緋弾のアリア ルートF (たかめ)
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日常の一幕
プロローグF


俺はしばらく味わっていない安全な行事『武偵戦友会(カメラータ)』にて、アリアが平賀さんに発注していたホバースカート『YHS/02』を箱に戻す。

今からはしゃぎすぎて時間が遅くなってもアレなので、今日はここで武偵戦友会はお開きとなった。

俺はホバースカートの入った箱を持ってこの場を後にする。なにやら機嫌がいいらしいアリアはピンクブロンドのツインテールを揺らしながら着いてくる。

おそらく新型の武装が手に入ってワクワクしているのだろう。俺だって、さっき平賀さんに情報をもらった武器やらを今すぐにでも欲しい。

まあ、交渉が巧いリサに発注してもらうまでしばしの我慢だ。武偵というのは、案外普通の高校生のように自分の身に着ける武装(モノ)に関してこだわるのだ。

 

「ねえ、キンジ。」

 

「なんだアリア。トイレにでも行きたくなったか?」

 

「ば、馬鹿じゃないの?!それよりも!・・・気づかないわけ?」

 

声を潜めてアリアが言う。気づいていましたとも。何やら俺たちを気配を隠すこともなく尾行している奴がいる。

若干重たい箱を左手に持ち替えて、ベレッタに手を掛ける。アリアと目で合図を交わし、一気に尾行している奴に強襲する。

アリアは現在『強襲科(アサルト)』のSランク武偵。こちらには問題ないだろうが、一方の俺は"ただの"Eランク武偵にすぎない遠山キンジ。

俺も以前は強襲科にいたからある程度は合わせられるだろうが、今の俺ではアリアの動きについていけなくなるだろう。

まあ、なるようになるさ。

 

「いくぞ!」

 

俺はホバースカートの入った箱を真上に投げる。中身に関しては問題ないだろう。なんたって防弾素材の箱に衝撃吸収材で覆われているのだから。

瞬間、俺は右手でベレッタを抜き、すぐさま真後ろにいた奴に威嚇射撃を二発、直後にアリアが二丁のガバメントを抜き、対象との距離を縮める。

これは二人組で組んだ時の基礎中の基礎の戦術のため名前はない。が、俺はどこかこの戦術をアリアと組んでやるのが気に入っているので、

勝手に『短距離接近術Ⅱ(アサルトレンジ)』と呼んでいる。最も、これは本当に基礎のためしっかりとした呼び名が考えられなかったのだが。

俺とアリアの短距離接近術Ⅱならば並の相手どころか、場合によってはAランク武偵の隙を作ることだってできる。

とりあえず、これで相手の技量を図るにはちょうどいい。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!アリア先輩!」

 

「あ、あなたは・・・」

 

この声は聞いたことがある。確かアリアの『戦姉妹(アミカ)』である間宮あかり・・・か?

振り返ってよーく見てみると、アリアより小柄なその体格は顔を見るまでもなく間宮あかりだ。

 

「なんだ。あの尾行は挑発じゃなくてただ下手なだけだったか。」

 

「な、なんですかこの遠山キンジ・・・先輩!私だって、結構尾行上手くなったと思いますよ?!」

 

「まあ、ミジンコからアリには昇格したかもな。」

 

アリアの後輩だけに。

 

「いいえ、まだこの子はミジンコレベルよ。相手の技量を見誤るなんて、キンジらしくないわね?」

 

「そういうアリアは結構判定が厳しいのな」

 

「うう、酷いですよアリア先輩~!」

 

いつの間にか和気あいあいとしているが、なぜこの子は俺たちを尾行していたのだろうか。

そういえばこの間宮あかりは、前々から俺を敵視していた。理由は未だに不明だが、俺の弱点を見つけ、そこに漬け込んで俺を倒そうって魂胆か?

