艦隊これくしょんー死ねない提督と元ブラ鎮 (ゆっくりRUISU)
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番外編①

特殊タグを試してみました。


朝、提督である喜一が家を出た瞬間を狙って爆殺する。

少々おかしいと思うかもしれないが、これがこの鎮守府の『普通』である。

そしてこの後、喜一は何事もなかったかのように復活する。

その筈だった。

そうでなければいけなかったのだ。

 

しかし彼は復活しなかった。

 

 

「…なんでか知らないけど、今日は喜一が復活しなかったわ。魔緒流さんは何かわかる?」

食堂にて、矢矧が魔緒流に尋ねる。

だが。

「わかんないなー…。昨日の夜見た限りじゃ術式に問題はなかったから師匠の術式が切れたとは思えないし」

あまり良い返事ではなかった。ただ、魔緒流曰く術式が原因ではないらしい。

「…司令は結局、死んだの?」

震える声で陽炎が尋ねる。

「…おそろしい事に、それぞれ生きてるんだよね。アレで。意識はしっかりしちゃってるし」

肉片と化した喜一を示しながら言った魔緒流の言葉に、全員が絶句する。

バラバラの破片になっても、元通りになる事なく、生き続けている。

それは、生き地獄でしかないのではないか。

 

「そ、それは元通り繋げたら生き返ったりとか…?」

「内臓とか脳とかその辺全部元通りに縫合できる医師団さえいれば大丈夫じゃない?…腐るまでに、って注釈がつくけど」

震える声で聞いた天龍に、魔緒流は更に絶望させる事実を突きつける。

いかに死ななくとも、すでに肉片に血は通っていない。

つまり、やがて喜一の肉体は腐る。

だが、彼は死ねない。

肉体に蝿がたかろうとも、死ぬことは許されずに生き続ける。

 

「…提督を復活させる方法はないの?」

鈴谷が最後の希望にすがるかのように魔緒流に聞く。が。

「流石に無理、かな。死人を蘇生させる術式なんか聞いたこともないし、回復術式はあるけどバラバラになった人を治せるか、って言われると『無理』って返すしかないや」

そう魔緒流は答えた。

魔女の術式でなんとかならないか、と期待して鈴谷は聞いたのだったが、どうにもならないらしい。

すると。

 

「…陽炎さん。提督が遺したあなた宛の遺書が発見されました」

封筒を持って、大淀が食堂に入ってきた。

「…どんな内容ですか?」

「それは、ご自分で読んでください」

そう言って、大淀は陽炎に封筒を渡す。

「えっと…。

『これが読まれてるって事は、俺になんかあった時だと思う。

正直、これを書いた前日、3月31日の時点で違和感はあった。

死んで復活した後に、なにか足りない気がしたら気を付けろ。俺は膵臓と右の肺、肝臓に骨のあちこちが復活しなかった。何回死に直しても無駄だった。お前の場合どうなるかわからん。何かおかしいと思ったら魔緒流の奴に頼れ』

…何よこれ。余計なお世話よ…!」

くしゃ、と手紙を握り潰し。

 

 

 

陽炎は封筒にもう一枚紙が入っている事に気づいた。

「『ロッカーを開けろ』って、何よこれ。殴り書きみたいな…」

呟きつつ、陽炎は食堂の端、掃除用具の入ったロッカーに手を掛け。

 

ロッカーの戸が内側から吹き飛んだ。

その戸と爆風に吹き飛ばされて死んだ陽炎は、復活してから叫ぶ。

「何よ!開けろって言われたロッカー開けたら爆殺されたわよ!」

「安心しろ。明石がリモートで爆破しただけだ」

「なんでわざわざリモート…で……?」

あり得ない筈の声がした。

復活しなかった筈である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テッテレー!…だっけ?」

『ドッキリ大成功!』と書いたプラカードを持った喜一が、そこに立っていた。

「…ふざけんなっ!」

「1回死んどけ!いや、2、3回死んどけ!」

「首と心臓っ!」

怒った陽炎と天龍の連撃で、喜一は首をはねられた上で心臓を潰された。

 

 

復活後、喜一は陽炎に尋問されていた。

場所はクレーンの上である。

「…んで?血を抜いて家の風呂に貯めといて、そこで復活したと」

「おう」

「バラバラになった破片が崩れなかったのは?」

「あれは急速に腐敗するかららしい。…何故か血は急速には腐敗しないらしいけどな。んで、ホルマリンを致死量注射してから爆死した。ホルマリンには防腐作用があるからな」

「遺書で復活しなかったって書いてたのは?」

「遺書自体デタラメ。まったく正常に復活してた」

「協力者は?」

「魔緒流と大淀、明石に間宮さん。後青葉」

「…なんで青葉を?」

「情報統制したかったから」

「動機は?」

「時期。今日はエイプリルフールだろう?」

「…言い残す事は?」

「気分爽快」

「…死んどけっ!」

喜一の体は、クレーンから落ちた。

「命綱が首にかかってるとかどんな殺人バンジーだぁぁ…」

言いながら喜一は落ちていった。

 

結論。

喜一は死ねない。




エイプリルフールネタでした。

嘘タイトル
『喜一死す!恐るべし首吊りバンジー!』


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番外編②

先日作者がリアルに風邪引いたので、自分で『夏風邪』をお題にして書いてみました。
…物好きな方々、書いてもエエんやで?


季節外れだが。

 

『冬』と言われて何が思い浮かぶだろうか。

旬の食材かもしれない。

雪かもしれない。

一理ある。

 

 

 

だが、もう1つ、冬で忘れてはならない物がある。

『風邪』だ。

体調を崩す人がどうしても増えてしまうので、体調管理に気を配っていただきたい。

 

が、しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間、夏でも風邪を引く。

実際、作者も風邪を引いた。

それは、不死だろうと関係ない。

 

 

「だりぃ…」

「…大丈夫なの?」

「大丈夫じゃない、問題だ…」

熱を出した喜一は、自室にて寝込んでいた。

なぜか陽炎も同時に風邪を引いてしまったので、矢矧が看病をしているのだが。

「死んだら治るんじゃないの?」

「もう2、3回自殺した。変化無しだ…」

「…それは変ね。いつぞやの悪戯の時と違って何も仕込んでないんでしょ?」

「仕込む余力がねぇよ…。

真面目に体が変だ」

リセットが効かないことを含めて喜一が苦し気に答えたとき。

 

「あー、それ魔法熱だね」

唐突に魔緒流が部屋に入ってきた。

「…魔法熱?」

矢矧が疑問符を浮かべながら聞き返す。

「そ、魔法熱。魔力を持ってる人だけが感染する病気だよ」

「…その理屈だと、お前も感染してんじゃねぇの?」

「大丈夫大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日治ったから!」

「つまりバラまいたのお前かよ!?」

ゴホッ、と。

叫んだ直後に喜一は咳き込んだ。

 

 

で。

喜一と陽炎は纏めて執務室横の仮眠室に叩き込まれていた。

というのも、感染する心配がない以上隔離しておくのも手間が増えるからである。

 

「…てか、なんで死んだのに治らないの…?」

「体の中の魔力に淀みが生じて発症するんだとさ。淀ませる原因の細菌は死ねば消えるが、淀みは時間経過でしか治らんらしい。魔緒流曰く、経過的に明日の朝には治るだろうってさ」

「うへぇ…。暇で死にそう」

陽炎が少々、少女として出してはいけない声を漏らした。

 

 

 

その後。

「陽炎、風邪の具合はどうですか?」

「司令共々よろしくないわよ…。

喉も鼻も痛くないのに熱はしっかり出てるし…」

「風邪薬を用意しました」

「いや、これは時間経過するまで熱は下がらんらしい…」

不知火が風邪薬を持って来たが、喜一にバッサリ切られてトボトボ戻ったり。

 

「お粥を間宮さんに作ってもらいました。お二人とも、食べられそうですか?」

「な、なんとか…」

「…一応動ける。すまんな初霜」

初霜がお粥を持ってきたり。

…ちなみに、陽炎は手を滑らせて胸元に溢して火傷したし、喜一は変なところに入ってむせた。

 

「提督よ。この書類はどうすればよいのだ?」

「あー…。

それは鎮守府に関係無い個人的な依頼だからなぁ。悪いが除けといてくれ」

「うむ、了解した」

「…あと、こっそり承認しようとしてるその建造指令書は破棄しろ」

長門が書類捌きついでにこっそり建造しようとして喜一に見抜かれたり。

…どうやら、妹艦である陸奥を建造したかったらしいのだが、資材に余裕がない以上は無理な相談なのであった。

 

「提督さん、体調大丈夫?」

「…よろしくない。風邪薬の類いも効果がないから待つしかない」

「…死んでみる?」

「陽炎も含めて何回か死んだが意味は無かった」

瑞鶴が部屋を訪ねてきたりしていた。

 

 

 

そして、数時間後。

しばらく寝ていた喜一は、目を覚ましてから陽炎に話しかける。

「…陽炎、動けるなら風呂行ってこい。正直臭ぇぞ」

「…司令はどうすんのよ。私の後に入るとか言ったら殺すわよ」

「家に一旦戻る。とりあえず汗流してから軽く飯食う」

「…だったらお言葉に甘えさせてもらうわ。内線借りるわよ。不知火に着替え持ってきてもらわなきゃ」

そう言うと、もぞもぞと陽炎は布団から這い出して壁の電話へと向かっていった。

それを見届けた喜一は、自宅へと向かって歩くのであった。

 

 

 

翌日。

「復活っ!」

「治ったっ!」

「「健康最高っ!HAHAHAHA!!」」

 

 

 

「…魔法熱のせいでテンションが上がっちゃう事がよくあるんだよね」

「…ぶっ飛びすぎてキャラ崩壊してるんだけど。

あれ、リセットできるのかしら?」

「出来る筈だよー」

直後、矢矧は躊躇いなく喜一と陽炎を撃ち殺した。

 

 

で。

「…なんかバグってたわ、すまん」

「正気に戻ったわ…」

「ならいいわよ。ほら、とっとと仕事に戻りなさい」

そう言い、矢矧は喜一と陽炎に書類を押し付けた。




少々短めでしたが、以上となります。


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1話

息抜きがてら書いてる奴なので頭をカラッポにしてお読みください。


この鎮守府の朝は、爆死から始まる。

敷地内の自宅から出るや否や挨拶として爆死するのである。

今日も家を出た瞬間爆死してから放送室に向かい、スイッチを入れる。

『あー、こちら提督の永谷。07:00、朝だ。本日も朝食時に予定を掲示する。その後08:00より職務開始となる。総員励め。以上!』

そう言ってマイクの電源を切る。

 

ここは、元ブラック鎮守府。

そして勤務している提督は、永谷喜一。

 

 

 

そして、一つ断りを入れておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は毎朝文字通り爆死している。

家を出た瞬間に爆撃に砲撃、または地雷や魚雷、爆雷だったりで消し飛ぶのだ。

そして。

彼は死ねない事を記しておく。

 

これは、元ブラック鎮守府に着任した死ねない提督の物語。…多分。

 

 

 

「司令ー、これ今日の書類」

ドスン、と書類を置いたのは秘書艦である陽炎型駆逐艦一番艦、陽炎。

「…多くね?」

「もうすぐ大規模作戦があるんだって。ここは参加する代わりに補給線確保しろってお達しが来てるから書類増えてるわよ」

「…うげぇ」

陽炎の口調はとても上官に向けるものではないが、彼は気にしない。

『提督が死ぬのが日常に組み込まれてる時点でおかしいからどうでもいいや』と言うのが喜一の持論である。

 

ともかく、喜一と陽炎は書類を捌く。

途中。

「ちーす提督!構ってー!」

「書類が遊」

「用事思い出したから帰る!」

と、鈴谷が書類を引き合いに出されてすぐに帰ったかと思えば。

「提督!新型防弾装甲の試作品作ったのでお願いします!」

「後で。書類が多い」

明石が試作品の実験を頼みに来たり。

「提督。試作型安全装置のテストを頼みたいと依頼の電話が入りました。折り返しますか?」

「しばらく本業で忙しいって断って」

大淀が電話片手にやってきたり、と様々な来客があった。

 

 

だが、真の戦いは昼休憩である。

「11:55。そろそろよ」

「おっと…。書類片してくれ」

「ハイハイ」

手際よく、書類を金庫に入れていく。

 

 

そして、放送が聞こえる。

『12:00。昼休憩とします』

直後、扉が外側から粉砕され、喜一と陽炎は仲良く消し飛んだ。

そして復活。

喜一が復活してから少し遅れて陽炎が復活する。

それを見ながら喜一が呟く。

「…やっぱ俺より復活に時間かかるのな」

「司令の血が混ざって復活できるようになっただけだからね」

それが陽炎が秘書艦をしている理由である。昼休憩に毎回扉ごと吹っ飛ばして爆殺する/されるのが日課と化しているため、復活できる陽炎が喜一の秘書艦をしているのだ。尚、陽炎が秘書艦になる前は喜一が1人でなんとか回していた。

…陽炎が復活できるようになった経緯は、喜一が不死になった経緯も含めて別の話。

 

二人とも復活したので、喜一は妖精さんに執務室の修復を頼んで、陽炎と別れて食堂に向かった。

 

 

道中。

「死になさいよ、このクズ!」

「ぼっ、ぼくさっ、撲殺はっ、撲殺はやめろっ!?」

霞に撲殺されたり。

…本人曰く『撲殺は死ぬまで時間かかるから嫌』との事。

「死ねっ、クソ提督!」

「オーバーキルッ!?」

曙に主砲で心臓を撃たれた後魚雷を放り投げられて爆殺されたり。…地味に爆殺と撲殺って似てる。(余談)

 

 

そんなこんなで食堂に辿り着く頃には二、三度死ぬのは日常茶飯事であった。

 

