赦なさすぎ。少女相手に全力で殴るのかよ」

「・・・お前の武器よかましだろ」

「それもそうか」

 

 

 

 ◇

 

 

 □【拳士】アーテム

 

「屈辱だわ」

 起きた少女が開口一番放ったのは、そんな毒に溢れた一言だった。まるで拗ねたようにほっぺを膨らませそっぽを向いている。

 流石にやり過ぎたか。

 もう一方のスキルをつかえば良かった。

「屈辱なのだわ」

「いやそんな二度も言わなくても」

「まさかスキルを使う前にやられるとは思わなかったわよ!何よあれ!」

「いや、ただスキルで自分をぶっ飛ばしただけだけど」

「そんなスキルを持った〈エンブリオ〉が生まれる何て、あなた変態に違いないわね」

 

「ほう?負け犬が偉そうにほざくじゃねーか」

 

 

『お前が言うな!』

 

 

「それで?こっちが勝ったわけだけど、どうする?クライム」

「仲間にしてやろう」

 

 

『は?』

 

 

「仲間にしてやるって言ってんだよ。お前強いし。何より、未来のトップPKとなる俺を倒した女だ。良い戦力になる」

「確かに強いスキル持ってるし、戦力になるってのはわかったけど、何でそんな偉そうなんだクライム」

 何かこいつのこと少し分かってきた気がする。あれだ皆に愛されるタイプの馬鹿だ。

 

 

「・・・わかったわよ。仲間になればいいんでしょ」

「お?以外と話がはえーじゃん」

「負けたのだから勝者達に従うわよ。けど覚悟しておきなさい!いつかあんたらを服従させてやるんだから」

「おっしゃ。俺はクライム、こいつはアーテムだよろしくな」

「よろしく」

「・・・クミンよ。よろしく」

 

 こうして、僕ら三人はパーティーとなった。

 

 果たしてこの三人で上手くやっていけるだろうか?

 不安も多いが、取り敢えず良いスタートダッシュを踏み出せたのではないかと思う。

 

 

 To be continued.



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クライムの師匠と防具の新調

新生活って思ってたよりキツイんだなぁ。


□【拳士】アーテム

 

パーティーを組んで数日が経過し、僕らの〈エンブリオ〉は皆第二形態へと進化した。

三人での連携にもそこそこ慣れて来て、順調にレベルを上げていた。

上げていたのだけど、・・・。

 

 

 

「どうしてこんなことしてるの、クライム?」

 

「どうしてこうなるのよ、クライム!」

 

 

 

僕らは、セーブポイントである噴水広場で、先程クライムの持ってきたクッキーを子供達に配っているのだった。

 

 

『お兄ちゃんたち、ありがとうーーー!』

 

 

 

 

 

「モヒカン師匠に言われたんだよ。“無法者たるもの、弱者を助け強者を挫くべし”と」

 

『いや、誰だよ』

 

「モヒカン師匠はモヒカン師匠だよ。お前ら知らねーのか?」

 

「知らないわよ」

「どうでもいいよ」

 

「然り気無く毒舌だなアーテム。まあいいか、良い機会だから教えてやるよ。モヒカン師匠はーーーー」

 

『だからいいって』

 

「何でだよ!格好いいんだぜ?モヒカン師匠は」

 

 

「そんなことより早く次の町に行く準備しましょ?もうそろそろ行けるレベルでしょ」

 

「そうだね。ポーションが心もとないからその補充と、・・・投擲用のナイフが欲しいな」

 

「お金もそこそこあるし、防具を新調してもいいわね」

 

確かに防具は新調しても良いかもしれない。僕なんかずっと初期装備だし。それに、今の狩場にも飽きてきていた所だ。

僕の〈エンブリオ〉、強いのは良いんだけど使うとあんま戦ったって感じがしないのが難点だよなぁ。もっと骨のあるやつが相手なら良いんだけど。

 

そういう点でも、次の町には早く行きたい。僕の主目的はその道中のボスモンスターだけど。

 

「・・・俺を無視して進めんじゃねーよ。ていうか随分仲良くなったなぁお前ら。」

 

『そう?』

 

ハモった。

 

「やっぱ仲いいな、お前ら」

 

自分でも不思議だ。何であのファーストコンタクトから数日でこうも気が合うのだろう。まあどうでもいいか。

 

「そういえば、クライムは何か新調しなくて良いの?武器は〈エンブリオ〉で事足りるだろうけど、ポーションだけでも買っといた方が良いんじゃない?」

 

「さっきのクッキーで有り金の大半使ったから、そんな金残ってねーぞ」

 

「いや、どんなクッキーならそんなに金かかるの?」

「馬鹿じゃなくて大馬鹿だったのね」

 

「褒めても何もやれねーぞ?」

 

そりゃそうだろうね。お金ないからね!

