徹頭徹尾原作に関わらない転生者 Ver.Lyrical (A4タマネギ)
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徹頭徹尾原作に関わらない転生者 Ver.Lyrical
短いですが、ごゆるりと、息抜き程度の暇つぶし感覚でご覧ください。
突然だが、転生だ。
その女性は、目の前の白髪で髭で白い服の老人に告げられた。
「……はい?」
「だから、転生だ。キミは病気で死んだ。年齢は24歳。この歳にして末期癌だった。延命治療をすることもなく、家族に看取られながら安らかに逝った。……ちゃんと自分のことを覚えているかね?」
「はぁ、そりゃ、まぁ。家族は私含めて四人。父母と姉が居て、家は普通の一軒家。大学時代にバイトしてた近所のパン屋で卒業後に正社員として働き出して、毎日パンを焼いてて、一年前に癌が発覚して辞めて、お見舞いにはその店の店長さんや同僚も来てくれて、あぁ、死ぬ間際も来てくれてましたっけ」
「うむ。そうだ。どうやらちゃんと覚えているようで結構。で、転生だよキミ」
「……はぁ。いや、それが解らないんですけど」
転生。つまりは、生まれ変わること、である。女性はこの言葉をよく聞いていた。
真っ白な空間。そこに女性と老人だけ。所謂『テンプレ』なこの状況、彼女が生前よく読んでいた転生モノ二次創作で同じような状況を沢山見たからだ。
そこでは死んだ人間が神様に『チート』な能力や若しくは普通の能力を貰って、アニメやゲームの世界に、その作者の『オリジナル主人公』として転生するのだ。
「もしかして、そういうことなんですか?」
「そういうことだとも。その二次
「……まさか、私がガンになって死んだのって、神様が私の書類にコーヒーこぼしたとかじゃないですよね?」
その質問に、女性が神様なんだろうな、と認識したその老人は一瞬だけ呆けたような顔をして、
「ハァ? そんなわけないだろう、キミもしかして莫迦かね?」
と言った。心底の呆れ顔で。
呆れ顔のままで、神が続ける。
「キミが言ったとおり私は神だぞ? 全知全能だぞ? ミスなんてするわけないだろう」
「は、はぁ。それじゃなんで転生なんて……?」
「ミスはしないが気紛れを起こすことはある。キミはその気紛れに当たったわけだ。あんまりすることがないとね、手慰みに力を使ってみようと思ったりするのだよ」
「そう、なんですか。あぁ、いえ。解りました。それで、私は一体どんな世界に?」
「んむ? あぁ、そうだったな。なんだったか、確か『魔法少女
魔法少女、という言葉はもちろん彼女も知っていた。
小さいころはソレに憧れたりもして、母親に魔法のステッキを強請ったりもしたものだ。
……が、最近の魔法少女というのは割と物騒だったりするもので、彼女は恐る恐る一つの魔法少女アニメのタイトルを口に出す。
「ま○かマ○カ?」
「それではない、白いのが主人公だったはずだ」
「あぁ、良かったです。じゃぁ、えっと、リリカルなのは?」
「おぉ、それだ! そのリリカルナンチャラの世界にキミを転生させる。ちなみに生まれる場所は主人公と同じ町、同じ年齢だ。これは絶対に変えられないことだからな、留意してくれ。さて、では、何か転生後のキミに一つ能力でも付与しようと思うのだが。良いかね?」
良いかね? と聞かれても正直彼女としては全然良くない。
第一、短い人生とはいえ、彼女は彼女の一生に満足して死んだのだ。二回目の生、と言われてもイマイチ実感が沸かない。
だが、彼女はなんとなくではあるものの、この転生は避けられない気がしていたし、こんなに意識がハッキリしてるのに「天国に行かせてください」なんて言うある意味自殺行為はしたくなかった。
同時に、あんなドンパチな世界に巻き込まれたくも無い。
二度の地球潰滅の危機だったり、次元世界そのものの潰滅だったり、そんなものを回避するために戦うなんて、一般市民の小心者な彼女は絶対に嫌だった。
であるならば、そう。彼女は転生した上で、可能な限り『原作』というものに関わらないように生きていかなければいけない。
そして数分の後、彼女は一つの能力をその魂に刻み込まれ、新たな世界へと転生を果たした。
◆
彼女は極普通の女性として、前世と同じ『望月あやめ』という名前を持って生まれた。両親は別人だし、姉も居ない一人っ子ではあったが、それでもあやめにとっては今生での大事な家族だ。
