ハーレム?いえ、既に詰んでいます (ねぎぼうし)
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アイドルはラブホはお断り

「失われた記憶」からの人はいつもありがとうございます。
初めしてのかたは初めまして。
ラブコメは初めての斜めにかまえるです。
普段はミステリーで投稿していますが息抜きで少しずつ書いたものが一話分出来たので投稿しようと思います。
いわゆる落書き的なものなので不定期更新です。
ラブコメは初めてですがご覧ください。





一般的には幼なじみ、というのは同性が多いらしい。

どこかのラノベのように幼なじみヒロインというのはそうない。

幼なじみの場合それは恋愛ではなく、友達として認識されるためだ。

よってこれを回避するために作られた絶対的システムがある。

そう、『転校』である。

しかもラノベ主人公どもは毎度毎度「転校!?」とお決まりのように驚く。

さらに戻ってくる先は決まって昔住んでいた場所だ。

ご丁寧に幼なじみの顔まで忘れ、「お前、〇〇か!?」なんて言う。

そんなやつに昔ヒロインは惚れていた、という設定が王道だろう。

さて、ここに一人、異性が幼なじみという珍しい男がいる。

だが現実は甘くないらしく、王道など歩ませてはくれない。

ではその男を覗いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

「おはヨーソロー!」

「おはようございます……」

「よーちゃんおはヨーソロー!」

 

浦の星前のバス停。女子校のバス停だが乗るのは女子校生だけというわけではない。前述した男も登校にこのバスを使用している。

そこで喋っているわけだが順番に説明しよう。

先に挨拶した灰色の髪の子が渡辺曜、最後に挨拶したみかん色の髪のが高海千歌、そしてその間に挟まり、けだるげに挨拶したのが、前述した男、

 

「元気ないね?どうしたの椿くん?」

  

湊斗(みなと) 椿(つばき)

高校三年生の健全な男子。童貞。

敬語は癖であり、先輩後輩構わず使う。

本人談によると常に敬意を払うのは大切、だそうだ。

 

「いえ……昨日千歌に買い物に付き合わされましてすこししんどくて……」

「つーくんオシャレなんだからセンスあるとおもって!」

「そのつーくんってのやめてくださいよ……。もう高校生なんですから」

「幼なじみだからいいじゃん!」

 

椿の呼ばれかたは様々である。

千歌からはつーくん、曜からは椿くん、そして……

 

「おはよ、三人とも!って椿?元気ないけどどうかした?」

「デシャビュぅぅ……。昨日千歌に連れ回されまして……」

 

松浦果南、彼女からは椿、と呼び捨て。

ずいぶん親しく、ラノベならこの中で三角関係でもできている。

だが三角関係などない。

おっと、先に言っておく。

親の都合やらで実は理事長に縁があり……なんてことで椿は女学院生になりはしない。

もちろん、ダイビングショップや旅館などにも泊まりはしない。

そもそもこれはラノベではない。

現実はとても厳しく、冷酷である。

もう一度確認しよう、三角関係などない。

現実は……

 

(昨日の買い物、デートって思ってくれてるかな……)

(千歌ちゃんとデート……いやいや!まだ恋人同士じゃないからノーカウントでありますっ!)

(……。私も今度一緒にダイビング誘おうかな……?)

 

三角関係よりも複雑で限りなく、めんどくさかった。

まさかの1対3、というクソめんどくさい状況に、椿は気づいていないのだが。

なにせ椿にとって三人は、『幼なじみ』なのだから。

それ以上でも、それ以下でもない。

だが皆さんには勘違いしないで頂きたい。

ハーレムというのは、決して楽ではないということを、重々理解し、この男を見てほしい。

なにせ、一人を愛でると二人が嫉妬するという、どうしようもない『チェックメイト』でスタートしているのだ。

そしてまた、椿は『チェックメイト』であることも知らない。

そう、泥沼化確定のクソゲーなのだ。

さて、幼なじみというのはどうしてかモテない。

ではなぜこのようになったのか。それは彼を見ていれば分かるだろう。

 

───  ───  ── ─

 

「見てみて!これつーくんに選んでもらったんだよ!どうつーくん!?」

「いや選んだの僕ですしどうって……」

「かわいい!?」

「えぇ、可愛いですよ。とても」

「えへへ~」

「「……………」」

 

二人が怪訝そうに僕をみます。

なにかしたでしょうか僕?

褒めただけですよね?

あ、普通感想聞くなら私達でしょっていう僕に対する嫉妬でしょうか?

いや求めてきたの千歌ですし。

 

「今度は私とデートしよっか!」

「デートぉ?」

 

した覚えはないですよ曜。

 

「買い物付き合ってよ」

「それをデートとは……いいですけど。千歌?どうしたんです?」

「なんでもない!」

 

いやなんでもあるでしょう。

不機嫌じゃないですか。

褒めて上機嫌になったとおもったら……喜怒哀楽が激しいですね。

にしても買い物ですか。

2日連続ですが幸い今日は土曜です。

明日は予定もないですし付き合うだけならいいでしょう。

 

「あ、じゃあ千歌、こっちこっち」

 

果南が千歌を呼ぶ。

そして耳打ち。

なにを言ってるのかは分かりませんが耳打ちということはろくでもない事です。

介入するメリットなどありません。

 

「明日朝の6時!駅で待ってるね!」

「はい。お待ちしています」

 

───  ───  ── ─

 

「あ、いた!椿くーん!」

「ん、お待ちしていました。では行きましょう」

 

朝6時、駅前、宣言通り待っていました。

行き先は聞いてませんがおそらく沼津の服屋でしょう。

切符を買い、電車に乗ります。

 

「あ、そうだ。椿くん」

「なんでしょうか?」

「実はAqoursの衣装案が思い付かなくて……。なにかアドバイスください!」

「僕より曜さんのほうが衣装作りは得意でしょう?僕は素人ですし」

「でもアイドルの見る側の視点も反映したいしね」

「なるほど……といってもAqoursは三人しか会ったことないですよ?」

 

無論、ようちかなんです。

本当は三人を通して会えるのですが正直、一ファンとして見るのも良いもので別に会わなくても……と、言う感じです。

勿論、初ライブからのファンです。

急に千歌が「スクールアイドルするっ!」なんて言ったときは驚きましたが。

 

「そうですね……案、ですか……」

 

といってもそんなに早くは出てきません。

 

「そういえば椿くんはAqoursの中で誰が好きなの?」

「推しですか?」

「そうそう。私達はあまりファンには聞かないけど気になる♪」

「えと、私の推しは一応善子さんです」

「……………意外だねっ……!」

 

あ、あれ?

 

「怒ってます?」

「そこは曜ちゃんでしょう!」

「本人が言ってちゃ世話ないですよ。でも曜は結構人気あるみたいですよ?」

「ほんと!?」

「えぇ。ほら。『元気イッパイで可愛い』『一緒に映画とか行きたい』『ヨーソロー!』。ね?」

「…………でも肝心の人がなぁ……」

「肝心な人?」

 

スマホを見せると少し喜びましたがすぐ落ち込みました。

肝心な人とはだれでしょう?

お母さんとかでしょうか?

 

「ちなみに善子ちゃんのどんなところが好きなの?」

「そう……ですね。『これ』ですかね」

 

そういって『堕天』のポーズをとります。

 

「えええええ……もしかして椿くん、『そっち』?」

「ちがいます!いえ、勿論善子さんが可愛いというのもあるんですが……」

「わたしが推しじゃないのはなんで?」

「うーん……やはり幼なじみというのが大きなポイントだからでしょうか」

「やっぱりー!」

「まぁ仕方ないですよ。ファーストライブでは二人が踊ってるの凄い違和感でしたし」

「だよねぇ……」

「っと、着きましたよ。降りましょう」

 

立ち上がり電車をおります。

 

「さて、まずは……はい」

 

曜に僕の被っていた帽子を被せます。

突然だったので曜はひどく焦りました。

そんなに僕の帽子が嫌なのでしょうか?

 

「な、なにこの帽子!?」

「忘れてるでしょうが曜は人気者ですよ?それもスクールアイドル。男の人と歩いていたら噂になりますでしょう。僕の帽子が嫌でしたら服屋でパーカーでも買いましょう。とにかく顔は隠さないと」

「う、ううん!この帽子でいい!」

「よかったです。では」

 

曜に向かって手を差し出します。

 

「………?どうしたの?」

「いえ、手を繋ぎますよ」

「!?なんで!?」

 

僕は相当嫌われているようです。

手を繋ぐのさえ驚かれました。

 

「曜がいくらボーイッシュな格好しても女の子です。ナンパになんてあったら貧弱な僕には到底助けられません。だからカップル風に歩いて事前に防ぐのがベストかと。……聞いてます?」

「聞いてる聞いてる♪」

 

手を繋いでくるのはよいのですが話くらいは聞いてほしいものです。

 

「離れないでくださいよ。曜は可愛いですからナンパされやすいですし」

「ごめん!よく聞こえなかったもう一回言って!」

「だから曜は可愛いですから……」

「うんうん♪」

「……もういいですよ。ほら、行きましょう」

「ヨーソロー♪」

 

買い物とあって幼なじみは元気です。

元気なのは結構ですが引っ張らないでいただきたい。

 

「私本屋いきたかったんだぁ!」

「曜は本苦手じゃありませんでしたっけ?」

「ファッション雑誌!」

「なるほど」

「というわけで~♪可愛い子いないかな~♪」

 

周りをキョロキョロ見渡す曜さん。

はたから見れば不審者です。

 

「なんでファッション雑誌を買うのに可愛い子探すんですか?」

「その子にどんな雑誌みてるか聞くんだ~♪」

「初対面でも?」

「初対面でも!」

「……はい」

 

曜にカメラを内カメにして見せます。

 

「…………なに?」

「そんなに可愛い子探すなら鏡でも見てください」

「~~~!?椿くん大好きっ!」

「はーいそうですか~。では本屋へ向かいますよ~」

 

愛の告白しながらハグを迫る曜をヒョイとかわし、手を繋いだまま服屋に向かいます。

曜からのなんでかわすの!みたいな視線が刺さりますが手を繋ぐのさえ嫌がっていた人のハグや愛の告白など知ったことではありません。

 

「ん?あの人なんてどうです?」

「え?」

「可愛い子ですよ。あのサングラスの」

「…………デート中に他の女の子褒めるのはNGだよっ!」

「曜が探してたんでしょう……。というかデートだったんですかコレ?それはそうと声かけましょう」

 

帽子を被っていてサングラスと不審者ですが不審者らしからぬお洒落な着こなしでした。

モデルさんとかならラッキーです。

ぜひお店を教えて頂きましょう。

 

「あのー……」

 

私が声をかけると自分に対して話しているのが分からなかったのか周りを少し見渡して自分を指差し

 

「私かしら?何の用?」

「あ、はい。実はですね……」

 

どこかで聞いた声でした。

どこでしたっけ?

 

「あの、その服……」

「あーーーーーーっっっ!!」

 

手を繋いだまま隣の曜が驚きます。

どうしたんでしょう?

 

「善子ちゃん!」

「ヨハネ!ってあああっ!!」

「え?ヨハ、あっ!!」

 

ヨハネさんでした!

そりゃ聞いた声です。

 

「曜じゃない!誰その男!?」

「あ、しまっ……!!」

 

手を繋いだままでした。

一旦手を振りほどこうとしますが

 

「………いつまで握ってるんですか?」

「さっき離れるなって」

「言いましたねそうでしたね」

 

ヨハネさんの誤解が進みます。どうしましょう?

 

「あー、ヨハネさん」

「なにかしら?」

「詳しく誤解なく正直にお話します」

 

変わらず曜は手を離しません。

 

───  ───  ── ─

 

「なるほどね……」

「はい。そんなわけで曜と恋人風に歩いているわけです。幼なじみなだけで恋人では…イタイイタイ!イタイです!曜、握力!手を握る力を弱めてください!潰れます!ヨハネさん助けて、あ゛あ゛あ゛っ!!」

「自業自得よ。反省しないさい」

 

何が自業自得なんですか!

僕の否ないですよ!

 

「それで?貴方は誰が推しなの?」

 

その問いにもちろん迷うことなき即答。

 

「私はリトルデーモンですっ!イタイ!曜!いい加減に……」

「……貴方私が好きなの?」

 

その質問に一瞬隣から殺気が…。

なんですなんです!?

 

「善子ちゃん……?」

「ヨハネ。安心しなさい。その気は無いわ。で、どうなの?」

 

好きか?

ふむ、ライクのほうですよね?

そもそも初対面の人にラブを聞く人はいないでしょう。

 

「もちろんですよ。推しですから」

「じゃあ……」

 

急にヨハネさんが僕に接近し僕のアゴをクイッと少し持ち上げ顔を近づけて

 

「ヨハネと契約……する?」

 

ちょっ!?

待ってください!まさかラブの意味で聞いたんですか!?

あなたアイドルですよね!?

堕天使!?小悪魔の間違いでしょう!

なぜならこんなにも胸が締め付けられ……

 

「あ゛あ゛あ゛っ゛!腕も締め付けられますうううううっ!!」

 

曜、殺気やめてください!確かにスクールアイドルとして許されない行為だから怒るのは分かりますけど!

数秒僕の目を見つめたヨハネさんはやっと離れてくださり、

 

「……なんてね。応援ありがと♪これからもリトルデーモンでいてほしいけど……」

 

チラリと曜を見て、

 

「それじゃ、可哀想ね」

「可哀…想?なにがですか?」

「それはヨハネの口からは言えないわ。あ、でも」

「でも?」

「曜はもう少し頑張らないと私にとられるかもね♪」

 

そう言ってヨハネさんは僕の唇に細い指を置き、ウィンクを決め、そのまま場を去りました。

その様子にしばらくキョトンとしますがふと我にかえり、冷静になります。

負ける?なんでしょう?

 

「…………勝つ!」

 

いやだから何をですか。

 

───  ───  ── ─

 

「ふぅ、買いましたね」

「重いね」

「持ちましょうか?」

「ありがと!」

「はい。ではそろそろ手を離してください。荷物が持てません」

「やだ」

 

なんなんですか。

ヨハネさんとあってから手を離してくれません。

でも何故か荷物は私に持たせたいようで「ん!」みたいな感じで荷物を押し付けてきます。

仕方がないのでとっくに許容量を越えている片手で持ってあげます。

 

「ところでですね」

「なに?」

「…………走れますか?」

「う、うん。どうしたの急に?」

「声を潜めて。尾行されています」

「尾行!?」

「静かに。さっきから後ろに同じ人が二人います。曜のスキャンダル目的かなんだか知りませんが逃げるのが得策です。準備はいいですか?」

「うん。何処に逃げる?」

「後で考えます!!行きますよっ!!」

 

曜を引っ張って走ります。

最初こそは引っ張られていた曜ですがさすがはスポーツ人。逆に私が引っ張られる羽目に。

後ろを見るとサングラスの二人が追ってきます。

走ってると言うことは隠す気は無いということです。

そのまま走り続けますが逃げ切れません。

速すぎますよ。曜と同等の速さとはなかなかです。

何か隠れられる場所は……。遠くを見るとホテルらしき建物が。

あのなかなら逃げ込めそうです。

流石にホテルマンがいるなか、追ってくることはないでしょう。

 

「曜!あのホテルに……」

 

言ってる途中。

そのホテルの看板が目に入り、光より速く口を閉じました。

 

『ホテルHA・JI・ME・TE

 ご休憩5時間1960円 均一

 ご宿泊 2990円 均一』

 

ラブホオオオオオオオッ!!

もうちょっと店名カモフラージュして!

バレバレじゃないですか!入れるわけないですよぉぉ!!

 

「椿くん!?ホテルがどうかしたの!?」

「どぉぉぉぉぉもしてませえええええんッ!!異常なしです!」

「そ、そう?でもこのままじゃ追い付かれちゃう……。何か逃げ込める場所……」

 

あっ……。

 

「……………///」

 

やってしまった!

周りを見渡した曜、顔真っ赤です。

心なしかつかないでいる手の温度も上がっています。

見つけた瞬間無言になるのも気まずいです。

くっ!男としてなんとかしなくては!

 

「と、とにかくこの場から離れましょう!」

 

グッ!と曜を引っ張りますが何故か曜は動きません。

 

「よ、曜!?追い付かれますって!」

「あ……」

「あ?」

「あ、あのホテルに逃げ込むのはどうかな?」

「………………え?」

 

………………あの、ホテルに?

落ち着け私。そうだ落ち着け。ただの聞き間違いだ聞き間違い。

落ち着いてもう一度聞けば……。

 

「も、もう一回お願いします」

「あのホテルに逃げ込むのは……だ、ダメ?」

「ダメにきまってますよ!一瞬でも聞き間違いを期待しましたよ!そもそもあれは……」

「つ、椿くんとなら……」

「え?」

「椿くんとなら、いいよ?」

 

@&☆*★#!?

ま、まってまって!?

私と一緒なら良いってそれは、それはつまり……。

 

「ってあの二人は?」

「は、はい?」

 

予想外の返答に頭を抱えていると曜が走ってきた方向を指差して首を傾げます。

そこには何もない。つまり、

 

「に、逃げ切った?」

「みたいだね……」

 

よかった……のでしょうか?

なんかこう……男してもったいないことをしたような……。

そ、それよりも、

 

「曜?その……」

 

名前を呼ぶだけでビクッ!と跳ねます。

これはさっきの事は聞かない方が正解なようです。

 

「これからどうします?」

「走って疲れちゃった……」

「じゃあ何処かで休憩を……」

 

言ってから気付きます。

ここが何処で今どんな状況にあるかが。

 

「椿くん……?」

「いやいや!決して休憩というのはそんな意味ではなく!普通にカフェとか漫喫とかで!」

 

こっちの必死な弁解に曜は顔を赤らめながらも繋いだ手は離してくれません。

 

「…………いこう!」

「は、はい」

 

無理矢理引っ張られてカフェへ向かいます。

さっきの尾行がまだ続いてるかもしれないので注意を払いながら向かわなければなりませんでした。

しかし、スタバより近くにマクドがあったのでそっちに変更。

なんとかつく頃には体力はほぼ残っていないということに。

しかしこれが大失敗。

なんとマクドはカップル割引というキャンペーンをしており、手を繋いでいた私たちは「カップルですか?」と問われました。

即座に否定をしようとしたとき、なんと曜が「はい!」と答えたので「あらー!まだ若いのに!」みたいな目で見られました。

恥ずかしすぎて体力を持っていかれました。

疲れをとるために疲れてカフェへ向かうとは僕らは何をしてるんでしょう?

