機動戦士ガンダムSEED〜狂戦士は嗤う〜 (零崎極識)
しおりを挟む

第1話 新たな兵器はガンダム

ガンダムネタが書きたくなったので書いてみました。拙い文章ですが、よろしくお願いします。


 コズミック・イラ70 地球連合とザフトの間に戦争が勃発した。それは、ナチュラルとコーディネーターとの血で血を洗う戦争の始まりだった。宇宙に住むザフトと地球に住む地球連合……その戦いは誰もが数で勝る地球連合の勝利で終わるものだと思っていた。

 

 だが、ザフトはニュートロンジャマーと呼ばれる核分裂を抑止する装置を地球に埋め込み、そして……汎用自立機動兵器『モビルスーツ』を開発しその戦力差を縮めていた。

 

 そして戦況は膠着し……早11ヶ月が過ぎようとしていた。

 

□□□□□□

 

「おーい!こっちだこっち!丁寧に扱えよ!」

 

 クレーンを操作し、慎重にコンテナをコロニーの地表に移す。ゆっくりと下ろしたコンテナの中には人型をした巨大なモビルスーツが格納されていた。

 

「これで無事に5機のGを下ろすことが出来たな!」

「……そうですね……」

 

 整備長が肩を叩きながら笑顔を浮かべてコンテナを見つめている。それに合わせて彼、『カナト・サエキ』もコンテナを見るが、その表情はなんとも言えないような顔をしていた。

 

「どうしたカナト、そんな浮かない顔をして」

「……中立のここに……うちのモビルスーツを運び込んで大丈夫なんですか……?」

「まぁ……条約上はよくないが……オーブの協力もあったことだしな、そこは割り切れよ?」

「……はい……」

 

 コンテナの中にあるモビルスーツは、立ち上がるその時を待っていた。

 

「……ガンダム……か……」

 

□□□□□□□

 

 カナトの作業は無事に終わり、持ち場である貨物船に戻ると出迎えてくれたのは護衛を務める『ムウ・ラ・フラガ』大尉だった。

 

「よっ、おつかれさん」

「ありがとうございます……」

 

 地球連合の中でもトップクラスのMA乗りに声をかけられるとさすがに緊張もしてしまう。その結果出てきた言葉はありきたりなものになってしまった。

 

「それにしても……カナト君だっけか?君、すごいよね」

「……そんなことないですよ」

「いやいや、モビルスーツの基礎理論とOSの構築をいとも簡単にやり遂げるなんてそうそうないぜ?」

「あれは……父と母のおかげです」

 

 カナトは弱冠16歳にしてモビルスーツの開発とOSの担当をしている。今回同乗したのも現地での最終調整があったからだ。

 

「……フラガ大尉も、なんでこんな所に……?」

「そうだね……正直なところ、モビルアーマーで戦えるのも限界が近い気がしてね、それなら新兵器を作るしかないだろ?つまりそういうことさ」

 

 ムウのその発言に、連合本部はモビルスーツの開発に難色を示していることを知っているカナトは深いため息を着いた。

 

「……ほんとに連合は勝つ気があるんでしょうか……」

「さぁな?でも、俺たちは軍人だ。言われたことをやるしかないのさ」

 

 ムウはそういうと格納庫に向かった。カナトはブリッジに行き報告を行う。

 

「無事にコンテナを届けました」

「ご苦労さま、あとは……もう一機だけだな」

「そうですね……ほとんど完成しているので動かせないことはないですが……」

 

 実はもう一機がこの船の中に乗っているのだが、武装がほとんどなく、コロニーで受け取る予定になっている。

 

「あとはゆっくり休んでくれたまえ」

「ありがとうございます」

 

 カナトは艦長に礼をするとブリッジを後にし、格納庫に向かった。格納庫にたどり着くと、ムウが『メビウス・ゼロ』から降りてくるところだった。

 

「フラガ大尉……何してるんですか?」

「ちょっとな、いつ敵が来てもいいように準備だよ、準備」

「……まぁそうそうないとは思いますけど……」

 

 その時、不意にアラートが響き渡った。ムウはすぐさま電話機をとりブリッジにかける。

 

「おい!どういうことだこれは!!」

「ザフトに見つかった……!このままでは戦闘になる!出撃してくれ!」

「了解した!」

「艦長……自分も出ます」

 

 カナトは一言だけそう言った。その言葉は艦長には信じられなかったらしく一瞬間があく。

 

「なっ!?しょ、正気か!?」

「ええ正気です……この船が落とされないようにするためには……それしか方法はありません」

「……わかった、だが、くれぐれも無茶はするなよ」

「了解しました」

 

 そして電話を切るとフラガ大尉は疑うような目でカナトを見る。

 

「……ほんとに出撃すんの?」

「大丈夫です、何も問題はありません……」

「……ならいいが、お前の子守りまでは出来んぞ?」

「むしろ、フラガ大尉こそ落とされないでくださいね?」

「ったく……ガキに心配されるほどヤワじゃねぇよ!」

 

 軽口を叩きながらカナトは新兵器に、ムウはメビウス・ゼロに乗る。他の隊員もメビウスに搭乗して次々と出撃する。

 

「ムウ・ラ・フラガ!出るぞ!」

 

 ムウのメビウス・ゼロが宇宙に出撃し、残るはカナトの機体だけだ。

 

「パワーユニット異常なし……各部関節、スタビライザー良好、モニターセンサー……よし」

「サガラ少尉発進どうぞ」

「了解、カナト・サガラ『ベルセルクガンダム』出撃します……!」

 

 カナトの乗るベルセルクガンダムが宇宙へと飛び出し、迫り来るザフトのモビルスーツを迎撃するためにメビウス・ゼロを追いかける。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 狂戦士宇宙を舞う

「機体の状況は良好……ひとまずは動くな……」

 

 何度も起動実験とシミュレーションはこなしてきたが……それでも実戦となると不安にはなる。スロットルを丁寧に扱いながら戦闘宙域へと向かう。

 

「坊主、お前……その機体は……」

「はい、さっきまで積んでいた新兵器ですよ」

「だがそれはまだ未完成じゃ……」

「武装がほとんどないだけです」

「……充分未完成だよなそれ……」

 

 ムウのメビウス・ゼロと合流し、ザフトを確認したポイントに向かうと既にジンが5機待ち構えている。

 

「各機散開っ!!」

 

 ムウの指揮とともにメビウスが散る。それに合わせてジンがメビウスに向かっていく。

 

「ここを通すわけには行かねぇんだよ!」

 

 メビウス・ゼロがガンバレルを展開し、一機のジンを狙う。狙われたジンはなんとか回避しようとするが、逃れることは叶わず宇宙の塵となった。

 

「これが……戦い……」

「ぼさっとするな!!」

 

 ムウの声にハッと意識を戻すと一機のジンがカナトの方へ向かっていく。その手にはマシンガンがあり既に銃口が向けられていた。

 

「……当たらないよ……」

 

 カナトはスロットルとレバーを操作し、銃口から機体を逸らす。その挙動にジンはついていけずに銃口を合わせることが出来ない。

 

「……遅い……!」

 

 カナトはスラスターを吹かし、ジンの懐に飛び込むとマニュピレーターで手刀を作り、コックピットを貫いた。貫かれた機体は爆発することなくその場を漂い、貫かれた位置からは、赤い液体が浮いているのが確認出来る。

 

「……まず一機……」

 

 ジンを一撃で仕留めた新兵器に恐怖を抱いたのか、ザフトのジンは動きの精細さを欠いてきた。カナトは冷静に相手を捉え、スラスターで動き回る。

 

「……よく狙いなよ……」

 

 カナトは片方のジンを襲うふりをして、援護に入ろうとしていたジンの前までスラスターを吹かす。呆気に取られたジンはコックピットを手刀で貫かれ、マシンガンを奪われるともう一機に対して全弾叩き込む。

 

 マシンガンで攻撃されたジンは爆発し、周囲に破片を撒き散らす。

 

「とりあえず4機……」

「坊主!俺らの船がやられた!このままだとまずい!」

「……了解……」

 

 カナトは3機葬ったが、味方のメビウスと貨物船が沈んでしまったらしい。完全に負け戦であるが、ムウの援護に向かうためにスラスターを吹かす。

 

「……!?この感じ……まさか!」

「……どうしたんですか?」

「ラウ・ル・クルーゼが来るっ!!」

 

 その時、ベルセルクのレーダーに反応が出た。どうやら敵の増援らしい。

 

「ちっ……!坊主!注意しろよっ!」

 

 そして、1機の白いモビルスーツが急接近でこちらへと近づいてくる。

 

「来たかクルーゼ!!」

「シグー……か」

 

 ムウは、シグーへと攻撃を開始し相手のシグーもそれに応えるようにフラガ大尉へと攻撃する。残りのジンは、カナトの方へ向かってくる。

 

「……邪魔だな……」

 

 カナトはスラスターを吹かせ、ジンへと肉薄する。あまりのスピードに対応出来ないジンはあらぬ所に弾をばら撒くがそんな射撃には当たらない。

 

「……これで……」

 

 同じように貫手でコックピットを潰すともう一機の方に目を向ける。相手は動揺していたものの、しっかりと銃口がベルセルクを向いていた。ジンは躊躇うことなく、引き金を引き弾丸を発射する。

 

「……そんなもの……当たらないよ……」

 

 ジンを振り払うと機体を蹴り、それと同時にスラスターを噴射する。一気に加速した機体は弾丸の軌道から逃れ、距離をとる。

 

「……それだけじゃないよ……」

 

 カナトは機体のスラスターを調整し、機体を一回転させると今度は漂うデブリを蹴って、ジンへと肉薄する。立体機動に翻弄されたジンはなす術なく貫手でコックピットを貫かれるのだった。

 

「次は……」

 

 その時、コックピット内にアラートが鳴り響く。どうやら、バッテリー温度が上がりすぎたらしい。これ以上無理をさせると機体が最悪爆発してしまう。

 

「……ちっ……」

 

 カナトは機体をコロニーの方へと向け、慣性でゆっくりと向かわせることにした。

 

□□□□□□

 

「クルーゼ……!!」

「私が貴様を感じるように……貴様も私を感じる……不幸な宿縁だな、ムウ・ラ・フラガ……!」

「なんでこんな所に!!」

 

 メビウス・ゼロがガンバレルを展開し、シグーを追い詰めようとするが、まるで展開場所を知っているかのようにシグーがマシンガンを向け、ガンバレルを狙撃する。

 

「くそっ!」

 

 ムウはブースターを吹かし、距離を取ってリニアガンで狙うがそれも回避される。

 

「そこだ……!!」

 

 クルーゼはすれ違いざまにマシンガンを撃ち、そのうちの1発がムウのメビウス・ゼロを捉える。

 

「しまった!?」

「終わりだ……!」

 

 クルーゼがトドメをさそうとした瞬間に、巨大な熱源

が戦闘宙域を通っていった。

 

「くそっ!撤退だ!」

 

 その隙をついてムウはコロニーの中へと逃げ込んだ。クルーゼもそれを追うためにスラスターを吹かしコロニーへと向かった。

 

□□□□□□

 

 バッテリー冷却が間に合い、スラスターを使ってコロニーへ向かっていると、コロニーに巨大な熱源反応を観測した。カナトは急加速でビームの射線から離脱する。

 

「……これは……ストライクのアグニ……!?」

 

 カナトが携わった機体のデータは網羅しているためすぐにピンと来る。だが、これが発射されたということはコロニーの中でも戦闘が起きているということである。

 

「……テストパイロットのやつらですら……アグニの火力は知ってるはず……なのに、コロニーの中で撃つということは……」

 

 考えられる可能性が2つあるがどちらにしても良い結果にはならない。とにかく、急ぐためにバッテリーが上がらないように出力を調整しながらがコロニーへと向かう。

 

 しばらくしてコロニーへたどり着くと、中の状況は悲惨と言っても過言ではなかった。幸いにしてまだ崩壊はしていないが、それでも危険レベルが高い状態で住人はシェルターに入っているのだろう。

 

 コロニーの地表も所々に穴があり、どうやら中でもドンパチしたようだ。ひとまず機体をオーブの会社の近くに下ろす。

 

 機体を下ろすと荷物の運搬をしていたストライクがカナトに気づきあろう事か、アーマーシュナイダーを抜く。カナトは敵対する意志がないことを示すためにコックピットハッチを開いた。

 

「ベルセルク……稼働できたのね……」

「ラミアス大尉……無事でしたか」

 

 遅れて現場に来たマリュー・ラミアス大尉の姿を見てほっとしたカナトは機体を置いてコックピットから降りた。

 

「……他のはどうしたんですか……?」

「実は……他の4機は全部敵の手に渡ったわ……」

「……そう……ですか」

 

 事態はもっと最悪だったようだ。まさかザフトに新型を4機も奪われてしまうとは。この事実にさすがのカナトも怒りを覚える。

 

「……それで残ったのはストライクだけ……パイロットは……?」

「正規パイロットは……敵に撃たれて死んだわ……今は、民間人の少年が操縦しているの」

 

 その事を聞いて、どうやらナチュラルが操縦しているわけではないと一目で見抜くことができた。そもそも5機のGはOSの調整が全く出来ていなく、ノロノロと歩くのがやっとだったのだが……

 

 さっきのアグニを見る限りだと弄ったとしか思えなく、そうなるとナチュラルがいきなり操縦出来るわけないため、必然的に可能性が縛られる。

 

「……まぁ今はそれしか手段がありませんから……」

 

 現状で戦える戦力はカナトのベルセルクと少年のストライクだ。ひとまず、ベルセルクの武器が欲しいところではあるが……

 

「それはそうと……カナト君、ベルセルクの武器が完成してるみたいだから受け取って?」

「……了解しました」

 

 すぐさまベルセルクに乗ってコンテナの中に入っている物を次々と回収していく。そしてストライクも武装の回収を協力してくれるのだが、ひとつ問題点があった。

 

「あの……この武装持ち上がらないんですけど……」

「それはベルセルクのためだけに作ったものだから……」

 

 ストライクが持とうとしていたのは大きな鉄のメイスだった。カナトはベルセルクをメイスのところまで動かし、それをひょいと持ち上げる。

 

「……他の機体と違ってパワーシリンダーを入れてるからこれくらいはどうってことない」

 

 裏を返せば他の機体が持とうとすると関節が吹き飛んでしまう。

 

「……ひとまずはこれで全部か」

 

 母艦を失ったムウとカナトは連合軍の新造艦『アークエンジェル』に搭乗することになったため、新装備を全て積み込んでいた。と、その時アークエンジェルのアラートが鳴り響いた。

 

「ザフト再び接近!!」

「これは……拠点攻撃用のD装備かよ!!」

 

 迫り来るジンは両手に巨大な対艦用のミサイルと脚部に小型のミサイルポッドを装備していた。おおよそコロニーへ撃ち込んで良い装備ではない。

 

「くっ!僕が行きます!!」

 

 ストライクのパイロットはソードストライカーを装備してジンへと向かっていく。

 

「……行こうベルセルク」

 

 カナトも新しく手に入れたメイスを右手に持ち同じくジンへと飛翔していく。

 

□□□□□□

 

 一方ザフト艦の中では連合の新兵器の性能に唖然としていた。

 

「わずか……数分の間にジンが5機も……」

「……この機体を野放しにするわけには行かない」

「だが、アスラン……その機体はついさっき奪取してきたばかりだ……乗れるのか?」

「行けます、行かせてください!」

 

 アスランと呼ばれた青年は力強くそう言った。

 

「……わかった、すぐに発進準備をしろ」

 

 熱意に負けた艦長はアスランを出撃させる判断を下した。

 

(キラ……いや、まさかあんなところにいるなんて……)

 

 そんな感情を抱きながらアスランは発進シークエンスを開始する。

 

「アスラン・ザラ、出撃する!」

 

 彼は幼なじみであるかを確かめるためにもう一度コロニーへと向かう。

 

□□□□□□

 

 コロニー内では激しい戦闘が繰り広げられていた。ストライクのパイロットはなんとか近接戦に持ち込もうとしているが、巨大な剣を警戒するジンはなかなか近づかせないように距離をとっている。

 

 カナトの方も重力がかかっている状態での挙動に慣れずにさっきの戦闘の時よりは幾分か手間取っていた。

 

「……スラスターの出力を上げるとバッテリー温度が上がる……難儀だ」

 

 地面を這うようにスラスターを吹かしながらジンを追いかける。ジンはその挙動に翻弄されながらもむやみに突っ込むことはせずに距離を開ける。

 

「……面倒だ……!」

 

 カナトはフットペダルを踏み込み一気にスラスターを吹かし、ベルセルクを加速させる。突然のことで対処に迷ったジンだったが、既にベルセルクの間合いに入ってしまっていた。

 

「……潰れろ……!」

 

 横合いからメイスを振り抜きジンを殴り飛ばす。質量と速度によってジンの装甲は完全にひしゃげ、かなりの速度を持って地面へと転がる。そして、その隙を逃すことなくジンへと近づくとコックピットをメイスで叩き潰す。

 

「……まず1機」

 

 だが、動きの止まったカナトを狙うジンが大型ミサイルを発射する。避けようとするがその後にはコロニーを支えるシャフトがあった。

 

「……それなら……!」

 

 ミサイルが着弾する前にメイスを正面に構えて機体を守るように持つ。次の瞬間、大きな爆発がベルセルクとカナトに襲いかかった。その爆発の余波で周囲に黒煙が立ち込める。

 

「……その程度じゃ、このベルセルクは落とせないよ……!」

 

 黒煙を切り裂いて飛び出したベルセルクはメイスの先端をジンのコックピット目掛けて突き出す。反応出来なかったジンはなす術なくパイロットを失い機能を停止した。

 

「次の敵は……」

 

 その時ベルセルクのレーダーが新たに接近する機影を確認した。その機体は連合軍の新兵器のひとつだった。

 

「……イージス……」

 

 カナトは奪われた新兵器を落とすためにイージスへ攻撃を仕掛けるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 対峙

書きたい描写がかけないジレンマ


 カナトは奪われた新兵器であるイージスへ近づいていく。

 

「……作った機体が敵の手に渡ったのなら……それを壊すのは俺だ……!」

 

 メイスを振り上げて叩き潰そうとするが相手はさすがにそのような大振りの攻撃には当たってくれず距離を開ける。

 

「これが新型……!5機のやつとはまるで違うっ!!」

 

 アスランは迫り来るベルセルクの姿に焦りと恐怖を感じていた。だが、やつの武器は手に持ったメイスだけだと判断し距離を取ってビームライフルを向ける。

 

「……武器の性能はわかりきっている……!」

 

 一瞬だけ銃口が光るのを見逃すことなくカナトはベルセルクを操作し、ビームが発射される前に射線から離れる。そのコンマ数秒後にイージスの放ったビームが先程までいたはずのベルセルクの位置を通過する。

 

「なっ!?」

「……油断したな……!」

 

 ビームが避けられるとは思っていなかったのか、戦闘中にも関わらず動きを止めてしまった。そしてその隙を逃すまいとカナトはベルセルクを接近させる。

 

「これで終わり……!」

 

 メイスを振り下ろそうとした瞬間、横合いから一機のジンが突っ込んできた。

 

「アスランっ!!」

「ミゲルかっ!?」

 

 ベルセルクに組み付いたジンが地面に押し付けようとスラスターを吹かすがそれに抗うようにスラスターを噴射する。いつの間にかメイスが手から離れ、押し返すためにジンのマニュピレーターを握る。

 

「くっ……!なんてパワーだ!」

 

 ジンは押し返されるパワーを利用して拘束を解こうとするが逆にベルセルクによってマニュピレーターを握りつぶされてしまった。

 

「今はあんたが邪魔だ……!」

 

 カナトはベルセルクで当て身をしてジンの体勢を崩す。

 

「行け……ベルセルク……!」

 

 瞬間的に加速させ、懐に飛び込むと手刀を胴体に繰り出したが、ジンは咄嗟の判断で機体を飛びのかせて回避する。

 

「……逃がさない……!」

 

 近くに落ちていたシャフトのパイプを拾うとジンに向かって全力で投擲する。ロックオンマーカーも出ない攻撃にジンは反応することが出来ずに、パイプが胴体に突き刺さった。

 

「はぁぁ……!!」

 

 接近する時にメイスを回収し、そのまま流れるように振りかぶる。

 

「脱出できない!?」

「……終わりだ……!」

 

 振り下ろされたメイスによってジンは地面に崩れ落ち、スクラップのごとくペシャンコになった。

 

「み、ミゲルーっ!!」

 

 アスランの悲痛な叫びがコロニーに響き渡った。

 

「……よくもミゲルを……!」

 

 アスランの乗るイージスはベルセルクに対して烈火のごとく反撃を開始するが、それに気づいたストライクがイージスに追いすがる。

 

「キラ……!やはり君なのか……!?」

「アスラン……!どうして君が!どうして君がザフトになんか!!」

 

 イージスとストライクがお互いに攻撃を仕掛けるがその様子はどこか、戸惑っているような感じで動きがぎこちない。

 

「お前こそ、どうして地球軍にいる!どうしてナチュラルの味方をする!」

「君こそ……どうしてザフトになんか!なんで戦争をしたりするんだ!!」

 

 ストライク、イージスとともに動きと攻撃に戸惑いと躊躇いがこもっていて見れるような戦闘ではなかった。それに業を煮やしたカナトが介入に入る。

 

「……今は戦闘中だ、他のことに気を使っている暇なんてない……!」

 

 スラスターを使いイージスに攻め込む。それに気づいたイージスがビームサーベルを抜きベルセルクと対峙する。

 

「邪魔をするなっ!!」

「……その機体を渡すわけにはいかない……!」

 

 イージスのビームサーベルとベルセルクのメイスが切り結び接するところでスパークが飛び散る。

 

「……ただの鉄の塊じゃないのさ……!!」

 

 そのメイスはジリジリとイージスの方に迫っていくが思いっきりがいいのか、イージスは後ろに下がりながらビームライフルでベルセルクを攻撃する。

 

「なんだあの機体は……只者じゃない……!」

 

 アスランはベルセルクの性能だけでなくパイロットにも驚きを覚え、やむなく遠距離戦を仕掛けることにした。

 

「そんな狙いで……当たるわけないよ」

 

 カナトは銃口を見てその直線上から回避しつつ着実に距離を詰める。そしてメイスを再び握り直して下からすくい上げるように振った。

 

 アスランは寸前で機体を後方に動かすが手に持っていたビームライフルがメイスによって薙ぎ払われた。

 

「なんて威力だ……!」

「ちっ、外した……」

 

 もう1回踏み込もうとするが予想以上にバッテリーへの負担が大きく、OSに不具合が生じ始めた。

 

「これじゃ……戦えない」

 

 カナトは一転して撤退するために戦闘宙域を離脱するのだった。

 

「……あの新型に……勝機はあるのか……?」

 

