愛すべきバカが世界を変える (夢泉)
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設定と諸注意

~始めに~

この作品は、ガンダムとインフィニット・ストラトスのクロスオーバー作品です。

この作品はプロローグにて一旦執筆を止めます。ある程度需要があれば続きを書きます。目安としては総合評価が50pt越えたくらいです。

僕は好きなんですが、世間ではジェリドがどれだけ人気があるかがいまいち掴めていないので、古い作品ですし、全く需要が無ければ削除させていただきます。書いても誰も読んでくれないのはちょっとキツいので。

少しでも面白いと思ってくれた人は、励みになりますのでお気に入り登録、或いはコメントをお願いします。

 

~メインキャラクター設定~

 

⬛ジェリド・メサ

 24歳。地球連邦軍の独立部隊「ティターンズ」に所属していた青年将校。階級は中尉。

 エリートである事を鼻に掛け、高慢な態度を取ることがあるものの、仲間・部下思いであるという一面もあり、よくも悪くも人間らしい男。

 部下、親友、師匠、恋人、といった大切な人の尽くを一人の人間に殺され、その人物に恨みを持っている。その人物との決戦に破れて目覚めたら異世界にいた。

 宿敵への憎悪と、大切だった人たちへの思いの中で揺れ動いており、自分でも自分の感情がよくわからない状態にいる。

 物語を通して、少しずつ成長していく。

 

 

  

⬛篠ノ之束

 22歳。ISの産みの親。ISを一人で作り出した天才科学者。

 ウサミミをつけた独特の姿をしている。美人で可愛らしくプロポーションは抜群だが、性格に色々と問題がある。

 妹の篠ノ之箒の事を溺愛し、親友である織斑千冬とその弟の一夏以外には一切心を開いておらず、自分の目的の為なら一夏や箒、千冬といった極一部の例外を除いて、他の第三者に被害が出ようが死のうがどうでもいいと思っていたりする。

 天才であるが故の孤独。孤高という言葉が相応しい人物。

 

 

~オリジナルIS~

 

ハウンド・ラビット

 

【挿絵表示】

 

 バウンド・ドックを元に作られたIS。

 

 

~最後に~

 なるべく原作の世界観を壊さないようにしますが、Zガンダムに関してもインフィニット・ストラトスに関してもかなりのご都合主義や設定の変更がある場合があります。ご了承ください。

 非ログインユーザー含め誰でもでも感想は書けますが、誹謗中傷はやめてください。

 ですが、誤字報告やここはこう書いた方がいいとかといった前向きな指摘、アドバイスの類いはどんどんしてくださると幸いです。

 

 長くなってしまいましたが、以上を踏まえて、それでもいいという人のみご覧ください。



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第一章~めぐりあい宇宙~
ジェリド散る


 宇宙世紀0088年2月22日。戦争の終わりが、刻一刻と近づいていた。

 

 ーーーーグリプス戦役ーーーー

 

 そう呼ばれるようになる一連の戦いは、ティターンズとエゥーゴによる地球連邦軍の内部戦争であった。

 余りにも大きな犠牲を出した一年戦争。その爪痕は深く深く残っており、グリプス戦役もまた一年戦争の余波によるものであった。

 戦いはサイド1、サイド2、サイド7、地球、月面都市、ゼダンの門といった多くの場所に広がり、アクシズも介入した三つ巴の大規模な戦争に発展した。

 

 地球に住む者と宇宙に住む者。ニュータイプとそうでない者。一年戦争が浮き彫りにした対立が、グリプス戦役の原動力となっていた。

 

 しかし、その戦いも直に終わる。この戦いを最後として終わる。

 それは、その戦いに赴く全ての者がどこかで感じていたことであった。

 

 それは、ティターンズのパイロット、ジェリド・メサも例外ではない。しかし、そんなことは彼にとってはどうでもいいことであった。

 

(殺された)

 

 多くの同胞が殺された。部下も殺された。

 

(カクリコン、ライラ……)

 

 友も殺され、師匠と慕っていた女性も殺された。

 

(マウアー……)

 

 愛した女性も殺された。

 本来の彼は仲間思いで情に厚い男だ。しかし今は、いや、そうだからこそ、今の彼の心には憎悪しかなかった。

 

(許せない。アイツは俺が……)

 

 操縦幹を握る両手が痛い。口の中で鉄の味がする。

 

(俺が絶対にこの手で殺してやる……)

 

 カミーユ・ビダン。因縁深いその標的を抹殺するために、ジェリドは出撃する。

 

「ジェリド・メサ、バウンド・ドック、出る‼」

 

 

 

 ⬛

 

 標的はすぐに見つかった。Zガンダム。一年戦争にて、敵には白い悪魔と恐れられ、味方には反抗の象徴とされた機体の名を継ぐ機体。

 

「見つけたぞ!俺がこの手で殺してやる!」

 

 ビームライフルを撃つZガンダム。幾筋もの光線が向かってくるが、どれもこのMAバウンド・ドックの堅い装甲には傷一つつけることは出来なかった。

 

「そんな事で、このバウンド・ドックは落ちないぜ!!」

「貴様のようなのがいるから、戦いは終わらないんだ! 消えろ!!」

 因縁の相手、カミーユ・ビダンが吼える。

「俺を戦いに駆り立てたのは貴様だ!そんなこと言えるのかよ‼ 俺は貴様ほど、人を殺してはいない!!」

「俺は人殺しじゃない‼」

「俺がこの手で殺してやる!そしたら戦わずに済むだろう‼」

 

 宇宙空間を、宿敵目掛けて突き進む。

 

「うわああああああああ!!!!」

 

 カミーユの咆哮。

 何発目かのビームライフルが機体を直撃する。相変わらず機体には傷一つつかない。だが……

 

「っ!」

 

