ハイスクールD×D 若き神父のバヨネット (ジースリーエックス)
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ハイスクールD×D 若き神父のバヨネット

どうやら、神は既に死んでいるらしい。

 

俺の神器(セイクリット・ギア)、『エレナの聖釘(ソーン・オブ・ザ・セント)』は嘆く。

あの大戦で世界の秩序は失われた。

神と魔王が共に倒れ、在るべきバランスが崩壊し、不安定なまま世界は回っている、と。

システムが消え失せ、ルールがルールとして働かない混沌の世界の先に待っているのは、全人類規模に与えられる大いなる試練らしい。

 

正直、思う。そんなことより、今の状況の方が百倍怖い。

 

少年は白衣を揺らしながら、廃墟の中の暗闇を恐る恐る進む。

 

 

思い出すのは、勝手に現れて勝手に身体を弄くって勝手に恩を与えた気になっている教会上層部に属しているだろう老人だ。

教会に携わる人間として許されざる邪悪な笑みを浮かべて、ご高説を垂れ流す。

自分凄いアピール、自分偉いアピール、敬え、讃えろといった長い長いお話の重要な部分だけを抜き取るとこうなる。

 

「お前は教会(我々)が何百年も積み重ね、作り上げた技術の結晶の一つだ。お前には力を与えてやった。だからこそ、成果を求めている。分かるね?」

 

つまり、仕事の依頼である。

これを伝えるのに何故数時間もかけるのだろうか。お陰さまで顔と名前はバッチリ覚えた。後で粛清してやる。

 

そのためには偉くなることだ。そして、強くなることだ。

分かってる。

 

分かってるけど。

 

 

 

現実そう上手くはイカナイヨネッ。

 

 

 

 

「怖い、怖い、怖い、怖い、怖いっ。」

 

俺は廃墟の中を全力で走っていた。

 

それは後ろから「オレ、オマエ、クウ。」を絶叫にした感じの恐怖増し増しバージョンを叫びながら追ってくる異形の化け物から逃げるためだ。

 

脇目も振らず一心不乱に走った。

 

もう奴の声も聞こえない。

 

もう大丈夫だろう。

 

その油断が大敵だった。

 

薄暗い廃墟を怖がりながら最後の角を曲がると丁度向こうから歩いてた討伐対象のはぐれ悪魔様とばったりとご対面を果たすことに成功したのだった。

 

「「ギャァァァァァァァ!!」」

 

 

 

 

 

「って、何でテメーまで驚いてンだよ!」

 

 

 

とここまで冷静で居られたが三メートル越える敵を見て、華麗にバックステップを決めて、モンハンばりの閃光弾決めて、全力で退避しました。

 

「無理に決まってンだろっ。俺、最近まで、ベットに縛りつけられてただろーが。」

 

神器に出会って、現実に天使やら悪魔がいると知ったのはつい最近のことだ。

それまでただの不幸な普通の少年(仮)だ。

「やめろッ、ショッカー」的な感じの扱いをされてたモルモットですよ。

 

いきなり戦闘?

 

無理無理。

 

もしかして→遠回しの死刑?

 

「ふざけんなよっ。」

 

逃げた先は行き止まりだった。

 

「ニ"ィィィン"ゲェェン"。」

 

振り向いたら奴がいた!

いや、ガチの奴だよっ。洒落にならねぇ奴だよっ!

 

一か八かで教会支給の銃を敵に向けて撃つが震えた手では的が定まらず、弾丸はあらぬ方向に飛び回る。

 

 

やがて、弾が尽き、悪魔が迫る。

 

卑下た笑みを浮かべて、もう仕留めたと言わんばかりのヨダレを垂らす。

 

 

もう無理だ。そう思った。

 

ああ、また大人にも成れずに死ぬのか。

無意識に浮かんだその言葉が頭のなかに嫌に響く。

 

走馬灯なんてものはない。それほど長く生きていないからだ。だから、思い出すのは、いつも立たされる理不尽な状況と口ばかりで何も出来ない自分自身ばかりだ。

 

コノヤロウ。ちくしょう。なんなんだ。

そう嘆いても現実は変わらない。

 

敵が一歩一歩、歩み来る。それをスローモーションように捉えながら、沸々と沸き上がる苛立ちと怒りが感情を覆い尽くしていく。

 

諦めるのか。また死ぬのか。何も出来ずに。

前世みたいに塵屑のように。

 

「ふざけんなよ。」

 

