自由な大人がシンジ君にログインしました。 (マヤたんハァハァ)
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土下座から始まる戦い

何でこんなもの書いたんだろう…。


 転生とは―――――。

 あれだろ?前世の記憶を持ってアニメやゲーム、または異世界に生まれ変わるとかいうやつ。

 

 知ってるよ。最近の流行りってやつだよね。いや、流行ってるというか最早廃れていっているのか知らんけどね。そして、今まさに自分に降り掛かっているものらしい。

 

 めちゃ美人な女性のぱいおつちゅっちゅ出来る幸せが俺に訪れている。

 控えめに言っても、最高。母乳は美味しくないがおっぱいは柔らかくて母親はいい匂い。

 めちゃ性欲にガツンとくるレベルだ。イイネ!ベイビーのベビーモスが雄叫びを上げそう。

 

 「シンジ…いい子ね…」

 

 優しげな声音で俺に囁くマミー。俺はシンジという名前らしい。フーン、何かありきたりだなぁと思う。まぁ、そんなことは本気でどうでもいい、このバブみ流石の俺もオギャる他に為す術なし。実にいい母親なのではないだろうか!?

 

 というか転生したーというのは分かったんだが、もう俺の死ぬまでにやって欲しいプレイ第一位である授乳プレイをガチンコ体験してしまったので本当にもう死んでもいい、ゴールでいい。生きているだけで幸せ、という言葉は今のためにあったといっても過言ではない。

 

 いや、違うだろう。これはプレイではない。ただの授乳だ、騙されるな!危ない、あまりの多幸感に本質を見誤るとこだった。授乳プレイとは性欲を満たすものであり、食欲を満たすものでは断じて無いのだ。何を言っているんだ俺は。まだ生まれて間もないので許して欲しい。

 

 さて、俺は朧気だけどシンジという名前では無かったし、普通になんかサラリーマン的な仕事をしていた気がする。あと休日はパチンコとか行ってたと思う。煙草も酒もAVも大好きな大人だったはずだ。ちなみに俺の好みは清楚系OLとかだ。AVに出てる時点で清楚系って何だよって思わなくはないがそれはそれこれはこれ。

 

 そんなこんなで俺は毎日がハッピーデイな日々を送っていた。

 でも何か親父は目つきがヤバかったのでヤク中かその筋のお仕事をやってる人なのだろう。

 せめて生命保険には絶対に加入して置いて欲しい。頼むよパパ。

 

 

 ◆

 

 両親は何かの研究者だったようだ。マンマは違和感がないクールビューティーなのだが、パパンはタマトッタラァの世界で生きる人だと思っていたから意外だった。ただ俺に対する接し方がくっそ下手くそだった。でも俺は大人だからクソみたいな接し方でも生暖かい目で許してやっている。

 

 3歳の誕生日を迎えたある日、本当に突然の不幸だが、マンマが死んだ。俺が見ている目の前で何か初号機とかいうのの起動実験中の事故だった。俺はマンマが好きだったが、事故死であればしょうが無い。泣き喚く程にガキの振りは出来なかったし、パパンも表面上は淡々としてたから俺は特に騒がず受け入れた。

 

 そうしてあれよあれよという間に俺はパパンの「先生」とかいう人に預けられることとなった。

 その後自己紹介されるが、まさかのマンマのお兄ちゃんである。俺の伯父、伯母ということだ。

 衝撃に次ぐ衝撃の展開、パパン育児放棄宣言。これには全俺が泣いた。マジカヨお前…みたいな目でパパンを見たがこちらを一瞥することもなく去っていく俺の父親、背中が煤けてるぜ…。

 

 まぁ別に捨てられたのであれば仕方が無い。金も食料も持たされず山に捨てられたわけでもあるまいし、定期的に養育費も送ってくるらしいのでじゃあいいかと納得した。

 

 しかし他所の子になった俺。元々大人な俺は子供の振りして媚びるのも面倒だし適当に話を合わせるような生活を送る。道端に落ちている錆びた自転車を拾ったりなどしないし、学校でも敵を作らない程度にはコミュニケーションを取った。妙に大人びている俺の扱いに困ったのかプレハブ小屋を建てると伯母さんは「シンちゃんも自分の部屋が欲しいでしょ」と言ってそこに俺を住まわせた。

 

 伯父さん伯母さんグッジョブ。まじでこれには俺テンションアゲアゲである。

 何せ他所の家でめちゃ気遣いの毎日、オ●ニーすら出来やしない。まぁ小学生だが中身が大人なので性欲を持て余していた。道端の自転車は拾わないがエロ本は拾う男子小学生にとって多少音を立てても気付かれることのないこの離れの自室は理想郷と言わざるを得ない。控えめに言っても伯父さん伯母さんには圧倒的感謝で感涙するレベルだ。

 

 まぁ中身が大人だと言っても特に魔法が使えるわけでも無い一般人。何ら変哲も無い普通の生活を営む日々。あぁ、それにしても煙草が欲しい…ッ。あと酒とエロ本とAVを自由に手に入れられるなら俺はもう何もいらない…。儘ならないのが人生である。俺は第二の人生でそれを学んだ。

 