 ビームライフルの直撃で機体のバランスが崩れ、後方へと吹き飛ばされる。背後では撃墜されたラーディッシュが火を吹いていた。

 

「カミーユ!貴様はオレの・・・!!」

 

 全てを奪った・・・!!という言葉は爆発に飲まれて自分ですら聞こえない。

 不思議と熱さや痛みは感じなかった。ただ、目の前が異常なほど白くなっている。

 ふと、幾つかの手が自分の方に向かってきていることに気づく。

 太く、力強い男の腕。男性と比べれば細いが、筋肉質で頼もしい女性の腕。女性らしい細い輪郭だが、強い意思を持ち、自分を支え、護ってくれた腕。

 ふと、自分の腕が引っ張られ、体が浮き上がる感覚に襲われる。どうやら俺の悪運もここまでらしい。お迎えがこいつらで良かったな、なんて思ってしまう。

 

 それは、戦争中のありふれたワンシーン。ある一機のMAが爆発の中へと消えていった。

 

 

 

 

 




 
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めぐりあい宇宙

 どこかの海に島がポツンと浮かんでいる。

 あらゆるレーダーも目視も受け付けない島。

 隠れる事にだけ特化した要塞。

 ステルスシールドによって守られている人工の要塞だ。

 この島の唯一の住人、篠ノ之 束が世界から隠れる為の島である。

 

 

 その日、そろそろ寝ようかと思っていた束は、何とはなしに窓から外を見た。

 普段ならそんなことはしない。感傷的に景色を楽しむなんてことを絶対に彼女はしない。だが、何故だろう、その日は特に考えもせずに窓から夜空を見た。

 人工の光は彼女の部屋を照らすものしかない。海と空の境界は消え、夜空に輝く無数の星だけが、そこが空だと主張している。

 そんな景色を無感情に見つめていた彼女は気が付いた。

 夜空を切り裂く一条の光。宇宙から落ちてくるソレに。

 情報という情報をハッキングする。彼女にかかれば、国家機密のプロテクトでさえ全くもって意味をなさない。

 落ちてくるソレに狙いを絞る。

 人工衛星の欠片でも隕石でも、ましてやミサイルでもない。

 ソレは宇宙から真っ直ぐに落ちて来るが速さは一定のまま、ゆっくりと落ちてくる。

 引力を無視する暴挙。自分の目がおかしくでもなったのか、或いは自分も知らない新しい技術か。彼女の好奇心は既に飽和状態であった。

 ありとあらゆる情報をハッキング。ソレの存在を無かった事にする。映像も音も、地震計さえも欺いて。ソレの痕跡を世界から抹消する。

 軌道を算出し、島の東端に落ちることがわかると、彼女は一目散にその場所へと向かった。

 

 

 

 

  ⬛

 

 

 

「……っ…はっ!?」

 知らない場所。瞬きを数回してから、ふと、気づく。

「地球…?」

 慣れ親しんだ地球の重力だ。コロニーのものでも艦のものでもない。天然の重力を全身に感じる事が出来る。

 手足は動く。五体満足のようだ。おかしい。自分はカミーユに倒されたはずだ。ラーディッシュの爆発に飲まれて、それで……

 状況を確認する。彼は布団に寝かされていた。部屋には家具の類いは無く、全体的に灰色の無機質な部屋だ。病院なのだろうか。まさか捕虜にでもなったのか。

 捕虜にされているとしたら見張りがいるはず。重たい頭をフルに働かせて慎重に部屋の気配を探ると……

「…誰だッ!?」

 背後に人の気配。振り返り、相手の腕に自分の腕を伸ばす……が、簡単にあしらわれた。

「やーやー、起きたかい?起きたんだね?あ、地球連邦軍所属のジェリド・メサ中尉で間違いないかい?」

 そこにいたのは、不思議の国のアリスのようなゴシックドレスに兎耳姿の女性だった。

 満面の笑みを浮かべる女性。対してジェリドはいつでも攻撃に転じられるように構えを崩さない。

「誰だ?貴様、エゥーゴか?」

「質問に質問で返すのは感心しないね。……まぁいいや、私は篠ノ之 束。この名前に聞き覚えはあるかい?」

「……無いな」

 篠ノ之 束。名前からして東洋人。ジェリドはそのような名前には心当たりはなかった。視線は彼女に固定したまま状況を探る。

 正面から押し倒す事も出来る距離だが、先程のことがある。いくら寝起きで頭が重く、思考がまとまっていなかったとは言え、エリートとして格闘術も手を抜かずにやっていたジェリドを難なくあしらうとは只者ではない。

 何よりも今は情報が必要だった。エゥーゴの捕虜なら納得はいかないがまだ良い。だが、アクシズに利用されでもするのはいただけない。あの破廉恥極まりない女、ハマーン・カーンならば、捕虜をサイボーグにでも改造して、兵士として利用する、なんてこともしそうだ。

 ふと、この女のプレッシャーはハマーン・カーンの前に立ったときに感じたそれにも似ている気がした。

「ふむ…私の名前を知らない、か。うんうん、これは面白い、実に興味深い。おいで、面白い物を見せてあげるよ」

 ジェリドの警戒など無視して今にも躍りだしそうな程に浮き足立った彼女はクルリと後ろを向いて歩き出す。

 重い体を強引に動かし、ジェリドは彼女の後を追った。

 

  ⬛

 

 ここだよ、と彼女が示す部屋に一歩踏み込めば、そこは先ほどの部屋とはまるで違う。

 異様なほど高い天井。乱雑する機材。絡まったケーブル。点滅する大量のボタン。空中に映し出される投影型の映像。

 ラボと呼ぶに相応しい部屋。或いは、ニタ研なるものはこんな場所なのかもしれない。

 そんな中で、部屋の中心にあったものにジェリドの視線が縫い止められる。

 

 

 

 NRX-055 バウンド・ドック

 