大切に、今度は両親より先に死ぬなんて親不孝はしないようにしよう、と思っていた矢先、一つ問題が生じた。
彼女の家の二つ隣の家の苗字が『高町』であったのだ。それはつまり『高町なのは』という『主人公』と関わる可能性が非常に高いということであり、イコールで『物語』にも干渉していくかもしれないということだ。
――だが、あやめが、九歳、小学三年生になるまでに高町なのはと話した回数は片手で数えられる程しかない。
二軒隣の家の少女と、幼馴染みといえる程の関係ですらないのだ。
何故か? 簡単な答えだ、彼女の能力によるものである。
彼女の能力は『運命を操作する』能力。これによって彼女は自分の運命を操作し、極力なのはと関わらないようにしたのだ。
全く関わりが無いというのも不自然なので、数回は話したが、それすら挨拶程度のものである。
彼女は操作する。手繰り寄せる。自らが『登場人物』では無く、描かれることのない『モブ』である運命を。
◆
九歳、小学三年生になってしばらくしたころ、魔力の反応を感じた。
あやめにも魔法の資質があるらしく、ジュエルシードの存在も感知したが、彼女は徹底的に関わらないよう、運命を操作した。
何事も無く、ジュエルシードには何も関わらずにそのまま事件は終了した。
◆
冬になるころ、また魔力反応を感じた。闇の書事件だ。
今回も全く関わらないように、と思ったのだが、そうもいかなかった。
あやめは自分が思っていたより魔力を持っていたらしく、真っ先に蒐集対象とされた。
が、怖がる演技と魔法なんて微塵も知らない一般人として過ごしてきたのが幸いしたらしく、蒐集しにきたシャマルには痛みを緩和し、意識を薄くする魔法をかけられ、その上で優しく「少しだけ、少しだけ、我慢してね」と諭されつつの蒐集であったためか、殆ど痛みを感じることもなく、気が付けば自室のベットの上でぐっすりと眠っていた。
数日間、体が少し重かったが、特に問題なくクリスマスの日を越え、新年を迎えられた。
◆
そして、地球が崩壊したりすることもなく、あやめは無事に成人した。
成人した、ということはつまり、少なくとも『ゆりかご』が上がって管理局が崩壊したということは無さそうだった。
高町なのはやフェイト・T・ハラオウンも帰省している時には会いもする。
高校卒業と同時にアルバイトとして働いていた『翠屋』に就職した。
前世でのパン屋としての経験を生かし、翠屋特製のパンを作っていて、評判は上々だ。
高町なのはやフェイト・T・ハラオウン、八神はやて、アリサ・バニングス、月村すずか達とはなんだかんだ、『極普通の友達』という関係に落ち着いている。
恐らく、あと十年もすれば殆ど消えるような、そんな友人関係。
あやめは魔法なんてものを知らないし、知ろうとも思わない。ただ魔力が少しあるだけのただの一般人だ。
時々、あやめを蒐集したシャマルと顔を合わせることもあるが、何も変わることなく、平然と接する。
……シャマルの方は、会った時にやたらと話しかけてくるのだが。
しかし何より平穏が一番だ。
この頃になると、運命操作も殆ど使用しなくなっていた。
する必要が無い、とも言うが、さて。
「今日も元気に働きますかー!」
望月あやめ、二十歳。普通に元気に、働いていますとさ。
いかがだったでしょうか?
製作時間約一時間の習作ですが、いくらなんでも短すぎた気がしないでもありません。
転生モノでも一つの伝統『関わらないつもりだったのに巻き込まれた転生者』があります。
今作はそんな転生者が本当に全く一切合財全っ然原作に関わらなかったら、という話でした。
答えはまぁ、なんの面白みも無い話になったわけで。
普通の人がちょっと不思議な体験したかな、ぐらいでしょうか。
やっぱり、転生モノは積極的にしろ消極的にしろ原作に関わらなくちゃですね。
……当然と言えば当然のことなんですけれど。
ちなみに「Ver.Lyrical」とかついてますが、他のをやる予定は無いです。皆無です。
というか、やっても意味が無い気がします。はい。
自分で書いといて「何言ってんだ! ふざけるな!」って感じではありますが。
さて、ちょっと長々と書きましたが今回はこの辺で。
よろしければ、感想、批判、評価など付けてくだされば幸いでございます。
ご一読ありがとうございました。
追記
シャマルさんがちょっと優遇されてるような気がしたアナタ。
間違ってません。
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