転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。 (村雨 晶)
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設定です…

前々(3年前)から言っていた設定です。
予定より少し増えたけど、まま、ええやろ。


もうこんなエタった小説なんて誰も読んでないっしょ(慢心)


 

 

十六夜咲夜

 

本作の主人公。中身はポンコツのダメイドだが、家事に関しては完璧の一言。

戦闘能力は原作咲夜と比べ一歩劣るものの、日々の修練と漫画などの知識から構築した原作にはない発想でそれを補っている。

紅魔館の面々には家族愛に似た感情を抱いており、若干依存している部分もある。普段の脳内お花畑からはなかなか想像できないが、紅魔館の皆がいればそれでいいし、それ以外の者がいなくなっても悲しいけど仕方ない、で済ませてしまうくらいには精神が歪んでいる。なお、紅魔館のメンバーが一人でもいなくなればほぼ確実に発狂する。

原作知識は持っているものの、原作通りに進んだことはあまりないので無用の長物と化した。

当初の鉄面皮設定はどこか行方不明となったのか、表情は割と変わる。ただ大声で笑ったり、泣いたりすることは滅多にない。脳内でどれだけ叫んでもそれがほとんど表に出ないというありがちな設定である。

美鈴に拾われる以前の記憶はなく、出生も不明。今後明らかにする予定。

胸は美乳。大きすぎず小さすぎず。ただ、さんざんネタにされていたためか、美鈴のを見てパルパルすることも。

撫でテクEX。撫でればどんな存在をも魅了するが、内面がチキンなため、格上にはほとんど使用されない。

 

 

レミリア・スカーレット

 

紅魔館の主。カリスマの塊。この二つで説明は十分な気がする。うん。

書き始めた時はテンプレなカリスマブレイク枠の予定だったのにいつの間にやらカリスマしすぎていて作者にも止められない存在に。どうしてこうなった。

運命を操る程度の能力により咲夜の姿を見て一目惚れ。以降咲夜に対してデレデレに。

でも締めるときはきっちり締めるし咲夜の成長も考えられる理想の上司。

実力で言えば幻想郷のトップ争いできるくらいには強い。というか紫と先代巫女同時に相手して殺し合いで拮抗している時点で結構な化け物。しかもいまだ成長途中。なんだこのチート。

カリスマA+++。でも幻想郷だとカリスマ持ちは結構多いので影響を受けるのは咲夜位。

 

 

フランドール・スカーレット

 

悪魔の妹。しかし本作では天使のような悪魔。咲夜の癒し枠筆頭。

原作ではレミリアが地下室に閉じ込めていたようだが、本作では自身の能力の危険性に気付いたフランが自ら望んで籠った。それからずっと自分の中の狂気と戦い続けてきたが、咲夜の登場により大きく緩和される。

しかし狂気が消えたわけではなく、いまでもある拍子に出てきてしまう。

最近では、自ら狂気に身をゆだねた結果、狂気側に少し傾いた。具体的に言うと咲夜に若干の病みを抱えた。咲夜は気付いてはいるが、ヤンデレもいいよね!と気にしてない模様。お前それでいいのか。

咲夜を独り占めしたいけど嫌われたくないので普段は口に出さない。

 

 

パチュリー・ノーレッジ

 

ウ=ス異本で酷い目に合うイメージが作者の中では根強い大図書館。

本作ではドラえもん、もしくはジェバンニ。しかし彼女の場合は一晩でなく一瞬で準備してくれる。

「とりあえず道具面で困ったらパチュリーにぶん投げろ」が作者の中での立ち位置。

本作では頼れる姉貴分。個性が強すぎる紅魔館での数少ない常識人。

レミリアやフラン、咲夜に頼まれれば溜息を吐いて毒も吐くけどちゃんと叶えてあげる。

弟子はフランと魔理沙。特に魔理沙には能力込みで気に入っているのでかなり目をかけている。

昔の苛烈だったころのレミリアを気に入って付いてきていたが、穏やかな日々も悪くないかなあ、と思う今日この頃。

最近咲夜が危ない目に遭うことが多くて気にしている。

 

 

紅・美鈴

 

本作での常識人枠。咲夜の教育係であり、作者の嫁。

作者は咲夜さんが大好きです。美鈴も大好きです。さらに言うならイチャイチャしているめーさくを愛しています!大事なことなのでここで言っておきました。

レミリアに頼まれて咲夜を保護した張本人。以降咲夜の教育係として過ごし、咲夜が一人前になるのを見届けて門番へと転向。普段は門前でぽんやりと過ごすか、妖精と遊んで過す。でも居眠りとかさぼりはしない。うちの美鈴は優秀なのです。

実は咲夜と最もスキンシップが多い。仕事終わりに咲夜が部屋を訪ねることもあるし、たまに一緒に風呂とか添い寝とか…。クールな人が唯一甘えられるってシチュは個人的にグッときます。皆さんは…、え、こない?

咲夜の体術の師匠でもあり、自身の技術を惜しみなく与えている。

某MMDのせいでめっちゃ強いというイメージが先行しすぎていて作者的に戦闘シーンを書くのが難しい人。

 

 

小悪魔

 

咲夜の癒し枠その二。

ドジッ子でよく本を(咲夜の上に)落っことす。わざとではない。

本には自動修復魔法がかけられているので傷ついても大丈夫。やったね。

かつての吸血鬼異変にてパチュリーに召喚された悪魔の軍勢の唯一の生き残り。

なお親がソロモン七十二柱のうちの一柱という無駄に壮大な裏設定があるが、本編には一切関係ない。

本編にはドジっ子としてしか登場させる予定はなかったものの、永琳があまりにもチートすぎたせいで急遽解呪・解析のエキスパートという設定を後付けした子でもある。

咲夜のことは頼りになるお姉さんと慕っている。……中身あれだけどそれでいいのか小悪魔よ。

 

 

博麗 霊夢

 

みんな大好き原作主人公。YR1。個人的には二次創作で作者によって性格が大きく変動するような気がする。

本作では咲夜を警戒していたものの、予想以上に危なっかしくて今や気になる子、というポジションに。

ぶっちゃけキャラをつかみきれてないので設定もそんな練られてない子。

 

 

霧雨 魔理沙

 

ある意味原作から一番乖離したイメージ。

パチュリーの弟子のため魔導書を読みまくって実は原作より力を付けている。

咲夜とは一緒にいて楽しい友人。良くも悪くもそれ以上になることはない。

原作と違い、図書館への入館許可、およびパチュリーからの魔法指導、フランとの魔法訓練と魔法使いとしては十全以上の環境にいる。そのため、死ぬまで借りるイベントは発生しない。

作者的に美鈴に続いて戦闘シーンが書きにくい子。でも操作キャラ的には霊夢より魔理沙のほうが使用頻度は高い。使いやすいんだよね魔理沙。

 

 

魂魄 妖夢

 

キャラを固めないまま登場させた結果よくわからん性格になった子。作者は未だに妖夢のキャラを決めてない。故に霊夢同様決まっている設定もあんまりない。

本編にてさらわれた咲夜を捜索する程度には常識人。ああいう真面目キャラって基本貧乏くじ引いているイメージがあるためか幽々子相手に苦労しているシーンが多い気がする。

咲夜のことは従者仲間として仲良くしていきたいと考えている。家事の話で気が合うこともしばしば。

 

 

八雲 紫

 

みんな大好き幻想郷の管理者。今日も今日とて幻想郷の平穏のため暗躍する…はずがレミリアのカリスマのしわ寄せを食ったかのようなカリスマブレイク枠に。

基本相手に悪感情しか抱かれないためか、それを全く感じさせずに自分と接する咲夜を素直すぎると心配している。

かつてのレミリアを知っているため、あそこまで性格を丸めさせた咲夜に興味を持った。

だが、紅魔館の面子には警戒され、霊夢には胡散臭そうな顔をされ、自身も基本多忙なために咲夜と話す機会はあまりない。

作者的には頭が良すぎるキャラって何考えているか分からんという理由で書きにくさ第一位の方。

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバ

 

能力を使って強気の性格を演じていた子。本来の性格は臆病で人見知り。

でも戦いの中でかばってくれた咲夜には少し心を開いている模様。咲夜の癒し枠3候補。

月で軍人をしていたため体術や銃の扱いに長ける。

実は重度の武器マニアで、無縁塚に流れ着いたナイフや銃を集めている。この設定が生かされるかは不明。

最近は妖夢の刀に興味をもったらしい。

 



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紅霧異変真っ只中…はあ、憂鬱です…

や っ ち ま っ た・・・!
呪刀話の完結すらまだ分からないのに何やってんだ自分…。
こちらは完全に息抜き用に書いた話なのでクオリティの低さと更新速度の遅さは勘弁してください。
感想をくれれば作者が喜びで発狂します。


さて、唐突だが、皆様は「東方Project」という作品を知っているだろうか?

これは幻想郷を舞台とした弾幕シューティング、および弾幕アクションゲームの総称で、その不思議な世界観、魅力的なキャラクターたち、美しい弾幕を用いた戦いは様々な人々を魅了し、その人気は根強い。

 

そしてこの作品を知っている方は「十六夜咲夜」を知っていることだろう。

彼女は東方Projectの記念すべき第一作目である「東方紅魔郷」に登場するキャラクターだ。(ここでは旧作と呼ばれるものは別のものとする)

五面のボスであり、能力は「時間を操る程度の能力」で、文字通り時間を止めたり早めたりすることが可能。巻き戻すことはできないらしい。この能力を応用して紅魔館の空間を広げたりもしている。

「完全で瀟洒な従者」などの呼び名から完璧超人に見られがちだが、実は結構な天然だったり、元ネタが某漫画の敵役の吸血鬼だったりと彼女を語るにはかなりの文字数を必要とするのでここまでにしておこう。

 

さて、ここまで400文字近くべらべらとこんな説明をしているのかというと、今、現在進行形で十六夜咲夜になっているからだ。

 

 

 

……どうしてこうなった……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今私の目の前にあるのは目が悪くなりそうな真っ赤な壁と床、そして天井だ。

ここ「紅魔館」は館の主の趣味で全てが紅く染められている。

二階にいる私の眼下ではメイド妖精が忙しなく掃除をしている。…と言っても彼女たちは恐ろしく作業効率が悪く、最終的には散らかった状態になって作業が終わるので結局私がやり直す羽目になるのだろうけれど。

はあ、と溜息をこぼすのは紅魔館でメイド長を務めている私、十六夜咲夜だ。

窓の外に目を向けると、紅い霧が館の周りを包んでいた。(そういえば、紅魔館には何故窓が取り付けてあるのだろう?普通は日光を取り入れるために設置するものだが、この館の主は吸血鬼であり、伝承通り日光が大の苦手なのだが)

これから館内で起こる騒動とそれ伴い発生する戦闘に巻き込まれること、その後の掃除を考えて憂鬱になる。もし彼女たちが原作通りの性格なら、こちらの被害など考慮せずに弾幕をばらまくことだろう。もしかすると主人公の一人、「霧雨魔理沙」はそのスペルカードでもって壁すらぶち抜くかもしれない。

そんなことに思い至ってただでさえ痛かった頭と胃がさらに痛み始めた。

切実に、平穏が、欲しい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう察している方は多いかもしれないが、念のため説明しておこう。

私、十六夜咲夜は転生者だ。転生者といっても、前世の記憶はほとんどなく、家族や友人の顔や名前はおろか、自分の性別さえ思い出せない。そのくせ好きだったアニメや漫画などの知識は残っていることからもしかしたらオタクと呼ばれる人種だったのかもしれない。

その残っていた知識の中には東方の知識と十六夜咲夜のプロフィールがあった。

まだ幼いころに門番の紅美鈴に拾われ、紅魔館で暮らすことになった時、紅魔館を見て

 

 

(あれ?ここ、紅魔館じゃね?え?私、転生直後に吸血鬼に殺されるの?)

 

 

なんて思ったりした。まあ結局レミリアお嬢様は私に「十六夜咲夜」という名前と、紅魔館という居場所をくれたのだけれど。というか私が咲夜だと聞いた時には驚きで卒倒しそうになった。(表情も顔色も全く変わらなかったけれど。どうやらマイボディは私の感情や心境になんか従うつもりなどないらしい)

 

その後は今までメイドの仕事と門番の仕事を兼任していた美鈴にメイドとしての仕事を教わったり(美鈴は優しく教えてくれた。彼女が怒ったところを見たことがないし、気配りもできる。幼かった私が心を一番開いていたのは美鈴だったかもしれない。綺麗で優しいとか反則過ぎる。結婚しよ)

レミリアお嬢様の従者として大事なことを叩き込んだり(レミリアお嬢様のカリスマが半端なかった。だれだよ、カリスマブレイクやらうー☆だの言ったやつ。そんなの微塵もないぞ)

図書館でパチュリ―様のお世話をしたり(パチュリ―様は私のことはあまり興味がないように見える。事務的なことしか話さないし。小悪魔は…癒しだよね!ときどき時間を止めて頭を撫でたりしてます。でも私の頭上で本をぶちまけるのはやめてもらいたい。クールな顔して避けてるように見えるけど心の中では結構必死になってるから!)

フランドール様に料理を届けたり(原作では妹様と呼んでた気がするけどそれじゃ味気ない気がしたのでフラン様と呼んでいる。狂気が鳴りを潜めていればすごくいい子です。小悪魔に続いて癒し要員。でも狂気真っ只中の時に会うと、弾幕と能力を駆使して襲ってくるので要注意。だから外面が冷静でも内心は冷や汗だらだらなんだってば!)

能力の研鑽に精を出したり(時止めだけでなく早送り、空間拡張、固有時制御まで使えるようになった。さすが五面ボス)

ナイフの扱いを学んだり(投げたり振り回したりするだけだが。投げたら本当に頭にリンゴを乗せた妖精の額に当たった。ごめんよ、名も知らぬ妖精メイド…。ちなみにナイフ以外の武器も試してみたけど全て手からすっぽ抜けていく。これもう一種の呪いなんじゃないかな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで17年。今現在原作が始まろうとしている。

それもこれもあの隙間妖怪がレミリアお嬢様を唆したせいだ。パチュリー様はこれから幻想郷で暮らすにあたって必要なことだと言っていたけれど。

でも、でも、原作が始まるってことはこれから私もいろんな異変に巻き込まれるってことじゃないですか、やだー!

私はただ平穏に暮らしたいだけなのにー!

はあ、とにかく今は招かれざる客が来る前に戦闘の準備をしておかなくては。

こちらが嫌だと言っても問答無用で襲ってきそうだし。

私は門のあたりから聞こえ始めた戦闘音を聞きながら遠い目をしつつ、配置場所へと急ぐのだった。

 

 



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主人公に勝てるわけないじゃないですか…

なんか呪刀話よりも人気があるっぽくて驚いてる作者です。
ここの読者はそんなにさっきゅんが好きなのか…?

今回は戦闘ですが、私には戦闘の様子を描くには実力がないことが分かっただけでしたorz
前回と比べると、少し短いです。
では、どうぞ。



 

色とりどりな弾幕がホールを埋め尽くし、それらは私のもとに高速で迫ってくる。

私はそれらを時間を止めることで回避し、お返しにナイフを投擲する。

腋を出すという特徴的な巫女服を着た少女――「博麗霊夢」はナイフ群をグレイズしつつ回避する。

端から見れば互角の戦いを繰り広げているように見えるだろうが、そんなことはない。

 

 

(死ぬ死ぬ死んじゃう!掠った!掠ったよ今!もうやだ!お家帰るううう!)

 

 

スペルカードルール上、当たり所が悪くない限り死ぬことはないのだが、そう分かっていても弾幕が自分に押し寄せてくる光景というのはかなり恐怖心を感じるのだ。

パニックになりつつも霊夢の弾幕を避け続ける。

内心が取り乱しているというのに動きが鈍くならないのは相変わらず私の心境を考慮しないマイボディのおかげである。きっと外面は冷静な表情、もしかしたら余裕の微笑すら浮かべているかもしれない。

実際はそんな余裕ないから!心の中では涙目になってるから!

なんとか弾幕を避けきると、霊夢が若干イラついたような表情で話しかけてきた。

 

 

「余裕ね。笑みなんか浮かべちゃって。そんなに私の弾幕は避けやすいかしら?」

 

 

「そうね。まるで時間が止まっているのかと思うほど遅い弾幕だったわ」

 

 

なに言ってんだマイマウスううううううう!!!!????

実際に時間を止めて避けてるやつの台詞じゃねえだろおおおお!

というかやっぱり笑ってました!?違うの!そんな余裕ないの!

だからその懐から取り出したスぺカをしまってえええええ!!

 

 

「そう…。そんなに余裕があるならこれも避けきってみなさい!」

 

 

――霊符「夢想封印」

 

 

大小様々でカラフルな弾幕が殺到する。

これも時間を止めることで回避するが、その弾幕に込められたホーミング能力をもって私を追尾してくる。

ゲームでも見たけど、この追尾能力反則じゃない!?

なにこの異常なまでの追尾能力!外の世界のミサイルじゃないんだよ!?

こっちも避けながらナイフ形の弾幕と銀のナイフを放つことで霊夢に攻撃してるけど全く当たる様子はない。

博麗の巫女の勘半端ねえ!!死角から放ったナイフをグレイズで避けるって、最早あれ能力でしょ!

こうなったらこっちもスぺカを使うしかない!

私は懐からスぺカを取り出し、宣言する。

 

 

――幻世「ザ・ワールド」

 

 

「時よ、止まれ」

 

 

時間を止め、ナイフを各所に設置する。(この時にジョジョ立ちするのも忘れない。ん?そんな余裕ないんじゃなかったか?十六夜咲夜やってるならジョジョネタは必須でしょう!)

 

 

「そして、時は動き出す」

 

 

相変わらず私の意思に反して動く口はもう放置するとして、時間が動き出した瞬間、大量のナイフが霊夢に向かっていく。途中、夢想封印に当たって弾かれるナイフもあったが、約七割のナイフは霊夢へと到達する。

幸いにも夢想封印も私の弾幕に当たって軌道がそれた。

ゲームでは主人公がスぺカを放つことで敵の弾幕が問答無用で消されていったが、現実ではせいぜい軌道がずれる程度のようだ。(もちろん、マスタースパークのような強力なスぺカの場合は消されてしまうのだろうが)

しかもその時にスぺカの制限時間が訪れたのか、夢想封印が消失する。

チャンスだと感じ、さらに弾幕を重ね、避けにくいように退路を塞いでいく。

しかし、霊夢の顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。

 

それを見て私は退こうとするが、その前に再び夢想封印が宣言され、ナイフの群れは弾き飛ばされ、弾幕は打ち消されていく。

そして、一際大きい弾幕が私に直撃した。

私は吹き飛ばされ、壁に激突し、墜落する。

朦朧とする意識の中で私は紅白の巫女を見上げる。勝ったというのに彼女の顔は不機嫌そうな表情を作っていた。

 

 

「あ・た、最後・・、よゆ・・笑み・浮かべ…」

 

 

霊夢が何か言っているようだが、全身が痛み、意識が途切れそうになっている私には上手く聞き取ることができない。

私は霊夢に見下ろされながら意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたときにホールの惨状に私が心の中で絶望の声を上げたのは言うまでもない。

 

 

 




感想・ご指摘お待ちしてま~すノシ





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苛立ちの理由(霊夢視点)

2話目を投稿してふと情報を見たら評価ポイントが3ケタから4ケタになっていてジュースを噴出した作者です。
息抜きに書いていこうと思っていたこの小説がこんなにも多くの人に読まれているとは信じられませんでした。
これからもよろしくお願いします。


 

 

私は苛立っていた。

理由は様々だ。

紅い霧のせいで洗濯物が乾かないだとか、霧に含まれる妖力のせいで人里で体調を崩す人が増え、村に行ったときにすごい勢いで解決を依頼されただとか、この紅い館に来る道中や館の中で行った戦闘で服がボロボロだとか、勝手についてきた自称親友がいつの間にかいなくなっていただとか。

 

でも、この苛立ちの一番の原因は、先程打ち負かしたメイドだ。

 

 

 

彼女に会ったときは少し驚いた。

人間が妖怪の住む館にいるなんて思わなかったからだ。

でも、ここにいる以上、異変の元凶に関係しているのは明白だ。だから戦いを吹っかけた。最近になって紫が作り上げたスペルカードルールに則って。

彼女も他の妖怪と同じでこのルールを知っていたらしく、軽く了承して戦闘態勢に入った。

 

彼女の弾幕の印象は、華麗で無駄がない。そんな感じだった。

ナイフと弾幕を織り交ぜて放つ様はまるで踊るようで、そして能力なのだろう、瞬間移動のようなものを使って私の弾幕を避ける姿は美しかった。

時にはどうやったのかは分からないが、私の死角に弾幕を配置することで確実に当てようとするのは、暗殺者の手際を思わせる。(この攻撃は私の勘でなんとか避けられたのだが)

弾幕は絶妙にいやらしい配置で、避けるためのルートが細く、時には逃げ道だと思ったところに罠を張るように弾幕を新たに置いていったりもした。

 

避け方も上手く、なかなか当たらずに本当に腹が立った。

しかも余裕の笑みを浮かべながら避ける姿が私の怒りをさらに大きくさせた。

挑発して動きを鈍らせようとすれば、逆にこちらを挑発する始末。

だから怒りにまかせてスペルカードを宣言した。

 

夢想封印は私が作ったスぺカの中でも自信作だ。

彼女と戦うまでに会ったやつらとの戦闘ではこのスぺカで確実に仕留め、倒してきた。

 

さすがの彼女もこれには余裕の笑みを消し、真剣な顔で避けていく。

驚いたことに40秒ほど弾幕を避け続けたが、とうとう当たると思った瞬間、彼女はスぺカを宣言した。

突如現れたナイフの波が私に襲い掛かってくるが、一部が夢想封印に当たり、弾き飛ばされる。

そのせいで弾幕にできた隙間を通ることで彼女は私のスぺカを避けきって見せた。

 

その姿を見た瞬間、私は本当に一瞬だけ、彼女に見惚れてしまった。美しかったのだ。

その姿が。弾幕をグレイズし続けたせいでボロボロになったメイド服を着ているのに、私のスぺカを避けた喜びをその顔に浮かべ、宙に浮いている姿は一つの絵画のようだった。

 

そのすぐ後に我に返った私は、直感に従ってスぺカを連続で宣言したことで不意を突かれたらしい彼女に今度こそ弾幕を叩き込んだ。

心が揺れていたせいか、いつもより強く力を込められていたそれは彼女をたやすく吹き飛ばし、撃墜した。

 

彼女を見下ろすと、彼女は戦闘中も浮かべていた笑みで、私を見ていた。

まるで自分が負けることも、私が勝つことも全て知っていたかのように。

――そして、自分の主が自分を倒した敵に勝つと確信しているように。

 

 

「あんた、最後まで余裕の笑みなんか浮かべて。気に入らないわ、私に負けたくせに」

 

 

彼女――十六夜咲夜は私の言葉を聞き届けると気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は彼女を放置して、先に進む。

直感が示すままに複雑な廊下を途中で襲ってくる妖精メイドを撃ち落としつつ進み、最上階の一番奥にあった扉を開ける。

 

 

そこには、幼い姿をした吸血鬼がいた。

漏れ出る妖力が彼女が強大な存在だということを私に示してくる。

 

 

「ここまで来るなんてね。咲夜は何をしているのかしら?」

 

 

「あのメイドのこと?彼女なら下の階で寝てるわ」

 

 

「あら、咲夜を倒すなんて、なかなかやるのね、あなた」

 

 

吸血鬼が感心したように言う。

 

 

「あなたこそ、ずいぶん彼女をかってるのね?吸血鬼は人間を餌だと思ってるんじゃないの?」

 

 

「咲夜からは面白い運命が見えたのよ。だから育てた。私を一時でも楽しませるためにね。それに、あの子は優秀だし、何より美しいわ。外見だけでなく、その在り方さえも、ね。」

 

 

「…よくわからないけど、まあいいわ。とにかく紅い霧を消してくれる?そうすれば私はすぐに帰れるのだけれど」

 

 

「それは無理ね。霧のおかげであの憎たらしい太陽が姿を隠しているのだもの」

 

 

溜息を吐きつつ言った言葉は一蹴されてしまう。

だから、私はお祓い棒を吸血鬼へと向けた。

 

 

「そう。なら、力づくで言うことを聞かせるまでね」

 

 

「…あなた、本当に人間かしら?妖怪が化けてるとかじゃないわよね?」

 

 

「失礼ね、私は生まれも育ちも人間よ」

 

 

吸血鬼は呆れたように肩をすくめた。失礼なやつね。

 

 

「あなたと話していると調子が狂うわ。まあ、気を取り直して…、こんなにも月が紅いから――」

 

 

「こんなにも月が紅いのに――」

 

 

「「楽しい夜になりそうね(永い夜になりそうね)」」

 

 

窓から入ってきた紅い月の光を背景に吸血鬼は傲慢に笑った。

 

 

 

 

 



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これ全部私が直すんですか…?

感想が予想以上に多くて感激している作者です。
人に読まれている実感があると、嬉しくなりますよね!
今回はもう一人の主人公が出てきます。

ん?この前の霊夢とレミリアの戦闘前のセリフが最後以外全然違うって?
ふふふ、それはね、作者はいつも咲夜さんにピチュられるからレミリア戦まで行ったことがないからだよ…


 

霊夢に倒され気を失い、再び目を覚ました時、私の眼にホールの惨状が飛び込んできた。

 

 

(え?何これ。なんで床に大きな穴が開いてるの?なんで壁紙がぼろぼろなの?

これ全部私が直すの?……嘘だと言ってよバーニィ…)

 

 

10分ほど心の中でorzった後、ふと窓の外を見ると、紅い霧が晴れつつあり、明日の朝になれば太陽の光が地上を照らすだろう。

 

私が気を失っている間に霊夢がレミリアお嬢様を倒したのだろう。

いつも持ち歩いている懐中時計を見ると、霊夢と戦ってから3時間ほどしかたっていない。

こんな短時間でレミリアお嬢様を倒すなんて…。博麗の巫女は公式チート(確信)

 

もう霊夢たちは帰ってしまっただろうし、夕飯の時間も近い。

もうそろそろ準備をするべきだろう。

私はホールの後始末をいったん頭から追い出し、厨房へ向かう。(それはただの現実逃避だって?細けえこたあいいんだよ!)

 

そういえば今日は異変を起こすということで3時のおやつを作っていなかったことに思い至り、厨房で能力を駆使して30分ほどでクッキーを100枚ほど作り上げる。

 

今はレミリアお嬢様は敗北に打ちひしがれているかもしれないので、もう少し時間が経ったらでいいだろう。

フラン様はこの時間は狂気の真っ只中だろうから今行くのは勘弁願いたい。私だって体がボロボロの状態で戦うのは避けたいのだ。

となると今おやつを届けるべきは美鈴とパチュリー様だろう。

厨房からなら美鈴の部屋より図書館の方が近いのでそちらに足を向ける。

 

図書館に入ると、パチュリー様がいつも本を読んでいる場所へ向かう。

すると、そこには驚いたことに、霧雨魔理沙がパチュリー様と何やら話し込んでいたのだ。(ちなみに今はクッキーと紅茶が冷めないように時間を止めて動いている)

かつて見た立ち絵の通り、絵本にでてくるような魔法使いの恰好をした彼女は、楽しそうな顔でパチュリー様と話している。というか姿が見えないと思ったらここにずっといたのだろうか。

パチュリー様は不機嫌そうな顔をしているものの、いつもよりも眉間のしわが少ないことから彼女もこの状況を少なからず楽しんでいるのだろう。

小悪魔は――うん、いつも通り抱えていた本の山を崩していた。こんな時でも変わらないこの子は本当に可愛いと思う。

 

もうしばらくこのパチュマリを楽しんでいたいが、美鈴にもおやつを運ばなければならないので、能力を解除する。

 

色を失っていた世界が色を取り戻し、時間が正常に動き始める。

突然現れた私に驚いたのか、はつらつな笑顔を引っ込め、驚いた顔で私を見てくる魔理沙を見て悪戯が成功したような気分になった私は、珍しく心からの笑顔を浮かべてクッキーが20枚ほど乗った皿を机の上に置く。

 

 

「今日のおやつでございます、パチュリー様。こちらはお客様ですか?」

 

 

私が現れた時も表情一つ変えなかったパチュリー様は、私の言葉で不快そうな顔になる。

 

 

「例の巫女と一緒に来た、ただのネズミよ」

 

 

「おいおい、ネズミは灰色だぜ?私は白黒だからな、ネズミじゃない」

 

 

「よく言うわ、大切な魔道書を盗もうとしたくせに」

 

 

「別に盗もうなんて思っちゃいない。死ぬまで借りようと思っただけだぜ」

 

 

魔理沙の名言が聞けたことで内心テンションが上がっていた私だが、彼女の分の紅茶を持ってきていなかったことに気づき、時間を止めて客人用のカップを急いで持ってくる。

突然目の前にカップが現れたことに目を丸くしていた魔理沙に笑顔で話しかける。

 

 

「では紅茶とクッキーはいかがかしら?白黒の泥棒猫さん?」

 

 

その言葉を聞いて魔理沙は顔を赤くし、パチュリー様は吹き出した後、珍しく声を上げて笑い始めた。

 

 

「ふふふ、一本とられたわね、魔理沙。ところで咲夜、そこの侵入者は追い出さなくていいのかしら?」

 

 

「ええ、私の業務にはパチュリー様のご友人を追い出す仕事はありませんので。それでは、パチュリー様、失礼いたします。可愛い猫さん、ゆっくりしていって」

 

 

魔理沙を一撫ですると今回は時間を止めずに図書館から出ていく。

 

魔理沙、可愛かったなあ。ああいう元気な女の子が時折見せる恥じらいは見ていて癒される。

途中、可愛い猫~やら、最後に撫でるつもりなんてなかったんだけど。

相変わらずこの体は勝手に動くなあ。

 

私はそんなことをぼんやり考えながら美鈴の部屋へとおかしを持っていくのだった。

 

 

 

 







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咲夜のお菓子は(パチュリー視点)

咲夜さん以外の視点になると、途端にサブタイが思い浮かばなくなる不思議。

というわけでパチュリーさん視点です。
魔理沙視点じゃないのかって?いえ別に魔理沙視点だと話が思いつかなかったなんてことはないですよ?(目そらし)


 

 

「はあ…、まったく驚いたぜ…。なあパチュリー、あのメイドはいつもああなのか?」

 

 

珍しく時間を止めずに出て行った咲夜の背中を見送ると、隣に座っているコソ泥――霧雨魔理沙とか言ったか――が話しかけてくる。(咲夜が時間を止めずに出て行ったのは、彼女の反応を楽しむためだったに違いない。あんなイイ性格してたかしら?)

 

 

「いいえ、咲夜は必要以上に他人と触れ合おうとするタイプではないわね。私も珍しい光景を見て驚いているのよ?」

 

 

そう、咲夜は基本的に相手と触れ合う方ではない。

むしろ、自分から壁を作って接触を避ける方が多い。私とも、レミィとも、フランとも。

例外と言えば、美鈴と私の使い魔である小悪魔だが、小悪魔はどちらかと言えばペット感覚で接している感じがするし、美鈴の場合は、彼女が咲夜と多くの時間を過ごしているからだろう。もしかしたら、母親のような感覚で接しているのかもしれない。

 

紅魔館自体、隙間妖怪の手で結界を張られていたために、外部との接触は隙間妖怪とその式神以外にはなかった。

 

だからこそ、先程のような咲夜の姿は初めて見たかもしれない。

 

本来なら、安堵すべきなのだろう。人と触れ合おうとしなかった咲夜が自分から進んで交流を始めたのだから。

だが、私の胸にあるのは、どろどろとした醜い嫉妬だった。

 

――私達の方が咲夜といる時間が長いのに

――私達が咲夜を育ててきたのに

――何で咲夜は私達ではなく、赤の他人のこいつを?

 

薄暗い感情というのは、自覚すれば急速に心を侵食していく。

どうして?なんで?この吹けば飛ぶような人間に咲夜は何を感じたの?

私達にはそれは感じないの――?

 

 

「あー!これ、咲夜さんのクッキーですよね!私も食べていいですか!?」

 

 

私の思考を現実に引き戻したのは、使い魔の能天気な問いかけだった。

無邪気な目でこちらを見つめるこぁは、私の感情に全く気付かずに、待てをくらった犬のようにクッキーにちらちらと視線を向ける。

 

 

「ええ、いいわよ。…あなたは悩みがなさそうね、こぁ」

 

 

溜息を吐きつつ許可を出すと、素早い動作でクッキーをとり、幸せそうに頬張る。

その無邪気な笑顔を見ながら(悪魔のくせに邪気が無いとはなんともおかしな話だが)私もクッキーに手を伸ばす。

 

 

「あー、なあパチュリー、私もそれ、食べていいか?」

 

 

歯切れ悪く魔理沙が私に問いかけてくる。まあ、さっきまでネズミ扱いしていたのだからそうなるでしょうね。

 

 

「別にいいわよ。20枚なんて、私とこぁじゃ食べきれないし。あなたも食べられるように紅茶も淹れていったのでしょうしね」

 

 

紅茶を飲みながら答える。

相変わらず咲夜の淹れた紅茶はおいしい。前任のメイド長は美鈴で、彼女の紅茶もなかなかおいしかったが、咲夜のそれと比べると若干見劣りするのだ。

 

 

「…!これ、すごくおいしいぜ、この紅茶もだ!」

 

 

魔理沙はクッキーと紅茶を口に入れると、目を見開き、笑顔を浮かべる。

それに同調してこぁもうなずく。

 

 

「そうなんですよ!咲夜さんの作るおやつはどれも絶品なんです!」

 

 

はしゃぎながら話を弾ませる二人をよそに、私は自分の分を確保し、読みかけだった書物に目を移す。

 

クッキーを口に入れると、しつこくない程度の甘みが口内に広がり、続けて紅茶を入れると、上品な香りがクッキーの甘さと合わさり、さらに美味なものへと昇華させていく。

 

気が付けば、私の中の薄暗い感情は無くなっていた。

 

そういえば、フランがこの前、咲夜のお菓子を食べて感想を言っていたことを思い出す。

 

 

『咲夜の作るお菓子って、魔法みたいだね!』

 

 

それを聞いた咲夜は、意味がよく分かっていなかったようだが、ありがとうございます、とフランに礼を言っていた。

こうして改めて感じてみると、なるほど、たった二つの食物で私の心を落ち着かせ、初対面の魔理沙とこぁをここまで仲良くさせるのは、一種の魔法かもしれない。

 

 

「ん?なんだ、パチュリー、そんなにその本は面白いのか?」

 

 

魔理沙に言われて初めて気が付いたが、どうやら私は笑っていたらしい。

突然妙に照れくさくなった私は、魔理沙に言葉を返す。

 

 

「いいえ、貴方に貸す魔道書はどれがいいか、考えていたのよ」

 

 

「え!いいのか、パチュリー!?」

 

 

「ええ、ただし、2週間以内に返すこと。そうすれば、新しい魔道書を貸してあげるわ。分からないことがあれば私に聞きに来なさい。ここの魔道書は全部理解しているから」

 

 

そう言って、再び顔を書物に向けると、やったぜ、という喜色を含んだ魔理沙の声と、よかったですねー、なんていうこぁの相変わらずぽやぽやとした声が聞こえてくる。

 

これからは暇な時間は少なくなりそうだ、と私は知らず知らずのうちに笑みをこぼしていた。

 

 

 

 




はい、パチュリーさんの咲夜に対する印象でした。
咲夜の中では自分に興味がない人、という位置づけだったパチュリーですが、実は結構家族思いでした、という話。
あと、パチュリーの中では咲夜は孤高な人間、という印象ですが、これは咲夜が原作キャラをキャラクターの一人として見ている節があるせいです。


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まったく、美鈴は…

一からこの作品を見直して、「あれ?これもう原作関係ないんじゃ…」とか思い始めた作者です。
一応紅魔郷のキャラと顔合わせした後、妖々夢に行こうと思っています。
…妖々夢買ってプレイしないとなあ…


 

図書館を出た私は、いったん厨房に戻り、美鈴の分のクッキーを皿に乗せ、紅茶を足してそれらをお盆に乗せてから美鈴の部屋に向かう。

 

美鈴の部屋につき、ノックしてから問いかける。(途中、玄関の扉が吹っ飛ばされてたり、庭園に砲撃の跡を見つけたりした。また仕事が増えた…泣きたい)

 

 

「美鈴、いる?入るわよ」

 

 

「え、咲夜さん!?ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 

美鈴の声を聞いて私は止まろうとしたのだけど、そんなことは知ったこっちゃないとばかりに入っていくマイボディ。ちょ、待てよ!

 

私が部屋に入って最初に見たものは慌てて上着を着る美鈴の姿。

むう、大きい。なにがとは言わないが、大きい。

思わず自分の胸のあたりを美鈴のそれと見比べてしまう。

やはり前世でさんざんネタにされていたからだろうか、どうにもコンプレックスを感じてしまう。(ちなみにチラ見した程度だが、霊夢や魔理沙には勝ってると思う)

 

しかし、美鈴のお腹のあたりに巻かれている包帯を見て、そんな思いはすぐに霧散する。

 

 

「美鈴!怪我してるじゃない!ちょっと見せなさい!」

 

 

「あ、いやこれは、あの巫女と戦った時に弾幕が当たってしまって…」

 

 

なるほど。そういえば原作でも美鈴は弾幕ごっこがあまり得意じゃないという記述を見た気がする。

とはいえ心配なのは変わりないのでお盆を机の上に置いてから包帯をほどき、怪我を見る。

 

そこには赤い痣があり、もうすぐ治りそうだということはすぐに分かった。

おそらくだが、能力で気を集中させ、治癒力を促進しているのだろう。

どうやら大怪我を負ったわけではないと分かり、ほっとして包帯を巻きなおす。

 

 

「ふふ、心配してくれたんですか?ありがとうございます」

 

 

すると、美鈴が微笑ましいものを見るような顔で私の頭を撫ではじめた。

 

 

「美鈴?いつまでも子ども扱いしないでっていつも言ってるでしょ?(相変わらず撫でるのウマっ!美鈴の手、気持ちいいナリィ…)」

 

 

内心では最高にハイになってる私だが、口は拗ねたような口調で美鈴に返す。

 

 

「私にとってはいつまでも可愛い咲夜さんですよ。昔と変わらず、ね。さ、お菓子を持ってきてくれたんですよね。一緒に食べませんか?」

 

 

本当はこれから夕飯の準備をしなければならないのだが、能力を使えばすぐにできるだろうと判断し、了承する。

 

 

「ええ、いいわよ。念のために二つカップを持ってきてよかったわ」

 

 

私はカップに紅茶を入れ、一つを美鈴に差し出す。

美鈴はそれを嬉しそうに受け取り、ソファに腰掛ける。

私もそれを見て椅子に座ろうとすると、美鈴が手招きしてきた。

何かと思い、カップを置いて近付くと、素早く腕を引っ張られ、美鈴に抱きつく格好になってしまう。

 

 

「美鈴?何のつもりかしら?」

 

 

「こういうつもりです」

 

 

美鈴は私の体を回れ右させると、ぬいぐるみを抱くように後ろから抱きついてくる。

 

 

「最近、咲夜ちゃんとこうしてゆっくりする機会無かったじゃないですか。だからこのままお話ししましょう」

 

 

「ちゃん付けはやめなさい、ちゃん付けは…」

 

 

この姿勢からは美鈴の顔は見えないが、きっと彼女は満面の笑みを浮かべていることだろう。

 

きっと本気で嫌がれば解放してくれるだろうが、美鈴の言うとおりここ最近は異変の準備でいろいろ忙しく、話す機会もなかったし、役得なのでこのままで構わないだろう。

 

 

「…私の頭にクッキーこぼさないでよ」

 

 

そう言って私はクッキーを一枚手に取って口の中に放り込む。

美鈴は紅茶を飲み始める。

おいしいです、と彼女が言えば、当然よ、と私が返す。

 

そういえば、小さかった頃、美鈴はこうやって私にいろんなことを教えてくれたっけ、と思い出す。

 

私を優しく包む温もりに、母親という存在がいるなら、きっとこんな感じなのかなあ、なんて考えながら、私はゆっくりとした時間を過ごすのだった。

 







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彼女と出会った日(美鈴視点)

総合UA10000突破!お気に入り人数500人越え!総合評価5000突破!
これほど見ていただけるとは書いていた当初は考えられませんでした!
本当にありがとうございます!これからもがんばります!

追記:ランキング6位に入ったのが嬉しすぎて歓喜の踊りを踊っていたら親に変人を見るような目で見られた…orz


 

 

今私の腕の中では咲夜さんが紅茶を飲んでいる。

ここ最近は異変を起こすための準備に追われ、咲夜さんと触れる機会が減っていたのでこういう雰囲気が心地いい。

 

先程、突然入ってきた咲夜さんにあの巫女との弾幕ごっこでついてしまった傷を見られてしまった。

咲夜さんは昔から紅魔館の住人に何かがあると、それを敏感に察知して、見つけ出してしまう。

 

私にとってこんな傷は能力を使えばすぐに治ってしまう程度のものだ。

事実、咲夜さんが来るまではこの程度の傷では治療すらしたことがなかった。

 

そして思い出す。咲夜さんに初めて出会った日のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日は、お嬢様がそわそわしていて、紅茶をいつもより多く飲んでいた。

そして何か決意したような顔になると、掃除をしていた私に外へ散歩に行くように命令した。

 

不思議に思ったが、お嬢様の命令であれば仕方がない。

私は掃除用具を片付け、近くの森へと足を向けた。(結界は張られているものの、これはどちらかと言えば紅魔館へ入らないようにするための措置であり、私達も幻想郷の主要な場所へ行かないことを条件として外に出るのは容認されていた)

もう太陽は沈み、綺麗な満月が顔を覗かしている。

月明かりに照らされた申し訳程度の獣道を進むと、開けたところに出た。

 

――そこには、銀髪の美しい少女がいた。

 

その少女は満月を見上げていた。

私は引き寄せられるように彼女に近づく。ある程度近付くと、彼女は私に気が付いたらしく、私の方へ顔を向ける。

変わらず私は近づくが、少女はその場から動かずに私のことをじっと見つめている。

手を伸ばせば届く距離まで近づいても、私から目を離さなかった。

 

無言で私は彼女に手を伸ばす。何を求めていたのかは分からない。

だけど、そうするべきなのだと思ったのだ。

少女は私の手をしばらく見つめていたが、やがて手を握ってくれた。

 

私は少女の手を引いて紅魔館へ戻る。

その間会話はなかったけれど、不思議と嫌な空気はなかった。

 

屋敷へ戻ると、玄関ホールでお嬢様が待ち構えていて、少女の姿を見ると満足そうに笑った。

 

 

「その子を風呂に入れて着替えさせたら、私の部屋に連れてきなさい」

 

 

そう命令すると、お嬢様は部屋に戻って行ってしまった。

 

私は少女を浴槽へ連れて行き、彼女の体を洗った。(その間、何やら胸に視線を感じたが…たぶん気のせいだろう)

この位の年齢の少女なら――たぶん5歳程度――笑顔を浮かべてはしゃぐくらいはしそうだが、彼女は無表情でただされるがままに私に体を洗われていた。

 

風呂から上がると、メイド服を着せてお嬢様の部屋へと連れて行く。(この館に子供服などあろうはずもないので、妖精メイドの服を拝借した)

お嬢様の部屋に着くと、少女だけ部屋の中に入り、私は廊下で待たされた。

30分ほど廊下で待っていると、少女が出てきた。

 

 

「いざよいさくやです。これからここでおせわになります。よろしくおねがいします」

 

 

無表情のまま、舌足らずな声で彼女は私に挨拶した。

私は笑顔で彼女を抱きしめたのを覚えている。

 

その後、私は咲夜の教育係を任せられ、メイドとしての仕事を彼女に教えていった。

彼女は優秀で、1年後には私よりも仕事ができるようになっていた。

咲夜が来て2年後には私の仕事はメイドではなく、門番としての仕事が増えていた。

 

結界の効果は人間や理性を持つ妖怪などがこの屋敷に入れないようにするものであり、木端妖怪は屋敷の主を狙って侵入しようとしてくる。

その妖怪たちを撃退するのが私の仕事だった。

 

ある日、数で押してくる妖怪たちに不覚を取ってしまい、傷を負ってしまった。

能力を使えばすぐに治るだろう、と放置していたら、咲夜が夕飯を持って私の部屋に入ってきた。

彼女は私の傷を見ると、いつもの冷静さが嘘のように取り乱し、傷を治療しようとしてきた。

大丈夫だと笑って言っても彼女は聞き入れず、治療して包帯を巻いた。

 

 

「あなたが大丈夫だと思っても、見てる私が心配なの!いいから治療を受けなさい!」

 

 

泣きながらそう言った彼女を見て、私はひどく驚いた。

彼女は何をするにも無表情で、その鉄面皮が崩れた姿を見たことがなかったからだ。

その後泣き疲れた彼女と共に寝て、起きた彼女に謝ったのだった。

 

それ以来、私は怪我をすればきちんと治療をするようになった。

咲夜の泣き顔をまた見たくはなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、心配性な彼女は私の腕の中で今度はクッキーを食べている。

その姿が昔の彼女と重なって、思わず頭を撫でてしまう。

 

 

「何?美鈴。子ども扱いはしないでって言ってるでしょ?」

 

 

不機嫌そうに聞こえるが、これは彼女なりの照れ隠しだと知っている。

だから私は身をよじってこちらを向こうとする彼女を強く抱きしめた。

 

この心地いい空間は、彼女が苦しいと私に文句を言うまで続いた。

 




え?なんだかいつもより文章量が多いって?
それはね、作者の一番好きなキャラが美鈴だからだよ。
美鈴は俺の嫁。


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レミリアお嬢様は変わらずカリスマやでえ…

うーん、要望があったので試験的に長く書こうと思ったのですが、私にはこの量が限界のようです。長文書けない私って…orz
どうにもしっくりこないのでこれからはいつも通りに分量に戻しますね。

あとご指摘があったのでオリ主警告タグを追加しました。




 

美鈴の部屋を出て厨房に向かう。

あの心地いい空間を出るのは朝布団から出るくらい辛かったが(あくまで例えだ。この体は朝、何の躊躇いもなくベッドから出てしまう)そろそろ夕飯を用意しないと、レミリアお嬢様の機嫌を損ねてしまう。

 

厨房で作るのは、ステーキとサラダとオニオンスープだ。

焼き具合はレミリアお嬢様はレア、フラン様はウェルダン、美鈴はミディアムだ。パチュリー様は捨食の魔法のおかげで食事をとることがないし(でもおやつは食べる。なんでも「何事も楽しみは必要よ」とのこと)小悪魔はパチュリー様からの魔力のおかげで食事も睡眠も必要ない。(でもおやつは(ry)

 

次にレミリア様とフラン様のために注射器を使って私の血を抜く。

この注射器は昔から紅魔館にあるものらしく、メモリなんて親切なものは書かれていない。

だから、どの位まで血を抜くかは私の感覚頼りだ。少なすぎたら小食なレミリア様はともかく、フラン様の分が少なくなってしまうし、多すぎたら私が貧血で倒れてしまう。

(ちなみに今までそれで5回倒れたことがある。)

 

二人とも昔は美鈴から直接吸って飲んでいたらしいが、私がある程度育ってからは私の血を飲むようになった。(人間の処女の血はどんな上等なワインよりもおいしいということなのだが…、私にはよく分からない。)

一度だけレミリア様に直接首から吸われたことがあるが、あれはやばい。

前後不覚になるほどの快楽が私を襲い、妙にエロい声で喘いでしまった。

後で美鈴に気を静めてもらわなかったら発情していたかもしれない。

そんなことがあって以来、私は自分で血を抜いてそれをワイングラスに注いでいる。

最初は自分の血がグラスにあるのは変な気分だったが、今はもう慣れてしまった。

 

 

 

能力を使って速攻で料理を作ると、時間を止めてお嬢様の部屋へ向かう。

能力を解除し、ドアをノックする。

 

 

「お嬢様、夕食でございます。入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

しばらく待つと、返事があったので、部屋の中に入る。

レミリア様は椅子に足を組んで座っていた。

 

 

「あら、今日はステーキ?焼き加減は?」

 

 

「レアでございます、お嬢様」

 

 

「パーフェクトよ、咲夜」

 

 

「感謝の極み」

 

 

ウォルターの名言が言えたことでテンションが上がっている内心に対し、体はあくまで冷静にレミリア様の傍らまで動き、そこでレミリア様が食事を終えるのを待つのが決まりだ。

 

 

「この血を感じるくらいの生焼け具合がいいのよねえ…」

 

 

レミリア様の食事風景は端から見るだけでは可愛い幼女がおいしそうに食事をしているだけなのだが、近くにいると、圧倒的なカリスマと漏れ出ている妖力によって感じる圧迫感のせいで貴族と食事を共にしている気分にさせられる。

最初は緊張で体がガチガチになったものだが、今はもう自然体でいられるほどには慣れた。

 

全ての料理を食べ終わったレミリア様は最後に私の血を味わうようにゆっくりと飲む。

 

 

「んくっ、んくっ…。相変わらず咲夜の血はおいしいわね。小食な私でも何杯でもいけそう」

 

 

「ありがとうございます、お嬢様。食器をお下げしても?」

 

 

「ええ、いいわよ。…ねえ、咲夜」

 

 

食器を片づけて部屋から出ていこうとした私をレミリア様が呼び止めた。

 

 

「何でしょうか?」

 

 

「あなたもあの巫女と戦ったのでしょう?どうだったかしら?彼女は」

 

 

そういえば、原作だとレミリア様は自分を打ち負かした霊夢に好感を覚えたはずだ。

なら私が感じたことをそのまま伝えればいいだろう。

 

 

「そうですね…。人間にしては強い、と言ったところでしょうか。スペルカードルールというルールがなければお嬢様に敵わないでしょうが、かなり善戦するでしょうね。それと、彼女は典型的な天才肌です。もしかすると、努力する人間の気持ちが分からないかもしれませんね。回避速度、弾幕の展開速度、威力、追尾性、頭の回転の速さ、勘の良さ、敵と見定めた者に対する容赦のなさ、どれをとっても一級品で、万能性が高いですし、あの妖怪の賢者が博麗の巫女に任命するのも頷ける話です。…あの巫女が気に入ったのですか?お嬢様」

 

 

「ふふ、嫉妬かしら?咲夜」

 

 

「いえ、お嬢様が人間に興味を持ったのは私を除いて初めてだったものですから」

 

 

「…あなたは気に入ったかしら?彼女のこと」

 

 

はて、何故私が霊夢を気に入ったのかどうかの話になっているのだろう?

レミリア様が霊夢を気に入ったのではなかったのだろうか…。

 

 

「お嬢様の従者としては、あまり。お嬢様のことを打倒していますし。私個人としての話ならば、気に入っています。誰よりも平等で、気持ちを偽らない姿勢は好感が持てますね。あの強さも素晴らしいです。私には無い強みが彼女にあるように思います。きっと、友人になれたのならば、良き友になるでしょう」

 

 

やっぱり原作主人公だし、仲よくしていきたいなあ。

でも戦闘中彼女のことを怒らせるようなことばかりしてたし、あっちは私のこと嫌ってるかも…。

あ、やば、泣きたくなってきた。

 

 

「そう…。もういいわよ、咲夜」

 

 

そう言うとレミリア様は思考にふけってしまい、空を見つめ始めた。

私は扉をくぐり、厨房を目指す。今度はフラン様に料理を届けなければならないからだ。

 

それにしても、緊張したああああああ…。

レミリア様って私が思ってたよりもカリスマがあるから、会うたびに緊張しちゃうんだよね。

なんというか、突然先生に職員室に呼ばれたような、そんな緊張感。

おかげで苦手意識が未だに拭えなくて、距離を微妙にとっちゃうんだよなあ…。

ああ、フラン様を見て癒されたい…。

 

精神的な疲労を感じつつ、私はもうすぐ会えるであろう癒し要員に思いをはせるのだった。




咲夜さんにとっては、レミリアは学生にとっての校長先生とかみたいな立ち位置です。
パチュリーやフランとは無意識に距離をとってるのに対し、レミリアとだけは意識的に距離をとってるので前二人よりも離れてる距離が大きかったり。


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私の満月(レミリア視点)

お気に入り1000人突破!
ここまでくると感動しますね…。

今回はレミリア視点。
何故か一番長くなったでござる。
きっとレミリアに運命を操られたに違いない。


 

 

私はぼんやりと今日私を倒した巫女「博麗霊夢」を思い出していた。

 

気怠そうな顔をしている割には巫女としての責務を果たそうと私に戦いを挑んできた彼女。

あの道理を引っ込ませてでも自分の我を通そうとする姿には妖怪として好感が持てる。

 

久しぶりに人間に興味を持つほどに彼女は魅力的だった。

咲夜に会わずに彼女に会っていれば、きっと彼女の神社に押しかけ、彼女を独占したいと思ってしまうほどに執着しただろう。

 

しかし、その魅力も咲夜と会ったとき、いや、咲夜の存在を知った時の興奮と比べれば薄れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜の存在を知ったのは、暇を持て余して何か面白いものがないか手当たり次第に運命を覗いていた時だった。

 

廊下を掃除していた美鈴の運命を覗いたとき、彼女の運命に一人の少女が見えた。

銀髪の、月の光に照らされている、美しい少女。

 

――一目惚れ、だった。

 

すぐに彼女が欲しくなった。どんな手段を使ってでも、彼女を私の手元に置いておきたいと思った。

そして、その選択が彼女の運命を捻じ曲げるものだったとしても。

 

分かっていたのは、彼女が美鈴に会うのは満月の日で、紅魔館の近くの森だということ。

だから、次の満月の日に、美鈴に散歩するように命令することに決めた。

 

そして当日、私はぎりぎりまで迷った。

 

――私の選択で彼女に迷惑をかけてしまわないだろうか?

――彼女は自分の運命を捻じ曲げた私を許さないだろうか?

――私を、嫌いにはならないだろうか?

 

彼女の存在を知る前の私ならば、きっと鼻で笑って馬鹿にしたであろう疑問。

けど、今の私にはもはや死活問題ともいえるものになっていた。

 

結局、私は自身の欲に従うことにした。

 

いつも通り掃除をしていた美鈴に散歩に行くように命令した。

美鈴は怪訝そうな顔をしていたが、命令通り散歩に出かけた。

 

美鈴が帰るのを待っている間、ずっと私はそわそわしていた。

 

――美鈴は近くの森を散歩するだろうか?

――美鈴は彼女に出会えるだろうか?

――出会ったとして、彼女は美鈴についてくるだろうか?

 

私の能力は運命を見ることができるし、ある程度ならば操作することも可能だ。

しかし、他人の運命を操るとなると、途端に困難なものになる。

 

他人の運命はあくまで他人のものだ。

自分の運命ならば自分が好きなように弄ることができるが、他人のものはそうはいかない。

 

運命とは未来と同義だ。

いくら運命を弄ったとしても過去を変えることはできないが、未来を変えることができる。

そして、未来とは無数に枝分かれしているもので、どの未来に行くかはその運命の持ち主の選択次第なのだ。

 

私ができるのは、せいぜい他人の運命に矢印をつけて、そちらに行かせやすくする程度のもので、本人がそれを拒絶してしまえば意味がない。

 

しかも、大きく運命を改変させてしまうと、それがきっかけとなって世界に多大な影響を与えてしまう場合もある。

 

私の能力は強力だが、それ故に扱いに気を付けなければ世界を滅ぼす可能性すら孕んでいるのだ。

 

…話が大分それたので元に戻そう。

 

部屋で待つことに耐え切れなくなった私は玄関で待つことにした。

 

私が玄関に来て数分後、美鈴はあの少女を連れて帰ってきた。

私は喜びのあまり叫びたくなったが彼女の前で醜態をさらすわけにはいかない。

あくまで冷静に、汚れていた彼女を綺麗にするように美鈴に命じ、後で私の部屋に連れてくるように言った。

 

30分後、彼女は私の部屋にやってきた。

私はいつものように運命を覗く。

それで見えたものは驚くべきものだった。

 

 

 

 

 

見えたのは、和風の木造の建物。たぶん、神社と呼ばれるものだろう。

そこには、博麗霊夢がいた。本に出てくるような魔女の恰好をした人間がいた。

半霊を連れている剣士、大量の料理を食べている亡霊、隙間妖怪にその式、猫の妖怪もいる。

人形を連れている女に、兎耳の少女、美しい容姿の女、赤青の服を着て赤十字のマークを帽子に付けている女。

銀と蒼が混ざったような髪色をした塔のような帽子をかぶった女に、赤いモンペを着た白髪の女。

近くの湖でよく見る青い妖精にそれにいつも付いていっている緑の妖精。

蟲の妖怪に鳥の妖怪、宵闇の妖怪までもいた。

鬼、天狗、河童、神、妖精、妖怪、様々な種族がその神社に一堂に会している。

彼女ら全員に共通してみられるものは楽しそうに笑っていること。

普通、これ程の種族が一か所に集まれば、諍いの一つぐらいは起きそうだが、それが起こる様子もない。

そして、そこには紅魔館の面々もいた。

美鈴は一本角の鬼と飲み比べをし、パチュリーはこんなところでも本を読んで、白黒の魔法使いや人形を連れている女に絡まれている。

小悪魔は端の方で酔いつぶれて、フランは赤青の羽をもった妖怪と第三の目を塞いだ悟り妖怪と共に遊んでいる。

そして、私はそんな宴会じみた光景を見て柔らかく微笑んでいた。

いつもの傲慢な、強者としての笑みではなく、まるで聖母のような微笑みだった。

 

 

 

 

 

気が付くと、私の意識は少女の運命から現実へと戻っていた。

衝撃だった。この私が、吸血鬼の私が、あんな風に笑うのかと。

そして、その運命はこの目の前の少女によってもたらされるのかと。

 

――欲しい。彼女がどうしようもないほど欲しい。

 

存在を知った時から感じていた欲望が勢いを増すのを感じる。

だからだろう、気付いたら、私は彼女に名を与えていた。

私の力が最も増す満月の名を。

 

 

「十六夜咲夜」

 

 

「?」

 

 

「あなたの名前よ。これからここに住みなさい。仕事は美鈴に習うこと。いいわね?」

 

 

彼女――咲夜はこくりと頷くと、私を見つめる。

 

 

「あの、あなたのおなまえは…」

 

 

「そういえば言ってなかったわね、私はレミリア・スカーレットよ。お嬢様と呼びなさい」

 

 

「かしこまりました、おじょうさま」

 

 

鈴のような声で返事をした咲夜は部屋を出ていった。

 

咲夜が出て行ったのを確認して、私は喜びを全身で表した。

 

――手に入った、彼女が!しかも私が付けた名を名乗り、私の命令に従う従者になって!

 

私はその日、高揚で眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜はいつも無表情で、笑顔を見たことはなかったけれど、それでも私は幸せだ。

 

――一番欲しかった満月は、私の手の中にあるのだから。

 

どうやら今夜も私は眠れそうにない。

 



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やっぱりフラン様は可愛らしい…

大学が始まってテンションが下がっている作者です。

今回はフランちゃん回。少し短いです。


 

 

レミリア様の食器を片づけ、今度はフラン様の部屋へと向かう。

 

フラン様の部屋は地下室にある。

地下へと続く階段を下ると、暗い廊下をパチュリー様が作った灯りが照らしている。

 

フラン様も原作通りに閉じ込められているのかと思ったが、単にフラン様は外にあまり出たがらないだけのようだ。

地下室に部屋があるのも、本人の希望らしい。(レミリア様は自分と同じ最上階に部屋を用意したらしいが、フラン様は断ったらしい。暗いところの方が落ち着く、と)

 

フラン様の部屋につき、ノックする。

 

 

「フラン様、お食事です。入ってもよろしいですか?」

 

 

返事はない。だが、これはいつものことだ。

だから私はそっと扉を開けて中を確認する。狂気の真っ只中だった場合、この時に弾幕が飛んでくる。

…飛んでこない。

ほっとして私は扉を開けきり、中に入った。

その瞬間、私のお腹のあたりに何かがぶつかってきた。

って、危ねえええええええ!もう少しで料理を落とすところだった…。

ぶつかってきた、というか抱きついてきたのは案の定フラン様だった。

 

 

「えへへ、驚いた?咲夜」

 

 

無邪気な笑みを私に向けるフラン様。

もう抱きついて頭を撫でたくなるほどかわいいが、今回のことはきちんと叱らねばなるまい。

 

 

「フラン様?なにか物を持っている人に勢いよく抱きついてはいけませんよ?危ないでしょう?」

 

 

「はーい…」

 

 

しゅんとなるフラン様を見て凄まじい罪悪感がこみ上げるが、それをこらえて、笑顔を向ける。

 

 

「さあ、食事にしましょう。フラン様、こちらにお座りください」

 

 

「…うん!」

 

 

一転して笑顔になったフラン様を見てほっとする。

 

フラン様の食べ方はレミリア様に劣らず優雅だ。

きっとレミリア様かパチュリー様にテーブルマナーを学んできたのだろう。

それでも、口の周りに食べかすが付くのは子供っぽい証しなのだろう。

 

 

「御馳走様でした!今日もおいしかったよ、咲夜!」

 

 

「ふふ、それはよかったです。お顔をこちらに。拭いてさしあげます」

 

 

「うん。…んっ、ありがとう!」

 

 

顔を拭いて食べかすをとると、満面の笑顔でフラン様が礼を言ってくる。

…かわいい。本当にフラン様といると癒される…。

 

 

 

 

 

「ねえねえ咲夜、この本読んで!」

 

 

「はい、かしこまりました。むかしむかしあるところに……」

 

 

フラン様の食事が終わった後はこうしてフラン様に本を読み聞かせるのが日課となっている。

 

私がフラン様を膝に乗せて読み聞かせているとそのうちフラン様が満腹感で眠ってしまうので、最終的に膝枕のような状態になる。

 

 

「そしておうじさまとおひめさまはしあわせにくらしたのでした。めでたしめでたし…

眠ったようですね」

 

 

フラン様を膝枕したまましばらく何かの作業をするのも日課だ。

今日はフラン様が壊してしまったらしいクマのぬいぐるみの修繕作業をする。

 

裁縫道具で破けてしまった布を縫ったり、取れてしまっている目を付け直していると、フラン様が私に抱きつき、笑顔を浮かべた。

何か楽しい夢でも見ているのだろう。

私はゆっくりとフラン様を自分の体から外し、ベッドに運んで布団をかける。そして直したばかりのぬいぐるみをその小さな手に握らせた。

フラン様はぬいぐるみをぎゅう、と抱きしめ、笑顔を深めた。

私はフラン様の頭を一回撫でると、食器を片づけ、部屋を出ようとする。すると、

 

 

「ううん、さくや、さくやあ…」

 

 

どうやらフラン様がうなされているらしく、しきりに私の名を呼んだ。

 

 

「どうかしましたか、フラン様。咲夜はここにいますよ?」

 

 

ベッドに近づいて手を握って声をかけると治まったらしく、穏やかな表情で眠り始めた。

それを確認すると、今度こそ私は部屋を出る。

 

それにしても、ああいう子供的な可愛さってやっぱり癒されるなあ。

こう、守ってあげたくなるよね、フラン様は私よりもはるかに強いけど。

 

私はフラン様の可愛さを思い浮かべて癒されながら、美鈴の料理をとりに厨房へと向かうのだった。

 




この後咲夜さんは美鈴と一緒に夕飯を食べましたが、蛇足になるので割愛します。

次にフラン視点を書いてEX編に入ります。


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温かな存在(フラン視点)

大学が始まったことでテンションがダダ下がりだった作者。
「ああ、今日も投稿しないと…」
前回の話を投稿。
夕飯を食べてまたのぞく。
尊敬している作者様から感想が届く。
「ひゃっはー!尊敬してる作者様から感想来てる!テンション下げてる場合じゃねえぜ!ん?フランちゃん回を待っていた?よろしい、ならば私のフランちゃんへの愛を見せてやらねば!」
そんなテンションで書き上げた今回の話。どうぞ。




 

 

…我に返る。

正気に戻るたびに私を襲う鈍い頭痛。

いらいらする。この痛みにも、襲ってくる狂気に耐え切れず、狂って暴れてしまう自分自身にも。

 

部屋を見渡すと、いつも通りボロボロだった。

壁や天井には大きな傷が走り、本棚は崩れ、人形は原形をとどめていない物の方が多い。

 

こんなだから、私はお姉さまと、美鈴と、パチュリーと、小悪魔と、そして、咲夜と一緒にいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉さまは昔、自分の部屋の隣に私の部屋を作ってくれたけれど、私はそれを断った。

だって、私の能力と狂気は、この館で一番強いお姉さまさえも危険にさらす。

本当は一緒にいたかった。たった二人の姉妹だから。

でも、私はこの暗い地下室に閉じこもることを選んだ。

ここは館で一番頑丈なところで、私が暴れても大丈夫だから。

パチュリーに頼んで私の力を抑える魔法を地下室全体にかけてもらった。

パチュリーはその頼みを聞くと、苦虫を噛み潰したような顔になって、「本当にいいの?」と聞いてきた。それでも頼みこんだらさらに苦い表情になったけど魔法をかけてくれた。

 

後は私が自分の狂気と戦うだけ。狂気を自力で抑え込むことができればきっとみんなと一緒に暮らすことができる。

そう思って様々な方法を試した。

 

――時には部屋の隅でただただ狂気に耐え続けた。

――時にはパチュリーに魔法を教えてもらって理性を保とうとした。

――時には自分を縛りつけて体を動かせないようにした。

 

でも、駄目だった。

狂気はいつでも私を侵食して、理性を溶かして私を凶行へと走らせる。

 

最初は希望があった。

次の方法なら、きっといつか、そうやって自分を慰めることができた。

でも、いつしか気づいてしまった。どうしようもないって。きっと、死ぬまで私はこのままなんだって。

そのことに気が付いたらもうダメだった。

暴れる頻度は多くなり、そのたびに大好きな家族が傷ついていく。

きっと私はやけっぱちになっていたんだと思う。

 

そんな時だった。

彼女が美鈴に連れられてここに来たのは。

 

 

『きょうからここでおせわになります、いざよいさくやです。よろしくお願いします』

 

 

最初は無駄に多いメイドがまた一人増えただけだと思っていた。

でも、彼女は他のメイドとは違って、私の部屋にしょっちゅう来た。

妖精メイドは私を怖がって全然近づかないのに。

 

彼女が来るのは朝と夜の一日二回。

いつも私の食事を持って現れた。(そのころから飲む血がおいしくなった。後で聞いたら彼女から血を抜いていたそうだ)

私は彼女を邪険に扱った。狂った姿を見られたくないから。彼女も傷つけたくはなかったから。

 

彼女が来て10年後、とうとう私は彼女の前で狂ってしまった。

他の家族と違って彼女は人間だ。きっとたやすく壊れてしまうに決まっている。

そう諦めて私は理性を手放した。

 

しかし、驚いたことにその後、彼女は暴れた私を一人で抑え、気絶した私を看病していたのだ。

いくら力が抑えられている地下室内であるとはいえ、吸血鬼である私を止めるなんて信じられなかった。

だから、思わず彼女に問いかけていた。

 

 

「私を一人で止めるなんて…。いったいどうやったの?」

 

 

彼女は突然態度が変わった私に驚いたようだったが、微笑むと、懐から銀のナイフを取り出した。

 

 

「この銀のナイフでフラン様を壁に磔にしたのですよ。能力を使われると厄介なので両手を特に刺してしまいました。申し訳ありません(というかあれでよく止まったなあ…。原作知識がなければ即死だった…)」

 

 

彼女が無事だったことで安堵した私は、そのまま涙を流してしまう。

すると、彼女は私を柔らかく抱きしめた。

 

 

「大丈夫ですよ、フラン様。私はここにいます。(泣き始めちゃった!えっと、こういう場合は抱きしめたりするのがいいってなんかで聞いたことがある。それとも、私が攻撃したところが痛かったとか?どどど、どうしよう…)」

 

 

彼女の温もりにさらに涙腺が緩んでしまった私は彼女の胸の中で声を上げて泣いた。

 

この日以来、私が狂う回数が減ってきた。もしかしたら、彼女――咲夜が私を止めてくれると信じているからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔を懐かしんでいると、ボロボロのくまのぬいぐるみを見つけた。

これは私の誕生日に咲夜が作ってくれたもので、私の宝物だ。

狂っているとそんなことも忘れてしまうと思うと、情けなくなる。

 

私が自己嫌悪に陥っていると、聞きなれたノックの音を拾い上げる。

彼女を少し驚かせてやろうと、私はノックに返事をしなかった。

彼女がゆっくりと扉を開け、入ってきた瞬間、私は彼女の胸に飛び込む。

揺らぐことなく私を受け止めた彼女は手に持っていた料理を置くと、私を叱った。

少し落ち込んでしまったが、彼女が笑顔で料理を薦めてくれたのですぐに立ち直れた。

 

彼女の料理を食べていると、彼女の気遣いがよく分かる。

ここの住人はみんな好みが分かれているのだが、彼女はそれぞれの好みに合った料理を出してくる。だから私たちは楽しく料理を味わえるのだ。

料理を食べ終わると、彼女が口の周りの食べかすを拭いてくれる。

…実は彼女にこれをやってもらいたくてわざとやっているのは私だけの秘密だ。

 

その後、私はいつものように彼女に読み聞かせをねだる。

子供のようで少し恥ずかしいが、この時間は私の至福の時間だ。

お話が中盤辺りになると、私は寝たふりをして彼女の膝を堪能する。

彼女は読み聞かせが終わると、いつも何か作業をしている。

今日は裁縫らしく、何かを縫う音が聞こえてくる。

この時間がたまらなく幸福で、思わず彼女に抱きついてしまう。

 

裁縫が終わると、彼女は私をベッドまで運び、たぶん無事だった人形を握らせたのだろう、柔らかい感触が手の中にある。

 

彼女は一回私を撫でると、食器を片づけ始め、足音が遠ざかる。

出ていくのだと分かると、思わず咲夜の名を呼んでしまった。

彼女は私がうなされているのだと思ったらしく、私の手を握り、呼びかけてくれた。

それに安心して、今度こそ私は睡魔に身をゆだねる。

 

その日見た夢はとても幸せな夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、起きた私が宝物のぬいぐるみが直っていたことに喜ぶのは別の話。

 

 



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掃除が終わらない…

今回からEX編です。
これが終わったら妖々夢編にいきます。
妖々夢プレイしないと…

追記:ぬああああ、ミスった!物語全然違うじゃん!あとで原作に沿ったものを上げなおします!


レミリア様が起こした紅霧異変から数日後。

私はせっせと館の修繕に精を出していた。

ここ最近手に握っているのは掃除用具ではなく、大工用具だということから館の被害がどれだけ酷いか分かるだろう。

美鈴が庭園の修理を買って出てくれなかったらもしかしたら過労で倒れていたかもしれない。

 

今日も今日とて穴の開いた壁や床、時には天井を修繕し、その上に違和感がないように紅のペンキを塗っていく。(ペンキが乾くのは一瞬だ。こういう時、時間を早められる能力でよかったと心から思う)

 

紅魔館は数日の修繕で、館の8割ほどが荒れていたのが、今は2割ほどに回復している。

 

私と霊夢が戦っていたホールの修理を終えた私は紅茶を飲むことで一息ついていた。

すると、妖精メイドが慌てた様子で私の方へ走ってくる。

 

 

「どうしたの、そんなに慌てて」

 

 

「メ、メイド長!それが、この前来た巫女が門前に…」

 

 

霊夢が?なるほど、となると今日がEX編となる日なのだろう。

とりあえず霊夢のことを出迎えなくては。

私が玄関に向かって歩き出すと、先程の妖精メイドが慌てた様子でついてくる。

…いや、君は仕事しなよ。

 

 

 

 

 

妖精メイドを仕事に向かわせ、門に辿り着くと、霊夢と美鈴が今にもスぺカを取り出しそうな雰囲気で睨み合っていた。

…何やってんの?二人とも。

 

霊夢は私に気が付くと、声をかけてくる。

 

 

「あー、あの時のメイドじゃない。ちょうどよかった。この門番に私を通すように言ってちょうだい」

 

 

「何を言ってるんですか!この前殴りこんできておいて!」

 

 

「あの時は異変だったからよ。緊急事態なんだからしょうがないわ」

 

 

霊夢の言葉に美鈴が食って掛かると、苛立ち交じりに霊夢が言い返す。

 

 

「美鈴、いいのよ。彼女は今日はお客さんだから。博麗霊夢ね?来なさい。お嬢様のところまで案内するわ」

 

 

私が諌めると美鈴は不服そうにしながらも引き下がり、霊夢は美鈴を通り過ぎて門をくぐる。(この時二人の間で火花が散ったような気がしたのは気のせいだろうか?)

 

 

 

その後はただ無言でレミリア様の部屋へ向かっている。…のだが。

何故か霊夢が私のことをじーっと見ている。振り向くと視線を外すのだが、歩きはじめるとまた見つめてくる。

なんというか、すごく居心地が悪い。

 

 

「さっきから私を見つめているようだけど、何か用かしら?」

 

 

視線に耐え切れなくなった私が問いかけると、霊夢は一言ぽつりとつぶやいた。

 

 

「…名前」

 

 

「え?」

 

 

「あんたの名前よ。あんたは私の名前を知ってるのに私はあんたの名前を知らないなんて不公平だわ」

 

 

戦った時名乗らなかったっけ?

…あ、名乗ってないや。というか、話をしようとしたら問答無用で襲いかかられたから自己紹介もなしに戦ったんだっけ。

あれ?霊夢が私の名前知らないのって自業自得じゃね?