・・・いや、それはないな。コイツは、武偵高の中でも頭のネジが吹っ飛んでそうなぐらいアホだからな。

その根拠に何を言われたかは知らんが、そのアホ面をアリアが横に引っ張っている。うん、アホだ。

 

「先輩後輩で仲睦まじくやっているところ悪いが、俺はそろそろ帰る。アリア、あのホバスカは俺の部屋に置いておくから、あとで気が向いたら取りに来いよ。」

 

「あっ、待て!バカキンジ!」

 

「せんはいいはいれふ!」

 

武装した奴らに待てと言われて待つ武偵はいない。

 

 

 

帰ってきてすぐに自室のベッドに腰掛ける。リサに丁寧に掃除されたおかげか、やはり以前よりもふかふかなベッドだ。

ベッドの下にアリアから預かっているホバースカートの入った箱を置く。

同時にコンコン、と扉がノックされた音がした。

 

「入っていいぞー」

 

「失礼しますご主人様。ご夕飯は何時頃がよろしいでしょうか?」

 

「リサか。20時ぐらいに頼む。あと、できるだけ早くこれを平賀さんに発注しておいてくれ。」

 

そう言って平賀さんから渡された注文書をリサに渡すと、

 

「わかりました。翌日にでも平賀さんに交渉してきますね。」

 

俺に仕えるのがうれしいらしいリサは、こちらまで笑顔にしてくれそうなぐらい顔を綻ばせてそう言ってくれた。

このメイド、やはりできる!

部屋から出ていくリサの後ろ姿を見送り、今度はベッドに横になる。

今日もいろいろなことがあったが、その内容はつい先日まで送っていた俺の日々とは違う、むしろ真逆な平和な日だった。

武藤や不知火、平賀さんと普通の高校生のように集まって、家に帰ればメイドが飯の準備をしてくれる。

アリアとだって、最初の頃よりも素直に会話ができるようになったし、してくれるようにもなった。

できればこのまま平和な日々が続いてほしいが、そうも言ってられない。

ワトソンから見せられた写真は、あの鬼どもが日本に上陸したことを裏付ける確かなものだった。

圧倒的な種族の差を見せつけられた閻、周りの鬼だって閻ほどではないにしろ相当な強さだろう。それにあの覇美という少女、得体のしれない化け物の可能性だってある。

俺はこの複雑な状況から目を背けたくなって、とりあえずベッドに横たわって目を閉じた。

 




ただの思い付きで始まってしまった緋弾のアリア ルートF。
FはFutureのFです。いつか出てしまうであろう最終巻に繋げられるように、やや原作沿いで進んでいきます。


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名探偵H

およそ30日。お久しぶりです。
名探偵H・・・一体誰なんでしょうね?


何やらいい香りで目が覚めた俺は、まだ少し疲れが残っている体を起こす。

ベッド下にはすでにアリアから預かった箱がない。取りに来たのだろう。と、いうことは―――

 

「・・・アリアか。もういたのか。」

 

「キンジ遅い!リサに伝えてた時間から2分も過ぎてるわ!日本人は時間に厳しいんじゃなかったの?」

 

部屋の扉を開けてリビングへ行くと食卓には料理が並べられ、すでに彼女の定位置となっている席にアリアは座っていた。

確かに日本人というか、日本は時間を厳守する欧米からしたら珍しい国なのだが、生憎俺は欧米帰りなのでそこらの時間感覚がおかしくなってるのだ。

 

「すまんな。つい先日までヨーロッパにいたんだ。感覚がずれてるらしい。」

 

「まあいいわ。さっさと座りなさい。これからのことについて話をしたいわ。」

 

これは珍しい。というのも、この女王を気取っているチビっ子お嬢様が俺と前向きにこれからの

話をしたいだなんて言い出すのだ。それにさっきのは皮肉のつもりで言ったのだが突っかかってこない。

・・・伝わらなかった可能性もあるか。

とはいえ、せっかく前向きにこれからのことを話す気になってくれたのだから、俺も食卓に着くことにする。

本日はリサの俺への気遣いからか、魚を主菜とした和食だ。

 

