俺の答えは……
「はぁ……しないよ。何かしたら明日からどんな顔すればいいのかわからん」
「肝心なところでヘタレますねぇ」
「おい、そういうこと言うと前言撤回して襲うぞ」
「カズマはそんなことできませんよ」
なんだまだヘタレと言うか。よーし前言撤回だ。
「だって、実は誠実な人ですから」
撤か……い……。
なんだよ、そんなこと言われたら何もできなくなるじゃないかよ。
「何もしないのは約束する。でも布団には入れさせてくれ。風邪は引きたくない」
そう、この問題は何も変わっていない。毛布でもあればそこらへんで被って丸まるんだが。
「いいですよ」
駄目だよな。さて何かいいものが無いかな……いいって言った?
「ただ、枕が一つしかありません」
ねえ本当にいいの? ああ枕なんて俺は無くても
「なのでこれはカズマが使ってください。私はカズマの腕を枕にします」
えっ?
「ほら少し寄って、横になってください。私が寝られないじゃないですか」
えっ? えっ?
こっちが逡巡してるうちにどんどん話が進み、勢いに押されて布団に入ったところで、右腕に小さな頭が乗っかってきた。なんでこっち向いてんの? 近い近い。
あ、人肌ってあったかいね。いつもおぶってるのになんか新鮮だなー、あはははははー。
「やらしいことしないのなら、少しくらい触ってもいいですよ」
そんな爆弾発言と共に行き場に迷っていた左手が掴まれ、めぐみんの頬に引き寄せられた。
「母の言動で困らせてしまったようなので、少しだけサービスです」
そう言って無邪気ににへらと笑う。その顔を見て、なんか色々と勢いが削がれた。
誘惑じみたことを言ってドギマギムラムラさせてくるけど、こいつは気のいい、仲間の年下の女の子だ。
そう思うと余裕が出てきて、頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてやる。
一瞬抗議の目を向けられたけど、目が合ってそのまま二人で吹き出した。
「寝るか。今日はいろいろありすぎて疲れたよ」
「カズマは特に大変な目に遭いましたしね。ゆっくり寝てください」
おやすみ。
そう言いあって。眠りについた。
くしゅん。
まどろみの中、可愛いくしゃみの音で意識が引き戻される。
「めぐみん寒いか? やっぱり俺出るよ」
小さい布団に二人だ。隙間もできてしまっている。
めぐみんはその声に反応するように少し頭を上げ、寝返りを打って背中からさらに密着してきた。
唖然としていると枕になっている右腕がそのまま抱え込まれ、空いていたはずの左腕もお腹へ引き寄せられる。
こちらの右腕は左手で、左腕は右手で掴まれ身動きが取れない。
「めぐみんさん? 随分と大胆ですね?」
返事は無く、寝息だけが帰ってくる。え、まさかこれ寝相なのか?
「め、めぐみーん」
絡めとられたままで軽く体をゆすり、もう一度声をかけてみる。
「温いのだから布団を取らないでください。それに、妙にすっぽりと収まって落ち着くのです」
布団じゃないです! 完全に寝ぼけてます!
「めぐみん。おい、めぐみん」
返事はない。どれだけ耳をそばだてても寝息しか聞こえない。マジかー。
状況確認。
左腕:右手に掴まれてお腹の上。戻そうとすると引っ張られる。ちなみに気持ちいい。
右腕:左手に掴まれて胸元。そう、胸元。さっきから何か柔らかい感触があるが全力で意識から外している。こちらも動かそうとすると引き留められ、軽く肩が極まる。
体の前面がめぐみんの背中に密着。とても暖かい。
目の前には艶やかな髪。なんだかいい匂いがする。
HAHAHA、これじゃあ仕方ない。腕を無理やり抜くこともできるが、流石に起こしてしまうだろう。
紳士たる俺はそんなことはしないのだ。
なので仕方ない。このまま眠るとしよう。
よし寝よう、さあ寝よう。
今日もいろいろあった。道中の疲れもある。久しぶりのちゃんとした寝床だ。
さーてゆっくり寝よう。
………………
…………
……
寝
れ
る
か
!
この見た目だけは美少女なめぐみんが、最近何やら俺に好意を持っているようなめぐみんが、何故か母親から公認を受けているような形であるめぐみんが、しかもついさっき手を出して良いような発言をしためぐみんが、俺の腕の中ですやすやと眠っているのだ!
ちょっと童貞には厳しすぎる状況ではなかろうか。
父さん、こういう時はどうすればよいのでしょうか?
おとなしく襲っちまえYO! 手を出さないと約束した? 母親の許可は下りてるんだ!
いやいやそれはいけない。めぐみんは俺を信用してこうしているわけだ。
じゃあカズマさんのカズマさんはどうしてくれようか? お尻に当たった状態で時々身動ぎするおかげでだいぶ前からライト・オブ・セイバーって感じです。
エクスプロージョンしたら信用も何もないだろう?
信用はともかく、俺の尊厳が台無しになるな。
もういいじゃん。
ああ、背中ではよくわからない感触がよくわかるな。
もう、ゴールしていいかな?
……はっ、議長! 大変な問題が有ります!
言ってみたまえカズマ君。
は、そのですね……正直、どうすればいいのかわかりません……
なんとおっ?! そうか、我々は童貞! サキュバスのお姉さんにお世話になってはいるものの、経験は皆無!