 アスランはイージスの中で1人、呟くのだった。

 

□□□□□□

 

 アークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアスはメビウス・ゼロのパイロットである、ムウ・ラ・フラガと副長であるナタル・バジルールを集めて今後の方針について話し合いをしていた。本来の艦長は別の人物なのだが、先程の襲撃で半数以上のクルーが死んでしまった。

 

「でも、こっちの戦闘力は虎の子のストライクと……カナト君のベルセルクだろ?俺のゼロはさっきの戦闘で被弾したしな」

「それでもまだ戦えるだけましです」

 

 ムウとマリューは残された戦力とザフト側の戦力を見ながらげんなりしていた。

 

「ですが、1人はコーディネーターですっ!そんなものに機体を任せておいてよろしいのですか?」

「ナタル……」

 

 そして2人が少しばかりげんなりする理由がもうひとつ。それは、軍規に少しばかり厳しい副長『ナタル・バジルール』少尉の存在だった。彼女はストライクにコーディネーターが乗っていることに対して意を唱えている。

 

「……じゃあ、副長さんはストライクを出さずにベルセルクだけで戦えと?」

「なら、貴方がストライクに乗ればよろしいのでは?フラガ大尉」

「あのねぇ……あんなOSの機体、誰が乗れるんだよ……そもそも、テストパイロットのひよっこ共ですらまともに動かせなかった機体だぜ?」

 

 ムウはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて首を横に振った。

 

「第一、そんなことしたら治ったゼロは置いておくのか?そんなことするぐらいだったら、少し酷だがあの坊主に乗ってもらうしかないぜ」

「……民間人にパイロットをしてもらうのは……」

 

 ナタルが難色を示し否定的な意見を出そうとするがなかなか思いつかないようだ。

 

「……分かりました、ひとまずは現状維持ということですか」

「そうそう、もっと物事は柔軟にな」

 

 それだけ言うとムウはブリッジから出ていった。あとに残ったのは艦長と副長のマリューとナタルだけだった。

 

「……ラミアス艦長、もし何かあった時は艦長らしく判断をよろしくお願いします」

 

 マリューにそれだけ言うとナタルもブリッジから出ていった。

 

「……大丈夫なのかしら……」

 

 マリューは不安げな表情を浮かべながら艦長席に座るのだった。

 

□□□□□□

 

 カナトはベルセルクをなんとかアークエンジェルの近くまで動かして、マリューへと通信回線を開いた。

 

「こちらカナト、これより着艦します……」

「カナト君?イージスはどうなったの?」

「分かりませんが……ベルセルクが不調になったので帰還しました……」

「そう……それなら、ベルセルクはすぐに整備に入って?またすぐに敵が来るわ」

「了解しました……」

 

 通信を切ると上部デッキに着艦して格納庫の中へと収納される。そして、定位置に固定をしてもらうとやっとコックピットの中から出ることが出来た。

 

「……ふぅ……」

 

 狭苦しい空間から出るとやはり、ほっと息をつきたくなり深呼吸をする。

 

「よう、結構むちゃをしたみたいだな!」

「……あなたは?」

「おっと、自己紹介がまだだったな!俺の名前は『コジロー・マードック』ってんだ!ストライクとベルセルクの整備担当だよろしくな!」

「パイロット兼整備員の、『カナト・サガラ』です、よろしくお願いします……」

 

 カナトは整備担当のマードックとしっかり握手を交わす。その手からは歴戦と言わんばかりな雰囲気を感じ、いい刺激を感じた。

 

「実はお願いしたいことがあるんですが……」

「どした?言ってみろ」

「機体の排熱について、アドバイスを頂けないかと」

「なるほどな……俺が考える改良としては、排熱用のダクトとかを増設するんだが……」

「ただ……そうなると、機体重量のバランスが……」

 

 カナトはそう言いながらOSでの制御バランスを端末に入れてマードックに見せた。

 

「おいおい、なんでこんなに余裕のない処理を?」

「余計なリソースを使わないようにと、プロセスを増やすと反応速度が落ちるからです……」

「だから、ナチュラルとは思えない反応速度で動く理由か」

「……そればっかりは仕方ないことなんですけどね……」

 

 カナトは余裕のない自分へか、それともここまでしないと倒せないことを改めて実感したからか、深いため息をついた。

 

「ひとまず機体の方は余裕が出来てからだな……それよりも、お前さんの機体の武器をここに置いてるんだが……」

「それについてはそこの滑腔砲だけひとまずつけてください……」

 

 カナトが指を指したのは300mm電磁初速加速砲『カラドボルグ』だ。中の砲弾を電気で加速させることによって貫通力と破壊力を増している。有り体にいえばレールガンと同じだ。

 

「そう言えば……どうしてお前さんの機体はビーム兵器を積まないんだ?」

「積まないんじゃなくて、積めないんですよ……電力をビームに変える変換器を……積んでませんから」

 

 ベルセルクは元からビーム兵器を運用するというコンセプトは持っておらず、他の5機がバッテリーダウンした時の予備兵力のようなスタンスの運用の仕方を考えているため、継戦能力を高くするために実弾運用を考えていると言うわけである。

 

 そして、実弾が切れた時ようにメイスやマニュピレーター、関節部が他の機体よりも強く、廃材などを使っても戦えるようにもなっている。

 

「わかった、とりあえずその作業は始めておくからお前さんは休め」

「……ありがとうごさいます」

 

 カナトはマードックに作業を任せるとひとまず、ブリッジに行き報告することにした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 圧倒

 カナトがブリッジに向かうとそこには艦長であるマリューが座って何かを考えているところだった。ドアが開いて、誰かが入ってきたことに気づいたマリューはドアの方向を向く。

 

「おかえりなさいカナト君……戦闘はどうだったのかしら?」

「はい、ジンを撃破したものの……イージスは取り逃しました……」

「そう……わかったわ、ひとまず次の戦闘までゆっくり休んで?今回の戦闘データの提出はしっかりやっておいてちょうだいね」

 

 マリューにそう言われるとカナトはすぐに端末にデータを打ち込みそれを手渡す。

 

「……数値覚えてたの?」

「保存先のファイルへのアクセスコードです……こいつがないと戦闘データにアクセス出来ないので……」

「では、休んだ後に提出してね?」

「…………了解」

 

 カナトはひとまず部屋に戻ってシャワーを浴びることにした。部屋へ戻る途中にいかにもまだ学生といった風貌の少年とすれ違った。

 

「あのっ!えっと……」

「……何か?」

 

 カナトは少し鬱陶しそうな雰囲気を出しながら応対する。その雰囲気を感じ取った少年はなかなか話を切り出せそうになかった。

 

「……用がないなら行くけど」

「あなたは、あの機体のパイロットなんですか?」

 

 やっと口を開いた少年から聞こえてきたのはベルセルクのパイロットはあなたですかという質問だ。

 

「……そうだけど?」

「えっと、先程は助けていただきありがとうございまし

た」

「……君、どこに居たんだ?」

「ストライクの中に居ました」

「……別にストライクを助けた訳でもないからお礼なんていらないよ」 

 

 カナトは素っ気ない態度でそれだけ言う。

 

「失礼ですけど……お名前を教えてもらえないでしょうか!」

「……カナト・サガラ」

「カナトさんですね?僕はキラ、『キラ・ヤマト』です」

「キラ……ね、とりあえずストライクは君に預けるよ……だから、壊すなよ?」

「えっそれはどういう……」

 

 カナトはそれだけ言うと部屋に戻っていった。あとに残されたのは言葉の意味を考えるキラだけだった。

 

□□□□□□

 

 一方、追撃を考えているザフト側ではアスランがラウに呼び出されていた。

 

「実際にあの新型と交戦して……どうだったかね?」

「はい、あのパイロットは……熟練してるとは言い難いですが、機体の性能を熟知してると思われます」

 

 交戦してみて思ったことを述べるとラウは満足そうに頷きながら話を聞いていた。隣ではヴェザリウスの艦長である『フレデリック・アデス』がラウを横目で見ていた。

 

「……だがもう一度出撃したいということはどういう事だ?」

 

 アデスはアスランの要望に対して少し難色を示していた。貴重な新型の機体を壊されては叶わないと思っているためである。

「あの新型を……倒すためです……!」

 

 アスランは目に力を入れながらアデスにそう言った。一方でアデスは複雑そうな顔をしていたが、それより先にラウがアスランの考えを汲み取った。

 

「そうだな……それにあの船はそろそろコロニーから出るだろう、そこを仕掛ければいいのではないかね?」

 

 ラウはアデスの考えは汲み取らず、アスランに攻撃を仕掛けさせようとしているようだ。アスランはその指示に感謝をし一方で、アデスは苦虫を噛み潰したような顔をして、ラウを見る。

 

 ラウはその視線に何も感じずにアスランへ作戦の指示をする。アデスは苦情を言っても無駄だと判断し他のパイロットへ命令を伝えるのだった。

 

□□□□□□

 

 シャワーを浴び終わったカナトはブリッジより搭乗機にて待機せよとの指示を受け、コックピットに座っていた。

 

「……さっきシャワーを浴びたのは失敗したかな」

 

 恐らく再び戦闘になりまた汗をかくことを想像するとなんとも嫌な気分になった。

 

「本艦はこれより『ヘリオポリス』を離脱する」

「……ここ、ヘリオポリスって名前だったんだ……」

 

 今更気づいたことにつっこむ者は誰もいなかった。やがて、振動が伝わってきて船が加速しているのはわかった。しばらくするうちに振動が止み、今度は無重力状態になったのだった。

 

「そして敵が攻めてくる……と」

 

 その時艦内にアラートが鳴り響く。

 

『総員第一戦闘配備!ストライクはカタパルトデッキへ!ベルセルクは待機せよ!』

「ストライクを先に出すのか……」

 

 カナトは1人そう呟きながら、カラドボルグを右手に握り、メイスは左肩に装備していつでも出撃できるように備える。

 

『引き続き、ベルセルクはカタパルトデッキへ!』

「了解……」

 

 カナトはベルセルクをゆっくりと動かし、カタパルトへと機体を固定させる。

 

『リニアボルテージ上昇、カタパルトハッチオープン!』

 

 そして、赤かった信号灯が緑へ変わる。

 

『ベルセルク発進どうぞ!!』

「ベルセルク……出るよ……!」

 

 体に負荷がかかり、シートに押し付けられながらも宇宙へと飛び出す。船から出ると周囲にはコロニーの残骸などが沢山漂っていた。そしてヘリオポリスの方を見てみると、ヘリオポリスは完全に崩壊してしまっていた。

 

「……こんなことになるとはね……」

 

 カナトは少しばかり責任を感じたものの、割り切って敵への警戒に移った。あまりにもデブリが多いため、レーダーでの索敵は難しく、神経を使って偵察しないといけない。

 

「……来た……」

 

 敵はアークエンジェルを狙ってくることに間違いはなく、カナトはあえて少しアークエンジェルから距離を離して展開していた。これは、他の機体よりもスラスター出力が大きいから出来ることであり、この機体でなければカナトもこのような戦法は取らないだろう。

 

 敵のジンはベルセルクに気づいておらずアークエンジェルの方へと近づいていく。その後ろから急襲するように迫るベルセルク。ジンがふと後ろを振り返った時には既にメイスを振りかぶったベルセルクがそこにいた。

 

「……邪魔」

 

 呆気なくメイスに殴られ吹き飛ばされたジンはデブリに衝突して爆散した。そして、味方がやられたことに気づいたジンがアークエンジェルではなく、カナトの方を狙ってくる。

 

「……まるで射的だね」

 

 カナトはメイスをしまい、カラドボルグを構える。ターゲットスコープを展開して狙いをつけると躊躇うことなく引き金を引く。電気によって加速された砲弾は狙いを過たずジンのコックピットを貫いた。一瞬、遅れて爆散する機体に敵は呆然と立ち尽くしている。

 

 そして、それを見過ごすカナトではなく次の機体へ狙いを定めて再び引き金を引く。そして爆散する機体。ようやく、敵は回避行動を取り始めたが、カナトはジンと軸を合わせて、動きながら狙撃する。見事に一発で命中し爆散した。

 

「次は……」

 

 その時コックピットにロックオンアラームが鳴り響く。咄嗟に機体を横へ滑らせると遅れてビームが通っていった。その方向を見るとデュエルがライフルを向けていた。

 

「……へぇ、それで当てようってしてたんだ……」

 

 カナトはベルセルクのスラスターを一気に吹かし間合いを詰める。

 

「ちっ……やっぱり反応するか」

 

 イザークは遠距離攻撃は当たらないと判断しすぐにライフルをしまうとビームサーベルを抜く。

 

「かち合いじゃ……このベルセルクには勝てないよ」

 

 メイスを横合いから振るとデュエルはメイスの軌道をみて、下方へとベクトルを変える。だが、カナトはそれを見切って振り抜いたメイスを今度は叩きつけるように振る。

 

 その挙動を見切れなかったデュエルは何とかシールドを構えるも正面からメイスを受けてしまう。

 

「ぐわぁぁぁ!!」

 

 正面からメイスを受けると呆気なくシールドが砕け、凄まじい衝撃がイザークを襲った。そして、追撃のためにもう一度メイスを振ろうとしたところで横合いから、ビームが飛んできた。

 

「今度はバスターか……」

 

 メイスをしまいカラドボルグを取り出して対抗しようとするがその前にもう一度狙撃を受ける。さすがに銃口が見えないビームは避けるのが難しく機体を常に動かしながら、バスターへと迫っていく。

 

「すばしっこいぜ!こいつは!」

 

 バスターに乗るディアッカは迫ってくるベルセルクを狙いながらボヤく。さっきの狙撃でケリをつけようと思っていたのだが、どうにもFCSにズレが生じるようだ。

 

「けど、次で落とせなかったら恥だからさ!」

 

 不規則に動くベルセルクを狙ってトリガーを引くが、それもよけられてしまう。

 

「落ちろ……!」

 

 カナトは機体を高速で動かしながらカラドボルグでバスターに狙いをつけ、躊躇なく引き金を引く。加速された弾丸はバスターに回避させる猶予を与えずにライフルを破壊した。

 

「嘘だろ!?あの距離でか!?」

 

 一方のディアッカは武装を破壊されたことに驚くあまり動きを止めてしまっていた。もし、あれが偶然ではなく狙ってやっていたのだとしたら……と考えるとおぞましい。

 

「もう一撃……」

 

 カナトが狙いを付けたところでアークエンジェルから通信が入った。

 

『サガラ少尉、本艦はこれより現宙域より離脱する!深追いするな!』

「……了解」

 

 カナトはすぐさまベルセルクをアークエンジェルの方へ向けるとスラスターを加速させ、その場を離れるのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 思惑と油断

サブタイトルは深く気にしないでくださいねー


 撤退指示を受け、ベルセルクを着艦させたカナトはゆっくりとコックピットから降りた。すると、マードックが機体へ駆け寄ってきて労いの言葉をカナトにかける。

 

「おつかれさん、滑空砲というか……レールガンはどうだったか?」

「悪くないですね……いい武器です」

「そうかそうか!それなら良かった!すぐにこいつの整備に取り掛かるから、お前さんはゆっくり休んどけ」

 

 親切なマードックの言葉に甘えてカナトは部屋に戻ることにした。部屋に戻り、シャワーを浴びてからゆっくりしていると部屋の電話が鳴った。

 

「カナト君、至急ブリッジへ」

「……了解しました」

 

 カナトは電話を切るとため息をつきながら着替えてブリッジへ向かう。

 

 ブリッジへたどり着くとムウとマリューが頭を抱えていた。

 

「……どうかしたんですか?」

「ああ、ちょいとな」

 

 そう言ってムウはまた深いため息をついた。

 

「なんでも、艦内でキラの事がコーディネーターってバレて騒動が起きたらしい」

「……それでどうにかなったんですか……?」

「幸いにして保安局員が止めたみたいだが……厄介なことになっちまったぜ……」

 

 たしかにヘリオポリスの人からすればコーディネーターによって住むところを奪われたのだから恨む気持ちは分かる。

 

「……きっと今の自分達のやるせなさを、どこかにぶつけたいんですよ……」

「だとしても、坊主にばっかり負担がいっちまうからな……」

「キラ君には無理をさせたくないしね……」

 

 マリューとムウはどうにかして現状の打破を図っているようだ。

 

「……ひとまずは物資の補給と避難民の受け入れを考えましょう……目的地は、アルテミスですか?」

「近場で目指すとすればそこしかないんだろうけど……」

「あそこの司令はあんまりいい噂を聞かないからなー」

 

 ムウとマリューの言葉から推測するとどうやら、相当の堅物か……愚者のどっちかみたいだ。

 

「……はぁ……」

 

 そんな暗澹な未来にカナトもため息をつくのだった。

 

□□□□□□

 

 宇宙要塞『アルテミス』、月とヘリオポリスの中間地点にある宇宙要塞である。そこには『アルテミスの傘』と呼ばれる外からの攻撃を一切通さないシールドで覆われているため、ザフトからは見向きもされない要塞である。

 

「……アルテミス……果たして受け入れてくれるだろうか……」

 

 カナトはムウとマリューの話を聞いて不安になり一応、OSにロックをかけて来たあとにブリッジにいた。奇しくもムウもカナトと同様にキラにOSのロックを指示していた。

 

 そして、アルテミスが近づいてくるとレーザー通信が繋がった。

 

『こちらはアルテミス司令、ジェラード・ガルシアである。貴艦はアルテミスの領域に入ろうとしている、直ちに転進されたし』

「ナタル、私の所属コードを送って」

「……分かりました」

 

 マリューは自分の所属コートを送るように指示し、アルテミスに向け送信した。すると、しばらくして返信が帰ってきた。

 

『たしかに地球連合軍所属の軍人のようだが、その船には識別コードもなく確実に連合の所属かどうかも確かめられない。だが、ヘリオポリスの崩落による民間人の避難もあるため、物資の補給はしよう』

「……何とかなったわね……」

 

 どうにかアルテミスとの交渉に成功したが、ナタルとムウ、そしてカナトは嫌な予感を感じ取っていたのだった。

 

「マリューさん、一応ベルセルクで待機します」

「えっ、でもここはいちおう味方勢力圏内よ?」

「……念の為です」

 

 それだけ言うとカナトはブリッジを出てベルセルクのコックピットへと向かっていった。

 

□□□□□□

 

 一方、アークエンジェルを追撃するクルーゼ隊の面々は、アークエンジェルがアルテミスへ入港するのをしっかりと確認したのだった。

 

「くそ!これじゃ追撃ができないじゃないか!」

「落ち着けってイザーク」

 

 イザークは机を力強く叩き、怒りをぶちまけていてそれを宥めるようにディアッカが声をかけていた。そんな中、1人、ニコルが何かを考え込んでいた。

 

「で、どうする?足つきが出てくるまで網を張る?」

「待ってください、僕にいい考えがあります」

 

 ニコルはそう言うと不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 しばらくして、ガモフはアルテミスに対して攻撃を仕掛ける。だが、アルテミスは自慢の傘によって攻撃を全く寄せ付けることは無かった。やがて、諦めたのか攻撃をやめて転進するガモフ。それを見てアルテミスは傘を解除するのだった。

 

□□□□□□

 

「……敵が攻めてきた?」

 

 カナトはコックピットに座りながらその話を聞いていた。なんでも、敵の船が1隻だけで攻撃を仕掛けてきたものの傘を突破できずにそのまま転進したと言うらしい。

 

「……なにか裏がありそうだな……」

 

 そう呟くとカナトは外の様子に注意しながら出撃するときを待ち望んでいた。カナト自身、船内に居ると厄介事に巻き込まれる気しかしていなかったため、ずっとコックピットに座りっぱなしだった。

 

「……何やら騒がしくなってきたな……」

 

 ベルセルクのカメラを動かすと格納庫の入口あたりから、キラを先頭に見慣れない連合の服を着た人達がストライクに近づいているのが確認出来た。

 

「……何をするかは知らないが……」

 

 カナトはコックピットハッチをロックして中に引き込もる。しばらくすると、ベルセルクの外にもそのお客さんたちが寄ってきた。だが、ハッチを開けようにも厳重にロックされた扉はあかなかった。

 

「おい貴様!この私の命令に逆らうつもりか!?」

 

 ガルシア司令が外で何やら騒いでいるがまったく気にもとめずに無視をする。その様子をムウは笑いをこらえた様子で見ており、ナタルは顔を顰めていた。

 

 と、その時突然アルテミスに衝撃が走った。突然の出来事で司令以下、アルテミスに所属している軍人たちは対応出来ていなかったが、カナトはすぐさまベルセルクを起動させる。

 

「……ベルセルクを出します、下がってください」

 

 忠告をすると共に機体を動かすと蜘蛛の子を散らすように、兵士たちがその場を離れる。そして、全員が離れたところでベルセルクを動かして、ハッチから外へと飛び出すのだった。

 

 外に出ると、傘の発生装置は破壊されており、少し離れてた所からは敵の船がアルテミスに対し攻撃を仕掛けてきていた。

 

「ちっ……厄介だな……」

 

 その時、遅れてストライクもこちらに合流してきた。

 

「遅れました!」

「よし……キラはこのアルテミスに攻撃をしている機体の撃退……またはアークエンジェルの離脱支援を」

「分かりました」

 

 キラは指示された通りにそちらへと向かっていった。そして、カナトは敵の船の方へと向かっていく。距離にすると未だに射程圏内ではないが、カラドボルグを抜いていつでも撃てるように構える。

 

 敵艦はそれに気づいたのかアルテミスからベルセルクへと攻撃対象を切り替えたようでビームの雨が降り注ぐ。

 

「……戦艦のビームに当たるほどじゃない……」

 

 機体を動かしてビームをかわしながら距離を詰める。そして、船からはデュエルとバスターが出撃してきた。

 

「貴様っ!この前の借りを返すぞ!」

「やられっぱなしじゃ性にあわないんでね!!」

 

 デュエルとバスターの波状攻撃をかわすもののこの前とは違い、かなり洗練された動きに少しばかり手応えを感じるカナトだった。

 

「へぇ……面白いじゃん……」

 

 カナトは隙間を縫うように距離を詰めていき、カラドボルグのトリガーを引く。加速された弾丸がデュエルの方へ飛んでいくが、その弾丸を回避してこちらにビームライフルを向ける。

 

「よっと……」

 

 ビームが放たれる瞬間に機体をずらし、すれすれで避けるとそのまま突進する勢いでデュエルへと迫る。

 

「遅いんだよ!」

 

 その横からバスターが対装甲榴弾モードにしたガンランチャーを向けトリガーを引く。拡散する弾丸を避けるために1度大きく機体を後方に下げる。その隙にデュエルとバスターが横並びに体勢を整えた。

 

「……適応能力が高いな……」

 

 カナトは再びカラドボルグを構えてバスターを狙う。当然ながらバスターは回避するために機体を動かし、それを狙うかのようにデュエルが懐に飛び込もうとする。

 

「いい反応……けど、狙い通り……!」

 

 カラドボルグの照準をバスターからデュエルに切り替え、タイムラグを起こすことなくトリガーを引く。突然の切り替えに反応出来なかったデュエルが回避できずにカラドボルグの攻撃が直撃した。

 

「ぐわぁぁぁ!!!」

 

 PS装甲のため、その弾丸が貫通することはなかったものの、一撃でバッテリーのほとんどを持っていかれ、衝撃によってイザークは失神してしまった。

 

 動かなくなったデュエルにトドメを刺すためにカナトはカラドボルグを後ろにしまい、肩のメイスを取り出すとそのままデュエルへとメイスを振りかぶる。

 

「させるかよっ!!!」

 

 ディアッカは超高インパルス砲を構えて、ベルセルクを狙う。

 

 カナトはロックオンマーカーの音に反応し、機体を後ろへと動かす。その一瞬後、先程までいた位置に太いビームが通り過ぎるのだった。

 

「……邪魔なんだよ……!」

 

 カナトはバスターを倒すべくベルセルクのスラスターを吹かして距離を詰めようとする。

 

 「詰められたら負けってことぐらい分かってるんだよ!」

 

 ディアッカは距離を詰められる前に勝負を仕掛けるべく超高インパルス砲をベルセルクに向ける。

 

「……そんな攻撃……!」

 

 ブーストしながらいつでも回避出来るようにするベルセルク。そして、タイミングを見計らうディアッカ。2人の考えが交錯し、ディアッカがトリガーを引く。

 

 一瞬の銃口の輝きに反応したカナトは機体を横へと滑らせる。だが、次の瞬間、バスターがインパルス砲を薙ぎ払うように振るのだった。

 

「……馬鹿野郎が……!」

 

 カナトは横にではなく、下方向へとベクトルを向けて回り込むように動く。それについていけなくなったバスターの両腕が、インパルス砲の反動で動かなくなったことを確認し、下からメイスを振り上げる。

 

 大質量のメイスがぶつかった衝撃はかなりのものだったようで、一撃でPS装甲を落としディアクティブモードにする。

 

「……さよならだ……」

 

 一撃をくわえるべくメイスを振り上げたところで後ろからロックオンマーカーが反応する。咄嗟に振り向くとデュエルがビームライフルを構えていた。

 

「終わりだぁぁ!!!」

 

 既に回避する場所はなく機体を少し動かすのが精一杯だ。咄嗟に操縦桿を引き、次の瞬間にはビームがベルセルクに向け発射された。 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 漂流物の中身は?