「…間宮さん、日替わり定食一つ」

「はーい!…提督、またですか?」

食堂に辿り着いた喜一が間宮に注文すると、間宮が呆れたように聞いた。

続けて陽炎が喜一に話しかける。

「…司令、血で髪が固まってるわよ」

「うげ、マジか。そういやさっき曙に爆殺された時首から下が吹っ飛んだだけだったっけか。…陽炎、後で日替わり定食部屋に運んでくれ」

「はいはい。間宮アイス1回で働いたげる」

「…財布の余裕ないんだが」

「知ーらない♪」

がくり、と肩を落とした喜一は、一度自宅に戻ってシャワーを浴びてくる事にしたのだが。

「稼動機、全機発艦!」

「爆死四度目っ!」

瑞鶴に爆撃されて頭が吹き飛んだ事で血を落とす必要がなくなり、引き返すことになった。

…陽炎のお使いは無くなったが結局アイスは陽炎の胃に納まった。

 

 

その後、ヒトサンマルマルから再び書類を捌く作業に戻る二人だったが。

 

「しれぇ!暇です!」

「七駆の部屋にでも行っててくれ」

「七駆は遠征中じゃなかった?」

「そうだった。…どっちみち今無理だから誰かと遊んでてくれ」

「わかりました!」

雪風が飛び込んできたり。

 

「提督。大本営から大規模作戦についての追記事項が届きました」

「うん、置いといて。まだしばらく時間あるし…」

「あわせて、大規模作戦の開始が明後日からに変更となりました」

「…今日分の書類って後どんくらいだっけ?」

「大した量じゃないわね。多分16:00には終わるわよ」

「二時間弱…。

大淀、明日の予定表を変更できるように準備よろしく。後で変更するかどうか含めて連絡入れる」

「わかりました。大淀、退室します」

大淀が紙爆弾を置いて去っていったり。

 

 

そんなこんなで執務終わり。

結局予定表を変更する旨を大淀に伝え、書類を金庫に片づける。

 

そして、食堂に向かうため扉を開けて爆死した。

「…ワイヤートラップは予想外だったぜ」

復活しながら分析する。

ちなみに陽炎は執務机に隠れていた。

 

その後、追加で3回死んだ。

死んだのだが。

「…なんか、今日は殺意低いかな?火力が二割ほど控え目な気がする」

本人は爆発を含めて殺意が低いことを気にしていた。

 

 

彼は永谷喜一。

命の危険があると通達され、誰もが忌避した元ブラック鎮守府に嬉々として着任した変わり者な民間出身の提督。

『一日五殺』を鎮守府のモットーとして掲げたバカである。




本日の死因
爆発 5回
殴打 1回
刃物 1回
銃弾 2回
計 9回

ここには本日の死因を掲載する予定です。


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2話

ちなみに復活時には服も直ってます。
Q.なんで服も直るの?
A.状態が死ぬ前で固定されてるからです。
Q.なんで固定されてるの?
A.魔法です。
Q.なんで頭吹っ飛んでも記憶消えないの?
A.仕 様 で す 。
こんな小説ですが読んで頂けたら幸いです。


14:15。

出撃に出していた艦隊が帰投したらしく、窓から鎮守府に向かってくる姿が見えた。

「ちょっと出迎え行ってくる」

「いってらっしゃい。死にすぎ注意ね」

陽炎は言いながら、執務机の影に隠れる。

その時点でどうなるか検討をつけながら喜一は扉を開けて予想通りに爆死。

…とはならなかった。

「…あれ?」

疑問に思いつつ部屋を出て。

 

 

瞬間、体が浮いた。

(あ、これ落とし穴か)

落ちた喜一は底の鉄板に膝と顔面を強打した。ついでに脳挫傷で1回死んだ。

 

復活すると、陽炎が落とし穴の近くに立っていた。

「それ、私が仕掛けたのよ。妖精さんに頼んだらすぐだったわ」

「…なんか癪だから落ちろ」

「えっ」

直後、喜一は陽炎の足を掴んで落とし穴に引きずり込んだ。

…その後、陽炎を肩車して脱出した。

「…そういえば陽炎」

「何?」

「落とし穴覗き込むならスカートはやめとけ。スパッツ見えた」

「…セクハラ司令!」

バキィッ!と、喜一は陽炎にぶん殴られた。

 

しばらく殴られ続けて失血死し、血の海に沈んでいた喜一は、向かってくる足音に気づいた。

「…喜一、どうしたの?」

「矢矧か…。

いやな、陽炎にスパッツ見えたって教えたらぶん殴られた…」

「そりゃ殴られるわよ。

…寝転がってるとこ悪いけど、艦隊が帰投したわよ。書類は今から執務室に置いてくるわ」

「どーも…。後、今跨いだりしたらパンツ見え…」

バキィッ!という音と共に、矢矧の足が喜一の顔面を踏み砕いた。

 

しばらくして復活した喜一は、とりあえず雑巾で血を拭ってから執務室に戻った。

 

…戻ったのだが、入った瞬間頭上から黒板消しが落ちてきた。

「…うちって黒板あったっけ?」

呟きながら、粉を払い落として。

 

 

 

仕掛けられていた着火装置が起動、火花が粉塵爆発を引き起こした。

「…これで本日三度目の爆死。粉塵爆発は滅多に起こらんから死に慣れねぇな」

ちらりと執務机を見ると、書類は吹き飛ばないようにアクリル板の下に入っていた。

安堵しつつ、喜一は書類を引き抜く。

 

「…あっちゃあ、途中で初霜がワンパン大破か。後は満潮が中破、浜風小破、霞と若葉と矢矧は無傷と。こっちは遠征か。…て事は、黒板消しと発火装置は天龍が置いてったのか?…それかワンチャン矢矧?」

書類を見ながら呟きつつ、サインと判子を押してから『済』の箱に入れる。

 

と、小さなメモに気がついた。

「『イタズラ大成功なり』ねぇ…。

この文字は漣か。じゃああの仕掛けは漣が…」

仕掛けたのか。とは続けられなかった。

ピン、という感触の直後、頭上からタライが落下し、脳天に直撃した。

脳天を抑えながら呟く。

「『イタズラ』ってこっちか…?」

 

…尚、黒板消しの仕掛けは陽炎が嬉々として仕掛けたものであることを記しておく。

 

書類も終わったし間宮にでも行こう、と気を取り直して喜一は執務室を出て。

また落とし穴に落ちた。

「…塞いどけ陽炎っ!」

直後、落とし穴は妖精さんによって要望通りに塞がれた。

喜一が脱出する前に。

「今塞ぐなー!出せー!」

 

数時間後、たまたま通りかかった山城に床ごと吹っ飛ばして貰って脱出した。勿論1回死んでいる。

この前に窒息で3回死んでいる事は完全に余談。

 

 

「いやすまんな、助かった」

「復活しきってから言いなさい。寄られると貴方、正直グロいのよ」

そう言われるのも無理はないだろう。

喜一は復活中、損傷した部位に黒いモヤが集まって修復されるのだが、このモヤが微妙に薄いので近づくと中が透けてしまい、断面を拝む羽目になるのだ。

「…これ、扶桑と一緒に食ってくれ」

言いつつ、喜一は傍らの戸棚から間宮羊羮を取り出した。

「なんでそんなとこに入れてるのかしら?」

「執務室はよく吹っ飛ぶし、置いとくと羊羮が無事でも妖精さんに食われるからここにストックしてる」

「…今度妖精さんに教えようかしら」

「やめてくれ、ストックが無くなる」

喜一は口止め料に2本目の羊羮を取り出した。

が、山城は羊羮を2本とも返した。

「羊羮の代わりに、私と姉様をなるべく早く改装してちょうだい。そうしてくれるなら他言無用を守るわ」

「…設計書は集めてるんだ。後一枚集まるまで待ってくれ」

その言葉を聞いて、満足したように山城は去っていった。

 

 

 

さて、と気を入れ直して。

「隙あり!」

「弓矢っ!?」

瑞鶴にこめかみを矢で射ぬかれた。

「…あ、工廠で明石さんが呼んでたわよ。大規模作戦の前に防弾装甲のテストして欲しいって」

「…そういや言ってたな、んな事」

射ぬいた矢を地面に落としながら喜一は立ち上がり、工廠に向かった。

 

 

工廠にて。

「おーい、明石ぃっ!?」

踏み入れた瞬間、喜一に電流走る(物理)。

「アバババババババッ!」

「すいません!その辺感電する場所あります!」

遅い忠告をしながら、明石はコンセントを引き抜く。

電気鰻に食われる魚の気分が分かった、と後に喜一は語った。

 

 

数分後、復活した喜一は明石に向き合っていた。

「…んで、新型の防弾装甲だっけ?」

「はい!新しく作った新型で、強度を突き詰めてかつ軽さも追い求めた一級品です!しかも多層式!理論上大和型の46cm三連装砲にも耐えれますよ!」

「…期待せずに試してみるか」

言いつつ、喜一は装甲を持ち上げる。

「…確かに軽いな。駆逐艦でも余裕で装備できるだろ、これは」

言ってから、装甲を胴体に着ける。

「じゃあ長門さん、お願いします!」

「任せておけ」

そして、長門が41cm連装砲を構える。

「…撃ぇっ!」

放たれた砲弾は、装甲に接触し。

貫通できずに表面で弾けた。

 

 

爆炎が晴れると、そこには僅かな焦げ後しかない装甲板。

「なんと…!」

「やっりましたぁ!今までは散々貫通されてましたけどこれで…」

長門と明石の話を聞きながら、喜一は口を開く。

「衝撃がモロに来たんだが…。

多分内臓メッタメタだぞ」

「…あっ」

喜一は倒れた。

死因は内臓破裂、出血多量。

 

復活後。

「…多分手持ちでも意味ないな。一発防いだらまず手がぐしゃぐしゃだ」

「うーん…。ショックアブソーバーでなんとか…」

「それ含めたらデカ過ぎないか?重すぎるだろうし、そうなったらバルジと大差無い」

「うーあー…。大規模作戦には間に合わない…」

「そもそも大規模作戦だがここは補給路の確保だから仕事は大差無いぞ」

ぐへー、と明石は机に倒れこんだ。

 

そいじゃ、と喜一は工廠を出て。

死なずに自宅に帰りついた。

「…誰も殺しに来んのかい!」

叫んでから喜一は自宅に入った。




本日の死因
爆発   4回
脳挫傷  1回
失血   1回
頭部損壊 1回
弓矢   1回
感電   1回
内臓破裂 1回
窒息   3回

次回は大規模作戦終了後まで時間が飛びます。
ちなみに大規模作戦については現実とはリンクしていませんので御了承ください。

3/20 追記
ちょっと修正。
前の案で鉄パイプ串刺しがあった名残で出てきてた鉄パイプを弄りました。
撲殺の事実は変わり無し。


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3話

今回は大規模作戦終了後のお話。
今回から魔法要素が入ってきます。

…なお、主人公の攻撃は他に出るかわからない魔女にしか効果はない模様。
Q.つまり?
A.深海棲艦相手に無双などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。


「えー…。

補給路の確保だけだったけど、大規模作戦も無事終わったという事で!

大規模作戦の成功を祝って!元々無礼講な気がするけど今夜は無礼講で!

乾杯!」

『乾杯!』

喜一の音頭に、艦娘達が唱和する。

 

大規模作戦も完了した、という事で本日はお疲れ会を兼ねた宴会である。

 

…なのだが。

「ほぅら提督さん、もっと飲めぇ~!」

「絡み上戸かよ!?てか俺あまり酒は飲めな…ガボガボガボボ!」

酒を瑞鶴に無理矢理飲まされて急性アルコール中毒で喜一が急逝した。

 

幸い数分で復活したのだが、その後。

「んふ~♪」

「ちょっと待て酔ってるだろおま…」

ボキベキグシャバキィッ!と、長門の全力の抱擁が喜一の胴体周りの骨を全て粉砕したり。…喜一は当然死んだ。

 

「鈴谷、一発芸いっきまーす!爆雷でお手玉…あっ、手が滑った」

「ちょっ」

鈴谷が爆雷でお手玉をしようとして喜一の方に放り投げたり。…結果は言うまでもあるまい。

 

そんなこんなが収まる頃には、殆どの艦娘は酔い潰れるか自室に戻っていた。

 

「うあー、疲れた…」

「随分飲まされたわね、喜一」

「おう…。世界が回るようだ…。

すまんが、片付け任せた」

「任されたわ。…ていうか、死ねばアルコールはリセットされなかったっけ?」

「…あ」

直後、矢矧はビール瓶で喜一を撲殺した。

 

 

「…んで、片付けはこの面子かぁ」

そう呟く喜一の前には、陽炎、矢矧、間宮、翔鶴、扶桑の5人。…ちなみに陽炎は矢矧が喜一同様撲殺した。

 

そして、6人で片付け始めた。

途中。

「そういえば提督。建造はなさらないのですか?」

翔鶴が不意に尋ねた。

「あぁ、建造ね。

…落ち着くまではやんないでいいか、って思ってたんだよね。

正直、そろそろやるかとは思ってた。

…資材次第だけど」

「資材の備蓄も増えたからそろそろ建造しても大丈夫よ」

「んじゃあ明日からやってみるか。…どの艦種狙えばいいんだ?」

聞かれた陽炎は矢矧と顔を見合わせて頷き、口を開く。

「この鎮守府だと重巡かしら。後は軽巡ね。もう少し増やしていいと思うわ。…戦艦とか空母も欲しいけど、資材事情を考えるとあまり増やせないわ」

「じゃあそれで。んじゃ片付け再開」

言われ、全員で動き始める。

 

 

「…今更だけど、変よねぇ」

ポツリと陽炎が呟いた。

「何が変なんですか?」

と、扶桑が陽炎に尋ねた。

聞かれたので、陽炎は答える。

「全部よ。司令が毎日死ぬってのもだし、建造とか出撃に関しても司令が決めるっていうよりも私達の方が決めてるじゃない」

「…提督も仰っていましたが、提督は正規の訓練を省いて着任されました。故に知識不足を補うために我々に頼っているのです。毎日死ぬのは…知りません」

「そこよ。そもそもなんで司令は殺しても死なないのよ。矢矧さん、何か知らない?昔乗せてたのよね?」

「知らないわよ。私に乗ってた頃から喜一は不死だったから」

陽炎は喜一と付き合いの長い矢矧に尋ねたが、矢矧からの返事もイマイチであった。

 