 

 

「十六夜咲夜よ。博麗の巫女さん?」

 

 

まあ別に教えない理由もないので簡潔に自己紹介。

すると、霊夢は眉をひそめて不機嫌そうな顔になる。

 

 

「霊夢よ」

 

 

「…?」

 

 

「霊夢って呼びなさい。あんたに巫女さんだのなんだの呼ばれるのはなんだか気に食わないわ。私もあんたを咲夜って呼ぶから」

 

 

名前呼びを許された…だと…!?しかも霊夢も私の名前を呼ぶおまけつき!

一体霊夢の中でどんな心境の変化があったんだ?

でも呼んでいいって言うなら喜んで呼ぶけどね!

 

 

「霊夢。着いたわ。ここがお嬢様の部屋よ」

 

 

内心はしゃいでいるとレミリア様の部屋に着いた。

ノックをすると入っていいという返事が来たので入室する。

 

 

「お嬢様。霊夢をお連れしました」

 

 

「お邪魔してるわよ」

 

 

「ええ、そろそろ来るころだと思っていたわ。博麗霊夢。そこに座りなさい」

 

 

優雅に紅茶を飲んでいたレミリア様はカップを皿の上に置き、こちらへ向き直る。

私は時間を止めて厨房へ向かい、おやつの時間に出そうと思っていたケーキを二つ持ってくる。(ちなみに霊夢の分は私のケーキ。まあ材料は残ってるからもう一つくらいは作れるしね)

一瞬で目の前に現れたケーキに霊夢は少し驚いたが、私との戦いを思い出したのか、便利な能力ね、と一言言ってケーキを食べ始めた。

 

そういえば霊夢はなんでここに来たんだろう?

 

 

「ねえ、霊夢。あなた一体なんでここに――『ドッゴオオオオオオオオン!!!!!』」

 

 

気になったので霊夢に問いかけようとした時、地下室から凄まじい爆音が聞こえた。

 

あ、そういえばEX編ってことはフラン様が暴れる日じゃん!

やっべえええ!

 

私は二人に一礼して、たぶん魔理沙とフラン様が戦っている地下室へと急ぐのだった。

 



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紅魔館訪問(霊夢視点)

前回の前書きで原作に沿った形のものを上げると書きましたが、あのまま終わるのも気持ち悪いので続きを書くことにしました。

今回は霊夢視点です。


 

 

私は境内の掃除を終えると、出かける準備をする。

行き先は以前異変で乗り込んだ紅魔館だ。

そこへ行くのはまあ、なんとなくだ。

なんとなく、今日紅魔館で何かがありそうな気がする。

 

いつもならこの程度の予感は無視して縁側でお茶でもすするのだが、紅魔館は数日前に異変を起こしたばかりだし、放置してまた異変を起こされたら面倒だ。

だから念のため紅魔館へ出かけることにしたのである。

 

 

「よし、じゃあ行きましょうかね」

 

 

札や針、陰陽玉を持つと私は紅魔館へ飛び始めた。

 

 

 

途中、勝負を仕掛けてきた氷精を数分で撃墜し、紅魔館に到着した。

相変わらず悪趣味な配色だと思う。

異変の時は霧のせいでよく見えなかったけど、晴れてる今、改めて見ると目が痛くなりそうだ。

 

今回は乗り込むわけではないので門へと降り立ち、門番に話しかけようと近づく。

門番も私に気が付いたらしく、臨戦態勢をとる。

 

 

「今日は戦うつもりで来たんじゃないわ。だから拳を下ろしなさい」

 

 

「信じられると思いますか?この前問答無用で自分を撃墜した相手のことを」

 

 

まあ、こうなるわよねえ…。

私としては戦うつもりなんてないからこういうのは面倒でしかないんだけど。

でも、戦わなきゃ入れないならやるしかないか。

 

諦めてスぺカを取り出そうとすると、紅魔館から見覚えのあるメイドがこっちに向かってきた。

ナイフを取り出していないところから見るに、今すぐ戦おうとは思っていないだろう。

だから、メイドに門番を止めるように言った。

すると、門番が突っかかってきたが、メイドが門番を宥め、ついてくるように言った。

なんだか私が来ることが分かってたような口ぶりね。

門番の隣を通り過ぎる時門番が私を睨みつけていたのでこっちも睨み返してやった。

普通の敵意というよりはどちらかといえばもっと別の感情からきたような睨みだったので少し変な感じがしたが。

 

廊下を歩いている途中でそういえばメイドの名前を知らないことに気が付いた。

吸血鬼が「さくや」と言っていたのは覚えているのだが、あれは知った内には入らないだろう。

 

彼女に名札のようなものはないかと観察していたら怪訝そうな顔で何度かこちらを振り向く。

そのたびに私はなぜか照れくさくなって顔を背けてしまった。

 

彼女は私の視線に我慢できなくなったのか、こちらに向き直って用があるのか、と問いかけてきた。

また謎の照れくささに襲われながらも彼女の名前を聞くことに成功する。

 

彼女は少し思い出すような仕草をしてから、「十六夜咲夜」だと自己紹介してくれた。

門では私の名前を呼んでいたが、あれは確認のようなものだったし、今度は私を博麗の巫女と呼んだ。

どうやら彼女は私と親しくするつもりはないらしい。

それが何となく気に食わなくなって、名前で呼ぶように言った。ついでに私も彼女を名前で呼ぶことにした。

 

そんなやり取りからしばらくして、吸血鬼の部屋に着いた。

部屋に入ると、この前の吸血鬼が偉そうに紅茶を飲んでいた。

吸血鬼が言うには来るころだと思っていただとか。

私の行動が予見されていたようで気に食わないが、とりあえず近くの椅子に座ることにした。

 

椅子に座ると突然目の前にケーキが現れて驚いたが、そういえば咲夜は瞬間移動のような能力を持っていたことを思い出して、便利な能力だと呟く。

 

予想以上においしいケーキを堪能していると、どこからか凄まじい爆音が聞こえてきた。(その時咲夜が何か言ったようだったが、音にかき消されて聞こえなかった)

 

音を聞いて咲夜は焦ったような顔になると、失礼します、と一言言って姿を消した。

 

 

「なんかすごい音が聞こえたけど、あんたはここでゆっくりしてていいの?」

 

 

「いつものことよ。対処は咲夜に任せてるわ。あなたこそ動かないの?」

 

 

「私は異変でなければ動かないわよ。小競り合いでいちいち動いてたら身が持たないわ」

 

 

騒ぎが起こっているのに動こうとしないレミリアに不思議に思って聞くと、落ち着いたまま同じことを聞き返された。

私も動く気はないことを伝えると、レミリアは何か考え込むように顎に手を置き、虚空を見つめ始めた。

話しかけてくる様子もないのでケーキを味わっていると、レミリアは考え事から戻ってきて問いかけてきた。

 

 

「あなたは咲夜のことをどう思ってるのかしら?」

 

 

「え?そうね、変わった人間、てとこかしら。普通なら妖怪のもとで働こうなんて思わないしね」

 

 

「変わった人間筆頭のあなたがそれを言うのかしら…。まあ、咲夜に対して特に思い入れがないならそれでいいわ。でも見る限り咲夜に対して何か思うところがあるようだけど?」

 

 

少し心が跳ねた。

彼女に対して思うところがない、言えば嘘になるからだ。

初めて会った時に彼女に一瞬見惚れたし、戦う姿も美しいとも思った。

少しだけ、彼女に近づきたいという気持ちもある。だから少し強引に名前を聞き出したのだ。

 

私の動揺に気が付いたのかは分からないが、レミリアはぞっとするような冷たい瞳で私を見据えた。

 

 

「咲夜は私のモノよ。私の部下で、家族で、満月なの。もしあなたがあの子を手に入れようとするのなら――」

 

 

レミリアは言葉を切り、吐息が私の顔にかかるほど近づく。

 

 

「――殺すわよ?」

 

 

その言葉には並々ならない殺意が込められていた。

きっとスペルカードルールなど無視して私を全力で殺しに来ることが理解できるほどに。

 

 

「ええ。分かったわ」

 

 

レミリアは私の言葉に満足そうに頷くと、再び椅子に座りなおした。

私達は下から聞こえてくる音がやみ、咲夜が戻ってくるまで剣呑な雰囲気でお茶を飲み続けたのだった。

 




分かりにくかったかもしれないのでここで説明しておくと、美鈴が霊夢を睨んでいたのは霊夢が咲夜を倒したことを知っていたからです。
つまり美鈴は咲夜さんを守ろうとしたわけですね。
もう美鈴は咲夜さんのお母さんでいいんじゃないかな。


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驚かせないで下さいよ…

EX編3話目。

あと一話別視点を書いたら紅魔郷編は終了です。


 

 

 

音が聞こえる場所へと急ぐ。

 

方向は地下室だ。ならば戦っている一人はフラン様に間違いないだろう。

もう一人はパチュリー様か、それとも今日パチュリー様に本を返しに来ていた魔理沙のどちらかだろう。

 

地下室へと続く階段を駆け下りると、どんどん戦闘音が大きくなる。

廊下に音が響き、光が時々瞬いていることから、おそらく廊下で戦っているのだろう。

 

次の角を曲がれば現場だ。

早く止めなければ死人が出るかもしれない。

暴走状態のフラン様は殺す気で向かわないと本気で殺されかねないのだ。

 

私はナイフを構え、いつでもフラン様に攻撃できるようにしてから角を曲がった。

 

 

「うおっ!今のは危なかった、初心者なのになかなかやるなあ、フラン!」

 

 

「魔理沙こそ私の弾幕余裕で避けてるじゃない、結構難しい弾幕作ったはずなんだけどなあっ!」

 

 

「へへん、初心者に負けたなんて霊夢に知られたらまた呆れられちまう。意地でも負けられないんだなあ、これが!」

 

 

「私だって勝って咲夜に褒めてもらうんだから!絶対に勝ってみせるよ!」

 

 

そこにいたのは、すごく楽しそうに戦う二人でした。

あれ?フラン様、暴走してるわけじゃないの?

なんだかナイフもってぽかーんとしてる私が阿呆みたいなんだけど。

 

 

「ああ、咲夜、来たのね」

 

 

私が呆然としているとパチュリー様が話しかけてきた。

えっと、つまり、どういうこと?

 

 

「図書館で魔理沙に魔法を教えてたらフランが本を返しに来たのよ。そしたら魔理沙がフランと意気投合しちゃって。今幻想郷で一番流行ってる遊びを教えてやるぜ!なんて言い始めて弾幕ごっこを教え始めたの。フランはそれに興味を持って出来たばかりのスぺカを使って今戦っている、というわけ」

 

 

「それなら外でやればいいのでは?正直、室内でやられると色々後が大変なのですが…」

 

 

「最初は結界が張ってある図書館内でやってたんだけどね。あの二人、勝負していくうちに夢中になっちゃって、移動しながら戦ってきたのよ。私は紅魔館が崩れそうな場合の仲裁役としてここにいるわ」

 

 

なら移動し始めた時に止めてほしかったです、パチュリー様…。

 

廊下の状況は弾幕によってボロボロ、修復にはそれなりの時間がかかるだろう。

移動しながら戦ったということは、こんな感じの場所がまだいくつかあるということ。

せっかく上の修復の終わりが見えてきたというのに…、こんな、こんなことって…あァァァんまりだァァアァ!!!!

 

でも、フラン様のあんな楽しそうな顔見たら今すぐ止めろなんて言えない…。

ここは大人しく増えた仕事を甘んじて受けるしかないかな。

 

諦めて二人の戦いを観戦すると、魔理沙がマスタースパーク、フラン様がレーヴァテインを放ってスぺカの凌ぎあいをしている。

ゲーム画面みたいに上からみても綺麗なんだろうけど、下から見上げても弾幕の、しかもスぺカのぶつかり合いは十分綺麗だ。

 

スぺカが終わると、お互いのスぺカが無くなったらしく、二人が下に降りてくる。今回は引き分けか。

降りてくる途中で、フラン様が私を見つけたようで私に向かって突っ込んできた。

それを受け止め、優しく下に降ろす。

フラン様は満面の笑顔で私に抱きついた。

 

 

「えへへ、咲夜!弾幕ごっこってすごく楽しかったよ!見てた?」

 

 

「はい、見ていましたよ。初めてやるはずなのにあそこまで弾幕を張れるなんて、素晴らしいですよ、フラン様」

 

 

「本当!?えへへー」

 

 

何この可愛い生き物。すごく抱きしめてなでなでしたいんだけど。

とりあえずフラン様の頭を撫でて癒される。

するとさらに笑顔になってすりすりしてくるフラン様。鼻血出そう。

 

こみあげてくる萌えという感情と闘いながら魔理沙の方を向くと、なんだか落ち込んでいる様子。

どうやら弾幕ごっこを覚えたばかりのフラン様と引き分けになったのが悔しかったらしい。

そんな魔理沙をぎこちないながらも慰めているパチュリー様。

なんだかんだであの二人いいコンビだよね。

 

あ、そうだ。せっかくだから図書館でおやつの時間にしよう。

私も魔理沙とお話ししたいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後図書館に戻りケーキを全員に渡した後、レミリア様と霊夢を放置したままだと思い出して部屋に慌てて戻るのは別の話。

 



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吸血鬼との弾幕ごっこ(魔理沙視点)

今回の話で紅魔郷編は終了です。
これから妖々夢をプレイするのでしばらく更新が止まります。

今回は魔理沙視点。
いつもの二倍以上の分量になりました。
…これは魔理沙に対する愛なのかそれともフランに対する愛なのか…?


 

 

私は今日、パチュリーから借りた魔道書を返しに紅魔館へ来ていた。

 

 

「つまり、ここの術式はこの術式とその術式を繋げる役割を担っているの。この二つの術式が繋がっていなければ魔法がうまく発動しないのよ」

 

 

返しに来たついでにパチュリーに分からなかったところを聞いている。

パチュリーの教え方は上手く、独学で学んできたせいで用語に詳しくない私にも理解できるほど分かりやすかった。

人里で先生でもやればすぐに人気が出るだろうな。

 

 

「あー、あとこの術式の意味が分からないんだ。この術式、さっきの術式を応用すれば魔力の燃費が良くなるんじゃないか?」

 

 

「よく気が付いたわね、魔理沙。魔理沙が疑問を持った術式はおよそ300年前に作られたものなの。そしてさっきの術式は100年前に作られたものなのよ。魔法は古来の方法を使い続ける物だと思われがちだけど、技術である以上進化するものよ」

 

 

よくできました、とパチュリーに頭を撫でられるが、照れくさくなって思わず手をはねのける。

そんな私の気持ちも分かっているかのようにパチュリーは素直になれない子供を見るかのような目でこちらを見続ける。

うう、そんな目で見るなよ…。

 

私がパチュリーの視線にいたたまれなくなっていると、入り口が開き、宝石のような羽をもった少女がこちらに向かってきた。

 

 

「パチュリー!この本読み終わったから次の魔道書貸して!」

 

 

少女は3冊ほどの本を抱えてパチュリーに話しかける。

 

 

「おいおい、魔道書は子供が読むような物じゃないぜ?」

 

 

「いいえ、魔理沙。彼女はあなたより年上だし、あなたよりも魔法に精通してるわよ?」

 

 

私が少女を茶化すとパチュリーが私の言葉を否定する。

 

 

「…冗談だろ?」

 

 

「残念ながら本当よ。紹介するわ、彼女はフランドール・スカーレット。紅魔館の主人の妹よ。もちろん吸血鬼。年齢は…少なくとも495年は生きてるわ。フラン、彼女は霧雨魔理沙。この図書館の数少ない利用者ってところかしら」

 

 

「あ、私知ってるよ!咲夜が教えてくれたもん!」

 

 

「え、咲夜ってあのメイドだよな。私のことなんて言ってたんだ?」

 

 

あのメイドの名前を聞いて少しドキッとする。

あの時の彼女の言葉を思い出すと今でも顔が熱くなるのだ。

 

 

「えっとね、猫みたいな可愛らしいパチュリーの新しいお友達だって!」

 

 

この前彼女から聞いた言葉と似たような評価にまた顔が熱くなり始めた。

パチュリーも何か反応しているかと見てみるが、意外なことに落ち着いて紅茶を飲んでいた。

 

 

「あれ、何も反応しないのか?」

 

 

「ええ、だってあなたのことは出来の悪い弟子のようなものだと思っているもの。あながち間違った評価でもないじゃない?」

 

 

弟子って…。いやまあ、魔法を教わってるんだし、確かにそうとらえることもできるだろうけど。

 

複雑な気持ちを抱いていると、フランが私の膝の上に乗っかってきた。

 

 

「魔理沙も魔法を使うの?」

 

 

「ああ、私も魔法使いだからな。フランも使うんだろ?」

 

 

「うん!元々は目的があってパチュリーに習ってたんだけど、今は私が好きだからやってるの!」

 

 

「フランは頭がいいからね、優秀な生徒で助かるわ」

 

 

「それは私が落ちこぼれってことか?」

 

 

「違うわよ。あなたの場合、能力に頼って魔法を使っているせいで理論とかそういうものをすっ飛ばしてるのよ。普通そんな滅茶苦茶な方法だと魔法は発動しないんだけど、問題なく発動している所を見るとあなたにも才能はあるわ。ただフランはあなたとは逆方向に才能があるというだけよ」

 

 

「ねえ魔理沙、これは何?」

 

 

そういうものかとパチュリーの話を聞いてると、フランが机の上に出してあった私のスぺカを手に取って聞いてきた。

 

 

「なんだ、スペルカードを知らないのか?今幻想郷で一番流行ってる遊びなんだぜ?」

 

 

「うん、初めて見るよ」

 

 

「よーし、なら一つ見せてやるぜ。パチュリー、いいよな?」

 

 

「ここは強力な結界が張ってあるから大丈夫よ。でも念のため本棚には当てないでね」

 

 

パチュリーに了解をとると、私はフランから受け取ったスぺカを発動する。

 

 

――魔符「スターダストレヴァリエ」

 

 

星形の弾幕が飛び交い、図書館を明るく照らす。

このスぺカはマスタースパークと同じく私の自作魔法で、パワーを重視したマスタースパークとは違い、コントロールを主眼に置いたスぺカだ。

スターダストレヴァリエで相手の動きを制限してマスタースパークで薙ぎ払う。それが私の得意戦術なのだ。

 

フランは私のスぺカに目を輝かせて見入っている。

そして私に振り向き、笑顔を浮かべた。

 

 

「私もスペルカード作ってみたい!」

 

 

「そう言うと思ったぜ。幸い、白紙のスぺカを何枚か持ってる。これを使って作ろう。パチュリーも手伝ってくれよ!」

 

 

「ええ、いいわよ。フランの魔法に関してなら私の方が詳しいしね」

 

 

その後、フランのスぺカを作るために3人で話し合って、3時間ほどで数枚のスぺカが出来上がった。

 

 

「ねえねえ、私早くこれで遊んでみたい!」

 

 

早くスぺカを試してみたいのか、フランはうずうずしている。

 

 

「よし、それじゃ最初は私が相手になるぜ。ルールは簡単、弾幕かスぺカを相手に当てれば勝ち。もしくは相手のスぺカが無くなっても勝ちだ。使うスぺカの数は戦う前に宣言するんだ。ちなみに私は4枚だぜ。フランはどうする?」

 

 

「うーん、じゃあ私も4枚!」

 

 

「よし、じゃあさっそく始めるか!」

 

 

私は箒に乗って飛ぶ。フランも空を飛んで構えている。

下で観戦しているパチュリーが開始の合図を出した瞬間、お互いに弾幕を繰り出した。

 

大玉の弾幕の隙間を縫うように細かな弾幕が襲い掛かってくる。

それをギリギリで避けながらもこちらも弾幕で応戦する。

大胆ながらも無駄のない弾幕は、霊夢から聞いた咲夜の弾幕にそっくりだった。

 

 

「なかなかやるなあ、初めてだとは思えないぜ」

 

 

「えへへ、咲夜の特訓に付き合ってたから弾幕の撃ちあいなら慣れてるの。じゃあそろそろスぺカいくね!」

 

 

――禁弾「スターボウブレイク」

 

 

虹色の弾幕が展開し、迫ってくる。

私はそれを余裕をもってかわし、こちらもスペルを発動しようとしたその瞬間、弾幕がはじけた。

はじけた弾幕はさらに細かな弾幕となってシャワーのように降り注ぐ。

不意を突かれた私は慌ててスペル宣言を中止すると、箒を切り返して回避に徹する。

とっさの判断が功を奏したのか、掠っただけで済んだ。

 

 

「今のは驚いた。とっさに避けなかったら当たってたぜ」

 

 

「むう、今のは当たったと思ったのに」

 

 

「そう簡単に当たるわけにはいかないぜ。次はこっちの番だな!」

 

 

――魔符「スターダストレヴァリエ」

 

 

星形の弾幕がフランに迫る。

しかし、フランはそれらをひょいひょいと余裕をもって避ける。

だがそれでいい。私の本命はそれではないのだから。

ミニ八卦炉の照準をフランに定める。

 

 

――恋符「マスタースパーク」

 

 

極大のレーザーがお互いの弾幕を薙ぎ払いながらフランを襲う。

フランもこれはまずいと感じたのか、先程よりもはやい速度で横に跳んだ。

その結果、爆風に吹き飛ばされはしたものの、フランには当たらなかった。

 

 

「うわあ、すごい威力だね、今のスぺカ。今のが魔理沙の切り札?」

 

 

「まあな、当たったら確実に撃ち落とせるぜ?」

 

 

その後も弾幕の応酬は続き、私は「スターダストレヴァリエ」を一発撃ち、フランは「クランベリートラップ」、「カゴメカゴメ」を撃ったが、お互いに決定打にはならなかった。

 

しかし、お互いにそれなりに消耗し、ボロボロになっていた。

 

 

「なあ、そろそろ終わりにしないか?」

 

 

「うん、いいよ。私もお腹すいちゃった」

 

 

同時にスぺカを取り出し、宣言する。

 

 

――恋符「マスタースパーク」

 

 

――禁忌「レーヴァテイン」

 

 

私の砲撃とフランの炎剣を模した紅いレーザーがぶつかり合って拮抗する。

そこからは純粋な力のぶつかり合いだ。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 

 

「はああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 

凄まじいエネルギ-のぶつかり合いにより、衝撃波が周囲を襲う。

力を出すための咆哮が響き、そして――同時にスペルが消失した。

 

 

「えっと、同時にスぺカが切れた場合はどうなるの?」

 

 

「あー、その場合は引き分けだな。初心者相手に引き分けとは、ちょっとショックだぜ…。」

 

 

ここで気付いたのだが、どうやら私たちはいつ間にか図書館を出て、館中を飛び回りながら戦っていたらしい。

私たちの通ってきた道を振り返ると、結構ボロボロになっていた。

…悪い、咲夜。お前の仕事増やしちまった…。

 

地面に降りてフランを見ると、いつの間にか来ていた咲夜に抱きついているのが見えた。

 

あー、あいつに情けない姿見られちまったな。

 

 

「そんなことないわ、あのフラン相手によくここまで戦えたのだから胸を張りなさい」

 

 

「…私、声に出してたか?」

 

 

「いいえ、でもそんな顔をしていたわ」

 

 

内心落ち込んでいるといつの間にか近づいていたパチュリーに慰められた。

そんな分かりやすい表情してたか?

 

そのあと、フランをだっこした状態の咲夜が図書館でおやつを食べようと提案してきたので、図書館で咲夜のお菓子を堪能してたのだが、いつの間にか咲夜がいなくなっていた。

もう少し話したかったんだがな。

 

その後はパチュリーやフランと5時間ほど楽しい時間を過ごしたのだった。

 



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掃除が終わらない…ifルート

上げるかどうか迷ったけど肥やしにするのももったいないので上げます。

EX編の導入話のifで、もしフランちゃんが本当に暴れていたら、という話です。

ボツにした理由はほのぼののはずなのに血生臭くなったから。


 

 

レミリア様が起こした紅霧異変から数日後。

私はせっせと館の修繕に精を出していた。

ここ最近手に握っているのは掃除用具ではなく、大工用具だということから館の被害がどれだけ酷いか分かるだろう。

美鈴が庭園の修理を買って出てくれなかったらもしかしたら過労で倒れていたかもしれない。

 

今日も今日とて穴の開いた壁や床、時には天井を修繕し、その上に違和感がないように紅のペンキを塗っていく。(ペンキが乾くのは一瞬だ。こういう時、時間を早められる能力でよかったと心から思う)

 

紅魔館は数日の修繕で館の8割ほどが荒れていたのが、今は2割ほどに回復している。

 

私と霊夢が戦っていたホールの修理を終えた私は紅茶を飲むことで一息ついていた。

そしてふと外を見ると、先程まで快晴だったというのに、いつのまにか大雨が降っていた。

洗濯物、午前中に取り込んでいてよかった、なんて安堵していると、妖精メイドが慌てた様子で私の方へ走ってきた。

 

 

「どうしたの、そんなに慌てて」

 

 

「そ、それが、フランドール様が暴れ始めて…」

 

 

「本当?分かったわ、ありがとう」

 

 

むう、最近狂気が鳴りを潜めていたから気が緩んでたかもしれない。

外の雨はきっとパチュリー様がフラン様を外に出さないために降らせたものだろう。

早く行ってフラン様を静めなくては…。

主に私の仕事が増えないようにするために!

私は時間を止めて、大慌てでフラン様のもとへと向かうのだった。

 

 

 

フラン様は図書館でパチュリー様と戦っていた。

今日はパチュリー様の喘息が治まっているらしく、普段は使えない強力な魔法をフラン様に放っている。

しかし、その魔法もフラン様が手に持っている歪な剣のような、杖のようなもの――「レーヴァテイン」の圧倒的な火力で薙ぎ払われる。

 

とりあえず、戦っている場所が図書館で良かった。

ここには、パチュリー様が張った結界があり、よほどのことがなければ傷一つつかないからだ。…修繕場所が増えなくてよかった。

 

ともかく、今はフラン様を止めなくてはいけない。

今回はスペルカードルールを無視しても構わない戦いなので、遠慮なくやらせてもらうとしよう。

 

 

「時よ、止まれ」

 

 

能力を発動させ、時間を止める。

止まった攻撃の間を通り、フラン様に接近する。

フラン様の目の前に来ると、私は彼女の両手を銀のナイフで串刺しにし、能力を上手く使えなくさせる。

次に練習用の木製ナイフで頭を串刺しにした。(銀のナイフじゃないのは、吸血鬼の弱点である銀で急所を攻撃したら即死してしまうからだ)

 

 

「そして、時は動き出す」

 

 

時間が動き始めると、フラン様は突然与えられたダメージに耐え切れず、気絶した。

落下する前にフラン様を受け止め、ナイフを抜く。

すると、頭は瞬時に直り、両手は徐々に回復していく。

これだけのダメージを与えたのに、一時間後にはピンピンしているのだから、つくづく吸血鬼の強さを思い知らされる。

 

 

「ありがとう、咲夜。助かったわ」

 

 

パチュリー様が私に近づき礼を言ってきた。

 

 

「いえ、私が一番あの状態のフラン様と戦っていますので。慣れてきました」

 

 

戦闘が終わったことで緩んだ空気が私とパチュリー様の間に流れる。

だからだろう。私の腕の中で気絶していたはずのフラン様が目を覚ましたことに気が付かなかったのは。

 

――がぶっ

 

フラン様が俊敏な動作で私の首に食らいつく。

そして、そのまま私の血を吸い始めた。

 

 

「んっ、くっ、はあ…。ひんっ!あ、ああ…」

 

 

体の内からこみあげる強烈な快楽に嬌声を上げてしまう。

一度だけレミリア様に直接吸血された時に感じたことがあるが、やはりこの快感は抗いきれるものではない。

パチュリー様が私を助けようと魔法で狙っているのが朦朧とした意識の中で見えたがこの体勢では私ごと攻撃してしまうだろう。

 

強烈な快感で意識を失う直前、視界の端に紅白が見えた気がした。

 




この後の展開が助けてくれた霊夢に惚れた咲夜さんが霊夢にアピールするんだけど、ツンデレな霊夢は素直になれない。
だけど霊夢は魔理沙に相談して吹っ切れてレミリアに「娘さんをください」と戦いを挑み、結果的に二人は幸せになりました、まで考えた。
だけどこうなったら原作関係なくなるし、登場人物も限られ、霊夢が熱血主人公になったのでやめました。


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春なのに寒いです…

更新しようとしたら大学のレポートとパソコンの不調により出来なかった作者です。

妖々夢編導入話。
咲夜さん以外の視点を一つはさんで原作に行きます。

追記:操虫棍面白いです


 

 

 

「…寒い」

 

 

只今絶賛雪かき中。

紅魔館の屋根の上に登り、スコップを使って雪を下に落とす。

そんな単純作業を始めてもう数時間。

いい加減寒さと疲れで休みたくなってきた。

 

 

「よーし、次はこっちから行くよー!」

 

 

下からの声に視線を向けるとフラン様と数人の妖精メイドが雪合戦で遊んでいた。

雪玉を投げ合って遊ぶ様子は一見すると癒される風景に思える。

しかし、フラン様が投げた雪玉が顔面に当たった妖精メイドが、頭を吹き飛ばされてピチュっている姿を見ると、爆撃を受けている哀れな兵士たちにしか見えなくなってくる。

手加減を知らないからなあ、フラン様は…。

 

最近フラン様は地下室から出て外に出る機会が多くなっている。

喜ばしいことだ。地下室にこもりっきりなんて不健康にも程があるし。

まあ、ここ最近太陽が姿を見せていないことも要因の一つだろう。

 

時季的にはもう春一番が吹いて様々な草木が芽吹く頃だというのに幻想郷では未だに雪が降り、真冬のような寒さが続いている。

 

きっとこれが春雪異変なのだろう。

もうそろそろ霊夢か魔理沙あたりが異変解決に乗り出すかもしれない。

 

妖精メイドを全員ピチュらせて手持無沙汰になったらしいフラン様が屋根の上の私に気づいて手を振ってくる。

私はそんな姿に癒されつつも手を振りかえすと、後ろからメイド妖精に話しかけられた。

 

 

「メイド長、レミリア様がお呼びです」

 

 

「分かった、すぐ行くわ」

 

 

簡単に返事をして私はレミリア様の部屋へと向かう。

扉を開けるとそこにはレミリア様以外にパチュリー様がいた。

 

 

「お呼びでしょうか、お嬢様」

 

 

「ええ、咲夜、この長すぎる冬をどう思う?」

 

 

「まず間違いなく異変かと。犯人が誰かは分かりませんが」

 

 

「そうね、これは異変よ。そこで咲夜、あなたにこの異変の解決を命じるわ」

 

 

何だって?私が?確かに原作では自機として動いていたけど、ここにいるのは十六夜咲夜(笑)ですよ?

 

 

「失礼ながらお嬢様、私が動く理由は?異変解決ならば霊夢と魔理沙に任せればよいのでは?」

 

 

「理由がなければそれでもよかったのだけれど、ね。フランに春を見せたいのよ。フランはいつも地下室に閉じこもっていたでしょう?だから春というものをその眼で見たことがないの。でも最近フランは自分から外に出るようになった。今までは誰が何を言っても出てこなかったのにね。太陽が出てこない今の季節は快適だけど、フランに色々な体験をしてほしいのよ」

 

 

…なるほど。それなら確かに納得できる理由だ。

いつもカリスマが半端ない状態なので忘れがちだがレミリア様は家族思いな方なのだ。

 

 

「かしこまりました。それでは異変を解決して参ります。準備をしてきますので失礼します」

 

 

「待ちなさい、咲夜」

 

 

フラン様のために意気込んで準備をしようとした私を止めたのは今まで黙っていたパチュリー様だった。

パチュリー様は私に近付くと二つの球体を私に差し出した。

 

 

「これを持っていきなさい」

 

 

こ…、これは…まさか…!?

 

ま、マジカル☆さくやちゃんスターなのか…!?

 

 

「これは私が作ったマジックアイテムなの。霊力を込めると弾幕を周囲に張ってくれるわ。スペルカードルールにはピッタリでしょう?」

 

 

あの巫女の陰陽玉を見て思いついたのよ、と説明してくれるパチュリー様。

 

ええ、ピッタリだし、とても助かるんだけど、この魔法少女チックな外見はどうにかならなかったのだろうか。ぶっちゃけ、これを持ち歩くのはすごく恥ずかしいのだが。

だけど、パチュリー様がせっかく作ってくれたものだし、便利なのは確かだ。

厚意に甘えておくことにしよう。

 

 

「ありがとうございます、パチュリー様。ありがたく使わせていただきます」

 

 

私は懐にマジカル☆さくやちゃんスターをしまうと、準備を整えるために部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

装備を整えて門から出ると、ちょうど門番をしていた美鈴と会う。

美鈴は私を見ると、嬉しそうに話しかけてきた。

 

 

「お出かけですか?咲夜さん」

 

 

「ええ、お嬢様の命で異変を解決しにね。その間館は任せたわよ」

 

 

「任せてください!あ、そうだ」

 

 

美鈴は首に巻いていたマフラーを外すと、それを私の首へと巻きつけた。

 

 

「寒いですからね、付けていってください」

 

 

「…分かった、ありがたく借りていくわね。ありがとう、美鈴」

 

 

「いえいえ、異変解決頑張ってくださいね!」

 

 

美鈴の応援を背に私は空を飛ぶ。目的地は冥界だ。

 

美鈴のマフラーが私の体と心を温かく包み込んでくれるような気がして私は笑みをこぼすのだった。

 



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久し振りの立場(美鈴視点)

書き終わって気付いた。
あれ?これもう別の小説じゃね?
ま、まあ異変中の紅魔館の一コマってことにすれば(震え声



 

 

 

「…行きましたか」

 

 

咲夜さんの姿が見えなくなり、私は振っていた腕を下ろす。

彼女が異変解決へと繰り出すのは昨晩にレミリア様に聞いて知っていた。

この終わらない冬を終わらせに行ったのだろう。

 

咲夜さんが強いのは知っている。

彼女の特訓に付き合ってきたのは私だし、弾幕ごっこでも彼女に勝てるのはレミリア様かフラン様位だ。

 

それでもつい心配で咲夜さんに渡したマフラーに少し仕掛けを施した。

といってもせいぜい霊力の巡りがよくなるように能力で強化した程度だが、咲夜さんならその程度で十分だろう。

 

 

「美鈴様!メイド長が見当たらないのですが、どこにいるか知りませんか!?」

 

 

メイド妖精の一人が慌てた様子で私に駆け寄ってくる。

メイド妖精の仕事は咲夜さんが全て把握し、管理しているため、彼女がいなくなっただけで紅魔館のほとんどの仕事が麻痺してしまうのだ。(といっても妖精メイドの仕事は後で咲夜さんがやり直すことが基本のため、妖精メイドたちが働こうが働かなかろうがあまり変わらないのだけど)

 

 

「咲夜さんならさっき異変を解決しに行ったよ」

 

 

苦笑しながら返すとその妖精メイドは目に見えてうろたえ始めた。

 

 

「え…!?そんな、私だけじゃ指示を伝えきれないし、このままじゃメイド長に迷惑がかかっちゃう…!」

 

 

泣きそうな、というかもう半分泣いてしまっている彼女を見て気が付く。

どうやら彼女は班長のようだ、と。

 

メイド妖精の知力はさほど高くない。

しかし、彼女たちにも個体差というのは存在し、メイド妖精の中でも比較的頭の良いものは班長と呼ばれる役職に就く。

班は全部で6つあり、それぞれ与えられている仕事が異なる。

料理、掃除、雑用、見張り、伝達、戦闘。

それぞれの仕事に専念させることで効率を上げ、今まで使い物にならなかった妖精メイドたちをある程度使えるようにしたのだ。

 

咲夜さんが来るまではむしろ足手まといだった彼女たちが咲夜さんの指示で動くようになって仕事を覚えてきた妖精メイドは少なくない。

そして仕事を覚え、能力があると咲夜さんに判断された6人の妖精メイドが班長に抜擢される。

この6人は自分の能力を引き上げてくれた咲夜さんに多大な感謝と尊敬の念を抱いているため、咲夜さんに必要以上の迷惑がかかることを酷く嫌うのだ。

 

指示を伝えきれない、という言葉からして彼女は情報班の班長なのだろう。

私は一つ溜息をこぼすと、彼女に指示を出す。

 

 

「あなたの班員に全てのメイド妖精は私の指示下に入るように伝達するように言って。

咲夜さんが帰ってくるまでは私が代理で指示を出すわ」

 

 

これでも咲夜さんが来るまでは私がメイド長をやっていたのだ。

私は咲夜さんのように班長を通して指示を出すことはできないが、妖精メイド一人一人に直接指示を出すことで動かすこと位はできる。

今まで門番に専念してきたため、こうして他人を動かすのは久しぶりだ。

 

 

「さて、頑張りますか!」

 

 

館は任せた――そんな咲夜さんの言葉を思い出し、気合を入れて久しぶりのメイドとしての仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた…」

 

 

自室に戻ってベッドに倒れこむ。

 

仕事に区切りがついて今は少し休憩中。

 

誤算だったのは、予想以上に妖精メイドの動きが悪かったこと。

咲夜さんはよくも彼女たちをあそこまで動かせるものだと改めて感心する。

 

あんな華奢な体で紅魔館の仕事のほとんどを背負っているのかと思うとなんとなく情けない気持ちになった。

 

 

「美鈴?いる?」

 

 

ベッドで横になってぼーっとしていると扉の向こうからフラン様の声が聞こえた。

慌てて扉を開けると、クマのぬいぐるみを持ったフラン様が立っていた。

 

フラン様は部屋に入ると、ベッドにちょこんと座り、ぬいぐるみを抱きしめる。

私は部屋に置いてある紅茶を入れてフラン様に出す。

フラン様は一口紅茶を飲むと、不安そうな顔で私の顔を見上げる。

 

 

「お姉様から聞いたの。咲夜が異変を解決しに行ったって。咲夜、大丈夫だよね?」

 

 

「ええ、咲夜さんは強いですから、すぐに異変を解決して帰ってきますよ」

 

 

咲夜さんが紅魔館を離れるのはこれが初めてだ。

だからフラン様も長く離れたために不安になってしまうのだろう。

 

どうやって安心させようか、と考えていると、外から聞こえていた雪の降る音がやんだ。

不思議に思ってカーテンを開けると、今までずっと降り続いていた雪がやみ、月が顔を出している。

どうやら咲夜さんは無事異変を解決したらしい。

 

 

「フラン様、外を見てください。雪がやんでますよ。きっと咲夜さんが異変を解決したんです」

 

 

フラン様は窓に駆け寄り、外を見ると、先程の不安そうな表情が嘘のように笑顔になった。

 

 

「私、咲夜のこと出迎えに行ってくる!」

 

 

そういうとフラン様は玄関まで走っていってしまった。

咲夜さんが帰ってくるにはまだまだ時間がかかると思うのだが…。

 

とりあえず温かい食べ物と毛布を用意しなくては。

きっと体も冷えきっているからお風呂も沸かしておこう。

 

私は咲夜さんが帰ってくるのを心待ちにしながら咲夜さんを出迎える準備を始めるのだった。

 



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あの人、何がしたかったんだろう…

なんとも難産な話でした…。
ここまで手こずった話は初めてかもしれません。


 

 

今私は紅魔館近くの森を飛んでいる。

 

途中に毛玉や妖精に襲われたのだが、その全てをマジカル☆さくやちゃんスターが撃ち落としてしまうため、私が迎撃する必要もなかった。

 

私一人では到底無理な弾幕量、その弾幕を簡単に操作できる使いやすさ、弾幕に込められた高いホーミング性能。

…これでこの外見じゃなかったら完璧なんだけどなあ…。

 

私の両脇で、襲い掛かってくる毛玉に対して明らかにオーバーキルなナイフ形弾幕を発射しているマジカル☆さくやちゃんスターを見つめていると、前方から今までの妖精とは違った妖精が近づいてきた。

 

 

「そこのあんた!あたいとしょーぶしなさい!あたいはそこらの妖精とは違ってさいきょーだからあんたなんてこてんぱんしてあげるわ!」

 

 

背中の氷の羽、青い服、頭には青いリボン。間違いなく氷精チルノだ。

ここはあの湖からも近いので湖周辺を飛んでいた彼女にエンカウントしてしまったんだろう。

しかもこの長すぎる冬の影響で興奮しているのか、こちらの返事も聞かないうちからスぺカを取り出している。

この状況で背中なんてむけたら後ろから弾幕を撃たれかねない。

 

 

「はあ、寄り道してる暇なんてないんだけど」

 

 

こちらもスぺカを取り出し迎撃する体制をとる。

 

チルノは私がスぺカを取り出すとさっそく弾幕を放ってきた。

私はそれを見て応戦しようとして――やめた。

何故ならマジカル☆さくやちゃんスターがチルノの弾幕を相殺するどころかそれ以上の物量を以てチルノを追いこんでいるからだ。

 

押され気味になりつつもしっかり避けてこちらの隙をうかがってくるあたりさすがは妖精最強だと思うが、オプションであるはずのマジカル☆さくやちゃんスターに負けそうになっているところからして妖精という種族はやはり弱いのだろう。

 

結局そのまま押されきってしまったチルノは弾幕の波にのまれ、墜落してしまった。

何もしていない私にはなんか釈然としない気持ちだけ残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チルノを倒してしばらく飛んでいると、吹雪が強くなってきた。

私は美鈴から借りたマフラーを巻きなおすことで寒さに耐える。

 

吹雪によって視界が悪くなってしまったために、どっちの方角に行こうか迷っていると、風が突然やんだ。

いや違う。まるで台風の目のように私の周囲だけ風がないのだ。

周りを吹雪の壁が阻み、これを突破しようとすれば確実に方角を見失ってしまうだろう。

 

そして、その吹雪の壁からまるでラスボスのように現れたのはレティ・ホワイトロックだった。

 

 

「あなたもこの冬を終わらせようとしているのかしら?」

 

 

穏やかな笑みを浮かべながら問いかけてくるが、彼女から感じるプレッシャーは彼女が私をすでに敵認定していることを示している。

…というか、穏やかな笑み浮かべながら静かに威圧するって、本当に黒幕みたいだなあ。

彼女は1面ボスのはずなんだけど。

 

 

「ええ、早く春になってほしいというのが私の主人の願いなの。邪魔をするなら容赦はしないわ」

 

 

初対面の相手に勝手に喧嘩を吹っかける私の口は置いといて、どうやら彼女を倒さないと先には進めないらしい。

 

 

「季節が移り替わるのは当然のことよ。だからそのことについて何か言うつもりはないわ。でも、こんないい天気の日に人に会ったんだもの、戯れてみたいと思うでしょう?」

 

 

レティが弾幕を張り、私はそれに応戦する。

今までの敵と違い、マジカル☆さくやちゃんスターだけでは彼女は抑えきれないので、ナイフを投擲し、彼女の進路を妨害する。

 

この戦いも今までの弾幕ごっこのように恐怖心を覚えると思ったが、そんなことはなかった。

むしろ、相手の弾幕の軌道が読め、その美しさを理解できるようになったことで弾幕ごっこの楽しさが理解できた。

 

これはお互いの思いのぶつけ合いなのだ。

例えるなら、不良二人が河原で殴りあって最後に土手に寝転がりながら「お前、なかなかやるじゃねえか」「へっ、お前もな」という感じに近い。

弾幕に自分の気持ち、特性などを組み込むことでお互いの意思を見せつける。

なるほど、これは確かに楽しい。

霊夢が楽しんでやっているかどうかは不明だが、魔理沙がこのゲームにのめりこむ気持ちも分かる気がする。

 

霊夢という理不尽なまでの強敵と戦ったことで私は少しのことでは怖がることが無くなっていたのだ。

 

レティの弾幕を難なく避け、ナイフを投擲する。

このままでは負けると思ったのか、レティがスぺカを宣言した。

 

 

――寒符「リンガリングコールド」

 

 

青色と水色の弾幕が迫ってくる。

しかし、それらはやはり霊夢の夢想封印と比べると遅く、追尾性能も低い。

それらを危なげなく避け、こちらもスぺカを宣言する。

 

 

――幻符「殺人ドール」

 

 

今までのナイフの量をはるかに超えるナイフの波がレティに殺到する。

レティはそれらを避けようとするが、避けきれずに喰らった。

 

 

「あら、負けちゃった。もう少しいけると思ったんだけど」

 

 

負けたというのに相変わらず微笑んでいるレティからはもうプレッシャーは感じない。

 

 

「それじゃ、負けちゃったし、私は帰って春眠を貪ることにするわ。異変解決、頑張ってね~」

 

 

手をひらひらと振って去っていくレティの姿に毒気を抜かれた私は、いつの間にか周囲の吹雪の壁が無くなっていることに気づいた。

 

 

「彼女、何がしたかったのかしら…」

 

 

私は首をかしげつつも、魔法の森の方角へと飛び始めたのだった。

 



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絶対に見返してやる(チルノ視点)

今回はチルノ回。
レティ視点だと思った?残念、チルノ視点でした!



 

 

唐突に目が覚めた。

起き上がろうとすると全身に痛みが走ってまた地面に倒れてしまう。

何で地面に倒れているかを思い出そうとして、妙な服をきた女に撃ち落とされたことを思い出した。

痛みが残っているのは一回休みになるほどダメージがなかったからだろう。

 

思い出して、悔しさがあたいを襲った。

あたいのことを落としたあの女、最後まで私を敵として見ていなかった。

女の周りで浮いていた変な球に攻撃させるばかりで自分は攻撃に参加しなかった。

――まるで、あたいのことを払うべき障害としてみなしていないかのように。

 

女は最後まであたいのことを冷たく見ていた。

落ちる瞬間は私のことを一瞥すらしないでどこかに行ってしまった。

 

 

(悔しい、悔しい、悔しい!)

 

 

あまりに悔しくて涙がにじむ。

ここまで悔しかったことは初めてだった。

 

今まであたいは何度も負けてきた。

今日だってあの女に負けるまでに紅白の巫女や白黒の魔法使いに負けた。

でも、あいつらは私のことを敵として見ていた。

紅白の巫女はうっとうしそうにしていたけどきちんとあたいを見ていた。

白黒の魔法使いはどこか面白そうにあたいを見ていた。

 

でもあの女は違う。

あたいと戦うまでに撃ち落としていた妖精や毛玉と同じようにそこらの羽虫を払うような感じで、そこらの石ころを蹴り飛ばすような気軽さで、あたいを見ていた。

その視線の冷たさはあたいが慣れ親しんで使っている氷のようだった。

 

ある程度痛みが引いて、起き上がれるようになったあたいは、近くの木に寄りかかって膝を抱えて座った。

 

あの女に負けるまではすごく楽しかった。

過ごしやすい冬がいつもより長かったのもあるし、たとえ負けたとしても弾幕ごっこも楽しかった。

 

でも、あの女のせいで全部台無しだ。

楽しさは吹き飛んじゃって、残ったのは初めて感じる後に続かない悔しさ。

いつもなら今度会ったら倒してやるって意気込めるのに、今回はそんな気持ちにもならない。

 

ただただうずくまって、地面を見つめながら泣き続けることしかできない。

あたいは寒さには強いはずなのに、吹き抜ける風から冷たさしか感じられなかった。

 

あたいがただ泣き続けていると、声をかけられた。

 

 

「あら、珍しい妖精を見つけたわ。でも落ち込んでいるみたいね、どうしたの?」

 

 

聞き覚えのない声に顔を上げると、思った通り見覚えのない顔があたいの顔を覗きこんでいた。

 

 

「あんた…、誰よ…?」

 

 

泣いていたせいでガラガラになった声で問いかけると、そいつは穏やかに微笑んだまま答えた。

 

 

「私はレティ・ホワイトロックよ、氷精さん。あなたはこんなところでなんで泣いているのかしら?」

 

 

「あんたには関係ないわ、あっち行ってよ」

 

 

「ええそうね、関係ないわ。でも気になるんだもの、教えてくれない?」

 

 

このまま黙っていることもできた。

だけど、あたいはレティに全てを話していた。

 

――変な服を着た女に負けたこと

――その女に敵としてすら見られなかったこと

――それらが悔しくて、ここで泣いていたこと

 

レティはあたいの話を最後まで黙って聞いていたけど、話し終わると一つ提案してきた。

 

 

「ふーん、大体わかったわ。つまりあなたはその人にまともに戦ってもらえなかったことに悔しがってるのね?なら話は簡単よ、あなたがその人が無視できないくらい強くなればいいんだわ」

 

 

「あたい…強くなれるかな…?だって今までだって頑張ってきたのにちっとも強くならなかったのに…」

 

 

「それはきっと鍛え方が悪かったのよ。私はこれから眠るから付き合えないけど、私の知り合いに強い妖怪がいるからその妖怪に鍛えてもらいなさい。でも気を付けてね。その妖怪、とっても気難しいから門前払いをくらうか消し飛ばされるかもしれないから。それでも強くなりたいならその妖怪の居場所を教えるわ」

 

 

もっと強くなれるかもしれない。

その言葉は私にとって喜ばしいものだった。

そして、いつもの気持ちがわいてくる。

次会ったらあいつを見返してやる、という気持ちが。

 

 

「行く!だから場所を教えてよ、レティ!」

 

 

「そう。ならここから西に進むと、大きな向日葵畑があるわ。そこの中心に木でできた家があるからそこを訪ねなさい。じゃあ頑張ってね~」

 

 

レティは妖怪の居場所を教えてくれると、あたいの頭を一撫でして去っていった。

あたいは気合を入れなおしてレティが教えてくれた場所に行くことにした。

 

 

「よーし、待ってなさいよ!絶対に次はコテンパンにしてやるんだから!」

 

 

私は向日葵畑に勢いよく飛んでいく。

いつの間にか暗い気持ちは無くなっていた。

 




ちなみにこの後チルノは東に向かいました。


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やっぱり子供は元気ですねえ…

前回のチルノ視点が予想以上に反響があり、感想が増えて嬉しい作者です。
今回は橙との戦闘。
さあみなさんご一緒に…ちぇえええええええええええええええええええええええええん!!!!


 

 

 

「どうしましょう…迷ってしまいました」

 

 

只今、吹雪の中遭難中です。

マジでどうするのこの状況!?

やだよ、どこかも分からない場所で凍死するなんて!

 

やっぱりさっきのレティが起こした吹雪のせいで方向が分からなくなってたんだ…。

どうしよう、遭難したら動かない方がいいって言うけど、このままじゃ凍死しちゃうし…!

 

私が少しパニックになっていると、誰かに声をかけられた。

 

 

「あれ?ここに人間が迷い込むなんて珍しい。どうしたの?迷ったの?」

 

 

顔を上げるとそこには猫耳を生やし、緑色の帽子をかぶり、二つの尻尾を持った猫又がいた。

そんな状況じゃないのは分かってるけど、あえて言おう。

 

ちぇええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!

 

うん、彼女に会ったらこれは鉄板だよね。

 

 

「ん?良く見たらあなた、吸血鬼のところの従者よね?あなたのことは藍様から聞いてるよ。すごく強くて完璧な従者って名乗ってるんだよね?」

 

 

藍様から私のことを聞いてる?

紅魔館が八雲家に監視されてることは知ってるけど、紫にも藍にも会ったことがないんだけどな。

それに完璧で瀟洒な従者って呼び名は私が名乗ってるんじゃなくて、レミリア様が面白がって呼んでるだけなんだけど…。

 

 

「同じ従者として勝負を申し込むよ!あなたを倒せばきっと藍様が褒めてくれるだろうし!いざ勝負!」

 

 

橙はキラキラした瞳でスぺカを取り出してこちらがスぺカを出すのを待っている。

やめて!そんな純粋な目で見ないで!浄化されちゃうから!

 

 

「分かったわ。勝負を受けましょう。ただし、貴方が負けたらここから出る方法を教えてもらうわよ」

 

 

橙がいるということはたぶんここはマヨヒガだろう。

今はとにかくここから出て冥界を目指さなくては。

 

 

「やった!そう来なくっちゃね、じゃあ行くよ!」

 

 

橙は弾幕を張るけど、それは随分とムラがある弾幕で目に見えて隙間が多い。

私は難なくそれを避け、マジカル☆さくやちゃんスターの弾幕に乗せて、ナイフを投擲する。

橙はそれを身軽な動きで避け、スぺカを発動した。

 

 

――仙符「鳳凰展翅」

 

 

橙が縦横無尽に飛び回り、弾幕をばらまいていく。

これにはさすがに回避に徹するほかなく、未だに慣れない三次元駆動を以て避けていく。

うう、気持ち悪い。これだけの速さで動き回るとさすがに酔うんだよね…。

 

やられっぱなしでいるわけにもいかないので、こちらもスぺカを発動する。

 

 

――幻符「殺人ドール」

 

 

ナイフの群れが橙に向かって殺到するが、橙はそれらをひょいひょいと避けていく。

その身軽さはまさしく猫のようだった。

 

 

「そんな遅い弾幕当たらないよ!そしてこれで終わり!」

 

 

――翔符「飛翔韋駄天」

 

 

私の視界が弾幕に埋め尽くされる。

橙の動きのように自由に動き回る弾幕を避けきるのは難しいだろう。

しかも橙自身も動き回っているため、こちらの弾幕が当てにくい。

そこまで考慮して私はスぺカを発動した。

 

 

――時符「プライベートスクウェア」

 

 

橙からの弾幕が停止する。

このスぺカは相手の弾幕のみを停止させ、その間に攻撃するという、どちらかと言えば防御寄りのスぺカだ。

 

 

「うにゃっ!?私の弾幕が止まった…!?あ、しまっ…!」

 

 

橙が自分の弾幕が止まったことに驚いて動きが止まったところにマジカル☆さくやちゃんスターの弾幕と私のナイフを当てた。

 

 

「うー、負けちゃったー!悔しいー!」

 

 

 

弾幕が晴れると、ところどころ小さな傷はあるものの、元気そうな橙が見えた。

涙目になりつつも悔しさを全身で表している。可愛い。

…藍に会ったら頼んで橙のこと抱っこしようかな…。

 

 

「いいえ、なかなかいいスぺカだったわよ。少し焦ったし、あのスぺカを使わされるとは思わなかったわ」

 

 

「…本当?」

 

 

「ええ、本当よ、あなたも従者としてなかなかみたいね。あなたの主人も誇らしいでしょう」

 

 

「えへへ、もちろんだよ!私はできる子だもん!」

 

 

「ええ、そうね、偉い偉い」

 

 

橙の頭を撫でて褒めるとえへへ~と言いながら擦り寄ってくる。可愛い。

 

 

「じゃあ、ここから出る方法を教えてくれる?そろそろ私の主人が心配するわ」

 

 

「うん、いいよ!あそこに大きな廃墟があるでしょ?あそこの近くに大きな樫の木があるんだけど、その側に獣道があるから、そこに行けば出られるよ!」

 

 

「そう、分かったわ。ありがとう」

 

 

「あ…、ねえ!また会えるかな?」

 

 

私が礼を言って歩き出そうとすると、橙が呼び止め、不安そうに聞いてくる。

 

 

「大丈夫よ。私たちの主人は知り合い同士なんだから、また会う機会はあるわ」

 

 

「本当!?じゃあ次会ったらまた弾幕ごっこしよ!」

 

 

「ええ、分かったわ。じゃあ、また」

 

 

「うん、またねー!」

 

 

冥界へ向かうため、教えてくれた方へ飛んでいく。

振り返ると、橙が手を振ってくれていた。

そんな姿に癒されながらも私は手を彼女に振り返すのだった。

 



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今度は勝つよ!(橙視点)

レポートと用事とバイトのトリプルコンボで昨日更新できなかった作者です。

今回は橙視点。

ところで、この作品、pixivにもあげたほうがいいでしょうか?
答えてくださる方は感想の方へお願いします。


 

 

 

「ほら、おいで~。ご飯の時間だよ~」

 

 

私はマヨヒガの猫たちにご飯をあげている。

この子たちはただ単に飼っているわけではなく、藍様に課せられた課題の一つなのだ。

この子たちを自分の思い通りに動かせるようになること。

それが課題の内容だ。

でもこの子たちは私に懐いてはいるものの、私の言うことを聞くわけではない。

私が課題を達成できるのはまだまだ先のようだ。

 

このマヨヒガは特殊な場所で、基本的に迷ったものしか入れない。

私は紫様が作ってくれた術のおかげで自由に出入りできるけど、他の人は滅多に入ってこないので、この子たちを住まわせるにはうってつけの場所なのだ。

 

 

「にゃ~、これからどうしよう…」

 

 

いつもならこの後藍様と妖術の訓練なのだが、今は紫様が冬眠してしまっているため、藍様が結界の管理をしている。

だから今の藍様は私に構っている暇がないのだ。

 

 

「外に出て誰か驚かしてこようかな…。にゃ?」

 

 

暇つぶしに人間でもおどかそうかと考えていると、マヨヒガに人間が迷い込んだのが見えた。

飛んでいるということはそれなりに力を持った人間だろうけど、こんなところに迷い込むなんて珍しい。

 

その人間は目に見えて困っているようなので、声をかけることにした。

 

 

「あれ?ここに人間が迷い込むなんて珍しい。どうしたの?迷ったの?」

 

 

声をかけると、その人間はこちらに顔を向ける。

その顔には見覚えがあった。

 

 

「ん?良く見たらあなた、吸血鬼のところの従者よね?あなたのことは藍様から聞いてるよ。すごく強くて完璧な従者って名乗ってるんだよね?」

 

 

少し前に紫様のスキマ越しに藍様と一緒に彼女を見たことがある。

彼女の洗練された動きは、完璧な従者と呼ばれているのを納得できるほどだった。

 

 

「橙、よく見ておきなさい。彼女は従者と呼ばれる者の一種の完成形だからね」

 

 

藍様がそう言って私の頭を撫でたのを覚えている。

藍様が彼女をほめていたのを思い出して、なんだかムカムカしてくる。

むう、私だって従者だもん!こんな奴に負けないんだから!

 

 

「同じ従者として勝負を申し込むよ!あなたを倒せばきっと藍様が褒めてくれるだろうし!いざ勝負!」

 

 

私だってやればできるもん!

彼女に勝って藍様に褒めてもらうんだ!

 

私がスぺカを取り出して勝負を仕掛けると、彼女は冷静な表情でそれを承諾した。

 

 

「分かったわ。勝負を受けましょう。ただし、貴方が負けたらここから出る方法を教えてもらうわよ」

 

 

交換条件として出口を教えることになったけど、別にいい。

最初から出口は教えるつもりだったしね!

 

 

「やった!そう来なくっちゃね、じゃあ行くよ!」

 

 

私は弾幕を撃つけど、藍様にまだまだ修行が必要と言われた弾幕は私にもわかるほど隙間が多い。

これじゃ簡単に避けられてしまうだろう。

 

予想通り彼女は簡単に私の弾幕を避け、星の印が付いた球と共に弾幕を放ってきた。

 

って、早!なんでそんな正確に狙えるの!?

しかも逃げ道を塞ぐように撃ってくるからすごく避けにくい!

でも、こんな弾幕、藍様のものと比べれば…!

 

私は彼女の弾幕をなんとか避けて、スぺカを発動した。

 

 

――仙符「鳳凰展翅」

 

 

周囲を飛び回りながら弾幕を放つことで、相手の弾幕も避けられ、普通に撃つよりも密度の高い弾幕を張ることができるスペル。

 

これなら、と思ったけど、彼女は私以上の機動で避けきってみせた。

逆さまになりながら宙返りなんて私にもできないよ…。

 

 

――幻符「殺人ドール」

 

 

彼女は避けた直後にスぺカを発動した。

今まで彼女が投げてきたナイフの数をはるかに上回るナイフが殺到するけど、この程度なら避けきれる!

私は彼女のスぺカを完璧に避けきってみせた。

 

 

「そんな遅い弾幕当たらないよ!そしてこれで終わり!」

 

 

――翔符「飛翔韋駄天」

 

 

私の最高速度とそれに合わせた弾幕の壁!

このスぺカは私の自信作なんだ、そう簡単には避けられないよ!

 

勝った!と勝利を確信したその時、彼女のスぺカが発動した。

 

 

――時符「プライベートスクウェア」

 

 

突然、私の放った全ての弾幕が停止する。

その光景に驚いた私は、思わず動きを止めてしまった。

 

 

「うにゃっ!?私の弾幕が止まった…!?あ、しまっ…!」

 

 

それが致命的な隙だった。

彼女はそんな私の隙を見逃さず、私に弾幕を叩き込んだ。

弾幕ごっこ用に設定されてるんだろう、当たった弾幕は衝撃はあっても痛みはなかった。

 

 

「うー、負けちゃったー!悔しいー!」

 

 

うー、悔しい。何が悔しいかって、私はほとんど全力でやっていたにも関わらず、涼しい顔でこちらを見てくる彼女の本気を引き出せなかったのが悔しい。

 

 

「いいえ、なかなかいいスぺカだったわよ。少し焦ったし、あのスぺカを使わされるとは思わなかったわ」

 

 

私が何に悔しがっているのか察したのだろう、彼女が私のことをフォローしてくる。

 

 

「…本当?」

 

 

「ええ、本当よ、あなたも従者としてなかなかみたいね。あなたの主人も誇らしいでしょう」

 

 

我ながら単純だが、彼女ほどの従者にここまで褒められると悪い気はしない。

 

 

「えへへ、もちろんだよ!私はできる子だもん!」

 

 

「ええ、そうね、偉い偉い」

 

 

胸を張ると、彼女は頭を撫でてくる。

なんだか子ども扱いされてる様な気がするけど、気持ちいいからいっか!

 

 

「じゃあ、ここから出る方法を教えてくれる?そろそろ私の主人が心配するわ」

 

 

「うん、いいよ!あそこに大きな廃墟があるでしょ?あそこの近くに大きな樫の木があるんだけど、その側に獣道があるから、そこに行けば出られるよ!」

 

 

彼女が私を撫でるのをやめ、出る方法を尋ねてきた。

もう少し撫でてほしかったけど、約束なのでちゃんと教える。

 

 

「そう、分かったわ。ありがとう」

 

 

そう言って片手をひらひらと振りながら去ろうとする彼女を見て、少し寂しくなってしまう。

だから、思わず彼女を呼び止めてしまった。

 

 

「あ…、ねえ!また会えるかな?」

 

 

不安になりながら問いかけると、彼女はふっ、と笑って答えた。

 

 

「大丈夫よ。私たちの主人は知り合い同士なんだから、また会う機会はあるわ」

 

 

「本当!?じゃあ次会ったらまた弾幕ごっこしよ!」

 

 

「ええ、分かったわ。じゃあ、また」

 

 

「うん、またねー!」

 

 

また会える、そう聞いて不安は一気に無くなった。

次会った時に勝負する約束もできたし、また会うのが楽しみだなあ。

 

私は彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

そして、彼女の姿が見えなくなると、手を下し、気合を入れる。

 

 

「よーし!今度こそ勝てるように特訓だよね、特訓!」

 

 

そして私は早く彼女に追いつくために猫たちが見ている中、特訓を始めるのだった。

 



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上海とアリスが可愛すぎる・・・

ネタが尽きてきて執筆が遅くなっている作者です。

もう一日一話更新は無理かなあ。

今回はアリス回。
でもアリスより上海の方が目立っているように見える不思議。

あ、pixivには上げないことにしました。
感想をくださった方々、ありがとうございます。


 

 

橙に教えてもらった出口を通って無事マヨヒガから出ることができた。

 

ここはどうやら魔法の森の近くみたいだ。

冥界へ行くには魔法の森の上を突っ切るのが最短ルートだろう。

 

そして私が魔法の森上空を飛んでいると、鳥が群がっているのが見えた。

何かと思って見てみると、そこにいたのは一体の人形だった。

 

――流れるような金色の髪

――純粋な光を宿す綺麗な蒼の瞳

――その可憐な姿によく合っている流麗な一本の槍(ランス)

 

(なんだか変な解説が流れた気がするが)上海人形だ。

周りを見てみるが、主人のアリスの姿は見えない。単独行動中なのだろうか?

 

上海はランスを振り回して鳥たちを追い払おうとしているが、鳥はこらえた様子もなく、上海をくちばしで突いている。

 

なんだか可哀想なので、ナイフを数本鳥たちの目の前に投げることで追い払う。

すると、上海が私の方へ近づいてきた。

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

「ええ、どういたしまして」

 

 

お辞儀をしていることからたぶん、礼を言っているんだろうと思う。

言葉を返すと、上海はふよふよと浮かび、私の頭の上に乗っかった。

 

 

「シャンハーイ、シャンハイ、シャンハーイ!」

 

 

うん、なんて言ってるのか全く分からない。

嬉しそうな声色からして懐かれてるのは分かるんだけど。

 

とにかく、アリスを探して上海を渡さなくては。

さすがにこのまま冥界に行くわけにもいかないし。

 

上海が私のヘッドドレスを弄っているのを感じながらそんなことを考えていると、声をかけられた。

 

 

「上海、こんなところにいたのね。探したわよ」

 

 

鈴が転がるような声、という表現があるが、その表現がぴったり合う声だった。

声が聞こえた途端、上海は私の頭を離れ、声の方へ向かう。

 

そちらに目を向けると、人形のように美しい少女がいた。

彼女がアリス・マーガトロイドだろう。

 

 

「あなたがその人形の主人かしら?」

 

 

「ええ、そうよ。私はアリス・マーガトロイド。上海を保護してくれてありがとう」

 

 

「いいわよ、そんなこと。ところでその人形、貴方が動かしてるの?」

 

 

「ええ、といっても、命令が無くても半自立型で動くようにしてあるのだけどね」

 

 

そういえば、アリスは完全自立型の人形を作ることが目標なんだっけ。

でも、完全自立型って、それもう魂が人形の中に入ってるよね。

どうやって魂を定着させるんだろう。付喪神みたいに長年使い続けるとか?

 

 

「ところで、今私は魔法の研究で春を集めているの。上海にもそれの手伝いをさせていたのだけれど…。あなたの春を譲ってくれないかしら?」

 

 

私が人形のことについて考えていると、アリスがそんなことを言ってくる。

 

春?春ってゲームで出てきたあの春度のことだよね。

でも、私そんなの集めた覚えがないけど。

 

 

「何のことかわからないわね。私はそんなもの持ってないわよ?」

 

 

「とぼけないでちょうだい。あなたのそばにあるその球体に大量の春を感じるわ」

 

 

え…?まさか私が妖精やら毛玉やらを倒して手に入れた春度、全部マジカル☆さくやちゃんスターに入ってるの…?

本当に高性能すぎるでしょ、マジカル☆さくやちゃんスター…。

 

 

「まあいいわ、渡さないというなら奪い取るまでよ。私としては上海を助けてくれたあなたと戦いたくはないのだけど」

 

 

私がマジカル☆さくやちゃんスターの性能に驚いていると、いつの間にか臨戦態勢をとっているアリスがいました。

あれ?やばくね?

 

 

――紅符「紅毛の和蘭人形」

 

 

紅毛の人形たちが即時に展開し、四方から弾幕を放ってくる。

少しずつ動きながらこちらを狙い撃つ様はまさしくファンネルのようだった。

 

私は避けながらも弾幕を撃ってくる人形をナイフで撃ち落とす。

そうすることで弾幕が薄くなった場所からグレイズしつつ脱出する。

…うう、人形と分かってはいるんだけど、あんな可愛い人形にナイフを刺すのはやっぱり罪悪感が…。

 

そこで時間切れとなったのか、一瞬アリスからの攻撃が途絶える。

そこで、私はスぺカを発動する。

 

 

――幻符「殺人ドール」

 

 

ナイフの群れがアリスを襲うが、彼女は盾を持たせた人形たちにそれを防がせる。

それにしてもあの人形たち、どこから出てきたんだろう。最初は上海しかいなかったのに。

 

 

咒詛「魔彩光の上海人形」

 

 

考え事をしていると、上海によく似た、というか同じ種類の人形が出現し、弾幕を撃ってくる。

先程と比べて弾幕が厚く、避けきるのは難しい。

というか本当に弾幕が厚いなあ、私のナイフが人形にまで届かないんだけど。

 

 

――時符「プライベートスクウェア」

 

 

スぺカを発動すると、弾幕が人形ごと停止する。

人形が停止したことでアリスが無防備になったので、そこにナイフを投擲した。

アリスは避けようとするが、マジカル☆さくやちゃんスターからの弾幕に当たった。

なんだかマジカル☆さくやちゃんスターが高性能すぎて私の見せ場が無くなってるような気がする。

 

 

「負けちゃったわ。ごめんなさいね、不意打ちみたいなことをして」

 

 

「シャンハーイ…」

 

 

勝負が終わってほっとしていた私に謝ってくるアリス。

一緒にいる上海も謝っているのか、それとも落ち込んでいるのか、どこか元気がない。

 

そんな二人(一人と一体?)に私はマジカル☆さくやちゃんスターから出した少量の春度を差し出す。

 

 

「これは…?」

 

 

「別に春を渡さないとは言ってないわ。これだけの量があれば研究に十分かしら?」

 

 

元々私は春を集めていなかったしね。

これらは襲ってくる妖精や毛玉を倒したら手に入れたものだから特に思い入れもない。

 

 

「ええ、充分よ、ありがとう。行くわよ、上海」

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

アリスたちは私に背を向けて帰ろうとする。

私も冥界に向かおうとすると、声をかけられた。

 

 

「機会があったら私の家に遊びに来て。一緒にお茶がしたいわ。あそこに赤い屋根の家が見えるかしら?私はあそこに住んでいるのよ」

 

 

「ええ、喜んで」

 

 

やった、アリスの家に遊びに行ける口実ができた!

これは絶対に行かなくちゃね!

 

私は内心歓喜しつつもアリスに返事をする。

 

改めて冥界に向かうため、そちらの方へと飛んでいく。

後ろを振り向くと、背を向けているアリスと手を振っている上海が目に入った。

 

私は上海の可愛さに癒されつつ、手を振りかえすのだった。

 



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とある人形の一日(上海視点)

最近忙しすぎて全然小説を書く暇がない作者です。

今回は上海視点。

こんな人形あったら全財産はたいてでも手に入れたいです(真顔)


 

 

春だというのに雪が降り続けていた時のある日のことでした。

 

いつものこの時期はご主人様と森を散策するのですが、こんなに雪が降っていてはそれも叶いません。

他の人形たちは、屋根の上に積もった雪を下に落としています。

 

今日も家の中でご主人様と過ごすのかと思っていましたが、ご主人様は玄関先で何かを見つけたらしく、それを掌の上に乗せていました。

一瞬しか見えませんでしたが、あれは桜と呼ばれる花びらに似ていた気がします。

 

 

「上海、出かけるわよ。蓬莱は家の警護をお願いね」

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

「ホウラーイ…」

 

 

出かける準備をしているご主人様に元気よく返事をして、その側へと向かいます。

蓬莱は行ってらっしゃい、と見送ってくれました。

 

 

「さて、上海、あなたに探してほしいものがあるの。これよ」

 

 

ご主人様が見せてくれたのは先ほどの桜の花びらのようでした。

しかし、ただの花びらにしてはどうにも存在感があるように感じます。

 

 

「これは春という概念に形を与えたものよ。これが幻想郷から減っているせいで春がやってこないの」

 

 

なるほど、だから妙に存在感があるのですね。

これを集めればいいのですか?

 

 

「ええ、そうよ、これを集めて私のところに持ってきてほしいの。魔法の研究に使いたいのよ」

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

分かりました、ご主人様。では春を集めてきますね!

 

 

「えっ、ちょっと、上海!?」

 

 

なんとなくこっちにあるような気がします、では行きましょう!

 

 

「…行っちゃった。あの子、春のある場所が分かるのかしら…?」

 

 

意気込んでいた私には、ご主人様のそんな言葉が聞こえることはありませんでした。

 

 

 

 

 

…見つからない。こっちにあるような気がしたのですが。

 

私が春を探してふらふらしていると、鳥の群れが私に向かって飛んできました。

あ、ちょっと、突かないでください!

痛みはないですけど、中身がこぼれちゃいますから!

 

鳥たちをアリスに持たされた槍を振り回して追い払おうとしますが、鳥たちはこらえた様子もなく変わらずに突いてきます。

 

 

(うう、誰か助けてください!)

 

 

私が心の中で助けを求めると、鳥たちの目の前を何か光るものが飛んでいきました。

それに驚いた鳥たちは慌てて逃げ出しました。

 

私が何かが飛んできた方を向くと、そこにはすごく綺麗な銀髪のメイドさんがいました。

その手にナイフが数本握られていることから、先程横切った物体は、彼女が投げたナイフだったのでしょう。

 

私は彼女に礼を言うため、彼女に近づいていきました。

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

お辞儀をしながらお礼を言うと、メイドさんは私の意図が分かったのか、どういたしまして、と笑顔で返してくれた。

私は嬉しくなって彼女の頭の上に乗り、いろいろ話しかけてみました。

 

 

「シャンハーイ、シャンハイ、シャンハーイ!」

 

 

メイドさんは私を頭の上から降ろそうとはせず、私の言葉に相槌を打ちながら何かを探し始めました。

彼女も私と同じで春を探しているのでしょうか?

 

話すことが無くなってしまい、彼女のヘッドドレスを弄っていると、聞きなれた声が掛けられました。

 

 

「上海、こんなところにいたのね。探したわよ」

 

 

ご主人様です!

私はご主人様のもとへすぐさま向かい、報告をします。

 

 

「シャンハーイ…」

 

 

「そう、春は見つからなかったの。まあ、上海が無事でよかったわ。次からは気を付けてね」

 

 

「シャンハイ!」

 

 

春が見つからなかったことを報告すると、ご主人様は苦笑しながら私の頭を撫でてくれました。

私が返事をすると、メイドさんが話しかけてきました。

 

 

「あなたがその人形の主人かしら?」

 

 

「ええ、そうよ。私はアリス・マーガトロイド。上海を保護してくれてありがとう」

 

 

「いいわよ、そんなこと。ところで、その人形、貴方が動かしてるの?」

 

 

「ええ、といっても、命令が無くても半自立型で動くようにしてあるのだけどね」

 

 

メイドさんはご主人様と話している間も私のことを見つめていました。

それはなんだか温かい視線で、少しむず痒かったです。

 

 

「ところで、今私は魔法の研究で春を集めているの。上海にもそれの手伝いをさせていたのだけれど…。あなたの春を譲ってくれないかしら?」

 

 

ご主人様がメイドさんにそんなことを言いました。

でも、彼女が春を持っていたようには見えませんでしたが…。

メイドさんも怪訝な表情でご主人様を見ています。

 

 

「何のことかわからないわね。私はそんなもの持ってないわよ?」

 

 

「とぼけないでちょうだい。あなたのそばにあるその球体に大量の春を感じるわ」

 

 

あのメイドさんのそばに浮いている球から?