 ともあれ吸えないイライラと酒を飲めないモヤモヤと新しいエロ本を買えないムラムラを筋トレや勉強(高校、大学レベルの参考書)で何とか気を紛らわせていた。

 それはもうイライラとモヤモヤとムラムラの三重苦を振り払うようにストイックに走り込みをしたり、伯母の料理の手伝いをしてお小遣いを貰っても煙草も酒もエロ本も買えないことに絶望し、時間の流れに怨嗟を吐くという日々。

 

 そんな少しおませでイナセな俺は小学生でありながらも告白されるという素敵な出来事にも遭遇するのだが、如何せん守備範囲外だ出直してくれとばかりに断るしかなかった。

 ハッキリ言って女子大生、OL、人妻、未亡人という言葉に俺は興奮できる人間だ。エロいことは認めよう。ああ、俺はエロい人間だ。だが、ガキには興奮しない、そういう性癖でもあるのだ。別にロリを否定しないが俺は興奮しないというだけだ。ホモは帰ってくれないか。

 

 やっとこさ中学へと進学してほっと一息、小学生時代、俺は何故か無性にチェロを習いたくなったが鉄の意志でスルーすることにした。ギターならやっていたかもしれないが唐突にチェロを習いたいとか意味分からないので普通に体を鍛えて普通に勉強をした。上司の命令には媚び諂い、理不尽さえも飲み込むが、よく分からない自分の出世にも関係ない理不尽には徹底的に抗う。それが大人というものなのだ。

 

 中学生となった門出の日、俺はパパンに報告を兼ねて一縷の望みを持って電話をした。

 そう、溜まりに溜まったムラムラが限界突破しそうだったのだ。

 死ぬかと思った。実際早朝に浴室で何度もパンツを洗う羽目になったし、悲しさの余りに完全に内容を全て把握しているエロ本を読んで心を癒やしたりした。

 

 何かパパンに取り次いでもらうのにえらい時間が掛かったが、そんな事はどうでもいい、土下座しても構わない。俺は…俺にはパパンの助けが必要だった。

 

 『…何の用だ。シンジ』

 

 俺のパパンが電話に出る。俺が中学生になったよ☆的な世間話から入ると、おもくそ盛大な溜息と共に言葉を吐く。

 

 『くだらないことで電話をするな』

 

 ごめん。それは俺も思った。ぶっちゃけ俺も中学生になったよ☆とかいう話はどうでもいいし、おめでとうなど言って欲しいとか微塵も思っていない。電話を切りそうな雰囲気に俺は前置きなしに頼みを口にした。女子大生ものかOLもののAVを送って欲しいと――――。

 俺の血を吐くような救いの頼みを聞く前にパパンは問答無用で通話を終了していたようだ。

 受話器からは非情なツーツーという音だけが響いていた。

 …俺は絶対に許さんんんん絶対にだ。と初めて父親という存在に怒りを覚えた。その日こそ俺のパパンとの決別の日であり、まさに怒りの日であった。

 

 俺はその日から自分を律し続けた。誰の救いも得られずにただ只管に性欲を我慢をし続けた。

 目つきは鋭くなり、口調は抑揚乏しく、冷徹とも取れるほど。伯父、伯母は俺がパパンに電話をしたのを境に変わってしまったのを察しているようだった。元々、伯父はパパンのことを良く思っていなかったが俺の変化にパパンが関わっていると知ると、心底辛そうに顔を顰めるのだった。

 

 

 中学も二年へと進級となったある日のことだった。

 いつもは無表情な伯父が珍しく機嫌が悪そうな顔を隠そうともせず封筒を手に、縁側に座っていた俺へと向かってきた。正直心当たりが隠しているエロ本以外には無かった俺は完璧に偽装しているアレが見つかるとはマジカヨやべーと内心冷や汗モノだったがどうやら違ったようだった。良かった。

 

 「シンジ…あの男から、手紙だ…」

 「…親父から?」

 

 伯父があの男と表現するのであればそれはパパンに他ならない。

 俺はどの面下げて何用ぞ。的な表情で手紙を受け取り、封を切る。

 

 手紙は簡潔に『来い』とだけ――――。

 封筒の中には何故かキャバ嬢か風俗の写真かよと思ってしまうような、胸元にマジックで矢印が書かれ、口紅のキスマークがついた、割と美人な長めの黒髪女性の姿を写した写真。好みではない。

 まず清楚さや貞淑な感じが一切しないのがダメだ。一夜限りの過ちなら望む所だが、恋人にしたいとは思わないタイプ。写真には私が迎えに行くからネ♡と書かれているのでこの女性が来るのだろう。パパンの恋人か何かだろうか、クソ、自分はよろしくやってやがったのか…チクショウめぇ。

 

 「…今更、どの面下げて会おうなどと…シンジ、行くことはない。私から断りを――」

 「伯父さん」

 

 いや、待ってくれ。このクソ田舎には正直出会いもなければ、エロ本買うにも本屋が顔見知り過ぎて無理なのだ。パパンのとこは都会らしいし、何の用かは知らんけど用が済み次第に本屋でエロ本を購入出来るチャンスがある。AVですら手に入るかも知れない。ヤバイテンション上がる。

 絶対に取り敢えず小遣いは貰おうパパンに。それでこの憎しみは一旦精算してやらんこともない。

 

 「…行く、つもりか。シンジ…」

 

 俺が鋭い視線で伯父さんを制し、深く頷くと「お前はあの子に似て頑固なところがあるからな」と溜息を吐いた。確かに俺はエロに対しては頑固だ。ママンもエロかったのだろうか…興奮する。