 機体制御にサイコミュを採用したニュータイプ専用の試作機。グリプス戦役時の兵器の中でも特に異彩を放つ姿をした機体。ロザミア・バダムが搭乗していた赤の機体。

 その成れの果て。見るも無惨なボロボロの骸。

 部品が幾つか並べられているだけで、その部品も全部があるわけでは無い。だが、元があの大きさだ。骸は部屋の一角を占領していた。

「この子と一緒に落ちてきた君を私が拾ったってわけさ」

 あの戦闘を生き残って地球に流れ着いたとするならば、ジェリドはかなりの距離と時間を漂流していたことになる。

 そこまで考えて、ジェリドは今更ながらに重要なことに気づく。

「おい、戦闘はどうなった‼ティターンズは、エゥーゴは、アクシズは!!カミーユはどこだ‼」

 そうだ。自分は戦闘中だったではないか。部下を、友を、師を、恋人を殺した憎きカミーユと戦っていたではないか。

「く、苦しい……」

 苦しげな声に我に返る。気づくと、ジェリドは束の襟をつかんで問い詰めてしまっていた。

「っ…すまない…!」

 慌てて手を離すジェリド。カッとなると周りが見えなくなる。自分の悪い癖、これだからマウアーに子供だと言われてしまうのだと深く反省する。

「ゴホッ…気にしないでいいよ。いきなりこんな状況になれば誰でも不安になるさ」

 本当に苦しかったのか、演技なのかジェリドには判別できない。先程ジェリドを難なくあしらった女性が今回は反応できなかった、とは考えにくい。

 だが、その時のジェリドはそんな事は全く考えることが出来なかった。苦しかったということで顔を赤らめ、ジェリドが掴んでしまったために胸元が少しはだけた束の姿。大きな胸、スッと括れたウエスト、可愛らしい顔と、彼女は文句なしに美人で可愛らしく、女性としての魅力に満ちている。少しドキッとしてしまったのは、男として仕方がないことだと思われた。

「ジェリド中尉。君が言うような戦闘は存在しないんだよ」

「なんだと?」

「エゥーゴも、ティターンズも、アクシズも存在しない。それどころか、人は未だに宇宙に住むことすら始めていない」

「ふざけるな!俺をからかっているのか?あの戦争が存在しないだと!?みんな死んだんだ!大事な人が全員!それが存在しない訳があるか‼アイツは俺のムグゥ?」

 エリート意識を鼻にかけてしまい、人の反感を買うことも多いジェリドだが、本来の彼は仲間思いで情に厚い男だ。束の発言に怒らない筈がなかった。が、発言の途中で口に何かを当てられて喋れなくなってしまった。

「落ち着いて。それは束様特製口止め機だよ。くっつくと暫く喋れなくなるけど、一定時間たつと自動で外れる優れものさ」

 彼女は得意気な笑みを浮かべ、むふん、と鼻息を荒げ豊満な胸を張る。

 ジェリドは自分の口に張り付いた『×』の形をしたそれを擦りつつ、最早こいつに抵抗しても無駄だと覚悟を決めた。が……

「君は今、異世界にいる」

「……っ!…!!」

 いきなり突拍子も無いことを言われて、先程の決意も霧散した。何とか『×』を外そうと足掻くが意味をなさなかった。

「君からして異世界。私からすれば君が異世界人となる。私もにわかには信じられないよ。けど、幾つもの証拠がそれを示している」

 言って彼女は、キーボードに手をかける。

「まずはこれを見てみなよ」

 宙に浮いた画面に写し出されるのは地球の衛生写真のようだ。

 自分が知っているものと変わらない映像だ。ただ一点を除いて、ではあるが。

「……っ!」

 目がいくのは南半球。太平洋上の一つの大陸。

「君の世界ではシドニー湾なるものがある筈だが、そんなものはこの世界には無い」

 ジェリドの知っているオーストラリア大陸は、コロニー落としによって国土の16%が消失。「シドニー湾」とも呼ばれる最大直径500キロメートルの巨大なクレーターを穿った筈だった。

「さらに、君は私を知らない。これが何よりの証拠となる」

「……?」

「これだけ広い研究所を、たった一人で運用する。そんなことをしている人間をマークしないほど地球連邦軍は無能かい?」

「………」

 確かにそうだ。先程寝かされていた部屋からこの部屋までそこそこの距離があった。詳しくは無いジェリドでも解る最新鋭の設備もある。加えて、束以外の人間がいる様子もない。そんな奇異な話、噂ぐらいは聞いていてもおかしくは無い筈だ。だが、そんな話は聞いたことがない。

 『×』形の機械が外れる。

「じゃあなんでアンタは、コロニーのことを、俺の世界のことを知っている?」

 その質問に対して束は、「エヘン」と、よくぞ聞いてくれましたとばかりに豊満な胸を張る。

「ハッキングしたんだよ。君の乗ってきた、そのバウンド・ドックをね」

 呆気にとられて言葉がでなかった。そんな簡単にハッキングができるのかとか色々と疑問はあったが、この女ならやりかねない、と思えたのである。

 その後も次々と示されていく証拠。機械は口から外れていたが、ジェリドはその間、一言も発することは出来なかった。

「極めつけはこれさ」

 そこでパチンと束が指を鳴らす。すると、ラボの一角の床が開き、そこから……

「なっ…MS!?いや、違う!?何だこれは!?」

「IS、インフィニット・ストラトスさ」

 束は簡単に現在の世界について教えていく。

 世界最強である兵器IS、インフィニット・ストラトス。女性しか動かす事の出来ないISが生みだした女尊男卑の風潮。世界を一新した白騎士事件。ISの開発者である彼女自身の事。

