ロリドワーフ・ハイドワーク〜ts転生して地世界生活〜 (うほごりくん)
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プロローグ

初めてのオリジナル作品です。
よかったら感想おねがいします。


 ふと、誰かの声が聞こえた気がした。

 目を開けると、広がっていたのは暗闇。まるで夜のようだが、多分違う。床を、そして壁を覆うものは岩――ここは洞窟。

 小さな松明が等間隔で壁から吊るされていて、ほのかな灯りが辺りを照らしている。

 ごつごつとした岩の床から身体を起こす。

 チクッ、と草みたいなのが肌に触れた。邪魔に思いそれを手で払う。

 それは綺麗な銀色をしていた。銀色の草? いや、違う。それはボクの頭に繋がっていた。これは――髪だ!

 どういう事だ?

 普通の日本人の男子高校生であるボクの髪はもっとずっと短くて、そして黒い。なのにこの髪は何だ……。

 長い。とても長い。一番長いところなら腰よりを下まで伸びていた。透き通るような銀髪に、サラサラと質感。作り物めいた感覚を覚える。

 そしてもう一つ気づいた事。髪を触っているボクの腕が浅黒いのだ。最初は暗い場所だからかと思ったが違う。東南アジア系、もしくはラテン系人種くらいのうっすらした褐色。それにとても細い。まるで子供の腕のようだ。

 ボクはさらに自分の服装も確認してみて、唖然とした。サラシのように胸に巻かれた布。そして下半身を隠している長めのスカート。ナニコレ。

 

 辺りを見回すと、小さな泉があった。中心には小さな祠のようなものがあった。手入れもされているので、誰かが管理しているのだろうか。神聖な場所かもしれない。

 ボクは急いで、その泉に近づいて自分の姿を確認する。

 

 泉に映り込んだボクの姿は――女の子だった。

 

 褐色の肌から長い銀髪を腰近くまで伸ばした見た目は10歳程度の幼女。真紅の瞳が泉からボクを見つめ返していた。正直可愛いけど……誰これ。少なくともボクではない。なんかおでこに刺青みたいなのあるし。

 

 これは夢……なのか?

 ここで起きる前、自分が何をしていたのかを考える。

 確か、模試のために土曜に学校に行って、夕方までその試験を受けて、帰りに友達とコンビニで買い食いをして、あとはそのまま家に帰――!!

 そうだ、ボクは交通事故にあったんだ。

 歩道を乗り越えて迫るトラック。その瞬間を鮮明に思い出した。

 となると、これはまさか……。

「てんせい……」

 かなり高いソプラノボイスでその幼女は――ボクは呟いた。

 死後の世界なのか、それとも王道らしく異世界なのかは分からない。だが、ボクは転生をしてしまったようだ。

 

 女の子に。

 

 ――――ありえない。

 多分ボクは今病院のベットの上で悪い夢を見ているんだ。きっとそうだ。

 よし、夢なら何してもいいはずだ。

「ペラッ」

 胸元の布をめくってみる。ふむ、全く膨らんで無いので男のそれと違いがわからない。小学生の時の自分の胸を見ているみたいだ。

 次にスカートをたくし上げてみる。

 見えたのは純白の綿のパンツ。そしてその下――。

 

 ――どうやら息子はログアウトしたようだ。

 夢から覚めたらまた会おう。

 ボクは慣れないこの小さな体で泉の外周を歩き回ってみる。泉には橋がかかっており、中央の祠まで歩いていける。

 祠は石と木材で作られた古めかしいもの。中はしっかりと閉じられており、中身は確認できない。蜘蛛の巣やホコリが被っている様子はないため、定期的にメンテナンスをしているのだろう。

 ボクは祠から見て橋を渡った先に出入口らしきものも見つけていた。ここに居ても仕方がないし、あそこから出よう。だんだんお腹も減ってきたし。……あれおかしいな、夢なのにお腹が減ってるなんて。

 ボクがそんな疑問を持った時。

「もうすぐ祠だ」

「やっとだね。やっぱりここまで遠いよ」

 出入り口らしい方向から人の声と足音が聞こえてきた。男性の声と少女の声だ。まだ少し遠いのだろうが、反響しているのが聞こえてくる。

「それにしても、本当に救世主なんて現れるのかなぁ?」

「そうでないと困る。あの予言が俺たちの最後の希望なんだ」

 救世主? 最後の希望? とりあえず自分には関係なさそうかつヘヴィーな話のようだ。……というかどうする。この姿のまま人前に出るなんて恥ずかしすぎる。

 上半身は胸部を隠す布だけ。下半身はロングスカートと靴だけ。おへそとか丸見えだよ!? 痴女じゃん!!

