漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話 (erif tellab)
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漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話


ズ・メビオ・ダとは、豹のフレンズである。(違う)


 グロンギとは超古代に生きる戦闘民族だ。物理法則を無視したかのような方法でお腹の中に埋め込まれた霊石、ゲブロンとかいうものの力によって怪人に変身できる。その時の姿のモチーフはクモ、バッタ、コウモリと人それぞれだ。みんな違ってみんな良い。

  だが悲しいかな。グロンギの戦闘民族たる所以は、人間を獲物として捉えている事だった。グロンギだって生物学上はヒトの遺伝子を持っているのにも関わらずにだ。ぶっちゃけるとグロンギと人間の対立の原因は、根底の価値観と認識の差である。

  その上、ゲゲルとかいうイカれた伝統文化があるのだ。端的に言うとそれは、制限時間内に決められた人数を仕留める殺人ゲームである。ゲゲルに失敗すると、ゲブロンが自爆装置と化して爆死する模様。普通の人からすれば、カルチャーショックを通り越して酷く驚くに違いない。

 

  どうして殺す。どうして仲良くしようとしない。そんな疑問はごもっとも。しかし、根っから戦闘民族のグロンギにその手の話題はほとんど通用しない。頭の中が完全に闘争へと凝り固まっているから。

 

  また、善悪の境界線が機能していない事も一因だろう。オカマのキノコ君とか、透明になるカメレオン君とか、サイコパスな針使い君とか、殺人を楽しんだりする最悪な部類だ。カメレオン君は随分と話が通じるからマシだけど。

  そんなこんなで、グロンギは大半が理解できない奴として人間たちに認識される。自明の理だ。しかも、ゲゲルは一応グロンギにとっての神聖な儀式である。

  もちろん、あらゆる生命は生まれを選ぶなんてできないし、この世は原則的に不平等であるから、戦えないタイプや病弱なタイプ、そもそも戦うのが嫌なグロンギも出てくる。そんな彼らにゲゲルが強要されるなんてあれば、実に酷な話だろう。ゲゲル欠席の権利ぐらいは用意されていいはず。

  しかし、現実は非情である。そんな弱者たちは族長から直々に粛正されてゆくのだった。

  抜け穴として、武器や道具の職人が属する“ヌ”集団に逃げ込む方法が残されているが、グロンギの気質的にそちらへ行く者がほとんどいない。ゲゲル上等な奴らばかりだ。

  そもそも、ヌ集団はラ集団と同じくゲゲルを管理する者たちなので、基本的には狭き門だ。つまり、下位集団の弱者たちは大人しく殺されるしかない。出世方法が原始的な古代らしく、力を示す事なので。

 

  そして、かくいう俺もれっきとしたグロンギである。日本人としての意識や人格がそのままになっているおかげで、もう生まれの不幸を呪うしかない。

 

  戦わなければ生き残れない。だが、最近の人間たちがようやくクウガ――一人だけでなくたくさん――を出してきたので、戦っても生き残れない。封印されるし、現代に蘇ってもクウガに殺される。

  それが嫌なら逃げろって? 粛正してくる人がアレだもん、無理だよ。生物の細胞一つ一つを遠距離からプラズマ粒子に変換して焼き殺すなんて、本当にダグバはおかしいと思う。

  それに、どういう訳か俺の名はガミオである。歴史とか設定とか歪みに歪んで、全てをディケイドやゴルゴムのせいにしたい。本来なら俺は登場するはずがなかった。

  だから今日も今日とて、ラ階級昇進目指してダグバとのタイマンを回避するため、ひたすら鍛えまくる。電気を浴びたいけど、なかなか自分のところに雷が落ちてこないから辛い。

  現在、ご丁寧にベ集団たちからのゲゲル参加権利取得の選抜試験が開催されているので、俺のゲゲルの番まで結構な時間の猶予がある。ただし、一人でもくもくと鍛えるのにも限界があるので、模擬戦してくれる相手が必要だった。

  そういう訳で――

 

「ッ、チョボバラヨゲスバ!!」

 

「ゾンバボオギワレデモ……」

 

  彼女が怒涛の勢いで繰り出す殴打や蹴りを、俺は最小限の動きだけで避ける。お互いに人間態で戦っていた。イライラとした表情で吐き捨てる彼女の言葉をスルーする。

  ガラスのように曇った瞳と、乱雑に揃えられた短髪。幼げな体格とは裏腹に、少女とは思えない身のこなしを披露する。

  そんな彼女の名前はメビオ。俺の知らない方のズ・メビオ・ダである。この娘、何か可愛くなっている。

 

「グガー!!」

 

  攻撃が当たらなすぎて遂に癇癪を起こしてしまったのか、メビオは豹の怪人態へと変身する。発揮できる一挙一投足の速さも格段に上昇し、間髪入れずに俺へと突き出す右拳の危険度が跳ね上がる。

  だが、まだ目で捉えられる。俺の動体視力と反射神経をもってして、余裕でその一撃を見切った。

  まっすぐメビオの右腕を掴み、時計回りで強引に動かしながら彼女の背後へ立つ。そのまま右腕の関節を極めて、ぐいっと押し込める。メビオは悲鳴を上げながら、地に膝を着けた。

  以下、俺たちの会話をグロンギ語から和訳してお送りします。

 

「ぐぎぎぎ、はなせぇえー!!」

 

「変身するのは禁止だって言っただろ! あと無理に抵抗するな! 肩抜けるぞ!」

 

「うがー!!」

 

  そうしてジタバタと暴れるメビオを一心不乱に抑える。それでもパワー負けしそうになるので、こちらも怪人態に変身して対抗し、どうにか模擬戦の幕を引かせる。怪人態を解除させるのが大変だった。

  ようやく右腕を解放されたメビオはぐったりと仰向けに倒れて、気だるげな雰囲気を醸し出しながらも俺をギロット睨む。こちらも怪人態を解いても、反撃してくる素振りは見せなかった。

 

「……負けた。負けた負けた負けた!!」

 

  そう言ってメビオは駄々っ子のように手足をバタバタさせる。目尻にはすっかり涙を溜めていた。

 

「あぁー……泣くな泣くな。最初に会った頃よりもずっと強くなってるから」

 

「うるさい!」

 

  いざ慰めてみるも、メビオは反抗心剥き出しにして素直に受け取らない。負けに堪えているのが一目瞭然だ。

  そんな時だった。メビオの腹の虫が鳴いたのは。

 

  キュルルルゥ……。

 

  辺りが静まり返る。当のメビオは唖然とした様子のまま固まり、一切の身動ぎをしない。ひたすら虚空を見つめていた。

 

「……ご飯にするか」

 

  何気なく出した俺の提案に、ゆっくり起き上がってコクリと頷くメビオ。頬が赤くなっている彼女の姿を眺めていると、不意に顔を背けられる。

  今日のお昼の献立は、川で捕った魚の塩焼きだ。細い木の枝から作った簡素な串に魚をぶっ刺し、焚き火にかざす。質素な料理しか作れないのは仕方ない。グロンギもいい加減に米作とかを導入するべきだと思うんだ。

 

「塩は?」

 

「すくなめ」

 

「はいよ」

 

  念のため、メビオから要望を聞くのも欠かさない。彼女はしょっぱすぎるのが苦手なのだ。初めて塩焼きを口にした時とか、掛ける量を俺の舌基準にしていたせいで「ぺっぺっ!」と吐いていた。俺の舌が異様に肥えているから気をつけなければと反省したものだ。

  魚を十分に焼くと、二人でそれらをいただく。ここで「いただきます」と言うのは俺だけだ。メビオはガツガツと焼き魚に食らい付く。気品の欠片もなかった。

 

  俺たちが知り合ったきっかけは、ある日の森での狩猟だった。

  たまたまウサギを見つけた俺は弓矢で狙い射ち、ものの見事に仕留めてみせる。だが、そのウサギは最初からメビオが追い掛けていたものらしく、不本意にも横取りとなってしまったので彼女に因縁付けられた。

  最高時速二百七十キロ出せるんだから全力で追い掛けろよ、とは言わなかった。例えメビオがウサギ相手にニャンニャン遊んでいたのが事実だとしても、この時はなるべく穏便に済ませたかったのだ。なので、横取りしてしまったウサギを彼女に渡して解決しようと図った。

  しかし、それはメビオ自身のプライドが許さなかったのか、頑なに拒否されてしまう。その時は彼女は他の動物を探しにさっさと立ち去ってしまったが、次回以降の狩りに度々出会っては、彼女が一方的に狩り競争を仕掛けては獲物を横取りしてくる事が頻発した。

  これは当初、「じゃあ、他の動物探すからいいや」と俺はなるべく寛大な心で許していたが、我慢の限界が訪れるのはそう遅くはなかった。

  獲物の横取りだけでなく、数々の繰り返される狩りの妨害行為やストーキング、解体の邪魔。それでもって、俺が迷惑だと感じる度に見せてくる、達成感溢れるドヤ顔。

  特に調理させる暇を与えてこないのが、俺にとっては極めて残忍で冷酷な行為に等しかった。なんというイタズラ娘だろうか。これはもう、ぶちギレると同時に叱るしかなかった。グロンギらしい方法で。

 

 

  結果、メビオをボコボコに打ち負かした俺はこうして暮らしている。模擬戦は彼女からすれば俺へのリベンジの機会だ。ただ、餌付けされた猫のように多少はなつかれている気がしなくもない。

 

 

  調理法が洗練されていないこの古代では、塩を降る一つにしてもどうすればダントツに美味しくできるのかは誰も知らないし、わかっていない。俺は思い出しながら試行錯誤で頑張ったら、ようやく美味しくなる魚の塩の振り方に辿り着いた。掛けてしばらく放置とか、全然思いつかないし。

  メビオのなつき度が変に上がっているのは、塩が関わっているに違いないだろう。現に彼女は猛スピードで二本も三本も食らい尽くす。俺は一本で事足りるので問題なかった。

  かくして俺たちは完食し、腹が満たされているので急に運動したりなどしない。その場でのびのびと日向ぼっこを楽しむ。ついでに近くにあった雑草をむしりとって、それを素材にモーフィングパワーで紙に再構成する練習をする。

  紙の作り方は簡単にいうと、木を叩いて砕いて水に浸けながら固める、である。こんな感じだと覚えているので、イメージも湧いたから分解・再構成は可能なはず。細かい事はスルーだ。

  過去の練習でも成功はしているので、今は熟練度を鍛えている事になる。損自体はないだろう。

 

「……ん、できた」

 

  そしてご覧の通り、葉っぱが一瞬にしてA4の白いツヤツヤの用紙に生まれ変わる。この力はいいものだ。科学技術が発展しなさそうなのがキズだけど。

  ふと視線を横にずらせば、俺と同じように葉っぱをモーフィングパワーで再構成しようとするメビオの姿が目に入る。しかし、成功する気配は一切なかった。

 

「……」

 

「あ、やっぱりできないか」

 

「おまえの力は借りない!」

 

  声を掛けてみれば、ぐわっと怒鳴ってくる。こちらはおずおずと引き下がるしかなかった。

  それでもメビオの様子が気になるので、時々チラ見しながら俺は一枚の紙から鶴を折る。

  折り紙はいいぞ、心を豊かにしてくれる。そんな折り紙たちを無残に潰したザインは絶対許さねぇ。いつかクウガにボコボコにされてしまえ。

  こうして折り鶴を完成させた次の瞬間、メビオは急にバタンと前のめりに崩れ落ちる。ペガサスフォームの時間制限を越えたクウガみたいに、ゲブロンがエネルギー切れを起こしたのだろう。モーフィングパワーに力を注ぎすぎたか。

 

「ガス欠? 無理すんな」

 

「うぅ……」

 

「ほら、一枚あげるから元気出せ」

 

  そう言って俺は、落ち込み気味のメビオに紙を渡す。メビオは不満そうな顔をしながらも渋々と受け取り、一人で黙々と折り紙に挑戦していく。

  この時点でメビオが俺に影響を受けているのは一目瞭然だった。紙飛行機を初めて目にしたメビオのどこかキラキラとした顔を、俺は忘れない。

  どうしてこんな好奇心旺盛で無邪気な子がグロンギなのだろうか。戦う事でしかわかり合えなくなるのが辛い。

  拙いながらも紙飛行機を完成まで漕ぎ着けるメビオ。俺が教えた折り方の手順を丁寧に守っていて、そこが意外といじらしい。

  それから間髪いれず、メビオに空高く放り投げられる紙飛行機。力任せに投げても上手に飛ばないのは、さすがの彼女も学習していた。

  風に扇がれながら、紙飛行機はくるりくるりと宙に舞う。飛行距離ではなく、滞空時間を意識した飛び方だった。

  個人的には飛行距離を稼ぎたくなる派だが、メビオは長く空に浮かばせるのが好きなようだ。やがて落ちていく紙飛行機をキャッチし、目を輝かせながらこちらに振り向く。

 

「おい、ガミオ! 前より長く飛べるようになったぞ!」

 

「随分手先が器用になったなー。すんごい成長だ」

 

「……へへっ、うふふっ! もっとホめろ!」

 

「おー、よしよし」

 

  そう言ってメビオは機嫌良く近づいてきたので、頭を優しく撫でる。気持ち良さそうに声を鳴らし、まるで猫のように可愛かった。顎の下を撫でてみると、より目を細める。

 

 

  あぁ……ゲゲルなくならないかな……。早くラかヌに逃げたい……。

  ゲゲルの際は、クウガ一人倒せばクリアの扱いにしてもらえるように頼んでみよう。きっと大変な戦いが待っているぞ。この時代のクウガ、封印エネルギーを常時フル発動させているだろうから。

 

 




Q.もしもグロンギたちでハーレムなんて作ろうとしたら?

A.世にも恐ろしく、血に濡れた修羅場が発生します。こちらも怪人の力を手に入れないと死ぬでしょう。


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究極の闇そのものよりも、闇を照らす希望の光になりたかった


なんか好評だったので、もう一話。ガリマ姐さんとか、ベミウとか、ジャーザとかは他に任せます。


 どうして俺はガミオになってしまったのだろうか。どうしてゲゲルをサボれないのだろうか。サボればもれなく粛清される。良くも悪くもグロンギは実力社会だ。ダグバ怖い。

  今、赤狼の怪人態に変身している俺の目の前には、四人の戦士が立ち塞がっている。

 

  赤の戦士、クウガ・マイティフォーム。

 

  青の戦士、クウガ・ドラゴンフォーム。

 

  緑の戦士、クウガ・ペガサスフォーム。

 

  紫の戦士、クウガ・タイタンフォーム。

 

  完成、真・地獄絵図。

 

「……バンデアグムザ」

 

  やたらと既視感を覚えるが、流石は古代のクウガだと誉めてやろう。俺は玉砕覚悟で四人の戦士に立ち向かっていった。結果はお察しだ。

 

  ……緑のクウガの時間制限がまるでなくなってるなんて、ふざけるなよなぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

「――ミオ、ガミオ。起きろ」

 

「……ハッ!」

 

  朝。メビオに揺さぶられた俺はとりとめもなく目覚める。なんだ、夢か。

  そうして俺が起き上がると、間もなくしてメビオが朝食をねだってきた。

 

「腹へった。ご飯作れ」

 

  うん、実に端的で命令口調なお願いだ。礼儀がまったく感じられない。それは古代に生きるグロンギゆえに仕方ない事なのだが。

  ただ、俺にはそこまで準備してやる義理はない。単に食べ物を用意するだけなら、メビオも普通に一人でこなせる。なので、起こされた恨みを軽く込めて言い返す。

 

「いや、自分で用意できるだろ、それぐらい」

 

「ガミオのご飯の方がうまい」

 

「それは……ちくしょう、言い返せねぇ」

 

  まさしく、人間の味を覚えてしまった熊と同義。メビオが積極的に俺から飯をたかるのは自明の理でしかなかった。彼女の純心な眼差しを浴びながら、俺はほとほと呆れ果てる。

 

  俺の生活拠点はグロンギたちの集落と離れている。理由は簡単、全然平和じゃないからだ。己はグロンギにしては異質だと自覚しているので、余計なちょっかいも避けたかった。

  家はシンプルな竪穴住居。隠れるようにして存在するここは現状、バレているのがメビオとバルバのみ。ラの階級の人は本当に捜査能力がおかしい。やはりゲゲルを辞退できる可能性は低い模様。

  近くには、とある村跡から回収した小麦を植えた小さな畑が一つ。下手くそながら、粘土と石ころを材料にしたかまども作ってある。これらをグロンギの集落のど真ん中で作った暁には、問答無用で荒らされる事は間違いないだろう。

  それでも、俺はれっきとしたした文明人でありたい。創造の伴わない破壊はしたくない。そもそもグロンギやめたい。

 

  そんな事を思いつつ、昨日の内に発酵させておいたパン生地を二つ、かまどで焼いておく。予熱も忘れてはならない。小麦が弥生時代の日本に伝来していて本当に良かった。

  焼き終わればバターロールくらいの大きさになるだろうか。この間に果実を潰し、それをジャム代わりにする。

  ふと視線を横にずらすと、パン生地を焼いている真っ最中のかまどの前で座り込むメビオの姿があった。身体を左右に小さく揺らしながら待っている様子は健気で、とてもグロンギとは思えない。時々、パンから発せられる香ばしい匂いも嗅いでいた。

  パンの香りにすっかり頬が緩むメビオ。その気持ちはわからなくはない。俺も伊達に狼の怪人に変身できる訳ではないから。嗅覚は犬並みだ。

  そのため、食べ物の焦げ加減に関しては人一倍敏感にもなれる。目だけでなく匂いでパンの焼け具合を測り、ここぞというタイミングでかまどから取り出す。パンはちょうどよく出来上がっていた。

 

「おお~!」

 

  パンはメビオにとっての未知の産物であるので、彼女は目をキラキラ光らせながら笑顔になる。

  端からそれを見れば、過去に何度も作る練習をしておいた甲斐があったものだと実感できる。もうゲゲルの参加資格を剥奪して、こうして食べ物とかで釣ればメビオは幸せになれるのではないだろうか。いや、無理か。

  今日の朝食はジャム塗りのパン。時代を考えれば、かなり贅沢な食事である。

 

 

  その後、朝食を終えて片付けを済ませると、俺は動物たちの皮で出来たバッグを背に出掛ける。バッグの中身はとにかくたくさん。右手には、先端部を骨で代用した銛を持つ。

  すると、メビオが首を傾げながらひょこっとついてきた。ツンツンと指を軽く突いてきて、こちらの気を逸らしてくる。

 

「なぁなぁ。今日はどこに行くんだ? その槍、少し変だぞ」

 

「槍じゃなくて銛。海に行く」

 

「海!?」

 

  その時、メビオはやけにすっとんきょうな驚きを見せた。思わず気になって彼女の方を振り向くと、左腕をガッシリ掴まれて歩きを阻害される。

 

「海はダメだ! そんなのよりも私とまた戦え! ユーイギだぞ!」

 

「また今度な。嫌ならついてこなくてもいいし……」

 

「ダメだ! 考えなおせ!」

 

  そう頑なに言ってメビオは俺の腕をぐいぐい引っ張って離さない。このままメビオごと引き摺って前に進もうにも、彼女の機嫌が拗れる予感するので気が引ける。

  一度立ち止まり、メビオと互いに目を合わせる。しばらくは彼女もムッと構えていたが、時間が経つにつれておどおどし始める。その黒曜石みたいな光沢を持つ瞳には、何らかの期待が込められているようだ。

  そして、メビオの握る手の力が不意に弱まる。この隙に俺は怪人態に変身し、瞬く間にその場を離脱した。

 

「じゃあの」

 

「あっ!?」

 

  直後、メビオも変身して鬼ごっこを仕掛けてきたのは言うまでもない。

 

 

  そんなこんなで浜辺に到着した。ここまで怪人態で走ってきたが、途中でクウガや一般人たちに出くわさなかったのは行幸だ。

  まず焚き火を起こし、バッグから必要な調理器具を取り出して準備を整える。どんな魚介類を取って、どんな風に調理するかは未だに迷っている。

  俺は依然として怪人態のままで、海に臨んでいく。身体能力が跳ね上がるのだから使わない手はない。一方で人間態に戻っていたメビオは、海辺から離れた場所で切なさそうな雰囲気を醸し出しつつ、こちらを静かに見守っていた。

 

「いくぜ、エントリイイィィィ!!」

 

  銛を片手にいざ海へ。俺は声高らかに叫びながら、水中へ大きく飛び込んだ。気分はズゴック、ゴッグ、ハイゴッグだ。

  五十匹も狩るなんて真似はしない。あくまで獲るのは、自分で完食できる分だけだ。メビオの分も考えておこう。

  素人ながらも懸命に水中探索を続ける。ちょっと浜辺から遠く出てみれば、悠々と泳いでいる魚はあちこちで見掛けるようになる。

  これは眺めているだけでも楽しい。時代が漁業権などの法整備がガチガチに進んでいる現代ではなくて良かったとさえ思えてくる。グロンギになってしまったのは少し悲しいけど。

  そうこうしていると、岩影で一匹のタコを発見する。俺の片手では収まりきらないほどの大きさだ。

  よし、あれにしよう。そう思って俺はより深く潜水し、間髪入れずに銛を突き立てる。

 

  ようやく捕らえられたのは三分も経過した頃だろうか。水中だと思うように動きが取れず、吸盤で岩に張り付くタコには苦戦を強いられた。銛を何度刺してもなかなか力尽きず、素手に掴みに行けば触手が腕に絡みついてきてと散々だった。

  それでもグロンギの持つ怪力でごり押し、強引に岩から剥がして止めを決める。タコを銛で串刺しにして、やっと水上へと顔を出す。

  息継ぎなしでタコと三分間もの水中戦なんて、並みの人間では不可能に近いだろう。これでゲゲルがなければ、もっと素直にグロンギである事に喜べたかもしれない。

  数分ぶりに呼吸を取り戻し、大気中の酸素を存分に肺に取り込む。心臓がバクバクと鼓動が激しくなっていた。

  そうして浜辺までに戻ろうとした時、海面に浮かんだ謎の物体を目にする。それは漂流物にしてはやけに不自然すぎて、まるでマネキンが溺れているような――

 

  ……ん?

 

「メビオぉぉぉぉ!?」

 

  あの見慣れた皮のブレザーは間違いなくメビオのもの。だとすれば、何故かメビオが海に流されていると考えるのは当然だった。

  急いで助けに入ると案の定メビオが溺れていて、そのまま浜辺の上に運ぶ。タコを刺した銛を適当な場所に置き、メビオを仰向けに寝かせる。

 

「おい大丈夫か!? しっかりしろ!」

 

「……ケホッ、ケホッ」

 

  大声で呼び掛けると、目を固く閉じていたメビオは途端に咳き込み、覚醒する。次にゆっくり上半身を起こすメビオの姿に、俺は胸を撫で下ろす。

  だが次の瞬間、メビオがキッと目を見開いたかと思うと、形振り構わず走り出す。自分が溺れたばかりの海に。俺は咄嗟にメビオを後ろから羽交い絞めにして食い止める。

 

「おい待てぇ!! 溺れたばかりなのにどうしてまた海に向かうんだよぉ!?」

 

「ガミオが泳げて私が泳げないのくやしい! イライラする!」

 

「なんでそんなに自分を追い込むんだ!?」

 

「放せぇー!」

 

  涙声でジタバタ暴れるメビオ。これを収めるのにはかなりの時間を要した。

  メビオを鎮めた後、タオル代わりに布を渡して焚き火の前に座らせる。俺は人間態に戻り、絞めたタコを茹でている。

  あれから聞いたメビオの話によると、タコとの戦いで海の深くへと消えた俺を見て、居ても立ってもいられなくなったらしい。パンを焼く時は待てたのに、どうして水中戦の決着がつくのを待てなかったのだろうか。

 

「元はといえばガミオのせいなんだ。海に潜ってぜんぜん戻ってこなかったから」

 

「それ、心配してくれたって事でいいのか?」

 

「してない」

 

  事の真意を尋ねてみると、メビオはプイッと顔を逸らす。頬を膨らませ、口を尖らせていた。

  彼女の機嫌はあからさまに悪くなっている。しかし、いざタコ料理が出来上がるとホクホク顔で口にするのだった。今日の昼食は干した貝と海藻の出汁を使ったタコスープ、タコの刺身、タコの丸焼きである。

 

  食事と後片付けをあらかた済ました後は、俺に対抗心を燃やしながら泳ぐ練習をするメビオの面倒を見る事になった。始めは拙く、大人しく浮かぶ事すらも怯えてできない有り様だった。

  しかし、ゆっくり時間を掛けて教えてやれば造作もなく、三十分も経てばコツを掴んだみたいだ。まだまだぎこちないが、俺の手を借りずとも泳げるようになる。

 

「みろみろ、ガミオ! 私だって頑張れば泳げるんだからなー!」

 

「俺が教えてようやっとだけどな」

 

「ムッ! それはなしにしろ!」

 

「はいはい」

 

  俺がそう返事をすると、メビオはすぐさま泳ぎの練習に戻る。彼女が一生懸命に平泳ぎしているのを見守っていると、ほっこりしてしまいそうだ。グロンギに生まれて良かったと錯乱しかける。

  でも、できる事なら狼繋がりで魔戒騎士になりたかったなぁ。あれはやり甲斐系ブラック企業で、グロンギと比べると守りし者でいられる分ずっとマシだ。

  どんぐりの背比べ? 気のせいだろ。

 

「あぶっ! 足、つったぁ!」

 

「っ!? 今助ける!」

 

  メビオの助けを求める声に応じて、俺はすかさず海に入る。救助後にわーんと泣きつかれたのは目に新しかった。

 

 





Q.ガミオ羨ましいなぁ、この野郎。

A.そんな貴方に、メ集団やゴ集団の見目麗しい女性怪人を。
……え? 不良娘のザザルは嫌だって? ザザルさん、こいつです。溶解液で一思いにやっちゃってください。


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男女平等キン肉バスター

ウサギ怪人に変身するグロンギが一応いるらしい。容姿は知らない。


 ある日、俺はメビオに猫じゃらしを使ってみた。

 

「ほーれほれ」

 

  猫じゃらしをメビオの目の前に垂らし、素早く左右に振る。それに応じて、メビオの目が猫じゃらしの軌跡を追う。その釘付けになっている姿は、まさしく子猫だった。

 

「にゃっ!」

 

  刹那、メビオのブロウが猫じゃらしを俺の手の中からカッ拐い、宙へと打ち出す。猫じゃらしは空中分解を起こしつつ、綺麗な放物線を描きながら地に落ちていく。

 

「エノコロダイィィィィン!!」

 

  無残に散った猫じゃらしに俺の叫びが木霊した。下手人であるメビオはどこ吹く風で、容赦なく俺に攻め掛かってくる。彼女から止めどなく放たれる拳を一心に捌き続けた。

  組手はやがて、最後に俺が繰り出したキン肉バスターが決め手となり、メビオへの連勝記録を更新する事になった。再び敗北を喫したメビオは、うるさく悔し涙を流した。

 

 

  そんなこんなで、ちょうど太陽が真上に昇る頃。俺たちは無法者のグロンギたちの蔓延る集落に訪れていた。

  できればこんな場所には一生近づきたくなかったのだが、個人的に済ませたい用事があるので我慢する。メビオは親鳥に引っ付くひよこのように付き添いで来ていた。

  ふと視線を横にしてみれば、幼女に一蹴されているザインが見えた。あの幼女は確か、メ集団のウサギ怪人だったはず。とにかく身のこなしは幼女ではなく、むしろSPや海兵隊員の近接格闘戦を彷彿させるものだった。幼女ではなく幼兵(つわもの)だったか。

  仮にもズ集団のリーダー格のザインが幼女にやられるなんて……もうやだこんなところ。俺は何もかも振り切る思いで駆け足になり、目的地の工房へ到着する。メビオもトテテと小走りでついてきた。

  しかし、「お邪魔しまーす」と繰り返し声を掛けてみても工房の奥から何の返事もやって来ない。人がいるのは匂いでわかるのだが、また時間を改めて来ようにも外に出るのは気が引けるので待ち続ける事にした。

  ただ、数分過ぎたところでメビオが待ちそびれてしまい、暇つぶしに二人で折り紙に興じる事になる。

 

「ふふん」

 

「ほーん」

 

「にゃっ!?」

 

  自信満々に自力で完成させた折り鶴を見せてきたメビオに、俺は折り鶴の発展形であるドラゴンを披露する。メビオは敢えなく面食らい、まじまじとドラゴンを眺める。

  すると、工房の奥から一人の男性が出てくると同時に小言が飛んできた。

 

「お前ら、人の家にずけずけ上がってきて何してんだ」

 

「「折り紙」」

 

「ズの癖に手先と発想と工夫が器用すぎるな」

 

  即座に答えてみれば男性に突っ込まれる。偏見的な発言だが、俺たち以外のズの場合ならほぼ的を射ているのでぐうの音も出ない。

  俺たちの目の前に出てきた彼の名前は、ヌ・アゴン・ギ。ゲゲルに用いる道具とかを作っている人だ。ヌは他にもザジオがいるが、彼はゴ集団の武器メンテナンスなどを主に担っている。

  それはさておき、俺は早速話をアゴンさんに切り出す。

 

「折り入って話があります、アゴンさん。俺に全身鎧を作ってください。クウガにボコボコに殴られても平気で、硬くて軽くて強いものを」

 

「自分が何言ってるのかわかってるのか? メビオの方は?」

 

「そんなのいらない。ガミオが臆病なだけだ」

 

「俺の考えたデザインはこちらになります」

 

  俺は一枚の巻き紙を取り出し、それを近くのテーブルの上に開く。メビオとアゴンさんがそそくさと覗き込んでくると、瞬く間に目を見開いた。

  白黒で描かれた鎧の絵。鎧の装飾はカッコいい感じにとびきり洗練されていて、兜は狼を模している。

  え? それ、まんま魔戒騎士の鎧だって? いいんだよ、即暗黒堕ちは確定してるから。最初から暗黒騎士だ。

  俺と絵を交互に見比べたアゴンさんから再度、ツッコミが入る。

 

「絵心もおかしいぞ。貴様、本当にズか?」

 

「はい。それで、作ってくれますか?」

 

「まぁ、いいだろう。仕事もザジオと交代して暇してたんだ。時間潰しにはなるが……本当に武器じゃなくて鎧がいいのか? そもそも貴様に扱えるのか? ガミオ」

 

「間に合ってます」

 

  アゴンさんのごもっともな指摘に、俺は道中で拾っておいた木の枝をモーフィングパワーで瞬時にロッドへ再構築する事で応える。それだけでなく、何度も木の枝とロッドの変換を繰り返しまくる。

  これには少し呆気に取られていたアゴンさんだったが、すぐに気を取り直して口を開く。

 

「……鎧だけならズのゲゲルのルールを破るまい。一週間もあれば形にできる。また日を改めて来い」

 

「ありがとうございます!」

 

  かくして、俺の出した依頼は受理された。鎧がクウガの封印エネルギーを受け流してくれる事を夢見つつ、まだ緊張感を解かずに帰路に着く。

  どうか他のグロンギから喧嘩を売られてきませんように。そんな事を祈ると、横からメビオが話し掛けてくる。

 

「ガミオ情けないぞ。防具なんかに頼って。お前ならリントの百人や二百人、軽く殺せるだろ?」

 

「発言が殺伐すぎるし。できればゲゲルはやりたくないんだけどなぁ……。リントを殺す必要性が全然ない」

 

「ん? なんでだ?」

 

「強くなりたいだけなら他の方法もある。俺たちが今朝やったみたいな感じに。殺さなくても良かっただろ?」

 

  それを聞いてまっすぐ頷くメビオだったが、途端にオロオロし始めた。目を白黒させて、頭を抱えて悩み出す。まるで俺の言いたい事の半分も伝わっていないようだった。

 

「命は大事にしようって事。メビオだって死にたくないだろ。リントも同じ気持ちだよ。変わらない」

 

「あ、それはわかるぞ。私が溺れてるのをガミオが助けてくれなかったら――」

 

  俺の付け加えての言葉にメビオは顔をパアッと輝かせる。しかし、それも一瞬の出来事で、今度は顔と耳たぶを赤くしながら難しく唸り始めた。

 

「どうしよう、ガミオ! 頭の中がこんがらがってきた!」

 

「悩め悩め。多分、ちょうどいいから」

 

  助け船を欲しがるメビオを差し当たりのないように突き放す。代わりに何度も脇腹を小突かれた。

  このままメビオが誰かを思いやれるようになれれば、それで良しとしよう。どのみちゲゲルからは逃げられない。止められない時の定めだ。ならばせめて、命を奪う事の意味をしっかり考えるようになってもらいたい。彼女はあまりにも、無垢すぎる。

 

  その時、歩く先に見覚えのある誰かを見つけた。匂いも覚えていたおかげで、咄嗟に物陰へと身をひそめる。

  ついでにぼさっと立っているメビオを俺の近くに手繰り寄せる。いきなりの事で首を傾げたメビオは、おもむろに俺の名を呼ぶ。

 

「……ガミオ?」

 

「しっ」

 

  俺はメビオに静かにするように求めて、物陰の向こう側をもう一度確認する。そこには、身体中に戦いの傷痕が多く残っている強面の男がいた。

  彼はメ・ガドラ・ダ。虎の怪人に変身できるグロンギだ。シリアルキラーばかりのグロンギの中では、随分とストイックでまともな武人肌である。ガドル閣下のように、ゲゲルにおいても強い奴や戦士と戦おうとするタイプと言えよう。効率厨のジャーザとは大違いだ。

  そして、本編の総集編の煽りを受けて一話で退場してしまった、色々と扱いが可哀想な奴でもある。再生能力縛りをしているからだ。

  もちろん、そんなガドラと出会ってしまった暁には、執拗に絡まれるのは間違いない。これがギノガやゴオマならグーパン決めてすぐ逃げるのだが、相手がまともな思考の持ち主なだけあって中々手を出しづらい。過去の一件もある。

 

「ガドラがいる。やだ。めんどくさい」

 

  そうやってメビオに手短に教えて、迷いなく別の道を進もうとする。しかし――

 

「貴様、ガミオか! 以前の借り、ここで返させてもらう!」

 

  あっさりガドラに見つかってしまった。俺は急いで怪人態に変身して、一目散にその場から逃げ出す。メビオは米俵を運ぶようにして肩に担いだ。

  対してガドラは、俺と同じく怪人態になって追走を始める。それから間を置かず、腹に響くほどの大声を出してきた。

 

「逃げるなぁ!!」

 

「ごめんなさい! キン肉バスター掛けてごめんなさい!」

 

  俺は謝罪の言葉を述べながら、肩で暴れるメビオに負けずに逃走を続ける。何を隠そう、ガドラはキン肉バスターの被害者第一号であった。

  その後、どんなに逃げても振り切れなかったので、メビオと二人掛かりでしょうがなくガドラと戦った。マッスル・ドッキングで地に沈めてしまったが、伊達にグロンギではないから大丈夫だろう。俺たちは気絶したガドラを放置し、自宅へ帰った。

 

 

 ※

 

 

「ガミオ、ガミオ」

 

「ん?」

 

「私たち、魚やウサギを殺すだろ。リントを殺すのと何が違うんだ?」

 

  夕暮れ時。俺がキノコのスープを煮ていると、不意にメビオがそんな疑問を投げ掛けてきた。

  これはメビオの価値観に変革がもたらされようとする兆しなのだろうか。だとすれば、いつしか「ようこそ、こちら側へ」が実現するのも夢ではない。

  さぁ来い、メビオ。まともになるんだ。俺がグロンギの中で異端扱いされても、仲間が増えれば怖くない。旅は道ずれ、世は情け。貴様も一緒に連れていく、とシロッコだって言っていた。

  そんな願いを込めつつ、キノコスープをヘラでかき混ぜる片手間に答えを出す。

 

「俺らは生きてるんじゃなくて生かされてるって考えろ。飲み食いしないと生きていけない。根本的な解決ができなくて、歯磨きみたいに一生向き合わなきゃいけない問題だ。動物たちを犠牲にした上で生きているんだから、ただでさえ命を粗末に扱うのは――」

 

「ながい」

 

「……遊びで奪っていいほど命は安くない。俺が死んだらメビオは――」

 

「死ぬのはダメだ!」

 

  簡潔にまとめた俺の言葉を遮るようにして、突然と喚声が響き渡る。それから辺りはしんと静まり返り、俺は調理の手を止めてメビオを凝視する。

  叫んだ後のメビオは髪の毛が逆立っているように見えた。いつにも増して目付きをきつくしていたが、徐々に間の抜けた表情に落ち着いていく。

  やがて、首をブンブンと横に振りながら俺に告げてきた。

 

「……ぅぅ、今のは忘れろ! 私、何かおかしくなってる……」

 

  ヨロヨロと頭を両手で抱えて、その場で体育座りをして塞ぎ込むメビオ。こちらから顔色を窺おうにも、両手ですっかりガードしていた。

  様子を見るからに、彼女から戸惑いが感じられる。今のだって、俺からすれば至って普通の考え方だ。問題ない事も含めて、メビオを宥めようと試みる。

 

「普通だと思うよ? もしメビオがいなくなったら、俺は悲しくなるぞ。泣くかもしれない」

 

  その瞬間、メビオは顔を上げる。しばらく呆けた表情を見せていたが、次第に柔らかく微笑み始める。

  そして――

 

「……私も、いなくなったらイヤだぞ。ガミオ」

 

  僅かに顔を逸らし、視線だけが俺に向きつつも確かにそう言い放った。直後に照れ隠しか、

 両手で顔を覆い隠す。それが何だか、ものすごく可愛かった。グロンギなのに。

  しかし、そんな素振りも夕食の時間となれば虚しく掻き消える。今晩はメビオと一緒にキノコスープを頂いた。味は悪くなかったが、次はもう少し手を加えたいと思う。より大量に鍋へ投入したキノコを八時間ぶっ通しで煮てみようか?