 篠ノ之 束と言う人物をよく知るものであればあるほど、今の彼女の親切な様子には疑問を持つはずだった。

「あとひとつだけ教えてくれ」

 話を聞き終えて、ジェリドは束に尋ねる。最早彼女の話を疑うことはできなくなっていた。各種証拠も勿論であるが、決定的なのはISの存在だ。宇宙世紀において、あのような等身大の兵器を作る利点は無いと言える。作業用ならいざ知らず、兵器としての運用はMSがある以上無意味だ。しかし一方で、絶対防御とシールドバリアーのシステムは脅威だ。実際の性能を見たわけでは無いが、それが真に「絶対」の防御であり、メガ粒子に加えて実体弾や爆炎にも効果を発揮するのであれば、Iフィールドよりも遥かに有用だ。そんなものが地球で開発されている、そんな情報は聞いたことがなかった。

「何だい?幾らでも聞いてくれていいんだよ?」

「俺は何をすればいいんだ?」

 ニコリではなくニヤリ。彼女は悪巧みをするように笑って見せた。

「流石にエリートさんだね。気づいたって訳か」

「おいおい、あの機体は俺のことまで記録してたのかよ。軍ってのは恐いねぇ。プライバシーってもんは無いのかねぇ」

「どこで気づいたのかな?」

「何も難しい事じゃねぇよ。アンタみたいな人間があんなに丁寧に教えてくれる訳が無い。何か腹積もりがあるんだろう」

 その回答を受けた彼女は笑みをより一層深くして、告げる。

「ジェリド・メサ中尉。どうだろう。私に君の力を貸してくれないかい?対価は、元の世界への帰還、でどうかな?君が帰れるように世界最高の天才が最善を尽くすよ」

「OK……と言いたいところだが、こういう話は少し考えさせてもらいたいもんだ」

「いいよ。時間はたっぷりある」

 ジェリドが少し考えさせてくれと伝えると、束はこれを快諾。先程の個室を貸し与えてくれた。

 

 

 

 

  ⬛

 

 

「出戻りのジェリド中尉、ねぇ……」

 束が見つめるディスプレイには、ジェリドの経歴や戦績が羅列されている。

 出戻りのジェリド。彼はどうやらそのように呼ばれていたようだが、束はそれを寧ろ肯定的に捉えていた。

「彼の戦闘データを見るに、実力は連邦軍でもかなり上位に位置する。加えてこの生還率。どうやら上の人間も彼をテストパイロットとして使っていたようだね」

 画面に映っているのは彼の乗ったMSの数々。新型でもある程度の戦果を出し、かつ生存するというのは、軍の上層部及び研究者からしたら最高の存在だ。束も研究者だからよくわかる。簡単に死んでしまわれたらせっかくの機体も駄目になるし、何よりデータが消えてしまう。かといって逃げ回ってばかりの臆病者では充分なデータは取れない。

 その点ジェリドはモルモットとして最高の存在と言える。血気盛んで好戦的、実力もある。出戻りと言われるほどに生還するということは、引き際を弁えており、かつ運も良い。データはどんどん集められ、その貴重なデータが失われることもない。

 束はニヤリと笑みを浮かべる。

 確かにジェリドには問題もある。

 カミーユ・ビダンというエゥーゴのエースの少年への異常なほどの執着だ。まぁ、彼は周囲の人間を尽く殺されているから無理もないのだが。これにはティターンズの上層部も頭を悩ませていたようだ。

 だが、束にとってそれは問題ではなく、寧ろ良いことだ。

 何故なら、元の世界へ返して復讐のチャンスをもう一度与えてあげる、とでも誘えば簡単に操れる。

 さらに、この世界にカミーユ・ビダンはいないのだから、ジェリドが暴走することも無い筈だ。

 さらにさらに、ジェリドがテストパイロットとして様々な機体で集めたデータは全て、彼のバウンド・ドックに引き継がれていた。

「けれど何より……」

 束がキーを一つ弾くと、空中のディスプレイ映像が切り替わる。その画面には、こんな一文が映されていた。

 

 

『ジェリド・メサ中尉。ニュータイプの可能性。要観察対象』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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意思の狭間

 ベッドで仰向けになり、灰色の無機質な天井を見つめる。

 部屋に戻ったジェリドは色々と考え込んでいた。

 まずはあの戦闘はどうなったか、である。

 先程は束に反射的に尋ねてしまったが、実際、結果はわかっていたようなものだ。

 あの戦闘は短期決戦となることは間違いなく、さらに言えば、おそらく、決戦はエゥーゴの勝利となっただろう。だが、その上であの破廉恥な女率いるアクシズが何かしら暗躍し、漁夫の利を得ているのではないだろうか。

 それは、ティターンズの兵士として一線で戦い続け、エゥーゴの戦力(より詳しく言えばエースであるカミーユの力量)の成長を見て、ハマーン・カーンとも実際に出会ったジェリドだからこそ解ることでもあった。

 最早、自分は勿論、ティターンズの誰であっても、あのシロッコでさえ、Zガンダムに乗ったカミーユには勝てない。ましてや、エゥーゴにはシャア・アズナブルもいる。カラバにはアムロ・レイがいる。ティターンズに勝ち目など無いだろう。

 最も、そういったエースの事など関係なく、ヒルダ・ビダン殺害といった作戦を決行する組織にどうあれ未来は無い。あの作戦にだけは、ジェリドはどうしても納得できてはいないのであった。