(やられる……!)

 

 そう思ったカナトは咄嗟にベルセルクの左手を正面に持ってきて、次の瞬間にはビームが左腕を貫く。だが、その行動により胴体への着弾を免れることに成功はした。

 

 左腕が爆散しその衝撃で機体が外側に流れる。一方のデュエルもそのビームを撃った途端にエネルギーが切れたようでPS装甲がダウンした。

 

 追い討ちをしようにもベルセルクのOS内にも不具合が多数起きてとても戦闘できる状態ではなかった。

 

「……ここは逃げるしかない……か」

 

 カナトはそう判断すると機体を反転させどうにかアークエンジェルへと逃げることにしたのだった。

 

 しばらくすると崩落するアルテミスからアークエンジェルが出航するのが見えた。どうやら、混乱に乗じて逃げてきたようだ。

 

「カナト君、状況は!?」

「……左腕をやられて機体にはエラーが……」

「わかったわ、収容後速やかに現宙域より離脱します」

「了解……」

 

 そしてベルセルクは無事に収容され、アークエンジェルは崩落したアルテミスを離れるのだった。

 

□□□□□□

 

 PS装甲の落ちたデュエルとバスターは遅れてガモフへと収容されたのだが、パイロットであるイザークとディアッカはさっきの戦闘に満足出来なかったのか不満感を抱いていた。

 

「あいつ……!次こそは!」

「イザーク、俺とお前のコンビネーションで次は倒せるぜ!」

 

 イザークとディアッカはカナトの乗るベルセルクを倒すために念入りに打ち合わせをするのだった。

 

 その一方でアスランはキラの乗るストライクが少しずつ脅威になっているのを感じているのだった。

 

「キラ……お前はいったいどうしたいんだ……?」

 

 そんなことを考えていると部屋にニコルが入ってきた。

 

「アスラン、具合はどうですか?」

「……あんまり良くないがどうかしたのか?」

「あっちの機体、日に日に動きが良くなってる気がして」

 

 たしかに、今回の戦いでもニコルのブリッツを単独で相手取っていたしその成長は計り知れない。

 

「……次に戦う時こそはあれを落とさなきゃな」

 

 アスランは複雑な心境でニコルにそう言葉を返すのだった。

 

□□□□□□

 

「それにしても……避難民どころか、物資の補給もままならないとはなー」

 

 ブリッジでムウが呟く。それに反応したのは副長のナタルと艦長のマリューだった。

 

「あのタイミングでのザフトの襲撃は予測不可能だったとは言えませんが……」

「……もう少し猶予が欲しかったところではあるわよね……」

 

 マリューとナタルは船の現状を思い出すと深いため息をついた。空気が悪くなる中で遅れてカナトがブリッジに入ってきた。

 

「ひとつ提案があるのですが……」

「なんだい?言うだけならタダだぜ?」

 

 ムウはからかうように気さくに声をかけてくれる。カナトはそれに甘えて今後の提案をする。

 

「ユニウスセブンの跡地で補給を……」

 

 その提案に、マリューやナタルはおろかムウまでもが閉口してしまった。

 

「……さすがに墓荒らしをするほどの胆力はないぜ?」

「ですが、このままだと……確実に水が足りません……」

 

 今のままだと水不足になるのは目に見えていた。

 

「……とは言ってもメインにとるのは氷です……その他のものには手が出せそうにないだろうし……」

 

 ムウとマリューはその案を真剣に吟味し始めた。

 

「……たしかに水が不足したら間違いなく暴動が起きるな」

 

 ただでさえ、ストレスが貯まる環境なのにこれ以上されるとどうなるかわかったものでは無い。結局その判断がくだされ、船はユニウスセブンの跡地へむかうことになったのだった。

 

『ユニウスセブン』、地球連合が突如核ミサイルを撃ち込んだ農業用プラントである。本来ならばここでプラントに必要な水や食料、空気といったものを生産するはずだったが、コーディネーターを忌み嫌うナチュラルによって滅ぼされてしまった。

 

 ここはの攻撃がきっかけになりこの戦争は始まってしまった。という経緯があるこの場所で、カナトは少しばかり感傷に浸っていた。

 

(……なぜ無差別に人が死ななければならない……)

 

 そんなことを思いながら協力してベルセルクを使い氷の塊を見つけてはマニュピレーターで砕いて回収する。しばらくそうしているうちに、アークエンジェルから通信が入ってきた。どうやら、遭難艇をキラが見つけて保護したそうだ。

 

「それで……こうして用心に用心を重ねてるわけですか……」

 

 ベルセルクを帰投させたカナトがコックピットから降りると、保安局員たちが銃を構えながらその遭難艇のハッチを開けようとしていた。

 

 カナトは少し離れた場所で様子を伺うだけだった。その隣にはムウが同じように様子を見ていた。

 

「なんでもザフトの物かもしれないとさ」

「……なるほど……」

 

 それは確かに警戒しないといけないが、だからと言ってあれはやりすぎな気もしないでもないが……

 

「さーて、蛇が出るか……」

 

 扉が開くと中からはピンクの髪色をした女の子が出てきたのだった。あまりにも浮世離れした光景にその場にいた全員の動きが止まっていた。

 

「……マジかよ……」

 

 そんな呟きが格納庫の中に静かに騒いだのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 再会

「あら?ここはザフトの船ではないのですか?」

 

 開口一番に遭難艇から出てきたピンクの少女はそう言った。そしてその後に出てきた護衛の人であろう人物が少女の前に立つ。

 

「失礼ながら、まずは救助を感謝します。そして、厚かましいですが少しばかり休ませていただけないでしょうか?」

 

 その申し出に困惑をする保安局委員を尻目にカナトはその避難艇に向かっていく。

 

「……あんた……」

 

 カナトが腰のホルスターに付けていた拳銃を抜き護衛の人物に向けて構える。それを見ていた保安局委員がどちらに銃を向けていいか戸惑っていた。一方で護衛の人もカナトへ銃を向ける。

 

「……やっぱりな、『ミラ』」

「その顔、久しぶりね『カナト』」

「お二人共知り合いなのですか?」

 

 ピンクの少女が不思議そうに声をかけてくる。その質問に答えるように護衛の人……ミラが話し始めた。

 

「私の幼馴染です。昔から機械弄りが好きだったんですけど……まさかこんな所にいるなんて」

「俺もミラがザフトの軍人になっていたのは知らなかったが……」

 

 そんな2人に毒気を抜かれたのか保安局委員も銃を下ろして眺めているのだった。

 

「えっと、お話したいのは山々でしょうけど……ひとまずはこちらに来てもらえませんか?」

 

 その後、遅れてやってきたマリューの勧めでピンクの少女とミラは専用の個室へと移動したのだった。

 

□□□□□□

 

「ラクスが行方不明ですか!?」

 

 アスランは隊長であるラウに詰め寄っていた。

 

「本国からの情報だ、ラクスの乗っていた船が遭難したようでビーコンも何も取れていないそうだ」

「……そんな……」

「今のところ、捜索部隊を派遣したがつい数時間前に消息を絶ったらしい」

「まさか連合に?」

「まだわからない以上なんとも言えない。そこでた、君も捜索部隊に加われとの指令がきた」

「……分かりました」

 

 アスランは心配そうな表情をしながら隊長の指示を仰ぐ。

 

「君も辛いと思うが、しっかりと励んでくれよ?」

「はっ!了解致しました!」

 

 ラウに敬礼をするとアスランは部屋を出ていきラウが1人残った。

 

「さて……真面目な青年にはしっかりと働いて貰わなければな」

 

 1人ラウは部屋で呟くのだった。

 

□□□□□□

 

 ひとまずラクスとミラを別の部屋へと案内するカナトとキラ。2人は既にラクスやミラと打ち解けて他愛のない話をしていた。カナトとミラが幼馴染なのとラクスの人の良さに引き込まれた感じだ。

 

 一方で、戦闘を歩くマリューは少しばかり顔を顰めていた。そして、個室へとたどり着くとキラとカナトに任せてそそくさとその場を立ち去るのだった。

 

「……それで、カナトはモビルスーツを作ったの?」

 

 なんとも言えない雰囲気を払うようにミラがカナトに話しかけた。

 

「ああ、親父もお袋も死んでしまったからな……今思えば、ミラの所にでも声をかければよかった……」

「……まぁカナトが生きていただけでも良かったよ?でも今は一応敵同士だけどね……」

「……だよな……こんな戦争は早か終わってほしい物だ」

「ほんとだよね……」

 

 2人でしみじみとそんなことを話しながら、カナトはキラの方をちらっと覗き見する。キラはキラでラクスとの話に照れながらもお話をしている。

 

「それにしても……ラクス様が楽しそうでよかったわ」

「遭難してるからな……」

「それでもよ、最近はなかなか婚約者とも会えなかったり、プラントでも仕事がかなり入ってきたり大変だから……」

 

 そう言うミラは少し遠い目をしながら語る。話を聞く限りとても大変そうだ。

 

「……だが、いつ向こうに帰れるかも分からないんだ……これからどうするんだ?」

「そうね、出来ればこのままザフトに返して欲しいところではあるけど……」

 

 ミラはため息混じりにそう呟く。そのため息はカナトにも事情を察することが出来るぐらいに聞こえた。

 

「間違いなく外交のカードにされるだろうな」

「だよね……下手したら処刑ものだから……ある意味カナトに会えてよかったよ」

「俺もだ」

 

 そんなことを話しながら時計を見るとブリッジに戻る時間だと気づいたカナトはキラを連れてその場をあとにするのだった。

 

 ブリッジにたどり着くと、何やらざわざわと少しだけ騒がしいことに気づく。

 

「どうしたんですか?」

「先遣隊が襲われてやがるってよ!!」

 

 先にたどり着いていたムウが説明をする。どうやら、敵は既にこちらを捕捉していたようで接近してくる。

 

「モビルスーツ隊はただちに、戦闘準備!ブリッジ遮蔽、コンディションレッド発令!」

 

 マリューの指示でアークエンジェルが戦闘準備が入る。カナトとキラはそれぞれの機体に飛び乗り機体を起動させる。

 

「キラ、行くぞ」

「行きましょう、カナトさん」

『ストライク、カタパルトデッキへ!』

 

 ミリアリアのアナウンスの元でまずはキラのストライクがカタパルトデッキへ行き出撃する。それに続いてカナトのベルセルクもカタパルトデッキへ進む。

 

「……ミラか……」

『ベルセルク、発進どうぞ!』

「カナト・サガラ、ベルセルク、発進する」

 

 そして、射出するGに耐えながら出撃するのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 やるせない想い

 前話の流れの一部を修正しました。


 カナトとキラが出撃した時には既に先遣隊のドレイク級1隻が既に轟沈していた

 

「くっ……!僕は、フレイと約束したんだ……!!」

 

 キラはスラスターを全開にし戦闘宙域へと近づいていくが、カナトとの距離が開いてしまい、キラとカナトは分断されてしまった。カナトの方へは、雪辱を晴らすためか、バスターとデュエルのコンビが立ちふさがる。

 

「逃がさんぞ!ベルセルク!」

「お前は、俺たちで倒す!!」

 

 開幕早々にバスターのガンランチャーが放たれカナトは機体を操作しその弾幕をすり抜ける。

 

「……いいさ、何度でも倒してやる……!」

 

 バスターが超高インパルス砲を構えベルセルクを狙うがベルセルクは機体を止めずに撹乱する。

 

「ええい!まどろっこしい!!」

 

 イザークのデュエルがビームサーベルを抜きベルセルクへと襲いかかる。カナトはビームサーベルと切り合うのを避け機体を滑らせるが、待ってましたと言わんばかりにその位置をディアッカのバスターに狙われる。

 

「……相変わらず厄介だ……!」

 

 カナトは再び機体を動かしその射線から遠ざかった。するとデュエルとバスターはそれぞれのビームライフルでベルセルクを狙うが、それに負けじとカナトもカラドボルグを放ち牽制する。互いの射撃は決定打にならないまま、今度はベルセルクの方からバスターへと接近する。

 

「そう来るのは分かってるのさ!」

 

 イザークはここぞとばかりにベルセルクへと襲いかかるが、カナトはそれを無視してバスターへ肉薄する。それを迎撃するディアッカはあまりの躊躇いのなさに一瞬だけ機体を止めてしまった。

 

「……もらった……!」

 

 メイスを抜き放ち袈裟切りのようにバスターへ叩きつける。その一撃はPS装甲の上からでも火花を散らすほどに強力な一撃で機体を吹き飛ばす。たったその一撃でバスターを戦闘不能にさせ、デュエルへと向き直る。

 

「ば、化け物が……!!」

 

 イザークは怒りに身を任せ、攻撃を苛烈にするが冷静さを欠き単調な攻撃になってしまっていた。それを見逃すことなく、カナトは冷静にデュエルへと攻撃を加える。

 

「そのメイスにさえ当たらなければな!!」

「……だが、それはできない……!」

 

 イザークもメイスが脅威であることを認識していてそちらに警戒を向けるが、それだけでは足りない。カナトはカラドボルグのトリガーを引き、牽制しながらメイスを抜いてデュエルへと投げつける。

 

 突然、メイスを投げつけられたイザークは、躊躇しながらもすんでのところで機体を動かすが、メイスが左肩を貫通し刺さったまま、左腕が動かなくなった。

 

「だ、だが……貴様にもう武器はない!!」

 

 まだ動く右手にビームサーベルを持ち正面から接近するデュエル。カナトはカラドボルグを格納し徒手空拳で待ち構える。

 

「武器も抜かないだと!?貴様ッ!!なめやがって!!」

 

 さらにイザークは激怒し、ビームサーベルでコックピットを貫こうと腕をのばす。

 

「……ベルセルクシステム、起動……!」

 

 カナトはベルセルクのコンソールから『ベルセルクシステム』を起動させる。その瞬間、機体が真っ赤に光り肩と脚部の装甲の一部が外れ、スラスターが現れる。

 

 

 デュアルアイからは残像を残すように、赤い線を残しながら一瞬でデュエルの後方へと回り込み左肩に刺さっていたメイスを引き抜いて、横合いから殴りつけた。

 

「ぐわぁぁぁ!!痛い……痛いぃぃ……!!!」

 

 衝撃で顔面をぶつけたイザークの左側には大きな傷が着き、かなりの血が流れ出る。だが、それを気にかけることはなく、反対の目で睨みつけるイザーク。一方のカナトは急加速と、OSの処理にかなり体力を使ったようで息が上がっていた。

 

「……はぁ……はぁ……結構、きついな……」

 

 バッテリーも一気に減ってしまい、残りは4分の1も切ってしまっていた。だが、その時突然アークエンジェルから、戦闘停止の声が聞こえてきた。

 

『こちらは地球連合軍所属アークエンジェル!本艦は現在、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの令嬢ラクス・クラインを保護している!』

 

「……人質……ってことかよ……」

 

 カナトはアークエンジェルに向け機体を動かすのだった。

 

 その後、ラクスを殺されてはたまらないと思ったのか、ザフト軍は撤退を開始し、遅れてカナトとキラもアークエンジェルに着艦した。アークエンジェルの中はどこか、空気が重く居心地がいいものではなかった。

 

「人質って……!これが地球軍のやり方なんですか!!」

「こうでもしなきゃいけないほど、俺たちは弱いんだよ」

 

 キラが先程のことでナタルに詰め寄るがそれを止めるようにムウが割って入る。キラが納得するわけがなく、そのまま無言でブリッジを後にする。

 

「……マリューさん、確かに不利なのは分かります……ですが、僕も納得は出来ていませんから……」

 

 カナトも同じように一言だけ言うとブリッジを後にしベルセルクの所へと向かう。既に整備が始まっており、マードックに声をかけて手伝う。

 

「おい坊主、さっきのアレはなんだ?」

「……見てましたか?」

「ああ、俺の直感だと追加スラスターで無理やり機動力を上げたって感じだと思うんだか」

「……さすがですね、それプラスに制御用のOSを増やしたんですよ……」

 

 簡単に理論を説明するとマードックは納得するように頷いた。

 

「結構危ないことするな!」

「……使い所は見極めないといけませんからね……」

 

 カナトはそういいながら機体を労わるように整備を始めるのだった。

 

 一方で、今回のナタルやムウのやり方に不満を覚えたキラは客人かつ人質である、ラクスとミラの所にいた。

 

「キラ?どうなさったのですか?」

「……ラクスはさ、今の状況どう思う?」

「そうですね……幼馴染同士や、知っている人同士が戦うこんな世界……変えたいですわね……」

 

 どこか強い眼差しを感じさせるようなそんな瞳にキラは覚悟を決めてラクスの手を握った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 戦いの理由

 カナトは機体の整備が終わり、部屋に戻ろうとすると格納庫へ繋がる通路の途中で、キラとノーマルスーツを着た2人に遭遇した。

 

「あ、か、カナトさんおつかれさまです」

「キラか……どうしたんだ……こんなところで」

「え、えっと……」

 

 カナトに事情を聞かれただけでしどろもどろになるキラ。カナトは訝しんでノーマルスーツの2人の身元を確認しようとするが、バイザーが降りているせいか顔が確認出来ない。

 

「……キラ、その2人の身元を確認させてくれ……」

「…………」

 

 黙り込むキラにカナトは銃を抜き、もう一度言った。

 

「キラ」

「……だめです」

「……なに?」

 

 今度はカナトを睨みつけるようにキラが目を上げる。

 

「こんな所にいたら、ラクス達は利用されるだけなんです!」

「……だが、それはキラの考えだろう……艦長たちには許可を取ったのか……?」

「そ、それは……」

 

 すると、片方がバイザーを上げて素顔を晒した。その顔はカナトの幼馴染であるミラだった。

 

「カナト、ラクス様をザフトに返してくれない?」

「ミラ……気持ちは分かるが俺も……今は連合の兵士なんだ……」

「そうだよね……分かってたよ」

 

 するとミラはキラを羽交い締めにし、どこからか銃を抜いてキラのこめかみに突きつける。

 

「この子を殺されたくなかったら大人しくして」

「……ミラお前……!」

 

 だが、カナトは銃を下ろさずにミラへと向ける。するとその時、船が大きく揺れた。思わずつんのめるカナトに対し、ミラは分かっていたかのように体勢を立て直し、すぐにキラを人質にして格納庫へと向かった。慌てて、後ろを追いかけるカナト。

 

「ミラ……!お前は……!!」

「カナト、これはコーディネーターとナチュラルの戦争なの……!私はあなたを撃ちたくないのよ!」

 

 ミラはそう言いながらラクスとキラを連れてストライクのコックピットへと上がっていく。カナトも止めるべくベルセルクのコックピットへと上がる。

 

「……なんなんだよ……!ほんと……!」

 

 カナトは1人ボヤきながらベルセルクを起動させるがその時、ウインドウにマリューからの通信が入ってきた。

 

「カナトくん、悪いけど追撃は中止して」

「……艦長、それはどういうことですか……?」

 

 カナトは突然の命令に訝しみ睨みつけるようにウインドウを見る。するとマリューは睨み返すようにこちらを見る。

 

「私たちは、脱走したという名目でこの件を処理しようと考えているの」

「……そうやって、この状況から逃がすということ……ですか……」

 

 カナトは表情を変えずにぼそっと呟く。その呟きが聞こえたのかマリューは表示を顰めて目をそらす。

 

「……分かりました……」

 

 渋々と言った様子でカナトはベルセルクをスタンバイモードにしてコックピットから降りた。そして、何も言わずに自室へと戻るのだった。

 

□□□□□□

 

「……ごめんね?こんな手荒な真似をして」

「いえ、ミラさんの方こそ……良かったんですか?」

 

 ストライクをカタパルトへと進めながらキラは問いかける。それを受けたミラの表情も明るいものではなかった。

 

「キラ!絶対に帰ってこいよ……!」

 

 その時、ウインドウにトールの泣きそうな顔が映った。

 

「うん……!ありがとう、トール……!」

 

 キラは申し訳なさそうにしながら機体を動かし発進する。そして約束したポイントへと機体を到着させると赤い機体が既に待ち構えていた。

 

「約束通り来た、ハッチを開けて確認したい」

「……アスラン……」

 

 キラはハッチを開けて身を表すと遅れてイージスのコックピットも開いた。

 