メイドさんはそれを初めて知ったようで、どこか驚いた表情で球を見ています。

 

 

「まあいいわ、渡さないというなら奪い取るまでよ。私としては上海を助けてくれたあなたと戦いたくはないのだけど」

 

 

え?ご主人様、それはちょっと待ってくださ――

 

 

――紅符「紅毛の和蘭人形」

 

 

私がご主人様を止める前にご主人様は戦闘用の人形を召還してメイドさんを攻撃してしまいました。

 

奇襲じみたタイミングだったにもかかわらずメイドさんは冷静な表情でナイフで人形たちを撃ち落としていきます。

その動作だけで彼女が相当強いかが分かります。

 

彼女は人形のおよそ7割を撃ち落とし、弾幕を避けきってみせました。

 

 

――幻符「殺人ドール」

 

 

お返しとばかりに大量のナイフがこちらに飛んできました。

ご主人様は盾を持った人形を召還することでナイフを防ぎきりました。

 

 

――咒詛「魔彩光の上海人形」

 

 

私と同型の人形が召喚され、先程よりも濃い弾幕がメイドさんに向かっていきます。

メイドさんはしばらく弾幕を避けていましたが、避けきれないと判断したのか、スぺカを発動しました。

 

 

――時符「プライベートスクウェア」

 

 

人形たちが弾幕と共に動きを止め、ご主人様が無防備になってしまいます。

 

メイドさんから放たれたナイフは避けることが出来ましたが、球から放たれた弾幕が私たちを襲います。

ご主人様が避けきれないと判断した私はランスを振ることで弾幕を切り払いました。

 

弾幕の爆風が私たちを襲いますが、もともと非殺傷に設定された弾幕はそれほどの力も込められていなかったようで、私たちの服が揺れるだけにとどまりました。

 

 

「負けちゃったわ。ごめんなさいね、不意打ちみたいなことをして」

 

 

「シャンハーイ…」

 

 

ご主人様は襲ったことをメイドさんに謝罪し、私も一緒に謝ります。

 

彼女に嫌われてしまったでしょうか…。

優しい人だったので、お友達になりたかったのですけど…。

 

私が落ち込んでいると、メイドさんは球に手をかざし、何かを取り出します。

それが私たちに差し出され、何だろうと思って見てみると、桜の花びらによく似た春でした。

 

 

「これは…?」

 

 

「別に春を渡さないとは言ってないわ。これだけの量があれば研究に十分かしら?」

 

 

ご主人様が問いかけると、メイドさんは苦笑しながらご主人様に春を差し出します。

ご主人様はそれを受け取り、透明な瓶にしまいました。

 

 

「ええ、充分よ、ありがとう。行くわよ、上海」

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

ご主人様が家に戻ろうと背を向けます。

メイドさんもそれを見て背を向けました。

 

私はご主人様についていきつつも、どこか寂しい気持ちになりました。

ご主人様がそんな私を見て少し考え込むと、メイドさんに話しかけました。

 

 

 

「機会があったら私の家に遊びに来て。一緒にお茶がしたいわ。あそこに赤い屋根の家が見えるかしら?私はあそこに住んでいるのよ」

 

 

メイドさんは少し驚いた顔をしていましたがやがて笑顔になり、

 

 

「ええ、喜んで」

 

 

と言ってくれました。

 

私はそれで嬉しくなり、去っていくメイドさんに手を振りました。

途中で振り返ったメイドさんが手を振りかえしてくれてますます嬉しくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

メイドさんの姿が見えなくなって、ご主人様が気付いたように言います。

 

 

「そういえば、彼女の名前を聞いていないわ。今度会ったら聞かなくちゃね、上海?」

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

もちろんです、と返すとご主人様は微笑み、行きましょうか、と家に向かいます。

 

今度会ったら思いっきり遊んでもらおう、と私はメイドさんを思い浮かべながらついていくのでした。

 



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容赦ないなあ…

今回の話はプリズムリバー三姉妹がひどい目にあっております。
彼女たちのファンの方々はご注意ください。

ごめんよ、プリズムリバー…。
作者の技能がもっと高ければこんなことにはならなかったかもしれないのに…。


 

 

 

アリス、上海と別れてしばらくすると、魔法の森を抜けた。

そういえば、魔理沙も魔法の森に住んでいるはずだけど、見かけなかったなあ。

もう異変を解決しに冥界に行ってしまったのだろうか。

 

マジカル☆さくやちゃんスターが妖精や毛玉たちを撃ち落としていくのを眺めながら進んでいくと、前方に亀裂が見えた。

空中に空間が割れたような亀裂があるというのはなかなか違和感があるが、あれが冥界へと続く道なのだろう。

 

 

「ょー…」

 

 

ん?今何か下から声のようなものが聞こえたような…。

気のせいかな?

 

 

「ですよー…」

 

 

今度ははっきりと聞こえた、では誰が?

 

私が疑問に思って下を見ると、大量の弾幕がこちらに向かって放たれている光景が見えた…って嘘おッ!?

 

私が慌てて回避すると弾幕は上空に向かって飛んでいき、消えていった。

危なかった…。何なんだ一体?

 

少しすると、下から赤いラインの入った白いワンピースに揃いのとんがり帽子をかぶった少女が現れた。

 

 

「春ですよー!」

 

 

彼女がそう言った途端、彼女から弾幕が放たれた。

どうやら先程の弾幕は彼女――リリーホワイトから放たれたものだったらしい。

 

 

「私はずっと春だって言ってるのに、何で誰も聞いてくれないんですかー!」

 

 

うわーん、と涙目のリリーから放たれる弾幕は意外に隙がなく、私は回避に徹するしかなかった。

慰めてあげたいけど、あの弾幕を突破するのはなかなか骨が折れそうだ。

 

リリーは泣きながら弾幕を撃ち続けている。

私としては見た目少女のリリーが泣き続けているのは心苦しいものがある。

私は溜息を一つ吐くと、意を決して弾幕に正面から突っ込んだ。

こちらからは撃たない。

どうやらマジカル☆さくやちゃんスターは敵と判断するかどうかを私の霊力によって判断しているらしく、弾幕を撃てばリリーを自動的に撃ち落としかねないのだ。

 

私は腕を交差させて頭を守りながら弾幕を突っ切る。

絶え間なく当たる弾幕は強烈で気を抜くと落とされそうだ。

それでも何とか耐え抜き、弾幕を抜けた。

 

抜けた正面にはリリーがおり、彼女は攻撃されると思ったのか目をぎゅっと瞑った。

私はそんな彼女を優しく抱きしめる。

 

 

「え…?」

 

 

「大丈夫よ、もうすぐこの長い冬は終わるから。そうしたらまた、あなたは人々に春を告げて頂戴」

 

 

実際彼女の役割は幻想郷では重要だ。

幻想郷には暦がない。もちろんカレンダーなんてものもない。

だからこそ、こうやって季節の移り変わりを教えてくれる存在は貴重なのだ。

 

 

「ごめんなさい、私…」

 

 

リリーは落ち着いたのか、私の姿を見て申し訳なさそうに謝る。

 

 

「いいのよ、この位は慣れてるしね。それじゃ、ちょっと待っててくれる?今夜中には冬が終わると思うから」

 

 

ぽんぽん、と彼女の頭を撫でて私は冥界へと向かう。

すると、後ろから声が聞こえてきた。

 

 

「あの、ありがとうございましたー!」

 

 

私はそれに後ろ手を振ることで答え、その場を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構ボロボロになったわね。帰ったら縫わないと…。」

 

 

先程弾幕をまともに受けたことで着ていたメイド服がボロボロになってしまった。

まあ、スぺアのメイド服が何着かあるからしばらくはそれを着ればいいかな。

 

もう冥界はすぐそこだ。このまま何事もなく進めればいいけど、少なくとも妖夢は私の前に立ちはだかるだろう。霊夢か魔理沙が先にいて、倒していれば話は別だが。

 

 

「あら」 「お?」 「ん?」

 

 

亀裂に近づくと、霊夢と魔理沙が同じくここに近づいている所だった。

 

 

「あなたたちも異変を解決にここに?」

 

 

「ええ、いい加減寒いのは嫌だしね」

 

 

「私はこの花びらが気になってな」

 

 

私が問いかけるとそれぞれの答えが返ってくる。

 

 

「あんた、どうしたのよその恰好」

 

 

霊夢が私の姿を見て問いかけてくる。

 

 

「ああ、来る途中でちょっとね。でも大丈夫よ、怪我はないから」

 

 

私が答えると霊夢は一つ溜息を吐くと、着ていた上着を脱いで私に被せた。

 

 

「あんたの恰好見てるとこっちまで寒くなるわ。それ着てなさい」

 

 

「でもそれじゃ霊夢が…」

 

 

「私は能力である程度緩和できるから大丈夫よ」

 

 

私が上着を返そうとすると、間髪入れずにそれを断ってくる。

これ以上言うのも失礼だろうからありがたく借りることにする。

霊夢の体温で温まっている上着は心地よかった。

 

 

「ありがとう、霊夢」

 

 

「…ふん」

 

 

お礼を言うと霊夢はそっぽを向いてしまった。

 

 

「それじゃ、そろそろ行こうぜ、二人とも」

 

 

魔理沙が仕切りなおしたところで冥界に突入しようとすると、どこからか音楽が聞こえてきた。

 

 

「そこのお姉さん方!私たちの演奏を聴いていかない?」

 

 

「花見大会前の肩慣らしにちょうどいいしね」

 

 

「それじゃあ、いくわよー」

 

 

楽器(バイオリン、トランペット、キーボード)をそれぞれ持った姉妹らしき少女たちが目の前に現れて演奏を始めた。おそらく彼女たちはプリズムリバー三姉妹だろう。

その音色はすごく綺麗で、私はしばらく聞き惚れていたのだけど、霊夢と魔理沙はゆっくり聞くつもりはないらしく、それぞれスぺカを取り出している。

 

 

「ちょうどこっちも、あっちも三人。一人ずつ相手をすることにしましょう」

 

 

「異論はないぜ。寒いから早く帰りたいしな」

 

 

「あなたたち、この演奏を聞こうという気はないの?」

 

 

「「ない(ぜ)」」

 

 

ですよねー。

こんな素晴らしい演奏をしている途中で邪魔をするのは気が引けるけど、私も早く帰りたいというのには同感なんだよね。

 

私たちがそれぞれスぺカを取り出すと、三人は気付いて演奏をやめる。

その瞬間、それぞれスぺカを発動した。

 

 

――霊符「夢想封印・集」

 

 

――恋符「マスタースパーク」

 

 

――幻符「殺人ドール」

 

 

色とりどりの弾幕がルナサに、極大のレーザーがリリカに、ナイフの群れがメルランに襲い掛かる。

 

 

「え、待っ…騒葬「スティジャン――」」

 

 

ルナサがなにやらスぺカを発動しようとしたようだが間に合わず、三人はそれぞれの弾幕に飲み込まれ、そのまま墜落して行った。

やっといてなんだけど不意打ちをくらわしたみたいですごい罪悪感が…。

 

 

「さ、邪魔者はいなくなったし、先に進みましょうか」

 

 

「ああ、この花びらもこの先から来てるみたいだしな、早く行こうぜ!」

 

 

二人はプリズムリバー三姉妹のことなど気にも留めず、先に進む話をしている。

私も一旦彼女たちのことは置いておくことにして、異変のことを考えよう。

…あとで謝って演奏を聞かせてもらえるか聞いてみよう。綺麗な音楽だったし。

 

そして私たちは同時に冥界へと飛び込むのだった。

 



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名前を知らないあの人(リリーホワイト視点)

大分投稿が遅れた作者です。
立て続けに用事が入って全然書く時間がなかったorz

今回はリリーホワイト視点。




 

 

その日は、冬のように寒く、雪が降っていた日でした。

 

私は毎年春を告げるために外に出ます。

いつもはその頃には温かく、草木も芽や蕾を覗かせ、まさしく春到来といった景色が広がっているのですが…、今年は違いました。

しかしたとえ外が冬のようでも私には今が春だと分かっています。

ならば私は自分の役目を全うするために春を告げに行くべきでしょう。

 

私はそんな使命感に突き動かされて、春を告げるために外に出ました。

 

私が初めに向かったのは人里です。

人間にとって春とは始まりの季節らしく、私が行くと笑顔で迎え入れてくれます。

 

しかし、今年はどの家も扉を締め切り、通りを歩いている人も少ないように感じます。

 

 

「春ですよー!」

 

 

私は大声で春を告げても、人々は少しこちらに目を向けるだけですぐに足早に立ち去ってしまいます。

それを見るだけでくじけそうになりますが、私がもう一度春を告げようとすると、後ろから話しかけられました。

 

 

「やあ、春告精だね?悪いんだが、今はこのとおり長い冬のせいで君を歓迎する準備ができていない。雪がやんだらまた来てはくれないだろうか?」

 

 

私に話しかけてきたのは頭に奇妙な帽子をかぶった蒼みがかった銀髪の胸の大きい女性でした。

名前は忘れてしまいましたが、人里の人たちからは「先生」と呼ばれていたことを覚えています。

 

 

「そうですかー、分かりました…」

 

 

残念ですが、彼女の心の底から申し訳ないと思っているような顔を見ては、わがままを言うわけにもいきません。

私は女性に見送られながら人里を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里から離れ、妖精や毛玉に春を告げていきますが、毛玉は基本的にそういうことには無頓着ですし、妖精はこの天気にはしゃいで聞いてなんかいません。

私はだんだん自分の役割を果たせない状況に苛立ってきました。

だからでしょう。ふと目についた人間にやけくそ気味に春を告げてしまったのは。

 

 

「春ですよー!」

 

 

しかしその人間は私の声が聞こえなかったのか、止まりもせずにどこかへ飛んで行ってしまいます。

悔しくなって少し大きく声を上げる。

 

 

「春ですよー!」

 

 

そこでようやく聞こえたのか、止まって周囲を見渡し始めた。

それでもこちらの方は向きません。

その姿が私の声を聞かない人里の住人や、妖精たちと重なってしまい、思わず力を込めて叫んだ。

 

 

「春ですよー!」

 

 

その時力が漏れ出て、思わず弾幕を放ってしまった。

一瞬まずいと思いましたが、その人間は弾幕をちらりと見ると、軽々と避け、私に冷めた目を向けてきました。

その眼を見て、またあの人間たちの目を思い出してしまった私は八つ当たりでまた叫んでしまう。

 

 

「春ですよー!」

 

 

今度の弾幕は攻撃するために撃ったものだからか、先程よりも厚く、激しかった。

それでも簡単に避け、つまらなそうな視線を向けてくる。

その視線に耐え切れなくなった私は思わず泣いてしまいました。

 

 

「私はずっと春だって言ってるのに、何で誰も聞いてくれないんですかー!」

 

 

泣きながら弾幕を撃ち続けていると、彼女(この時点でやっと相手が女性だと気付きました)はため息を一つ吐き、両手を交差させ、頭を守りながらこちらに突っ込んできました。

確かに私は弾幕ごっこを仕掛けるつもりで攻撃したわけではないので、弾幕をいくらくらっても問題はないのですが、攻撃用に放った弾幕のため、相応の威力は込められています。

実際、彼女の服が破けていくし、弾幕が一番当たっている腕には出血はないものの、傷がついていきます。

 

とうとう、彼女は弾幕を抜け、そのままの速度でこちらに接近してくる。

攻撃されると思った私は思わず、腕で顔を守りました。

衝撃が来ると覚悟したのに、次に感じたのは温かいものに包まれたような感覚でした。

 

 

「え…?」

 

 

「大丈夫よ、もうすぐこの長い冬は終わるから。そうしたらまた、あなたは人々に春を告げて頂戴」

 

 

彼女の顔を見上げると、彼女は先ほどのような冷徹な顔ではなく、優しい表情でこちらを見ていました。

 

それを見て、私は彼女が一度もこちらに攻撃していないことに気が付きました。

つまり、彼女は攻撃するために弾幕を突き抜けたのではなく、私を止めるためにここまで傷ついたのです。

 

 

「ごめんなさい、私…」

 

 

理解した直後、私は凄まじい罪悪感を覚え、彼女に謝罪する。

 

 

「いいのよ、この位は慣れてるしね。それじゃ、ちょっと待っててくれる?今夜中には冬が終わると思うから」

 

 

彼女は本当に気にしていないかのように返すと、私の頭を撫でました。

 

彼女は踵を返すと、どこかへ向かおうとします。

私は慌てて彼女に言葉をかけました。

 

 

「あの、ありがとうございましたー!」

 

 

彼女は返事の代わりに後ろ手を振って去っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女がいなくなった後、私は彼女に名前を聞いていなかったことに気が付きました。

改めてお礼を言いたかったのですが、これではどこに行けばまた会えるのか分かりません。

知り合いの大妖精に聞けば彼女が誰かわかるでしょうか…?

彼女はチルノちゃんに色々な所に引っ張りまわされているので、知り合いが多いのです。

 

私は後で大妖精に会うことに決めると、再び春を告げるために今度は妖怪の山へと向かうことにしました。

不思議なことに、私の中にあった苛立ちはいつの間にか消えていました。

もしかすると、彼女が私のそれを消してくれたのかもしれません。

あの綺麗な顔とかっこいい背中を思い出しながら、私は妖怪の山へと向かうのでした。

 



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刀が怖すぎます…

やっと書きたかった妖夢戦が書けた。
相変わらず戦闘シーンは駄目駄目ですが (´・ω・`) ショボーン


 

 

 

冥界に飛び込んで初めに目についたのは終わりが見えない石段だった。

 

 

「これ結構長そうだな、上るのは骨が折れそうだ」

 

 

「でもこの先に異変の元凶がいるのは確かよ」

 

 

「その根拠は?」

 

 

「勘よ」

 

 

「勘かよ」

 

 

「二人とも、そろそろ行くわよ。早く帰って夕飯の準備をしないと」

 

 

私の後ろで霊夢と魔理沙がコントを繰り広げているので、私はそれをいったん中断させる。

いや、もっと見ていたいんだけど、これ以上帰宅が遅れると夕飯の準備が間に合わなくなりそうだしね。

 

 

 

 

 

私たちが石段を登っていくと、やがて石段が途切れ、踊り場のような場所に出た。

周囲には石灯篭が無数に設置してあり、不気味な雰囲気を醸し出している。

 

一旦そこで止まって足をつけると、奥から半霊を連れたおかっぱ頭の二本の刀を提げた少女が現れた。

 

 

「侵入者か。これ以上先には進ませない!そしてあなたたちが持っている春ももらっていきます!」

 

 

彼女は私たちに気が付くと即座に刀を抜き、臨戦態勢をとる。

それを見て、魔理沙と霊夢が構えるが、私は二人を制した。

 

 

「霊夢、魔理沙、ここは私に任せて先に行きなさい。彼女は私が抑えるわ」

 

 

「え?だけど…」

 

 

「いいから行きなさい。異変の解決を優先すべきでしょ?」

 

 

「咲夜がやるって言うなら別に異存はないわ。行きましょう、魔理沙」

 

 

私が抑えると言うと、魔理沙が戸惑った声を出すが、霊夢に連れられて上を飛んでいく。

そうはさせじと妖夢が二人に弾幕を放とうとするが、私はそれをナイフを投げることで妨害した。

その間に二人は階段を飛んで上って行ってしまった。

 

二人を逃がしたことを悟った彼女は私を睨みつける。

 

 

「何のつもりですか?あなた一人で私を倒せるとでも?」

 

 

「さあ、それは分からないわ。あなたと私は同程度の実力みたいだし。でも、あの二人は私よりも強い。なら、あなたより強いであろうこの異変の元凶のもとに無傷で向かわせるのが最善と判断したまでよ」

 

 

四人の中で一番強いのは間違いなく霊夢。そして次は制圧力のある魔理沙だろう。

ならば、異変の元凶である幽々子に彼女たちを向かわせるのが一番の最善。

 

 

「そうですか…。ですが、私があなたを倒し、彼女たちに追いつけば問題はない」

 

 

「そうかしら?私と戦えば少なからずあなたは消耗する。そうすれば一瞬で霊夢あたりにやられるだけよ?それに…」

 

 

私は言葉を切って挑発的に笑い、ナイフを構える。

 

 

「私は昔から時間稼ぎが得意なのよ…。なにせ、時間を止めてでも時間稼ぎができるもの」

 

 

よしっ、言えた!言いたかった台詞が言えたよ!霊夢の時は言う暇もなく戦闘になったからね!

 

私が脳内ではしゃいでいると、目の前の彼女はふう、と一つ息を吐き、刀を構えた。

 

 

「今は一刻も早くあなたを倒し、二人を追いかけるのが最優先。構えなさい、侵入者」

 

 

「十六夜咲夜、よ。紅魔館でメイドをやってるわ。よかったら今度遊びに来て頂戴」

 

 

私が微笑みながらそういうと、毒気が抜かれたような顔をして返してきた。

 

 

「あなたと話していると調子が狂います…。魂魄妖夢です。この先の白玉楼の庭師を務めています。では…いざ!」

 

 

妖夢が刀を構え、切っ先をこちらに向ける。

私もナイフを構え、いつでも動けるようにする。

 

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」

 

 

「あなたの時間も私のもの…あなたは時間を斬れるかしら、庭師さん?」

 

 

一瞬の後、私たちはぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の私たちの戦いを霊夢か紫が見ていたらこう言うかもしれない。

「おい、弾幕ごっこしろよ」と。

 

ナイフと刀がぶつかり合って火花を散らす。

鍔迫り合いとなるが、武器の差と種族の違いによる贅力の差によって私の方が吹き飛ばされる。

私は空中で体勢を立て直すと、再び妖夢に接近し、近距離戦を仕掛ける。

妖夢は刀を上手く触れない距離まで私に詰められたことで顔を歪める。

 

戦いにおいて間合いという物は重要だ。

最近は弾幕ごっこの普及によって注目されるのは弾幕を避ける回避力と相手を落とす火力、そして敵すら魅了する美しさだが、そこには間合いという考えはあまりない。

それは当然、弾幕は基本遠距離攻撃だからだ。

例えるならば重さの無いガトリングを背負って動きながら撃ち合っているようなものなので、せいぜい弾幕が届く距離にいる、という程度の認識だ。

 

しかし、今私たちがやっているのは、弾幕を撃ちあわない近距離戦だ。

故に妖夢は自分の間合いを保とうとするし、私はもぐりこんで密着状態でナイフを振るいたい。

今の状態はお互いの間合いの最善の距離を足して二で割ったような感じだ。

妖夢には近すぎてうまく刀を振れないし、私には少し遠くてナイフが届かない。

 

何故私が近距離戦を仕掛けているのかというと、妖夢に弾幕を撃たせないためである。

妖夢の弾幕は斬撃の後に弾幕が飛んでくるという形なのだが、この斬撃が厄介で、しばらくその場に残り続けるという性質を持っているのだ。

そのせいで私は避ける範囲が狭まり、当たる確率が高くなってしまう。

 

そこで私は考えた。なら弾幕を撃たせなければいいじゃない?

原作のモーションを見る限り、あの斬撃は刀を振るという工程をたどらなければ発動しない。

ならばあえて接近戦を仕掛けることで刀を振りきれなくしてしまえばあの斬撃は出せない。

 

しかしこの作戦、実行した後に気が付いたのだが、一つ欠点があった。

それは――すごく怖いのである。

 

いやだって目の前を真剣の切っ先がびゅんびゅん通っていくんだよ!?

真剣だから弾幕と違って当たったらただじゃ済まないだろうし。

うああ、怖い、怖いってば!

 

私は心の中で叫びながらも妖夢に接近し、ナイフを振るう。

ナイフは妖夢の喉の直前で止まる。

楼観剣が私の心臓の直前で止まったからだ。

動けばやられる――そんな予感がするのは妖夢も同じなのか、お互いに見つめあって動けなかった。

その時、上空、つまり白玉楼から力がぶつかり合う気配を感じた。

その瞬間、私たちはお互いに後ろに下がり、距離をとる。

 

 

「どうやら上でも戦いが始まったみたいね」

 

 

「そうみたいですね。あなたとの戦いを早く終わらせなければならないということでもありますが」

 

 

――獄炎剣「業風閃影陣」

 

 

妖夢が半霊から出た青の大玉を斬ると、赤い弾幕が私に襲い掛かってきた。

それを回避すると、警戒していた斬撃が飛んでくる。

斬撃を回避するが、斬撃はそのままそこに残り、こちらの動きが制限される。

 

接近して次の斬撃を阻止しようとするが、残った斬撃が邪魔でうまく近付けない。

するとまた斬撃が放たれ、避け…。

この後はこの繰り返しだった。

動ける範囲がだんだん狭まっていき、弾幕を撃っても残った斬撃に阻まれ、妖夢に届かない。

このままではじり貧だ。いずれは弾幕に当たってしまうだろう。

そう思って無理矢理弾幕の間を突破しようとした瞬間――

全身が重くなり、地面に墜落した。

 

 

(何?何が起こったの?)

 

 

動かないというわけではないが、感覚が鈍っている。

妖夢がやったのかと彼女に目を向けたが、彼女もまた私と同じように地面の上で膝をついていた。

 

 

(まさか、西行妖?そんな、あれは封印が解けないまま異変が終わったはずなのに…)

 

 

そう考えていると、首に巻いていた美鈴のマフラーが薄く光り、体が軽くなった。

美鈴はこれに気でも込めていたのだろうか。

何はともあれこの状況で動けるようになったのはありがたい。

 

動けなくなっている妖夢には悪いが、ここは白玉楼へと急ぐべきだろう。

先に行った霊夢と魔理沙も心配だし。

 

私は階段の先――白玉楼へと全力で飛ぶのだった。

 



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彼女との差(妖夢視点)

昨日左手を怪我した作者です。
作者は右利きなのであまり問題はないのですが、キーボードが打ちにくいです。

今回は妖夢視点。

あ、あと萃夢想買ってきました。


 

 

 

「西行妖の封印を解きましょう」

 

 

きっかけは幽々子様のその一言だった。

なんでも、西行妖の下に埋まっている誰かを見てみたいのだとか。

私としては逆らう理由もないので、西行妖の封印を解くために幻想郷中から春を集め始めた。

 

何か月も春を収集しつづけたことで西行妖は四分の三ほどの枝に桜の花を咲かせた。

これが満開となれば、西行妖の封印が解け、幽々子様の願いもかなえられる。

そう思いながら、西行妖を見上げていると、冥界の近くで戦いの気配がした。

 

 

「幽々子様、どうやら冥界に侵入しようとする者がいるようです。侵入者を排除してまいります」

 

 

「そうなの?気を付けてね、妖夢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽々子様に見送られ、階段を下りていくと、3人の人影が見えた。

1人は紅白の巫女服を着た女。1人は白黒の魔女のような格好をした女。1人はメイド服の上に防寒具のようなものをきた女。

この中でも特に強いと感じたのが、巫女服を着た女だ。

彼女はおそらく、博麗の巫女だろう。

彼女が幽々子様のもとに行ってしまえば、どうなるか分からない。

私は刀を抜いて、侵入者たちに声をかけた。

 

 

「侵入者か。これ以上先には進ませない!そしてあなたたちが持っている春ももらっていきます!」

 

 

刀を抜いた私を見て、巫女と魔女が臨戦態勢を取ろうとするが、メイドがそれを手で制した。

そして2人に先に行くよう促したのだ。

 

 

(まずい…。博麗の巫女に通られては困る。実力では幽々子様が遅れをとることはないだろうが、今は異変解決にはスペルカードルールを使わなければならない。弾幕ごっこでは幽々子様が負ける可能性もある)

 

 

私は2人(特に博麗の巫女)を通さないために弾幕を撃とうとしたが、メイドにナイフを投げられて攻撃を中断してしまった。

その間に2人の姿は見えなくなってしまう。

私は邪魔をしてきたメイドを思わず睨みつけた。

 

 

「何のつもりですか?あなた一人で私を倒せるとでも?」

 

 

「さあ、それは分からないわ。あなたと私は同程度の実力みたいだし。でも、あの二人は私よりも強い。なら、あなたより強いであろうこの異変の元凶のもとに無傷で向かわせるのが最善と判断したまでよ」

 

 

挑発を織り交ぜながら問い詰めると、メイドは薄く笑いながら答えていく。

私と同程度の実力と言っておきながら負けるとは微塵も思っていないことがその笑みから読み取れた。

 

 

「そうですか…。ですが、私があなたを倒し、彼女たちに追いつけば問題はない」

 

 

「そうかしら?私と戦えば少なからずあなたは消耗する。そうすれば一瞬で霊夢あたりにやられるだけよ?それに…」

 

 

言外にお前など障害にもならないと言って挑発するが、そんな言葉にも余裕を崩さずに言い返し、挑発的に笑う。

 

 

「私は昔から時間稼ぎが得意なのよ…。なにせ、時間を止めてでも時間稼ぎができるもの」

 

 

ここまで聞いて私は一つ溜息をついた。

どうやら彼女は私が何を言っても2人を追わせるつもりはないらしい。

 

 

「今は一刻も早くあなたを倒し、二人を追いかけるのが最優先。構えなさい、侵入者」

 

 

「十六夜咲夜、よ。紅魔館でメイドをやってるわ。よかったら今度遊びに来て頂戴」

 

 

早く戦闘を終わらせるために闘いを促すと、彼女は律儀に名乗ってきた。

だが、名乗りに続いた言葉に調子を崩されてしまう。

これから戦う相手を自分の家に招くものが普通いるだろうか?

 

 

「あなたと話していると調子が狂います…。魂魄妖夢です。この先の白玉楼の庭師を務めています。では…いざ!」

 

 

此方も名乗り返して、楼観剣の切っ先を彼女に向けると彼女もナイフを構える。

 

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」

 

 

「あなたの時間も私のもの…あなたは時間を斬れるかしら、庭師さん?」

 

 

そして、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先手を取ったのは彼女の方だった。

弾幕を撃とうとする私に対して彼女は高速で突っ込んできたのだ。

不意を突かれた私は彼女に自分の間合いの内側に入ることを許してしまい、そのまま鍔迫り合いとなる。

力任せに押し返すと、彼女は後ろに飛ぶことで衝撃を緩和するが、直後に再び突っ込んでくる。

 

私は楼観剣を振るうことで間合いに入らせないようにするが、彼女は予想以上の速さで動いてくるため、こちらの最善の間合いよりも少し詰めてくる。

そのためこちらは刀を上手く振るえないが、あちらもナイフを上手く振るえないようだ。

 

白楼剣も振るってもう少し距離をとりたいのだが、彼女の周りに浮いている球体が妨害してくるために白楼剣を抜くことができない。

 

硬直状態のまま斬りあっていると、白玉楼から力がぶつかり合う気配を感じた。

ぶつかり合っている力の一つは慣れ親しんだ幽々子様の力だ。

あの2人が白玉楼に到着し、勝負を仕掛けたのだろう。

 

 

「どうやら上でも戦いが始まったみたいね」

 

 

「そうみたいですね。あなたとの戦いを早く終わらせなければならないということでもありますが」

 

 

そう、もうほとんど猶予はない。

ゆえに、私はスぺカを発動した。

 

 

――獄炎剣「業風閃影陣」

 

 

私は半霊から精製した弾幕を彼女に向かってばらまく。

彼女はそれを簡単に避けていくが、私は追撃のために斬撃を飛ばした。

 

私の斬撃はその場に一定時間残るため、相手の逃げ場を制限することができる。

目論見通り、彼女の逃げ場は段々と狭まり、もう少しすれば彼女を落とすことができるだろう。

 

そして、彼女は動きを止め、此方を見据えた。

私は勝利を確信し、弾幕を撃とうとしたその瞬間、急激な重圧を感じて墜落した。

 

 

(な、何が…?)

 

 

彼女がやったのかと視線を向けるが、彼女もまた私と同じように苦しんでいる。

そしてこの重圧の気配の正体を思い出した。

 

 

(西行妖、か…!?)

 

 

しかし、幽々子様は西行妖の封印が解けてもこのような事態になるとは言っていなかった。

あえて私に言わなかったのか、それとも幽々子様も知らなかったのか。

重圧をはねのけようとするが、出来なかった。

幽々子様をお守りしなければならないというのに、何をしているんだ私は…!

 

何とか視線を上げると、いつの間にか十六夜咲夜が立ち上がり、階段へと向かっていた。

やはり今までの彼女は本気ではなかったのだろう。

私は無様に地に伏して、彼女はしっかりと立っていることから彼女との実力差を痛感した。

 

彼女は私に一瞬だけ視線を向けたが、すぐに白玉楼へと向かっていってしまった。

 

私はただ彼女の背中を見送ることしかできないのだった。

 



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やっと異変解決ですね…





 

 

私が階段を上りきると、大きな武家屋敷が目に入った。

江戸時代の武将が住んでいてもおかしくなさそうな大きな屋敷には、桜吹雪が舞っていた。

いや、桜ではない。これは形を持った春だ。

私は春が流れてきた方を向く。

そこにあったのは、見たこともないほど大きな桜の木だった。

そして、それは美しく、荘厳で、恐ろしいものだった。

あの木から感じることができるのは、まさに死の美しさと呼べるものだ。

美しく、人を魅了するが、そこにあるのは破滅。

かつて人を死に誘ったというのもうなずける。

私も西行妖の知識と美鈴の気が込められたマフラーがなければ死に誘われていたかもしれない。

 

 

「咲夜、遅かったわね。今少し手こずってるの、手伝いなさい」

 

 

掛けられた声に我に返ると、霊夢が近くまで来ていた。

彼女の巫女服はボロボロで、ここでの戦いの激しさを物語っている。

周りを見渡すが、魔理沙が西行妖に攻撃しているのが見えるばかりで、西行寺幽々子の姿はない。

 

 

「今回の異変の元凶と戦ってたらいきなり苦しみ始めて消えちゃうし、その直後にあの桜が暴れはじめるし…。まったく、訳が分からないわ」

 

 

霊夢が首を振りながら愚痴る。

 

幽々子が消えたのはたぶん西行妖の封印が解けてしまったからだ。

あの木の下には幽々子の死体が埋まっており、封印が解けてしまえば、幽々子は消滅してしまうはずだ。

 

 

「あれは西行妖といってね、かつて多くの人間を死に誘った桜よ。そのせいで封印されたはずだけど…。あれの封印は解けてしまったの?」

 

 

「いいえ、完全に解けてしまったわけではないわ。でも完全に解けるのも時間の問題よ…。って、なんであんたがそんなこと知ってるのよ?」

 

 

しまった、ついうっかり…。

私は内心冷や汗をかきながら言い訳を考える。

 

 

「今回の異変は春が来ないものだったでしょう?それで春に関係しそうなものを調べておいたのよ。それで、あの桜を再封印することはできる?」

 

 

我ながら苦しい言い訳だ。

霊夢は疑わしそうに私を見ていたが、今問い詰めてもしょうがないと思ったのか、私の質問に答えてくれた。

 

 

「ええ、できるわ。でも、封印の準備のために時間がかかるし、封印するときは零距離から行使しないと効果がなさそうね」

 

 

てことは実質霊夢は戦いから外して、私と魔理沙だけで西行妖を抑えないといけないわけか。

放っておけば幻想郷に危険が及ぶし、こういう時に頼りになりそうな紫はこれ程危機的な状況でも出てこないことからしてまだ冬眠中。

 

 

「分かったわ。霊夢は封印の準備を。私と魔理沙で西行妖を抑えるから、準備が終わったら合図して。私達で西行妖までの道を切り開くわ。…霊夢も魔理沙もこの重圧は大丈夫なの?」

 

 

「私は能力で、魔理沙は自作の魔道具で何とかね。でも、私はともかく魔理沙は長く持たないわ。私は封印の準備をするから…、頼んだわよ」

 

 

霊夢の言葉に親指を立てることで答え、私は魔理沙のもとへ向かう。

魔理沙は星形の弾幕をばらまくことで西行妖の弾幕を私たちの方へ行かないようにしていた。

 

 

「魔理沙!」

 

 

「ああ、咲夜か。まったく遅いぜ。霊夢が途中で離脱したせいできつくてな」

 

 

魔理沙が帽子のつばを抑えながら笑いかけてくる。

そんな彼女に私は指示を出す。

 

 

「霊夢があの桜を封印するわ。私たちはそれまであれを抑えて霊夢の準備が出来たら霊夢の援護。できるかしら?」

 

 

「はっ!私をなめてもらっちゃ困るぜ。そのくらい余裕でこなしてやるよ!」

 

 

私が指示を出すと、魔理沙はニヤリと笑って箒に乗りなおし、西行妖に向かっていった。

西行妖は魔理沙が近づくと弾幕を張って応戦する。

しかし魔理沙はその弾幕をアクロバティックな飛行をすることで回避してみせた。

 

 

「そんな見え見えな弾幕当たらないぜ!そんで、これでも喰らえ!」

 

 

――恋符「マスタースパーク」

 

 

魔理沙が放った砲撃は西行妖の弾幕を飲み込み、そのまま直撃するかに思われたが、当たる直前に結界のようなもので弾かれてしまう。

 

 

「やばっ、まず――」

 

 

砲撃を放った反動で一瞬だけ動きが止まった魔理沙が弾幕に当たりそうなるが、私は時を止めることで魔理沙を救出した。

 

 

「お?おお…。助かったぜ、咲夜」

 

 

「いいわよ、そんなこと。それより結界まで張るのね、ますます厄介だわ」

 

 

結界が張られたままでは霊夢が近づけない恐れがある。

いや、霊夢の場合結界など関係無しに封印するかもしれないけど、不安要素は取り除いておくべきだろう。

 

 

「魔理沙、私があの結界を破壊するから援護をお願い」

 

 

「分かった、任せろ!」

 

 

頼もしい言葉を聞いて、私は弾幕に突っ込む。

後ろから放たれる星形の弾幕が私の進路を邪魔する弾幕を消していってくれる。

おかげで私は力を消費せずに西行妖に近づくことができた。

 

 

「魔理沙!私に向かってマスタースパークを撃って!」

 

 

「え?だけど…。ええい、当たるなよ!」

 

 

――恋符「マスタースパーク」

 

 

私の指示に魔理沙は一瞬戸惑ったが、すぐに砲撃を撃ってくれた。

私は上へ飛ぶことで砲撃を回避し、結界へと直撃させる。

そして、私はありったけのナイフを取り出した。

 

 

(これだけの攻撃を一点に集中させれば壊れるでしょう!?)

 

 

――幻符「殺人ドール」

 

 

ナイフの群れが先ほど魔理沙が砲撃を当てた場所に殺到する。

ナイフが当たるたびに結界にひびが入っていき、そしてついに――

音を立てて結界の一部が砕け散った。

 

しかし、本能的に危機を察知したのか、西行妖が私に向かって弾幕を撃ってくる。

ナイフをすでに撃ち尽くし、時間を止めるほどの猶予もない。

 

 

(ああ…。あれ、当たったら痛いんだろうなあ…)

 

 

迫る弾幕を見ていた私の視界に、あるものが私の盾になるように入り込んできた。

 

――マジカル☆さくやちゃんスターである。

 

マジカル☆さくやちゃんスターは弾幕の群れを受け止め、しかしその威力に耐え切れずに徐々に壊れていく。

そして数秒と立たないうちにマジカル☆さくやちゃんスターは砕け散ってしまった。

 

――しかし、その時不思議なことが起こった。

 

マジカル☆さくやちゃんスターが砕け散ったその瞬間、マジカル☆さくやちゃんスターの中に入っていた春があふれ、西行妖の弾幕をかき消してしまったのだ。

それどころか、かき消された弾幕は私のもとに集まり、吸収された。

そして消耗していた霊力が回復してしまったのだ。

 

何が起こったのか全く分からなくて混乱している私に霊夢の声が聞こえてきた。

 

 

「咲夜!そこ退きなさい!」

 

 

私は反射的にその声に従い、左に飛んだ。

 

 

「これで…終わりよっ!」

 

 

――霊符「夢想封印」

 

 

霊夢から放たれた封印用のお札は西行妖へと命中した。

すると、西行妖に注がれていた春が一気に無くなり、私たちは盛大な桜吹雪に飲み込まれた。

それが過ぎ去り、周りを見渡してみると、服の汚れを気にしている霊夢と、ピースサインを突き出して笑っている魔理沙、そして屋敷の近くに倒れている西行寺幽々子の姿が見えた。

 

その光景を見て私は一つ息を吐き出すと、その場に座り込んでしまう。

服が汚れてしまうけれど、今回ばかりはそんなことを気にする余裕もないのだ。

 

――こうして、原作と少し違う「春雪異変」は幕を閉じたのだった。

 




どうも、この話を書いている間ずっと「この木、なんの木、気になる木~♪」の歌が頭の中で流れ続けていた作者です。

今回は幽々子戦を無くした西行妖編でしたが、いかがでしたでしょうか?

次回の話は他者視点ではなく、事後話という名の番外編です。
感想で要望があった話を書こうと考えています。


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美鈴が風邪をひくなんてねえ…

感想で要望があった「咲夜が美鈴の看病をする話」です。
ネタを提供してくださったG10.Arvinさん、ありがとうございます。
また、オリジナルキャラ「ユウ」さんを貸してくださった夢物語♪さんにも感謝を申し上げます。




 

 

 

西行寺幽々子が起こした異変――後に「春雪異変」と呼ばれることになる異変を解決し、紅魔館に戻った私を出迎えたのは、フラン様の強力なタックルだった。

 

助走をつけて飛び込んできたフラン様の頭がちょうど私の鳩尾に直撃し、悶絶しそうになるが、フラン様を抱きしめている手前、それを我慢する。

 

そのあと、レミリア様に美鈴、パチュリー様や小悪魔が出迎えてくれて、家族の温かさに心中で涙した。

そして、異変解決のお祝いということでささやかなパーティーが開かれた。

料理を作ったのは料理班の妖精メイドたちだそうで、彼女たちの料理は本当においしくて涙が出そうになった。

後で料理班の妖精メイドたちにはボーナスをあげよう。

私は料理を味わいながらそう心の中で決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな嬉しいことがあった異変解決の数日後、私は美鈴の部屋にいた。

なぜそんなところにいるかというと、理由は簡単、美鈴が風邪を引いたので看病しているのだ。

 

普段の彼女ならば風邪などひかないくらい元気なのだが、異変解決の日に私にマフラーを渡してしまい、真冬のような寒さの中、外にいたことと、その後の慣れないメイドの仕事で異変解決の次の日にいきなり倒れてしまったのだ。

しかも私の目の前で倒れたものだから本当に驚いた。

心臓に悪いから本当にやめてほしい。一瞬美鈴が死んだかと思ったじゃないか。

 

 

「まったく…、私にマフラーを渡しておいてあなたが倒れたんじゃ意味ないじゃない」

 

 

「あはは…。すいません」

 

 

ベッドの上で上体を起こした状態で苦笑する美鈴に私は説教する。

母のように接してきた彼女に説教するのはなんだか変な気分だけど、こうでもしないと彼女はまた無理をしそうなのだから仕方がない。

 

 

「でも、咲夜さんの看病のおかげでもう大丈夫ですよ、ほら!」

 

 

そう言って立ち上がった美鈴はその場で跳んでみたり回ってみたりする。

私はそんな彼女を無理矢理ベッドの上に押し倒した。

 

 

「っ!さ、咲夜、さん…?」

 

 

「私に押し倒されるようじゃまだ大丈夫とは言えないわね、しばらく安静にしてなさい」

 

 

私は美鈴に乗っかった状態で熱を測るために美鈴の額に自分のそれを合わせる。

あれ、なんだかますます体温が上がったような…?

 

 

「咲夜さん、お水を持ってきま、し…」

 

 

「ああ、ユウ。タオルも持ってきてくれたのね、ありがとう」

 

 

扉が開いて最近よく話すようになった妖精メイド「ユウ」が顔を出した。

彼女の手には水が張られた容器と容器に入れられたタオルがある。

彼女は部屋に入って私たちを見るとびしっ、と動きを止めた。

 

 

「え、あ、あのっ、しっ、失礼しました!これはここに置いていきます!」

 

 

あたふたといきなり慌て始めたと思ったら容器を机の上に置いて逃げるように出て行ってしまった。

 

 

「???どうしたのかしら、変な娘ね…」

 

 

首をかしげながら美鈴から離れ、容器へと歩く。

容器を持って美鈴の方を向くと、先程よりも顔を赤くした彼女がいた。

 

 

「ちょっと美鈴!?さっきよりも顔が赤いわよ!?もう、治りきってない体で動いたりするから…!」

 

 

きっとさっき跳んだり回ったりしたせいで悪化してしまったのだろう。

美鈴をベッドに押し込めると、布団を彼女に被せた。

ベッドのそばに置いた容器からタオルを取り出し、彼女の額に乗せる。

 

 

「しばらく寝てなさい、しばらくしたらお粥を持ってきてあげるから」

 

 

「はい…」

 

 

小さな声で返事した美鈴を見ると、左手で顔を覆っていた。

気分が悪いのかな?早く治ってほしいけど…。

美鈴の心配をしながら私はお粥を作りに厨房へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厨房でお粥を作り、雑用班の妖精メイドたちにお嬢様たちのご飯を持っていくように指示する。

今日はお嬢様に頼んで美鈴の看病のためにお休みをもらっている。

妖精メイドたちが私の指示通りに動いてくれているので仕事が滞ることはないだろう。

 

お粥を持って美鈴の部屋に入ると、彼女は起きていた。

 

 

「美鈴。お粥を持ってきたわ。あと、お湯も持ってきたからお粥を食べたら体を拭いてあげる。汗かいてるでしょ?」

 

 

「へ!?い、いやいいですよ。体くらい自分で拭けますし」

 

 

「背中をどうやって拭くのよ。いいから任せなさい。いまさら裸程度で恥ずかしがるような仲じゃないでしょうに」

 

 

私の体を全身くまなく洗ったくせに、と呆れながらベッド近くの椅子に腰かける。

そしてお粥をスプーンですくい、息を吹きかけて冷ますと、美鈴の目の前に突き出した。

 

 

「はい、あーん」

 

 

「え!?自分で食べられますって!」

 

 

「いいから甘えときなさい。弱ってる美鈴なんて珍しいから甘やかしたいのよ」

 

 

「う、いや、でも…」

 

 

「まあ私の手で食べさせられるのが嫌なら止めるけど…。どうする?」

 

 

美鈴に食べさせるというレアイベントのせいで少し強引になってしまっただろうか。

残念に思いながらもスプーンを引っ込めようとすると、美鈴が私の手をつかんでお粥を食べた。

しかし熱かったのか、あちっ!と言いながら口を押さえる。

 

 

「もう、何やってるのよ。自分で食べたいの?食べさせてほしいの?」

 

 

「食べさせてほしい、です…」

 

 

「最初からそう言えばいいのに。はい、あーん」

 

 

もう一回お粥をすくって差し出すと、今度は素直に口を開けた。

私はその口にお粥を流し込む。

何回か続けるうちにまるで雛鳥に餌をあげている気分になって、微笑んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、すっかり空になった皿を少し離れた机に置き、お湯に浸していたタオルを手にする。(お湯の時間を止めていたのでお湯は温かいままだ。こういう時私の能力は地味に便利である)

 

 

「さあ、服を脱いで」

 

 

「あの、やっぱり恥ずかしいんですけど…」

 

 

「私の裸を何回も見てるのに何をいまさら。いいから脱ぎなさい。でないと時を止めてひん剥くわよ」

 

 

「わ、分かりましたからそれはやめてください…」

 

 

私の脅しが聞いたのかしぶしぶながらも美鈴は服を脱ぎ始める。

私は彼女が服を脱いでいる間じっと彼女を視姦する。

細マッチョ、というべき彼女の肉体は美しい。全体的にバランスよくついた筋肉からは人体の神秘のようなものが感じられるようだ。

案外、彼女から黄金長方形を見出そうとすればあっさり見つかるかもしれない。

…なんで私筋肉フェチでもないのに筋肉に見惚れてるんだろう。

む、前よりも胸が少し大きくなってる。今でも結構大きいのにどこまで成長する気なのだろうか、あの胸は。

 

 

「あの、咲夜さん?脱ぎましたけど…」

 

 

パルパル、と彼女の肉体の一部分に嫉妬していると、美鈴から声が掛けられる。

 

 

「それじゃ、背中を向けて」

 

 

美鈴が言うとおりに背中を向けたので、私は優しく背中を拭く。

程よく筋肉が付いた彼女の背中はすべすべしていた。

もっと感触を確かめたくて後ろから抱きしめてみた。

 

 

「さ、咲夜さん!?」

 

 

「ふふ、あなたの体ってすごく気持ちいいわね。ずっと触っていたいくらい」

 

 

「あ、ちょ、くすぐったいです…!」

 

 

背中を撫でまわすとエロい声を出しながら身をよじる美鈴。

え?何これ。誘ってるの?

まあこれ以上は美鈴の体が冷えそうだからやめるけど。

 

 

「それじゃ前と下は自分で拭いてちょうだい」

 

 

はい、とタオルを差し出すとキョトンとした顔でタオルと私の顔を交互に見る美鈴。

 

 

「どうしたの?まさか、全身拭いてほしかったとか?」

 

 

「い、いえ、そんなまさか!」

 

 

「そう。残念ね、もう少し触っていたかったけど」

 

 

タオルを受け取り、こちらを気にしながら体を拭く美鈴を再び視姦する私。

恥じらいながらも体を拭いていく美鈴はすごく眼福でした。

内心では興奮しながら私は美鈴が全身を拭き終わるまで彼女を見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タオルを片づけ、美鈴と談笑していると、さすがに眠くなってきたのかうつらうつらし始めた。

私はそんな彼女に優しく布団をかけ、離れようとする。

しかし、服が引っ張られる感覚に振り返ると、美鈴が私のメイド服の裾を掴んで眠っていた。

風邪をひくと心細くなるというし、添い寝でもしてあげようと私は美鈴の布団にもぐりこむ。

パチュリー様いわく今回の風邪は妖怪しか罹らないものだという話だし、私にはうつらないだろう。

そう思って私は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、私に気が付いた美鈴が焦る姿を見て(あ、この状況朝チュンみたい)と思うのは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

――ユウが部屋を出たころ

 

(さ、咲夜さんと美鈴さん、き、キスしてたよね!?どうしよう、誰かに話すべきかな…!?)

 

 

ユウは混乱していた。

上司として慕っている咲夜と優しいお姉さんとして慕っている美鈴のキスシーンを見てしまったからだ。(実際は額を合わせていただけだが)

思考がぐちゃぐちゃになっている彼女に話しかけたのは紅魔館の主だった。

 

 

「あら、ユウ。美鈴の様子はどうだった?お見舞いをしようと思っているのだけど」

 

 

「え、え~っと、咲夜さんが美鈴さんに乗って、それで――~~っ!?」

 

 

混乱している所に一番上の上司にばったり会ってしまったユウは、説明しようとして先程の光景を思い出してしまいオーバーヒートしてしまう。

 

 

「ねえ、お姉さま。ユウはなんて言ってるの?」

 

 

「うーん、私にもよく分からないけど、今は駄目そうね。また後で出直しましょう」

 

 

ぶしゅう、と完全にフリーズしてしまったユウを見てレミリアはフランに部屋に戻るように言う。

フランは素直に部屋に戻り、レミリアはパチュリーに会いに図書館に向かっていった。

 

後に残されたユウが再起動したのはそれから一時間後のことだった。

 




今回は咲夜さんを暴走させすぎた…。
これじゃまるで咲夜さんが変態みたいじゃないか。


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さて、再戦です…。

どうも、就活の準備で最近忙しい作者です。

今回からEX編。今回は橙戦となります。
次は他者視点はなしで藍様戦にいきます。

さてと、では恒例の…ちぇええええええええええええええええええええええええええん!!!


 

 

 

異変が終わってしばらくたち、私は今ある平和をかみしめていた。

いつも通りメイドとしての業務をこなし、レミリア様のお世話をして、フラン様の可愛さに癒される。

パチュリー様にト○ビアの泉感覚で色々な知識を教授してもらい、ドジる小悪魔に再び癒される。

妖精たちに指示を出し、美鈴と談笑して癒される。

ああ、いつも通りってこんなにも素晴らしい。

 

私は遅れてやってきた春の暖かい風に吹かれながら庭園を歩く。

美鈴がお世話をしている様々な花が咲き誇る庭園をゆっくり散歩するのが最近の日課だ。

視界いっぱいに広がる花々はみずみずしく咲き誇り、美鈴の手間を思わせる。

これならあのUSCに見せてもお褒めの言葉をもらえるんじゃないだろうか。

 

散歩を終え、館に戻ると、何やら図書館が騒がしい。

また魔理沙が来てパチュリー様と魔法談義でもしているのだろうか。

仕事はもう終わってるし……、魔理沙と少しお話しするのもいいよね!

図書館の扉を開くと、予想通り魔理沙がいた。

でも、見る限り魔法談義というよりは何か言い合っているようだ。

 

「だから行こうぜ、パチュリー」

 

「嫌よ。そもそも今回の異変にはあまり興味がないもの」

 

「ちぇー。ん?おお、咲夜。ちょうどいいところに」

 

見る限りだと魔理沙が誘ってパチュリー様が断ってる感じかな。

パチュリー様、滅多な事じゃ外に出ようともしないからなあ……。

それにしても、ちょうどいいって何が?

 

「実は今回の異変の黒幕を見つけたんだ。霊夢に先を越される前に私達で退治しようぜ!」

 

くろまくー……じゃないよねごめんなさい。

たぶん紫のことを言ってるんだろうなあ。でも私としては異変は解決したんだし、あまり関わりたくないんだけど……。

 

さてどう断ろうか、と思案していると魔理沙に腕をがしっ、と掴まれる。

 

「じゃ、とばすからしっかりついてこいよ!」

 

魔理沙の顔を見ると、ニカッ、ととてもいい笑顔をしていた。

ああ、だめだ、嫌な予感しかしない……。

そして――――私は風になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今魔理沙のスピードをほんのちょっぴりだが体験した

い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

「私は紅魔館の図書館にいたと思ったらいつの間にか冥界近くの上空にいた」

な…何を言っているのか分からねーと思うが(ry

 

いや本当怖かった……。

飛んでる途中で苦しくなって(ああ…。私ここで死ぬんだな…)って思っちゃうくらいには怖かった。

十六夜咲夜になってからの人生の追体験までしたし。あれが走馬灯ってやつなんだなあ……。

 

私が生をかみしめていると、小さな影が近づいてきた。

 

「久しぶりだね、メイドさん♪」

 

橙だ。ここに彼女がいるということは、藍様やゆかりんもいるってことか。

 

「ねえ。前に言った約束……覚えてる?」

 

「ええ、もちろんよ。弾幕ごっこ、でしょう?」

 

「うん、今度こそ、勝つからね」

 

「望むところよ。……魔理沙、先に行っててくれる?私は決着をつけないといけない勝負があるから」

 

「分かった。……咲夜、負けるなよ」

 

魔理沙は私の言葉に頷くと、飛んで行った。

 

「この前の私と同じだと思わないでよね。今の私は藍様から妖力の供給を受けている状態。レベルで言うならエクストラだよ。手を抜いたりなんかしたら、一瞬で潰してあげる」

 

「手を抜いたりなんかしないわ。あなた、獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという名言を知らないの?」

 

橙の挑発はともかく、勝手に口が動くこの感覚、久しぶりだなあ。

 

橙は臨戦態勢をとって膨大な妖力を練り上げている。私もいつでも動けるように構えている。

お互いにタイミングを探りあう。この勝負、先に動いた方が負ける!というわけではないが、うかつに動けば攻め込まれてしまうのは理解できた。

 

そして、風がやんだ一瞬――――同時にスぺカを発動する。

 

――鬼神「飛翔毘沙門天」

 

――幻世「ザ・ワールド」

 

橙が高速移動しようとするが、私は時間を止めることでそれを阻止する。

時間が止まり、色を失った世界の中で私は橙の進路を潰すようにナイフを配置した。

時が動き出し、橙が動き始めた瞬間、配置されたナイフが彼女めがけて殺到する。

あの高速移動下では避けられない。勝った!EX中ボス編完!と心中で快哉を上げた時、驚くべきことが起こった。

なんと――――橙は高速で動く中、ナイフの群れをたやすく避けていったのだ!

何ぃっ!と、スタープラチナをくらったDIOのごとく驚きで固まった私に、橙からの弾幕が襲い掛かる。

慌ててそれを回避し、パターンを読んで逃げ道を探す。

そして数秒後、私たちはお互いのスぺカをブレイクする。

しかし、モチベーションでは橙の方が上だ。

先程のスぺカで勝とうと思っていた私に対し、橙はまだ余力を残している。

思わず顔を歪めながらも、スぺカを発動した。

 

――幻幽「ジャック・ザ・ルドビレ」

 

――鬼符「青鬼赤鬼」

 

こちらのスぺカに対応してあちらもスぺカを発動してきた。

鬼を模した赤と青の弾幕が私の弾幕を弾いていく。

しかし、対応されるのは承知の上だ。それを承知していたからこそ、私は賭けにでることができる。

この賭けが駄目だったら私は負けるだろう。だがもう腹をくくった。もう何も怖くない!

私は弾幕の中に吶喊する。当たれば負け、当たらなければ零距離からの殺人ドールを撃ちこむ!

極限まで精神を集中させ、向かってくる弾幕の機動を予測する。弾幕が掠っていき、服をボロボロにしていく。

うああ、怖い!めっちゃ怖い!なんでこの子こんなに強いのに2面ボスだったの!?

内心泣きながら弾幕の波を突き進む。

 

そして私は――――賭けに勝った。

弾幕を抜けると、驚いて固まっている橙が見えた。

私はそんな彼女にニヤリ、と笑い――――スぺカをぶち込んだ。

 

――幻符「殺人ドール」

 

至近から放たれたナイフを避ける術はさすがになかったのか、橙はナイフに当たった。

こうして、二度目の戦いも私の勝利で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああー、もう!くーやーしーいー!!」

 

駄々をこねるように暴れる橙。

今回は彼女も本当に全力だったために悔しさも前より大きいのだろう。

 

「悔しがることないわ。運が悪かったら負けていたのは私の方だっただろうから」

 

「慰めなんかいらないよ」

 

「慰めじゃないわ。本心よ。あなたの本気のスぺカ……冷や汗が出るくらいすごかったわ」

 

「汗ひとつかいてないくせに?でも、ありがとう。そういってくれると嬉しいな。……この先に藍様がいるの。たぶん藍様には勝てないと思うけど……頑張ってね」

 

えへへ、と、はにかむ橙に内心デレデレしながらも私は先に進む。

本当はこの勝負が終わったら帰ろうと思ってたけど、こんな可愛い子の応援を受けて引き返せるか?――否!引き返すことなどできようはずがない!

それに藍様にも一度会ってみたかったし、いい機会だろう。

 

 

 

私は橙に手を振りながら先へと進むのだった。

 



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尻尾がモフモフです…

今回は藍しゃま戦。
次回は藍しゃま視点です。

さて、それでは…らんしゃまああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!


 

 

 

橙に見送られ、魔理沙の後を追うと、前方に人影が見えてきた。

札を張ったようなデザインの帽子、ぶかぶかの袖に両手を突っ込み、よくある中国人のイメージのような姿勢。何より目を引くのは自身の体さえも包み込めそうな九本の狐の尾。

八雲紫の式神、「八雲藍」だ。

 

「そろそろ来るころだと思っていたよ、十六夜咲夜」

 

「私が来るのが分かってたの?」

 

「ああ、橙に張られている式は私が作ったものでね、離れていてもある程度ならその式が置かれている状況を把握できるのさ。橙が負けた感覚を感じ取って、もうすぐお前が来ると踏んでいた」

 

「魔理沙はどこ?先に来たはずだけど」

 

「先程紫様のもとに行ったよ。足止めしようとしたが上手く逃げられた」

 

「追わなくていいのかしら?」

 

「紫様は強い。あの魔法使い程度ならたやすく撃破するだろう。それに――――」

 

言葉を切り、藍がじっくりと品定めをするように私を見る。

 

「私としてはお前の方に興味がある。同じ従者としてもそうだが、紫様がお前を気にかけているからな」

 

「賢者が私を?むしろ注目してるのはお嬢様の方じゃないの?」

 

「お前の主人も厄介だった。かつてお前の主人――――レミリア・スカーレットが起こした騒動は幻想郷の主要人物のほとんどを動かすほど大規模なものだった。しかし彼女は、いや、あの紅魔館の住人たちはお前が来てから静かになった。だから私も紫様もお前に興味があるのさ」

 

「そのお嬢様が起こした騒動はあなたたちによって鎮圧されたんでしょう?なら大人しくなってもおかしくないじゃない。私はたまたまその時に現れたというだけで関係ないと思うけど」

 

「それはお前が大人しくなる前の彼女を知らないからこそ言えることだ。かつての彼女は負けたとしても侮れない存在だった。だからこそ紫様は強力な結界を紅魔館周辺に張ったのさ。……まあ昔話はここまでにしておこう。私も暇ではないのでな。冥界への結界を張りなおす仕事が残っている」

 

「じゃあ通ってもいいかしら?魔理沙を追いかけたいのだけど」

 

「それは駄目だ。これ以上紫様の邪魔をする輩が増えても困るし、先程の魔法使いも追わねばならん。それに、橙を倒したお前と戦ってみたいのだ」

 

「それは実力を見たいという意味?それとも、敵討ちという意味?」

 

「両方だ。……本音を言えば敵討ちという意味合いが強いがな」

 

苦笑しながら藍は答える。

 

「あら、意外に親馬鹿なのね」

 

「私が初めて作り、使い続けている式だ。愛着も湧くさ。……では、始めようか」

 

藍の周りに弾幕が出現する。それに込められている妖力は橙のそれをはるかに上回るものだった。

 

「お手柔らかにお願いしますわ」

 

私もナイフを配置し、迎撃姿勢をとる。

 

そして、お互いの弾幕が激突した—―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは一方的だった。

藍が弾幕を放ち、私はそれを能力によって避けていく。

しかも能力を使っているというのに常に紙一重の回避を私は強いられていた。

こちらも撃ちかえしているが、簡単に避けられてしまう。

藍の弾幕はまるで壁だ。スペルカードルール上抜け道は存在するのだろうが、そんなものを探している間に大量の弾幕が迫ってくるのだから時間を止めて対処しなければならない。

これが普通のショットだというのだから恐ろしい。同じEXボスでもフラン様の方がまだ可愛げがある。

藍に弾幕を撃たれるたびに時間を止めているものだから体力の消費も激しい。

まだ戦いが始まって数分しかたっていないというのに私は肩で息をするほどに疲労していた。

それでも避け続ける私を見て藍は感心したように言った。

 

「ほう、ここまで粘るとは予想外だ。ではスペルカードではどうかな?」

 

――式神「十二神将の宴」

 

ちょ、ここでスぺカ使う!?藍しゃまマジ鬼畜!

 

アホなことを考えつつも展開されたスぺカを避けていく。

そして避けていく過程で私は重大なことに気が付いた。

 

――――藍しゃまが弾幕を放つたびに尻尾がモフモフと動いている…だと…!?

 

気が付いてしまえば意識はそちらの方を向いてしまう。

 

(くっ、駄目だ私!耐えろ、あの誘惑を振りきるんだ!)

 

モフモフ…モフモフ…モフ…

 

くそっ、駄目だ、振りきれない!

顔はすごく凛々しくてかっこいいのに尻尾があまりにも愛らしすぎてギャップ萌えも感じるようになってきてしまった!

 

「どうした?先程よりも動きが悪いぞ?疲労してきたか?」

 

違います、いや疲れてきてるのは確かだけどそれよりも尻尾に目がいっちゃうんです!

弾幕を避けることに集中したいのにできない!九尾の狐の攻撃は隙の生じぬ二段構えということか……っ!

 

「隙だらけだぞ、そこだ」

 

――式輝「プリンセス天狐-Illusion-」

 

私の直線上に瞬間移動した藍はさらにスぺカを重ねてくる。

先程のスぺカと尻尾に意識を割いていた私にそれを避ける術はなく、弾幕に直撃した。

私の意識は直撃の衝撃に耐え切れず、闇へと落ちていく。

 

――――それは、霊夢の時以来の敗北だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が戻ると、私は何か温かいものに抱きついているのを感じた。

どうやらだれかにおんぶされているらしい。少し冷たい手が私の膝裏を支えている。

そういえば、小さいころ美鈴はよくおんぶをしてくれたっけ。

一回だけ、間違って彼女をこう呼んでしまったことがある。

――「お母さん」と。

 

「残念だが、私はお前の母ではないぞ?」

 

「!?」

 

聞き覚えのある声に私は驚いて目を開ける。

そこには苦笑してこちらを見る藍しゃまの姿がありました。

って、私声に出してた!?は、恥ずかしいいいいいいいいいい!!!!

 

「あ、えっと、今のは、その」

 

「何も言わなくていい。誰にも言わんよ。私は口が堅い方なんだ」

 

なにか言い訳がないかと口ごもっていると、藍が言わないと約束してくれた。

ありがたい。こういうミスは何かと恥ずかしいからね。例えるなら学校の先生のことをお母さんと呼んでしまった時くらい。

 

「……何となくだが、紅魔館の連中が大人しくなった理由が分かった気がしたよ」

 

温かい笑みでこちらを見てくる藍の顔を見ていられなくなり、つい顔をそらしてしまう。

 

「それで、今どこに向かっているの?」

 

照れ隠しにそう問いかけると、藍は苦笑しながらも答えてくれた。

 

「博麗神社だ。もっとも、今霊夢はいないがな」

 

「じゃあなんのために?」

 

「お前を紫様に会わせるためだ」

 

「なんで?」

 

「お前に話があるそうだ。連れて来いと命令された。霊夢と魔法使いは後から来るそうだ」

 

紫が私に話…?

何だろう、まさか、私が転生者だってばれたとか!?

 

 

私は戦々恐々としながらも藍の背中にしがみつくのだった。

 



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気になる人間(藍視点)

どうも、大学のレポートで悲鳴を上げている作者です。

今回は藍しゃま視点。

だんだんネタが尽きてきました…。


 

 

「さて、これで結界の基点の修復は完了。次は結界の機能を復旧させなくては……」

 

私は紫様の命で現界と冥界を分けるための結界――――「幽明結界」の修復をしていた。

この結界がなければ死んでもいない人間が冥界に入り込んでしまう可能性もあるので早急に結界の穴を塞ぐ必要があったのだ。(といっても入り込めるのは空を飛べる者に限定されるため、力を持っている者しか入れないのだが)

私が結界の機能を復旧させようとすると、私の補助をしていた橙が突然顔を上げ、耳をピコピコと動かし始めた。

 

「どうした、橙?何かあったのか?」

 

「この霊力……、間違いない、あの人だ。あの、藍様!会いたい人がいるんです、会ってきてもいいでしょうか?」

 

「ああ、結界の修復はもう終わるし、それは構わないけど、ここに近づいてくる者たちに用があるの?」

 

「はい、異変の時に戦って、負けちゃったんです。でも、再戦の約束をしました。今度は勝ちたいんです!」

 

「ふむ、なら少し待ちなさい。今式を貼りなおしてあげよう」

 

現在橙に貼られている式は私の補助のために張ってある式だ。私はそれを剥がし、弾幕ごっこ用の式に貼りなおす。これで心置きなく全力で戦うことができるはずだ。

 

「私から妖力の供給もしてあげるから思い切りやってきなさい、橙」

 

「ありがとうございます、藍様!」

 

ぺこり、と一つ頭を下げると橙は飛び去って行った。

 

ああいう風に何事にも全力で取り組めるのは未熟な時の特権だ。

それに、橙には様々な経験をして立派な式になってもらわないとな。

 

私も昔はあんな風だったのかなあ、なんて感慨にふけっていると、少し離れた場所で勝負が始まったようで弾幕がぶつかり合うのが見えた。

目を凝らすとどうやら紅魔館のメイドと戦っているようだった。

彼女もあの吸血鬼の従者だから橙としては思うところがあったのだろう。

 

競い合う相手がいるのはいいことだ、と勝負をながめていると、白黒の魔法使いが私の脇を通り抜けようとしたので弾幕を撃って道をふさぐ。

 

「うわっ、とと……。何するんだ、危ないじゃないか」

 

「今紫様は結界の修復をしておられる。邪魔をするのは許さん」

 

「その紫が今回の異変の黒幕なんだろ?だったら一発ぶっ飛ばすぜ」

 

「紫様にも考えがあって幽々子様の手伝いをされたのだ。それに、貴様が紫様を倒すだと?笑わせるな。紫様のもとに貴様が行く前に私がお前を落としてやる」

 

「はっ、やってみろよ!」

 

――恋符「マスタースパーク」

 

魔法使いの持つ八卦炉から魔力の砲撃が放たれる。

私はそれを避けると、撃ち落とすために弾幕を撃ちながらスぺカを宣言する。

 

――式神「前鬼後鬼の守護」

 

私が放った大弾が小さな弾幕をばらまきつつ魔法使いに迫る。

魔法使いは小刻みに動くことでそれらを回避すると、大弾を回り込んで私の背後に来る。

 

――魔符「スターダストレヴァリエ」

 

星形の弾幕が私に襲い掛かるが、私は通常の弾幕を放つことでそれらを相殺した。

魔法使いがその光景を驚愕の表情で見て、私から距離をとった。

 

「これで力の差が分かっただろう、紫様のもとへ行くのは諦めろ」

 

「いーや、まだだぜ、あと一つだけ策はある!」

 

魔法使いはスぺカを構え、私と対峙する。

私も攻撃に備え、身構える。すると――――

 

「それはなあ……逃げるんだよおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!」

 

――魔符「ミルキーウェイ」

 

魔法使いは私に背中を見せるとスぺカを発動し、弾幕をばらまきつつ逃走した。

そして、私が弾幕を対処している間に、魔法使いは姿を消していた。

 

「やれやれ、逃げられてしまったか。まさか勝負を捨てるとは思わなかった。私もまだまだだな」

 

これを試合に勝って勝負に負けたというのだろうか。

ぼやきながら魔法使いが去った方向を見る。

未だにスぺカの効果時間なのか、弾幕が遠くの方で光っているのが見えた。

まあ、紫様はスキマの中で作業をしているから紫様が外に出なければ会うことはできないがな。

 

後で捕まえるか、と考えながら私はメイドを待つ。

戦いの途中で橙が負けた気配を式ごしに感じ取ったからだ。

メイドが魔法使いと一緒に来たところから彼女の狙いも紫様なのだろう。

 

結界を弄りながら待っていると、メイドが現れた。

 

「そろそろ来るころだと思っていたよ、十六夜咲夜」

 

待っていた、と告げると訝しげな表情をしたので式について説明する。

得心が言ったような顔をした彼女は今度は魔法使いのことを聞いてきた。

逃げられた、と答えると、淡々と追わなくていいのかと聞いてきた。

そこで少し違和感を感じた。

彼女も紫様を狙っているのなら普通足止めのために私に戦いを仕掛けるか、私を突破しようとすると思っていたのだが、それをする素振りもない。

彼女はもしかしたら魔法使いに強引に連れてこられただけなのかもしれない。

ならばそれはそれで好都合だ。

私も彼女に興味があったのだから。

 

「私としてはお前の方に興味がある。同じ従者としてもそうだが、紫様がお前を気にかけているからな」

 

興味があるというと、むしろ自分の主に向いていたのではないかと返してくる。

たしかにあのレミリア・スカーレットは警戒すべき対象だ。しかし興味があるわけではない。

だが目の前にいる彼女は、その警戒対象を大人しくさせてしまったのだ。興味を持たないわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて、吸血鬼異変と呼ばれる異変が起こった。

レミリア・スカーレットが率いる紅魔館の面子の中には今現在生き残っている者たちのほかにも人狼や、悪魔と呼ばれる者たちもいた。

幻想郷を支配しようと侵攻してきた彼女たちを迎えうったのは紫様、私、当時の博麗の巫女、風見幽香、天魔とその部下の天狗たち、伊吹萃香様、アリス・マーガトロイド、レティ・ホワイトロック、当時まだ力を封印されていなかったルーミア、その他紅魔館が気に食わないと参加してきた無名の妖怪たち。

それは幻想郷のパワーバランスを担う者たちだった。

満月の晩に起こった戦いは一晩続き、結果としてこちらの無名な妖怪たちはほとんど消滅、あちらの人狼が全滅、悪魔は力の弱いものを残して消滅した。

レミリア・スカーレットは紫様、私、博麗の巫女の三人がかりで打倒した。

(後から紫様に聞いた話だが、どうやら彼女は満月の力と自身の能力で勝利の運命を手繰り寄せていたらしい)

その後、戦後処理をして結界の中に閉じ込めたことで彼女たちは幻想郷に受け入れられた。

しかし、あれほど大暴れをした彼女たちを放置しておくわけもなく、私たちは紅魔館を監視した。

表面上は大人しかった彼女たちだが、いつもどこかピリピリとした緊張感が漂っていた。

 

そんな時だ。十六夜咲夜が紅魔館に入ってきたのは。

紅魔館に入ってきた彼女を私たちは警戒したが、彼女は私たちの監視に気が付くこともなく、紅魔館に溶け込んでいった。

彼女が紅魔館に雇われていた妖精メイドの指揮を執り始めた時は馬鹿なのかと思ったが、彼女は妖精たちを統率し、仕事を振り分けていく姿を見て人間にも有能なものはいるものだと思ったのを覚えている。

彼女が紅魔館に溶け込むにつれて、紅魔館のメンバーにも変化が表れ始めた。

常に仏頂面だった門番は笑顔が増え、

本を読むだけでそれ以外に何もしなかった魔法使いは生き残りの悪魔を使役して図書館の整理を始め、食事もとるようになり、

狂気に憑りつかれて暴れていた吸血鬼の妹は物を壊す頻度が減り、

傲慢だった当主は妹と十六夜咲夜が遊んでいる光景を眺めて笑みをこぼすようになった。

そう言う風に変わった紅魔館だからこそ、あの紫様の異変を起こし、スペルカードルールを定着させるという提案を呑んだのだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想から戻ると、十六夜咲夜は魔法使いを追ってもいいかと聞いてきた。

もちろんそれは許可できない。

紫様の邪魔になりそうなことは増やさない方がいい。ただでさえあの白黒の魔法使いがいるのだから。

それに、彼女と戦ってみたい。

紅魔館を変えた彼女と。……ついでに橙を倒した彼女と。

橙は私にとって娘のような存在だ。

橙が仕掛けたとはいえ橙を倒した彼女を見逃すことはできない。

そんな私の心境を察したのか、彼女は私を親馬鹿と称した。

それに軽口を返し、弾幕を配置する。彼女もそれに応じてナイフを構えた。

そして、勝負が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いはずっと私の優勢で進んだ。

白黒の魔法使いより飛ぶ速さが遅い彼女には能力で避けることしかできないようだった。

能力を使いすぎたのか、勝負が始まって少し経つ頃には彼女は肩で息をしていた。

それでも弾幕を避け続ける彼女に私は少し感心した。

すぐに音を上げるかと思ったのだが、なかなか根性がある。

疲れで少し白くなっている彼女の顔を見て少し嗜虐心がくすぐられた私はスぺカを宣言した。

 

――式神「十二神将の宴」

 

弾幕が彼女を取り囲み、攻撃していく。

その間に、彼女の注意が弾幕からそれた。どうやら私を見ているようだが、何を見ているのだろう。

注意がそれたころから彼女の動きは目に見えて悪くなり、危ない場面が増えてきた。

疲れてきたのか、と少し挑発してみると、悔しそうにこちらを見た。

だんだんと隙が大きくなってきた彼女に牽制代わりにスぺカを発動する。

 

――式輝「プリンセス天狐-Illusion-」

 

避けるだろうと思ったそのスぺカは予想に反して彼女に直撃した。

当たったはずみで気を失ったのか、落下していく彼女を受け止める。

 

「さて、これからどうしようか」

 

まずは彼女を紅魔館まで送って魔法使いを追いかけるのがいいだろうか。

だがそうすると大幅に結界の修復が遅れるのだが……。

悩んでいると、紫様から念話が届いた。

 

(藍?一旦結界の修復作業を中断して博麗神社に向かってちょうだい。あなたが抱えている彼女も一緒にね)

 

(かしこまりました。しかし、十六夜咲夜に何の用件が?)

