心月流抜刀術を継ぐ者が行くIS (一刀斎)
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第1話 参考書って固くて便利

 

 ここは、綺麗すぎるな……落書きとひび割れた壁と割れた窓、絶えることのないバカ騒ぎな喧嘩。

 

 

 

 

 そして……壁と地面に減り込む人。

 

 

 慣れって怖いな、減り込んだ奴がいないと石矢魔じゃないからな。

 

 

 ……と言うかまた一年生からか……。

 

 古市が血涙流しながら羨ましがってたが、学園に男が二人って何だよ巫山戯てるのか!いや、確か用務員の十蔵のじーさんがいたな。……後で手合わせしてくれるかな?

 

 

 ……完全に遅刻だな。

 

 まさか、モノレール乗る前に女権団のアホ共が襲撃して来るなんてな。

 

 まぁ、どーでもいーか。全員病院送りの後、警察行きだからな。

 

 

 じぃちゃんから貰った、九字兼定使わず、木刀あれば本当に十分だな。木刀だと八式出来ないけど……。

 

 

 えーっと一年一組はドーコーだー。

 ムダに広いなここ教室探すのも一苦労だ。

 

 ばしーんっ!

 

 お、今教室の方から何かを叩いた打撃音がしたな。

 

 ……一年一組の教室ってここかよ、今の打撃音の出所って。イヤな予感がいっぱいだな。

 

「失礼しまーす」

 

「遅いぞ、何をしていた」

 

 織斑千冬か……葵ねぇよりは弱いな。

 

「モノレールに乗る前に女権団のアホ共に襲撃されてたんですよー」

 

「本当か?」

 

「嘘言ってどーすんですか?安心して下さい、襲ってきた奴全員病院送りしておいたので」

 

 みんな驚いてるな~。まぁ、どう襲ってきたか言ってないからそこまで反応がないな。

 

 車で突っ込んできたり、銃で撃ってきたり。一瞬ヒヤッとしたが、木刀で車真っ二つにして銃弾は跳ね返して拳銃を破壊したり、うん。じぃちゃんや葵ねぇ相手するより楽だったな。

 

「ほう、成る程。ついでに自己紹介をしろ、邦枝」

 

「了解です。邦枝翡翠だ。歳はオメーらより一つ上だ。特技は剣術、抜刀術だ。他は休み時間にでも聞いてくれ、以上」

 

 ……?あ?何で息吸ってんだ?まさか!?

 

『きゃあああぁぁぁーーー!!!』

 

 あっぶねぇー!コンマ一秒遅れてたら耳が殺られていたな……。一番前の奴防御してなかったな。

 

「五月蝿い!静かにしろ!……最初からそうしろバカ共が。ふぅ、空いてる席が邦枝の席だ」

 

 お疲れな織斑先生に会釈して席に向かう。

 空いている席に座り荷物を横に置く。

 後ろの窓際で助かった。

 

 ああ、早速授業か、かったるいな。一週間程度の知識で大丈夫か?そー言えば、参考書(鈍器)って固くて丁度襲撃された時に盾になったな、これ。表紙固すぎて弾貫通しなかったから。

 

 

 

「はい、ここまで分からない人いますか?」

 

 まだ一般常識の部分だな。全く、石矢魔にいたけど、勉強は普通にできていたからな、古市と競う感じだったけど。

 

「邦枝くん、織斑くんは、大丈夫ですか?」

 

「俺は大丈夫です、まだ一般常識内ですので」

 

 あぁ?織斑一夏だっけ?何でこっち見るんだよ。まさか分からんのか?

 公民の教科書にも載ってたハズだろ。

 

「は、はい先生!」

 

「はい、何処が分かりませんか?」

 

 にこやかに対応する山田先生。

 あの胸部装甲スゴいな。知り合いにあそこまでのモノを持っている奴いたか?

 

「全部、分かりません!」

 

 女の子らみんなズッコケてらー。

 

「え、え?全部、ですか…?」

 

 山田先生が泣きそうになってる。そりゃあいきなり、常識レベルの話だと思ってた所で躓かれたからな。

 

「織斑、参考書はどうした?しっかりと読んだのか?」

 

「古い電話帳と思って捨てました」

 

 ぱぁーんっ!

 

 中々イイ音が響いたな。しかし甘いな、撫子を応用すれば、頭の天辺から足の爪先までダメージが通るのにな、勿体ない。

 

 コレ(鈍器)を捨てるとは、危機感も緊張感もないのか?ISの勉強が必須の此処ではそれじゃーダメだろう。

 

「後で再発行してやる一週間で覚えろ」

 

「え、む「覚えろ」……はい」

 

 織斑先生の顔がどんどん疲れがみえてきたな。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくても答えろ。そして守れ、規則とはそういうものだ」

 

 剣の、刀の事を知らなければ、消耗具合いや錆びが出る。知識と経験がなければいけない。

 自分が扱う物だからこそ、手入れをして守らなければ自分も守れない鈍らになる。

 

 

■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□

 

 

 

 授業の合間、十分くらいしかないな。今のうちに何となく買った苺大福を食べないと……。

 

「名前、邦枝翡翠でいいんだよな?」

 

 あ?ああ、バカか。

 

「ああ、そうだよ織斑」

 

「一夏でいいぞ、千冬姉と被るし」

 

 いや、被らんだろ。馴れ馴れしく言える猛者がいるのかこの学園に……同僚の人なら言うかもしれんが、無理だろ。

 

「ふーん……」

 

 そんなことより苺大福を食わんとな……。

 

 あれ?いつの間にかバカが消えてる。まぁ、いっか。

 

 じーーーーー…………。

 

 見られてる。

 

 だが、一人ほど俺が持つ物を見ているな。

 

 袖が異様に長く改造された制服を着ている子に苺大福を差し出す。

 

「いーの~?」

 

 今口のなかに入れてるから、首だけ動かす。

 

「わ~い、苺大福だ~」

 

 のんびりした癒し系と言うのかな?

 

 

 あ、チャイムなった。

 

 バカとポニーテールの子が頭に出席簿を喰らった。

 

 やっぱり、撫子教えてみようかな。先生何らかの武術はやってたみたいだし。覚えるの早いかも。

 



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第2話その首、ぶった斬るぞ

 授業を受けながら俺は、頭の中でずっと抜刀のイメージトレーニングをしていた。

 

 常日頃からやっている習慣だからほぼ無意識でできる。……石矢魔じゃあ授業で当てられる事ってなかったからな。

 

 二限の授業が終わったが、やっぱりシンドイな。一週間程度の時間じゃあ足りないな。授業の合間で少しでも予習しないと直ぐに置いてかれる。

 

 

 ガタタタンッ!

 

 ………ん?

 

 今、またズッコケたのか?

 みんな織斑の方を見てるから、何かしらズレたことでも言ったのか……。

 

「あ、あなた…本気で、言ってますの!?」

 

「おう、知らん」

 

「し、信じられませんわ…。これぐらい常識ですわよ、常識はずれにも限度がありましてよ……」

 

 

 …………ふむ。

 会話から察するに、また織斑がおかしな発言をしたのだろう。

 聞き耳を立てていた子みんながズッコケたのか。

 

 織斑、会話する暇があるなら予習しないと……あぁ、参考書なかったな。

 

 あ、チャイム鳴った。

 

 

 この時間は織斑先生が担当するみたいだ。

 

「この時間は実践で使用する各種装備の特徴、特性についての説明をする」

 

 装備か……。

 刀と拳銃と鎖とかならよくわかるよ。

 近くに使っている人がいて俺も真似て使った事があったからな。

 

「ああ、そうだ。再来週に行われるクラス対抗戦に出るクラス代表を決めないとな」 

 

 クラス代表……そのまんまの意味か?

 メンドイからパスだな出遅れてるんだからそんな事してる暇無いっての。

 

「クラス代表とは、そのままの意味だ。クラス対抗戦に出ること、生徒会や委員会が開く会議に出席する事が主な仕事だ。あと一度決まったら一年間変更することはない」

 

 やっぱりメンドイヤツだ。

 そんなことより自分の力の研鑽の方が良い。

 

 八式の飛距離や六式の連発とかまだまだ磨かないと。

 暗黒武闘もイマイチだし。

 男鹿にも葵ねぇにも勝てない。

 

 唯一勝てる四式と七式と八式だけど木刀じゃあ効果が低い技だしな。

 

「自薦他薦は問わない。やる気がある奴が一番だがな」

 

 よし、殺気出して俺を選ぼうとしないように誘導しよう。

 イメージは、参式飛燕(ひえん) 燕子花(かきつばた)で凪ぎ払うように斬る。

 

「織斑くんが良いと思います」

「私も!」

 

 よ~し。そのまま織斑になれ。

 

「お、俺!?いや、俺はやら……」

 

「自薦他薦、問わないと言ったはずだ。大人しく席に座れ」

 

「な、なら俺は翡翠を推薦する!」

 

 …………あぁ?

 巻き込むんじゃねぇよ……こちとらもうすでにテメーのせいで巻き込まれてんだぞ……このまま斬り捨てて殺ろうか……。

 

 ヒュッ──バシッ!

 

 危ないなぁ、力は強いが速さが足りないな。葵ねぇの壱式破岩菊一文字のが速いっての。

 

「ふん、よく受け止めたな」

 

「スミマセン、遅かったのでつい掴んじゃいました。現役辞めて腕が落ちましたか?」

 

「……かもな。あとその殺気を消せ。他の奴が怯えて話もできん」

 

「失礼しました。つい、出してしまいました」

 

 ほぼ毎日じぃちゃんか葵ねぇの速さを視てるんだ。あの速さより遅かったら俺にとっては遅いんだよ。

 

「納得がいきませんわ!そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!」

 

 だったら自薦しろよメンドイ事しやがって……。

 あー言うのは関わらないが一番だな。

 

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 その極東の猿が創ったものを使ってんのは何処の島国さんだって言いたいな~。

 言ったら絶対ギャーギャー騒ぐだろうしな~。

 

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理何年覇者だろ」

 

 わースゴーイ。

 火の中にガソリンとかダイナマイトぶちこんだぞバカ(織斑)が……。

 

 無視するか。

 

 …………………。

 

「おい、翡翠!お前もなんか言えよ!」

 

 ………………………。

 

「聞いてますの!」

 

 

 …………………………バカンッ!!

 

 しまった……。

 イライラして机を撫子で真っ二つにしちまった。

 

 新しい物に換えないといけないが、後でいいか。

 

「ギャーギャーうるせーんだよ。その首、ぶった斬るぞ……」

 

 さっきの手を抜いた殺気じゃない、本気の殺気を五月蝿いバカ二人に向ける。

 二人とも漸く黙ったようだな。

 

「次の月曜日の放課後に三人でクラス代表決定戦を行い勝ったものが決める事とする。織斑、オルコット、邦枝は準備しておけ」

 

「……何故俺も入っているのですか……」

 

「お前も一応推薦されている。よって、参加する義務がある」

 

「……チッ…」

 

 んな義務ねーっての……バックレて今から十蔵のじーさんの所に行くか。

 

 貴重品と木刀と九字兼定、割った机を持って後ろの扉から出る。

 

「待て、何処に行くつもりだ」

 

「用務員がいる所に行くだけだ。それとも何だ?止めるつもりか?ブリュンヒルデは、自分と相手の力量差も分からんくらい衰えたのか?」

 

 力量差と言っても大した差はないけど。

 

 

 何も言ってこないからそのまま教室出て十蔵のじーさんを探しに行く。

 

 



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第3話見えない所で上は苦労する

 

 

 Side織斑千冬

 

 邦枝が殺気を放って教室を出て数分。

 

 やっと生徒たちが落ち着きだした。

 

(衰えたか……現役時代強さのままだったなら勝てただろうが、濃い鍛練をしていない今、邦枝には生身で勝つことはないだろう。辛うじてISでなら勝てるだろうが、それは言い訳だな……)

 

 

「千冬姉!」

 

 すぱぁーんっ!

 

「織斑先生だ。これで何度目だ?貴様の頭は、鳥頭か?それとも学習能力が無いのか?」

 

 学園で公私混同は駄目なことすら分からんのかこの愚弟は……。

 

「お、織斑先生…。何で言われっぱなしなんだよ!アイツより千冬ね──」

 

 すぱぁーんっ!

 

「──織斑先生のが強いだろう!」

 

 まぁ、素人目ならば世界最強の名を持つ私が強いと思うだろうが上には上がいる。

 一夏にとって私は、誰にも負けない最強というフィルターが掛かっているだろうがな。

 身近に学園長という私でも勝てん達人が居るんだ。

 それに邦枝の弟を除く家族全員が私や束よりも強いだろう。特に祖父の一刀斎さん、八十を越えているのに衰えが見えない。そんな人に教えられている邦枝は弱いか?否だ。

 剣の才とそれを腐らせない弛まぬ努力が邦枝にはある。 

 

「いや、邦枝の言う通りだろう。現役時代の強さのままならば生身でも勝てるだろうが衰えがある今のままでは負ける。剣の腕は、私よりも上だ」

 

「そ、そんな……」

 

「篠ノ之、剣を使うお前は邦枝の剣に勝てるか?」

 

「勝てないと思います……。邦枝…さんは、右手に持っていた定規で…二人を斬る準備を一瞬で終わらしていました」

 

 篠ノ之の奴、よく視ていたな。

 邦枝は、机を割ったと同時に抜刀の準備を終わらしていた。

 私が声を掛けなければそのまま斬っていたかもしれない雰囲気だった。

 

「その通りだ。私が声を掛けなければそのまま斬って捨てられていたかもな」

 

 一夏とオルコットの顔が青くなっていく。殺気を向けられただけで良かったと思うべきだな。

 

「まぁいい。授業の続きを再開するぞ」

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 Side 邦枝翡翠

 

 生徒手帳に載っている地図を見ながら用務員室に足を運ぶ。

 

『主さま~。待ってくださ~い』

 

「姿見せるんじゃないぞ、焱姫(えんき)

 

『そんな事分かってますよ~。何処ぞのエロバカ狗と一緒にしないでください』

 

 中級悪魔の八汰烏と呼ばれている俺の相棒だ。悪魔らしくなく俺に惹かれたという理由だけで力を貸してくれる。三対六枚の翼を持つカラスの姿をしている。そしてメスだ。

 暗黒武闘のシンクロ度合で翼が生えたり、黒炎を斬撃に乗せることも出来る。

 

 コンコンコン……。

 

「どうぞ」

 

「じーさん、久し振り」

 

「おや、翡翠君ではないですか。どうし…ああ、そういう事ですか……」

 

 十蔵のじーさんは俺の持つ机を見て察してくれたみたいだ。

 

「腕が上がっていることに喜べばいいのか、それとも学園の備品を壊した事を怒ればいいのか……」

 

「一応言っておくが、わざとじゃないぞ。」

 

 

 十蔵のじーさんにここまでの経緯を話す。

 

 

「女権団の襲撃を返り討ちにして病院送り、一番目の男性操縦者とイギリス代表候補生のイザコザに巻き込まれてイラついて机を割ったと……」

 

 十蔵のじーさんの顔が疲れが出ている。何でだ?

 

「話が飛躍すれば国際問題待ったなしですね。後で織斑先生に確認しないといけませんね」

 

「じーさん、用務員じゃねーのか?何でじーさんが話聞くんだよ」

 

「うん?ああ、確かに私は表向きは用務員ですが、裏はこの学園の学園長やってるんです」

 

「うわぁ~それって、誰も物理的に勝てないじゃん」

 

 この人、じぃちゃん並に強いからな。

 俺と焱姫の暗黒武闘フルシンクロしないといけないだろうな。

 

「この話は内緒ですよ」

 

 笑ってるが、圧を出している。やっぱり強いな。

 

「授業に出ないのですか?机の予備なら直ぐに持ってきますよ」

 

「俺は元々不良高校の不良ですよー。今日はもうメンドイからここでサボるわ」

 

「サボってもいいですが、確り勉強はしてください」

 

 そう呆れながらもお茶を淹れてくれた。

 



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第4話 バカは考えない

 十蔵のじーさんと一緒に放課後まで喋った後、新品の机を持って教室に戻る。

 

 

 残っている生徒がちらほらといるだけ。部活に行ったり、家に帰ったのだろう。

 

 机を自分の席に置き、参考書等をカバンに入れて帰り支度をする。

 

 

『主さま、あの男がこちらを見ておりますよ』

 

「……無視だ」

 

 回りに聴こえない様に小声で言い、教室を出ようとしたら。

 

「織斑くん、邦枝くん、教室に居て助かりました。少しお話があります」

 

「山田先生、お話とは何ですか?」

 

「はい、二人が住む寮の部屋が決まったので鍵を渡すのと寮での簡単な注意事項を……」

 

 防犯か……こっちは既に襲撃されたけど。

 

「一週間は自宅から通うんじゃ……?」

 

「お前は俺が朝言った事、覚えてないのか?」

 

「はぁ?何か言ってたか?」

 

 普通忘れないと思うんだが……お前も他人事とは言えないんだぞ。

 あぁ、そうか。姉の七光りか……。

 織斑千冬の弟は、表だって排除出来ないが、何も後ろ楯が無い俺の方を排除しようとしたのか。

 まぁ、いざとなったら姫川先輩に後ろ楯頼むかもしれないけど。

 暗黒武闘を使えば大抵なんとかなるからな。

 

「えぇ…襲われたって言ってたじゃないですか……」

 

「そういえばそんな事言ってたような……」

 

 山田先生……あんたいい人過ぎるぞ。

 

「荷物の方はどうなるんです?」

 

「安心しろ、私が手配しておいた」

 

 山田先生と違い威厳があるなぁ……早乙女先生みてーだな。魔王のBGMが似合いそうだ。

 

「邦枝は、姉が色々と送ってくれたぞ。後でお礼を言っておけよ。織斑の方は、着替えとケータイの充電器があればいいだろう」

 

 葵ねぇ、必要なもの送ってくれたかな?早めに確認せんとな……。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年毎に使える時間が違いますけど…えっと、その…お二人は今のところ使えません」

 

 当然だろうな、元々此所は女子高。男子生徒なんて考えてなかったから、男女別で浴場を造る意味がない。

 

「え、何でですか?」

 

 このバカは考えることをしないのか……。

 

『バカですね~。考えれば、男の前後に入るのが嫌なヒトも居ないとも限らないんですよ~』

 

 悪魔にもバカって言われたな。

 コイツは、顔と口の勢いだけの流され野郎だな。

 

「えっ!?織斑君、女の子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、ダメですよ!」

 

「い、いや、入りたくないです」

 

「えぇ…、女の子に興味がないんですか!?そ、それはそれで問題のような……」

 

 山田先生……話、飛躍し過ぎじゃね?

 もし、本当だったら怖いから離れとこ……。

 

 あーあー、回りの腐女子が反応してやがる。

 やめろ、それ以上俺のSAN値を削るのはやめてくれ……。

 

 

 

 

 

 

 それから鍵を貰い、織斑に見つからないように動いて寮に向かう。

 

 

 2030って二階の方か……。

 

 2030室の中に誰かいるな、同居人?にしては気配を消しているのは……待ち伏せによる、不意討ちか……。

 

 木刀では思いっきり振れないから、定規を右手に持って、ノックする。

 

 

 コンコンコン……。コンコンコン……。

 

 

 反応はあるが返事がない。

 とりあえず、ぶった斬るか……。

 定規から木刀に持ち替えて、分かりやすく技名を口にする。

 

 

「心月流抜刀術伍式水無──」

 

「す、ストップ、ストップ!?分かったから寮を壊そうとしないで!」

 

 

 

 そう言って出てきた少女は、水色の髪の毛と赤い目が特徴で……何故か裸エプロン?……違った水着エプロンの格好をしている痴女だった。

 

 

 



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第5話 準備はしっかりと…

「……んで?何がしたかったんだ、痴女」

 

「あの…痴女は止めて欲しいんだけど……」

 

「おやぁ?俺が来るまで水着エプロンというマニアックな格好でスタンバってたのは何処の痴女さんだ?」

 

 だんだん涙眼になっていく痴女。

 

 俺ってSだからなぁ~、もっといじめたくなったきた。

 それよりも話を進めるか……。

 

「お前の趣味は今はどうでもいいとして……」

 

「待ってちょうだい、私の趣味じゃ──」

 

「お前さんが、俺の同居人で良いのか?」

 

「ハァ……。ええ、そうよ。二年の更識楯無よ。生徒会長でもあるの」

 

 そう言って、広げられた扇子に学園最強と書かれていた。

 学園最強ねぇ……。

 

「それって、生徒の中ではって事だよな?」

 

「……はい?」

 

「は?織斑先生と十蔵のじーさんに勝てるの?」

 

「無理……です」

 

 やっぱ、無理だよな。

 織斑先生なら勝てるが、十蔵のじーさんは、暗黒武闘使わないと難しい。

 

「ちょっと待って、何で用務員の名前を出すの……」

 

「じーさんとは昔からの知り合いだし……裏の顔も知ってるし」

 

 目付きが鋭くなったな。

 こいつもじーさんが学園長だって事を知ってる様だな。

 

「安心しろってじーさんが自分から言ったことだからな」

 

 

 そういえば荷物の整理をしなければいけねーな。

 

 

「翡翠くんは、その二人に勝てる自信があるのかしら?」

 

「制限のない闘いなら俺が勝つが、制限のある闘いなら織斑先生には勝てるがじーさんには負けるだろうな」

 

 ため息吐いてどうしたんだ、いったい……。

 それよりも荷物を確認するか。

 

 薙刀と木製の薙刀、予備の木刀と小太刀の長さの木刀、道着と私服の和服と甚平数着、ジャージ、手入れ道具。他日用品が色々。

 

「おい、更識痴女」

 

「待って、痴女は名前ではないわ!私の名前は楯無よ!」

 

「ハァ……」

 

「こっちがため息吐きたいのだけど……」

 

 

 

 それから部屋でのルールを決めて、制服から甚平に着替え木刀の小太刀を腰に差し食堂に向かう。

 

 食堂に向かう途中、メッチャ視られたな……。

 

「ここ一応一年の食堂何だが……」

 

「細かい事を気にしたらダメよ、これぐらい笑って流さないとね」

 

 さっき弄った事の仕返しか?

 

 夕飯を食べた後は、売店でアイスとせん餅を買ってから部屋に戻り、参考書を開く。

 

「あらぁ、ちゃんと勉強してるなんて……翡翠くんって本当に不良?」

 

 何で知ってんだ?この痴女。

 

「何で知っているのか?って顔ね。生徒会長である私は、そういう事を知れる立場でもあるし、男性操縦者がどんな人か知り対処できるようにする為のハズだったけど……翡翠くんってこの学園で二番目に強いのは計算外だったわ」

 

 よく分からん所は更識に訊き、シャワーで汗を流してベッドに潜る。

 

 

 

 

 

 

 日課のトレーニングをするため五時に起き、ジャージに着替え木刀とタオルと小銭を持って、更識を起こさない様に部屋を出て、自販機でスポーツドリンクを買い寮を出る。

 

 

 ストレッチとジョギングを終らせ、一時間半ほど木刀で素振りをする。

 

 素振りをしていたら、織斑先生とバッタリ会い俺が五時からトレーニングをしている事を言ったら驚かれた。

 じぃちゃんも毎日二時間やっているから俺にとっては普通である。

 

 七時前に寮に戻って準備をし学校に行く。

 

 

 

「織斑、お前のISだが準備に時間が掛かる。予備機がないため、学園で専用機を用意するそうだ」

 

「専用機!?一年のこの時期に!?」

 

「それって政府から支援が出るってこと?」

 

 姉の七光りか?

 俺にとっては拘束具だけど。初めて動かした時、何時もの動きが全然出来なかったから多分、俺の反応速度に付いてこれてないのかもしれない。

 闘う時に反射で動く時が多いのがいけないのだろうか?