「キラ……どうしてこんなことを?」

「僕は戦いたいわけじゃない……でも、こんなことをするほど卑怯者にはなりたくないんだ……!」

「ならお前も一緒にこい!そうすれば……!」

 

 だがキラは首を横に振った。

 

「でもあの船には……守りたい人が、友達が乗っているんだ」

「キラ……なら今度会う時は、お前を討つ!」

「僕もだよ……アスラン!」

 

 そして、ラクスとミラをコックピットの外に誘導するキラにラクスが振り向く。

 

「キラ、また会えますか?」

「うん多分また会えるよ」

「そうですか……待ってますね?」

 

 そして2人はイージスへと乗り移りキラとアスランは互いにハッチを閉じる。キラは一瞬だけ後ろを振り返るとそのままアークエンジェルへと帰還するのだった。

 

□□□□□□

 

 ストライクの信号を確認したアークエンジェルだったがそのブリッジの空気はどことなく重かった。何故ならば規則違反と称して処罰しようとする動きと、それを止める動きの両方があったからだ。

 

「ストライクまもなく着艦します」

「……ヤマト少尉をブリッジへと招集しろ」

 

 ナタルがメカニックへとそう指示し、緊張の空気が漂う。そしてストライクが無事に着艦しキラがブリッジへと現れた。

 

「ヤマト少尉、何故あんなことをした!」

 

 ナタルが開口一番に怒鳴るように声を大きくして言う。

 

「なら……ラクスたちを捕らえて自分たちを守るのが正しいことなんですか!」

「生きるためには仕方の無いことだろう!それとも貴様は死にたいのか!」

 

 そんな問答の中、カナトがブリッジに入ってきた。

 

「……なんの騒ぎですかこれ……」

「キラくんの処遇をどうするかの話し合いね」

「個人的には……処分するべきですが……それでパイロットが居なくなるのはまずいですね……」

「だがこのままでは増長するぞ!」

「だから……もしこれ以上酷くなったら……後ろから撃ちます」

 

 カナトのその言葉に全員が無言になった。

 

「それで……文句ありませんよね?」

「……そういうことにしましょう。今後も同じようなことがあればカナト君に後ろから撃ってもらうから」

「……はい、分かりました」

 

 こうしてひとまず捕虜の件はどうにか解決したが、どこかぎこちない空気が流れるのだった。

 

 そんなちょっとした揉め事があった後、カナトは自分の部屋に戻ってくつろいでいるとしばらくして部屋のドアがノックされた。

 

「……どうぞ」

「失礼します……」

 

 そこに入ってきたのはキラだった。カナトは少し訝しげな目を向けるもとりあえず椅子に座るように勧める。それに合わせて椅子に座ったキラだったが、なかなか口を開かない。

 

「用事は……?」

「えっと……カナトさんは、何の為に戦ってるんですか?」

 

 キラから発せられた問いに対しカナトは一瞬だけ考え込む素振りをみせる。

 

「……自分のためだな」

「そうなんですか?」

「ああ……俺が死なないで済むために戦ってるだけだ」

「そう……なんですね」

「だが、キラ……お前はお前の戦う理由を探せ」

 

 カナトはキラの目を見据えてそう言う。

 

「漫然と戦ってたら……いつの間にか飲み込まれる……だから理由を探せ」

「……はい、分かりました」

 

 そしてキラはカナトの部屋を出ていくのだった。キラを見送ったあと机に目を向け幼い時の写真を手に取る。

 

「……そう……戦うための理由……」

 

 カナトは少しばかり感傷に浸るのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 大気圏突入

 お久しぶりです、どうにもモチベーションが上がらなくて執筆スピードが遅いですが、それでも読んでくださってありがとうございます。
 稚拙な文ではありますが、どうぞ。


「なに?第八艦隊からの先遣隊……?」

 

 カナトがブリッジへと招集され伝えられた内容は第八艦隊から先遣隊が出てこちらに向かっているとの情報だった。おまけにその船の中にはアルスター外務次官が乗っているとのことらしい。

 

「どうやらキラ君の友達のフレイさんが心配で同乗したらしいのよ」

「……素人が……」

「ま、娘が心配になるのは分かるがな」

 

 カナトは舌打ちをするように吐き捨てるが直後のムウのフォローに顔を顰める。

 

「カナト、親は子供を心配するのは当たり前なんだ、そう敵意を向けなさんな」

「……失礼しました」

 

 カナトは素直に謝る。

 

「えっと……それで我々は先遣隊と合流することになるんだけど……」

「……何かあったんですか?」

「その先遣隊がザフトに掴まったらしい。既に戦闘が起きている」

「……厄介すぎませんかそれ」

 

 どうやら先遣隊からの信号により判明した事実なようだが、度重なる戦闘により燃料や弾薬に不安があり十分な援護が出来るかどうか不安なところみたいだ。

 

「行きましょう、友達の親を助けないと……!」

「坊主がやる気なのは分かるがな……」

「……人だけ助けるのならポッドを回収すればいいけど……」

「それが至難の業なんだよ」

「ひとまず、救援には行くのね?」

 

 マリューが3人にそう確認をとる。

 

「はい!」

「……それしかないですね……」

「やるっきゃねぇよな」

「分かりました、これよりアークエンジェルは先遣隊の救援に向かいます!全速前進!」

 

 アークエンジェルのエンジンを吹かし先遣隊の元へと向かう。一方、それぞれのパイロットが機体へと乗り込んで待機する。

 

「……キラ、友達を討つ覚悟は出来たか?」

「……はい……」

「……そんな覚悟じゃ守れない……俺がやってもいいぞ?」

「いえ、それは……」

 

 カナトの言葉に返事が曖昧になるキラ。

 

「……まぁいい、死なない程度にがんばれよ……」

『戦闘宙域に到達!ベルセルク、発進どうぞ!』

「了解……カナト・サエキ、ベルセルク発進する……!」

 

 シートに押し付けられるGに耐えながらカタパルトから発進し、スラスターを吹かす。

 

「……かなり……ひどいな……!」

 

 既に戦艦が2隻落とされており、残りは1隻だけとなっていた。全速力でアークエンジェルの方へ向かっているようだがその後ろからバスターとデュエルが狙っていた。

 

「やらせはしない……!」

 

 カナトは近くにあったデブリを蹴ってバスターの方へと飛ばす。そしてその射線上に機体を滑らせてメイスを機体の正面に持ってくる。その直後、デブリを突き抜けてきたビームがメイスへと命中した。

 

「……まず一機……」

 

 そしてバスターを止めるためにスラスターを吹かして距離を縮める。

 

「またこいつかよ!今度こそは落とす!」

「ディアッカ!連携だ!」

「OK!」

 

 カナトを止めるためにデュエルがベルセルクに踊りかかり、その後ろから隙間を縫うようにバスターが攻撃を仕掛ける。

 

「おっと……」

 

 バスターの射撃を躱すと、メイスを振りかぶってデュエルへと振るう。

 

「同じ手は2度も食わん!」

「……ちっ」

 

 そのメイスを受けることなく1度後ろへと下がったデュエルは肩についたレールガンをベルセルクに向けて放つ。その射線を見切ったカナトは肩を掠らせるように受け流してデュエルの懐へと飛び込む。

 

「ちぃっ!!」

「この距離なら……!」

 

 デュエルがビームサーベルを抜いてメイスと切り結ぼうとする。だが、メイスの方が重くもあり切り結ばれた表面では火花が散っていた。

 

「……押し切る」

「くっ!このっ!」

 

 メイスを叩きつけるために操縦桿を押し込んでいくがそれより先に攻撃を示すアラートが鳴る。メイスを手放し、すぐに後退すると一瞬遅れてビームが左からさっきまでいた場所を通り過ぎて行った。

 

「ニコルか!」

「あの機体は……僕達3人で止めましょう!」

「……3機はさすがに面倒だな……」

 

 レールガンを右腕に構えてまずはブリッツをねらうが敵も下手ではなく見切られてよけられる始末である。だが、メイスを回収する余裕は生まれ、背中にメイスを格納する。

 

「ディアッカ!」

「行けるぜ!」

 

 遠距離からバスターのミサイルとビームが襲いかかり、ベルセルクはその攻撃をデブリの中に入ってやり過ごす。

 

「ここは僕の距離です!」

「ミラージュコロイド……っ!」

 

 隠れた先にはブリッツが待ち構えており、咄嗟に機体を滑らせて至近距離からレールガンをぶち込もうとするが、横合いからデュエルのグレネードが迫る。

 

「……厄介だな」

 

 ブリッツとも、距離を開けるが既にブリッツの居場所が分からなくなっていた。そしてデュエルが正面からビームサーベルで切りかかってくる。

 

「……っ!」

 

 機体を右へと滑らせると予想通りバスターの砲撃が迫ってきていた。カナトはあえてその攻撃をメイスで受け止め、その合間に何も無い空間にマニュピレーターを突き出す。

 

「なっ!?」

 

 そこにはブリッツが居て咄嗟にPS装甲を展開させマニュピレーターの攻撃を受け止めた。

 

「動揺は……隙なんだよ……っ」

 

 マニュピレーターを軸にして縦に回転し踵落としをブリッツへと食らわせる。下方へと飛んでいくブリッツを尻目に今度はデュエルへと踊りかかる。

 

「貴様っ!!」

「……戦いはクールにだ……」

 

 熱がこもったデュエルの攻撃をいなし、レールガンの砲身を横薙ぎに振るう。その攻撃を予想していなかったデュエルの動きが一瞬だけ止まり、その胴体にレールガンをぶち込んだ。

 

「イザーク!てめぇ……!」

「遠距離型は……大人しくしとけよ……」

 

 バスターが距離を詰めながらビームとガンランチャーを放つが弾幕の隙間を縫うように距離を詰め、貫手で胸部に叩きつける。システムが異常をきたしたのか一撃でPS装甲が落ちた。

 

「……これ以上追撃を許す訳には……」

 

 その時後方で大きな爆発が起きた。

 

「……味方の船がやられたのか……」

 

 カナトはトドメをさすことなくアークエンジェルの方へと全速力で向かうのだった。

 

 向かった先では既にドレイク級の船が1隻沈んでおり、生き残りもエンジン部がほとんど止まっていた。その一方でイージスとストライクの戦いは続いていた。

 

「ちっ……」

「坊主!ジンの相手は任せた!」

「フラガ大尉……?」

「俺はあっちの援護にいく!」

 

 そしてメビウス・ゼロはストライクの支援へと向かう。カナトはレールガンでジンを次々と屠っていく。

 

「……ちっ、こんなことをして……」

 

 艦隊に攻撃していたジンを全て撃墜したはいいものの生き残りの船も全て沈んでしまった。

 

「くそ……弾切れ……!」

 

 レールガンの残弾が無くなったもののひとまずこの周囲に敵はいないようだ。だが、キラのストライクと敵のイージスとの戦いはまだ続いていた。

 

「アークエンジェル、1度帰投する」

「了解したわ!整備班!ベルセルクの弾薬準備!」

 

 通信越しにマリューが指示するのが聞こえ、カナトはベルセルクを艦へと戻すように動かした。

 

 難なくアークエンジェルに着艦するも、想像以上に地球への高度が近づいており、再び出撃して戦うのは困難な状況になってしまった。

 

「くそっ!ここまでが限界か!」

 

 ムウのメビウス・ゼロも高度限界が近づいてきたため、アークエンジェルに着艦するがストライクは未だに戦闘中だった。

 

 

「キラ戻れ!それ以上戦っていれば、船に帰って来れなくなるぞ!」

「ちっ……!」

 

 そんな光景を見届けるしか出来ないカナトはやむなくブリッジに行き、船ごとストライクに近づけるように上申しようとした。既にマリューも同じ判断をしたようで、アラスカへの降下ルートを逸れて、ストライクの回収を試みることにした。

 

「キラ……!いい加減にしろ!」

 

 どうにか、機体に近づきはするも、完全に帰還不能高度へと達してしまい、アークエンジェルは大気圏突入シークエンスを開始する。

 

 キラのストライクもようやくそれに気づいたのかどうにか、機体の姿勢をしっかりと安定させて大気圏に突入する。

 

 大気との摩擦熱で、船体が揺れて不安にかられる若い隊員が何人か情けない声を出すが、カナトは無言で大気圏への突入を眺めていた。

 

「艦長、ストライクの回収のために出撃してもよろしいでしょうか?」

「分かったわ、と言いたいところなんだけど地上に降り立つまで待ってくれないかしら?こっちとしても貴方までも出撃してもらうと困るのよ」

 

 そう言いながらマリューの起動した地図を見ると、降下予定ポイントは明らかにザフトの勢力圏であるアフリカだった。

 

「なるほど……これは確かに……」

「そういうことだから、降下したら速やかにストライクの回収と、周囲の索敵をお願いね?」

 

 そうしてしばらくたち、どうにかアークエンジェルは砂漠地帯に降下したのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 熱砂の歓迎

 アークエンジェルが、先遣隊と合流するもザフトの猛攻にあい、予定ポイントとは全くちがうアフリカ砂漠に突入して半日、周囲はすっかり暗くなり空には満点の星空が輝いていた。

 

「しかしそれにしても派手にいったな」

「……それだけ激しい戦いだったということよね」

 

 格納庫の中では、整備主任のマードックと艦長であるマリューが並んで格納したストライクを眺めていた。大気圏突入という無理なことをしたはずだが、装甲が焦げ付いただけで、動力系統や制御系統には特に異常はみられない。

 

 だが、中にいたパイロットはさすがに無傷とはいかず、高熱を出してしばらくは療養が必要らしい。

 

「その間は、悪いけどカナトくん1人で戦ってもらうことになるわ?」

「……分かっています……」

 

 ストライクの武装パーツの調整をしながらマリューの言葉に返事をするカナト。第八艦隊と合流した際には僅かながら、追加の武装を貰っていたのだった。

 

「ひとまずは、地上でも何とか戦えるレベル……ということかしらね?」

「しかしそれにしても、連合本部もこれしか寄越してくれないとはな」

 

 第八艦隊からの物資は『スカイグラスパー』が2機とストライカーパックの補充、そして、試作段階だった『I.W.S.P』と呼ばれる複合ストライカーパックだった。

 

「……ベルセルクもストライカーパックは付けられるので……ありがたいと言えばありがたいですが……」

 

 飛行能力のないベルセルクが地上戦をするとなると機動力の低下は免れないが、この支援は非常に有難かった。

 

「だがよ、お前さんのそのメイスを装備するとなると飛べるのか?」

「……理論上は」

「お前さんがそんなこと言うの珍しいな」

「とりあえず……やってみなければ分かりませんよ……」

 

 そう言いながらカナトはベルセルクへ『I.W.S.P』を装着させる作業へと移った。

 

 

「まさかこんなに大物と出会えるとはね」

 

 遠くから双眼鏡でアークエンジェルを覗きながらコーヒーを飲む男の姿があった。

 

「隊長、準備できましたよ?」

「そうかそうか、それなら……みんなでちょっかいをかけにいこうじゃないか?」

 

 そう言うとその男はコーヒーを一気に飲み干すと、モビルスーツへと乗り込んだのだった。

 

 

 そんなことはまるで知らず、カナトはなんとか作業を終えると休憩するために1度コックピットから降りた。その時にちょうど、ムウが格納庫へとやってきたのだった。

 

「それにしても、なんとかやりくりしてるって言う感じだよなぁ」

「……まぁそうですね……」

「それに今はキラも倒れて……これで敵が来たらてんやわんやだろうな」

「……その時は……何とかしますよ」

 

 するとその時、アークエンジェル内に警報が鳴り響いた。そのアラートに反応するとすぐさまコックピットへと飛びこむ。

 

『コンディションレッド発令!コンディションレッド発令!』

 

「坊主!」

「分かっています……!」

 

 カナトはベルセルクをカタパルトへ動かすと固定させていつでも出撃できるように待機させる。

 

「カナトくん、敵はバクゥよ?大丈夫?」

「……初めての地上戦ですが……やってみます」

「分かったわ、ベルセルクガンダム発進して」

「了解……カナト・サガラ、ベルセルク……出ます」

 

 Gを感じながらアークエンジェルを飛び出せば砂地へと着地をするも、砂の流れに足を取られて上手く動くことが出来ない。

 

「くそ……設置圧が逃げてるのか……っ!」

 

 あいにく、この場でOSを書き換えるのは不可能だと判断して空中戦に切り替えることにする。そして、空へと浮かび上がろうとするも、やはりメイスが重いのか完璧に空を飛ぶのは困難だった。

 

「すぐそばまで敵が来てるわ!対処して!」

「了解……っ!」

 

 ホバーをする要領で滑りながら敵のバクゥを捉える。一方でそのバクゥ達もベルセルクとアークエンジェルを狙う隊と半分半分にわかれた。

 

「まずいな……」

 

 こちらに迫るバクゥは6機。どれも背中にはキャノンのようなものを付けているタイプだった。カナトは機体に狙いを付けさせないように常に動かしながら、新たに装備したシールドガトリング砲で牽制をする。

 

 その新兵器を危険と判断した敵の部隊は各個に散開し取り囲むように動いて的を絞らせないように立ち回った。それを追いかけるように、ベルセルクもホバー移動のように追いかける。

 

「くっ……やはり敵の方に地の利がある……」

 

 バクゥをロックオンしてガトリング砲を撃つが舞う砂埃のせいか照準が合わずになかなか当たらない。いっそのこと、牽制に使った方がマシだと判断すると、後ろから追いすがるように距離を詰める。

 

 その動きに合わせて残りの機体がベルセルクの背後をとるように隊列を組んで、それぞれ攻撃を仕掛けてくる。機体を掠めるようなレールキャノンに僅かに機体を動かしてスレスレで回避しながら、最初から狙いをつけていたバクゥのインレンジに入る。

 

「もらった……!」

 

 背中のスラスターの出力を上げて一瞬だけ、空へと舞い上がると右肩に装備したメイスを抜いて振り下ろす。突如舞い上がったベルセルクに驚いたのか、一瞬の判断ミスを起こしたバクゥはそのまま無残にコックピット部分をペシャンコに潰されてしまった。

 

 その戦い方に一瞬だけ動きの止まるバクゥ隊。それを正面に捉えるように機体を振り向かせれば、ホバー移動で次の敵へと移動する。

 

 さすがにメイスを食らうと一撃なことを理解した敵はさらに距離をあけて、牽制しつつ背中のレールキャノンでちまちまと攻撃してくる。

 

「そっちだけが……有利だと思うなよ……っ!」

 

 ターゲットスコープで軸のあったバクゥをロックするとガトリング砲ではなく、I.W.S.Pに付属しているレールガンを放った。音速を越える弾丸はすぐにバクゥの胴体を撃ち抜き爆発させたのだった。

 

「次は……っ!」

 

 2機もやられたバクゥ隊はこちらへと牽制をしながら後退をしていき、カナトはアークエンジェルの方へと援護に行くのだった。アークエンジェルの方へ行くと、ストライクがランチャーパックを装備してバクゥ隊を翻弄していた。

 

「おいおい……ストライクは地上専用じゃないんだが……」

 

 まるで砂地に適応したかのようにしっかりと踏みしめながら腰だめにアグニを撃ち、また一機のバクゥを爆散させた。

 

 アークエンジェルを襲撃していた連中も撤退を始めたようだ。それを追いかけようとするキラを慌ててカナトは止める。

 

「やめとけ……今行くとパワー切れを起こすぞ……」

「……了解」

 

 こうして、地上戦の初陣を圧倒的勝利で納めたアークエンジェル隊であったが、その結果がここから先の戦闘をより苛烈にすることを彼らはまだ知らなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 レジスタンス

なかなか描きたい描写がかけないの辛い。


 アークエンジェルへと帰還したカナトはすぐさまI.W.S.Pの整備へと入った。その様子を見ていたマードックも手伝うように機材の調整を行う。

 

「帰還して早々にどうしたんだよ、坊主!」

「……メイスを持ったまま飛べないとなると……恐らくスラスター部分に負担がかなりかかってると思いまして……」

 

 そう言いながら、スラスターの所を見てみると確かに部品の損耗がかなり酷く、壊れてもおかしくない状況になっていた。

 

「こりゃ……なかなかに厳しいな」

「メイスを外して出撃するか……これを使わないかの……2択ですね」

 

 ひとまずはいつでも使えるように部品を交換するようにお願いすると、ブリッジへと向かう。その途中でキラと会ったが、この前までとはどことなく雰囲気が変わっているようで、何となく声がかけづらくスルーする。

 

 ブリッジへとたどり着くとナタルとマリューがまた喧嘩したようで空気が悪くなっていた。

 

「遅くなって申し訳ありません……」

「貴様の遅刻癖は何とかならんのか!」

「……すみません」

 

 ナタルに頭ごなしに怒鳴られてムッとした表情を浮かべるカナトだったが、怒ってもしょうがないと判断したのかすぐに頭を下げて謝る。それを見てマリューは苦虫を噛み潰したよう顔をうかべる。

 

「とりあえず、敵の撃退には成功したけど……残念なことに敵は『砂漠の虎』と呼ばれる『アンドリュー・バルトフェルド』の部隊だと思われるわ」

「……砂漠の虎……」

 

 砂漠の虎といえば連合でも有名なザフトのエースパイロットのひとりだ。

 

「いくら初戦で勝てたとはいえ……恐らく敵は次から本気でかかってくるはずだわ」

「ちょっと流石にやりすぎちまったか?」

 

 ムウがおどけたように言うものの漂う空気を感じ取ったのか、おちゃらけた表情から真面目な表情へと切り替えた。

 

「こっちの戦力としては、ストライクとベルセルクにスカイグラスパーが2機、パイロットは3人となると……戦力不足は否めないよな」

「……これだけの戦力でアラスカまで自分たちで行けと言うのは、酷な任務よね」

 

 ろくな支援も与えられぬままアフリカからアラスカまでの逃避行ははっきり言って厳しいものがある。

 

「一応ルートとしては遠回りではあるけど、比較的安全なインド洋ルートか、ジブラルタルを突破して大西洋ルートで最短距離を行くか……」

 

 難攻不落と呼ばれたジブラルタル基地を突破するのは現実的な選択肢ではないということで必然的にインド洋ルートを取る事にはなし崩し的に決定するのだった。

 

「とりあえず、本艦は移動してどこかに身を隠しつつ物資の補給をしたいわね」

「それならば、この近くの街で情報収集も兼ねるのはいかがでしょうか?」

「副長の案に賛成だ、せっかくの地上だし楽しめる時には楽しまないとな!」

「……フラガ少佐は……それが目的なんじゃないですか……?」

 

 何はともあれひとまずは目的地が決まり、地図データから近辺の街を探すとそちらへ向けてアークエンジェルを移動させるのだった。

 

 それから2日後、敵の目を欺くように移動したアークエンジェルは絶好の岩場に巨大な船体を隠すことに成功した。もっとも、そこは『明けの砂漠』と呼ばれるレジスタンスの前線基地のようで一悶着は起こってしまったが。