「『我らドワーフの未来暗黒に覆われる時、光導く救世主が現れるだろう。』だっけ? 胡散臭いなぁ」

「胡散臭かろうがなんだろうが、もう俺たちはその予言に賭けるしかないんだ」

 近づいてくるその声に気になるワードがあった。

 ドワーフ。確かファンタジー小説やRPGなんかだと土の精霊だったな。鉱山に住んで鍛治なんかをやっているイメージだ。お髭が生えていて、背が低く横に太い。なんて考えていたらとうとう入り口の方から明かりが見えてきた。どうしよう……どうしよう……取り敢えず祠の後ろにでも隠れよう。

「私たちと同じ褐色の肌に、赤い目と銀髪の救世主ねぇ……」

 うん? どこかで見たぞそれ。

 というか、この祠思ったより小さいぞ。この小さな体がギリギリ隠れるくらいだ。

「『その救世主とは、肌は我らドワーフと同じ土精の加護を受けし大地の色。深紅の双眸には未来を写し、透き通るような銀髪を持っている』だそうだ。そして、その救世主の証として、額に『とある紋様』が刻まれているらしい」

 ――ふむ、落ち着け。そっくりさんだそっくりさん。そうだ深呼吸をして落ち着こう。吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。

 男と少女は泉のある空間までやってきたようだ。

 祠の後ろからその姿を覗き見る。

 男はとても大きかった。2メートルは軽く超えている。そして何故か上半身裸。褐色肌の筋肉がむき出しだ。イケ爺だ。

 その男と手を繋いでいる少女は、逆にちっこい。今のボクと変わらない程度の大きさ。髪は肩にかかる程度の短さに切り揃えられている。前髪は少し長くて目元が少し隠れている。服装は――ボクと同じだ。つまり痴女ロリだ。なに、この服は指定服なの?

 そんな孫とおじいちゃんみたいな2人は、橋を渡って祠の前までやってきた。

 そして静かに手を合わせて祈りを始めた。

 

「あぁ、救世主様。我らをお救いください」

「レオ ヲンゲンニ ルベタ……」

 

 少女が祈祷の言葉を唱え始めた。

 ふむ、どうしよう。ここから出られなくなってしまった。

 ボクはどうやってここから逃げ出そうかと考えていた。むしろここは、姿を現して状況確認をするのが一番ではないだろうか。

 

 ミシッ……。

 

 ん、何今の音………………気のせいか。

 救世主かどうかは知らないけれど、とりあえず容姿は似ているから仲間とは思ってくれるはずだ。お約束通り日本語が通じるみたいだし。

 

 ミシミシッ……。

 

 あれ、なんかこの祠傾いてない?

 ボクがそう考えた次の瞬間、ボクを隠していたその祠は大きな音を立てて倒れた。

 ボクはその勢いのまま、前に転がった。

 一回転と半分。おしめを変える赤ちゃんのような姿勢で地面に倒れたボクは――真紅の瞳と目があった。祈祷を捧げていた女の子だ。

「…………」

「…………」

 お互い凍りついたみたいに見つめ合う。

「あー、こんにちは?」

 とりあえず挨拶をして見た。

 女の子の横に膝をついて祈っていた男もこちらを見てワナワナと口を震わせている。

「「救世主が生まれた!?」」

「生まれてないよ!?」

 

 ボクの悲痛なツッコミが洞窟内に木霊した。

 

 

 この日、予言に記されたドワーフの救世主が誕生した。彼女が全ドワーフに救済を与え、繁栄をもたらす。『聖書』と呼ばれる本にその一文が記されるのは、今よりもはるか未来の話。

 



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第1話「ようこそ地世界へ」

二話改訂2.0

 

「ねぇ、やっぱり間違いないよね!」

「あぁ、我々と同じ大地の色をした肌。未来を見ると謳われる彼岸花の様な深紅の双眸。まるでガラスの様に透き通っている銀髪。そして何よりその額の赤き紋様!」

 男と少女が僕を指差す。何このポエム。

 おいおいおい、なんかこれ面倒な流れになっていか? もしかしなくてもさっきの話に出てきた救世主とやらに誤解されてるよね!?

「ま、待ってよ!ボクは救世主なんてそんな……」

「ご自身が救世主だと自覚しておられる!」

「話が早いね! 早速集落にお連れしないと!」

 えっ、何。ボク拉致られるの?