 

 

 

さて、テーブルに座り、やっと休憩が出来ます。

流石に二人向かい合って座ると思いきやなんと、さも当然かのように僕の隣に。

考えられるのは二つ。

さっきの事で面向かって座れない。

理由は分からないけれど単純に手を離したくない。

どっちもの気がします……。

座ってからもお互い無言で時間だけが過ぎていきます。

普通はスマホとか触りながら駄弁(だべ)るとかするのでしょうが手は塞がっていますし、喋れる状況でもないです。

ですがここで私の頭にある行動が浮かびます。

 

──────さっきの事をきいたら?

 

なぜ私とならいいのか?なぜ手を離してくれないのか?

聞くべきか?聞かないべきか?

出来るだけ表に出さぬように焦っていると口元にポテトが。

 

「………ん」

「ん、ってこれ……食べるんですか?」

「ん!」

 

顔はそらしたまま繋いでいない方の手で僕にポテトを差し出します。

それは俗に「あーん」と言われるもので……。

 

「…………!これで良いですか?」

 

仕方がないので食べて上げます。

だって食べないと曜が怒りそうで……。

すると曜は上機嫌にこちらを向いて、

 

「はい!」

「……………え?」

 

目を閉じて笑顔を向けます。

口は結んだままで。

しかも身長はこちらのほうがあるのでちょうど顎を上げて。

これはつまり、その………き、キs

 

「食べさせて♪」

「あっ、はい」

 

単純に間違えました殺してください。

いえ、そっちじゃないです。キスに比べて劣っていますが食べさせてってそれはそれで難易度高めです。

まぁこれでも幼なじみ。照れていては示しがつきません。

ポテトを一つつまんで口元に持っていきますが……

 

「曜、口開けてください」

「目つぶってるからいつ開けて良いか分かんなーい」

「…………」

 

これはつまり、そうしろということ。

周りに客がいないか確認をして、流石に照れながら

 

「あ、あーん」

 

今度はパクッ!と食べてさらに上機嫌に。

お姫様は気難しいです。

一方あーんなんてしたこっちは恥ずかしすぎて死にたいです。

 

ですがこれで空気もほぐれてきたようで会話が弾むようになりました。

スクールアイドルの話。近況の報告。いろいろ話している中、

 

「そういえば善子さんと会いましたね。感動です……!」

「あっはは……。毎日アイドルと会ってるけどね」

「曜、目が怖い」

「怖いと言えばあの二人だよ。なんだったんだろうね?」

「さぁ?何はともあれなんとか逃げ出せて良かったです」

「結構速くてどうしようかとおもったけどね」

「そういえばなんで私となら良いんです?」

「えっ?」

 

あまりにもナチュラルに。勢いで言ってしまいました。

さすがに答えてくれないだろう。それよりどう良いわけをしよう?

そんなことを考えていると曜、ポテトを片手でポキポキ割りながら少し照れて、

 

「椿くんなら変なことしないでしょ?」

「……………」

 

要は男して見られてなかったと。

なーるほどっ!私のプライドと引き換えに謎は解けました。

 

してもよかったんだけど……

「え?曜?なにかいいました?」

「なにもっ!」

 

あまりに小さな声で聞き取れませんでしたが掘り下げると怒られそうなので止めておきます。

曜も聞かれるのが嫌なようで話題をそらそうと机の上を片付けます。どうやらもう出るようで。

異論はないのでパパッと盆を片付けて店を出ます。

するともう外は暗くなっていました。

夏なので昼は長いはずなのですが……。

これでは本屋に行くことは出来なさそうです。

 

「帰りましょう」

「そうだね」

「すいません。本屋に行けなくて」

「私はとっても楽しかったからいいよ!」

 

笑顔でそう答えた曜は結局、内浦まで手を離してくれませんでした。

追われて走ってあーんして。

不思議な一日でした。

 

 

 

 

後日の話になりますが、こんなことがありました。

 

「おはよー!よーちゃん昨日は楽しかった?」

「千歌ちゃんおはヨーソロー!楽しかったよ!ね!」

「私は疲れました……。正直今日の学校が憂鬱です」

「疲れるって……なにしたの?」

「あーんとか?」

「あーん!?ちょっとつーくんどういうこと!?」

「あぁあぁあぁ!肩を揺さぶらないで酔いますから!」

 

このあと千歌から根掘り葉掘り聞かれましたが曜がいちいち誤解を招くような発言をして……。

大変でした。



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海はお好きでしょうか?

どうも、あずきバーってアイス美味しいですよね。かたいですけど。斜めにかまえるです
今回は果南ちゃん回です。
なんというか定番のお話です。
個人的にはニセ○イみたいなのを書きたいです。
それではどうぞ


日焼けは苦手です。

いえ、肌荒れを気にしているわけではないですが、健康に悪そうじゃないですか。

今の時期は夏手前ですが、真昼に日焼け止めを塗らずに外を歩くのは少し抵抗があります。

なのでしっかり、日焼け止めとサングラスをして、外出をします。

ちなみに、出掛ける先はというと、

 

「あ、やっときたね」

 

ここ、果南の家のダイビングショップ。

少し潜ろうと思ってきました。

わりとダイビングはよくするほうで今では、千歌と同じぐらい潜れます。果南には敵いませんが。

 

事前に果南には連絡を入れておいたので、ウエットスーツが壁に掛けてあり、その下に酸素ボンベが二本分。

果南はまだ準備途中のようで私服です。

 

「すいません。また用意してもらって」

「いいよ。いつものことだし」

 

果南にお礼を言ってからウエットスーツを手にとり、物陰へ移動して着替えます。

本当は女性が物陰側なのでしょうが、ダイビングを始めたとき果南はなんのためらいもなく私の目の前で服を脱ぎ始めました。胸元辺りに服がたくしあげられたとき、慌てて視線を外して私が隠れるがわになったのですが、それが今でも続いているというわけです。

男として見られていないというのはそこまで重症なのでしょうか……?

いえ、ただ果南の羞恥心の欠如でしょう。

 

ウエットスーツは嫌いではないです。

よく肌にピッチリ付く感じを嫌がる人がいますが、慣れてくると心地よくなってきます。

初心者の頃から考えると比較的早く着替え終わり、物陰から出ます。

 

すると果南はウエットスーツは着てるのですが……。

 

「……何してるんですか?」

「しまらないっ……!」

 

ウエットスーツのチャックのズレでしょう。

私より力がある果南がチャックを閉められずに苦闘してました。

私より力が強い果南ですがなにせ着たままだと力のかけ方が違うのでしょう。

 

ウエットスーツのチャックは背中ではなく前についています。

なのでそれが閉められない果南は大きく胸元をはだけさせて、谷間が見えてしまっています。

しかも閉めかけなので水着が、ちょうどないように見えてしまいます。

総合的に言うと…………とってもエロいです。

しかしそんな視線に気づかず黙々とチャックと闘う果南。

………………しかたありません。

 

果南と面向かって至近距離に立ちます。

 

「つ、椿?」

 

面食らったのか果南がたじろいでいますが知ったこっちゃありません。

そのまま果南の胸に手を伸ばし……

 

「はい。しまりましたよ」

 

胸元のチャックを上げてあげました。

これで万事解決です。

閉めてもらった果南は胸元に手を置き……

 

「……………えっち」

「なんでですか!?」

 

感謝の言葉より先にセクハラ宣告!?

一ミリも悪くないですよね僕!?

 

「人の胸に手を伸ばして……」

「別にいいでしょ閉めたんですし!」

 

からかっている……のかと思いきや果南、顔真っ赤です。

どうやら自分で言ってて恥ずかしいみたいです。

すぐに踵を返し、海へ向かいます。

 

「行くよ!昼から天候が不安定みたいだし!」

「でももう昼でしょ………?」

 

言ってはみますが前を進む彼女にとってそんなことは些細らしく、シュノーケルをつけ始めます。

仕方なくあとに続き、海へダイブ。

 

さきほどよくダイビングはよくすると言いましたがその理由は、

 

「…………………!」

 

なんど見ても素敵な海の生き物。

浅瀬ではありますが魚はいます。

普通の人は一度で飽きるかも知れませんが私はこれで十数回目です。逆に言えば、十数回も感動を味わっているのです。

海は好きです。どんなときも広い心で許してくれる海が好きです。だからどうしても定期的に見に来てしまうのです。

 

「……………プハッ!」

「………………感動した?」

「とっても素敵です!」

 

このやりとり、一言一句違わず毎回果南は聞いてきます。そして私がいつも、素敵だと伝えると果南は笑います。

きっと彼女も海が好きで、海を好きな人が好きなんでしょう。

彼女の笑顔の裏にはいつも広くて青い海が見えます。

挑戦的な笑顔を浮かべ彼女は問います。

 

「さぁっ!今日はどこまでいく?」

「行けるところまで行きましょう!深く、遠く!」

 

何度も何度も何度でも。

同じことを聞いて同じことを返す。

それは私達にとって、とても大切なことであり、譲れないもの。

答えが分かっているから聞く。素敵なことは何度でも口にだして素敵だと言う。それが、人生を楽しむコツです。

 

「じゃあ行こっか!」

「はい!」

 

即答。

これが私と彼女。椿と果南の関係です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────必死に潜るうちに気づけば日が暮れています。

こういうことはよくあって、今さら動じません。

果南とアイコンタクトを交わして岸へ。

 

「はぁ………楽しかったです」

「感動した?」

「とても素敵です」

 

またこのやりとり。

言い合ったあと、果南と目を合わせ、笑いあいます。

きっとこの関係が崩れることはないのでしょう。

 

  

ダイビングショップへつく頃でした。

頭に何か当たる感触があり、天を見上げると小雨が降っていました。

そういえば昼から天候が不安定だと言っていました。

ですが着替えが最優先事項です。

雨なので店の更衣室を使うことに。

男と女の更衣室が隣り合わせで入る時に果南から

 

「覗かないでよ」

 

と言われましたが逆に私に覗く度胸があると思っているのでしょうか?

それはそうと少し気になることが。

それは果南のお母さんから。

幼なじみなので絶大な信頼ゆえにたまにメールが来るのですがだいたい、『果南いまどこか知らない?』等のメールです。

ですが今回、いつもとは違い、

 

『果南のこと、よろしくね♪』

 

と謎メール。なにがよろしくなのか。

 

考えていたってしょうがないので着替えを進めることにします。

ラフな格好へ着替え終わると、更衣室をでて、すぐそばの椅子に座って果南を待ちます。

そのまま帰ってもいいのですが、雨が降っているので雨宿りです。やみおわると帰るつもりです。

ですがいくら待っても果南が更衣室から出てきません。

心配になり、果南にメールを送ります。

 

「更衣室でどうかしましたか?っと」

『なんでかえってないの!?』

「雨の中濡れて帰るのは……」

 

返すと既読はつきますが返信はなし。

それから少ししてから更衣室の扉がゆっくりあきます。

 

「果南遅かったじゃないですか。一体どうし……」

 

簡潔に言いましょう。

扉から出てきたのは美少女でした。

いえ、果南はもとから美少女ですので語弊はありますがとにかく思うのは、

 

「何ですかその服!?」

 

果南はミニスカで、サイズが一回り小さいセーラーでお腹を露出。しかも黒ニーソをはいていて、いつもとは違うツインテール。結果から言えば紛れもないコスプレなのですが、

 

な に こ れ ?

 

「お、お母さんがこれ着てって……」

 

ミニスカおさえないでください!エロすぎて話が入ってきません!いや、おさえないはおさえないで、パンツが見えて困りますけど!

 

「私が来たときの私服は?」

「ダイビングの前に洗濯した……」

「他の服は?」

「どこにもない……」

 

母親ァァァァァッ!!

なるほどね!謎メールはそういうことですか!

 

「どこにいますあの人!?」

「大阪……」

「よし!いまから文句言いに……って大阪!?」

「そ、出張。置き手紙でこれを着てってあったの」

 

なんて母親でしょう……。

というかあまりのパニックで思ってませんでしたが改めて見ると……。

 

「…………?どうしたの?そんなジロジロ見て?」

「いえ、凄く似合ってるなぁと」

「…!?変態!えっち!」

「いたっ!殴らないでください!あとキャラおかしくなってますよ!」

 

聞こえていないようでひたすら私を殴り続ける果南。

こうなると諦めて殴るのを止めるのを待つほうが得策です。

 

「もう……帰るまで更衣室にいるつもりだったのに……」

「じゃあメールの返信で言えば良いじゃないですか」

「そうだけど!なんかそれだと負けた気がするの!」

 

何に!?

そうツッコもうとした時、なにか気になる音が。

 

「果南、一旦殴るの止めてもらっていいですか?」

「え?う、うん」

 

ザァァァァァァ_______

 

「え?まさか……!」

 

外を見るとどしゃ降り。

とても帰れる様子じゃありません。まぁいつか晴れます。

そんな考えを生ぬるいと断じるようにラジオから追い討ちが。

 

『洪水警報が発令されました。明日の朝までこの雨は止む気配はなく……』

 

「………明日の朝まで?」

「………どうするの?」

 

果南が聞いてきますがここはホテルでも旅館でもありません。

どうしようもな……

 

「あっ……」

「果南?どうしました?」

「お、オッケーだって……」

「なにがです?」

「宿泊……」

 

果南がゆっくりとスマホの画面をこちらに見せます。

そこには、

 

『そっち洪水警報だってね。椿くんたぶんそこにいるでしょ?泊めて上げて。大丈夫、親には許可とったわ。あと私も雨で帰ってこれないから』

 

うわぁ!用意周到!

って嘘でしょ!?

 

「この格好の果南と泊まるの……?ふ、二人きりでですか?」

 

果南も現在の状況を把握したらしく、体を隠し始めます。

おちつけ、落ち着くのです私。

冷静になって考えるとそれ、

 

「果南」

「な、なに?」

「それはステージ衣装です。ヘソ出しなんてよくあることです」

「え?」

「いいですか?ステージ衣装です。どんなにエロくてもそれはステージ衣装なので問題ありません」

「ステージ衣装…………だったら大丈夫だよね!」

 

暗示で恥ずかしさが消えたのかスカートをおさえなくなりました。

パンツが見えるかどうかはギリギリですが、基本目をそらしていれば問題ないでしょう。

 

「…?椿?どうしたの目なんかそらして」

「いえ、パ……」

 

……………はて、ここで「パンツが見えてしまう」と言うのは正しいのでしょうか?

果南に羞恥心が欠如しているからといってここで言ってしまうとセクハラ1歩手前です。

さらにいえば果南も、もう高校生。私がダイビングを始めた頃とは変わっているはずです。

正直に「パンツが~」なんて言えば漫画のように殴られる可能性も捨てきれません。

よってここは、

 

「ぱ、パスタが食べたいなぁとおもってキッチンのほうを見てました」

「てことはやっぱり泊まるんだね。待ってて今作るから」

 

嘘も方便というやつです。

キッチンに駆けていく果南を止めることは私には出来ず、大人しくキッチンに向かうことになりました。

 

 

 

キッチンは机と調理場と近くにあり、よくある家族と話しながら料理ができるというものでした。

すでに果南は調理を始めており、エプロンをつけていました。

ミニスカでツインテでエプロンってどんな格好ですか……。

 

「果南料理できたんですね」

「これでも女の子だよ。失礼だと思わない?あ、座ってていいよ」

「すいません」

 

立ったままの私を気遣ってか座るように促す果南。

せっかくなので座らせてもらいます。

 

「しかし、生きていれば奇妙な場面に遭遇することもあるんですね」

「奇妙な場面?」

「ほら、今の状況ですよ。テーブルで食事を待つ男と、エプロン姿の女。まるで……」

「まるで?」

 

「新婚夫婦じゃないですか!」

 

ドンガラガッシャーン!と騒音。

果南が転んだようです。

音からしてかなり器具が棚から落ちてるようです。

どんな転びかたをしたんですか……?

近くに寄って果南に手を貸すと、少しためらいながら手をとり、立ち上がりました。

転んだのが恥ずかしいのか顔が赤いです。

それを悟られまいとしようとしているのか必死に私に言葉で畳み掛けてきます。

 

「新婚とかなにそれ!?そ、それに私と椿がふ、ふーふだったら奇妙ってどういうこと!?」

「……?そのままの意味ですよ?ってどう転んだらそんなギャグマンガみたいなつきかたするんですか……」

「へ?」

 

顔を改めてみると鼻に麺の切れ端が。そこはホイップクリームとかでしょう。

麺なのがなんとも果南らしいというか……。

 

「はい。あーむっ!」

「なにしてるの!?」

 

なにって、鼻についてた麺をとって食べただけですが……。

 

「………美味しい。果南ちょっと多めに作ってください」

「おかわり所望?はやいってば……」

 

そうはいいながらも鍋に麺を追加する果南。

1日限りですが本当に……

 

「いいお嫁さんを持ちました……」

 

ドンガラガッシャーン!

 

 

 

 

 

───  ───  ── ─

 

まさか二度転ぶとは……。

結果論ですが果南の料理はおいしかったです。

ウソでも女の料理は褒めろと言われることもありますが果南が作って美味しいのなら誰が作っても美味しいのでは……!?

