誰の目も視ない少女 (十六夜月乃)
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第1話 迅の頼み
今執筆中の話まだ書き終わってないのに何をやってるんだ私は…!
まあいいや。始まりまーす
街を歩くとき、その少女は下を向く。
余計なものを視ないように。
知りたくもないものを視ないように。
その少女は誰とも目を合わせないように、下を向いて街を歩く。
けれど、常に下を向いて歩くことなんてできないので、どうしても視えてしまうのだが、そこは仕方がないと諦めている。
「小町」
サングラスをかけた青年が少女に呼び掛けた。小町と呼ばれた少女は青年に向き直る。
「迅さん」
「呼び出して悪いな、小町」
迅と呼ばれた青年はにこりと笑って手を振る。小町は不機嫌そうに頬を膨らませ、びしびしと迅を叩いた。
「呼び出しておいて遅れるってどういうことですか、遅れるなら連絡くらい入れるです」
小町がジロリと迅を睨む。迅はさっと目をそらして耳をふさいだ。それを見てますます小町の頬が膨らんでいく。それこそ、風船のように。
「…まあいいです。そのかわり、昼食奢ってもらうですよ」
「うえ、マジかよ…」
「女子1人の昼食代ぐらい出すですよ。いくら無職でもそのくらい出せるはずです…よね?」
「さらっと毒吐くの止めてくれる?あと、出せるから!だからそんなかわいそうな人を見る目止めて」
何故だろうか、敬語なのに敬意が全くこもっていない。
小町は迅の言葉を無視して近くのファミレスに入っていった。
―
「で、何の用です?迅さんがこまちを呼び出すなんて、珍し…。…なんかヤバイことですか?」
大の大人も遠慮するような量のステーキを行儀よくむさぼり食いながら小町が迅に訊く。
迅はふるふると首を振った。それを見て小町はホッと息を吐く。
迅は未来を視ることができる。色々と制限はあるが、とんでもない能力であるのは明白だ。
便利な能力だと、誰もが思うだろう。よからぬことを考える馬鹿もいるはずだ。だが、小町は羨ましいとは思わない。
迅の苦労はよく知っているし、視たくないものを視る辛さは誰よりも理解しているつもりだ。
「…じゃあ何なのです?こまちを呼び出すほどのことだったのですか?」
「んー、何て言うのかな、近々上層部がゴタゴタするっぽいから…」
「…なるほど。こまちに城戸派につかれると厄介だから今のうちに玉狛に引き込んでおこうということですね」
「う…まあ、そうなんだけど…」
ストレートな小町の物言いに迅がポリポリと頬をかく。実際その通りだったので何も言えなかった。
「玉狛に引き込むって言うか、城戸さんの派閥につかないでくれれば充分なんだけどね」
苦笑して言う迅。小町は「そうですか」と再びステーキをむさぼり始めた。
「…ゴタゴタするの、どのくらい先なのですか?」
「ん?珍しいね。いつもは気にしないのに」
「ま、こまちとしてはどうでもいいので訊かないでいたですが、今回はなんとなく、です。それで?どのくらい先なのですか?」
小町の問いに迅は首をかしげた。
「…数ヶ月くらい?」
「…かなり先じゃないですか。そんなにはっきりと視えたのですか?今のうちから暗躍しないと間に合わないのですか?」
「ほんとに珍しいな…別にそういう訳じゃないけど」
煮え切らない迅の言葉に小町は眉をひそめた。だが、それはいつものことなので追及しなかった。
プロフィール
木影 小町 (こかげ こまち)
年齢:15歳
誕生日:3月3日
星座:みつばち座
好きなもの:お好み焼き、漫画、カラオケ、ゲーム
――――――――――――――――――――――
ここからあとがきです。
主人公と迅さんしか出てきてませんね。大丈夫です!色々出す予定なので安心してください!
この人出して~とかあればどんどん言ってください、頑張って出します(キャラ崩壊にご注意ください)。
ボーダーの隊員って何で2月3月生まれの人が少ないんですかね?3月なんて全くいないじゃないすか…
評価、感想お待ちしております!
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第2話 女はつらいよ
でも目は冴えてる不思議。
ねえ、過去を視る描写ってどうやって書くの?
とてとてと幼い足取りで小町が本部の通路を歩いていく。目をキョロキョロと動かして、まるで猫のように見つからないように警戒していた。
途中、目つきの悪いA級の男とすれ違い、嫌な過去を見せつけられたこともあって小町の顔は不機嫌そうに歪んでいた(常に不機嫌だけれども)。
(さっさと訓練終わらせて帰りましょう。彼らに見つかったらめんどくさいですし…)
そう思うと自然に歩くスピードが早くなる。仕方ない。本当にめんどくさいんだから…
「小町」
「…げ」
聞き覚えのある声に思わず口からうめき声が漏れてしまう。恐る恐る振り向くと、案の定というかなんというか、小町が想像した通りの人物がそこにいた。
「げ、とはご挨拶だな」
「言われるようなことをしてくるからですよ、風間さん」
A級3位の実力者、風間蒼也が全くの無表情で言う。
背は小町とそう変わらないが、一応21歳である。そして小町にとっては先輩であり、よく指導してくれるいい人だ。
……小町がお願いしているわけではない。
小町を気にかけて、風間が勝手に指導してくれているだけである。
「…それで、何のご用でしょうか?こまちはこれから訓練に…」
「ウチの隊に入隊するという件は考えてくれたか?」
風間のその言葉に小町は顔を思いきりしかめた。一応、先輩である。敬意の欠片もない。
小町が風間を見て「…げ」と言ってしまった理由はこれである。風間は会うたびに入隊しろと言ってくるので小町はうんざりしていた。
「その件は丁重にお断りしたはずです。風間さんには学習能力がないですか」
「相変わらず刺してくるな。だが、俺は諦めないと言ったはずだ」
風間の頑固な物言いに小町は深くため息をついた。一体いつになれば自分はこの人から解放されるのだろうか。
小町はもう一度はっきり断ろうと口を開き――
「あら、小町ちゃんに風間さん。こんなところで何を話しているの?私も混ぜてもらっていいかしら?」
やって来たA級6位の加古望によって遮られた。
この人にも会いたくなかったと小町は心のなかで呟く。残念ながら加古には聞こえなかったようだ。
「いえ、小町はもう行くので…ごゆっくりどうぞです」
「あら、なら私も一緒に行くわ。私が話したいのは小町ちゃんだし」
「(ノД`)ノ」
ニコニコと加古は言う。小町はため息をついた。
「は、話したいこととは」
「ウチの隊に入らない?」
「ですよね…」
風間と一緒だ。何度断っても諦めてくれない。もっと才能溢れる人材をスカウトすればいいのにと思うが、風間も加古も、頑固だということは嫌というほど知っている。
「おい、加古。無理やり入隊させようとするな。困ってるだろう」
「え、それを風間さんが言うですか」
風間の言うことはもっともなのだが、お前が言うなと言いたい。この男は自分の発言がブーメランになっているということに気づいていないのだろうか。
「あらあら。どの口がそんなことを言えるのかしら。それにこれは無理やりじゃないわ。圧力…いえ、スカウトよ」
「今圧力って言いましたか?詐欺まがいのことはやめていただけるとありがたいです」
妙なことを口走った加古を、小町は見逃さなかった。
が、小町の悲痛な訴えは無かったことにされる。
「ウチに来ればチャーハン食べ放題よ?食費には困らないでしょ?風間さんのところよりもウチのほうがいいと思わない?」
「命の危険があるので遠慮するです」
「ほら聞いた?風間さん。小町ちゃんはウチがいいんですって」
「話を聞いてくださいファントムばばぁ」
さりげなく悪口も混ぜてみるが、加古は全く気にしていない。むしろ上機嫌である。
「随分と耳が遠くなったようだな加古。もう老化が始まってるのか?今小町は俺の隊に入ると言ったんだ」
「だからあなたがそれを言うですか。入りませんて。聞いてます?」
バチバチと火花を散らしている風間と加古。
来るんじゃなかったと後悔するが時すでに遅し。こうなったら第三者が全力で止めなければ終わらない。
ああ…!誰か助けて…!具体的には迅さんとか鋼さんとか兄様とか! 神様、どうか自分に救いを…!