 しかも、これ話聞いてくれないやつかな。なんかダメそう。

「それでは早速参りましょう! なに、精々2時間程度です。すぐに着きます」

「2時間!? 徒歩だよねそれ? 普通に嫌なんだけど!」

「大丈夫ですよ! 2時間なんてあっという間です。鼻歌でも歌ってれば着きますよ」

 少女はクスクス笑っている。何がそんなに楽しいのだろうか。と言うかこの子可愛いな。幼女だけど。……って、ボクも今は幼女か。

「キミさっき遠いってぼやいてたよね!?」 「「さあ行きましょう。すぐ行きましょう。今行きましょう」」

「ちょっ……だから、人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!」

 ボクの悲痛の叫びは洞窟内を木霊した。

 

 

   ■■■

 

「「申し訳ありませんでした」」

 2人揃ってボクに平謝りする。

「うん。落ち着いてくれて何よりだよ。えっと、そうだね……。」

 落ち着いてくれたのはいいけど何から話せばいいのやら。何せボクはこの世界(?)に来たばかりでわからないことだらけだ。とりあえずは……。

「まず、君たちの名前を教えてくれるかい?」

「はい。私はゴドル。こちらが私の妹で……」

「マレラです」

 男はゴドル。女の子はマレラと言うらしい。妹……妹なのか。ゴドルの身長は多分2メートルを軽く越してる。それに対してマレラの身長は1メートルとょっとくらいだ。歳は小学生くらいだろうか。それにしてはかなり丁寧で大人みたいな話し方をしているけど。

「ゴドルにマレラね。ボクはヒカル。早速だけど、さっきは救世主がなんとか言ってたけど、事情を聞いてもいいかな?」

「はい。予言があったのです。我らドワーフの未来を照らす救世主が現れるという内容の予言が」

 何それ嘘くさい。どこの新興宗教だよ。ボクは無宗教だ。イエスキリストノータッチ。

「その救世主の特徴がヒカル様と一致していたので、つい興奮して騒ぎ立ててしまいま した。申し訳ありませんでした」

「様!? それやめて、なんかすっごいムズムズする。呼び捨てでいいから」

「しかし、救世主様に失礼な態度をとるわけには……」

「じゃあせめてヒカルくんとかちゃんとかでお願い。ボクは様付けされるような立派な人じゃないよ」

「ではヒカル殿とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「それならまあ……」

 ……殿かぁ、とりあえず妥協しよう。話が全然進まない。

「えっと、どこまで話してたんだっけ?……そうそう、救世主の特徴がどうのってところだっけ」

「はい。予言にある救世主の特徴がヒカル殿と一致して……」

 

 グゥ~。

 ――……。ボクのお腹だ。

「……続きは集落に戻り、食事をしながら族長達も交えてお話しましょう」

「うぅ~……。そうだね、お願いするよ」

 恥ずかしい。よく見ればマレラの肩が震えている。くっ……。思ったより時間がたっていたのか。話に夢中で空腹に気づかなかった。

「では、参りましょう。少し遠いですが美味しいご飯が待っています。きっとヒカル殿のお口にも合うことでしょう」

 これ以上ここにいても仕方がない。と言うか、やっぱり遠いんじゃねーか! とりあえずはこの世界の事情も知りたいし、付いていくことにしよう。

 

「――でも2時間かかるのか。お腹が背中にくっつくかもしれない」

 ボクはお腹をさすりながらぼやいた。徒歩2時間も何も食べずに耐えられるだろうか。

 そんなボクの心配は杞憂に終わる。

「それなら心配する必要はないですぞ。確かに徒歩なら2時間です――が」

 

 そう言うとゴドルはボクとマレラを抱えた。

 えっ……。

 

「走れば10分です。少し揺れますが辛抱してください。疲れるので普段はやりませんが、救世主様のため頑張らせて頂きます」

 

 衝撃が走った。ゴドルは一気に加速する。ボクの小さな身体に凄まじいGがかかり内臓に負担がかかる。

 ダッダッダッダッ!

 ゴツゴツとした洞窟を気にもせずに、軽快に走る筋肉ゴリラ――訂正、ゴドル。

 速い速い速い――速いって。腕に抱えられるという不安定な姿勢でジェットコースター並みの速さ。怖すぎる。

「ちょ、ちょっ、怖っ。と、止めて!」

「むむ、救世主様何か言いましたか?」

「だ、だから一回止めて!」

「もっと早く、ですと? かしこまりました」

 キリッ、と輝く笑顔でゴドルは答えた。

 さらに加速する――。

 

 あああぁぁぁぁ――――。

 

 ……10分。

 いや、ゴドルが本気を出したから8分と少しくらいだろうか。

 今までの人生でこんなにも長い8分は無かった。

 

