飛行船支援母艦若宮 (h.hokura)
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プロローグ『飛行船支援母艦若宮』

個人的には本人が望んでいないのにTS化し、翻弄される話しは好きですね。



『ワイバーン01着艦します、作業員は回収準備について下さい。』

『ワイバーン05発艦準備に入ります。』

洋上を航行するブルーマーメイド所属・飛行船支援母艦若宮の飛行甲板上で無人飛行船の発着が行なわれている。

『こちら飛行管制室より艦橋へ、11地区の捜索を完了、引き続き13地区の捜索を行います。』

若宮の艦橋で艦長席に座る女性が、座席に据え付けられた艦内通話機を戻す。

「副長、今後の本艦の進路を変更します、13地区の捜索終了後は17地区へ向かって下さい。」

「了解です艦長・・・整備局が何か?」

眼鏡掛けた切れ者といった感じの副長が、艦長の傍らに来て声を潜める。

「・・・捜索範囲をもっと広げるとの事です、明確な理由の説明はありませんが。」

美しい黒髪を肩まで伸ばした艦長は溜息を付いて答える。

若宮は消息不明となった横須賀女子海洋学校の教育艦の捜索に借り出されていた。

「どうなっているんでしょうね、海洋実習に参加した艦が行方不明になるなんて。」

本来若宮は海洋実習の支援を行なう為に出航してきたのだが、突然消息不明となった教育艦の捜索を命令されたのだ。

「分かりません、しかし参加した艦が全て消息不明というのは異常過ぎますね。」

はっきり言って前代未聞な話しだが、何が起こったのかは情報がまったく入ってこない。

最初に指示された捜索範囲も集合地点の西之島新島沖だったのに、今はもっと広範囲に広がっている。

艦長も副長も事態が尋常では無くなって来ている事を感じていたが、海上安全整備局が何を意図しているか分からないでいた。

「そう言えば海洋実習に参加している教官艦さるしまの古庄指導教官と神城艦長は同期でしたね。」

副長は艦長に顔を寄せて聞いてくる、それは個人的な会話の為だったのだが。

「・・・ええ、優秀な女性です、彼女が何かミスを犯すとは思えないのですが。」

副長に顔を寄せられ、神城艦長は何故か落ち着かない様子になる、それは神城艦長が女性とのコミニケーションに未だに慣れていないからだ。

ブルーマーメイド所属艦故乗員は当然女性ばかりだということもある。

それは何故と言われれば答えは簡単だ、神城艦長は副長や乗員達と違い生まれながらの女性では無かったからだ。

 

ブルーマーメイド所属・飛行船支援母艦若宮の艦長である神城綾。

彼女は横須賀女子海洋学校に入学するまでは、神城薫という名の男性だった。

 

神城薫が東舞鶴男子海洋学校の受験を目指していたある日、彼は学校で突然倒れてしまう。

そして病院で目覚めた薫を待っていたのは医者の驚愕すべき次の一言だった。

「君は検査の結果女性だった事が分かりました。」

要は身体は男性だったが、遺伝子的には女性、つまり半陰陽だったのだ、彼、いや彼女は・・・

本人がパニックに襲われたのは言うまでも無い、ただ母親だけは至極冷静だったが。

結局、その母の説得もあり、薫は女性になる為の手術を受ける事になった。

そして身体の調整と女性としての教育に一年間費やし、晴れて横須賀女子海洋学校に入学する。

女性となった為に・・・いくら何でも男子高である東舞鶴男子海洋学校には行けないからだが。

名前も神城薫から神城綾に変えて。

その時、初めての(当たり前だが)女子だけの生活に戸惑っていた綾をフォローしてしてくれたのが、古庄薫だったのだ。

同じ教育艦で3年間過ごし、親友と呼べる程親しくなった、少なくても神城艦長にとってはそうだった。

女性となった自分に始めて出来た友人、学業でも女子海洋学校での生活でも助けられたのだ。

卒業後、古庄薫は横須賀女子海洋学校の指導教官に、神城綾は若宮の艦長に、それぞれ進む先が分かれたが、それでも連絡や時間が合えば会ったりしたものだ。

今回の海洋実習についても、『面白い娘達が居て楽しみよ。』、1週間前に彼女から有った連絡を見て元気そうだと安心していた。

それだけにさるしまがも消息不明と聞いた時、神城艦長は酷く心配させられたのだ。

艦橋の窓から洋上を見ながら神城艦長は溜息を付く、その艦長に副長が更に身を寄せてくる。

「ふ、副長、ちょっと顔が近いですよ。」

もう顔と顔が触れ合ってしまう程の距離、良い匂いもして落着かない、いくら身体が女性になり、何年も女の世界で生きて来たとはいえ、やはり男としての方がまだまだ長かった神城艦長としては、簡単には慣れそうもなかった。

もっとも副長の方は気にもしていない、まあ彼女の方は同性同士だと認識しているからだ。

余談だが神城艦長のこういった所が副長や乗員達に可愛いと好評なのだった。

「あ、すいません・・・でもお耳に入れて置いた方がよろしいかと思いまして。」

先程より更に声を潜め副長が言ってくる。

「整備局に居る友人が漏らしていたのですが、実習に参加している教育艦が反乱を起こした、という情報があるそうです。」

「反乱ですか?それは穏やかではありませんね。」

教育艦の乗員は横須賀女子の生徒達、神城艦長の後輩達だ、彼女達がそんな事を仕出かすとは考えたくもない話だ。

「ええ、ただ真偽の程は分かりません・・・ただ海上安全整備局がこれに対し強硬手段を取ろうとしているという話も流れている様です。」

「・・・・・・」

教育艦の反乱が事実だとしたら事は横須賀女子だけでは済まない、ブルーマーメイドの存亡にも繋がってしまう。

今頃、横須賀女子海洋学校の宗谷真雪校長は苦慮しているだろうと神城艦長は心が痛んだ。

宗谷校長は神城綾として横須賀女子に入学する際、事情を唯一知る人間として配慮してくれた人だ。

古庄指導教官と共に神城艦長にとっては最大の恩人なのだから。

そんな時だった、艦長席の艦内電話がコール音を鳴らす。

「はい艦橋です。」

『こちら無線室、救難信号を受信しました、13地区です。』

受話器を取って呼び出しに出た神城艦長に報告が入る。

「発信した相手は分かりますか?」

『船舶ではありません、低出力なので、救命ボートからだと思われます。』

ボートに積まれている非常用救難信号発信機からという事らしい。

「飛行中の無人飛行船を使って発信地点を割り出して、飛行管制室に連絡して下さい。」

『了解です艦長、20分で終わらせます。』

「お願いします。」

そして神城艦長は通話先を飛行管制室に切り替えて呼び出す。

「飛行管制室、艦長です、救難信号を受信、無線室が発信地点を計測後連絡して来ますので、飛行船を向かわせ下さい。」

『飛行管制室、了解です。』

「今回の実習参加艦のどれかでしょうか?」

指示を終えた神城艦長に副長が問いかける。

「それはまだ分かりませんが・・・兎に角、発信地点確認後、本艦も向かいます。」

「了解です艦長、救難体制に入ります、」

神城艦長が頷くの確認した副長は、艦橋後部にある艦内放送器に向かい、マイクを取り上げる。

「全艦救難体制に入って下さい、繰り返します全艦救難体制に入って下さい。」

そして艦内放送器横のレバーを倒し、アラーム音を響かせる。

 

2時間後、救難信号の発信地点に若宮は到着していた。

その前に発信地点に到着していた飛行船の映像から、それが救命ボートであり、女性らしい人影を確認していた。

ただその要救助者は飛行船の接近にも反応を示さず、神城艦長はそれが気掛かりだった。

『こちら艦首見張り、救命ボートを確認、右舷30度、距離500。』

「機関停止、救命艇の発進準備を急いで下さい。」

見張り員からの報告を聞いた神城艦長が指示する。

「機関停止。」

「救命艇の発進準備急げ。」

機関員と副長の復唱が重なる。

神城艦長は艦長席から立ち上がり、艦橋の窓に寄ると、双眼鏡を構えて救命ボートの方を見る。

洋上で波に揺られる救命ボートに若宮の救命艇が接近して行くのが見える。

どうか無事であって欲しい、神城艦長は願った。

 

『救助班より艦長へ、要救助者を収容完了、意識は有りませんが、大きな外傷は認められず。』

「ご苦労様です、要救助者の身元は分かりますか?」

要救助者を収容した救助班からの報告を聞いた神城艦長が問いかける。

『ブルーマーメイドの隊員です、氏名は・・・』

要救助者の身分証明証を救助班員が確認している様子が無線越しに聞こえてくる。

『古庄薫二等保安監督官です。』

「・・・・!?」

神城艦長は思わず艦長席から立ち上がってしまった。

「薫さん・・・が?」

唐突な再会に呆然となる神城艦長を、副長や乗員達は心配そうに見つめるのだった。

 

横須賀女子海洋学校とブルーマーメイド、そして海上安全整備局を巻き込んだ「RATtウィルス」事件の一端に神城艦長と若宮乗員達が初めて遭遇した瞬間だった。

 

 

若宮

若宮型飛行船支援母艦

(元イギリス・ユニコーン型飛行船支援母艦)

基準排水量14,950トン

全長194.9 m

最大速力24.0 ノット

搭載飛行船15隻(補用5隻)

乗員45名

イギリスとの協定により日本に引き渡され、若宮と改名される。

飛行船の母艦として運用されると共に他艦の飛行船の補給や修理、

整備を支援する飛行船工作艦。

また飛行船や補給物資、人員の輸送を担う事もある。

その為、ブルーマーメイド内では、便利屋と呼称されている。

しかしこの呼称は乗員達には不評であると伝えられている。

艦長は神城綾二等保安監督官。

 




また色々と趣味丸出しの作品を書いてしまいました。
TSとか工作艦とか・・・

出来れば寛大な目で見て頂けると助かります。


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ブルーマーメイド編 古庄 薫と神城 綾

「攻撃目標晴風。」

私は何をしようとしているの、その艦は教え子の乗った艦なのに・・・

「本艦は攻撃を受け・・・晴風は反乱を企て・・・」

違う、攻撃を仕掛けたのは私の方、晴風は悪くない、何でそんな事を・・・

止めて。

止めて。

止めて。

ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ・・・・・

「・・・!?」

気付くと私はここ何日で見慣れてしまった天井をぼんやりと見ていた。

暫らく混乱した状態が続いたが、それが収まってくると私は深い溜息を付く。

ここは病院、海洋実習中に意識が途絶え、気付けばここに居た、そして蘇る忌まわしい記憶。

自分の教え子を攻撃し、反乱の汚名を着せた。

上半身を起こし、汗まみれになった身体を自身で抱きしめた、湧き上がってくる震えを抑える為に。

私の名は古庄 薫、横須賀女子海洋学校の指導教官だ。

 

あの日、海洋実習の為に集合地点の西之島新島沖に私は教官艦さるしまの艦長として居た。

それは何時もと変わらない海洋実習だった、海洋研究機関の人間が同行している事を除けばだが。

連中は西之島新島に上陸後、何かを回収して来た様だったが、その内容は機密と言う事で教えてくれなかった。

異変が起こり始めたのは晴風が遅刻するとい連絡が来てからだった。

その辺りから私は意識がはっきりしなくなっていった、いや副長や他の乗員達も同様だった。

まるで自分が自分で無いような感覚、やがて私は一つの考えに支配されてゆく。

遅刻するなど許しがたい、晴風に罰を、痛みを与なければならない・・・

心の奥で間違っていると思っているのに私はその考えから逃れられなくなっていた。

そして乗員の晴風接近の報告に躊躇う事無くこう命じた。

「攻撃目標晴風。」

さるしまの砲撃に必死に回避運動をする晴風、止め様としても、身体も意識も私には従ってくれなかった。

そして凄まじい衝撃、沈み始めたさるしま、そこで私の記憶は途切れる。

私は自身を抱きしめていた腕を外すと病室の外を見る。

 

ここで目覚めたからも私の地獄は続いた。

まず来たのは海上安全整備局の人間達、執拗に何があったのか、それだけを尋問された。

彼らは私の質問をまったく受付なかった、晴風が他の教育艦どうなったのか、答えてはくれなかった。

時間も日付の感覚も失われ、悪夢に苛まれるだけが続いていたある日。

私の元を訪れたのは、宗谷 真霜一等保安監督官だった。

彼女は私の後輩で、今はブルーマーメイド安全監督室情報調査室所属の人間だった。

宗谷一等保安監督官のお蔭でようやく私は状況を知ったのだが、正直言って悪夢が酷くなっただけだった。

武蔵を始め海洋実習に参加した艦艇の殆どが行方不明、晴風は未だに反乱の疑いを掛けられたまま。

唯一救われたのはさるしまの乗員が全員救助されていた事だろう、ただ何処に居るかは教えて貰えなかったが。

あと、私を救助してくれたのが若宮だと言う事も知った。

そうか彼女の艦に助けられたのか、私は横須賀女子海洋学校時代からの親友の顔を思い出す。

 

ふと病室の時計を見ると、宗谷一等保安監督官が帰ってから2時間立っている事に気付く。

少し横になっているつもりが眠ってしまい、あんな記憶を夢の中で思い出していたらしい。

その時だった、病室のドアがノックされ、私は思わず緊張させられる。

ここ何日か整備局の尋問は無かった、どうも宗谷一等保安監督官ははっきり言ってくれなかったが、裏で色々な動きがあり、私の尋問どころでは無くなっているらしい。

「どうぞ・・・」

取りあえず私は中に入ってもらう事にする。

扉が開き入ってくる相手を見て私は驚かされた、まあそれは良い意味でだったけど。

だって私の病室に入って来たのが、先程思い出していた親友、飛行船支援母艦若宮の艦長である神城 綾二等保安監督官だったからだ。

 

「身体の方はどうですか?」

ベット横に置いた椅子に座った綾が聞いてくる。

「何とか動けるという所かしら、まあ病室以外行く所なんてないんだけどね。」

上半身を起こし枕を背もたれにして私は綾と会話する。

「ああ、そういえば救助してくれたのは貴女の艦だったのよね、お礼が遅れて御免なさいね。」

「いえ、自分の責務を果たしただけですよ。」

私の礼に綾はそう言って笑う、なるほど彼女らしい答えだ。

「それよりもっと早く来たかったのですが、帰港予定が延びてしまって。」

「・・・・・」

申し訳ない様に言う綾の言葉に私は押し黙る、多分それは・・・

海上安全整備局により綾と乗員達は海上に隔離されたのだ、私を救助した為に。

聡明な綾の事だ、事情は察しているだろうが、それに気付かないふりをしているのは

私を思ってくれての事だろう、この辺も彼女らしいと言える。

「気にしなくても良いわ、来てくれたんだからね、でも驚いたでしょ私を救助した時は。」

「ええ救助者が古、薫だったから驚きましたよ。」

私が軽く睨むと綾は言い直す、まったく女子海洋学校時代から変わっていない。

他人行儀になるからと何度も言っているのだけど。

そんな彼女に状況を忘れつい意地悪な事を言ってしまう私だった。

「今日はセンス良い服ね・・・誰に見立ててもらったの?」

「誰って、自分で・・・」

「あ・や。」

「休暇で学校時代の友人に会いに行くと言ったら、乗員の皆に色々と・・・何でああも張り切るんだか。」

鬱そうに言う彼女に私は思わず噴出してしまう。

同性である私でも思わず見惚れてしまう美人な綾だが、致命的な欠点がある。

それが服装のセンスだ、女子海洋学校時代に初めて乗員の皆と外出する為に集合した場所に来た綾の服装に、私達は急遽その日の予定を全てキャンセルし、彼女を洋服店に連行した。

そして半日近く掛けて綾に服装についてレクチャーしたのだった、もっとも後半は着せ替え人形扱いになってしまったけど。

その時涙目になってしまった綾を見て、私達が新しい趣味に目覚めかけたのは、彼女には絶対秘密である。

まあそれでも卒業までに改善したとは言えず、今も綾のセンスは相変わらずだ。

それを若宮の乗員達も心配して色々しているのだろう・・・玩具扱いと言うのも否定出来ないが。

「いいじゃない、それだけ皆に慕われているって事でしょ。」

まあ彼女には話さない方がいいだろうと思いそう言っておいた・・・けっしてその方が面白いと思った訳は無い、多分。

「・・・まあいいです、それより大分顔色が良くなってきた見たいですね、良かった。」

「そう・・・かしら?」

確かに先程までの重苦しさが多少和らいでいる事に私は気付き目の前の親友を見る。

きっと綾のお蔭だろう、本人には悪いが目の前の変わらない親友を見て安心したのかもしれない。

「何笑ってるんですか?人の顔を見て・・・」

どうやら私は笑っていたらしい、綾はそれを見て拗ねた様に睨みつけるが、彼女の場合余り様にならないのはご愛嬌だ。

「くす・・・綾貴女はこれからも変わらないいてね。」

「えっと、どう言う意味・・・」

「綾はそのままが良いという事よ。」

「何ですかそれ?」

1人納得した私に綾は困った表情を浮かべて溜息を付くのだった。

その後暫らく話をして綾は帰って行った、今度は洋上で会おうと約束して。

 

数週間後、私達は約束通り洋上で再会する、晴風を救援に向かう途上で。

 



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乗艦体験学習1

そろそろアニメのキャラと係わりを、ということで。
でもまだ古庄 薫しか出ていませんが、後で登場予定です。



「乗艦体験学習ですか?」

他の飛行船支援母艦に対する飛行船と関連機器の輸送を終え、基地に帰港しようとしていた若宮にそんな通信が入って来た。

送って来たのは横須賀女子海洋学校の指導教官である古庄 薫、若宮艦長神城 綾にとっては女子海洋学校時代からの親友だ。

『ええ、若宮で引き受けてもらえないかと思ってね。』

薫らの言葉に綾は考え込む、色々と疑問が沸いてくるからだった。

 

乗艦体験学習とは、女子海洋学校の生徒達が実際のブルーマーメイドの艦艇に乗り、その任務を体験するものだ、いわゆる職場体験と言えるかもしれない。

実際、綾も横須賀女子に在学中にやった覚えがある正式な学習項目だ。

だからそれ自体別に問題は無いのだが不可解な話しには違いない、何故なら・・・

「幾つか聞かせて下さい・・・何故この時期なんですか、それと何故若宮なんです?」

綾の記憶が正しければ乗艦体験学習は1年間教育艦に搭乗した後に行なわれるからだった。

あと若宮が選ばれた理由だ、綾としては自分の指揮する艦を卑下する訳では無いが、ブルーマーメイド所属の最新鋭艦艇に比べれば魅力の有る対象とは思えなかった。

何しろ飛行船支援母艦と言いつつ、実際は工作艦や輸送艦扱いだ、改インディペンデンス型を始めとした艦艇達の方を生徒達は選ぶ筈だ、まあこれは実際乗艦体験学習に若宮が選らばれた事が無いからだ。

『時期については、これは今回の対象生徒が晴風の乗員と言う事だからよ・・・あの事件の後に晴風が沈没した事は神城艦長も知っているわよね。』

あの事件とは暴走した武蔵の浦賀水道進入の事だ、RATtウィルスによる一連の事件は海上安全整備局により全て隠蔽されている、だから綾も全てを知っている訳では無かった。

一応教育艦の消息不明は通信と戦術ネットワークの途絶とそれによって起こった混乱が原因とされ、武蔵の暴走も艦内システムの故障とヒュウマンエラーが重なった為とされている。

もっとも綾を始めとしたブルーマーメイドの一線に居る者達はそんな発表を鵜呑みにしてはいなかったが。

話が逸れたが、その武蔵を強制停船させたブルーマーメイド艦隊の作戦に晴風が参加した事は、綾も知っている、何しろ救援に向かった薫指揮のてんじんを始めとした艦艇に対する補給任務に付いたのが他ならぬ若宮だったからだ。

その後、若宮はてんじん達を追って横須賀に向かったが、速力が遅かったので、着いた時には全てが終わった後だった、そして晴風が帰港直後沈んだ事を綾はその時知らされたのだ。

『その後サルベージされ復帰する事になったのだけど、工事の予定や事件の後始末で実習予定が切迫してしまって、それで乗艦体験学習を前倒しにする事になったの。』

つまり時間の都合と言うわけだ、それなら綾も納得出来ない事も無いのだが。

『あと何故若宮か、と言うのは割かし簡単な理由ね、私が一番信頼出来るブルーマーメイドの人間が居るからよ。』

「えっと・・・古庄指導教官?」

真っ直ぐにそんな事を言われ綾は思わず動揺してしまう。

『彼女達は学生としては過酷過ぎる体験を最初の航海でしたわ、加えて乗艦した艦を一度失った。』

教育艦の消息不明事件直後から晴風が過酷な試練を受けた事を綾は薫から聞かされた事がある、もっとも機密事項扱いだったので詳しい内容は教えて貰えなかったが。

そして最後には乗っていた晴風を失う羽目になった、確かに学生の身分としては過酷の一言だろう事は綾にも想像出来る。

『今はショックの強さで呆然としているからまだましだけど、時間が経てば・・・』

「そのショックに押し潰される娘も出てくるかもしれないと?」

薫の言いたい事を察して綾は続ける。

「言いたい事は理解しましたが、私はカウンセラーではありませんよ。」

それなりの対応をするなら専門のカウンセラーが適任だと綾は思うのだが。

『ありきたりのカウンセリングなんかに期待してないわ・・・それに整備局にその事を任せる気にはならないし。』

「・・・・・」

薫の言葉には不審と嫌悪感が満ちている、まあこれは事件に最初から巻き込まれ、その後に受けた仕打ちもあったからだ。

もちろんそんな事を綾は知らされていないが、彼女も整備局の一連の対応には不信感を募らせていたので薫が憤慨しているのも何となく理解出来ると思っている。

『だからこそ神城艦長に任せたいの、貴女ならあの娘達を任せられるわ、もちろん私も協力するけど。』

そこまで信頼してくれるのは嬉しいが責任を感じてしまうなと綾は思った。

「信頼に答えられるか分かりませんが最善を尽くしますよ。」

『お願いね、あとこの件については宗谷校長も承認していますので、正式な辞令が降りる筈です。』

宗谷校長も関わっているらしい、まあ彼女だったらそうだろうなと綾は思う、自分の時も大いに助けられたものだったからだ。

「分かりました、詳しい打ち合わせは辞令が降り次第と言う事で良いですね。」

『ええ・・・そんな場合ではないけど貴女とまた海に出られるかと思うと嬉しいわね。』

「そうですか?、まあ海洋学校後初めてになりますが。」

2人の間に沈黙が流れる、卒業後それぞれの道に分かれた為共に海に出る事など無くなってしまった。

『それでは連絡を待ってます神城艦長。』

「はい古庄指導教官。」

受話器を戻した綾は視線を海へ向けて呟く。

「私も嬉しいですよ薫。」




この作品中で触れられている様に、RATtウィルスによる一連の事件は、関係者以外には秘匿されているという設定です。
考えてみればかなりの不祥事ですから組織的防衛の為、これくらいするでしょう。

それでは。


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乗艦体験学習2

ようやくと言うか、アニメの登場人物達の登場です。

7/31 ご指摘があったので晴風の主砲を12.7cm単装砲に修正しました。



「皆さんは来週から乗艦体験学習をしてもらいます。」

陸での講義に明け暮れていた晴風の乗員達は臨時の教室である会議室で指導教官である古庄 薫から告げられる。

「あの・・・古庄教官、乗艦体験学習ですか?」

困惑する皆を代表して艦長である岬 明乃が質問する、あまりにも唐突だったからだ。

海洋学校の学習項目に乗艦体験学習は確かに有ったが、入学時に貰った予定表ではそれは大分先の事だと明乃を始めとした晴風の乗員達は思ったからだ。

「ええ、これは実習予定の都合で急遽決まったの岬艦長。」

質問してきた明乃を見ながら古庄教官は答える。

「晴風の復帰にはもう少し時間が掛かります、だからその後の実習予定を考えると、前倒し出来る項目は行なうと言う事になりました。」

晴風は武蔵と一戦で帰港直後沈没してしまった、その後サルベージされ現在修復中だった。

その間当然海洋実習は出来ず、明乃達は陸上で講義を受ける形となっていたのだ。

「分かりました古庄教官、岬 明乃以下晴風の乗員は来週より乗艦体験学習に入ります。」

明乃がそう言って敬礼すると、他の乗員達も立ち上がって同じ様に敬礼する。

「結構です・・・まあ困惑する気持ちも分かりますが、見聞を広める為と思って下さい。」

答礼しつつ古庄教官は明乃達を見ながらそう説明する。

「それで古庄教官、私達が体験乗艦するのどんな艦なんですか?」

明乃の質問に古庄教官は普段彼女達が見た事のない得意げな笑みを浮かべて答えた。

「飛行船支援母艦若宮よ。」

 