「で、極東戦役のことなんだけど。師団と眷属は停戦協定を結んだことは確かね?」

 

「ああ、それは間違いない。だがこれからも戦いが起こる可能性がある。ワトソンから聞いたかもしれないけどな、眷属から独立して動いた奴らがいる。―――いわゆる、鬼だ。」

 

「鬼・・・」

 

「リサは知っています。鬼の―閻という方の凄まじい力量を。正面から向かえばまず勝ち目はないと進言します。あ、もちろんご主人様の勝利は信じて疑いませんよ!」

 

リサの最後の一言は冗談ではないだろう。だが、リサも知っているらしい閻の力は本当に底が知れないのだ。

普段の俺はもちろん、ヒステリアモードになったとしても敵うかどうかも怪しい。

 

「いや、正直俺にも奴らの底は見えなかった。正面から立ち向かうには分が悪すぎるぜ。」

 

閻は銃弾が通用しない。閻が強い方なのか鬼という種族がみなそうなのかはわからないが、情報が不足している以上下手に出るのは危険だ。

俺の深刻な顔からいかに敵が強力なのか察した様子のアリアは――ほっ、と溜息をついて一言。

 

「そういうのはキンジに任せるわ。ママの裁判には関係ないだろうしね。」

 

そう言ってアリアは食事を始めた。俺は人外担当かっ。

 

 

 

翌日の放課後、俺はリサを連れて平賀文のもとへ装備の発注および交渉に向かった。身長はアリア近くで中身も子供っぽい彼女。実は装備科(アムド)の天才おこちゃま武偵だ。

 

「平賀さん、ちょっといいかな?」

 

「はいはーい!みんなの平賀文ちゃんなのだー!およ?」

 

声のトーンをいつもよりも高く明るくして特殊なキャラを演じている平賀さんは、かしこまったように俺の後ろにつくリサに目をやると同時に、その大きな目を更に大きくして、次第に輝かせた。一体どうしたんだこいつ。

 

「メイドさんなのだー!かわいいのだー!」

 

「ひゃっ!あ、あの―――!」

 

ぽよんっ―――平賀さんはこともあろうに、アリアや平賀さんには存在しえないリサの胸に思いっきり飛び込んだのだ。大きく揺れるその胸に平賀さんはすりすりと自分の頬を擦り付けて、リサ本人は顔を真っ赤にしその顔はとても恥ずかしそうだ。これはヒステリア的な意味で非常にまずい。

 

「はいはいそこまでにしましょう、ね!」

 

ちっこいくせに意外にも力が強い彼女の手をリサからはがす。こっちも少し鼻息が荒くないか?

 

「今日は昨日渡された注文書を提出しにきた。と、同時に値下げ交渉もこのメイドさんにお願いしてある。じゃ、あとは頼んだぞリサ。」

 

「え、お、ご主人様お待ちを!リサはこの方と一緒だと何やら危険だと本能で感じ取りました!何卒、ご主人様のお傍におかせてください!」

 

さすがジェヴォーダン。いい勘を持っていらっしゃる。俺もちょうど、ヒステリア的な意味でこの場は危険だと本能で感じているんだ。ここはひとつ、従順なメイドには酷い仕打ちかもしれないが我慢してくれ。

何も聞こえない何も見ないといったジェスチャーで俺は部屋の扉を閉めた。

 

あの魔の部屋に置いてきた張本人が言うのもアレだが、リサをこのまま武偵校に残していくのはやりすぎなので、適当にぶらぶら校内を散策してみる。早速忌まわしい記憶しかない強襲科(アサルト)が見えてきた。

怖いもの見たさで強襲科にでも寄っていくか、とも思ったがこの時期強襲科の教官である蘭豹(らんぴょう)はとある理由で神経質になっているので捕まる危険性が高い。うん、やめよう。

今日は月曜、週の始まりだけあって武偵校の生徒がちらほら見える。

 

「と、遠山くん?」

 

「あ・・・」

 

