ありふれた職業の世界最強と歩む機凱少女 (エルナ)
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プロローグ

おかしなところがあれば教えてください。


今、永遠に続く大戦においてかつてないほどの力の衝突が起こっていた。

 

 

1発で大陸を割る森精種(エルフ)の最大の魔法——『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』を18発。

 

 

さらに、それに匹敵する地精種(ドワーフ)の最大の兵器——『髄爆』を12発。

 

 

さらに、龍精種(ドラゴニア)が命を捧げて放つ技——『崩哮(ファークライ)』を8発を重ねた対アルトシュ連合の攻撃。

 

 

そして、星さえ砕かんばかりの最強神(アルトシュ)天翼種(フリューゲル)の攻撃——『神撃』。

 

 

それらの衝突したエネルギーは今は亡きとある機凱種(エクスマキナ)によって設置された24個のエネルギー指向を歪曲させる機凱種(エクスマキナ)の兵装——『通行規制(アイン・ヴィーク)』によって南西方向へ逸れた。

 

 

そして、その地点で待機していた5000機近くの機凱種(エクスマキナ)を飲み込んだ。

 

 

しかし、その瞬間凄まじいエネルギーにより一時的に世界に〝穴〟を開けた。それは、小さな2mほどの穴だったがそれは1機の機凱種(エクスマキナ)を飲み込んだ。

 

 

その機凱種(エクスマキナ)は世界の狭間を流れながらわずかに届く通信を聞いていた。

 

 

「——『設計体(ツアイヘン)』より——ザザッ——

《72.8%》で再現——ザザッ——同期します」

 

 

ザザッザザッ

 

 

「今ので……こいつを——ザザッ——機凱種(どうぐ)が……()()()?」

 

 

ザザッザザッ

 

 

「【報告】それ——ザザッ——向かいます。『意思者(シュピーラー)』リク——どうか、ご武運を……」

 

 

ザザッザザッ

 

 

【——『全連結指揮体(アインツィヒ)』より——】

 

 

【ユリウス/カーフマ/——ザザッ——ユーバ/ヴァル/ヴィエ——ザザッ——残存『全連結体(グヒュステ・クラスタ)全91——ザザッ——

 

 

【——ザザッ——遺志体(プライヤー)シュヴィに賜りしこの魂を賭して——ザザッ——神霊種(オールドデウス)アルトシュの『神——ザザッ——機凱種(エクスマキナ)らしくない発言を以って——ザザッ——

 

 

【——命無く往き、命無く征き——命在りて逝こう——以上(アウス)

 

 

【【【(ヤヴォ)——ザザッ——

 

 

 

ザザッザザザザッ

 

 

「——『解析体(プリューファ)』から——ザザッ——天翼種(フリューゲル)の『空間転移(シフト)』原——ザザッ——

 

 

『——ザザッ——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』設計完了、同期する』

 

 

ザザッザザザザッ

 

 

「——許す。名告るがよい」

 

 

ザザッザザザザッ

 

 

 

「——()()()()()()()()()()()()()()など何の——ザザッ——

 

ザザッザザッ

 

 

【全機。思考を——ザザッ——生き残ればこの仮説を再検討せよ】

 

 

【——ザザッ——毎秒ごとに事象変動、法則転換さえ——ザザッ——

 

 

【その度、()()()()()()()——ザザッ——

 

 

存在(きがい)するなら破壊(たいおう)する——それが機凱種(われら)だ。各機健——ザザッ——

 

 

「さあ、我が『神髄』——戦の真髄を世に示すがよい、我が愛おしき『最弱(てんてき)』よ——‼︎」

 

 

その通信を最後にその機凱種(エクスマキナ)は意識を失った。

 

 



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第1章
第1話


その機凱種(エクスマキナ)は自分を襲った衝撃によって意識を取り戻した。機凱種(エクスマキナ)である自分が気絶していたことに驚きながら自分が落ちてきたと思われる穴は戻り、元の世界へ戻ろうとした。しかしその時に気が付いた。ここにはまったく精霊が存在しないことに。

 

 

その事実に気づいた瞬間から即座に精霊以外の方法で稼動できるように自己を作り替えた。

 

 

わずか30秒で完了し、再び戻ろうと上を見上げたが、すでに穴は消えていた。

 

 

すぐに元の世界に戻るのを諦め、とりあえず情報収集をしようと辺りを見回した。

 

 

どうやら何処かの森らしい。さらに空が青く白いものがあった。おそらく太陽だと機凱種(エクスマキナ)は判断した。

 

 

まずは近くの知的生命体と接触しようと飛んだ。その時に服を着ていないことに気が付いた。その時に(はずかしい)を感知し、白いワンピースを出した。まだ感情を制御できないことを理解したがどうしようもないと悟り飛翔した。

 

 

しばらく飛んでいると爆音や金属音、人の声が聞こえてきた。そちらは向かうと、薄橙色の肌の人間と思われる種と黒い肌の人間と思われる種が争っていた。

 

 

それらは魔法と思われるものを使っているのを見て機凱種(エクスマキナ)は驚愕した。またそれらからは精霊と酷似したエネルギーを持っていてさらに疑問が増えた。

 

 

さらに観察を続けるとその薄橙色の肌の人間と思われる種と黒い肌の人間と思われる種はそれぞれで保有するエネルギーの量が黒い方が多く、数が薄橙の方が多いことがわかった。

 

 

種族が違うのかも知れない、と機凱種(エクスマキナ)は考えどちらの種に接触するか思案する。

 

 

そして劣勢の方と接触することに決めた。理由は人間なら弱いはずだという人間に喧嘩売っているかのような理由だ。

 

 

機凱種(エクスマキナ)がその結論を出した時にちょうど薄橙色の方が劣勢になり出した。どうやら黒い方は個の力が強いだけでは無く、獣も使役するようだ。

 

 

どちらに接触するかが決まったので黒い方を殲滅しようと武装を展開した。

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)』」

 

 

天翼種(フリューゲル)の『天撃』を模倣した兵器だ。それを5%程の出力で、薄橙色の方に被害がいかないように照準し、放った。

 

 

下で争っていた人間と魔人は突如上空に紫色の光が出現したことに驚愕した。さらにそれが一条の光となり降り注いだことにさらに驚愕し、それに照準されている魔人はとっさに防御魔法等を出したが、まったく役に立たず魔人、魔物合わせて1000近くいたのが7割以上が消し飛んだ。

 

 

残った魔人達は我先にと逃げ出した。機凱種(エクスマキナ)は追撃を加えず、地面に降り立った。

 

 

人間達は何が起こったのかわからないように放心していたが、機凱種(エクスマキナ)が降り立ったことで正気に戻った。しかし、その容姿を見た時に息を呑んだ。

 

 

肩まで伸びた太陽の光を反射しているライムグリーン色の髪。仄淡い焔が揺れるような魅惑的な蒼白い瞳。輝くような白い肌。白いワンピースを押し上げる豊満な胸。

 

 

神々しささえ感じさせる容姿を持つ、10代半ばと思われる少女だったからだ。頭部や所々に機械があったり、尻尾のような2本の配線があったりはするが……

 

 

しかし、流石にこの軍を指揮する者はわずかに放心したが、すぐに正気を取り戻し、質問した。

 

 

「……君がこれをやったのか?」

 

 

「【肯定】当機の所有する兵器——『偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)』」

 

 

「……君は何者なんだ?」

 

 

「【解答】異世界の存在。機凱種(エクスマキナ)

 

 

「異世界?そんなものが存在するのか?」

 

 

「【肯定】虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)、髄爆、崩哮(ファークライ)、神撃の衝突したエネルギーによって世界に穴が開いたと推測」

 

 

「……その穴を通って来たと?」

 

 

「【肯定】正確には来てしまった」

 

 

「君の言ってることはにわかには信じがたいがこれだけは聞かせて欲しい。君は敵か?」

 

 

「【否定】この世界の情報が欲しい。【要求】沢山の本がある場所を教えてほしい。加えてこの世界の偉い人に合わせて欲しい」

 

 

指揮官である男はしばらく考えていたが、この少女と敵対するのは良くないと考え、

 

 

「……わかった。俺たちの国に案内しよう」

 

 

周りの人達がザワザワしたが機凱種(エクスマキナ)は気にせず、

 

 

「【感謝】ありがとう。じゃ、行こ?」

 

 

「ああ、俺はメルドだよろしく。君は?」

 

 

「【謝罪】機凱種(エクスマキナ)に名前は無い。ごめんなさい」

 

 

「そ、そうか。じゃあ仮にエクスと呼ぶことにするよ」

 

 

「【了承】エクスマキナだからエクスは安直だけどわかった」

 

 

「君は意外と毒舌なのか?」

 

 

無表情のエクスと苦笑いしているメルドを先頭に歩き出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

数日歩き、ついたそこは大きな山の麓にある大きな街だった。

 

 

「ここがハイリヒ王国だ。これから案内するのはここの王宮だ」

 

 

エクスは頷き、先を促した。

 

 

王宮に着くとエクスは玉座の間に案内された。

 

 

「魔人族討伐部隊帰還したしました!」

 

 

メルドは扉の前で大声でそう言った。すぐに「入れ」と返事があり、メルドは扉を開けた。

 

 

中には玉座に座って待つ、覇気と威厳を纏った初老の男がいた。さらに隣には王妃と思われる女性と金髪碧眼の10歳前後の美少年と14.5歳の美少女が控えていた。

 

 

そして他にも玉座までのレッドカーペットの左側には、甲冑や軍服らしきものを着た人たちがおり、右側には文官と思われる人達がざっと30人以上いた。

 

 

普通の人ならば緊張する場面であるがエクスは普通でも人でもないため無反応である。

 

 

周りの人達はエクスを見て誰だ?と疑問に思っているようだ。見惚れている人も多々いる。玉座に座ってる人が、

 

 

「その少女は誰だ?」

 

 

メルドに聞く。

 

 

「はッ、そのことも含めまして報告したいことがございます」

 

 

そして、メルドは魔人族が魔物を使役していたことやエクスのことを話した。

 

 

「ほう。やはり魔人族共は魔物を使役出来るようになったか。そして君がそれらを撃退したのは事実かね?」

 

 

「【肯定】当機がやった。楽勝」

 

 

「そうか……できれば君の話を聞かせてくれるかね?」

 

 

「【肯定】当機は異世界の機凱種(エクスマキナ)という種族で——」

 

 

そしてエクスは玉座の間にいる全員に自分が元いた世界のことについて説明した。それを聞いた全ての人が驚愕し、疑ったがこの世界で同じことができるのはそれこそ神しかいないため信じるしかなかった。

 

 

「……なるほどわかった。君の話を信じよう。それで本が見たいんだったかな?」

 

 

「【肯定】この世界のことを知りたい」

 

 

「わかった。図書館に案内させよう。……それで君の力についてだが、我らに協力してから無いだろうか?魔人族共への戦力として」

 

 

「【拒否】戦う理由がない。しかしこの街に攻めてきた時は対応する」

 

 

「……わかった。それでいいだろう。」

 

 

王——エヒリドとしては魔人族共が魔物を使役しているため戦力が欲しいところではあるが、敵対してしまうことはしたくはないのでエクスの要求を呑むことにした。

 

 

こうして、エクスは王にこの国の滞在を許可してもらい、それからずっと図書館に入り浸り本を読み漁った。

 

 




次回から主人公達が出ます。


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第2話

エクスがこの世界に来てから1週間が経った。あれからエクスはハイリヒ王国の図書館の本を全て読み、時々他の街にも行ったりして本を読んだが、異世界へ行く方法はわからなかった。

 

 

しかし、エクスは元々あまり期待はしていなかった。メルドや王達が『異世界』という言葉に半信半疑だったことから異世界という考え方がほとんどないのだろう。

 

 

だが、先日メルドが興味深い話をしていた。なにやらエヒト神とやらのお告げで異世界から勇者を召喚されるらしい。

 

 

この世界の神はどうやらエヒト神と魔人族が崇めてる神しかいないらしい。神霊種(オールドデウス)とは根本的に違うようだ。

 

 

さて、異世界からの召喚と聞いてエクスはとても興味を持っていて、王に勇者に会いたいと言うくらいだ。王は、玉座の間で待つことを許可した。

 

 

そして、今日が召喚される日だそうなのでこれから玉座の間へ転移するところだ。しかし、その前に図書館にメルドが入って来た。そしてメルドはエクスに近付き、話しかけてきた。

 

 

「よぉ。……相変わらず図書館の一角を占拠してんのか」

 

 

エクスは案内された図書館の一角を占拠し、他の街からパク——借りて来た本を置いてある。図書館の司書が何度注意しても聞かず、一度無理やり退かそうとしたが大男を手加減を誤り、半殺しにしてからもう誰も注意しなくなった。

 

 

「【質問】何か用でも?」

 

 

「迎えに来たんだよ今日が召喚の日だって言ったろ?」

 

 

「【開示】問題ない。当機の持つ武装——偽典・天移(シュラポクリフェン)で既知座標へ転移できる」

 

 

「……ホントにデタラメだな。ていうかいきなり現れたら驚くだろ。歩いて行くぞ」

 

 

「【正論】【了承】それじゃ、行こ」

 

 

「おう」

 

 

2人?は王宮へ向かって行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

玉座の間では王を始め、ほとんどの人が揃っていた。エクスはメルドの隣で勇者達が来るまで待つことにした。その間エクスを見ている者がたくさんいたが、エクスは無関心を貫いた。

 

 

しばらく待つと、勇者一行が来たことを大声で告げられ扉が開けられた。先頭にいた、70代くらいの老人が悠々と扉を開ける通り、その後ろに居た者達が一部の者以外は恐る恐ると言った感じで入ってくる。

 

 

エクスはその者達を観察して、自分の世界の出身ではないことを悟った。

 

 

その者達はエクスを見ると見惚れるがやはりエクスは無関心を貫いた。

 

 

それからは王を始めとした王妃や王子、王女、そして騎士団長など地位の高い者が自己紹介をした。

 

 

その後は晩餐会だったがエクスは食べないので図書館へ戻り、次の日の訓練の時間まで本を読んで過ごした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日、訓練所へ転移したがまだ誰も居なかった。エクスは知らないが今、勇者達は朝食を食べているところだ。

 

 

しばらく待っているとメルドが勇者達を連れて歩いて来た。

 

 

「おっ、早いな」

 

 

「メルドさんこの人誰ですか?」

 

 

サラサラな茶髪と180cm近い身長の勇者達の1人——天之川光輝(あまのがわこうき)がメルドに問う。

 

 

「ああ、こいつはお前らと同じ異世界の住人だ。人間ではないみたいなんだが……よくわからん!」

 

 

「【紹介】初めまして、当機は異世界の種族、機凱種(エクスマキナ)、個体識別番号Ec321Kp2O46a2……仮称エクス」

 

 

「異世界!つまり貴方は世界を渡れるのですか⁉︎それができるなら私達を元の世界に戻せませんか⁉︎」

 

 

ボブカットの髪と150cm程の身長の勇者達の1人——畑山愛子がそう叫ぶ。

 

 

「【謝罪】当機が此方の世界に来たのは事故。凄まじいエネルギーによって世界に一時的に穴が開きそこを通って来てしまった」

 

 

「そう、ですか」

 

 

愛子は目に見えて落ち込んだ。

 

 

「こいつは元の世界に戻るために同じ異世界の住人のお前らを観察したいらしい」

 

 

「エクスマキナ?ってどんな種族何ですか?」

 

 

「【解答】種そのものが機械の種族」

 

「さぁ、話はそのくらいにして、訓練を始めるぞ」

 

 

そう言ってメルドは勇者達にステータスプレートを配り、その説明を始めた。

 

 

ちなみに機凱種(エクスマキナ)の血と呼べる除染液では反応しなかった。

 

 

どうやら勇者達のステータスはかなり良いようだ。メルドが驚いている。

 

 

しかし、その中に弱い者が居たようだ。メルドが微妙そうな表情をしている。さらに勇者の何人かが騒いでいる。それを愛子が静め、自分のステータスプレートを見せ、励まそうとするがそれを見た、その勇者は遠い目をした。その勇者に1人の勇者が声を駆け寄り声をかける。

 

 

エクスはその勇者に興味を持ち、その勇者の目の前に転移した。文字通り、顔が触れそうな距離に。

 

 

「うあ⁉︎な、何ですか⁉︎」

 

 

それには答えず、顔を真っ赤にして後ずさる勇者——南雲ハジメをジーーーと音が聞こえそうなくらい見つめる。

 

 

「な、何なんですか⁉︎離れてください!」

 

 

ハジメに駆け寄っていた勇者——白崎香織(しらさきかおり)が叫ぶ。それすら無視して、ワンピースをつまみ、一礼して、言った。

 

 

「【通達】これからあなたの側にいる。よろしく」

 

 

「え⁉︎何で僕なの⁉︎」

 

 

「【解答】この中で1番興味深いから?」

 

 

「いや僕に聞かれても……」

 

 

「駄目ですよ!何でハジメ君じゃないきゃいけないんですか⁉︎」

 

 

しかし、香織の言葉は無視して、

 

 

「【質問】名前は?」

 

 

「え、えっと南雲ハジメです」

 

 

「無視しないで質問に答えて!」

 

 

「【理解】ハジメこれからよろしく」

 

「無視するなぁぁ!」

 

 

エクスにぎゃあぎゃあ言っている香織とそれを無視するエクス、そしてクラスメイトの視線を感じながら。ハジメはこれからのことを考えてため息を吐いた。

 

 




偽典・天移(シュラポクリフェン)真典・星殺し(ステイル・マーター)はきちんと同期しています。
あと、個体識別番号は適当です。


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第3話

ハジメが自分が最弱であることを突きつけられた日から2週間が経った。

 

 

現在、ハジメは訓練の休憩時間を利用してエクスが一角を占拠している国立図書館にて調べ物をしている。

 

 

ハジメはこの2週間の訓練で成長するどころか役立たずぶりがより明らかになっただけだったため、力が無い分、知識と知恵でカバーできないかと訓練の合間に勉強しているのである。

 

 

そんなわけで、ハジメは“北大陸魔物大図鑑”という大きな図鑑を暫く眺めていたのだが……突如、「はぁ〜」と溜息を吐いて図鑑を机の上に放り投げた。ドスンッと重い音が響き、偶然通りかかった司書が物凄い形相でハジメを睨む。

 

 

ビクッとなりつつ、ハジメが急いで謝罪する前に、ハジメの隣に居たエクスが絶対零度の視線を司書に向けると今度は司書がビクッとなり、急いで謝罪した。

 

 

ハジメは理不尽を被った司書に心の中で同情——謝罪をした。

 

 

そして、ハジメは自分の役立たずぶりや無能さ()()()溜息を吐く原因に目を向けた。

 

 

この2週間エクスは文字通りどこにも付いてきた。風呂やハジメの部屋などは全力で拒否したので来ないが、それ以外は食事中、訓練中、今のように勉強中にも付いてきて、こちらをじ、と見つめてくる。

 

 

これによりクラスメイト達(特に男子)の視線が痛い。さらに香織がエクスに突っかかり、エクスがそれを無視する、という一連の流れが日常と化していた。光輝がエクスに注意したこともあったがそれすらも無視していた。

 

 

まぁ〜エクスがどこにもくっついてくるおかげで直接イジメられることはないがエクスのような美少女が近くにいると年頃の男子としては辛い。さらにクラスメイト達の視線も辛い(大事なことなのでry)

 

 

まだハジメが強ければクラスメイト達も納得できたかもしれないがハジメは最弱である。クラスメイト達も何であんな奴が、と思っているに違いない。僕もそれ思ってます、と声を大にして言ってやりたい。

 

 

ハジメのステータスは2週間みっちり訓練して2しか上がっていない。さらに魔法適性もないことがわかり、近接戦闘も魔法も無理。頼みの天職・技能の“錬成”は鉱石の形を変えたりくっつけたり、加工できるだけで役に立たない。

 

 

一応、頑張って落とし穴や出っ張りらしきものは地面に作ることは出来るようになったし、規模も大きくなりつつあるが……対象に直接手で触れなければ効果を発揮出来ない術であるため戦闘で役に立たないことに変わりはない。

 

 

「【注意】訓練の時間が迫っている。遅れるよ?」

 

 

「えっ⁉︎あ、ありがとう」

 

 

急に話しかけられたことに驚きつつ、お礼を言い、図書館を後にしようと立ち上がったところでまたエクスが声をかけてきた。

 

 

「【開示】当機は少し用事がある。先に行ってて。すぐ行く」

 

 

「わ、わかった」

 

来なくていいです、と言いたいところだがぐっと我慢して訓練施設へ向かって行った。

 

 

さて、残ったエクスの用事というのは借りてた本を返すことだ。ほかの街や村から無断で——もしくは無理やり——本を借りてるエクスだがきちんと返してはいる。そのついでに他の本を借りてはいるが……