 

 

 

 ◇

 

 第三新東京市地下、ジオフロントのネルフ本部内、作戦指令部。

 剣呑な雰囲気の中、オペレーターの声が反響する。

 

 「正体不明の物体、海面に姿を現しました

  物体を映像で確認!!(メイン)モニターに回します」

 

 光量の少ない最上部に位置する指令部の机に手を組み口元を押さえた男が一人。その隣には傍に控えるように立っている初老の男性が一人。

 

 「15年ぶりか」

 「ああ…間違いない、使徒だ」

 

 初老の男性の少し掠れた声に深く低い声で応える男のサングラスはモニターの光を反射し淡く光を放つ。男は言葉を誰に聞かせるわけでもない様子で続けた。

 

 「来るべき時がついに来たのだ

  人類にとって避けることの出来ない試練の時が……」

 

 

 

 ◆

 

 『本日12時30分東海地方を中心とした関東中部全域に

  特別非常事態宣言が発令されました。

  住民の方々は速やかに指定のシェルターへ非難してください。

  繰り返しお伝えします――――――』

 

 無人の駅構内に響くアナウンス放送。俺は公衆電話が通じないのを確認し、溜息を吐く。

 何?新手のバイオテロとかじゃないよな…ていうか人っ子一人いないんですけど…。

 さて、参ったな。特別非常事態って何なの?何が起こったとか説明して欲しいんですケド―。

 つか、シェルターって何処だよ!?住民以外は知らね、旅行者は死ねってことなの?やだ怖い。

 一応メモ書きのように書かれた指定された待ち合わせ場所は二駅先だ。電車が止まってしまったならタクシーでもと思ったらタクシーすらいない。無人にも程がある。軽くホラーな光景だ。

 

 まぁいいか。二駅歩くしかねぇ…。俺は駅前の階段から腰を上げ足を踏み出す。

 足を踏み出したその瞬間の出来事だった。鼓膜を揺さぶる大気を劈く轟音と共に殆ど目の前を通過していくミサイル。あまりの非日常性に呆然とする俺。

 オゥ!?ここは戦争の真っ最中の世界だったの?マジカヨ…さっさとエロ本買ったら帰ろう。

 ミサイルが着弾し、爆音と閃光が迸る方向を腕で庇を作りながら目を凝らす。

 そこにいたのは周辺のビルよりも巨大な異形な人型の化物。白と深緑のカラーリング、白い部分はまるで材質が骨か何かと思わしき小さな罅が入っている。人の心臓部分辺りにはとても目立つ真っ赤な球体が埋まっていた。あれが弱点だったらどんだけ親切設計な化物なんだろうかと思えるほどだ。

 ワタシハココガジャクテンダヨ!と力一杯全力で表現してくれている。カワイイ。

 ともあれ何だろうアレは、宇宙怪獣とか?SFの世界かここは…マジカヨ…ウケる。ウルト●マンはまだなのかね?どうせあれだろ、通常兵器じゃ倒せないからハヤクキテクレーゴ●ウーとかいう他力本願な世界なんだろう。まぁ倒してくれるなら別に誰でもいいんだが。

 

 巨大生物はモゥ!ブンブンウルチャイノ!!ヤメテヨー!?と言いたげに巨大な腕を振り回し空を薙ぎ払う。プラスチック製なの?と思ってしまうほどに簡単に拉げ墜落していく戦闘ヘリ。

 それは、何とも危機感を欠いた俺の方向へと墜ちて来る。さすがに焦る俺、生まれ変わってからはまだ一度もイタしてはいないのだ。童貞のまま死にたくはない。せめて素人童貞なら妥協点だが、今は―――まだ、死ねないッ!!と思っても正直どうしようもないので普通に突っ立ったままだ。

 前転に無敵時間があるならやるけど、どうせそういう世界じゃないんでと普通に死んだりするんだろう。人間二度目ともなれば諦めも早くなるものだなぁと妙な感心をしつつ迫り来る危機に目を閉じた。

 目の前に迫る爆発音を轟かせた爆風を遮るように滑り込むドリフト音。一台のスポーツカーが俺に横付けするようにドリフトしながら急停止し、運転席のドアが乱暴に開いた。

 

 「お待たせシンジ君!!こっちよ、早く乗って!」

 

 マジカヨ何この人TAXiのダニエル・モラレースか何かなの?

 待ち合わせの場所から二駅跨いだ場所に直ぐ様現れるとかどんなスピードで来たのだろうか。

 まぁ早く乗れと言ってるのだから何も言わずに行動するのが吉だ。

 俺は無言で迅速に車に乗り込む。俺がドアを締める前に急発進する女性、手紙に一応書かれていた紹介であった葛城ミサトとかいう父親の恋人か何かの人。

 

 「しっかりつかまってんのよ!」

 

 非常事態なのは分かるが、ドアが閉まってから発進するくらいの時間はあった。きっと頭が悪い人かアクション映画の見すぎだ。1秒程度で何が変わるのか教えて欲しい。

 俺はそっとシートベルトを装着する。交通ルール以前にコイツはやべぇ奴だと認識したからだ。

 

 「ごめんね遅れちゃって」

 

 え?遅れちゃってと言われても…全然遅れて無いと思うのだが、寧ろ二駅先からどんだけ早いお着きでと言いたいまである。速さが足りないと常に自己研鑽しているのだろうか?そんなに生き急いで何処へ行くのだろう…。

