ゴジラ vs ポプ子 (外清内ダク)
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1.死闘

 11月7日(月・大安)。

 11時35分。

 

 鎌倉海浜公園に巨大不明生物(政府による呼称:ゴジラ)、再上陸。

 東京を目指し、平均時速4.8kmで北北東に進行。

 

 同、16時30分。

 東部方面総監を指揮官とした統合任務部隊(JTF)は、多摩川を絶対防衛ラインと想定しゴジラ駆除を目的としたB-2号“タバ作戦”を開始。

 

 同、16時45分。

 “タバ作戦”、失敗。

 

 ゴジラは一時的に北北西に転進するも、その後進路を修正。

 都心部へ向けて、なおも進行中……

 

 

   *

 

 

 一方、そのころ。

 都内某所に女子中学生2人の姿が見られた。

 

 ポプ子――短い身体に(たぎ)るマグマのごとき激情を秘めた、どこにでもいる中学2年生。

 

 ピピ美――長い身体に凍てつく凶刃のごとき切れ味を秘めた、どこにでもいる中学2年生。

 

 ポプ子がピピ美に、ピョンと跳ねながら提案する。

「おままごとしましょ♡」

「そーしましょ♡」

 

「シンゴジ襲来タイムテーブルに合わせてなりきり実況ツイート♡」

「COOL COOL COOL」

 

「“一般人がこの時点でそんな情報知ってるわけねーだろ”ってクソリプ♡」

COOL(クール)からHOT(ホット)になっちまった」

 

 

 

 その時、突如として地を揺るがす振動と重低音。

 それを聞いたポプ子の眼球周辺に、ビキィ! と血管が浮き出た。

 

「あ゛ァ゛ン!?」

 

 窓を叩き開けると、その向こうには、暗くなりはじめた空をバックに、一歩一歩こちらに迫ってくる巨大不明生物――

 ゴジラの姿。

 

 我が物顔で街を踏みつぶすゴジラを見て、ポプ子の怒りが爆発した。

 

「ッダロガケカスゥ――!

 ッスケガダラァーア!!」

「すごい闘志」

 

 ポプ子は、こんなこともあろうかと常備している釘バットを2本取り出した。

 片方をピピ美に投げ渡す。これでおそろいだ。

 

「行くぞッ! 夢がアタスを呼んでいるッ!」

「魂のシャウトさレツゴーパッション!!」

 

 バシュウ!

 窓から舞空術で飛び出したポプ子とピピ美は、一直線にゴジラに向かっていく。

 

 

   *

 

 

 2人が飛び去ったあとには、女の人と、ツイッターで物申すマンが取り残されていた。

 

 ツイッターで物申すマンが、ツイッターで物申しはじめる。

 

ツイッターで物申すマン@twitter_de_mono

今、ゴジラに命がけで戦いを挑む人たちを見かけました。こんなときに実況ツイートで盛り上がるのはどうかと思います。不謹慎では?』

 

 女の人は、スマホをいじるツイッターで物申すマンを不審げに見る。

 

「ね……ねえ、ツイッターで物申してないでさ。

 あなた行かないの?」

 

 ツイッターで物申すマンは腕組みして彼方の空を見やった。

 

「飛べねえんだよ。オレは……」

「ど……どうも……」

 

 

   *

 

 

 ゴジラ、依然進路を変えず東京駅方面に向けて進行中。

 その背後には、ゴジラに踏み潰された街の瓦礫が赤い線のようにどこまでも伸びている。

 

 ポプ子とピピ美はゴジラ上空にたどり着いた。

 2人空中に並んで、ゴジラの威容を見下ろす。

 

「やるぞ! ピピ美ちゃん!」

「おうさ! ポプ子ちゃん!」

 

 呼吸を合わせ、2人は上空に螺旋を描きながら飛翔した。

 手にしたおそろいの釘バットから光線が放たれる。

 

「チャクラエクステンション!」

「しゅーとおー」

 

 爆発!

 さらに息もつかせず畳みかける。

 

「天空に散らばるあまたの精霊たちよ……我が声に耳を傾けたまえ……

 ラナリオーン!」

電撃呪文(ライデイン)!!」

 

「プリキュアの! 美しき魂が!」

「邪悪な心を、打ち砕く!」

「「プリキュアマーブルスクリュー!!」」

 

「もうひといきじゃ。パワーをメテオに」

「いいですとも!」

 

“Wメテオ”

 ギョーン!

  ギョーン!

   ギョーン!

    ギョーン!

 

 空から大量の隕石が降り注ぎ、ゴジラを直撃した。

 凄まじい威力の黒魔法である。さしものゴジラも、爆炎に飲まれて完全に沈黙した。

 

 ピピ美が掲げた手のひらに、ポプ子がジャンプしてハイタッチする。

 

「「ヒャッホー!」」

 

 

 

 だが、そのときだった。

 ピピ美が何かを察知して、煙に包まれたゴジラを睨む。

 

「危ないッ!」

「えっ」

 

 

 突如、煙の中から閃光がほとばしり、東京都心もろともにポプ子とピピ美を焼き払った!

 

 燃え上がる街を見下ろしながら、煙切り裂き、黒い巨大な影が悠然と歩み出てくる。

 

 ――ゴジラ。

 ダメージを受けた様子は、ない。

 

 

   *

 

 

 ゴジラの口から放たれた熱線による爆発で、ポプ子とピピ美はビルの壁に叩きつけられた。

 苦痛をこらえながら、迫り来るゴジラを悔しげに睨む。

 

「バ……バカな! 効いてない!?」

 

 しかし、いち早く立ち直ったピピ美が、ふたたび舞空術で浮かび上がる。

 

「フッ……もう手段を選んでられねぇな」

 

 その凛とした姿に勇気づけられ、ポプ子もまた立ち上がる。

 

「そうか……“アレ”だね!」

「そうさ……“アレ”だ!」

「時間をかせいで!」

「まかせろ相棒!」

 

 

 2人は素早く飛び上がり、別々の方向に別れた。

 

 ピピ美はゴジラの頭上に肉迫すると、両手の指で三角形を作り、その中にゴジラの頭をロックオンする。

 

「新気功砲! はっ!!!!」

 

 ピピ美の手から放たれたエネルギーが、ゴジラに叩きつけられた。

 ピピ美の命を削って放つ必殺技である。

 ゴジラもこれには一瞬怯んだ。

 

「はっ!! はっ!!!」

 

 ピピ美は、さらに連続して技を放ち、ゴジラをその場に釘付けにする。

 

 

 一方、ポプ子は手近なビルの上に降り立っていた。

 両手を高々と振り上げ、呪文を唱え始める。

 

 

   ――薄暮の騎士(Knight of Dusk)より黒きもの

   血染めの月(Blood Moon)より赤きもの

   (ローテ)の流れに(うず)もれし

   偉大な汝の名において

   我ここに 闇に誓わん

   我等が前に立ち塞がりし

   対戦相手にダメージを与えたたびごとに

   その対戦相手は手札をすべて捨てる

   その対戦相手に手札が残っていない場合

   この効果は無視する

 

 

竜破斬(ニコルシュート)!」

 

 ゴジラ自身が大爆発を起こした。

 これこそが竜破斬(ニコルシュート)の力である。

 これをしかけられて防ぐことのできた生物は、かつて史上に存在しない。

 

 ゴジラ周辺はもうもうと立ち込める黒煙に包まれ、生命の気配さえ感じさせない。

 

 

「やったー!」

 

 ポプ子が飛び上がり、ゴキゲンに指を鳴らして勝利を喜ぶ。

 しかしピピ美は、なにか不吉な予感を覚えて、じっと黒煙を見つめていた。

 

 そして、突然吠えるように警告を叫んだ。

 

「いいや! まだだ!」

 

 

 次の瞬間。

 

 

“天からふりそそぐものが世界をほろぼす”

 

 黒煙の内側から、無数の青い熱線が、無差別に周囲にまき散らされた!

 とたんに爆発が起こり、ポプ子とピピ美を巻き込んで、都心部を跡形もなく破壊していく!

 

 ゴジラ。

 その背びれが青く発光し、大量の熱線を放っているのだ。

 その姿は弾幕をはる巨大要塞。いや、それ以上。

 

 ポプ子の竜破斬(ニコルシュート)を受け、ゴジラの身体も深く傷つき、流血している。

 しかしそれが、かえってゴジラの狂乱を招いたようだった。

 莫大なエネルギーを容赦なくあたりに叩きつけるさまは、破壊の神そのものだ。

 

 

 ポプ子とピピ美はなすすべもなく吹き飛ばされ、ガレキの山と化した街の中に倒れていた。

 ポプ子がうめきながら、頭だけを持ち上げる。

 その視界に映るのは、暴れ狂うゴジラの、巨体。

 

「まさか……アレが通じないなんて……!」

 

「クッ……!」

 

 ピピ美が意識を取り戻し、なんとか膝立ちになる。

 ゴジラは熱線で街を焼き続けている。このままでは東京全体が……いや、この地球そのものが破壊されてしまうだろう。

 

 ゴジラは、強い。

 あまりにも強すぎる。

 倒す方法は――ない。

 

 にもかかわらず、ピピ美の口に笑みが浮かんだ。

 

「フッ……」

 

 震える膝を手で支えながら立ち上がり、倒れたポプ子の前に、彼女をかばうように立ちはだかる。

 

 

「ピ……ピピ美ちゃん……!」

 

「やっぱどう考えてもこれしか……

 地球が……ポプ子ちゃんが助かる道は思い浮かばなかった……」

 

 ピピ美が肩越しに振り返る。

 その目には、穏やかな、しかし固い決意の色が浮かんでいた。

 

「バイバイ、ポプ子……」

 

「ピ……ピピ美ちゃん!?」

 

 

 ピシュン!!

 ピピ美の姿がかき消えた。

 瞬間移動だ。

 

 

 ――まさか!

 

 ピピ美の意図を察して、ポプ子の顔面が蒼白になった。

 

 

 

   *

 

 

 ピシュン!

 ピピ美が、暴れ狂うゴジラの鼻先に瞬間移動で現れる。

 

 そしてゴジラに手を触れ、反対の手で額に触れ、念じる。

 

 ピシュン!

 ピピ美の姿が再び消えた。

 ゴジラの巨体とともに。

 

 

   *

 

 

 ――月面、飯田橋2丁目。

 ここに一軒の月面コロニービルがあった。

 

 とある出版社の本社ビルである。

 

 社長は、社長イスにどっしりと腰を落ち着け、のんびり安心しきっていた。

 

「さすがに月に移転すればヤツらも手が出せないだろう」

 

 

 そのとき。

 

 ピシュン!

 ピピ美とゴジラが本社コロニービルの目の前に出現した。

 

 

 ピピ美が鼻先を指でかく。

 

「わりい竹書房さま。

 ここしかなかったんだ」

 

 そして――

 

 

   *

 

 

 月が、爆発四散した!

 

 はじめ、ポプ子は真っ白になって、頭上の閃光を見つめていた。

 

 やがて――やがて心が事態を受け止めはじめ、次に、涙がこぼれはじめた。

 

「ピピ美ちゃん……?」

 

 虚空に向かって呼びかける。

 こたえは、ない。

 

「ピピ美ちゃ――ん!!」

 

 ポプ子の悲痛な叫びが響く。

 

 だが、戦いはまだ終わっていなかった。

 涙に濡れた視界の中心に、ポプ子は恐るべき姿を見た。

 さっきまで月があった場所……そこに、太陽光を浴びて白く輝く影がある。

 

 ――まさか……まさか、あれは!?

 

「ゴジラ!! 生きていたのか!!」

 

 

(つづく)

 

 

 

 

 

■次回予告■

 

 私、星降そそぐ!

 

 次世代アイドルとして再結集した私たち“ドロップスターズ”!

 みんなと一緒なら怖いものなしだよー!

 

 でも敵対プロダクションの傭兵アイドルに襲われて、いきなり大ピンチ!

 

 そのとき絶体絶命の私をかばってくれたのは……

 えっ!? まさか、キミは!?

 

 

次回、

 

“星色ガールドロップ project-P”

第2星「大地 死す」

 

 来週も、恋にオーバードロップ!

 

 



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2.復讐の誓い

 ポプ子は、動物園のオリの中のゴリラだ。

 隣にはゴリラ(ピピ美)もいる。

 

 オリの前には、つぎつぎに客がやってきて、キャアキャア言う。

 

「あ! ポプテピピックだー!」

「かわいー!」

 

「ゴリラかよ」

「なにこの急展開www」

「さすがにこれは草」

 

 ゴリラ(ポプ子)は(うるせえな)と思って、ダルい動きで客の方に顔を向けた。

 よけいに騒ぎが大きくなる。

 

「きゃー!! こっち向いたー!!」

「かわいー!!」

「シュールwwww」

 

(……………)

 

 バシ!!

 ポプ子は観客(あなた)に中指を勃てた。巨木のような雄々しさだ。

 

「「きゃあ――――っ!!!!」」

 

 ますますうるさくなった。

 

 

 

POP TEAM EPIC

 

作:闇鴉慎

 

 

 

 東京上空、380,000km――月軌道上。

 

 無数の岩石が浮遊する中に、ゴジラがただよっている。

 

 ゴジラはとまどっていた。

 

 ゴジラは、自分を傷つけようとする敵に対して、なかば本能的に放射火炎を吐き、周囲の地盤ごと敵を粉砕しようとした。

 しかし必殺の一撃を放つ直前、理解不能のなんらかの力によって、突然月にワープさせられたのだ。

 

 その結果、ゴジラの放射火炎は、月と、竹書房と――そして、ピピ美のみを打ち砕いたのだった。

 

 少しの間、静かに思考を巡らせて、ゴジラは自分が目的地から遠く離れてしまったことを認識した。

 そして遥か遠くに見える巨大な青い球体こそが、自分の向かうべきところであると理解した。

 

 なんとかして、あの場所に届かせたい。

 

 その一心で、ゴジラは口を大きく開いた。

 放射火炎の青い光が、その喉の奥からあふれ出た。

 

 一直線に、地球へ向かって。

 

 

 

   *

 

 

 

 同時刻、東京。

 千代田区北の丸公園――ビッグ武道館。

 

 ここは今、避難所になっていた。

 ゴジラの火炎から生きのびた人々が、武道館いっぱいにつめこまれ、不安な夜を過ごしていた。

 

 あちこちから、すすり泣きや、恐怖の叫び声が聞こえる。

 ひとつひとつは小さな声だが、万単位の人々が集まると、耳がおかしくなりそうなほどの騒音になる。

 

 みんな、それぞれに、家を失ったり、家族や友達を失ったりしたのだろう。

 大やけどを負い、これから命を失おうとしているひともいる……

 

 

 ビッグ武道館のかたすみで、膝をつき、がっくりとうなだれる男がいた。

 

 彼は――ミュージシャン、ヘルシェイク矢野。

 

「くっそう!

 こんな大変なときだってのに、オレには何もできないぜェ……!

 

 オレは無力なのか……」

 

 だが、そのとき。

 絶望のどん底で、ヘルシェイク矢野の目が、逆に熱く燃えはじめた!

 

「いいや!

 まだだ! オレにはまだ、やれることがある!