自分の名前を呼ばれ振り返ってみれば、短い間ではあったが俺の一般人生活を送った東池袋高校からなぜかこの武偵校にいる望月萌(もちづきもえ)がいた。

 

「やっぱり遠山君だぁ!」

 

「お、おい・・・」

 

彼女は俺が遠山キンジだと確信するや否や、二人の間にあった距離を一瞬で詰めてきた。

 

「ちょ、近い近い!」

 

「久しぶり遠山くん!私のこと覚えてる?なんかヨーロッパに行ってたんだって?」

 

俺の言葉なんか聞こえてないと言わんばかりの距離でどんどん言葉を投げかけてくる。

望月は転校してからまだ日が浅いため、硝煙の香りなんか・・・少しはするが、女子独特の甘い匂いがダイレクトに伝わってくる。アリアや理子なんかとは比べ物にならないぐらい女女してるぞ・・・ッ。

ええいっ!こんなところでなるぐらいなら強襲科に喧嘩売ってきてやる!

決死の覚悟で俺は強襲科へと向かった。

 

「待ってよ遠山くん!」

 

リサが助けを求めてきたときと同じように、俺は聞こえないフリを貫き通した。

 

 

強襲科に来てみれば通称『死ね死ね団』が俺を笑顔で迎えてくれた。嫌な予感を感じさせる嫌な笑顔だ。

 

「お前ら、まさか・・・」

 

「ははは・・・そのまさかさ。」

 

その乾いた笑い声を聞いた途端電撃が走った。やはり、蘭豹の暴走が始まっていたか。

そう、なぜ俺が普段来たがらない強襲科をこの時期に―――限るわけではないのだが、余計に避けていたのか。

それはあの忌々しい催し、バレンタインデーにあった。

とある事情により、この日が近づいてくるにつれて蘭豹は目を真っ赤にしている。バレンタインにチョコの話題を少しでも出そうものなら、蘭豹の『校則違反による罰則』という名目の八つ当たりが強襲科に限らず生徒全体に及ぶだろう。

 

「しかし、今年は随分早かったんだな・・・」

 

「ああ、どうも転校してきたやつがバレンタインにチョコを渡すとかなんとかで堂々と教室で盛り上がってたらしい。酒飲んで酔った勢いで俺たちに八つ当たりさ。」

 

間違いない、望月萌だ。なんて面倒なことをしてくれたんだ。

そう話しているうちに―ドンッ、ドンッ、という果たして人間のものなのか怪しい鈍く重い足音が近づいてくる。

 

「や、やべえ!キンジあとは任せた!」

 

「おい待て!」

 

悲鳴を上げながら数十人の強襲科の生徒は俺を置いて逃げていった。くそ、俺がリサにした仕打ちはこれと同じくらい酷かったのか・・・!

 

「お、遠山ァ!強襲科に戻ってくる気になったのかぁ?アァん?」

 

「い、いえ。じ、自分はそんなつもりは・・・」

 

幾度も死線を乗り越えてきたこの俺が人間一人相手に萎縮している、だと。

もしかして蘭豹は俺が今まで戦ってきたどの奴らよりも強いのか?いやいや、そんなことはありえない。

・・・ありえないのか?

 

「お、お助けー!」

 

「逃がさねえぞ!」

 

蘭豹の人間の女とは思えない力で俺の腕は掴まれる。必死の抵抗虚しく、だんだんと廊下を引きずられるように引っ張られる。そのときふいに―――俺の腕に加えられた蘭豹の力が、消えた。

蘭豹を見れば、まるで絵に切り取ったように固まっている。動かない指に触れても反応がなく、特に力は必要なくその手をはがすことができた。

 

「どうなってるんだ?」

 

今までの俺の経験からすれば大抵これは超能力(ステルス)絡みの現象なのだが・・・これは蘭豹とは別の意味で厄介かもしれん。

蘭豹から逃れられたのは幸運だが、生憎俺は超能力の対策などは持ち合わせていない。まるで対象の時間を止めるような超能力に関してはいくらヒステリアモードの、加えて今は通常状態の遠山キンジではまともに対峙しようがない。