 

 「あ、ハイ」

 

 特に何も応えることも無いと適当に返事をした俺はチラリと助手席の窓に視線をやる。

 先程の巨大生物がミサイルの雨霰で集中砲火を食らっている最中だった。

 ヤメテーヤメテヨー…ドウシテソンナコトスルノ?と言わんばかりの無抵抗っぷりだ。

 

 「国連軍の湾岸戦車隊も全滅したわ…軍のミサイルじゃ何発撃ったってあいつにダメージを与えられない」

 

 何か聞いてもないのに急に説明しだした葛城さん。説明したくてたまらない血筋の人なのだろう。

 

 「…状況のわりに落ち着いてんのね…あれが何か気にならないの?」

 「イッタイナンナンデスカ、アレ?」

 

 「…あれはね、”使徒”よ」

 

 ドヤ顔で答える葛城さん。絶対言いたかったんだろうな。いえ別に気にならないので名前とかどうでもいいんでとは言えずに空気を読んで若干棒読みながらも聞いた俺。

 

 「使徒?」

 「今は詳しく説明してるヒマがないわ…」

 

 いやあるだろ、普通に。名前だけは言いたかったけど詳しく説明出来る程知らないんだろお前。

 何かもう面倒くさい人だった。正直パパンの恋人か何か知らんけどあんまり関わりたくない。

 もう無視しておこう。

 

 「ッ―――マズッ!!!」

 

 葛城さんが焦った声を上げるとフロントガラス越しにミサイルがフラフラとビルの壁にぶち当たりながら落下していく様が見えた。進行方向に落下していくミサイルに葛城さんは急ブレーキをするがどうにもミサイルは直撃しなくとも爆発は直撃しそうな雰囲気だ。

 オゥ!?これは爆死エンドかしら?と覚悟を決めた俺。諦めの早さが売りなのか、俺は…。

 目の前で爆発するミサイルの爆風に煽られ若干の浮遊感と方向感覚の違和感そして衝撃。

 どうやら、命は助かったらしい。現在車は横転しひっくり返っていた。国連軍はシートベルトの有用性と大切さを俺に教えてくれた。

 

 「くっ…もーっ、何処見て撃ってんのよあいつら!…大丈夫?シンジ君」

 「ええ、何とか」

 

 運転席から這い出た葛城さんが俺を助手席から引き出してくれた。

 手の汚れを叩き払っていると、彼女の絶叫が響いた。

 

 「ああ~~~~~~っ!!

  うっそ…ひっど~~~い!!破片直撃のベッコベコ~~~~~ッ

  まだローンが33回もあんのに~~~~っ!!むっかぁ!!

  あっやだっ!?この服高かったのよ!?汚れ落ちないじゃん!!

  きいっグラサンこなごな!!」

 

 保険で直せよ。あと服とグラサンは国連に請求でもしとけよ。

 ちなみに葛城さんの服はピッタリとしたタイトワンピース。キャバ嬢が着たりしてるヤツだ。

 それを踏まえて言っておこう。よくお似合いですね。

 

 溜息を吐きながら視線を地面に向けると急に辺りに影が差し、釣られるように空を見上げるように顔を上げた俺の目に飛び込んだのは、先程の巨大生物が降ってくるように着地を決めようとする光景だった。

 

 「シンジ君伏せてっ!!」

 

 葛城さんが俺を押し倒すように地面へと伏せさせる。フム、おっぱいの感触は中々ですね…。

 目の前に迫る巨大生物にタックルをかまし遠ざけたもう一つの巨大な影。

 それは全身を甲冑に覆われた巨大なロボットのような姿だった。

 

 「…こちら側、か…」

 「…そうよ、シンジ君。これは味方よ」

 

 その巨大ロボは器用にひっくり返った車を元に戻してくれた。中の人に感謝だ。

 

 「いけないッ!もうこんな時間!!こうしちゃいられないわ、早く車に乗って!!時間がないの」

 

 葛城さんはそう言いながら運転席へと移動しつつ俺を車内へと促した。

 

 「できるだけここから遠くへ離れなくてはいけないわっ!!間に合ってよ!?」

 

 スポーツカー特有のエンジン音を轟かせ、車はまたしても急発進する。勿論俺はシートベルトを忘れてはいなかった。

 というか、もう味方のロボット出てきたんだから解決じゃないの?と車窓からチラリと巨大生物との戦闘を覗くと、巨大生物から一方的にボッコボコにしてやんよ状態のロボットの姿があった。

 終わったわ世界。中の人頑張れよ!?そこまでボコボコにされる意味分かんねぇよ!?