 

 首を傾げる織斑を見た織斑先生がため息吐いて疲れた顔をしている。まだ九時ですよ、織斑先生。

 

「教科書六ページを音読しろ、織斑」

 

 

「えっ、えーと『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』」

 

「つまりはそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

 

「な…なんとなく……」

 

 専用機か……メンドイ事に為るだろうな。

 

「あれ?じゃあ、ひ…邦枝は……」

 

 馴れ馴れしく名前で呼ぼうとしようとしたから少し殺気を向けた。

 

「邦枝にはそういう話はきていない。そのため放課後職員室で、打鉄とラファールのどちらを使うか決めろ(邦枝のIS適性はAということになっているが、私と似た様なものだろうな。ISが操縦者の反応速度に追いつけてない可能性がある。ISを纏うより生身の方が強いかもしれないな……)」

 

「分かりました……」

 

 メンドイなぁ~。鍛練の時間が減るじゃんか……。

 

 

 

 放課後になったので職員室に行く。

 

 疲れた。主に織斑の対応に……。何なんだ?あのしつこさは…知り合いの子と食べるのに、何故俺を誘う。隣にいた子からの視線が面倒だった。

 

「失礼します。一年一組の邦枝です」

 

「邦枝、こっちだ」

 

 織斑先生の所まで移動して用事を済ませる。

 

「使うのは打鉄でいいです」

 

「分かった。武装の方はどうする?ある程度は自由に入れられるぞ」

 

「近接ブレードを六本程、後は鎖と薙刀と木刀で十分です」

 

「鎖以外は用意できるが、鎖は必要か?」

 

「いやぁ、有ったらいいな程度にしか考えてないですよ。あ、後、鞘付きの日本刀もお願いします」

 

「分かった、用意しよう。他はないか?」

 

「大丈夫です。自分はこれから道場の方に顔を出したいので失礼します」

 

 

 さぁて、昨日振れなかった分も鍛練しないとな……。

 

 



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第6話 最低限の礼儀

 道場の入口に着くと中から、織斑と篠ノ之だっけか?の声が聴こえる。

 

 

 篠ノ之って聴いたことあるな、勿論ISを作った奴じゃなくて……。何処かで聴いたことがあるんだよな。

 

 

「……っ!?邦枝さんか……」

 

「あれ、ひ…邦枝…はどうしてここに?」

 

 昼の時、親しくもないのに名前で呼ぶな、と言ったが効果があまり無さそうだ。普段から誰でも名前呼びにしているのだろう……。

 

 

「自己紹介した時にも言ったが、俺は剣術、抜刀術をやっているからな。この道場を使うから視に来たのと、昨日振れなかった分をやろうと思ってな」

 

「邦枝さんの流派は何ですか?」

 

「邦枝で構わんよ篠ノ之。そんで、俺の流派は心月流だ。……篠ノ之流剣術か?」

 

「知ってたんですか……」

 

「いや、今思い出した。何年も前にじぃちゃんが闘った人が篠ノ之という名だったからな」

 

 そういえばじぃちゃんが連絡がとれないとか言ってたような……。

 

「邦枝…一度だけ手合わせしてもらえないだろうか。千冬さんが自分よりも強いと言ったその剣の腕を知りたい」

 

「いいぞ。本気も全力も出さないが真面目に相手してやるから、かかってきな」

 

 制服から道着と袴を着て竹刀を持ち、向かい合う。

 

「防具は着けないのですか?」

 

「防具などは俺にとって動きを阻害する邪魔でしかない。故に防具は着けない」

 

 

 近くに居た剣道部の子に合図を頼み手合わせを開始する。

 

 

 

 基本に忠実な良い動きをしている。

 

 だから、残念に思う。

 

 今の篠ノ之が振るう剣は、ただの八つ当り。

 

 俺の心を動かすことはない。

 

 

「どうした、篠ノ之箒。お前の剣はその程度か、俺との打ち合いに八つ当りなんぞしやがって」

 

「なん…で」

 

「ああ?俺と打ち合っているのに他の事を考えているのが丸分かりだ。剣の打ち合いに他の事を考えてんじゃねぇ、相手に対する最低限の礼儀すら出来んのか?」

 

「わ、私、は……」

 

「悪いがヤメだ。今のお前との打ち合いは、ハッキリ言って時間のムダだ。八つ当りしか出来ない剣ならとっとと剣を地面に置け」

 

 背を向けて道場を出ようとするが……。

 

「うおおおぉぉぉ!」

 

『主さま、後ろ』

 

「…分かってる」

 

 俺の頭に当たりそうだった大振りの唐竹割りを後ろも見ずに横に動いてかわす。

 あんな大声で、しかも足音も響かせて来るなんて……。かわして下さいって言ってるもんだろ。

 

「謝れ!」

 

「……は?誰に?」

 

「箒に決まってるだろ!」

 

 何故、俺が謝らないといけない。

 謝るのは篠ノ之の方だ。俺は、真面目にやっていたのに、篠ノ之は別の事を、たぶんお前の事を考えていたと思う。

 

「知るか。謝るのは篠ノ之の方だ。俺の時間を徒に削ったことをな」

 

「勝負しろ!俺が勝ったら箒に謝れ!」

 

 こいつ、篠ノ之より剣が弱い癖にナニを言ってんだ?

 俺に勝ちたいならお前の姉を越えてからにしろっての。

 

「はぁ~……、勝手にすれば?」

 

「うおおおぉぉぉー!」

 

 またバカみたいに胴ががら空きの唐竹割りか……。

 

 弐式百華乱れ桜の足運びでかわし、背中に回って殺気を込めて心臓のある位置を軽く突く。

 

「はい、お前は今死んだ」

 

「……は?」

 

 

「何今の……」

「かわしたと思ったら心臓を突いた?」

「体がブレた様に見えたんだけど……」

「レベルが違い過ぎてる」

 

 

「悪いがオメーのチャンバラに付き合う程暇じゃあないんでな。行かせてもらうぞ」

 

 結局、全然剣振れなかったな。

 

 寮の近くで振っておくか……。

 



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第7話 何のために

 Side篠ノ之箒

 

 

 やってしまった……。

 

 自分から打ち合い相手を頼んだのに……。

 

 見透かされた。

 

 あの時、他の女子と話す一夏の事を考えてしまっていた。

 

 去年の時から何も変わっていない。

 

 邦枝が言う通り、このままなら剣を置いた方が良いのかもしれない。

 

 

「箒、ごめん……」

 

「何故、一夏が謝る」

 

「箒にあんな酷い事を言った翡翠を謝らせられなくて……」

 

 違う。全て事実だ 。

 

 謝らなければいけないのは私だ。

 

 それにしても何故、一夏は邦枝に攻撃したのだろうか……?

 

 邦枝は攻撃が分かっていた様に絶妙なタイミングでかわしていたが、かわしていなければよくてたん瘤、悪かったら頭が切れていたかもしれない振り下ろしだった。

 

 一夏は気付いていないのか?

 

 一夏がした行動は、一夏自身が嫌いな暴力ではないのか……。後、下の名前を呼ぶなと言われてなかったか?

 

 邦枝のお蔭で冷静になっている今、色々と考えないといけないな。

 

「すまない、一夏。少し一人になりたいから先に戻らせてもらう」

 

 更衣室に置いた荷物を全部持って道場を後にする。

 

 シャワーを浴びればこの気持ちは晴れるだろうか……。

 

 

 …………ゥン。

 

 ………ブゥン。

 

 

 …?何の音だ?素振りの音か……。

 

 音がする方に行くと邦枝が木刀を持って抜刀の構えをしていた。邦枝の前にある木の棒に集中していた。

 

 様になっている。そう言うしかないだろう。

 

 フッ……。

 

「ふぅー……」

 

 ……カコン……。

 

 木の棒が斬れて落ちたのか……今、抜刀したのか!?

 

 見えなかった……。

 

 ……と言うより木刀って物、斬れるのか……。

 

 

「何の用だ、篠ノ之」

 

 こちらを向く邦枝が訊ねてくる。

 

 肩に()を乗せて……。

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 Side翡翠

 

 

 寮の近くで十蔵のじーさんにもらった木の棒を地面に差しておく。

 

 十分に素振りをして構え集中する。

 

 放つは……心月流抜刀術壱式破岩菊一文字!

 

 本来は、突進して一撃を叩き込む技だが一歩の踏み込みで十分だ。

 

 最近なかなか使ってないから腕が落ちたかと思ったがそうでもないようだ。

 

『主さま、篠ノ之さんが見てますよー』

 

 俺の肩に留まる焱姫の言葉を聞きながら後ろにいる篠ノ之に声を掛ける。

 

「何の用だ、篠ノ之」

 

 あれ?篠ノ之……俺の顔の横つまり焱姫を視ているのか?篠ノ之、霊感あるのか?

 

「あ、あの、その……先程は、すまなかった。邦枝の言う通りだった。私は最低限の礼儀すら出来ていなかった。邦枝、一つ訊かせてくれ」

 

「何をだ?」

 

「邦枝は何のために剣を握っているんだ?」

 

 何のために、か……。そんなの決まってる。

 

「自分のためだ」

 

「自分の……」

 

「何だ?どっかの正義感だけの夢想家の様にみんなのためとでも聞きたかったか?生憎と俺は、不特定多数より身内だけと決めている。俺は自分のために剣を握る。強くなりたいから、覚えた技を研鑽したいから、自分より強い人に勝ちたいから……。篠ノ之だって俺が言ったことを思った事あるだろう?」

 

「それは……無い、と言ったら嘘になるが……」

 

「自分のためが悪いとでも思ってるのか?この世のあらゆる事は自分のためにやっている。篠ノ之の姉さんも自分のためにISを創った、違うか?」

 

「そ、それは……」

 

 ……顔を歪める程嫌なんだな姉の話題は……。

 

「すまん、無神経だったな。とりあえず、初心にかえってみたらどうだ?もしも初心にかえっても見つからないなら……篠ノ之が良ければ一緒に探してみるか?」

 

「い、いや!?だ、だ大丈夫だ!?自分で見つける!」

 

 篠ノ之の顔が赤くなったが、元気になってくれたようだな、良かった。

 

「あ、後一ついいか?」

 

「ん?何だ?」

 

「邦枝の肩に乗ってる烏は何だ?」

 

 あ、やっぱ視えてるやん……。

 

 



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第8話 闘いの準備(ハード)

 まさか篠ノ之に焱姫を視られるなんてな……。

 

『主さまー、言っておきますけど普通の人には視えないままですよー』

 

「そんなこと言わんでも分かってるよ」

 

「ど、どうした邦枝、烏に向かって……」

 

 見えてはいるが声は聞こえないのか……。

 

「どうやら声までは聞こえないみたいだな」

 

「邦枝は烏の言葉が分かるのか?」

 

「あー、違う違う。こいつは烏じゃあなくて悪魔だよ」

 

「悪…魔?」

 

 ま、そーゆう反応するだろうな。

 俺もそーだったしな。

 

「そ、悪魔。普通は視えないハズなんだが霊感がある奴には見えるみたいでな……篠ノ之は声は聞こえないみたいだから眼だけ良いみたいだな」

 

「ただの烏にしか見えないのだが……」

 

「これでもそー言えるか?」

 

 広げられた焱姫の三対六枚の翼を見て目を見開く篠ノ之。

 

「し、しかし何で悪魔と一緒にいるのだ?」

 

「俺の相棒だからだよ。一応こいつは普通の人には視えないから人がいる所で口に出すなよ?痛い子の仲間入りだからな」

 

「邦枝に言われなくとも分かっている!?」

 

 篠ノ之はからかいがいがあるな~。反応が大袈裟だからな。

 

「そーかい?あー後、名前、翡翠でかまわんよ」

 

「いいのか?その……先程の事で私は……」

 

「反省しているヤツにあーだこーだ言うつもりはねーよ。ま、次に篠ノ之の剣を握る理由を訊いて俺が納得するまでの期間限定にしておくよ」

 

「わ、分かった。なら私の事も箒でかまわない」

 

「わーったよ、箒。……あ?どした?」

 

「い、いや何でもない……私はシャワーを浴びに行くからこの辺で……」

 

「おう、風邪引くなよー」

 

 

 篠ノ之……、いや箒か……顔かなり赤かったが大丈夫か?

 男鹿の事を考えていた葵ねぇみたいだったな……。

 

 ……あれ?そーゆー意味で赤かったのか?

 

 いや、無いな。箒は織斑が好きな様だし。

 

 まだ時間はあるから鍛練しないとな……。

 

 

 

 

 

 

 ISを動かしたくてもアリーナは予約がいっぱいで使えないらしいので仕方なく鍛練に没頭した。

 夜は更識に理論を教わる程度しか出来ないから土日に十蔵のじーさんに頼んでじーさんと模擬戦を行った。

 

 

 無手だとじーさんが勝つが、木刀を使ったらなんとか四割勝てた。

 

 じーさん堅すぎるわ!

 何で、撫子も空獅子食らって笑ってんだよ。

 

 六式妖星剣舞(つるぎのまい)をかわして落とすなんてするかよ、しかも笑いながら。

 俺が得意な四式旋嵐四ツ葉(せんらんよつば)と七式七天芙蓉(しちてんふよう)食らって漸く顔から笑みを消すことが出来たけど……スイッチが入ったみたいだから暗黒武闘クォーターシンクロで相手しようとしたら拳圧で吹っ飛ばされてた。

 

 やっぱり、じぃちゃんに並ぶ程のじーさん……。

 暗黒武闘ハーフシンクロ以上にしないとボロボロにされるな。

 ……剣の才能より暗黒武闘の方が才能があるからな、俺。

 まぁ、焱姫が全面的に協力してくれるお蔭でもあるけどな。

 王臣紋はほぼ使わんし、紋章術は使わんから男鹿みたいに同時に使えん。

 だから暗黒武闘を鍛えて伸ばして……代償無しのフルシンクロが出来るまでにした。

 フルシンクロしたら全身真っ黒になるけど。

 

 

 

 十蔵のじーさんとの模擬戦で体が痛いが月曜になり、クラス代表決定戦が始まった。

 

 

 ………織斑の機体が来ないから始まらなかった。

 

「すまない、邦枝。先に出てもらえるか?」

 

 織斑先生……。

 そんな、疲れた顔しないでくださいよ。

 こっちがすまないって言いたくなるから。

 

「大丈夫ですよ、じーさんと闘って体痛いけど、ガキの喧嘩程度なら問題ありませんよ」

 

 渡された打鉄の待機状態のアクセサリーを受け取り展開する。

 

 試しに手足を動かすが、動きがぎこちなく感じる。

 

 なんて言ったら良いのだろう?体で直接動かしていないからか?違和感がある。

 

「……翡翠」

 

 ピットに何故か居る箒が声をかけてくる。

 

「どした、箒?」

 

「その…頑張って……」

 

 ハイパーセンサーで分かるけど、そこの姉弟。

 何でそこまで驚いてんだよ。

 名前で呼びあってるのがそんなに驚くことか?

 

「おう」

 

 簡素だが返事を返してピットから飛び出す。

 

 




 

 モッピーのヒロイン感が出ているなっと書いて思った。


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第9話 高みの蒼空へ

 

 

 ピットから出て空中に停まる。

 

 こんな所で暗黒武闘でシンクロした時に生える翼の感覚が活きてくるなんてな……。

 

 攻撃がし難いけど避けたりは簡単にいけるかな。

 

 

「あら、あなたが先なんですか?」

 

「織斑の機体が来てないみたいだからな」

 

 

『これよりクラス代表決定戦、セシリア・オルコット対邦枝翡翠の試合を始めます』

 

 山田先生の言葉の後に試合開始のブザーが鳴る。

 

 

「最後のチャンスをあげます」

 

「……は?」

 

「今ここで謝ればこの間の件を水に流し手加減してあげましょう」

 

「知るかよ、それは織斑に言う言葉だろうが、ぐだぐだ言わずかかってきな」

 

「後悔しなさい!そして踊りなさい!私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲で!!」

 

 

 ハイパーセンサーでオルコットの手元と目線、銃口を確認し、撃つ瞬間に横に飛びかわしていく。

 一発、一発の間隔が長いし、分かりやすい狙い。

 

 いかんなぁー……じぃちゃんと葵ねぇの妖星剣舞と神薙避ける方が難しかったな~。

 あの二人本気(マジ)になると狙いがスゴいエグくなるからな~。

 男鹿の魔王の咆哮(ゼブルブラスト)、あれもな~。威力ある上に攻撃範囲も広いって鬼畜だよな、本人の性格含めて。

 

 オルコットには悪いが温すぎるわ。

 

「くっ……何故当たりませんの!?」

 

 

 

 

 経験の違いだ!

 

 

 

 

 

 攻撃に移りたいけど……腕が巧く動かない。

 呼び出した近接ブレード「葵」を握る手が動きづらい。やっぱり機械で心月流を使うのは難しいみてーだな。

 

「行きなさい!ブルー・ティアーズ!」

 

 オルコットのISからファンネルらしき物が四つ飛んでくる。

 

 俺を囲うように配置しているな。

 ハイパーセンサーで確認したが死角に配置するってことは反応が遅れる様にしているのか合理的だが、囲うように配置したのは愚策だ。

 

 

 

 心月流抜刀術参式飛燕燕子花!

 

 

 ビキッ!

 

 

 ……は?今の音は何だ?機体の右腕からか?

 

 おい、まさか!?

 

 

 機体が参式飛燕燕子花の動きに耐えられなかったのかよ!?

 

 

 クソッ!技がキャンセルして斬撃が飛んでねーからファンネルらしき物は健在。

 動揺したせいで二発当たっちまった。

 

 どうする……右腕が逝かれかけている状態、SEは充分にまだある。

 

 回避に支障はない。問題は攻撃しようとしたら機体が俺の動きに耐えられない。

 いや、回避にも支障が出るかもしれんな。機械には難しい動きをしたら詰む。

 

 

〈主さま、ワタシこの打鉄に憑依してみます〉

 

(そんなことして大丈夫なのか?首切島の人形とは違うだろ!……てか、お前体どうした!?)

 

〈主さまが使ってるロッカーに置いてきましたー。なのでちゃんと戻れるのでちょっと行ってきまーす〉

 

(ちょっ、焱姫!?)

 

 後ろから撃たれて頭を切り替える。

 

「チッ……面倒だな」

 

 オルコットの奴、相当怒ってるな……。攻撃が雑になった来たな。

 

 

 何だ?視界にウィンドウが出てきた?

 

《あなたはわたしをたかみに、そらへつれていってくれますか?》

 

 どういう意味だ?

 そのままの意味か……。

 

 もしかして……参考書で読んだISの意識ってヤツか!

 

 ふ、ふくくく、くははは!

 

 おもしれー!

 

 なんだよ、お前!人間みてーじゃねーか!

 

 量産機如きじゃあ満足出来ないってか!

 

 不特定多数の誰かより俺を選ぶか!

 

 羨ましいのか?

 

 専用機が、自分もあーなりたいのか?

 

 強くなりたいのか?自分のために?

 

 良いぜ!俺がお前を高みに、蒼空に連れてってやる!

 

 

 だから…力出しやがれ!

 

 

 

《了承を確認。形態移行権限を強制解除。形態移行の準備を開始します》

 

 

 

「これで、落ちなさい!」

 

 四方向から一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 回避しても一つは当たる位置だ。

 

 俺はそんなこと関係なく真下に、重力と一緒になってアリーナの地面に着地してその瞬間を待つ。

 

 オルコットはその手に持つライフルで終わらせようと撃って来るがもう遅い。

 

 

 

《一次移行開始》

 

 

 

 

 

 

 

 ハイパーセンサーで自分の姿を確認する。

 

 全身装甲(フルスキン)型だったか?

 

 機体の色は、真っ黒だが所々が翡翠色に光っている。

 

 背中の肩甲骨辺りにくっついている大きい主翼とそれに付随する副翼、三対六枚の翼がある。

 

 尾底骨の辺りにある鳥の脚を模したテイルクロー。

 

 ここまで視ると暗黒武闘フルシンクロした時の姿に似ているな。

 

 

 鞘に入った刀が左右の腰にくっついている。

 

 

 通常のISの大きさより低くなっているが、これでいい。

 

 全身を被う形で手足の延長ではなく、搭乗者の体の長さしかない。

 

 つまり、腕や足は搭乗者の意のままに出来るようになった。

 

 通常のISより装甲が薄いかもしれんがどうでもいい。

 

 俺の動きに耐えられて付いてこれるならそれでいい。

 

 さぁ、初陣だ。

 

 新しくなったお前の姿を連中に見せつけてやろう。

 

 

 行くぞ!『翠鴉(すいあ)』!

 

 





ISのイメージは流星のロックマン3のブラックエースがモデルです。

主翼と副翼は、ブラックエースの翼です。翼は閉じてますよ、展開装甲ですから。

テイルクローは、バルバトスルプスレクスのように操作可能。


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第10話 オルコット戦決着

 

 

 Side織斑千冬

 

 

「凄いですね、邦枝君。オルコットさんの狙撃を簡単に避けてますね」

 

「ハイパーセンサーを上手く活用している様だ。山田君、邦枝の顔を見てみろ。アイツは、オルコットの目線と銃口とトリガーに掛かる指を視てタイミングを見計らっているぞ」

 

 しかも、邦枝の顔を視る限り瞬きがほぼない。瞬きの一瞬で勝負が決まることを知っているから出来る芸当だ。

 

 

 

 

 

 それからしばらく、邦枝はオルコットの狙撃を避けるだけで攻撃を仕掛けなかった。

 

 しびれを切らせたオルコットがBT兵器を邦枝の回りに展開した。

 

 

 手に持っていた近接ブレードを構え、抜刀の技を使ったと思ったら邦枝が何故か驚いていた。

 

 

「お、織斑先生!?みみ見てください!」

 

 慌てる山田君を見て指差す所を見ると……。

 

 

「なんだと!?右腕の内部が破損しただと!?邦枝の奴どんな動き方したというのだ……」

 

 いや、私も人の事言えないか……専用機だった暮桜はそんなことなかったが訓練機の打鉄が破損したことがあった。

 

 

「ど、どうしましょう……続けますか?」

 

「邦枝の顔をもう一回見てみろ。諦めておらず、倒す術を考えているぞ。右腕が完全に破損したら止めさせよう」

 

「わ、分かりました……」

 

 

 

 的確に避けていたのに何度か当たっていた。

 

 一体何を考えている?

 

 ……?今、邦枝の口角が上がった?

 

 何かを思い付いたのか……それとも……。

 

「大変です!大変です!大変です!」

 

 ミシッ……。

 

「五月蝿い」

 

「すすすすみません!」

 

「それで何が大変なんだ?」

 

「邦枝君が使っている打鉄の形態移行のロックが強制解除されました!」

 

 

 

 

 

 ……………………はぁ?

 

 

 

 

 

「すまない、真耶。もう一度言ってくれ」

 

「現実逃避しないで下さい!ですから邦枝君が使っている打鉄の形態移行のロックが強制解除されちゃったんです!」

 

 

 どういう事だ……。

 訓練機には全てに形態移行出来ない様にされている。

 

 邦枝にロックを解除するスキルがあるとは思えないし、そんな事をする素振りはなかった。

 

 

 つまり、ISが自らの意志でロックを解除したということになる。

 

 

 アリーナの地面に降りた邦枝をオルコットのライフルの一撃が直撃した。

 

 砂煙が晴れると……。

 

 

 漆黒に輝く全身装甲型のISが佇んでいた。

 

 

 

 

//////////////////

 

 

 

 Side邦枝翡翠

 

 

 

 翠鴉に装備されていた左腰の刀、黒刀『黒蓮』を持って構え技を放つ。

 

 

「心月流抜刀術参式、飛燕燕子花!」

 

 

 声に出して技を放ち、止まっていたファンネルらしきをスラスターの勢いで威力を上げた飛燕燕子花の斬撃が四つ全てを斬り裂く。

 

 周囲を攻撃する飛燕燕子花は便利だな。

 

 

「どうした、オルコット?さっきから固まって、降参か?」

 

「あなた!?何ですかそれは!?」

 

「何が?」

 

「ですから、その全身装甲型のISは何なのかと聞いているんですの!?」

 

 そこまで動揺することなのか?

 ISが自分の意志を持って姿を変える事がそんなに珍しいのか?

 

〈その通りです、マスター〉

 

 頭の中に直接言葉が響く。

 

 お前がIS、翠鴉の意識ってことで良いのか?