 

 それは……ここにいる人たちを、元気づけることだぜ!!

 このオレの音楽でな!!」

 

 

 すっく、と立ち上がったヘルシェイク矢野。

 その背後に、別の男の声がかかった。

 

「よく言った!!」

 

「なにぃ!?

 ま……まさか、お前は!

 

 マグマミキサー村田!!!」

 

 暗闇の中から姿を現したのは、ミュージシャン、マグマミキサー村田だった。

 マグマミキサー村田が、ニヤリと笑う。

 

「キサマひとりでは頼りない。

 このオレが力を貸そう」

 

「マグマミキサー村田ァ!」

 

「おっと、勘違いするなよ。

 お前を倒すのはこの俺だ。それだけのことだ」

 

「フッ……分かったぜ!」

 

 

 ヘルシェイク矢野。

 マグマミキサー村田。

 夢の最強タッグが、今、ここに誕生した!

 

「行くズェ! マグマミキサー村田!!」

「いいズェ! ヘルシェイク矢野!!」

 

「「(ユウ)ーゥ(ゴウ)! ハッ!!」」

 

 並んだふたりの体がアーチを作り、その指先が合わさったとたん、閃光がほとばしった。

 ふたりの身体が! ひとつに合わさる!

 

 爆誕!! ヘグマシェキサー村野!!

 

 

 そしてさらに。

 

「待ちな! 俺もいるぜ!」

『ユーロビートの神様!』

 

「私もお手伝いしますよ」

『ジャズの神様!』

 

「ワシはパス」

『サボ神!!!』

 

 

『みんな……みんなありがとう!

 さあ行くぜ!

 最初で最後で最高の!!

 俺たちのスーパーセッションだぜ!!!!』

 

 

 ヘグマシェキサー村野の、4本腕をフル活用した超高速ギターソロ!

 ユーロビートの神様の、魂を揺さぶるテクノサウンド!!

 ジャズの神様の、胸を打つ哀愁のメロディ!!

 

 

 その熱い演奏を耳にした避難者たちが、ひとり、またひとりと顔を上げる。

 暗く沈んでいた避難者たちの表情に、ヘグマシェキサー村野の燃えるような情熱が乗りうつっていく!

 

 誰もが、生きる希望を取り戻しているのだ!!

 

 その光景を見て、マネージャーのおっちゃんは、脂汗まみれで拳を握りしめる。

 

「なんてえこった。

 やつらはこの地獄の中でさえ、観客の心のマグマを沸き立たせてやがるっ!

 

 ヘルシェイクにしてマグマミキサー!

 ヘグマシェキサー村野じゃあ!!」

 

 

  またたくまに、ビッグ武道館は割れんばかりの歓声に包まれた。

 まるで武道館が、いや、日本列島全体が震えているようだ。

 

 ヘグマシェキ!

 ヘグマシェキ!!

 ヘグマシェキ!!!

 へ……

 

 

   *

 

 

 ――そのとき。

 

 月軌道からの放射火炎が、ビッグ武道館を直撃した!!

 

 

 建物の屋根が融ける。

 蒸発する。

 中の人々が炭化し気化する。

 

 最後の一瞬まで途切れぬサウンドに包まれたまま――

 

 ビッグ武道館、消滅。

 

 

   *

 

 

ツイッターで物申すマン@twitter_de_mono

悪質なデマが出回っているようです。騙されないように! 特に支援要請にTwitterを用いることは混乱をまね

 

 ツイッターで物申すマン、消滅。

 

 

   *

 

 

「この小説は面白くない! クソ!!

 なんでオレが死ななきゃいけないんだ! クソ! クソ!! ク……」

 

 アンチ、消滅。

 

 

   *

 

 

 

「ぼくベーコンムシャムシャくん!

 ベーコン食べるの大好きさ!

 ベーコン……」

 

 ベーコンムシャムシャくんは、目の前の光景をぼんやりとながめ見た。

 

 だが、そこに広がっているのは、見渡すかぎりの――焼き払われた荒野のみだ。

 

「ベーコン……どこ?」

 

 ベーコンムシャムシャくん、消滅。

 

 

   *

 

 

 

 月軌道上のゴジラは、熱線の放射を止めた。

 

 エネルギーが枯渇したのだ。

 それに、この位置からでは、せいぜい日本の地上を全て焼きはらう()()()のことしかできない、と分かった。

 

 ゴジラは目を閉じた。

 

 今のままでは、宇宙空間に投げ出されて、これ以上どうすることもできない。

 

 だから、しばし休息を取りながら、考えてみることにしたのだ。

 あの青い球体――地球に戻る方法を。

 

 

   *

 

 

 ポプ子は目覚めた。

 

「ピピ美ちゃんーッ!!」

 

 そこは、ボロボロになった民家の中だった。

 そばには、老人がひとりいる。

 

「ム……気がつかれたか。

 ずいぶんと、うなされておった……」

 

「ピピ美ちゃん!

 ピピ美ちゃんは!?」

 

 老人は首を横に振る。

 

「倒れていたのは、あんただけじゃった……」

 

 

 ポプ子は、それを聞いて、家から飛び出した。

 

 外には、一面の荒野が広がっていた。

 月軌道から降りそそいだ熱線によって、東京の街はあとかたもなく崩壊してしまった。

 ガレキ以外何もなくなってしまった街に、ねじ曲がった東京タワーだけがポツンと残っている。

 スカイツリーは、ない。完全に蒸発してしまったからだ。

 

 

 ポプ子は、膝をついた。

 拳の中に、地面の灰を握りしめた。

 

 ゴジラに負け、ピピ美が死んだ、あのできごとは……

 

「夢じゃ……

 なかったんだ……」

 

 

 その背後に、一台の車が止まった。

 中から飛び出してきたのは、スーツ姿の男だった。

 彼のスーツは汚れだらけで、顔にもケガがあり、疲れ果てていたが、まだ気力だけは残っているようだった。

 

「そこの人!

 ここは危険だ! 一緒に避難しましょう」

 

 車の中から、部下が声をかける。

 

「急ぎましょう! いつまた攻撃があるか……」

「少し待て」

「矢口さん!」

 

 部下の制止をふりきって、男はポプ子の後ろに駆け寄った。

 

 彼の名は、矢口蘭堂。

 巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)事務局長。

 衆議院議員、矢口蘭堂である。

 

「車に載ってください。避難所まで送ります。

 さあ!」

 

 矢口蘭堂につかまれた手を、ポプ子は、力まかせに振りほどいた。

 

 ポプ子は両手の拳を地面に叩きつけ、叫ぶ。

 

「ゴジラゥアア゛ーッ!」

 

 涙をぬぐい捨て。

 怒りを目に宿し。

 ポプ子はふたたび、立ち上がった。

 

「覚えてろよゴジラ……

 地べたを這い

 ドロ水すすってでも」

 

 頭上の白い影を見上げ、野獣のように中指勃てる。

 

「お前の前にもどってきてやる!!」

 

 

(つづく)

 

 

 

■次回予告■

 

 私、星降そそぐ!

 

 今度のステージは地下都市アンバークラウン!

 はりきって現地入りした私たちを待っていたのは、やる気のない現地スタッフさん。

 

 ちょっとお、マジメにやってよおー(汗)

 

 もう! こうなったら、私たちの歌でスタッフのみんなを動かすしかない!

 

 

次回、

 

“星色ガールドロップ project-P”

第3星「めんどうは、お嫌い?」

 

 来週も、恋にオーバードロップ!

 

 



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3.新・ゴジラ

 ポプ子、植木鉢のふたばに水やりをしている。

 

 ふたばがしゃべった。

「質が低い!

 読むに耐えない!

 この小説はクソ!」

 

 だが、ポプ子はにこやかだ。

「ありがとう♡ ありがとう♡」

 

 

 ピピ美が来た。

 ポプ子のしていることを、不思議そうにのぞきこむ。

 

「なにしとん」

「アンチの芽に“ありがとう”と声をかけるとすくすく伸びるんだよ」

 

「伸ばしてどうする」

「食い物にする」

 

 

 ピピ美は腕を組み、力強くうなずいた。

「惚れ直したわ」

 

 

 

POP TEAM EPIC

 

作:闇鴉慎

 

 

 

 東京都立川市

 立川災害対策本部予備施設にて。

 

 矢口蘭堂――巨災対事務局長あらため、巨大不明生物統合対策本部副本部長、兼、特命担当大臣(巨大不明生物防災)。

 

 矢口蘭堂が、山積みになった決裁を片付けていると、巨災対のメンバーがプリントアウトの束を持って駆け込んできた。

 

 森文哉――厚生労働省医政局研究開発振興課長(医系技官)。

 

「ゴジラの現在地が分かりました!」

 

 それを聞くや、その場の全員が浮足立ち、群がってきた。

 長机に置かれたプリントアウトを大勢でのぞき込む。

 

 そこには、解像度の悪いほとんど真っ暗な写真が印刷されていた。

 ただ、画面の中央に白くボヤけた六角形の板のようなものが見える。

 

 矢口蘭堂、眉間にシワを寄せる。

「これは……なんだ?」

 

 彼の隣からひょっこり顔を出した尾頭ヒロミ――環境省自然環境局野生生物課長補佐――が、ぼそりとつぶやく。

「……宇宙空間」

 

 森文哉がうなずく。

「東京都心から原因不明のワープをしたゴジラは月面に出現。

 月を破砕した後、そのまま月軌道付近を周回している」

 

「じゃあ……この六角形が、ゴジラの新形態か」

「概算で1辺50km、総面積約6500平方km。東京都の3倍以上の範囲に薄く展開しているものと推測される」

「でかい!」

 

「どうしてこんな形になったんだ?」

「なんだか傘みたいですね」

「宇宙で雨は降らんだろう」

「じゃ日傘かな」

 

 一同、乾いた笑い。

 

「日傘……」

 

 間邦夫――国立城北大学大学院生物圏科学研究科准教授――が、口元で、ポン、と手のひらを合わせる。

 

「……そうか。太陽帆(たいようはん)だ」

 

「なんですそれ?」

「宇宙空間に鏡を展開して太陽光を反射し、その反作用で推力を得る装置だ」

 

「宇宙の帆船ってわけか」

「こんな巨大な帆が、よく崩壊せずにもってるな」

 

「必要と見積もられる引っ張り強度と靭性から考えて、カーボンナノチューブの支柱に有機高分子フィルム素材の鏡面膜を張ったものと思われる。

 体内に元素変換機能を有するゴジラならこの程度の変態はやってのけるだろう。

 

 空気も水もない宇宙空間では原子の補充もできず生体原子炉の活動にも限界があるが、この方法なら推進剤なしで軌道を遷移し、地球に帰還することが可能だ。

 あらたな極限環境に投げ出されることでゴジラの形態変化が促進されてしまったんだっ……」

 

 

「つまり……まったく未知の、ゴジラ第五形態……!」

 

 

 一同、息を飲む。

 ゴジラは消えたかに思われた。だが、まだ戦いは終わっていなかったのだ。

 

 

「……問題は、ゴジラがいつ地球に到着するかだな」

「至急、全国の天文学系研究室に軌道計算を依頼します!」

 

 

「宇宙にいるなら核ミサイルを撃ち込んでもよいのでは?」

「熱媒体となる空気の存在しない宇宙空間では核爆弾の破壊力は著しく低下する。

 直撃させられればまだしもだが、ゴジラの軌道を正確に読むのは困難だな」

 

「軌道上での核爆発は地上の広範囲にEMPによる障害を引き起こす恐れもあります」

「そもそもロケット打ち上げ準備が間に合うかどうか」

 

「しかし米軍に打診する価値はありますね」

「よし。核兵器使用は政治的な問題が絡む。私から赤坂官房長官を通じて首相に話をあげてみよう」

 

 

「ゴジラの形態変化は不安だが、これで少し時間が稼げたということだ。この隙に矢口プランを実行レベルまで推し進めるべきだな」

 

 

 安田龍彦――文部科学省研究振興局基礎研究振興課長――が、手をあげた。

 

「提案です。

 ゴジラと戦っていたあの少女を、民間の協力者として迎えられませんか?」

 

 一同、しんと静まり返る。

 

 安田龍彦、不思議そうにあたりを見回す。

「あれっ。僕、空気読めてなかったです?」

 

「いや……ちょっとあの子のことは……自分の中で整理がついてなくてな」

「自衛隊を蹴散らした怪物を相手に互角に渡り合ってましたよね……」

「というか、手からビームとか出てなかったか?」

「あたりまえのように空飛んでましたよ」

 

「なんなんですかね、あの子」

「なんか住んでる世界違いますよね……」

「矢口さんは直接話したんでしょう?」

 

「ああ。名前は確か……

 

 ポプ子。

 

 そう、ポプ子と言ったか。

 ……まあ、人間不信な子だったよ」

 

 

 袖原泰司――防衛省統合幕僚監部防衛計画部防衛課長。

「映像を分析したが、ポプ子には少なくとも戦車大隊レベルの戦力が見込める。

 作戦に組み込めるなら大歓迎だが」

 

「頼んでみましょう」

 

「いや待て。現役中学生を働かせるのは労基法上問題があるぞ」

 

「15歳未満の労働には労働基準監督署長の許可、勉学に差し支えない旨の学校長による証明、及び親権者の同意書が必要です」

(労働基準法第56条、57条)

 

「親とかいるのかな……」

「いないわけはない……はずだが……」

 

「午後8時から翌午前5時までの深夜労働もさせられませんし、労使協定による残業時間や休日勤務などの例外も認められません」

(労働基準法第61条、第60条)

 

「爆発物や有害ガス、有害放射線などの危険をともなう業務に就かせることもできないだろう」

(労働基準法第62条)

 

 

「……そもそもの話をしていいか?

 子供に戦争をさせたくはないぞ、私は」

 

 

 一同、再び沈黙。

 

 

 矢口蘭堂、議論を黙って聞いていたが、ここで口を開いた。

「私は彼女の自由意志に任せたい」

 

「矢口さん……」

 

「私は彼女の慟哭を聞いた。

 彼女はたったひとりの親友を喪ったらしい。

 

 そのうえで、彼女はゴジラへの闘争心をむき出しにしていた。

 今の彼女には、闘うべき相手が必要なのだと思う。

 だからそれを認めてやりたいんだ。

 

 ……大人として、褒められた考えではないかもしれないが。

 責任は私が取る」

 

 

「まあ、矢口さんがそうおっしゃるなら」

 

 

「ではみんな、ポプ子さんについては労基法の抜け道を探るのと特例法制定の両面から立案してくれ。

 それと並行して彼女の意思確認と交渉を行う」

 

「分かりました」

「で、ポプ子は今どこにいるんです?」

 

 

 

 矢口蘭堂はうなずいた。

「惑星アウチー(Ouch-To)だ」

 

 

 

「……どこですって?」

 

「惑星アウチー。

 銀河系未知領域の。

 

 会いたい人がいるんだそうだ」

 

 

 

「そう……ですかあ……」

 

 

 

   *

 

 

 

 銀河系、未知領域。

 惑星アウチー。

 

 一面の海に、ポツリと浮かぶ岩塊のような島。

 そこに一台の、薄い箱型のスペースシップが降りた。

 

 ミトミヤス・ファミコン号だ。

 

 ファミコン号から出てきたのは、ポプ子だった。

 彼女はこの島に、ある人物を探し求めて来たのだった。

 

 

 島の果ての、崖の上に、その人物はいた。

 

 近づいてきたポプ子の気配を読み取り、その人物が――老年の男が振り返る。

 

 

 そう。

 彼こそが打倒ゴジラの鍵を握る男――(そら)歩男(あるお)

 

 人呼んで――ジェd(以下検閲削除)

 

 

 

(つづく)

 

 

 

■次回予告■

 

 私、星降そそぐ!