 

 

「…んで、直接聞きに来たと」

片付け後、陽炎は執務室にいた。

「そうよ。…死なない理由がわからないと、なんか怖いのよ。ふとした事で死にそうで」

それを聞いて、喜一は頷いた。

「…そりゃそうだよな。ただ、正直俺も死なない理由は知りたいんだよ」

ポツリ、と喜一は爆弾発言をした。

「…いや、どっちかってと知りたいのは死に方かな?」

「…もしかして、司令も死なない理由は知らないの?」

「呪われたから、とは言えるが。死ななくなった理屈は知らん」

バッサリと言われ、陽炎は肩を落とした。

これで手掛かりは途絶えてしまったのだ。

そのまま陽炎は執務室を退室した。

 

 

「…入るわよ」

「…今日は来客が多いな」

陽炎が退室してから数分後、今度は矢矧が執務室を訪ねた。

「…単刀直入に聞くわよ。

貴方はさっき『呪われたから死なない』って言ってたけど、貴方を呪ったのは誰で、何のために呪ったのか」

「…それを聞くのか?まぁいいが…。

      (あ か や し え な)

呪ったのは阿嘉耶司依娜。魔女だ。

理由は不老不死の術式の実験。だから正確には呪いじゃないんだよな。

…結局、自分に掛け損ねたとは聞いたがまだ生きてるかは知らん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠は死んだよ。30年前に」

唐突に、矢矧に聞き覚えのない声が聞こえた。

咄嗟に身構えかけた矢矧を、喜一は制止する。

                 (ま お る)

「…なんでこんなとこまで来てんだ?魔緒流」

魔緒流、と呼ばれた少女は、箒に乗って宙に浮いていた。

そして、さも当然とばかりに言う。

「そんなの簡単!君を殺してサンプルにするために決まってんじゃん!」

「帰れ」

シャッ!と、喜一は何処からか取り出した剣を振るった。

…だが、その剣は直前まで魔緒流が乗っていた箒の柄に受け止められた。

「…うん。やっぱり君、魔力を殆ど通せてないね。この程度の硬化すら突破出来ないなんて。魔力だけはあるのに、勿体ない」

「そもそも俺は魔力なんざいらんし使うつもりも無い」

喜一は力を込めているが、恐らく木製の箒の柄が切れも折れもしない。

咄嗟に矢矧は、艤装を展開して機銃を放った。

喜一は巻き込んで構わない。

そう判断し、かつ即死はさせない為の行動だったのだが。

「危ないなぁもー…。殺す気なの?」

そういう魔緒流の前で、銃弾は何かにぶつかったようにひしゃげて静止していた。

「…理解出来ないって顔だけど、普通の防御術式だよ?」

そう言ってから、魔緒流は喜一を小突く。

「さて。このままじゃ私以外の魔女に襲われたらあっという間に終わっちゃうので、最低限自衛が出来るように君を鍛えます!」

「…勘弁してくれ」

そう言って剣を何処かに仕舞う喜一も、箒を立て掛ける魔緒流も、既に殺気は感じられない。

矢矧は、喜一に尋ねた。

「…その人は、なんなの?敵?」

「顔馴染み。さっきのはじゃれあいみたいなもんだ。詳しくは明日全員に話す。今日は待ってくれ」

そう言うと、喜一は退室を促した。

見ると、魔緒流は既に寝転んでいる。

腑に落ちないが、矢矧は執務室を出た。




本日の死因
爆発 3回
急性アルコール中毒 1回
圧迫 1回
殴打 1回

少しずつ喜一の詳細をばらまき中。


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4話

珍客が鎮守府に訪れた翌日。

 

朝食後、喜一は艦娘全員を食堂に集めていた。

 

「あー…。

ちょっと紹介しとく奴がいるんで集まってもらったんだが。

…って矢矧、魔緒流は何処行った?」

「あの人なら『朝飯買ってくる』とか言って何処か行ったわよ」

紹介する対象である魔緒流の自由な行動に、喜一は頭を抱えた。

「…すまん、奴が戻って来るまで…」

「たっだいまー!」

「空気読めこの野郎!」

全力で喜一は魔緒流を殴りつけた。

 

 

 

 

…で。  (こ お か ま お る)

「こいつは娘乙華魔緒流。魔女だ。

なんか質問があったら…っと、陽炎」

「娘乙華さん、だっけ?は司令とどういう関係なの?」

数秒考えてから、喜一は口を開く。

「顔馴染み。ついでに言うと俺を呪った魔女の弟子」

「娘乙華魔緒流だよー。魔緒流って気楽に呼んでね!」

「…えっと」

陽炎が沈黙したのを見て、喜一は少し補足した。

「…そもそも俺を死ねなくのが、阿嘉耶司依娜っていう魔女。で、魔緒流はその弟子。

司依娜の目的は不老不死の実現だから、実験として俺に状態復元の術式を掛けた。血を媒体にして、自動で発動するように。俺が死ねなくて、血が混ざった陽炎が死ななくなった理由は多分それだ。後、血にある程度魔力が宿ってるからちょっとだけ魔法が使える。…本職とは比べられんが」

「…結局、魔緒流さんは司令を不死にした魔女の弟子って事?」

「そだよー。で、師匠に限らず魔女の目的は不老不死の実現だから偶然とは言え不老不死になった喜一と、あと君にも興味津々なのだ!」

「…えっと、興味津々って、誰が?」

陽炎が恐る恐るといった様子で聞くと、魔緒流が答える。

「そりゃ、魔女全員だよ!幸いまだ不老不死の話は漏れてないから殺到して来ないけど、いずれ漏れたらまず魔女がサンプルにする為に殺到します!

…てな訳で喜一と、陽炎ちゃんだっけ?二人には最低限自衛が出来るようになってもらいます!」

魔緒流がそこまで言った時点で、喜一は口を開く。

「…全員への話は以上!あと魔緒流の奴がしばらく鎮守府に泊まるから誤爆注意!」

 

 

 

解散した後、陽炎が喜一に近づいてきた。

「…ねぇ、『自衛できるように』って何をやらされるの?」

「知らん。仕事が一通り片づいてからやる事にはなってるが…」

そう言い、喜一は執務室に向かい。

 

 

 

降ってきた爆雷で陽炎もろとも爆死した。

爆風を障壁で防ぎ、復活するのを見ていた魔緒流が口を開く。

「…なるほど、死ねないわけだ。状態復元で血液中の魔力を消費はしてるけど倍以上の勢いで魔力が回復してる」

「…つまり?」

「二人は何回死んでも復活するって事」

ガクリ、と喜一は肩を落とした。

 

 

数分後、起き上がった喜一は執務室へと足を向けた。

 

執務中。

「…そういや昨日、建造しようって話になったんだったか」

「そうね。明石さんか夕張さんに資材の量を指定して言えば大丈夫ね。やってこようか?」

「頼む。とりあえず軽巡2隻、重巡1隻を目安で建造してくれ」

「はいはい、行ってくるわ」

…ガチャ、と陽炎は扉を開けて爆殺された。

 

「…悪いな、たまには俺が仕掛けてみたかったんだ。妖精さんが10分でやってくれたぜ」

「アンタねぇ!」

直後、キレた陽炎がぶん投げたドアノブが喜一の顔面にめり込んだ。

 

他には。

「ご主人様ー。イタズラには引っ掛かりましたか?」

「昨日引っ掛かって撤去した」

「ご主人様のケチー!」

漣が走り去ったり。

 

「提督。企業から安全装置のテストに協力してくれと催促の電話です」

「…『落ち着くまで1ヶ月位無理』って伝えて」

「わかりました」

電話片手に大淀が訪ねてきたり。

 

そして、しばらく経って18:00。

「さて、んじゃとりあえず今日は得物の出し入れを出来るようになってね!」

業務終了後、喜一と陽炎は魔緒流に連れられて運動場に来ていた。

「…俺は一応得物は出せるんだが?」

「二回教えるのもメンドイから今日は待ってて」

そう言われ、喜一は肩をすくめた。

そして、魔緒流は陽炎に向き合う。

「…じゃあ、陽炎ちゃん。まずは集中してみて。流れが感じられる…」

筈、とは続かなかった。

 

シャッ!と陽炎が腕を振るうと、その手には鉄棍が握られていた。

「こうでしょ?」

「…よく教えてないのにわかったね」

「俺と同じく、勘じゃねえの?」

喜一が尋ねると、陽炎は首肯した。

そして、手の鉄棍を持ち上げ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力で喜一に振り下ろした。

喜一は手首を振るって剣を取り出し、鉄棍を受け止める。

 

拮抗した状況に、魔緒流が口を挟む。

「…とりあえず、理屈の話をしようか。魔女は自分の武器を1つ、自分の中の異空間みたいなとこから出し入れできるんだよね。『魔法の得物』って呼んでるんだけどさ。私は箒、喜一は剣で陽炎ちゃんはその鉄棍。んで、注意点として魔力がない相手には『魔法の得物』は威嚇にしかならないよ!」

「…なんで?」

「わかんない。魔力同士の反発作用とか魔力抵抗の有無とかって色々言われてるけどね」

疑問に思った陽炎が尋ねたが、どうやら魔緒流にもわかっていないようだった。

「ともかく、得物の出し入れは出来るみたいだし、ちょっと踏み込もうか。

次は硬化について!」

そう言うと、魔緒流は箒を握る。

「頭で受けてね!」

そして、喜一に振り下ろす。

言われた通りに頭で受けたが、特に何も起こらない。痛いだけだ。

「…で?」

「焦らない焦らない。

…んで、硬化を使うと、こう!」

そう言いつつ、もう一度魔緒流は箒を振り下ろす。

同じように喜一は頭で受け。

 

 

 

 

 

 

頭が弾けとんだ。

 

復活するのを待ってから、魔緒流は口を開く。

「魔力を武器とか自分の体に流す、っていうのが一番シンプルな硬化の方法だね。他にも術式を組んだりする手段もあるけど、こっちは魔女専用だから喜一と陽炎ちゃんには使えないよ」

「使えないって、なんで?」

「私たち魔女は、普通の人とは少し違うんだよね。魔力に対する適正とか。その辺の関係で、『得物の出し入れ』とか『魔力を流す硬化』は魔力さえあれば誰でも出来るけど、術式を発動させるのは魔女じゃないと出来ないんだよね」

「…複雑だな。その辺の事情」

喜一があきれたように呟いた。

 

 

…その晩、喜一と陽炎は特訓中に硬化し損ねて3回ずつ相手の得物に殺された。




喜一の本日の死因
爆発 3回
箒の柄 1回
鉄棍 3回

陽炎の本日の死因
爆発 3回
剣 3回

フリーダムキャラって作者に認識されだした魔緒流さん。
ちなみに建造結果は次回に。


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5話

魔緒流による喜一と陽炎の特訓開始翌日。

 

朝の爆死と朝食後、喜一が書類を捌いていると、執務室の扉がノックされた。

「司令、新しく建造された子を連れてきたわよ」

「…やっべ、忘れてた。入ってくれ」

喜一がそう言うと、陽炎は扉を開けて新しい艦娘と共に入室した。

 

 

「あの………軽巡洋艦、神通です。どうか、よろしくお願い致します……」

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ~!」

「貴様が司令官か。私は那智。よろしくお願いする」

「…これはまた、ピンポイントに狙った艦種が来たな。

この鎮守府の提督をしてる永谷喜一だ。そっちは秘書艦の陽炎。ここは幾つか普通と違うが、まぁ慣れてくれ」

そう言うと、喜一は立ち上がって、陽炎に言う。

「んじゃ陽炎、色々案内してくる」

「行ってらっしゃい。何回死んでもいいけど3人をいきなり怪我させないようにね」

その言葉に、神通と那智は疑問に思ったようだった。…ちなみに那珂は気にもしていなかった。

 

 

とりあえず、と喜一は執務室から顔を出して。

「待ってましたぁ!」

「奇襲でメシウマっ!」

「出待ちっ!?」

朧と漣に頭を撃たれた。

その光景に神通は悲鳴を上げ、那智は咄嗟に艤装を展開し。

「…ん?あぁ。司令は気にしなくていいわよ?って、もう復活してるし」

「そりゃあな。見た目派手だがダメージは割と少ないからな」

…神通と那珂、那智は思考がオーバーヒートした。

 

 

その後。

「いやすまんな。慣れたせいで『死なない』っていうのを伝え忘れてた。

ついでに言うと俺を殺しに来るのはそう指示してるだけだから気にしないでくれ」

「…普通と違うと言うのは、その事か?」

那智が呆れたように尋ねる。

「まあ、すぐに影響するのはな。

…っと、魔緒流の奴も紹介できたら紹介しとくか」

「まおる?難しいお名前!そんなんじゃアイドルとして覚えてもらえないぞー!」

「呼んだ?」

「唐突だな相変わらず!」

いつのまにか後ろにいた魔緒流を、喜一は全力で蹴りつけた。

 

「…こいつは娘乙華魔緒流。俺の知り合いの魔女だ」

「魔緒流って気楽に呼んでねー」

「ちなみにこいつ百歳は越え…」

「ぃよいしょぉ!」

「ホームランっ!?」

喜一が魔緒流の年齢の話を出そうとした瞬間、魔緒流は箒の柄で喜一の首を吹っ飛ばした。…当然だが魔緒流は箒の柄を硬化させている。

 

 

「まったくー。女の子の年齢をバラすなんてタブーの中のタブーだぞ?」

「悪い魔緒流、その口調やめろ鳥肌が立つ」

「プロデューサーさん、そんな事言わないでよー。女の子から可愛さを取っちゃったら、何も残らないんだぞー?」

「実際こいつは女の子ってか年増…」

「「どっこいしょぉっ!」」

「仲良いな!?」

魔緒流が喜一の頭を箒で叩き潰し、那珂が魚雷で喜一を爆殺した。

 

 

「…魔緒流はともかく、いきなり爆殺してくるとは。…この那珂、出来るっ!」

「プロデューサーさん!