「救世主様、大丈夫ですか?」

 地面に突っ伏して、酔いをこらえるボクの背中をマレラがさすってくれる。

 マレラは慣れているのか、全く酔った様子はない。

「うぅ、大丈夫――じゃないけどだいぶ治った」

 口元を押さえてボクは立ち上がった。

「おお、救世主様。急に倒れられたので心配しましたぞ。ささっ、集落はこの先です」

 洞窟の曲がり角には大きな門が備え付けられていた。多分集落の出入り口だろう。……門に描かれた紋様は何処かで見たことある気がする。

 その門は――何かしらの金属製。しかもこの大きさだとめちゃくちゃ重そうだけどどうやって開くんだ? 機械仕掛けか――

 

「よいしょぉおお!」

 

 ゴドルが手で押すと、ゴゴゴゴッと門が開いた。はい力技。何このゴリラ。

 

「さて、では改めまして――」

 ゴルドとマレラは開いた門の前に立つとボクの方へ向き直り。

 

「「ようこそ救世主様、我らの国へ!」」

 ――――っ!

 扉の向こう側は息を飲む光景が広がっていた。巨大な空洞。山をまるごとくりぬいたような大空洞。そこにいくつかの集落があり、その間には牧場と……農地だろうか? 太陽があたっていないのにどうやって作物を育てているのやら。

 ボク達が今立っている場所は集落がある位置より少し高くなっている。空洞の壁に沿って造られた階段を使って集落に降りられるようだ。

「すごい……」

「ここは我らドワーフ族が長い年月をかけて山を1つくりぬいて作った――そして今や最後の国。我らの最後の安寧の地です」

 いやほんとに山ひとつくりぬいたのかよ……まあゴドルみたいなのがたくさんいるならできそうだよね。うん、納得。

「さあ、我らの集落は降りてすぐのところです。族長の元へ参りましょう」

 きっとボクはこの風景と今の気持ちを忘れない。混乱しながらもワクワクしているこの気持ちを。不安を吹き飛ばすほどの感動を。マレラに手を引かれながらそう思った。



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第2話「村」

 壁に沿って螺旋状に連なる階段を一つ一つ降りていく。ボクの幼女サイズの身体でも無理なく降りていけるように階段と階段の間には補助の段差がある。ボクとマレラの幼女コンビは小さな足でチョコチョコと降りていく。

 デカイゴリラ……ゴドルは二段飛ばしでズカズカと降りていく。ボクたちにスピードを合わせているのか、置いてかれる心配はしなくて良さそうだ。

 

 この地下にはもちろん太陽の光は入って来ていなかった。それなのに足元どころか遠くにある家までくっきり見えるほどの明るさだ。所々にある松明だけではこうはならないだろうから何か別の要因があるのかもしれない。

 

 階段を降りきるの村への入口があった。その前には2人の屈強な男達が立っていた。たぶん門番だ。さっき通った大きな扉は外からの侵入を防ぐための外門。こちらは村の出入りを管理するための内門といったところか。

 しかしドワーフは揃いも揃ってこんなゴリラ達なのか……。

 

「ゴドルさん、おかえりなさいっす!」

「マレラ様もおかえりなさいませ。……そちらのお方は……見ない顔ですね」

 

 門番の2人はマレラ達に挨拶をした後、ボクに訝しげな目を向けて来た。いやまぁ、見ず知らずの人を見たらそんな反応をするなんて門番としては当然だよね。でも筋肉ダルマの2人にそんな目で見られると少し恐怖を覚える。

 

「こちらはヒカル殿ですぞ。我らが待望の救世主様ですぞ!」

 

 ゴドルはボクに向かって膝をつき、両手をボクに向けて門番に紹介した。自分の2倍以上の背丈の男にこんな扱いを受けるとこっぱずかしくてかなわない。

 

「ほ、ホントっすか!? 確かに額にあの紋章が!? ついに……ついにあの予言が!?」

「オレ達はついに救われるのか……」

 

 門番ゴリラ2人が涙を流して天を拝み始めた。正直きもい。

 救世主ってそんなすごい存在だったのか。誰が残した予言か知らないけどとんだ迷惑だ。中身は普通の男子高校生のボクにそんな大役出来そうにない。期待が重い。……逃げるか。

 

「私達は今から村長の所へ救世主様を連れて行きます。それから救世主様の事はまだ内密にお願いします。みなさまが救世主様が来たことを知ったらきっとパニックになりますからね」

「ではではヒカル殿参りますぞ」

 

 ゴドルとマレラに右手と左手をそれぞれガシっと握られる。逃げられなくなった。

 

「救世主様、もしかして緊張しておられますか?」

 

【挿絵】

 