 

(少し話がしたいのよ。じゃあ頼んだわよ?)

 

念話が途切れ、私は彼女を背中に移し、おんぶの恰好で彼女を背負う。

この方が弾幕を撃ちやすくて移動に便利なのだ。

 

私が博麗神社に向かっていると、どうやら背中の彼女が目覚めたようで、もぞもぞと動いている。

寝ぼけているのかお母さん、などと呼んできたので否定しておく。

私の声で完全に目が覚めたのか、あたふたした雰囲気が伝わってきた。

常にクールな表情だった彼女もこういう面もあるのだな、と少し微笑ましくなる。

先程のことは口外しないと約束すると、やっと落ち着いた。

 

「……何となくだが、紅魔館の連中が大人しくなった理由が分かった気がしたよ」

 

こんな生き物を見ていればそれはそれは和むことだろう。

私が橙に抱いている感情と同じものを紅魔館の者たちも味わっているのかと思うと、微笑ましい顔で彼女を見てしまう。

照れ隠しなのか、顔をそらした彼女がどこに向かっているのかと尋ねてきた。

紫様と話をさせるために博麗神社に向かっていることを話すと、彼女は緊張した表情になった。

 

私の視界には博麗神社が見え、もうすぐ着くことだろう。

背中の彼女と紫様はどんな話をするのだろうか、と私はふと思ったのだった。

 




ちなみに天魔の部下の天狗たちには文やはたて、椛も含まれています。


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美人と話すのは緊張します…

レポートやらバイトやらで更新が遅れてしまい申し訳ありません。

今回は紫編。
弾幕ごっこは藍しゃまに負けたので無しです。
少し独自設定があるのでご注意を。

これから就活が始まるため、更新が本当に不定期になります。
書けたら上げていくつもりですが、いつあげられるかは作者にもわかりません。


 

藍は私を背負ったまま博麗神社の境内に降り立ち、私を降ろした。

私は背中にいる間ずっと味わっていた心地よい尻尾の感触を惜しみながらも境内に敷かれている石畳の上に立つ。

何気に博麗神社に来るのは初めてだ。

博麗神社の外観は普通の神社とさほど変わらない。

大きな拝殿に、赤い鳥居。傍らにはぽつんと社務所があるが、覗いてみたところ、埃をかぶっていて使われた形跡はない。本殿はここから見えないが、奥にあるのだろう。

他にも宝物殿らしき建物も見受けられる。

 

「こっちだ」

 

藍が拝殿の裏の方へ歩いていく。

どうやら紫は本殿にいるらしい。

藍についていくと、本殿の部屋の一部が居住区域になっているらしく、小さな裏庭に面した縁側が見えた。

その縁側でお茶をすすっている女性がいた。

陰陽模様をあしらったゴスロリに似た服、ZUN帽などと称される奇妙な帽子。

普通なら珍妙な格好をしたイタい人にしか見えないが、その女性にはとてもマッチしており、そのあまりの美しさに思わず数秒呼吸を止めてしまった。

彼女はこちらに気が付くと、ふわりと笑って手招きした。

それだけで内心では赤面しそうなほどに緊張しているのだが、私の外面は全くと言っていいほど動じず、無表情を貫いている。

とりあえず、手招きに従って彼女に近づく。

 

「藍、悪いけど少し席を外してくれるかしら?」

 

「御意」

 

藍は彼女の言葉で拝殿の方へと歩いていってしまった。

残されたのは縁側に座る彼女とその前に立つ私。

彼女はポンポンと自分の隣を叩くことで座るように促してくる。

それに従い恐る恐る彼女の隣に座る。

これ程の美人の隣に座るというのは本当に緊張するもので、内心ガチガチな私に、いつの間にか出していたお茶の入った湯呑を進めてきた。

それを受け取って一口飲むと、心地よい渋みが口の中に広がり、少し落ち着いた。

湯呑を置くと、やはりいつの間にか取り出していた煎餅を渡された。

パリッ、と食べると、しょっぱさが舌を刺激し、口の中に残っていたお茶の味を合わさっておいしさが深まる。

そんなことをやっていると、懐かしい気持ちになってきた。

そうだ、この気持ちはまるで祖母の家に遊びに行った時のような気持ちではないだろうか。

あ、いや、ゆかりんがBBAってわけではないですよ?

 

「落ち着いたかしら?」

 

「ええ、ありがとう」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

柔らかく笑う彼女を見て胡散臭いなどという気持ちにはならない。

むしろ人里などに普通に住んでいそうな優しいお姉さん、といったところだ。

 

「初めまして、になるのかしらね。私の名前は八雲紫。この幻想郷を管理する妖怪よ」

 

「そうね、お嬢様に話は聞いていたけど、直接会うのは初めてになるわね。十六夜咲夜、紅魔館でメイドをしているわ……何か話があると聞いたのだけれど?」

 

自己紹介もそこそこに本題を切り出す。

彼女ほど頭がいい妖怪ならば私の正体に気が付いてもおかしくない。

そして、幻想郷を愛してやまない彼女ならば、不安要素を取り除くために実力行使もいとわないだろう。事実、天子が異変を起こした時はぶち切れてたし。

私が問いかけると、紫は穏やかな笑みを潜めて、真剣な顔で私を見る。

 

「あなた、西行妖についてどこで知ったのかしら?」

 

げ、ここでそれが来ますか。

あの時霊夢に言った嘘をつくことでごまかすことにする。

まさか原作知識があるなんて言えるわけないしね。

 

「ヴワル図書館で調べたのよ。あそこには大体の資料はあるしね」

 

どれほどの資料があるのかは把握してはいないが、あの図書館の蔵書率は某国立図書館すら超えるのではないのだろうか。暇な時に見て回ったら漫画まであったのは驚いたが。

とにかく、あの異常な蔵書率を誇る図書館なら西行妖の資料もあるだろうと誤魔化す。

しかし、紫の険しい表情が解かれることはなかった。

 

「それはありえないわ。私がかつて西行妖を封印した時、この世にある西行妖に関する資料を能力を使って隠蔽したの。だから西行妖に関する資料をあなたが見れるはずがないわ。たとえ魔法使いが管理している図書館でもね」

 

え、そんなことしてたのゆかりん。

……いや、考えれば当然か。元々はただの桜とはいえ、最終的には妖怪になったわけだし。そして妖怪は人間がその存在を知れば知るほど力を増していく。ならこれ以上力をつけないように人間に知られないようにするのは当たり前だよね。力が増して封印が解かれましたー、なんて笑えないし。

 

とすると、どうしようか。言い訳が無くなっちゃった……。やばくね?

ゆかりんは未だに疑わしげに私を見てるし。

ど、どうにかして言い訳を考えなければ最悪消されるやもしれん……。

えーっと、えーっと、そうだ!

 

「……はあ、あまりこのことは言いたくなかったのだけどね。八雲紫、貴方は私の能力を知っているかしら?」

 

「ええ。「時間を操る程度の能力」でしょう?」

 

「そうよ。その能力の副作用でね、時折私は夢で過去や未来を見るのよ。私が見たいと思って見るわけではないからどんなものかはランダムだけどね」

 

「……その時に西行妖について知ったと?」

 

「3年前くらいかしらね。貴方と西行寺幽々子、もう一人名前は知らないけど老人がいたわ。その時あなたたちが話していたのが西行妖の由来だったの。まさかこんな形で関わることになるとは夢にも思っていなかったけど」

 

随分強引な理由だけど、これ以上のことは思いつかなかったんだよね。

お願い、これで納得してください!

 

「……ふう、分かったわ。とりあえずそういうことにしておきましょう。貴方には借りもあるし、ね」

 

しばらく私を探るように見ていた紫が溜息をついて険しい雰囲気を解いた。

まだ疑わしくはあるけどとりあえず許されたっぽい?というか、借りってなんのこと?

 

「ところで、あなたはこの幻想郷をどう思うかしら?」

 

追及が無くなったことで安堵しているとそんなことを紫が聞いてくる。

そりゃもちろん楽園といったところだろうか。原作を知っており、キャラの魅力を知っている私としては「まったく、幻想郷は最高だぜ!」と言いたいくらいだ。

……もちろんそれはトラブルがなければ、という注釈がつくのだが。

 

「作られた楽園、かしらね。私みたいな人間は居心地がいいけど、他の人間はどうかしら?良く言えば共存、悪く言えば彼ら人間の恐怖を妖怪の餌にしているわけだし。まあ、お嬢様たちがいれば私はそれでいいわ」

 

原作知識から当たり障りの無い返答を返す。

原作キャラに会えばテンションが上がるミーハーな私だが、今の私に本当に大切なのは紅魔館の皆なのだ。

私を家族として受け入れてくれた彼女たちがいれば、どんな場所だろうと構わない。

そこが目の前の彼女に管理されている箱庭だったとしてもそこに紅魔館があるのならば私に文句などない。

 

「そう、ありがとう。……あら、霊夢と魔理沙が着いたみたいね」

 

紫の言葉に耳を澄ませると、確かに境内の方から霊夢と魔理沙の声がした。

その声は徐々にこちらに近づき、やがて藍を含めた三人が顔を出した。

 

「紫、勝手に人の家に入るのをやめなさい。退治するわよ?しかも勝手に茶菓子まで食べてるし……」

 

「お、咲夜じゃないか。さっきは悪いな、置いていって。そこのスキマ妖怪に何かされなかったか?」

 

「紫様、お話は終わりましたか?」

 

紫は三人を見て微笑むと、お茶にしましょうか、と三人に言った。

霊夢は慣れているのか、文句を言いつつもお茶を入れに中に入っていき、魔理沙は私の隣に座って私と別れた後について話し始めた。

藍は霊夢を手伝ってきます、と霊夢を追って中に入っていった。

そのあと、五人で他愛のない話をし、夕方までその心地よい雰囲気は続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館に帰って心配した美鈴に抱きしめられ、フラン様に泣きつかれ、私がおおいに慌てるのは別のお話。

 



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借りがある彼女(紫視点)

大分間を開けてすいませんでしたあっ!!(土下座)
就職活動って本当に大変ですね(遠い目)

今回はゆかりん視点。

頭の悪い自分が天才の彼女の考えを書くのは本当に難しかった…。
結局別のキャラっぽくなっちゃいましたし。


 

 

 

――紫視点

 

十六夜咲夜の存在は彼女が幻想郷に来た時から感じ取っていた。

彼女は突然現れた。しかし、それは別に問題ではない。

幻想郷に突然人が現れるのはさほど珍しいことではないからだ。(そうはいっても年に1~2度程度だが)

元から能力を持っていた人間に結界が反応して入ってきたこともあれば、たまたま生じていた結界のほころびから迷い込んできた者もいる。

彼女もそのどちらかだろうと最初は気にも留めていなかった。

運が良ければ人里に辿り着き、そこから博麗神社に行けば外に出られるし、運が悪ければそこらの野良妖怪の餌になるだろう。

彼女を見るために開いていたスキマを閉じようとすると、紅魔館の門番が彼女に近づいていた。

私はスキマを閉じるのをやめ、その光景を見る。

紅魔館の住人達には幻想郷の人間に危害を加ええないことと、館の近くまでという条件で外出を許可している。

だから門番が紅魔館近くのこの森に入ってくることも不思議なことではない。

だが門番が見つけた少女をどうするのか興味があった。

戯れに殺すのか、それとも吸血鬼の餌にするために持ち帰るのか。

結果として門番は少女を紅魔館へと連れ帰った。

そのまま殺されるのかと思われた少女は予測に反して吸血鬼に気に入られ、紅魔館で暮らし始めた。

そこから、私は少女――「十六夜咲夜」を観察するようになった。

彼女は不可思議だった。

普通、人外と共に住んでいる人間は、人外に対して大なり小なり畏怖や恐怖を抱くものだ。

しかし、彼女はそんなものは抱いていないように、吸血鬼にも、妖怪にも、悪魔にも、魔法使いにも普通に接した。

時には吸血鬼の妹を子供のように扱い、門番をしている妖怪にする必要のない心配などをしていた。

彼女が紅魔館で暮らし始めてから紅魔館の雰囲気が徐々に変化していった。

今までは他人が同じところに住んでいるような雰囲気がいつの間にか十六夜咲夜を中心として本当の家族のようなものになっていた。

幼い十六夜咲夜を育てるために毎日慌ただしくしている門番に、それに呆れながらも手伝う魔法使い。そんなやり取りを面白そうに眺めている吸血鬼に、見たことのない人間に興味津々なその妹。

彼女たちはかつて幻想郷に侵攻してきた者たちとは思えないほどに和気あいあいとしていた。

だからこそ、私は吸血鬼にある条件を提案した。

それは、スペルカードルール普及のための異変――解決されることがすでに決定している八百長異変――を起こすこと。

見返りは幻想郷に完全に受け入れられる――すなわち、閉じ込めるために張っていた結界の解除と、人里などの拠点との交流の許可だ。

かつての傲慢な吸血鬼ならばくだらないと鼻で笑って一蹴しただろう。

だが、吸血鬼は受け入れた。おそらくそれは自分のためではなく、あの人間のため。

閉鎖された環境というのは人間という種族にはあまりいい環境ではない。

妖怪ならばそこに適合することも可能だが、人間の場合は心を病んでしまう恐れがある。

彼女はそれを懸念して受け入れたのだろう。

私もそんな吸血鬼の考えを察してこのタイミングでこの条件を突き付けたのだから理解できる。

 

彼女たちが侵攻してきた際、迎え撃ったこちら側は無視できないほどの損害を負った。

とくに妖怪の山の被害は甚大で、今妖怪の山で何か起きれば長年存在し続けていた天狗組織が瓦解してしまうだろう。

今妖怪の山が瓦解してしまえば、抑えられていた木端妖怪が勢いづき、先代巫女のおかげで安定してきていた人間の勢力が弱まってしまう。

それは困る。ようやく幻想郷の微妙なバランスが安定してきたというのに、それを崩されてしまえば、また安定させるにはどれほどの労力が必要となるか。

だからこそ紅魔館には幻想郷の抑止力になってもらわねばならなかった。

しかしそれにはあの強情な吸血鬼をどうにかして説得しなければならない。

さてどうするかと考えをめぐらしていた時に現れたのが十六夜咲夜だった。

彼女が紅魔館に受け入れられたことで吸血鬼が丸くなったのは嬉しい誤算だった。

大した労力もなく彼女たちを引き込め、そして新しい博麗の巫女である霊夢の相手も見つけられた。さらにスペルカードルールを浸透させるきっかけともなる。

十六夜咲夜には感謝しなければならない。彼女の登場から私の計画がうまく運ぶようになったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽々子が異変を起こした数日後、私はスキマの中で幽明結界の修復を行っていた。

幽明結界は冥界と現界を区切る結界で、それ故に重要性が博麗大結界に次いで高い。

何より早く修復しなくては地獄の最高裁判長のありがたい説教が待っている。

彼女の能力は私の能力の天敵ともいえる物なので、捕まったら最後、一日中説教を聞かされるのは間違いない。

それは御免こうむりたいのでこうして真面目に結界の修復に精を出しているということなのだ。

結界の破損個所を治していると、紅白の巫女――霊夢がこちらに近づいてきていた。

私はスキマから出て、霊夢と対面する。

 

「あら霊夢、どうしたの?もしかして私に会いに来てくれたのかしら?」

 

「結界の状況を見に来ただけよ。早く治らないと色々面倒だし。……さぼっているようなら夢想封印でもぶつけてやろうかと思ってたけど、その必要はなさそうね」

 

私がからかい半分に話しかけると、なんともそっけない返事が返ってくる。

……昔は私の後ろをちょこちょこついてきて可愛かったのに、あの可愛い霊夢はどこに行ったのかしら。

時間の流れって嫌なものね、なんて考えていると、こちらに高速で接近する影が見えた。

その影は私たちの前で急停止すると、私にスペルカードを突き付けた。

 

「勝負だぜ、紫!」

 

その影は霊夢とよく行動を共にしている魔法使い――霧雨魔理沙だった。

いきなり私に勝負をしかけた彼女に、霊夢が呆れた顔で話しかける。

 

「魔理沙、あなた何やってるの……?」

 

「何って、弾幕ごっこだよ。今回の黒幕は紫だろ?」

 

「あー、説明が面倒くさいわね。とりあえず魔理沙、今はやめなさい。後でやる分には構わないから」

 

「あら霊夢、かばってくれるの?嬉しいわ」

 

「誰があんたなんかかばうか。結界の修復が遅れれば面倒だってさっき言ったでしょ。結界の修復が最優先。その後で私と魔理沙があんたをとっちめれば万事解決よ」

 

「あ、あら?霊夢も攻撃するの?」

 

「当たり前じゃない。今回の異変で私がどれだけ寒い思いしたか分かってる?西行寺幽々子は結局ぶっ飛ばせなかったし、黒幕のあんたが代わりにぶっ飛ばされなさい」

 

理不尽な言い分に私が内心涙を流していると、霧雨魔理沙が複雑な顔で唸る。

 

「あー、今勝負できないんだったら無理して藍から逃げる必要なかったな。咲夜も置いてきちまったし……。後で拾ってやらないとな」

 

「あら、咲夜も来てたの?意外ね、異変が解決すれば興味を持たないと思ったけど」

 

「ああ、暇そうだから連れてきたんだ。こういう面白そうなの好きそうだと思って」

 

「……(たぶん、無理矢理連れてこられたのね、咲夜も可哀想に)」

 

霊夢の表情からして十六夜咲夜に同情しているのだろう。

だが私としては彼女と話すいい機会だ。霧雨魔理沙の話からして彼女はおそらく藍と共にいるだろう。

そう判断してスキマを開き、藍の様子を覗いてみる。

すると、藍は気絶した十六夜咲夜を抱えて何か考えているようだった。

そこで藍と念話を繋ぐ。

 

(藍?一旦結界の修復作業を中断して博麗神社に向かってちょうだい。あなたが抱えている彼女も一緒にね)

 

(かしこまりました。しかし、十六夜咲夜に何の用件が?)

 

(少し話がしたいのよ。じゃあ頼んだわよ?)

 

念話を切ると、私は博麗神社へとつなぐスキマを開き、その中に滑り込む。

それを見た霊夢が表情を険しくさせて問いかけてきた。

 

「どこへ行くつもり?」

 

「少し人に会いに、ね。安心なさい、結界の修復も並行してやっておくから」

 

「……ならいいわ」

 

もう興味はない、とばかりに顔を背けた霊夢に手を振り、スキマを通って博麗神社の裏側へ出て、縁側に腰掛けた。

スキマを弄って霊夢の茶菓子と中身の入った急須と湯呑を二つ取り出す。

湯呑の一つにお茶を入れてのんびりすすっていると、二つの気配が境内へと降り立ったのを感じ取った。

しばらくすると、藍と十六夜咲夜が姿を現した。

 

私を見た人妖は様々な反応を示す。

霊夢ならば、また面倒事かと不機嫌になり、

霧雨魔理沙ならば、胡散臭いと警戒する。

レミリア・スカーレットは未だに敵意を隠そうとせず、

四季映姫・ヤマザナドゥは眉をひそめて私の今までの行いについて説教しようとする。

正の感情を向けてくるのは友人である幽々子と萃香、式神の藍とその式の橙くらいだ。

さて十六夜咲夜はどのような顔をするのかと見てみれば意外にも特に反応を示すこともなく無表情を貫いている。

しかし手招きすれば素直に近づき、座るように示せば言われた通りに縁側に腰掛ける。

私と出会って無反応というのは初めての経験なので少し新鮮な気持ちになる。

お茶を入れて差し出せば疑うこともなく飲み、スキマから煎餅を取り出して渡してみればやはり素直に食べ始める。

ほとんどの者は私が渡したというだけで警戒して口にすることはないので少し驚いた。

少しずつ煎餅をかじっていく彼女を見てなんだか野生の動物に餌付けをしている気分になってきた。

彼女はせんべいを食べ終わるとふう、と一息ついた。

それを見て私が気が付かなかっただけで彼女も緊張していたことが分かった。

落ち着いたかと聞けば普通に感謝の言葉が返ってくる。

素直なのはいいことなのだけど、私に対してここまで裏がない態度をとられると彼女がいつか騙されるのではないかと心配になる。

軽く自己紹介した後、本題を切り出す。

私が彼女に会いたかった理由、即ち、西行妖のことについてだ。

西行妖に関する情報は西行妖を封印した時に私が能力を使って一切をスキマへと隠蔽した。

故に彼女が知ることは不可能のはず。だが彼女は西行妖を知っており、それを踏まえて異変解決に乗り出していた。

それを問いただせば魔法使いの図書館で調べたととぼける。

ありえないと否定すれば彼女は眉をひそめて考え込んだ。

やがて諦めたように溜息を吐くと、自身の能力について語り始めた。

それは彼女の能力――「時間を操る程度の能力」の副作用である過去視と未来視についてだった。

それにより彼女は私と幽々子と妖忌が西行妖について話しているのを見たという。

妖忌が見えたということは西行妖が封印される前、つまり幽々子がまだ生きていたころだということになる。

その話にはおかしなところはない。だが疑わしいことは確かだ。

嘘をついていないか能力を使おうかと思ったが、やめた。

彼女には紅魔館を私にとって都合のいい方向へと動かしてくれた(彼女がそれを知らないとはいえ)借りがある。

とりあえず今回は彼女の言を信じることにしよう。

 

「……ふう、分かったわ。とりあえずそういうことにしておきましょう」

 

私がそう言うと彼女は緊張した雰囲気を解いて固まっていた体を和らげる。

それを見計らって彼女に幻想郷について問うてみる。

 

「作られた楽園、かしらね。私みたいな人間は居心地がいいけど、他の人間はどうかしら?良く言えば共存、悪く言えば彼ら人間の恐怖を妖怪の餌にしているわけだし。まあ、お嬢様たちがいれば私はそれでいいわ」

 

返ってきたのは作られた楽園という言葉と紅魔館の人間さえいればどうでもいいと受け取れるもの。まあ予想できた言葉だ。

それよりも私が気になったのは「私みたいな人間」という言葉。

この幻想郷というのは外の人間にとってはあまり居心地がいい場所ではない。

外の世界には科学が存在し、それに依存した彼らには科学が存在しないここは住みにくい場所だ。

だからこそほとんどの外来人は外に戻ることを望む。

能力が発現してしまった者や幻想郷に住むことを希望した者は人里に住まわせているものの、そういう者は極少数だ。

もしかすると、彼女は外の世界では孤児かそれに準じた環境下におかれていたのかもしれない。

もしくは……殺人の経験があるかもしれない。

幻想郷では人間が殺されるのはよくあることだ。しかしそれは妖怪と人間の関係であり、人間同士でのそれはあまり見られない。

人間というのは人の形をしたものを傷つけることに抵抗を覚える生物だ。そしてそれは外来人に特に顕著に見られる。

しかし、幻想郷には原則として不殺のルールであるスペルカードルールがあるとしても彼女はナイフという相手を殺しかねない武器を躊躇いなく相手に向けている。

私のような、という言葉が、自分が人の道を外れていることについて言っているとしたら……?

……これは根拠のない憶測だ。あまり深く考えない方がいいのかもしれない。

しかし、その危険性は頭にとどめておくべきだろう。

彼女が吸血鬼への忠誠のために人間を殺す可能性もあるのだから。

 

私が思考から戻ると、霊夢や魔理沙がこちらに近づいてくるのを感じた。

やがて藍を含めた三人が顔を出し、そのまま雑談に移行してしまう。

私は表情をあまり変えないながらも楽しそうに話をする十六夜咲夜を見つめながら彼女への警戒心を上げるのだった。

 




ゆかりんが危惧しているのは咲夜さんが殺人を行うことで人間の数が減ることです。
そんなことをすれば幻想郷のバランスが崩れてしまいますからね。
殺人については特に思うことはないです。妖怪ですしね。
ちなみに咲夜さんは「私みたいな人間」という言葉を「私みたいなミーハーな人間」という意味合いで言ってます。
でも周りはそんなこと知らないから確実に別の意味合いで受け取ってしまうという。

こういう説明的なことはあまりしないのですが、今回の話では分かりにくいと持ったので書きました。
もっと分かりやすい文章が書けるよう精進します。


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氷精と大妖精と花妖怪と

どうも、ここ最近の寒さのせいで炬燵から出られない作者です。

今回は珍しく第三者視点。

番外編です。チルノの修行風景なんぞを書いてみました。
そんなもの書いてるんなら宴会編を書けってやつですね、ごめんなさい。


 

 

 

太陽の畑。

その場所は普段は静かな場所だ。

風見幽香がそこに住み、それ故に人も妖怪も恐れて近づかない一種の不可侵地域と化しているのだからそれも当然だが。

 

しかしここ最近――厳密にいうならば春雪異変が終わった頃から――その場所で戦闘音が響き続けていた。

戦闘を繰り広げている片方は当然太陽の畑の主である風見幽香。

もう片方は意外にも妖精であるチルノだった。

 

チルノは能力によって作り上げた氷剣を手に幽香に特攻する。

幽香はそれを妖力による砲撃で迎撃する。

巨大なレーザーがチルノを飲み込まんと迫る。

しかしチルノはすでにそれによって撃墜された経験を積んでいる。

どれだけゲームが下手な人間でも繰り返しやっていれば攻略法を見つけるように、チルノも対処法は見つけていた。

氷剣を前に突き出して盾にする。そのまま左に方向を転換し、砲撃を剣で防ぎつつ砲撃を抜ける。

剣を砕かれつつも砲撃を抜けたチルノはそのままの勢いで幽香に迫る。

 

――凍符「パーフェクトフリーズ」

 

吹雪のごときスペルが幽香に迫る。そしてこの距離からではいかに幽香といえど回避するのは難しい。

弾幕を彼女に当てればチルノの勝ちだ。

チルノは回避行動を起こさない幽香を見て勝利を幻視する。

しかしそれはノータイムで放たれた第二撃の砲撃で打ち砕かれた。

砲撃はチルノのスペルを飲み込み、消失させていく。

そして、接近していたチルノにそれを避ける術はなくあっさりと直撃した。

 

幽香は撃墜されたチルノに目を向けることはなく花の手入れを始めた。

地面に墜落したチルノに慌てて近寄るのはチルノの友人(友精?)である大妖精だった。

彼女は風見幽香のいる太陽の畑に来たくはなかったのだが、親友であるチルノがどうしても行くと言って聞かないので心配でついてきたのだ。

幸い幽香は大妖精のことを気にするわけでもなく無視し続けているため、大妖精は傷つけられることなくこの場にいることができた。(とはいっても怖いものは怖いので近くの林に身を隠しているのだが)

完全に伸びているチルノに大妖精は手当を施す。

本来妖精は死ねば一回休みとなり、回復して目を覚ますのが通常なのだが、絶妙に手加減された幽香の攻撃はチルノを一回休みにさせてはいなかった。

故にチルノの体には多くの傷が残っており、大妖精は頼み込んで譲ってもらった傷薬や包帯を使って治療していた。(余談だが、この医療品は紅魔館で譲ってもらったものである。美鈴や咲夜が密かに大妖精を可愛がっているのだ)

 

太陽が頂点から下がり始めたころ、チルノは目を覚ました。

起き上がって周囲を見ると、隣で大妖精が昼寝をしているのを見つけた。

どうやら慣れない治療で疲れたらしい。

チルノは大妖精を起こさないように小声で礼を言うと、太陽の畑へ向かう。

そこでは幽香が日傘を差して待っていた。

 

「今度こそあたいが勝つわ。覚悟しなさい」

 

氷剣を形成し、挑発の言葉を投げるチルノに対し、幽香は何も言わずに臨戦態勢をとる。

チルノはそんな幽香に突っ込む。

少しでも動きを止めれば砲撃の集中砲火を受けるのは経験で知っていた。

ならば砲撃を剣で受け流しつつ間合いを少しでも詰めるのが上策。

だが、それだけでは先程の戦いの巻き直しでしかない。

足りない。チルノは圧倒的な実力差が幽香との間にあることを何十回、下手すれば何百回もの敗北の果てに学んでいた。

力が足りない。  砲撃を受け止める力が足りない。

速さが足りない。 攻撃に反応するには速さが足りない。

覚悟が足りない。 勝利するために危険に飛び込む覚悟が足りない。

何もかもが自分に足りない。そんな自分では目の前の彼女に勝つことも、あの日、自分に見向きもしなかった彼女にも勝つことはできない。

幽香から放たれた砲撃がチルノを包囲する。

逃げ場はない。このままでは敗北が確定する。

チルノは考えた。足りないことが分かっている自分の知能をフル回転させて考えた。

そして思い出したのはここを教えてくれた雪女――レティ・ホワイトロックが一度だけ幽香との戦いを観戦して述べたたった一つの助言。

 

――あなたには自分の世界が存在しない。私と類似した能力を持っていながらそれを腐らせている。自分の世界を見つけなさい。そしてその世界を現実に示すの。ここは幻想郷よ?どんな荒唐無稽な幻想でもここではそれが現実になるのだから――

 

言われた時は何を言っているのか分からなかった。

だけど今なら何となく理解できる。

 

――つまり、あたいがサイキョーってことを強く思えばそうなるってことよね!

 

当初チルノはあながち間違ってはいない答えを導き出しはしたものの、若干それは具体性に欠けていた。

それだけでは駄目だということはもうわかっている。

自分は何を以て自信を最強とするのか。

答えはただ一つ。自身が持つ能力だ。

 

――相手が強いのなら凍らせればいい。それができないなら相手の周囲を凍らせればいい。それすら困難なら世界そのものを凍らせればいい。

 

普通ならば決して出てこないであろう矛盾と無茶と無謀が混ざり合った解答。

しかし、チルノはそれを成す。

自身の能力と、危険な環境により発現した火事場の馬鹿力で。

 

――凍符「ワールドフリーズ」

 

そして時は凍結した。――0.01秒だけ。

無論そのような刹那の時間では砲撃を避けることなど到底不可能。

チルノは先ほどと同じように砲撃に飲み込まれるのだった。――先程の戦いでは無かった確かな手ごたえを感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風見幽香は一瞬だけの世界凍結を感じ取っていた。

そして笑みを浮かべる。

果たしてそれはチルノの成長を感じ取ってなのか。

それとも新たな強者の可能性を見つけたからなのか。

その笑みの意味を知るのは幽香のみ。

 

幽香が倒れ伏すチルノを見つめていると、いつも通りに大妖精がチルノのそばに寄ってくる。

いつもなら目を向けていなかった幽香が大妖精を見ているのに気が付いたのか、彼女は涙目になって小さく震えはじめる。

その光景はまさしく喰う者と喰われる者の構図だった。

幽香はチルノを抱え上げ、自分の住まいに歩きはじめる。

チルノが連れ去られる光景を黙って見ていることができなかった大妖精は追いかけようとする。が、やはり恐怖で足が動かない。

幽香は一度振り返ると、大妖精を流し見て、一言。

 

「付いてきなさい」

 

その声を聞いて大妖精はピーンと直立し、壊れた人形のようにギクシャクと歩きはじめる。

大妖精が付いてきているのを確認した幽香は再び住まいへ歩き出した。

 

住処につき、大妖精は近くの椅子に座るように言われ、ガチガチになりながらも座っていた。

近くのベッドにはチルノが寝かされており、呑気に寝息を立てていた。

大妖精はそんなチルノを羨ましそうな顔で見つめていた。

しばらくすると、幽香が料理を持って現れる。

幽香はテーブルに料理が盛りつけられた皿を置くと、スプーンやフォークといった食器を大妖精の前に置く。

何が何だかわからずに大妖精が困惑していると、幽香は顎で料理を指し示してそのまま大妖精を見続ける。

それが料理を食べろというサインだとようやく気が付いた大妖精は恐る恐る料理を口にする。

そして料理のおいしさに驚いて一瞬動きが止まり、その後勢いよく食べ始めた。

妖精にとって食事は嗜好品でしかないが、おいしいものを食べたいというのは人間と同じである。

幽香はそんな大妖精の姿を見て薄く微笑んだ。

その姿は幻想郷の中でも危険度が高い妖怪には見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、チルノが目を覚まし、騒がしい食事となるまで幽香は大妖精を見続けるのだった。

 



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宴会です…

どうも、クリスマスを一人で寂しく過ごした作者です。
もうね、恋人とかいるリア充は爆発すればいいと思うんだ…。(遠い目)

それはそうと、更新が著しく遅れて申し訳ありません。
就活で読む時間はあれど書く時間はないという。すいません、言い訳ですね。

今回は宴会編一話目。続きます。二話目は明日にでもあげようかと考えています。


 

 

今日は異変解決を祝した宴会が博麗神社で開催される。

紅霧異変の時はスペルカードルール制定のために霊夢が忙しく働いていたため開かれなかったが、せっかくだから春雪異変解決とあわせて行おうということになり、私たち紅魔館のメンバーも博麗神社へ向かう支度をしている。だが……

 

「パチュリー様、本当にいいのですか?宴会に参加しなくて」

 

「いいのよ、今更顔を合わせる必要がある人物はいないし、魔理沙は好きな時にここに来るしね。それに、いくらなんでも館を空っぽにするわけにはいかないでしょう?」

 

「それはそうですが……」

 

そう、パチュリー様が今回不参加を申し出たのだ。

せっかくだから一緒に参加したかったなあ。

 

私が内心しょんぼりしながらパチュリー様を見ていると、その様子を見ていた美鈴がパチュリー様に近づき、抱きあげた。

突然の行動に面食らったパチュリー様は腕を振り回す。

 

「ちょっ、美鈴!何するの、離しなさい!」

 

「まあまあ、こういう催しに参加するのも面白いですよ?館の警備は妖精メイドに任せればいいですし、図書館の管理はこぁちゃんがやってくれます。それに――」

 

美鈴は意味深に笑うと、パチュリー様の耳元に口を寄せ、何か囁く。

それを聞いたパチュリー様の顔がぼっ、と一気に紅潮した。

 

「なっ、美鈴、あなた、なんでそれを知って……!!」

 

「私の能力を忘れましたか、パチュリー様?身体に関することはこの館で一番だと思っていますよ」

 

「う、ううううう!分かった、分かったわよ!宴会に行くから早く降ろしなさい!」

 

パチュリー様はやけくそ気味に叫ぶと、ずんずんと足音を鳴らしながら図書館の奥へと消えていった。

 

「美鈴、パチュリー様に何を言ったの?」

 

「秘密です。それより早く準備しないとパチュリー様が来てしまいますよ?」

 

何だろう、美鈴が意味深に笑った時、すごく悪い顔をしていたような……。

いや、気のせい気のせい。あの優しい美鈴がそんな顔するわけないもんね。

 

私は自分を無理矢理納得させつつも自分の支度をするために部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が準備を終え、飛んで博麗神社へと向かう。

私はレミリア様に傘をさし、太陽の光が当たらないようにする。

フラン様は美鈴に肩車してもらい、美鈴が傘をさしている。

 

やがて博麗神社の鳥居が見えてきた。

私たちは境内へと足をつける。

すると、本殿の方から小さな影が私に突っ込んできた。

 

「シャンハーイ!」

 

小さな影――上海は一つ叫ぶと私の頭の上に乗った。

初めて会った時も頭の上に乗ってたし、気に入ったのかな?

 

「久しぶりね、咲夜。……そちらの人たちもしばらくぶり、かしらね」

 

上海を追ってきたのか、アリスもやってくる。

アリスを見たレミリア様達は一斉に全員身構えた。(フラン様だけは事情を呑み込めていないようで首をかしげていたが)

アリスもまた人形を数体浮かせて構えている。

あれ?なんでこんな剣呑な雰囲気になってるの?というかレミリア様達はなんでアリスを知ってるんだろうか?

 

緊迫した空気の中、どちらにつけばいいか分からずにおろおろしていると、レミリア様達とアリスの間に弾幕が一つ撃ちこまれた。

思わず私たちが弾幕が飛んできた方に視線を向けると、腰に手を当てた楽園の素敵な巫女様が不機嫌顔で仁王立ちしていた。

 

「喧嘩なら余所でやりなさい。神社を傷つけたら退治するわよ」

 

お祓い棒を突き付け、警告した霊夢はそのまま身を翻して神社へと戻っていった。

か、かっこいい……!私が何もできなかったあの空気を一瞬で払拭するとは……!さすが主人公は格が違った!

 

「……そうね、宴会の日に無粋だったわね。非礼を詫びるわ、人形遣い」

 

「いえ、警戒するのも無理はないわ。あの異変以来、会ってなかったのだから」

 

私が霊夢のかっこよさに感動しているうちにこちらも和解したみたい。

何か私の知らない確執でもあったのかな?

 

とりあえず先程の空気が無くなったことに安堵して私達は神社へと足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神社にはあまり人は来ておらず、アリスと私達紅魔館メンバー位だった。

霊夢は宴会に出す料理の途中だったようで、すぐに台所に引っ込んでしまった。

私も手伝わなくちゃね!それに女の子同士で料理を作ることに少し憧れてたんだよ!

妖精メイドは手伝いよりも邪魔になることが多いからあまり一緒にいないしね。あの子たちも以前よりはましになったんだけどね……。

 

私は手土産代わりに持ってきた私の能力を使って作ったワインを持ちながら台所に入る。

そこには竈で鍋を作っている霊夢の姿があった。

竈かあ。紅魔館はレミリア様が無理を言ったのか、コンロが設置されてたからなんだか新鮮だなあ。

 

「霊夢。ワインを持ってきたのだけど……。私も手伝って構わないかしら?」

 

「ん?ああ、咲夜。それはそこの台に置いておいて。手伝ってくれるのなら野菜を切ってもらえる?」

 

「ええ。……ところで何を作るの?」

 

「とりあえず大勢が食べられるものかしらね。そういう経験はあまりないから少し大変だわ」

 

「大勢が食べられるものね。分かったわ」

 

私はワインを置くと、大根を手に取って輪切りにしていく。

おでんでも作ろうかな。

季節は少しずれてるけどまだ少し寒いし。

 

私ががんもどきやらちくわぶやら作っていると、霊夢がこちらを覗きこんでいるのに気が付いた。

 

「何?というか、そっちはもういいの?」

 

「あとは煮込むだけよ。……あんたがおでんを作ってる姿ってなんか変ね。洋食を作るのかと思ったのだけど」

 

「大勢で食べられるものってあなたが言ったんじゃない。それに紅魔館の料理は和洋折衷よ」

 

「節操がないのね」

 

「良いとこどりと言ってちょうだい」

 

私はおでんを煮初めて問題がなさそうだと分かると、懐から注射器を取り出し、自分の腕に刺して血液を採取する。

それをおでんに入れようとすると霊夢が慌てて止めてきた。

 

「ちょ、ちょっと!何してるの!?」

 

「あ、いつもの癖で。そうね、今回はみんなで食べるんだから血液入りは駄目よね……。どうしようかしら」

 

「……はあ。小皿に分けるんだからそこに入れればいいでしょうに。あんたしっかりしてると思ったら意外に抜けてるのね」

 

お、霊夢それナイスアイディア!それなら問題ないよね。

そんなに私しっかりしてるように見える?……咲夜ボディのおかげか。

 

その後、みんなで食べられる料理を霊夢と共同でいろいろ作っていると、誰かが台所に入ってきた。

 

「失礼します。食材をいくつか持ってきたのですが……。あ、あなたは……」

 

お、妖夢だ。手には食材でパンパンになった袋が。……人里で買ってきたのかな?

妖夢は私を見たまま固まっている。

あー、そういえば異変で倒して以来会ってなかったっけ。

自分を負かした相手と顔を合わせるのってなんか気まずいよね。特に本気の勝負とかだと。

でも、仲良くしたいんだよね。従者同士として。あ、そうだ!

 

「妖夢、で良かったかしら」

 

「あ、はい!」

 

「料理はできる?」

 

「は、はい。一応」

 

「なら手伝ってちょうだい。私と一緒に肉を捌きましょう」

 

戸惑ったような感じで私の隣に来た妖夢だったが、肉を捌く手は素早く、正確だ。

むう、負けてられないな!

私も妖夢に負けないように肉を捌いていくのだった。

 

なんだか途中で料理対決みたいになったけど、こういう風に並んで料理作るっていいよね。それに霊夢や妖夢みたいな美少女だとさらにいい。

 

「ある程度できたし、あっちに持って行ってくれる?」

 

霊夢が最初の鍋を指さして頼んできた。

霊夢自身は最後の料理に取り掛かっており、手が離せないみたい。

ちょうど手が空いてるし、私が持っていこう。

 

私が鍋を持っていくと、宴会場は人がかなり集まっていた。

いつの間にか来ていた魔理沙はパチュリー様と魔法談義中で、アリスはそこから少し離れたところで二人の話に耳を傾けながら人形でフラン様やルーミアの相手をしている。

紫は幽々子と何か話していて、藍は紫のそばでじっとしている。

橙は美鈴の膝の上で本物の猫のように撫でられ、愛でられていた。

プリズムリバー三姉妹は楽器の調整中でリリーは物珍しそうに神社内を見渡している。

レミリア様は静かに紅茶を飲みつつ、フラン様を眺めていた。

 

私はいくつかの机で構成されている即席の台に鍋を乗せる。

蓋を開けるといい匂いが広がり、それに気が付いた数人が顔をこちらに向けた。

 

「そろそろ料理も全部できますし、始めましょうか」

 

私が声をかけると、全員が各々好きな席に座る。

上座には紫、幽々子、レミリア様。その隣は開けられており、そこに従者が座るのだろう。この場合、紫の隣は藍、幽々子の隣は妖夢、レミリア様の隣は私になる。後はやはり主催である霊夢の席が紫の逆隣りにあることか。

他の面子は特に規則性もなくバラバラで、せいぜい私の席の逆隣りがフラン様、プリズムリバー三姉妹が一緒に座り、三魔女が一緒に座ってるくらいだろう。

二つの異変にいたチルノと大妖精は修行、レティは春眠のために欠席だと聞いたから、これで全員だろう。

 

やがて、霊夢が最後の料理を持って現れ、妖夢も席に座り、霊夢が酒の入った杯を掲げる。

 

「あー、じゃあ異変解決を祝って、乾杯」

 

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

 

なんだか投げやりな開催の言葉だったけど、周りはそれでも良かったようで一斉に乾杯する。

 

 

 

こうして、宴会は開催された。

 



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宴会です…2

前話の続きで宴会編です。
日をおいてちまちま書いていたせいか内容がどうも薄い気がする。

次回は他者視点で宴会編を書く予定です。


 

 

最初こそまともに始まった宴会だったが、しばらくすれば場も盛り上がり、混沌と化す。

――私の隣にいる魔法使いもその混沌の要因の一つだ。

 

「でさー、パチュリーが酷いんだぜー?なー、聞いてるか、さくやあ」

 

「ええ、そうね。だから魔理沙、ひっつかないでちょうだい。暑いわ」

 

「だろー?咲夜もそう思うよなー?」

 

話が、通じない……!!

魔理沙、物珍しさで私が持ってきたワインぐびぐび飲んでたからなあ。

 

酒で体温が上がっている魔理沙に引っ付かれ、身動きが取れない。

幸いなのは、料理はもうほとんど食べつくされているから、レミリア様達によそう必要がないことだろうか。

 

周りを見渡すと、酒で出来上がっているのは魔理沙位で、他の面子はぴんぴんしている。

……私が持ってきたワイン以外にも紫とか幽々子が持ってきた酒も空になってるんだけどなあ。やはりこの幻想郷、酒豪な人物が多い。

酒を飲まなかったのはフラン様と橙、リリー位なんだけど。

妖夢が意外にも日本酒を涼しい顔で飲んでたのは驚いたな。結構飲んでたのに今でも少し顔が赤い程度だし。

私?私は酒を勧められつつもペースを守れる人間だから。実はちびちびとしか飲んでないから大丈夫。

……美鈴と一緒に飲むと、美鈴の勧めがうまくてつい酔いつぶれちゃうんだけどね。

 

ふと気が付くと、魔理沙はいつの間にか私の肩を枕に寝ていた。

この体勢では寝苦しいだろうから魔理沙の頭を私の膝に移す。

膝枕しつつ頭を撫でると、予想以上にサラサラな髪に思わずニヤついてしまいそうになる。

 

「あらあら、微笑ましいわねえ」

 

声がかけられた方へ顔を向けると、西行寺幽々子が寝ている魔理沙を見て微笑んでいた。

 

「初めまして、になるのかしらね。紅魔館のメイドさん?」

 

「ええ、そうなるわね。異変の時は挨拶しないまま帰ってしまったし。十六夜咲夜よ。よろしく」

 

「西行寺幽々子よ。よろしくね。あの時のお礼を言いたかったのよ。博麗の巫女にはもう言ったのだけど、そこの子とあなたにはまだだったから。改めてあの時はありがとう」

 

「どういたしまして。まあ、霊夢と魔理沙、どちらかが抜けても勝つことはできなかったでしょうけどね。魔理沙には……どうする?しばらくは起きなさそうだけど」

 

「後でまた言うわ。それにしても、ずいぶんあなたに懐いてるわねえ、この子」

 

つんつん、と魔理沙の頬をつつきながら生暖かい目で私を見る幽々子。

 

「そうかしら?友人って、こういうものではないの?」

 

魔理沙の場合、気を許してる相手ならだれでもこういうことはしそうな気がするから私限定じゃない気がする。

 

「ふうん、なるほど、気付いてないのね。まあこういうことは過程も一種の醍醐味だしね、頑張りなさい♪」

 

ぽん、と私の肩を叩いて妖夢のもとに向かう幽々子。

なんだか関係を勘違いされてるような……。まあいいか。幽々子はそういうこと言いふらすようなタイプじゃないだろうし。

 

幽々子が妖夢に、小腹がすいたから何か作って~、と言っている声と、まだ食べるんですか!?と困っている妖夢の声をBGMに私は魔理沙の頭を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

その後、寝てしまった魔理沙を見つけたアリスが溜息をつきながら魔理沙を別室に運んでしまったため、手持ち無沙汰になってしまった私は、縁側で静かにお酒を飲んでいる霊夢に近づこうとして、服の裾を引っ張られる感覚に気づく。

後ろを振り返ると、少し赤い顔をしたリリーが立っていた。

 

「どうしたの?」

 

私はしゃがんでリリーと顔の高さを合わせる。

リリーはしばらくもじもじしていたが、意を決したように顔を上げる。

 

「あ、あの、この前はごめんなさい。いきなり攻撃してしまって……」

 

「大丈夫よ、気にしてないから。それに、あの状況じゃあなたの不満が溜まるのも無理ないしね」

 

実際、あの状況って春告精のリリーにとっては物凄くフラストレーションが溜まるよね。

時期的には春なのに、状況的には冬なんだから。

 

「それで、ですね。私、あなたに会ったら言いたいことがあったんです」

 

「何かしら?」

 

「その、えっと、春ですよー。……えへへ、異変が終わったら一番最初にあなたに言いたかったんです」

 

はにかみながら春を告げてくるリリーマジ天使。

なんて嬉しいこと言ってくれるんだろう。いい子過ぎておねーさん涙が出ちゃうよ。

あまりにも可愛かったので思わず抱きしめて頭を撫でてしまう。

 

「わぷっ、は、恥ずかしいですよう……」

 

顔を赤くしながら見上げてくるとか、もうね。なんていうの、そう、萌えるわ~。

私がリリーの可愛さにきゅんきゅんしていると、背中に重さを感じた。

 

「いざよい、さくやあ。わたしとしょうぶだー」

 

呂律が回って無い声で私に乗っかってきたのは橙だった。

なんでお酒飲んでないのに酔っぱらってるの!?

 

「妖猫でもマタタビで酔うのね。新しい発見だわ」

 

「日本の妖怪については西洋の妖怪辞典にはあまり詳しく乗ってないし、こうやって実際に確かめるのが一番ね」

 

アリスにパチュリー様ああああ!?何やってるの二人とも!

二人は常識人だと信じていたのに!

待て待て、橙なら藍に任せればいい。藍ならきっとどうにかしてくれる…っ!!

 

「ほーら、ら~ん?あなたの大好きな油揚げよ~?」

 

「紫様、侮らないで頂きたい。この八雲藍、食べ物で釣られるほど甘くはありません」

 

「藍ちゃん、油揚げを凝視してる状況でその台詞は説得力がないわよ?」

 

視線を向けた先には自分の主に油揚げで弄ばれている九尾の狐の姿がありました。

らんしゃま、あなたもですかあああああ!!!!

食べ物で釣られるとかどこぞの腹ペコ騎士王じゃないんですから……。

 

段々身動きが取れなくなってきた……。

リリー、拗ねた顔して強く抱きつかないで。可愛すぎてお姉さん萌え死ぬから。

橙、尻尾を私の足に絡ませないで。くすぐったい。

 

「あ、楽しそうなことしてる~。私も混ぜて~!」

 

ああ、今度はルーミアが左から……。

 

「あー!みんなずるい!私も咲夜に抱っこして欲しい!」

 

フラン様まで来たー!前後左右が完全にふさがれた!?

こんな素晴らしい体験ができるなんて、私明日死ぬんじゃないかな。

ならばこの素晴らしい状況を思う存分楽しんでくれる!

 

私が四人を愛でていると、酒瓶を持った霊夢が座った。

どうやら縁側から私を見つけてこちらに来たらしい。

 

「あんたも大変ね。こんなに好かれちゃって」

 

霊夢は四人にもみくちゃにされている私を見て呆れた視線を向ける。

やがてため息をつくと、四人に話しかけた。

 

「ルーミア、リリー、あっちでプリズムリバー三姉妹が楽しそうな曲を始めたわよ、見に行ってみなさい。フラン、あっちであなたの姉が呼んでるわ。橙は…、あそこで馬鹿やってる藍に任せましょう」

 

霊夢の言葉を聞いた四人は各々言われた場所へと向かっていく。

レミリア様の方を見ると、仕方ないという風に苦笑してフラン様と話し始めた。

プリズムリバー三姉妹は霊夢の合図を受けて新しい曲を弾き始め、橙は紫に酔い潰された藍に代わって幽々子が引き取ってくれた。

 

「騒がしいのもいなくなったし、飲みましょうか」

 

霊夢は私に杯を渡すと、そこに酒を注いでくれる。

私もお返しに同じように注いであげた。

 

「それじゃ、乾杯」

 

「乾杯」

 

一気に飲み干した霊夢を見ながら私も一口飲む。しかし、予想以上の度数に思わずむせてしまった。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「ええ、ごめんなさい。あまりお酒に強くないのよ、私」

 

背中をさすってくれる霊夢が私の言葉を聞いてニヤリと笑った。

 

「へえ、意外ね。なんでもそつなくこなすと思ってたけど、弱点もあるのね」

 

「私だって人間よ、完璧超人とはいかないわ。大体のことはこなせる自信はあるけどね」

 

まあそれもこの咲夜ボディのおかげだがな!

微塵も自慢できないことを内心で叫びながらまた一口飲む。

今度は度数を知っていたためむせずに済んだ。

それでも今まで飲んできた酒も合わさって顔が熱くなり、意識も少し朦朧としてきた。

うーん、これ以上飲むのはまずいかな。

 

「顔が赤いわよ、大丈夫?」

 

「少し暑いわ。縁側に出て涼んでくるわね」

 

霊夢にそう断ってから縁側へと歩こうとするが、ふらついてしゃがんでしまった。

 

「私が付いていくから掴まってなさい、いいわね?」

 

「ありがとう、霊夢。悪いわね」

 

霊夢に支えられながら縁側へと到着し、腰を下ろす。

夜になって冷えてきた風が火照った体を冷やしていくのを感じ、気持ちよさに思わず目を細めた。

 

「……あんたのこと今まで犬っぽいと思ってたけど、そういう仕草は猫っぽいわね」

 

え?私が橙っぽいってどういうこと?

だめだ、酔いが回った頭じゃ上手く思考できない。

霊夢が何か喋ってることは分かるんだけど、内容がうまく理解できない。

 

「はあ、あんた大分酔ってるわね。あそこで寝てなさい」

 

霊夢が私をお姫様抱っこすると、何かフサフサな物に降ろされた。その肌触りはまるで布団のようで、酔いが回った意識は段々と睡魔に侵食されていく。

 

わーい、れーむにおひめさまだっこしてもらったー。…だめだな、思考が幼児退行を起こし始めた。これは一旦眠ったほうがいい。

 

私の意識が闇に沈んだとき、誰かがお休みと頭を撫でてくれた気がした。

 

 

 

起きた時、藍しゃまの尻尾に包まれていて、テンションが激しく上昇したのはまた別の話。

 



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お正月です…

あけましておめでとうございます、作者です。

お正月ということで番外編。
ただし、最初に言っておきましょう。ど う し て こ う な っ た … !

正月らしいほのぼのした小説を書こうとしたら最終的に正月が関係なくなったうえに霊咲になってた。いや本当、どうしてこうなった。

ガキ使見てそのまま深夜テンションで書き上げたのが悪かったのだろうか。

この話は本編とは関係ないうえに時系列も考えてません。
ありえた未来の話ということで一つお願いします。
本編の咲夜さんのイメージを崩したくない人は見ない方がいいかもしれません、と保険をかけておきます。


 

 

 

ゴーン、ゴーン、と遠くの方(たぶん命蓮寺)から除夜の鐘を鳴らす音が聞こえる。

大晦日ということで年越しそば製作中。

紅魔館の皆は今食堂に集まって新年を迎えるパーティーをしている真っ最中。

飛び込み参加の魔理沙も加わり、なかなか賑やかにやっている。

 

霊夢も誘ったのだけれど、大晦日と正月の間は稼ぎ時ということで不参加。

後で賽銭代わりのお年玉でも持って行って遊びに行こう。

 

全員分のお蕎麦ができたのでお盆に乗せて持っていく。

廊下には妖精メイドの姿はない。よく話す妖精メイドであるユウに聞いてみたら、妖精メイドは妖精メイドたちでパーティーをするのだとか。

「プレゼント交換とかもあるんですよ、咲夜さん!」と言ってはしゃいでたけど、それって正月というよりはクリスマス……、まあいいや。本人たちが楽しいならいいだろう、たぶん。

 

益体もないことを考えていると、食堂に着く。

中に入り、声をかける。

 

「皆さん、お蕎麦が出来ましたよ」

 

そういうと席を立っていたフラン様や小悪魔、魔理沙が席に着く。

私は蕎麦を全員に配り、私も蕎麦を持って席に着く。

 

全員が座ったことを確認したレミリア様は立ち上がり、話しはじめた。

 

「さて、今年もそろそろ終わりを迎えようとしている。今年もまた様々な出来事があった。まあ主に異変だがな。それでもこうしていつもの面子で新年を迎えられることを嬉しく思う。来年もまた素晴らしい一日一日を重ねていこう。それでは終わりゆく今年に、乾杯!」

 

「「「「「「乾杯!!!!」」」」」

 

全員が乾杯をし、蕎麦を食べ始める。

全員が今年あったことを思い返し、笑いあう。

ああ、和気あいあいとしてるなあ。こういう正月って素晴らしいよね。

 

全員が蕎麦を食べ終わり、レミリア様はフラン様と、パチュリー様は魔理沙、小悪魔と、私は美鈴と談笑をしている中、ちらりと銀時計に目をやると、あと数分で年が明けることに気が付いた。

私は美鈴から離れ、レミリア様にそのことを伝える。

レミリア様は一つ頷くと、声を張り上げた。

 

「皆!あと数分で今年が終わる!皆で来年へのカウントダウンをしようじゃないか!」

 

私が時計を見ながらレミリア様に時間を教える。

 

「一分前だ!………………30秒前!………10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、皆!あけましておめでとう!」

 

「「「「「「あけましておめでとうございます!!!!!!」」」」」」

 

皆が一斉に挨拶をする。

こういうカウントダウンはやっぱり気持ちがいいね!

一体感を感じられるというか、テンションが上がるよ!

 

その後もテンションが高いままパーティーは続き、お開きになったのは朝日が出るころだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、準備はできた?」

 

玄関前でレミリア様が私達に確認する。

これから皆で博麗神社へと初詣に行くのだ。

ちなみに魔理沙は初詣の準備をすると言って自分の家に帰りました。

レミリア様は銀粉を散りばめた紅い着物に包まれている。

うむ、やはりこの着物を選んだ私の目に狂いはなかった、何とも可愛らしい!

 

ちなみにレミリア様だけでなく、私を含めた紅魔館メンバー全員が着物を着ている。

フラン様が金粉を散りばめた甘い赤色の着物、

美鈴が花の模様があしらわれている薄い緑色の着物で、髪はアップされて結わえられている。

パチュリー様は月の模様の入った紫色の着物で、髪は美鈴と同じように結わえられている。

小悪魔は黒と赤が混じったような色の着物で、髪は以下同文。

ああ、全員可愛かったり綺麗だったりで素晴らしい。高性能咲夜ボディでなければ鼻血出して倒れてたね、絶対。

ん、私?私の恰好は藍色で桜があしらわれた着物だよ。メイド服と部屋着しか着たことない私にはなかなか新鮮だね。ちょっと動きにくいけど。

 

「全員準備できてるみたいね、じゃあ行きましょうか」

 

こうして、私達は初詣へと出かけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社へと着くと、いつもの閑散とした境内ではなく、それなりに人であふれた境内が目に入る。出店も出ており、それなりに繁盛しているようだ。

お正月は稼ぎ時という霊夢の言葉は本当らしい。

まあ霊夢は異変以外でも妖怪退治とかも請け負ってるから人里で名を知られているからこの位のお参りは当然と言えば当然か。

人に紛れてルーミアやリグル、ミスティアなど妖怪達もいるためか、私達を見ても騒ぐ人はいない。

先頭にいるレミリア様のカリスマに押されてか、人ごみが割れたりはするけど。

おかげで苦労せずに本殿に辿り着いた私達を待っていたのは、相変わらず腋が空いた奇抜な巫女服を着た霊夢だった。

 

「あんたら、参拝客を威圧しないでくれる?せっかくのお賽銭が逃げちゃうじゃない」

 

心配するのが参拝客ではなくその懐のお金とはまた霊夢らしい。

年が明けてもやはり霊夢は霊夢のようだ。

 

「私達は先にお参りしてるわね。咲夜はしばらく霊夢と話してなさい」

 

「咲夜、後で出店一緒に回ろうね!」

 

レミリア様達は気を使ってくれたのか、先に行ってしまう。

そんなに気を使ってくれなくてもいいのに、と苦笑しながらも霊夢にお年玉袋を渡す。

 

「ん?何これ?」

 

「お年玉よ。お参りの時にお賽銭も入れるけど、あれはここの神様へであって霊夢へじゃないからね。まあ、日頃の礼のような物よ」

 

「お年玉って、あなた私と年同じくらいじゃない。まあくれるならもらってあげるけど、お返しなんてできないわよ?」

 

「じゃあ、そうね、今夜は時間空いてるかしら?」

 

「え?ええ、夜には参拝客もいないでしょうけど、それが?」

 

「じゃあ夜にまた来るわ。大晦日は一緒に過ごせなかったけど、今夜は一緒に月見酒でもしましょう」

 

そう言って私は霊夢と別れ、レミリア様達のもとへと向かう。

すると、もうすでにお参りを済ませたのか、賽銭箱の横で私を待っていた。

レミリア様が手でお参りするように指示してきたのでお言葉に甘えてお参りしてしまうことにする。

 

きちんとお賽銭を入れ、鈴を鳴らして二礼二拍手一礼をしてお参りする。

 

(今年も皆で無事に一年乗り切れますように。……そしてできれば霊夢と……)

 

お参りを終え、レミリア様達のもとへと向かうと、フラン様が駆け寄ってくる。

 

「ねえ咲夜!あっちでなんだかおいしそうな物見つけたの!「たこやき」って言うんだって!早く行こっ!」

 

フラン様が私の腕を引っ張って急かす。

私は苦笑しながらついていく。

後ろを振り返ると、レミリア様、美鈴、パチュリー様、小悪魔はおみくじを引いていた。

まあそこまで広いわけじゃないしすぐに合流できるだろう。

よーし、可愛いフラン様のためにおねーさん頑張っちゃうぞー!なんて内心でネタに走りながらも私はフラン様と屋台巡りを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて私達が紅魔館に戻り、フラン様と小悪魔ははしゃぎ過ぎたのか就寝、パチュリー様は図書館へ、美鈴は自室へ向かい、レミリア様も自室に向かおうとしている所でレミリア様を呼び止めた。

 

「お嬢様、夜に博麗神社へと行ってもよろしいですか?」

 

「夜に?……ああ、霊夢ね。いいわよ。帰りはいつになってもいいから」

 

「ありがとうございます。では失礼します」

 

「咲夜、あなたは…紅魔館のメイドよね?これからも」

 

部屋へと戻ろうとすると、レミリア様に呼び止められる。

えーと、それはこれからもメイドとしてよろしく、という意味なのかな?

それなら答えはもちろん、

 

「ええ、この身が朽ち果てるまで私はお嬢様の従者です。これは今までも、そしてこれからも変わらない事実でございます」

 

「……ならいいわ。楽しんでらっしゃい」

 

レミリア様は私の答えに満足そうに微笑むと、部屋へと向かっていった。

さて、レミリア様の許可ももらったし、どのメイド服を着ていくか選ばないと!

私はルンルン気分で自室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、月が煌々と地面を照らす頃、私は紅魔館を出た。

門に立っていた美鈴が少し寂しそうに見送ってくれたけど、どうしたんだろう、新年早々センチメンタルかな?

美鈴の心配をしていると、いつの間にか博麗神社に着いていた。

出店はもうなく、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。

本殿への石畳の途中で霊夢が出迎えてくれた。

霊夢は持っていた酒瓶を持ち上げる。

 

「萃香が地底に飲みに行く前に置いてったのよ。一緒に飲みましょう?」

 

私も自家製のインスタントビンテージワインを持ち上げた。

 

「私も持ってきたわ。さ、月見酒と行きましょう」

 

場所を神社の縁側へと移し、霊夢と私は静かに酒盛りを始める。

私は話がうまい方じゃないし、霊夢は自分から話しはじめるような性格じゃない。

だから最初は二人とも話さない、とても静かな酒盛りだった。

 

やがてお酒の酔いが回ってきて、気分が高揚してきたところで今の私ならいける、いけ、いけっ、と自分を鼓舞する。

 

「あの、ね。霊夢。今日こうやって時間をとってもらったのは話をしたかったからなの」

 

緊張で声が震えるかと思ったが、意外に冷静な声が出た。

霊夢は私の声音に真剣なものを感じ取ったのか杯を置く。

そして私の顔をじっ、と見つめた。

 

「霊夢、私、ね。貴方のことが、好きなの。友人とかそういう好きじゃなくて、愛してるの。その、だから、結婚を前提に付き合ってくれないかしら」

 

心臓がバクバク言ってる、息が乱れる。

どうだろう、気持ち悪いとか思われてないかな、女同士だし、嫌われちゃう、かな。

私が不安で霊夢の顔を見られないでいると、霊夢がクスクス、と笑い始めた。

 

「やっぱり、咲夜、貴方ぬけてるわね。普段は気が付かなくてもいいことに気が付くくせに肝心なことに気づいてないんだもの」

 

霊夢は私のすぐそばへ寄ると、下を向いている私の顔を上げ、目をしっかり合わせ、そして――抱きしめた。

 

「えっ……?」

 

「もう、私が咲夜のことずっと見てるの気が付いてなかったの?異変の時に何回かあなたを助けられたのも、あなたから目を離せなかったからなのよ?……私も大好きよ、咲夜。愛してる」

 

抱きしめられながら霊夢の言葉を聞いていた私は涙を流す。

それは、十六夜咲夜になって初めて流した涙だった。

 

「もう、何泣いてるのよ、そういえば、あなたの泣き顔って初めて見るわね」

 

「だって、私、嬉しくて、涙が止まらないのよ。自分じゃ、どうにもできないわ」

 

涙をぬぐいながら霊夢と向き合う。

なんとか涙を止め、霊夢に顔を近づけていく。

霊夢も何がしたいのか分かったのか、目を閉じて顔を近づけてくる。

 

そして、私達は今年最初の月に見守られながら、初めてのキスをした。

 

 




ちなみに最後らへんのレミリアとの掛け合いで従者をやめる的なことを言ってたら即監禁ルートでした。
その話も考えましたが、完全に十八禁になるのでやめました。


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宴会です…裏

更新がものすごく空いてしまった……。
いや本当、ここまで遅れて申し訳ありません。
言い訳をするならば一月は本当に多忙でパソを開く時間もなかなか取れなかったのです……。

今回は宴会編を別視点、というか、美鈴と霊夢視点です。
長期にわたってちまちま書いてたせいかところどころグダっているかもしれませんが…。

次は萃夢想編、ではなく、何回か触れている吸血鬼異変です。もちろん咲夜さんは出ませんが、萃夢想編をやるにあたって必要かなと思ったので。


 

 

――美鈴視点

 

長すぎた冬が終わりをつげ、春らしく生命の息吹がそこかしこで感じられる。

生命を気で感じ取れる私にとってはこの季節が一番気持ちがいい。

そんな穏やかな外に比べ、紅魔館は珍しく慌ただしい雰囲気だ。

それも本日博麗神社で開かれる宴会に参加するためだろう。

私はすでに準備を終え、他の面々を待つだけなのだが、私以外に玄関に来ている人はいない。

レミリア様やフラン様は準備に時間がかかるのは仕方ないとしても、抜け目がないパチュリー様や基本きっちりしている咲夜さんが遅いのはどういうことだろう。

このまま待ち続けるのも暇なのでパチュリー様がいる図書館に向かうことにした。

 

図書館に着くと、咲夜さんとパチュリー様の話が聞こえてきた。

どうやらパチュリー様が行きたくないと駄々をこねはじめたらしい。

咲夜さんの表情はいつもと変わらないように見えるが、パチュリー様が行かないと言ったことで落ち込んでいるように感じる。

咲夜さんはなんだかんだで私達と一緒に行動したがるからなあ。本当、昔から甘えたがりなのは変わらないんだから。

でも家族の意思は尊重したいから諦めるって所かな?

パチュリー様は単に外に出るのが面倒なだけだと思うけどね。

仕方ない、ここは一肌脱ぎますか。

 

私は椅子に座って本を読んでいたパチュリー様を抱き上げる。

驚いたパチュリー様が暴れるが、痛くもかゆくもない。

 

「ちょっ、美鈴!何するの、離しなさい!」

 

「まあまあ、こういう催しに参加するのも面白いですよ?館の警備は妖精メイドに任せればいいですし、図書館の管理はこぁちゃんがやってくれます。それに――」

 

にっこりと笑みを浮かべ、パチュリー様に耳打ちする。

 

(最近、無駄な肉が付き始めたんじゃないですか?パチュリー様。外に出ればそれなりにいい運動になるでしょう?)