 




Q.ガミオが頼んだ鎧って、どんな風に着るの?

A.トライチェイサーにゴウラムが合体する感じになります。(適当)


Q.マッスル・ドッキングだとぉ!?

A.
ガミオ「行くぞ、メビオ! マッスル・ドッキングだ!」

メビオ「まっするどっきんぐ……? とにかく合わせよ」

ガミオ「落ちろぉぉぉぉ!!」

ガドラ「ぐわあぁぁぁぁぁ!?」




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努力なくして力を得られても、リスクや代償は覚悟しないといけないらしい


グロンギは普段、何を食ってるのだろうか。


 草一本も生えていない殺風景な山の上。俺は何故か、白のクウガと向かい合っていた。

 

「大変だ、ガミオ! ゴオマがンのベルトの破片を取り込んだ!」

 

「え、クウガ? なんで? しかも白いし」

 

  俺の両肩に手を置きながら、捲し立てるようにそう告げてくるクウガ。思わぬ出来事に、人間態でいる俺は困惑を隠せない。

  目の前のクウガはグローイングフォーム――角が小さくなった白い姿だ。この形態はめちゃくちゃ弱い。

  なんだろう。全然状況が掴めない。クウガが俺の名前を知っていたり、グロンギである俺へ妙に馴れよって来たりと、不思議な事ばかりだ。さらには俺の疑問を無視するかのようにして、自分一人で勝手に話を進める。

 

「もう……もう奴を止める手立てはないのか……!? もう、どうしようもないのか!?」

 

「ねぇ、聞いてる? その声ってもしかして小野寺くん? 小野寺ユウスケくん?」

 

  そんな俺の言葉にクウガはまともな返答をせず、ずっと恐々とするばかりだ。

  一体、何がクウガをここまで怯えさせているのかと思えば、先ほどの発言が甦る。ゴオマがンのベルトの破片を取り込んだ、と。途端に俺も身震いする。

  所詮はゴオマだと侮りたいところだが、ンのベルトによる強化を受けた彼はゴ集団の中堅たちと互角に渡り合えるほど強くなっている。ガドル閣下やダグバ不完全体にはボコボコにされたとは言え、金の力を得たクウガには終始優勢に戦えていたのは確かだ。

  ズのグロンギをそこまで強化させるとは、ンのベルトの破片は本当に恐ろしい。かくいう俺もズであるので、強化の影響で太陽光すら克服してしまったであろうゴオマとは微塵たりとも出会いたくなかった。軽く死ねる。

  次の瞬間、俺たちから離れた場所に光がスポットライトの如く放たれる。光の出所はよくわからない。

  それに気づいた俺とクウガは咄嗟に振り向くと、光の中に人影が一つ見えた。逆光で顔は確認できなかったが、身体の線から人影は女性だと判断できる。

  女性はゆっくり前に歩き出し、詳しい姿が次第に現れる。そして、クウガが女性に指を指しながら、大地を震わさんばかりの声量で叫び出す。

 

「究極生命体、ズ・ゴオマ・グの誕生だああぁぁぁ!!」

 

「いや、アイツ誰だああぁぁぁ!?」

 

  クウガの叫びとともに本格的にこの場へ舞い降りた女性を目の当たりにして、俺は思わず大声でつっこんでしまった。

  女性的な細さを残しながらも引き締まった肉体に、風でたなびくセミロングの黒髪。服装はタンクトップに長ズボンと、女性が人前でそんな風にしていて良いのか疑うような格好をしている。胸は随分たわわと実り、くびれが綺麗に決まっていた。

  俺の知る限り、ここまでのダイナマイトボディを誇っているのはジャーザしかいない。あの女性がゴオマだなんて、あのくりっとした目を持っているがゴオマだなんて、到底信じられなかった。

 

  副作用? ンのベルトの破片が偶発的に引き起こした副作用か何かなの? 族長交代にそんなリスクがあったの?

 

  腰に手を当ててかっこよく佇んでいるゴオマに茫然としていると、隣からクウガとは全く違う誰かの声が聞こえてくる。

 

「逃げよう、ガミオ!」

 

「メビオ!? お前、いつの間に!」

 

「ハアァァァ……!!」

 

  突然のメビオの登場に驚く暇もなく、俺の気も知らずにゴオマは何やら気迫の篭った声を発する。ものすごく嫌な予感しかしなかったので、メビオと一緒に怪人態に変身して咄嗟に逃げ出した。

  その際にクウガはどうしようかと考えるのも束の間、彼は飛行する装甲機ゴウラムの背の上に乗り、俺たちと横に並んでゴオマから逃げていた。

  それから、とても慌てふためいた様子でクウガは俺に話し掛けてくる。

 

「う、うわー! 逃げてどうするんだよ、ガミオ!」

 

「うるさい! こっちも何が何だかわかってないんだよ! つーか、ユウスケ……ライジングアルティメットになってこいよ! あれ、お前だけの最強フォームだろぉ!?」

 

  そうやって言い返している傍ら、遥か後方に置き去りにされたゴオマは声高らかに宣言する。

 

「ダグバ……やってやる! 必ず殺す! だがその前にガミオ……貴様からだ!」

 

  わーい、名指しされたぞー。例えゴオマが女になっていても嬉しくないなー。

  そんな風に一瞬、思考放棄に陥りかける。だが、ここで現実逃避をしても特に意味はない。今すべきは、どうやってゴオマの魔の手から逃れるかだ。

  しかし、その前に気持ちを落ち着かせるために一つだけ言いたい事がある。すぅっと息を深く吸い込み、そうして腹の底から思いきり声を出した。

 

「おのれディケイドぉぉぉ!!」

 

  この後、究極怪人態に変身したゴオマにあっさり追いつかれてしまったので、メビオとクウガと力を合わせて奴と死に物狂いで戦う事になった。

 

 ※

 

「……夢か」

 

  チュンチュンと鳴く小鳥たちのさえずりが聞こえる早朝に、俺は目覚める。寝床から上半身を起こして周りを見てみると、隣にスヤスヤと寝息を立てて横たわっているメビオの姿があった。寝顔が幸せそうで何よりだった。

  まだメビオが眠っている内に朝食を準備する。今回は蛇の卵を使ったオムレツだ。ソースは甘酸っぱい果実を代用し、オムレツの中身はバッタやイナゴなどの昆虫を原型がなくなるまでミンチにして焼いたものだ。

  現代からすると一般的ではない昆虫食だが、メビオは大して忌避感などを抱いていなかったので何も問題はなかった。俺も昆虫食にはとっくの昔に慣れた。

  ちなみに昆虫食は世界中の食糧難を救えるらしい。家畜にするにしても、豚や牛を育てるよりも低コストで済むから合理的だそうだ。

  オムレツを完成させたところでメビオがちょうど目覚めたので、そのまま一緒に食事を取る。今では見よう見まねでも、メビオは食事の挨拶をキチンと取るようになっていた。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

  ほらね、この通り。

 

  朝食後はその他も雑事を済まして、それから組手を軽くこなした。また負けてしまったメビオを慰めるのが大変だった。

  お昼までにはまだ時間が残っているので、暇潰しにと一枚の巨大な紙を用意する。色は紫に染めておいた。モーフィングパワーの無駄遣いである。

  これを見ていたメビオは、そわそわしながら笑顔を浮かべる。わくわくしすぎて、完全に待ちあぐねている様子だった。声の調子もどこか昂らせ、おっとり刀で質問してくる。

 

「ガミオ、こんなに大きな紙を用意してどうするんだ? 紙飛行機を作るのか?」

 

「いいや、違う。これから作るのは紙飛行機やドラゴンよりも複雑怪奇な代物だ。めちゃくちゃ時間はかかるけど、達成感がとんでもなくすごい。ぶっちゃけると趣味」

 

「あ……私、まだどらごんもできてない……」

 

「落ち込むなよ。覚えればいいんだから」

 

  項垂れた頭を優しく撫でると、メビオはおもむろに元気を取り戻す。かくして、世界ギネスにも挑戦できるような折り紙が始まった。

  予てより小さな紙で何度も練習をしている。これはメビオにも内緒にしていた事だ。折り方が非常にうろ覚えだったが、グロンギの地頭の良さのおかげで何とか完成にまで漕ぎ着けた。その時、囲碁や将棋に全力で取り組んだのと同じぐらいにまで心身を消耗したのは、グロンギに生まれて初めてかもしれない。

  きっかけは動画投稿サイト。折り紙に何となくハマっていた頃だ。その際に折り紙の無限の可能性に触れて、俺をここまでの領域へと引き摺り込んでくれた。この娯楽に欠けすぎた古代において、まさに折り紙は至高の遊びの一つに数えられた。ゲゲルは論外だ。

  近くでじっと見守るメビオの視線を受けながら、ようやくそれを完成させる。彼女の目の先には、二メートル近くある紙の人形が大地に立っていた――

 

「おお! 紙からこんな人形が作れるのか!? なぁなぁ、これはなんだ? 動くのか?」

 

  巨大人形の周りをぐるぐる歩き、興奮気味に見上げるメビオ。そんな彼女に俺は、この場を決めるようにして人形の名を教える。

 

「汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリヲン初号機」

 

「……んん?」

 

「……初号機でいいよ。今日はコイツをどうにか動かす練習をする。完全に特殊能力の部類だな」

 

  案の定、初号機のフルネームにメビオはきょとんとした表情のまま、小首を傾げた。気を取り直して次の行程に移ろう。

  今回の目的は、クウガを支援するゴウラムと同じような存在を作り出そうというものだ。まだゴウラムの出没情報は出ていないが、ゴウラムに乗った緑のクウガが延々と空を飛んだ暁には、制空権を握られて一方的にやられてしまう。ペガサスボウガンで空爆とか嫌すぎる。

  なので、こちらもゴウラム対策に何らかの手を講じる必要が出てくる訳だ。操作方法は、バラの花弁を自在に操るバルバみたいな感じを目指したい。

  そんなこんなで、メビオにドラゴンの折り方をレクチャーしながら試行錯誤してみる事、およそ三十分。初号機はうんともすんとも言わなかった。試しに腹の中の石の力を使ってみるも、垂れ流しになるだけで余計に疲れた。

 

「ぜぇ……はぁ……何だ? 一体何がダメなんだ……?」

 

「できたぞ、どらごん! どうだ!」

 

「お、マジか。相変わらず飲み込み早いな」

 

「ふふん、ホめろホめろ♪」

 

  だが取り敢えず、簡単な方のドラゴンの折り紙を作ったメビオの頭を撫でる。すると俺の胸の中にピョンと飛び込んできて、もっとねだられた。

 

「待った。その前に一つ、取っておきの最終兵器を初号機に使いたい」

 

  そう言って俺はメビオを制止し、懐から例の物を取り出す。ムッと不満げに頬を膨らますメビオだったが、俺の手のひらに乗せられたものを目にすると一気に顔色が変わった。恐る恐る、これの名を聞いてくる。

 

「それは……」

 

「ゲブロン」

 

  その時、メビオは石像のように動きが固まった。

  ここにゲブロンがどうしてあるのか、さぞ不思議に思う事だろう。それは当然だ。そもそもゲブロン自体が希少で、こうして気軽に出せるようなものではないのだから。

  では、他のグロンギの腹の中を抉って取ったのかと言われると、それも違う。正しくは、まだ埋め込まれていない新品を誰にも気取られないように盗んできた。この古代にまともな法や警察機関は存在していないから、窃盗罪に問われて警察署に連行されるような心配はほぼない。

  それでも俺は内心、誰かにバレていないかどうかものすごくヒヤヒヤしている。バルバ辺りが知れば、もれなく殺されそうだ。大事なものを変な事に使うんじゃないと。

 

「新品をこっそり盗んだ。いいか、この事は誰にも言うなよ。俺との約束だ。守れる?」

 

  さりげなく危ない真似をしている自覚はある。メビオにそう言い聞かせると、彼女はコクリと静かに首を縦に振った。

  ならば良し。さぁ、実験を始めようじゃないか。

 

「いくぞ! 一先ずコイツに全てを賭ける!」

 

  そして俺は、ゲブロンを初号機の胸部中央に強く押し付ける。すると、ゲブロンはゼリーに柔らかく沈むかのように初号機の中へ埋まっていき、徐々に目映いばかりの光を放ち始める。

  この光景を前に、メビオは短く歓声を上げる。俺もつられて、感嘆の声を漏らしそうだった。

  明らかに不思議な事が起きる。そんな予感がした。

  だが次の瞬間、ゲブロンが小爆発を起こして黒煙が軽く吹き上がる。初号機は上半身が綺麗さっぱり吹き飛び、跡形もなくなっていた。

  ついでに間近でゲブロンの爆発に巻き込まれた俺たち二人だが、特に大したケガを負わずに済んだ。ただ、それが余計に失敗である事を物語っているみたいで、無性に悲しくなってきた。

 

「ガミオ」

 

「……失敗した。期待させてごめん、メビオ……」

 

  深く溜め息を吐きながら、俺は大きく肩を落とす。それからメビオが励ましてきたのは意外だった。

 

 

 





Q.今回見たガミオの夢を詳しく。

A.

クウガ「この瞳に焼き付けるのは、俺たちの未来。そして、闇を照らす希望の光だ!!」

ガミオ「へ?」

メビオ「(0_0 )<?」

クウガ「人々の希望、人々の夢。俺は仮面ライダークウガ! 俺はこの輝きで未来を照らす!」

刹那、金色に輝き出すガミオたち。メビオとガミオは究極体に、クウガはライジングアルティメットに変化。

ガミオ(……もうノリに任せるか)

ガミオたち、一斉攻撃

ゴオマ「こんなはずではあああぁぁぁぁ!!」



究極の闇をもたらす連中しかいないのは仕様。


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今だ! なりなさい! ライジング!


まるでピクニックだな(目が節穴)


 忽然と姿を現したバラの花片が、宙をヒラヒラと舞う。それは俺とメビオの方に降りてきて、幻かどうか定かでない女の声をもたらす。

 

 ――ゲゲルを始める――

 

  それを耳にした瞬間、俺は泣きたくなった。

 

  バラの花片を受け取ったのは、アゴンさんからちょうど鎧を手にした頃だ。アゴンさんの工房はグロンギの集落にある訳で、この通達を無視するのは不可能に近いと悟らせる。工房の外は喧騒に満ちていた。

  外はズの皆が騒ぎまくってるんだろうなぁ。ここで逃げてもダグバから「じゃあいらない」と言われて処刑されるだけなんだろうなぁ。あんな連中たちと混ざりたくないなぁ。

  現在進行形でメビオに引きずられながら、俺はものすごくゲゲルを渋る。連れていかないでくれと懇願しても、彼女は「ダメだぞ」との一点張りだった。

  そのまま広場に辿り着けば、先に集まっていたグロンギたちがゲゲルの順番決めを争っている。欲にまみれた醜い争いだ。バルバが力ずくで黙らせようにも、ズ側の人数が多すぎて時間が掛かっている。その上、後続で次々とやってくる者たちもいるため、もはや目も当てられない。

  そして、とうとう静かにぶちギレたバルバが片腕だけを怪人態に変身させて、それを鞭のように伸ばしてズ集団の大半を打ちのめす。メビオがあの中にまだ飛び込んでいなくて良かった。

  不意にもラの実力の一端を目にした彼らは、途端に黙り始める。辺りは一瞬にして静まり返り、誰も口を開かなかった。メビオも軽く呆けて、我を忘れているみたいだった。

 

「俺は最後でいいです!! それじゃ!!」

 

  その隙に俺は声高らかにそう叫び、急いで広場を後にする。もうこんな場所に長居はできなかった。家に帰らせてもらう。

  間髪入れずに怪人態へ変貌を遂げて、形振り構わず集落を駆け抜ける。やがて森へと差し掛かり、誰もいなくなったと感じたところで一思いに今の感情を吐き出す。

 

「ちくしょうめぇぇぇ!!」

 

  この叫びに答えるものは何もいない。空しく木々の間に響き渡るだけだった。

  誰が好き好んで殺戮のゲームに興じなければならない。野生の生き物たちですら殺生は穏便に弁えているのに、どうして畜生以下の真似に手を染めないといけない。嫌だ、サボりたい。ゲゲルをやるよりもおうどん食べたい。

  そんなゲゲルで我先にと順番を奪い合うグロンギたちもどうかしている。この一族をものすごく裏切りたくなってきた。血を見るのが大好きだなんて理解し難い。

  息切れを起こし、脚がかったるくなるまで全力疾走を続ける。クウガよ、早くコイツらグロンギを一人残らず封印もしくは撃破してくれ。

 

  遂にスタミナの限界が訪れ、足取りは自然とゆっくりになる。そうして、荒くなった息を少しずつ整えている時だった。後ろから呼び声が掛かって来たのは。

 

「ガミオー、私を置いてくなー!」

 

  つい振り返ってみると、怪人態でこちらに駆けつけてくるメビオを見つける。腕にグセパはない。誰よりもゲゲルをやりたかったはずの彼女が俺を追いかけてきたのが、不思議でしょうがなかった。

 

「メビオ……? お前、ゲゲルの順番決めは? 早くやりたかったんじゃなかったっけ?」

 

「ガミオと一緒の方がずっと楽しいからな。私も最後でいい」

 

「あ、そうなの……」

 

  まさかの返しに苦笑せざるを得なかった。それから彼女は程なくして俺の隣に並び立ち、ほぼ同時に人間態に戻って前に進み直す。

 

「ガミオはゲゲルどうするんだ? 何人にする?」

 

「いや、俺の番が来たらクウガ一本に絞るし。むしろそうするしかないし。つーか特に理由のない殺しすらしたくない。天下一武道会みたいなのが良かった」

 

「じゃあ私もゲゲルの相手はクウガだな。ガミオには負けたくない」

 

  そんなメビオの意気込みに俺は思わず面食らう。彼女をある意味で一方的に知っている身からすれば、随分とグロンギらしかぬ変わりぶりだった。

  最初に出会った頃をしみじみと思い返す。昔のメビオは今と比べると、似ても似つかなくっていた。嬉しさ半面に複雑な思いが微妙にあるが、うっかり口にこぼしてしまう。

 

「……お前、変わったよなぁ」

 

「変わってるのはガミオの方だろ」

 

「そういう事じゃないんだけど……まぁ、いっか」

 

  間違った意味の受け取られ方をされたが、気にしない事にした。

  こうして小休止がてらに家までの長い道のりをトボトボ沿っていると、急に雨の匂いが遠くから漂ってくる。次に空を見回してみれば、メビオが真っ先に声を上げた。

 

「ん、空が黒い。ガミオ、早くもどるぞ? きびだんごが食べたい気分だ」

 

  山の向こう側には、黒く立ち込めた暗雲がびっしりと漂ってくる。風も不意に強くなっていて、暗雲の流れる速さは増すばかりだ。

  瞬間、暗雲がビカッと光ったかと思うと、時間差で雷鳴が激しく轟く。ついでにその稲光は俺に、ある種の天啓を与えてきた。

 

 ――今だ! ライジングしなさい! ラ・イ・ジ・ン・グ!――

 

  はい! わかりました!

  返事はあくまで心の中に留め、目の前の暗雲をしっかり捉える。

 

「ガミオ?」

 

「ごめん、メビオ。先に帰ってて。俺、山頂まで登ってライジングしてくるから」

 

「らいじんぐ? あ、待て!」

 

  そう言って俺は戸惑うメビオを置いていき、怪人態になって近くの山を駆け上がる。普通なら通れない悪路も変身していれば楽勝だ。

  ただ、そうこうしている内にも天候は悪化の一途を辿り、メビオが大慌てで変身して俺の跡を追う。俺の願いは聞き入れてもらえなかったようだ。

  次第にポツポツ雨が降り出す。これはあくまで始まりに過ぎないだろう。しばらくすれば勢いが強くなる。ここからが正念場だ。

  遂に山頂へと到着する。周りの木々は閑散としており、ライジングする空間が十分に設けられていて実に好都合だ。

 

「何やってるんだ、ガミオ! こんなところにいたら雷が――」

 

  遅れてメビオもやって来る。捲し立てるように喋る彼女だったが、途中で雷に妨げられた。

 

  ゴロゴロゴオォォォォン!!

 

「ひゃん!?」

 

  咄嗟にしゃがみ、両手で頭を隠すメビオ。チラチラと空の様子を窺っては、俺の近くに駆け寄ってくる。可愛い悲鳴を出すなんてお前、雷が苦手だったのか。

  だが一緒に来てしまった以上、撤収はもう間に合わない。空はすっかり闇に包まれ、次第に嵐がもたらされる。メビオには悪いが、俺共々ライジングする覚悟をしてもらう。

 

「名護さんが言っている。ライジングしなさいと……」

 

「ガミオ? ナゴサンって誰だ? らいじんぐって何だ? は、早く戻るぞ! 山を降りないと!」

 

「イクサとは太陽、太陽とは名護さん。名護さんとは世界の希望。あ、そうだ。縁起担ぎにイクササイズするか」

 

  そこまで思い至った俺は早速、アゴンさんに作ってもらった鎧を纏った上でイクササイズを試みる。鎧の着方はモーフィングパワーの応用だ。一切のタイムラグもなしに、狼を模した鎧が全身を覆う。無論、鎧は金属製。俺自身が誘雷装置となる。

  さぁ、腕振りなさーい、振りなさい。そうしようとした矢先、怯えきったメビオが俺に飛び掛かってきた。

 

「あぁ!? よせ、ガミオ! それはダメな気がする! 雷が落ちてきて死ぬぞ! 脱ぐんだ!」

 

「大丈夫だ、メビオ! 俺は死なない!」

 

「ウソだ! 見た事あるぞ、雷が落ちてきた木が木端微塵になるのを!」

 

「……なんて事を言ってくれるんだ。おかげで怖くなったじゃあないか」

 

「よ、よし! さぁ、早――」

 

  しかし、時すでに遅く。帰還を選んだメビオをまるで叱るように、暗雲から一本の雷が俺たちに向けて落とされる。それはほんの一瞬にも満たない出来事で、俺は落雷の目映い光を目にするだけで精一杯だった。

  太い雷光の先端が俺たちに触れて、頭上から電流の衝撃を全身に伝わらせようとする。逃れようがない一撃に、俺とメビオは成す術を持たない。グロンギの頑丈さを頑なに信じるしかなかった。

  刹那、まさしく大地震の直撃を受けたかのような錯覚に激しく襲われる。

 

「ぎにゃあぁぁ!? ……あ、あれ?」

 

  悲鳴を上げるメビオだったが、のちに呆けた声を出す。予想外の結果に俺も唖然としそうだった。

  俺とメビオを交互に見比べてみるが、どちらも五体満足だ。電気による火傷がどこにもない。

  そして何より、雷を受けたはずなのにビリビリとした感覚が来なかったのが謎だった。もう一度確認を取り、今度は俺たちの立ち位置や状態に目を向ける。すると、意外と簡単に謎は解けた。

 

「……電流が別れたからか! ならイケる!」

 

  曲がりなりにも俺たちはしっかり手を繋いでいたのだった。細かい説明は面倒なので、直感で原因を理解する。いくらうろ覚えやにわかでも、科学の知識は俺に芽生えた雷に対する恐怖心を払拭してくれた。

  ならば話は早い。もっと何度もライジングするために、俺はスゴスゴと山頂を巡ろうとする。手を繋ぐメビオが乗り気になってくれないのが難点だが。

 

「ガ、ガミオ? そっちは帰り道じゃないぞ? 戻って……あ、ヤダ。手は離すな」

 

  ただし、無理やり手を振りほどこうとすると、彼女はもれなく付いてきてくれた。

  それでも足取りはおずおずとしている。なので俺は、思いつかん限りの言葉を掛けてメビオを勇気づける。

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し。病気は気から。要は気持ちの問題だ。お前を信じるお前を信じろ! それでも怖いなら暗示だ。強靭、無敵、最強! 強靭、無敵、最強!」

 

  嵐と雷鳴に負けじと腹の底から声を出す。何度も暗示を繰り返している内に、俺にも勇気が湧いてきたような気がした。雨風に強く打たれまくっている状況下だというのに、ステップを刻みたくなる。

  手を繋げば受ける雷のダメージも大した事ないと知れれば、怖がる必要はないとテンションが上がる。今なら名護さんのテーマソングを熱唱して、カラオケで満点が取れそうだ。

 

「強靭、ムテキ、サイキョー!」

 

  俺が根気よく叫んでいた甲斐もあり、メビオもとうとう追従を決める。最初は恥ずかしかったのか、声量は少し心許なかったが、数回以上も連呼すれば躊躇は全く感じられなくなった。むしろ楽しそうでもある。ようこそ、こちら側へ。

  一人では怖くても、皆で行けば怖くない。メビオと仲良く嵐の中を突き進み、時々放たれる電流の塊をひたすら浴びる。並みの人間ではできない真似をこうして易々と実行できているあたりに関して、グロンギとして生まれた事に感謝の念が尽きなかった。例え化け物でも、メビオが側にいるから寂しくない。

  かくして、グロンギの頑丈さを存分に活かした度重なる雷浴びにより、電気が身体中に溜まったような感覚を抱く。それはメビオも同じだったようで、ポツリと言葉をこぼした。

 

「……ちょっとビリビリしてきた」

 

「そうだな。もうそろそろで切り上げ――」

 

  それが訪れるのはあまりにも突然すぎた。俺がそう呟いた直後、山を越えた遥か向こう側から一本の巨大な火柱が天へと登っていったのである。

  見かけたのか偶然すぎて空いた口が塞がらなかった。豪雨の中であっても火柱は発生の勢いを削がれず、花火のように存在感を伝える。火柱にメビオも気がついた時には、微かな地面の揺れと空気に重たく響く爆発音、突風がやって来た。

  それらは堪えられない事はなかったが、やはり少しはよろめいてしまう。土砂崩れは起こっていないが、こうも一気に不安要素を増やされてしまうと気が気でなくなる。火柱へのデジャブもあった。

 

「……帰ろうか」

 

  俺がそう言うと、メビオはコクコクと素早く頷く。そんな訳で俺たちのライジングは早々に幕を閉じた。

  帰路に着いた後はトントン拍子で進んでいき、あっという間に家の中へと転がり込む。二人して人間態に戻ったら、囲炉裏の火を焚いて囲む。手拭いで濡れた身体を拭きながら、焚き火の前で暖まる。

 

「暖かいな」

 

「そうだな」

 

  焚き火のちょうど良い熱量を堪能するメビオに相槌を打つと、彼女はウトウトと身体を揺らし始める。実に眠たげで、遂には俺の肩に頭を乗せてスヤスヤと寝息を立てた。どうやらお疲れのようだった。

  そっと横たわらせようとするものの、メビオは俺の手をぎゅっと掴んで離してくれない。しばらくはこの体勢のままである事を強いられていた。だが、悪い気はしない。

  そうして焚き火でじっと暖まっていると、雨の匂いが少し弱まる。冷たくなった気温も先ほどよりも和らいだ気がするので、きっと嵐は終わったのだろう。雷鳴は無理だが、竪穴式住居の屋根は驚くぐらいのレベルで雨音を吸収する。

  例えどんなに曇ったとしても、やがて青空になる。その時は一度、輝く太陽を拝むとするか。

 

  そして後日――

 

「ダグバが封印された」

 

「えっ」

 

  バルバから突如として、耳を疑うような連絡が入ってきた。

 





Q.名護さんとは?

A.名護さんとは世界の希望。輝く太陽のように決して消える事はない。それすなわち、太陽の子である仮面ライダーBlackRXは名護さんの息子でもある(とんでもないこじつけと暴論)

Q.火柱……アメイジングマイティキック……いや、下手な推測はよそう。

A.もう少しで答えに辿り着けるじゃないですか。

Q.天啓が降りてきた時のBGMは?

