あまぞんず (ランブルダンプ)
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AMAZON GIRL

いつだったのかはもう覚えていない。
『遥か』というのには一般的な感覚から言えば短すぎる。
しかし、私にとっては彼女と出会った一年は今まで生きてきた中で一番鮮明な記憶として輝いているのだ。

一年前、『実験体』と呼ばれていた私達があの場所から逃げ出してから。



朝、目が覚める。時計を確認すると六時を過ぎていた。

隣でまだぐっすり寝ている彼女を見やる。

 

「当番撫子(なでこ)だけど……まぁ今日くらいは朝ご飯作ってあげるか」

 

昨日試験勉強を夜中までやっていた姿を見ているので少しは甘やかしてもいいかなと思い、起こさないようにそっと布団から抜け出してキッチンに立つ。

 

「適当に作ればいいよね。ザ・和食みたいなの」

 

冷蔵庫から材料を出して味噌汁と油揚げ、昨日冷凍したご飯をレンジでチンして盛り付ける。

ほうれん草のおひたしを最後に作ってると寝室からドタバタと音がして、開き放たれた扉から撫子が飛び出してきた。

 

「リンちゃん!リンちゃん!!寝坊した!!……ってあれ?」

 

テーブルに盛られた料理を見て驚いている。

 

「昨日頑張ってたからね。今日は特別に私が朝御飯作っといた。顔洗ってきなよ」

「!助かったよ!ありがとー!」

 

洗面台へ駆けていく彼女を見送り、おひたしに鰹節と醤油を掛ける。

 

「しかし、アマゾンが料理ねぇ……」

 

出会って暫くした頃の彼女が言ってた『だったら普通の料理でも美味しく思えるのを作ればいいじゃん!』というのを思い出す。

お陰で食人衝動も他のアマゾンと比べて大分低くなってると思う。

 

「味付けも丁度良いよ!リンちゃん!」

「そっか、良かった」

 

最初は味を感じづらかったので、つい濃いめの味になってしまう事が多かったのだが、最近は人間の撫子が食べても平気な味になってきたみたいだ。

私も今の味付けで美味しく思えるのは人間に上手く擬態出来るようになったからかな。

 

……つーか撫子いつの間に戻ってきてたんだ。

 

「御馳走様でした!!」

「早っ」

「今日は試験でいつもより早めに帰れるから!行ってきまーす!」

 

食べ終わって素早く準備を終え、嵐のように撫子は鞄を抱えて出ていってしまった。

 

「まったく……」

 

鍵を掛けて行かないなんて……本当に信じてるんだな、私を。

自分の朝御飯用に卵を三個茹でつつ、部屋の隅にまとめてある分解したアマゾンズレジスターから取り出した薬剤を右手首に着けた改良型アマゾンズレジスターに一週間分装填していく。

 

七つ全部入れ終わると丁度お湯が沸騰する音がしてきたので火を止めて茹で卵を取り出す。

そして、卵を食べつつパソコンの電源をつけネットで獲物の痕跡を探していく。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ネットの書き込みやクチコミを調べて得た情報から目星をつけた場所の近くまでバイクを走らせやってきた。

 

「この辺かな……」

 

バイクを停めて辺りをうろつく。

遠くに見えるのは新しく出来たマンションだ。住民の募集は今は全部屋が直ぐに埋まったために行われていない。

クチコミだと数人奇行を行うマナーが悪い住民が居るようだ。

 

「……居るな」

 

同族を感知する能力は他のアマゾンより強いと自負している。

一回あの赤いアマゾンに殺され掛けてから成長したのだろうか?

 

マンションから出てきた人影が二つ。

一人はまるで逃亡している殺人犯みたく辺りをキョロキョロ見ながら、もう片方は買い物袋を肩に掛けている男女の二人組だ。

人間の皮を被ったエイリアンが人間の振りをしているみたいだった。

 

「確定かな」

 

物陰から歩いていき、然り気無く二人の側を通り過ぎる。

二人は私がすれ違う距離に近づいて漸く私がアマゾンだって気付いたみたいだ。

 

「……あんた」

「貴女、もしかして……?」

 

案の定話し掛けてくれた。

 

「もしかして……ってあなた達も?」

 

無知を装って返す。

今までの私が殺してきた何人もの実験体と同じく安堵の微笑みを浮かべている。

 

「私達、あのマンションに住んでるの。貴女は?」

「私は別の場所で、アマゾンがオーナーをしてるマンションが有るんです」

 

驚いた顔をしている。もちろん嘘だが、どこかにはそんなマンションも存在しているのかもしれない。

何せ実験体の数は4000匹以上だ。

どんなミラクルが起きても驚かない。

現に撫子って嫁がいる勝ち組な私みたいなのも居るし。

 

「他に知り合いの人って居ますか?」

 

こないだはこの質問で三人狩れたので毎回するようにしている。

 

「あぁ、向かい側のマンションに俺達みたくシェアハウスで住んでいる人達が二人居るよ」

 

男性はにこやかに教えてくれた。

女性の方は良かった!知り合いが増えて!と喜んでいる。

 

「そうですか……少しそこの公園で話でもしませんか?お互いに有益な情報も交換出来そうですし」

 

 

暫く歩いて人気の無い公園へと到着した。

今日は平日、子供は居なくて付近は木が密生している。

 

「あの……それで話なんだけど」

「俺達と一緒に住まないか?一緒に居た方が何かと手助け出来るだろ?」

 

二人とも私に話し掛けてきた。

何も疑っていない表情で。

 

そんな彼らの善意に感謝しながら、私は右手の改良したレジスターに取り付けてあるスイッチへと手を伸ばし、

 

「………………アマゾン」

 

直後、紫色の爆炎が私を中心として吹き荒れた。

二人の実験体は反応出来ず吹き飛ぶ。

 

爆風の中心に居た私は紫色の装甲を纏った化物の姿へと変貌していた。

 

逃げ出す、という行動を二人が選択する前に右腕のアマゾン細胞へと攻撃意識を向ける。

音を立てて細胞が組み変わり、鎌めいたアームカッターを形成する。

 

「死ね」

 

驚愕の表情を貼り付けたままの頭部が二つ地面に転がった。

公園の地面を実験体の血が染めていく。

 

私が変身を解除する頃には、二つのアマゾンズレジスターが転がっているだけになっていた。

 