「飛行船支援母艦若宮、元はイギリスのユニコーン型飛行船支援母艦、イギリスとの協定により日本に引き渡され若宮と改名。」

講義が終了後、晴風の乗員達は今度乗艦体験する事になった若宮について、ココちゃんこと納沙 幸子が解説してくれるのを聞いていた。

「飛行船の母艦として運用されると共に他艦の飛行船の補給や修理、整備を支援する飛行船工作艦ですね。」

「工作艦って明石みたいな艦って事か?」

そう聞くのはメイちゃんこと西崎 芽依水雷長だった。

「そうですね、ただ明石は艦艇、若宮は飛行船と言う違いがありますが。」

幸子はそう解説しながらタブレットで明石と若宮の画像を表示させ皆に見せる。

「通常の飛行船支援母艦には無い、飛行船修理施設と補給部品の保管倉庫を持っています、だから主に他の艦艇の後方支援が任務ですね、まあその他に飛行船や補給物資、人員の輸送もやっているみたいですね。」

「そうか、多くの任務を請け負っている訳か凄いな・・・」

そう感心するのは副長兼クラス副委員長である宗谷 ましろ、なおシロちゃんと明乃に呼ばれるが本人は受け入れていない。

「・・・まあそうとも言えますが、えっとこれって?」

幸子がましろの言葉に苦笑しつつ画面をスクロールしていて何かを見つけたのか驚きの声を上げる。

「ココちゃん?」

「あ、すいません実は任務記録を見ていたのですが、若宮は半年前に武器密輸組織が立てこもる小島に艦砲射撃をした事があるみたいです。」

明乃の問い掛けに幸子がタブレットから顔を上げて説明する。

「へっ若宮は支援母艦だよな、それが艦砲射撃したのか?なあ普通そんな事するかタマ?」

その説明に芽依は驚き、隣に居たタマちゃんこと立石 志摩砲術長に聞く。

「・・・聞いた事無い・・・若宮は・・・」

「確かにそうだね、第一若宮が積んでいる艦砲って・・・」

志摩の言葉を聞いて明乃が幸子に問い掛ける。

「近接防御用ですね・・・10.2cm、後は機関砲位ですか。」

ちなみに晴風の主砲は12.7cm単装砲だ、つまり若宮のはそれより威力や射程距離の小さな砲と言う事になる。

これではかなり至近距離に寄らないと艦砲射撃を出来ない事になる。

しかも晴風より大きな艦体でだ、艦砲射撃に詳しい志摩や芽依が驚くのも無理は無いだろう。

「それ以外にも島に突入する強制執行課のスキッパー部隊を発進させたり・・・若宮って色んな事をさせられている見たいですね。」

苦笑いしながら幸子が説明すると明乃も同じ様に苦笑を浮かべる。

「その若宮ことは大体分かったけど・・・艦長さんってどんな人なのかな?」

そう言って聞いてきたのは、航海長であり航海委員を勤める知床 鈴、通称リンちゃんだった。

鈴としては多少改善したとはいえ、まだ晴風の乗員以外との接触は慣れていないからだが。

「えっとですね、艦長は神城 綾二等保安監督官・・・年次的には古庄教官と同期の方ですね。」

「古庄教官と?」

明乃が幸子の説明に驚きの声を上げる。

「はい、しかも同じ武蔵に乗艦されていた様です。」

つまり成績優秀な生徒だった訳だ、まあ艦長をしているくらいだから当然かと皆思ったのだが。

幸子は更に情報をスクロールしながら先を読み進んでいく。

「武蔵では飛行船オペレーターとして優秀な成績を、あ、それ以外にも飛行船の指揮や整備でもですね、それがあって卒業後に若宮の艦長候補の1人に選ばれたみたいです。」

「なるほど・・・飛行船全般の運用に長けていると言う事で艦長候補になった訳か。」

ましろが更に感心した様に言う。

「1年間の選考期間を経て正式に艦長に就任、艦艇の指揮についても優秀な成績を残していますね。」

「そうだったんだ。」

「うんそれは凄いな・・・尊敬をせざるをえないな。」

「それって・・・凄いんだよな?」

「・・・うぃ・・・」

「うう・・・どんな女性なんだろ?」

感嘆する明乃達艦橋要員の中で鈴だけは相変わらず心配げだった。

「うんっと・・・有りました神城艦長の写真が・・・」

そこで何故か固まってしまう幸子に周りの者達、特に鈴が不安そうに見る。

「どうしたのココちゃん?」

「いえ・・・これは見て頂いた方がよろしいかと思います艦長。」

明乃の問い掛けに幸子はタブレットを皆の方に向けて見せる。

「「「「・・・・・・・・」」」」

その場にいる者達はタブレットを見て言葉を失ってしまった。

何故ならそこに写っているのは、美しい黒髪を肩まで伸ばした美人だったからだ。

「もしかしてこの女性が?」

震える様な声で明乃は問い掛ける。

「はい、若宮艦長の神城 綾二等保安監督官です。」

 

それが明乃達晴風乗員が初めて神城 綾艦長を見た瞬間だった。

 




公式のキャラを出すのは色々大変ですね、口調とか性格とか。
てはいえ今後ともこちらの主人公とは絡ませいきたいところですが。

それでは。


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乗艦体験学習3

ようやく晴風の乗員達と綾が出会いました。
果たして・・・?



その日、若宮は横須賀女子海洋学校の専用桟橋に接岸していた。

もちろん乗艦体験学習で晴風の乗員達を乗艦させる為だ。

「艦長、古庄指導教官以下晴風の乗員が到着したそうです。」

若宮の副長から艦長の神城 綾に報告が入る。

「分かりました、それでは行って来ますので、担当の乗員も来る様に指示を。」

「了解です艦長。」

艦の指揮を副長に託すと綾は艦橋を出てゆく。

艦内を通り舷側に出ると桟橋上に薫を前に集合しているセーラー服の少女達。

そんな少女達を見て、ふと綾は自分が横須賀女子に入学した時の事を思い出す。

自分もかってあのセーラー服を着て学校生活を送ったのだと懐かしさを感じると共に浮かんだのは。

初めて女子の制服を着せられた事だった、セーラー服の特にスカートの頼りなさと言ったら・・・

頭を振ってその記憶を追い出すと掛けられたタラップを降りて薫達の方へ向かう綾。

その綾に気付いた薫が微笑みながら敬礼をすると晴風乗員達も全員敬礼をしてくる。

「古庄 薫以下晴風乗員、お世話になります。」

「「「よろしくお願いします。」」」

敬礼に続いて薫がそう挨拶すると乗員の少女達も続く。

「ようこそ若宮へ、艦長の神城 綾です、こちらこそよろしくお願いしますね。」

敬礼を返しつつ微笑んで答える綾、その姿に薫以外の少女達は顔を赤くしてしまう。

事前に顔を知っていたのだが、やはり実際の本人を前にして少女達は改めてその美しさに圧倒されている。

「・・・?」

もっとも綾の方はその理由が分からず、緊張でもしているのかと見当違いの事を思っていたが。

「こほん、神城艦長。」

内心で『ほんとに鈍いんだから。』と呆れながら薫が先を促す。

既に綾の後ろには晴風の生徒達を担当する乗員達が集合を終わって待機している。

「えっと、失礼しました、皆さんは各科担当の指示に従って下さい。」

担当の乗員へ後を任せ綾は少し離れた所に居る薫の傍に行く。

これから各科事に艦内を見学する予定だった。

「それでは皆さんこちらへ着いて来て下さい。」

担当の乗員に導かれて晴風の生徒達は若宮へ乗艦して行く。

「あまりうちの生徒達を惑わさないで欲しいですね神城艦長。」

「・・・言っている意味が分かりません古庄指導教官。」

隣に立って意地の悪い笑みを浮かべ言ってくる薫に渋い表情の綾は答える。

そんな綾に肩を竦めると薫は改めて親友の顔を見て言う。

「ではあの娘達を宜しくね綾。」

「ええ薫。」

綾もまた親友である薫の顔を見て答えるのだった。

 

教え子達の様子を見て周ると言う薫と別れ綾は艦橋に戻ってくる。

「お疲れ様です艦長、皆どうでしたか?」

艦長席に座った綾に副長がタブレットを渡しながら聞いてくる。

「多少緊張していたみたいですが、まあ大丈夫でしょう。」

渡されたタブレットの報告に目を通しながら綾は答える。

「・・・彼女達の姿を見て懐かしいと思うあたり私も歳を取ったなと思いましたが。」

多少自嘲気味に話す綾に副長は微笑みながら答える。

「それを言ったら若宮乗員の全員がそうですよ、では出航準備に入りますが?」

「ええ、お願いします。」

敬礼をすると副長は出航準備の為艦橋要員達に指示を始める。

 

「艦長、晴風乗員の見学は終了、各科にて待機に入りました。」

若宮の出航準備が整った頃、副長から報告が入る。

「分かりました、では晴風の艦橋要員が艦橋に来たら出航します。」

若宮艦内の見学が終わり、晴風乗員達は各々の所属科の勤務場所で待機に入った。

後は晴風艦長である岬 明乃以下の艦橋要員が来れば出航となる。

「艦長、晴風艦橋要員到着しました。」

明乃達の担当乗員が彼女達を引き連れて艦橋に入ってくる。

綾は艦長席から立ち上がって明乃達を迎える。

「皆さんようこそ、それでは若宮は出航します、よろしいですね?」

「はい神城艦長。」

明乃は綾の問い掛けに敬礼して答える。

「では出航します、機関始動、錨を上げて下さい。」

明乃の返答に頷き綾は指示を出し始める。

「機関始動。」

「錨を上げ!」

乗員達が指示を復唱し動き始めるのを明乃達は興味深げに見ている。

若宮は晴風と比べれば遥かに巨大な艦だ、艦橋で働く乗員は倍もいる。

「機関始動、問題なし。」

「錨を上げました、全タラップ収容完了です艦長。」

「管制センターより出航の許可が下りました。」

晴風乗員達も出航時の作業は見慣れているつもりだったが、自分達の倍はいる乗員達が、各々役割を果たし連係する姿には圧倒されてしまう。

これが本物のブルーマーメイド艦なのだと・・・

特に明乃は同じ艦長である綾から目が離せなかった、連係する乗員達に所々で的確な指示を出している。

それがまるでオーケストラの指揮者、個々の力を引き出しそれを全体の力に高めてゆく。

まさに理想の艦長像を明乃は綾に見ていたのだった。

 

出航後、若宮は洋上での飛行船の展開や救助訓練を繰り広げる。

もちろんここでも綾の指揮とそれに完璧に答える乗員達の姿があり、晴風の乗員達は興奮を隠し切れ無かった、何しろあの堅物のましろさえ、若宮の副長に「副長としてどうあるべきか?」と興奮した様子で熱心に聞いていたくらいなのだから。

「岬艦長、ご苦労様でした、本日はここまでにしておきましょうか。」

やがて日が落ちる頃、綾は明乃達にそう言って微笑んでくる。

「あ、はいありがとうございました神城艦長。」

明乃達は多少疲れた様だったが満足げな表情で答える、それを見て綾は頷いて見せる。

「いえ、明日もその調子でお願いしますね。」

「「「「はい。」」」」

明乃達は敬礼をすると担当乗員に連れられ艦橋を出てゆく。

「かなり張り切っている様ですが、あんな調子で明日から大丈夫ですかね?」

副長が苦笑いを浮かべながら近付いて来て綾に尋ねてくる。

「まあ初日と言う事で、彼女達も素人と言う訳では無いでしょうから。」

綾は苦笑しつつ艦長席を立つ。

「私は一旦艦長室に下がります、後の事はお願いします。」

「了解です艦長。」

副長の敬礼に答えると綾は艦橋を後にする。

 

そのまま艦長室へ向かおうとしていた綾はその前に海風に当たろうと、飛行甲板下のデッキに向かった。

だが綾はそこに先客が居る事に気付く、そしてその相手に軽く驚く。

「お疲れ様神城艦長、少し付き合って貰っても良いかしら?」

指導教官の古庄 薫だった。

 

 




この話しはもう少し続きます。

それでは。


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乗艦体験学習4

乗艦体験学習編一応これにて終了です。

*8/4修正、知床 鈴を忘れていましたので、失礼しました。



「教官がこんな所で油を売っていて良いんですか?」

デッキで声を掛けられた綾は薫と並んで、彼女から貰ったサイダーを手に聞く。

「実習時間は終わったしね・・・やるべき時にやるべき事をしたなら後は何をしていても問わない、この艦の流儀でしょ。」

綾の多少皮肉の篭った問いに薫は悪戯っぽい笑みを浮かべて答える。

そう綾はやるべき時にやるべき事が出来るなら、他の場面で皆が楽する事を大目に見ている。

これは若宮における綾の方針、薫の言う所の流儀だった、これに対してはブルーマーメイドの一部の人間からは規律が保てないと批判を受ける事が多々ある。

だが常にガチガチになっていたら咄嗟の時に動けなくなる、それでは意味が無い言うのが綾の考えだ。

「・・・それって誰に聞いたんですか?」

とは言え批判の対象になりやすいのでその流儀は他の人間には話さない様に綾はしているのだが。

「この艦の副長によ、貴女の事を聞いたら嬉しそうに色んな話をしてくれたわ。」

「彼女がですか・・・まったく。」

若宮で初めて出会った時は、規則に厳しい融通の利かない女性だったのだが、今では艦内では一番オンオフの差が激しくなってしまっている。

まあこれは綾の影響が多々有るのだが本人は気付いていない。

「ふふふ・・・それであの娘達はどうかしら?」

綾の事をかわかう親友の顔から教官の顔に戻り質問してくる薫。

「まだ初日ですから・・・どう向き合えば良いか、悩み処ですね。」

溜息を付いて答える綾に薫は内心やはり任せて良かったと思った。

薫とて全てが簡単に済むとは思ってはいない、大切なのは明乃達晴風の乗員に自分達を見守ってくれる人間が居る事を分かってもらう事だと考えている、様は孤独に陥らない事だ、陥れば待っているの絶望だけだ。

「それで良いと思うわ、流石は綾ね・・・それじゃ早速お願い出来るかしら?」

「・・・それって教官の仕事だと思いますが。」

再び親友の顔に戻り薫は楽しそうに言ってくる、それに対し綾は顔を顰めて答える。

「もちろんフォローはします、だからお願いしますね神城艦長。」

そう楽しそうに言って薫は「それじゃ後で。」と言って艦内に戻って行く。

それを見て再び溜息を付くと綾は薫が入って行ったハッチとは別のハッチを見て声を掛ける。

「そんな所に居ないで出て来て下さい岬艦長、それに皆さんも。」

暫らくの静寂の後、ハッチから艦長である明乃と艦橋要員の娘達がばつの悪い表情をして出て来る。

「あの・・・何時からお気づきになっていたんですか?」

明乃が気まずそうに聞いてくると、綾は肩を竦めて答える。

「私と古庄教官が話し始めた時からです・・・ちなみに教官も気付いていましたよ。」

つまり最初からと言う事になる、しかも教官にもばれていた事になり皆更にばつが悪い表情になる。

「その・・・盗み聞きするつもりはなかったんですが、申し訳ありませんでした。」

明乃はそう言って頭を下げながら言う。

「貴女達がそんな事するとは思っていませんよ岬艦長。」

微笑みながら綾は明乃の謝罪に答える、まあ教官と現役の艦長の会話に生徒達が割り込むのは無理な話だとは想像出来るからだ。

「あの・・・神城艦長と古庄教官とは同期とお聞きしたのですが。」

ましろがおずおずと聞いて来る、明乃達他の艦橋要員もそれが気になるのか綾を見つめている。

「ええ、同じ教育艦で3年間一緒にね、所属科は違ったけど。」

綾は飛行科で薫は航海科所属だったのだが、入学式での出会いもあってか付き合いは長い。

「だからあんなに親しげだったんですね。」

明乃がそう呟くと綾は皆を見渡して微笑みながら答える。

「皆さんだってそうなりますよ、今同じ場所で同じ時間を共有しているんですから。」

その言葉に明乃達はお互いの顔を見合わせる。

「だから今を、同じ場所で同じ時間を共有している事を大切にして下さい、それが有れば例え・・・」

そこで綾は言葉を途切れさせる、明乃達はそんな彼女を不思議そうに見る。

実は綾はこう続けるつもりだった「例え失ったとしてもそれを乗り越えられるから。」と・・・

綾も薫もこれまでに何人かの同期を事故などで失っている、それだけブルーマーメイドの職務は厳しいと言う事になる。

明乃達もやがては遭遇するだろう、確かに前回の事では晴風の乗員に幸いにも死傷者は出なかった。

だがこの先そんな幸運が続く訳が無い、ましてやブルーマーメイドになればその可能性は高くなる。

そんな時、同じ場所と時間を共有した仲間の思いを引き継ぐのは生き残った者の責務だと綾は思う。

とは言え今話して萎縮させる事も無いだろうし、何より人に言われるより自分自身で体験しそう考える様にならなければ彼女達の為にならないだろう、まあその為の助言なら幾らでもして挙げるつもりだが。

「いえ何でもありませんよ。」

だから綾はそう言うと慈愛を含んだ笑みを明乃達に向けるだけだった。

「何か非常に気になるんだけどな・・・」

「・・・うぃ・・・」

「うう・・・何んなんでしょうか。」

志摩や芽依は不服な、鈴は不安そうなそうな声を挙げるが、明乃やましろ、幸子は綾がその続きを語ってはくれないという確信があった。

様は自分で気づけと言う事なのだろう、そしてその為には幾らでも手助けをしてあげますと、綾は言いたいのだろうと明乃は思い何だか心が軽くなってくるのだった。

図らずも明乃達が見守ってくれる存在を認識した瞬間だった。

「さてそろそろ戻った方が良いですよ、食事や入浴の時間が立て込んでいるのでしょ。」

懐中時計、艦長になると支給される物、を見て綾は明乃達を促す。

「あ、そうだった皆食堂へ行くよ。」

「そうです艦長、遅れたら皆に迷惑が掛かります。」

「と言うか食事抜きですよ古庄教官だったら。」

「冗談じゃねえぞ、食事抜きなんてやってられるか、タマ急ぐぞ。」

「うぃ、今日はカレーの日、逃す訳にはいかない。」

明乃達は慌てて行こうとするが、ましろの「艦長、敬礼を・・・」との声に、皆綾に敬礼をする。

「「「「「「失礼します神城艦長!」」」」」」

「はい、皆ご苦労様。」

綾の敬礼を受け、明乃達はデッキを出て行く。

「皆の航海に幸あらん事を。」

見送りながら綾はそう呟く、それが果たして叶うか分からないにしても、彼女はそう祈りたかった。

 




これは私の考えですが、明乃達晴風の乗員はブルーマーメイドを始めとした、大人達に強い不信感を心の底に抱いたのではないでしょうか。
大人達の思惑により心身をすり減らし、挙句に生死を共にした晴風を一度は失ったのですから。
まあそれを癒してくれる教官の古庄 薫や校長の宗谷 真雪などは居ますが。
それにうちの神城 綾も加われたら幸いだと思います。

それでは。


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乗艦体験学習5

季節外れ?
いや対象があれだけにそれは無いかと思うのですが。



何処までも霧が続いている。

「酷い霧ね・・・」

若宮の臨時左舷航海管制員、見張りに就いた山下 秀子が呟く。

体験学習の一環で晴風の乗員達はそれぞれの科で業務を担当していた。

と言っても正規の乗員ではないのであくまで補助だが。

秀子も正規の航海管制員と共に見張りに立っていたのだが、正規の乗員に呼び出しがあり、艦内に戻ってしまたったので今は一時的に彼女1人だけであった。

まあ晴風の航海管制員としての経験があるので秀子はそれほど緊張はしていなかった。

「ははは、何か出そうな雰囲気・・・って縁起でもない。」

双眼鏡を覗き込みながら秀子は呟く、どうも1人だと変な考えをしてしまうと苦笑しながら。

頭を振って再び双眼鏡を覗き込む秀子の視界に何かが入ってくる。

「えっ・・・?」

それは船の様だった、しかしそれなら知らせが入る筈だ、秀子は首を捻る。

改めてよく対象を見ると、中型の帆船だった、ただ船体が霧に覆われているせいで詳しい特徴はもちろん船名すら判別出来ない。

躊躇していたの一瞬で、秀子は直ぐにインカムを通して艦橋に一報を入れる。

「こちら左舷管制、距離6百に船舶を発見、方位020、本艦とすれ違う進路を取りつつあり。」

『こちら艦橋、確認します、距離6百に船舶、間違いありませんか?』

艦橋でこの時間帯に当直に就いている乗員から確認の連絡が入る。

「はい、間違い・・・あ、あれ?」

もう一度確認しようとした秀子の視界からその帆船は消えてしまった。

『左舷管制、報告は明瞭に願います、間違いありませんか?』

「その・・・対象の船舶を見失いました、確認出来ません。」

呆然となりつつも、管制員として状況を報告する秀子。

『了解しました・・・山下管制員は正規管制員が戻りしだい艦橋へ出頭して下さい。』

「了解です。」

何となくもやっとした気持ちを抱きながら秀子は答える。

そして正規管制員戻って来くると秀子は艦橋に向かう。

 

「ご苦労様です、状況をもう一度説明してもらえますか?」

艦橋に着いた秀子を待っていたのは、艦長の綾と副長の天音だった。

これには秀子はかなり動揺させられた、もちろん事情を聞かれると思っていたが、艦長と副長まで出て来るほどとは思っていなかったからだ。

時間的に言えば艦長と副長の当直時間は終わっている、つまり2人は呼び出されたと言う事になる。

秀子もこれはかなり大事になっていると思い顔を青くしつつ報告をする。

「0640、距離6百に船舶を発見、船種は中型の帆船と思われますが、船名は不明、艦橋へ報告中に見失いました。」

報告を聞いた綾は乗員の1人に顔を向ける。

「その時間の前後に若宮の周囲に他の船舶は確認していません。」

レーダー担当の乗員らしい女性が答える。

これってまずいんじゃないかと秀子は益々顔を青くする、不適切な報告をしたと言う事で何か言われると・・・

「分かりました、山下管制員ご苦労様でした、下がって下さい。」

「えっ・・・?」

だが綾から言われた言葉は秀子の想像したものとは違った。

「あの・・・良いんでしょうか?」

思わず聞き返す秀子を綾は静かに見つめ返す、なまじ美人なだけに妙に迫力があり思わず固まる。

「山下管制員、貴女が海洋学校で管制員として最初に教官に教えられた事を覚えていますか?」

意外な問い掛けに秀子は答えられない。

「見たものを素早く、正確に伝える、それが何かを考えるのは上の仕事だと、教わった筈です。」

確かに秀子はそう教わった事を思い出す、そしてこう付け加えられた事も。

『それを忘れた者は大きな錯誤を起こす。』と・・・

「・・・そう言う事です、理解して頂けましたか?」

「はい・・・失礼します。」

秀子はそれ以上何も言えず、敬礼をすると艦橋を出て行く。

「少しきつかったでしょうか?」

それを見送りながら綾深い溜息を付くと傍らの天音に問い掛ける。

「どうでしょうか?人によっては叱責する様ですから、艦長はまだ良いほうだと思いますが。」

天音はそう言って肩を竦める。

「それにしても・・・初めてで遭遇するとは彼女達は運が良いのか悪いのか分かりませんね。」

「確かにそれは微妙なところですね。」

綾と天音は苦笑する。

「ところで艦長、部屋にお戻りになられますか?」

天音が時計を確認すると聞いて来る、2人共就寝中に呼び出されたのだ。

「いえ、こうなってはもう寝られませんし、このまま待機しているつもりです、副長は下がっても構いませんが。」

懐中時計を見て綾は答える、とても眠る気にはなれなかったからだ、ただ天音を付き合わせる程では無いと思って彼女には下がる様に言ったのだが。

「艦長が待機なされるのなら副長の私もそうします、まあ眠れないのは同じですし。」

どうやら下がる気は無いらしい、生真面目な彼女らしいと綾は微笑む。

「分かりました・・・では眠気覚ましのコーヒーが欲しいですね、もちろん副長の分も。」

「了解です、直ぐに手配を・・・」

天音も微笑んで頷くと艦内通話器を取り上げて主計科に連絡を、いや出前を頼む。

それを横目に見ながら綾は艦長席に座りなおし目を瞑る、別に眠くなった訳では無かった。

これからの事を考える為にだ・・・厄介事はこれで終わりでは無いだろうから。




海は様々な神秘があると思うのですが、まあこれもその一つかと。
まあある動画を見て思いついた話なのですが。

それでは。


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乗艦体験学習6

季節はずれネタの続きです(笑)。



翌朝・若宮第3会議室

 