そんな願いが通じたのだろうか。
「あれ?風間さんに加古じゃん。なにしてんの?」
呑気な声で首をかしげているのはA級1位の太刀川慶だった。
「おっ!小町じゃねーか!ランク戦すっか!」
「…」
――神様、何故この男をこまちの元に遣わしたのですか。こいつ絶対役に立ちませんよ?
そんな失礼なことを考える。でも実際そうだろう。こんなやつがこの窮地を救ってくれるとは思えない。
初めて会ったとき、太刀川の過去を視て驚いた。
なぜならこの男、視せてくる過去は全てランク戦や防衛任務など戦闘系の類いばかりだったのである。
小町は意識して過去を視るとその人の過去を取捨選択出来るのだが、そんなことは滅多にしない。
なので、自動的にその人がとても思い出に残っている過去を視てしまうのだが、それは大抵嫌な過去、辛い過去であった。何故なら、嫌なこと、辛いことのほうが記憶に残りやすいからである。
だというのに、太刀川慶という男はそんな負の過去を全てスルーし、喜びの感情を詰めこんだ戦闘系の過去を視せてきたのだ。
それを視た小町は思った。こいつ、馬鹿だと。もう手遅れのヤバイやつだと。
だから、この男が風間と加古を止めれるとは思えな―――
と、そこでひらめく。あるじゃないか。たったひとつだけ、この状況を打破できる方法が。
小町は太刀川に向き直って言った。
「太刀川さん、こまちと個人ランク戦しませんか?」
「えっ!?マジで!?いつもは「絶対やだ!」って言って断るのに!」
「今日は戦いたい気分なのです。ほら、早くしないと気が変わっちゃいますよ!」
「オッケーオッケー、今すぐブースに行こう」
そのやりとりを見ていた2人が慌て出す。あっという間に話が進んでいて呆気にとられていたのだ。
「待て、太刀川。今俺と小町が話していた。ランク戦ならあとにしろ」
「なに言ってるのよ風間さんたら。小町ちゃんと話してたのは私でしょ?ほら、太刀川くん、小町ちゃん返して」
ずいと太刀川に詰め寄る風間と加古。太刀川は戸惑ってしまっている。
これはマズイと小町が頭を抱えてうめきだした。
「くっ!あと30秒でこまちはランク戦がしたくなくなってしまう!早く、しないと…!」
かなりの棒読みで言ったが、太刀川は「なんだと!?」と目を見開いた。
「よし、急ぐぞ小町!うおおおおお!!」
小町を抱え、太刀川が全力ダッシュしてブースに向かう。
騙しておいてなんだが、太刀川の将来が心配になる小町だった。
―
「…逃げられたな」
「逃げられたわね」
太刀川の背を見送り、2人はポツリと呟く。
相変わらずな太刀川と、相変わらずな小町の行動に、2人は顔を見あわせ苦笑した。
プロフィール2
木影 小町
サイドエフェクト:過去を視る能力(ボーダーには報告していない)
性格:他人に対する興味が薄い。過去を視ても何も出来ないことなどから人と深く関わるのをやめた。ドライ。敬語だが敬意はこめない。
体格:身長156センチ、髪型は耳の高さのツインテール。低身長だが出ているところは出てる。ロリ巨乳。
――――――――――――――――――――――
ここからあとがきです。
風間さんと加古さん、太刀川さんを書かせていただきました!皆スキー
キャラ崩壊してるかもです…「やだよこんなの私の好きな風間さんじゃない!」とかあったら申し訳ありません。
一応今は風間さんたちが遠征に行く前のお話です。
評価、感想お待ちしております!
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第3話 勘弁して
親睦とか深めるならまずは名前呼びでしょ
始まりまーす
3月20日 訂正しました
太刀川と個人ランク戦を(30本)行い、ヘトヘトになって食堂に向かう。
本当はランク戦をやる気は全く無かったのだが、太刀川のキラキラした瞳に耐えきれずしぶしぶブースに入らざるを得なくなってしまったのだ。
「うう…吐きそうです…」
テーブルに突っ伏しため息をつく。10本くらいで満足するかなと思っていたが甘かったようだ。
「疲れてんなぁ、小町」
ポンと小町の肩を叩いたのはA級の米屋陽介。一部の人たちから「槍バカ」と呼ばれている。こいつも戦闘バカだ。
チラリと顔だけ動かして米屋を見る。
「…よーすけ先輩、見てたですか」
「太刀川さんとのランク戦?見てたよ」
「…なら分かるですね。今日はもうランク戦しないですよ」
「そんなっ!?」
米屋が悲痛に叫ぶ。小町はプイとそっぽを向いた。
米屋の顔を見たとき、小町の目には彼の過去が視えた。
太刀川と小町がランク戦しているのを楽しそうに観ていたこと、しんどそうだな~とか考えながら笑っていたこと。そして、小町とランク戦したいなと思いながら声を掛けたこと。
小町は自分のサイドエフェクトを使いこなしていた。小さい頃から常に他の過去を視ているため、その時の感情まで読み取れるようになってしまったのだ。
「なーなー、戦ろうぜー」
「ちょっ…やめてください、揺さぶらないでください!ただでさえ疲弊してクタクタなんですから…!…分かった、分かりました!一本だけなら付き合うですから!だからやめてください吐いてしまいます…!」
ガクガクと米屋に揺さぶられ、小町の脳がシェイクされる。小町の返事を聞いて、一瞬嬉しそうに顔を明るくさせたが、すぐ真面目な顔になって言った。
「5本」
「…」
米屋の言葉に小町は口を閉ざす。
「…3本で勘弁してください」
「オッケー!じゃあ行こう今行こうすぐ行こう」
「分かりました、行きますからひっぱらないでほしいです」
―
小町と米屋は別々の部屋に入る。
「もう、今日は厄日です…」
『オレにとってはいい日だから』
「はあ…」
小町は重いため息をついて米屋に訊く。
「よーすけ先輩はA級、こまちはB級。これってイジメですか?」
『ちげーよ。イジメってほどオレとお前の実力変わんねーだろうが』
「そうですか?」
『そうだよ。お前さあ、そろそろどこかの隊に入れよな。風間さんとか加古さんとかいるじゃん。それが嫌なら自分で隊を作るとか』
「絶対嫌です」
キッパリと否定する小町。米屋は分かっていたようで『言うと思った』とだけ言った。
『まあいいや。さっさと始めようぜ』
「了解です」
その言葉を最後に、小町の目の前は光に包まれ、一瞬にして市街地の景色が映し出される。
目の前には米屋がいた。これから始まる戦いに心を踊らせているようだ。
「先手、いただきますよ」
「どーぞどーぞ」
―
タンッと軽く地を蹴る。通常の肉体であればあり得ないほどの距離を一瞬で移動した。小町は弧月を抜き、米屋に向かって構える。
米屋は慌てない。槍を振り回し小町を近づけないように動く。小町は弧月で迫る槍を弾いて距離をとる。
だがすぐにグラスホッパーを起動し目にも止まらぬ速さで動き回る。死角がとれれば弧月で頭を斬り落とそうとするがやはりA級。簡単に弾かれてしまう。
「…」
小町は動じない。こんな小細工で首が獲れたら逆に困る。小町には、米屋の「癖」が視えている。
(やりにくいな)
米屋は素直にそう思う。本気で獲りに来てるわけでもないし、だからといって手を抜いているわけでもない。なにか狙いがあるのは分かるが、こちらの動きを全て予測されていて小町の首を獲ることができない。
まるで、迅を相手にしているかのようだ。
「幻踊弧月」
「させません」
これも読まれていた。簡単にかわされ、かすり傷も付かない。米屋は舌打ちをした。
小町はスッと目を細める。
「…そろそろ」
そろそろ、米屋は小町の攻撃に慣れてきた。対処が早くなってこちらが防戦一方になっている。
だが、それも小町の計算通り。
小町のサイドエフェクトは、過去を視る能力。迅の未来を視る能力に比べたら、戦闘で有利なのは火を見るより明らかだ。
けれど、小町がA級と渡り合えているのは、小町の情報処理の速さが理由である。
過去を視る能力と言うが、正確には「記憶を視る能力」である。その人が覚えていなければ視ることができない。
だが、覚えていなくても、記憶の情報量は多いなんてものではない。
それを小町は、必要な記憶だけを取捨選択し、その記憶を元に情報を分析する。その作業が恐ろしく早い。
いくら情報を分析しても、体がついていかなければ意味がないのだが、小町のセンスのおかげでA級と渡り合えている。
このサイドエフェクト、そして小町の能力を知っているのは一部の人間だけである。米屋が知っているはずがない。
「旋空弧月」
斬撃を伸ばし、米屋の槍の刃を斬り飛ばす。
「…!くっそ!」
米屋は慌て、新しい槍を作り出す。その時間を稼ぐために距離を取ろうと後ろに下がる。
その瞬間を小町は見逃さなかった。
「テレポート」
試作トリガー、「テレポーター」を使い、一気に米屋の懐に入る。
「んなあっ!?」
急なテレポートに米屋はすっとんきょうな声をあげる。小町はためらいなく弧月を降り下ろした。
「ゲームオーバーです…よーすけ先輩」
―
「いやぁ、やられた~。相変わらず強いな小町は」
「あのあとこまちに勝っておいて何を抜かすですか」
「いやいや、そのあと引き分けだったじゃん?」
結果は一勝一敗一引き分け。B級がA級と戦った結果としてはかなりいい方なのではないだろうかと小町は思った。
実際、小町と米屋のランク戦を観ていた人たちは驚きおののいていた。
風間と加古が小町を引き入れようとする理由が分かったとばかりに。
「もう一戦する?」
「ぶっとばしますよ、遠慮するです」
懲りずに再戦を申し込んできた米屋をあしらいながら、小町は逃げるようにランク戦のロビーをあとにした。
トリガー紹介
<メイン>
弧月
旋空
グラスホッパー
シールド
<サブ>
テレポーター
グラスホッパー
シールド
バッグワーム
―――――――――――――――――――――
ここからあとがきです。
ドンパチシーン書くのめんどくさい!上手く表現できない!そして疲れた!