 

〈はい、焱姫さんに奥底にあったわたしの意識を引き揚げていただきました〉

 

《主さまー、ワタシ頑張りましたー》

 

 生きてたか、焱姫。

 

《ひどいですー、ワタシ主さまの為に頑張ったのにー》

 

 分かってるから、安心しろ焱姫。

 

〈マスターそろそろ勝負を着けた方が良いのでは?〉

 

 そうだな、そろそろ終わらせるか。

 

 

「オルコット、そろそろ勝負を終わらせるぞ。言っておくが瞬きは厳禁だぞ……」

 

「大きく出ましたわね。やれるものならやってみせてくださいな」

 

 構えられるライフルよりも早く攻撃を放つ。

 

 

「心月流抜刀術八式……」

 

 水平に持った黒蓮を鞘から刀身を少し出して、何時刀を抜いたか分からない速度の居合い……。

 

「神薙」

 

 ───チィン。

 

 納刀の音がアリーナに響くと、オルコットが吹き飛ばされ壁に激突する。

 

「うぐっ……。な、なんですの今の……ハイパーセンサーでも剣を鞘にしまった様にしか見えないってどんだけ速いんですか……!?」

 

 神薙が出来るまで一年近く時間を掛けてんだ。練度は葵ねぇより上なんだよ。

 

「おら、どうしたオルコット!まだ試合は終わってねーぞ!六式妖星剣舞!」

 

 連続の斬撃をオルコットに放つがオルコットは動けずに攻撃をほぼ全部受けていた。

 もうSEもないだろうから勝負を終わらせる為に近付く。

 俺の斬撃を食らって装甲がボロボロになっていて、オルコットは俺を見て怯えていた。

 

 せっかくだからテイルクローを使い、装甲を叩いた事でSEがゼロになりブザーが鳴る。

 

『ブルー・ティアーズSEエンプティ、勝者邦枝翡翠』

 

 

〈マスター、これが勝利ですか?〉

 

 そうだ、これが勝利だ。高みに至る為に、蒼空を飛ぶためのものだ、翠鴉。

 

〈マスターを選んだ事は間違えではなかったようですね〉

 

 翠鴉が俺を選んだ様に俺も翠鴉の願望を知って選んだ。だから間違えなんてないんだよ。

 

 

 

 

 

「オルコット、立てるか?」

 

 ISの大きさが俺の身長までしかないからそのまま膝をついて手を差し出す。

 

「強いんですのね……」

 

「物心つく前から鍛えてるからな」

 

 オルコットの手をつかみ立ち上げる。さっきの怯えていた顔よりはましな顔になった。

 

「武装とか装甲ボロボロにしたけど次の織斑との試合出来るか?」

 

「予備は一応ありますが確りと点検した方が良いですわね、ダメージが意外とありましたので棄権しますわ」

 

 そう言って自分が出たピットに戻っていった。

 

 俺も翠鴉で飛びながらピットに戻る。 

 

 



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第11話 どうやって守る

 

 

 ピットに戻り、翠鴉を待機状態にする。

 

 

 左の二の腕に黒い羽とエメラルドの装飾があるアームレットになっていた。

 

 

(これが翠鴉の待機状態で良いのか?)

 

 

〈その通りです。もう少し時間があれば、もっと凝った物に出来るのですが……〉

 

 

(大丈夫だ。これはこれで気に入ったよ)

 

 

 俺はあんまりアクセサリーとかは着けないから丁度良いかもな。

 

『邦枝、先程の試合は見事、と言っておこう。次の織斑との試合は直ぐに行けそうか?三十分は休憩をとるがどうする』

 

 スピーカーから織斑先生の声が聴こえてきた。

 

 さっきのオルコットとの試合は正直に言って、そこまで疲れていない。MK5(マジで空気読めない五人組)を相手するよりはいい。精神的に疲れるんだよなアイツら、出てきた瞬間に破岩菊一文字を叩き込んでしまうほどに……。

 

 

「休憩は無くて良いです。このままエネルギーの補給だけしてすぐに出ます」

 

 

『分かった。補給が終わり次第出てくれ……ああ、後試合が終わった後、一度ISを渡して貰う。確認をしなければいけないからな』

 

 

「あぁー、なんか仕事増やしてすんません……」

 

『全くだ』

 

 

 

 SEの補給が終わり翠鴉を纏ってアリーナに出る。

 

 

 灰色なISを纏っている織斑が既にいた。

 

「悪いな、補給に時間が掛かっちまった」

 

「おい、翡翠。さっきの試合はなんだよ……」

 

 また名前呼びかよ……。反省するつもりも直す気無いなこいつは。

 なんだよって言われてもねぇ……。

 アクシデントはあったが、結果的にISの形態移行させる事が出来てオルコットを倒す事が出来た試合だったと思うのだが……。

 

 

「なんだって言われても意味が分からん。もうちょい詳しく言え」

 

「だから!無抵抗の相手を一方的に攻撃して彼処まで傷付ける必要性があったのかって訊いてるんだよ!」

 

 

 始めっからそう言えよ……。肝心な部分が一つも入ってないだろうに……。心を読めるエスパーじゃあないんだから省くな。それじゃあ、何も伝わらんと思うのだが……。

 

〈マスターの考えの通りかと〉

 

《ワタシも主さまにサンセー、言葉にする事で心を通わす事も出来るんですよー》

 

 焱姫の言葉に同意する。

 言葉にする事で俺は焱姫を受け入れる事が出来て暗黒武闘フルシンクロの悪魔になる代償がなくなる事が出来た。……悪魔にならなかったが制御出来ていない時に使った後、何故か女体化したんだっけな……。あれはキツかった。

 烈怒帝瑠のメンバーが俺を着せ替え人形にしようと押し掛けてきたからな……。

 サラシと特効服で葵ねぇとお揃いの恰好にされたっけ。あの時の葵ねぇが俺の胸見た時の何とも言えない表情が忘れられない……。

 

 

「俺からすれば闘っている最中に無抵抗になるのは、もうどーにでもしてくれって言う事だと思っている。後、試合を終わらせる為に攻撃しただけだろ?確かに俺の攻撃でボロボロにしたが、ISの試合じゃあよくある事だろ?」

 

「違う!痛めつけてボロボロにするなんて間違ってる!お前の考えは間違ってる、俺がその考えを正してやる!」

 

 外野がキャーキャー五月蝿い。口だけのイケメンの言葉がそんなにも良いのか?

 織斑先生に悪いが、コイツは歪んでるとしか思えない。

 自分の考えが正しいと疑わないのだろうな。でなきゃ、人の考えを間違っているって決めつけて、人の考えを正してやるって普通言うかな?

 分からん、コイツが何を考えているのか……。

 

 

 

 織斑の言葉に合わせたかのように試合開始のブザーが鳴る。

 

 

 

「うおおおぉぉー!」

 

 手に持っていた近接ブレードをまたしても上段に構えて真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

 後ろに飛んで、壁際まで後退する。

 あんなにスピード出して急に止まれるのか?

 突っ込みながら降り下ろされる剣よりも速く動いて後ろに回り込む。

 

「ガァ!?く、くそ!避けるな!」

 

 やっぱり止まれずに壁にぶつかったな……。

 攻撃が来たら受け流すか、避けるのが基本だろ?鍔迫り合いなんてしたくねーよ、刀が刃毀れするだろ。

 

 攻撃を避けながら翠鴉の武装をチェックする。

 

(翠鴉、量子変換されてる武装って……)

 

〈イエス、打鉄の時に入っていたものを改造しました。木刀は強度だけ上げ、六本のブレードの内二本は腰の刀に、もう二本は鎖と統合して特殊格闘武装に、残った二本は、ブルー・ティアーズを参考にソードビットにしました。薙刀と日本刀を統合して斬馬刀にしてみました〉

 

 

(マジかよ!スゲーな翠鴉!)

 

〈エッヘン、です〉

 

 翠鴉とのやり取りを一旦終えて、斬馬刀『天魔』を呼び出す。

 

「こっからは俺も攻撃するぞ!ぶっ飛べ!心月流抜刀術壱式改!」

 

 俺の声に織斑が驚くが遅い。

 

 振り上げた天魔を勢いよく振り下ろし剣撃を飛ばす。

 

「破山菊一文字 追閃(ついのせん)!」

 

「ぐあっ!?」

 

 避ける事もできず、攻撃が当たり地面に落ちて砂煙りが舞う。

 通常の壱式よりも威力がある攻撃を正面から受けたんだ。大ダメージだろうな。

 

 

〈マスター、相手のIS「白式」の一次移行を確認しました〉

 

(……つまり? )

 

〈搭乗者織斑一夏に合わせた専用機にやっとなった、と言うことです〉

 

(さっきの俺の様な感じか……。なら武装が追加されている可能性があるな)

 

 

 砂煙りが止むと、灰色のISから白のISになった物を纏った織斑が立っている。

 

 

「俺は世界で最高の姉を持ったよ」

 

 手に持った近接ブレードを見て、織斑がそう言った。

 

「俺も、家族を守る。とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!」

 

 

 何を言っているんだ?家族を守る?その程度の力で?

 

 お前の強さはISありきの力だろ……。

 

 ……と言うかどうやって守るつもりだ?ISを使って守るつもりか?考えない頭と一般人程度の力で?石矢魔の弱い不良にすらやられそうなのにか?

 

「これで、お前に勝つ!そしてみんなを守る!」

 

 さっきよりも速い動きで近付いてくる。 

 この程度なら……。

 

「零落白夜ー!」

 

 

〈マスター!当たってはいけません!〉

 

 翠鴉の言葉を聞いて全力で避ける。

 

(おい、翠鴉。零落白夜って織斑先生のISが持つ能力じゃねーのかよ!?)

 

〈解りません。恐らく白式に備わった単一仕様能力だと思われます〉

 

 長引くと面倒だな。

 とっとと試合を終わらせよう。

 さっき武装を確認していた時に見つけた機構を使って決める。

 

(翠鴉!)

 

〈展開装甲、起動〉

 

 腕と足、主翼、副翼の装甲が開いて翡翠色の光りが出て輝いている。この状態だと、エネルギーを大量に消費するが、それに見合う速さが出せるらしい。

 

 持っていた天魔を上に投げる。

 織斑も釣られて上を見ている。

 ハイパーセンサーがあっても咄嗟の判断が素人に出来るわけがないだろう。

 

 黒蓮を構え、技を繰り出す。

 

 ─────伍式水無陽炎!

 

 螺旋状に飛ぶ斬撃に当たった織斑は、錐揉み回転しながら吹き飛ぶ。

 

「うわぁーー!?」

 

 落ちて来る天魔をキャッチした勢いで次を放つ。

 

 

 ─────壱式改破山菊一文字追閃!

 

 追撃でさらに吹っ飛び、壁際まで行った。

 

 次で終わらせる。

 

 天魔を仕舞って、黒蓮を構えて突っ込む。

 

 立とうとする織斑に重い一撃を。

 

 

 ─────弐式百華乱れ桜!

 

 

 降り下ろされた攻撃が当たり勝者と敗者を決めるブザーが鳴り響く。

 装甲が元に戻り、漆黒の姿になる。

 

 

「今のお前じゃあ何にも守れんよ。今でもその姉の名に守られてる限りはな……」

 

 

 倒れている織斑を放って、ピットに戻る。

 

 



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第12話 守れる名と守られない名

 

 

 待機状態にした翠鴉から、焱姫らしき黒い塊がロッカールームがある方向に飛んでいった。

 

 

 アイツ本当に体を置いてったのか……。

 

 

「邦枝。まずは、二試合とも勝利したことを祝おう」

 

 

 ピットに織斑先生がやって来た。

 偏見だと思うが、先生が褒めるって何か違和感があるんだよな。

 

 

「どうも。まぁ、不完全燃焼気味ではありますけど……」

 

 

「弟が迷惑をかけてすまない。邦枝が言ったことは正直に言って私は正しいと思っている。一夏は守る側に成ったと思っているようだが違う、邦枝が言った様に今も私の、ブリュンヒルデの名に守られている」

 

 

「危機感がまるでありませんからねー。俺の場合は逆でしたけど」

 

 

「逆だと?」

 

 

「そうですよ。俺の姉は、烈怒帝瑠っていうレディースの総長って言う、悪い方向な有名人なもんでね、姉がムリなら弟の俺を倒せば良いというくだらん理由で不良集団が来たことが何度もありました。まぁ、全員返り討ちにしましたけど」

 

 初めて団体さんが来てから警戒心とか危機感とかが生まれたからなぁ。一人の時にしか来なかったから。

 酷いときは、五十人は来たっけ?参式でグルグル薙ぎ払ったけど。

 

 例え話だが、織斑先生は織斑を猛獣から守る檻なら、葵ねぇは猛獣たちが欲しがる肉と言ったら分かりやすいだろう。

 

「苦労していたんだな……」

 

 

「まぁ、その経験があるから技を人に向ける時の加減が出来るようになったから儲け物ですよ。後、弟とちゃんと話合った方がいいと思いますよ?考えが自分の中で自己完結しているから自分の考えが正しいと疑わない、人の話を聞かない。自分の世界しか見えてない、その内何か仕出かすかもしれませんよ?……あ、これがISの待機状態ですので、どうぞ」

 

 

 待機状態の翠鴉を織斑先生に渡す。

 

 

 マスタ~、という声が待機状態の翠鴉から聞こえた気がした。

 

 

「そう、だな。一度しっかりと話をした方がいいかもな。私から視ても今の一夏は危ないと思う。ISという兵器を手に入れたのを、まるで玩具を貰った子供の様に見える。私の力を手に入れたのも原因だろうな。邦枝のISは明日には返す様にする。……ああ、クラス代表はどうする?勝者が決めることにしていたが……」

 

 

 そういえば、そうでしたね。

 

 すっかり忘れていた。

 

 

「俺はクラス代表にはなりません、他二人で決めてください」

 

 

「分かった。クラス代表は他の二人で決めることにする。今日はもう帰って大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 体を元に戻した焱姫を連れて寮に戻る。肉体的疲労より、精神的疲労の割合が高い。

 今日はとっとと寝て休むか……。

 十蔵のじーさんに何か言われそうだな。ISの一つを専用機に変えちゃったからなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

//////////////////

 

 Side織斑千冬

 

 

「真耶、邦枝のISはどうだ?」

 

 

「先輩……あの、邦枝くんの専用機『翠鴉』を解析したところ、スペックが第三世代機を上回る性能です。織斑くんの白式と同じ近接格闘型なのに上を行く性能で、この展開装甲と呼ばれる機構は、現存するISにはない物です。一応第三世代という事にしてますが……第四世代と呼んでも良いものと思います」

 

 

「どの国も未だに第三世代機を開発している段階なのに第四世代機が現れるか……真耶、学園長には全て報告するが他の者に世代の事は言うんじゃないぞ」

 

 

「そうですね。邦枝くんとISを狙う者が現れるかもしれませんね」

 

 邦枝の事だから襲撃者を返り討ちにするだろうがな……。

 

 

 

 

 

 時間は過ぎ深夜の時間帯となった。

 

 あまり電話をしたくはない相手だが仕方ない。

 

 ぷるるるる……がちゃ。

 

『もすもす、ひねもす~?ちーちゃんが、大好きな束さんだ───』

 

 ツー、ツー、ツー。

 

 しまった。つい勢いで切ってしまった。

 

 ブゥー、ブゥー……。

 

『ちーちゃん酷いよ!せめて最後まで言わせてー!』

 

「束、訊きたい事がある」

 

『おー、何が訊きたい?もしかして束さんのスリーサ───』

 

「展開装甲というのを知っているか?」

 

『それは、どこで聞いたのかな?ちーちゃん』

 

 いつものバカな感じから態度が少し変わった。

 

「二番目の男性操縦者が乗っていた打鉄がロックを強制解除し、形態移行して出来たISに備わった機構だ。ハッキリ言って、白式の零落白夜よりも驚いたぞ」

 

『二番目?ちーちゃん、そのISのコアナンバー分かる?』

 

「137だ」

 

『137っと……。ああ、成る程。ちーちゃん、展開装甲というのは束さんがただいま絶賛開発中の第四世代のISに付けるモノなんだよねー』

 

「開発中だと?」

 

『後は組み立てるだけだったんだけど、どうやらコアネットワークのシステムに介入してデータを持っていったみたいだね。束さんもビックリな手際だよ、まさか娘に先を越されちゃうなんてね~』

 

「嬉しそうだな。怒ってないのか?」

 

『そこら辺の有象無象ならね~。でもコアナンバー137は、他の子と違って意識、自我を確立してる。どうやらその操縦者をとても気に入ったみたいだね。そこまでするなんて……もしかしていっくんより強い?』

 

「ああ、強いぞ。生身で私に勝つぐらいの剣の腕もある。お前でも油断したら負けるかもな」

 

『へぇー、益々気になってきたよ。ま、その内会いに行くからいっか!じゃあねー、ちーちゃん!束さんは娘のよりもスゴいの作らなきゃ!』

 

「おい、やり過ぎるなよ!……切れたか」

 

 余計な事を言ってしまったな。

 

 邦枝の苦労が増えるだろうが、我々も苦労するのだからおあいこだろう。

 

 

 

 

/////////////////

 

 

 Side邦枝翡翠

 

 

 

 

 翌日、しっかりと朝の日課を終えて朝のHRで織斑がクラス代表になったことが決まった様だ。

 

 

「……あの、俺…試合で負けたんですけど」

 

 

「私は、試合で勝った者が決めると言ったはずだぞ。邦枝はクラス代表にはならないと言った。そしてオルコットもクラス代表にはならないと言ったからな、残った織斑がクラス代表となった。理解したか?」

 

 

 文句を垂れる織斑に有無を言わせない覇気を纏う織斑先生による説得で織斑は折れてクラス代表に……。

 

 

 その後、オルコットの謝罪があり、明るい雰囲気になった後に、翠鴉が返ってきた。

 

 

 後、専用機のルールブックが鈍器レベルに厚かった。

 

 

 

 



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第13話 イメージが大事

 

 

 

「これよりISの基礎飛行操縦の実践をしてもらう。専用機持ちは前に出てこい」

 

 

 俺も専用機持ちになったんだよなぁー。面倒って思っていたハズなんだけどなぁ。

 翠鴉が嫌ってワケじゃあないからいいけど。

 

 

「先ずは、ISを展開しろ…始め!」

 

 

(翠鴉、展開)

 

〈了解〉

 

 

 時間は一秒位か?コア意識の翠鴉と会話出来るって物凄いアドバンテージだよな。

 

 

「織斑、遅いぞ。早くしろ、熟練したIS操縦者なら一秒もかからず展開できるぞ」

 

 

(翠鴉。隣は何であんなに苦戦しているんだ?)

 

〈アレは単に展開するイメージが出来ていないだけです。マスターは、常にイメージトレーニングをしている事で無意識でも出来てしまうので、そこまで苦労はありません。展開するイメージをしっかりとすれば0.1秒で展開出来るでしょう〉

 

 イメトレってやっぱり大事な模様。

 

 

 やっと、織斑が白式を展開する事が出来た。

 

「よし、では飛べ!」

 

 

 合図と共に垂直に飛ぶ。

 

 暗黒武闘の感覚がここまで活きてくるとはな色々と経験するものだな。

 

 

〈他の人が使っていた時よりも、空を飛ぶ感覚が違って感じます〉

 

(そりゃあ、翠鴉は焱姫に会うまで意識をしっかりと持ってなかったんだろ?仕方ねーよ)

 

 

 飛行しながら翠鴉と会話していたら織斑先生の声が聞こえてきた。

 

『織斑、遅いぞ。スペック上は白式の方がブルー・ティアーズよりも速いんだぞ』

 

 

 スパルタですね、先生。

 考えない織斑にはちょうど良いかもな体に覚え込ませるという意味で……。

 

 

「そう言われてもな……自分の前方に角錐を展開するイメージだっけ?よくわからん……」

 

 

「イメージは所詮イメージですわ。自分のやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」

 

 

 オルコットに同意だな。

 自分が決めたイメージの方が良い。

 

 

「邦枝さんは、どういうイメージで飛んでいるのですか?」

 

 

「常に俺の背中に翼…三対六枚の翼が生えていてその翼で飛ぶイメージだ」

 

 

「さっぱりわからん」

 

 

「そりゃあお前が考えてないって事だからだよ」

 

 

『お喋りはそこまでにしろ』

 

 話を制止させる声に、視線を下に下げる。

 

 ハイパーセンサーのお蔭でクラスの子の表情がよく分かる。

 

 箒だけ表情が暗い。どうしたんだ?

 

 

『急降下と完全停止をやってみろ。目標は地上から十センチだ。織斑と邦枝は、地面にぶつからなければ良しとする』

 

「それではお先に行きますわ」

 

 流石、代表候補生に成るだけの実力があるオルコットだな。

 やり方がキレイだからイメージの参考になるな。

 

 

「んじゃあ、俺が次、行くぞ」

 

「お、おう」

 

 

 重力とスラスターの噴出で大分速いな……。

 ぶつからないようにタイミングを────。

 

 

〈マスター!後ろから白式が急速に迫っています!このまま完全停止をすると激突します!〉

 

(何でそうなるんだよ!?翠鴉!どうしたら良い!?)

 

〈地表付近で前方に滑るように移動しながら停止して下さい!〉

 

(分かった!)

 

 

 イメージは、滑り台を立って滑る感じ!

 

 体を起こして翼を広げて空気抵抗を大きくして地表付近までに滑り台で滑るように!

 

 前方に移動したと同時にPICとスラスターで地表付近を右足で止まる様に滑って停止に成功する。

 

 そして、ほぼ時間差なく織斑が地面に激突してクレーターを作った。

 

 危なかった……前方に移動するタイミングを間違えていたら、織斑と衝突して地面に埋まっていたかもしれん。

 

 

「邦枝、私は滑って止まれとは言っていないが…まぁいい、衝突を回避しようとしたことだから今回は目を瞑ろう。織斑、私は地面にぶつからなければ良いと言ったハズだぞ……まだ初心者だからぶつからなければ合格と言おうと思っていたんだがな……」

 

 

 クレーターから上がってきた織斑が、嘘だろって驚いた顔をしている。

 

 織斑先生、普段から褒めるとかしないだろうしな。

 

 

「織斑、次は武装を展開しろ」

 

「は、はい!」

 

 

 正眼の構えで五秒位で展開出来ているな。

 早いのか遅いのかまだよく判断がつかんな。

 

 

「遅い。0.5秒で展開出来るようにしろ。白式は雪片弐型しかないからそれぐらいは出来るようにしろ。次、オルコット。武装を展開しろ!」

 

 

 マジかよ……白式ってブレオンなのかよ。

 俺や葵ねぇ、織斑先生位しか出来ないだろうよ、剣一本って……。

 

 

「はい」

 

 オルコットは左手を肩の高さまで挙げ、真横に手を突き出した。

 一秒以内にデカイ狙撃銃を展開したけど、何処を狙っているんだ?

 俺か?

 危うく反応してぶった斬るところだったな。

 

「流石だな、代表候補生。ただし、そのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開して味方でも撃つ気か?横を見てみろ、邦枝がお前を斬ろうと0.3秒で刀を展開して構えているぞ」

 

 

「……へ?ひぃ!?す、すすすみません!」

 

 

「こっちもスマン。動きが体に染み着いているからほぼ無意識で反射的に動いちまうんだよ」

 

 

 今じゃあ何も考えなくても、技が飛ぶからなー。

 回りのみんなドン引きしてらぁ。

 しょうがないじゃん、考えていると判断が遅れて負けるんだよ。

 負けない為に反射の域まで鍛えたんだから。

 

 

「次からは、正面に展開できるようにしろ。今みたいなのが起こるかもしれんからな」

 

 

「わ、分かりました……」

 

 その後、オルコットは近接武装を呼び出しに苦戦していた。

 声に出すやり方は、初心者用のだったな。

 

「次は邦枝だが……刀の展開に言うことはないな」

 

 

「お、織斑先生。でも翡翠は刀抜いてないぞ?」

 

 

 名前呼び……訂正するのもう疲れた。

 織斑よ、俺が何が得意か言ったハズだろうに……。

 

 

「邦枝は抜刀術を主にしている戦闘スタイルだから、刀を鞘から抜くかどうかは本人が決めることだ。邦枝、他の武装も展開しろ」

 

「了解」

 

 振り下ろす様に斬馬刀『天魔』を出して、次に殴る構えをして腕に装着される特殊籠手の『爪鉄(つめがね)』。

 この爪鉄は殴る為の武装だが、鎖で腕と繋がっているから伸ばして、振り回してぶつける質量武器(モーニングスター)でもある。

 

 ラストに、ソードビット『小通連』、『大通連』、『顕明連』の三つを呼び出す。

 小通連は、防御用で翠鴉が動かすのでほぼオート。大通連は、攻撃用で俺が動かすマニュアル。顕明連は、防御と攻撃両方に使い普段は翠鴉が動かし、余裕があれば俺が動かす共同操作型。

 

 他に白刀『白蓮』と木刀『林墨』があるがまたの機会で良いか。

 

 

「モンド・グロッソの出場選手並みの早さだな……。コツでもあるのか?」

 

 

「コツ…ですか?起きてる時はイメージトレーニングをし続ける事ですかね?こうして話しているときも俺は抜刀のイメージトレーニングをしていますから」

 

 今度からは展開する時と飛ぶ時のイメトレと天魔と爪鉄と三明の剣のイメトレもしないとな。

 今は翠鴉がサポートしているから早く出せるのだろう。

 

「それはもう癖か?」

 

「癖ですね、今じゃあ無意識でやっていますから」

 

 

「お前たち聞いたか?操縦科に行くなら邦枝のレベルまで行けとは言わんが、常にイメージトレーニングを出来る様にして置け。心掛けるだけでも変わっていくものだ」

 

 みんな難しい顔をしているな……。俺はもう習慣だから苦ではないからな。

 

 

「……そろそろ時間だな。今日はここまでとする。織斑、グラウンドを元に戻して置けよ、解散」

 

 

 解散の声と同時にダッシュで更衣室に逃げる。

 

 

 織斑の嘆き声が聴こえるが知らん、グラウンドに穴開けたのお前だろ?……女子、誰も手伝わないんだな好感度上げイベントじゃないのか。

 

 

 



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第14話 さめる

 食堂の方で織斑のクラス代表就任記念パーティーをしている。

 

 

 俺?