 

その言葉を聞いた途端、パチュリー様が硬直し、顔が真っ赤に染まる。

 

「なっ、美鈴、あなた、なんでそれを知って……!!」

 

「私の能力を忘れましたか、パチュリー様?身体に関することはこの館で一番だと思っていますよ」

 

慌てた様子でこちらを問い詰めるパチュリー様に笑顔のまま返答する。

 

私の能力である「気を使う程度の能力」は生物が無意識に外に発している気を感知することができる。

基本的に、気の量はその生物の実力に比例するために、この能力を使い、相手との実力を測ることできる。

そして、それ以外にも生物の中の気を探ることで、相手の体調なども分かってしまう。

例えば、足を怪我したのならば、その怪我を治そうと足に気が集中するし、風邪をひいて喉が痛くなれば喉に気が集中する。

健康体であったとしても、不摂生を続ければ気の流れが淀み、病の要因になりえる。

そして、気の淀むところ、そこが即ち「無駄な肉が付いたところ」なのである。

 

パチュリー様は咲夜さんが来るまでは捨虫・捨食の魔法のために食事を一切取らなかったために、たとえ図書館に引きこもり続けたとしても無駄な肉など付くはずもなかったのだが、咲夜さんがおやつを作り始めてからは、そのおやつだけを食べ続けていたのだから、脂肪が付くのも致し方ないだろう。

 

パチュリー様はしばらく唸っていたが、観念したのか準備をするから降ろせと言ってきた。

このままパチュリー様を弄るのも楽しそうだが、近くで咲夜さんが見ているので言われた通りに降ろす。

パチュリー様を見送った咲夜さんがパチュリー様に何を言ったのか聞いてきたが、秘密だと言ってごまかした。

咲夜さんは納得のいっていない顔をしながらも無理に聞き出す必要はないと判断したのか、そのまま図書館を出ていった。

もうそろそろレミリア様達の準備も整う頃だろう、と私は玄関に戻って待つことにした。

 

やがて全員の準備も終わり、出発する。

出発するとき、フラン様が「美鈴、おんぶしてー!」と言ってきたが、傘を持つために手を開けておかなければならないので、肩車で許してもらった。

フラン様は肩車でも十分満足したようで、初めての外の風景に歓声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

やがて神社に到着し、中に入ろうと全員が入口へ向かおうとしたら、咲夜さんに小さな影が突っ込んできた。

それは西洋人形で、咲夜さん以外の全員、特に私にとっては見覚えのあるものだった。

それに気が付いた私は反射的に戦闘態勢をとる。

人形が現れた後、すぐに神社から出てきたのはやはり見覚えのある人形遣いだった。

アリス・マーガトロイド。かつて、紅魔館が幻想郷に侵攻した時、私と闘い、勝利を収めた魔法使い。

彼女は咲夜さんと軽い挨拶を済ませ、私達の雰囲気に気付いて警戒を露わにする。

あの異変は咲夜さんが来る前の出来事なので、彼女が私達と人形遣いとの確執を知るはずがないのだが、何かを察したのか、咲夜さんは私達と人形遣いとの間に立つことでお互いに手を出せない状況を作り上げていた。

私達がしばらく睨み合っていると、不意に神社の方から霊力弾が一つ飛んできた。

それは咲夜さんのそばをかすめ、着弾した。

全員が弾が飛んできた方へと視線を向けると、博麗の巫女が不機嫌そうに立っていた。

彼女は戦うなら敷地外でやること、言うことを聞かないならどちらも退治する旨を告げ、さっさと中に入っていってしまう。

そのやり取りで毒気が抜けたのか、剣呑な雰囲気はどこかへ消え、レミリア様と人形遣いが謝罪し合った。

私も戦闘態勢をとくと、ふと咲夜さんの頭の上に乗っている人形と目があった。

人形はしばらく私を見つめていたが、やがて手を振ってきた。

私はそれを見て力が抜け、苦笑しつつ手を振り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

神社の中に入ると、咲夜さんはすぐに巫女の手伝いに厨房へと行き、他の面々も好きな所へと落ち着く。

レミリア様は座布団の一つに座り、出されていた茶菓子を食べ、パチュリー様は日陰で本を読み始めた。フラン様は神社に興味があるようで、探検へと出かけて行った。

私は壁に寄りかかりその様子を眺めていたのだが、やがて人形遣いがパチュリー様の本に興味を持ったらしく、話しかけていた。魔理沙が来るようになってから魔法談義が多くなってきたパチュリー様だが、初めての相手に若干戸惑っている様子だ。

その様子を見ていたレミリア様が面白そうに笑い、その騒ぎを聞きつけてフラン様が戻ってくる。

そんなことをしているうちに、他の参加者も続々と神社へとやってくる。

式神をひきつれた八雲、異変関係者兼盛り上げ役として呼ばれたプリズムリバー三姉妹、食べ物の匂いにつられてきたらしい宵闇の妖怪、ふわふわと入ってきて誰かを探しているようにあたりをきょろきょろしている春告精、そして今回の異変の首謀者である西行寺幽々子とその従者の魂魄妖夢。(魂魄妖夢は来てすぐに食材が入っているらしい袋を持って厨房へと向かったのだが、それからしばらく厨房が騒がしかった。何があったのだろう)

咲夜さんたちが準備をしている間、他の面々は思い思いの時間を過ごしていた。

フラン様は神社探検を終え、宵闇の妖怪と共に人形遣いの人形劇に夢中になっており、八雲紫は式を脇に従え、西行寺幽々子と談笑している。パチュリー様は魔理沙と共に持ってきた魔道書について話していて、プリズムリバー三姉妹は楽器の整備中。レミリア様はいつの間にか捕まえた春告精をいじって暇をつぶしている。そして私は好奇心に駆られたのか近づいてきた八雲藍の式を膝の上に乗せ、喉を撫でていた。

猫の式神らしい彼女は捕まえられた当初は抵抗していたものの、今ではゴロゴロと喉を鳴らしてもっと撫でろとばかりにじゃれついてくる。……それを見ていた八雲藍の視線が段々と剣呑になっていき、変な汗が出てくる。

 

レミリア様が春告精を弄ることに飽きて解放し、私が視線に押されて猫の式神を離そうか迷い始めたころ、咲夜さんが鍋を持って現れた。

彼女が鍋を机の上に置き、声をかけたことで各々座っていく。

その後すぐに魂魄妖夢と博麗の巫女がそれぞれ料理を持って現れ、席に座り、博麗霊夢が乾杯の音頭をとったことで宴会が開催された。

 

 

 

 

 

――霊夢視点

宴会が始まり、魔理沙たちが騒いでいるのを私は少し離れた場所から見ていた。

最初はどこも内輪だけで食べていたのだが、魔理沙が紅魔館の魔女に話しかけたのをきっかけに飲めや歌えの騒ぎに発展した。

私としては騒ぎに混ざって馬鹿をやるというのは苦手なのでこうして酒を飲みながら騒ぎを傍観しているのだ。

 

「隣、良いかしら?」

 

「あなたは……」

 

咲夜が持ってきていた「わいん」とやらを片手に隣に座ってきたのはレミリア・スカーレット。スペルカードルール制定後、そして私が初めて解決した異変の黒幕だった吸血鬼だ。

 

「どうにもああいう騒がしいのは苦手なのよ。だから抜け出してきちゃった。あなたもそうなのかしら?」

 

「まあね。それより、あんたのそのわいんだっけ?少し寄こしなさい」

 

「……まあ最初から一緒に飲もうとは思っていたけど、ここまではっきり寄こせと言われるとは思わなかったわ」

 

「それにしても変な光景よね。人間と妖怪が入り混じって宴会なんて」

 

私が呟くとレミリアは意外そうな顔をしてこちらを見る。

 

「あなたがこの宴会の主催者だと思ってたけれど?」

 

「主催は私だけどほとんど紫が面白がって話を広めたのが原因ね。宴会話を持ってきたのは魔理沙で、それを面白がって準備したのが紫よ。というか、知ってるものだと思ってたわ」

 

「なんで私が知ってるのよ?」

 

「一番最初に言い出したのが咲夜だからよ。魔理沙はそれを私のところまで来て話しただけ」

 

「咲夜が?」

 

「ええ、なんでも、『宴会はいつやるの、魔理沙?』って聞いてきたらしいわよ。魔理沙が最初人里で開かれるやつかと思って問い返したら、異変の関係者全員での宴会だって言うじゃない。魔理沙からその話を聞いたとき思わず一緒に笑っちゃったわ」

 

「あの子がそんなことをねえ……」

 

「咲夜って変なやつよね。何の疑いもなく人間と妖怪が一緒になって騒ぐ、なんてことを考えるんだから。普通はそんなこと思いつきもしないんだけどね」

 

「ふふ、咲夜は人間がいない環境で育ってきたから、普通の人間とは思考回路そのものが違うのかもしれないわね」

 

レミリアは笑いながら私の杯に赤い液体をそそぐ。

それを一気に煽ると湯呑をレミリアに突き出して催促する。

 

「良い飲みっぷりね。酒に強い人間は好きよ。咲夜ももう少し酒に強ければ晩酌に誘うのにね」

 

二杯目は味わって飲もうとちびちび飲んでいると、面白いものを見るような目で見てくる。

 

「へえ、咲夜はお酒に強そうに見えるけどね」

 

「普通の人間から見れば強い方ね。ただやっぱり妖怪と比べると弱いわ。酔いつぶれたところを美鈴に部屋まで送られているのをよく見かけるし。お酒を造るのは得意なのにね」

 

「……もしかしてこのお酒、咲夜が造ったの?」

 

「そうよ?最初は能力の実験のために造っていたみたいだけれど。いつの間にかビンテージワインを量産できるくらい得意になっていたの。地下室の一室をワインセラーに改造するくらいには気に入ったみたいよ?ワイン造り」

 

「意外な特技ねえ。今度あんたの屋敷まで飲みに行こうかしら」

 

「紅魔館は酒場じゃないのだけれど。まあ欲しければ10本くらいあげるわ。造りすぎてワインセラーからあふれそうだって咲夜が言っていたしね」

 

「保管しきれないほど造るなんて、やっぱりどこか抜けてるわね、あの娘。それにしても甘い味に誤魔化されそうになるけど意外に強いお酒ね、これ。おかげで体が火照ってきちゃったわ。私は涼みついでに縁側に行くけど一緒に来る?」

 

「遠慮しておくわ。ここで他の奴らの痴態を見るのもなかなか愉快だしね」

 

「悪趣味ね、あんた」

 

悪魔らしく笑うレミリアに溜息をついて縁側へと出る。

すでに外は闇に包まれており、空には三日月が浮かんでいる。

出る途中で取った日本酒を杯に注ぎ、月見酒を楽しむ。

しばらくそれを堪能していると後ろがなにやら騒がしくなった。

魔理沙が何か騒いでいるのかと振り向くとそこには予想に反してちびっこたちにもみくちゃにされている咲夜がいた。おかげでいつもはきちっと着ているメイド服が皺くちゃになっている。

身動きが取れなくなっているであろうその状況を見ていられなくなり、ちびっこたちを散らして救出する。

ちびっこたちの注意を他のものに向け、咲夜に杯を渡し、一緒に飲み始める。

だが、予想以上に度数が高かったのか、一口飲んだだけでむせこんでいた。

背中をさすりながら大丈夫か聞くと、酒には強くないという返答が返ってきた。どうやら本人も自覚していることらしい。

しばらく背中をさすっていたが、彼女の顔がだんだん赤くなってきて、目の焦点が合わなくなってきた。今の酒で酔いが回り始めたようだ。

咲夜は涼んでくると言って縁側に向かおうとするが、ふらついてしゃがみこんでしまう。

いつものしっかりしている彼女と比べるとどうにも危なっかしく感じてしまい、縁側まで肩を貸して移動する。

縁側に出ると涼しい風が吹いており、酒が入って熱くなっていた体を冷ましていく。

その風が心地よかったのか、目を細めて気持ち良さ気にしている咲夜を見て、いつもの番犬のような感じではなく、縁側で日向ぼっこをしている猫のような印象を受けた。

それを咲夜に言ってみるが、本人はこっくりこっくりと体を揺らしており、ぼんやりとした視線が私に向けられるだけだった。返事もしないところを見ると相当に酔い始めたのだろう。そうしているうちに、咲夜の体がこちらに倒れてきて、膝枕のような体制になってしまった。

ここで寝れば風邪をひくことは確実だが、神社の布団は酔いつぶれてしまった面子で埋まっている。

さてどうしたものか、とあたりを見渡すと、紫に酔い潰されて机に突っ伏している藍の尻尾が目に入った。

あれなら布団としてちょうどいいだろう。……橙やルーミアなんかも入り込んでいるし。

私は咲夜の体を抱き上げ(予想以上に軽くて驚いた。ちゃんとご飯食べてるのかしら?)藍の尻尾に降ろす。

尻尾の中に咲夜の体が入るように寝かせると、ぼんやりと開いた目でこちらを見てくる咲夜にお休みと頭を撫でる。すると、まるで子供のようににへらっと笑い、すうっと咲夜は眠りに落ちた。

 

「あんた、そんな顔もするのね」

 

最後の不意打ちの笑顔はなかなか強烈だった。普段澄ました顔をしている咲夜があんな無邪気な顔を見せるなんて思わなかったために顔が赤くなっていく。

 

とりあえず私はこの熱くなった顔を冷ますためにもう一度縁側へと向かうのだった。

 



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吸血鬼異変 前篇 (第三者視点)

はい、予告通り過去編です。
もちろん咲夜さんは出てきません。…最近主人公なのに出番少なくね?とか言ってはいけません(目そらし)

今回は前編で戦闘導入シーンです。本格的な戦闘は後篇です。

あとめっちゃ長いです。過去最長。


 

ある日突如湖の近くに血のように紅い館が出現した。

妖怪の賢者の監視すらも逃れて外の世界から転移してきたその館には、吸血鬼とその配下、そしてその友人の魔法使いが住んでいた。

吸血鬼は転移後、瞬く間に周辺の妖怪を殲滅し、陣地を盤石にした後、幻想郷をへと侵攻を開始した。

しかし、それをいち早く察知した妖怪の賢者は自らの式神、博麗の巫女、幻想郷の主要な妖怪たちと共に侵攻阻止のために紅魔館を急襲するのだった。

――これが後に「吸血鬼異変」と呼ばれる異変である。

 

――八代目御阿礼の子の手記より抜粋――

 

 

 

 

 

 

――正門前

 

ビシリ、と紅魔館全体を覆っていた結界にひびが入り、その直後に粉々になって砕け散る。

その瞬間、外壁の上を様々な人妖が飛び越えていく。

しかし、それを止めようと正門に佇んでいた妖怪「紅美鈴」が飛びかかる。

しかし、外壁を越えようとしていた人妖達の最後尾にいた者がそれを止めた。

人形遣い「アリス・マーガトロイド」だ。

 

「邪魔をしますか。ならばあなたを倒してから侵入者を排除します」

 

「できるかしら、貴方は人間の拳法を使うただの妖怪。私は魔法使い。拳で戦う貴方は魔法で戦う私に勝算があるの?」

 

「ありません。ですが、魔法だって万能じゃない。慢心は敗北を招きますよ?」

 

「そうね。確かに私は慢心しているわ。だけどね、それは――」

 

アリスが手を一つ振ると、彼女の周囲に魔方陣が出現し、そこから人間大の人形たちが現れる。

その数は十や二十ではきかない。百を超える、まさしく人形の軍勢とも呼べるものだった。

それを見ている美鈴は人形の数が増えるたびに眉間にしわを寄せていった。

 

「私が貴方を蹂躙できるだけの「数の暴力」を有しているからよ。貴方は、その拳法で私の人形達を全滅させることができるかしら?」

 

すっ、とアリスが右腕を前に突き出すと、人形たちは各々の武器を出現させ戦闘態勢をとる。

 

美鈴はふーっ、と一つ深呼吸をすると、気を全身に漲らせる。

彼女から発せられたプレッシャーは周囲を威圧する。

 

「侵入者の排除が私の役目です。勝算はありませんが、負けるつもりもありません」

 

「……貴方の名前は?妖怪さん」

 

「紅美鈴。紅魔館の門番をしています」

 

「そう。……魔法使いは可能性を求める種族よ。元々あってないような可能性を探索するのが私達魔法使い。貴方の可能性を私に見せて頂戴。私に勝利するという可能性をね」

 

ガシャン、と人形軍がランスや大剣を美鈴へと向ける。

 

「……上等!!」

 

美鈴は好戦的な笑みを浮かべ、吶喊した。

 

 

紅魔館の門番「紅美鈴」VS七色の魔法使い「アリス・マーガトロイド」対戦開始

 

 

 

 

「うーん、いまいちしっくりこないわねえ」

 

レティ・ホワイトロックは紅魔館の中庭でのんびりと歩いていた。

というのも、彼女は冬に活動する妖怪であり、冬以外の季節で活動すると実力・気力共に著しく減退するのである。

故に彼女は戦闘がすでに発生しているのにもかかわらず、こうしてぶらついているのだ。

 

しかし、そんな彼女を狙う者たちもいた。

紅魔館にもともと住んでいる人狼たちと、パチュリーによって召喚された悪魔たちだ。

人狼の一人が無防備にさらされているレティの背中へと飛びかかる。

 

「…あら?」

 

人狼が放った拳はレティの背中を貫通した。が、人狼が予想したように血をまき散らして死んでいく姿はそこには無かった。

 

「あらあら、いきなりこんなことするなんてレディの扱いがなってないわねえ、あなた」

 

予想外のことに人狼は腕を引き抜こうとするが、抜けない。それどころか腕から段々と人狼の体が凍っていく。

 

「こんなことしちゃうあなたには、おしおきよ?ふふっ」

 

やがて全身が凍りつき、氷像となった人狼はレティが人狼に触れたことでひび割れ、砕け散った。

 

砕けた人狼が欠片となって風に飛ばされていくのをレティが見つめていると、ぱちぱち、と拍手の音が響いた。

 

「お見事、お見事。あれは下っ端ですが、そこらの雑魚妖怪には負けぬほどの実力はあったのですがね。まさか一瞬で倒してしまわれるとは」

 

紳士のようないでたちをした男が拍手をしながらレティへと近づく。

その頭には黒い犬のような耳があり、彼が人狼だと分かる。

彼がレティに近づくのに合わせるように周囲に人狼と悪魔の集団が現れ、レティを取り囲む。

 

「あら、今度のは礼儀をわきまえているみたいね」

 

「当然です。レディに接するときは常に紳士的でなければなりませんからね。御嬢さん、私と一つ、お手合わせ願えますかな?」

 

「ええ、貴方となら楽しめそうだもの」

 

お互い柔和な笑みを浮かべながらも、闘気を高めていく。

レティの周囲は凍りつき、人狼の周囲は風が吹き荒れる。

 

他の人狼や妖怪はそれに合わせてレティに飛びかかろうとするが、それは上から降ってきた様々な妖怪に阻まれた。

 

「手ぇ貸すぜ、雪女!俺らも暴れたかったんだよおっ!」

 

まさしく妖怪、と言える姿をした彼らは紫の呼びかけに応じた無名の妖怪達だ。

彼らはそれぞれ悪魔や人狼に襲い掛かり、乱闘を開始した。

 

「あらあら、うふふ」

 

それを見ていたレティはまるで子供の喧嘩を見ているような笑顔を浮かべて妖怪達を見た。

だがその視線はすぐに目の前の人狼へと向けられる。

 

「随分余裕ですね、雪女さん」

 

「あら、そんなことないわよ?あなた強そうだもの」

 

軽口を交わしながらもお互いの隙を探り合う二人。

やがて緊張感が限界に達し、同時に仕掛けた。

 

こうして中庭でも戦闘は発生した。

 

冬の忘れ物「レティ・ホワイトロック」、幻想郷の無名妖怪軍団VS紅魔館人狼組、召還悪魔組 対戦開始

 

 

 

 

「ここは随分とカビ臭いわねえ。本なんかじゃお腹は膨れないのになんでこんなにあるのかしら」

 

「私に必要なのは食料ではなく知識だからよ。頭の足りない妖怪さん」

 

ふらり、と図書館を移動していくルーミアの独り言に答えたのはこの図書館の主、パチュリー・ノーレッジだった。

 

「外の結界はあの八雲紫とかいう妖怪に破られたのは分かるけど、貴方はどうやってここに入り込んだのかしら?ここの結界はまだ破られていないと思っていたけれど」

 

「結界を破る必要なんかないわ。私は宵闇の妖怪。闇があるのならばどこにだって現れるもの。ここは特に移動しやすかったわ。本当は地下の方に行きたかったのだけれど、あっちは烏たちが行ったしね」

 

パチュリーの疑問にルーミアは笑いながら影に指をさして答える。

 

「なるほど、闇への恐怖を基礎とした妖怪なのね、貴方は」

 

「正解♪私を倒せるなんて思わないことね。闇そのものを殺すことなんてあの隙間妖怪だって出来やしないんだから」

 

「確かにね。貴方を殺そうとするのはまず不可能でしょう。でも――闇を払う方法なら、いくらでもあるのよ?」

 

パチュリーがそういった瞬間、彼女の周りに魔法陣が展開し、炎の集団がルーミアを取り囲む。

しかし、炎が自身を包囲しているというのに、ルーミアの余裕は崩れない。

 

「こんなちゃちな火で闇を払うつもり?――甘いのよっ!」

 

ルーミアが叫んだ瞬間、彼女から伸びた闇が炎を飲み込む。

 

「この世に存在するものはやがて闇に飲まれるものばかり。なら、闇である私が食べられないものなんて――っ!?」

 

ルーミアが笑みを浮かべながらパチュリーを見た瞬間、彼女の笑みが凍った。

何故なら、その先には彼女の唯一の天敵が存在したからだ。

 

「炎なんかで払えるとは思っていないわ。闇を払うのはいつだって太陽よ」

 

後にスペルカードとなり、日符「ロイヤルフレア」と呼ばれることになる術式を発動したパチュリーは、自らの魔力で作り上げた偽りの太陽をルーミアへと放つ。

 

ルーミアは先ほどの余裕を消し去って太陽を回避しようとする。

しかし、動こうとした彼女をどこからか伸びてきた鎖が拘束した。

 

「ここは私の図書館よ。迎撃用の術式を用意していないわけがないでしょう」

 

魔力の鎖によって行動を阻害されたルーミアはどうにかして逃れようともがくが、対妖怪用に作り上げられた鎖はびくともしない。

 

(まずい……!鎖を『喰って』もあの魔法の回避に間に合わない!)

 

ルーミアはどうにかして逃れようと鎖を闇で食いちぎるが、太陽はもう目の前まで迫っていた。

 

「あ、ああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

闇の妖怪の叫びと共に太陽が爆散した。

 

それを見届けてパチュリーは一息つく。

 

「ふう、厄介な相手だったわね。でもこれで……!?」

 

突然、強大な妖力を感じて、パチュリーは先程ルーミアがいた場所を見る。

 

そこには、日傘を銃のように前に向け、ルーミアをかばうように立っている妖怪がいた。

 

「風見、幽香……!!」

 

パチュリーは予想外の相手に驚愕する。

幻想郷へと侵攻する際、パチュリーは幻想郷の主要な人妖を調査した。

その中でも実力者であり、最も情報が集まらなかったのが、彼女――「風見幽香」である。

花妖怪、植物を操る能力を持つ、八雲紫と肩を並べられる大妖怪。

集まった情報で信憑性があったのはこれだけ。他のものは矛盾していたり、推測だったりと曖昧な物ばかりだった。

しかし、情報から推測された人物像では、他人にやすやすと力を貸すほどお人よしではなかった。故に、彼女は今回の襲撃には参加していないだろうと思っていたのだが、そうではなかったようだ。

 

「あんたが私を助けるなんて、予想外だったわ、花妖怪」

 

ルーミアが幽香に吐き捨てる。

幽香はそんなルーミアを一瞥したが、すぐにパチュリーへと視線を戻す。

ルーミアは幽香を見ていたがすぐに立ち上がり、その手に闇の大剣を作り上げ、立ち上がる。

 

幽香がやったのは単純だ。

図書館の扉を結界ごとぶち破り、瞬時にルーミアの前へと移動し、太陽を妖力砲で相殺した。

 

それを理解したパチュリーは眉をひそめる。

幽香がやったことは単純だが、実行するには相当な実力が必要だ。

これだけで幽香の規格外さが充分理解できてしまう。

 

(やれやれ……、まだ戦いは続きそうね……)

 

パチュリーは溜息を吐くと、さらに激しくなる戦いへ備えて魔法を練り始めるのだった。

 

 

 動かない大図書館「パチュリー・ノーレッジ」VS宵闇の妖怪「ルーミア」、四季のフラワーマスター「風見幽香」 対戦開始

 

 

 

 

地下を天狗達が駆けていく。

本来ならばそれ以上の速さで飛ぶことができる彼らだが、天井があるこの場では飛べばぶつかる危険がある。

故に彼らは走っているのだ。この地下で唯一妖力を感じる場所へと。

 

やがて天狗達は地下の一番奥にあった扉を見つけ、その中に飛び込んだ。

扉を開けた瞬間、強大な妖力と狂気を感じ取り、先陣をきっていた天狗達が消しとんだ。

それを見た後続の天狗が思わず足を止めると、次陣の天狗達が炎剣によって薙ぎ払われた。

その一撃で体を完全に破壊され、血肉をまき散らす者もいれば、炎に包まれ、地面を転げまわる者もいる。

 

「くすっ、うふふ、あははっ♪」

 

可愛らしい声が地下に響く。

平時に聞けば和んでしまうであろうその声は、しかしこの場においては不気味さと恐怖を感じる代物でしかなかった。

その声を発している部屋の中心にいる少女、いや幼女と称するべきだろうか。

宝石のような羽を持ち、甘い赤色で統一された服、そしてとてもよく映える金髪をした彼女はとても楽しそうに笑っている。

しかし、天狗を消しとばし、炎剣を振るった後ではその笑顔が狂気に支配されていると嫌でも理解できる。

 

「ねえ、貴方達が今回お姉さまが用意したおもちゃ?」

 

笑顔のまま幼女――「フランドール・スカーレット」は天狗達へと問いかける。

その笑みには子供ゆえの純粋な殺意、例えるなら昆虫の手足をもぎ取って楽しむような、そんな殺意を殺意と理解していないモノが浮かんでいた。

 

その笑みに背筋が凍えるような恐怖を感じ取った天狗達は妖力により風を操り、ある者は空気を圧縮したもの、ある者は鎌鼬を発生させ、ある者はフランドールを吹き飛ばそうと暴風を起こす。

 

「うふふ、可愛い攻撃ね。きゅっとして、どかーん」

 

だがしかし、人間ならば絶対に逃れられず、確実に死に至らしめるであろうそれらは、フランドールが右手を閉じただけで消失した。

 

たった一つの動作で自らの攻撃を「破壊」された天狗達は一瞬だけ呆然としてしまう。

――そしてその一瞬が、彼らの命取りとなった。

フランドールは空いている左手で妖力弾を放つ。

そこらの木端妖怪とは比べ物にならないほど妖力が込められた弾幕は棒立ちになってしまった天狗達をいともたやすく屠っていった。

 

いち早く我に返ったのは、後続にいた天魔だった。

自分ならば目の前の吸血鬼と対等に戦える。だが、他の天狗達は一部を除いて戦闘の余波だけで死んでしまうだろう。

天魔は幻想郷の中でも指折りの実力者である。

だが同時に天魔は天狗という一大組織のトップなのだ。

何より大切なのは自分の部下達だった。故に、天魔はすぐに撤退命令を出した。

これ以上目の前の存在と戦えば部下たちの大半が死ぬのは目に見えて明らかだったためだ。

 

「撤退だ!今すぐ全員外へと逃げよ!」

 

撤退命令が出された途端、全員がそろって逃走する。

この時、パニックになって全員が扉に押しかけず、統率された動きで撤退するあたり、天狗達の錬度が伺える。

 

天魔は殿となりフランドールの猛攻を防ぐ。

攻撃に転じれば確実に後ろの部下をとらえてしまうであろう激しさに天魔は防御に徹するしかできなかった。

 

やがて天魔以外の全員が撤退し、天魔も逃げようとするが、フランドールはそれを許さない。

背中でも向けようものなら大怪我を負うか殺されてしまうだろう。

天魔自身、防御に徹したものの、防ぎきれなかった攻撃によって疲弊している。

対してフランドールは全くの無傷。このまま戦っても勝ち目はない。

腹をくくるべきか、と天魔が考えたその瞬間、地下室に霧が立ち込めた。

 

本来霧など出ないこの地下で霧が出たことにフランドールが訝しげに眉をひそめると、天魔を襲っていた弾幕があらぬ方向へと弾き飛ばされた。

その途端、天魔の目の前にフランドールから守るように霧が集まっていき、人型を形作っていく。

そして出来上がった人型は天魔のよく知る姿だった。

手足にから伸びる鎖、鎖に繋がれた丸・三角・四角のオブジェ、頭から生えた二本の角、酒の匂いがする瓢箪。

天狗が恐れ、上位の怪異として敬ってきた鬼の中でも四天王と呼ばれる実力者「伊吹萃香」がそこにいた。

 

「何だい、天魔。随分手こずってるじゃないか。手伝ってやろうかい?」

 

「はは、情けない姿を見せてしまいましたな、萃香様。ええ、手を貸していただけませんか」

 

「はっは、あんたのその天狗らしからぬ素直さは好きだよ」

 

「ねえ、あなたが次の相手?」

 

天魔と萃香が話していると、待っているのに飽きてしまったフランが会話に割り込む。

 

「ああ、すまないね。無視しちまったか。そうさ、私があんたの相手だよ。……天魔、あんたは逃げな」

 

「え?ですが、私はまだ戦えますが……」

 

「私としてはサシでやるのが好きなのさ。それに、今のあんたは足手纏いだ」

 

ピリッ、と萃香の妖力が天魔に触れる。それだけで天魔は萃香の命令に逆らう気力を失ってしまった。

 

「っ!分かり、ました」

 

天魔は傷をかばいながらも部屋を出る。

 

「あなたはさっきの人達みたいに簡単に壊れたりしないよね?」

 

フランは天魔を見送りながら萃香に問いかける。

 

「安心しな、鬼の頑丈さはあんたが思ってる以上に凄まじいからさ。あんたは私より自分の心配をした方がいい。今から相手するのは鬼の四天王なんだからね」

 

「うーん、よく分からないけど、簡単には壊れないってことだよね?だったら思いっきり遊んでも大丈夫だよね?」

 

「はっは、鬼を相手に遊びたい、ときたか。こりゃ面白い。いいね、思いっきり来な、吸血鬼」

 

「やった、じゃあ行くわよ!」

 

フランは炎剣を萃香へと振り下ろす。

萃香はそれを剛腕を以て迎えうつ。

二つの攻撃がぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃が地下へと響いた。

 

 

悪魔の妹「フランドール・スカーレット」VS小さな百鬼夜行「伊吹萃香」 対戦開始

 

 

 

 

 

「ようこそ、待っていたわ、妖怪の賢者、博麗の巫女」

 

紅魔館の最上階、そして最奥にある謁見の間。

そこにレミリア・スカーレットは傲慢に玉座に座していた。

 

そして彼女が迎えたのは幻想郷の管理者である「八雲紫」、その式神「八雲藍」、そして今代の博麗の巫女だ。

 

「聞かないでしょうけど一応言っておきましょう。レミリア・スカーレット。今すぐ戦闘をやめさせ、降伏なさ「断る」」

 

即答だった。紫の言葉に被るほど返答は早かった。

しかし紫はそれに反応することはない。予想できることだったためだ。

 

「紫」

 

紫の後ろで腕を組んで沈黙を通していた巫女が紫に声をかける。

紫が彼女へと振り向くと、巫女はゆっくりと歩を進めた。

 

「あの吸血鬼は交渉には応じない。私は様々な妖怪とやりあってきたからわかる。奴は自身の強さ、いや、自身の在り方に絶対の自信を持っている。そんなやつが素直に降伏するか?――答えは否だ」

 

「へえ、よく分かってるじゃない、人間。私のモノにならない?」

 

「生憎だが、私は博麗の巫女だ。誰よりも中立で、公平でなければならない。故に、私はどこにも所属しない。お前の勧誘は断らせてもらおう」

 

レミリアは巫女の返答に一瞬ポカン、とするが、すぐに笑い始める。

 

「あっはは!冗談に真面目に返すなんて面白いわ。本当、愉快な人間ね、貴方。ますます欲しくなったわ」

 

レミリアは立ち上がると、ふわり、と浮かび上がる。

それを見て紫、藍、巫女は構える。

 

「来なさい、今宵は満月。吸血鬼である私が全力を発揮できる日であり、十全に運命を操れる日よ。全ての決定権は私にある。選択を奪われたあなたたちは私にどう挑むのかしらね?」

 

天窓から入ってきた満月の光が、レミリアを照らす。

その姿はまさしく人を恐怖の象徴である吸血鬼の姿だった。

 

 

永遠に紅い幼き月「レミリア・スカーレット」VS幻想の境界「八雲紫」、スキマ妖怪の式「八雲藍」、博麗の巫女「博麗■■」 対戦開始

 




天狗達がやたらと弱く感じるのは、室内という状況のせいです。
天狗の強みは速さですし、室外ならもっと善戦したでしょう。


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吸血鬼異変 後篇 (第三者視点)

どうも、バレンタインの結果が散々で枕を濡らした作者です。
バレンタインなんていうリア充ご用達の行事なんてこの世から消え去ればいいんだ(レイプ目)

今回も長いです。しかも初めて一万字越えをするという。おかげで書き上げるのが大変でした。
あと多分に独自設定が含まれております。ご注意ください。


 

――正門前 

 

 

「はああああああああああああっ!!!!」

 

美鈴は迫りくる人形たちを拳で、蹴りで、時には頭で粉砕していく。

だが、圧倒的に手数が足りない。

美鈴が一体倒すたびに五体以上の人形が襲い掛かってくる。

しかも、ばらばらに攻撃してくるのではなく、それぞれが連携して仕掛けてくるので厄介この上ない。

相手が生物ではなく、人形ということも美鈴が押されている原因の一つだ。

気というものは攻撃するときに集中する。殴るならば拳、蹴るならば足、という風に。

だからこそ美鈴は相手の行動を先読みし、フェイントすらも見切ることが可能なのだ。

だが、人形達にはそれがない。

人形にあるのはアリスが操作するための魔力のみ。生物ではないために気は存在しないのだ。

 

確実に押し込まれていく美鈴が一直線に目指しているのは最後方で人形を指揮するアリスだ。

 

(このままでは確実に負ける。その前に彼女に辿り着かなければ……!!こうなったら!)

 

美鈴は一旦後ろに飛ぶことで人形達から距離をとる。

追撃しようと襲い掛かってくる人形達を見ながら美鈴は気を両手に集中させた。

 

「うらららららららららららららららららららららーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

次の瞬間、美鈴はラッシュを繰り出すことで気弾を前方へと乱射する。

気弾に直撃した人形達はあっという間に壊れていき、人形達が形成していた戦線が崩れた。

美鈴はそれを見逃さずに崩れた箇所へと突っ込む。

人形達はそれを止めようとするが、美鈴が手に纏った気によって吹き飛ばされていく。

やがて、美鈴は人形の防衛線を突破し、アリスの眼前まで来た。

そして、アリスを守る近衛人形達を薙ぎ払った。

もうアリスを守る人形はいない。

 

(勝った!)

 

そう、いない、はずだった。

 

「甘いわね。紅美鈴」

 

美鈴がそれを察知できたのは偶然だった。

突然月の光が遮られ、周囲が暗くなったのに気が付いた美鈴はアリスを警戒しつつも上を見上げる。

そこには、100メートル以上の巨大な人形が拳を振り上げて美鈴を攻撃しようとしている姿があった。

 

「~~~~~っ!!!????」

 

とっさにアリスへの攻撃を中止し、回避する。

そのおかげかすんでのところで巨大な拳を避けることができた。

 

「ゴリアテ。それがこの人形の名前よ。まだ試作段階だから出すつもりはなかったのだけれど、貴方は十分本気を出す相手だと認識したわ。だから――全力で叩き潰す」

 

アリスの指示によって迫るゴリアテ人形を美鈴は冷や汗を流しながらも見続ける。

目をそらせば叩き潰される。そんなプレッシャーが目の前の巨大人形にはあった。

 

美鈴はゴリアテが右拳を地面にたたきつける瞬間に回避し、その大きい腕を駆け上がっていく。

ゴリアテは美鈴を振り払おうと右腕を振り回すがすでに美鈴は肩の部分まで登っていた。

 

「すううううううっ、はああああああああっ、はあっ!!!!!」

 

美鈴は一度大きく深呼吸をすると、ゴリアテの肩を全力で殴った。

それによってゴリアテの右肩は破損し、ゴリアテ自身もバランスを崩し、転倒した。

ゴリアテが転倒した瞬間、美鈴は素早く地面に飛び降り、アリスへと殴りかかる。

アリス自身の戦闘能力はさほど高くはない。だからアリスに美鈴の攻撃を避ける術はなかった。

美鈴の拳がアリスに突き刺さる――そう思われた瞬間、美鈴は横から強い衝撃を受けて吹き飛ばされ、紅魔館の外壁に激突し、気絶した。

 

「危なかったわ。もう一体のゴリアテがいなかったら負けていたわね」

 

そう呟くアリスの隣に現れたのは先程美鈴が打倒したゴリアテ人形と瓜二つの巨大人形。そう、アリスが用意していたゴリアテ人形は二体存在したのだ。

 

ゴリアテ含む人形達を魔方陣によって還したアリスは気絶している美鈴をじっと見つめる。

 

「貴方の可能性、見させてもらったわ。機会があればまた会いたいわね、美鈴」

 

アリスは簡単な治癒魔術を美鈴にかけて大体の傷を治すと、魔法の森へと帰っていくのだった。

 

 

紅美鈴VSアリス・マーガトロイド 決着 

勝者:アリス・マーガトロイド

 

 

 

 

――紅魔館 中庭

 

中庭はまさしく戦場だった。

ムカデのような形をした妖怪が人狼の首を食いちぎり、その妖怪を人狼ごと焼き払う悪魔。中にはただ殴りあっている悪魔と妖怪もいる。

混沌としたその戦場である一角だけがぽっかりと開き、そこで戦う二つの影。

レティ・ホワイトロックと人狼組のリーダーである。

レティが能力で吹雪を起こせば、人狼は遠吠えをすることで口から妖力を発し、その吹雪を吹き飛ばす。

レティが氷剣を作り上げ斬りかかれば、人狼は鋭い爪を以て迎え撃つ。

 

「あら、予想以上に強いのね、貴方」

 

「見くびってもらっては困ります。ここの主人とは比べられませんが、まがりなりにもここの人狼を統率しているのは私なのですよ?」

 

言葉を交わすごとに同時に攻撃も交わる。お互いの必殺の力を込めた攻撃はしかしお互いに通らない。

 

何檄か攻撃を交わした後に、レティは人狼との距離を開け、あくびを一つする。

人狼はそんなレティを見て苦笑した。

 

「あくびとは随分余裕ですな。それほど私との戦いは退屈ですかな?」

 

「いいえ、違うのよ。私は普通冬に活動するから冬以外の季節に活動すると消耗が激しいの。そろそろこの戦いも終わりにしましょう狼さん。私もう眠くて」

 

「そうですか、ならばあなたを殺して幕引きといたしましょう!」

 

人狼の姿は人間に近いものだったが、徐々に狼のそれへと変貌していく。

この姿こそが人狼としての本気の姿であり、全力を発揮できる姿なのだ。その分消耗が激しくなるため最後の切り札となってしまうのだが。

 

「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!!!」

 

人狼は高らかに吠えると、レティへと突進する。

そのスピードは先程の何倍も早く、瞬く間に人狼はレティへと肉薄する。

爪を振り上げ、後はレティを切り裂くのみ。だが、次の瞬間、人狼が感知できたのは、凍りついた自らの肉体と、柔らかに、しかし残酷に笑うレティの顔だけだった。

 

「おい、雪女。今のはなんだったんだ?狼と悪魔どもが一斉に動きを止めちまったが」

 

氷像となり、砕け散った人狼をレティは眺める。

そんな彼女に突然の出来事で何が起こったのか分からなかった猿の妖怪が尋ねる。

彼が見たのは、戦っている途中で突然動かなくなった人狼達と悪魔達。

そのおかげで特に労力をかけずに人狼組と悪魔組を倒せたのだが。

他の妖怪も何故か分からなかったようでレティを見つめている。

妖怪達の視線を受け、ふふっ、と楽しそうに笑うレティ。

 

「私がやったのは思考の凍結よ。きっと彼らは何も分からないまま死んでいったでしょうね」

 

そう、レティが為したのは思考の凍結。凍結された相手は何も感じることもできないまま全ての行動を封じられる。凍気を操る能力を持つ彼女だからこそできる芸当である。

しかも彼女は無差別に凍結するのではなく、敵のみを選別して凍結した。これだけでレティがどれ程の実力を保持しているかは想像するにたやすい。

 

「やっぱてめえはバケモンだよ、雪女」

 

猿の妖怪は顔を引き攣らせながら言葉をこぼす。

 

「あらあら、レディに向かってバケモンなんて、失礼よ?」

 

レティは猿の妖怪をたしなめながらくすくす、と朗らかに笑うのだった。

 

 

レティ・ホワイトロック、幻想郷の無名妖怪軍団VS紅魔館人狼組、召還悪魔組 決着

勝者:レティ・ホワイトロック、幻想郷の無名妖怪軍団

 

 

 

 

 

――紅魔館 図書館内部

 

 

「さっさと落ちなさい、魔法使い!」

 

「くっ……!!」

 

ルーミアの放った闇がパチュリーの障壁を破り、服を斬り裂く。

ルーミアの闇はパチュリーの魔力を食い破ることができるため、パチュリーが攻撃すれば闇の防御により魔法自体を喰われ、防御に徹すれば先程のように障壁を食い破られる。

しかし、ルーミア一人ならばパチュリーもこれほど苦戦することはなかっただろう。

大魔法使いとも呼べるパチュリーの実力ならば、ルーミアを一時的に拘束し、先程行ったような偽の太陽をぶつけることくらいたやすいことだ。

それができないのは、ルーミアの後ろで援護射撃を行っている風見幽香の存在のためである。

援護射撃とはいうものの、その威力はまさしく必殺。

掠りでもすれば撃墜されることは目に見えて明らかだった。

 

(あまり使いたくなかったけど、仕方ないわね)

 

このままでは一方的に攻撃されてやられるだけだと判断したパチュリーは切り札を使う。

パチュリーの周囲に七つの魔石が顕現する。

「賢者の石」これこそがパチュリーの研究の集大成であり、彼女の切り札だ。

ルーミアは現れた賢者の石を見て怪訝な顔をしたものの、問題にはならないと判断して攻撃する。幽香も砲撃を放つことでパチュリーの回避を妨害した。

手の形をした闇がパチュリーへと襲い掛かる。

しかしその攻撃は賢者の石から放たれた七つの砲撃の一つによってかき消される。

残る六つの砲撃は幽香の砲撃を打ち消しつつ幽香へと向かったが、それらは連続で放たれた幽香の砲撃によって相殺された。

しかし、その攻撃に重ねるように賢者の石からの砲撃。

ルーミアは自分の前に盾のように闇を形成し、砲撃を「喰い」止める。

幽香は妖力をのせて傘を一振りすることで砲撃を吹き飛ばした。

だが、それぞれのその行動は今この場面においては悪手だった。

二人が防御に回ったことでパチュリーに余裕を与えてしまったのである。

仮にこれが並の魔法使いだったならば、せいぜい下級の魔法を使う程度の猶予しかなかっただろう。

しかし、パチュリーは紛れもなく最高クラスの魔法使いだ。だからこそ、高速詠唱を用いて、さらに大規模な魔法を重ね掛けすることも可能なのである。

二人のうち、最初にそれに気が付いたのは幽香だった。

賢者の石への魔力供給が先程よりも増加していることに気が付いた幽香は瞬時にルーミアのもとまで駆けつけ、彼女を姫抱きすると、高速でその場から離脱した。

 

「ちょっ!?なんなのよ、いっ、た、い……」

 

ルーミアは最初こそいきなり抱きかかえられたことに抵抗したものの、パチュリーの方へと目を向けて、言葉を失った。

そこには、最大限まで魔力供給を受けたことで発光している賢者の石に、さらにもう一組の賢者の石を生成しているパチュリーの姿があったためである。

ルーミアが顔を引き攣らせて固まったと同時に、パチュリーは二組の賢者の石から魔砲(誤字ではない)が放たれた。

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!

 

もし仮に、この戦場に現代兵器の知識を持った人物がいたならば、パチュリーの攻撃を見てこう表現するだろう。「まるで爆撃のようだ」と。

賢者の石から連続で放たれた砲撃は、正確に逃げる二人へと迫る。

幽香はそれを一時的に妖力による浮遊を解除し、一瞬の自由落下によって回避する。

 

「宵闇の妖怪、能力を使って闇をまき散らしなさい。一時的な妨害にはなるわ」

 

「え?あ、分かったわ!」

 

突然の出来事が連続で起きたことで思考停止していたルーミアは、幽香の言葉で我に返る。そして、幽香の言った通りに闇をまき散らすと、正確に二人を追っていた砲撃群がそれぞれあらぬ方向に行き、爆散した。

砲撃は二人の妖力を辿って追尾していたのだが、ルーミアの闇がフレアのような働きをしたことで追尾性を失ったのだ。

 

「どうするのよ?このままじゃ削りきられるわよ?私の闇も一度に喰える量には限界があるし」

 

「私にいい考えがあるわ。耳を貸しなさい」

 

本棚の物陰に隠れた二人は、一旦着地し、話し合う。

ルーミアが幽香の口元に耳を寄せると、幽香が「いい考え」を教える。

最初こそは神妙に聞いていたルーミアだったが、聞いていくうちにだんだんと顔を青ざめさせていく。

 

「そ、それ、本当にやるの?」

 

「ええ、貴方にしかできないわ、頑張って」

 

にっこり、と笑った幽香の顔は天使のように美しかったが、作戦を聞いたルーミアにとっては悪魔の笑みにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

「見つけたわ、まったく、厄介なものをばらまいて」

 

やがてパチュリーが呆れ顔で現れ、再び二人に砲撃を放つ。

 

「それじゃあ、作戦通りに行くわよ?」

 

「え、ちょ、ま、心の準備だけでも……、おおおおおおおおおおっっっ!!!!!????」

 

幽香はルーミアの言葉に聞く耳持たずに彼女をパチュリーへと無駄に綺麗なフォームで投擲した。

 

パチュリーは冷静に砲撃の照準をルーミアへと定め、放つ。が、ルーミアは闇を全身に纏うことで砲撃から身を守る。

それにパチュリーは一瞬眉をひそめたものの、最初に放ったものより二回りほど小さい太陽をルーミアへと放った。

しかし、その太陽は幽香の砲撃によって消滅した。

 

「!?」

 

ルーミアは、驚いて動きを止めているパチュリーへと激突し、パチュリーにしがみつくことで拘束する。

パチュリーはすぐにルーミアを振りほどこうとするが、ガクン、と自身の魔力が減少したことで、それはかなわなかった。

 

「くっ、この……!私の魔力を……!」

 

ルーミアはパチュリーの魔力を喰うことで、パチュリーの行動を阻害した。

そして、魔力が供給されなくなったことで賢者の石が消滅する。

パチュリーは、どうにかしてルーミアを離そうともがいているうちにあることに気が付く。風見幽香はどうしているのか、と。

すぐに視線を下に向け、幽香を見ると、彼女はすでにチャージを完了させ、照準をこちらへと定めていた。

 

(いえ、まだこちらには宵闇の妖怪がいる。仲間を巻き込むはずが――)

 

幽香がパチュリーの思考を嘲笑うかのように妖力砲を放った。

その一撃はパチュリーはもちろんルーミアも巻き込み、図書館の天井に穴をあけて幻想郷の空へと消えていった。

中庭でそれを目撃した雪女は「綺麗ね~」と言って周りの妖怪達を呆れさせたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

風見幽香が気絶したルーミアを連れて紅魔館を出て行った数十分後、パチュリーは目を覚ました。

図書館は戦闘の余波でボロボロだった。魔法で保護していた本棚はともかく、壁や床はめくれ上がり、廃墟さながらになっていたし、天井には夜空が見える大穴が開いているときている。

さすがのパチュリーもこの惨状には溜息を吐くほかなかった。

パチュリーがこの状態をどうしようかと悩んでいると、ガラリ、と瓦礫が崩れる音がした。

そちらへ目を向けると赤い髪の悪魔がいた。

そういえば悪魔の軍勢を呼び出したときにこの明らかに戦力外な悪魔も混じっていたのだったか、とパチュリーは思い出す。

とりあえずこの惨状の整理を手伝わせよう、とパチュリーはぷるぷると涙目で震えているその小悪魔へと歩を進めるのだった。

 

パチュリー・ノーレッジVS風見幽香、ルーミア 決着

勝者:風見幽香、ルーミア(ルーミアは戦闘不能)

 

 

 

 

――紅魔館 地下室 フランドール・スカーレットの部屋

 

 

ドッゴオオ大オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!

 

轟音が部屋の中に響く。

吸血鬼と鬼が法外な力をぶつけ合っているのだから当然と言えば当然だ。

戦況は拮抗していた。

純粋な身体能力としては鬼である伊吹萃香の方が上なのだが、吸血鬼特有の異常なまでの再生速度が萃香を苦しめていた。

腕を、脚を、腹を、胸を、そして頭を何回、何十回と潰そうとも瞬く間に再生し、萃香に襲い掛かってくる。

無論萃香もこのような再生能力を保持した妖怪と戦ったことがないわけではない。

故に再生能力持ちとの戦い方は萃香も熟知していた。

しかし、それらの妖怪とフランドールとの違いもある。

まず一つは妖怪としての基礎能力、そしてもう一つが萃香が攻めあぐねている一番の要因なのだが、異常なまでの狂気である。

妖怪と言えど痛覚は存在する。それは無論自身が生き残るための機能であり、いくら再生能力があれど傷つけられれば怯むし、死を目前としたことで恐怖する。そして怯んだ瞬間に再生能力を上回るほどの攻撃を加えることが再生能力持ちへの最善の対処法だ。

しかし、フランドールにはそれがない。むしろ痛みすらも娯楽のように感じている節すらある。

今この時も右腕が萃香とぶつかり合ったことで消し飛んだというのに、狂気に彩られた笑みを浮かべて左腕で殴り掛かってきている。

さすがの鬼の頑丈さでも吸血鬼の一撃をもらえばただでは済まない。少なくとも当たった箇所は抉れてしまうだろう。

それはまずいと萃香は疎となって攻撃を回避する。

もはや勝負を初めて何十回と繰り返されたことだ。さすがの萃香もこれほどまでに相手が消耗しなければ冷や汗の一つもかく。

 

(まずいねえ。このままじゃじり貧だ。かといって打開策もなし。まいったまいった)

 

「うふふ。すごいわ、貴方。ここまで生き残ったのは貴方が初めて。きっと貴方なら私の本気を受けても壊れないと思うの。だから、もっともっと遊びましょ!」

 

内心焦っている萃香の心を知ってか知らずかフランドールは炎剣を作り上げる。

後に北欧神話の魔杖の名を冠することとなる炎剣は、密閉空間である地下の酸素を燃焼させ、温度を際限なくあげていく。その暑さたるや、基本的に暑さ寒さをものともしない鬼である萃香ですら汗をかくほどだった。

その炎剣の一撃を受ければほとんどの者は融解し、灰も残らないであろうことは想像に難くない。

無論萃香でさえその例外に漏れることはないだろう。

そして炎剣は振るわれる。萃香へと狙いを定めて。

 

(疎になって避け――いや駄目だ。あれじゃどれだけ疎になっても蒸発する。ならっ!)

 

萃香へと炎剣が当たろうとした直前、炎剣は雲散霧消した。

萃香が能力を使ってフランドールの魔力を散らしたためである。

 

「あれ?」

 

突然のことに反応しきれずにフランドールは大きく空振ってしまう。

その隙を萃香が見逃すはずもなく、能力によって周囲の力を右腕に集め、フランドールの胴へと叩き込む。

その一撃は胴の左半分を抉り取って、フランドールを壁へとめり込ませた。

しかし、壁を壊して再び萃香に襲い掛かってくる頃にはその傷は完全に癒えていた。

萃香はその攻撃を疎となることで回避する。

 

「むー、また霧になって避けるの?それならこっちだって……キュッとして、どかーん!」

 

フランドールが右手を握る動作をすることで能力を行使する。

能力によって為された破壊は霧となっている萃香の一部を空間ごと削り取った。

 

「がっ、ああああああああああ!!!???」

 

疎となった状態の自分を攻撃されるとは思わず、痛みに驚いた萃香は能力を解除してしまう。

 

「あはっ♪まだまだあっ!!」

 

姿を現した萃香にフランドールは狂った笑顔で殴り掛かる。

 

「ちいっ!!」

 

萃香は傷を抑えながらもそれを回避し、妖力弾で牽制する。

しかし、フランドールは、怯むことなく弾幕に突っ込み、まっすぐ萃香めがけて攻撃を仕掛ける。

 

「あれ?」

 

だが途中でフランドールが疑問の声を上げて倒れる。

足を吹き飛ばされ、それが今までのように再生しなかったためだ。

 

「ん~?なんで治らないの?」

 

「私の能力のちょっとした応用さ。まさかこんな戦い方をしなけりゃならないなんて思わなかったけど」

 

不機嫌な顔で萃香がフランドールへと返す。

フランドールの再生能力は吸血鬼の特性の一つであるが、それは多大な妖力と引き換えに起こしている。萃香はそこへ目を付け、疎の能力を使って妖力を散らすことでフランドールの再生を一時的に封じたのだ。

しかしこのような小細工じみた方法は鬼である萃香にとっては不本意な物であり、不機嫌になっている。

 

「ん~、そっかあ。私の負けかあ。今度遊ぶときは勝つからね」

 

フランドールは自分がうまく体を動かせないことが分かると、あっさりと抵抗をやめ、満足した表情で床へと寝転がる。

しばらくすると寝息が萃香の耳に届き、萃香は苦笑した。

 

「敵の前で寝るとは随分豪胆だねえ。いや、私はただの「遊び相手」だったか。鬼相手にそこまで言ったのはあんたが初めてだよ。こんど遊ぶときはもっと思い切りやりたいもんだ」

 

萃香はフランドールをベッドの上まで運ぶと、霧となってその場を離れるのだった。

 

 

 

フランドール・スカーレットVS伊吹萃香 決着

勝者:伊吹萃香

 

 

 

 

 

 

――紅魔館 最上階 レミリア・スカーレットの部屋

 

 

部屋の中を弾幕が埋め尽くす。

弾幕を放っているのは八雲紫に八雲藍。彼女たちが放つそれはまさしく一撃必殺、絶対命中のもの。

並みの妖怪ならば掠っただけでも消し飛ぶであろう弾幕はしかし、標的であるレミリア・スカーレットを捉えることはない。

抜ける隙間すらないはずの弾幕は、まるでそれが当然であるかのようにレミリアの目前で逸れていく。

本来ならばありえない偶然。しかしレミリアは自身の能力によって奇跡のような確率を確実に引き起こす。「弾幕全てが全く当たらない」運命を。

 

(彼女の能力……、想像以上に厄介ね)

 

紫は内心焦りを感じ始めていた。

何故なら彼女たちの攻撃が全く当たらないためだ。

弾幕は全てが逸れて、紫の能力であるスキマですらレミリアのすぐ近くには発生させることができない。

式神である藍はもっとひどい。彼女の能力は計算に依存するものであるが故に運命という不確定要素を引き起こすレミリアの能力と最悪なまでに相性が悪いのだ。

博麗の巫女はどうにかしてレミリアに近づこうとしているが、紅い槍のような弾幕に阻まれて近づくことができない。

今代の博麗の巫女の難点はそこだ。彼女は霊力を外に放つ才能が全く無かったのである。

そのため、霊力弾を使うことができない彼女の戦闘スタイルは「近づいてぶん殴る」という形で完成していた。

霊力を纏うことで身体機能を著しく上昇させる術を使っているものの、途切れることのない弾幕を突っ切ることはできなかったようだ。

 

「どうした?まさかこの程度というわけではないだろう?」

 

退屈そうに声をかけるレミリア。彼女にとっては自分が弾幕に当たらず、また、自分の周りで能力が発動しないように運命を操作することは満月の夜である今ならば呼吸することよりも容易いことだ。

後はただ弾幕を放つだけ。避ける必要もない彼女にとってはこの上なく退屈な時間だった。

 

「くっ、なめるな、吸血鬼ぃっ!」

 

戦況が不利であることに焦燥を感じている所に挑発がきて、いつもならば冷静でいられる藍が激昂する。

更に弾幕の濃度を上げ、レミリアへと放つが、動くことなく避けられてしまい、藍の怒りがさらに上がる。

 

「落ち着きなさい、藍。焦ったところで何もならないわよ?むしろ思考が鈍くなるだけ」

 

「紫様、ですがっ!」

 

「いいから。今から彼女の周囲に結界を張るわ。あなたも手伝いなさい」

 

「は、い…」

 

窘められて声を荒げる藍だったが、紫からの命令でいったん感情を抑える。

そして紫と同時にレミリアの周囲に結界を張った。

 

「む?結界か。こんなもので私を閉じ込められるとでも――」

 

レミリアの言葉の途中で結界から内部に向かって弾幕が放たれる。

それを見てレミリアがつまらなそうに溜息を吐く。

 

「やれやれ。弾幕など私には意味がないといい加減分かればいいものを」

 

レミリアの運命操作によってやはり弾幕はレミリアから逸れていく。

 

「もういい。この程度ならば早々に死ね」

 

レミリアは右手に紅の槍を顕現させる。

それは弾幕として放たれていた物とは込められている妖力の量と密度が段違いに別物だった。

レミリアは禍々しく発光するその槍を妖怪の賢者へと狙いを定めたところで気が付いた。

 

(む?あの博麗の巫女とやらはどこに――っ!!上か!!)

 

博麗の巫女の姿が見えないことに気が付いた瞬間、天井近くに霊力を感知する。

見上げると、霊力を込めた拳を振り上げた巫女がいた。

紫は藍と共に弾幕結界を放つと同時にレミリアの能力が及ばないところに博麗の巫女をスキマで転送していたのだ。

 

「だが、残念だったな。奇襲は気が付かれてしまえば意味がない!」

 

レミリアは紅の槍の照準を紫から巫女へと変更し、投擲する。

空中にいる巫女には避ける手段はなく、迎撃しても押し負ける。

レミリアは勝利を確信した――が、それは巫女が振るった拳によって砕かれた槍を見て霧散した。

 

「な、にぃっ!?」

 

レミリアは槍を砕かれたことで驚愕しながらも、運命操作をすることで拳が当たらないようにする。

だが、外れるというレミリアの思いを嘲笑うかのように巫女の拳がレミリアの頬へと突き刺さった。

 

「が、ああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!??????」

 

まさか攻撃が当たると思っていなかったレミリアはもろに吹き飛び、床へと叩きつけられた。

 

(何が起きた?私の運命操作は完璧だったはずだ。なのに何故あの巫女は私に攻撃を当てられる?)

 

困惑して動きが止まった刹那、レミリアは三人に零距離まで詰められていた。

 

「さすがのあなたでもこの距離からの弾幕には当たるでしょう?敗北を認めなさい、レミリア・スカーレット」

 

紫が扇子をレミリアに向け、言い放つ。

さすがのレミリアでも零距離からの弾幕を避ける術はない。しかも、謎の攻撃をした巫女まで近くにいるのだ。レミリアの負けは決定的だった。

 

「ああ、そうだな、私の負けだ。だが分からんことがある。そこの巫女、どうやって私に攻撃を当てた?運命を操作していた以上、貴様の攻撃は失敗するはずだったのだが」

 

博麗の巫女はしばらく逡巡していたが、やがて口を開いた。

 

「私の能力は「ありとあらゆるものを吹き飛ばす程度の能力」。お前が自分の勝利する運命を引き寄せていたのなら、私はそれを吹き飛ばした。それだけだ」

 

巫女は攻撃の種を明かし、沈黙した。

言葉を引き継ぐかのように紫が口を開く。

 

「とりあえず貴方が敗北した以上、幻想郷への侵攻は止めてもらうわ。そして幻想郷へ迎合するならそれなりの約定を――」

 

「そうだな、私が負けた以上、侵攻は止めよう。だが貴様の条件など飲むつもりはない」

 

レミリアは紫の言葉を切って捨てる。

そのことに紫が眉をひそめる。

 

「そうなると、貴方達はこの館に閉じ込めておかざるを得ないけれど、いいのかしら?」

 

「構わん。元より幻想郷に辿り着くことが目的だったからな。侵攻などついでにすぎん」

 

紫が脅しじみた言葉を吐くが、レミリアはそれを了承する。そしてそのまま博麗の巫女へと話しかけた。

 

「貴様もそれで構わんな、博麗の巫女」

 

「私の役目は幻想郷の調整だ。お前が暴れんと言うならば私からは何もない」

 

巫女は淡々と返事をする。むしろ異変が終わった以上、興味がないようにも見えた。

 

「ではな。私は疲れたから少し休む。詳細については後日送れ。不満がなければ了承の返事を使い魔で送る」

 

そう言ってレミリアは部屋を出て行ってしまう。

それに続いて博麗の巫女も出口へと向かう。それを見て紫が声をかけた。

 

「あら、帰るのなら送るわよ?スキマで」

 

「いらん。お前のスキマは見ていて気持ちのいいものでも無いしな。それに妖怪とあまりつるむわけにもいかんだろう」

 

「相変わらず固いわねえ、貴方は」

 

巫女は返事もせずに出ていく。それを見て溜息を吐いた紫は自らの式神へと声をかけた。

 

「じゃあ、私達も帰りましょうか、藍」

 

「はい、かしこまりました」

 

藍が返事した瞬間、二人の姿はスキマの中へと消えていった。

 

 

誰もいなくなった部屋を、満月の光だけが煌々と照らしていた。

 

 

 

レミリア・スカーレットVS八雲紫、八雲藍、博麗■■ 決着

勝者:八雲紫、八雲藍、博麗■■

 




今回出た博麗の巫女、原作で言うところの先代巫女ですね。
もうこれ以降出ることはないと思うので設定だけ載せておきます。
名前が■■なのは作者がいい名前を思いつかなかったせいです。

名前:博麗■■

歴代巫女で唯一肉弾戦を主体としている。
鍛え上げられた肉体は鬼すらも感嘆の声を上げるほど。
性格は寡黙で冷静。
博麗の巫女の仕事は幻想郷の調停だと考えており、秩序を乱す者は人間、妖怪問わず叩きのめす。
誰かに肩入れすることはなく、常に中立。幻想郷を守る、という思想の点で紫と行動することはあるものの、紫に肩入れすることもなければ、必要なければ話そうともしない。
だがそんな姿勢が人里の住人には好ましく思われていたようで、時折差し入れが届いていた模様。
容姿はMUGENの先代巫女を思い浮かべてもらえればいいかも。
能力は「ありとあらゆるものを吹き飛ばす程度の能力」物理的な物から概念的なものまで吹き飛ばせると言えばチート臭いが、実は拳を振るうというワンアクションが必要なうえに拳を振るった1メートル先までしか効果を及ぼせないため、使い勝手はあまりよくない。


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人里は活気がありますねえ…

どうも、最近アーマードコアvdにはまっている作者です。
火力による蹂躙は基本。(←脚部タンクで右がオートキャノンに左がキャノンの火力厨)

今回は萃夢想導入編。
といっても前半が全く関係のないシーンになりましたが(汗)



 

 

 

本日も晴天なり。

とある事情で短かった春もそろそろ終わり、夏を感じさせるものが見えてくる今日この頃。私は初めてとなる人里を訪れていた。

紅霧異変前までは紅魔館を出ることはできなかったし、春雪異変までは館の備蓄も豊富だったために行く必要がなかった。

だが春雪異変のために予想以上に備蓄の量が減り、こうして買い出しと相成ったわけだ。

(ちなみに紅霧異変以前の備蓄供給は紫がやってたのだとか。レミリア様に教えてもらわなかったら気付かなかったと思う)

人里に入ると、予想以上の活気が私を包む。

集落みたいなものをイメージしてたけど、江戸時代の城下町が一番近いかもしれない。

 

とりあえず食料と生活必需品、あと(主に私用の)医療品を買っていかないと。

医療品といえば永遠亭が最初に思い浮かぶけど、この時まだあったっけ?

 

一番最初に見つけた「霧雨商店」に入り、商品を見る。

どうやら値段などは外の世界とさほど変わらないらしい。幻想入りした人達への配慮だろうか?とにかく半年分の食料と必需品を買わないと。

生ものは私の能力でどうにかできるからいいとして、医療品は置いてないのかな?見当たらないけど。

 

「ねえ、貴方」

 

「はっ!はい、何でしょう」

 

「ここに医療品は置いてないの?」

 

「はっ、はい!薬なんかは向こうの通りの薬屋に売ってます!」

 

「そう、ありがとう。じゃあこれを買いたいのだけど」

 

「えっ、これ全部、ですか?」

 

ボーっとしてたり顔を赤くしたりとなんだか挙動不審な店員に声をかけ、薬のことと会計について聞く。

会計をするのであろう台に買うもの全部乗せると、驚いた顔でこちらを見てきた。

ああ、こんな量の荷物、普通は持てないよね。でも大丈夫!私には能力研究の過程でできた秘密兵器があるから!

じゃーん!四次元鞄~!(ドラ○もんの声で)

紅魔館の空間を広げられるなら鞄の空間も広げられるんじゃないか、と考えた私が作り上げた鞄である。作成にはパチュリー様の知恵を貸してもらったけどね!

今まで出かける機会が無かったから使う機会がなかったけど、初めての買い物でようやく日の目を見たよ!

 

「大丈夫よ、ちゃんと持ち帰るから。お代は?」

 

「え、えっと五万八千二百円になります!」

 

「はい、ちょうどね。じゃあ持って帰るから」

 

お金を払って私は四次元鞄に買ったものを詰め込んでいく。

明らかに質量保存の法則を無視した量を詰め込んでいくと、店員さんが目を白黒させていた。

甘いね、幻想郷では常識に囚われちゃいけないんだよ?

 

「じゃあ、また来るわ」

 

「あ、ありがとうございました~!!」

 

私が店を出ると、店員さんが掛け声をかけてくれる。

うんうん、接客態度もいいし、品揃えもいい。また来ることにしよう。

良い店を見つけられたことに上機嫌になりながら教えてもらった薬屋へと歩を進める。

辿り着いたのは古いながらも趣のある店だった。

 

「いらっしゃい。おやまた別嬪さんだねえ。何が欲しいんだい?」

 

私を出迎えたのは白髪の優しい顔をしたおばあちゃん。

べ、別嬪さんだなんて、正面から言われたら照れるじゃないか、もうっ!

 

「そうね、傷薬と包帯、風邪薬に胃薬に増血剤が欲しいのだけれど、あるかしら?」

 

「もちろんだよ。うーん、言われたものはこれだけあるけど、どれにするんだい?」

 

出されたのは様々な種類の薬。予想以上の数に少し驚く。ここまで品揃えがいいなんて、今日は運がいいなあ。

 

「じゃあこれとこれと、ああ、この薬も頂くわ」

 

「はい、じゃあお代はこれ位だねえ」

 

そろばんを差し出されてそれを見るが、そこには値段よりも少ない数が示されている。

 

「値段が低いようだけれど?」

 

「お嬢ちゃん別嬪さんだからおまけしといたよ!よければまた来てねえ」

 

なんて優しいおばあちゃんなんだろう。ここは常連にならざるを得まい!

 

「ええ、薬が切れたらまた来るわ。それじゃあね、おばあちゃん」

 

「気を付けて帰るんだよ~!」

 

手を振って見送ってくれるおばあちゃんに手を振り返しながら人里の出口へと向かう。

すると途中で子供の集団を見つけた。

 

「せんせい、さようならー!」

 

「またあしたー!」

 

「ああ、また明日。気を付けて帰るんだぞ?」

 

子供の集団に囲まれている女性が微笑みながら子供たちに手を振る。

人里の守護者「上白沢慧音」だ。

 

「おや?見ない顔だな、外来人か?」

 

こちらに気付いた慧音が話しかけてきた。

しかし、でかい。何がとは言わないけど。……私もあれくらい欲しいなあ。

 

「いいえ、向こうの湖にある館のメイドをしているわ」

 

「っ!紅魔館の……!?」

 

紅魔館について話すと警戒を露わにする慧音。

まあ予想通りと言えばそうだけど、やっぱり傷つくなあ。

 

「そう警戒しないでちょうだい。何も無差別に人を襲ったりしないわ」

 

「あ、ああ。すまない、不快にさせたか?」

 

警戒を解くように言うと、すまなそうな顔で謝ってくる慧音。

うーん、いい人だ。幻想郷の中でも数少ない常識人だけはある。

 

「いえ、大丈夫よ。それにしてもここは賑やかね。いつもこうなの?」

 

「いや、いつもはもっと静かなんだが。何故か最近宴会を開くことが多くてな。そのせいだろう」

 

宴会?そういえば萃夢想だとそんな話があったような。

ここまで萃香の能力が及んでるんだ。

 

「そう。…それじゃ私はこれで。飛んで行ってもそれなりに距離はあるのよ」

 

「ああ。気を付けてな」

 

笑顔で外まで見送ってくれる慧音マジ天使。

私は内心デレデレしながら人里を後にするのだった。

 

 

 

 

 

(帰ったら夕飯の下拵えに、干してあった洗濯物を取り込んで、妖精メイドたちの掃除の出来具合のチェックかしらね。後、霧雨商店で買った新しいぬいぐるみをフラン様に渡す!ふふ、喜んでくれるかな?)

 

フラン様の癒される笑顔を思い浮かべながら紅魔館へと飛んでいく。

甘やかしている自覚はあるものの、可愛いのだから仕方ない。

 

しかし、その途中で背後に微小な妖力を感じ取った。

 

(そこっ!)

 

すぐさま振り返り、ナイフを投げるが、そこには誰もいない。

あれ?このボディのチートセンサーが外れた?今までそんなことはなかったのに。

 

予想が外れて辺りをきょろきょろと見渡していると、声をかけられた。

 

「驚いたね。疎になってる私の妖力を感じ取るなんてさ。久々に面白い人間を見つけたねえ」

 

私の前に霧が集まっていき、一つの姿をとり始める。

その姿は私が一方的に知っている姿。「伊吹萃香」だった。

 

「人間。ちょいと一勝負しようじゃないか。あんたが勝ったら良いものをやろう。負けたら私はあんたをさらう。どうだい?」

 

「断るわ。私には急ぎの用があるし、それに必要がなければ戦うこともしないの」

 

穏便に断ろうとしたら口が勝手に挑発した。

まただよちくしょう!なんで肝心な時に勝手に動くんだこの口は!

だけどまあ戦いたくないし。萃香って確か原作でも強キャラに分類されるから弾幕ごっこでも勝てるかどうか。それに戦ってたら家事が回らなくなる。ただでさえ能力使ってギリギリなのに!

 

「うーん、そうかい。そいつは残念だ。じゃあ――」

 

萃香は大型の弾幕を自分の周りに展開する。

もしかしてこれって「残念!鬼からは逃げられない!」ってやつですか?

 

「力づくで戦わせるとしようか!」

 

うわああ、やっぱりいいい!

ここで逃げたら確実に背後から弾幕撃たれるよね。

下手したら紅魔館まで突っ込んでくるかも。

……それは駄目だ!紅魔館の皆を危険にさらすわけにはいかない!

例え紅魔館最弱が私だったとしても!私にだって従者としての意地がある!

女には戦わなくちゃいけない時がある!

 

「分かったわ。そこまで言うなら相手をしましょう。あと、人間って呼び方は止めて頂戴。私には「十六夜咲夜」という大切な方から頂いた名前があるのよ」

 

「ははっ、やる気になったか!私に勝てたら名前で呼んであげるよ、人間!」

 

「鬼退治はいつだって人間の役目。古き時代の鬼に、勝ち目はない!」

 

(やってやる、やってやるぞ!でもやっぱり怖い!)

 

内心涙目になりつつ、能力を使ってナイフを展開する。

 

甚だしく不本意だが、萃香との勝負が始まった。

 



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萃香強すぎです…

どうも、最近ブレードとパイルの強さに目を輝かせている作者です。

今回は萃香との戦闘話。
繋ぎの話なのでいつもより大分短いです。

…さて次は狙撃特化の機体でも作るかな…。



 

 

――紅魔館近くの森上空

 

 

 

「そらっ!避けてみせな、人間!わざわざあんたらのやり方でやってやるんだからね!」

 

――萃符「戸隠山投げ」

 

岩を模した弾幕が高速で襲い掛かってくる。

大玉が多いが、その分弾幕間の隙間も多く、避けることは容易かった。

だが、その隙間を縫うように通常の弾幕が放たれる。

ええい、なかなか厄介な弾幕撃ってくるなあ!

 

――時符「プライベートスクウェア」

 

時間を止めて弾幕を回避した後、ナイフを萃香の周囲に展開する。

 

「そして時は動き出す」

 

ナイフが一斉に動き出し、萃香を串刺しにせんと殺到するが――

 

「甘い甘い、鬼にこんな小細工は効かないよ!」

 

萃香が妖力を全身から放出することでナイフを全て弾き飛ばした。

アイエエ!?あんな弾幕の避け方あり!?

その後もナイフを投擲するが、全て弾かれてしまう。

 

「ほらほら、最初の威勢はどうしたんだい?もう一回その手品を試してみたらどうだい?」

 

挑発しながらも弾幕は止まることはない。

萃香は鬼だから力技を使ってくると思ってたんだけど(いや、さっきナイフを弾いたのは完全に力技だったけどね?)弾幕はそういう強引さはなく、まるで綿で首を絞められるような追い込まれるような印象を受ける。

 

これは私の勝手な思い込みだけど、弾幕は使用者の性格を反映している。

霊夢ならばどんなに回避してもなぜか当たってしまうような理解できない強さと容赦しない弾幕。

魔理沙なら単純だけど強力。だけどお互い楽しめる弾幕。

妖夢は真っ直ぐで堂々とした弾幕。

橙は動物としての本能と子供の柔軟性を感じさせる弾幕。

藍は緻密に計算された完成された弾幕。

そして今戦っている萃香の弾幕から感じるのは、霧のように掴みどころがなく、しかし芯が通った弾幕。

きっとそれは萃香の能力のせいでもあるのだろうけど、彼女は鬼の中でも珍しく技巧派の弾幕を使う。

 

さて、なんで萃香の性格診断をしているかというと、ぶっちゃけ、勝てる気がしないからだ。

だってこっちの弾幕通用しないんだよ!?その上萃香の弾幕で確実に追い込まれてるの分かるし!絶対萃香分かるように撃ってるよこれ!分かっても避けるのに精一杯な私にはどうしようもないし!

 

徐々に追い込まれ、弾幕が退路も防ぎつつある。

この状況を打破する手段はあると言えばあるのだが、はっきり言って実行に移したくない。

なにせそれはまだ修行中の技で成功率も高くないうえに萃香という鬼が相手というのがまずい。

相手に接近しなければならない技であるが故にカウンターを喰らう可能性が高すぎるのだ。

でもこのままじゃ負けるのは目に見えてるし……。ええい、やらない後悔よりやる後悔!女は度胸!行くぞ!

 

――「咲夜の世界」

 

時間が停止し、萃香の弾幕も止まる。

本来このスぺカは止まってる間にナイフを展開して攻撃する技だけどそれが通用しない以上それをやる意味はない。

私は止まっている萃香の弾幕を抜けて萃香に接近する。

そして萃香の目の前で時間停止を解除した。

 

「お!?いつの間に近付いたんだい!?でも、鬼相手に接近戦は悪手だよ!」

 

一瞬驚いたもののすぐに立て直し、殴り掛かってくる。

私はそれを左腕で受け止めた。

 

「ん!?」

 

まさか自分の攻撃が受け止められるとは思わなかったのか、萃香が硬直する。

 

私の霊力では萃香の拳を止めることはできない。だから私の左腕のみを時間停止させることで左腕を動かすことはできないが決して壊れない絶対防御の盾へと変えたのだ。

もちろん簡単な技ではない。少しでもタイミングがずれれば私の体はミンチになっていただろうし、そもそもこのような限定的な時間停止は能力のコントロールが難しい。

 

(――今だ!)

 

私はその大きな隙を狙って零距離からスぺカをぶち込んだ。

 

――傷魂「ソウルスカルプチュア」

 

萃香を切り刻まんと右手のナイフを振るう。

だがしかし、萃香を切った感触を感じることはなかった。

数瞬の差で萃香が疎となってしまったからだ。

 

「驚いた。まさか私の一撃を受け止めるなんてね。ますます欲しくなったよ、「十六夜咲夜」」

 

――酔夢「施餓鬼縛りの術」

 

萃香から放たれた鎖が私を縛る。

そして徐々に私の霊力が吸い取られていき、霊力を失った私は意識を失った。

 

(パ…チュ…リー様、こぁ…ちゃん、フラ…ン様……、レミ…リア…様、美…鈴……)

 

気を失う寸前に脳裏をよぎったのはきっとひどく心配してしまうだろう紅魔館の皆の姿だった。

 



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必ず助けます(美鈴視点)

どうも、就活で親にせっつかれてげんなりしている作者です。

今回は咲夜さんが攫われた時の紅魔館の面子+αの反応です。
次の話は咲夜さん視点の予定です。
それにしてもパチュリーが優秀で便利です。困ったときのパチュリーが定着化してきた気がします。




その日はいつもと変わらない日だった。

強いて違うところを挙げるとすれば咲夜さんが買い物に人里へと向かったことと、その後に博麗の巫女がワインを飲みに訪れたこと位だろうか。

 

私は門番として立っている間は気を張り巡らせて紅魔館に近付いてくるものがいないかどうか警戒している。

知っている人物ならば気で分かるし、戦意があれば気がどれ程高まっているかで判断できる。

だから紅魔館に近付く慣れ親しんだ気――咲夜さんの気を感じ取ることができた。

 

さてどういう風に彼女を出迎えようか、と考えていると、突如妖力が発生し、咲夜さんの霊力とぶつかり始めた。

 

(咲夜さんと誰かが戦ってる!?早く助けに行かないと!)

