ペテル・モークに憑依転生! (ハチミツりんご)
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プロローグ
転生するようです


はじめまして、ハチミツりんごというものです
オーバーロードの魅力的な現地人が主役の小説が書きたかっただけの駄文です。それでもいいという方は作者の自己満足にお付き合い下さい



「というわけで転生してください」

「何がというわけなのかわからないんだが」

 

目を覚ましたら知らない部屋にいた

これだけでも理解できないのにどこからか聞こえてくる謎の声

オマケに転生しろと言ってくる始末

下手くそなラノベのお手本のような状況だ

 

「・・・とりあえず、何がどうなって俺が転生することになったか、おしえてくれないか?」

 

まずは自分がどういう状況なのかを知らないとまずいだろう

 

「えっとですね、どうもこちらの予定よりもかなり早く亡くなってしまったようですので、そのお詫びと言った感じですね」

 

「てことはそっちのミスで死んだから、その埋め合わせをするってこと?」

 

「その認識であってます。後はあなたが転生しても大丈夫だからですかね」

 

俺が転生しても大丈夫ってのはどういうことなんだろうか? みんながみんな出来るわけじゃないのかな?

 

「みんな転生出来るわけじゃないんだな」

 

「そうですねぇ、犯罪を犯した方などは勿論駄目ですし、そもそもこちらのミスで亡くなってしまう方って珍しいですから」

 

まぁ転生先で犯罪されても困るだろうしな

 

「・・・あなたは転生って言われても驚かないんですね?」

 

「いや、驚いてはいるよ?ただまだ理解が追いついてないだけ」

 

「それにしては落ち着いているように思えますけど。とりあえず、転生するということでよろしいですね?」

 

「それで構わないんだが、元の世界に戻るとかも出来るのか?」

 

「そちらの世界では死者の蘇生が不可能ですので、生き返る事は無理ですね」

 

「なるほど・・・そちらの世界でってことは、出来る世界もあるんだな」

 

死者蘇生、なかなか心躍る響きだな

そんなのがある世界なら魔法とか

モンスターとかレベルとかもあったりするんだろうか

 

「そうですね、あなたの転生先では出来ますよ。剣と魔法のファンタジーな世界なので」

 

「もう決まってるのか?」

 

こういうのって自分で決められるものではないのだろうか?

ただまぁファンタジーな世界に行けるんだし、文句はないさ

だけどそんなに無理はしないでおこう

カワイイ嫁をもらって子供と一緒にのんびり過ごすくらいが・・・

 

「はい、オーバーロードという作品の世界で「転生やめていいですか」す・・・えっと、何故でしょう?」

 

「だってあれですよね?オーバーロードってあのオーバーロードですよね!?骸骨の魔法詠唱者(マジックキャスター)が主人公なやつですよね!?頑張って生きてても主人公側に関わった途端に死ぬやつですよね!?現地人じゃ為す術もないやつですよね!?あ、もしかしてナザリック側とか至高の御方々とかチートなプレイヤーとかそんなやつですか!?」

それならまだ救いはある!いやむしろナザリック側ならデミウルゴスやアルベドが何とかしてくれるし適当にやってても問題ない!

バッチコイだ!

 

「え!?えっとですね、少々お待ちください!・・・げ、現地人の方ですね・・・」

 

はいもう無理ー!

どんなに頑張ってもプレアデスにすら勝てないレベルにしかなれない!俺じゃラナー王女みたいに頭脳で認められることもない!ひっそり生きててもスクロールの材料にされるかもしれない!そんなのヤダー!救いがなさすぎるー!

 

「あ、あの〜・・・もう既に手続きをある程度済ませてしまっているので、出来れば転生していただけないでしょうか〜・・・?」

 

「嫌だ!せっかく転生するのにそんな救いのない世界はむり!」

 

「で、でもそうしていただかないと〜・・・じゃあ特典!もともといくつか差し上げる予定でしたけど、増やしますので!」

 

「ちょっと特典増えたからってナザリックにかてるわけじゃないんでしょ!?それじゃ結局変わらな・・・まてよ、特典?」

 

特典、特典・・・こういうのってだいたい才能強化とかそんなのだよな?あとは顔が良くなるとか

 

「・・・特典ってどんなのがあるの?」

 

「えっとですね、才能強化などの他にも、現地人では見ることの出来ないステータスを見ることが出来る『ステータス閲覧』、素材があればアイテムを作れる『アイテム作成』や相手の魔力を視覚化できる『魔力看破の魔眼』など、他にもいろいろありますよ」

「それだぁ!!!」

 

それを使って特殊な能力を持っている、もしくは珍しい能力を持っている状態なら、モモンガさんのコレクター魂を刺激できる!

そうすれば、俺でもナザリックに属することができるかもしれない!

『ステータス閲覧』・・・それがあれば自分がどの程度なのかも分かるし、便利だな

『魔力看破の魔眼』は多分原作でアルシェやフールーダが使っていたやつだな。あると便利だけど、同じ魔眼を持ってるやつがいるからなぁ・・・。「フールーダいるからお前いらない」って感じで殺されてもなぁ

『アイテム作成』は魅力的だけど、隠せるかが微妙だな。アイテムボックス的なのがあれば隠せるだろうけど、そんなのもってたらプレイヤーに間違えられそうだし・・・

なるべく「特殊な能力を持った現地人」ってことにしたいし、『アイテム作成』は我慢かなぁ

 

「他のもみせてもらってもいい?」

 

「あ、それなら先に、普通の転生をするのか、憑依転生をするのか決めて頂けませんか?」

 

普通の転生は分かるけど、憑依転生?

だれかに乗り移って転生するってことか?

 

「どう違うんだ?」

 

「まず、普通の転生は新しい命として、転生先の世界に行ってもらいます。つまりオリジナルのキャラクターですね。特典や才能、生まれをある程度決めることが出来ます」

「一方憑依転生は原作に登場するキャラクターに憑依して頂きます。生まれは憑依するキャラクターと同じですが、特典に加え、もともとキャラクターが持っていた才能を上乗せ出来るため、普通の転生よりも能力的に優れています。」

 

「それだけ聞くと憑依転生の方が良さげだけど、デメリットとかないの?」

 

「そうですね、憑依先が持っていない才能を伸ばす事は難しいですね。例えば、ガゼフ・ストロノーフに憑依なら魔法に関しては常人止まりになります」

 

なるほど、憑依先によってはオリジナルにした方が強いこともあるのか。てことは憑依先を聞いてからの方がいいのかな?

 

「後は、せっかく転生出来るなら、オリジナルキャラクターになりたい!・・・という人が多いので、普通の転生の方が利用する方がほとんどですね」

 

なるほど、確かに別の世界なら俺もオリジナルキャラクターになって原作キャラと関わりたいと思ったかもしれない。ただ、俺の場合は転生先が転生先なので、少しでも強くなっておきたい。・・・憑依転生かなぁ

 

「憑依転生にする場合って、俺は誰に憑依するか決まってるの?」

 

「いえ、あなたが憑依できるキャラクターの一覧をお見せするので、その中から選択していただくかたちですね」

 

「なら、その一覧をみせてもらっていいかな?」

 

そう言うと俺の手元にPONっと本が現れた

すっげぇファンタジーっぽいな、ちょっとテンション上がったわ

 

その本を開いて一覧を見てみると

 

 

【べリュース隊長】

【ロンデス】

【チエネイコ】

【フィリップ】

【スタッファン・へーウィッシュ】

【ザック】

【イグヴァルジ】

 

そこまで見てそっと本を閉じた

 

「ロクでもねぇのしかいないんだけど!

なにこれ!イグヴァルジがまともにみえるんだけど!」

 

「い、いやいや!もっとめくっていけばマトモなのもちゃんとあります!ありますから心配しないでください!」

 

そう言われて別のページを見てみると、確かに先程より遥かにましなのがちゃんといた

【モックナック】や【ベロテ】は確か

エ・ランテルのミスリル級の冒険者だったはずだ。ここら辺が良さげだな

 

「どうせなら才能の高い順に見れればなぁ」

 

そうボソッと呟くと

 

「可能ですよ?そうしましょうか?」

 

マジか、出来るのか!なら才能順で高いところにいるキャラで、まともそうなのを選べばいいか

 

「おう、頼むわ」

 

そういうと、手元にあった本が消え、代わりに別の本が出てきた。あ、そういうかんじなのね。本が光って内容が変化!とかじゃないんだ

気を取り直して本を見よう。1番は誰なのかな

やっぱミスリル級のどっちかかな・・・

そう思っていた俺の目に入った文字は

 

【ペテル・モーク】

 

・・・マジかよ、たしかペテルってモモンと最初に関係を持つ銀級チームのリーダーだったよな?割とあっさりクレマンティーヌに殺されたイメージだけど、すっげぇ才能持ちだったのか。・・・てかよくよく見てみるとペテルほどじゃないにしてもかなり高い位置に【ルクルット・ボルブ】

【ダイン・ウッドワンダー】

この2人も入ってるじゃん!ニニャは見当たらないけど確かフールーダレベルに到達出来るって設定だったはずだし・・・

漆黒の剣凄すぎない?あそこで死ななけりゃ王国一の冒険者ってこいつらだったんじゃね

 

「ニニャはいないけど、俺は転生できないの?」

 

「そうですね、基本憑依転生の場合は異性になることはできませんので」

 

「じゃあ、もしニニャがこの本に載ってたら、どれくらいになるんだ?」

 

「そうですね・・・だいたいペテルと同じか、それより少し下くらいでしょうか」

 

・・・フールーダレベルになれるニニャよりも高いペテルって何者なの?つまりペテルならガゼフ越え、下手したらクレマンティーヌと同等にもなれるってことか!これはもうペテルで行くしかないな

 

「決めた。ペテル・モークで頼むわ」

 

「わかりました。ペテル・モークの才能は以下の通りになります」

 

そういって手元の本にペテルの才能が表示されたので、それを見てみると

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ペテル・モーク】

性別【男】 年齢【?】

総合Lv【?】

 

才能 【戦士(ファイター)系】

付与術師(エンチャンター)系】

召喚士(サモナー)系】

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

・・・ちょっとまて、戦士(ファイター)だけかと思ってたんだけど俺。なにこれ、どう考えても魔法系職業が2つもあるんだけど!

つまりペテルは3つの才能の合計で1位だったってこと?ガゼフ越えすら無理かもしれないぞこれ!?

 

「あ、ご安心ください。ペテルはガゼフよりも優れた戦士になれますので。」

 

「・・・なんでわかんの?」

 

「ガゼフの才能よりもペテルの才能の方が大きいからですね」

 

「つまりペテルはガゼフを超える戦士な上に魔法の才能もあると?」

 

「そうなりますね」

 

めちゃくちゃ化け物じゃねぇかこいつ(ペテル)!!!どうなってんのマジで!!!

・・・まてよ、たしかフールーダって三系統の魔法を覚えてて、そのうち魔力系統が第6位階だったよな?ってことは、そのフールーダと同等の才能であるニニャを超えるペテルならありえるか。・・・めちゃくちゃ強そうに思えるけど、これでもプレアデスに勝てないんだよなぁ。ナザリック怖すぎでしょ

 

「・・・とりあえず、ペテルに決めたから、特典を選ばせてくれない?」

 

「わかりました。特典は通常2つですが、今回は特別処置で4つまで選択可能です」

 

4つも選ばせてくれるのか、それならいろいろ出来るな!どうにかして稀有なキャラにならないと・・・。そう思っていると、再び手元の本が消え、別の本がPONっと。めくってみると

 

【ステータス閲覧】

【アイテム作成】

【才能強化】

【アイテムボックス】

【魔力看破の魔眼】

【幻影看破の魔眼】

【能力看破の魔眼】

・・・etc.

 

おお!色々あるなー!こんだけあると結構迷うな・・・。まず、【ステータス閲覧】は必須だ。自分がどの程度なのか分からないんじゃどうしようもない。【才能強化】も持っておきたい。プレアデスと戦えるレベルになっておけば、転生後の世界じゃ伝説級だろうし、現地のやつに殺されることもないだろう。【アイテムボックス】は前も言ったがプレイヤーと間違えられるとまずいし却下だ。

隠すのが難しい【アイテム作成】も同様だしなぁ・・・そういやこの【能力看破の魔眼】

ってなんだろう?

 

「この【能力看破の魔眼】ってどんなのなんだ?」

 

「【能力看破の魔眼】は相手のステータスを見ることが出来ます。また、攻性防壁に引っかかって探知されたり、反撃される心配がありません」

 

おお!つまり自由に相手の能力や才能を見ることが出来るのか!これはかなり便利なんじゃないか?才能があるやつを見つけられるから、ナザリックからも重宝されそう!これも決まりだな。あとひとつだけど、良さげなのがないんだよなぁ・・・ん?この最後の方にある【魔法効果変動】ってなんだ?

 

「なぁ、この【魔法効果変動】ってどんな効果があんの?」

 

「【魔法効果変動】はその名の通り、魔法の効果をある程度変更することが可能です。例えば、火球(ファイヤーボール)の威力を下げる代わりに範囲を広げたり、電撃(ライトニング)の貫通効果をなくす代わりに威力を上げたりなどが出来ます」

 

「へぇ・・・補助魔法や召喚魔法はどうなるの?」

 

「補助魔法の場合は、効果時間を伸ばす代わりに効果を下げる、逆に効果時間を下げる代わりに効果を上げたりできます。

召喚魔法の場合は召喚モンスターのステータスや持っている武器をある程度変更可能です。同じ第3位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)でも、攻撃特化の両手剣装備の天使や防御特化の大盾装備の天使を召喚出来ます」

 

・・・これくっっっっっそレアじゃね?つまり状況に合わせて効果を変えたりモンスターを変えたり出来るんでしょ?使いやすいし珍しい!!ならこれを最後のひとつにするか

 

「決まった。【ステータス閲覧】、

【ステータス看破の魔眼】、【才能強化】

に【魔法効果変動】の4つで頼む」

 

「了解しました。以上で憑依転生のための準備は終了です。お疲れ様でした。それでは、転生を開始します」

 

・・・ついに始まるのか。やっべぇな、いまさらながら緊張してきたわ。俺は死にたくない、死にたくないけど・・・憧れだった小説の世界にせっかく行けるんだし、どうせなら第2の人生を楽しむか!よっしゃ!絶対生き残って、可愛い嫁を手に入れるぞー!




次回は今回の更新日から一週間前後を目安にしております!


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子供時代編
両親は親バカなようです


一週間前後と言いましたが、筆が進んだので投稿いたします。


さてさて、前回テンプレな転生をした俺だよ

そんなわけで第2の人生が始まったわけなんだが・・・

 

「ペテル〜!分かりまちゅか〜?ママでちゅよ〜♡」

 

「レ、レイラ!俺にも、俺にもペテルを抱っこさせてくれ!」

 

「嫌よ!あなた顔怖いから、ペテルが泣いちゃうかもしれないじゃない!」

 

「そんなことない!きっとペテルは「パパー!」って感じで甘えてくれるさ!」

 

「何言ってんのよ!ペテルが1番甘えるのはママである私に決まってるでしょ!」

 

 

ペテル・モーク(おれ)0歳、両親の喧嘩に巻き込まれています。いやね、今さっき起きたんだよ俺。それで転生できたのかーって感じで周りをキョロキョロしてたら、「ペテルが目を覚ました!」って叫びながら飛んできたんだよこの2人。そして俺がどっちを探していたかで喧嘩を始め、それが一段落ついたかと思えば先程の喧嘩だ。見たところ俺を含めて3人暮らしなので、初めての子供なのだろう。・・・それにしたってはしゃぎすぎじゃね?やっぱり子供のこととなると親はテンション上がるもんなんかね?

 

「・・・ねぇ、ペテル全然泣かないんだけど・・・」

 

「確かに、夜も泣いたことないな。いいことじゃないか!男はそうそう涙を見せたらいけないんだよ!な、ペテル〜!」

 

「でも、村の人達が「小さい子供は大変だから、困ったことがあったら手伝うからね!」って言ってたのに、ぐずりもしないなんて・・・ま、まさか生まれながらの病気があったりとか・・・!」

 

「何ィ!ペテルが病気だったら大変だ!村長に、村長に相談しに行こう!」

 

・・・やっぱはしゃぎすぎなだけな気がするわ。とりあえず、両親のことは置いといて、特典が使えるか調べておくか。でも、どうやってステータスって見れるんだ?えーっと、こう、ステータス閲覧!って感じで・・・

 

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ペテル・モーク】

性別【男】 年齢【0歳】

総合Lv【1】

▼ジーニアス/戦士(ファイター) Lv1

 

 

才能【戦士(ファイター)系】

付与術師(エンチャンター)系】

召喚士(サモナー)系】

 

生まれながら異能(タレント)

『大器晩成』

▼レベルアップに必要な経験値が増加します。その代わり、レベルアップ時に補正がかかるようになります

 

特典【ステータス閲覧】

【才能強化】

【能力看破の魔眼】

【魔法効果変動】

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

おお!もう既にLv1になってる!これはたしかブレインとかが持ってたやつだよな?やっぱ化け物だなペテル。

その上この生まれながらの異能(タレント)・・・つまり全く同じビルドを組んでも俺の方がステータスが高くなるってことでいいんだよな?これだけでも割とチートじゃね?後はどれだけ必要経験値が増加するのか、それにどれだけ補正がかかるのかだよな。

もしかしてだけど、原作でペテルがそんなに成長してなかったのってこの生まれながらの異能(タレント)のせいか?この世界じゃレベリング方法も分からないだろうし、成長しにくいだろう。魔法に関しては、おそらく触れる機会がなかったのだろう。この世界で知られる魔法は魔法系、信仰系、精神系が主だ。補助魔法と召喚魔法に特化しているペテルの才能じゃ触れる機会がなくても仕方ない。

 

とりあえずは【ステータス閲覧】は使えることが分かった。他の3つのうち、いま確認できそうなのは【能力看破の魔眼】くらいか。よし、父親のステータスでも見てみるか。じっと見つめれば発動するかな?

 

「・・・ん?どうしたペテル?やっぱりパバを探してたのか!」

 

「ちょっと!その話はどっちも探してたってことで決着がついたでしょ!」

 

「でも見ろ!ペテルは俺のことをじっと見ているぞー!」

 

「そんなことないわよね!?ペテルが探してたのはママだもんね!?」

 

両親よ、頼むから静かにしてくれ。

・・・しかし一向にステータスが見れないな、やり方が違うのか?じゃあ、右目に力を集める感じで・・・

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ギグ・モーク】

性別【男】 年齢【28歳】

総合Lv【6】

農夫(ファーマー) Lv5

戦士(ファイター) Lv1

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

おお!上手くいった・・・

「・・・なぁレイラ、今、ペテルの目が光らなかったか?」

 

「た、確かに光ったわね・・・」

 

うっそまじかよ!!【能力看破の魔眼】って使う時に光るのか!てっきりアルシェみたいな感じかと・・・。こ、これはちょっとまずいかもしれない!!

 

「や、やっぱりペテルに変な病気とかがあったのかしら!」

 

「・・・いや、もしかして生まれながらの異能(タレント)か?」

 

生まれながらの異能(タレント)って、持ってるのが珍しい特殊な能力ってやつ?」

 

「ああ、つまり・・・」

 

「つまり・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちのペテルは天才だってことだ!!!」

 

 

・・・は?

 

 

「キャー!!!そうよね!うちの可愛い可愛いペテルちゃんが天才じゃないわけないわ!」

 

「凄いぞペテル!将来は大物間違いなしだな!!!」

 

 

・・・両親が親バカでよかった。

ひとまず、【能力看破の魔眼】使用時には目が光るってことがわかって良かったと思うべきか。

それに、もうひとつ分かったことは、父親のギグは戦闘職をもっていたということだ。この世界で農夫をやっているにも関わらず、戦闘職を持っているということは、戦わなければならないことがあるということだ。それはおそらくだが、戦争もしくはモンスターの襲来だ。どちらかは分からないが、出来るならモンスター襲来の方がありがたい。人間を殺しても経験値は入るだろうけど、やっぱ人間を殺すよりもモンスターを殺す方が気が楽だ。

それと、モンスターを殺す以外にも経験値を手に入れる方法を探さなければ。恐らくだが、モンスターを殺す以外にも経験値を手に入れる方法はある。原作ではモンスターと戦ったことがなくても魔法を学べば使えたはずだ。つまり、魔法の勉強をすれば魔法系職業の経験値が貰えるのだろう。その為にも、まずは文字を覚えなくてはならない。

・・・今はまだやれることは少ないが、成長していけば色々できるようになるはずだ。せめて、冒険者になる頃には戦士(ファイター)をLv10、付与術師(エンチャンター)召喚士(サモナー)を最低Lv1ずつにはなっておきたい。そして、ナザリックが転移してくるまでに最低でもミスリル級、できればエ・ランテル最初のアダマンタイト級冒険者になりたい。そうすれば、急に殺される危険性も少なくなるだろう。

よし!俺の生活のために!そして人類のためにも!絶対ナザリックに就職してやる!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

さてさて、色々あって4歳となりました、ペテル・モークです。え?時間が経ちすぎだって?仕方が無いだろ、今までほとんど親に世話になっててなにもできなかったんだし。

 

まず、この4年間で分かったことはいくつかある。

まず、一つ目は俺の住んでいる村がどこにあるのかということ。それは、リ・エスティーゼ王国の王都から東、エ・レエブルとトブの大森林の間に位置していることが分かった。そして、この村や近くのエ・レエブルを管理しているのは、六大貴族のレエブン候だ。俺はこれを聞いてほっとした。だって王国貴族のなかで唯一まともであるレエブン候の領地にいるのだ。これがほかの貴族の領地ならLvをあげることすら難しかったかもしれない。

それに伴い、父親のギグが戦闘職を持っている理由がわかった。トブの大森林からたまにモンスターが出てくるからだ。ゴブリンや悪霊犬(バーゲスト)がほとんどだが、稀にオーガやトブ・ベアが出てくるらしい。出てきた時は母親のレイラを中心とした狩猟組が弓で攻撃、弱ったところを父親のギグ率いる男衆が囲んで攻撃するらしい。

そう、うちの親バカ両親だが、何気に村の中心人物だったのだ。村長や他の村人にも頼りにされており、なかなかに優秀なようだ。ただ、一度村にゴブリン数匹が襲ってきた時には、それを一匹残らず倒した後に

 

「どうだペテル!パパは凄いだろ!」

 

「何言ってんの!ママの方が凄いよねペテル〜!」

 

・・・といった感じで喧嘩しており、村のみんなに苦笑いをされていたが。村長からは

「お前も大変だな、ペテル」

と言われる始末である。ええ、村長。大変ですよ、ほんとに。

そして肝心のレベルアップについてだが、分かったのは訓練をすれば戦士(ファイター)の経験値を獲得できることだけだった。その為、4歳になってからは父親のギグと共に朝から訓練にはげんでいる。魔法系の勉強もしてみたいのだが、うちの村には魔法が使える人がいないのだ。よってまだ確認が取れていない。それに、魔法関連の本を手に入れようとしても売っているのは1番近場でエ・レエブルであり、本自体も最低でも銀貨4枚はするのだ。庶民には手が出せない金額である。

ちなみに、この世界の通貨だが、価値の低い順に

半銅板→銅貨→半銀板→銀貨→金貨→白金貨

の順になっている。銀貨はだいたい5000~10000円くらいなので、だいたい本1冊が2~4万円だと考えれば良い。たかだか本1冊にそんな大金はかけられないのが庶民というもので、本を買うくらいなら生活に役立つものを買うのだ。その為、村には全くといっていいほど本がない。唯一あるのが、村長の家に置いてある『十三英雄』の伝説についての本だけ。よって、村の子供たちは村長の家で本の読み聞かせをしてもらっていることが多い。

そして、物語を聞いた子供のほとんどが『十三英雄』のごっこ遊びを始める。やはり子供たちの間では勇者が一番人気!・・・と言いたいのだが・・・

 

「おーいペテルー!お前勇者やれよー!」

 

「いや、別に俺はなんでもいいんだけど」

 

「えー!勇者はペテルだろー!」

 

「そうそう!1番強いもんなー!」

 

 

・・・といった感じで、だいたい俺が勇者役になるのだ。一度、みんなでチャンバラごっこをしたのだが、戦士(ファイター)を持っている俺とただの子供では勝負にならず、『俺』対『村の子供たち』で戦ったが圧勝してしまったのだ。流石にまずいかとも思ったのだが、それ以来他の子から一目置かれ、ガキ大将的ポジションになってしまったのだ。そのせいで、言うことを聞かない子供がいたら俺が説得するハメになってしまった。おかげで訓練に費やす時間が減ったのだが、村の大人達には「流石はモークさんとこの子供だねぇ」と信頼されることになったのでラッキーだ。

 

そんな4歳児な俺だが、ある日村の広場でギグと訓練していると、見慣れない2人組が村に向かって来ているのを見かけた。フードを深めにかぶり、リュックのようなものを背負っている。体格からして片方は子供だろう。

 

「父さん、誰か来たみたいだよ?」

 

「ん?・・・本当だな、誰だありゃ?行商人って訳でもないだろうし・・・」

 

そう話していると、

 

「すみません、ザリア村ってここで合ってますか?」

 

「あ?ああ、確かにここはザリア村だが・・・あんた、何しに来たんだ?」

 

「この村に移住しに来たんですが、村長さんの家はどちらに?」

 

「あっちに見える1番デカい建物だ。それよりもなんで移住なんてしてきたんだ?うちの村は人の募集なんかかけてなかったはずだが?」

 

「・・・それは分かってます。だけど、もうこの村しか頼るあてはないんです・・・!」

 

「・・・ワケありってことか。ひとまず、村長や他の奴らの話してみないとな。ペテル、スマンが今日はここまでだ。俺はこのふたりを案内してくる」

 

「でも父さん、そっちの子は話し合いには必要ないでしょ?なら休ませてあげていい?」

 

「・・・それもそうだな、じゃあ、その子をうちで休ませておいてくれ」

 

「分かった」

 

そう言うと、ギグは大人の人ーーー声からして女性ーーーを連れて村長の家にいった。

 

「じゃあ、行こっか。荷物持つよ」

 

「え?あ・・・」

 

そういってその子の荷物を持って、俺の家に向かった。思っていたよりも荷物が重かったため、少し驚いた。戦士(ファイター)を持っている俺が重いと感じるので、この子にとっては相当重かったのではないだろうか?

 

「荷物、結構重いね!これ持って歩いてきたの?」

 

「う、うん・・・」

 

「そういえば、君はどこから来たの?」

 

「お母さんと一緒に、エ・レエブルから・・・」

 

「・・・そこからずっと歩いてきたの?」

 

「?そ、そうだよ・・・?」

 

嘘だろ?エ・レエブルからここまでくるのにだいたい徒歩だと2日はかかるはず。その間充分休憩をとったとしても、この子には相当辛かったはずだ。

 

「大変だったんだね」

 

「う、ううん、大丈夫だったよ・・・。」

 

「そう?俺はここからエ・レエブルまで徒歩ではちょっと無理かな〜・・・っと、ついたよ。ここが俺の家」

 

今の時間はたしか母さんは狩猟組と狩りの準備をしているはずなので、誰もいないはずだ。

ドアを開けて家に入ると、すぐそこに簡素な机と椅子が置いてある。机に荷物を置いて、座るように促す

 

「座ってて、今お水持ってくるから」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

たしかキッチンにおいてある水瓶のなかに、今朝汲んだばかりの水が入っている。その水を少し大きめのコップに入れ、女の子に差し出す。

 

「はいどうぞ。お水しかないけど」

 

「あ、りがとう・・・」

 

そう言うと、女の子はフードを外して水を飲み始める。褐色肌に、少し灰色がかった銀髪の綺麗な子だった。そんな子がコップに入った水をクピクピ飲んでいる。カワイイ。

 

「・・・ね、ねぇ。質問してもいい・・・?」

 

「ん?全然いいよ!何?」

 

 

 

 

 

 

「なんで優しくしてくれるの?」

 

 

「・・・どういうこと?」

 

 

「だ、だって、お店の人達とか、違う村の人達とかは、こんなに優しくしてくれなかったから・・・」

 

 

・・・なんとなくこの子の事情が分かったわ。さっきいた母親と同じ店にいたんだろう、その店の待遇があまり良くなかったんだな。それで母親共々店をでたが、エ・レエブルにアテがなかったんだろう。それで辺境の村と交渉して住まわせてもらおうとしているのか。そう考えると、大都市で働いているのに他にアテがない職業・・・あまり表立った仕事ではないな、娼婦とかか?

 

「んー、なんでって言われても、俺がそうしたいからしてるだけだよ?特に理由とかはないかなぁ」

 

「そ、そうなんだ・・・。ま、街にいた時は、他の子は私のこと、しょーふ?の子供だって言って優しくしてくれなかったから、なんでかなーって思って・・・」

 

やっぱりそうか。つまりこの子の母親はエ・レエブルの娼館で働いて、そこで客との間に生まれたのがこの子ってとこか。だからアテもなく、住む所を探してんのか・・・

 

「娼婦のこどもだとかなんだとか関係ないと思うんだけどなぁ。結局君は君でしょ?気にしなくていいと思うよ?」

 

「!!!・・・あ、ありがとう・・・」

 

恥ずかしげに俯いてありがとうと呟く銀髪褐色肌の幼女・・・めっちゃドキッとしたけど断じて俺はロリコンじゃないからな!・・・にしたってこの子ほんとに可愛いな。オーバーロード原作も現地人は美男美女多かったけど、モブの子でもこんな可愛いのか、異世界ってすっげー!

 

「そ、そういえば、まだ自己紹介してなかったよね・・・?」

 

「あ、そういえばそうだったね、忘れてた。俺はペテル!ペテル・モークだよ!」

 

 

「あ、わ、私の名前はね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エドストレームっていうの」

 




当作品のエドストレームさんはチョイ役ではありません。
ガッツリメインキャラです


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彼は決意するようです

前回の話に、修正を加えました。
最低でも銀貨10枚→最低でも銀貨4枚
銀貨はだいたい1000~2000→だいたい5000~10000
ご指摘してくれた方、ありがとうございます!


さてさて、少し時が飛んでペテル(おれ)5歳、現在エドストレームちゃんの家で一緒に昼寝をしている。あ、お昼寝(意味深)じゃねぇからな?本当だぞ?

人見知りな上、村特有の閉塞感からなかなか馴染めなかったエドストレーム達だが、俺やギグ、レイラが根気よく説得したおかげですっかり馴染めている。そのおかげで我が家とエドストレーム達は家族ぐるみで仲良しになった。エドストレームは俺を特に慕ってくれているようで、こうして一緒に昼寝をするほどだ。

・・・にしても最初に出会う原作キャラがまさかエドストレームだとは思わなかった。エドストレームは原作なら裏の最強(笑)な噛ませ集団『六腕』の1人、なんだが・・・、この『六腕』、現地人基準で考えるとマジで裏の最強なんだよなぁ。6人が6人ともアダマンタイト級の実力者であり、裏組織の力をフルに使って現地基準での最高級装備も揃えている。軽戦士(フェンサー)幻術士(イリュージョナリスト)のふたつを修めており、剣士としてはクライム(金級)レベルに劣るサキュロントでさえ、間違いなく強者の部類に入るのだ。ゼロ達はサキュロントを馬鹿にしていたが、奴もまた天才の1人と言えるだろう。

ひとまず『六腕』のことは置いておいて、近況報告をするとしよう。まず、去年から毎日訓練をしていた俺だが、ついこの間戦士(ファイター)のLvが2に上がったのだ。思わず声に出して喜んでしまった。ギグは「確かな手応えがあったんだな・・・」と1人勘違いして感動していたが。ちなみに、俺の訓練はギグとの1対1のガチンコ勝負だ。素振りや筋トレももちろんしているが、対人訓練のほうが経験値の入りがいいのだ。【ステータス閲覧】の効果なのか、手に入る経験値の量がおおよそ感覚で分かるため、なるべく効率のいいレベリングを心がけている。となるとなるべくギグと訓練したいのだが、彼には畑仕事に加え、レイラが狩りに出かけている時には家の掃除などもしているのだ。俺が頼めば快く引き受けてくれるだろうが、あまり無理をして欲しくない。

そうすると、ギグの仕事中は効率の悪いレベリングになるのだが、ここでひとつ嬉しいおしらせがある。本が手に入ったのだ、 しかも魔法に関しての本である。エドストレームのお母さんーーーリリアラームさんと言うらしいーーーが持っていたものを譲り受けたのだ。

「貰ったはいいが魔法にはあまり興味がなかったから、そのまま捨て置いてたんだよね。欲しけりゃあげるよ?わからない文字があったら聞きに来な〜」

・・・との事なので、俺は運良く本と文字の講師を同時にゲットしたのだった。

そうして始めた魔法職のレベリングだが、いかんせん効率が悪い。本自体が魔法の基礎に関する本であることと、付与術師(エンチャンター)召喚士(サモナー)の2つに経験値が分配されるので、剣の素振りほどの稼ぎでしかないのだ。まぁ、0から1にあげるため、1年はかからないだろう。上手く行けば5歳児にして魔法を行使できる天才少年になれるかもしれないぞ!・・・まぁ、バレたらめんどいし、隠すけどね?レエブン候のお抱え魔術師なんてなりたくないし、噂を聞きつけたフールーダに誘拐されて魔法の英才教育ルートなんてのもゴメンだ。

 

 

あ、そうそう。天才で思い出したのだが、エドストレームのステータスなのだが・・・

 

 

〜〜ステータス〜〜

名前【エドストレーム】

性別【女】 年齢【6歳】

総合Lv【1】

▼ジーニアス/曲芸士(テンブラー) Lv1

 

 

才能【曲芸士(テンブラー)系】

暗殺者(アサシン)系】

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そう、彼女もまたジーニアス系の職業を持っていたのだ。だから重い荷物を持っていても大して苦労せず動けていたのだろう。

しかし、この曲芸士(テンブラー)ってのはどんな職業なんだ・・・?ラキュース辺りが《テンプラー》を持っていたのは知っているんだが・・・?

原作のエドストレームは舞踏(ダンス)の魔法が付与された複数の三日月刀(シミター)を空中に浮かせ、それを使って攻撃するという戦闘スタイルだ。その際、エドストレーム自身のずば抜けた《空間把握能力》と《両手に別々の動きをさせる能力》によって、まるで不可視のエドストレームが複数存在しているかのような攻撃が可能になるらしい。恐らくだが、両手に鞭を持って攻撃なども出来るだろう。

・・・傍から見たら曲芸そのものだが、笑えないレベルのチートだと思っている。正面戦闘においては、『六腕』の中ではゼロと同等、あるいはそれに次ぐであろう実力者だ。そんな彼女の持っている職業、しかもジーニアスである。弱いとは思えないんだが・・・。どちらにしろ、レベリング方法が分からないので今は置いといた方がいいだろう。

そう、俺は今、エドストレームを冒険者にする計画を立てているのだ。まず、俺の目標は前も言った通りモモンガ様率いるナザリックが転移してくるまでに最低でもミスリル、出来ればアダマンタイト級になっておくことである。その際、原作での『漆黒の剣』の3人を仲間に引き入れて、そこにエドストレームを加えた5人パーティを作ること。これがおれの思う最高のパーティなのだ。ニニャは勿論、ルクルットとダインの2人も相当な才能持ちだ。その上に『六腕』になれるほどの才能持ちであるエドストレームを加えれば、まず間違いなく王国最強の冒険者パーティになれるだろう。バランスもある程度整っており、俺と防御を重視した召喚モンスターを前衛にし、後衛に魔法火力担当のニニャを置く。中衛には回復、妨害が可能なダインを中央に、弓と剣で臨機応変に立ち回れるルクルット、そして三日月刀(シミター)や鞭を使って多彩な攻撃が出来るエドストレームが両脇を固めれば、みごとなインペリアルクロスが完成するのだ!