なんて失礼なことを考えていたら果南に怒られそうです。

 

「さて、もうこんな時間ですか」

 

時計を見ると8時半。雨が止む気配はありません。

となるとやはり泊まるのでしょう。

 

「では僕はお風呂に入ります」

「あ、私先に入りたい」

「どうぞ。私は後でも」

「ありがと……って、あっ……」

 

風呂場に進む足を止める果南。

何かに気付いたようです。

 

「果南?どうしました?」

「わたし、着替えが、ない……」

「あぁ……」

 

そういえば洗濯物とお母さんの悪戯でしたね。

 

「その服を着ればいんじゃないですか?」

「でもその……見えそうだし……」

 

なにが?パンツがです。

しかたありません、これは言いたくなかったんですけど……

 

「………………………本当にその服が嫌なら救済はありますけど……」

 

 

 

 

───────救済。

それは本当に最終手段。

個人的には口にしたくないのですが……。

 

「ちょっと臭くない?なんというか……椿の匂い」

「私の体臭をディスるのでしたら即刻返してもらいますよ」

「イヤだよ。とってもいい匂いだし~♪」

「早速矛盾を……」

「…………?わたしはほんとのことしか言ってないよ?」

 

つまりいい匂いで臭いと。

いやどういうことですか。

 

 

最終手段です。そう、私の服を貸しました。

私は着替えのラフな格好のままで過ごせば解決です。

ただこれは果南が私の服を着るという難点があり……。

ですが果南、意外にも快諾。

お互い風呂をおえて寝室ではなすことに。

ここは私の部屋で果南は自身の寝室で寝るそうです。

同じ部屋はさすがにないです。

だって仮にも女子高生。きちんと淑女としての慎みを持つべきです。

 

そんなことを考えていると果南はうつむいて、 

 

「でもちょっとキツいかな」 

「そりゃそうですよ……」

 

果南は私と身長はほぼ同じ。そう、身長は。

問題は胸です。

女子高生ともなれば発育は進むのは仕方のないことです。

結果胸の分、前の布が足りなくてへそ出しに。

ですがへそ出しはよく衣装でもしますし、いまさら動揺することはありません。

ただ別件では動揺はします。

 

 

「………?こっち見つめてどうしたの?」

「不覚にも幼なじみを可愛いと思いまして」

「………なにさ急に///」

 

褒めるとそっぽを向く果南。彼女の髪がいつもより大きく揺れます。

そのしぐさにまた可愛いと思ってしまいます。

なぜなら今の果南はいつものポニーテールではなく、長く透き通るような髪を下ろしていたから。

 

 

「果南が果南じゃない感じです……」

「じゃあなに?」

「……………………」

 

少し考え込みます。

正直有名な読者モデルの名を挙げても足りないぐらいです。

風呂上がりですこし火照っている体に、普段とは違い下ろした髪から(したた)る水。

その姿はまるで……。

 

「水の………女神」

「え?」

「あぁいえなんでもありせん。読モみたいですよ」

 

不味い、口に出ていましたか……。

 

「ねぇ今なんて言った?水の?何だっけ?」

(したた)るいい女です。それ以上はありません」

「ほら言ってよ!め……?」

「にゴミが入ったと勘違いするほど別人になってますよ」

「目にゴミが入ったと勘違いってどんな褒め方!?ほら、めが……?」

「ネをかけたらもっと綺麗になりますよ」

「メガネ?そうかな?」

「はい。こんど一緒に買いにいきましょう」

「ホント!?」

「はい。千歌と曜とは買い物しましたが果南とはまだですし」

「やった!」

「さて、寝ましょうか」

「あ、電気消すね」

「どうぞ~」

 

……………。

 

 

「いやなに露骨に話題そらしてるの!?」

 

バレました。いまのは寝ておやすみで明日の朝きれいさっぱり忘れてるパターンでしょう。

こうなればもう覚悟を決めるしかありません。

キッチンまで歩き冷蔵庫を空け、缶酎ハイをを取り出します。アルコールが弱めのやつですがホロ酔いぐらいはできるはずです。

つまりは酔ってそのまま言っちゃえと。

やるからには一気に飲み干して挑みます、

 

「はぁぁぁぁっ……」

 

と深呼吸すると予想通り果南がおってきてまたあの質問。

 

「なんだっけ?め……」

「女神みたいです。とっても可愛いですよ」

 

いってしまいましたが本当に恥ずかしいです。

酔って暴露作戦大失敗。

果南もいざ言われて照れているようです。

なら聞かなきゃいいのに。

 

「な、なんだか暑くなったね!」

 

初夏です。そりゃ暑いです。

手でパタパタと顔をあおぐ果南。

褒めたのがそんなに嬉しかったのでしょうか。

 

「暑すぎて喉渇いちゃったよ」

 

そう言ってアルコールをグイッ!

…………あれ?果南ってアルコールいけましたっけ?

というか缶が何か見ずに飲みましたよね?

ですがアルコールは弱めです。さすがに酔うことは……。

 

「つばきぃ……♡」

「はいなんでしょ…………っ!」

 

酔ってるーーーーー!?

超酒弱いじゃないですか!

 

顔をほんのり赤くして私に寄りかってくる果南。

 

 

「ね、寝ましょう!こんな時間ですし寝ましょう!」

「ん~、ねよー!」

 

許可をとり、自分の部屋へ向かおうと……。

 

「果南?なんでついてくるんですか?」

「いっしょに寝るぅ……♡」

「はぁぁぁぁぁっ!?」

 

一緒の部屋でぇ!?

スペースはあります。ありますが……

 

「ダメですダメ!絶対に!」

「え?」

 

男子高校生として!それ以前に男としてです!

いくら酔ってるとはいえ、果南は果南です。

後が大変になるのは目に見えています。

よってここはなにもしないのが正解なのです。

すると果南は少し首をかしげ、私の服の裾をすこし引っ張り、上目遣いで、

 

「ホントに……ダメ?」

「……………………」

 

 

 

───  ───  ── ─

 

「んにゃ~♡ふかふか~!」

「……………」

 

部屋に入れてしまいました……。

仕方がないでしょう!?果南があんなに可愛い姿であの仕草ですよ!?断れる男がいるなら私はしりたいです。

大丈夫、私も今はホロ酔いです。しばらくすれば忘れるはずですし、言い訳としても十分でしょう。

 

というかベッドの上でバタバタしてシワだらけにするのはやめてほしいのですが。

 

「もう、寝ますよ」

「うん寝る~!」

「ホントにあなた誰ですか……?電気消しますよ?」

「わかった~!」

 

パチッ!と電源を消します。

光がとたんになくなり、果南が「ひゃーくらーい!」と子供のように騒ぎ立てます。

一方私は床で寝ることは確定しています。果南がベッドを占領していますから。

床へ寝転がり寝る体制をとります。

すると、

 

「ん~?つばきぃ~?」

「なんですか今度は……?」

「こ こ!」

 

バンバンッ!とベッドを叩く音。

 

「ここ?」

「こ こ で 寝 る の!」

「え?えぇ!?」

 

それ………………つまりは添い寝ですよね?

 

「出来るわけ……!」

「一緒に寝るっていった!」

 

あれって添い寝も含んで『一緒に』なの!?

そういうわけなら断るわけには……。

 

「あるでしょッ!!いくらなんでもあるでしょそれはッ!!」

「来てくれないならこっちからいくよ~!」

 

…………問題です。

果南は女の子。床で寝かせるのはいかがなものか?

寝癖とかも大変ですし……。

 

「……………わかりましたよそっちへ行きますよ」

 

立ち上がりベットの上へ。

するとグイッと手を引っ張られあっという間に果南の抱き枕に。

簡単に言えばベッドの上でハグされる形になりました。

抵抗?無駄でしょう。だって果南のほうが力は強いですから。

変なこと起こすまえにパパっと寝て、明日の朝にでも部屋を抜け出しましょう。

 

「……?つばきぃ?」

 

また……?なんですかこんどは?

 

「ホントになにもしないの……?」

「なにも、って?」

 

 

「えっち……とか」

 

 

「…………………」

 

……確かにここで押し倒すのは簡単ですし、果南も抵抗はしないでしょう。

でも……。

 

「しませんよ。酔いすぎです。さっさと寝てください」

 

私は今の果南がいいです。関係を崩したくありません。

その返事をどう受け取ったのか「んっ……」と私を抱く手の力が強まります。

必然的に胸が背中に押し付けられますが今日はダイビングで疲れたということもあり、眠気が一気に……。

 

 

 

──────気がついたら朝でした。

果南は先に起きたようで既にベッドにはいませんでした。

部屋を出るとスゴくいい香りが。

 

「あ、おはよー!」

「お、おはようございま……えぇ?ちょ、ちょっと待ってくださいね?」

「ちょっと待つよ?」

 

現状確認。果南、昨夜のコスプレ衣装。机の上、卵焼き。

ここから導きだされる最善解。

 

「……いただきます」

「どうぞ」

 

朝食をとる、以上。

黙々と、ただ黙々と食べ続け普通に美味しい朝食を終了。

 

「さて、いろいろ言いたいです。言いたいですけど……」

「うん」

「まずは服を何とかしましょう!?」

「このままで」

「あぁそう。そうですか……」

 

一度聞いてダメなら諦める。昨日覚えたことです。

理由?さぁ?多分まだ乾いてないとかそんな感じです。

 

「じゃあなぜこの状況に至ったのか……」

「……?朝だから朝御飯作るよね?」

「そうですね。いやそうじゃなくてですね」

「じゃあどういうこと?」

 

朝起きたら美少女がすごい格好で料理しているまでの意図と経緯を教えてください。

 

「…………どういうことでもありません」

 

はい、大人しく無視。

聞いても千日手、同じことが繰り返されるだけです。

 

「その……昨夜は……ゴメンね?」

「ん?あぁ、覚えてますか?」

「ちょっとだけなら……?」

「そうですか」

「あ、あれっ!?反応薄くない!?」

「忘れたい、そんな気持ちの、今日の朝」

「なにしたの私!?」

 

性行為の要求でしょうか。

言いませんけど覚えてませんねこれは。

 

「これからどうする?」

「え、聞きます?日曜日ですよ?」

「ダイビング?」

「出来るわけないでしょう。昨日の雨で海大荒ですよ。そうじゃなくてですね」

「じゃなくて?」

「め が ね!行くんでしょう?」

 

いってあげると目を輝かせ、

 

「行くよ!待ってていま着替える!」

「着替えあるなら最初から着てくださいよ!?」

 

すっかり忘れてて誘ったけど服あったんですか!?

 

バタバタと駆けながら部屋を出ていく果南。

まるで子供です。

今日は今日で騒がしくなりそうです。

あ、そうだ。泊めてもらったお礼にサプライズでなにかあげましょう。

喜んでくれるといんですが……。

 

「椿!いくよ!」

「あぁはいはい!いま行きまぁす!」

 

今度は私がドタバタする番。

焦りながら玄関へ向かうなかテーブルの上に不穏な影。

 

「あんなのもうこりごりですっ!」

 

そう、缶酎ハイ。それを掴み取りそっと隠します。

酒はちゃんと確認してから飲みましょう?

 

「椿~!?」

「すいませーん!」

 

謝りながら玄関へ行くと、

 

「ちょっと。遅いよ」

「え、あ、す、すいません」

 

突然の果南に戸惑います。

だって果南は……。

 

「なに、そんな動揺して?」

「あの……私服、とっても似合っててかわいいです」

「……!?もう!普段はそんなことを言わないのに今日はなんでさ!?」

「いや、いつもより似合ってましたから!」

「確かに今日は気合い入れてオシャレしたけどそんな露骨に……///」

「へ?気合い?」

「なんでもない!ほら、行くよ!」

 

おもむろに私の手を握り、引っ張る果南。

女の子ってそんな簡単に手を握るんですか?

 

「さぁ、行こっ!」

「うわわわっ!そんな引っ張らないでくださいよ~!」

 

このあとテーマパークに連れていかれ、思い切り遊びすっかりメガネを忘れ、果南に「じゃあまた一緒に行かなきゃね!」と見事に次の約束まで取り付けられるのですがそれはまた別のお話。

 




酔った果南ちゃん良いですよね。というか私果南ちゃんの表現苦手なようです。なんというかしゃべり方が掴めないんです。それでも楽しんでいただけたら幸いです。
次回は千歌ちゃん回!お楽しみに!

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それでは今度!


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【Back.1】先輩は尾行と恋愛に忙しいそうです

さっき地震がありました。震源は鳥取だそうです。怖いですね。斜めにかまえるです。
県違うのに結構揺れまして。ベッドがガタガタいってました。震源地の大きさが伺えます。

さて、今回は一話の「アイドルはラブホはお断り」の裏話。
裏話の第一弾、なのでBack.1です。
特徴としては、短い、椿くんとイチャイチャしない、第三者視点、ということです。
ぜひ見終わったあと一話を読み返してみて下さい。
千歌ちゃん回は待っててください。なかなかいいあらすじが浮かばなくて。
それではどうぞ。裏話です。


湊斗椿と渡辺曜がショッピングへ行くなか、それを見守る、もとい尾行する影が2つ。

 

「ぬー!私は手繋いでなかったじゃん!」

「千歌は走り回ってたから手をつなげなかったんじゃ……」

「そうだよ!果南ちゃんかしこーい!」

 

この二人である。

サングラスをかけ、バッチリ変装している。近くでみればバレバレだろうが遠目でみればただの不審者である。

物陰から隠れてみているいうのがますます怪しさを引き立てている。

さて、なぜこの二人がここにいるかというと、少し時を遡ることになる───────

 

 

 

 

 

 

「見てみて!これつーくんに選んでもらったんだよ!どうつーくん!?」

「いや選んだの僕ですしどうって……」

「かわいい!?」

「えぇ、可愛いですよ。とても」

「えへへ~」

「「……………」」

 

千歌がデレる。

さすがにチョロすぎではないだろうか?

その傍ら曜が手をしばらくくんでいる。

そのあと思い付いたように

 

「今度は私とデートしよっか!」

「デートぉ?」

 

と、提案する。

不思議な顔をする椿。鈍すぎて流石に殴り飛ばしたくなってくるころだ。

だが慣れているのかいつものことのように曜が続ける。

 

「買い物付き合ってよ」

「それをデートとは……いいですけど。千歌?どうしたんです?」

「なんでもない!」

 

分かりやすすぎる。端からみれば「嫉妬わかりやすっ!?」と声に出してしまうだろう。

なんというかこの四人は……。

神様はここら一帯を手を抜いてつくったのだろうか?

 

「あ、じゃあ千歌、こっちこっち」

 

果南が千歌を招く。

それを見て椿は苦笑い。 

なるほど、耳打ちは基本ろくでもない。首を突っ込まないのは賢明だ。

もう一度言おう。賢明だ。

()()()()()()()()

 

 

「あのさ、千歌?」

「なーに?」

「尾行しない?」

 

ほら、神様の手抜き具合が分かるだろう?

千歌は笑顔で首を縦に振っているし、果南はどこから持ってきたんだと言いたくなるようなサングラスを取り出しているし……。

普通の女子高生はサングラスを常備はしないと私は思うのだが違うのだろうか?

 

「ミッション!曜の動向を監視すると共に、椿の好みを探れ!ってところかな?」

「果南ちゃんかっこいい~!」

「ふっふっふっ!こういうのはまかせて!昔は鞠莉の家の警護を突破したこともあるんだよ!」

「流石果南ちゃん!」

 

……まあ本当は突破したのは果南ではなく鞠莉だったのだが。

サングラスをかけ、千歌に煽てられて天狗になっている鼻を折るのは酷である。

どうにかできる立場ではないがほっといてやろう。

 

 

 

─────さて、そんなこんながあって、

 

「つーくん、よーちゃんとなに話してるんだろ?」

「スマホを取り出して……曜に見せたね」

「……………よーちゃん抱きつこうとした!?」

「あ、でもかわした」

「ほっぺた膨らましてるよーちゃん可愛い~!」

 

こんな状況である。

それから椿は周りを見渡し、

 

「あ、女の人に声をかけたよ」

「ナンパ?でも曜と手を繋いだままだよね?」

 

「あーーーーーーっっっ!!」

 

「~~~!?びっくりした!よーちゃん急に叫んでどうしたんだろ?」

「うーん……ここからじゃ遠すぎて上手く聞こえないね……」

「あっ!でもつーくんも女の人も驚いてるみたいだよ!」

 

そりゃ驚くだろう。なんたって善子なのだから。

まぁそんなことは知るよしもない二人はずっと監視を続ける。

だか改めてこの状況を確認してほしい。

椿と曜の後ろで尾行していた二人はつまり、面向かって喋っている善子の正面になるわけであり……。

 

…?あぁなるほどね……

 

「女の人なにか言ってない?」

「それより椿がさっきから曜に絞められてない?ずっと繋いだ手を押さえてるけど……」

「まっさかー!あれはきっと、彼女自慢だよ!”俺にはこわないい彼女がいるんだぞ”ってね!……それはそれでイヤだけど」

「千歌は恋愛脳だね。うん、そうだよ。流石にこの流れから椿が絞められる理由が分かんないや」

 

 

 

──────さて、この先の展開を知っている読者諸兄よ。

ここからは私は口を挟まない。というか挟めない。

なぜなら勢いが勢いで会話の合間が見つからないからだ。

さぁ、心して大きく息を吸って音読してもらおう。

 

「ん?ん"ん"ん"ん"ん"!?」

「きききききききききキス!?ねぇ果南ちゃん!あれ普通!?」

「と、都会では普通なんじゃないかな!?」

「そうなの!?つーくんも焦ってるけど!?」

「アゴを持ち上げて至近距離って完全にそういうことだよね!?」

「で、でもつーくん全然抵抗してない!?ちょっと行ってくる!」

「待って千歌!もうちょっと様子を……!」

「でも~!」

「あ、離れた……」

「な、なにあの女の人……?」

 

あっけにとられる二人。

 

 

 

 

 

 

 

────少し視点を変えてみよう。

 

降り注ぐ日光をUVカット仕様のサングラスでバッチリ反射する女性。

そのサングラスの先には

 

きききききききききキス!?