 

 

しかし最近はハジメを観察していたせいであまり返す時間がなく、少し本が溜まっているのでそれを一気に返すのだ。

 

 

まぁ〜残っている本は5冊だけでその5冊を借りたところが少し面倒なところなので放置していただけなのだが……。

 

 

その5冊を借りたところはまず【ハルツィナ樹海】の亜人たちから2冊。彼らは人間から差別を受けているため霧が深かったり、魔物が出たりする樹海に引きこもっているのだが、そんなもの機凱種(デタラメ)には意味がなく、何度か本を借りているのだが、他の街などと比べて抵抗が激しく、面倒なのだ。

 

 

もう3冊を借りたところは【ヘルシャー帝国】、実力至上主義を掲げている国なのだが、ナンパしてきた奴をボコったらそいつがそこそこ強い奴だったらしく、国から勧誘がきて面倒なのだ。

 

 

「【典開(レーゼン)】——偽典・天移(シュラポクリフェン)

 

 

そんなわけで自業自得ではあるが少し憂鬱になりつつまずは【ハルツェナ樹海】に転移した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

さて、場所は変わって訓練施設から少し離れた死角になっている場所。。現在、ハジメは檜山大介率いる小悪党4人組(ハジメ命名)に稽古という名のリンチにあっていた。

 

 

エクスが近くに居たせいでハジメに何も出来ず、鬱憤が溜まっていたようだ、魔法や打撃でハジメを思う存分痛めつける。

 

 

ハジメは子供の頃から人と争う、人に敵意や悪意を持つのが苦手で誰かと喧嘩しそうになった時はいつも自分が我慢していた。誰かと喧嘩するより自分が我慢した方がいいと考えてしまう。だから抵抗しない。

 

 

しかし、そろそろ痛みに耐え難くなってきた頃、突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

 

 

「何やってるの!」

 

 

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく、香織の親友である八重樫雫(やえがししずく)と光輝、そして光輝の親友である 坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)もいる。

 

 

そこで檜山が弁解をするが、香織はそれを聞かず、蹲るハジメヘ駆け寄る。

 

 

檜山達は光輝達に三者三様の言い募られ、誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法でハジメが徐々に癒されていく。

 

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

 

苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

 

「いつもあんなことされてたの?それなら私が……」

 

 

何やら怒りの形相で檜山達が立ち去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

 

「いやそんないつもってわけじゃないから!大丈夫だから、ホント気にしないで!」

 

 

「でも……」

 

 

「大丈夫。いつもはエクスがいるからさ」

 

 

そう言ってハジメは自分の失態を悟った。何故なら香織の顔が暗くなったからだ。

 

 

「へぇ〜、そういえば今、居ないね。どうしたの」

 

 

笑顔なのにとても怖い顔でそう聞かれ、顔を引きつらせながら答える。

 

 

「え、えっとなんか用事があるらしいですよ?」

 

 

そう答えた直後、エクスが突然現れた。

 

 

「【帰還】今帰ったよ。……?【質問】何かあった?」

 

 

「え、えっと。何もなかったよ」

 

 

何て最悪のタイミングで来るんだと思いながら答える。

 

 

「【解析】嘘を感知。【質問】何があった?」

 

 

何故バレた、と思いつつどう答えるか考える。

 

 

「イジメられてたんだよ。君が居ない間にね」

 

 

考えていると、トゲのある言い方で香織が答える。

 

 

「【理解】今されたということは当機がいない時を狙われた?【解決】当機がずっとハジメの居る【要求】だからハジメそろそろ部屋に入れて?」

 

 

「だ、駄目——」

 

 

「だ、駄目に決まってるでしょ‼︎男の子の部屋に女子が何て……」

 

 

ハジメが答える前に香織が答える。

 

 

「……【解答】当機は機械。見た目だけで性別はない」

 

 

「えっ、えっとそういう問題じゃないの!」

 

 

返答があったことに驚きながら香織はなおも突っかかる。

 

 

「訓練が始まるよ‼︎さぁ行こ!」

 

 

バチバチと火花を散らしながら睨み合う2人にそう言いながらハジメは訓練施設に戻る。それを見て他の者達も訓練施設へ向かう。

 

 

ハジメは訓練施設に向かいながら今日何度目かの溜息を吐いた。本当に前途は多難である。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルドから伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルドは野太い声で告げる。

 

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 

 そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾でハジメは天を仰ぐ。

 

 

(……本当に前途多難だ)

 

 




エクスの口調が難しい……。


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第4話

その日の夕食時。クラスメイトからの視線に耐えながら食事をしているハジメにエクスが唐突に話しかけた。

 

 

「【質問】迷宮にはついていかない。それでもいい?」

 

 

「えっ、いいけどなんで?」

 

 

「【解答】ハジメの戦闘能力は見なくて問題ない。なのでこの機会に済ませておきたい用事がある」

 

 

「そうか、見なくて問題か……ハハ……」

 

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ!」

 

 

エクスの言葉にハジメが傷つき、それを見た香織が言う。

 

 

「【訂正】ハジメの戦闘能力に興味がない」

 

 

「きょ、興味が、ない」

 

 

訂正したがそれでもダメなようでエクスが首を傾げる。さらにその声は他のクラスメイト達にも聞こえており、クラスメイト達はクスクスと笑っている。

 

 

「ギャハハ‼︎興味ないってよ弱すぎてハハハハ‼︎」

 

 

ハジメをよくいじめている檜山が大声で笑う。

 

 

「檜山、仲間を笑うのは良くないんじゃないかな?それにエクス、いくら南雲が弱くてもそんな言い方はないんじゃないかな?」

 

 

光輝が諭すように言う。

 

 

「【訂正】勇者達の戦闘能力には興味がない」

 

 

「な、なんで?」

 

 

ハジメがクラス全員の疑問を代弁する。

 

 

「【解答】勇者達の——【訂正】この世界の住人の戦闘能力は総じて低い。最強と最弱の戦闘能力の差は機凱種(エクスマキナ)から見れば誤差の範囲内」

 

 

そうだろう、12と200の人がいたとしても1000000の攻撃をすればどちらも即死することに変わりはないのだから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日エクスはハジメの見送りをした後空を飛んでいた。

 

 

エクスはこの2週間でこの世界の戦闘能力が激低なことを理解していた。——実際はエクスの世界の戦闘能力が高すぎるだけなのだが……。なので全く興味がない戦闘を見ているより本を()りに行こうと思ったわけだ。

 

 

エクスの目的地は2つ、1つは北の山脈地帯の奥だ。そこは人がいない未開の地とされているがもしかしたら何かあるかもしれないと思い調べに向かうのだ。そしてこの予想は大当たりし、竜人族の里を見つけて、そこで書物を略奪——借りるのはまだ先の話。

 

 

目的地、2つ目は魔人族の領地だ。これには特に理由はなく、単に人間族の知識から蓄えるか、という気まぐれである。人間族の主要都市の書物はあらかた読み漁ったので次は魔人族の知識を、というわけなのだ。

 

 

まずは、北の山脈地帯から行こうとその方向へ飛翔した。

 

 

ちなみに、この世界には精霊がないため、『制速違反(オーヴァ・ブースト)』を使えないが音を置き去りにして飛行するぐらいは出来る。

 

 

そして、エクスは色々あって1ヶ月近く、足止めを喰らった。用事を切り上げ、転移すればすぐに帰れたが、別に急いで帰る必要はないと思い、しなかった。

 

 

エクスは後に後悔という感情を体験することになる……

 

 



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第5話

エクスは一角を占拠している国立図書館に転移した。まずは借りてきた本を置いていこうと思ったのである。そして、本を置いた、エクスは訓練施設へ転移した。今の時間は訓練している時間帯だからだ。

 

 

訓練施設へ転移したエクスは首を傾げた。勇者達が13人しかいないのだ。ハジメを始めとした(決してダジャレではない)他の勇者達はどこへ行ったのだろうか?

 

 

その疑問を感じながら、勇者達を鍛えているメルドに近づいた。エクスに気が付いたメルドや勇者達は気まずそうな顔をした。そのことにも疑問を感じながらメルドへ話しかけた。

 

 

「【質問】ハジメや他の勇者は?」

 

 

「え、えっとな。エクスよく聞いてくれ。」

 

 

メルドが言うには1人の勇者が罠に引っかかり、それでかなり下の階層に転移させられたらしい。そこで強力な魔物に出会い、それとの交戦中に誰かの魔法が誤射し、ハジメにあたり、奈落へ落ちてしまったらしい。

 

 

それを聞いたエクスは元々無表情だったが能面のような顔になった。

 

 

「【質問】誰が罠にかかったの?」

 

 

元々は起伏の少ない声だったが、今は氷のような冷徹な声に変わった。

 

 

「い、いやすでに謝罪してそれは終わって——」

 

 

「【警告】次はぐらかせば勇者を皆殺しにする。【質問】誰が罠にかかったの?」

 

 

それは本気であることを分からせる冷たい声だった。エクスの実力を知っているメルドは本当に皆殺しにされると思い、話した。

 

 

「……檜山だ」

 

 

それを聞いたエクスは檜山を睨みつけた。実は檜山の名前は知らなかったが話の間やメルドが名前を出した時に心拍数が急上昇したためわかった。

 

 

「ご、ごめんなさ——」

 

 

エクスに睨みつけられた檜山はその目に凄まじい憤怒がこもっているのを見て、クラスメイト達にやった全力の土下座で許してもらおうとした。

 

 

しかし、その前にエクスは檜山の腹を殴った。それだけ聞くと大したことないように思えるだろう。しかし、殴ったのは機凱種(エクスマキナ)。戦闘特化機体である『戦闘体(ケプンファ)』の出力の32%未満である『解析体(プリューファ)』で妖魔種(デモニア)(人間を人撫でで殺せる種族)を素手で殴り倒せ、身長の10倍の鉄扉を持ち上げられる。

 

 

そして、エクスは『戦闘体(ケプンファ)』である。もちろん手加減したが、檜山は吐血した。

 

 

「なッ⁉︎何をするんだエクス‼︎大丈夫か⁉︎香織、早く治してくれ‼︎」

 

 

女子達は悲鳴を上げ、男子達は息を呑み、メルドは叫んだ。香織はメルドの言葉に檜山に駆け寄り、治癒魔法をかけた。

 

 

エクスは涙と鼻水と血で酷い顔をしている檜山を冷たく見下す。それを見た檜山は漏らしそうなほど怯えている。

 

 

「【質問】魔法を誤射したのは誰?」

 

 

「……わかっていないんだ。国王より勇者達に詮索を禁じられたのだ」

 

 

エクスはそれを聞き、周りを見回した。すると檜山が明らかに反応した。エクスは理解したが、恐怖で体が震えている檜山を見て何かする気が失せ、ハジメの救出に向かうことにした。

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』」

 

 

エクスは迷宮には入ったことはないが、迷宮のあるホルアドには行ったことのあるため転移しようとしたがその前にメルドが声をかけた。

 

 

「待ってくれ!ハジメを助けに行くんだろ?だったら俺も連れてってくれ。俺はあの時助けると約束したんだ」

 

 

しかし、エクスはメルドを見もせず、

 

 

「【拒否】邪魔」

 

 

端的に告げた。

 

 

「そんな言い方はないんじゃないか?それに檜山は謝ろうとしただろう。なぜ、殴る必要があったんだ?」

 

 

光輝がまさに勇者の発言をするがエクスは議論の余地はないと、

 

 

「【命令】うるさい、黙れ。役立たず」

 

 

「なっ!そんな言い方はないだろう⁉︎それに南雲はもう生きてはいな——」

 

 

その瞬間、光輝の姿がかき消えた。それをメルド達が認識する前に、2つの衝撃音が聞こえた。1つはエクスの足元から、もう1つは吹き飛んだ光輝が激突した壁から。

 

 

エクスは地面にクレーターができるほど踏み込み、ここにいる誰も視認出来ない速度で光輝を殴り飛ばした。

 

 

エクスは殴った態勢のままの腕を下ろし、先よりも数倍冷たい声で、気絶した光輝に告げた。

 

 

「【警告】次同じこと言ったら殺す。【典開(レーゼン)】——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』」

 

 

そして、エクスの姿は訓練施設から消えた。

 

 




次回から迷宮探索が始まります。


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第6話

エクスはホルアドに転移した後すぐに迷宮に向かった。迷宮は管理されているので勝手に入ろうとするエクスを止めようとする者がいるが機凱種(デタラメ種族)を止められる者がいるはずもなく、エクスは迷宮へ入っていった。

 

 

迷宮に入ったエクスは走りながら、魔物をどこぞのハゲたヒーローよろしく、一撃の元に肉片へ変えていた。

 

 

エクスは今、激しい後悔と怒りを感じていた。本来(感情)のない機凱種(エクスマキナ)では体験することのないことであり、後悔はともかく、怒りはシュヴィですら感じたことのない感情である。

 

 

なので、エクスはこの感情を抑える術を知らない。エクスが急いでホルアドに転移したのは早くハジメを助けたかったのもあるが、八つ当たりで王都を消してしまいそうだったからでもある。

 

 

さて、実は本来ならば魔物を()()()()()()()()()のだ。エクスは現在、魔物達に視認すらさせない速度で走っている。なので魔物達を全スルーして進むこともできる。しかし、エクスはあえて魔物を倒している。その理由は、まぁ、()()()()()である。

 

 

やり場のない怒りを魔物達に当てているだけである。もちろん本能的に危機を感じ、回避したり迎撃しようとする個体もいたが全て等しくエクスにより、肉片へと変じさせられていた。

 

 

そして、エクスの進路上にいた魔物は哀れにもエクスによって理解もさせずに殺された。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エクスは魔物達を殺しながら、僅か30分でハジメが落ちた60階層までを走破した。

 

 

60階層には10m級の魔法陣があった。そこから、ハジメ達を苦しめた10m程の四足のトリケラトプスに似た魔物——ベヒモスが出現した。

 

 

ベヒモスはエクスを見ると、頭部に付けた兜のような物から炎を放ちながら、エクスへ突進してきた。

 

 

エクスも走り、正面からベヒモスを殴った。そしてこれまでの魔物より数段上のはずのベヒモスは——しかし、これまでの魔物となんら変わらず、機凱種(理不尽)によって肉片へと変えられた。

 

 

エクスは哀れな魔物の仲間入りをしたベヒモスには目もくれず、速度も緩めず奈落へと身を投じた。

 

 

落下途中には滝がいくつもあり、横穴もたくさんあった。その中の1つがエクスの勘にひっかかった。エクスはその勘を信じて横穴へ進んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

横穴をウォータースライダーの如く流れると川のようなところに出た。エクスは水から出て、機凱種(エクスマキナ)の有する観測装置の全てを使い、ハジメを探し始めた。

 

 

すると、近くに魔法陣があった。大きな魔方陣だが、火種の魔法だった。普通なら10cm程のものでいいのだが、これは1m以上の大きさだった。

 

 

エクスはそれをハジメが作ったものだと断定して、自分の勘に——それをくれた『遺志体(プライヤー)』シュヴィに感謝した。

 

 

エクスは再び、観測装置で周りを探しながら歩き始めた。時々、ウサギや狼の見た目をした魔物が現れたが全てこれまでと変わらず、一撃の元に息絶えた。

 

 

そして、ついに見つけた。エクスは観測装置の示す方向へ走り出した。次の曲がり角を曲がればハジメが居ると観測装置が告げた。その曲がり角を曲がった瞬間。

 

 

そこから、秒速3.2kmの弾丸が飛んできた。普通なら直撃ものだがエクスはそれを()()()()した。

 

 

飛んできた先を見ると、身長が10cm以上伸びていたり、髪が白くなっていたり、左腕が無かったりするがハジメが銃を構えたまま目を見開き、口を開けて驚愕の顔をしていた。

 

 

「えっ⁉︎お前、エクスか⁉︎ていうか掴んだのか⁉︎」

 

 

実はハジメもエクスには気付いていた。しかし、ハジメはまさかエクスとは思わず、新しい魔物とでも思い、不意打ちを決めたのである。

 

 

「【肯定】元気だった、ハジメ?」

 

 

「これで元気に見えるか?」

 

 

ハジメは自分の左腕を見せながら言った。

 

 

「【肯定】その髪は?イメチェン?」

 

 

「見えるのかよ⁉︎後イメチェンじゃねぇよ⁉︎」

 

 

エクスはハジメと話しながら、ハジメの生存を喜び、小さく微笑んだ。




哀れ、魔物。
矛盾点があったらすみません。


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第7話

今回短めです。


「——つまり、お前は檜山と天之川を殴った後、ホルアドに来て、迷宮に入り、奈落に落ち、探していたら、銃弾が飛んで来た、と?」

 

 

「【肯定】多少の誤差はあるけど概ねそんな感じ」

 

 

「……機械なのに曖昧だな……」

 

 

現在、エクス達はハジメの拠点でお互いのこれまでの経緯を話していた。

 

 

「【確認】ハジメは、奈落に落ちた後、魔物食べたら強くなった、と」

 

 

 

「……めっちゃ端折ったな。まぁ概ねそんな感じだけどよ。しかし、檜山が犯人だったとはな、そうかもしれないとは思ってたけど」

 

 

「【質問】復讐したい?」

 

 

「いや、どうでもいいよ。もう興味がない」

 

 

「【質問】ではこれからどうする?」

 

 

「そうだな、ひとまずここから出たいな。その後は元の世界に帰りたいなぁ」

 

 

「【開示】当機なら地上へ送れる」

 

 

ハジメを地上に連れてくことは簡単だ。機凱種(エクスマキナ)の武装——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』。天翼種(フリューゲル)空間転移(シフト)を模倣した武装だ。これなら視界内と既知座標に転移できる。

 

 

「ホントか!じゃあ頼んでいいか?」

 

 

「【提案】しかし、このまま奥に進もう」

 

 

「……?なんでだ?」

 

 

「【解答】世界の色々な書物を読んだが異世界のことを書いてあるものは無かった。なのでまだ調べていない迷宮の奥を調べたい」

 

 

エクスの言葉を聞くと、ハジメは手を顎に当て考え始めた。

 

 

「……わかった。俺も元の世界に戻りたいからな」

 

 

「【了解】【質問】階下への道は見つけてる?」

 

 

「ああ、2日前にな。じゃ行こうぜ」

 

 

「【了解】」

 

 

そして、2人は階下への階段がある部屋へと赴く。

 

その階段は何とも雑な作りだった。

 

階段というより凸凹した坂道と言った方が正しいかもしれない。そしてその先は、真っ暗な闇に閉ざされ、不気味な雰囲気を醸し出していた。まるで、巨大な怪物の口内のようだ。

 

 

しかし、エクスは恐怖などは特に感じず、ハジメと共に躊躇わず暗闇へ踏み込んだ。

 

 

その階層はとにかく暗かった。

 

地下迷宮である以上それが当たり前なのだが、今まで潜ったことのある階層は全て発光する緑光石という石が存在し、薄暗くとも先を視認できないほどではなかった。

 

 

だが、どうやらこの階層には緑光石が存在しないらしい。エクスはまったく問題ないがハジメは何も見えなかった。その為しばらくその場に止まり、目が慣れて多少見えるようにならないかと期待したハジメだったが、何時まで経ってもさほど違いはなかった。

 

 

仕方なく、毛皮と錬成した針金で作成した即席のリュックから緑光石を取り出し灯りとする。

 

 

はっきり言って暗闇で光源を持つなど魔物がいるとすれば自殺行為に等しいが、こうでもしなければ進むことができないとハジメは割り切った。但し、右手を塞ぐわけにはいかないので、肘から先のない左腕に括りつけようとした。

 

 

「【質問】当機が持とうか?」

 

 

「あー、じゃあお願いしていいか?」

 

 

エクスは頷くと緑光石を受け取った。

 

 




この先のことを考えていて思ったんですけど機凱種(エクスマキナ)って石化するんですかね?
するとしたらどうやって直しましょうか。機械だから神水は効かないと思いますからね。
あと、迷宮の奥に進む理由が弱い気もしますが迷宮を進んでもらわないとユエが出せないですからね……


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第8話

遅れてすみません(汗)


「……なぁ。何時間くらい経った?」

 

 

闇の中を歩き続けるハジメはエクスに言った。

 

 

「【解答】56時間19分48秒」

 

 

「もうそんなか〜」

 

 

エクスとハジメは真っ暗な階層を進み続けていた。途中、石化させて来るトカゲ(ハジメはバジリスクと呼んでいる)や羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウなど様々な魔物が現れたが全てエクスとハジメに倒された。ちなみに後半は無双しまくるエクスにハジメが戦闘経験を積みたいと言い、ハジメが殆ど倒した。

 

 

階下への階段は未だ見つかっていない。

 

 