ドンパチシーンを分かりやすく、面白く書いてる方マジ尊敬っす…
評価、感想お待ちしております!
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第4話 兄様
春休み中はケータイを触るなと父に取り上げられまして…
書くに書けない状態だったのです。お許しください。
話は色々溜め込んでおいたのでわりかし早く投稿できると思います。
一刻も早くここから逃げようと足早に通路を歩く。今日は本当に最悪だった。家に帰ってゲームしよう。そして今日のことは忘れよう。
そんなことを考えつつ競歩で進んでいると、見覚えのある背中が2つ見えた。
「兄様、鋼さん」
ポン、とその背中を叩く。2人はビクリと震えた。
兄様と呼ばれた男が振り返る。小町を見る顔は不機嫌そうに歪んでいた。
「お前かよ、驚かせるんじゃねーよ」
「何を言うですか。呪いがあるでしょう」
「てめーの視線には感情がこもってねーんだよ!」
荒々しく怒鳴る、B級2位の影浦雅人。小町は口を尖らせて目を逸らした。
呪い、というのはサイドエフェクトのことである。
影浦は向けられる視線の感情を読み取るどギツイサイドエフェクトを持っているのだ。
「それで?何か用かよ」
「呼んでみただけですが。兄様は鋼さんとデートですか?」
「ちげーよ!何で男と!あと兄様って呼ぶなよ」
ちょっとだけ期待の目を向けて問うと、影浦はペシッと小町の頭をはたいた。小町は頬を膨らませて抗議した。
「なんですか、つまらないですね。それに、兄様は兄様です。兄様と呼んで何が悪いのですか兄様」
「呼ぶなっつったろ!何で連呼すんだお前!」
「まぁまぁ、落ち着けよカゲ」
小町の頬を引っ張りまた怒鳴る影浦をNo.4アタッカーの村上鋼が止める。
「別にいいじゃないか。小町は従兄弟なんだから」
そう。小町と影浦は従兄弟同士なのだ。これを他人に言うと、皆に驚かれる。あまりに似てなさすぎて。
「そうじゃねえよ。俺と知りあいって知られたらただえさえぼっちなコイツが余計にぼっちになんだろーが」
「兄様にだけはぼっちとか言われたくないのですが!鏡見てから言ってほしいです!」
「ああっ!?(怒)」
ギャイギャイと言い合いを始めた2人。村上ははぁとため息をついた。
この2人のケンカを止める方法が見つからない。会うたびにこうなのでいい加減うんざりしてきた。
「よし。お前ブースに入れ。斬り刻んでやらぁ」
「鋼さんと戦るのではないのですか?浮気とはいい度胸です。そんなだからモテないんですよ」
「浮気言うな!」
「あーもう…」
村上は分かりやすく頭を抱えた。どうして仲良くできないのか。お前らは従兄弟で呪いを持つ者同士だろう。
―いや、違う。
未だにわめいている2人を眺め、村上は思い直す。
彼らはケンカをしているわけではない。これが彼らのコミュニケーションなのだ。
他人から、身内から気味悪がられ、避けられ、否定され続けてきた影浦と小町。
きっと2人はお互いを励まし合いながら生きてきたにちがいない。
この会話がケンカでない証拠に、2人からは怒気が全く感じられないのだ。
そんなことを村上が思っていると、
「あら」
「ん?」
「あ?」
「げっ、やば」
不意に、聞き慣れた女性の声が聞こえた。
―加古望だ。
小町は急いで影浦の背中に隠れるが、遅い。
加古は惚れ惚れするような身のこなしで小町の腕を引っつかみ、ぐいと顔を寄せる。
「こんなところで会うなんて奇遇ね、小町ちゃん。運命かしら」
「ヒッ―、いえ、違います、はた迷惑な偶然です手を離してください」
にこりと笑う加古。美人なので見とれてしまいそうな笑顔だが、小町には邪悪な魔王のいやらしい笑みにしか見えなかった。
「いいえ。これは運命なの。やっぱりウチに入るべきだと思うわ。風間さんのとこより断然いいわよ!」
「どっちも同じくらい入りたくないので勘弁してください」
「まあ、物事には順序が必要よね。これからチャーハンを作る予定なのだけど一緒に食べましょう?ついでに入隊も…」
「どっちも遠慮します!」
小町は加古の手を振り払い逃げ出した。
その後ろから「まってー」なんて可愛らしい声で、そしてすごい勢いで追いかけて来る加古の姿が。
チラリと小町が加古を見ると、彼女の背中に死神が憑いているような気がして、いっそう顔を青ざめさせた。
小町は悲鳴をあげながら、影浦たちに話しかけるんじゃなかったと後悔した。
影浦と小町は従兄弟です。
サイドエフェクトを持つ者同士、兄妹のような関係になっております。
一応、小町のサイドエフェクトのことを知っている人たちをご紹介します(変更するかも)
・影浦 ・菊地原
・迅 ・遊真
・村上
サイドエフェクトを持っている人たちばかりです。
まあ、他にも予定している人はいるのですが。
感想、評価待ってます!