 

『何でそこで偉そうにするの 、お前は』

 

またハモった。

 

「モヒカン師匠からの教えだ。“無法者たるもの、金に糸目はつけるな”とな」

 

そして、会話は振り出しに戻った。

モヒカン師匠はもう良いよ。

 

 

 

 

□【拳士】アーテム

 

さて、モヒカン師匠を語り続けるクライムを無視しながらやって来たのは王都の大通りにある武具店。

ネットでも、“王国プレイヤーはまずここで装備を整えよう”と書かれている程の有名店だ。

メインは金属鎧や剣、槍などだけど、軽装系も多数販売している。

 

クライムは防具の新調。クミンは今別の店にポーション類を買いに行っている。

クライムにはパーティー共用の金から幾らか出して渡しておいた。

そして僕はというと、

 

「・・・もう少し軽いのは無いんですか?」

 

「・・・あのなぁ、お前の要求に沿って要所だけを守る設計のライトアーマー引っ張り出して来たんだぞ!?これ以上軽いの欲しかったらオーダーメイドしかねぇぞ。金あんのか?」

 

武具店の店主と絶賛口論中である。

でもそうか、流石にこのスポーツウェアと変わらない位の重さは無理だよな。ゲームだしそういうのも出来ると思ったけど。

オーダーメイドしてもいいけど、多分金足りないよなぁ。

 

・・・我慢してこのライトアーマーにするか。

 

「・・・分かりました。このライトアーマーで良いです」

 

「すげー不服そうな顔だなぁ、お前。まあ、俺も鬼じゃねぇ。お前がオーダーメイド品に見合う実力を身に付けて来たら考えてやるよ。それまではこれで我慢しな、ルーキー」

 

「いくらですか?」

 

「7200リル」

 

高い。でも品質は良い。僕の理想の重さじゃないだけでかなりの品だ。

要所にのみ装甲を配し、ルーキーでも手の届く価格に抑えながらも、そこそこな防御力と防御スキルを付けている。

 

仕方ないか。

 

「分かりました。買います」

 

「おらよ、大切に使いな」

 

さて、防具は買ったし後は投擲用のナイフだけか。

 

「この投擲用ナイフ三束程下さい」

 

「あいよ。強くなったらまた来な」

 

さて、後はクライムの防具だね。外で待ってるか。

店を出て、近くにあったベンチに座る。新しい防具の重さに若干の違和感を覚えながら、メニューバーを開き、〈エンブリオ〉の欄を見る。

 

 

フラカン

TYPE:テリトリー

到達形態:Ⅱ

 

『保有スキル』

 

《爆天》:

MPを消費することで体を強く打ち出し加速する。

アクティブスキル。

 

《風刃の衣》:

手足に風の刃を纏う。

※刃の攻撃力は、AGIに依存する。

※発動中、毎秒1ずつのMP消費が生じる。

アクティブスキル。

 

 

クミンとの決闘の際使用したのは、一つ目の《爆天》だけだった。しかし、レベリングによく使っているのは、二つ目の《風刃の衣》の方だ。

説明に書いてある通り、風の刃を纏うスキルなんだけど、実際に使ってみると非常に強く、使い勝手が良く、そして…、つまらない能力だった。

 

 

何故なら、このスキルを使うと、ただの殴る・蹴るの動作だけで相手を倒せてしまう。初心者狩場にいるモンスター達では、耐久力があまりに無くて、首を掴むだけでも殺せる。

はっきり言ってつまらない。

 

 

ボスモンスターとかみたいな、もっと上位のモンスターなら普通に耐えられるんだろうけどなぁ。

始めにこのスキルを見たときは、少ないダメージを着実に与えていくタイプのスキルだと思っていたのだけど。

 

 

「早く、次の町に行きたいな…」

 

 

 

「おーい、アーテム。聞いてるか?もう買い物終わったぞー」

 

「…ああ、ごめん。考え事してて気付かなかった」

 

「まったく…、シャキッとしなさいよね」

 

いつのまにか買い物を終えて、新品の装備を身につけたクライムと、ポーション類が押し込められた紙袋を抱えたクミンが、ベンチに座る僕の前に立っていた。

 

 

 

 

「それじゃあ行こうか。決闘の町、ギデオンに」

 

 

 



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