 

私は気で身体強化を施し、全力で地面を蹴った。

普段は飛んで移動する私だが、速さを重視するならば走った方が早い。

しかし、走っている途中で咲夜さんの気が弱まっていき、やがて感じ取れなくなった。

その感覚に私の背中が粟立つ。

 

――咲夜さんがいなくなる?死んで、しまう?

 

想像しただけで泣きそうになる。それほどまでに私の中で彼女の存在は大きくなっていた。

 

やがて戦っていたと思われる場所に辿り着く。

霊力と妖力が混ざり合い、ここで激しい闘いがあったことが分かる。

私は能力と併用して咲夜さんの痕跡を探る。

すると、妖力と咲夜さんの霊力が同じ方向に向かっていることに気が付く。

きっと咲夜さんは帰る途中で妖怪と遭遇し、戦いになり、負けた。

その妖怪が何故咲夜さんを殺さずに連れ去ったのかは分からないが、まだ彼女が死んだわけではないことに安堵する。

 

(そうだ、レミリア様にこのことを伝えないと!)

 

私はすぐに紅魔館へと全力疾走を始めた。

 

 

 

 

 

気を探ってレミリアお嬢様がどこにいるかを調べると、図書館にいることが分かった。

私は驚いた表情の妖精メイド達に見られながらも廊下を全力で走り、図書館の扉を乱暴に開けた。

 

「うるさいわよ、美鈴。何の騒ぎ?」

 

パチュリー様が眉をひそめて注意してくる。いつもならば謝るところだが、今はそんな場合ではない。

 

「咲夜さんが、妖怪に攫われました!」

 

「――何ですって?」

 

私が叫ぶと、レミリア様が椅子を蹴倒して乱暴に立ち上がる。

その場にいた他の面子も様々な反応を返した。

 

ワインを煽っていた霊夢は無表情だった顔を険しくし、

パチュリー様と魔道書を読んでいた魔理沙は驚いて固まっている。

パチュリー様は眉をひそめていた顔から思案するような顔になり、

魔理沙の勉強を見ていたフラン様は泣きそうな表情になった。

小悪魔はショックで本を落としてへたり込んでしまっている。

 

「それは本当?美鈴」

 

「はい。咲夜さんの気を感じ取ったと思ったら突然現れた妖力と戦い始めて、咲夜さんの気が感じ取れなくなったんです。すぐに現場に向かったら、妖力と共に咲夜さんの霊力がどこかへ移動しているのを感じ取れました」

 

「どこのどいつだ。私の大事な従者を連れ去った愚か者は……?」

 

確認をしてきたパチュリー様に答えると、レミリア様が膨大な妖力をまき散らしながら激昂した。ピシリ、ピシリと図書館用の結界が軋む。

そしてその妖力に当てられて、魔理沙と小悪魔が顔を青ざめさせている。

 

「落ち着きなさい、レミィ」

 

「落ち着けだと?これが落ち着いていられるかっ!!私の大事な従者を連れ去った愚か者を串刺しにしなければ気が済まん!!」

 

「落ち着きなさい、と言ったわレミィ。主人であるあなたが咲夜を信じないでどうするの。死んでいないなら咲夜は大丈夫よ」

 

「パチェ!!お前は何とも思わんのか!」

 

「何とも思わない?冗談を言わないでレミィ。――そいつを殺したいのは私だって同じことよ。でもね、感情のままに行動したら追い込まれるのは私達。スキマ妖怪との約定を忘れたの?ここが無くなってしまったら咲夜はどうなるの。怒りを忘れろとは言わない。ただ、冷静になりなさいと言っているのよ」

 

大声で怒鳴り散らしていたレミリア様だったが、パチュリー様の言葉で私が戻していた椅子にゆっくりと腰掛け、左手で顔を覆った。

 

「……すまなかった、パチェ。そうだな、主人である私が咲夜を信じなければならなかった。ありがとう」

 

「分かったならいいわ。さて、これからどうするかを決めましょう。咲夜を信じていると言っても救出には向かわなければならない。万が一、咲夜が自力で戻ってきた時のために私とレミィは残るとして、誰が行く?」

 

「私が行きます、パチュリー様」

 

私はパチュリー様の問いかけに即答した。ここで適任なのは私だろうし、何より咲夜さんの無事を自分の目で確認したい。

 

「なら私も行く!」

 

「フラン…!?駄目よ、貴方はまだ能力の制御が!」

 

「お願いお姉様!咲夜のために何かしたいの!咲夜の無事を願ってるだけなんて嫌!だから…お願い…!!」

 

目に涙をためてレミリア様に懇願するフラン様。レミリア様はしばらく迷っていたが、やがて諦めたように溜息をついた。

 

「……はぁ。分かったわ。でも、無理はしないようにね。……パチェ、幻想郷全体を曇り空に変えることはできる?」

 

「できるけど、それにはスキマ妖怪の許可が必要ね。無断でやると異変として動くかもしれないわ」

 

「紫には私が伝えるわ。それと、私も咲夜を探す。なんだか、ここ最近の幻想郷全体の変な雰囲気と関係している気がするのよね。勘だけど」

 

「霊夢の勘なら信用できるな。よし!私も咲夜を探すぜ。友人として放っておけないしな」

 

今まで沈黙を貫いていた霊夢が言葉を発すると、それに続いて魔理沙も参加を希望した。

それを聞いてパチュリー様が頷く。

 

「じゃあ、咲夜を助けましょう。こぁ、貴方は私のサポートに周りなさい。後、美鈴、フラン、霊夢、魔理沙、貴方達にはこれを渡しておくわ」

 

パチュリー様は私達に色とりどりの石を投げ渡してきた。

私が緑でフラン様は金。霊夢が赤で魔理沙は黒だ。

 

「それは私が魔力を込めた魔石よ。霊力、妖力、魔力を増幅させる効果とそれぞれの魔石を持っている相手と交信できるわ。私はそれを通して指示を出すから無くさないように」

 

パチュリー様の説明を聞いて私達は頷く。

 

「私は何かあったら出るが、館に残っている。全員、頼んだぞ」

 

レミリア様が私達を見て頭を下げる。

それを見て霊夢や魔理沙が驚いているが、おかしなことではない。

それほどまでに、咲夜さんの存在は紅魔館の中で大きいのだ。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

霊夢の一声で私達は出口へと向かう。

 

 

 

 

こうして、咲夜さん救出作戦は幕を上げた。

 



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攫われてしまいました…

どうも、もうそろそろ春なのに未だに炬燵で丸まってる作者です。

今回は咲夜さん視点。中途半端なところで区切れるな、と思う方もいるかもしれませんが、解決組との視点と交互に書いていくつもりです。


――???

 

「う、ん……」

 

目が覚める。

気が付いてまず目に入ったのはごつごつした岩肌。

続いて感じたのは固い地面に寝かせられていたことによる全身の痛みだった。

 

「ここは……」

 

「おや、起きたかい?人間」

 

上体を起こして周囲を確認しようとすると、声が聞こえてきたためにそちらへと顔を向ける。

そこには平らな石に腰掛け、瓢箪から(たぶんだが)酒を飲んでいる萃香の姿があった。

 

「はっは、悪かったね。ここんとこやり応えのある相手と戦えてなかったんでね、ついやりすぎた。具合はどうだい?」

 

萃香に言われて体調を確認する。

すると、先程から感じる痛みのほかにまるで全力で走ったかのような気怠さを感じた。

 

「……あまり良くはないわね。体が重いし」

 

「ああ、それはほれ、そこの鎖のせいさ。私の能力であんたの霊力を散らしてるからね」

 

逃げられたらかなわないからね、と朗らかに笑う萃香。

私としては萃香に会えたことは嬉しいのだけど、いきなり喧嘩を吹っかけられてそのまま攫われた身としては複雑な気分だ。

 

「なんでこんなことを?」

 

「ああ――嬉しかったんだよ。あんたみたいな人間を見て。昔の人間はさ、私たち鬼を恐れるあまり、不意打ちやら毒やらで私達を殺してたんだよ。私達が望むような心が躍る戦いを避け始めた。だから私達は地底に潜ったのだけれど。でも私としては地上の空気も酒も気持ちのいいもんだった。だから時々地上に出てくるんだけどね。今年はほら、春が短かっただろう?だから宴会を増やそうと楽しい気分を萃めてまわってたんだけど、その途中であんたを見つけた。少しばかり驚かそうと思って近づいたら私に気づいて攻撃してきたもんだから嬉しくなっちまってねえ。人間相手に正面から攻撃されるなんて久しぶりだったもんだから攫いたくなっちまったのさ」

 

酒が入っているからなのか、それとも本当に嬉しかったからなのか、饒舌に話す萃香。

 

「そういえば名乗ってなかった。私は「伊吹萃香」。種族は鬼。元々は妖怪の山に住んでたけど、今は地底に住んでる」

 

「戦う前も名乗ったけど、「十六夜咲夜」よ。湖近くの紅魔館に住んでるわ」

 

「へえ、あの派手な館に。目が痛くならないのかい?」

 

「慣れればそうでもないわ。……ねえ、ここはどこなの?」

 

「ここは妖怪の山の洞窟さ。地底に連れてきたかったんだが、あっちには勇儀なんかもいるし、あんたを取られたくなかったからね、古巣のこっちに来たのさ」

 

「私を解放するつもりはないの?」

 

「無いね。あんたはこのまま地底に連れてく。ま、地上でちょっと騒ぐからそれまであんたにはここにいてもらうことになるけど」

 

なんとも勝手な話だ。ある意味妖怪らしいと言えば妖怪らしい。

でも私には紅魔館がある。どうにかして脱出しなければ。

 

「逃げようなんて思わないことだ。霊力はその鎖で封じてあるし、その鎖は人間の力じゃ千切れない。まあ、せいぜい大人しくしてることだね」

 

よっと、と声を上げ、萃香は石から立ち上がると、洞窟の出口に歩き出す。

 

「じゃあ私は少し出かけてくるけど、二刻位で戻ってくるからさ。大人しくしてるんだよ?」

 

そう言って萃香は疎になって消えてしまった。

ぽつんと残されてしまった私は鎖をどうにかしてほどこうと引っ張るが、びくともしない。

ていうかなんで鎖が私の首に巻かれてるの!?萃香の趣味!?

私は縛られて喜ぶ趣味はないんだけどなあ。

 

 

 

 

 

 

 

その後も引っ張ったり、噛んだり、地面にこすり付けてみたりと様々な方法を試したが、鎖には傷一つ付かなかった。

もしかしたら萃香の能力で密度を上げて強度が増しているのかもしれない。

さすがに疲れてへたり込んでいると、洞窟の外から声が聞こえた。

萃香が返ってきたのかと思ったけど、二人分の声が聞こえたから多分違う。

じゃあ誰が?その疑問はその声の主が洞窟に近付いてきたことで話の内容が分かってきたため分かった。

 

「それで、こっちに伊吹様を見たのですか、椛?」

 

「はい、確かにあれは伊吹様の姿でした。千里眼越しに見たので伊吹様は気が付いていないようでしたが」

 

「ということは伊吹様が来るほどの何かがここにあるということですね、特ダネの匂いがしますよ!」

 

「またそんな。伊吹様に聞かれたら怒られますよ?」

 

「あの方はそんな小さい器じゃありませんよ。むしろ笑い飛ばすんじゃないですか?」

 

どうやら萃香を目撃した誰かがこっちに確認しに来たらしい。

これは逃げる絶好のチャンス!

 

「そこに誰かいるの?」

 

私が声をかけると声が一旦やみ、ひそひそ声がした後、こちらに声をかけてきた。

 

「誰ですか?」

 

「伊吹萃香に攫われた人間よ。助けて頂戴」

 

「……今そっちに行きます。待っててください」

 

その後足音がこちらに向かってきて、私にも姿が見えた。

それは私の知っている姿だった。

 

「あやや、貴方は確か紅魔館の」

 

「確か最近拾われた人間でしたね。何故伊吹様は彼女を?」

 

一人は烏のような黒い翼をもった天狗。

一人は白い犬耳と尻尾を持った天狗。(本人が聞いたら狼だ、と訂正が入るのだろうが)

 

――「射命丸文」「犬走椛」がそこにいた。

 

いや、確かにここは妖怪の山だって言ってたけどさ、ピンポイントでこの二人が来るとは思わなかった。

 

私の思考は内心の渇いた笑いと共に消えていった。

 



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さて、咲夜さんはどこでしょう?(美鈴視点)

どうも、エントリーシートに追われて休む暇がない作者です。
え?だったら小説を一時凍結すればいいって?ほ、ほらこれは息抜きだから(震え声)

今回は救出組の美鈴組です。他のメンバーもおいおい書いていきます。




 

――紅魔館 正門前

 

「さて、これからどうする?」

 

魔理沙が仕切り直すように声を上げる。

 

「私とフラン様は咲夜さんの霊力を追います。きっとまだあの場所に残ってますから」

 

「私は紫と連絡を取ってみるわ。勘だけど紫は今回のことを何か知ってる」

 

「なら私は人里へ行ってみるぜ。咲夜は浚われる前にそこにいたんだろ?」

 

各々の方針を確認すると、私達は行動を開始した。

私はフラン様を連れて戦いがあった場所に、霊夢は八雲紫に連絡を取るために博麗神社に、魔理沙は人里へと飛んで行った。

 

「ねえ美鈴。咲夜、大丈夫だよね?」

 

「咲夜さんの強さはフラン様も知っているでしょう?きっと大丈夫ですよ」

 

うん、とフラン様は不安が残っている顔を伏せる。

無理もない。紅魔館で咲夜さんに一番懐いているのはフラン様だ。

私はフラン様を慰めるように頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

「ここが咲夜が戦ってた場所なの?美鈴」

 

「ええ、ですが予想以上に霊力の拡散が速いですね、ほとんど霊力を感じ取れなくなってる」

 

先程来たときは明確に咲夜さんの霊力を感じ取れたのに、今はほとんど感じない。

これでは追跡は難しいだろう。

 

「ねえ美鈴。あっちに妖力が続いてるよ?」

 

「えっ?」

 

フラン様に言われて妖力を感じてみるが、私には感じ取れない。

吸血鬼特有の感覚なのだろうか?

 

「こっちだよ、美鈴。行ってみよう!」

 

「あ、待ってくださいフラン様!」

 

その妖力とやらを追ってフラン様が飛んで行ってしまう。

私は慌ててフラン様を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがてフラン様が止まり、きょろきょろしていた。

どうやら妖力を見失ってしまったらしい。

だが何かを見つけたようで、それをじっと見ていた。

追いついた私が視線の先を確認すると、そこには真っ黒な球体がふよふよと浮かんでいた。……何あれ?

 

「ルーミア!」

 

「?あ、フランだー」

 

黒い球体はこちらに近づいてくると、目の前で止まり、その中身を晒した。

中には宵闇の妖怪、ルーミアがいた。

 

「どうかしたのー?フランが外にいるなんて珍しいねー」

 

ポヤポヤと話す彼女がかつて紅魔館を襲撃した一人だとは思えない。

…ああ、たしかあの騒動の後先代の博麗の巫女に力を封じられたのだったか。

いつの間にフラン様と仲良くなったのだろう?

 

「ねえ、ルーミア。咲夜をこのあたりで見かけなかった?」

 

「さくや?あー、あの美味しそうな人間?ううん、見てないよ。あの人がどうかしたの?」

 

「妖怪に攫われちゃったの。……何か変わったことはなかった?」

 

「うーん、あ、そういえば変な妖力が妖怪の山に向かっていくのを感じたかなー。微妙な感じだったから気のせいだと思ったんだけど」

 

「分かった、ありがとう、ルーミア!」

 

「ううん、私もあの人間は好きだしねー。美味しそうだし、なんだかいい匂いがするんだもん。また今度遊ぼうねー」

 

ふわーっとルーミアは去っていく。

それにしても美味しそうって……。あの妖怪の判断基準はそこなんだろうか?

 

「妖怪の山に行ってみよう、美鈴。あ、でもどこか分からない……」

 

「私が知っていますから大丈夫ですよ、さあ、行きましょうか」

 

私達はルーミアの情報を頼りに妖怪の山へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「あ!ここであの妖力が強くなってる、こっちだよ!」

 

妖怪の山に辿り着いた時、フラン様が歓声を上げる。

どうやらあの場所で感じた妖力を再び感じ取れたようだった。

 

「そこで止まれ、侵入者」

 

フラン様が山に入ろうとした瞬間、暴風と共に烏天狗が現れる。

私はフラン様を背にかばい、彼と対峙した。

 

「む?貴様らは確かあの吸血鬼の……。ふん、ここは貴様らの訪れるべき場所ではない。早々に立ち去れ」

 

「ここに咲夜がいるかもしれないの!お願い、ここを通して!」

 

「貴様らの都合など知ったことか、立ち去れ。さもなくば、実力行使も厭わんのだが……?」

 

脅すように自身の右手に風を纏わせる烏天狗。

私が応戦しようと構えると、後ろでフラン様が声を上げた。

 

「だったら弾幕ごっこしよう!」

 

「……は?」

 

予想外の言葉だったのか烏天狗はポカンとした顔を見せる。

そんな彼に気付いているのかいないのか、フラン様は言葉を続けた。

 

「私が勝ったら通して!負けたら帰るから!」

 

烏天狗は呆れたように顔を覆った。

 

「……はあ、何故私が八雲が考えた遊びなどに付き合わねばならん。……が、まあいい。それで貴様らが退くというなら良かろう」

 

そう言ってスぺカを懐から取り出す烏天狗。

それに答えるようにフラン様もスぺカを取り出した。

 

「かつての異変では貴様に後れを取ったが、今回は我々烏天狗が十全に力を発揮できる野外だ。前のように簡単に倒せるとは思わんことだ」

 

「思ってないよ。人間の魔理沙や霊夢だって私に勝ったんだから、油断なんてしない!美鈴、見てて。私だって戦えるんだから!」

 

「…ええ、分かりました。頑張ってくださいね、フラン様」

 

そして、フラン様と烏天狗の弾幕がぶつかり合った。

私は弾幕に巻き込まれないよう少し離れたところで戦いを見守るのだった。

 



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モフモフ…モフモフ…はっ!私は一体何を…

どうも、息抜きに小説を書きまくった結果、エントリーシートが真っ白でリアルに頭を抱えた作者です。

今回は咲夜さん視点、なのですが、何かカオスな話になりました。
うちの咲夜さんは捕まってる自覚があるのだろうか?

盛大なキャラ崩壊があります。苦手な方は注意してください。


 

 

――妖怪の山 某洞窟

 

 

「ふむふむ、つまり貴女は吸血鬼を恐れて仕えているわけではなく、自分から仕えていると」

 

――くっ、うん!やっ、そこは……!

 

「ええ、拾われて育てられた恩が大きな理由だけど、私はレミリアお嬢様に仕えたいと思って仕えているわ」

 

――ひあっ、も、もうやめて…や、あっ!

 

「なるほど、拾われた経緯をお聞かせ願えますか?」

 

――ああ、そこは…、だめ、そんな優しく撫でないで…

 

「うーん、私もよく覚えてないのよ。小さい頃だったし、美鈴に拾われてレミリアお嬢様に気に入られて名を頂いたのは覚えているのだけど」

 

――あっ、やめ、ふああ…

 

「……あのですね、椛。気持ちいいのは分かりましたからもう少し声を落とせませんか?聞いてるこっちも変な気分になってきます」

 

場所は変わらず妖怪の山のどこかにある洞窟。

そこで私は何故か文の取材を受けていた。

鎖は解いてくれなかった。なんでも「それはさすがにまずい」とのこと。

やっぱり天狗は鬼に逆らえないんだろう。予想できたことだからまあそれはいい。

ここで重要なのは、椛のことを目一杯モフれることだよ!

おかげでさっきから椛は嬌声しか上げてないけどね。ふふふ、私の紅魔館前に集まった動物たちで鍛えたナデナデスキルをその身で味わうがいい!

 

さて、何で私が椛をモフモフしているのかというと、文が取材料の代わりに椛を好きにしていいですよ!と差し出してきたためである。

椛は最初こそ文に抗議していたが、しばらくもしないうちに上記のようになったのだった。

体勢は私が椛を背中から抱きかかえて文はそれに向かい合ってる形になる。

私は後ろから椛の犬耳やら尻尾やら喉やらを思う存分愛でているのだ。

ああ、私は今幸せの絶頂にいるよ……。

 

取材中だというのに嬌声を上げる椛を煩く感じたのか、眉をひそめて文句を言う文。

椛はとろけた声で反論する。(私からは椛の表情は見えない)

 

「だって、撫でるの上手いんですよこの人。無意識に尻尾を振ってしまいそうです……」

 

うん、尻尾を振るのを我慢してるのは気付いてた。だって撫でるたびに尻尾がぷるぷる震えるんだもん。可愛すぎでしょ椛。

 

「ふむ、そんなに気持ちいいんですか?あの堅物な椛がここまで緩んだ顔をするとは相当でしょうし……。そうですね、咲夜さん、私のことも撫でてみてください」

 

む、まさか文本人から撫でる許可がもらえるとは。

ふふふ、私のナデナデスキルは鳥類にも効果があるんだよ!美鈴に頼んで色んな動物を集めてもらったからね!

 

「翼にも触ることになるけど大丈夫?後、帽子を取って頂戴」

 

「ええ、私から言い出したことですし良いですよ。……はい、帽子も取りましたよ」

 

さて、まずは翼から…

 

「ふっ、く、確か、に、これは、なかなか……」

 

と油断させて頭!

 

「ふあっ!?そ、そんな、それはひきょ、あうっ!」

 

そしてとどめに喉と翼の同時攻め!

 

「ひああんっ!?や、やめ、それ以上は…、ふああ……」

 

 

文を撫でてしばらく、存分に愛でた私は文を解放する。

その瞬間、文は地面にどうっ、と力なく倒れた。

 

「何ですか、貴女のその技は……。私がここまで弄ばれるなんて……」

 

悔しそうに呟く文だが、このスキルは拾われた時から動物相手に磨いてきたスキルだ。

そうなってしまうのも致し方ないことだろう。

 

「あ、あの……。もう一回、撫でてくれませんか?」

 

くいくい、と私の服の裾を引っ張りながら上目遣いでそんなことを言ってくる椛。

……ぐはっ!椛ったら私を萌え殺す気か……!?

 

「うふふ、いいわよ。…おいで?」

 

「はいっ!」

 

手招きすると尻尾をぶんぶんと振りながら近づいてくる椛。

椛は先程と同じ格好になると、目を閉じて体をこちらへ預けてきた。

ここまで信頼されるのは嬉しいけど、これはどうなんだろう?妖怪の山のセキュリティ的な意味で。

 

「くっ、せめて、せめてこの写真だけでも……!!」

 

文は未だに倒れたまま撫でる私とされるがままになっている椛をカメラで撮る。

記事になるの?こんなこと……。

 

その後も、私達は(椛は私に撫でられて嬌声しか上げていなかったので含めない方がいいのかもしれないが)様々な話に花を咲かせ、文に時折取材されつつ、楽しい時を過ごすのだった。

 



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人里にて(魔理沙視点)

どうも、就活に行ってきた作者です。
ついでに欲しかっためーさく本を秋葉で買ってきました。

今回は魔理沙視点。
彼女は作者の中で一番書きにくいキャラだったりします。


――人里

 

「よっ、と。さて、咲夜に関してなんか話を聞ければいいが……」

 

箒から降りて人里を見渡す。

人里に来るのはなんだかんだで久し振りだ。

最近は紅魔館の方に入り浸ってからこっちに来る暇もなかったし。

……まあ私自身、人里にあまり近付かないようにしてる節もあるんだが。

 

(とりあえず霧雨商店は避けて情報を集めるか)

 

親父に勘当されて以来、あの店には近付かないようにしている。

わざわざ顔を合わせて喧嘩するのも馬鹿らしいし。

 

『なあパチュリー、咲夜は何の用で人里に来てたんだ?』

 

『食料の買い出しと、医療品の補充ね』

 

魔石を通してパチュリーと会話する。

声を出して会話する必要がないのはありがたい。端から見れば独り言をぶつぶつ言ってるようにしか見えんからな。

パチュリー曰く、「これも念話のちょっとした応用よ」とのことだが…、専門外の魔法のことはあまり分からない。アリスならもしかしたら知ってるかもしれないけどな。

 

しばらく魚屋や肉屋、八百屋などを中心に聞き込んでみたが、手掛かりは0。

これは避けてた霧雨商店に行くしかないか……?

そんなことを思った時、あることを思い出した。

 

(そういえば、薬も買いに来たって言ってたな。行ってみるか)

 

人里には薬屋が一つしかない。

ずっと昔からある、ばあちゃんが店主の店だ。

 

「おーい、ばあちゃん、いるかー?」

 

店先で呼びかけてみる。

するとすぐに店主のばあちゃんが出てきた。

 

「おや魔理ちゃん!久しぶりだねえ、こんなに大きくなっちゃって!」

 

「魔理ちゃんは止めてくれよ。そんな柄じゃないし。ところで、今日私と同じくらいの年のめいど服ってやつを着た咲夜って女がここに来なかったか?」

 

「うーん、名前は分からないけど、ずいぶん別嬪な娘が薬を買って行ったよ。そういえば着てた服もその娘の顔も見かけないものだったねえ」

 

「たぶんそいつだ。どこに行ったか分かるか?」

 

「寺子屋の方に歩いて行ったよ。それ以上は分からないねえ」

 

「いや、充分だ。ありがとな、ばあちゃん!こんどお礼になんか持ってくるぜ!」

 

「楽しみにしてるよ、じゃあねえ」

 

ばあちゃんに手を振りつつ教えてもらった道をあるく。

なんだかあのばあちゃんには頭が上がんないだよなあ。

小さかった頃よく可愛がってもらったのもあるんだろうけど。

 

やがて寺子屋に着いたが、寺子屋は真っ暗で誰もいないようだった。

この様子だと慧音もいないかな。試しに慧音の家に行ってみるか……?

 

「おや、貴方は……」

 

私が慧音の家に行こうと振り返ると、見覚えのある顔があった。

 

「宴会の時以来になりますか、こんにちは」

 

「ああ、買い物か?妖夢」

 

少し前の異変で知り合った半霊の剣士が買い物袋を両手にぶらさげて立っていた。

 

「ええ。幽々子様は健啖家なので定期的に食料を買いに。魔理沙さんは?」

 

「あー、……『パチュリー、妖夢に今回のことを話しても大丈夫か?』」

 

『問題ないわ。むしろ人手が増えるのなら喜ばしい限りよ』

 

「魔理沙さん?」

 

パチュリーと通信していると、妖夢が急に黙ってしまった私を不審に思ったのか首をかしげて問いかけてくる。

 

「あー、悪い。実はな、咲夜の奴が妖怪に攫われちまってな。今そのことに関する情報を集めてたんだ」

 

「咲夜さんが!?彼女を攫うということは相応の実力者でしょう、犯人は?」

 

「それが全く分からなくてな、妖夢は何か聞いてないか?」

 

「いえ、私は特に何も……。あ、そういえば」

 

言葉を終えようとした妖夢が何かを思い出した表情になる。

 

「なにか思い出したか?」

 

「いえ、今回の件と関係あるかは分かりませんが、慧音さんから最近妙に宴会が多いことと、何やら微弱な妖力が人里全体に流れているらしいことを聞きまして」

 

「宴会はともかく、妖力?人里に来てる妖怪のものじゃないのか?」

 

「いいえ、人里にまんべんなく流れているらしくて。なにかあるんじゃないかと警戒していました」

 

人里は紫の手によって守護されている。

そんな人里に入り込んで妖力を流している?確かに人里に入り込むことは簡単だ。妖怪でも悪さをしなければ入れるようになってるしな。

だが妖力を流す意味はなんだ?人に害をなさないほどの弱い妖力を流して一体何を……?

私が考え込んでいると、妖夢が話しかけてきた。

 

「あの、魔理沙さん。私も咲夜さんを探すのを手伝っていいですか?」

 

「ん、ああ、それは助かるけど、いいのか?」

 

「ええ、私も心配ですし、それに咲夜さんを攫った妖怪にも興味があります」

 

「そうか、じゃあ頼むぜ」

 

「はい。あ、ちょっと待ってください、荷物をよく行く店の方に預かってもらうので」

 

「そうか、私は阿求のところに行ってるぜ」

 

「阿求さん?何でです?」

 

不思議そうに聞いてくる妖夢に私はニヤッと笑って答える。

 

「あそこには色んな妖怪の資料がある。もしかすれば人里の妖力の正体が分かるかもしれないぜ」

 

「成程、そしてその妖怪が咲夜さんを攫った妖怪だったとしたら……」

 

「そいつの行きそうな所に行けば見つかるかもしれないってわけだ」

 

「分かりました!では後ほど!」

 

妖夢は白玉楼の方へと飛んでいく。

私はそれを見送ると、稗田邸の方へと足を進めるのだった。

 



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どうにかして抜け出さないと…

どうも、day after dayをカラオケで熱唱した後、下手糞加減に恥ずかしくなった作者です。

今回は咲夜さん視点。
いつも以上に短い上に、グロ注意。まあ、ほんのちょっぴりですが。


 

――妖怪の山 某洞窟

 

 

 

私が文と談笑し、椛を愛でていると、洞窟の中に一羽の烏が飛び込んできた。

文はその烏を右腕に乗せると、何やら烏と話しはじめたのだ。

烏天狗って烏とも会話できるんだね、羨ましい。

文は烏から伝言か何かを受け取ったのか、真面目な表情で頷いている。

 

「ふむ、分かったわ、すぐに行くと伝えておいてちょうだい」

 

やがて聞き終わったのか、文は烏を飛ばして立ち上がった。

 

「咲夜さん、どうやら貴方を助けるために妖怪の山へと誰かが入り込んだようですよ」

 

愛されてますね~、とニヤニヤ笑う文。

誰だろう、萃夢想で私以外に動いてた人は霊夢と魔理沙、妖夢だったはずだけど、その誰かかな?

 

「ほら、行きますよ椛。哨戒はあなたの領分でしょう」

 

「あと少し、あと少しだけこの感触を……」

 

「どれだけハマってるんですか!ほら、行きますよ!」

 

文は私から離れたがらない椛を引っ張って洞窟の出口へと向かう。

椛は耳や尻尾をしょんぼりさせながらもとぼとぼ文についていった。

 

「あ、そうだ、貴方を助けに来た人達には手を出さないように根回ししておきます。まあその分警戒態勢が高まるのでこれ以上の協力はできませんが……。まあ取材のギャラということで。では!」

 

文は椛を引っ張って飛んで行った。

ちらりちらりとこちらを振り返る椛がすごく印象的でした。

 

 

 

 

さて、私も休んでばかりはいられない。

これでも無駄に時間を過ごしていたわけじゃない。二人と話している間、私は霊力の回復に集中していたのだ。

萃香はこの鎖で私の霊力を封じたと言っていたが、厳密に言えば少し違う。

私に繋がれている鎖は私の霊力を散らす力を持っているのだ。

だから私の霊力の回復が大幅に遅れてしまったのだが、今なら能力を一回だけ使えるぐらいには回復した。

霊力弾を撃ちたいところだが、どうやらこの鎖、私から離れた霊力も散らしてしまうらしく、霊力弾を作ることができない。

ならば能力で心臓の鼓動の時間を早めることで一時的に身体能力を向上させればどうか、と考えたのだ。

修行中に一回だけこの技を使ったことがあるのだが、辛すぎて三秒しか持たないうえに、能力の向上が激しすぎて、制御しきれずに勢い余って壁に激突してしまった。

あの時美鈴に多大な心配をかけてしまった。

ともかく、これならば鎖も壊せるかもしれないと試してみることにしたのだ。

 

「ぐっ、はあっ……!!」

 

能力で心臓を早めるたびに激痛が全身を襲う。

ギチギチ、と体が嫌な音を立てる。

それを堪え、全力で右手の手刀を鎖へと叩きつけた。

 

ズドオオオオオオオン・・・・・・・・・!!!!!

 

洞窟が衝撃で揺れる。

揺れた瞬間、パラパラと土片が落ちてくるが、崩れる様子はない。

 

砂煙が晴れ、私は鎖を確認する。

壊れていないかと希望を持って見てみたが――確認できたのは傷一つついていない鎖だった。

 

駄目か……。やっぱり能力で硬度を上げていたのだろうか?

そこで右手の痛みを自覚する。

見ると、右手首はあらぬ方向へと曲がり、明らかに折れていることが分かる。

覚悟してたけど痛いなあ……。涙が出てきそうだ。

そして体の中から何かが込みあがるのを感じ取り、それを吐き出す。

 

「げほ、げほっ!!…」

 

血だ。どうやら無理に肉体増強した結果、内臓のどこかが傷ついたらしい。

うえ、血の味が口全体に……。気持ち悪い。でもゆすぐ水なんかないしなあ。

 

私はそこで四次元鞄の存在を思い出す。

萃香が持って行っていなければここにあるはず。

周りを見渡すと、少し離れた場所に鞄が落ちているのを見つけた。

私はそれを引き寄せて、左手で中を探る。

やがて痛み止めの薬を取り出すことができた。…まさか買って数時間後に使うことになるとは思わなかった。

右手が使えない故に手こずりながらもそれを何とか数錠飲み込むことに成功する。

しばらくすればこの痛みも引くだろう。

 

しかし、霊力を使い切ってしまった反動か、体が満身創痍になってしまったための防衛反応なのか、意識が霞み始めた。

 

(眠いなあ。寝ちゃおうか。体痛いし。寝れば回復するかも)

 

私は近くの岩に背中を預け、眠る体勢に入る。

 

(右手から血は出てないから大丈夫、だよね?やだよ、出血多量で死亡、なんて)

 

この状況を見られたら死んだと誤解されるんじゃないかなあ、なんて馬鹿なことを考えながら、私は意識を再び飛ばしたのだった。

 



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事件の首謀者(霊夢視点)

どうも、昨晩酒を飲んでグロッキーになった作者です。

今回は霊夢視点。

そろそろ萃夢想編も終わりが見えてきました。
最後まで読んでいただけたら幸いです。


 

――博麗神社

 

「最初から見てたんでしょう、紫?出てきなさい」

 

私が虚空に声を飛ばしてみるが、反応なし。だけど私の勘は紫が見てると感じているのでさらに話しかける。

 

「出てこないつもり?……そう、なら私にも考えがあるわ。実はこの前霖之助さんに「てえぷろこおだあ」っていう道具をもらってね。声をその中に保存できるらしいわ。それで、あんたのだらけてる時の声を前に保存したのよね。これ、あんたの式神の藍だっけ?その藍の式神の橙っていう式神にこれを聞かせたらあの子、あんたのことどう思うかしら――「ごきげんよう、霊夢。さっそくだけどテープレコーダーを渡してくれるかしら?」……」

 

脅したらやっと出てきた。こうでもしないと出てこないのだから困ったものだ。

 

「それなら紅魔館に置いてきたわ。ついでにレミリアに面白いものが聞けるって伝えて、使い方を教えてきたわよ」

 

そう言った瞬間、スキマから出て落ち込んだ格好をする紫。

うざったいからよそでやってくれないかしら」

 

「声に出てるわよ霊夢。……妖怪の賢者としての威厳が……」

 

「そんなもの幻想郷にも無いわ。そんなことより紫、今人里で起こっている異変の首謀者と咲夜を誘拐した奴についてあんた何か知ってるんじゃない?」

 

「私の威厳がそんなことって……。まあいいわ、ええ、知っているわよ。どちらも同じ人物が起こしたことで、彼女は私の友人でもあるわ」

 

「誰?言いなさい、さもないと……」

 

「言うわ、言うからそのお札をしまってちょうだい。……今回の事件の犯人は伊吹萃香。地底に潜った鬼達の一人よ」

 

「地底に潜った鬼が何だって地上で異変を起こして咲夜を攫うのよ」

 

「萃香は鬼の中でも変わり者でね、よく地上に出てくるのよ。異変を起こしたのは、まあお酒が飲みたかったんじゃない?十六夜咲夜は分からないけど」

 

「今伊吹萃香はどこにいるの?」

 

「そうねえ。昔の根城だった妖怪の山にいるんじゃないかしら。細かくは分からないけどね」

 

「そこまで分かれば充分よ。……それにしても随分あっさり吐いたわね?」

 

私が疑わしい目で紫を見ると、紫はいつもの胡散臭い笑顔で答えた。

 

「まあ今回は事が大きくなり過ぎたし。それを静めるためにもあなたの介入が必要だと思っただけよ。まさか十六夜咲夜が萃香に攫われるとは思わなかったけど」

 

「ふーん、まあいいわ。何か企んでるようだったらその時とっちめればいいし」

 

「あら、私が常日頃から何かしら企んでるみたいな言い方は心外ねえ」

 

「だったらその胡散臭い笑みをやめなさい。そうすれば少しは信じてあげるわ」

 

「つれないわねえ。じゃあ私は少し用事があるからこれで失礼するわね」

 

そう言って紫はスキマを作って瞬時に姿を消してしまった。

私は紅魔館の魔女からもらった魔石を通して魔理沙につなげた。

 

『聞こえる?魔理沙。咲夜の居場所が分かったわ』

 

『霊夢か!私達もちょうど今回の事件の犯人が分かったところだぜ!聞いて驚くなよ、犯人はなあ、なんと――』

 

『鬼の伊吹萃香でしょ?さっき紫から聞いたわ。……ん?達?魔理沙、貴方今誰かといるの?』

 

『なんだ、知ってたのか。じゃあ阿求の家の本をひっくり返したのは骨折り損か、ついてないぜ。じつはさっき妖夢と会ってな、手伝ってくれるとさ』

 

『そう、咲夜がいる場所は妖怪の山よ、すぐに向かってちょうだい。なんだか嫌な予感がするのよね』

 

『そうか、じゃあ急がないとな、妖夢!行先が決まった、早く行くぞ!あ、阿求、片付けは任せた!』

 

そんな魔理沙の声ときっと阿求のものであろう怒鳴り声を最後に通信は途切れた。

魔理沙の奴、阿求の家が出入り禁止になっても知らないわよ?

 

でも本当に嫌な予感がするわ。咲夜に何か起こってそう。……急いだ方がいいわね。

 

私は踵を返して妖怪の山へと飛んで行った。

 

 

 

 

やがて妖怪の山に辿り着き、さてどこから探そうかと考えていると、後ろから声が聞こえた。

 

「霊夢!」

 

呼ばれて振り返ると、手を振っている魔理沙と頭を下げている妖夢を見つけた。

妖夢の顔が若干青いのはきっと魔理沙の箒に一緒に乗ってきたためだろう。

 

「確かに咲夜はここにいるんだな?」

 

「ええ、紫に聞いたから間違いないわ。細かい場所は分からないからしらみつぶしに当たるしかな――

 

ドッゴオオオオオオオン!!!!!!!!!!!

 

私の言葉の途中で少し離れた場所で爆発が起こった。

それは凄まじい威力で、空中で爆発したにもかかわらず、爆発した場所のの真下付近の森が消し飛んでいるのが確認できた。

 

「どうやら探す手間は省けたようね、行くわよ」

 

「え、お、おう!」

 

「はい!」

 

私達は爆発が起こった場所に急行する。

攫われた咲夜が無事であることを祈りながら。

 



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ユルサナイ…!!(フラン視点)

どうも、友人(女)のフランちゃんコスプレのレベルが高くて戦慄した作者です。

今回はフランちゃん視点。
キリのいいところで切ったので次の話もフランちゃん視点です。


 

――妖怪の山 上空

 

――博麗霊夢達が到着する十数分前

 

 

――禁忌「クランベリートラップ」

 

私が放ったスぺカが弾ける。

お姉様やパチュリー、美鈴に咲夜、霊夢に魔理沙。

私が弾幕ごっこをしたことがあるのはこの六人とだけ。

だけど皆が私のスぺカの弱点や改良点を教えてくれたおかげで作り上げた当初よりも威力や避けにくさが上がっている。

あの咲夜や魔理沙が私のスぺカ一枚にスぺカを使うほどに私のスぺカは強くなっていた。

 

だけど、目の前の天狗は何でもない事のように回避する。

 

「スペルカードブレイク……。強いのね、貴方」

 

「基礎能力では貴様ら吸血鬼には劣るが、速さで我ら天狗に勝てる者はいない。そしてお前の弾幕は少々正直すぎるのだ。どこに来るのかが手に取るように分かるわ」

 

経験の差。それが彼と私の差だ。

私は地下で生のほとんどを過ごした。でもきっと彼は戦いの中に身を置いてきた。

 

「お前の攻撃には実ばかりで虚がない。そんな馬鹿正直な攻撃ではどれだけ強力でも当たりはせんわ。そして見せてやろう」

 

天狗の手に一枚のカード。きっとあれが彼のスペルカード…!

 

「これが本物の攻撃というものだ」

 

――旋風「気紛れな旋風」(せんぷう・きまぐれなつむじかぜ)

 

天狗から一つの竜巻が発生し、私へと迫ってくる。

だけどその速度は遅く、簡単に避けられるものだった。

 

(あの竜巻を避けてから突っ込んでスぺカで――)

 

「――弾けろ」

 

次の行動を考えていた私の思考は突然分裂した竜巻の群れを見て霧散した。

全方位から襲い掛かる竜巻は一つだった時とは比べ物にならないほどに速く、ほぼ反射的に攻撃のために用意していたスぺカを防御のために発動した。

 

――禁忌「レーヴァテイン」

 

顕現した炎剣で私に殺到する竜巻群を薙ぎ払う。が、私の視界にあの天狗の姿はなかった。

 

(え!?一体どこに……、!上!?)

 

「ほう、気が付いたか。だがもう遅い」

 

――「神風特攻」

 

天狗が上空から風を纏って突っ込んでくる。

弾幕で止めようとするけど纏っている風に弾かれて効果がない。

ならばと私はラストスペルを発動した。

 

――禁忌「禁じられた遊び」

 

十字架型の弾幕が天狗に襲いかかる。

私のスぺカは確実に天狗の風の鎧を剥いでいき、やがて私達はすれ違った。

 

「……私の負けか」

 

そう言って天狗は血がにじんでいる肩を抑える。

私のスぺカは天狗の風の鎧を全て剥ぎとり、一撃を入れることに成功していた。

 

「ううん、引き分けだよ。私も一撃貰っちゃったもの」

 

しかし、私のスぺカが天狗に当たった瞬間、天狗に残っていた微量の風が私の頬を斬り裂いていた。

私は頬の傷に触れるが、それはもうすでに治っていた。

 

「さて引き分けとなるとどうしたものか……。私にも職務があるしな……。……ん?」

 

私達を通そうかどうか悩んでいる天狗に一羽の烏が近づいてきた。

天狗はその烏を肩に乗せ、何やら話し込み始める。

 

「そうか、分かった。お前はこのことを哨戒中の天狗にも伝えてくれ」

 

話し終わったのか、天狗は烏を飛ばして、私達の方に向き合う。

 

「通っていいぞ。ここで何をやるにも好きにしろ」

 

「いいの?」

 

「たった今大天狗様から命が下った。「十六夜咲夜なる人物を探している者達に関しては手出し無用」とな。つまり我々天狗は捜索に協力しないが妨害もせんということだ。ではな、私は新しい仕事ができたのでな、ここで失礼する」

 

そうして天狗は風を巻き起こして姿を消した。

少しして美鈴が私に近づいてくる。

 

「どういうことでしょう?縄張り意識の高い天狗が捜索を許すなんて」

 

「分かんない。でも咲夜を探すのは今しかないよ、行こう、美鈴!」

 

私は美鈴の手を引っ張って目的の妖力を追っていった。

 

 

 

 

妖力を追っていくと、やがて一つの洞窟に辿り着いた。

 

「微弱ですが、咲夜さんの気が感じ取れます。ここで間違いないでしょう」

 

「じゃあすぐに入ろう!」

 

「ちょっと待ってください……。はい、他に誰もいないようです、入りましょう」

 

美鈴の声を聞いて私は洞窟に飛び込んだ。

しかし、そこで私が見たものは信じたくないものだった。

 

――地面には恐らく咲夜のものであろう血がぶちまけられ

――岩に寄りかかりながらも死んだように目を閉じた咲夜の姿

 

「咲夜!?咲夜、どうしたの、ねえ!」

 

半狂乱になりつつも私は咲夜に縋り付く。

いつもならここで目を開けて優しく頭を撫でてくれる。だから今回もきっと――

そんな思いに反して咲夜は目を開けない。

 

「どうしよう、美鈴!咲夜が、咲夜があ!!」

 

私は咲夜の姿を見て慌てて駆け寄ってきた美鈴に顔を向ける。

美鈴は咲夜の体に触れて体調を探っていた。

 

「……霊力がほとんどない。それに内臓もいくつか傷ついていますね。右手は完全に折れてます。でも、まだ生きてます。大丈夫、致命傷ではないですよ、フラン様」

 

体力の低下で眠っているだけです、という美鈴の言葉を聞いてひとまず安心する私。

でもやっぱり目を覚ましてほしい。そうすれば心の底から安心できるから。

 

そんな時、洞窟の入り口に誰かが立っているのに気が付いた。

 

「おいおい、これは何の騒ぎだい?」

 

この妖力には覚えがある。あの戦いの場所に残っていた妖力だ。

つまり、この目の前の妖怪が咲夜を攫い、こんな目に合わせた張本人――。

 

そこまで思考して私は本能的にその妖怪に飛びかかった。

 

(許さない。許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ――――――――コロシテヤル!!!!!!!!!!!!!!!!)

 

私は生まれて初めて湧き上がる破壊衝動に身を委ねたのだった。

 



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愛おしい貴方(フラン視点)

どうも、萃夢想以降のプロットがなくてこれからどうしようかと頭を抱えている作者です。

今回もフランちゃん視点。戦闘回です。

終わりのように見えますが、まだ少しだけ萃夢想編は続きます。


――妖怪の山上空

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」

 

「ったく、一体何だってんだい!」

 

弾幕を妖怪に向けて放つ。

弾幕ごっこ用の非殺傷のものではなく、当たれば大怪我は間違いないであろう殺傷用のものを。

私の心はもはや自分でも止められないほどの狂気に侵されている。

だけど、そんな心の中でも未だ冷静に思考できる部分も残っていた。

いつもならばその残った冷静な部分で狂気を抑えようとするのだが、今回は狂気をさらに怒りという感情で加速させる。

 

(咲夜をあんな目に合わせて…、絶対に許さない!)

 

残った理性で私はスペルカードを発動する。だけどこれはただのスぺカじゃない。

殺傷用に調整された殺し合い用のものだ。

 

――禁忌「クランベリートラップ」

 

スぺカが発動する。いつもと違うのは威力、そしてその規模だ。

本来スペルカードルールによって絶対に当たる弾幕は撃ってはならない。

でも今回のスぺカは弾幕ごっこではなく、殺し合いを想定されて作られている。

故に、普通に回避しただけでは逃げ場など存在しない。

 

「ちいっ!」

 

妖怪は舌打ちを一つすると、姿を消してスぺカを回避した。

……あれ?こんな技を使う相手をどこかで見たような気がする。

 

「いきなり襲い掛かってくるなんて血の気の多いやつだねえ、……ん?よく見たらあんた、紅魔館の地下にいた奴じゃないか。はっはーん、分かったぞ、あんた、あの時の続きをしに来たんだね?なんだい、そうならそうと言えばいいのに。お望み通り思いっきり遊んでやるさ!」

 

――萃符「戸隠山投げ」

 

妖怪は勝手に自分で納得した後、スぺカを放ってきた。

私は吸血鬼の再生能力に任せて正面から妖怪に突っ込む。

体を弾幕で削られながらも、妖怪を捕まえた――――

はずだった。

 

「甘い甘い、私に同じ技は二度は通じないよ。まあ、あんたが弾幕ごっことやらじゃなくて殺し合いを望むんならそれに答えてやろうじゃないか」

 

また姿を消して私を回避した後、私の背後に現れて、私の頭を思いっきりぶん殴ってきた。

攻撃をモロに喰らった私は頭を吹き飛ばされ、衝撃にひかれるまま、地面へと激突した。

 

それでも私の狂気は止まらない。私の怒りは止まらない。

口が再生する――――怨嗟と憤怒の唸り声が漏れ出す。

目が再生する――――怨敵の姿を憎悪がこもった視線で睨みつける。

脳が再生する――――目の前の敵を殺すための思考が回復する。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!」

 

――禁忌「レーヴァテイン」

 

狂獣のような咆哮を上げ、慣れ親しんだ炎剣を作り上げる。

しかし普段のそれより遥かに熱量を持った炎剣はその保持している熱量だけで周囲の森を焼き払う。

周囲の木々は瞬時に炭化し、ボロボロとその姿を崩していく。

私はそんな光景を尻目に、炎剣を妖怪へと振り下ろした。

 

「その技は前に私に破られてるだろう?無駄だって、…!?」

 

妖怪が炎剣に手をかざすと、炎の威力が弱まる。

だが、炎剣は私がありったけの妖力と魔力を注ぎ込むことで前以上の威力を放つ。

妖怪にとっては予想外のことだったのか、動きを止める。

そして、炎剣が妖怪を飲み込み、大爆発を起こした。

 

ドッゴオオオオオオオン!!!!!!!!!!!

 

爆発は予想以上に大きく、地面にいた私さえも飲み込む。

でも私にとってこの程度の傷はすぐに再生する。

私は間髪入れずに能力で妖怪の「目」を掴んだ。

でもこれだけじゃ死なないかもしれない。

だから、私はさらに能力を行使する。

妖怪の周囲の空間の「目」も右手に集める。

周囲の空間もろとも破壊すればさすがにあの妖怪も死ぬだろう。

そのことに暗い悦楽を感じ、口が笑みに歪む。

一息ついて、壊そうと右手に力を込めた瞬間、後ろから誰かに抱きつかれた。

 

「フラン様…、お止め下さい……」

 

ずっと聞きたかった声。聞いていると落ち着く声。

その声を聞いた途端、私の中の狂気が急激に薄れていく。

 

「さ、くや……?」

 

「はい。私は無事です。だから、どうかこれ以上は……」

 

「どうして?あの妖怪は咲夜を酷い目に合わせたんだよ?」

 

薄れた狂気が再燃する。なんであの妖怪をかばうの?

だって、あの妖怪は咲夜を――――

 

「これ以上は八雲紫に目を付けられます。だから、フラン様、どうか――」

 

「私のため?」

 

咲夜の声を遮って問いかける。

これは大事なことだ。あの妖怪よりも私の方が大事?

咲夜はあの妖怪のためじゃなくて私のために止めてるの?

 

「はい。フラン様に危険な目にあってほしくないのです」

 

「ふーん、そうなんだ、私のためなんだ……」

 

殺意が薄れる。狂気が消えていく。

えへへ、咲夜は私を心配してくれるんだ。

 

私は振り向いて咲夜と向き合う。

ボロボロで、血で服が汚れていて酷い姿。

でもその眼は確かに私を案じていた。

 

「分かった。これ以上は止めるよ」

 

「ありがとうございます、フラン様」

 

「その代わり、私に意見したんだから罰を与えなきゃ♪」

 

「え?」

 

――チュッ――

 

私は呆けてる咲夜の唇に口づけをする。

咲夜ったら本当に可愛い。

このまま私だけのものにならないかなあ。

 

「さ、行こっ、咲夜!」

 

「え、は、はい……。あ、ちょっと待ってください。美鈴を拾っていかなくては……」

 

「あ、そうだね、すっかり忘れてたわ!」

 

咲夜の言うとおりに美鈴を途中で拾って紅魔館へと帰る私達。

ねだったら手を繋いでくれた咲夜に、少し近づけたかな、なんて考えながら咲夜を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、体力が尽きたのか、突然気絶した咲夜に美鈴と一緒に慌てたのは別の話。

 



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最高の一日(萃香視点)

どうも、車を納車して運転に苦戦してる作者です。

今回は萃香視点。

次回に咲夜さん視点を挟んで萃夢想編は終わりですね。



 

――萃香視点

 

 

「ここにもいない、か。いっそのこと分体を作ろうかねえ」

 

私は疎になって人里に入った後に目的のものを見つけられずにぼやく。

 

「あの人間を助ける奴が一人位いると思ったんだがねえ」

 

十六夜咲夜、とか言ったか。

昔ならば鬼に攫われた人間を見捨てる人間は多かったが、ここは幻想郷。

誰かが攫われれば誰かが助けるために調べる。

そしてそこに強い人間がいれば、と思ったのだが……。

 

「もしかして違う場所を探すべきだったのかね。あいつも人里とは別の場所に向かっていたようだし」

 

だが私はあの人間の住処を知らない。

これ以上は無駄骨だろう。

私は探索をやめて妖怪の山へと向かう。

あの人間を連れて地底に行けば面白いことも起こるだろう。

勇儀に自慢するのもいいかもしれない。きっと悔しそうな顔で私を見ることだろう。

 

やがて目的の洞窟へ到着する。

だが、中に誰かの気配を感じた。同時に血の匂いも感じ取る。

 

(私が残した妖力に気が付かなかった馬鹿な妖怪が入り込んであの人間を襲ったか?)

 

私は洞窟の中に入ると、二人の妖怪が十六夜咲夜のそばに座り込んでいた。

どうも襲い掛かっている雰囲気じゃない。

これはむしろ、心配している?

 

「おいおい、これは何の騒ぎだい?」

 

私が二人に問いかけると、両方が振り向く。

だが、一人が私と目があった瞬間、咆哮を上げ、殺気をまき散らしながら突っ込んできた。

 

突然のことに反応できなかった私は突進をもろに喰らって吹っ飛ぶ。

そいつをどうにか振り払うと、空中へと移動した。

 

そいつは弾幕を張り、こちらを撃墜させようとしてくる。

しかもその弾幕は紫に教えられていた弾幕ごっこ用のものではなく、殺し合いで使うような代物だった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」

 

「ったく、一体何だってんだい!」

 

毒づいて弾幕を回避する。

次の瞬間、そいつはスペルカードを放ってきた。

 

そのスぺカは弾幕が弾け、さらに周囲へ弾幕をばらまいていく。

本来ならば逃げ道があるはずだが、それには存在しなかった。

 

「ちいっ!」

 

舌打ちを一つして疎になることで回避する。

弾幕が届かないところまで一旦下がったことで、ようやくそいつの姿を眺めることができた。

そして気付く。こいつは吸血鬼の異変の時に地下にいた吸血鬼ではないかと。

それで納得した。

単にこいつは私と戦うためにここに来たのだろうと。

どうやって私の居場所を特定したのかは分からないが、紫あたりにでも聞いたのだろうか?

 

襲い掛かられた理由が分かってすっきりしたのでこちらも応戦することにする。

紫に教えられて作ったスペルカードを殺傷用に調整し、放った。

 

――萃符「戸隠山投げ」

 

周囲から岩を萃め、弾幕と合わせて放つ。

避けると思った私の予想を裏切って、吸血鬼は正面から突っ込んでくる。

だけど、それはかつての戦いの焼き直しでしかない。

この吸血鬼の負傷覚悟の戦い方はすでに見切っている。

私は疎になることで吸血鬼の攻撃を回避し、背後に周って能力を解除した。

そして、吸血鬼の頭を殴り、地面へと叩きつけた。

かなりの手ごたえを感じたが、あの吸血鬼の再生能力を考えるとあまり効いてはいないだろう。

追撃するために地面へと向かおうとして、ただならぬ殺気を感じて思わず動きを止めてしまう。

吸血鬼を吹き飛ばした場所を見ると、予想通り吸血鬼が頭を再生しているのを見つけた。

そして再生した目でこちらを睨んでくる。

そこで気付く。彼女は私と戦うためにここにいるんじゃない。

あの人間――十六夜咲夜を助けるためにここにいるのだ。

何故それが分かったのか、それは彼女の眼だ。

私は彼女が前に戦った時のように狂っているのだと思っていた。

だがそれは少し違う。

彼女は「怒り」狂っているのだ。

元から持っている狂気に自ら怒りという燃料を注ぎ込み、さらに燃え立たせている。

 

そして吸血鬼はかつてと同じようにその手に炎剣を作り出した。

だがその大きさは昔見たそれの比ではない。

遥かに大きく、また、離れたこの場所からでも熱さを感じるほどの熱量。

かつての炎剣は未熟だったのか、それとも室内であった故に無意識に制限していたのか。

それとも――彼女の感情の高ぶりに炎剣が反応しているのか。

 

吸血鬼は炎剣を私に振り下ろし、私はそれを能力によって内包する魔力を散らそうと手を向ける。

だが、かつてのように炎剣が散ることはなく、むしろ炎の密度を増して私へと直撃した。

 

「がっ、あああああああああああああ!!!!????」

 

炎剣の炎は私を容赦なく焼き焦がす。

とっさの判断で空中の水分を萃めることで温度を減衰させたものの、炎は私の肌を焦がし、そして萃めてしまった水が一瞬で蒸発したために爆発が起こり、大きく吹き飛ばされてしまう。

追撃がくるかと身構えたが、いつまでたっても衝撃が来ない。

不思議に思って吸血鬼の方を見てみると、人間、いや「十六夜咲夜」が吸血鬼に後ろから抱きついていた。

きっともう一人の妖怪が解放したのだろう。

 

「ここまでボロボロになって、攫った人間にまで逃げられる。こりゃあ私の負けかな」

 

溜息交じりに言葉を零して苦笑する。

久し振りに面白い人間に会えたんだがねえ。これじゃ勇儀に笑われちまう。

根城である地底に戻ろうとした、その時だった。

 

――神霊「夢想封印」

 

――恋符「マスタースパーク」

 

――人符「現世斬」

 

色とりどりの弾幕が、凄まじい威力の砲撃が、ただならぬ斬気が込められた斬撃が同時に襲い掛かってくる。

咄嗟に疎になることで全ての攻撃を回避する。

 

「外したみたいね、なかなか厄介な能力だわ」

 

「ああ、だけど突破口はあるぜ、なにせ私達が始めるのは「弾幕ごっこ」なんだからな」

 

「あなたが咲夜さんを攫った妖怪ですね?何故そんなことをしたのかは分かりませんが……、まあ斬ればわかるでしょう」

 

いきなり攻撃してきた三人が現れ、思い思いの言葉を吐く。

 

「いきなり攻撃をしてくるなんて危ないやつらだねえ」

 

「人を攫う妖怪に言われたくはないわ。それに、今私はいつになく怒ってるのよ?」

 

「まったくだ。人の友達攫っておいてタダで済むとは思ってないよな?」

 

「そうです、咲夜さんを倒すのは私なのですから!」

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

なんだか漫才じみたことを始めた三人だったが、紅白の巫女が仕切り直すようにお祓い棒を私に突き付ける。

 

「とにかく!あんたはここで退治するわ、覚悟なさい」

 

「ふふっ、はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!」

 

「何がおかしいのかしら?」

 

突然笑い出した私に怪訝な顔で問いかける巫女。

でも悪く思わないでほしい。

だって、あまりにも嬉しかったのだ。今日一日だけで私と戦おうなんて奴が四人も現れたんだ、笑うなってほうが無理な話だ。

 

「いや、悪いね。あんたらを馬鹿にしたわけじゃないんだ。ただ、嬉しかったのさ。鬼である私と戦おうなんて奴は久しく見なかったからね」

 

三人が構える。私もそれに答えるために妖力を自身へと集めていく。

 

「さあ始めようじゃないか、鬼遊びをね!!」

 

「あんたを倒してとっとと飲み残したわいんを飲みに行かなくちゃね」

 

「咲夜の代わりにぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」

 

私は三人と同時にぶつかり合った。

 

 

 

 

 

「はあああああああっ!!!」

 

「ほっ、よっ、なかなかやるねえ、剣士!」

 

剣士の斬撃をいなしながら笑う。

まだまだ粗削りだが、その真っ直ぐな太刀筋にかつての剣士たちとの戦いが脳裏に蘇る。

隙を見つけて殴ろうとするが、隙を埋めるように飛んでくる弾幕のせいでなかなか反撃できない。

突然剣士が後ろへと距離を取る。

それを追おうとした私のそばを砲撃が通り抜けていった。

 

「ちっ、外したか!」

 

「ちゃんと狙いなさいよ、魔理沙」

 

どうやっているのかは分からないが、どうやら彼女たちには声を出さずに意思疎通する術があるらしい。

 

「やあああああっ!!」

 

「おっと」

 

剣士が再び斬りこんできて、私は腕でそれを妖力を萃めて作った盾で防ぐ。

しかしぶつかり合ったのは一瞬で、剣士はまた引き下がる。

 

「同じ手は通用しな――――、っ!?」

 

また砲撃を撃ってくるのかと横へ移動しようとした瞬間、白黒の魔法使いが凄まじい速さで突っ込んできた。

 

――彗星「ブレイジングスター」

 

私はそれを大きく右へ跳ぶことで避ける。

だがその時、私の体が封じられた。

 

「くっ!結界か!」

 

――神技「八方鬼縛陣」

 

「魔理沙、妖夢、今よ!」

 

「待ってたぜ、この瞬間を!」

 

「全力を叩き込みます!」

 

――宝具「陰陽鬼神玉」

 

――魔砲「ファイナルスパーク」

 

――断迷剣「迷津慈航斬」

 

巨大な霊力弾が、先程以上の威力を秘めた砲撃が、何物も断ち切らんとする斬撃が襲い掛かってくる。

 

「ああ、くそっ、私の負けかあ」

 

私はそれを笑顔で受け止めたのだった。

 

 

 

 

 

「これで一件落着。これに懲りたら人攫いなんてしないことね。少なくとも私の前では」

 

「はー、解決したらなんか疲れたぜ。紅魔館でお茶でもしてくるかな」

 

「早く帰って夕餉の準備をしなければ……。幽々子様、今参ります!」

 

私を倒した三人は各々目的の場所へと向かっていく。

私は紅白の巫女に話しかけた。

 

「なあ、博麗の巫女」

 

「何よ?まだ懲りてないようならもう一回ぶっ飛ばすけど?」

 

「いやいや違うんだ。ここ最近地底は退屈でねえ。かといって地上の方だと妖怪の山くらいしか寝床がないから見に来る天狗どもが煩くて。だからさ、ちょいと寝床を貸してくれないかい?」

 

「博麗神社に住む気?妖怪が住む神社だなんて前代未聞ね。ますます参拝客が遠のくわ……」

 

私のお賽銭が、と嘆く巫女にさらに話しかける。

 

「食うもんは自分で用意するし、なんだったら家事を手伝ってもいい。どうだい?」

 

「……まあ働くなら構わないけど。参拝客を脅かさないようにね。後、咲夜に謝っておくこと」

 

「分かったよ。明日にでも謝りに行くさ。それじゃ、これからよろしく!」

 

こうして、私は博麗神社へと居候することが決まった。

これから面白いことが起きそうだ、と私は笑うのだった。

 




書けなかったのでここで補足。
霊夢達が声を出さずに意思疎通していたのはパチュリーの魔石を使ってです。
霊夢の魔石を妖夢に渡し、霊夢は勘で、魔理沙は魔石でタイミングを計っていました。


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異変解決、でいいんでしょうか…

どうも、もうすぐ春だというのに夏コミのことばかり考えてる作者です。

今回の咲夜さん視点で一応萃夢想編は終わりです。

あとは後日談を書くことは決まっていますが、そこからは全く考えていないので作者にもどうなるか分かりません。


 

 

「ん……」

 

目が覚める。

目を閉じたときに背中に感じていた岩のごつごつした感触はなく、代わりに柔らかくて温かいものがあった。

何だろ?それに体がポカポカしてすごく気持ちいい。

それの正体を確かめるため、目を開けると、美鈴の顔がドアップで映った。

 

「咲夜さん!目が覚めたんですね、良かった……」

 

「美鈴……?なんでここに……?っ!」

 

起き上がろうとした瞬間、お腹のあたりに激痛を感じてまた横たわってしまう。

 

「無理しないでください。気で治療しているとはいえ、内臓がやられてるんです、そのまま楽にしててください」

 

どうやら私は美鈴の膝枕で眠っていたらしい。

いつもならテンションが上がりまくって天元突破するんだろうけど、お腹の痛みが強くてそれどころじゃない。

 

「内臓がひどく傷つけられていました。攫った妖怪がやったんですか?」

 

「いえ、これは能力の身体強化による副作用よ。萃香は関係ないわ」

 

「あの妖怪は萃香というのですか……。ともかく、紅魔館にすぐ帰りましょう。今の咲夜さんにはきちんとした治療が必要です」

 

「でももうすぐ萃香が戻ってくるわ。霊力を追って紅魔館まで来るかも」

 

「それなら大丈夫です。今フラン様が戦っていますから」

 

……へ?

 

 

 

 

 

洞窟の外に出ると美鈴の言っていた通り萃香とフラン様が戦っていた。

……明らかに弾幕ごっこじゃない戦い方で。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

 

フラン様完全に狂気モードに入ってるじゃないですかやだー!

久し振りにあの状態のフラン様見たなあ。赤霧異変の少し前あたりから見てないし、溜まってたのかな?

 

「手が出せませんね、どうしましょう?」

 

「どうしようもないわね。私は負傷してるし、貴方は治療で疲労してる。今の状態のフラン様を止めるには不足すぎるわ」

 

ああなったフラン様は私が万全の状態で本気を出しても止められるかは半々だからね。

この状態の私には勝機なんて無いに等しい。

 

やがてフラン様が萃香に地面に叩きつけられた。

だけどフラン様は巨大な炎剣を顕現させ、萃香へと振り下ろす。

萃香は炎剣に飲み込まれ爆発四散した。

え、何あれ。フラン様ってあんなに強かったの?

私が予想以上のフラン様の強さに呆然としていると、フラン様が右手に何か集める動作をする。

あれもしかして、萃香の破壊の目を右手に持ってきてる?

ううん、それならもっと早く発動できるはず。

なのにまだ発動しないってことは、まだ何か集めてるってこと。

私がフラン様ならどうする?

萃香を確実に倒すために何をする?

萃香を破壊するだけじゃ倒せないかもしれない。鬼は頑丈だから。

なら私がやるのは面制圧。周囲の空間ごと破壊して圧殺する。

でもそれをやったら確実に博麗大結界に影響が起こる。

だからこそ普通はしない。だけどフラン様はそれを知らないし、何より今のフラン様は何をするか分からない。

もしフラン様が結界を破壊しちゃったら確実に紫や霊夢がフラン様を討伐するだろう。

それはまずい!私の数少ない癒しが減ってしまう!

どうにかしてフラン様を止めないと……でもどうやって?

今のうちにナイフで攻撃する……却下。その後に攻撃される未来しか見えない。何より(再生するとはいえ)フラン様の顔に傷をつけるとか私にはできない。

美鈴に頼んで押さえ込んでもらう……却下。美鈴が吹き飛ばされる光景しか思い浮かばない。

私が抑え込む……却下、したいけどこの状況確実に私のせいだよね……。

うう、私が責任取るしかないか。

美鈴曰く、フラン様が私のことを心配してレミリア様に無理を言って探しに来たらしいし。

痛いのは嫌だけど仕方ない。

 

「美鈴。万が一の時はあなたがフラン様を抑えて頂戴」

 

「え、咲夜さん、何を――」

 

時間が止まる。世界が色を失い、停止する。

私は痛みが走る体に鞭打ってフラン様のもとへ走る。

そして、フラン様に抱きついて能力を解除した。

 

「フラン様…、お止め下さい……」

 

私が声をかけると、フラン様はぴたりと動きを止めた。

 

「さ、くや……?」

 

「はい。私は無事です。だから、どうかこれ以上は……」

 

「どうして?あの妖怪は咲夜を酷い目に合わせたんだよ?」

 

私が攻撃を止めさせようと声をかけると、不機嫌そうな声を上げる。

あれ、これなんだか地雷踏んだ?

でも止めなきゃ紫に目をつけられる。フラン様の能力がいくらチート級のものだったとしても、紫相手は分が悪い。

 

「これ以上は八雲紫に目を付けられます。だから、フラン様、どうか――」

 

「私のため?」

 

私が必死に説得していると、それを遮ってフラン様が問いかけてくる。

これが好機と便乗して肯定すると、フラン様は嬉しそうにはにかんで妖力を収めてくれた。

ふう、良かった。危うくゆかりんと全面戦争になるところだった。

私が安心して一息つくと、フラン様は悪戯を思いついたような顔になる。

 

「その代わり、私に意見したんだから罰を与えなきゃ♪」

 

「え?」

 

――チュッ――

 

突然フラン様の顔が目の前に広がり、唇に柔らかい感触が――って!

ききききききききききききききキス!?今私フラン様にキスされた!?

ふ、ふふっ、最高にハイっ!ってやつだああああああ!!!!!!!

今なら!体の痛みなど超越できるっ!

 

「さ、行こっ、咲夜!」

 

フラン様の声でハッと我に返る。しまったしまった、嬉しすぎて我を失うところだった。

 

「え、は、はい……。あ、ちょっと待ってください。美鈴を拾っていかなくては……」

 

「あ、そうだね、すっかり忘れてたわ!」

 

美鈴ェ…。まあ私もさっきまでキスの衝撃で忘れてたけどね!

美鈴を迎えに行く途中で上空を見上げると、自機三人組と戦ってる萃香が見えた。

近距離の妖夢、中距離の霊夢、遠距離の魔理沙。

それぞれが持ち味を生かして萃香を追いこんでいる。

でも萃香も負けてない。私だったら確実に詰むだろう状況を上手く立ち回っている。

やっぱり萃香もチートだったか……。

 

「美鈴連れてきたよー。じゃあ帰ろう、咲夜!」

 

美鈴を連れてきたフラン様が左腕に抱きついてくる。

まだ残っている傷になかなか響くが、どうにかして笑顔を保つ。

すると突然、私は美鈴に抱きかかえられた。

 

「ちょっと、自分で飛べるわよ、美鈴」

 

「その体でですか?霊力だってほとんどないのに」

 

うっ、それを言われると……。仕方ない、大人しくしておこう。

そうして私達は紅魔館へと向かう。

とにかくレミリア様に謝る言葉を考えておこう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰る途中でキスのテンションが切れて本日三度目の気絶を体験するのはまた別の話。

 



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看病されるって意外に恥ずかしいです…

どうも、プロットが切れたのでこれからどうしようかと悩んでいる作者です。

今回はお見舞い編。
もう少し登場人物を増やしたかったですが、これ以上増やすと自分の技量じゃ書ききれないんですよね…。
はあ、文才が欲しい…。


 

 

「はい、あーん」

 

「……美鈴、私、腕は問題なく動くから自分で食べられるのだけど」

 

「それでも痛むんでしょう?パチュリー様から安静にするように言われてるんですし、どんどん甘えてください!」

 

「……」

 

なんだかどっかで見たような構図だなあ、これ。

前は私が食べさせてたけどね、食べさせてもらうって予想以上に恥ずかしい。

 

あの異変(異変っていうより事件?)が終わって帰宅し、すぐに美鈴とパチュリー様に怪我を見てもらったんだけど、美鈴ができるのは応急処置と気を持続的に送ることで治癒能力を高めるだけで、パチュリー様は治癒魔法は得意じゃないと早々に美鈴に丸投げしたために、美鈴が張り切って私の看病をしている。

 

パチュリー様の見立てだと、完治には一週間はかかるのだとか。(技術はないけど知識はあるからどの程度の怪我かを知ることはできる、とはパチュリー様の談)

一週間かあ。班長に任命してる妖精メイドはなんとか使えるレベルまで育てたけど、他の妖精メイドが不安なんだよなあ……。

一週間後に仕事に戻ったら紅魔館が荒れてました、なんてシャレにならない。

 

私が休んでいる間の業務を思い浮かべて溜息を吐くと、美鈴がレンゲを差し出してくる。

 

「はい、あーん。あ、熱いのは苦手なんでしたっけ?じゃあ冷ましますね」

 

ふー、ふー、とお粥を冷ます美鈴が可愛くて仕方ないが、自分で食べられるからレンゲを渡してくれないだろうか。

……無理だろうなあ。私がメイド長に指名されてから独り立ちできるように美鈴に甘えないようにしてきたし。(結構無意識に甘えてることが多いのは言わないでほしい)

公然と甘やかす理由ができて嬉しいんだろうなあ。美鈴って結構お世話好きだし。

 

私が諦めて美鈴に餌付けされていると、部屋の扉が開いた。

 

「調子はどうかしら、咲夜?」

 

「問題ありません、今からでも働けます」

 

「うふふ、意気込むのはいいけど、無理は駄目よ。貴方はしばらく安静にしていなさい」

 

入ってきたのはレミリアお嬢様だ。

あの異変の後、萃香に負けたことをどう謝ろうかと悩んでいたけど、レミリア様は私を叱ることなく、私を抱き寄せ、無事でよかった、って嬉しそうな顔で言ってくれたんだよね。

レミリア様マジカリスマ。もうこの方に一生付いていこうって心の中で誓い直した位かっこよかったね。

 

「ああ、パチュリーがこれを飲むように、と渡してきたわ。まったく、パチェったら私をパシリに使うなんて」

 

「それだけお嬢様を信頼しているということでしょう。そういうご友人はなかなか得難いものですよ」

 

「……まあ、そうね。ふふ、咲夜に免じて今回のことは不問にしましょう。じゃあ、安静にしてるのよ」

 

そう言ってレミリア様は持っていた袋を美鈴に渡して去っていった。

そのすぐ後にバタバタと騒がしい足音と共にフラン様が入ってくる。

 

「咲夜!見てみて、綺麗な花が咲いたのよ!」

 

そう言って差し出してきたのは一輪のジャスミン。

確か美鈴が管理してる花壇に植えられているものではなかったか。

 

「フラン様は私と一緒に花の手入れをしてくれるようになったんです。咲夜さんが早く元気になるようにってフラン様、頑張ったんですよ?」

 

そっと耳打ちしてくれる美鈴。

フラン様がそんなに私のことを思ってくれてたなんて、おねーさん、嬉しすぎて涙が出そう。

 

「ありがとうございます、フラン様。大切にしますね?」

 

「うん!」

 

このジャスミンは時間停止で永久保存決定だな、部屋の花瓶に飾っておこう。

 

「あ、お姉様に話があったんだ、もう行かなくちゃ。じゃあしっかり休んでね、咲夜!」

 

そう言って、来た時と同じようにバタバタと去っていくフラン様。

妖精メイドとぶつからないといいけど。

 

レミリア様とフラン様は私が休んでから毎日部屋に顔を出してくれる。

そんな些細なことが嬉しくて仕方がない。

……ていうか、そうだよ!私はこういう平穏な生活を過ごしたいのになんで私はトラブルに巻き込まれるんだろう。私(十六夜咲夜)に不幸体質なんてあったっけ?