 そのまま、ジェリドの思考は、カミーユのことに移る。

 何をどう言い訳してもカミーユの母親を殺したのは俺だ。知らなかった、騙されていた、だからどうした。結局俺が殺したんじゃないか。

 これが戦争だ。いつか自分が言った言葉が頭に響き、俺の思考が黒い感情で埋められていく。

 ーーーーーーアイツの方が人を殺していたじゃないか。

 まるで自分に言い聞かせるように。

 ーーーーーーアイツは俺の大事な人を殺したじゃないか。

 まるで自分を鼓舞するように。

 ーーーーーー憎い。憎い。アイツが、憎い。

 それは、この前までジェリドを動かしていた最大にして唯一の感情だった。

 ーーーーーー俺はエリートだ。ティターンズだ。

 それは彼のプライドであり、

 ーーーーーーアイツを越えないと俺は先には進めない。

 いつからか抱いた劣等感でもあった。

 ーーー憎い。ーーー悔しい。

 ーーー殺したい。ーーー越えたい。

 それらの感情は、エリートの誇りを汚され、大切な人を全て失ったジェリドに残った唯一の感情だった。

 だというのに、今のジェリドにはその感情が自分の感情に思えなかった。 

「なんでだ……」

 思いがけず零れた言葉は、灰色の部屋に吸い込まれるように消えていく。

「はっ…‼俺は何を考えているんだ!」

 ジェリドはかぶりを振って、自らの頭に沸いた疑問を打ち消す。

 カクリコン、ライラ、マウアー。皆の仇をうつことが間違いである筈がない。

 先程までのは一時の気の迷い。異世界に来るなんて馬鹿げたことになって混乱しているだけ。そう自分に言い聞かせる。

 束は先程、元の世界へ帰れるように最善を尽くすと言った。つまり復讐のチャンスがもう一度与えられるのだ。

「上等だ。待ってろよカミーユ。俺が今度こそ殺してやる」

 ジェリドは拳を天井に向かってに突き上げ、誓いをたてる。

 だが、彼は両腕が妙な温もりを帯び、まるで誰かが引き留めようと引っ張っている、そんな感覚に襲われていた。

 

 

 

 

 





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兎、大地に立つ!!

「答えは出たかい?」

「ああ」

「じゃあ、もう一度問おう。私の力になってくれないかい?対価は元の世界への帰還だ」

 束が腕を差し出しながら言うと、

「いいだろう。ジェリド・メサ、これより篠ノ之束博士の指揮下に入る」

 ジェリドはその手をとって答えた。

「良い返事だ。じゃあ早速ISを作ろうか」

「一体どうするつもりなんだ?ISは女にしか扱えないんだろ?」

「君のバウンド・ドックを使ってISを作るんだよ。ISのシステムも用いるけど、ほとんどはMAのものになる。だから、厳密にはISとは呼べない代物になるね」

「そんなことが可能なのか」

 そう言うジェリドは少し呆れた様子だ。この質問に対する束の答えなどわかっている、といった様子だ。

「世界最高の頭脳、篠ノ之束様だからね!」

 束はエヘンと胸を張って答えた。

 

 

 

「ところでさ……」

 急に束の声のトーンが低くなる。

「どうしたんだ?」

 ジェリドが心配したように声をかけると束は急に満面の笑みを浮かべて、

「何なのこの子!ちょっと可愛すぎやしないかい!?」

 と言った。

「……可愛い?……これが?」

 自分が乗っておいてなんだが、これはまさしくゲテモノの類いだと思っていた。左右非対称の腕。謎の触覚。奇怪な脚。ジェリドが見た中で最高のゲテモノ機体であった。が、

「キュートなウサミミに可愛いスカート!つぶらなひとつ目も最高だよ‼この子を作った奴は天才だね!君もそう思うよね!」

 どうやら天才のセンスは少しおかしいらしい。

「あ、あぁ。そ、そうだな」

 ジェリドは全く同意できなかったが、余りにも嬉しそうな束の姿に思わず肯定してしまっていた。

「やっぱり!君は話がわかるね!やっぱりウサミミは最高さ!!」

 やはりここでもエヘンと胸を張る束。頭のウサミミがピョンピョンと揺れていた。

 

 

 

  ⬛

 

 床が開いて、一機のISが現れる。

「これが君のIS。MAバウンド・ドックを元に作った最強のIS……」

「これが、俺の、IS……‼」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「名前はあるのか?」

「ハウンド・ラビット、なんてどうかな?」

「やっぱりウサギに拘るんだな……猟をする兎ってのも変じゃねえか?」

「猟犬ならぬ猟兎。いいじゃん格好いいし」

「そうか……」

「バウンド・ドックの装甲は尋常じゃない固さだった。それをそのまま使っているから、守りは既存のISにおいて最強。ただ装甲が重くて、機動力にかなりのエネルギーを割かないといけなくてね。本来シールドバリアーや絶対防御に使われるエネルギーをまわしてる。まぁ、なんてったって固いからね、シールドバリアーは使えないけど全く気にならない筈さ。絶対防御だけは緊急の時に局所的には発動できる。

 あぁ、防御のためのエネルギーの量は洒落にならないからね。機動力のためには多すぎるくらいだから攻撃にもその分はまわしてるけど、それでも尋常じゃない機動力を誇る。兎の名に恥じない素早さの筈だ」

 終止楽しそうに、得意気に説明をする束。ジェリドは、バウンド・ドックの見た目が好きというのもあるだろうが、束が自らが作ったISをとても愛しているのだろうと思った。

「猟兎ねぇ……上等だ!早速乗ってみてもいいか?」

「勿論だよ!あ、乗り方はわかるかい?わからない?まずはね、これをこうして……」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、試運転よろしく。この島の上空を少し飛んでみよう」

「了解だ。ジェリド・メサ、ハウンド・ラビット、出る!」

 その日、世界に兎が解き放たれた。

 

 

 

 

 

 





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兎、空を駆ける!!