 

「……それで結局……レジスタンスとは共同戦線を張るわけですね……」

「ま、現地人の協力は重要だしな。それに……敵の敵はってよく言うだろう?」

 

 格納庫でフラガ少佐とカナトが話しながら機体の調整を行っていた。

 

「それにしても……キラの知り合いがレジスタンスにいるのは……予想外でしたね」

「いきなり平手打ちされた時は驚いたがね」

 

 ストライクから降りたキラに金髪の女の子が近づいてビンタした時は周りの時が止まったようだった。

 

「確か、カガリとかいった金髪の子と2人して街に出て一体何をしているのやら」

「まぁ……キラはあの……赤髪の子と付き合ってるみたいですけどね」

 

 カナトが食堂に行った時に2人で並んで座って仲睦まじく食事をしていたのを見て確信したようだ。

 

「やれやれ、若いっていいねぇ……俺もあやかりたいよ」

「フラガ少佐だって……女の人にモテるじゃないですか」

「かく言う坊主も、ザフトに幼なじみがいるんじゃなかったか?」

「……まぁ……」

 

 ムウにそういう風に言われたカナトは遠い目をしながらミラが何をしているのかに思いを馳せた。と、その時、ブリッジからフラガ少佐とカナトに対して呼び出しがかかった。2人とも何があったのかという顔を浮かべると、すぐにブリッジへと向かった。

 

 ブリッジへ入った2人を待っていたのは、頭を抱えたマリューと激高寸前のナタルの2人だった。

 

「どうやら、レジスタンスに対して、砂漠の虎が攻撃を始めたらしいのよ。それに耐えきれずにレジスタンスが飛び出して言ったのだけど……」

「……無茶苦茶ですね……」

「とりあえず、ストライクは先行させたけどね」

「……分かりました、では自分も……出撃します」

「悪いけど、お願いね」

 

 そう言うとカナトはベルセルクのコックピットに乗ると、メイスを今回は外して、I.W.S.Pに付属している9.1メートル対艦刀を代わりに装備して出撃する。

 

 バックパックの出力のおかげもあり、空を飛ぶのは容易だったが、機体のバランスが若干悪いのか、それなりに傾いてしまってはいるが、現場へと急行するには十分だった。

 

 到着すると既にレジスタンスの車両部隊はほとんど壊滅しており、キラのストライクとバクゥ隊が戦っているようだった。

 

「援護する……!」

 

 カナトは、上空からガトリング砲でバクゥ隊を牽制しながら、フォーメーションの間へと割り込む。奇襲に一瞬動揺が走ったのを見逃さずに、手近にいたバクゥへ肉薄すると、2振りの対艦刀ですれ違いざまに脚と背中のレールキャノンを切り裂いて戦闘不能にさせる。

 

 その一方でキラも隊長機を相手に凄まじい戦いをしていた。フォーメーションの仕切り直しを見切ると、なんとシールドを投げつけて視界を奪い、隊長機ではない敵機に肉薄すると容赦なく、ビームサーベルでコックピットを潰す。

 

 被害の大きさにバルドフェルド隊は見切りをつけてすぐに退却しだした。それを追うようにキラがストライクを飛ばそうとするが、カナトが引き止めて近くの基地に撤退するのだった。

 

 基地にたどり着き、ベルセルクから降りるとそこには悲しみに打ちひしがれたレジスタンスたちの姿があった。その中にはカガリもいる。

 

「……何やってるんですか」

「私たちは……!必死に戦った、それなのに……!どうして……!」

「それは、あんたらが……暴走した結果だろ」

 

 カガリが涙を流しながらキラに詰め寄ったのを見ながらカナトが冷たい言葉を浴びせる。

 

「お前らは……向こうにとってはなんとも思われてないんだよ……」

「それに、気持ちだけで一体何が守れるっていうんだ……!!」

 

 詰め寄られたキラもかなり頭にきていたのか普段からは想像できないような声を出して、詰め寄ってきたカガリの手を振り払うのだった。

 

 その後『明けの砂漠』は解体の方向へと進み、アークエンジェル隊は砂漠の虎を突破して、インド洋へと進むルートを決めるのだった。翌日、インド洋からアラスカまではほとんど補給することが出来ないため、何人かのクルーで食料品や水などを買うために近隣の街へと出ていた。

 

「……まさか、俺も……行くとは」

 

 カナトは1人、メモを片手に街をさまよっていた。カナトのメモに書いてあるものはおおよそ、スラム街で調達できることに成功するような若干非合法なものを調達していたのだった。

 

「……おおよそ、これでよしっと……」

 

 買い物を終えて大通りに出ると、次の瞬間何かのフードショップで銃撃戦が始まり、カナトは素早く物陰に隠れる。ちょうど、敵の後背を突くような位置に居たが、動くよりも先に黒服の一団が瞬く間に制圧したのだった。

 

(動きを見るに軍人だ……ということは、バルトフェルド隊の連中か)

 

 そう思いしばらく観察していると、キラとあのカガリがどこかへと連行されるのが見えた。すぐさま、電話で連絡しようとするが、それよりも先に後ろに気配を感じて振り向く。

 

「悪いけど、連絡を取らせるわけには行かないのよね」

「……ちっ」

「貴方も来てもらうわ?」

 

 そこに居たのは、銃口を向ける何人かの男と、絶世の美女だった。カナトは抵抗することも無く渋々と受け入れてどこかへと連れ去られるのだった。

 

□□□□□□

 

「……一体どこに連れていくんですか?」

「せっかくだからね、君たちともっと語り合いたいと思ってね」

 

 キラとカガリはバルトフェルドの乗る車に乗せられてどこかへと運ばれていた。隣には常に敵意の籠った目でバルドフェルドを見るカガリの姿があった。

 

「少なくても今日は君たちと殺しあいをするつもりは無いさ、まぁ……君たちの行動しだいでは保証はしないがね」

「そうですか……」

「おやおや、適応力が高いようで」

 

 バルトフェルドはニヤニヤと笑みを浮かべながら上機嫌で車を運転しながら他愛のない話を振るのだった。

 

「なんでお前は私たちが敵だって分かったんだ?」

 

 カガリは抱いていた疑問を素直にぶつける。するとバルトフェルドは笑い声を上げながらシンプルな理由を答えた。

 

「ははっ、それは至極単純な理由さ、見慣れない人物がいた、それだけで十分だろ?」

「……確かにそうですね」

 

 その理由にキラも充分納得するのだった。そしてたどり着いたのはとある豪邸でキラもカガリも空いた口が塞がらないのだった。固まっている2人を案内するように中へと推し進めていく。

 

「やぁ!アイシャ、もう1人の方も連れてきてくれたかい?」

「ええ、もちろんよ?」

「……なるほど、こういうことか……」

 

 そこに居たのはアイシャと呼ばれた美女と、苦虫を噛み潰したような顔をしたカナトだった。

 

「改めて自己紹介をしよう、僕が砂漠の虎こと、アンドリュー・バルトフェルドだ。そしてこっちが僕の愛人のアイシャだ」

「はーい、アイシャよ?よろしくね」

「アイシャ、ひとまずこっちの女の子を着替えさせてくれ、ソースを浴びて大変なことになってる」

「ケバブね?わかったわ」

 

 そんな会話をするとカガリはアイシャへと連れ去られて奥の扉へと案内されるのだった。

 

「男性陣は、僕とお話でもしようじゃないか?」

 

 そう言いながら男性陣はソファーへと腰掛けるのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 砂塵が晴れたなら


 まさかのいつもの倍の分量になるとは……読みにくいかもしれませんが、どうぞお楽しみください。


「単刀直入に言おう、君たち2人はこの戦争をどう思うかね?」

 

 バルトフェルドはコーヒーをカナトとキラに出しながら真剣な表情を浮かべて問いかけてくる。その質問にキラは考え込むような表情を浮かべた一方で、カナトはすぐに答えるために口を開いた。

 

「ナチュラルとコーディネーター……互いの利権戦争……だな」

「ほう……さすがは、『冷静な狼』と呼ばれるだけのことはある」

「……もしかして、俺の事か……?」

「うむ、君の戦闘スタイルが猛々しくも的確だからザフト内でそう呼ばれてるよ」

「……そう……か」

 

 いつの間にか2つ名が付けられてることに微妙な表情を浮かべるカナト、それを尻目にキラは考えをまとめたようで口を開いた。

 

「えっと……お互いが大切なものを……奪い合うものですか?」

「ふむ、君の言うことも正しいよ、『狂戦士(バーサーカー)』君」

「バーサーカー……?狂戦士……?」

「君の戦い方はまるで狂人のように猛々しかったからね」

「そう……ですか……」

 

 カナトは隣でそんなことを聞きながら、機体名と2つ名の皮肉に苦笑いを浮かべていた。

 

「戦争って言うのは明確な終わりやルールなんてないんだ。だが、敵であるもの全てを滅ぼして……それで終わるとは思うかね?」

「…………」

「……なんともいえないな」

 

 バルトフェルドの言葉にカナトもキラも明確な答えを出すことは出来なかった。そんな二人を見ながらバルトフェルドはコーヒーを呷る。

 

「まぁ難しい話はさておいて、そろそろ君たちのお姫様が着替えが終わる頃じゃないか?」

 

 そういったのと同じタイミングで扉が開きそこから出てきたのはアイシャと見間違える程にドレスの似合うカガリだった。

 

「女の……子?」

「なんで疑問形なんだ!お前は!」

 

 疑うような言い方をしたキラに詰め寄るカガリの姿をみて、カナトは見た目だけ変わっても中身は変わらないのかと思ったのだった。

 

「では、主役が3人揃ったところで改めてお話をしよう。君たちにはこの戦争を終わらせたいという意思はあるかね?」

「俺はある……」

「カナトさん?」

「俺は……こんなふざけた戦争を……終わらせる」

「そうか、それは……敵として立ち塞がるもの全てを滅ぼしてかね?」

 

 その問いかけにカナトは目を背けることも無くただ、バルトフェルドを見ていた。その視線を受け止めるように真剣な視線を浮かべて迎え撃つ。数秒の睨み合いを終えると、バルトフェルドはまたコーヒーを呷る。

 

「……狼はそれだけの覚悟を持っているというわけか……2人はどう思ってるのかね?」

「僕は……正直わかりません。ですが……守りたい人、友達を守りたい……」

「私も戦争は終わらせたい!でも……どうしていいか分からなくて……」

 

 キラとカガリはまだ迷いがあり、戦争を終わらせるための目的がハッキリと決めかねていたのだった。

 

「君たち3人との語り合い、とても有意義だったよ。次に会うときは……君たちを本気で止めるからね」

「わかりました……僕達も……全力で突破しますから」

「……絶対に……撃つ……」

 

 こうして、カナト達とバルトフェルドの邂逅は終わったのだった。3人を送り出すと、最後のコーヒーを呷り、深々とため息をついたのだった。

 

「……辛いわね」

「ああ……けれども狼……カナトくんとか言ったな、あれは危険だな」

「そうね……かなり危険な思想ね」

「それか、コーディネーターに身内でも殺されたか」

 

 カナトのことを分析しながらコーヒーを飲もうとするがカップの中はすっかり空になっており、それに気づいたアイシャがコーヒーを持ってくるのだった。

 

 しばらくして3人がアークエンジェルに戻ってくると3人ともマリューとナタルから詰問されて、終わる頃にはぐったりするのだった。

 

「よっ、坊主!なんでも……砂漠の虎と会ったんだって?」

「そうですね……」

 

 疲れて部屋に戻る途中だったカナトはムウとばったり会った。

 

「……こってり絞られましたよ」

「そうかそうか、でもな……そんな敵のことは忘れた方がいいぜ?」

「……そうですよね……」

「ああ、知っているやつが敵になるほどやりづらいことは無いぜ」

「……肝に銘じておきます……」

 

 そして、やっとの事で部屋に戻ったカナトはベッドに横になると立てかけてある写真をみてから、眠りへと落ちるのだった。

 

□□□□□□

 

「やれやれ……バクゥの補給だけかと思えば……こんな事になるとはねぇ」

 

 カナトたちと別れた翌日、バルトフェルド隊の元には先日破壊されたバクゥの補充として、バクゥが12機とクルーゼ隊からデュエルとバスターとザウートが4機と空戦用とされるディンが1機届いていたが普通のディンとは些か異なっていた。

 

「……地上戦の経験のない素人を連れてこられてもだねぇ」

 

 バルトフェルドがブレンドの違うコーヒーを飲みながらぼそっと呟く。その一方で、デュエルのパイロットであるイザークはコックピットを開けて外に出るとあまりにも強い日差しと砂埃にイライラしているようだった。

 

「ようこそ、砂漠へ。君たちが増援なのは驚いたが……足でまといにはならないようによろしく頼むよ」

「フンっ!足つきとの戦いの経験なら、俺らの方が上だがな」

「負けの経験……でしょ?」

「何ぃ……!」

「よせよ、イザーク!すみません、こいつにはあとから言っておきますから」

 

 そう言ってイザークを諌めたディアッカだったが、小さな声で、独断でストライクに、攻撃を仕掛ける魂胆のようだった。そんな独断専行をしようとする2人にバルトフェルドは心のうちでため息をつくのだった。

 

「それで……君も彼らみたいな口かね?」

「いいえ、私はバルトフェルド隊長に従うまでです」

 

 ディンに乗る予定のパイロットはしっかりと命令にしたがうことを約束する。

 

「それなら君は当てにさせてもらおうかねぇ、ところで名前はなんだい?」

「私の名前は……『セリーヌ・ガロン』です」

「よろしくな、セリーヌ」

 

 こうして、アークエンジェルを迎え撃つザフト側の戦力は揃うのだった。

 

□□□□□□

 

 3日後、補給を終えたアークエンジェルはインド洋に向けて移動を開始するのだった。

 

「……それで、なんであんた達が……ここに?」

 

 カナトがブリッジでそう声を出した理由は、レジスタンスのはずだったカガリとキサカという大男が当たり前のように居たからだった。

 

「私も、お前たちの行く末が見たくなったからな!」

「……この船、連合の本部に……行くんだが……」

「何はともあれ、よろしくね?カガリ」

「キラの……適応力の高さ……すごいな」

 

 そんな感じでいたブリッジだったが、砂丘の奥に潜むバルトフェルドの部隊を捕捉すると一気に空気が張り詰める。

 

「コンディションレッド発令!パイロットはモビルスーツにて待機!」

「オールウェポンズフリー!イーゲルシュテルン、バリアント起動!ミサイルはウォンバットを装填!」

「艦長!ミサイル来ますっ!」

「回避ッ!面舵10!」

 

 そしてここに正念場である、砂漠の虎との決戦が始まる。カナトとキラはそれぞれのモビルスーツで待機して、ムウもスカイグラスパーに乗り込む。

 

 今回はベルセルクにI.W.S.Pを装備させ、対艦刀の代わりにメイスを腰背部に装着し、右手と左手にはそれぞれ、カラドボルグとガトリングシールドを装備する。

 

「いいか坊主、今回の目的はアークエンジェルがインド洋へ突破するのを援護することだからな」

「了解しました……」

「僕は……」

「キラ!落ち着け、無理に敵は倒さなくてもいい。けどな、やらなきゃこっちがやられるんだ、それを忘れないでくれ」

「……はい」

 

 とその時、ミリアリアからカタパルトへの誘導アナウンスが入る。

 

『ベルセルク、進路クリア!システムオールグリーン!発進どうぞ!』

「……カナト・サガラ、ベルセルク……出撃する……!」

 

 カタパルトからベルセルクが射出され、続いてキラのストライク、ムウのランチャーストライカーを装備したスカイグラスパーが出撃する。

 

「俺は敵の母艦に強襲をかける!カナトはアークエンジェルの防御戦闘、キラは遊撃で対処だ!」

「了解……!」

「わかりました!」

 

 ムウの指揮でそれぞれが指示された持ち場へと展開する。カナトはI.W.S.Pの出力でホバー移動しながら敵が現れるのを待つ。

 

「……来た」

 

 アークエンジェルを下から攻撃しようとする敵が砂丘の影から出てくる。その数はバクゥが6機というなかなかの数だった。

 

「ここは通さない……」

 

 隊列を組むバクゥに対してガトリング砲で牽制をしつつ距離を詰める。その姿を受けてバクゥ隊の動きが鈍くなり、その隙をみて肩のレールガンでバクゥに射撃する。

 

 直撃したバクゥは呆気なく爆発し、残りは5機。カナトは特に危なげもなく敵を牽制し、接近していく。

 

「ば、化け物……!」

「あんたらに……化け物と呼ばれる筋合いはない……!」

 

 躊躇いもなく、接近していくとガトリング砲で脚部を吹き飛ばし、カラドボルグを肩にかけ、メイスを振りかぶって叩きつけてバクゥを潰した。メイスを叩きつけて足の止まった、ベルセルクに対して、2機のバクゥがフォーメーションを組んで襲いかかってくる。

 

 だが、カナトは慌てることも無く先頭のバクゥに向けてメイスを持ち直して、振りかぶり叩きつける。もちろんそのような見え見えな攻撃が当たるほど間抜けなわけはなく、易々と避けるが、次の瞬間、その考えは間違っていたことを痛感させられる。

 

 2機目のバクゥはメイスに当たるわけなくそのまま直進するが、パイロットの目に入ったのは地面に刺さったメイスとカラドボルグを構えて、バクゥに向けているベルセルクの姿だった。

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

 避ける間もなくカラドボルグの弾丸がコックピットを貫き爆散する。その動きを見て硬直したもう1機に向けて、ガトリング砲を向ければ蜂の巣にして撃墜する。

 

「残り……2機」

「あ、悪魔だ……!!」

 

 完全に戦意を喪失した2機はベルセルクを無視して、アークエンジェルの方へと攻撃を仕掛けようとするがそれを易々と許すわけもなく、後ろから猛追すれば、カラドボルグで正確に脚部のキャタピラを吹き飛ばす。

 

 2機とも機動力を奪われればその場に倒れ込み、躊躇なくコックピットを潰すのだった。ひとまず、6機倒したということで再びアークエンジェルの防御に付こうとするが、その時凄まじいスピードで接近する機体が見えた。

 

「……なんだあの機体」

 

 接近するのは薄い水色で塗られたディンだった。セリーヌのその機体は手に持った突撃銃をベルセルクに向けると正確な射撃で機体に命中させる。

 

「ちっ……なんなんだ……!」

「噂の狼もその程度なのかしらっ!」

 

 カナトは射線から逃れるように機体を滑らせるがそれでも捉えられていた。負けじとガトリング砲でディンを狙うが、その高機動に追いつけずにいた。

 

「くっ……メイスを置くしかないか……!」

 

 相手と同じ土俵に立つために、メイスを捨てると空へと舞い上がり追うようにI.W.S.Pのスラスターを吹かせる。

 

「舞い上がったところで、私には追いつけない!」

「やるしかない……!」

 

 高速機動をするディンを捉えるために必死で追いすがるがなかなか照準でロックできずに攻撃もままならなかった。

 

「このままだと……アークエンジェルと離されてしまうか……」

 

 これ以上追いかけるとアークエンジェルの防御が手薄になると判断して、カナトが機体を反転させて下がらせようとしたその時、ディンがくるっと振り向いて左手のライフルをこちらへと向ける。

 

 その攻撃に嫌な予感がしたカナトは機体を滑らせて射線から逃れようとするが寸での所で間に合わずI.W.S.Pに着弾する。その弾丸は大口径だったのか衝撃が凄まじく、I.W.S.Pが大破してしまった。

 

「しまった……!推力が……っ!」

 

 制御不能になったベルセルクが砂漠の中へと墜落してしまうのだった。

 

 カナトがディンと追いかけっこをしている中、アークエンジェルはついにレセップスを捉えた。

 

「ゴッドフリート照準、撃てぇ!」

 

 砂丘の影から出てきたレセップスに対して砲撃をするが敵も慣れているのか、直撃することはなく大量のミサイルが帰ってくる。

 

「迎撃してっ!」

「これではジリ貧ですっ!」

「くっ……!」

 

 地の利がある敵に対して思うように攻められないアークエンジェルを援護するようにムウのスカイグラスパーがレセップスに対して攻撃する。

 

「アークエンジェル!俺がナビゲートする所にミサイルを叩き込め!」

「了解!」

 

 ムウのレーザー照射に合わせるようにコリントスが放たれれば、何発かはレセップスに直撃する。だが、やられっぱなしという訳ではなく艦上に置かれたザウートやバスターの砲撃がムウを襲う。

 

「おおっと!その砲撃には当たらねぇよ!」

 

 ひらりひらりと敵をかわしながらアグニでレセップスに攻撃する。

 

「艦長!ベルセルクが徐々に離れていきます!」

「ストライク、隊長機と交戦中!」

「レーダーに反応、2時の方向よりザウート2機!」

「バリアントで狙って!」

「だめです、射角取れません!」

 

 その時、整備班から電話がかかってきた。

 

「スカイグラスパー2号機が発進するぞ!」

「そんな!パイロットは誰が!?」

「ぱ、パイロットは……カガリさんだそうです!」

「なんだと!?」

 

 あまりの事態に副長のナタルが声を上げて驚く。

 

「カガリだ!私も戦うぞ!」

 

 スカイグラスパーに乗ったカガリはザウートに肉薄すると、装備したソードストライカーのシュベルトゲベールで一刀両断する。

 

「うひょー!やるねぇお嬢ちゃん!落ちるなよ!!」

 

 その腕前を見たムウは素直に褒めながらレセップスに対して攻撃を仕掛けていく。

 

 

「バルトフェルドさん!」

「少年!ここは抜かせない!」

 

 キラはバルトフェルドの『ラゴゥ』と戦闘状態に入った。ビームライフルで動きを止めようとするがさすが、エースパイロットと言うべきか全く寄せ付けることなく、逆に背中のビームキャノンでストライクを攻撃する。

 

「くっ!」

「この前みたいに、もっと激しく攻めてきてはどうかね!」

「僕は……!」

 

 相手のビームをかわしながら徐々に距離を詰めていくとビームサーベルを抜き振りかぶる。ラゴゥもそれを易々とかわし、咥えているビームサーベルでストライクに切りかかる。それをシールドで弾くと、機体を回転させて、体勢を立て直す。

 

「その程度でこの私を倒せるかな!?」

「それでも僕は……!」

 

 その時、キラの中で何かが弾けるような感覚が広がる。すぐにビームサーベルをアンダースローの要領で投げつける。そんな、予想もつかない攻撃にバルトフェルドは一瞬だけ判断に迷い、大きく回避してしまう。

 

「アンディ!」

「分かっているっ!」

 

 スラスターを吹かして踏み込むストライクにアイシャがビームキャノンを向けて発射するがストライクは機体を屈めるだけで回避し、そのまま突っ込んでくる。

 