・・・割とマジでいい出来だと思っている。特に両脇を野伏(レンジャー)系を持つルクルットと暗殺者(アサシン)系を持つエドストレームで固めているため、索敵も完璧なのだ。

まぁ、そんな理由で彼女を仲間にしたいのだが、問題がある。うちの両親とリリアラームさんだ。まず、そもそも俺が冒険者になること自体に両親ーーー特に母親のレイラーーーが反対しているのだ。

リリアラームさんは、「都市なんて、いいとこじゃないよ?栄えてるように見えて、ギスギスしてるし・・・。どうしてもって言うなら、止めはしないけどね?」

と、否定的だが、こちらの意見を尊重してくれているのだろう。あまり口は出してこない。しかし・・・

 

「ペテル・・・お前の気持ちは分かる。だけどな、俺としてはこのまま村の自警団に入って村に残ってほしい。お前は強くなれる。すぐに俺なんて超えれるだろうさ。でも、冒険者にはそんなやつが沢山いる。それに、お前はまだモンスターと戦ったことがないだろう?奴らとの戦いは怖い。殺すか死ぬかだからな。冒険者ともなれば、それがほぼ毎日だ。出来ることなら、お前にそんな仕事についてほしくないんだ。」

 

「ねぇ、ペテル。本当に冒険者にならなきゃいけないの?このまま村にのこって、私たちやエドストレームちゃんと一緒に暮らしていくのも立派なことだと思うわ。・・・ママはね、モンスターと戦う時は、自分が死ぬ以上にパパが死んじゃう方が怖いの。冒険者になる人は、駆け出しのうちに多くの人が死んじゃうらしいの。ママは、そんな世界にペテルが行くなんて絶対反対だからね。」

 

 

これが両親の意見だ。至極真っ当な意見だろう。俺が親だとしても、自分の子が成功するよりも死んでしまう確率の方が高い職業なんかになるのに賛成はしない。・・・それでも俺は冒険者にならなきゃいけない。日常的にモンスターと戦えるのもそうだが、政治にあまり関係がないのがありがたい。冒険者組合の規則はあるだろうが、基本的に自由なのが冒険者だ。レベリングも今より格段にしやすくなるはずだ。

それに、せっかくオーバーロードの世界にいるのだ。原作キャラと関係を持つのにも、自由に国を行き来できる冒険者の方が都合がいいだろう。

 

それに・・・

「ん、うぅん・・・」

「!・・・おはよう、エド。ぐっすりだったね?」

 

「ふぇ?・・・あ、ペテルくん!?わ、私そんなに長く寝てた!?」

 

「落ち着いてよ。まだお昼過ぎだよ?」

 

「え?・・・ほんとだ。まだ外全然明るいや・・・」

恥ずかしそうに笑う彼女。

 

「・・・ねぇ、エド!みんなのところに行こっか。一緒に遊ぼう!」

 

「!・・・うん!行こう!」

 

 

俺は死にたくない。そして、彼女にも死んで欲しくない。その為には、冒険者になるのが一番の近道なのだ。

・・・絶対に説得してみせる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

さてさて、ペテル(おれ)8歳、現在自警団の大人達との模擬戦中だ。理由は、現在俺が自警団で最も強いためだ。この3年間で、戦士(ファイター)が2つ上がってLv4に、そして努力の甲斐あってか、付与術師(エンチャンター)召喚士(サモナー)が1つずつ上がり、現在総合Lv6となった。今村の人間で俺よりもレベルが高いのはギグ1人だけーーー俺との訓練の影響で戦士(ファイター)がひとつ上がって、現在総合Lv7ーーーなのだが、流石に戦闘職で固めている俺には叶わないため、俺が最も強いのだ。

そんな俺に村の人達はというと、

 

「いやぁ、ペテルはすげぇな!こんなに小さいのにとんでもない才能だ!」

 

「いやいや、毎日ギグと一緒になって剣を振ってたからなぁ。毎日魔法についての本も読んでるらしいし、よくもまぁあんなに努力できるもんだよ。尊敬するね。」

 

「それにあいつ、子供なのに人間出来てるしなぁ。喧嘩とかしたの見たことないし。ほんとにあのギグとレイラの息子かね?」

 

などと、かなりの高評価だ。特に子供たちは、俺のことを村の誇りだと思ってくれているらしい。嬉しいことだ。

 

そんな子供たちだが、現在俺が考案した遊びにハマっている。それは、『かくれおに』と『ジャグリング』だ。

・・・見てのとおり、エドストレームのためのレベリングだ。初めは、これで成長させれるのか不安だったのだが、

 

〜〜ステータス〜〜

名前【エドストレーム】

性別【女】 年齢【9歳】

総合Lv【3】

▼ジーニアス/曲芸士(テンブラー) Lv2

盗賊(ローグ) Lv1

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

このとおり、しっかり成長出来ているようで、安心している。ただ、こんな遊びじゃこれ以上は期待しない方がいいだろう。願わくば、モンスターを倒す機会があればいいのだが・・・

 

「おーい、ペテル!そろそろ休憩にしないかー?」

 

「了解、父さん。じゃあ、休憩終わったら次は父さんとだね。」

 

「はっはっは、望むところだ!今日こそ父の威厳を見せてやるからな!」

 

「ふーんだ、今日も連勝記録更新するよ!」

 

そんな軽口をたたきながら休憩にはいると、それに気づいたエドストレームが遊びを中断してこっちに向かってきた。

 

「お疲れ様、ペテル君。お水持ってくるね。」

 

「ありがとうエド。お願いしようかな。」

 

そういうと、エドストレームは笑顔で頷いて、小走りで水汲み場に向かっていった。

 

「なんだなんだ、ペテル!エドちゃんと良い感じじゃねーか!」

 

「父さん、やめて」

 

「照れるなって!いやー、エドちゃんみたいな可愛い子が娘になるのは、父さん大歓迎だぞ!」

 

8歳児に何言ってんだこのオヤジ。そう思いながら呆れていると、エドストレームが戻ってきた。レイラも一緒だ。

 

「おまたせ、ペテル君。はい、お水」

 

「ありがとう、エド。」

 

「レイラはどうしてこっちに?」

 

「エドちゃんが水汲みしてるのが見えたから、ついでにあなたに水を持ってきたのよ。」

 

「おお!ありがとう!」

 

そう言いながら一気に水を飲むギグ。俺も水を飲む。うん、うまい。欲をいうと塩気があるものが欲しいが、贅沢はいえない。

 

「そういえばレイラ。狩りの準備は済んだのか?」

 

「ええ、もうほとんどね。いまはリリアが確認してるわよ。」

 

「そういえば、リリアラームさんって今狩猟組なんだっけ?」

 

「そうよ?彼女、すっごい覚えるのがはやいのよ。このまま行けば、すくに1人前になれるわね。」

 

「お母さんが弓ができるなんて、意外です。」

 

たしかに。実際リリアラームさんは弓に関係するものどころか、戦闘職も1つも持っていないのだ。それなのに、弓の覚えがはやいとは、かなり驚いた。

 

「そうね〜。たしかに意外だった・・・っ!」

 

「?母さん、どうし「ペテル、静かに」」

 

急に真剣な顔付きになり、黙ってしまったレイラ。一体何があったのだろうか。

 

「ねぇ、ペテル君。何か聞こえない・・・?」

 

「俺は、特には聞こえないけど?」

 

「・・・いや、エドちゃんが正しいわ。これは、足音・・・しかも、かなり多いわよ!」

 

「足音・・・ってことはまさか!」

 

そうギグが言った時だった。

 

けたたましい鐘の音が村に鳴り響く。その鐘の音を聞いた途端、村の人々の顔つきが変わる。子供や老人は不安そうな顔つきに、若い大人達は緊張した顔つきに、そしてギグとレイラは真剣なーーー戦うものの顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンがこっちに向かっている!オーガもいるぞ!かなりの大勢だ!全員戦闘準備!!」

 




次回、初の戦闘回!
ちなみにペテルたちの住むザリア村は、王国の村の中ではかなり防衛設備が整っており、戦える人も充分います。
トブの大森林に近いことと、レエブン候のちゃんとした政治のおかげである程度余裕があることが理由です。若い人を中心に防衛設備を作りました。

そんなザリア村ですが、果たしてモンスターを倒して村を守ることは出来るのか。次回にご期待下さい。


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戦いが始まるようです

UA10000越え、及びお気に入り300越え、ありがとうございます!
想像以上のかたに見ていただいて、嬉しいです!


モンスター・・・!!俺が自警団に入ってからは初めて襲ってきた。だが、好都合だ!ここで多めに経験値を稼いで、レベルアップしておけば、目標にかなり近づける!それに、モンスターを倒して得た経験値がどう分配されるのか、実験もしなければならない。均等に分配されるのか、もしくはこちらの思った通りに分配できるのかだ。結果によっては、レベリング方法を見直さなくてはならない。

 

「おいペテル!!なに突っ立ってんだ!!」

 

ギグに言われてハッとする。そうだ、すぐに動かなくては。そう思っていると、ギグが俺に剣を手渡してきた。訓練で俺が使っている木剣よりも少し長めの直剣と、少し短めの鉈、それにナイフだった。

 

「お前の分の装備だ。だが、鉈とナイフはあくまで予備だ。無理はするなよ。お前はまず、村長の家に子供たちを避難させてくれ。それが済んだら、俺たちの加勢に来い。いいな?」

 

「・・・わかった。俺が来るまで、絶対持ちこたえてね。」

 

「へっ、舐めんなよ。もうこの村で長いこと戦ってんだ。いつも通りやるだけさ。・・・くどいようだが、無理はするなよ。」

 

「分かってるよ、父さん。死なないでね」

 

「おう、早くいけ。」

 

 

そう言葉を交わすと、ギグは自警団が集まっている方へ走っていった。・・・とりあえず、俺も仕事をしなければ。手早く済ませて、経験値稼ぎだ。

 

「エド!みんなはどこにいるか分かる?」

 

「あっちだよ!付いてきて!」

 

エドストレームについていくと、すぐにみんなが見えてきた。どうやら近くに大人がいなかったらしく、どうしたらいいのか分からないようだ。

 

「みんな!大丈夫?!」

 

「ペテル!なんでこっちにいるんだよ!」

 

「みんなを村長の家まで護衛するためだよ。モーゼ!全員いる?」

 

「ちょっと待て!・・・よし、全員揃ってるぞ!」

 

「わかった。みんな!今から村長の家に避難するよ!なるべく急いで、だけど騒がずにね!」

 

そう言って、俺たちは村長の家に向かう。小さい子供の手を年長組が引いていき、俺を先頭、置いていかれる子供がいないよう、最後尾をモーゼが見ている。村の東側を見てみると、巨体のオーガや、矢倉から矢を放つレイラ達狩猟組が見える。現在ここから確認できるオーガの数は5匹。うち2匹は巨大な丸太を持っている。

・・・まずいな。ゴブリンならば自警団の皆でも対処できる。しかしオーガは無理だ。ギグならば1人でも1匹対処できるし、ギランとルッチーーー自警団の戦士(ファイター)持ちで、どちらも総合Lv4ーーーならば二人がかりで抑えれるだろう。そこに俺が加わっても、止めれるのは3匹だ。これは、早く戻った方がいいな。幸い、ここから村長の家も近いし、エドストレームとモーゼに任せて俺はギグ達の方に・・・

 

「ペテル君!ちょっと待って!」

 

「ごめんエド、後でいいかな?はやく村長の家に行かないと・・・」

 

「そ、それなんだけど、向こうから誰か来てるの!」

 

そう言って彼女が指さしたのは、村の北側だ。この村は、畑や家をまとめて区分けしている。東側に訓練用の広場や武器庫、対モンスター用の防衛設備を、西側には村のみんなが住んでいる家を、南側には畑を、北側には畑から取れた作物や、トブの大森林からたまに取ってくる薬草を保管する倉庫をおいているのだ。俺達が目指している村長の家は西側だ。そして、この時間は殆どの村人が訓練場、もしくは畑仕事をしていた。

つまり、倉庫のおいてある北側には、村人はいないはずなのだ。

 

「倉庫の方から?気のせいじゃなくて?」

 

「うん。足音がする。しかも多い。」

 

人がいないはずの倉庫側から足音。しかも複数。どう考えてもモンスターだ。このまま放っておくと、自警団の背後に回られるかもしれない。・・・ここで始末しておくか。幸い、北側にはオーガは見当たらない。ゴブリンだけならば、俺一人でもある程度戦えるだろう。もしもの時は、召喚魔法で味方を増やせばいい。

 

「・・・エド、これ持ってて。それと、モーゼと一緒に、みんなを連れて村長の家に隠れてて。」

 

そう言って彼女にナイフを渡す。盗賊(ローグ)のクラス持ちである彼女ならば、俺よりも上手く扱えるだろう。

 

「ペテル君は?」

 

「足音について調べてくる。モンスターだったらそこで倒さないといけないからね。」

 

「そんな!じゃあ私を一緒に・・・」

 

「ダメ。エドはみんなを連れて隠れて。俺は大丈夫だから。」

 

本音を言うと、彼女も連れていきたい。ゴブリン程度になら充分戦えるだろうし。しかし、万が一がある。それに、今は彼女のレベリングをしている場合ではない。はやくしないと自警団のみんなが危ないのだ。俺がここで経験値を稼いでおきたいし、彼女は今回はお休みだ。

 

「・・・わかった。無理しないでね。」

 

「任せて。」

 

 

そう言ってみんなから離れて北側に向かう。しかし、モンスターが回り込むことなんて今まで無かった。それに、今回攻めてきた群れもかなりの人数だ。普通、あんなに大勢のゴブリンとオーガがまとまってくることなんてない。

・・・俺の考えすぎか?ただの偶然なのか?それとも・・・

 

「っ!・・・考えるのはあとにするべきか・・・!」

 

俺の視線の先に、小さな人影が見える。

茶色い肌にボサボサの髪、つぶれた顔に平べったい鼻と大きく裂けた口がついている。間違いない、ゴブリンだ。棍棒やさびた短剣を装備したそいつらが確認できるだけでも9匹いる。

そして、そのゴブリン達を率いるかのようにして先頭にたっているのは、周りよりも一回り大きく、筋肉がついており、そしてさびた直剣を手に持ったゴブリンだった。

【能力看破の魔眼】を使うと、周りのゴブリンたちは全員小鬼(ゴブリン)Lv2しか持っていなかった。しかし、さびた直剣をもったゴブリンは・・・

 

〜〜ステータス〜〜

総合Lv【6】

小鬼(ゴブリン) Lv4

小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

総合Lv6・・・しかも兵士(ソルジャー)持ちか。ラッキーだな。俺と同格なら、貰える経験値も他のやつに比べて多いはずだ。苦戦するかもしれないが、ここでレベルアップ出来れば、オーガを倒すのも楽になるだろう。ぜひとも皆殺しにしたい。

 

「グギッ!」

 

「ーー!ニンゲンノガキダナ。コロセ。」

 

「ギギィ!」

 

小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)が指示を出すと、1匹のゴブリンがこちらに走ってくる。見た目子供だし、舐められてるな。

 

深呼吸をし、鞘から直剣を抜いて構える。近づいてきたゴブリンが大振りな動作で棍棒を振るう。それをバックステップで躱し、スキだらけの腕を切りつける。「グギッ!?」と叫びながら腕を抑えている間に首を狙って一閃。赤黒い血を噴き出しながら、ゴブリンの頭が宙を舞う。

肉を切る感触って結構気持ち悪いな。おいおい慣れていくしかないか。

 

「グギッ!?ツヨイ!」

 

「タダノガキジャナイ!ゼンイン、カカレ!」

 

あっさり1匹やられたからか、今度はまとめて襲ってきた。それでいい。その方が早く済ませられるしな。それでも、9匹まとめてはこのままじゃ辛いな。誰も見てないんだし、使っとくべきか。

 

「《早足(クィック・マーチ)》、《身軽な我が身(ニンブル・ボディ)》」

 

移動速度と、身軽さを上昇させる魔法だ。かけないよりはマシだろう。もうひとつはそもそも戦闘用ではないし。

 

 

 

「んじゃま、時間も無いし。とっとと俺の経験値になってくれ。」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

彼がいってしまった。恐らく、モンスターがいるであろう場所に。・・・心配だ。たしかに彼は強い。ギグおじさんと戦っても勝ってしまうほどに。それでも、どうしても心配になってしまう。強いといっても、彼はまだ8歳、私よりも歳下なのだ。それなのに、私は何も出来ない。

 

ギグおじさんや自警団のみんなの様に、彼の隣にたって戦うことが出来ない。

 

レイラおばさんのように、彼を遠くから手助けすることも出来ない。

 

お母さんのように、彼に何かを教えることも出来ない。

 

出来ない。出来ない。何も出来ない。私は彼からたくさんのものを貰った。それなのに、何一つ返すことが出来ないのだ。そんな弱っちい自分に嫌気がさす。

・・・強くなりたい。彼の隣に立てるくらい、彼の夢の手助けができるくらい、彼に頼りにされるくらい、強く。

 

「・・・い。おい!エド!きこえてんだろ!?」

 

その声にハッとして振り向くと、最後尾にいたモーゼ君がすぐ近くにいた。

 

「ごめん、モーゼ君。少し考え事してて。」

 

「大丈夫かよ?てか、それよりペテルのやつ、どこいったんだ?」

 

「倉庫の方から、足音がしたから、ソレを確認しに。モンスターだったら、倒さないといけないからって」

 

「マジかよあいつ、1人でか?・・・まぁ、ペテルなら大丈夫か。村の誰よりも強いしな。」

 

それではダメだ。そのままではダメなんだ。そのままだと、彼は1人で先にいってしまう。進んでしまう。

憧れで留めておくのがいいのだろう。才能が違うと諦めれば楽なのだろう。彼にはもっと相応しい人達がいるのだと、身を引く方が正しいのだろう。賢いのだろう。

それでも、わたしは・・・。

 

「おーい、みんな!急ぎなさい!」

 

そうこうしているうちに、村長の家が見えてきた。村長が私たちに気付き、急ぐように促す。

 

「村長!ほかの人たちは?」

 

「もうみんな来ておる!お前達で最後だ。さぁ、早く中に入りなさい!」

 

「わかった!みんな、入って!急いで、だけど騒がずにね!」

 

そうして、子供たちが村長の家に入っていく。程なくして全員入り、自分も中へと入る。

 

(ごめんね、ペテル君。どうか、死なないで)

 

そして、家のドアがバタリと閉まった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「くそっ!なんでオーガが5匹もいんだよ!こんなの今までなかったぞ!?」

 

「いいから!口じゃなくて手ぇ動かして!下のみんなが少しでも楽できるようにね!」

 

「分かってる!リリアラームさん!予備の矢を持ってきておいて!」

 

「わかった!取ってくるよ!」

 

そう言って、リリアが下に降りていく。あの子の腕では、下にいる村の仲間に当たってしまうかもしれないから、補助を頼んでいるが、どうしても手数が足りない。私含め5人じゃ、狙いを集中させてもオーガを倒すことは出来ない。せいぜい足止めして、体力を減らすくらいなものだ。ゴブリンを狙おうにも、小さくて足が速いためあたりにくく、既にこちら側と接触している。味方に当てるのはなるべく避けたい。

下にはギグがいる。彼ならば、オーガを1人で足止めすることが出来るだろう。下手したら倒してしまうかもしれない。

ここにあの子が・・・ペテルが戻ってくれば、まだ押し返せるかもしれない。しかし、あの子は一向に戻ってくる気配がない。何かあったのだろうか。

いくら強いとはいえ、あの子はまだ子供。それなのに、その子供に頼らなければならないとは、情けなくて笑えてくる。

そうしているうちに、矢筒が空になった。そこに、リリアが矢をもって戻ってきた。すぐに矢筒を交換して、放つ。運良くオーガの膝に刺さり、動きを制限することが出来た。

 

「ありがとう、リリア!さぁ、どんどん行くよ!」

 

「ねぇ、レイラさん!あのゴブリン、なんかおかしくないですか?」

 

「どうしたのさ、カノン。ゴブリンなんて下にいるだろう?」

 

「そっちじゃなくて!あの、棍棒もったオーガの後ろに、変なゴブリンがいるんです!」

 

そう言われて、カノンが指さすほうを見ると、たしかにおかしなゴブリンがいた。体をローブのような布で覆い、手にはねじ曲がった木の枝をもっている。

 

「たしかに変だね。・・・もしかして、あれが群れの長かね?」

 

「それなら、あれを倒せば、ゴブリン共が引いていくかも知れませんよ!」

 

「逆だ。群れの長を失ったら、こいつらはがむしゃらに突撃してくる。そんなことされたら、こっちは全滅するよ。ただ突っ立ってるだけで、実害がないなら、放っておきな!」

 

「は、はい!」

 

そうして、再びオーガを狙い始める。しかし、既に1番先頭に近いオーガが自警団のすぐそこまで迫っていた。

 

「ギグ!!左側からオーガが近づいてるよ!」

 

「ーー!わかった!ルッチ!ここは任せたぞ!もう1匹オーガが来たら、ギランと2人で抑えてくれ!」

 

「了解!気をつけてくださいよ、ギグさん!」

 

 

先頭のオーガとギグがぶつかる。ギグはオーガの剛腕を的確にいなし、一撃、また一撃とカウンターを決めていく。

 

「さっすがギグさん!オーガと1体1で戦えるとか、どんな身体能力だよ!」

 

「あったりまえでしょ、私の夫なんだから!ギグなら大丈夫だから、他のを狙うよ!・・・ん?」

 

ふと、視界に()()()()が移り込む。その白く光る矢のような何かは、まっすぐこちらに向かって来ていた。

 

「なんですか?あれ。」

 

そういってカノンが躱そうとすると、彼女を追いかけるかのようにその何かは軌道を変える。

 

「っ!カノン!危ない!」

 

咄嗟に彼女を庇うと、その瞬間焼けるような痛みが左肩を襲う。あまりの痛みに踏ん張れず、カノンを巻き込んで倒れてしまう。

 

「ぐっ、あぁぁぁぁぁぁ・・!!!」

 

「そ、そんな!レイラさん!レイラさん!しっかりしてください!レイラさん!」

 

「カノンさん!落ち着いて!私が治療するから、あなたは戦いに戻って!」

 

「っ!すみません、お願いします!」

 

そういって、彼女は再び矢を放つ。左肩を抑えてうずくまる私に、リリアが手際よく包帯を巻いていく。

 

「レイラ、大丈夫!そこまで傷は深くないよ!」

 

「ぐぅっ・・・ごめん、リリア。少し楽になったよ・・・。」

 

そう言って身を起こすと、上から戦況を確認する。新たに1匹のオーガが近づいており、それをルッチとギランがどうにかして止めている。ゴブリンと戦っている他の自警団の人たちも、かなり疲労している。

 

そして、あの怪しいゴブリンを見てみると、こちらに向かって杖を掲げて何かをしていた。すると、ゴブリンの背後からあの白い矢が現れ、こちらに向かって飛んできた。先ほどと同じく、カノンを狙っている。

 

「くそ!カノン、後ろに下がって!」

 

カノンを後ろに下げ、矢筒を盾にして白い矢を受け止める。ぶつかった瞬間に強い衝撃が体を襲い、矢筒が粉々に砕けてしまう。

 

「レイラさん!」

 

「私は大丈夫!それよりも、あのゴブリンを狙って!」

 

「了解!・・・くそっ!あいつ、棍棒もったオーガ共を盾にしてやがる!」

 

「それでもいい!とにかくあいつをこっちに引き付けて!」

 

くそっ!くそっ!少し考えれば分かることだった!普通、こんなふうに多くのゴブリンやオーガがまとまることなんてない。食料の問題もあるし、何より喧嘩が起こるからだ。そんなゴブリン達をまとめるには、相応の知性が必要になる。だが、ゴブリンにもオーガにも、そんな知性は備わっていない。

 

しかし、稀にいるのだ。そんな知性をもったゴブリンが。長く生き、知性を蓄えたゴブリンや、上位種たるホブ・ゴブリン。そして、本当に稀に生まれてくる、()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小鬼の術者(ゴブリン・メイジ)がいるなんて、聞いてないわよ・・・!!」

 




そんなわけで、魔法詠唱者(マジックキャスター)登場。急げ、ペテル!君がいないとみんな死ぬぞ!・・・割とマジで。


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彼の戦い

ペテルとゴブリン達の戦いです。


まず、1番手前のやつの頭に直剣を叩きつける。悲鳴をあげたそいつの腹に蹴りを入れ、後ろのやつを巻き込んで転倒させる。左側から新手が来たので、そいつの右手を切り落とす。スキができたそいつの首をはねると、今度は後ろから1匹襲ってくる。後ろを見ずにバク宙をして、空中で顔を切りつける。着地と同時に、そのがら空きの背中に剣を叩きつけ、真っ二つにする。・・・つもりが、半分ほど切ったところで剣が止まってしまう。そのスキをついて、小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)が俺に向かってさびた直剣を振り下ろす。・・・剣で受けることは出来ないな。仕方ない。

 

第1位階天使召喚(サモン・エンジェル・1st)!!」

 

魔法行使と同時に、俺と小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)とのあいだに天使が現れ、盾で直剣を受け止める。本来この魔法で召喚されるのは、剣を片手に持っただけのただの《天使(エンジェル)》なのだが、【魔法効果変動】によって盾を装備している。さらに、攻撃力を下げる代わり、耐久力をあげたタンク仕様だ。

 

天使(エンジェル)!そいつを抑えておけ!」

 

そう指示を出すと、天使(エンジェル)小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)に切りかかる。オーガとの戦いを考えると、もうこれ以上は使えないな。そんなことを思いながら、直剣を引き抜く。近くに先程転倒したゴブリンたちがいたので、怪我がない方の首を落とす。そして、怪我をしている方にもトドメを刺しておく。耐久力をあげていても、所詮は第1位階の召喚モンスター。せいぜい時間稼ぎが関の山だろう。そのうちに、ほかのゴブリン共を皆殺しにして、奴と1体1にならなければならない。残りのゴブリンの数は4体。深く息を吐くと、近くの1匹に切りかかる。ナイフで受け止められるが、足を払い転ばせる。そして、首を全力で踏みつけ、骨をへし折る。すると、残った3匹がまとまって襲いかかる。1匹の攻撃を躱し、さらに1匹の攻撃を直剣で受け止めるが、最後の1匹のを躱しきれず、左腕に錆びたナイフが突き刺さる。

 

「ぐっ!くっそが!!」

 

切りつけてきたやつを蹴り飛ばし、近くの1匹の胸に直剣を突き刺す。予備の鉈を取り出し、もう1匹を力任せに叩き切る。蹴り飛ばしやつに駆け寄り、全力で鉈を振り下ろし頭を叩き割る。・・・これで残りは小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)だけだな。直剣をゴブリンの死体から抜き取り、やつの方を見ると、丁度俺の天使(エンジェル)が消滅するところだった。ほとんど怪我をしていないが、まぁ攻撃力を低くしたし、仕方ないだろう。直剣の血を払い、構えをとる。

 

「クソ!ツカエナイヤツラダ!」

 

「・・・命懸けで戦った手下に大して、随分ないいようだな?」

 

「ヨワイカラシンダ!!オレハツヨイカライキノコッタ!ソシテオマエモモウジキシヌ!」

 

「死なねぇよ。死ぬのはお前だ。」

 

「ナンダトォ!」

 

小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)が怒りにまかせて突撃してくる。ただのゴブリンなんかとは比べものにならないほどの速さだ。やつの剣をバックステップで躱し、こちらも剣を振るう。やつも体を逸らして躱し、さらに剣を振るう。俺は直剣でやつの攻撃をいなす。その攻防が、何度が続いた。すると、奴は突きを繰り出した。俺はそれをいなそうと剣を構えてその突きを受ける。

 

だが、傷を負った左腕に力が入らず、いなすどころか体勢を崩しながら剣を手放してしまう。

 

「しまっ・・・!」

 

そんな隙をやつが見逃すはずがなく、がら空きの腹に蹴りを受けてしまう。とんでもなく重く、俺は吹き飛ばされ、近くの倉庫の壁に激突する。

 

「がっ!くっ・・・そ!ちくしょう!」

 

とんでもない痛みだった。さらに、今の衝撃で左腕の痛いがより大きくなった。これではまともに構えることも出来ない。そのうえ、やつはさびた直剣を捨てて、俺の直剣を拾っている。最悪だ。あちらはより良い武器になった上、こちらにはもう鉈しか残っていない。そのうえ、やつの方が力は上だ。攻撃力が違いすぎる。

 

 

死にたくないとは常々思っていた。しかし、それをどこか他人事のように思っていた。こころの何処かで死ぬはずがないと思っていた。ゴブリンなんて俺の成長の糧だ、経験値だとしか思っていなかった。

 

 

 

俺は、今、明確に死の恐怖を感じてしまった。心の底から死にたくないと思ったのだ。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!クソ!クソ!クソォォォォォォォォ!!!!」

 

「死にたくない!!!死にたくない!!!俺はまだ、死にたくない、死ねないんだ!!!」

 

 

「お前なんかに・・・たかだかゴブリンごときに殺されてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

そうだ。俺はまだ死ねない。ここで俺が殺されれば、村は終わりだ。ただでさえオーガが5匹もいるのだ。ここで死ねば、自警団が全滅するのは時間の問題だ。そうすれば、村はなくなってしまう。隠れているみんなも殺されてしまう。

・・・あの子も、殺されてしまう。

それだけはさせない。絶対、絶対に!!!

 

第1位階天使召喚(サモン・エンジェル・1st)!!!!」

 

そうして、直剣と盾持ちの天使を呼び出す。

 

天使(エンジェル)!!武器を貸せ!お前は盾になって、あいつの攻撃を受け止めろ!!」

 

そして、天使から武器を奪い取る。俺が使っていたものよりも、さらに大きい直剣。その分重く、このままでは振り回すことも出来ないだろう。()()()()()()だが。

 

「《軽量化(ウェイト・サーヴィング)》!!!」

 

武器に軽量化の魔法をかける。本来は重いものを持てるようにするための魔法なのだが、まさか戦闘中に使うとは思わなかった。

 

そうして、小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)に切りかかる。技術もなにもない、ただ切りつけるだけの攻撃だ。簡単にいなされてしまう。かわりに向こうの攻撃はこちらの天使が受け止める。しかし、徐々にこちらの形勢が不利になる。天使の体力には限界がある。このままだと、すぐに消滅してしまうだろう。

 

 

()()()()()。俺が狙うのは、消滅の瞬間だ。

 

 

小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)の猛攻を受けて、天使の体力に限界が来る。消滅ギリギリだ。次の攻撃で、剣とともに消えてしまうだろう。

 

 

「何やってんだ、役立たず!!俺を守れよ!!!クソが!!!」

 

 

これでいい、これでいいんだ。相手を騙せ。余裕が無い振りをするんだ。

 

敵の攻撃が天使にあたる。ここで天使は退場だ。体が淡く光り始める。

 

「ーー!くそっ!くそっ!ちくしょうっ!!!!」

 

剣が消滅してしまう前に、やぶれかぶれの突撃をする。片手で剣を振り下ろそうとする。それを受け止めるために頭上で剣を横に構えるゴブリン。その顔はニヤついている。こちらを舐めている。完全に勝ったと思い込んでいる。

 

 

まだだ、まだだ、もう少し、もう少し、もう少し・・・ここだ。

 

 

剣と剣がぶつかる瞬間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「・・・ギッ?」

 

武器を手から離した瞬間、鉈を引き抜きながら勢いよくしゃがむ。予想通り、相手は面食らっている。あの状況で武器を手放すとは思わなかったのだろう。

 

鉈の切っ先を小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)に向けて鋭い突きを放つ。これが正真正銘最後の一撃。狙うは心臓。

外れても負け、防がれても負け、殺しきれなくても俺の負け。

 

 

もっと強く、もっと鋭く!!

全身の筋肉を使え!神経を研ぎ澄ませろ!

1秒でも速く、1ミリでも深く!!

 

そうして放たれた俺の渾身の突きは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狙い通りに小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)の胸に突き刺さった。

 

 

 

 

ゆっくりと後ろに倒れていく小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)

 

「やった・・・」

 

どっと疲れが押し寄せ、思わず地面に座り込む。やばいやばいやばいやばい、今更ながら蹴られた腹がいてぇ!!!死ぬ!死んじまう!

 

まさかあんなにゴブリンが強かったとは!!これオーガと戦ったらどうなるんだよ!!・・・とりあえず今は、勝てたことを喜ぼう。それに、色々嬉しいこともあるしな。

 

まず、経験値はどうなるのかだ。感覚でだが、経験値的な何かがあるのが分かり、それをこちらの都合通りに振り分けることが出来る。つまり、モンスターを倒すとストック経験値が手に入るのだ。

早速その経験値を使い、Lvをあげる。戦士(ファイター)が上がりそうだったため、そちらをひとつ上げ、残りは付与術師(エンチャンター)召喚士(サモナー)に均等に振り分ける。

 

・・・レベルアップしても怪我は治らないし、体力も戻らないみたいだな。依然として動けないまんまだ。あーキッツイ!これオーガまで持つか?でも急がないとなぁ。

 

「ペテル君!!!!」

 

彼女の声がしたので、そちらを見ると、避難したはずのエドストレームがいた。なんでこっちにいるんだ?もしかして、もうギグたちが全滅させたのか?それなら楽でいいんだけどなぁ。そんなわけないか。

 

「ペテル君!!!!後ろぉ!!!!!」

 

後ろ?彼女がそう叫ぶので、後ろを振り返る。すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)が立っていた。

 

 

 

ゆっくりと俺の直剣を持ち上げ、上段の構えをとる。

 

 

 

「・・・俺の、負けだったか。」

 

ちくしょう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

彼を探して走る。自分の恩人であり、大切な人である彼を探して。

 

村長の家で、彼の叫び声を聞いてしまった。聞こえてしまったのだ。みんなは気のせいだと言った。彼がゴブリンごときに負けるはずがないと。そもそも彼が北側にいるのかと。

 

それでも、もし彼が助けを求めていたら?私が向かうことで、彼を助けることが出来るのなら?

 

そう考えてしまうと、もう止められなかった。村長やモーゼ君が止めるのも聞かずに飛び出してしまった。

 

倉庫の方へと走って向かう。そして、ゴブリンの死体を見つける。初めて近くで見るモンスターの死体に、思わず吐き気を催す。しかし、それを気合いでこらえる。こんなことをしている場合じゃない。早く彼を見つけないと。

 

ゴブリンの死体によってあたり一面は血だらけなのだが、不自然に奥の方へと伸びている。そして、その先に、彼はいた。

 

先程のゴブリンよりも一回り大きい、強そうなゴブリンが倒れており、そのすぐ側に彼が座っている。

 

良かった。無事だった。自分の勘違いだった。ゴブリンなんかに負ける彼ではなかったのだ。

 

そう思い、声をかけようとした瞬間、倒れていたゴブリンがゆっくりと起き上がる。

 

「ペテル君!!!!」

 

すぐに彼に声をかけるが、彼は後ろのゴブリンに気づかずにこちらを見る。いつも元気な彼と違って、ひどく疲れたような目をしていた。手には何も持っていない。

 

「ペテル君!!!!後ろぉ!!!!!」

 

再び彼に声をかける。彼はゆっくりと後ろを振り返り、立ち上がったゴブリンを視界に収める。その場から飛び退くわけでもなく、回避しようと身構えるわけでもなく、ただただそれを見ていた。彼の背中は、まるですべてをあきらめてしまったかのようだった。

 

 

ゴブリンがゆっくりと剣を構える。このままだと、彼はあの剣で切られて、死んでしまうのだろう。

 

 

 

・・・死ぬ?彼が、ペテルが、死んでしまう?

 

 

 

ダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ絶対にダメだ!!!!

 

 

この村に来た時に、重い荷物を持っていた自分を気遣ってくれた彼。

 

私は私なのだと言ってくれた彼。

 

村のみんなと馴染めなかった私のために、積極的に誘ってくれた彼。

 

たくさんのものをくれた。母以外にも、私に優しさを向けてくれる人がいると教えてくれた彼。

 

そんな彼が死ぬ?そんなの許せない。許せるわけがない。

 

私はまだ何も返せていない。なにも出来ていないのだ。彼がくれた優しさのお返しを、まだ何もしていないのだ!!!

 

どうする!?どうすれば彼は助かる!?

 

ここから声をかけて、避けるように言う?・・・ダメだ。彼は反応しないだろう。

 

走っていって、彼を庇う?・・・無理だ。間に合うわけがない。

 

 

結局何も出来ない。彼が死ぬのを眺めることしか出来ない。あぁ、なんて弱いのだろう。なんて無力なのだろう。大切な人1人救えない、そんな自分が心底憎かった。私には、彼を救うことは出来ない・・・

 

・・・いや、ある。一つだけ、本当に低い確率だが、私が彼を救う方法が。そして、彼から渡されたナイフを鞘から抜く。

 

これしか方法はない。ほかの方法なんて考えてる暇はない。ナイフを持つ手に力を込め、全力でゴブリンに向かって()()()

 

 

単純な事だ。あのゴブリンが彼を殺そうとしているなら、先にあのゴブリンが死ねばいい。

 

母が言っていた。生き物は大抵頭に攻撃を加えれば死ぬと。ならばあのゴブリンも、頭にナイフが刺されば死ぬはずだ。

 

 

「お願い、当たってぇ!!!!」

 

 

おおよそ子供が投げたとは思えない勢いで、空中を駆けていくナイフ。そんな彼女の思いがこもった一投は。

 

 

 

頭ではなく、ゴブリンの脇腹近くに刺さった。

 

 

 

・・・失敗した。助けることが出来なかった。殺すことが出来なかった。あれではゴブリンは死なない。ゴブリンはそのまま剣を振り下ろし、彼の命を刈り取るのだろう。

 

やっぱり私では、彼を助けることなんて無理だったのだ。

 

 

 

「ごめん、ごめんなさい、ペテル君・・・」

 

 

そうして、ゴブリンは彼にその剣を振り下ろす・・・ことはなく、剣を手放した。

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

そのゴブリンは、まるで糸が切れた人形の様に地面に倒れ込む。そして、そのままピクリとも動かなくなった。

 

 

 

「どうなってるの?」

 

 

 

失敗したと思った。助けられなかったと思った。だけど、違ったのだろうか?助けることが出来たのだろうか?

 

 

ふと彼を見ると、驚いたような顔をして、私を見ていた。・・・彼は生きている。私は、彼を助けることが出来たのだ。泣きながら、彼に向かって走り寄り、抱きつく。

 

「ペテル君!!良かった・・・ほんとうによかったよぅ・・・」

 

「・・・エド、なんで、ここにいるの?」

 

「ペテル君の叫び声がしたから、何かあったのかと思って、飛び出してきたの。」

 

「そう、なんだ。ありがとう、エド。」

 

そうして、私に笑顔を向けてくれる彼。私は彼に少しでも恩を返すことが出来ただろうか?私が受けた恩に比べれば、ほんの少しだけしか返せていないだろう。それでも、少しずつ、少しずつ返していこう。

 

そして、ひとつ決心をした。彼について行こう。彼は村を出て冒険者になると言っていた。ならば、私もついて行こう。彼の隣に立って、共に戦おう。

 

憧れにとどめておくなんて出来ない。才能が違うだなんて関係ない。もっと相応しい人がいたとしても、身を引くことなんでしたくない。私は、彼の隣にたちたい。誰かに譲るなんて嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の隣は、私のものだ。

 

 

 




次回は、自警団側のお話です。
見ていただき、ありがとうございました。


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戦いは終盤へ

すみません、リアルでの用事があって投稿がかなり遅れてしまいました。これからはもっと早めに投稿できるよう努力します。
また、誤字報告ありがとうございます!!


「これでどうだ!」

 

ギグの剣がオーガの右腕に突き刺さる。オーガは叫び声を上げながら、左腕をギグに向けて振るう。すぐに剣から手を離し、しゃがんで攻撃をかわす。後ろに下がってオーガから距離を取り、予備の直剣を鞘から抜く。

 

(クソっ!さっきから何度も攻撃してるってのに、一向に倒れる様子がねぇ!)

