魔女が求めるは魔王が欲した世界 (シャットエアコン)
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1話

パソコンのキーボードが逝かれてるので携帯から失礼します。誤字脱字ありましたら連絡いただければ幸いです。


「こんな、ところで…」

 

ワタシの目の前で1人の男が小さく囁く。烏色の綺麗な黒髪で、紫の瞳の綺麗な青年だ。

しかし、今の様相は綺麗なものではなく、薄暗い倉庫の埃にまみれた地面に両膝と片肘を震えながらもつき体を支え、もう片方の腕で左胸を必死に押さえている。

白く綺麗なシミひとつない顔肌は土埃と自身の血によって汚れてしまっており、眉間の皺を深め、歯を食いしばりながら苦悶の表情を浮かべる。

しかし、人を惹きつける怜悧な紫の瞳からまだ光は失われていない。

 

「俺は、こんな、とこで…」

 

白い肌は更に青白くなっていく、その色はまるで死人であるかのように。

 

その様子を他人事のようにぼうと見ていると、地面に体を人形のように転ばせている自分の右手の先に液体の感触を覚えた。

目線をチラリと手の先に向けるとその先にあったのは赤。液体はサラサラしておりその独特な色の赤ですぐに血だと理解する。

 

「世界を、壊し…」

 

地面の冷たい無機質の感触を心地よいと感じながら、手の先の血は目の前の青年のモノと理解する。

肘のついていない青年のもう片方の手が必死に左胸を握っている。強く握る手は真っ赤に染まっており、隙間から赤いシミがあふれ、赤い水滴がポタポタと地面に落ちていく。青年の目と鼻の先で倒れているワタシの手の先まで広がっているであろう液体をそう冷静に判断した。

その間に青年の力が尽きたのか肘と膝が崩れ、地面に体を投げ出す。

 

ほんのすぐ目の前にきたその顔を覗く。

その瞳はまだ力を持ち、光を放っていた。

地面に顔を付け、口から血を流しながらもまだ諦めてはいないようだ。しかし、そう思ったのもここまで。

 

「優しい、世界を…」

 

青年は先程よりも顔を白くし、咳とともに小さく血を口から吐き出す。

 

瞳から光が失われていく。

先程までの瞳の光は最後の悪あがきだったのだろう。

瞳に宿しし意思は何かに向けられた悪意と殺意、そして僅かな愛情と恋情。しかし流れ出す血とともに失われていく。

 

そして顔を横に向け、正気の宿った瞳を眩しそうに細く開けているワタシと青年の瞳が合った。

少し体を動かせばキスをする程の距離、青年は驚かないはずがなかった。

 

ヒョッっと、小さく息を吸う青年、何かを考えていたのだろうか、数秒の後に無関心を装いながらも何かを責めているような目をこちらに向けた。

次の瞬間、ゴフッと大きく血を吐き出すと胸を握りしめていた腕すらも投げ出し、ワタシから顔を背け、仰向けになって虚空を見つめだした。

青年の吐き出した血でワタシの顔は汚れたがワタシは青年から目を逸らさない。

 

青年のその瞳に光はもう見えない。

感覚が薄くなったのだろうか、苦悶の表情を浮かべ皺を寄せていた顔は穏やかなものとなっている。眠いから寝るといったように瞼が静かに閉じられていく。

死をすぐそこに感じたのだろう、それを受け入れたのか、受け入れられなかったのか判断はワタシにはつかなかったが、青年は最後にすぐそばにいるワタシすらも聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で小さく、しかしはっきりと呟いた。

 

「ナ、ナリ……あい、してい、る……」

 

青年は静かに瞼を下ろしきり、その紫の瞳を隠していった。

 

力が入らなくなり、こくっと眠るように顔が傾く。前髪がさらりと青年の顔を覆い隠した。

 

先程逸らされた青年の顔が再び目の前にある。

 

人形のように息もしなくなった青年の顔は埃と土埃で汚れた、そして血で濡れながらも芸術品のようだった。

白い肌に黒いサラリとした髪、瞳を開けていればさぞ異性にモテるであろう端正な顔は赤く濡れた口周りすらも気にならない。

 

ワタシは魂の無くなった青年の顔を見つめ続ける。目をそらしたくない、できることなら永遠と見つめ続けたい、そんな感情が湧き出るほど。

神が与えた時間とも思えるワタシにとっては不思議な時間は無粋な男の声で現実に戻される。

野太い男の声が青年とワタシの近くの上から聞こえてくる。

 

「ふん、愚かな学生め、テロリストだか主義者だかわからんが大人しく逃げていれば生きられたものを。まあいい、邪魔者は無くなった。対象を回収した後、殿下に連絡し直ぐに帰還する! 時間はないぞ、急げ」

 

「イエス! マイロード」

 

男に命令されたであろう有象無象が行動を開始する。靴音がワタシの耳元で聞こえたと思った瞬間ワタシは乱暴に体を抱き起こされた。

目線が青年から切れる、ワタシは諦めきれず青年を見つめたいと体を動かそうとするも力が入らない。体から脳への神経、道はあるが、その逆、脳から体に命令する道はないといったような感じだ。

目線を動かすのに精一杯で、青年の上半身を見つめるのに精一杯だった。

ワタシを抱き上げた有象無象の1人が口を開いた。

 

「先程のメディックに送った例の名誉ブリタニア人と、このブリタニアの学生はいかがなさいますか?」

「ふむぅ、あのイレブンか。面倒だが、シュナイゼル殿下の直属の特派が前々から気にかけていたようだ。始末するにも後が面倒そうだ。回復次第口止めをすれば問題ないだろう」

「イエス、マイロード」

「そしてそうだな、この不幸な学生は」

 

次の男の言葉には狂気と愉悦が含まれていた。

 

「イレブンのテロリストに殺されたことにすれば良い。死体を嬲って捨てておけばわからぬよ、念のため顔がわからなくなるほど潰しておけ」

 

その言葉にワタシの何かが吹っ切れた。

 

ワタシは体のバラバラになっていた神経全てが繋がるような感覚を覚えた。体とはどのようにすれば動き。どのように加減すれば力を出せるのかを思い出す。

今のワタシはなにもわからない、空中で手をジタバタさせる赤ん坊から、一流アスリートのように身体を自由に動かせる大人の体に急成長したような感覚だ。

体はワタシの意に従い動き出す。

 

「なん、グワァッ!」

「なんだ!?」

 

ワタシを米俵のように抱えていた男を脚を使って背中から吹き飛ばす。

吹き飛ばす直前に男の拘束から離れたワタシはその場で静かに着地する。

 

「貴様!? 意識が戻っていたのか!」

 

先程から命令をしていた指揮官面をしていた男が体を跳ねるように動かして銃と思われる武器をこちらに向けてくる。

それを見ても冷静にワタシは思考する。すると、額が燃えたように熱くなる。身体中の血という血が額に集まる。血と一緒にどこからか感じるエネルギーが同じく額に通いだし、そのエネルギーで長い若草色の髪は逆立ちだす。そのエネルギーをどうすればいいかは考えなくてもわかった。

額に集まったエネルギーを目の前の男と、周りを囲んでいる有象無象にぶつける。目には見えない大きな衝撃波としてそれは男たちにぶつけられた。

 

その瞬間、辺りは阿鼻叫喚と化した。

 

男達は頭を急に抱えたと思うとその場で膝をつき大声を発して発狂しだしたのだ。

一人一人が大人とも思えない狂気に呑まれた顔をして騒ぎだす。

 

それをワタシは当たり前のように見つめる。こんなことは初めてであり、非科学的な光景を目にしてもなにも動じない。

それどころか、次にワタシがやることを理解する。理解できないが理解した。

 

静かに歩みだし、指揮官のもとまで歩いていく。指揮官の男は先程までの余裕ぶった表情から今は見るにも耐えない愚かな表情をしていた。

他の有象無象とは違い声こそ出していないながらも眼をこれでもかと剥き出しにして左目は左下を向き右目は上を向いていた。

口は阿呆のように半開きにしており、口の淵から涎がダラダラと落ちていた。

グロテスクともいえる男の表情を馬鹿にしたようにワタシは笑う。これは報いだ。なぜかそう思う。

 

「まあ、苦しまないで死なせてやるよ、それはワタシの慈悲だ」

 

口から初めて言葉が発せられた。

静かに発せられた言葉は冷淡に、死を宣告する。

その意味はワタシが発声しようとしていたものでは決してない。

そう思いながらもワタシは男の足元に落ちている銃を拾う。

そしてそれの銃口をまだ呆けている男の眉間に静かに押し当てる

 

「感謝はしなくていいぞ」

 

ワタシは銃の引き金を躊躇いもなく引いた。

 

 

倉庫にいた狂乱した有象無象全てを間引いた後ワタシは移動を始めた。外では未だに銃声が聞こえる。他の仲間がこちらにこないとも限らないからだ。

 

既に事切れた青年を担いでワタシは倉庫から離れた新宿ゲットーの端の下水道に身を潜める。

下水道の側壁にできた人が数人ほど入れそうな隙間を見つけ、ようやく一息ついた。ここならば目の前を、通らない限り見つかることはないだろう。体に力があるとはいえ、成人男子1人を抱えて数刻も移動するのは酷だった。

 

青年を静かに地面に下ろして先程の続きとばかりに顔を見つめる。

ワタシは体育座りをして横たわる青年の顔を眺め続けた。

何分眺め続けただろう。ふと思い出したようにワタシは青年の口元を自分の服ーー拘束服ーーの袖で拭いた。

先程と変わり血が乾き、黒くパサついていたそれは少し不恰好で、青年には似合わないと思ったからだ。今の状況でなんてことを思うのだと自ら自制する。しかし表情はきっと穏やかに笑っているだろう。眠る赤ん坊の涎を拭き取る母親のごとく。

青年の髪を優しく撫でながらワタシは今の不思議な状況を振り返る。

 

「ワタシはいったいなんなんだろうな。この知識とは違う記憶がある。これはワタシではない」

 

そう、今のワタシには2つの記憶が混雑していた。2つきれいに独立して分かれているのではなく、それぞれの記憶をバラバラにしたあと、適当に2つを組み立てたようになっていた。

ある時は中世のヨーロッパ風の田舎で奴隷のような真似をしている自分がいて、また、ビルが建ち並ぶ間の小さな公園で小さな子供達と遊んでいた。

ある時は田舎の教会で信頼していたシスターに自らを殺され、また、制服を着た友人らしき人物と歓談し、他愛もないことで笑いあっていた。

ある時は磔にされ火で炙られ、また、薄暗い部屋のテレビの前でアニメを見ている自分がいた。

 

なにもかもバラバラ、そしてツギハギ。

組み立てる時に大分の部品は、捨ててしまったのだろうか、重要な記憶もあればどうでもいい記憶もある。

どうでもいい記憶で忘れているのはいい。忘れたい記憶が残っているのもまだいい。だが、忘れたくない記憶が残っていないのはなんとも切ない気持ちになるものだ。

 

2つの記憶とも自分の名前も、家族の顔も、親しい友人も覚えていない。覚えているのはどちらかのワタシが使っていたワタシを表す記号、今のワタシには唯一のワタシがワタシである証明である名前を覚えていた。

 

ワタシの名前は〝C.C.〟。

 

片方のワタシが知るアニメ、コードギアスのヒロインの名前であり、片方のワタシが忘れていない唯一の記号であり名前である。

 

どうやら、ワタシは物語の登場人物の1人に転生、憑依してしまったようだ。

 

そしてワタシの側で眠っているのは状況的に見てアニメ、コードギアス反逆のルルーシュの主人公である、ルルーシュランペルージなのだろう。そう確信した。

冷静に思い出すと先の倉庫での様子はワタシが知るアニメの序盤のシーンに似ていた。

違うところはルルーシュが死に、私が兵士を殺した所だろうか。

やつらは日本、この世界ではエリア11と呼ばれている国の総督であるクロヴィスの親衛隊だったはずだ。

クロヴィスはワタシの特異性に気が付き、本国のブリタニア皇帝や宰相に内緒でワタシの人体実験「コードR」を行っていた。その被験体のワタシがテロリストに奪われ、その回収と後始末の任務に駆り出されていたと覚えている。

 

何故こんなにも片方の記憶の極一部分だけ詳しく覚えているのか、親の顔すら覚えてないくせにと自嘲する。

しかし、今のこの世界にいるという状況からしたらありがたいものであり、値千金どころか何よりも貴重なものかもしれない。

 

しかし。その知識が今のワタシには重くのしかかっていた。

 

知識ではルルーシュは倉庫で王の力に目覚めていた。

途中で意識を取り戻したC.C.によって王の力を与えられたルルーシュは、自らに宿った王の力ーー絶対遵守の力を使い親衛隊を殺し、危機を脱していたのだ。

そしてそれこそがこの物語の始まりであり、ルルーシュの運命の分岐点。そしてワタシ自身、C.C.の運命の分岐点でもあったはずだ。

 

そしてそれをワタシは潰した。

 

おそらくはワタシがC.C.に憑依した影響で脳がパンクしていたのだろう。なぜワタシが憑依したのかは考えても仕方がないため捨て置く。重要なことはそこではないからだ。

憑依したことで本来ならルルーシュの足を掴み契約を交わすという行動をとることができなくなった。

それによってルルーシュは親衛隊に撃たれて亡くなったのだ。

 

ワタシのせいだ。

 

C.C.のせいではなく、ワタシがルルーシュを殺してしまったのだ。故意ではない。故意ではないがワタシが殺した、ルルーシュを。この物語の何よりも大切な主人公を。

 

コードギアスの世界の主人公は紛れもなくルルーシュだ。妹の為、妹の望む世界にするため、なにより自らの復讐のためにある事件をキッカケにブリタニアに反旗を翻したルルーシュは紆余曲折を経て最後には世界を本当に変えてしまった。

 

その過程で世界の危機、ブリタニア皇帝シャルルによるラグナロクの接続という神殺しを阻止したり、シュナイゼルによる世界を恐怖政治で支配しようとした目論見を潰したのだ。

 

この先の物語でルルーシュがいなければシャルルによる神殺しが成立し、世界は歩みを止めてしまう。世界が、人類が歩みを止めることは世界の破滅を意味していた。それがなってしまえば未来はない。世界は壊れないかもしれない、だが世界は変わらない。それはルルーシュが望んだ優しい世界ではない。

 

ワタシは目の前に眠るルルーシュの手を両手で握り、胸に抱き寄せる。体温が失われて冷たくなってきた手に心臓がドクンと鼓動した。

 

「ルルーシュ、ワタシはどうしたらいい?お前がいないこの世界に、どう意味を持たせればいい? なあ、教えてくれ私の魔王?」

 

悲しいほどの声が口から漏れる。その言葉に籠る意味にはいったいどれだけの感情が隠れているのか。発言したワタシにもわからない。

 

ルルーシュの手を頰にもっていき、自分の頰と手でルルーシュの手を温める。その行為に意味がないのはわかっている。だがそうしたいのだ。

 

しばらくはそうしていただろう。ルルーシュの手を名残惜しそうに体の上に静かに置く。

 

「ふ、こうシンミリしてはお前に『らしくないな魔女、いつもの余裕な態度はどうした?』とでも憎まれ口を聞かされそうだな」

 

ワタシはルルーシュの眠った顔を見て決意する。

 

「お前が何よりも望んだのはブリタニアの復讐ではなく、ナナリーの為の優しい世界。そうだったな?」

 

下水道の側壁の間では雰囲気が台無しだがそんなことはどうでもいい、ワタシはワタシがやりたいからやるだけ。ルルーシュに向かい静かに祈る。

祈るのは鎮魂ではない、祈るのは決意の証。ルルーシュにたいしての自らの罪を償うことを、責任を果たすこと誓う。その為の祈り。

 

「ルルーシュ、ワタシはお前の望む世界を作って見せるよ。いや、お前の愛した、お前が大切にした妹を、友も救ってみせる。だから……」

 

それは聖母に祈る敬虔な信徒のように真っ直ぐな祈りであり、聖母が神をその手で抱くような如く、優しさに満ちた願いだった。

 

「安心しておやすみなさい。ルルーシュ」

 




あー、某C.C.に憑依の小説の続きが読みたい( ˘ω˘ )


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2話

評価とお気に入りしてくださり、ありがとうございます。本当に、本当に嬉しかったです。展開が早いんだか遅いんだかよくわからない、しかも自分でもよくわからない文の拙作ですがよろしくおねがいします。


ルルーシュが亡くなったいま、ルルーシュの願いを叶えることこそがワタシの、そしてC.C.の願いだ。

 

記憶の中の物語のC.C.は死ぬことを願いとしてルルーシュと契約を結び、ルルーシュの反逆を共犯者として見守り、支えていた。

 

勿論今のワタシの願いも死ぬことであり、この永遠に続く命を絶つことがC.C.の目的であることには変わりない。

 

死ぬ事を願いとするのは憑依する前の自分では考えもしなかっただろう。ではなぜワタシはその願いを持つのか。それは憑依した私が中途半端だからであるからだ。憑依したワタシと被憑依者のC.C.の意識は混ざり合ってしまった。そう考えると分かりやすいだろうか。本来は混ざり合うことのないものが無理矢理混ざり合い、片方の意識と人格にもう片方の意識と人格が融合したのだ。

大元となる意識と人格はワタシのものだ。だが、C.C.の意識と人格も多少は存在しており、ワタシの考えることや思考にも影響している。

それに、C.C.の悲しいほどまでの死にたいという願い。それはC.C.となったワタシには経験と知識としてこの身が教えてくれた。

この身が教える辛く悲しみに満ちた願いと、この身を乗っ取ってしまったC.C.への贖いとして、ワタシはC.C.の願いを叶えることとしたのだ。

元々、なぜ憑依したのかはわからないが前のワタシはおそらく死んだのだろう。一度は人生を終わらせたのだ、死ぬことに戸惑いはない。まあ、こんなにすんなり他人事のように考えるのもC.C.の意識が混ざってしまったのもあるのだろう。

 

だが、ワタシが死ぬのは、C.C.の願いを叶えるのはルルーシュの願いを叶えてからだ。

 

しかし、どうルルーシュの願いを叶えるにはどうすればいい?