「うぉぉぉぉ!!」

「くぅぅぅっ!」

 

 もう1本のビームサーベルを抜くと袈裟斬りに一閃する。ラゴゥは避けようとするがとても間に合うものではないと悟ったのか、ビームサーベルを展開すると、すれ違うように薙ぎ払う。

 

 勝負の結果は、ストライクに軍配があがったが、それでも左腕を持っていかれ、ラゴゥは胴体部分を真っ二つに切り裂かれた。

 

「アイシャ……早く……脱出しろ……」

「ふふっ……それは出来ないわ……」

「そうか……君も馬鹿だな……」

 

 ラゴゥのコックピットの中で2人はしっかりと抱きしめ合い、次の瞬間にラゴゥは爆発するのだった。

 

「僕は……僕は……!殺したくなんかないのにィ……!!」

 

 佇むストライクの中でキラは涙を流しながら叫ぶのだった。

 

 それを見届けた、セリーヌは撤退するために墜落したベルセルクに背を向けた次の瞬間、鳴ったアラートに反応して慌てて、横に機体を滑らせる。そして見えたのはI.W.S.Pをパージして、飛び上がったベルセルクの姿だった。

 

「外したっ!ならっ!!」

 

 カナトはベルセルクシステムを発動させると重力に引かれて落ちる機体を捻らせながら、体勢を立て直すと再びスラスターを吹かせて、ディンに襲いかかる。

 

「なっ!この機動は!?」

「もらったぁぁ!!」

 

 ベルセルクシステムを発動させたカナトは、中に何か別なものが混ざったような感覚を覚えたがそれどころでは無いと判断して、ディンへと襲いかかる。

 

「けど、私を捉えることは……っ!」

「遅いんだよっ!!」

 

 出力を上げたベルセルクはさっきよりも速いスピードで襲いかかり、メイスでディンを殴る。

 

「くっ!避けられないっ!?」

 

 全力で避けようとするが、背面の翼にメイスが直撃し、翼が砕ければ、空力を維持することが出来ずに墜落した。もちろん、それを逃がすわけもなく頭上からメイスを振りかぶって、ディンへと叩きつける。

 

 その瞬間、横合いからグレネードランチャーが飛んできてベルセルクに直撃し、メイスがディンの横へと軌道をそらされた。

 

「デュエル……ッ!!」

「今日こそ倒すっ!」

 

 カナトはベルセルクのスラスターで地面スレスレを滑るように移動すれば、目の前にメイスを掲げて突撃する。その姿に高威力の攻撃をぶつけようと考えたイザークは、新しく追加した装甲の『アサルトシュラウド』に装着された、レールガン『シヴァ』を放つ。

 

「ふんっ!」

「何っ!?」

 

 メイスにレールガンが直撃するも、全く勢いは衰えず、近距離にまで踏み込むと、そのままメイスで体当たりをする。凄まじい衝撃を受けたデュエルはそのまま砂地に機体を擦りながら、砂丘へとぶつかる。

 

「くそっ!システムの限界が近いか……!」

 

 エネルギー残量を見ると残りはわずか5%くらいという所まで減っており、アークエンジェルへ帰投することにしたのだった。

 

 反転して追撃してこないベルセルクに対して、イザークとセリーヌはそれぞれ屈辱に塗れた表情を浮かべながらただ見送ることしか出来ないのであった。

 

 こうして、アークエンジェル隊は砂漠の虎を撃破し、ようやくインド洋へと出ることが出来たのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 インド洋海戦

 無事に砂漠の虎との決戦をくぐり抜けて、インド洋へと進出するアークエンジェルだったが、受けた被害は少なくなかった。ストライクは片腕を切り飛ばされ、ベルセルクのI.W.S.Pは大破してしまい、使い物にならなくなってしまっていた。

 

「ひとまず砂漠は抜けたけど……ここからアラスカまでがまた遠いわね……」

「ですが、これ以降は大規模な戦闘はないかと」

「そうね……ただ、まだザフトの勢力圏内であるということは忘れないでね」

 

 マリューとナタルで今後の動きを確認すれば、ひとまずマリューは部屋に戻ることにしたのだった。その一方、戦闘を終えたキラとカナトはそれぞれ、格納庫で次の戦いに備えて着々と準備していた。

 

「キラ……ベルセルクのOSの調整をしてくれないか……?」

「いいですよカナトさん、あ、それなら僕のストライクを見て貰えませんか?」

「構わない……むしろ、やって欲しいことがあれば言ってくれ……」

「それならえっと……」

 

 そうして、2人で機体を整備しているとマードックも入ってきて3人で機体を調整する。しばらくして、3人が満足気な表情を浮かべると出来上がった機体を見上げた。

 

 ストライクは切られた片腕を付けるだけでなく、腕部の中にアーマーシュナイダーを格納、展開するギミックを付けて咄嗟の時に使えるようにしたのと、バッテリー効率を上げて稼働時間を長くした。

 

 一方で、ベルセルクの方には、左腕にソードストライカーのパンツァーアイゼンを装備し、吹き飛んだI.W.S.Pからフライトユニットだけを移植して、飛行能力を付与することに成功した。

 

「これで……空戦力は……なんとか」

「フライトユニットだけだったらメイスを持っても飛べるだろう」

 

 これでひとまずの機動力は確保したが、それでもあのディンには追いつけないと判断するといざと言う時に備えて、ベルセルクシステムを使用した際に現れる内部のフレームだけではなく、脚部にもスラスターを増やして機動力を上げたのだった。

 

 そしてもうひとつ、あのシステムを使った時の感覚を体感するためにもう一度使ったが、その時には特に何も感じずに終わったため、キラにOSの調整を頼んだのだった。

 

「えっと……言われたとおりの所に特に異常はなかったんですけど、もっと効率よくするために要所要所は書き換えました」

「んっ、ありがとう」

 

 それぞれの機体の整備と調整が終わると、キラとカナトは展望デッキへと向かう。デッキへ向かうと水着姿のフレイとはしゃぐトールやミリアリアたちが居た。

 

「あっ、キラ!」

 

 フレイが真っ先にキラを見つけると駆け寄ってきて腕をとり、デッキの手すりの近くまで引っ張っていく。カナトは、特に目を向けることも無くその集団とは離れた所に行き1人で海を眺める。

 

「えっと……カナトさん」

「ん……?」

 

 海を眺めていると、トールが声をかけてきた。

 

「あの……っ!俺も、パイロットにさせてください!」

「……なぜだ?」

「昨日の戦いで……自分に出来ることを増やしたくて……!」

「……そんな1日2日でパイロットができるわけじゃない」

「それは分かってます!でも……このままじゃ嫌なんです!」

 

 それでもなお食い下がるトールにカナトはため息をつくと、ついてこいと言わんばかりに歩みを進める。

 

「えっと……どこに行くんですか?」

「……ここだ」

 

 カナトが案内したのはシミュレーターだった。これは、スカイグラスパー用のシミュレーターで一応、カナトやキラの戦闘データも組み込んでありいい訓練にはなるだろう。

 

「まずは……レベル1からだ……」

 

 無理やりトールをシミュレーターに突っ込むと実際に体験させる。

 

 それから数分後、すっかり疲れきった表情を浮かべたトールがシミュレーターの中から出てきた。

 

「……うえっ……」

「……これよりも何倍も厳しいんだ……戦いというものは……」

 

 カナトはそう言うとトールに水を渡してその場を去ろうとする。

 

「……もし強くなりたいのなら……いつで来い」

 

 それだけ言うと自分の部屋に戻るのだった。

 

 結論から言うと、トールは必死にシミュレーターに張り付いていた。カナトはそれを見ながらああでもない、こうでもないと指導をしながら、飛行機ではなくモビルスーツの操縦も指導していく。

 

 トールは意外にも才能があり、ザフトのジン程度ならばどうにか扱えるようにはなった。もっとも、そのOSはカナトの使っている余裕のない処理のものではあるが。

 

 そんな訓練を続けて3日、ついにアークエンジェルは敵に捕捉された。たまたま、対潜ソナーに反応があり、その機影は2機だけという少数なものではあったが、果敢に攻撃をくわえてきたのだった。

 

「コンディションレッド発令!モビルスーツ隊発進して!」

「ちっ……!カナト機出ます……!」

 

 格納庫にいたカナトはすぐにベルセルクへと飛び乗り、起動するとそのままカタパルトへと前進する。遅れて、キラもストライクへと乗る。

 

「ストライカーパックはエールを選択!」

「キラ、カナト、敵は恐らくどこかに母艦があるはずだ!俺はそいつを叩く!」

「了解!」

「了解……!」

 

 ムウの指示で作戦を立てれば、真っ先にカナトが飛び出す。落ちれば海面に沈む緊張感はあるものの、自らが調整したフライトユニットはなんの問題もなく稼働し、十分な推力を持っていた。

 

「機体バランスも……想定通りだ」

 

 敵は海中から攻撃をしてくるということでアークエンジェルは離水し、バリアントやミサイルはいつでも放てるように準備する。

 

「艦長!レーダーに機影!数は……5機、『ディン』です!」

「なるほどね……っ!対空防御、キラくんのストライクを直援に回して!」

「了解!」

 

 キラのストライクも出撃すると、アークエンジェルの船体に着地して、ディンとの接触まで待つ。一方のカナトは海面に沈んだ敵を見つけるために上空から索敵し、敵が出てくるであろうポイントに目星をつける。

 

「……捉えた、そこだ……っ!」

 

 上空を旋回して浮上してくるタイミングを見計らってメイスを投げつけると、魚雷を放とうとしていたグーンに見事突き刺さり、そのまま魚雷ごと爆発した。

 

「次の敵は……」

 

 ひとまず、左腕のパンツァーアイゼンでメイスを回収し、次の敵を探し出す。

 

 キラもエールストライクの機動力でディンを翻弄すれば、確実に1機ずつ落としていく。

 

「フラガ機!敵母艦を発見!これより攻撃に移る!」

 

「こちらカガリ!これより、敵母艦への攻撃に参加する!」

「なっ!?」

「今更……っ!」

 

 カガリのスカイグラスパーをカナトが慌てて止めようとするがそれよりも先にもう1機のグーンが海面から浮上しようとするのをレーダーで確認するとそちらの方へと機体を向ける。

 

「こんな時に……!」

 

 左腕のパンツァーアイゼンを打ち出すとグーンの胴体へと突き刺さり、こちらへと引き寄せる。軽々と持ち上がったグーンはベルセルクの方へと引き寄せられれば、膝蹴りを胴体へと繰り出し、吹き飛んだところをメイスでカチ割る。

 

 海面へと叩きつけられたグーンは海中に沈むとすぐに爆発し、水柱が吹き上がる。その間にカガリはムウの方へと飛び立っていく。

 

 カガリとムウは敵の潜水艦を発見し、空からミサイルを放つが、潜水艦は間一髪で避けてディンを出撃させるために浮上した。

 

「ちっ!ジリ貧じゃねぇか!」

「どうにかしなければ……っ!」

 

 すると、潜水母艦が浮上するとそこからさらにディンが2機出撃してくる。出撃したディンは、2機のスカイグラスパーをそれぞれ狙う。ムウの方は易々と敵の攻撃をかわすが、カガリにはその経験が少なく、ふらふらとした回避運動をしてしまい、機体に何発か被弾してしまった!

 

「うわぁっ!」

「ちっ!お嬢ちゃんは早く帰投しろっ!」

「大丈夫だ、ナビゲーションモジュールに当たっただけだ!まだ戦える!」

「だめだ!第一、そんなチョロチョロと飛ばれると邪魔なんだよ!」

 

 ムウは強くそういうとディンに対してバルカンを放つ。カガリは自分の力量の無さに歯噛みするとやむなくアークエンジェルへと帰投するルートへと入った。

 

「くそっ!いい加減落ちろよ!」

 

 2機のディンを相手にして、高機動戦闘で敵を翻弄し軸を合わせてバルカンを放つ。狙われたディンはムウの動きに着いてこれずにバルカンを避けるが、その先にはアグニの砲口が向いており、躊躇いなくトリガーを引かれれば、直撃し爆散した。

 

「よっしゃー!もう一撃!」

 

 落とされたのを堪らないと感じたもう1機のディンは距離を開けながらムウを牽制する。その間に、潜水母艦はふたたび潜水してしまい、ムウとディンとの1対1に移ったのだった。

 

 一方キラは、最後のディンをビームライフルで撃ち落とすと、一旦アークエンジェルの甲板に着地してエネルギー補給に入る。

 

「マリューさん、母艦の方はどうなっていますかっ?」

「さすがに苦戦してるみたい……」

「分かりました、それならソードストライカーで援護に行きます!対艦刀はビームを切れば使えますし、宇宙空間でも活動できますから、気密性には問題ないはずです」

「そうね……ではこれより、アークエンジェルは離水し、敵母艦への攻撃に移るわ!」

 

 マリューの判断により、アークエンジェルは離水し、スカイグラスパーの援護に向かうために移動する。もう1機のグーンも落としたカナトも1度、アークエンジェルへと着艦し一緒に移動をする。

 

「ヤマト少尉、発艦っ!こちらも援護するわ!」

 

 マリューの指示とともにキラのストライクがアークエンジェルを離れると海面へと潜る。

 

「敵の船は……!」

 

 その時、ストライクのレーダーに反応があり、急速に接近する機体が見えた。

 

「あの機体は……っ!?」

「貴様の相手はこの私だっ!」

 

 緑色の大きな球体のような機体『ゾノ』がストライクへと攻撃を仕掛ける。両腕のフォノンメーザー砲を向けるがその瞬間に、キラは腕の延長線上から機体をずらす。

 

「やはり動きが遅いっ!」

「水中ではこのゾノこそが王者だ!」

 

 ゾノはすぐさま反転してくれば、クローで薙ぎ払うように腕を振るう。その動きを読み、機体を仰け反らせて回し蹴りを振るうが敵の重さと水圧によりあまり威力が乗らずに受け止められてしまう。

 

「しまった!」

「この距離ならひとたまりもあるまい!」

「やらせるか!!」

 

 至近距離でメーザー砲を撃たれる前に腕部に仕込んだアーマーシュナイダーでゾノの腕の関節部を切り落とせば、その場で爆発し、互いに吹き飛ばされる。

 

「な、なにぃ!?」

「はぁぁ!!!」

 

 すぐさま体勢を建て直したキラは、対艦刀を突き出しゾノの胴体を貫く。そして、そのまま横合いになぎ払えば、見事に真っ二つに分断されて爆発するのだった。

 

 アークエンジェルの方も奇抜な方法で敵潜水艦を破壊しようとしていた。

 

「ノイマン少尉、1度でいい、この艦をバレルロールさせて!」

「む、無茶ですよ!?」

「艦長!?」

 

 マリューの大胆な判断に他のブリッジクルーが思わず目を開く。

 

「ゴッドフリートの射線を取るわ、1度で当ててよね!」

「分かりました!」

「行きますよ……!」

 

 ノイマンの操縦により、アークエンジェルの巨体がバレルロールをし、ゴッドフリートの照準が敵の潜水艦を捉える。敵はアークエンジェルの巨体がバレルロールをしたことに目を疑い、回避運動をすることを忘れていた。

 

 その一瞬が命取りとなり、ゴットフリートが潜水艦を直撃し、沈没するのだった。艦載機のディンも母艦が沈んだことにより動揺が生じ、その隙をついてムウのアグニが撃ち抜いた。

 

「ふぅ、なんとかなったなこれより帰還する!」

 

 ひと仕事を終えたムウがアークエンジェルへの帰還ルートを取り、無事に着艦するのだった。

 

 





 ちなみにシミュレーターというのは『連〇vsザ〇ト』を思っていただければ問題ありません。

 それにしても戦闘描写がむずい……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 南国での出会い

「なに!?嬢ちゃんが帰ってきてない!?」

 

 無事にザフトの部隊を撃退したアークエンジェルだったが、出撃したはずのカガリが帰ってきていないという報告にブリッジは騒然となっていた。戦闘を終えて帰投したカナトもその話を聞くと思わず頭を抱えてしまった。

 

「とりあえず、各人は小休止をとって2交代で捜索をする。最初の捜索チームは俺とカナトだ。出撃は30分後、それでいいか?」

「……問題ありません」

 

 ムウが仕切りカナトはコックピットから降りると軽食を取りに戻るとすぐに出撃できるように待機する。

 

 そして、定められた通りの時間になりカナトとムウは出撃するのだった。だが、いくら探しても見つかることはなく時間がどんどん過ぎるだけだった。

 

「ちっ……いったいどこに落ちたんだ……」

「……見つかりませんね」

 

 ムウとカナトは通信を交わしながらまずは空から海面を探す。しかし、波が高いのかすぐに海面が揺らされて破片があっても見つけるのは困難だった。

 

「幸か不幸か、この近くには無人島もあるそこに落ちたことを祈るしかないかもな」

 

 ムウが悔しそうな表情を浮かべて言う。その言葉を信じてカナトも、捜索を続けるのだった。

 

 

□□□□□□

 

 

「うっ……ここは……?」

 

 カガリは強い日差しに目を細めながらもゆっくりと目を開けるとそこは見たことも無い砂浜だった。身体を起こして振り返れば乗っていたスカイグラスパーが墜落して使い物にならなくなっていた。

 

「確か……あの後輸送機と遭遇して……」

 

 ナビゲーションモジュールがやられてフラフラと飛行した後に、たまたま輸送機と遭遇すると戦闘になり相打ちになった。

 

「救難信号を……」

 

 カガリはスカイグラスパーのコックピットで救難信号を設定するとひとまず雨風を凌ぐために付近を探索する。人の気配はほとんどなくどうやら無人島のようだ。砂浜を超えて森に入ろうとしたところで、モビルスーツが目の端に映った。

 

「あれは……!」

 

 急いでその見えたモビルスーツに近づくとその機体は、ストライクにそっくりな物だった。それに見とれていると背後から人の気配がして慌てて振り向くがその前に地面へと押し倒される。

 

「きゃぁぁぁっ!!」

「おんな……のこ……?」

 

 思わず悲鳴をあげてしまったカガリの声を聞いて襲ってきた襲撃者はナイフを首に突き刺そうとしたところで動きが止まったのだった。

 

 

「おまえ、名前は?」

 

 あの後襲撃した男に簡易的な拘束をされて近くの洞窟に連れていかれたカガリはムスッとした表情で男の質問を聞いていた。

 

「カガリ・ユラ……お前は?」

「俺は……アスラン・ザラだ」

 

 拘束した男、アスランは火を起こしながらそう答える。

 

「こんなかよわい女をお前はどうするつもりだ」

「別になにもしないさ、ただ……変なことをしようとしたは俺は、お前を殺す」

「……っ!」

 

 アスランの冷ややかな目にカガリは肝を冷やしたが、鋭利な目つきはほんの一瞬だけで、そのあとは優しそうで優柔不断そうな目つきになった。

 

「……ところでカガリはなぜこんな場所にいた?地球軍ではないだろう?」

「守りたいもののために戦っていただけさ」

「守りたい……もの……」

「ああ、戦争で色々なことを観てきた。それは1人の力ではどうしようも出来ない事だけど……それでも私は、守りたいって……」

 

 悲しげな表情を浮かべるカガリをアスランはただじっとみていた。

 

「……お前は強いよ」

「ザフト軍人なのに、そんな弱気を吐くのか?」

「俺だって本当は戦いたくはないさ、でも……やられたままでは終われないのさ」

 

 そう言いながらカガリの拘束を外すと外された本人はキョトンとした表情でアスランのことを眺める。

 

「良く考えれば、拘束したところで意味ないしな」

「……ふふっ、お前、変なやつだな!」

 

 カガリは言い訳をがましいアスランを見て思わず笑ってしまったのだった。

 

 そして、日が沈み辺りが暗くなれば必然的に睡魔が襲ってくるものでカガリもアスランもウトウトとし始めた。互いに最小限度の警戒心はあるものの本能には逆らえず、眠ってしまったところで不意にカガリの無線機からノイズ音が聞こえてきた。

 

□□□□□□

 

「……多分この辺りだとは……」

 

 ムウと交代したカナトはベルセルクで近くの島をしらみつぶしに探すことにしていた。この近くには群島も多くそちらに不時着した可能性も高いと判断し、目視とレーダーで探す。

 

 いくら群島とはいえすぐに見つかるだろうとは思っていたがなかなか見つからないカガリに不安と怒りが湧いてきた。

 

 そんな捜索を続けているととある島から金属反応が見つかった。すぐにその反応のところにいったが、あったのはスカイグラスパーではなく、墜落したディンだった。

 

「……スクラップだが……持って帰るか……」

 

 マップにポイントをしてカガリの捜索を続けるが手がかりは一向に見つからなく交代の時間が来る。ひとまずディンを確保してアークエンジェルに帰れば、当たり前のように変な目で見られるのだった。

 

 捜索を開始してから何時間も経ち、夜も明けたところでついにカガリの無線機へと繋がったのだった。無線機の反応がある周辺を組まなく探すことでついにスカイグラスパーを見つけたのだったが同時に進行方向から1機の敵の反応を見つけた。

 

「……こちらカナト機……遭難機を発見……同時に敵機接近……!」

「分かったわっ!ただちに援護を出します!」

 

 カナトはそのまま敵へと向かっていく。一方の敵、セリーヌのディンもこちらに向かってくる敵を捉えていた。

 

「まさかこんな所で敵と会うとはね……!」

 

 レーダーの反応を見ながらセリーヌは近づく敵に挑みかかるように機体を飛ばす。そして、見えてきたのは苦渋を舐めさせられたベルセルクだった。

 

「貴様かぁ!!」

「この前のディン……!」

 

 カナトはディンを見るやいなや、速攻でメイスを肩へと装着し、カラドボルグを構える。セリーヌもライフルを構えてお互いに空中戦を始めるのだった。互いにライフルの射程に機体を収めながら、攻撃を繰り出すも弾丸が機体を掠めることも無く、どんどん残弾が減っていく。

 

「やはり取り回しがキツいか……!」

 

 カナトのカラドボルグは破壊力を高めているためそれほど装弾数が多いわけでもなく命中しない以上撃ってもしょうがない。一方で、セリーヌのディンもベルセルクに効果的な弾丸自体はそれほど多くなく、やはり無駄弾を使うのは勿体ないと思ったのか一気に距離を詰める。

 

「接近戦なら!」

「……結局これしかない……!」

 

 カナトはカラドボルグを腰に格納すると無手のままでディンを迎え撃つ。それをみたセリーヌは怒りを感じながら、ライフルを構えて打ち込む。それを見切ったカナトは機体を最小限に捻らせて、最短距離で滑るように近づく。

 

「なっ……!?」

「そこ……!!」

 

 メイスを肩から抜き、袈裟懸けに振り抜く。セリーヌもその攻撃を避けるために機体を捻らせるが、ライフルをもった右腕をメイスで砕かれて機体バランスを崩す。

 