A.名護さんの Fight for justice です。


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ゲゲルは天下一武道会みたいなのが良かった


双子一緒にゲゲルに挑んだグロンギがいるらしい。バヅー、バダー兄弟とどこで差ができたのだろうか。


 ダグバ封印の報は瞬く間にグロンギの集落中に広がった。前回やって来た嵐は、ダグバがクウガ軍団と戦う際にもたらされたものらしい。ンの特権を乱用するだなんて、どれだけ戦闘狂いなんだ……。あまつさえ、クウガ軍団に甚大な被害を与えたそうだから、頭を抱えていられない。

  族長不在の事態に陥り、ンのベルトもダグバもろとも封印。封印を解こうにも、安置場所であるリントの里に控えるクウガ軍団を相手取らないといけないなど、色々面倒な事になっている。究極の闇が起こせない、グロンギの楽園が作れないと一部の連中が騒いでいるが、俺には関係ない話だな。やったぜ。

  また、族長不在をとっとと解消するため、ゴ集団によるゲリザギバスゲゲルが繰り上げとなった。きっとガドル閣下が族長の座に収まるだろうが、後回しにされたズ集団とメ集団は大半が反対していた。それも無理やり黙らされたのだけど。

  そんな訳で、俺は早々にズ、メの集会を脱け出そうとする。

 

「ブットバソウル! イヤッフッフウゥゥゥ!!」

 

  こんなに嬉しい事はない。喜びのあまり、ついつい側転を繰り返しながら建物の出口へと向かう。突然の俺の奇声に驚いて目を見開かせるヤツもいたが、そんな彼らの視線はどうでも良かった。

  しかし――

 

「ゲリザギバスゲゲルには貴様も強制参加だ、ガミオ」

 

「へ?」

 

  凛として放たれたバルバの言葉に、俺は思わず立ち止まる。そのまま振り向いて彼女の顔を二度見するが、硬い表情が変わる事はない。

  それで今の発言が嘘ではないと察してしまったせいで、全身がわなわなと震え出す。ゲリザギバスゲゲルの強制参加なんてとても受け入れられず、たちまち叫ぶ。

 

「う、嘘だ! 俺はズなんだぞぉ! ザインが可哀想だぞぉ!!」

 

  遠くに座っているザインがビクッと反応するが、バルバはそれを歯牙にも掛けない。どんどん話を進める。

 

「貴様は究極の闇そのものになれる器がある。辞退は許されない。騒ぐ分には構わないが、拒否を示せばゴが貴様を殺しにくるだろう」

 

「ちぃっ! ならば仕方ない。奥の手だ」

 

  まさに無慈悲な宣告。俺は舌打ちしつつ、背負っていたバッグから一つの包みを取り出す。ガドル閣下たちと戦うべきか否かを考えると、決断は早く済んだ。

  そうしてバルバの元まで行き、包みを開いて中身を見せる。そこには、たくさんの粟団子があった。糖はモーフィングパワーの応用で果物から抽出したもの使用しているので、結構甘くて美味しい。

  これぞ俺に残された平和的解決手段、【食べ物で釣る】。バルバは冷静さを保っているが、粟団子に初めて触れた感じが薄々と顔に見え隠れしていた。

 

「それは何だ?」

 

「お菓子です。毒はありません」

 

  バルバの尋ねに答えるや否や、粟団子を一個掴んで半分に千切る。それから彼女の目の前に半分こにした粟団子を美味しそうに食べて、もう片方を差し出す。

  これを受けて微動だにしなくなるバルバ。すると、いつの間にか俺の隣に来ていたメビオも包みの中の粟団子を一つ食べる。このいやしんぼめ。だが構わない。

  そして、幸せそうな雰囲気を出しながらモグモグ食べているメビオに押される形か、バルバはようやく粟団子を口にする。

  多くの衆人観衆が静かに見守る中、バルバは遂に粟団子に喉に通す。飲み込む音が僅かに聞こえた直後、彼女はおもむろに喋り始める。

 

「……いくらかの融通は利かせよう」

 

  その瞬間、俺は心の中でガッツポーズを決めた。証人は集会に来たグロンギ全員、言質は取らせてもらった。

 

「うっわ、バルバを買収しちゃったよ」

 

「人聞きの悪い事を言うな、ガルメ。買収ではなく交渉と呼べ」

 

  傍から飛び出したガルメの言葉にすかさず訂正を入れる。別に賄賂ではないので、現代の法にも一切触れていない。セーフだ。

  次に俺は、迷わずバルバに己の要望を告げる。

 

「じゃあゲリザギバスゲゲルの辞退を――」

 

「ダメだ」

 

「じゃあゲゲルの内容は天下一武道会方式で! 殺しは禁止の!」

 

「ダメだ」

 

「ザインに出場権利を渡します!」

 

「ダメだ」

 

「リントを殺したって何のステータスにもならないと思います! 強くなりたいなら素直に鍛えればいいじゃないですかぁ!! リントを殺す合理的な理由がありません!! 無駄な殺生反対!」

 

「楽しいよ」

 

「ギノガは黙れ! こちとら楽しくないんじゃい!」

 

  どれを言っても却下され、挙げ句の果てにはギノガから野次が入ってくる。オカマ野郎から楽しいと言われても、ただでさえゲゲルの内容がアレだから俺の心には全然響かない。

 

「ゲゲルを拒むとはグロンギの面汚しめ……」

 

  その時、そんなゴオマの呟きを確かに聞き取った。嗅覚と同じく、俺の強化されている聴力は伊達じゃない。今のを捨て置くのは少し我慢ならなかった。

  刹那、バッグの中から片手に収まるコンパクトサイズの銅鏡を手に持ち、建物内の日が差している場所へと移動する。日光の量は不足気味だが、銅鏡で反射させる分には問題ない。即座に反射光をゴオマに向けた。

 

「日輪の力を借りて今必殺の」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

  半ば棒読みで口上を口ずさむ俺に対し、些細な光でも滅法嫌がるゴオマ。彼が悶絶したところで再度バルバへと近づく。その際、包みの中身を何度もチラ見させる事も忘れない。案の定、バルバは顔を少し歪ませた。

  彼女は宙と粟団子を交互に見やりながら、しばらく唸る。だが、悩む時間は十秒も経たなかった。

 

「ならば、ルール違反者の処刑はどうだ? 今回の一件で勝手にゲゲルを始める者が後を絶たなくなっている。主にズを中心にして。私が妥協できるのはここまでだ」

 

  あ、やっぱり相手を殺すのは絶対なんですね。

  その後、頑固なバルバとどんなに話し込んでも更なる譲歩は叶わず、粟団子を渋々渡してしまう結果となった。

 

 ※

 

  それから我が家に帰宅して。ゲリザギバスゲゲルからは逃れられない以上、心情的には色々と不完全燃焼だった。

 

「おのぉぉれえぇぇぇぇ!!」

 

  喉を枯らさん勢いで咆哮する。今回ばかりは、大人しく胸の内でひたすら秘めておく訳にはいかない。イライラを八つ当たりで解消したい気分だ。

 

「ガミオばかりゲゲルができてずるいぞ! ずるいずるいずるい!」

 

  その上、今回の処遇にはメビオもご立腹だった。怒髪天の様相で俺に攻めかかってくる。何時にも増して殺気立っていた。

  容赦がない。特に手刀に至っては、食らえばものすごく痛そうだ。それでも反射的に熾烈なカウンターを決めたくなるのを抑えて、あくまでも寝技や関節技で制するように留める。

  回避と捌きを全力で徹した先に、ふと勝ち筋が見えてくる。勝利へ至る行動に移すのは秒にも満たない。一瞬でメビオの虚を突き、ロメロスペシャルを放つ。メビオは「ふにゃあぁぁぁ!!」と悲鳴を上げた。

  しかし、メビオを降参させるのはかなりの根気が必要だった。ロメロスペシャルが決まった後でもクタクタになるまで抵抗を続けて、最後はお互いスタミナ切れで地面に横たわる。

 

「ハァ……ハァ……ずるいって言われてもなぁ……。メビオはどうしてゲゲルをしたいんだよ? ンの称号がそんなに欲しいん?」

 

  試しにそう聞いてみると、メビオは首を傾げて悩み出す。そして――

 

「……楽しいから? あ、でもわからないぞ。他にもずっと楽しい事が見つかったから、リントを狩るのがつまらなく見える」

 

「つまるところ、ラはクソ運営。はっきりわかるもんだ」

 

  自分なりに答えを出すものの、メビオは微妙な顔をしていた。彼女にすらこんな評価を下されているのだから、ゲゲルの運営は底が知れる。荒ぶる3D将棋やバルチャスでは駄目なのか?

  とにかく気を取り直して俺たちはゆっくり起き上がる。竹の水筒で水分補給を済まして、今度は別の事を始める。メビオと散々取っ組み合いしたおかげで、イライラは全て吹き飛んだ。

 

「よし。ビリビリの練習やるぞ」

 

「うん」

 

  俺の言葉にメビオは素直に頷く。ビリビリとは雷の力の制御を指すのだが、これを人間態でやってみるとマッサージのように心地好かった。更に二人で協力すれば、心地好さは倍増する。

  メビオと向かい合って両手を繋ぎ、間髪入れずに制御を開始する。すると微弱な電流が身体中を滞りなく巡る感覚に襲われ、否応なしに肩の力が抜ける。癖になりそうだ。

  メビオの方を見てみると、気持ちよさげなだらしない顔になっていた。頬に筋肉が緩みきって、目を細める。

 

「「ビリビリ~」」

 

  不意に重なった声は、全力起動の扇風機に向けて発声するかのように震えていた。

 

  そんなこんなでやりたい事を一通り終えると、弓矢とナイフを携えて遠出する。メビオも同行してきた。

  ただし今回はいつもの狩りと違って、ルール違反者探しも兼ねている。その要となるのが、バルバから受け取った白バラのセンサーだ。目標が近くにいれば感知してくれるらしい。

  また、俺に課せられたゲゲルのルールが他とすごく変わっていて、ここで標的を倒しても一気にゴまでは昇格できない。あくまでズ、メ、ゴと順々に上げられる模様だ。昇格したくないのが本音である。

  つまり、ゲゲルを三回通しで繰り返せという話だ。狙いが人間ではなくなったのが不幸中の幸いだろうか。尚、他のゴのゲリザギバスゲゲルも並行しているとの事。そちらの監督はドルドに一任されている。

  ちなみに、最初のプレイヤーはゴの恥さらしである猪怪人、ジイノだ。すぐクウガに負けそう。

  ただ、標的が個人になったおかげで俺に制限時間は課せられなかった。警察やツイッター、SMS等が存在しないこの御時世だからこそ、理由はなんとなくわかる。怪人態に変身できなければ、己の足だけでただっ広い長野県をしらみ潰しに捜索する無理ゲーと化していた。

  その最中、何故かご機嫌斜めになったメビオが、俺の服に留められた白バラセンサーに何度もパンチを仕掛けてくる。獲物を探す片手間で全て防いでいるが、流石に執拗すぎたので注意する。

 

「こらこら。猫パンチはやめろ」

 

「ガミオ、それを外せ。ムカムカする」

 

「焼き餅かよ」

 

  そう言うとメビオは頬をプクリとさせて、そっぽを向ける。なかなか機嫌が直る様子のない彼女に、俺はほとほと困り果てた。

  協力者の是非に関する説明は、バルバから何もなかった。それならメビオの存在は黙認されていると見て問題なさそうだが、少し不安だ。いざの時は口八丁でバルバを言い負かす以外に手はないだろう。一方で武器の使用は禁止とか言われていたから、これは守らないと。

  捜索に掛かる時間を少しでも節約するため、途中からは怪人態で山や川、森を駆け抜けていく。ルール違反勢は大概人里に降りている脳筋のようなイメージがあるが、ガルメみたいに賢く安全にゲゲルをやっている可能性も否めない。狩猟や採取などで人里から離れているのを徹底的に襲いそうなのが嫌すぎる。

  また、クウガとの会敵のリスクも最後に回しておきたい。下手を打てば、ゴのグロンギとの激闘に巻き込まれかねないから。

 

  だが、探せど探せど見つからない。発見したのは偶然出会ったイノシシだけだ。素早く逃げ出すイノシシの背中へ矢を放ち、一気に追い縋ったメビオがきっちり仕留める。

  そんな時、遠くの方から誰かの叫び声が聞こえてきた。なんやかんやで白バラセンサーも地味に反応していた気がしたので、耳と鼻を頼りに俺はすぐさま現場へ急行する。イノシシに気を取られていたメビオは完全に出遅れた形になった。

  やがて、一体の怪人がカゴを背負う男性をじわりじわりと追い詰めているのが目に写る。敢えて男性をすぐに殺さず、完全に遊んでいる様子だ。

  奴が遊び気分でいるのが、男性を助けるまたとないチャンスだ。これを逃せば、男性の命は保証できなくなる。

 

  間に合え――!

 

「待った!」

 

「ん? ぐべっ!?」

 

  奴の肩に手を置いて注意を男性から逸らさせた瞬間、その顔面を殴り飛ばす。怪人は大きく吹き飛び、男性から離れる。

 

「“早く逃げろ”」

 

「ひ、ひいぃぃぃ!」

 

  そのまま男性を庇うように立ち回りつつ日本語で逃走を促すが、彼は感謝の言葉一つすら述べずに姿を眩ます。俺が怪人態のままだと気づくのは、割りとすぐだった。怖がらせてごめんなさい。

  さて、気持ちを切り替えて、先ほど殴り飛ばした怪人と改めて対面する。ネズミの特徴が窺える事から、奴はきっとズの双子であるネズマ・ネズモ兄弟の片割れだろう。

  もう一人はどこに? 別行動? 先に逃げた男性の姿が頭によぎるが、目の前にいるコイツも看過できない。匂いで探ろうにも、運悪く風下に立ってしまったようだ。こうなるなら嫌われるのを覚悟で男性に付きっきりになるべきだった。

 

「貴様はガミオ……リントを助けたつもりかぁ?」

 

  顔面パンチのダメージから立ち直ったネズマ――ネズモと区別がつかないから暫定で――は苛立ちを見せる。歯ぎしりしてくれるなら何よりだ。

  どうせなら、もっと冷静さを欠いて欲しい。そう思いながら俺は、なるべくネズマを挑発するように心掛ける。

 

「人助けを見るのが嫌なら誰も襲うな。そうすれば平和だから」

 

「癪に触るヤツめ。だが、いつから相手が一人だと錯覚していた?」

 

  ネズマが急に余裕ぶるのも束の間、頭上から殺気が降ってくる。恐らくは、木の上に待機していたのだろう。双子揃ってここにいるなら良し。

  正面と頭上の両方向に注意しながら咄嗟に身構える。この程度の複数対一をこなせるだけの自信はあった。それこそ、ステゴロで十分なくらいだ。

  まず最初に、頭上から来るネズモを迎撃――しようとしたところ、怪人態のメビオが音もなくネズモにドロップキックをかましたので難なきを得た。

  なんて登場の仕方をしてくれたんだ、メビオ。ネズモは綺麗に放物線を描きながら地面に落ち、ネズマは愕然としている。そりゃそうだ。

  当のメビオはイノシシを脇に抱えたまま、俺にどや顔を披露する。いかにも褒めて欲しそうな眼差しだ。

  こうなってしまっては仕方ない。たじたじになるのを我慢して、精一杯の出任せを双子に言い放つ。

 

「悪いな、こっちもコンビなんだ」

 

「「……上等だああぁぁぁ!!」」

 

  かくして、俺たち二人と双子との戦いの火蓋が切って落とされた。弄びながら人の命を摘み取ろうとしたコイツらに、慈悲なんてあげようがなかった。

  この後、ネズマ・ネズモをボコボコに打ちのめした上に、最後の一撃として蹴りを食らわしたら爆発四散させてしまった。きっとゲブロンが誘引爆発でもしたのだろう。そう思う事にする。

 





Q.もしも白バラセンサーを捨てたら?

A.

ガドル「ゲゲルをやりたくない? なら決闘を申し込む」

ドルド「応じろ」

ガミオ「これ勝っても実質、族長の座を手に入れてしまう罠しか待ってないんだけど」


Q.バルバが粟団子を知らない? いや、そんなバカな……

A.ゴオマの主食が吸血だったり、太陽に弱かったりと、グロンギは怪人態の元ネタの特性を幾つか兼ね備えていると判断しました。
つまり、この理論でいくならバルバ姐さんは植物系怪人なので、水と土の養分、光合成だけで生きていられるという事に……?




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たった一つの猪を叩いて砕く(血抜き、解体の比喩)。メビオがやらねば誰がやる。


サブタイへのアンサー

A.ガミオだよ


 今晩の献立は猪鍋だ。山菜も投入して、色鮮やかにしている。極めつけは、長年掛けてようやく完成に至った魚醤をスープにしている事だろうか。糖も加えたのでそこそこ甘い。ただし、肉と魚の味が喧嘩してしまうのがネックだが。

  この手の調味料を作るのは本当に長かった。発酵のはの字も知らなかったので、悪戦苦闘は必定。一から発酵倉を建てる事から始まったりと、知識がうろ覚えのせいで色々大変すぎた。醤油は序盤で諦めた。

  大きな土鍋で具材をグツグツ煮込む。なかなか美味しそうな匂いもしてきた。ここで一枚のうちわを取りだし、とある方向へはためかせる。

  料理の香りがほのかに飛んでいく先には、バルバが佇んでいた。香りを前にして表情が僅かに緩むが、それだけだった。スタスタと歩いてきて、話し掛けてくる。

 

「ネズマとネズモを倒したようだな」

 

「はい。あ、夕飯いかがですか?」

 

「……いただこう」

 

  近くにあった木製手作りの丸イスにバルバは腰掛ける。こうも誘いに乗ってくれるのは少々意外だった。

  メビオはバルバを威嚇しながら、俺の隣に陣取る。ピタッと側にくっついて離れようとせず、相手を睨み付ける。だが、バルバのまるで気にも留めていない様子に、だんだん苛立ちを募らせていた。

  それでもお椀に盛り付けを始めれば、バルバへの警戒も忘れて真っ先に夕食の方に釘付けになる。そうして三人一緒に猪鍋をいただいた。俺とメビオの食事の挨拶にきょとんとするバルバの姿は新鮮だった。

  完食して片付けを終えた後、バルバが何やらしっかりとした話を求めていたので、俺は内心びくびくしながら家の中へと案内する。この人に立ち話は余計に失礼な気がした。

  ただし、悠々と腰を降ろしてバルバと相対するのも束の間、メビオが俺の膝に頭を預けてくる。何度も声を掛けても一向に離れてくれない。それどころか、余計に頑なになって俺の膝枕を堪能しだした。瞼をじっと重く閉じる。

  どうしよう。メビオの対処に困っていると、バルバは構わずに話を切り出してくる。まさかのスルーに不意打ちを受け、こちらはしどろもどろになりそうだった。

 

「ガミオ。何故ゲゲルを拒む。貴様にもゲゲルを求めたくなる衝動があるはずだ」

 

  そして案の定、話の内容は真剣にならざるを得ないものだった。俺はメビオを放置した状態で急ぎ体裁を整え、真摯な気持ちで彼女の問に答える。

 

「やたらな血を見るのが嫌なんです。ゲゲルをやって喜ぶなんて、それは心がどこか壊れた時だ。俺は自分の心をずっと守りたい。ほのぼの暮らしていきたい。闘争もいいかもしれないけど、ほんのちょっとで十分です」

 

「ゲゲルは我々グロンギの存在理由だ。ゲゲルなくして、生きていく意味がない」

 

「なら自力で新しく作ります。ゲゲルがなくても生きていける」

 

「変わっているな。何が貴様をそういう風にしたのか……」

 

  前世です。メビオに至っては俺の影響をもろに受けています。

  だが、そんな事を言えるはずがない。頭の正気を疑われるし、客観的な視点に基づいての証明が不可能だ。だから、その質問には答えられない。

  そうやって黙っていると、バルバは独りでに納得したような素振りを見せる。次にはその曇りない瞳で俺を見つめ、おもむろに口を開く。メビオと違って彼女の雰囲気は、えらく神秘性に満ちていた。

 

「まぁ、良いだろう。バックルを出せ。メの昇格の儀を済ませる」

 

「……え? こんなあっさりですか?」

 

「次のゲゲルはこうは行かない。ルール違反者は両手で数えられる程度だが、中には手練れのメもいる。今度は違反者全員を仕留めろ。無論、武器の使用は認めよう。クウガがゴに手を焼いている今が絶好の機会だ」

 

  トントン拍子でゲゲルをクリアしてしまった事に未だ実感が湧かない俺は、思わずメビオの寝顔を見る。バルバの中での彼女の扱いがとても気になった。

  予想通り、メビオの同行はルール違反じゃなかった? そう訝しむと、バルバは俺の内心を察したかのように一言付け加えた。

 

「メビオに関しては特に言及しない。好きにしろ。……貴様らの変化を最後まで見届けたくなった」

 

  それから薄く笑うバルバ。彼女の立場を考えれば、その笑みは得体が知れないものだ。殺し合いの中で笑顔がより輝くダグバとは、感じられる恐怖の方向性が変わっている。

  もちろん、ゲゲルを辞退すればガドル閣下が粛清ついでに俺へ決闘を申し込んでくるかもしれないので、下手に逃げようがない。拒否なんて示せなかった。

  ただ、終始メビオが俺の膝にがっしりと掴まっていたおかげで、シリアスな雰囲気が中和された感は否めない。メビオに膝枕している赤狼の怪人の元に、指輪を構えながら歩み寄ってくるバブリーな美女という構図が不覚にも出来上がった。

  指輪が怪人態の俺の腰に巻かれたベルトのバックルに嵌め込まれる。すると、ベルトの色がブロンズから銀へと瞬く間に変化した。それに対する身体の違和感は特にない。精々、赤い毛並みが少し濃くなった程度だろうか。

  その後、バルバは「ではな」と言い残すや否や、突如として蒔かれたバラの花片の中に紛れ、忽然と姿を消した。

  きっと瞬間移動だな。そんな風に見当づけた俺は即座に怪人態を解除する。地面に落ちたバラの片付けは後回しで良いかな……。

  それよりも気にしたいのメビオの方だ。見てみる度に表情が妙に忙しく変わっているので、狸寝入りにしか思えなくなってきた。軽く身体を揺さぶってもなかなか起きないが、試しにと遊び半分の言葉を投げる。

 

「ほらメビオ、起きろ。牛になるぞ」

 

「へ!?」

 

  瞬間、メビオは大慌てで起き上がり、ぱっぱと自分の身体を確認する。何も変化がなかったと胸を撫で下ろすのも束の間、軽度の怒りを滲ませた様相でこちらの姿を視界に捉える。

 

「あ、ウソをついたな、ガミオ」

 

「メビオが起きたらすぐ消えちゃったよ」

 

「ウソだ!」

 

「あっこら、飛び掛かんな!」

 

  真正面から掴み掛かってくるメビオ。手早く裁こうにも相手の抵抗が粘り強く、膠着状態へと陥る。だが、それにしては手加減されている感じが伝わってくる。心なしか、メビオは俺を傷つけない程度で戯れているように見えた。

  次第に掴む力が弱まり、遂に脱力したメビオは俺にぐったりのし掛かる。今度は俺の肩に顎を乗せて、優しく抱き締めてきた。彼女の髪の毛が顔に掛かり、少しこそばゆい。上機嫌に鼻歌も歌っているので、しばらくは彼女の好きにさせてみた。

  すると、メビオはおもむろに俺の膝の上に座り、満面の笑みを浮かべた状態で名を呼ぶ。

 

「ガミオ」

 

「ん?」

 

「私を見ろ」

 

  言われた通りにしてみれば、すかさず俺の顔に彼女の手が添えられる。空いた手で俺の腕を掴み、自身の前へと提げさせる。込められた力は強く、簡単には抜け出せそうになかった。

  しかし、悪い気はしない。今のメビオの様子はまるで、主人にじゃれる飼い猫のように可愛らしげがある。こちらから頭を撫でてみると、より一層と声を鳴らした。

 

「んふふ♪」

 

「嬉しそうだなぁ……」

 

「ゲゲルの時もガミオと一緒にいられるからだぞ。離ればなれはイヤだ」

 

  特に恥じらいもなくばっさり言い切ってみせたメビオ。割と遠慮がなかった彼女の言葉に俺は面食らい、気後れするばかりだ。

  まぁ、かくはともあれ、メビオの存在は俺の中でもびっくりするぐらいに大きくなっている。第一の生き甲斐とも呼べようか。メビオがいない日常というのは、あまり考えたくない。

  そうなると、なおさらゲゲルに失敗は許されないな。メビオとほのぼの暮らしていきたいと願う以上は、死んだり封印されたりする訳には行かない。何が何でも生き残らないと。

  ならばと決心をつけて、多少のドギマギを堪えながら彼女の気持ちに応えた。

 

「俺もだよ。それじゃ、歯磨きするか」

 

  この発言に一拍置いてからメビオの頬が赤く染まる。こればかりは彼女も堪えられなかったようだ。もじもじと身をよじらせる姿は、俺に庇護欲をじわじわと掻き立たせた。

 

  ゲゲルの相手がグロンギなら、もうウジウジと悩む必要はなくなる。簡単に人を殺めていく連中に容赦はいらない。バルバが指定したゲゲルのルールであるため、裏切り者扱いからの粛清コンボを受ける心配もない。片っ端から倒していく。

  それで例え少なくても、身勝手なゲゲルで失われるはずだった人間たちの命が間接的に救えるのに越した事はないだろう。主に大勢を救うのはクウガ軍団に任せる。「もうあいつらに全部任せていいんじゃないかな?」と呼べる次元の存在だから。

  本格的にグロンギを裏切るには、俺に勇気が足りなさすぎた。ピーコックアンデッドに土下座し、モズク風呂に浸かってどうにかなるレベルじゃない。ダグバの次にガドル閣下が恐ろしすぎる。今の状態で喧嘩を吹っ掛けても負けそう……。

  それでも唯一の希望はダグバの不在だ。あくまで封印に留まっているだけだとしても、理不尽の塊がいないだけ気持ちが軽くなる。いつまでも足をすくませていられるかと、踏ん切りがつく。

 

  そうして俺たちは、スタスタと歯ブラシを取りにいった。

 





Q.なんだよ、ガミオ。びびってんのか? 破壊のカリスマ(笑)なんて楽勝だろ?

A.ガドル閣下をそんな風に貶めるなんて、恐ろしい奴……。あ、ガドル閣下、こいつです。あんなのでもリントの戦士らしいですよ。はい、肋骨が三本ぐらい折れても果敢にグロンギに立ち向かえるだけのガッツがあります。もれなくゲゲルのターゲットですね。


Q.どうしてガドル閣下は警察ではなく自衛隊を狙わなかったのだろうか?

A.自衛隊はリントを狩るのではなく、リントを守る人ですから。(ちょっと微妙な答え)
それとグロンギが個人犯の範疇を越えない事には、対応はいつまでも警察のお仕事のままですし。


Q.ガミオはガドル閣下に勝てないの?

A.今の彼では負けるでしょう。ガドル閣下がライジングしてなくても、ギリギリ互角な程度です。判断基準はTV版から。アメイジングクウガでガドル電撃体に辛勝はちょっと……悲観的にならざるを得ません。




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GAMIO ~ 赤狼騎士鎧伝 前編


ギイガと同じように軟体動物がモチーフなのに、クウガ・マイティフォームにやられてしまった情けないグロンギがいるらしい。


 あの後、なんやかんやゲゲルをクリアしてゴまで昇格できた。今回のゲゲルのプレイヤーは俺なので、最後まで付き合ってくれたメビオは昇格していない。まぁ、メビオを特別扱いしたら周りがうるさくなるから妥当だろう。

  なお、俺のゲゲルの様子をダイジェストで送ると次のようになる。

 

  一回戦目。ルール違反者のタコ怪人、ズ・ダーゴ・ギ。モーフィングパワーでナイフから変化させた専用長剣――名前に困ったので一応、魔戒剣と呼称――で撃破。雷の力を纏わせていたせいか、お腹の中のゲブロンを狙った訳でもないのに爆発四散した。

 

「牙突ゼロスタイル!」

 

「ぎょええぇぇぇぇ!!」

 

  二回戦目。ルール違反者のクジラ怪人、ズ・グジラ・ギ。弓矢をモーフィングパワーで変化させた専用弓――略称、ビームボウにする――で、水中に逃げようとしたところを寸手で撃破。爆発四散。

  ちなみにビームボウの由来は、つがえた矢がいきなり青く光った事に起因する。

 

「狙い撃つぜ!」

 

「水があれば最強なのにぃぃぃ!?」

 

  三回戦目。ルール違反者で共同戦線を張ってきたヤモリ怪人のズ・ジャモル・レと、トカゲ怪人のメ・ガーゲ・レ。メビオと協力し、彼女の飛び蹴りでぶっ飛ばしてから、予め配置に着いていた俺が背中に殴打をかまして撃破。爆発四散。

  また、アゴンさん特注の全身鎧を使い始めたのも、この辺りとなる。鎧の癖して、動き易さは普段とほぼ変わらなかった。

 

「「食らえ!!」」

 

「あべしっ!?」

 

「ジャモルが逝ったか……。だが所詮、奴はズ。ムセギジャジャの最弱集団よ」

 

「「次はお前だよ」」

 

「あ、あの……待って――ひでぶ!?」

 

  四回戦目。ルール違反者で、お互いが勝手に始めたゲゲルをお互いに妨害しているウツボカヅラ怪人のズ・ガスポ・デと、ハエ怪人のメ・イバエ・バ。鎬を削り合っているのを、俺とメビオが乱入してきた形だ。

  この時、まだ十にも満たないような姉弟らしき子どもの二人が、人質紛いの扱いをされていた。正直に言って二体のグロンギが潰し合っているのを遠くから眺めたかったが、勝者が決まってしまえば子どもたちの命はなかったので、漁夫の利を狙うのを渋々諦めた。

  また、あいつらが人質戦法を使うほどの知恵があるか疑わしいが、念には念を入れて。人質救出を最優先にした後、子どもたちを逃がしてガスポとイバエを食い止めた。イバエはメビオに瞬殺されたが、ガスポは地味に強かった。

  催涙効果のある蜜の香りや、腕から伸ばしたツタの攻撃。更には――あくまで推測の域を出ないが――人の視神経に作用して自分の姿を見えなくするフェロモンをばらまいたりと、結構な特殊能力に恵まれていた。改めて思い返してみれば、ガルメみたいな奴だな。

  特にツタ攻撃が腕から射出もできてヒヤヒヤしたが、子どもたちの背に流れ弾が飛ばないようにきっちり全て捌いた。一緒に戦ってくれるメビオが心強かった。

  こうしてガスポは、魔戒剣の一閃で撃破。爆発四散。その後、子どもたちの事が気掛かりになって見に行くと、二人は物陰でこちらをじっと見守っていたようだった。逃げはしなかったが、近づいてくる俺たちに警戒を解かない。

  メビオは途中で人間態へと戻った一方、俺は鎧姿のままだ。子どもたちの安否がわかったなら長居は無用だと思いつつも、立ち去る前に一つだけ言葉を残す。

 

「大丈夫か?」

 

  一応、掛けたのはリントの言葉だ。弟はピクッと固まっていたが、姉の方はうんと強く頷き、口を開く。

 

「ありがとう!」

 

  それを聞いた瞬間、不覚にも涙がぶわっと溢れ出てしまった。とっさに子どもたちには背を向けていたので、見られた心配はない。俺たちは静かに去っていった。

  ただしこの被っている兜。変に機能や視界が優れているせいか、溜めた涙を外に流すみたいだった。鎧越しでも俺が泣いているのが丸わかりで、これに気づいたメビオが案じてくる。

 

「ガミオ? 泣いてるのか?」

 

「嬉し涙だよ、気にすんな。てか、お前もなんだか肩がふるふるしてるぞ」

 

「……あっ! これは違うぞ! えっと、その……ホワホワしてるだけだ、ホワホワ! あのリントのせいだからな!」

 

  そう言ってブンブンと首を横に振るメビオ。そんな動作とは裏腹に、表情は完全に嬉しそうだった。それからポーカーフェイスに努めた直後、「えへへ」と笑い声を小さく漏らす。

  その感謝を受けて喜ぶ気持ち、わかるよ。俺もてっきり誰にも悟られず、誰にも感謝されずにグロンギを倒していくものだと思っていたから。気休め程度でもお礼の言葉で心が救われる。

 

  五回戦目。乱入者お昼の部のメ・ガドラ・ダと、夜の部のズ・ゴオマ・グ。この件に関して後にバルバへ抗議したが、これもゲゲルの一環だと一蹴された。

  ガドラが乱入してきた理由は、曲がりなりにも俺へリベンジする機会が手に入ったから。マッスル・ドッキングを仕掛けた事を何度謝っても聞く耳を持ってくれず、激しく攻め立ててくるばかりだった。

 

「もはや俺にキン肉バスターとキン肉ドライバーは通用しない!」

 

「そうかよ! マッスルスパーク!」

 

「なにぃ!?」

 

  もはや戦う事でしかわかり合えない状況に、俺はマッスルスパークの発動を覚悟した。かくして、ガドラを戦闘不能へと追い込んで撃退する。

  次にゴオマだが、反射光を当てた先日の件を深く根に持たれていた。その上、彼の主食は血なので、食べ物で平和的解決を図るのはほぼ不可能。レアのステーキがあれば話が別だったかもしれないが、俺たちの捕まえた鹿がボロボロにされた時点で交渉の余地なしと判断した。

 

「グロンギの誇りを……リントを殺す快楽を忘れたか、ガミオ!」

 

「端から持ち合わせちゃいない! スクリュードライバー!」

 

「ぐわあああぁぁぁ!?」

 

  俺はゴオマに怒りのスクリュードライバーを炸裂させる。本心では彼を生かしたくなかったが、それでは何の罰にもならない気がした。反省は生きている内でないと、意味がない。

  なので、気絶したゴオマを縄で簀巻きにし、適当な大木に拘束。メビオが進んで手伝ってくれたおかげで、それほど時間は掛からなかった。奴には身動きできない状況下にて、朝日を存分に浴びせられる罰を与える。

  結果、翌日の朝には遠くの方からゴオマの絶叫が木霊した。ふと声が止んだ時は「死んだか?」と早とちりしたが、アイツも伊達にグロンギではない。自力で拘束から抜けたようだった。

  後日に再会してみると、ゴオマは俺から黙って逃げるようになっていた。追い掛けようとすると脱兎の如く逃げ出す。朝日の刑が効いたようで何よりだ。次はないと思え。

  ちなみに、ゴオマにボロボロにされた鹿はどうにか美味しくいただいた。バルバとガドラも食事の席に居てくれたおかげで、これっぽっちも残さずに済んだ。

 

  そして問題の六回戦目。ルール違反者のゴキブリ怪人、メ・ゴリギ・バ。コイツを目の前にして、俺とメビオは形容し難い忌避感に際悩まされた。メビオに至ってはすっかり拒否反応を示してしまい、戦意喪失する。実質、戦えるのは俺一人となった。