那珂じゃなくて、那珂ちゃんって呼んで!」

「あー、私も那珂ちゃんって呼んでいい?」

「いーよ!その代わり那珂ちゃんも魔緒流ちゃんの事『マオちゃん』って呼ぶね!」

 

 

 

「…ごめんなさい、ツッコミのやり方も手順もわかりません」

「…諦めよう」

ハァ、と神通と那智はタメ息をついた。

 

 

…で。

「多少話が逸れたが、案内の続きをしようか。そっちが寮。デカイがだいたい空き部屋ばっかなのは天龍辺りにでも聞いてくれ」

「…あの、規模の割に艦娘が少ないのは…?」

「…沈んだからだな。前任者が無茶な作戦を組んだって聞いたが、詳しくはやっぱり天龍辺りに聞いてくれ」

神通の質問に、最低限返しながら喜一は次の案内場所に向かった。

 

 

 

「んで、ここが工廠でっ!?」

喜一が工廠を案内しようと足を踏み入れた瞬間、喜一に再び電流走る。

「またか!?アバババババババッ!」

「すいません!高圧電流注意です!」

言いつつ、夕張はブレーカーを落とす。

…電流は慣れてないんだよ、と喜一は呟いた。

 

「…ここが工廠だ。タイミング悪いとさっきの俺みたくなるから入る時には注意な」

コクコクコク、と3人は猛烈な勢いで頷いた。

「…んじゃあ、次行くか」

 

そう言って、喜一は工廠を出て。

「沈め!」

「血の海にか!?」

不知火の落としたドラム缶(コンクリ詰め)に潰された。

 

…そんなこんなでどうにか案内を終えて、夜。

 

「んじゃ、今日も特訓するよ。硬化は昨日である程度慣れたみたいだし、筋力強化をやるよ!」

「…筋力強化?司令は知ってる?」

「いや、知らん」

陽炎と喜一が疑問符を浮かべていると、魔緒流が口を開いた。

「筋力強化は、硬化と似たようなやり方だけどね。硬化は魔力を流すだけなんだけど、筋力強化は魔力を溜める必要があるんだよね。ちょっと実演するね」

そう言って、魔緒流は箒を振り上げる。

「まずは、これが硬化だけ!」

そして、地面をぶっ叩いた。

叩かれた地面は、僅かに陥没している。

「…そして、今度は筋力強化と合わせるよ!」

数秒溜めてから、魔緒流は再び地面を叩き。

 

 

 

 

 

 

 

派手に地面が陥没した。

「…マジか」

「まぁここまで派手な強化はあんまりしないんだけどね。普通に術式組む方が早いし、わざわざ強化しなくても攻撃する手段はあるからね。んじゃあ試しに、まず喜一から腕に魔力を溜めてみて」

言われて、喜一は腕に魔力を溜め始める。

数秒で、なんとなく腕が熱くなり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数秒で、腕が弾けとんだ。

 

数分経って復活してから喜一は尋ねた。

「…なんで破裂したんだ?」

「魔力の溜めすぎ。かなり勢いよく溜めたでしょ?だから作用量から限界量まで、ドバーッ!って行っちゃったんだよね。近いイメージは水風船かな?水を入れて膨らますけど、入れすぎちゃうと破裂しちゃうの。てな訳で、二人にはこの魔力量の調整をマスターしてもらいます!

今日中とは言わないけど、最低限これともう一個は覚えてもらうからそのつもりで!」

 

 

 

…この晩、喜一と陽炎は5回程爆発した。




本日の死因

爆発 8回
頭部損壊 3回
感電 1回
圧壊 1回


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6話

今更ながら、コイツは1話2000字程度を目安に書いています。
今回と次回は着任直後なんじゃー。


その日、きっかけは唐突だった。

 

「そう言えばさ、喜一はなんで提督なんてやってんの?」

魔緒流がそう喜一に尋ねた。

「なんで、ってなぁ…。金も尽き欠けてたし、自殺するのにも丁度飽きた頃だったから民間で応募したら適性があるってわかった。んで、『一番危険な場所』って希望書いたら此処になった」

「ザ・君!って感じの理由だねぇ…。ついでに、この鎮守府の皆との馴れ初めも聞かせてよ」

「まぁいいか。つっても精々2、3ヶ月前の話だが…」

言いつつ、喜一は数ヶ月前の出来事に意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「…ここが俺の配属先、と」

呟く喜一は、鎮守府の正門の前に立っていた。

そして、正門に手を掛け。

 

 

バリバリバリッ!

「いってぇっ!?」

喜一に電流走る(弱)。

感電死する程ではないが、そこそこ痛い。

見ると、正門にケーブルが配線され、傍の配電盤に繋がっている。

…どうするか、と喜一がしばらく考えていた時。

 

 

「喜一さん、お久しぶりです!」

「…ごめん、誰?」

門の向こうから喜一の知らない少女が声を掛けてきた。

門の奥では、なにやら数人の少女達が口々に目の前の少女を呼び戻そうとしているようだ。

それを見て、喜一が口を開く。

「…俺は君を知らん。人違いじゃないか?」

「酷いです!いくらなんでも乗せた人を間違えはしません!坊の沖岬海戦で救助しました!」

坊の沖岬、という単語に喜一は微妙に覚えがあった。

「…もしかして、駆逐艦の雪風か?」

「はい!…それで、新しく着任する人って喜一さんなんですね!」

「まぁ、な。…て事で、そこの配電盤から門の電気落とせないか?」

「…ちょっとわからないので、待っててください。なんとか出来そうな人呼んできます!」

そう言うと、タッタッタッ…と雪風は走り去っていった。

 

それをぼんやりと見ていた喜一は、眼帯を着けた艦娘が歩いてきているのに気がついた。

「…おい、おっさん。俺たちは今さら提督なんざ要らねぇんだよ。帰るか死ぬか選びな」

…ぷっ!と喜一は笑った。

「いや、すまない。言葉と実際の殺気に差がありすぎてな。…帰るか死ぬか、と言ってたが、実際に殺したことはないんじゃないか?人殺しの目はしてないしな」

「…何を根拠に言ってやがんだ、おっさん」

「年の功だよ。こう見えても長生きでな」

ギリッ!と歯ぎしりしたその艦娘は、やがて観念したように配電盤に手を伸ばし、スイッチを切った。

「…歓迎するぜ。オレ様は天龍。いつ泣いて帰るか楽しみにさせてもらう」

「泣く事すら出来ずに送り返されるかもしれないけどねぇ」

軽口で返しつつ、喜一は足を踏み入れた。

 

「しれぇ!夕張さん連れてきました!…って、入れたんですか?」

「…うんまぁ、なんとかなった」

…少し遅れて雪風が夕張を連れてきた。

「…夕張、だっけ?とりあえず、正門の配線外してもらえると助かるんだが…」

「…すいません、どなたですか?」

「あっちゃあ、連絡行ってなかったかな?新しく着任した永谷喜一だ。雪風には坊の沖岬で乗艦が沈んだときに救助してもらった間柄でな」

喜一がそう言うと、天龍が口を挟んだ。

「…おいおっさん。あんた何歳なんだよ」

「詳しくはわかんねぇなぁ。百越えたあたりで数えんの止めたし」

ピシリ、と。

喜一と雪風以外が静止した。

その中で、再び天龍が口を開く。

「…なんだって?」

「だから、百越えたあたりから数えてねぇ。…あぁ、小さい頃にロシアと戦争してたのは覚えてる。たしか日露戦争って最近は呼ばれてんだっけ?」

「…何者なんだよ、おっさん」

「年寄り。それと提督として着任した奴」

そう喜一は締めくくった。

 

 

で。

「…雪風。貰った資料じゃ誰かが指揮をしてるらしいんだが、誰なんだ?」

「長門さんと大淀さんです!探しましょうか?」

「頼む。最低限顔合わせはしたい。体質も含めて全員に説明するのは骨が折れる」

 

 

「あら。喜一じゃない」

声を掛けられ喜一と雪風が振り向くと、ポニーテールの艦娘が立っていた。

「誰だ?」

「…乗艦を忘れたのかしら?」

「しれぇ、矢矧さんですよ」

「矢矧か!…乗艦を忘れたのか、って言われてもな。矢矧って艦と矢矧って艦娘がイコールで繋がってねぇんだよ」

「…大本営は書類を渡さなかったのかしら?」

「書類自体は受け取ったが、艦娘リストみたいな奴は貰ってないな」

「…また怠慢かしら?」

「大本営がマトモに情報を公開しないのは今も昔も変わんねぇってか。酷い話だと、坊の沖岬でお前や大和が沈んだのは本土じゃロクに知られてなかった」

「変わらず、酷い話ね。

ところで、誰かを探してたんじゃない?」

矢矧が話題を変えると、思い出したように雪風が口を開いた。

「そうでした!今、長門さんと大淀さんを探してます!」

「…その二人はこの時間なら執務室にいる筈よ。ただ、この鎮守府の殆どの艦娘は人間に少なからず悪い印象しか持ってないわ。私も含めて。偶々着任したのが喜一だったからマシだけどね」

「…なるほどな。『一番危険な場所』って希望で此処になる訳だ」

「どんな希望の出し方よ。

…とりあえず、気をつけなさい」

「…あまり意味はないが、まぁ用心しよう」

そう言い、喜一と雪風は執務室に向かった。

 

その道中。

「…ちょっと止まりなさいよ」

と、喜一は呼び止められた。

「…すまん、誰だ?」

「陽炎。あんたが連れ回してる雪風の姉よ。ちょっと面貸しなさい。不知火、雪風よろしく」

陽炎と名乗った艦娘がそう言うと、隣にいた不知火と呼ばれた艦娘が雪風の手を掴んだ。

「雪風、此方に来てください」

「…悪い雪風、ちょっとどっかで寄り道しててくれ」

「わかりました!」

喜一が言うと、雪風は不知火に手を引かれていった。

 

「…んで、何の用だ?」

「わかってるでしょ。

今すぐ、荷物をまとめてこの鎮守府から出ていきなさい。さもないと…」

「殺す、ってか?さっきも言われたぜそれ」

「殺しはしないわ。…死ぬより痛い目にはあってもらうけど」

そう言うと、陽炎は隠し持っていた鉄パイプで喜一を殴りつけた。




着任当日の死因(1/2)
無し


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7話

過去編その2。
…陽炎が不死になった経緯は後々。


陽炎が鉄パイプで喜一を殴りつける。

 

 

かに思われたが、喜一がどこかから取り出した剣が鉄パイプを受け止めていた。

云わずもがな、喜一の『魔法の得物』である。

…忘れられたかもしれないが、『魔法の得物』では、魔力がない相手には威嚇にしかならない。

しかしこの前提は『有機物』を相手にする場合にのみ成立する。

故に、『魔法の得物』で地面を陥没させられ、無機物である鉄パイプを受け止める事ができる。

閑話休題。

 

鉄パイプを受け止めた喜一は、剣を傾けて鉄パイプをやや強引に地面に落とさせる。

痺れを訴える手を軽く振りながら、喜一は口を開く。

「いきなり撲殺か?物騒だな」

「物騒じゃないと思ってたの?」

「そりゃそうだ」

喜一は剣を引っ込める。

「用事はこれだけか?なら…」

そう言って引き返そうとした時。

 

「陽炎さん!何してるんですか!」

「初霜…!」

そう叫びつつ、黒髪の艦娘が陽炎に砲口を向けていた。

たまらず、陽炎は鉄パイプを投げ捨てて逃げた。

「初霜…。

あぁ、坊の沖で無傷だったアイツか」

「…やっぱり喜一さんでしたか。雪風が嬉々として話してました」

「すまんな、助かった」

「大丈夫です。ところで、長門さんには会いましたか?」

「いや、その途中だったんだ。んじゃあ、雪風と合流して…」

「しれぇ!用事は終わりましたか?」

「…行こうと思ったが、必要なかったな。すげぇタイミング。

ちょうど終わった、案内頼む」

「はい!」

喜一と雪風は初霜と別れ、長門がいる筈の執務室に向かった。

 

 

「…貴様が、新しく配属されたという提督か?」

「あぁ。永谷喜一だ。…長門、で合ってるよな?…長門って艦はあまり知らないんだよな。乗ってた訳でもねえし」

「まるで、長門以外には乗った事があるかのような言い方だな。…いったい貴様、何歳なんだ?」

「百は越えてる。詳しくは忘れた」

喜一がそう答えると、長門の視線がいぶかしむ物に変わった。

「…ま、多分その辺はぼちぼちわかるさ。それより、鎮守府の全員を集めて欲しい。時間は任せる」

「…任せる、だと?」

「おう。…なんかおかしいか?」

「何を考えている?我々は艦娘、つまり兵器だ。任せるなどと…」

「兵器が話してたまるか。

…そもそも、俺はこの鎮守府じゃ一番若輩だ。最低限は頭に入れては来たが付け焼き刃のテンプレだ。そんなもん状況によって適宜変えるべきだ。上がアレコレ全部指示するのは愚策、任せた方がいい部分は適宜任せるさ」

喜一が言うと、長門は疑うような視線を向け始めた。

「…前任の提督も我々を『信じる』と言っていた。しかし、彼はやがて我々を恐れ、権力を盾に抑圧した!『化け物』と呼び、我々を見下した!貴様が同じことをしない保証がどこにある!」

「保証はない。見極めてくれ。…だがまぁ最低限、『化け物』とだけは呼ばねぇな。ブーメランになるし」

「…なんだと?」

「この話は終わりでいいか?多分集まってもらった時に分かるだろうしな」

そう言うと、喜一は執務室から出た。

 

 

喜一が執務室から出ると、ちょうど矢矧が立っていた。

「あら。どうだったの?」

「とりあえず時間は任せて全員を集めてもらうように頼んだ。それと、信頼できるか見極めろ、って言っといた」

「…どうなるかしらね」

矢矧がそう呟いた時、スピーカーから声が聞こえた。

『こちらは大淀です。提督代行の長門さんからの伝言を伝えます。

《鎮守府の全艦娘は、本日20:00に大食堂に集合せよ。新しく配属された提督が信じるに値するかどうか、全員で見極める》との事です』

「…仕事早いな」

「そうね。とりあえず、どんな内容を話すか考えといたら?」

首肯した喜一は、歩き回りながら考える事にした。

 