 

 そんな面倒なの出るわけないだろ?

 

 現在、寮の屋上でヨーグルッチと苺大福を飲み食いしながら暗黒武闘の感覚を忘れない様にスリークォーターまで使い過ごしている。

 

 悪魔に成ることはないから頻繁に使っているが、便利なんだよな。

 スリークォーターまで行けば影に潜る事も出来るようになるしな。フルシンクロは細かい事がやりにくいから大抵はスリークォーターまでしか使わないが……。

 

 

「しっかし、屋上は人が来んくて良いなぁ。ちょうど良い静けさで星がよーく見える」

 

『そーですねー。家だと微妙でしたからねー』

 

〈こうして空を、星を観察するのは初めてです〉

 

 

「そりゃあ、アイスは格納庫に入っていて、夜はIS動かさんもんな」

 

 

 翠鴉と呼んでいたが、それは機体としての名前だからISコアとしての名前を付けた。

 単純に翠鴉をひっくり返しているだけだが……。

 

 けど、アイスは気に入ったみたいなのでそう呼ぶことにした。

 

 

「そーいやーよ、アイス?」

 

 

〈何でしょうか、マスター?〉

 

 

「織斑先生が言ってた、展開装甲ってどの国も開発してないって本当か?」

 

 

〈本当ですよ。生みの親である篠ノ之束が開発していたデータだけ抜き取って私が作り上げました。ちなみに翠鴉は、第四世代になります〉

 

 

 ………………ん?

 

 なんかスゴい事暴露したぞぉう。

 

 

「え?つまり、それって勝手にデータ盗んで勝手に作ったんかよ……大丈夫か、それ?」

 

 

〈大丈夫だと思いますよ?篠ノ之束は、自身が決めた身内以外は認識しないみたいなので〉

 

 

「性格破綻者か……。というか、なんでアイスがそういうの知ってんだよ」

 

 

〈ISのコアネットワークで調べました。近くに暮桜と白騎士が居りましたので意外と簡単に調べることが出来ましたよ〉

 

 

 あれれれー?

 

 またとてつもない爆弾投げたぞコイツ。

 

 

「おい、アイス。暮桜は百歩譲ってまぁ分かる。織斑先生の専用機だからな。だがよぉ、白騎士がなんで近くにいるんだ?アレは翠鴉と同じ全身装甲だし、持つ奴がいるわけ……」

 

 

 白騎士って十年くらい前の話だろ。

 篠ノ之束がずっと持っているならまだ分かる。いるであろう協力者が持っているのも分かる。

 

 いや、待て。

 なんでそのままである必要性があるんだ。

 分からない様に作り替えればいい話じゃねーか。

 

 

〈マスターの考え通りです〉

 

 

『どーいうことー?主さまー、ワタシ分からないですー』

 

 

「白騎士を、いや、白騎士に使われていたコアが別のISのコアになってこの学園の誰かがもってんのか!」

 

 

〈はい、ですが簡単なアナグラム、言葉遊びです。レベルの低い物だと個人的に思います〉

 

 

 レベルの低いものだと?

 白騎士のアナグラム、しろきし…しろしき?

 え、そういう事?

 あり得なくは無いか……専用機持ちは全体で見ても少ない。俺も入れて七人のハズだ。

 その中で白を冠するのは一つだけしかない。

 

「白式のコアが白騎士のコアってことか……」

 

 

〈そうですよ。今回の実習時の事をここに来る前に笑ってあげました。乗り手の理解の無さと弱さで苦労しますねっと〉

 

 

 性格わるっ!?

 

 アイス、お前…そこまでドSだったのかよ……。

 

 

〈私の性格は、マスターの性格を反映していますので、ブーメランと言うものですよ?〉

 

 

 オゥ、リアリィー?

 

 

『そういえば、主さまって、男鹿さんみたいに襲ってきた不良に土下座させたり、オーバーアタックしてますよねー』

 

 

〈流石です、マスター〉

 

 

 おいおい、俺が土下座させるようになったのは、男鹿と会ってからだぞ?

 死体蹴りはたまにしてたけどさ……。

 

 

 ガチャ……。

 

 

 おっと、誰かが来たみてーだな。

 取りあえず暗黒武闘を止めるか。

 

 

 

 

////////////////

 

 

 Side篠ノ之箒

 

 

 最近どうも私はおかしいのかもしれない。

 

 

 一夏の事が好きなハズなのに、一夏が他の女の子と喋るのが嫌だったハズなのに、今はあまり興味が無いかのように感じられない。

 

 

 彼に出会って、剣を交えて見透かされ、彼の剣を握る理由を聞いて、私の事を見てくれたからか?

 

 だとしたら私は軽い女かもしれないな……。

 

 

 彼と言葉を交わす一夏の言動と行動がおかしいと思えてきた。

 

 正義感の強い奴だと思っていたが、一夏は自分の考えを盲信していると思える。

 

 

 クラス代表決定戦で言った彼の言葉は正論だった。闘いをすれば傷つけ合うのは常にあることのハズだ。

 どんな人でも分かる様な事だと思う。

 

 

 だが、一夏は否定した。

 

 一方的に攻撃をするのは間違っている?

 

 ISバトルでは、相手のSEをゼロにするまで闘う。なら、それは正しいのではないのか?

 

 

 彼の考えを間違っていると言ったが、一夏の考えに間違いがないと言えるのか?

 

 

 彼と話がしたかったが、一夏を警戒してかすぐに消えてしまう。

 

 彼処まで険悪な雰囲気だったのに、一夏はその事を忘れた様にいつもの通りに話しかけようとしている。

 彼ではないが、私でも呆れてしまう。

 

 

 恋愛事だけ鈍い癖に、他の事は鋭いのは何故だ?不思議でしかない。

 

 いったい何人の女の子の好意を的外れな事に置き換えてきたのだろうか。

 

 

 

 一夏のクラス代表就任記念パーティーを早々にお手洗いに行くと言って抜け出して屋上へ向かう。

 

 

 彼が───翡翠が屋上に備え付けられているベンチに座っている。例のカラスも一緒だった。

 

「ん?箒じゃねーか。どうした?食堂の方に居ると思ったが……」

 

 まだ四月の夜は冷えるのだが、和服をはだけさせて翡翠の鍛えた体が見えるのは目に毒だ、目のやり場に困る。

 

 

「少し風に当たりたくてな……」

 

「そうかい。まぁ、そこに立っているより座ったら?」

 

「そうだな」

 

 そう言いながらベンチを叩いている翡翠の横に座る。

 

 

 

 

/////////////////

 

 

 

 Side邦枝翡翠

 

 

「ヨーグルッチと苺大福だが食うか?」

 

「あ、ああ頂く……どうした、そんな意外そうな顔は……」

 

「うん?ああ、箒は織斑が好きだから一緒にいたいと思っていたからな。織斑を放ってここに来るのは意外と思っただけだよ」

 

 あれ?なんか気不味い感じがする……。

 

「それ…なんだが、確かに好きなハズだったのだが……今は分からないんだ」

 

「分からない?どういう事だ?」

 

「翡翠と手合わせした当たりから一夏の行動や言動に疑問を持っていたんだが……クラス代表決定戦で翡翠の考えを間違っていると否定して、言外に自分が正しいと言っている一夏を見たら熱が冷める感じがしたんだ」

 

 最近すぎるなそれは、思い出を美化していたのかもな。まぁ、姉である織斑先生ですら織斑の考えに疑問を持っているからなぁ。

 

 

「思い出を美化していただけだろ?そこまで思い詰めなくてもいいだろ。気にし過ぎは毒だ、覚めたなら新しい恋をしてみればいい。俺は箒を応援するよ」

 

 

 

〈(篠ノ之箒の頭を優しく撫でていますね。焱姫さん、マスターは天然の女誑しと呼ばれる存在なんですか?)〉

 

『(主さまの回りに普通な女の子が居なかったのが原因だと思いますよー?諌冬ちゃん位しか普通な女の子がいませんでしたからねー。鈍くはないと思うけど、接し方が分からないだけだと思いますよー)』

 

 

 ヨーグルッチと苺大福を食べ終えて、顔を苺の様に赤くした箒とも別れて自室に戻る。

 

 更識が自身の荷物を片付けていた。

 

「更識どうした?荷物なんか片付けて、この部屋から出ていくのか?」

 

「まぁね。元々翡翠くんの護衛という理由で一緒になったけど、その必要性がないみたいだから移る事にしたの」

 

 開かれた扇子に生徒会長権限の文字がある。ただの職権乱用のようだ。

 

 

 …………と言うことは、一人部屋になるということか。 

 

 



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第15話 地雷とフラグは多いモノ

 

 朝の鍛錬も終わり教室に向かった。

 

 

「ひーにぃー、聞いた?」

 

「何がだ、本音?」

 

 

 初日の時、苺大福をあげた袖を長く改造した制服を着ている女子、布仏本音。

 俺の事をひーにぃ、と呼んでくる。

 なんか新鮮だからそのまま呼ばしている。

 光太は何故か兄上って言ってくるからなぁ。妹がいたら本音みたいな子が良いなぁ。

 

 

「二組に中国の代表候補生が転入したんだって~」

 

「この時期に転入ねぇー」

 

 

 クラス代表でもないなら関係無い、か……。

 

 女子たちが騒いでいるな、クラス対抗戦で優勝したら半年間スイーツ無料になるらしい。

 

 甘い物は食べる方だから魅力的だが……クラス代表織斑だからなぁ~。

 優勝出来たら良いね程度にしておこう。期待して負けたら目も当てられんからな。

 

 今から鍛えても遅いよなぁ……心月流は、基礎の基礎のド基礎の撫子が出来なきゃ始まらんしな。

 

 それに、俺って感覚派だから教えるの下手なんだよなぁ……じぃちゃんにもダメ出しされたっけ……。

 頭の悪かった男鹿と帝毛のハゲどもは理解出来てたからいけるか?ムリか……?

 

 

 

 

「その情報、古いよ」

 

 

 …………ん?

 

 教室の前の方のドアに仁王立ちしてる小柄でツインテールが特徴な女子が立っている。

 

 そろそろSHRの時間だが……大丈夫か?

 魔王……違った。

 武神……違った。

 織斑先生(ブリュンヒルデ)出席簿(武器)を持ってやって来るぞ?

 

 朝の鍛錬の時によく組み手してるんだよなぁ~。ついでに撫子教えたけど習得したかな?

 

 俺は、六歳の時に一日半掛かった。葵ねぇは、半日だった。

 

 

 

 

 

 

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。中国代表候補生のこの鳳鈴音が、そう簡単に勝つ事なんて出来ないから」

 

 

「お、お前…鈴か!?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 織斑の知り合いか……。アレか?織斑がここに入ったから追いかけてきたパターンか?

 

 

「何格好付けてんだ鈴?すげー似合わないぞ?」

 

「あ、アンタ!?なんてこと言ってんのよ!」

 

 

 …………あっ、後ろに……金剛力士が。

 

 

「おい……」

 

「何よ?」

 

 

 スパァァァンッ!

 

 

「いっぎゃあぁぁぁーーーー!?」

 

 

 女の子が出しちゃあいけない断末魔()が教室と廊下に響く。

 みんな顔を青くしてる。まさか、出席簿の威力が上がってるとは思ってもみなかっただろう。織斑の顔が面白いほど青くなってるな。

 

 

「頭から足までイッターいぃー!?どうなってんのーー?!」

 

 あまりの痛さに蹲ってしまった中国の代表候補生。

 

 

 流石は織斑千冬。世界最強(ブリュンヒルデ)の名は、伊達じゃあないようだ。まさか一日で撫子を使えるようになったか。

 

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ、凰」

 

「ち、ちち千冬さん……」

 

「織斑先生だ。さっさと立って戻れ、邪魔だ」

 

「あん、……は、はい」

 

 

 今、アンタのせいだ。って言いたそうだったな。

 

 

「またあとで来るからね!逃げんじゃないわよ一夏!」

 

 

 ふらふらしながら消えていく中国代表候補生をしり目に、俺は織斑先生に話し掛ける。

 

 

「流石ですね、織斑先生。まさか一日で撫子を習得するなんて世界最強は健在ですね」

 

 

「フッ、まだまだ生徒に負けるつもりはないからな。それに、邦枝の教え方が良かっただけだ」

 

 

「そう言ってもらえると嬉しいですね。心月流現当主からお前は教えるのが下手と言われてましたからね」

 

 

 クラスのみんなから、何教えてんだって視線がメッチャくるなぁ。

 

 

 その後の授業で織斑に気がある子が出席簿の餌食になっていた。

 断末魔が響く午前となった。

 

 

 授業の合間に織斑が色々と言ってきた。アレは、俺と織斑先生の関係の事を勘繰る感じだったな。

 アイツ、シスコンだな。彼処まで必死な感じだったら誰でもそう思うわなぁ。

 

 

 俺?

 俺は、越えるべき相手ぐらいにしか見てないな……。

 暗黒武闘は勝つが、純粋な剣ではまだ勝てないからな。

 

 

 昼になんか出来事があったようだが知らん。

 

 屋上の方で箒と一緒に食べていたからな。

 

 色々と話をしたな、何が好きで、何が嫌いか、食い物とか色々と……。

 

 

「うん?箒の家も神社で剣術道場なのか」

 

「…も?翡翠の家も神社で剣術道場をやっているのか」

 

 

 意外な共通点があったりした。

 

 

 

 

 

 

 放課後は、翠鴉のメンテナンスのために整備室に赴く。

 

 別段、ダメージはないが自分が使う道具は手入れをしないと、いざって時に動作不良は笑えない。

 

 

 誰かの機体が置かれている横に翠鴉を展開する。

 

「アイス。展開と点検箇所を出してくれ」

 

〈了解です、マスター〉

 

 

「えーっと、スラスターと装甲、翼と関節部分を見るのか……」

 

〈後ろの方にある棚から道具があるので持ってきてください、これが必要なものです〉

 

「分かった、すぐ持ってくる」

 

 

 専門家でもないから取るのに時間掛かったな。

 

 ……翠鴉の前に誰かいるな。

 水色の髪って更識か?似ているが、毛先が外に跳ねてないな。

 更識の妹か?

 

 

「どうした?全身装甲はやっぱり珍しいか?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「いや、怒ってる訳じゃないから謝んなよ」

 

 

 赤い目も一緒ということは家族か……性格は正反対な感じだな。

 

 

「あぁ、俺は一年一組の邦枝翡翠だ。所謂、二番目の男性操縦者だな。苗字は更識であってるか?」

 

「……合ってます。一年四組の更識簪です…何で苗字知ってるんですか?」

 

「お前の姉である更識楯無とは寮で同室だったんだよ。ま、あいつは妹がいるなんて言ってなかったけどな、髪の色と目の色が一緒だったからな姉妹だって思ったんだよ」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

 

 顔が暗くなったな……前にも似たようなことがあったような気がするぞ。……あぁ、箒に箒の姉の話した時か。

 

 この学園、家族に対しての地雷多くねぇか?確か織斑姉弟とオルコットも地雷があった気がする。

 家はろくに仕事と子育てせずに修行している親父とそんな親父を追っかけに行った母さん。じぃちゃんと葵ねぇがいるからまぁ、なんとかなっているけど……。

 

 それよりも……。

 

 

「お前は姉と違って真面目そうだな」

 

「……え?姉と違って?お姉ちゃんって普段どんな感じだったんですか?」

 

「普段?意外とはっちゃけてるぞ?風呂場に突撃して来たり、水着エプロンの格好したり、裸ワイシャツだったり、露出狂紛いな事ばっかりでよぉー。あっ、後アドリブに弱かったな。そんで、ちょい前に虚って人にアイアンクローされて連れていかれてたな。確か書類が溜まってたからだったかな……」

 

「身内がご迷惑をおかけしました……」

 

 

 なんか気不味い感じが全然抜けないんだが……。

 

 

「ま、まぁ、それがなければ面倒見の良いヤツだよ。お前が気にすることじゃあない」

 

「……はい、後…簪で良いです。更識だと被るから……」

 

「分かったよ、簪。そういえば、隣のISは、簪の機体か?作りかけにしか見えないが……」

 

「う、うん……。打鉄弐式、私の専用機…でも織斑一夏のせいで開発が凍結されて……」

 

 織斑のせいで?……簪の専用機より織斑の白式を作っちまったのか……。作ってもそのまま凍結してんのかよ。屑過ぎねぇか?

 

 

「まさか、一人で作ってんのか?一人は流石にムリが過ぎると思うんだが……」

 

「で、でもお姉ちゃんは一人で作ったから私も!」

 

「うん?簪は、姉と同じ事がしたいのか?別に同じ事に固執する必要性は無いと思うんだが……そもそもISって専門家でもないのに一人で作れる物なのか?天災篠ノ之束博士なら可能だろうが、あの痴女にそんなスキルがあるのか?どうせ一人で作った、なんて見栄張っただけだろ」

 

「そ…うかな……(痴女呼ばわりされるお姉ちゃんって……やってる事がアレだけになにも言えないけど……)」

 

「そんなもんだと俺は思うぞ?簪、俺にも姉ちゃんがいるんだけどな…剣じゃあ姉ちゃんに勝てないんだよ」 

 

「え…?」

 

「俺には剣の才能がある。でも姉ちゃんはそれを上回る天賦の才能があるんだよ。何度手合わせしても勝てない、俺が得意な技ならいいが総合的には負けるんだ。でも、俺には剣の才能よりも別の才能がある。それは姉ちゃんでも最後まで出来なかったモノだ。その才能は誰にも負けない自負がある。……長々と言ったが、つまり一つの事に固執するのは良くないってこった」

 

「一つの事に固執しない……」

 

「そうだ。姉が一人で作ったなら簪はみんなで作って姉を越えるのはどうだ?ボッチなお姉ちゃんより友達たくさんの私の機体のがスゴいんだってドヤ顔で言ってやんだ。友情の力の方がスゴいんだってな」

 

 

 キャラじゃあないことをペラペラと言っちまったなぁ~。段々恥ずくなってきたな……。

 

 

「友情……良いかも。ヒーローみたいで……」

 

 

 おっと?なんか簪の何かに触れた感じか?

 あっ……そろそろメンテしないと。

 

 

「悪い、簪。ちゃちゃっとメンテしないと……アイスが機嫌を損ねちまう」

 

「あっ、ごめんなさい……。アイスってISの名前?」

 

「ん?ああ、アイスってのは、ISのコア人格の方の名前で、機体としては翠鴉って名前なんだよ」

 

 

 スラスターの推進剤と汚れを確認っと……。

 

 

「愛称を付けてるんだ……」

 

「こいつらには自我がある。なら愛称で呼んだっていいと思うぞ?その方が愛着がわくと思うぞ」

 

 

 翼の確認っと、デリケートなんだよな翼って。

 

 

「あの私も、手伝ってもいいですか?」

 

「良いのか?それじゃあ、関節の所に油を注してくれるか?」

 

「分かった……」

 

 

 簪のお蔭で早くメンテが出来たな。……アイスが終始無言だったがどうしたんだ?

 

 

 

 

〈(焱姫さんが言っていた、フラグを立てるとはこう言うことなのでしょうか?)〉

 

 

 

 



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第16話 鈍感は胃痛のもとになる

 

 翠鴉のメンテナンスが終わり、簪と別れる。

 

 簪はどうやら仲の良いクラスの子と親友の本音に声を掛けて専用機の開発を行うらしい。

 

 俺が提案した事だから、俺も手伝う事を約束した。

 

 簪はクラス代表でもあるけど流石に対抗戦までに完成は出来ないから打鉄で闘う様だ。

 

 

 前向きになってくれて良かった。このまま姉妹仲の改善も前向きにやって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 寮に着いて自室前に来たが、飲み物を買いに一階に行く。

 

 部屋のある階の自販機にヨーグルッチって無いんだよなぁ。

 態々、階段で上り下りが面倒臭い。

 

 

 

 

「……箒と二組の凰か?どうした、その荷物……って何で凰泣いてんだ?」

 

「ひ、翡翠?!い、いや、その…これは……」

 

 

 泣いている凰の背中を擦っている箒。

 二人の足元には二人の荷物であろうスーツケースとボストンバッグが置かれている。

 

 取り敢えず……。

 

「箒、なんか飲み物いるか?」

 

「あ…お茶を……」

 

「オッケー。……凰もいるか?」

 

「……ジュッ、スゥ…」

 

 

 二人分の飲み物を買い、二人に何をしているかを訊く。

 

 

「それで?二人は荷物持ってどうした?」

 

「翡翠、ここでは…その……」

 

「話し辛いなら俺の部屋に来るか?」

 

「私は構わないが…鈴はそれで良いか?」

 

 

 凰は泣きながら首を縦に振ったので、二人の荷物を持って自室に向かう。

 

 

 

 

「それで?凰が泣いてた理由と二人が荷物持ってる理由を訊いても良いか?まあ、言いたくないならそれでも構わんよ。この部屋に同居人居らんからな、好きに過ごしな」

 

「鈴はまだ話せる状態ではないから、私が掻い摘んで説明するが……」

 

「分かった。簡潔に何があったか言ってくれ」

 

「では、まず……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、アリーナでISの訓練をし終えて更衣室に戻った所に凰が現れ、箒と織斑が同室だと知ると部屋に荷物を持って現れて部屋を交換するように言ってきた。

 

 

 箒は別段一緒に居たい訳ではなかった為、了承して荷物を片付けて凰が居た部屋に行く為に部屋を出ようとした時、凰と織斑の話を聴いた。

 

 

 その内容が、中学の時に凰の事情で織斑と離れる事になった為、学校の屋上で織斑に『あたしの料理が上手くなったら毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』という、凰なりの告白をしたらしい。

 

 

 先程部屋でそれを覚えているか訊いたら、覚えていると言ったので確認したら『食べてくれる?』が『奢ってくれる』となっていたらしい。

 

 

 凰は織斑が間違えて覚えていたのに自慢気に言っていた事に、自分の告白が何にも意味を成さなかった事、織斑が鈍感で女の子の告白を、付き合って下さい、を買い物に付き合うとしか思わない奴だった事、色々な感情が出てきて部屋から飛び出した。

 箒は心配になって追いかけて話を訊いた後に俺がやって来たということらしい。

 

 

 

 

 

「聞いた限りだと織斑九割、凰一割で悪いな……」

 

「うー……」

 

「俺のダチにも鈍感な奴はおったからなぁ~。その鈍感さに四苦八苦してた人が身内におるからまあ、なんと言うか…悔しかったんだな」

 

 王臣紋のある右肩を少し見て、未だに涙目の凰の頭を左手で撫でて落ち着かせてやる。

 

「うん…ゔん…」

 

「泣きたいなら泣きな。そんで気持ちを切り替えな。あのバカにまた告白するにせよ、ぶん殴るにせよ、そんな顔で行っても意味ねーからな」 

 

「う、うわぁぁぁーー……!」

 

 

 男鹿も鈍感ではあったが、バカ正直だから分からないなら、分からんや忘れたって言うだろうな。

 

 

 一人は、歯向かう敵──女以外──は徹底的にボコって土下座させるドSな悪魔、いや魔王か……。

 

 もう一人は、自分の正義を疑わない、女子の好意だけ踏み躙る、口だけのイケメン。

 

 

 同じ鈍感なのにここまで違うか……。

 

 織斑が男鹿に会ったら噛みつくだろうなぁ~、一方的な暴力なんて間違ってるとか言って。そして、男鹿にボコられて土下座させられそうだな。織斑は素で弱いからな、ベル坊に会う前の男鹿でも楽勝だな。

 

 

 ……織斑がIS使っても男鹿の魔王の烙印(ゼブルエンブレム)からの魔王の咆哮(ゼブルブラスト)……もしくは、魔王大爆殺「終」(ゼブルフィニッシャー)の一撃で終わりそうだな。

 

 

 クラス対抗戦……織斑の勝ち無くなったな、これは……。

 

 個人的には簪か凰に勝ってもらいたいからな。

 

 

 

 

 

/////////////////

 

 

 

 Side凰鈴音

 

 

 あたしは、分かっているつもりで分かっていなかった。

 

 織斑一夏という男がどれだけ鈍感なのかを……。

 

 中学の時、女の子から告白されても買い物に付き合うとしか思わない奴なのに……。

 

 約束を覚えていると言った。

 

 期待してしまった。

 

 まさか、奢ってくれる、なんて普通思うだろうか?