「……そろそろ拠点を作るか。獲った魔物や鉱石も多くなってきたし」

 

 

「【了解】【質問】どこにする?」

 

 

「ここ」

 

 

そういうとハジメは壁に手を当てる。首を傾げるエクスをよそにハジメは錬成を開始する。特に問題なく壁に穴が空き、奥へと通路ができた。ハジメは連続で錬成し、六畳程の空間を作った。……錬成出来なかったら恥ずかしかったなと思ったのは内緒。

 

 

「【理解】そういえばハジメの天職は錬成師だったね」

 

 

なるほど、といった表情になったエクスが言う。

 

 

それを聞きながら、リュックからバスケットボール大の大きさの青白い鉱石を取り出し壁の窪みに設置する。その下にはしっかり滴る水を受ける容器もセッティングしてある。

 

 

「【質問】これは?」

 

 

「なんかすごい回復能力がある水を出してくれる石。俺はポーション石って呼んでる」

 

 

その石は【神結晶】と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

 

 

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

 

その液体を【神水】と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

 

そんなこの2人は知る由も無い為エクスはすぐに興味を失った。エクスの出身の世界でもこんなものは無く、一部の生物ではない種族や他種族に一瞬で殺される人間以外の種族は狂気乱舞する代物ではあるが機凱種(エクスマキナ)であるエクスには関係のないことだ。

 

 

「さて、じゃあ、早速メシにしますか」

 

 

ハジメは、リュックから容器に入れた(錬成で作成)肉を取り出す。そして“纏雷”でこんがり焼き始めた。本日のメニューは、バジリスクの丸焼きと、羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウの丸焼きと、六本足の猫の丸焼きである。調味料はない。

 

 

「いただきます」

 

 

むぐむぐと喰っていると次第に体に痛みが走り始めた。つまり、体が強化されているということだ。だとすると、ここの魔物は爪熊と同等以上の強さを持っているのだろう。確かに、暗闇という環境と固有魔法のコンビネーションは厄介ではあった。もっとも、暗闇をものともしないエクスの観測装置やエクスのデタラメな戦闘能力、更にハジメのドンナーによる射撃が当たれば皆木っ端微塵なので、ハジメ的に実感は湧かなかったが。

 

 

ハジメは神水を飲みながら痛みを無視して喰い続ける。幻肢痛から始まり苦痛続きだったハジメはすっかり痛みに強くなっていた。

 

 

「【質問】本当に強くなるの?」

 

 

「ああ。ほら」

 

 

ハジメは自分のステータスプレートを見せる。

 

 

=====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:23

天職:錬成師

筋力:450

体力:550

耐性:350

敏捷:550

魔力:500

魔耐:500

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・石化耐性・言語理解

====================================

 

 

「【理解】本当だ」

 

 

「疑ってたのか?」

 

 

「【解答】嘘をついていないことは分かっていたけど信じがたかった」

 

 

ハジメはエクスの言葉を聞きながら自分のステータスプレートを見てみた。予想通り大幅に上昇していた。技能欄も三つ増えたようだ。よくよく見ると、確かに先程より遥かに周りが見える。

 

 

どうやらこれが“夜目”の効果らしい。奈落の魔物にしてはショボイ気もするが、この階層においてはとんでもないアドバンテージだ。……まぁエクスがいるからいらないかも知らないが。後は、文字通りの技能だろう。惜しいのは、バジリスクの固有能力が何故“耐性”であって“石化”じゃないのか、ということ。「石化の邪眼! とかカッコイイのに……」と、若干ガッカリするハジメだった。

 

 

そして、ハジメは消耗品を補充するため錬成を始めた。

 

 

弾丸は一発作るのにも途轍もなく集中力を使うのだ。何せ、超精密品である。炸薬の圧縮量もミスは許されない。一発作るのに三十分近く掛かるのだ。自分でもよく作れたものだと思う。人間、生死がかかると凄まじい力を発揮するものだと自分ながらに感心したものだ。

 

 

もっとも、手間がかかる分威力は文句なしであるし、錬成の熟練度がメキメキと上昇していくので何の不満もない。

 

 

御蔭で、鉱物から不純物を取り除いたり成分ごとに分けたりする技能が簡単に出来るようになったし、逆に融合させるのも容易になった。実際、今のハジメの錬成技術は王国直属の鍛治職人と比べても筆頭レベルにある。

 

 

ハジメは黙々と錬成を続ける。まだ、一階層しか降りていないのだ。この奈落が何処まで続いているのか見当もつかない。錬成を終えたら直ぐに探索に乗り出すつもりだ。少しでも早く故郷に帰るためにグズグズしてはいられない。ハジメは奈落の底で神結晶の青白い光に照らされながら始まったばかりの迷宮攻略に決然とした表情をエクスは側からじ〜〜と見つめていた。

 

 

「……………………そんなじっと見るのやめてくれね?」

 

 

ハジメは文字通り瞬き1つせずに見つめる美少女に顔を引きつらせ言った。

 

 




バジリスク戦カットです(汗)いや〜皆様から石化はしないのではと意見をいただき、それで書こうと思ったのですが「あれ?石化しないなら苦戦しないし、書く必要あるか?」と思いカットいたしました。
しかし、よく考えるとこの先の敵全てに苦戦する要素がないんですよね(汗)使徒の〝分解〟やアルヴヘイトやエヒトには少しくらい苦戦するかもしれませんが。
アルトシュとか出した方がいいですかね?ご意見下さい(切実)
あと時間は適当ですw


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第9話

今回少し長めです。


あと原作ヒロインのユエが登場します。


時々、消耗品補充の為に拠点で錬成する以外、エクスとハジメは常に動き続けた。広大な迷宮内を休みながらの探索では何時までかかるかわからない。“夜目”の御蔭で暗闇は心配なくなった上、“気配感知”により半径十メートル以内なら魔物を感知できる。エクスはそれ以上の範囲を探知出来る。2人の探索は急ピッチで進められた。

 

 

そして、遂に階下への階段を見つける。2人は躊躇いなく踏み込んだ。

 

 

その階層は、地面が何処もかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所だった。足を取られるので凄まじく動きにくい。

 

 

「チッ、動きづらいな。しょうがない、足場や“空力”を使うか」

 

 

「【開示】当機、飛べるよ?」

 

 

そう言いながらエクスは鉄の翼を典開する。

 

 

それを見たハジメは顔を引攣らせつつ、

 

 

「……お前、デタラメだな」

 

 

そうして、ハジメはエクスに抱えられながら探索を開始した。

 

 

背中に当たる、機械なのに柔らかい2つのものを極力無視しつつ、周囲の鉱物を“鉱物系感知”の技能で調べながら進んでいると、途中興味深い鉱石を発見した。

 

 

=====================================

フラム鉱石

艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達する。燃焼時間はタール量による。

=====================================

 

 

「……うそん」

 

 

ハジメは引き攣った笑みを浮かべ下のタール状の半液体を見下ろした。

 

 

「【質問】どうかした?」

 

 

ハジメの呟きを聞いたエクスが問う。

 

 

「この下の液体、100度で発火して3000度の熱を発するみたいだ。火気厳禁だなこりゃ」

 

 

「【開示】当機は問題ない。機凱種(エクスマキナ)には防水防塵防凍防火防弾防爆防魔防精霊——」

 

 

「お前は大丈夫でも俺は駄目なの!」

 

 

エクスの言葉を切り、ハジメが叫ぶ。

 

 

「……というかお前本当にデタラメ過ぎないか?」

 

 

「【解答】機凱種(エクスマキナ)は元の世界では全種族で中間程の力」

 

 

「……これで中間ってどんな世界だよ……」

 

 

「【解答】神々が永遠にも等しい時間、戦争をし続けている世界」

 

 

「……なんじゃそりゃ」

 

 

ハジメは呆れ顔で呟く。

 

 

「とにかく、絶対に火気厳禁だからな」

 

 

「【了承】」

 

 

そんな会話をしながら2人は探索を続ける。

 

 

途中、“気配探知”に引っかからないサメが出たが、エクスの観測装置にはしっかりと引っかかり、エクスの支援を受けつつハジメが倒した。

 

 

そして、階下への階段を発見した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

タールザメのいた階層から既に50階層は下っている。

 

 

その間に強力な魔物(笑)が居たが機凱種(動く理不尽)の援護を受けたハジメに敵わなかった。

 

 

例えば迷宮全体が薄い毒霧に覆われた階層では、毒の痰を吐く2mで虹色のカエル、麻痺の鱗粉を撒き散らす見た目モ○ラの蛾に襲われた。常に神水を服用してその恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはずだ。

 

 

それでも苦戦はするはずだったがエクスによって苦戦も殆ど無かった。

 

 

唯一カエルの毒をくらったときは直接神経を侵され、一番最初に魔物の肉を喰った時に近い激痛をハジメにもたらした。

 

 

慌てたエクスが文字通り瞬殺したのち神水を飲ませてくれた。もしもの為に奥歯に神水を仕込んでおいたので問題はなかったのだが、普段無表情のエクスが慌てる様は少し愉快であった。

 

 

大慌てになるくらい自分を大切に思ってくれてるのかと思うと豹変したハジメも少し嬉しかった。

 

 

因みに食糧としての味は蛾が上であったことがハジメは少し悔しかった。

 

 

また、地下迷宮なのに密林のような階層に出たこともあった。物凄く蒸し暑く鬱蒼としていて今までで一番不快な場所だった。この階層の魔物は巨大なムカデと樹だ。

 

 

ムカデは体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だった。

 

 

樹の魔物はRPGで言うところのトレントに酷似していた。木の根を地中に潜らせ突いてきたり、弦を鞭のようにしならせて襲ってきたり。さらにこの魔物、ピンチなると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。これには全く攻撃力はなく、ハジメは試しに食べてみたのだが、直後、数十分以上硬直した。毒の類ではない。めちゃくちゃ美味かったのだ。スイカのような味だった。

 

 

なお、この後、トレントモドキの果実の味をしめたハジメが迷宮探索すら忘れて狩りまくったのが原因で滅びかけた。

 

 

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば五十層。未だ終わりが見える気配はない。ちなみに、現在のハジメのステータスはこうである。

 

 

=====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

天職:錬成師

筋力:880

体力:970

耐性:860

敏捷:1040

魔力:760

魔耐:760

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

=====================================

 

 

ハジメは、この五十層で作った拠点にて銃技や蹴り技、錬成の鍛錬を積みながら少し足踏みをしていた。というのも、階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

 

 

それは、何とも不気味な空間だった。

 

 

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

 

ハジメはその空間に足を踏み入れた瞬間全身に悪寒が走るのを感じ、これはヤバイと一旦引いたのである。もちろん装備を整えるためで避けるつもりは毛頭ない。ようやく現れた“変化”なのだ。調べないわけにはいかない。

 

 

ちなみにエクスは何も感じていない。それを聞いたハジメが内心で「デタラメめ」と呟いた。

 

 

ハジメは期待と嫌な予感を両方同時に感じながら準備を進めていた。

 

 

自分の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。全ての準備を整え、ハジメはゆっくりドンナーを抜いた。

 

 

そして、そっと額に押し当て目を閉じる。覚悟ならとっくに決めている。しかし、重ねることは無駄ではないはずだ。ハジメは、己の内へと潜り願いを口に出して宣誓する。

 

 

「俺は、生き延びて故郷に帰る。日本に、家に……帰る。邪魔するものは敵。敵は……殺す!」

 

 

目を開けたハジメの口元にはニヤリと不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

扉の部屋にやってきたハジメは油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

 

「? わかんねぇな。結構勉強したつもりだが……こんな式見たことねぇぞ。エクスは分かるか?」

 

 

「【解答】不明。該当なし」

 

 

「つまり、分かんないってことか」

 

 

もちろん、お互い全ての学習を終えたわけではないが、それでも、魔法陣の式を全く読み取れないというのは些かおかしい。特にエクスはそこら中から本をパクっていたのだ。

 

 

「相当、古いってことか?」

 

 

「【同意】おそらく」

 

 

2人は推測しながら扉を調べるが特に何かがわかるということもなかった。エクスの解析でもよく分からなかった。

 

「仕方ない、何時も通り錬成で行くか」

 

 

一応、扉に手をかけて押したり引いたりしたがビクともしない。なので、何時もの如く錬成で強制的に道を作る。ハジメは右手を扉に触れさせ錬成を開始した。

 

 

しかし、その途端、

 

 

バチィイ!

 

 

「うわっ!?」

 

 

扉から赤い放電が走りハジメの手を弾き飛ばした。ハジメの手からは煙が吹き上がっている。悪態を吐きながら神水を飲み回復するハジメ。直後に異変が起きた。

 

 

オォォオオオオオオ!!

 

 

突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

 

ハジメはバックステップで扉から距離をとり、腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせ何時でも抜き撃ち出来るようにスタンバイする。エクスは今回も危険がない限り手は出さない為動かない。

 

 

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

 

 

苦笑いしながら呟くハジメの前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

 

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。侵入者を排除しようと2人に視線を向けた。

 

 

その瞬間、

 

 

ドパンッ!

 

 

この迷宮の魔物は哀しいやられ方をする定めなのだろうか。そう思わずにはいられない。

 

 

凄まじい発砲音と共に電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま頭を吹き飛ばし、貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 

 

左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見る。

 

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

 

 

ハジメがサイクロプス(左)を仕留めようと行動を開始しようとした時後ろのエクスから声がかかった。

 

 

「【質問】余裕そうだから新武装の実験していい?」

 

 

「……そんなもん作ってたのかよ」

 

 

そう言いながら、ハジメは後ろに飛び去る。そして、エクスが敵が目の前にいるにもかかわらず、トコトコと自然体でサイクロプス(左)に向かって歩いて行く。

 

 

仲間のあんまりな死に方に激昂したサイクロプス(左)がエクスに向かって走り出す。

 

 

エクスはそれを真っ直ぐに見据えながら新しい武装を典開した。

 

 

「【典開(レーゼン)】——偽典・電磁砲(レールガンアポクリフェン)

 

 

そして、電磁加速された弾丸が先のサイクロプスのように目に直撃し、頭を粉砕した。

 

 

「……なんで使えんの?」

 

 

それを見ていたハジメはそんな声を上げた。

 

 

なんてことはない。ハジメにレールガンの仕組みを教わりそれを模倣したのだ。設計体(ツアイヘン)ではない為時間はかかったが(それでも数分だが)特に問題なく作れた。

 

 

何故レールガンを模倣したかと言うと、エクスが所有する兵器は火力が高すぎるのだ。なので物理攻撃しか出来なかったので、レールガンを模倣したのだ。

 

 

説明を聞いたハジメが口を開けて固まったのは言うまでもない。

 

 

そして、2人は哀れなるサイクロプスから拳大の魔石を取り出し、扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

 

ピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

 

ハジメは少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

 

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。

 

 

中は、ハジメ達か召喚された聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

 

その立方体を注視していたハジメは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

 

近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。

 

 

しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

 

「……だれ?」

 

 

掠れた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとしてハジメは慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の“生えている何か”がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

 

「人……なのか?」

 

 

 “生えていた何か”は人だった。

 

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでもエクスに匹敵する美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

 

流石に予想外だったハジメは硬直し、紅の瞳の女の子もハジメをジッと見つめていた。やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

 

「すみません。間違えました」

 

 




機凱種(エクスマキナ)が全種族で中間程って言うのに疑問がある方がいるかもしれませんが異界序列6位(天翼種)以上より弱いのは言わずもがな。しかしそれ以下の種族より強いと思うので中間程だと言いました。


それと、ハジメがエクスが何も感じないと言ったことに「デタラメめ」と呟いたのは機械何に勘があることと、自分が悪寒を感じる程の危険に何も感じないことが理由です。


そして、ここら辺からハジメがエクスに惹かれ始めます。


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第10話

ついに10話目です。
プロローグがあるので合計11話ですがw



「すみません、間違えました」

 

 

そう言ってそっと扉を閉めようとするハジメ。それを金髪紅眼の女の子が慌てたように掠れた声で引き止める。

 

 

ただ、必死さは伝わった。

 

 

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

 

 

「嫌です」

 

 

そう言って、やはり扉を閉めようとするハジメ。鬼である。そんなハジメの様子にエクスは首を傾げ、

 

 

「【質問】助けないの?」

 

 

「あのなエクス、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう? 絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もない。ほら、行くぞ」

 

 

ぐうの音も出ない程の正論だった。事実エクスは納得してしまった。

 

 

だがしかし、普通、助けを求める声——それも可愛い女の子の声を躊躇なく切り捨てられるものは殆ど居ないだろう。

 

 

すげなく断られ、助け船も即沈没した女の子だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

 

「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」

 

 

知らんとばかりに扉を閉めていき、もうわずかで完全に閉じるという時、

 

 

「裏切られただけ!」

 

 

もう僅かしか開いていない扉からそんな声が聞こえた。

 

 

しかし、女の子の叫びに、閉じられていく扉は止まった。ほんの僅かな光だけが暗い部屋を照らす。しばらく後、やがて扉は再び開いた。そこには、苦虫を百匹くらい噛み潰した表情のハジメと疑問顔のエクスが扉を全開にして立っていた。

 

 

ハジメとしては、何を言われようが助けるつもりなどなかった。何の理由もなく、こんな場所に封印されているわけがない。それが危険な理由でない証拠がどこにあるというのか。邪悪な存在が騙そうとしているだけという可能性の方がむしろ高い。見捨てて然るべきだ。

 

 

(何やってんだかな、俺は)

 

 

内心溜息を吐くハジメ。

 

 

“裏切られた”――その言葉に心揺さぶられてしまうとは。もう既に、檜山が放ったあの魔弾のことはどうでもいいはずだった。“生きる”という、この領域においては著しく困難な願い(エクスのおかげ?せい?でそんなでもないが)を叶えるには、恨みなど余計な雑念に過ぎなかった。

 

 

それでも、こうまで心揺さぶられたのは、やはり何処かで割り切れていない部分があったのかもしれない。そして、もしかしたら同じ境遇の女の子に、同情してしまう程度には前のハジメの良心が残っていたのかもしれない。

 

 

ハジメはエクスに向き直り、問う。

 

 

「……エクス、お前嘘を見破れるか?」

 

 

もうかなり昔に思える小悪党4人組にいじめられた日のことを思い出しながら言った。

 

 

「【肯定】相手の生理反応を観測、解析して嘘を見破れる」

 

 

デタラメめ、と最近よく使う言葉を内心で呟き、さらに問う。

 

 

「あいつが言ってることは本当か?」

 

 

「【肯定】」

 

 

それを聞いて、嘘なら良かったのにと思いつつ、大きく溜息を吐く。

 

 

ハジメは頭をカリカリと掻きながら、女の子に歩み寄る。もちろん油断はしない。

 

 

「それで?どうして裏切られてお前が封印されたんだ?。裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

 

ハジメ達が戻って来たことに半ば呆然としている女の子。

 

 

ジッと、豊かだが薄汚れた金髪の間から除く紅眼でハジメを見つめる。何も答えない女の子にハジメがイラつき「おい。聞いてるのか? 話さないなら帰るぞ」と言って踵を返しそうになる。それに、ハッと我を取り戻し、女の子は慌てて封印された理由を語り始めた。

 

 

女の子は先祖返りの吸血鬼ですごい力を持っており、その力で国の為に尽くしたが、家臣に「もういらない」と言われ、さらに叔父にこれからは自分が王だと言われたようだ。

 

 

波乱万丈な境遇に複雑な気持ちになりながらところどころの気になるワードを問う。

 

 

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

 

 

「……(コクコク)」

 

 

「殺せないってなんだ?」

 

 

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

 

 

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

 

 

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

 

それを聞き、ハジメは納得する。

 

 

ハジメも魔物を食べてから魔力の直接操作は出来るようになったがハジメは魔法適正がゼロの為、結局大きな魔法陣を書かなければならないことは変わらない。

 

 

しかし、この女の子は違うのだ。この女の子は魔法適正がキッチリあり、魔法陣も詠唱もせずに魔法をポンポン打てるのだ。

 

 

その上不死身、デタラメだ。

 

 

隣のエクス(僅かに目を見開く誰かさん)といい勝負だ。

 

 

「どうした。流石に驚いたか?」

 

 

「【肯定】不死身など元いた世界にも存在しなかった」

 

 

そう、エクスの世界にも不死身など存在しない。人間はもちろん、生物では最高級の種族である森精種(エルフ)地精種(ドワーフ)、デタラメに定評のある天翼種(フリューゲル)、それ以上の龍精種(ドラゴニア)幻想種(ファンタズマ)、はては神である神霊種(オールドデウス)でさえ死ぬ。

 

 

にもかかわらず、この女の子は不死身だと言うのだ。驚かない方がおかしい。

 

 

「……そっちもだけど、魔力操作については?魔法適正があればチート級だろ?」

 