 

ギグは焦っていた。目の前のオーガは何時倒せるのか分からない上に、先程から狩猟組からの援護射撃は奥の2体に集中しており、こちらには飛んでこない。さらに、オーガ相手に自分と同等以上に戦えるであろう息子は戻ってくる気配がない。現在、前線にいるオーガは3体。このままでは、1体のオーガが戦いなれていない村人たちの方に向かってしまう。それを阻止するために目の前のオーガを早く倒してしまいたいのだが、耐久力に優れるオーガを倒すのにはどうしても時間がかかる。

 

(ギランとルッチの2人じゃ、抑えることは出来ても倒すのは難しい。だから、俺がこいつを倒さないと不味いんだ。集中しろ、集中!)

 

「おらよっ!」

 

再びオーガを剣で斬りつける。しかし、上手く斬ることが出来ず、オーガの肌を傷つけるだけでダメージを与えられない。オーガが腕を振るう。ギグは上体を逸らして躱し、がら空きの腹に剣を突き刺し、引き抜く。穴が空いたオーガの腹から赤黒い血がドバドバと溢れ出て、足元に血だまりを作る。オーガは悲鳴を上げながら腹をおさえ、がむしゃらに腕を振り回した。

 

「っと!危ねぇな!」

 

後ろに下がりながら剣を振るい、血を落とす。かなりの手応えがあった。もう1、2発攻撃を当てればこのオーガは倒れるだろう。しかし、ギグは油断せずに相手を観察する。今までの戦闘経験から、手負いの獣がもっとも恐ろしいと知っているからだ。一か八か、オーガはギグに突撃する。目の前の人間を叩き潰そうと、両腕に力を込めて振り回す。

しかし、これまで10年以上自警団団長として戦ってきたギグにそんな破れかぶれの攻撃が通用するはずもなく、ギグはオーガの両腕をかいくぐり、左足を切り落とす。片足を失ったオーガはバランスを崩し、地面に倒れ込む。

そして、ギグは無防備にされされた首に向かって、上段の構えから全力の一撃を振り下ろす。肉が切れ、骨が砕ける感触が伝わる。オーガの首が宙を舞い、鮮血が飛び散る。頭部を失ったオーガの肉体は、それ以降動くことは無かった。

 

「よっしゃ!まず1匹!」

 

ギグは自分が単独でオーガを倒したことに興奮しながら戦場を見渡す。自警団の村人たちは、懸命にゴブリンと戦っていた。訓練では防御の方法を中心にしていたことと、ギグやギラン、ルッチが戦いのはじめにある程度ゴブリンを倒していたおかげで予想以上に被害が少なかった。しかし、それでも死者は出ているし、四肢の欠損などこれからの生活に支障をきたすような怪我を負っているものも少なくない。五体満足の村人も、大なり小なり怪我を負っている。このまま戦いを長引かせてはまずいだろう。

ギランとルッチの2人は、近づいてきたオーガを抑えていた。オーガの猛攻を躱し、隙を見て攻撃しているが、2人の力では決定打を加えることが出来ていない。そのうえ、攻撃を躱し続ける疲労と、こちらの攻撃は効いていないのに相手の攻撃を受ければ致命傷という緊張感から、かなり動きが鈍っている。

 

(ゴブリンを相手にしている奴らの方に行く余裕は無いな・・・。ギランとルッチの手助けをして、もう1匹を早めに潰すのが最善か?あーくそ、この場にペテルが戻ってきてくれたら・・・)

 

「って、何考えてんだ俺!あの子はまだ8歳だぞ?なんでそんな子をあてにしているんだ?むしろここでオーガたちを全滅させて、父親の威厳ってものを見せるべきだろ!そうと決まれば、とっととギランたちを助けに・・・」

 

「ギグさん!!」

 

呼ばれた方を振り返ると、矢倉からカノンがこちらに向かって叫んでいた。

 

「不味いです!もう矢がほとんどありません!オーガ2匹と、魔法を使うゴブリンを抑えることが出来なくなります!」

 

「なんだと!?小鬼の術者(ゴブリン・メイジ)までいるのかよ・・・!くそっ!狩猟組は攻撃をやめて、隠れている女子供や老人を連れて逃げろ!!俺達が時間を稼ぐ!!」

 

「はぁ!?何言ってんだいギグ!ここから近くのエ・レエブルまでどんだけかかると思ってんのさ!それに、あんた達を置いていけるわけないでしょう!?」

 

「ここで全員死ぬよりはマシだろうが!!それに、狩猟組にペテルがいればモンスター相手でも戦える!もしかしたらエ・レエブルまでたどり着けるかもしれないだろ!!」

 

「でも・・・!!!」

 

「いいから早く行け!!!俺たちを無駄死にさせる気か!!」

 

「・・・!!くそっ!くそっ!ごめん、ごめんよギグ!!じゃあね、愛してるよ!!」

 

「あぁ、俺も愛してるぜ、レイラ!!ペテルのこと、頼んだぞ!!」

 

そうして、レイラ達狩猟組が戦場から離脱しはじめる。ギグはオーガの死体から刺していた直剣を抜き取り、血を落として鞘に収める。そして、ギランたちの方へ走り出す。

 

「ギラン、ルッチ!今の聞いてたよな!?死ぬ気で抑えるぞ!!」

 

「はいはい、了解!!あーあ、こんなことなら自警団なんて入らなきゃよかったぜ!」

 

「なんだよ、ギラン!!なら、お前はにげるか?!」

 

「馬鹿言え、ルッチ!!お前やギグさん置いていけるわけないだろーが!!」

 

「ハッハ!!お前ら、そんなに元気があるなら大丈夫だな!!それに、まだ死ぬと決まったわけじゃない。案外、3人で行けば勝てるかもしれないぞ!」

 

「それもそうっすね!!っしゃぁ!やってやるぞおらぁ!!」

 

「俺らが抑えますんで、ギグさんは攻撃を!!」

 

「了解!!」

 

ギグはギラン、ルッチと共に剣を構えて、オーガと対峙する。村のみんなを、愛する妻や子供を助けるためにモンスターと戦う。それは彼が昔憧れた物語にそっくりだった。彼は大きく息を吸い込み、こう叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザリア村自警団団長、ギグ・モークだ!!命にかえても、この先には行かせねぇ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

彼女、カノンは走る。怪我をしているレイラに代わり、先行して村長の家に向かっていた。なるべく早く情報を伝え、逃げるのを早くするためだ。

 

(悔しい、悔しい、悔しい!!)

 

彼女はレイラに憧れていた。女性なのに、村で1番野伏(レンジャー)として優れていたからだ。そんな彼女は、今回の戦いでレイラやみんなの役に立とうと張り切っていた。しかし、結果は負け。ギグたち自警団のみんなを置いて逃げることしか出来ない上に、自分のせいで憧れのレイラに怪我をさせてしまった。

別に、彼女のせいではない。今回の戦いは元々こちら側が負ける確率が高かった。それに、魔法の存在を知っているだけのカノンでは、追尾してくる魔法の矢(マジック・アロー)を防ぐこともできないし、ほかの狩猟組の面々でも同じだろう。

しかし、彼女は自分を責めた。

 

自分がもっと弓の扱いが上手ければ、こんなことにはならなかったのではないか?

 

レイラが自分を庇わなければ、もっと戦況は良かったのではないか?

 

そう考えると、彼女は自分が情けなくなってしまう。しかし、今は後悔している時ではない。早く逃げないと、ギグ達が必死に稼いでくれている時間が無駄になるのだ。

そうこうしているうちに、村長の家が見えてきた。何故か、隠れているはずの村長が外に出ている。

 

「村長!!なんで隠れていないんですか!?」

 

「おお!カノンか!!それが、エドストレームが出ていって、戻っていないのだ。」

 

「そんな!?こんな時に限って・・・」

 

「何かあったのか?」

 

「っ!そうだ。こんなことしてる場合じゃない。村長!!今から隠れているみんなと、狩猟組はエ・レエブルに向かって逃げます!すぐに出発の準備を!!」

 

「なんじゃと!?・・・自警団は時間稼ぎか。」

 

「・・・はい。ギグさんたちが命懸けで稼いでくれています。」

 

「わかった。私から皆に伝えよう。カノンはペテルとエドストレームを探してくれ。たしか、北の倉庫の方に・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あんたら。一体何があったんだ?」

 

カノンが短剣を抜きながら素早く声のした方に振り向く。そこには、見知らぬ男が立っていた。金髪黒目であり、細身でかなり身軽そうな格好をしている。そして、首の辺りに緑色に輝く金属のプレートをつけていた。

 

「・・・もしかして、冒険者?」

 

冒険者。それは、レイラの息子であるペテルが憧れている者達であり、村長やレイラが言うには、「未知を探索すると言うと聞こえはいいが、実際は対モンスター用の傭兵であり、大半はならず者の集まりである」らしい。しかし、上位冒険者ともなると、自分達の想像もつかないような強さだとも。

 

「あぁ、冒険者だ。用事があってこの村に来たんだが?」

 

「っ!!すみません!村がモンスターに襲われているんです!助けてもらえませんか!?報酬なら後で必ず支払います!!」

 

「カノン!!勝手に決めては・・・」

 

「でも、自警団の人達を助けるためには、こうするしかないじゃないですか!!」

 

「それはそうだが・・・!!」

 

これしかない。このまま逃げても、エ・レエブルまでたどり着く確率は低いのだ。ここで彼を雇い、オーガたちを倒してもらった方がいいだろう。近くには見えないが、流石に1人ではないだろう。

 

「・・・わかった。その依頼、引き受けよう。敵の数は?」

 

「っ!!ありがとう、ありがとうございます!!!敵は、オーガが4体に、ゴブリンが十数体残っています。それに、魔法を使うゴブリンが1匹!!!今は、自警団のみんなが戦っています!」

 

「了解。今すぐ向かった方がいいな。なら、あんたはここから走って俺の仲間を呼んできてくれ。そこをまっすぐ行けば4人組がいるはずだ。俺は先に行って、自警団の人たちを手助けしてくる。」

 

「わ、わかりました!!ありがとうございます!!」

 

そういうと、彼はすぐにモンスターたちの方へ走っていった。あまりの速さにカノンは彼が走っていった方を見る。人間では到底出せないような速さで走る彼を見て、あの人ならばギグさんたちを救えるかもしれない、と思い、喜びが込み上げてくる。すると、レイラたち残りの狩猟組が近くまで来ていた。

 

「カノン!!今、向こうに誰か走っていったけど?!」

 

「大丈夫です、レイラさん!!彼は冒険者で、ギグさんたちを助けに行ってくれたんです!!」

 

「なんだって!?1人で!?」

 

「いえ、お仲間がいるそうなので、今から私が呼びに行ってきます!!」

 

「わ、分かった。気をつけていきなよ!」

 

はい!と返事をして、彼女は村の外に向かって走り出す。そして、カノンに代わり、村長がレイラたちに状況を説明する。

 

「とりあえず、レイラはここで休んでいなさい。他の者は、倉庫の方へ行ってくれ。ペテルとエドストレームがそちらにいるらしい。」

 

「ペテルが、倉庫の方に!?なら、あたしも行くよ!!」

 

「ダメだ!もしペテルがモンスターと戦っていたらどうする!?怪我をしているお前さんでは足でまといになるだろう!」

 

「で、でも!!」

 

「でももなんでもない!!それに、ペテルならモンスターに襲われても大丈夫だろう。お前は大人しくしなさい!!」

 

「わ、わかったよ・・・。ごめん、みんな。ペテルのことよろしくね。」

 

「任せといてよ。レイラもしっかり休みなよ?」

 

そう言って、リリアラームたちは倉庫の方へ向かった。残されたレイラには、祈ることしか出来ない。

 

「ペテル、ギグ、エドちゃん、みんな。お願い、無事でいて・・・。」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「がはっ・・・!!!」

 

「ギラン!!!大丈夫か!?」

 

「気にしている場合じゃないぞ、ルッチ!!前を見ろ!!」

 

「ぐっ!?クソっ!!」

 

一体のオーガの攻撃がルッチを襲う。とっさに間に剣を挟んで防御したが、剣は砕け、ルッチ自身も少なくないダメージを受けてしまう。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「な、なんとか・・・。」

 

「なら、ギラン連れていったん下がれ!!」

 

「でも、ギグさん大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫だ!!オーガ2体抑えるぐらいならいける!!てか、その状態で戦われても足でまといだ!!」

 

「っ!すみません、なら下がります・・・。どうか、ご無事で!!」

 

「おう!心配すんな!!ギランが起きたら、ゴブリンを抑えてる奴らの手助けをしろ!」

 

「はいっ!!」

 

そう言って、ルッチはギランを連れて下がっていく。ギグは深呼吸をしながらオーガに向けて剣を構える。目の前には2体のオーガ。防御に専念すれば何とかなるかもしれないが、すぐ近くに棍棒持ちのオーガ2体に小鬼の術者(ゴブリン・メイジ)が来ている。そんな数を相手にできるわけが無い。なす術なく殺されるだろう。

 

(大した時間も稼げなかったな。だがまぁ俺が死ぬ時には村から出てるだろう。全員助かってほしいが・・・無理だろうな。せめて、ペテルとレイラだけでも助かってほしいもんだ。)

 

そう考えながら、オーガの攻撃を躱していく。隙があったらオーガの足に切りかかり、少しでも機動力を削いでいく。無茶をせずに、堅実に戦っていく。

しかし、いくら防御に専念して戦っていても、2体を相手取ることは難しかった。ギグはオーガの攻撃をモロに食らってしまう。

 

「ごっ・・・はぁ!!」

 

血を吐きながら、後ろに吹き飛ばされる。

 

「ギグさん!!」

 

「だい・・・じょうぶ!!!まだ、まだ行けるさ・・・!!」

 

そう言いながら、フラフラと立ち上がるギグ。再びオーガに向けて剣を構える。

 

「おいおい、おっさん。無理は禁物だぜ?」

 

誰かがギグの肩をポンと触る。そちらを見ると、ギグの知らない男が立っていた。金髪黒目で長身。身軽そうな格好をしており、細身の身体だが、それは鍛え上げられた細さであることがギグには分かった。

そして、何よりギグを驚かせたのは、男の首に下げられた緑色に輝く金属のプレートだった。それは、魔法金属であり、上位冒険者の証であるミスリルだった。

 

「ミスリル級の、冒険者・・・!!」

 

「あぁそうだ。用事があってこの村に来てな。助けに来たぜ。さてと、選手交代だ。あんたはこれ飲んで休んでな。」

 

そう言って、彼は青い液体の入った小瓶を投げ渡す。慌ててそれを受け取り、中の液体を飲み干すと、徐々にギグの傷が治っていき、体が楽になる。それは、ギグたちのような普通の村人がお目にかかる機会のない高価なポーションだった。

 

「・・・これ、高いんじゃないか?」

 

「いいよ、別に。命の方が大事だしな。」

 

「済まない、ありがとう。この恩は絶対に返す。・・・あんた、名前は?」

 

「ん?名前?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はエ・レエブルのミスリル級冒険者チーム【守護の聖剣】の盗賊、ロックマイアーだ。」




今回出てきた冒険者チームの名前は捏造です。
それではまた次回。


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戦いの後

やぁやぁ、「ゴブリンとかよゆーだろ!」とか思ってた癖に死にかけた挙句女の子(エドストレーム)に助けられたペテル君だよ!

・・・自分で言っててなんだけど、情けないわぁ。俺の経験値になってくれ(キリッとか言ってるのにギリギリだったわぁ。エドがいなかったら死んでたわぁ。まぁ生きてるし、村も無事だったからいいけどね?

俺がボロボロになった後の戦いについてだが、モンスターを全滅させたため、村側の勝利に終わった。死人も出たし、戦いに参加した村人の殆どが大小様々な怪我を負ったが、想定よりもずっと少ないらしい。

ギグ曰く、「これだけの被害で済んだのは奇跡のようなもの」だそうだ。実際、ギグ自身も死にかけたらしいが、加勢に来た冒険者のおかげで難を逃れたそうだ。

冒険者。そう、冒険者だ。すぐ近くで戦いを見たギグが言うには、直接戦闘を主にしない盗賊1人だったにもかかわらず、瞬く間にオーガ4体と小鬼の術者(ゴブリン・メイジ)を倒したらしい。

ミスリル級の実力者なら、そりゃ苦戦することもないだろう。今回のモンスターたちは、Lvで言うと1桁しかいなかった。ミスリル級ならば、Lvは10台後半、下手したらLv20を超えているかもしれない。そんなやつが相手なのだ。数の差があってもモンスターに勝ち目は無い。

【守護の聖剣】と名乗った彼らは、現在話し合いをするために村長の家に集まっている。村長の家にいるのは、【守護の聖剣】の5人や村長の他に、俺達モーク一家が参加している。

ギグは自警団団長だし、レイラは狩猟組の代表だ。そして俺は、北側から攻めてきたゴブリンについて話すため、ということでここにいる。説明できるの俺しかいないしね。エドは最後の方にちょっと戦っただけだし。

全員が揃ったのを確認すると、村長が話し始める。

 

「では、まずは自己紹介を。私がこの村の村長です。皆さん、村を救っていただき、本当にありがとうございます。そして、こちらが・・・」

 

「ザリア村自警団団長、ギグ・モークです。助けてもらったこと、感謝しています。」

 

そう言って、ギグが頭を下げる。

 

「私は、狩猟組の代表のレイラ・モークです。この子は、息子のペテルです。」

 

「はじめまして。ペテルです。」

 

レイラから紹介されたので、挨拶をしながら頭を下げる。冒険者の人達は、なんで子供がここに?的な顔をしている。そりゃそうだわな。話し合いをするなら、大人3人だけで充分だし。

こちらの自己紹介が終わると、向こうのリーダーらしき人物が「それでは」と言いながら立ち上がった。

 

「改めまして、【守護の聖剣】のリーダーを務めています、ボリス・アクセルソンです。聖騎士で、火神を信仰しています。」

 

そう言って挨拶をすると、他のメンバーも立ち上がり、挨拶をはじめる。

 

「俺は、ヨーラン・ディスクゴード。風神を信仰するウォープリーストだ。よろしくな。」

 

「・・・フランセーン。戦士だ。」

 

魔法詠唱者(マジック・キャスター)のルンドクヴィストです。よろしくお願いします。」

 

「んで、俺が盗賊のロックマイアーだ。また会ったな、おっさん。」

 

・・・すごく聞いたことがあります・・・。この人達、レエブン候配下の元オリハルコン級冒険者チームか。ん?レエブン候配下の元オリハルコン級冒険者チームだけど、今はまだレエブン候配下じゃなくて、現役ミスリル級冒険者チーム?ややこしいな、おい。

 

「おいおい、どうしたガキンチョ?俺らの顔になんかついてるか?」

 

しまった。驚きのあまりじっと見つめてしまったから、ロックマイアーから不審に思われてる。あんまり不審がられないよう気をつけなければ。

 

「いいえ、別に何も無いですよ?それと、俺はガキンチョじゃなくて、ペテルです。」

 

「はっはっは、すまんすまん。そういや、なんでガキンチョはここに?大人の話し合いに興味でもわいたか?」

 

「そういえばそうだな。なんでなんだ、ペテル?」

 

・・・え、嘘でしょ父さん。レイラの方を見てみると、彼女は嘘だろこいつ的な表情でギグを見ていた。・・・この親父、息子が死にかけたこと知らないのかよ!ま、まぁかなり忙しかったし、仕方ない、のか?

 

「それについては、私がお答えしましょう。」

 

村長がそう言ったため、視線が村長に集まる。

 

「今回、襲撃してきたゴブリンたちとは別のゴブリンたちが倉庫がある方からやってきて、村を襲おうとしていたそうです。ペテルはそれを単独で撃破したため、話を聞こうと思い、ここに呼びました。」

 

村長がそう言うと、【守護の聖剣】の5人は驚愕の表情で俺を見てきた。ギグは、「まぁ、ペテルなら、ゴブリンくらい余裕だな!」とか言ってる。やめて父さん、それちょっと前の俺だから。それのせいで死にかけたから。

 

「あー・・・。すまない、ペテル君。襲ってきたゴブリンは何匹くらいだったか分かるかい?」

 

「え?えっと、錆びた短剣や粗末な棍棒を持ったゴブリンが全部で9匹。それに、錆びた直剣を持った大きめのゴブリンーーー多分、小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)が1匹の合計10匹です。」

 

すると、【守護の聖剣】は信じられないといった表情で俺を見てきた。

 

「嘘だろ?こんな子供が?」

「スゲーな、将来有望じゃねーか!」

「・・・フラン、お前なら子供の時にあんなことできるか??」

「・・・冗談きついぞ、ルンド。無理に決まってんだろ。」

「おおー。やるじゃないの、ガキンチョ!」

 

だいたいこんな感じの反応だ。なんか、自分より強い人たちに褒められると嬉しいな!こう、誇らしいというか、なんというか・・・

ちなみに、ギグとレイラの2人は、

 

小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)まで倒せるのか!!流石だな、ペテル!」

 

「ほんとほんと!!流石はうちのペテルちゃんね!!」

 

とかなんとか言っていた。相変わらずの親バカっぷりだ。

 

「と、とりあえず、ペテル君がいる理由はわかりました・・・。それでは、本題に入りましょう。」

 

そういうと、ボリスは布の袋を取り出し、テーブルに置いた。金属が擦れることが聞こえたので、お金が入っているのだろう。そこそこ量があるように見える。

 

「今回、私たちは組合からの依頼でトブの大森林の調査をしに来ました。その際、この村を拠点にすることを勧められたので、こちらに立ち寄りました。」

 

「なるほど、そういうわけがあったのですね。しかし、なぜ私たちの村に?」

 

「トブの大森林から近いこと、そして裕福な村だからですかね。自警団を組織したり、そのための武器を揃える余裕がある村なんてほとんどないですから。」

 

「なるほどな。たしかに、うちの村は領内じゃかなり余裕があるからな。」

 

「そういうことです。そして、このお金は俺達の村の滞在費です。長期間の依頼なので、それなりの金額が入っています。」

 

「ただ、村の方に渡したポーションの代金や、ヨーランが行使した回復魔法の料金、それに今回の依頼代を差し引くと、ほとんど残りません。ですので、タダ同然で俺たちを泊めていただくことになりますが・・・。」

 

「それに関しては問題ありません。食料庫に被害はありませんでしたから。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・それだけでほんとに足りるのかい?ポーションや神殿の定めている回復魔法の料金って、かなり高いんじゃ?」

 

「・・・本当は、かなりギリギリなんですけど、そこは大丈夫です。俺達が誤魔化しておきますので。」

 

「おいおい、それでいいのか?」

 

「大丈夫だよ、おっさん。誤魔化す方法なんていくらでもあるぜ?村の人達が奮戦したおかげでけが人は少なかったっていえばいいだけだしな。口裏を合わせれば確認する方法もない。」

 

「なるほどなぁ。まぁ、助かるからいいんだけどよ。」

 

「それでなんですが、どこかに泊めていただくことは出来ますか?」

 

「うーむ、どこか空いている家はあったか?」

 

「・・・いや、どこも空いてないと思うぞ?死んだのは、自警団の男連中だ。一家まとめて死んじまったとこなんてないな。それに、死んだ奴の家に泊めるのも、難しいかもな。」

 

「旦那や息子が死んですぐに誰かを泊めるなんて、抵抗あるだろうしねぇ。・・・あ、リリアの家に泊めるのは?」

 

「たしかにリリアラームさんの家は2人で住むには大きいけど、5人は無理でしょ?」

 

「大丈夫よ、リリアとエドちゃんがうちに泊まれば。物置になってる部屋があったし、そこを片付けちゃいましょ。」

 

「なるほど。皆様、どうですか?」

 

「ええ、それで構いません。むしろ、空いてる家がないのに泊めていただけて、感謝しかありませんよ。」

 

「いえいえ、皆さんは村の救世主なんですから、このくらい当然ですよ。」

 

そう言いながら話し合いを続けようとすると、コンコンと誰かがドアをノックした。失礼します、という言葉と同時にドアが開き、リリアラームさんが室内に入ってくる。

 

「話し合いの最中にすみません。村長、葬儀の準備が整いました。」

 

「そうか。すみません、皆さん。ここでお待ち頂けますか?」

 

「・・・いえ、出来ることなら私も参列させて頂けませんか?死んでしまった方々のために祈らせてください。」

 

「それなら俺も。これでも神官の端くれだしな。」

 

「なら、俺達も頼めるか?そこの2人みてぇに、神官じゃないけどよ。」

 

「おお・・・!すみません、ありがとうございます。では、お願いします。」

 

【守護の聖剣】に向けて頭を下げる村長。人として当然の事です、といいながら爽やかに笑うボリス。

 

「では、行きましょうか。」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

死んだ村人のために作った簡素な墓の前で、ボリスとヨーランの2人が真剣な顔で祈りを捧げていた。フランとルンドの2人も、周りの村人とともに黙祷している。

・・・相変わらず優しいねぇ。村のピンチを救った。それだけでいいだろ?わざわざ死んだやつに祈りまで捧げることはないと思うんだが。

もちろん、俺だって可哀想だとは思う。平民出身だから辛さもわかる。だから仲間に確認も取らずに依頼を受けたし、戦ってたギグっておっさんにポーションを渡したんだ。

だが、それは純粋な可哀想って気持ちより、ここで恩を売っておいた方が後々便利だからという気持ちの方が強い。

村ってのは閉鎖空間だ。外との関わりがほとんどないから、俺たちみたいなのが来たら少なからず反発がある。でも、村の危機を救ってくれた奴らに反抗的な感情を向ける奴なんてそうそういない。その打算があって助けたんだ。

だけど、あいつらは違う。特にボリスとヨーランは、損得なんて関係なく人を助けようとする。まぁ、そのおかげで依頼人や組合、街の連中からの信頼は厚いんだけど。実力も確かだし、一緒にいて面白いから俺もついて行ってるわけだしな。

 

ふと、後ろから何かが近づいてくる気配がする。・・・ガキだな。それも女の。そいつが俺に向かって、こっそりと近づいてきていた。

 

「お嬢ちゃん、俺に何か用かい?」

 

後ろを振り向きながらそう答える。俺の予想通り、さっき会ったペテルとそう変わらないくらいの女の子が立っていた。褐色肌に、灰色が混ざったような銀髪。ここら辺じゃ、あんま見ない髪色だな。

 

「あの、すみません。盗賊の方ですよね?」

 

「その言い方だと、俺が無法者みたいじゃねぇか?まぁ、あってるよ。たしかに俺は盗賊系の職業(クラス)を修めてる。それがどうした?」

 

「戦い方を教えてください。」

 

「嫌だ。」

 

俺の即答に面食らったのか、驚いた顔のまま固まっている。すぐにハッとした表情になり、少し焦った様子で頭を下げる。

 

「そ、そこをなんとか!お願いします!」

 

「無理だ。なんで自分の飯の種を他人に教えなきゃならねぇんだ。」

 

冒険者にとって、戦う術、生き残る術は何よりも価値がある。1度死んでしまったらそこで終わりだ。だからこそ索敵が出来る盗賊や野伏(レンジャー)、チーム全体の生存率を大きく上昇させる魔法詠唱者(マジック・キャスター)はただの戦士よりも重宝されるんだ。それに、俺達ぐらいのレベルになると、何かしら独自のやり方を確立している。それをほいほい他人に教えるバカはいない。

・・・うちの聖騎士様や神官様を除いて。

 

「だいたい、なんで盗賊なんだ?戦士のフランセーンや、魔法詠唱者(マジック・キャスター)のルンドクヴィストに聞けばいいだろ?」

 

「私、武器を持って戦えるほど、力は強くないし、魔法が使えるほど、頭も良くないから・・・。だけど、隠れたり、忍び歩きは得意だし、手先も器用だから、盗賊が向いてるかなって・・・。」

 

「つまり、戦士や魔法詠唱者(マジック・キャスター)は無理だから、盗賊になろうって?ただの消去法じゃねぇか。そんな奴に盗賊は無理だ。諦めろ。」

 

「そ、そんなつもりじゃないです!お願いします!!」

 

はぁ、とため息をつきながら頭を搔く。なんでこんな子供が戦う術なんて・・・。

 

「なんで、そうまでして教えてもらいたいんだ?自警団で戦うなら、盗賊になる必要なんかないだろ?」

 

 

 

「・・・大切な人が、冒険者になるんです。だから、私も、力になりたい。」

 

 

「・・・やめとけ、やめとけ。冒険者なんかなるもんじゃねぇぞ?俺は運良く最高の仲間に出会えた。そしてここまで生き残ってきた。だがな、ほとんどのやつはそうはいかねぇんだ。仲間に恵まれずに死ぬ奴もいる。実力があるけど、運悪く死ぬ奴もいる。怪我が原因で引退する奴もいる。冒険者登録してから、1年以内にほとんどがいなくなる。残るのはほんのひと握りだ。そんな世界だぞ?」

 

「それでも、彼が行くなら、私も行きます。」

 

 

 

「・・・あーくそ。めんどくせぇ・・・。さっきのペテルといい、なんでここのガキはこんなに可愛げがねぇんだか・・・。おい、名前は?」

 

「っ!エドストレームです!」

 

「よし分かった。長期間の滞在っつっても、そんなに長くは居ない。どんなに調査が長引いてもせいぜい1ヶ月だ。だから、基礎的なことしか教えれないぞ?」

 

「はい!それで充分です!!」

 

「ハイハイ。俺は甘くねぇからな?覚悟しろよ?」

 

「はい!!よろしくお願いします!!」

 

 

あーあ、こんなこと引き受けちまうなんて、俺もあいつらに毒されたかねぇ・・・。

 

 

 




ロックマイアーさんは、なんだかんだ言ってますけどチームで1番面倒見はいいです。
それではまた次回。


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戦いの後 2

すみません、リアルの用事で更新が遅れました!!これからも更新ペースは落ちると思いますが、頑張って投稿は続けます!!


「フラン!手入れ終わったか?」

 

「・・・いや、もう少し待ってくれ。予備武器も点検しておきたい。」

 

「分かった。じゃあ、俺達は村長さんに出発することを伝えてくるから、ロックを連れて村の入口で待っててくれ。」

 

「?ロックは、一緒じゃないのか?」

 

「ほら、あの子だよ。また訓練してるんじゃないか?」

 

「あの子?・・・あぁ、エドストレームちゃんだったか?」

 

「そうそう。とにかく、頼んだぞ。」

 

「了解。」

 

俺が答えると、ボリスは部屋から出ていった。今からヨーランとルンドを呼びに行くのだろう。そう思いながら鎧の点検を終える。次は、予備武器の点検だ。持ち歩くカバンの中から、通常のものよりも一回り小さい鎚矛(メイス)と盾、それに短槍(ショート・スピア)を取り出し、点検していく。あまり使う機会はないので、大した傷はついていないが、まぁ念の為だ。軽く確認していくと、鎚矛(メイス)は問題なかったが、盾に少しばかり凹みがあった。すぐにそこを直していく。冒険者にとって、武器や防具は命を預けるものであり、相棒だ。点検を怠ったせいで死んだやつの話なんてごまんとある。そんなことにならないために、たとえ予備武器だろうと細心の注意で点検をしなければならない。

 

「確認しといてよかったな・・・。」

 

「何がよかったんだ?」

 

後ろを振り向くと、先程までいなかったはずのロックが立っていた。今戻ったのだろうか。それならボリス達に会っているはずだが。

 

「なんだ、ロックか。ボリス達には会わなかったのか?」

 

「ボリス?いや、会ってねぇけど?」

 

「そうか。そろそろ出発するようだ。準備をして、村の入口に待機するようにとの事だ。」

 

「あー・・・了解。なら、手早く終わらせるか。」

 

「・・・そういえば、訓練は終わったのか?」

 

「いや、あいつがへばったからな。水を取りに来たんだよ。んじゃ、俺もすぐに準備終わらせるから、お前は先にいっててくれ。」

 

そう言うと、手をひらひらと振りながらロックが部屋を出ていく。わざわざ訓練をつけるうえに、世話まで焼いてやるとは。相変わらず面倒見がいいな。

・・・そういえば、俺もペテル君から特訓してくれと言われていたな。丁重にお断りしたが。俺の戦い方はかなり特殊で、舞踊(ダンス)の魔法付与がされた剣を使った四刀流なのだ。舞踊(ダンス)が付与された武器をうまく扱える人物なんてそうはいないし、ペテル君は正統派な戦士だ。俺が教えれることなんてほとんどない。ボリスやヨーランの方が基礎はしっかりしているだろう。

それを彼には伝えたが、ならば模擬戦をしてくれと頼まれ、ここ数日で何度か戦っている。流石に子供に負けることはないが、彼は子供に有るまじき力を持っている。あの年で、鉄級冒険者レベル、下手したら下位の銀級冒険者レベルはあるかもしれない。冒険者になると言っていたし、ヨーランの言う通り将来有望だ。

 

「・・・しかし、やっぱりおかしいな。」

 

先程の話し合いの場で、彼は小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)を含めた10匹のゴブリンを倒したと言った。これは、死体を片付ける時に確認しているため、事実だ。

通常、ゴブリンの難度は1桁だ。トブの大森林から出てきたことを考えると、およそ難度6程度だろう。そして、小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)は難度10前後だ。鉄級なりたての冒険者でも、苦戦はするが倒せないことはないだろう。

だが、ペテル君が倒したという小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)は通常の個体よりも上背があり、錆びていたが剣を装備していた。おそらく、難度は10台後半、下手したら20はあったかもしれない。ペテル君と同等、あるいはそれ以上の実力だったということだ。さらに、通常のゴブリンも9匹いたとのことだ。これだけの量を鉄級レベルの戦士で捌ききるのは不可能だ。魔法詠唱者(マジック・キャスター)の強化魔法を付与されても、せいぜい6匹が限界だ。

つまり、ペテル君は自分と同等の実力を持つ相手に加え、彼の手に余る量のゴブリンと対峙して生き残ったということだ。

 

「・・・ありえないよなぁ。」

 

これが同程度の実力の魔法詠唱者(マジック・キャスター)ならまだ分かる。逃げ回りながら魔法で攻撃していけば、多くの敵を倒すことも可能だろう。弓兵(アーチャー)でも出来ないことはないだろう。しかし、ペテル君は戦士だ。その上、間合いが長い槍ではなく直剣だ。囲まれて袋叩きにされるのが普通だろう。それでも、彼は生き残った。

 

・・・模擬戦では手を抜いていて、本当はもっと強い?

 

いや、これは無いだろう。それをすることによるメリットが彼にはないし、そもそも模擬戦とはいえ、剣を交えた相手の実力を測り間違えることなんて無い。

 

 

・・・弓矢が使えて、遠距離からの攻撃で数を減らした?

 

たしかに、野伏(レンジャー)の母を持つ彼が弓矢を扱えてもおかしくないが、死体には弓矢による攻撃の跡がなかった。これもないだろう。

 

 

・・・誰かと協力して戦った?