「…………これで私の理性が二年増えた」

 

直ぐに拾い上げてその場を立ち去る。

停めておいたバイクにまたがり、撫子が帰ってくる時間までに帰るれるようにアクセルを踏み込んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

家へ帰るとまだ撫子は帰っておらず、バイクを片付けていると背中から声を掛けられた。

 

「あれ?出掛けてたの?」

「ちょっとね」

 

余り語らず部屋へと入る。

 

「ただいまー!それと、おかえりー!」

「おかえり」

 

部屋に入ると背中から抱きつかれた。

彼女に密着して伝わってくる彼女のいい匂い。

それが堪らなく愛しくて、その感情とは逆の暗い感情も沸いてきて。

 

「……離して」

「はいよー。……リンちゃんはいつもの、なのかな?」

「……やっぱ分かるよね」

 

ポケットに入れてた二つの腕輪を撫子に見せる。

 

「……そっか。お疲れ様、かな?」

 

私が人の形をした生き物を殺してきたと知っているのに彼女はいつも通りの笑顔を向けてくれる。

 

そんな撫子を食べたいと思ってしまうのは私が化け物(アマゾン)だからなのだろう。

 

……私は理性を失って撫子を食べる、なんてしたくない。

 

だから私は同族のアマゾンを狩る。

 

 

彼女と生きる為に。

 



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BATTLE α

「リンちゃんの昔話聞きたい!」
「昔っても一年しか経ってないし、別に聞いてもつまんないよ」
「でも知りたいなーって」

その顔反則……分かったよ。




あの逃げ出した日の夜、私は他の実験体数人と一緒に閉店したショッピングモールへ侵入し、手術着ではない一般人らしい服装を手に入れていた。

他の実験体が暗い店内を更に漁る中、私は懐中電灯とリュックを盗んで直ぐにその場を立ち去った。

 

 

「まさか逃げ出したその日の内に帰ってくるとは思わないよね」

 

ここは元実験体が居た野座間製薬の本拠地だ。

事件が発生しているので警戒はされているものの、逃げた実験体を追うのに力を割いているからか人は少ない。

 

監視カメラに映らないように侵入し、地下の電気は案の定落とされていたので懐中電灯を頼りに進む。

そして、消毒液の匂いが漂う部屋へと着いたので目的の物を探す。

 

「……!あった!」 

 

懐中電灯で照らしながら、壁の棚を片っ端から調べていく。

探すこと10分、私の左腕に付いているのと同じアマゾンズレジスターがしまわれた箱が並んでいるロッカーを見つけた。

箱から中身を取り出して確認し、内側の針に注意しながら残っている腕輪をどんどんリュックへと詰めていく。

6個程入れた所で、私に声が掛けられた。

 

「おい、そこで何をしてる」

 

ハッとして振り向くと、見覚えのある研究員が立っていた。

 

「……っ!!」

 

リュックを素早く背負い、棚から取り出しかけてた箱を投げつける。

男が怯んだ隙に部屋のもう一つの出口から脱出を図る。

 

「おい!待て!」

 

男の怒号を聞きながら地下の通路を全力で走る。

地下を抜け出し、建物の外へと飛び出て追っ手を振り切るまで駆け続けた。

 

 

 

 

 

「奴が盗んだレジスターの数を数えろ」

「警備員は何をしていた!」

「いや、予想外過ぎる。逃げた実験体がその日の内に戻ってくるなんて」

「ただ逃げた他の実験体とは思考が違う」

「どうやって駆除すれば……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

逃げ出した日から一週間、私は手に入れた5個のレジスターを抱えて逃亡していた

ホームセンターへ盗みに入り、半田ごてや精密ドライバを手に入れたので電気が通っている夜中の高校に侵入しレジスターを分解して構造を把握する事を毎日繰り返す。

 

「取り敢えず10年分か……」

 

他の実験体と比べたら五倍も人間で居られる。

しかし、それ以上は……

 

「……理性を失ったアマゾンと化して駆除されるのがオチだな」

 

となると他の実験体を殺して腕輪を奪うしかない。

この身体がどれだけの寿命なのかは分からないが80年分も有れば大抵の事はやれるだろう。

生ききった、と言えると思う。

 

「そうなるとこれから仲間を狩らなきゃな……」

 

そう考えてリュックを背負い、片付けを開始した時だった。

 

足音が聞こえた。

 

誰も居ない筈の校内から。

 

「…………!」

 

急いで教室の窓に駆け寄り開け放つ。

窓枠に足を掛けて飛び降りようとしたその瞬間。

廊下から発生した凄まじい衝撃波が部屋の扉を吹き飛ばし、開いた窓ガラスから逃げようとしていた私も衝撃波を喰らい吹き飛び、校庭に叩き付けられた。

 

「あ゛っぐ…………」

 

背中を打ち呼吸が出来ず喘いでいると窓から何か飛び出してきた。

 

「お前……研究所から腕輪盗んだろ」

「はぁ、はぁ……それが?人を食べたくないからだよ。悪い?」

「悪くないさ、お前達はそういう生き物だ……だから俺が殺す」

 

そう宣言すると赤いアマゾンが襲い掛かってきた。

痛む身体に鞭打って逃げる。

 

しかし、

 

「何て……速っ……!」

 

距離は広がるどころかぐんぐんと追い詰められていく。

 

死にたくない。

 

「…………!あぁぁぁ!!アマゾン!!」

 

蒸気を上げて全身の細胞に攻撃意識を送り 込み、触手生やした異形へと変化する。

 

「ほぅ……抑制剤があるからって無茶してるな」

「うるさい!!」

 

背中の触手て相手の腕を押さえて組み付く。

しかし、両腕に生えた鋭い器官に切り裂かれて逃げられてしまう。

 

「くそっ!」

「…………」

 

こちらの攻撃を全ていなされて、また一つと触手を切り落とされる。

 

(ヤバい、強い)

 

死ぬ。その言葉が何度も脳裏をよぎる。

端的に言えばビビってしまっていた。

そんな私が、その攻撃をかわせたのは偶然だった。

【Violent Slash】

 

直感に従いマトモに当たれば胴体が真っ二つになるであろう攻撃を身体を捻って避ける。

代償は腕輪の付いた左腕だった。

「がああぁぁぁぁぁぁあああ!!!??」

 