 

 信じられない! せっかく助け出した現地スタッフさんがニセモノだったなんて!

 今度こそだまされないんだから!

 

 と、気合いを入れる私たちの前に現れたピンク色した謎の影!

 いったい、あなた何者なの!?

 

 

次回、

 

“星色ガールドロップ project-P”

第4星「第4の星、それはコーラルスター」

 

 来週も、恋にオーバードロップ!

 



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エピソード4/新たなるポプ子

 

 

 

A bit time ago in a galaxy close,

close at hand....

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

EPISODE IV

A NEW POP

 

It is a period of Kaiju war.

SDF Joint Task Force, striking

from Asama Jinja base, have lost

their first battle against

the Unidentified Gigantic

Creature : Godzilla.

 

During the battle, Pipimi,

a junior high school student,

achieved expeling Godzilla

temporarily to the Lunar orbit,

at the sacrifice of her own life.

 

Her best friend Popko hurries

to the planet Ouch-To aboard her

starship to see the old JD

master, who can train her

enough to get revenge on

Godzilla and restore peace

to the galaxy....

 

 

 

 

   *

 

 

 

 銀河系未知領域――惑星アウチー。

 その中にある、絶海の孤島にて。

 

 年老いた男が、崖っぷちに立っている。

 

 彼は、公爵(デューク)空歩男(スカイウォークマン)

 かつて銀河系を救った伝説のJD(ジェィディ)マスターであり、数々の女子大生(JD)を育ててきた人物だ。

 

 

 彼に会うなり、ポプ子は顔面血管むき出しにした。

 

「『(チカラ)』教えゃオッラーン!」

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)、沈黙。

 

 ポプ子、意外に冷静。

「ほう、だんまりか」

 

 

 ポプ子はマッキー(極太)を取り出し、空歩男(スカイウォークマン)の背中に黒いマウスの絵を描いた。

 

 そして電話をかける。

 

「もしもし、ディ(検閲削除)?」

「やめろ!!!!!」

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)は非常に焦ってポプ子を止めた。

「ただでさえ今回はグレーゾーンなのだから恐ろしいマネはつつしむように」

 

 ポプ子はスッと手を伸ばして要求した。

「『(チカラ)』」

 

 空歩男(スカイウォークマン)は背を向ける。

「JDになるには、まず高校を卒業しなくては。

 お前には、歳も力も足りないな」

 

「でも今なりたい!」

 

 ポプ子は、短い足で地面を踏み割るようにして、空歩男(スカイウォークマン)とにらみ合った。

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)は、ポプ子の決意のまなざしを見て、

「……ついて来なさい」

 

 

   *

 

 

 連れて行かれたところは、洞窟の中だった。

 広い空間の真ん中に、大きな穴が空いていて、その下には黒黒とした水面が見える。

 

 水面がバシャリと波打った。

 どうやら水の中にサメがいるらしい。

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)

(てきとうに恐ろしい課題を与えてやれば、あきらめるだろう)

 と考えて、笑いながら、

 

「この中に飛び込んで、あのサメに打ち勝ったなら、『(チカラ)』を教えてやろ……」

 

 バシャーン。

 

「本当に飛び込むやつがあるか!!」

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)が大慌てで穴のそばに駆け寄る。

 見下ろしてみると、音もなく、水面は静かに波紋を立てているだけだ。

 

 しばらくして、

 

 ザバァ!!

 

 サメとともに、ポプ子が水面から飛び上がった!

 

 

 ポプ子とサメは、勢い余って水の外に飛び出てしまった。

 どちらも傷だらけだ。

 

 ポプ子は、ピチピチ跳ねているサメに手を伸ばす。

「強かったゼ、お前……!」

 

 サメがヒレを差し出す。

「フ……! お前もな……!」

 

 ふたりは固く握手を交わした。

 

 

 その姿を見て、空歩男(スカイウォークマン)は、冷や汗を浮かべていた。

 

(駄目だこいつ……早くなんとかしないと……)

 

 空歩男(スカイウォークマン)は、ポプ子の、目的のためなら手段を選ばない暴走ぶりに、(チカラ)の暗黒面の匂いをかぎとったのだ。

 

 放っておくと、ポプ子は暗黒面に堕ちるかもしれない。

 その前に自分が指導したほうがいい、と考えを改めた。

 

 

「ポプ子よ。

 

 『(チカラ)』を得るということは、オトナになるということだ。

 修行を終え、ゴジラを倒したとしても、そのときお前は、今のお前とは違う別のなにかになっているだろう。

 

 それでもいいのか?」

 

 

 ポプ子は迷わず答えた。

「OH YEAH」

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)はうなずいた。

「よろしい。

 ――さあ、レッスンを始めよう」

 

 

   *

 

 

 というわけで、ポプ子は『(チカラ)』の修行を開始した。

 

 このあとしばらく地味な修行シーンが続きます。

 

 

 その間ヒマなので

 

 

 み な さ ま の た め に

 

 こ ん な 小 説 を ご 用 意 し ま し た。

 

 

   *

 

 

 

新コーナー

 

ボブネミミッミ

 

作:AC(アーマードコア)(ばい)

 

 

 

「今日も酷い天気」

 ポプ子の指が四層投影操作盤(クアトロコンソール)の宇宙を(はし)る。マイクロ秒単位の静観探査(スキャンモード)()()の障害を洗い出し、容赦のないレッドアラートの嵐として彼女の眼前に投影する。AP(アーマーポイント)1357、WG-MG500/E(Eサブ)残弾3掃射分、ジェネレータ及び超電導サイクルコンデンサに深刻な損傷、おまけに外は猛烈な強酸の雨――

 あらゆる情報が戦闘継続の困難を訴えていたが、それに対するポプ子の解釈はこうだ。

 ――いいね。あと40秒は()()()

 嬉しそうに舌なめずりし、同時に胸の高鳴りを努めて抑え、ポプ子はジッとモニタを見つめた。足元から順に舐め回すように丁寧に――軽量四脚の優美な曲線、コアの接続部が示す官能的くびれ、そして凶悪な腕部内蔵ガトリングガン(AW-GT2000)のそそり立つさまを。

 傭兵(レイヴン)。蒼い四脚AC(アーマードコア)の駆り手。ポプ子の同業――つまりは敵だ。

 あの蒼いの――仮に《ブルー》と呼ぼう――が何の目的でここに来たかは知る由もない。ポプ子がそうしたように、どこかの企業に依頼されてムラクモ・ミレニアム社の墜落機から新型強化人間(プラス)のレシピ・ブックを回収しにきたのか。ムラクモそのものの差し金で証拠隠滅を狙って来たのか。あるいは単にレイヴン同士の戦いに焦がれる戦闘狂か。

 どれであろうが問題ではない。

 ポプ子にとって大事なことはただ一つ。こんなに愉しめる相手とは、滅多に逢えないというシンプルな事実。

 なら存分に愉しむべきだ。

 ポプ子は操作盤(コンソール)に指を躍らせ、中量二脚AC《レッド》にパーツの分離(パージ)命令(コマンド)した。残弾僅かのミサイルポッド、外付けレーダーユニット、冷却オイル、砕けた装甲、みんな要らない。余計なものを切り捨てて、限界ギリギリまで身軽になって、()を敵に(さら)け出す。

 ACに己そのものを重ね、獣の如くポプ子が()えた。

「さあ()ぎ合おう。命の最後の一滴(ひとしずく)まで!」

 

「ほおーっ……」

 ブルーが口元に笑みを浮かべる。

「あの子はやる気だよ。いいレイヴンだ」

 敵の気迫に正面から応じ、ブルーの手が操縦桿をそっと包んだ。

 

 強酸の雨滴が絶え間なく装甲版を叩く中、赤い巨人と、青い蜘蛛は、身じろぎもせず対峙した。

 数秒後。

 レイヴンたちの集中が、豪雨の唸りを真空の静寂に呑み込んだ。

 時が、止まったかの如く、静。

 ただ――雨粒の一滴のみが、装甲の尖った先端に伝い降り――

 ()()()

 《レッド》が走る! 肉薄までミリ秒。超音速で繰り出されたレーザーブレード(ムーンライト)の斬撃が《ブルー》のコアに襲い掛かる。だが瞬時、青い装甲板がブレて見え、気付いたときには敵は背後。

 ――速ッ!

 ゾッとする死の予感と爆発しそうな興奮を同時に堪能しつつポプ子は操縦桿を薙ぎ倒す。《ブルー》の腕からばら撒かれた高速徹甲弾の嵐を人間離れした超反応で回避して、振り向きざまに反撃の機銃掃射をくれてやる。

 だが、それこそ《ブルー》の狙いだったと気付いたときにはもう遅かった。

 ポプ子の機銃が火を噴いた瞬間、その銃口に寸分もズレず《ブルー》の弾が食い込んだ。行き場を失くしたプラズマ弾が銃の内部で炸裂し、《レッド》の右腕ごと砕け散る。

 《ブルー》の銃弾はポプ子が旋回するより前に放たれていた。つまり敵はポプ子の動きを予測したのだ。1インチの狂いさえなく!

 ――こいつバケモノだ!

「……から!」

 ポプ子の脚がペダルを踏みつけ、転倒しかけの《レッド》が踏み止まる。

「面白いッ!!」

 《レッド》が不可解な動きで腕を振る。左腕のレーザーブレード(ムーンライト)から光が溢れ、三日月型の光波となって《ブルー》を襲う。ブレード光波! 発振器から出力される低速レーザー刃を本体から切り離して射出する技術。理論上は可能とされるが、実現するには神懸かり的な操作精度を要求される異端の業だ。

 さすがにこれは予測できなかったか、《ブルー》の左腕が肩のキャノンもろとも両断される。《ブルー》の機体がその反動で釘付けになる。この機を逃さずポプ子はフルブーストで突進した。迎撃に放たれる《ブルー》の銃弾を針の穴を通す機動で潜り抜け、逃げ回る《ブルー》に絡みつくように追い縋り、一瞬、ほんの一瞬の好機を探る。

 奴が、次に隙を見せた時。

 ――その一瞬でキメてやる!

 そして。

 その瞬間がやってきた。

 《ブルー》の脚が地面の起伏に跳ね上がり、機体制御が僅かにブレる。

 ポプ子、必殺の斬撃が飛ぶ。

 が。

 《ブルー》もこの一瞬を待っていた。我が胸に飛び込んでくるポプ子のコアに、ピタリと機銃の狙いを定める。

 ポプ子の脳裏に浮かぶ問い――

 ――()くか!? 退()くか!?

 ()()()()()()

「どおおおおおおりゃああああああああああああああッ!!!」

 赤の剣と青の銃火。ふたつの光が、ひとつに交わり――!

 

 弾け。

 

 そして――静かになった。

 

 嘘のような静謐の中、《レッド》のコクピット・ハッチが開き、封を開けたパウチ・パックから煮っ転がしが(ぬめ)り出るように、ポプ子の上半身が飛び出した。あまりの熱気に居てもたってもいられず、邪魔っけな保護ヘルメットを脱ぎ捨てる。

「だはァっ! つっかれたァ……」

 外の雨は、いつの間にか止んでいた。大破壊(グレートデストラクション)で汚染され尽くした地上の空が、今は、不思議と美しく澄んで見える。

 ふと見下ろすと、《ブルー》――擱座(かくざ)した四脚型ACの姿がそこにある。ポプ子のブレードで脚部とコアの継ぎ目を半ばまで引き裂かれてなお、そのフォルムは彫刻めいた美しさを保っていた。

 《ブルー》のハッチが開く。パイロットのレイヴンが、姿を現す。

「やるじゃないか」

 と、レイヴンが言う。

 ヘルメットを脱いだその姿に、ポプ子は、見惚れた。

 青い、剣のように真っ直ぐな髪。面長の顔だち。氷を思わせる冴えた眼差し。その目に見つめられ、ポプ子は心臓を射抜かれたように放心した。

「本気でやって負けるとは思わなかったよ」

 何と答えたものだろうか? ポプ子は頭の中にたくさんの回答選択肢を並べあげ、素早くひとつひとつ検討し、最終的に、それをみんな棄ててしまった。結局ポプ子の口から出たのは、なんとなく頭に浮かんだ言葉――彼女の生の言葉そのものだった。

「きっと、今日は私の日なんだよ」

 青い少女が肩をすくめる。

「じゃあ、明日は?」

「私たちふたりの日」

 その答えに、青い少女は一瞬、呆気にとられた表情を浮かべ、それから、笑い出した。嬉しくなって、ポプ子も笑った。荒廃した地上――戦争が終わった荒野――誰もいないふたりだけの場所、ふたりだけの時間。

 ひとしきり笑い尽くした後、どちらかが、問いを発した。

「ねえ、聞かせてよ。

 君の名は――?」

 

 こうして、その日の戦いは終わった。

 意気投合したふたりは連れ立って街に戻り、そのまま、コンビを組んで活動を始めることにした。

 バディ・レイヴン、ポプ子とピピ美。ふたりは後に、地下都市(アイザック・シティ)全域に悪名を轟かすことになるのだが――

 それはまた、別の話。

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

■次回予告■

 

 私、星降そそぐ!

 

 ついに明らかになったウェンズデイ・プロダクションの、強化アイドル製造計画――プロジェクトP!

 全国の女の子たちを機械と融合させてアイドルにしちゃうなんて!

 そんなこと許せない!

 

 でも、計画を阻止するためのゲリラライブに傭兵アイドルが乱入!

 もーっ! 邪魔しないで!

 ……って思ったら、え? 違う?

 

 やだ! だめよ! 私には大地君というひとが……!

 

次回、

 

“星色ガールドロップ project-P”

第5星「お前は俺だけのものだ!」

 

 来週も、恋にオーバードロップ!