 

一番ありえそうだが、協力したやつが名乗り出ないのがおかしい。それに、当時戦えるやつは全員東側で戦っていたらしいし、これも可能性としては低いだろう。

 

 

「・・・魔法が使えるのか?」

 

いや、流石にないか。あの年で、鉄級冒険者レベルの戦士であり、魔法まで使えるなんてことはないだろう。村のなかでも彼が魔法の勉強をしているとは言っていたが、魔法が使えないとも言っていたし。それよりも、実は生まれながらの異能(タレント)を持っていたとかの方が・・・

 

「おい、何さっきからブツブツ言ってんだ?気持ち悪ぃぞ?」

 

顔を上げると、目の前にロックが立っていた。先程来ていた普段着ではなく、足音を消してくれる無音の靴(ブーツ・オブ・サイレント)や、索敵範囲を広げる索敵の首飾り(ネックレス・オブ・サーチ・エネミー)、刺さった相手に自動で毒を注入する蛇毒の投擲短剣(スローイング・ナイフ・オブ・サーペント)などの完全装備だ。

 

「いや、すまない。少し考え事をな。」

 

「お前が考え事?・・・まぁいいや。とっとと準備しろ。もうボリス達は村の入口で待ってるぞ?」

 

「うお、まじか。すぐに用意する。」

 

慌てて短槍(ショート・スピア)の点検を終わらせ、軽量化の魔法がかかった鎧を着る。早足の脚鎧(グリーブ・オブ・クイックマーチ)剛力の籠手(ガントレット・オブ・ストレングス)を付け、舞踊(ダンス)の魔法付与がされた剣を左右の腰に一振りずつ、残り二振りを背中に交差させるかたちで背負う。ポーションをすぐに取り出せる位置に付けておき、カバンから取り出しやすい位置に予備武器を付ける。最後に、防御力を上昇させる守護の首飾り(ネックレス・オブ・プロテクション)を付け、準備完了だ。

 

「すまない。待たせたな。」

 

「おう。早くいこーぜ。」

 

「今日は、どこを探索をするんだ?いきなり深部まで行くのか?」

 

「いや、まずは浅いとこを探していって、痕跡が見つかればそれを辿っていく。既に金級が2組、白金級が1組犠牲になってる。しかも全滅だ。慎重に行かねぇとな。」

 

「そうだな。森の中なら、視界が悪い。頼りにしてるぞ、ロック。」

 

「任しとけ。そっちも頼むぜ、四刀流?」

 

そんな軽口を叩きながら村の入口へ向かうと、ボリス達3人が待っていた。全員が完全装備で、上位冒険者に相応しい風格だ。

 

「すまない、遅くなった。」

 

「いや、構わないさ。もう準備はいいのか?」

 

「おう、こっちも大丈夫だ。行こうぜ、リーダー。」

 

「そうだな。ただ、その前に依頼内容の確認だ。今回の依頼は、トブの大森林西部の調査。しかし、今までに銀級チーム複数と、金級2組、白金級1組がトブの大森林で行方不明になっている。その為、強力なモンスターが住み着いたと考えられる。目標はそのモンスターの撃破だ。十分注意していこう。」

 

「「「「了解!」」」」

 

「よし!【守護の聖剣】、出るぞ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

モンスター襲来から三日後、現在ペテル(おれ)は壊れて使い物にならなくなった防護柵の修理をしている。杭を等間隔に地面に突き立てていき、杭と杭の間に板を付けて作る簡単な柵だ。前の戦いでは、オーガには意味がなかったが、ゴブリン達には十分な効果があったようだ。既に【守護の聖剣】はトブの大森林へと行ってしまったので、いつモンスターが来てもいいように急いで修理することになったのだ。

戦いの際に自警団に所属していた男性陣が犠牲になったことで、現在村には人手が足りていない。その為、子供でも村の片付けを手伝ったり、畑仕事をしたりしている状況だ。

 

俺?ギグから「ペテルは力持ちだからな!!」とか言われて柵を作る仕事に回されたんだよ!!!この仕事、杭を突き立てるのが面倒な上、板を付けなければならないので非常に疲れるのだ。だから誰もやりたがらない。人手不足なのも相まって、一人の担当範囲が広い。辛い。めんどい。

ちなみに、俺をここに送り込んだ張本人は「俺はもう歳だから!」などといって別の仕事をしている。オーガと戦えるんだ、まだまだ現役だろうが、あのクソジジイ・・・。

 

「よう、ペテル!なんか不満そうな顔だな?」

 

そう言いながら、ギランが俺に声をかけてくる。彼は、この誰もやりたがらない仕事を率先してやってくれるイケメンだ。そして村では俺とギグに次いで3番目の実力の持ち主でもある。

 

「ああ、ギランさん。そりゃそうでしょ、こんなめんどくさい仕事やらされれば。」

 

「ははっ!まぁそう言うなよ。これも大事な仕事だぜ?三日前の戦いではこれのおかげでかなり戦いやすかったからな。みんなを守ることにも繋がるし、丁寧にやろうぜ!」

 

・・・うむ、やっぱりイケメンだ。ちなみに、彼といっつも一緒にいるルッチもイケメンだ。ギランの方が野性味溢れる肉食系イケメンで、ルッチの方が大人しい印象を受ける草食系イケメンだ。どっちも村の女の子からモテモテだ。爆ぜろリア充。

 

「・・・なんか、目が怖いぞ?」

 

「そうですか?気のせいですよ。」

 

「そうか?まぁいいや・・・。そういや、お前冒険者の人と戦ったんだろ!?どうだったんだ!?」

 

「ふつーに惨敗しました。マジでものの数秒ももたなかったです。」

 

そう、俺はつい昨日、【守護の聖剣】の戦士であるフランセーンに稽古をつけてもらうように頼んだのだ。何回か断られたが、模擬戦だったら了承してくれたので、数回戦った。

 

結果は、数秒もたずにぼろ負けした。武器は一振りしかつかっておらず、武技も使っていなかったのに、全くもって勝てなかった。

 

ちなみに、模擬戦後にみたフランセーンのステータスは・・・

 

〜〜ステータス〜〜

名前【フランセーン】

性別【男】 年齢【26】

総合Lv【16】

戦士(ファイター) Lv8

曲芸士(テンブラー) Lv5

剣の達人(ソードマスター) Lv3

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

とまぁ、こんな感じだ。勝てるわけない。レベル差が9もあるのだ。願わくば、彼にはエドストレームに剣を一振り譲って欲しいが、まぁ無理だろう。自分の主装備をやすやすと譲るやつなんかいないし。

・・・ただ、何も出来なかったのは本当に悔しい。なんだかんだ言って、少しくらい戦えるのでは、と思っていたのだ。

 

「あーあ、せめて武技が使えたらなぁ。ギランさーん、実は武技使えたりしなーい?」

 

杭を打ち込みながらそう問う。

 

「おーう、1個だけならなー。」

 

「ですよねー。・・・は?」

 

驚いてギランを見ると、彼はそれがどうした?と言わんばかりに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

「ちょちょちょ、え、マジで!?本気で言ってます、ギランさん!!」

 

「うぉぉぉ!!いや、まぁ使えるけど?」

 

「教えてください!!今すぐに!!!ぷりーず!てぃーち!みー!!なう!!!」

 

「おい、何言ってんのか分かんねぇよ!!わかった、わかったから!!落ち着け!!」

 

ギランがそういうので、少し呼吸を整える。危ない危ない、取り乱してしまった。まぁ、武技を覚えられるかもだったら、仕方ないよね!

 

「あー、びっくりした・・・。とりあえず、ちょっと待ってろ。必要なもん取ってくるから。」

 

そう言いながら、彼は武器庫の方に歩いていく。しばらく待っていると、二枚の盾をもって戻ってきた。狩りで取ってきた動物の革をなめして作った、普通サイズの盾だ。

うちの村にも盾はあるのだが、使いこなせる人が少ないため、めったに使われないのだ。

 

彼は一枚を俺に渡すと、杭を地面に突き立てる。

 

「んじゃ、まずは武技を使わなかった時な。これをこーやって殴ると・・・」

 

と言いながら、彼は盾を右手に持って、全力で杭を殴りつける。普通の人間では考えられない威力だが、杭は地面から外れかかるだけで、目に見えての損傷はない。

 

彼は杭を突き立て直すと、再び盾を構える。

 

「次は、武技を使うから、よく見とけよ。

・・・【盾強打】!!」

 

2回目の攻撃は、最初とは比べ物にならない威力だった。バガンッ!!という音が辺りに響き、突き立ていた杭が粉々に砕け散る。

彼はこちらを振り返り、ドヤ顔をしながら俺に語りかける。

 

「どーだ、ペテル!これが武技、【盾強打】だ!!」

 

「すっげぇ!!どうやってやんの、それ!」

 

「えっとな、こう、腹の下に力を込める感じで・・・」

 

 

そう言いながら、彼は俺にやり方を教えてくれる。俺もそれに習って杭を殴りつけるが、武技が発動することはない。ーーーまぁ、素の威力でギランの【盾強打】使用時くらいはあるのだが。何度か練習しているうちに、ふと疑問が湧いてきたので、ギランに聞く。

 

 

「ねぇ、ギランさん。なんで武技使えるのに、盾を使わないの?」

 

彼は戦いの時には剣を一振り持って戦う。その際、盾は持っていかないのだ。武技が使えるなら、盾持ちで戦った方が強いように思うのだが。そう聞くと、彼がいうには

 

「あーそれな。俺、うまく盾を扱えないんだよ。むしろ苦手なんだ。だから普段使ってねぇんだ。スケルトン相手じゃあるまいし、打撃よりも斬撃の方がいいだろ?」

 

との事だ。まぁ、上手く使えないなら無理に使う必要も無いのだろう。そう思いながらギランとともに練習しているが、全くもって上手くいかない。

 

 

「くっそ、上手くいかないなぁ・・・。」

 

「だーいじょぶだって、ペテルなら出来るさ!俺に出来たんだからな!!さ、もう1回頑張ろうぜ!俺もとことん付き合うよ!」

 

「ギランさん・・・!!うん、俺頑張るよ!!」

 

「よっしゃぁ!ならもう1発だぁ!」

 

「うぉぉぉ!!【盾強打】ぁ!!」

 

 

 

そうして、俺達は与えられた仕事をすっかり忘れて、武技の特訓に明け暮れるのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

もちろん、その後リリアラームさんとカノンさんにすこぶる叱られたが。

 

 

 

 

 

 

・・・あ、【盾強打】はだいたい1週間くらいで習得できた。やったね!!!

 

 

 



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それぞれの戦い

今回、いつもより少し長めです。


ーーートブの大森林

 

 

王国領と帝国領を分断するアゼルリシア山脈南端を囲うかたちで広がる森林地帯であり、王国民の生活圏のおよそ2割に匹敵する広さを誇る。

 

森の内部には、「ゴブリン」やその近隣種である「バグベア」、「ボガード」をはじめ、「オーガ」、「トロール」、「ナーガ」が。

森の北側に広がる瓢箪型の池には「蜥蜴人(リザードマン)」や「トードマン」など水辺に住む亜人達が。

また地下には「マイコニド」、「鉄鼠人(アーマット)」、「洞下人(ケイブン)」など暗い場所を好む種族が住処を作っており、劣等種族たる人間が生きていける場所はどこにもない。まさに人外魔境という言葉が相応しいだろう。

 

そんな大森林は、表層部は人の手が入った森といった雰囲気である。

しかし、奥深くに進んで行くと、森は一変する。足場は悪く、頭上に茂った木々によって視界は遮られ、周囲は昼でも暗く、あちらこちらに闇がわだかまっており15メートル先が見えれば良いほうだろう。

森に住まう亜人達と遭遇する危険性も高くなる上に、「巨大蛇(ジャイアント・スネーク)」や「森林長虫(フォレスト・ワーム)」、「悪霊犬(バーゲスト)」、「跳躍する蛙(ジャンピングリーチ)」など、凶悪なモンスターが四方八方から襲いかかってくる。何時何処から襲われるか分からないため、絶えず注意しなければならず、大森林での冒険は精神的に非常に疲れる作業となる。

 

これらの理由により自分からトブの大森林に潜る者は稀であり、また無事に戻ってこれる者も少ないため、森の全容は未だ明かされていない。

 

 

そんな大森林の中を慎重に進んでいく五人組がいた。今回、エ・レエブルの冒険者組合から森林内の調査を依頼されたミスリル級冒険者チーム、【守護の聖剣】だ。白金級から昇格したばかりの彼らは、チームの目であり耳である盗賊の「ロックマイアー」を先頭に、リーダーで聖騎士の「ボリス・アクセルソン」、風神を信仰するウォープリースト「ヨーラン・ディクスゴード」、舞踏(ダンス)の武器を使いこなす四刀流の戦士「フランセーン」の3人が、第三位階魔法を行使できる、王国では珍しい黒髪黒目の魔法詠唱者(マジック・キャスター)「ルンドクヴィスト」を守る隊列で進んでいく。

 

既に大森林を探索し始めて三度目だが、有力な手がかりは見つかっていない。今までに出てきたモンスター達も、銀級なら厳しいだろうが、金級のチーム、ましてや白金級チームがやられるほどではない。

 

そんななか、不意にロックマイアーが足を止める。それと同時に、前衛職の3人が警戒心を高めながら己の武器を構える。彼らはロックマイアーの索敵能力を信頼しており、彼が何も無いところで止まることはないと知っているためだ。

 

「ロック、何があったんだ?」

 

何時でも魔法が放てるように精神力を高めながら、ルンドクヴィストが話しかける。

 

「・・・足音が聞こえたんだが、数がかなり多い。そう遠くない場所に、亜人どもの集落があるぞ。どうする?」

 

そうして、リーダーであるボリスに判断を仰ぐ。ボリスは少し考えた後、口を開く。

 

「・・・探索を始めて何日か経ってるし、今日も夜明けからかなり時間が経っている。その集落を調べたら一旦引き上げようと思う。どうだ?」

 

「いいと思うぜ?」

「構わない。」

「それで行こう。」

「探索は任せとけ。」

 

全員の意見がまとまり、ロックマイアーが示した方向へと進んでいく。しばらくして、亜人達の集落が見えてきたため、隠密が不得意な4人は待機し、ロックマイアーが単独で探索をすることとなる。

 

「んじゃ、ぱぱっと終わらせてくるわ。」

 

「待て、ロック。まだ魔法をかけてないだろう?」

 

ニヤニヤしながらそう言い放つボリス。ほかの3人も、心なしか笑いをこらえているように見える。

 

「い、いやー、なくても大丈夫じゃねぇか?それとも、俺の腕を信用出来ない?」

 

「いやいや、ロックの腕は十分信用しているとも。だが、万が一があるだろう?心配なんだよ、俺たち。」

 

「大丈夫だよ、ロック。あんな魔法でも、効果は確かだ。使った方がいいだろ?」

 

いい笑顔でそんなことを言ってくるボリスとルンドクヴィスト。ロックマイアーはため息をつきながら頭をガシガシとかく。

 

「あー、くそっ・・・。俺たちだけだぜ?『アレ』を使ってんの・・・。なんで俺ばっかり・・・。」

 

「そりゃ、お前が盗賊だからだろ?周囲の音を拾う魔法だ、盗賊や野伏(レンジャー)に使ってしかるべきだろう。それに、案外似合ってるぞ・・・ブフッ。」

 

「よしわかった。ヨーラン、てめぇは殺す。」

 

額に青筋を浮かべながら短剣を構えるロックマイアー。それに対し、ヨーランも「お?やるか?」などと言いながら相棒の槌矛(メイス)を手に取る。

 

「やめろ、2人とも。・・・危険を減らすためだ。諦めろ、ロック。」

 

「フランまで・・・。ああ、クソがっ!わかった、分かったよ!!おら、ルンド!とっととかけやがれ!」

 

「はいはい。《早足(クイック・マーチ)》、《身軽な我が身(ニンブル・ボディ)》、《静寂(サイレンス)》、《闇視(ダーク・ヴィジョン)》《感知増幅(センサーブースト)》、《鷹の目(ホークアイ)》・・・。」

 

次々に魔法を発動していくルンドクヴィスト。未だ魔力には余裕がある上に、探索はこれで最後なため大盤振る舞いだ。

 

そして、最後に『アレ』を発動する。

 

「・・・《兎の耳(ラビッツ・イヤー)》。」

 

それは、ユグドラシルにて「兎さん魔法」と呼ばれるものであり、周囲の小さな音を聞き取りやすくするという優秀な効果を持っている魔法である。

 

そして、この魔法にはひとつの特徴ーーーというか、どう見てもこっちがメインーーーがある。

 

それは、魔法の対象者の頭からうさ耳が生える、という特徴だ。つまり・・・

 

 

 

 

 

 

現在、「見えざる(ジ・アンシーイング)」の二つ名を持つ凄腕の盗賊、ロックマイアーの頭には、顔に似合わない非常に可愛らしいうさ耳が生えている、ということなのだ・・・。

 

 

「ブフッ!!」

「無理だ、やっぱ我慢出来ねぇ!ぎゃははは!!!」

「・・・・・・・・。」

「に、似合ってるぞ・・・ふふっ。」

 

「てめぇら、戻ってきたら覚えておけよ・・・?」

 

爆笑する4人にそう忠告すると、ロックマイアーは集落の方へ向かって走っていく。魔法のおかげもあってか、全く音を立てずに。心なしかその背中は哀愁が漂っているように見える・・・。

 

「あー、笑った笑った。んじゃ、俺達はここで待機するのか?」

 

「い、いや、ねんのため、私の不可視の魔法を使って隠れる・・・ブフッ!」

 

「ルンド、笑いすぎじゃねぇか・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「お前もいつまでもプルップル震えてねぇで、隠れるぞフラン!!」

 

「す、すまない・・・・・。」

 

「と、とりあえず、使うぞ。・・・《不可視化(インヴィジビリティ)》。」

 

第三位階魔法である不可視の魔法を使い、近くの茂みに隠れる4人。

 

 

 

そして、しばらく経つと、ロックマイアーが焦ったような様子で戻ってくる。不可視化を見破る魔法を使っていないのに仲間の居場所にまっすぐ向かう辺り、彼の盗賊としての実力が高いのが伺える。

 

 

「よーう、ロック。うさ耳は無くなったみたいだな?何焦ってんだ?」

 

「ふざけてる場合じゃねぇぞ、ヨーラン。すぐにここを離れよう!」

 

「・・・マジみたいだな。何があった?」

 

「それは移動しながら聞くことにしよう。ルンド!ロックにも不可視化をかけてくれ!急ぐぞ!」

 

ボリスの判断に従い、ロックマイアーに魔法をかけた後、すぐに走り出す。身体能力がほかの4人に劣るルンドクヴィストは、《飛行(フライ)》の魔法を使用して追従する。

 

「それで、何があったんだ?」

 

「ゴブリンの集落を探索したんだが、殆どの個体が武装してたんだ。不審に思っていたら、「森に人間が入り込んだ」ってのが聞こえてな。調べてみると、どうも俺たちのことらしい。」

 

「なんだって!?この辺りは今日初めて探索したんだぞ?なんでゴブリン共が俺たちを知っているんだ・・・。」

 

「分からない。ただ、「インダルン様の指示」っつってたから、多分そいつが・・・っ!!ボリス!!盾構えて右!!!」

 

ロックマイアーの声に反応して、即座に盾を構えるボリス。すると、構えた方向から飛来していた火球がぶつかり、彼の体を強大な炎が包み込む。並の冒険者なら即死しているであろう威力だが、上位冒険者であり、聖騎士の職業(クラス)を修めているボリスは、魔法に対してある程度の耐性を持ち、全身を焼かれる程度ですんだ。

 

「グッ・・・!!」

 

「ボリス!!大丈夫か!《中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)》!!」

 

「ーー!!すまない、助かった!!」

 

即座にヨーランが回復魔法を使用し、ボリスの傷を癒す。しかし、思いのほかボリスの受けたダメージは大きく、完全に回復することは出来なかった。

 

「・・・ほう。儂の《火球(ファイヤーボール)》を受けて、生きておるのか。少しはやるようじゃの。」

 

「くそ、何者だ!!どこにいる!!」

 

「自分から姿を表すような馬鹿では無いわい。逆に、お主達の姿はまる見えじゃがの。このままなぶり殺しにしてくれよう。」

 

「・・・あんたが、インダルン様とやらかい?」

 

「・・・名前ぐらいなら構わんか。いかにも。儂がこの一帯を支配する、『リュラリュース・スペニア・アイ・インダルン』。西の魔蛇と呼ばれておる。」

 

問いに答えるリュラリュース。ロックマイアーは、トブの大森林やその周辺の強力なモンスターの情報を網羅しているが、「西の魔蛇」という名は聞いたことがなかった。今までうまく隠れていたのだろう。

その上、感覚を周りに向けると、【守護の聖剣】を囲うようにモンスター達の気配がしていた。

 

「・・・まずいぞ、ボリス。囲まれてる。」

 

「っ!そうか。どうするべきだと思う?」

 

「逃げるべきだ。こちらの不可視化が見破られている上に先程の《火球(ファイアーボール)》、俺のより威力が高い。下手したら第四位階魔法を使えるかもしれないぞ。そんなやつを相手にするのはまずい。」

 

「・・・なら、撤退戦だな。ヨーラン!フラン!ルンド!逃げ道を切り開いてくれ!ロック!どこを突破するのか、どう動くかの指示を頼む!西の魔蛇の魔法は俺が盾になって対処する!!《下位属性耐性(レッサー・プロテクション・エナジー)》!!」

 

「分かった!お前ら、一番手薄なのは向こうだ!ルンドの魔法で先制攻撃した後、フランが突撃!!ヨーランは天使を召喚して、そのままフランの援護だ!!全員、生きて帰るぞ!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「暇だ。」

 

「いや、暇じゃなくてちゃんと仕事しなよペテル・・・。」

 

やぁやぁ、柵作りをサボった結果、柵に加えて矢まで作ることになった俺だよ!

現在、村を囲う柵を作っているのだが、なんとリリアラームさんから

「武技を練習するような元気があるなら、村全体を柵で囲うことも出来るわよね・・・?」

というお言葉を満面の笑みで頂いてしまった。いやー、あの笑顔は怖かった。フランセーンとの模擬戦の時と同等以上の威圧感だった。あれ《絶望のオーラⅠ》ぐらい出てたんじゃね?

まぁ、とにかくこんな感じで仕事量が増えた俺とギランだが、流石に量が多いからという理由でエドストレームとモーゼ、ついでにルッチの3人が手伝ってくれている。矢を作る時にはカノンも手伝ってくれるらしい。持つべきものは友だな!!

 

「ペテル君、手が止まってるよ?はやくしないと終わらないよ?」

 

「あ、はい。サーセン」

 

「なんでエドの時は反応して俺の時は無反応なんだ・・・。」

 

いや、そりゃ美幼女と小太りな少年だったら前者を選ぶでしょーよ。まぁでもモーゼはすごいと思うよ?太ってるんだもん。

いくらうちの村が他よりも余裕があるとしても、肉はたまにしか出てこないし、栄養価も偏りがちだ。それなのに太るとか、エネルギーの変換効率がすごくいいのだと思う。もはや才能じゃね?

 

「おい、今すげぇ失礼なこと考えなかったか?」

 

「気のせいだろ。細かいこと気にする男はモテない上にハゲるぞ。」

 

「やめろよ、ただでさえ父ちゃんハゲてるから気にしてんのに。」

 

「ふっ。その点うちは両方フサフサだからな!心配ないのだ。」

 

「でもじいちゃんがお前のじいちゃんはハゲだったって言ってたぞ?」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

「・・・二人とも、いい加減にしようね?」

 

「「サーセンした!!」」

 

エドストレームさんから《絶望のオーラⅠ》が漂い始めたので、急いで作業に戻る。杭をコンコン打ち込んで、紐を使って板を括りつけていく。この作業はかなりやりにくいので、モーゼと協力して作っていく。

 

「ペテル、そっち押さえてくれ。」

 

「ほいほい。ほら、紐。」

 

「サンキュ。」

 

俺が渡した紐を使って、モーゼは手際よく板を括りつけていく。俺はあまり手先は器用ではないので、括りつける作業はモーゼに一任している。代わりに、杭を立てたり、板を押さえるのは俺の仕事だ。

だが、エドストレームはそれを同時に行ってしまう。片手で板を押さえて、もう片方の手で紐を結んでしまうのだ。しかも綺麗に。何かコツがあるのかと思い、モーゼと2人で聞いてみたところ、

 

「?だって、手は二つあるんだよ?別々に使うだけでしょ?」

 

とのこと。試しにそれぞれの手で紐を結ばせたところ、どちらも綺麗に結んでいた。他にも、薬草をすり潰しながら怪我人に包帯を巻いたり、編み物をしながらあやとりをしたりも出来るらしい。何この子怖い。

 

前にも言った気はするが、エドストレームはずば抜けた《空間把握能力》と《両手を別々に動かす能力》を持っている。恐らくだが、これらの能力の組み合わせによって『並列思考』に近いものを身につけているのだろう。人間は普通ひとつの物事しか集中して考えられないが、エドストレームは2つ以上の物事を考えることができるかもしれない。例えば、戦闘中に相手を観察しながら退路を探したり、鍵開けしながらも周りの索敵をしたりなどなど。全力攻撃と戦略立案を同時に行えたりしたらかなり強いが、どうなんだろうか。

 

「おーい、ペテルー。とっとと杭打ってくれー。」

 

「あ、すまんすまん」

 

とりあえず杭を立てていく。

・・・めんどいなぁ。この時間を使って訓練したい。別に訓練が好きな訳では無いが、自分の能力が目に見えて上がっていく感じはとても良い。目標が目に見えるので、やる気が出るのだ。マラソンをしてる時、先が見えないと余計やる気が出なくなるが、ゴールテープが見えてると頑張れる感じだ。流石にこの数日でレベルが上がることはないが、今は武技の練習がしたい。武技はユグドラシルに無かった能力なので、多種多様な武技を覚えることでナザリック就職に大きく近づけるだろう。

 

武技についてだが、概ね戦士職が扱う魔法のようなものだ。魔力の代わりに精神力のようなものを使って発動する。

ただ、魔法との大きな違いは、魔力と違って精神力は消費されないということだ。

例えば、でっかい箱を想像してほしい。その箱いっぱいに水を入れる。それが魔力だ。魔法を使うたびに箱から水を出していく。当然、総量は減っていくので、使える量には限りがある。それが魔法だ。

対して、精神力はスイッチを想像してほしい。武技を発動すると、そのスイッチをオンにする。【盾強打】ならひとつオンにするだけで済むが、強力な武技は複数のスイッチをオンにする必要がある。その為、同時に発動出来る武技の数には限りがある。だいたいこんなイメージだ。

ちなみに、現在俺の精神力はスイッチ一つ分だ。原作から考えても、周辺諸国最強と呼ばれるガゼフも10個分ほどしか無い。なので、今のうちから武技に加えて、精神力の最大値も上昇させておきたい。

 

「・・・サボっちゃダメだよ?」

 

「なんでわかるのさ。」

 

「んー・・・特訓の成果かな?」

 

そういえば、エドストレームは今ロックマイアーから盗賊の技術を教えてもらってるんだっけか。本人も冒険者になる決心をしたらしく、頼み込んだらしい。頼み込むだけで教えてくれるロックマイアーも随分とお人好しだな。【守護の聖剣】は善人しかいないのか?

 

「なるほどね。どんなことやってるの?」

 

「えっと、暗闇に慣れるのとか、人の表情を見て考えてることを読んだり、鍵開けのやり方とか。あ、戦い方も教えてもらってるよ。」

 

「随分と本格的だね?」

 

「教えるからには手は抜かないって。」

 

「いい人だね。」

 

「うん、すごく。」

 

・・・俺もボリスやヨーランに色々聞いてみるか。特殊な武技とかを教えてもらえれば万々歳だし、冒険者としての心構えを聞いておくだけでも違うだろう。

 

「いいよな、お前らは。冒険者になるっていう目標があって。」

 

そう言いながら、モーゼがため息をつく。本人曰く、俺たちに比べて目標が無い自分が情けないらしい。

 

「いや、そんなこと考えられるだけで十分立派だと思うけど。」

 

「うん。モーゼ君しっかりしてるし、情けないことないと思うけど?」

 

それに、こんなこと言っているモーゼだが、実は農夫(ファーマー)Lv1だったりする。村を守るために自警団に入ろうと考えているらしいし、立派だ。エドストレームもそうだが、お前らほんとに年齢1桁?

 

「「いや、ペテル(君)には言われたくない。」」

 

「アッハイ。」

 

言われてみれば俺の方がおかしいわ。村の大人を差し置いて、1番強い戦士であり、魔法を使える8歳児。うん、頭おかしい。

 

「おーい、ガキンチョ共ー。終わったかー?」

 

振り返ると、ギランとルッチがこちらに来ていた。自分たちの担当部分を終わらせてきたようだ。

 

「もーちょっとー!」

 

「おーう、なら手伝うぞー。行こーぜ、ルッチ。」

 

「はいはい。モーゼ君、板を頂戴。」

 

「了解。はい、これ。」

 

「ありがとう。」

 

ギラン、ルッチ両名の手助けもあって、今日の分の柵作りは無事終了した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次は、カノンを加えての矢作りだ。矢と言っても、矢じりがついた立派なものではなく、矢羽根をつけて先を尖らせた感じの簡単なものだ。

狩りにも使うし、戦いの時には貴重な遠距離武器になる。今回の戦いで矢が切れてしまい、なるべく多くのストックを作っておきたいらしい。

 

「それじゃ、ペテル君とルッチとギランはこの枝を削っていって。私とエドちゃん、モーゼ君で矢羽根を付けていくから。」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

それぞれ与えられた作業を始めていく。俺たちの担当は枝を削って矢の軸の部分を作っていく。

最初は新鮮で楽しかったし、黙々と作業していたのだが・・・。

 

 

「めんどくなってきた。」

「俺も。」

 

「・・・前回それで怒られたんだろう?反省してないのか?」

 

「だって、こうも単純作業だと、ねぇ?」

 

「だよなぁ、分かるよペテル。・・・あ、そうだ。ペテル、お前って普段どんなに訓練をしてるんだ?」

 

「訓練ですか?」

 

「あ、それは俺も気になるな。何か、特別なこととかやってるのか?」

 

暇だったギランが出した話題に、意外にもルッチが食いついてきた。前回の戦いでオーガと戦ったらしいが、その時ギグの足でまといになったのが悔しいらしい。

 

「訓練って言っても、大体父さんとの一騎討ちですよ?それをずっと繰り返していくんです。」

 

「うぇ、マジかよ。ギグさんってオーガに勝つような人だぞ?そんな人と一騎討ちって・・・。」

 

「なるほど、実戦に近い形で訓練しているのか。ただ剣を振るよりもよっぽど有意義だな。俺達も今度からやってみるか?」

 

「おっ、いいねぇ。なんなら今からでもいい「仕事してからな。」・・・うぃっす。」

 

「あはは・・・何なら、僕が相手になりましょうか?」

 

「い、いやぁ、ペテルはなぁ・・・。」

 

「・・・情けないが、2人がかりでも勝てる気がしないな。」

 

そう言いながら苦笑いをする2人。まぁ、戦士(ファイター)を持っている2人でも、流石に俺の相手は厳しいだろう。ここにもう1人、誰か2人と同じくらいの実力者が入ればいい勝負になるのだろうが。

 

「そうですね、2人がかりでこられても負ける気はしませんね。」

 

「ははは、こいつめ。」

 

「・・・なら、3人ならどうだ?」

 

「3人?」

 

「カノン、聞いていただろ?俺たちのチームに入ってくれ。」

 

「え?あたし?」

 

ルッチ曰く、自分とギランは普段から一緒に訓練しているから連携が取れるが、他に前衛が入っても連携が取れないので意味が無い。しかし、弓を使う野伏(レンジャー)であるカノンならば、上手く戦えるのではと考えたとのこと。

なるほど、2人が抑えて、カノンの弓による遠距離攻撃でダメージを与える作戦か。確かに、前衛だけで戦うよりは理にかなっている。

 

 

 

「あのー・・・それ、私も混ざっちゃダメですか?」

 

「ん?エドストレームちゃんがかい?」

 

「あ、そういえばエドちゃんって今盗賊の人に色々教えてもらってるんだっけ?」

 

「はい。足でまといにはならないと思います。」

 

「本人がいいなら大丈夫だけどよ。いいのか、ペテル?4人になったぞ?」

 

「・・・まぁ、厳しいですけど。負けませんよ?」

 

「よっしゃ!ならとっとと終わらせるか!」

 

 

模擬戦の約束を取り付けたことで、やる気を取り戻したギランを筆頭に、各々自分の仕事を終わらせていく。模擬戦用に先の丸い矢も作り、ある程度矢作りが済んだところで休憩がてら模擬戦をすることとなった。

 

ちなみに、モーゼは審判だ。ついていける自信が無いらしい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

訓練で使っている木剣を手に取り、予備武器としてもう一本腰に差しておく。そして、動物の革で作られた胸当てと盾を装備し、訓練場に向かう。

訓練場につくと、すでに5人ーーー審判のモーゼ含めーーーは装備を持ってまっていた。

 

「ペテル!準備はいいか!?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

ギランとルッチの2人は、俺と同じくらいの木剣を手に持ち、革の胸当てを付けていた。ルッチは予備武器を持っていたが、どちらも盾は持っていない。

カノンは手に短弓(ショート・ボウ)を持ち、背中に矢筒を背負っている。中には先程作った模擬戦用の矢がたくさん入っている。

エドストレームは、身軽な格好に着替え、手には刃の潰れた短剣を持っている。これは、ロックマイアーが訓練用にと貸し出したものらしい。ただ、貸し出されたのが短剣1本だとは思えない。恐らくだが、似たような投げナイフも数本持っているだろう。

 

ここで、全員に見えないように注意しながら【能力看破の魔眼】を発動させる。

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ギラン・グーイ】

性別【男】 年齢【18】

総合Lv【5】

農夫(ファーマー) Lv3

戦士(ファイター) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ルッチ・ロン】

性別【男】 年齢【18】

総合Lv【5】

農夫(ファーマー) Lv3

戦士(ファイター) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

〜〜ステータス〜〜

名前【カノン・ビート】

性別【女】 年齢【15】

総合Lv【4】

農夫(ファーマー) Lv2

野伏(レンジャー) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

〜〜ステータス〜〜

名前【エドストレーム】

性別【女】 年齢【9】

総合Lv【4】

▼ジーニアス/曲芸士(テンブラー) Lv2

盗賊(ローグ) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

全員のステータスはこんな感じだ。ギランとルッチ、それにエドストレームがそれぞれ1つずつレベルを上げている。

 

うーん・・・これはちょっとばっかし厳しい。いくらこっちが戦闘職ばかりだとしても、魔法が使えないなら戦闘力は落ちる。どーしたもんか。

とりあえず、1番警戒すべきなのはエドストレームだ。俺と同じ、戦闘職でビルドが組んである彼女は、ほかの3人よりも脅威度が高い。次いで弓を使うカノンだ。

 

勝つためには、まず、後衛である2人を倒せたら俺の勝ちだ。ギランとルッチなら余裕だろう。

逆に、前衛2人を倒しても俺の勝ちだ。流石にエドストレーム1人で俺を抑えることは出来ない。

 

つまり、勝つためには前衛、または後衛を落とすことが条件だ。

 

それなら、とっととギランとルッチを落とした方が早いだろう。隙があったらカノンを狙えばいい。エドストレームを狙うのは誰か一人落としてからだ。

 

「えっと、命に関わるような行為はもちろん、大怪我に繋がるような攻撃も禁止です。

 

俺がもう戦えないと判断した時、もしくは自分はもう戦えないと自己申告した時は戦闘から外れてもらいます。

 

ペテルが4人を倒す、もしくはペテルが倒れたら模擬戦は終わりです。」

 

審判のモーゼがルールを確認していく。まぁ、ただの模擬戦だし、「オレまだ死んでないし!!」なんてわがままを言うやつもこの中にはいないだろう。

 

「あ、後、ペテルとギランさんは武技禁止です。危ないし。」

 

「えっ」

「まぁそうだろうな。・・・どした、ペテル?」

 

「い、いえ!何でもないです。」

 

これはまずい。初撃で【盾強打】を食らわせて、ギランかルッチのどちらかを早々に落とす俺の作戦が使えない。

 

てか、いくらレベル差があるとはいえ、4対1な上に魔法と武技が禁止。なかなかにハンデがでかい気がする。

 

まぁでも、あんまり魔法や武技に頼りすぎるのも良くないか。もちろんそれぞれ使いこなせるように訓練はするけど、戦士としての技量も大切だろう。今回はその訓練だと思えばいいか。

 

「それじゃ、そろそろ始めましょうか。」

 

そう言いながら俺は右手に木剣を、左手に革の盾を構える。盾で体を守りやすいように、右足を後ろに下げ、半身の構えをとる。

 

 

対する4人も、それぞれ武器を構える。

 

ギランは両手で木剣を持ち、オーソドックスな中段の構えをとる。

 

ルッチも両手で木剣を持つが、こちらは脇構えに近い構えをとっている。

 

カノンも矢筒から矢を取り出し、弓に番える。開始と同時に矢を射るつもりだろう。

 

エドストレームは短剣を逆手に持ち、低くしゃがみ込むような姿勢をとる。左手には何も持っていないが、警戒しなければ。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、模擬戦、始め!!」

 



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4人との模擬戦

ギリギリ、ギリギリ2週間以内に投稿できた・・・!

遅れましたが、10話目です!!

本来の予定だと、10話目くらいでペテルはエ・ランテルで冒険者になってるくらいだったんですよね。どうしてこうなった。


「行くぜぇおい!!」

 

開始の合図により、ギランとルッチが駆け出す。それと同時にカノンが矢を射掛ける。こちらに向かって真っ直ぐ進んでくる矢を盾で受け止める。

 

「オラッ!!」

 

こちらに迫ってきたギランが大上段からの振り下ろしをしてきたため、それも盾で受け止める。

 

しかし、思っていたよりも威力が高く、衝撃を殺しきれず体勢を崩されてしまう。

 

「・・・フッ!!」

 

その隙に、ルッチが脇構えからの振り上げで攻撃してくる。とっさに剣で上から叩きつけて迎撃する。

 

すると、いつの間にか2人の後ろに潜んでいたエドストレームが飛び出し、こちらの懐に潜り込みながら短剣を振るってくる。剣を振るうのも間に合わないと判断し、右手の剣を手放しながらエドストレームを掴み、力任せにぶん投げる。

 

「きゃっ!!」

「うおっ!」

「うわっ!」

 

ぶん投げた先にいたギランとルッチを巻き込んで転倒する。その間にバックステップで距離を取り、カノンの放った2本目の矢を予備の木剣を抜き取りながら切り払う。

 

あぶない、あぶない。もう少しでやられるところだったわ。流石に開始数秒で脱落なんて格好が立たない。

てか、ほんとに即興チーム?俺を倒すために練習してましたって言われても信じるレベルで連携が取れてるんだが。

 

「すみません、邪魔しました!」

 

「いや、むしろナイス判断だ!これでペテルの予備武器は無くなったぞ!」

 

「確かにな。しかし、4人で攻撃しても一撃も当てられないとは・・・。」

 

「ほんとほんと。この距離の矢を切り払うなんて、初めてやられたよ。」

 

「流石はペテルだな・・・。」

 

いやいやいや、買い被りすぎじゃね?俺8歳だよ?ただのガキンチョだよ?4人相手に無双出来るようなレベル差じゃないんですよ、はい。

 

てか、まじでどーすんべ、これ。相手の連携が取れているせいで、後手に回っていると反撃の余裕は無さそうだ。

 

前衛2人にエドストレームはどうにかなる。特にエドストレームは速さこそ有るものの、盗賊職な上、小柄で非力だから力任せにやってもどうにかなりそうだ。

 

問題はカノンだ。弓による攻撃はどうにか防ぐことは出来るが、前衛と同時にやられると厄介だ。さっきも矢の攻撃がズレていたから良かったが、同時に飛んできていたら対処しきれなかっただろう。

 

動き回って、矢を撃ち尽くさせるか?