骨まで切断されて辛うじて繋がっているだけ、触手はあと一本しか残っておらず全身は裂傷だらけ。

 

「ぐる゛な゛ぁぁぁぁぁ!!!」

 

タコのアマゾンとしての能力で相手に墨を吹き掛けて視界を潰す。

相手が払っている隙に全力を振り絞って校舎内へと逃げ込んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

廊下をヨロヨロと進む。

変身を保つだけの体力はとうにないので人の姿でだ。

 

「ハァっ……ハァっ…………」

 

ぶらんと垂れ下がった左腕を眺める。

そして、この状況を切り抜けるたった一つの案を思いついた。

 

 

辛うじて繋がっていた腕を引き千切る。

痛さで身体が強張る。

次に奴が納得するだけの血を撒く。

服を脱ぎ捨てて倒れ込んだ様に見せ掛ける。

 

左腕が溶けて腕輪だけが転がった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

死に掛けの私が出す波動は随分と小さく、奴は私が逃げたのに気付かず、アレを死体だと思ってくれたみたいだった。

 

多分。追われてないのがその証拠だと思いたい。

 

あの後、全裸のまま逃げ出した私だがそのまま露出狂として逃げた訳ではない。

一度アマゾン態に変化したのが切欠で人間態でもその能力の一部分、体表の偽装ができる様になった。

つまり透明人間である。

 

この能力を使って学校周辺の制服屋に侵入して服を頂いた。

一着くらいバレないだろう。

 

そして朝、一番の問題である腕輪の話だが

 

「本当にヤバい時用に一個埋めといて良かったー……」

 

学校へ侵入した時にタイムカプセルが卒業生によって埋められてる場所を知ったので、万が一の時の為に埋めておいたのだがそれがこんなに早く役に立つとは……

 

掘り出して直ぐに右腕に嵌める。

 

「痛っ……てぇ……」

 

せっかく手に入れた腕輪を五個失ったのは痛い。

だが、その経験を糧にして生き延びてやる。

 

そう私は朝日に誓うのだった。



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「これで終わりかな」

 

つい先程殺したアマゾンの体液を公園の水道で洗い流しながら私は呟いた。

戻って、地面に広がる染みの中から腕輪を拾い上げる。

そろそろ目標の80年分を集め終えそうになってきた。

抑制剤は1日に一個消費されていくので、脱走した日から一年半以上経った今では一体当たりの狩る旨味が少なくなってきている。

 

(しかも人によってはちらほら覚醒しそうになってるのも居たし)

 

そういう人の所にはあの赤いアマゾンも居たので基本近づかず遠くから眺めてすぐに逃走する事にしている。

 

あの時以降、私は向上した同族感知能力を使って赤いアマゾンとは一度も顔を会わせていない。

 

「あー、疲れた。帰って撫子のご飯食べよ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あ、おかえりリンちゃん」

「ただいま」

 

ご飯作るね~♪と台所へ行ってしまったので、そのままリビングの私のコーナーへと向かい、そこに腕輪を置いてから着替える。

 

「あ、そうだ」

 

ポケットにさっき殺したアマゾンが持ってた財布を入れていたのを思い出して取り出す。

 

「おー、五万も入ってた。それにクレジットカードも」

 

撫子の一人暮らしに便乗させて貰っている私だが、家賃と食費はキチンと殺したアマゾン達のポケットマネーから支払っている。

 

「明日辺りに引き出してくるかー」

「また悪い顔してる……」

 

食事を乗せたトレイを持ってきた撫子があきれた表情で私を見てくる。

 

「別にいいじゃない、狩りの成果だよ?」

「追い剥ぎの間違いじゃないの?」

「いずれ人を食べる化け物を狩ってるんだから悪く言われる謂れは無いですよー」

「……ま、リンちゃんが無事ならそれでいっか」

 

何事もなかった風に切り替えて机にトレイを置き食事の準備に戻る撫子。

 

「切り替え早くない?」

「その追い剥ぎも元はと言えば私を食べない為だし、私もその原因の一つだからね」

「あぁ、うん。……ありがとう」

 

戸惑ってると、食事の準備を終えた撫子が「はい」と手を伸ばしてきた。

 

「ご飯出来たよ。食べよ?」

「……分かった」

 

調子狂うな、まったく。

 

 

 

 

ご飯後、洗い物をしている撫子に話し掛ける。

 

「明日からさ、私が学校まで送り迎えするよ」

「アマゾン関係?」

「うん、早い奴だと腕輪の期限がそろそろ切れるみたいだから」

「おっけー。リンちゃんと学校行けるの楽しみだなー!」

「学校は行かないよ、入口まで」

「ですよねー。あ、でも友達に何て説明しよう」

 

確かに、この撫子と同年齢か少し低い見た目で保護者名乗れる訳ないし。

取り敢えず思いつくところから言ってみるか。

 

「妹」

「髪色が違い過ぎるね」

「従姉」

「学校は?」

「ペット」

「私が異常者になっちゃうよ」

「性奴隷」

「していいの?」

「えっ?」

「……何でもない」

 

え、何か生存本能が怯えてるんだけど大丈夫なのかな。

出会った記念で半年前にくれたチョーカーってまさかそういう?

あれ着けてると落ち着くけどさ。

 

(……あれ、首輪着けて落ち着くって冷静に考えたらヤバない?)

 

地味に戦慄していると撫子が提案してきた。

 

「ま、普通に彼女でいいんじゃない?」

「いいの?男装とかしようか?」

 

してもショタにしかならん気がするけどさ。

 

「ボーイッシュもいいけど、そのままで。変に隠すより開き直った方がいいんじゃない?」

「なら私は高校中退してストリートパフォーマー目指してる人って設定にしようかな」

「リンちゃん身体能力高いもんね」

「アマゾンですし」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

そんな約束を撫子としてからそろそろ半年。

今日も撫子を送り届けると近くの銀行で今まで手に入れたクレジットカードを使いお金を可能な限り下ろす。

姿は能力の【偽装】で死んだ人と同じにしているので疑われる心配は無い。

 

お金を手に入れホクホク顔で銀行から出て、撫子が帰る時間まで暇を潰そうとしたのだがふと同族感知に異様な反応があった。

 

「……アマゾン?今のが?」

 