 さて、遂にハウンド・ラビット最初の試運転。勇ましい決め言葉と共に飛び立ったジェリドだったが、

 

「これは始末書じゃ済まんかね」

 

 今は海の上にプカプカと浮いていた。

 

 

  ⬛

 

「どーいうことかな~?ジェリドく~ん?」

 

 束に回収され、研究所に帰還したジェリドを待っていたのは、とびきりの笑顔を浮かべた束だった。だが、何故だろう。ジェリドには束の笑顔がとても恐ろしいものに感じた。

 

「いや、その……」

 

「途中まで上手くいってたのにねぇ?なんでかな~?」

 

「すみません。調子に乗りました」

 

 なぜこうなったのか。時は少し前に遡る。

 

 

 

  ⬛

 

 

『じゃあ、まずは地面を歩いてみて』

 

「了解だ」

 

 通信機越しに聞こえる束の指令に従い、脚を動かすと、

 

「すげぇ!こいつ、動くぞ!」

 

 一歩一歩、自分の脚の動きにあわせてISが動く。MSでは味わえない感覚だった。

 

『当たり前さ。この束様が作ったんだからね。何も問題はないかい?』

 

「俺の動きとのタイムラグは無い。今のところは問題はなさそうだ」 

 

 自分の脚で歩くのとも、MSで歩くのとも違う。どちらかと言えば前者に近いが、しかしやはり、同じ感覚では到底無い。とても新鮮な感覚だった。

 

『そう。じゃあ次は空を飛んでみよう』

 

「それなんだが、一体どうすればいいんだ?何かを操作するにしても両手は塞がっているぞ?」

 

『自分が飛ぶ姿をイメージすればいい。それだけで飛べるはずだよ』

 

「そいつはすげえ。このヘルメットはそのためだったのか」

 

『そうだね。主な目的は脳波を感じて動きに反映させることさ』

 

「主な?」

 

『後は正体を隠す目的だね。本来のISは女性しか操縦できないのに、男が操縦していたら社会が混乱してしまうよ』

 

「さっきから俺の声が変なのはそのせいか!」

 

 ジェリドの声は、やたらと高い声になって自分の耳に届いていて、ヘルメットがあるにせよ何かおかしいと思っていたのだ。

 

『そうだよ。声を自動的に女性の声音にして外に出している』

 

「いくら声を変えても口調は駄目なんじゃないか?」

 

『その程度の話し方の女の子は一杯いるよ。なんたって女尊男卑の世界だ。男勝りの女傑みたいのもたくさんいるさ』

 

「女傑か…」

 

 ジェリドの頭には赤毛の女が浮かぶ。あれはまさしく女傑だった。

 同時にいつかのプレッシャーが思い起こされ、身震いをしたジェリドは頭を振ってそれを払いのける。

 

「とりあえず飛ぶぞ!イメージ、イメージ………こうか!」

 

 ジェリドが宇宙でMSを操っていた時のイメージを思い浮かべると、ISは宙へと浮かんだ。

 

『よし、成功だ!』

 

「すげぇ、すげぇぜ!こいつはすげぇ!」

 

『よし、そのまま少しずつスピードを上げて……ちょ!いきなり飛ばしすぎ、危険だよ!』

 

 束の慌てた声。しかし、

 

「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!この程度なら問題ないぜ!」

 

 ジェリドはいつかのガンダムMk-Ⅱのテストの時のように調子に乗っていた。

 

『……しょうがないなぁ』

 

 暫くジェリドは空を縦横無尽に飛ぶ。束が想定したよりずっと速くISに馴れたようで、もう既に限界に近いスピードを出している。だがそれでもジェリドは旋回や回転等、かなりの高度な事をやってのけている。

 しかし、暫くして……

 

「……ん?あれ?コントロールが効かない!?まずい!?」

 

 止まれとジェリドは思うが、ISのスピードは一向に落ちない。

 

『いきなり無茶するから‼』

 

「不時着する!!…くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ここで冒頭に至るのだ。

 

  ⬛

 

「まぁ元々は機体の不備、こちらのミスだし…」

 

 束がウサミミを垂らしながら、反省したように呟く。

 

「お互い、認めたくねぇものだな。自分の若さゆえの過ちってやつは………」

 

 たいしてジェリドは束を慰めようと、おどけた調子で言うが、

 

「あ゛!?」

 

 束は余計に不機嫌になってしまった。

 

「すんませんっした!……ただな、あまりにも気持ちが良かったんでな、つい……。自分が空と一つになったような感覚…あんな感覚はMSでも味わえない」

 

「……そう…まぁいいや。今日は勘弁してあげるよ。ところで乗ってみて何か意見はあるかい?」

 

 ジェリドが土下座をするかのような勢いで謝って、その後、素直な感想を言うと、束は自分のISが誉められて嬉しいのか、満更でもない様子であった。

 

「そうだな……。ハイパーセンサーつったか?あれがコイツ、ハウンド・ラビットのスピードに追いついてない。高速で移動中、直進はまだいいが、カーブやターンの時に少し違和感がある」

 

「それは問題だね……ハイパーセンサーの性能を上げるべきかな。いや、それとも範囲を広げて…いやいっそのこと演算で…………ありがとう、とても参考になったよ。他にはあるかい?」

 

「いや、後は無いな」

 

「OK。わかった。今回の不備を含めて今日中に修正しておくよ。また明日、同じ時刻にテストをしよう」

 

「了解だ。最高の機体を待ってるぜ」

 

 ジェリドがそう言うと、

 

「勿論だよ。束様にお任せなさい‼」

 

 いつも通り、束はエヘンと胸を張って答えた。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~お知らせ~

 

「これからお知らせを担当する、シャア・アズナブルと…」

「アムロ・レイだ。よろしく」

シャア「なんでも、作者はアンケートをとりたいらしい。ハウンド・ラビットの機体カラーと二つ名を決めたい、とのことだ。全く坊やだな…。機体カラーは赤以外有り得ないだろう」

アムロ「それだけは無いな。機体は白さ。主人公機は白に決まっている」

シャア「甘いな、アムロ。この私が主役を努める物語もあるのだぞ。いつまでも貴様が主役だと思うなよ」

アムロ「それがどうしたシャア。元祖主人公はこの僕だ!」

シャア「主人公としての年代の差が知名度の絶対的差だと思うなよ、アムロ!」

アムロ・シャア「「……………」」

アムロ「いくぞ、シャアぁぁぁぁぁぁ!」

シャア「こい、アムロぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 はい、というわけで、活動報告欄にてアンケートを取ります。詳しくは活動報告欄を確認してください。