 

(やっぱりそういうことね……。この男そんな魅力的なのかしら?)

 

視界の先のあわてふためく知り合い二人と目の前の男を交互に見る。

サングラス越しなので誰にもばれていないだろうが思わずあきれてしまう。

まぁあきれ返ってしまってもしかたない。

知らず知らず自分の先輩は三人揃って色恋沙汰に手を染めているのだ。

しかもその相手は全員一致。

かといって女たらしの気配はなく、自分のほうが年下であるのに敬語口調。

正直苦笑いすら溢せない状況である。

 

そんなことを考えていると目の前の椿が腕の激痛の宣言をし、その奥の先輩二人の動揺が激しくなってきた。

流石にこれ以上は不味いと思い、椿から離れる。

 

 

「……なんてね。応援ありがと♪これからもリトルデーモンでいてほしいけど……」

 

そしてチラリと曜を見て、

 

「それじゃ、可哀想ね」

「可哀…想?なにがですか?」

「それはヨハネの口からは言えないわ。あ、でも」

「でも?」

「曜はもう少し頑張らないと私にとられるかもね♪」

 

そう言って善子は椿の唇に細い指を置き、ウィンクを決め、その場を立ち去った。

そしてこれからどうしようかを一瞬考え、めんどくさいからほっとくという考えを0.1秒で思いつき、0.01秒で捨てた。

そして今自分がすべき適切な判断を考え、華麗にUターンを決めた。

 

 

 

さて、一方こっちは……。

 

「ど、どうするの!?」

「………引き続き尾行を続けよう。千歌、例のモノを」

「はい!あんパンと牛乳ですっ!」

 

あいもかわらず騒がしいことこの上なかった。

普通は善子のほうも尾行するのだろうがこの二人の頭にはそんなことを考える器官が欠如しているようなのでしないという結果となる。

よって、二人を尾行すること数時間─────

 

 

 

 

 

「基本は曜の荷物持ち。これが欲しいの一言もなく、使ったお金は食事代と奢り。好みを明かさないね……」

「まぁつーくん昔から興味があるのは読書ぐらいだから……」

 

最初のワクワク顔はどこへいったのかすごく退屈な表情を浮かべるふたり。

警察や探偵も同じ思いをしているのだ我慢しろと言ってやりたいとこだがそうはいかない。

なぜなら……

 

「あ、果南ちゃんそれ新しい味のヤツ!?一口食べさせて!」

 

それぞれスムージーとお菓子を持っており、それなりに楽しんでいたから。

いくらなんでもエンジョイしすぎだろう。

ちゃっかり期間限定を味わってるんじゃない。

 

「結構買ったけど次はどこにいくんだろ?」

「とういかよーちゃん頑なに手を離さないね。つーくんの右手荷物でいっぱいだよ?」

 

荷物持ちのあるべき姿である。

世の男性諸君ぜひ見習いたまえ。

さて、こちらが呑気な会話をしているが、

 

「尾行されています」

 

とっくにバレていることに気付け。

そりゃあ行く店行く店同じ人がいたら警戒ぐらいするだろう。

スムージーなど買うからである。

 

「ん?あれ?二人は?」

「……いた!逃げてる!」

「追いかけなきゃ!千歌ほら、それ早く飲み込んで!」

「ま、待って~!」

 

逃げる二人、追う二人。

まるで映画やドラマのワンシーンのようだ。

状況が状況でなければ。

 

「よし!この調子だと追い付ける!トレーニングの成果を……」

 

 

 

 

「やめなさい」

 

二人の肩に手が置かれる。

誰の?言うまでもないだろう。

尾行することを知っていてかつ、常識人であるのは一人しかいない。

 

 

 

「尾行はそこまでにしなさい」

「善子ちゃん!?なんでいるの!?」

「善子じゃなくてヨハネ!」

 

さすがに至近距離では分かるらしく、お手本のような驚き方をする千歌。

そして全員サングラスを外す。

まぁサングラスがなにか役割を果たしたのかと聞かれれば善子のUVカットぐらいしかないので特に意味はないのだが。

 

「あなたたちは何をしてるのよ……」

「善子ちゃんこそ!」

「ヨハネ!……見てわからないかしら?尾行の阻止よ」

「ま、まさかよーちゃんに買収……」

「されてないわよ。今日は二人だけにさせておきなさい」

「なんで?」

 

………………面白そうだからだ。

この二人が尾行してるはしてるで面白いのだが善子は恋愛は手出し無用というのが自分のルールである。

本人もしたことはないのだが、そんなに気になるなら自分で惚れさせてみろと。それが善子である。

 

ちなみにだが……三人が話してる間、面白そうな二人は

 

(ラブホォォォォォッ!!)

 

面白いことになっていた。

そんなことは知るよしもない三人は止まって話し続ける。

 

「というか尾行なのにスムージー呑んでるんじゃないわよ」

「いる?」

「いらないわ」

「期間限定だよ?」

「……………頂くわ」

 

果南からスムージーを受け取る。

チューっと1飲みしてから本題へ。

 

「あー、まず千歌。こっちに来なさい」

 

果南から離して耳もとでこっそりと

 

「あなた椿って男好きなの?」

「!?!?!?!?」

 

お手本のような動揺をし、疑いの目で見る。

ふむ、そのようだと察し、次は果南を仕留める。

 

「あなた椿って男好きなの?」

「!?!?!?!?」

 

百点だ。まさかここまで綺麗に予想道理だとは。

もうこれだけ聞ければ満足である。

あとは勝手に色恋すればいい。

 

「さ、二人とも来なさい。尾行はお仕舞い。あとでなにしたか聞きなさい」

 

二人の手を引っ張っていく善子。

先輩はどっちだろうか?

こうして尾行は自然に終了した。

 

善子はこの日ひっそりと決意した。

あの椿というオモチャで楽しんでみようと。

 

 

 

 

 

───後日談であるが。

善子は曜から昨日の内容を聞き出すさい、椿が近くにいなかったため、ひどい誤解をいまなおしている。

はてはて、善子がウソと気付くのはいつの日か………




どうでしたでしょう?こんなのが一話の裏で行われていました。
ぜひ今度一話を読み直してくださいね♪

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みかんとオレンジは別物ですから

みなさんお久しぶりです。1ヶ月放置してたらお気に入り10件増えてました。正直困惑してます。斜めにかまえるです。
ほんと更新遅くてごめんなさいね。斜めにかまえるも忙しんです。
今回は千歌ちゃん回ですよ。お楽しみください。


果南とダイビングへ行きはや数日。

季節はもうすっかり夏となり、浦の星も私の学校も夏季長期休暇、夏休みに突入しました。

夏休み初日といえば皆さんは跳び跳ねるほど嬉しい日。

ですが私は全く逆です。憂鬱で憂鬱で、しかたがありません。

理由は、

 

「今年もコレするのー?」

「するんです。しなきゃ困るのは千歌でしょう?」

「う゛っ……そうだけど……」

「分かったらお菓子ではなくペンをもってください」

 

勉強会です。

夏休みの課題といえば最終日にやりこむ人が多いようですが愚の骨頂です。

前半数日で終わらせる派の私からすればため息が出てきます。

ですが私の友人はどうやら最終日派が多いようで数年前までは最終日に泣きつかれたものです。

なのでここ数年は初日から勉強会をすることに。

といってもメンバーは私と千歌だけ。

曜と果南は一緒にやるとお話を始めるので別の日です。

そんなわけでこうやってマンツーマンで行うのですが……。

 

「あ、そこ違います」

「またぁー?」

「またって千歌がやってるんでしょう。言っておきますが休みは二時間ごとですよ」

「はぁーい……」

 

こんな感じで千歌はやる気微塵もなし。

いつものことなので、今さら呆れる気にもなりませんがここまで徹底されると驚きの一言です。

よくある畳の部屋で座布団を敷き、課題とにらめっこ。

 

ちなみにですがここは私の家。

千歌の家は旅館ですし、なにより以前も言いましたが梨子さんと会っちゃうのもどうかと思っているからです。

 

「んー?」

「問題に詰まりでもしましたか?少しお待ちを」

 

立ち上がりキッチンへ向かいます。

ちなみにここは私の家。

親が海外で仕事をしており、独り暮らしをしているので女性を部屋にあげようが私の勝手です。

一室はそれほど狭くはありませんから勉強に不足はありません。

 

キッチンへつくと、豆をひきはじめます。

そう、コーヒーです。

最近はインスタント物が多いですが両親海外であることもあり、たまに豆が送られてくるのです。

それを消費しているといつの間にか詳しくなっており、こだわりみたいなのができていました。

送られてきた豆はほぼ全部高級ブランド。こうなることが分かって送って来たのでしょう。

 

「千歌、コーヒーです」

「ほんと!?つーくんの美味しいから好きなんだぁ!」

「立たない焦らないがっつかない。座ってたら飲めますよ。コーヒーは逃げません」

「砂糖は?」

「もう入れてあります。千歌の好みくらい把握してます」

「さっすが!」

「で、どこでつまづいたんです?」

「ここなんだけど……」

 

ふむ……ってこれ、

 

「高一の範囲じゃないですか。先生の話聞いてました?」

「授業中はほとんど寝てたからなぁ……」

 

なにをしてるのでしょうかこの人は。

先生の話はちゃんと聞くものでしょう。

そんな私の順位は400人中12位。

よくなんでそんな頭いいの?など聞かれますが一位の方に聞いてください。

予習、復習、読書、睡眠。

きっちりやっていれば良いだけの話です。

そんなことを考えながら千歌に延々と説明。

理解したのかしてないのかよく分からないまま次の問題へ。

 

「飽きたー!」

「はやいですって……」

「リフレッシュも大事ってことで!」

「………………5分だけですよ」

 

言ってあげると千歌は立ち上がりガッツポーズ。

そんなに嬉しいでしょうか?5分ですよ?

 

「あ、そうだつーくん」

「はい、なんでしょうか?」

「愛してるよゲームって知ってる?」

「………?なんですそれ?」

「片方が愛してるっていってもう片方はもう一回ってお願いする。先に照れた方の負けってゲーム!」

「なんですかその貴族の遊び……」

 

どこのバカップル考案ですか。

童貞感溢れる妄想ゲームですね。

 

「で、それがどうかしましたか?」

「うん。やってみない?」

「なにを?」

「愛してるよゲームを」

「……誰と?」

「つーくんと」

 

は?

正気でしょうか?

あぁいうのはバカップルがやるから楽しいのであって私たちがしても意味ないでしょう。

 

「嫌な顔しないでよ。ただの暇潰しじゃん」

「そうですけど……」

「じゃあつーくんが攻めね」

「また勝手に始める……えぇと、攻めは言う方でいんですよね?」

「うん」

「じゃあ……愛してます(棒)」

「………………………」

 

あれ?ダメ?ルール合ってますよね?もう一回は?

千歌はムスッとしてますが何故でしょう?

 

「千歌ー?」

「棒読みは傷つくよ!」

 

そっぽをむいて文句を言う千歌。

あぁなるほど。いやそんなこと言われてもあいて千歌ですし。

要は感情込めればいんですね?

では、本気でいきましょう。

ブツクサ文句を言いつづける千歌の言葉を遮り、顔を無理矢理こちらに向け、感情こめて。

 

「千歌」

「ほえ?」

「……愛してます」

「……………………///」

 

 

 

 

シーン……

 

 

 

 

あ、あれぇ?私また間違った?もう一回は?

 

「も、もう一回……!」

 

あ、良かった。合ってたみたいです。

それでは追撃。というか相手が千歌の時点で照れることはないので私の勝ちは最初から確定です。

 

「愛しています」

「………………ああぁっ!無理だコレ!」

 

頭を抱えうずくまる千歌。

弱すぎでしょう。2回目ですよ?

足をバタバタさせて「ずるい!」「勝てるわけないじゃん!」などと抗議する千歌。

いや、勝負かけてきたのはそっちですしルール上のことしかやってませんよ僕は。

 

にしてもコレ、いってるほうも恥ずかしいですね。

千歌に愛してるよはキツいです。

嫌なわけではありませんが……。

 

「さて、次は千歌ですね」

「え?」

「え?ってなんですか。そういうルールでしょう?今度は千歌が攻めですよね?」

「あ、あぁー。そうだ……ね」

 

顔をひきつらせる千歌。

ヤバい考えてなかった、みたいな顔です

 

「い、いくよ……」

「いつでもどうぞ?」

「あ、愛してるよ(棒)」

「ちょっ!それズルくないですか!?私本気でやりましたよ!?」

「だ、だってー!本番というか……その……」

「言い訳は結構です!本気でお願いします!」

 

まぁそれでも負けることはないですが。

大切なのはフェアな状況で勝ったという事実です

 

「本気で……本気で……!いくよっ……」

「おぉ、なんか楽しみです……!」

 

 

 

 

 

「愛してるよ……」

「ッッッッ!?!?!?」

 

驚き、なんて次元を超えたその可愛いさは私を転倒寸前までに追い込みました。

意識してみれば千歌は温泉旅館の娘、肌はスベスベで髪は透き通るように綺麗で。

普通だなんだと言っていましたが容姿は美人です。

美人とかけ離れた性格故に意識なんてした人はいないでしょうがこれ、相当スペックは高いです。

旅館の女将さんには不思議な魅力があるでしょう?

微笑む千歌はまさにそれ。

そんな千歌から愛してるよ、なんて言われてもう一回?

 

「…………………参りましたぁ」

「え?」

 

今度こそ転倒しますね!自信もっていいますよ!転倒します!

いや、あまく見てました。

さすがアイドル。表情の作り方が上手です。本当に愛されてるのかと錯覚しそうでした。

 

 

「さ、休憩は終わり!勉強を再開しますよ」

「はーい……。うぅ…この季節は嫌いだよ……」

「課題が多いからですか?」

「それもあるけど、夏ってみかんの収穫時期じゃないの」

「あぁ、なるほど」

 

よく勘違いしている人が多いですが夏みかんの収穫時期は4月から5月。夏で獲れるのはハウスみかん、家庭栽培ぐらいです。

では夏みかんと名乗られているのは何故か?

それは夏みかんは酸味を柔らかくするために取り入れを伸ばすため、初夏の食べ物として……。と、こんな話はどうでもいいですね。

 

「はぁ……オレンジならありますけど……」

「それよく勘違いしている人おおいよねぇ。みかんとオレンジ一緒だと思ってる人」

「あ、私は思ってませんよ?皮の厚さとか栄養分の違いですよね?」

「栄養分ってそこまでは知らないかなぁ」

「千歌は説明できるんですか?」

「うん!美味しいほうがみかん!」

「どっちも美味しいですって。まぁオレンジもミカンですよ?」

「え?」

 

手元を見ると完全に手が止まってますが、ここで止めても気になって勉強はできないでしょうし……。

ペンをおいて話す姿勢をとります。

 

「オレンジっていうのはミカン科ミカン属です。なのでいっちゃえばオレンジもみかんなんですよ」

「へぇぇ。ちなみにみかんとオレンジならつーくんはどっち派?」

「んー、悩みますが内浦に住む以上、やはりみかんのほうが好みではあります」

「じゃあさ、みかんと私ならどっちが好き?」

 

いたずらっ子のような表情で私を覗きこむ千歌。

面白い質問ですが、

 

「千歌に決まってるじゃないですか」

「……ほえ?」

 

答える速度が想定外だったのか千歌は大きく動揺します。

 

「簡単ですよ。みかんは無くなっても大丈夫ですが、千歌はは無くなると困ります。そのぐらい大切な存在なんですよ」

 

親友として、大切な存在と伝えます。

 

「たたたたたたた大切な人!?」

「???はい。私にとって千歌は大切な人ですよ?」

「そそ、それって、プ、プロボーズ……」

「千歌?どうしました?顔赤いですよ?ってまさか……」

 

まさかと思い千歌の額に手を当てます。

 

ピタッ……

 

「ひゃぁぁっ!?ちょっ、つーくんなにして……」

「あっつ!?熱出てるじゃないですか!」

「えっ?」

 

知恵熱かと思いましたが本格的な体温です。

これは……

 

「いますぐ休ませたほうがいいですね……千歌」

「な、なに?」

「そこで体育座りしてください」

「え、なんで……」

「ほら早く」

「こ、こう?」

 

体育座りをした千歌の足に手を通し、背中をささえながら持ち上げます。

 

「ひやぁぁぁっ!?」

「静かに。安静にしてください」

「だ、だってこれお姫様だっこ……」

「そうですけど問題ありますか?」

「ないけど……」

 

ないそうなのでそのまま自室に連れていき、ベッドに寝かせます。

 

「あふっ!」

 

あ、乱暴にしすぎたでしょうか?

ベッドに放り投げると布団をかけます。

 

「それ僕の布団ですいませんが我慢してください。冷えピタとりに行くので寝ててくださいね。あ、課題は……まぁまた今度にしましょう」

 

部屋をでて、廊下をあるく途中、携帯をとりだして連絡。

 

『はい十千万旅館です』

「美渡さん?」

『ん、その声は少年か』

「その呼び方まだつづいていたんですか」

 

少年、とは私のこと。

理由はよくわからないですが、初めて会った時、小学生だったでしょうか?そのときに少年とよばれたからだと思います。美渡さんが私の本名を知るのは凄く後なんですが、それは省きましょう。

 

『で、どうした少年?』

「千歌が熱だしまして。知恵熱と思ったんですがどうやら本格的な熱みたいで……」

『あー……。よし、少年!』

「はい」

『泊めたげて』

「……………え?」

『いやーこっち客でいっぱいでさぁ!』

「いや千歌の個室はあいてるんじゃ」

『つべこべいわない!千歌をたのんだよ!』

「えぇ!?ってちょっと!?美渡さん!?」

 

き、きれてます……。

あの人千歌の看病嫌だからこっちに押し付けましたね。

 

とはいえ、電話中に無事冷えピタを確保し、千歌のもとへ。

 

「千歌ー?」

「つーくん……?」

「つーくんですよっと、体調は?」

「しんどいかな……。つーくんがぼやけて見えるよ」

 

笑いながら喋る千歌。

無理に笑ってるのが丸分かりです。

きっと私に心配をかけまいとしているのでしょう。

こういうところがあるから千歌は……。

 

「ほいっと」

「ひゃっ!」

 

罰として冷えピタを急に貼ってやると体をはねあげ冷たさに悶える千歌。

高校生にもなって冷えピタは慣れないご様子。

まぁ気持ちは分かりますが。

 

「心配をかけたくないのは分かりますが我慢はいけませんよ。さっきも言いましたが千歌は大切なんですから」

 

その言葉を聞いて顔が赤くなる千歌。

熱が悪化でもしてきたのでしょうか?