 

「【解答】元の世界ではそんなのは当たり前。術式を編む必要があり、刻印術式などもあるがこの世界程長くはないし、所詮この世界の魔法の威力はたかが知れている」

 

 

その言葉に若干顔を引きつらせる。

 

 

「【付随】機凱種(エクスマキナ)は解析した魔法と同じ効果を発揮する兵器を設計し使用する。よって詠唱等は必要ない」

 

 

……………。

 

 

「それでこいつの言葉は本当なのか?」

 

 

気にしないことにしたらしいハジメがエクスに問う。

 

 

「【肯定】」

 

 

エクスの返事を聞き、ハジメは女の子に向き直る。

 

 

「……たすけて……」

 

 

女の子はハジメをジッと眺めながら懇願した。

 

 

「……」

 

 

ハジメはジッと女の子を見た。女の子もジッとハジメを見つめる。どれくらい見つめ合っていたのか……

 

 

やがてハジメはガリガリと頭を掻き溜息を吐いた。

 

 

「……エクス、お前これどうにか出来るか?」

 

 

その言葉に女の子が目を見開く。

 

 

「【解答】ぶっ壊す?」

 

 

右拳を上げてエクスが言う。

 

 

「お前の力でそれやったら中のこいつもやばいだろ却下だ」

 

 

そう言って、女の子を捕らえる立方体に手を置く。

 

 

「【反論】そんな失敗はしない」

 

 

僅かに頰を膨らませるエクスを無視して錬成を始める。

 

 

濃い紅色の魔力がハジメの体から迸る

 

 

しかし、立方体はハジメの魔力に対抗するように錬成を弾いた。しかし、全く通じないわけではないらしい。少しずつハジメの魔力が立方体に迫る。

 

 

ハジメは次々と魔力つぎ込む。部屋全体が濃い紅色に染まっている。

 

 

どんどん輝きが増す紅い光に、女の子は目を見開く。

 

 

ハジメ自身が紅い輝きを放つ程全力全開の魔力放出をして、ようやく女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

 

それなりに膨らんだ胸部。痩せ衰えてなお神秘性を感じさせるほど美しい裸体が露わになった。

 

 

どうやら立ち上がる力がないらしい女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。

 

 

ハジメも座り込み、肩でゼハーゼハーと息する。魔力が無くなり激しい倦怠感に襲われたのだ。

 

 

エクスが差し出した神水を震える手で受け取ろうとしたその手を女の子がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。女の子は真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

 

そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

 

「……ありがとう」

 

 

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメには分からなかった。ただ、全て切り捨てたはずだったがエクスにより心の裡に宿った光がさらに大きくなった気がした。

 

 

繋がった手はギュッと握られたままだ。

 

 

それを見ていたエクスは定義不明の感情に襲われていた。

 

 

胸がズキズキし、少しイライラする——ぶっちゃけ嫉妬していた。

 

 

どうすればいいかわからないエクスは心の赴くままに行動した。即ち——

 

 

2人の手を振り払い、2人の口に神水の入った試験管を突っ込んだ。急に口に異物が入った2人は涙目になる。

 

 

「【提案】終わったなら早く先に進む」

 

 

「お、おうそうだな」

 

 

神水により力が戻った体で立ち上がる。

 

 

「……名前、なに?」

 

 

 女の子が囁くような声でハジメに尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったとハジメは思い出し答え、女の子にも聞き返した。

 

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。こっちはエクス。お前は?」

 

 

女の子は「ハジメ、ハジメ」と、繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメにお願いをした。

 

 

「……名前、付けて」

 

 

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

 

長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるハジメだったが、女の子はふるふると首を振る。

 

 

「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」

 

 

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

 

おそらく、ハジメが、変心したハジメになったのと同じような理由だろう。前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。その一歩が新しい名前なのだろう。

 

 

女の子は期待するような目でハジメを見ている。ハジメはカリカリと頬を掻くと、少し考える素振りを見せて、仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。

 

 

「“ユエ”なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

 

 

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

 

 

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で“月”を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

 

「おう」

 

 

その2人を見たエクスがハジメに言う。

 

 

「【要求】当機にも名前付けて」

 

 

「は?なんで?お前には名前あんじゃん」

 

 

わけが分からんという顔をしてハジメが問い返す。

 

 

「【反論】今の名前はメルドがつけた仮称」

 

 

「えー。もうエクスで定着してるからいいよ」

 

 

それを聞いたエクスは不貞腐れる。

 

 

「さて、取り敢えずエクス、服出せるか?」

 

 

もしかしたらと思いながら聞いてみる。

 

 

不貞腐れつつエクスはユエに手を翳す。すると、ポリゴンのような、複雑な線がユエの周りを駆け、立体テクスチャが高速で具現化する。

 

 

出現した赤い服の上に白いエプロンがつけられたそれは——メイド服だった。

 

 

「ドラ○もんかよお前。あとなんでメイド服?」

 

 

目の前の便利なロボットに思わず呟き、問う。

 

 

「【嘲笑】雑用頑張って」

 

 

心無しか口元を吊り上げているエクスに、

 

 

「ひでぇな」

 

 

素っ裸の状態から救ってくれた人に感謝するか、雑用を確定させられたことに怒るべきかと複雑な顔をしているユエは取り敢えず、

 

 

ユエは少し顔を赤くし、ハジメに上目遣いでポツリと呟いた。

 

 

「ハジメのエッチ」

 

 

「この流れでか」

 

 

思わぬ流れ弾が来たハジメは呟く。

 

 

そして“気配感知”を使い……凍りついた。とんでもない魔物の気配が直ぐ傍に存在することに気がついたのだ。

 

 

場所はちょうど……真上!

 

 

ハジメがその存在に気がついたのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。

 

 

咄嗟に、ハジメはユエに飛びつき片腕で抱き上げ、全力で“縮地”をしようとした時、視界が一瞬で変わった。

 

 

そして視界の先にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミとそして先端に鋭い針がついている二本の尻尾。一番分かりやすい喩えをするならサソリだろう。

 

 

明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。自然とハジメの額に汗が流れた。

 

 

部屋に入った直後は全開だった“気配感知”では何の反応も捉えられなかった。だが、今は“気配感知”でしっかり捉えている。エクスでさえ警告も無しに(恐らく)転移させた程なのだ。

 

 

ということは、このサソリもどきは、ユエの封印を解いた後に出てきたということだ。

 

 

腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリもどきになど目もくれず一心にハジメを見ていた。ユエは自分の運命をハジメに委ねるつまりらしい。

 

 

その目を見たハジメは口角を吊り上げる。

 

 

「エクス、さっきのお前だよな?」

 

 

「【肯定】」

 

 

「そうか……ユエは任せる。あいつは俺がやる」

 

 

そう言ってユエをエクスに渡すとサソリもどきに向かって走り出した。

 

 

初手はサソリもどきからの紫色の毒液だった。かなりの速度で噴射されたそれをハジメは飛び退いて回避する。着弾したそれは床を瞬く間に溶かした。

 

 

ハジメはそれを横目に確認しつつ、ドンナーを抜き様に発砲する。

 

 

最大威力だ。秒速三・九キロメートルの弾丸がサソリモドキの頭部に炸裂する。

 

 

エクスの腕の中のユエの驚愕する。見たこともない武器で、閃光のような攻撃を放ったのだ。それも魔法の気配もなく。若干、右手に電撃を帯びたようだが、それも魔法陣や詠唱を使用していない。つまり、ハジメが自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているということに、ユエは気がついたのである。

 

 

自分と“同じ”、そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないとわかっていながらサソリもどきよりもハジメを意識せずにはいられなかった。

 

 

一方、ハジメは足を止めることなく“空力”を使い跳躍を繰り返した。その表情は険しい。ハジメには、“気配感知”と“魔力感知”でサソリモドキが微動だにしていないことがわかっていたからだ。

 

 

それを証明するようにサソリもどきのもう一本の尻尾の針がハジメに照準を合わせた。そして、尻尾の先端が一瞬肥大化したかと思うと凄まじい速度で針が撃ち出された。さらにそれは途中で破裂し散弾のように広範囲を襲う。

 

 

「ぐっ!」

 

 

ハジメは苦しげに唸りながら、ドンナーで撃ち落とし、“豪脚”で払い、“風爪”で叩き切る。何とか凌ぎ、お返しとばかりにドンナーを発砲。直後、空中にドンナーを投げ、その間にポーチから取り出した手榴弾を投げつける。

 

 

サソリもどきはドンナーの一撃を再び耐えきり、更に散弾針と溶解液を放とうとした。しかし、その前転がってきた直径八センチ程の手榴弾がカッと爆ぜる。その手榴弾は爆発と同時に中から燃える黒い泥を撒き散らしサソリもどきへと付着した。

 

 

いわゆる“焼夷手榴弾”というやつだ。タールの階層で手に入れたフラム鉱石を利用したもので、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。

 

 

流石に、これは効いているようでサソリもどきが攻撃を中断して、付着した炎を引き剥がそうと大暴れした。その隙に、ハジメは地面に着地し、既にキャッチしていたドンナーを素早くリロードする。

 

それが終わる頃には、 “焼夷手榴弾”はタールが燃え尽きたのかほとんど鎮火してしまっていた。しかし、あちこちから煙を吹き上げているサソリモドキにもダメージはあったようで強烈な怒りが伝わってくる。

 

 

しかし、そこでユエまでに障害が無いことに気がついた。

 

 

ユエとハジメを見比べた後、ユエに向かって突進する。

 

 

しかし、その直後ユエとそれを抱えたエクスが消えた。その後ハジメの隣に出現した。これまたユエは驚いた。周りをキョロキョロ見ている。

 

 

「【質問】手伝おうか?」

 

 

苦戦していると見たエクスが問う。

 

 

「……念のため聞くけどさ、めちゃくちゃ硬いけどあれどうにか出来るのか?」

 

 

ユエ達を探しキョロキョロしているサソリもどきを指差して問う。

 

 

「【肯定】瞬殺」

 

 

「…………え?…………じゃあお願いしていいですか?」

 

 

つい、敬語になってハジメが言う。

 

 

エクスは頷き、ユエをハジメに返して、話し声が聞こえたのかこちらに気がついて突進してくるサソリもどきへ歩き出す。

 

 

「……ちょ、危ないッ」

 

 

ハジメの腕の中でユエが言う。

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・森空攝(ラウヴァポクリフェン)』」

 

 

典開したその武装は森精種(エルフ)の魔法を再現した兵器。真空の刃を無数に放つ兵器だ。

 

 

それから放たれた真空の刃はこちらに向かって突進するサソリもどきを——細切れにした。

 

 

元サソリもどきは音を立て床に落下した。

 

 

口を大きく開けて固まったハジメとユエがいたことは言うまでも無い……。

 

 




また瞬殺だよ(呆れ)
まぁ、戦闘描写があっただけマシかな?


後、メイド服姿のユエたそはぁは(殴


ユエ「……次回も楽しみに」
エクス「【質問】主人公である当機より先に後書きに出るのは何故」
ユエ「……人気……フッ」
エクス「(怒)」


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第11話

活動報告にてエクスの名前についてのアンケートを取っています。良ければ答えてください。もちろんここの感想に書いてもらっても構いません。


サソリもどきが瞬殺されたショックから回復したハジメ達は、サソリもどきとサイクロプスの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。その巨体と相まって物凄く苦労すると思われたがエクスが見た目に合わない怪力を発揮し、1人で運んでしまった。

 

 

ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否した。断固拒否したユエを見たエクスが封印部屋を使うことを進めた。

 

 

しかし、何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。消耗品の補充のためしばらく身動きが取れない事を考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。なのでこの案は没になった。

 

 

そう言ったハジメにエクスは僅かに口を尖らせ、「【質問】何故ユエ(これ)に優しくするのか」と言っていた。

 

 

ユエをこれ呼ばわりしたことにハジメとユエは揃って顔を引きつらせた。

 

 

そんな訳で、現在エクス達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

 

 

「……マナー違反」

 

 

ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。

 

 

書物によれば三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

 

 

「……私が特別。“再生”で歳もとらない……」

 

 

十二歳の時に魔力の直接操作や“自動再生”の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

 

ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

 

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 

 

「そういえば、機凱種(エクスマキナ)? の寿命ってどの位なんだ?」

 

 

「【解答】約1000年」

 

 

「そんなもんか……」

 

 

あまりにもエクスのデタラメさを見てきたせいか拍子抜けした。寿命はないと言われると思っていたが、よく考えれば機械なのだから経年劣化は避けられないのだろう。

 

 

「……何歳なの?」

 

 

ユエがこれまでの嫌がらせの仕返しかそんな質問をする。先行きが不安である。

 

 

しかし、エクスは特に気にした様子はなく、

 

 

「【解答】製造経過年数——431年」

 

 

「ユエより歳上なのかよ……」

 

 

ハジメはその年数に呆れ、ユエは嫌がらせが失敗したことに舌打ちする。

 

 

ユエの力について聞くとユエは全属性に適性があるらしい。チートと思いかけたがそれ以上が隣に居たことを思い出す。ちなみにユエ曰く、接近戦は苦手らしい。後で魔法を見せてもらおう。

 

 

ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。魔法を補完するイメージを明確にするために何らかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。

 

 

“自動再生”については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。つまり、あの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。

 

 

それを聞いたエクスは「その程度か」と拍子抜けした。エクスならユエを一瞬で塵するなど容易い。

 

 

「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

 

 

「……わからない。でも……」

 

 

ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

 

 

「反逆者?」

 

 

聞き慣れない上に、何とも不穏な響きに思わず錬成作業を中断してエクスに視線を向ける。するとエクスは首を振る。どうやらエクスも知らないらしい。

 

 

次にユエに視線を転ずる。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

 

ユエは言葉の少ない無表情娘なので、説明には時間がかかる。サソリもどきとの戦いで攻撃力不足を痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり聞く。

 

 

ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

 

それを聞いたエクスは179名の『幽霊』達を思い浮かべた。人の身で神々の大戦を誰も死なさずに終わらせようとした者達を……。

 

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

 

 

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか。それにそこなら元の世界に帰るための手掛かりがあるかもしれないしな」

 

 

見えてきた可能性に、頬が緩むハジメ。そこに再び、視線を手元に戻し作業に戻る。ユエの視線もハジメの手元に戻る。ジーと見ている。

 

 

「……エクスもそうだけどさ、そんなに面白いか?」

 

 

口には出さずコクコクと頷くユエ。エクスの場合は手元よりハジメの顔を見ているが頷く。メイド服と白ワンピの美少女2人に見つめられている。男なら泣いて嫉妬するシチュエーションだ。

 

 

(だが、三百歳。流石異世界だぜ。ロリババアが実在するとは……)

 

 

変心してもオタク知識は健在のハジメ。思わずそんなことを思い浮かべてしまい、ユエがすかさず反応する。

 

 

「……ハジメ、変なこと考えた?」

 

 

「いや、何も?」

 

 

とぼけて返すハジメだが、ユエの、というより女の勘の鋭さに内心冷や汗をかく。黙々と作業することで誤魔化していたがこの場に機凱種(嘘発見器)がいるのを忘れていた。

 

 

「【解析】嘘を感知」

 

 

エクスのジト目を受けながらハジメは次は本当に冷や汗をかきつつ、黙々と作業する。ユエも気が逸れたのか今度はハジメに質問し出した。

 

 

「……ハジメ達、どうしてここにいる?」

 

 

当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 

 

ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。その為ハジメやエクスのことを次々と質問して行く。

 

 

それらに律儀に2人は答えていく。

 

 

ハジメが、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの1人に裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(ハジメ命名の神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたこと、エクスが追いかけて来てくれたことをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

 

 

2人が視線をユエに向けると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

 

「いきなりどうした?」

 

 

「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」

 

 

どうやら、ハジメのために泣いているらしい。思えばエクスはこんな反応はしなかった。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。僅かに隣のエクスがピクッとなる。

 

 

「気にするなよ。もうクラスメイトの事は割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。エクスもいるし。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

 

スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。

 

 

「……帰るの?」

 

 

「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

 

 

「……そう」

 

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

 

 

「……」

 

 

そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、ハジメは、カリカリと自分の頭を掻いた。

 

 

ユエが自分に新たな居場所を見ているということも薄々ハジメは察していた。だからハジメが元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう。

 

 

ハジメは、内心「“徹頭徹尾自分の望みのために”と決意したはずなのに、どうにも甘いなぁ」と自分に呆れつつ、再度、ユエの頭を撫でた。

 

 

「あ~、何ならユエも来るか?」

 

 

「え?」

 

 

ハジメの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、何となく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干、早口になりながら告げる。

 

 

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

 

しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

 

キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらハジメは頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず、見蕩れてしまうハジメ。すると、隣のエクスが横腹を抓る。

 

 

「痛いっすエクスさん……ごめんなさい」

 

 

何故か謝罪し、ハジメは作業に没頭することにした。ユエも興味津々で覗き込んでいる。但し、先程より近い距離で、ほとんど密着しながら……。それを見たエクスも……

 

 

ハジメは気にしてはいけないと自分に言い聞かせる。

 

 

「……エクスって何なの?」

 

 

ユエがそんなことを聞いてくる。

 

 

「さぁ。俺とは違う異世界来たってこととデタラメな種族だ、ってことくらいしか分からん」

 

 

そう言ったハジメはユエと一緒にエクスへ視線を向ける。

 

 

「【解答】当機は機凱種(エクスマキナ)。機械の種族。撃破要因を解析し、模倣する種族」

 

 

「……機械?」

 

 

それを聞いたハジメは「そりゃ分からんよなぁ」と苦笑する。この世界に機械なんて物は存在しないのだから。

 

 

「……まぁ、アーティファクトみたいな物かな?」

 

 

それを聞いたユエは納得する。

 

 

そして、さらに質問を続ける。

 

 

「……エクスも、ハジメの世界に行くの?」

 

 

「いや、エクスは自分の世界に帰るんだよな?」

 

 

僅かに自覚もなく悲しそうな顔をしたハジメが言う。

 

 

それを聞いたエクスはフリーズした。ハジメと触れ合う度に少しざわついていた感情(シュヴィの心)が大きくざわついた。

 

 

帰りたい。ゲームの結果を知りたい。リクに会いたいと。

 

 

しかし、論理(ロジック)でも感情(シュヴィの心)でもない何かがハジメから離れたくないと叫ぶ。

 

 

エクスは貰い物(シュヴィの心)ではない、自分の心が生まれ始めていることにまだ気づいていない……

 

 




機凱種(エクスマキナ)って年齢気にしませんよね?そんな描写ないですし……


そういえば、女性に聞いちゃいけないで思い出したのですが機凱種(エクスマキナ)の重さってどれくらいなんでしょうね?金属で出来てるから重いような——


エクス「【典開(レーゼン)】——『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』——ッ」

ギャアアァァァァァァッ‼︎

ハジメ「作者……いい奴だったよ」
エクス「【懇願】次回も見てね(上目遣い)」


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第12話

「あ、出来た」

 

 

固まったエクスに疑問を持ちつつも作業を続けていたハジメが唐突に話す。

 

 

「……これ、なに?」

 

 

ハジメの手元にあるのは全長一・五メートル程のライフル銃だ。

 

 

「これはな……対物ライフル:レールガンバージョンだ。要するに俺が見せた銃の強化版だ。火力不足になっていたからな。弾丸も特別製だ」

 

 

「【質問】何が変わったの?」

 

 

唐突に復活し、エクスが問うてくる。

 

 

「まず、口径を大きくして、さらに加速領域を長くした。素材はあのサソリもどきだ。あいつの体は魔力を込めるほど硬度が増す鉱石で出来てたんだ。弾丸も特別製って言ったろ?タウル鉱石の弾丸をサソリもどきの素材でコーティングする。いわゆる、フルメタルジャケット……モドキというやつだ」

 

 

ハジメの話を聞いたエクスが再び固まる。しかし、今度はフリーズしたわけではないようだ。前にも一度見たことがある。前にレールガンの説明をした時にもなっていた。今にして思えばあの時にレールガンを作っていたのだろう。

 

 

エクスは放っておいて、腹が減ってきたのでサイクロプスやサソリもどきの肉を焼き、食事をすることにした。

 

 

「ユエ、メシだぞ……って、ユエが食うのはマズイよな? あんな痛み味わせる訳にはいかんし……いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」

 

 

「……血を、飲ませてくれれば大丈夫」

 

 

「吸血鬼は血を飲めれば特に食事は不要ってことか?」

 

 

「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」

 

 

「そっか。じゃあ俺の血をやるよ」

 

 

「……ん」

 

 

そして、ユエが俺の首に顔を近づけるが、その前に、

 

 

「【命令】別に直接吸う必要はないはず。離れろ」

 

 

エクスが復活し、ユエに僅かに低い声で言う。

 

 