・・・無理だなぁ。体力もたないわ。それに、隙をついてエドストレームが矢を拾ってくるだけだろう。無駄に終わるだけだ。

 

 

 

うーん・・・考えるのがめんどくさくなってきたなぁ。ごちゃごちゃ考えても仕方ないか。

 

「とりあえず、突撃だな!」

 

 

考えることを放棄し、相手に向かって突撃をする。

 

「きたぞ!エドストレームは下がれ!」

 

ギランが他より1歩前へ、エドストレームが1歩後ろへ下がり、ルッチが2人の間に入る。

 

「・・・ソリャ!」

 

カノンが矢を射るが、盾でそれを防ぐ。続けて矢を射ってくるが、走りながら盾で弾いていく。

 

「オラッ!」

 

近づいたところを、ギランが上から剣を振り下ろしてくる。しかし、先程のように助走を付けていないその一撃は軽く、盾を使い弾くことに成功する。

 

「んなっ・・・!」

 

俺の前に、無防備な状態でギランの腹が晒される。盾を手放し、木剣を両手で構える。身体をひねり、ギリギリまで力を溜め、全力の一撃を叩きつける。

 

「ゴッファ!!」

 

「ギ、ギラーン!!」

 

俺の全力を受けたギランは、身体をくの字に曲げながら吹っ飛び、盛大に地面にぶつかる。

 

そこに審判のモーゼが近づき、ギランの状態を確認する。

 

「・・・ギランさん、気絶のため脱落です!」

 

「うっそぉ!早すぎでしょ!」

 

「あのバカ・・・!ペテル相手に油断するなんて!」

 

「油断したギランさんもだけど、一撃で倒したペテル君も頭おかしいでしょ!」

 

「頭おかしいって酷くない!?」

 

俺達がそんなやり取りをしているうちに、モーゼがギランを引きずっていく。

 

いやー、やっぱり片手と両手じゃ威力が違うなぁ。だけど、盾で攻撃を防げるのは魅力的だしなぁ。これから決めていかないとなぁ。

 

「・・・それじゃ、続きやりましょうか?」

 

「・・・どうする?ギランがいないと、ペテルは止めれないが?」

 

「いやー、やめといたがいいんじゃない?私怪我とかしたくないよ?」

 

「うーん・・・悔しいけど仕方ないかなぁ。」

 

「あ、終わりですか?なら、ギランさん運ぶの手伝ってくださいよ。この人結構重くって。」

 

モーゼの頼みを受け、ルッチがギランを担いで彼の家に向かった。

 

なんか、ヤバいと思ってたけど案外あっさりと終わったな。低レベルの戦いだとこんなもんなのかな?ファンタジーな世界だけど、戦争のやり方は前の世界とそんなに変わらないし。

 

まぁ、突出した個人の活躍はあるけど。

そういえば、あまり詳しくは知らないが、まだガゼフ・ストロノーフは王国戦士長ではないらしい。

現在はフリーの傭兵団を率いており、かなりの実力者が揃っているうえに、契約相手を裏切らないことで有名なようだ。

 

 

その他、原作に登場したキャラクターだと、王国内では天才剣士ブレイン・アングラウスや後のガゼフの師匠となるヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファン、十三英雄の1人にして【死者使い】のリグリットなどが有名だ。

帝国だとフールーダ・パラダインや、帝国四騎士、武王など。

法国には特に噂は聞いていないが、聖王国には若く優秀な姉妹がいるという。恐らくカストディオ姉妹だろう。

 

まぁ、ここにいる全員で協力しても、ナーベラルにすら勝てるか怪しいけどな!

 

・・・ナザリック怖ぇ・・・。

 

「・・・変な顔してどうしたの?」

 

「んぁ?いやいや、何でもないよ。」

 

すぐ近くにきていたエドストレームが笑いかける。

いかんいかん、変な顔に見えたようだ。頬を両手でムニムニして、顔をキリッとさせる。それを見て、エドストレームはくすくすと笑っていた。カワイイ。

 

「あ、そう言えば。エドって何か隠し武器とか持ってたの?」

 

「あれ、バレちゃってた?」

 

「まぁ、盗賊職が短剣1本で戦士職に戦うわけないし。ロックマイアーさんならなにか渡してそうだなって。」

 

「なるほどね。ロックさんから貰ってたのは、この2種類だよ。どっちも使い勝手がいいんだって。」

 

そう言ってエドストレームが懐から2つのものを取り出す。

 

片方は、エドストレームが手に持っていた短剣をさらに短く、細くしたようなもので、鍔もついていない投げナイフだった。

 

もう片方は、ボーラと呼ばれるもので、縄の両端に鉄製の重りがついている。鉄球をぶつけてもいいし、相手の足に絡めて転倒させることも出来る、結構使い勝手のいい武器だったはずだ。

 

「投げナイフはまだしも、ボーラを使われたらまずかったな。」

 

「あ、知ってるんだ。狙ってたんだけど、その前にギランさんやられちゃったし。」

 

「まぁ、峰打ちとはいえ、全力で振ったしなぁ。」

 

「そもそも、ギランさんをあれだけ飛ばせるペテル君がすごいと思うけどね。

 

・・・あ、見てみて、ペテル君!あれってロックさんたちじゃない?」

 

エドストレームが指さした方向を見ると、確かにここ数日トブの大森林に調査に行っていた【守護の聖剣】の面々が戻ってきていた。

 

 

ただ・・・

 

「なんか、様子が変じゃない?」

 

よく見てみると、ロックマイアーはヨーランに肩を貸しているし、ボリスも自身の剣を杖のようにして身体を支えている。ルンドクヴィストに至っては、フランセーンに担がれている状態だ。

 

それに、全員がかなりの怪我を負っている。上位冒険者に相応しいだけの防具や高価なポーション、ヨーランによる回復魔法があるのにだ。

 

すると、こちらに気がついたロックマイアーが脱力したような笑みを浮かべながらこちらに話しかける。

 

 

「よお、ペテルにエド。すまねぇが、こいつら運ぶの手伝っちゃくれねぇか?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「皆さん!大丈夫ですか!」

 

そう言いながら、村長は冒険者たちが休んでいる家の中に駆け込む。そこには、村を救ってくれた恩人達が満身創痍の状態でベットに横になっていた。

 

「ああ、村長さん。大丈夫ですよ。これくらいで死ぬような、やわな連中じゃないですから。」

 

そう言って笑いかけるのは、リーダーのボリスだ。調査に向かう前に身につけていた見事な鎧は外され、全身を包帯で巻かれている。

 

「そうそう。ボリスやフランはミスリル級の前衛職だからな。これくらいどうってことないさ。ルンドとヨーランの2人も、重症に見えるが実際は大したことない。魔力切れになって倒れただけさ。」

 

なんてことないように言ったロックマイアーは、怪我こそしているもののほかの4人よりは軽傷だった。大森林内での戦いにおいて、盗賊職である上に味方への指示を任されていた彼は直接戦うことが少なかったためだ。

 

その横で、フランセーンも無言で頷いている。実際この中で最も傷が酷いのは彼だが、戦いの際にボリスとともに前衛となる彼にとって、これくらいの傷はまだまだ動ける範囲内なのだろう。消耗したアイテムの確認や、武器の手入れを黙々とこなしている。

 

「仲間が起きたら、すぐにでもエ・レエブルに出発します。なるべく早く、組合に今回の敵のことを伝えたいですから。」

 

「それは構いませんが・・・。皆さんがいない間に、その敵が村に来る、なんてことは?」

 

「いえ、それは有り得ません。こちらもかなりやられましたが、向こうにも深手を負わせたので。」

 

「・・・殺すつもりでやったが、逃げられた。魔法詠唱者(マジック・キャスター)だからといって油断した。すまない。」

 

「何言ってんだ。あの一撃のおかげであいつから逃げ切れたんだ。むしろよくやったよ。」

 

落ち込むフランセーンに、それを笑いながら慰めるロックマイアー。そこには、共に死線をくぐり抜けた、硬い絆があった。

 

 

 

 

 

「ロックさん!大丈夫ですか!?」

「失礼します。」

 

そう言いながら部屋に入ってきたのは、ロックマイアーの教え子のエドストレームと、その友人であるペテルだ。

 

【守護の聖剣】が戻ってきた時から心配していた2人だが、治療が済むまで外で待っていたようだ。

 

「大丈夫だよ、エド。こんな傷、へでもねぇや。それとも、これぐらいで死ぬほど、俺のこと弱いと思ってんのか?」

 

「そんなわけじゃないけど、心配なものは心配です!」

 

二人の会話を聞いて苦笑いしながら、ペテルがほかの2人に話しかける。

 

「お疲れ様です、ボリスさん、フランさん。怪我の具合はどうですか?」

 

「ああ、俺達は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、ペテル君。」

 

「・・・問題ない。」

 

「それは良かったです。・・・もしかして、近いうちにエ・レエブルに戻りますか?」

 

「ああ。仲間が起きたら、すぐにでも戻るつもりだよ。どうしてだい?」

 

「いえ、エドストレームももっと色々ロックマイアーさんに教えてもらいたかっただろうし、俺もボリスさんやフランさんに武技について教えて欲しかったので、残念だなって。」

 

「ああ、なるほど。すまないが、それは次に村に来た時で構わないかい?」

 

「?また来るんですか?」

 

「・・・今回の件は、組合に報告して、定期的に冒険者を派遣するようにするつもりだ。その際、ここの村に寄るので、これからも何度か来ることになる。」

 

「なるほど・・・。あの、それなら、1つお願いをしてもいいですか?」

 

「?なんだい?」

 

「魔法に関する本を買ってきて頂けないでしょうか?村に来る行商人とかは、滅多に本を売ってないので。」

 

「なるほど。それくらいなら構いませんよ。ねぇ、フラン?」

 

「ああ。・・・そうだ、ペテル君。」

 

「なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうせなら、俺達とエ・レエブルまで行くか?」



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いざ、エ・レエブルへ

50000UA、およびお気に入り1000件達成!!
本当にありがとうございます!!

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。

今回少し短めです。


「それでは、皆さん。お世話になりました。またいつか会える日を楽しみにしています。」

 

「ええ。いつでもいらしてください。何も無いところですが、精一杯歓迎させていただきます。」

 

ガッチリと握手を交わす村長とボリス。村長の後ろには、ギグやレイア、リリアラームをはじめとした、生き残った村の人々が見送りに来ている。

 

その中でただ1人、ペテルのみが見送られる側に立っている。

 

「ペテル、気をつけていきなさい。向こうでも【守護の聖剣】の皆様が付いていてくださるらしいが、迷惑をかけないようにな。」

 

「分かってますよ。変なことはしません。」

 

村長の言葉に苦笑するペテル。フランセーンからエ・レエブルに誘われた日から、耳にタコができるくらい何度も何度も言われたのだ。

 

流石に心配しすぎじゃないか、とペテルは思っているが、周りからしたらペテルは「村で最も強い戦士」でもあるが、同時に「8歳の子供」でもあるのだ。

 

それに、誰にでも優しく接し、村で育ったとは思えないほど礼儀正しい彼は、老若男女問わずに尊敬、信頼されている。

 

そんな彼が一時的とはいえ村からいなくなるのは、みんな心配なのだろう。

 

村の子供たちは、1人だけ街に行けるペテルが羨ましく、嫉妬の視線を送っているが。

 

 

「ペテル君、そろそろ出るので、ルンドの馬に乗ってください。」

 

「あ、はい。分かりました。」

 

ボリスから言われ、馬に飛び乗るペテル。ルンドクヴィストの馬に乗るのは、彼がメンバーの中で最も細身で軽いからだ。ロックマイアーも細身だが、彼の場合、全身筋肉なので見た目に反して結構重かったりする。

 

「ペテルー!気をつけていけよー!」

「迷惑かけちゃダメよー!」

「楽しんできなさーい!」

「行ってらっしゃい、ペテルくーん!」

 

 

 

「はーい!行ってきます!!」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「そういえば、ペテル君はなんで街に行くんですか?」

 

街に向かう途中、ルンドクヴィストが何気なくペテルに問う。彼とヨーランはほかの3人よりも長く寝ていたので、ペテルが付いてきた理由を知らないのだ。

 

「あれ?ボリスさんから聞いてませんか?」

 

「我らがリーダーは頼りになるんですけど、ちょっと抜けてるところがあるんですよ。」

 

ボリスに聞こえないように、小声でそんなことを言うルンドクヴィスト。そんな彼の言葉に笑いながら、ペテルが答える。

 

「いえ、元々ボリスさんに、次に村に来る時に魔法についての本を持ってきて欲しいって言ってたんですよ。そこにフランさんが誘ってくれたので。」

 

「なるほど、フランがですか。・・・しかし、魔法についての本ですか。どんな魔法についてですか?やっぱり攻撃系の魔法について?」

 

「いや、召喚魔法と、付与魔法についての本が欲しいんですよね。」

 

「付与魔法に、召喚魔法ですか。随分珍しいですね。」

 

ルンドクヴィストは驚いたような顔で答える。それもそのはずだ。フランセーンなどの力のある戦士は違うが、そもそも戦士職の人間は魔法をかなり軽視する。

 

その中でも特に付与魔法や召喚魔法は、代表的な攻撃魔法や回復魔法と違い、その力が分かりにくい。その為、「生活魔法と変わらない使えない魔法」などと言うような奴もいるほどだ。まぁ、そんなことを言っているやつは、冒険者ならすぐに死んでしまうのだが。

 

そんな魔法を、小さな戦士が学びたいと言っているのだ。驚くに決まっている。

 

 

「・・・その本は、基礎的な内容のものですか?それとも専門的なものを?」

 

「うーん・・・。なるべく専門的なものがいいんですけど、どれくらいですかね?」

 

「そうですねぇ。専門的な本は高いですから、下手すると金貨数枚だったりします。さらに、付与魔法と召喚魔法は軽視されやすいので、本自体が希少でしょうし・・・。倍以上してもおかしくないですね。」

 

「そんなに高いんですか!?」

 

ルンドクヴィストの言ったことは嘘ではない。専門的な内容のものを書くためには、それ相応の知識が必要になる。それだけの知識を持った人材は貴重であり、それを書き切れるだけの紙もまた貴重だ。

 

そんな中、魔法についての本は発行しているものが少なく、その中でも付与魔法、召喚魔法は特に少ない。必然的に、それらの専門書は価値が高くなるのだ。

 

「ど、どうしよう・・・。まさかそんなに高いとは・・・。」

 

「もしかして、お金足りないんですか?」

 

「かなりの金額を貰ったんですが・・・。金貨十数枚分は無いと思います。」

 

 

ペテルがもらった金額は、両親や村長、リリアラームから貰ったものを合わせておおよそ金貨5枚程度。村長から貰ったものは村のみんなへのお土産代なので、実際に使えるのはもっと少ないだろう。そう考えると、ペテルが高価な専門書を買うのは不可能だろう。

 

「じゃあ、残念だけどもっと安値のやつにするべきかぁ。」

 

「・・・そうですね。エ・レエブルについたら、魔術師組合の友人に安値でそれらの本がないか聞いてみましょう。」

 

「っ!!ほんとですか!!」

 

ニッコリと頷くルンドクヴィスト。

 

彼は冒険者になる前は、エ・レエブルの魔術師組合で仕事をしていたエリートだった。

 

その仕事ぶりは優秀そのものであり、上司や後輩達、《巻物(スクロール)》や《短杖(ワンド)》を買いに来る顧客からも高い信頼を得ていたほどだ。

 

その為、冒険者になると決めた時は、エ・レエブル魔術師組合の人間総出で止められたらしいが。

 

「・・・とまぁ、そんな縁がありましてね。本来は書物を販売する店に行くべきなのでしょうが、魔法に関する物はなんでも揃ってますからね。」

 

「へぇ〜。凄いんですね、魔術師組合って。でも、なんで冒険者になろうと思ったんですか?」

 

「実は、ボリスとヨーランが誘ってきたんです。はじめは断ったんですが・・・。」

 

「ですが?」

 

「毎日毎日、飽きもせずに魔術師組合に顔を出して、『うちのチームの魔法詠唱者(マジック・キャスター)はアンタがいい!』だとか、『アンタと一緒に冒険したい!』だとか言われ続けて、ついに折れたんですよ。」

 

彼は苦笑しながら当時のことを語る。

 

ルンドクヴィストが魔術師組合に所属していた当時、【守護の聖剣】は彼とフランセーンを除いた3人しかおらず、ーーーボリスとヨーランの2人が無鉄砲だったため、ロックマイアーが世話を焼いていたーーー階級も銀級だった。

 

そんな彼らと出会ったのは、用事を終え、王都から帰る時だった。

 

手持ちが心もとなかったルンドクヴィストは、知り合いの商人に頼んでエ・レエブルに向かう荷馬車に乗せてもらった。その荷馬車の護衛をしていたのが、【守護の聖剣】の3人だった。

 

3人とは不思議とウマが合い、帰り道で様々なことを話した。

 

冒険者である3人は、依頼が少なく生活が大変なことや、今までの討伐実績などを話してくれた。四大聖剣を手に入れるのが目標だ、と意気揚々と語るボリスとヨーランに、それを見てため息をつくロックマイアーが面白かった。

 

魔術師組合に勤めるルンドクヴィストも、魔法についての知識や、仕事に対する愚痴、どのマジック・アイテムが買い時なのかなど、普段は喋らないことまで話した。

 

 

そんな時に、荷馬車を盗賊団が襲撃。

 

ルンドクヴィストは【守護の聖剣】を手助けし、これを撃退する。

 

その時からボリス達に誘われるようになったのだ。

 

 

「とまぁ、こんな感じで今まで続いてるんですよ。」

 

「なるほど。そういえば、フランさんはいつチームに加入したんですか?」

 

「たしか、金級の時に出会いましたね。彼、ずっと1人で冒険者やってたんですよ。他のチームの誘いも断り続けて、一緒に戦うことは出来ないって。」

 

「・・・もしかして、それもボリスさんとヨーランさんが?」

 

「ええ。口説き落としてきましたよ。」

 

あの時は驚きました、と言うルンドクヴィスト。

 

「なんか、ある意味すごいですね。フランさんが1人で戦ってた理由ってなんなんですか?」

 

「それは、私が話すことではありません。気になるなら、本人に聞いてください。

 

それに、もう楽しい会話の時間も終わりのようですしね。」

 

 

そう言いながら、ルンドクヴィストは前の方を指差す。

 

そちらを見ると、立派な城壁に囲まれた大きな街が見えてくる。街の入口には、多くの商人と思われる人達や、その護衛と思われる人々。それに、街道を警備している冒険者たちの姿があった。

 

ペテルは1度だけ、父とともに来たことがあるが、その時もこんな風に感動していたのを思い出す。

 

 

「あれが、私たちが滞在している街であり、六大貴族の1人、レエブン候の屋敷がある大都市。エ・レエブルです。」

 



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大都市エ・レエブル

右を見れば、朝から仕込んでいたのであろう焼きたてのパンを売るために声を張り上げるパン屋の男の姿が見えた。香ばしいパンの香りが漂ってくる。

 

左を見れば、雑貨屋の品物を安く手に入れるために、店員に値切りを行っている中年のおばちゃんがいた。ギャーギャー騒ぐおばちゃんを、周りが諌めている。

 

流石は大都市、村とは比較にならない程の活気に満ちている。

 

 

「凄いですね、大都市ってどこもこんな感じなんですか?」

 

「・・・いや、ここだからこそだな。領主のレエブン候は、野心家ではあるものの名君だ。他所とは比べ物にならないほど良心的な税率だから、ここまで栄えているんだ。ここ以外なら、お前が目指しているエ・ランテルくらいなものだ。」

 

隣を歩くフランセーンが説明をしてくれる。

 

 

 

現在、ペテル(おれ)は【守護の聖剣】の戦士、フランセーンと二人きりでエ・レエブルの通りを歩いている。

 

ボリス、ヨーラン、ロックマイアーの3人は冒険者組合に報告に向かっている。今回の件について、定期的な討伐隊を送る事を相談するらしい。

 

ルンドクヴィストは魔術師組合に行っている。わざわざ俺の本の為に聞きに行ってくれているのだ。

 

そして、フランセーンから「連れていきたいところがある」と言われ、こうしてホイホイついて行っているのだ。

 

 

 

「こっちだ。」

 

 

そう言ってフランセーンが進んでいくのは、先程の賑やかな通りとは打って変わってとても静か、と言うより、人通りの少ない、薄暗い裏通りといってところだ。

 

 

「・・・ここに何があるんですか?」

 

 

「そろそろだ。・・・ついたぞ。」

 

 

フランセーンが立ち止まったのは、本通りから離れた裏路地に、ひっそりと佇む古びた二階建ての建物。剣と剣が交差したような紋章ーーー古ぼけててよく分からないーーーに、これまたボロボロの看板に王国の文字で

『カモンの武具店』と書かれている。

 

「武具店ですか?」

 

「ああ。馴染みの店でな・・・ メイッサさん、居るか?」

 

扉を開けて、フランセーンが中に入っていく。それに続いて『カモンの武具店』に入っていく。

 

 

 

中は正にファンタジーに出てくる武器屋さんのような内装だった。壁には剣や槍はもちろんのこと、盾、斧、槌鉾(メイス)斧槍(ハルバード)、短剣などなど、様々な武器が立てかけてあった。防具は盾以外見当たらないが。

 

そして、その奥、鍛冶場のようなところが見えているのだが、そこから手にハンマーを持った老人が出てくる。

 

顔は深い皺が多数あり、髪も殆どが抜け落ちている。腰も曲がってしまい、とてもじゃないが鍛冶仕事が出来るとは思えない。その老人が、優しい目をしてこちらに話しかけてくる。

 

「やぁ、フランセーン君。久しぶり・・・という程でもないか。この間君の武器を直したばかりだしな。それで?今日は何の用だい?見たところ、知らない子が居るみたいだが。」

 

「たびたび済まないな、メイッサさん。彼はペテル君。今回の依頼で世話になった村の子供だ。」

 

「ペ、ペテルです。よろしくお願いします。」

 

フランセーンに紹介され、戸惑いながらも挨拶をする。老人は優しい顔つきで頷きながら、こちらに挨拶を返す。

 

「はい、よろしく。私はこの店の店主をしている、カモン・メイッサという。

 

それで?肝心のことがまだ聞けてないんだが?」

 

そうだったな、などと言いながら、フランセーンがメイッサの質問に答える。

 

 

 

「彼にあった武器を見繕ってくれ。」

 

「・・・え?」

 

フランセーンが言ったことに面を食らう。わざわざここに来て、俺のために武器を見繕ってくれという彼にも驚いたが、なぜわざわざ新しい武器にしなければならないのか。

 

普段から使っている剣と盾で充分だと俺は思っている。成長するにつれて、その都度身の丈にあった長さや大きさに変えればいいだけだ。それなのになぜ・・・?

 

 

「ふむ・・・。それは武器の大きさの問題かい?それとも、武器の種類かい?」

 

「種類だ。彼にあった種類の武器を探そうと思ってな。」

 

「あ、あのー。」

 

フランセーンがどうしたと言わんばかりにこちらを見る。

 

いや、誰だって唐突に連れてこられて新しい武器にしろなんて言われたら驚くし説明してほしいと思うのだが。

 

それをみて、苦笑を浮かべるカモン。

 

「・・・説明してないのかい?ちゃんとそういうのはするべきだよ?」

 

 

「・・・忘れていた。

 

いいか、ペテル君。君は剣と盾よりも向いている武器がある。

 

いや、どちらかと言えば剣や盾は君には向いていない、の方が正しいか。」

 

「・・・どういう事ですか?」

 

「確かに君は強い。身体能力は既に鉄級冒険者レベルだ。ただな、それは身体能力が、だ。剣や盾の扱いについては、才能がないとは言わないが・・・。毎日しっかり訓練をして、それでもせいぜいが白金レベルだろうな。

 

その歳でこれ程の力を持っている君が、武器に関連する才能がないとは思えない。だから、君にはもっと扱いやすい武器があるんじゃないかと思ったんだ。」

 

 

「そう、ですかね。でも、これから訓練を積めばもっと上まで行けるかもしれないじゃないですか。」

 

「確かにそうかもな。でもな、アダマンタイトになるような奴らってのは、大体が初めから得意な武器の扱いは上手いんだ。それこそ、大人顔負けレベルでな。」

 

・・・そういうものなのだろうか。確かに、盾を扱うようになってからは、守るのは楽になったが、その分攻撃があまり出来なくなっていた。

 

本当に剣と盾が扱える人は、どちらかが疎かになるなんてことはないだろうか。そう考えると、フランセーンの言うことは正しいのかもしれない。

 

 

「まぁ、気にしちゃいかんよ。君はまだまだ若い。様々な可能性を秘めているんだ。ここで1度、他の武器の感触を確かめておくのもいいんじゃないかい?」

 

 

 

ついておいで、と言いながら、メイッサが店の奥へと入っていく。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

手に持った武器を振るう。

 

いつも使っている剣よりも長いソレを使い、試し斬り用の鎧に向かって頭から斧刃を叩き込む。ソレを反転させ、流れるように切り上げ、突きに放つ。

 

1度引いてソレを持ち変え、今度は袈裟斬りをするようにして鎧を叩く。そのまま流れに乗るようにしながら身体を回転させ、左側頭部に突起(ピック)を叩き込む。

 

ソレを回して逆に持ち、柄を兜に叩く。突起(ピック)の一撃で壊れかけていた兜だったが、バガンッ!!と音を立てて砕ける。

 

兜が砕けたところで攻撃をやめ、一息つく。

 

 

・・・しかし、本当に使いこなせる武器があるとは思わなかった。剣よりも使いやすいどころじゃない。マジで天と地ほどの差があるわ、コレ。

 

 

「・・・凄いな。子供ながらにここまで使いこなすとは。どうだい、使ってみた感想は?」

 

「凄いですよ、これ!こんなに使いやすいものがあるとは思いませんでした!」

 

「何にせよ、君にあった武器が見つかってよかったよ。冒険者になったら、ぜひうちの店に来てくれ。色々と手助けしよう。」

 

「しかしまぁ、ここに連れてきたのは俺だが・・・。まさか、斧槍(ハルバード)とはな。あの扱いづらい武器をこうも容易に振り回すとは思わなかった。」

 

 

そう、俺がさっきまで振り回していたのは、前の世界でスイスの傭兵が使っていたことで有名な斧槍(ハルバード)だ。

 

斧刃で斬撃、刺先や突起(ピック)で刺突、柄で打撃と、様々な攻撃ができる万能武器で、あらゆる状況に対応出来る反面、扱いが難しく、まともに使いこなせる人間なんてほとんどいないという、まぁ素人が手を出すような代物ではない。

 

 

しかし、俺の手には驚く程に馴染む。まるで、昔から使ってきたような、そんな感じだ。剣よりも間合いが長く、近付かれても持ち変えれば対処も容易。おまけに、両手で扱う為、剣と盾と違い両手で別々の動きをする必要が無い。なんと良い武器なんだろう。

 

 

「・・・そんなにそいつが気に入ったのなら、差し上げよう。武器も使われた方が喜ぶさ。」

 

「えっ、でも、ただで頂くわけには・・・」

 

 

「いい、いい。そいつは昔作ったやつだからな。ずっと売れ残っていたんだよ。

 

それに、今更金が欲しくて商売やってるわけじゃないしな。」

 

ホッホッホ、と笑うメイッサさん。

 

そういや、この人どんぐらいのレベルなんだろ。確認してなかったや。

そう思い、2人にバレないように【能力看破の魔眼】を発動する。

 

 

 

〜〜ステータス〜〜

名前 【カモン・メイッサ】

性別【男】 年齢【62】

総合Lv【25】

武器鍛冶師(ウェポンスミス) Lv15

防具鍛冶師(アーマースミス) Lv5

魔法鍛冶師(マジックスミス) Lv5

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

わぁすごーい。

 

レベルだけならアダマンタイト級じゃねぇかこのジジイ!!!

 

おまけに、何この鍛冶師の為のビルド。余計なものが入ってないため、この世界だとかなりすごいんじゃないか、この人。

 

てか、なんでこんな人がこんな裏路地の寂れたとこで店やってんの?レエブン候ならすぐにでも抱え込むと思うんだけど。

 

 

「どうかしたかい?」

 

「い、いえ!!何でもないです!」

 

そんなこんな話しているうちに、結局斧槍(ハルバード)は貰うことにした。将来金に余裕が出来たら払いに来るつもりだ。

 

それ以外にも、エドストレームの武器として『刃の鞭(ブレードウィップ)』を2つと、俺用の『バックラー』と訓練用の重い斧槍(ハルバード)を頂いた。

 

刃の鞭(ブレードウィップ)』は、その名の通り刃が鞭に埋め込まれており、普通のものより強力な反面使いにくい武器だ。まぁエドストレームなら大丈夫だろう。2つ買ってるのは両手で使うからだ。

 

『バックラー』は、腕に固定するタイプの盾だ。これなら斧槍(ハルバード)の動きを邪魔しないし、丁度いいだろう。

 

ちなみに、どっちもフランセーンが買ってくれた。お金が浮いてハッピーだ。

 

 

「それじゃ、ありがとうございました!」

 

「じゃあな、また来る。」

 

「はいはい、気をつけなさいな。ペテル君。頑張りなさいよ。」

 

「はい!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺はルンドクヴィストに連れられて魔術師組合に向かっていた。

 

彼の話によると、かなり安く手に入るらしい。入荷したはいいものの、買い手が全くつかなかった本がある為、それを売ってくれるそうだ。曰く、「ルンドクヴィストさんの頼みなら、多少贔屓しても許されますよ」だそうだ。やっぱ信頼されてるのね。

 

 

「・・・つきましたよ。ここが、エ・レエブルの魔術師組合支部です。」

 

辿り着いたのは、昨日訪れた『カモンの武具店』とは比べ物にならないほど立派な建物。両開きの大きな扉があり、その上にスタッフが描かれた紋章がついていた。

 

ルンドクヴィストが扉を開き、中に入っていく。

 

内装は落ち着いた雰囲気で、豪華ではあるが嫌味を感じない。幾つもカウンターがあり、看板に『巻物(スクロール)』、『短杖(ワンド)』、『マジックアイテム』などが書かれている。用途に合わせて分けているのだろう。

 

こんなにしっかりした場所なのに、国から支援金貰ってないんだよなぁ。どんだけ儲かってんだ。

 

そんなことを考えていると、俺たちに気づいた職員が、こちらに近づいてきた。

 

「ルンドクヴィストさん、お待ちしてました。そちらの彼は?」

 

「昨日話したペテル君ですよ。今回頼んだ本を買いたいって言ってる。」

 

「あぁ!彼がそうなんですね。お待ちしておりました、ペテルさん。こちらへどうぞ。」

 

そういって、職員は俺たちをカウンターではなく、裏の方へ案内していく。

 

 

案内された部屋は、大きな棚にたくさんの本が敷き詰められた、図書館のような場所だった。棚の高さは優に3メートルは超えており、棚の数も100近くあるように思える。

 

・・・これ、全部魔法に関する本なのかな?

 

 

「こちらが、ペテルさんがお求めになられた商品です。金額は、これぐらいですね。」

 

そう言って、職員が金額を提示してくる。

随分安い金額だな。これなら無理なく払えるな。

 

 

「しかし、本当にこちらでよろしいのですか?こういっては失礼ですが、子供が読む内容では・・・。」

 

「いえ、難しければ難しいほど良いので。はい、料金。」

 

「そうですか。・・・はい、たしかに。お買い上げ、ありがとうございました。」

 

そう言って、2冊の本を受け取る。頼んでいた通り、召喚魔法と付与魔法に関する本だ。中をめくってみると、もはや何を言っているのか分からないような内容が書かれていた。しかし、レベルを上げるのはこれが最善なんだ。頑張って読まなければ。

 

そんな中、ふとひとつの本が目に付いた。他の本と違い、背表紙が真っ黒だった。

 

 

「すみません、あの本は・・・?あそこの棚の、黒い背表紙の。」

 

「ん?あぁ、あの本ですか。法国で信仰されている、死の神スルシャーナについての本ですよ。王国は四大信仰ですからね。誰も欲しがらないんですよ。」

 

「・・・あの、あれいくらですか?」

 

「銀貨10枚ですが・・・。お買い求めに?」

 

「売ってくれるならですが、出来ることなら欲しいです。」

 

そう伝えると、職員が本を取ってくれたので、代金を支払い本を受け取る。

 

スルシャーナ・・・。原作に名前だけ登場した、異形種のプレイヤーと思われる人物。六大神の1人であり、その実力は最も高いと伝えられている。そして、その種族はモモンガさんと同じ『オーバーロード』だ。

 

 

「・・・知っておくに、越したことはない。」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、お世話になりました。」

 

【守護の聖剣】の5人に向けて、頭を下げる。本当に、ここ数日は随分お世話になった。特にフランセーンとルンドクヴィストには迷惑をかけっぱなしだ。

 

「気にしないでくれ。俺は特に何もしてないよ。」

 

「そうそう。俺たちにお礼を言う必要はねーよ。」

 

「まぁ、たしかにな。おいペテル、忘れもんねーか?」

 

ロックマイアーにそう言われ、自分の持っているものを確認する。

 

みんなへのお土産は、肩にかけたカバンに全部入っている。斧槍(ハルバード)2振りとバックラーは背中に背負っているし、刃の鞭(ブレードウィップ)も腰に下げている。買った3冊の本も、しっかりと持っている。

 

・・・よし、全部ある。

 

 

「はい、ありません。」

 

「そっか。ならいいさ。行商人が送ってってくれるらしいが、迷惑かけんなよ。」

 

「・・・じゃあな、ペテル君。また会おう。」

 

「さようなら。そう遠くない内にまたお世話になると思います。」

 

 

「はい!それじゃあ、さようなら!」




次回、時間が飛びます。

個人的にペースを早めてみたんですが、いかがでしょうか?


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青年時代編
旅立ちの日


コンコン、と扉を叩く音がする。入るように促すと、エドストレームが扉を開けてこちらをのぞき込む。「乗せていってくれる行商人が村についた」そうだ。よく見ると、彼女の腰には、数年前に俺が買ってきた『刃の鞭(ブレードウィップ)』が左右に下げられている。身軽な格好で、肩には最低限必要な荷物がまとめてあるであろうカバンをかけていた。

 

すぐに行くと伝えると、彼女は頷いて扉を閉める。彼女や行商人達を待たせないように、すぐに準備を始めるーーーといっても、ほとんどまとめ終わっていたので、大した時間はかからなかったが。

 

この日のために母とリリアラームさんが作ってくれた革で出来た鎧を身につけ、最低限必要なものをまとめたカバンーーー本もこの中に入っているーーーを肩にかけ、バックラーをすぐに取り出せる位置に付ける。そして、長い間使っていたために少し古ぼけた戦闘用の斧槍(ハルバード)を背負う。訓練用のやつは邪魔になるので置いていく。

 

 

準備が終わり、家を出て行商人達が待つ場所へ向かう。村ではあまり見かけない大きめの馬車を見つけると、その近くに立っていた青年が片手を上げながら挨拶をしてくる。何度か顔を合わせたことがあり、見知った仲だ。

話を聞くと、既に出る準備は出来ているとのこと。遅れたことを謝りながら馬車に向かい、御者と商隊のリーダーに挨拶を入れる。その後馬車の荷台に乗り込むと、馬車が出発した。

 

 

村のみんなは、全員が俺たち2人の見送りに来てくれていた。

 

ーー頑張れよーー

 

ーーいつでも帰ってきていいぞーー

 

ーー絶対に死ぬなよーー

 

ーーお前達ならやれるさーー

 

 

それらの応援を受け、エドストレームと共に手を振って答える。

 

ーー絶対に強くなって帰ってくる!ーー

 

・・・俺は、絶対に強くならなきゃいけない。王国のアダマンタイト級冒険者ごときではなく、もっと強く。英雄と呼ばれるような強さを持った人間にならなければならない。そして、驕らず、人々に優しい理想の英雄になるのだ。

 

 

それもすべて・・・・

 

 

 

 

「ナザリックに就職する為に・・・!!」

 

 

 

 

 

ペテル・モーク、15歳。

本日エ・ランテルに向けて旅立った・・・

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

馬車で揺られること早数日。

 

 

 

やぁやぁやぁ、久しぶりだね、ペテル(おれ)だよ。いやー、15歳ですよ、15歳。この世界だと結婚している人も珍しくないような歳ですよ。時が経つのは早いねぇ。

 

え?いくら何でも7年間は飛びすぎ?だってめぼしいことは無かったし。あるにはあったけど、俺に直接関係したことじゃ無かったしなぁ。

 

 

この7年間で起こったことーーーというよりも分かったことだがーーーの1番大切な情報は、『原作開始までの残り時間』がおおよそ判明したことだ。

 

今から4年前、俺が11歳の頃に、バハルス帝国で十代前半の少年、【ジルクニフ・ルーン・ファーロード=エルニクス】が即位し、強引とも取れるやり方で貴族達を断罪。

その結果、【鮮血帝】の異名がここ王国まで広まってきている。

 

それと共に、ローブル聖王国において当時15歳の王女、【カルカ・ベレーサス】が即位している。

 

これらの出来事は、原作で約10年前に起こったことだ。

 

つまり、『アインズ・ウール・ゴウン』がこの世界に襲来するまで残り6年ということだ。

 

 

ぶっちゃけあまり時間が無い。俺の目標は、大きくわけて3つ。これを達成するにはちょっと短すぎる。

 

まず、第一目標はアダマンタイト級冒険者になる事。これは大前提だ。ナザリックにとって有益な存在になるためには、ある程度の社会的地位が必要だ。政治に関わらない冒険者でも、アダマンタイト級ならばその影響力も大きいだろう。

 

第二目標は、人望を集めた英雄になる事。これは、原作での漆黒のモモンの役割だ。人望って凄く大事。同じことしても人望が有るか無いかで評価は天と地ほどの差がつくのだ。まぁ、蒼の薔薇のように本当に善人になるか、八本指とも持ちつ持たれつにするかは分からんが。

 

第三目標は、なるべくスレイン法国と、というか六色聖典と仲良くなることだ。

この国はプレイヤーが建国したと思われる国であり、国民総数もそうだが、強者の人数と装備の質が段違いだ。

 

最低でも世界級(ワールド)アイテムである『傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)』を所持している上に、漆黒聖典の連中はシャルティアから「(そこら辺の人間と比べて)獅子とネズミほどの差がある」と言われるほどの実力者揃い、その上装備は伝説級(レジェンド)アイテム以上の可能性があるのだから笑えない。

 

こんな国とは蒼薔薇のように敵対したくないから仲良くしたいってのが一つと、ナザリック就職の際にかなり有益な情報だからってのもある。

 

あの慎重派のモモンガさんに、『傾城傾国』の存在を知らせるだけでもかなり好感度を上げることができる。そして、モモンガさんの心労を少しでも減らせれば、それだけで就職待ったナシだ!!!!