 

 思考回路がおかしいと思えてきた。

 

 

 箒と一緒にもう一人の男性操縦者の部屋にあがった。

 

 箒の顔を見ると顔を少し赤くしている。

 

 たぶん、好きなんだろう。

 

 箒が一夏の幼馴染みと聞いた時、箒も一夏が好きなんだろうなと思ったけど違う……。

 

 人の気持ちを分かってくれる。

 

 これと容姿の良さ、野性的と言うのだろうか、友達の弾とはまた違った感じで男らしいと思う。

 

 こんな思いするならもっと早く逢いたかった。

 

 頭を撫でられるのって何時以来だっけ?

 

 頭を撫でられる安心感と泣き疲れてきた……。

 

 そういえば……名前……訊いてなかった……。

 

 

 

 

/////////////////

 

 

 Side邦枝翡翠

 

 

 凰が泣き疲れて眠ってしまった。

 更識が使っていた奥の方のベッドに寝かせる。

 

 箒に頼んで制服が皺にならないように着替えさせてもらった。

 

 ラッキースケベなんてしたくないので箒に呼ばれるまで脱衣所に籠ったよ。

 

 

「時間はもう遅いから箒もここで寝ていけ。手前の俺が使ってるベッドで悪いがそこで寝てくれ」

 

「あ、いや。なら翡翠はどうするつもりだ」

 

「ああ、大丈夫。実家から寝袋が送られていたからそれで今日は寝るよ」

 

「その……すまない、いきなり部屋に押し掛けてベッドを取って……」

 

「気にせんで良いって、ちょっとした諸事情で寝袋は馴れてるからな」

 

 親父に魔二津で修行させられた時に馴れたって言えないなぁ……。

 

 

「ま、明日も学校あるからもう寝な」

 

「わ、分かった……その…おやすみ、翡翠」

 

「おやすみ~。箒」

 

 

 

 明日の朝に会うかもしれない織斑先生にボロを出さない様に出来るか?

 いっそのこと打ち明けるか?

 

 でも凰に確認せんといかんよなぁ~。

 

 胃が痛くなってきた気がする……。

 

 織斑関連で……。

 

 

 



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第17話 手遅れと新たに始まる

 

 

 いつも通り五時に起きて鍛錬をする準備を調えて行く前に鍛錬に行って七時頃に戻る、という置き手紙を書いてから部屋を出る。

 

 

 

 何時もの通りに体を解してから技の確認に移ろうとしたが、視線を感じたから翠鴉のハイパーセンサーを起動させて確認する。

 

 覗いていたのは、更識(痴女)だったので無視することにした。

 

 だってさぁ~……。

 

 なんて言うか……親の仇を見る様な顔でこっち見てるし、何故か殺気がメッチャ出てるし……。

 

 

 後、呪詛を吐く様に簪の名前を呟くな……。

 

 

 簪と仲悪いのは、オメーせいだろ。……たぶん。

 

 

 俺は知ってるぞ、オメーの携帯の待受画面がどう見ても盗撮した感じの簪の写真だって事をな。簪にチクるぞ。

 

 

 ヘタレシスコンの癖に外聞は良くしてたんだろうが簪には部屋でのオメーの事、暴露してるからな、その内簪から残念な人を見る目で見られるのも時間の問題だぞ。

 

 

 私の簪ちゃんを盗ったとか言うな、励ましただけだっての……。

 

 後、簪はオメーのではないだろ……。

 

 寝取るとかハーレムとか女誑しとか言うな……。

 

 

 

 

 

 …………………………。

 

 

 

 

 

 

 この学園、俺の胃に恨みでもあんのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

////////////////

 

 

 

 Side凰鈴音

 

 

 

 あれ?何であたし何時の間にベッドの上で寝てたんだろう?

 

 

 隣のベッドには箒が寝てる。

 

 なんだろう……口元が緩んで見えるのは気のせいかな?

 

 

 床の上に置かれている寝袋と甚平だっけ?が置かれている。

 

 

 そうだった……もう一人の男性操縦者に頭撫でられて思いっきり泣いてそのまま寝落ちしたんだった。

 

 

「うぁぁぁ~……」

 

 

 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!

 

 

 目の前であんなに泣いて、そ、そそそれに…抱きついちゃったし……。

 

 

 ほぼ初対面なのにあたしは何やってんだー!

 

 穴があったら入りたい……。

 

「鈴、起きてたのか」

 

「あ、箒。……その緩んでる口をなんとかしなさい」

 

「なな、なんだと!?」

 

 両手を頬に当てて確認している箒に訊いてみた。

 

「箒は、好き…なの?彼が……」

 

「彼…翡翠の事か?…そう、だな。好きに、なってしまったのかもな……。私も鈴と同じ様に一夏の事が好きだった。でも…今は、昔助けられたからという理由で、思い出を美化していたんだと思う。久しぶりに一夏に会ったときは嬉しかった……でも、一夏は行動や言動が矛盾している。翡翠の考えを間違っていると否定して正すと言った。まるで自分の考えが正しい、間違っていないと言っている様で……それを聞いたら熱が冷めたんだ」

 

 

 二番目の男性操縦者の名前は、ヒスイって言うんだ。

 

 

 そして、箒の口から出た彼が好きだと言う言葉。

 

 驚くのは、箒が言う一夏の事だ。

 

 一夏の奴…他人の考えを否定していたの?そして正す?

 

 正義感が強いのは知っていた。でも、他人の考えを否定する奴だったけ?

 

 弾や蘭に訊いた方がいいかな。千冬さんにも訊いた方がいいかな?

 

 

「そう、なんだ……。箒はその…ヒスイが好きなんだよね。やっぱり、人の事を分かってくれる所?言葉にして欲しい事を言ってくれる所?包み込んでくれる所?それとも全部?」

 

「どう、だろう…たぶん全部、だと思う。私の事を分かってくれた、正直に思った事を言葉にして言ってくれた、たぶん無意識だと思うが昨日の鈴の様に頭を撫でてくれた。嬉しかった……」

 

 

 確かにヒスイはあたしの気持ちを分かってくれた。

 

 あたしも悪いんだと、泣いて気持ちを切り替えろと、言葉にしてくれた。

 

 頭も撫でてもらった。

 

 正直に言って箒と同じ事をされているよね、あたし。

 

 

「そっか…うん、決めた!」

 

「何を決めたんだ?」

 

「箒、アンタには負けないって事に決まってんでしょ!」

 

「な、なんだ、と……!?」

 

 そう、決めた。初恋は気付かれる事なく終わった。

 

 ヒスイだって切り替えろって言ってたからね。気持ちを切り替えなきゃね!

 

 彼に恋をした。チョロいって言われるかもしれないけど関係ない。

 

 だから、絶対振り向かせてやるんだから!

 

 

 

 

 

「それで当の本人は何処に?」

 

「置き手紙があるな…七時に戻って来るようだ」

 

「あっ、じゃあそれに合わせて朝食作ろっか。先ずは胃袋を掴まなきゃ!」

 

 

 

 

『(主さまの胃…大丈夫かなー…?自業自得なんですけどー……心配ですー。葵さーん、彼女出来て欲しいとか言ってましたけど、ハーレムになりそうですよー)』

 

 

 

 

 

 

/////////////////

 

 

 

 Side邦枝翡翠

 

 

 更識のお蔭で胃にダメージを受けながら鍛錬を終わらせて戻る前に更識に向かって妖星剣舞を放っておいた。

 

 

 更識の声がしたけど無視して部屋に戻る。

 

 

 ドアノブに手を置いた瞬間、中に人がいる事を思い出す。

 

 …トントントン。

 

「入るぞー」

 

 

「あ、おかえりー」

 

「おかえり、翡翠」

 

「ん?ただいま?二人とも起きてたか……あ、そういえば、凰とは自己紹介してなかったな。邦枝翡翠だ、歳は一つ上だがよろしく」

 

「あはは…あたしは凰鈴音。鈴で良いわ」

 

「了解、俺のことも翡翠でいいぞ。……と、シャワー浴びて、食堂行って飯食わんとな」

 

 

 石矢魔なら時間を気にせず食えるのに……。最近俺との組み手で、勘を取り戻しつつある織斑先生がいるから逆らわない方がいい。

 

 

「それなんだが……」

 

「あたしと箒で朝食作ったから」

 

「そうなのか?すまんな、わざわざ用意してくれて」

 

「大丈夫だ。私達が好きでやったことだからな」

 

 

 冷蔵庫にろくな食べ物がなかったハズだったんだがな。

 

 卵雑炊……胃に優しいな……。

 

 ありがたいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦まで鈴と箒と一緒にアリーナで闘ったり、簪のいる整備室にジュースなどを差し入れに行ったりしていた。

 

 

 そんでクラス対抗戦当日。

 

 一回戦は、鈴対織斑だった。

 

 



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第18話 クラス対抗戦と襲撃

 

 

 

 クラス対抗戦まで色々あったなぁ……。

 

 箒が同居人になった。鈴は、元の部屋に戻っていった。

 

 じゃんけんで決めたらしい。俺はどちらでも構わなかったんだがな。

 

 ……後、織斑先生に部屋の事を知られて何故か組み手からただの殴り合いに発展したことだろうか。

 

 

 理由が仕事が増えてイライラしたからだった。

 

 

 理不尽だっての、部屋の件に関してはしょうがないでしょうよ。二人がそうしたんだから。

 弟が関わっているからって俺に当たらないでくれ、ホントに……。

 

 

 

 

 GWの時に一度帰省するのに、二人が付いて来そうになった事だろうか……。

 

 出来れば付いてきて欲しくない……。

 

 だって、高確率で烈怒帝瑠のメンバーがいるからだ。

 語彙力皆無の花澤とか葵ねぇ大好き谷村辺りが騒がしくするだろうしな。

 

 

 

 試合前に鈴と話をして頭ナデナデしてとお願いされたので頭を撫でて上げて、隣に居た箒にも頭を撫でて上げた。

 

 代表候補生の実力を見せつけてやる、と意気込んでた。

 

 鈴の様子を見た後に、丁度良く簪が来たので二、三言葉を交わしてから箒と一緒に観戦席に向かう。

 

 

 

 

「ひーにぃ、おりむーとりんりん、どっちが勝つと思う~?」

 

 左隣りの本音が訊いてくる。なんでポップコーン持ってるんだ?

 

 

「ん~?鈴が勝つだろうなぁ」

 

「その根拠は、何ですの……」

 

 オルコット……居たのか。そのしかめっ面は何だ?オルコットは、織斑が好きな感じか?

 

 まあ、好きか嫌いかは置いておくとしても、自分のクラスの代表が負けると言っているモノだからいい気にはならないか……。

 

 根拠、ねぇ~。

 

 

「実際に闘ってみてそう感じたってだけだ」

 

「模擬戦してたんだ~」

 

「まぁな、鈴はISを動かす技術のセンスがある。本気じゃない俺の剣に食らい付く程度の、だがな」

 

「翡翠のレベルがおかしいだけだから気にしなくていいと思うぞ」

 

 

 俺からすればここの人は生身が弱過ぎる。

 

 ISがあるからって鍛えてないのはダメだろ。織斑先生に憧れて来るなら鍛えてこいよ。

 

 ISは身体能力とイメージがモノを言う事を理解していないな。

 

 裏の人間のハズで、鍛えているだろう更識が強い部類に入るのは当然だろうな。

 

 

 

 試合前に鈴と織斑がしゃべってるな……。

 

 織斑、余裕そうだな……。

 

 緊張してないのか?それとも……なにかしらの策があるってことか?

 

 

 

 

 ────試合開始のブザーが鳴り響く。

 

 

『うおおぉぉー!』

 

 

 あ、また一直線に突っ込んだ……。

 

 鈴に一直線に向かったら────

 

 

『ぐあっ!?』

 

 

 ─────衝撃砲の餌食になる。

 

 

『うん。やっぱり見えないし普通避けれないよね……。』

 

 

 ああ、そういえば模擬戦の時に避けたり、妖星剣舞で撃ち落としたっけ……。

 

 単純に鈴の様子を観察して衝撃砲を撃ったタイミングで妖星剣舞をバラ撒いただけなんだがな。

 

 真っ直ぐにしか来ないなら分かりやすいしな。

 

 その時の鈴と箒の顔が釈然としないって顔だったな。

 

 拳圧を避けるよりは、面倒だったぞ?

 

 予備動作がほぼなかったからな。

 

 

『本当に翡翠との模擬戦は、ためになったわ……』

 

 

 あ、なんか鈴が遠い目してる。

 

 

『鈴、本気で行くからな』

 

『はぁ?当たり前でしょ、そんなこと言うまでもないでしょ』 

 

 

 瞬時加速……。

 

 確か、参考書にも書かれている操作技術だったな。

 

 高速で迫る事で動揺させて、零落白夜で倒す。

 

 ブレオンで雪片を持つ織斑にしかない策だな。

 

 

 瞬時加速した瞬間に鈴は、垂直に地面に降りていく。

 

 急に止まれない瞬時加速を上手い事やり過ごすにはいい行動だな。

 

 零落白夜の使用でSEが減っていく中で、鈴が双天牙月の連結を解除して接近戦をしようとした時───

 

 

 

〈マスター!上空に熱源が現れました!所属不明のISの攻撃が来ます!〉

 

 

 アイスの声に驚きながら翠鴉のハイパーセンサーを起動させて上空を見たが遅かった。

 

 

 アリーナのシールドを破壊する一撃が叩き込まれたからだ。

 

 

 殺気を感じなかった……。

 

 

(アイス、全身装甲だが、あれに人は乗ってるか?俺の予想は乗っていないんだが……)

 

〈マスターの予想通りです。あのISから生体反応がありません。おそらく、下手人は天災だと思われます〉

 

(だよなぁー)

 

 

 ISの無人機造れるってことは、それだけ技術があるってことだ。

 自分が犯人ですって、言ってるもんだよなぁ~。

 

 

 さて、これからどうしようか……周りはパニックになっているけど……。

 

 本音は、ポップコーンを呑気に食べてるな。肝が座ってるな。

 

 

 取り敢えず、織斑先生に通信するか。

 

 

(アイスー、織斑先生にプライベート・チャネルで繋げてくれ)

 

〈了解です〉

 

 

 

「(織斑先生、邦枝ですけど、このパニックどうしますか?)」

 

『邦枝か…お前ならアリーナのドアを切断出来るか?』

 

「(ぶっちゃけ簡単ですよー。あのISもついでに斬りましょうか?)」

 

『二人が危なくなったらでいい。ドアを斬ったら何時でも突入できるようにしておけ。』

 

「(了解)」

 

 

 さて、黒蓮を出し、殺気も出して周りを黙らせるか。

 

「五月蝿い、少し…黙れ……」

 

 

 出来るだけトーンを落として言う。

 

 うん、みんな黙ったな。

 

 

 

 ───この時数人顔を赤くしていた女子がいたとか、いなかったとか。

 

 

 

 女子を避けながらドアの前に立ち。

 

 黒蓮を構え技も使わないただの抜刀で斬る。

 

 綺麗に四角に斬ったからドアは倒れなかったので軽く叩いて倒して直ぐに人混みを避けて箒らがいる観覧席に戻る。

 

 

「ほら、オルコット以外はアリーナの外に出ろ。箒、残るのは許さんぞ……」

 

「な、どうしてだ……翡翠…?」

 

「どうしてだって言われてもなぁ、心配だからに決まってんだろ。さっきの見たろ、侵入したISの武装はアリーナのシールドを破壊できる威力だ。いくら俺が強くても護りながら戦うのは正直に言って面倒だ……」

 

 

 顔を下げた箒の頭を撫でて落ちつかせて、話を進める。

 

 

「そんな顔すんなって……直ぐに鈴と一緒に戻ってくるからよ安全な場所に避難してくれ」

 

 

 本音に箒を任せて突入する為に移動する。

 



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第19話 GWの一時帰省と兎

 

 

 シールドの近くまで移動し、シールドを叩いて強度を確認する。

 

 

(この固さなら暗黒武闘を使った撫子でいけるかな……)

 

 

「焱姫、暗黒武闘の準備しておけよ」

 

『了解でーす。十蔵さんと手合わせした時以来ですねー』

 

「まあ、しゃーねーだろ。ホイホイ使っていい物じゃあねーからな、本来は」

 

 悪魔を憑依させるのはリスクを伴うけど俺は克服、改善してる。

 人が見てなければホイホイ使いたいよ。

 

 

 

〈マスター、今所属不明ISからロックオンされて狙われています〉

 

(えーっと、つまり……)

 

〈先程の大出力の一撃が来る、と言うことです〉

 

 

「マジかよ!?アイス展開!」

 

〈了解!〉

 

 

 0.5秒位で展開して上に飛ぶ。

 

 丁度アリーナの中心に来たときにギリギリの所でなんとか真上に放つ様に誘導出来た。

 

 

 今の一撃でまた空いたシールドの中に入って、中に居た二人と合流する。

 

 

「鈴、織斑。無事か?」

 

「翡翠!?なんとか平気だけど甲龍と白式のSEがもう無くなりそうよ」

 

「分かった。こっからは俺が受け持つから二人は後ろに下がってろ」

 

「な!?俺はまだ行けるぞ!何で下がらねーとダメなんだよ!?」

 

 

 おいおい、試合の時に結構エネルギー減らしてたハズだろ?

 

 そうでなくても零落白夜で減らしていくんだからもうほとんどない状態だろ?

 

 そんな状態でさっきの一撃を食らったら死ぬ可能性があるんだぞ……。ISがあるから大丈夫って思ってるんだろうな、織斑は。

 

 

「バカなの!?アンタのSEはもう10パーも無いんでしょうが!そんな状態でさっきの一撃食らったら死ぬわよ、本当に!」

 

「けど、だって鈴……」

 

「だってもヘチマもなーい!」

 

 

 ……にしてもぐだぐだ言い争いをしてるのに攻撃してこないな。

 

 やっぱり無人機、機械だって事か……。

 

 命令に無い動きは出来ないって事みてーだな。

 

 

 なら少し本気出してもいいかな。

 

 

「そんじゃ、俺はそろそろ行くからな。二人は後ろで俺がしくじったら動いてくれ」

 

 

 ─────チ、チ、チィン。

 

 ─────心月流抜刀術八式 神薙 三閃。

 

 

 全部当たったな。

 

 神薙が攻撃だと判断出来なかったみてーだな。

 

 今は、全身装甲で体隠れてるから暗黒武闘使ってもバレないよな……。

 

 

(焱姫、暗黒武闘クォーターシンクロで一気に終わらせるぞ!)

 

『分かりましたー』

 

 

 暗黒武闘を使えば体に刺青見たいなものが出てくるが全身が隠れてるなら大丈夫だな。

 

 

 ソードビットとテイルクローで周りを囲み逃げ道を無くして、展開装甲を使って距離を詰めて相手に動くことを許さない連撃を与える。

 

 

 ─────心月流抜刀術七式 七天芙蓉!

 

 

 最初の抜刀の速さを殺さずに相手を斬り刻む連撃でSEや装甲諸とも斬り裂いていく。

 

 

 これで、ラスト!

 

 

 ─────心月流抜刀術壱式 破岩菊一文字!

 

 

 瞬時加速と展開装甲を使っている時の速さにテイルクローで引き寄せた分の威力を叩き込んだ一撃を放つ。

 

 

 ……人に向けていい威力を超えたな。

 

 

 だってあのIS粉々に成っちまったからな……。

 

 

 あれ?エラー表示?なんでだ?

 

 

〈マスター、申し訳ありませんが機体が暗黒武闘の力と展開装甲の瞬間的な最大出力に耐えきれなくてオーバーヒートしました。冷却に三十分は必要です〉

 

(マジかよ……。連絡とかの機能は?)

 

〈可能です。ですが、雑音が入る可能性があります。やるのであればメールの方にしてください〉

 

(なら、鈴と織斑先生にメールしてくれ。あっ、後箒にも無事だってメールしておいてくれ)

 

〈了解しました。後、解除もしないでくださいね。熱を持っているので待機状態でも熱くて焼けるかもしれません〉

 

 

 三十分はこのままか……。

 

 

 

 

 

 

 

 やっと三十分経った……と言うのは嘘で鈴が水を持ってきたのでそれで冷却時間が半分になり早く戻る事ができた。

 

 

 

 

 戻った後に、織斑先生にあそこまでバラバラにしろ、とは言ってないと小言と出席簿が飛んできた。

 

 もちろん、避けたよ。避けたら蹴りが来たから殴ったらそのまま殴り合いになった。

 

 これから徹夜だからって当たるんじゃねーよ。

 

 

 

 あ~眠いけど、帰支度を済ませんとな二日ぐらいしか帰れないからとっとと準備しないとな……面倒くさいから量子変換で持っていけば良いか?

 

 

 

 モノレールの始発で帰るつもりだから箒や遊びに来た鈴には悪いが寝かせてもらった。

 

 

 

 

 

 

 ぐっすり眠って起きたら箒と鈴がベッドに侵入していた。古市が知ったら血涙を流すだろうな~。

 

 二人の好意は分かっているつもりだ。

 

 わざわざベッドに侵入するぐらいに俺の事が好きなんだろうな……。

 

 その内、腹括らないといけなくなるんだろうな、きっと……。

 

 

 二人を起こさない様に静かにベッドから降りて支度をして置き手紙を書いて部屋を出て家に帰省する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝早くから出た事で昼前に家に着いた。

 

 じぃちゃんは、道場かな?

 

 

「じぃちゃん?帰ったぞー」

 

「ん?おぉ、翡翠か。帰ってきたか」

 

「まあ、一時的にだけどな……んで?そこに転がってるボロ雑巾みたいになってるのは?」

 

 

 機械のウサミミと不思議の国のアリスみてーな服装をしてる女性が道場の床に大の字でぶっ倒れている。

 

 

「篠ノ之流当主の娘のようじゃ……確か、束と言っておったか?いきなり現れて勝負を吹っ掛けてきてのぅ…少しだけ本気出したらこの有様、もう少しだけ遊んでやれば良かったか?」

 

 

 うわぁ~。じゃあこれが箒の姉さんで織斑先生の友人だと言う、天災篠ノ之束かよ……。

 

 

 織斑先生の話じゃあ織斑先生並みに強いって言ってたけど……。やっぱりじぃちゃんには勝てなかったみたいだな。

 

 

「今、葵が昼を作っておるから戻るぞ。翡翠はもう食ったのか?」

 

「いや、まだだよ。久しぶりに葵ねぇの料理か……」

 

 

 

 気絶してる天災をそのままにして道場を出て家にじぃちゃんと一緒に戻る。

 

 

 

 

 

 



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第20話 天災、養子に暴露される

 

 

 昼飯を食べる机に何故かいる目を閉じた少女。

 

 

 あの天災の付き添いか?

 

 

「あっ、はじめまして。私は、篠ノ之束様の養子兼助手をしています。クロエ・クロニクルと申します、翡翠様」

 

 

 俺に気付いて声を掛けてきた。

 

 天災の関係者かよ……。しかも養子って……。

 

 

「あ~。分かっているだろうが一応、邦枝翡翠だ。後、様はつけんでいい」

 

「分かりました、翡翠さん」

 

「そんで?なんで天災とその助手が家にいるのか訊いても?」

 

「まあ、当然の疑問ですからね。簡単に言ってしまえば、束様が翡翠さんに会いたいと申しまして、今日こちらに帰ってくる事は分かっていたのでお邪魔しました」

 

 

 天災に目をつけられたってことか?イヤだな……。

 

 

「そしてコチラにお邪魔した所、束様が一刀斎様に喧嘩を売り一刀斎様がお買いになり、道場の方で闘っていました。一刀斎様の抜刀術に手も足も出せなかった束様がムキになって突貫したのを思いっきり竹箒で叩かれて気絶したので私は葵さんのお手伝いをしに上がらせて頂いたのですが……」

 

 

 ああ、だからじぃちゃん道場の中なのに竹箒持ってたのか……。

 

 葵ねぇがお手伝いを止めたってことは、この娘、クロエは料理が下手なんだろうなきっと……。

 

 

「ご飯出来たよー。あれ、翡翠もう帰ってきてたの!?連絡ぐらいしてよ!」

 

「前からGWの初日に帰るって言ってたから連絡はいいかと……」

 

「ご飯の準備とかあるでしょ!」

 

「すみませんでした……」

 

 

 

 そのままお昼ご飯であるチャーハンを食べる。

 

 

「それで翡翠、IS学園なる場所はどうだった?」

 

「ハッキリと言って、ほぼ全員弱かったよ。織斑先生や十蔵のじーさん以外はあんまりで拍子抜けだったよ。仮にも兵器になっちまう物に対しての心配りがなってなかった。まるで玩具やファッションとでも思ってるのかね」

 

「そうか……。それと十蔵はどうであった、弱くなっとったか?」

 

「全然弱くなってないよ。妖星剣舞を撃ち落とすぐらいは普通にやってたよ」

 

「十蔵さん、変わってないなー。」

 

 

 

 

「お、おじいちゃん……。束さんを置いてくなんて酷いよ……」

 

「気絶しとった、お主が悪い」

 

「同感です、束様」

 

「くーちゃんまでそんなこと言うの!?お義母さんは悲しいぞ!」

 

「……………………」

 

 

 クロエ……まさかの無言でスルー。

 

 あ、なんか涙目になってる。もしかして、じぃちゃんにやられたのが悔しかったのとクロエの無視で堪えたのか?