 

「……………なんか、昔のこと思い出すね」

「むかし?」

「うん。つーくんが熱だしてさ」

「ありましたか?そんなこと?」

「小四のときだよ」

「……あー、あの時は確か千歌の家で……」

 

 

───  ───  ── ─

 

「ほら!椿くんは寝て!」

「大丈夫ですよ……男なんですから」

「もう!男も女も熱だしたら関係ないよ!」

 

そんなこと言われても……。

 

「……ってなんですかそれ?見間違いじゃなかったらステッキにみえるのですケド」

 

そう、千歌が持っているのは魔法少女アニメに出てくるようなステッキ。

まさか魔法で治してあげるよ!とか言わないでしょうね?

 

「魔法で治してあげるよ!」

 

わー当たったうれしー。

 

「お気持ちは嬉しいですが生憎宿題があるのでまた今度で」

「わあぁぁ!寝ててよ椿くんは!」

 

体を起こすと千歌に止められ、

 

「はっ!」

「……っ!?」

 

デコピンをされました。

おでこがヒリヒリします……。

 

「ってなにするんですか急に!?」

 

つい声をあげてしまう僕。

一方千歌は僕の言葉など聞いてないように大きく息を吸っています。

そして……

 

「いーい!?椿くんが熱をだして困るのは椿くんだけじゃないの!私も、よーちゃんも果南ちゃんも!みんなみんな心配してるんだから!だから早くその熱を下げて!」

 

「い、いやでも……」

 

「いーい!?」

 

「は、はい……」

 

空間が震えるほどの威圧に思わず返事をしてしまいます。

本能が告げています。この千歌には逆らってはいけません。

しぶしぶ布団に入るとおでこに千歌の手が置かれ……

 

「お休み、椿くん」

 

あぁ、千歌の手、冷たくてとても……。

 

 

 

───  ───  ── ─

 

「で、そのまま寝てしまったんですよね?」

「そうそう。実はあの後私の手には催眠能力の魔法が~とか考えちゃったり」

「えぇ……まぁ小四ですからねぇ」

 

そんな風に笑い合う千歌はさっきと違い心の底から笑っていて。

 

「うん、そっちのほうが千歌らしいですよ」

「え?な、なにが?」

「さぁ?何がでしょう?」

 

イタズラのように笑います。

千歌はご不満そうにほっぺをふくらませています。

その仕草は幼少期からかわらないようです。

 

千歌は口まで布団を被り、私から顔を背けます。

そして、ゆっくりと喋りだします。

 

「…………ね、その時に私がつーくんに言ったこと覚えてる?」

「言った……こと?」

 

私が熱を出したとき……。

ありましたっけ?えっと、待って下さい?

たしか………

 

(じゃあ私が大人になったら……!)

 

「もー!覚えてないの!?」

「あっ!あぁ……千歌のせいでセリフとんだじゃないですか!」

「あ、あれ?思い出せてた?」

「千歌が遮らなければ」

「それは……残念なような嬉しいような……」

「嬉しいって、思い出してほしいのか忘れてほしいのかどっちなんですか」

「……どっちも?」

 

なんですかそれ……。

 

「さ、病人は大人しく寝ててください」

「はーい」

 

布団を被る千歌。

……………ちょっとだけ。ちょっとだけ、千歌がアイドルであることを忘れて女の子に触るズルをしましょう。

 

千歌のおでこにスッと手をあてて……

 

「おやすみ、千歌……」

「………うん。おやすみ、椿……」

 

そういって目を閉じる千歌。

数分としないうちに千歌のほうから「スー、スー……」と寝た合図が。

椿……ですか。千歌からそう呼ばれるのはいつぶりでしょうか。

さて、

 

「ちょっと看病が忙しくなりますね……!」

 

私は立ち上がり千歌の姿を一瞥した。

 

 

 

───  ───  ── ─

 

 

 

───  ───  ── ─

 

ドスッ!そんな衝撃で起きたと思う。

寝ていた私は目を擦りながらしぶしぶ起きる。

そしたら……。

 

「zzz……zzz………」

「つ、つーくん?寝てるの?」

 

私の問いかけにも応じないで寝息を立てるつーくん。

しかも寝ている場所は私の膝元。

寝ていたらいつの間にか膝枕になってる!?

 

「………ん?」

 

状況確認のために辺りを見渡すと私の枕元にフルーツの盛り合わせ。

起きたときのために用意してくれたみたい。

ふと足元に違和感を感じてみる。

なにか……いつもと違うような……。

 

「………………あ、足まで布団がある?」

 

普段なら私、寝相悪くて布団もどこか行っちゃうのに……。

つーくんが逐一見てくれてたんだ……。

 

「スー……千歌……」

「へ?つーくん?って寝言か……」

 

もしかして夢の中でも私の看病してるのかな?

フフッ……ホントにありそう。

つーくんはいつだって自分よりほかの人を心配したがるから。

 

時々忘れそうになる。

なんでつーくんを好きになったのか。

でもこうやって思い出すんだ。

私の事をちゃんと思ってくれてるつーくんが、湊斗椿が好きなんだって。

 

「でも、夢の中よりもっ!」

 

グッ!とつーくんを引っ張って、

 

現実(こっち)の私で♪」

 

つーくんのほっぺたに……

 

 

 

 

そっと口付けをした。

 

今日だけは……アイドル封印で!フフッ!

 

「んん……んあ?うわっ!ね、寝てた!?」

「あ、おはよー白雪姫さん」

「し、白雪姫ぇ?なんですかソレ……」

 

それは私の永遠の秘密です。

 

「あぁ、そういえば変な夢を見て……」

「変な夢?」

「なんか……千歌が寝ている私に何か言ってたような……」

「ふーん。変な夢だね」

「たしか……『私が大人になったら……』……あぁっ!思い出せない……」

 

あぁ、それぇ。

それね、多分昔のこと。

多分覚えてないんだろうな。

 

(千歌に看病されるなんて……まだダメですね。僕は、)

(じゃあ私が大人になったらつーくんのお嫁になったげる!それでいつでも看病できるでしょ!?)

 

「……………フフッ懐かしいなぁ」

「懐かしい?ってなんのことです?」

「昔だけど私が好きだった鈍感な王子様ことだよ♪」

「え!?千歌昔好きな人いたんですか!?」

「………………殴るよ?」

「なんで!?」

 

今でもこんなのだから時々なんで好きなのか分からなくなるんだよね………。

 

「つーくんどうする?熱下がったし、勉強する?」

「えー……私いま寝起きでやる気が……」

「じゃあ目覚ましだ!」

 

強引につーくんの手をつかんで外へ。

つーくんはうわっ!なんて言いながら外に。

いまから何をするか?

それはね?

 

「ここ!覚えてる!?」

「ここ……千歌とよく遊んだ公園ですよね?」

「そうそう。あの時の再現!」

「再現……?あぁ、アレするんですか」

 

分かってくれたみたいで私と向き合ってくれるつーくん。

私たちは子供の頃、ここである瞬間を何度も何度も繰り返した。それは小五のとき。

 

「ふぅ…………私がお嫁になったらつーくんって呼んであげるよ♪」

「じゃあ私が夫になったらちーって呼びましょう」

「……これからもよろしくね。つーくん」

「もう言っちゃうんですね……。よろしくです、ちー」

 

ちょっとしたおふざけ。そこからだった。

でもここからだった。二人の呼び名が決まったのは。

 

「…………ハハッ!あー、久しぶりですですよ。コレしたの」

「だね。目は覚めた?」

「いえ、もう少し小さい頃に酔っていたいです」

「あれ?つーくんらしくないこと言うね?」

「えぇ、そんな日もあります」

「…………………よーーーーーし!」

 

ポケットから携帯をだして果南とゃんとよーちゃんを呼ぶ。

 

「何してるんですか?」

「いまから懐かしい場所ツアーをします!」

「えぇ!?ってまさか四人で!?」

「そう!ほら!いくよ!」

 

いつだって変わらない、私が言い出してつーくんを引っ張ることは。

でも、いつか変えるんだ。

だって……告白はアッチからじゃないとね♪




これのBack書くの大変だろうなぁ……。
次回は多分Back.2、果南ちゃん回の裏です。
超ガンバって出来るだけ早く上げます。
……………嘘じゃないですホントです。
ガンバります……。


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【back.2】ヒーローは私なのです!

久しぶりだな!斜めにかまえるだ!1ヶ月近く書いてなくて失踪したと思ったか!そうだよ失踪しかけたよ!
いやー、今回の話はネタが出てこなくて本当に苦労しました。
許して下さいね。
あ、あとよく言われるのが、斜(しゃ)にかまえる、
なんですが違いますよ。誤爆とか読み間違いではなく、斜めにかまえるです。
ユーザーネームとしてもじっただけだから!低学歴で誤読したわけじゃないから!
そんなななかまの、最新話をどうぞ








雨降って、地固まる。

誰が言ったかは知らないがこんな言葉があるのはご存知だろうか。

だがこの言葉、注意しなければならないことがある。

冷静に考えてみたまえ。

まず雨が降るとする。

雨があがるとする。

さて、ここで地を見てみよう。

抜かるんだままであろう?

むしろ最初より足場は悪くなっている。

そう、誰も『すぐ固まる』とは言ってないのだ。

つまり、一難去ってまた一難を越え、二度あることは三度あるを越え、やっと地固まるなのだ。

 

さて、先日大雨という一難と美少女と二人きりで宿泊という一難を越えたこの男、湊斗 椿。

そんな男は今……。

 

『変身!』

 

ヒーローになっていた。

あぁ、そこの読者。どうかブラウザを閉じないでくれたまえ。

これもまた、彼の一難であるのだから。

この一難の経緯を少し、お話しよう。

 

───  ───  ── ─

 

「なぜこんなことに……」

 

椿は大きくため息をつく。

ここはテーマパーク。

今日は休日、男が一人で来るには少々悲しい場所ではある。

すれ違う人の半分が哀れみの目で椿を見るなか、遠くから髪を揺らして歩いてくる少女が。

 

「遅いですよ。恥ずかしすぎて自殺を考えるレベルには」

「ごめんごめん。休日だから混んでてさ。はい、チョコ」

 

どうやらアイスクリームを買いに言っていたらしい。

彼女、松浦果南は微笑みながらチョコをわたす。

自分はバニラをチョイスしたらしい。

眼鏡を買いにと果南を連れ出したつもりが、強引な説得により近くのテーマパークに行き先が変更。

結果、デートのようになっていると。

そうこうしている間にも果南は周りをキョロキョロ見回し、次の獲物を決めているようだ。

 

「んー、次は……」

「まだライド乗るんですかぁ!?もうヘトヘトなんですけど……」

「……………椿ぃ、あの子……」

「??あの子って……どの子ですか?」

「ほら、一人でうろうろしてるあの子供」

「あぁ、あれは多分……」

 

迷子だろう。親を探してうろうろしているようだし何より顔が泣きそうだ。年齢は分からないが小学校低学年といったところだろう。ツインテールの女の子でなんともかわいらしい姿である。

 

椿が果南を見ると、なにかを決心した顔。

その意味を察した椿は立ち上がり、果南の一言を聞く。

 

「椿、いくよ」

「まぁ果南も私も、ほっとける性格ではないですからねぇ」

 

さも当然といった風に女の子に近付き、腰を屈め、

 

「こんにちは。君、お母さんは?」

 

黙って顔を横にふる女の子。

やはり迷子のようだ。

幸い迷子センターはそう遠くない。そこに連れていけば大丈夫だろう。

そう椿は考え、さらに問う。

 

「あらら、迷子なのね。お名前は?」

「…………知らない人には名前教えちゃダメってママが……」

「あー……」

 

管理の行き届いた子だ。現代教育である。

だがこれでは元もこもない。

 

「じゃああっちの方に迷子センターがあるからそこに……」

「だめ!おばさん怪しい!」

「おばっ………!?」

 

うわー……と。そう声を溢しそうになる椿。

部活動とはいえ仮にもアイドル、いや、元から美人の果南をおばさん扱いとは。

これは相当警戒しているらしい。

 

「あ、あのね?お、おばさんたちは悪くないよー……」

「証拠見せて!」

「え?」

「証拠!ママが言ってた!プリキュアは私たちのことずっと見てくれてるって!だったらさっきまで私が何してたか当ててよ!」

 

無茶苦茶だ。

少なくとも多くの人はそう言うだろう。

なぜなら彼らはプリキュアではないのだから。

 

 

────────まぁ、この男いる場合は別だが。

 

「そうだね、あてましょうか」

「つ、椿?」

「ゴーカート」

「へ?」

「それからメリーゴーランドに観覧車。違う?」

「お兄さん凄い!」

 

椿が言い終わる刹那。

目を輝かせて笑う少女。

ふむ、チョロい。当たっていたようだ。

 

果南、このまま連れていきますよ。そう椿が云おうとして……

 

「ふぁわぁぁぁ☆☆」

「いや果南が目を輝かせてどうするんですか!あーもう!」

 

果南を少女から少し離れたところに引っ張りこっそり耳打ち。

 

「勘違いしないでくださいよ?あれは全部適当で、本当は彼女のポケットにチケットが入ってただけですから!それに!彼女の握ってるパンフ!」

「え?」

 

素に返った果南は少女のポケットに視線を移す。

もちろんそこには言った通りチケットがあるわけで。

さらにはパンフには先程椿が述べたアトラクションにご丁寧に丸と数字。

いく順番を決めていたのだろう。

 

「なんだ。そういうことか」

「そういう事です。さっさと迷子センター連れていきますよ」

 

少女の元へ駆け寄りはて、と椿は考える。

この子は迷子の子だ。それは確定している。

本当なら手でも引っ張って行きながら迷子センターへ直行したい。

だが手を握っているところを母親に見られたら誘拐扱いされないし、その誤解を解いてくれようとこの子が説明しても、もしかしたら、もしかしたらだが、モンスターペアレントなら聞く耳を持たない可能性がある。

 

こういう時、現代教育というのは非常に厄介なモノである。

別段、椿は現代教育を否定するわけではないが、こういう事になるのであれば、必要な教育は今のような形ではないのだと少し考える。

 

と、まぁそんな面白くない話は読者諸兄も期待してないだろう。

それに、この場合は一切そんな心配はない。

なぜなら……

 

「へー!おねーちゃんあいどるなんだ!」

「そうだよー!Aqoursっていうスクールアイドルなんだけどねー?」

「へ?……ちょっ、はやっ!?」

 

気がつくと果南は椿の数メートル先、いつのまにかスッカリ子供手懐けて歩き始めている。

 

「待ってくださいよ果南!」

「「ん?」」

 

同時に振り向く少女と果南。

 

(あれ?2人反応した?)

「ん?あ、あぁ。椿、この子の名前もね、かなんって、いうの」

「名前まで聞いてたんですか!?」

「空鐘 華難です!」

「そらかね かなんちゃん、ですね?よし、覚えましたよ」

 

名前を覚えるのは苦手ですが、同じカナンなら…。

 

「華難ちゃんは何歳?」

「しょーに」

「小2ってことはえっと……誕生日来てて8歳ですか」

 

コクコクと頷く華難。

まだ一桁かー。などと思いつつ地図の道を交互に見る。

 

「いまからどこ行くの?」

「ヒーローショー!仮面ライダー!」

(そこはプリキュアではないのですか…)

 

椿よ。世の中には気にしたら負けという言葉があってだな。

 

「あっ!華難ー!」

「あっ、ママー!」

 

迷子センターが見えかけた頃。

黒髪で長髪の女性が手を振って駆けてくる。

その姿は誰が見ても華難の母親そのものの姿であった。

 

「うわぉ!華難のお母様美人さんですね」

「椿、それだと隣のレディーが美人じゃないように聞こえるけど?」

「なら訂正が必要ですかね。果南も美人さんですから」

「うっ……」

 

からかおうとする果南。サクッと地で回避する椿。

これは手強い。

 

「あの、貴方達は…」

 

そう言えばまだ名乗ってなかったですね、と椿は今更ながら思い、自己紹介と華難を送り届けた経緯を話し始めた————-

 

 

 

 

 

「へぇ、スクールアイドルをなさってるのね」

「そうなんですよ…」

 

マズイことになった。どうマズイかというと…。

 

「そちらの方とは恋人?」

「え?あ、いや!椿はそんなんじゃ!」

「あら?違うの?」

「ちがいます!」

 

このお母さま、話が長くて離してくれない。

お母様周りもっとよく見て!華難がつまらなそうにしてるよ!

 

どうしたものかと椿は一考しながら話に笑いを浮かべる。

そのとき果南が時計を見て、

 

「ってあぁ!こんな時間!すいませんお母さん!私たち、これから仲間と合流しなけちゃ…!」

「……!あぁ…!急いだら間に合います!果南行きましょう!それではまた!ぜひAqoursをご贔屓にってわぁっ!?」

 

露骨なステマをしつつ果南に急に手を引っ張られ走り去る。

 

「それじゃね!華難ちゃん!」

 

手を大きく振る椿。

突然現れ、自分を母の元まで案内し、笑顔で去っていく姿。

華難から見るとそれは、紛れも無い、

 

「すーぱーひーろー…ホントにいた!」

 

 

 

 

 

「いやー大変でしたね」

「だね。で、次どこいく?」

「そうですねぇ……え、まだ遊ぶんですか?」

「当たり前だよ!時間はまだまだあるよ!」

 

逃げようとする椿。振り向かない果南。

手を掴まれていたのを忘れていた椿。無言の圧力の果南。

反抗は無理と悟る椿。笑顔で振り向いてくる果南。

 

「あ、あははは…。つ、次はライドじゃなくていいんじゃないですかぁ!?」

 

とっさに話題を変えようとする。

滑稽である。リア充ザマァ見ろだ。

その時……!