 

 

 

 

19:45。

喜一が大食堂に入ると、既にほとんどの艦娘が集まっていた。

 

その数分後、一人の艦娘が後から入ってきた。

「ぜぇ、ぜぇ…。

せ、セーフだよね!?」

「遅いぞ鈴谷!20:00とは言ったが、もう少し早く行動しろと!」

「…まぁ、いいんじゃねぇ?多少緩くないと色々固まっちまうしな」

「お、マジで?あざーす!」

(…『必死に年齢を誤魔化す』の図)

「それは酷くない!?」

フォローしておいてから、喜一は全力で鈴谷を落としたのである。…まさに外道。

「…さて、と。提督として新しく着任した永谷喜一だ。…まぁ、いくらなんでもポッと出の奴が上司って言われても納得いかないだろうし、時間をかけながら見極めて欲しい」

喜一がそう言うと、大食堂中は静まり返っていたが。

「…ふざけないでよ」

ポツリと、ある艦娘が呟いた。

「あ、曙ちゃん…」

「今更来て、急にふざけた事言ってんじゃないわよ!」

そう叫んだ、曙と呼ばれた艦娘は立ち上がった瞬間に喜一に連装砲を向けていた。

 

自身に向けられた砲口を見ながら、喜一は肩を竦める。

「まぁ、ふざけた事を言ってる自覚はあるがな。かと言って砲を向けられるのはなぁ」

「黙れ!私達は、もう人間の提督なんか必要ないのよ!」

「…人間って名乗るのには抵抗があるんだがな」

喜一がそう言った直後、発砲音が響いた。

 

だが、曙が向けていた連装砲ではない。

その後方、立ち上がった陽炎が一瞬で連装砲を向け、隣の不知火と共に放ったのだった。

 

放たれた計4発の砲弾は、喜一の頭と胸元を吹き飛ばす。

 

 

一瞬で血の噴水と化した喜一に、艦娘達は騒然となる。

「陽炎、不知火!何を…」

「始末しました」

「帰れって警告はしてたわ。

…奇妙な事を言ったから、『信頼できない』って判断して撃ったわ」

「いきなり撃つ事はないだろう!これで次に来た者がもっと悪かったならばどうするつもりだ!」

「また撃つわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きなさい!」

矢矧の声と、パァン!という音と共に、食堂中が静まり返った。

 

「…で、お膳立てはしたわよ」

「悪いな」

ありえない筈の声が聞こえた。

 

陽炎と不知火、長門が振り向くと。

「いやぁ、まさか一瞬で撃たれるとは思っていなかったな。方向も予想外だった。

…改めて名乗ろうか。提督として配属された永谷喜一だ。言っておく事はまぁ、死ねない哀れな化け物という程度だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはははは!着任した当日にもちゃっかり死んでんだ!さっすがは喜一だね!」

「まぁ、ここに着任した俺を初めて殺したのは陽炎と不知火の奴だったな。

…っと、11:55か。魔緒流、書類を金庫に入れてくれ。番号は000で開く」

「ほいほいっと。…終わったよ」

「んじゃ、執務机に隠れるか障壁貼るかしてくれ。死ぬぜ?」

「…あぁ、日課だね?」

そう言うと、魔緒流は障壁を貼った。

そして。

 

『12:00。昼休憩とします』

直後、喜一は扉ごと消し飛んだ。




着任当日の喜一の死因(2/2)
砲弾 1回

4/6 追記
誤字を修正しました。
誤字に気づいたら教えてもらえると助かります。


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8話

今回はちょっとした繋ぎ回なので字数控え目なのですじゃ。…ウワヘヘ(某タコ風)


喜一が魔緒流に着任当日の話をした日の夜。

 

「じゃあ、昨日で一応筋力強化は出来てたので、今日はいつか理屈の話をしながら、実戦形式で硬化と筋力強化を併用できるようになってもらいます!」

「…実戦形式って、下手したらお前怪我しないか?」

「心配してくれるのは嬉しいけど心配ご無用!状態固定の術式を起動してるから今の私は不死身なのだ!…魔力消費が多すぎるから普通は使わないんだけどさ。喜一とか陽炎ちゃんみたく無限に復活できるのは異常だよ。

…っと、話が逸れちゃったね。

まずは硬化に関する理屈から!」

そう言うと、魔緒流は指を1本立てる。

「とは言っても、硬化に関する理屈は1つだけ。

硬化は、硬化を相殺できるって事!」

喜一と陽炎は顔を見合わせた。

「…相殺ってどういう事だ?」

「えっとねぇ…。

まず前提として、硬化した物は硬化してない物だと、強度に大きな開きがない限り破壊できません!喜一はこれは分かってると思うけどね?」

「…そういえば、剣を硬化した箒で止められたな」

喜一の脳裏に浮かぶのは、魔緒流が鎮守府に訪れた初日。

「んで、この前提を踏まえた上で!

硬化してる物体に、同程度の硬化をぶつけると、硬化同士で相殺されて硬化が解除されます!で、こうなったら本体の強度の勝負になるよ!

…硬化に使う魔力量に差があったらその差分は相殺されきらないけど」

「…つまり、硬化をぶつけあうのと硬化無しでぶつけあうのはほぼ同じって事?」

「正解!

硬化の理屈はこんなもん!

んじゃ次に、筋力強化の理屈!」

今度は指を2つ立てながら魔緒流が言った。

「まず筋力強化ってのは、魔力を溜め込んで爆発させる事で筋肉に流れる魔力量を増やすんだよね。だから制御し損ねると爆発します!

んで、次が本題!

硬化と筋力強化は併用できません!」

「…さっき併用できるようになってもらうって言わなかったか?お前」

「それは言葉の綾だね!

『同じ場所では併用できない』ってだけで、違う場所になら併用できるよ!こんな風に!」

そう言うと、魔緒流は腕を硬化させ、足に筋力強化を発動させた。

「…なるほど、それを出来るようになれって事か」

「そうです!んじゃあ、まずは二人で頑張ってね!」

そして、魔緒流は空に飛び上がった。

「…とりあえず、試してみるか」

呟いた喜一は、右腕に筋力強化、左腕に硬化を発動させた。

…だが、数秒もせずに腕の魔力が霧散してしまった。

「難しいな、これ」

「慣れるまでは大変だけど、頑張ってね!ある程度慣れたら実戦でやるよ!」

上空から魔緒流の声が響く。

 

 

 

数時間後、なんとか併用できるようになった喜一と陽炎は、魔緒流と実戦形式で練習する事になった。

「んじゃ行くよー!」

「おう!」

手始めに喜一は足に筋力強化を、腕と剣に硬化を発動させて飛び込む。

矢のように飛び出した喜一だったが、魔緒流は苦もなく対応した。

硬化を使い、足で喜一の腕を止め、勢いが止まった喜一の背中に、箒の柄を押しつける。

「『発破』ぁ!」

「グファッ!?」

直後、喜一の体が弾けた。

 

「んじゃ次、復活待ちの間に陽炎ちゃん!」

「…お手柔らかに!」

叫びつつ、陽炎は飛び出した。

喜一と違い、腕に筋力強化を、鉄棍に硬化を発動させて振り下ろす。

 

「筋はいいけどね!」

そう言いつつ、魔緒流は硬化を箒に、腕に筋力強化を使用してから箒で地面を叩いた。

バキャァッ!という音と共に地面が砕け、陽炎は体勢を崩した。そして。

「ぃよいしょおっ!」

「きゃあっ!?」

 

魔緒流は箒で陽炎をぶっ飛ばした。

数m吹き飛んでから陽炎は停止する。

 

 

「さー、どんどん行くよー!」

そう言い、魔緒流は箒を構えた。




次回は、エンゼ様が通常投稿してる『深海の長』とのコラボです!

…が、あちらに足並みを揃えたいので更新を一時停止します。
書き貯めしとくんじゃ。


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9話(コラボ)

エンゼ様の『深海の長』とのコラボです。

…艦娘は陽炎が多少出るだけです。
それでは、どうぞ。


喜一の鎮守府にて、深夜。

「『インパクト』ォ!」

「ぐふぁ!」

魔緒流が突きと同時に発動した攻撃術式が、喜一を海側に吹き飛ばし、特大の水柱が立った。

「…っと、やり過ぎた。大丈夫?」

そう言いつつ、魔緒流は喜一の頭を拾い上げ。

ボロッと頭が崩れた。

喜一と陽炎は復活時、最も質量の大きい部分を核に復活するが、核でない部分は崩れるのだ。

あ、と思いつつ魔緒流は陽炎に声を掛ける。

「ごめん陽炎ちゃん、喜一探してくれる?多分胴体が丸々残ってる筈だから」

「はいはい。手伝ってね」

そう言い、陽炎は艤装を展開し、海に飛び込んだ。

 

 

…だが、見つからない。

「…こっちには無いや。陽炎ちゃん、そっちは?」

「ダメね、見つからない。探知する術式とか無いの?」

「そういえばあるや。ちょっと待ってね」

言いながら魔緒流は探知を開始する。

 

やがて、その額に冷や汗が浮かぶ。

「…復活の反応は拾ったけど、やけに反応が弱い。多分メチャクチャ遠い。後、反応的にはやけに分解しながら復活してるから、周りに色々あるね」

 

ここで小話を。

喜一と陽炎は復活する時、異物があった場合にそれを分解しながら復活する。そうでなければ、例えばギロチンにかけられたが最後、再生した瞬間に首に埋まったギロチンによって頭が再び落ちてしまう。

…まぁ首を落とした後にその断面を金庫にでも押し付けてやれば詰ませられるのだが。

閑話休題。

 

周りに色々ある、ということは。

「…島かなんかに埋まった?」

「…だったらいいんだけどね。

下手したら、海の中かも」

…この時の予測は、悪く当たっていた。

喜一は今、深海にまで沈んでいた。

当然、喜一の肺から空気は押し出される。

「ガボボボ、ガバボボボボ!」

(やっべぇ、沈む沈む!)

…適当な海流にでも乗って死にながら戻るか。

喜一がそう考えたとき。

 

波に喜一は流された。

もがいても無駄なので、死にながら無抵抗で流され続ける。

時折岩に激突して追加で死につつも流され続け。

やがて、空気のある部屋に着いた。

「10回は死んだぞ…。てか、なんで空気が」

あるんだ?とは続かなかった。

 

ガチャリと音を立てて、砲身が喜一に突きつけられた。

「動クナ、人間。オトナシクシテモラオウ」

「…深海棲艦に砲を突きつけられた提督は俺以外いないな。珍しい経験だ」

戦艦ル級が、喜一に敵意を向けていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「無抵抗デ捕マルトハ奇妙ナ奴ダナ」

「常人にどうやって抵抗しろと」

数分後、呆気なく喜一は捕獲され、グルグル巻きにされた上で何処かへと連行されていた。

…身体能力的には基本常人でしかない喜一では抵抗も何もないのだが。

やがて、ある扉の前に連れてこられた。

「貴様ハココデ待ッテイロ。司令ニ会ッテモラウ」

そう言ってル級は部屋に入り。

              (マルハチマルマル)

『司令!起キテ下サイ!!モウ○八○○デスヨ!!』

『…あと八時間寝かせて…』

『ソレダト夕方ニナッチャイマスヨ!ソレニ、侵入者モ来テマス!!ホラ、起キテ下サイ!』

『ふぁーい…。

って、侵入者ぁ!?』

「…俺、ここに来るまで何時間掛かったんだ?」

思わず喜一は呟いた。

 

やがて、ガチャという音と共に、扉が開いた。

「入レ」

「…どーも」

ごく短いやり取りの後、喜一は扉をくぐった。

しかし。(かんなづきいのり)

「…あ、神無月祷です」

「…どうも、永谷喜一です」

「「…」」

((気まずい…))

(侵入者って話だけどルーがグルグル巻きにしちゃってるし、なんかルーは殺さんとする視線でこの人見てるし!)

(捕虜になった経験がないから何から話せばいいのかわからん!つーか捕虜が勝手に口火切っていいのか!?後なんかル級が俺を殺さんとする視線で見てるぅ!もう俺を殺してくれ、殺して大海原にリリースしてくれぇ!)

(司令、何ヲシテイルンデスカ!早クコイツヲ始末スル命令ヲ!許可ヲ!)