 

 




・この作品に登場したアーマードコア

■レッド
パイロット ポプ子
HEAD HD-H10
CORE XXL-DO
ARMS AN-25
LEGS LN-1001B
BOOSTER B-PT000
FCS FBMB-18X
GENERATOR GBG-XR
BACK UNIT R RZT-333
BACK UNIT L WM-SMSS24
ARM UNIT R WG-MG500/E
ARM UNIT L LS-99-MOONLIGHT
OPTION SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+
●COLOR
 NIGHT SHIFT/BLOOD STRUCTURE

■ブルー
パイロット ピピ美
HEAD HD-H10
CORE XCL-01
ARMS AW-GT2000
LEGS LF-TR-0
BOOSTER B-T001
FCS QX-AF
GENERATOR GBX-XL
BACK UNIT R RZT-333
BACK UNIT L WC-01QL
ARM UNIT R -
ARM UNIT L -
OPTION SP-CND-K, SP-S/SCR, SP-E/SCR, SP-EH, SP-E+, SP-DEtq, SP-ABS/Re
●COLOR
 GENERAL BASE(15,15,32) OPTION(15,15,32) DETAIL(15,15,32) JOINT(32,32,32)
 CORE OPTION(15,15,15)


・オープニングクロール日本語版

ちょっと昔、すごい近くの銀河系で……

(ポプテピピック)

エピソード4
新たなるポプ子

カイジュー戦争の時代のこと。
浅間神社の陣地から出撃した
自衛隊統合任務部隊は、
巨大不明生物ゴジラ
に対する最初の闘いに
敗北した。

戦いのさなか、どこにでもいる
中学生ピピ美は
自分自身の命とひきかえに
ゴジラを一時的に月軌道へと
追いやることに成功した。

彼女の親友ポプ子は
いにしえのJDマスターに
教えを請うべく、宇宙船に乗り
惑星アウチーへ急ぐ。
ゴジラに復讐し、銀河に
平和を取り戻すために……


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5.ゴジラ vs ポプ子 (前編)

 

 

「ゴジラ vs ポプ子」が、日間ランキング最高24位を取りました。

(2018年4月18日現在)

 

 

 ポプ子はゴキゲンだ。

「とってまうわー。

 とってまうわー。

 完全に日間1位(てっぺん)とる流れやわコレ~~!」

 

 

 その微笑ましい姿を、物陰から、ピピ美が見守っている。

「フフ……」

 

 

   *

 

 

 ~3日前~

 

 ピピ美、音もなく読者の背後に()()した。

「貴様……読んだな?」

 

 読者ビビる。

「アッハイ」

 

 

 ピピ美が距離を詰める。

「『10点』だ……わかるな?」

「ハ……ハイッ……」

 

 距離を詰める。

「『感想』も入れろ……いいな?」

「ヒ……ハイッ……!」

 

 もう零距離だ。

「そしてなにより……

 『推薦』を書け

 『推薦』を書け!!

 

「ヒイイッ!!」

 

 

   *

 

 

 ピピ美は回想を終えた。

 

 ポプ子が駆け寄ってくる。

「ねえねえ!

 日間1位(てっぺん)とれるかな!?

 日間1位(てっぺん)とれるかな!?」

 

 

 ピピ美、力強く拳を握って見せた。

絶対(ぜってー)とれる」

「ヤッター!」

 

 

 

 

作:闇鴉慎

 

 

 

 地球。

 

 日本国、東京都心――であった場所。

 今ではもう、見わたすかぎりの荒野でしかない。

 

 その上空に、フラフラと蛇行する宇宙船の姿がある。

 

「わ!

 わっ。

 あれ!

 ちょっと!

 

 やっだ~~~っ。

 うっそお~~っ。

 いや~~ん!

 

 で~~っ!」

 

 宇宙船が墜落した。

 

 墜落地点。

 土砂の中から、ボコッ、とポプ子がはい出てくる。

 

「やれやれ……

 あと少しっていうところなのに。()()()め……

 

 でも」

 

 ポプ子が空を見上げる。

 地球に接近し、今では肉眼でもとらえられるまでになった、白い六角形の傘。

 

「帰ってきたぞ――ゴジラ!」

 

 

   *

 

 

 日本全域で、人々は息を潜めていた。

 テレビから、動画サイトから、防災無線から、くちぐちに警告がもたらされる。

 

『今夜、午前0時より未明にかけて、巨大不明生物ゴジラへの核攻撃にともなって、全国で大規模な電波障害があります。

 皆様のご協力をお願いします。

 なお、この攻撃による地上への放射能汚染はありません。

 

 繰り返します。

 今夜、午前0時より未明にかけて……』

 

 

 一方。

 

 地上のゴジラ墜落予想地点。

 張りつめた静寂の中、自衛隊と米軍が展開している。

 

 万が一、核攻撃が失敗したときに備えて、待機しているのだ。

 

 

 さらに。

 

 立川災害対策本部予備施設では、矢口蘭堂以下、巨災対メンバーたちが、息を飲んでモニタの映像に見入っている。

 

「ピピ美さんの犠牲で得た、一回きりのチャンスだ。

 頼む……これで決まってくれ……!」

 

 

   *

 

 

 

 地上から遠く離れた、宇宙の暗闇の中に――

 

 白く長い円筒の姿がある。

 

 核弾頭を搭載したロケットだ。

 

 

 雑音混じりのオペレーションが聞こえる。

 

 

「――ポッド2’、不帰投点を通過。エリア88に侵入」

「了解。これよりトモダチ作戦を開始」

「了解。ポッド2’、作戦最終軌道に投入開始。

 減速行動に移る」

「第3段、全エンジンを点火。燃焼を開始」

 

 燃焼。

 

「キャスター30、燃焼終了。減速を開始」

「第3段、ブースターユニットをジェットソン」

「分離を確認。電装系をチェック。異常なし――」

 

 淡々と、しかし確実に、核弾頭は計算どおりの軌道遷移をこなしていく。

 その結果、ついに、搭載されたカメラに、ゴジラの姿が映し出された。

 

「目標物発見!」

 

 白い巨大な日傘のような姿になったゴジラ。

 

 冷静なオペレーションの中に、わずかな緊張の色が交じる。

「ポッド2’、交差軌道への遷移スタート」

 

 核弾頭がゴジラへ吸い込まれるように近付いていく。

 綿密な計算と、確かな技術力によって、核弾頭はゴジラに直撃する軌道に乗ったのだ。

 

「ランデブーまで10秒。

 ……8……7……」

 

 そのとき。

 

 オペレーターが悲鳴を上げた。

「目標に異常発生!」

 

 

 突如、ゴジラの白い傘が前面に向かって折りたたまれ、弾けた。

 傘を前に向かって爆破、分離したのだ。

 

 その反作用によって、ゴジラ本体に強烈な減速がかかる。

 つまり――

 

「目標物の軌道が変わります!」

「2’、予定座標に到達するもランデブー失敗!」

「核弾頭起爆!」

「了解。起爆しました!」

 

 

   *

 

 

 地上。

 日本中の人々が、不安げに上を見上げている。

 

 

 夜空が、猛烈な放射線によるオーロラで血赤色に染まった。

 

 そして、血染めの空を突き破るようにして、黒い影が落ちてくる。

 

 ゴジラだ。

 直前で軌道を変えることにより、核弾頭の直撃を回避したのだ。

 

 

「核攻撃失敗!

 ゴジラの軌道が変わった!

 落下予測地点の修正は間に合わない。各自対応を……」

 

 その通信が終わるより早く、すさまじい轟音と振動が日本列島を揺るがした。

 

 落下地点は伊豆半島芦ノ湖周辺。

 落下の衝撃で山がひとつ消し飛び、大量の岩の雨となって周囲を襲った。

 

 なすすべもなく、周辺の街が土砂に押し潰されていく。

 

 

 米軍と自衛隊はすぐさま行動を開始した。

 核攻撃が失敗した場合の代替案は、敵射程外から無人機とミサイルによる飽和攻撃だ。

 

 こんなものではゴジラを倒せない。

 それは先の戦闘で証明済み。

 

 だが、エネルギーを使い果たさせればしばらく動きを止めることはできるはずだ。

 

 

 無数の飛行物がゴジラに殺到し、その全てが放射線流によって撃墜された。

 攻撃は休みなく、夜通し続けられた。

 

 それでもゴジラの足は止まらない。

 山を踏み分け、街をもみ潰し、攻撃をものともせず、再び東京へ戻らんと歩き続ける。

 

 いよいよ、米軍の物量さえ尽きようとした――そのとき。

 

 

   *

 

 

 ゴジラの進路の先。

 高いビルの屋上。

 

 そこに、少女の影が現れた。

 ポプ子だ!

 

   ――四界の闇を統べる王

   汝の欠片(かけら)(えにし)に従い

   汝ら全員(すべて)の力もて

   我にさらなる魔力(ちから)を与えよ

 

   ――黄昏よりも(くら)きもの

   血の流れより(あか)きもの

   時の流れに(うず)もれし

   偉大な汝の名において

   我ここに 闇に誓わん

   我等が前に立ち塞がりし

   全ての愚かなるものに

   我と汝が力もて

   等しく滅びを与えんことを

 

 

竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」

 

 

 赤い閃光が少女の手から放たれ、ゴジラに収束する。

 

 次の瞬間。

 凄まじい大爆発がゴジラを飲み込んだ!

 

 かつての術とは比べ物にならない威力……

 これが、修行を終えたポプ子の力なのだ。

 

 

 だが、ゴジラは死んではいない。

 炎の中で、もがき苦しみながら、それでもポプ子に向かって進んでくる。

 

 

「そらそうやろ。

 この程度で倒せるとは思ってへんわ」

 

 ククッ、とポプ子が嬉しそうに笑う。

 こうでなければ、()りがいがない。

 

 

 バシッ!!

 ポプ子が、中指()てる。

 

「来いよゴジラ!

 遠慮なんか捨ててかかってこい!!」

 

 

 それに応えるかのように。

 ゴジラの咆哮が、天地を引き裂かんばかりに響き渡った!!

 

 

(つづく)

 

 

 

■次回予告■

 

 私、星降そそぐ。

 

 信じられない。

 ずっと私たちが戦ってきた、傭兵アイドル……

 

 私、あなたの声を知ってる。

 あなたの背中も。

 あなたのしぐさも。

 私、みんな知ってる!

 

 そんな……まさか……

 私たちの敵が、あなただったなんて!

 

 

次回、

 

“星色ガールドロップ project-P”

第6星「大地、堕ちた先に」

 

 来週も、恋に……ドロップなんて、できないよお!

 



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6.ゴジラ vs ポプ子(後編)

 

 ポプ子が走ってくる。

「見て見てー!

 日間ランキング10位!

 日間ランキング(加点式)6位!

 週間ランキング(その他原作)3位ー!」

 

 

 私は、拍手でそれを迎え入れる。

「オー、マジェースティーック」

 

 ポプ子はポプ子だ。

 夢の中でさえも。

 

 でも――

 

 

(映像の乱れ)

 

 ――夢?

 

 

(認識の不整)

 

 ここは?

 

 

(記憶の混乱)

 

 今、ポプ子を迎え入れた人――これは誰?

 

 

 私……?

 

 私は……誰?

 

 

 

ヴ繝斐ャ繧ッ

 

 

 

作:闇鴉慎

 

 

 

 

 ゴジラとポプ子の決戦が始まった。

 

 

 ゴジラの口に青白い光が溜まり、放射線流が放たれる。

 

 ポプ子が飛ぶ。

 ビルから飛び降り、壁を蹴って真下に駆け下り、放射線流の着弾点を引き離す。

 放射線流がポプ子の動きを猛追し、彼女の背後のビルを、アメのように融かして粉砕していく。

 

 放射線流がポプ子に追いつく。

 もはや逃げられない――と思われた、その時。

 

 

 クイックブースト!

 

 ドヒャア!!

 

 

 ポプ子の背から謎の無害な粒子があふれ出て、一瞬にして、彼女の身体を超音速まで加速した!

 

 加速時間はわずか0.3秒。

 最高速度は実に4000km/h!

 

 恐るべき速度のために、ポプ子の身体がかき消えたかに見えた。

 遠目に見ていたゴジラにさえその動きは追いきれず、放射線流は見当違いの方向に流れていく。

 

 

 ドヒャア!! ドヒャア!!

 

 

 ポプ子は、連続クイックブーストで周囲の障害物をなぎ倒しながら、息つく暇も与えぬままに、ゴジラの足元まで肉薄した。

 

 

 そして、

 

「光よ!」

 

 ポプ子の咆哮に答え、彼女の手の中の(つか)から、光が棒状に伸びていく。

 光の釘バット――光剣(ライトセイバット)だ。

 

 

 ポプ子の斬撃がゴジラの皮膚を切り裂く。

 戦車砲の直撃さえ無傷で耐えきった、あの分厚い皮膚をだ。

 

 

 ゴジラが痛みのために絶叫し、足を持ち上げ、ポプ子を踏み潰しにかかる。

 

 しかしポプ子はすぐさまクイックブースト。

 超音速でその場を離れ、ゴジラの軸足の方へ移動する。

 

 

()()()()()()()()()

 『ザ・ハンド()』!」

 

 ガオン!!

 

 

 ゴジラの足の()()()()が、『けずり取られ』て()()()()()!!

 

 

 片足を上げた状態で、体重をかけていた地面が無くなったのだ。

 当然、ゴジラはまともにバランスを崩した。

 

 その巨体が災いして、一度崩れた体勢を立て直すことは――不可能!

 

 

 ゴジラが横倒しに倒れる。

 

 倒れながらゴジラは、苦し紛れに放射線流を撃つ。

 しかしそんなものが、今のポプ子に当たるはずがない。

 

 

 ポプ子は舞空術で上空に舞い上がりながら、クイックブーストをたくみに混ぜて、対空射撃の間をくぐり抜けていく。

 

 眼下にゴジラを見下ろせるところまで来ると、右手を下に突き出した。

 

 

「くらえ!!

 こいつが(スーパー)ポプ子の

 ビッグ・バン・アタックだ!!!」

 

 

 ズァオッ!!!

 

 

 すさましい大爆発が巻き起こり、周囲の地形ごと完全にゴジラを飲み込んだ!

 

 

 爆発の光が、空を昼間のように明るく染め上げる。

 あたりには煙がもうもうと立ち込め、1m先を見通すこともできない。

 

 

 ポプ子は空中にジッととどまったまま、ゴジラのいた方をにらみ続けていた。

 なにしろ、あのゴジラだ。

 ダメージを与えた自信はあるが、油断できる相手ではない。

 

 

 そのとき、ポプ子のポケットの中でスマホが鳴り出した。

 誰やこんなときに、と思いながら電話に出る。

 

 

『もしもし! ポプ子さんですね。

 私は矢口。巨災対の矢口蘭堂です』

 

「なんやお前」

 

『ポプ子さんのおかげでゴジラの動きを止められました。

 我々には、ゴジラを凍結させる薬品の用意があります。あとは任せてください』

 

「ア゛ァ゛ン!?」

 

 

 ちら、と下を見ると、たくさんのコンクリートポンプ車が、ゴジラに向かって走っていた。

 

「手出ししてんじゃねぇぇえええ!!」

『落ち着いて! 味方です!』

「あれは私の獲物だァァアアア!!」

 

 

 そこでポプ子、ハッと気づいた。

 ゴジラが身動きして、コンクリートポンプ車に放射線流を撃とうとしている!

 このままではポンプ車が危ない。

 

「チィイ!」

 

 ポプ子は舌打ちしながら『ザ・ハンド()』を発動する。

 

 

 ガオォン!

 

 コンクリートポンプ車の前の空間をけずり取り、放射線流の向きを自分の方に引き寄せる。

 

 放射線流がポプ子を直撃した。

 

 だが、ポプ子の周囲には、謎の無害な粒子のバリア――プライマルアーマーが展開されている。

 プライマルアーマーは、ギリギリのところで放射線流を防ぎきった。

 

 

「フゥー……」

『ポプ子さん、危険だ!