 

「このままでは……!!」

「もう一撃……!」

 

 体勢を崩したディンにトドメを刺そうとしたところで横合いから極太のビームが飛んできた。カナトはすぐに機体を動かしてビームの射線から逃れて攻撃を受けた方向をみるとそこに居たのは地上からこちらを狙っているイージスだった。

 

「ちっ……!」

「こいつ……!!」

 

 カナトがイージスに向けて攻撃をしようとしたところでムウから通信が入った。

 

「坊主!お嬢ちゃんが帰ってきたぞ!いますぐ撤退するんだ!」

「……了解」

 

 カナトは攻撃をくわえるのをやめるとすぐに機体を反転させてアークエンジェルへの帰途へと向かうのだった。

 

 その後特にザフトからの追撃もなく無事に着艦したカナトは機体を降りたところで、座り込んだカガリを見つけると詰め寄った。その様子を見ていた作業員達が慌てて、集まってくる。

 

「……遊びでやってるんじゃないんだよ……!」

「何を……!!」

「勝手な行動で……仲間が死ぬかもしれない……そんな経験をアフリカで……したんじゃなかったのか……!」

 

 珍しく怒りのボルテージが上がっているカナトに対して何も反論できないカガリはただただ、悔しそうに黙っていることしか出来なかった。

 

「おい坊主!!そこまでにしておけよ!」

「……すみません……」

 

 カナトは手を離すとその場を後にするのだった。

 

 

□□□□□□

 

 無人島から無事に戻ってきたアスラン迎えたのは、怒りに溢れたイザークとやれやれと言った表情のディアッカ、すごく心配そうな表情を浮かべたニコルだった。

 

「はん!我らが隊長が無人島で遭難するとは!」

「やれやれ……本当にそれで隊長が務まるのかい?」

「……お二人ともまずは心配をしてはどうなんですか……?」

「……みんなすまなかった」

 

 アスランはひたすらに頭を下げて謝るが、それをみたイザークとディアッカは別の部屋へと移動した。あとに残ったのはニコルだけだった。

 

「アスラン……あの島で一体何があったんですか?」

「いや特に何も無かったさ」

「……ですが今のアスランは、どこか迷っているようなそんな感じがしますよ?」

 

 ニコルは隣に腰かければ、覗き込むようにアスランを見る一方、アスランは目を合わせようとはせずに目をそらす。

 

「アスラン、これは戦争です。隊長であるあなたに言うのはおかしいのかもしれませんが……そんなに迷っているのなら、1度身を引くのもいいのではないですか?」

「そんなこと……」

「少なくとも、こういう迷いを持っていればいずれは仲間の誰かが、死ぬかもしれないんですよ。その責任だけは忘れないでくださいね」

「ニコル……」

 

 それだけ言うとニコルも部屋を出ていきあとに残ったのは、悩みを抱えて考えが巡りに巡っているアスランだけだった。

 

「失礼します、先程は助けて頂きありがとうございました」

「……君は確かバルドフェルド隊にいた……」

「セリーヌ・ディオンです、足つき追討の任務を受けて参りました」

「ここの隊の隊長を務めているアスラン・ザラだ。よろしく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします。それにしても……この若さで隊長とは、大変ですね?」

「そんな大層なものでもないさ……」

 

 もの憂いげな表情を浮かべるアスランにセリーヌは、遠慮なく言葉を放つ。

 

「貴方は選ばれたんですよ、それなら自信を持ってください」

「えっ……?」

「うだうだ悩んでたら、後悔しますよ?」

「……はは、さっき同じことを言われたよ」

「だから、しっかりしてくださいね。私まだ死にたくないですから」

 

 そう言われてアスランは自分が置かれている立場を再認識するのだった。

 

□□□□□□

 

 それからしばらくして、アークエンジェルはインド洋を抜けようとしていた。幸いなことにそれからザフトの追撃はなかったものの、諦めてはいないだろうという全員の認識もあり常に警戒は怠っていなかった。

 

「……それにしても、このままアラスカまで逃げ切れればいいんですがね」

「それならいいけど……後ろの敵もきっと逃がしてはくれないでしょうね」

 

 操舵手のノイマンが希望に縋るように言葉を発するがその可能性はほとんど潰えたようなものだった。何故ならば、アラートを示す警報がブリッジに鳴り響いたからだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 お姫様

「レーダーに熱源反応!後方より接近する機体あり!これは……例の連中です!」

「やはりそう逃がしてはくれないわよね……総員、第一戦闘配備!」

 

 予想していた通り、アークエンジェルはザフトよ攻撃を受けることになり速やかに迎撃体制に移行する。パイロット達もすぐさま各搭乗機へと乗り移る。

 

「やれやれ……おちおち休んでもいられないぜ」

「……敵か……」

「逃がしてはくれないのか……!」

 

 パイロットはそれぞれコックピットへと座り出撃準備をとる。キラは今回もエールストライクで出撃をすることになっている。幸いなことに敵の機体は大気圏で飛べない以上、おそらくはSFS(サブフライトシステム)で足回りを強化してくるとみた。

 

「いいか、最悪敵の足を奪えば逃げ切れるからな」

「了解!」

「……了解」

 

 そしてカタパルトが開かれれば、カナトとキラの機体から順次空へと発進していく。

 

「よし!ひとまずは逃げ切れるだけの時間を稼ぐぞ!」

「分かってます……!」

「了解しました!」

 

 数では劣るものの、質では負けていないと判断したムウはアークエンジェルの直援をキラへと任せ、カナトとムウで切り込むという作戦に出た。

 

 それを知ったザフト側もバスターとデュエルをぶつけ、ブリッツとイージスをアークエンジェルへと向かわせる。

 

「毎度毎度しつこいんだよ!」

「ええいっ!ちょこまかと……!」

 

 ムウのスカイグラスパーとディアッカのバスターが交差し互いに攻撃をくわえる。3次元的な軌道に上手く、相手を捉えられないディアッカに対して、ムウは太陽や、周囲の風などを捉えて死角から攻撃をしていく。

 

「自慢の装甲も、無限じゃないんだよ!」

「やってくれる!」 

 

 バスターはグゥルという足枷がある以上、器用にかわすことはできず実弾は装甲で受け止めながら、肩に装備しているミサイルを発射する。ムウは、そのミサイルの誘導を切るために機体をロールさせながらエンジンを吹かし、雲へと突っ込めば、急旋回でバスターの背後をとる。

 

 バスターも遅れて振り返るが、その頃にはスカイグラスパーのミサイルが正面から迫っており直撃すればそのままグゥルから落ちた。

 

「ちっ……!このっ!」

 

 バスターは、地面に着地すれば、ちょこまかと飛ぶスカイグラスパーを相手に弾幕を張るが、ムウはそれを隙間を縫ってかわし再び攻撃を仕掛けるのだった。

 

 一方で、カナトはデュエルと戦っていた。最もデュエルにも同じくグゥルが着いており空中を自由に飛べるベルセルクには不利を強いられていた。

 

「とっとと落ちろよ……」

「ここは負けられないッ!」

 

 機体を動かしながら着実に距離を詰めようとするカナトと、機体を揺らしながら距離をあけ、弾数に制限のあるベルセルクに対して、射撃戦に持ち込むイザークとの戦いは我慢比べを強いられていた。

 

 それを薄々勘づいていたカナトは、ミサイルの攻撃をあえて装甲で受けるとミサイルの爆煙で機体を隠す。一瞬とはいえ、機体を見失ったイザークだったが、次の瞬間度肝を抜くことになった。

 

「……そこだな……!」

「なにっ!?しまった……!」

 

 煙が晴れた瞬間に、現れたのは機体にほとんど傷がついていないベルセルクが目の前で対艦刀を抜くところだった。咄嗟にシールドを掲げて防御しようとするイザークだったが、カナトの狙いはデュエルではなくグゥルだった。

 

「これで追ってこれないだろ……!」

「しまったッ……!」

 

 グゥルを対艦刀でぶったぎれば、空を飛ぶための脚を失ったデュエルが下の孤島へと落ちていくのを見送って、アークエンジェルの援護へと向かうのだった。

 

 アークエンジェルの周りではキラがイージスとブリッツを相手に奮闘していた。アークエンジェルの対空砲を避けながら、ストライクの相手をするのは些か厳しいようで、ブリッツもマシンガン攻撃を受けているようで攻めあぐねていた。

 

「……あの援護は……」

 

 カナトはアークエンジェルの援護に向かう時に映っていた機体を見て少し驚いた。なぜなら、島に廃棄されていたディンだったからだ。乗っているのはおそらく先日シミュレーターに乗ったばかりのトールだ。

 

 初陣にしてはかなり精度よくブリッツの牽制をしているようでいくらPS装甲だろうが電力が切れればただの装甲だその事を理解した上での立ち回りだろう。

 

「あとは任せろ……!」

 

 カナトは遅れて入ったアークエンジェルの防衛戦に参加すれば近くにいた居たブリッツに向かって突っ込む。

 

「あの機体……!今日こそ!」

「おとされるわけないだろ……!」

 

 一方のニコルも煮え湯を飲まされたベルセルクに対して思うことがあるようで、リベンジに燃えているようだった。

 

 ブリッツは右腕のトリケロスを構えてランサーダートを発射する。それを見切ったカナトはギリギリのところで避けると、一気に間合いを詰める。

 

 それに応えるようにビームサーベルを展開すればベルセルクのメイスと上手くかち合い鍔迫り合いを行う。

 

「ビームサーベルを……受け止める……っ!?」

「そっちの動揺は……伝わってきてるよ……!」

 

 カナトは力任せに押し切るように操縦桿を押し込むと、徐々にブリッツへと迫っていく。負けじとニコルも抵抗するがパワーの差が大きく、やむなくブリッツを後退させた。

 

「ニコルっ!一旦引け!」

「アスランっ!?」

「ここは撤退しよう……!」

 

 キラのストライクと打ち合い、攻めあぐねていたアスランのイージスがニコルの隣に降りたてば、ストライクが遅れてベルセルクの隣に立つ。

 

「アスラン……!」

「キラ……!」

 

 追撃戦が始まろうとしていたその時、一筋の極太ビームがアークエンジェルのエンジン部を貫いた。一瞬の硬直の末、カナトはすぐに船へと機体を走らせる。遅れて、キラも後を追ってきた。すんでのところでストライクとベルセルクは翼に着艦することが出来たものの船の揺れが凄まじく、しがみつくので精一杯だった。

 

 一方で、高度を維持できないアークエンジェルは操舵が効かないのか次第にオーブへの領海へと突っ込むように落ちていく。そして、襲いかかる砲弾にアークエンジェルは包まれるのだった。

 

ーーーエンジンに被弾する数十分前

 

 出撃するパイロットを見送ったマリューはすぐに対モビルスーツ戦準備をさせて、後方から接近する2機へと牽制を開始する。最初は、対空防御やバリアントなどで弾幕を張るも、敵機が船体の下に入り込めば弾幕が薄くなるのは必然だった。

 

「くっ……!さすがはザフトのエースね……!ランダム回避運動ッ!」

「ちっ、とにかく敵を近づけさせるな!ヤマト少尉にも伝えろ!」

「あと1人出れる人が居れば……!」

 

 その時、マリューの手元の電話機が鳴った。掛けてきたのは格納庫のマードックだ。彼にしては焦った様子なのが伺える。

 

「艦長!坊主の友達が出撃するって言って聞かないんです!」

「なんだと!?」

 

 それに真っ先に反応したのは、副長であるナタルだった。確かに、CICからすれば手数が増えるのはありがたい話ではあるが、キラとは違いナチュラルを出撃させるのはとても、リスクがあると考えていた。

 

「……分かりました、出撃を許可します。ただし、直接甲板に出て迎撃のみです」

「伝えておく!」

 

 そう言うとマードックは出撃を許可を今か今かと待ち続けているトールへと許可を出した。

 

「いいか、操作できるとはいえ敵はエースパイロットだ!無理すんじゃねぇぞ!」

「わかってますよ!俺だって、少しぐらいはっ」

 

 ナチュラルとは思えない足取りでディンを動かすと、甲板へと直接降り立ち手に持ったマシンガンで、迎撃を始める。

 

 その一方で、敵の猛攻を受けているアークエンジェルは徐々にだが、正規のルートを外れてオーブの領海へと近づいていた。

 

「艦長ッ!このままではオーブの領海に!」

「わかっているわ!取り舵20!速度維持して!」

 

 だが、左翼からくわえられる攻撃に進路変更もままならず、流されていく。その時、ブリッジに通信が入った。

 

『こちらはオーブ海軍だ、貴艦はオーブ首長国領海に近づいている、速やかに転進されたし。従わない場合は撃沈する』

 

「まずいわね……!すぐに対応を!」

「そんな……!?オーブは撃ってくるの!?」

 

 ミリアリアやサイなどの幼い子供たちはそんな事実を突きつけられて、動揺を隠せない様子だった。だが、無情にも転進することは叶わず、横合いから極太のビームがエンジンを貫いた。

 

 凄まじい衝撃にクルーは悲鳴をあげ、マリューやナタルはすぐさま艦の現状把握に務める。

 

「右翼エンジンに、直撃!推力低下!高度維持できません!」

「エンジン部第三区画に火災発生、ダメージコントロール急げ!!」

 

 その時、ブリッジにカガリとお付のキサカが慌てた様子で入ってきた。

 

「艦長!このままオーブの領海に突っ込め!!」

「何を!?」

「向こうには私が話を付ける!!」

 

 そう言うと、アークエンジェルのインカムをひったくって、声高に叫んだ。

 

「私は、オーブ首長国連邦首相……ウズミ・ナラ・アスハの娘、カガリ・ユラ・アスハだ!!」

 

 その言葉に、ブリッジは思わず無言になり飛び交う砲弾による振動だけが響き渡ったのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 中立と信念と

 結論からいえば、アークエンジェルは無事にオーブの企業『モルゲンレーテ』の秘密ドッグへとたどり着くことが出来た。ただ、船体に受けたダメージは大きく修復にはそれなりの時間がかかるようだった。

 

「まずは、このように助けて頂きありがとうございます」

「いえいえ、礼など結構です。まぁ……こちらとしても考えがあってのことですから」

 

 マリューが対応しているのは、オーブ首相のウズミ・ナラ・アスハだった。首相が直々に面会するなど滅多なことがないためそれに対応するクルーなどは緊張した面持ちで話を聞いていた。

 

「助けてくださったのは娘さんのためですか?」

「少しはあるが……それとは別な理由ですよ。具体的にはオーブのモビルスーツの開発に協力して頂きたい」

 

 その後の話で、内容としてはストライクのような動きのできるOSの開発が難航しており、それに協力して欲しいとの事だった。受けざるをおえないため、そのようにことを運んだマリューだったが、会談を終えると疲れきった様子でシートに腰掛ける。

 

「はぁ……」

「納得いきません!あれは連合の機密なんですよ!」

「でもこうしないとここからは出れないのよ……」

「ですが……!」

 

 すると、ブリッジに入ってきたムウがその会話を聞きながらコーヒーを差し出す。

 

「じゃあ、副長さんは俺らに泳いでアラスカまで行けってことかい?」

「……今回の件も、アラスカに到着し次第報告書で上げさせて頂きます」

 

 そう言うとナタルはコーヒーを受け取らずに部屋へと帰っていった。

 

「やれやれ、もうちょっと柔軟に考えて欲しいんだがね」

「……少佐は私の判断が間違ってると思いますか?」

「いや?むしろ、俺なら喜んで提案に乗るぐらいだけどね」

 

 事実、マリューは全ての条件を呑んだ訳ではなく、ストライクの戦闘データの提供は断ったのだ。代わりにキラとカナトという優秀な人材をモルゲンレーテに貸し出すことにはなったのだが。

 

「まぁこれがいい落とし所なんじゃないか?それに……クルーにも息抜きは必要だしな」

「少佐も外に出られてはどうですか?」

「俺は若い連中が帰ってきてからにするさ」

 

 若いクルーには真っ先に外出の許可を出せば、あちこちに買い物に行ったり、家族に会いに行ったりしていた。

 

「あ、せっかくだし俺といっしよに出かけるかい?」

「……け、結構です!」

 

 ムウがマリューをデートに誘うがすげなく断られてしまった。

 

 

 一方で、キラとカナトはモルゲンレーテの工場で作業をしていた。開発主任の『エリカ・シモンズ』に連れられてやってきたのはオーブのモビルスーツ『M1アストレイ』のテスト現場だ。

 

「ひとまずこれを見て欲しいの」

 

 そう言ってエリカはトランシーバーで何かを伝えると目の前のアストレイがゆっくり動きだした。何やら各部を動かしているようだが、その挙動はあまりにも遅くまともに動いてないのは、誰の目で見ても顕著だった。

 

「……正直なところこれが今の完成度なの。これをもっと実戦に耐えられるようにしたいんだけど、協力してくれるかしら?」

「……分かりました、アークエンジェルを修理してくださる以上、協力せざるを負えませんから」

「……これは、なかなか……」

 

 カナトもキラも仕方なしに協力するも、作業がはじまれば真剣に取り組み、みるみるうちにアストレイの動きは機敏になっていった。

 

 作業を開始してから3日後、見間違えるほどに動きがなめらかになったアストレイにエリカや、そのテストパイロット達は驚き、キラに感謝していた。その一方で現場の作業員には、カナトの提案や、技術に感動しているものがたくさんいた。

 

「……なんというか……こういうのは昔を思い出すな……」

「そう言えば、カナトさんって……元々はメカニックですよね?」

「ああ……だが、今はパイロットをやってる不思議だよな……」

 

 カナトは作業の手を止めずに会話を続ける。

 

「俺だって……小さい時は機械弄りが好きだったんだ……だけど、両親を殺されてから……俺の動機は、復讐を果たすために変わった……」

「……今もザフトが憎いんですか?」

「わからん……ただ、俺の両親を殺した奴は……この手で……」

 

 コーディネーター、ナチュラル両方に顔を広く持っていた両親を殺す動機に心当たりのある連中などを探すのも一苦労だが、それでも、こうして敵を排除するために力を付けている。

 

「……ま、もっとも今こうやってるのは……他にやることが見つからないってのもあるんだが……」

「カナトさん……」

 

 そんなことを話していると、エリカが2人の元にやってきた。

 

「だいぶ、目処もたったし明日と明後日は2人とも休みなさいな」

「えっ、いいんですか?」

「いいもなにも、船のクルーの人達だって休んでるわけだし、2人だけ休めないってわけないじゃない」

 

 そんなこんなで、休みを貰い久しぶりに外に出たカナトとキラはそれぞれ、別々の場所へとでかけるのだった。

 

 カナトは適当に街をぶらぶらし、昼食をとって海岸へと足を運んでいるとその道の途中で、複数人に囲まれた女の子が目に入った。

 

「いや、ナンパとか困るんですけど……」

「ほらほら、ちょっとぐらいいいじゃんー」

「君、なかなか可愛い顔してるじゃん?」

 

 タチの悪いナンパのようでカナトはかかわらないように、通りすぎようと思ったが絡まれている子の顔を見て対応を変えることにした。

 

 カナトはわざとらしくその集団の近くを通ると、1番手前にいた男にぶつかり露骨に舌打ちをした。ぶつかられた男はその様子にキレるように、カナトを突き飛ばす。

 

「ああ?なんだてめぇ?」

「そっちこそなんだよ……邪魔なんだが……?」

 

 ギロっと睨むカナトを囲むように若い3人の男が立ち位置を変えるが、それには目もくれずに睨みつけるカナト。やがて、しびれを切らした取り巻きの男が後ろから殴り掛かる。

 

 それを見ずに避けると、突き出された腕を取り背中の方で固定するように捻りあげればもう1人の方へと突き飛ばす。出鼻をくじかれるように仲間が飛んできた男は、もつれ合いながら少しの間動きがとまった。

 

「くっ、この……っ!」

「……」

 

 正面にいた男が殴りかかって来るのを見ると首を少し動かしただけでかわし、カウンターを食らわせるようにみぞおちにキツイのを1発かました。その威力がかなり強かったのか、その場でうずくまる男。

 

「……行くぞ」

「は、はいっ」

 

 1人呆然としていた女の子の手を取りその場を立ち去れば、結構距離を離したところでようやくその手を離す。

 

「久しぶりだな……マユちゃん……」

「お久しぶりですっ、カナトさん!」

 

 絡まれていたのは、家族ぐるみで交流のあった『マユ・アスカ』だった。親の職場の関連で交流があった、アスカ家とは食事に行ったり、兄妹の面倒をみたりしていたため、見て見ぬふりは出来なかった。

 

「そうか……オーブに来てたのか」

「ここは、コーディネーターにも優しいですから……」

「確かに……今は情勢がな……」

「はい……ところで、カナトさんはどうしてここに?」

「……仕事の関連さ」

「なるほど、お仕事大変そうですね?」

 

 最後に会った時は軍に入るなんてことを誰にも言っておらず、きっと彼女も『オーブの研究員』として働いていると思っているだろう。

 

 その後、立ち話もなんだということで喫茶店に行き、当たり障りのない会話をしてから別れて、ドックへと向かう途中に、海岸を見つめながら座り込むキラを見つけた。

 

「……どうかしたのか?」

「あっ、カナトさん……」

 

 見るからに意気消沈した様子でいつもよりもさらに頼りなくような雰囲気を出していた。

 

「実は……」

 

 キラは、そう言って何が起きたかを掻い摘んで説明をした。どうやら、ザフトにいる親友と出会い、そいつがアークエンジェルを追っているらしくここを出れば間違いなく、襲われるようだ。

 

「なるほど……戦いたくはないと」

「ですが、戦わないと……守りたいものも守れないので……」

 

 俯くキラに対して、カナトは特に何も言わずにただ座り込んだ。少しの間沈黙が続くと、おもむろに口を開いた。

 

「……いいか、覚悟を決めろ。敵は本気で打ってくるんだ……もし、辛いなら俺に任せろ」

「カナトさん……」

 

 キラはその言葉を聞くとゆっくりと首を振る。

 

「……ありがとうございます、でもそれでも僕が撃ちます」

「……ふっ、少しはいい顔になったな……さぁ、帰るぞ」

 

 そして、男ふたりは守るべき船へと帰っていくのだった。

 

 

□□□□□□

 

 

「キラ……お前は……」

 

 オーブへの潜入を終えて帰ってきたザラ隊はそれぞれの私室で出撃準備をしていた。もちろん、その号令をかけたのは、幼なじみであるキラと出会ったアスランだ。

 

 イザークやディアッカは、その命令に疑問を抱いていたが、確信のある表情でそれを伝えたアスランに見直したようで、信じて出撃準備に入った。

 

「俺は……お前を討ちたくない……けれど」

 