自然と手に一メートル程の長さの杭を握りしめていた。それは自分のセイクリッド・ギアだ。闇の中でも淡く光り、浄化の力を放つそれは神の血を吸ったまさしく神器。悪魔にとってこれほどの武器はないだろう。

 

セイクリット・ギアを出現させたことに奴は警戒して足を止める。

 

 

これから戦わなければならない。

 

それが感情を一気に冷まさせた。

 

嗚呼、出来たのはセイクリット・ギア出すだけで、それが精一杯だった。冷静に戻ってしまう。

残念なことに戦おうとするが恐怖で足が動かない。

 

まるで地面に縫い付けられたかのようだ。敵に立ち向かうなど出来そうもない。

それどころかさっきよりも動きが悪い。恐怖で声が出ない。震えて歯と歯がカチカチと音を鳴らす。

もう前すら見れなかった。真っ正面を見る意地すらない。足元ばかりを見て影を捉えるだけで精一杯。もういっそのこと目を閉じてしまいたい。耳を塞いでしまいたかった。

 

恐怖で身がすくむ。体が動かない。

 

 

俺には無理だ。

 

 

もう俺にはどうすることも出来ない。

 

 

嗚呼。

 

何で俺はこうも変われないのだろう。

 

 

結局何時もこうだ。

口ばっか達者で肝心なときに失敗して、最後は何も出来ずに終わる。その繰り返し。

 

 

「ふざけんな。」

そう言おうとして、かふっと空気が漏れただけだった。

 

前世も今も。

どうしようもないろくでなしのまま、被害者面して、傷ついたフリして、同情で生きて。悲劇のヒーロー気取りでバカみたいに。

 

 

「ふざけんな。」

少しだけ、声らしきものが出た。

 

全部世の中が悪いんだ。環境が悪いんだ。運が悪いんだ。

これもまたその一つだ。言い訳してる訳じゃない。事実を言ってるだけだ。

 

 

「ふざけんな。」

弱々しく声が出た。

 

俺のなにが悪いんだ。俺だって精一杯やった筈だ。一生懸命頑張った筈なんだ。

俺だけこんな目に遭うのは間違ってる。誰だって俺みたいに生きてる筈なのに。

 

 

「ふざけんなっ。」

震えた声が出るようになった。

 

だからか。そんな俺だからこんな目に遭うのか。

 

 

「フザケンナッ!」

 

恐怖を拭うように、声を張り上げた。

 

もういい。認める。開き直るさ。

俺は無能だ。屑だ。塵だ。俺には無理だ。

 

 

 

俺には無理。なら、俺以外になればいい。

 

 

 

俺が無理なら、俺以外になってしまえばいい。

 

 

なりきればいい。

 

貧弱過ぎる俺の精神では、目の前の現実を、絶望を、打ち払うことも受け入れることも出来やしない。

打ち払えるなら、絶望などしていない。受け入れてしまえば壊れてしまう。

 

それでも、俺は俺として、まだ生きていたい。

 

ならば、やるしかない。打ち倒す。ぶち殺す。

この一瞬、鬼にも死神にも悪魔にもなろう。

 

思い出せ。思い出せ。思い出せ。

成りきればいい。狂えばいい。信じればいい。

 

この状況。俺の背景。この世界。俺の技量。この先の未来。俺の持ち札。

それを考慮して、成りきれる人格(キャラクター)

俺の神器(セイクリット・ギア)を考えればアレしかいない。

 

変われ、代われ、替われ。狂え、狂え、狂え。動け、嗤え、楽しめ。

 

「我らは神の代理人。天罰の地上代行者。」

 

恐怖も、怒りも、憎しみも。

この身体と心に宿る全てを捨てて、目の前の敵を屠る凶器に成り果てよう。

嵐に成ればいい。

脅威に成ればいい。

炸薬に成ればいい。

銃剣に成ればいい。

 

「我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること。」

 

この一時の間だけ、俺では無くなろう。

 

そして、お前を殺す。

 

 

もう片手にも杭を出現させた。二つの杭を交差させて、十字をつくる。

 

 

何故だか恐怖心は無くなっていた。

 

 

 

 

「エイメン」

 

 

 

生物工学と回復法術により、再生者(リジェネレーター)と呼ばれるほどの再生力と神器を武器に少年神父は教会の銃剣となる。

 

普段は気弱で臆病な少年が戦闘では狂戦士となり、予想以上の戦果を産み出し続け、やがて教会の切り札と呼ばれることになる。

 

 

そして、赤と白のドラゴンが覚醒の産声を上げ、役が揃ったそのときに、彼の物語は世界を巻き込んで動き出すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かもしれない。




多分続きません


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