 いったん下がってください!』

 

「引っこんどれ!

 ワイはアイツを()らなあかん……

 ()っとかな、気ィすまへんのや!」

 

 

 スマホを投げ捨て、ポプ子は一直線にゴジラへ飛んだ。

 

 飛びながら呪文を詠唱する。

 ゴジラはあれだけの攻撃にも耐えた。

 もはや手段を選んではいられない。

 

 

 重破斬(ギガ・スレイブ)

 

 もし制御に失敗すれば、巻きぞえで世界さえ滅ぼしかねない――最凶最悪の必殺呪文でケリをつける!

 

   ――闇よりもなお昏きもの

   夜よりもなお深きもの

   混沌の海にたゆたいし

   金色(こんじき)なりし闇の王――

 

 

 と。

 

 呪文の途中で、ポプ子は眉をひそめた。

 

 転んだゴジラ。

 その尻尾の先端あたりで、何か小さなものが動いたように見えたのだ。

 

 さらに。

 

 

 ――撃つな。

 

 

 誰かの声が、頭の中に響いた――気がした。

 

 ポプ子は頭を振って、よけいな雑念を追い払った。

 ただでさえ制御の難しい呪文なのだ。気を散らしている余裕はない。

 

 

   ――我ここに 汝に願う

   我ここに汝に誓う

   我が前に立ち塞がりし

   すべての愚かなるものに

   我と汝が力もて

   等しく滅びを与えんことを!

 

 

重破(ギガ・スレ)……!」

 

 

 次の瞬間。

 

()()()()()

 

 

 ゴガァアア!!

 

 突如、ポプ子の首の後ろに、ハンマーでぶん殴られたのような衝撃が走った!

 

 いや、ハンマーどころではない。

 ポプ子のプライマルアーマーさえ貫き、ポプ子の身体を上空から地面に叩きつけるほどの威力。

 

 ポプ子は一直線に落下し、正面から地面にめり込んだ。

 周囲にクレーターができる。

 激痛のために、呼吸さえ一瞬止まってしまう。

 

 

 ――なんだ!?

 

 ポプ子、痛みをこらえて立ち上がり、上空を見上げる。

 

 そして、言葉を失った。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 手刀を首の前に構えた少女。

 いまのが、ただの手刀だったというのか!?

 

 いや、それよりも。

 

 

「まさか……君は……!」

 

 

 空中の少女が、おでこに指を当てる。

 ピシュン!

 と彼女の姿が消え、今度はゴジラの身体の上に現れる。

 瞬間移動。あの子の得意技だ。

 

 

 まちがいない。

 見まちがえるはずがない。

 

 

 ポプ子の目に。

 じわり、と。

 涙がにじみ出た。

 

 生きてたんだ。

 

 無事だったんだ。

 

 生きていてくれたんだ!

 

 

()()()()()()()っ!!!!」

 

 

 そう、それはピピ美だった!

 ポプ子がピピ美の胸に飛び込んでいく。

 

 

 が。

 

 

「か―――――っ!!!」

 ピピ美の口から青白い光線が放たれた。

 放射線流だ!!

 

 

 ポプ子はまともにそれを浴びた。

 さきほどの手刀でプライマルアーマーも破られたばかり。

 ろくに防御もできないまま、ポプ子は身体を焼かれながら、背後に吹き飛ばされた。

 

 

 全身焼け焦げ、倒れたポプ子。

 震えながら顔を上げ、苦しげにうったえかける。

 

「ピピ美ちゃん……

 どうして……!?」

 

 

 ポプ子の見る前で、ゴジラがゆっくりと立ち上がる。

 その手のひらの上に、ピピ美は静かに立っている。

 

 長い藍色の髪が、夜風に流され、顔にまとわりつく。

 ピピ美、それを優雅になでつけて――冷たく一言。

 

 

「――悪堕ちしたわ」

 

 

(つづく)

 

 

 

 

■次回予告■

 

 

 私は何か・・・されたようだ・・・

 ・・・人間でなくなってしまった・・・

 

 ムラクモを・・・列車を・・・襲撃したい・・・

 これ以上手術を・・・

 

 解放・・・されたい・・・

 協力してくれ・・・

 



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7.最狂の敵

 

 ゴジラの身体が、星空を突き刺しそうなほど高く、そびえ立っている。

 その手のひらの上には、ピピ美。

 

 ポプ子は、地べたにはいつくばって、うるんだ目で彼女を見上げている。

「ピピ美ちゃん……」

 

 ポプ子は舞空術で飛び上がった。

「友情パワーでよみがえってーっ!」

 

 まっすぐにピピ美の胸に飛びこんでいくポプ子。

 

 だが、ピピ美は、ポプ子の頬をはり倒した。

 

 

「アッ!」

 

 ポプ子は流星のようにはじき落とされ、地面にバウンドする。

 

 ピピ美が瞬間移動で追いつき、ポプ子の腹へパンチをぶち込む。

 拳が、背中まで貫通するのではないかと思うほどめりこむ。

 

 ポプ子が苦しげにうめいた。

 

 さらにピピ美の回し蹴り。

 ポプ子は数回地面に跳ねながら吹き飛ばされる。

 

 ピピ美が大きく口を開け、その中に青白い光を灯した。

 ふたたび、ピピ美の口から放射線流が発射され、ポプ子に追い打ちをかける。

 

 

 爆発がポプ子を飲みこんだ。

 

 

 ……雨が、ふりはじめた。

 

 爆発で巻き上げられた砂ぼこりを、雨粒が洗い流していく。

 視界が開けると、そこには、焼け焦げたポプ子が、ボロ雑巾のように転がっていた。

 

 

「ピピ……ちゃ……」

 

 もはや息も絶え絶えだ。

 

 地べたを這い、泥水をすすりながら、それでもポプ子は、ピピ美を呼び続けた。

 

 そんなポプ子を、ピピ美は、興味なさげに見下ろしている。

 

 

 ふと、ピピ美が空を見上げた。

 上空に流星のような光のすじが見える。

 

米国のICBM(大陸間弾道ミサイル)だ!

 

「……無駄なことを」

 

 

 ピピ美が、弾丸のように上空に飛び上がる。

 

「Okay, Let's partyyyyyyyy!!!」

 

 すさまじいスピードで、ほんの数秒のうちにICBMまでたどりつく。

 そして、ICBMに手を触れ、瞬間移動した。

 

 行き先は、ワシントンD.C.、ペンシルバニア通り――大統領官邸(ホワイトハウス)

 

「How do you like me now?!」

 

 

 顔面蒼白になった大統領の目の前で。

 

 核が炸裂した!

 

 

   *

 

 

 一瞬の後には、ピピ美は日本――ゴジラのもとへ戻っていた。

 

 これでもう、米軍、いやどこの軍も、うかつには動けないだろう。

 核を撃ち込めば、瞬間移動でそのまま自国に返されるのだ。攻撃のしようがあるまい。

 

 

 あとは。

 ポプ子さえ片付けてしまえば、ゴジラに対抗できるものは、この地球からすべて消滅する。

 

 

 と、ピピ美の脳天に、戦車砲の砲弾が直撃した。

 

 ピピ美は爆炎を切り裂いて飛び上がり、砲弾の来たほうを眺めた。

 はるか遠方の山肌から、数えきれないほどの戦車が、荒野と化した斜面を駆け下りてくる。

 

 うっとうしい虫を追い払うような感覚で、ピピ美は口の中に放射線流を準備した。

 

 が、別の方角にエンジンの音を聞きつけて、そちらに目をやった。

 無人航空機(プレデター)の群れが飛んできている。

 それらが一斉に対戦車ミサイル(ヘルファイア)を発射する。

 

 狙いはゴジラだ。

 

「チッ!」

 

 ピピ美は舌打ちして、放射線流で空を薙ぎ払った。

 プレデターとミサイルの群れが、左から右へ次々に爆発四散する。

 

 その隙に、さらに戦車砲が着弾。

 かと思えばまたしてもプレデター。

 息をつかせぬ波状攻撃――迎撃に追われて、休む暇もない。

 

 

 ――いったい何が目的だ、人間どもよ?

 

 ピピ美は、はたと気づき、ポプ子のほうに目をやった。

 いつのまにかポプ子のそばまでたどり着いていた装甲車が、彼女を車内に引っぱり上げている。

 

 

 ――狙いはポプ子(コレ)か!

 

 

 ポプ子を逃がせば、また面倒なことになる。

 ゴジラ本体への多少のダメージは覚悟のうえで、ポプ子にトドメを刺しておいたほうがよい。

 ピピ美はそう判断して、狙いをポプ子に向けた。

 

 

 しかし、放射線流発射の直前、何者かが上空から飛び降りざまにピピ美を斬りつけた。

 ピピ美の身体が、肩から胸にかけて、バッサリと斬られる。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

 ピピ美は、苦痛に声をあげ、大きく飛びのいた。

 

 ヒゲづらの老人が、青い光剣(スパッド)をぶら下げて、のんびりと立っている。

 公爵(デューク)空歩男(スカイウォークマン)だ。

 

 

「君たち、はやく行きたまえ」

 

 空歩男(スカイウォークマン)が、自衛隊の装甲車にプラプラと手を振る。

 

「ここは私が引き受ける」

 

 

 ピピ美と空歩男(スカイウォークマン)は、にらみあった。

 

 ピピ美が身がまえる。

「避けたつもりだったんだがな。

 まるでどう避けるか分かっていたような太刀筋だった。

 それが“(チカラ)”か」

 

 

 空歩男(スカイウォークマン)が、にこりと微笑む。

「すばらしい。すべて間違っている」

 

 

 ポプ子が装甲車に乗せられ、安全なところに去っていくのを、空歩男(スカイウォークマン)は背後に感じていた。

 

 自分はこの戦いから生きて帰れないだろう。

 うすうすそう感じながら、空歩男(スカイウォークマン)は、最後の弟子に心の声で呼びかけた。

 

 

 ――ポプ子よ。

 オリジナリティが必要だ。

 勝利は、それの向こうにある……

 

 

 ピピ美が来る。

 空歩男(スカイウォークマン)が剣を構える。

 

 

 ――オトナになれ、ポプ子!

 

 

 光剣(スパッド)と放射線流がぶつかり合い、閃光の中にふたりの姿は飲まれていった。

 

 

   *

 

 

 夜が明けた。

 

 

 東京都立川市

 立川災害対策本部予備施設にて。

 

 矢口蘭堂をはじめ、巨災対のメンバーたちが、山積みになった仕事に追われている。

 電話もメールもパンク状態。

 新情報が怒涛のように舞い込み、もはや処理しきれないほどだ。

 

 それらを整理・分析して対策を練っていると、外から騒ぎが聞こえてきた。

 

「離さんかいオリャー! イテモータロカワリャー!」

 

 ポプ子だ。

 

 

 ドッギャーン!

 

 ドアを蹴り開けて、ポプ子が飛び込んでくる。

 彼女は全身血まみれで、腕には点滴の針が刺さったままだ。

 

 看護師と医師が、3人がかりでタックルして止めようとするが、ポプ子はそれを引きずりながら突進をやめない。

 なんという爆発力(パワー)、なんという根性、まるで重機関車だッ!!

 

 

「ピピ美ちゃんはッ!

 ピピ美ちゃんはどこだァーッ!!」

 

「いけません! まだ処置の途中ですッ!!」

 

「処置だかジョチだか知らんがンなもんしとるヒマあるかいィィー!

 ピピッ……ピミッ……ピピピッピーッ!!」

 

 

 わめきちらすポプ子の前に、矢口蘭堂が立ちはだかった。

「ポプ子さん、まずは落ち着いて」

 

「コレが落ち着いてられるかァ!

 ピピ美はどこやオォーッ!?」

 

「今、その話をしていたところです。

 各地から情報が集まってきている……あなたも会議に参加しませんか?」

 

「……………」

 

 ポプ子が黙った。

 こういうふうに落ち着いた対応をされるのは、生まれて初めてのことだった。

 そのため、どうしていいのか分からず、とまどってしまったのだ。

 

 矢口蘭堂、真面目な顔をして、続ける。

「ただし条件があります。

 この場で治療の続きを受けること。

 

 ――まあ、妥協案です。

 ここらで手を打ちませんか?」

 

 

 ポプ子、しばらく、獣のように、フーッ、フーッ、と荒い息をついていたが、やがて大きく深呼吸した。

 

「……まあ……わかった」

 

 

 と、ポプ子が言ったとたん、時間停止が解除されたかのように、官僚たちが慌ただしく動きだす。

「では席はそちらへ」

「資料一部どうぞ」

「モニタ左からサーベイデータ観測映像報道その他もろもろ」

「飲食セルフ禁煙よろです」

「森さん続きお願いします」

「了解です」

 

 官僚たちの機関砲めいた早口に、ポプ子はすっかり圧倒されてしまった。

 

 モニタに映ったゴジラの映像が、拡大され、ピピ美が大写しになった。

 ポプ子はそれを見て、資料の小冊子を握りしめる。コピー用紙に、クチャクチャにシワが寄った。

 

 

「じゃ、みんないいか?

 ゴジラ()()()()対策ミーティング、再開するぞ!」

 

 

(つづく)

 



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8.同志

 

 

 東京都立川市。

 立川災害対策本部予備施設にて。

 

 

 巨災対による、ゴジラ第六形態対策ミーティングは続いていた。

 

 大きなモニタに、ピピ美の姿が映っている。

 はるか遠方から観測された映像なので解像度が悪いが、ゴジラの尻尾の先端に身体を半分埋めて、静かに眠っている様子が見て取れる。

 ゴジラも休止中のようだ。

 

 

「これが15分前の映像です。

 ゴジラは依然沈黙、ポプ子さん救出時に足止めしてくれた老人の姿もありません」

 

「完全に動きが止まったな……」

「おそらく一時的にエネルギーを使い果たし休眠状態になったと思われる」

「現在、戦闘中の映像を分析してエネルギー消費量を推定、活動再開までの時間を算出中です」

 

 

「ポプ子との戦闘中、ゴジラの尻尾先端からピピ美が分離、その後はゴジラ本体の活動がほぼ完全に停止した。

 この事実から、ゴジラ第六形態は戦闘能力の大半をピピ美に依存していると考えられる」

 

「兵器として捉えたときゴジラ最大の欠点はあの巨大な身体そのものだ。

 どれほどの筋力を持とうとニュートンの法則からは逃れられず、体重が大きくなればなるほど動きは緩慢にならざるを得ない。

 

 だが戦闘能力を小型のユニットにあずけて本体から切り離せば機動性は大幅に向上する」

 

「超弩級戦艦から、空母と艦載機に変身、ってわけか」

 

 

「ポプ子に対抗するために……か?」

 

「おそらくそうだろう。

 これまでのゴジラの形態変化は基本的に環境変化に対する対応(リアクション)として現れてきた。

 第四形態の分厚い装甲や放射線流による遠隔攻撃が自衛隊、ひいては米軍による攻撃への対応であったと仮定すれば、ゴジラにとって最大の脅威であったポプ子とピピ美への対抗策をとることは充分考えられる」

 

「その手段がピピ美の能力を取り込むことだったと?」

 

「しかしどうやって?」

 

「月が破壊された時その場にはピピ美さんがいたはずです。

 もし脳が大きな損傷なく残り、細胞が死滅する前に回収されたとすれば……」

 

「ゴジラは体内で自在に元素を変換し物質を合成できる。ピピ美の肉体を再構成することも可能……か」

 

 

「こいつはやっかいだぞ……

 ただでさえバケモノじみてるってのに、あの子の力まで加わったら……」

 

 

 

 一同、沈黙。

 

 

 

 そこで、先ほどから沈黙を守っていた立川始(資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課長)が口を開いた。

「いや、これは好機じゃないか?」

 

 

 一同の視線が集まる。

 

「ピピ美が攻撃を中止してゴジラの体内に戻ったのはなぜだ?」

 

「たとえば……エネルギー補給?」

 

「ゴジラの生体原子炉が人間サイズの肉体に収まるとは考えにくい。

 ならピピ美は今、活動に要するエネルギーをゴジラ本体から供給されているんじゃないか?」

 

「つまりゴジラが充電器(クレイドル)でピピ美がスマホ、ってわけですね」

 

「そしてゴジラ第六形態は攻撃機能の大部分を外部デバイスであるピピ美に依存しているわけだから……」

 

 

「そうか。ピピ美をゴジラ本体から切り離しエネルギーを枯渇させれば、ゴジラの戦闘能力を大きく削ぎ落とせる!」

 

「その状態なら矢口プランの実行は容易だ!」

 

 

「待て。その場合、切り離されたピピ美はどうなる?」

 

「ゴジラがピピ美の肉体を忠実に再現したのなら、その構造は人間同様のはずだ。医学的に治療できる可能性は高い」

 

「肝心の分断方法は?