 

 しばらくボコられていたロボットがいつの間にか消え、遠目に小さく見える巨大生物から周りに蝿のように飛び回っていた戦闘ヘリや戦闘機が急速に遠ざかっていく―――。

 

 「頭ひっこめて!ショックに備えて!!」

 

 え?何?何が起こるの?主語を入れろよマジで…色々不親切なんだよアンタ…。

 

 激しい閃光、世界から一瞬音が消えた。

 巨大生物を中心にまさに映画のワンシーンのような大規模な爆発が街を飲み込んでいく――。

 轟音と共に爆風の嵐がどんどんこちらへと迫る。

 そして、遂にその暴風の腕に絡め取られるように俺たちの乗った車は玩具のように転がるのだった…。

 

 

 

 ◆

 

 「特務機関ネルフ…」

 「そう、国連直属の非公開組織…私もそこに所属してるの。ま、国際公務員てやつね。あなたのお父さんと同じよ…」

 

 無駄にハイテクな駐車場の昇降装置にような部分に乗った見る影もなくボロボロになった車の中、俺は葛城さんからこの秘密基地みたいな場所の説明を受けていた。

 

 何か警報音のような音が鳴ると、昇降装置のようなものがスライドして動き始めた。

 オー、すごいな。ハイテクやなぁ流石SF世界…はえーし。恐らくリニアみたいな技術だろうか。

 

 「葛城さん」

 「ん?ミサトでいいわよ」

 

 葛城さんがこちらを見ずに化粧直しをしつつ応える。名前呼びなど勿論する気は一切ない。

 

 「…父は何のために呼んだか、聞いてますか?」

 「…それは、お父さんに直接会って聞いたほうがいいわね」

 

 え、もしかしてあれ?私達、今度結婚するの、許してくれる?的な感じですか?

 捨てた息子に結婚許しても何もないだろ。もしかしてこれを機に息子さんと仲直りしたらみたいなこと言ったの?葛城さん…。すげーどうでもいいんですけど…。勝手にしてくれよ。

 

 「苦手なのね、お父さんのこと…」

 「は?普通に憎んでますけど?」

 「…え!?」

 

 当たり前だろ!?俺の魂の叫びを無視してAVは勿論エロ本すらも送ってくれなかったんだぞ…許せるわけがない。寧ろ、お前らがよろしくやってやがったのも相まって憎しみ倍増したから。流石に言わないけどパパンは俺がベイビーの時、ママンが授乳してるとこ凝視してたからな?アイツめちゃおっぱいマエストロのエロテロリストだから絶対。授乳プレイとか強要してたと睨んでる。

 

 「…」

 

 えー…そんなハッキリ言う?何て言えばいいのか分からないんですけど…みたいな、困惑気味の表情を浮かべた葛城さんを尻目に高速で動くリニア板の景色を見つめた。

 トンネルのような場所を抜けると眩いくらいの光が差込み、広い空間が顔を出す。まるで天からビルが生えているかのように上空には強化補強された建物が並ぶ。地上には木々が生い茂り、中央にはピラミッドのような建物が建設されていた。

 

 「オー、ジオフロントとか言うやつだったかな…」

 「そう、これが私達の秘密基地…ネルフ本部よ。世界再建の要…人類の砦となるところよ」

 

 そのいちいちドヤ顔するのどうにかならないのか…アンタ。

 

 

 ◆

 

 未来感をバリバリ感じさせてくるネルフ本部内、何の意味があるのか分からない無駄に長い通路を何度も行ったり来たりしている不毛な時間が秒単位で俺の葛城さんへの好感度を下げていく。

 何でアンタ自分の仕事場で迷子になれるの?新人なの?というか館内マップみたいなの見ながら何で迷えるの?本当にいい加減にしてくれますか?その頭には蒟蒻でも詰まっているのですか?

 ともすれば口からそんな言葉をぶち撒けたくなるのをぐっと堪えて俺は葛城さんに声を掛けた。

 

 「葛城さん」

 「ミサトでいいってば。それで、なーに?」

 「随分歩いてますが、まだ父の所に着かないんですか?」

 「…だ、大丈夫よ。あなたは黙ってついて来ればいいのっ」

 

 大丈夫じゃねぇから話しかけたんだよクソビッチが。大体ここ通るの2回目だぞ、さっきの通路は3回往復したし、もう誰か頼れよ、人いねーのかよ…。

 

 溜息を吐いてどうしたものかと再び足を踏み出したその時、後方からエレベーターの到着音が響き、俺達の背中に女性の声が掛けられた。

 

 「どこへ行くの?二人とも」

 

 振り返った俺たちに目に金髪ボブカットの泣きボクロが印象的な女性が呆れたような表情で立つ姿が映った。

 黒のタイトスカートにパンスト、そして白衣という中々に通な姿にグッドと申し上げたい。

 

 「遅かったわね、葛城一尉…」

 「あ…リツコ……」

 「あんまり遅いから迎えに来たわ。人手も時間もないんだから…グズグズしてるヒマないのよ」

 「ごめ~~~~ん。迷っちゃったのよ…まだ不慣れでさ」

 

 最初から正直に言えやボケ!迷ってたのは分かってたんだよクソビッチが!

 リツコと呼ばれた女性が溜息を吐いて目を閉じこめかみを押さえた。そして再び目を開き、俺と視線が合うと意味ありげに口角を上げて口を開く。

 

 「その子ね。例の3人目の適任者(サードチルドレン)って」

 「どうも。碇シンジです」

 「あたしは技術一課E計画担当博士―――赤木リツコ。よろしく」

 

 軽い紹介を交わし、赤木さんが壁のコンソールパネルを操作しつつこちらを優しげな瞳で見ながら言葉を続けた。

 

 「いらっしゃいシンジ君。お父さんに会わせる前に見せたいものがあるの…」

 「見せたいもの?」

 

 おいまさか、腹違いの弟か妹とかいうオチじゃねぇだろうな…ヤメテヨー。

 

 

 

 ◇

 

 ネルフ本部内、作戦指令部のメインモニターには使徒と呼ばれる存在が悠然と進撃する姿が映し出されている。怒号にも似たオペレーターの声が指令部内に響き渡る。

 

 「司令!!使徒前進!強羅最終防衛戦を突破!!