…昔の小町の言葉遣いが悪かったって話を書くタイミングが迷子な件。
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第5話 あの日
つらたん(´・ω・`)
目が覚めて、下に降りたとき、「ああ、また置いてった」とため息をついた。
朝と言っても起きたのは10時だったので朝と呼べるかどうかは分からないが、家族はまた自分を置いて出掛けたようだ。けれど、それも仕方ないことだろう。
――過去を見通す化け物になんて、近寄りたくない。
自分を化け物と呼んだのは母だ。とうに昔のことだが今でも心にこびりついて落ちる気配がない。
母が自分を化け物と呼んだとき、「確かにそうだ」と妙に納得してしまった。
「…お腹すいた」
嫌な思考を振り払うように、台所に向かう。
一応化け物とはいえ餌は用意してくれているようだ。お世辞にも小さいとは言い難い菓子パンを平らげ、もう一度ため息をついた。
「…もっかい寝るか」
そうひとりごちてふと窓の外を見てから、寝室に向かおうとして――目を疑った。
「――は!?」
驚くのも無理はないだろう。窓の外、そのずっと向こうに大きな黒い穴が開いていたのだから。
一拍遅れて、三門市に巨大な化け物が現れる。それらは三門市を蹂躙していき、街が阿鼻叫喚に包まれる。
視界が揺れる。否、自分が震えているのだ。奮い立たせるように奥歯を噛みしめる。
「と、とにかく逃げなきゃ…」
―
はあ、はあ、と自分の声が、息が、大きく聞こえる。喉が焼けるほど痛い。止まりたい。けれど、止まれば奴らに喰われてしまう。
「はあ、はあ…うわっ!」
瓦礫に躓きバランスを崩す。転びはしなかったが、足が棒のようになって進んでくれない。
けれど、進まなければ。自分の体に鞭を打ちながらどうにか路地に入り少しでも遠くに行こうとする。
必死に歩いていると、広い道路に出た。車が大量に乗り捨てられていて、主人を失った車はただそこに鎮座しているだけだった。
「…あれ、は…」
父の車が目に飛び込む。中には家族が乗っていて、三門市に現れた化け物たちに戸惑っているようだ。
と、母と目があった。ドキリとして足を止めてしまう。なにか言わなければ。そう思って口を開くが言葉が出ない。
母はさっと目を逸らした。気まずかったのか、目も合わしたくなかったのか。自分の心が深く沈むのが分かった。
「――え」
思わず、間抜けな声が出る。理由は単純。いつのまにか奴らが自分達の近くにまで迫っていたからだ。
どうして気付けなかったのか。こいつは私を狙っている――
化け物は家族を無視し、迫ってくる。車の中にいる家族たちは慌てて車から出ようと――
グシャリ
「…あ…」
車が砕ける音がする。骨が折れる音がする。血が吹き出る音がする。母の、父の、兄弟の悲鳴の声がする。けれど、それは一瞬で、すぐに聞こえなくなった。
「…」
目を見開く。けれど、すぐに伏せた。なんの感慨も湧かなくて、何も感じられなくて、自分が嫌になる。
化け物が自分を喰おうとしているのが分かる。ああ、いっそのこと殺してくれ。こんな自分嫌なのだ。
けど、一向に痛みどころか衝撃さえ来ない。
恐る恐る目を開けると化け物は既に地に伏していた。
おそらく、目の前にいる少年が倒したのだろう。手に刀のようなものを持っている。
「…間に合わなかったか」
少年はこちらを見て言った。その顔には申し訳無さで溢れていた。
「ごめんな、大丈夫か?」
少年の気遣いの言葉に頷いてみせる。彼が謝ることではないし、彼を責める気もない。
「…平気だよ。あんたが謝ることじゃないし」
そう答えて少年の瞳を見る。だが、すぐに後悔した。
「…ぁ」
小さく、誰にも聞こえないような極小のうめき声を発する。大きな波のようになだれ込んでくる記憶が、情報が、頭を満たす。堪らずしゃがみこんでしまう。
「お、おい。どこか悪いのか?…っ!」
少年も苦悶の声を発する。2人ともうずくまってうめいている異様な光景だ。
視て、しまった。彼の、迅悠一の過去を。
彼の生い立ち、仲間との楽しい日々、仲間との別れ、師匠との別れ。そして、
――未来を視ている過去を。
彼も視ているのだろう。私の、木影小町という人間の未来を。
――私が、これからどうなっていくのかを。
口から漏れそうになる悲鳴を必死に押さえ込む。家族が死んだときだってこんな気持ちにならなかったのに。
そう。これは、同情。視たくもないものを視せられている者同士だから分かる辛さ。
彼は、迅悠一は、これからもこの呪いを背負って生きていくのだろう。今までと同じように、未来を守るために。
私と彼は同じで、違う。
同じなのは、呪いによってこれから死ぬまで苦しめられるということ。
違うのは、彼は「変えられる」ものを視ているということで、私は「変えられない」ものを視ているということ。
ああ、ああ、恨むぞ神様。何故私にこんな呪いを押しつけたのだ。私が苦しむように?私が壊れるように?
――なんにせよ、絶対に許すものか。
苦しんでなんか、やるものか。壊れてなんか、やるものか。あんたの思惑通りになんて、なるものか。
私は空を見上げ、いるのかも分からない神に向かって思いきり睨み付けた。
―side 迅―
…間に合わなかった。おれはたった今殺された人たちの家族と思わしき少女を見て思う。
「ごめんな、大丈夫か?」
おれの言葉に少女はチラリと原型を留めていない車だったもの、否、家族だったものを見ると小さくため息をついた。
責められても何も言えなかった。むしろ、怒ってほしかった。怒鳴ってほしかった。なんでもっと早く来てくれなかったのと。けれど、少女の瞳にはそんな感情はこめられていなかった。
何も感じていない。ただただ、無。ああ、死んだんだねと言うんじゃないかって思うほど、少女は何も感じていなかった。
「…平気だよ。あんたが謝ることじゃないし」
そのぶっきらぼうな言葉には、おれを気遣う感情がこめられていた。
おれは何も言えなくて、でもなにか言わなければと口を開くが、言葉を発する前に、少女はしゃがみこんでしまった。
「お、おい。どこか悪いのか?…っ!」
彼女の病気がうつってしまったかのようにおれもしゃがみこむ。頭の中に大量の情報がなだれ込んできた。
おかしいな、どんな人間の未来を視たってこんなことにはならなかったのに。一体どうして――
「…ああ、そうか」
彼女が、木影小町という少女が、過去を見通す人間だからだ。お互い、視るべきではない禁断の情報を視るという呪いを背負う者同士、共鳴しあっているのだろう。
それにしても、なんて辛いサイドエフェクトなのだろう。
過去なんて「変えられない」ものを視せられるなんて、一体彼女にどうしろというのだ。
悲しいかな、彼女の未来を視てしまったおれには分かってしまった。
――彼女がこれからどうなっていくのかを。
木影小町という人間は、どんな手を尽くしても、結局誰も救えない。自分さえも。
だから、いつか心を壊す。それは絶対に逃れられない未来。逃れる方法なんて、「死ぬ」以外に何があるってんだ。
これから、彼女は絶望する。なにもしてくれない神に。理不尽な世界に。そして、何もできない自分に。
おれは、心に決めた。出来る限りのことをしようと。
世界が彼女を否定するなら、おれが彼女を受け入れよう。
他人が彼女を拒絶するなら、おれが彼女を肯定しよう。
彼女が彼女を消そうとするなら、おれが全力で彼女を助けよう。
少しでも小町が壊れないように。
彼女が壊れるまで、おれが。
お気に入り登録してくださっている方が40を越えました!あれ?涙で画面が見えない…
私の駄作を呼んでくださっている方、ホンット、感謝!!マジで感謝!!(土下座)
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第6話 接触
あばばばば((((;゜Д゜)))頑張ります
オサムと食べたはんばーがーとやらの味が忘れられず、学校帰りに今度は1人(とレプリカ)ではんばーがー屋さんに来た。
このテリヤキとか言うやつうまいな。ぽてととめっちゃ合うわこれ。
「相席、よろしいですか」
「ふむ?」
突然話しかけられた。声のする方…つまり横を見ると…。
…?
「はんばーがーがしゃべった?」
「違います、こまちが喋ってるんです」
目の前にはトレーにはんばーがーを山のように乗せ、顔がはんばーがー化した小さな少女。…おれが言えることじゃないけど。
「アイセキ…?まぁ、いいよ」
「相席の意味が分かってないようですね。相席というのは、こういったご飯を食べるところで見知らぬ人と同じ席になるということです。よろしいですか?」
「ほほう。どうぞどうぞ」
おれがアイセキの意味を理解していないと気づき、律儀に説明をしてくれた。
少女は「失礼します」と言うと、そっとトレーをテーブルに置いた。
……。机、揺れたんだけど。どんだけ重いんだあれ。ざっと見ても20個近くあるんだけど。
「…それ、全部食うの?」
「食べます」
おれの質問に即答すると、少女は行儀よくはんばーがーを貪り始めた。おれがぽてとを食い終わる頃には山のようにあったはんばーがーは残り2、3個ほどに数を減らした。
……ヤバくね?