 期限は3/20までです。

 




日刊ルーキーランキング23位!?
やべぇ!ジェリドめっちゃ人気ある!ジェリド好きとしは本当に嬉しい限りです!
総合評価も50pt越えましたし、これからも連載していきます。他の作品もありますし、現実も忙しいので投稿ペースは遅いと思いますが、何卒ご理解の程をお願いいたします。

日間ランキング(加点式・透明)で一位になってた……


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Unleash

 早朝、とある島のとある研究所にて、人型の機械を見つつ二人の人間が立っていた。

 

「これがおそらく最終稼働実験となるよ……」

 

 語る束の表情は暗く、口調は重い。

 

「これが無事に終わったら初任務、だったな」

 

 答えるジェリドの顔もひきつっている。

 

「今回は武器も作ってみた……」

 

「すげぇ、けど……その、大丈夫か?」

 

 違った。ジェリドは心配をしているだけ。ふらついている束のことを心配しているだけだ。

 束は目の下に大きな隈を作り、頭をぐらつかせてフラフラしている。おそらく徹夜して頑張ったのだろう。

 

「ダイジョブ、ダイジョーブ……あ」

 

「っ!」

 

 フラフラと前後左右に揺れていた束は、一際大きく頭を振り、反動で勢いよく後ろへと向かって、そのまま勢いよく床へと倒れていく。

 束の正面にいたジェリドは咄嗟に彼女の背中へ手を回し、彼女が倒れていくのを防ぐ。

 

「大丈夫か?」

 

 ジェリドが心配そうに束の顔を覗く。

 

「え、あ、え、えっと、だ、大丈夫…………」

 

 そう言う束の顔は真っ赤だ。

 

「どうした?顔が赤いが、やっぱりきついのか?」

 

「その……近い……」

 

 正面にいて向かい合っていた人物が後ろに倒れていくのを、背中に手を回して庇う。結果として、ジェリドが束を抱き上げたような状態となり、顔が物凄く近づいた状態になる。

 

「あ、あぁ、す、すまん……」

 

 二人の間に奇妙な空気が流れた。

 

 

 

 

  ⬛

 

 コホン、と大きく束が咳払いをして、奇妙な空気を追い払った。

 

「…で、これが徹夜して作ったハウンド・ラビットの武装だよ!」

 

 そういって彼女がパチン、と指を鳴らすと、ラボの床が開き、何かが地面から上がってくる。

 細長くて、赤い光を放つそれは、

 

「まさか……ビームサーベル、なのか…?」

 

「ご名答、と言いたいところだけど、これも贋作だよ」

 

「つまりは、アンタお得意の……」

 

 ジェリドが軽く笑みを浮かべて呟く。

 この数日、似たようなやり取りが何度行われたことだっただろうか。

 

「「束様特製ビームサーベル」」

 

 二人の声が寸分の狂いもなく揃った。

 

 

  ⬛

 

 

「簡単に言えば、絶対防御の応用だよ。残念ながら、この世界ではミノフスキー粒子は発見すらされていないからね。絶対防御を剣の形にしてるような物さ」

 

 赤い刀の柄の部分をいとおしそうに撫でながら束は語る。

 

「すげぇな。束博士、最高の機体をありがとよ」

 

 たいしてジェリドは、その彼女の様子を見て、何かを決心したように頷いたあと、彼女に礼を言った。

 

「まだ稼働実験が終わってないよ。それに、礼を言われる筋合いは無いだろ?私は君を利用しているんだからさ」

 

 束は首を横に振りながら、それは違う、と否定する。

 

「それでも、あの感覚を知っちまったからな。ISで空を駆ける感覚って奴をさ。改良される度に空が近づく感覚、自分とISと空の境界が無くなっていく感覚、これが味わえたのはアンタのお陰だよ。ありがとな」

 

「っ…!…………そ、そうかい。……精々、私のために身を粉にして働きたまえ!」

 

「へいへい……」

 

 ところで、余談であるが、このラボには名前がある。『我輩は猫である(名前はまだない)』という名前で、意思を持って動く。そんなAIが、ラボ内のパソコンに『恋の予感』等と文字を打ち込んでいたのには誰も気づくことはなかった。

 

 

 

 

「あ、それとね。言われていたハイパーセンサーについては、新システムを取り入れて最高の改良を施しておいたよ」

 

「へぇ、どんな改良だ?」

 

「それは今からの最終実験で発動するまでのお楽しみさ!」

 

「ソイツは一体どうして、と言いたいところだが、もういい加減馴れたぜ。さぁ、見せてもらおうじゃねぇか、その新システムとやらを!」

 

 たった数日。だが、一つの島に二人きりで、一つの作品を造り上げようと力を合わせる。最早、束の性格など、ジェリドはよくわかっていた。

 

「うん。良い意気込みだ。じゃあ行ってみよー!」

 

 

 

 

  ⬛

 

 一通りの動作確認が終わって、束が通信で休憩をしようと言ったので、ジェリドはISを繕ったまま、休憩をしていた。

 

『ところでジェリド君。君にはまだ初任務の内容は話していなかったよね?』

 

 通信器を通して束の声がジェリドに届く。

 

「ん?…あぁ、そう言えばそうだな。一体どんな作戦なんだ?」

 

『泥棒だよ』

 

「は?」

 

『聞こえなかったかい?泥棒をするんだよ』

 

「寝不足で混乱してる訳じゃないよな?」

 

『問題ないよ。さっき、束様特製の“睡眠?なにそれ美味しいの?”ドリンクを飲んだから。飲めば、72時間眠れなくなる』

 