 ワシントンを失って米軍は混乱の極み、自衛隊だっていくらも余力は残ってないぞ」

 

「ひとつだけ残ってる。

 ピピ美に対抗しうる存在が」

 

「……なるほどな」

 

「おい!

 これは行けるんじゃないか!?」

 

 

 盛り上がる一同。

 

 

 その輪から少し外れたところで、ポプ子は腕組みしている。

 

「あーそーゆーことね。

 完全に理解した」

 ↑わかってない。

 

 

 矢口蘭堂、ポプ子の前に向かい合った。

「ピピ美さんを助けられるかもしれません」

 

 

 ポプ子、自分の三倍ほども背丈のある矢口蘭堂の顔を見つめ返した。

 

 今の彼女の目は、いつも他人に向けるような、なんの期待もしない冷めた目ではなかった。

 警戒しながらも、歩み寄ろうか迷って踏みとどまる、野良猫のような目だ。

 

 矢口蘭堂が続ける。

「まだ可能性の段階でしかない。うまく行くかもわからない。

 だがやってみる価値はある。

 

 それがゴジラを倒すことにも繋がるでしょう。

 

 作戦立案と実行準備は我々がします。

 しかし、この作戦を遂行するには、あなたが必要不可欠だ。

 

 ポプ子さん。

 

 ゴジラを倒すため。

 ピピ美さんを救うために。

 我々に、力を貸してはくれませんか!」

 

 

 

 矢口蘭堂が、手を差し伸べる。

 

 ポプ子は――

 

 その手を、握った。

 

 

 ポプ子with巨災対。

 

 ゴジラに立ち向かう最強のチームが、今、ここに産声をあげた!

 

 

 

   *

 

 

 

 それから。

 ゴジラとの決戦に向けて、日本中がたくましく動き出した。

 

 ゴジラ凍結に必要な薬剤の追加生産。

 作戦立案と綿密な検証。

 実行部隊の再編成。

 被害者たちへの救済措置と、あらたな避難地域の設定。

 および腰となった米国への説得と協力要請。

 そして――どうしようもなくなったときの最後の手段。何発かは瞬間移動で突き返されるのを覚悟のうえで、確実にゴジラ本体を焼き尽くすための核による飽和攻撃準備――

 

 

 ゴジラ活動再開までの時間は残り少ない。

 

 殺人的なスケジュールのなかで、財前正夫(自衛隊統合幕僚長)は、ゴジラ凍結のための作戦立案を終え、矢口蘭堂に提出した。

 

 矢口蘭堂、その内容を見て満足げにうなずく。

「ありがとうございます。

 無理なスケジュールの中で」

 

 財前正夫、硬い表情のなかに、わずかに微笑みを浮かべる。

「礼にはおよびません。仕事ですから」

 

「では……ゴジラ撃滅計画というのも子供っぽいですから。

 

 『ポプきちのバクチン大作戦』としましょう」

 

 

「分かりました」

 

 

   *

 

 

 一方、ポプ子はこの期間ずっと、災害対策本部の屋上で修行を続けていた。

 

 誰にも打ち明けてはいなかった……が。

 実は、ピピ美に負けたあの戦い以来、ポプ子は“(チカラ)”が使えなくなっていたのだ。

 

 いや、“(チカラ)”だけではない。

 クイックブーストも、黒魔術も、エネルギー波も。

 パクリネタが、なにも使えなくなっていたのだ。

 

 

 師匠、空歩男(スカイウォークマン)の最後の言葉が蘇る。

 

 ――オリジナリティが必要だ。

 オトナになれ、ポプ子!

 

 

「オリジナルかー。正論だなー。

 

 ……いや。

 よく考えたらクッッッソむかつく」

 

 

 と、そこへ。

 

 出撃時間を知らせるサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

   *

 

 

 

 そして。

 ポプ子は三度(みたび)、ゴジラに対峙(たいじ)した。

 

 

 今や彼女には。

 

 ビームもない。

 魔法もない。

 いかなるスーパーパワーもない。

 

 ……だが!

 

「やってやらぁよ!

 やってやらぁよ!!!」

 

 たとえ力のすべてを封じられようと。

 

 己の肉体(からだ)と。

 この釘バットと。

 ゴジラめがけて中指()てる、不屈の闘志があれば――充分!!

 

 

「行くぞゴジラ……

 これが最後の戦いだ!

 

 そしてピピ美ちゃん!!

 君だけは!!

 

 絶対私が救ってみせる!!」

 

 

 

 

(つづく)

 



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9.バイバイ、ララバイ

 

新コーナー

 

ボブネミミッミ

 

作:AC(アーマードコア)(ばい)

 

 

 ポプ子が走る。ゴジラの足元までわずか数秒。そのままゴジラの身体を蹴って稲妻のように駆け上り、手のひらの上で佇むピピ美の背後へ肉迫する。

「ゴルァ!!」

 気合とともに振り下ろしたバットは、しかし虚空を割いたのみ。ピピ美の姿は忽然と消え、一瞬の後、ポプ子の耳元にささやき声が届く。

「手荒いキスだな」

 ――ピピ美!

「嫌いじゃないよ♡」

 痛打!

 ピピ美の蹴りが背中に叩き込まれ、ポプ子は斜め一直線に墜落した。体勢を立て直す暇もなく、ピピ美が瞬間移動で追い付いてくる。とっさにバットで応戦するも、ピピ美は片腕のみで軽々とそれを受け止めてみせた。

 ピピ美がにこりと穏やかに微笑む。かつてと全く変わらない優しさで。

「――次は?」

 ぞっ、と。

 ポプ子の背筋を恐怖が駆け抜けた。

 ――が。

「負けて……」

 いったんバットを引き、

「たまるかァア!!」

 連打! ポプ子の小さな身体から繰り出される怒涛のごとき連打。上下左右斜めに中央、あらゆる方向から打撃が雨あられと繰り出される。あまりの速さにバットの動きを目視することさえ不可能。

 しかしピピ美はその全てを腕で、脚で、時には額で、的確に受け止めいなしていく。一打一打ていねいに、さながらポプ子の攻撃性を丸ごと抱擁するようにだ。

 らちがあかない。ならば次の一手。

 ポプ子は腰のうしろに隠し持っていた拳銃(ジェリコ941)を引き抜き、抜き打ちにピピ美の脳天めがけてぶっ放した。銃弾(.40S&W)がピピ美の額に食らいつき、その衝撃で彼女の身体が縦に回転しながら跳ね上がる。

 そこへ。

 大上段から振り下ろした渾身の釘バットがめりこんだ!

 ピピ美の身体が地面に叩きつけられる。さらなる追い打ちをかけようとポプ子は引き金を引き絞る――

 そのポプ子を、横手から鞭のようなものが打ち払った。

 まるで鋼の棒で殴りつけられたかのような鈍痛! 衝撃で手にした拳銃が弾かれ飛んでいく。ポプ子はピピ美の姿を見て、驚きに身をこわばらせた。

 尻尾。ピピ美の背後から生えたゴジラそっくりの尻尾が、ポプ子を叩きのめしたのだ。

 ――ここまでゴジラ化が進んでるのか!

 ポプ子の横っ面を再び尻尾が襲う。ポプ子はまともに吹き飛ばされ、地面に数度バウンドした。が、空中で一回転して体勢を立て直し、足を滑らせながら着地する。

「ヤベェ! 勝てねェ!!」

 ポプ子はきびすを返して逃げ出した。近くに打ち捨ててあったバイクを起こし、大慌てでエンジンふかして遠ざかっていく。

 ピピ美はその背中を眺め見て、楽しそうに微笑んだ。

「んもう♡ ()らしてくれちゃってえ♡」

 ピピ美は走り出した。直後、彼女は音速を突破し、衝撃波が周囲を薙ぎ払っていった。

 

 

   *

 

 

 一方そのころ。

 

 神奈川県足柄下郡箱根町。

 金時山観測所(仮設)。

 

 作戦遂行のため急造された観測台。

 

 矢口蘭堂は、自衛隊員たちとともに、放射線防護服を着てこの場に待機していた。

 

 

 観測員が報告する。

「ポプ子およびピピ美、仙石原より芦ノ湖方面へ向けて移動開始!」

「誘引目標ラインを突破!」

「大臣、作戦第一段階完了しました」

 

 ポプ子はやってくれた。()()()()()

 矢口蘭堂が力強くうなずく。

 

「ポプきちのバクチン大作戦、第二段階を開始してください!」

 

 

   *

 

 

 全速力のバイクで逃げるポプ子を、ピピ美は徒歩で猛追する。

「ウフフ♡ まてまてー♡」

 ピピ美の口から放射線流が発射された。ポプ子は慌ててバイクを乗り捨て、横に跳躍して逃げる。飴のように融けて爆発するバイクを尻目に、ポプ子は市街地の影に飛び込み、姿を消した。

 ピピ美は十字路の真ん中に立ち、周囲をぐるりと見回した。まだまだ上機嫌だ。

「今度はかくれんぼか。もーいーかい?」

「もーいーよ!」

 返事は、背後から聞こえた。

 振り返ったピピ美の胴に、ポプ子が撃ち出した対戦車ロケット弾(HEAA)が命中する!

 炸裂。爆炎に飲まれたピピ美だったが、この程度でゴジラ化した皮膚は貫けない。すぐさま煙を切り裂き飛び出して、ポプ子めがけて殴りかかろうとする。

 が、ポプ子の姿はすでに消えている。

 ――!?

 とまどうピピ美の後頭部に、今度は対物ライフルの銃弾がめり込んだ!

 ゴジラ化しても身体が大きくなったわけではない。ピピ美の質量はふつうの女子中学生なみだ。たとえ皮膚を貫けなくとも、対物弾の圧倒的な運動エネルギーによって弾き飛ばすことはできる!

 ピピ美の身体が紙のように吹き飛ばされ、ビルの外壁に激突する。

 その瞬間、ビルの各部に仕掛けられた爆弾が起爆した。

「なにっ!?」

 驚愕するピピ美の頭上に、ビルひとつ分のコンクリート塊が降りそそぐ! 一見地味に思えるが、大質量とビルの高さによってもたらされる莫大な位置エネルギーは、戦車砲などの比ではない。なすすべもなく、ピピ美はガレキの下に押し潰された。

 

 ビルの崩落が終わり、砂煙がおさまったころ。

 ポプ子は軽機関銃(MP5)をぶら下げて、崩落したビルのそばに姿を現した。

 感じる。

 ピピ美はまだ、生きている。

 その予感どおり、ガレキの山が揺れ、その頂上のコンクリート塊が蹴散らされて、ピピ美が姿を現した。尻尾はなかばで折れ、ひどい流血が何ヶ所もある。ダメージは与えた……しかし、まだまだ戦えそうだ。

 ピピ美は不機嫌になっていた。

 ロケット砲、対物ライフル、ビルが倒壊するよう仕掛けられた爆弾。明らかに、ピピ美と戦うためにあらかじめ準備されていたものだ。つまりピピ美は――

 ――罠に誘い込まれたというわけか。

 これはポプ子らしくないやりかただ。ポプ子の性格なら、後先も考えず、目の前の敵のことだけ考えて、がむしゃらに戦いを挑むはずだ。しかもポプ子は、先程から一度もパクりネタを使っていない――気功波も、スタンド能力も、黒魔術も、なにもだ。

 そこでふと、ピピ美の頭にひらめくものがあった。

 ――まさか!?

 ちょうどその時。

 背後――遥か遠く、塔のようにそびえ立つゴジラの方向で、轟音が鳴り響いた!

 

 

   *

 

 

「ロックボルト粉砕!」

 

 ガバンッ!!

 

 ゴジラの脚の下で、()()()()を支えていたロックボルトが爆破された。

 

 そのとたん、人工地盤が、その下の()()()()()()()()()()()()()()

 ゴジラの巨体もろともに!

 

 

 ゴジラが叫び声を上げながら、1000m近くもの高さを落下し、その下の地面に叩きつけられた。

 

 

   *

 

 

 箱根町、仙石原。

 ゴジラが足を止めた場所がここであったのは、幸運な偶然だった。

 

 ここは、来たるべき遷都に向けて建設予定の、第3新東京市予定地だったのである。

 

 ビルや道路などはまだまだ未完成であるものの、広大な地下空間の上を塞ぐように作られた人工地盤や、雛形となるいくつかのビルは建造済み。

 

 

 そして――前回のポプ子との戦いから明らかになったゴジラの弱点。

 身体が大きすぎるゴジラは、体勢を崩されること――つまり、落とし穴に弱い!

 

 

 これらの材料から、ゴジラを地下空間――ジオフロントに突き落とす作戦を、統合任務部隊が立案したのである。

 

 

   *

 

 

 金時山観測所(臨時)で自衛官が報告する。

「ゴジラ、ジオフロント内に落着!」

 

 それを受けて、矢口蘭堂の指示が飛んだ。

()()()3()()()()()()()、投下!」

 

 

   *

 

 

 ゴバッ!!

 

 ゴジラの頭上で、人工地盤と建設途中のビルとが、すべて一斉にロックボルトを外された。

 

 莫大な量のコンクリートと金属――()()()()()()()()()()()()が、丸ごと、ゴジラの頭上に降りそそぐ。

 

 ゴジラの悲鳴が響き渡る。

 

 さらに。

 ビルの中に満載されていた爆薬に点火。

 凄まじい大爆発が、ジオフロント全体を吹き飛ばした!!