 

 

 

 

それが難しいんですけどね!!!!

 

 

 

 

「・・・何変な顔してんのさ。」

 

「ん?何でもない、何でもない。」

 

訝しげな視線を向けていたエドストレームに対して、手をヒラヒラと振りながら答える。すると彼女は「そ、ならいいや。」といって再び視線を外の風景に向けた。

 

ちなみに彼女、エドストレームはこの7年間で大層美人に成長した。元々美幼女だったが、今は美少女と美女の中間くらいだ。村でもめっちゃ求婚されてた。全部断ってたけど。

 

あ、ちなみに彼女のレベルだがーーー

 

 

〜〜ステータス〜〜

名前【エドストレーム】

性別【女】 年齢【16】

総合Lv【10】

▼ジーニアス/曲芸士(テンブラー) Lv5

盗賊(ローグ) Lv4

暗殺者(アサシン) Lv1

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

とまぁこんな感じだ。ロックマイアー直伝の訓練法に、刃の鞭(ブレードウィップ)を組み合わせた独自のやり方をやっていたらこうなってた。モンスターを狩ることはほとんどなかったので、訓練だけでここまで上がったのは上々だ。

 

俺のステータスはーーー

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ペテル・モーク】

性別【男】 年齢【15】

総合Lv【13】

▼ジーニアス/戦士(ファイター) Lv5

斧槍闘士(ハルバーディア) Lv2

付与術師(エンチャンター) Lv4

召喚士(サモナー) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

まぁ、こんな感じ。

 

斧槍(ハルバード)を使うようになってから、戦士(ファイター)に代わり斧槍闘士(ハルバーディア)を修得。そして、付与術師(エンチャンター)を3つ、召喚士(サモナー)を1つ上げた。

 

付与術師に偏っている理由は、召喚士の本よりも読み込んでいたことが原因だろう。とりあえずはどちらもある程度は欲しいところだ。

 

武技も〈斬撃〉、〈剛撃〉、〈穿撃〉などの攻撃武技は勿論、〈能力向上〉、〈要塞〉、〈回避〉といった武技も習得した。同時発動のために精神力もスイッチ5個分程になった。いやー、頑張った頑張った。

 

あ、エドストレームも武技はいくつか覚えている。〈隠密向上〉とか〈可能性知覚〉とかどちらかと言うとサポート武技が多めだ。

 

 

 

「おーい、ペテル君。ちょっといいかな?」

 

唐突に、馬車の中にいた青年から声がかけられる。

 

「はい、構いませんよ。どうなさったんですか?」

 

「そろそろ、村が見えてきたからさ。荷物運ぶの手伝ってくんない?」

 

「あぁ、最後に寄る村でしたっけ。了解しました。」

 

「ありがと、助かるよ。」

 

 

 

村の近くに馬車が止まると、行商人達が馬車から下りてくる。それと共に荷台から降り、青年たちと共に村に入っていく。

 

 

「すいませーん、行商の者なんですけど、頼んでいた薬草ってどこに置いてありますか?」

 

「ああ、こりゃどうも。薬草なら向こうの倉庫においてありますよ。案内します。」

 

 

そうして、倉庫の方に行き、村の村長らしき人と交渉と代金の支払いを終え、荷物を運び出す。量はなかなか多いが、特に重くはなかった。軽量化(ウェイト・サーヴィング)を使う必要もなさそうだ。エドストレームも普通に持ってるし。

 

「よ、よくそんなに持てるな・・・。」

 

「そうですか?そんなに重くはないと思いますけど・・・。まぁ、鍛えてますし。」

 

「そうなのか・・・?エドストレームさんも、細身なのに力持ちなんだなぁ。」

 

などと取り留めもない会話をしながら、薬草片手に馬車の方へ戻っていく。するとーーー

 

 

 

 

 

『お願いします!!俺も乗せてってください!!!』

 

 

 

おっと?なんだ何だ?急いで馬車の方に向かうと、困ったような顔をしている行商隊のリーダーに向かって土下座している村人がいた。荷物であろうカバンと、背中に弓と矢筒を背負っている。

 

「あぁ、皆さん。戻ってきてたんですか。」

 

「ええ。ですけど、これは・・・?」

 

「どうも、我々がエ・ランテルに行くと聞いて、同行を頼んでいるみたいです。ペテル君たちと同じ、冒険者志望らしいんですよ、あの子。」

 

眺めていると、こちらに気づいた行商隊のメンバーが、近寄ってきて状況を教えてくれた。ほうほう、なるほど。冒険者志望とな。

それは応援してやらねばと思い、土下座している彼をよく見てみる。男の割には少し長めの金髪に、赤いヘアバンドのようなものを付けている。

 

 

・・・赤いヘアバンド?

 

 

まさかと思い、すぐに【能力看破の魔眼】を使用する。

 

 

 

・・・・・やっぱりか。嘘だろ、なんでこんなとこにいるんだよ。手間が省けていいけどさぁ。

 

はァ・・・とため息をつき、頭をガシガシとかきながら彼に近付いていく。

 

「ペテル?どしたの?」

 

「・・・助け舟を出してきます。」

 

 

そう言いながら近づくと、こちらに気づいたリーダーが「何故こっちに?」と言った顔で見てくる。彼は土下座したままだ。

 

 

「隊長さん、私からもお願いできませんかね?彼を連れていくの。」

 

「!!!!」

 

バッ!!と彼が頭を上げる。その顔には期待と疑問が入り交じったような表情を浮かべていた。リーダーも「はぁ?」と言いながら表情を歪めている。

 

 

「彼、見たところ野伏(レンジャー)みたいですから、うちのチームに引き込みたいんですよ。戦士と盗賊しかいませんからね。」

 

「いや、しかし・・・。でも、お前さんのとこには世話になってるしなぁ・・・。いや、でもなぁ・・・。」

 

そんなことを呟きながら、チラッと彼のほうを見る。その後こちらに近寄ってきて、耳ともでコソコソと話しかけてくる。

 

「・・・いいのか?あの坊主がくると嬢ちゃんと二人きりじゃなくなるぞ?」

 

「そんなの、私も彼女も気にしませんよ。」

 

 

あの子、この7年間ですんげーサバサバした性格になったしな。昔のフニャっとした顔で笑っていたエドストレームが懐かしい。

 

 

「いや、まぁお前さんたちがいいならいいけどよ・・・。まぁいいか。

 

おい、坊主!!連れてってやるから、荷物運び手伝え!!」

 

「っ!!あ、ありがとうございます!!」

 

そう言いながら、リーダーはとっとと荷物を取りに倉庫の方へ行ってしまった。

 

 

「おい、あんた。助かったぜ。ありがとな!!」

 

「いえいえ。話を聞いていたでしょう?私も自分の利益のために動いたんですよ。」

 

「それでもだよ!それに、向こうにツテなんてないからな。チーム組んでくれた方がありがてーぜ。」

 

「それは良かった。私は、ペテル・モーク。戦士です。あなたは?」

 

 

そう言いながら、右手を差し出す。それを見た彼は、へへっと笑いながら、俺の右手をガシッと掴む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルクルット・ボルブだ。これからよろしく頼むぜ、ペテル!!」




ルクルットのステータスですが、本編中にかけなかったのでここに書いておきます。


〜〜ステータス〜〜
名前【ルクルット・ボルブ】
性別【男】 年齢【15】
総合Lv【7】
野伏(レンジャー) Lv5
弓兵(アーチャー) Lv2

〜〜〜〜〜〜〜〜〜


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エ・ランテルにて

投稿が遅れて申し訳ないです!


城塞都市 エ・ランテル

 

王国最東部に位置する大都市であり、国王であるランポッサⅢ世の直轄領。城塞都市、と名がつく通り、三重の堅牢な城壁によって守られており、バハルス帝国との戦争の際には最前線となる重要な場所である。また、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の三国に隣接しており、交易都市としても重要であり、まさに王国側の要とも言える都市である。

 

そして、エ・ランテルは、3つの区画に分けられている。

 

軍事系統の設備が整っており、王国軍の駐屯地として利用される外周部。

 

都市の中枢機能である行政関係のものや食料を保存するための倉庫が並び、厳重な警備が行われる最内周部。

 

そして、様々な露店が立ち並び、住民達の声が絶えない内周部の3つである。

 

 

 

そんなエ・ランテルの内周部の広場ーーー露店が立ち並ぶ所に、3人の若い男女が歩いていた。

 

 

「おっ!串焼き売ってるぞ、買ってこーぜ!!」

 

「いいね、私も小腹がすいてたんだ〜」

 

「あ、ちょっと2人とも!待ってくださいよ!!」

 

 

 

・・・まぁ言うまでもなくペテル達である。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・。いくらエ・ランテルについたと言っても、少しは落ち着いてくださいよ。」

 

「ははっ、悪い悪い。」

 

「そうは言っても、ペテルもちゃっかり2本買ってるじゃん。」

 

「だって仕方ないじゃ無いですか。ここ数日は固い黒パンと干し肉だったんですから。」

 

 

そんな会話をしながら冒険者組合に向かっていくペテル(おれ)達。

 

いやー、馬車での食事は結構キツかった。果実やら野菜やらは無く、先程も言ったが商会から分けてもらった干し肉と俺とエドストレームが持ってきていた黒パンしか無い。これがずっとだ。ルクルットのバカは何も持ってきてなかったし。

 

 

「はぁ・・・。とりあえず早く冒険者組合に行きましょう。登録は済ませておきたいですし。」

 

「おっし!!ここからこのルクルット様の伝説が始まるんだ!!大金稼いでかわいい女の子と・・・ゲヘヘ」

 

「あっほくさ。」

 

「あはは・・・。最初はそんなに期待しない方がいいですよ、ルクルット。」

 

「え?なんでだよ。」

 

「登録したての(カッパー)に大仕事なんて任せませんからね。多分討伐依頼どころか採取依頼も出来ませんよ。」

 

「嘘だろ、俺のルクルット伝説が・・・。」

 

 

ルクルットがうなだれているが、まぁ組合も馬鹿じゃない。地道にやるしかないのだ。

 

間違っても登録してすぐに指名依頼が来たり、都市が無くなるレベルのアンデット騒動を解決したり、化け物クラスの吸血鬼(ヴァンパイア)を討伐してアダマンタイトになるなんて事は起こらない。ないったら無い。

 

 

「・・・あ、あれじゃない?冒険者組合。」

 

エドストレームが指した方を見ると、周りの建物と比べて立派な建物が見えてきた。ドア付近には武器や鎧を身につけた男達が出入りしている。

 

おお、それっぽい。そんなことを思いながらドアの前まで歩いていく。

 

・・・なんか、結構感慨深いなぁ。

 

 

「なんか、結構緊張するもんだね。」

 

「ですね。このために頑張ってきたわけですし。」

 

「おい、俺のこと忘れんなよ?!」

 

「大丈夫、忘れてませんよ。

 

中に入ったら、先輩方から観察されると思いますが、怯んじゃ駄目ですよ。」

 

2人に注意をしながら、組合のドアを開いていく。中に入ると、こちらを睨むように観察してくる冒険者達がーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいてめぇ!!(カッパー)如きが調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

「あァ!!??誰に向かって口聞いてんだお前!!!」

 

 

 

ーーーある訳ではなく、そこには取っ組み合いの喧嘩をしている2人の男達と、オロオロとしている受付嬢に、それを見ながらバカ騒ぎをしている冒険者達の姿があった。

 

 

「・・・観察されてないみたいだけど?」

 

「これは、ちょっと予想外です・・・。」

 

エドストレームのツッコミに苦笑して答える。いやだって、入って早々喧嘩を見るなんて思わないでしょ!?

 

 

「お、おい2人とも!あの喧嘩してんの、片方金級(ゴールド)だぜ!」

 

 

ルクルットの言葉を聞き、喧嘩している2人を眺める。確かに、喧嘩している男のうち、ショートソードを腰に差している黒髪の方の首には金色に輝くプレートが下げられている。もう片方は銅のプレートなのだが、よく金級(ゴールド)相手に喧嘩を売る気になったものだ。

 

 

「・・・御三方、冒険者登録をしにきたのであるか?」

 

 

バッ!!と声のした方を振り返る。そこには、灰色の髪にボサボサのヒゲを生やした、ガッシリとした体格の男性がたっていた。首には鉄のプレートが下げられている。

 

・・・先程の特徴的な語尾からして間違いない。原作での【漆黒の剣】正規メンバーの1人、ダイン・ウッドワンダーだ。

 

 

ルクルットといい、なんでこう立て続けに会うのかね。

 

 

「え、えぇ。そうなんですが、タイミングが悪かったみたいですね。」

 

「それは災難だったであるな。まぁ、もう少ししたらあの喧嘩も収まるであろう。待つといいのである。」

 

「・・・てか、おじさん誰?」

 

「おじさんと呼ばれるような歳ではないのであるが・・・。自己紹介が遅れたであるな。私は、ダイン・ウッドワンダー。森祭司(ドルイド)をやっているのである。」

 

「でも見た目がおじさんっぽいよ?あ、私はエドストレーム。盗賊だよ。こっちのハルバード背負ってるのが戦士のペテルで、弓もってるのが野伏(レンジャー)のルクルットね。」

 

「ルクルットだ、よろしくな、おっさん。」

 

「こら、2人とも!!すみません、申し遅れました。ペテル・モークと言います。」

 

「よろしくお願いするのである!・・・それにしても、一向に収まらないであるな、あの喧嘩。」

 

ダインの言った通り、男達の喧嘩は先程から全く収まる気配を見せない。それどころか2人とも頭に血が上っているのか、自身の武器に手をかけ今にも引き抜きそうだ。

 

・・・流石にそれはまずいだろう。止めなければ。

 

「ちょっと、止めてきますね。」

 

「え?あっ、ちょっとペテル!!」

 

エドストレームが止めるのも聞かず、喧嘩する2人の方に近付いていく。こちらに気づいた2人は、武器に手をかけながら敵意を向けてくる。

 

「なんだぁ!?関係ねぇやつはすっこんでろ!!」

 

「・・・お二人共、ここで武器を抜くのはまずいんじゃないんですか?こちらも冒険者登録出来なくて困っているので、そろそろ喧嘩をやめて欲しいのですが。」

 

「お前さんが冒険者登録ぅ?はっ、やめとけやめとけ!!お前じゃ無理だよ!」

 

「少なくとも、貴方よりはできる自信がありますけどね?」

 

「アァ?!んだとゴラァ!!」

 

 

激昂した(カッパー)の男がレイピアを抜き、顔を狙って刺突を繰り出す。その攻撃はこちらの予想よりも遥かに速く、正確だった。なるほど、確かに実力はあるようだ。

 

「〈即応反射〉 〈流水加速〉 〈剛撃〉」

 

武技によって刺突を躱し、加速しながら相手の横腹を蹴り飛ばす。〈剛撃〉をのせた蹴りの威力は、本職の修行僧(モンク)には及ばないがそこそこの威力を発揮した。男は吹き飛び、周りにいた野次馬たちを巻き込んで倒れる。

 

「っ!!てめぇ!!」

 

金級(ゴールド)の男もショートソードを引き抜きこちらに斬りかかってくる。確かに速い攻撃だが、先程の刺突の方が速かった。

 

・・・金級(ゴールド)よりも銅級(カッパー)の方が攻撃速いってどうなのよ。

 

相手の振り下ろしを後ろに下がってかわすと、切り上げ、突きを流れるように放つ。その動きには無駄が少なく、自信がこもっていた。

 

「まぁそんなに凄くはないけど。」

 

〈回避〉を使い攻撃をかわすと、再び〈流水加速〉と〈剛撃〉を使って顔面を殴り飛ばす。吹き飛んでいった男は、当たりどころが悪かったのか、そのままカウンターにぶつかり気絶する。

 

「イ、イグヴァルジ!!」

 

仲間らしき奴らが、金級(ゴールド)の男に近付いていく。え?あれイグヴァルジさんだったんだ。よくよく見ていると、黒髪に目つきの悪い目など、アニメで見たことあるようなないような見た目をしていた。

 

まぁ、気を取り直してとっとと登録済ませますか。ポカンとしている受付嬢に近付いて、話しかける。

 

「すみません、冒険者登録したいのですが。」

 

「え?は、ひゃい!!お1人でしょうか!!」

 

「いえ、向こうの2人も・・・って、何してんですか、2人とも。」

 

「・・・あいつって、いつもこんな感じなのか?」

 

「いや、あんなことするなんて思わなかったわ、私も・・・。」

 

顔を引きつらせながら近寄ってきた2人も含めて、冒険者登録を済ませる。

 

「で、では、プレートのお渡しは明日となります。後、駆け出しの方にはこちらの宿をおすすめしております。」

 

「はい、それでは失礼します。ありがとうございました。」

 

受付嬢に礼を言いながら組合を出ていく。そのまま真っ直ぐオススメされた宿に向かっていく。その後は必要なものを買わなければならない。とっとと荷物置きたいし。

 

 

「なぁ、金級(ゴールド)の先輩をぶん殴ったのはまずかったんじゃねぇのか?なんかやり返されるかもしれないぞ?」

 

「まぁ、そうかも知れませんけど。むしろ周りの方々には良いアピールが出来たと思いますし、いいんじゃないんですか?」

 

「アピール?」

 

「・・・あぁ、なるほど。格上相手に立ち向かって、一撃で気絶させるほど強い新人って思わせたわけね。」

 

「そういう事です。落ち着いてやったらどっちが勝つかは分かりませんけどね。向こうがこっちを舐めてたから不意をつけた訳ですし。

 

とりあえず、宿に荷物置いたら買い出しに行きましょう。エドストレームの消耗品やルクルットの予備武器を買っておかないと。」

 

 

「おーう」

「はいはーい」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「それじゃ、お願いしますね。」

 

「うむ、任されたのである!」

 

 

トテトテと去っていく受付嬢の背中を眺めながら、ダインは小さくため息をついた。

何故、自分がこの男を介抱しなければならないのか、と。

 

 

ペテル達が出ていった後、その場でポカンとしていたダインは、受付嬢から銅級(カッパー)の男を介抱してやってくれないか、と頼まれたのだ。

 

受付嬢がダインに頼んだ理由は、主に2つあり、1つは彼の人柄を知っていた為だ。冒険者の中でかなり温厚な性格をしており、礼儀正しく責任感も強い。その上、鉄級(アイアン)ながら回復魔法を行使することが出来る、まさにこの場にうってつけの人物だ。

 

 

2つ目の理由は、これをきっかけにダインと男がチームを組んでくれないか、と組合が考えたためだ。

 

未だダインが鉄級で燻っているのは、全くもって仲間に恵まれず、依頼をこなせないという理由がある。森司祭(ドルイド)であるダインは、必然的に身体能力は戦士に比べて劣る。その為、魔法の大切さを知らない馬鹿たちは、彼の事を見下し、チームに加えようとしないのだ。

 

しかし、この気絶している男、実は登録初日に

「チームを組んでいない魔法詠唱者(マジック・キャスター)はいないのか」

という質問を受付嬢にしていたのだ。その時は信用が足りなかったため、組合側は保留していたのだが、これを機に2人がチームを組んでくれれば、より上位に進んでくれるのでは、と考えたのだ。

 

 

・・・実際のところ、問題児(このおとこ)しっかり者(ダイン)に押し付けているだけである。

 

 

そんなことは露とも知らず、手際良く手当をしていくダイン。回復魔法は使わず、彼のお手製の薬草をすり込んだ包帯をペテルに蹴られたところに巻いていく。

 

 

 

「・・・んぁ?」

 

「気が付いたであるか。気分はどうであるか?」

 

 

男が目を覚まし、ホッと息をつくダイン。男はしばらく虚空をじっと見ていたが、近くにいたダインを見て怪訝そうな目を向ける。

 

 

「・・・だれだ、おっさん?」

 

 

またおっさん・・・などと思いながら、ダインは自己紹介と、組合から頼まれて手当てをしていた旨を伝える。すると、男は起き上がり、彼に向かって頭を下げる。

 

「すまない、恩に着る。」

 

「いやいや、組合から頼まれてやっただけで、感謝されるほどのことではないのである。」

 

「それでもだ。見ず知らずの俺を手当してくれたんだろう?なら、せめて礼だけでも言わせてくれ。」

 

 

ダインは内心、男の評価を改めた。無謀にも格上相手に喧嘩をする問題児かと思ったが、相手に対し礼を言える、冒険者にはあまり居ない人物だ、と。

 

ふと、男は手当された部分を見て、鼻を動かしながら呟く。

 

 

「・・・これ、薬草か?」

 

「分かるであるか。これは薬草をすり込んだ包帯である。効果は薄いが、ないよりはマシであろう。」

 

「薬草を扱えるってことは・・・野伏(レンジャー)には見えねぇし、まさか森司祭(ドルイド)か?」

 

「その通りである!・・・まぁ、どこのチームにも入れてもらえない落ちこぼれであるがな。」

 

 

どこのチームにも入れてもらえない、と言った瞬間、男は目を見開き、次いで笑顔でダインの肩をガシッと掴む。

 

 

「なら、俺とチーム組まないか?!」

 

「貴方と・・・であるか?」

 

「ああ!流石に上位冒険者程じゃないが、あのいけ好かない金級(ゴールド)の野郎ぐらいの実力はあるつもりだ!回復や支援をこなせる森司祭(ドルイド)のあんたがいれば、すぐにでも上位を目指せる!どうだ!?」

 

 

男の勢いにダインは面を食らうが、自分をこんなに評価してくれる人物に初めてあった彼は、照れくさそうな表情を浮かべながら答えた。

 

 

「・・・こちらこそ、よろしく頼むのである。」

 

「よっしゃ!帝国からこっちに来たから、誰も頼れなかったんだ、助かるぜ!」

 

「帝国から、わざわざエ・ランテルに?」

 

「いや、家業を継ぎたくなかったってのもあるが、向こうは冒険者の地位が低いからな。

よし!とっとと出かけようぜ。」

 

 

突然立ち上がり、そのまま入口の方まで歩いていく男を見て、慌てて追いかけるダイン。

 

 

「ま、待って欲しいのである!どこに行くつもりであるか!?」

 

「決まってんだろ、次の仲間だよ!俺をぶん殴ったアイツをチームに入れるんだ!」

 

「ペテル氏達のことであるか?彼は既にチームを組んでいるのである!」

 

「ん?でも、まだ登録してなかっただろ?どんなチームだよ?」

 

「戦士のペテル氏、盗賊のエドストレーム女史、野伏のルクルット氏である。」

 

「なら、3人まとめてチームに入れりゃいいだろ。そのメンツなら、俺らが入った方がバランスが良くなるしな。」

 

 

そう答えると、男は唐突に立ち止まり、振り返る。

 

「・・・そういや、名前聞いてなかったな。あんた、名前は?」

 

「・・・ダイン・ウッドワンダーである。」

 

 

なるほど、と言いながら、こちらを振り向いていたその赤い髪の美しい男は薄く笑った。腰に下げたレイピアに手にかけながら、彼は自分の名前を口にした。

 

 

 

 

「俺はマルムヴィスト。よろしく頼むぜ、

ダイン。」

 

 

 

 

 

 



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初依頼

オーバーロード三期、始まりましたね!今からフォーサイトの活躍が見たいような、見たくないような・・・。

あと、パルパトラおじいちゃんがかっこよかったです。


まだ日が昇り始めたばかりの頃、俺は目を覚まし、借りている部屋の質素なベットから身を起こす。周りを見ると、ダインは既に準備をしていたが、ルクルットとマルムヴィストや他の冒険者達はイビキをかいて寝ていた。

 

ちなみに、エドストレームは別室だ。女性冒険者だけの部屋があったので入れてもらった。

 

俺が起きた事に気づくと、ダインは申し訳なさそうに笑いながら、こちらに小声で話しかける。

 

「すまない、起こしてしまったであるか?」

 

「いえ、もう起きるつもりでしたので。それにしても、ダインは早起きですね。」

 

「ハハハ、今までは仲間のいない、ダメ冒険者だったであるからな。早起きしないと仕事が取れなかったので、その習慣が身にしみているだけであるよ。」

 

「そうなんですか。でも、これからは私たちは仲間なんですから、遠慮なく頼ってくださいね?私も頼りにしていますから。」

 

俺がそういうと、ダインは嬉しそうにうなづいた。仲間がいる、という事実が嬉しいのだろう。

 

あ、そうそう、俺たち3人に、昨日新たにダインと、先日の喧嘩の男ことマルムヴィストが仲間になった。ぶっちゃけ嬉しすぎる誤算である。いつかダインはチームに加えようと思っていたが、こんなに早く加入してくれるとは思ってなかった。

 

 

そんなこんなで、俺はダインと談笑をしつつ準備を終える。ちょうどその頃、ルクルットとマルムヴィストが目を覚ましたので、準備するように促す。

 

マルムヴィストは寝ぼけながらも手早く準備を終えたが、ルクルットは少しもたついていた。それを見かねたダインが手伝い、他の冒険者が起きるより早く、俺達は準備を終えた。

 

 

 

 

そのまま静かに部屋を出て、一階に下りると、既に起きて部屋の掃除をしていた宿の親父がこちらに気づく。

 

「おう、おはようさん。随分と早いな。ま、ダインはいつもの事だがな。」

 

「おはようございます、親父さん。新人ですからね。頑張って仕事貰わないと。」

 

「冗談はよせよ。そこの問題児(マルムヴィスト)とあのイグヴァルジを叩きのめしたやつがただの新人なわきゃねぇだろ。」

 

なんなら、俺ともやるかい?と、獰猛な笑みを浮かべる親父さん。・・・こっわいわぁ。この人、元白金冒険者らしいから、勝負することになったら魔法使わないと厳しいかも。

 

 

そんな話をしていると、店のドアが開き、外からエドストレームが入ってきた。そんな彼女にルクルットは疑問を浮かべる。

 

「あれ?なんでエドストレームが外から入ってきたんだ?」

 

「ん?んー・・・訓練?」

 

「はぁ?こんな朝っぱらからかよ?」

 

「うん。寝てる人達が起きないように屋根の上を飛び回るって感じ。」

 

そんな彼女の言葉に、ルクルットとマルムヴィストは呆れていた。ダインも苦笑していたが、訓練することは大切である、と言っていた。優しい男だ。

 

 

「ってゆーか全員起きてるなら都合がいいや。今から組合いこ。」

 

「ええ、私達もそのつもりでしたよ。早く行かないと割のいい依頼はなくなりますからね。」

 

「いやいや、そーじゃなくて」

 

ブンブンと腕を振って俺の言ったことを否定した彼女は、勝ち誇ったような表情で口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名指しの依頼、取ってきたよ?」

 

 

 

彼女からは、さぁ褒めろ、といわんばかりのオーラが漂っていた・・・。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ペテル様、エドストレーム様、ルクルット様、ダイン様、マルムヴィスト様ですね。

はい、確かにご指名の依頼が来てますよ。」

 

 

 

組合に確認したところ、事実だった為即座に受理し、現在依頼主の自宅まで向かっている。報酬もこちらが5人ということを考えても銅級(カッパー)としては破格の金額だった。

 

依頼主は【ルーメイ防具店】。エ・ランテルでは主に中級冒険者に向けた防具を販売している、そこそこ人気の店だ。

 

何故そんなところの依頼を受けれたのか、と聞いてみると

 

「朝の訓練の時に、鎧の下敷きになってる人がいたからさ。助けて話を聞くと引越しの準備だって言うから、なら依頼ちょーだいっていったのさ。」

 

と言っていた。なんでも下敷きになってたのは旦那さんらしく、子供も娘一人で男手がなかったらしい。それでは引越しができないので、急遽エドストレームに依頼した、ということだ。

 

 

 

そんな話を聞きながら歩いていると、こちらに向かって手を振っている夫婦が見えた。エドストレームが振り返しているので、あれが今回の依頼人だろう。

 

俺は夫婦に近づいて、挨拶をする。第一印象は大事だ。

 

 

「はじめまして、今回依頼をいただきました、チームリーダーのペテル・モークと申します。後ろにいるのが、メンバーのルクルット、エドストレーム、ダイン、マルムヴィストです。」

 

「ああ、こりゃどうも丁寧に。私が今回依頼させていただいた、ルーメイ・イヨロです。こちらが、妻のカチューです。」

 

「それで、今回は引越しの手伝いだとお伺いしておりますが・・・。」

 

 

「はい。家財と、倉庫の防具を運んで欲しくて・・・。」

 

 

イヨロさんが言うには、家財はそこまでないが、防具がとにかく多いとのこと。荷車はあるが、何往復かしなければならないとのこと。

 

 

「私と妻もなるべく手伝いますが、お役に立てるかは・・・。」

 

「いえいえ、御二方は休んでいてください。私達だけで済ませますから。」

 

ギョッとしている夫婦をよそに、俺は荷車に向かってこの数年で覚えた魔法を使う。

 

 

「《耐久力向上(グローアップ・エンダランス)》」

 

すると、荷車が淡い光に包まれ、耐久力が上昇する。俺の行為に、エドストレーム以外の人が驚いていた。

 

 

「はぁ!?魔法!?」

「ペテル氏は、魔法まで使いこなすのであるか!?」

「あんだけ強くて魔法まで・・・おもしれぇ!!」

「凄い!貴方、本物の魔法よ!」

「《耐久力向上(グローアップ・エンダランス)》・・・随分と珍しい魔法を使うんだな。」

 

 

そんな感じで驚く面々を引き連れ、倉庫の中に入る。そこに山積みになっている防具の入った箱に、《軽量化(ウェイト・サーヴィング)》を片っ端からかけていく。

 

「私が魔法をかけた箱を、どんどん荷車に積んでいってください。かなりの量を運べると思いますので、結構早く終わると思いますよ?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ハッハッハッハッハ!!!!さいっこうだぜあんた!!気に入ったよ!!」

 

バシバシと背中を叩くイヨロさんに苦笑しながら、目の前に置かれたシチューを口に運ぶ。野菜がふんだんに使われたそれは、優しい味わいが体に染みて、失った活力が戻ってくるかのようだった。

 

ちなみに、イヨロさんのキャラがさっきまでと違うのは、これが素だからだ。先程までのが接客用らしい。ついでに、酒を飲んでいるのが原因でもある。

 

 

「いやー、今日中に終わるか心配してたんだが、まさか昼前に終わるとはな!!あんた、どこであんな魔法を覚えたんだ?」

 

 

「本を読んで、後は独学ですね。」

 

「かぁーー!!独学!!才能に溢れてるねぇ!!」

 

ガッハッハッ、と笑うイヨロさんを見て、俺達は苦笑を浮かべることしか出来なかった。そんな夫を見て、妻は申し訳なさそうに言う。

 

「ごめんなさいね、この人、普段は大人しいんだけど、お酒を飲むと・・・。」

 

「あぁ、いえいえ、平気ですので。」

 

「・・・おっ!!そうだ、ペテル!!お前、好きな色はなんだ!?」

 

「好きな色ですか?・・・黒、ですかね?」

 

頭に漆黒の剣のことを思い浮かべながらそう答えると、「ちょっと待ってろ」といってイヨロは俺達が運んだ箱の中を漁り出す。

 

数個ほど漁ったところで目的のものが出たのか、それを抱えてこちらに戻ってくる。

 

 

 

「おう、これやるよ。早く終わらせてくれた追加報酬だ。」

 

 

そう言って彼が差し出してきたのは、黒塗りのガントレットと胸当てだった。見事な造りのそれは、とても銅級(カッパー)に渡すような代物ではない。

 

 

 

「こ、こんなの頂けませんよ!!」

 

「あぁ?だいじょぶだいじょぶ、バックラーならここにはめ込めるようになってるから使えるぜ?」

 

「いえ、そういうことではなく!!」

 

「いいから貰っとけっての。ほら、あれだ。先行投資ってやつだよ。お前らは上に登りそうだからな。そいつが俺の防具を使ってたらい〜い宣伝になるだろ?」

 

 

だから貰っとけ、と笑いながらイヨロさんは言った。

 

・・・ここまで言われて貰わない方が失礼か、などと考え、それを受け取る。普通のものよりも重量があるが、動きを阻害しない程度で、耐久力もかなりありそうだった。

 

 

「ありがとう、ございます。大切に使わせていただきます。」

 

俺がそうお礼を言うと、イヨロさんは嬉しそうな表情でうなづいてくれた。

 

そんななか、沈黙を保っていたルクルットが叫ぶ。

 

 

「いいなー!!なぁイヨロさん!俺の分は、俺の分はないの!?」

 

「バーカ!お前らの分は金稼いで買えや!!あ、エドストレームちゃんはこの鎖鎧(チェインメイル)をあげるよ。軽くて丈夫だぜ?」

 

「わー、ありがとイヨロさん。」

 

「ちょっと、ズルくない!?2人だけずるくない!?なぁ、お前ら!!」

 

「いや、別に?」

 

「依頼をとってきたのはエドストレーム女史で、今回最も活躍したのはペテル氏である。ならば、この報酬も妥当である!」

 

2人からの追い打ちに、「なんでだよー!」と叫ぶルクルット。そんな笑いに包まれながら、俺たちの昼食会は過ぎていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?もう終わらせたんですか!?」

 

報告の時、受付嬢は信じられないような目で俺たちを見ていたことは余談だ。




オーバーロードのスマホゲーには、ペテル達って出てくれるんですかね。出てくれたらリセマラしまくります。あと六腕も揃えます。


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昇級試験?

イヨロさんの依頼を終わらせてはや三日。俺達は、様々な依頼をこなしていた。

 

引越しの手伝いや店番、無くした物の捜索、果てには街の清掃活動など、受けられる依頼は積極的にこなしていた。

 

こなしていたのだが・・・

 

 

 

 

 

鉄級(アイアン)への昇級試験?」

 

「はい。組合は、あなたがたは昇級の資格ありと判断しました。よって、明日の昇級試験を受けることが可能です。」

 

「いや、私たち、てゆーかダイン以外の四人は、つい先日登録したばかりですよ?」

 

「いえ、あなたがたの評判はかなり高いんですよ?仕事も接客も丁寧で、街の皆さんからの信頼も厚いですし。

 

・・・ぶっちゃけ、組合としてもありがたいんですよ。誰もしないような仕事をちゃんとやってくれますし。」

 

最後にボソッと付け加えた受付嬢の顔は、本当に有り難そうな顔だった。

 

こういう依頼って、依頼を受けるやつがいなかったら組合が文句言われるそうで、俺たちのように丁寧にやってくれる冒険者は本当に貴重なのだとか。

 

「とにかく、受けられますか?」

 

まぁ、断る理由も無いし、俺たちは昇級試験を受けることにした。

 

 

「昇級試験の内容ですが、当日発表されます。ただ、試験中は新人四人に、監督役の冒険者が一人の五人組となります。

 

監督役は、鉄級(アイアン)の冒険者の方が務めますので、皆さんはそのままで結構ですよ!!」

 

「わかりました。それじゃあ、今日の依頼はやめて、宿に戻って休みましょうか。」

 

 

メンバー全員が賛成し、俺たちは宿へと戻っていくのだった・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「くぅ〜〜!!ついに昇格試験かぁ!!今度こそ俺のルクルット伝説が始まるんだ!!」

 

「いや、ついにって言いますけど、私達まだ登録して4日ですからね・・・?」

 

「まぁでも、俺らの実力を考えれば当然だろ?むしろいきなり銀級(シルバー)でもいいと思うぜ?」

 

宿の大部屋で、エドストレームも含めた五人で装備の点検をしながら、俺たちは他愛ない話をしていた。

 

「そういえば、昇級試験ってどんな内容なの、ダイン?」

 

エドストレームの疑問に、ダインは頭を掻きながらうーんと唸る。

 

「・・・まぁ、言っても構わないであるか。私の時は、ゴブリンの討伐だったである。」

 

「おお、討伐!!いいねぇ、これぞ冒険者って感じじゃねぇか!!」

 

ルクルットが一人テンションを上げているので、落ち着けと言わんばかりにゲンコツを落とす。

 

「ってぇ!!何すんだペテル!!」

 

「油断し過ぎですよ。そんなんじゃ命が幾つあっても足りませんよ?