  こうもゴリギの外見に嫌悪感を抱いてしまうのは自然の摂理なのだろうか。心身ともに調子が崩れ、全力が出せない。交戦開始序盤は俺とゴリギ双方がじっと睨み合うだけだった。この時のゴリギの気持ちは知れないが、俺はとにかく先に動きたくない気分だった。

  先手を打ってきたのはゴリギで、俺は催される気持ち悪さから防戦一辺倒。精神は常に取り乱していて、遂にはゴリギに逃走を許してしまう。

 

「くそっ……! メビオ、追い掛けるぞ!」

 

「ヤダ」

 

「へ? あ、おい。なに木の上で縮こまってるんだよ!?」

 

「イヤだ! アイツ気持ち悪い! ヤダヤダヤダ!」

 

「あ、もう……じゃあ先に行ってるぞ!」

 

「……うん」

 

  ゴリギの足はメビオと比べると遅いが、当のメビオはこうして戦線離脱。俺は一人寂しく、何とも嫌な追撃を開始する事になった。

  しかし、道中でバッタ怪人、ゴ・バダー・バとクウガの戦闘に巻き込まれてしまい、ゴリギの姿を見失ってしまう。バダーは漆黒の巨馬に、クウガはゴウラムを纏った栗毛の馬で競走中だった。ライバルが減るからという理由でバダーに狙われたり、グロンギが減るからという理由でクウガに轢き逃げされかけたり、この日は散々すぎた。

 

  かくして二人から命からがら逃げ延びた俺は、メビオを見つけて一度拠点に戻った。とうとうリントがゴウラムを投入してきたのがわかったので、急いで対策を練る必要に迫られた。ゴウラムを着た馬はレーシングカーとタメを張れる速度で走っていたので、脅威度は極めて高い。

  また、俺もいい加減に自分の足以外の移動手段を手に入れたかったのもある。バイクが欲しい。我が儘を言うならジェットスライガーが欲しい。

  そんなこんなで色々と頑張った結果、くすねた新品のゲブロンを核としたMS-06J、ザクⅡの等身大が完成した。ククルス・ドアン搭乗機のように痩せ細っているのがミソだ。素材は粘土と鉱物である。

  ちゃんと動いてくれる緑の巨人の誕生に、メビオはたちまち歓喜の声を上げた。自分たちとはだいぶ異なる機械的な存在に興味津々となり、グポーンと音を鳴らしながら光る頭部のモノアイには不思議そうな目を向けていた。

 

「ガミオ! みろみろ! コイツ、空が飛べるぞ!」

 

「ちゃんと掴まってろ! 着地するから!」

 

「へ――」

 

  バックパックのメインスラスターを吹かして垂直に高く飛ぶザクⅡの肩に、楽しげにメビオが乗っている。彼女が呆けた瞬間、スラスターで滞空できる力が失われ、ザクⅡは咄嗟に着地姿勢に入った。ザクⅡと共にみるみる内に落下し、着地の衝撃で身体を少し揺さぶられる。

  これを受けたメビオはしばらく茫然自失になっていた。俺も俺で、スラスターから焚かれたのが推進材由来の青い炎ではなく、儚げな色の円輪が連続して放たれては消えていたのに首を傾げた。

  だからといって一々細かい事を解明していくほど、猶予はない。いつまでもゴリギを放置していく訳にはいかないし、クウガに封印されてしまった場合に与えられる俺の処遇がどうなるか皆目見当がつかない。ザクⅡはぶっつけ本番で実戦投入だ。

  ザクⅡの運動性能は、雑魚のグロンギなら圧倒できるほどのものだった。装甲も固く、戦闘力はオートバジン並みを期待できる。後はせめて、ゴウラムのように馬と合体可能か否かを確認したい。

 

  しかし、不意にも七回戦目が訪れてしまう。メビオとザクⅡと一緒に馬を探している途中で、バダーを封印した直後のクウガと遭遇してしまった。ゴウラムアタックが来る前にザクⅡがそこら辺にいたポニーと合体できたのが不幸中の幸いだったろうか。

  ザクⅡは複雑怪奇な変形をしながら装着される。それに応じてポニーの肉体が程よく肥大化し、クウガの乗る馬とほぼ同じサイズになる。ザクⅡを装着したポニー――略してザニーの挙動は警戒心全開だった野生時と打って代わり、高らかに咆哮してクウガの馬をびくりと驚かせた。

  その隙に俺も自分の鎧を纏い、ザニーに乗る。クウガの相手はさすがに厳しいので、メビオは先に逃がした。これで不安要素は大体なくなった。

  クウガと改めて相対する際に構えた魔戒剣は更なる進化と巨大化を遂げて、魔戒斬馬剣へと姿を変える。明らかに大きくなっているにも関わらず、不思議と片手で振るえるほど軽かった。

  対してクウガは馬上で静かにフォームチェンジを済ませ、銀が基調となっている紫の鎧を新たに身に付ける。

 

――鋼の鎧を身に付け、地割れの如く邪悪を切り裂く戦士あり。クウガ・タイタンフォーム――

 

  クウガは俺と同じように専用長剣――タイタンソードを手にする。古代のクウガたちは封印エネルギーを存分に使いこなしているので、下手に一撃をもらう事すら危ぶまれる。鎧を着ているとはいえ、過信と油断は禁物だった。

  そうして覚悟を決めた俺はザニーを走らせ、魔戒斬馬剣を掲げながら大声を出す。大声は少しでも恐怖心を紛らせ、多少なりとも己を勇気づけるためのものだった。

 

「チェストぉぉぉ!!」

 

「なんとぉぉぉぉ!!」

 

  その結果、ギリギリのところでクウガの撃退に成功する。お互いに満身創痍すぎて、もう二度とクウガと戦いたくないと思った瞬間でもあった。

 

 

「ガミオ、ケガはないか? 大丈夫か? 」

 

「うん。大丈夫。でも……死ぬほど、疲れた……」

 

「あぁ!? おい、しっかりしろ!」

 

  何とかメビオと合流した時には、自分の身体が真っ白な灰に燃え尽きたような錯覚を抱いた。ザニーに家まで運ばれ、這う這うの体で居間に寝転がる。ここから夕飯の準備やその他諸々をするとなると、辛い以外に言葉は出なかった。

  ザニーは帰宅直後に分離させ、ポニーを森へと帰す。ザクⅡにはシーサー像の如く、玄関の前に立ってもらう。コイツへの補給は適当な石で済むようだった。手のひらサイズの石ころを口に近づけ、まるで消すように食べる姿は何とも言えない。

  それが終われば次に夕飯作りが待っていたが、突然メビオが俺を制して「ご飯は私に任せろ。ガミオは休め」と言ってきた。ものすごく不安でしかなかったが、やる気満々の彼女に強行される形で当番が決まった。

  そして――

 

「メビオ……ご飯作れたんだな」

 

「ガミオが作ってるのを見ていたからな。どうだ」

 

  見事作り上げた料理を俺の目の前に並べて、自慢気に胸を張るメビオ。献立がドングリ団子や魚の塩焼きと簡単なものだが、俺はとにかく感謝の念で一杯になりそうだった。

 

「ありがとう」

 

  自然とお礼の言葉が出る。すると徐々にメビオの態度が変わっていき、やがて照れ出す。両手を顔にやって身体を横に振る様はとても可愛かった。

  こうして俺たちは食事の席に着いたのだった。メビオの手料理は意外と美味しかった。

 





Q.バルバだけでなくガドラも食事の席にいたのは?

A.武者修行の旅に出た矢先に、簀巻きにしたゴオマを木にくくりつけるガミオとメビオに出会いました。ガミオには三度も負けた上に生かされたので、戦意はありませんでした。同席はついで、ですね。

バルバ姐さん? ガミオのゲゲルの途中経過の確認だよ。


Q.メビオの手料理食べたい。

A.残念ながら完食されました。おや? 料理に挑戦してみた不良娘、ゴ・ザザル・バがこちらをじっと見ているぞ。その手には、美味しそうな料理が盛り付けられた皿が乗っている。

ザザル「食わねぇと溶かすぞ」

これは毒を盛られていない事を祈るしかありませんね。ちなみに彼女の使う毒は、対象を一瞬で跡形もなく融解させるものです。


A.ザクⅡのスラスター噴射が変になってるんだけど。

Q.飛行型魔導アーマーのガブリエル、ブラックバーンなるものが元ネタです。詳しくはFF零式をプレイ。ちょっと相違点があるけど。





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GAMIO ~ 赤狼騎士鎧伝 後編


それは次狼でも絶狼でも牙狼でもない。


 聖なる泉枯れ果てし時、凄まじき戦士雷の如く出で太陽は闇に葬られん。

 

  全ては、ダグバがクウガたちとの戦いを待ちきれなかった事から始まる。遠くにいたダグバの存在を感知した緑のクウガが放ったペガサスボウガンの先制攻撃を受け、ただでさえ昂っていた戦闘欲求に収まりようがなくなってしまった。

  ペガサスボウガンから射たれるのは、ありったけの封印エネルギーが込められた空気の矢。下級のグロンギであれば一撃だけでたちまち封印されてしまうそれを、ダグバは耐えきる。避けるまでもなく、自身に注入された封印エネルギーを気合いで霞のように消してしまった。

  それをきっかけにし、ダグバとクウガたちとの間に戦いの火蓋が切って落とされた。ダグバはグロンギの族長であると同時に、最強を示す『ン』の称号を持つ。その肩書きは、ゲゲル以外での殺人行為を容認される権利があった。彼は何の躊躇もなく、次々とクウガたちの命を奪っていく。

  この古代に生きるクウガたちは現代とは違って、封印エネルギーを正しく存分に操れる。それでもダグバの超自然発火能力を前にして、半ば無力化されていた。全身が内側から燃やされるせいで、近づいて殴る事すら儘ならない。

  腹部に埋め込まれた霊石の恩恵である再生能力も焼け石に水。誰もが超自然発火能力にまともな抵抗ができていないと気づいたダグバは、すかさず肉弾戦へ移行した。少しでも血わき肉踊る戦いを楽しみたいがためだ。

  この時点でクウガたちの半数が死に体だった。決死の思いでダグバに与える封印エネルギーも、彼の弱体化だけに留まる。それも時間経過で打ち消され、白い闇による蹂躙を止める事は叶わなかった。

 

  ここで一人のクウガが地面に横たわる仲間の亡骸を目にして、瞬く間に心が怒りに飲まれた。心清らかさとは正反対の道を行くドス黒い感情は、腰に巻かれたアークルからの心象風景による警告を無視し、ダグバと同じ境地――究極の闇をもたらす者へと至る。

  クウガ・アルティメットフォーム。全身が白いダグバとは対称的に、その身と瞳は真っ黒に染まっていた。禍々しさがあり、邪悪を打ち払う戦士とは到底思えない。

  しかし、アルティメットクウガは外見に反し、まっすぐダグバを見据えるや否や、狙いを彼につけた。すかさず疾走し、周りのクウガたちには目にもくれない。ただし、黒く染まりきったはずの瞳はどこか、己の大事な使命を忘れていないようでもあった。

  凄まじき戦士の誕生に、ダグバの笑顔はより増していく。自分と対等に戦える存在が生まれたと直感で知り、喜びに打ち震える。かくして大勢のクウガたちが見守る中、二人は戸惑う事なく拳を交わしあった。

 

  その戦いの行き着く先は、ン・ダグバ・ゼバの封印の完了だった。クウガたちの受けた被害は甚大で、ダグバ封印の要となったアルティメットクウガは相討ちのようにして力尽きた。

  また、ダグバ封印の際に『ン』のベルトが全壊し、それに作用されて円柱状の巨大な爆発が発生。ベルトの破片はダグバと共にクウガとリントによって回収される事となる。後に残されたのは、焼けた大地にポッカリとできた一つのクレーターであった。

 

「ボゼバ……ダグバンデスド……!」

 

  だが、究極の闇はまだ終わっていなかった。破片の回収漏れ――小石程度の大きさでしかないモノを、とあるゴキブリ怪人のグロンギが手に入れてしまう。

 

 

 ※

 

 

「「ビリビリ~」」

 

  雷の力を使う練習ついでに、メビオと両手を繋いだ電気マッサージで先日溜まった身体の疲れを癒す。湿布がない現状は、これで対応するしかなかった。電気の心地よさに身が包まれる事に加え、メビオのだらしない表情も見れて一石二鳥である。

  その後はザクⅡも連れて、ゴリギの捜索に出る。メビオは渋っていたが、俺と一緒にいる事を優先したようだ。ただ、俺の後ろに隠れて離れようとしないので、彼女のゴキブリ嫌いは深刻そうだ。

  つまり、ゴリギとは再び一人で戦わなければならなくなる。ザクⅡもいてくれるので戦力での不安はないが、状況次第ではメビオと一緒にリントの救出と護衛に回すかもしれない。捜索早々、雲行きは怪しかった。

  そんな最中、先日にザクⅡと合体してもらったポニーがやって来た。どうして俺たちの元に戻ってきたのかはわからないが、都合が良いのでフュージョンさせてザニーにする。そのままメビオと相乗りし、白バラセンサーを頼りにゆっくりと走らせた。

 

「見つからないなー」

 

「そうだなぁ……」

 

  のほほんと呟くメビオに俺は相槌を打つ。気がつけば、やっている事がゴリギ捜索の皮を被った散歩になっていた。ついつい緩みそうになる緊張の糸をしっかり保ち、本来の目的をしっかり念頭に置く。

  しかし、多少の息抜きをする分には問題ないかもしれない。焦りは禁物だ。肩に力が入りすぎている。もっとのんびり過ごすのはゲゲルが終わった後にしよう。

  バルバが名指ししたルール違反者は、ゴリギで最後となっている。俺の精神衛生上、できる事なら今日中に決着をつけたいところだ。

 

  そうこうしていると、白バラセンサーに反応が出る。それが示す先には、一つの大きな環濠集落があった。

  人里の方にグロンギを感知したとなると、嫌な予感しかしなかった。心無しか、人々の悲鳴も聞こえてくる。メビオの意思も確認した後、俺は迷わずザニーを人里へと駆った。

  人里への出入口である門は、まるで戦車に蹴破られたかのように無惨に破壊されていた。門を形作っていた木材は辺り一面に破片となって飛び散り、槍を持った見張りらしき男がぐったりと地に伏せている。グロンギの反応は、集落の奥だった。

  見張りの人は既に息絶えているようで、馬上からでも瞳孔が開ききっているのが確認できた。かなり申し訳ないが、彼には目もくれずに奥へと急ぐ。優先すべきは、奥で暴れまくっているであろうグロンギを倒して被害を最小限に留める事だ。未然に防げなかった以上は最善を尽くすしかない。

  それと同時に、今回の事件に少し疑問を覚える。ゲリザギバスゲゲルにしては雑で横暴。ズやメのグロンギの暴走にしては、この集落に配属されているはずのクウガに早期鎮圧されていない。今もなお、白バラセンサーの反応は生きている。

  クウガは何をしている? 封印エネルギーでワンパンじゃないのか? そう思っていた矢先、白のクウガをボコボコにしているゴリギの姿を見つけた。

  ゴリギは以前戦った時とだいぶ変わっていて、より筋肉質な肉体を得ていた。白のクウガの背後には、尻餅をついて満足に逃げられていない女性がいる。怖くて腰が抜けているようだった。

  それから女性に手を掛けようとするゴリギの腰にクウガは必死に組み付く。ただ、グローイングフォームでも封印エネルギーは常に注入されているはずなのに、ゴリギは平然としていた。

  そしてクウガが煩わしくなったのか、狙いを女性から変えて首根っこを掴んだ。そのまま持ち上げれたクウガは懸命にジタバタ暴れるが、うんとも寸とも言わない。ゴリギは淡々とクウガに尋ねる。

 

「答えろ……ンのベルトの破片はどこに――」

 

「飛天御剣スタイル!」

 

「ドアラッ!?」

 

  しかし、そうは問屋は卸さない。俺は容赦なくザニーでゴリギに轢き逃げを決めた。奴の注意がクウガに集中していたのが功を奏し、真横から俺たちが突っ込んでくるのに気づくのが遅かった。ザニーとの激突の拍子にクウガを手放し、作用の力で華麗に飛んでいく。一方のザニーは無傷だ。

  メビオがそそくさと女性を助け、ここから離れた場所へと連れていく。ポニーからザクⅡが分離し、俺と共にゴリギと対峙する。怪人への変身と鎧の装着も済ませた。

 

  来たるべき八回戦目でもあり、メ・ゴリギ・バとの決戦。俺たちの突然の乱入に困惑するクウガを傍らに、ザクⅡと連携しながらゴリギに攻撃を加える。メビオはゴリギの外見に我慢できなかったので、物陰からこちらを見守っていた。

  俺としては、もう二回目なのでゴリギに対する免疫はできていた。煽られる恐怖心と嫌悪感は既に軽めに抑えている。ザクⅡも一緒に戦ってくれるので、すぐに終わるだろうと楽観視していた。だが――

 

「うっそだろ!?」

 

「思い知れ! これが闇の力だ!」

 

  ゴリギの強化された見た目は虚仮おどしではなく、俺は瞬く間に劣勢に陥った。以前と比べると倍以上に強くなっており、先日のクウガ・タイタンとの戦いが楽に感じられるほどだった。

  また、モーフィングパワーもクウガ以上になっていて、ただの棒切れを剣に再構築させて魔戒剣と何度も激しく打ち合う。体術もこれまで以上に洗練されていて、苦戦は免れない。ゴキブリの怪人が強くなってくるなんて、悪夢以外の何者でもなかった。

  もはや俺とゴリギの近接戦についてこれなくなったザクⅡには、投石による援護を徹底させる。それでも戦局の打開には及ばず、地力の差でゴリギに押し負けそうになる。

  その瞬間だった。怪人態のメビオがゴリギを不意打ちで蹴り飛ばしてくれたのは。

 

「うぅぅ……ガミオ、負けるな! わ、私も戦うから!」

 

  全身に鳥肌を立たせながらも、前線へと出てくれたメビオ。本当ならゴリギとは戦いたくない彼女が、こうして俺の隣に居てくれるのが大変ありがたかった。

  こちらが手短に「助かった。ありがとう」と伝えると、メビオはたちまち口を固く閉ざして、俺から顔を逸らしてゴリギをじっと睨み付ける。それでも、耳が赤くなっていたのは見逃さなかった。

 

「状況の把握はイマイチだが、俺も戦うぞ!」

 

  次にクウガも、進んで俺たちと共同戦線を築いてくる。仮にもグロンギである俺とメビオの味方になってくれるとは仰天ものだが、百人力であるのは間違いなかった。グローイングフォームでも封印エネルギーの高度な操作力に遜色がないのが、色々と恐ろしい。おずおずしつつも俺は彼を頼りにした。

  敵の敵は味方。利害が奇しくも一致した俺たち三人と一機は、特に大した内輪揉めを起こさずにゴリギと戦っていく。 一人では無理でも、全員で力を合わせば勝機を見出だすのは可能だった。

 

「ゴウラムゥゥゥ!!」

 

「ザクⅡゥゥゥゥ!!」

 

「ザクが死んだ! この人でなし!」

 

「貴様が言える事か、メビオ! ガミオの腰巾着め!!」

 

  途中で援軍に来てくれたゴウラムや、元より満身創痍だったクウガの盾になったザクⅡの犠牲を払い、とうとうゴリギを疲労困憊に追い詰める。

  ここでゴリギの肉体が急激に痩せ細り、弱々しい姿へと変貌した。肩で息をしている様子から、本人に限界が来ているようだった。戦闘中にゴリギが余裕綽々と教えてくれた「ンのベルトの破片で強くなった」という内容も考慮すれば、きっとガス欠寸前なのだろう。

  しかし、メビオとクウガは戦意があっても、ゴリギにトドメを決めるだけの力は残されていなかった。ゴリギからの攻撃を受けすぎて、二人とも膝が笑っている。

  ならば、まだ余力の残っている俺がしっかりやらねば。そうして魔戒剣を強く握りしめた時、ゴリギがふと妙な開き直りをしてきた。

 

「良いだろう、素直に殺されてやる。だがその前にそこのクウガ……否、リントを殺させろ! リントが一人減るだけだ。何も変わりやしない」

 

  次の瞬間、限界が訪れたクウガは変身解除してしまい、悔しい表情を見せながら地面に力なく倒れ、もがく。それを受けてゴリギの頬が吊り上がった。

  命乞いや最期の言葉にしては余りにも図々しく、俺はゴリギの話を真面目に聞く気も失せてきた。代わりに怒りが沸々と込み上がり、厳しい口調で言い返す。

 

「……変わるさ」

 

「何?」

 

「お前みたいな奴には、一生わからないけどな!」

 

  この期に及んで未だに殺人を望むゴリギには、もはや何の言葉も投げたくなかった。しょうもない理由で人間だけでなく、俺やメビオにまで殺しに掛かってくると考えると、無性に腹が立って仕方がない。ゴリギは、こいつだけは生かしておく訳にはいかなかった。

  結果、ひたすら逃げ惑っては見苦しい抵抗を続けるゴリギに、俺は一切の情けを掛けずに怒りの刃を叩き付ける。魔戒剣に迸る雷の力はプラズマに近い何かへと生まれ変わり、炎のように蒼く光る。一刀両断されたゴリギの身体は灼熱の蒼炎に包まれながら、爆発四散した。

  蒼炎は魔戒剣だけでなく鎧にも燃え移っていたが、不思議と熱は感じない。やがて自ずと鎮火し、元に戻った。以後、名前に困ったのでコレを烈火炎装と呼ぶ。

 

  そんな訳で、ゴリギとの戦いはようやく幕を降ろした。烈火炎装使用直後はどっと疲れが襲ってきて、おもむろに怪人態と鎧装着を解く。再度の変身は一応可能だが、その気が全然起きなかった。

 

「ザク……」

 

  同じく人間態に戻ったメビオは、へたりと座り込んでザクⅡの核を手にする。これでも直しようがあるのだが、彼女の悲愴感溢れる顔は見るに絶えなかった。今にも泣き出しそうだ。

 

「核が残ってるならまだ直せるさ。ザクⅡも、ゴウラムも……」

 

  俺がそう言うとメビオの表情が僅かに明るくなる。クウガ改め青年も俺の言葉を耳にするや否や、大破したゴウラムの元に駆け寄って核の様子を確かめる。次にほっと胸を撫で下ろした事から、きっと目処が立ったのだろう。

  ならば良し。俺たちはさっさとこの場から立ち去る事にした。だが、メビオが「もう歩けない」と駄々をこねたので、なし崩しにおんぶする羽目になった。ザクⅡの核は彼女に持ってもらっている。

 

「待ってくれ。君たちは一体?」

 

  その時、青年から俺たちを呼び止める声が掛かる。あまり妙ないざこざを招きたくないが、少しぐらいなら大丈夫だろうと考えて、ちょっと後ろに振り向く。そして――

 

「平和に暮らしたいグロンギAとBだ。それじゃあな」

 

  それだけ告げて、今度こそ帰り道を歩んだ。俺の後ろから抱き付いたメビオが嬉しそうにしていたのは、ここだけの話。

 

 

「メビオ、何笑ってるんだよ?」

 

「んー? 私、笑ってるのか?」

 

「うん」

 

「そうか。んふふ♪ ガミオの背中、大きくて安心する……」

 

  そうやって雑談を交わしていると、どこからともなく見知ったポニーが姿を現す。逃げようともせず、俺たちの隣をのんびり歩く。そちらから歩み寄ってくるなんて、なかなか肝の座った馬だ。どうしてこうなった?

  試しにザクⅡの核を当てると、鞍以外は纏っていないザニーが誕生する。ものすごくちょうど良かったので、途中からザニーに乗って帰った。クウガの追撃もなく、家までの帰路は平穏に包まれていた。

 

 





Q.なんかゴリギ、大爆発起こさなかったんだけど。

A.所詮はメですから。クウガから受ける封印エネルギーを真っ向で打ち消していたツケもありました。ゲブロンがエネルギー切れ寸前という……。ンのベルトの破片を探していたのは、より強くなるためです。


Q.クウガ、何か白くなっていたんだけど。

A.ンのベルト破片ブーストが掛かっていたゴリギにドラゴンフォームで挑み、速攻を決めようとしたら容易く動きを見切られてボコボコにされました。青のクウガはただでさえ紙装甲なので、強制的に白になるのは仕方ない。

なら紫で挑めって? それは……

バベル「モーニングスターでクウガ・タイタンの堅牢な装甲をボコボコに凹ませ、仕留める寸前まで追い詰めた実績があります」

まぁ、結果は同じになるでしょう。


Q.一つの集落にクウガ一体! 一家にクウガ一体はまだ?

A.大きな人里ではクウガは複数配属されています。一家に一体は無理です。





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ナム豆乱れる時、北斗フーン分けると聞く


ダグバが数万人規模のジェノサイドをして初めて、自衛隊出動が検討されるらしい。相手は日本在住の古代民族だから、防衛ではなくて災害(?)出動になるのは仕方ないね。


  ゴに昇格した後、紆余曲折あってゲリザキバスゲゲルの順番を一番最後にしてもらった。バルバは渋っていたが、パリパリの焼き立て野菜餃子を献上したら容易く頷いてくれた。

  しかし、これで一先ず安心できると思っていた矢先、恐れていた事態が発生する。不良娘のザザルと、アイドルみたいに容姿端麗な少女のゲラグが野菜餃子に興味を示してきたのだった。

 

「なんだこれ? そんなに美味いのか?」

 

「これって焼いただけじゃん。しかも片っ方だけだし」

 

  いくら単純に不思議がっても、相手はゴのグロンギ。今すぐ逃げたい衝動に駆られるが、後先を穏便に済ませるなら堪え忍ぶしかなかった。

 

「あ、待って。たからないで。数はそんなにないから、せめて均等に――」

 

「新しく作ればいいでしょう? ここで」

 

  それでも必死に彼女たちとの接触を最小限にしようと努めていると、横から男性のそんな言葉が間に入ってくる。

  突如として提案を挟んできた男性の名はゴ・ライオ・ダ。現代では人間社会にどっぷり潜んでから計画性なゲゲルを始める男に、抜け目はなかった。逃走の一手が打ちづらくなる。

 

「ちっ! 得るや否やぁぁ!」

 

  おかげさまで、この場にいるゴたち全員分の調理をする羽目になった。メビオも手伝ってくれたので、調理時間は大きく削減できた。

  その際に必要な材料が足りない問題が自然と出たが、普通に自宅まで取りに行って解決した。どんなに距離があっても、怪人態で走っていけば造作もない。

  そうして焼き上がった野菜餃子をゴの皆さんは、ぶつくさと小言を言いながらもモグモグ食べていく。とにかく、舌鼓を打ってもらえるようで助かった。

  なお、ガドル閣下が野菜餃子を黙々と口にする姿を見守るのが、とても怖くて実に辛かった。ふと視線を動かしてみると、何やら先ほどから蔑んでくるゲラグにキレたメビオが、傘で彼女にアバンストラッシュを決めるのを見てしまうし、なんて日なのだろうか。

 

「ズのクセに生意気なんですけど、コイツ。クラゲ毒決めっぞ、コラ」

 

「次はぶらっでぃーすくらいどを掛けようか? ぺがさす流星拳でもいいぞ?」

 

「おいコラ! 閣下の御前だぞ! 喧嘩するな!」

 

  一触即発の雰囲気を醸し出す二人を俺は止めに入る。蜂蜜シロップのかき氷を渡せば、彼女たちはあっさり仲直りをしてくれた。まさか、モーフィングパワーの応用でヒャドが使えるとは思わなんだ。

  かき氷の未知の食感と味に触れた二人は、ものすごい勢いで食べていく。やがて頭が痛くなったのか、おもむろに額を抑える。微笑ましい光景だ。

  このように喧嘩が終息するのも束の間、後は無事に帰るだけだと呑気に構えていたらバベルに絡まれた。

 

「なるほど。ガミオが変わっているというのは本当のようだな。一つ手合わせ願おうか」

 

「へ? あの、ちょっと――」

 

「ドルド、審判を頼めるか?」

 

「応じよう」

 

「う、嘘だそんな事!!」

 

  バッファロー怪人たるバベルは、その怪力で以て俺を引き摺っていく。審判役を買って出たラ・ドルド・グも無言を貫き、何も助け船を出してくれない。

  そうこうしている内に、適当な広場で殺し厳禁の戦いが始まる。ドルドが神聖な審判をしてくれる事を祈りつつも、バベルが殺してくる勢いで攻め掛かってくるので、こちらも否応なしに手加減ができなくなる。お互いに怪人態に変身しているから、遠慮もなくなってしまう。

  もはや殺し厳禁が形骸化する寸前。バベルの可愛がりを越えた所業を前にして、俺は防御姿勢から一転する。もう我慢の限界だった。隙を見つけ、怒りを込めた本気の一撃を繰り出す。

 

「ひつきぼしの鳳凰の握りこぶしの奥深い意義の天翔の十字の鳳ぉぉぉ!!」

 

「う、動きが捉えられない……!? ぐわっは!」

 

「空の中に揺れ動く羽! 何人も壊す事ができません!」

 

「勝者、ガミオ」

 

  ドルドにより、試合終了の合図が知らされる。気が付けば周りに集まっていた観衆が沸き上がっていたが、メビオの声援を含めても素直に喜べない。クウガと騎馬戦した時と同じぐらいに疲れた。

 

 

 

  そんなこんなで五体満足に帰宅を果たす。しかし、帰り際に放たれたガドル閣下の「次の土産も楽しみにしておこう」というお言葉のせいで、戦々恐々とするばかりだった。

  これ以上、俺に何を求めると言うんだ。美味しいものが欲しいなら、本場の中国大陸に上がれ。あ、ゲゲルの被害が中国にまで拡がったらどうしよう。いや、現地でクウガに封印されても、甦る現代は大気汚染で酷いから……大丈夫だな。

  それはさておき、早速ザクⅡの修復作業に取り掛かる。ボディの製作は二度目であるので、サクサクと作っていく。メビオも協力してくれたおかげで、完成はあっという間だった。

  残された作業は、核を取り付けるだけ。俺たちは期待を胸に膨らませながら、核をザクⅡの胸部の中に埋め込んだ。

  しかし、ザクⅡはうんともすんとも言わない。まるで屍のように横たわる様子を目の当たりしたメビオの顔に、影が落とされる。

  これは行けない。メビオの気持ちを裏切りたくないのもそうだが、個人的にこんな終わり方で納得する訳にはいかなかった。共に過ごした時間は短くとも、ザクⅡは既に立派な戦友。そこまで存在が大きくなったヤツをすんなり諦められるはずがない。

  そんな訳で、多少でも気持ちを落ち着かせるために復活の呪文やアイテムの名前などを唱える。支離滅裂なのは気にしてはならない。

 

「ザオラル! ザオリク! レイズ! レイズレッド! フェニックスの尾! エリクサー! ドラゴンボール! サンドスター! ライフボトル! ドクターX! 私失敗しないのでぇぇぇ!!」

 

  その時、不思議な事が起こった。突如としてザクⅡのモノアイがピンク色に光り、生命の火を灯す。それからゆっくりと立ち上がり、俺たちに元気な姿を見せつける。

 

「よっしゃあ!」

 

「ザク~!」

 

  長らく願っていた復活に俺はついついガッツポーズをし、メビオは嬉しさのあまりにザクⅡの胸へと飛び込む。ザクⅡはメビオを優しく受け止めた。

  それから俺も彼らの輪の中に入り、全員で手を繋いで喜びを分かち合う。ピョンピョンと跳ねながら、その場をぐるりと回った。

 

「「やった! やった! やった! やった! やった!」」

 

  俺たちに合わせて軽快な動きをするザクⅡ。これがあったからこそ守れた命があるのだと考えると、感極まりそうだ。身を呈してクウガを守るだけに留まらず、何とか生還してきたのは誉めるに値する。

  この小躍りは、俺とメビオのスタミナが尽きるまで続いた。その後も込み上がった感情は冷める事がなく、もっと祝いたいという思いに馳せられる。

  そこまで思い至った俺は、自宅の隣にある倉庫へ訪れる。メビオもひょこひょこと付いてきた。

  倉庫の奥まで進むと、横に列なった複数の壺を目にする。それらには全て、蓋が閉められている。

 

「ガミオ、それは?」

 

「手探りで作ったワイン試作十三号。今は弥生時代だから酒税法は存在してない」

 

「わいん? やよい?」

 

「飲み物だよ。味は今から確かめる」

 

  メビオの質問に手短に答えた俺は、一つの壺を手に取る。ちなみに、試作一号から十二号は知識ゼロの犠牲となった。白ワインには二度と手は出さない。

  杓子を用意して、蓋を開けた中身から少量を掬う。おもむろに口につけてみると、渋みがなくて意外と飲みやすかった。市場に出せるクオリティではないのは確かだろうが、手作りとしては十分な出来だろうか。

 

「んー……まぁ、こんなものだな」

 

「え? 美味いのか? 私にも飲ませろ!」

 

「待て。せっかくだから皆で飲むぞ。ザクⅡの復活を祝うんだ」

 

「わかった!」

 

  俺の言葉にうんうんと頷くメビオ。いかにも待ちきれないのが一目瞭然だった。

  一方で年齢的に彼女が酒を飲んでも大丈夫なのか気になりもするが、この時代に飲酒法は存在していないので問題はなかった。アルコール度数も大して高くなさそうだし、平気だろう。太古の事例を裁けないなんて、法は無力だ。

  そして夕食の準備も済ませ、家の中へとザクⅡを招き入れる。居間でジオンのモビルスーツが胡座をかく様は何とも言えない。

  俺たちの分の食事はちゃぶ台の上だが、スペースが足りなかったのでザクⅡ専用の箱膳を追加で用意した。箱膳には石ころが盛り付けられた皿と、ワインが注がれたコップが置かれている。コップの側にはお手製のストローがある。

  きっと、ゴロン族の食事風景はこんな感じに違いない。ザクⅡの食事内容が浮いてしまうのは致し方ないが、そんな事に俺は一々目くじらを立てたりなどしない。ただ純粋に、ザクⅡへ祝杯を上げたかった。ただし、メビオの場合は食い気がマシマシなので少し微妙だ。

 

「それじゃ、ザクⅡ復活を祝ってぇ……」

 

「「かんぱーい!」」

 

  俺が乾杯の音頭を取り、メビオと声が重なる。ザクⅡは元より喋れないので乾杯の動作を取るだが、それでも声を出してくれたような気がした。

  そんなザクⅡがストローでちびちびとワインを飲むのを見た時は、とんでもない発見だと軽く呆然した。ゴウラムの場合はどうなるのだろうかと、ふと不思議に思ってしまう。

  俺たちは飲むワインは、小さく盃に注がれた形だ。量は限られているので、大切に味わなければならない。正しい酒の楽しみ方は知らないが、目で見て、香りを堪能してから喉に通す。

  しかし、そんな事はお構い無しにメビオはグビッと飲み干す。一度の量は少ないものの、イッキ飲みという心配させる真似をしでかした事に変わりない。俺は盃を一度置いて、彼女の調子を確かめようとする。

  すると――

 

「ガミオぉ……これ、なんかいい気分になるぞぉ」

 

「え? 酔うの早くない? やっぱりジュースとかが良かった?」

 

「イヤ! もっと飲むぅ」

 

「あ、おい! 酒に弱いなら飲み過ぎは――」

 

「あはぁ♪ ガミオー」

 

  俺の制止を聞かずにメビオはお代わりを二杯、三杯と注いではすぐに飲みきる。顔は真っ赤で、既に呂律も回っていた。

  このままではマズイ。そう思った俺は彼女の前に焼き魚や焼き肉が乗った皿を差し出す。案の定、メビオの目は盃から料理へと移り、箸を使いながらパクパクと食べ始めた。覚えたての箸の使い方はたどたどしく、ペースはやけにゆっくりだった。

  それから三十分経過した頃。遂に食事の手を止めたメビオだが、依然として酔った状態で俺に擦り寄ってくる。

 

「ふみゃ、もっと撫でてぇー」

 

「ベロンベロンじゃんかよ……」

 

「にゃー♪」

 

  呆れ果てながら首周りを揉むように撫でると、メビオは心地好さげに鳴き声を出す。できれば食事に集中したかったが、甘えてくる彼女の対応に掛かりきりだ。

 

「――!」

 

「ザクⅡ? そのサムズアップはどこで覚えた?」

 

  そこを見てみると、コップ片手に親指を立てるザクⅡがいた。無論、端から回答は期待していないが、コイツの言いたい事はそれとなく伝わってきた。

 

「……そうだなぁ。メビオ可愛いよなぁ」

 

「――! ――!」

 

  俺の呟きに激しく同意を示すザクⅡ。それを聞いていたメビオも反応し、ニンマリと笑いながら答える。

 

「私、可愛いか? えへへー♪」

 

  決めた。この瞬間からは思いきって、メビオの愛くるしい姿を眺めながらワインを飲もう。そうしよう。食事なんて二の次だ。

  かくして、すっかり甘えん坊になったメビオによって、祝杯は夜がふけるまで長引いた。

 

「ザクⅡ。勝利の栄光を君に」

 

「――!」

 

「がみおー、ぎゅってしてー♪」

 

 

 

 

 

 




Q.メビオがアバンストラッシュを使った!