「絶対それ飲んだら駄目な奴だろ!」

 

『まぁ、冗談は程々にして…。君には、とある軍事基地を攻撃してもらう』

 

「ほう?」

 

『候補は幾つかあるんだけど、それらはいずれも、一国が誇る大規模な基地だ。そのうちの一つの基地を強襲し、そして保管された弾薬や兵器を盗む』

 

「だから“泥棒”か。で、目的は?」

 

『さっき君に武器としてビームサーベルを与えたよね?銃器や遠距離用の武器がなかったのは、何も意地悪をしているわけではなくてね。例えば弾薬ならば、弾薬を専門で大量生産する、それ相応の施設が必要だが、流石にこの島でそれは無理さ。だったら……』

 

「盗んでしまえ、か。フッ…アンタらしいな。嫌いじゃないぜそういうの。

………だが、そんなに弾薬が必要とは、戦争でもやるってのか?」

 

『…………』

 

「図星か?」

 

『だとしたら私を止めるかい?それとも協力しない?』

 

「戦争は恐ろしい」

 

『そう……じゃあ君は……』

 

「だが、協力しない、なんて一言も言ってねぇぜ?」

 

『……え?…………それは、元の世界に戻るため?』

 

「はっ、そんなの関係ねぇ!戦争なんて恐ろしいものに、女一人で向かわせられるかよ!」

 

『…っ!』

 

「束。アンタが何を抱えているか、俺は詳しくは知らない。だがな、俺はアンタと数日過ごして、アンタが悪人じゃ無いって確信したんだよ」

 

『そんなのは表向きだけかもよ?人間、自分の本性なんて簡単に……』

 

「俺が元いた世界じゃあ、裏切りからの暗殺なんてのは日常茶飯事だった。加えて俺が最後に経験していたのは三つ巴の大戦争だ。裏切りは腐るほどあった。普通の人間よりは本性を見抜くのも上手いさ」

 

『私は天才だよ?例え君がどんなに…』

 

「アンタがISを語るときの顔」

 

『…え?』

 

「アンタ見たことあるか?眼がキラキラと輝いて、それでいてさらに遠くを目指す意思の炎みたいのも燃えててよ。綺麗だった。俺はあんな眼は見たことがない。少なくとも、“戦争(ころし)”なんてする奴等にあんな眼は出来ない。どんなに正義に見えても、“戦争(ころし)”をする奴等にはな」

 

『そう………』

 

「さて、そろそろ再開といきますか。例のハイパーセンサーの新システム、まだ試してないよな?」

 

『そうだね。じゃ、いくよ?覚悟はいいかい?』

 

「覚悟?…………おい、覚悟って?」

 

『ポチっとな♪ 頑張ってジェリド君♪』

 

「何言って……、おいおい、まじかよ……。アンタやっぱり頭おかしいな‼」

 

 ISのヘルメット内に映る映像。その中に、複数の黒い異物を見つけたジェリドは叫ぶ。

 

『誉め言葉として受け取っておくよ』

 

 空を駆ける黒い輝き。それは研究所から放たれていた。

 

「ミサイルとか聞いてねぇよ‼どうすんだよあれ‼」

 

 それはミサイル。研究所から上空へ向けて放たれた幾つものミサイルは、どれも島を目指して落ちてくる。

 

『一発でも落ちたら島が吹っ飛ぶかも』

 

「おい!!全部で何発だ!?どこに落ちる!?何もわからねぇぞ!?」

 

 1つとして同じ軌道はなく、どれもがバラバラに地表を目指す。ジェリドは一体幾つのミサイルがあるかすらわかってはいなかった。

 

 すると、

 

ppppppppppppppppppppppppppppppppーーーーーーーー

 

 奇妙な機械音が響いた。

 

「何の音だ?」

 

『さぁ、ハウンド・ラビット!首輪を外す時だ‼』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーUnleash

 

 “unleash”。猟兎の首輪が外される。

 

ーーーーーーーーNT System

 

 その日、悪魔が目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

シャア「さて、やっと私の出番だな」

 

アムロ「僕もいるぞ、シャア!」

 

シャア「前回のアンケートの結果だが、募集した結果を踏まえて、作者が以下の四つのカラーリングのパターンを造った」

 

 

二つ名:爪兎 提供:新健

1.

 

【挿絵表示】

 

 

二つ名:噛兎 提供:新健

2.

 

【挿絵表示】

 

 

二つ名:空を駆ける狩兎 提供:ELSトーリスリッターとクロエちゃん

3.

 

【挿絵表示】

 

 

二つ名:不明 提供:作者の友達

4.

 

【挿絵表示】

 

 

アムロ「そして、ごめんなさい。二つ名も募集したんだけれど、一人で二つのカラーリングと二つ名を決めてくれた人もいたし、カラーリングだけの人もいたし、よくよく考えたらカラーリングを決めた上で二つ名を決めないといけないと気づいたんだ」

 

シャア「そうだな。二つ名は、見た目や性能からつけた方がいいからな」

 

アムロ「だから、上には一応、二つ名もいれてあるけれど、それは考えずに投票してほしい」

 

シャア「考えてくれた者達には本当に申し訳ないことをした」

 

アムロ「投票の仕方は、アンケート欄に、1~4の番号を書いてくれるだけでOKだ」

 

シャア「皆、投票をしてくれたまえ」

 

 

 

という訳です。新健様、ELSトーリスリッターとクロエちゃん様、本当にすみません。お二人のご意見には本当に感謝しています。ありがとうございました。

 

新しいアンケート(名前はアンケート2)では、1~4の番号を記入して頂きます。二つ名に関しては一旦保留とします。

アンケートは活動報告欄にあります。

私がアンケートというものに慣れていないがために、本当に申し訳ございませんでした。

 

 

 

 

 



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