―コト、コト、コト

 

「誰だ?!」

 

何者かの足音が聞こえ反射的にベレッタを抜く。

 

「まあ待ちたまえ、遠山キンジくん。」

 

「あ、あんたは―――」

 

よく中世を舞台にした映画で見る茶色に近いスーツ、欧米人そのままの目鼻立ち、そして何事も見通すような瞳。

 

「シャーロック・・・!生きていたのか!」

 

キンジは再び銃を構え直す。

 

「ところで、今は西暦何年何月何日かね?日本時間で結構だ。」

 

緊張感も何もない質問にこけそうになる。

何の意図があるのか不明だが、もしまたこの男と対峙することになっても時刻ぐらいなら教えてもこちらに不利になるようなことはないだろう。

キンジは今現在の日付をシャーロックに教える。すると、普段は完璧なポーカーフェイスで保たれた彼の表情が、若干の驚きで染まった。

 

「ふむ、緋緋神によって飛ばされてしまったかな。いや~なんともなんとも!」

 

「そんなことよりなんであんたがここにいる!あの時・・・!」

 

シャーロックはイ・ウーに積まれていたICBMと共に消え去ったはずだ。緋弾をアリアに移殖したことにより奴の150年以上に渡る生涯は終わりに近づいており、今頃にはすでにこの世にはいないはずだ。

しかしどうだろうか。目の前に立つのは、むしろ若返った状態だ。

 

「遠山キンジくん。今はそんなこと、どうでもいいではないか。それよりも、この状況をおかしいとは思わないのかね?」

 

「すでに消えたはずの男が目の前に立って喋っているのは十分おかしいと思うぜ。」

 

「それは一旦置いてくれたまえ。私が言いたいのはこの時が止まった世界のことだ。」

 

今時が止まったって言ったぞ。ということはつまり、この不可解な現象は時が止まったことによるもので、これは当然自然ではなく超能力による現象。

能力者はどんな目的で能力を行使したのかはわからないが、俺にとっては最悪な状況には変わらない。

 

「あんたがやったのか?」

 

少なくとも、俺が知る限り今目の前に立つシャーロック以外では成しえないこの超常現象について問う。

 

「私ではない。私の持っている緋々色金の力だけではここまで広範囲に影響を及ぼす現象は起こせない。」

 

「だがあんたが無理なら俺は心当たりがない。あるとしたら、あんたがアリアに撃ち込んだ色金の力だ。」

 

まさか、とは思ったがそれはありえない。アリアに撃ち込まれた色金は殻金が集まりつつある今、緋緋神に乗っ取られる危険性を孕んでいない。よって、アリアの色金でもない。

 

「ふむ、ではキンジ君。私と一緒に旅行をしないかい?」

 

「旅行だと?」

 

「そうだ。それもただの旅行ではない――時間の旅といこうじゃないか。」

 

「なにを――ッ」

 

俺は今まで戦ってきたどの敵よりも素早く見事な力加減の手刀を首に当てられ、不甲斐なくも意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




異例の早さで第一章『日常の一幕』が幕を閉じます。
今回は、原作ではいつの間にか平賀さんに新しい武器を購入していた場面と、そこからの分岐が主でした。
確か原作のこの時期ではバレンタインデーが近いということで、たぶん蘭豹先生は強襲科で荒れていたことでしょう。
そういえば、現在自分は原作2巻から22巻までを持っていて、そのうち18巻まで読み終わりました。本当はもう少し早く22巻まで読みたかったんですけどね。

次回は新章『哿の時間旅行』が始まります。誤字脱字の報告や、作品へのアドバイスなどをいただけたら励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


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哿の時間旅行
序曲、再び


―――空から女の子が降ってくると思うか?