 

そんなことを考えていると、突然、どこからか爆発音がした。

え、なになに?妖精メイドの誰かが料理にでも失敗した?

 

「……!この妖力は……!咲夜さん、ここで大人しくしていてください。私が様子を見て――」

 

「その必要はないよ」

 

立ち上がった美鈴の声を遮るようにして、声が聞こえてくる。

というかこの声、つい最近聞いたような……?

 

やがて部屋の中に霧が発生し、それが人の形をとっていく。

そして現れたのは私を浚った妖怪、伊吹萃香だった。

 

「何をしに来たんですか?」

 

美鈴が険しい顔で萃香に問いかける。

萃香はそんな美鈴を気にもかけず、私に話しかけてきた。

 

「やあ、元気かい?十六夜咲夜。まあ、万全、ではなさそうだね」

 

「おかげさまでね。さっきの音、あれは貴方が原因?」

 

「ああ、吸血鬼二人とばったり会っちまってね、こっちに聞く耳持たずに弾幕を撃ってくるもんだから分体残してこっちに来たのさ」

 

弾幕ごっこするだけならあれで十分だからね、と笑う萃香。

レミリア様達が知ったら怒るだろうなあ。特にレミリア様は相手が本気出してないと怒るタイプだし。

 

「今回はあんたのお見舞いと、この前の謝罪をしに来たのさ。改めて前は攫っちまって悪かったねえ。良い人間がいると鬼としては攫っちまいたくなるのさ」

 

悪かったと言いながらまったく悪びれた様子がない萃香。

そのくせ憎めないのだから萃香もいい性格をしている。

 

「まあ、謝りに来たのは家主の命令でもあるんだけどね」

 

「家主?」

 

「今度から博麗神社に居候することにしてね、霊夢が謝りに行けって言うもんだから」

 

萃香の手綱をすでに握っているとは、霊夢…恐ろしい娘っ!

 

「ではお見舞いも謝罪も終わりましたね、なら出ていってください、咲夜さんには休息が必要なんです」

 

「そうツンケンするなよ、危害は加えないって」

 

美鈴がどうにかして萃香を追い出そうとしているが、萃香はそれを飄々と受け流している。

美鈴と萃香ってこんなに仲悪かったっけ?

 

「美鈴、私なら大丈夫よ。危害を加えないと言ってるんだから安心していいわ」

 

「そうそう、鬼は嘘を嫌うからね。あんたはよく分かってるじゃないか」

 

からからと笑いながらポンポンと肩を叩いてくる萃香。

手加減しているのか、特に痛みは感じない。

 

その後、萃香と人里のお祭り騒ぎや私達が帰った後どうなったかを萃香に聞いていると、突然後ろに引っ張られた。

突然のことに反応できず、そのまま後ろに倒れると、ポヨン、と柔らかいものに後頭部が当たる。

 

「咲夜さん、この妖怪は貴方を攫ったんですよ?もう少し警戒すべきです」

 

「どうしたの、美鈴?いつもの貴方らしくないわ」

 

今日の美鈴はなんだかピリピリしてる気がする。

どうしたんだろう、生理?

 

美鈴の顔を不思議な気持ちで見ていると、萃香が何か思い至ったようにニヤリと笑った。

 

「はっはーん、なるほどね。なかなか好かれてるねえ、あんたも。ここまで妖怪に好かれる人間もなかなか珍しいんだが」

 

「どういうこと?」

 

「おや、澄ました顔して意外に鈍感だねえ。そこの妖怪は私に妬いたのさ、あんたと楽しそうに話して自分は置いてけぼりくらったからね」

 

「っ、違います、勝手なことを言わないでください!」

 

「おいおい、そんな下手糞な嘘じゃあ赤子だってだませないよ?ほら、咲夜だって驚いてるじゃないか」

 

おお、びっくりしたあ。美鈴が怒鳴るなんて珍しい。

萃香と美鈴って相性悪いのかな?

 

「私はお邪魔みたいだし、帰るとするよ。気が向いたら遊びに来るからね。ここには上手そうな酒も置いてあるみたいだしね」

 

じゃあね~、と霧になって消えていく萃香。

ワインの存在に気が付くとはさすが鬼。今日は一本も開けてないはずだけど。

 

ふと美鈴の方を見ると、赤い顔で俯いていた。

え、どうしたの!?風邪!?また風邪ひいたの美鈴!?

 

「美鈴?どうしたの?顔が赤いけど」

 

「あ、いや、これはその、何でもないんです、何でも!」

 

あはは、と誤魔化そうとする美鈴を見て、私はちょっとした悪戯を思いつく。

私は美鈴の右手を取り、その甲を舐めた。

 

「さ、咲夜さん!?何を――」

 

「これは嘘をついている味ね、美鈴。どうして顔を赤くしてたのかしら?」

 

元ネタ的には顔を舐めた方がいいんだろうけど、それだと変態みたいじゃないか!

え?手の甲を舐めるのも十分変態的?こまけえこたあいいんだよ!

 

「そ、それは、その、咲夜さんが……」

 

「私が、何?」

 

「咲夜さんが――」

 

「咲夜、美鈴!無事!?」

 

美鈴が声を絞り出そうとした瞬間、レミリア様が乱暴に扉を開けて入ってくる。

 

「さっきあの鬼を見かけたのだけれど、勝負の途中で消えてしまってね、もしかしたら咲夜をまた攫うのではないかと思ったのだけれど……。良かった、無事みたいね」

 

私達の姿を見て安心したように息を吐くレミリア様。

さっきまで萃香がここにいましたなんて言えないよなあ……。

 

「あ、その、ちょっと外の空気を吸ってきます!レミリア様、後はお願いします!」

 

「あ、ちょっと、美鈴!?」

 

美鈴が突然椅子から立ち上がり、部屋を出ていく。

驚いたレミリア様が引きとめようと声を上げたが、美鈴はそのまま出て行ってしまった。

……逃げたな……。

 

「何なのかしら、もう。まあいいわ。咲夜と過ごす時間も悪くなさそうだし」

 

「それも運命を見た結果ですか?お嬢様」

 

「見なくたって分かるわよ、咲夜といるととても幸せな気分になるんですもの」

 

嬉しいこと言ってくれるなあ、といっても私がベッドから降りることができない以上、話すことしかすることはないんだけどね。

 

 

 

 

 

その後、レミリア様としばらく話し込むことになるのだが、お見舞いに来た魔理沙がパチュリー様を連れて部屋に来て、それを目撃したフラン様がまた部屋に戻ってきた結果、カオスな状況に陥ったのは、また別のお話。

 




本編の誰も気が付かなかったのでここで補足。

ジャスミンの花言葉は、「あなたは私のもの」らしいですよ?


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霊夢へのお礼です…

どうも、永夜抄編が書けないからって思いついた新しい小説を書いている作者です。
そんなんだから書けないというのに…。作者ってほんとバカ…。

今回も咲夜さん視点。

途中で何を書きたかったんだかわからない謎回になりました。


「ええと、博麗神社はこっち、よね?」

 

霊夢が書いてくれた地図読みにくい……。

せめて縮尺位きちんと書いてくれればいいのに。

 

異変解決から二週間たった。

私は今博麗神社に向かって飛行中。

なんで博麗神社に向かっているのかというと、霊夢へのお礼のためだ。

 

実は萃香が紅魔館を散々引っ掻き回して帰った翌日、果物の詰め合わせを持って霊夢がお見舞いに来てくれたのだ。(果物の詰め合わせは仕事が忙しくて来れない妖夢が買ったらしい)

 

その時に異変の顛末やその後の処置などを聞かせてもらったおかげで異変の全容を把握することができた。(萃香や魔理沙にも聞いたのだが、主観が入りすぎていて部分的なことしか分からなかったのだ)

ちなみに話をしている間、霊夢が私特性のワインを五本開け、見舞いの品であるはずの果物のほとんどを食べてしまったことは霊夢との秘密だ。(さすがに悪いと思ったのか、果物は半分に切って食べさせてくれたのだが)

そのお礼も兼ねて博麗神社に遊びに行くことにしたわけだ。

 

しかしまさか紅魔館の皆が、私が出かけることに猛反対したことには驚いたなあ。

もうあんなことは滅多にないって言ってもなかなか納得してくれなかった。

パチュリー様がレミリア様と美鈴を説得してくれなかったらどうなっていたことやら。

パチュリー様には個人的に後でお礼をしないと。

クッキーかな、いや、材料もそろってきたし、マカロンなんかもいいかな。

私はパチュリー様のお礼に何を作るか考えながら博麗神社を目指すのだった。

 

 

 

 

 

やがて博麗神社の鳥居が見えてきて、そこへ近づくと、境内には見覚えのある姿があった。

 

「あや?咲夜さんじゃないですか、奇遇ですねえ。あなたも博麗の巫女に用事が?」

 

「ええ、まあね。文は取材?」

 

「はい!今回は鬼が出てきましたからね、スクープの予感がしたのですよ!」

 

境内にいたのは異変の時に妖怪の山で会った射命丸文だった。

文はカメラを構えてやる気をみなぎらせている。

 

「ふうん、鬼に積極的に関わろうなんて、珍しい天狗もいたもんだ」

 

突然私達の前に現れたのは萃香。

どうやら疎の状態で話を聞いていたらしい。

文は萃香の姿を見ると、カメラを構えて近づいた。

 

「お久しぶりです、伊吹様!唐突で申し訳ありませんが、取材を受けて下さらないでしょうか!」

 

「おやおや、怖いもの知らずな天狗だね。私が怖くないのかい?」

 

「怖いものに近付けなくてネタを見逃すようじゃブン屋としての名が泣きます!」

 

「へえ、なかなか見どころのあるやつだ。天狗でマシなやつなんて天魔位なもんだと思ってたけど、気に入った。取材とやらを受けてやろうじゃないか」

 

酒でも飲んで話そう、と文を引っ張っていく萃香。

すると、萃香の後ろに霊夢が現れた。

スパン、と霊夢は萃香の頭をお祓い棒で叩くと、呆れたように息を吐き出した。

 

「昼間から酒を飲むなって言ったでしょうが。神社がお酒臭くなったらどうするのよ。……あら、咲夜じゃない。どうしたの?」

 

萃香を叱っていた霊夢が私を見つけて問いかけてくる。

完全に尻に敷かれてるなあ、萃香。

 

「お見舞いのお礼に来たの。よかったらこれ、食べて頂戴」

 

そう言って霊夢に渡したのは手作りのクッキーと途中で寄った人里で買ってきた日本酒。

 

「あら、ありがとう。どこぞの魔法使いと違って気が利くわね。ところで、その荷物は?」

 

霊夢はクッキーと日本酒を受け取ると、私が持っている袋に目をやる。

ふふ、よくぞ気付いてくれました。

 

「これは今日の夕飯の材料よ」

 

「そんなもの、帰りに買っていけばいいじゃない」

 

「何言ってるの、これは貴方の夕飯の材料よ?」

 

「……まさか、ここで夕飯を作っていくつもり?」

 

「ついでにお酒のおつまみもね。日本酒とクッキーは合わないでしょう?」

 

台所借りるわね、と私はこの前の宴会で使った厨房を目指して歩く。

すると霊夢が慌てた様子で引き留めてきた。

 

「え、いやさすがにそれは悪いわよ、居間で大人しくしてなさい」

 

「いいのよ、魔理沙から聞いたのだけど、ここ最近まともな物を食べてないって聞いたわよ?それが本当かどうか確かめなくちゃね」

 

霊夢の場合、食料がなくてもギリギリまで我慢するタイプだと思うから食糧事情を把握しておかないと。

あまりにひどいようなら紫をあのテープを使って脅して食料供給させるか、定期的に確認しないと危ない気がする。

 

私は台所に着くと、食料を確認する。

野菜はぼちぼち、米は切れてて、調味料はギリギリ残ってる、それ以外は特になし。

って、思った以上に備蓄が少ないな。米ぐらいはたくさんあると思ったのだけど。

 

「私は大丈夫だから、縁側で萃香たちと話してなさいってば。病み上がりなんでしょう?」

 

「完治したから問題ないわ。霊夢、博麗神社ってお米が無くなるくらい貧乏なの?」

 

「ここ最近は妖怪退治の依頼も減ってね、収入がないのよ。人里からは定期的に野菜が納められるけど、米は買いに行かないと……」

 

うーん、意外に世知辛いのね、幻想郷。

よし、ここは腕によりをかけて作りますか!

 

「じゃあ霊夢はあっちで萃香達とくつろいでてちょうだい。文の分も作るから帰らないように言っておいてね」

 

「いや、さすがに手伝うわよ?」

 

「いいから休んでなさい、これもお礼の一つなんだから」

 

レミリア様から霊夢や魔理沙、妖夢は私のために奔走してくれたらしいし、きちんとお礼をしないとね!

 

しぶしぶといった様子で縁側に向かう霊夢を見送って、私は料理に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

「料理、できたわよ」

 

「おっ、待ってました!」

 

「あやや、おいしそうですねえ。椛の料理もおいしいですが、こちらもなかなか……」

 

「久しぶりに白米を見たわ……」

 

声をかけると、すぐによってくる三人。

さあ、たーんとお食べー。

 

「「「「いただきます」」」」

 

うむ、みんな行儀がよくてよろしい。

萃香はがつがつと豪快に、文は意外にも上品に、霊夢は未だに複雑そうな顔で食べている。

 

「おっ、これうまいね。なんて料理だい?」

 

「ハンバーグよ。洋食だからなじみがないのかしら」

 

「こっちの肉じゃがもおいしいですよ。咲夜さん、調理方法教えてください!椛に作ってもらいます!」

 

「ええ、いいわよ。あとでレシピを渡すわね」

 

「このお味噌汁美味しいわね。出汁がきいてるわ」

 

「気に入ってもらえたようで何よりよ、霊夢」

 

やがて米櫃一杯にあったご飯も綺麗に消え、私は日本酒を出すために台所へ戻る。

居間に戻ると、萃香が待ちきれなさそうに体を揺らしていた。

 

「おお、なかなか上手そうな酒だね。さっそく……」

 

「おつまみがあるからちょっと待ってちょうだい」

 

私は台所からあらかじめ焼いておいたスルメと茹でた枝豆を持ってくる。

 

「おお、いいねえ。こっちも上手そうだ!」

 

「これはお酒がすすみそうですね、さっそく飲みましょう!」

 

はしゃぎまくっているお酒好き組を見て苦笑していると、霊夢が近づいてきた。

 

「今日はありがとうね、咲夜。色々助かったわ」

 

「霊夢には困ったときに助けてもらってるし、お互い様よ。こういう風におせっかいを焼くのも好きだし」

 

「あら、世話好きの自覚はあるみたいね」

 

縁側で騒いでいる萃香と文を見ながら笑う霊夢。

綺麗だなあ。ずーっと見続けても飽きないんじゃなかろうか。

私が霊夢に見惚れていると、ふと霊夢がこっちに近づいてくる。

えあっ!?顔近い……!さすがにこれは照れるって!!

 

「ふふっ、顔が赤いわよ、咲夜?」

 

「からかわないでくれる?霊夢」

 

霊夢がクスクスと笑ったところでからかわれていたと分かり、肩から力が抜ける。

まったく心臓に悪い。

 

「お二人とも!そんなところにいないで一緒に飲みましょう!」

 

突然文が私達の手を掴んで萃香の場所まで連れて行く。

 

「おっ、来たかい!じゃあ飲み比べと行こうじゃないか!」

 

「いいわね。受けて立つわよ、萃香」

 

「咲夜さん、私の新聞とってくれませんか?損はありませんよ?」

 

「じゃあ一部頂こうかしら。これからよろしくね」

 

「ありがとうございます!これからも文々。新聞をお願いしますね!」

 

そこからは完全に酒盛り状態になってお酒に弱い私は萃香の誘いを断るのに苦労するのだった。

 



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白玉楼にお邪魔してます…

どうも、永夜抄を買いたいのになかなか金欠で買えない作者です。

今回は永夜抄までのお茶濁し回。
特に意味も伏線もない、そんな話です。




――白玉楼

 

「はあっ!!」

 

「ふっ!」

 

私のナイフと妖夢の刀(楼観剣か白楼剣かどうかは分からない。私に審美眼なんてないんだから仕方ない)がぶつかり合う。

何合かお互いの武器で斬り合うが、どれも決定打にはならない。

 

このままでは埒が明かないと判断して、後ろに飛びのきつつナイフを妖夢へ投げる。

だが、あっさりと弾かれ、妖夢がこちらに一歩踏み込んできた。

上手く誘いに乗ったことに内心で笑みを浮かべ、私は着地の瞬間に前に踏み込んだ。

妖夢は一瞬驚いたようだがすぐに立ち直り、右手の刀を横に一閃する。

私はそれを上体を後ろに反らすことで避け、その勢いのまま、足を振り上げる。

振り上げた足は狙い通りに振った刀の柄に当たり、弾き飛ばした。

 

私はそのまま後ろへ一回転し、着地する。

それと同時に弾き飛ばした刀が少し離れたところに突き刺さった。

 

「そこまでね~」

 

幽々子が間延びした声で試合の終了を告げる。

 

「ありがとうございました」

 

妖夢は頭を下げ、刀を取りに行った。

 

はあっ、試合とはいえ緊張する。

というかなんでこんなことになったんだっけ?

 

 

 

 

――3時間前

 

紅魔館での業務を終え、レミリア様に許可をもらって白玉楼へと向かう。

異変でなんだか迷惑をかけてしまったみたいだし、霊夢がお見舞いに来たとき持ってきた果物の詰め合わせは妖夢が買ってくれたようなのでそのお礼に向かうのだ。

こういう礼儀はきちんとしなくちゃね!

 

途中で博麗神社に寄って、お昼ご飯と夕飯を作って能力で保存してから、改めて白玉楼に向かう。(霊夢はいなかった。妖怪退治に出かけたのか、人里に買い出しに行ったのかは分からない)

手土産として自作のケーキを2ホールほど持ってきたけど、幽々子は大食いだし、足りるかな?

 

白玉楼へと続く長すぎる石段を飛んで登り、白玉楼の大きい庭に足をつける。

異変の時は西行妖にばかり目が行ったけど、この庭もなかなか手入れがされているなあ。

紅魔館の庭と違ってわびさびがあって、趣を感じる。

 

「あら、お客さんかしら?」

 

しばらく庭に見惚れていると、声をかけられた。

顔を向けると、幽々子がこちらに手を振っていた。

 

「久しぶりね~、どうかしたの?」

 

「この前の異変で妖夢に迷惑をかけてしまったようだからそのお礼に。はい、つまらないものだけど」

 

幽々子にケーキの入った箱を渡すと、ぱっと顔を輝かせた。

 

「あら、いい匂いね。お菓子?」

 

「ええ、外の世界のお菓子でね、人里だと洋菓子はあまり見かけないから」

 

「嬉しいわあ、紫も時々外の世界のお菓子を持ってくるのだけど、大体和菓子だから。そうだ、貴方も一緒に食べない?」

 

「え、私は別に……」

 

「いいからいいから。さ、あがって?」

 

幽々子の柔らかい笑顔に断れず、白玉楼に入る。

 

幽々子に案内されたのは広めの居間のような場所で、縁側から庭を一望できる部屋だった。

 

幽々子は机の上に箱を置き、さっそく開けようとしている。

さすがに皿もない状況では食べにくいだろうと彼女を止めようとすると、隣の部屋から襖を開けて怖い顔をした妖夢が入ってきた。

 

「幽々子様?」

 

いつもより若干低く感じるその声で名前を呼ばれた幽々子が体を揺らして動きを止める。

 

「えーっと、妖夢、これはね?」

 

「幽々子様。私、言いましたよね?もうすぐ、お昼ができるって」

 

「はい、言いました。ごめんなさい」

 

幽々子が言い訳をしようとすると、妖夢がさらに低い声で話す。

さすがにまずいと思ったのか、幽々子が正座で謝った。

……主従逆転してないこれ?

私がいつもと違う妖夢の様子に驚いて固まっていると、妖夢がこちらに顔を向ける。

一連の様子を見ていた私にとっては少し怖い。

 

「すいません、お見苦しいところを……」

 

「それは別にかまわないけど、いつもこうなの?」

 

「幽々子様は食べることに関しては注意が必要なので。周囲の霊達に見張ってもらっています」

 

いつもこうなんだ……。苦労してそうだね、妖夢。

 

「妖夢~、食べちゃダメ?」

 

幽々子がケーキをちらちら見ながら涙目で見上げる。

ぐはっ、完全に不意打ちだった……。可愛すぎるでしょ幽々子。

 

「まだ駄目です。ですが、お昼を食べたら頂くことにしましょう。……咲夜さんも、どうです?すこしお昼には遅いですが」

 

「頂くわ。他の人の料理を食べる機会なんてなかなかないしね」

 

妖夢は台所に向かい、昼食の準備を進めた。

その間、妖夢の残していった半霊が幽々子を監視していたのは言うまでもない。

 

 

 

 

お昼ご飯を終え、縁側でまったりする私達。(ご飯の内容?お手本のような和食でした。普段洋食を食べてる身としては少し新鮮だった)

私の持ってきたケーキを切り分け、お茶を飲みながら庭を漂っている幽霊を眺める。

 

見慣れない人物がいるのが珍しいのか(そもそもそんな意識があるのかは知らないけど)幽霊たちは私に擦り寄っては離れていく。猫のようなその動作に少し可愛いと思ってしまった。

 

「そういえば、咲夜さんは何故こちらに?」

 

妖夢が思い出したように問いかける。

あの騒動で忘れてたけど、お礼に来たのにこんなに持て成されちゃっていいのかな。

 

「この前の異変で魔理沙と一緒に私を探してくれたと聞いてね。そのお礼に来たのだけど……。このケーキ以外になにかしてほしいことはある?私にできることならするわよ?」

 

さっきご相伴にあずかったしね、と妖夢に尋ねる。

妖夢は少し考え込んで、答えた。

 

「では、鍛錬に付き合ってくれませんか?試合などは一人ではできないもので」

 

「いいわよ、スペルカードは何枚?」

 

この前は有耶無耶のまま弾幕ごっこが中断されたし、再戦のチャンス!

ウキウキしながらスペルカードを取り出すと、妖夢は申し訳なさそうな顔で首を横に振った。

 

「いえ、弾幕ごっこではなく、斬り合いで」

 

…えっ。

 

 

 

 

まあこんな感じで試合が始まったわけだけど、結果は私の勝ち。

でもまあ、美鈴から体術の鍛錬を受けてなかったら負けてたね!ありがとう美鈴!

何気に妖夢膂力強いんだよね、鍔迫り合いになると押され気味になるし。

まともに斬り合ったら負けるとか、同じ刃物使いとして自信無くすなあ。

 

「足技とは予想外でした。まだまだ鍛錬が足りませんね」

 

「まともに戦ったら私が負けるでしょうけどね。攻撃を受けるたびに手が痺れそうだったわ」

 

「咲夜さんは一撃が軽い分、手数が多いので捌くのに苦労しました。貴方は正面からの斬り合いより奇襲からの一撃必殺の方が合っているかもしれませんね」

 

なるほど、暗殺者スタイルか。確かに私の戦い方ってそういうものが多いよね。

 

妖夢の言葉に納得していると、幽々子が手を振っているのが見えた。

妖夢が苦笑して手を振り返し、私も小さく振り返す。

 

そんな私達を幽霊たちがぼんやりと照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後観戦していた幽々子がケーキを1ホール丸々食べてしまい、妖夢に怒られるのは別の話。

 




今日はエイプリルフールらしいので嘘次回予告を作ってみました。
では、どうぞ。








「私はっ、人間を止めるぞ、お嬢ォォォォォォォーーーーーーーっっ!!!!」

――これはある一つの仮面が、一人のメイドを変えてしまった物語――

「あの仮面は、石仮面。被った者を吸血鬼に変えてしまう、恐ろしい代物よ」

「今のあいつは、間違ってる。だからぶん殴ってでも止めてやるぜ」

――主への反逆――

「咲夜……。あなた……!?」

「もう貴様に従う十六夜咲夜は死んだ…。今の私は、そうね、SAKUYAと言ったところかしら?」

――仲間との離別――

「咲夜さん、もうやめてください、こんなことっ!!」

「美鈴、あなたなら私についてきてくれると思っていたけれど、違うようね!」

――幻想郷を守る者達――

「咲夜、貴方はこの博麗霊夢が、直々にぶちのめす」

「私、射命丸文の本来のスピードをお見せしましょう!」

――幻想郷を支配しようとする者達――

「全部無駄なのよ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッッ!!!!!!!!」

「今こそ、覚妖怪の本領発揮と行こうかしら?さあ、あなたのトラウマを見せて頂戴、私に!」

――それぞれの思いがぶつかり合う――

「霊夢、これが私の最後の魔法だ…、受け取ってくれええええええっ!!」

「これがっ、私の、「夢想天生」よ!」

「ケリをつける、龍神像だッ!!」

――明かされる衝撃の真実――

「あなたのその肩のアザ…まさか…!?」

「ええそうよ。私の父親は――」

村雨晶 新物語
「咲夜の奇妙な冒険」
4月1日 連載開始!!







念のためもう一回、これは嘘予告ですよ?


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随分珍しい生き物ですね…

どうも、就活でなかなかパソの時間が取れない作者です。

今回は魔理沙回。霊夢、妖夢ときたのでこれはやったほうがいいかな、と思いまして。

次回から永夜抄の予定です。


 

 

――紅魔館 図書館

 

(「大天狗と白狼天狗が電撃結婚」「人里の人間と野良妖怪の恋物語」……意外に色恋ネタが多いなあ、この新聞)

 

午前中にするべき仕事を終え、図書館で文々。新聞を読む。

 

私の記憶にもある新聞にそっくりなそれは、ゴシップや幻想郷という不可思議な環境下でも眉唾物な記事が大半だ。

まあ情報媒体というよりどちらかといえば娯楽用の読み物といったところだろうか。

 

(へえ、あの人里の団子屋、新メニュー出すんだ、今度買ってこようかな)

 

私が紅茶を飲みつつ新聞を読み進めていると、図書館の扉が乱暴に開かれる。

それを感知した瞬間、私は能力を使って時間を停止させた。

そして残りの紅茶を飲み干し、新聞を自分の部屋の本棚に放り込み、厨房で紅茶を淹れ直して手作りのケーキを持って図書館に戻り、パチュリー様がいつも座っている机に到着したところで能力を解除した。

 

「お客様です、パチュリー様。紅茶とお茶菓子をお持ちしました」

 

「相変わらず仕事が速いのね、あなたは」

 

「職務ですから。では、これで」

 

来たのは十中八九魔理沙だろうし、だったら魔法の講義が始まるだろう。

同席したい気持ちはあるが、邪魔するわけにもいかないので立ち去ることにする。

休憩時間はまだあるが、午後の業務を早めに始めればいいだけのことだ。

 

「待ちなさい、咲夜」

 

出ていこうとしたらパチュリー様に呼び止められた。

何だろう、ケーキよりモンブランの方がよかったとか?

 

「あなたも聞いていきなさい、魔理沙もあなたがいた方が意欲が出るみたいだしね」

 

そうなのかな、魔理沙は一回集中したら没頭するようなタイプだと思うけど。

まあ邪魔にならないんだったら喜んで残ろう。私だって女子トークに花を咲かせたい。

 

「分かりました。ではこの席に座ってますね」

 

おっと、座る前に何か読むものを探そうかな。

新聞を取りに行くのは面倒だし、漫画でも読んでることにしよう。(この図書館、魔法で様々な書物を収集する機能があるらしく、その中に漫画も混じってた。それを整理するのが小悪魔の仕事なんだとか)

 

「ようパチュリー!本を返しに来たぜ。そんで分からないところを教えてほしいんだが……」

 

「そう思って準備はしていたわ」

 

「さすがパチュリー!話が分かるぜ!」

 

この二人、最近息が合ってきたよね。相手の考えてることを把握してるというか。

あれ、それ、で何が欲しいのか分かってしまう間柄というか。

 

「お、咲夜もいたのか、何読んでるんだ?」

 

「時を○ける少女」

 

「なんだかお前のことみたいだな!」

 

「そう?」

 

私はタイムスリップとかはできないけどね。できるのは時を早めることと遅らせることと止めることだけ……って、そうだ。

 

「魔理沙、何か私にやってほしいことはある?」

 

「ん、何だよ突然」

 

「この前の異変で私を探してくれたんでしょう?パチュリー様に聞いたわ」

 

「気にするなよ、友達なんだからその位は当然だ」

 

「何かない?私にできることなら何でもするけど」

 

魔理沙はしばらく考えていたけど、やがて思いついたような顔になった。

 

「じゃあ掃除をしてくれないか?」

 

「掃除?」

 

「ああ、私は掃除がどうも苦手でな、家の中が散らかってるんだ。それを片づけてくれたら助かるな」

 

「分かったわ。今度あなたの家にお邪魔するわね」

 

「決まりだな!」

 

ニカッと笑った魔理沙はパチュリー様のもとに向かい、魔法談義を始めた。

私はその声をBGMに漫画を読み進めるのだった。

 

 

 

 

 

さて、魔理沙と約束した次の日に魔法の森にやってきました。

そういえば魔法の森に入るの初めてだなあ。

え?魔法の森の瘴気は大丈夫なのかって?

ふふん、心配ご無用、あの後パチュリー様に魔理沙の家に行くと伝えたら瘴気を無害なものに変換する術を施したお守りをくれました!

その場で一瞬で作ってしまったのはさすがに驚いたけどね。

もうパチュリー様に頭上がらないなあ。今度お礼に特製アップルパイを作ろう。

きっと食べきれないって言って小悪魔と一緒に食べるんだろうけど。小悪魔が甘いもの好きなの分かっててお菓子を分けてあげるんだから本当パチュリー様って優しいなあ。

いつもの口調で「貴方のためじゃなくて私が食べきれなくてもったいないからよ」って小悪魔に言ってた時はどこのツンデレですか!?って突っ込みたくなったけど。

 

 

 

魔理沙に渡された地図を見て森の中を進む。

以前霊夢に渡されたものとは違い、意外にも縮尺や目印になるものがきちんと書かれた地図は見やすかった。パチュリー様曰くこの程度は魔法使いとしての基本技能だから叩き込んだのだとか。

 

やがて「霧雨魔法店」という看板が掲げられた家を見つけた。

魔法使いの家の割には外装は結構普通だ。

とりあえず、入り口の前に立ち、ノックする。

すると、中からガン、ゴン、と何かがぶつかるような音がして、扉が勢いよく開いた。

 

「よう、待ってたぜ、咲夜」

 

出迎えてくれたのはいつもより少しラフな格好をした魔理沙。

こら、いくら女同士だからってそんな無防備な格好で応対するんじゃありません。

もし私じゃなくて他の人だったらどうするの。

 

「……身だしなみはきちんとしなさい」

 

魔理沙の服を整え、注意する。こういうことは自覚することが大切だからね。

 

「ああ、ありがとな。……さっそくで悪いが、掃除を始めてもらえるか?」

 

「構わないわ」

 

さてどれほど散らかっているのだろうと家の中に入ると、そこは予想以上に物が散乱していた。

おそらく魔理沙が生活しているのであろう場所を除けば、脚の踏む場もないほどだ。

 

「これは予想以上ね。結構かかりそうだわ」

 

「じゃあ私は邪魔にならないように森に行ってるからさ、頼んだぜ~」

 

魔理沙はそのまま魔法の森へと姿を消してしまう。

せめて夕方までには終わらせなきゃね、よし、気合入れますか!

 

 

 

 

 

ふう、大分片付いたかな。

しかし用途が分からない器具はまだしも、画面が割れたゲームボーイやら充電パックが無くなってた携帯電話とかなんであるんだろう?

無縁塚あたりで拾ってきたのかなあ?

 

私が掃除を進めていき、あともう少しで終わるといった時、ガラクタの下から何かがひょこっと顔を出した。

それと目がバチリと合う。

 

メ○メガアウ~~~♪

 

脳内で変な音楽が流れた気がするけど、まあ気のせいだろう。

 

腹がポッコリと突き出ている蛇のようなそれは見たことがないけど、どういう生き物かは知っている。

――ツチノコだ。

そういえば魔理沙ってツチノコを飼ってたんだっけ。

まさか幻の生き物とご対面することになろうとは。

私はツチノコを優しく抱き上げる。

ツチノコはじっと私を見つめていたが、敵ではないと判断したのか目を閉じてこちらに身を委ねてきた。

意外に可愛いなコイツ。よし、私自慢の撫でテクで気持ち良くしてやろう。

ナデリナデリとツチノコの感触を確かめつつ堪能し、頭の上に乗っける。

まだ掃除が終わったわけじゃないし、放置しておくと何かの拍子に踏んでしまうかもしれないからね。

 

最後のガラクタを物置部屋らしき部屋に突っ込んで軽く箒で掃く。

ピカピカとまではいかないが、始めた当初よりかは綺麗になっただろう。

いつの間にか頭から降りて私の首に巻き付いているツチノコの頭を一撫でして厨房に向かう。

そこに紅茶の茶葉が置いてあるのは確認済みだ。アリスが置いていったのかはたまた香霖堂からかっぱらってきたのか……まあそんなことはどうでもいいか。

 

紅茶を淹れるためにお湯を沸かしていると、魔理沙が帰ってきた。

 

「おお!すげー綺麗になってる!ありがとな咲夜、助かったぜ!」

 

「この位ならお安い御用よ。いつもあんなに散らかすの?」

 

「研究に没頭するとどうしてもな。これからも何回か頼んでいいか?」

 

「私の仕事に影響を与えない範囲ならね」

 

「助かるぜ、…ん?そいつが他人に懐くとは、珍しいな」

 

「ああ、この子?私の首が気に入ったらしくて離れてくれないのよ」

 

未だに首に陣取っているツチノコを撫でながら話す。

随分人懐っこいUMAだこと。

 

 

 

 

 

 

その後も紅茶を飲みながら魔理沙と雑談をしてツチノコを愛でていると、帰る時間となった。

 

「じゃあそろそろ失礼するわね」

 

「ああ、また頼むぜ」

 

「ええ、じゃあね……ん?」

 

くいくい、と袖を引っ張られる感覚を覚え、振り向くとツチノコが行かないで、とばかりに私の裾を咥えていた。

か、可愛いいいいいいいい!!!!!!くっ、不覚にもきゅんとしたよ今!

うう、魔理沙が飼ってなければお持ち帰りするんだけどなあ。

 

「っと、こら、咲夜が困ってるだろ?」

 

「大丈夫よ、じゃあね。……今度紅魔館に来るときはその子も連れてきなさい、歓迎するわ」

 

そう言って私は魔理沙に手を振りつつ帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から魔理沙がツチノコを連れて紅魔館を訪れるようになるのはまた別の話。

 




今回出てきたツチノコっていつぐらいから魔理沙と一緒にいるんでしょう?
作者は書籍は持ってないのでそのあたりは分からないんですよね。


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永夜抄の始まりです…

どうも、就活のせいでなかなかパソが開けなくなってきている作者です。

今回は永夜抄導入編。
原作ではタッグを組んで異変に挑みますが、それに若干修正を加えています。

これ以降のプロットは全くと言っていいほど書いてないので次はいつになるやら。

それなのに新しい小説書き始めるとか、自分でも馬鹿だと思います。



 

 

 

――紅魔館

 

私はいつも通り業務を終え、眠りについた。

 

そのはずなんだけど……?

 

外を見ると、月が高く昇っている。

早めに起きてしまったのかと懐中時計を見るが、時間はすでに朝日が昇っていてもおかしくない時間帯だ。

 

夜が明けないって永夜抄か!

最近色々ありすぎて忘れてた。

 

ともかくレミリア様とフラン様の様子を見に行かなくちゃ。

二人とも吸血鬼だから今回の異変では影響が大きいだろうし。

 

時を止めてレミリア様の部屋の前に着く。

そして能力を解除した瞬間、物凄い威圧感に襲われた。

 

 

体が重くなったように動かない。呼吸ができない。意識が保てなくなる――。

思考が闇に沈もうとした瞬間、倒れかけた体が誰かに支えられた。

それと同時に唇に柔らかい感触があり、口の中に鉄の匂いが充満した。

それを自覚した途端、威圧感が弱まり、意識もしっかりしてくる。

 

「大丈夫?咲夜」

 

視界がはっきりして見えてきたのはレミリア様が唇から血を流している顔――って。

え、もしかしてさっき私が呑み込んだのってレミリア様の血?

 

「お嬢様、今私に飲ませたのは……」

 

「私の血よ。ああでもしないとあなたが私の威圧に耐えられないでしょう?安心なさい、飲んだのはほんの少しだけ。完全に吸血鬼化はしないわ。まあこれから半日くらいは半吸血鬼ぐらいにはなってるでしょうけど」

 

私は(一時的にだけど)人間を止めたぞ、ジョジョーーーーッ!!

 

というか威圧感が弱くなったんじゃなくて私に耐性が付いたんですね。

 

「どうやら月に細工をした愚か者がいるらしい。おかげで力が抑えきれなくなっている。このままだとフランが心配だ。咲夜、今すぐ能力を使ってフランの様子を見てきてちょうだい。私はこんな愚行を犯した輩を潰してくる」

 

「でしたら私も同行いたします」

 

「いいえ、咲夜はフランに付いていてちょうだい。あの子には今の状況が辛いはずよ」

 

「……かしこまりました」

 

こんな時でもフラン様を心配するレミリア様はマジお姉さんの鑑やでえ。

レミリア様も心配だけど、仕方ない。ここはフラン様に付いていることにしよう。

 

「お嬢様、お気をつけて」

 

「ああ、すぐ戻る」

 

レミリア様が服を翻して去っていく。かっこいい!カリスマをビンビン感じますよ!

 

 

 

 

 

レミリア様が去り、私は再び能力を使って今度はフラン様の部屋の前に着く。

能力を解除した瞬間、やはり威圧感を感じるが、レミリア様の血のおかげであまり気にならない。

私は扉を開けてフラン様に声をかけようとした。しかし――

 

「御無事ですかフランさ、ガッ!?」

 

扉を開けた瞬間私を出迎えたのは弾幕の嵐。

完全に油断していた私にそれらは何発も直撃した。

 

腕が焼かれる。足が砕かれる。脇腹が抉られる。

人間のままだったら即死だったであろうその傷は、しかし半吸血鬼化によって促進された治癒能力で即座に回復していく。

 

だけどまあ、肉体が無事でも私のチキンハートがこんな痛みに耐えられるわけがないわけで。

 

(痛い…。今すごく泣きそうだよ。あれだね、転んで膝をすりむいた子供並に大泣きできる気がするよ、今なら)

 

そんな内心に反して目からは涙一滴出やしない。まったく、不便すぎるでしょこの体。

 

「あれ?咲夜だあ。どうしたの、こんな真夜中に。駄目だよ、咲夜は人間なんだから、夜はきちんと眠らなくっちゃ」

 

クスクス、と笑うフラン様。

その笑顔はいつもの無邪気な物じゃなくて、狂気に彩られたものだった。

最近狂気に陥っていたというのに何を油断してたんだろう、私は。

 

おかしそうに笑っていたフラン様は私に近付いて匂い嗅いだ途端、笑みを潜め、無表情になる。

 

「クン……。お姉様の匂いがする。お姉さまの血の匂いが。ねえ、咲夜。もしかして、飲んだの?お姉様の血を」

 

フラン様が廊下に倒れている私に馬乗りになる。

そして私の体をくまなく嗅ぎ始めた。

いつもなら嬉しさでテンションが上がるけど、さすがに目に光が無くなった状態で睨まれている状態では恐怖しか感じない。

 

「ズルい……ズルい、ズルい、ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい。ズルい!!お姉様ばっかり。咲夜を好きにして。私も好きだもん、咲夜が大好きなのに。なのにお姉様ったら抜け駆けして。いいもん、なら私も付ける。咲夜に匂いをつける!!お姉様よりずうっと強いものを。お姉様が咲夜を独り占めできないようにしてやる。ううん、私が咲夜を独り占めするの。美鈴にも、パチュリーにも、小悪魔にも、お姉様にも、霊夢にも魔理沙にも妖夢にも橙にもルーミアにもリリーにも渡さない。咲夜は私のモノだもん。ずっとずっとずっとずっとずうううううううっと、私のモノなんだから。ねえ、咲夜。私のモノになってよ。壊さないから。傷つけないから。守ってあげる。大切にしてあげる。だから、咲夜のゼンブを私に頂戴?」

 

フラン様が体を密着させてくる。私の顔を固定して両目で私の目を見つめてくる。

フラン様の眼の中に映る私を見つめれば見つめるほど思考がぼんやりしていく。

 

(大切に……?いいじゃない、私が傷つかなくなるなら。このままフラン様に身を委ねてしまえばそれでいい。それだけで全部解決する―――――――)

 

逆らえない。フラン様の言葉に。命令に。魅了に。

思考放棄してフラン様にすべてを任せようとした――その瞬間。

 

――水符「プリンセスウンディネ」

 

大量の水が私とフラン様を飲み込む。

冷たい水が全身に思いっきり浴びせられたことで思考が一気に回復した。

 

(え?あれ?今私は何をしようとしてたんだっけ?)

 

「危なかったわね、咲夜。なんであなたが吸血鬼になっているかは分からないけど、今あなた、フランの魅了の魔法に掛かる寸前だったのよ?」

 

廊下の奥から現れたのは魔道書を持ったパチュリー様。

どうやら魔法で私達に鉄砲水を浴びせたらしい。

 

「…………邪魔しないでよ、パチュリー。咲夜が私のモノになるんだから。いくらパチュリーでも、ユルサナイよ?」

 

「頭を冷やしなさい、フラン。衝動に任せてそんなことをすればあなたは絶対に後悔するわ。あなたが欲しいのはいつもの咲夜でしょう?魅了の魔法で傀儡になった咲夜が欲しいの?」

 

「ウルサイなあ。邪魔をするなら容赦しないよ?あ、分かった。パチュリーも咲夜が欲しいんでしょ?でもダメ。咲夜を手に入れるのは私なんだから!」

 

フラン様が炎剣を顕現させる。

スペルカードではないそれは当たれば確実に対象を消しとばしてしまうだろう。

 

――それは駄目だ。それはいけない。フラン様は優しくて、繊細だ。狂気から覚め、家族の誰かを殺してしまったことに気が付けば、きっと壊れてしまう。

そんなことをさせるわけにはいかない。フラン様が好きだから。何があってもそれだけは止めてみせる。

 

(申し訳ありません、フラン様……)

 

体はすでに完治している。精神も持ち直した。ならばやることはただ一つ。

 

――「咲夜の世界」

 

ありったけのナイフを展開する。

だが本命のナイフは一本だけ。フラン様が狂気に陥った時、あまり傷つけずに抑えるために吸血鬼を弱らせ、拘束する術を付与してあるナイフだ。

霊夢に頼み込んで五本だけ作ってもらった。

 

フラン様は自分に当たるナイフだけを選別して叩き落とす。

そして、その中に本命のナイフも混じっていた。

ナイフは弾かれたが、術は発動する。陣がフラン様の真下に現れ、拘束した。

 

「あ、れ?咲夜、何で?なんでこんなことするの?咲夜、私のこと嫌いになっちゃったの?」

 

「違います、フラン様。今のあなたは狂気を抑えられていない。今のままでは、フラン様自身すらも傷つけかねない。ですので、大人しくしていてください。もうすぐ、お嬢様がこの異変を解決しますので」

 

「咲夜はお姉様がいいの?私じゃなくて?」

 

「違います。私にとっては二人とも大切です」

 

「嘘。嘘だよ。だって咲夜、お姉様のことになると嬉しそうだもん。私よりお姉様の方がいいんでしょ?だからこんなひどいことするんだ」

 

「フラン様、私は――」

 

「やめて。聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない!」

 

フラン様が叫ぶたびに陣に罅が入り、ついには陣そのものが崩壊した。

もしかして、能力が暴走してる?

次第に床や壁、果てには私が紅魔館全体にかけている空間を広げる能力さえもが破壊されていく。

やがて、天井が崩落した。

思わず身を守ろうとしゃがみ、目を閉じる。

天井の崩落が収まり、目を開けると、そこにあったのは瓦礫の山だけ。

 

「まずいわね……。どうやらフランが外に出てしまったわ。月がおかしくなっている今、これ以上狂気がひどくなる可能性があるわ。咲夜、フランを追うわよ!」

 

どうやら魔法で瓦礫から身を守ったらしいパチュリー様が私を急かしてくる。

 

 

今回の異変も、ただでは終わらなそうだ、と気合を引き締め直すのだった。

 



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愛しい恐怖(レミリア視点)

どうも、アーマードコアfaを買って真改という名のブレキチに斬殺されまくっている作者です。

今回はレミリア様視点。
この異変で唯一単独で動いています。

深夜のテンションで書いたのでおかしいところが多々あるかもしれません。


 

――レミリア視点

 

「……ふん、腰抜け共め」

 

私は偽りの月が輝く夜空を飛んでいた。

そして下から感じられるのは無粋な視線。興味と怯えが混じりあったそれは言語も理解できない低級の妖怪や妖精のものだろう。

咲夜が以前に異変解決に向かった時は好戦的な様子だったと言っていたため、私に挑む度胸のあるやつもいるかと思っていたが、どうやら期待外れだったようだ。

 

(まあ、それも仕方のないことか)

 

今の私は自身の妖力を抑えきれていない状態にある。

その原因が月が偽りのものであるからなのか、それとも心の中で燻っている感情のせいなのかは分からないが。

 

(まさかこの私が運命を見ることができないなんて)

 

今回の異変、どのような結末になるのか運命を覗いたものの様々な運命が混線していて上手く読み取ることができなかった。

今まで運命が混じりあい、複数の未来を見せることは何度かあったが、それでもそれぞれの結果を観測することはできていたのだ。

しかし、今夜の運命はお互いの影響が大きすぎて正確な結果を観測できない。

 

そして、その中でも心に刻み込まれている未来は――

 

(偽りの月の下で殺し合っているフランと咲夜)

 

これはあくまで観測可能な可能性の一つにすぎない。

しかし、その運命を見てからずっと私の中で警鐘がなっている。

――あの運命は十分起こり得る未来だ、と。

 

「っ!!」

 

頭を振って嫌な予感を振り払おうとする。

しかしまるで泥のように私の思考にこびりついた考えは離れることはない。

 

だからこそ私は咲夜に自身の血を飲ませ、フランの相手をするように言っておいたのだ。

今回の異変に参加することのないように。あんな光景が現実とならないように。

 

「くそっ」

 

自身の中の焦りを吐き出すように地面の妖怪どもに弾幕を放つ。

慌てて逃げる者もいれば逃げ切れずに爆散する者もいた。

 

「あらあら、八つ当たりとは感心しないわね、吸血鬼」

 

突如、私の目の前の空間に亀裂が走り、隙間妖怪が顔を出す。

私は舌打ちを一つして、隙間妖怪を睨みつけた。

 

「ちっ、何の用だ、スキマ妖怪」

 

「いえいえ、雑魚に当たり散らす無様な吸血鬼の姿が見えたから挨拶を、と思ってね?」

 

「……神経を逆撫でしに来たのならばとっとと失せろ。今の私は機嫌が悪い」

 

「忠告しに来たのよ、この異変から手を引きなさい」

 

「どういうことだ」

 

「今回は月絡みだからね、あんたが関わるとややこしくなりそうなのよ」

 

「博麗霊夢か。…貴様らこそ早々に帰るがいい。月は我々吸血鬼にとって象徴の一つだ。黙って見過ごすわけにはいかん。私が解決するから貴様らはお役御免だ」

 

「そういうわけにもいかないのよ、面倒だけどね。それに、今のあんた、余裕がないように見えるけど?」

 

「……これ以上の議論は時間の無駄だ、じゃあな」

 

私は博麗の巫女と隙間妖怪に背を向け、立ち去ろうとして――

 

「今あなたが抱いている感情は恐怖、じゃないかしら?」

 

隙間妖怪の言葉を聞いた瞬間、グングニルを隙間妖怪の喉へと突き付けた。

 

「吸血鬼の私が、怖がっているだと?」

 

「ええ。何に対してなのかは知らないけど、貴方の眼に浮かんでいるのは紛れもない恐怖心よ?」

 

隙間妖怪の言葉で燻っていた感情が鎮静するのを感じる。それは今まで持て余していた物を理解できたことからくる納得だった。

 

「くっ、はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!」

 

「……とうとうおかしくなったのかしら?」

 

隙間妖怪が随分失礼なことをのたまっているが、そんなことは気にならない。

なるほど、私はフランと咲夜、二人を失うことを怖がっていたということか。

まったく、恐怖心などここ二百年ほど感じていなかったために完全に失念していた。

 

(だがまあ、愛ゆえの恐怖というのも、悪くない)

 

あの二人を失うのを恐れるほどに愛している。

昔ならば認めなかっただろうが、今はその感情すら心地いい。

これも咲夜の存在によって生まれた変化ということだろうか?

 

「いやなに、今までの不機嫌の理由が分かってすっきりしただけだ、礼を言うぞ、スキマ妖怪」

 

「そう、なにか釈然としないけど、まあ礼は受け取っておくわ」

 

「……で、どうするのよ。これから」

 

今まで蚊帳の外にしてしまっていた博麗の巫女は少し退屈気味に私達を見つめていた。

 

「そうねえ。弾幕ごっこで勝負して、負けたら手を引く、でいいんじゃないかしら?」

 

「私はそれで構わん。で、どっちが相手だ?」

 

「私がやるわ。面倒だけど、博麗の巫女としての仕事だしね」

 

博麗の巫女――ええい、面倒だ、博麗でいいだろう――博麗は袖から札を取り出して構える。

私はそれを見てグングニルを構え直す。

そして気付く。妖力の乱れが収まっている。どうやらあれは月のせいでなく、私の心の問題だったようだ。

 

「じゃあ始めましょうか。言っておくけど、この前のように勝てるとは思わないことね。今の私は以前の私よりも調子がいいの」

 

「あんたの調子なんか関係ないわ。私は異変を終わらせてさっさと帰りたいの」

 

お互いに弾幕を展開する。

 

ふと自分の中の恐怖を探り、それを感じ取って――愛しさのあまり笑みを浮かべる。

温かい恐怖心を胸に私は博麗へと踊りかかっていくのだった。

 



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鳥目って大変ですね…

どうも、ACfaをようやく全ルート制覇した作者です。
え、そんなことやってる暇あったら就活か卒論やれって?
たまには現実逃避、したいんですよ……(遠い目)

今回は咲夜さん視点。ようやく永夜抄編のプロットが固まってきました。
とはいっても終わりはまだまだ遠いですがw



 

 

偽られた月の光に照らされた森の中を駆け抜ける。

もはや人間の域を逸脱した視力は障害物を暗闇の中でも容易く見つけ、それを避けようと力を籠めれば体は軽く動いてくれる。

これが吸血鬼の力の一端。私の中にあるものはレミリア様のそれと比べればちっぽけなもののはずなのに、力の奔流が私の中で渦巻いている。

気分が高揚する。これほどまでに興奮したのはいつほどだろう。たぶん、美鈴とお風呂に入って体をガン見した時以来じゃないだろうか。

なんか格好つけて描写してみたが、つまり、何が言いたいのかというと――

 

(最高に、ハイッ!てやつだあああああああ!!!)

 

只今内心でひゃっほーう!などと歓声を上げつつ森を爆走中。

 

フラン様が外の出てしまった後、とりあえず壊れてしまった空間拡張の能力を紅魔館にかけ直し、右往左往していた妖精メイド達に瓦礫の撤去を任せ、美鈴には番として残ってもらうように指示した。

美鈴は最初、自分が私の代わりに行くと聞かなかったのだが、フラン様の現状と私の吸血鬼化を伝え、ある程度の無茶が許される今の私の方が適任だと説得した。(それでも不満がありありと顔に出ていたが)

そしてフラン様の暴走を止められそうなパチュリー様を伴ってフラン様の痕跡を追って今に至る。

 

パチュリー様は私に姫抱きされて運ばれている。

そして私も何故飛ばずに走っているのかというと、強化された身体能力で走った方が普通に飛ぶよりはるかに速く移動できるためだ。第三者から私の姿を見ればまるで漫画のような土ぼこりを上げながら爆走しているのが見えることだろう。

 

そしてパチュリー様を姫抱きで運んでいるのは、現状の最速の移動手段が私の走りである以上、パチュリー様を置いてけぼりにしないための措置である。

パチュリー様が軽いのか、それとも吸血鬼化に伴って私の腕力が上昇しているためなのか――たぶん両方――パチュリー様を抱えるのは問題ない。

 

私に姫抱きされているパチュリー様から声をかけられる。

 

「咲夜、前方に妖力を感じるわ、気をつけなさい」

 

「かしこまりました、パチュリー様」

 

パチュリー様に言われる前から異常なまでに強化された視力は妖力の正体をとらえていた。

大きさは子供程度、人数は二人。はっきりとは見えないが、羽のようなシルエットを見る限り、妖精か妖怪に間違いない。

このままのスピードで突っ込めば、数秒のうちに出会うこととなるだろう。

戦闘になることを予想し、ナイフをパチュリー様に刺さらないように持つ。

すると、歌声が聞こえてきた。

 

♪~♪~♪~

 

綺麗な歌声だなあ、なんて呑気な感想を抱いた瞬間、突然視界が暗闇に包まれた。

いや違う、吸血鬼化によって強化された視力が暗闇程度で見えなくなるはずがない。

ならばこれはスタンド――げふんげふん、能力による視覚妨害。

そしてそんなことを歌で為す妖怪を私は一人だけ知っている。

 

「あら、美味しそうな人間に、もう一人は――何かしら?まあいいわ。どちらにせよ、私達の糧になってもらうんだから!」

 

夜雀の妖怪、ミスティア・ローレライ。

どうやら私達は彼女のテリトリーにまんまと誘い込まれたらしい。

え、突っ込んだのはお前だって?……細けえこたあいいんだよ!(汗)

 

内心焦っている間にも視界は段々と狭まっていく。

もはやミスティアの姿すら捉えることも難しくなってきた。

暗闇から飛んでくる弾幕は幸いにも速度はそれほどでもないため避けることはたやすいが、四方八方から飛んでくるため、相手の位置を捕捉できない。

 

「咲夜、降ろしなさい」

 

パチュリー様が指示し、私はそれに従い、彼女を地面に降ろす。

 

「暗闇で見えないなら、明るく照らせば――」

 

瞬間、私の耳に何かが高速で風を切る音が聞こえた。

そして飛来するそれはパチュリー様を狙っている。

 

「パチュリー様!!」

 

私は咄嗟にパチュリー様の腕を引き、後退する。

下がり、一歩遅れてそれは先ほどまでパチュリー様がいた場所に着弾した。

 

「あれ、外しちゃったよ。勘がいいね。あともう少しだったのに」

 

ゴキ――げふんげふん、蛍の妖怪、虫の女王、リグル・ナイトバグ。

一見すると少年のようにも見える彼女は足を振り下ろした状態でこちらを見ていた。

きっと彼女の代名詞であるリグルキックを放ったのだろう、地面が少し抉れている。

 

「ちょっと、しっかり当てなさいよ、リグル」

 

「そうは言ってもね、この技は微調整が難しいんだ。とっさに避けられたら修正できないよ」

 

「ふーん、まあいいわ。だったら私と一緒に弾幕を張って頂戴。あっちに私達の場所が分からないようにね」

 

「うん、分かったよ」

 

姿の見えないミスティアの言葉に従ってリグルは再び暗闇へと姿を消す。

そして今まで飛んできていたミスティアの弾幕と、リグルの弾幕が合わさって、避けるのが難しくなってきた。

 

私はナイフを前方に散らすように放つ。

しかし手ごたえはなく、歌声は響き続けている。

 

「パチュリー様、私が合図したら上の木の枝を吹き飛ばしてください」

 

「なにか考えがあるのね?」

 

「彼女の能力が私の予想通りならば問題ありません」

 

「そう。なら任せるわ」

 

パチュリー様は頷くと、後ろに下がった。

 

私は能力の特性上、空間把握に関しては自信がある。とはいえ、鳥目にされている今、動いているミスティアやリグルにナイフを当てるのは至難だろう。

だが、これから私がやることに限っては彼女達に当てる必要はない。

 

――幻符「殺人ドール」

 

ナイフを展開し、前方へと放つ。

 

「うわっ、とと。少し驚いたけどやっぱり私達のことは見えてないみたいね。それじゃあ、そろそろ終わりにしましょう!いくわよ、リグル!」

 

――蠢符「リトルバグ」

 

――夜盲「夜雀の歌」

 

二人同時にスぺカが発動する。

視覚が妨害されている今、これらを避けるのは難しい。

そう。今のままならば。

 

「パチュリー様!!」

 

「任せなさい」

 

――火符「アグニシャイン」

 

パチュリー様が放った炎弾は私達を覆っていた枝たちを焼き払い、夜空へと消えていく。

瞬間、偽の月の光が私達に降り注いだ。

 

「っ!驚いたけど、今のあなたには月光があったとしても私達は見えないはず!」

「ええ。月光だけならね」

 

月の光が届いた瞬間、私が投げ、周囲の木々に刺さっていたナイフに反射し、まるでスポットライトのようにミスティアとリグルの両名を照らし出した。

 

「なっ……!?まさかさっきのナイフはこのために!?」

 

「動いているものは視覚に頼らないと捉えきれないけど、動いてない木なら暗闇でも当てられるわ。これでも私、ナイフ投げには自信があるのよ?」

 

そして一瞬だが二人が照らされた今、問題なく当てることができる。

 

――幻符「殺人ドール」

 

今度こそ本命のスぺカは、狙いたがわずに二人に命中した。

 

「うう、力あふれる今夜なら何とか勝てると思ったのにぃ……」

 

ミスティアが地面に倒れながらも悔しそうに呟く。

リグルはどうしただろうかと目を向けると、弾幕の当たり所が悪かったのか、目を回して気絶していた。

 

「さすがね、咲夜」

 

「いえ。それよりもフラン様を急いで追わなくては。意外に時間がかかってしまいました」

 

「そうね、行きましょう。でも、その前に彼女たちに聞いた方がいいんじゃないかしら?」

 

「そうですね。ねえ、この辺りで金髪の宝石のような羽を生やした子を見なかった?」

 

「え?ええ……。さっきとんでもない妖力をまき散らして通って行ったから知ってるわ。私達が森の中にいたのも彼女に見つからないようにするためだったし」

 

「どっちに行ったか分かる?」

 

「人里の方に飛んで行ったわ。……彼女を追いかけるの?やめた方がいいと思うけど……」

 

「その人は私の大切な人なのよ。だから追いかけないと」

 

「ふーん、妖怪が大切なんて、妙な人間もいたものね。……暇があったら私の屋台に来なさい。愚痴ぐらいは聞いてあげるわ」

 

「ありがとう。いつか必ず行かせてもらうわ。パチュリー様、行きましょう」

 

「ええ。……ねえ、私を抱き上げる以外に運ぶ方法はないの?さすがに恥ずかしいのだけど」

 

「おんぶという選択肢もありますが?」

 

「あんまり変わってないじゃない。それならさっきと同じでいいわ」

 

溜息を吐いて大人しく私に抱きあげられるパチュリー様。

いいじゃないですか。主に私がパチュリー様の柔らかさとかいい匂いとか堪能できるんですから。

 

私はミスティアに一礼して再び暗闇の中を走り抜けるのだった。

 



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広がる波紋

お久しぶりです。いや本当に。

就活だからって間を開けすぎました。反省しなければ…。
久し振りに書いたので文が変になってるかもしれません。

追伸
ACVを買いました。主任かっこいいです。


 

 

――霊夢視点

 

「そら、どうした博麗?以前、私を倒した時のようなキレがないぞ?」

 

弾幕の嵐をかいくぐる。

以前とは比べ物にならないほどの威圧感を伴って飛来するそれらは、「浮く」という回避に適した能力を持つ私でも避けることが困難だ。

 

チッチッ、と弾幕をグレイズしていくが、次から次へと弾幕に思わず眉をひそめる。

 

「私が弱くなってるんじゃなくてあんたが強くなってるんじゃない、のっ!」

 

言葉と共に針を打ち出すが、あっさりと避けられる。

 

「かもしれんな。今の私は気分がいい。いつもより好調なのは否定せん」

 

くつくつと笑いながらさらに弾幕を張ってくるレミリア。

 

悔しいが、今のレミリアは赤霧異変の時とは比べ物にならないほどに強い。

あの時は何とも思わなかった彼女からの威圧感が、今は私の動きを鈍らせる。

それは相手がかつての戦いより力をつけている紛れもない証左だった。

 

ちっ、と舌打ちを一つして能力で威圧から浮く。

しかしそれは完全ではなく、若干の違和感が私の中に残った。

 

(それもこれも紫が余計なこと言うからよ!後でぶっ飛ばす!)

 

八つ当たり気味に脳内の紫に夢想封印を十発ほど当ててから、後で紫に同じ目に合わせると決めて怒りを鎮静させる。

 

――霊符「夢想封印」

 

体勢を立て直すため、スぺカを宣言する。

弾幕はレミリアへと飛んでいくが、彼女の手前で不自然に逸れる。

 

(やっぱり厄介ねえ、あの能力)

 

ルールに反して絶対に防ぎきれない弾幕を撃っているわけでもなく、自分に当たらないようにスぺカを使っているわけでもない。

ただそこに存在している、それだけでこの世の運命は彼女に有利な状況を作り上げている。

 

(勘だけど、あいつ能力を自覚して使ってない。つまり今の状況は無意識のレベルで作られている……)

 

チッ、と舌打ちする。自分は能力を全開で使っているというのに、あいつは能力を使っている自覚さえない。実力差をまざまざと見せつけられているようで苛立つ。

いけない、と能力で苛立ちから浮くが、それでも状況は変わらない。

このままではジリ貧だ。いずれは疲れで動きが鈍くなり、弾幕に当たってしまうだろう。

レミリアの体力切れを狙う手もあるけど、夜の、しかも絶好調の吸血鬼相手では確実にこちらの体力が切れるのが先だ。

 

(このままあいつに突っ込んで至近からの夢想封印を当てる。成功するかは……五分五分かしらね)

 

私は弾幕の隙間を縫ってレミリアへと近づく。

彼女も私の意図に気が付いたのか、ニイ、と笑うと弾幕を厚くしてきた。

そして右手の人差し指をクイッと折り曲げる。まるでやれるものならやってみろ、とでも言うように。

 

(やって…やるわよ!!)

 

時折能力を使って弾幕から浮きつつも確実に弾幕の嵐を攻略していく。

そして、スぺカが全弾当たる位置までたどり着いた。

 

――霊符「夢想封印」

 

再びスぺカを宣言する。

追尾能力を持った弾幕がレミリアへと迫り、そして――――

 

――神槍「スピア・ザ・グングニル」

 

私の勘が警鐘を鳴らし、反射的にその場から飛び退る。

一泊遅れて巨大な赤い槍が先程まで私がいた場所を弾幕ごと斬り裂いて通過した。

 

「ほう、今のを避けるか。人間の危機察知能力というのもなかなか侮れんな」

 

レミリアは傲慢な笑みを浮かべて赤い槍を作り上げる。

 

「今のは私の勘よ」

 

「勘か。クックッ、咲夜がお前の勘をやたらと信用していたが、成程」

 

見定めるような視線で私を見るレミリア。

 

「なら、これはどうだ?」

 

レミリアが右手を突き出すと、そこに妖力が凝縮していく。

やがて、妖力の塊は禍々しく紅く輝く槍へと姿を変えた。

 

――神槍「「スピア・ザ・グングニル」」

 

先程放たれた槍と同じ名前をもつそれは、しかし込められている妖力、冷や汗が流れるほどの威圧感、すべてが別物だった。

 

レミリアはそれを悠然と構えると、綺麗な姿勢で投擲した。

私はそれをグレイズで避けるが、勘が警鐘を鳴らす。

危機感に逆らわず、咄嗟に槍と私の間に障壁を張る。

槍が私の横を通り抜けた瞬間、不可視の圧力に吹き飛ばされた。

風圧だけではない、まるで力の奔流のようなものをぶつけられた私は一瞬だけ方向感覚が狂ってしまった。そして気付く。まだ頭の中で警鐘が鳴り響いていることに。

能力で体勢を立て直し、レミリアへと視線を向ける。が、視界に入ったのは吸血鬼の姿ではなく、先程私の横を通過したはずの紅い槍だった。

 

「――っ!!??」

 

頭が判断するよりも先に本能的に障壁を張る。が、急造のそれで膨大な妖力が込められた槍を止められるはずもなく、容易く障壁を貫き、私に直撃した。

衝撃で吹き飛ばされた私は月を背にこちらを見下ろす吸血鬼を睨みながら意識を失った。

 

 

 

 

――紫視点

 

 

(――霊夢が負けた、か)

 

意識を失って落ちてくる霊夢を受け止めながら考えを巡らせる。

あいては偽りのものとはいえ満月によって力が増している吸血鬼だ。むしろ負ける確率の方が大きいだろうと予想していたとはいえ、ここまで一方的にやられるとは想定外だ。

見る限りでは、レミリアの威圧に押されていたようにもみえる。能力である程度浮いていたようだが、それでも振り切れていなかったところを見ると、二人の力に大きい差があることが分かる。

大人しくなって以降、性格も実力も丸くなったと思っていたが、そうではなかったようだ。戦うことを止めた妖怪が衰えるとは限らない。それに、レミリアはむしろ、かつての吸血鬼異変の時よりも力を増しているように見える。

心当たりがないわけでは、ない。

 

(十六夜、咲夜)

 

あの吸血鬼は彼女を見つけて以降、ずいぶんとあの人間に執心している。その執着がレミリアに力を与えているのではないか――?

これは即席の仮説だが、あり得ない話ではない。妖怪は精神に重点を置いていることが多い。無論スキマ妖怪である自身もそうであるし、吸血鬼であるレミリアもそうだ。

強い感情が妖怪を強くするのはよくある話だ。その多くが恐怖や憎悪であることは間違いないが、ごくまれにそういう負の感情からではなく、正の感情が妖怪に作用することもある。陳腐な言い方をすれば、「愛」だ。

妖怪が人間に愛情を抱くことは少ない。ほとんどの妖怪は人間を見下しており、食料としてしか見ていないだろう。吸血鬼とて例外ではなかったはずなのだが。

 

(しかし、事実、レミリア・スカーレットは十六夜咲夜に「愛情」を抱いている)

 

それが親愛なのかそれとも恋愛感情であるのかは判断できないが、それがレミリアを強くしているのは間違いない。

そう結論付けてはあ、と溜息を吐く。

 

(予想以上ね……、あの娘の影響力は)

 

レミリア・スカーレットだけではない。フランドール・スカーレット、紅美鈴、パチュリー・ノーレッジなどの紅魔館の面子を始めとして、十六夜咲夜と交流がある者達は十六夜咲夜との出会いによって何かしらの変化が訪れている。

最近では霊夢もそうだ。今までは全く興味を持たなかった化粧などもあの娘に会って以来身だしなみに気を使い始めている。

私の周りで最も変化が大きかったのは橙だろう。

十六夜咲夜との弾幕ごっこの後、橙は実力をめきめきと伸ばしている。

今までは藍という目標がいたものの、いつか追いつく、という一生の目的だったのに対し、十六夜咲夜に追いつく、という目前の目標が見つかったことでやる気も今まで以上なのだろう。精神的にも成長しつつあるのか、広い視野を持つようになりつつある。

 

十六夜咲夜を中心として広がりつつある波。これが幻想郷にどのような効果を及ぼすのか、賢者と呼ばれる私からしても未知数ではあるが、何となく、面白いことになりそうだ、という期待をしている私も、もしかしたら彼女の影響を受けているのかもしれない。

 

「さて、私の勝ちだ、スキマ妖怪。約束通り今回の異変からは手を引け」

 

そんな私の思考を遮るようにレミリアが声をかけてきた。

 

 

 

 

 

 

「異変そのものから手を引くわけにはいかないわ、特に今回のような異変からは。ですが、貴方達に干渉するのは控えましょう」

 

「……ふん、まあ私に手を出さないならそれでいい。……私は先に行く。じゃあな」

 

レミリアは紫に告げて月の気配がする方向へと飛んでいく。

紫たちが見えなくなり、レミリアはニヤリと笑んだ。

 

(あの時の巫女の予想外といった顔、なかなか痛快だったわね)

 

先の弾幕ごっこでレミリアが放った二つのグングニル。あれは、スペルカードを二つ同時に宣言することで発生したものだった。

この技、元々は咲夜がどうにかして弾幕の密度を上げられないかと試行錯誤していた技術であるが、咲夜本人は自分の弾幕がお互いの弾幕を撃ち消してしまい、未だに成功例が無かったりする。

 

(咲夜も面白いことをすると思っていたけれど、この技、なかなか使えるじゃない)

 

夜空を飛びながら内心で面白いことを思いついた咲夜を称賛する。

やがて、レミリアの眼下に竹林が広がった。

 

(ここから月の気配がする。おそらく本来の月はここにあるのだろうな)

 

レミリアは浮かべていた笑みを消すと、竹林を睨みつける。

 

(返してもらうぞ、私の象徴を)

 

レミリアはスピードを上げ、竹林へと突入していった。

 



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何やってるんですか…?

どうも、無事ACVを買って、主任のクレイジーっぷりに痺れている作者です。

就活も終わり、大学も夏休み。ああ、休暇って素晴らしい。


 

 

 

さて、やってきました迷いの竹林。

ん?フラン様のことを追ってたんじゃなかったか?