晴風の乗員達は乗艦体験学習中の教室としてこの会議室を使用していた。

06:00、乗員達は次々と会議室に集合して来る。

「皆お早う。」

艦長の明乃はそう言って皆を見渡し、ふと元気の無い山下 秀子に気付く。

「ねえメイちゃん、しゅうちゃんどうしたの?」

気になった明乃は芽依に聞く。

「分かんないんだよな・・・朝来た時からああでさ。」

芽依は肩を竦めて答える、その秀子は同じ航海管制員である内田 まゆみに声を掛けられいるが、ずっと俯いたままだった。

これは『海の仲間はみんな家族。』と常に考えている明乃にとっては由々しき事態だった。

「しゅうちゃん、何かあったのかな?話してみてくれないかな。」

その声にようやく秀子は顔を上げる。

「あ、艦長・・・」

秀子は明乃を見ると再び顔を伏せる、早朝の事を話すべきだが、どうしても躊躇してしまう。

とは言え何かあれば艦長への報告は乗員としては義務だ、例え乗艦体験学習中でもあっても。

だから秀子は有った事を、明乃や他の乗員達に話す。

「それは・・・う~んどう対処すべきなのかな?」

艦長になってまだ日の浅い明乃はどう判断すべきか迷ってしまう。

「神城艦長の言われる事は間違いではないと思うが・・・」

副長であるましろも困惑気味に言う、確かに航海管制員=見張り員は目であり、考える役目では無いが。

「でもな・・・何かしらの説明はあっても良いはずだぜ、これじゃ山下が納得出来ねえのも分かる。」

機関科の柳原 麻侖機関長、通称マロンちゃんは腕を組みながら憤慨した様に言う。

その辺は明乃達も同じ気持ちだ、秀子の見たものが何であれ、まあ皆それが何かおおよそ見当はついていたが、何故綾がちゃんと説明してくれないのかが分からないからだ。

「・・・岬艦長?」

当惑気味でざわついた晴風の乗員達に会議室に入って来た古庄 薫指導教官が戸惑った声を掛けてくる。

「あ・・・全員整列!、お早うございます古庄教官。」

明乃の声に乗員達は整列し敬礼をする。

「ええお早うございます皆さん。」

「総員着席。」

薫が敬礼を返すと明乃の号令で着席する乗員達。

「それでは本日の実習について・・・と言いたいところですが岬艦長何かありましたか?」

先程の皆の姿に薫は何かあると思い、明乃に確認する。

「はい実は・・・」

流石は教官だと明乃は思いつつ、秀子が見た物、その時の綾が取った対応、皆が疑問に思った事を説明した。

「そう言う事ですか、山下さんの見た物については私には何んだとは言えませんが、神城艦長の対応について言えば・・・まあ彼女だからと言う所ですね。」

「・・・?」

明乃達は顔を見合わせる、綾だからと言う点が良く理解出来なかったからだ。

「神城艦長は職務をきちんと果たしたのあれば、例え学生だったとしても、その言葉を頭から否定しません、山下さん・・・貴女はそう見なされ、報告は問題無いと判断されたんです、自信を持ちなさい。」

「えっと・・・」

思わず誉められ(?)秀子はあたふたしてしまう。

「ただ山下さんの見た物についての説明が無かったのが皆納得が出来ないと言う点については理解します、だから神城艦長に聞いてみましょう。」

「それって良いのですか?」

現役のブルーマーメイドである綾に学生である自分達がそんな事をしても良いのかと、明乃は心配になったので確認してみる。

「学生として疑問に思った事を質問するのは別に問題はありません、神城艦長はそう言う点についても理解のある艦長ですから。」

その辺は綾らしいと薫は内心微笑んでしまう、だからこそ艦長として敬愛されているのだと。

「もちろん神城艦長の職務を妨げない限りですが、彼女は教官では無いですからその点は留意する必要があります、その辺は私が確認しますので実習終了後岬艦長と山下さんは残って下さい。」

「「はい教官。」」

明乃と秀子の2人が返答すると、薫は微笑みながら皆を見渡す。

「それでは実習の方をがんばって下さい、では解散。」

明乃以下晴風の乗員達は立ち上がり薫に敬礼をすると、それぞれの実習場所に散って行く。

敬礼を返し、教え子達を見送った薫は思案顔をする。

「取りあえず綾の当直時間を確認しないと・・・まあそれは副長に聞けば大丈夫でしょう。」

あの副長、綾の行動を数分刻みで把握している様だしと薫、何だかストカーじみているがと苦笑する。

敬愛されるのも大変だが、まあがんばってと薫は親友にエールを送るのだった。

 

19:00

教官の薫は明乃と秀子と共に若宮の艦長室前に来ていた。

副長の話では綾は18:00に当直終了後食事を済ませて、もう艦長室に戻っている筈だった。

「神城艦長、指導教官の古庄 薫です、入ってよろしいでしょうか?」

ドアをノックし薫が呼びかける、傍らに居る明乃と秀子は緊張した面持ちだ。

『古庄教官?ええどうぞ。』

答えを聞いた薫はドアを開け艦長室に明乃と秀子を伴って入室する。

「どうかしましたか古庄教官?・・・岬艦長に山下さん?」

艦長室の机に座ってタブレットを見ていたらしい綾は、薫と共に入って来た明乃と秀子に目を丸くする。

「少し時間を頂きたいのですが構いませんか?」

敬礼をして薫はそう切り出す。

「それは別に構いませんが、お二方が来たと言う事は・・・」

薫の後ろで同じ様に敬礼をしている明乃と秀子を見て、綾は事情を察する。

「ええお察しの通り神城艦長に岬艦長と山下さんが聞きたい事があるとの事で連れてまいりました。」

「・・・分かりました、まあ座って下さい皆さん。」

綾はそう言って座っている執務机の前にあるソファに着席する様に薫達を促す。

「ありがとうございます神城艦長。」

「あの、失礼します。」

「し、失礼します。」

3人が着席するの見ながら、綾はやっぱり厄介事からは逃げられないと内心溜息を付くのだった。




最初に季節はずれと書いたのですが、何でしょうこの暑さは・・・
体調を崩しそうで怖いですね、皆様もご注意を。

それでは。


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ブルーマーメイド強制執行課1

ブルーマーメイド強制執行課保安即応艦隊の宗谷 真冬が登場します。
若宮と強制執行課との共同作戦の結果は?

なお強制執行課と宗谷 真冬に対する設定は私の勝手な設定ですのでご了承下さい。



「強制執行課の支援ですか?」

若宮の副長は艦長である綾の言葉に繭を顰めて聞き直す。

「ええ、安全監督室情報調査室が内偵をしていた密輸組織の拠点が見つかったらしいですねそれで・・・」

支援任務を終え横須賀基地へ帰港中だった若宮にそんな命令が入ったのだ。

「副長の言いたい事も分かります、ですがこれも任務ですから。」

「それは承知しているつもりですが・・・」

何時もは任務に真摯な副長が見るからに気が進まない表情には理由がある、ずばり強制執行課絡みだからだ。

強制執行課、正式名はブルーマーメイド強制執行課保安即応艦隊。

その名の通り、任務は犯罪者相手の強制執行、制圧し逮捕を行う、ブルーマーメイド内でもその荒っぽさで有名な艦隊だ。

安全監督室から要請があれば即座に現場に急行、必要とあれば強力な火力とスキッパーによる突入部隊で相手を瞬く間に鎮圧する、その為一部の者達には海賊戦法と揶揄されているのは有名な話だ。

その為か隊員達も気性が激しい者が多く、他の艦と組むと必ずと言うほど双方の間に軋轢が生まれると言われているのだ。

だから一緒に行動する事になる艦艇の艦長はその扱いに苦労させられるらしく、それがあって誰も強制執行課との共同作戦を歓迎する者は居ないと言われている。

「副長、べんてんとの会合ポイントへ向かいます、航海科に指示を。」

「了解です艦長。」

だが何時もと変わらない綾を見て、うちの艦長なら大丈夫だろうと確信し副長は敬礼して答える。

 

会合ポイント・洋上

『艦長、べんてん到着します。』

見張り員の声が艦橋に設置されたスピーカーから響く。

「モニターを作動状態に。」

綾の指示で艦橋前面に設置された大型モニターが点り、接近してくるべんてんが写しだされる。

その艦体は通常の白と赤のブルーマーメイド艦とは違い漆黒だ、これもあって他の者達から余計畏怖される原因にもなっている。

この漆黒は相手を威嚇する意味と共にレーダー探知を妨害する為だとは、ブルーマーメイド内でよく噂される話で綾も聞いた事がある。

そんなべんてんを見つめていると艦長席に据え付けられた艦内電話がコール音を鳴らす。

『艦長、べんてんの宗谷艦長から通信です。』

「繋いで下さい。」

『了解です、暫らくお待ち下さい。』

無線室からの連絡に綾はべんてんとの通信を繋ぐ様指示する。

『ザァ・・・』

回線を繋ぐ雑音がした後、威勢のいい声が綾の耳に飛び込んでくる。

『べんてん艦長の宗谷 真冬だ、若宮の神城艦長か!?』

宗谷 真冬、苗字で分かる通り名門宗谷家の次女だが、その言動から彼女だけ別の遺伝子が入っているとブルーマーメイド内では有名な女性だ。

何しろ艦長である真冬が率先して突入部隊を率いるものだから、海賊船長との二つ名が有るくらいだ。

ちなみに彼女の姉、宗谷家長女の宗谷 真霜は安全監督室情報調査室所属の優秀な女性で、綾の親友である古庄 薫の後輩だ。

その縁で何度か真霜とは会った事があるが、確かに彼女とは全く似ていないと綾は内心苦笑する。

「はい若宮艦長の神城 綾です、初めまして宗谷艦長、今回は宜しくお願いします。」

『・・・おお、こちらこそ宜しくな神城艦長。』

何故か勢いが少々弱くなった真冬の様子に綾は不思議そうな表情を浮かべる。

気を悪くする事でも言ったのかと綾は思ったのだが、真冬がそうなったのはそう言う事で無かった。

と言うのも真冬が宗谷家と強制執行課の人間の為か、相対する側は露骨なおべっかいを言ってくるか嫌味な態度を取る事が多いのだ。

だが綾はそのどちらでもない事に真冬は一瞬戸惑ってしまったのが原因だったのだ。

もっとも直ぐに面白い奴だな、と真冬は内心にんまりと笑うと何時もの調子を取り戻す。

『それじゃ早速作戦の説明に入るぜ神城艦長。』

「分かりましたお願いします。」

この時点で真冬は綾の事を気に入り始めていたのだが、それに2人はまだ気付いていなかった。

ある意味、綾がこの後色々と悩まされる事になる真冬との関係が始まった瞬間だった。

 

作戦はそれ程複雑な物では無かった。

若宮が飛行船を使い空から密輸組織の拠点を偵察し、規模や人数を確かめた後べんてんを接近させ、火力で抵抗する意思を奪い、その後執行部隊をスキッパーで突入させて制圧する。

まあ強制執行課が何時も使う常套手段、そう海賊戦法そのままだったからだ。

一方飛行船支援母艦である若宮にとっては普段の任務とさほど違わない単純なものだった。

「・・・とは言え、そう簡単に進んでくれるのなら良いんですが。」

真冬との通信を終えた綾に副長が気掛かりそうに話し掛けてくる。

それは強制執行課と作戦を行なうと、必ずと言っていいほど予想外の厄介事が起こると言われているからだ。

「副長が心配する気持ちは理解しますが、まだ起こっていない事を心配しても仕方がありませんよ。」

綾もそう言った強制執行課絡みの話しは聞いていたが、まだ起こっていない事を気にしてもと思い、副長を諭す。

「そうですが私としては・・・」

副長が言いかけた同時に艦内電話がコール音を鳴らす。

「はい、艦橋です。」

『こちら無線室です、べんてんの宗谷艦長から緊急の連絡が入ってます。』

それが綾と若宮乗員達にとって厄介事の始まりだった。

 




宗谷 真冬の様な姉歩肌のキャラは結構好きですね。

それでは。


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ブルーマーメイド強制執行課2

強制執行課との作戦で起こったトラブルに綾は?





「申し訳ありませんが宗谷艦長、もう一度言ってもらえませんか。」

べんてんの真冬から入った緊急連絡は確かに深刻な物だったが。

問題は真冬から出されたその打開策の方だった、だから綾は思わず聞き直してしまったのだ。

『だから言ってるんだろう、若宮で艦砲射撃をして、スキッパー部隊を発進させてくれ、言ってるんだよ神城艦長。』

どうやら聞き間違いでは無かった様で綾は周りの副長を含めてた乗員達を見る。

真冬との会話内容は艦橋内にも聞こえており、全員困惑とそして怒りを浮かべている、綾は溜息を付く。

それはそうだろう、若宮はあくまで行船支援母艦であり、べんてんの様な艦艇とは違うのだから。

なのに真冬はその若宮に艦砲射撃で相手の抵抗の意思を奪い、あまつさえスキッパー部隊を発進させろと言っているのだから。

なぜこうなったのか、それはべんてんが機関に故障を起こしてしまった事が原因だった。

その為べんてんは作戦に使用出来なくなってしまった。

「・・・代わりの艦艇は駄目なんですか?」

『今から手配しても最低12時間は掛かる・・・それくらい時間があれば連中がこちらの動きを知って証拠隠滅を図って逃走出来る。』

「・・・・・」

『そうなれば情報調査室が苦労した事が全て無駄になる、それは出来ね相談だ。』

真冬の言う事も理解は出来る、せっかく情報調査室が密輸組織の拠点を突きとめた事が無駄になるかもしれない。

「宗谷艦長の言い分は分かりました、しかし私には乗員と艦に対する責任があります、それは理解して頂けますね。」

作戦が失敗する事は確かに避けたいが、だからと言って乗員と艦を危険に晒す事は綾には出来ない。

『ああ分かっているさ、だから神城艦長、お前さんが判断してくれ・・・行くか逃げるかを。』

ずるい聞き方だと綾は思う、ただこちらに判断の権限を渡したと言う事は、どちらでも従うという真冬の意思を示しているのだろう。

「言っておきますが、これを海上安全整備局は問題とするでしょう、お互い経歴に傷が付くかもしれません、それでも実施する気ですか。」

当然だ、若宮は支援を指示されたのだ、べんてんの代わりを務める事を良しとはしない可能性はある。

そうなれば依頼した真冬も、受けた綾も責任を追及されるだろう。

『そんな物くそ食らえだ神城艦長、俺は出来る可能性があるのに逃げるのは性に合わなねえんだ。』

なるほど彼女らしい言い分だと綾は思う、だとすれば自分の答えは決まっている。

「了解しました、ただ艦砲射撃とスキッパー部隊の突入タイミングは偵察の結果、私が判断しますが構いませんね。」

『・・・ああ神城艦長の判断に従うぜ、それは約束する。』

「結構です、ではスキッパー部隊の受け入れの準備をするので暫らくお待ち下さい。」

「分かった・・・神城艦長、あんた容姿に似合わず度胸あるんだな、気に入ったぜ。』

「そう言う事は作戦が成功したら言って下さい宗谷艦長。」

『ふふ・・・そうだな、じゃ待ってるぜ。』

真冬との通信を終わり、綾は副長を説得する為声を掛けようとしたが・・・

「整備科に連絡、スキッパー部隊の受け入れを準備させます艦長。」

だが副長は綾の決定に異義を挟む事も無く受け入れる、他の乗員達も同様に。

「副長、私は・・・」

「我々は艦長の決定に従います・・・艦長が間違った判断をされるとは思っていませんから。」

肩を竦め副長は綾の問いに答える、その顔に絶対の信頼を浮かべながら。

時々綾は皆にこれ程までに信頼される事をしただろうかと思う事がある。

「感謝します副長、皆さん。」

それは分からない、がそうであればその信頼に答える様にしなければならないと綾は決意する。

「スキッパー部隊の受け入れを完了しだい、飛行船での偵察を開始します。」

「了解です艦長。」

 

スキッパー部隊の受け入れ完了後、綾は若宮を密輸組織の拠点へ向けさせる。

「飛行船の発進準備は完了してますか?」

「はい、何時でも発進可能です艦長。」

綾の問いに副長が答える。

「それでは発進させて下さい、あと気付かれない為に高度と距離を取るのを忘れない様に。」

「了解です艦長、飛行船を発進、高度と距離を十分取る様にします。」

副長は復唱すると、艦内通話器を取り上げて、飛行科に指示を出し始める。

「艦長、べんてんの宗谷艦長をお連れしました。」

そんな中、スキッパー部隊を率いる真冬が艦橋にやって来た。

そう率いる為にだ、聞いた話し通り、艦長自ら突入部隊を指揮するらしい、海賊船長の名は伊達ではないらしいと綾は苦笑しつつ艦橋に入ってくる真冬を見る。

通常のブルーマーメイドとは違う黒色の制服にマントを着用したショートカットの女性だ。

「よお神城艦長、世話になるぜ・・・何だ天音この艦に乗艦してたのか?」

挨拶した真冬は綾の後ろに控えていた副長、桜井 天音を見て嬉しそうに話し掛ける。

「お久しぶりですね宗谷艦長。」

それに対し桜井副長は何時も通りドライに答える、公私を弁えているからだが。

「2人はもしかして?」

「同期です艦長、ですが今は任務中なのでお気遣いは無用です。」

「何だくそ真面目ところは変わってねえな。」

綾の問いに桜井副長は表情を変えずに答え、真冬は面白くなさそうにぼやく。

「・・・そういう真冬は適当なところが変わってませんね、それでよく艦長が務まるものです、ああ独り言なので気にしないで下さい。」

「ぷっ・・・」

「・・・前言撤回だ天音、お前大分変わったな。」

桜井副長の返しに綾は噴出してしまい、真冬は苦笑いを浮かべる。

「朱に交われば・・・ですよ宗谷艦長。」

「そういう事か、なら納得だ。」

桜井副長が綾を見て言った言葉に真冬が納得した様に答える。

「どういう意味ですかお2人共。」

綾は額に手を当てて溜息を付くのだった。




何気に副長の名前が出てきましたね(笑)。

宗谷 真冬とは同期という設定で、着任初期は規則にうるさい委員長気質の女性でした。

彼女との出会いを何時か書いてみたいとは思っていますが。

それでは。


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ブルーマーメイド強制執行課3

強制執行課との共同作戦実施中。



『ワイバーン7予定空域に入ります。』

「偵察カメラ作動、映像をモニターへ。」

綾が指示すると艦橋前面に設置された大型モニターがちらつきやがて画像が映し出される。

穏やかな海上の様子が写しだされる、そしてカメラが動き始めると画面に小さな島影が映る。

最初は画面上に小さく写っていた島影が画像が拡大されると詳細に見えてくる。

小規模な桟橋を持つ島の様だった、止まっている船舶は密輸組織の高速船だろう。

島の中央付近には幾つかの小屋がある、その周りを歩き回る男達、明らかに武装しているのが分かる。

それだけでなく、海岸線には機関銃が設置され、携帯式の小型噴進発射筒を持っている者までいる。

「予想以上に重武装ですね、真っ正直に突っ込んだら大損害です。」

艦長席に座る綾の隣に控える桜井副長が画面を見ながら眉を顰めて話す。

「その通りですね、一体何処からこんな物を持ち込んできたのやら。」

情報調査室からの情報では複数の軍需企業が絡んでいるらしい、近隣で多発する紛争目当てらしいが。

「敵味方に無分別に売っていると言うのだから悪質です。」

桜井副長が呆れた様に言う、言わば儲かれば相手先を選ばないらしい、その結果など眼中に無いのだろう。

「その悲劇を防ぐ為にもこの作戦は成功させなければなりませんね。」

綾は暫らく考えると指示を出す。

「日が落ち次第島に接近し、海岸線の陣地と高速船を速やかに無力化します。」

「了解です艦長。」

若宮による突入作戦がいよいよ開始され様としていた。

 

小島・夜

見張の男は欠伸を噛み殺しながら双眼鏡で海上を見ていた。

「たっく暇だぜ・・・何か起こって欲しいもんだぜ。」

男は気楽そうに言って笑う、ブルーマーメイドかホワイトドルフィン来れば暇つぶしにはなる。

何しろこちらにはたっぷりの武器がある、返り討ちにしてやると男は考えていた。

もちろん艦艇を使って脅かしを掛けてくるだろうが、それならば高速艇でかく乱してやるまでだ。

密輸組織の連中はそこまで計画を立てて待ち構えていたのだが・・・

「え・・・?」

双眼鏡の視界に艦船が現れた、すわ現れたか?と思った男だが様子がおかしい事に気付く。

接近して来る速度がかなり遅いうえに、通常見掛けるブルーマーメイドやホワイトドルフィンの艦艇にしては大きすぎた。

だから男は最初、民間の船が接近してきたのかと思ってしまったのだが、それにしては照明どころか、航海灯すら消しているのは何故なのか分からなかった。

混乱した為男の初動が遅れたのを攻めるのは酷かもしれない、誰だって大型の艦艇で攻め込んで来るなど想像もしないだろう。

次の瞬間、男を強烈な光が襲い視界を奪う。

接近した若宮が探照灯で島や高速船を照らしたのだ、これで密輸組織の連中は全員視界を奪われた。

 

「左舷艦載砲射撃準備よし!」

砲術長が報告してくる。

「射撃開始して下さい、目標桟橋に停泊中の高速船。」

綾の命令が即座に発せられる。

「了解、目標桟橋に停泊中の高速船、撃ち方はじめ!」

若宮の左舷側に設置された10.2センチ砲が射撃を開始する。

『目標1に命中確認、目標2及び3は至近弾、弾着修正右に2及び3。』

「弾着修正急げ!」

見張り員からの報告に砲術長が叫ぶ。

『左舷1番修正右に2、2番を3に修正・・・よし。』

「撃ち方はじめ!」

再び10.2センチ砲が火を吹き、密輸団の高速船を航行不能にしてゆく。

『島より発砲、左舷600に着弾、小型噴進弾と思われます。』

「艦長、目標を海岸線の機関銃陣地へ変更します。」

砲術長が綾に報告してくる。

「了解です、手前に着弾させて下さい・・・出来れば人的被害を抑えたいですから。」

「目標、機関銃陣地、手前に着弾させます・・・大丈夫です艦長、うちの砲術員は優秀ですから。」

綾の言葉に砲術長は微笑んで答える。

『照準、目標手前へよし。』

「よし、これで決めましょう・・・撃ち方はじめ!」

奇襲と言う形になった若宮の砲撃によって密輸団の連中は陣地の維持どころで無くなり後退してゆく。

「旨く行きましたね。」

モニターを見ていた桜井副長が言う。

「そのようですね・・・まあこんな常識外れをやられてはね。」

改インディペンデンス型の様な軽快な艦とは違う大型の若宮でこんな事を実行するなんて普通は無い。

「しかし・・・これでまたあの二つ名が不動になりそうですね。」

ブルーマーメイド内での若宮の二つ名である便利屋、またその名が広まりそうで綾は溜息を付く。

「しかたありませんね、こればかりは。」

桜井副長はそう言って苦笑するしかなかった。

「・・・宗谷艦長にスキッパー部隊の発進を連絡して下さい。」

その辺の事は今は置いておく事に頭を切り替え綾が指示を出す。

「スキッパー部隊へ、発進せよ繰り返す発進せよ。」

いよいよ作戦は最終段階に入ろうとしていた。

 