 未だに『足つき』から降りることも無く立ち塞がるどころか、着実にこちらへの被害を増やしているキラの技量に些かの恐怖心をアスランは抱いていた。

 

「……弱気になってはダメだ」

 

 と、その時にコンコンと部屋のドアがノックされた。中に入るようにうながすと、そこに居たのはニコルとセリーヌだった。

 

「2人ともどうしたんだ?」

「アスランが何かを抱えているような感じだったので」

「ま、隊長としての責務が重いのは仕方ないですけど、さっきの表情はさすがに分かりますよ?」

 

 2人にそう言われれば、きっとイザークとディアッカにもそれが伝わっていたのだろう。そう言われると少しばかり恥ずかしくなった。

 

「……アスランの事情は分かりませんが、僕達にもやらなければならない事があります」

「……ああ、わかってるさ」

「隊長、私たちはここで死ぬつもりはありませんからね」

「……肝に銘じておくさ」

 

 そして覚悟を決めた表情を浮かべてキラとアークエンジェルを討つための準備を始めるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 暴虐の剣

 なんとか船体の修理も終わり、オーブの艦隊に見送られながらゆっくりと領海を離水するアークエンジェル。あの艦隊の中には、ここに来るまで一緒に戦ったカガリとキサカもいた。

 

 最後には、泣きそうな顔をしながらキラを見送っていたのは、クルーの中でも微笑ましいと思いながらもしっかりと別れを告げたのだった。そして、その見送られたキラはストライクのコックピットに座っていた。

 

「……アスラン」

 

 オーブで会話をした親友の姿を思い出せば、もっと話をしたかったという思いと次に会うのは戦場という事実に残酷さを感じえない。

 

「僕は……」

「キラ……ここを乗り越えれば、俺たちは……アラスカに着くんだ……踏ん張れよ」

「カナトさん、僕はアスランと戦います」

「そうか、覚悟を決めたなら……それはいいことだが……まずは生きて帰ってこい……」

 

 と、その時艦内にアラートが鳴り響いた。事前に準備していたカナトとキラはすぐに機体を動かしてカタパルトへと準備する。

 

「トール、無理はするなよ……?」

「大丈夫です、コーディネーター相手に勝てるなんて思ってませんから」

「……それなら大丈夫そうだな」

 

 ディンに乗り込むトールに通信を送ればカナト機もカタパルトへと進める。

 

『カナト機発進どうぞ!』

「了解、カナト・サガラ……ベルセルク、出ます」

 

 曇り空の広がる戦場に狂戦士が足を踏み入れる。

 

 既に、先に飛び立ったキラはアスランのイージスと剣をまじえていた。その横には、増加装甲を付けたディンが援護する形で攻めかかっている。

 

「カナト!デュエルは任せた!」

「……了解」

 

 ムウの指示でデュエルに踊りかかるベルセルク。デュエルもそれに答えるようにグゥルから飛び立てば空中でビームサーベルを抜き切りかかる。

 

「今日こそ貴様を倒す!」

「しつこい……!」

 

 落下する勢いを利用して切りかかるデュエルに対して、メイスで鍔迫り合いを演じながらベクトルを変え上をとる形に機体を動かす。それを読んでいたかのように、デュエルはこちらへと機体を向けて、レールガンとミサイルを斉射する。

 

「ちっ……」

「ふん!これぐらいで沈むお前じゃなかろう!」

 

 レールガンの射線から機体をずらし、ミサイルを頭部のイーゲルシュテルンで迎撃すれば強襲する形でメイスを振りかぶる。

 

 デュエルもその勢いにビームライフルを向ける暇もなくスラスター制御で地面を這うように飛びながらもう一度ミサイルを放つ。

 

 それを気にせずにメイスを正面に構えながら正面から突っ込みもつれ合うようにぶつかり地面へと押し付けた。

 

「がぁっ……!」

「……っ!」

 

 カナトはすぐに機体を立て直しコックピットを蹴りあげながら機体をバク転させて、地面へと降り立ちメイスを構える。イザークも機体を吹き飛ばされるが、スラスターを上手く使い機体を制御してから、地面を滑るように踏ん張った。

 

 奇しくもそれはこれから互いに決闘をしようとするかのような立ち会い方だった。もっとも、カナトにとっては決闘などをするつもりは毛頭ないが。

 

「……ふっ!」

「こいつ!」

 

 カラドボルグで牽制をする余裕はないと判断すれば全力でペダルを踏み込み、一気に間合いを詰める。デュエルもビームサーベルを抜きベルセルクを切り捨てるために踏み込む。

 

「……ここっ」

「なにっ!?」

 

 メイスよりも先にビームサーベルの切っ先がベルセルクのコックピットハッチを斬る寸前でカナトは機体を急制動させてから、下からすくい上げるように踏み込む。カナトの身体を凄まじい、Gが襲うが耐えきりメイスをデュエルのコックピットへと叩きつけた。

 

 その勢いを殺せなかったデュエルは空中へと舞い受身を撮ることも出来ずに地面へと転がった。うんともすんとも言わないデュエルに1歩1歩迫るベルセルク。

 

 そして、メイスを振りかざして潰そうとした時後ろからのアラームが鳴り響いた。咄嗟にサイドステップをしながら振り向くとそこにはこちらへの牽制射撃をばら撒きながら迫り来る、ディンの姿があった。

 

「デュエルはやらせないっ!!」

「ちっ……邪魔なんだよ……!」

 

 デュエルよりも早いディンを相手にメイスで戦うのは難しいと判断したカナトは、『9.1メートル対艦刀』を抜いて斬り掛かる。

 

 ディンのパイロットのセリーヌは近寄らせまいと、左手の『散弾銃』を構えてトリガーを引く。面での攻撃を受けたベルセルクはその威力のあまり仰け反るように倒れ込むも、距離を開けるために後ろへと跳ぶ。

 

「やっかいな……」

「ショットガンは強いけど……!」

 

 ポンプアクションで、弾丸を装填するも残弾は残り2発と心もとない。カナトもカナトで、あと1発当たればPS装甲が落ちてしまう可能性があった。

 

(どうする……近づけば迎撃されるが……)

 

 今の方法としては、カラドボルグで戦うか無理やり近づいて接近戦を挑む方法しかない。そう考えたカナトは右腕のカラドボルグを向けてそのまま放つ。

 

 案の定、それを見切られ機体を動かしながら避けたディンは右手の重機関銃でこちらを牽制してくる。どうにか、当たらないようにするも全てを避けるのは困難で、着実にエネルギーが減ってきていた。

 

「ジリ貧……かっ……!」

 

 その時、ひとつの案が浮かびフットペダルを踏み込み一気に間合いを詰める。

 

「同じことをしようたって!」

 

 それを見逃すはずのないセリーヌは左手のショットガンを構えてトリガーを引いた。その寸前にカナトは左手のパンツァーアイゼンをショットガンの銃口へと発射した。

 

 ギリギリで届いたパンツァーアイゼンに命中した銃弾は散弾としての機能を果たす前に砕かれて、大した威力の出ない攻撃へと成り下がった。代償としてパンツァーアイゼンはボロボロになってしまった。

 

「次弾装填は……!させない……!」

「くぅ!!」

 

 仕方なくショットガンを捨てたセリーヌは重斬刀を抜き対艦刀と切り結ぶ。さすがにガンダムタイプと量産機ではパワーの差があるためか、押し込まれそうになるもその勢いを利用して、機体を回転させながらコックピットへ向けてサマーソルトキックを繰り出す。

 

「はぁ……!?」

「くそっ!」

 

 さすがのセリーヌも無傷とは行かずに、右腕を切り飛ばされてしまったもののまだまだ戦闘続行は可能だった。

 

「私にだって意地はあるのよ!」

「……こいつ、普通じゃない……!」

 

 再び踏み込み、今度こそディンを撃墜しようとしたところで不意に横合いからアラートが鳴り響く。

 

「セリーヌさん!援護します!」

「ニコルかっ!」

 

 ブリッツも合流し2対1という不利な状況を背負うことになったカナト。

 

「……やるしかない」

 

 カナトは覚悟を決めて、ベルセルクに搭載している『ベルセルクシステム』を発動させた。その瞬間流れ込んでくるのは『怒り』と『闘いの本能』だった。

 

「うぅぅ……!あぁぁぁぁ!!」

 

 以前よりもおかしいと思う暇もなくさっきよりも出力の上がったベルセルクが一息にディンへと踏み込む。その速さは尋常ではなくセリーヌが対処しきれない程だった。

 

「嘘っ!?」

「やらせない!」

 

 ニコルはすんでのところでセリーヌを庇うが振るわれた対艦刀がブリッツの右腕を切り飛ばす。

 

「しまった!?」

「これでぇぇ!!」

 

 カナトは立ち塞がったブリッツへと対艦刀を振るおうとするが、その寸前にディンの最後のショットガンを胴体に貰い吹き飛んだ。

 

「ぐわぁぁぁ!?」

「はぁ……!はぁ……!」

 

 吹き飛ばされたベルセルクはすぐさま体勢を立て直して、ディンへと突撃する。ディンはそれを迎え撃つために重斬刀を抜き構える。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

「この一撃で……ッ!」

 

 セリーヌが振るった重斬刀は見事にベルセルクの胴体を切り払ったが()()()()()()()()()()()()刃が砕け散ってしまった。

 

(そんな…………!)

 

 絶望に満ちたセリーヌが見たのは凶悪な顔をしたベルセルクの頭とそれに割り込む()()()()の背中だった。

 

「セリーヌさん!逃げ…………!」

「邪魔だァァァァ!!!!」

 

 獲物を庇われたベルセルクは、対艦刀をブリッツのコックピットへと突き立てるもPS装甲に守られた装甲を穿つことしか出来なかった。だが、それに留まらず、もう片方の対艦刀を全く同じ場所に突き立てるのだった。

 

「ああ……あぁ…………!」

 

 硬直するセリーヌの目の前でブリッツがまるで捕食されるかのようにベルセルクに蹂躙され、その姿を見たアスランと先程まで意識を失っていたイザークがすぐさま行動を開始した。

 

「ニコルぅ……!!」

「貴様ぁぁ!!」

 

 イザークが後ろからベルセルクへと襲いかかり、気を引いている隙にアスランがディンを回収する。その間、セリーヌは呆然とブリッツのコックピットから流れている赤い液体を見ているのだった。

 

「あぁぁぁぁぁ!!!」

「こんな奴にィ!!」

 

 暴走を続けるベルセルクに対して、イザークは体へのダメージを追いつつも、理性のない突撃にどうにか活路を見出しながらアークエンジェルから徐々に距離を取っていく。

 

 その時、不意にベルセルクの機体が赤色から灰色に変わった。パワーダウンしたと思ったイザークがここぞとばかりに反撃するも、あとから遅れてきたストライクに邪魔をされる。

 

「くっ!一旦撤退するしかないかっ!」

 

 イザークはそのまま反転すればすぐさまその場から離れるのだった。そして、後に残ったのは呆然と立ちすくんだベルセルクとなんとも言えないような表情をしたキラだけだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 それは狂戦士の成れの果て

 少し長くなりました。なかなか書くモチベーションがわかなくて申し訳ありませんが、お付き合いしてくだされば幸いです。


「ついに奴らの1機を落としたんだってな!」

 

 どうにか帰投したキラとカナトを待っていたのは整備クルーやオペレーターの熱烈な歓迎だった。彼らはそれぞれの表情に『よくやった』という感情を浮かべていたが、キラとカナトは素直に受け止めていなかった。

 

「待ってください!そんな……人を殺したからよくやったって……あんまりじゃないですか!」

 

 悲痛な叫びをあげるキラだったが、その発言にカナト以外が微妙な表情を浮かべていた。

 

「キラ……いい……ありがとう」

「カナトさん……」

 

 カナトは疲れきったような表情を浮かべながら幽鬼のような足取りで部屋へと戻っていく。そんな空気が漂う中、整備長のマードックはすぐに整備に取り掛かるように声を張り上げて、作業を促すのだった。

 

 キラは仲間からの言葉を受けて想像以上にダメージを受けている自分に嫌気をさしていた。その様子を見かねたムウが声をかけた。

 

「キラ、お前はカナトのことで頭を抱えてるかもしれない。だがな、俺たちは軍人なんだ。迷いがあれば死ぬんだ!俺も、お前も!」

「わかってますよ……!でも、こんなことしてたら……カナトさんは!」

「あいつだって軍人だ、そんなことは分かっているはずなんだ……!」

 

 その時、先ほどまで話題に上がっていた本人がその場に現れた。さっきまでの足取りとは打って変わってしっかりとした瞳に光を浮かべながらキラとムウの方に目を向けた。

 

「何してるんですか……こんなところで……」

「カナトさん!大丈夫ですか……?」

「大丈夫っていったい……?」

「さっきまであんなに不安定な足取りだったじゃないですか……?」

 

 そのことを聞くとカナトはいささか複雑な顔を浮かべた。

 

「……そのことはあんまり触れないでくれ……」

「……は、はい」

 

 カナトが浮かべるその表情に何とも言えない気持ちになったキラはそのことに触れずに自分の部屋へと戻るのだった。

 

 カナトは再び部屋に戻ると普段は無表情のその顔に狂気的な笑みを浮かべる。

 

「はっはっは……!ついにやった……!やっと一機落とした……!」

 

 そこにいたのは完全に憎むべきコーディネーターを倒したという事実に心が躍っている狂人だった。

 

 一方のキラは、いくら敵とは言え同じコーディネーターをあんなふうに倒したカナトを見て疑問が浮かんでいた。思い返せば、あの機体に搭載されているシステムはよくわかっておらず、あの状況だけを見ると暴走していたといわれてもおかしくはなかった。

 

 ただ、キラの直感ではシステムの暴走だけでは説明できない何かがあるとは感じていた。ただそれを言葉にするのはまずいと、そんな気持ちが心の中に浮かんできていた。

 

 そして翌日、アークエンジェルは再びザフトの攻撃を受ける。その先頭に立つのは二コルを殺された恨みを晴らさんと言わんばかりのセリーヌとアスランだった。

 

 アスランのイージスはともかくとして、セリーヌの機体は『ディンアサルト』と呼ばれる、ディンにザフトの追加装甲を付けたものだった。本来ならば、機体重量が増えるということであまり付けられはしないのだが、今回は特別に許可が下りた。

 

 そしてその後ろには、同じく復讐に燃えるイザークとディアッカ、まさに完璧な布陣と言わんばかりに待ち構えていた。

 

その光景を見たカナトとキラとムウは正念場だと察して機体に乗り込む。カナトは今回、『カラドボルグ』は装備せずにメイスと対艦刀だけであとは左腕にソードストライカーのパンツァーアイゼンを装着していた。

 

「カナト!あんまり無茶をしないでくれよ!アラスカまでもう少しなんだからな!」

「わかっています……でも死んでしまったら意味はないですからね……」

 

 一言だけそういうとカナトはカタパルトへ機体を進める。そして脚部を固定すれば前傾姿勢をとり射出のタイミングを待った。

 

「サガラ機、進路クリア発進どうぞ!」

「了解……カナト・サガラ、ベルセルク行きます……!」

 

 厚い雲で覆われた空に狂戦士が降り立つのだった。出撃を確認したアスランたちはすぐさま攻撃を開始した。

 

 いつもよりも苛烈な攻撃に舌を巻く3人。ひとまず散開してムウはバスターとデュエルに、キラはイージスへと向かおうとしたが、それよりも先にセリーヌのディンアサルトに阻まれ近づけずにいた。

 

「お前が二コルを……!二コルを殺した……!」

「くっ……!この攻撃は……」

 

 イージスの苛烈な攻撃に防戦一方のカナトは攻めきれずにいた。変幻自在に足と腕のビームサーベルを振るう攻撃をどうにか捌くも、装甲は少しずつ削れていく。

 

「俺が……お前を討つ……!」

 

 その時、アスランの頭の中で何かが弾けた。その瞬間、視界がクリアになり相手の挙動が読めるように感じた。その動きは相対するカナトにも感じられ、このままではしのげないと感じたのかとっさに『ベルセルクシステム』を起動させた。

 

 すると、砂漠の時と同じように何かが弾けたような感覚が頭の中を覆った。すぐさま、メイスを島へと投げ捨てれば、二刀の対艦刀を抜き、構えてイージスへと突っ込む。そして二人の戦いはさらに苛烈さを増すのだった。

 

「サガラ機、イージスと交戦中!ヤマト機もディンと交戦中です!」

「フラガ機、デュエル、バスターと交戦中、状況は不利です!」

「くっ……!こちらからの援護射撃を!」

 

 マリューの指示で『バリアント』と『コリントス』がザフト機に対して放たれる。その攻撃を鬱陶しく思ったのか、キラと戦っていたセリーヌが、アークエンジェルに向けて迫りくる。

 

「ディンがこちらに来ます!」

「対空防御!弾幕を張って!」

 

 イーゲルシュテルンとコリントスが火を噴くがそれをすり抜けるようにディンがブリッジへと迫ってくる。

 

「これ以上はやらせない!!」

 

 セリーヌがブリッジを射程圏内に収めた時に下方からマシンガンの斉射を受け、機体を後方へと下げる。カタパルトデッキからは鹵獲されたジンがセリーヌを狙っていた。

 

「俺だって……!やれるんだよ……!」

「はっ、ナチュラルがモビルスーツなど!!」

 

 あまつさえもザフトの機体で攻撃してくるトールを落とそうとジンへと攻撃を開始するセリーヌ。トールは、島へと降下しながら牽制でマシンガンをばらまいた。

 

「そんな攻撃、このアサルトシュラウドには届かないよ!」

「それでも……!」

 

 急接近するディンに恐怖を感じながらも必死に()()()()を銃撃するトール。すると銃撃を受けていた部分から装甲が砕けていく。それを待っていたトールはマシンガンを投げ捨てると、腰に差している重斬刀を抜き放ち待ち構えるように構える。

 

「舐めるなよ……!ナチュラルがぁ!」

「うぉおおお!!」

 

 セリーヌはアサルトシュラウドをパージすると、そのままの勢いでトールのジンへと突っ込む。その勢いに負けたジンは受け止めきれずに地面をディンとともに転がる。

 

「この雑魚が……!手間をかけさせやがって!」

「俺は……こんなところで……!」

 

 馬乗りになったセリーヌはジンのコックピットに散弾銃を向ける。トールはその銃口にひるむことなく、近くに転がっていた、ベルセルクのメイスをつかんで力強く振るった。

 

 さすがに関節部分が耐え切れずにショートしてしまったが、最後まで振り切ることはできディンを弾き飛ばした。だが、引き金にかけられていた手までは止めることができずに上半身に散弾を食らってしまうのだった。

 

「ケーニヒ機大破!」

「トール!!」

 

 ブリッジに上がってくる報告に恋人であるミリアリアが悲痛な叫びをあげる。もちろんそれを聞いたキラもショックを受けたのだった。

 

「うぅぅぅ……!」

「くっ……!貴様ら……!」

 

 仲間を傷つけられた男たちは互いに激怒する。カナトはイージスの腕を狙って対艦刀を振るうが、その腕の内部にイージスの蹴りをもらいのけぞる。次の瞬間、イージスはコックピットめがけてビームサーベルを突き立てるが、とっさにフィンスラスターを使い、急旋回でよける。

 

 そして、その回転した勢いでイージスの左腕を切り飛ばした。だが、それにひるむことなくアスランはイージスを変形させるとベルセルクの胴体に組み付いた。

 

「とった……!」

「しまっ……!!」

 

 次の瞬間、イージスの腹部に強烈な光が収束し、ベルセルクの胴体を貫通するのだった。アスランは用済みと言わんばかりに、ベルセルクを投げ捨てればストライクのほうへと機体を向ける。

 

「カナトさんーー!!くっ……アースーラーン!!」

 

 目の前で仲間を失ったキラは激情が脳内を駆け巡っていた。その時、脳内で何かが弾けた。キラは、持っていたビームライフルを投げ捨てると、ビームサーベルを抜き、切りかかる。

 

「キラ!お前はいつまでも!!」

「アースーラーン!!」

 

 空振りしたビームサーベルをそのまま投げつければ無理やりイージスに回避行動をとらせる。イージスはモビルスーツ形態に変形させて、待ち構える。キラは一気にスラスターを加速させれば右ストレートを顔面へと食らわせた。

 

 アスランも距離をあけながら、牽制のためにイーゲルシュテルンをばらまけば、残った腕と足にビームサーベルを展開して切り刻もうとする。その斬撃を捌きながら後退するも、コックピットハッチを切り裂かれて目の前に曇天の空が広がる。

 

 返すようにイージスの胴体に飛び蹴りを繰り出せば、もう一本のビームサーベルで頭部を貫く。アスランは一度機体を後退させ変形させるとストライクに組み付いた。

 

「とった!」

 

 そしてベルセルクと同じように胴元のスキュラで吹き飛ばそうとするが、エネルギー残量がなくなってしまい、スキュラを発射することができなかった。アスランはとっさに機体に備え付けられたテンキーを出して、コードを入力する。

 

 打ち込み終わると、タイマーが起動しアスランは機体から脱出した。そして次の瞬間、ストライクに組み付いたままイージスが大爆発を起こすのだった。

 

「……えっ……?」

 

 オペレーターをしていたミリアリアがきょとんした声をあげる。そこにはキラの機体のシグナルがロストしたという表示が出ていた。

 

 ムウは2機のシグナルがロストしたことを知り動揺はするも、目の前の敵に集中することにした。幸いにもトール機は爆発しておらずシグナルも残っているため、素早く救助には向かいたいが、今はそれどころではなかった。

 

「戦闘機ごときが!!」

「そう易々と落とされるわけにはいかないんだよ!!」

 

 イザークのデュエルを振り切りながら、地面で狙いをつけているバスターに対してアグニを放つ。バスターはそれに気づきとっさに機体を動かすが、反応が遅かったのか、脇腹を撃ち抜かれて機能を停止してしまった。

 

「ディアッカ!!」

「あとは貴様だけだぜ!」

 

 グゥルを履いたデュエルとは機動性の差を見せつけながら、背後を取りグゥルだけをバルカンで破壊すると、そのまま置き土産にミサイルを放つ。

 

「ぐぁああああ!!」

 

 デュエルは爆炎に包まれると機能を停止したのか、その場に倒れこんだ。ただ、ムウもそれを捕獲する余裕はなくそのままアークエンジェルへと帰投するのだった。

 

 一方で、スキュラに撃ち抜かれて機能停止していたベルセルクは再び起動してゆっくりと立ち上がった。目を覚ましたカナトも、機体パラメーターをチェックするが、はっきり言って動いているのが奇跡なくらいだった。ひとまず、アークエンジェルへと通信を飛ばせば、横たわっているトールのジンを回収して、救助を待つのだった。

 

「ひとまずは……一件落着……か」

 

 当初の目的である、アラスカへの旅路の約束は果たされそうだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。