 

ルルーシュはその類いまれなる明晰な軍事知能と、政治的な手腕に、生まれ持った呪いともいえる指導者としてのカリスマに、半ばズルともいえる絶対遵守の力をもって数ある奇跡を成し遂げてきた。

ワタシには何も足りていない。

まず、ワタシはルルーシュほど頭脳明晰ではないし、政治力や指導者としての才覚もない。唯一身体能力では勝っているかもしれないが、ナイトオブラウンズ相手どころか、ジェレミアやコーネリアといった目下の敵にすらも叶わないだろう。

 

しかし、絶望視する事はない。

 

ワタシには知識がある。

この世界のあらゆるギアスにも負けない、どんな身体的ハンデなんかよりも余程ズルい知識が。

 

ルルーシュはいない。だがそれがどうした。知識のアドバンテージある。コードの力もある。

……そして心許ないギャンブルのようなモノだが、C.C.の力でなく、知識から得た半ばズルともいえるとっておきもある。

 

ならワタシがやる事は決まっている。

知識にある、ルルーシュと同じ行動をすればいいのだ。

 

ルルーシュは仮面をかぶることで顔だけでなく、ルルーシュとしての素顔を隠し、奇跡を起こす男ゼロとして動いていた。

ただ、物語のその中身が変わるだけ。ゼロとは、個人を示す名称ではない。奇跡を起こし、正義を行う者の象徴がゼロなのだ。

 

ならばワタシがゼロになればいい。

奇跡を起こすゼロに。

 

「ルルーシュ、行ってくるよ。ワタシがどこまでやれるかわからないけど」

 

最後にルルーシュの頬をひと撫でするとワタシは立ち上がる。

横たわるルルーシュの制服の上着を脱がし、そのまま彼の顔を覆い隠す。

 

「すぐ戻ってくる」

 

名残おしいながらもルルーシュを置き去りに地上に向かう。まず最初に向かうところは決まっている。作戦はなんとなくだが考えてある。

 

C.C.としてでなく、ここからは仮面の英雄ゼロとしてワタシは戦おう。この世界を壊すために。

魔王の願いを叶える為にーー

 

 

「ーーとはいっても、アイツと同じ行動などワタシにできるはずがないのだがな」

 

「な、何を言ってる? アイツとはいったいどうい、ヒィ!」

 

ワタシは目の前の男の口元に銃を向ける。豪華な衣装に身を包んだ金髪の青年は怯えて震える。

 

いまワタシがいるのはシンジュク包囲作戦中の、G1と呼ばれる総督が指示を出す管制母艦の中、つまりはブリタニア軍のど真ん中だ。

 

ルルーシュを置いて1人地上に戻ったワタシが最初に行動したのは、あの白く目立つ拘束服を着替えるためだ、アニメではわからなかったがあの拘束服は実に効率的だ。拘束具としてだけでなく、逃亡しても目立つように作られていたのだろう。瓦礫の中の白い拘束服は大変目立って仕方がなかった。

その辺で1人行動をしていたブリタニア軍の兵士をコードの力をゴリ押して意識を奪い、その兵装、軍服、フルフェイスヘルメットを強奪し、それに着替えたワタシはクロヴィスのいるG1に直行した。

 

ルルーシュはテロリストーー旧紅月グループ

ーーを操ることで、ブリタニア軍を正攻法で負かそうとしていたが、枢木スザクが操縦する第七世代ナイトメアフレームであるランスロットに盤上の戦略をひっくり返され、転じて正攻法を諦めたルルーシュはブリタニアの兵士の服を奪い、ギアスで人払いをしながらクロヴィスの元に向かった経緯があるのだが、その課程をワタシが飛ばしても仕方がない。そもそもルルーシュとまったく同じ行動などできないのだから。起承転結の起と結が合えばそれでいい。

 

結果、護衛兵や邪魔な防犯設備を潰しながらクロヴィスの元に無事たどり着いたワタシは、フルフェイスヘルメットを被り、素顔を隠しながら銃でクロヴィスを脅す。

 

「さっさと全軍にたいして停戦命令をだせ。それも自然に、違和感のないようにだ。わかったか?」

 

「そ、そんなことでいいのか? よしわかった。それならお安い御用だよ。なに、任せてくれ」

 

「勿論、変なそぶりは見せるなよ?見せたと思ったが最後…」

 

「わ、わかった! わかっている! 君には逆らわない。約束しよう! だから銃を下ろしてくれ!」

 

ひとまず銃を下げるとホッとしたのか、クロヴィスは大きく溜息を吐いた。そして通信機器を操り、ワタシの知るアニメの記憶通りに停戦命令をだした。

アニメと同じセリフをスラスラと喋っているクロヴィスを見てある意味の関心を覚えた。

ルルーシュもこんな感じで脅していたのだろうか。

そう感慨にふけていると、停戦命令を言い終わったクロヴィスがなにか期待したように話しかけてきた。

 

「さ、さあ。君の思い通りにしたぞ?次はどうする?チェスでもしようか? それとも絵画についーー」

「クロヴィス、オマエに確認したいことがある。質問に答えろ」

 

ワタシはフルフェイスヘルメットを脱ぐ。最初はワタシの思いがけない行動にポカンとしていたクロヴィスも、長い髪とワタシの顔を見た瞬間に目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべた。

 

「ッ!? おまえはームグッ!」

「質問に答えろとは言ったが質問をしろとは言っていない。これが最後だ。もう一度聞く、質問に答えろ。わかったらうなづけ」

 

無駄口を聞こうとしていたクロヴィスの口に銃口を突き入れ脅す。クロヴィスは先程よりも顔を白くさせ、顔面からは脂汗が溢れさせている。おおかたC.C.にした実験を思い出し、それに対する報復を思い浮かべているのだろう。

混乱した様子を見せるが、しばらくして小さく首を縦に振った。

 

「オマエはーー」

 

これは只の興味本位ではない、クロヴィスの返答次第ではワタシのこれからの行動。予定が大きく変わっていく、それほど重要なこと。それはアニメ知識では決してわからないことで、この目の前の男が鍵を握るのだ。

 

「実験をしていたのはーー」

 

 

質問を一通り終えた後、クロヴィスには悪いが彼には犠牲になってもらった。

原作通りに話を進める為という意味もあるがワタシ自身の覚悟を決めるためという意味もある。

ルルーシュもクロヴィスを殺すことで、ブリタニアへの復讐心を再確認し、反逆するというの覚悟、本人の言葉を借りるのなら、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけという中の撃たれる決意をしたのだ。ワタシもそれに肖ることにした。

ヴィ家をそれなりに気にかけ、皇族の中ではルルーシュ達のことを心配していたであろうクロヴィスを自らの手で殺すことで。

 

まあ、ワタシの場合はその前に親衛隊を一人一人丁寧に撃ち殺しているので今更感があるかもしれないが、あれは正当防衛だ。うん、正当防衛正当防衛。ワタシは正しい。

 

クロヴィスを殺害後すぐさま現場を離れた。勿論、後始末は欠かさない。自らの痕跡を完全に消し、クロヴィスの遺体付近に別の人間の痕跡をカモフラージュで残してきた。無能なバトレーや、脳筋のジェレミアは暫くは誤魔化せるだろう。問題はこの後総督に赴任するコーネリアだ。感のいい女のことだ、不自然過ぎる痕跡を疑うに違いない。

まあ、わざとそう仕向けてるのだが……せいぜい悩むんだな。

 

現場から離れた後、ブリタニア軍に、紛れて連れられた大勢のイレブンの難民を確認し、その中に扇や紅月カレンらしき人物の生存を確認できた。

原作と違い、誰も戦闘の指示を出していない為生きているかどうか不明だったがなんとかなったみたいだ。

 

彼らーー主にカレンの生存を、確認したワタシは地下のルルーシュが待つ所に戻った。

ルルーシュの亡骸を埋葬するためだ。

あいもかわらずそこに眠っているルルーシュの遺体を運び出す。外はもう夜、光のないゲットーの漆黒に紛れてワタシは動きだした。

 

昼間の件が後を引いているのか所々にブリタニア軍が武器を構えて見張りに立っていたがどいつもこいつも無能らしい。終ぞワタシに気づくことはなかった。

 

ルルーシュを抱えながらワタシが来たのはトウキョウ租界から少し離れたブリタニア軍の施設の一部の小さな飛行場。シンジュクゲットーからは少しの距離の飛行場でワタシはそこで小型戦闘ヘリを盗み出した。

手順は実に簡単、警戒の任務を終え飛行場に戻ったばかりのヘリを襲撃。

乗務員をコードの力で発狂させ眠らせた後エンジンがかかったままのそれを奪ったのだ。

トウキョウ租界に警備の人員を回しているため、警備が手薄になっている今日だからこそできる荒技だ。上手くいったことに自分に感心してしまったのはおかしくないだろう。

ヘリコプターまで容易く操作してしまえるのはC.C.様々だ。片方のワタシにはヘリの操縦など到底無理なことだろう。

 

異変に気がついた別の戦闘ヘリが向かって来た時にはワタシは空の暗闇に紛れて消えていた。作戦通り。

トウキョウ租界から太平洋に向かって上空を飛んでワタシはある目的地へ向かった。

 

ヘリを長い時間飛ばしてたどり着いたのは小さな無人島、名を神根島。

コードギアスにおいて重要な舞台となった場所。

 

この島で起きた事をあげればキリがない。

ルルーシュがユーフェミアと邂逅し、ガウェインを鹵獲した事。

ブラックリベリオンにてナナリーがV.V.に攫われ連れられた場所。

黒の騎士団に裏切られたルルーシュを守るためロロが命を落とした地。

そしてルルーシュが皇帝から世界の真実を聞き、王の力をもって神殺しを成した舞台。

上げればキリがない、だからこそルルーシュの眠る地として相応しいのではないかと思った。

島に着いた後ワタシは島の端にある崖の上にやってきた。

そこは海が開けて見える場所であり、その海の先にあるのはエリア11。

アニメ二期で、偽りの弟であるロロの墓標が立つはずだった場所。

 

ルルーシュの遺体をその場所に埋葬した。ワタシが掘った穴に消えていくルルーシュをワタシはどのような表情で見たのであろうか。今となっては確かめるすべはないが、ロクな顔をしていなかったのは確かだ。

 

ルルーシュの墓標として目立たない程度の小さな木の十字架と、見窄らしい献花台を作り備え付けた。これは自己満足でしかないのだがどうしても作りたかった。ルルーシュが眠っている場所を殺風景にしたくない。

ワタシしか解らない献花台に花で作ったの冠を備え付ける。

これで少しは墓らしくなっただろうか。

 

空が朝の空気を連れて明るくなってきた。ルルーシュの墓から振り返って東の空を見ているとすでに空は白く、朝日が見えようとしていた。

それはワタシが見るこの世界で初めての朝日であった。

 

朝日がルルーシュの墓を、そして私を照らし出す。

その光は薄暗い闇の中に救いの手を差し伸べる神の光にも感じられた。

暗闇がみるみるうちに目線の後ろに消えていく様子を幼い子供のようにワタシは見つめる。

ワタシはルルーシュの墓標に背を預け、島の木々の間から見える、昇っていく朝日を見守り続けた。

 

「これは私への罰だ」

ワタシはポツリと呟いた。聞こえているはずはないのだが言わずには言われない。

「ルルーシュ、お前がいない世界はどうなるのかわからないが、やるだけはやってみるから。だからワタシのお願いを、一つ、一つだけ聞いてくれ」

ルルーシュが聞いていたらなんと答えてくれるだろうか、まあ、十中八九「図々しい!」とでも怒鳴り散らすだろうが。怒らないで聞いてほしい。ささやかなワタシの願いだ。

 

「ここから、日本を見渡すことができるここから見守っていてくれ。ワタシは、私は頑張ってみるから」

「サヨナラ、ルルーシュ。また来るよ。今度はちゃんとした花を持って。

また、必ずーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、不貞寝はここで終わりだ。早速で悪いがお前には働いてもらうぞ。なに安心しろ、拒否権など存在しない」

 

ー?

 

「なに、お前は誰かって? そんなもの決まっているだろ、魔王を起こすことができるのは」

 

「魔女だけだろ?」




次の話から少しの間C.C.目線では無くなります。


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3話

ねつ造、捏造、独自設定ありますが、よろしくお願いします。


ブリタニア帝国がエリア11と定めた旧日本の地、その首都であった東京は今や名前を変え、トウキョウ租界と言われブリタニア人にとっての首都となり、居住地となっていた。

その地において、一際存在感のある学園があった。アッシュフォード学園と呼ばれる中高一貫の学園だ。

度々マスコミや、その地域を巻き込んだトンデモごとをやらかすその学園を運営するのはアッシュフォード家。かつては栄え、伯爵までのし上がった正統な貴族であるが、ある事件を機に没落した悲運の一族。

 

その一族の唯一の跡取りであるミレイ・アッシュフォードは、アッシュフォード学園高等部の生徒会会長として今日も元気に仕事にはげんでいた。

 

「リヴァルー、まだまだ仕事は残ってるわよーん。このままじゃ、授業に間に合わないじゃなーい?」

「ぬわー! 会長、なんで俺だけこんなに仕事押し付けるんですか? 会長やシャーリーにニーナの量と比べて段違いじゃないですか!? もっと頑張ってくださいよ!、俺1人じゃこの量はどう考えても無理ですよー」

「ガーッツ! そこは気合いよ、気合い! そ、れ、にー。昨日の放課後の生徒会をサボタージュしたのはどこの誰かさんかなー?」

「だーから、さっき説明したじゃないですか、ルルーシュの奴が俺を置き去りにして勝手に居なくなったから俺1人でバイク押して帰るはめになって大変だったんですよ」

 

頭をくしゃくしゃにして半分ヤケクソに仕事しながらも、ここにはいない誰かに恨み節をぶつけるリヴァル。

 

「そのルルーシュにもたっぷり仕事してもらうつもりだったけど、なーんで今日に限って遅刻するのかしらね」

「サボりはしても遅刻はしないかも…」

 

ミレイの言葉にたいして、別の机で仕事をしているニーナが小さくつぶやく。本来他人にそんなに関心を示さない彼女が反応したことからも、ルルーシュの遅刻という怠慢は珍しく感じた。

 

「そーねー、私が部活の予算申請忘れてたのも昨日の夜思い出したわけだから、ルルーシュが知るはずもないしー。勘づいた?」

「まあ、ルルーシュなら予測ぐらいはしてそうですけどね」

 

生徒会長であるミレイは副会長の滅多にしない遅刻に、ありえないながらも予知によるサボりをうたがう。リヴァルも確かにありえなくもないと、何度も頷く。

ミレイは視界の端に浮かない表情を浮かべながら黙々と仕事をこなすシャーリーを収める。

 

「シャーリー、ルルーシュから何か連絡とかない?」

「…」

「シャーリー?」

「え!? 私ですか?」

 

なにか別の事を考えていたのだろうシャーリーは普段にも増して静かであった。急に名を呼ばれ、前後の内容を聞き逃していた彼女は驚きながら困惑の表情を浮かべる。

その、様子を見たミレイはリヴァルから興味を離し、仕方なさそうに笑いながらシャーリーの元に詰める。

 

「シャーリー、さっきから心ここに在らずって感じだけどどうしたの。愛しのルルーシュに早く会えないのが寂しいのはわかるけーー」

「ち、違います! 別に寂しくてこうなってるわけじゃなくてーー」

「じゃあ他に何かあったの?」

「……」

 