「…あれ?そういえば同じ制服だな。もしかして…」
「そうですね。同じ中学です」
「やっぱり?」
「隣のクラスの空閑遊真くん、ですね」
「ほほう?ご存知でしたか」
おれの名前を見事に当てたとは驚きだ。
「不良にやり返した白いチビと学校中で噂になってますよ。白髪ってだけで目立つのに、不良にケンカ売ったなんて格好の話題のネタです」
「別にケンカ売ったわけじゃないけどな」
「勝手に警戒区域に入って不良の足を潰しといて何を言う」
「!」
びくりと体がはねる。見られていたのか。
だが、一体どこまで?確かにおれはアイツの足を潰した。そして、あの後。トリオン兵が出てきて、オサムが立ち向かった。
けど、オサムじゃ倒せなくて…
「“おれが黒トリガーを使った”ですね」
「――っ!」
ガタン、と椅子を押し立ち上がる。
『黒トリガーと言ったぞ。彼女はボーダーかもしれない』
レプリカがおれの耳元で言う。レプリカの言う通り、黒トリガーという言葉を知っているのはネイバーかボーダーくらいのやつだ。ネイバーなんてこの町にはほとんどいないだろうし、ボーダーの可能性が高い。
おれがじっと少女のことを睨み付けていると、少女は至極落ち着いた様子でおれに椅子に座るよう促した。
「…見てたの?」
椅子に座り直し、訊く。
「ええ。――“視”ました」
「…」
少女は最後のはんばーがーを口に放り込むと、ふっと笑った。
「そう睨まないでください。貴方がネイバーだとして、こまちには関係ないです。確かにこまちはボーダーですが、上に報告する気はありませんよ。でなければこうしてのんきにハンバーガーを食べているはずがないでしょう?」
嘘は、ない。自身がボーダーだということも、報告しないということも。おれは少し警戒を解いた。
――が。
「しかし便利ですね。『嘘を見抜く』サイドエフェクトですか。この世に溢れる冤罪が無くなるいい能力です」
「な――」
なぜ、どうして、どうやって。おれのサイドエフェクトのことまで知っているのだろう?誰にも話したことなんてないというのに。
すると、少女はペコリと頭を下げた。
「すみません、“視”えてしまいました。…貴方の過去を」
「過去?」
「…こまちばかり知るのは不公平ですね。では自己紹介をば。こまちは木影小町と言います。貴方と同じ中学3年生で、隣のクラスです。そして、『過去を視る』サイドエフェクトを持っています」
過去を視る。なんて辛いサイドエフェクトなのだろう。そんなことを思う。感情が表に出ていたのか、コマチは小さく息をついた。
『…なるほど。そのサイドエフェクトのおかげでユーマがネイバーであることや不良とのこと、黒トリガーなどの情報を知ることができたのか』
「…コマチ、ね。おれの自己紹介は…いる?」
「いえ、視たので大丈夫です。…そちらの、レプリカさんのことも」
『…』
「ああ、出てこなくて大丈夫ですよ。人目もありますし。あなたとのお話は、またいずれ」
『了解した』
コマチに敵意が無いことが分かったのだろう。レプリカも警戒を解いた。
コマチはきちんと嘘偽り無く話してくれたし、こちらに危害を加える気もないようなので、少し探ってみよう。
「なあ、コマチはボーダーなんだろ?ネイバーであるおれのこと恨んだりとかしてないの?」
「いえまったく」
「そ、そう」
「確かに家族は殺されました。けどまあ…大して思い出もありませんし」
そう言い放つコマチの声にぞっとする。先ほどまでの声のトーンとは寸分も変わらないはずなのに、その声にこめられた感情がちっとも感じられなかったからだ。
「ふむ…サイドエフェクトのせい?」
「まあそうですね。これのおかげで小学校にもなかなか通えず。気分次第で休んだり早退したり休んだり…」
「それ、ほとんど行ってないよね」
「否定はしません」
あれか。こっちの言葉で言う、にーとってやつか。
「なので、ボーダーの偉い人に遊真のことを話すつもりはありませんよ。面倒ですし」
「…それ、本音?」
「…そこまで見抜くですか。半分は、そうですよ」
「もう半分は?」
おれの問いにコマチは言いづらそうに目をそらす。
「ほら、その…君が信頼してるメガネにも迷惑がかかるでしょうし」
「メガネ…もしかして、オサムのこと?」
「ええ。お節介なメガネのことです」
「知りあい?」
「……」
無言。言いたくないならいいけど。
オサムにコマチのこと話そうかと言ったら全力で拒否された。念も押された。何した、オサム…
「では、名残惜しいですがこまちはこれで。これから昼食ですので」
「あーそっか、おひるごはん…え?はんばーがー食ったよね?」
「あれで満腹になるとでも?」
えっと、なると思う…。
はんばーがー20個近く食っといてまだ入るのか。そんな小さい身体にどうやって詰めこむというんだ。
「それでは。お話楽しかったです。また学校で会いましょう」
「じゃあな」
―
少女は歩く。うつむきながら、必死に思考を巡らせている。
「…ああ、ああ。なんて…」
可哀想なのだろう。どうにかその言葉を飲み込む。
彼の過去はあまりにも酷い。久々に気分が重くなった。おかしいな、過去には視飽きたと思ったのだけれど。
「あのセクハラ無職が言っていたゴタゴタとは、彼のことですか…」
ああ、ああ。なんて――
――面倒臭い。
小町は重いため息をついて近くの牛丼屋に入っていった。
ようやく遊真を出すことが出来ました!
学校にイレギュラー門が開く前のお話ですね。
基本的に小町は中立です。したくなーい、めんどくさーい、やるなら勝手にやってれば?的な。
……おい、主人公。しっかりしてくれよ。
話が進まねぇだろがい!
ちゃんと活躍させますので、気長に待ってくれると嬉しいです!
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第7話 イレギュラー門
皆さんには感謝しかありません!もう土下座して寝ます!
…すみません、できません。
迅に呼び出され、予知を受けてから約2ヶ月が経った。
最近おかしなことが起きている、と小町は思った。
ネイバーからの侵攻を受けているこの三門市では、門誘導装置というハイテクな機材を使って市街地に門を開かせないようにしている。
そのかわり、警戒区域という隔離された場所に門を開かせ、そこでボーダーたちが侵入してきたネイバーを撃滅する、という流れ。
けれどおかしい。最近、市街地に門が出現し始めている。
そう。イレギュラー門だ。
「これも迅さんの言っていたゴタゴタのうちなんですかね…」
全く面倒臭い。小町は深いため息をつきながら、イレギュラー門から出てきたネイバーを撃滅すべく、足を動かした。
―side小町
そろそろ『ゴタゴタ』が始まる気がする。いや、確実に始まるだろう。
この間、三輪先輩とすれ違ったとき、三輪先輩が城戸司令と話している過去が視えたのだ。
なんか見張るとか言ってる。ネイバーと接触の可能性とか言ってる。絶対これあのメガネと遊真が関わってるじゃん。
で、今日。
新作のゲームを買いに行こうと思って家を出ると、三輪先輩とよーすけ先輩の姿を見てしまった。
「…」
本来なら興味なしでスルーしていたところだが、三輪先輩の記憶にあのメガネが出てきたので気になってあとをつけることにした。
しばらくつけていると、後ろからポン、と肩を叩かれた。
「よっ、ぼんち揚食う?」
「…迅さん」
驚かさないでほしいですと抗議するが、迅さんに笑って流されてしまう。と、迅さんの記憶を視て、私は確信した。
「…彼らを邪魔しに行くんですね」
「あ、視えた?まあね、秀次たちにとっては邪魔かもね」
「だから嫌われるです。まあ、他にも理由はあると思いますが」
「派閥が違うからねぇ」
迅さんは困ったように言う。迅さんは仲良くしたいと思っているようだが、当の本人が拒絶しているため無理だろう。
「でも珍しいね?小町が自分から厄介事に首突っ込むなんて」
「今厄介事って言いましたね。…気まぐれです」
そう言って私は三輪先輩たちにつけられている少年に視線を移した。迅さんは不思議そうに私に訊く。
「…知り合い?」