 マレラがボクを心配して話しかけて来た。ふむ、首を傾げた彼女はとてもかわいくついついジッと見つめてしまう。短めに切り揃えられた綺麗な銀髪に、パッチリとした瞳。普通に美少女だ。いやいや、そうじゃなくてだな。

 

「いや、緊張なんてしてないよ。それより早く行こう。お腹空いたし」

 

 彼女達に弱みはまだ見せられない。ボクが救世主かどうかは置いておいて、もしこの2人に見捨てられたらボクはこの世界で1人になってしまう。まったく、何が転生だ。夢なら覚めてほしい。好きな漫画の続きが読みたい。

 

 ゴドルとマレラの2人に連れられて村の中を歩いていく。村は思っていたよりも発達していてお店には美味しそうな食べ物が並んでいて、小さいが服屋などもある。

 ドワーフの子供達が、元気な声で走り回っている。それを微笑ましげな目で見守る屈強な男達。そしてその屈強な男に肩車されている幼女。……おかしい。

 

「ねぇ、マレラ」

「はい、いかがなされましたか?」

「この村って大人の女の人が見当たらないんだけど、どうして?」

「えっ……?」

 

 目を大きくまん丸に開けてマレラは首を傾げる。ボク、何か変なこと言ったかな。

 

「その……救世主様。童顔とはよく言われますけど、私はこう見えても大人ですよ。それから、そこの肩車されている彼女は二児の母ですよ」

「んんっ!?」

 

 あのド幼女が二児の母?

 身長は1メートルもないのに!?

 ロリどころかペドだよ!?

 あの人が子供を産んだの? しかも2人?

 

 ここまで考えてボクはある一つの言葉が頭に浮かんだ。カブトムシやアンコウなどに代表される生物は雌雄でその身体が大きく違う。

 

 『性的二形』

 

 人間の場合では男性と女性の性差はあるにはあるが、そこまで大きなものではない。しかし同じ霊長類であるマントヒヒでは雄と雌の体格差は親子と同じくらい違う。

 つまりこのドワーフという種族は雌雄でその体格が大きく異なる種族なのだ。ゴドルに代表される男性は筋肉あふれる屈強なゴリラに。そしてマレラに代表される女性は身長1メートル程度の幼女……合法ロリになるわけなのか。

 

「……はは。まじか。ちなみにマレラは何歳なの?」

「私は今年で18歳になります」

「……ちなみにボクは何歳に見える?」

「私より少し下……くらいでしょうか。16歳くらいでしょうか」

 

 転生前のボクの歳とドンピシャだ。

  それからマレラはボク(男子高校生)よりずっと年上だった。確かにそれならこの丁寧な口調にも納得がいく。……というか、この世界の1年はボクらの世界の1年と同じなのだろうか。18歳(この世界の一年は地球の半年)とかだったら実質9歳だし。

 

「ちなみにヒカル殿。私は24歳ですぞ! 絶賛成長期真っ只中、ヒカル殿のために日々進化し続ける所存です」

「これ以上ゴリラになるのか!?」

「ごりら……とは何ですかヒカル殿? 初めて聞く言葉にこのゴドル興奮を隠しきれません!」

 

 う、鬱陶しい。出会ってからずっとこのテンションで接してくるゴドル。悪い気はしないけどやっぱり鬱陶しい。

 

「ん、あれは何だろう」

 

 ふと視界の端に映ったモノに目を奪われる。漆黒の石像が広場の中央に建てられていた。見た感じだとドワーフの男性個体をモチーフにしているようだが……。

 

「あれは私達の指導者様です。かつて地上の住処を追われ途方に暮れていた私達の先祖を導いて、この大地深くのこの国を築き上げた伝説上の人物です」

 

 マレラがそう答えた。なるほど、話を聞く限り確かに偉大な人物のようだ。つまりは、この地下世界の基礎を作り上げたドワーフと言うことだ。

 

「……と言うことは、マレラ達のご先祖様は昔は地上に住んでいたという事?」

「はい。もう1000年も昔の事と伝えられています。かつて地上で繁栄していた私達ですが、ある日突然現れた邪鬼と言うものに国を襲われ生きる住処を失ってしまったと聞いています。そんな時にドワーフを導いてくれたのが、指導者様なのです」

「じゃ、じゃき……。聞くからに怖そうな単語……」

 

 ゴドル達の先祖。つまり筋肉ダルマ達を擁するこのドワーフの国を壊滅させるなんて生半可な事じゃない。

 

「そして、その指導者様が残した言い伝えこそ、救世主様の予言なのです!」

「お前のせいか!?」

 