シャーリーは沈黙し、ミレイから目線をおろす。

その暗い表情に第六感でただならぬ様子を感じたミレイは真剣に、そして優しくシャーリーに言葉をかける。

 

「シャーリー、本当にどうしたの? 昨日からなんか様子がおかしいわよ? 私でよければ相談に乗るわよ?」

「……会長?」

「なんたって私は天下無敵の生徒会長ミレイ様よ? 生徒会メンバーの相談くらい乗ってあげないで生徒会長は名乗れないわ?」

「……会長、ありがとうございます」

 

座っているシャーリーに目線を合わし、陽気にウィンクしながらシャーリーに笑いかける。

そんな生徒会長に張っていた気が緩んだのか、小さく彼女らしい笑顔を見せる。

 

「実は、昨日ルルに電話した時なんですけどーー」

「失礼します、ミレイ様はいらっしゃいますか?」

「どうしたの?」

 

シャーリーが話し出した瞬間、生徒会室の扉が急に開かれ、スーツを着た一人の男が入ってきた。

彼は貴族のアッシュフォード家に仕える使用人であり、普段はアッシュフォード学園の理事長であり、ミレイの祖父であるルーベン・アッシュフォードに仕えている。

多忙のルーベンは常に学園にいるわけではない。本国にいることも多いルーベンが不在時の代理をしている、いわゆる理事長補佐兼秘書といえる人物が彼だ。彼は滅多に学園の生徒達の前に姿を表すことがなく、生徒会室にすら一度も来ることはなかった。

そんな人物が生徒会室に来たことにミレイは驚きを隠せない。

彼はミレイを視界に収めると要件を伝える。

 

「ご歓談中申し訳ありません。理事長からお電話が入っております。緊急の要件だと」

「お爺さまが!? すぐに行くわ、ごめんみんなちょっと行ってくるわね! シャーリー、また後で話は聞くわ」

「待って会長! 私もついてきます!」

「ええ!? 会長、シャーリーまで? いったいどうしたんですか!?」

 

ミレイは男の話を聞いて一目散に駆け出した。男もそれについて再び走り去る。

シャーリーは驚いていたものの、すぐさま気を取り直し、意を決したようにミレイを追いかけだした。

 

「……いったいどうしたの?」

「……さあ?」

生徒会室に残されたリヴァルとニーナは、お互い顔を合わせてキョトンとしていた。

 

 

走りだしたミレイは走りながら男に疑問を聞く。

「ねえ、お爺様の電話が来ただけなら私を放送で私を呼び出せばいいんじゃない? 生徒会室には内線電話もあるわ。それを使わないでわざわざ貴方が呼びに来た理由をいい加減教えてくれないかしら?」

「……」

 

男は何も喋らない。顔を俯きかけながら前を見て小走りでミレイに追走する。

しかし、男が後ろからついて来るシャーリーを一瞬気にしたことにミレイは目敏く気づく。今度は声を萎めて話し出す。

 

「もしかして、誰かーー面倒なのが来てる?」

「……さすがミレイ様、ご推察の通りです。後ろのご学友は私が足止めしますので、理事長室へお急ぎください」

「わかったわ。任せたわよ。しっかし、本当にシャーリーたらどうしたのかしら? 」

 

並走していた男が向きを一転させ、後ろから追いかけて来るシャーリーを止めたのを見てミレイは再び走りだす。

普段とはなにか違う様子のシャーリーを疑問に思いながらも、この先に待つなんらかの面倒ごとに対し、溜息をはいた。

 

 

 

理事長室前に着いたミレイは息を落ち着かせると、扉を3度ノックをした。

 

「生徒会長ミレイ・アッシュフォードが参りました」

「入りたまえ」

「……失礼します」

 

扉越しに聞こえた声に反応し、眉を少し動かす。聞いたことのない声だ、なによりも扉越しにでも自分を待つ人物の傲慢さがわかった。

キイと音をたてて扉を開けて中に入る。

来慣れた理事長室のが来賓客用のソファーの側に三人の男が立っていた。

問題はその格好だ。

 

「軍人様? 当学園に、何の用でしょうか?」

「生徒会長であるミレイといったか、聞きたいことがある。質問に答えよ」

「なんでしょうか」

 

格好からすぐに相手が軍人だとわかった。3人のうち2人は、言い方がわるいが普通の軍人だ。

しかし、その2人を連れているのは2人と同じ軍服に華美な装飾のされたマントを羽織った一目で高位とわかる軍人だ。

高圧的な口調と滲み出る品格から、軍人であると同時に貴族であることも理解した。

男はミレイが部屋に入って早々に名乗りもせず話をきりだす。

 

「昨日、トウキョウ租界周辺のシンジュクゲットーでテロが発生したのは知っているか?」

「…いいえ、今知りました」

 

ミレイは若干驚いた。昨日の租界外が騒がしかったのは知っていたがテロだとは知らなかった。

 

「そうか、ではこの後テレビで確認するがいい、ニュースでどこも取り上げているだろう。さて、本題に入る。

私は紛らわしい言い方は好きではないのでな、率直に言おう。この学園の生徒にテロへの関与容疑がかかっている」

「すみません、おっしゃっている意味がわかりません」

 

表情を変えず、真剣な表情で淡々と説明する軍人と、その様子に釣られてか冷静に受け答えるミレイ。

しかし、軍人の、言葉の真意は理解できなかった。

テロ? アッシュフォードの学生が? なぜ?

ミレイは表情にこそ出さなかったが、心臓がバクバクと鼓動を早めるのがわかる。

ミレイの様子に気づいていないのか、気づいているがどうでもいいと思っているのかわからないが恐らく後者なのだろう。

 

「君が納得しなくともよい。すでにこの学園の理事長及び校長にはすでに電話で話は通してある。さて、話は終わりだ、この学園のシャーリー・フェネットという生徒に話を聞きたい。案内したまえ」

「シャーリーが!? どうして!?」

「君に答える義務はない」

 

思いがけず軍人の口から自分の知る名が出てきた。今まで失礼のないようにと気を張って受け答えしていたが、張り詰めていた姿勢と口調を崩してつい反応してしまった。

軍人は気にしないで冷静に話を続ける。

 

「早く案内しろ、我々も暇ではないのだ」

「いやよ!」

 

初めて軍人の男の眉が下がり、眼光が鋭く光り、険しい表情を浮かべた。

 

「軍の命令に逆らう気か?」

「逆らうわ。 私はミレイ・アッシュフォード。この学園の生徒会長で、理事長の孫娘。この学園全ての生徒を守る義務が私にはある。例え軍だろうと貴族だろうとね!」

 

剣呑な雰囲気を出す軍人に怯えることなく目を逸らさずに反論するミレイ。

覚悟はもっている。自分はこの学園の生徒を守る為ならなんでもするぞと目で訴えかける。

それに対して。市民に対する目線ではない殺気のこもった目線で答える軍人。

数秒か数十秒か、わからないが長い時間目線を合わせ続ける。目線を絶対にそらさない! そんな決意がミレイか、聞こえた気がした。

その様子に耐えられなくなったのは今まで黙っていた後ろの軍人の1人だった。

 

「貴様! 先程から卿に対してなんと無礼な態度を!」

「よせ」

「っ! イエス、マイロード」

 

激昂した様子の部下を片手を挙げることで静止する。

冷静な上官の態度に驚きつつすぐに命令を遵守し、引き下がる。軍は完全縦社会、理不尽なことでも楯突くわけにはいかない。

しかも自らの上官は軍人としてだけでなく貴族なのだから。

大人しく下がった部下を見て、目線を先に逸らしてしまい、負けたことを軍人は自覚した。

そもそもそんな勝負ありはしないが、良くも悪くも軍人の男はプライドは高かった。

 

「……いいだろう、質問に答えてやろう。そも、我々はこの生徒がテロリストと決めつけてるわけではないのだ、あくまで関与が疑われただけであるからな」

「訳をお聞きしても?」

「そうだな、訳を話してやる」

 

軍人が険しい表情を崩し、先程よりは若干和らげに話したことに少し安心し、ミレイは相手にわからないように一息つき、冷静に努める。

 

「昨日のテロが起こった現場に、この携帯が落ちていた。これの持ち主から話を聞きたい」

 

軍人はビニールに包まれた携帯電話を胸元からとりだした。ビニールの中の電話機には血痕のようなものがこびりついている。そのテロ現場にでも落ちていたのだろうか。

しかしわからない、それとシャーリーに何の関係がある? シャーリーの携帯だとでもいうのだろうか。ミレイは問いかける。

 

「……なぜ、シャーリーに?」

「我々がこの携帯を押収した際、都合よく電話がかかってきた。このタイプの端末はロックがかかっていても、電話がかかってきた場合は誰でも取ることができるからな。その相手がこの学園の生徒、シャーリー・フェネットなのだよ」

 

その言葉は胸にスッと入り込んできた。

朝のシャーリーの様子と、この状況に納得がついたからだ。

恐らくシャーリーは電話越しに素直に自分の名と学園の、名を言ってしまったのだろう。

朝からモヤっとした事が、一本の線で繋がったような気がして

 

ーーない。

 

 

ミレイは自分の心臓がドクンと大きく鼓動をしたのがわかった。

 

バクバクと先程よりも音を立てて鼓動を始める。心臓の音なのに耳から聞こえるほどの大きさの音。

急に息も上がったように感じた。

 

理解した、理解してしまったからだ、その一本の線に先に繋がった他の事実があるということに。

 

ミレイは思い返す。

ヤメテ。

 

昨日リヴァルは誰とどこにいった?

カンガエルナ。

 

どこで別れた?

チガウ。

 

昨日どこでテロが起きた?

ソンナコトハナイ。

 

シャーリーは誰に、電話した?

ヤダ。

 

そしてーー

ミトメタクナイ。

 

ーー今朝から、昨日から誰がいない?

 

脂汗が額から流れ、頬を伝う感触が気持ち悪く感じた。

気丈に振る舞っていた身体が震え、自分を抱きしめるように胸の下で腕を組んだ。

脚は震え、すぐにでも膝をついてしまいそうで、立っていられることが嘘のようだった。

 

急変したミレイの様子に、何かを感じたのか、先程まで睨みつけていた後ろの2人の軍人も、怪訝そうにミレイを見る。

しかし軍人の男は態度に出さない。

 

「さて、我々は事情を話した。案内、いや。連れてきてくれるね? シャーリー・フェネットという生徒を、そしてもう1人ーー」

 

もうミレイにはその先がわかってしまった。

自らの心の中で、秘めたるその名を口にする。

 

「ルルーシュ、ルルーシュ・ランペルージと言う男子生徒も」

 

ーールルーシュ……

 

 

 

ミレイ・アッシュフォードはしばらく震えていたと思うと、静かに後ろの扉を開け、シャーリーを連れてきますと言い、走りながら出て行った。その様子に、先程自分に啖呵をきった生徒会長の姿はなく、見ず知らずの大人の男性に囲まれたか弱い1人の女性に見えた。

残された自分たちは再び待つという時間になる。

後ろで困惑する2人の部下に待機の命令を出した。

渋々ながらも自分の命令に従う2人。

内心ではなぜ自分達がここまで下に出ているのだとでも思っているのだろう。それとも、普段の自分の態度と違うことに困惑でもしているのか?

昨日までの自分の部下に対する態度や、行動を考えると後者かと疑いだす。ありえる。

 

シャーリーという生徒を呼びに行ったミレイが戻ってくるのはなぜか早かった。部屋を出てから一分もたっていない。

ミレイはノックをして扉を開いた後、2人の人物を中に入れた。

1人は先程まで自分達が対応していた理事長補佐という男、そしてもう1人はオレンジの髪の活発そうな女子生徒。

浮かない顔をし、緊張の表情を隠さない2人と、先程とは別人のような暗い表情のミレイがはいってくる。しかし、体の震えはない。

あちらから話しかけてくるそぶりはないので、自分が話しかける。

 

「随分早かったな、そして、はじめましてと言えばいいかな? お前が昨日の電話の相手のシャーリー・フェネットだな? 朝早くから悪いが、重要な話だ、昨日の電話の通り、話を聞かせてもらおう」

「わかり、ました」

「シャーリー、私が答えられるところは答えるから、気をしっかり」

「はい、会長」

 

不安げな2人に対してそういえば名乗ってなかった事を思い出し。本題の前に自分の正体を明かした。

 

 

「私の名前はジェレミア・ゴットバルト。昨日シンジュクゲットーで起こったテロに関与した、もしくは巻き込まれた可能性のある男子生徒、この携帯の持ち主、ルルーシュ・ランペルージの情報を教えてもらいたい」

 

 

 

次の日ジェレミア・ゴットバルトは純血派を率いてクロヴィス総督の遺体を奪取し、クロヴィスの薨御を発表。急転直下の勢でエリア11内の実権を握った。そして、総督殺害の実行犯を枢木スザクという名誉ブリタニア人と断定し世間に公表。逮捕し、軍事裁判行きと言う名の処刑をすることとなった。

 

 

 

 

「ワタシはお前のことなどさして知らんよ、お前が知ってることを知ってる程度だ。ましてやその記憶とやらもな」

 

 

「なに。記憶がないものどうし仲良くしようじゃないか。こう見えてもワタシは尽くすタイプなんだぞ?」

 

ーー

 

「おいおい酷いな。そこまで言わなくてもいいじゃないか。さすがに傷つくぞワタシも…」

 

ーー

 

「ふん、どっかの誰かと同じで冗談の通じないやつだな。まあいい。だがこれだけは教えてくれ」

 

 

「お前は、私の、ワタシの共犯者になってくれるか?」



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4話

すいません、基本的に読み専なので、更新は不定期です。


朝の登校時間、部活を行なっている生徒たちからしたら朝練の後片付けを行っている時間。ブリタニアの学生、カレン・シュタットフェルトは登校するため、アッシュフォード学園の入り口へ向かう中庭を歩いていた。

 

彼女はブリタニアと日本人のハーフであり、本来の名前は紅月カレン。シュタットフェルトは父方であるブリタニア人としての姓。学園に通う際は日本人の名を隠し、ブリタニアの名を使っていた。

しかし、生まれてから日本人として育ってきたカレンは祖国である日本をブリタニアから取り戻すために日々テロ活動を行なっているーーはずだったのだが。

 

「病弱設定なんかにしちゃったけど、失敗だったかな」

 

カレンは自分は最近ついていないと思う。

昨日、自分が所属する日本人のレジスタンスグループ、扇グループはブリタニアに支配されている現状を打破するため、ブリタニアに一矢報いるために入念な準備を重ねてあるテロ計画を実行した。

しかし、計画実行当日に仲間の1人の凡ミスにより、計画が最初から頓挫、結果失敗した。

だが、当初の計画を失敗しながらも、毒ガスをブリタニアの研究所から強奪するという作戦は成功した。だが、それまでだった。逃走中に軍の異常なまでの対応速度で追い詰められた結果、毒ガスを運ぶトラックと運転手の役を任されていた仲間1人を死なせる羽目になった。

自身は虎の子のグラスゴーを操り、追撃してくるブリタニア軍を翻弄。

グラスゴーの一世代上のナイトメアフレーム、サザーランドの部隊に囲まれる中で獅子奮迅の働きをしたものの、ブリタニア軍の大戦力の前には焼け石に水。

最初につかっていたグラスゴーが中破した後に敵の不意をついてサザーランドを一機奪ったのはいいが大勢に影響はなく、統率のとれた敵の本隊の前にあえなくサザーランドを破壊され敗走することとなった。

逃げた先で大勢の日本人を護衛していた仲間と出会うことができたのはいいが、ブリタニア軍に隠れ場所を発見され、ついになすすべなく追い詰められた時、クロヴィスの停戦命令が発令され、命からがらギリギリ一命を取り留める事ができた。

敵の大将にお情けをもらう形となり、悔しかったし情けなかったが命あっての物種。とりあえずはこの場を凌ぐことで精一杯であった。

 

しかし、自分たちが実行したテロ計画から始まってしまった、後にシンジュク事件と呼ばれることになった事件影響で、シンジュク付近のゲットーは軍の監視と警戒が一段と強くなってしまった。

 

カレンがシュタットフェルト家の学生としてアッシュフォード学園に来たのはその為。

扇グループのリーダーであり、自らの兄の親友でもあった扇要の命により、シンジュク事件のほとぼりが冷めるまで学園での待機をカレンは命じられたからだ。

ブリタニア軍の真ん中で大立ち回りをした自分を、ブリタニア軍は必ず見つけ出そうと必死なのだ。グラスゴーからサザーランドに乗り換える際にーー遠くからとは思うがーー自分の姿を見られたせいもあるのだが、現在絶賛指名手配中になってしまった。誇らしい気持ちもあるが、大半の思いは面倒なことになってしまっただ。