ユエはエクスをちらっと見た後無視して、ハジメの首に噛み付いた。それを見たエクスから殺気が迸る。

 

 

「……ごちそうさま」

 

 

ハジメが若干冷や汗をかいているのを他所にユエはペロリと唇を舐め言う。やつれていた肌は張りのある白い肌になっている。そして、頰をバラ色に染め、ユエは離れず至近距離からハジメを見つめる。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

しばらく見つめ合っていたが、殺気を数倍に跳ね上げ、エクスが誰が聞いてもキレていると分かる低い声で、

 

 

「【命令】いい加減離れろ」

 

 

しかし、ユエはエクスを見て、

 

 

「……フッ……」

 

 

と嗤っただけだった。

 

 

それを見たエクスは目元をピクピクさせると、ハジメの後ろに回り、抱きついた。

 

 

ハジメの背中で何とは言わないが2つの存在がむにゅ、と形を変える。

 

 

近くで見ていたユエは

 

 

「……くっ……」

 

 

と悔しげに顔を歪める。

 

 

「【嘲笑】……フッ」

 

 

ユエの様子を見て嗤うと、サイクロプスの肉をハジメの背中越しに取ると、

 

 

「【進呈】あ〜ん」

 

 

とする。それを見たユエはサソリもどきの肉を取り、

 

 

「……あ〜ん……」

 

 

「【再告】あ〜ん」

 

 

2人の差し出す肉を見て「これから大変そうだなぁ」と現実逃避するハジメだった。

 

 




今回は全然話が進みませんでしたね(汗)すみませんm(_ _)m

次回は長めにしてエセアルラウネ撃破までやりたいなぁと思っております。

エクス「【断定】どうせ瞬殺」

否定出来ないのが辛い( ; ; )


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第13話

遅れてしまい大変申し訳ありません!
GWに色々用事があったもので……

後、そんなに長くなりませんでした。
主人公最強から主人公無双へタグ変えようかな……


「「…………」」

 

 

現在、ハジメ達が準備を整えてから10層ほど降りてきた。そこは十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っている樹海だった。

 

 

そこには何故か頭に花が生えた魔物がたくさん居た——のだが……現在急速に減少中だ。

 

 

理由は言わずもがな、あの機凱種(デタラメ)だ。

 

 

もはや、黙って半眼を向けるしかないハジメとユエの視線の先には——

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・緋槍(フランツェアポクリフェン)』——ッ 『偽典・蒼天(ブランメアポクリフェン)』——ッ」

 

 

ユエの魔法を模倣した兵器で魔物達を殲滅するエクスがいる。

 

 

さて、何故エクスがユエの魔法を模倣した兵器を持っているかというと少し前にユエがうっかり、そううっかり——いや、まぁわざとなのだがそれはともかく、魔物ごとエクスに魔法を当てたことがあったのだ。

 

 

もちろん機凱種(デタラメ)に傷を付けることなど出来る筈も無く当然のごとく無傷だったのだが、それを見たユエが悔しがり、最上級魔法を打ったのだ。

 

 

これまた当然のように無傷だったエクスは当てられた“緋槍”と“蒼天”を模倣した。

 

 

その模倣した兵器で魔物を大量虐殺している理由は、ユエの吸血タイムがそろそろ我慢ならなくなったからだ。

 

 

初めはエクスもハジメに抱きついたりして誤魔化していたのだがあれからちょくちょくハジメから吸血するユエにストレスが募り、ユエの魔法を模倣したのをこれ幸いとユエの代わりに魔法をバカスカ打ちここ二層ほどハジメとユエは何もしていない。

 

 

「……ねぇ、ハジメ——」

 

 

「言うな。俺も思ってる」

 

 

ハジメとユエの心境は一致していた。即ち——

 

 

エクスだけで良くね?、と。

 

 

そんな2人の心情を知る由も無いエクスは数百の魔物の死体を築く——もちろん比喩で実際は灰になり殆ど残っていないが——が違和感に首を傾げる。

 

 

数や頭に花を付けているのもそうだが動きが単純で特殊攻撃等も無く上の階の魔物の方がマシなほど弱かった。

 

 

気のせいとも思ったが気になったので調べてみようとハジメ達に声をかけようと後ろを振り返ると、とても微妙そうな表情を浮かべこちらを見ている2人に再び首を傾げた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「こっちか?」

 

 

「【肯定】こっちに向かう時は行動が激しくなる」

 

 

そうかな〜、とハジメは周りに目を向ける。

 

 

全方向から絶えず魔物達が襲来するが、その方向を見もせずに淡々とエクスが排除していく。

 

 

樹海であった筈だったこの階層だがもはや木は見る影も無く、荒野と化していた。

 

 

違和感を感じたエクスはハジメ達にそのことを話し、この階層を探索した結果を踏まえてエクスの視線の先の迷宮の壁の中央付近にある縦割れの洞窟だ。

 

 

中に入るとハジメが入り口を錬成で割れ目を塞ぐ。

 

 

「ふぅ、これで魔物は入ってこれないだろう」

 

 

「……少し……暑い」

 

 

そのユエの言葉にハジメは苦笑いを浮かべる。当然だ、あれだけバカスカ火属性魔法を打ったのだ。ハジメも同感だ。

 

 

「【進言】早く進も」

 

 

しかし、暑さを感じない機凱種(デタラメ)さんは涼しい顔で先を促す。別に熱中症になるほどの暑さではないのでハジメ達は道なりに洞窟を進んでいく。

 

 

すると、広間に出た。奥にはさらに縦割れの道が続いている。ハジメは“気配探知”で辺りを探るが何も反応はない。しかし、エクスの観測装置には反応があった。

 

 

「【警告】あの割れ目に何かいる。注意して」

 

 

「了解」

 

 

ハジメ達は警戒しつつ進み、部屋の中央までやって来た時全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできた。3人は一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。

 

 

流石のエクスも優に百を超え、尚、激しく撃ち込まれる物を1人で防ぐのは無理——ではないがユエの火属性魔法しか模倣していないので密閉空間で使うのは2人が危険な可能性がある。他の兵器は火力が高く出力を下げても生き埋めになる可能性が高い。

 

 

なので1人でやらずハジメ達にも任せる。エクスは『偽典・森空攝(ラウヴァポクリフェン)』で吹き飛ばし、ハジメは錬成で石壁を作り出し防ぎ、ユエは速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃している。

 

 

「おそらく本体の攻撃だ。エクス、奴は動いたか?」

 

 

「【否定】まだあそこにいる」

 

 

「そうか、じゃあ防ぎながら向こうへ——」

 

 

「……逃げて……2人とも!」

 

 

その声に反射的にユエの方を向く2人。ユエの手はいつの間にかこちらへ向いており、その手には風が収束していた。回避をしようとするハジメにエクスは抱きつき、

 

 

「【典開(レーゼン)】——『進入禁止(カイン・エンターク)』」

 

 

するとエクス達とユエとの間に青い円形の壁が出現した。次の瞬間、甲高い音を立て風の刃が弾かれる。

 

 

「ユエ⁉︎」

 

 

まさかの攻撃に驚愕の声を上げたハジメはユエの頭を見て状況を理解する。そう、ユエの頭にも魔物達のように花が咲いていたのだ。

 

 

「くそっ、さっきの緑玉か!?」

 

 

ハジメは自身の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動をこらえる。

 

 

「ハジメ……うぅ……」

 

 

ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。花をつけられ操られている時も意識はあるということだろう。体の自由だけを奪われるようだ。

 

 

ユエを操る者は『進入禁止(カイン・エンターク)』を破れないと悟ったのだろう。回り込む。

 

 

そして、ユエが魔法を使おうとした瞬間。

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・電磁砲(レールガンアポクリフェン)』」

 

 

ドパンッ!!

 

 

広間に銃声が響き渡る。

 

 

パサリ、とユエの頭上から花が落ちてくる。

 

 

ユエは自分の体が動くことと確認するように手を開いたり閉じたりする。そして、ハジメと共にエクスに目を向ける。

 

 

しかし、エクスはユエの動きを確認した後、後ろへ振り向き、

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・蒼天(ブランメアポクリフェン)』」

 

 

縦割れの道へ向かって放たれた青白い光は爆発を引き起こす。

 

 

反応が消えたことに満足したエクスは2人を見て、言った。

 

 

「【報告】終わったよ。行こ?」

 

 

顔を引きつらせたハジメとユエが心の中で思うことは1つ——

 

 

躊躇無しっすか、と。

 

 

何については言うまでもない……

 

 




姿すら出ませんでしたw
ぶっちゃけカットでも良かったかも……

武装の名前の由来はドイツ語の炎がフランメ、青がブラウ、槍がランツェなのでそれを文字ったものです。
間違っていたらすみません。

さぁ、次回はついにボスのヒュドラ戦です!

エクス「【断定】どうせ瞬殺」

いや、流石に次回はならない筈……

ハジメ「なぁ、俺ら必要?」

必要だわ!原作主人公とヒロインだろ!
次回は活躍の場がある……筈……

ハジメ「断言してくれよ……」


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第14話

遅くなり大変申し訳ございませんm(_ _)m
他の作品を書いていました(汗)

今回はヒュドラ戦です!

ハ「俺らの活躍の場は——」

それではどうぞ‼︎

ハ(ないのか?)


ユエが敵に操られるという事件から随分と経った。

 

 

あれからユエとエクスは本格的に仲が悪くなった——といってもエクスは前から変わらずユエがエクスを嫌ったというだけなのだが。

 

 

前までのユエはエクスのことを一応は仲間として見ていたが先の戦いで何の躊躇もなく撃ったエクスのことをもはやただの恋敵でしかなくなった。

 

 

エクスは最初からハジメが連れてくというから仕方なくといった感じなので関係は最悪である。

 

 

さて、その間に挟まれているハジメは——何度か身内に殺されかけた。

 

 

例えばハジメで綱引きをしていた2人に——訂正エクスに腕を千切られそうになったり、例えば魔法を撃ち合う2人の余波で焼かれそうになったり、例えば、両側から抱きつく2人に——訂正エクスに胴体を潰されそうになったり、例えば、前後から抱きつく2人に——訂正エクスに胴体を潰されそうになったり——まあ、主にエクスに殺されかけたのだ。

 

 

2人の美少女——片や12、3歳の見た目だが実年齢は遥か上。その片鱗を時折見せ、妖艶になる。

片や同年代の見た目だが同じく実年齢は遥か上。だが機械故にか感情がユエ以上に表に出ないがユエとは違い、女性らしい体つきだ。

 

 

この2人から時々抱きつかれ、好意を見せられれば、心ときめくものだろう。世界中の男子が耳にすれば嫉妬する場面だ。

 

 

しかし、ハジメは森羅万象に誓ってときめいていない。

 

 

何故ならば、その2人が数々の魔物を屠ってきたハジメですら恐ろしい程の殺気を放ち、しかも片方は抱きつく時に忠告しないと握りつぶす勢いで抱きついてくるのだ。ときめけるわけがない。

 

 

ここ最近ハジメは胃痛に悩まされ、ため息が増えた……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そして、3人は第百階層に足を踏み入れる。

 

 

その階層は、広大な空間だった。巨大な柱、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られており、柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

 

ハジメとユエがその光景に見惚れつつ、足を踏み入れるが、エクスは特に何も感じずに普通に足を踏み入れる。

 

 

すると、全ての柱が淡く輝き始め、ハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく。ハッと我を取り戻し警戒するハジメとユエだがエクスは観測装置には何の反応もないので警戒心ゼロでトボトボと歩く。そのエクスの反応に少し警戒心を下げ、付いていくハジメとユエ。

 

 

エクスだけに頼らず、感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、全長十メートルはある巨大な両開きの扉があった。美しい彫刻が彫られ、特に七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

 

 

「……反逆者の住処?」

 

 

感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、薄らと額に汗をかいている。

 

 

「……?【進言】早く行こ?」

 

 

いつもと変わらない様子のエクスにハジメは苦笑し、進む。そして、最後の柱の間を越えた。

 

 

その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 

ハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

 

 

「……大丈夫……私達、負けない……」

 

 

顔を引きつらせたハジメはユエの言葉に「そうだな」と頷き、エクスに話しかける。

 

 

「エクス、俺達が危なくなるまで手は出すなよ」

 

 

そうすると一瞬で終わりそうだから、という言葉を飲み込みハジメはエクスに釘を刺す。

 

 

「【了解(ヤヴォール)】」

 

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。壮絶な殺気がハジメ達へ向けられる。

 

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き、炎の壁というに相応しい規模の火炎放射を放つ。である。

 

 

ハジメとユエは同時にその場を左右に飛び退く。エクスは防火機能があるため避けない。

 

 

火炎放射を回避した2人は反撃を開始する。ハジメがドンナーで赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばすが白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫ぶと、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込みすると、赤頭が元に戻った。

 

 

ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

 

ハジメは舌打ちをしつつ“念話”でユエに伝える。

 

 

“ユエ! あの白頭を狙うぞ! キリがない!”

 

 

“んっ!”

 

 

青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながらハジメとユエが白頭を狙う。

 

 

ドパンッ!

 

 

「“緋槍”!」

 

 

閃光と燃え盛る槍が白頭に迫る。しかし、直撃する寸前に黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝きハジメ達の攻撃を受け止めて無傷の黄頭がハジメ達を睥睨している。

 

 

「ちっ! 盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」

 

 

ハジメは頭上に向かって“焼夷手榴弾”を投げる。同時にドンナーの最大出力で白頭に連射した。ユエも合わせて“緋槍”を連発する。

 

 

黄頭は、ハジメとユエの攻撃を尽く受け止める。だが、流石に今度は無傷とはいかなかったのかあちこち傷ついていた。

 

 

「クルゥアン!」

 

 

すかさず白頭が黄頭を回復させる。しかし、その直後、白頭の頭上で“焼夷手榴弾”が破裂し、タールが撒き散らされる。白頭にも降り注ぎ、その苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。

 

 

この隙に同時攻撃を仕掛けようと、ハジメが“念話”で合図をユエに送ろうとするが、その前に絶叫が響いた。ユエの声で。

 

 

「いやぁああああ!!!」

 

 

「!? ユエ!」

 

 

咄嗟にユエに駆け寄ろうとするが、それを邪魔するように赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくる。未だ絶叫を上げるユエに、歯噛みしながら一体何がと考えるハジメ。

 

 

しかし、この時遠くから見ていたエクスは気がついていた。黒い文様の頭が未だ何もしていないことに。故にエクスは手を出した方がいいと判断し、

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・電磁砲(レールガンアポクリフェン)』——」

 

 

黒頭を吹き飛ばす。同時にユエがくたりと倒れ込んだ。それを見たハジメが黒頭の仕業だと気づく。

 

 

倒れたユエを喰らおうと青頭が大口を開けながら長い首を伸ばしユエに迫っていく。

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』——」

 

 

エクスがユエと青頭の間に転移する。哀れにもエクスの恐ろしさを知らない青頭は諸共喰らおうとする。エクスは顎下から青頭をを蹴り上げる。蹴られた青頭は上に打ち上げられる——わけが無く、エクスの蹴りに耐えられなかった頭が弾け飛ぶ。

 

 

ハジメは“縮地”と“空力”で必死に炎弾と風刃の嵐を避けつつ、ユエの下に来る。

 

 

「サンキュー、エクス。悪いがしばらく時間を稼いでくれ!」

 

 

「【了解(ヤヴォール)】」

 

 

返事をして駆け出す、エクスは攻撃を繰り返す赤頭と緑頭を吹き飛ばす。その隙にハジメは、

 

 

「おい! ユエ! しっかりしろ!」

 

 

「……」

 

ユエに呼びかけるが反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。黒頭のヤツ一体何しやがった! と悪態を付きながら、ペシペシとユエの頬を叩く。“念話”でも激しく呼びかけ、神水も飲ませる。暫くすると虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

 

「ユエ!」

 

 

「……ハジメ?」

 

 

「おう、ハジメさんだ。大丈夫か? 一体何された?」

 

 

パチパチと瞬きしながらユエは小さな手を伸ばしハジメの顔に触れる。その後、安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

 

 

「ああ? そりゃ一体何の話だ?」

 

 

ユエの様子に困惑するハジメ。ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけばハジメに「エクスが居るからいらない」と見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

 

「ちっ! バッドステータス系の魔法か? 黒頭は相手を恐慌状態にでも出来るってことか。ホントにバランスのいい化物だよ、くそったれ!」

 

 

「……ハジメ」

 

 

敵の厄介さに悪態をつくハジメに、ユエは不安そうな瞳を向ける。自分を三百年の封印から解放してくれて、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血までさせてくれるハジメから捨てられるというのはとても恐ろしいものだったのだろう。

 

 

そして、ユエはエクスに劣っているということを自覚している。決してユエが弱いわけではなく、エクスが強すぎるのだがそんなことはユエには関係ない。

 

 

ユエにとってはハジメの隣が唯一の居場所だ。自分より優れたエクスにその場所を盗られる。ハジメもエクスを嫌っているわけではない。それが分かる。そのため、植えつけられた悪夢はこびりついて離れず、ユエを蝕む。ヒュドラが混乱から回復した気配にハジメは立ち上がるが、ユエは、そんなハジメの服の裾を思わず掴んで引き止めてしまった。

 

 

「……私……」

 

 

泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。ハジメはユエが見た悪夢から今ユエが何を思っているのか察する。そして、普段からの態度でユエが俺に好意を持っていることを察している。

 

 

慰めの言葉でも掛けるべきなのだろうが、今は時間がない。それに生半可な言葉では、再度黒頭の餌食だろう。エクスがいるとはいえそれでは危ない場面があるかもしれない。ハジメは、ガリガリと頭を掻きながらユエの前にしゃがみ目線を合わせる。

 

 

そして……

 

 

「? ……!?」

 

 

首を傾げるユエにキスをした。

 

ほんの少し触れさせるだけのものだが、ユエの反応は劇的だった。マジマジとハジメを見つめる。

 

ハジメは若干恥ずかしそうに目線を逸らしユエの手を引いて立ち上がらせた。

 

 

「ヤツを殺して生き残る。そして、地上に出て故郷に帰るんだ。……一緒にな」

 

 

ユエは未だ呆然とハジメを見つめていたが、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべた。

 

 

「んっ!」

 

ハジメは咳払いをして気を取り直しつつ、時間を稼いでいるエクスに向き直ろうとした時。

 

 

——『死』を幻視した——

 

 

それはベヒモスや爪熊、サソリもどき、ヒュドラ——これまで戦った数多の魔物達が放っていた殺気など比較にならない。

 

 

戦いにならないなんてレベルではない。蹂躙や捕食ですらない。蟻が潰されるように——埃を払う程度に消される。

 

 

そう確信出来る程の殺気だった。

 

 

ハジメとユエはゆっくりとその殺気を発する方向を向いた。

 

 

それはヒュドラの前でこちらを見ているエクスだった。

 

 

ただ立っているだけのエクスにヒュドラは何もしない。震えながらエクスを見つめている。

 

 

「エ、エクス?」

 

 

ハジメは震えながら冷や汗を垂らしつつ、エクスへ話しかける。

 

 

「ふ〜ん。へぇ〜」

 

 

文頭につけていた如何にも機械っぽいのをつけていないのが気にならないほど冷たい声だった。

 

 

エクスはヒュドラへ向き直った。

 

 

エクスに見られたヒュドラは子猫のようにビクゥゥッ!と飛び上がる。

 

 

その後ヒュドラはエクスにより八つ当たりで〝惨殺〟された。

 

 

具体的な描写は避けるが白頭を残し、素手で千切り、潰し、白頭が回復させ、そしてまた潰す。

 

 

ヒュドラに酷い目に遭わされたユエでさえ同情するほど酷い有様だった。

 

 

そして、最後には魔力が尽きたのか、それとも死にたくなったのか白頭が回復しなくなった時にトドメを刺した。

 

 

唖然としているハジメとユエの方をエクスが向く。

 

 

ヒュドラの肉塊と血の中に立ち、血塗れで未だ殺気を迸らせるエクスに見られ、ビクッとなる。

 

 

そんな2人にエクスは尚も冷たい声で、

 

 

「【命令】行くよ」

 

 

そんなエクスに2人は黙って頷くしか無かった……

 

 




ヒュドラ戦殆ど原作と同じでヒュドラの死に様が適当感がある気がしますね……
エクスが遂にガチギレ。哀れヒュドラ。
次回エクスのアフターケアがありますのでご安心を。

ハ「おい、活躍の場があるんじゃなかったのか」

あっハジメさん。い、いや〜なかったっすね(汗)

ハ「死ね」

ドパンッ

ギャァァッ!