「しかしあの艦長ほんとに度胸あるな・・・支援母艦の艦長にしておくにはもったいないぜ。」

若宮の行動を見ていた真冬は不敵な笑みを浮かべて言う。

「帰ったら姉貴に頼んでみるか・・・神城艦長をこっちにくれってな。」

綾の知らない所で厄介事が始まった瞬間だった。

 




若宮の艦砲射撃については、この艦の元ネタである、ユニコーンが朝鮮戦争時に対空砲で砲撃しという逸話を元にしてます。
空母にして工作艦、時には輸送艦と何でもやらされていたユニコーン、それもあって若宮も作品中で様々な事をやらされます(笑)。

それでは。


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ブルーマーメイド強制執行課4

強制執行課編・完結です。



『スキッパー部隊へ、発進せよ繰り返す発進せよ。』

若宮の艦内に声が響き、乗員達によってスキッパーが下ろされて行く。

その動きは迅速でかつ的確だった、まるで何時もやっている様に・・・

もちろん若宮もスキッパーを搭載しており扱うのが初めてではない。

だが通常は救助や艦艇間の連絡のみであり、べんてんの様に緊急発進を想定していない。

だが若宮の乗員達はそれを難なく行っており強制執行課のメンバーを驚かせていた。

「艦長・・・こいつら何でこうも手際がいいんですかね?」

真冬の部下の1人が驚いた表情を浮かべ聞いてくる。

「まあ分からんでもないさ・・・お前達も若宮がブルーマーメイド内で何て言われてるか知ってるだろ。」

若宮の二つ名である便利屋・・・様々な任務を任される彼女達に対する少々の敬意とそれに倍する揶揄を含んだ名である事はブルーマーメイド内で知らない者は居ないだろう。

「何でもやらされてきたから大概の事は連中出来ちゃうんだろうな。」

そのお蔭でまた様々な事を任される事になる・・・皮肉な話しだと真冬は内心苦笑する。

「でもそうなったら普通腐りませんか、私達は便利屋じゃないとか言って。」

様は厄介事を毎回押し付けられている様なものだ、乗員にしてみれば面白くはないだろうと、真冬の部下達は皆思った。

現に若宮の乗員達にとって『便利屋』という言葉は禁句だと言われているからだ。

「それは多分、此処の艦長殿が彼女だからだと思うぜ。」

「彼女・・・神城艦長だからと言う訳ですか?」

真冬の答えに部下達は顔を見合わせて聞いてくる。

「天音、此処の副長だが、女子海洋学校時代は規則が服を着ている女って呼ばれていたんだが。」

学校時代の事を思い出しながら真冬は言う。

「兎に角何より規則を重んじる女でまったく融通が利かない・・・だからさっき艦橋で会って驚かされた。」

部下達を見渡して真冬は言う。

「天音が居てよく俺の話が通ったなってな、あの女相手が上司でも規則と言う点では妥協しないしな。」

しかもこっちの嫌味にしっかり切り返してきやがったと真冬は内心苦笑する。

「神城艦長に心酔してやがる、まあこれは他の乗員達にも言えるがな。」

周りで準備を進める乗員達を見ながら真冬は呟く。

「だから天音以下若宮の連中は任された任務が厄介事だとしても、神城艦長の命じた事だから全力で答える、そう思っているんだろうよ・・・考えてみれば凄いカリスマだ、もっともあの艦長自身はそれに気付いちゃいないみたいだがな。」

肩を竦めて真冬はこの話を打ち切る。

「さて与太話はここまでだ、俺達の仕事を始めるぜ・・・若宮の連中が此処まで答えてくれたんだ、これでしくじったら強制執行課の名折れだがらな、行くぜ。」

「「「「了解!!」」」」

強制執行課のメンバー達が敬礼をすると準備されたスキッパーに乗り込んで行く。

 

『スキッパー部隊発進しました。』

艦橋に設置されたスピーカーから報告が入ると共にモニターに発進して行くスキッパー部隊が写し出される。

「島の状況はどうですか?」

綾の声にモニターは再び飛行船から撮られる島の様子を映し出す。

一時パニック状態になった密輸団だが、今は冷静を取り戻し迎撃体制を整えつつあった。

「ワイバーン7の高度を落とさせて探照灯を照射し、連中の目を引き付けて下さい。」

そう指示を出す綾に天音、桜井副長が確認してくる。

「その場合、銃撃を受ける可能性がありますが。」

「構いません、死傷者を出すよりはましです。」

「了解です艦長、ワイバーン7の高度を落し探照灯の照射を行なわせます。」

桜井副長は復唱すると艦内電話を取り上げて飛行管制室に指示を伝える。

この一連のやり取りを真冬が見ていれば再び驚かされていただろう。

飛行船にそんな事を行なわせるのは完全に規定違反だ、昔の天音だったら確認ではなく抗議していただろ。

そこには天音の綾に対する絶対的な信頼感が見て取れる。

 

「ほんといい度胸をしているぜあの艦長。」

スキッパーで島に接近していた真冬は突然上空に現れて島を照射し始めた飛行船を見て呟く。

密輸団は再びパニックに襲われている、連中も飛行船が居る事は予想していただろうが、まさかこんな行動を取るだろうとは思っていなかった様だ、先程の大型艦での艦砲射撃同様に。

そうなれば後は楽だった、島に上陸した強制執行課のメンバー達はろくに反撃の出来ない密輸団の連中を瞬く間に鎮圧した。

 

「終わりましたね。」

機関故障で作戦に参加出来なかったべんてんが到着し捕縛した密輸団が乗せられてゆくのを見ながら綾はほっとした表情を浮かべて言う。

「・・・そうですね。」

だが桜井副長の表情は晴れない、何故なら天音はこの後の事が非常に気掛かりだったからだ。

真冬が今回の事で綾を気に入ったの確かだろう、天音としては敬愛する綾が認められるのは嬉しい。

だが真冬が気に入った相手を必ず自分の手元に置きたがる事を天音は女子海洋学校時代の経験から知っている。

「どうかしましたか副長?」

天音の様子を気にした綾が聞いて来る。

「・・・いえ何でもありません艦長。」

自分達から艦長を引き離させる事は絶対させない、天音はそう決意を固める。

「なら良いのですが、無理をしない様にして下さい副長。」

「配慮感謝します、では今後の航路について航海科と打ち合わせてまいります。」

何時もの様に冷静な天音が、実はそんな事を考えているとはその時綾は思いもしなかった。

 

後に綾の知らない所で起こる、真冬と天音以下若宮乗員達との『神城艦長』争奪戦のゴングが鳴った瞬間だった。

 

21:10

密輸団の拠点制圧作戦終了。




真冬は書いていて楽しいキャラだったので、また綾とのからみを書いてみたいですね。

それでは。


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知名 もえか1

アニメ本編の武蔵艦長である知名 もえかとの出会い編です。
もっともオリ主は最後の方で登場予定ですが。



幼い彼女は泣いていた。

川岸の草むらの中で小さな身体を震わせて・・・

ずっと耐えてきた幼い彼女だったが、最早限界に達してしまったのだ。

突然両親が居なくなり、幼い彼女は見知らぬ大人達によって知らない場所へ連れてこられた。

そこには幼い彼女と同じ様な子供達が大勢いた。

何故そうなったのか、周りの大人達は話してくれず、何も分からないまま幼い彼女は過ごさなければならなかった。

ただせめての慰めは、同じ歳の友達が出来た事だろうか、幼い彼女とっては大切な存在。

だが両親と会えない、家に帰る事が出来ない、そして見知らぬ場所での生活。

それは徐々に幼い彼女を追い詰めていった。

ある日些細な事で幼い彼女の限界は訪れた、そして気付くとこの場所で泣いていたのだった。

このまま消えたい、もうこんな辛い思いをすにのならと幼い彼女が思った時・・・

「こんな所でどうかしたんですか?」

幼い彼女は突然話しかけられる、思わず振向いた先に居たのは・・・彼女より年上の少女だった。

見知らぬ相手だったがその少女の着ている服装には幼い彼女は覚えがあった。

それは幼い彼女の生活している場所に時々来る少女達と同じ服だったからだ。

何でも呉にある学校の少女達で、幼い彼女や他の子達の面倒を見る為に来ていると聞かされていた。

ただその中には声を掛けて来た少女が居た記憶は幼い彼女に無かった。

「・・・お姉ちゃんは?」

「えっとね・・・泣き声がしたんで来てみたんだけどね。」

幼い彼女の問いにその少女は微笑んで答える。

「辛い事があったのかな?」

「・・・・・」

顔を逸らし黙る幼い彼女、前に泣いた時に「泣いては駄目だ。」と周りの皆に

言われたからだった。

泣いたと分かればまた同じ様に言われる、と幼い彼女は思ったのだが。

「そうなんだ、だったら・・・思い切り泣いちゃって良いと思うよ。」

「えっ・・・?」

その少女の意外な言葉に幼い彼女は呆けた表情を浮かべてしまう。

「思いっきり泣いて、辛い事や悲しい事を全部涙と一緒に流してしまったら、また笑顔でがんばっていけると私は思うわ。」

眩しい笑顔とその言葉に幼い彼女の目に大粒の涙が浮かんで来る。

「わ、わああん!」

少女が言った言葉に、今まで押さえてきたものが全て溢れ出すのを止められない幼い彼女。

泣き続ける幼い彼女をその少女は何も言わず見守っていたのだった。

 

その後、幼い彼女はその少女に連れられ帰った。

帰りを迎えた大人達は怒りはせず、微笑んでくれた。

それを見て、幼い彼女は自分は見守られているんだと今更ながらに自覚した。

「もかちゃん!」

幼い彼女を見ていた子供達の中から見知った娘が飛び出してきた。

「ミケちゃん。」

2人は抱き合う。

「もう何処行ったのか心配したんだから。」

目を泣き腫らした彼女、ミケちゃんの様子に幼い彼女、もかちゃんには深い後悔が湧き上がってくる。

「御免ねミケちゃん。」

自分にとって大切な彼女を悲しませてしまった事に・・・許しを請うように強く抱きしめる。

一方もかちゃんを連れてきてくれた少女は大人達と話をしていた。

「それじゃ貴女は呉の学生じゃないのね。」

「はい、横須賀の所属です。」

「そうなの・・・あの娘を連れて来てくれてありがとう。」

「いえ、お気になさらないで下さい、自分の出来る事をしただけですから。」

「謙虚ね貴女、そう言えば呉に何か用事があって来たのかしら?」

「ええ、実は呉の学校に・・・」

その後、事情を説明していた様だったが、まだ幼いもかちゃんには理解出来なかった。

ただ、横須賀と言う言葉だけがもかちゃんの心の中に残った。

そうだお礼を言おう、そう思って踏み出したもかちゃんだったが、他の子供達に囲まれてしまい、それは叶わなかった、そして別れの挨拶さえ・・・いや名前すら聞けずに終わってしまった。

もかちゃんはそれを後々まで後悔する事になるが、やがてその後悔をばねにミケちゃんと共に夢を目指す事になる。

自分も亡き母親の様なブルーマーメイドになってみせると・・・

悲しみの底から助けてくれたあの少女と再会したいと・・・

それが知名 もえかの必ず叶えたい夢となった。

 

「艦長・・・艦長?」

揺り動かされ知名 もえかは意識を取り戻す、どうやら短い間だがまどろんでいたらしい。

「御免なさい、寝ちゃったかしら?」

頭を振って意識をはっきりさせながらもえかは声を掛けて来た乗員の娘に尋ねる。

「少しですが・・・まあ仕方がありませんよ、私達だって同じ様なものですし。」

その乗員の娘は疲れた笑みを浮かべて答える。

もえかは寄りかかって寝ていた艦橋の壁から立ち上がる。

「くっ・・・」

身体の節々が痛い、この数日間まとまな場所で睡眠を取る事が出来なかったからだ。

武蔵の艦橋にもえかと2人の乗員達が軟禁状態になってからずっと・・・

「状況に変化は?」

「ありません・・・相変わらず武蔵は浦賀水道に向かって進行中です艦長。」

「・・・」

乗員の報告にもえかは深い溜息を付く。

武蔵の艦橋に軟禁状態になってから状況は最悪の方向へ進み続けていた。

どうしてこんな事になったのか、もえかは自身に問い掛けるも、答えは出ない。

もえかを始めとした生徒達の初航海は最悪の結末を目指して進んでいた。




知名 もえかについては完全にオリジナルな設定と展開になります。
こんなのもえかじゃないと思われる方が居たらお許し下さい。

それでは。


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知名 もえか2

知名 もえか編2話です。
彼女達の苦悩は続きます。



何故こうなってしまったのか?

横須賀女子海洋学校に入学し、武蔵艦長に任命されたもえか。

念願だったブルーマーメイドへの第一歩を明乃と共に踏み出す事が出来て嬉しかった。

それにもう一つの願い、あの少女の事を知る機会が訪れたのだから。

彼女が横須賀女子の生徒なのは、あの時の大人達と彼女の会話から間違いないともえかは確信している。

だとすれば横須賀女子に来ればあの少女の消息を知る事が出来るかもしれない。

初めての実習航海が終わったら、もえかは少女の消息を調べるつもりだったのだが。

その初めての実習航海は今や最悪の展開を見せていた。

出航からしばらくは問題なかった、武蔵の乗員に選ばれるだけあって生徒達は皆優秀だったからだ。

それが集合場所の西之島新島沖に近付くにつれもえかは様々な事象に悩まされる様になる。

まず武蔵の電子機器が不調を訴え始めた、レーダー、無線、戦術ネットワーク、航法システム。

乗員達がいくら調べても、予備のシステムに切り替えても一向に回復しなかった。

そのうち途切れ途切れだった教官艦さるしまとの通信が完全に途絶してしまった。

もえかはさるしまの通信士が最後に訳の分からない言葉を喚き散らしていた、と言う報告に不安を覚えた。

ここで横須賀女子に戻るべきか悩んだが、状況を確認する為もえかは集合場所に向かう決断を下す。

だがそれは始まりに過ぎなかったのだ、むしろ恐怖はここから加速する。

次の当直の為艦橋に向かっていたもえかに、息を切らせ走りよって来る二人の乗員。

「「か、艦長!」」

「どうかしましたか?」

2人の尋常でない姿にもえかは不安が更に大きくなるのを押さえ切れなかった。

「それが皆が・・・変なんです、あれじゃまるで、ひっ!」

乗員の1人が説明しようとして悲鳴を上げる。

通路の奥、落とされた照明で暗闇になった場所から数人いや十数人の乗員達が現れる。

だが彼女達は表情が抜け落ち、足取りもおぼつかない、なのに確実にもえか達へ向かってくる。

まるで何かに取り付かれた様だともえかは恐怖に陥る。

「「艦長・・・」」

「2人共こっちへ、艦橋に向かいます。」

怯える二人を連れて艦橋へ向かうもえか、彼女自身も恐怖の余り足が震えるが、艦長としての責務を思い出し何とか耐える。

幸い迫ってくる乗員達は歩く速度を変えずにいたので、3人は何とか艦橋に逃げ込む事が出来た。

「・・・これは?」

艦橋には誰も居なかった、当直時間中で有る筈なの乗員の姿がまったく無くもえかは絶句する。

しかし気を取り直すと艦長席に向かい艦内通話器を取り、無線室に繋ぐ。

「無線室、艦長の知名です、横須賀女子に・・・」

『うう・・・ああ・・・』

「!?」

しかし無線室から帰って来たのは訳の分からない言葉を喋る乗員の声、そうさるしまの様に・・・

もえかは通話先を変える、機関室、レーダー室、ダメコン、だがどこも通じないか、通じても無線室と同じ意味不明な言葉が返ってくるだけだった。

「・・・・」

最早正気を保っているのは自分達だけではないのか?もえかは今にもその場に座り込んでしまいそうになる。

だがそんなもえかを他所に事態はなおも悪化してゆく。

今度は艦橋のドアを激しく叩く音が響く。

「艦長、ドアを強引に開けようとしています!」

乗員の声にドアを見るもえか、それは開けると言うより破壊しようとする様にしか見えない。

「動かせる物をドアの前に・・・早く。」

乗員の娘達と共に、机や椅子などをドア前に置き、外から開かれない様にするもえか。

何とかこれで侵入を防げるが、それは艦橋にもえか達が閉じ込められた事を意味していた。

 

その後、もえかはその時点でまだ生きていた非常回線で救援要請を行なったが、返答が来る前に回線は閉鎖されてしまう。

そのころには艦橋の機能も全て奪われ、もえか達は辛うじて残ったモニターシステムで状況を確認する以外に何も出来なくなってしまっていた。

そしてもえかはそれ以後、耐え難い状況を見せ続けられる事になる。

まず最初は東舞鶴の教員艦隊との遭遇だった。

危険を感じたもえかは何とか武蔵の状況を伝え様としたが・・・

双方が直ぐに戦闘状態になってしまった為、せかっく送った発光信号も気付いてもらえず、教員艦隊が壊滅して行くのをもえか達は胸が裂かれる様な思いで見ている事しか出来なかった。

そしてもえかにとってはもっとも最悪な状況、晴風との遭遇が起こった。

しかも明乃はスキッパ―で武蔵に接近をしようとしたのだ。

もえかが彼女を失ってしまうと言う恐怖に襲われたのは言うまでも無い。

結局接近は失敗、明乃は海に投げ出されてしまうのだが、かろうじて救助されるのが確認できもえかは安堵した。

そして晴風は武蔵から離れていった、明乃が乗員と艦の安全を優先すべきと判断したのだろう。

もえかは明乃がそう判断してくれた事が自分の事の様に嬉しかった。

「そうよミケちゃん、貴女は艦長として優先すべき事をしたの、それは正しい事だから。」

自分の事を助けられなかった後悔に襲われているだろう明乃を思って、もえかはそう呟くのだった。

離れて行く晴風を見つめながら・・・




アニメでは武蔵の艦橋に幽閉されていた知名 もえか達ですが、その心境はどんな物だったしょうか?
まあそれを想像して書いてみたのですが。

それでは。


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スロウスタート編 綾とてまりハイツ

最近見たアニメで気に入った作品である『スロウスタート』とのクロスです。
一応クロスの為設定に変更を加えていますが。
・万年 大会(はんねん ひろえ)さんは登場しません。
・舞台が『長乃県爽井沢』らしいですが、ここでは横須賀近郊にしてます。
・キャラの性格が多少違うかもしれません。

以上で良ければ読んで頂けると幸いです。



ブルーマーメイドにはかなりりっぱな職員用の寮、いわゆる官舎がある。

だが神城 綾はその官舎に住んでは居なかった。

基本的には官舎に住む事になっているが、強制ではなく個人で部屋を借りる事も認められている。

だから綾はそうしているのだが、その大きな理由は官舎には女性しか居ないかだとは誰も知らないだろう。

考えて見ればブルーマーメイドの官舎なのだから女性以外住んでいる訳が無いのは当たり前の話だ。

それでなくとも職場は女性ばかり(これも当然だが)、出来れば住む所くらいそうではなくてもいいのではないかと綾は考えたのだ。

これは女子海洋学校時代、女子寮に入れられ、様々なトラウマ(主に服装関係)を植えつけられた事が原因だった。

しかし結果から言えばこれも無駄な話だった。

第一に紹介された物件が女性専用のアパートだったからだ、どうやら不動産屋が勝手に気を回したらしく気付いたのが引越した後だった。

第二に服装関係のトラウマについて言えば、お節介な友人達から逃れられたと思ったのだが、今度は部下の娘達が何かと押し掛けて来る様になってしまったのだ。

いやそれだけでは無かった、部下の娘達以外に服装関係で綾の元に来る人間が増えてしまったのだ。

これはその女性専用アパートでの綾の受難の物語。

 

女性専用アパート「てまりハイツ」。

そのアパート前を箒で掃除している女性は何故か楽しそうだ。

「只今戻りました志温さん。」

そんな女性、志温こと京塚 志温に声を掛けきたのは、ブルーマーメイドの制服と制帽を身に着け、キャリーバッグを手で引いている神城 綾だった。

綾が入居したアパートこそ、このてまりハイツであり、志温は管理人を務めている女性だ。

「あらお帰りなさい綾さん、お久しぶりですね。」

声を掛けて来た綾に振向いて挨拶を返す志温、その動きにたわわな胸部装甲が揺れる。

初めて会った時、それを見た綾はかなりのショックを受けたものだった、自分の控えめなものと比べて。

綾の胸部装甲は同年代の女性に比べると大きくない、その代わりと言う訳でないが形は良いと、親友の薫や部下の娘達から誉められる、喜ぶべきか悲しむべきかは生粋の女性でない身では分からなかったが。

もっとも綾が一番ショックを受けた事は、そんな光景を見れて嬉しいでは無く、羨ましいと思ってしまった事だったが。

「そうですね、ああ留守の間ご迷惑をお掛けしました。」

揺れる胸部装甲を見て浮かんだ感情を頭から追い出し綾はお礼を言う。

ブルーマーメイドの艦長としての任務上洋上での生活が長い為、何ヶ月も部屋を留守にするのは何時もの事だった。

そうなると留守の間に来る郵便や時に宅配便の受け取りが問題になってしまう。

これがブルーマーメイドの官舎なら保管用の設備が有るのだが、一般のアパートにそんなものは無い、綾はそれに入居しから気付いてしまった。

その為管理人である志温に預かってもらう事になったのだ。

綾としては迷惑を掛けてしまうと悩んでしまったのだが、志温は「気にしなくても良いですよ。」と言って快く引き受けてくれたのだ。

「いえいえ、後でお届けしますね。」

志温はそう言って微笑む、本当に傍に居て心休まる人だなと綾は感心する。

「あ、お帰りなさい綾さん。」

そんな時、アパートの部屋から出来た少女に綾は声を掛けられる。

「ただいま花名ちゃん。」

管理人である志温の従妹である一之瀬 花名だった、近くの星尾女子高校に通う女子高生だ。

「仕事は言え、何ヶ月も海に居るって大変ですよね。」

「まあもう慣れてしまいましたがね。」

そう会話して微笑み合う綾と花名の2人、傍から見ても仲が良いことが分かる。

もっとも最初の頃は花名が人付き合いが得意でない事もあって会話が成り立たなかったのだが、ある偶然から2人は急速に親しくなった。

それはずばり2人の似た境遇、共に高校受験浪人(中学浪人)だった事をお互い知ってからだ。

「そう言えば花名ちゃん学校は?」

ふと今の時間、昼前である事に気付き綾が質問する。

「えっと試験休みなんです。」

花名は微笑ながら答える。

「ああそう言う事ですか。」

普通の学校ならそう言うの物があったなと綾は気づく、ちなみに横須賀女子海洋学校では試験と言えば洋上で行なわれる為か、終了後も艦上でそのまま過ごす事が多く、花名の様に自宅で休むなんて経験は無かったからだ。