何か違和感を感じながらバイクで向かうと、一人のワイシャツを着た男が服装と場違いな山へと登っていくのが見えた。

 

「げ、あの赤いアマゾン居るじゃん」

 

感知範囲を広げるとアマゾンが何体も集まっている。

 

「近付きたくないけど……撫子に何かあったら嫌だし……」

 

【擬態】でカモフラージュしながら現場へと近付く。

山の高い位置まで登り見下ろすと、銃を持った複数人の集団が一人のアマゾンを連れて辺りを警戒している。

 

「アマゾン狩りのチームかな、野座間の」

 

暫く観察していると赤いアマゾンが参戦し、次にさっきのワイシャツ男が緑アマゾンに変身してあっという間にコウモリアマゾンを倒してしまった。

そしてアマゾン狩りの集団の一人がトンボアマゾンになり逃走していった。

 

「見た所撫子の学校と家とは逆方向だし見逃していっか」

 

それでも一応心配なので直ぐに下山して撫子の高校へと戻り、近くの自販機でコーヒーを買って飲みながら撫子が出てくるのを待つ。

 

「あ、リンちゃーん!!」

「撫子、お疲れ」

 

走ってきた撫子を抱き止める。

少し話していると、じきにに撫子の友達も追い付いてきた。

 

「相変わらず撫子はリンが居たら走ってくんだな」

「体育の時もやたら速いし、どこにそんな体力あるんや?」

「あはは~」

 

撫子の友達、大垣千明と犬山葵さんだ。

撫子が入っている「野外活動サークル」という部活のメンバーでもある。

 

私はバイクを押しながら三人と歩いて家まで向かう。

 

「そういやリンってストリートパフォーマーらしいけど儲かってるのか?」

「千明やめーや、そういう勘繰りは」

「別に構わないよ。金額は伏せるけど撫子に家賃と食費渡して趣味に使える金額が少し余るくらい」

「おー、すごいじゃんか!」

「せやな~」

 

犬山さんが感心した目付きで見てくる。

……撫子サンその目止めて。

間違ってないから……ストリート(人気の無い場所で)パフォーマー(アマゾン狩り)だから間違ってないし。

 

「今度私も見てみたいなー」

「いやぁ知り合いに見せるのは恥ずかしいし……」

 

見られたら殺さないとだし……

 

「アーティストに似つかわしくない奥ゆかしさやな~」

 




帰宅後

「リンちゃんって嘘が上手いよねー」
「許して下さい撫子サン」


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Decide

例のシャツ男を見た次の日。

 

「何で出会っちゃうかなー……」

「リンちゃん、知り合い?」

 

撫子と学校の帰り道を歩いていると、件のシャツ男が憔悴した表情で立っていた。

 

「君は……僕と同じ……?」

「そーだよアマゾンですよ。撫子の事食べようってんなら殺すよ?」

「知り合いなの!?」

 

突然の物騒な会話に驚く撫子。ごめん。

 

「食べる訳、ない……僕は……僕は……!」

「あー、昨日見て思ったんだけど、アンタ何か特別なアマゾンだったりするの?」

「リンちゃーんそろそろ説明プリーズ」

 

うん、先に話しちゃおうか。

 

「ごめんごめん、説明するよ。昨日撫子が帰る時間の前にこの人と例の赤いアマゾンと他四体のアマゾンが居てさ、私達の住んでる場所とは逆方向に逃げたから放置してたんだけど」

「今日はそっちの人から来たって事?」

「そうだね」

 

そこまで話してシャツ男の方に向き直る。

 

「で、何の用?」

「用があるって訳じゃ……ただ歩いてたらここに」

「同族感知がずは抜けてるのかな、腕輪着けて何年?」

 

返答次第ではここで殺そうと思ったのだが、予想とは違う返答が帰って来た。

 

「昨日」

「は……?昨日!?」

 

え、マジで?と固まってると撫子が声を掛けてきた。

 

「リンちゃん、何か事情あるみたいだし話だけ聞いてみれば?」

「……そうだね」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

自宅は知られたくないので近くのカフェへと向かい、取り敢えずコーヒーを頼んで飲みながら話を聞く。

途切れ途切れの話だったけれども大体内容は把握した。

 

「つまり悠は昨日まで自分がアマゾンだって知らなかったと」

「うん」

「そういうのってあり得るの?」

「抑制剤の代わりの何かを取ってれば平気だと思う。多分話に出てきた注射がそれだったんだよ」

「それを打たなかったから……」

「抑制剤が切れてアマゾンになったんだね」

 

あれ?ちょっと待てよ。

 

「悠、今人を食べたいって思ってる?」

「お腹は空いてるけど思わないよ……」

「どうかしたの、リンちゃん?」

「アマゾン態になるって事は抑制剤が切れたアマゾンと同じ状態で、食人衝動が抑えられなくなるのが普通なんだけど……今の悠って抑制剤切れる前とほぼ同じ状態だよね」

 

最初に見たアマゾン態の時も真っ先にコウモリアマゾン狩りにいってたし……そばに人が居たのに。

 

「どこか特別製なのかな?食人衝動より闘争本能の方が勝ってるとか」

「そうなの……かな」

 

私も考え込んでいると撫子が耳打ちをしてきた。

 

(リンちゃんリンちゃん、新品の腕輪だけど倒さないの?)

 

たまにサラッと恐ろしいよな、撫子って。

 

(それもちょっと考えたけどさ、ああ見えて悠って私より強いよ?)

「そうなの!?」

 

撫子がビックリして大声を出す。

 

「どうかしたの?二人とも」

「ななな何でもないよ!?」

 

貴方の殺害計画です♪とか言える訳ないし!!

 

(なーでーこー!声大きいよ!)

(ごめんごめん、リンちゃんがそういうのって珍しかったから)

(ここは下手に敵対するより恩を売っといた方が後々為になる気がするから)

(リンちゃんがそう決めたならオッケーだよ)

 

よし、じゃあここからどうするか。

悠には何か事情を知ってそうな水澤母を尋ねに行ったら?とでも伝えるか……

 

あれ?