  進行ベクトル5度修正、なおも進行中!予測目的地、我第3新東京市!!」

 

 「総員第一種戦闘配置」

 

 「はっ」

 

 司令と呼ばれた男、碇ゲンドウは淡々と告げると昇降機へと向かう。

 その途中、初老の男性とすれ違う瞬間ぼそりと声を掛ける。

 

 「冬月…あとを頼む」

 「ああ」

 

 冬月コウゾウ。碇ゲンドウの数少ない理解者の一人であり、ネルフの副司令という肩書を持つ人物は昇降機で移動していく碇を表情の乏しい細い目で見つめていた。

 

 (3年ぶりの息子との対面か……)

 

 冬月はそれがどのようなものになるのか予測が出来なかった…。

 

 

  ◆

 

 『総員第一種戦闘配置。繰り返す、総員第一種戦闘配置』

 

 俺たちは赤木さんに案内されるままに、薄暗い馬鹿でかい開けた空間が広がる場所に設置されていた小型ボートへと乗り込んでいた。建物内の空間に広がるプールのような場所はイメージとしては海上基地といった様相か。そしてその室内に足を踏み入れた時には既に警報音と共に基地内アナウンスが響き渡っていた。

 

 『対地迎撃戦、初号機起動用意!!』

 

 「…ちょっとどういうこと?」

 「初号機はB型装備のまま現在冷却中。いつでも再起動できるわ」

 「そうじゃなくって!レイにはもう無理なんじゃないの?パイロットはどうすんのよっ」

 「……」

 

 葛城さんは困惑した様子で口調を荒げている。それに対して冷静に答える赤木さんだったが、ボートの起動操作をしつつもチラリとこちらを見つめると口を噤んだのだった。

 

 「何考えてんのかしら、司令は…」

 

 葛城さんの言葉に答えるものはおらず、ボートはエンジン音を響かせ動き始める―――。

 薄暗い空間をボートのライトが小さな範囲を照らしながら進む。

 

 「それで、NN(エヌツー)地雷は使徒に効かなかったの?」

 「ええ…表層部にダメージを与えただけ…依然進行中よ。

  やはりA.T.フィールドを持ってるみたいね…。

  おまけに学習能力もちゃんとあって

  外部からの遠隔操作(リモートコントロール)ではなくプログラムによって動作する一種の知的巨大生命体…

  そうMAGIシステム(スーパーコンピュータ)は分析してるわ」

 「それって…」

 「そう、エヴァと一緒」

 

  ボートの駆動音の中で声量を上げて会話をする二人を無表情に眺めていた俺は内心うんざりとした気持ちで一杯だった。確かに俺は見た目は中坊のガキだが、部外者であることには変わりがない。にも拘らずともすれば機密事項をペラペラと話している愚者にしか見えない。何とも前の人生観ではそれはあり得ないもので、正直この世界の有り様に辟易する程だった。

 エヌツー地雷とは先程の爆発であり、巨大生物には効き目がない。A.T.フィールドとやらでダメージ軽減が出来るということだろう。エヴァというのは恐らくだがこちら側のものだと推測するのならば、あのクソみたいに弱いロボットだということが予想出来るし、一緒ということはロボットはロボットではなく生命体、あの巨大生物と同質のものということが言葉端に理解出来る。

 これだけの情報がただの部外者に聞かれることを本当に理解しているのだろうか?

 それとも、このSF世界の住人は説明しなければ死んでしまう生き物なんだろうか?

 どちらにせよ、見せたいものというのも既に予測できるし、嫌な予感と共に俺を呼んだ理由も見えてくるというものだ。本当にウケるんですケド…。

 

 「着いたわ、ここよ」

 

 薄暗いとはいえ、ボートのライトもあって反射する壁に例のエヴァとかいうものの肩部分が既に見えていた。もうやっぱりそうかとしか思えず、驚きすらしない。ボートが船繋りのための場所に停泊し、俺達はボートを降りて簡素な鉄階段を登って暗い通路へと足を進めた。

 

 「暗いから気をつけて」

 

 赤木さんはそういいながら通路の入り口辺りで電源を操作したようだ。

 小気味良い音が響き、辺りをライトが照らし出すと、俺の前には巨大なエヴァの頭部があった。

 何も言えねぇ…。

 

 「…」

 「驚いたかしら?ロボットに見えるかも知れないけれど、厳密に言うとロボットじゃないわ

  人の創り出した究極の汎用決戦兵器…。

  人造人間エヴァンゲリオン…。

  我々人類最後の切り札、これはその初号機よ…」

 

 あまりに予想通りの展開に絶句した俺に赤木さんは朗々と説明してくる。

 どうでもいいけど本当にこの世界の人間は説明好きである。

 ちらりと視線だけを巡らせていた俺には丁度二、三階部分の通路みたいな場所に人影を捉えていた。見た感じパパンだ…相変わらずどこぞの悪徳金貸しのような顔つきにもみあげから連なる顎髭を生やし、ダサいグラサンをしていた。ぶっちゃけ俺が何か言うのを待ってるのだろう。滑稽すぎる。

 

 「…親父殿、あの、気付いてるんで…用件をどうぞ?」

 

 「…久し振りだな、シンジ」

 

 あ、ハイ。声がちょっと震えてるのはどうしてなの?もしかしてババーンみたいな登場したかったのだろうか?だったら馬鹿めと言って差し上げますわ。

 何なんだよお前ら、ドヤ顔と説明をしなきゃいけない人類なの?普通に来ればいいじゃん…。

 そんな高いとこから失礼しますみたいなことしなくても良くない?あと、普通にイラってするからその逆光…久し振りだな、じゃねーから。その髭毟り取るぞコラ。

 

 「私が今から言うことをよく聞け

  これにはおまえが乗るのだ、そして使徒と戦うのだ」

 

 「待ってください司令!レイでさえエヴァとシンクロするのに7ヶ月かかったんですよ!?