と綾はそこまで考えて背筋に寒気を感じて、思わず花名に聞く。

「そ、それじゃ栄依子さんは・・・」

「お久しぶりですね綾さん。」

だが質問をする前に綾はキャリーバッグを持っていない方の腕を掴まれる。

ぎくりとしてそちらを見る綾を満面の笑みを浮かべ見る、容姿が非常に大人っぽい少女。

花名の友人の1人である十倉 栄依子だった。

「え、ええお久しぶりね、え、栄依子さん。」

綾の対応が途端にあたふたしてしまうのは、ある意味仕方が無い事だった。

「お約束通り夏の綾さんに似合う洋服を用意しましたから、ああ水着もですね。」

「いえ別に約束していた訳では・・・」

「遠慮しなくても良いんですよ、それでは早速・・・」

「だから私の話しを聞いて下さい栄依子さん。」

花名を通して紹介された栄依子は何が気に入ったのか、ぐいぐいと綾に迫って(笑)きたのだ。

曰く、「綾さんとお呼びしますね、私の事は栄依子と呼んで下さいね。」

   「ブルーマーメイドの制服とてもお似合いですね、でも他の服を着た綾さんも見たいです。」

   「ファッションの事ならお任せ下さい、綾さんにぴったりのコディネートさせて貰いますから。」

とまあこんな感じで初対面の時から積極的な栄依子に綾は困惑しっぱなしであった。

「相変わらずですね栄依子ちゃんは。」

「うん、何時も通り、流石は栄依子。」

そう言って感心の声を上げるのは、やはり花名の友人である百地 たまてと千石 冠の2人だった。

やはり花名を通じて綾と知り合い親しくなった。

「あの、たまてさん、冠さん助けて・・・」

「無理ですね、あとたまちゃんと呼んで下さい綾お姉さん、それからお帰りなさい。」

「栄依子はこうなると止められない、お帰り綾。」

2人に助けを求める綾だったが残念ながら断られたのだった。

「あははは・・・」

それを見て花名は笑うしかなかった、ちなみに志温は最初から微笑んで見ているだけだった。

「それでは行きましょう、花名、たま、冠(かむ)手伝ってね。」

「「イエスマム。」」

「うん。」

花名、たま、冠(かむ)は返事をすると綾を取り囲み連行する。

「さあ綾お姉さん、荷物は私が持ちますから。」

「人間諦めが肝心、直ぐに楽になる。」

「ははは御免なさい綾さん、でも私も見てみたいし。」

「あ、あの・・・志温さん。」

3人の少女達に連れて行かれそうになりながら綾は志温に助けを求めるのだが・・・

「私も後で行きますからね綾さん。」

一点の悪意も見られない笑みで死刑宣告を下す志温に綾はただ項垂れるしかなかった。

 

その後暫らくの間、てまりハイツの一室から女性の悲鳴が流れ続けていたらしい。

 




スロウスタートとクロスさせようと思ったのは、主人公の一之瀬 花名が病気で浪人しているという設定からです。
ちょうど神城 綾と、こちらは性別が変わった、まあこれも病気の一種と言えるか、だったので。
あと、友人の十倉 栄依子、アニメでも『二十歳女性を好き放題している。』ので、TS物の定番、着せ替え人形化してくれるキャラとして最適だと思ったからです。

このクロスは幾つか書く予定です。

それでは。


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水着とライチ1

スロウスタートのSTEP.09「ゴリラのみずぎ」とのクロスです。
今回も栄依子の腕が唸る(笑)。



その光景は普通に見えて、だが何処か変だと綾は思った。

「これ美味しいわね~」

「ライチ美味しい。」

「本当美味しいですねこれは。」

「綾さん、ありがとうございます。」

花名と友人の栄依子、冠、たまて、が居る、4人は仲がとても良く結構こうやって花名の部屋に集まっているを綾はよく見る。

ちなみに綾が花名の部屋を訪れるのもそれ程多くないが有る。

今回もある用事があって花名の部屋を訪れたのだが・・・

「いえこちらこそ助かりました、友人から貰ったのですが量が多すぎたので。」

親友の薫が実家から送って貰ったらしいのだが、量が多すぎて始末に困ったのだ。

ちょうど休暇で薫の部屋に来ていた綾が頼まれて一部引き取ったのだが。

思ったより量が多く、綾もまた始末に困ってしまったのだ。

そこで花名と志温にお裾分けでもしようと思い、花名の部屋を尋ね、今の状況になっているのだった。

そう何故か全員・・・水着姿で花名の部屋でライチを食べながら会話するという状況に。

まあ予兆はあったのだ、インターフォンを押して来訪を告げた時、答えたのが栄依子だったからだ。

栄依子が花名の部屋に来ているのは珍しくはないが、綾はその瞬間嫌な予感に襲われたのだ。

「はい、いらっしゃい・あ・や・さん。」

満面の笑みを浮かべグリーンのビキニを着て出てきた栄依子を見て綾は固まる、いやそれだけではなく、部屋に敷かれた布団の上で仰向けになって両足を上げいる花名と冠、エプロンを着て踊っているたまて。

インターフォンを押した時に感じた予感は本当だったと綾はその時思ったのだった。

とりあえず部屋に上がった綾は花名達から事情を聞かされる事になる。

元々花名達は海に泳ぎに行くつもりだったらしい、だが今日は朝から強い雨で断念するしかなかった。

そこで冠の提案で水着過ごす事にしたらしい、「これで少しは気分が晴れる。」と言う彼女の言葉で。

そういうものか?と綾は思ったがまあ花名達がそれで満足ならけちを付ける事もないと納得する。

とりあえず用事を済ませて退散しようと思った、同性とは言え女子高生のそれも水着姿の中にいる度胸は綾には無かったからだ、しかし残念ながら思惑通りには行かなかった。

「フッフッフ~。この部屋の秘密を知ったからには、綾お姉さんにも水着ギャルになってもらいますよ~!」

たまての言葉によって。

「・・・!?」

その言葉に逃げ腰になる綾の腕を栄依子はがっちりと掴む、それはもう楽しくしょうがないと言う笑みを浮かべて。

「と言う訳でさっそく着替えましょうか綾さん。」

そのまま引きずって行く栄依子。

「ちょっと待って下さい私はそんな、第一水着なんて今持ってませんよ。」

「大丈夫ですよ。私の予備がありますから。」

相手は年下の女子高生、言わば一般人の栄依子に意図も簡単に拉致される現役ブルーマーメイドという図式が出来上がっていた。

そして隣の部屋に連れ込まれる綾、ちなみに花名達は興味が有るのか止め様とはしなかった。

「あああ・・・!!」

扉が閉じ綾の悲鳴が響き、暫し沈黙の後、再び扉が開かれるとそこには・・・

赤いビキニを身に纏った綾が居た、思わず凝視してしまう花名、たまて、冠。

「ほんと素材が良いから何着せても最高ですよ綾さん。」

満足気な笑みを浮かべサムアップする栄依子、対して綾は泣きたい気分だった。

何しろ部屋に入った途端、服はもちろん下着まであっと言う間に脱がされ、この水着を着せられたのだ。

その手際の良さに、普段から彼女はこう言う事に慣れているんじゃないかと綾は思わず疑ってしまった。

「綾さん、綺麗です。」

花名は胸の前で手を組んで感激した表情で見つめてくる。

「へへへ・・・嫌がっても身体は水着じゃないですか。」

たまては涎を手で拭いながら何かに取り付かれた様な台詞を言っている。

「うん・・・完璧・・・流石は栄依子。」

栄依子の手腕を誉める冠、心なしか頬が赤いのはご愛嬌か。

「皆さん・・・(泣)」

泣きそうになりながら手で胸や腰の辺りを必死に隠そうする綾だったが、それが余計花名達を煽っている事に気付いていなかった。

「それにしてもこのビキニですか、初めて着たんですが、何と言うか心細ですね。」

隠されているのが胸と腰周りと言うのは綾にとっては露出が多すぎて不安にされてしまう。

一応ボトムは花名の水着と同じ様に短いスカートが付いているのでまだ良かったが。

ちなみに綾が初めて女性用の水着を身に着けたのは横須賀女子海洋学校時代に学校指定の水着(青と白のスクール水着)だった、その時は生まれて初めてと言う事で相当あたふたさせられたものだった。

「綾さんはスタイルが良いんですから着ないともったいないですよ。」

大きくは無いが形の良い胸に綺麗な体のラインを持つ綾に、同性ながら花名達も見とれてしまう。

もっとも綾にすればそれを喜ぶべきなのかどうか生粋の女性でない身では分からなかったが。

こうして着替えを無事終えて(笑)、今は綾の持って来たライチを囲んでのガールズトークの真っ最中だった。

そして綾の受難は正にこれからだった。

 




TSキャラが周りの女子に良い様に弄ばれるのは定番だと私は思うのですが。
だから綾には今後とも弄ばれてもらいましょう。

それでは。


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水着とライチ2

引き続き『ゴリラのみずぎ』とのクロスです。
水着姿でのガールズトークと言うのも良いですね(笑)。



水着姿でのガールズトーク、綾はガールと言う年齢(笑)では無いかもしれないがは続く。

「ライチの皮ってピンク色のもあるのね、私は茶色いのしか見た事無いけど。」

栄依子はライチをしげしげと見て言う。

「あ、私も茶色いのしか知らなかったなあ。」

花名もライチを見ながら栄依子の言葉に頷いている。

「どっちも同じ物の様ですね、新鮮なのはピンク色ですが鮮度が落ちると徐々に茶色になるそうですよ。」

綾は薫から聞いた話を皆にする、実は引き取った時に少しでも減らそうと2人で食べたのだが、その時に花名と栄依子の様に疑問に思って彼女に聞いていたのだった。

「新鮮なライチ、美味しい。」

冠は栄依子に食べさせてもらいながら幸せそうに言う、その姿に皆ほっこりとしていたのだが。

「何だかそれ乳○みたいですね~。」

とたまてが突然爆弾発言をして場を掻き乱す。

「ぶっ・・・!?}

「ええ!?」

その爆弾発言に綾は口に入れていたライチを噴出しそうになり、花名は驚きのあまり固まる。

「ブッ・・・あはは!!」

栄依子は思わず噴出して笑い始める、一方冠はと言うと。

「新鮮な乳○、美味しい。」

と更に過激な爆弾発言して綾と花名を慌てさせ、2人は顔を真っ赤にして叫んでしまう。

「ちょ・・・2人共!?」

「たまちゃんに冠ちゃん!?」

「くくく・・・ふ、2人共・・・ははは!!!」

そんな2人にどや顔で答える冠とたまて、笑の止まらない栄依子。

その状況に綾はそう言えば横須賀女子時代、薫や他の友人達とガールズトークしていると必ずこう言った過激な話題が出てきたなと思い出していた。

女子は同性しか居ないとこんな過激な話題で盛り上がる事を綾が初めて知った瞬間だった。

完全にカオス状態なった部屋で、机の上にあった花名の携帯に着信音が鳴っていたが、誰も気付いていなかった。

 

「全然出ないわね。」

花名の携帯に掛けていた志温はそう言って溜息を付く。

「何処かに行ったと言う訳では無いみたいですけど。」

考え込む志温は次の瞬間聞こえて来た花名達の声に思わず部屋の方を見るのだった。

「え?}

兎も角、志温は花名の部屋へ様子を伺う為に行ってみる事にした。

「何だか凄い声が聞こえたんだけど、大丈夫かしら?」

そう呟き首を捻りながら、志温は花名の部屋のインターホンを押す。

『はいはい、何方ですか?』

花名ではないが聞いた事のある声に志温は更に首を捻る、友人の娘達でも来ているのだろうかと考える。

「えっと私志温ですけど、花名ちゃんはいっらしゃいますか?」

『おお、志温お姉さんですか・・・花名ちゃん!志温お姉さんは来られてそうですよ。』

『えっ?志温ちゃんが・・・ちょっと待ってたまちゃん、皆志温ちゃんが来たって!』

『な、それって・・・こんな状態の時にですか?』

『冠(かむ)・・・ちょっとこれ結んで、これじゃ人前に出られないし。』

『任せる栄依子。』

インターホンに出た者が通話ボタンを押しっぱなししているのか、部屋の中の会話が筒抜けだった。

『取りあえず開けますね花名ちゃん。』

『たまちゃん駄目ええ!!』

その声の後ドアが開き目の前に展開した光景に志温は唖然としてしまった。

それはそうだろう見覚えの有る娘達が全員水着姿になっているのだから。

「し、志温ちゃん!これはその・・・」

花名は慌てて弁解しようとするが・・・

「うん、大丈夫よ、分かったから花名ちゃん。」

にこやかにそう言ってドアを閉め去って行く志温。

「し、志温ちゃ~ん!?」

「こ、こんな姿を見られてしまって・・・こ、今後どんな顔して会えば良いんですか?」

花名は完全にパニック状態になり、綾は青くなって立ち尽くす。

「大丈夫ですよ綾お姉さん!こんな姿と言うなら、栄依子ちゃんも負けていませんから。」

とたまてがフォロー(?)するが。

「たま、それフォローになってないから、って言うか私、いきなりこんな格好って・・・出禁になったりしないかしら?」

栄依子が冠に上の水着の紐を締めなおしてもらいながら心配そうに呟く。

「ど、どうしよう?・・・志温ちゃんに変な誤解されたら。」

パニック状態が続く花名だったが、再びドアが開かる音に綾と共に振向いて・・・

「「え・・・??」」

花名と綾はその光景に固まってしまう、何故なら志温が水着姿になってそこに立っていたからだ。

「改めまして、皆さんこんにちは。」

赤いビキニ、腰には緑のパレオを纏った志温に花名と綾は驚いた声を上げる。

「志温さん!?」

「し、志温ちゃん?そ、その格好で出て来たの?」

2人のそんな声に志温はにっこり笑って答える。

「3秒ルールよ、花名ちゃん。」

それってちょっと違うんじゃないかなあ、と綾は思わず内心突っ込んでしまっていた。

 




何時も思いますが志温さんは凄いキャラだと思います。
あれは天然なのか地なのか?まあ見ていて楽しいですが。

それでは。


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水着とライチ3

タイトルは最初「てまりハイツにて」だったのですが、ちょっと違う様な気がしたので変えました。



部屋に居る全ての者が水着姿になってしまったという状況の中、花名達は簡単な状況説明と自己紹介を済ませる。

ちなみに冠が挨拶した所でその可愛さに感激した志温の胸を見て・・・

「ライチ・・・新鮮。」

と冠が発言した事が有った事を記して置く。

「それで志温ちゃん、どうかしたの?」

取りあえずパニック状態から脱して花名が聞く。

「あ、そうそう、電話したんだけど出なかったから、ほら、ここから少し行った所にあるリゾートホテルに温泉プールがあるんだけど、皆どうかなと思って、今日海に行けなかったみたいだから・・・」

「そ、そうですよその手がありましたよ!」

たまてはそう言って皆を見渡す。

「行きましょうプール今すぐに。」

そのたまての声に皆直ぐに反応する。

「う、うん!行きたい!」

花名は既に行く気まんまんになっている。

「じゃあ今から行きましょうか。」

栄依子も同様に行く気まんまんだった。

「うん。」

そうなれば冠に異存がある訳はなかったのは言うまでもない。

そんな花名達を見て綾はようやく開放されると思い皆に声を掛ける。

「それでは私は此処で・・・」

だが現実はそう簡単に綾を離してはくれそうもなかった。

「じゃあ、私は綾さんと参戦しようかしら。」

綾の腕を自分の腕でしっかり拘束して志温が言ってきたからだ。

「わ、私の意思は?」

「「「「皆でプールだ!」」」」

最初からそんなものはありはしないのだから言うだけ無駄だった。

 

一行はリゾートホテルに到着後、温泉プールに行く者とそれ以外に別れる。

花名達はもちろん温泉プールだが、志温と綾の2人は・・・

「エ、エステですか?」

2人が立っているのはリゾートホテル内にあるエステサロンだった。

「以前お寿司をご馳走になりましたから、そのお礼にと思いまして。」

花名がお弁当を忘れてしまった時に綾はその弁当と買ってきた昼飯を交換した事がある。

その時の綾の昼飯がお寿司だったのだ、言っておくが近所にあった回転寿司のお持ち帰り用であり、エステをお礼にする程の高級品では無かったのだが。

「いえいくら何でもそれは・・・第一大家さんに何時もお世話になってる私の方が、お礼をする立場ですから、エステなんてとてもとても・・・」

「遠慮なさらずに、お肌がツルツルになる事請け合いですよ。」

遠慮する綾に志温は自分の肌を触りながら進めてくる。

「ツルツルになっても見せるのは乗員の娘達ぐらいなんですが・・・・」

異性(男)に素肌を見せる何て綾に出来もしない話だ、だから何時も見せると言うか、見られてしまうのは若宮の乗員達だけだ・・・それだけでも十分恥かしい話しなのだが。

そして・・・

 

「良いのでしょうか・・・私みたい者が、こんな王族みたいな扱いを受けて。」

「うふふ・・・良いんですよ綾さん。」

押し切られた綾は志温と共にエステを受ける事になった。

暫らく無言でエステを受けていた綾はうつぶせに寝かされるとぽつりと呟く。

「花名ちゃん達が仲良くしてるのを見ると、眩しい様な、何か切ない様な気にさせられますね。」

「それは分かりますね、自分達にもあんな頃があったなって・・・思ってしまいますね。」

自分が横須賀女子海洋学校に居た頃の事を綾は思い出す・・・薫や他の友人達と過ごした日々を。

「そう考えると花名ちゃんは素晴らしい友人達に恵まれていますね。」

やや癖の強い娘達だが、花名の事を思いやっている事は傍から見ていても分かる綾だった。

「その中には、綾さんも入っていると思いますよ。」

「わ、私もですか?いや・・・それはそれで光栄な話しですが・・・」

不意を突かれる様に志温に言われた所に背中にオイルが塗られ思わす声が出てしまう。

「・・・わっ!?」

そしてオイルが背中全体に塗りこまれて行くの感じながら志温は綾に語り掛ける。

「まぁ、大人には大人の楽しみがありますから。」

「そ、そうですね・・・」

2人は暫しその大人の楽しみを堪能したのだった。

 

女子更衣室。

しばらくして、志温と綾がエステから戻って来ると見ると。

「皆お待たせしました、ってあら?」

花名とたまてが激しく落ち込んでいるのに遭遇する志温と綾だった。

「ど、どうかしましたか?」

綾が花名とたまてに尋ねると。

「パンツを・・・パンツを忘れちゃったんですよ・・・」

たまてが目のハイライトを消した状態で返答する。

「え?花名ちゃん達もですか?」

「「え?」」

花名とたまてが綾の言葉に驚く。

「いえ、実は私も花名ちゃんの部屋に忘れて来てしまって・・・パ、パンツを。」

恥かしそうに綾は答えると志温を見る。

「もしかしたら花名ちゃん達も忘れてるかと思って買って来たのよ。」

志温はほほえむと下着が入った袋を花名達に見せる。

「何と、これは正に地獄にパンツですね。」

「あ、ありがとう志温ちゃん。」

喜ぶ花名とたまての2人は志温の差し出した袋を受け取る。

「さあ履いてみて皆。」

志温に言われ袋から取り出した下着を花名が身に付け様として・・・

「あれ?こ、これ・・・後ろに穴が空いてるよ?」

そう花名が持つ下着には何故かハート型の穴が空いてた。

志温は花名の言葉に嬉しそうに答える。

「可愛いでしょ?」

「ええ・・・」

花名はその下着を持ったまま固まってしまう。

「あはは、お尻見えちゃいますね。」

「ハートやら星やら丸やら、色んな形がありますね。」

栄依子とたまては何故か嬉しそうだった。

「私、猫の形にする。」

冠もまったく気にした様子も無く猫の形に穴が開いた下着を取る。

「み、皆良いの?、穴が空いてるんだよ。」

何故皆そんなに平然としているのか花名は理解出来ない。

「花名!」

「え?は、はい!」

「これは、尻尾を出す為の穴だから良いの。」

「し、尻尾?」

花名を平然と諭す冠だった・・・その内容はどうかと思うが。

一方綾は黒っぽい下着を身に着けていた、これって母親が時々送ってくるアダルトなやつにそっくりだなと思いながら。

「綾さん、サイズは大丈夫ですか?」

身に着けた終わった綾に志温が聞いてくる。

「えっと、サイズはまあ何とか、ただこの下着非常に心許ない作りですね、紐で固定されているみたいですし・・・」

何しろ布の面積が少ないうえに所々透けいる下着を紐で止めている様に見えて綾は恥かしくて落ち着かない。

「大丈夫ですよ、こう言う下着の紐って飾りみたいなものですから。」

そう言って志温が紐を引っ張ると・・・下着が解けて落ちかかる。

「新鮮なライチ。」

女子更衣室に綾の悲鳴が響き渡る中、冠はぽつりと呟くのだった。




TSキャラは周りの女の子達に振り回されるのが王道だと思います。
最後のオチ要員としても(笑)。

それでは。


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花名と綾1

花名と綾との出会い編です。
2人はいかにして仲良くなったか・・・



神城 綾と一之瀬 花名、この2人がお互いを知るのに実は一年近く掛かっている。

綾がてまりハイツに入居して大分たって花名が預けられたのだが、様々な要因が重なって、一年後に2人がある事で顔を会わせるまで、お互いを知らなかったのだ。

それは花名が浪人のショックと新しい環境に馴染めず引き篭もり状態だった事に加え、綾がブルーマーメイドの任務上長期間留守にする事が多かったからだ。

ただ全く気付かなかった訳では無く、綾は志温と一緒にいる花名を見た事が度々あったし、花名も白い服を着た女性が度々出かけて行く姿を見かけてはいた。

だがその程度の認識で終わっていたのだった。

2人がお互いの事を本当に知るのは花名が星尾女子に入学して一月ほどだった時だった。

 

その日、本屋に参考書を見に行っていた花名がてまりハイツに戻り、夕食の為志温の部屋に入った時。

花名は玄関に置かれている紙袋や荷物に気付く、興味をもってそれを覗き込んだ目に入って来たのは、多量の郵便物と宅配便だった。

志温宛かと思って宛名を見た花名はそこに『神城 綾』と書かれているのを見る。

「神城 綾さん?」

聞いた事の無い名前に花名は首を捻る。

志温の知り合いなのだろうか?それにしても何でこんなに大量に?