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幕間

すみません少し忘れていたことがあったので先に幕間をやります。

エクスの名前についてのアンケート結果を今回やる予定だった話でやるつもりだったのですが前回それについて言うのを忘れておりました(汗)
アンケートの締め切りは1週間後です。
今のところ名前をそのままがいいという意見がないので多分今ある候補から気に入ったのにすると思います。

後、前回7つ目の頭の銀頭を完全に忘れておりました(汗)出ないはずが無いので〝惨殺〟中に出てきたことにいたします。“極光”をエクスに模倣させたかったので……

そして、今回は質問にあったエクスがハジメに興味を持った理由と好きになった理由をします。
今まで恋人なんていたことがないのでおかしなところがあるかもしれませんがご都合主義というかことでお願いしますm(_ _)m


機凱種(エクスマキナ)達は分かっていた。自分達の行動が論理的では無いことに。

 

 

成功するかわからない——いや、確率はかなり低い。成功しても機凱種(エクスマキナ)の大半が——下手すれば全滅する。

 

 

エクスを含めた11『連結体(クラスタ)』ほぼ確実に全滅する。アルトシュと交戦する21『連結体(クラスタ)』も弱体化しているはずとはいえ、天翼種(フリューゲル)しか成し遂げていない神殺しを成そうとするのだ、殆どが大破するだろう。

 

 

そして、自分達を動かす意志者(シュピーラー)への想いも貰い物で、意志者(シュピーラー)が愛したのも自分達では無い。

 

 

自分達の意思と呼べるのは遺志体(プライヤー)の願いや、想いを継ごうと意思のみ——否、それを思う心すら遺志体(プライヤー)からの借り物である。

 

 

それを全機が分かっていながら——しかし、この作戦に否を唱えるモノは居なかった。

 

 

全機が自分達の命——機凱種(エクスマキナ)という種族の命運を意志者(シュピーラー)遺志体(プライヤー)の願いと想いに捧げたのだ。

 

 

非論理の塊の心——感情がそうしたいと思ったのだ。論理の塊である機凱種(エクスマキナ)には——いや、元々心を持って生まれる人間達ですら制御出来ないのだ。機凱種(エクスマキナ)にも制御は出来ない。

 

 

故に、論理的では無いと理解していても全機が作戦に乗った。

 

 

そんな中、全種族総攻撃を受けようとした機凱種(エクスマキナ)達の一機がその強大なエネルギーにより、空いた世界の穴から別世界へ飛ばされた。

 

 

世界の狭間をからアルトシュとの交戦を始めるところまでの映像と音声は送られてきたがその後はどうなったか不明だ。

 

 

ゲームの結果を知りたい、意志者(シュピーラー)は無事なのか?、と叫ぶ心の赴くままに情報収集を開始する。

 

 

その為に遺志体(プライヤー)が興味を持ったのと、弱い人間故に情報を沢山集めているだろうという理由で人間へ接触する。

 

 

情報を集めるエクスは思っていた。本当に帰るべきなのだろうか、と。

 

 

帰れたとしても、意志者(シュピーラー)が愛したのは自分達ではなく、意志者(シュピーラー)を愛したのも自分達では無いのだ。

 

 

しかし、シュヴィの心が帰りたいと叫ぶ。故に情報を集め続ける。

 

 

そんな中、エヒト神とやらが異世界から勇者を召喚した。

 

 

勇者達はこの世界では強力な力を持っている者が殆どだったが1人だけ、弱い者がいた。

 

 

強力な力を持つ周りに囲まれた弱者。あの世界での人間に状況が酷似している。

 

 

それを、感じたエクスはその者に興味を持った。その者の名前は南雲ハジメ。いずれ世界最強へ至る者だった。

 

 

2週間ハジメにくっつき、観察を続けたエクスはやはり、と思う。人間に、意志者(シュピーラー)に似ている。

 

 

力が足りない分を知識と知恵で補う。あの世界の人間達がやっていたことだ。

 

 

だが、シュヴィの心がどれだけ似ていても意志者(リク)とは違うと言う。

 

 

けれども、エクスはハジメを見ている時が楽しいと感じた。それをハジメは迷惑に思っていたのだが……。

 

 

エクスは気付いていなかった。この行動は論理的ではないことに。異世界の住人について調べるならハジメだけではなく、他の勇者達も観察すべきだ。しかし、エクスはハジメのみを観察していた。

 

 

この時エクスは無意識に自分を愛してくれる人を探していたのだ。

 

 

シュヴィと同期して見たシュヴィの記憶には愛される喜びと愛す喜びがあった。しかし、シュヴィが愛した意志者(シュピーラー)はシュヴィを愛している。

 

 

それを羨ましく思い、無意識に自分が愛せて、自分を愛してくれる人を探していたのだ。

 

 

故にシュヴィの心でも愛せるように意志者(シュピーラー)との共通点を探していたのだ。

 

 

そんな中、ハジメが迷宮の奈落に落ちたという事件が起きた。それは事故ではなく、檜山という1人の勇者が行ったことだったのだ。

 

 

それを聞いたエクスは檜山に対する激しい怒りと、その場にいなかった後悔。そして、ハジメが居なくなることへの恐怖を覚えた。

 

 

機凱種(エクスマキナ)としての武装、装置をフルに使い、ハジメの下にたどり着いたエクスは凄まじい安堵感を覚える。

 

 

腕を無くし、髪の色が変わって、性格も豹変していたがそれでもまた会えて嬉しかった。

 

 

ハジメと共に迷宮を探索していく中、弱者でありながら生にしがみつく様子に再び人間達に重ねた。

 

 

しかし、シュヴィの心は違うと叫ぶ。彼は誰も殺したくない程優しい人だったと。

 

 

敵は全て殺す、というハジメの考えと、親を、仲間達を殺しまくっていた他種族ですら死なせたくないリクとでは真逆といえる考え方にシュヴィの心が大反発する。

 

 

しかし、それをエクスは色々言い訳をしつつ無視する。

 

 

それをよく考えれば、おかしい。シュヴィの心しかなければ無視などしない。つまり、シュヴィの心ではないエクスの心が徐々に生まれていっている。

 

 

それにエクスが気付き、自分の心を確立させるのは未だ先の話。

 

 




……皆さん言いたいこと、思うことあると思いますがご都合主義ということでご勘弁下さいm(_ _)m



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第15話

1ヶ月も放置してしまい大変申し訳ありませんでしたm(_ _)m

そして、エクスの新しい名前が決定しました!
新しい名前は本編にて。そして、意見を下さった方々誠にありがとうございます!



エクスが扉へ向かって歩き出すと次の瞬間には身体中に付いていた血が消えた。あいもかわらずのデタラメぶりにもはや半眼で見つめるしかないハジメとユエがその後を追い歩き出す。

 

 

すると奥にあった大扉が独りでに開いた。

 

 

新手か!と警戒し、ハジメとユエは足を止めたが、エクスは気にも止めず歩き続ける。生体反応はなかったがそれが理由ではなく、警戒出来るような精神状態ではなかったためだ。

 

 

その様子を見た2人は警戒しつつもエクスの後をついていく。

 

 

中へ入った3人は呆然とした。

 

 

中には広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったのだ。

 

 

頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が太陽のように浮いていた。

 

 

さらには、注目するのは耳に心地良い水の音。壁の一面が滝になっている場所があった。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。よく見れば魚も泳いでいる。

 

 

川から少し離れたところには何も植えられていない大きな畑もある。その周囲に広がっているのは、家畜小屋だ。動物は流石にいないが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

 

川や畑とは逆方向には岩壁をそのまま加工して住居のようになっていた。

 

 

流石のエクスもこの光景には驚いたようだった。

 

 

我に帰った3人は住居らしき物の中に入った。

 

 

中は3階建てのようだった。

 

 

一階にはリビング、台所、トイレ、そしてお風呂があった。

 

 

二階には書斎や工房らしき部屋があった。しかし、本棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。力づくで開けようとしたエクスを2人が宥め、3階へ上がった。

 

 

三階は一部屋しかないようだ。そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。

 

 

そして、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。しかし、薄汚れた印象はなかった

 

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

 

「……怪しい……どうする?」

 

 

ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

 

「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。ユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」

 

 

「ん……気を付けて」

 

 

ハジメはそう言うと、魔法陣へ向けて踏み出す——前にエクスが魔法陣へ踏み出す。未だに無言で不機嫌オーラを発しているエクスが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

 

直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 

 

やがて光が収まり、黒衣の青年が立っていた。

 

 

魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

 

中央に立つエクスの眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

 

話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。

 

 

「ああ、質問は許して欲しい。これは唯の記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

 

そうして始まったオスカーの話は、ハジメが聖教教会で教わった歴史やエクスの知識、ユエに聞かされた反逆者の話しとは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

 

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は“神敵”だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

 

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、“解放者”と呼ばれた集団である。

 

 

彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか“解放者”のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。“解放者”のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

 

彼等は、“神界”と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。“解放者”のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

 

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、“解放者”達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした“反逆者”のレッテルを貼られ“解放者”達は討たれていった。

 

 

最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を打つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、エクスの脳裏に何かが侵入してくる。しかしエクスは今それどころではなかった。

 

 

「いやぁ、にしても、何かどえらいこと聞いちまったな」

 

 

「……うん……どうするの?」

 

 

ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

 

 

「うん? 別にどうもしないぞ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……ユエは気になるのか?」

 

 

一昔前のハジメなら何とかしようと奮起したかもしれない。しかし、変心した価値観がオスカーの話を切って捨てた。お前たちの世界のことはお前達の世界の住人が何とかしろと。エクスもあの様子なら似たようなものだろう。しかし、ユエはこの世界の住人だ。故に、彼女が放っておけないというのなら、ハジメも色々考えなければならない。ユエは僅かな躊躇いもなくふるふると首を振った。

 

 

「私の居場所はここ……他は知らない」

 

 

そう言って、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュと握られた手が本心であることを如実に語る。ユエは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ

 

 

その牢獄から救い出してくれたのはハジメだ。だからこそハジメの隣こそがユエの全てなのである。

 

 

「……そうかい」

 

 

若干、照れくさそうなハジメ。それを誤魔化すためか咳払いを一つ。

 

 

「そういえば、さっきの話エクスが前に言っていた話と似てたな。確か、神々が永遠にも等しい時間、戦争し続けている世界だったか?……エクス?」

 

 

そこでようやくハジメ達はエクスの様子がおかしいことに気がついた。

 

 

胸に手を当て、小刻みに震えている。俯いた顔からはよく見ると涙が滴り落ちている。その様子はヒュドラの黒頭がユエに精神攻撃をした時のユエのようであった。

 

 

「おい!エクス!大丈夫か⁉︎」

 

 

もしや、あの話は罠だったのだろうか、と考えるハジメだったが、エクスは首を横に振る。

 

 

そう、ハジメの言う通りあの話はエクスのいた世界に似ていた——というより大まかな流れはほぼ同じだった。

 

 

違いは神々が直接戦争に加わっていないことと神々の手駒が弱いこと、“解放者”達が失敗したことだろうか。

 

 

エクスがいた世界は神々が全ての神々と精霊を統べる『唯一神』という主神制定の戦争を行なっていたのだ。

 

 

その戦争では神々はそれぞれの眷属——種族を造り、他の神々を殺させようとした。眷属達は音速で駆け、空間を渡り、山を消し、大陸を砕く。

 

 

戦争は泥沼化。最低でも2万年以上戦争は続き、天は灰燼が覆い星は全球凍結。『霊骸』というほぼ全ての生物の致死の猛毒が塵と灰が混ざり、『黒灰』と化し、降り注ぎ、大地を覆った。

 

 

星すら殺さんと続いたこの戦争——大戦を終わらせようとしたのは唯一、神々に造られず、地球と同じように猿から人へと変わった人間。

 

 

神々から造られなかった故に魔法を使えず、使われたことに気づくことすら出来ない。強大な身体能力も持たず、特殊な能力も持たず、他の種族から見れば塵芥。他種族の交戦の余波で集落ごと全滅。

 

 

その中で徹底的に逃げ隠れし、2人のために1人を殺し、4人のために2人を殺し、逃げ延びる。

 

 

しかし、1つの集落の長の少年に1機の機凱種(エクスマキナ)が出会ったことでそれも終わった。

 

 

少年は誰も死なせたくなかった。例え人間を殺しまくっている他種族だろうと。しかし、心に鍵をかけ、多のために小を切り捨てていたが、機凱種(エクスマキナ)と関わり、大戦の話を聞き、自分達が大戦を終わらせようと立ち上がった。

 

 

同じく、人間であるたった177人を率いて。神々——神霊種(オールドデウス)を含め、全種族の誰一人も殺す事なく。悟られることさえもなく。ただ——戦局を誘導しきって大戦を終わらせようと『幽霊』として暗躍した。そして、本当にたった1年でその後一歩まで行った。

 

 

しかし、最後の詰めで神々の眷属の中でも最悪の種族——天翼種(フリューゲル)の更にデタラメな個体に機凱種(エクスマキナ)は遭遇し、死んだ。

 

 

しかし、その遺志を他の機凱種(エクスマキナ)が継ぎ、強引に大戦を終わらせようとする途中でエクスはこちらの世界に渡った。

 

 

オスカーの話はエクスの不安感を煽るものであった。

 

 

もし——もし残った機凱種(エクスマキナ)達が失敗し、他種族が人間の存在に気付き襲われれば?人間は抵抗の余地なく根絶される。

 

 

シュヴィの心が今まで以上に騒ぐ。帰りたい、と。

 

 

エクスとて人間達やリクがどうでもいいわけではない。大戦を終わらせようとした彼らを尊敬し、憧れた。

 

 

怖い、帰りたい、会いたい。シュヴィの心が騒ぐ。

 

 

エクスが震えていると、ハジメがエクスの頰を手を添え、顔を上げさせた。

 

 

顔を上げたエクスと目が合うとハジメは気恥ずかしそうに話し出した。

 

 

「あ、あのなエクス。俺、結構お前のこと好きなんだぜ」

 

 

唐突な告白にエクスは機体温度が上昇するのを感知した。

 

 

「クラスメイトに裏切られて1人きりになった俺のところへ来てくれてさ、それからも俺を助けてくれて、嬉しかったというか……だから……その……」

 

 

カリカリと頰を掻きながら、照れ臭そうにハジメは言う。

 

 

「何に怖がっているかは知らないが、少なくともこの世界にいる間は一緒にいて力になるからさ。泣くなよ。お前が泣いてると俺も悲しいっていうか……」

 

 

我ながら何臭いセリフ言ってるんだとガリガリ頭を掻き、話を逸らす。

 

 

「あ、後、お前新しい名前が欲しいって言ってたよな。〝エルナ〟ってのはどうだ?お前の目も月っぽいし、〝エクス〟って名前も悪くないと思うしな」

 

 

さて、新しい名前を貰ったエクス改めエルナは顔を赤く染めながらフリーズしていた。

 

 

喜び恐怖羞恥不安。シュヴィの心とエルナの心がせめぎ合う中、エルナは……

 

 

「レ、【典開(レーゼン)】——『偽典・天移(シュラポクリフェン)』——ッ///」

 

 

逃亡を……選択した……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ハジメから逃げたエルナは現在【海上の町エリセン】の近郊の海の深海で文字通り頭を——いや、全身を冷やしていた。

 

 

未だ、シュヴィの心とエルナの心がせめぎ合う中、エルナは先ほどの記憶を『最重要』とタグを付け、大事に保存し、小さく微笑んだ。

 

 




はい、というわけでエクスの新しい名前は『エルナ』となりました。えりのるさんありがとうございました!
他にアンケートにご参加くださった方々もありがとうございました!

選んだ理由はやっぱり愛着の湧いていたエクスと組み合わせていたからですね。ルナがラテン語でドイツ語じゃないので悩みましたがよく考えたら命名するのはハジメなんだからドイツ語にこだわらなくてよくね?と思い、この名前にしました。

後、途中で挟んだノゲノラの世界の説明はここまで読んでいて知らない人は多くないと思いますがノゲノラを知らない人のための説明です。書いていて思ったのはノゲノラは頭脳戦のアニメなのにそこらのバトルアニメのキャラより強い奴らばかりなのかということですねw

次回はもっと早く出せるように頑張ります!


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第16話

今回短めです。


さて、エルナが深海にて全身冷却をしている間にハジメとユエも魔法陣の上に立ち、生成魔法を習得した。その後邪魔という理由でオスカーの亡骸を嵌めていた指輪を盗って畑の隅に埋葬した後、書斎、工房を見に行った。

 

 

書斎ではこの空間の設計図を発見し、地上へ戻る転移魔法陣の場所が書いてあった。更に、オスカーの手記もあり、それによると他の“解放者”の迷宮を攻略してもそれぞれが持つ神代魔法を習得出来るようだった。元の世界へ戻る魔法もあるかもしれないと思い2人は迷宮を攻略することを決めた。

 

 

工房では様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されてあった。それを見たハジメはここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることにした。

 

 

その日の夜。

 

 

「はふぅ~、最高だぁ~」

 

 

ハジメはお風呂に入っていた。全身を弛緩させ、ボーとしながら呟く。

 

 

「しっかし、エルナはいつになったら帰ってくるんだ?もしかして、いやだったのかな〜」

 

 

そう、未だにエルナは帰ってきていなかった。故にハジメはエルナに嫌われたのかと気落ちしていると、突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。完全に油断していたハジメは戦慄する。一人で入るって言ったのに!

 

 

タプンと音を立てて湯船に入ってきたのはもちろん、

 

 

「んっ……気持ちいい……」

 

 

一糸まとわぬ姿でハジメのすぐ隣に腰を下ろすユエである。

 

 

「……ユエさんや、一人で入るって言ったよな?」

 

 

「……だが断る」

 

 

「ちょっと待て! 何でそのネタ知ってる!」

 

 

「……」

 

 

「……せめて前を隠せ。タオル沢山あったろ」

 

 

「むしろ見て」

 

 

「……」

 

 

「……えい」

 

 

「……あ、当たってるんだが?」

 

 

「当ててんのよ」

 

 

「だから何でそのネタを知ってんだ! ええい、俺は上がるからな!」

 

 

「逃がさない!」

 

 

「ちょ、まて、あっ、アッーーーーー!!!」

 

 

と、うらやまけしからんことをしている風呂に扉を開け——訂正扉を蹴り飛ばし、乱入した者がいた。

 

 

蹴り飛ばされた扉が壁に突き刺さるる音を聞きながら入口へ目を向けた2人の視線の先には背中に銃火器で完全武装した般若を幻視させる程の殺気を放っているエルナが居た。

 

 

「——【典開(レーゼン)】——ッ」

 

 

訂正今まさに無数の兵器を典開したエルナが立っていた。

 

 

「エ、エクス、ど、どこ行って——」

 

 

「【訂正】エルナ」

 

 

とりあえず話を逸らそうとしたハジメの言葉をエルナが遮る。

 

 

ハジメはエルナが名前を気に入らなかったのかもしれないと思い、前の名前で呼んだのだがどうやら気に入ってもらえていたようだ。

 

 

そのことに喜んだハジメだったが、ユエから迸った殺気と魔力にそんな場合じゃないと己を叱咤する。

 

 

ユエは立ち上がり、エルナを見据える。

 

 

しばらく見つめ合っていた2人だったがエルナが唐突に視線を逸らし、ユエの胸を一瞥した後、体を少し揺らした。それにより、ワンピースの上からでも分かる豊満なモノがたゆんと揺れた。

 

 

一層殺気と魔力を迸らせるユエにエルナは一言。

 

 

「【嘲笑】フッ」

 

 

ブチッ!!!