赤髪の日本人ーー男女問わずーーは見つけ次第捕まえろ、生死は問わないらしい。

まあ、居なくなった兄と自分以外の赤髪の日本人は見たことがないので他の人に迷惑はかけないだろうが……

 

その指名手配の件があるため、人を隠すなら人の中というわけではないが、赤髪が珍しくはないブリタニア人の中で生活してほとぼりが冷めるまで待機するのは理屈としても正しいだろう。

だが、釈然としないのもたしかだ。自分は日本人の紅月カレンであり、ブリタニアの学生、カレン・シュタットフェルトではない。

校舎に向かって歩き続ける彼女の中で吐き出してはいけない鬱憤がどんどんと溜まっていく。

 

「だいたい、みんな私がブリタニアの学園に行くのになんで賛成なのよ、反対なのは私と玉城だけって……」

 

昨日、シンジュク事件の後にグループの仲間内の話し合いを思い出す。

学園に行けと言う扇と賛同するみんな。

学園なんか行かずにブリタニア人としてバイトでもして、レジスタンスの資金を調達したほうがいいという反対意見に賛同したのは当事者の私と玉城だけ。

ーー解せない、なんでこんな時ばかり玉城と意見が被るのだろうか。

 

「玉城と、意見が被るってことは、もしかしたらみんなの意見が本当に正しいって……」

 

考えるあまり、知らない内に校舎の扉へ近づいていたカレン。扉が内側から外側ーーつまりは自分に向かってーー急に開き、ガンッと大きく音を立てて扉にぶつかってしまった。

 

不意を突かれたカレンは衝撃で後ろへ倒れそうになる。しかしそこは紅月カレン。不意だろうとすぐさま受け身をとり体勢を立て直した。だが、病弱設定だったことを一瞬後に思いだしたカレンは咄嗟の判断でワザとらしくないように後ろへ倒れ込んだ。

常人が見ればただ後ろへ倒れ転んだだけのように見えたそれは、目に見えない受け身を挟んだ実に人間離れした動きであり、カレンの身体能力の異常さを物語った。

カレンは痛そうな演技をしながら扉を睨みつける。しかし、扉の先にいたのは思いもかけない人物だった。

 

(軍人!? なんで学園の中にいる!? )

 

扉の先に軍人が三人立っていたことに怯んだカレン。悪いことはしていないのに警察を見るとドキッとしてしまう現象の一つだ。まあ、カレン自身は悪いことに身に覚えがありすぎるのだが。

 

一瞬の沈黙の後、三人の軍人の一人が声を荒だてた。

 

「女っ! 貴様どこに目をつけている! 」

 

「え、あの」

 

「よい、こちらも不注意だったのは確かだ。いきなり部下が失礼した、なにぶん先程から鬱憤が溜まっているようでな」

 

「は、はあ」

 

こちらに突っかかってきた軍人の1人を真ん中の偉そうな軍人がなだめる。てっきりこの猿め! とでも怒鳴り散らすかと思っていたカレンは穏やかな態度に困惑するも、今は自分はブリタニア人だったことを思い出す。

 

「まあ、扉の先の確認を怠った我々にも非はあるが、前は見て歩いたほうがいいと忠告させてもらおう」

 

「いえ、すいませんでした」

 

軍人はさっぱりとそう告げるとその場を去ろうとした。立ち上がった私の傍を通る。

自分に用があったわけではなく、偶々いただけと判断したカレンは内心ホッと一息をつく。

 

「ーー失礼、気のせいだと思うが、私とどこかで会ったことはあるか?」

 

とりあえずこの場を離れようと一歩歩みだしたカレンの耳に、後ろから軍人の声が聞こえた。

ハッと後ろを振り向いてしまう。

軍人の1人が自分を見つめていた。初めて目と目が合う。

軍人の瞳は憎きブリタニアの敵であるが、綺麗に透き通っていた。

黙っていると不味いと感じたカレンは弱々しく返答を返す。

 

「い、いえ。基本的に家で寝込んでいることが多いので、人と会うことは、あまり……」

 

「……そうか、いきなりすまなかった。忘れてくれ」

 

「と、とんでもないです」

 

こちらが否定の返答をすると何事もなかったかのように立ち去る軍人。マントを翻し再び歩きだすその所作は、ブリタニア貴族面していたが、なんとも凛々しさを感じさせる振る舞いだ。何故だか悔しいと思ってしまった。栄華を誇るブリタニアの軍人と、コソコソと地下を隠れながら嫌がらせのようなことをしている自分。どこで違ってしまったのだろうか。そんなことを思いながらついその後ろ姿を見送ってしまう。

 

「ーーそれと」

 

見送っていたはずの相手が気づくと再びこちらを向いていた。

え、とキョトンとした顔をしたカレンの顔を見て、フッと小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、諭すような、子供に親が叱るような口ぶりで語りかける。

 

「倒れ方はもう少し下手にやることだな」

 

「ーー!?」

カレンは驚愕の表情を浮かべる。

それを見た軍人は満足そうにした後、優雅に歩き立ち去っていった。

 

「あいつ。……気づいた? あの一瞬で?」

 

カレンの学園生活の初っ端は、病弱設定を見ず知らずのブリタニアの軍人に見破られるというバットスタートから始まってしまった。

 

 

そしてその軍人は次の日の放課後ーー、生徒会長のミレイ・アッシュフォードに誘われて加入することとなった生徒会の歓迎会の最中にテレビ越しで正体を知ることとなった。

 

ジェレミア・ゴットバルト。

日本人を……私たちをイレブンと侮蔑し、嘲笑うブリタニア人たちの中でも民族差別主義の強い軍事派閥、純血派のリーダーであった。

 

 

 

枢木スザクは困惑していた。目の前で繰り広げられるその光景に。

 

昨日、突然に純血派に捕らえられ、エリア11の総督であるクロヴィス殿下の殺害の犯人に仕立て上げられたスザクは、取り調べ室で拷問に近い尋問を経たのちに軍事法廷まで移送されていた。

移送といってもそれは静かなものではなかった。

自分は装甲車の上に拘束着に足枷手枷首枷をした状態で乗せられ、二人のブリタニア兵によって傍を固められており、その装甲車の、周りを四機のサザーランドが周りを固めていた。

拘留場所から法廷までの沿道には大勢のブリタニア人が詰めかけており、皆測ったかのように口々に自分への悪態をついていた。

更に、道路上は通行規制がされており、市民に紛れてマスコミの報道人やカメラを確認できている。

あまり政情に詳しくないスザクでもこれは出来レースなのだと理解できてしまった。

何故自分がそのターゲットにされたかは理解できないが、心当たりがないわけではないし、そんなことはスザクにとって関係ないことだった。

今から自分は軍事法廷で死刑を宣告され、即日処刑されるのだろう。

そんな諦めにも似た思いを持っていたスザクの内心は静かなものだった。

 

だが、とある橋の上で装甲車や周りのサザーランドが停止してからは静かでいられることはなかった。

 

自分たちの進む進路の先、前から歩いてきたのだ、人が、一人で。

それも堂々と。通行規制がかかっているはずの道路のど真ん中を。

ただ道路上を歩いている、それだけなら規制を理解できない痴呆が紛れてしまったのだろうと察することができる。奇異の目で見られても驚かれることはないだろう。

だが、そう思わないのは沿道に配置されている、ブリタニア兵が誰もその人を止めようとしないからだ。

 

無数の一般のブリタニア人と、多数のブリタニア軍人に囲まれている橋の上の道路、我が道を進むと言わんばかりに人は歩いていた。

枢木スザクを移送する部隊が止まったことにざわつくブリタニア人たちもその人を見た途端おし黙る。

静かになった橋の道路を、一歩一歩踏みしめるように歩くその姿は黒かった。

別に周囲が暗いわけではない。むしろ昼間よりも電気的な白い光で眩しいくらいだった。

 

人は男だろうか?

 

誰にも止められることなく歩き続けた人物の全体像が見えてきた。

身長は高く、細身だががっちりした印象がある。

だがそれはどうでもいい、何より目立ったのは男の格好だった。

 

一言で言えば騎士、一色で言えば黒。

 

上半身で目を引くのは肩、胴部、腰、臀部、前腕部を守るための鎧。

それも黒い素材の金属でできたであろう中世の貴族系の騎士がつけるような、細かな意匠が存分に使われている見事なもの。それは漆黒と呼ばれても違和感のないくらい黒く、金属感がないように感じる。

顔は鎧の下に着ているであろう黒い服のフードで隠されていた、そのフードは顔全体を隠すほど深くかぶっているわけではないのだが、何か特殊な工夫でもしているのだろうか、フードの中は黒く、顔があるであろう部分に肌色は見ることができなかった。

下半身は鎧の中で着ているであろう黒の纏いと、色を全身の黒と合わせた前がけで全体を隠しており、唯一見える足元も黒い靴を履いているとしかわからない。

男はそれらを完璧なまでに着こなし、ぎこちなさを感じさせない。普段着のように当たり前のようにその格好で歩き続ける。

場所が場所ならコスプレをした男ではあるが、この周囲の状況からみてコスプレだと笑うことなどできない。

 

枢木スザクはその男が立ち止まった自分たちの元まで来るのを見続ける。

自分の周りのブリタニア兵も状況がわかっていないのは同じなのだろう。二人ともキョロキョロと挙動不審であった。

 

「貴様! 何者だ」

 

静けさの中に、純血派のリーダーであるジェレミアの冷静な声が響いた。ピタッと黒の男の足が止まる。

黒の男はいつの間にかに話すことができるくらいの距離まで迫っていた。

 

歩いていただけの男のフードが僅かに上向きになる。サザーランドの上部から見下ろすジェレミアを見ているのだろう。

静かにジェレミアを見つめた黒の男は、ジェレミアや周囲を囲むブリタニア人たちに向け名乗りをあげた。

 

「私はーーゼロ」

 

ゼロと名乗った黒の男の声は変声機で変えているのだろうか。肉声ではなく、機械的な音と変わっていた。

 

黒の男ーーゼロが名乗ると同時に、溢れ出たかのように群衆のざわつきが聴こえてきた。

先程まで自分を罵っていたその野次はゼロの話でもちきりとなった。

 

そんな周囲の反応は無視し、ジェレミアはゼロから目を離さず語りかける。

 

「もういいだろう、ゼロ? 君のコスプレショーの時間はお終いだ」

 

懐から銃を取り出し、空に向けて発砲する。発砲と同時にサザーランド四機落下してきた。ゼロの周りを重装備に対戦車用機関銃をもったサザーランド四機が囲む。

サザーランドで囲まれたゼロが何もしてこないことで自分達が優位だとわかったのか、それとも、何らかの計画なのかはスザクにはわからないが、警戒心を少し解いたジェレミアはサザーランドを進め、ゼロと名乗った男の元へ向かう。

 

「さあ、まずはその邪魔なフードを外してもらおうか」

 

ジェレミアの言う通りにフードに手をかけるゼロ。しかし、その手はフードを外すためではなく、フードから胸元に手をのばし、即座に何かを引っ張りだした。

ゼロはジェレミアへ赤く鈍く光る何かを見せつけた。

 

ジェレミアの表情が硬くなる。そして静かに分析したジェレミアは片腕を上げ、ゼロを囲むサザーランドへ武器を下ろせと指示をした。そして小さな声ーーギリギリスザクに聞こえる声でその正体の答え合わせをする。

 

「これが何かはお解りになるだろう。ジェレミア代理執政官殿?」

 

「リュウタイサクラダイトを圧縮し、加工したものか、なるほど。愚かで大胆な行動の割には考えたものだな。ここにいるブリタニア市民をまるごと人質にとったか、それも人質に気づかせないまま」

 

リュウタイサクラダイトを加工したもの。それは一言でいえば導火線に火がつけられる直前の大型爆弾と言えるだろう。

その威力は定かではないが、ゼロが大胆に行動してきた理由を考えたジェレミアは、それがこの周囲一帯を破壊し尽くす威力があると理解した。

ブラフも疑うが、赤く鈍く光るその色はサクラダイトを加工した場合に素材が放つ蛍光色であり、関わったことのある科学者か軍人しかわからない事実だ。一般人はそれが何かすらわからないものを堂々と出したことにブラフと決めつけるのは危ないだろう。

それよりも、一般人には気がつかれず、軍人には抑止力になる物体をもったゼロの思惑と計算高さに恐れをなした。

 

ジェレミアは形勢が逆転してしまったとわかる。仕方ないと言わんばかりにゼロにその思惑を訪ねる。

 

「わかった、何が目的だ、要求はなんだ?」

 

「話が早くて助かるよジェレミア。交換しようじゃないか。私のコイツと、枢木スザクを」

 

それを聞いたジェレミアは冷静ながらも声を荒立て否定する。

 

「笑止! この男はクロヴィス殿下を殺めた大逆の徒、引き渡せるわけがあるまい!」

 

そういうとジェレミアはスザクの方に銃を向けた。それと同時にスザクの周りの二人のブリタニアも手に持った銃をスザクに向ける。

だが、人質にするような行動をとったジェレミア達をあざ笑うかのようにゼロは冷静だ。

宥めるようにジェレミアへ語りかける。

 

「違う、間違えているよジェレミア、犯人は彼ではない、ありもしない根拠で濡れ衣を彼に着せないでもらいたい」

 

「何を根拠にーー」

「ーークロヴィスを殺したのは、この私だからだよジェレミア」

 

辺りの音が再び消えた。ジェレミアも流石に唖然とゼロを見る。そんなことに構わず要求のアピールをするゼロ。

 

「そこの彼一人で大勢の命が救えるんだ、悪くない取引とは思うけどーー」

「ーー狂っている! 殿下を弑しただと!? 貴様の戯言はそれで終わりだ! 貴様が何者かは知らんがもう、どうでもいい! このジェレミア・ゴットバルトが直々に誅してくれる!」

 

呆然としていたジェレミアは突然顔を豹変させ、鬼の形相となってゼロへ銃を向ける。リュウタイサクラダイトを無視し、ゼロを殺そうとする。

しかし、それでもゼロは冷静だった。

 

「……はぁ、それは困るな……オレンジ」

 

「ーー!? オレンジィ!?」

 

ジェレミアは顔を赤くしたり青くしたり、表情を二転三転させる。

ジェレミアはそのワードに酷く驚いたように見えるが、何だそれと、スザクの側にいた二人のブリタニア兵は困惑をした。

 

「そうだよオレンジ卿。忘れては困るな、わかったらーー枢木スザクを解放し、私を見逃せ」

 

集まった民集や、いつのまにかそばにいたジャーナリストのカメラにもはっきり聞こえるように、強い口調で告げる。

ジェレミアは表情を再び一転させ、先程までの冷静な表情に戻り、サザーランドや兵に意向を伝えた。

 

「…………ふん、よかろう、その男を解放しろ」

 

「ジェレミア卿!? 今なんと?」

 

スザクの後ろにいたサザーランドから、思わずと言った声がでる。

ジェレミアは視線をスザクの後ろのサザーランドに向ける。

 

「枢木スザクを解放しろと言ったんだ。誰も手を出すな!」

 

「どういうつもりだ、そんな計画は!」

 

ジェレミアから見て右、スザクの乗る装甲車からみて右のサザーランドのハッチが開き、中から軍人が出てきて抗議をする。

 

「キューエル! これは命令だ! もう一度言おう。誰も手は出すな! その男を解放するんだ!」

 

先程までとは別人のような上官に戸惑いながらも、その気迫に押されたキューエル。

そして戸惑いながらもスザクの側のブリタニア兵は、ひとまずスザクの足枷だけを解き、ゼロの元に行くようにと背中を押した。スザクは押されて装甲車から飛び降りると、状況は分かっていないが、ゼロへ歩きだす。

尽きない疑問はあるが、口を開こうとすると首枷が電気を発生させ、言葉を言えないようにスザクの口元を麻痺させる。言葉はだせない。

 

そして二人が邂逅する。スザクは思わずといった形でゼロと名乗った男のフードの中を観察しようとする。すると、黒で何も見えないのだと思っていたが、なにやら黒い仮面のようなものを着けているのかもしれないと気づいた。

顔のある部分に無機質の黒い物体が見えたのだ。

 

「枢木スザク。言いたいことがあるが場所が悪い。場所を変えるよ」

「それはどういーーウッ!」

 

思わず喋ってしまったスザクが痺れたすきにゼロは動きだした。

手の中のリュウタイサクラダイトーーと思われる物を思い切り地面に投げ落とす。

 

周囲に耳障りな大きな音と、白く強い光を発生させた。

閃光弾と音爆弾の一種だったそれと同時に懐で隠し持っていた煙玉を大量にばら撒く。

辺り一面に煙が充満する。

大きな音と光、そして黒く色付けされた煙に辺りは混乱した。

 