 救世主の予言を残したのはあの石像の指導者様という奴らしい。このおっさんのせいでボクはさっきから救世主としてもてはやされているのか……。はた迷惑な。

 石像をよくよく見てみると、額のところに紋章が刻まれている。転生したあの泉で見た自分の額と同じ紋章。

 自分の額をなぞってみる。特に何か感触があるわけではない。

 

「救世主様、そろそろ行きましょう。もうすぐ村長のいる屋敷に着きますよ」

「あぁ……」

 

 ボクと同じ紋章を持つ指導者という人物。住処を追われたドワーフを救い救世主の予言を残したと言われている……。一体何故ボクは転生してきたんだ。謎が深まるばかりだ。

 

 それからしばらく歩く。

 村の外れにある丘の上にその屋敷はあった。今まで見てきた家とは比べ物にならないほど大きい。普通の民家と学校くらい違う。

 この大きさだと住処と言うよりは役所的な感じなのかもしれない。

 

「ゴドル様、マレラ様おかえりなさいませ」

 

 幼女が出迎えてくれた。まぁ、多分大人なんだろうけどボクには見分けがつかない。

 

「父上……村長に御目通り願いたい」

「かしこまりました。『翡翠の間』でお待ちくださいませ」

 

 父上が村長って事はゴドルってお偉いさんの子供だったの! ゴリラなのに。

 そうなると兄妹のマレラも村長の娘になるわけか。あの泉のある場所で祈祷も捧げていたし低い身分ではないとは思ってはいたけど。

 

「救世主様、どうぞお座りください。私達は立っていますので」

 

 部屋に通されると子供用サイズの椅子に座らされた。確かにボクは今幼女なんだけどね。なんだか恥ずかしいね。

 キョロキョロと辺りを見回す。ボクの座っている椅子の後ろにはゴドルとマレラが侍っている。机に向かって正面にはもう一つ椅子がある。もちろん大きさは特上サイズなので男性が座るようなのだろう。

 しかしそれ以外はこの部屋には何もない。松明で明かりは灯されているが、装飾品は全く無い。話を聞く限りここは客間らしいが……見栄を張る文化が無いのか……それとも……。

 

 コンコン

 

 考え事をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。ドアが開き、ゴドルより少し背の低い男が入ってきた。ヒゲをたらふく蓄えて、男性にしては長く伸ばした銀髪をかきあげて、オールバックにしている壮年の男。超渋い。それに迫力もある。

 その男は私を一瞥して、正面の椅子に座る。マフィアとかにいそう。

 

「初めまして……オレが今代指導者のギレンだ。よろしくな、救世主様」

 

 おっ、ゴドル達と違って盲目的に救世主を信仰している感じではなさそうだ。これはボクが救世主である事を疑っているのか?

 正直ボクも自分が救世主である事を疑っているんですけどね……。

 

「初めまして。救世主……かどうかは知りませんけど、ヒカルです」

 

 握手をするために手を伸ばした。

 そう言えばこの世界って握手って文化あるのだろうか。失礼に当たったらどうしよう。そんなこと考えていたが、ギレンが握手に応じてくれたので杞憂だったようだ。

 

「さて、早速で悪いが本音で話させてもらう。オレは救世主の予言なんてこれっぽっちも信じちゃいねぇ」

 

 ……お、おう。

 これはまた一波乱ありそうだ……。



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第3話「

「父上、何をおっしゃるのですか。待望の救世主様ですよ」

「そうですぞ。ヒカル殿ならきっと私達を……」

 

 マレラとゴドルが父であるギレンを咎めるが、ギレンは知ったことかと踏ん反り返る。

 

「うるせぇ。オレは自分達の運命を知らねぇおっさんの残した予言だの、何処ぞの馬の骨かもしれねぇ救世主なんかに任せたくねぇだけだ!」

「しかし……」

「しかし、じゃねーよ。自分達のケツくらい自分達で拭くんだよ。オレ達ドワーフは誰かに頼らないと生きていけないほど弱くはねぇ。オレ達だけで解決するんだ」

 

 うーん、正論だよなぁ。

 ドワーフの現状がどんな状態なのかは知らないけれど、『救世主』なんて当てにして、ただ待てば救われるなんて盲信に囚われている。そんな想像はしていたけれど、この指導者……ギレンはそんな事はないようだ。

 自分達で考え、解決するための策を模索することができる人物。それがこの男なのだろう。

 

 しかし、それは危うさでもある。

 ゴルドやマレラ、あの門番の様子を見る限りドワーフは何かしらの大きな問題を抱えている。救世主を頼りにしたいほどの大きな問題なのだろう。

 ギレンは優秀な指導者なのだろうが、その裏返しとして自分達だけで解決しようと固執して、他人に頼ることが出来ない。物事の見方を幅広く見辛く、その結果として思考の多様性を失う。