A.ガミオ再現技シリーズです。


Q.バベルに勝ちやがった! ゴの三人衆が四天王に!

A.俊敏体のないバベルなら普通に勝てます。最高にヤバいのは、ガドル閣下やジャーザとの高速戦闘。


Q.小説版のグロンギもいるの?

A.います。

ゲラグ「やっほー! みんなのアイドル、伽部凛だよー! 私がヒロインの話を書いてくれたら、なんでも言う事を聞いちゃうぞー!」

だそうです。なんでも言う事を聞いてくれるようですね。貴方の武運長久を願います。


Q.他の女性陣が酔ったら?

A.

ジャーザ……テンション爆上げ。

ザザル……絡み酒からの泣き上戸。

ベミウ……何故か母性を発揮。誉め上戸に。

ガリマ……普段と変わらない。

バルバ……想像に任せます。











ゴオマ……自慢話と落ち込みを繰り返す。



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哀しみと刹那に飲み込まれた魂たち



近代、現代であるにも関わらずにロシアの冬に飲まれてしまったナポレオンやヒトラーがいるなら、古代のグロンギたちも冬の時期はゲゲルを中断していてもおかしくない……はず。

※さすがにリスキーだったので、ネズマの台詞回しを修正します。ご指摘ありがとうございます。


 季節は秋。ここ最近の寒暖の差が激しい気がするが、落葉樹を見れば葉を紅色や黄色に染めているのがわかる。程よく綺麗な枯れ葉が地に落ちて、足場を覆い隠そうとする。

  秋の次に訪れるのは冬。この時期が過ぎ去れば、冬篭りの準備をしなければならない。収穫や、保存食作りなど今の内にできる事は片っ端からやっていこう。

  メビオも一緒に暮らしているので、食糧面の負担は単純に考えて、いつもの二倍だ。大変な事に変わりはないが、一人当たりのマンパワーの値が普通の人と比べるとおかしい事になっているため、心配はない。終始怪人態で力仕事をすれば、すぐに終わるだろう。数少ない、グロンギに生まれて良かった点の一つだ。

 

  ゴ集団のゲゲルについては、標的のリントの絶対数が現代よりも少ない事とクウガ軍団が編成されているせいか、一人につき制限時間の猶予がかなりある。今はジャラジ……だっけ?

  ゴ・ジャラジ・ダ。ヤマアラシ怪人。好物は人間の苦しむ姿と、かなり近づきたくない奴である。コルレルやジム・ライトアーマーの如き紙装甲だが、青のクウガ以上にすばしっこい。武器はヤマアラシの針を使う。

  ドルドが持つバグンダダのカウントはクウガ軍団も含まれる。ボーナス点として。ジャラジの制限時間は二週間で目標九十人と長丁場だが、ゴウラムを率いたクウガ軍団が警視庁顔負けの厳戒態勢で人里の警備に当たっていれば、まず一般人に手が出せないだろう。

  つまり、ジャラジは大好きな格下狩りを封じられるだけでは飽きたらず、基本的に自分と同格かそれ以上の相手と戦う羽目になったという訳だ。ジャラジが持久戦を取ってくるのが目に見えるが、取り敢えず「ざまぁ」とだけ言っておこう。クウガよ、こいつに不殺の誓いは要らないから本気でやってしまえ。

 

  そんなこんなで、俺にはかなり時間が残されている。冬が来ればゲゲルも自然中断されるとバルバからのお達しだし、気分は最高だ。ゲリザギバスゲゲルにはどうにかしてバックレてやる。

  だがその前に一つ。全然気が進まないが、最優先に済ませておきたい事がある。ザクⅡには留守番を頼み、見晴らしの良い適当な場所で作業を始める。材料は岩で、必要な道具はニードル一本だ。

  丁寧に時間を掛けて石工師の真似をするつもりはない。モーフィングパワーで楽々と岩を長方形の石板に再構築する。デザインも拘らず、シンプルなものにした。

  次にニードルで石板の表に文字を刻み込む。かなり力がいるが、繊細すぎる作業にモーフィングパワーは向いていないから致し方ない。ここは素直に諦めて、一心不乱に単純作業を続ける。

  すると、横からメビオが飽き飽きとした口調で話し掛けてくる。付いてこなくてもいいと言っていたのだが、そこは相変わらずだった。

 

「なぁなぁ。なに作ってるんだ?」

 

「慰霊碑。メガリバース装置とかで俺のゲゲルの相手が化けて出てくるのが怖いからさ、一応作っとく」

 

「めがりばーす?」

 

「それは気にするな」

 

「むぅ、知らない事ばかり言って私をバカにしてるな?」

 

「してないよ」

 

「してる!」

 

「してない」

 

  そうして、構ってちゃんなメビオのおかげで作業を中断される始末。「つまらない! つまらない!」と開き直った時は、逆に清々しいと思った。

  メガリバース装置の意味が伝わらないのはわかっていた。だって相手は古代に生きるグロンギだし。ただ、ショッカーやゴルゴム、その他大勢の悪の組織が時空を越えてやって来る可能性がどうしても否定できないから、わざわざグロンギの供養をする訳だ。死者が復讐しに来たら怖すぎる。

  どうにかメビオを諫めた後、ぱっぱと台座も用意して慰霊碑を完成させる。水が入った瓶に花を植えて、合掌。黙祷を捧げる。メビオも見よう見まねで俺に続いた。

  ネズマ、ネズモ、ダーゴ、グジラ、ジャモル、ガーゲ、イバエ、ガスポ、ゴリギ。線香までは用意できなかったけど、地獄の業火に焼かれながら、どうか安らかに眠ってください。眠れないならそのまま成仏してください。そして生まれ変わるなら、マンチカンやポメラニアン、スナネコなどの小動物になって前世の罪を償ってください。

 

 ――やめろぉぉ!! 俺を可愛がるなぁぁぁ!! え、お風呂の時間? やったー!――

 

 ――嫌だ……注射は嫌だ!? そこにいるのはクチヒコ・ミミヒコ兄弟か! 見てないで助けて……お前らも注射……だと……!? そんな座して待つなんて!――

 

 ――例え気持ちよく撫でられようが、俺はリントに屈しない! あ、そこそこ。そこ気持ちいいぞ――

 

 ――あのゴールデンハムスターからヒマワリの種を分けてもらって幾星霜。その日から俺は、ヒマワリの種が大好きになってしまった。この味を知ってしまえば、もう元には戻れない。俺は……俺は……回し車を走るぞー! てちてちてちてち。たーのしー!――

 

  ――兄貴ぃぃぃ!? 正気を保ってくれぇぇぇ!!――

 

  ――プリキュアの妖精……? 俺が……?――

 

  ――ジャモルがリントの少女の変身アイテムになったか……。やはり所詮はズ、哀れな男よ。……へ? 妖精の俺にリントの姿を取らせた上で変身しろと? 女の子だからイケるってその……フリフリのドレスを着て? あ、あの……ちょっと待っ――

 

  ――ええい! ヤンデレ如きに元グロンギの俺がぁぁぁ!! おいピカチュウ、肉盾になってくれ! クチートが執拗に俺を追い掛けてくる! ……はっ!? あ、あ、うわあぁぁぁぁ!――

 

  ――ガミオ……俺が間違っていた。まさか、リントといるのがこんなにまで温かいなんて……。マスター、散歩を願い出よう。リードを持ってくれ――

 

  黙祷の最中、誰かの声が幾つにも重なって聞こえた気がした。まぁ、メビオにも聞こえている様子はなさそうだし、確実に気のせいだな。

 

  それからは、メビオと一緒にのんびり遊びに出た。紅葉が彩る川原にて、俺はしみじみと水のせせらぎを聴いていた。

 

「あぁ……読書したくなるなぁ……」

 

  ふと、そんな事を呟いてしまう。弥生時代に書物がほとんどないのが少し悲しい。

 

「ガミオー! 今度は長持ちしてるぞー!」

 

  一方のメビオは、折り紙の船を川に流していた。そんなに見てほしいのか、大声で俺の名を呼ぶ。

  小さな紙船は川の激流に揉まれながらも、沈没せずに進んでいく。岸でメビオが並走しながら見守る中、とうとう浸水が始まった。やがて紙船は藻屑と化する。

  これを目にしたメビオは大きく肩を落とした。即座に俺の元まで駆け寄ってきて、顔を胸の中にうずめる。だが、俺が優しく頭を撫でながら慰めていると、次第に元気を取り戻していく。彼女は再び、紙船の製作に挑戦した。

  そんなメビオの意気込みには俺も触発された。折り紙に熱中する彼女と同じように何か作ってみたくなる。

  そういう訳で、あまりにも簡単すぎるハーモニカを作った。材料はそこら辺の木の枝、ツタだ。木の枝をモーフィングパワーでクラフトスティック、紙、爪楊枝に再構築し、下からスティック・紙・楊枝・スティックの順に重ねる。この時、爪楊枝はスティックの両端にそれぞれ一本ずつ配置させる。

  そこまで出来れば、爪楊枝がある両端をツタで巻いて固定するだけ。小学生レベルの代物が完成である。お手軽さを重視したため、本格的なものと比較するには色々と程遠い。

  ここまで童心に返った工作なんて久しぶりだ。試しに吹いてみるが、普通のハーモニカのようにすんなりと上手にできない。舌と唇の形にコツが要るようだ。

  次から次へと吹き方を試行錯誤し、ようやくまともに音が出せるようになる。しかし――

 

「……簡単なハーモニカだと色々きちいな」

 

  完成品が子供向け工作物なだけあって、音が物凄く安かった。わかっていたが無性に悲しくなってくる。これなら歌った方がマシだと思える。

  それでも目新しさはあったのか、メビオが途端に興味津々となる。一曲弾いてみれば、目を輝かせながらねだってきた。

 

「私にもやらせろ! はやくはやく!」

 

「ほい、どうぞ」

 

「やった!」

 

  俺から簡単ハーモニカを受け取り、大喜びで吹いてみるメビオ。始めは上手くできなくて拗ねてしまったが、俺が丁寧に教える事で演奏レベルにまで至った。

  今では仮面ライダーカブトの主題歌にハマり、何度も繰り返して吹いている。グロンギであるために肺活量が大きくなっているのだろう、疲れを全然見せない。

  次からは本格的なハーモニカ作りに挑んでみるか。そう思った時、どこからともなくやってくる足音を捉えた。居場所はかなり近い。

  メビオの演奏に集中しすぎて気が付くのが遅れた。もしもクウガのスニーキング中だったら色々恐ろしいので、咄嗟の音の出所へ振り向く。

 

  そこには美女がいた。長袖にズボンのチャイナ服を身に纏い、スレンダーな体型である。メビオと比べると、随分大人びている雰囲気を持っている。

  緑がかった長髪に加えて、カマキリの目玉みたいなシニョンを頭の両側面にそれぞれ一つずつ留めていた。髪は前後に分けていて、後ろ髪は纏めて垂らしている。ポニーテールとは少し違うが。

  風貌が完全に日本由来ではないので、否応なしに警戒心が募る。中国人だとしても、ここにいる理由がわからなかった。渡来人なら大体が朝鮮半島出身だよな? どういう事だってばよ。

  身構える俺に美女は気に留めず、むしろ未だに演奏中のメビオへ視線を向ける。きょとんとした表情とその瞳から、好奇心を抱いているのが窺えた。砂利道の上をゆっくり歩き、ある程度近づいてきたところで口を開く。

 

「それから綺麗な音が出てるのか。不思議だな」

 

  そう言って美女はメビオを見ながら、首を傾げる。不思議なのは貴女の方だと思います。

  この人は本当に誰だ? メビオと同じく、俺の知らない姿に変わっているグロンギの誰か? ダメだ、てんで見当がつかない。

  急に強い風が辺りに吹きつけ、何枚もの紅葉が木の枝から落ちていく。その内の一枚が美女の元にふわりと舞い降りて、そっと差し出した彼女の手のひらに乗っかった。美女の意識は簡単ハーモニカから紅葉へと移り、手元のものと木を交互に眺める。やっぱり不思議なのは貴女の方ですね。

 

「えっと、どちら様ですか?」

 

「ん? お前がゲゲルに強制参加させられた時の集会で会った事があるだろう? あの時の出来事は今でも忘れられないぞ、ガミオ」

 

  思いきって尋ねてみれば、そんな風に言い返される。結局、俺は彼女の事を全く思い出せなかった。あの時はバルバとの交渉で必死だったから。

 

「……すみません、思い出せないです。というか、貴方の名前すら存じ上げないです」

 

  臆面しながらも、頭を下げつつ正直に伝える。すると――

 

「そう言えばそうだな。私の名はメ・ガリマ・バだ。よろしく頼む」

 

  ガリマと名乗った彼女は、俺にゆっくりと手を差し出してきた。それは明らかに握手を求めていて、予想を遥かに裏切った事態に俺は思考を放棄しかける。

  そして、ガリマがもう片方の手で持っていた紅葉は遂に宙に放られる。嘘だと言ってよ、バーニィ。

 

 

 




Q.クチヒコ・ミミヒコ兄弟?

A.金色の猫と銀色の猫の兄弟で、近所では非常に有名です。TVにも出ました。空き巣を撃退した事があるとか、金と銀のメタリックな鬼に変身するとかしないとか。

元ネタは、仮面ライダー電王&ディケイドNew Generations 鬼ヶ島の戦艦より、ラスボスを担ってくれた鬼一族の兄弟です。名前はそのままクチヒコ・ミミヒコで、ゴルドラとシルバラに変身します。どういう訳か、ガミオ被害者たちと同じく来世が動物でした。



Q.ハーレム築こうとしてるとか、ガミオ絶対許さねぇ。

A.人数と人選的にはコレが限界です。コレ以上のものを高望みしたり、メビオとガリマ以外を狙ったりすると悲しみの向こうへ辿り着いてしまいます。マジで。

ザザル「アタシ以外の女と口聞いたら溶かす」

ジャーザ「早くどうでもいいメスを片付けて、あなたとの愛の巣を作らなきゃ」

バルバ「……」無言の拘束・拉致監禁。

ゲラグ「ねぇ、怖い? あなたのためにメイド衣装で精一杯尽くしてきた私が怖い? ……そんな訳ないじゃない!!」

高確率で以上のようになるでしょう。

ゴオマ(幼女)「お兄ちゃんには私だけがいればいいの! 他の誰でもない、私!」

今ならもれなく、ンのベルトの破片の影響を受けてしまったゴオマも付いてきます。


Q.畜生となったグロンギたちの補足。

A.ネズマ・ネズモはハムスターに。ダーゴ、グジラ、イバエは猫に。ガスポはポケモン、ゴリギは犬です。

ジャモル「プリキュア!! 俺を使って変身しろぉぉぉ!!」

先輩妖精「言葉に殺意がこもってるからダメ! もっと可愛らしく! 折角だから語尾もつけて!」

ジャモル「うわぁぁぁぁぁ!!」


ガーゲ「ふん、ジャモルめ。面白く道化を演じるものよ……」

先輩妖精「あなたもよ! ほら、私に続けて言いなさい。プリキュア、くるりんミラーチェンジ!」

ガーゲ「断る」

先輩妖精「あ、そういうこと言っちゃうんだ。じゃあプリキュアの先輩たちにしごさせてもらいましょう」

ガーゲ「嘘です。ごめんなさい。一生懸命頑張ります」


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星の屑作戦

メ・ガリマ・バとは、首を狩るのが得意なカマキリのフレンズである(半分合ってる)


 その日の帰り道。川原での邂逅を果たした後も、ガリマ姐さんは俺たちに付いてきていた。おそらく気まぐれだろう。

  メビオの紹介もとっくに済ませていたが、当の本人は俺に腕を絡ませては頑なに離れない。その上、ガリマ姐さんに無言の威嚇をするものだから失礼の極みだった。“振り向くな”をされるのが怖いため、何度も小声で注意するが態度を直してくれない。なんて娘だ。

  対してガリマ姐さんは表情には出していないものの、道すがらに生えている木のイチョウや紅葉をのほほんと眺めている。飽きている様子はまるでなかった。

  ご覧の通り、このガリマ姐さんは俺の知っているガリマ姐さんではない。もっとこう……カッコいい雰囲気があったのだが、その面影は全くない。間違いなく、メビオと同じパターンだ。

  “振り向くな”が来ない事を祈りつつ、俺は勇気を振り絞ってガリマ姐さんに話を切り出す。取り敢えず、相手を知るには会話が必要不可欠だ。

 

「ところでガリマ姐さん。どうしてこんなところまで?」

 

「紅葉を眺めていた。今までなら気にも留めなかったが、わからないものだ。何故か楽しく思えてくる」

 

「そうですか」

 

  どうやら、彼女の心境の変化に何かしらのきっかけがあった模様だ。それよりも以前は、ゴへの昇格を一心に目指していたと考えても問題はないかもしれない。

 

「あの時のガミオがゲゲルを拒む理由をずっと考えていた。言いたい事がわかるから、私もどうしてゲゲルをするのか考えたくなった」

 

「……ん?」

 

「取り敢えず、ガミオのように変わり者の真似事をするのを決めた。すると周りの景色が一変した。見えなかったもの、気が付かなかったものをはっきり認識できるようになった。本当に不思議だ……」

 

  ガリマ姐さん。それはちょっと行動力の振り方がおかしいと思います。俺の真似って、もしかして奇声を上げながら側転したり、ゴオマにサンアタックをしたり、ガドラにキン肉バスターを掛けたり、そんな事をしたんですか?

  しかし、そう言う割りにガリマ姐さんの表情が何かと達観している。これ以上余計な詮索をすると言葉を失いそうになるから、ここは素直に彼女を信じておこう。ガリマ姐さんが「ブットバソウル!」と叫ぶ映像が思い浮かべない。

 

「グロンギであるお前たちがこうして仲良くしているのも珍しい。友だちというやつか?」

 

「それは……」

 

  突如として投げられた意外と悩む質問に、俺は呆気なく言い淀んでしまう。すると、メビオが俺に代わって即座に言葉を返した。

 

「違うぞ。友だちなんかと一緒にするな」

 

「友だちじゃない……? じゃあ、なんと言うんだ?」

 

  しかし、ガリマ姐さんにそう言われるとメビオは瞬く間に困り果てた。妙に意気込んだ様子から一転し、ご褒美を欲しげなペットのような表情で俺に助けを求める。

 

「えっと……ガミオ、ガミオ」

 

「俺に振るのかよ。そうだなぁ……とっくに友だちとか親友とかの範疇を超えてるだろうし、強いて言うなら仲間かな?」

 

「むっ。もう一声」

 

「じゃあ夫婦」

 

  瞬間、一気に顔を真っ赤に染めたメビオに肘鉄を軽く脇腹に打たれた。ダメージは大してないが、一発だけでなく何発も繰り出されたのだった。

  ちょっとした痛みに堪えながらメビオを見てみる。顔を俯かせた彼女は、より強く俺の腕にくっつく。顔は全然見せてくれないが、甘えるように頭を擦り寄らせるのだった。

  これを受けてガリマ姐さんは、合点が行ったかのような素振りを見せる。そして、朗らかな調子で口を開く。

 

「なるほど。夫婦か」

 

「すみません。こればっかりは違うと思います。夫婦は早すぎたみたいです」

 

「ん? そうなのか?」

 

「はい」

 

  俺が咄嗟に声を挟むや否や、きょとんとするガリマ姐さん。隣にいるメビオは急にがっかりし始めた気がするし、今日は色々と新鮮な出来事ばかりだ。

 

  それから紆余曲折を経て、ガリマ姐さんを家に招く事になった。彼女に興味を持たれたのが運の尽きだった。

  家の前で小鳥たちと戯れるザクⅡと出会う。案の定、ザクⅡが気になったガリマ姐さんは俺に質問してきた。

 

「あの緑色の奴はなんだ?」

 

「ジオン公国の主力モビルスーツの陸戦改修機、MS-06J ザクⅡ」

 

「じおん……?」

 

  ここでガリマ姐さんだけでなく、ザクⅡの長ったらしい肩書きと正式名にメビオも小首を傾げる。メビオには二度目の紹介となるが、二人には小難しいようだ。こればかりは理解できるから仕方ない。

 

「ザクで構いません」

 

「そうか。私はガリマだ。よろしく、ザク」

 

「――!」

 

  通称で伝えると、あっさり得心のいったガリマ姐さんはザクⅡと挨拶と握手を交わした。傍目ではメビオが、ザクという名前に何度もコクコク頷いて、満足げな表情をする。“ザク”の名が彼女のお気に入りだというのがよくわかる。

  また心無しか、ガリマ姐さんに対してザクⅡは「オッス、オッス。シロアリ一号です」とへつらいているような気がした。ザクⅡの肩に止まっている小鳥たちも、翼を器用に動かして敬礼の姿勢を取る。僅かでも共感できてしまうのが何とも言えない。

  次にそのままザクⅡたちに見送られながら、ようやくガリマ姐さんを家の中へと招き入れる。最近作った座布団の上に座ってもらい、短い待ち時間で飲み物を用意する。失礼な真似は一切許されない。

 

「すみません。粗茶すら出せないですが……コーヒーです」

 

  そうして彼女の前に出したのは、どんぐりを使った代用コーヒーだった。手作りのティーカップに注ぎ、小皿の上に乗せる。

  お茶がない我が家にとっては、実に苦しい手だ。しかし、これ以外に案は何もない。手作りスポーツドリンクとかを出すのは、いくら何でも憚られた。

  出したコーヒーは俺のと合わせて二人分。メビオはあまり好きにはならなそうだが、興味はそそられたみたいだ。横からじっと代用コーヒーを覗き込み、俺に尋ねてきた。

 

「ガミオ、なんだこれは? また私の知らないのか?」

 

「飲んでみる?」

 

「うん」

 

  俺の分の代用コーヒーをメビオに渡す。ティーカップを手にした彼女はおずおずとしているが、きっと胸の内はワインの時のように期待で満ち溢れているのだろう。だが、コーヒーはそんなに甘くはない。

  新しくコーヒーを注いでくるついでに、糖の結晶を持ってこよう。こんな事もあろうかと、モーフィングパワーで抽出したものを密かに貯めておいていた。サトウキビを育てた方が一番美味しい砂糖が取れるかもしれないが、それにはまずインドネシア辺りまで行かなければ。育て方を習う必要もある。

  まぁ、サトウキビ入手は現実的ではないな。素直に諦めよう。

  コーヒーと皿盛りした糖をお盆に乗せて、ガリマ姐さんたちの元へ持っていく。すると、そこにはコーヒーを飲む体勢で動きを固めたままの二人の姿があった。

 

「えっと、メビオ? ガリマ姐さん? どうしたの?」

 

「「……苦い」」

 

  そっとティーカップを降ろした後に、そう呟く二人。その顔には、どこか儚しさが宿っていた。メビオはともかく、ガリマ姐さんも素の代用コーヒーは無理だったか……。

 

「すみません。今、角砂糖の代わりを持ってきたので――」

 

  その瞬間、メビオが俺の隣を過ぎ通る。甘味目当てにしては俺の持つお盆にちょっかいを掛けて来なかったので、不思議に感じながらついつい後ろを振り返ってしまう。

  どこからともなく一つの瓶を手にするメビオ。高速で動いたにも関わらず、片手で持ったティーカップの中身は零れていない。そして、その瓶が何であるのか俺が把握すると同時に、メビオは迷わず瓶の口をティーカップへ傾ける。

 

「あっ! バカ! そんなにドバドバ入れちゃ――」

 

  瓶の中身はなけなしの余った蜂蜜だった。メビオの疾さは知っているので、ここで急いで彼女の元に駆け付けても間に合わないだろう。だが、呑気に見過ごす事もできなかった。

  お盆を床に置いてから、メビオの所業を食い止めようと走り出す。メビオが蜂蜜を選んだのは、他の甘味の所在を俺が隠していたせいだ。隠した理由は他愛ない、教える機会がなかっただけ。だからこそ、レア度高めの蜂蜜よりもモーフィングパワーで抽出した糖を彼女に勧めなければ。彼女は蜂蜜の味を占めている。

  あらかたの量を入れたメビオは、そそくさ瓶の蓋を締める。蜂蜜はまだ残っているようだった。これに俺は胸を撫で下ろし、迂闊にも気を緩めてしまう。コーヒー一杯で僅かな蜂蜜が全損せずに済む、と。

  そのため、メビオが突如としてモノを放り投げる動作をした時は何が何だかわからなかった。目で追うのが精一杯だった。それは俺の頭上を通り越して、ガリマ姐さんの手に渡って行く。

 

「それ甘いぞ、ガリマ!」

 

「っ! ならば……」

 

「蜂蜜ぅ!?」

 

  間髪入れずに転進するものの、時既に遅く。淡々と、しかしどこか嬉しげに蜂蜜を代用コーヒーに注ぐガリマ姐さんを視界の中に収めるや否や、俺は力なく床に膝をついた。

  恐らく空となった瓶に手をかざすが、消費された蜂蜜はもう戻らない。決死の思いで蜂の大群と戦った過去の記憶が甦る。

  まさか、甘い物でメビオとガリマ姐さんがここまで同調するなんて。ある意味、手のひら返しの激しいメビオには、涙を禁じ得ない。

 

「「……美味い」」

 

  蜂蜜を足したコーヒーをそっと飲んだ二人は、まったりとした雰囲気に包まれながら静かにそう言う。ここは彼女たちの舌に合って良かったと思うべきなのだろうが、複雑な気分だった。

 

 

  蜂蜜を回収したのは、家の近くに巣が出来たのを駆除した時だ。その日はまだメビオもザクⅡもいなくて、蜂の相手は全て自分一人でやらなければなかった。周りに味方はおらず、負けた先に待つのは蜂毒による死。実質、たった一人の最終決戦と呼べよう。

  以下、蜂の言葉をアテレコして回想します。

 

「良いスズメバチは死んだスズメバチだけだぁ!!」

 

「「はい! 良いスズメバチは死んだスズメバチだけであります!」」

 

「いやぁぁぁ!? 蜂がいるぅぅぅ!?」

 

  蜂の巣駆除の苦労はとてつもなかった。急拵えの防護服で挑み、徹底的に安全性を図ったチキン戦術で一匹ずつ丁寧に数を減らす。それと同時に、俺の神経も磨り減らされる。

  ミツバチなら駆除しなくても平気だと? その考えは甘すぎる。光あるところに闇があるように、ミツバチあるところに天敵あり。ミツバチを放置なんてしてしまえば、奴らの天敵であるスズメバチたちを引き寄せる事になる。どのみち、蜂の駆除は回避できなかった。

 

「ミツバチにジェットストリームアタックを掛けるぞ!」

 

「見せてもらおうか、ミツバチの団結力とやらを」

 

「ミツバチとは違うのだよ、ミツバチとはぁ!」

 

「流石はスズメバチだ! なんともないぜ!」

 

「見せてやるよ、真紅の稲妻の真骨頂ってやつを」

 

「「女王様と巣はこのミツバチRXが守る!!」」

 

「ミツバチの蜂球に囲まれました! 離脱できません! 助けて下さい、シャア少佐!!」

 

「ウラガン、キシリア様に蜂蜜を渡してくれ。あれは、良いものだ――!?」

 

「出してぇぇ!! ここから出してぇぇ!!」

 

 

「やめてぇ!? スズメバチの乱入やめてぇ!? やめろぉ!!」

 

  漁夫の利を狙うが如く、複数のスズメバチが俺たちを襲う。相手がミツバチだけなら比較的簡単に対処できるのだが、スズメバチとなると戦闘力は段違いだ。この時の俺は生きた心地がしなかった。

  それでも、蜂たちを殲滅せんと気張って立ち向かう。最も優先したのは、前線に出ている少数のスズメバチだ。まずはコイツらを片付けて、ミツバチの巣を滅ぼす。

  そして、後顧の憂いを断つためにもスズメバチの巣の特定に乗り出す。今度は徹底的に装備を固めてから出陣した。

 

「ガイドビーコンなんか出すんじゃないよ! やられたいのかい!?」

 

「見つけた! スズメバチの巣ぅ!」

 

  かくして、ポケットの中に収まる程度の小さな激闘は終わった。捕まえた蜂はなんやかんや調理して食べたが、労力を考慮するとこんな風に蜂蜜をいとも容易く使いきるなんて、割りに合わなすぎた。

  故に、大事に使っていきたいという俺の思いが、例え不慮の事故でも無下にされたせいで悲しくなってくる。自分もコーヒーを飲む気が失せてくる。この場違いな空間から出ていきたくなる。彼女たちに背を向けて、体育座りをしたくなる。これはショックが大きすぎた。

 

「ガミオ、元気を出せ。ほら、ぎゅっとするから。蜂蜜入れたら美味かったぞ」

 

「別に……また命燃やして採ればいいだけだし……落ち込んでないし……」

 

  コーヒーを一気に飲み干した後、体育座り中の俺にすかさず気づいて慰めてくるメビオ。俺は言葉の上っ面だけでも誤魔化すが、もちろん通用しない。その次に彼女が少しあたふたし始めたのは、後ろから抱き締められていてもわかった。

  本当に心配を掛けたくないのなら、すぐにでも体育座りをやめるべき。ただ、気持ちがどん底にまで沈みきっていたので、立ち直ろうとする気力がイマイチだった。

  あぁ、暖かい……。だけど、この暖かさを持った人が誰かの頑張りを足蹴にする。それがわかるんだよ、特にメビオ。あの蜂蜜が存外すぎた扱いをされて、俺は悲しい。

 

「すまない。今のは流石に厚かましいにも程があったか。蜂蜜とやらの埋め合わせは必ずする。……蜂の蜜?」

 

  傍では、ガリマ姐さんが謝罪の言葉を口にする。しかし、蜂蜜がなんたるかを理解していない様子。蜂蜜を前後に区切ると意味不明に感じるのはわかるよ。

  全面的に悪いのは俺だ。糖の結晶を真っ先に出さなかったから。未だに元気を失っているが、その事を頑張ってガリマ姐さんに告げる。

 

「いえ、全部俺の手落ちですから……ガリマ姐さんは気にしないでください」

 

「そうはいかないだろう。えっと……メビオのようにすれば元気が出るのか?」

 

「みゃ!? ガリマはあっち行け! ガミオは私が慰める!」

 

  手探りで試みようとするガリマ姐さんに、メビオが対抗して俺の身体を強く抱き締める。人間態でもグロンギの怪力はある程度健在なので、身体が締め付けられて痛かった。

 

 

  この後、なんやかんやで一悶着を起こしつつも、事態はやがて収束していった。ガリマ姐さんの訪問にメビオはむすっとしているが、二度目の喧嘩には発展していない。

  また、蜂蜜を使い切ってしまった事でばつが悪いのか、ガリマ姐さんが家事や料理の手伝いを申し出てくれた。ただし、その手つきがやたらぎこちなかったので、俺が教えてガリマ姐さんが学ぶという二度手間になった。

 

「――で、こうなると」

 

「やはりダメか?」

 

「いえ、全然。あっコラ、メビオ。ガリマ姐さんに手を出すんじゃない」

 

  そうして就寝時間。俺は右にメビオ、左にガリマ姐さんに挟まれて、川の字になるようにして寝ていた。ふかふかの布団が欲しいが、現状では藁しか用意できないのが辛い。どうして俺はこうも客人に対する備えができていないんだ。

  改めて寝床の事をガリマ姐さんに聞いた時、野宿と言い出したのはとてつもなく驚いた。その上、端から俺の家に寝泊まりしないで野宿する気満々だったのだから、彼女の思考回路に戦慄してしまう。

  そういう訳で、無理にでも彼女に泊まってくれるように言い留めた。決して邪な気持ちはない。ただ純粋に、ここで素直に追い出してしまう形になるのは悪い気がしたからだ。テントがないこの御時世、せっかく雨風が凌げる場所があるのだから。

  しかし、川の字で寝る事になるのは想定外だった。メビオはいつも通りとして、ガリマ姐さんも添い寝を願うなんて一体誰が予想できよう。

 

「我ながら信じられぬな……。グロンギである私が、今日のようなリントの真似事など……」

 

  ようやくメビオが寝付いた頃、ふとガリマ姐さんが小さな声を漏らす。誰にも聞こえないように喋ったみたいだが、しんと静まったこの場にはよく響く。寝言とは思えなかった。

  まだ起きているのが気になるが、俺はあまり彼女の顔を直視できなかった。ひとたび見てしまえば照れる自信があるので、必死に仰向けの状態を維持する。ここが耐えどころだ。

  ただ、しばらくするとガリマ姐さんから小さく寝息が立つ。先ほどの言葉の真意は、結局わからず終いだった。やがて俺も、まどろみの中に身を委ねる。

 




Q.ガリマ姐さんとメビオがガミオと添い寝した! おのれディケイドぉぉぉ!!