 

 まあ、どうせ普段の行動による因果応報だろうな。

 

 

 葵ねぇ、優しいな……。然り気無くチャーハンを皿に盛って置いてあげてる。

 

 

 

「食べた、食べた。あーちゃん、チャーハンおいしかったよー。それで、君が二人目の男性操縦者、邦枝翡翠……なら、ひーくんだね!」

 

 

 一人でドンドン先に進んでいくなぁ。

 

 

「クロエ、この人ってこれがデフォ?」

 

「どちらかと言えばデフォですよ。身内と認識されないといけませんが……」

 

「え、コミュ症なの?」

 

「コミュ症認定して良いと思いますよ?そもそも会話する相手が私か織斑千冬のどちらかとしか喋りませんし、誰もいないのに一人で喋ってる事も多いですし……」

 

「それって……イマジナリー・フレンドでもいんの?」

 

「どうなんでしょう?実を言うと私、束様と会ってそこまで経っていませんのでよく分からないんです」

 

「あれ、そうなんだ。じゃあ格好もあのまんまなのか?」

 

「はい。しかも、束様ってお風呂に何日も入らずにそのままなので最近は部屋の匂いがスゴい事になってファブリーズが手離せないんです。それに、服も替えないので同様にボールドが必要なんです。ここに来る前に一ダースずつ買って来たんですよ」

 

「大変だったんだなクロエ……」

 

「分かってくれますか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーちゃん……泣いていい?」

 

「貴女は大人でしょ?しっかりしなさい。それぐらいで泣いてたらキリがないわよ。後、お風呂ぐらい入りなさい。女としてはダメよ、それ……」

 

 

 

 

 そろそろ話を戻すか……。

 

 

「それで?箒の姉さんが俺に何のようですか?専用機の事ですか?」

 

「何事もなかったかのようなスルーだね~。専用機の事もそうだけど、あのいっくん一筋だった箒ちゃんのハートを射抜いた件についてかな~」

 

 

 ウゼェー。そのニヤニヤとした面止めんか。

 

 

「え、翡翠……そんなことしてたの…」

 

「間に受けんなよ、葵ねぇ。箒の織斑に対しての恋心が冷めただけの話だろ、それ……俺は箒に冷めたなら別の恋をすればいいとしか言ってないっての」

 

 

 

「フッフッフッ、まあ、そーいうことにしておくよ。そーだ、ひーくん?君は何の為にISを使うのかな?束さんは興味があるんだー」

 

 

 なんだ、いきなり……。

 

 ISを創った本人がそれを訊くのか?

 

 そういえば、ISって元々は、宇宙で活動する為の物だったけ……。

 

 今のISの扱いに納得してないってことか……。

 

 まあ、今考える事じゃあないな。

 

 

「みんなの為……って織斑は言うだろうな……」

 

「確かにいっくんならそう言うだろうねぇ~、何の面白味もない模範解答だね」

 

「俺は赤の他人よりも自分の為に、そしてコイツの為に使いますよ」

 

 

 そう言って、左の手首に巻いた待機状態の翠鴉を右手の甲でトントン叩いて示す。

 

 

「それってISの為にってことかな?どうして?」

 

 

「ISのコアには意思が宿る。束さんよー、まだ翠鴉が打鉄だった時、形態移行する前にアイス……コア人格が俺に何て言ったと思う?……貴方は私を高みに、蒼空へ連れていってくれますか?って言ったんだよ。それを聞いて笑ったよ。機械なのに人間と同じ事を考えている事を知ってさ、それで決めた。俺はコイツの…アイスの願いの為にISを使う……ま、そんなところだよ。納得したか?」

 

 

 

「そっか……コアNo.137…いや、アイスちゃんはとても良いパートナーと出会えたみたいだね……ロックを勝手に外して束さんのデータを抜き取って最高の形に組み直してしまうほどに……」

 

 

 子供を見る様な目付きだな。自分が作り出した物は、子供ってする人ってことか。

 

 

「そうだ!ひーくん!ひーくんのISのデータもらえる?」

 

「別に良いけど……アイスがデータ盗んで出来たもんですから還元くらいは構いませんけど……」

 

 

 出されたコードを受け取り待機状態の翠鴉に差し込んでデータを渡す。

 

 

「良い事を聞かせてくれたお礼に予備のパーツと武装を作って送ったげるねー。それじゃあ、束さんはこの辺で帰るよー、くーちゃん行くよ~」

 

「はい、それでは…お世話になりました。」

 

 

 

 家の裏に置いていた人参型のロケットで飛んでいった。

 なんだか濃昼だったな……。

 

 

 



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第21話 石矢魔の噂は大抵一人がやっています

 

 

 突発的な天災との邂逅が終了した午後。

 

 

 朝早く帰ったため、鍛錬をまだ行っていないから鍛錬の準備をする。

 家の道場で久しぶりに行う素振りは気分が良くなる感じがする。IS学園ではここまで静かになることがないからだろうな……。

 

 

 いつも通りの二時間の鍛錬を終えて、シャワーを浴びた後焱姫を連れて自分の部屋の確認をする。

 

 葵ねぇが俺の荷物を送ってくれたということは、物が動いているという事だ。……まあ、葵ねぇの事だから元に戻しているだろうけどな。

 

 

 部屋の確認も終わり何もする事がなくなったので光太と遊ぶ事にした。

 最近俺らを真似て空獅子とか使っているみたいだからちゃんと使える様に教えてみたが理解してくれただろうか……。

 

 

 

 

 そんなこんなで帰省二日目……。

 

 道場で鍛錬の途中で家の玄関の方で呼び鈴が鳴った。

 

「……お邪魔します」

 

「翡翠ー、遊びに来たよー!」

 

 

「……あれ?返事がない」

 

「留守か?」

 

 

「どうした?葵の知り合いか?」

 

「え、いや、あたしら翡翠の友達で……」

 

「ほう…翡翠の方か、あやつ二股しておるのか……」

 

 二股発言するじーさんに慌てて否定を入れる二人。

 

「ひ、翡翠とは、ま、まだそうゆう関係では!」

 

「そ、そうよ!まだそうゆう関係じゃないわ!」

 

「つまり、そうゆう関係に成りたいということじゃな」

 

 

 ニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべるじーさんと、顔を赤くする二人。

 

 

「ああ、翡翠なら今、姉の葵と道場で鍛錬するところでな、覗いてみるか?」

 

「「……お願いします」」

 

 

 

 

 

 

 カンッ!カンッ!カンッ!

 

 

 木刀と木刀がぶつかり合う音が道場に響き渡る。

 

 

 打ち合いを始めて結構経つが、お互い有効打を当てずに何度も打ち合っている。

 

 

 カンッ!カンッ!カカカカカンッ!カカカカカカカンッ!

 

 体が温まってきた事で段階を上げていく。

 

 葵ねぇも合わせて段階を上げて対応してくる。

 

 ……IS学園では自重していたが、やっぱり葵ねぇやじぃちゃんと打ち合うのは楽しいなぁ。自然と口角が上がって行くのが分かる。

 

 

 カカカカカカカカカンッ!カカカカカカカカンッ!

 

 

 七天芙蓉の要領で攻撃を繋げているが平行線のようだ。

 

 カンッ!カンッ!カンッ!

 

 息継ぎをするために一時離れて呼吸を整える……うん?打ち合いに集中してたから気付かなかったが、視線を感じるな。

 

 視線を感じる方に顔を向けると驚いた顔をしている。鈴と箒がいた、どうしたんだろうか?

 

 

「あの、翡翠とそのお姉さんっていつもああなんですか?」

 

「まあ、いつもよりは控えめではあるがな。普段ならあれよりも激しくやりあっておるぞ」

 

「……ならば私の時は、かなり加減されていたのか……」

 

 

 いやぁ、普通加減するでしょ。この速さに付いてこれる人がいるならそうするが、一般人は先ずムリだろうからな。

 

 

「翡翠、鍛錬はいいからこの娘らの相手をせんか」

 

「わーったよ。鈴、箒、悪いがシャワーと着替えに行くから少し待っててくれ」

 

「あ、うん。大丈夫」

 

「こちらが押し掛けて来たんだ。そのぐらいは平気だ」

 

 

 木刀を持ったまま道場を出てシャワーを浴びに家に向かう。

 

 

 

 

「翡翠って二股してるの?二人公認の?」

 

「あたしらと翡翠ってそんな風に見られるんだ……」

 

「気が抜ける……」

 

 

 

 

 シャワーを浴び、数少ない和服ではない服装に着替えて外に出る。

 

 

「翡翠、和服ではないのか?」

 

「学園じゃあ、和服だけだったけど普通のもあるんだ」

 

「まあ、これともう一着ぐらいしかないけどな。それよりも、家の場所よく分かったな……教えてなかったのに」

 

「ネットで調べたら出てきたのと、意外と近かったから遊びに行こうってことになってお邪魔したんだ」

 

 

 ネットって便利ですね……。

 

 

「あ、そういやぁ、箒。昨日お前の姉さんが来てたぞ」

 

「そ、それは本当か!?」

 

「おう。俺に会いに来たらしいんだがな。何故か知らんがじぃちゃんに喧嘩売って返り討ちにされて昼飯食って帰ったけどな」

 

「なんか…すまない…」

 

「気にせんでもいいって。じぃちゃんに負けて涙目だったけどな、あの兎。今度会ったらそのネタで弄ってやるつもりなんだが箒もするか?」

 

「……考えておく」

 

「……て言うか箒の姉さんって篠ノ之束博士よね。指名手配されているのに暢気なのね…」

 

 

 それから鈴の提案で中学の同級生の親がやっている食堂に行く事になった。三駅程の場所にあり丁度お昼の時間になっていた。

 

 

「いらっしゃい…って鈴じゃねぇか。久しぶりだな」

 

「久しぶり、弾。今日は友達とここに食事に来たのよ」

 

「そうなのか、取り敢えず何名様で?」

 

「三人だからテーブルの方行くわよ」

 

「奥の方が空いてるからそこ行ってくれ。注文決めたら呼んでくれ」

 

 

 如何にもな大衆食堂って感じだな。こういう雰囲気は割りと好きだな。

 

 

 食べる物を決めきれないので鈴が注文したものを俺と箒は、真似をする。

 

 

「そう言えば翡翠ってあたしらよりも一つ上なら高校行ってたんだよね?何処の高校だったの?」

 

「うん?ああ、石矢魔って所だ」

 

「アンタ石矢魔の生徒だったんかよ!?」

 

 

 さっき鈴と会話していたダンだったけ……。

 

 

「弾、石矢魔って所知ってんの?」

 

「知ってるも何も、石矢魔っていったら全国の不良高校の中でも最凶と云われてる全校生徒が不良の高校だぞ!他校の不良が攻めて来たのをたった一人で倒して全員土下座させたとか、裸の赤ん坊を背負った不良がいたり、木刀で窓ガラスとか切断する奴とか、人が壁や地面に減り込ませたりとか、校舎を全壊させたりとか、一年生が不良を纏め挙げたりとか、色々言われてる高校だ」

 

 

 ……聞いてみるとほとんど男鹿のことじゃねぇか、それ。

 

 

「へ、へぇー。じゃあ翡翠もそうだったの?」

 

「俺は彼処じゃあ珍しいまともな方だったけど…木刀の話は俺と俺の姉の事だから。まあ、向かって来るバカどもを子連れ番長と一緒にブッ倒すぐらいはしてたよ」

 

「子連れ番長ってアバレオーガのことですよね?知り合いなんすか?」

 

「知り合いも何もダチだよ。アバレオーガとエメラルドリッパーの名で広まってた思うんだがな…」

 

「アンタがエメラルドリッパーなのかよ!?」

 

「まぁな、あ、俺の名前は邦枝翡翠だ。二番目の男性IS操縦者だ」

 

 

 アバレオーガとエメラルドリッパー。いつの間にか付けられていた通り名、確かあの恥将が名付けていたんだっけ?

 

 

「あ、ああ、アンタが一夏が言ってたもう一人の男性操縦者か……俺は、五反田弾って言います」

 

 

 おっと、ここで織斑の名前が出てくるか……。

 

 

「弾、一夏と会ったの?」

 

「昨日家に来たぜぇ。IS学園行ってもアイツの恋愛事だけの鈍感具合いは、何も変わってないみてーだな。そういや鈴は……ってどうしたその顔」

 

 

 鈴の顔が物凄く渋いって言うか、苦いって言う顔になっているな。事情を知ってる身としては複雑な気分に成るよな。

 

 

「弾…蘭に言っときなさい。アレと恋人になりたいなら覚悟しといた方がいいって。あ、後、あたしは下りたってとも言っておいて」

 

「はぁ?!おい、マジなのかよ鈴!何があったんだよ!」

 

「一夏の頭って本当に恋愛事だけ別の事に変換するみたいでさぁー、正直言ってもうムリ。なんか冷めちゃったんだよねー」

 

「ああ、一夏が最近鈴の付き合いが悪いって言ってたけどそう言う事か……。そりゃあ悪くなるだろ……(新しい好きな人の方を優先するのは当たり前だろうに……)」

 

 

 弾は良い奴だな……。古市と同じ感じがするな苦労人というな。

 

 

 会話していて途中で頼んでいた定食が運ばれてきた。野菜炒めだけど美味しいな……。

 

 そして、食べ終わって話の続きをした。

 

 

「弾と言ったな、一夏は他人の考えを否定して正すと言う奴だったか?」

 

「篠ノ之さんだっけ……鈴が居なくなってからも別段そんな事はなかったハズだと思うんだがな。何だ?アイツが人の考えを否定して自分が正しいとでも言ったのか?」

 

「ああ、翡翠の考えは間違っていると言っていた。それに、一夏の行動と言動に矛盾が有ったりしたか?」

 

「いやぁ、俺が知っている範囲内ではそんな事はなかったハズだ。正義感が強い奴だし、邦枝の考えが一夏の頭じゃあ納得いかないってだけだろ」

 

 

 それだけならいいんだけどな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園に無事戻り、GWも終わりまた授業が始まると同時に厄介事がまた訪れることになっていたのをまだ知らなかった。

 

 



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第22話 天然ドジにも限度がある

 

 

 GW最終日に兎からの空輸(直接空から物だけ落としていった)があり、織斑先生に仕事を増やすな、とまた殴り合いになった。

 

 

 知るかよ、アンタあの兎と親友なら手綱ぐらい握れや。俺の管轄外だっての……。

 

 

 織斑先生よぉ~ことある事に殴り合いしてくるけど……ただ、殴りたいだけじゃあないよな?

 

 

 

 女子たちがISスーツの事で盛り上がってるな……。

 

 俺のは織斑と同じ物だったが、兎の空輸した物の中にあった物を着たところ前の物より着心地が良かったので兎製のを着ることにした。

 

 

 山田先生によるISスーツの解説を聞いた後、山田先生のあだ名が色々あることを知る。上から読んでも下から読んでもってヤツですね、分かります。

 

 石矢魔の上位陣って下手したら拳銃というより大砲並みの威力ある気がするな……。俺、男鹿、悪魔憑依状態の古市、東邦神姫、殺六縁起、それぞれの王臣たち。結構いるな……。

 

 

 山田先生は、織斑先生みてーに威圧感がないから嘗められるのではないだろうか?石矢魔は……まあ、同じか……。

 

 

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各自気を引き締めるように」

 

 

 教室に入って来た織斑先生の言葉に気を引き締めている生徒たち。……織斑先生じゃあないと気を引き締めんのか?

 

 

「各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは……まあ、下着でも構わんだろう」

 

 

 いや、構えよ。

 

 下着のヤツがいたら授業バックレるぞ。

 

 

「……と、まあ、冗談だがな。忘れた奴は見学、欠席扱いだ。しかも、一回で二回の欠席扱いとするから忘れるなよ……」

 

 

 わぁーお。

 

 織斑先生の後ろに威圧感で、ゴゴゴゴって漫画みたいな音が視えるぞ。

 

 クラスのみんな威圧に馴れてないからガタガタ震えてるな……一部、恍惚とした顔をしてるのは気のせいでありたいな……。

 

 

「え、えぇーっと……。今日は、転校生を紹介します。しかも、二人です」

 

 

 またかよ転校生……。

 

 ……ってか何でこのクラスなんだよ。

 

 三組と四組に回せや。鈴は二組だったから次は、三組か四組だろ、普通は……。

 

 十蔵のじーさんが一枚噛んでるのか?最高責任者はじーさんだから仕組んでるかもな……更識も噛んでるか?生徒会長のアイツは色々知る事が出来る立場だよな。

 

 情報がない今、色々考えても仕方がないか……。

 

 

 開かれた扉から入ってくる二人。

 

 一人は金髪で、男子の制服を着ている奴と、銀髪で眼帯をしている奴。

 

 

 銀髪の方……クロエに似ているな。姉妹レベルで似ている。……まあ、今はいいか。

 

 

「はじめまして、シャルル・デュノアです。フランスから来ました。みなさんよろしくお願いします」

 

「……男子?」

 

 

 ……あれで男子か?声は高いし、喉仏が見えんし、呼吸が少しおかしいな……胸を締め付けている時の呼吸に似ているな。俺が女体化した時、葵ねえと一緒にサラシを巻いた時のアレに近い気がする。

 

 あ、女子共が息吸ってやがる。

 

(アイスー、耳だけ保護機能って出来るか?)

 

〈出来ますよ。不審に思われない様に一応耳を塞いでください〉

 

(ありがとうな)

 

 そっと耳を塞いでおく。織斑の奴気付いてないな、ご愁傷さま~。

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を───」

 

『きゃああああああーーーーーー!!!』

 

 

 あ、織斑が耳抑えて蹲った。……相当でかかったみたいだな……保護機能万歳だな。

 

〈音が小さくなったので機能を解除します〉

 

(アイス、ありがとな。またなんかあったら頼むぜぇ)

 

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「織斑くんのようなイケメンや邦枝さんみたいなちょいワルなワイルド系と違った、守ってあげたくなる系よ!」

 

 

 ちょいワルワイルド……?女子共そんな風に俺の事見てんのか。

 

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

「み、皆さん静かにしてください。まだ自己紹介が終わってませんから!」

 

 

 あの兎の助手であるクロエ似の銀髪眼帯の番か……。

 

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

 

 織斑先生に向かって敬礼をした。

 

 やることが軍人だな……。モノホンの軍人か?

 織斑先生を教官呼びか……。織斑先生の呼び方、個人的にそっちのが違和感が無いと思うのは俺だけではないハズだ。

 

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」 

 

「了解しました」

 

 

 教え子って事か……。尊敬…いや、崇拝…かなぁ。めんどうだなぁ~。ああいうのって話を聞かないから嫌いなんだよなぁ~。話を聞かない奴全般嫌いだけどな。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

 ……………あっ。

 

 これって箒が言っていた織斑と同じらしいパターンのヤツか……。

 

 

「え、あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 

 山田先生ぇ……。涙目にならんでくださいよぉ。ショックなのは分かったんで。

 

 ボーデビィッヒ……ボーデビ……。ドイツの言い方ってメンドイから銀髪でいいか。

 

 銀髪が織斑の前に移動したな……。

 

「貴様が…!」

 

 パシンッ!

 

 ビンタしたな……。何か二人の間に何かあるのか?

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 

 どーいうことだ?崇拝対象の身内が気にくわないって事か?

 他所様が他人の家族の、姉弟の事を認めるだの、認めないを決めちゃあダメだろ。

 

 崇拝の度を越してる気がするな……。

 

 

「いきなり何しやがる!」 

 

「ふん……」

 

 

 織斑を無視して自分の席に座ったな。

 

 

「あー…、ではこれでSHRを終える。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同で行う。解散!」

 

 

 さて、とっとと世話しろとか言われる前に逃げるとしますか。

 鍛えた技術でムダに速く教室から出る。

 

 うわぁ……。もう、人がゴミのようだ状態になってきたな。

 

 後ろから織斑ら声がするが、囮……いや、犠牲になってもらうか。

 

 

『主さまー。囮も犠牲も同じだと思いまーす』

 

〈マスター。ワタシもそう思います〉

 

「そうだな」

 

 

 校舎から出た瞬間にダッシュで更衣室に向かって着替える。……まあ、下にISスーツ着てるから脱ぐだけだがな。

 

 グラウンドに出て少し待ったところ、後ろから誰かが走って跳んで来たな。

 

 

「ひーすーいー!」

 

 

 つい反射で動いて後ろを向いたら鈴が飛び掛かってきていたので、衝撃が無いように腕が首に回った勢いを殺さずに鈴をお姫さま抱っこで受け止める。

 

 

「鈴、危ねーだろ。普段だったら木刀が飛んでくるところだったぞ」

 

「え、あ、うん、ゴメン……」

 

「分かったなら今度からは事前に言ってくれよ?」

 

「…う、うん」

 

「良い子だ」

 

「こ、子供扱いするなー!」

 

 

 あぶなっ!鈴の伸ばした手が顔に当たりそうになった。

 

 

「……で?何時までそうしているつもりだ?」

 

 

 あ、織斑先生居たんですね。

 周りみなさんも顔を赤くしているな……。箒の眼が鋭い半眼なのは気のせいではないようだ。

 

 

 織斑とデュノアがギリギリにやって来た。あの人ゴミに揉まれてたんならしゃーないわな。

 

 

 

「本日よりISを使用した実習を始める。まずは、戦闘を実演してもらう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。凰、オルコット、前に出ろ!」

 

 

 おうおう、織斑先生の前で文句垂れっぱなしだな……。どうせ選んだ理由なんて専用機持ちって事と御しやすいとでも思ってるんだろうな。

 

 

 ん?先生が二人に何か言っているな……。

 

 鈴がこっちをチラッと見てきたな。良いとこ見せられるぞ、とでも言ってんのか?

 

 

 張りきっている二人の対戦相手らしきが落ちてきた。

 

 

「あぁーっ! ど、どいてくださいぃ~!」

 

 

 何で落ちてんだ?山田先生ぇ……。

 

 ここの先生の大半って代表候補生のハズだとじーさんが言ってた気がするんだが……。

 

 まあ、取り敢えず……殴って打ち返すか。

 

 右腕と足のスラスターを展開して少し跳んで、力を込めて……放つ!

 

 

 ─────心月流無刀 空獅子!