 

お前どーすんだ!

「「……ッ!?」」

 

方向にして椿と果南の右斜め後ろ。

ステージの裏から聞こえた耳が壊れそうな大声。

気になって目を向けると足を抑えてうずくまる男と、スタッフであろう者が話し合っている。

 

(なんかトラブルでもあったのでしょうか?確か一番近いステージは…)

 

【「いまからどこ行くの?」

「ヒーローショー!仮面ライダー!」】

 

「あっ…」

 

ヒーローショーだ。それも、華難が楽しみにしている。

そう考えると同時に椿の体は動いていた。

 

「あの…なにかありましたか?」

「あ?誰だお前」

「あー、えーと…。部外者です…」

 

良くも悪くも素直なのが椿だ。

こういう時、嘘はつけない。

 

「足を抑えて…ケガですか?」

「……あぁ、しかもコイツ、アクターだからステージに出ないと…」

 

図星だったらしく、素直に話し始める、監督風の男。

 

「なら、ウチの椿貸しますよ?」

「え、果南!?」

 

何言ってるんですか!?

その場にいる全員がツッコんだ。

だがこれでも高校三年生。

家業を手伝う立派な大人だ。

なんの考えもなしに発言するわけがない。

 

「ヒーローショーって言っても本人が来れるわけないし、スーツアクターですよね?なら、椿が動き覚えて、その人にアフレコして貰えば…」

「だが急に動き覚えろと言われてもその…椿くんだったか?無理に決まって」

「なるほど。それで行きましょう」

「キミィ!?」

「あ、大丈夫ですよ。暗記癖ついてるんで」

 

暗記癖。椿にこのクセが付くようになった経緯は簡単。

 

「私、演劇部ですので」

 

正式にはミュージカル専門だが…。と言いかけて言葉を飲み込む。

単純にスクールアイドルの手助けとして始めた演劇部部もとい、ミュージカル。

まさかヒーローショーに役に立つとは。

 

「さぁ!時間はありませんよ!私のために!何回か練習は通させてくださいね!」

 

そう言って嬉々としてステージにでる椿。

果南は笑いながら、思った。

————一番アイドルに向いてるのは、椿かも(笑)

 

こうして、椿はヒーローショーに出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう!君のおかげで助かったよ!良かったらウチで働かないか!?」

 

監督に強く手を握られ、やっちまったと思い返す。

そう、やっちまった。

速攻で動きを覚えて、本番に行ったところ、あまりの出来の良さに、監督が本当のアクターさんそっちのけで椿にこびを売るのだ。

 

「あー…私はこっちの道へは進もうとは……」

「何故だ!?才能があるのにか!?勿体ないぞ!」

 

何故って、スクールアイドルの手助けのために始めただけだから…。

と言っても納得はしてくれまい。

 

「ぬぅ…惜しいが仕方がない。お詫びとして何かできることはないか?」

 

あ、すんなり諦めてくれた。

しかも何か言うことを聞いてくれるそうだ。

一石二鳥なので何をしてもらうか迷う。

そこで隣にいる果南を見てふと、思い付く。

 

「では、機会があったらステージ貸して頂けませんか!?」

「はぁ……何をするのですか?演劇部の劇ですか?」

「いえ、そうではなく……」

 

チラリと果南を見て椿は語る。

 

「彼女たちのダンスを見て欲しいんです」

 

そう、ライブ場所の確保。

田舎で活動しているAqoursは大手の場所でのステージは厳しい。

なら、この機会にステージを貸してもらえれば知名度も上がるのでは?

そう考えたのだ。

 

「なるほどね。随分お人好しだね」

「ヒーローですから」

 

苦笑しながら一礼をしてありがとうございました、とその場を去る。

果南はそのあとを追い、並んで歩く。

 

「じゃあ、次は!」

「え!?もう日が落ちますよ!?帰りましょうよ!」

「次は!眼鏡屋、だね♪」

「あっ……」

 

やられた。

すっかり忘れていた。眼鏡屋に行くと言う目的のはずがなぜスーツアクターなどしていたのだろう。

いや、むしろコレを果南は狙っていたのでは?

 

と、考えてみるも答えなどでない。

ここは大人しく、果南ともう一度出かけることにしますか。と、決断。

 

「はぁー…来週でいいですか?」

「モチロン!」

 

果南の眩しい笑顔を直視することが出来ず、椿は痛感した。

 

私の幼馴染にはいつも敵わない…と。





はい、こんな話でした。
次回は色々したいです。
書きたいネタは20ほどあるのですが、書いてみると「つまらん!」ってなって19はボツになるので新作は遅くなるんですよねw
まぁまた1ヶ月ほどかけて書くので、お気に入り解除しないで、お願いしますね(震え)


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ヨハネさんは素敵ですって!

2ヶ月ぶりにお久しぶりです!斜めにかまえるです。
いやー、2ヶ月間忙しかったです。
ですが、合間を縫ってやっとこの回が完成!
まぁ忙しいのはこれからが本番ですが。

さて、そんなななかまの事情は置いておいて、今回はとうとう念願のAqoursに椿くんが合います!お楽しみください!


平和な平和な昼下がり。

まだ夏休みは終わらず、先日は果南とテーマパークに行ったことがまた、久しぶりのように感じる日々。

そんなある日、果南に手を引っ張られ、浦の星の前にいる私は。

 

「いいから椿きて!」

「ででででででも恐れ多くも私などが女子校に足を踏み入れあまつさえ生Aqoursにあうなんててててててて」

「椿!?キャラ壊れてない!?」

 

そう。ぶっ壊れてました…

 

「だって果南が言えば!」

「だめだよ。話を作ったのは椿でしょ?」

 

それはそうなのですが……。

えーと、どこから話しましょうか…。

私が今果南に引っ張られている理由は先日の…果南とテーマパークに行った事にありまして。

ひょんなことからライブの場を設けてもらえる事に。

これ以上ないお話です。果南さんに報告をお願いしたところ、「え、なんで?」と華麗に拒否。

いわく、「椿が貰ったんだから椿が報告するんだよ」だ、そうです。

こういうことは果南はお堅い…。

 

そんな経緯を思い出していると、もう浦の星の屋上の扉の前。

ここを開けばAqoursがいます。

微かな喋り声がドア越しから聞こえ、その事を実感させされます。

もう心臓バクバクです。

覚悟を決めるまで、数秒かかりましたがこれでも男。

屋上へと続くドアノブをゆっくりと回し、扉を開きます。

ゆっくりと隙間から光が漏れ、かすかに聞こえていた喋り声を阻むものはなくなりより鮮明に聞こえるようになります。

 

「みんな、おはよう!」

 

果南が先制攻撃!

いや、これはありがたいです。

なんか知らない男が女学院に入ってきて無言になるとか最悪のパターンですから。

まずはザッと見渡し状況確認。

 

えっと、花丸さんルビィさん梨子さんダイヤさん鞠莉さん…。

この場は5人ですか。

 

「あ、果南さん、おはようございま…」

 

私を見て凍りつく梨子さん。

まーでしょうねといったところ。

正直この反応は考えていましたよ。だって私男ですから。

 

「隣の人は…」

「椿、自己紹介」

「言われなくてもしますよ。私は子供ですか。

えーと、梨子さんとは初めましてですね、湊斗 椿です。

見たところ私を知ってる人がこの場にいませんね…」

 

曜とヨハネさんは同じバスだと聞いています。

ならバスが遅れているのでしょうか?

千歌は…まぁ最期らへんに来そうです。

 

「んん…困ったことになりましたね。知り合いが果南しかいない…」

「椿は私と幼馴染で今日は大事な話があってきたんだけど…そろってないね」

 

全員で苦笑い。

察するところによれば、千歌は寝坊、2人はバス遅れでしょうか?

 

「……まぁ、このまま待つのも勿体無いですし、少し私の話をしましょうか」

「あ、椿さん、でしたわね?」

「はい。高校3年生なので、ダイヤさんとは同い年になりますね」

「それで、2人はどこまで…?」

「「え?」」

 

果南と…どこまで…?

 

「ダイヤ!そんなんじゃないから!」

「うん?えっと、なんですか?どこまでとは?」

「ダイヤ!ちょっとこっち来て!」

 

私の質問に答えず連れ去られるダイヤさん。

自然に集まるAqours。

数メートル離れたところで果南とヒソヒソ話。

結構前にも言いましたがヒソヒソ話はロクでもないことなのでツッコミません。

 

「……え!?そういう関係ではない!?しかし………それで?…なのですか?」

 

遠くて会話の内容は聞こえませんね。

かろうじてダイヤさんが少し聞こえるぐらい。

ダイヤさんが果南に何か聞いてるのでしょうか?

うん?果南の顔が赤い?

で、私の方を見ました。

なんか変なことでも聞かれ…あ、頷いた。

うーん?なんの話でしょう?

 

しばらくすると顔真っ赤で帰ってくる果南。

 

「なるほど。あなた達の関係はわかりましたわ」

「え、えぇ。説明しましたから…」

 

幼馴染だって。

 

「そういう事ではなく……。果南さんは本当に不憫ですわね…」

「…?話の全貌が見えてこないのですが」

 

 

「そうではなく…。本当に果南さんが可哀想ですわね…」

「す、すいません?」

 

とりあえず謝っておきます。

何が不憫なのかは分かりませんがダイヤさんの話的に私が原因なので。

それでも私はやってない。なにもしてないはずです。

 

ダイヤさんとの話が終わった頃、ゆっくりと花丸さんが近づいてきて、

 

「果南ちゃんの幼馴染ずらね。オラ…じゃなくて、私は国木田花丸ずら」

「いや、ずらってキャラ固定出来ませんよ?それに、もう知っています。その隣で隠れているのが黒澤ルビィさん。そしてそのお姉さんの黒澤ダイヤさん。その奥の子がAqoursの作曲担当の桜内梨子さん。そして浦の星女学院理事長兼スクールアイドル、小原鞠莉さん」

「あら?果南さんからわたくし達のことは聞いて…」

「ますね。聞いてますが…。実はAqoursのファンでして」

 

苦笑いをしながら答える私。

うーん、本人を前にファン公言するのは少々恥ずかしいですね。

 

私の言葉に驚いたのか皆さんの顔がみるみるうちに驚きの色に染まっていきます。

意外だったのでしょうか?

そんなにファンと会わないのでしょうか?

この前曜とショッピングしたときも何も変装してなかったですが、意識低すぎではありませんか…?

 

「ち、ちなみに、推しとかはやっぱりいるんですの?」

「あ、それ聞いちゃうんですか」

 

興奮して頷くダイヤさん。

果南によると、相当なスクールアイドル好きらしいので、きっとこういうスクールアイドルっぽいことがしたかったのでしょう。

うーん、可愛い。

 

「えっと、私の推しは」

「あ、待ってください!当てますわ!」

 

出ました。アイドルファン特有の誰推しか当てるやつ。

やりますやります。

よくやることなのですが…。

 

 

その…なんで皆さんそんな自信と困惑が入り混じった表情で…。

まさか…とは思いますが…。

 

「…ちなみに、もしかして推し私じゃないかなーとか思ってる人」

 

スッと上がる手。

数えて六。つまりは全員です。

あららー。これ悪いことしてしまいましたね…。

 

「答えはヨハネさんなんですけど…さすがアイドル。ここで手をあげるんですか…」

 

答えを言った瞬間、凍りつく空気。

というか…

 

「ナチュラルに果南手あげてますけど、どういう気持ちなのか教えて頂きたいのですが…」

「だって…幼馴染だし…もしかしたらと思って…」

 

かーわいい。うん。とても可愛い。

体育座りで落ち込みながら涙目になる果南。

 

「さて、他の人も弁解があるなら…まぁ一応聞きますけど」

 

全員果南ほどではありませんが悶絶してますし、一応聞いてあg…

 

「違うの!だって…!千歌ちゃんが毎日可愛いって言うから…!」

「ま、まるは…あげてないずら…」

「わ、私はスクールアイドルですもの!このぐらい自信がなくては!」

「その…さっきからこっち見てたから…」

 

うわわわっ!?同時に弁解は聞こえないですって!

私は聖徳大使じゃないですから!

あとルビィさんのほう見てたのではなくて、ヨハネさん探してただけですから!

 

「にしても意外な人が挙げてますね。まぁ自信がなかったらスクールアイドルは無理なのかもしれませんが」

 

それに、今回の場合は全員許せる自信です。

可愛いことを自覚するのは悪いことではありません。

問題はソレに見合ってない時であって。

と、言ったら結構顔で判断しがちとか言われるのですが、そうではありませんよと、一応否定しておきます。

 

さて、そろそろ話し始めて5分が経つ頃、キギッ…という錆びた音が。

 

 

「おっはヨーソロー!」

「おはよ…」

「あ、おはようございます」

「ん、おはヨーソ……椿くんっ!?」

「あら?いつぞやの…」

 

はい、いつぞやの津島善子さん推しです。

というかやっと驚いてくれました。

最初なんて来た途端、関係性を冷静に聞かれたんですよ?

恋人とか勘違いされる前に幼馴染とは言いましたけど。

 

問題はヨハネさんをどう説明しましょう。

推しであるということは面識ある事の説明になりませんし…。

思考に集中を集め、視界を完全にそっちのけにした瞬間。

グッ、と手を引っ張られる感触が。

即座に誰かに引っ張られているのだと理解はしますが、なにせ視界は一度そっちのけにしました。

反応が遅れて足元がふらつきます。

 

「おっとと。…なんだ曜ですか。急引っ張らないでくださいよ」

「………!」

 

ムスッとしながら私の手にギュッとしがみつく曜。

近い近い。

 

「曜、そんなことしなくても私はとらないわよ…」

「ん?私の腕に何か付いてましたか?」

 

それで曜はヨハネさんより先にそれを取ろうとして…?

あ、周りの目がなんか変なものを見る目です。

なにか間違えたみた…いっ!?

 

「うおっとぉ!?びっくりしました、今度は果南ですか…。そんなに僕の腕に何かあるんですか?」

 

今度は果南が反対の手を引っ張ってきたので一応反応してあげます。

曜ほど大胆に掴んでは来ません。少し照れがある模様。

まぁみなさんがいる前ですからね…。

 

「…事案ですわね…」

「椿さん…これは…いくらなんでも…」

「えー、私が取り返しのつかない事になってるのは置いておいて、本題よろしいですか?」

「あっ、どうぞ」

 

一応ダイヤさんが促してくれる。

両手の花はおそらく話しても離れてくれないので無視します。

……そんな構って欲しそうな顔してもダメです。

 

「それで、ですね。細かい説明は省きますが、Aqoursのライブ場所を作ってきました」

「ほんとですの!?」

「え、えぇ…」

「私と椿が作ったの」

「テーマパークに行って来た際に偶然…」

『テーマパーク!?』

 

あ、地雷踏み抜いた…。

 

「それってつまり、デートですか!?」

「違います!」

「違わないよ」

「カナァン!…だァァァ!イタイイタイ!曜!ストップ、ストォォォォップッ!」

「………!だって…」

 

また腕が!腕がァァァ!

アイドルとしてデートはダメなんでしょうか?

いえ、曜が怒ってるんですから、曜の中ではダメなんでしょう。

んー、コレ前ヨハネさんとの下りでもしましたー!

 

「ていうかなんで私なんですかー!?私なにも悪いことしてないでしょー!」

『いや、全体的に椿さんが悪い』

 

全員一致!?

どうしてですか!

 

「だって、善子さんの前で他の人といちゃついているのですから」

「「へ?」」

 

善子さんの…前で?

 

 

 

 

って、ああっ!

 

「一応言っときますよ!?善子さんは僕の彼女じゃありませんから!」

「あら?でも幼馴染を差し置いて推しと言い切っていたのでてっきりそうなのかと…」

 

そうだった…!まだ皆さんには善子さんとの関係性を話してませんでした…!

 

「善子さんは前に、曜と2人でショッピングしたときに、」

『2人でショッピング!?』

 

ん"ん"ん"ん"!地雷再びっ!

そしてこの流れは…!

 

「それってデート…」

「ちがががががが!果南痛い!曜は緩くなったけど果南が強くなった!ああっ!もげる!手がもげます!」

 

これじゃあいつまでたっても進まないんですけどー!?

 

───  ───  ── ─

 

 

 

 

なんとか皆さんを説得するとに数分かかり、私の腕も再起不能一歩前まで来たところ。

 

全く大変でしたよ。

会話のたびに地雷は踏まないよう話しに行くのですが、両手の花が地雷を踏みに行くんですよ。

例えば、果南の話をしてるときは、曜が

「そうそう、ラブホテル街へ逃げ込んでさー、入りそうになったよねー」

で、曜の話を否定すれば今度は果南が、

「私は椿と同じ布団で寝たなー。ハグしながら寝たんだっけ?」

 

2人とも私に恨みでもあるんですか!?

先先代まで呪われそうな攻撃だったんですが!?

 

と、そんなこんなで説明をしていたため、Aqoursの皆さんのなかでは私はクズ男に…。

あぁ…視線が痛い…!

 

そんな中、話を切り出してくれたのはダイヤさん。

 

「なんにせよ…。ステージを使わせて頂くのはありがたい話ですわ」

「役に立ててなによりです」

「ですが!」

「ん?」

 

ですが?