 

ダイン、内容を詳しくお願いします。」

 

「うむ。トブの大森林から少し離れた場所に、ゴブリンの住み着いた森林地帯があるのである。

そこに生息しているゴブリンを討伐し、証拠である耳を組合に届ければ晴れて鉄級になれるのである。」

 

「討伐する数は?」

 

「一人2体、つまりチームで8体であるな。」

 

「なんだ、たった8体かよ。俺一人でも捌ききれるぜ?」

 

マルムヴィストがそう言うと、ダインは重々しい顔をしながら注意する。

 

「・・・油断しない方がいいのである。毎回、昇級試験の度に帰ってこないチームがいるのである。」

 

ダインの忠告を聞きながら、そりゃそうだと心の中で思う。【能力看破の魔眼】で見ても、鉄級(アイアン)の冒険者は大体Lv3とかLv4とかだ。油断してたらゴブリンにも殺されるだろうな。

 

「ま、油断大敵ってことでしょ?でも8体なら、ほんとにペテル1人でどうにかなるでしょ?昔10体を1人で倒してたし。」

 

それを聞いた男3人がギョッとしてこちらを見やる。

いやまぁ、確かにそうだけども。そんな変なものを見るような目で見なくてもいいじゃない。

 

 

「・・・とりあえず、準備は怠らないようにしましょう。はい、この話おしまい!!点検に集中しますよ!!」

 

「ちょっと待て!!お前さっきの話聞かせろこら!!」

 

「ゴブリン10体相手に1人って、どうなったらそうなるんであるか!?」

 

「どうやって倒したんだ!立ち回りとかどうやったんだ!?個別にか、それとも纏めてか!?」

 

「ああもううるさい!!エドも余計な事言わないでください!!」

 

「あれは、遠い昔のことだった・・・。」

 

「エド!!!」

 

「テメェらうるっせぇぞ!!!騒ぐ元気があるなら店の掃除手伝えやぁ!!!」

 

 

俺たちのくだらない口論は、あまりの騒々しさに部屋に突撃してきた親父さんによって止められるまで続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日、俺達5人は組合の案内員に連れられ、エ・ランテル外周部の入口に来ていた。そこには、俺達の他にも昇級試験を受けるであろう銅級(カッパー)の冒険者たちが大勢いた。

 

「結構いるなぁ。こいつら全員受けるのか?」

 

「だろうな。こんだけ居て、何組が戻ってくるのかねぇ。」

 

「さぁ?ただ、死にそうな奴らは結構いるみたいだけどね。あそこの奴らなんか監督役も含めて全員戦士(ファイター)みたいだよ?」

 

「・・・これはふるいの役割であるからなぁ。生き残るために注意を払う冒険者と、そうでない冒険者を分けるための試験であるし。」

 

「そう聞くと、我々は大丈夫そうですね。だけど油断はしないようにしましょう。」

 

 

そんな他愛ない話をしていると、外への門が開かれ、近くにいた冒険者達が一斉に外へ向かって走り出した。

 

 

「・・・え、なんかこう、開会宣言的なものはないんですか?」

 

「おかしいであるな、私の時は組合の方がルール説明をしていたのであるが・・・。」

 

「とにかく、とっとと行かねぇと獲物がいなくなっちまうぜ!!」

 

 

ルクルットの言葉で我に返った俺達は、急いで外に走り出した。

 

・・・が、後ろから声をかけられ、立ち止まる。

 

 

「まって、待ってください!!」

 

後ろを振り返ると、冒険者組合の制服を着た男がこちらに向かって走っていた。男はこちらまで来ると、息を切らしながら尋ねてくる。

 

「ほ、他の冒険者の方々は、どこに!?」

 

「先程、門が開いたので一斉に走っていきましたが・・・?」

 

「そ、そんな!!あああぁぁぁまずい!!!本日の昇級試験は中止なのに・・・!」

 

「中止って、何かあったんですか!?」

 

俺がそう尋ねると、男は顔を青くしたまま答える。

 

「元々、あそこの森には弱いゴブリンしか居なかったんです。それが、最近になってオーガの目撃例が増えていて。それを理由に、昇級試験を中止にすべきとの判断がされたのですが・・・。」

 

「ですが?」

 

「その、お恥ずかしいのですが、その情報が受付嬢たちまで行き渡って居なかったようで・・・!!本来、今日は昇級試験は行われないんです!!銅級(カッパー)鉄級(アイアン)じゃ絶対に太刀打ちが出来ません!!あぁ、どうしたら・・・!!」

 

 

「他の冒険者達への依頼は!?」

 

「い、今組合が緊急依頼として出しています!」

 

「それじゃ間に合わないのである!」

 

組合の男の言葉に、ダインが叫ぶ。今から依頼を受けて森に向かっても、殆どが死んでいる、もしくは二度と戦えないくらいの傷を負っているだろう。

 

・・・仕方ないか。

 

 

「みんな!!今から森に向かって、助けられるだけ助けましょう!」

 

「だ、駄目ですよ!森にはオーガが・・・」

 

「大丈夫だよ、ただのオーガだろ?上位種の大鬼の戦士(オーガ・ファイター)大鬼の術師(オーガ・ソーサラー)じゃないんなら、負けねぇよ。」

 

マルムヴィストがそう言ったが、実際俺達五人は、昔村を襲ってきたくらいのオーガだったら十分戦える。むしろよっぽど数がいない限り楽勝だ。

 

俺は組合の男に向き直り、肩をガシッと掴みながら口を開く。

 

「俺達が出来るだけ対処しておきます。貴方は、急いで組合に戻って、他の冒険者を連れてきて下さい!!」

 

「で、ですが・・・」

 

「でもじゃない!!早く!!」

 

「は、はい!!すみません、どうか、ご無事で!!」

 

 

そう言って、組合の男は内周部に向けて走っていく。それと同時に、俺達も外の森に向かって走り出す。

 

 

 

「・・・いくらなんでも無茶である。」

 

「だよなぁ。相手はオーガだぜ、オーガ。」

 

「仕方ないよ、ペテルは昔からこうだもん。諦めなよ。」

 

ダイン、ルクルット、エドストレームの3人が、苦笑しながら言葉を交わす。すると、先頭を走っていたマルムヴィストが声を上げる。

 

「おい、2人いたぞ!!追いかけられてる!!」

 

マルムヴィストのいる方向を見ると、森から逃げ出してきた2人の銅級(カッパー)の後ろに、木の幹をそのまま削り出したかのような棍棒を持ったオーガが一体、粗末な武器を持ったゴブリンが5体、獲物を逃がすまいと追いかけていた。

 

 

「ルクルット!!」

 

「はい・・・よっと!!」

 

俺が合図すると、ルクルットは即座に弓に矢をつがえ、引き絞り、放つ。放たれたそれは、ブレることなく、一直線に真ん中のゴブリンの眉間に突き刺さった。死んだことを確認しつつ、俺はエドストレームとマルムヴィストを引き連れて走る。

 

 

「私がオーガを!!2人は左右それぞれ2体ずつ!!」

 

「ハイハイ!」

「了解!!」

 

2人はそれぞれ左右に分かれてに走っていき、俺はそのまままっすぐ走る。途中すれ違った2人の銅級(カッパー)は、俺のプレートを確認すると引き留めようとするが、無視して走り出す。

 

 

「〈斬撃〉〈能力向上〉」

 

武技を使い、身体能力と斬撃の威力を上昇させ、オーガの腹に向かってハルバードを振るう。その一撃により、オーガの腹がパックりと割れる。突然の痛みに叫びだしたオーガは、目の前の俺に向かって手に持って棍棒を振るう。

 

 

「〈要塞〉」

 

が、それも武技によって受け止める。受け止められた衝撃で弾かれ、隙を見せたオーガに向かって、俺は袈裟斬りによってオーガの体を切り裂く。そのまま〈流水加速〉によって加速しながら股下から切り上げる。

 

「〈斬撃〉[兜割り]!!」

 

そして、〈斬撃〉の武技に加えて、斧槍闘士(ハルバーディア)のスキルである上段からの振り下ろし攻撃の[兜割り]を使い、オーガの脳天を真っ二つ・・・とまではいかないが、かなり深くまで傷をつける。

 

 

格上からの連撃に耐えきれず、オーガはそのまま糸が切れたかのように地面に倒れ込み、そのままピクリとも動かなくなった。

 

周りを見ると、既に2人はゴブリンの始末を終えており、ルクルットとダインもこちらに合流していた。

 

 

「なぁ、ペテル。俺にはオーガが瞬殺されたように見えたんだが、気のせいか?」

 

「・・・ルクルット、現実を見るのである。実際にそこにオーガの無残な死体が転がっているのである。」

 

「さっすがだなぁ、俺でももっと時間がかかるぜ?」

 

「うっわぁ、こりゃまた派手にやったねぇ、ペテル。」

 

各々が思ったことを口にするのを聞きながら、俺は苦笑を浮かべる。1度、深く深呼吸をし、息を整える。周りには血の匂いが充満しているが、もう慣れた。

 

 

 

 

「・・・さて、みんな落ち着いて。ここからが本番ですよ。」

 

俺が声をかけると、4人は話すのをやめ、俺の言葉に耳を傾ける。その目には、ふざけた様子はなく、真剣なものだった。

 

 

俺は軽く笑みを浮かべると、同じく真剣な顔で4人に語りかける。

 

「今から、森林内に入ります。目標は中に入っていった他の冒険者の救出。質問は?」

 

4人が無いことを伝えると、俺はハルバードを構えて森に向き直る。

 

「・・・よし、行くぞ!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 



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森林内部

めっちゃ難産だった・・・。考え無しに書くもんじゃ無いですねぇ。


こっちはネタが浮かばないのに、息抜きで始めたもうひとつの方がネタが浮かぶ不思議。


 

「フッ!!」

 

 

マルムヴィストの放ったレイピアは、正確に目の前のゴブリンの喉に突き刺さる。喉を潰され、叫ぶことさえ許されなかったゴブリンは必死の形相でレイピアを掴み、抜け出そうとする。

その際、己の手が傷ついていくが、ゴブリンは気にしていない、いや、気にする余裕が無い。

 

仲間は全員死んだ。一刻も早く逃げなければ。

 

そんな感情で頭が支配されていた。

 

ふと、マルムヴィストがレイピアを引き抜く。これ幸いと、ゴブリンはもたれながらも逃げ出そうと後ろを振り向いた。

 

 

その瞬間、マルムヴィストと入れ替わるようにゴブリンに近づいていたダインの槌鉾(メイス)が、ゴブリンの頭上に振り下ろされる。

 

 

グチャリ、と嫌な音をたてて、あっさりとゴブリンの命は潰えた。

 

 

 

「・・・ふぅ。これで全部倒したであるか?」

 

「おー、そうみたいだな。んじゃ、とっとと合流しようぜ。」

 

 

現在、ペテルたち5人は銅級(カッパー)の冒険者達を救うため、森の深部にまで入ってきていた。

 

当然、出会うモンスターの数も多くなっているが、幸いにも殆どがゴブリンであり、オーガは集団におよそ1匹しかいない。

 

稀に2匹いるが、その時はペテルが1匹、マルムヴィストとダインが二人がかりで1匹を担当し、周りのゴブリンを範囲攻撃に長けたエドストレームが足止め。弓矢を扱うルクルットが双方のサポートをすることで対応している。

 

 

「おーい、こっちは終わったぜー。」

 

 

 

マルムヴィストの呼びかけに、斧槍(ハルバード)を片手に持ち、空いた手で汗を拭っていたペテルが振り返る。足元には、ピクリとも動かないオーガの亡骸が転がっていた。

 

 

「あぁ、二人共無事でしたか。今、ルクルットとエドが索敵をしてくれています。戻ってき次第、奥に進みましょう。」

 

 

「それはいいんだが、大丈夫か?敵さん、だんだん強くなってきてるぜ?」

 

 

マルムヴィストの懸念は、彼だけでなくメンバー全員が感じていたことだった。

森の入口で戦ったゴブリンは、マルムヴィストの一撃で問題なく葬れていたが、先程のゴブリンはその一撃に耐えていた。

 

具体的には、入口付近のゴブリンがLv1で、先程のゴブリンはLv2であり、ペテルもモンスターのLvが上がっていることに気づいてはいるが、ほかのメンバーは知る由もない。

 

 

 

「確かに、そうですね。このオーガも明らかにタフになっていましたし・・・。ただ、行けるところまでは行きましょう。なるべく、助けたいですし。」

 

 

それに、いいレベリングの機会でもあるしな

 

と心の中でペテルは付け足す。事実、森に入ってからの戦闘によって、メンバー内でLvの低かったルクルットとダインがそれぞれ1ずつ、Lvが上昇している。

 

 

 

「戻ったよ。」

 

 

 

 

そんな中、索敵にでていたエドストレームが戻ってくる。後ろには、割とボロボロになっているルクルットもしっかりと居た。怪我はないようだが。

 

 

「あぁ、おかえり・・・って、どうしたんですか、ルクルット。」

 

「あぁ、ちょっとな・・・。」

 

 

 

言いにくそうにしているルクルットを見て、男3人は首を傾げる。すると、ため息をつきながらエドストレームが代わりに答える。

 

 

「ルクルットのバカ、油断して木から落っこちたのよ。」

 

「ははは・・・エドストレームの訓練が大事だって思い知らされたぜ・・・。」

 

 

 

頬を掻きながら視線を逸らし、ひきつったような笑を浮かべるルクルットに、思わず男3人の頬もひきつる。

 

 

「・・・取り敢えず、報告していい?」

 

 

「あ、すみません、どうぞ。」

 

はぁ、とため息をひとつつきながら、エドストレームは報告を始める。

 

 

「取り敢えず、近くにモンスターは無し。深部の方に向かって草木が折れてたから、そっちから出てきてるみたい。

 

それと、ところどころ血痕と争った跡があったよ。死体は無かったけど、幾つか荷物も見つかってる。喰われた痕跡もなし人間がモンスターの死体を持って帰る訳ないし、十中八九連れていかれてるね。」

 

 

「連れてった?モンスターがか?」

 

 

エドストレームの報告に、ルクルットが首を傾げる。モンスターがわざわざ人間を連れていく理由がわからないのだろう。

 

 

「んなもん、有事の際の非常食にでもするんじゃねぇのか?」

 

「・・・不味い。」

 

「ダイン?どうしました?」

 

「マルムヴィストの考えも有り得るが、もう1つ、可能性があるのである。」

 

「もう1つ、ですか?」

 

 

重々しく口を開いたダインに、ペテルが問う。ダインは頷きながら、自身の考えを口にする。

 

それは、マルムヴィストの答えたもう一つの可能性よりもはるかに不味いもの・・・いや、場合によっては最悪とも呼べる部類だろう。

 

 

 

「元々、妙だとは思っていたのである。最初の、ゴブリンとオーガが出てきた時から。」

 

 

「しかし、ゴブリンとオーガが手を組むのは良くあることですよね?それの何処が?」

 

 

「それはいいのである。私も、群れから追い出されたゴブリンとオーガが、たまたま見つけた冒険者(えもの)を追いかけて出てきただけだと思ったのである。

 

・・・しかし、そのあともゴブリンとオーガは出続けた。しかも、必ず1匹はオーガを連れているのである。普通、こんなことはしない、そもそも起こることはないのである。」

 

 

「確かにそうですね。まるで統率された群れや、部隊のようで・・・っ!!まさか!!」

 

 

ダインの言葉に、ペテルがハッと気づく。それに少し遅れて、エドストレームとマルムヴィストも目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「それって、まさか・・・」

 

「おいおい、冗談じゃねぇぞ・・・?」

 

 

「お、おい!お前らだけで話進めないでくれよ!何が不味いんだ!?」

 

 

 

ただ1人、状況を把握できていないルクルットが仲間に説明を求める。そんな彼に対し、ダインは神妙な面持ちで語りかける。

 

 

「ルクルット、考えるのである。これまで出てきたモンスターの群れに、他とは違う組み合わせはあったであるか?」

 

「違う組み合わせ?・・・いや、ねぇな。殆どがゴブリン、それにオーガが1匹か2匹だった。」

 

 

「そうである。隊員のようにゴブリンがいて、それをオーガが纏めている・・・数に変化があれど、全ての群れがそうなっているのである。はっきりいって、これは異常である。ただの群れならこんなことせず、もっと大勢で固まるのである。()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

「・・・おいおい、それって・・・!」

 

 

ルクルットもやっと状況を飲み込み、理解した。顔はサーッと青くなり、口角がピクピクとひきつる。

 

 

 

「・・・それぞれの群れが、冒険者(えもの)を持って帰っているのも、そう命令されているからだと思うのである。」

 

 

「つまり、ダインの予想が正しければ、この森には・・・!!」

 

 

ルクルットの言葉に、ダインはコクリと頷く。

 

 

 

 

「まず間違いなく、上位個体、それもこんな風に群れも操れるだけの知能を持った個体が居るのである。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

時間は遡り、少し前ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソが!!離せ!!離せよ!!」

 

「・・・ウルザイ」

 

「ゴボォ!?ゲホッガハッ!!うぇ・・・」

 

「・・・ハラヘッダ」

 

「グギ・・・エモノ、クウ、ボス、オコル」

 

「グゥ・・・」

 

 

 

薄暗く、あかりの少ない森の中。とある冒険者達は、昇給試験の最中に、不幸にもオーガをつれたゴブリンの群れと遭遇してしまった。

 

 

彼ら4人は、全員が戦士ーーーつまり、誰も特別な技能を持ち合わせていなかったが、腕っ節には自信があった。同じ村の出身という事もあり、仲もよく、これまで特に問題も起こすことなく過ごしてきた。

 

 

そんな折に訪れた、鉄級(アイアン)への昇級試験。彼らは歓喜した。階級が上がれば、それだけ受けれる依頼も増え、収入も上がる。そうすれば、装備を新調し、戦力を整えることが出来る。

 

憧れの物語の英雄の様に、胸が踊る冒険が出来ると。

 

 

 

 

そんな彼らは、浮かれていた。試験内容はゴブリンの討伐。恐れるに足りないと。英雄になる自分達が、こんな所で躓くわけがないと。

 

 

 

 

そんな彼らの希望(げんそう)は、たまたま出会ったオーガの剛腕によって粉々に打ち砕かれた。

 

 

 

まず、先頭を歩いていた男がゴブリンを見つけて切りかかった。次の瞬間には、オーガに殴り飛ばされ、木の幹に身体を打ち付けられた。

 

呆然としている俺たちにオーガは近づき、2人の仲間の頭を鷲掴みにし、地面に叩きつけた。

 

残った1人は、情けない悲鳴を上げながら逃げようと後ろを振り向いた。しかし、オーガからただの人間が逃げ切れるはずも無く。あっさりと追いつかれた彼は、オーガの剛腕を受け、気を失った。

 

 

 

そんな若き冒険者(えもの)達を、オーガが足を持って引きずるようにして運んでいく。このままこの人間を貪りたいが、そこは我慢だ。彼らのボスは、怒ると怖いのだ。

 

 

 

喚く人間(えもの)を引きずって奥へと進んでいくと、少し開けたところが見えてくる。彼らのボスが整えた、村のような場所だ。

 

 

近くに立っていたゴブリンに、人間(えもの)を持ったオーガが話しかける。

 

 

「エモノ、モッテキタ。ボス、ドコ?」

 

「グギッ、ボス、ムコウ」

 

 

ゴブリンの指差した方向に向かうと、彼らのボスの姿が目に入った。

 

 

本来3m程の体格を誇るオーガの中で、2m程の小柄な体格をしているが、その肉体は引き締まり、研ぎ澄まされていた。

 

並のオーガが数体で襲いかかっても跳ね除けるであろう強靭な武力。群れの誰もが考えつかないようなことを考えつく知力。彼と、もう1人にのみ許された装飾品の数々。

 

群れ全体から尊敬の念を集める、唯一無二のボスが、そこに立っていた。

 

 

 

「ボス!エモノ、ヨンヒキ!」

 

「おォ、良くやっダな!なラ、アイツのところに持って行っでグレ。」

 

「・・・ボス。ハラヘッタ。」

 

 

「・・・1匹だゲだぞ。」

 

 

「え?・・・い、いやだ!!やめろ、やめてくれ!!たすけて、助けて下さい!!嫌だァァァァァァァ!!!!?!!?」

 

 

 

ボスの許可に、嬉嬉としてオーガとゴブリンは人間(えもの)にかぶりついた。

 

 

グチャリ、と肉の潰れる音や、骨の砕ける音と共に、真っ赤な血が滴り落ち、辺り一面に香ばしいーーー人間にとっては吐き気を催すような匂いが充満する。

 

 

 

「いやだ!!たすけて、助けてぇ!!俺だけで、俺だけでいいんだ!!!」

 

「何かのお役に立ちます!!!どうか、どうかお慈悲をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「夢だ・・・これは夢なんだ・・・そうだよ、俺が死ぬわけない。ゴブリンやオーガみたいな雑魚に負けるわけないんだ・・・。」

 

 

 

叫び散らし、懇願し、現実から目を背ける彼らを気にかけるものはおらず。そのまま引きずられ、とある場所に連れていかれる。

 

 

 

「アニキ」

 

 

 

絶え間なく配下に指示を出していくボスに、1人のオーガが近づいていく。

 

その体格は、ボスと同じく2m程と比較的小さいが、ボスと違い研ぎ澄まされた肉体ではなく、細く、やや不健康な印象を漂わせており、猫背もそれに拍車をかけている。

 

しかし、そんな彼を侮るものはこの群れにはいなかった。動物の皮で出来たローブを身にまとい、ねじ曲がった杖を手に持ち、大型の獣の頭蓋骨を被った彼こそ、ボスの弟にして群れ唯一の魔法詠唱者(マジック・キャスター)なのだ。

 

 

「おォ、おドうドよ。アイツの様子はドうだ?」

 

「今はメシをクッテルからオトナシイ。何かあれば手伝ッテクレるさ。」

 

「そうか。いヅでもうごガセるようにしておゲ。」

 

「・・・何かアッタか?」

 

「てイサつにデタ奴らがなんビキか戻っデない。しばらグしたら、探索ズるぞ。」

 

 

 

そう言い、森をじっと睨みつけるボスーーー大鬼の指揮官(オーガ・コマンダー)と、肩を竦めて了解の意を示した弟ーーー大鬼の術士(オーガ・ソーサラー)の兄弟。そして、兄弟が飼い慣らしている、とある化け物。

 

 

 

彼らの存在は、ペテル達にどう影響するのだろうか・・・?

 

 

 

 

 



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脅威

 

「撤退って・・・ここまで来たんだぜ!?」

 

「そんなことを言っている場合ではないのである!!ただでさえこんな大規模の群れなのに、さらに上位個体までいるのなら撤退するのが定石である!!幾らペテル達がランク以上の実力者とはいえ、勝ち目はないのである!!」

 

「俺たちなら大丈夫だって!!それに、まだ数人しか助けてねぇだろ!?」

 

 

ダインの意見に対し、ルクルットが反発する。そんな2人の対立を見ながら、マルムヴィストとエドに意見を求める。

 

「ペテルに任せるよ・・・って言いたいけど、個人的には撤退したい。命あっての物種、死んだら意味無いしね。」

 

「はっ、ビビり過ぎだな。俺はルクルットに賛成だ。ここで挑むのが英雄ってもんだろ?それに、初討伐で上位種のオーガを撃退、こんだけの箔が付けば組合もランクを上げてくれるだろ。」

 

「勇気と蛮勇は違うのよ。自分の実力も分からないような馬鹿なの?」

 

「なんだと・・・?」

 

鋭く睨みつけるマルムヴィストに対し、エドは酷く冷めた目を向ける。ダインとルクルットの間にも、不穏な空気が流れている。

 

・・・不味いな、このまま進みたい2人と、逆に撤退したい2人とで溝が生まれている。タダでさえヤバい状況なのに、仲間割れなんてしてたら帰れるものも帰れなくなる。

 

 

俺はガシャリと手を叩き、4人を注目させる。

 

 

「落ち着いて下さい。私たちがいがみ合ってもなんの得にもなりません。」

 

そう言って、全員を1度落ち着かせる。俺はそれぞれの目を見ながら口を開く。

 

 

「今回は撤退しましょう。このまま奥へ行くのは危険過ぎます。」

 

「はぁ!?まだ行けるって!!」

 

「ダインもおまえもまだ魔力に余裕はあるだろ?それでも危険か?」

 

「ええ、危険です。初討伐が上手くいってて忘れてますが、私たちはまだ駆け出しなんですよ?まだ行ける、はもう危険、なんて言葉もありますし、調子に乗って痛い目を見るのが目に見えています。」

 

 

調子に乗って、の辺りで進軍派の2人はウッとバツの悪そうな顔をする。逆に撤退派の2人は俺の言葉にしきりに頷いていた。

 

そんな仲間に苦笑を浮かべながら、俺は言葉を続ける。

 

 

「・・・まぁ、確か上位冒険者にも緊急依頼が出されてるそうなので、彼らと合流してからもう一度考えましょう。とりあえず、今は撤退が無難です。異論はありますか?」

 

「無いである!」

「私も無いよ。」

「・・・無い。」

「リーダーに従うよ。」

 

 

ルクルットは少し不満そうだったが、全員に受け入れられたので俺は一つ魔法を唱える。

 

 

「【早足(クイック・マーチ)】」

 

 

複数人に効果のある、移動速度を増加させる魔法だ。戦闘中は効果は無いが、効果はそれなりで魔力消費も少ない。現状、俺が覚えてるものの中で最も適した魔法と言えるだろう。

 

 

準備も整い、いざ帰還・・・しようとした時に、エドの右手が素早く上がる。ルクルットはそれに答えるように周りを警戒し、俺たち3人は各々武器を構える。

静かにエドの横に近づき、囁くような声で問う。

 

「数は?」

 

「ゴブリンが3に、オーガが1。それと、多分獣ーーーウルフかな。それが1。」

 

 

ウルフ、と聞いて首を傾げる。今までウルフは出てきていない。ウルフ自体の難度は10前後ーーーつまりLv3~4程度だ。素早い分厄介だが、森司祭(ドルイド)のダインがいる以上、対処は容易。問題は、なぜ今頃連れてでてきたのか?ということだが・・・。

 

「・・・ん?」

 

そんな疑問をいだいていると、エドが何故か困惑したかのような声を上げる。その後、僅かに首を縦に振った。そんな彼女の行動を変に思っていると、静かに口が開いた。

 

 

「ゴメン、修正。ウルフにしては足音が重いから、なんか上に乗ってる。多分騎兵(ライダー)だと思う。」

 

騎兵(ライダー)、ですか?」

 

 

思わず口に出た疑念の声に、エドは肯定するように首を振る。

 

基本、ゴブリンという種族は繁殖性能が高い反面、特殊な職業(クラス)を持ったものが少ないという特徴がある。昔戦ったことのある『小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)』は、その少ない職業(クラス)持ちなので、あのように手下を従える立場だったわけだ。

 

その為、兵士(ソルジャー)よりももっと貴重な騎兵(ライダー)が前線に出てくることなんてあまり無い。小規模な群れならボスを務めることもあるし、大規模な群れでも丁重に扱われる。とどのつまり幹部格なのだ。こんな斥候のような事をする必要は無いはず。

 

 

 

つまり、敵側は幹部を出さなければならないほど切迫している。

 

 

 

・・・もしくは、斥候をやらせてもいいほどの余裕があるか、のどちらかだ。

 

 

 

「くるよ。」

 

 

その声に呼応し、俺は彼女の前に出る。マルムヴィストが横に並び立ち、後ろにいるルクルットが弓に矢をつがえる。ダインは何時でも魔法が使えるように集中力を高めていた。

 

 

身構えて数秒後、巨大なオーガの身体が茂みから姿を現す。

 

その瞬間、マルムヴィストがオーガに向かって飛び出す。俺はすぐにカバー出来る程の距離感で後ろについて走る。相手をチラリと見ると、茂みの奥に、ウルフに跨り、粗末な槍を手に持ったゴブリンの姿が見える。

 

あれか。

 

「〈速度向上〉〈穿撃〉!!」

 

先頭を走るマルムヴィストの刺突剣が鈍く光り、瞬きの間にオーガに詰め寄る。当然、オーガは撃退する為に棍棒を振るう・・・と思われたが、なんとオーガは棍棒を盾の様にしてマルムヴィストの刺突を防ぐ。

 

 

「んなっ、マジかよ!」

 

 

レイピアが抜けずに焦りの表情を浮かべる彼をフォローする為、俺は〈能力向上〉を使用しながらハルバードを振りかぶる。

 

 

しかし、オーガのすぐそばに居たゴブリン達がそれを恐れずに突撃してくる。そんなゴブリンに面食らいながらも、〈斬撃〉と併用して真横に薙ぎ払う。

 

 

「ぜやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

こちらに近づく3匹のゴブリンの首が宙を舞う。噴き出してきた生暖かい血が全身を赤く染めるが、構うことは無い。今度こそ詰め寄ろうとオーガを見ると、何故か()()()()()

 

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

 

ビリビリと鼓膜に響く雄叫びに、思わず耳を塞ぐ。そして、まるでその雄叫びが合図だったかのように、残った小鬼の騎兵(ゴブリン・ライダー)は踵を返し、森の奥へと走り去ろうとする。

 

 

その瞬間、俺の脳裏に嫌な想像が浮かんだ。

 

 

「ルクルット!!あのゴブリンを狙ってくれ!」

 

「無理だ!あの速さじゃ当てれねぇ!!」

 

「くそっ!!」

 

 

ルクルットの言葉を聞き、急いで追いかけようとするが、オーガが間に割って入る。

 

 

「邪魔だ!!〈能力向上〉〈斬撃〉!!」

 

 

進路を妨害するオーガに武技を込めた一撃で脇腹を切り裂く。堪らずオーガ棍棒を振り回し、それに巻き込まれぬようマルムヴィストはレイピアを離して予備の短剣で敵の脚を刺した。ガクリと膝をついたオーガの側頭部に斧頭を叩き込み、返す刀で逆の側頭部に突起(ピック)で穴を開ける。懐に潜り込んだマルムヴィストの短剣が喉を切り裂き、オーガは奇怪な声を上げながら絶命する。

 

 

すぐに周りを確認するが、すでにゴブリンの姿は見えなかった。

 

 

 

 

・・・ヤバい。ヤバすぎる。ちょっとこれはシャレにならないかもしれない。

 

 

「全員、逃げますよ!!急いで!!」

 

「ちょ、おいペテル!」

 

 

俺の言葉に、付き合いの長いエドと冒険者として経験のあるダインは即座に動いた。マルムヴィストも棍棒に刺さったレイピアを引っこ抜いてから走り、唯一困惑した様子のルクルットも足は止めずに走り出す。

 

 

「いきなりどした?あのゴブリン逃したのそんなにまずいのか?」

 

「・・・戦闘中に、オーガが不自然に上を向いたでしょう?そして、雄叫びを聞いたゴブリンが逃走を図った。」

 

「そう言えばそうであるな?」

 

「あれって合図だと思うんですよ。オーガがおおよその位置を伝え、先程逃げたゴブリンが後続を引き連れて来るんじゃないかと。」

 

「そ、それって俺達のことがバレてるってことか?」

 

「まぁ、あれだけ派手にやればバレるでしょうね。問題はそこじゃなく、向こうがそういう手をとってきたということです。」

 

「なるほど。こっちを殺し切れるだけの戦力が控えてるってことね。」

 

 

先頭を走るエドの言葉に俺が神妙に頷くと、ダインとルクルットの顔が真っ青に染まっていく。もはや青を通り越して白だな、これ。

 

 

 

そんな時、最後尾のマルムヴィストがバッ!と後ろを振り返る。そして若干声を震わせながら俺たちに叫んだ。

 

 

「おいやべぇぞ!!やっこさんもう来やがった!!」

 

 

驚いたエドとルクルットが耳を澄ます。

 

 

「・・・マジだ!これでけぇぞ!?」

 

「どんなのが来てるか、分かりますか!?」

 

「デカいウルフになんか乗ってる!!それが2!!後、馬鹿でかいのが1!!」

 

「デカいウルフ・・・森でこれだけ走れるのを考えると、恐らく『森の狼(フォレスト・ウルフ)』である!!」

 

「『森の狼(フォレスト・ウルフ)』って、それだけで難度20近いですよ・・・?!」

 

 

それに乗っているということは、必然的に上のヤツはLv10を超えている可能性が高い。そんな強さが三体・・・凌ぐだけなら俺はまだ戦えるが、ルクルット、ダイン、エドは無理だな。マルムヴィストでギリギリか?

 

 

このまま走っても逃げきれない・・・なら。

 

 

俺は走りながら全員に目を向け、口を開く。

 

 

 

 

「・・・私がここに残って、足止めをします。皆さんはその間に助けを呼んでください。」

 

 

「バカ言わないでよ!!ペテルだけ置いていけるわけないでしょ!?」

 

 

死にに行くに等しい俺の宣言に、真っ先にエドが反対する。そんな中、隣で走るマルムヴィストは俺に問掛ける。

 

 

「お前が残って、時間稼ぎになるのか?」

 

「付与魔法をフルに使って戦います。守備に徹すれば、どうにか・・・いえ、抑えてみせます。」

 

「・・・魔力に余裕は?二人分いけるか?」

 

「っ!!・・・いけますよ。」

 

「なら、俺も残るぜ。1人より2人の方が生き残りやすいだろ?」

 

死地に付き合う、という彼の言葉に、ほかの3人は驚愕を露わにする。

 

・・・ぶっちゃけかなり有難いが。わざわざ出会ったばかりの俺にそんなコトをする必要は無い。

そんな善人には見えないし、そもそも原作から考えると彼は極悪人だ。まぁそれはエドもだが、彼女は小さい頃から俺の村で過ごしているので、だいぶ変わってるし。

 

 

何故付き合うのか、と聞くと、彼は笑って答える。

 

 

「ん?まぁお前に残ってもらった方が、これから冒険者やる上で楽だろうし・・・。

 

 

 

それに、ここで見捨てないのが英雄だろ?」

 

「・・・英雄願望ですか。早死しますよ?」

 

 

上等だ、と彼は笑う。

 

・・・少なくとも、今の彼は信用出来る。原作だとか、そんなこと関係なく。どこでどう変わったのかは分からないが、背中を預けるに値する。

 

 

すると、意を決したようにルクルットとダインが声を上げる。

 

 

「お、俺も!!俺も、の、残るぞ!お前らにだけいいカッコさせるか!!」

 

「私も、皆より長く冒険者をやっている意地があるのである!!それに、弓を使うルクルットと、信仰系魔法が使える私が残った方が全員で生き残れるである!!」

 

「ルクルット、ダイン・・・。」

 

 

 

男達が続々と覚悟を決める中、唯一女性のエドストレームも当然名乗り出る。

 

 

「なら、私も!!」

 

そんな彼女に、俺は1つ息を吐き、告げる。

 

 

「ダメです。」

 

「っ!!なんで?私だってやれるよ!!1人でも戦力が必要でしょ!?」

 

 

「元々誰かが助けを呼ばなければならないんです。」

 

「私じゃ無くても良いでしょ!?ねぇ、お願い!!隣に立たせてよ!!背中を預けてよ!頼りにしてよ!もう、いなくなる恐怖を味わいたくないの・・・!!」

 

 

泣きそうな彼女の顔。一瞬覚悟が揺らぎそうになる。

 

 

ダメだ、ダメだ、ダメだ。盗賊職の彼女がここに残ってもやれることは少ない。せいぜいが牽制程度だ。それよりも、助けを呼ぶ方が重要で・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・彼女が、万が一にも死なずに済む。

 

 

 

 

俺は覚悟を決めて彼女に目を向ける。もう既に足音が近づいている。時間は無い。

 

 

 

 

「君にしか出来ないことだ。このなかで1番足が早く、足場が悪くても走れる君にしか。だからさ。ーーー頼むよ、エド。」

 

 

まるで死にに行くようなセリフだが、もちろん死ぬ気など毛頭ない。

 

その言葉に彼女は悲痛な表情を露わにするが、拳を握り締め、歯を食いしばって、目尻に光るものを浮かべながら気丈に言い放つ。

 

 

「これ、使って。」

 

そう言って彼女は懐に仕込んでいた投げナイフとボーラをマルムヴィストに投げ渡す。

 

「あんた、暗器の心得あるでしょ?」

 

「・・・バレてたか。」

 

苦笑いしながらマルムヴィストはそれを受け取る。

 

エドは全員の顔に目を向け、最後に俺を見て、言った。

 

 

 

 

「・・・死んだら、殺すから。」

 

「ありがと。ーーー《獣の健脚(ガゼルフット)》。」

 

 

 

移動速度だけでなく、敏捷性そのものを底上げする魔法を掛ける。それを受けたエドは、全力で地面を蹴り、森を駆け抜けていく。

 

 

反対に俺たちはその場に留まり、必要な魔法を行使する。

 

 

「《熊の剛力(マッスルベアー)》、《甲虫の外皮(ビートルスキン)》、《獣の健脚(ガゼルフット)》、《闇視(ダーク・ヴィジョン)》」

 

 

前衛の俺とマルムヴィストに付与魔法を、最後の《闇視(ダーク・ヴィジョン)》のみ全員に使う。

 

 

そして、《第一位階天使召喚(サモン・エンジェル・1st)》を使用して、2体の天使を呼び出す。手に持つのは大盾。魔力を裂き、耐久性の向上させたものだ。

 

・・・これで、魔法は殆ど打ち止めだ。もう余裕なんてない。

 

 

「おーおー、豪勢なこって。」

 

「すっげぇな、やっぱ・・・。」

 

「ダイン、回復任せますよ。」

 

「了解である!!」

 

 

 

こちらが準備を終えた途端、まるで示し合わせたかのように、森の奥から異形がその姿を露わにした。

 

 

先頭を走ってきたのは、ダインの予想通り、『森の狼(フォレスト・ウルフ)』に跨った化け物。

 

1匹は、動物の牙や毛皮などの装飾品を身につけた2m程の異形。恐らく、顔つきからしてオーガだと思われる。

 

 

もう1匹は、なにかの皮で出来ているであろうローブを身に纏い、恐らく冒険者から奪ったのであろう捻れた杖を持っていた。十中八九、『大鬼の術士(オーガ・ソーサラー)』だろう。

 

 

 

魔法詠唱者(マジック・キャスター)・・・!!」

 

 

ルクルットの呟きに、全員の緊張感が高まる。敵側に魔法詠唱者がいるのは、はっきり言えば誤算だった。それでも、魔眼で確認したところヤツのLvは11。勝てない相手ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまでは良かったのだ。

 

 

 

 

 

 

続いて森から現れたその異形の姿に、俺は絶望した。

 

 

 

「おいおい、流石にこれは・・・!!」

 

 

マルムヴィストがそう言うのも無理はない。これは無理だ。現状の俺達で勝てるはずは無い。ちくしょう、《熊の剛力(マッスルベアー)》使わないで盾役に回せばよかった!!