「どうでしょう」
迅さんの質問に曖昧に返す。どうせ視えているのだろうし、答えても迅さんに得することは無いからだ。あと、個人的に教えたくない。
「嫌われに行くんでしょう?頑張ってくださいね」
「違うから!今邪魔してほしくないから本部に戻すだけだよ」
「それが嫌われる原因です」
迅さんの暗躍を苦手とする人は多い。目的が分からず、手のひらで踊らされているように思えてくるらしい。
私には過去を視るサイドエフェクトがあるため、迅さんが動いている目的は分かるが、他の人にとってはそうでないので、厄介なのだ。
「あ、そうだ。今日は予定空けとけよ。大仕事があるからな」
「残念ですが今日は一日中ゲームする予定なので忙しいです。無理ですね」
「とかなんとか言ってお前はちゃんと来てくれるさ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」
「…仕事なら」
仕事、とはおそらくイレギュラー門のことだろう。
「じゃあ行ってきまーす」
「逝ってらっしゃい」
「今なんか悪意を感じた」
「気のせいです」
迅さんは私の脇をすりぬけ、メガネをつけ回しているA級様のところへ向かう。
そして、私にしたように三輪先輩たちの後ろに回り驚かせた。
「…」
「…」
なにかを話している。聞こえないが、迅さんが紙を差し出しているところから、今日わざわざ用意した命令書を渡しているのだろう。迅さんはそのまま去っていく。三輪先輩たちは忌々しげに迅さんの背中を睨んでいたが、命令には逆らえないのか、本部に戻っていた。
「まーた嫌われた」
私はそれを見届けたあと、家に戻ろうと踵を返した。
家に帰って着替え終わったあと、自分が何のために外に出たのか思い出すことになる。
―side小町
迅さん率いるラッド掃討作戦が開始され、3時間は経ったと思う。
『よーし、作戦終了だ。お疲れさん!』
迅さんの声が通信越しで響く。
私はそれを聞いて、ふぅと体から力を抜いた。
「お、終わった…」
「乙~♪」
そう言って私の頭にカフェオレを乗せてきたのはよーすけ先輩。
「お疲れさまです。いただきます」
「マジ疲れたよな~数千はいたんじゃね?害虫」
「これらはトリオンに還元されるそうですから、鬼怒田さん的にはウハウハですね」
「なんだっけ、ちりもつもれば…」
「山となる、です」
「そうそれ!」
相変わらず楽しそうだ。この人が怒ってるところなんて見たことない。何をしても大抵笑って許してくれる。私がかなりきつく言っても「こいつー!」と頭を撫でられ終わる。いい人だ。
「お疲れさまです、三輪先輩」
たまたま通りかかった三輪先輩に挨拶をする。三輪先輩は気づいてくれたようで私に返してくれた。
「…お疲れさま、木影」
「小町でいいと言ってるじゃないですか。…なにか難しい顔をしていましたが、どうかしましたか」
「…いや、大丈夫だ」
大方、迅さんのことだろう。今日あの人に邪魔されていたのはバッチリ見ていたし、今でも視えている。彼の心の中には苛立ちの炎が渦巻いていることだろう。
「先輩がイラついている理由なんてネイバーか玉狛か迅さん関連ですよね。迅さんになにか言われました?」
「…」
無言。まあ答えは言わずとも知っているので構わないが。
「今日迅さんに邪魔されたんだよなぁ。任務だからなにをとは言えないけど、秀次がイラついてんのもそれ」
「陽介、木影…小町に聞かせることじゃない。悪いな。そんなにイラついてるように見えたか?」
「先輩は常に眉間にシワがよっているのでアレですが、今日はいつもよりオーラが出てました」
「そ、そうか。自分ではそんなつもりはないんだが」
無自覚か。いつもそんなだから後輩たちに怖がられるのだ。ネイバーが関わっていなければ優しい人なのだが。
この人の過去は飽きるほど視た。誰よりも鮮明に、まるで、ついさっき起こったことのようにハッキリと。
つまりそれは、彼が過去に、姉に、復讐に囚われ続けているということ。
「三輪先輩」
「なんだ?」
「たまには、笑ってください」
「…」
じゃないとこっちまで気分が重くなる。復讐とかそんなのはどうでもいいが、私にまで迷惑をかけるのはやめてほしい。
三輪先輩は黙ったまま。それでもじっと三輪先輩を見つめ続けていると、三輪先輩はふいっと顔を背けた。
さらに見つめ続ける。先輩は根負けしたように言った。
「…努力します」
「はい。頑張ってください」
私が満足げに頷くと、三輪先輩はますますそっぽを向いた。視界の隅でよーすけ先輩が笑っている。
私にとっては笑い事じゃないので、そしてなんか不愉快だったので、とりあえず脛を蹴っ飛ばしておいた。
「色々書き貯めたので早いうちに投稿できると思いまっすてへぺろってぃ☆ミ」とか言っていた過去の自分を殴り飛ばしたい。
遅れてすみませんでした
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第8話 トリオンモンスター(前編)
千佳たん登場!千佳たんマジ天使!
遊真ァ…可愛すぎ…
ちなみに、ここでハッキリと言っておきますが、作者は迅さんも修も大好きです。
修の扱いの悪さは設定上どうしても…。けれど小町はそこまで修のことを嫌ってるわけじゃないです。いきなり殴ったりしません。
迅さんは…その…イジると楽しいから…つい…
「明日、遊真のあとついていってくれない?」
迅と顔を合わせ数十秒後、遠回しに「ストーカーしてこい」と言われ、小町は不審と軽蔑の念をこめて迅を見た。
「通報しますね」
「えっなんで!?」
スマホを取りだし110番通報しようとする小町。迅は悲痛な声をあげた。
スマホの画面を見ると、あとは通話ボタンを押すだけで警察署に繋がるだけの表示になっていた。まさか本気だったのか!?と迅は冷や汗をかく。
「なんでと言われましても?ただえさえ日頃から女性のおしりを撫で回し被害を出しているというのに…今度はこまちを使ってストーカーですかいい度胸です流石実力派エリートですねここまでしておいて通報されないと思うあなたには軽蔑の念を隠しきれませんよ、この間だって沢村さんのおしり触ったんでしょう?両手が塞がっているところを狙うなんてゲスの極みですよ最低ですというかそれを毎回視せられるこまちの身にもなってほし」
「わ、分かった!ごめん、ごめんなさい!反省するので許してください!」
小町が捲し立てるように言うと、迅はいよいよ年上としてのプライドをも捨て去ったのか佐鳥にも劣らない見事な土下座をかました。
ボーダー本部の、しかも廊下で、周りの目も気にせず年下の少女に土下座する自称実力派エリート(笑)
「謝る相手はこまちでないと思うんですが。…まぁいいでしょう。どうせ三輪先輩たちが絡んでるんですよね?こまちに何ができるか分かりませんが、一応コンタクトをとってみます」
「ありがと…物言いはキツいけど小町って優しいよね…」
「寒気がするのでやめてもらっていいですか」
「迅さんのライフはもう0よ?そろそろ許して」
―次の日―
カラカラと自転車を押しながら歩く遊真。小町から事の顛末を聞き、少々不機嫌そうな彼女を見て、苦笑した。
「へぇ。それで昨日おれに今日の予定聞いてきたのか」
「そうです。…“未来はできるだけ変えてほしくないけど遊真のサポートをしてやってくれ”って。どんな未来が視えたのかは知りませんが、こまちのことは空気だと思って進んでください」
「いやいや…」
昨日、迅に頼まれたあとすぐ、小町はハンバーガーショップへ直行した。案の定遊真はいて(今回はトマトバーガーだった)、小町は遊真に明日の予定はなんだと問い詰めたのだ。
「あんな胸ぐら掴んで聞かなくてもさぁ…」
「?」
「なんでもない」
そうこう言っているうちに、待ち合わせ場所の橋の下に着く。小町はチラリと遊真の持ってきた自転車を一瞥すると、ふと疑問に思ったのか、遊真に訊いた。
「そういえば、自転車乗れるんですか?」
「乗れないけど」
「即答ですか。だろうと思いました。…こまちも乗れませんけど」
「乗れないの?」
「乗れません」