A.俺のターン、ドロー! 魔法カード、『女体化』を発動! フィールド上にいるゴオマを生け贄に捧げ、正真正銘のヒロインへと変身――へ? だめ?
ならば、仮面ライダーアギトより女性型のアンノウンを引っ張って来ましょう。擬人化させて。

スネークロード、アングィス・フェミネウス「呼ばれてきました」

クイーンジャガーロード「いる訳ないもん! こんな女に魅力を感じる男なんていないもん!」

ビーロード、アピス・メリトゥス「もー、いつまで寝てるのー? もう朝だよ、起きなさーい!」

……よし、イケるな!



Q.その頃のプリキュアの妖精として生まれ変わったジャモルとガーゲの行方は?

A.

ジャモル「かわルンルン♪」

ガーゲ「プフッ!」

ジャモル「……今、俺を笑ったな? 上等だ、表に出ろ」

ガーゲ「受けて立とう」


・妖精ジャモル ♀
悲しめばいいのか笑えばいいのかわからないが、プリキュアの変身アイテムになれる。最近になって人助けにホワホワを見いだし、初めて知った人の愛と平和、絆と正義の為に今日も戦う。二頭身の妖精の癖して、肉弾戦がやたら強い。


・妖精ガーゲ (キュアリザード) ♀
先輩妖精からプリキュアになれと命令された哀れな奴。最初は渋っていたが、やがて人助けにホワホワを見いだし、初めて知った人の愛と平和、絆と正義の為に今日も戦う。きっかけは次のような感じ。

~ある日の悪夢~

ガミオ「ガーゲ……勝負は今までだ。すでに話してもいいだろう。あなたも愛を捨ててはいない。その心に刻みました、愛!」

ガーゲ「話せない! それだけは死んでも話せない! 愛を帯びるなど、グロンギの魂を失っていない俺には恥辱! 俺はメ・ガーゲ・レ! 死にも自慢がある! ……ええい、口調が毒された!」

<魚ぁ! 表示ぃ! 世紀末敗者『私ゲージRE』ウイ死んだ形を~!! ……しまったぁぁぁ!?



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一期一会

自分はグロンギ冬眠説を提唱します。干し肉や塩漬け肉、燻製肉などの保存食を作って備蓄するビランの姿が思い浮かばないからです。


 朝。メビオと同じように朝ごはんをガツガツ食べるガリマ姐さんの姿は、意外性があって新鮮だった。夕飯時ならまだしも、朝でも勢い良く食べるとは……。朝が弱い俺には真似できない。

  そうして、ガリマ姐さんとの別れの時間がやって来る。まだ訪れてみたい場所が他にもあるらしい。荷物は何も持ってはいないが、彼女もグロンギだから平気だろう。手刀で綺麗に薪割りができるならサバイバルナイフや金属具なんて要らなくなる。

 

「世話になったな」

 

  まだ朝日の位置が低く、肌寒さが残る中。家の前でガリマ姐さんが、晴れやかな表情で俺たちにそう告げる。名残惜しさは窺えなかった。

 

「しっしっ」

 

「コラ、やめろ。ガリマ姐さんに失礼だ」

 

  対してメビオは追い払うような仕草をガリマ姐さんに見せる。これはあんまりすぎるので、俺はその手を無理やり押さえた。寂しさがない分には構わないのだが、いくら何でも無礼千万だ。

  そうすると、メビオはたちまちむくれ顔になる。食事の時はあんなに仲良くできるのに……。

 

「そうだ、ガミオ。よかったら私の友達になってくれないか?」

 

  家から立ち去ろうとする寸手でガリマ姐さんは急に振り返り、どこかハッとしたかのような様子で申し出てきた。この掴み所のない彼女の独特さには既に慣れた。

  グロンギが友達を作るなど可笑しな話だが、俺たちに限っては今更だ。突然すぎても驚きはしない。俺は快くガリマ姐さんの願いを受ける。

 

「いいですよ。でも唐突ですね」

 

「唐突さならお前に負ける。ガミオ、お前が最初の友達だ」

 

  わりかし俺の心にグッサリとくる事実も述べつつ、柔らかく微笑むガリマ姐さん。到底、俺が一方的に知っているあのメ・ガリマ・バとは思えない柔和な雰囲気だ。

  その時、メビオが俺と腕組みしてきた。強く掴んでは離さず、ガリマ姐さんにギラギラとした鋭い視線を向ける。この威嚇に応じて、彼女の髪の毛が逆立っているような気がした。

  これにガリマ姐さんは何を思ったのか、メビオに手を差し伸べながら、優しく口調で語り掛ける。

 

「メビオも私と友達になるか?」

 

「ならない!」

 

  しかし一蹴。頑なに首を横に振るメビオに、俺とガリマ姐さんは思わず苦笑した。その間にもメビオは身を前に出して、ガリマ姐さんを俺に近付けさせないようにする。プクリと頬を膨らませているのか、不思議と可愛らしい。

  それからガリマ姐さんは特に何も言及せず、あっさりと自分の帰路へ戻っていく。あまりにも手応えのなさに、メビオは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

 

「ではな、二人とも」

 

  手を振りながら別れの挨拶を言った後は、そそくさと森の奥へと消えていく。俺はどうにか山場を越えられたと安堵すると同時に、昨日と今日の出来事に思いを巡らすのだった。ガリマ姐さんのあの笑顔は、当分忘れそうにない。

  次の機会があれば、今度は万全の態勢を整えて接待しよう。まずはお茶とお菓子のアテを探さなければ。

 

  かくして、日常は再び俺とメビオだけのものに戻った。メビオはガリマ姐さんが旅立ってせいせいしているようだが、少しそわそわしている。寂しいかどうかは、敢えて問うまい。

  それよりも今優先するべきなのは冬備えだ。基本的にメビオとの二人暮らしなので保存食の量は毎年よりもちょっと増える程度だが、マンパワーが深刻なのはいつも通り。なので最初から怪人態で作物の収穫や狩猟、その他諸々をこなしていく。ここが人里ではないからこそ、可能となる芸当だ。人手不足を補うために、ザクⅡも問答無用で動員する。

  保存食となるのは燻製、塩漬け、干物など。本音ではドングリは保存用で潰すのに手間が掛かる上に、食べられる部分も肉などと比べると少ないのでやりたくないが、生きるためには甘ったれてはいられない。せっかくだからドングリはザクⅡに任せよう。

  農作物は元より育てている量が少しなので、メビオと協力すれば収穫はすぐに終わる。規模を更に増やすとなると定住を完全に決め込まなければならないので、難しいところだ。バルバたちに対する身軽な夜逃げができなくなる。

  保存食作りは大した肉体労働ではないので、ここは一先ず人間態に戻っておく。狩りで捕った獲物を捌き、燻製、塩漬け、干物の三種類に分けておく。

  燻製は現代では馴染みがないが、焚き火から出る煙で串刺しにした肉を当てるだけで実は構わない。やってみた当初はガスコンロや冷蔵庫一筋だったので色々戸惑ったが、慣れれば容易い。

 

「ガミオー、火は当てないのか?」

 

「うん。やりたいのは燻製だからな。煙で菌とかを殺しておく寸法さ。やっぱりリントの叡知って最高よ」

 

「長い」

 

「一日でも長く腐らないようにする」

 

「なるほど」

 

  俺の回答に納得を示すメビオ。彼女と出会ってまだ一年も経っておらず、何度も間近で燻製を見ているはずなのだが、こうしてみると燻製をやる意義を教える機会はなかったな。メビオにとっては、調理の幅が広がる程度にしか感じていなかったのだろう。

  まぁ、この弥生時代の日本に燻製の概念があるかは微妙だけど。石鹸とかはどうなっているんだ? 俺の場合は貝と木を燃やした灰から作った。

  肉、魚と調理して、次にカゴを背負って採集へ向かう。もちろん、移動力などを高めるために怪人態で挑む。

  その時、耳障りなモスキート音が遠くから聞こえてくる同時に、一匹の小さな黄色の影が真っ向面から飛んできた。俺の人並み外れた動体視力で捉えると、その正体はスズメバチだとわかった。

 

「ヒャッハー! 人間どもがうろついてるぜー!」

 

「にゃっ!」

 

「ひでぶっ!?」

 

  刹那、メビオの強烈な猫パンチがスズメバチを襲う。スズメバチの声をアテレコすると、きっとこんな風に悲鳴を上げたに違いない。

  パシッという音を経てて、スズメバチは地面と激突する。身体の原型は保っているが、ピクピクと弱々しく痙攣するばかりだ。羽を動かす元気もなくなっている。まさしく一撃だった。

  スズメバチに死に際を見届けたメビオはめぐるましく態度を変え、目をキラキラと輝かせながら俺に迫ってくる。

 

「ガミオ、蜂だぞ! 近くに蜂蜜がある!」

 

「いや、こいつスズメバチだし。蜂蜜作らないし」

 

「へ? あ、でも食えるんだろ? よし」

 

  目の輝きこそ無くなれど、威勢の良さは衰えない。食べ物絡みであれば、多少の誤算はメビオに関係ないようだ。スズメバチがやって来た方向へ、すたすたと走ろうとする。

  その直前で、俺はメビオをギリギリ食い止めた。

 

「当てもなく丸腰で探そうとするんじゃない。仮に集めても割に合わないと思うぞ?」

 

「ふふん、私の疾さは知ってるだろ? 針なんか全部避けてやる」

 

「目に毒液ぶっかけられたら失明するけどな」

 

「しつめい?」

 

「何も見えなくなるって事」

 

  自慢気な表情からきょとんとした表情。そして、失明の意味を理解した瞬間に青ざめるという、せわしない変わりぶりを披露するメビオ。思い留まってくれて何よりだ。

  グロンギの防御力は、個体差がかなり激しい。打撃技のダメージを一切無力化させるギイガもいれぱ、紙装甲のジャラジ、ゴの癖して普通にクウガ・マイティフォームに負けたジイノとかがいる。ジイノは本当にどうしてゴに上がれたんだ。

  他にもザザルに中和弾が効いたりと、色々ちぐはぐだ。軒並み再生能力が高いなら、銃弾で負傷したメビオの片目も素早く回復していなければおかしいはずだし、それも個体差はあり得ると思う。目が繊細かつ重要な器官である事も回復の遅さに拍車を掛けているのだろう。

  やはりグロンギと言えど、血を流せるなら誰にでも仕留められる訳だ。特にギノガ。クローン体の大発生を恐れなくて良いのなら、ロケットランチャー一発で爆発四散できそうだ。ロケランが無理でも、個人携行型の四連装ミサイルランチャーやガトリング砲を担いでいけば余裕だろう。高周波ブレードは簡単に避けられるので、やめておくべし。

  つまり、丸腰で素肌を晒した怪人態で対峙していいほど、蜂退治は甘くない。全種類のスズメバチがそうするかどうかは忘れたが、奴らは針で刺す以外にも毒液を宙に発射する。この毒液が目の中に入ってしまえば、想像を絶するような痛みに襲われる事だろう。下手をすれば失明だ。曲がりなりにも毒が効くのは、ギノガがクウガで証明している。

  注意するべきは蜂の針ではなく、毒そのもの。ギイガは切断や貫通に弱そうなので怪人態でも蜂の針が刺さりまくるイメージがあるが、一先ずそれは置いておく。グロンギにも一長一短はあるさ。

  ところで、グロンギがアナフィラキシーショックを起こしたらどうなるんだ? 腹の中の石が作用して、大量の蜂が飛び交う現地で強制的に仮死状態になってしまうのか? ……うん、防護服の着用は絶対だな。

 

「……戻る?」

 

  そんな俺の提案に、メビオは有無を言わせない勢いで首を縦に振る。この様子だと、防護服なしに蜂退治をする事はなさそうだ。ザクⅡも連れて、防護服やその他の装備を完璧に整えた上で挑戦しよう。

  あ、蜂の巣を砕いてお茶にする手があるな。味は確かめなければならないが、良ければ客人が訪問してきた時に出せるかもしれない。苦いようなら、また探し直しだけど。

 

「思ってたけどさ、メビオって冬の時はどうしてたの?」

 

「春が来るまで寝てる」

 

「あ、やっぱり」

 

  森の幸の採集を終えた後の帰り道で、メビオと他愛ない話を交わしていく。越冬の手段は冬眠で全て片付けられる大半のグロンギはズルいと思うんだ。爬虫類や昆虫モチーフのグロンギたちは取り敢えず冬眠を選択するだろうな、楽だから。

 

 

  かくして、待ちに待った冬が訪れた。どこからともなく現れたバラの花片から「ゲゲルは冬解けまで中断」とのお達しが来たので、しばらくはゲゲルとおさらばできて嬉しい。

  この時期の竪穴住居は、しっかり暖を取ってさえいれば問題ない。気温二十度近くまで上がるが、火が消えると急速に寒くなるので注意だ。今日は外が大雪で特にする事もないので、メビオと一緒に家の中でのんびり過ごしていた。雪かきはまだ後でいいだろう。

  メビオは初めて冬眠せずにいるので、寒さに堪えかねて毛皮の防寒着をたくさん着重ねている。だめ押しに耳当てもしている。素材は羽毛で試行錯誤しつつ、ごり押しで完成させた。カチューシャの製作だけでも苦戦するとは……人類の叡知はいつでも侮れない。

 

「ほらほら、ガミオ! もこもこだぞ!」

 

「そうかぁ、嬉しそうで何よりだ」

 

「えへへ。もこもこぉ♪」

 

  メビオは耳当ての感触を楽しみながら、さりげなく俺の膝の上に座る。目の前には火を点けた囲炉裏があり、メビオの体温と一緒に熱が伝わってくる。この居心地の良さが堪らない。生きてて良かった。

  すると、何者かがぴっちりと閉じられた玄関前に近づく足音が聞こえてきた。外にはザクⅡを侍らせているので、ゴオマのような不審者が来たならとっくに鉄拳をかましているはず。ならば、こんな雪の日に限って客人? もしかしてバルバ?

  咄嗟にメビオを退けて、扉越しにいるであろう相手を警戒しつつ玄関口に向かう。メビオもひょっこりと付いてきた。

  ドンドンとノックされる扉。俺は勇気を振り絞り、扉を解錠してから開ける。

 

「はい! 今出ます!」

 

  外界より冷気がもたらされ、次第に人影が露になる。敵意や殺意というものは感じられない。あるとすれば虚無感だろうか。とにかく、ザクⅡが素通りさせた理由がわかる。敵ではない。

  それでも人影の全貌が明らかになった瞬間は、その人が漂わせる不気味なオーラと身なりのせいで叫ばずにいられなかった。俺とメビオの叫び声が不意に重なり、遅れて相手の判別がつく。

 

「「うわああぁぁぁぁ!?」」

 

  そこには、全身雪まみれのガリマ姐さんがいた。顔は生気を失いかけており、家の中に飛び込むようにして俯せに倒れる。

  突然の行き倒れに俺は即座に彼女の容態を確かめる。隣にいるメビオはその場で固まり、目を大きく見開かせながら絶句していた。

 

「ぅぅ……」

 

「いや、まだ生きてる! ガリマ姐さん、寝ちゃ駄目だ! 諦めないで! ザメハ! ザメハ! ベホマ!」

 

  この後、全身の雪をはたいたり、毛布を被せて囲炉裏の前で暖を取らせたりと、ガリマ姐さんの救護に勤しんだ。こればかりはさすがにメビオも協力してくれた。

 

 

 




Q.その頃のジャモルたちは?

A.

ジャモル「プリキュアとはダンスも踊らなければいけないらしい」

ガーゲ「そうなのか。では家に帰らせてもらう」

ジャモル「させるかっ! お前も道連れだぁぁぁ!! 前世はよくも見捨てやがってぇぇぇ!!」

ガーゲ「はなせぇぇぇ!?」


ジャモルはプリキュアの相棒妖精として及第点レベルまで成長していますが、ガーゲは案の定です。戦闘は大の得意なのにダンスは壊滅的の模様。この後、名乗りを考えるついでにミッチリと先輩妖精に鍛えられました。


ガーゲ「深緑の殺戮者、キュアリザード」

先輩妖精「怖いからやり直し」

ガーゲ「悪を血に染めし者、キュアリザード」

先輩妖精「残忍だからやり直し」

ガーゲ「……ワニムの髪の毛一本さえ、この世に残らない。キュアリザード」

先輩妖精「投げやりにならないの。やり直し」

ガーゲ「……」

先輩妖精「そんな悲愴な顔しないの。ほら、プリティでキュアキュアな名乗りを考えて!」

いやぁ、ガーゲは生き地獄に苦しんでいますね。仕方ないよね! これがアイツの贖罪ですから!


Q.冬ですね。武者修行の旅に出たガドラは今、どうしてますか?

A.真冬の海で、近海の主とバトルしています。全てはガミオに勝つために。最近は魔神拳を覚えました。




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初手、ファイナルアタック


さぁ、ネタが尽きて参りました。


 グロンギの極めて高い生命力のおかげか、先ほどまで凍え死にそうだったガリマ姐さんはある程度の元気を取り戻していた。ただし、寒さには相当堪えたようで、毛布を頭から被って囲炉裏の前から離れない。

  彼女には桑の葉を使った温かいお茶を渡した。事前にこちらで味見はしているので代用コーヒーのような悲劇は起きないと思うが、お茶を一口飲むまで内心ヒヤヒヤとした。結果的に「甘くないが美味しい」と言っていただけたので、そこは安心だ。今もちびちびと口をつけている。

  メビオの方は未だにガリマ姐さんには突っ掛かっていない。むしろ同じく寒がりのため、ガリマ姐さんの隣で静かに囲炉裏の火で暖まっている。なんて平和な一時なのだろうか。

  そんな中、お茶の入ったコップから一旦口を離したガリマ姐さんが、話を切り出してくる。

 

「迷惑を掛けてすまないな。いつもならとっくに冬眠していたものだから、冬に飲まれてしまった」

 

「別に迷惑だと思ってませんよ。目の前にいるのに見殺しなんてできるはずないし、ガリマ姐さんですし」

 

「ん、そうか。これが友達というものか」

 

「はい、もうそれでいいです」

 

  そうやって独りでに頷くガリマ姐さんに応じて、俺も適当に相槌を打つ。彼女の不思議発言に関しては、深く考えない事にした。

  それからガリマ姐さんが再びお茶を飲もうとする直前、ふとしたり顔になったメビオが彼女に話し掛ける。

 

「不様だな、ガリマ。冬を甘く見るからだ」

 

「その格好で説得力は微妙だぞ、メビオ。お前も冬眠しないの初めてだろ」

 

「むっ、それは言うな」

 

  挑発とも思える内容に俺が咄嗟に言葉を挟み、メビオの表情はばつの悪そうなものへ変わる。次には羽織っていた毛布をよりくるまうのだった。ガリマ姐さんとお揃いの、顔だけを出した状態になる。

  それはさておき、個人的にどうしてガリマ姐さんは冬眠していないのかが気になるところだ。あんな風に雪に飲まれてしまうのなら冬眠が無難なのに、随分とメ集団最強のグロンギらしくない。複雑なルールのゲゲルを考えられるぐらいの知恵はあるはずだ。

  特に戸惑う事はなかったので、俺は彼女に一つ聞いてみた。

 

「それにしても、どうして冬眠しなかったんですか? そのチャイナ服、薄着ですよね?」

 

「本当は冬眠するつもりだったのだが、どうせなら寝る前にガミオたちと会っておきたかったんだ。だが、雪が降る景色にすっかり目を奪われて、気付けばこうなった。迂闊だったよ」

 

  俺の質問にガリマ姐さんは言葉に詰まる様子も見せず、澄まし顔ですんなりと喋る。これが本当だと考えれば、ほとほと呆れて物も言えなくなる。

  脳内に浮かび上がった、雪降りに興奮してぴょんぴょん跳ねるガリマ姐さんのイメージを懸命に打ち消す。キャラ崩壊やギャップ差も良いところだ。行動に出してなくても胸の内では間違いなくはしゃいでいたと思わせるのは、本当にズルい。

  こうして、まったりとした時間が続く。三人一緒に粟団子を食べながら談笑し、ちょうど良い頃合いを向かえると俺は雪かきの準備に出る。長靴、手袋、フード付き外套などの防寒具フルセットを纏う。シャベルは外の物置にあるので、雪の中を取りに行かなければならない。

 

「じゃあ、雪かき行ってきます。メビオ、ガリマ姐さんと喧嘩するなよ」

 

  そう言って玄関の扉を開ける寸前、突如として慌てふためいたメビオが声を上げる。

 

「あっ、外に出ちゃダメだぞ、ガミオ! ダメだ! 一緒がいい!」

 

「雪かきは後回しにしたくないんだよ。なんならメビオも手伝うか? 外に出て」

 

「それは……うぅ……」

 

「ガミオ、私が手伝おうか? 助けてくれた礼がしたい」

 

  雪かきをするか、家の中に留まるか。二つに一つかの選択に頭を抱えたメビオを尻目に、ガリマ姐さんがそう申し出る。

  手伝ってくれるのはありがたいが、彼女はつい先ほど凍死しかけたばかりだ。体力も回復しきっていないだろうし、無理をさせていられない。逆に足を引っ張られてしまう恐れもある。

  ここはしっかり言い放たなければ。なおかつ差し当たりのないよう、俺はガリマ姐さんに一言告げる。

 

「ガリマ姐さんは気にしないで休んでてください。こっちにはザクⅡがいるんで」

 

「……そこまで言うなら。では甘えさせてもらう」

 

  すると、甘んじてくれたガリマ姐さんはおもむろにその場で寝転がる。毛布を被って横になっている姿は、実に心地好さそうだ。図々しいと言うか、なんと言うか。これはある意味すごい。

  それにつられてか、メビオも寝始める。二人とも、囲炉裏の前がすっかり定位置になっていた。コタツがあれば、きっとその魔力に魅了されるに違いない。

 

  二人を放置する事を決めた俺は迷わずに外へ出る。物置から取り出したシャベルは柄が木製、先端が青銅で出来ている。先端の加工はモーフィングパワーでごり押した。製鉄なんてやっていられない。

  二本のシャベルの内、片方をザクⅡに渡す。鎌倉の大仏のように台座の上で待機していたザクⅡはシャベルを受け取るや否や、モノアイを瞬間的に強く発光させる。やる気は十分のようだ。

 

「よし、いくぞぉ!!」

 

「――!」

 

  俺のかけ声を合図にし、同時に雪原と化した庭へ突撃していく。雪かきで頼れるのは最早、己とザクⅡのみ。我が家が雪に覆われるのから守るためには、リタイヤは許されない。外の寒さに負けじと、動いて身体を熱くせんとシャベルを振るう。

  その途中、ザクⅡがいきなり黄金に輝き出したのはここだけの話だ。おかげで雪かきの効率は一気に跳ね上がったが、輝きは一時的なものに過ぎなかった。次からはこれをハイパーモードと呼んでおこう。

 

 

  次の日の朝。雪は止み、空は青く澄み渡っている。受ける日光は暖かいが、時々冷たい風が流れてくるせいで打ち消される。今日も今日とて、厚着は必須だ。

  そんな中、外出する俺とザクⅡにメビオとガリマ姐さんが付いてくる。彼女たちにも防寒具フルセットを纏わせてあるので、凍えさせる心配は少ししかない。メビオはいつも通りとして、ガリマ姐さんは雪景色を見てみたいとの事。

  だが、メビオもキョロキョロと辺りを見回す。例年通りなら冬眠していたから、こんなに雪が積もった景色が新鮮なようだ。

  少し歩いたところで、やたら精緻でバリエーション豊かな雪だるまの群れと出会う。これらは全て、昨日の内にザクⅡと作っておいたものだ。案の定、これを見つけたメビオは大いにはしゃぎだす。

 

「おお! なんだ? なんだなんだ!? ガミオ、これはー?」

 

「メビオたちが篭ってる間に作っておいた。名称は雪だるま。こっちはグフ、ドム、ゲルググ。さらにこっちは右から順にユニコーンドリル、レオサークル、ガトリングボア、ブルホーン、バイパーウィップ、ドラゴンフレア。フェニックスエールは疲れたから諦めた」

 

「多くて覚えられないぞ! でもわくわくする!」

 

  そわそわが止まらなくなったメビオは、急いで雪だるまの元へ駆けつける。彼女にとって、雪だるまの物珍しさは確かにあった。

  まぁ、一角獣や獅子、猪、牛、蛇、ドラゴンと、雪だるまと称するべきか悩むけど。完全に趣味だ。

  ユニコーンドリルたちの周りをぐるぐる回るメビオの傍らで、ガリマ姐さんはグフたちの姿を眺める。爪先から頭のてっぺんまで見たところで、俺に尋ねてくる。

 

「この三体はザクの仲間か? 目がそっくりだ」

 

「はい、仲間です。全員に新品のゲブロンを埋めたので、もれなく動きます」

 

  その瞬間、ここにある全ての雪だるまが動き出した。横目では、起動したユニコーンドリルの背に跨がり、目一杯楽しむメビオが写る。

  これにはガリマ姐さんも唖然としたようだ。間の抜けた表情になるが、すぐに我に戻って笑顔を俺に向ける。

 

「ガミオ、お前はなかなか面白可笑しい事をするな」

 

「まぁ、暇なので。ついでだから雪合戦してみますか? フィールドも一応、作っておきました」

 

「雪合戦?」

 

  かくかくしかじかと、ガリマ姐さんに説明を果たす。説明会には途中でメビオも入ってきて、雪合戦に誰よりもやる気を見せてくる。

  それからグフたちも引き連れて、フィールドとして辺り一帯の雪を整地した広場へ移動する。その合間にメビオがガリマ姐さんに啖呵を切ったりと、始まる前から結構騒がしかった。

 

「ガリマ、勝負だ! 格の違いを見せてやる」

 

「ほう、同じ初心者なのに自信満々だな」

 

「うっ!」

 

  やや幼げな相手の挑発に乗らず、ガリマ姐さんは軽く受け流す。痛いところを突かれたメビオは、たちまち黙りこんでしまう。

  それはそうと、メビオがガリマ姐さんと戦うのなら、俺の陣営に入る事になる。俺と一緒に行動したいのであれば。幸い、グフたちを作ったおかげで人数は足りているが、一応確認を取ってみる。

 

「お前、こっち側につくの?」

 

「へ? あ、えっとえっと、ガミオとも勝負だ!」

 

「じゃあ、ガリマ姐さんのチームな」

 

  そう言いつけると、メビオは石化したかのように固まる。彼女には悪いが、今回の雪合戦は二チームでの勝負だ。第三勢力の編成には人数が足りなすぎる。ザクⅡも組み込ませるから、メビオはガリマ姐さんのチームに入ってほしい。

  この処置にガリマ姐さんは無言で頷き、了承の意思を伝える。後はメビオの気持ち次第だが……。

 

「むー! もういい! 後悔させてやる!」

 

  ちょっと涙目を浮かべながら、メビオは来たるべき試合に燃える。これは怒っているな、すまない。

  ガリマ姐さんチームはメビオ、ザクⅡ、ブルホーン、バイパーウィップ、ドラゴンフレアの計六名。俺チームはグフ、ゲルググ、ユニコーンドリル、レオサークル、ガトリングボアと同じく六名だ。

  基本的にホバー移動で旋回速度に難あるドムには審判に回ってもらう。ドムに任せて平気なのかと問われると、問題はないの一言に尽きる。

 

「雪合戦、レディィ……ゴォォォ!!」

 

  どうしてそうなったのかは知らないのだが、ドムは他と違って喋るのだった。白い旗と赤い旗を持っている辺り、ノリノリである。

  勝敗のルールは特に決めていない。怪人態になるのは禁止。お互い疲れるまで、相手に向かって雪玉を投げ合うだけだ。複雑化させるとメビオが混乱するから、とは断じて口にしてはならない。

  フィールド上には、隠れられるようにして作った雪壁が幾つも設けられている。雪玉を全て避けろとか、無慈悲な事は言わない。しかし――

 

「うおぉ!?」

 

  ガリマ姐さんたちが放つ雪玉の量が尋常ではなく、咄嗟に身を隠す以外に手はなかった。これでは近づけそうにもない。

  ちらりと物陰から覗いてみると、猛烈な勢いで雪玉を投げるメビオとドラゴンフレアの姿が見えた。ハイパーモードになったザクⅡが、次から次へと雪玉を生産する。バイパーウィップとブルホーンは手持ちぶさただ。

  こちら側は、グフとゲルググが些細なれども応戦している。二体の投げる雪玉の投擲精度が抜群だったのが救いだろうか。おかげでガリマ姐さんは二体の攻撃に警戒し、迂闊に雪壁から出ない。

 

「ザク、盾になれ! ガミオに勝つ!」

 

「――!?」

 

「それはザクが可哀想だ。メビオ、挟み撃ちにしよう」

 

「私に指図するな!」

 

  耳が良いおかげで、相手の作戦会議が筒抜けだ。よく注視すれば、メビオたちの攻撃はほとんど俺に集中している。

  そのため、会話中の投擲量は実感できるほどにまで緩んでいた。彼女たちが会話に意識を割かれている内に、隣の雪壁の裏側で座っているレオサークルの元へ向かう。

 

「レオドライブ、インストール!!」

 

  俺の叫びに応じて、息をつかせる間もなく変形したレオサークルが右足に装着される。そして、そのまま垂直に高く跳躍する。

  その時の視界に入ったメビオたちは俺を見て、思わず雪玉投擲の手を休めてしまった。とりわけ、ガリマ姐さんが意外にも愕然としている。この隙が相手にとって命取りだ、容赦はしない。

  レオサークルの鬣部分を高速回転。そこから発生した円盤状のエネルギーは蹴り出すようにすれば、大体のものを破壊しつくす刃として発射される。威力は死なない程度だ。

 

「レオサークル、ファイナルアタック!!」

 

「ふにゃ!?」

 

「……っ!」

 

  反応したメビオとガリマ姐さんは、素早く横に跳ぶ。レオサークルの射線上から出てしまったが、代わりに逃げ遅れたザクⅡとドラゴンフレアに命中した。着弾時の衝撃波で付近の雪が吹き乱れ、巻き添えを受けた雪壁は見事に粉砕。まるで爆発のようだった。

  ファイナルアタックを繰り出した後はレオサークルを分離させ、綺麗に着地する。燃費の問題で、次弾発射にはかなりのインターバルを要した。

  雪を頭から被ったザクⅡたちは、地に伏せてリタイア。ハイパーモードもいつの間にか解けていた。その一方でメビオはブルホーンに駆け寄り、俺の名を呼ぶ。

 

「ガミオー! こいつの名前はなんだー?」

 

「二度は教えん!」

 

「うわぁぁん!」

 

「確かブルホーンだったはず」

 