  今日来たばかりのこの子にはとても無理です!」

 

 ていうかこの人ただの部下だったの?恋人とかじゃなくて?何であんなアホ丸出しの写真送ってきたんだよ…。普通に勘違いするだろ。部下っぽい写真送れよビッチが。

 

 「座っていればいい。それ以上は望まん」

 「でもっ」

 「葛城一尉!今は使徒迎撃が最優先事項よ。そのためには誰であれエヴァとわずかでもシンクロ可能な人間を乗せるしか方法はないのよ!それともほかにいい方法があるとでもいうの?」

 「……」

 

 食い下がろうとした葛城さんが諌めるように口を挟む赤木さんに押し留められる形で口を噤んだ。

 まぁ何だかんだでいい人なのだろう。ビッチっぽいのは否定しないが。サービスサービスゥとか言いそうな顔してるもん。

 

 「さ、シンジ君。こっちへ来て」

 

 まぁ座ってるだけでいいなら別にいいんだけどさー。でもなぁ…俺、パパンに怒ってるんですケドー。俺の地獄の性欲ムラムラ期間の一年を助けてもくれなかったじゃん。

 どうするかな…まぁ謝ったら許してあげなくもないよパパン。小遣いは別途貰うけどな。

 

 「座ってればいいのか?親父殿」

 「ああ、それにお前が一番適任だ。…いや、ほかの人間には無理なのだ」

 

 ほう、それは良いことを聞いた。じゃあそのクソみたいな上から目線を改めてもらおうか?

 

 「よし、では乗ることに異存はない。が、条件を一つ提示させて貰うよ」

 「…何だ、時間がない。早くしろ」

 

 ほんとお前髭を毛抜で根こそぎ抜いて血塗れにしたろか、アァ?

 

 「―――頭を下げてお願いしろよ、ヒゲェ…」

 

 俺の他所行きではない素の声が広い空間に響き渡る。

 瞬間、辺りの空気が凍ったようにシンとした静寂に包まれた。

 葛城さん、赤木さんは一体何を言ったのかも理解出来ないといった表情でポカンとしているし、近くで作業していた整備員みたいな連中も時が止まったかのように微動だにしていない。

 

 「…冗談を言っている場合ではない。事は一刻を争う状況なのだ。さっさと―――」

 「冗談ではないよ親父殿。俺は交渉の場を用意した。条件を提示してな…飲まないのなら話は終わりだろ。まさか言語が理解出来ないわけではないだろ?さて、返答は如何に?」

 

 いち早く話を切り上げようとしたパパンの言葉を遮るように俺は現実を突き付ける。

 逃げ道などないのだパパン。大人しく「お願い乗ってニャ」と頭を下げろ。

 

 「そうか―――分かった…。ただお前は乗りたくないだけなのだろう。

  ならばお前など必要ない、帰れ…。

  人類の存亡を賭けた戦いに臆病者は無用だ」

 

 まっじかよパパン!!そんなに頭下げたくないんかよ!?ちょ、どんだけプライド高いの!?ウケる!!やべぇ、ひっさびさにテンションがエロ以外で上がったぞォ!!

 OK戦争だパパン。分かってんだぞ、もう一人のパイロットは既に使い物にならないことも、状況がかなり切迫していることもな!!詰んでるだよ、最初から。大人しくさっさとやっとけば良かったと思うことになるが覚悟はいいかねヒゲメガネェ…。

 

 「冬月っ!レイを起こせ!」

 『使えるのかね?』

 「死んでいるわけではない、こっちへよこせっ」

 

 パパンは声を荒げながら通路横のモニターに呼びかけている。ははん、あのクソ雑魚パイロットを呼び出しているのか。でもさっきの会話で『レイにはもう無理』と葛城さんが言っていたからな。正直戦える状態ではないのだろうよ。無駄だぁ…パパン…諦めろォ…。

 

 「もう一度初号機システムをレイに書き換えて再起動よ!」

 

 赤木さんはそのやり取りを見、踵を返して指示を飛ばす。

 さして時間も経過すること無く、俺達のいる通路端の扉が開くとストレッチャーに乗せられた淡いブルーのショートヘアにぴっちりとしたボディスーツを身に着け、あちらこちらに包帯を巻かれた少女が運ばれてきた。まさに満身創痍といった様相。こんな子供を死地へと向かわせるなどなんて酷い大人だと内心爆笑だった。

 

 「レイ……予備が使えなくなった。もう一度だ」

 

 「はい。…くっ……、うう…」

 