 

 

 グラウンドの端まで殴って落とす。

 

 

 全く……二、三人動けてない奴がいたからな……、危うく二人程挽き肉になりそうだったな。

 結構強めに殴ったけど大丈夫そうだな、たぶん。

 

 はぁー……。織斑が突っ掛かって来そうだな。

 

 

「おい、翡翠!何で山田先生を殴ってんだよ!」

 

「耳元でウッセェーな。ちゃんとこれには理由があるんだよ」

 

「殴るのに理由があるのかよ!!」

 

「あるんだよ。……第一にお前を含む生徒が逃げ遅れていたこと。第二に山田先生の操作ミスによる自業自得。一歩間違えたらお前も巻き込まれてるところだったんだぞ。いや、お前がIS展開出来たとしても他の子が巻き込まれて大怪我下手したら死んでもおかしくない落下だった。第三に俺の体が無意識に動いたからだ」

 

 

 丁寧に説明織斑に説明するが、納得する訳ないよな。

 自分が正しいと疑わないからな。

 

 

「す、すみません。操作を誤ってしまいました……」

 

「山田先生、次は装甲が吹っ飛ぶ程度で殴るので気を付けてください」

 

「本当にすみません!」

 

「はぁ…、山田先生しっかりしてください。凰とオルコットの相手は、山田先生だ。ああ、言っておくがお前たち二人ならすぐに負けるぞ」

 

 

 その後、山田先生の闘い方によって、鈴とオルコットが手足も出せない闘いを見ながら、デュノアの解説を聞いた。

 

 能力は高いのにその性格とあがり症せいで実力を十全に出せないってか?そんなんじゃあ代表にはなれないんだろうなぁ。

 

 

 模擬戦後、実習で使う打鉄を運んで実習が始まる。

 

 



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第23話 やるなら徹底的にやれ

 

 ISを使った実習時に、班に別れるのだが織斑とデュノアの方に固まっていた。

 

 俺の方には、箒と本音と鏡と四十院って子と名も知らない二組の子がいた。

 

 

 その後、織斑先生の吼えるでみんな強制的に班を作っていた。

 

 

「そんじゃまあ、番号順で行くからな。まず鏡だっけ?ISの装着と歩行な」

 

「はーい」

 

 

「取り敢えず、参考書通りにやってみてくれ。俺の感覚はもう別物だからな、受け流すも参考にするも自分で決めてくれ」

 

「常に頭の中でイメージしとけばISは、だいたいその通りに動いてくれる。参考書のイメージが難しいと感じたら直ぐに別のイメージを組み立てろよ」

 

「歩くって参考書のままでいいんですか?」

 

「ん?竹馬が難しいなら厚底ブーツで試してみたら?」

 

「お?あー、うん。竹馬よりはしっくりくる」

 

「そりゃあ、良かった。そろそろ交代だ。しゃがんでから解除してくれ」 

 

 

 

 

 三人目の四十院が立たせたまま解除してしまった。

 

 次は、箒だったな。……しゃーないか。

 

 

「箒、運ぶから掴まってくれ」

 

 

 翼と足のスラスターを展開しておく。

 

 

「す、すまないな翡翠」

 

 

 まあ、そんなこんなでお姫様抱っこで運んでいく。

 

 視線が痛い……。

 

 鈴、お前さんは授業の前にやってあげたでしょ。そんな羨ましそうにこっち見るなって……。

 

 

 

 私にもやってオーラが出ていたが、威圧を込めたオハナシで引き下がってくれた。

 

 織斑班とデュノア班が、織斑先生の撫子を受けて沈んでいる事と銀髪班の葬式みたいなどんよりを除けば平和な感じだったね。

 

 

 昼、食堂にて……。

 

 

「織斑め…あのしつこさは何だよ……普通、険悪な感じで怒った癖に何もなかったかのように誘うなよ……まさかアイツ…男色(ソッチ)の気があるのか?」

 

「絶対って言い切れないのが何とも……」

 

「女子の好意に気付かないってのも真実味を増してるわね……」

 

 

 織斑の誘いをかわして箒と鈴と一緒に食堂に行った。

 

 

「そうだ、翡翠。夕食の献立は私らが決めていいか?」

 

 

 IS学園に戻って来た日から二人が夕飯を作るようになった。

 俺の家族に会ったのが原因だろうか……。葵ねぇが何か言ったのか?

 

 

「ああ、二人が決めたので良いぞ。鈴も箒も料理が美味くなってるからな」

 

「ありがとう。翡翠が料理出来るのは意外だったけどね」

 

 

 それに関しては、仕方ない。両親は家に帰って来ないし、葵ねぇは遠征に行くことがあったから出来るようにした。

 

 

 

 

 

 

 

「そんで、焱姫。白黒どっちだった?」

 

『真っ黒でしたー。ちなみに、胸結構大きかったですよー』

 

「はぁー……めんどうだ……」

 

 

 明らかに男としての反応がおかしいデュノアの白黒をつける為に焱姫に着替えを覗いてもらった。

 

 

『それにしてもお粗末としか言えませんねー。誰も居ないと思ったのか独り言言ってましたー』

 

「内容を訊いても?」

 

『織斑の過剰なスキンシップに対しての愚痴とバレてないかの心配を口に出してましたー』

 

 

 まさか、初日にバレるとは思わないだろうな~。まあ、悪魔がいるなんて誰が思うかって話だがな……。

 

 

 そして用務員室。

 

 

「じーさん。デュノアの件を訊きてーんだが?」

 

「フム……それは、どういう件でしょうか……」

 

「彼女って言った方がいいか?」

 

「なるほど。翡翠くんの相方(悪魔)を使ったってところでしょうか……」

 

「イエスだぜ、じーさん。……はぁ、じーさんよぉ…俺って一応所属はIS学園(ココ)って事になってんだから言ってくれよ」

 

 

 学園が保有していたコアを専用機にしたから所属をハッキリとするために委員会のアホンダラ共に伝えている。

 

 これで俺をどうにかしようとするとじーさんが出てくる事になる。誰が好き好んでバグキャラに会おうとは思うまい。ISをゴミに変える事が出来る人にな……。まあ俺も出来るがな……。

 

 

「翡翠くんなら自分で知るだろうと思っていましたからね。私なりの信頼だと思ってください。実際にキミは知っていますから」

 

「そーですか。…んで?何で男装してんの?…っていうかそれって書類上でも偽ってんの?」

 

「書類上は女ってことになってますよ。フランスから圧力がありましたからね。クラスの件もそういう事です。ああ、先生方は知っているので大丈夫ですよ。まあ、バレてもトカゲの尻尾切りでしょうが……対応が面倒になりそうです。……糞共が」

 

 

 あ、一瞬だけ素を出した。

 

 

「それにしてもフランスとデュノア社ってバカなのか?あんな自分が男って自覚が足りない男装スパイカッコカリを送ってくるって…中途半端過ぎ。やるなら徹底的にやれって……」

 

「それだけ切羽詰まっているって事でしょうねぇ。クックック、滑稽だな」

 

 

 さっきからじーさんの素が出ている件について……。

 

 

 

 

 

 

 

 それで結局は現状維持ってことになった。

 

 決定的な出来事、織斑にバレるまでは何もしないように言われた。

 

 デュノアが何時バレるかねぇ。巻き込まないで欲しいがね。

 

 

 

 自室に戻ると二人が鶏の唐揚げを作っていた。

 

 取り敢えずは英気を養いますかね。

 

 



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第24話 発覚、だから何…

 

 

 金髪、銀髪が来て最初の土曜日。

 

 午後のアリーナにて簪の打鉄弐式のテスト飛行をするため、俺も参加する。万が一に備えて機体が墜落しても簪をキャッチするためだ。

 

 

 

 二週間以上でこれだけ出来れば学生としては凄いだろうな。

 

 

 端の方で織斑が巧く操作が出来ずに四苦八苦している。箒と鈴は簪のテスト飛行を見ているのでオルコットが織斑の指導をしている。

 

 

(アイス。簪の打鉄弐式のコア意識はどんな感じだ?)

 

〈意識はありますが、ワタシの様になるにはもう少し時間が掛かります。マスター、弐式からスラスターに違和感があると来ています〉 

 

(了解。簪に伝えるぞ)

 

 

 オープン・チャネルで簪に伝える。

 

 

「簪。スラスターに異常がないかもう一度確認してくれ」

 

「え、う、うん。見てみる…………あ、噴出の桁が間違ってた…これだと強すぎて吹き飛ぶかも……ありがとう、翡翠さん」

 

「どういたしましてー」

 

 

 簪の事を見ながら、ハイパーセンサーで周りを確認する。

 

 

 織斑の所にデュノアが現れたな……。

 

 データ取りってところか?

 

 

 ……視たところ、ISの操縦に慣れすぎてるな。確かに代表候補生としてやっていくには十分なレベルだ。

 

 だからこそ疑うってもんだ。

 

 俺の操作技術が異常なのは分かる。鍛えているからな。そして俺にはアイスというサポートがある。

 

 

 ISに触れてない一般人なら織斑の様にまだまだ慣れるのに時間がいるハズだ。

 

 軽くみても一年以上は扱っているであろう熟練度だ。

 

 もし、本当にデュノアが男だった場合、デュノアは一、二か月の訓練でそのレベルになったって事になる。それとも、もっと前から適性があることがわかっていたけど秘匿して訓練したことになるよな。

 

 

 フランスとデュノア社は本当に何考えてんだか……。

 

 

 ISのサポートがあるにしても一般人ってあんなに重火器の扱いが上手いかねぇ。上手い奴はいるだろうが少数だろ。

 

 

 ……おっと。簪がテスト飛行したな。

 

 どうやら、さっきのスラスターの修正が上手くいった様だ。

 

 この調子なら学年別トーナメントに間に合うかな。

 

 

〈マスター。男装女子がコチラを伺っていますが…〉 

 

(無視一択で)

 

〈デスヨネ〉

 

 

 

 

 テスト飛行を成功した簪らの労を労おうと移動しようとした時────。

 

 

〈マスター!後方から狙われています!〉

 

(ソードビット背後に全部展開!)

 

 

 瞬時に自分の後ろにソードビットを盾の様に横並びで展開する。

 

 

 ハイパーセンサーで確認してみれば銀髪の肩にある砲口がこっちに向いていた。

 

 

 一体何がしたいんだアイツ……。

 

 

 オープン・チャネルで織斑の会話しているみたいだが砲口は未だにこっちを向いている。一応、林墨を呼び出しておくか。

 

 

「(鈴、直ぐに箒や簪らをピットに避難させてくれ)」

 

 

 鈴にプライベート・チャネルで指示を出す。

 

 

「(分かった。気を付けてよ、翡翠)」

 

「(分かってるよ)」

 

 

 

 オープン・チャネルの会話を聞いていると切に思う。

 

 

 小学生の言い争いかよ……。

 織斑とオルコットの言い争いもこんな感じだったけ?

 

 一触即発の雰囲気の中、今日のアリーナ担当者の声が響いて銀髪が帰っていった。

 

 止めんのが遅いんだよ。ちゃんと視とけよ。

 

 

 

 箒たちのいるピットに戻り、今度こそ簪らに労いの言葉を言った後、量子変換しておいたジャージを取り出してから寮の近くに勝手に作った鍛錬場に向かう。

 

 

 

 全く、問題児共が……。

 

 あぁ?ブーメラン?確かに俺も問題児に入るかもしれんが、それは石矢魔での事だ。

 

 此処に来て問題は……二、三あったけ?机割った事……でもあれは巻き込まれてイライラしてたし。訓練機を専用機にしたことか?

 

 

 あれだな。表面化しやすい問題を俺がやってるけど、表面化出来ない問題をしてるのがあの日独仏だな。

 

 

 

 ストレス発散が終わって、部屋に戻って箒と鈴と簪、本音らと一緒に食べる事になっていたので食堂に向かって食事をする。

 

 

 部屋に戻ってシャワーを浴びてから箒と鈴と一緒に一般教科の勉強をしていた時─────。

 

 

『翡翠!ちょっと話があるから開けてくれ!』

 

 

 ドアを乱暴に叩きながら織斑の声が聞こえてくる。

 

 まさか………デュノアの事か……。同室だからその内バレるだろうと思っていたが……。

 

 

「翡翠、どうするのだ?」

 

「どうするかねぇ。アイツに部屋の場所教えたことないハズなんだが……」

 

 

 そう言って二人を見たが二人共首を横に振っているから白だな。

 

 山田先生かな、教えたの……あの人なら言いそうだな。優しいから。

 

 

 近所迷惑だから行くしかないか……。

 

 

「うるせぇ、周りの迷惑になるだろうがバカ」

 

「そんな事より部屋に来てくれ!話があるんだよ!」

 

「イヤに決まってんだろ。相談なら織斑先生にしてくれ。こっちは今勉強中なんだから……」

 

「いいから!」

 

 

 面倒だ………。

 

 無理矢理引きずられ1025の部屋に着いた。

 

(アイス、今からの会話全部録音しといてくれ)

 

〈仰せのままに〉

 

 

 

「そんで、話って何だ?」

 

「実は、シャルルが男じゃなくて、女だったんだ」

 

「ふぅ~ん。もしかしてそれだけか?」

 

「え?」

 

「は?!シャルルが女だって知ってたのかよ」

 

「知ってたけど何?」

 

「翡翠は何とも思わねぇのか!」

 

「うん?どうせ性別を偽る理由なんて俺とお前に近いてデータを取るなり盗むなりするためなんだろうなぁ、とは思ってたけど?」

 

「シャルルは、そんな事しない!」

 

 

 誰もお前の思っている事なんか訊いてないっての……。

 

 はぁ~。面倒だからさっさと終わらせたいな。

 

 

「デュノア、何で男装している理由とか嘘偽りなく全て話せ。話はまずそこからだ」

 

「わ、分かった……」

 

 

 

 そんで聞かされるデュノアの境遇とか男装の理由とか。

 

 

 そして、織斑とデュノアの話を黙って聞くけど、織斑の提案って要は問題を先伸ばしにするってことだよな?

 

 

〈その通りです。規約は、IS学園という敷地のみに適応されています。しかも彼女は代表候補生で専用機持ち、国から任命されている代表候補生で専用機がないならまだ楽が出来ましたが、国から貸与されている専用機があるから難しいでしょう〉

 

(国からの呼び出しに拒否したら借りパクになるよな。確かに面倒だな……デュノア社の令嬢でもあるし、フランス政府とデュノア社を敵に回すのは避けるのは当然。じーさんや織斑先生が何かしらの策を練ってるハズだから、この会話を渡せば何かしてくれるだろう)

 

〈餅は餅屋、ですね〉

 

(それな)

 

 

 

「翡翠は────」

 

 

「織斑、悪いが俺は何もしないからな」

 

「……は?」

 

「一学生のする許容量を超してる。政府や大企業が相手じゃあ無理だ。それに、俺の所属はIS学園(ココ)だから勝手な事は出来ん。素直にお前の姉、若しくは学園長に話をした方が良い」

 

「嫌だ、千冬姉に迷惑かけたくない」

 

「お前本気で言ってんのか?」

 

「俺は本気だ!シャルルは俺が絶対守る!」

 

「一夏……」

 

 

 デュノアの顔……まるで悲劇のヒロインを助けに来たヒーローを見ているみたいな感じだな。

 

 

 確かこう言うのってシンデレラコンプレックスって言うんだったけな。

 

 

 織斑、とっくにお前の姉には迷惑かけてんだから今更だと思うぞ。行き当たりバッタリで、織斑の頭じゃあ直ぐに崖崩れするぞ?政府や企業っていうのはズル賢いんだぞ。

 

 権力と金。

 

 学生がどうやって立ち向かうんだ?

 

 姫川先輩の様に頭と金を持ってるなら多少マシだろうし、俺や男鹿とかの様に物言わせない力があるのか?もし、ISを持ち出したら一発アウト。

 

 

 自分だけではほぼ詰みの状態なら人の手を借りろ。いつも人としてあーだこーだ言うのに大事なところでそれをしないのかよ。

 

 ……ってか織斑先生と話し合いしてねぇのか?あの先公、肝心なところでヘタレてんじゃねーよ。

 

 

(アイス、もう録音しなくていい)

 

〈了解しました〉

 

 

「はぁ~、もう好きにしろ。俺をこれ以上巻き込むなよ。じゃあな」

 

「おい、何でそんな酷い事が言えるんだよ…」

 

「酷い事だ?何言ってんだ、お前?何だ、ソイツの話を聞いて同情してやりゃあ良いのか?悪いが俺は同情せんよ。本気で嫌だったなら学園に入って直ぐに先生に言うとかあったハズだ。デュノアは何も行動しなかった、状況の改善をしなかった。ただ単に自身の行動の結果に過ぎんだろ」

 

「なっ…」

 

「それに、ヒャクパー本当の事を言ってるとは限らんだろ?デュノアが話を盛ってるかもしれねぇだろ」

 

 

 はぁ~、何で殴って来てんだよ。どんだけ短気なんだよ……。感情移入し過ぎだろ、いくら自分の正義が正しいと思っていてもいきなり暴力か?

 

 

 守る?結局は暴力だろ?否定しといて自分は暴力を振るうのかよ。矛盾野郎が語るな、お前の守るは自己満足で人を傷付けるモノ。現に鈴を傷付けたからなコイツ。

 

 

 そんな軽い拳にやられる訳無いだろ。

 

 殴って来た拳を掴んで捻って、背後に回って関節をきめる。

 

 

「ぐっ!?は、放せ!」

 

「一夏!?」

 

「人に殴り掛かってきて随分偉そうだな。ああ、そうだ、織斑。次から俺の事、名前で呼ぶなよ。俺はお前と親しくなったなんて一度も思った事ねーからよ。もし言ったら今回の事、お前の姉に言ってやるからな。言わなければ俺は(・・)誰にも言わないからな」

 

 

 関節をきめたまま蹴って離れさせてから部屋を出る。

 

 

(アイス~。録音した音声データバックアップしたらじーさんと織斑先生にポイしといてくれ)

 

〈了解しました〉

 

 

 俺は言ってないからセーフだろ?

 

 さて、織斑は本当にデュノアを守れるのかね?

 

 ああ、織斑先生がストレスで自棄酒するかもな。

 

 じーさんは揺するネタを見つけたって思うかな。

 

 

 

 

 本当にこの学園厄介事ばかりだな……。

 

 

 

 石矢魔に戻りてぇなぁ~。

 

 

 

 はぁ~……。癒しが欲しいな、割りとマジで……。

 

 

 



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第25話 ついイラッとして……

 

 

 翌日の放課後。

 

 

 じーさんに呼ばれて、学園長室に直行した。

 

 そこには、織斑先生と更識、じーさんとじーさん奥さん(おばさん)が待っていた。

 

 

「翡翠くん、何で呼ばれたか分かっていますね?」

 

「そりゃあ、じーさんと織斑先生の端末にポイってしましたからねぇ」

 

「私としては、なかなか面白い内容でした。良い交渉材料になるでしょう。まあ、織斑先生としては、笑えないでしょうが……」

 

 

 その言葉を聞いて織斑先生の方を見ると、かなりお疲れの様子。

 

 

「邦枝、音声データは事実なのか……」

 

「本当ですよ。出来れば俺はもうこの件はノータッチでいたいんですが、餅は餅屋ってことで……後、織斑先生話し合い位してくださいよぉ。デュノアの件が終わり次第話し合ってどうにかしてください」

 

「ああ、すまない。デュノアの件が終わり次第織斑と話し合う事にする。私にとっての問題がまだあるが……」

 

「それってドイツの銀髪の事です?」

 

「翡翠くん?ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんよ」

 

 

 更識が銀髪の名前を言っているが無視だ。

 

 

「まあな。アイツは私がドイツにいた時の元教え子だからな。元々落ちこぼれであったが私の指導でその才を伸ばして部隊の隊長まで行った。だからか私を崇拝しているからな……ハッキリと言って対応がかなり面倒臭い」

 

 

 

 

 うわぁ……、この人遂にぶっちゃけたぞ。

 

 

「慕ってくれるのはまだ良い。だが、あんないちいち命令しないと動かん癖にいらない問題を引き起こすのはお断りだ」 

 

 

 哀れ銀髪。

 

 お前の行動全部裏目になっているぞ。

 

 そういえば、自己紹介の下りで面倒臭いって顔してたな……。

 

 

 

 

 じーさんらが色々やってくれるので今日はとっとと寮に帰った。

 

 

 

 

 

 朝の鍛錬を終えて部屋に戻ってテレビのニュース速報に耳を傾けたら思わずニュースキャスターの言葉にテレビに振り向いてしまった。

 

 

 

『速報です。ロシアとヨーロッパの国境付近で大爆発がありました。爆心地は酷い有り様となっています。……何故か爆心地で人が地面に減り込んでいたらしく、俗に言う犬神家の姿で発見されたとのことです。発見された人達は非合法組織の構成員らしく、ICPOが事情聴取したところ構成員は、赤ん坊を背負った金髪で雷を纏った悪魔にやられたと意味不明な供述を繰り返しているとのことです。繰り返します…………』

 

 

 

 

 ………………………………。

 

 

 

 男鹿ーーーーー!?お前かーーーーー!?

 

 

 何でソコに行ってんだよ!

 

 

 悪魔関連か?ソロモン商会の残党でもいたのか?

 

 

 非合法組織って言ってたから強ち間違いでもなさそうだな……。

 

 

 今度古市に訊いてみるか……、どうせ付いていってるだろうしな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなびっくりニュースを見た日の放課後のアリーナ。

 

 

 鈴の付き添いで訓練する事になっていたが、オルコットが来て鈴と模擬戦する事になった様なので審判をする事になった。

 

 

 

 模擬戦が始まる瞬間に弾が飛んできたから白蓮で斬り捨てる。

 

 

〈照合…確認しました。ドイツ第三世代機《シュヴァルツェア・レーゲン》、搭乗者はラウラ・ボーデヴィッヒです。……音速以上のレールガンに対応して斬り捨てれるモノでしたっけ…〉

 

 

(おっと、つい反射で斬り捨てちまったぜ、危ない危ない)

 

〈マスターの言葉に違和感が……。本当に危ないって思ってませんよね?〉

 

(よく分かったな)

 

〈しっかりとマスターの健康状態をモニターしていますので……〉

 

 

 

 

「邦枝翡翠、私と闘え」

 

 

 オープン・チャネルで話し掛けてきた銀髪。

 

 いきなり何でだよ不意討ちまでして来て……。

 

 

「ふぅ~ん。何でだ?」

 

「教官が自分よりも強いと言った貴様が本当に強いのか、そして教官よりも強い存在を私は許さない。だからここで潰してやる」

 

「いきなり不意討ちして何言ってんのよ」

 

「そうですわよ。貴女も代表候補生ならそれ相応の振る舞い方があると言うものですわ」

 

 

 面倒臭い……。

 

 ああ、本当に面倒臭い……。

 

 織斑先生が言ってた様に銀髪、クソメンドイな。

 

 

「ふん。男に媚を売る売女の分際で話に割り込んでくるな」

 

 

 ああ、メンドイ、メンドイ、メンドイ。

 

 

「へぇー、そっちがその気なら─────」

 

「ええ、そちらがその気ならば─────」

 

 

 

 

 あー、本当にイライラしてくるな………。

 

 

〈マスター?大丈夫…です、か?〉

 

(大丈夫だぞ?俺はいたって冷静だぞ?ちょっと彼処にいる命知らずにO・HA・NA・SHIするだけだ)

 

〈アッ、ハイ〉

 

 

 

 

 さて、ぶった斬るぞ、銀髪が……。

 

 

 鈴とオルコットがこちらを心配した感じで振り返って来る。

 

 

「ひ、翡翠…?」

 

「く、邦枝さん…?」

 

 

「二人共手ェ出すなよ?ちょっとあの頭オメデタ自己中に格の違いってモンを教えてくっからよぉ」

 

 

「あ、うん」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

「(鈴さん!?どういう事ですか!?邦枝さんブチキレてますわよ!?)」

 

「(そんなのあたしが訊きたいわよ!?彼処までイライラしてるのなんて……一夏の対応が面倒とか言ってイライラしてたレベルよりも上なんですけど!?)」

 

 

 

 

「ふん、私のシュヴァルツェア・レーゲンで貴様をつぶ────────」

 

 

 

──────神薙。

 

 

 

 

「グッ!?貴様ァ!い─────」

 

 

 神薙の牽制で怯んだ隙に近づいて─────

 

 

──────百華乱れ桜。

 

 

 バッサリ斬る様に刀を当てながら、地面に向かって振り落とす。

 

 

「ぐ…ぁ…」

 

 

 

 何だよ、全然歯応えの無い奴だな……。

 

 その程度でよく噛みついたな。

 

 戦えって言っときながら、べらべらと話してんじゃねぇよ……。

 

 少年漫画じゃあねぇんだぞ。時代はハイスピードだろ?あれ、クロックアップだっけ?タイムベント?

 

 

 まあ、いいか。

 

 

 取り敢えず、こっちに飛んで来て剣を構えて不意討ちしようとする織斑を斬り落とすか……。

 

 

 

「うおおぉぉーーー!!」

 

 

 白蓮から天魔に持ち換えてっと……。

 

 

─────心月流抜刀術参式改 飛鷹(ひよう) 燕子花。

 

 

 飛燕 燕子花よりも強い威力で周囲、特に後方に力を加えて薙払う。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 うん?ああ、運良く剣を構えた状態で突っ込んできたから飛鷹の斬撃が雪片に当たってダメージが少ないのか……。

 

 

「クッ!おい、ひ、邦枝!お前何してんだ!」

 

 

 また、名前を言おうとしたな……。

 

 

「何って?喧嘩だよ。銀髪が売って俺が買った喧嘩だ」

 

「今のは、喧嘩じゃない!一方的な暴力だろ!」

 

「確かに一方的だったが戦いの最中に油断するのが悪い」

 

「不意討ちなんて恥ずかしくねーのか!正々堂々と勝負しろよ!」

 

「先に不意討ちしたのはあっち。不意討ちなんて戦いの常套手段だろうに、お前のさっきの行動も不意討ちだと思うのは気のせいか?」

 

「違う、俺は────」

 

 

「そこまでにしろっ!!」

 

 

 織斑先生がISの近接ブレードを肩に担いでやって来た。

 

 近接ブレードって生身の人間が持つ物じゃないハズなんだが……。

 

 今度、俺も持ってみようかな。

 

 ……というか、何で織斑先生が来たんだ?ただの喧嘩をわざわざ止めに来るか?いや、止めに来るだろうけどさ……。

 

 

〈マスター。少し落ち着きましたか?〉

 

(あー、うん。大分落ち着いたよアイス。何で織斑先生が来たか分かるか?)