  泣き寝入り寸前だったメビオに、ふと助言を入れるガリマ姐さん。紆余曲折を経てブルホーンの名を知った彼女の目の色が瞬時に変わり、真っ先にブルホーンの装置を試みる。

 

「おい、ぶるほーん。ガミオが使ったのと同じ奴になれ」

 

「――!? ――!」

 

  メビオに首根っこを掴まれてしまったブルホーンは、嫌々ながらも彼女の願いに応える。あまりにも強引な手口に、俺は思わず面食らってしまう。

 

「えっ、マジで?」

 

「いくぞ、ガミオ!!」

 

「あ、おいバカ! 怪人態は禁止だぞぉぉぉ!?」

 

  俺の注意も聞かずに変身したメビオの初手は、ブルホーン・ファイナルアタック。右手に変形装着したブルホーンを雪原に全力で打ちつけ、亀裂を俺に向かって走らせる。更に亀裂からは、先端が尖った結晶の山が絶える事なく生えてきた。

  発射速度は上々。まず人間態のままでは避けきれない。そのため、俺は形振り構わず怪人態となり、ギリギリのところで亀裂と結晶を回避する。代わりとして、後方にいたゲルググが五体満足のまま吹き飛ばされた。

 

「あっ! ガミオも変身した!」

 

「お前が先だ! 審判!審判ドム! ジャッジを!」

 

  自分を棚に上げたメビオが目ざとく騒ぐ。俺もルール違反した事は確かなので、こうなればメビオもろとも審判ドムに罰せられよう。俺だけがルール違反を問われるはずがない。メビオ、お前も連れていく。

  ちなみにガリマ姐さんはメビオの後ろの方で、変形させたバイパーウィップを左手に装着して遊んでいた。その出来の良さに、すっかり感嘆の声を漏らす。

  その一方で、ノリノリで審判をやっているはずのドムから応答が来ない。何をやっているんだとつい振り向いてみると、そこには――

 

「「ドムぅぅぅぅ!?」」

 

  ガドラ怪人態に足蹴にされ、沈黙したドムの悲しげな姿が発見された。メビオと声が重なり、ガドラの突然の乱入という事で頭の回転が追い付かない。どこから沸いて出た、この虎野郎。

  そんな俺たちに構わず、ガドラは淡々と話し始める。彼が纏っているのは強者の風格。今まで明るい楽しさに満ちていた空間が、否応なしに重苦しいものへと上書きされていく。

 

「何をしているかと思えば遊戯か。雪の投げ合いのどこが――」

 

  しかし、呑気にガドラの発言を許すほど、俺たちは甘くはなかった。数秒もあれば気持ちの整理はあらかたつく。まだ健在のメンバーと協力して、ひたすらガドラに雪玉を投げまくる。

 

「……一先ず雪を投げるのをやめろぉ!! 」

 

  ガドラの怒声が響き渡り、不意にも雪玉投擲の手が休んでしまう。メビオはピクリと肩を震わせ、ガリマ姐さんはピタリと動きが止まる。グフやユニコーンドリルたちも同じような反応だ。

  それでも俺は雪玉を唯一投げ続ける。ただ、ガドラが本気を出してしまえば切り払われてしまうのは容易だった。今までの食らいようが嘘みたいだ。これ以上の投擲は無駄だと悟り、奴の話の続きを聞く気になる。

 

「ガミオ、今度こそ雪辱を果たさせてもらう。この日のために俺は、一から鍛え直してきた!」

 

「あぁ、そうかよ。ドムの仇だ、受けてやる。ただし、雪合戦でな!」

 

「ほざけ!!」

 

  俺とガドラ、お互いの望みは完璧に擦れ違う。楽しい時間だったはずの雪合戦が一転して、ガドラのリベンジマッチとなる。

  俺は飽きずに雪玉を作るものの、ガドラが一気に肉薄してきたせいで投げる余裕がなくなる。冬になってまで本格的な戦闘はやりたくなかったが、仕方なく打つ手を変える。防御の姿勢だ。

 

「メビオ、ガリマ姐さん! ドムを頼む!」

 

  ガドラから止めどなく放たれる拳や蹴りをひたすら受け流し、彼女たちにそう呼び掛ける。メビオの「わかった!」という返事を聞いた後は、ガドラをこの場から少しでも遠くへ引き離す。幸い、彼は防戦一方の俺に食い付いてくれた。

  やがて、受け流しにも限度がやって来る。ガドラの一撃一撃が以前の時より非常に重たくなっていた。正面から止めようとすれば、その箇所が痺れてしまうのは明白。かと言って、守ってばかりではこちらに微量のダメージがどんどん蓄積するばかり。このままではじり貧だ。

  攻勢に出るしかない。鎧を纏う暇までは出来るだろうが、武器は家に置き忘れた。どのみち、肉弾戦を挑むしかない。

  その矢先、ユニコーンドリルが俺たちの間に割って入ってきた。疾走するユニコーンドリルに轢き逃げされたガドラは、僅かに地を転がって受け身を取る。

  隙を見つけた! この間にユニコーンドリルを右手に変形装着し、体勢を整えたばかりのガドラを間髪入れずに狙う。

 

「ユニコーンドリル、ファイナルアタック!!」

 

  ガドラを真っ直ぐ捉えたドリルが回転し、横方向に荒ぶる竜巻が生まれる。そうして発射された竜巻は瞬く間にガドラを飲み込み、雪を抉ってブリザードと化す。

 

「なんのぉ……これしきぃぃ!!」

 

  当のガドラは竜巻を四つん這いになって耐えていた。敵ながら根性は称賛に値する。しかし、それとこれとは話は別。ドムの恨みを晴らさせてもらおう。

  ユニコーンドリルの照準を上に傾けると、竜巻はうねりながら天へと昇っていく。これは流石に耐えきるのは無理だったようで、ガドラは竜巻に揉まれながら大きく空へと身を投げ出された。

  ここでだめ押し。竜巻が止んだ瞬間に俺は駆け出し、両足に力を込めてハイジャンプする。ついでにユニコーンドリルも外す。跳躍の勢いに乗って振り上げられた右拳は、宙できりもみ落下を始めたガドラの腹に吸い込まれた。右腕にずっしりとした重みが襲ってくる。

 

「烈風! 正拳突きぃ!!」

 

「ぐわあぁぁぁぁ!?」

 

  空の彼方と見紛うほどの距離を飛んでいったガドラは、とうとう極寒の川へ水落ちした。激しく水飛沫を上げて、水中へ姿を隠す。十中八九、生きているだろうな。

  こうして地に足を着けた後は変身解除し、ユニコーンドリルと共にメビオたちの元へ戻る。すると、同じく人間態に戻っていたメビオがいの一番に報告してきた。

 

「ガミオ! ドムが立った! ドムが立ったぞ!」

 

「そうか。それはよかった……」

 

  奥の方でグフたちに胴上げされているドムを見つけて、俺は胸を撫で下ろす。愛着を持って作ったから、無事で何よりだ。

 

「そう言えば、随分前に滝打ちしているガドラとも会ったな。打倒ガミオ、と言っていた」

 

「そうですか……」

 

  次にガリマ姐さんからそんな事を聞いた時は、げんなりとした気持ちになる。今度襲われたら遠慮なく烈火炎装でも使おうか。

  でも、ゲゲルと関係ないところで倒したりするとバルバから何言われるか、全くわからないからなぁ。危ない橋も渡りたくない。

  かくして、ガドラのせいで中断された雪合戦は再開の目処が立った。お互いのスタミナが尽きるまで雪投げ、時々ファイナルアタックが続いたのは言うまでもない。レオサークルがガリマ姐さんによしよしと撫でられて寝返ったのは、とても焦った。

 





Q.試合の最後辺りを詳しく。

A.最後はガトリングボア・ファイナルアタックで決めました。


Q.データウェポンさん、出る時代が二千年ぐらい早いですよ。あと時空も違います。

A.スノーウェポンとお呼びください。


Q.ダブルブリザァァァド!! ……じゃないんだ?

A.はい、シングルブリザードです。


Q.この頃のジャモルたちの行方を詳しく。

A.最近になって、ジャモルを使って変身する少女Aとガーゲがチームを組みました。それ以前のガーゲの戦いぶりはこんな感じ。

ガーゲ「その首置いてけぇぇぇぇ!」

敵戦闘員たち「「うわあぁぁ!? 助けて、母さ――」」

敵戦闘員「プリキュアのやる事じゃねぇぇぇ!?」

これでもちゃんと浄化している模様。しかし、毎度のように上から「やりすぎ」と叱責を受けます。ジャモルたちがブレーキ役になってくれるかどうかですね。


Q.その頃のガスポは?

A.ラルトス♂に生まれ変わった彼は、現在進行形でクチートに重く愛されています。モンスターボールにいる時も、同じボールに一緒になって過ごしています。愛はパワーである。


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閣下


自分はグロンギリサイクル生活説を提唱します。

だってザジオさんとか、グセパやバグンダダ、ンのベルト等をゼロから作り直そうとしてなかったんだもの。ゴオマを長野までパシらせるよりも絶対早いのに。


 ある日の夕方。メビオたちと三人でちゃぶ台を囲んで夕飯を摂っていると、ガリマ姐さんがふとこんな事を言ってきた。

 

「ガミオ。そう言えば、冬が解けたらゲゲルはどうするつもりだ? 私は微塵たりとも興味を抱かなくなったが、お前はクリアすればザギバスゲゲルに進めるだろう?」

 

「ゲゲルはバックレるつもりなんですけど、そうだなぁ……」

 

  わりかし難しい質問に、俺は頭を抱える。ンの称号を手に入れて族長になっても、グロンギたちのザギバスゲゲルの相手が俺に刷り変わるだけだ。ゲゲルの内容を平和的なものに変えようとすれば、ほとんどの連中が反抗するのは目に見えている。

  つまるところ、ゲゲルの改革はグロンギたちも正面衝突待ったなしである。しかも、その前にゲリザギバスゲゲルをこなさなければならないので、精神的に辛いものがある。どうせなら、ゲゲルをサボりたい。

  しかし、サボるにしても予想される障害の排除が困難すぎる。まず俺よりも先にゲリザギバスゲゲルをクリアする有望株が、ライオとガドル閣下の二人だ。後はザギバスゲゲルを受けるだけの彼らと、正面から戦うのは危険すぎる。

  ならば、夜逃げを決め込む? いや、ガドル閣下がンのベルトを身に付けてしまった暁には、地の果てまで逃げても瞬間移動とかで追い掛けられる事だろう。逃走は無意味だ、戦うしかなくなる。

  戦うにしても、中途半端は一番良くない。やるなら徹底的にだが、ガドル閣下相手だと生き残れる自信がほとんどない。恐らくメビオも一緒に戦ってくれるが、もしもの時が不安だ。

  メビオは今、モグモグと夕飯を頬張っている。ゲゲルをバックレるのに失敗すれば、この微笑ましい光景が見れなくなる。こればかりは何がなんでも守りたい。

  すると、こちらの視線に気づいたメビオがおもむろに聞いてくる。

 

「な、何だ? いきなり見つめて……」

 

「あ、ごめん。何でもない」

 

  そう返すとメビオは何とも言えないような顔になる。少なくとも、ショボくれたのは確かだった。こうなればとことんやるか……。

 

  そんなこんなで、冬解けの季節がやってくる。寒さは残っているが、きつくはない。真冬の暇な時間のほとんどが、この日のための準備に費やした。ガリマ姐さんも手伝ってくれたおかげで、準備は倍以上に捗った。

  この頃になると、ゴ集団の大半がクウガの前に撃沈し、封印されている。わざわざ集会を開くほどでもなかったのか、我が家にバルバが訪れてきた。

 

「えいえい」

 

「……何の真似だ?」

 

  誰もいないひっそりとした家の庭にて、俺はハリセンでバルバの頭を何度も叩く。威力は元より大したものではないので、バルバは平然とした様子で俺に尋ねた。

 

「ゲゲル国際条約第一条。ラの階級に反逆した者は失格になる」

 

「本気か、ガミオ?」

 

「こんな事もあろうかと、メビオたちと一緒にありったけの雪だるまを作っておきました」

 

  この俺の一言が、作戦開始の合図となる。決して単にボケをしている訳ではない。

 

「「サクサクサクサクサクサク」」

 

「「サムサムサムサムサムサム」」

 

  森の向こう側から湾曲軌道でここに落ちてくるのは、ジオンの超量産型モビルスーツであるサクの軍団。宙にいる間のサクたちは触手みたいな両手両足をカプセル状のボディに収納し、着地の寸前でようやく展開する。

  また空を見上げると、ドラゴンフレアが袋詰めにした連邦の超量産型モビルスーツ、サムを投下しているのが見える。この光景はさながら爆発しない空爆だった。

  他にも伏兵として家の周りに潜伏していたサクとサムが現れる。彼らにはサクマシンガンやビームスブレーガンといった武装はない。彼らの役割はあくまでも、バルバをここに釘付けにする事だ。

  例え“ラ”であっても、これほどの物量で押されれば堪らないはず。現にバルバは、この場所に集結した彼らを目の当たりにして言葉を失っている。その間の抜けた表情は新鮮だった。

 

「今です!」

 

「「サク~!! / サム~!!」」

 

  どこからともなく出現したドムの号令が響き渡り、サクたちが一斉にバルバへ飛び掛かる。バルバはハッと我に返るが遅く、サクとサムの山の中へと埋もれていった。

  この隙に俺はドムと共に現場を離れる。途中でザニーに乗ったメビオと合流し、擦れ違い様に掴まる形でザニーの上に跨がった。前にはメビオがちょこんと座る。

  ホバー走行しながら腰にザクマシンガン、肩にジャイアントバズを担ぐドムの傍らで、メビオは後ろを振り向く。その瞳に写すのは、勇敢にバルバと戦うサクとサム、ついでにドラゴンフレアの姿だった。名残惜しさゆえにか、彼らの名を叫ぶ。

 

「サクー! サムー! ドラゴンフレアー! うぅ……」

 

「堪えろ、メビオ! これも全て、ゲゲルをおじゃんにして平和な日常を過ごすためだ! サクたちの犠牲を無駄にしちゃいけない!」

 

「でもぉ!」

 

  俺の言葉に反応して、駄々をこね始めるメビオ。ここで遅れて合流してきたガリマ姐さんが、冷静な口調でメビオを諭す。

 

「メビオ、お前も覚悟を決めただろう。それに、サクたちは自分の意思で私たちに協力してくれた。今さらごねていては、彼らの気持ちを無下にしてしまう」

 

  そこまで聞いたメビオは不意に静かになり、唇をぎゅっと閉じてガリマ姐さんを睨む。目尻には涙が溜まっており、彼女がどれだけ辛いのかが伝わってくる。

  ちなみにガリマ姐さんが乗っているのは、ユニコーンドリルとレオサークルが合体した個体、超獣王“輝刃(キバ)”だ。依然として四つ足歩行なので、機動力は抜群である。

 

「……ふん! ガリマには言われたくない!」

 

  やがてメビオは、そう強く言い放つ。彼女には本当に申し訳ない事をした。例えやせ我慢でも、気持ちを切り替えてくれるのなら幸いだ。

 

「ガミオ少佐! グフたち陽動部隊にライオが引っ掛かったようです! しかし、ライオに率いられたグロンギがたくさんいるとの事!」

 

「マジか……」

 

  次の瞬間、俺たちと並走しているドムから報告が入る。まさかの相手の集団行動に、焦燥感を抱いててしまう。

  俺たちの考えた作戦は至って簡単。ゴ集団とクウガ軍団を誘導して、互いに衝突させる事だ。この時、クウガ軍団にグロンギの集落を特定させる手伝いも欠かさない。等間隔で配置させたサクとサムを道標の代わりにした。

  グロンギの集落を見つけてしまったクウガ軍団はどう思うだろうか。そのままスルーするのだろうか? それとも、グロンギを封印しに作戦とかを講じたりするのだろうか?

  とにかく、これはゴ集団の強い人をクウガに押し付ける我ながら最低な作戦だ。こちらの方が合理的で安全だと考えた。封印エネルギーでリアルチートしているから仕方ない。

  陽動部隊のグフとゲルググ、他のスノーウェポンたちには、そのままクウガ軍団と共同戦線を張るように指示しているが、グロンギ側も軍団を成しているとなると、些か不安が残る。単体を釣り上げるのが理想だったために、作戦の雲行きが心許ない。通信を交わせるのがドムしかいないので、なおさらだ。

  その時だった。正面に突如、怪人態に変身しているガドル閣下が現れたのは。

 

「げぇ!? 閣下ぁ!?」

 

「グロンギの恥さらしが三人か……。ライオが先駆けした今、ゲゲルは成立しなくなった。ンのベルトはもはや早い者勝ちとなる」

 

  俺たちが馬の足を止めて進路を変えようとするや否や、ガドル閣下は親切にも現在の状況を説明してくれる。できれば会いたくなかった。

  ガドル閣下の放つプレッシャーは全身に重くのし掛かり、冷静さを失わせようとする。心臓の鼓動も早くなり、冷や汗が止まらない。メビオたちの方を見てみると、俺と変わらないような反応を示していた。

  万事休す。戦うしかない……!!

  そう決心した俺に先駆けて、ドムが無言で一歩前に出る。静かにジャイアントバズの砲口をガドル閣下に向けて、背後にいる俺たちへ次のように言った。

 

「閣下の足止めは私に任せてください! 少佐たちは急ぎコンペイトウに……いえ、ソロモンへ!」

 

「ドム……わかった!」

 

  自ら殿を受け持ってくれたドムに、俺はそれだけを告げて立ち去る。後を付いてくるガリマ姐さんやメビオは惜しげにしていたが、のんびりと別れの挨拶をするほどの時間は残されていなかった。恐らく、ドムはガドル閣下に殺されるだろう。

  これで余計にドムたちの犠牲をますます無駄にはできない。今の俺たちの出せる最高の解答は、ドムの望みをこうして叶えてやる事だけだ。必ず生き残って、ガドル閣下とクウガ軍団をぶつけないと……。

 

  その矢先、ゴウラムを纏った馬に乗るクウガと遭遇した。

 

「げぇ!? クウガぁ!?」

 

「あ、待って待って! 俺です! あなた方に助けてもらったクウガです!」

 

「え?」

 

  クウガは身ぶり羽振りで敵意がない事を知らせる。俺たち三人が人間態でいた事が、功を奏したのかもしれない。そのまま彼は危害を加える事なく、俺たちの横を走り始める。

 

「邪魔だ、クウガ! 八つ当たりするぞ!」

 

「ちょっ、殴らないで話を聞いて――」

 

「こらこら」

 

  ちょうど手の届く距離まで近づいたので、問答無用でクウガにパンチを仕掛けるメビオ。それを俺は、彼女の頭を両手でぐりぐりする事で止めさせた。

  頭を抱えて「うぅ~……」と悶絶するメビオの傍らで、理不尽な暴力から解放されたクウガはようやっと口を開く。

 

「ふぅ、助かりましたぁ……。て、そうじゃなくて! 今、広範囲に渡ってグロンギたちを纏めて封印する計画が発動中なんです! 早く逃げないと――」

 

「行くぞ、お前ら!! 目標は九州! できれば沖縄ぁ!」

 

  作戦変更。グロンギたちの対処はクウガたちがしてくれるようなので、このまま全力で長野県を脱出する。

  俺の唐突な指示には、メビオとガリマ姐さんはとっくに昔に慣れていた。コクリと黙って頷いた後はクウガを置きざりにする勢いで、ザニーと輝刃を走らせる。

 

「逃げるの早いですね!?」

 

「そりゃそうだ!」

 

  それから必死に追い掛けてきたクウガに、俺も必死の思いで答える。先ほどの彼の口振りから察するに、その広範囲封印計画はグロンギだけを封印する便利なものらしい。対象は子供や老人のグロンギも無差別に選ばれるようなので、巻き添えを喰らうのだけは回避しなければ。

  仮に彼の発言が嘘だとしても、わざわざそんな嘘を吐くメリットが思い付かない。結局、俺たちが逃げる事に変わりはないのだから。逃げた先で他のクウガが待ち伏せているにしても、ガドル閣下との戦いに巻き込ませるつもりだから好都合だ。

 

  しかし、その淡い望みは易々と打ち砕かれる事になる。どこからともなく調達した馬に乗ったガドル閣下が、先回りしていたのだった。彼の片手には、モノアイの光を失ったドムの生首がぶら下がっていて――

 

「……ぅうおおおぉぉぉぉ!!」

 

  目撃するとしないでは、気持ちの揺らぎ具合の差がはっきり出るようだ。あれを目にした途端、一気に頭に血が昇る。

  変身、鎧装着、抜剣。連携のれの字も忘れた俺はザニーを足場に跳躍し、ガドル閣下に斬り掛かった。

 

 





Q.先代クウガであるリクは今、どうしてるの?

A.グフたちと一緒に、ライオと死闘を繰り広げています。ライオ、並みのクウガだと瞬殺されるレベルで強いです。なお、この戦いでゴウラムとグフたちは心を通わせました。


Q.ガドラは?

A.己の来世を垣間見ました。

ガドラ「また負けた上に生かされた……もはや、生き恥を晒せぬ!」

ガミオ被害者の会「「ようこそ、こちら側へ」」

ガドラ「……気が変わった。うむ、命は大事にするべきだな」


Q.ドムの戦いぶりを詳しく。

A.ジャイアントバズ連射 → ザクマシンガン全弾発射 → ヒートサーベル抜刀

対してガドル閣下。バズの直撃を受けても五体満足。ザクマシンガンに至っては、身体が柔らかくて弾丸が刺さらずにポトポト落ちてる。神経断裂弾を耐えただけある。

この後、ドムは目隠しの光線も使いながらヒートサーベルを一閃するが、ガドル閣下にあっさり見切られて胸を手刀で貫かれる事に。


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牙澪


五代とガドル閣下の二回戦目は、神経断裂弾のダメージが残っていてガドル閣下が弱体化していた説を提唱します。初戦であれだけコテンパンにされたのに、ライジングの制限時間がなくなっただけでマトモに戦えるようになるのは考えにくいからです。

つまり、一条さんのおかげである。


 全力で振った魔戒剣を、ガドル閣下は指二本で白羽止めする。魔戒剣が拘束され、応じて俺も宙に硬直した一瞬の隙を狙われる。

  ガドル閣下の拳が綺麗に俺の腹へと吸い込まれ、殴り飛ばされる。それから地面の上を僅かに転がり、受身を取って立ち上がる。ふと見てみると、ドムの首と魔戒剣はとっくに打ち捨てられていた。ガドル閣下はそれに目もくれず、自ら馬を降りて堂々と歩いてくる。

 

「ヒヒィーン!!」

 

  ガドル閣下の馬――仮称、黒王は、ザニーたちの方へ向かっていった。その筋骨隆々な姿は、明らかにモーフィングパワーで改造されているとわかる。俺とザニーたちと分断するつもりなのだろうか。

  しかし、黒王の相手はザニー、ゴウラム装備の馬だけに留まり、騎手であるクウガとメビオは急いで俺の隣に並び立つ。遅れたガリマ姐さんも、輝刃を大剣“キバブレイカー”に変形させてやって来る。それと同時に、彼女たちも怪人態へ変身する。

 

「クウガもいるのか。だが並みの相手だな。無能が四人に増えただけか」

 

  ガドル閣下からのとんでもない言われよう。あくまでも黒の金のクウガ並の実力を持つ彼視点による評価だが、わかっていても傷つく。四人掛かりで挑んでも勝ち目が薄いと、否が応でも痛感するのだった。

  まずは魔戒剣の回収を第一に攻め掛かる。肉弾戦ではガドル閣下に勝てる見込みがない。ゴリギの件もあるので、クウガが封印エネルギーを注入しても申し訳程度の弱体化をするだけになるかもしれない。せめて、武器が必要だった。

  先陣は俺が切り、すぐ後ろにはガリマ姐さんが侍る。冬の間は彼女も一緒に電気マッサージ訓練を受けていたので、相当なパワーアップを果たしている。使っている得物が上下の先端に長刀が付いたタイプではないのがネックだが、両手持ちのキバブレイカーを軽々使いこなしている。

 

  だが、相手はガドル閣下。攻略は容易くなく、注意を引いた俺の拳があっさり掴まれ、脛を蹴られる。伝わる威力と衝撃は鎧の堅さをもろともせず、膝が地に着いてしまう。その上、片腕をきつく取られているので身動きが激しく制限される。

  瞬時に横から斬り掛かってきたガリマ姐さんには、剛力体に変化する事で対処。さっと空いた腕を前に出すだけで、重たい斬撃を真っ向から受け止めた。

 

  ガキィィン!!

 

「っ!?」

 

  腕とキバブレイカーが接触した箇所から金属音が響く不思議現象。これにガリマ姐さんは愕然とした表情を見せて、次に迫りくるガドル閣下の攻撃に反応が遅れる。ふと俺の腕を放した手が握り締められ、目にも止まらぬ速さで俺とガリマ姐さんの顔面に繰り出された。気がつけば、ガドル閣下は俊敏体になっていた。

 

「にゃっ!」

 

「はぁっ!」

 

  数メートルも殴り飛ばされる俺たち二人と入れ替わるようにしてメビオと、ドラゴンロッドを手にした青のクウガが飛び込む。メビオはともかく、ガドル閣下に紙装甲で挑むのは不味いぞ、クウガ!

  しかし、荒っぽくも的確に連撃を放つメビオにクウガは合わせて戦う。一見して連携が成り立たなそうなのが、違っていた。一切の淀みもなく、水流のように高速戦闘を繰り広げる。

  二人の速さは俺でも対処できる程度でガドル閣下に一歩劣るものの、手数と連携で彼を圧倒。ガドル閣下はひたすら二人の攻撃をいなし、回避していた。まともな一撃が入っていないのが口惜しい。

  この隙に俺は魔戒剣の回収に走る。ガリマ姐さんはキバブレイカーから弓形態“キバストライカー”に変形させ、援護射撃をおこなう。

  贔屓目に見ても、ガリマ姐さんの射た光矢は見事なタイミングだった。ちょうどガドル閣下が後ろを向いた時。俺だけでなく、誰もが確実に命中するだろうと思われる一矢。

 

  それでも、ことごとくちゃぶ台をひっくり返すのがガドル閣下のスタイル。流石は破壊のカリスマ。彼は背を向けたまま、猛スビードで飛ぶ光矢を簡単に掴むのだった。

  光矢はそのまま握り潰されて消滅。同時にガドル閣下は空高く跳躍し、メビオとクウガの攻撃が空振りに終わる。

  空中にいる間は身動きが取れない。そう思ったのかガリマ姐さんは冷静に狙い射とうと試みる。だが、それよりも早く射撃体になったガドル閣下が、どこからともなく手にしたボウガンを連射する。

  咄嗟に回避するガリマ姐さん。ガドル閣下の次の標的はメビオたちで、空中で姿勢制御しながら発射。追撃、もしくは着地狩りしようとしていた二人の足がすくみ、辛うじて矢を避ける。その次は俺に矢が飛んできた。

  兜の目玉に向かう矢を、間髪入れずに魔戒剣で切り払う。この間にもガドル閣下は着地を済ましていたが、迎撃として幾度もなく放たれる矢に俺は臆せず、鎧任せに強引に接近する。

  そして魔戒剣の間合いが相手に届く。迷わず一閃するが、斬り伏せたのはボウガンだけだった。僅かに一歩下がったガドル閣下は格闘体へと一周して戻り、丸腰のまま俺と戦う。

 

「ちぃっ!」

 

  魔戒剣を手にしても、技量差は火を見るより明らかだった。振りかざされる刃は避けるか、逸らすか、俺の腕に邪魔入れするかで対処される。遂にはガドル閣下の右ストレートを胴にモロに受け、後ろにいるメビオたちの元まで転がされる。

  ここで俺たちは一度集合し、態勢を整えながらガドル閣下と改めて対峙した。

 

「どうする?」

 

「俺が突っ込む!」

 

「その後は!?」

 

「やるしかない!」

 

  上から順にガリマ姐さん、俺、メビオ、クウガ。全員の表情に余裕がなく、切羽詰まっている。当然だ、ガドル閣下に未だ傷一つ付けられていないのだから。

  当の本人は、余裕綽々といった感じだ。決して油断したり、慢心しようとしないのだから余計にたちが悪い。正真正銘の四人掛かりで絶え間なく隙のない連携を取らない事には、活路は見出だせなかった。

  掛け声はない。今度こそという思いで、四人同時にガドル閣下へ向かう。ドラゴンロッドを捨てたクウガは赤になり、ガリマ姐さんはキバブレイカーに持ち直す。攻撃の主軸は俺とメビオだ。

 

  囲んで叩けば勝てるというのは、口で言うだけなら簡単である。ガドル閣下相手にそれを実現させるには、かなり骨がいる。案の定、閣下は終始格闘体で俺たちの猛攻を捌いていた。

  俺が斬り掛かれば受け止め、メビオが蹴り掛かれば足を掴み、クウガが食らいつこうとすればメビオを片手間でぶつける。必死に抗う意思を見せるガリマ姐さんも、俺を無理やり下敷きにする形で伏せられる。まともに体系化されている体術はこの時代にないはずだが、ガドル閣下は関節技にとても精通していた。

  そこまでの洗礼を受け、クウガがガドル閣下に飛び蹴りをかました事でようやく勝機を掴めた。この機会を俺は逃さず、無様に地面へ寝転がるガドル閣下へすかさず魔戒剣を真っ直ぐ振るう。

  すると――

 

「俺に剣を抜かせるとは……」

 

「抜かないでください!」

 

「断る」

 

  俺の切実な願いも空しく、ガドル閣下が本気を出してしまった。寸手に剣で防がれ、剛力体の怪力で跳ね除けられる。確かについ先ほどクウガに封印エネルギーの注入されたのに、力の衰えを感じさせない。

  素早く起き上がったガドル閣下と、俺は激しく剣で斬り合う。ガドル閣下の剣の腕は我流の俺とは異なり、とても綺麗で力強く洗練されていた。剛力体の力も相まって、正面からでは確実に押し通せない。

  そこにガリマ姐さんと、タイタンソードを構えた紫のクウガが加わる。こちら側の攻撃の手数が増えるだけで結果は変わらなかったが、ちょうど良いタイミングでメビオも乱入する。

  メビオの取った行動は半ば捨て身に近かった。剣で身を刻まれながらも、ガドル閣下の頭上から襲い掛かる。比較的鈍重な剛力体ではメビオのスピードには着いてこれず、懐に潜り込まれるや否や渾身のアッパーをもらった。

  メビオの拳には雷の力が纏ってあった。ガドル閣下の身体は大きく打ち上げられ、不時着。ここで初めて、彼の表情が歪んだ。

  もう一辺足りとも猶予を与えられない。俺はガリマ姐さんと二人掛かりで、ガドル閣下の剣を抑え込む。これなら剛力体でも、しばらく鍔迫り合いができた。

 

「クウガぁ!」

 

  俺が呼び掛けた次の瞬間には、タイタンソードの切っ先を正面にかざしたクウガが突進してきた。俺とガリマ姐さんの合間を縫って、大地を支える巨剣がガドル閣下を貫く――

 

 ※

 

「はぁ……はぁ……しんど……」

 

  変身解除した俺たち四人は、おもむろに地面へ腰を降ろす。ヘトヘトで力も出ない。メビオは仰向けに倒れ、ガリマ姐さんはペタリとその場に座り込む。クウガは……今にも魂が抜けそうな顔でうつ伏せていた。普段からの驚異的な再生能力のおかげで、全員に怪我はない。

  視線を横にずらすと、ダウンしているザニーとクウガの馬が見えた。ガドル閣下の馬は本人が封印されたためか、既に地平線の彼方まで走っている。元気でな。

  そして目の前には、ガドル閣下怪人態のぬいぐるみが置かれていた。クウガによって封印されたグロンギたち共通の成れの果てだ。可愛らしいが、俺はこんな姿になりたくない。

  その時、青空が緑色の仄かな光に包まれる。オーロラとは違う。山の向こう側から天へと登っている光柱を起点にして、空が輝いている。

 

「あぁ、広域封印が始まるぅ……」

 

  これを受けて、クウガが呟く。光が俺たちの頭上にまで及んでいる事から、もう逃げても間に合わないようだ。

  そうか。やはりグロンギは全て封印される定めなのか。ぬいぐるみにされて、アイツラと同じ場所にぶちこまれるのは嫌だなぁ。封印されたら眠るのだろうが、嫌悪感は拭いきれない。ギノガの横に置かれたらどうしよう……。

 

「……はっ!」

 

  いつの間にか、俺の隣にメビオとガリマ姐さんが居座っているのに気づく。疲れていて察知が遅れた。

 

「ガリマはあっち行け! ガミオとずっと一緒にいるのは私だ! 渡さないぞ!」

 

「ん、ガミオと私は友達だぞ? 一緒に居たいのは私だって同じだ。離ればなれは……寂しいからな」

 

「お前ら、元気じゃん……」

 

  喧嘩腰のメビオと、はっきりした受け答えができるガリマ姐さんに俺はホトホト呆れる。それから二人は俺に肩を預けるが、あいにく受け止めるほどの元気はないので後ろに倒れてしまう。

  結果、面白い事に俺は二人に腕枕をする形になった。すると切り替えの早い彼女たちは瞬く間に腕枕を堪能し、疲れた身体を休める。布団の代わりが柔らかい草原で良かった。これなら封印されても安眠できそうだ。

 

「クウガ。俺たちがぬいぐるみになったらさ、保管場所を三人だけの空間にしてもらえない? もしくは専用の部屋」

 

「すみません……俺の一存じゃちょっと……」

 

「マジかよ……」

 

  封印ライフを快適するためにダメ元で頼んでみたが、このクウガにそこまでの力はないようだ。原始的な力がものを言う時代だから、クウガの発言力は相当だと思うけれど……もしかしてリントって、平和な民主国? 邪馬台国とは反対の道を進んでいるのか?