 

「悠と……もう一人?」

 

目の前の悠の反応に気を取られ過ぎてた。

気付けば店内には私達以外誰も居ない。

 

「撫子!机の下に隠れてて!」

「え?うん!分かった!」

 

キョトンとしている悠の腕を掴んで席から離れる。

レジ付近に置いてあった袋入りのワッフルを纏めて掴み悠へと放る。

 

「食べなよ、カロリー必要でしょ」

「そうだね」

 

袋を引き裂いて取り出し、一気に食べる。

 

「手伝って貰うよ」

「……分かった」

 

私は腕輪を、悠はドライバーを構える。

 

「アマゾン」

「オォォォォォ!!ア゛マ゛ソ゛ン゛ッ!!」

 

同時に変身したのはいいのだが、

 

「い、痛ってぇ……」

「ご、ごめんねリンちゃん……」

 

悠の変身時の衝撃波で私だけ壁に叩き付けられて暫し悶絶。

すると、厨房から人間の腕だけを手に持ったアマゾンがゆっくりと歩いてきた。

 

「悠!」

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

怒号を上げてオメガが飛び掛かる。

避けられるも着地と同時に足払いをして相手のマウントポジションを取り、両腕の連打を浴びせる。

 

堪らず相手は両腕の翼を広げて風を巻き起こしオメガを吹き飛ばす。

すぐさま逃走に移ろうとするが、

 

「逃がさないよ」

 

私の右手から生やした触手が足に絡み付き地面に引き倒す。

体勢を整える前に飛び掛かり、左手の触手をオメガのアームカッターに擬態させて斬撃を喰らわせる。

 

一際深く切り裂かれ相手が膝を着いた瞬間、

 

「悠!」

「【violent punish】」

 

肥大化した悠の右腕のアームカッターが背中から深く突き刺さり、

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

引き抜かれたその右手にはアマゾンの心臓がぶら下がっていた。

 

 

 

悠の標的が此方に移る前にさっさと変身を解く。

暫く唸っていた悠も興奮が収まったのか変身を解除した。

 

「ありがとね、手伝ってくれて」

「ハァハァっ……はぁ……」

 

まだ呼吸が収まっていないみたいなので溶けたアマゾンの亡骸の中から腕輪を拾い上げる。

 

「リンちゃん、さっきの姿は……」

 

やっぱり訊かれると思ってた。

 

「仁さんそっくりだって?」

「うん……色と能力以外はあの人そっくりだった」

「全部話すと長くなるから端的に話すと、私もアマゾンだから闘った事があるんだよ、あの赤いアマゾンの仁って人と。で、私の能力は【擬態】。戦闘に向いてるフォルムだったからね、腕の触手の硬度弄って悠と仁のみたいにアームカッターとして使ってるんだ」

「そうだったんだ」

 

驚いた顔で頷いている。

そんな悠にさっき拾った腕輪を渡す。

 

「はい、これ持っていけば悠が人類の味方って分かってくれるでしょ」

「僕は……人間の味方って訳じゃ」

「どっちにつくにしても、今の社会は人間中心だからね。決める時まで人間側に居た方がいいよ」

「……ありがとう」

 

腕輪の信号で駆除班が来る前に撤退しようと撫子の隠れている場所へ呼びにいく。

 

「あ、そうだ。他のアマゾンが皆私みたいだって思わないでね」

「それってどういう……?」

「他のアマゾンは皆『生きる為に人を殺してる』って事」

 

怖かったのか、撫子は机の下から出るとすぐ抱きついてきた。

背中をさすりながら、悠の方を向いて私のスタンスを彼に告げる。

 

「私は『撫子と生きる為にアマゾンを殺す』……端から見たら人類の味方だけど、私が味方してる人類は一人だけ」

 

「撫子だけだから」



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Engage

ものすんごい数の反応があったからつい来てしまった。

その結果が……

 

「ハァー……」

「そんなため息つくなって、ハハハ」

 

横に居る鷹山仁に私が生きてるのを知られたって事だ。

 

「あー……悠と駆除班に任せて放って置けば良かった……」

 

嘆く私を笑いながら、仁さんが私に訊いてきた。

 

「お前まだ腕輪平気なのか」

 

返答次第ではここで殺す気だよねこの人。

 

「未覚醒の実験体襲って使える腕輪集めてたからね。全然平気だよ」

「ふ~ん……ま、俺の手伝いをするってんなら殺すのは最後の方にしといてやるよ」

「そうさせて貰いますよ。私の大切な人の為にも覚醒したアマゾンは殺さないといけないんで」

「何だお前……人間の彼氏でもいるのか?」

「彼女だよ」

「……あ?」

 

そのびっくり顔が見れたので二年前に左腕を斬られた恨みも少しは晴れかな。

 

「反応も170体以上わんさか居るし、さっさとその駆除班のサポートに行こうぜ、おっさん」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

兵隊アリアマゾンはかなり弱く、屋上までの道中変身しなくても倒す事が出来た。

 

「よい……しょっ!!」

 

屋上へのドアをアマゾンごと蹴り飛ばして開ける。

見れば悠が変身解除して床に転がっていた。

 

「やっほー」

「よお」

「君は……!それに仁さん!」

 

仁さんが悠の方に向かったので、私は駆除班の人達の手助けに向かう。

 

「どーも!駆除班の皆さん!私野良でアマゾン狩ってる善良なアマゾンでして……」

「自己紹介はいいから助けろ!!」

 

リーダーの人に怒鳴られた。

 

「はいはい…………アマゾン!」

 

近寄って来ていたアリアマゾン数体を熱気で吹き飛ばす。

相手がよろめいた隙に腕部のアームカッターで首をはね飛ばす。

 

「おお、やるじゃん……」

 

どことなくお調子者っぽい雰囲気の人が呟く。

 

「ほらさっさと設置してきなよ……っと!」

 

掴み掛かってきた相手の腹に抜き手を打ち込み、臓物を引きずり出す。

 

「何者だか知らんが感謝する!」

「志藤さん!今の内に!」

 

入口から続々出てくるアマゾンを狩りつつ、背後に目をやると悠が女王アリアマゾンと一騎討ちをしていた。

 

「……何か暴走してない?」

「極端だよなぁ、アイツ」

 

戦ってる内に近くに居た仁さんが私の呟きに反応して返してきた。

 

「そういやその姿、俺を真似してんのか」

「ミミックオクトパスアマゾンなもんでね、擬態は得意だよ」

「確かに居たな、その遺伝子を入れた奴も」

 

何か昔を思い出すような口調になってるんですけど。

 