 

 

 

そこに居たのは、青い肌の巨人。その前にいる、2m程のオーガが酷く小さく見えてしまう程の巨体。3mは超えているであろう。長い耳と長い鼻を持ち、目には濁った光が灯っている。だらしなく開かれた口からは、ダラダラとヨダレがこぼれ落ち、目の前の俺達(エサ)を噛み砕くときを今か今かと待ち望んでいるようだった。

 

 

ソレは、オーガを超える剛腕を振るい、肉片からでも元に戻る程の脅威的な再生能力を持つ。本来、金級(ゴールド)の冒険者が複数集まってようやく討伐が叶うバケモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『妖巨人(トロール)』・・・!!!!」

 

 

 

 

 

 




〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名前【無し(兄)】
性別【男】
総合Lv【12】
大鬼(オーガ) Lv7
大鬼の戦士(オーガ・ファイター) Lv3
大鬼の指揮官(オーガ・コマンダー) Lv2

~~~~~~~~~

~~~~~~~~~
名前【無し(弟)】
性別【男】
総合Lv【11】
大鬼(オーガ) Lv2
大鬼の術士(オーガ・ソーサラー) Lv9

~~~~~~~~~

~~~~~~~~~
名前【無し】
性別【男】
総合Lv【13】
妖巨人(トロール) Lv13

~~~~~~~~~


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vs大鬼、妖巨人

|´-`)チラッ

|'ω')ノ⌒゜ポイッ

|ω・`) ))ススッ


………一年も更新せずに申し訳ありませんでした(土下座)


 

 

「おいっ!!どうすんだ、この状況!!!」

 

 

後衛で弓を構えるルクルットが震えながら絞り出した叫び声。それを聞いた瞬間、目の前の妖巨人が大声を上げながら俺たちに向けて突貫してくる。

 

 

 

「っ!!ぜぇあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

咄嗟に前に出て突貫してくる妖巨人に向けてハルバードの尖端による突きを繰り出す。妖巨人は特に防御する訳でもなく身体でその一撃を受け止める。

 

確かに一撃刺さった、肉を貫く感触がハルバード越しに伝わってくる。しかし妖巨人に堪えた様子は皆無であり、むしろこちらの手に伝わる感触に大きな違和感があった。貫いた箇所から肉が軋むような、そんな感触。どう考えても再生してる。そりゃそうだよなぁ、妖巨人だもんなぁ!!

 

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「っ!!〈回避〉!!」

 

 

 

貫かれながらも突進を辞めない妖巨人が、射程内に入った俺に向けて大きく拳を振るう。咄嗟に武技を使用して後ろに下がるが、離れた場所でも飛ばされるのではないか、と脳裏に霞むほどの暴風が襲ってくる。一撃でもまともに喰らえば、骨が碎けるどころじゃない。間違いなく、内臓までぺちゃんこシェイクだな、こりゃ。

 

 

「〈能力向上〉〈斬撃〉ッ!!!」

 

 

先程咄嗟だったゆえに使用する暇のなかった身体能力底上げの武技を使いつつ、〈回避〉の勢いそのままにハルバードを大回し。〈斬撃〉を乗せた一撃を妖巨人に向けて振るう。

 

 

 

「………『避げロ』」

 

 

しかし、妖巨人の後方。2体の大鬼のうち、見事な体格をした方が言葉を発すると、妖巨人が素早く身を引いて攻撃を躱す。大振りで隙を晒しかけたがなんとか力を込めて踏み止まり、地面を蹴って後ろへと下がった。

 

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「問題無い!!」

 

「なんだよアレ、ペテルの攻撃躱しやがった!?」

 

「後ろのオーガが指示を……!!魔法詠唱者でもなさそうなのに、有り得るのであるか!?」

 

「アイツは恐らく指揮官(コマンダー)です!指示を出して味方を補助する役割………っ!!ルクルット!!」

 

 

マルムヴィストから心配の声が飛ぶが即座に返す。ほかの三人に向けて大鬼の指揮官の情報を伝えようとした瞬間、ねじ曲がった枯れ木のような杖を手に持った大鬼がそれをコチラに向けると、大鬼の背後から白い光球が2つ、瞬いた。

 

 

「は?」

 

「っ!シッ!!」

 

 

気を抜いてはいなかった。しかし緊張からか、それに気がつけなかったルクルットは気の抜けた声を上げて棒立ちで眺める。が、そんな彼の前にマルムヴィストが割って入る。近くにいつつ、すぐにでも攻撃に飛び出せるように体勢を整えていた故に反応出来たのだ。右手に構えるレイピアではなく、腰に装備していた予備のナイフを左手で2つ引き抜いて光球に向けて投げつける。片方は上手くぶつけることが出来、光球とナイフが弾ける。

 

 

 

「ぐぅっ……!!」

 

「マルムヴィスト!!!」

 

 

 

しかしもう片方は外れたようで、光球がマルムヴィストの脇腹に突き刺さる。鮮血がほとばしり、痛みに苦悶の表情を浮かべつつ歯を食いしばって耐えるマルムヴィスト。後ろで庇われたルクルットが悲鳴に近い声を上げるが、ダインが素早く動いた。

 

 

「《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》!」

 

 

森司祭に限らず、回復職ならば誰もが使用できる第一位階の回復魔法を負傷したマルムヴィストへと唱える。魔法特有の淡い光がマルムヴィストの身体を包み、穿たれ出血した脇腹が塞がっていく。完全には修復しなかったものの、明らかに穴の大部分が塞がり、出血も収まっている。

 

 

 

「っと、サンキューダイン!!おいルクルット!!ボケっとすんな、死にてぇのか!?」

 

「わ、悪い……」

 

 

 

怒りを滲ませながらマルムヴィストがそう言うと、ルクルットは申し訳なさそうに呟く。しかしそんなことをしている場合ではない。脅威は未だに去っていないのだ、すぐさま切り替えなければ命は無い。

 

 

 

「ダイン!まだ魔力に余裕があったら、マルムヴィストにもう一回軽傷治癒をかけてくれ!」

 

「はぁ!?おいペテル、俺はこれでも………」

 

「重戦士みたいに受け止められるならともかく、お前は軽戦士!しかも回避重視のフェンサー!!動きが鈍ってて戦える相手じゃないのは分かってるでしょう!!」

 

 

俺からの指示を受けたダインが首肯しながら再び軽傷治癒をマルムヴィストに飛ばし、彼の脇腹の傷を完全に塞いだ。マルムヴィストは1回分余計に魔力を使わせることに抵抗があったようだが、回避重視のマルムヴィストは怪我で動きが鈍った際の弊害が大き過ぎる。この場で俺以外に前線に立てるのはマルムヴィストだけだ、下手打って倒れられたら目も当てられないことになる。

 

 

 

「私が妖巨人を止めます!!その間に、3人は集中して奥のコマンダーを!!」

 

「魔法詠唱者の方はどうするであるか!?」

 

「召喚した2体の天使で囲みます!耐久の高めな天使ですし、ある程度の魔法耐性も備わっている!………正直、私では妖巨人を殺し切るのは不可能だと思います。天使が消滅するより先にみんながコマンダーを殺し切れるかが、生死の分かれ目です………いけますか?」

 

 

 

このメンバー内で一番火力があるのは間違いなく俺だ。自惚れる訳でもなく、両手武器であり重さのある斧槍を使用しており純戦士職を習得、武技も使用出来る俺が火力面で優れているのは明白だ。マルムヴィストも素早い刺突は間違いなく俺を凌駕するが、総合的にいえば軍配は俺に上がる。

 

ならば俺がコマンダーを始末しに行けばいいとも思えるが、しかし妖巨人の足止めが出来るのも俺しかいない。一撃の重いコイツだが、拳撃のスピードもかなりのものだ。さらにはコマンダーの方へといかせない為にある程度攻撃して引きつける必要がある。そうなると、再生能力を持つコイツ相手では刺突攻撃、かつ回避型のマルムヴィストでは相性が悪すぎる。

 

 

 

だからこそ、俺抜きの3人でコマンダーを倒してもらわなくてはならない。もしここにエドがいれば、彼女が暗器と刃の鞭(ブレードウィップ)による中距離攻撃で気を逸らし、マルムヴィストが前衛で躱す……という手も取れたが、ないものねだりはしてもしょうがない。

 

 

そう思い3人に問いかける。仮に無理だと言われてもやってくれ、と頼み込むしか出来ないが、と思った時。

 

 

 

「お、俺はやるぞ!!矢を射掛けるくらいしか出来ないが、や、やってやる!!!俺のルクルット伝説の序章には、ピッタリの戦いだぜ!!」

 

 

恐怖を感じて身体を震わせながらも、それを必死に殺して強気な発言を飛ばすルクルット。一番恐怖を感じていた彼が真っ先に答えたことに少々面食らいつつ、それを凌駕する喜びが沸き上がる。

 

 

 

「………はっ!!ルクルットのアホがやる気出してんのに、俺がやらねぇわけにはいかねぇな!!任しとけ、すぐに殺しきってお前のサポートに回ってやるよ」

 

「仮に天使が先に消滅したら、私が魔法詠唱者の魔法を受けるのである。森司祭である私は、みなに比べて若干だが魔法耐性があるのである!!サポートも任せて欲しいのである!!」

 

 

 

すぐさまマルムヴィストとダインもそれに続く。未だに組んで日の浅いこのチーム。だが、この絶望的状況を前にしても誰一人として逃げ出そうとはしない彼らを見て、俺は大きな安らぎを感じた。

 

 

 

ーーー死にたくないな。誰一人欠けることなく、生きて戻りたい。

 

 

 

そんな死亡フラグめいた事を思いながら、斧槍を油断なく構え、天使に命令を下す。

 

言葉に出さずともこちらの思考を読み取った2体の天使は、大盾を構えながら魔法詠唱者の大鬼へと突貫していく。

 

 

 

「!『飛んデルのかラ始末ジロ』!!」

 

 

 

思惑を察したのか、はたまたただ単純に弟の身を案じたのか。すぐさま妖巨人に指示を出すコマンダーの能力により、妖巨人は脇を抜けていった天使へと標的を定める。

 

 

 

「〈能力向上〉〈流水加速〉………」

 

 

 

しかしそうはさせない。身体能力を底上げし、流れるように加速。一気に妖巨人へと肉薄した俺は、〈流水加速〉を解除しながら一気に攻勢に出る。

 

 

 

「〈斬撃〉[兜割り]ッ!!!」

 

 

 

《熊の剛力》に加えて〈斬撃〉と[兜割り]による上段からの振り下ろし。現状俺の取れる最も強力な一撃によって天使へと意識の向いていた妖巨人の肩のあたりに深々と斧槍を突き立てる。

 

かなり深く入った故に、幾ら再生能力をもって痛みに鈍い妖巨人だろうと堪えたらしく、妖巨人が大きく叫ぶ。しかし同時にこちらの手に伝わる感触もあまりいいものではない。完全に断ち切る勢いで攻撃したのに途中で止まった。回数制限のある[兜割り]まで使用してコレか!!やっぱ殺し切るには酸属性か炎属性が必須っぽいなぁコイツ!

 

 

「グァァァァァァァァ………!!!!」

 

「おイ!!その人間デはなイ!!聞ゲ!!!」

 

 

だが思惑は成功した。妖巨人の意識は完全にこちらに向いている。後ろに立つ大鬼が呼び掛けるが、指揮官のLvが低いからか完全には制御出来ていない様子。その隙をついて、マルムヴィスト達が一気に攻撃に出た。

 

 

 

 

「《植物の絡みつき(トワイン・プラント)》!!!」

 

「っらぁ!!」

 

 

ダインが地面に手を着いて魔法の名を叫ぶと、コマンダーの足元にあった植物が急激に成長。絡みつくように伸びていく植物に足を取られ、一時的にだが動きを止めることが出来た。森司祭の真骨頂、森の中など植物がある場所でこそ力を発揮する代表的な魔法だ。

 

 

植物が絡みついてきた事に気を取られるコマンダー。動きを止めた大きな敵は、野伏であるルクルットにとって格好の的だ。細かい位置は気にせず、一気にダメージを与えるために同時に三本の矢を射掛け、左ももと脇腹、右肩にそれぞれ命中させた。

 

 

「ガアッ!?」

 

「ナイス二人とも!!〈速度向上〉〈穿撃〉!!」

 

 

痛みに悶えたコマンダーに向けて、武技によって速度を最大限まで引き上げ、その勢いと全体重を乗せた渾身の突きを放つ。同レベル帯で考えれば間違いなくその枠から飛び出しているであろうスピードで一気にレイピアを突き出したマルムヴィストの一撃は、いくら純戦闘職ではない『大鬼の指揮官』を習得しているとはいえレベルが上のコマンダーにもブレて見える程の完成度だった。的確に胸の辺りに突き刺さったレイピアは、深くコマンダーの肉を抉り内部へと侵入していく。

 

 

 

「がァァァァっ!!!クゾッ!!!」

 

「っ!〈回避〉っとぉ!!」

 

 

 

腰の直剣を引き抜いて振り回すコマンダーから、先程ペテルも使用した武技で後方へと大きく飛ぶ。マルムヴィストのすぐ後ろにメイスを構えたダインが控え、ルクルットが背の矢筒から新しく矢を引き抜く。

 

 

 

「アニキッ!!クソ、どケ!!」

 

 

 

魔法詠唱者の弟が攻撃を受ける兄を心配して援護に向かおうとするが、天使2体が行く手を遮る。弟の習得している魔法は、攻撃系統に加えて僅かな補助魔法。そしてその補助魔法は、対象に視認していないと使用できない。耐久目的でペテルが天使に持たせた大盾が視界を遮り、補助すら掛けられないのだ。攻撃しようにしても魔法耐性を持ち、通常よりも耐久を高められている天使が2体もいるため中々切り抜けられないが、だからといって見捨てる理由にはならない。攻撃魔法を唱え、天使を排除しようと動き出した。

 

 

 

「クゾッ!!!殺す!!!殺しテヤる!!!」

 

 

叫びながら直剣を振りまして威嚇するコマンダーを見つつも、3人は慌てず、冷静に対応する。

 

ルクルットが連続で矢を射掛けるが、流石にそう簡単には当たらない。分厚い皮膚で覆われたオーガ故に、拳と直剣で矢を払われてしまう。再びダインが《植物の絡みつき》を使用するが、それより早くその場から飛び退き、切り払われてしまう。

 

 

 

「くそっ、この距離でも当たらねぇ!!」

 

「魔法も読まれているのである……!!これが大鬼の指揮官(オーガ・コマンダー)の知性であるか!?」

 

「いや、コレでいい!!二人で隙を作ってくれ、アイツは俺のスピードには対応出来てねぇ!!次は急所にぶち込んでやる!!」

 

 

 

二人が焦りを滲ませるが、マルムヴィストがそう言って二人を鼓舞する。愛用のレイピアの尖端をコマンダーへと向けながら、マルムヴィストは不敵に笑った。

 

 

 

 

「さぁ、とっととこの木偶の坊ぶち殺して、ペテルに加勢してやろうぜ!!」

 

「「おうっ!!!」」



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決着、森林戦

 

 

 

「ガァっ!!!!」

 

「っ!!フッ!!」

 

 

 

妖巨人の剛腕をペテルが斜めに構えた斧槍で流し、柄の先端を腹に打ち込む。しかし、亜人種特有の分厚い皮膚に加え、でっぷりとした腹によって衝撃は吸収されてしまい大したダメージにはならない。それすらも再生能力によって即座に回復されるのだから、堪ったものでは無い。

 

 

 

「〈即応反射〉〈流水加速〉〈剛撃〉!!」

 

 

 

さらにペテルを押しつぶさんがために追撃を仕掛ける妖巨人。ペテルは武技を三つ同時に発動させ、不安定な体勢から紙一重で攻撃を回避、その場で加速しながら一回転、勢いをつけたソバットを妖巨人の腹に叩き込み、相手を押すと共に自身は後方に下がって距離をとる。

 

 

 

 

「………フゥゥゥーッ……….!!」

 

 

 

一旦距離を取れたペテルは大きく息を吐き、戦況を見渡す。

 

どれくらいの時がたったのだろうか。かなり長時間攻防していた気もするが、まだ数分も経っていないかもしれない。陽も差し込みにくいこの森の中では、全く以って時間の感覚は意味をなさないし、時計などは高価であるため駆け出しの彼が持っているはずもない。

 

 

 

ペテルと妖巨人との戦闘は、傍から見たら彼が一方的に攻撃を当て、妖巨人を翻弄しているようにも見える。しかし、実際は魔法と武技によって身体能力を底上げしているペテルがどれだけ攻撃を加えても妖巨人の再生能力を上回る事が出来ない状態。追い詰めているように見えて、追い詰められているのは彼なのだ。

 

 

 

 

「……グッ!?」

 

「マルムヴィスト!!《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》ッ!!」

 

「オラッ!下がれクソオーガ!!」

 

 

 

大鬼の指揮官(オーガコマンダー)と戦っている3人の方は、何とか五分に持ち込めている雰囲気だ。だが、次第にマルムヴィストの攻撃に慣れ始めたのか、オーガが手傷を負うよりもマルムヴィストが徐々に攻撃を受け始めている。即座にルクルットが矢でフォローし、ダインの魔法が飛ぶ故に持ちこたえてはいるが、そのどちらかが尽きれば戦況は確実に傾く。

 

 

 

「待ってロ、アニキ!!すグに行ク!!」

 

 

そして何よりも不味いのは、3つ目の戦闘―――ペテルの召喚した天使と、魔法詠唱者の戦いの方だ。既に2体のうち一体が消滅し、残った方も満身創痍。そう遠くないうちにそちらも消滅してしまうだろう。

 

 

 

「くっ……《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》!!」

 

 

 

―――いや、本来なら既に消滅してもおかしくは無い。天使がギリギリ残っているのは、ダインがマルムヴィストの回復と並行して天使に回復魔法を掛けているからだ。

 

しかし、ダインの魔力量はそう多くは無い。

 

彼自身も気がついていないことなのだが、ダインは森司祭としての職業(クラス)を持っている。しかし、それ以外にも彼は戦士職である『重戦士(ヘビーファイター)』を取得している。なので同レベルの純粋な森司祭に対して幾分が魔力量が少ないのだ。

 

 

 

勿論、その差は僅かなもの。僅かなものだが、この極限の状況ではその差が響く。通常よりも魔力切れが早く近づいてきたダインは、倦怠感に包まれる体を無理やり奮い立たせて味方のサポートをしているのだが、それもあと少しで尽きる。

 

 

 

 

「ダイン!大丈夫ですか!?」

 

「も、問題無い!!私のことは気にしなくていいのである!!」

 

 

 

ペテルが声を掛けると、ダインは彼に向けてドンッ!と強く胸を叩いて健在をアピールする。本来なら限界近い彼だが、強大な敵を一人で相手するペテルに心配をかけまいと振舞った。

 

 

 

 

「くそっ、もう矢が……!!」

 

 

 

しかし限界なのは彼だけでは無い。マルムヴィストの手助けの為に先程から連続で矢を射掛け続けているルクルットの矢筒には、既に数える程しか矢が入っていなかった。

さらに、彼自身の指先も小刻みに震え、感覚も曖昧になって来ている。集中のしすぎで意識も少しモヤが掛かったようになってきており、どうにか保っている状態で戦い続けている。

 

 

 

さらにもう1人、コマンダーと切り結んでいるマルムヴィストにも色濃く疲労が出ており、荒い呼吸で息を整えている。初撃の後、ダインが再び使用した《植物の絡みつき(トワイン・プラント)》との連携攻撃によって下にいた『森の狼(フォレスト・ウルフ)』の息の根は止めたものの、肝心のコマンダーの方には大したダメージを与えられていない。

 

 

 

 

「(強化魔法もそろそろ切れるし、状況は正直最悪だな………まだか、エド……!!)」

 

 

 

唯一ここにいない、先に逃げさせた仲間のことを思う。彼女が後続の上位冒険者を連れてきてくれれば―――具体的には、炎、もしくは酸属性の魔法が使える魔法詠唱者を連れてきてくれれば勝ち目も見えてくる。

 

が、現状ではやはり勝ち目が見えない。余力があるうちにどうにかオーガの片方だけでも始末しておけばよかったかとも思うが、後の祭りだ。

 

 

 

「おいペテル!!」

 

 

 

そんな時、コマンダーから飛び退いて大きく距離をとったマルムヴィストがペテルに声をかける。

 

 

 

「お前の強化魔法、あとどれくらい持つ!?」

 

「《闇視(ダーク・ヴィジョン)》なら大丈夫だがそれ以外はもうすぐ切れる!!具体的には、あと一、二回切り結ぶのが限界だ!!」

 

 

 

腕力に限って上昇させる《熊の剛力(マッスルベアー)》、脚力を強化し回避率を上げる《獣の健脚(ガゼルフット)》、武技の〈外皮強化〉には劣るが、皮膚を硬化させる《甲虫の外皮(ビートルスキン)》。これらの効果はそろそろ切れてしまう。これら込みでギリギリだったことを考えると、正直勝てなくなるだろう。

 

それを聞いたマルムヴィストはやっぱりか、と1人呟いて大きく息を吐く。そしてレイピアを構えると、バックステップで後ろのルクルット、ダインに近寄り、耳打ちする。

 

 

 

 

「……はあ!?正気かお前!?」

 

「マジだよ、そうしねぇとジリ貧だろうが。頼むぜダイン」

 

「っ、しかしペテルに伝える暇は無いである!バレれば向こうだって対応してくるに……!!」

 

 

マルムヴィストの策を聞き、目を見開く2人。この場にいる3人は作戦を共有出来るが、離れた位置にいる自分たちのリーダーはそれを聞くことは出来ない。なにか策を練っていることは向こうからでも分かっているようだが、彼の作戦は瞬間的なタイミングが要求される。特にマルムヴィスト自身と、ペテルは重要な役割を担わなければならず、失敗すればほぼほぼ死に直結する。

 

 

 

「アイツが察してくれるのを祈るしかねぇよ。いざとなれば俺が突っ込んだ後、バレるの覚悟でルクルットから伝えてくれ。………やるしかねぇんだよ!」

 

「あぁっクソ!!やるよ、やってやる!!!死ぬなよお前!!」

 

「ハッ、こんなとこで俺が死ぬかよ!!!」

 

 

 

ルクルットが破れかぶれといった様子で承諾すると、残り少ない矢を一気に5本、弓につがえる。それを発射すると同時に、マルムヴィストは懐からエドストレームに投げ渡された暗器―――投げナイフ数本を取り出して左手で一気に投げ、それと同時に踏み込む。

 

 

「〈速度向上〉………」

 

「っ!」

 

 

武技によってスピードを上げながら走るマルムヴィスト。コマンダーはそれを視認し、飛んでくる矢と投げナイフをその鍛えられた腕によって打ち落としていく。

 

そして、近寄ってきた彼の攻撃を甘んじて受け入れ、拘束してから潰してやろう、と両手を広げた―――その時。

 

 

 

 

「______〈即時転換〉ッ!!!」

 

 

 

マルムヴィストはそのままのスピードで、彼の目の前で進路を直角に曲げる。

 

 

〈即時転換〉。あまり知られていない武技だが、移動系の武技で、スピードを落とさずに任意の向きに90度方向を曲げることが出来る。ただし使い所が限られる上に使用者が少なく、見掛けることの無いその武技。

 

しかしこの場において、マルムヴィストの作戦においては必要不可欠な切り札だった。コマンダーの意表を突き、方向転換して向かう先―――それは、天使を処理しようと杖を構える魔法詠唱者の方だ。

 

 

 

「《植物の絡みつき(トワイン・プラント)》ォッ!!!」

 

「っ!!?クソっ、《衝撃波(ショック・ウェーブ)》!!」

 

 

 

さらにダインが魔力をかき集めて魔法詠唱者の足元に植物による罠を発動。足を取られ、動けなくなった魔法詠唱者は衝撃をぶつける第二位階魔法を発動し、ダメージを与えつつ吹き飛ばしてやろうと画作した。

 

 

 

 

「____________守れ、天使(エンジェル)!!」

 

 

 

が、それを阻むもの。マルムヴィストの作戦を、魔法詠唱者の方を始末するその意図を察したペテルが召喚した天使に命令を下したことで、身を呈して衝撃波からマルムヴィストを守る。まともに受けたことで天使は限界を迎え、光とともに消滅してしまうが、ここまで来ればもはや関係ない。

 

 

 

 

「〈急所感知〉______〈突穿撃〉!!!」

 

 

 

精神力をギリギリまで使い、敵の急所を探る武技、そして〈穿撃〉の上位版である一撃を使用。

 

 

 

ギリギリで放たれた一撃は、疲労困憊のマルムヴィストから放たれたとは思わざるほどの一撃。正確に魔法詠唱者の急所―――喉を、貫いた。

 

 

 

「………ゴッ……!?」

 

「終わりだ………死ねやクソオーガぁ!!!」

 

 

 

苦悶の表情を浮かべる魔法詠唱者のオーガに向けて吐き捨てながら横に振り抜く。喉元の半分近くを切り裂かれたオーガは、鮮血を噴き上げながらその濁った瞳から光を失っていく。

 

 

 

 

 

「ギザマァ!!!!トロールゥ!!!『そいツを殺セェ!!!』」

 

 

 

弟を殺された怒りで、兄であるコマンダーがスキルを使用しながら妖巨人に命令を下す。淡い不思議な光に包まれながらその速度を上げた妖巨人は、その巨大な体躯を活かして一挙にマルムヴィストとの距離を詰めると、その剛腕を振り上げる。攻撃によって体勢を崩したマルムヴィストに、避ける術は無かった。

 

 

 

 

「………ほんっと、頼むぜ………!!!」

 

 

そう呟いた彼に妖巨人の拳が叩き込まれる。肉がへしゃげ、骨が砕け、肺に骨が刺さったことによって口から血を吐きながら飛んでいった彼は、少し離れた大木にぶつかってズルズルと倒れ伏した。動く気配は無い。

 

 

 

「マルムヴィストォ!!!」

 

「マダだ!!ドドメを______ッ!?」

 

 

 

ダインの悲痛な叫びが響く。弟を殺された恨みの残ったコマンダーは、さらに命令を下してマルムヴィストにトドメを刺そうとするが、そんな彼に差す影が、1つ。

 

 

 

 

「〈能力向上〉、〈剛撃〉、〈斬撃〉…………!!!!」

 

 

 

 

―――ペテルだ。

 

 

 

マルムヴィストの作戦。それは、隙をついて魔法詠唱者を殺すだけでは無く。それによってマルムヴィスト自身に気を取られるであろうオーガは妖巨人に司令を下しマルムヴィストを狙う、と予想したのだ。

 

仮にそうでなくても、魔法詠唱者を殺しきったら妖巨人をマルムヴィストが止めて、ペテルがコマンダーと戦闘に。

 

もし釣れたなら、それによって生まれたスキをついて、チーム内でも最高の火力を持つペテルが強襲をかける、というものだったのだ。

 

 

 

その後の回避を考えず、とにかく火力のみを追求して武技を発動。この一撃で確実に仕留める為に、両手で愛用している斧槍を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振りかぶった瞬間、ペテルに違和感が発生する。力が抜けるような、虚脱感というか―――いや、正しくは『元に戻った』のだろう。

 

 

 

 

「(切れた…!!このタイミングで、補助魔法が!!!)」

 

 

 

そう、この瞬間に掛けていた補助魔法が時間を迎えて解除。腕力向上効果のある、《熊の剛力(マッスルベアー)》の効果が無くなってしまったのだ。

 

 

だが関係無い。ここまできて攻撃しないのは愚策。こうなったら力の限り振り下ろして、補助魔法無しで殺し切るしかない。

 

 

 

 

 

「____________[兜割り]っ!!!!」

 

 

 

斧槍闘士の攻撃スキルを同時発動。文字通り、ペテルの持ちうる全身全霊必殺の一撃。

 

もちろんコマンダーの方も攻撃を躱そうと全ての力を避けることにのみ集中。僅かな時間に数多の攻防。そして、ペテルの渾身の一撃は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――見事、コマンダーの肩から腹の辺りまでを深々と抉り斬った。

 

 

 

 

会心の手応え。確実に生命を絶った。殺し切った。ペテルはそう確信を持った。

 

 

 

そんな彼の腹部に、突如として焼けるような痛みが走る。

 

 

ゆっくり、ゆっくりそちらに視線をやれば、彼の腹部から何かが生えている。

 

 

 

よくよく見れば、それは剣だった。コマンダーが振り回していた直剣、それが、彼の母と友人が作ってくれた革鎧の僅かな解れを押し広げるようにして、突き刺さっていた。

 

 

 

 

「………っ、かハッ……!?」

 

「お、オレ、は、じな、じなねぇ……!!」

 

「ペテル!!!おおおおおおっ!!!」

 

「っらァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

込み上げてきた赤黒い血を口から吐き出すペテル。最後まで生きようと足掻いたオーガだったが、ダインがメイスで彼の膝を強打。ひしゃげ、体勢の崩れたオーガの首に予備武器のショートソードを抜いたルクルットが斬りかかり、僅かに残っていた『大鬼の指揮官(オーガコマンダー)』の生命の灯火を消し去った。

 

 

 

「おいペテル!!しっかりしろ!!」

 

「っ…ぐっ、ま、まだ、大丈夫……!!」

 

「待っていろ、今回復魔法を掛け―――」

 

 

 

斧槍を杖にして体勢を保つペテルに、ダインが回復魔法を使おうと魔力を手に込める。まだギリギリだが、第一位階なら2回は使える。それでペテルとマルムヴィストを回復させようと考えた時、ダインは大きく吹き飛んだ。

 

 

 

 

「ゴッはァ……!?」

 

「っ!しまっ、ダイン!!!」

 

 

 

吹き飛んでいったダインはゴムまりのように何度か跳ねてから動きを止める。ぴくぴくと動いてはいるので生きてはいるようだが、動けるほどの余力はないようだ。

 

 

 

当然、ダインを殴りつけたのはマルムヴィストに攻撃した妖巨人。自分の主を殺された怒りで―――ではなく。ただ単に、命令してくるウザイのが死んでスッキリした。ちょうどよく餌もあるし、腹を満たしてどこかへ行こうと考えているだけ。ダインを殴り飛ばしたのも、逃げられないように痛め付けるのと、後は気まぐれだ。

 

 

 

動けないペテルは、腹の直剣を抜こうにもこの大きな剣を抜けば確実に失血死してしまう故に何も出来ない。唯一傷のないルクルットは、震える手でショートソードを構えながらペテルを庇うように妖巨人の前に立つ。

 

 

 

 

「ルクルット、何を…!辞めろ、勝てる相手じゃ、無い……!!」

 

 

 

ペテルが無謀なルクルットを止めようと必死に声を絞り出す。

 

 

妖巨人のレベルは13。ルクルットは森に入った時から一つ上がってレベル8。しかもルクルットの職業は『野伏(レンジャー)』と『弓兵(アーチャー)』の2種のみであり、剣の扱いに関してはそこいらの【銅級(カッパー)】とそう大きく変わらない。

 

魔法職もあるとはいえ、同じくレベル13で補助魔法も使ったペテルで防戦一方になった相手だ。ルクルットでは勝ち目なんて皆無だった。

 

 

 

 

「うるせぇ!!!お、俺だってやってやる!!傷だらけの仲間を護って、トロールをぶっ倒すなんて、も、もも物語の序章には持って来いってもんだ!!」

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃない!!逃げろ!俺が少しでも足止めすれば、お前の足なら森の外まで―――」

 

 

「嫌だ!!!」

 

 

 

ペテルの言葉を聞いてもルクルットは動かない。目の前でヨダレをダラダラと垂れ流す妖巨人を見据えながらも、彼は震える身体とは反対にその目には強い意志を宿していた。

 

 

 

「ペテル達があんなに頑張ったのに、俺だけ逃げるなんて出来ねぇだろ!!そりゃ付き合いはまだ短いけど、俺だってお前の仲間なんだ!!!」

 

 

 

 

 

少し、昔の話。

 

 

 

 

ルクルットは英雄に憧れた。祖父と2人で暮らしていた彼は、幼い頃から祖父の手ほどきを受けて野伏としても才覚をメキメキと伸ばしていた。

 

そんな中、昔冒険者だったという祖父の私物の中から一冊の本を見つけた。読み書きもある程度習っていたルクルットは問題なくそれを読むことが出来、彼は英雄というものを知った。

 

 

人と人が手を取り合って強大な敵に立ち向かい、ドラゴンなどの強大な種族を討ち倒す、どこにでもある単純な話。しかし幼いルクルットの心にはそれが楔のように根付いた。

 

 

それから彼は冒険者に憧れた。目標である祖父の職であり、物語の英雄になるには最も近道に思えたから。

 

 

 

 

しかしまぁ、当然ながら祖父は猛反対。かつて冒険者だった彼は、当たり前だがその危険性を十分に理解していた。冒険者になるなんて抜かすなら村から出さないとまで言われ、この村で村の野伏としてみんなと生きていけばいい、と祖父から告げられた時は本気の喧嘩もした。

 

それからは祖父の言いつけを破って彼の手記を読んで学んだり、野伏としてだけでなく弓兵としての訓練もこっそり続けていた。

 

 

 

村でも最も信頼されていた祖父に反抗している、そんなルクルットは村でも一番の変わり者として扱われ、次第に村人達との溝も深まっていった。

そしてしばらくして、祖父が急死。狩りに出ていた時に、持病が悪化した祖父は偶然トブの大森林から移り住んでいたトブ・ベアにそのまま殺されたのだ。

 

 

唯一の肉親だった祖父が死に、悲しみにくれるルクルットは祖父の部屋で遺品を整理しているとき、机に丁寧に磨かれ、糸の張られたた合成長弓が置いてあるのに気がついた。昔、祖父が冒険者だった頃に使っていたと話してくれたものだった。

 

良く確認してみれば、糸の張り方が微妙に異なっていた。自分よりも小柄だった祖父に合うようにではなく、長身の自分に合うように微調整が施されていた。近くを漁れば、旅に出るために必要なローブやナイフ、バッグ等まで用意されていた。

 

 

なんてことは無い。結局祖父は、ルクルットが冒険者になる時に必要なものを纏めていてくれたのだ。それを理解したルクルットは泣いた。祖父の不器用な優しさに、そしてその感謝を告げる相手がこの世にいないことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、ルクルットはもう失いたくない。

 

 

 

 

祖父以外誰も応援してくれなかった道を、勧誘目的であったとはいえ見ず知らずの自分を助けチームに誘ってくれた相手を。

 

ここに至るまでに、祖父の手記でしか知らなかった冒険者の知識を教え、補完してくれた相手を。

 

 

 

 

 

「コイツらは死なせねぇ!!!かかってこいやァ!!!!」

 

 

 

友を守る為、叫ぶルクルット。震えるその背だったが、ペテルには十分彼が英雄に思える程、立派なものだった。

 

 

 

 

しかし、現実は甘くは無く、残酷で。

 

 

その叫び声を皮切りに、妖巨人は待ちきれないと言わんばかりの勢いで、目の前の餌に向けて拳を振り上げて―――

 

 

 

 

 

 

「《酸の弓(アシッドアロー)》!!」

 

 

「ギャガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?!!?」

 

 

「………へ?」

 

 

 

唐突にもがき、苦しみ始めた。よくよく見れば、妖巨人の後頭部の辺りからプスプスと煙が上がっている。当然の痛みに暴れる妖巨人だったが、その足元に素早く動く影が一つあった。その影は器用に剣で妖巨人の足を切り裂き体勢を崩すと、ロープで足元を拘束し、すっ転ばせた。

 

 

 

 

 

 

「な、何だこれ!?お、俺の眠れるルクルットパワーが暴走を!?」

 

「なーに言ってんだカッパーの癖して。生意気叩けるってこたァてめーは平気だな」

 

 

 

狼狽えるルクルットの目の前に現れた影の正体―――腰にショートソードを差した、黒髪で目つきの悪い男はペテルに近づくとしゃがみこんで傷を確認する。

 

 

 

 

「おーおーおー、こりゃ深く刺さってんなぁ。まっ、生意気なクソガキにゃお似合いだな。生きてっか?」

 

「……え、えぇ。大丈夫です……」

 

「んならポーションは要らねぇな。あと2人は………ダインもだが、赤髪のクソガキのがやべぇな。ったく、てめぇらこのポーション代はきっちり請求するからな?」

 

 

 

そう言って男が立ち上がる。妖巨人は彼の背後に現れた3人組が手際良く攻撃していき、再生能力を発動させずに討伐していく。妖巨人の断末魔が響く中、ペテルは見覚えのある人影を見つける。

 

 

 

 

「ペテル!!!」

 

「エド!………っぐぇ!」

 

「良かったぁ………生きてた、生きてたァ………間に合ったァ…………!!」

 

「エド、エド……死ぬ、私死にますから………」

 

 

 

抱きついてきたのは、先に送り出した銀髪に褐色肌の少女。ペテルと一番付き合いの長い、エドストレーム。全速力で森を駆け抜けた彼女は、ペテル達との約束通り助けを呼んで戻ってきたのだ。

 

 

 

「ケッ、そのガキが必死の形相だったんだ。間に合ったのも、フォレストストーカーであるこの俺がいたからこそ!!感謝しろよクソガキ」

 

 

 

目の前でお熱い光景を見せられて面白くなさそうな顔をするその男。胸に輝く金色のプレートを見せながら、かつて()()()()()()()()()クソガキことペテルに向けてそう言った。

 

 

 

 

 

「………はい、本当に、助かりました」

 

 

「礼は良いからポーション代とか返せよ。アレ、バレアレ商店のやつだかんな?」

 

 

「了解しました。何時になるかわかりませんが、キッチリお返ししますよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________イグヴァルジさん」

 

 

 

 

目の前に立つ男。エ・ランテル所属の金級冒険者チーム、クラルグラのリーダーに向けて、そう言った。

 

 

 

 

「おーいイグヴァルジ!!終わったぞー!!」

 

「あん?イヤに早えぇな」

 

「コイツ、かなり体力消耗してたみたいでな。再生も遅かったから余裕だったぜ」

 

「なるほどな…………よし!!ならリオ、向こうに転がってる2人を回復してくれ。んで叩き起してとっとと戻るぞ!!」

 

 

 

イグヴァルジの指示を受け、チームメンバーは手早く動き始める。ダインのものよりも強力な回復魔法によって救われたマルムヴィストとダインも連れて、ペテル達はクラルグラと共に森を脱出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《銅級冒険者昇格試験》

・参加冒険者→10チーム50名

・生存者→6チーム22名

 

討伐実績(ペテル達の討伐)

 

・ゴブリン68匹(28匹)

・オーガ14匹(7匹)

・大鬼の指揮官1匹(1匹)

・大鬼の術士1匹(1匹)

・妖巨人1匹(0匹)

 

 

 

以上



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