ドラゴンボール オーガ (とるびす)
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プロローグ
男と生まれたからには
誰でも一生のうち一度は夢見る
「地上最強の男」
「Z戦士」とは
「地上最強の男」をめざす
格闘士のことである!
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「……もう1度聞こう。勝ち上がった者は?」
「ぜ、全員……敗退いたしましたァッ。見た目はガキですが実力は大人以上です!」
控え室にて一人の男が猛っていた。
名をチャパ王。過去に天下一武道会の頂点に立ったこともある武の達人である。
「我がチャパ流空手に属しておきながら、揃いも揃って敗北とは……。さらには事もあろうに全員がKO負けという体たらくか」
「し、しかし師範──」
「しかしもクソもあるか愚か者ッ! お前たち全員、一から鍛え直すが良いッッ」
チャパ王を囲っているのは、彼の門下にある武人たち。いずれも武の高みに到達せんと日々精進する強者たちであった。
だが、全員が予選にて敗退。その体たらくをチャパ王は一喝したのだ。
「ここまで全てKO勝ち? それは私もだ」
不意に傍に置かれていた2リットルの水入りペットボトルを上へと蹴り上げる。
そしてチャパ王の雷槍が如き鋭い蹴りが容器の中腹を穿つ。ペットボトルは中身とともに粉々に砕け散った。
パフォーマンスとしては十分過ぎる。弟子たちはチャパ王の圧倒的な武力にどよめいた。
これが天下一常連の実力者、チャパ王だ。
「ところでその小僧の様子は?」
「そ、それが──」
「孫悟空選手! 入場10分前です」
「ん? もうオラの番かぁ」
「飯かっこンでるわ」
「試合で吐くよォあれ…」
周囲の奇異の視線を気にすることもなく、悟空はバナナやおじやといった食材をこれでもかと口に詰め込む。
続いてペットボトルを高速で振ることでコーラの炭酸を抜く。そしてそれを胃の中へと勢いよく押し流していく。
「オイオイオイ」
「死ぬわあいつ」
偵察に来ていたチャパ王の門下生は少年の愚行を嘲笑した。
腹に物を貯めた状態で、かのチャパ王と戦おうなど愚の骨頂である。
しかし、悟空を呼びに来たアナウンサーの着眼点は彼らとは違う場所にあった。
「ほう炭酸抜きコーラですか。大したものですね」
炭酸を抜いたコーラはエネルギー効率が非常に高いらしく、レース直前に愛飲するマラソンランナーもいるくらいだという。
得意げに語るアナウンサーへ門下生たちは訝しんだ視線を向ける。
「なんでもいいけどよォ」
「相手はあのチャパ王だぜ?」
そう、相手は世界トップクラスの武闘家。快進撃こそ目を見張るものがあるが、悟空は天下一武道会を一度も優勝したことのない、言わば挑戦者である。
たかが栄養管理如きで絶対的な力の差をひっ返せるとは到底思えない。
だが数多の武闘家をサングラス越しの目で見てきた彼は、悟空がただの人間ではないことをしっかりと把握していた。
昨年度見せた別次元の戦い。その目撃者たる彼の中では、既に勝敗が決まっているのである。
「それにこれまで食した料理全てが即効性のエネルギー食です。しかも変な豆も添えて非常にバランスが良さげだ。……それにしても試合直前だというのにあれだけ補給できるのは、超人的な消化力というほかない」
門下生たちは饒舌に語るアナウンサーの姿に絶句した。そして徐々に判っていく。
この少年、さては物凄い存在なのでは? と。
「よし、と!」
炭酸抜きのコーラを一気に飲み干した悟空は、予選武舞台へと歩を進めた。
近づくにつれ高鳴る鼓動。天下一への道を歩んでいることを確かに実感していた。手に入らぬものなどがない……明日を信じる
「ご、悟空ーっ! た、大変だ!」
「どうしたんだよクリリン……それにヤムチャも。そんなバカみてぇに慌てちまってよぉ」
試合会場の方から走ってきたのは、悟空一番の親友であるクリリン。その傍には古株の仲間であるヤムチャの姿も見える。
だが彼らの顔は焦燥に染まっていた。
そしてその理由に悟空もまたたじろいだ。
「勇次郎が暴れてやがる! 試合会場はもうめちゃくちゃだぜ!!」
「ゆ、勇次郎のおっちゃんが!?」
自信に溢れていた悟空の心を支配したのは一抹の恐怖と大きな興味。
脳裏にフラッシュバックするのは悪魔的な風貌にオールバックの怒髪。そして《あの背中》──