 

 ……期待されるとやる気を失うけど、何もするなと言われるとやりたくなるのがボクなんだよねぇ。

 

「ギレンさん、別にボクの事は救世主だなんて思っていただかなくて結構です。特別扱いもしなくていいです。ですが、1人のドワーフとして今のドワーフの現状を知りたいです」

「……ほぉ〜」

 

 ギレンが値踏みするようにボクを睨んでくる。この人本当に救世主信仰が無いんだなぁ。まぁ、変に持ち上げられるよりもずっとやりやすい。

 彼の双眸がボクの額を一瞥、そしてボクと目が合う。その無言の行動に、つい身構えそうになってしまう。ピリピリと肌に感じる圧力。日本に住んでいた頃は感じたことのない感覚だ。

 

「正直言ってオレ達は詰んでる、そう言っても過言ではない程の窮地だ。この地下世界千年の歴史に終止符が打たれるのもそう遠くはねーだろうなぁ」

「だからみんな救世主を望んでいる。でも貴方はそれが嫌。現れもしない幻想に期待せずに、今ある現実だけで……自分達の力だけで危機を乗り越え無ければならない」

「あぁ、そうだ」

「だったら、ボクは救世主じゃなくていい。貴方達の仲間の1人として手伝わせてほしい」

 

 要はこの男は勝手に救われる事が、そしてそれに期待する仲間が嫌なのだ。だったら一緒に協力すればいい。勝手に……ではなく一緒になってドワーフを救うのだ。

 

「まぁ、いいだろう。ヒカル……だったか。オレはこの村の住民の顔は全て覚えている。そしてドワーフの村は今ここ以外には存在しない。オレが知らない顔ってだけでお前が未知の存在って証明になる。そんな『未知』にオレ達の情報はやれない」

「でしょうね」

「だが、お前はドワーフだ。数少なくなってきたオレ達の仲間だ。オレはお前を特別扱いするつもりはないし、情報もやるつもりはない。ただ、居場所だけは与えてやる。……マレラ、ゴドル、お前達が連れてきたんだがらお前らが面倒見ろよ」

 

 ギレンのその言葉に2人はただ頷く。

 それを確認して、ギレンは再びボクの方に視線を戻す。

 

「オレからはお前に何も話すつもりはないが……そいつらが勝手に話す分には何も言わないでやるよ」

 

 つまり「オレは救世主なんて信じねーし、何処ぞの馬の骨かも分からないお前に何も話すつもりはねーから、ゴドルやマレラから話聞けや」って事か。

 

「もし何かするにしてもオレは一切手伝わねーからな、あくまで不干渉でいこーや。1人のドワーフとして自由に行動する権利は保証してやる。この村のルールでもあるしな」

「わかった。でも、もしボクの事を認めてくれたら、その時は力を貸してください」

 

 もし何か問題を解決しようとするならば、最大権力者の力はいずれ借りなければいけなくなる。ボクだけの力ではドワーフは本当の意味では救えない、そんな気がする。

 

「ははっ、それもオレの自由だ。もしオレがお前に力を貸したくなるような事があれば、その時のオレが決める」

「……絶対に貴方の力を借りにくるから」

「期待しねーでまってるよ」

 

 決めた。絶対にこの男のぐうの音を聞いてやる。そのためにもまずは……。

 

 ぐぅ……

 

 ……

 …………

 先に自分のぐうの音を聞くことになるとは思いませんでした。そう言えばお腹空いてましたね。

 

「くくっ、なんだお前。腹減ってんのか。じゃあオレはもう行く。ゴドル、なんか食わせてやれ」

「はい、父上」

「それと、なんだったかなアレ。……国宝? あのゴミをそいつにやっとけ。救世主に渡せって予言に書いてあるんだろ。どうせ使うつもりもねーからな」

 

 え、何それ初耳。もしかしてSSS級チートアイテム!? やっとボクにもチートが!

 でもゴミって……。期待半分不安半分。

 

「それと、もう一つ。そいつが救世主である事はみんなには黙っとけ。頭の紋章も適当に隠しとけや。……確か特別扱いはしなくていいんだろ、ヒカル」

 

 そう言い残し、ニヒルな笑みを浮かべてギレンは立ち去っていった。

 ギレンが部屋から出ると、マレラがプンプンと怒りを吐露する。

 

「もう、父上はいつも勝手なんだから。救世主様、父上の不遜な態度謝ります」

「いや、別にいいよそんなの。それよりマレラ。ギレンがさっき言ってた国宝って?」

「指導者様……、あっ父上のことではなく初代指導者様のことです。その指導者様が予言と一緒に残した国宝があって、それは救世主様に渡すように言い伝えられてきたんです」

 