「仁さん、あの女王アリアマゾンが倒されて駆除班の人達が装置を設置した訳だけどさ」

 

唸り声を上げ、手当たり次第に近くのアリアマゾンを斬殺している悠を指差す。

 

「あれ薬液浴びたらヤバイよね」

「あぁ、もう!!」

 

しょうがねぇな!と怒鳴りながら仁さんが悠を回収に向かう。

私としてはあの装置が作動すれば、これ以上ここに留まる理由は無い訳だ。

 

「帰るか…………疲れたし、眠いし、お腹空いたし」

 

そうと決まれば誰もこちらに注目していない隙に屋上から飛び降りる。

女王アリアマゾンの羽を【擬態】で再現し、衝撃を殺して着地する。

すぐに変身解除して止めてあったバイクに股がり現場から急いで離れる。

 

暫く走って振り返るとマンション全体から白い煙が立ち上っていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ただいま~」

「お帰り、リンちゃん。何か疲れてる?」

 

家に帰って真っ先に撫子に抱きつく。

あ~癒される。

 

「急に飛び出してっちゃったから、何が起きたのかビックリしたよ」

「ゴメン。凄い数のアマゾンが居てさ、狩ってきた」

「おぉー……お疲れ様」

 

 

 

着替えてから撫子と一緒に夕食を取り、一緒にお風呂に入る。

 

「えへへーリンちゃん可愛い」

 

今の状態は一人用のお風呂に二人で無理矢理入るべく、撫子に後ろから抱き締められる形で湯船に浸かっている。

…………胸当たってる。こら揉むな。

 

「疲れてるからなあなあで流されてこの状況だけどさ」

「うん?」

「狭いよね」

「そうだね!」

 

何故嬉しそうなんだ。

 

「リンちゃんは出会ったときから変わらないね。髪が少し伸びたくらいかな」

「そういう撫子は少し大きくなったんじゃない」

 

胸が。

 

「ん~?気になる?」

「別に」

 

そろそろのぼせそうだし、上がろうと立ち上がり掛けると、

 

「ホントに気にならないの」

 

ぐいっと手を引かれてバランスを崩し、撫子と向かい合い形になる。

 

「キスしかしてくれないし」

「そ、それは……」

 

全裸の撫子から視線を逸らそうとすると、クイッと顎を捕まれて目線を合わさせられた。

 

「私はリンちゃんが好きだよ、食べられてもいいって思うくらい」

「っ!!」

 

その言葉は……

 

「やめて、抑えられなくなる」

「どうして抑えるの?」

 

撫子が私の右手を膨らみかけの乳房に触らせる。

その柔らかい感触に脳が痺れる。

 

「……だって」

 

目線を合わせられず、うつむきながら告げる。

 

「私が暴走して撫子を傷つけるのが嫌だから」

 

「…………リンちゃん」

 

「撫子の事は好きだよ、大好き、愛してる……食べたいくらい。だから傷つけたくない……抑制剤で抑えてても……私はアマゾンだから」

 

涙声で呟く。

 

撫子が頬に手を添えてくる。それを手を重ねて目線を逸らす。

 

「……なら、リンちゃんが絶対に私を傷つけられない状況ならいいって事だよね?」

 

……え?

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

次の日。

 

「土曜日の朝っぱらからコレはどうかと思うんだけど!?」

「そんな事無いよー大事な用事じゃん」

 

アダルトグッズが売ってる専門店の前に私達は居た。

 

「この見た目で入れる訳無いじゃん!」

「リンちゃんってさ……擬態で別人になれるよね」

 

……そうですね(泣)

 

「コレ買って欲しい物リスト!私別の階で登山グッズ見てるから!」

 

そう言い放つとさっさとエレベーターに乗って行ってしまった。

 

「何この羞恥プレイ」

 

自分が責められる予定の道具を自分で選ぶのか……

 

突っ立ってても仕方ないので近くの物陰で適当に20代に見える容姿の女性に擬態して店内へと入っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

帰宅後。

私は下着だけに剥かれて撫子のベッドに連れ込まれていた。

 

「帰って来ていきなり!?」

「だって我慢できないんだもん」

「確かにずっと一緒に住んでて手出さなかった私も少し悪いけどさ!?」

「あ、これつけるね」

「分かっ……口枷!?」

「ほら口開けてー」

「もが……」

「次は手足拘束していこうね~♪」

 

何となく昨日の罪悪感があるだけに、素直に撫子に従う。

……やけにノリノリなのは気のせいじゃないよね。

 

「あとはベッドに縛り付けて……」

 

(何か結構本格的……つーか全然手足動かないんだけど)

 

「後は…………♪」

 

(まぁこの程度ならアマゾン化すれば逃げれるから万が一の時は逃げようっと)

 

「これだね♪」

 

腕に注射器を刺された。

 

(…………ん?)

 

「むー!むー!?」

「今の薬?強力な筋弛緩剤だけど」

「んむ!?」

「ヤバくなる前に逃げようって思ってたんだろうけど、無駄だよ♪ふふふ……動けないリンちゃん可愛いなぁ……」

 

(ええぇぇぇええ!?ヤバくない?この状況)

 

「大好きだよ。リンちゃん」

 

ハイライトの消えた眼で満面の笑みを浮かべた撫子が呟いた。




撫子の欲求不満爆発。ヤンデレと化しました。

そもそも食べられてもいいって認めてる時点でヤバかったのです。
この後リンは体力が完全に尽きるまで撫子に弄ばれました。


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Fake

「……………………生きてる」

 

昨日は撫子に散々責められて何度も気絶し、最後の方は意識朦朧で過ごしていて何度か死を覚悟したけども。

 

「手枷に足枷も無い……」

 

こうして目が覚めたので無事に生きてると安心した。

……起き上がるのは疲れ過ぎてて無理だけど。

 

そんな事を考えてると撫子が寝室に入ってきた。

 

「あ、リンちゃんおはよー」

「……おはよ」

「心配したよー……お風呂で身体洗っても起きないし、私が起きてもまだ全然寝てたし」

「ごめん……ってその原因撫子だろ」

 

つい謝り掛けたけど私悪くないよね?