と、3人で固まっていると。

 

ドドドド…という、地響きが3人の耳に届き。

「シレー!起キテー!」

という声と共に、ドアが吹き飛んでレー(戦艦レ級)が入ってきた。

…さてここで。

現在の室内は、奥に祷(司令)、向かい合って手前に喜一(侵入者)、祷の左後ろにルー(戦艦ル級)がいた。

だがここで、レーが入ってきた。

喜一の真後ろから。

つまり。

「ゴッハァ!?」

「グフッ!?」

…祷・喜一・レーの順にサンドイッチにされた。

ボキゴキメキャァッ!と、喜一の背骨は悲鳴を上げた。

その威力は、グルグル巻きにしていたロープが千切れ飛んだ事から推測できるだろう。

…ちなみに、この時喜一は祷の胸に飛び込む形になり、ルーからの視線に込められた殺意が更に強くなったのだが、当の本人はそれどころではなかった。

「ゲホッゲホッ…。レー、ドア壊さないで」

「…!」(悶絶)

「シレー、コノ人ダレ?」

「ん…?あぁっ!?大丈夫ですか!?」

「…尋問すんの3分待ってくれれば大丈夫」

直後、空気をぶち壊すように喜一と祷の腹の虫が鳴いた。

それを見ていたルーは、ややタメ息まじりに提案した。

「イイ時間デスシ…食堂デ食事ニシマセンカ?」

祷とレーはコクコクと頷き、喜一は親指を立てて賛成の意を示した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ということで。

祷、レー、喜一、ルーの順番で4人は食堂に来ていた。

「提督、オハヨウゴザイマス。…ソチラノ方ハ?」

「侵入者…らしいけど、さっきレーがね…まぁそういうことで。お腹も減ったし食べに来たんだ」

「あー…怪我はもう治ったんだが…」

「…結構骨カラヤベー音シテタケド?ツイ殺ッチャッタカト思ッタヨ?」

「…俺、死ねないんだよ。傷の治りも早いし。

…そもそも、ここに来たのも水圧や溺死で10回くらい死んでから偶々流れ着いたからだし」

「…って事は、侵入者じゃない?」

「世間一般で言うなら迷子だな」

「モシカシテ私、ハヤトチリシチャイマシタ?」

「…ルー、謝りなさい」

「ウッ…。

ゴ、ゴメンナサイ…」

「いや、運が悪かっただけだからいいんだけどさ…。

…あ、後でこの辺りの上昇海流案内して。流れてくから。

とりあえずB定食1つで」

「…馴染ミスギデハ?ア、私ハA定食デ。司令ハ?」

「部下が迷惑かけちゃったみたいだし、送るよ?で、私もA定食かな」

「ワタシB定食ー!」

「分カリマシタ、A定食2ツニB定食モ2ツ。デハ暫クオ待チ下サイ」

そう言うと、厨房に入っていった。

 

「…送ってもらえるのはありがたいけど、職場が鎮守府で艦娘がいるから遠慮しとく。適当に死にながら昇るさ」

「なんか死ぬって言葉が軽く感じ始めたけど…軽くないよね?」

「まぁ、少々狂ってるのは自覚してる。かといって地図や通信機を借りるわけにもなぁ。機密の問題もあるし。…っと、来たらしい」

喜一がそう言った時、定食が4つ運ばれてきた。

 

「じゃあルー、レー。手を合わせて」

祷が声を掛けると、ルーとレーは頷いて手を合わせる。喜一も当然だが倣って手を合わせる。

『いただきます(イタダキマス)』

そして、4人は朝食を食べ始めた。

 

 

数分後。

『ご馳走様でした(ゴ馳走様デシタ)』

「ハイ、オ粗末様デシタ」

4人は綺麗に朝食を食べきっていた。

食器を規定の位置に返却した時。

 

「ヤット見ツケタ、レー!」

「アッ、ヲー!」

ヲー(空母ヲ級)が食堂に入ってきた。

「イキナリ『司令ヲ起コシテクル』ッテ言ッタノニ、司令官ノ部屋ニハイナイシ!」

「起コシタラソノママ朝ゴハンニ行ク事ニナッチャッテ」

「全クモウ…。スイマセン、司令官」

「大丈夫だよ。ヲーは優しいね」

「ハフゥ…」

祷がヲーの頭を撫でていると、レーが不満を漏らした。

「シレー、僕モ撫デテ撫デテ!」

「はいはい、慌てないで。ちゃんと撫でるから」

「エヘヘー…。シレーノ手、暖カイ…ッ!?」

ドンッ!と、レーが押しやられた。

いつの間にか、先程厨房にいた深海棲艦の一人、泊地水鬼がレーのいた場所を奪っていた。

「…ハクキ、どうしたの?」

「ココハ譲レマセン」

「ハクキ!ソコドイテヨー!」

「アノ、レー。コッチ譲ルカラ…」

「ソッチノ手ガイイノー!」

 

「…俺、お邪魔か?」

保母のようになった祷を見て、喜一が呟いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…えっと、改めて。

ここの提督、神無月祷です。元帥棲姫って言った方がいいかな?」

「…すまん、元帥棲姫って言われてもわからん。改めて、永谷喜一だ。地上の鎮守府で提督をやってる。後、さっきも言ったが死ねない身でね。こんな成りだが百歳は越えてる」

二人は応接室で向かい合っていた。

「んで、単刀直入に言わせてもらうと、俺はなるべく早く地上に戻りたい」

「…戻したいんだけど、今は無理かな。この辺りに今タイフーンが来てて海中は泳げる状態じゃないから。明日には過ぎるわ」

「…しばらく、お世話になりやす」

言いつつ、喜一はガクリと肩を落とした。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その日の夜。

喜一に割り振られた部屋に祷が訪ねてきた。

「やっほ。世間話でもしない?」

「…部下がいるだろ。なんで余所者と話すんだ?」

「皆遠慮しちゃうんだよね。それに、私と君との間じゃあ所属も違うから上下なんてないでしょ?」

「…そういうことならいいけど、話すネタがない」

「身の回りの事で!出来ればここ20年位で!」

…その晩、喜一の部屋から明かりと話し声は途絶えなかったという。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日。

「うー、眠い…」

祷は寝ぼけ眼を擦りながら着替えていた。

結局、昨日は朝になるまで起きていてしまったのだ。

「司令!起キテ下サイ!…珍シイデスネ、モウ起キテマシタカ」

「あー、うん…。とりあえず、朝ゴハン食べたらあの人送ってくるから」

「イエ、司令ガ行カナクテモ…」

「ちょっと久し振りに体も動かしたいんだ。なるべく早く帰ってくるけど、それまでお願いね!」

そう言われ、ルーはコクリと頷いた。

 

で、朝食後。

「お、おぅ…。これが元帥棲姫か?」

「マァネ。…サテ、掴マッテ。出来ルダケ圧死シナイヨウ気ヲツケルカラ。水中眼鏡ト酸素ボンベハ持ッタ?」

「おう。…なんで潜水道具あったのか疑問だけどな」

「気ニシナイデクレ。デハ、行クゾ!」

そう言うと、元帥棲姫は抜錨した。

 

道中。

「…しっかし、今後どんな顔であいつらに『深海棲艦を討て』って命令すりゃいいんだ?もう俺の中で『深海棲艦=敵』って認識が崩れかけてるんだが」

「…人間ダカラッテ全員ガ善人トカ悪人シカイナイッテ言ウ事デモナイデショ?ソレト同ジ事ダヨ」

「そういうもんか?」

「ダカラ、気ニシナイデ。勿論私ニトッテ部下ガ一番ダケド、知リ合イガ死ヌノハ見タクナイカラ。例エ死ナナクテモ」

「…善処しよう」

「ソレト、既ニ宣言シタケド私達ノ海域ハ専守防衛ヲ貫クカラ。侵入シナカッタラ戦闘ニハナラナイヨ」

「…了解」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

数時間後、祷と喜一は海面に顔を出した。

「着イタヨ」

「おー。…死なずに深海から昇ってきたのは初めてだ。

さて、後はここからの移動手段だが…」

そう呟いた時、何かが飛んでくるのに喜一と祷は気づいた。

 

「おーい、生きてるー?」

「魔緒流か。ここだ!拾ってくれー!」

喜一が呼び掛けると、魔緒流は高度を下げてきた。

 

「昨日の早朝にこの辺りで復活の反応拾ったのが最後に反応が途切れちゃってさー。しばらく飛び回ってたよ」

「苦労かけたらしいな。すまない」

「良いって良いって。

…それより、そっちは?」

「…元帥棲姫」

「へー。

娘乙華魔緒流だよ!魔女だよ!」

「…魔女?」

「あー、特に害はない。何処ぞの魔女が深海棲艦に攻撃術式試したら無理なんだったっけ?」

「そだよー。ま、今日は喜一拾って帰るよー。じゃあね!」

「…まぁ、縁があったらまた」

「…会エルト思エナイケド、ソウダネ。マタ会エタラ、世間話シテネ」

「…ネタ考えとく。じゃあ!」

「喜一がクビにされたらこの辺に捨てに来るね!」

物騒な宣言をした直後、魔緒流は箒でかっ飛ばした。

 

 

「…サテ、私達ノ鎮守府ニ戻ロウカ!」

そう言うと、祷は潜水して行った。

 

「随分長く沈んでたね?」

「まぁ色々とな。しかもこの辺りにタイフーンが来てて海中が荒れたせいで収まるのを待つ羽目になった。ただ…」

「ん?」

「あそこの深海棲艦達は多分、やろうと思えば人間社会にも溶け込めるんだろうな、って事を実感したさ。人間はまぁ憎くは思ってる節があるが、着任直後のアイツらよりは敵意も薄い。信頼できる人間の司令官がいる、っていうのが大きいんだろうな」

喜一はそう言うと、後ろを振り向いた。

既に海上には、元帥棲姫の痕跡は消えている。

だが、それでも。

彼女は暮らしていくのだろう。

自分を慕う部下達と共に、深海の楽園で。

 

 

 

「…ところで、あの深海の基地は大本営に伝えないの?」

「知り合いを売る気はないさ。それに」

「うん?」

「『地図も無ければ座標を知る術もなかったので特定不能』だからな」

「あっはっはっ。君、昇進する気無いでしょ」

「昇進なんざしたくない。死にづらくなる」

「ザ・君!って感じの理由だね…」

呆れ気味に魔緒流は呟いた。




以上です。

では。

6/9 追記
書き忘れてた小ネタ
死にながら昇る
もしかして:昇天


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10話

コラボ話の後始末(?)
当然、深海に沈んでた喜一に書類が捌ける筈もなく、な話しです。


喜一がひょんな事で行ってしまった深海から帰還した翌日。

 

「朝の爆死は2日ぶりだ…!」

僅かに歓喜すら含みながら呟いた喜一に、呆れたように陽炎が尋ねた。

「…あんた、深海棲艦の基地に行ってたのよね?死ななかったの?」

「あそこは穏やかな雰囲気だったからな。専守防衛をモットーにしてるらしいし」

何よそれ、と吐き捨てるように陽炎は呟いた。

既に、陽炎や矢矧には深海の鎮守府について話している。

…地図で大体の場所を見てみた所、深海棲艦の勢力圏のど真ん中であり、『細かい場所が分かっても仕方ない』と判断したからなのだが。

 

「…んじゃ、書類溜まってるからよろしく」

「ぐへぇ…。流石に丸二日空いた分多いな」

「グチグチ言わない。手伝うから」

「どーも…。後、扉に『爆殺厳禁』って貼ってくれ。この量は金庫に入らんから爆殺されたら諸々吹っ飛ぶ」

「それもそうね」

そう言うと、陽炎は扉に『爆殺厳禁』と書かれた看板を取り付けた。

 

 

そして、溜まりに溜まった書類を捌き始めたが。

「提督!深海に行った感想を!何か新兵器とかの情報は無かったんですか!?」

「深海は何回か行ったが相変わらず息苦しい、寒い、暗い!あと新兵器の情報を侵入者に見せるバカがいるか!」

青葉が押し掛けてきたり。…謎の情報網があるらしく、深海棲艦の基地に行った事まで把握していた。

 

「プロデューサーさん!那珂ちゃん、遠征から帰ってきたよー!」

「…疲れる要素が増えた」

「私もねー!」

「魔緒流はやめろって!」

那珂が遠征の報告をしに来て、魔緒流が便乗したり。

 

「死ね、クソ提督!」

「拳銃っ!?」

曙に頭を撃たれたり。…書類がないタイミングで撃ったのは流石か。

 

そんなこんなで疲労困憊になりながらも、なんとか喜一は3日分の書類を捌ききった。

 

疲れきった喜一が執務室を出ると。

「提督、お疲れさまです」

全身びしょ濡れの扶桑が立っていた。

「…すまん扶桑。濡れ鼠の状態で物陰から出てくるのはやめてくれ、心臓に悪い。てか、今日雨降ってたか?」

「いえ、昨日提督に使う為に仕掛けておいた、二段仕掛けの感電トラップの一段目を浴びてしまいました」

「…自分で仕掛けたのに?」

コクリ、と扶桑は首肯した。

ハァ、とため息をついてから喜一は口を開く。

「そのままだと風邪引くから風呂行ってこい。空いてるだろ」

「いえ、船渠はボイラーが壊れてしまいまして…。今明石さんと夕張さんが修理中なんですが」

「…あまり言いたくないが、流石不幸艦。

仕方ねぇ、俺の家の風呂使ってくれ」

そう言うと、喜一はポケットから鍵を取り出して扶桑に渡した。

「…ありがとうございます。

それと…」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は山城と翔鶴さんも巻き込んでしまって…」

「…3人とも、順番で使ってくれ。

俺は魔緒流に頼んで水死してくる」

言いながら、喜一は魔緒流を探して歩き始めた。

 

喜一がしばらく歩いていると、ばったりと瑞鶴に出会った。

「あぁ瑞鶴。魔緒流の奴知らないか?」

「提督さん。珍しいね、提督さんが魔緒流さん探すのって。…けど、魔緒流さんがどこにいるかはちょっとわかんないや。偵察機出そうか?」

「いや、そこまではしないでいい。地道に探す」

「そうなんだ。そう言えば、翔鶴姉知らない?さっきから探してるんだけど…」

「…俺用のトラップを扶桑が仕掛けてたが、巻き込まれてずぶ濡れになったらしい。船渠は今水風呂の有り様らしいから、交代で俺の家の風呂を使わせてる。…多分今日は執務室横の仮眠室で寝るようだな」

「そう言えばあったっけそんなの。

…あっ、忘れてた」

そう言うと、瑞鶴は懐に手を差し込み。

 

「ていっ!」

「物理法則仕事しろっ!?」

まさかのショットガンで喜一は吹っ飛ばされた。…どこから出したのは気にするな。

 

 

しばらくして復活すると、探していた魔緒流が喜一の顔を覗き込んでいた。

「探してたみたいだけど、どした?」

「いや、今日家の風呂が使えそうにないから水死させてもらおうと思ってな」

「あれ、喜一の家のボイラーも壊れた?」

「…扶桑と山城と翔鶴が濡れ鼠になったから使わせてんだよ」

「なるほど!んじゃ行くよー!」

そう言って、魔緒流は魔法で水流を生み出し。

 

「ちーす提督ー!明石さん謹製の、このスタンガンの威力を思い知れー!