パチュリー様の魔力探知によるとフラン様はこのあたりにいるらしい。

 

ちなみに人里が無くなってる云々はスルーしました。さすがにそんな余裕はなかったからね。

私は事情を知ってるし、パチュリー様は人里の場所を知らないからお互いにそのことに関しては触れなかった。(まあパチュリー様は人里があるはずの場所でなんだかキョロキョロしてたから、もしかしたらなにかある、位には感づいているんだろうけど)

 

やがてなにか呪文を詠唱していたパチュリー様が竹林を指さした。

 

「やっぱりこの先に魔力は続いているわ。探すのはなかなか骨が折れそうね」

 

しかも、とパチュリー様が続ける。

 

「厄介な結界が張られているわ。上空から探すのは無理そうね。歩いて探すしかないわ」

 

竹林の広さもかなりあるけど、入ってきた相手を迷わせる結界も張られてるし、フラン様を探すのはかなり大変だろう。

しかも下手をすれば永遠亭の住人に敵認定されて攻撃されるかもしれない。

 

「まあここで足踏みしていても始まりません。先に進みましょう」

 

私がそう言うとパチュリー様もそうね、と返事して私に体を預けてくる。

最初に紅魔館で抱き上げた時はあたふたして真っ赤になっていたパチュリー様もこっちの方が楽で早いと気付いたのか、素直に私に抱かれてくれるようになった。

私はパチュリー様を抱き上げると、竹林へと足を踏み入れる。

そして、踏み込んだ瞬間に気付く。

この一帯には凄まじい量の罠が仕掛けられている。

私の能力は空間にも干渉できる。だからこそ空間感知の能力にも優れているわけだが、今回はそれが幸いした。

落とし穴といった古典的な物から、草結び、紐が切れると丸太やら矢が飛んでくるもの、地中に仕掛けられた網で釣りあげるなど、どこのゲリラ戦地だ、と言いたくなるほどの罠が存在していた。

 

「どうかしたの?咲夜」

 

「いえ、罠が大量に仕掛けられています。避けるために少し慎重に動きます」

 

突然動きを止めた私を不審に思ったのであろうパチュリー様にそう返す。

 

私は落とし穴を避けたり、小さな弾幕を撃つことで罠を壊して進んでいく。

パチュリー様の探知による指示に従って竹林を進んでいるが、私にはもはやどこを進んでいるか分からなくなってしまった。どうやら竹林全体に張られている結界は方向感覚を狂わせる機能まであるらしい。

 

 

 

30分ほどゆっくりと進み続けていると、どこかから声のようなものが聞こえてきた。

 

「~ぃ、た…だ~ぃ」

 

「パチュリー様、今のは聞こえましたか?」

 

「ええ、微かにだけどね。……行ってみましょう、もしかしたらフランの痕跡があるかも」

 

パチュリー様と頷きあい、声が聞こえた方へと向かう。

だんだんと声がはっきりと聞こえるようになり、やがて人が一人分すっぽり入りそうな穴を見つけた。

その穴の周りでなんだか慌てた様子でふよふよ浮いている半霊を見つけて、穴に落ちているのが誰か察する。

穴を覗きこんでみると、予想通り、妖夢が半泣きで座り込んでいた。

 

「……何してるの?」

 

「あ、咲夜さん!お願いします、助けてください!」

 

「……飛べば自力で抜け出せるんじゃないかしら?」

 

「え?……あっ…」

 

その発想はなかった、といった顔をした後、赤い顔で浮いて出てくる妖夢。可愛い。

妖夢の顔に泥がついているのに気が付き、ハンカチでそれを拭う。

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

「はい、大丈夫です……。すいません、お恥ずかしいところをお見せしました……」

 

顔を拭かれてくすぐったそうな妖夢に問いかける。

 

「それで妖夢はなんで穴に落ちてたの?」

 

「幽々子様に月の異常の原因を調べてくるように言われまして。この竹林から妙な気配がするので入ってみたのですが、罠は多いし、道に迷ってしまって。空から探そうと思って飛べばなにかに弾かれて墜落してしまいまして」

 

「落ちた拍子に穴に落ちた、と」

 

お恥ずかしながら、と再び顔を赤くして俯く妖夢。

原作だと幽々子も付いてきてたはずだけど、妖夢一人か。こんなところでも原作との差異が現れてる。まあフラン様が暴れて外に出たり、私が吸血鬼になったり、パチュリー様と一緒にいる時点で原作なんて投げ捨ててるような気がするけど。

 

「それで、お二人は何故ここに?貴方たちも異変を解決しに?」

 

「いえ、私達はフラン様を探しに来たの。痕跡を追っていたらここに着いたものだから。貴方はフラン様を見かけた?」

 

「確かレミリアさんの妹さんですよね。宴会で見たことがあります。……すいません、私は一度も見ていませんね」

 

「そう……、っ!?」

 

私達が妖夢と話していると、背後に気配を感じ、振り向く。

視線を向けた瞬間、弾幕が襲い掛かってくるのが見えた。

私は咄嗟に妖夢とパチュリー様を抱えて飛び退く。

無意識に力を込めていたのか、蹴った地面がかなり抉れて、飛び散った瓦礫が弾幕をかき消した。

 

私が弾幕の放たれた方向を警戒していると、そこから人がまるで光学迷彩を解くかのように姿を現した。

 

「気配を殺して、背後から撃ったのだけれど、感づかれるとはね。あなた、戦士の才能があるわよ?」

 

学生が着るブレザーのような服、長いウサ耳、能力を使っていることを表す赤い瞳。

新参ホイホイと呼ばれる鈴仙・優曇華院・因幡がそこにいた。

 

 

 

 

「悪いけど、今夜竹林に侵入した者は例外なく排除するように師匠から言われているの」

 

黒い手袋をはめながらゆっくりとこちらに近づいてくる鈴仙。

そして両手を銃の形にしてこちらへ向けてくる。

 

「ルールだから殺しはしない。けど、痛い目にはあってもらうわ。――私の狂気の波長を以て存分に狂いなさい」

 

ギン、と赤く光る両目をこちらに向けてくる鈴仙。

そんな鈴仙を見ながら私は原作を思い出していた。

 

(確か、妖夢って赤い月を見ただけで正気失ってたよね?あれ、じゃあ妖夢と鈴仙の相性って最悪なんじゃ……)

 

そこに思い至り、私は三歩ほど前に進み、妖夢に振り返る。

 

「妖夢、彼女は私が抑えるわ。貴方はパチュリー様を連れて奥へ」

 

「ですが、私は道が分かりませんよ?空も飛べないようですし」

 

「パチュリー様、結界の基点は?」

 

「分かってるわ。結界の中心に特に大きな基点があるわね」

 

「おそらくそこに今回の異変の犯人がいます。妖夢をそこまで案内してください」

 

「でも、それじゃ……」

 

「異変を解決しておけばフラン様を探すのも楽になりますし、解決しようとしていた方々に頼めば、手伝ってくれるかもしれません。お願いします」

 

「……はあ。分かったわ。無理は、しないでね」

 

「もちろんです。妖夢!パチュリー様を抱えてパチュリー様の案内に従って!」

 

「は、はい!分かりました!」

 

妖夢がパチュリー様を抱きかかえ、妖夢が離れようとする。

 

「逃がさない!」

 

そこに鈴仙が弾幕を撃ちこもうとするが、私はそれをナイフで切り払う。

 

「貴方……!!」

 

「悪いけど、付き合ってもらうわ。簡単に勝てるとは思わないことね」

 

「……いいわ。すごくいい。自分を犠牲に味方を守る。素晴らしいけど、そういう人ほど早死にするのよ、戦場ではね!」

 

「今の私は吸血鬼。人間ならこの程度の伏線で死ぬけれど、吸血鬼はどうなのかしらね」

 

そして、私達は竹林をかき分け、ぶつかり合った。

 



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最悪の状況です…

どうも、夏の暑さで溶けて蒸発しそうな作者です。

珍しく筆が乗ったので二日連続投稿。奇跡かも。

もう一回咲夜さんのターン!


 

 

相手は5ボスだけど、一人だし、吸血鬼化してるし楽勝、楽勝!

 

――そう思っていた時が私にもありました。

 

「せいっ、はっ!」

 

「くっ……!」

 

鈴仙が近づき、手足を自在に使って近接戦闘を仕掛けてくる。

私はそれを吸血鬼化によって強化された身体能力でなんとか捌いていく。

 

ていうか鈴仙が予想以上に強いよ!?

今の私が殴ったりしたら普通は吹き飛ぶどころの話じゃないのに、あっさりと受け止め、それどころかカウンターまで返してくる始末。

 

私もナイフで応戦してるのに怯んだ様子なんかまるでない。むしろナイフを見てから血がうずくぜえ……!!みたいな凶悪な笑顔で殴り掛かってくるんですが!?

 

なんとか鈴仙のラッシュを捌ききって隙をついて後退する。

鈴仙は追撃をせずに油断なくこちらを見つめていた。

 

「私の月仕込みの軍式サバットを捌くとはね。やっぱりあなた戦士の才能があるわよ?どう?私の下で修業しない?」

 

「悪いけど、軍人よりメイドの方が性に合ってるのよ、私は」

 

「あら、振られちゃった」

 

残念、なんてクスクス笑ってる鈴仙だけど、目が全然笑ってない。すごい怖い。

 

「あなたなかなかやるみたいだし、私もそろそろ本気で行かなくっちゃね」

 

そう言って鈴仙は懐から二本の大ぶりなアーミーナイフを取り出す。そして、ナイフの鞘を投げ捨てると、二本とも逆手に持って構えた。

この子私のことガチで殺しに来てない?今のところどっちも弾幕撃ってないんだけど。

いや、まあ障害物が多いこの場所で弾幕を撃つことは大きな隙を晒すことに等しいことは理解できるけど。

 

「行くわよ、今度は捌ききれるかしらっ!?」

 

二本のアーミーナイフが複雑な線を描いて閃く。

私はそれを的確に対処し、両手の銀ナイフで捌いていく。それを何合か続けたとき、異変は起こった。

 

「っ!?」

 

突如、鈴仙のナイフの刀身がぶれた。そしてぶれた刀身はそのまま実態を持つかのように分身する。

突然のことに動揺した私は、右腕に斬撃を喰らってしまった。

攻撃を喰らって硬直する私に鈴仙のナイフが襲い掛かり、体中が切り刻まれた。

痛みを堪え、何とか後ろに下がる。

鈴仙のナイフを注視するが、それぞれのナイフは当然一つしかなく、分身などしていない。

そこでようやく一連の仕掛けに思い当たる。

 

「幻術、いえ、認識の誤認かしら?」

 

「……驚いたわ、まさか初見で見破られるなんてね。私の部下たちは結局最後まで分からなかったのに」

 

原作知識のおかげです、とは言えないよね。

 

「まあ、見破ったところで防ぎきれるかしら?それに、貴方の右腕はもう……あら?」

 

鈴仙が私の右腕を見て首をかしげる。すでに傷が治っていることに驚いたのだろう。

 

「吸血鬼の回復能力に関しては知っていたけど、ここまでとはね。ますます油断できないわ」

 

ゆらり、と鈴仙はナイフを構え直す。それを見て私もナイフを構え直した。

そしてお互いに肉薄する。

 

鈴仙はさっきと同じく能力を使ってナイフを分身しているように見せてくる。

けど、私はもうその攻撃の対処法を思いついた!

 

小刻みに時間を停止させ、ナイフを注視する。

鈴仙の能力は波長を操っている。それでこちらの波長を崩し、幻覚を見せているのだ。

しかし、波長は停止した時の中では動かない。つまり、時が止まっている間は幻覚が見えないのだ。

波長による幻覚攻撃、破れたり!なんて心の中で喝采を上げて霊力を限界まで込めたナイフを鈴仙のナイフへ叩き込む。

限界を迎えた私のナイフと同時に鈴仙のナイフも砕け散る。

 

幻覚が二回目であっさり破られるとは思っていなかったのか、一瞬呆然とした鈴仙だったが、瞬時に正気を取り戻し、砕けたナイフを躊躇なく投げ捨て、私に組み付いてきた。

私が反応する間もなく、鈴仙は私の腕を捻り上げ、背中で拘束する。そしてそのまま近くの太い竹に体を抑え込まれた。

 

「さすがに今のは驚いたわ。こうもあっさり私の技を破るなんて。けれど、このままあなたを気絶させれば……っ!?」

 

鈴仙の言葉は私が次にとった行動によって遮られる。

私は無理矢理下半身を動かし、竹を駆け上がり、そのまま宙上がりをして、鈴仙の後ろに着地したのだ。

しかしこの行動、私が鈴仙に腕を拘束されていたため、当然腕が曲がってはいけない方向に折れ曲がり、鈴仙を飛び越えるときに腕からボキッ!と非常に嫌な音が聞こえた。凄まじい激痛付きで。

私はその痛みを思いっきり歯を食いしばることで耐え、拘束されていなかったために無事だった方の腕で鈴仙の延髄を思いっきり叩いた。

急所に大きな衝撃が与えられた鈴仙は気絶し、前のめりに倒れた。

私はそれを瞬時に回復した両腕で支える。

 

鈴仙を近くの竹に寄りかからせるように座らせ、そこでようやくふう、と一息ついた。

 

竹を駆け上がるのは咄嗟のアイディアだったけど、何とかうまくいった。

予想以上に鈴仙が強かったせいで身体的にはともかく、精神的にすごく疲れた。

 

私は鈴仙の隣に座り、ぼんやりと空を眺める。

本当はこんなことしてる場合じゃないんだろうけど、戦闘後の小休憩位許されるよね?

 

ぼーっと空を眺めていると、ふと違和感を感じた。

夜空を注意して見ていると、一部に亀裂が走っているのが見えた。

 

(あー、ひびだー。ひびかー。罅……罅!?)

 

ようやくその罅の意味を理解して勢いよく立ち上がる。

罅が入っているということは竹林の結界が壊されかけているということだ。

おそらく永琳と輝夜が作ったのであろう結界を無理矢理破壊できる人物は幻想郷でもそうはいない。そして私の予想が正しければ恐らくは……。

 

「あはっ♪なーんだ、咲夜、こんなところにいたんだあ♪」

 

結界が砕け散り、上空から無邪気な声が降ってくる。そこにいたのは私の予想通りの人物。

見慣れた姿であり、私が探していた人の姿。

 

「フラン、様……!!」

 

最悪のタイミングだ。消耗しているときに見つけて……いや違う。見つかってしまうとは……!!

 

「ねえ咲夜。あの後いろいろ考えたの。それで考えた結果、やっぱりあなたが欲しくなっちゃった。それで、あんな館出て行って二人で一緒に暮らしましょ?魔理沙が住んでる魔法の森なんかちょうどいいと思うのよ!そして二人でずーっと、ずーっと幸せに暮らすんだ♪ね、いい考えだと思わない?」

 

「フラン様、今のあなたは月の狂気に当てられているのです。帰りましょう、紅魔館に。皆も心配しています」

 

「だーめ。あそこに戻ったらまた咲夜はお姉様のものになっちゃう。私は咲夜を独り占めしたいの」

 

「我が身はレミリア様の物でもあり、フラン様のものでもあります。どちらか一人にしろという命令は承服しかねます」

 

「だから、ね?思いついたのよ。私が咲夜を浚っちゃえばいいんだわ!そして誰も見えないところにしまっておけばあなたは私だけのものになる!」

 

「話し合いの余地は、ありませんか」

 

「ないわ♪だから大人しくついてきてちょうだい、咲夜」

 

「……フラン様に刃を向けるこの不敬、お許しください」

 

「あら、刃向うの?うーん、仕方ないわね。少しお仕置きしてから連れていくことにしましょう」

 

フラン様が炎剣を出現させ、私は新しいナイフを出して構える。

そして、私達がぶつかり合った瞬間、竹林に爆音が轟いた――

 



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足止めする者、される者(パチュリー視点)

更新が凄まじく遅れてすいませんでしたー!(土下座)

ダークソウルとかモンハン4Gとかやってたらね、時間があっという間に過ぎ去っていってたんです…。

今回はパチュリー視点。ある程度のプロットは出来上がったので次は早く投稿できます。……たぶん。きっと、めいびー…(目そらし)


 

――パチュリー視点

 

 

「そこの竹を右に。20歩ほど歩いたら左に進んで」

 

解析された結界の情報を基に私を運ぶ魂魄妖夢に結界の抜け道を伝える。

魔術によってもたらされる情報を頭の中で分類し、必要な物だけをこしとる。

そのために並列思考を行っているが、予想以上に結界は難解だった。幸いにも正規ルートの情報があったためにそれを基に結界を抜けているにすぎない。

結界のことなどまったく知らないと思われる、私を抱えている剣士はもはや帰り道すら分からなくなっているでしょうね。

 

「このまま真っ直ぐ竹の間を抜けて。貴方の感覚で真っ直ぐだと思う方向でいいわ」

 

難解な迷路もとうとう終わりが見えてきた。

竹林を抜け、そこにあったのは紅魔館ほどではないにしろ、大きな屋敷だった。

全体的に和風にまとめられており、この奇怪な竹林の只中にありながらそれが自然だと感じられる。

魂魄妖夢に降ろすように伝え、屋敷の門に触れる。

当然ながらそこにも結界が張られているが、それを一時的に解除し、少しの間だが入れるようにした。仮に咲夜がフランを抑えてこちらに来るなら問題なく入れることだろう。

感嘆したように屋敷の庭を眺めている剣士の襟首をつかみ、中へと入る。何やら後ろで剣士が騒いでいるが、この際無視だ。咲夜一人にフランを任せている以上、無駄な時間をかけている暇はないのだから。

 

中へと入ると、予想に反して特に何も仕掛けられなかった。

紅魔館での妖精メイドのような存在が襲い掛かってくるかと警戒したが、どうやらいらない心配だったみたいね。

 

紙のようなものでできている扉を開けていき(魂魄妖夢が言うには襖というものらしい)、結界の基点を目指す。

そしてもう何度扉を開けたか分からなくなった頃、突然、周囲の空間が歪み、私達は暗闇の中に放り出された。

周りをよく見ると、星のような光が無数に浮かんでおり、宇宙を模した結界の中に閉じ込められたことが分かった。

 

「あの竹林の迷宮結界を抜けてくるなんて、なかなかやり手みたいね」

 

私達の目の前に突然女が現れる。

赤と青の服を着て、髪を長い三つ編みにした女は敵である私達の前で、しかし悠然と微笑んでいた。

魂魄妖夢が突然目の前に現れた女を警戒して刀を構える。

しかし、私は女が現れた瞬間――いや、結界が構築されたと感じ取った瞬間から魔法を練り上げていた。

 

――日符「ロイヤルフレア」

 

魔法が発動したのを感じ取ったのか、女は一瞬で自分を囲うように障壁を展開させる。

その速さたるや、魔法使いである私ですら感嘆するものだったが、私の狙いは女ではない。

太陽を模した魔法は女の頭上を通り抜け、未だ構築途中だった宇宙を模した結界の一部を吹き飛ばす。

それを確認し、私は声を上げた。

 

「行きなさい、魂魄妖夢!」

 

剣士は突然の状況変化に驚いた顔をしていたが、次の瞬間には猛然と駆け出し、私が開けた結界の穴から脱出していた。

 

「まさか結界の構築途中に破壊されるとはね。でもこれであなたはここに閉じ込められた。あなたも今ので逃げ出すべきだったんじゃない?」

 

魂魄妖夢が結界から脱出した後、穴が塞がれる。これでこの結界は完成し、私がここから出るのはかなり困難になったと言えるだろう。

 

「わざわざ自分の領域でこんな結界を張るということは、あなたはどうしてもこの先に行ってほしくなかった。それに、あの剣士とあなたの相性はおそらく最悪。ここは私が残るべきだったのよ」

 

図星なのか、女の顔から笑みが消え、無表情でこちらを見つめてくる。

真正面から戦うことをよしとするあの剣士では策を弄する戦い方をするであろう目の前の女との戦いで苦戦するのは必然。

ならばあそこは剣士を先に行かせ、私が彼女の足止めをするのがあの場での最善だった。

それに――

 

「確かに、あなたを倒したとしてもこの結界を抜けるのは難しそうだわ。――私一人ならね」

 

そう言った直後、私達の上から声が聞こえてきた。その声はだんだん大きくなり、こちらに落ちてきているのだと分かる。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!へぶっ!!!???」

 

私達の間に落ちてきたそれは顔面から落下し、情けない悲鳴を上げて着弾した。

 

「いたたた……。もう、いきなりなんなんですか!ユウちゃんと図書館の整理をしていたの…に…?」

 

顔を抑えて立ち上がったそれは、周囲を見回して停止した。

 

「こぁ」

 

「はひっ!!」

 

固まっていた彼女に声をかけると物凄い勢いで振り返り、またしても固まった。……面倒臭いわね……。

 

「今すぐここの結界を解析して、解除なさい。時間は私が稼いであげるから」

 

「ぱ、パチュリー様、状況がよく……」

 

「や り な さ い 」

 

「ハイヨロコンデー!」

 

声を一段低くして命令してようやく涙目ながらも仕事を始めるこぁ。

 

「彼女が私の結界を解除する……?それほどの力を持っているようには見えないけど、不安要素は摘み取らないとね」

 

女が弾幕をこぁへと向け発射する。

しかしそれを私が許すはずもなく私の障壁で弾幕はすべて弾かれた。

 

「私の使い魔がただの能無しな訳がないでしょう?こぁはね、悪魔の中でも珍しい対魔技術を持っている悪魔よ。戦闘能力が皆無の代わりにほぼすべての魔法を無力化できる。結界や呪いなんかが最たる例ね」

 

そう話す私にこぁが目を向けることはない。完全に集中した彼女の気をそらすにはそれこそ弾幕などを当てる必要があるだろう。――無論、そんなことは私がさせないのだが。

 

「さあ根競べと行きましょう。根負けするのはどちらが先かしらね?」

 

「……足止めするはずが足止めされることになるなんて、とんだ冗談だわ」

 

お互いにスペルカードを取り出し、構える。

そして同時に宙へと浮き、弾幕が激突した。

 




活動報告でアンケート実施中です。
期間は一週間。よかったら見てください。


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私はもうだめかもしれません…

どうも、ニコニコでアーマードコア×ラブライブ!の動画を見て爆笑してた作者です。

今回は咲夜さん視点と鈴仙視点。
きりのいいところで切ったのでいつもより若干短めです。

アンケートに答えてくださった方、ありがとうございます。
設定の方は永夜抄が終わり次第、アドバイスを取り入れつつ、上げたいと思います。


――咲夜視点

 

私十六夜咲夜は、フラン様を見つけ、盛大に啖呵を切って戦い始めました。けれど――

 

今、全速力で逃走しています。……鈴仙を抱えて。

 

「ほら咲夜、さっきまでの勢いはどうしたの?」

 

(うわあああああああああん!!!こわいいいいいいいいいいい!!!!!)

 

内心泣き叫びながらフラン様の弾幕を避けていく。

当たった端から地面が爆散していくのを見て、当たれば現在吸血鬼ボディである自身の体もただでは済まないと悟る。

 

何でこんなことになったのか。それは私がフラン様と戦い始めた時まで遡らないといけない。

 

 

 

私がフラン様と戦い始めて数分は自分としても互角の戦いだったと思う。

炎剣をナイフで受け流しつつ、フラン様に封印用ナイフを当てる隙を探している間はまともに戦えていた。(その代わり愛用している銀ナイフが高熱で溶けて何本か駄目になりはしたが)

しかし、もう何本目か分からない熱で変形したナイフを投げ捨てたところでふと気が付いたのだ。ここの近くにはもう一人いたことに。

鈴仙である。

そのことに気が付いた私は咄嗟に能力を使って鈴仙のそばに行き、抱えてそのまま逃走を開始した。

フラン様がそれに気が付いて弾幕を撃ちながら追いかけてきて、今に至るわけだ。

 

 

 

鈴仙を抱えている以上、反撃などできるわけもなく、必死に逃げ続けているが、そのせいか自分の現在地などもはや分からなくなってしまった。

しかし鈴仙を地面に置けば流れ弾に巻き込まれて大怪我、もしくは死ぬ可能性が目に見えて高い以上、そうするわけにもいかない。

私は竹林を必死に走り回りながら頭を回転させる。(え?飛べるくせになんで走ってるかって?空を飛んだら狙い撃ちされて落とされる未来しか見えなかったからだよ!)

 

(どうにかして鈴仙を安全な場所に移動させないと――)

 

一番いいのは永遠亭に辿り着いてその中に逃げ込むこと。

永遠亭は半壊、もしくは全壊するだろうけど鈴仙の命を投げ捨てるよりはいいだろう。

しかし、案内役のパチュリー様が先に行き、道を知っている鈴仙が気絶中となると、いずれ常識を投げ捨てるであろう現人神かレミリア様みたいな能力を持っていない限り辿り着くのは不可能に近いだろう。

どうすればいいんだ……!!と内心絶望していた私の目の前に見知った光景が現れた。

 

それは、妖夢が落とし穴に引っかかっていた場所だった。

そこで私はキュピーンと閃く。

 

(この穴の中に鈴仙を隠して私がフラン様を引き付ければ……!!)

 

まさしく完璧。ここまで冴えた答えを出したの初めてじゃない?

幸いフラン様とは少し距離がある。すぐに鈴仙を隠せば気が付かれることはないだろう。

私は急いで穴に飛び込むと、持ち歩いている四次元鞄から毛布を取り出し、穴の底に敷く。その上に鈴仙を降ろしてすぐに穴を出た。

そして私はフラン様を見つけると、私に意識を向けるために霊力弾を彼女のすぐ横に撃ち、この場から離れるために逃走を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

――鈴仙視点

 

「…なよ、…せん。起きなってば!」

 

声が聞こえる。聞きなれた声だ。これは――。

 

「あ、起きた。まったく、私の仕掛けた罠にあんたがかかってどうすんのよ!」

 

「て、ゐ?」

 

「そうだよ、みんな大好きてゐさんだよ。ったく、どんな感じかと思って様子見に来ればあんたが落とし穴に落ちてるんだもん、驚いたよ」

 

呆れ顔で話すてゐをぼんやりと見て、それから周囲を見渡す。そこですべてを思い出した。

 

「っ、そうだ!てゐ、この辺りでメイドを見なかった?」

 

「え?見たよ。なんだか変な羽持った奴に追いかけられてたけど」

 

てゐの答えを聞いて私は高速で頭を働かせる。

 

そうだ、私はあのメイドに負けて――。

でも、どうしてここに?私がやられた場所はここじゃない。私はてゐが仕掛けた罠地帯を避けていた。一体誰が?

決まっている。あのメイドだ。ならば何故?

その時、見慣れない毛布が目に入った。私はこんなもの持ってきた覚えはないし、てゐだって持っては来ないだろう。そういえばてゐは彼女が誰かに追いかけられていると言っていた。まさか、信じられないけど、私を守るために穴に隠した?でもそれなら辻褄が合う。

だとしたら、あのメイドは……。

 

「鈴仙?どうかした?黙りこくっちゃってさ」

 

「てゐ。メイドがいた方角を教えてくれる?」

 

「え?ここから西に少し行ったところだけど……って、ちょっと、鈴仙!?」

 

てゐに方角を聞き、答えを聞いた瞬間、私は走り出す。

後ろでてゐが騒いでいるが、気にしてはいられない。

 

(敵を助けるなんて甘いわね。でも……嫌いじゃないわ、そういうの)

 

命を助けられた借りは敵であったとしても必ず返す。それが私の軍人としての矜持。

私は、借りを返すべく、彼女の下へと向かうのだった。

 



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五つの難題(妖夢視点)

メリークリスマス!!

皆さんどうお過ごしでしょうか?
私?ははは、こうして小説を上げてる時点でお察しください(血涙)

卒論からも解放されたし、冬休みは思いっきり遊びぞおおおおお!!!

追伸:いつもならリア充爆発しろ!!とでも叫ぶところですが、親友が結婚しちまったので自重しました。


 

屋敷の中を全力で駆け抜ける。

目指す場所は力を感じる場所。

屋敷の周囲に張られた結界によって隠されていたのであろうその力は私達が屋敷の中に入った途端に感じ取ることができるほどに大きかった。

 

目的地への道を妨げる邪魔な襖を斬り裂いていく。

上等に仕立てられていると一目で分かる襖を斬っていくのは心苦しかったが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

最初は竹林で咲夜さんが、次は屋敷の中であの魔法使いが私を先へと向かわせた。

私は先を任されたのではない。私では彼女たちが相手をしているのであろう敵には敵わないと判断されただけ。

不甲斐ない。私は目前にいる敵に相対することすらできないほどに弱いのか――?

そんなことはない。そんなはずはない。私が今まで築いてきたものは私の実力として存在するはずだ。

ならば証明しなければ。私も博麗霊夢のように、霧雨魔理沙のように、十六夜咲夜のように、自らの力を証明してみせる。

 

決意した私がまた一つ襖を斬り裂くと、そこには不可思議な光景が広がっていた。

月だ。しかしここは室内のはず。

おかしなことに天井に月が浮かんでいた。

いくら部屋が広くとも収まるはずもないそれはしかし、本来の理を曲げてそこに在った。

偽物かと思うが、それを自らの半霊が否定する。この場にある月は、あり得ないことに、本物であると。

 

そんな不合理に囚われていたからであろう、本来ならば部屋に入った瞬間に気が付くべきだった、部屋の中心にいる人影にようやく気が付く。

そこには美女がいた。私自身、彼女を表す言葉を持ちえない。何かしらの言葉を用いて彼女を表現したとしても、それは陳腐なものに成り下がってしまうことが理解できたからだ。

呼吸すら忘却し、彼女を見つめていたが、不意に彼女が私と目を合わせたことで意識が戻る。

 

――何をしている魂魄妖夢。この部屋にいるということはつまり、彼女は異変の関係者だ。もしかすればこの異変の黒幕である可能性だって高い。そんな相手を前に何を呆けているのだ――!!

 

「あら、客がここに来るなんて珍しい。もてなしもしないなんて、永琳ったら何をしているのかしら」

 

私が自らを叱咤していると、彼女が声を上げる。そこには乱暴に上り込んだ私に対する怒りはない。むしろ、ここにいない誰かを非難するようなものが含まれていた。

 

「いらっしゃい、お客人。ここに誰かが来るのは本当に久しぶりなの。よかったらお茶でも飲みながらお話しない?」

 

こちらを見る彼女に敵意はない。むしろ私を歓迎しているようにすら見えるその姿に、もしかしたら彼女は今回の異変には無関係なのかもしれない、とすら考えてしまう。

しかし、この異常な部屋にいて、その異常をなんでもないことのように振る舞っている時点でそれはありえない。

だからこそ、少しの迷いを覚えながらも剣を抜く。

 

「戯言を。この月は貴方の仕業ですか!」

 

「私は今回、干渉はしていないのだけどね。この月も偽の月も全部永琳の仕組んだこと。私が言えば止めるでしょうけど、そうするつもりはないわ」

 

だって、と彼女は妖艶な笑みを浮かべてこちらを流し見る。

 

「――そのほうが面白いじゃない?」

 

その言葉を聞いた瞬間、悟る。

彼女――いや、この女は敵だ。

 

剣を構え、突っ込もうと足を踏み出す。

しかし、それは横から飛び込んできた光線によって停止を余儀なくされる。

 

――恋符「マスタースパーク」

 

光線が屋敷に残した大穴から見知った顔が現れた。

 

「な、だから言ったろ、アリス?「案ずるより生むが易し」ってな!」

 

「竹林で迷ったからって魔法で道を作る場合はその言葉は合わない気がするけど……。まあ、いいわ。これもまた、人間の可能性でしょう」

 

かつて、幽々子様と共に異変を起こした際にその後の宴会で知り合った魔法使い達だ。

彼女達も私と同じようにこの異変を解決しに来たのだろうか。

 

「さて、お前が今回の異変の首謀者だな?この霧雨魔理沙が成敗してや――」

 

箒から降りた魔理沙が女に指を突き付け、啖呵を切った途端、頭上から膨大な殺気と共に紅い槍が突き刺さる。

そして文字通り悪魔のような翼を広げ、吸血鬼が槍の上に降り立った。

 

「月を奪ったのは、貴様か?」

 

吐き出された言葉は冷え切っているのに、そこに込められた感情は怒りで煮えたぎっている。その言葉は私に向けられたものではないのに、震えるほどの恐ろしさがある。

 

「私ではないけれど、原因は私かしらね」

 

あの恐ろしい怒気を受けているというのに、女の余裕は崩れない。

 

「そうか。それだけ分かれば、いい――!!」

 

吸血鬼の右手に妖力が集まっていく。そしてその収束の果てに、禍々しい紅槍が形作られていく。

 

「そうね。その言葉で充分よ。あんたをぶっ飛ばすのはね」

 

天井の穴から降りてきたのは吸血鬼だけではなかった。

ゆっくりと降りてきた博麗の巫女はいつも気だるげそうにしている目に苛立ちを募らせて札を握る。

 

「おいおい、人の相手は盗るなよな、二人とも。私が先だぜ」

 

「そうね、ここまで引っ張ってこられて無駄足なんて、私も御免だわ」

 

臨戦態勢の二人に魔法使い二人が制止の声を投げる。

 

「わ、私が最初にここに着いたんです、最初にやるべきは私でしょう!」

 

乗り遅れまいと私も声を上げる。

 

そんな中、女が未だ笑みを浮かべていることに気が付く。

これ程までの敵意の中にいてなお、その顔は遊びを楽しむ子供のそれだった。

 

「ここまで私の部屋が騒がしくなったのは久し振りね。それに、五人の客人だなんて、昔を見ているようだわ」

 

どこか懐古の表情を浮かべた女は口を開く。

 

「そうね、私はこの事態を解決する術を持っている。でも、ただでそれをするつもりはない」

 

「……何が言いたい?」

 

女の言葉に苛立ちを含んだ声で吸血鬼が問い返す。

 

「簡単なお遊びよ。今から私が五つの問いを貴方達に提示する。貴方達はそれを解けばいい」

 

――難題「龍の頸の玉-五色の弾丸-」

 

――難題「仏の御石の鉢-砕けぬ意思-」

 

――難題「火鼠の皮衣-焦れぬ心-」

 

――難題「燕の子安貝-永命線-」

 

――難題「蓬莱の弾の枝-虹色の弾幕-」

 

五つのスペルが女の周囲に展開する。

それら一つ一つが私達にそれぞれ割り振られていた。

 

「問いの答えなんて興味ないわ。私はただあなたを叩き潰すだけ」

 

「この私に問いを投げるか。傲慢だな、貴様は。いずれにせよ、月は返してもらおう……!!」

 

「実に分かりやすいな、これは。つまり、弾幕ごっこに勝てばいいんだろ?」

 

「そう簡単じゃないと思うけど。まあ、問いには答えたくなるのが魔法使いの性よね」

 

「貴方に勝ちます、そしてそれを私の強さの証にする!」

 

 

 

「これから貴方達が挑むのは、かつて誰もが解答しえなかった五つの難題。さあ、貴方達の答えを見せて頂戴」

 

そして、私達は解答を始めた。

 



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クリスマスです…

二連続メリクリ!

今日の投稿が一回だけだと思った?
残念、二連続投稿でした!

……せっかくのクリスマスに何やってんだろ、自分……


 

 

メリークリスマス!!

というわけでやってきました、12月25日!

皆さんご存知クリスマスだよ!

 

ん?クリスマスならそんなテンション上げる必要ないって?

実は紅魔館でクリスマスを祝ったことはありません!

なのですごくテンションが上がっています!!

 

紅魔館の皆はクリスマスに何もしようとはしなかったし、私は仮にも吸血鬼の館でキリスト教の神様を称えるのはどうなのかと思って言わなかったからね。

 

それで、なんで今年はクリスマスを祝うのかというと……

 

 

 

――12月10日

 

う~、忙しい、忙しい。

冬は洗濯物が乾きにくくていけないよね。

こんな時の私の能力は本当便利だなあ。すぐ乾くから。

そういえば図書館に常備してる紅茶がもうそろそろ切れる頃かな。補充しに行かなくっちゃ。

 

紅茶を持って図書館に入ると、魔法で部屋を暖めているのか、冷えきった廊下と比べてかなり快適だ。

図書館には忙しそうに駆け回る小悪魔と、図書館中央に座るパチュリー様、その向かいにフラン様がいた。

珍しい。フラン様が本を読むときは自分の部屋に籠ってるんだけど。

 

「あ、咲夜。お疲れ。ねえ、聞きたいことがあるんだけど」

 

少し近づくとフラン様は呼んでいた物から顔を上げ、私に話しかけてきた。

聞きたいこと?なんだろう。魔法関係なら私よりパチュリー様の方がいいんじゃ……。

 

「クリスマスって何?」

 

そう聞きながら読んでいた物――私がとっている文々。新聞――の記事の一つを指さす。

 

「クリスマスにオススメ!冬のスイーツ特集!」と銘打たれたその記事には人里の冬限定のスイーツが紹介されている。……今度買いに行こうかな……

 

「幻想郷に来る前、町の人間たちがそのことで騒いでいたことは知っているのだけど、何なのかは知らないのよね。レミィもあまり興味がなさそうだったし」

 

なるほど、パチュリー様も知らなかったから私に聞いてみたと。

……でも私に前世の記憶が無かったら知らなかったと思うけど……。

紅魔館でクリスマスを祝ったことなんてないし。

 

「えーと、たしか外の世界の神様の誕生を祝う日、だったと思います。一般的にはプレゼントを配ったり、ケーキやごちそうなどを食べる日、という認識もされていますが」

 

「へえ、面白そう!私達もクリスマスを祝いましょ!」

 

「あー、それはどうでしょう?一応神様の誕生を祝う日ですし、悪魔やその従者がそれを祝うのは……」

 

「大丈夫だと思うわよ?」

 

うわっ!いきなり背後から声をかけられたからびっくりしたあ。

レミリア様、せめて足音を立てて近づいてもらわないとさすがに心臓に悪いです……。

 

「大丈夫なんですか?一応キリスト教の行事ですが……」

 

「いいのよ、あっちが勝手に私達を敵視しているだけだし、こっちとしては神とかどうでもいいしね。やりたいときにやりたいことをやる。それだけよ」

 

うーん、なんとも悪魔らしいお言葉。まあそういうことなら遠慮なくやりますか。

 

「……じゃあ、やりましょうか。クリスマスパーティー」

 

「本当!?やったー!!」

 

目を輝かせて喜ぶフラン様マジ天使。この笑顔のために生きてるなあ、私。

 

フラン様を見て癒されながらクリスマスに向けて私は準備を始めた。

 

 

 

 

フラン様のためなら何でもやれるよ、私は。

というわけでパーティー会場作成終了!

料理もできたし、シャンパンも用意した。紫に連絡して外から七面鳥も手に入れた!完璧だね、我ながらいい仕事したわ。

 

妖精メイド達も今日は休みを取らせたし、今頃クリスマスパーティーをしてる頃かな?

 

最後の料理を持って大部屋に入ると、すでにみんな席に座っていて、特にフラン様は待ちきれないのかそわそわしていた。

 

「咲夜も来たようだし、始めるか。外の世界の神官どもが聞けば憤死するだろうがそんなことは関係ない!存分に楽しもう!メリークリスマス!」

 

「「「「「メリークリスマス!!!!!」」」」」

 

レミリア様の音頭でパーティーが開催される。

プレゼント交換の後、私達は思い思いの場所で楽しんだ。

 

「咲夜さん、このシャンパンおいしいですね!どこから買ってきたんですか?」

 

「紫に頼んで七面鳥と一緒に買い付けてもらったのよ。……あまり飲み過ぎないでよ?明日の仕事に支障が出ても知らないから」

 

「ふふふ、二日酔いになった時は咲夜さんに看てもらいましょうかね?」

 

「妖怪のあなたがそんな簡単に二日酔いになるわけないでしょう?もう……」

 

七面鳥を取り分けつつ美鈴と話していると、フラン様が駆け寄ってきた。

 

「ねえねえ咲夜!サンタさんは来るかしら?」

 

「フラン様はいい子ですからきっと来ますよ。明日が楽しみですね。そういえば、サンタさんへの手紙は書けましたか?」

 

「うん!……でも今から出して間に合うかな?」

 

「大丈夫ですよ、紫に頼んで一瞬で届けてもらいますから。私が渡しておきましょう」

 

「うん、お願いね!……中は絶対に見ちゃだめだからね!」

 

そうしてフラン様から手紙を預かる私。

先程のフラン様に念押しに少し罪悪感がわくものの、部屋の外へ出て手紙を確認する。

えーっと、何々……?

 

「皆と一緒に仲良く寝てみたい」……いい子だ。フラン様は本当にいい子。

レミリア様に頼んで今日だけ大部屋で皆と雑魚寝だね!

 

部屋に戻り、レミリア様と相談する。

レミリア様はそれを聞いて少し嬉しそうな顔をした後、声を上げた。

 

「さて、今日のパーティーはここまでとしよう!そこで一つ私から提案がある!今日はいつもより寒い、そこでみんな一緒にここで眠るのはどうだろうか」

 

「はい、賛成です!」

 

「今日は冷えるしね、たまにはこういうのもいいかもね」

 

「皆と寝れるんですか?やった!こういうの、憧れてたんです!」

 

「お姉様、本当?……っ、やったー!!」

 

大喜びのフラン様を尻目に、寝具を取りに行くために部屋を出る私。

うんうん、今回のクリスマスは大成功だね。

 

 

 

 

廊下を歩いていると、ふと、視界の端で人影が動いた。

今私は時間を止めて動いている。そんな中、一体誰が――?

 

即座に臨戦態勢を整え、ナイフを構える。

誰だ、と声をかけようとした瞬間、その人影は現れた。

 

――サンタだ。

赤い服に、赤い帽子。胸まで伸びるもじゃもじゃの白い口髭に背中に背負った大きな袋。

誰がどう見たってサンタだった。

 

「メリーィ、クリスマァース。十六夜咲夜ちゃんだね?今年いい子だった君にもプレゼントをあげよう。他の子たちのも部屋にあるから安心しなさい」

 

優しげな低い声と共にプレゼントを手渡される。あまりのことにフリーズした私がされるがままにそれを受け取ると、サンタさんはポンポンと私の頭を撫でた。

 

呆然と綺麗にラッピングされたプレゼントに目を落として、ハッとする。

何か言おうと顔を上げたが、先程までいたサンタさんはいつの間にか消えていた。

私の手の中に納まっているプレゼントがさっきのことが現実だったことを教えてくれる。

時が止まった空間の中で私は今年一番の叫びをあげたのだった。

 

 

 

 

 

後日談というか、今回のオチ。

 

あの衝撃的な出来事のせいか、次の日目覚めるまでクリスマスの記憶はそこから無かった。

隣にはレミリア様とフラン様が寝ていたから、あの後きちんと寝具を持って大部屋に戻れたのだと思う。

 

サンタさんから渡されたプレゼントに入っていたのはずっと欲しかった外の世界の軍用ナイフだった。

他の皆も宛名不明のプレゼントが部屋に置いてあったらしい。

皆首をかしげていたが、フラン様だけは「サンタさんが来てくれた!」大喜びだった。

 

しばらくして紫と話す機会があったため、今回のことを話してみると、どうやらサンタさんの存在を彼女は知っていたらしい。

「毎年厳重に結界を張っているのに、いつの間にかやってきていつの間にかいなくなってるのよ……。悪事を働くわけじゃないけど、そう簡単に博麗大結界を抜けられると自信無くすわ……」とかなり疲れた顔で言っていた。ちなみに紫が渡されたプレゼントは新しい扇子だったそうだ。

 

幻想郷では常識が非常識に、非常識が常識になるとは言うけど、まさか本物のサンタさんに会うとは思ってもみなかった。

だけどまあ、ああいう皆を笑顔にする非常識なら大丈夫かな、なんて来年のクリスマスを思うのだった。

 



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パチュリーvs永琳、決着(第三者、永琳視点)

もう誰も読んでいないと思うけど、書けたんで投稿します。

仕事と提督業が忙しくてなかなか書く時間取れんなあ…。

サブタイもそろそろ思いつかなくなってきました。


 

 

――第三者視点

 

パチュリー・ノーレッジは強者である。

友である吸血鬼も、普通の魔法使いも、七色の魔女ですら、それに賛同することだろう。

 

滅多に自身のテリトリーである図書館から出ないため分かりづらいところではあるものの、暗黒時代を生き抜いた吸血鬼のそばにおり、かつその友人として認められている。それは、紛れもなく彼女がそれだけの実力を備えている、という証明になりえるのである。

 

魔術の原理を解明し、それを自在に操る七曜の魔女は、しかしこの場においてはただ相手の攻撃を受けるだけの使い魔に対する盾でしかなかった。

 

「つっ、くうっ……!!」

 

魔理沙のような子供が絵にかいたような可愛らしい星ではなく、本来の宇宙に存在しているような武骨な石の塊は、並みの攻撃では罅すら入らない障壁を菓子でも割るかのように気軽に粉砕していく。

 

顔を歪ませ、防戦一方な者と、偽りの宇宙(そら)を作り上げ、その星々を自在に操る者。

幼子が見てもどちらが優勢かなど理解できる。

 

しかし、優勢であるはずの八意永琳の顔に余裕はない。

 

(攻めきれない……っ!)

 

元より永琳の標的は魔女ではない。

その後ろで結界の持続を妨害している非力な悪魔だ。

なのに、彼女の攻撃は全て魔女に防がれる。

それどころか、魔女から悪魔に意識を移せば、この圧倒的な状況をひっくり返されかねないとすら感じていた。

 

 

 

 

 

 

魔女の操る術は知っている。

当然だ。今この世に存在する全ての術は自分が作り上げた術の末端の、更に末端にすぎない。

本来の術を扱う自分が、原形の一部すら再現しそこなった術に負けるわけがない。

だがこの現状はどうだ。負けてはいない。劣勢でもない。しかし、あと一歩が攻めきれない。

弾幕ごっこという形に納まってはいるものの、これ程の差があればすでに勝敗は決している。それが当然だ。

 

だが現実として、自身の攻撃は捌かれている。受けられ、逸らされ、弾かれる。

八意永琳は思考する。月の頭脳と称されたその思考に焦りはない。怒りもない。

ただただ現状に対する回答を巡らせるのみだ。

本来ならば勝利の方程式となるその回答も、目の前の魔女はそれは不正解だとばかりに攻略する。

 

戦いが始まってから数えきれないほどに繰り返された光景に、永琳は口の端を笑みへと歪める。

 

――いつ以来だろうか、こんなにも心がざわつくのは。

 

月で豊姫、依姫に慕われていた頃でさえ、これほどまでに高揚したことはなかった。

 

――いつからだろうか、友人を作るのを諦めたのは。

 

対等な者などいなかった。輝夜が一番それに近いが、結局は姫と従者という位置に落ち着いた。

 

――いつだっただろうか、他人を素直に称賛できなくなったのは。

 

他の者が見ていたものは当然のように見えていた。それ以上のものすらも。

口では称えても、心中ではその程度しか見えていないのか、と落胆していた。

 

 

 

だがこの魔女は違う。「特別」だ。

私には見えないものが見えている。でなければあの緻密な弾幕(答え)を防ぎきれるはずがない。

 

いつまでもこうしていたい、と思う。

私は戦闘好きな性格だっただろうか、と自問する。否、と自答した。

相手が彼女だからこうしていたいのだ。他の誰かだったならばこんなことは考えなかっただろう。

まるで恋する乙女のようだ、などと年甲斐もないことを考える。

 

いつの間にか意識は魔女から離せなくなった。

当初の目的だったはずの悪魔は意識から外れていき、目の前の魔女に向いていく。

 

だが、それがいけなかった。

 

突如、自身の掌握していた結界に違和感を覚えた。

それを感知し、即座に修復しようとするが、それよりも早く違和感は結界全体に広がり、やがてそれは欠陥として結界の機能を停止させた。

 

偽の宇宙が剥がれ、崩れていく。

結界が完全に崩壊し、見慣れた和室へと姿を戻した。

 

「私の負け、ね」

 

ふう、と一つ息を吐く。

魔女を見ると、むきゅう、などと珍妙な鳴き声を上げて床に伏せっていた。

使い魔はそれを見て主人に近付こうとはするものの、自身も酷く消耗しているのか、滝のような汗がその赤く長い髪を濡らしている。

 

先程まで私と渡り合っていたとは思えないその姿に少しだけ苦笑すると、お茶を入れるために部屋を出る。

きっと私を楽しませてくれるであろう、「特別」な魔女との会話に思いをはせ、笑みを浮かべながら。

 



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良かった…

お久しぶりです(小声)

ようやく永夜抄もそろそろ終わりです。

とりあえず咲夜さんサイドはこれで終わり。

予定ではあとはお嬢様サイド書いてエピローグです。

次はいつ投稿できるか分からないけど…(汗)


 

 

――咲夜視点

 

どのくらいの間逃げ続けただろう。

吸血鬼の体力を持った肉体はまだ十分動けるが、何時間も追いまわされるという体験に私の精神は疲労していた。

当然と言えばそれまでだがまず地力からして違いすぎるのだ。

なにせこちらは半日限定のなんちゃって吸血鬼なのに対し、あちらは正真正銘本物の吸血鬼である。

弾幕を撃てば炎剣の一振りでかき消され、ナイフを投げれば警戒されているのか全て避けられる。ならばと近づけば桁外れの膂力で吹き飛ばされた。どないせいっちゅーねん。

 

「咲夜も強情ねえ。いい加減諦めたら?」

 

私を上空から見下ろすフラン様の言葉には呆れが多分に含まれている。

実際、鈴仙を隠してから私がしたことは所詮悪あがきでしかない。はっきり言ってこの状況からフラン様を抑え込むのは不可能だろう。

 

――だが、それでも。

 

「いい、え。まだ、です。まだ、私は……」

 

それでも私は諦めるわけにはいかない。

レミリア様にフラン様を頼まれたのもある。しかし、一番の理由は。

 

(ここで諦めたら、この後のフラン様を悲しませてしまう)

 

フラン様は優しい。だからこそ、狂気に囚われる自分を恐れているし、抑え込もうとしている。

そんなフラン様が狂気のせいで誰かを傷つけてしまったら、きっとフラン様は自分を責める。もしかすれば、心を壊してしまうかもしれない。そんなことは、あってはならない。絶対に。

 

「私は、今のフラン様のご命令には、従えません……!!」

 

こんなダメなメイドの私にだって、矜持はある。

誰にも、紅魔館の皆を傷つけさせない。たとえそれがフラン様自身であろうとも、それだけは、許容できない。

私が好きなのは、紅魔館の皆が笑っている、そんな日常なんだから――!!

 

 

「そう、じゃあ、もういいわ」

 

膝を震わせながらもフラン様の前に立った瞬間、背後の太い竹に叩きつけられた。

 

「かっ、は……!?」

 

「なんでか分からないけど治るみたいだから少しの傷で済ませてあげてたけれど、もういいわ。こんなに言って分からないなら――」

 

――手足の一本か二本、千切れば言うことを聞くかしら?

 

首をしめる細い右腕をどけようと必死で力を振り絞るが、びくともしない。それどころか首を絞める力はだんだんと強まっていく。身体能力が底上げされているとはいえ、呼吸を止められれば意味をなさない。

フラン様の腕を握る力も、徐々に弱まっていき、視界が霞んでいく。

右腕が凄まじい力で引っ張られ、ミチリ、ミチリと嫌な音を立てる。

 

(ごめ、んな、さい)

 

脳に酸素が送られなくなったためか、朦朧とした思考の中で誰に向けたのかも定かではない謝罪を浮かべたところで。

 

ズドン、という銃声のような音と共に私は解放された。

 

「げほっ、けほっ、けほっ」

 

地面に落とされた瞬間、はいつくばりながらも、空気を取り込むために咳をする。

そしてなんとか呼吸が回復し、誰が助けてくれたのか確認するために顔をあげた。

 

そこには、鈴仙がフラン様の顔面に回し蹴りを喰らわせるという色んな意味で物凄い光景があった。

蹴りをまともにくらったフラン様は吹き飛ばされるが、手を地面につけることで勢いを殺し、体勢を整える。

しかし、鈴仙が弾幕を張り、フラン様の動きを牽制する。

 

「こっちよ!」

 

鈴仙が私の腕をとって走り始める。

しかし、私の体は今までの疲労で上手く動かず、鈴仙に体を預ける形になってしまう。

 

「置いて、いきなさい。このままじゃあなたもやられるわ。これは紅魔館の問題。他人のあなたが関わる必要はないわ」

 

今のフラン様はスペルカードルールなんて頭から吹っ飛んでいるだろうし、捕まったら私はともかく、鈴仙に待っているのは死だろう。

 

しかし、鈴仙は私を置いていこうとはせず、私を横抱きにして走り続ける。

 

「その他人を守るためにあんなところに私を隠した貴方が何を言ってるの。ご丁寧に毛布まで敷いて。……借りは返すわ。今度は、私が貴方を守る番よ」

 

やだ、かっこいい……!!抱いて!いや、まあ今抱かれてるっちゃ抱かれてるんですけどね。

 

「どこへ行こうというのかしら?」

 

高速で私たちの正面に回り込んできたフラン様が腕を振り上げる。

鈴仙の顔へ向かって放たれた拳を、一部の空間を時間停止し、即席の盾とすることで防ぐ。

その隙に鈴仙はフラン様へと目を合わせた。

 

――幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)

 

「ぎっ!?」

 

目があった途端、フラン様が頭を押さえて怯む。

瞬間、渾身の力を込めた拳をフラン様の顔面に叩き込む鈴仙。

前が見えねえ状態になったフラン様は衝撃で吹っ飛んでいった。

え、ちょ、ええ!!??

さっきの回し蹴りもそうだけど、鈴仙なんだか血の気多くない!?

 

予想外の原始的な攻撃手段に若干引いている間に、鈴仙はフラン様を蹴り飛ばして後ろへ下がる。

 

「あなた、彼女を抑える方法はある?」

 

「ええ。一時的なものだけど、抑えることはできるわ」

 

「彼女は波長が不安定よ。精神的なものだと思うけど、それを安定させれば、何とかなるかも」

 

鈴仙の問いに答えれば、能力による解決を提案される。

確かに、現状ではフラン様を一時的に抑えられるだけで、決定打は何一つない。

ここは鈴仙の提案に乗るのが得策だろう。

 

「そうね。でもその方法はフラン様に警戒されてる。そう簡単に当てられないわ」

 

「それなら問題ありません。どんなに強力な妖怪だろうと精神を揺さぶられれば必ず怯む。そこを狙いなさい」

 

「分かったわ」

 

私は鈴仙の腕から離れ、自分の足で立つ。

 

「フラン様の狙いは私よ。囮になるから、隙を狙って動きを止めて」

 

「ええ」

 

そこでフラン様がダメージから回復する。

 

「っ痛ぅ…。なかなかやるじゃない、あのウサギ、っ!?」

 

私は弾幕を放つことでフラン様の気をこちらへとむける。

ニイ、と笑みを浮かべたフラン様がこちらへと突撃してきた。

私は後ろへ下がりつつ、それを捌く。

しかしそれはさっきの巻き直しのように私はボロボロにされていく。

一部の空間を盾にしたいところだけど、あれは集中して計算をすることでようやくできることであって、フラン様と戦っているときにそんな余裕はない。

 

フラン様の蹴りが私の脚を砕く。

脚が力を失ったことでよろけた私にフラン様の拳が突きささる。

無数の竹を巻き込んで吹き飛ばされる。受け身も取れずに地面を転がる私に追撃は、来なかった。

 

――散符「真実の月(インビジブルフルムーン)」

 

スペルカードの形をとった弾幕がフラン様へと襲い掛かる。

私への追撃に気をとられたフラン様は弾幕をまともに食らい、体勢を崩す。

その隙を逃さず、鈴仙はフラン様の襟首をつかみ、真正面から顔を覗き込む。

 

――幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)

 

「ぎぃ、ああああああああっっっっっ!!!!!!!」

 

先ほど目を合わせた時以上の精神攻撃を受けているのだろう、フラン様は絶叫を上げて暴れる。

その間に、私は霊夢謹製のナイフをフラン様に優しく当てる。

それだけでも封印の術は発現し、フラン様を拘束する。

フラン様は拘束を解こうともがくが、先程の鈴仙の精神攻撃の影響か、解けることはない。

 

鈴仙の能力で狂気が解けたのか、暴れていたフラン様は糸が切れたようにぐったりとする。

 

完全に意識を失ったことを確認して、一息つく私達。

 

「何とか、なったわね」

 

「ええ。感謝するわ、ええと…」

 

鈴仙が私を呼ぼうとして口ごもる。

そういえば、自己紹介もしてなかったっけ、私達。

 

「十六夜咲夜よ。紅魔館のメイドをしているわ」

 

「鈴仙・優曇華院・因幡。永遠亭で薬師の修行中よ、よろしく」

 

ふふ、とお互いに笑いあう。

なんだか、彼女とは気が合う気がする。

 

激しい戦闘の後のせいか、気が抜けてしまった。鈴仙とともに地面に座り込んでいると、闇夜が薄れていく。

 

「夜が、明けていくわね。師匠が負けるなんて、考えられなかったけど。夜明けってことは、そういうことなんでしょう」

 

「ええ。長い、永い夜だったわ。……っ!?」

 

鈴仙の言葉を返し、気付く。

朝になるということは、太陽が出てくるということ。

 

「フラン様!!」

 

荷物を入れていた鞄は戦闘でどこかに行ってしまった。

何か、何かフラン様の体を隠せるものはないか―――!?

 

朝日が竹林を染めていく。

光がフラン様へと近づいていく。

 

とっさの判断だった。間に合わない、そう思った瞬間、私の頭から何もかもが吹っ飛んでいた。

 

――私の体が、今は人間でないということも。

 

フラン様の体を包み込むように抱き込んだ直後、朝日が私達を照らす。

ジュウ、と肉が焼ける音がした。

 

「く、あああああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!!!!???????????」

 

熱い熱い熱いアツイアツイアツイあついあつあついあついあつい!!!!?????

 

太陽光が容赦なく私を焼いていく。邪悪なモノよ、消え去るがいい、と私を断罪していく。

痛みで意識が飛び、そして痛みで意識が戻ってくる。

拷問のように続くそれは、私の存在を浄化していく。

 

だけど、とフラン様を見る。

私の体によって隠されているフラン様は、太陽を浴びてはいなかった。

 

良かった、と思った瞬間、布のようなものに包まれる。

痛みが薄れ、私はそのまま意識を闇へと落とすのだった。

 

 



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永夜の終わり(レミリア視点)

どうも、お久しぶりです。

また投稿が半年後とかね、もうね、遅筆とかってレベルじゃないですよね、ごめんなさい。

とりあえずこれで永夜抄編は区切りになります。

あとは後日談書くだけですね。

……書くの久し振りすぎて書き方を忘れてるので読みにくいかもしれません。


――レミリア視点

 

スペルカードが私たち五人に向けて展開される。

 

 

 

ちらり、と近くにいた博麗の巫女に目を向けると、いつの間にかその姿は遠くへ引き離されていた。

 

 

……いや、違う。

私たちの間の空間が拡張されているのだと遠目に見える壁を見て気付く。

 

 

 

その手の術式を仕込んでいたか、それともあの女の所業なのか。

まあ驚くべきことでもない。咲夜が普段していることの一つに過ぎないことだ。

 

 

それに近くに誰もいないというのは好都合だ。

周りに気兼ねすることなく弾幕を放てるということでもあるのだから。

別に他の奴らを心配するわけではないが、フレンドリィファイアで同士討ちなど面倒だからな。

 

 

女の弾幕が迫る。

散り散りに向かってくる弾幕を避けながらも違和感を覚える。

 

 

(この弾幕、瞬間的に移動している?)

 

 

遠くにあった光弾が一瞬のうちに眼前に迫っている。

認識をずらされているような感覚。

この感覚は、まるで。

 

 

(咲夜の弾幕?)

 

 

時間を止め、その間に迫ってくる咲夜のナイフにそっくりだ。

こちらの認識外に動かれているような。

 

 

ならば、この女の能力は空間を操作するものか、もしくは咲夜と同じ、時を操作する能力。

 

 

どちらであるにせよ、厄介だ。……しかし。

 

 

(私には分かる)

 

 

何度咲夜と戦ったろう。

最初は戯れに咲夜の修行に乱入しただけだったが、おかげである一つの力を見出すことができた。それは。

 

 

女の弾幕を注視する。そして、能力を発動した。

すると、今まで見えなかった弾幕の軌跡がはっきりと見えるようになる。

 

 

この世のものすべては、運命に囚われている。

人間も、妖怪も、生者も、死者も、有機物も、無機物も。

それが万物である限り、逃れることはできない。

 

そして運命とは、流動するものだ。

過去へ、未来へ。

ならば、その流れを読むことができれば。

視えないものなどこの世には無いのだろう。

 

 

運命の流れを読む。

たとえ停止した時間の中で動いていようと、空間を歪めて移動しようと無駄なこと。

ここに存在する限り、私に視えないものなど存在しない。

 

 

弾幕をすり抜ける。

先程のように避けるのではなく、躱す。道さえわかれば後はそこを進むだけでいい。

速さは必要ない。ゆっくりと弾幕の中を進んでいき、ついには女の前へとたどり着く。

 

 

「あはっ。面白い動きをするわね、貴女」

 

 

女が面白そうに顔を歪めるが、関係ない。

この私が、この女をぶちのめす。そう決めたのだから。

 

 

――神槍「スピア・ザ・グングニル」(紅符「不夜城レッド」)

 

 

スペルカードの二重詠唱。過剰な弾幕が女を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋が元の状態へと戻っていく。

その中心でボロボロになった女は笑いながら転がっていた。

 

 

「あっはははははははは!!!!いやあ、久しぶりに楽しめたわ。長いこと生きてると、やっぱり刺激が欲しくなるのよねえ」

 

 

はーぁ、と息をつく女には楽の相しかない。

言葉通り、女にとってはこの戦いも遊びの一つでしかなかったのだろう。

 

 

「さて、貴方方の回答、実に面白い……、もとい、興味深いものでした。その褒美と言っては何ですが、この夜を終わらしてさしあげましょう」

 

 

永琳も負けたみたいだしねえ、と小声で言う女は天井の月へと手をかざす。

 

 

――「永夜返し -世明け-」

 

 

天井の月が消滅したと思えば、外の景色が瞬く間に変化していく。

まるで夜明けの様を本のページを捲るように見ているようだ。

 

 

 

 

そして数秒後には星と月があった空は消え、日の出の景色へと変わっていた。

 

 

「……終わったのか」

 

 

白黒の魔法使いがぽつりと呟く。

その言葉で場の緊張がほぐれ、各々がふう、と息を吐く。

 

 

そして、それを狙ったかのようにその場に乱入してきたものがいた。

 

 

「あなたがレミリア・スカーレットね?」

 

 

乱入してきた銀髪の女は私へと視線を向けて問う。

何の用だ、と尋ねようとするが、その前にその女が口を開いた。

 

 

「十六夜咲夜が重症よ。あなたの力が必要だからすぐについてきなさい」

 

 

想像の埒外の言葉に、私は立ち尽くすしかなかった。

 






ん?他の四人の戦いはどうした?

皆様の脳内保管でオナシャス……(目そらし)




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ここどこですか・・・?

どうも、今度は早めに投稿できて少しほっとしてる作者です。

今回は永夜抄後日談編。この話をもって永夜抄編は終了です。

なので次は設定集ですね。よくある幻想郷縁起風に書いたほうがいいのか、普通に書いたほうがいいのか迷ってまだ未完成だったりしますw

さて設定書き終わったらどうしよう。
花映塚にいくか番外を書くか……。うーん悩ましい。


 

「ん……」

 

 

背中に痛みを感じて目を覚ます。

うつ伏せで寝かされているようで、視界には畳と枕が映っていた。

 

 

「つっ、ぐ……」

 

 

起き上がろうとするが、背中の痛みに耐えきれずに布団へと再び倒れこんでしまう。

ここはどこだろう。フラン様はどうなっただろう。この痛みは一体――――

疑問が頭の中で飛び交い、消えていく。

痛みに耐えてでも起き上がろうとして、今までとは違うものが目に入ってきた。

 

 

「う、さぎ?」

 

 

白く、もこもことしたウサギが私の目を見つめている。

思いもしなかった生物に体が止まった瞬間、そのウサギは私に飛びかかってきた。

 

 

「わ、ぷっ!?」

 

 

頭に飛び乗られて、起き上がろうと浮いていた頭が枕へとたたきつけられた。

それを狙ったように(枕のせいでよく見えないが)ほかのウサギが私の上に乗ってきた。

今の私は大量のウサギに乗られて布団に押し付けられたような形になっているだろう。

 

ため息をつき、力を抜く。

流石に乗っているウサギを振り落としてでも起き上がる気力が今の私にはなかった。

 

 

 

 

しばらくウサギを乗せたまま二度寝しようか悩んでいると、足音が聞こえた。

 

 

「し、失礼します……、って、なにこれ……?」

 

 

気弱そうな声と共に入ってきた声には聞き覚えがあった。

 

 

「鈴仙?あなたなの?」

 

 

「ぴぃっ!?」

 

 

鈴仙(?)は声をかけるとバタバタと部屋を出てしまった。

おかしい。私が知っている鈴仙は女軍人と呼ぶにふさわしい性格をしていたはずだけど。

 

 

「お、起きたの……?」

 

 

「ええ。おかげさまで。ここはどこ?フラン様は?」

 

 

気弱そうな声で聞いてくる鈴仙へ返し、疑問をぶつける。

 

 

「えっと、ここは永遠亭、です。あの時の吸血鬼は姉を名乗る吸血鬼に連れられて帰りました」

 

 

なるほど。何故かは知らないけど、負傷している私にを運び込むには近くてうってつけの場所だ。

それにフラン様はレミリア様に連れられて紅魔館へと帰ったらしい。

 

 

「妙に背中が痛いのだけどこれは?」

 

 

「それはあなたが吸血鬼の特性を持ったまま日光を浴びたからよ」

 

 

む、この気だるげで頼りになる声は!

 

 

「パチュリー様、いらっしゃったのですね」

 

 

「あなたを一人残しておくわけないでしょう。レミィは意識がなかったあなたにべったりで邪魔だったからフランを押し付けて帰したけど」

 

 

邪魔て。パチュリー様相変わらずレミリア様に容赦ないですよね。

 

 

「それに、永琳の話も興味深かったし……。オホン、とにかく、ずいぶん無茶をしたわね咲夜」

 

 

「面目次第もありません、パチュリー様。お手数をおかけしました」

 

 

「お手数なんかいくらでもかけていいけどね、咲夜。あなたは少し無茶をしすぎよ。今回だってそこの兎が咄嗟に服をあなたにかけていなかったらどうなっていたか」

 

 

「え、あ、恐縮です……!」

 

 

「……ところで、鈴仙。なんだかあなた会った時と性格がだいぶ変わってないかしら?」

 

 

少し気になっていたことを口に出す。そんな弱気キャラじゃなかったよね君。

 

 

「え、えっと、その……。あれは理想の私、というか。戦うのが怖いので、能力で、そのう……」

 

 

「ああ、なんとなく分かったわ」

 

 

つまり能力で自己催眠かけて理想の自分を演じていたと。

 

 

「ふむ、恐怖や躊躇を抑えるほどの催眠……。興味あるわね。兎、私にそれをかけてみなさい」

 

 

「え、いやでも……」

 

 

「いいから早く」

 

 

あー、珍しくパチュリー様の悪癖が発動してる。

ああいうところ見るとやっぱり魔女なんだなあって思うよね。

 

 

「あまり私の弟子をいじめないで頂戴、パチュリー。ほら、貴方たちも。あまりけが人に負担をかけさせてはいけないわ」

 

 

また違う声が現れ、私の上のウサギたちが散っていく。

頭に乗っていたウサギがいなくなったため、首を動かして声のほうを見てみると赤と青の奇妙な服を着た女性が湿布のようなものを持ってそこにいた。

 

 

「傷を見せて頂戴……。うん、ここまで回復したなら明日中には痛みはとれるでしょう。でも傷跡が残らないように薬は出しておくわね」、

 

 

私の服をあげて診察するおねーさん。

たぶん永琳だよねこの人。なぜかパチュリー様とやたら親しげだけど。

 

 

「お医者さん、かしら」

 

 

「まあ似たようなものね。薬学を学ぶにあたってついでに学んだ程度だけど」

 

 

ついで(世界最高クラス)ですね分かります。

 

 

「あと、この薬も飲んでおきなさい。痛み止めよ。その姿勢では起きてるのもつらいでしょうし、睡眠導入剤も混ぜ込んであるからよく眠れるはずよ」

 

 

顎を持ち上げられ、なんだか青っぽい薬を飲まされる。

味は意外に甘かった。

 

飲み終わると、逆らい難い眠気に襲われる。

即効性とは本当永琳は優…秀……zzzzz……

 

 

睡魔に身を任せ、私は再び意識を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び目を覚ますと今度は仰向けで寝かされていた。

背中の痛みはなくなっていて、どこもおかしなところは感じられない。

 

起き上がろうとして、右腕に重みを感じて目を向ける。

そこにはフラン様が私の右手を両手で包んで眠っていた。看病してくれたのだろうか。

 

 

「起きたか、咲夜」

 

 

声がかけられ、目を向けるとレミリア様が月を背に立っていた。

 

 

「お嬢様、紅魔館に戻られたはずでは?」

 

 

「ああ、一度はな。しかし、フランがどうしても行きたい、というから連れてきたんだ。……私自身、気になっていたしな」

 

 

レミリア様は私の枕元に座ると寝ている私の頭を優しく撫でる。

 

 

「無茶をしすぎだ、馬鹿者が」

 

 

「パチュリー様にも言われました」

 

 

「当然だ。まったく……。お前が重症だと聞き、血の気が引いたお前を見た私がどれだけ、どれだけ……」

 

 

レミリア様の声がだんだんと小さくなる。その声に込められた感情を感じて私の心は罪悪感で一杯になった。

 

 

「すまない、私が、お前にあんなことをしなければ、血を与えなければ、こんなことには……」

 

 

「それは違います、お嬢様。たとえ私がいつも通りだったとしてもきっと同じことをしたでしょう。そうすれば、私はフラン様の狂気を止められなかったかもしれません」

 

 

「本当に、お前は無茶をする。やめろと言っても聞かんのだろうな」

 

 

「それがお嬢様たちの為となるならば」

 

 

「私達にとって一番の痛手はお前がいなくなることだ。たとえ私達が苦しんでいてもお前がいれば耐えられるのだ、私達は。だから、頼む、いなくならないでくれ……」

 

 

涙声で、うるんだ瞳で見つめてくるその顔に見惚れる。

これほどまでに弱気なレミリア様を私は見たことがない。

いつでも笑みを浮かべ、余裕をもって私の上に君臨する吸血鬼の、その心の奥を覗き込んだ気がする。

 

 

「この身尽き果てるまで、私は決して離れません」

 

 

「できるならば、私は、お前を……。いや、なんでもない。今はゆっくり休め。怪我が治ればまた館で働いてもらうのだからな」

 

 

レミリア様の瞳が紅く揺れる。

その揺れに誘われるように意識が遠のいていく。

 

 

「だから、今はただ、眠れ。私の、私達の、愛しい、愛しい咲夜」

 

 

最後の声は聞き取れない。ただ、その優しい感覚は、きっと。

 

頭を撫でる手の温かさを感じながら私は眠りへと落ちるのだった。

 

 

 

 

 



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後始末です…

久しぶりに投稿という名の設定を晒したら感想欄で包囲網をしかれたので初投稿です。

今回は奇跡的に書けたけど次はいつになるやら……



 

私の前に広がる惨状。

花瓶はひっくり返り、敷物は裏返り、窓は割れているところがちらほらと。

 

 

「まさかここまで酷いとは……」

 

「あ、あはは……。妖精のみんなも頑張ったんですが……」

 

 

はあ、と溜息を吐く私の後ろで苦笑いしながらフォローする美鈴。

あのね美鈴、結果的にマイナスになったらその努力は無意味だと思うんだ、私。

 

 

 

 

 

永夜異変から5日、ようやく永琳から退院許可も出て久しぶりの我が家に着いたらこの惨状。ため息の一つも出るよ……。

 

まあ妖精メイドに期待していなかったのも事実。

新たに壊れていなかったら御の字、最悪紅魔館半壊も想定していた私に隙は無い。

 

 

「まずは掃除ね、しばらくやっていなかったから腕の振るいがいもあるわ」

 

「あ、でしたら私も手伝います。瓦礫が散乱してるところもありますし」

 

 

あー、フラン様が暴れたところそのままになってるのか。

流石に瓦礫は運ぶの大変だし、素直に手伝ってもらおう。

 

 

…少女移動中…

 

 

(うわあお)

 

 

地下の廊下は想定以上に酷かった。

フラン様が壊した部屋の残骸、パチュリー様が魔法で生み出してできた水たまり、とどめは空まで見える大きな穴。

心の中で変な声も上がろうってもんだよ。

 

 

「どうしましょう、これ……」

 

 

美鈴の途方に暮れた声に遠くへ飛ばしてた意識を引き戻す。

瓦礫は美鈴の手伝いがあればなんとかなるし、水もパチュリー様に頼めば乾かしてもらえるだろう。

しかし大きな穴まではいかんともしがたい。

私は万能メイドの自負があるが、流石に建築スキルは専門外だ。

 

さて、幻想郷で建築と言えば……

 

 

「萃香に補修を依頼しましょう。鬼ならお酒で動いてくれるでしょうし」

 

「え、あの鬼にですか……」

 

 

嫌そうな顔しないの、まったく。

人里の大工に頼む手もあるが、木造建築が主流な人里で石造りの紅魔館を短期間で補修するのは困難なんだからこれが一番いい手なの。

フラン様もそうだけど、萃香が起こした異変以来、妙に目の敵にしてるよね。

 

 

「なんにせよ、しばらくは地下室を封鎖するしかないわね。フラン様には最上階の部屋へ移ってもらうとして、妖精メイドの後始末もしなくてはいけないわ」

 

 

「うう、すいません咲夜さん、病み上がりなのに……」

 

「あなたは門番なんだから余計なこと気にしなくていいのよ。じゃあ私は博麗神社に行ってくるわね」

 

「はい……」

 

 

しょぼん顔の美鈴の頭を撫でつつ私は手土産用のワインを用意するため、足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

ところ変わって博麗神社。

 

手土産のワインとおつまみ用のチーズを持って境内へと着地する。

 

 

「あら、いらっしゃい咲夜。素敵な賽銭箱はあっちよ?」

 

 

境内を掃除していたらしい霊夢が出迎えてくれた。

相変わらず生活はカツカツなんだね……。

 

 

「お賽銭は後で入れておくわ。それとこれが今日の夕飯に、おやつも置いていくから。それと……」

 

 

「私の母親かあんたは。まあもらうけど……」

 

 

ふふん、頬が緩んでいるぞ霊夢よ。気に入ってもらえたようで何より。

とと、今日は霊夢だけじゃなくて萃香にも用があったんだった。

 

 

「霊夢、萃香はいる?少し頼みたいことがあって……」

 

 

「ん~?私を呼んだかい?」

 

 

私の隣に霧が集まり、萃香が現れる。

途端に強い酒精の匂いが辺りを覆った。

 

 

「萃香、あんたまたお神酒を勝手に飲んだわね……?」

 

 

「固いこと言うなよ霊夢~。お酒は飲んでなんぼだろ~?」

 

 

「お神酒は神様に捧げるものであってあんたに飲まれるためにあるわけじゃないわ」

 

 

「で、咲夜は何の用だい?人が鬼に頼みだなんて珍しい」

 

 

後ろで霊夢が無表情ですごい威圧感出してるけど大丈夫かな……。萃香だし大丈夫か。

 

 

「紅魔館の補修を手伝ってほしいの。地下室から屋上まで大きな穴が開いちゃってね。鬼ならできるでしょう?」

 

 

「そりゃあもちろん。その手のことは鬼の得意分野さ。でもまさか、手ぶらで頼むわけじゃないよねえ……?」

 

 

萃香が怪しい笑みで凄むけど、鬼に手ぶらなんてするわけないじゃないですか、ふふん。

 

 

「もちろん。これを報酬として渡しておくわ」

 

 

「こ、これは……!!」

 

 

人里一と呼ばれる酒屋から購入した日本酒!作れる数が少ないから朝一で並ばないと手に入らない逸品!手に入れるために能力を全力で使ったほどのお酒だよ!

まあ本当はレミリア様に献上する予定だったお酒だけど背に腹は代えられない。また買えばいいことだし。

 

 

「よし乗った!準備してから行くから先に戻って待ってな!」

 

 

酒瓶を奪い取るように手にすると酒瓶に頬ずりする萃香。

よし、予想通り食いついた。これで紅魔館の補修は大丈夫かな。

 

 

「じゃあ頼んだわね。私はまだやることがあるからこの辺りで失礼するわ」

 

 

館の補修の目途がついたとはいえ、やることはまだ多い。

私は御幣でぶっ叩かれる萃香を尻目に紅魔館に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

後日、修復どころか改装に改装を重ねたトンデモ地下室になっていて美鈴とそろって頭を抱えるのは別の話。

 

 

 



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