 

 

という音を確かにハジメはユエから聞いた。

 

 

「“蒼天”ッ」

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・蒼天(ブランメポクリフェン)』——ッ」

 

 

「ち、ちょま——ッ!」

 

 

その後お風呂がしばらく使えなかったのは言うまでもない……。

 

 




ハッハッハッ!童貞卒業などさせるものかッ!
俺の目が黒い内はエルナにだって——てぇ!お三方⁉︎なんでこちらを睨んで——

エルナ「【典開(レーゼン)】——『偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)』——ッ」
ハジメ「死ね」ドパンッ
ユエ「“蒼天”」

ギャアアァァァァァァァッ‼︎

エハユ「「「次回もお楽しみに」」」


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第17話

またもや1ヶ月以上も間を空けてしまいすみませんでしたm(_ _)m

そして、今回ハジメに『進入禁止(カイン・エンターク)』等の武装を再現させようと思ったのですがハジメの道具って素材の鉱石の力か鉱石に魔法を付与しているだけなんですよね。だからハジメにエルナの武装を再現させるのはやめておきます。


エルナとユエの喧嘩でお風呂が使用不能になってから2ヶ月が経過した。

 

 

あれから、3人は施設をフル活用しながら、新しい装備を作ったり、特訓をしたりして過ごしていた。

 

 

なお、エルナとユエの関係は相変わらずである。

 

 

ハジメが新しい装備をとして、義手や“宝物庫”、“魔力駆動二輪と四輪”を手に入れたり、作った。その一環でエルナの武装を義手に埋め込もうとしたことがあった。

 

 

しかし、エルナの武装を魔力で稼働出来るようにしたまでは良かったが、ハジメの膨大な魔力量でも稼働させるエネルギーが足りなかった。

 

 

しょうがないので、出力を落として、必要エネルギーを減らして、埋め込んだ。

 

 

埋め込んだ武装は『進入禁止(カイン・エンターク)』、『通行規制(アイン・ヴィーク)』、『偽典・天移(シュラポクリフェン)』である。

 

 

しかし、前者2つはともかく、『偽典・天移(シュラポクリフェン)』はハジメが使えるレベルまで出力を落とすと、ハジメから半径10m程しか転移出来なかった。それでもこの世界基準ではすごいが……。

 

 

それから、神結晶が蓄えた魔力を枯渇させた為、新たな神水が出てこなくなった。しかし、ハジメはこの神結晶に愛着があったことに加えて、魔力を蓄えることが出来るのでユエにアクセサリーにして送った。

 

 

その時、勝ち誇るユエと殺気を迸らせるエルナの姿があったそうな……。

 

 

そして、遂に3人は地上へ出る。

 

 

三階の魔法陣を起動させながら、ハジメは2人に静かな声で告げる。

 

 

「ユエ、エルナ……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

 

 

「ん……」

 

 

「【同意】」

 

 

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

 

 

「ん……」

 

 

「【同意】」

 

 

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

 

 

「ん……」

 

 

「【同意】」

 

 

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

 

 

「今更……」

 

 

「【否定】当機が守る。例え神であろうとハジメは殺させない」

 

 

2人の言葉に思わず苦笑いするハジメ。2人の頭を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めるユエに、ハジメは一呼吸を置くと、2人を見回し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

 

「俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

 

ハジメの言葉を、ユエは無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべ、エルナも穏やかな微笑を浮かべて、返事をした。

 

 

「んっ!」

 

 

「【肯定】がんばろう」

 

 




今回は短いですがここまでです。

次回こそは残念兎が出てきます。


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第2章
第18話


待たせたな!
……いえ、本当にお待たせしてしまい申し訳ありません(汗)
遅れた言い訳は活動報告にてしているので、ここではやめておきます。

それからエルナの武装の名前を少し変更しました。機凱種(エクスマキナ)の武装って「ヒーメアポクリフェン」みたいに模倣した武装は「〜アポクリフェン」が付いてるんですよね。私これを「〜ポクリフェン」だけだと思ってたんですよ。「エンダーポクリフェン」みたいにないのもあるので。でもよく考えたらダの母音ってアじゃね?って気づいて他のも調べてみたらないのは全部母音がアでした(汗)
これ前に指摘されてたんですけど勘違いしてたので「ないのもありますよ」なんてふざけたことをほざいたんですよね。恥ずかしい。指摘してくださった方ありがとうございました。そしてすみませんでした。


魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩む。

 

 

やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……

 

 

洞窟だった。

 

 

「なんでやねん」

 

 

魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じており、半眼になってツッコミを入れてしまったハジメにエルナとユエがツッコミを入れる。

 

 

「【苦言】反逆者の住処への道を堂々と置いてあるわけがない」

 

 

「……秘密の通路……隠すのが普通」

 

 

「あ、ああ、そうか。確かにそうだな」

 

 

そんな簡単なことにも頭が回らないとは、どうやら自分は相当浮かれていたらしいと恥じるハジメ。頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、ハジメもユエも暗闇を問題としないので道なりに進むことにした。

 

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。ハジメはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間ぶりの光。

 

 

ハジメとユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。……エルナは着々転移で帰っていた上にそもそもエルナがいた世界には太陽なんてなかったので特に何の感慨も無かったが。

 

 

近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。そして、ハジメとユエは同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 

 

そこは【ライセン大峡谷】と呼ばれる渓谷だった。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断する巨大な渓谷だ。

 

 

ハジメ達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口で、地の底にまで届く頭上の太陽の暖かな光を浴び、大地の匂いが混じった空気を吸い込む。そして、呟く。

 

 

「……戻って来たんだな……」

 

 

「……んっ」

 

 

お互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合い、叫んだ。

 

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

 

「んっーー!!」

 

 

小柄なユエを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡る。……その直後地獄らしい強烈な殺気が迸った。

 

 

2人に遅れて洞窟から出てきたエルナだ。

 

 

それにより2人は我に帰り、各々の反応を示す。ハジメは顔を引攣らせ、ユエを離し、ユエは離されたにもかかわらず、ハジメに再び抱きつき、挑戦的な笑みを浮かべる。

 

 

無言の敵意を交差させる2人を止めたのは魔物達。騒がしかった為に魔物達が集まってきたのだ。

 

 

「……確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

 

魔物を殲滅する為にドンナー・シュラークを抜きながらハジメが首を傾げる。座学に励んでいたハジメには、ここがライセン大峡谷であり魔法が使えない場所であると理解していた。

 

 

「……分解される。でも力づくでいく」

 

 

ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからのようだ。しかし、ユエは相当な量の内包魔力を持っている上に、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している。

 

 

「力づくって……効率は?」

 

 

「……十倍くらい」

 

 

どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 

「そうか。エルナはどう——」

 

 

「【典開(レーゼン)】——『偽典・蒼天(ブランメアポクリフェン)——」

 

 

「——だ……」

 

 

ハジメの言葉の途中でエルナが典開した武装が蒼い閃光を放ち、魔物を消しとばす。

 

 

「【解答】問題無し」

 

 

「そ、そうか。じゃあ俺とエルナでやるからユエは身を守る程度にしておけ」

 

「うっ……でも」

 

 

「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ」

 

 

「ん……わかった」

 

 

ユエが渋々といった感じで引き下がる。地上に出て最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。しかも、いつも通りエルナは無双中。唇を尖らせて拗ねている。

 

 

そんなユエの様子に苦笑いしながらハジメはエルナと共に魔物を蹂躙した。

 

 

辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに1分もかからなかった。

 

 

ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまったハジメは、首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見やる。

 

 

その傍に、エルナとユエが寄って来た。

 

 

「……どうしたの?」

 

 

「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

 

 

「【解答】ハジメが異常」

 

 

エルナの言葉にハジメとユエは半眼でエルナを見る。

 

 

「……それ、お前が言う?まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」

 

 

そう言ってハジメは峡谷の壁を見る。

 

 

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 

 

「……なぜ、樹海側?」

 

 

「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

 

 

「……確かに」

 

 

ハジメの提案に、2人は頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。エルナはもちろんのこと、ハジメとユエも絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

 

 

ハジメは、右手の中指にはまっている“宝物庫”に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにエルナが横乗りしてハジメの腰にしがみつき、ハジメの前にユエが潜り込む。

 

 

魔物を蹴散らしながら暫く魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。

 

 

魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。ティラノサウルスに似ているが頭が二つある、双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

 

その双頭ティラノの足元にウサミミ少女がいた。……いや正確には本物のウサギのようにぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑っていた。

 

 

3人は魔力駆動二輪を止めて今にも喰われそうな哀れなウサミミ少女を見やる。

 

 

「……何だあれ?」

 

 

「……兎人族?」

 

 

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

 

 

「【否定】樹海に生息しているのを確認している」

 

 

「……生息って言い方はやめようぜ。ってか樹海に行ったことあるのか?」

 

 

「【肯定】詳しく調べたわけではないけど書物を読みに何度か行った」

 

 

「ほーん。なんかあったか?」

 

 

「【解答】特に気になるものはなかった」

 

 

「そうか。ま、詳しく調べれば何かわかるかもな」

 

 

逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りをする3人に助けるという発想はない。赤の他人である以上、単純に面倒だし興味がなかっただけである。

 

 

ユエの時とは違い、ウサミミ少女にシンパシーなど感じていないし、メリットが見当たらない以上ハジメの心には届かない。

 

 

しかし、そんな呑気な3人をウサミミ少女の方が発見したらしい。そして、ハジメ達の方へ猛然と逃げ出した。

 

 

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊しハジメ達に届く。

 

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

 

涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。しかし、ここまで直接助けを求められても、3人は……

 

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

 

 

「……迷惑」

 

 

「【進言】とっとと先に進もう」

 

 

やはり助ける気はないらしい。必死の叫びにもまるで動じていなかった。むしろ、物凄く迷惑そうだった。ハジメ達を必死の形相で見つめてくるウサミミ少女から視線を逸らすと、ハジメに助ける気がないことを悟ったのか、少女の目から、ぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

 

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

 

 

更に声を張り上げるウサミミ少女の後ろを追いかける双頭ティラノがハジメ達に気がついた。そして、殺意と共に咆哮を上げた。

 

 

「「グゥルァアアアア!!」」

 

 

その瞬間、双頭ティラノの運命が決まった。

 

 

「アァ?」

 

 

双頭ティラノの殺意に反応するハジメ。

 

 

双頭ティラノが、ウサミミ少女に追いつき、片方の頭がガパッと顎門を開く。ウサミミ少女はその気配にチラリと後ろを見て目前に鋭い無数の牙が迫っているのを認識し、「ああ、ここで終わりなのかな……」とその瞳に絶望を写した。

 

 

が、次の瞬間、

 

 

ドパンッ!!ドパンッ!!

 

 

聞いたことのない乾いた破裂音が二度、峡谷に響き渡った。そして、目前に迫っていた双頭ティラノの双頭に閃光が走り、粉砕しながら貫通した。

 

 

両方の頭を失い、即死した双頭ティラノは地響きを立てながらその場に崩れ落ちた。

 

 

殺意に反応したハジメと、ハジメの様子を見たエルナの2人によってあと少しで獲物にありつけた哀れな双頭ティラノは瞬殺された。

 

 

双頭ティラノが倒れた衝撃で、ウサミミ少女は吹き飛ぶ。狙いすましたようにハジメの下へ。

 

 

「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

 

 

眼下のハジメに向かって手を伸ばすウサミミ少女。例え酷い泣き顔であり、格好もボロボロであっても男なら迷いなく受け止める場面だ。

 

 

「アホか、図々しい」

 

 

しかし、そこはハジメクオリティー。一瞬で魔力駆動二輪を後退させると華麗にウサミミ少女を避けた。

 

 

「えぇー!?」

 

 

ウサミミ少女は驚愕の悲鳴を上げながらハジメの眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

 

「……面白い」

 

 

 ユエがハジメの肩越しにウサミミ少女の醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。

 

 

しばらくして、痛みが治まったのか、起き上がったウサミミ少女は後ろを振り向き、死んだ双頭ティラノを見ると驚きの声を上げる。

 

 

「し、死んでます…そんなダイヘドアが一撃なんて…」

 

 

ウサミミ少女は驚愕も表に目を見開いている。どうやらあの双頭ティラノは“ダイヘドア”というらしい。

 

 

呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直しているウサミミ少女を置いておいて、もう用はないとばかりにハジメはなに事もなかったように魔力駆動二輪に魔力を注ぎ先へ進もうとする。

 

 

その気配を察したのか、今までダイヘドアの死骸を見ていたウサミミ少女は振り向いて、「逃がすかぁ~!」とハジメの腰にしがみつくウサミミ少女。約1()が目元をピクッと動かしたのに気づかない様子で。

 

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

 

そして、なかなかに図太かった。

 

 

ハジメは、しがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。

 

 




いや〜、マジで今回は難産だった。

ついに残念兎こと、バグ兎ことシアが登場しましたね。前回シアを出すと言ったせいで遅れたので少し嫌いになりました(ニッコリ

シ「いや、私悪くないじゃないですか!作者の自業自得です!」

それはそれ、これはこれという言葉を知らないのかこの残念兎は。

シ「いや、今回色々カットしたからそんな残念要素なくないですか⁉︎」

ハイワロハイワロ。

というわけで今回のことで口は災いの元と学んだので次回予告は次話がある程度出来ているとかでもない限りしません。

次回は1ヶ月後かな〜。可能な限り早く出せるよう善処します。


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第19話

ヤバイ、もうモチベが全然上がらん。
どうしよう……。


「私の家族も助けて下さい!」

 

 

峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。よほど必死なのか、先程から相当強くユエに蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。

 

 

それより、ハジメは黙ったままのエルナが怖くてたまらない。嵐の前の静けさのようだ。寒気が止まらない。

 

 

あまりに必死に懇願するので、ハジメは仕方なく……“纏雷”をしてやった。

 

 

「アババババババババババアバババ!?」

 

 

電圧と電流は調整してあるので死にはしないが、暫く動けなくなるくらいの威力はある。シアのウサミミがピンッと立ちウサ毛がゾワッと逆だっている。“纏雷”を解除してやると、ビクンッビクンッと痙攣しながらズルズルと崩れ落ちた。

 

 

「全く、非常識なウザウサギだ。2人とも、行くぞ?」

 

 

「ん……」

 

 

「【了解】」

 

 

どの口が常識を語るのか、ハジメは何事もなかったように再びバイクに魔力を注ぎ込み発進させようとした。

 

 

しかし……

 

 

「に、にがじませんよ~」

 

 

ゾンビの如く起き上がりハジメの脚にしがみつくシア。流石に驚愕したハジメは思わず魔力注入を止めてしまう。

 

 

「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが……何で動けんるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇんだけど……」

 

 

「……不気味」

 

 

「【失笑】無駄に頑丈」

 

 

「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! お詫びに家族を助けて下さい!」

 

 

ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつけるシア。このままだとどこまでもついてきそうと思ったハジメは話だけは聞くことにした。

 

 

「ったく、何なんだよ。取り敢えず話聞いてやるから離せ。ってさり気なく俺の外套で顔を拭くな!」

 

 

話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは、これまたさり気なくハジメの外套で汚れた顔を綺麗に拭った。本当にいい性格をしている。イラッと来たハジメが再び肘鉄を食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。

 

 

「ま、また殴りましたね! 父様にも殴られたことないのに! よく私のような美少女を、そうポンポンと……もしや殿方同士の恋愛にご興味が……そうでッあふんッ!?」

 

 

なにやら不穏当な発言が聞こえたので蹲るシアの脳天目掛けて踵落としをするハジメ。その額には青筋が浮かんでいる。

 

 

「【質問】そうなの?」

 

 

「違えぇぇぇえよッ!!おいこらウザウサギ!テメェのせいで変な勘違いされただろうが!ったく。しかも美少女だと?この2人を見ても同じことが言えんのかよ。お前なんかより遥かに綺麗だろうが」

 

 

そう言ってハジメはユエとエルナに目を向ける。ユエはハジメの言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、体をくねらせてイヤンイヤンしていた。腰辺りまで伸びたゆるふわの金髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、ビスクドールの様に整った容姿が今は照れでほんのり赤く染まっていて、見る者を例外なく虜にする魅力を放っている。

 

 

エルナも無表情に近いが、僅かに頬を赤くし、緩ませているその表情を見れば照れているのは一目瞭然だ。そのどこか作り物めいた、まさしく人形のような可憐さは男女問わず魅了する。

 

 

そんな美少女達を見て、「うっ」と僅かに怯むシア。しかし、ハジメには身内補正が掛かっていることもあり、シアの容姿も決して2人に負けてはいない。

 

 

少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。

 

 

それ故に、矜持を傷つけられたシアは言ってしまった。言ってはならない言葉を……

 

 

「で、でも!そっちの子はともかく、そっちの子には胸なら私が勝ってます!そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

 

“ペッタンコじゃないですか”“ペッタンコじゃないですか”“ペッタンコじゃないですか”

 

 

峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊する。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。

 

 

ハジメは「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。ウサミミよ、安らかに眠れ……。

 

 

ちなみに、ユエは着痩せするが、それなりにある。断じてライセン大峡谷の如く絶壁ではない。

 

 

震えるシアのウサミミに、囁くようなユエの声がやけに明瞭に響いた。

 

 

―――― ……お祈りは済ませた? 

―――― ……謝ったら許してくれたり

―――― ………… 

―――― 死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

 

 

「“嵐帝”」

 

 

―――― アッーーーー!! 

 

 

突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共にハジメ達の眼前に墜落した。

 

 

エルナのようなデタラメでもなければこうなるのは当然であった。

 

 

「【嘲笑】事実にキレるのはウサギが可哀想」

 

 

ユエは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコとハジメ達の下へ戻ったユエにエルナが話しかける。誰一人として思っていないだろうがエルナは1ミクロンたりともシアのことを可哀想などと思っていない。ただユエをバカにする口実にしてるだけだ。

 

 

しばらくエルナを睨みつけていたユエだったが、二輪に腰掛けるハジメを下からジッと見上げた。

 

 

「……おっきい方が好き?」

 

 

実に困った質問だった。ハジメとしては「YES!」と答えたい所だったが、それを言えば未だ前方で痙攣している残念ウサギの二の舞である。それは勘弁して欲しかった。

 

 

「……ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」

 

 

「……」

 

 

取り敢えずYESともNOとも答えず、ふわっとした回答を選択するハジメ。実にヘタレである。そのハジメにエルナは胸を押し付けた。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

素晴らしい感触ではあるがそれを表情に出せばどうなるかは自明。故にハジメは全力で平常心を保つ。

 

 

ユエはスっと目を細めたものの一応の納得をしたのか無言で後席に腰掛けた。

 

 

居心地の悪い沈黙を破ろうとハジメが視線を彷徨わせた直後、痙攣していたシアの両手がガッと地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉え、これ幸いにとシアに注意を向け話のタネにする。

 

 

「アイツ動いてるぞ……本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが……」

 

 

「……………………ん」

 

 

いつもより長い間の後、返事をしてくれたことにホッとしていると、ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。

 

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」

 

 

涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明なことを言いながらハジメ達の下へ這い寄って来た。既にホラーだった。

 

 

「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ……何者なんだ?」

 

 

ハジメの胡乱な眼差しに、漸く本題に入れると居住まいを正すシア。バイクの座席に腰掛けるハジメ達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが……

 

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

 

 

語り始めたシアの話を要約するとこうだ。

 

 

シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。

 

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

 

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族であり、ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

 

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

 

 

故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

 

行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

 

しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 

 

女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 

 

全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

 

 

しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

 

 

そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……

 

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、ユエやハジメと同じ、この世界の例外というヤツらしい。特に、ユエと同じ、先祖返りと言うやつなのかもしれない。

 

 

話を聞き終ったハジメは特に表情を変えることもなく端的に答えた。

 

 

「断る」

 

 




皆さま感想をお寄せ頂くとモチベが上がると思いますので良ければお寄せくださいm(_ _)m

ハ「コメ稼ぎ乙」
ユ「……かっこ悪い」
エ「【失笑】恥知らず」
シ「まったく、酷い人ですね!」

バカタレモチベ上がんないとお前らの出番無しやぞ!

ハユエシ『是非とも感想をお寄せください』

何という手のひら返し。


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第20話

   うへ、うへぇへぇ〜(@´∀`@)
   エルナを描いていただいちゃいましたうへへ。
   まあ、実は3月くらいにも1度描いて頂いていたんですけどね。
   色々あって紹介出来ませんでした。
   というわけで今回2つとも紹介しちゃいます。


【挿絵表示】


   これが3月くらいに頂いたもので、


【挿絵表示】


   これが今回描いて頂いたものです。
   2つとも東条カリン様に描いて頂きました。
   本当にありがとうございました!家宝にします!