異議あり! 如何なる男性も最初は童貞だったのならば、わからないなりになんとかなるのではないかっ!
お待ちください皆様! それ以前に大変な問題が発覚しました!
まだ何かあるのかっ!
実は……
ゴクリ
腕が痺れきっていて、既に微動たりともできませんっ!
はい、解散!
眠るに眠れない状況で、何かハイになっていたようだ。気が付いたら夜空が少し明るくなってきている。
「ん……んんっ」
腕の中のめぐみんがぐっと伸びをした。
おぅふ。いかん変な声が出た。カズマさんは健在だ。
一瞬びくりと身震いし、掴まれたままの腕が、確認するかのように振られる。
そしてゆっくりとこちらを振り向いて……わー目が真っ赤だー。
「おい、潰されるか爆裂か、好きなほうを選べ」
「自分でやっといてそれはひどいとおもいます」
一瞬で布団から飛び出しためぐみんは、なにやら怪しげな構えをとりながら恐ろしいことを口走った。
「布団と間違えて俺の腕を巻き込んで、そのまま熟睡したのはお前だろう」
「何を戯言を! 私がそんなことをする訳が……あれ? そんな夢を見たような気がしなくも……。というかカズマ、すごい隈ですが、大丈夫ですか?」
もういつでも落ちれます。しかしエクスプロージョン寸前のカズマさんの言い訳だけはしておかないと……。
「身動きできない状態で目の前にはいい匂いのめぐみんの髪、細いながらも柔らかい体、そしてもぞもぞと当たる小さなおしり。カズマさんは大変なことになってしまいました。最初こそ冤罪でなくしてしまえばいいとか考えましたが、大切な仲間にそんなことしていいのか? とか、俺を信用して体を預けてくれた美少女を裏切っていいのか? とか、色々考えてたら動くに動けず眠るに眠れず悶々とした夜を過ごしました」
「ストップです! ちょっとストップ! やめ、やめろぉっ!」
「脱出も試みましたが気持ち良さそうに眠っているめぐみんを起こしてしまう可能性を考えるとそれもすぐに実行できず、そうこうしているうちに腕が痺れてしまい、もはや動けません。腕の中には魅力的な美少女、本人と母親から許可が出たような状況、もういいんじゃないかという思いと仲間にセクハラ程度ならまだしも一線越えるようなことはいけないという二律背反」
「許可してません! 自分で変なことしないとも約束したじゃないですか! というかもう止めてください、なんか凄い恥ずかしいです!」
ああ、何を言っているかはわからないが目はさらに輝き物凄く怒鳴られている。俺の人生もここまでか。
「めぐみんて」
「な、なんですか?」
可愛いな。うん、こんな美少女を一晩中抱き締めていられたんだ。なんかもうそれでよかったんじゃないかって気分だな。カズマさんは抜刀できなかったが、こんな美少女と同衾できてよかった。
「ちょっと! 黙らないでください! 何か満ち足りた表情で目を閉じないで!」
うおっ、揺さぶらないでくれ。頭がガンガンする。
~~カズマ説明中~~
「じ、事情はなんとなくわかりました。ちょっと私がそんなことをしたとは信じられないのですが、今のカズマに嘘をつく余裕は無さそうですし信じます」
もやのかかる頭でなんとか説明したら、なんとかわかってくれたようだ。
「ご理解いただけたのなら、眠らせてください」
「はいどうぞ、使ってください」
めぐみんがベッドに横になり腕を広げている。捉えようによってはとんでもない仕草だな。しかし今の俺には睡眠が最優先である。その枕、借り受ける。
ぽすりと収まると赤い瞳と目が合う……あれ、これ腕枕じゃね?
「まあ、記憶に無いとはいえ迷惑をかけてしまったようなのでそのお詫びです」
そう言ってそのまま後頭部に手が回される。顔が胸に埋まる形に……いや、埋まるほど無いけど。待ってこれはさっきよりヤバい。小さいながらもふんわりといい感触が……あ、なんかむしろ落ち着……く…………
「おい、今何か失礼なことを……カズマ? 眠ってしまいましたか。ふふ、確かにこの状態は動くに動けませんね。私ももう一眠りしますか。おやすみなさい」
・
・
・
「カズマ、起きてください。そろそろ母が来そうな気がします。ほら、カズマ」
何か聞こえた気がする。目を開けてもなにも見えないが、ふわふわ気持ちいいものに包まれている。
「カズマ? 起きましたか? ちょっ、抱きついてこないでくださいっ」
「『アンロック』。めぐみん、そろそろ起きなさ……あらあらまあまあ」
抱き心地最高。もう一眠り……。
「母よ! なんでもないので出ていかないでっ! カズマ離して! 母よ待ってください。ちょっとお母さん! お母さーん!」
「ゆっくりでいいからね。朝ごはんは取っておくから安心なさい。『サイレント』」
「ああーーーー!!! ちょっとカズマ離してください! そこは腰、ちょ、どこに顔を! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
パァァァァァン!
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その後顔に手形を付けて起きた俺は、何もしていないにも関わらずクズマだのカスマだの不名誉な名で呼ばれることになった。
理不尽だ!
諸君、私はカズめぐが好きだ(以下略
はい、今回1/3くらい体験談
なんかカズマは他人の気がしなくて楽しいです
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