…え?」

「ちょっ、おま」

「あっ」

鈴谷がスタンガンを持って飛び出してきた。

…当然ながら、殆どの水は電気をよく通す。

つまり。

 

「「アバババババババッ!?」」

鈴谷と喜一は感電した。

 

 

「死にかけたし!」

中破し、髪からプスプスと黒煙を上げながら鈴谷が叫んだ。

「よく見てから仕掛けろよ…。とっとと入渠してこい。多少冷たいのは不注意の自己責任な」

「冷たいのはボイラーのせいじゃん!」

「お前が無茶しなけりゃ入渠の必要も無かっただろ」

「そうだけどさー…。

そうだ!後で提督の家のお風呂使わせてよー。そっちならボイラー使えるよね?」

「…濡れ鼠の先客がいるからキツいな。扶桑と山城と翔鶴が使ってんだわ」

「えー…。なんで不幸艦組が使ってんの…?」

「自業自得ではあるが、順番のせいだ」

ぶーぶー、とぼやきながら鈴谷は入渠ドックへ向かっていく。

それを見ながら、喜一は食堂に向かった。

 

 

その後の食堂にて、頼んだ定食を食べた喜一は違和感を覚えたので間宮に尋ねた。

「…間宮さん、隠し味に何入れたの?」

「たまには私も、と思ってフグの肝を提督の味噌汁に入れておきました♪」

「ナチュラルに 殺意高いぜ 間宮さん。喜一、死に際川柳」

ガクリ、と喜一は倒れ伏した。死因はテトロドトキシンによる中毒。




本日の死因
爆発 1回
拳銃 1回
ショットガン 1回
毒 1回

…瑞鶴がショットガンを隠し持ってた方法?
多分妖精さんの仕業。


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11話

ネタバレ:今回は死なない


ある日、執務中に手紙を見た喜一は、普段よりも低い声で陽炎に言った。

「…陽炎、全員を食堂に集めてくれ。緊急事態だ」

「いいけど…。何かあったの?」

やや不安の色を滲ませながら聞き返した陽炎に、喜一は手紙を渡した。

「『要請書』と書いて『命令』と読ませる代物だ」

渡されたを読んだ陽炎の顔色が変わる。

「『そちらの保有する全ての艦娘を当鎮守府へ無期限派遣せよ。又、資材は全て当鎮守府へ無償にて譲渡し、そちらの提督は新設される泊地へ単身で転属せよ』。…何よこれ!ふざけてんじゃないの!?こんなん無視して…!」

「肝心の送り主は嘉祢画星井大佐、大本営の中将の息子だ。下手すりゃあることないことでっち上げられて俺は島流し、お前らはどこぞの鎮守府に転属させられるだろうな」

「…横暴過ぎるわよ、そんなの」

陽炎が吐き捨てる様に呟くと、喜一はため息まじりに口を開く。

「ただし、とある。『演習においてそちらが息子の艦隊に勝利すればこの件は無効とする。嘉祢画中将』…だとさ」

「…あっちの提督の親かしら?」

「だろうな。ここは明確な違反も多分無し、最低限には戦果をあげてるし、そもそも着任前に『戦果は気にしない』って大本営から直々に言われてる。流石に今回みたく有無を言わさず無理やり転属させるのは批判されるから批判の逃げ道で作っといたんだろ。…ただ、俺が一人で作戦を組んだら正直勝ち目は薄い。だから編成まで含めて相談したい」

「なるほどね。じゃあ13:00に集合させるわ」

「そうしてくれ。俺はワンチャン魔緒流に頼ってみる」

そう言うと、喜一は内線で那珂を呼び出した。

「那珂…ちゃん。魔緒流の奴そっちにいるか?」

『あっ、プロデューサーさん!マオちゃんならいるよー。替わろうか?』

「頼む」

『はいはーい!ちょっと待ってね!』

那珂がそう言った数秒後、魔緒流の声が電話から聞こえた。

『珍しいね。どしたの急に』

「相談があるから執務室まで来てくれ」

『ほーい。ちょいと待ってね』

ガチャン、と内線が切れる。

 

 

数分後、魔緒流が執務室の扉を吹っ飛ばしながら入室した。

「来たよー」

「扉壊すなよ…。んで、本題なんだが」

喜一は手紙の件を魔緒流に話した。

「んー…。ちょっとむちゃくちゃ過ぎるね。ソイツ暗殺してこようか?認識阻害くらい簡単だからサクッと殺れるよ?」

「自粛してくれ。今死んだら不自然すぎるだろう。十中八九俺の仕業って事にされる。…いきなり暗殺に思考が向いたって事は無理か。魔法でどうにかなんねぇかな、って期待してたんだが」

「ちょっと無理かなー。そもそも『どうにか』ってアバウト過ぎ」

「だよなぁ…。やっぱ正攻法か」

「正攻法?」

喜一は演習の話も魔緒流に伝えた。

「ふーん…」

「そういうわけで、13:00から全員を食堂に集めて話をする。…んで、お前には他に頼みたい事がある」

「はいはーい。何?」

聞き返す魔緒流に、喜一はある依頼をした。

 

 

そして13:00、食堂。

「…と言うわけで、取れる選択肢は2つだな。1つは服従。何もせずに大人しく従うこと。もう1つは対決。1ヶ月後の演習で勝てばこの話は無くなるからそれに賭ける。てなわけで確認しとく。

…お前らはどうしたい?」

喜一がそう聞くと、艦娘達に動揺が生じた。

しかし、数秒後。

「面白ぇっ、上等じゃねぇか!」

「諦める訳ないでしょ!」

「やってやろうよ!」

「何もしないで諦めるなんて、したくない!」

天龍、曙、鈴谷、瑞鶴。

ある意味では喜一の予想通りの面子が声をあげた。

確認で矢矧に視線を向けると、『好きにしろ』と目で言っていた。

 

「…じゃあ、件の演習は受ける、って事で作戦を考えたい」

「あのー、その件でお話があります」

そう言いつつ、青葉が挙手をした。

「話?」

「実はその鎮守府なんですが、どうにも黒い噂が絶えないんです。噂なんですけど、艦娘に休みも与えないで、ロクに補給も修理もさせないで出撃させてたり、捨て艦や虐待は日常茶飯事らしいです。…ただ」

「バレても親が中将ともなれば簡単にもみ消せる、か。…となると、最悪の場合を想定した方がいいかもな」

「最悪?」

青葉がおうむ返しに聞き返す。

喜一が予想した最悪の話をすると、全員が絶句した。

 

ややあって長門が口を開く。

「…そ、それは流石に有り得ないのではないか?」

「…ちょっと勘の話をするが。

多分嘉祢画大佐の目的は、まず第一に資材。第二に取引素材として雪風達、俗に言う『レア艦』。第三にこの鎮守府の運用資金。最後に捨て艦にする、もしくは解体する為の、言っちゃあ悪いが『その他の艦』だと俺は判断する」

再び艦娘達の間に動揺が走る。

不意に、矢矧が喜一に尋ねた。

「…喜一の判断の基準は?」

「勘が大部分だが…。

根拠としちゃあ、優先順位はともかくとして、資材、資金、レア艦の辺りを標的とするなら、この鎮守府ほどうってつけの場所はない」

「何故?」

「第一に、この鎮守府はそこまで出撃してる訳じゃないが遠征自体はしてるから資材はそこそこある。次に、俺は提督としちゃあ素人だから横槍を入れられづらい。…事実、俺は軍内部だと横にも縦にもコネはない。んで、3つ目に。この鎮守府の艦娘は大本営からの信用って点じゃどうしても低い。だから大本営に誰かが伝えても、憲兵が動くまでにはどうしても時間がかかるし、そもそも嘉祢画中将が一喝すりゃあ握り潰される。以上の条件から、ここが狙われたと判断した。んで、そこまで頭を回せる奴なら、万が一を無くす為にもこっちを確実に叩き潰す手を使ってくる。大した策も何もなく、かつ『間違えた』って惚けて逃げられる手段。ここまで絞り込めば、自ずと見えてくる」

そこまで言い切った喜一は、全員が意外そうな目で見ていたので、ため息まじりに再び口を開く。

「…いや、大体わかるだろ。このぐらい」

『わ か る か !』

艦娘達の大声が鎮守府に響いた。




てことで1話挟んで演習。ただし描写はカットの予定。


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12話

繋ぎ回。
今回も死なない。


鎮守府の、文字通り全てが賭かった演習まで、後1週間まで迫ったある日。

「…参ったな」

喜一が呟いた。

 

と言うのも、原因は喜一の目の前にある手紙に『1週間後の演習において、荒天時と仮定し航空戦力の投入を禁止とす 志多羽中将』と書かれている事である。

この手紙自体は更に1週間前に送られてきたのを、内容に疑問を感じた喜一が青葉に1週間かけて調べてもらったのだが。

「案の定でした。志多羽中将は鎮守府の提督でしたが嘉祢画中将の推薦によって大本営に栄転、その後も嘉祢画中将によって中将にまで昇進しています」

「つまり志多羽中将は嘉祢画中将の手下って事か」

「はい。また、嘉祢画大佐とも繋がりが深く、彼の要望にはほぼ無条件に従っているそうです。おそらく…」

「大佐殿は資材がほぼすっからかん。ボーキサイトがないから航空戦力を使えないんで、こういう搦め手を打って来た。…って言うのはこっちの思い上がりか」

 

 

「いや、合ってるよ」

唐突に、魔緒流が会話に割り込んだ。

「潜入ご苦労さん。どうだった?」

「どうもこうも、殆ど噂通り、もしくは噂より悪いって感じだね。資材は相当逼迫してるし」

「…魔緒流さん、潜入なんてしてたんですか?」

青葉が震え混じりに聞くと、魔緒流は首肯した。

「認識阻害使えば楽だしね。ちなみに、通報すれば1発で嘉祢画大佐をクビにできる程度には犯罪の証拠が出てきたよ」

「そっちは握り潰されるのがオチだ。

…予想の件について言及は?」

「無茶苦茶な嘘でごり押ししてるね」

「そりゃまた。…なら、相応の対策をさせてもらおうか」

そう言うと、喜一は内線に手を掛けた。

 

 

30分後、大食堂に全艦娘が集まっていた。

「…1週間後の演習だが、残念ながら予想通りになっちまいそうだ。

てなわけで、そこをふまえた編成の仮案を発表する」

喜一がそう言うと、食堂中がざわめいた。

「…発表するぞ?

旗艦は陽炎。多分一番狙われるからな。

以降雪風、矢矧、浜風、不知火、曙。

俺のとりあえずの考えとしては陽炎と雪風で突貫かな」

「…正気?私はともかく、雪風は」

「だからこそ、だよ。レア艦に該当する雪風はアッチとしても確保したい艦だから、万が一にも沈めるわけにはいかない。…筈。

んで、ホントに予想が当たっちまった場合は陽炎を残して全員退避、陽炎は突っ込んでくれ」

そう言うと、喜一は立ち上がった。

「改めて確認しておく。

演習は1週間後、艦隊は陽炎、雪風、矢矧、浜風、不知火、曙。負ければ鎮守府の生命線を全部、綺麗さっぱり持ってかれる。勝ってもなんもない。

…以上を踏まえて、勝ってくれ」

そう言い、喜一は再び座る。

引き継いで、陽炎が立ち上がった。

 

「じゃあ、私たちで作戦を詰めていくわよ。呼ばれたメンバーは全員集合、遠征や演習、出撃はメンバーが組み込まれないように。…構わないわよね?」

「あぁ。その辺は必要に応じて判断任せる。改装も任せる…って、改二はまだ開発中か」

喜一がそう言うと、明石が挙手をした。

「そういえば、陽炎さんと不知火さんに第二次改装の、浜風さんにも改修案が来てます。練度は十分なので、資材さえ融通してもらえればすぐにでも」

 

そう言われ、喜一は多少考えてから口を開く。

「…陽炎、資材の残量は?」

「余裕はあるわ。ただ、改二改装の資材消費を考えると、改装した場合しばらく戦艦や空母、場合によっては重巡と軽空母の運用もギリギリになるわよ」

「後の事は考えなくていい。負ければ全部持ってかれるしな」

「…それもそうね」

喜一があっさりと言い放った事実に、陽炎は頷きながら答えた。

 

パンパン、と手を叩いて切り替えるように促しながら、喜一は口を開く。

「明石、夕張。陽炎と不知火の第二次改装、それと浜風の改修を頼む。陽炎には第二次改装の調整が完了次第全面的に丸投げさせてもらう。以上、解散!」

「相変わらずね。…けど、自分の意見しか認めなかった前任者よりもずっといいわ」

苦笑しながら言うと、陽炎は工廠に向かって歩いて行き、やや遅れて不知火と浜風も陽炎の後を追って工廠に向かった。

 

 

「…魔緒流、少し頼めるか?」

「はいはーい。何すればいい?」

「小細工。手紙と署名、お前の見つけた証拠を入れたんで、この封筒をこれから言う場所に届けてきてくれ」

そう言い、喜一は魔緒流に封筒を渡した。

魔緒流は試しにその封筒から手紙を取り出して見てみたが。

『559151729123427243425255915152449155425551725272

4500915155914291211272345145513351

91214551910091255223125272522142524552211275915121422252423352

4591215233427252009133515591514591555121912100915145424291759121917551』

「…何これ」

「俺と知り合いとの間で使う用の暗号」

「…まぁいいや。どこに届ければいいの?」

「皇居」

「…へ?」

ポカン、と。

珍しく魔緒流が唖然とした。

 

 

 

「そこで知り合いが来る」

「あっ、なーんだ…」

ややこしい喜一であった。




以上。


そろそろ書き貯めが切れる。


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13話

演習編ラスト。
ただし描写は省略してます。


演習当日なのだが、先に両艦隊の編成と結果を言おう。

 

編成

嘉祢画艦隊

旗艦 榛名改ニ

僚艦 羽黒改ニ

   古鷹改ニ

   大井改ニ

   時雨改ニ

   江風改ニ

 

永谷艦隊

旗艦 陽炎改ニ

僚艦 雪風

   不知火改ニ

   矢矧

   浜風乙改

   曙

 

結果

嘉祢画艦隊

榛名・古鷹・大井・江風 判定大破

羽黒 判定中破

時雨 判定小破

 

永谷艦隊

曙 中破

不知火改ニ・矢矧 カスダメ

 

 

よって、喜一が率いる艦隊の勝利となったのである。

 

だが、これに嘉祢画大佐が抗議した。

「この演習は無効だっ!