「なんだこれは!?」

「どうなっているの!」

「うわぁー!? 煙は吸うなー!」

 

エキストラとして配置したブリタニア市民が悲鳴をあげてパニックを起こしたのだ。

誰か一人がその場から逃げ出すと大勢がそれに吊られるように逃げ出した。

沿道の警備の軍人も宥めようとするが効果はなく、逃げようとする勢いに押されてしまう。サザーランドの部隊は先程の命令に続き、発音、発光、発煙騒ぎに完全に混乱。無線もノイズが走って役に立たず、煙のせいでコミュニケーションもとれない。

 

更に、追い討ちをかけるかのようにサザーランドの一機が急に動きだす。

それを確認したゼロはスザクを脇に抱えると、人一人抱えている重さを感じさせない動きでサザーランドの手の平に飛び乗る。2人が手に乗ったことを確認したサザーランドは橋を飛び降りようとする。

 

あまりの場の混沌ぶりに先のサザーランドのパイロットの一人、ヴィレッタ・ヌウは逆に冷静に物事を考えられ、焦ったように攻撃をしようと銃を向けた。しかし。煙と先程の光の残光でうまく狙いがつかない。

 

「くっ、ここで逃したら私達が」

 

ようやくサザーランドを射程におさめるも、ジェレミアの乗るサザーランドがその動きを妨害した。

 

「ジェレミア卿!どうして!?」

 

「言ったはずだ、手を出すなと。キューエル、全部隊に徹底させろ。手は出すな見逃すんだ」

 

「どう言う事だジェレミア! そんなことできるはずないだろう!」

 

キューエルはジェレミアの突然の錯乱とも思える行動に、付き合ってられないと判断し、ゼロとスザクの乗るサザーランドに発砲する。しかし、とうに橋を飛び降りていたゼロ達のサザーランドには当たるはずがなかった。

銃声で更に悲鳴があがる。

キューエルは橋から降りたゼロ達を確認しようと橋の縁で下を覗く。

下の川には着水しておらず、橋の下を通る旧地下鉄線へ逃げ込もうとするサザーランドを見つける。

キューエルは自分も降りて追走しようとするが、サザーランドのハッチ部分に銃を突きつけられる。ジェレミアは通告する。

 

 

「キューエル! 命令したはずだ! 手を出すな、見逃せ。全力で見逃すんだ!」

 

 

ゼロと枢木スザクを乗せたサザーランドは、彼らの前から完全に姿を眩ませた。




誤字脱字無いように気をつけてはいますが、見つかったらご連絡ください。よろしくお願いします。


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5話

この小説は独自設定、オリジナル要素を含みます。


シンジュクゲットーの一区画。先日のシンジュク事件で完全な廃墟と化したビル群の中でゼロとスザクは顔を合わせていた。

元は何かの劇場か映画館だったのだろうか、多くの椅子が整列され、瓦礫でほとんど原型をなしていないが舞台があることから推察できる。

ゼロは舞台の上でサザーランドの手のひらで、枢木スザクは舞台下すぐの椅子の前で直立していた。首輪や手枷は外されており、既にその身は自由だった。

枢木スザクはサザーランドに警戒しながらも、ゼロから目を離さない。

 

ゼロがようやく口を開いた。

 

「相当手荒にされていたようだな枢木スザク。ブリタニアが腐っているとわかってくれたか? 君が世界を変えたいと思うなら、私の仲間になれ」

 

その舞台や、ゼロの騎士の格好が相まってか、どこか演技じみたように感じる勧誘に対し、スザクは落ち着いて考える。

 

「本当に、君がクロヴィス殿下を殺したのか?」

 

ゼロは先程自分がクロヴィス殿下を殺害したと名乗り出ていた。この意味を改めて尋ねると、ゼロは当たり前のようにどこか誇らしげに語りだす。

 

「これは戦争だ。敵将を狙い、討ち取るのは戦場の恒だ」

「ではさっきの爆弾は? 民間人を人質にして……」

 

「ただのブラフだ。結果誰も死んでないだろう?」

「結果? そうか、そういう考えか」

 

どこか寂しげにスザクは頷いた。ゼロに対して見切りをつけたのかもしれない。

 

「ワタシの仲間になれ、ブリタニアはお前の仕える価値はない」

「そうかもしれない。でも、だから僕は価値のある国に変えるんだ、ブリタニアの中から。間違った方法で得た結果に、価値はないと思うから」

 

そう言うとわかっていたかのようにゼロはその先を淡々と質問した。

 

「軍事法廷に行くのか? 出来レースとわかっていて?」

「それがルールなら、僕が行かないとイレブンや名誉ブリタニア人に弾圧がはじまる」

 

「それは自分が死んでしまうとしても?」

「構わない」

「愚かだな」

 

スザクはその言葉にすこしイラついたように顔を顰めるも、そんな表情を悟らせないように話題を切り替える。この問答に意味はないと感じたからかもしれない。

 

「ここで君を捕まえたいけど、君のお仲間がそこにいる今では返り討ちだろうからね、どうせ死ぬなら僕はみんなのために死にたい。でも、ありがとう助けてくれて」

 

スザクはゼロとサザーランドに背を向けて去っていく。

軍事法廷に行くのだろう。しかし、死にに行くとわかっていてもスザクの背中に決意の乱れは感じられなかった。

 

しかし、ゼロはその後ろ姿を見続けると、哀しそうに呟く。

 

「やはり、過去に囚われるか。枢木スザク」

 

 

 

 

ワタシは操作するサザーランドからゼロとスザクのやり取りを観察していた。

そう言えと命令していたワタシの言う通りにゼロは会話をしてみせた。一言一句違わずに、しかしアドリブは話の流れに沿って違和感なく適切に。

スザクが立ち去って行くのを見届けたゼロは、サザーランドのコックピット内のワタシに声をかけてきた。

先程までの機械音による人工声ではなく、生身の声だ。

太すぎず、低すぎず、爽やかな印象を持つ声でワタシに語りかけてきた。

 

 

「それで、予定とは少し変わってしまったみたいだけど、本当にこれが君の計画に沿えているのかい?」

 

サザーランドのハッチを開く。座席が後ろに下がると、開いたハッチからワタシは顔を出した。なんとも閉鎖的で薄暗い印象の場所だが、久しぶりの外の空気を思いっきり吸った。

うん、埃っぽい。

深呼吸を終えたワタシはゆっくりとゼロの方を向き、サザーランドの座席から飛び降りると、にっこりと笑いかけながらその返事に答える。

 

「安心しろ、完璧だ。あまりにもやる事に対しての駒が足りない詰み盤面からの結果だと考えたら、想定以上の出来栄えだったぞ」

 

ワタシの満面の笑みと賞賛にたいして、ゼロはわざとらしく肩をすくめた。ワタシからは見えないがマスクの下で苦笑いしたような表情を浮かべているのだろう。

 

「嬉しくないよ。僕は君の計画通りに動いただけ、むしろこの計画の成功の鍵を握っていたのは君のほうなんだから」

 

実はその通りだ。アニメとは違い、ワタシには人手もコネも資材も何もない。毒ガスのレプリカや、皇族専用の御料車のハリボテすら作ることはできなかった。

なので、アニメのルルーシュの使った戦法を真似することはできず、オリジナルの策略でアニメのような逃走劇を演じなければならなかった。

 

ゼロには、アニメ一期のラストでルルーシュがスザク相手に使っていたリュウタイサクラダイトを使用した小型爆弾のレプリカを渡した。完全なるブラフだが、軍人相手には効果があると感じたためだ。

 

結果見事に軍人達は爆弾と勘違いしてくれた。

更に、陽動用の装置として、アニメではガスを噴出させていた演出を、違法ジャンクショップから譲ってもらったーーもとい掻っ攫った閃光弾と爆音爆竹を組み合わせ、そして一緒に煙玉も有るだけぶぢまけることで再現した。

これらとゼロの思わせぶりな誇大な演技を組み合わせればアニメと同じ状況を作り上げられるとワタシは信じた。

 

しかし、一番の問題は逃走手段。協力してくれた扇やカレンがいない状況で原作同様に逃げるのはほぼ不可能だった。故に、ワタシ一人であの場所から逃げ出し、追跡されないようにするしかなかった。

ルルーシュと同程度の知能を持つゼロと色々相談しあった結果、一番マシだった案を実行した。しかしそれはワタシがうまく立ち回ることが必須で、運もかなり絡んでくるギャンブルじみたものだった。

 

「そうだな、サザーランドに乗り込むまでは良かったんだが、通信連絡がきたときはヒヤリとしたもんさ」

 

その案とは上空で警戒する予定のサザーランドの一機を奪い、その操縦者に成り代わり途中までその通りに振る舞う。そして最期の最後、ゼロが閃光音爆弾を起爆させ、煙玉を大量に発煙させたのを合図として、ゼロとスザクを回収し逃げるというものだった。

まあ、ギャンブルもギャンブル。パイロットを一人昏倒させ、成り代わるのはよくても、その後その軍人としてワタシがなり切らないといけないわけだからだ。当然、ゼロは不安がるし、一番の綱渡りと思うだろう。失敗はつまりは死ということなのだから。

 

「……どうやって乗り切ったんだい?」

 

「それは企業秘密だ。それに言ったろ? ワタシは何も心配ないって」

 

なんてことはない、あらかじめ録音しておいたパイロットの声を流しただけだ。ただ、その録音音声と会話を合わせるのは少々苦労したが。

ワタシの茶化すような返答に少し困ったように言葉を詰まらせるゼロ。少しの間を開けて思っていたであろうことを口に出した。

 

「……自称魔女がどこでそんな機械兵器の操縦をおぼえたのかも企業秘密かい?」

「察しがいいな、流石ワタシの見込んだゼロだ」

「そりゃどうも」

 

機械兵器とはサザーランドの操縦方法と思うが、これはC.C.の元々の記憶であり、経験で扱えるものだ。曲芸などではない。企業秘密ではあるが。

 

勿論教えるつもりなんてさらさらないワタシは、物分かりの良いゼロにウンウンと満足そうに頷いた。

これがルルーシュなら出来ることは全て予め教えていろ! とでも怒られそうだ。

ハハハ、馬鹿め。二人の記憶をガッちゃんこした結果記憶は大分無くなったけど特殊能力を手に入れたよなんて貴様に言えるか。イレギュラーに強くなって出直せ。

 

「……ふと思ったんだけど、もしかしてこんな奇天烈なキャラが生まれたことに関係がある?」

「それも企業秘密だ。で、その奇天烈なキャラのゼロを大衆の前で堂々と演じてみてどうだった? 存外、似合ってると思ったんだが」

 

まあ、ゼロにたいして教えたゼローー旧ゼロとでも言おうか、旧ゼロはワタシ考案ではなく、アニメ原案だ。それにルルーシュが真面目に考えて生み出した英雄ゼロだぞ? 奇天烈とはなんだ奇天烈とは。

まあ、大衆や大勢の武装した軍人を前にして、これ以上ないってほと盛大に殺人の犯行を自白したパーフェクトクレイジー犯罪者という意味では確かに奇天烈と言えるだろう。

 

まあ、そんな旧ゼロを真似して新ゼロとして立ち振舞ったゼロは存外相性はよく感じた。

側から見ててノリノリで奇天烈に演じてたと思うが。

 

「正直、最初は正気の沙汰とは思えなかったけど、やれないことはなかったね。ゼロというキャラが異様に作り込まれてたって意味でもあるけど。途中演じてて違和感がなくなったのは否定しないよ」

「ワタシは最初からゼロはお前と合っていると言ったろ」

「……そう言われると少し腹立たしいからやめてくれないかな?」

「おや、ゼロがお気に召さなかったか? 」

「端的に言えばね。そもそも、名前がゼロの時点で色々とセンスが悪いとは思うけど」

 

ゼロはカッコいいと思うのはワタシのセンスだろうか? C.C.も気に入ってるみたいだし、これは人それぞれなのかもしれない。

しかし。ルルーシュのセンス全否定はいただけない。ルルーシュの意思を少しは尊重しようと思わないのか。

ゼロの衣装を選ぶ時も、全身タイツの衣装にチューリップを連想させる仮面がどうしても嫌というから、しぶしぶ、騎士風の黒くカッコいい衣装にチェンジさせたのだ。後者ならゼロの運動能力と相まって本当に機能的でもあるし、黒の騎士服ということで、今後立ち上げることになる黒の騎士団の名前とも掛かっていて素晴らしいな! 文句は…………ワタシも衣装に関してはゼロに賛成だ。

話をもどそう、ルルーシュを馬鹿にされたみたいで気分を少し損ねたワタシはゼロにたいして反撃をする。

 

「なんだ、それなら嘘ならセンスが良いのか?」

「……揚げ足をとるな、君は」

「ワタシは魔女だからな、人をからかうのが生きがいなんだよ」

 

おお、なんかワタシC.C.ぽい!

まあ、ワタシの半分はC.C.の魂なんだし、当たり前だろうが、片方のアニメを見てきた側としては嬉しく思う一面もあった。

魔女だからという時に、艶っぽく笑みを浮かべるのがコツだと思う。長く艶やかな髪をプランと揺らすのは更に高得点だと考える。

ゼロは大きく肩を落とす仕草をする。

顔が隠れているので身体で表現するしかないのだろう。

 

「またそれか、随分と君は魔女と企業秘密という、言葉を気に入ってるみたいだね」

「なんだ、女の秘密が気になるか?」

 

女というか、ワタシがこのワードを言うのが好きだというどうでもいい理由だが。ゼロにわざわざ教える義理はない。

しかし、先程から随分と口数が多いことだ。ワタシが起こしたばかりの頃はもっと物静かで、クールなイメージと思ったのだが。

 

「また茶化す、イタチごっこになりそうだから聞かないでおくよ。君が話してくれるのを気長に待つことにするよ……計画の先のこともね」

「……やはり、ワタシの計画に納得はできないか?」

 

ワタシとゼロは契約した。

ゼロは眠りから覚めたばかりの混乱している最中にもかかわらず、突然にもちかけた突飛な契約を真摯に聞いてくれ、少し悩みながらも最終的には契約を結んでくれた。

契約といっても、ルルーシュとC.C.がしたみたいにギアスを与えたわけではない。ゼロは既にギアスを持っており重複はできないからだ。

本人にギアスを使えるという記憶はないみたいだが、時間の問題だろう。C.C.の経験と記憶からわかったことだが、ギアスユーザーの気配を確かにゼロは持っていた。

目には見えないぼんやりとした感覚だが、コードに繋がれたギアスという存在を確かにゼロから感じるからだ。

 

そんな彼と契約した内容は至って簡単。

ワタシの願いを叶えるため。ワタシの計画にゼロが協力する。

そしてゼロの願いの為ワタシが知識の提供を含めて協力する。

という、単純な相互関係を構築したのだ。

 

そして契約は成立したものの、肝心の計画自体はゼロにほとんど教えていないし、ワタシはまだゼロの願いを叶えていないというどころか、聞いてすらいないという状況になっている。そのことにゼロは切り込んできたと感じた。

 

しかし、ゼロは首を大げさに横に振る。

フードのせいで大分大きく振らないと動作が分かりづらいだからだろう。誰も見ていないのだからフードとればいいのにと思う。

 

「いや、納得はしているよ。だからこそ今もこうして従っているだろ? 君は君の願いを叶える。そして僕は僕の願いを叶えるため君に協力する。

君の考えているはずの計画に疑問があるのは確かだけど、それに関して今更どうこう言ったりはしないさ。それに、実際に君の計画はうまくいったんだろ?」

 

文句と思ったのだが、それに反して清々しく納得してくれているらしい。

 

ちなみに、計画とはルルーシュの行動をそのまま真似するという非常にシンプルなものだ。しかし、計画の要のルルーシュのギアスが抜けた分をどう巻き返すかはワタシのアドリブ次第というわけだ。

 

……そういう意味、ルルーシュの代わりという意味ではゼロを神根島で起こしたのも計画の一環といえるのだろうか。

すこし罪悪感がわく。心の中でゼロを駒扱いしてしまっていたことに気づいたからだ。

それはいけない。ゼロはワタシの共犯者。駒を共に操るもの。都合のいいクイーンなどではない。

ルルーシュにとって最初はC.C.は駒の一つだったかもしれないが、C.C.からしたらそれは過ちだ。

それをワタシは忘れてはいけない。

 

「C.C.?」

 

少し黙ってしまったワタシに訝しげにゼロは声をかけてきた。場を持たす為に咄嗟に口を開く。

しかし。さすがC.C.クオリティ。気の利いた言葉を言おうと思ったが、ワタシの口から出てきたのは真逆の言葉だった。

 