なので教えられません、あてにしないでくださいと真面目な顔をして言う小町。
「…ニホンジンだよね?」
「日本人が全員乗れると思うなよ」
「なんでキレ気味なのさ」
遊真は肩をすくめ、やれやれと息を吐いた。
やがて自転車の練習を始める。小町は少し離れたところから辺りを警戒しながらそれを見ていた。
「…ん?」
遊真がようやく2メートル進めてきた頃、小柄なアホ毛の少女が橋の下に現れた。
「…雨取、千佳」
過去を視た小町には、目の前の少女の個人情報が手に取るように分かる。プライバシーなんて関係ない。
チラッと負の過去が視えたが、小町は顔色ひとつ変えることなく必死に自転車と格闘している遊真に視線を戻した。
そのうち、遊真と千佳が喋り出す。千佳は自転車に乗れるようで、遊真に自転車の乗り方を教えていた。
微笑ましいと思いながら小町は空を見上げる。あのメガネ、呼び出しておいて一向に姿を見せないじゃないか。
まあ、遊真いわく、待ち合わせ時間よりかなり早めに来たらしいが…小町は待たされるのが嫌いなのだ。
ただえさえあのメガネに会うのは嫌なのに、セクハラ無職め、覚えてろ。
そんなことを考えながら雲が流れていくのをボーッと見ていると、ふいに、川になにかが落ちる音がした。
「…?…ん!?」
なんか「どぅわー」とかいう声が聞こえた気がする。あわてて遊真たちのいた場所を見ると、そこには千佳しかおらず、その千佳は「わあ!?」などと叫んでいる。
「…川に落ちたな?あの馬鹿…」
川の近くで自転車の練習をすると聞いて、嫌な予感はしていたが…案の定落ちた。
小町は走って遊真が落ちたと思われる場所まで行くと、千佳と共に遊真と自転車を引き上げた。
―
なんとか無事救出された遊真と自転車。彼らはびしょ濡れで、ついでに遊真たちを助けた小町と千佳も少し濡れていた。
「いやぁ危なかった。せっかく買ったジテンシャが川の藻屑になるとこだった」
「ついでにあなたもね」
「あはは…」
小町の呆れたような言葉に、千佳も苦笑する。
「いやでも、確実になにかつかめたな。おまえのおかげで。えーと…」
「あっ、わたしは千佳。雨取千佳」
「そっかチカか。おれは遊真。空閑遊真。そんでこっちが…」
「空気です」
「えっ!?」
「何嘘ついてんの。コマチだよ」
さらっと嘘をついた小町だったが、すぐに遊真に看破され、口を尖らせた。
「ここに来る前言ったじゃないですか。こまちのことは空気と思ってくださいと。忘れたんですか?」
「まさかとは思ったけど本当に冗談じゃなかったんだな」
「えっと…もしかして聞いちゃいけなかったかな?」
言いあいを始める2人の間に挟まれてオロオロする千佳。
そんな彼女を見て、小町は毒気を抜かれたのか、「別に構いません」と首を振った。どうやら本気で空気だと思ってほしかったようで、渋々といったオーラがにじみ出ている。
「それより、2人の服ずぶ濡れじゃん。カゼ引くぞ」
「あなたに言われたくないです」
「遊真くんのほうがずぶ濡れだよ」
どう見ても自分のほうがずぶ濡れだというのに、2人を心配する遊真。小町と千佳は苦笑した。
小町が貸したハンカチで遊真は顔を拭く。なんとか水気が無くなってきたころ、
「…!」
ふいに、千佳がバッと後ろ――否、正しく言うのなら、警戒区域の方角を振り向いた。
「?どうし…」
遊真が不思議そうに千佳に聞こうとして、耳障りなサイレンの音に遮られる。
ウーーーーといういつまでたっても慣れないこの音に、小町は少し顔をしかめた。
「おっ、警報」
「近いですね。でも警戒区域の中っぽいので放っておきましょう」
「…コマチってけっこうドライだよな。別にいいけど…」
苦笑いで言う遊真に、小町は軽く首を傾げた。
「あっ…ごめん、わたし、行くね!」
「え?」
突如として去っていく千佳に、遊真はすっとんきょうな声をあげた。しかし無理もないだろう。彼女が走って向かって行った場所は、サイレン鳴り響く警戒区域の方向だったのだから。
「おいおい、そっちはネイバーのいる方だぞ?」
困惑する遊真。一方の小町はじっと千佳の後ろ姿を見つめ続けている。睨み付けている、と言った方が適当かもしれないほどに。
と、今までずっと黙っていたレプリカが2人に聞こえるよう声を発した。
『彼女…警報が鳴る前に襲撃に気づいていたように見えたが…』
「…!?…コマチ、何か視えたか?」
遊真の問いに小町は深く息を吐く。そして、こくりと頷いた。
「そう、ですね。とりあえず追いかけましょう。…彼女は警戒区域という言葉の意味を理解できていないようです」
「…?まぁいいや。了解」
「自転車は置いていきましょうね」
「……ちぇっ」
先ほど千佳のおかげで少し走れたことに味をしめたのか、自転車にまたがり千佳を追いかけようとする遊真。
小町はその首根っこをぐいと掴むと、遊真を自転車から引き剥がした。
とりあえず前編です。長い。三輪君出せない。無理。
次回出します。
三輪君…初めて見たときは「三輪先輩」だったのに、今では「三輪君」です。年下になっとる。時間の流れって早いもんですね。
遊真なんて同級生だったのにいつのまにか後輩に。ショタの仲間入り。可愛いよ!
そのうち迅さんも年下になってしまうのでは…
いいけどね。面白そうだし。
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第9話 トリオンモンスター(後編)
飽きた訳じゃないです!
ただ、イベントで忙しかっただけなんです!
そして、被虐のノエルやってただけなんです!
うえええええい!リベリオかっこよすぎいいい!
……待っててくださった皆様、マジで申し訳ないです
あと、いろいろと端折りました。いちいち台詞打つのめんどくさいんだもん……
「ええっ!?木影、女だったのか!?」
修の声が警戒区域に響き渡る。遊真と千佳は訳がわからないとばかりに首をかしげ、怪訝な顔をしている。
そして、小町はというと、「女だったのか」なんて失礼なことを言われたというのに、怒るどころか「言うと思った」と言わんばかりにため息をついていた。
「…だから、会いたくなかったんです」
小町はそうごちるともう一度大きなため息をついた。
***
トリオン兵に襲われそうになっていた千佳を遊真が救出し(小町はただ見ていた)、修と合流。修は警戒区域に入っていた千佳を叱ると、遊真に千佳の紹介を、千佳に遊真の紹介をした。
そして、修は見たことのない少女を見つめ首をかしげ、聞いた。
「ええと、あなたは?」
「…」
だが答えない。聞こえなかったのか、と修は眉根を寄せてもう一度聞く。
「あの、お名前は…」
「…」
そして答えない。修は汗を頬に垂らし、困ったように「あの…」と言うが少女は何も言わない。
千佳が助け船を出そうと口を開いたが、遊真が止めた。面白そうだからだ。
「…」
「…」
無言。修はオロオロと明らかに困り果てている。
少女はちらりと遊真を見た。遊真は楽しそうに笑っている。少女はふぅと息を吐くと、修と初めて目を合わせた。
「…私のこと、見えるの?」
「!?」
「「ぶふっ!」」
思わず吹き出した千佳と遊真。修は訳がわからないとキョロキョロと辺りを見回している。と、そこで必死に笑いをこらえている千佳と遊真を見つけ、少女が言った言葉が冗談だと気づく。
「な、なんだ…嘘か…」
「驚きすぎだろオサム…ふふっ」
「し、しょうがないだろ!空閑たち何も言わないし…!あぁ、幽霊に話しかけてたのかと思った…」
「すみません、つい」
少女は素直に謝る。修はいいえと首を振った。
「…それで、お名前は?」
「…」
「いや、そこで黙らないでくれ!」
再び笑い出す遊真たち。修は不満げに2人を睨み付けた。少女は悪びれもせず呑気にあくびをしている。
「あの…本当に教えてください…」
「おぬしに名乗れるものなど持ち合わせてはおらぬよ」
「かっこいい…じゃなくて!」
ビシッと手をツッコミの形にして叫ぶ修に、少女は満足したのか、うむと頷き口を開いた。
「すみません、面白くて」
「勘弁してくれ…」
「では紹介をば。空気です」