 

 

シャーロックから見事な手刀を首に貰って気絶させられた。気が付けば、俺は男子寮のいつもの自室にいる。

ベッドから出てみれば、向かいの二段ベッドにはアリアを始めとした女子の面々が勝手に持ち出した荷物等はなく、まるで彼女らが来る前の状態になっていた。

俺は気絶させられる前に、シャーロックが言っていた言葉を思い返してみる。

――時間の旅。差し詰め、時間旅行といったところかな。

今ここで考えてみても仕方がない。携帯電話の時間は残念ながら気絶する前、というよりも蘭豹が停止状態にされた時間のままなので、今の日付はカレンダーを直接確認してみないことにはわからない。

懐にベレッタとデザートイーグルがあることを確認して、リビングへの扉を開ける。

 

「シャーロック・・・!」

 

「やあ遠山くん。武偵として早起きは基本だろう?」

 

扉を真っ先に開けて目に入ったのはテーブルで優雅に缶コーヒーを飲んでいたシャーロック。すぐさま愛銃のベレッタをホルスターから抜き、銃口を奴に向ける。敵意はないらしく、缶コーヒー片手に両手を挙げた。世界最高の名探偵にしてはなんとも滑稽な姿だ。両手を挙げたまま、6時57分と表示されているデジタル時計に目をやっている。

 

「そのまま両手を挙げていろ。お前は何が目的で俺をこんな場所に?」

 

「なに、簡単な話だ。私は元の時間軸の世界に帰りたい。君は得体の知れない能力を持つ敵から一時撤退を望む。利害が一致しているから、君を"アリア君と出会う直前の世界"に連れてきたのさ。」

 

アリアと出会う直前の世界。そうきっぱりとしたシャーロックの説明はヒステリアモードになっていない俺の頭でも十分に理解が追い付く簡潔な内容だ。

 

「お前はこの不可思議な超能力(ステルス)の正体を知っているのか?」

 

「その問いにはYESと答えよう。今度は私の番だね。君は甘党かい?」

 

「NOだ。」

 

シャーロックの茶化すような質問に対してきっぱりと真実を述べ、直後にベレッタのトリガーを引く。

発砲音に遅れて硝煙が出る。狙いは先程まで銃口を向けていたシャーロック――ではなく、シャーロックの向こうに見える後ろの窓。

いきなりのことで忘れていたが、あの窓は防弾ガラスだった。弾丸が当たった部分から円状にヒビは広がるものの、割れることはない。

 

「今のは誰だ。」

 

「アレは緋緋神の意思。この世界に干渉するほどの力はないが、同時にこの世界からは干渉することのできない唯一の存在とでも言っておこうか。」

 

カンッ、と缶コーヒーをテーブルに置き、手招きをしてくる。

この男には敵意がないのか否か、それを確かめるには情報が不足している。だが、情報を手に入れるにはなんらかのリスクを負うものだ。警戒は怠らないが、俺は少しずつシャーロックに歩み寄る。

 

「君の知りたいことはすでに推理によって答えが出ている。君が遭遇したあの超能力は間違いなく緋緋神の意思による超常現象であることに間違いはない。」

 

そんなことはわかっている。俺が知りたいのはなぜここ――過去の世界に連れてこられたかだ。

そんな俺の思考も推理済みなのか、シャーロックは続ける。

 

「君をなぜ連れてきたかと言えば、もちろん私と君が関係しているからなのだがね。心当たりはないのかい?」

 

「さっぱりだね。」

 

やれやれ、そう言った風な仕草は奴の容姿によく似合っていて男の俺でも見とれそうだよ。

 

「君が私の条理予知(コグニス)を破ったせいでこんなことになったのだよ。本当に、滑稽だね。」

 

ハッハッハ―――と高笑いをするシャーロックの笑い声に俺の表情は一層険しくなる。

条理予知(コグニス)―――シャーロックの推理力により、未来予知レベルまでに到達した奴が史上最高の探偵とも呼ばれる所以であるその能力は、俺が一度だけ外させた。

だがそのせいだ、と言われる筋合いはない。

 

「それで、俺はどうすればいいんだ?」

 