「そうだな、お前はワタシの計画通りに動いてくれればいいんだ。心配しなくてもボロ雑巾のようになるまでこき使ってやるよ」

 

チラリとゼロの様子を伺う。

呆れているかと思いきや、ゼロはワタシをしっかりと見つめていた。フードの中の真っ黒の仮面の隙間から見えた目線とワタシの目線が絡み合った。

その濁りのない蒼の瞳は優しくワタシを見つめていた。

 

全身黒の中にチラリと見えた唯一の蒼にドキりとしてしまう。

 

「……C.C.僕は感謝してるよ」

「……なんだ、脈絡のない。急にどうした? なぜ今? そういう話からそうなるんだ」

 

混乱する。感謝? 今の毒舌のどこに感謝の要素がある? わからない。一般の感性を持つという自負のあるワタシですらわからない。言葉も歯切れの悪くなってしまった。

 

「君と僕とで見解に相違がありそうだから今のうちに言っておこうと思ってね。

僕はね……僕がいったい誰なのか、何者なのか。思い出すこともできないし、理解することもできない。中身が空っぽな肉の塊が自我を持っているだけ。それは本当の僕ではないんだよ」

「何を言う? お前はお前だ。たとえ記憶がなくても変わらないさ」

 

言っていることがよくわからなかった。確かにゼロは記憶がない。それは長年眠っていた弊害なのか、思い出したくない記憶を封じるために自ら思い出さないようにしているのか、はたまたギアスの影響なのかはわからないが、記憶が目覚める前のものが一切ないのは確かだ。

しかし記憶はなくても彼という人格は変わらない。その身で見て学んだもの、その体で知って経験したもの、一般的な基礎情報は覚えているし、IQ的な意味ではワタシよりも断然知恵が働く。

ルルーシュと同程度の知能とは嘘ではないようだ。

ゼロの独白に心底疑問に思う。

そんなワタシの様子にゼロは諭すように語りかけてきた。

 

「いや違う。君は理解してくれるだろう? 自分が何者なのかわからない、理解できない感情を。親は? 友達は? 恋人は? 家族は?出身は? 自分の何が真実で、何が虚実なのかわからない、存在そのものが嘘のようなこの孤独さを」

「……」

 

ワタシ、C.C.には過去の記憶がないわけではない。しかし、いわゆる個人情報と言われる記憶に関しては揃って欠けてしまっているのだ。

ワタシの記憶とC.C.の記憶、二つ合わせて見ても名前はおろか、誰かとどんな会話したかわからない。わかるのはぼんやりと誰かあんな感じのやつと親しげに話しているな程度の、第三者目線程度にしかわからない。

ワタシの記憶とC.C.の記憶も全て嘘で、ワタシは嘘の存在といわれても確かに否定できないのかもしれない。

ワタシが無言で下に俯くと、ゼロはその続きを強調して話だした。

ワタシはえ? と、ゼロに目線を向ける。

 

「だけど、自分の過去が、自分の存在がわからない今だけど、重要なのは過去を知っていることじゃあない。

過去とは結局は今に至る為の足跡のようなもの、昨日の足跡を見るために明日を見ようとしないのは愚か者のすることだ。明日を見ない者こそ生きることを諦めているただ生きる肉塊」

 

サザーランドの足下で脚を背もたれに立ったままのワタシの元へゼロは歩きだす。

 

「でも、人がただ生きるだけの肉塊ではないのはね、それはきっと、人は誰もがみんな自らの願いを持っているからなんだと思う。少なくとも僕はそうだと信じてる。

C.C.、人はだからこそ願いを叶えるために明日を向いていられる。自分の理想に近づくため、理想を現実にしようと努力し、叶えるために努力をする。それこそが過去の足跡を振り返らずに前に進むことができるようになる原動力となっているからだと思うんだ」

 

ゼロがそう言いながら近づいてくる。

その言葉に籠る思いは真実であり、精一杯の自分の感情をワタシに伝えようとするのがわかった。

彼の言葉はワタシの頭の中にスルリと入っていく。

 

「昨日までの足跡を知らない僕ーー本当の僕でない、嘘のーー今の僕の願いは、本当の僕の願いを知るということ。僕が肉塊ではなく、人であるための何物にも変えられない宝物を取り戻すということ。だからーー」

「ーーワタシと、魔女と取り引きしたのだな」

 

ゼロの願いを知った。それと同時にゼロがそこまで多くのことを考えていたことに驚きをかくせない。

神根島でワタシが契約を持ちかけていたときにそこまで考えていたのだろうか。周囲の状況を整理するのにも大変だったと思うが、そんな中でもそこまで深いところで思考していたということに心底感心する。頭の出来の違いの前に、人物の人柄、人格故というのもあるのだろう。

ワタシの言葉にウンと大きく頷いた。

 

そうなると疑問が浮かんだ。ゼロに問いかける。

 

「……しかし、矛盾していないか? 過去を見ることを否定しながら、過去の自分の願いを知りたいとお前はいうのか?」

 

ゼロは痛い所を突かれたとばかりに、フード越しに顔を人差し指で描く動作をした。

 

「それを言われると少し痛いんだけど、モノは言いようかな。過去を見るために、過去を振り返るために知りたいんわけじゃない。僕は過去から目を背け、未来に進むためにどうしても必要だったんだ」

 

過去に憧れをもち、過去の栄光にすがるのではない。過去には確かに自分がいたということを証明したい為だとゼロは語った。

その言い訳に偽りはないのだろう。曇りなくいう言葉に確かな力強さを感じた。

 

「だが、ワタシがその答えを知ってるかわからないだろう。なぜワタシの計画に賛同した?」

「……君はやっぱり気づいていなかったみたいだね。実はねC.C.すでに僕の願いは叶ってたんだ」

「え?」

 

ゼロの言葉に驚きを隠さない。

ワタシはゼローー目の前の青年の願いを知らずに叶えていたのだ。しかし、そんな記憶はない。ワタシがしたことは彼についての知識をあらかじめ知っていたワタシがその知識を少し伝えただけ。

その時の様子を思いだす。

 

ーー『そういえば、さっきお前が知ってることを知ってる程度だ。ましてやその記憶とやらもな。って言ってたけど、具体的に僕の何を知っているんだ?』

ーー『ん、どうした。気になるのか』

ーー『まあね、詮索しないとはいえ、見ず知らずの他人にどこまで自分のことが知られているんだろうという単純な好奇心さ』

ーー『そうだな、お前がここ、神根島の遺跡で寝ていること。今まで記憶がないこと、お前の大雑把な性格。そんなものか?』

ーー『そうか』

ーー『ああ、後』

ーー『?』

ーー『家族を、妹を愛し、守ろうとしていた……これだけは覚えているな』

ーー『ーーッ!』

 

思い出したワタシの様子を見たゼロは、満足そうに続きを語った。

 

「……そうだ。君の計画がどんなに理不尽で突飛なもので、たとえ僕自身が心の底から疑問に感じたとしても納得する。キツイ目にあっても耐えてみせる。君が命じれば僕は喜んで死地にも飛び込んでみせる」

 

聞いたことのないくらいの優しさの篭った声をかけられる。

 

「なぜなら、キミが僕を救ってくれたから。

僕と言う嘘を、真実にしてくれたから。」

 

「そんな、曖昧な事で、か?」

「そんなことで、だよ。その程度でよかったんだ。僕の願いは叶っているんだよ、C.C.」

 

ワタシは心底驚いた。それだけ? そんな僅かに覚えていたゲームのシナリオの一部をなんとなく口にしただけのことでゼロは契約したとでも言うのだろうか。

妹を愛して守ろうとしていたというのがルルーシュと被ったため、それだけは覚えていた。後の彼自身の生い立ちについてはほとんど覚えていない。アニメに関してはほとんど鮮明に覚えていたが、そのゲームに関してはどんなものだったのかすら曖昧だったのに。

 

故に、彼の願いは叶っていないとワタシは思っていた。

 

しかし、ゼロの瞳はワタシに真実を語っていた。自分の言っていることに偽りはないと。

気づいたらゼロはワタシの目の前まで来ている。

ぽかんと立つワタシの前で恭しく跪くと、今まで被っていたフードに手をかける。

 

「僕に過去の記憶はない。そんなことはどうでもいい。それよりーー」

 

ワタシは何も言えなかった。フードを下ろしたゼロは、頭に巻いていた黒のバンダナの結びを解いた。

フサリと、手触りの良さそうな、銀色の髪が現れる。

 

「ーー感謝してる。本当に。僕なんかを君の共犯者にしてくれて、契約してくれて。

何かに逃げ出して眠りについた僕に本当の願いを教えてくれてーー僕に、家族を、妹の存在を教えてくれて」

 

最後に残った目元だけ小さくくり抜かれている真っ黒の仮面に手をかけ、それを外した。

 

「これで僕は、未来を進めるんだ。嘘の僕としてーー真実の僕として!」

 

仮面を外した彼の顔はまだ幼さが残った一人の青年。

銀色のボサッとした髪に、力のある濁りのない蒼色の瞳。目鼻立ちが欧州人のようにくっきりしながらも、どこかアジアンな面立ちを含んだ彼はとても美しかった。

 

ルルーシュと似た雰囲気を持った青年の正体は、嘘ーーライ

 

ワタシが知るコードギアスのスピンオフ作品、LOST COLORS の主人公だった青年だ。

 

クロヴィスを殺す前、ワタシは最後に質問したのは実験をしていたのはワタシだけか? 他に青年を島で見つけ、人体実験しなかったか? と聞いた。

答えはNO。

神根島で研究をしたことはあるが、そんな青年がいることなんて初めて知ったし、探そうともしなかったと言っていた。

クロヴィスを殺害してすぐ神根島に行ったのは、ルルーシュの亡骸を埋めるのと同時にライの存在を確かめに行く為だった。

結果は今の状況の通りだ。彼は遺跡の中、所謂Cの世界と、現実の狭間で眠っていた。

ゲームのクロヴィスはなんらかのおかげでライを手に入れることができたみたいだが、この世界では不可能だったようだ。

そもそも、Cの世界と常世を繋げられるのはコードの持ち主、つまりワタシ、V.V.、あとライを封じたものだけだ。

どのような手段でゲームの世界のクロヴィスはライを見つけられたかはわからないが、この世界で見つけられていないなら、ライはまだ現実とCの世界の狭間で寝ているはずと考えたワタシは、ギャンブルだったがライの存在にすがった。

 

V.V.には気づかれたかもしれないが、ライを目覚めさせることに、ワタシは成功したのだ。

 

これが始まり。これがワタシの反逆の狼煙。

 

黒の魔王様を無くした魔女が頼るのは無色の王様だった。

 

 

 

 

「まあ、君が僕をあの島で遠慮なく叩き起こしてくれたのはまだ、正直カチンときてるけど……」

 

「寝すぎは体に悪いんだ。起こしたワタシに感謝するがいいさ」

 

「はいはい、起こしてくれたことに感謝します」

 

「わざとらしい……まあ、これからも精々ワタシの為に頑張ってくれよ、ワタシのゼロ?」

 

「了解ーーー僕ではない誰かの魔女?」



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6話

最近、視力が著しく低下してしまったため執筆を少し控えています。
皆様も目にはあまり負担かけないよう日頃からご自愛ください。



ブリタニアがエリア11を統治するにあたっての政治の中枢であるであるトウキョウ租界。

その中心地に燦爛とそびえ立つ政庁。

ブリタニアから派遣されるエリアの統治者、総督や副総督、エリア全体の執政官らが数多く務めるその政庁のある区画一体は整理されており、租界の中でも異質な雰囲気を放っている。

その理由は簡単だ。その政庁に務めるものの多くがブリタニアの貴族であり、ブリタニアの中においてもさらに上級階級の者たちが多く住まいを構えているからである。

 

エリア11--日本の東京では考えられないほどの土地を無駄にしていると言っても過言ではない。日本の風土にそぐわない広く広大な土地と豪邸を数多く軒を連ねているからだ。

もちろん、政庁に務めるのは貴族だけではなく、その実力主義、弱肉強食を掲げるブリアニアの国制のとおりに平民から出世してきたものも数多い。

そういった平民用の高層マンションや集合住宅、寄宿舎も充実している。

また、政庁に訪れる賓客--ブリタニア本国や別エリアからだったり、他国の使者が宿泊する高級ホテル。他国の総領事館も存在する。

それだけではない、政治を司る政庁以外にもブリタニアから派遣されている各大企業の分社や都市型工場もその周囲に並んでおり、それらに務める者たちの同じく邸が連なる。

 

政庁の周りには基本的に職場、人の住処とが密集している。それも身分の高いブリタニア人ばかりで。

ブリタニアの名誉ブリタニア人制度によって、元の現地人も租界には存在する。エリアにはその名誉ブリタニア人によって労働力が補われていることが多いのだが、その区画の話となると名誉ブリタニア人は殆ど見ることはない。

政庁に務めるものは勿論、一般企業の清掃員や土方といった汚れ仕事すら名誉ブリタニア人ではなく、普通のブリタニア市民が大半を締めているほどだ。

貴族や高、中級層のブリタニア人が多いその区画は名誉ブリタニア人からしたらブリタニアの理不尽であり、傲慢さであり、恐怖そのものの土地、近寄ることもしない名誉ブリタニア人は少ない。仕事の関係じょう、仕方なくその区間にいるものも肩身の狭い思いをしており、目立たないよう必死に振る舞う姿は哀れさを感じる。

 

貴族側からしても、自分たちの下のさらに下のヒエラルキーにいる名誉なんかが自分たちの職場、住居--所謂、聖域で見たくもないというよくわからない理屈でその区画にいることを嫌う基質があるのでウィンウィンとも言えるだろう。

 

そんな政庁近くの高級住宅地の一角、他と比べても比較的に地価が高く、低位の貴族や高級一般層が多く住む地域に一際目立ってそびえる高級マンション。その高さこそ政庁の最高峰を超えてはいないが、それに匹敵するほどの高層集合住宅。

 

そのマンションの最上階--高級マンションの中で更に最高級な居室にワタシはいた。

マンションの最高級ルームなだけあって下手な一戸建てよりも確実に広く、豪華な作りとなっており、部屋の数は大小合わせると二桁を超すだろう。

そんな数多くの部屋の中で最も大きく、最も外の見晴らしの良い隅の部屋にベッドとパソコンだけ持ち込み、ベッドに体を下ろし、下着だけ身につけただらしない格好でパソコンを操作していた。

 

窓の外を見れば少し離れたところに政庁が見え、その大きさや規模を感じ、ブリタニアという国の巨大さと偉大さを実感させる。

 

まあ、そんな外の景色なんか入居早々でさんざん騒ぎ、堪能したため今更珍しくはない。今ワタシが注目しているのはパソコンの画面と、時間を刻む時計だけだ。

 

時計の針は11時59分を指し、秒針は50を迎えていた。ワタシは焦る心を落ち着かせて残りの秒数を心の中でカウントする。

 

10、09、08………02、01、00--!