数々の疑問が沸いた花名は聞いてみようと思いキッチンにで料理中の志温の元に向かった。

キッチンでは志温が鼻歌を歌いながら唐揚げを調理していた。

「志温ちゃんただいま、ねえ玄関にある手紙とかなんなの?」

戻って来た花名の問い掛けに志温は何かを思い出したのか慌て始める。

「あ!忘れてたわ!留守中にお預かりした神城さんの郵便物と宅配便!」

「神城さんって誰?」

やはり志温の知り合いだったのだろうかと花名は思い聞いてみた。

「2階のお部屋の人なの、急いで行かないと!あぁでも唐揚げが・・・」

準備して置いてすっかり忘れていたらしい、しっかりしている様で志温は結構抜けている所がある。

「じゃあ、私が行って来ようか?」

そんな志温を見かねて花名が申し出て来る、日頃何か手助けがしたいと思っていたから。

「え?花名ちゃんが?大丈夫?」

志温はそんな花名からの申し出に驚く。

「うん!大丈夫。」

小さなガッツポーズをして花名が答える。

志温は感激していた、あんなに人見知りだったのに・・・成長したのね花名ちゃん、と。

「じゃ行ってくるね。」

張り切った様子で花名は向かう、まあそこまでは良かったのだが・・・

「志温ちゃん!チャイム鳴らしてから何て言ったら良いか教えて!なるべく細かく!詳しく!」

慌てた様子で戻って来て聞いて来る花名に志温はただこう言うしかなかった。

「花名ちゃん・・・」

 

その後、郵便物と宅配便を持って、綾の部屋の前に立つ花名。

しかし到着してからインターホンを押すまでにまた時間が掛かった。

「えっと・・・えい!」

ようやくインターホンを鳴らす事が出来た花名。

『はい。』

インターホンから流れる声に花名の緊張が高まる。

花名「あ、あの、管理人の者ですが、ふ、不在時にお預かりしてた郵便物と宅配便をお渡しに参りました、です!」

緊張して詰まったうえに語尾が可笑しくなってしまう花名。

『あ、はいお待ち下さい。』

するとドアが開きが黒い髪を肩までのばした女性が顔を出した。

「あの・・・貴方は?」

「・・・あ、管理人の者です、が・・・」

花名は出てきた女性を見て後に続く言葉を失ってしまう。

それが花名がその女性の美しさに思わず目を奪われてしまったからだ。

従姉の志温とは違った美人さん、清楚な雰囲気を身に纏ったその女性に花名は何て言っていいか分からなくなったのだ。

「管理人、さんですか?でも貴女は・・・その若すぎませんか?」

その女性は戸惑った様だった、確かに突然花名が自分が管理人ですと言えば当然そうなるだろう。

本当は『管理人の代理の者です。』と言うべきで、志温もそう教えた筈なのだが、当然の如く緊張し過ぎて花名は忘れてしまったのだ。

「あ、違い、いや違わなくて、志温ちゃんのって、あああ。」

自分の言い間違いに気付き慌てて訂正しようとして花名は、結果的に手に持っていた郵便物入りの紙袋を落としばらまいてしまう。

「す、すません、って痛い・・・」

パニック状態になった花名は抱えていた宅配便を自分の足に落としてしまう。

「大丈夫ですから落ち着いて下さい・・・て危ない!」

「へっ!?」

落ちた宅配便を拾おうとして、花名は開いていたドアに頭をぶつけてしまう。

「・・・!?・・・」

花名の酷いパニック状態は、騒ぎに気付いて志温が駆けつけてくるまで続いた。

 

それから30分後、花名と綾は何故か志温の部屋で向かい合って座っていた。

山盛りの唐揚げを前にして。

「改めて紹介するわね。こちらは202号室の神城 綾さん。」

唐揚げが乗ったテーブルに着いた二人に志温がそれぞれの紹介をする。

「神城さんは何と・・・ブルーマーメイドで艦長さんをなさっているのです。」

何故か志温がどや顔で言う。

「そしてこちらが、私の従妹の一之瀬 花名ちゃん。」

緊張した面持ちで綾の対面に座る花名。

「近所にある星尾女子高校に今年から通っているぴっちぴっちの女子高生なの。」

普通従妹の事を紹介する時には使わないだろう言葉を使う志温。

「初めまして、神城 綾です。」

時々見かけていた娘が管理人さんの従妹だったと知って綾は驚いていた。

それにしても1年近くもすれ違ってたとは綾は驚きを超えて呆れてしまっていた。

「こ、こちらこそ初めまして、い、一之瀬 花名です。」

一方の花名も時々見かけていた女性が同じアパートの住人でブルーマーメイドだった事に驚いていた。

つまりあの白い服はブルーマーメイドの制服だったんだと合点がいく花名だった。

 

こうして綾と花名のファーストコンタクトはなされたのだった。

 




同じ境遇は絆を深めると思います。
アニメに於ける花名と万年 大会さんの様に。
まあこちらでは綾ですが。

それでは。


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花名と綾2

スロウスタートのSTEP.04 2階のプレミア大会が元になってますが、かなり展開が違いってしまいました。



それから綾と花名は顔を合わせれば挨拶し短い会話をするまでにはなった。

だが花名の人見知りもありそれ以上進展は無かった。

しかしある日・・・

 

綾の部屋のインターフォンを押す花名。

その時たまたま綾が外出中に荷物が届き預かったものを花名が再び届けに来ていた。

『はい。』

「あ、あのお荷物をお届けに来ました。」

『ああ、ちょっと待って下さい。』

ドアが開けられ綾が顔を出す、相変わらず美人さんだなと花名は会う度に思ってしまう。

「ありがとう一之瀬さん、わざわざ持って来てもらって。」

「いえ気にしないで下さい・・・その色々と興味があって、あいえ違います・・・」

礼を言われ思わず慌てて本音が出てしまった花名、実は綾の事が非常に気になって荷物の渡し役を引き受けたのだ。

ずばりそれは綾がブルーマーメイドの人間だったからだ。

多くの女子が憧れる職業であるブルーマーメイド、花名も幼い頃は自分もなるんだと思っていたものだ。

だが勉強の方は兎も角、運動神経の無さに気付き、早々と諦めてしまったが。

「ふふ、じゃ上がって行きますか?」

花名の慌てぶりに綾は微笑むと部屋に誘ってくる。

「い、良いんですか?」

「ええ構いませんよ、どうぞ。」

綾の誘いに花名は嬉しそうな表情を浮かべて部屋に入っていった。

「どうぞ、何もありませんけど。」

「はい、おじゃまします。」

 

玄関から入ってキッチンとテーブルの有るリビングに案内される花名。

殆ど自炊をしない花名と違いキッチンにある程度の調理器具が置かれているのは綾が料理をする為だ。

「それじゃ座ってね、ああ一之瀬さんはコーヒーそれとも紅茶、どちらが良いかな?」

テーブルの椅子に座る様に花名に促し、聞いて来る綾。

「あ、すいません、えっと紅茶でお願いします。」

椅子に座り部屋を見渡す花名、こう言って何だが余り女性らしい感じがしない、まあ彼女の所も似た様なものだが。

そして視線をテーブルに戻した花名は上に置かれている本に気付く。

それなりの装飾のなされた少し大きめの本には『横須賀女子海洋学校卒業アルバム』と書かれている。

「これって・・・?」

綾の通っていた学校の卒業アルバムだろうかと花名は思って見つめてしまう。

「気になりますか?」

テーブルに紅茶が置くと綾が聞いて来る。

「えっあ、すいません・・・その多少は・・・」

かってはブルーマーメイドに憧れていただけに、花名はその為の学校の存在は興味があった。

「ふふ・・・じゃ見ても構いませんよ。」

花名の対面にコーヒーを持って座った綾が微笑みながら言う。

「ははは・・・ありがとうございます、それでは。」

少々図々しいかと思ったものの、好奇心には勝てず花名はアルバムを手に取り開いて見る。

「あの・・・神城さんは何組なんですか?」

まずは綾の所属したクラスについて見ようとした花名が尋ねてくる。

「海洋学校には普通の学校の様な何組と言うのは無いんです、あえて言えば乗艦していた教育艦がそれに当たりますね。」

「へえそうなんですね。」

花名の通っている星尾女子高等学校と違い海洋学校のはそう言ったものが無い事に驚かされる。

「私の乗艦していた教育艦は武蔵ですよ。」

綾の説明で武蔵のページを探す花名、それは直ぐに見つかった。

巨大な船の写真の下に集合写真がある、それが武蔵に乗っていた生徒達らしいと花名は気づく。

その中に居るだろう綾の姿を探して、あっさりと見つけてしまう花名。

何しろ並んで居る生徒達の中で一際目立っていたからだ、その美しい容貌で。

自分と変わらない年頃でもうこんなに美人だった事に花名は今更ながら驚き、そして落ち込むのだった。

気を取り直しページを捲る花名、授業風景らしいものや食堂だろうか談笑している生徒達の写真が続く。

その写真を見ていた花名はある事に気付く、全てのと言う訳ではないが、大半の写真に綾が必ず写っている事に。

「あの・・・神城さんっていっぱい写っているんですね。」

花名の言葉に綾は困った表情を浮かべ答える。

「アルバム委員の娘達が面白がって載せたらしくて、私としては恥かしいんですが。」

でも分かる様な気もする花名だった、何しろこれだけ綺麗な容姿なのだからと。

そして花名はもう一つ気付いた事があった、やはり全てと言う訳では無いが、綾の隣には必ず同じ女子が写っている事だった。

時には親しげに談笑し、時にはじゃれあったり、というか一方的に綾がされている様だが、という写真が多い。

2人がかなり親しいと言う事が花名にはよく分かる風景だった。

「あの・・・この隣に写っている方はお友達ですか?」

花名の指す写真を見て綾は微笑を浮かべながら答えてくれる。

「ええ、古庄 薫さんです、私の大事な友人です。」

入学式の日に出会い、以後卒業まで親しくしていたと綾は教えてくれた。

それを聞いて花名は栄依子達との事を思い出す、同じ様に入学式の日に出会い、友人になった事を。

「その方とは今もお友達としてお付き合いを?」

「ええ、ただ卒業後は進路が別になったので学校時代の様にはいきませんが、休みが合えば必ず会いますし、連絡も常にと言う訳ではありませんが結構取り合ってますよ。」

嬉しそうに薫との事を話す綾を見て、花名は羨ましくなってしまった。

自分も栄依子達と綾と薫の様に卒業後も親しく出来たらと花名は真剣に思った。

時々会話を挟みながら花名はアルバムの最後にあるページ、卒業者名簿にたどり着いていた。

卒業者の名前、生年月日、所属科などが載せられている。

花名は武蔵の名簿の中から綾と薫を見つけて眺めている中に小さな違和感に気付く。

それは生年月日だった、綾は薫より前になっている、いや他の生徒達に対しても・・・

「これって・・・?」

次の瞬間、それが意味するものを察して花名は愕然とさせられる。

 

綾は自分と同じ境遇なのではないのかと・・・




前にも書いたのですが、花名と綾は浪人と言う点で共通があり、クロスさせて見たいと思ったのですが。
まあ綾にはそれにTSが加わるのでまったく同じと言う訳ではありませんが。

それでは。


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花名と綾3

2人の出会い編終了です。



綾も自分と同じ境遇・・・浪人しているのではないか、花名は確かめたい衝動に駆られる。

だが一方、触れてはいけない事ではないかと花名は考える・・・自分にとってそうである様に。

突然黙ってアルバムを見つめるだけになった花名を綾は気になって覗き込んでくる。

そして花名が名簿を、綾の生年月日を見ている事に気付く、そして彼女が何を考えているのかを。

「・・・それは間違っていませんよ、私も他の娘達のものも。」

綾の言葉に花名は驚いて顔を上げる。

「私は・・・病気で一年入学が遅れているんです、まあ中学浪人ですね。」

半陰陽を病気と言えるかは一概に言えないかもしれないが綾はそう説明する。

「と言っても昔の事ですし、私は気にしてませんが、だから一之瀬さんも・・・」

「違うんです!」

何でも無い様に話す綾を遮る様に花名は声を上げる。

「私も・・・私も浪人して、いるんです。」

 

花名は自分の境遇を綾に話す、おたふく風邪で受験出来ず浪人し、母親の進めで志温の元に来た事を。

「なるほどそう言う事でしたか・・・嫌な事を思い出させてしまった様ですね。」

綾はすまなそうに言うが、花名は微笑んで答える。

「いえ大丈夫です、それに私だって・・・」

綾に話させてしまったのは自分だから、気にしないでと花名は思う。

「・・・分かりました、それにしても身近に自分と同じ境遇の人が居るとは思いませんでしたね。」

花名の気持ちを察し綾も微笑えむと感嘆した様に話す。

「私もです・・・こう言う事ってあるんですね。」

花名も同じ気持ちだった、こんな身近に同じ境遇の人間が居るとは思いもしなかったと。

ふと花名はある事が気になってきた、綾は浪人の事を周りの人に・・・

「あの・・・神城さんは浪人の事は皆には話しているんですか?」

特に綾が友人と言った古庄 薫にその事を話しているのか、が花名は気になった。

「ええ話していますよ薫に、今回の様に偶然知られてしまった時にですが。」

横須賀女子に提出する書類に添付されていた戸籍抄本を薫に見られた時に気付かれてしまった。

ちなみに綾の戸籍抄本は女性になった際に作り変えられていたので、性別は最初から『女性』になっている。

「それで・・・古庄さんは・・・何と?」

花名は栄依子達の顔を思い浮かべながら聞く。

「何も・・・まあ今まで隠していた事は責められましたが、あっけなく受け入られました。」

肩を竦めて綾は言う、それは薫だけでなく、それを聞いた他の友人達も同様だった。

「そうだったんですね。」

人の事とはいえ花名は安堵感に包まれる。

「ただ余りにも簡単に受け入れてくれたので、後日薫に聞いてみたのですが・・・」

 

『別にそんな事気にしていないわ・・・それに綾には悪いけど私は良かったと思っているもの。』

 

「良かったですか?」

花名は薫のその言葉に驚く、彼女にとって何が良かったと言うのだろうかと思って。

「私が一年遅れたからこそ出会えて友人になれたから・・・と言う事らしいですね。」

綾は各女子海洋学校への入学が年毎違う事を話す、だから綾が普通に受験すれば横須賀女子を受ける事は無かったのだから(それ以前に女子海洋学校への入学なんか出来なかっただろうが)。

「そう言う事だったんですね・・・遅れてから出会えた。」

花名は深い感動に震える、浪人はけっしてマイナスばかりじゃない、こんな素敵な出会いを生むのだと。

「でもそれは一之瀬さんも同じでしょう。」

「え?」

綾の言葉に花名は驚いた表情を浮かべる。

「一之瀬さんも遅れたからこそ今の学校に入学出来た、そして今の友人を得られたのでしょ?」

確かに考えてみればもし花名がちゃんと受験していたら、栄依子達と知り合う事など無かった筈だ。

自分にとっても浪人はマイナスじゃなかったんだ、花名はそう思った。

 

「でもそうだとすると私も神城さんみたいに話した方が良いんでしょうか?」

「無理をする必要は無いと思いますよ、私だって皆に話すのに1年掛かりましたから。」

花名の悩みに綾はそう答える。

「自分のペースでやるのが一番ですからね。」

綾の励ましに花名は涙を浮かべて頷く。

「はいそうします・・・でも少しは焦らないとずっとこのままじゃないかと心配なんですが。」

「・・・そうですね、分かりますよその気持ち。」

 

「今日はおじゃましたうえに色々話を聞いてもらえて、ありがとうございました。」

玄関で花名はそう言って頭を下げながらお礼を言う。

「いえ、私も楽しかったですよ、何しろこれ程親近感を持てる相手は初めてでしたから。」

綾はそう言って微笑んで答える。

「私もです、こんな風に浪人の事を気楽に話せる人は始めてで。」

花名はそう言うと俯き暫らく黙っていたが、再び顔を上げる。

「あの・・・ご迷惑でなければまたお話に来ても良いですか?あと、綾さんとお呼びしても・・・」

「ええ、まあその位は。」

綾としても花名と話す事自体は別に問題は無いと思っている、名前で呼ばれるのは恥かしいが。

「良かった・・・それじゃ綾さんも私の事を花名と呼んで下さいね、その方が嬉しいですから、それじゃまた今度。」

「え、ちょっと待って。」

花名の言葉に慌てて呼び止めるが、彼女は嬉しそうな表情を浮かべ帰っていった。

それを見て綾は深い溜息を付く、女性として長年過ごして来たが相変わらず距離感が掴めないなと思いながら。




前にも書いたと思いますが、花名と綾はその境遇が似ていて、クロス作品に最適でした。

そえでは。


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星尾女子文化祭1

TS物における過去(男性時)との対峙は外せない話だと思います。
大きく人間関係が変わりますから。



予定より伸びた洋上任務を終え、てまりハイツ戻って来た綾。

とりあえず着替えて風呂に入ろうかと考えていた綾の部屋に花名が尋ねて来る。

「あ、すいませんお帰りになったところだったですね、あの後でも・・・」

まだ綾がブルーマーメイドの制服姿のままだった事に気付き花名が慌てて戻ろうとするが。

「あ、気にしなくても良いですよ花名ちゃん、何か御用ですか?」

この姿になって大分経つが綾は未だに着替えについては、自分の下着姿には慣れ、女性物の服を身に着ける事自体自然と出来る様にはなったが気が重かった、だから先延ばしにしても気にはしない。

・・・この後風呂に入る為にしなければならない事を考えるとなおさらだ。

話が逸れた、だから綾は花名に話の先を促した。

「はい、実は今週うちの高校で文化祭があって、綾さんを是非ご招待したくて。」

花名の通う星尾女子高等学校で今週末に文化祭があり、それに綾を招待したくて尋ねて来た様だった。

「私をですか?まあ予定はありませんから構いませんけど、ご両親とかじゃなくて良いんですか?」

普通こういうのは親御さんや親戚、ここで言えば従姉の志温さんだと綾は思ったのだが。

「はい、お父さんとお母さんは仕事とかあって来れなくなって、志温ちゃんは大丈夫なんですけど。」

そう言って花名は顔を俯かせる、彼女がご両親を大切に思っている事を綾は知っているので落胆する気持ちは理解出来きた。

「分かりました、是非行かせてもらいますね・・・でも花名ちゃんのお母さんが来れないとなると志温さんは・・・」

「ははは・・・とても残念がってました。」

綾の言葉に花名は苦笑して答える、志温が彼女の母親である葉月に深い憧れを抱き、会うのを楽しみにしているからだ。

「とりあえず当日は志温ちゃんと一緒に来て下さい、一応承諾してくれてますから。」

既に志温の方には話が通っているらしい、綾は頷く。

こうして綾は花名の学校で行なわれる文化祭に行く事になった、だが彼女はそこで自分の過去と対面する事になるとはその時は思ってもいなかった。

 

文化祭当日

綾は志温と共に花名の星尾女子へ到着していたのだが・・・

「えっと志温さん、何か見られてませんか?」

そう校門を潜り学校の中に入ってから綾は周りからの視線が気になってしょうがなかった。

「ふふふ、それは綾さんだからでしょう。」

志温はにこやかな笑みを浮かべ答える。

「いえ、それを言ったら志温さんだからでは?」

幾ら何でも自分がと綾は考えて言うのだが。

まあ、結論から言えば2人だからと言えるだろう、ほんわかな雰囲気でたわわな胸部装甲を誇る志温と美しい黒髪で清楚な雰囲気の綾。

星尾女子の生徒はもちろん来賓の人々の視線を集めるのは当然と言えるだろう。

「と、兎に角約束通り花名ちゃんの所へ行きましょう志温さん。」

その視線に耐えられないのか綾は急かす。

「そうですね花名ちゃん達待っているでしょうから。」

同じ視線に晒されている志温だがこっちはまったく動じていない、性格と言うより女性としての経験の差だろうか。

対称的な対応の2人は花名の1年2組へ向かう。

和風喫茶椿

1年2組の出入り口にそんな看板が掲げられている。

「ここですね、でも和風喫茶って?」

その看板を見て綾は首を捻る、和風ってメニューがそうなのだろうかと疑問に思ったのだ。

「入ってみれば分かりますよ綾さん。」

志温はそう言って入り口ののれんを通って中に入ってゆく、綾も慌てて後に続く。

「あらあら。」

「なるほどだから和風喫茶と言う訳ですね。」

中の様子を見て2人は納得する、内装はもちろん和風っぽいが、一番特徴的なのは給仕をしている娘達の衣装だろう、そう全員着物だったのだ。

「いらっしゃまいせ・・・志温さん、綾さん。」

そう言って2人を迎えたのは十倉 栄依子、大人っぽい彼女の着物姿はある意味妖艶だった。

「いっらしゃい志温ちゃん、綾さんも。」

同じく着物姿で迎えてくれる花名、こちらはまあ・・・言わないであげた方が良いかもしれない(笑)。

ある意味対称的な栄依子と花名に、綾と志温は微笑む。

だが綾は次の瞬間に掛けられてきた声に身体が硬直する様な思いを味合う事になる。

「一之瀬、十倉、様子はどうだ?」

綾の後ろから聞こえてくるテンションが低い棒読みのかってはよく聞いた声。

恐る恐るそちらを見た綾はそこに立っているボーイッシュだが見かけが暗い女性に今度こそ固まる。

「き、清瀬先輩?」

それは綾の中学時代の、いやその時はまだ男子の薫だったが、先輩であった榎並 清瀬だったのだ。

 

榎並 清瀬は神城 薫とっては2年上の先輩だった。

かなり変わり者の上級生として学校内では知らぬ者の居ない人物で、他の生徒はもちろん教師さえ扱いかねる相手だった。

そんな先輩の清瀬と薫は、本好きという意外な接点で知り合い、卒業までの間親しいと言えるか分からないが交流を重ねたのだった。

いや卒業後も、「私はOGだ、ここにいても問題は無い。」と言っては学校を訪れ、薫に絡んできたものだった。

しかしそれもある日唐突に終わってしまう、薫が身体の不調で倒れ、卒業目前で学校を去ってしまったからだ。

その理由が半陰陽だったのは言うまでも無い、まあそういった事情もあり薫は清瀬と連絡を絶たねばならなかった。

それから何年も経ち、後ろめたさを感じていた薫、いや綾だったがまさかこんな所で再会する羽目になろうとは思わなかった。

 

こうして綾は予期せぬ場所で予期せぬ過去と対峙する事になったのだった。

 




さて綾と清瀬の関係は?いえそれほど深刻なものではありませんが。

それでは。


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星尾女子文化祭2

文化祭編第二話です。
綾と榎並 清瀬の関係はどうなるんでしょうか。



「・・・一之瀬、十倉、彼女達は知り合いか?」

清瀬はちらりと花名と栄依子が喋っていた志温と綾を見て聞いてくる。

「あ、はい、私の従姉でてまりハイツの管理人の京塚 志温ちゃ、さんと同じアパートに住んでいる神城 綾さんです。」

花名が2人を紹介すると清瀬は志温には軽く会釈をするが、綾に対しては目を細めてじっと見つめる。

「神城 綾・・・ねえ?」

 

1年2組の様子を見に来た清瀬はそこで自分の教え子である花名の知り合いに会った。

管理人であり従姉の女性については花名の母親に会った時に話しは聞いていたから問題はなかった。

だがもう1人の方は・・・神城 綾と紹介された女性は違った、それは彼女が清瀬にとって忘れる事の出来ないある人物に面影がとても似ていたからだ。

「はじめまして、京塚 志温と申します、花名ちゃんがお世話になっています。」

志温は何時もと変わらないにこやかな笑顔で清瀬に挨拶してくる。

「ええと・・・初めまして、神城 綾です、その・・・」

それに対し綾は視線を清瀬と合わせ様とせず、後頭部に手を当てて落ち着かない様子だった。

そっくりだな彼に・・・神城 薫に・・・面影だけで無く慌てると出るその癖とか、と清瀬は思った。

 

神城 薫は榎並 清瀬にとって忘れられない相手だった。

その性格ゆえ他人と距離を取られがちな清瀬に薫は適度な距離感で接してくれた奇特な人間だったからだ。

放課後の図書室で1席開けた椅子に座り、閉館まで本を読むと言う事を清瀬が卒業するまで続けた。

会話も読んでいる本や作者についてが多く、年頃の男女にしてはおよそ色気の無いものだったが、清瀬にとってはこれ程心休まる存在は初めてだった。

だからこそ卒業後も学校に足を運び清瀬は薫に何かと絡んだりしたのだ。

だがそれもある日突然終わってしまった、薫が学校で倒れ入院し、そのまま療養と言う理由で清瀬の前から姿を消してまったからだ。

もちろん消息については彼の周りの者達に聞いたのだが、誰も知らなかった。

「京塚さんですね、話しは一之瀬の両親から聞いてます、担任の榎並 清瀬です、こちらも一之瀬の事を色々と見守って頂けている様で助かってます。」

淡々とした話し方で聞きようによってはドライに聞こえるが志温はちゃんと察して微笑んで頷て見せる。

「ところで神城さんだったな、君に神城 薫という知り合いは居るか?」

そのストレートな問いに綾は内心苦笑させられる、中学時代も気になる事があれば真正面から切り込んでいく所があったからだ。

「えっと・・・し、知り合いには居ないと思います・が・」

綾の言葉が尻すぼみになってしまったのは、清瀬の視線が鋭くなって来たからだった。

明らかに綾が嘘をついている事を清瀬は確信する、まあこれも彼女の演技が下手糞だったからだが。

「・・・分かりました、失礼な事を聞いて済まなかった神城さん。」

「いえ別に気にしていませんから。」

更に追求が来ると思っていた綾は清瀬の言葉に安堵の表情を浮かべる、これでばれずに済むと。

だがその綾の反応が清瀬の質問に対して答えを与えた事に気付いていなかった。

「それではお2人共楽しんで行って下さい、一之瀬、十倉後を頼むぞ。」

「はい先生。」

それに対して花名は素直に答えるが・・・

「あの榎並先生、先程の神城 薫さんって?」

清瀬に対しある感情を抱いている栄依子にしてみれば先程の彼女の問いが気になって仕方が無いらしい。

「なあに昔の話さ・・・薄情な友人殿のな。」

一瞬睨まれた様な感じがして綾は硬直してしまう、清瀬はそれを見て意地の悪い笑みを浮かべて去ってゆく。

「友人の?薄情な・・・」

「栄依子ちゃん?」

複雑な表情を浮かべて考え込む栄依子を見て花名は首を傾げる、まあ彼女は事情を知らないから当然だが。

一方綾は何とか追求を逃れらた安堵しえ座り込みそうになりそうなところを耐えていた。

しかし綾は忘れていた、清瀬が自分が抱いた疑問をけっしてそのまましないと言う事を、どんな手段を用いても答えを見つけ出そうとする事を。

その後、微妙な空気をたまてや冠が消してくれたお蔭で、この話しは終わったのだと綾は思ったのだが。

 