急いで通路を駆ける。奥からは選手たちの悲鳴がつん裂く勢いで蠢いていた。
辿り着いた試合会場では
三人は顔を歪めた。
「ひ、ひでェ…!」
「こんなのただの殺戮じゃないか…!」
根本的な実力の圧倒的な隔たり。誰が見ても一目瞭然のそれを、
第22回天下一武闘会は、たった一人の化け物によって壊されてしまったのだ。
「やい勇次郎のおっちゃんッッ! これはオラの試合だぞっ! 出てってくれよ!」
悟空の威勢良い声に
その姿を認めると壮絶な笑みを浮かべた。
「──何が天下一……雑魚どもが群がンには少々ブランドが過ぎる。凡百が目指す最強とは、頂点とは、それほどまでに高値なモノか? なあ悟空よ」
「どうでもいいけどよォ、戦いてぇなら普通に天下一武闘会に出ればよかったじゃねえか」
「
うんざりした様子で悟空は勇次郎を睨む。呪縛とも言えるほどの強烈な繋がりが二人の間にはあった。それは一方的なものでもあるのだが。
「不満そうだな。妨害されたのでは流石に立つ瀬がないか。……ならば貴様を合わせて本戦出場を決めた8人、ガン首揃えてここに集めろッッ」
不意に場が色めき立った。
一瞬の戸惑いの後、またとない
天津飯が、餃子が……クリリンが、ヤムチャが、ジャッキー・チュンが、闘気を滾らせながら
勇次郎という化け物を止めることができる可能性を持つのは、この場にいる少数のみ。
ならば出るしかあるまい。──そんな高尚な義務感もあることにはあった。
だが彼らを動かした最も強い衝動は、闘争心と好奇心である。
範馬勇次郎を相手に自分はどこまで戦えるのか……全ての武闘家の夢への到達へと至らんが為に足を踏み出した。
「俺からのビッグボーナスだ。本物の
*◆*
範馬勇次郎。
何者をも超える比類なき絶対的な力を欲しいがままにする、地上最強の異名を自他共にして冠する男。またの名を、
オーガの武力は地球の軍事力に匹敵──否! 遥かに凌駕する。
まさに宇宙の奇跡。
……いや、これこそ断じて否。
勇次郎の存在は宇宙の理でさえ手の届き得ぬ領域であった。誤算でも不手際でもない、制御できぬ次元より爆誕せし怪物。
オーガを止める手立て、未だ存在せず。
プロローグの10年前から物語は始まる。
悟空ってグラップラーじゃないのに「グラップラー悟空」はおかしいな……ってことで題名を変えました。需要と時間があったらちょくちょく書きます。
あァ? こんなん書いてていいのかって?
イヤミか貴様ッッ
オイオイオイがしたいが為に書いたのは言うまでもない。両作品でならヤムチャと本部さんが好きです。次点で天さんとジャック兄さん。
基本的にはオーガさんがドラゴンボール世界をじっくり堪能するお話になります。
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2話
東の439地区。人界より隔絶された野生生物の楽園であるパオズ山。
普通の人間には登ることが難しい秘境であり、民家は点在する程度。好き好んで踏み入る者はまずいない場所だった。
だが、この場所で人知れずとある対面が為っていた。
その片割れは武天老師の一番弟子で、この地球上において五本の指に入るであろう達人中の達人、孫悟飯。
寄る年波を感じさせない軽快な武術が特徴である。
その孫悟飯が萎縮していた。滲み出る汗が何度も顳顬を伝うのを感じていた。
理由は机を挟んで目の前の椅子に座る化け物。
範馬勇次郎は筋繊維の深く刻まれた頬を軽く持ち上げ、悟飯へと強烈な視線を向けていた。
悟飯は、己の不覚を甘んじて受け入れる。
「
悟飯に酒を勧めつつ、いの一番にグラスを手に取ったのは勇次郎だった。
並々注がれた酒を一気に煽る。そして右頬、左頬とゆっくり味を吟味した上で飲み干した。
「いい葡萄だ……樽もいい」
勇次郎は満足げに軽く天を仰いだ。
「アンタにゃ下手に凝ったモンよりも、こっちの方が
「嬉しい心遣いです」
返答にさも当然と言わんばかりに一息つく。
続いて木製の皿に盛られた殻実へと手を伸ばす。そして指の圧により一杯に握られた木の実の殻を粉砕。口の中へと放り込む。
「この近くで採れた木の実だ。簡素な味がコニャックによく合う」
「木の実を口にする範馬勇次郎ですか。……とんだ『貴重な瞬間』を見せていただきましたぞ」
「本題に入るのが恐ろしいか」
ピタリ、と。悟飯の一切の動きが止まった。
やがてゆっくり顔を勇次郎の方へ向けると、溢れ出る感情を抑えつつ朗らかに答えた。