 

 

   *

 

 

「な……!」

 大爆発の閃光が空を染め上げ、恐るべき威力の爆発が地震さえ引き起こす。

 耳をつんざくようなゴジラの悲鳴が爆発音に飲まれて消えていき、ピピ美は、焦って額に指を当てた。

 ――まずい! 瞬間移動でゴジラを助けに行かなければ!

 だが、ピピ美に銃弾が雨あられと打ち込まれる。ポプ子のしわざだ。ピピ美は舌打ちしてその場から飛びのき、物陰に引っ込むが、今度はそこに手榴弾が投げ込まれる。

 爆発。

 これでやられるようやピピ美ではない。が、爆発が収まるや再びポプ子の機関銃が襲ってくる。

 瞬間移動唯一の弱点は、移動先の相手の気を探るのに時間がかかること。この連続攻撃は、明らかにピピ美の瞬間移動を妨害して足止めする意図だ。

「そういう……」

 ピピ美の不機嫌が、頂点に達した。

「ことかァーッ!!」

 周囲に、無差別に放射線流がまき散らされる。建物という建物、障害物という障害物を薙ぎ倒し、まるで八つ当たりめいた執拗さで、破壊のエネルギーをぶちまけていく。

 やがてポプ子が姿を現した。ピピ美は憤怒に燃えている。

「ポプ子――私をゴジラから引き離す作戦の、コマになったな!?

 貴様ともあろうものが、政治家ごときにそそのかされて!!」

「そうだよ。うまくいったらしい」

「なんだ? ナメプか?

 なぜ正面からかかってこない?

 なぜパクりネタを使わない!?」

「実は、こないだからビームとか出せなくなっちゃって」

 ポプ子は、ポリポリと気恥ずかしげに頭をかいた。

「ホントは自分の力でやりたかった。

 でも、いい。

 ピピ美ちゃんを助けられるなら、コマで上等!!」

 ピピ美が崩れ落ち、膝をつく。そして、一語一語、噛みしめるように語りだした。

「ずっと、こんな日が来るのを、恐れていた。

 分かっていた……いつまでも子供のままでいられないことは。

 いつか遠くに行ってしまうことは。

 それでも……ずっとそばに居たかった。

 私だけが……ポプ子の理解者でいたかったのに……」

「ピピ美ちゃん……」

 ポプ子は、ピピ美のそばに歩み寄った。悲しむ彼女を見ていられなくなり、その肩に、そっと手を乗せる。

 と、そのとき。

 

「……こんな結末、認めるものか」

 

 ピピ美の身体が、煙のように溶けて消えた!

 

 

「なにっ!?」

 ポプ子が驚愕に顔をこわばらせる。

 

 ――この能力は……分身(ダブル)!?

 

 

 ピピ美は念能力で生み出した分身(ダブル)と入れ替わっていたのだ。

 おそらくは……ポプ子の手榴弾が炸裂して一瞬姿が隠れた、あの時に!

 

 ならば今、本体はどこに――?

 

 

 はっ、と気づいて、ポプ子が顔を上げる。

「やっべ!!」

 

 

   *

 

 

 第3新東京市地下、ジオフロント。

 

 ここでは今、倒れて活動停止したゴジラに、血液凝固剤の経口投与が急ピッチで進められていた。

 

 かねて準備のコンクリートポンプ車がゴジラのまわりに群がり、ストローのようなアームを口の中に差し込んで、薬品を流し込んでいく。

 

 

 そこへ。

 

 瞬間移動で、ピピ美の本体が出現した!

 

 

「か―――――っ!!」

 

 

 ピピ美の口から放たれた放射線流が、ポンプ車部隊をなぎ払う。

 それだけではあきたらず、背後にひかえていた予備のポンプ車たちにまでピピ美は攻撃を加えた。

 

 部隊は壊滅し、ゴジラ凍結の切り札、血液凝固剤が、一滴残らず蒸発していく!

 

 

 ピピ美はゴジラのそばに、舞空術で滑り寄っていった。

 十分量を投与される前に防いだとはいえ、ゴジラの血液凝固は始まっている。

 このままでは、体内の生体原子炉が、メルトダウンを避けるため、自動的に凍結を始めるだろう。

 

 

 ピピ美は優しく微笑んだ。

 ゴジラの鼻先を、そっとなでながら。

 

 

「もう

 

 これで

 

 終わってもいい

 

 だから

 

 

 

 ありったけを

 

 

 

   *

 

 

 

 その瞬間。

 

 血赤の閃光が、地下から天までを貫き通した。

 

 芦ノ湖畔では、ポプ子が。

 金時山観測所では、矢口蘭堂たちが。

 

 そして、事態の推移を見守る世界中の人々が。

 

 同時に()()を目撃した。

 

 

 ジオフロントから――

 ゆっくりと、浮上してくる真紅の巨体。

 まるで血を流すかのように、痛々しい炎を垂れ流す――その姿は、さながら、世界に滅び(ラグナロク)をもたらす炎の巨人。

 

 手のひらの上には、逆立てた長い髪を、数メートルもの高さにまでなびかせる、少女の姿。

 

 

 神々しさすら覚えるその姿を見て。

 矢口蘭堂の口から、ひとつの名がこぼれ出た。

 

 

「ゴジラ……最終形態だ……!!」

 

 

 

(つづく)



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最終話 Gポプチン大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!

 

 

 暗い部屋の中。

 

 矢口蘭堂が、赤いスーツを着てイスに腰かけている。

 

 

「さて、みなさん……

 いよいよお別れの時がやってまいりました。

 

 私には、もう何も説明すべきことは残されていません。

 

 

 そう!!

 これが最後のポプテピファイト!!!

 

 

 みなさんご一緒にィーっ

 

 レディ・ゴーッ!!!

 

 

   *

 

 

最終話

 

G(ゴッド)ポプチン大勝利!

希望の未来へレディ・ゴーッ!

 

 

   *

 

 

 ポプ子は、全速力で走っていた。

 突如として変身をとげた、ゴジラ最終形態のもとへ。

 そして、ピピ美のもとへ。

 

「待ってて! ピピ美ちゃんッ!!

 今、私がァァァァァア!

 行く!

  行く……!(残響)

   行く……!(残響)

    行く……!(残響)

     行く……!(残響)

      行く……!(残響)

       行く……!(残響)

        行く……!(残響)

         行く……!(残響)

 

 行くッ!!(迫真)

 

 

 

   *

 

 

 

 ピクッ。

 

 ピピ美の顔が、わずかに震えた。

 

 ピピ美は、ポプ子の声を拒絶するように、首を振り、ゴジラにそっと手を触れた。

 

「行こう、ゴジラ。

 何もかもぶち壊して――新世界へ!」

 

 

 ゴジラが吠えた。

 ゴジラは、全身から赤熱した炎をまき散らし、その後、忽然と姿を消した。

 

 

   *

 

 

 東京都立川市。

 立川災害対策本部予備施設。

 

 巨災対は、予想外の事態に混乱していた。

 ずっとモニターを見守っていた官僚たちが、状況が急変するや、情報収集に駆け回りはじめる。

 

 これほどの事態でもパニックを起こさないのはさすがだったが、そんな彼らでさえ、焦りと恐怖を隠すことはできなかった。

 

 

「ゴジラがさらに形態変化!」

「放射線量観測メーター、計測不能を示しています!」

 

「凝固剤が効かなかったのか?」

「逆だ。凝固剤が効いたために生体原子炉が暴走を始めた。だがメルトダウンを防ぐリミッターをゴジラ自ら解除したんだ!」

 

「つまり、捨て身の攻撃ってわけですか!?」

 

「これではゴジラ自身の肉体も早晩崩壊する……

 だが、それまでにとんでもない被害が出るぞ!」

 

「まさに最終形態か!

 

 関係省庁に連絡急げ! 住人にはなるべく地下かコンクリの建物に隠れるように! とにかく遮蔽を取らせるんだ! 日本中……いや世界中のどこが襲われるか分からんぞ!」

 

 

 その矢先。

 外から悲鳴が聞こえた。

 

 一同が窓にはりつく。

 

 

 頭上を埋める真紅の巨人。

 その手のひらにたたずむ少女。

 

 瞬間移動で現れたのだ。

 

 ――ゴジラとピピ美!

 

 

「なぎはらえ」

 

 ゴジラの口から放たれた放射線流が、一瞬にしてあたりの全てを蒸発させた。

 

 

 森文哉

 志村祐介

 尾頭ヒロミ

 立川始

 安田龍彦

 小松原潤

 竹尾保

 袖原泰司

 間邦夫

 根岸達也

 町田一晃

 泉修一

 

 他、巨大不明生物特設災害対策本部構成員、関係者等。

 

 全員、死亡。

 

 

   *

 

 

 アメリカ合衆国、ニューヨーク州、ハドソン川河口付近。

 ゴジラとピピ美が上空に出現。

 マンハッタン島全域、消失。

 

 

 続いてイングランド、ロンドン。

 ゴジラの放射線流によってクレーター化した後、海水が流入。

 北海に繋がり、ゴルゴ湾となる。

 

 

 そしてブラジル、アマゾン熱帯雨林。

 灰燼に帰す。

 これによって、地球の酸素供給量は激減し、全生命体の絶滅――世界の亡失(ロストワールド)が確定した。

 

 

   *

 

 

 日本

 神奈川県足柄下郡箱根町。

 金時山観測所(仮設)跡。

 

 

 ゴジラ暴走の余波で崩壊した観測台。

 矢口蘭堂は、そのそばで倒れていた。

 

 矢口蘭堂がうめき、目を覚ます。

 

 

 近くに座り込んでいたポプ子が、声をかける。

「よう。お目覚めかい?」

 

 矢口蘭堂、痛みをこらえて起き上がる。

「ゴジラはどうなりました!?」

 

 

 ポプ子が、スマホをホイッと投げ渡す。

 画面には、世界中の惨事を知らせるTweetが、猛烈な勢いで流れていた。

 やがて、それも止まった。

 Twitterがサーバーダウンしたのだ。

 

 

 矢口蘭堂、膝から崩れ落ちる。

「なんてことだ……」

 

 

 ポプ子は、落ち着いて釘バットと銃の手入れをしていたが、銃にジャキッッ! とマガジンを差し込んで、立ち上がった。

 

「矢口さん。

 ヘリ1台、都合つけてくれ」

 

 

 矢口蘭堂、信じられない、という目でポプ子を見る。

「まさか……ポプ子さん!

 戦う気なのか!?」

 

 ポプ子はまだ、いつもの、静かな闘志に満ちた目をしている。

「矢口さん……あんたには感謝してる。

 でもよ。これだけは、ワガママ言わせてくれや」

 

 

「断じて受け入れられない!

 ゴジラ最終形態は、もはや人にどうにかできるレベルを越えている。

 あなたは強い。だが神じゃない。魔物でもない。あたりまえの人間なんだ!

 とうてい勝てるわけがない!

 

 なのに……

 どこへ行くんだ?

 なんで行くんだ?

 わざわざ命を捨てに行くってわけか!?」

 

 

 ポプ子。

 水のように澄んだ、微笑みを浮かべる。

 

 

「死にに行くわけじゃない。

 ――私がホントに生きてるかどうか、確かめに行くんだ」

 

 

   *

 

 

 東京都心。

 現在は、一面の荒野と化した場所。

 

 その中心に、燃え盛るゴジラと、その手の上のピピ美だけが、静かにたたずんでいた。

 

 

 ゴジラの前に、人影が現れた。

 

 ポプ子だ。

 

 

 ピピ美、ポプ子を見ると、ニヤリと笑う。

「ようやく目が覚めたか。

 いつか言ったはずだ、ポプ子。

 おまえを殺せるのは、私だけだと」

 

 ポプ子、笑い返す。

「そのままお前に返すぜ、ピピ美」

 

 

 一瞬の静寂。

 

 その後、ゴジラが放射線流を放った。

 

 地面が裂け、岩盤がめくれあがって岩山と化す。

 

 ポプ子は、横に跳んで放射線流を避け、そり上がる岩盤の上を走った。

 狙いは一直線、ピピ美。

 

 

 ポプ子が岩盤の頂点からジャンプ。

 ピピ美に向かって釘バットを振り下ろす。

 

 しかしピピ美は舞空術でポプ子の頭上を飛び越え、背後から放射線流を吐いた。

 

 ポプ子はゴジラの腕を蹴り、横に跳んで避けた。

 

 その軌道を狙って、今度はゴジラ本体から放射線流が飛んでくる。

 ポプ子が空中で身をひねってかわすと、さらにピピ美からも砲撃。

 ゴジラとピピ美は、絶妙なコンビネーションで、たえまなく十字砲火を浴びせてくる。

 

 ポプ子はゴジラの身体を蹴り、岩山に飛び移り、次々に粉砕され弾け飛ぶ岩盤を盾にして、なんとか攻撃の雨を避け続ける。

 

 

 ピピ美は容赦なくポプ子を追い込みながら、叫んだ。

 

「さあ、ポプ子!

 

 呪文を唱えろ!

 プライマルアーマーを張れ!

 怒りの力で都合よく潜在能力か何か覚醒させるがいい!

 

 みんなやってることだ、何が悪い!?

 

 コドモになれよ!

 ネタをパクれよ!

 オリジナリティなんか捨ててしまえ!」

 

 

 ポプ子は応えた。

「そんなことはどうでもいい!」

 

 

 ピピ美、キレた!!

「なんだァ? てめェ……

 ならば!! 死ね―――――ッ!!」

 

 

 ピピ美が、全力全開の放射線流を吐く!

 極太のビームが、岩の盾ごとポプ子を飲み込んでいく!

 

 ポプ子は――静かにつぶやいた。

「ようやく気づいたんだ。

 師匠が言ってたことの、本当の意味。

 

 私のオリジナリティ、それは――!」

 

 

 爆発!!

 

 

   *

 

 

 爆発の閃光が、おさまる。

 

 ピピ美は、静かに空中に浮遊している。

 ポプ子が消し飛んでしまったあとを、虚しく見つめながら。

 

「ポプ子……」

 

 

 が。

 そのとき。

 

 

 ピピ美の背後から、返事があった。

「はーい♡」

 

 ポプ子!!

 

 一体いつの間に背後に回り込んだのか?

 ピピ美は、ハッ、と気づいて“(ギョウ)”をした。

 

 ポプ子の手から伸びたオーラが、ピピ美の背中に貼り付いている。

 

 

 ――“伸縮自在の愛(バンジーガム)”!!

 

 変化系の念能力!

 “伸縮自在の愛(バンジーガム)”は、ガムとゴムの性質をあわせもつ!

 

 これをピピ美に貼り付けておいて、砲撃の瞬間、閃光にまぎれて収縮させたのだ!

 

 

 ポプ子の手が伸びる。

 

 ピピ美は、攻撃が来ると考えて、反射的に放射線流を吐き出した。

 

 が。

 ポプ子の手は、ピピ美を攻撃などしなかった。

 

 ただ。

 ピピ美の頭から――1()()()()()()()()()()のだった。

 

「はは……やっぱりな。

 ゴジラの野郎、こんなもん差し込んでやがった。

 ピピ美ちゃんの頭の中にさ」

 

 

 ピピ美が、目を見開く。

 ――洗脳の針……だと!?