 

正午になった。ワタシは慌ててパソコンのメイン画面を見つめる。

 

画面には0が数多く並んだ数字が大きく表示されていた。

 

ワタシは今の今まで抑えてきた表情筋を開放する。

 

「ふはははははは! こんなにも簡単なものか金儲けは! 笑いが止まらないぞ、ふははははは……!」

 

画面に表示されているのはワタシのネット口座の残高。

 

わかりやすいよう日本円に換算して22億もの大金。ワタシは笑いが止まらなかった。気分がいい。

残額を履歴を含めて見ると、今--今日の正午付で2200万ブリタニアドルが入金されていた。

 

「ブリタニアのバカ貴族や成金どもめ、せいぜいワタシに貢いでくれたことを泣いて感謝するがいい」

 

「何やってるんだC.C.? 高笑いが外まで聞こえてきたよ?」

 

「……ん?」

 

目線をパソコンから上げ、部屋の入口に振り返る。気がつくと部屋の入口にある無駄に豪華な扉が開いており、部屋の外には全身漆黒の男が佇んでいた。

その漆黒の騎士風の服装のそこかしこに土ぼこりとも見える汚れがついており、忙しく働いて今帰ってきたということに疑問の余地はない。

 

ワタシはなんだゼロか、とつぶやき、さも興味ありませんというように目線をパソコンに戻す。

その言い草からワタシが目を輝かせて画面に表示される0を数え、その金額に惚れ惚れしているところを見られたらしい。少々恥ずかしいので平静を気取った。少しバレバレだっただろうか。

 

「おまえに言いつけた仕事は終わったか? ワタシは忙しいんだ。仕事が終わるまで帰ってこないでいいと言っただろう」

 

「忙しいって……パソコン見て高笑いしているだけのどこに……」

「なんか言ったか?」

「いや何も……」

 

ゼロはフードをおろし、バンダナと仮面を手慣れたように外すと部屋に入ってきた。

その下の面を外すと少し疲れた様相の顔が見えた。まあ当たり前だ。もう数日は帰ってこないで外で活動していたのだから。

疲れた様子を見せながらもその美貌が変わらないのは流石と言える。

 

「言われたとおり仕事は終わったよ、トウキョウ租界外縁に点在していたレジスタンス組織には片っ端からスカウトをかけてきたよ、例え数人のグループだとしても見逃すなっていう無茶振りはきつかったけどね」

 

「なんだ、仕事がはやいな」

 

鈍い反応をしながら内心ではかなり驚いた。事前にリサーチしたら数十のグループがあったはずだが、そこら全てに声をかけたのだろうか。

いや、先のシンジュク事件で少なくない犠牲者がでたはずだし、もしかしたら別グループが固まって動いてるという情報もある。ゼロがどう動いたかはわからないが不可能ではないかもしれない。

そのように必死に考えているといつのまにかにゼロがワタシの側まで近づいており、パソコン画面を見る。

その美形の顔がワタシの顔の近くまでより、目線を自然とそっぽに晒してしまう。ワタシは悪くない。

 

「この金はどうしたんだい? これだけの大金魔女といえど簡単に手に入らないと思うけど」

 

「なに、賭けに勝って手に入れただけだ」

 

「賭け?」

 

「そうだ、ブリタニアの裏サイトの中で一番メジャーな賭けサイトがあってな、その中に面白い賭けがあったから参加してみたんだ。そうしたらこれだ」

 

ブリタニアといえどもネットの世界で裏は当たり前だが存在する。勿論取り締まりも無いわけではないが現実世界ほど厳しいわけではない。

ブリタニアの裏ネットの中で最大のブックメーカー。掛け金が一口日本円で一千万円の超高額で、賭けの対象も表だとおおっぴらには言いづらいことを定めている。

コアなファンも多く、人気の賭けにもなると一回で100億もの金が動くと言われている。

裏の中ではメジャーで安全なサイトだ。金も確実に払われることは約束されている。勿論、違反なんかできるわけがない。

だからワタシは正式な手続きを踏み、このブックメーカーの正しい手段で22億も稼いだのだ。

……楽勝だった。

 

「いったい何の賭けだったんだい?」

 

「知りたいか? ゼロ」

 

「是非知りたいね、魔女」

 

ゼロの中ではワタシのことを魔女と呼ぶのが流行っているらしい。

おそらくワタシがライと呼ばずにゼロと頑なに呼ぶからか、意図返しのつもりだろう。

まあ、そんなことどうでもいい。ワタシとアイツ。お互いの固有名詞がなんだかなんて関係ないのだ。

 

「いいだろう。賭けの内容は至って簡単、『エリア11の次期総督予想』」

 

「それは…」

 

「そう、総督にはブリタニアの皇族や上級貴族が名を連ねてるんだ、殺されたクロヴィスの後釜を賭けの対象にするなんて下手したら皇族侮辱に繋がりかねないな」

 

「だから、裏ってことね。納得したよ」

 

ブックメーカーでは、クロヴィスが崩御したと決まった次の日からこの賭けがトップで掲載されていた。

殺されたクロヴィスの後任を賭けの対象にするのなど、不敬罪や侮辱罪など、ブリタニアではシャレにならない犯罪だ。

しかしそこは裏の中でも名のあるサイト。一々の賭けに何億もの金が動くそのサイトは様々な利権が絡んでいるのだろう。今まで逮捕人がでたことはなかった。

 

「結果は倍率22.1倍のブリタニア帝国第二皇女コーネリアに決まった。それをうけてワタシの100万ブリタニアドルは2200万に化けた訳だよ」

 

「--コーネリア・リ・ブリタニア。ブリタニア帝国の第二皇女でブリタニアの魔女の異名を持つ女傑。ナイトメアの操縦技術はかのナイトオブラウンズにも劣らなく、彼女率いる親衛隊は百戦錬磨の猛者たちであり、現在は中東地域でエリア拡大に従事していたはず。

確かに、オッズ一位のカラレス公爵やワトソン公爵に比べたらエリア11に赴任する理由も薄いし、この不人気さは納得だよ。よく考えれば不安定な情勢のこのエリアに経験と実績のある武闘派が送られると考えるはずだけどね。

まさかつい最近まで中東の砂漠でどんぱちしてた前線にいるはずの魔女がくるとは思えなかったのかな?」

 

ワタシが説明する前にゼロはコーネリアについて知ることを語りだした。ワタシは知識としてコーネリアの性格やその功績を知っていた。遠くない未来にワタシたちの前に敵対することも知っているが、しかしゼロにはそんなことはわからないはずだ。にも関わらずゼロは知っていた。

なんというか、原作のライーーゼロの事はよく覚えていないが、優秀だったのだろうか。

 

「なんだ、詳しいな。教え甲斐のないやつだ」

 

「敵国の主要人物の情報くらいはね、それより、どうしてC.C.はコーネリアに全額注ぎ込んだんだ? 結果良くても、もし外れた時は流石に見逃せない事案だ。教えてくれないか?」

 

ニヤリと笑いながらワタシはゼロを見る。優秀さではワタシはゼロに敵うはずもないが、圧倒的な知識量の差がある。

まあ、原作知識なんて例えルルーシュやシュナイゼルといった知力ブーストマックスの人外といえどもわかるはずがない。卑怯者! とでもいわれるかもしれない。

 

「元金はワタシのつてからもらったんだ。ワタシがどこにつぎ込もうが関係ないだろう。それに、ワタシがお前に教えると思うか?」

 

ゼロはフムと顎に手をあてて考えたと思うと、名案が閃いたといわんばかりに白旗をあげた。

ここ最近諦めが早くなったと感じざるを得ない。まあ、それがワタシにとっては言い訳を変にしないで済むから助かるのだが。

 

「わかったよ。この家も食事も何もかも君に頼ってる僕は何も言わない。これでいいかい?」

 

「上出来だゼロ。ご褒美に次のワタシ達の予定でも話しておこう。しっかりお前に働いてもらうからな」

 

ゼロは苦笑いを浮かべる。しかし、その眼光は鋭く細められた。

 

「それはご褒美と言えるかな?」

 

こちらを試すように言葉を放ち、整った顔が最大限に生かされるように迫力を醸し出した。

そうではないと。

これくらいの迫力くらい出せないようではルルーシューーゼロが務まらないだろう。ワタシは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「今日までのネズミのような活動は終わりだ。派手におっぱじめようと思ってな?」

 

ネズミ、つまりは先程まで地下工作員の真似をしていたゼロのことを揶揄したこと。レジスタンスの勧誘を永遠としてもらっていたゼロに次の作戦を匂わせた。

昨日うんざりした様子を見せていたゼロにはなによりのご褒美だろう。そういった工作よりも、華々しく戦闘することが好きという意味ではゼロは戦闘狂なのだろうか?

次のゼロの言葉を聞き、少なくともルルーシュよりは武闘派なのは間違いないと考えた。

 

「なるほど、今の僕には最高のご褒美だよ」

 

 

 

 

「ちなみに、僕達のアジトをこんな敵の都市のど真ん中の高級マンションにしたのは理由でもあるのかい?」

「金は余ってるんだ、2人分の衣食住くらい贅沢しても文句ないだろう」

「………それだけ?」

「それだけ」

 

 

 

 

ゼロが寝静まった深夜。隣の部屋から物音が聞こえてくるのを確認したワタシは寝具を羽織ると、ベッドを静かに抜け、部屋の外のバルコニーに向かった。

部屋の窓のドアを開けると、外からはヒンヤリとした風が流れ込んできた。

 

風でワタシの髪が靡く。

 

普段は前髪で隠れているが、確かに額に存在する赤いマークが夜風に晒された。

 

バルコニーに出ると窓を閉めた。部屋の中を冷やしたくないからだ。

 

手すりに重心を預け、ワタシは目の前の景色を見つめる。

夜中にも関わらず、バルコニーから見える街並みは人工的な光で輝いていた。政庁はあいも変わらずその存在を夜中まで主張していた。

 

ワタシは黄昏たようにしばらくその景色を見つめる。しかし、景色を見つめながら内心では考える。想像する。想起する。思考を止めなかった。

 

ルルーシュ……

 

これでいいのかな、本当に。

 

泣き言を言いたい。

 

ワタシには無理だ。ルルーシュの知力はないし、度胸もない。世界を敵に回して不敵な笑みなど浮かべるはずがない。

 

C.C.はわからないが、ワタシは元々臆病ものだ。他人の顔色を伺い、その表情の変化を見極めて動くだけの人。自身で決断はせず、必ず他人に委ねるような卑怯者だったはずだ。

それでもいいと開き直っていたはずだ。

 

わからない、何故こんなことになったのか。

 

……C.C.と融合したといっても、その知識や言動を真似し、感情を理解したつもりでとワタシはC.C.のことは何もわかっていないのだ。実際に会ったわけではなく、話したわけでもない。

ただワタシが混じっただけなのだ。

 

ワタシはワタシ。C.C.はC.C.。完全に融合するには不安定すぎたのだろか。

ワタシがそもそも人として不十分な人格だったのだろうか。

 

ネガティブなことは頭にいくらでも浮かんできた。

 

もしかしたら、ワタシは……

 

「ああ、それ以上は考えるなワタシ…」

 

自分で自分を戒める。

こう切り替えが早いのも2人のどちらかの感情があるからなのだろうか。疑問が尽きることはない。

 

そもそも、バルコニーに来たのはこんなふうにブルーになるためではない。この先を決めることになりかねない重要な試練を乗り越えるための舞台にするためだ。

 

顔をパチンと両手で叩く。

 

覚悟はできている。

後はその時が来るのを待つだけだ。

ワタシは、心を無にしてその時を待った。

 

ーー

 

ーーー

 

ーーーー

 

『はーい、C.C.。久しぶりね、元気にしてた?』

 

心臓がドクンと跳ねた。

心の中に直接響いて来た声は、楽しげな女性の声をしていた。

 

『どうやらやっぱり封印されてたみたいね。抜け出せたみたいだけど、……それで、どう? 私の息子は』

 

ここからはC.C.ではなく、ワタシの見せ所。アニメの知識を得て、知ったワタシの力を出す場面。

失敗は許されない。

敵ーー彼女は百戦錬磨の猛者。勘や雰囲気、経験で流れを見極める異常者。

相手にとって不足はない。

 

ワタシは深呼吸を大きくすると、目の前の敵に立ち向かった。

 

 

 

「ああ、マリアンヌ。ルルーシュはよくやってくれてるよ。お前には似ても似つかない青臭い坊やだがな」



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7話

アッシュフォード学園の二年の教室の一室。その日は編入生が入ってくるとの噂があり、教室内の生徒の話題になっていた。

誰が編入するのか、男女どちらか、美形か美人か、文武どちらが秀でているのか。話題のタネが尽きる事はなく、朝のホームルームで編入生が教室内に入ってくるまでは好奇心に満ちた表情を皆浮かべていた。

しかし、編入生が教室に姿を見せ、自己紹介をしだすと、その好奇心はすぐにかき消え、困惑と驚愕の表情に変わった。

ざわついた教室が沈黙する。

 

「本日付を持ちまして、このアッシュフォード学園に入学することになりました、枢木スザクです。よろしくおねがいします」

 

朝の最初の授業が終わり、休憩時間となる。

当たり前なのだろうか、スザクの席の周辺からは生徒が消え、皆遠巻きにスザクを見つめて陰口とも言える話題を口々に話す。

 

「枢木スザクってあの……」

「クロヴィス殿下を殺したっていう……」

「バカ、殿下を殺したのはゼロだろ?」

「でも本当に無関係なの?」

「裁判では無罪だって」

 

小さくない声でそのような話があがる、スザクは居心地が悪そうに机に目線を向けて次の授業の準備をする。しばらくはスザクが前を向く事はなかったが、ふと思い出したかのように席を立った。

スザクが席を立つと陰口は一瞬にして消え、スザクの動向を探ろうと一挙手一投足に皆が注目した。

その空気を感じていながら無視しているのか、ただ単に気がついていないのかわからないが、通路を挟んで隣りに座る男子生徒に声をかける。

 

「あの」

 

「えっ! な、なにか?」

 

まさか声をかけられると思ってなかったのか、携帯をいじり自分の世界に入っていた男子生徒はひどく驚いたように肩を上げた。

突然の大声に周りから注目されていると感じた男子生徒はその肩をすぐに丸め、恥ずかしそうに身じろぎした。

 

「すいません、この学園に出来るだけ詳しい方をご存知ないですか? 少し聞きたいことがありまして」

 

「アッシュフォードに詳しい? ……それなら、一年上の生徒会長が学園に一番詳しいんじゃないか?」

 

一瞬彼の心には無視するという言葉が浮かんだが、一度反応してしまった為、声をかけられたことを無視するという難易度の高い技は彼にはできなかった。

周りの視線が気にはなったがスザクの質問に丁寧に答えた。

 

「そうですか……どうすればお会いできますか?」

 

「え、そうだな……今の時間は授業もあるし、昼休みに生徒会室に行けば会えるんじゃないか?」

 

「わかりましたありがとうございます」

 

「い、いや、いいんだ?」

 

スザクはそれを聞くと表情を変えず礼をし、静かに席に座ると再び机の上に目線を向けた。

突然のことだったが、会話のキャッチボールが成立していたことに気づいた男子生徒は横目でスザクをチラリと見ると、どこか誇らしげに、そしてどこか満足そうに携帯を再びイジりだした。

周囲の生徒は2人の会話から様々な予想をし、再び話を始めようとするが、ちょうど次の授業の鐘が鳴った。

 

 

昼休みになった。昼食を食べることなくすぐに席を立った枢木スザクは、生徒会室に向かう。

先程話しかけた隣の男子生徒に生徒会室の場所を聞き、授業後に真っ先に向かった。

男子生徒は同じクラスの生徒会役員に案内を頼もうとしたが、それは迷惑だとスザクは断った。貴重な休憩時間を自分なんかに使わせるのは申し訳ないと思ったからだ。

 

教室から生徒会室に向かう途中も、すれ違う生徒から奇異の目線を向けられていることに居心地の悪さを感じる。しかし、そんなことで今更くじけたりせず、譲れない目的のためにスザクは歩みを止めなかった。

 

生徒会室と書かれた表示を見つけ、立ち止まったスザクは息を整えると、中に誰がいるかわからないが丁寧に3回ノックする。

失礼しますと言いながら扉を開けた。

 

部屋の中へ数歩入る。中には誰もいないと思っていたが、広い部屋の中央に集めて並べられていた机の奥、日本の礼儀でいう所の上座にその女性は座っていた。

金髪に碧眼と、ブリタニアでは珍しくないその容貌だが、女性としては高身長な体格と、女性の特有の特徴がそれぞれしっかりと現れた見事なプロポーションを持っていた。

スザクはおそらく彼女が例の生徒会長なのだろうと検討をつける。なぜ昼休みの直後にいるのかはわからないが、おそらく朝のうちに自分が会いに行くと発言したことで、彼女までその言葉が伝わったのだろうと考えたからだ。僅かに警戒心をのぞかせる彼女に話しかけようとするが、それよりも早くミレイはスザクに声をかけた。

 

「話は聞いてるわ知っていると思うけど、私はミレイ・アッシュフォードよ。それで、枢木スザク君? 私になにか用かしら? 確かに、アッシュフォード学園高等部の生徒会長であり、理事長の孫娘である私が学園に詳しいとは自負してるけど、今日編入してきた貴方を案内でもすればいいのかしら?」

 

どこかトゲトゲしくスザクへ対応するミレイ。スザクはその様子になにか誤解があると感じ、慌てたように弁明する。

 

「い、いえ。そんなつもりではなく、ただお聞きしたいことがありまして……」

 

「なにかしら?」

 

スザクは心のなかでシコリとなっている質問をする。内心では緊張しながらも、不審がられないよう表情に出さないように、極めて冷静にミレイに尋ねた。

しかし、スザクの思いとは反してそれを聞いたミレイは瞼をカッと見開く。

 

「……この学園にルルーシュという名の生徒は在籍してーー」

「どうして!」

「っ!?」

 

「どうして貴方が知っているの!? ルルーシュがこの学園にいることを!?」

 

「ミ、ミレイさん?」

 

大声を出しながら机をバンッと強く叩きながら立ち上がった。

机を挟んでスザクに体だけ詰め寄る。

先程までのトゲトゲしい雰囲気からまた一転し、心なしか目を赤くさせ、どこか焦燥したような雰囲気だ。

スザクはその急激な変化に困惑した。

 

「悪いけど貴方のことは調べさせてもらってたわ、この学園に唯一在籍することになる名誉ブリタニア人だもの、殿下のお口添えがあるとはいえ警戒するに越したことはないからね」

 

「……」

 