「ええ……途轍もなく恐ろしい。
胸に詰まるモノを大きな溜息とともに押し出す。額の汗をぬぐった。
軽くない用事。その内容も大体見当が付いていた。だがそれを当てるのがこの上なく恐ろしい。
「闘気に殺気……。此処に来たのが明るい理由ではないことは一目瞭然。まさかとは思いますが……武天老師様や牛魔王はもう……?」
「いやァ……てめェが始めだ。牛魔王などもはや喰う気にもなれん。亀のジジイはトリだ。なら、逆算的に貴様だけになる」
「そうですか。それを聞けて安心しました。……では、これよりは己の身の心配をするとしましょうぞ。さあ、どう生き残ったものか」
悟飯の言葉を戦意の表明と取ったのだろう。勇次郎は壮絶な笑みを浮かべると椅子をまた越した。
一歩、二歩と悟飯に近づき、威圧感もそれに合わせて高まりを感じさせる。
そして長いリーチから繰り出される大振りの一撃。音が爆発し、不気味な破裂音が反響する。
流石は達人と言うべきか、悟飯は最低限の接着のみで勇次郎の攻撃を受け流すことに成功していた。仮に防御の選択を取っていれば、ただでは済まなかった。
それは悟飯の背後で無惨に砕け散った我が家の壁が証明している。
風圧のみで家の半分を吹き飛ばす規格外のパワー。
悟飯は自身の震えを確かに感じていた。
「この一撃を生き延びる者がこの星に何人居ると思う? この狭い地球で、だ」
「……そうそうはおらんでしょうな」
「俺の知る限りじゃアンタと亀のジジイ、あと鶴仙人とその弟くれェか。随分と狭い世の中になっちまったモンだと、そう思わねェか?」
「私はこの生活に満足しております。これ以上の何を望みましょうか」
ケッ、と吐き棄てた。勇次郎にとっては気に喰わない返答だったようだ。
「相も変わらずつまらん男だ……武を腐らせるだけのことはある」
「自身を追い詰める存在を求めておるのですか? 退屈な戦闘の日々を脱したい……そんな思惑を感じさせますな」
「分かったようにほざくなッッ!!」
脳天へと振り下ろされた一撃をなんとか躱す。拳圧で一帯の地面が陥没した。
悟飯は言葉を続ける。
「こんな先の短い爺を殺すくらいなら後進を育ててみてはどうか。弟子を取るもよし、誰かと武を競い合うもよし……あなたが望むなら子供でも作ってみればいいのでは?」
「フン……その点は分かっているか……」
向けていた拳をズボンのポケットにしまう。
一応の戦意が霧散したことに悟飯は酷く安心した。
「俺に対抗できるのは俺に流れる範馬の血のみ……それに少し前に気付いてなァ。そんで一時期は適当に種を蒔いてみたんだわ」
「なんと……」
「だが母胎が耐えられねェ……。範馬の血が弱い息子を拒否するのさ。そしてついぞ範馬の血に耐えることのできる女は現れなかった」
表情や佇まいは全く変化していない。
だが悟飯は解った。勇次郎がこの世界に……延いてはこの星に失望を抱いている事に。
だから自分や武天老師を殺し、新たなるステージへと進もうとしているのか。
とても危険なことだ。
「あなたが何処を目指しているのか皆目見当もつきませぬ。まさか宇宙にでも行かれるつもりか? 私にはそれくらいしか……」
「あァ……国王の野郎にわざわざ注文してやった。喜んで引き受けてくれたぜ?」
「……言い当てた私が言うのもなんですが、まさか本当にそんな事を考えていたとは」
喜んでの下りは「そりゃそうだろうな」と、悟飯はキングキャッスルに居を構えるあの国王に同情した。
勇次郎はその圧倒的な戦闘力を背景にこの国そのものと友好条約を結んでいる。故に国王は勇次郎に一切頭が上がらないのだ。
晴れて地球から出て行ってくれるなら彼方にとっては万々歳だろう。
勇次郎もそのことを承知で国王に命令したのだろう。
だがそのついでで殺されるのでは堪ったものではない。
悟飯の思い描く武闘の道とは、暴力のみによって掴む勝利ではなく、範馬勇次郎の思想には到底看過できるはずもなく……。
だからこうして一度も同調することなく、常に勇次郎を監視してきた。
範馬勇次郎はある意味この世で最も純粋な男と言えるだろう。
心に巣食う全てを喰らわんとする底無しの戦闘欲。これを本人以外が制御できる気はまったくしないが、負の方向に作用するばかりでは無い。
例えば自分や武天老師すら叶わない巨悪……それこそ伝説の『ピッコロ大魔王』のような化け物が出現した時。