花名達の和風喫茶を出た後、志温と綾は他の展示などを見て周った。

そしていざ帰ろうとしたところで、志温が花名に渡すものがあった事を思い出し、彼女は1年2組に慌てて向かっていった。

最初綾も一緒に行こうとしたのだが、志温は「迷惑を掛けられませんから。」と言って、屋上で待ってくれる様に言われてしまったのだ。

こうして綾は星尾女子の屋上、通常は閉鎖されているが、文化祭の時は開放される、に1人でいた。

周りには星尾女子の生徒や来客者もおらず静かな夕日に包まれて幻想的だった。

こやって夕日を見るのが綾は好きだった、それは今も昔も変わらない事だった。

「相変わらず夕日を見るのが好きらしいな、まったく私には理解出来ん、何が良いんだか。」

「何が良いかって・・・先輩はこんな幻想的な瞬間を見れる事が素敵だと思わないんですか?」

そう言えば中学時代、こうやって夕日を見ていると、よく先輩にこう言われたものだと綾は思い出す。

そこで綾は気付く、自分は今誰と会話しているのかと、悪寒に襲われ慌てて振向いた先に居たのは・・・

中学時代、飽きずに夕日を見ている薫に呆れた様にそう言って声を掛けてきた榎並 清瀬先輩だった。

綾にとって残念な事にこの話しはまだ終わっていなかったのだった。

 




TSにおける過去(男だった頃)との対峙は結構シリアスな話しだと思います。
まあ自分は暗い話しは嫌いなのでそうするつもりはありませんが。

それでは。


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星尾女子文化祭3

綾は自分の秘密を清瀬から守れるか?・・・無理ですね(笑)。



「えっと榎並先生?」

突然現れた清瀬に綾は動揺させられる。

「ふっどうしだんだい神城さん。」

そんな綾を見て目を細めて見つめる清瀬。

「い、いえ別に・・・」

何とか同様を押さえ様とする綾の隣に清瀬は並んで立つ。

「ところで神城さん、さっきの会話だが・・・あれって私の後輩とよくしていたものなんだが。」

同じ様に夕日を見ながら清瀬は綾に話し掛ける、いや追求してくる。

「それは偶然ですね、ははは・・・」

自分でも白々しいは思うが今の綾はそう言って誤魔化すのが精一杯だった。

「ほうまだ粘るか・・・だが相変わらずだな、誤魔化そうとする度に後頭部に手を当るのは、お蔭で君の嘘を見抜くのは楽だったよ、あの頃はね。」

「へっ私そんな癖あったんですか・・・あ!」

後頭部に当てていた手を慌てて目の前に持って来て聞き返した綾は失策を犯した事に気付く。

清瀬は顔を傾けて綾を見て勝ち誇った様に言う。

「ああ神城 薫君、その通りだよ、久しぶりだな。」

勝ち誇った笑みの清瀬に綾は負けを認めるしか選択肢は無かった。

結局綾は、中学時代に倒れた原因が実は女性であった為で、その後手術を受け神城 綾と名を変え横須賀女子海洋学校に入学し、今はブルーマーメイドで艦長をしている事まで全て話させられたのだった。

「なかなか波乱万丈な人生を歩んでいたんだな君は、しかし隠そうとしたのは納得できんが。」

「それについては申し訳ありませんでした、ただ薫の頃を知っている人に現状を知られるのは・・・」

屋上にあるベンチに座りながら2人は話していた。

「・・・それもそうだな、しかし美人になったものだな、まああの頃も十分綺麗だったが。」

昔見た意地の悪い笑みを浮かべながら清瀬は綾を見て言う。

「えっあの頃って中学時代ですか?」

「ああ、男のくせに美少女顔って事で君は女子の間では有名だったんだぞ。」

驚く綾を見て清瀬は肩を竦めて答える。

「知りませんでしたよそんな事。」

まあ確かに綾も男らしい容姿では無いと嘆いてはいたのだが、他人からもそう思われていたとは。

「でもまあ女だったんなら納得出来るな、よかったじゃないか。」

「何処かですか・・・自分が本当は女だと知った時は大変だったんですから。」

今まで男として生きてきた事が否定された様なものだ、しかも新たな世界に行く不安もあったのだから。

肩を落としその頃の事を思い出している綾に清瀬は気の毒と思いながらも何処か安堵している自分に気付く。

多分男女のままだったらその後に様々な問題にぶつかっていたかもしれなかったと清瀬は思う。

あの頃の関係は純粋なものだったと思っている、もちろん恋愛を否定するつもりは無いが、清瀬は薫との間にそんな物を持ち込みたくはなかったのだ。

「それは確かに大変だったな、だが女の人生も悪くは無かったんだろう?」

「・・・それは否定しません、この身体になって得たものもたくさんありますから。」

清瀬の問いに薫、いや綾は恥かしそうに答える、男として生きていたら出会えなかった事が多くあったのは否定出来なかったからだ。

「なら良かったじゃないか、男女の人生を両方体験出来るなんてめったに無いぞ。」

「別にそんな体験したくはありませませんでしたけど。」

男であれ女であれ平凡な人生を生きたいと綾は思う、まあ現状は当人の思いとは正反対であるが。

一方清瀬にとってはこれは願ったり叶ったりな状況だった、何しろこれからは歳の離れた同性の友人として付き合って行けるからだ、まあ女同士の間でも問題が起こるかも知れないが、それはその時考えれば良い話だ。

「おっとそろそろ京塚さんが戻ってくるな、薫いや綾、お前の携帯電話の番号とメールアドレスを教えてくれ。」

ちなみに清瀬がここに来れたのは志温が花名に用事が有って教室に来た所に偶然居合わせたからだ。

志温の話しから綾が屋上にいる事、そして花名への用事が長引きそうな事を知り、此処に来たらしい。

拒否する理由も無いので、と言うか教えないと後が怖そうなので綾は携帯を取り出し清瀬と電話番号とアドレスを交換する。

「言っておきますけど私はブルーマーメイドの任務で洋上に居る事が多いので陸に戻れるのは数ヶ月毎になりますけど。」

「構わせんさ、戻った時には一日たっぷりと付き合って貰うからな。」

それは大変そうだと今から深い溜息を付いてしまう綾だった。

「お待たせしました綾さん、あら先生と一緒だったんですね。」

「あれ榎並先生、こちらにいらっしゃたのですか?」

「あ本当だ榎並先生どうして?」

屋上に志温と栄依子、花名がやって来て綾と清瀬を見て驚いた声を上げる。

「ああ、彼女とちょっと話しをな、お互い知っている薄情な友人についてな。」

皮肉っぽい笑みを浮かべ言う清瀬にそれまだ続けるのかと綾は溜息を付く。

「それじゃ神城さん、京塚さんも今日は来てくれて感謝する、一之瀬、十倉片付け頼むぞ。」

清瀬はそう言うと屋上から出て行くのだった、後に困惑した栄依子と花名を残して。

 

こうして綾の星尾女子高校文化祭は終わった。

なおこの後、清瀬と再び交流が始まった綾が彼女に振り回される事になるのは言うまでもなかった。




スロウスタートの登場キャラで榎並 清瀬は結構好きな1人です。
ちょっと斜に構えたぶっきらぼうな女性は嫌いでありませんから。

清瀬と綾の話しは今後とも書いていきたいと思っています。

それでは。


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夏祭り1

今回は志温さんとの逢瀬(?)です。
スロウスタートのSTEP.11「トマトのまつり」を元にしてます。



その日綾は何故かてまりハイツの階段脇に置かれたベンチで志温と共に座ってすいかを食べてた。

「冷たくて美味しいですね綾さん。」

「はい、暑さで参っている身体にはたまらないですね志温さん。」

外出先から帰って来た綾に志温は食べていたすいかを見せながらにこやかに話し掛けて来たのだ。

「熱いですね、綾さんもすいかを食べませんか?」

最初は戸惑ったがさっかくのお誘いだしと思い綾はご相伴に預かる事にした。

「そうですね冷たさが身体に染み入りますね・・・そうだ今日近くの神社でお祭りがあるんですが、綾さん行ってみませんか私と。」

志温がふとお祭りの事を思い出し綾を誘ってきた。

「お祭りですか?」

「ええ、この近辺では結構大きなお祭りで、夜店や花火の打ち上げなんかもありますよ。」

にこやかに祭りの紹介をする志温を見ながら綾はそう言えばお祭りなんて久々だなと考える。

最後に行ったのは横須賀女子に居た頃に横須賀の街であった祭りに薫とスキッパー乗って行った時だったなと綾は思い出す。

ブルーマーメイドに入ってからは任務の多忙さありそんな気になれなかったのだ。

「それは楽しそうですね、私は構いせんよ、一緒に来ましょう志温さん。」

だからこうして誘ってもらった事もあり綾も乗り気なった様だ。

「良かったです、それじゃ浴衣も用意しますね、ああ栄依子ちゃんにサイズは聞いていますから心配ありませんよ。」

「えっ志温さん、浴衣ですか、いえそれより何で栄依子ちゃんからサイズを聞いているんですか?」

色々聞き捨てならない話が出て綾は慌てる、まあ綾は栄依子の着せ替え人形(笑)にされていたので、彼女が知っていても不思議は無いのかも知れないが、何で志温が聞いているのかと疑問を抱く。

「実は前に栄依子ちゃんと話した時に綾さんは浴衣が似合うんじゃないかと話で盛り上がって、それじゃ着せてみましょうとなりまして。」

どうやら本人の知らない所でそんな話が進んでいたとは思いもしなかった綾だった。

「ちなみに浴衣のデザインは栄依子ちゃん監修です、あと知り合いから安く手に入れらたので代金も気になさらなくても大丈夫ですよ。」

全ての外堀が埋められている状況に綾は苦笑いするしかなかった。

こうして綾は、栄依子監修の浴衣を来て、志温と共に祭りに行く事になったのだが。

「あ、浴衣を着たら写真取りますね、栄依子ちゃんが綾さんの浴衣姿楽しみにしてましたので。」

「は・・・?」

ちなみにその栄依子は花名達と祭りに行くのだが、綾はこの時点ではまだ知らなかった。

 

神社前・夜

浴衣を着た綾と志温は祭りの行なわれている神社前に居た。

なお、お約束通り(笑)浴衣に着替えた綾を志温が様々なポーズをとらせ撮影していた。

だから綾は祭りに来る前から精神的に疲れてしまっていた。

「どうですか綾さん、久しぶりのお祭りは?」

綾の疲れ(主に精神的なものだが)を気にする事無く志温は楽しそうに聞いてくる。

「そうですね・・・なかなか良い物ですね、この活気は。」

何だか疲れが飛んで行きそうで綾は微笑んで答える。

「それじゃ楽しみましょうか・・・あ、その前に綾さんの無事な航海を祈りにいきましょう。」

手を叩き志温はそう言うと、綾の手を引っ張り始める。

「あの・・・ありがとうございます志温さん。」

戸惑ったものの志温の気持ちが嬉しくなり綾は微笑む。

「あ、でも手を離して頂けると嬉しいんですが。」

女性同士で手を繋ぐと言う状況に綾は恥かしくなって志温に言うのだが。

「駄目です。」

にべもなく拒否されたのだった。

 

2人でお参りを済ませ、夜店を見て周る。

「・・・駄目ですか、中々当たりませんね。」

夜店でぬいぐるみを取ろうという志温の提案で2人は挑戦しているのだが。

志温の投げたボールは見当はずれの方に飛ぶばかりでぬいぐるみにまったく当たらないのだ。

「・・・良し。」

一方の綾はどうかと言えば・・・見事に命中させぬいぐるみを落としていたのだ。

「わあ、流石はブルーマーメイドさんですね。」

感心した様に志温が言うと夜店のオヤジがすっかり禿げ上がった頭を叩いてぼやく。

「たあ、姉ちゃんブルーマーメイドの人間か、くそっ知っていたら断ったのにな。」

そんな2人に綾は苦笑い浮かべて答える。

「いえ、ブルーマーメイドは関係無いと思いますが。」

 

暫らく夜店を見て歩き、たこ焼きやお好み焼きなどを買い込み、綾と志温はテーブル席に着いていた。

「今日は楽しかったですよ志温さん。」

綾は感謝の言葉を志温に伝える。

「いえいえ、綾さんが楽しんでくれてお誘いしかいがありました。」

志温も本当に嬉しそうに答える、まあ世話好きの彼女としては当然か。

それから2人は、管理人の極意(ごみの分別?)についてや、艦長としての苦労話などで盛り上がった。

「それでは行きましょうか、そろそろ花火の打ち上げが始まりますよ。」

食べ終わったところで志温がそう言って立ち上がり綾に声を掛ける。

「もうそんな時間ですか・・・ではいきましょう志温さん。」

2人は花火が良く見える小高い場所に移動する、何故か先程の様に手をつなぎながら。

「えっと志温さん?」

「どうかされましたか綾さん?」

綾はつながれた手を見ながら恥かしそうに志温に言うのだが、彼女は気にした様子は無い。

「いえ何でもありませんよ。」

「くすくす・・・綾さん可愛いですよ。」

叶わないな・・・綾は真っ赤になりながら志温に連れられて歩くのだった。

 

打ち上げられた花火が夜空に大輪の花を咲かせる。

「綺麗ですね・・・」

「そうですね、花火なんて見るのなんて久しぶりですね。」

そう言いつつ握られた手を見て綾はやっぱり恥かしいなと思うのだった。

結局綾は最後まで志温と手をつなぎながら花火を見る事に事になった。

 




志温に翻弄される主人公と言う姿です。
後編では清瀬さんが登場します。

それでは。


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夏祭り2

夏祭り編の後半です。
綾は久しぶりあの人と会います。




「あれ・・・此処は?」

志温と花火を鑑賞した後、帰宅する事になったのだが。

鑑賞中ずっと手を繋いでいた為、熱を冷ます意味もあって暫らくその場所に留まったのだ。

志温には先に降りてもらい鳥居の所で待ってもらっている。

そしてようやく熱が下がったので、綾も鳥居へ向かおうとして降り始めたのだが。

どこかで道を間違えたらしく、見覚えの無い場所に出てしまったのだ。

そこはちょっとした広場で、ベンチが数脚ある、薄暗い場所だった。

綾はそこで1人ベンチに座っている顔見知りの女性に遭遇する。

「何だ綾か・・・どうした?」

かっての中学生時代の先輩、榎並 清瀬だった。

「清瀬先輩?」

意外な人間に意外な所で出会い綾は驚きの声を上げる。

「清瀬先輩も祭りに来たんですか?」

「・・・違う、これも仕事だ・・・ったく十倉達に同じ事聞かれたぞ。」

綾の質問に清瀬は機嫌悪そうに答える。

「栄依子さん達も来ているんですか?」

「ああ、一之瀬や百地、千石も居たぞ。」

花名達4人で来ているらしい、まあ彼女達なら当然かなと綾は思った。

「それじゃ清瀬先輩は何かの用事で?」

「地域貢献の一環だよ、子供が多いからな、安全確保の為に近隣の教師なんかが借り出された。」

そう言う事かと綾は納得出来た、まあブルーマーメイドも海上で行なわれる行事などに隊員がボランティアで警備や救護役で参加する事があるからだが。

「・・・ここに来た理由は分かりましたが、こんな所いて仕事になるんですか?」

綾の疑問に清瀬はそっぽを向いてしまう、さぼりらしいと綾は察し苦笑いを浮かべる。

「先輩らしいですね。」

「ほっとけ。」

清瀬の隣に座り綾が半ば呆れた様に言う、まあ昔から気が進まない事には、徹底的に手を抜くのが多かった彼女らしい話しだが。

「そう言えばあの時に栄依子さんに送ってもらいましたが、大丈夫でしたか?」

休暇で陸に戻って来た綾に清瀬から突然「飲みに行くぞ、拒否権は無い。」と連絡があったのだ。

別に予定の無かった綾は清瀬らしい誘い方だと思いながら参加したのだ。

しかし飲みに誘ったわりに清瀬は酒に弱かった、あっと言う間に泥酔状態になってしまった。

その為綾は清瀬の友人で飲み会に参加していた西村基と彼女を自宅マンションまで連れて行こうとしていたところで、栄依子に出会ったのだ。

その直後、基と綾に連絡が入り、基の方は店に忘れ物取りに、綾は一旦横須賀の基地に戻らなくてはいけなくなったのだ。

困った二人に栄依子が「私が送って行きましょうか?」と申し出てきてくれたので頼む事にしたのだ。

幸い清瀬のマンションが直ぐ近くだった事もあって。

「だ、大丈夫に決まっているだろうが。」

珍しく動揺している清瀬に綾は首を捻る、何か問題であったのかと思って。

実はあの後、酔っぱらっていた清瀬が栄依子と朝まで一緒に居たのだ、しかも手首を縛って。

何だか危ない話だが、別に何かあった訳では無い、とは言え教師としてはばつの悪い話しなのは確かだ。

「そ、そうですか。」

何だか触れない方が良いと判断し綾は話しを打ち切る、もっとも後日栄依子から聞かされるのだが。

「ああそうしてくれ・・・それにしても綾、その浴衣姿似合っているじゃないか。」

動揺したのも僅か、清瀬はそう言って綾をからかってくる。

「え、いやそんな事は・・・」

「相変わらずの美人ぶりだな。」

何時もの調子を取り戻した清瀬に綾は溜息を付くしかなかった。

「ところでお前さんも此処で何してるんだ?」

清瀬の問いに綾はようやく自分が道に迷っていた事を思い出す。

「・・・艦長がそんなんで船は大丈夫なのか?」

綾から理由を聞いた清瀬は呆れた様に言う。

「いえ海の上では迷ったりは流石にありませんよ。」

艦には優秀な航法システムに専門の乗員が居る、艦長が方向音痴でも問題は無い・・・筈だ。

「鳥居に行くなら、ここを出て左の道を行け、後は一直線だから綾でも迷わないだろう?」

悪戯っぽい表情を浮かべながら清瀬は道順を教えてくれる。

「・・・ありがとうございました、それじゃ先輩また。」

何となく悔しいが迷っていたの事実だったので綾は礼を言って志温の元へ向かった。

「おお、借り一つだ綾。」

それは後が大変そうだなと綾は溜息を付くのだった。

綾が去った後、清瀬は夜空を見上げて呟く。

「さて何をしてもらうか・・・楽しみだな。」

 

その後綾は迷う事も無く志温と合流し帰宅したのだった。

夏はまだ続く・・・




この話しはSTEP.11トマトのまつりつりを元にしてますが、一部にSTEP.07ぐるぐるのてくびの話を入れてます。
ところで、STEP.07に登場した榎並 清瀬の友人である西村基さん、女性の名前にしてはと思っていたら、女○キャラだったと最近しりました。
奇しくも女○キャラとTSキャラの競演となりました(笑)、いや書いている時点では知りませんでしたが。
私は女○キャラも好きなので(自分のHPでも小説を載せています)、何時か2人の話を書いてみたいと思ってます。

それでは。


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横須賀女子海洋学校編 神城 綾と古庄 薫

今回は薫と綾の横須賀女子海洋学校のお話です。
・・・まあ最後のシーンはTS物の定番と言う事で。



横須賀女子海洋学校所属超大型直接教育艦武蔵・飛行船格納庫

格納されている飛行船のメンテナンスハッチを閉じて1人の女子生徒が伸びをする。

「問題無しと。」

そう呟く美しい黒髪をした作業用のつなぎを着た女子生徒。

彼女の名は神城綾、超大型直接教育艦武蔵の飛行船オペレーターだった。

そう彼女は飛行船の操作が任務で、整備は専門の生徒達が本来は担うのだが、自分で動かすものだからメンテナンスにも係わりたいと整備を手伝っているのだ。

ちなみに整備は終わり担当の生徒達は既に帰っているのだが、綾は残って点検していたのだった。

別に問題が在った訳では無い、ただこのままだと、更衣室や風呂で他の生徒達と一緒になってしま

うからだ、綾は未だに他の女子とそんな場所に居るのに慣れないのだ。

まあ女子海洋学校所属の教育艦だから乗員は当然女子しか居ない、だから当然そうなるのは当たり前だが、男として生きてきた期間が長いせいか、例え身体的には完璧な女子だと分かっていても罪悪感が消えないのだ。

だから皆が使い終わった後にそっと使用するつもりだったのだが・・・

残念ながら綾の思惑通りには進みそうも無かった。

「ああ、やっぱりまだ残っていたのね綾。」

そう言って格納庫に入って来た制服であるセーラー服を来た女生徒、同期であり友人でもある古庄 薫によって。

「あれどうしたんですか古庄さん?」

「・・・・・」

「・・・どうしたんですか薫?」

薫を古庄さんと呼んだ途端、彼女に軽く睨みつけられて綾は言い直す。

女子を名前でしかも呼び捨てするのは、知り合ってから大分たったとはいえ綾には少々ハードルが高かったのだが、最近何を思ったのか、薫は綾にこう言ってきたのだ。

「私の事は薫と呼んで、もちろんさん付けもいらないから。」

それまでは古庄さんと呼んでいた綾が驚いたのは言うまでもない、だがこれだけでは終わらず彼女は続けてこうも言ってきたのだった。

「私も今後は貴女の事を綾と呼ばせてもらうから。」

これは薫曰く、「苗字で呼び合うのは他人行儀だから。」、と言う事らしい。

女の子同士の距離感に綾が戸惑ってしまったのは言うまでもなかった。

その薫は綾の言葉に満足したのか、微笑を浮かべて近づいてくる。

「誰かさんがまだ着替えもせずにいるだろうと思って迎えにね。」

別に頼んだ訳ではないのだけどと綾は内心苦笑する、自分を薫と呼べと言った日から、こうやって迎えに来る様になったのだ。

「本当に熱心よね綾は、着替えるのも忘れる程にね。」

「・・・知って言っているでしょう薫は。」

綾が他の女子と着替えや風呂に入るのが苦手な事を薫は知っている筈なのだから。

「ふふ・・・でも熱心だと思っているのは本当よ。」

自分の職務以外まで熱心にやっている綾は生徒達の間でも有名だからだ、まあ容姿もあるのだが。

余談だが綾のこう言った姿が卒業後の彼女の進路に影響する事になる。

「皆も綾は凄いなって言っているしね、教官の評価も高いじゃない。」

「え、いやそんな事はな、無いんじゃ無いのかしら。」

真っ赤になり台詞を噛む綾に薫は噴出す。

どうもこの友人殿はこの手の賛美には非常に弱い、普段は容姿もあって凛々しいのに。

そんな友人に薫は悪いと思いつつ笑を止められないでいた。

綾は微笑みながら自分を見つめる薫を見て溜息を付く、出会った当時は落ち着いて真面目な娘だと思ったのだが、半年近く洋上で一緒に過ごしているうちに彼女が結構お茶目、いや意地の悪いところがある事に気付かされていた。

 

神城綾と古庄 薫、2人が出会ったのは横須賀女子海洋学校入学式後の武蔵艦内だった。

これから3年間共にこの武蔵で学んで行く者達が顔を揃えた場で。

薫は綾の同性の自分さえ見惚れてしまいそうになったその姿に目を見張ったものだ。

ただその言動は容姿を裏切っていた、まるで場違いな所に入り込んでしまったかの様だった。

もっともそれが無かったら綾は美人過ぎて近づき難い存在になってしまっていたと薫は思っている。

だからこそ薫も声を掛けられたのだから。

「大丈夫貴女?」

「は、はいだ、大丈夫ですよ?」

何故疑問系なのか薫は思ったものだが、落ち着かない綾を見て思わず笑みが漏れてしまった。

まあ綾にしてみれば1年前までは男だった自分が、突然女の園に放り込まれたせいで緊張しまくっていただけなのだが。

「私は古庄 薫よ、よろしくね。」

「は、はい神城綾と申します、こ、こちらこそよろしくお願いします。」

この出会いをきっかけに初めての女の園で困惑する綾を薫はフォローして行く事になるのだった。

 

そんな訳で綾は薫に感謝しているのだが、親しくなるにつれこうやってからかわれる事が多くなった気がするのだ・・・分かりやすい反応をする方も悪いのだが。

「まあ評価は評価よ、認めても良いと思うけどね。」

薫はそう言ってウィンクして見せる、とても魅力的な笑顔を浮かべて、そんな薫に綾は苦笑を返すしか無かった。

 