 

「それは、私はお断りさせて頂きます」

「え?」

「ワッツ!?ダイヤ?どうして!?」

「だってそれは、椿がとって来たステージでしょう?なら、演劇部の椿さんのステージで使うべきですわ」

 

まぁ…私も演劇部として使いたい一面はありますが…。

 

「それに、椿さんはファンです。マネージャーでも、プロデューサーでもありません。私達がスクールアイドルを名乗る以上そこには超えてはならない壁があるのは確かですわ」

「………なるほど。ダイヤさんの言い分はもっともです。今回は飲みましょう」

「すいません。善意で作ってくれたのはありがたいのですが…」

「いえ、大丈夫です」

 

さすが三年生。しっかりしています。

かくいう私も三年生ですが、やはり彼女にはあらゆる面で劣りますね。

女性に諭されるとは、男としてもまだまだのようです。

 

「……あっ、そうだ!つばっきーのお礼に、」

「つばっきー?」

「そこの青春少年の事デース!」

 

お、おう…。

そんなポケモンみないな感じで私の事呼ぶんですね。

 

「で、私のお礼に?」

「みんなでカラオケに行きまっショー!」

『カラオケ!?』

 

ポカーンとする皆さん。

しばらく沈黙が続きますが、それを破ったのは果南と曜でした。

 

「あー…それは…」

「やめといた方がいいかも…」

「…??なぜです?名案だとは思いますが…」

 

……私も…反対派です。

理由?それは…その…。

 

「…椿、なに歌える?」

「……皆さんが知っている曲なら未熟DREAMERとか…ですかね?」

「歌って」

「え、マジですか?目の前にご本家様がいますが…」

「いいから」

 

果南には言われては…仕方がありません。

はぁ…マジですかぁ…。

あんまり気は進まないんですけど…

 

「スゥッー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぉー→み↑ぃーら↓か→はー!

 

『☆%#¥$€〒々〆○*!?!?』

 

れぇー↓まー↑ぃー↓なぁーで→もー!

 

 

 

 

「すとぉぉぉぉぉっぷ!ストップストップ!」

「たのー!しくしたぃ…」

 

止められました…。

皆さんが耳を押さえ壮絶な顔をしてるなか、

 

「ね!?みんな分かったでしょ!?こういう事だよ!」

「果南!?音痴を間接的に"こういう事"でなじるのやめてくださいよぉ!」

 

「一応聞くけど…カラオケ行く?」

『結構です!』

 

満場一致ぃ!?

 

と、理不尽なイジメを受けているなか、後ろからバタン!という音が!

鉄製のモノが勢いよくモノにぶつかる音。

わかりやすく言えば…

 

「遅れてごめーん!で、聞き覚えのある、いまの音痴は…」

「千歌、おはようございます」

「あっ、つーくん!やっぱりいたんだー!」

 

扉開く音、でしょうか。

 

「はぁ…もういいですよ音痴は…いろいろ言われ慣れましたし…」

「まぁ…その、歌の音程はお亡くなりになってるわけだけど…どれだけ酷いわけ?」

 

ヨハネさんが片耳を塞ぎ、顔を歪めながら問いてきます。

そんなに悪影響は長時間持ちませんって。私の歌声は超音波ですか。

 

「どれだけ酷い、ね…。皆ちょっと音楽室来てみて」

 

曜さんも顔を引きつらせながら答えます。

というか音楽室とか行くんですか?嫌なんですけど。

あの場所は先生という名の鬼が無理やり歌わせる場所です!

よし、逃げましょう!役目は果たしました!

 

「あっ、あぁー!首!首引っ張らないでください果南!あぁー!ドナドナドナドナドーナー!」

 

 

 

 

 

「…椿さんって…」

「あの3人の尻に敷かれてマァスネェ…」

「非力ずら」

「うゆ!」

 

 

なんか向こうから非力とか聞こえたんですけどぉぉぉぉ

 

───  ───  ── ─

 

 

 

 

 

 

 

「はい、とーちゃく」

「うっ…この場所は嫌です…。もう二度と来たくありませんでした」

「椿先輩って一応学生ですよね…」

「そうですよ…でも選択科目で美術取ってるから音楽しないんだよ…。

 

 

……!?待って梨子さん!?いま私のことなんて!?」

「え、椿先輩…ですか?」

「…別に同学校ではないなら先輩はいいんですけど…」

「ま、まぁ…果南ちゃんのお友達ですし…同年代ですよね?なら先輩かなぁと」

「…まぁこんなに可愛い子に先輩って言ってもらえるなら全然いんですけど…」

「かわっ…!?」

 

「はいつーくん!梨子ちゃんを口説かない!」

 

口説いてるつもりは無かったんですが…。

 

「そんなに言って欲しいならわたしが言おうか?椿先輩♪」

「で、何しに来たんですか?」

「ガン無視!?」

 

千歌の茶番は知ったこっちゃありません。

 

「あっはは…えっと、椿くん後ろ向いて」

「は、はい…」

 

曜さんに言われるがまま後ろを向きます。すると後ろからギシ…という音が。

ピアノの椅子に座った音ですね。

正面にはAqoursの皆さんが。

 

「これ、結構昔に椿くんにやった実験なんだけど…」

 

【ポローン(ミ)♪ポローン(ファ)♪ポローン(ソ)♪】

 

「椿くん、誰が1番高い音だった?」

「………真ん中?」

『え"?』

 

「はい椿くん、【ポローン(ド)♪】この音だして。アー♪」

「アー(ミ)♪」

『………』

 

無言で合掌し始める皆さん。

音程がお亡くなりだそうです。

いやそんなに酷いはずは…!

 

「椿くんはね、三度以下の差なら全部同じ音に聞こえるの」

「ドとレとミは同じ音に聞こえます…黒鍵を合わせたらさらに酷いです…」

『えぇ…』

 

どんだけ引いてるんですか。

流石の私もメンタル死にますよ。

 

トン…と肩に手を置かれ、

 

「先輩…ちょっと特別練習しましょう…。こんな人にうちの部の3人は任せられません…」

「梨子さぁん!?私あの3人を任されるつもりはないんですが!?保護者でも恋人でもないのに!」

「はいはい」

「梨子さん許してください!もう音楽室で歌いたくないんですゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、私は梨子さんの特別レッスンを1人、別部屋に拉致され、行いました。

彼女いわく、「人前は鼻歌さえも覚悟してください」だそうです。

私の声を聞き続け、あまりにも険しい顔が般若のような顔だったので目をそらしたらそれはそれで凄い怒られました。

私の方が先輩なのに…!

 

 

 

 

 

 

 

今日で私の株が急下降する、散々で、ステキな1日でした。




Aqoursの皆出てこれましたね。
ですが次回からまた一人一人回します。
つまり、千歌、果南、曜のどれかのかいです。
お待ちください!
2ヶ月投稿なくても、疾走はしてませんからね!
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一日彼氏

サラダ味のプリッツが大好物です。斜めにかまえるです。
前回が1ヶ月前ってマジィ!?
まだ読んでくれる人がいるの本当に驚きです。
更新サボってて死んだとおもった方も何人かいらっしゃるのでは……?
安心してください生きてますよ!
今回は新キャラを出したり、キャラ回の二週目になったりと盛りだくさんとなっております。では、参りましょう!


サンサンと降り注いでいた太陽が弱まり、人々の溢れ出る熱気がかすれるこの季節。

久々にカバンを肩にかけ、ゆっくり坂道を上ります。

すれ違うたび、「久しぶりー!」などと聞こえ、平和だなと感じます。

 

 

そう、今日は9月1日。

いわゆる夏休み明けです。

 

我が高校のお話を少しばかりしましょう。

薫ヶ峰高校。

薫、なんて綺麗な高校名ですが、女子は浦の星や、他学校にとられていますので、ほぼ男子校のようなモノ。

総合学科で、二年生からは受ける授業を選べるという学校です。

私は演劇部に所属しており、なにかイベント、例えば文化祭などがあった時は、ステージ発表をしますので、それなりに名は通っています。

浦の星はそう遠くはないですが、なにせ男子が多いので関わりがほぼありません。

 

ちなみに、我が校にスクールアイドルはいません。

最近では珍しいですが、女子の低下が原因ですね。

スクールアイドル部が無いと女子は余計遠のいていくと思いますが…。

 

さて、三年生の私の教室は2階。

もう歩き慣れた階段を一度上り、廊下を歩きます。

すると、何があったのか、ザワザワと教室から騒ぎが聞こえます。

その正体を確認するためにも、扉を開けて、周りを見渡します。

 

「おはようございます」

「ん、おー!椿ぃ!コレみろコレ!」

「ん?何やら騒いでいるのはソレですか」

 

男子がこぞって何かを覗いています。

なんでしょう?ガチャでURが当たったとかそんなのだったらつまらないですが。

 

「ほれ!」

 

すっと、手を挙げ、持っていたスマホ見せてくれます。

スマホに何かあるようです。

えっと、動画?

 

「えっと?『スクールアイドル、Aqours!人気沸騰!』…え、コレって」

「そう!浦の星だよ!あの高校!いやー、場所近いし実物にあいてぇなー可愛いだろうなー」

 

すいーっと視線を逸らします。

冷や汗が背中から溢れ出し、焦りと笑いを誤魔化すのに顔をそむけずに話題についていけません。

私の気持ちなど知るわけもなくクラスの男子は嬉々としてスマホを囲んで話し続けます。

 

「俺果南ちゃん推しだわ!」

「俺曜ちゃんー!」

「千歌ちゃんだなー」

 

…すいませんっ…!全員幼馴染ですっ!

というかなんでそんなピンポイントで攻めてくるんですかっ!

花丸さんとかダイヤさんとか、わたしの幼馴染以外いっぱいいるでしょ!

 

「お前は?どの子?」

「あ、私はヨハネさんです」

「そうかー!…ん?お前にこの子の名前言ったっけ?」

「え?…あっ、あぁー!Aqoursなら私、前からファンでして」

「マジか。いやー、俺ら付け焼き刃の知識だからよ!いろいろ教えてくんねぇか?…ってどうした。顔引きつってるぞ…」

「い、いえ…なんでもないです…」

「ふーん、そっか。ならいいや」

 

よくないんですよ…。

それより、この場所をなんとか離脱しないといずれボロが出そうです。

 

「あ、私、先生に呼ばれてるんで」

「おう、そうか行ってこい!」

 

手をヒラヒラさせて、出て行く私を送るクラスメイト総勢。

一方、先生に呼ばれてなどいない私は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aqoursブーム!?何ですかソレ!よりによって我が高校に!?」

 

知り合いというか、幼馴染とバレたら凄い事になりそうです…!

知らぬが仏、他人と思うが吉!

というか、先生に呼び出されたと言って誤魔化しまして逃げてきましたが…!

見つかったらめんどくさそうです。

なにかないですかね…?

 

「あ、椿先輩!おはようございます!」

「ん?あ、おはようございます」

 

後輩が先輩にご挨拶。

この人はリュウくん。

フルネームで覚える必要はありません。

彼はリュウくん、私の後輩の演劇部で、陽キャ属性を持つも彼女いない歴=年齢。問題は彼の性格にあるのですが…。

ちなみにチャラいです。明確にピアスとか付けてるわけじゃ無いですがナンパとかします。そのナンパのセンスも、

「そこのgirl's、俺とティータイムでもどう?」

というセンスですので、残念極まりないです。

そんなリュウくんですが、演劇部に入った理由は、「ほら、注目浴びてモテそうじゃん?」ではなく「んー、なんかビビッときたんですよねー。観客にこんな劇見せれたらいいなーって思ったんで入っちゃいました」だそうです。

根っからのチャラ男ではなく、むしろ逆に根はいい子なので。敬語もちゃんと使えますし、優しい子ですから。

きっといつか彼女さんはできると思いますよ。

そんなリュウくんの手には大量のノートが。

 

「重そうですね。手伝おうか?」

「大丈夫っすか?」

「いいですよ。ほら、半分かしてください」

 

そっちの方が、先生から頼まれたーって言い訳できますし。

クラスの全員分であろうノートの束の半分を取り、階段を上ります。

この子は1年生なので、4階。道のりは長いです。

 

「あっ、そうだ!先輩!」

「ん?どうした?」

「Aqoursってスクールアイドル知ってます!?」

 

どっしゃーん!

 

「ああっ!ちょっと先輩!ノートおとさないで下さいよ!」

 

誰のせいだと思ってるんですか!

 

「もう…!って先輩、なにか落ちましたよ?」

 

ノートを一緒に拾ってると、何か落ちた模様。

 

「あー、私のスマホですね」

 

あー、スマホが裏向けで落ちています。

あいにくノートで手は塞がってますし…

 

「大丈夫ですよ先輩。僕が取りますから」

「あ、ありがとうございます!すいません」

「いえいえ…あ!」

「ん?どうかしましたか?」

「先輩ってー、彼女いないんですか?」

「いませんよ?なんですか急に」

「ふっふっふっ…今スマホを持っているのは私です。つまり、女関係の写真の行方は私の手の中!」

「だから彼女いませんって」

「失礼しまーす」

「あぁちょっと!」

 

別にやましい写真はないのでいいですが…。

サクッと他人のスマホを取り、表向きに回し、慣れた手つきで勝手にスマホを触るリュウくん。

字面だけ見たら相当やばいヤツです。

 

やれやれ…と、思いつつも写真なんて全然ないので…。

なんていうとを考えていると、後輩の手が急にとまり、顔が悪巧みしている笑い顔から苦笑いに…!

 

「せ、先輩?」

「なんですか?」

「この人…誰ですか?」

 

この人?

画面を覗き込むと…!

目深に帽子を被り、サングラスをかけて私とのツーショットでピースサインをしている…女の人が写っていました。

あれぇ?この写真どこで…?

 

 

 

 

 

 

 

 

『せっかくきたんだし、ほらピースピース!』

『ショッピングにツーショットいりますか?まぁ曜がいいなら別に…』

『あ、ついでにさっき買ったコレをつけて…』

『メガネ?そんなの買ってたんですか。って曜もつけるんですか?』

『記念だから!じゃあいくよ!はいチーズ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あの時かー!

曜と2人でショッピングに行った時です!

帽子貸してて手繋いでましたねそういえば!

幸い眼鏡をかけてくれているので友達といえばごまかせそうです。

 

「それは、私の友だちですよ」

「へぇー、先輩の友達…。友達ねぇ…」

 

マジマジと写真を見つめるリュウ君。

まったく。プライベートもお構いなしですか。

まぁ全然問題ないですけど。

 

「先輩…」

「どうかしましたか?」

 

 

 

 

「……この子俺に紹介してくれません?」

 

前言撤回ッ!!!問題ありすぎですッ!!!

 

友達と言った以上、紹介しないと怪しまれてしまいます。

しかし、会わせたら変装させても、かのスクールアイドル『Aqours』の渡辺曜とばれてしまいます。

そうなれば最後、曜は私の彼女とかあることないこと噂され、最悪Aqoursの活動に支障が出ます。

それだけは絶対に避けたい。

私の平穏な生活の為にも、アイドルと付き合ってるスキャンダル野郎なんてレッテルは貼られたくないのです。

そうなれば残った手はひとつ…!

 

「……すいません、この子実は僕の彼女でしてー」

「あーやっぱりですかぁ」

「はぁい。恥ずかしいので黙ってましたぁ。なのでリュウくんとは付き合えませんので、紹介はまた今度…」

「へ?なんでですか?」

「ん?」

「いや、先輩の彼女可愛いし、生で見たいんで紹介。お願いしますよ?」

「は、はいぃ?」

 

 

 

───  ───  ── ─

 

 

 

「と、いうわけでして…」

「………………へぇー。誤魔化したんだ。友達だって。で、困ったら彼氏っていうんだ。へぇー」

 

時はそれから9時間後。放課後と言うのが分かりやすいでしょうか。

曜の部屋で私は曜の冷ややかな視線を浴びながら正座しています。

きっと勝手に彼女呼ばわりして怒っているのでしょう。

 

「それで?なんで私の家に?」

「…曜さん怒ってます?」

 

プイッ!とそっぽを向く曜。

怒ってますね…。

 

「その…お怒りのところ申し訳ないのですが…」

「なに?」

「その…紹介しないといけないので、彼女役になってくれませんか…?」

「…いいよ」

「ですよね。ダメですよね…っていいんですか!?」

「うん。というか椿くん勘違いしてるね!」

「へ?な、何がですか?」

「私が怒ってるのは、椿くんが私を友達って紹介したからだよ!男の子ならちょっとぐらい意地はってさぁ!なに?私じゃ不満なの?」

「ちょっ、どういうことですか!?つまり、親友とか、幼馴染とか、もっと言い方あったでしょ、ってことですか!?」

「……!…もう、知らない!」

 

えぇ!?な、なんなんですか!?

 

「それで?その紹介はいつするの?」

「……」

「???椿くん?どうしたの?」

「……明日

「ん?なんて言ったの?」

「明日…です」

「……………………」

「……………………」

「………はい」

「はいじゃないよ!明日!?早すぎない!?」

「そうですけどぉ!なんか勝手に話が進んでてぇ!」

 

なされるがまま…。

 

しかし、起きてしまった事はしかたありません。

曜は「はぁー」と大きなため息を付き、頭を抱えてしばらくすると顔を上げ、

 

「椿くん、ウィッグと眼鏡」

「変装するですね。まぁそのままだとバレるでしょうからね」

「そうそう」

「でもなんでウィッグなんですか?演劇部にあるっちゃありますけど、写真では地毛ですよね?」

「髪染めたってことにしとけばいいよ。バレないのが最優先」

「なるほど。では、明日用意しておきます。では、要件は済みましたので私はこれで」

 

スッと立ち上がり帰る準備を整えます。

その途中、

 

「椿くん、私って…その、やっぱり、可愛くない…かな?」

「…?どうしたんですかイキナリ?」

「……椿くんは、私が彼女って、イヤ?」

 

……?あぁ、明日のことについてのミーティングですか。

要は、彼氏みたいに振る舞うのは、イヤだったら別にいいからね。

ってことですよね。

 

「いえ、全然大丈夫ですよ」

「ホントに?」

「は、はい。そんなに心配しなくても、むしろ彼女にしたいくらいですし」

「………あぁもう!//」

 

バタン!と音を立ててベッドに飛び込み、すぐ様布団を被ります。

なにか私地雷踏みましたっけ?