 

〈ハイ。恐らくアリーナのシールドが破壊されたからだと思います〉

 

 

 アリーナのシールド?

 

 視線を泳がすと一部分だけキレイに割れている。

 

 

「全く、アリーナのシールドが破壊されたから急いで来てみれば…。シールドを壊したのは織斑か……説教と反省文を書いてもらうから付いてこい」

 

「な、何で俺だけなんだよ!?邦枝もだろ!」

 

「………状況から察するに、ボーデヴィッヒが邦枝に喧嘩を売って邦枝が買ってボーデヴィッヒがやられた、そんな所だろう?」

 

 

 正解です、織斑先生。

 

 

「何とも思わないのかよ。千冬姉の教え子なんだろ?」

 

 

 ───ドスッ。

 

 振り下ろした近接ブレードが地面にぶつかる。

 

 結構イライラしているご様子。触らぬ神ならぬ、触らぬブリュンヒルデに祟りなしってか……。

 

 

「織斑先生と何度言えば分かる……。ふん、ボーデヴィッヒは最近自分が強い、選ばれた者とでも思って天狗になっていたからな。ちょうど良い挫折だ、鼻が折れて身の振り方を考えるだろうさ」

 

 

 銀髪ってそんな感じだったんか……。話なんてしてないからな、知らなかったな。

 

 

「今日から学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!………織斑は付いてこい、取り敢えず説教だ」

 

 

 織斑先生にドナドナされていく織斑。

 

 呆然とする、中英仏。

 

 地面に倒れたまんまの銀髪。

 

 

 

 そろそろアリーナの閉館時間だから帰るか……。

 

 




亡国さんの支部の一つが魔王(男鹿)によって潰れました。ソロモン商会関連ですね。
ベヘモットの団員さんとか別の悪魔とかがいたって事で…。


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第26話 爆発の理由と試合開始前

 

 アリーナから戻る道で、女子に囲まれそうになったから近寄るなオーラ増々で寮に帰った。

 

 

「翡翠は、学年別トーナメントのペアはどうするのだ?」

 

 

 箒の言葉に首を傾げる。

 

 学年別トーナメントのペア?その言い方だとタッグ戦って事か?

 

 

「知らなかったのか?今年の学年別トーナメントは、タッグ戦になったらしい。その…誰かと組むのか……」

 

 

 箒から渡されたプリントを確認すると、ペアがいない者は、トーナメント前日に抽選で決められる様だ。

 

 

「箒、一言言っておくけど……俺と組んだ奴は、たぶん優勝できるだろうな」

 

「そう…だな」

 

「後々、変な事言われない様に、俺は抽選でペアを決めさせてもらうわ~」

 

「仕方ない、と言わざるを得ないな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またもや学園長室にて………。

 

 

「翡翠くん。昨日起こった爆発の件に心当たりはないですか?どうやら彼処には、亡国機業、ファントム・タスクなる組織の支部があったみたいなんですよ」

 

「心当たりありまくりだぞ、じーさん」

 

「ほう……。翡翠くんの知り合いですか?」

 

「ああ、知り合い…というよりダチだしな。あれやったのは、蝿の王の契約者だよ」

 

 

 おっと。じーさんの圧が増えたな。

 

 

「本当ですか?それは」

 

「確認はまだしてないけど十中八九アイツだろうな」

 

「その彼は、脅威に成りますか……」

 

「ハッ…何を警戒しているか知らんがアイツは、そんな事はしねぇよ。敵対するアホはボコボコにするけどな、その亡国とやらのようにな。どうせ、その亡国とやらが悪魔関連の何かをしてアイツにちょっかいでもかけたんだろ」

 

「その彼は、信じられるのですか?」

 

「アイツは、じぃちゃんや早乙女先生にしごかれてるし、俺はアイツの王臣だからな。信じる信じないの話じゃねぇーんだよ、じーさん」

 

 

 上着を脱いで王臣紋を見せてやる。

 

 おーおー、驚いてるなじーさん。

 

 

「私はどちらかと言えば悪魔に関してはあまり詳しくはないんですよ。そういった事は、石動に任せていますからね」

 

 

 石動ってあの人の事か?

 

 

「じーさん?石動って聖石矢魔の校長の石動って人の事か?」

 

「ん?知らなかったのですか?彼はその道では有名な悪魔祓いですよ」

 

 

 マジかよ……。あのヨボヨボした感じの校長ってじーさんの知り合いで悪魔祓いなのかよ。

 

 ……って事は、じぃちゃんの知り合いの可能性が高いな。じぃちゃんって意外と悪魔関連に詳しいからな……。

 

 

「さてと、翡翠くんはその友達に連絡して事情を確認してくださいね。………ふぅ。デュノアさんの件は、一応解決したと言っておきます。内容はまあ、一応言っておきますね。デュノア社の経営不振で色々とゴタツイていたのを現社長、つまりシャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアの父親が娘を会社の内輪揉めに巻き込まない様にこの学園に送ったのが真相の様です」

 

「あ?それじゃあ男装はどういう意味があんだよ。送るだけなら男装はいらねぇだろ」

 

「ああ、それでしたら…政府の阿呆な思想を持った女共の仕業でしたよ。ちょっとだけ本気でお話ししたらゲロってくれました。フフフ、流石のフランス大統領も下らん思想を持った者を掃除出来て良かったと言ってました。まあ、本音は世界から爪弾きされずに済んだと思っているでしょうがね」

 

 

 悪どい顔してるなぁ~。

 

 どうせ、言葉にしてないけど色々とやったんだろうな……。

 

 

「時期的に考えて学年別トーナメントが終わるまでは、男装してもらうのでそのつもりでいてください」

 

「あぁ、了解したよ」

 

「それと話が変わりますが、学年別トーナメントは誰と組むのですか?」

 

「誰とも組まねーよ、俺と組んだら優勝できちまうかもしれねーからな。前日の抽選に任せる事にしたっての」

 

「それが一番かもしれませんね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎて学年別トーナメント前日の抽選発表時間となった。

 

 

 古市に大爆発の件を訊いたところ、亡国機業の悪魔と契約した紋章使い(スペルマスター)が男鹿、藤、鷹宮、赤星に奇襲したらしい。

 

 悪魔を側に置いている紋章使いを狙い悪魔を奪うつもりだったみたいだが……。

 

 

 男鹿の場合は、女が来たらしいが美咲さんにボコられて、悪魔の方は男鹿に爆破されたらしい。

 

 藤はそのまま石に変えた後、縛ってから戻して警察に渡したらしい。

 

 鷹宮は引き寄せてからの腹パンで終わったらしい。

 

 赤星は襲撃者と悪魔をまるごとファイヤーしたらしい。

 

 

 

 その後、古市がベヘモット34柱師団の柱爵サラマンダーを呼び出して催眠術で喋らせたら爆破した所にアジトの一つがあることがわかったので襲撃(カチコミ)に行ったらしい。

 

 カチコミメンバーは、襲撃された四人と古市、ヒルダ、そこまでの足としてアランドロン。

 

 

 行ったはいいが、アジトの入り口が分からなかったので連鎖大爆殺(取り敢えずブッパ)して出てきたところを蹂躙(瞬殺)したらしい。

 

 

 可哀相な亡国とやら、石矢魔の悪魔の力を使いこなすほぼ最強メンバーが相手って………同情するわ~、自業自得だけど。

 

 俺も行きたかったなぁ~、カチコミ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『主さまー、抽選結果出ましたよー』

 

 

 焱姫の言葉に現実に戻って確認する。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 Aブロック一回戦

 

 織斑一夏&シャルル・デュノア ペア

     対

 邦枝翡翠&ラウラ・ボーデヴィッヒ ペア

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 …………おい、絶対仕組んだろ、コレ。

 

 

 

 

 

 

 ため息しか出ないが仕方ない。

 

 なっちまったなら腹をくくるしかないよなぁー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合前のピットで銀髪と打ち合わせをする。

 

 

「銀髪、お前は織斑を相手にして、俺はデュノアを相手にするってことで良いか?」

 

「ああ、それで構わない……が、なぜ銀髪と呼ぶ?ラウラでもボーデヴィッヒでも好きな方で呼べばいいではないか、私はどちらでも構わないぞ」

 

「気にするな。ただ単にドイツの発音が面倒なだけだ。流石に初対面で名前呼びはな……それに今更だが、ちゃんとした会話なんてコレが初めてだろ?」

 

「確かに言われてみればそうだな。この前のはほぼ一方的な会話だったからな……」

 

 

 本当に今更って感じだよな。

 

 他の奴らが優勝出来ないって五月蝿かったな。

 

 後、織斑が俺の事を睨んでいたと思う。織斑先生の説教で何か言われたのか?例えば…俺の様に強くなれ、とか、俺を見習えとか。

 

 シスコンのアイツにとっていい気分にはなれんか……。

 

 

「邦枝翡翠、お前は何故そこまで強いんだ」

 

「どうした、いきなり。後、いちいちフルネームで言わなくて良いぞ。邦枝でも翡翠でも呼びやすい方で構わないぞ」

 

「そうか……。邦枝、この前のアリーナでの教官の言葉を聞いていてな……。私はお前に勝てると思っていた。だが、あんなにもあっさりと倒された。邦枝、教えてくれどうすれば強くなれる」

 

 

 難しい事を訊いてくるな……。

 

 

「前提条件として身体を鍛える事と…後は目標と言うか、心意気、心構えとか精神的なモノだろうな……」

 

「目標……」

 

「こういった事は言葉を濁すよりハッキリと言った方が良いからな。お前は織斑先生を尊敬しているが崇拝もしている。その影響かは知らんが織斑千冬になろうとしている」

 

「わ、私はそんな事……」

 

「自覚症状がないのは…まあ、分かってたけどさ。……っと、そろそろ時間だな。最後に一つだけ言っておくが、ラウラは織斑千冬になりたいのか、それとも超えたいのか、どっちだ?」

 

「…私は……」

 

 

 

『まもなく、Aブロック一回戦の時間になります。選手は入場して下さい』

 

 

 放送が流れて時間となった。

 

 

「さぁーってと、頭切り替えて行くぞ。考えるのは後でも出来るからな」

 

「そう、だな。今は試合に集中しなければな。邦枝、打ち合わせ通りに行くぞ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 ピットから飛び出て空中に並ぶ。

 

 試合(面倒事)開始まで後数秒。

 

 

 



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第27話 騒動は何時も突然に…

 

 試合開始のブザーと共に瞬時加速で突っ込んで来る織斑を銀髪…ラウラが止めている。

 

 

(アレって確か…AICだっけか?)

 

〈ハイ。AIC、正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。日本語で言えば慣性停止能力ですね。シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器です〉

 

(弱点が無いように見えるけど実際弱点が多そうだな)

 

〈そうですね……その名の通り慣性しか止められないのでレーザーとかビームはムリですし、右手を前に出す動作をするという事は、まだ慣れていないのか集中しなければ使えない。後、立体ではなく面に作用する様なので翠鴉のテイルクローやソードビットで注意を逸らせば簡単に破れるでしょう〉

 

 

 色々と弱点あったな………。

 

 俺の場合は使われる前に叩けば良いだけの話だな。

 

 ハメ技で勝確なあっちは放っておいて良さそうだな。

 

 

 

「さてと、あっちはあっちで闘ってるからな。こっちはこっちで闘おうじゃんよぉ、デュノア」

 

「出来れば遠慮したいなぁ~…なんて……」

 

「そこまで警戒しなくていいだろうに。ちょっと俺の新装備の生に……サンドバッグになってくれればいいからよ」

 

「今!?生贄って言おうとしてなかった!?サンドバッグって言っても意味合いは同じだよね!?」

 

「うん?そうだな。ま、どっちでもいいだろ」

 

 

 

 そんな事より、兎の空輸でもらったガンブレードを呼び出す。

 

 弾は専用の物で薬莢に弾がついてない火薬と雷管だけの物で火薬の爆発で斬る威力をあげるだけの物の様だ。

 

 ただ弾を撃ち出すよりも剣として扱う方が俺的には良いけどさ。こんなロマン武器を持ってくるなんて……やっぱりあの兎、ネジが跳んでるな。

 

 ………それを使う俺もブッ飛んでるかな……。

 

 念のために小通連と顕明連を出して置くか、デュノアは銃撃メインみてーだからな。動く盾があれば気にせず行けるな。

 

 

 避けるのが上手いな……。

 

 けど、さっきから織斑の方が心配で避けるのが雑になってるな。

 

 隙を見て織斑を助けに行くつもりだろうがそれを許す俺じゃあねぇよ!

 

 

 居合いをするように構えて、抜刀と同時に引き金を引いて普段の居合いにプラスして爆発の威力でさらに速くなった斬撃を放つ。

 

 

「うわぁ?!」

 

 

 上手く逃げようがそれよりも速く動く攻撃は避けれないよな。

 

 

 向こうで織斑が正々堂々とか喚いてるけど、これって試合だろ?一発勝負の……使える物を使ってるに過ぎない。

 

 だから恨むなら、一回戦で当たっちまった自分の運の無さを恨めよっ!

 

 

 

「ウワァァーーーーッ!!?」

 

 

 

 何だ?いきなり叫び出したぞ、ラウラのヤツ。

 

 

 攻撃は受けてないハズだろ?なのに何で………。

 

 

 

「違うっ!私は、こんなのは望んで、な…い」

 

 

 機体から黒い泥みたいなのがラウラを被っていく。

 

 

「助け…ひす、い……」

 

 

〈マスター!アレは、VTS、ヴァルキリー・トレース・システムです!〉

 

(あ?それって、搭乗者の事を考えてないから危険だって判断されて禁止されたんじゃなかったか?)

 

〈そのはずですが…現在進行形でそのシステムが動いてます。見たところ、ラウラ・ボーデヴィッヒはVTSがある事を知らなかった様ですね〉

 

(アレを放置したらどうなる?)

 

〈良くて廃人、悪ければ……〉

 

(その先は言わんくていい。つまり、早めに助けりゃ良い話って事だろ、アイス)

 

〈まあ、その通りですね〉

 

 

 どうせ試合は中止になるだろうからな…早く向かって────────

 

 

「うおぉぉぉーーーーー!」

 

 

 何で、あいつはまた突っ込んでんだ?

 

 あ、カウンターされたな。

 

 そんでSEがゼロになってISの維持限界で消えたな………って、何でまた突っ込んで行くんだよ!?

 

 IS相手に丸腰かよ!俺とか男鹿とかなら良いかもしれんが、力の無いお前が行ってもただの自殺でしかないだろ!

 

 

 展開装甲を起動させて、織斑先生の暮桜っぽくなったレーゲンと織斑の間に急いで入って、振ろうとしていた黒い雪片から織斑を庇う。

 

 咄嗟に爪鉄に替えたが良かった様だ。

 

 

「おい!そこを退け、翡翠!」

 

「あ゙あ゙?!お前何言ってるか分かってんのか!」

 

「いいからそこを退け!退かないならお前から─────」

 

 

 織斑が言い終える前にテイルクローで織斑を掴んで後ろに下がる。

 

 

「この、放せ!」

 

 

 全くこの死にたがりが……俺が割って入らなかったら真っ二つだって言うのに……。

 

 

「一夏!落ち着いて!」

 

 

 デュノアが来たか。

 

 さて、どうするかね……。

 

 

『織斑、デュノア、邦枝、聞こえるか?』

 

 

「聞こえますけど、アレどうします?早めに助けないといかんじゃないですか?」

 

『邦枝の言う通りだ。邦枝、すまないがラウラを助けてやってくれ、頼む…』

 

 

 まさか、あの織斑千冬からお願いされるなんてな。

 

 

「お願いされなくても最初(ハナ)っからそのつもりですよ。あっちから助けてって言ってましたからね」

 

『…ありがとう』

 

「その言葉は、ちゃんと助けてから言って下さいよ」

 

 

 爪鉄を仕舞って林墨を呼び出す。

 

 あの状態で絶対防御が機能してるか分からんからな。コレなら打撲か骨折ぐらいで済むハズだ。

 

 

(アイス、ラウラがいる場所は普通のISと同じで良いんだよな?)

 

〈イエス。狙うなら手先と足先を壊すなりして動けなくした方が良いでしょう〉

 

 

 なら、あの剣を壊すのが先かな……。

 

 武器破壊に持って来いの技が俺の得意技だからな、失敗なんてするかってんだよ。

 

 

「そんじゃまぁ…行く──────」

 

「待てって言ってんだろっ!!」

 

 

 うるせぇなぁ……。

 

 どうせ、俺がやるから代われって言うんだろ?

 

 お前のプライドとか、弟である自分がやる義務とか、そんな事よりも一秒でも早くラウラを助ける方が重いだろ。

 

 

「悪いが、お前の話を聞く暇なんて無い。邪魔されたくないから拘束はそのままだ」

 

 

 テイルクローでぐるぐる巻きの上に爪の部分で掴んで動けない様にしているが念のためだ。林墨を地面に刺しておいてっと…。

 

 テイルクローのワイヤー部分を限界まで出して、さらにキツく縛ってワイヤーを切断する。これで織斑は動けない。

 

 

「くそっ!翡翠、俺を早く解放しろ!俺がやる」

 

「いい加減にしろよ…お前」

 

「俺がやらなきゃいけないんじゃねぇ。俺がやりたいからやるんだ!そんであの気に食わないISもそしてあんなのに乗ってるラウラもぶん殴ってやるんだ」

 

 

 理由としては、まぁ…及第点かねぇ……。

 

 でも、悪いがお前の言葉を聞く気は無い。

 

 

 

「悪いが、解放するつもりはない。人、一人の命がかかってんだ……俺はお前の腕を信用していない。ISが使えない状態で一般人と同じ程度の力しかないお前がいても足手まといでしかない。だから、そこで大人しくしていろ。……悔しいなら姉よりも強くなってから言う事だな…ま、姉を越えるつもりがあるならの話だがな……」

 

 

 ギャアギャア叫んでいるが…雑音は全てカットだ。

 

 林墨を握って構える。

 

 勝負は一瞬。

 

 織斑先生のコピーかも知れないが所詮は、データ。

 

 決まった動きしか出来ない。

 

 

(さぁ、行くぞ。アイス)

 

〈イエス。マイマスター〉

 

 

 

「心月流抜刀術……推して参る」

 

 

 林墨を構えたまま、展開装甲を起動して速く動いてISに近付く。

 

 相手は唐竹割りで迎撃しようとしている。普通のISより背が低いからな、その選択が最適解なんだろうな……。

 

 だからこそ、データなんだよ。

 

 それは悪手だ。

 

 

 

─────四式 旋嵐四ツ葉!

 

 

 黒い雪片の根元に向かって一撃目が入り、続いて同じ場所にニ撃目が入る。

 

 そして、三撃目が入る。一ミリのズレなく(・・・・・・・・)同じ場所に。

 

 罅が入った雪片に最後の四撃目が入る。三撃目と同じ様に全く同じ場所に攻撃する。

 

 

 四式旋嵐四ツ葉は、怒濤の連続四連撃。しかし、ただの四連撃ではない。一撃目の場所に一ミリのズレなく同じ場所に攻撃する一点集中の武器破壊技なのである。

 

 

 折れて宙を舞う雪片。

 

 

 武器が無くなった黒いISに勢いそのままでタックルして押し倒す。

 

 

(アイス!このまま泥を剥がすなりして取り出せば良いのか!)

 

〈ハイ。そのまま泥に手を突っ込めば良いと思います〉

 

 

 泥に手を入れてラウラを探す。

 

 黒いISが暴れるがソードビットで防ぐ。

 

 

(おっしゃあ、後は引き上げるだけだ!)

 

 

 泥の中にある感触を確かめて掴む。

 たぶん、肩か腕の部分を掴んだと思う。

 

 泥からラウラを引き上げた瞬間──────暗闇の中にいた。

 

 

「どういう事だ……いきなり闇の中って……」

 

「ここは、シュヴァルツェア・レーゲンのコア意識の中と言えばいいでしょうか……」

 

 

 声がする方を見れば、漆黒の長髪に翡翠色が映える着物を着た小学生の高学年ぐらいの少女が立っていた。

 

 姿だけでもなんとなく分かるが、決定的なのは声だ。いつも聞いているからな。

 

 俺の頼もしい相棒の一人……一体か?

 

 

「その姿はどうしたんだ、アイス」

 

「せっかくの機会なので作ってみたのですがどうですか?似合ってますか?」

 

「似合ってると思うぞ。色とか着物とかは俺の普段着とか翠鴉から持ってきたってところかね」

 

 

 記念に頭を撫でてみる事にした。

 

 

「おお、スゲーサラサラだな。しかも感覚もリアルだな」

 

「もっと褒めていいのですよ?マスター」

 

「後でな……そんで?これって戻れるんだよな?」

 

「モチのロンです。その内戻るでしょう」

 

 

 何かテンション高いな、アイス……。

 

 

「そこにいるのは誰だ?」

 

 

 その声の先に居るのはラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 

「何故邦枝がこんな所にいるのだ?」

 

「さぁな…泥の中にいたお前を引き上げたと思ったらここにいたんだよ」

 

「そう、か。そこの少女は一体何だ」

 

「ああ、コイツは俺の専用機翠鴉のコア意識のアイスだ」

 

「はじめまして、マスターのISのコア意識のアイスです」

 

「コア意識と会話が出来るのかスゴいな……私のレーゲンには無いのか?」

 

「レーゲンのコア意識は今は眠っています。VTSの影響だと思われます。しっかりとメンテナンスをすれば戻るでしょうね。その内ワタシの様になると思いますよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

「可能性は低いですが可能でしょう。ここはレーゲンのコア意識の中です。念のためにワタシと同じ処置をレーゲンにしましたので…レーゲンがその気なら声を掛けてくれるでしょう」

 

 

 アイスの言葉にホッとしているラウラに声を掛ける。

 

 

「そんでどうだった?織斑千冬になった感想は…」

 

「あんな感じでなるとは思っていなかったが……ハッキリと言って最悪な気分だ。私が私ではない、そんな感じだった……中々言葉にするというのは難しいな……」

 

「そりゃそうだ。言葉にするのは難しい。だから喧嘩したりするんだよ。ま、それでも解り合えんこともあるがな……」

 

「邦枝…イヤ、翡翠。試合前の話を訊きたいだが……」

 

 

 そう言えば途中で終わったっけな?他の人もいないし丁度良いな。

 

 

「そうだな…俺は、お前を否定するつもりはない」

 

「……な、に」

 

「俺も小さい時は、姉ちゃんみたいになりたいって思った事ぐらいはあるからな。でも、強くなりたいなら“なる”んじゃない、培った技術を昇華させて超える様にしないとな」

 

「なるんじゃなく、超える……なら超えてしまったらどうする?」

 

「そんなの決まってる自分より強い奴を探す。いないなら育てて強くさせる。まぁ、コレは俺の考えだ。参考にするなよ」

 

「そうか……」

 

「強さにも色々な種類がある。ただ単に力が強い事、技術や能力、頭の回転の速さや知識、優しさや勇気といった精神的なモノとかたくさんある。ラウラがどういった強さを手にするか見させてもらうよ」

 

 

 深刻そうに考えているラウラの頭を撫でて落ち着かせてやる。

 軍人でも女の子である事は変わり無いんだな。そう言えば、眼帯してないな……眼帯の下は金色なんだな。オッドアイってヤツか?見えてない訳ではない様だな。動いているし……。

 

 

「強さ……翡翠はどういった強さを手にしているんだ…?」

 

「俺か?俺は───────────」

 

 

 突然視界が白に変わってしまった。時間って事か?

 

 中途半端な終わりだったな。

 

 

「仕方ない…か、また現実でな。アイスのその姿をまた見れるかね……」

 

「フフ、望めば何時でも見せますよマスター」

 

「そうかい。それじゃあ、戻るぞ」

 

 

 

 視界がどんどん白くなって行き、目を閉じて目を開くと……ラウラをお姫様抱っこした状態で立っていた。

 

 

 取り敢えず……この眠ってるお姫様を保健室まで運びますかね。

 

 



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