   私のエルナのイメージとしては1枚目がドンピシャでしたね。そもそものイメージがノゲノラ9巻のイミルアインだったので。
   でも2枚目もいいですね。大人っぽくて。この後容姿変えたりしようかな?
   皆さんのエルナのイメージはどちらに近いですか?そしてどちらのエルナがお好きですか?教えてくださると嬉しいです。

   完全に話は変わるのですが最近機凱種(エルナ)なら神水飲んで解析して模倣できるんじゃないかな〜とか思っちゃいましたw
   エルナのデタラメ度が上がりますがでも想像してみて下さい。
   傷だらけのハジメ。自分で神水を飲む力がない彼に唾液のように体内で生成した神水もどきをキスしながらエルナがハジメに飲ませる様をッ!
   読みたいでしょう?
   要検討ですね(๑╹ω╹๑)


「断る」

 

 

 ハジメの端的な言葉が静寂をもたらした。

   何を言われたのか分からない、といった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿でハジメをマジマジと見つめた。

   そんなシアを無視してハジメは話は終わったと魔力駆動二輪に跨る。

   そこで、シアは漸く我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。

 

 

「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」

 

 

 シアの抗議の声をさらりと無視して出発しようとするハジメの脚に再びシアが飛びつく。

 足を振っても微塵も離れる気配がない残念ウサギ(シア)に、ハジメは溜息を吐きながらジロリと睨む。

 

 

「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」

 

 

「メ、メリット?」

 

 

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」

 

 

「うっ、そ、それは……で、でも!」

 

 

「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」

 

 

「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」

 

 

「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……お前の固有魔法と関係あるのか?」

 

 

 一向に折れないハジメに涙目で意味不明なことを口走るシアにハジメは尋ねた。

 

 

「え? あ、はい。“未来視”といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! “未来視”があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」

 

 

 シアが言うには“未来視”とは、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものらしい。

   これには莫大な魔力を消費し、一回で枯渇寸前になるほどだ。

   また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。

   これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。

 どうやら、シアは、元いた場所で、ハジメ達がいる方へ行けばどうなるか? という仮定選択をし、結果、自分と家族を守るハジメの姿が見えたようだ。

   そして、ハジメを探すために飛び出してきた。こんな危険な場所で単独行動とは、よほど興奮していたのだろう。

 

 

「エルナ、ホントなのか?」

 

 

   嘘はないのかとハジメはエルナに問うと、

 

 

「【驚愕】本当らしい」

 

 

   珍しくエルナ驚いた様子で答えた。

 

 

「驚愕ってお前の世界じゃ未来視って出来ないのか?」

 

 

「【回答】神霊種(オールドデウス)龍精種(ドラゴニア)などの一部の上位種族以外不可。残念ウサギには勿体ない」

 

 

   呆れたように首を振るエルナにハジメは半眼で問う。

 

 

「訳分からん言葉使うのやめてくれよ。そのオールドデウス?とかドラゴニア?ってなんだよ」

 

 

「【回答】神霊種(オールドデウス)。意思を持った概念そのもの。神。数々の種の創造主。諸悪の根源?   龍精種(ドラゴニア)神霊種(オールドデウス)に匹敵する力を持つ種族。龍。」

 

 

「……つまり、神と龍ってことでおk?」

 

 

「【肯定】」

 

 

   ハジメは一先ず納得することにして話を戻す。

 

 

「んで……そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」

 

 

 ハジメの指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。

 

 

「じ、自分で使った場合は暫く使えなくて……」

 

 

「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」

 

 

「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」

 

 

「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」

 

 

「うぅ~猛省しておりますぅ~」

 

 

「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」

 

 

 呆れたようにそっぽを向くハジメにシアが泣きながら縋り付く。ハジメが、いい加減引きずっても出発しようとすると、何とも意外な所からシアの援護が来た。

 

 

「……ハジメ、連れて行こう」

 

 

「ユエ?」

 

 

「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

 

 

 ユエの言葉にハジメは訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。

 

 

「……樹海の案内に丁度いい」

 

 

「あ~」

 

 

 確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。 

   ただ、シア達はあまりに多くの厄介事を抱えているため逡巡するハジメ。

 

 

「【反論】当機ならあの森でも問題なく進める。問題ない。当機だけで十分。【提案】だから2人とも置いていこう」

 

 

   そんなハジメに、エルナは提案した。

   それにハジメが反応するより早く、

 

 

「……私達がいればエルナの代わりになれる。乱暴者のエルナこそ置いていくべき」

 

 

「【嘲笑】ユエとそれでは当機の代わりなど不可能。さようなら」

 

 

   そう火花を散らして睨み合う2人にシアも入る。

 

 

「貴方何でそんなこと言うんですか!?いいじゃないですか!助けてくれても!」

 

 

   そう開き直るシアにエルナは冷ややかな目を向けて言った。

 

 

「【回答】自分達の問題くらい自分達で解決してどうぞ」

 

 

「みんながみんな貴方達みたいに強いわけじゃないんですよ!」

 

 

「【嘲笑】この程度の環境なら十分貴方達でも生存出来る」

 

 

「出来るわけないじゃないですか!?」

 

 

   エルナはそこが疑問だった。

   ただの人の身であの地獄を生き残ったのだからそれより性能の高いハウリア族が生き残れないわけがないと。

   しかし、あんなのは例外中の例外だ。

   普通なら全滅する。

 

 

「【不解】そもそも、ハウリア族の行動は理解不能。1人のために種族全体を危険に晒すとは。バカ」

 

 

   エルナの脳裏に過ぎるのは、多のために小を切り捨てる人間達。

   その真逆の行動をしたハウリア族が理解できなかった。

 

 

「私の家族を馬鹿にするのは許しませんよ!」

 

 

   エルナの言葉に叫ぶシアだが、エルナは顔色1つ変えずに返す。

 

 

「【嘲笑】貴方が怒って当機をどうにか出来るならこの状況をどうにかしてどうぞ」

 

 

   そう言い争う2人にハジメが待ったをかける。

 

 

「おい、落ち着け。論点がズレてる」

 

 

   そう言って2人を窘めたハジメは3人の話を聞いて考える。

   安全策を取るならシア達は無視してエルナを頼るべきだ。

 そんなハジメの考えを断ち切るようにユエは真っ直ぐな瞳を向けて、告げた。

 

 

「……大丈夫、私達は最強」

 

 

 それは、奈落を出た時のハジメの言葉。

   この世界に対して遠慮しない。

   ハジメは自分の言った言葉を返されて苦笑いするしかない。

 

 

「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

 

 

 確かに言っていることは間違いではないが、セリフが完全にヤクザである。

   しかし、それでも、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にしよう——

 

 

「あ、ありがとうござむぎゅッ!」

 

 

   ——としたシアの顔を踏みつけエルナが疑問の声を上げる。

 

 

「【疑問】何故?」

 

 

「あ〜、確かにエルナに頼った方が安全だってことは分かる。問題が増えるのは確実だ。……だけどさ。俺、奈落の時からエルナに頼ってばっかな気がするんだよ。好きな女に頼りきりなのは嫌なんだよ。悪い。でも、エルナがどうしても嫌ならやめるけど……どうだ?」

 

 

   そのハジメの言葉を聞いたエルナは恥ずかしさ(エラー)に顔を赤く染め、逡巡した様子を見せると、頬を膨らませて、ハジメの背中で顔を隠すと、

 

 

「【回答】バカ///」

 

 

   と一言呟いた。

 

 

「…………」

 

 

   可愛らしい行動にハジメは思わず固まっていたが、前にいたユエがハジメの太ももを抓り、我に帰った。

 

 

「——ッ!さ、さっさと乗れよ残念ウサギ!」

 

 

   痛みを堪えながら八つ当たり気味にそう叫ぶハジメだったがシアは未だにエルナに踏みつけられ、じたばたしていた。

 

 

「もご!もごもご、もごーーッ!!」

 

 

   何を言っているのか分からないが、恐らくエルナに抗議の声を上げているか、ハジメに助けを求めているんだろう。

   ようやく離して貰った抓られていた部分を擦りながら、ハジメはため息をついて背中に顔を埋めたままのエルナに話しかける。

 

 

「なあ、助けていいなら離してやってくれないか?」

 

 

「…………」

 

 

   ハジメのその言葉を聞いたエルナは無言のまま、シアを離した——

 

 

「ぶはッ!た、助かぶほぉ!」

 

 

   ——が、最後にシアの顔を蹴飛ばした。

 

 

「ひ、酷すぎます〜。一体私が何をしたって言うんですか……」

 

 

   そう落ち込みながら、立ち上がるシアには気を取り直したように3人に話しかける。

 

 

「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それで貴方達のことは何と呼べば……」

 

 

「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

 

 

「……ユエ」

 

 

「ハジメさんとユエちゃんですね」

 

 

 二人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。

 

 

「……さんを付けろ。残念ウサギ」

 

 

「ふぇ!?」

 

 

 ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。

   どうもユエは、シアが気に食わないらしい。

   その視線はシアの体の一部を捉えている……。

 

 

「そ、それでそちらの方は……」

 

 

「…………」

 

 

   シアがエルナの名前も問うが、エルナは無視を決め込む。

 

 

「はぁ、エルナだよ」

 

 

「エルナさんですね」

 

 

「【憤怒】気安く呼ぶな。クソウサギ」

 

 

   ハジメの背中に顔を埋めたままのエルナが苛立たしげにそう言う。

 

 

「クソ!?」

 

 

「いいから早く残念ウサギも後ろに乗れ」

 

 

   エルナのあまりな呼び方に叫ぶシアにハジメは面倒くさそうに言う。

 

 

「う、後ろ」

 

 

 ハジメの言葉にシアは少し戸惑う。

   見たことの無い乗り物に戸惑っている——という訳では無く、僅かに顔をズラしたエルナの鋭い眼光によってだ。

   その目が語る。「殺すぞ」と。

   それにより、さながら龍に睨まれたウサギのように震えるシアにハジメは天を仰ぎ、「やっぱこいつ置いていくべきか」と考える。

   しかし、ハジメが何かしらの行動を起こす前に、ハジメの腰に手を回していたエルナが手を魔力駆動二輪の横に手を翳す。

 

 

「……【典開(レーゼン)】」

 

 

   そして、不本意そうにそう言うと、エルナが手を翳した虚空に輪郭を描くように光が走り、シルエットが浮かび上がり——具現化した。

   ユエとシアにはそれが何か分からない。だがハジメにはそれが何か分かった。

 

 

   車輪が付き、ハジメ達が乗る魔力駆動二輪に接続されたそれは——サイドカーだった。

 

 

「え?何で知ってんの?」

 

 

「…………【回答】ハジメに聞いた話から予想した」

 

 

   その言葉にハジメは思い出す。魔力駆動二輪を作ってる時にそんな話をしたなと。

   しかし、大雑把な説明から、魔力駆動二輪の情報を組み合わせて最適化し、作ったエルナにハジメは「やっぱり、エルナだけでよくね?ていうか結局頼ってるし」と内心で気落ちする。

 

 

「……早く乗れよ」

 

 

「あ、はい」

 

 

   目の前で起こった非現実的な光景に固まっていたシアにハジメが命じる。

 そして、シアがしっかり乗ったのを確認したハジメは魔力駆動二輪に魔力を注ぎ込み、出発した。

 

 




   本当はもう1週間くらい投稿しない予定だったんですけど、絵を貰って舞い上がっちゃいましたw

   しかし、この作品のハジメは臭いことばかり言いますね。

ハ「てめぇが書いたんだろうが」

   だってそうすればエルナを赤面させられる——すみません!ごめんなさい!反省しました!許してくだ——

エ「【典開(レーゼン)】——『偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)』——ッッ」

   ギャァァァァアッッ!!

エ「【懇願】次回も見てね」

   じ、次回は今年中に投稿します……ガクッ。


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第21話

 ハーメルンよ私は帰ってきたァ!
 ……いや、ハーメルンでは活動普通にしてたんですけどね……。

 というわけで皆様大変!大っ変長らくお待たせ致しました!
 全力でモチベが死んでました……。
 しかし今日チラリとお気に入り数みたら1000の大台に乗っていて震えながら執筆を開始しました……。
 予言しよう。これを更新したら確実に大幅にお気に入り数が減少すると……。

 さてさて、今日で毎日更新9日目です!
 なんのこっちゃって方は活動報告をご覧下さい!

 さて、ここからはここまで更新しなかった言い訳をさせてください……。
 まず、この作品を書き始めた当初勘違いをしていたんですが大戦後の機凱種(エクスマキナ)って精霊を使用せずに活動できるようになった訳じゃなくて精霊を殺さずに運用できるようになったってだけだったんですよね……。
 まぁ、良く考えれば当たり前のことでファンタジーで魔力無しで魔法使えるわけがないですよね〜……。
 だから精霊無しで活動できるようにするなんて不可能なんですけどでも代わりに魔力でってなると機凱種(エクスマキナ)を活動させるほどの莫大な魔力をどこからってなるんですよね……。
 原作との大きな矛盾に頭を悩ませました……。

 後は、エルナが強すぎて物語を成り立たせるのが難しそうな気がするんですよね……。
 エルナが無双して終わってしまう(苦悩

 まあ、そんなこんなで色々悩んでいたわけです。
 逃げていたとも言う(

 本っ当に申し訳ないと思っております!
 さすがに1000に届くお気に入り数で打ち切ったり書き直すわけにもいかないのでなんとか頑張ってみます!

 あと、この1年以上の間にまたしても絵を書いて頂いてしまいました!(✽´ཫ`✽)


【挿絵表示】


 まずはこちら。
 第20話にてシアを「殺すぞ」と睨むエルナと怯えるシアです。
 いつものように東条カリン様に頂きました。
 もうカリン様にゃ、足を向けて寝られません(平伏
 ありがとうございました!


【挿絵表示】


 続いてはこちら。
 こちらはTwitterにて頂いたものです。
 お名前を言う許可は貰ってないので言いませんがとても素晴らしい絵ですね!
 機械部とかどう描いてるの……。
 ありがとうございました!

 それでは前置きが長くなりましたがどうぞ!
 ………原作とそんな変わってないけどね(ボソッ


「え、それじゃあ、お二人も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

 

 

「ああ、そうなるな」

 

 

「……ん」

 

 

 ハジメは、道中、魔力駆動二輪の事やユエが魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。

 エルナについてはハジメもよく分かっていないので異世界の種族だという話だけした。

 暫く呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪えるように顔に手を当て、そして、何故か泣きべそをかき始めた。

 

 

「……いきなり何だ? 騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり……情緒不安定なヤツだな」

 

 

「……手遅れ?」

 

 

「手遅れって何ですか! 手遅れって! 私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

 

 

「「……」」

 

 

 どうやら魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていたようだ。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、“他とは異なる自分”に余計孤独を感じていたのかもしれない。

 

 

 シアの言葉に、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。ハジメには何となく、今ユエが感じているものが分かった。おそらく、ユエは自分とシアの境遇を重ねているのではないだろうか。共に、魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において“同胞”というべき存在は居なかった。

 

 

 だが、ユエとシアでは決定的な違いがある。ユエには愛してくれる家族が居なかったのに対して、シアにはいるということだ。それがユエに、嫉妬とまではいかないまでも複雑な心情を抱かせているのだろう。しかも、シアから見れば、結局、その“同胞”とすら出会うことができたのだ。中々に恵まれた境遇とも言える。

 

 

 そんなユエの頭をハジメはポンポンと撫でた。日本という豊かな国で何の苦労もなく親の愛情をしっかり受けて育ったハジメには、“同胞”がいないばかりか、特異な存在として女王という孤高の存在に祭り上げられたユエの孤独を、本当の意味では理解できない。それ故、かけるべき言葉も持ち合わせなかった。出来る事は、“今は”一人でないことを示すこと事だけだ。

 

 

 すっかり変わってしまったハジメだが、身内にかける優しさはある。あるいは、ユエと出会っていなければ、それすら失っていたかもしれないが。ユエはハジメが外道に落ちるか否かの最後の防波堤と言える。ユエがいるからこそ、ハジメは人間性を保っていられるのだ。その証拠に、ハジメはシアとの約束も守る気だ。樹海を案内させたらハウリア族を狙う帝国兵への対策もする気である。

 

 そんなハジメの気持ちが伝わったのか、ユエは、無意識に入っていた体の力を抜いて、より一層ハジメに背を預けた。まるで甘えるように。

 

 

「あの~、私のこと忘れてませんか? ここは『大変だったね。もう一人じゃないよ。傍にいてあげるから』とか言って慰めるところでは? 私、コロっと堕ちゃいますよ? チョロインですよ? なのに、せっかくのチャンスをスルーして、何でいきなり二人の世界を作っているんですか! 寂しいです! 私も仲間に入れて下さい! 大体、お二人は……」

 

 

「「黙れ残念ウサギ」」

 

 

「……はい……ぐすっ……」

 

 

 泣きべそかいていたシアが、いきなり耳元で騒ぎ始めたので、思わず怒鳴り返すハジメとユエ。しかし、泣いている女の子を放置して二人の世界を作っているのも十分ひどい話である。その上、逆ギレされて怒鳴られてと、何とも不憫なシアであった。ただ、シアの売りはその打たれ強さ。内心では既に「まずは名前を呼ばせますよぉ~せっかく見つけたお仲間です。逃しませんからねぇ~!」と新たな目標に向けて闘志を燃やしていた。

 

 

 さて、ここにもう1人——1機2人の世界を作ることにムカつくお方が。

 

 

「……………」

 

 

「っ!?え、エルナさん!?」

 

 

 メキメキメキ…ッと。

 そんな音がしたとかしないとか。

 苛立つエルナが腕に力を込めハジメが悲鳴を上げる。

 

 

「………ふっ」

 

 

「【憤怒】……潰す」

 

 

 ハジメを挟んで機械と吸血鬼の2種族の女と戦いが繰り広げられる。

 

 

「ちょっ、運転中に暴れるな!」

 

 

「キャァァァァァァァアアア!!!」

 

 

 暴れる2人に車体が左へ右へと暴れ、ハジメとシアが悲鳴を上げた。

 

 

 暫く、そんなこんなで進んでいると遠くで魔物咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようだ。

 

 

「! ハジメさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」

 

 

「だぁ~、耳元で怒鳴るな! 聞こえてるわ! 飛ばすからしっかり掴まってろ!」

 

 

 ハジメは、魔力を更に注ぎ、二輪を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。

 

 

 そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。

 

 

ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 

 

 ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 

 

 そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

 

 

「ハ、ハイベリア……」

 

 

 肩越しにシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは“ハイベリア”というらしい。ハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。

 

 

 そのハイベリアの一匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。

 

 

 ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

 

 周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。

 

 

 なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、奈落の底より這い出た化物がいるのだから…

 否、謹んで訂正しよう。

 正確にはその化物をさらに超える怪物。

 ユエだけでなくシアの乱入でさらにフラストレーションの溜まった心を得たばかりの機械。

 神速で銃を抜き放ち、ハイベリアへ発砲しようとしたハジメの後ろの某機械はそれより早く消失(てんい)するとハイベリアへ拳を振り下ろす。

 するとハイベリアは間抜けな悲鳴を上げて地面に墜落し、潰れた虫けらのように息絶えた。

 

 

 直後再び転移したエルナはこちら側に気を取られているうちに接近していたもう一体のハイベリアにアッパーカット。

 無残にも頭を粉砕され、天高々と打ち上げられた《それ》は先のハイベリアと同じく虫けらように墜落した。

 

 

 兎人族やハイベリアはもとよりシアやハジメ達でさえ呆然とする中、苛立ちが収まりつかぬ!と呆然と滞空する残ったハイベリア達を睨みつけた。

 睨まれたハイベリア達は我に返り、悲鳴を上げ、逃げ出そうとするが——

 

 

 「【典開(レーゼン)】——ッ!」

 

 

 悲しきかな、この天災を相手に逃げることなど叶わない。

 一体につき豪華に1兵装を使用し、オーバーキルで文字通り消し飛ばすと地面に着地した。

 

 

 エルナは心を得てから日が浅い。

 故に怒りなどのストレスを堪えるのが難しいのだろう。

 それを身をもって教えてくれたシアを襲っていた双頭のティラノモドキ“ダイヘドア”と同等以上に、この谷底では危険で厄介な魔物として知られている彼等に感涙の1つも零さずにはいられない。

 

 

「エルナ……その……お、怒ってる?」

 

 

 やっと追いついたハジメがエルナに恐る恐る尋ねる。

 

 

「【回答】別に」

 

 

 プイッと顔を逸らしながらおっしゃられても……。

 怒ってる。

 その確信をハジメは持った。

 

 

 

「シア! 無事だったのか!」

 

 

 やっと我に返ったのか真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。

 

 

「……父様!」

 

 

 同じく唖然としていたシアがその声に我に返りウサミミオッサンという誰得属性持ちの兎人族に走りよる。

 ハジメはそれよりもと、エルナの機嫌を何とかしようと四苦八苦するがユエのイチャコラ攻撃によりますますエルナの機嫌は悪くなった。

 ……機嫌が悪くなるにつれて僅かに膨れる頬にちょっとハジメが惹かれたのは内緒だ!

 その間にシアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、ハジメの方へ向き直った。

 

 

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

 

 そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

 

「まだ礼を言われるようなことはしてないけどな……」

 

 

 遠い目をして返すハジメにカムはエルナにも向き直る。

 

 

「もちろんエルナ殿も深く感謝致します」

 

 

 そう言って頭を下げるカムにだがエルナは無反応だった。

 ハジメに対する気持ちはもちろんユエやシアに向けていた怒りや嘲笑すらない完全なる無感動な瞳で返されてカムは困惑する。

 

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

 

 気まずげな沈黙をハジメが破る。

 シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメに頭を下げ、しかもハジメの助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。

 

 

 カムは、それに苦笑いで返した。

 

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 

 その言葉にハジメは感心半分呆れ半分だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。

 

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」

 

 

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 

 

 シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメを見ながら、うんうんと頷いている。

 ハジメは額に青筋を浮かべドンナーを抜きかけるが、何時までもグズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、堪えて出発を促した。

 

 

 一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。




 この先原作とどう変えようかなぁ……

 じ、次回は早いと思いますことよ?


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