 

 

 針を抜かれたとたん、いままでどんよりと雲におおわれていたピピ美の意識が、一気に晴れていった。

 昔の自分が、ポプ子への素直な気持ちが、せきを切ったように蘇ってくる。

 ピピ味は正気に戻った!

 

 しかし、ポプ子に向けてすでに吐き出してしまった放射線流は、止められない。

 

 

 ――ダメだ! 止まれ!!

 

 

 ピピ美の願いもむなしく。

 ポプ子の胸を、ビームが貫いた!

 

 

「ポプ子ちゃん!!!」

 

 

   *

 

 

 ポプ子は、ピピ美の思考が歪められていることに、前々から気づいていた。

 ピピ美はただ蘇っただけではない。ゴジラによって、頭脳を操作されているはずだ、と考えた。

 

 だから、はじめから、ピピ美の洗脳を解くことだけを狙っていたのだ。

 たとえ自分が犠牲になったとしても。

 

 

「パクりでも、クソと言われても、かまわない。

 

 でもピピ美ちゃんだけは、絶対に助ける!

 それが私の……オリジナリティだ……!」

 

 ポプ子は、血を吐きながら、ウィンクした。

 

「えへへ……怒った?」

 

 そのまま――ポプ子は落下した。

 力を。

 命を。

 自分の持つ全てを――使い果たして。

 

 

 そして、ピピ美は。

 

「……ったぞ……」

 

 ピピ美の目に、炎が灯った!!

 

「怒ったぞ―――――っ!!!!!」

 

 

 ちょうどその時、ゴジラが異変を感じて、無差別攻撃を開始した!

 洗脳が解けた以上、ピピ美は、ゴジラにとって危険な敵でしかない。

 先手を打って叩き潰すつもりなのだ。

 

 ピピ美は、舞空術で真下に向かって飛んだ。

 雨あられと降り注ぐ放射線流を、かいくぐり、受け流し、時には正面から弾き飛ばして、まっすぐに、ポプ子を追う。

 

 ポプ子に追いつき、冷たくなった身体を抱きしめ、その耳元でささやく。

 

「ひとりで死ぬなんて許さない!

 ポプ子がいなきゃ……私が生きてたってしょうがないじゃないか!!」

 

 

 そのとき、肌を通じて、ピピ美に小さな振動が伝わった。

 

 鼓動?

 馬鹿な! ポプ子は完全に死んでいたのに――

 

 ――まさか! 死後に強まる念!!

 

 

 そう。ポプ子はただ死んだわけではなかった。

 ピピ美を助け、自分も生き残るために、賭けに打って出たのだ。

 

 

 ――どうせ死ぬなら……試してみるか♥

   (ゴム)よ!!

   私が死んだ後蘇り!!!

   心臓と!! 肺を!!

   収縮(愛撫)せよ!!!

 

 

 ドクン!!

 

 ポプ子の身体が脈打ち、パッチリと目を開いた!

 

「やあピピ美ちゃん♥

 私、今ちゃんと死んでた?」

「完全に死んでたよ♡」

「そっかー♡」

 

 

 そこへ。

 ゴジラからの放射線流が直撃した!!

 

 

「プライマルアーマー展開!!」

「ATフィールド全開!!」

 

 

 ビキィィィィン!!

 

 

 二重に張られたバリアによって、ゴジラ最終形態の、大陸さえ蒸発させる放射線流が、かき消された!!

 

 

 ポプ子と。

 ピピ美は。

 背中合わせに地面に降り立ち。

 

 ゴジラを見上げ、睨みつける。

 

「「あとは、あいつを()るだけだ!!」」

 

 

 ピピ美がゴジラの足元へダッシュ!

 そして、

 

 ↙(タメ) ↘ ↙ ↗ P(パンチィ!)

「ピピ美NWOBHM(ノーボム)!!!」

 

 

 飛び上がりざまにピピ美が繰り出した衝撃波が、ゴジラを直撃した!

 よろめくゴジラの背中側に、今度はポプ子が回り込む!

 

 

「超必殺!」

 → ↓ ↘ PPP

「メガポプ子対空ゥ!!」

 

 

 ドッゴォォッッ!!

 

 ポプ子が放ったジャンピングアッパーが、ゴジラの背骨を完全にとらえた!

 その姿はさながら昇り龍!!

 

 

 ゴジラも負けてはいない。

 空中に飛び上がり、無敵時間も終わってしまい、無防備となったポプ子。

 そこを狙って、尻尾でなぎ払いをかける。

 

 

 岩山そのもののような巨大な尻尾が、ポプ子に叩きつけられた。

 

「ぐえっ!」

 

 そのまま、ゴジラは尻尾でポプ子を地面に押し潰そうとする!

 

 

 窮地からポプ子を救ったのは、ピピ美。

天派(てんぱ)! 流星気散弾(りゅうせいきさんだん)!!」

 

 ピピ美の手から、数えきれないほどの光弾が一気に放出され、ゴジラの頭を横から襲う!

 

 

 大爆発!

 

 

 一瞬、尻尾が緩んだ隙に、ポプ子が跳躍。

 ゴジラの鼻先に飛び上がる。

「アーバン(りゅう)……空中連撃(くうちゅーれんげき)!!!」

 

 嵐のように繰り出された拳が、ゴジラを滅多打ちにする!

 

 

 さすがのゴジラも、これにはひるんだ。

 

 

 それを見逃すポプ子とピピ美ではない!

 地上におりたふたりは、顔を見合わせうなずきあう。

 

「好機!!」

「承知!!」

 

 

「七星ェー双破斬!!」

「気功掌! 気功掌! 気功掌! 気功掌!」

空中六連蹴り(ロミオマストダイ)!!」

「ドス竜―――――!!!」

「魔法剣キラキラ おやじの剣!!」

「長い声のネコ!!」

「火輪斬術雷戦段!! 連環重雷爆鎖炮!!」

「ちくわ大明神」

「『ついてこれないスピード』っていうのは――こういうのを言うんだ(零距離射撃)」

「トルネード眼魔砲(ガンマほう)!! 失せろォーッツ!!」

「チャッピー、エサ!」

「わーう♡」

 

 息もつかせぬ連続攻撃!

 ゴジラが悲鳴をあげる。

 

 

 そのとき、ゴジラの全身から、爆発のようにエネルギーがほとばしった!

 

「わあ!」

「ほんがらげーっ!!」

 

 

 ポプ子とピピ美が吹き飛ばされる。

 

 

 ついにゴジラは、体内に残った全ての力を、口に集中させはじめた。

 凄まじいエネルギー! チャージの余波だけで日本列島が震えだす。

 

 あのゴジラが、全身全霊をかけて放つ、最大最強出力の放射線流!

 おそらく――直撃すれば、地球そのものが崩壊する!!

 

 

 ポプ子とピピ美は。

 すっくと立ち上がり、並んで、ゴジラを見上げた。

 

 

 ピピ美が、ニヤリと笑い、心からの称賛を口にした。

 

「ゴジラ……すごいやつだ。

 ここまでのエネルギーを秘めてるなんてな。

 映画化したら、興収80億、円盤合計10万枚は行くに違いない……」

 

「はー。私らが主演したことになんねーかなー」

「それな」

 

 

 ポプ子とピピ美は、声を合わせて笑った。

 一緒に笑い合える日がまた来た。その喜びを噛みしめながら。

 

 

 ピピ美が腰に手を当てる。

「さーて。どうやって勝つ?」

 

 

 ポプ子がポツリとつぶやいた。

「たしか、この丘だったんだよね……」

「え?」

「ちゃんとした宇宙船に乗ってこなかったばかりに、こんな所に落ちちゃった。

 

 何回も何回もテストに失敗してやっとここまで来たんだ。

 そのおかげで、この国の国務大臣に会えたけどね」

 

 

 ポプ子が、()()に視線を送る。

「おい……そろそろ目を覚ましてくれないか!?」

 

 

   *

 

 

 地下で。

 

 グワッ……

 

 巨大な目が……開く。

 

 

   *

 

 

 フィフィフィフィフィフィ……

 

 

 ピピ美が驚愕する。

「!!

 こ……この音……」

 

 

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ

 フイイイイイン

 ズゴゴゴゴ(ドコッ)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 バリバリバリッ

 

 

「行くよ。乗って!」

 

 

 地下から。

 巨大な――人の形をした()()が、立ち上がる。

 

 両腰に()いた二振りの実剣(スパイド)

 肩に背負った、二つ折りの巨砲(バスターランチャー)

 そして――全身をあますところなく覆う、金色(こんじき)の装甲板。

 

 

 次元を引き裂くかのようなエンジン音を響かせて、ゆっくりと身を起こす、その姿は、まるで――

 

 

 黄金の

 電気騎士!!

 

 

 MH(モーターヘッド)ナイト・オブ・ゴールド!

 惑星デルタ・ベルンを牛耳る光の神アマテラスが創り出した巨大ロボット。

 いや、巨大ロボットなどという枠におさまらない、神そのものの力を持つ究極の神機!!

 

 

 星団最強の存在が、今――ゴジラの前に……立った!!

 

 

 ポプ子は胸部コクピットに乗り込み、同じく頭部コクピットに入ったピピ美に通信を送る。

「ピピ美ちゃん、こいつは私でさえコントロールできなかったんだ。注意して!」

「わかった」

 

 

 一方、ゴジラは本能で悟っていた。

 目の前にいる、この黄金の巨人は、ただの機械などではない。

 人の技術をはるかに超越した魔物――あるいは神そのものなのだと!

 

 ゆえにゴジラは、迷わずナイト・オブ・ゴールドに狙いを定めた。

 最強最大の敵を、焼き尽くすために。

 

 

 ピピ美がそれを察知する。

「ポプ子! バスターロックだ!」

「なに、こっちにだってあるさ」

 

 ナイト・オブ・ゴールドが、肩の巨砲(バスターランチャー)を展開した!

 

「エネルギーチャンバー内で正常に加圧中!」

「ライフリング回転開始」

「シアーの開放タイミングは私が!

 トリガーをそちらに!」

「わかった!」

 

「「当たれえ!!」」

 

 

 

 ゴジラの最終放射線流と。

 ナイト・オブ・ゴールドの超破壊兵器が。

 

 東京の空で、激突した!!!

 

 

 カッ!!!

 

 

 

   *

 

 

 爆発の余波が、時空をひずませる。

 そのために、空は、ゆらゆらと揺らめいて見える。

 

 

「ゴジラは……?」

 

 

 余波が収まり、朝日がのぼり、洗浄を明るく照らし出す。

 巨大不明生物の姿は――ない。

 

 

「目標、完全に沈黙――」

 

 

 ポプ子とピピ美は、コックピットを飛び出した。

 空中で、ふたりは固く抱きしめあった。

 

 

「「勝利だ―――――っ!!」」

 

 

(エピローグに、つづく)




※本日6/2 18:32にエピローグを更新します。


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エピローグ

 

 

 矢口蘭堂が走ってくる。

「ポプ子さーん!」

 

 

 ポプ子とピピ美、手を振って彼を迎える。

「おー! ()ったどー!!」

 

 

 三人は、荒野と化した東京を、丘の上から眺めおろした。

 

 矢口蘭堂は、目に涙を浮かべている。

「我々は勝利した……

 だが、その過程で失われたものは、あまりにも大きい……」

 

 

 空に、死んでしまった者たちの顔が映し出されるように思えた。

 

 大河内総理……

 ヘルシェイク矢野……

 マグマミキサー村田……

 志村祐介……

 公爵(デューク)空歩男(スカイウォークマン)……

 Twitterで物申すマン……

 尾頭ヒロミ……

 ベーコンムシャムシャくん……

 巨災対のみんな……

 

 そして日本の……世界中の、数知れない犠牲者たち……

 

 

「みんな、死んでしまった。

 もう……

 戻ってくることは……ないんだ」

 

 

 人々の死を(いた)み。

 矢口蘭堂は、静かに涙した。

 

 

 彼の背に、そっと優しく触れる手のひらがある。

 

 左右からひとつずつ、彼に差し伸べられる手のひら。

 ポプ子とピピ美だ。

 

 

「だいじょうぶだ」

 ピピ美が力強くウィンクした。

 

 

 

「ドラゴンボールで

 生きかえれる!!!」

 

 

   *

 

 

 3日後。

 みんな生き返った。

 

 

   *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作:闇鴉慎

 

 

 次の日、ピピ美が、ポプ子に手紙を持ってきた。

「今日はおたよりが来ています」

「ほう」

 

「『これまでの展開を全部だいなしにするドラゴンボールオチとか最低。

 こんなご都合主義ではずかしくないんですか。

 はじめから書き直しなさい』」

 

 

 フフッ、とポプ子はほほえんだ。

 

 そしてカメラ目線。

 

 

「こんな しょうせつに まじに

 なっちゃって どうするの」

 

 

完 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴジラ vs ポプ子」

STAFF

 

 

原作

「シン・ゴジラ」

「ポプテピピック」

 

 

監督

 

 

脚本

 

 

シリーズ構成

 

 

演出

 

 

音響監督

 

 

現場監督

 

 

図書委員

 

 

CAST

ポプ前ポプ助:俺

ピピ美:俺

矢口蘭堂:俺

尾頭ヒロミ:俺

ゴジラ:ややこしや

オルガ・イツカ:オルガ・イツカ

 

 

 

エンディングテーマ

「ロマンティックあげるよ(あげねーよ)」

作詞:豊臣秀吉

作曲:ガンダムF91

歌:星降そそぐwith地獄震撼楽団(ヘルシェイカーズ)

 

 

 

制作・著作

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

字幕 グンゼひろし  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作:闇鴉慎

 

 

 ポプ子は両手のこぶしを床に叩きつけた。

 

「とれてへんやんけーッ!!

 日間ランキング1位―――――!!!」

(2018/6/2現在)

 

 

 ポプ子が電話をかける。

 

 

「もしもし? (ダク)

 ちゃんと他の作者に感想投げてお返し強要したの?

 

 ツイコミュで信者囲い込み組織票は?

 

 じゃ、複アカで10点爆撃も?

 

 

 は?

 アカロック食らった??」

 

 

 ポプ子、肩をすくめ、ため息をつく。

「はー。

 闇鴉慎(ダクノシン)がまたやりおったわ」

 

 

The End  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに悪は滅びた!

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

 

あらたなる敵が     

   ぼくらの街を襲う!

 

 

 

 

 

 

 

星色は!?

 

 

 

 

 

 

 

Does Girldrop ever exist?

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

新番組

ゴジラvsジャンガリアン

 

 

 

 

coming soon

 

 

 

 




あとがき


 というわけで、これにて「ゴジラ vs ポプ子」完結です。

 以前に書いた「ゴジラ vs 大仏」がご好評をいただき、それに気を良くした私が、露骨に2匹目のどじょうを狙って書いたのがこの作品です。

 こんなクソ小説を最後まで読んでくださったみなさま、ほんとうにありがとうございました!
 信者のみなさまからのお褒めの言葉だけをお待ちしております! 批判とかいりません!! メンタル豆腐なんで!!!!


 それでは、これにて。
 さようなら、みなさん! またガンダムファイト14回大会でお会いいたしましょう………


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