なんなのだ貴様の旗艦はっ!?」

「ご覧の通り、不死身ですよ。理屈は知りませんけどね」

「そんな者を演習の旗艦に据えるなっ!」

「それは妙な事を。演習ならば不死身だろうが関係無い筈ですよ?」

煽るように言いつつ、喜一は立ち上がる。

「確かに彼女は死にません。肉片になっても再生します。

…しかし、これには条件、もとい前提があります」

「前提、だとぉ?」

「えぇ、前提。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…貴方がした様に、実弾で撃たれでもしない限り演習では負傷しないので、再生も何もないのですがねぇ?」

ギクリ、と硬直した嘉祢画大佐を見て、『バレてないと思ってたのかよ…』と喜一は心の中で悪態をつい

た。

 

そう、喜一の予感した『最悪』とは、演習に置ける実弾の使用である。

当然、実弾では演習弾と異なり、損傷判定を与えることは出来ない。

だが、そもそもの損傷を与える事は可能である。

演習に参加した艦娘がいなくなってしまえば、必然的に続行不可能と見なされ敗北する。

故に嘉祢画大佐はこれを利用し。

喜一はこれを予測して対策を講じた。

 

1つは雪風を突撃させた事。

所謂『レア艦』である雪風に対し、沈めかねない実弾砲撃は躊躇せざるを得なかった。

そして、不死身である陽炎。

演習弾による損傷判定ならば、陽炎はただの駆逐艦にまで成り下がる。

だが、実弾が用いられれば『ゾンビ行為』が可能となる。

最後に、陽炎を残しての全力逃走。

陽炎を殺せない以上、残る僚艦を狙うしかない。

故に喜一は、編成に重巡以上の艦娘を組み込まなかった。逃げ足が遅く、集中砲火を受けかねなかった為だ。

 

 

 

硬直したままの嘉祢画大佐を見た喜一は、そのまま畳み掛けることにした。

「…既に、貴方がしでかした事の証拠は憲兵に届けてあります。直にここにも憲兵が…」

来ますよ、という喜一の言葉は続かなかった。

ガチャリ、という音と共に、数名の憲兵が雪崩れ込むや否や喜一に小銃を突きつけた。

 

 

「…ふっ、フッハッハッハッハ!

形勢逆転とはこの事よな!」

「…一応、説明を聞いても?」

「ふっ、簡単だ!この憲兵達は志多葉殿の腹心の部下っ!故に貴様の上げた『証拠』とやらもここにあるのだっ!」

そう言うと、嘉祢画大佐は封筒を取り出し、そして。

 

 

「これで、貴様は終わりだっ!!」

 

封筒を、中身ごと破り捨てた。

そして、残骸を放り投げながら右手を高く掲げ。

「殺れっ!」

直後、喜一を囲んでいた憲兵は小銃で喜一を射殺した。

 

 

 

射殺された喜一は、しかし当然のように再生を始め。

再び放たれた銃弾が、喜一を射殺する。

 

「貴様が死なないこと等、把握しているわっ!だからこそ、これを用意したのだ!」

そう言うと、嘉祢画大佐はパチンッと指を鳴らし、憲兵の一人がガラスに入った薬品を押してきた。

 

「工業用の濃硫酸だ…。骨まで溶かした上で封印して」

「動くな」

やろう、というセリフは遮られた。

いつの間にか、背後を取られている。

咄嗟に憲兵たちを見るが、そちらも背後を取られて武装を捨てている。

 

「…今回は随分慎重だったんだな」

「たわけ。これでも2、3段階すっ飛ばしたぞ」

復活しきった喜一が、嘉祢画大佐の背後を取っている人影と会話を始める。

 

 

「さて。幾つかの裏付けは甘いが、とりあえずこいつらは殺人と殺人幇助で引っ張ろう」

「殺人(生き返る)」

「黙っておれ」

「へいへい。    (なかつぎと)

んじゃあ以降宜しく、中継人」

「言われずとも。動くに足る証拠があれば我々0番隊は動くさ」

0番隊、と言われた嘉祢画大佐は耳を疑った。

 

「ぜ、0番隊だと!?ありえん!何故貴様にそのようなコネがあるのだっ!」

「コネって呼べるもんでも無いけどなぁ…。

司依娜の奴ぐらいか?繋がりは」

「うむ。聞けば既に亡くなったと聞くが、死に目には立ち会いたかったものだ…」

忘れられたかもしれないが。

阿嘉耶司依娜とは、喜一を不死にした張本人であり、魔緒流の師匠でもある。(名前のみ登場の故人)

 

閑話休題。

中継人は、改めて嘉祢画大佐を立ち上がらせると扉から運び出していった。

…ちなみに、先程嘉祢画大佐が引き裂いた証拠は囮としての予備である。魔緒流便の精度は伊達ではないのだ。

 

 

 

その後。

喜一が、庁舎から出ると、演習に参加した艦娘の内曙を除く5人が待っていた。

「曙は?」

「入渠しなきゃだから先に帰らせたわ。魔緒流さんにお任せしちゃったけど」

「おし。んじゃ撤収!」

そう言うと喜一は、行きに乗ってきたワゴン車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

オマケ

喜一達が鎮守府に戻ってきた後。

 

唐突に、魔緒流が喜一に尋ねた。

「そういえばさー、あの暗号ってなんだったの?」

「あー、あれか。

んじゃやり方言っとくか」

※手元にPCをご用意してください。

「まず、あの数字を2つずつ区切る。そうするとこうなる」

 

55 91 51 72 91 23 42 72 43 42 52 55 91 51 52 44 91 55 42 55 51 72 52 72

 

45 00 91 51 55 91 42 91 21 12 72 34 51 45 51 33 51

 

91 21 45 51 91 00 91 25 52 23 12 52

72 52 21 42 52 45 52 21 12 75 91 51 21 42 22 52 42 33 52

 

45 91 21 52 33 42 72 52 00 91 33 51 55 91 51 45 91 55 51 21 91 21 00 91 51 45 42 42 91 75 91 21 91 75 51

 

「次に、11を『あ』として、以降を50音に対応させる。ちなみに00は『ん』だ」

 

すると、以下のようになる。

 

 

のらなみらくちみつちにのらなにてらのちのなみにみ

 

とんらなのらてらかいみせなとなすな

 

らかとならんらこにくいにみにかちにとにかいもらなかちきにちすに

 

とらかにすちみにんらすなのらなとらのなからかんらなとちてらもらからもな

 

「んで、パソコンのキーには幾つか文字が書いてあるが、右下の文字に注目して上の文章を打ち込むと、画面上ではローマ字の文章が出来上がる」

それが以下の通り。

 

kou no hanzai koui wo kakunin

syouko wo tenpu suru

otsu oyobi hei ni taisitemo utagai ari

sotira ni yoru taiho to tyousa wo motomu

 

ここまで来れば、もう十分だと思われるが、一応復元すると、

『こうのはんざいこういをかくにん

しょうこをてんぷする

おつおよびへいにたいしてもうたがいあり

そちらによるたいほとちょうさをもとむ』

となり、原文は

『甲の犯罪行為を確認

証拠を添付する

乙及び丙に対しても疑いあり

そちらによる逮捕と調査を求む』

である。

ちなみに、『甲』は嘉祢画星井大佐、『乙』は嘉祢画或蔵中将、『丙』は志多葉小間中将である。




Q.なんで嘉祢画大佐は喜一が不死って知ってたの?
A.返事がない、考えていなかったようだ。
ちなみに大佐の艦隊は『脅しやすい』艦娘を集めてます。

あ、短編集の投稿始めました(チラ裏)。
もっぱら思い付いたネタを晒すだけ。


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14話

ネタ切れかつ書き溜めが切れたので更新止まります。


演習から数日後。

 

喜一が書類を処理していると、執務室の扉がノックされた。

返事をするより早く、陽炎が扉を開けて顔を覗かせる。

 

「陽炎か。何か用か?」

「嘉祢画元大佐の鎮守府から二人、ウチに転属してくるって話。もう来たわよ」

「あぁ、アレ今日か。入れてくれ」

そう言われた陽炎が促すと、二人の艦娘が執務室に入ってきた。

その内の一人には、喜一は見覚えがあった。

 

 

「…確か、こないだの演習にいたよな?」

「そうだよ。

僕は白露型駆逐艦、『時雨』。これからよろしくね」

喜一と時雨が会話をかわした、直後。

 

「…時雨に気安く話しかけるなっぽい」

その声を聞きながら、喜一の視界は暗転した。

理由は単純、もう一人の艦娘、夕立が力任せに喜一の首を引き千切ったからだ。

 

 

夕立はそのまま、勢いに任せて陽炎にも飛び掛かる。

「あっぶ、ない!」

辛うじて反応した陽炎が、屈む事で夕立を避ける。

追撃しようとした夕立だったが、時雨が羽交い締めにして制止する。

 

「こら」

その間に復活した喜一は、ハリセンをどこかから取り出して夕立を叩いた。

…ちなみに魔法の獲物ではない。強いて言うならギャグの獲物だ。

 

そして、喜一は口を開く。

「首を引き千切るのはやめろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血で書類が汚れる」

「そこなのかい!?」

時雨にハリセンでひっぱたかれた。

 

 

で。

「…とりあえず、話を聞いていいか?」

「話す事なんかないっぽい。解体でも捨て艦でも好きにしろっぽい」

「…ダメだこりゃ。嫌われてら」

 

肩を竦めながら、喜一は座っていた椅子から立ち上がる。

「んじゃ、一応処罰を兼ねて1つ好きにさせて貰う。

…表に出ろ。喧嘩するぞ」

「はぁ?」

「…えぇ?」

「殺し合いっぽい?」

三者三様の返事を聞きながら、喜一は一度自宅へと戻った。

流石に軍服を着たままでは動きにくいので着替えるのだ。

 

 

 

 

 

 

喜一が運動場に出ると、既に艦娘達が集まってきていた。

その中から、天龍が駆け寄ってきた。

「おい提督。なんか青葉から『提督と新入りが喧嘩する』って聞いたけど、マジなのか?」

「マジだ。てか青葉はなんでそんな情報仕入れられるんだ?」

「知らねぇよ!

…てか、普通に喧嘩したら新入りは勝てないんじゃないか?」

「今回は相手を地面に倒した回数で勝負するから問題ない。

…勝ったからどうとかはないけどな」

 

そこで会話を切られ、天龍は喜一から離れる。

 

 

やがて、夕立が時雨を連れて運動場にやって来た。

 

 

 

…艤装を背負って。

「待て、艤装は外してくれ」

「知らないっぽい」

そう言い、夕立は喜一に飛びかかり。

 

 

 

地面に叩きつけられた。

「…流石に、駆逐艦くらいなら艤装ありでも筋力強化で拮抗できるぞ」

投げ飛ばした張本人である喜一は、夕立から距離を取りつつ言った。

 

「んで、これで『一本』。さっきも言ったが十本先取だが」

どうする、と言いきる前に。

ドゴスッ!という快音と共に、喜一は殴り飛ばされた。

「一本っぽい」

制服を所々土で汚した夕立が、拳を振り抜いた状態で宣言する。

 

 

更に、右手に主砲を構えて喜一に向けて。

土煙の中から飛び出してきた剣が、主砲に突き刺さった。

「…喧嘩なんだ、得物は使うなよ」

そう言いつつ、喜一は再び夕立へと飛び掛かっていく。

 

 

 

 

そこから先は、少々省略するが、結果を言おう。

夕立、八本。

喜一、十本。

よって、一応喜一の勝利となった。

 

 

土まみれになった服をはたきながら、喜一は夕立に手を貸して立たせる。

 

「…さて、それじゃあ」

「好きにすればいいっぽい」

「…ん?」

夕立が、唐突に黒いセーラー服のボタンを外し始めた。

「負けたのは私だから、犯すなりすればいいっぽい」

「なんでそっちに思考向けるかな…!

魔緒流ー!昏倒させてくれー!」

喜一がそう叫んだ直後、夕立と喜一の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

で、その夜。

「…んで、1つ聞くが」

「勝手に犯せっぽい」

「物理的に無理なんだが」

現在、喜一と夕立は鎖に縛られた上で椅子に座っていた。

と言うのも、先のやり取りを加味して陽炎が喜一を、時雨が夕立を拘束して対面させる事にしたのだ。

…盗聴している青葉は、真っ赤な顔でどうなるのかと身構えているが。

 

 

「いや、聞くのは単純だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喧嘩は楽しかったか?」

「…ぽい?」

予想の斜め上の質問に、夕立は首を傾げた。

 

喜一は続ける。

「執務室で首もがれた時。直感だから外れてたらすまんが、夕立が失望したように感じたんだよ。『もう終わっちゃった』って感じで」

「…そう思ったっぽい」

「だろうな。それに、喧嘩もそうだ。

本当に人間が憎いなら、喧嘩なんぞ応じずに撃てばよかったんだからな」

「…ぽい」

「…ここしばらく、本気で暴れた試しなんて無かったんじゃないか、って思ったから喧嘩吹っ掛けた訳なんだが。結構効いたらしいな」

「ぽい!喧嘩、楽しかったっぽい!」

その返事を聞いた喜一は、よっこらと言いながら立ち上がった。

 

 

「…あれ!?鎖は!?」

「手首だけ自爆した。

喧嘩の感想聞いた辺りじゃもう外してたぜ」

…無駄に器用な自爆男である。

が。

「…実は私も外してあるっぽい」

そう言って、夕立は立ち上がる。

 

「…待て、どうやった」

「艤装使ったっぽい!」

「…逃げるっ!」

「素敵なパーティ始めるっぽい!」

喜一が窓から飛び出した直後、執務室は爆発した。

ちなみに喜一は転落死した。

 

 

 

そして翌日、吹っ飛んだ書類を作り直す喜一の姿があったとかなかったとか。




本日の死因(書くの久々)

転落死 1回
爆死 2回(朝と昼)
内蔵損傷 3回(喧嘩中)
首引っこ抜かれた 1回


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