 

「あはは、昨日のリンちゃん可愛かったなぁ……私の指に従順に反応するし敏感だから良い反応してくれたし」

「あれは……目隠しされたらそっちの感覚から気を反らせないし……」

「最後らへん意識朦朧としてたみたいだけど、どのくらい覚えてる?」

「……気持ち良かったとしか覚えてないよ」

「そっかー……なら良かった!」

 

良くないよ?洒落にならないレベルで疲れてるからね?

私がそう考えてるとは露知らず、撫子は一旦台所に戻りフルーツを切って持ってきてくれた。

自力で起き上がれないので撫子に起こしてもらう。

 

「はいあーん」

「あーん」

 

何だろうこの餌を親鳥から貰ってる雛鳥の気分は。

黙々とフルーツを食べつつ、ふとカレンダーを見ると印が追加されているのに気付いた。

 

 「あれ、一週間後どっか行くの?カレンダーの赤丸」

「あぁ、そうそう。リンちゃんが起きたら話そうと思ってたんだけど」

 

そう言ってポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「私が入ってる野クルの活動で今度初めて実地でキャンプする事になったんだけど、リンちゃんも行かない?」

「いいよ」

 

即答、一人っきりにして撫子を失うとか想像するのも恐ろしい。

 

「良かったー!場所はね、イーストウッドキャンプ場って言って……」

 

嬉々として説明を始めた撫子の声を聞きながら、私は無意識に右腕に着けた腕輪に触れていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

一週間後、直前に判明した野クルの装備の貧弱さに私が奮発して私達用のいい装備を購入した次の日。

 

「早いなぁお二人さん」

「悪い、待ったか?」

「全然」

 

犬山さんに大垣が来たので荷物を持って駅前から出発する。

 

「ねぇあきちゃん、今日泊まるキャンプ場ってどんなところなの?」

「よくぞ聞いてくれた!薪が無料で温泉が近くて夜景が綺麗で1泊千円!っていうリーズナブルなキャンプ場だぞ!」

 

尋ねた撫子に対してテンション高く大垣が答える。

 

「大垣は行ったことあるの?」

「前に下見でその辺行ってみた事あるぞ」

「そうなんだ」

「駅から4km、歩いて50分ぐらいやって。軽い遠足やな」

 

犬山さんが追加で教えてくれた。

 

「ふーん」

「一つ気になってたんだが……」

「ん?」

「リンちゃんその荷物多過ぎやないの?大丈夫なん?」

 

撫子が快適に過ごせるようにあれこれカバンに詰め込んだだけなんだけど。

 

「平気だよ、私力持ちだし」

「もし疲れたら言えよー?手伝うから」

「千明ちゃんイケメン!」

「ふっふっふ……そうだろ~?」

 

人間がアマゾンの体力についていけるのは厳しいと思うけどな……

 

 

 

 

「リンちゃん!こっちいい景色見えるよ!」

「撫子全然疲れてないね」

「うん!だって楽しいし!」

「今行くよ」

 

そう言って走り去ったリンの後ろ姿を眺めながら大垣と犬山の二人は呟いた。

 

「何で撫子ちゃんあんな体力あるんや……」

「何でリンはあの荷物で走れるんだ……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

犬山さんと大垣の提案で近くの笛吹公園で暫く休憩する事に。

といっても撫子と私が先行し過ぎているので既に到着済みで二人を待つ形になる。

 

(こういう人気の無い公園って割と実験体の狩りスポットだったりするんだよな……)

 

景色にはしゃぐ撫子を見ながら同族感知のレーダーを広げる。

近くの建物に……反応あり。

 

「撫子、ちょっと向こうのカフェでお手洗い借りてくるよ」

「カフェ?私もそっち行こうかな」

「二人が来るまでここで待っててよ」

「う~ん、分かった」

 

まだ信号は覚醒した奴じゃない。

覚醒してたら駆除班に任せて逃げるけど、ここは殺るしかないか。

 

擬態で別人の格好に成りすまし、お店に入って荷物と上衣を椅子に置く。

建物の中にはまばらにしか人がいない。

 

…………居た。

 

反応と服装の少し膨らんだ左腕で確定と見て間違いないだろう。

 

「店員さん」

「……あ、はい今伺います!」

 

顔色が悪い、覚醒寸前かよ……。

少しふらつきながらやってきた女性店員の腕を掴んで耳元で囁く。

 

「薬が切れそうなんでしょ」

「っ!?あなたは?」

 

驚く彼女に話を続ける。

 

「駆除班にやられて死んだ仲間の腕輪が余ってるんだ。今ならまだ間に合う、ついてきて」

 

そう教えると彼女は驚いた顔をした後、涙を浮かべながらくしゃっと顔を歪ませて微笑んだ。

彼女の手を引き人気の無い場所へ連れていく。

 

「あ、あの……どこへ?」

「予備の腕輪を隠してるケースがそこの駐車場に停めてる車の中にあるんだよ、どう?まだ持ちそう?」

「……なん、とか」

「そっか、それは良かった」

 

 

 

良かった。

撫子のキャンプが台無しにならなくて。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ただいま。少し見て回ったけどカフェ以外に軽いご飯も食べれる場所とかお土産屋さんもあったよ」

「お、ならカフェ行こうぜ!」

「せやな、休憩タイムや~」

 

そう言って犬山さんと大垣は荷物を引いて歩き出した。

 

「撫子、私達も行こ……」

 

振り返ったら撫子がじっと私を見ていた。

 

「どうかした?」

「匂いがリンちゃんだけじゃない」

 

……バレる訳がないと思ったんだけどなぁ。

 

「あのカフェに覚醒寸前の奴が居た」

「騒ぎになって無いって事はこっそり殺したの?」

「まぁ上手くやったから」

 

さあ行こう?と撫子の手を引くと逆にぐいっと引かれてバランスを崩し、私の身体は撫子にもたれ掛かった。

 

「私はリンちゃんが優しいのは知ってるよ。だからさ、訊きたいんだけど」

 

 

 

 

「無理してない?」



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Guilty

大垣千明→あだ名:あき
犬山葵 →あだ名:イヌ子

になっております。


「無理してる……って何を」

「う~ん……と……」

「変な事言ってないで、行こ?」

 

そう言ってリンちゃんが私の手を引っ張り、あきちゃんと葵ちゃんの後を追って歩いていく。

 

(こないだ初めてえっちした時、何回か意識飛んだ頃からリンちゃんずっと謝ってたんだよね……)

 