世間一般の正義感など微塵にも持たない勇次郎だが、喜んでその討伐を引き受けてくれることだろう。その挙句に平和がもたらされるのなら結果オーライだ。
つまり、地球最強の「防衛力」
悪や正義など一辺倒な価値観を持たない男、どこまでも身勝手な存在。
そんな勇次郎と和解できればどれほどいいだろうか。追い込まれた悟飯は切に願った。
「さァ──やるか」
「避けられぬか……ならば抵抗させてもらいましょう。それこそ、死ぬ気で」
「それでいい。本気の貴様こそ真に屠るに値するッッ!」
戦闘形態とも取れぬ自然な構え。隆々の筋骨を
瞬発力を要求される際、必ず指摘される
弛緩と緊張の振り幅が──打力の要。
勇次郎の超恵体から繰り出されるそれは筆舌に尽くしがたい破壊力となるだろう。
文字通りの一撃必殺ッッ。
闘気の均衡が崩れ───。
拳が悟飯の眼前で静止する。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」
「……」
確実に奪われていた命に対する膨大な慈しみ。そしてなおも去来する圧倒的な虚無感。
悟飯の膝が崩れ落ちた。
「……っはぁ……はぁ!」
「救われたな孫悟飯。貴様へ向けられていた興味はたった今他所へと移った。随分と面白そうなのが来てくれたもんだぜ」
「面白そうな、もの?」
言葉には答えず、倒壊した壁をまた越して勇次郎は外へと出た。悟飯もまた震える足に鞭打ちその背後を追った。
勇次郎の興味を引くほどの存在。何としてでも目に収めなければなるまい。
そして、勇次郎の足が止まる。
前方には直径50メートルになろうかという巨大なクレーター。その中心には丸型の機体と思わしきモノが見える。
これが落ちた衝撃に勇次郎は反応したのか?
いや、これほどの規模のクレーターを作るほどの衝撃ならば普通は気付くはず。つまり、勇次郎の闘気に呑まれて気づかなかったということか。
唸る悟飯を余所に勇次郎はクレーターを下る。そして丸型の機体のドアらしきものを剛腕で取り払った。少し遅れて悟飯も追随する。
機体の中は狭く、入っていたのは生まれて間も無いだろう赤子だった。
「これは……赤ん坊」
「ハッ、わざわざ
神や運命が実在するかどうかは兎も角として、確かにこのタイミングには些か驚かされた。宇宙進出の旨を勇次郎が直前まで話していただけに、勇次郎と同じく悟飯も運命的なものを感じた。
だが次に悟飯が憂いたのは未知の赤ん坊の処遇だった。見たところ戦闘能力は全くと言っていいほど感じさせないのだが、この赤ん坊の何かが勇次郎の琴線に触れている。
それこそ、今にでも拳を振り下ろしそうなほどに勇次郎は戦意に塗れていた。
恐る恐る問いかける。
「その赤ん坊を、どうするのですか?」
「こいつはお前が育てろ。貴様の持てるありったけの武をこいつに叩き込んでやれ」
勇次郎の答えは予想を遥かに上回るほど不可解なものだった。それは悟飯が思わず惚けてしまうほどに。
言葉が嘘や冗談で無いことは勇次郎の笑みが何よりも証明している。
「構いませぬが……いやはや
「面白ェ素材だぜ、こいつァよォ。どういう目的で地球にやって来たのかは知らねェが、叩けばどこまでも伸びる地力を秘めてやがる」
勇次郎からの高評価は珍しいものでは無いが、簡単なものでも無い。この赤ん坊に勇次郎がそこまで言うほどの素質があるのだろうか? 悟飯にはわからない。
だが元よりこの赤ん坊は自分が育てようと思っていた。「これ以上は望まない」と見栄を張ったものの、独り身で寂しいことには変わり無い。こんな形でも家族が出来るのは嬉しいものだ。
だがまだ疑問は残っている。
「この子を貴方に殺されるわけにはいきませぬので鍛えることにはしますが、好敵手を作りたいのなら自ら育てれば良いのでは……?」
「ンなことしてみろ──……」
「途中で摘み喰いしちまうだろうが」
元ネタは本部に「ちゅどっ」をくらったときのやり取りとvs郭海皇。
ちなみに前回はオイオイオイと勇次郎の途中トーナメント乱入です。ちょくちょくこんな感じで挟んでいきます。
勇次郎のキャラは序盤と最新でかなり違うので、まあそれらの側面をそれぞれ持ち合わせた勇次郎ということで。
つまりエア夜食はするしかなりの常識を持ち合わせているけど、アマチュアボクシングクラブに殴り込んで雑魚狩りを楽しんだりもする範馬勇次郎ですね。
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