「はー、成る程空気さん…空気さん!?」
「噛みました。小町です」
「噛む要素あった!?」
まるでコントか何かのようにツッコミとボケを繰り広げる小町と修に、遊真たちは大爆笑。
小町は満足げにペコリと遊真たちに向けお辞儀をする。パチパチと拍手が上がった。修は疲れたのかどことなく暗い。
「はぁ…なんで名前聞くだけでこんなに疲れなきゃいけないんだ…」
「おれらは楽しかったよ」
「空閑たちだけだろ!」
「すごかったね修くん。芸人さんみたいだったよ」
「千佳まで!」
そう叫ぶが、2人が楽しそうならいいかと許してしまう修は限りなくM寄りだと思う。
と、そこで修はふと疑問に思った。今、この少女は小町と言ったか?僕の知る限り、小町なんて珍しい名前、1人しか知らない。そんなよくある名前だとは思えない。
「あの、上の名前は?」
「…」
「それはもういいよ!教えてくれ!」
「木影」
そう言ったのは小町ではなく、遊真だった。そろそろ飽きたらしい。
「おい」
「なんだよ、別に減るもんじゃないじゃん…ぎゃーいたいいたい無言で首絞めるのやめて!」
小町に首を絞められ悲鳴をあげる遊真。修の視界からは小町の顔が見れないが、千佳の怯え具合から、憤怒の形相になっているであろうことは想像にかたくない。
「…木影?」
ぽそりと修が呟く。聞いたことのある名前だった。木影小町。知っている。たしか、同じ小学校の同級生だった…
「ええーーー!?」
そして、冒頭に戻る。
***
「…女だったのかってどういうこと?」
「小町さんは女の子だよ?」
あまりにも失礼なことを叫んだ修に、千佳が責めるように言う。
「あなたが小町のことを男だと勘違いしていることは分かっていましたが、こうも驚かれるとさすがに傷つきます」
「え、こ、木影?だって…あれ?」
「ええ、あなたの記憶にある木影小町で間違いありません」
「だって性別が…」
「まだ言うか」
「性転換…?」
「はったおしますよ」
失礼すぎる。千佳はボソッと言った。遊真も口には出さなかったが同感だった。
つまり修は、小町のことを男だと思いこんでいたようだ。
「で、どういう関係?」
「小学校の同級生です。まあ、中学校も同じなのですが、小町は極端に修を避けてましたから。…こうなることが分かってたので」
「すみません…」
修が力なく謝る。顔面蒼白で、だらだらと冷や汗を流している。いや、冷や汗はいつものことだった。
「思えば昔からあなたはそうでしたね。女の私に『木影ー、体育の更衣室はこっちだぞー』とか『木影、そっちは女子トイレだぞ』とか…」
「気づけよオサム」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
土下座しそうな勢いで頭を下げる修に、小町はため息をついて「もういいです」と許した。
「それで?なんで集まったんでしたっけ」
「あー、そうだった。空閑に千佳のことで相談があって」
「ふむ、相談?」
遊真の問いに、修は「そうだ」と首肯する。今までと打って変わって真面目な空気になる。
「こいつは、ネイバーを引き寄せる人間なんだ」
***
「動くな、ボーダーだ」
『!!』
明らかに別の声。全員がびくりと跳ねる。修と千佳はおそるおそる、遊真は眉をひそめ、小町は全くの無表情で声の主の方を振り向く。
「…三輪先輩」
「俺もいるぜ~」
「…」
「無視!?」
米屋の悲痛な叫びをスルーし、小町は眉根を寄せて油断なく三輪を睨み付ける。それに対し三輪は小町ではなく、千佳の方を睨み付けていた。
「…何をしている、木影」
「それはこちらの台詞ですね。何日か前から修のことをつけていたようですが、ボーダーからストーカーに転職ですか?おめでとうございます」
「…ふざけるな」
「三輪先輩、小町がふざけているように見えますか?」
その言葉に三輪の眉根がギュッと寄せられる。修はハラハラとそれを見ていた。
「…何のご用でしょう」
「決まっている、ネイバーを見つけた。処理をする。それだけだ」
「「トリガー起動」」
三輪と米屋がその言葉を発すると同時、2人の姿が一瞬にして戦闘服に変わる。その様子に遊真は身構えた。
「さあて、ネイバーはどいつだ?」
「そいつだ。ボーダーの管理下にないトリガーを使っていた」
「えっ?」
そう言って三輪が指したのは遊真…ではなく、千佳の方だった。その言葉に千佳は戸惑い、修は慌てふためく。
「ち、ちがいます!こいつは…」
「ちがうちがう。おれだよ、ネイバーは」
修の言葉を遮り言う遊真に、小町は目を見開く。
「ちょっと…」
「悪い。でもごまかせないじゃん、これは」
「…ち」
小町は小さく舌打ちをする。それは遊真に対してではない。自分に対しての苛立ちからくるものだった。
―私が、もっと気を配っていれば。
―私が、もっと警戒していれば。
―私が、もっと…
そんな思いが、駆け巡る。やりきれない思いが、脳を満たす。小町は血が出るほど唇を噛んだ。
「コマチ?」
「…!…はい、なんでしょう」
「大丈夫?」
「…問題ありません」
こみ上げる嘔吐感をどうにか抑え、答える。遊真は何か言いたげだったが、小町の鋭い視線に何も言えなくなった。
三輪が訊く。
「…間違いないか?」
「間違いないよ」
遊真は即答する。小町は目を細め、じっと三輪を睨み付けていた。
ドン!と音がする。修は何が起こったのか理解できなかったのか、吹っ飛ばされた遊真を見て戦慄した。――三輪が、遊真を撃ったのだ。
「な――なにしてるんですか!」
「ネイバーは人類の敵だ。放っておくわけにはいかない」
「…おいおい、おれがうっかり一般人だったらどうする気だ」
拳銃で撃たれたのにも関わらず、けろりとした顔で起き上がる遊真。修は目に見えてホッとし、三輪はちっと舌打ちをした。
「なあ、迅さんって人知らない?知りあいなんだけど」
「そ…そうです!迅さんに聞けば分かるはずです!こいつが悪いやつじゃないって!」
修の懇願した言葉に、三輪は顔に憤怒の表情を浮かべた。小町ははぁと息を吐く。
「やっぱり一枚噛んでたか…裏切り者の玉狛支部が…!」
「え…?」
「コマチ、解説」
「簡単に言うと、迅さんは三輪先輩に嫌われてるということです。迅さんは三輪先輩を嫌っているわけではありませんが」
「ほほう」
なるほど、と遊真が頷く。ということは説得は絶望的だろう。
「三輪先輩、遊真は小町の数少ない友人なのです。…見逃してくれませんか?」
「見逃すと思うか?」
「はぁ…」
大きな嘆息。ですよね、とでも言いたげだ。
一方米屋はというと、「自分で数少ないとか言うなよ!」と笑っている。
「退け、木影、三雲。俺たちは城戸司令の命で来ている。邪魔をするなら…」
「するなら、なんでしょう?」
【!!】
ビクリ、とその場にいた小町以外の人間が驚く。否、怯えた、といった方が正しいのかもしれない。それほどまでに、小町から凄まじい怒のオーラが溢れている。
「小町の…友人を、殺す?言ってくれますね、三輪先輩。言いやがりましたね?」
「ひっ…」
千佳が小さく悲鳴を漏らす。修や遊真でさえ軽く引いている。
「やべぇ、めっちゃキレてね?」
「……」
「ガチギレモードの口調だろ今の…」
「……」
「ああなったの、俺が小町のおやつかっさらったとき以来だぞ」
「……。…いや、何をしてるんだお前は」
「あ、しゃべった」
米屋が茶化すように言うが、その頬には一筋の汗が流れている。内心めちゃくちゃビビってるようだ。
「過去に縛りつけられて、前にも後ろにも進めねー男が、偉そうに何言ってやがるんです?それこそ、――ふざけるな」
その言葉に、三輪や米屋だけでなく、修たちまで息を飲む。
小町は瞳に憤怒の炎を宿しながら、言った。
「トリガー、起動」
小町のパラメーター乗せるの忘れてた
木影小町
トリオン:8
攻撃:7
防・援:11
機動:7
技術:7
射程:2
指揮:4
特殊戦術:4 total50
こんな感じです。防御・援護が高いのはサイドエフェクトの恩恵ですね。
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