その言葉はどこか納得いった。

先日、偶然知り合い、助けることになった女性がブリタニアの皇女殿下であるユーフェミア・リ・ブリタニアであったことから、何の因果か、学園に生徒として入学することとなった。

ユーフェミア皇女殿下が口添えーー身分を証明してくれたため学園に入ることができた。しかし、あくまでもそれはそれ、これはこれ。

学園側からしたら名誉ブリタニア人、それも間違いとはいえ、つい最近まで皇族殺しの罪がかかっていた問題の人物なのだ。

貴族の子息子女も少なくない学園なだけあり、ポーズの意味だけではなくその身元、性格を理解しなければならなかったのだろう。

その上で、日本時代のことも知っているのはおかしくない。

 

「その結果色々とわかったわ、貴方が日本最後の首相の息子で、殿……ルルーシュとも知古の仲ということもね」

 

「えっ! それは……」

 

ルルーシュの名前がでてきたため、思わず声がでてしまう。

ミレイは自分の様子を観察しながら、チラリと扉の方を向いた。小さくため息を吐くと再び自分に向き合い、先程よりは幾分か冷静になって問いかける。

 

「アッシュフォードは元々ルルーシュの……親の家と関わりがあってね、その関係でルルーシュの事を知っているの。まあそれも昔の話だから今はそんなことはいいわ。スザク君改めて聞くわ、ルルーシュがこの学園にいることをーー部外者だったはずの貴方が何故知っているの?」

 

「それは……」

 

スザクは軍事作戦行動中の話ではあるため言い澱む。しかし、すぐさま考えを一転させて正直に言わなければならないと感じた。目の前の女性の表情を見て、嘘は話せないと直感的に感じたからだ。

しかし具体的な話はするわけにはいかない。なので、大部分を濁して事実を話すこととした。

 

「会ったんです」

 

「会った?」

 

「詳しいことは言えないのですが、シンジュクのある地域でこの学園の制服を着た、ルルーシュ、を……」

 

スザクは次の言葉が言えなかった。いや、言葉が続かなかった。

 

「ミレイさん? なぜ……」

 

「…っ!」

 

「なぜ、泣いているんですか?」

 

目の前の凛としていた女性は、表情を変えないまま涙を流していた。

スザクがその指摘をすると、へ? と表情を変え、目元に手を持っていく。涙が手についたことでようやく自分が泣いていたと自覚したのだろう。

そこからは早かった。

涙を拭った手を強く握りしめると、その制服の袖で目元の涙を男らしく拭き取るも、涙は止まらず、徐々に顔を赤くしながらくしゃくしゃにしていき、大粒の涙をその瞳から溢れさせた。

とうとう無駄と悟ったのか、女性らしく両の手を顔面に押し当て、泣き顔を見せないように泣き出してしまった。

 

「ル、ルル、ルルーシュ……本当に、本当にそうなの?」

 

泣き声の中にミレイの言葉が響く。

 

「い、いったい? 彼は学園にいるのではないですか?」

 

「うっ、うぅ……」

 

「教えてください、ミレイさん! いったいどうしたんですか!?」

 

流石に異常を感じたスザクは、泣いているミレイの元に慌てて詰め寄る。机を挟んでいたため、少し迂回することになったが、ミレイの側に行くと下を向いている、ミレイと目線を合わせるため膝を少し折って尋ねる。

ミレイの様子からよくわからないが、ルルーシュに何かあったと感じた。

ミレイは必死な様子のスザクを指の間から涙でボヤけた目で確認する。すると、小さな声で事情を話し出す。

その弱々しい様子は、先程まで警戒心があり不審者を睨む保護者のような姿からはかけ離れていた。

 

「……ルルーシュは……確かにこの学園の生徒よ、貴方と同じ、二年に在籍しているわ」

 

「なら……」

 

スザクの言葉に、被せる。

 

「行方不明なの……」

 

「え?」

 

「行方不明なのよ! ルルーシュは!」

 

「っ!?」

 

顔に手をつけたまま、大きく口をあげて怒鳴るようにスザクに答える。おそらく、目が隠れていなければ睨みつけているのだろう。

腹の底、魂の叫びのごとく気持ちのこもったその一言はスザクを驚かせるのに不思議はなかった。

スザクは表情を固めてしまう。

 

「……大声だしてごめんなさい。でも聞いて、ルルーシュはシンジュクでテロがあった日以来行方不明なの……」

 

「シンジュク、事件の……?」

 

「そう、ルルーシュはヤンチャなところがあってね、その日もリヴァルーー友人と外出したらしいんだけど、偶然シンジュク近くを通っていたルルーシュはシンジュクゲットー付近で事故した車の救助をしていたらしくてね、その時に友人と逸れたらしいの」

 

ルルーシュが行方不明となったのはミレイが知っている話ーーリヴァルから聞いた話によればシンジュクゲットー付近なのは間違いない。

リヴァルとルルーシュの乗るバイクの後ろで事故をしたトラックにルルーシュが向かったのを見届けたのがルルーシュの最期の姿だったからだ。

 

「その日からルルーシュと連絡がつかなくなったわ」

 

「まさか……」

 

スザクには脳内にある言葉と音がよぎった。思わず手を腹部にあてる。

シンジュクゲットー、ルルーシュと再開した場所。クロヴィス殿下の親衛隊、その隊長の言葉。

 

ーー目撃者はーー

ーー殺せーー

ーー1人残らずーー

ーー奴はテロリストだーー

ーーならお前から死ねーー

そして背後から聞こえた銃声。

 

呆然としているスザクに、ミレイは更に現実を突きつける。

 

「後日、軍が学園に来て、私の前に持ってきたわ、シンジュクで拾ったと言って、血まみれの、ルルーシュの携帯を……だから…」

「嘘です!」

 

「え?」

 

だが、スザクには反論の弁があった。今のミレイの話と、自分の知る状況の小さな間違いがあるとわかったからだ。

直前に考え、思い出していた言葉は一旦忘れてその自分に有利な事実だけをミレイに話した。

運動したわけではないのに、暑いわけでもないのに背中に冷や汗を流しながらスザクは声を荒らげる。

 

「確かに僕はルルーシュにシンジュクで会いました! ……ルルーシュはテロに巻き込まれたんだと確かに言ってました!」

 

「……」

 

ミレイはスザクの言葉に耳を傾ける。

両手を顔から離す、顔が真っ赤で無様になりながらもスザクの話を真剣に、聞き逃さないように聞く。

 

「その時訳があって、僕は彼と別れてしまいその後どうなったかわかりません」

 

軍の上官に撃たれて気絶していたとは流石に言えない。そのためその後どうなったのかは知らない。

彼の次の記憶は今お世話になっているロイドやセシルの顔なのだから。

 

「でも、ですが! 事件後の現場検証ではルルーシュの遺体はありませんでした! どこにも見当たりませんでした! その携帯のことは知りませんでしたが、僕自身はルルーシュが無事だと思ってました!」

 

「……スザク、君?」

 

ロイドから聞いた確かな情報だ。

クロヴィスが殺害されたことや、停戦命令があったことから一時現場は混乱したが、普通であればブリタニア側の犠牲者は身元を特定するという義務が軍にはあった。

有象無象が多く死んだ日本人とは違い、ブリタニア人で死者が出た場合は多くが軍人なのだ。きちんとした現場検証や、遺体捜索が行われる為、見落としたということはほとんどないだろう。

そして行った現場検証から、見つかったブリタニア人の遺体の中にルルーシュと似た特徴の持ち主はいなかったらしい。勿論、全面的に信じてはいないが、その情報源は仮にもブリタニアの侯爵だ。嘘よりも真実のはずだ。

 

「携帯はその時落としたのかもしれません、ですが、今でも彼は無事と思ってます。もう一度いいます! 彼の亡骸は見つかっていません!」

 

そのルルーシュの携帯電話のことは知らなかったが、事件から何日もたち、拘留から解放され、編入する前日ーー昨日に聞いた時でもその情報に変わりはなかった。つまり、ルルーシュの亡骸はなく、死んだ証拠はないのだ。

 

「…!」

 

その事実を知ったミレイはまだ涙を浮かべる瞳を大きく開く。

その瞳に力が戻る。

 

「僕は事件後、彼が着ていた制服の学校を調べていました。殿下の口添えで学園に編入することになった際、偶然アッシュフォードの制服がルルーシュが着ていた制服と気づきました」

 

それは奇跡だった。まさか調べていた制服が昨日セシルから渡された時は何の冗談かと疑ったものだ。

 

「ルルーシュは行方不明かもしれません! ですが、それはただ身動きが取れないだけかもしれません、死んでしまったということでは無いと思います」

 

「……」

 

ミレイは静かに涙を拭い、スザクに向き直る。

スザクは少し荒らげていた声を萎め、笑顔を見せながらミレイに尋ねる。

希望はある。

そう瞳で語った。

 

「ルルーシュがこの学園でどのような人物だったかはわかりませんが、僕が知るルルーシュは妹をおいてどこかに居なくなったりしません、ルルーシュはきっと生きています。そうですよねミレイさん」

 

ナナリー。ルルーシュの最愛の妹であり、目と足の不自由な七年前の彼女の姿が頭に浮かんだ。

そんな彼女を忙しなく世話をしているルルーシュを思い出す。

ミレイも同じことを考えたのだろう。目や顔がまだ若干赤くなりながらも雰囲気を落ち着かせて、笑顔を、浮かべる。

 

「……ふふ、そうね。その通りよねスザク君。ありがとう」

 

最後の礼の言葉にはミレイの最大限の気持ちがこもっていた。

 

「いえ、すいません。生意気言ったみたいで……」

 

「いえ、そんなの構わないわ、私こそ無様な姿見せちゃったわね。ごめんなさい」

 

「そんなこと」

 

「いいのよ、自分でわかってるわ。あーあ、私も大人になったと思ってたけど、まだまだよねー」

 

ミレイは自嘲する。スザクは否定しようとするが、他でもない本人が自分の事を一番わかっていた。

軍人の話や、リヴァルの話、連絡が取れないことから最悪のイメージをしてしまい、そのイメージを崩すことがなかったのは事実なのだ。情け無い、諦めるのが早すぎるぞミレイ・アッシュフォードと心の中で呟いた。

 

「ミレイさん……」

 

「まさか会ってから数分も経ってない相手に諭されるとは思ってなかったわ。……そうよね、私達こそルルーシュの事を信じてあげないとね」

 

「私達?」

 

私達と、複数形を強調されたため思わずオウム返しをしてしまう。

ミレイは扉に目線を向けると、その先にいる人物へ声をかけた。

 

「聞いてるんでしょ? リヴァル、シャーリー」

 

「え?」

 

誰もいないと思っていた扉が静かに開いた。

 

「いやー、バレてたとは」

「だ、だって、会長ー」

 

扉からは目を充血させ、涙の跡が残っている藍色の髪の男子生徒と、ミレイ以上に泣き腫らしているオレンジの髪の女子生徒だった。

2人は居心地悪そうに生徒会室にはいると、ドアを閉めた。

そんな2人にやれやれと言いたげな表情を見せる。

 

「そんな部屋の外から啜り泣きが聞こえてたらバレバレよ。スザク君、彼はリヴァル、後ろで泣いてる彼女はシャーリー。2人とも私と同じ生徒会のメンバーなの」

 

ミレイの紹介でその2人の正体を知った。

 

「いやー、盗み聞きして悪いな転校生。俺はリヴァル、リヴァル・カルデモンド。よろしく」

「ぐすっ……私はシャーリー・フェネット。よろしくねスザク君、隠れて聞いててごめんなさい」

 

2人はどこか憔悴した様子だったが、スザクに目一杯の笑顔を見せ自己紹介をした。ミレイとの会話を盗み聞いてしまったことを謝罪する。

盗み聞いたのも、偶々聞こえたのではなく確信犯的に物音をできるだけ立てないようにしていたのだ。

 

スザクはそんな2人の様子に最初は驚きつつも、すぐに笑顔を戻した。

 

「こちらこそ、ご存知かもしれないですが枢木スザクです。よろしくおねがいします。リヴァルさん、シャーリーさん」

 

「硬いなー転校生。いや、この際だからスザクでいいか」

 

リヴァルはスザクとミレイの元まで近づくと、スザクの肩に手を乗せた。

態度は馴れ馴れしく感じるが、その表情は複雑そうにしながらも真剣に感謝の気持ちがこもっていた。

 

「リヴァルさん?」

 

「スザク。本当に感謝してるんだって、正直なところ言うとさ、俺を含めてこのメンツ皆んな今日まで大分落ち込んでてよ、会長やシャーリーなんて少しも笑顔なんて見せてくれなかったんだ」

 

「それは……」

 

スザクの疑問に、今度はシャーリーが答えた。

涙声ながらも、自分を奮い立たせようとしているのか、必死に声を張る。

 

「ルルはね、この生徒会のメンバーだったの」

 

「え、ルルーシュが?」

 

少し驚く。こんな時に考えることではないが、ルルーシュにそこまでの強調性があったことに驚いたからだ。生徒会など、面倒くさいの一言で拒否するような人間だと思っていた。

そんなこと考えているなど露知らず、シャーリーの話の続きをリヴァルは続ける。

 

「だからさ、ルルーシュが行方不明で、事件に巻き込まれて、死んだかもしれないって聞いてからは……なんかさ、皆、笑わなくなったから。

でも、今スザクがルルーシュは生きているって言ってくれてさ、扉越しに聞いてたとはいえ本当に嬉しかったし、本当に助かったんだ。希望はまだある。諦めるなってな」

 

途中涙声になりながらも、自分の気持ちを正直に真っ直ぐスザクに伝えた。

 

「リヴァルさん……」

 

「俺はリヴァルでいいよ、タメだろ俺らは」

 

肩に置いていた手を背中に回し、パチンと音を立てて軽く叩く。痛っと、いいながらもビクともしないのは流石だ。

 

「じゃ、じゃあ! 私もシャーリーで大丈夫!」

 

シャーリーも手を挙げて自己主張をする。

 

「そうね、私もミレイさんなんかじゃなく、ミレイ会長とでも呼んで」

 

ミレイも今までの陽気さを取り戻してスザクに応える。

 

「みなさん……ありがとう、ございます」

 

スザクが腰から綺麗にお辞儀をする。

それを見ていたミレイは、名案が思いついたとばかりに手を叩く。

ミレイは思いついたが有言実行。後先考えず目の前のスザクに宣告する。

 

「そうだ、スザク君、貴方生徒会に入りなさい!」

 

「会長ナイスアイデア!」

 

ミレイの言葉にスザクはええ! と、驚きながらも、リヴァルにすぐに同意をされた。若干リヴァルのミレイへの忖度が入っているかと思ったがそれは考えすぎだろう。

 

「僕が、いいんですか?」

 

「勿論、ルルーシュの知り合いなんでしょ? 遠慮せずにビシバシ働いてもらうわよ?」

 

「でも…」

 

「大丈夫だって! 仕事のことは俺らでカバーするし、それに、最初は名誉だからとやかく言われるかもしれないけどさ、生徒会でお前がしっかり働いてれば皆認めてくれる」

 

そう、今は学園の皆から良い目では見られないかもしれない。理不尽なイジメや心許ない誹謗中傷をうけるかもしれない。しかし、学園のヒエラルキーの中で頂点に君臨するといっても過言ではない生徒会に所属し、地道に仕事をしていれば自然と皆に認められていくのではないかと考えたのだ。

勿論、簡単なことではなく、時間がかかる難しい問題だろう。

しかし、それでもスザクにとってしたらその言葉はまさに天からの救いのようにも感じたのだ。

 

そして、次のリヴァルの言葉が決定的にスザクを後押しした。

 

「それに、ルルーシュが帰って来てお前がいたら面白くなりそうだろ?」

 

「……っ! はい、僕でよければ是非!」

 

「はーい! 話は決まったわね、スザク君、生徒会は私を含めて7人」

 

ミレイは指で人数を表す。

 

「生徒会長である私に、リヴァルにシャーリー。あと昼だから今はここにはいないけど、貴方達と同じ2年にニーナとカレンさんっていう2人の女子生徒がいるわ、また貴方に紹介するわね」

 

「はい、あと2人は……」

 

スザクの声に、待ってましたと言わんばかりにフッと笑う。

そして優しく答えた。

 

「今はいないけど我が生徒会の最高戦力である、生徒会副会長のルルーシュ、それに貴方。スザク君よ」

 

「……」

 

「これからよろしくね、スザク君」

「よろしくな、スザク」

「ビシバシいくわよ? 新人さん?」

 

「こちらこそ、よろしくおねがいします! シャーリー、リヴァル、ミレイ会長」

 

スザクは久しぶりに心の底から笑みを浮かべた。

 




※当小説ではルルーシュを生き返らせるといった展開はございません。


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