「簡単さ。―――君のベレッタで僕の心臓を撃ちぬいてくれればいい。」

 

「うちぬっ・・・そ、そんなことできるわけないだろ!」

 

『武偵憲章九条、武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』

その提案は俺が日本所属の武偵である限り――一般市民であってもだが――絶対に犯してはいけない物事の一つ。

 

「君の考えていることはすでに推理済みだ。日本では君たち武偵には人を殺めることは絶対のタブーとなっている。それが君の頭と心で引っかかっていることだろう。だが安心してほしい、僕は心臓を貫かれた程度で死ぬような男じゃない。君のように、ね。そろそろだろう?」

 

なるほど。確かにこの男は俺のように心臓を止められたり、至近距離で撃たれても死ななそうだ。

なんて言ったって、もう150年以上は生きているからね。

――ふと"ある"変化に気づいた。そんな前兆やきっかけはなかったのに、体中を巡る血流がやや"それ"になっていた。

まさか、奴に対して俺の脳がその、興奮を覚えたというのか・・・?

いや、それはないな。

 

「これもお前の仕業か?」

 

 

「それは通常のHSS――ヒステリア・ノルマーレと言ったかな。それの一種の完全形ヒステリア・ペルフェット。そう呼んでくれて構わないよ。」

 

確かに血の巡りが違う。先程の通り、やや"おとなしい"のだ。それに自分の口から出る言葉に、普段のと照らし合わせてみても特に変化はないし。だが、確実にヒステリアモードになった感覚がする。

 

「一体、何なんだこれは?」

 

「先程説明した通り、ヒステリアモードの一種の完全形。そうだね、詳しいことは僕の推理でも計り知れないが、おそらく君が経験した最も強いヒステリアモードと同等だろう。」

 

つまり、ヒステリア・レガルメンテと同等ってことか。

ヒステリア・レガルメンテとは「王者のHSS」。状況にもよるが、どのヒステリアモードよりも強力であり俺の中では最強の切り札として刻まれている。が、金三――ジーサードとの戦闘以来発動することはなかった。

それと同等の力を持つヒステリア・ペルフェットとやらを俺は一体どう呼び起こしたのか。

いや、そもそも奴の言っていることは本当なのか?血の巡りは覚えたが、実際の能力は計り知れない。むしろ、巡り方からしてノルマーレよりも弱い可能性だってある。

―――気が付けば俺は再びシャーロックにベレッタを、そしてデザートイーグルを取り出し奴の頭と心臓にそれぞれ銃口を合わせていた。

奴の顔は、笑っていた。

 

「それでいい。」

 

俺の体がまるで俺の物ではないかのように、両手の人差し指は同時にトリガーを引き、奴の心臓を撃った。

―――ジャララッ

 

「鎖・・・?」

 

シャーロックの左胸には流血どころか、服の上に傷一つすらついてない。その代わりに、銃弾によって砕かれた赤い鎖のようなものが俺の足元に落ちてきた。

 

「さて、君はそろそろ武偵高に通学しなければいけない時間だろう。もうこの物語(ストーリー)は始まっているのだから、ね。」

 

そう言ってシャーロックは再びデジタル時計に目をやる。

そこには6:57と表示されていた。

 

 




お久しぶりです。
今回の『序曲、再び』は実は再構成版となっています。何が起きたかというと、今回大変遅れた言い訳に通じるわけですので、詳しくはユーザーページの活動報告よりお願いします。

さて、肝心のあとがきですが、今回は章の頭の導入ですので、やや短めでさっとまとめていますが、実際のところはよくわからないです。
自分の文章の構成力を補うように後書きで説明させていただくと、要はこの章はいわゆる「逆行」による過去改変要素を含んでいます。もちろん、原作を基本として心がけるので展開は制限ができますが、できるだけ確実なフレーズを盛り込んでいけたらなと。

更新遅れに章の始めですので、今回のあとがきは少々長くなりました。
次回は『アリアという女』です。誤字脱字等あれば報告していただけるとありがたいです。


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