 おおお、なんかすごそう。

 絶対チートアイテムだよこれ。エクスカリ何ちゃらとか、ゲートオブバビ何ちゃらとか。……それは宝具か。

 

「おお、それで。何処にあるのそれ」

「神殿に安置されていますわ。ひとまず昼食にして、それから行きましょう」

 

 うん、流石にお腹空きすぎてお腹と背中がくっつきそうだよ。腹ペコー。

 

 

   ■■■

 

 

 芋、ポテト、ポテート。

 ボクの眼前に広がる光景。無数の芋料理。えっ、何ここイギリス? イギリスでもまだフィッシュが付いてくるよ!?

 痩せた土地でも耕作できるのが芋だ。穀物と比べても簡単に栽培できる点も魅力的だ。

 

「いや……しかし……うーん」

 

 ここの料理の基本は芋+芋〜微かに野菜を添えて〜だ。胸焼けしそうなほどデンプンだ。そう言えば小学生の頃、デンプンにヨウ素液を垂らしてヨウ素デンプン反応ってのをやった思い出あるけど、ヨウ素デンプン反応って名前そのまんまだよね。偉い学者の名前とか付ければいいのに。

 

「救世主様、もう食べなくてよろしいのですか?」

「ヒカル殿は小食ですな。もっと食べないと筋肉がつきませんぞ」

 

 お皿一杯でお腹いっぱいなボクと違ってまだまだ食べる目の前の2人。ゴドルはともかく、ボクとあまり体格の変わらないマレラもバクバクと平らげていく。あの小さな体の何処にこの量が入るのだろうか。……あと飽きないのかな、芋ばかりで。

 

「この料理ってここでは普通なの?」

「普通……の意味が分かりかねますが、私達が食べる物は基本的にこの芋です。むしろこれ以外の食べられる物といったらこの葉っぱくらいですよ?」

 

 主食芋文化。栄養偏らないのかな。野菜も添えられているけど、こんなのハンバーガーのピクルスレベルだよ!?

 芋には一応香辛料がかかっているので、薄味では無いけれど……。

 これ絶対飽きるよね。食文化の改善って絶対やったほうがいい気がする。というか、絶対する。芋も嫌いじゃないけどバリエーションが欲しい。

 

「しかし、穀物や野菜を栽培するにしても種がいるし、動物を飼育して乳を取るにしてもまずドワーフ以外の動物をこっちに来てから1度も見ていない」

 

 食の改善は一筋縄ではいかないかもしれない。 この地下世界は不自然に明るいとはいえ、太陽のあった転生前とはやはり比べ物にならない。太陽が無ければ植物が育ちにくいのが、ネックになりそうだ。

 

 キュッキュッ

 

 鳴き声?

 物陰から小さな影が出て来た。その影はマレラの身体をよじ登り、肩に乗ってマレラに身体を擦り付けて来た。

 

「マレラ……それは……モグラ?」

「……もぐら? 違いますよ。この子はモグキューのミィちゃんです」

「も、モグキュー?」

「ドワーフによく懐く動物です。可愛いでしょ?」

 

 かわ……いい?

 モグキューは見た目ほぼモグラだし、モグラを可愛いと思うから人それぞれと思うよね。少なくともボクはネコとか犬の方が可愛いと思う。

 マレラはお皿から芋を一欠片摘んでミィちゃんに食べさせる。

 モグキューは食べられるの?

 なんて聞くと引かれそうなのでやめた。芋料理に動物のお肉が加わるだけでもだいぶ食が華やかになると思うんだけどなぁ。

 

「ちなみにヒカル殿。そのモグキューは幼い個体で成長するとこのくらいぐらいの大きさになりますぞ」

 

 ゴドルが手を広げてサイズを示す。大型犬から猪くらいだろうか。どうにかして家畜化して乳とか取れないかなぁ。あと肉。あぁ、お肉食べたい。

 

 キュッキュッ

 

「よかったら救世主様も触って見ますか?」

 

 マレラは手のひらにミィちゃんを乗せてこちらに近づけて来た。いや、ミィちゃん怯えてるよ。キュッキュッ言って手のひらから逃げ出そうと足掻いてるじゃん。

 

「あっ……」

 

 ミィちゃんは無事(?)マレラから逃げ出して、走って逃げて行った。

 ボクが食用とか考えていたのを察知したのかもしれない。

 

「すみません、救世主様。いつもは暴れる子ではないんですよ」

 

 いや、こっちがほんとごめんなさい。今度会った時は純粋な気持ちで触れ合うつもりだ。……でもやっぱりお肉食べたい。

 



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