  それはさておき、空の光が一段と強まっている。この調子だと、封印されるまでの時間はごく僅かだろう。ライオたちと交戦しているグフたちとの安否確認すら取れない。

  彼らは大丈夫だろうか。それとも、ドムと同じく命を散らしてしまったのだろうか。残念ながら、俺はエスパーではなく普通のグロンギなのでそれを知る術を持たない。バルバを抑えているドラゴンフレアたちも気掛かりだ。

  グフ、ドム、ゲルググ、サク、サム、ブルホーン、ガトリングボア、バイパーウィップ、ドラゴンフレア。俺たちがまんまと封印されてしまうのを許してくれ。クウガを恨むんじゃないぞ。……この中で生き残りが何人いるのか、めちゃくちゃ不安だ。

  なお、独りでに獣形態へ戻った輝刃は、静かに俺たちの側に寄り添ってくる。ザニーたちは依然としてバテていた。ガリマ姐さんに乱暴に扱われたのに偉いよな、お前。

 

  やがて、空の輝きが増すごとに意識が遠のき、とてつもない眠気に襲われる。最後に見たのは、メビオとガリマ姐さんの寝顔だった。

 





Q.このシナリオの没ネタは?

A.

ダーゴ「主人の娘の持ち物であるミラクルライトを振ってみたが、何も起こらんぞ? やはり奇跡が起こせるのは映画の話か」

その時、不思議な事が起こった。

クチヒコ「……む! グジラの魂を通して、何者かが助けを求めている! ミミヒコ、グジラを押さえておけ!」

ミミヒコ「わかったぜ、兄ちゃん!」

グジラ「え、何? 何するの!?」

クチヒコ「これより鬼……じゃなくて、ネコ一族の代々より伝わる儀式をおこなう! 世界中のグジラの仲間に語り掛けて、パワーをガミオに!」

グジラ「何故その名を!?」

~世界を越えた先々~

イバエ「いいですとも!」

ジャモル「ガミオがビンチだモル!」

ガーゲ「ジャモル……遂に頭がやられたか……俺もそろそろ逝こう。堕ちれば楽だ」

ネズマ「ヒマワリの種だ! 受け取ってくれー!」

ネズモ「兄貴! あげるの違う!」


ガスポ「……あ、ガミオが見える。クチートから俺を助けに来てくれたのか……?」

そうして勘違いしたまま、ガミオに手を伸ばすガスポ。


ゴリギ「元気玉の要領だな? いいだろう!」


結果、赤狼騎士牙澪の鎧が黄金に輝き出し、ガドル閣下に逆転勝利。


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エピローグ


時は流れて――


  目を開ければ、俺に膝枕しているガリマ姐さんの姿が見えた。僅かに微笑みを浮かべては、俺の顔を見つめてくる。

  メビオは俺の側でぐっすり寝ていた。眠っていても、俺の片腕をガッシリ抱いている。ちょっとやそっとでは振りほどけそうにない。

  すると、ガリマ姐さんが優しく話し掛けてくる。

 

「起きたか?」

 

「起きました……え? なんで膝枕?」

 

「メビオがお前にしてもらった時、心地よさそうだったからな。どうだ?」

 

「悪くない、です」

 

「そうか」

 

  そこで一旦話を止めて、俺はどうにか上半身だけを起き上がらせる。ガリマ姐さんの膝枕は嬉しいが、恥ずかしいし気まずい事この上ない。不興を買う前に起床するべし。

  俺が寝ていたのは、開放感溢れる大きな石室の中。明らかに遺跡と呼べる場所だった。たくさんの光が外から差していて、灯りに困らない。

 

「ふにゅ……」

 

「あ、メビオも起きた?」

 

「んー?」

 

  合わせてメビオも起床する。だが寝惚けているようで、何も捉えていない視線の向き方が少し不気味だった。はっきり覚醒するのは数秒後になる。

 

「ガミオぉ……」

 

「おーよしよし。メビオは甘えん坊さんだなー」

 

「うふふっ」

 

  早速メビオが抱き付いてきたので、その頭を撫でる。嬉しそうな声を漏らし、俺の腕の中で目を細めた。

 

「取り敢えず、外行くか」

 

  次にそう言って二人を外に連れていく。現在位置がまるでわからないが、動いてみない事には何も始まらなかった。

  外で待っていたのは森と、キツい傾斜。どうやら山の中であるようだ。そのまま下り道に出ると、深く茂る木々を抜けたところで麓の景色が一望できる。そこには見るも懐かしい、現代の街が建ち並んでいた。街の周囲は山で囲われ、大阪や都心並みの発展を果たしていない。

  全く意図せずに辿り着いてしまった。俺がかつて生活していた空間に。弥生時代ではお目にかからない光景にメビオは興奮し、ガリマ姐さんは唖然しつつも観察するのを怠らない。

 

「ガミオ! なんか変な家がたくさん並んでるぞ! 数えきれない!」

 

「なんだか窮屈そうだ。それに、空気が少し変な気もする……」

 

  ガリマ姐さんの指摘通り、少々の息苦しさがある。十中八九、経済発展の弊害だろうな。ここが中国の都市部でなくて本当に助かった。

 

「ガミオ、麓まで下ってみるか?」

 

「あ! 私は行ってみたいぞ! ほら、ガミオー!」

 

「コラコラ、引っ張るな」

 

  ふと聞いてきたガリマ姐さんに続いて、メビオは有無を言わせぬ勢いで俺の手を取る。道中で鼻唄も奏でていたから、麓の先が楽しみで仕方ないようだ。

  途中からガリマ姐さんも無言で俺と手を繋いできて、三人一緒で仲良く下山する。長き封印から目覚めたばかりにしてはブランクは微塵として感じられず、道なき道でもスイスイと乗り越えられた。整備された公道を探すのが面倒とは言ってはならない。

  相変わらず、グロンギの驚異的な身体能力は健在だ。封印が冬眠みたいな扱いだったせいか、腹は減っていない。時代が西暦二千年以降なら今まで通りのサバイバル生活が法律云々で厳しく制限されてしまうから、根なし草の俺たちが現代社会に溶け込むには苦労すると簡単に想像できる。

  それを考えれば、他のグロンギたちの基本スタイルがヒャッハーと暴れるか、誰かに成り済ますかの二択で色々と豪快すぎた。古代人の戸籍管理とか作成とか、頼めば役所の人は作ってくれるのかなぁ……。信じてもらえないようなら、わざと怪人態を披露しなければならないぞ。

  役所務めの人間とグロンギ怪人態の二者面談……。これが上手く成功した後はどうしようか? メビオとガリマ姐さんと農業や畜産に携わってみる? 意外と性に合いそうだ。

  そうして将来を思い浮かべていると、メビオが小首を傾げながら尋ねてきた。

 

「ん? どうしたんだ、ガミオ?」

 

「これからの事考えてた。なるべく楽しく暮らしたいなって」

 

  俺のそんな言葉にきょとんとした表情になるメビオ。それからクスリと笑い、「私は毎日楽しいぞ、ガミオと一緒だからな!」と元気に返した。笑顔は純真さに満ち満ちていて、見ている側がほっこりするぐらいに微笑ましい。

 

「もっと楽しくなるさ、きっと」

 

  そして次の瞬間には、ガリマ姐さんがそう付け加えるのだった。メビオは珍しくガリマ姐さんの発言を肯定し、満足げに頷く。

  前向きになっているおかげで、明るい未来が自然と見えてくる。二人といれば、どんな困難も打破できそうだ。ガドル閣下との戦いは金輪際やりたくないが、些細な平和さえ壊そうとするのであれば、俺は誰とだって戦ってやる。全てはのんびり暮らすために。

 

「ミラクルワールド長野市へようこそ! 私はコマチャンダー! スーパー1より上手にガイドできるのだ!」

 

「……キン肉バスター!!」

 

「ぴゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

  だから、例え相手がいたいけな少女でも、悪の組織ジンドグマ所属かつコマサンダーの親類だと容易に見当がついたので、慈悲はなかった。

 

 ※

 

  かくして、全てのグロンギは封印された。多くのクウガの命を代償に発動した大規模封印は長野の隅々にまで行き渡り、誰一人としてグロンギを逃さなかった。

  大半のグロンギ封印態を納めた施設は、後に九郎ヶ岳遺跡と呼ばれる事となる。封印状態を完璧に近いレベルに保つため、後年は人柱としてクウガが生きたまま埋葬される。そのクウガの名は、リク。齢五十を迎えた頃の話だ。

  それでも余った封印態は各地で小分けにして納められた。管理の手間が増えるが、小分けにした分だけ封印状態が安定し、人柱を必要としない。唯一の例外は、ゴ集団に属する強力で邪悪なグロンギだった。

 

  これにて、平成の世に至るまでクウガが必要になる事はない。他のクウガたちは次第に引退していき、彼らを生み出したリントはやがて歴史の影に消えていく。だが、彼らの遺したものはなくならかった。

  魔石ゲブロンを動力源にした雪だるまたちは、ガミオが封印されると同時に機能を停止。素材が雪であるため、ザクⅡ以外は溶けてなくなる。ザクⅡはクウガよりエネルギーを分けられても動かなかったが、リントと共闘してくれた感謝の意味も込めてゴウラムと共に保管された。

  そして、ザクⅡの主人である者の名が有志によって碑文に刻まれ、後世へと語り継がれる。その内容は現代語訳すると、次の通りである。

 

 

  あるところに赤狼の戦士がいた。戦士は狼の鎧に身を包み、クウガと共に邪悪なグロンギを打ち払う。

  心穏やかな戦士は同族であるグロンギを裏切り、幾度に渡ってリントを助け、ゲゲルを終結へと導く。己が封印される時が迫っても、決して見苦しい姿を見せなかった。

  また、戦士の側には必ず仲間がいた。豹の戦士と蟷螂の戦士だ。加えて、彼らの元に多くのしもべが従っていた事も、ここに記す。

 

 

  しかし時が経つにつれて、彼らの名も歴史の影へと埋もれてしまう。覚えている者は誰一人としておらず、半ば死者と同じように忘れ去られていく。生きてきた証は跡形もなく消えるか、長きに渡って人目に付かないかの二つだった。

  それでも、彼らはあくまでも封印されているだけ。眠っているだけだ。骸たちとは違って、魂は未だに肉体に宿っている。ひとたび眠りから目覚めれば、人々の間で再び語り草となるのは難しくない。

  来たるべき運命の日まで、彼らは今も眠り続ける。狭く閉ざされた暗闇の中、古代に生きたリントたちの記憶の奥底で。

 

  そして、現代へ――

 

「ユウスケー! そっちにゴキブリが逃げたぞー!」

 

「えっ、マジで!? あ、ほんとだ! メビオちゃん、逃げて!」

 

「にゃあぁぁぁ!?」

 

「メビオはゴキブリが苦手なのか。意外だな。……ほら、仕留めたぞ」

 

「「おお~」」

 

 




A.え? 終わり?

Q.はい。


A.う、嘘だ! そんなの嘘だ!

Q.次回以降は時系列をガン無視した番外編となります。


A.認めない! 番外編なんて認めない!

Q.現代になってしまったのでご了承ください。


では次回、「ベミウに母性が目覚める」


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番外編。ベミウに母性が目覚める

コマチャンダー「番外編へようこそ! 今回は短めなのだ!」


 その日、酒を飲んだベミウはとんでもない酔い方をしてきた。メビオを甘え上戸とするのなら、まさしく彼女は母性に満ち溢れた誉め上戸と呼ぶべきだろう。

  もちろん、一口飲んだだけで既にべろんべろんだ。酒に弱いのは女性グロンギ共通なのだろうか? メビオは酔っていた時の記憶を持っていたので、恐らくベミウも今日の事は酔っても忘れないはず。

  メビオの場合は朝起きた後で顔真っ赤にしながら悶絶していたが、ベミウとなるとその時の反応が未知数だ。鞭を振り回しながら追い掛けてくるかもしれないので、色々恐ろしい。考えたくもない。

 

「よしよし、いい子だ……」

 

「えっと……ベミウ、さん?」

 

  現在、俺をそっと胸の上に抱き寄せたベミウはひたすら頭を撫でてくる。真っ先に抜け出そうとすると急に強く拘束してくる辺り、やはりグロンギだと実感する。

  彼女の胸の大きさは一発でわかる通りジャーザに劣る。それでもメビオやガリマ姐さんと比較すると遥かに勝っている。よもや、この歳で女性の柔らかく程よい双丘に顔を埋める事になるなんて、思いもよらなんだ。

  しかし、その次に脳内で思い浮かぶのが、ベミウの酔いが覚めた直後。おかげで呑気に彼女の包容を堪能している余裕はなく、内心では歓喜と恐怖の感情がせめぎあっている。今にも歓喜が負けそうだ。

  おずおずと名を呼んだ俺にベミウは僅かに眉をひそめる。そして、ちょっとの不満とたくさんの期待・喜びを織り交ぜた表情で告げるのだった。

 

「いつものように呼び捨てにしてくれ、ガミオ。それか……お母さんと呼んでくれ」

 

「へ!? ちょっと重症すぎません!? 水ぅ! 水ぅ! 水を飲んでぇ!」

 

「水割り……確か、そういうのもあったな。どれどれ……」

 

「ごめん、ベミウ! 俺が言いたいのそうじゃないの!」

 

  そんな俺の叫びも空しく、ベミウは片手で取り出した鞭を思うがままに操り、先端から四角形の氷を作り出す。氷はそのまま酒が入ったコップに投下され、ドラマでバーテンダーがよくやるアレが完成した。

  水割りされた酒をベミウは軽く口にする。俺を抱き抱えたままなのに動作は淀みない。酒を喉に通らせた後はコップを再びテーブルの上に置き、俺を愛で直す。

 

「そう言えば、ガミオは氷が出せるように鳴ったのだな。偉いぞ、よしよし。私を目標にしてくれるようで嬉しいぞ」

 

「いえ、ヒャドは偶然です」

 

  咄嗟にそう言い返すと、ベミウはたちまち顔を暗くする。落胆しているのは一目瞭然だった。

 

「そうか……ガミオは私の事を全く気にも留めていないんだな。そうか……」

 

「あ、そうじゃなくて。嫌いじゃないから泣かないで、ベミウ。自信を持って、ね?」

 

  まさに泣きそう雰囲気だったので間髪入れずにフォローを入れると、ベミウの表情が明るくなる。黒い長髪に口紅と大人びた容姿にしては、その笑顔は意外とどこか幼く感じた。可愛らしい。

  それからベミウは嬉しげに俺をぎゅっと抱き締める。いつでも逃げ出せそうなくらいに力は込められていないが、絶対に罠だろうな。ここで逃げようとすれぱ、間違いなく想像を絶する出来事が発生してしまう。伊達に彼女は死のコンダクターとの二つ名を持っている訳ではない。

 

「もっと甘えてもいいんだぞ、ガミオ? 私が受け止めてやる……」

 

「……っ!」

 

  しかし、後々の命の保証はされていない。ずけずけと甘えられるはずがなかった。

 

「今まで一人で辛くなかったか? 寂しくなかったか? 大変だったろう?」

 

  甘い吐息と慈愛の込もった言葉が、ほぼ零距離で放たれる。なんでこの人は地味に心に刺さる部分を突いてくるんだ?

 

「グロンギの中でお前が浮いてて、苦労しただろうな? もう大丈夫だぞ、私がついている」

 

「うっ……」

 

  ああ、そうだ。メビオとガリマ姐さんと出会う前は何の楽しみもなくて、かなり苦労したさ。だからといって、今さらそんなのがどうしたんだ。心には来るけど、もはや意味はない。

  このグロンギ社会において、俺の隣にはメビオとガリマ姐さんで十分。これでも楽しく暮らしていける。ベミウまではいらない。何故なら、貴女が酔っているからだ。こんな母性の目覚めなど、一過性のものにすぎない。

 

「育ててくれる父も母もいなかったのに、よく頑張ったな。ガミオ、お前は強い子だ……」

 

  ……ハッ! それはダメだ! いくら当時の精神年齢が誰よりも上だった俺でも、それ以上踏み込んでくるのは不味い! やめてくれ!

  だが、言葉には出せなかった。口にしてしまうと、自分からそれを認めてしまうからだ。グロンギに生まれ変わったために、甘ったれた事は一切できなかったというだけなのに。他のグロンギたちは知らないが、俺は心が人間なんだ。

 

「私がたっぷり愛情を注ごう。お前が小さい時に味わえなかった分をまとめて……」

 

  それを聞いて、俺は思わず涙が出そうになった。普通のグロンギなら、愛情なんて単語は出てこない。親から受けた愛情というものが大きく欠落していた俺にとっては、雷に打たれたかのような瞬間だった。

  もうダメだ、我慢できない。ベミウ、もしも貴女が許してくれるのであれば、その好意を甘んじて受けよう。俺はそっと、彼女の名を呼ぶ。

 

「ベミウ……お母さん」

 

  その時、ベミウはにっこりと微笑んだ。酔いで頬を赤く染めながらも、理性が残っているのが感じられる。どこまでも優しく、艶かしくもあった。

  次に俺はベミウの背中に腕を回す。案の定、彼女に嫌がる素振りはなかった。むしろ期待たっぷりな眼差しを向けて、正面から俺を受け止めてくれる。

 

「お母さん……お母さん……!」

 

「よしよし」

 

  思いきり涙を流すなんて幾日ぶりだろうか。しかも女性の胸の上で、頭と背中を撫でられながらなんて。ますますベミウに甘えたくなる。彼女の愛情を享受したくなる。離れようとは思えなくなった。

  物心ついた頃から、グロンギに生まれた俺に親はいなかった。愛情は前世で知っているが、きっと脳内に分泌されるホルモンとかのせいだろう。親の温もりに対する寂しさはどうしても拭えなかった。それで一人暮らしが辛うじてできていたのだから、グロンギは色々とズルい。

  正直に言って、こうしてベミウが温もりを与えてくれるのは時期が遅すぎた。今の俺はれっきとした大人だ。それでも、悲しみと同時に喜びが胸の内から溢れてかえってしまう。もう何も考えたくなかった。

 

  ひとしきり泣いた後、酒盛りを始めたのが夜中という事もあって、俺たちはそのまま眠りについた。睡魔には勝てなかったが、ベミウは依然として俺を抱き締めたままだった。今夜の出来事は一生の思い出になるだろう。

  ちなみに後日、覚醒したベミウと命懸けの鬼ごっこを繰り広げたのはここだけの話だ。途中でメビオも参加してきたので、鬼ごっこは熾烈を極めた。

 

 




Q.ガミオ、ギルティ。

A.おや? ザザルが憂いた目で見つめているぞ? どうやらお酒が入ったようだ。では、ザザルと仲良くしてやってください。もれなく女の子のゴオマもついてきます。


Q.コマチャンダーを嫁にください。

A.そのためにはまず、コマサンダーの義弟になる覚悟を決めましょう。


Q.自分はジャーザと酒盛りしたいです。

A,.ご健闘を祈ります。

ジャーザ「イヤッフウゥゥゥゥ! お酒サイコォー! あっ、あなたもガンガン飲みなさい♪ 」



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番外編2。ゴオマちゃん


その頃、悪いものを食べたガドル閣下は相棒のデムドと一緒に新婚旅行という名の大ショッカーとの戦いに身を投じていたり……


 グロンギ広域封印の日、ゴオマは一人でこっそりとンのベルトの破片が納められていた墓地へと来ていた。破片を手に入れて狂ったように喜ぶものの、いざ一個ずつ丁寧に取り込んだ瞬間に封印が発動。彼はンのなる事を夢に見ながら、深い眠りへと着いた。

 そして時は流れて平成。経年劣化でゆるゆるになっていた封印が解けたため、ようやくゴオマは目覚めた。日の光を浴びても拒絶反応は起きず、身体の奥底から力が溢れてくるのを感じる。瞬間、ゴオマは己の圧倒的なパワーアップを自覚し、ほくそ笑んだ。

 

「やった……やったぞ! 俺はンのベルトの破片を取り込めていたんだ! あとは、破片を全て集めるだけ……フフ、フハハハ!フハハハ! アーハッハッハァ!! ……ん?」

 

 そこまで大笑いしていると、ゴオマは何か気づいた。どういう事か、自分の声の音が女のように高いのである。心なしか、目線も低くなっているような気がした。改めて、自分の状態を確認する。

 ボロボロのマントにシャツとズボン。靴は履いておらず、誰から見てもみすぼらしい格好であるのがわかる。身長も、小学生ぐらいにまで縮んでいた。

 しかし、肉体の変化はそれだけではなかった。無言で静かにズボンの中を確かめると――男の象徴が綺麗さっぱりなくなっていた事に気づく。

 

「……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 遅れて、甲高い悲鳴を上げるゴオマ。この日、彼は究極幼女ズ・ゴオマ・グへと生まれ変わったのであった。

 

 それから、ゴオマは自分に起きた変化を確かめた。わかったのは人間態のスペックが人並みに高い事と怪人態に変身できない事、大好きな生き物の血を受け付けない事だった。

 これにはゴオマちゃんは困り果てた。大好きなゲゲルが満足にできない上に、吸血もできないのだから。先ほど、食料として生け捕りにした小鳥にがぶりついてみたが、血を口に含ませた瞬間に脳が「ゴオマちゃんが食べていいものではありません!」と拒絶してしまったのだ。

 

「ぺっ! ぺっ! うぅ……」

 

 血を吐き出し、大きく肩を落とすゴオマちゃん。それでも彼女は諦めず、ひとまずは小鳥を丸焼きにして食べた。血と比べて格段と美味しかったと、感想に思った。

 こうしてゴオマちゃんの放浪の旅が始まる。大昔よりも空気が汚れているのが辛かったが、ンのベルトの破片でパワーアップした身としてはそれほど苦でもない。ゴオマちゃんはリントを狩るゲゲル的に誇り高いグロンギなのだ。やがてはンの称号を手にするぐらいの気概がある。それぐらいの事でへこたれてどうするのだろうか。

 自分が眠っていた遺跡がある山を下った先には、現代の街が広がっていた。もちろん、古代の原始的な住宅しか知らないゴオマちゃんは目を見開いた。

 

(なんだここは……リントの里なのか?)

 

 街に入ったゴオマちゃんは辺りをキョロキョロと見回す。自動車、横断歩道、信号、ビル、マンション。全てが彼女にとっての未知の存在であった。

 そのため、同じく道を行き来する人々の視線が向けられても、自分が現代人にとって浮いている事にも気づかない。完全に目新しい文明に釘付けになっていた。

 

「ねぇ、君。 どこの子かな? そんな格好で出歩いてるなんて、親はどうしたの?」

 

 しばらくすると、パトロール中の警察官がゴオマちゃんの元に駆け付けてきた。ゴオマちゃんはンのベルトの破片のおかげで知力が跳ね上がっているため、彼の話す日本語が理解できる。彼女はおもむろに答えた。

 

「そんなものはいない。それよりもここはどこだ?」

 

「えっ!? えっ、ちょっ、えっ!? こ、孤児!?」

 

 ゴオマちゃんの口からさらりと語られた事実に警察官は激しく動揺する。それは周りの野次馬たちにも瞬く間に伝播していき、次々と彼女をスマホのカメラに収めようとする。

 一方で親無しの意味を重く受け止めていない彼女は、どうしてこんなにも騒ぎ立てられるのかがわからなかった。とりあえず落ち着きを取り戻した警察官が、再び質問をしてくる。

 

「えっと、本当に親はいないの? 親戚とかは? 」

 

「だからいないと言っているだろう。早く俺の質問に答えろ」

 

「なんてクールな幼女なんだ!? あー、えっと、ちょっと待ってね。今、上司と連絡取るから……」

 

「ちっ、もういい」

 

 話をろくに聞いてくれない警察官に気を悪くしたゴオマちゃんは手刀を構える。しかし、ある事が思い至ったので警察官を手に掛けるのを止める。

 

(勝手に殺したらバルバがうるさい)

 

 脳裏に浮かぶのは、バラのタトゥーの女。あくまでゲゲルのムセギジャジャを貫き通していくと考えていたゴオマちゃんは、歯痒い気持ちになりながらも勝手な殺人を自重する。それはンのベルトの破片を取り込んだとしても、変わらなかった。

 すると、近くをたまたま通りすがろうとする大型トラックを目にした。あれに乗れば移動が楽だと思ったゴオマちゃんは、迷わずにトラックに向かって高く跳躍。見事、コンテナの上に着地するのであった。

 

「あっ!? おーい!!」

 

 後ろから聞こえる警察官の声を無視し、正面だけを見据える。自動的に景色が移動していくという初めての経験に彼女の心が不意に踊った。気がつけば、柄でもなく鼻歌を歌っていた。

 それからもゴオマちゃんは大型車の上を乗り継いだりなどして、主に長野県内を中心に各地を巡った。時には道端に落ちていた小銭を拾い、時には商店街で食べ物をくすねたり、またある時は無断でこっそり簡易宿泊所に泊まったり。彼女の悪事は留まる事を知らなかった。

 だが、途中で彼女は察する。どこを行っても自分以外のグロンギがいない事を。封印から目覚めたのが自分だけなら、ゲゲルを勝手にやろうにも監督役である『ラ』がいないので昇格もできないと。それでは、ただの快楽殺人をやるだけで実質的な意味がないと。以前のゴオマちゃんであればここまでの知恵はなかったが、生憎とわかってしまった。

 そのため、ゴオマちゃんは他のグロンギが眠っているであろう遺跡の捜索に奔走する事になった。全てはゲゲルのため、ダグバを倒してンの称号を堂々と得るため。

 そんなある日の出来事。水分補給にと自動販売機を壊してリンゴジュースを手に入れたゴオマちゃんは、ストローでちうちうと吸いながら電気屋の横を歩いていた。すると――

 

『みんな、抱き締めて! 銀河の、果てまでぇー!』

 

「……」

 

 ガラスで遮られた見世棚に置かれている液晶テレビに、アイドルとして歌って踊っているゲラグの姿を見つけてしまった。顔見知りのとんでもない変化にゴオマちゃんは絶句し、その場でしばらく立ち尽くす。

 

(な……なんだこれは……? 伽部凛? いや、お前ゲラグだろ。ゴ・ゲラグ・ギだろ)

 

 わなわなと震え出すゴオマちゃん。彼女の胸の内に募るのは、リントの真似事をしているゲラグに対する怒りではなく、むしろ清々しいまでの侮蔑だった。全力でバカにしたい衝動に駆られる。

 だが、そんな考えは次のニュースを見て変わった。

 

『ニュースです。小学生ぐらいの女の子が、各地で窃盗などを働いています』

 

 画面には、防犯カメラのとある映像が映し出される。それは、まさしくゴオマちゃんが自動販売機を破壊している瞬間を収めているのであった。

 これはマズイと本能的に悟ったゴオマちゃんは、大急ぎでリンゴジュースを飲み干す。全身の冷や汗が止まらず、心臓の鼓動は激しくなるばかり。このような経験は、ガミオとメビオに簀巻きにされて太陽の下に出された時以来だ。

 テレビを見るのもほどほどにして、ゴオマちゃんは走る。今まで何ともなかった通行人たちの視線が、無性に突き刺さって落ち着かなくなる。とにかく、すぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 しかし、適当なビルの屋上まで行き着いたところで、最悪の事態を迎えてしまう。

 

「幼女発見! 幼女発見!」

 

「よーし、ペロペロしちゃうぞー」

 

「可愛い幼女は拐っちゃおうね」

 

 やって来たのは様々な怪人たち。紳士の風上にも置けない、最低野郎共の集団であった。ニュースを見ていた彼らは、ゴオマちゃんを誘拐しようと画策するのであった。

 復活からだいぶ時間が経っても、ゴオマちゃんはまだ怪人態に変身できない。高カロリーの食べ物を盗んでは食べての繰り返しで身体の栄養不足は改善されていたが、それでも人間態のスペックが高くなるだけ。顔面陥没が起こせる一トンパンチが出せれない現状、この怪人たちに成す術はなかった。

 最低野郎共に囲まれ、壁際へじわりじわりと寄せられる。怖笑顔で近づいてくる彼らに、ゴオマちゃんは思わず目尻に涙を溜めてしまう。

 

(どうして……どうして俺がこんな目に……!)

 

 その時、不思議の事が起こった。

 

「待てぇい!」

 

 突如として掛けられた声に、最低野郎共は振り返る。するとそこには――

 

「最強の怪魔ロボット、デスガロン!」

 

「海の使者、クジラ怪人!」

 

「クラブオルフェノク!」

 

「白鳥の勇者、キッグナス!」

 

「バガモンもいるのだガー!」

 

 怪魔ロボット、ゴルゴム怪人、オルフェノク、ゾディアーツ、バグスターの五人が揃っていた。名乗りを終えるや否や、デスガロンが口を開く。

 

「あどけないグロンギの少女を拐おうとする悪党どもめ! 貴様らはこのデスガロンが許さん!」

 

 瞬間、ゴオマちゃんは目と耳を疑った。グロンギみたいな連中が自分を助けに来たかと思いきや、こちらの素性をばらしていないにも関わらず“グロンギの少女”と呼ばれたのだから。

 ゲラグと言い、最低野郎共と言い、デスガロンたちと言い。目まぐるしく訪れる非日常に、ゴオマちゃんは一度思考を放棄する。こうしている内にも、目の前にいた悪党はデスガロンたちによって成敗された。

 その後、トントン拍子で保護されたゴオマちゃんは怪人用更正施設へと入れられた。施設の経営をしているのは、仮面ライダーにぼこぼこにされて悪の組織としての活動に嫌気が差し、心を入れ替えて愛と平和のために戦う事を決意した怪人たちが所属する法人団体である。

 また、更正施設といっても外への接触は割りと自由だった。そのため、コマサンダーの妹であるコマチャンダーが度々やって来ては、ゴオマちゃんと遊んだりする。

 

「よろしくゴオマちゃん! 私はコマチャンダー! コマちゃんって呼んでね!」

 

「ちゃん付けするな」

 

 バゴっ!

 

「ぴえぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 もちろん、初めて出会った頃はゴオマちゃんがコマチャンダーに暴力を振るったりと、あまり穏やかではなかった。しかし、問題を起こす度に綺麗な王蛇が駆け付けてくるので、初めはトゲしかなかった彼女も次第に丸くなっていく。

 

「バガモン。このチーズバーガーとやら、かなり美味いぞ。モグモグ……」

 

「本当だガ? えへへ、それは何よりなんだガ!」

 

 ただし、丸くなったとはいっても不満の一つや二つは存在する。それは――

 

「嫌だぁ! 着たくない! ドレスなんて着たくないぃぃぃぃ!?」

 

「よろしい。なら、ゴスロリではなくチャイナ服で妥協しよう」

 

「げぇっ、ガリマぁ!?」

 

 自分の着る服の問題であった。最初はボロボロの服を着ていた彼女であるが、周りからは「そのままではいけない」と言われたのである。まだ男としての矜持が残っているゴオマちゃんとしては、服を与えられるという名目で着せ替え人形になるのはご免だった。

 しかしながら、ンのベルトの破片を取り込むタイミングと封印エネルギー注入が合わさった化学反応により、とても可愛らしい少女に生まれ変わったのが運の尽き。結局は、多くの者たちに集られてしまうのである。

 

「うわー! ゴオマちゃん、とても綺麗だよ! 私が保証するのだ!」

 

「うぅ……」

 

 そう言って目を輝かせるコマチャンダーと、のの字を書きながら座り込むゴオマちゃん。その日、ゴオマちゃんはコマチャンダーに目一杯誉められ、慰められた。

 だが、ここで挫けてしまう程ゴオマちゃんは弱くはなかった。絶好の機会を見計り、更正施設からの脱走を試みる。

 深夜。周りには誰も居らず、自分の最も好む時間帯。この時の彼女は、今なら怪人態になれると予感めいたものを抱いていた。ゲブロンの力を引き出すイメージを欠かさず、いつものように大空へ羽ばたこうとする。

 

「……あれぇ?」

 

 ふと飛び立つのを止めたゴオマちゃんは、おもむろに自分の身体を確かめる。良く見てみれば、怪人態に変化できたのは両腕のみであった。それ以外は可愛いリントのままで、愕然とする。

 

「あっ、コラ! ゴオマちゃん! 脱走するんじゃない!」

 

 危うく茫然自失になりそうだった時、後ろからクジラ怪人が追い掛けてきた。我に返ったゴオマちゃんはそそくさと逃げ出そうとするが、忽然と正面を立ち塞いだ人物の顔を見て戦慄する。

 その狼を模した全身鎧は、遠慮なくゴオマちゃんのトラウマを刺激する。顔を直視しようとするものならば、酷く狼狽して物事を考えられなくなる。そう、そこにいたのは――

 

「悪い子はいねがー? 悪い子はいねがー?」

 

 赤狼騎士、牙澪であった。

 

「……うわああぁぁぁぁ!? バガモォォォォォン!!」

 

 この後、バガモンに抱き着いて助けを求めた彼女は、やがて泣き疲れて眠りに落ちた。




Q.オマケください。

A.

ある日、プリキュアのEDのダンスを踊っているメビオとコマチャンダーを目撃したゴオマちゃん。

ゴオマちゃん「……俺は何も見ていない」

メビオ「忘れろォォォ!!」

ゴオマちゃん「あばぁ!?」



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