言葉使いが幼くなって、私が少し水飲もうかなって離れたら「ごめんなさい」「捨てないで」って繰り返して。

……まぁぶっちゃけ興奮したけど。

そのせいでついヒートアップしてしまって、次の日リンちゃんが起き上がれなかったのは反省している。

 

(あれが普段リンちゃんが隠してる本音なら、仲間を殺すのに相当ストレス感じてるんだろうな……)

 

人前ではクールぶってるけど二人きりの時は甘えん坊なリンちゃん。

拘束具なんて普通は付けるのを嫌がるだろうに抵抗しなかったのは、私を傷つけない為というのは間違いなく理由の一つに入ってるだろうけど、一番の理由は無意識に罰されるのを望んでいたからではないだろうか。

 

(アマゾン……実験体って最初からあの姿で生み出されてるんだよね)

 

つまり、リンちゃんはほぼ二歳児と同じ。

 

(そりゃ自分で罪の意識抱えきれずに私に依存するよね)

 

そんな彼女に依存しているのは私の方もなので相互依存でもある。

 

……年齢を自覚して改めて思ったのだが、ジャンルで言えばとんでもない年齢差のおねロリに当たるんじゃないか私達。

しかも拘束具とか使ってるしSMプレイも入ってるし。

 

業が深いな私…………

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

急に撫子に変な事言われて少し驚いたが、特に何でもなかったみたいなので手を引いてカフェへと歩き出す。

 

(あ、こんなにデカい荷物背負ってるから心配されたのかな……別に平気なのに)

 

……「無理」の話でこないだの一件を思い出す。

 

(白状するとこないだの撫子の責めが今まで生きてきた人生で一番キツかったんだよね……)

 

気持ち良さで失神するなんて初体験だった。

痛みでは何回かあるけど。

 

できれば「無理してない?」はあの時に言って欲しかった。

言っても笑顔で無視されただろうけどね。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

カフェの暖かい室内でアイスを食べるという贅沢をした後、大垣と犬山さんが体力を回復させるのを待って再び出発した。

 

そして、キャンプ場まで残り1kmの地点で……

 

「ここが『ほっとけや温泉』だ!!」

「先に寄るんだね」

「いいよねリンちゃん?少し汗かいちゃったし」

「私も」

(あんな荷物しょって走り回って、少し汗かいたで済むんか二人とも……)

 

犬山さんからの視線が気になるが、大きい荷物はロッカーに入れて更衣室へ直行する。

 

「そういえばテレビの旅番組でたまに紹介されとるね、ここ」

「まぁ有名な温泉だしな。早朝からやってて日の出見ながら入れるらしいぜ」

「今度朝から来るのもやってみたいね!」

「何て贅沢……」

 

会話をしながら服を脱いでいると、大垣から声を掛けられた。

 

「あれ?リン、その右腕のって……」

「コレ?格好いいでしょ」

「あぁ、うん。そだな」

 

私が今右腕に巻いているのはいつもの腕輪ではなく、二日分と二回の戦闘に足りるだけの抑制剤を入れた簡易版アマゾンズレジスターだ。

通常のレジスターとは形状が異なり、少し厨二なファッションとして見れば違和感は持たれないハズ。

 

「行こ、撫子」

「うん♪」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

二人が歩いて行った後、暫く大垣と犬山の二人は服を脱ぎかけたまま固まっていた。

その静寂はガタン、と他の客が扉を開けて更衣室に入って来てようやく二人は硬直から抜け出す。

 

「なぁ、イヌ子……」

「あき……リンちゃんって何者なんやろうな……」

 

二人が見たのはリンの身体に残る怪我の跡だった。

左肩と背中に一際大きい切り傷の跡があり、他にも大小数々の傷痕が身体中に残っていた。

 

リンは今まで未覚醒の実験体を襲っていたが、腕輪の薬剤が切れ始めた頃から撫子が住んでいる周辺の覚醒したアマゾンを探しだして狩っていたのだ。

身体に残る傷は殆どがその戦闘で出来たものである。

 

最初は戦い方を知らず本能で戦っていたのだが、それでも生き残ることが出来たのはミミックオクトパスアマゾンのAランクのスペックと擬態能力のお陰だろう。

今では順調に戦闘経験もたまり、アルファと同程度の戦力になっている。

 

「何か訳ありなんかなーとは思っとったけど……」

「まぁ、撫子が気にしてないならそういう事なんだろうさ。今まで通り行こうぜ」

「……せやなぁ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

温泉から上がって暫く寛ぎ、時間に余裕を持ってキャンプ場に到着する。

 

「チェックアウトは明日の昼、水は後で持っていくから」

「はい!ありがとうございます」

 

管理人の作務衣を着た渋いおっさんに挨拶してチェックインを済ませ、大垣が予約していた場所へと向かう。

 

中々に景色が良くていい場所だった。

 

「よっしじゃあ設営するぞー」

「おー!」

 

撫子の元気な返事を皮切りに各々荷物からキャンプ道具を取り出していく。

 

「ちょ!?撫子にリン!そのテントは……!?」

「新しく、買いました」

「これ雑誌に載ってためっちゃ良い奴やん……!」

「えへへ、リンちゃんが私に風邪を引かす訳にはいかないって奮発してね」

「私らの3000円のテントと全然違ぇーー!?」

「あき、鼻血出とるで」

 

私が出した値段を想像して大垣が鼻血を出してしまった。

いや、どんな反応だよ。

 

……それと、血はさっさと拭いてくれ。

 

身体に悪い。

そう思いながら見ていると撫子が私の視界を塞ぐように抱き締めてきた。

 

(リンちゃんちょっと美味しそうとか思ってたりしないよね……ね?)

(…………えっと)

(私以外にそう思うのは許さないから)

 

そう言って二人には私を抱き締めてる様に見せつつ耳を強めに噛みついてきた。

 

「……っ!」

「さ、テント建てちゃお?」

「う、うん」

「…………♪」

 

…………帰ったらお仕置きとかされちゃうのかな。

 

温泉のせいか、やけに身体が熱かった。

 

 




「…………気付かんかったなぁ」
「?どうした、イヌ子?何か忘れてきたか?」
「あきは気付いとらんの?」
「……?キャンプ用具はちゃんと持ってきたぞ?」
「……まぁええわ」

(撫子ちゃんってヤンデレやったんやな……)


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