 

「よ、曜〜?」

「…ずるい!急に言うのはズルイ!」

「……………………」

「なんで急に黙るの!」

「や、ピンクのお布団可愛いな〜と思って」

「………!見ないで帰って……!」

「ハイハイ……。それでは、また明日」

「うん……」

 

とびらを出るときの曜の声は……なにか、弾んでいたような気がします。

 

 

───  ───  ── ─

 

そんなわけで、翌日。

残念ながらAqoursブームは冷めておらず……いや、残念…なのかな?

まぁその辺は置いておいて、英語の先生の「ヘイ!ミスターツバキィ!」という謎のテンションの授業を受け終わりリュウくんより一足早く曜の家に行き、約束どうりウィッグと眼鏡を渡しました。

ちなみに、曜は別人と思うほど、綺麗な美人に。

 

「にしても、金髪大正解でしたねぇ。金髪メガネの曜、なんかハリウッド女優にいそうです」

「それって普段は綺麗じゃないってこと?」

「んー、綺麗な時もありますけど、どっちかっていうと普段は可愛いですからね」

「ぐっ…!ふぅ……落ち着くであります私……!……………椿くん!」

「はい椿くんです」

「彼女になってあげるから、しっかり彼氏してよね!」

「彼氏ってどういう風にやるんですかね……?……『今日も可愛いぜ曜』とか?」

「よくその演技力で演劇部務まるね。まぁ、そんな感じでいいかな」

「了解です。…………あ、迎えに来いとの連絡がきたので、ちょっと行ってきます」

「行ってらっしゃい……椿」

「曜!」

「な、なに!?」

「呼び捨ては彼女っぽいですが……行ってらっしゃいとなるとどっちかっていうと新婚夫婦……」

「いらないこと言わないでいいの!」

 

顔を真っ赤にする曜。

からかいすぎたかな〜お思いながら、これから起こる災難に不安を募らせ、リュウくんを迎えに行くのでした。

 

───  ───  ── ─

 

 

 

それからしばらくしてリュウくんを曜の家にまで案内して今、扉の前にいます。

上手くやってくれよとドキドキしながらそっと、ゆっくりインターホンを鳴らします。

「はーい」という声から少しすると変装した曜がドアを開け、

 

「どうぞ、入って」

 

と促します。

 

「ごめんな、よ……あぁイヤ……陽子」

 

あぶないあぶない、曜と言ってしまいそうになりました。

 

「陽子……。あぁ、うん、全然いいよ」

 

曜もそれとなく察したようで、陽子という名前を受け入れてくれました。

千歌の無茶苦茶に付き合ってる分、適応力がとても高い。

曜の凄い点です。

 

「紹介するよ、私の彼女の渡辺陽子。陽子、私の後輩の、リュウくんです」

「よろしくお願いします!」

 

寸分たがわずピッタリ90度の礼を曜にかますリュウくん。

あぁ、ナンパ成功させたことないので女の子に対して緊張してるんですかね。

それに対して、

 

「うん、よろしくね」

 

と微笑みかける曜。

うっわ、可愛い。

同じ事をリュウくんも思ったようで、「おぉ……」と感嘆の声がでてます。

さて曜が美人すぎるのでこのままでは「先輩本当にこの子の彼氏なの?」とか言われかねません。

 

「先輩本当にこの子の彼氏なの?」

 

ほらね?

 

「そういうのは玄関でする話じゃないでしょう。ほら、部屋に上がりますよ」

 

スッと曜の手を取って曜の部屋まで歩きます。

イメージ的には……舞踏会の王子様がお姫様の手を取るアレ……!

うぅ……わかってやっても恥ずかしいです。

 

「ちょ、ちょっと椿く」

「お、くん付けですか?」

「…つ、椿……!」

「はい、なんでしょう?」

 

くん呼びしそうな曜を小声と目線で諭し、チラリとリュウくんに目線を流します。

 

「手!コレ、恥ずかしいんだけど!」

「えー、じゃあ、よっと!」

「きゃっ!」

 

グッと曜を引っ張り素早く足に手をかける。

そして左手を曜の首に回し、右手は膝裏にスライド。

そして立つことによって、

 

「椿くん!ダメ!私ダメだから下ろして!」

「えー…お姫様だっこまでしたのにですか?」

「うるさい!」

 

頭を小突く曜。

仕方ないので下ろしてやると

「こういうのはちゃんとしてから……」

とかまたよくわからない事を呟きますが、さっきからリュウくんの視線にしか集中できません。

幸いぽかーんとしてるので、恐らくラブラブすぎて呆れてるのでしょう。

この調子でいけばどうにかなりそうです。

 

部屋に着くと、迷わず曜は椅子に、私はベッドに座ります。

普段遊びに来た時は地面だったり机にもたれかかったりするので、ベッドに座ったぐらいじゃ曜はどうこう言わないようです。

 

 

「えーっと?本当に彼氏なんですか?でしたっけ?」

「は、はい…」

 

呆然と答えるリュウくん。

動揺しちゃってます。

でも冷静になると、バレる可能性があるので、このまま押しきっちゃいましょう。

 

「さっき見せたでしょう?アレが証拠です」

「た、確かにお姫様だっこはそうですが……!口裏合わせれば実行できます!」

 

ふむ、痛いところを疲れましたね。

どうしたら…

こうなったらキスとかしてみましょうか

 

「キスでもしましょうか?」

「えぇ!?」

 

流石に驚いたようです。

 

……あー、皆さん勘違いしてるみたいですが…。

さっきの「えぇ!?」って言ったの…。

リュウくんじゃなくて曜です…。

 

「な、なんで陽子さんが驚いてるんですか!」

「僕らは潔白なお付き合いをしてるので、動揺したみたいです」

「ど、動揺なんかしてない!」

「訂正します。してないそうです」

「いやしてるでしょう!陽子さん顔真っ赤じゃないですか!」

「これは…陽子の特技です」

「どんな特技ですか!」

「そう言ってもリュウくん。陽子がしてないって言うのならしてないんでしょう」

「恋人バカ!親バカならぬ恋人バカですよこんなの!」

「いいよリュウくん!そのまま椿にお灸をすえちゃうであります!」

「陽子はどっちの味方ですか!」

「すいませんね陽子さん!ウチの椿が迷惑かけてます!」

「いえいえ、ウチの椿をよろしくお願いします」

「私はどっちの椿ですか!…いやどっちの椿でもないですよ!何勝手に親気取りしてるんですか!」

 

正座してお互いに礼をしあっている2人はもう手に負えません。

 

「ところで、陽子さん」

「ん、なにかな?」

「どうして椿を好きになったんですか?」

「へ?」

 

あー、まぁ鉄板ネタではあります。

ただ難しい内容ですね。優しいから。では薄っぺらいです。

リアリティ欠ける回答になるのは仕方ないので、上手く話題をそらしたい所。

曜が私の好きな所を上げちゃうとリアリティはほぼゼロになr…

 

「…昔ね、」

「お、昔話ですか」

「…私、こう見えても母国では飛び込みの選手でね」

 

あー、嘘は…ついてないですね。

母国は日本ですし。

 

「その…一時期イップスになっちゃって」

「陽子さん…」

「本当にくだらない事だったんだよ?友達が飛び込みで失敗して足を怪我して…私もなったらどうしようって思ったら足が動かなくて…」

「……………………」

 

…覚えています。

ちょうど生でみてました。

 

パァン!と盛大な音と、誰が見ても失敗した、マズイ、と思うような水しぶきの量。

次の瞬間、いろんな人がプールに駆け寄って飛び込んだ人を引っ張り上げたのですが、プールサイドに上がっても足の痛みを訴え続けていた人がいました。

結果、その人は病院に搬送されたそうなのですが、選手生命は絶たれたそうです。

 

その時からです。

曜が飛び込み台の上に立つと下を見て、顔を歪めるんです。

他の人に急かされ、曜は結局飛び込みましたが素人の私が見ても酷い有様のフォーム。いや、普段の曜が綺麗なフォームなので、普通のフォームだったのかもしれません。ただ、明らかに調子が落ちていました。

別に、調子が落ちることについては私は構いませんでした。

私が一番心配したのは……

 

「私、飛び込むのが怖くなってね?」

 

あくまで、フォームは基本的に忠実でした。

きっと、長年培ってきた勘でしょう。

なんとなくでも、なにも考えずとも綺麗になるのです。

ただ曜が普段と違ったのは、飛び込む瞬間、()()()()()()()()

そして、着水。

すぐに水面に顔を出し、顔を苦しそうに振る曜。

その表情は暗く、見ていられないモノでした。

 

それで、思ったんです。

なんか嫌だなって。

曜の恐怖心なんか私にはどうにも出来ないと思ってました。

でも、体が気がつくとプールサイドに向かっていて。

 

「そんな時、急にコーチから呼ばれたんだよ。あぁ、叱られる。あんな酷いフォームで飛び込んだんだ。仕方ない。そう思ってコーチのもとにいくとね。いたの。椿くんが」

 

 

───  ───  ── ─

 

「椿くん…なんで?」

「なんでも何も、あんな飛び込みされたらそりゃ呼びますよ。あ、コーチ、2人にしてくれますか?話したいことがあるので」

「お、彼氏さんの言うことじゃあ仕方ない」

「ちょ、ちょっとコーチ!」

 

腰を上げ、立ち去ってくれるコーチ。

彼氏だと思われてるのか知りませんが、割と簡単に曜を任せてくれてありがたいことこの上ないです。

 

「さて………曜?」

「な、なに?」

「ハッキリ言いますね」

「う、うん………」

 

 

 

「今日の曜、全然可愛くない」

「………へっ!?」

「いやへっ!?じゃないですよ。ぜんっぜん可愛くない。世紀末レベルで可愛くないです」

「ちょ、ちょっと椿くん………」

「ハイなんですか?」

「なんの話!?」

「笑ってない曜なんて、酷すぎて見てられないって話です」

「………え?」

「曜、飛び込みは好きですか?」

「そ、そりゃあ勿論!」

「だったら笑ってくださいよ。ホラ、スマイルですよ。にー!」

「アイタタタ!頰を引っ張らないでー!」

「やめてほしいなら笑ってください。曜、笑うと可愛いんですから」

「………………フフッ」

 

 

「アハハハハハッ!なにそれ、椿くん変だよ!」

「変とか言わないで下さいよ。僕、好きなんです」

「……え?す、好き?」

「はい!飛び込む時の笑顔も!水面から出た時頭を振る動作も!」

「そ、そんな……急に言われても困るし……!」

「はい、なんなら付き合いますよ!」

「ええっ!?つき、付き合…えぇ!?」

「それぐらい僕、大好きなんです!」

「……わ、私も」

「曜の飛び込みが!」

 

 

 

「…………………………え?」

「練習にも付き合います!だから、元気を出してください!」

「あー、うん。そっちね。うん、あくまで飛び込みが好きなんだね」

「……?はい……」

「はぁー、もう……!わかった!こうなったら今度の大会、一位とってあげる!」

「すごい啖呵きりますね」

「そうじゃないと、負けた気がするからね」

「誰に?」

「椿くんに」

「??????」

「首傾げないの。というか椿くん、言ったからね!?ちゃんと付き合ってよ!」

「練習ですか?勿論です!といってもアドバイスも出来ない素人ですが……」

「そばにいてくれるだけでいいよ」

「でもそれじゃあ上達しなくないですか?僕がそばにいるだけで上手くなるって、そんなゲームのバフみたいな」

「私、渡辺曜だよ?」

「………………ま、なら大丈夫ですね」

 

───  ───  ── ─

 

「改めて思い返すと本当に謎でしたね。見守ってるだけで本当に上手くなっていくんですから」

「椿くん、呆気にとられてたね」

「そりゃそうなりますよ」

「で、次の大会で私が一位になって」

「曜には本当に驚かされます」

「その頃気がついたんだ。あぁ、私椿くんのこと好きになってるなって」

 

あっ、最後に大嘘吐いて行きましたよ!いい話だなーって思ったのに!

ですがリアリティーとしては最高の出来です。

語ってる表情ですらまるで恋する乙女です。

さすがアイドル部、女優指導とかなにかでされるんでしょうか?

 

兎にも角にもリュウくんの反応次第です。

視線をリュウくんへスライドすると、下を向いてワナワナと震えています。

 

「り、リュウくん?」

「椿先輩……」

「は、はい」

「この子絶対に幸せにしてくださいよ!」

「えっ?あっ、はい……」

 

おぉビックリした。心臓に悪いので急に大声出さないでほしいですよ。

というか、曜はガッツポーズしすぎです。

バレなくて嬉しいからガッツポーズするって、ガッツポーズバレバレなので逆効果になってますよ。

 

「あ、そういえば椿先輩」

「はい?」

「陽子さんのことさっき曜って言ってませんでした?」

「えっ?」

「陽子さんも、椿くんって呼び捨てをやめて……」

「あっ……」

 

「「………………………………」」

 

「空耳ですよ!ね、陽子!?」

「そうだよー、ねっ、椿!?」

「ふぅん……そうですかぁ……」

 

あっぶなぁぁぁい!昔話に浸ってて意識するの忘れてました!

 

「ほら、リュウくん、送りますよ!そろそろ終バスの時間です!」

「ゲッ!?マジ!?」

「マジです!それじゃ陽子!僕らはこれで!」

「ありがとうございました!」

 

ドタバタと部屋を出ていくリュウくんと私。

こうでもしないとさっきの話を追及されてはマズイです。

 

 

無事、リュウくんはあの後バスに乗って帰れました。

あとは後始末のため、もう一度曜の部屋に戻るだけです。

改めて曜の家のインターホンをならし、「椿です」というと鍵を開けて、今度は灰色の髪をしたスクールアイドルが迎えてくれました。

 

「曜、今日はありがとうございました」

「いいよ。私も楽しかったし!」

「それはなにより……!私はまだ胃痛が治りませんよ……!」

「私はドキドキが止まらないかな!誰かさんがお姫様抱っことかしたおかげでね」

「すいませんって!バレないかどうかでドキドキしたのは僕も一緒なので、許してくださいよ!」

「そういう事でドキドキしたんじゃないんだけどなぁ」

「じゃあなんで……」

「はい、この話おしまい!今日はありがとうね!」

 

なんか……都合よく話の腰をおられた感じがしますが、今回のことは曜に借りを作っています。深く追求するのは失礼ですかね……。

 

「こちらこそありがとうございました!」

「ん、それじゃ、これは貸しだね」

「どうやって返したらいいでしょうか?」

「んー、そうだなぁ……椿くん、ちょっと目を瞑っててくれる?」

「?はい……?」

 

とりあえず目を閉じてみます。

……キスとかされちゃいます?

……まさかね。

というか視界を塞ぐって何気に怖いのです、ガッ……!?

 

「よ、曜!?流石にこれは……!」

「まだ、目は開けちゃダメだよ?」

 

じゅ、順序立てて説明しますね?

えっと、目を瞑ってたら急に前から締め付けられ…というか、抱かれる感触が……!

てててていうか!二つのお山が私の胸板に押し付けられてるんですが!

こ、これは不可抗力不可抗力……!理性を保つのです私……!

き、キスの準備はしてました!それに比べてハグだけなら……!

 

「はい、お終い!目を開けていいよ」

「っぷはぁぁぁっ!」

「……どうしたの?息してなかったの?」

「息の根を止められる覚悟をしてました」

「なにしてるの……。それより学校では上手いこと言っといてよ。私、コレ何回もやる元気ないよ?」

「はい……。上手いこと言っておきます……」

 

 

 

───  ───  ── ─

 

 

時は流れて翌日。

私は上手い言い訳を引き下げ、階段を駆け上がり教室の扉を勢いよく開けました。

理由?なんか勢いよく入った方がその勢いに押されて昨日のこと聞かれないかなぁって。

まぁ私彼女がいるなんて1日じゃ広まらないにきまって……

 

「お、きたな本日の主役」

「さぁー、どういうことか話してもらおう被告人」

「グローバルな人は俺らがなにしても許してくれる器の持ち主だよなぁ!?」

 

………………なるほど。

 

ガラガラ……ピシャッ!

 

「……………………」

 

ガラッ!

 

「なに逃げようとしてんだ椿ィ!」

「うるさいですよ!勝手に人を主役に抜擢しないでください!あと被告人にするならせめて弁護士をください!」

「わ た し が し ま し ょ う」

「リュウくんなんでいるんですか!いや私の話広めるために来ましたね!じゃあ元凶リュウくんじゃないですか!誰が弁護させますか!」

「椿お前金髪ブランドの美人さん彼女とかいい加減にしろよホントに!」

「まさかとは言いますが会わせろとか言いませんよね!?断っておきますが彼女、明日アメリカに発ちますよ!?」

「「「……え?」」」

「はぁ……、金髪ってところで察してくださいよ。そんなずっと外国人が日本に居座るわけないでしょう。…ってそんな絶望しきった顔しないでください。どんだけ会いたかったんですか」

 

なんとか収まりました。

とりあえず海外いかしときゃいいやという安易な発想ですが、効果は絶大のようです。

シンプル イズ ベスト とはこの事です。

 

そんな事を思っているとリュウくんが大爆弾発言。

 

「ま、いいや。僕には花丸がいますし」

 

 

「……は?」

 

 

いま、なんと?

 

 

 

 

 

 

〜続〜




男2の編成大好きです。
ついやっちゃいますねw
今回も例外なく2人目出しちゃいました!

さてさて、少し早いですが私、冬休み特別企画をしようと思います!
といっても内容は超簡単で、なんと!あのななかまが!
『1日短編1話投稿』をしようと思います!
短編といってもだいたい5000字ぐらいのを予定してます!
失踪気味だったお詫びの意味合いを兼ねて、頑張ります!
開催日程は後々。ななかまが冬休みに入ってからになります。
お待ちくださぁい!
それではまた次回会いましょう!


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