 健気ですね…心が痛いよ俺は…。でもなァ、だからどうしたって話なんだよなァ…。

 思い出すなぁ、俺の一度目の人生を。上の命令で融資を打ち切った人間達の人でなしを見る目を。数日後に新聞記事で知る一家心中を。だからといって自己犠牲で何とかなるわけじゃないんだよ。同情や感傷は持っていれば持っているだけ亡者のような人間に絡みつかれて一緒に沈められるだけなんだよなァ。前世での先輩が言ってたよ、まずは自分の感情をコントロールしろと…出来なければこの仕事は止めろってさー。俺は随分と続けられたから向いてたのか知らんがね。

 

 地鳴りのような音が格納庫内に響く。どうやらそろそろ時間的にも余裕は無いみたいだぞ。

 

 「この音は…」

 

 「奴め、ここに気付いたか」

 

 次いで轟音、そしてグラグラと地震のような振動が始まった。

 何かが爆発でもしているかのようなそんな衝撃音と振動は止まること無く続く。

 

 「天井都市がくずれ始めたっ」

 

 葛城さんの言葉を皮切りに格納庫の天井の一部が落下し始める。ライトや細かな鉄管、ケーブルが通路にも降り注ぐ。それは身体を起こそうとしていたレイという少女の近くにも落下した。

 

 「あうっ」

 

 少女はストレッチャーから滑り落ち、通路床で強かに体を打ちつけられる。

 俺はそれを見て、仕方なしに倒れた少女を抱き起こして声を掛けた。

 

 「おーい、大丈夫デスカー?しっかりー」

 

 少女は荒い息を繰り返すだけで、意識が混濁している様子。あらまぁこれは乗ることすら無理じゃねーの?パパン、終了のお知らせ。

 

 「シンジ君…私達はあなたを必要としてるわ。

  でも、エヴァに乗らなければあなたはここでは用のない人間なのよ、わかる?」

 

 俺の背中に何かよく分からん言葉を掛け始めた葛城さん。

 お涙頂戴は通じないんでよろしくお願いしますね。

 

 「あなただってお父さんとの再会を喜び合うために来たんじゃないってことはわかってたんでしょう?…なんのためにここまで来たの?」

 

 エロ本を買うためです。

 

 「お父さんにあそこまで言われて黙って帰るつもり?」

 

 パパンが「お願いニャー乗ってニャー」って頭を下げない限りはそうですが、何か?

 

 「あなたが乗らなければ傷ついたその子がまた乗ることになるのよ」

 

 いや、どう見てもこの子もう乗れないだろ?というか乗っても即やられるだろ。

 

 「自分を情けないとは思わないの!?」

 

 「思わないが?」

 

 振り返って口を開いた俺の言葉が意外だったとでもいうかの如く、彼女の顔は引き攣っていた。

 自分の表情が手に取るように分かる。人を人とも思わない冷酷なものだろう。

 ――――いつもどおりに。

 

 「大体アンタは何を言っているのか自分で分かっているのか疑問だよ。

  俺は一言でも乗らない、乗りたくないと口に出したかな?

  いいや、俺はそんなことは一言も言っていない神に誓ってだ。

  俺はただ乗るに際し条件を一つ提示しただけだ。その条件をくだらないと一蹴したのは誰だ?

  交渉の場を用意したが相手がテーブルに着く気がないなら是非も無し。

  さて、俺が提示した条件はそんなに酷いものだったかそのおが屑でも詰まった頭で考えろ。

  命の危険がある死地へ向かう者へ頭を下げてお願いをするという行為は極めて人道的だ。

  そんな当然あるべき行為を条件に提示するなど本来馬鹿げているとさえ思うね。

  それとも大人が子供に頭を下げるなどプライドが許さないと?

  ああ、それならそれでも構わない。その高慢なプライドと一緒に人類を巻き添えに

  ―――――死ねよ」

 

 その口調には抑揚が無く、感情も無い。ただ滔々と語り部のように告げる言葉だ。

 だからこそ、それは他者の横槍さえも妨げる。

 言葉は感情があればこそ反発を生み、賛同を生む。

 感情のないそれは、ただただ現状を無慈悲に突き付けられる啓示にも似た意思そのもの。

 

 どうしようもない、動かない、事実。それを知れば動くは民意。

 整備員達が一人の言葉を皮切りに口々に叫び始める。

 

 「…もっともじゃないか…。司令官の息子さんが言ってるのは正しいことじゃないか!!頭を下げて出撃してもらうなんて当然のことだ!!」

 「―――そ、そうだ!息子さんに頭を下げてお願いしてくれよ司令さん!俺は死にたくない!」

 「頭を下げるなんて簡単なことだろ!?何でそんなに渋るんだよ!?」

 

 ほら、始まったよパパン…。命の危険が間近に迫ったらこうなるのは分かりきってたのにさ。

 どーげーざ!どーげーざ!どーげーざ!と始まる土下座コール。

 ナァ、最高のタイミングだったろォ?馬鹿だなぁパパン。

 レイちゃんの健気さに絆されてなし崩しに乗ってくれると思ったァ?残念でしたね。

 そんなに怒ってなかったのに、パパンがグズるから悪いんだよー。

 そんなに嫌がられたら、意地でもやらせたくなるのが俺なんだからさァ…ウケる。

 

 

 顔面蒼白に膝を折るパパンに、俺は無慈悲に言い放った。

 

 ――――――ニャを付けろ。と…。

 

 

 「……頼む、シンジ…………乗って……くれ……―――――――――ニャ」

 

 

 

 



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