「それでもう終わったのかしら?」

魅力的な笑顔のままで薫は聞いてくるのだが、綾は何故か嫌な予感がしてしまう。

この半年間の薫や他の友人達(もちろん女子)の付き合いで、彼女達がそんな笑顔をする時には自分にとってろくでもない事しか起きない事を嫌と言うほど分かっているからだ。

それは入学後初めての皆との外出以降度々思い知らされている。

「・・・ええ終わりましたが。」

それを聞いた瞬間、その笑顔のまま彼女は後ろを振向いて言う。

「皆、綾は終わったそうよ、行きましょうか。」

「「「OK薫!」」」

格納庫の扉を開けて入って来たのは、綾にとっては思い出したくも無い外出日の時一緒だった友人達。

「え・・・え!?」

綾が状況に付いて行けない間にその友人達は両腕を拘束してしまう。

「か、薫これって?」

綾の問いに薫はそれはそれは魅力的な笑顔で答えてくれる。

「皆綾を待っていたのよ・・・一緒に入浴しようとね。」

その言葉に綾は真っ青になる、先程言った通り彼女は未だに他の女性と一緒にそんな所に行くのに非常に抵抗が、と言うか恥かしさが有るのだから。

「待って下さい、私は皆と一緒は・・・それに着替えとか持ってこなかったし。」

風呂に入るなら着替え(下着を含む)を用意しなければならないが、綾は後で入るつもりだったので、当然持って来ていない。

「ああ、大丈夫よ綾、そう思って持って来て貰ったから。」

綾の拘束に加わっていない女子に薫は視線を向ける。

「ちゃんと用意してあるから心配無用よ綾・・・ああちゃんと貴女の部屋から持って来たやつよ。」

その女子が薫に負けない笑顔を浮かべて答えると、綾は絶望のあまり目の前が真っ暗になる。

「それじゃ皆行きましょうか・・・ゆっくりと話でもしながら入りましょうね綾。」

笑顔で話す薫の言葉が、綾にとって死刑宣告に聞こえたのは言うまでも無い。

 




実は大分前ですが、TS専門(?)のサイトに投稿していた経験がありまして、こういう話しは結構好きです。
北方海の・・・もTSでしたがあまりそういうシーンを入れられなかったので、その反動で(笑)。

それでは。


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横須賀女子学校祭1

久々の過去編です。
ちなみに学校祭は完全に私の捏造ですのでご了承願います。



横須賀女子海洋学校には海洋学校祭と呼ばれる学校行事がある。

まあよくある学園祭みたいに見えるが、普通の学校の物とは結構異なる。

海洋学校に所属する教育艦の艦内見学や実習訓練の公開など、軍隊のオープンベースみたいなものを思い浮かべると分かりやすいかもしれない。

様はブルーマーメイドを目指す者達に海洋学校の活動風景を見てもらうと言う意味が多分にあるのだ。

となれば当然の如く注目を浴びる事になるのは超大型直接教育艦武蔵であろう。

横須賀女子海洋学校において成績優秀者のみが選ばれて乗艦する事を許されるエリート専用艦。

将来のブルーマーメイドを事実上動かして行く事になる者達を育てるこの艦に乗艦出来る事は横須賀女子を目指す者達にとっては最高の目標になるだけに、毎年艦内見学には長蛇の列ができ、実習訓練時の乗艦希望者の競争率は他の艦の数十倍になると言われている。

そうなると当然武蔵乗員の生徒達も見学や実習の準備に熱が入る、何しろ横須賀女子を代表する立場になるのだから当然と言えよう。

ただそれで割に合わない役柄を引き受けさせられる者も出て来る。

武蔵の飛行船オペレーターである神城 綾の様に・・・

 

「以上が展示の概要よ、説明係りの娘はシフトの時間を忘れずにしてね。」

武蔵の飛行船格納庫で飛行長の指示を、飛行科の生徒達はシフト表を見ながら聞いていた。

「何か質問はあるかしら?」

飛行長はそう言って飛行科の生徒達を見渡す。

「あの飛行長、私のシフトなんですが、何故午前と午後ともに2回になっているんでしょうか?」

飛行科の生徒が1人手を上げて質問してくる。

「それはね神城さん・・・貴女が今回の主役だからよ!」

「「「おおお!!」」」

周りにいた生徒達が飛行長の言葉に納得した表情で声を上げる。

「な、何でですかそれは!?」

だが本人、神城 綾は納得できないのか抗議の声を上げる、まあ他の生徒達が午前と午後の1回のシフトなのだから当然か。

「何言ってるの神城さん、貴女の注目度は武蔵の、いえ横須賀女子の中でトップなのよ、そんなの使わない訳にはいかないわ。」

熱の篭った説明に他の生徒達は当然と言った態度で綾を見ているが、本人にすれば「私は客寄せパンダか?」となっても仕方が無いだろう。

何故こんな事態になっているのか?それにはもちろん理由がある。

 

事の発端は入学して最初の海洋実習にあった、その時に撮影された広報動画、外部に公開し、生徒の親や関係者(主に中学校の生徒や教師だ)に見てもらうに有ったのだ。

元々動画視聴率の高い武蔵だったが、例年を越えるある意味異常な数値を記録したのだ、それもある時間帯でだ。

その時間帯に写っていたのが飛行科の実習風景、特に多く出ていたのが綾だったのだ、これは動画を撮っていた人間が、一際目立っていた彼女を面白半分に撮影したからだ。

当然問い合わせも殺到した、主に中学校の女子生徒からだ、曰くあの場面に写っていた美しい女子は誰なのかと、それも全国の学校からだからある意味凄い話しではあった。

お蔭で横須賀女子海洋学校の評判は高まった、近年出生率の低下による生徒不足に悩んでいる関係者にとっては朗報と言える、まあ綾本人にしてみればいい迷惑だったが。

それもあって綾は横須賀女子をPRする場面に必ずと言って良いほど引っ張り出される事になる。

学校案内や入学案内のパンフレットや動画への出演などがそれだった。

 

「まったく・・・」

武蔵の食堂で綾は不景気な溜息を付いていた、それは抗議が受け入れら無かっただけではなく、翌日の実習訓練公開での飛行船展示飛行のオペレート風景も公開されると聞かされたからだ。

「二日間も晒し者ですか・・・」

他人からすれば名誉な話しと言われそうだが、目立ちたくない綾としては当然苦痛でしかない。

それでなくても男から女に性別が変わり、女の園に放り込まれた身としては3年間目立たず平凡に過ごしかったと言うのが綾の本音だ。

とは言え、それは綾の美少女ぶりとその容姿と言動の差からくるギャップ(それが女子の庇護欲を刺激するらしい)で無理な注文であったが。

「何不景気な表情していのかな綾は、せっかくの美少女が台無しじゃない。」

そんな綾に声を掛けて来るのは入学式以来の付き合い、親友の古庄 薫だった。

「何が美少女ですか?止めて欲しいんですけど。」

薫のからかいに綾は抗議の言葉と視線を向けるのだが。

「そうりゃ申し訳なかったわね綾。」

まったく申し訳なさそうに答える薫に綾は深い溜息を付くのだった。

「もう良いです・・・薫は休憩ですか?」

「ええ、航海科もようやく準備が一段落したからね、本番前に交代でね、綾もでしょ?」

綾の隣に持って来た紅茶のカップを片手に座る薫はそう聞いてくる。

「ええそうですよ。」

目の前のアイスコーヒーのカップを指で触りながら綾は答える。

「ふーんじゃこの後暫らく暇なのよね。」

「・・・?」

 

「つまり教官室まで届けを出しに行くのに付き合えと言う訳ですね。」

「まあそう言う事ね。」

綾と薫は武蔵から降り教官室へ向かっていた、出し忘れていた書類を届ける為に。

「まあする事も無かったので構いませんけど。」

「ふふふありがとう綾。」

まあ薫としてはお互いの準備作業で綾と話せなかったからもあって誘ったのだが。

綾としても薫と久々に話せて嬉しくはあったのでもちろん文句は無かった。

だが綾はこの後、自分にとって天敵である人物にも久々に会う事になるとは思っていなかった。

「久しぶりね綾。」

「!!??」

 




私が過去に作ったTSキャラは、目立ちたくないのに、容姿や能力で注目を集めてしまうと言うのが多いですね。

それでは。


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横須賀女子学校祭2

綾の天敵襲来(笑)。




「久しぶりね綾。」

「!!??」

武蔵から薫と共に教官室へ向かっていた綾に声を掛けて来た人物。

「綾・・・?」

薫は思わずそう呟いて隣に居る親友とその人物、いや女性を交互に見る。

その女性は綾にそっくりだったからだ、そう彼女が大人に成長した姿が正に目の前の女性だった。

だから薫はその女性は綾の肉親、姉かと思ったのだが・・・

「お、お母さん?一体何をしに来たの?」

どうして母親が此処にいるのかと綾は驚かされる。

「お母さん・・・って、この方綾のお母さんなの?」

とても高校生の娘が居る様には見えないその姿に薫は驚く。

その場に驚愕に震えた薫と綾の声が木霊したのだった。

 

「神城 かほ・・・不本意ながらも私の母親です。」

にこやかな笑みを浮かべる母親の隣でげんなりした表情の綾がそう紹介する。

「不本意とは言ってくれるじゃないかこの不肖の娘が。」

「痛い・・・痛いってばお母さん。」

かほはそんな紹介をした娘、綾の頭を右腕で抱え込むと左手でこめかみをぐりぐりとする。

「まったく相変わらず可愛げの無い娘だね、一体誰に似たんだか。」

「少なくても可愛げの無いのはお母さんに似て・・・いえ何でもありません。」

こめかみをさすりながら綾はまだ憎まれ口を叩こうとするが、かほがにこやかな笑みで左手を向けると慌てて口をつむぐ。

「ぷっ、くすくす・・・」

その2人の姿に薫は噴出してしまう、そしてこの親子の関係もだ、この様子では娘は母親に普段からかなり弄られている様だ。

「薫・・・」

そんな薫に綾は恨めしい目を向けるが、美少女な彼女ではまったく様にならないのは不幸なのかどうなのか微妙なところだろう。

「ご、ごめんね綾・・・ぷぷぷ。」

謝っているのにまったく謝っている様に見えない薫に綾は深い溜息を付く。

「それでだ、そこに居る美人の娘が誰なのか紹介してはくれないのかい不肖の娘よ?」

にやにやしながら言ってくる母親にも恨めしい目を向けるが、当人はまったく意に介していない。

「・・・同期で同じ武蔵に乗艦している古庄 薫さんです。」

「古庄 薫と申します、初めましてお母様。」

笑いを引っ込めると真面目な挨拶をする薫。

「ああ初めまして古庄さん、うちの娘が世話になっているね、お礼を言わせて貰うよ。」

母親の方もにやにやした表情を消して真面目に挨拶を返している。

まったく普段からそうしていれば良いのにと思う綾、怖くて直接は言えないが。

「いえいえお礼を言われるまでもありません、その代わりにですが・・・綾を私に下さいお母様。」

「か、薫何を言ってるの貴女は?!」

「今の貴女では駄目だね、そうりっぱなブルーマーメイドになれたら考えてあげても良いね。」

「お、お母さんも何いっているんですか!?」

真面目に挨拶していた筈なのに何でそんな話になるのかと綾は大混乱だ。

「あ、あははは!!何慌ててるのさ綾。」

「もう、綾ったら、可笑しいわ。」

綾の反応に母親と薫はお腹を押さえて笑い始める、その姿を見てようやく自分がからかわれていた事に気付く。

「ふ、2人共酷いじゃないですか!?」

涙目で抗議する綾だが、その姿が余計母親と薫を煽っている事に気付いていなかった。

 

2人の笑いが収まったのは暫らくたってからだった、もちろん綾はすっかり拗ねてしまっていたが。

「だからごめんなさいって謝っているじゃない綾。」

「知りません薫なんて。」

謝罪している薫に対して綾は目を合わそうともしない、もっとも彼女の容姿ではただ可愛いだけなのだが、それを言ったら余計拗ねそうだから言えないのだが。

「まったく器の小さな娘だね、そんな事で拗ねるなんて。」

母親のそんな言葉に綾は睨みつけるが、やはり可愛さが邪魔(?)で効果は無かった。

「古庄さんの言っているのは親愛から来たもんじゃないか、それくらい分かるだろうに。」

「う・・・」

もちろん綾だってそれくらい理解はしているのだが、やはり恥かしいものは恥かしいのだ。

とはいえ何時までも怒りを持続出来る性格ではない綾は結局溜息を付きながら許してしまうのだった。

「分かりました、もう良いですよ薫・・・でも出来ればあう言う冗談は止めて下さいね。」

男としての感情がまだ残っている身では、女の子からの告白(?)は心臓に悪い綾だった、例えそれが冗談であったとしても。

「ええ、できるだけ控えるわ。」

薫も少々からかい過ぎたと思ったので一応は反省する、彼女としても綾に嫌われるのは本望では無い。

「なら良いですよ薫。」

お互い見つめあいながら2人は笑いあう、ちなみに綾は後でそれを思い出して悶絶していたらしいが。

一見麗しい友情の姿だが、母親は「我が娘ながらちょろい。」と考えていた事を綾は知らない(笑)。

「そ、それでお母さん、一体何で横須賀女子に?」

綾は肝心の話しを聞いていなかった事を思い出し母親に尋ねるのだが。

「そうね何でかほ、貴女が来たのか・・・私も知りたいわ。」

本日2度目の驚愕が綾と薫に襲い掛かろうとしていた。

 




綾の母親はTS物でよく出て来る母親です。
娘になった自分の子供を弄ぶ(笑)。

その頃の話を何時か書いてみようかとは思っているのですが。

それでは。


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横須賀女子学校祭3

宗谷校長と綾の母親との関係や『来島の巴御前』については独自設定及び解釈です。




「そ、それでお母さん、一体何で横須賀女子に?」

綾が横須賀女子に来た理由を母親に尋ね様とした時。

「そうね何でかほ、貴女が来たのか・・・私も知りたいわ。」

更にそれに重ねる様に問い掛ける声、3人はその主の方を見て・・・

「「む、宗谷校長先生!?」」

薫と綾は慌てて姿勢を正し敬礼する、一方かほの方は気楽そうに手を上げて挨拶する。

「久しぶりじゃないか真雪、大和艦長殿がどうしたんだい?」

横須賀女子海洋学校の校長である宗谷 真雪は薫と綾の敬礼に答えつつかほを睨み付けながら答える。

「今年度から横須賀女子の校長に就任したわ・・・手紙で知らせた筈だけどかほ。」

「えっとそうだったかな・・・ははは気付かなかったわ。」

目を泳がせて愛想笑いをする母親を見て綾は絶対見ていなかったなと確信した。

「返事を返さないだけでなく、読んでもさえいなかった訳ね、ほんと貴女らしいわ。」

額に手を当てながら首を振って宗谷校長は心底呆れた様に言う。

「まあ色々と忙しかったんだよ私は。」

「手紙を読む暇さえ無い程何が忙しかったのか、出来れば聞かせて欲しいものね。」

引きつった愛想笑いを浮かべながら釈明するかほに腰に手を当てて睨みつけながら問い質す真雪。

一方の薫と綾は状況に付いて行けず呆然とするしかなかった、いや母親が自分の通っている海洋学校の校長と親しげ(笑)にしている娘の方は呆然を通り越して酷い混乱状態だった。

「あの・・・宗谷校長先生・・・綾の、いえ神城さんのお母様とお知り合い何ですか?」

綾に比べれば多少ましな状態だった薫が宗谷校長に質問してみる。

「かほ、神城さんの母親とは同期よ、卒業後は彼女が退役するまで同じ艦に乗艦していたわ。」

衝撃的な真雪の話に薫と綾は互いに顔を見合わせてしまう。

「綾のお、お母様が校長先生と同期で一緒の艦に乗っていたの?」

「わ、私も知りませんでしたよ、そりゃ須賀女子のOGで元ブルーマーメイドだったのは確かですが。」

母親が須賀女子卒業しブルーマーメイドで働いていた事は知っているが、どんな職種で、何故退役したかは綾は知らなかった、と言うか教えて貰えなかったのだ。

「貴女娘さんに何も話していないのね。」

「話す様なものでもないからね、秘密の有るのは良い女の証さ。」

真雪のジト目にかほはどや顔で言うが。

「何気取っているのかしらね、どうせ面倒くさかったからでしょ。」

皆から目を逸らして惚けた表情を浮かべるかほ、どうやら図星らしい。

「校長先生、あの同じ艦に乗られていたと言う事はもしかして?」

何か考えていたらしい薫はふと気付いた様に真雪に質問して来る。

「ああ武装船団を単艦で殲滅したことかい?確かに一緒だったなあ真雪。」

かって領海内を荒らし回った武装船団を真雪が指揮して単艦で殲滅した事件、ブルーマーメイドの人間で在れば知らぬ者の居ない伝説だ。

「あれで真雪は『来島の巴御前』って有名になったんだよな。」

かほはどや顔で話しているが、それに対し真雪は苦味を噛み潰した様な表情を浮かべて答える。

「その二つ名が付いた理由の大半がかほ、貴女だって分かっているんでしょうね?」

「「えっ?」」

意外な真雪の言葉に薫と綾は驚いた声を上げると、真雪はうんざりした様に説明する。

「確かにあの時の作戦立案と指揮は私が取ったわ・・・でもその作戦を拡大解釈したのが彼女なのよ。」

「そうだっかかな?」

すっ呆けるかほを睨みながら真雪は続ける。

「そうよかほ、私は多少の損害を与えて相手の戦意を失わせ領海外へ追い出すつもりだったのに、貴女は徹底的にやったわよね、それこそ向こうの船を沈没寸前にするまでにね。」

「はあ・・・」

「・・・・・」

薫と綾は驚きの余り、言葉が出ずただ聞いて居るだけだった。

「まあ確かに領海外へ追い出せたし、報復する意思を無くさせたわ、でもお蔭で私は『来島の巴御前』なんて二つ名を得る事になったわ。」

「栄誉な話しじゃないか、なあ2人共。」

かほはそう言って薫と綾を見るが。

「その二つ名で私がその後、どれだけ苦労させられたか、忘れたとは言わせないわよかほ。」

「ははは・・・そんな事も有ったねえ。」

何だか人事の様に話すかほに真雪は心底呆れた表情でぴしゃりと言う。

「有ったねえ?じゃないわよ、貴女はまったく・・・」

伝説の真実(?)を聞いて薫と綾は何を言うべきかまったく分からなかった。

そんな2人を見て真雪は苦笑いをすると語り掛ける。

「2人共この話しは此処だけの話し、として貰えるかしら。」

「あ、はい分かりました校長先生。」

「もちろんです。」

綾としては自分の母親が原因で真雪に迷惑を掛けてしまった事もあり素直に聞き入れる、それでなくても彼女には自分の身体の事で色々配慮して貰った恩がある。

薫としても、あの伝説にそんな裏が有ったとは流石に周りの者には言えないと思い受け入れるしかなかった。

「ありがとう2人共、ところで貴方達何か用事が有ったのでは?」

真雪の言葉に薫と綾は自分達の用事を思い出す。

「そうだったわ綾、急がないと、申し訳ありません校長先生。」

「うん、確かに・・・校長先生それでは失礼します、お母さん迷惑を掛けない様にしてね。」

薫と綾は敬礼をすると慌てて教官室へ向かうのだった。




宗谷校長が『来島の巴御前』についてどんな感想を持っていたかは非常に興味があります。
もしかして困っていた?

それでは。


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横須賀女子学校祭4

横須賀女子学校祭編終了です。

母親達の心情は?



「家の娘は旨くやっている様だね。」

走って行く薫と綾を見ながらかほが呟く、先程とは違って娘を思う母親の表情を浮かべて。

それを見て真雪は微笑むとかほと同じ様に薫と綾を見て言う。

「ええ、穏やかで周りの娘達に気配りの出来る性格だから友人も多い見たいだし、学業も優秀よ・・・彼女本当に貴女の娘なの?」

「生まれた時は息子だと思ったんだけどね、まああの娘は父親似なんだよ。」

真雪のからかい気味の問いにかほは肩を竦めて答える。

「それは幸いね、貴女と同じ様な娘だったら、私は横須賀女子を逃げ出しているところだわ。」

「言ってくれるね・・・とは言え厄介事を押し付けて悪かったね。」

何時もと違いしおらしい態度に、真雪は彼女も娘を常日頃心配している母親なんだなと思う。

その気持ちは真雪も理解出来る、彼女もまた3人の娘を持つ母親であるからだ。

「厄介事なんて貴女に会った時からだから今更よ・・・それに他の厄介事に比べればまだましよ。」

疲れた様に溜息を付く真雪を見てかほは苦笑いを浮かべて聞き返す。

「その様子じゃ相変わらず厄介事に追い掛け回されている様だね。」

「ええ、増える事は有っても減りやしない・・・知っているかしらかほ、女だけの組織でも官僚主義は無くならないみたいよ。」

視線を海の方に向け真雪はぼやく、それを聞いてかほは顔を顰める。

「・・・さっさと見切りを付けて出て行った貴女の方が利口だったと思うわ。」

「私はそう言った厄介事から逃げた人間さ、残って何とかしようとしたあんたは違うさ。」

疲れきった表情を浮かべて言う真雪にかほは自嘲気味に答える。

「そのわりには子供が娘になった途端、横須賀女子に入学させてきたじゃない。」

一転して悪戯っぽい笑みを浮かべて真雪はかほを見て言ってくる。

「あんなに忌み嫌っていたブルーマーメイドにする為に。」

真雪の指摘にかほは頬を赤く染めるとそっぽを向いて黙ってしまう。

それを微笑んで見ながら、真雪は薫と綾が走っていった先を見ながら言う。

「あの娘達が一線で活躍する頃にはブルーマーメイドも変わっていると良いわね、もちろんその為の努力はするつもりだけどね。」

そう呟く真雪を見てかほは微笑んで言う。

「あんたならやるだろうさ、それに優秀な娘さんが3人もいるじゃないか。」

「上の2人は心配要らないんだけどね、ましろは・・・私の生真面目なところだけ引き継いだみたいで、自分で自分を追い込みかねないわ、だからこの先心配で。」

宗谷家の人間としての重圧に加え、生真面目故の硬直した考えがましろを取り返しのつかない事態に追い込むのではないかと真雪は危惧していているのだ。

「大丈夫さ、その娘にもきっと理解してくれる人間が出来るさ・・・かっての私達の様にね。」

その破天荒な言動の為、孤立しがちだったかほの真雪は良き理解者であったのだ。

それがどれだけ助けになったか、かほは忘れていない。

一方生真面目な為か堅物扱いでこちらも誤解を受ける事の多かった真雪にとっても、かほは本当の自分を理解してくれる存在だったのだ。

「そうねましろにも、私達のいえあの2人の様な関係を築ける様になってくれる事を祈っているわ。」

2人の母親はお互い顔を見合わせて微笑むのだった。

 

「ところでかほ、貴女は学校祭期間中ずっとこちらに居るのでしょう?」

「まあね、出来れば最終日まで居たいし、だから学校祭中はこちらに宿を取って滞在するつもりよ。」

真雪の質問にかほが答える。

「それなら・・・今日の夜は大丈夫ね、翌日もここに居るなら。」

「真雪、あんた何を考えているんだい?」

何かを思いついたと言う表情を浮かべた真雪にかほが聞く。

「久々にどうかなと思ってね、これでも現役時代と遜色はないわよ。」

その表情と何かを掲げる仕草の真雪にかほは彼女が言いたい事に気付く。

「私は構わないけど、校長のあんたが飲みに行くなんて良いのかい?学校祭の途中だろうに。」

「優秀な教官と生徒が居るからね、校長なんて学校祭中にする事なんか無いわよ。」

何時もの厳格な雰囲気はそこに無く、かっての『来島の巴御前』の、まあ本人は否定するだろうが、姿が戻ってきた真雪だった。

「それに一晩飲み明かしてどうにかなる柔な鍛え方はお互いしてないでしょ?」

「そうりゃそうだ・・・分かったよ付き合おうじゃなないか不良校長どの。」

悪戯っぽく笑うかほに真雪は同じ様に笑って言う。

「ええとことん付き会ってもらうわよこの悪党さん。」

2人は顔を見合わせて笑いあうのだった。

 

この日、横須賀の夜空の下で、久々に旧交を温めあう、横須賀女子OGの2人が居た。




アニメ本編では真雪の母親としての心情はあまり描かれていなかった気がします。
まあ、校長としての立場があったからだとは思いますが。

それでは。


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