多分続かない。
何時からだったか。
涙を流さなくなったのは。
何時からだったか。
他人を気遣う事をやめたのは。
何時からだったか。
自分の感情を殺し始めたのは。
いや、わかっている。
────俺が全てを捨てた、あの日からだ。
「掛けまくも畏き乃木 園子様に、畏み畏みも申す。
今日、私たちの国土が保たれておりますのは────」
「前置き長いよ~」
「……左様ですか」
ベットに安置されている少女の呆れた声に私は淡々と返す。
目の前に安置されているのは友人同士の関係
「昔みたいに、元気か園子~って感じで良いのに」
「それはできません。乃木様は勇者です。
そして、私は大赦に属する端くれ。
ならばこそ、乃木様の名を軽々しく呼ぶ事は許されないのですから」
「……まだ、そんな風に言うんだね」
まだ。それはコチラも言いたい。
このやり取りはもう、何度も繰り返したものだ。
「事実を述べたまでです」
「……そっか」
会話はそこで途切れる。
もとより話す事など殆どないのだ。
ただ、しきたり通りに私は彼女と接しているだけだ。
それを承知の上で彼女も接している。
そこには同情も慈悲もない。
例え、相手が見るに堪えない姿をしていたとしても。
「そうだ、わっしーは元気?」
「……それを答える権利は私にはございません」
唐突に出てきた、誰かの名。
その名は既に消えたものだ。彼女は既に鷲尾の姓ではない。
そして、彼女の動向を私が話す事は禁じられている
「そっかぁ……会いたいのにな~。
ねえねえ、お願いしたら会わせてくれるかな~?」
「……誰かが許しても、多くはそれを望まないでしょう」
そうだ、それは許されない。
鷲尾 須美。否、東郷 美森と乃木 園子が再び会うことは許されていない。
「それは、勇者システムの真実を悟られないようにするため?」
「はい」
「否定しないんだね~」
「事実ですから」
彼女の言葉に私は淡々と返す。
事実は事実だ。隠すつもりはない。
いや、隠したところで彼女は気付く。
ならば、潔く語ってしまった方が良い。
「後悔してないの?」
「後悔……とは?」
思わず聞き返した。いや、分かっている。
彼女が何を言いたいのか。
「わかってるくせに~
────大赦の人として生きる事だよ」
「そんな事ですか。当たり前です。
後悔などありはしません。世界を救う御役目に就いているのですから」
嘘だ。後悔など無数にした。
だが……それでも構わない。私に感情は要らず。
涙も要らず。……全て、彼女が死んだ時に置いてきた。
「そっか」
私と同じ格好をした男性がこちらにやって来るのを見て
時間だと判断する。
「……そろそろ、お時間のようです。私はこれにて」
「うん、またね~」
「では、また後日」
のほほんとした様子で彼女は別れを告げる。
「………うそつき」
去り際に、聞こえたその言葉は
異様なまでに私の耳に残った。
嘘吐きでも構わない。
……彼女が守った世界を守り続ける為ならば、
それで構わない。
それが、私の……いや、俺の選んだ道なのだから────
主人公くん
大赦の人間として生きる事を選んだ少年(名前募集中)
大赦の人間の中にはこういう感じの人も居たんじゃないかなぁって
コンセプトで書いた主人公です。
ちなみに大赦の人間として生きる道を選んだのは三ノ輪 銀が死んだ後。
つまりはそういうこと。
続くにしても、この主人公くんは
勇者部のメンバーとは基本対立する形になる可能性が高いです。
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