【お試し連載】フューチャーカードバディファイト ~炎の剣士の輝跡~ (巻波 彩灯)
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第1話:現出

 初めまして、巻波です。今回は書こうと思っていたけどなかなか書けなかった小説です。長々しい話は後書きにて行います。
 最初だけ三人称視点で途中から一人称視点です。後、ファイトシーンはありません。

 では、本編開始です。後書きでまた会いましょう。


 空に竜が飛び回っては炎が舞い金属同士が激しくぶつかる音が響き渡る。常識的に考えてみれば有り得ない光景だが、そこはそれが()()()()()()なのだ。

?「どう言う事だ! 何でお前が!」

 紺色の短い髪と額に巻いている鉢巻が印象的な青年は右手で持っている両手剣を豪快に振り下ろす。

?「……アウラ、貴様には関係無い事だ」

 銀色の長い髪を靡かせもう一人の青年はアウラと呼ばれた青年の剣撃を難無く躱す。しかし、左手に持っているもう一つの両手剣の煌めきが彼を襲う。

?「さすがだな、アウラ。両手剣を二本用いた二刀流が出来るその馬鹿力にはいつも驚かされる」

 躱す余裕が無かった銀髪の青年はその剣撃を自らの剣で受け止めた。衝撃は両手に強く伝わる。

アウラ「はぐらかすんじゃねえ! レックス、何で俺達を裏切った!?」

レックス「何度も言わせるな。貴様には関係無い」

アウラ「なら、吐かせるまで!」

 アウラの二つの両手剣が炎を纏う。激しい赤い炎と静かな青い炎は、まるで彼の闘志と意志を表しているかの燃えている。

レックス「ふん、やれるものならやってみろ……と言いたいところだが生憎私にはやらねばならぬ事がある。貴様との決着はそれが終わった後だ」

 レックスは隙の無いバックステップで距離を取ると自分の相棒を呼んだ。彼の近くに緑色のドラゴンがやって来るとすかさずドラゴンの上に乗り、空へ飛んでいく。

アウラ「待ちやがれ! ラディ、俺達も追うぞ!!」

 アウラも相棒の竜を呼び、竜に乗ってレックスの後を追いかけた。

 

アウラ「何だ、あれは!?」

 アウラはレックスの後を追いかけた先に見える異様な光景に目を疑った。目の前に闇が広がっている空間が見えたからだ。

レックス「ほう、ここまで追い付くとは。落ちこぼれていた竜とは思えんな」

アウラ「おい、レックス! あれは何だ?」

 アウラは目の前に広がっている空間を指差す。レックスは口の端を上げて話した。

レックス「これは私の剣が作り出したゲートだよ」

アウラ「ゲートだと……?」

レックス「ああ、そうだ。まだ力が戻っていないから不完全でどこに繋がっているかは不明だがな」

 そう言った後、話はそれで終わりだと言わんばかりとレックスは先を急ぐ。当然アウラもそれに続いていく。

アウラ「お前のどういう目的でそのゲートを開いたかは知らねえが、ますます見過ごす事は出来ねえ!」

 赤い炎を纏った剣を薙ぎ、激しい炎をレックスに向かって飛ばす。ラディも示し合わせたかの様に火を吐く。

レックス「しつこい奴だ」

 だが、炎はレックスが持っている剣の一振りで消えてしまった。これにはアウラとラディも驚きを隠せない。

アウラ「なっ!」

レックス「ふっ、これでさらばだ!」

 もう一回レックスは剣を振るうと衝撃波がアウラに向かってくる。避け切れないと判断したアウラは二つの炎の剣を振り炎を飛ばして相殺させた。

 しかし、その間にレックスはゲートの中に飛び込んでいた。そしてゲートが閉じ始めてしまう。

アウラ「ラディ、全速力だ! あのゲートの中に飛び込むぞ!」

ラディ「ガウ!」

 ラディはアウラの言葉に呼応し更にスピードを上げた。

アウラ「間に合えーー!!」

 ゲートが閉まりかけた時、アウラ達はギリギリのタイミングで飛び込み、ゲートの中に吸い込まれた。

 その後、ゲートは何事も無かったかの様に消滅した。

 

アウラ「うう……ここはどこだ?」

 上体を起こして辺りを見回すと周りは木々に囲まれ俺の剣が少し離れた場所にあった。だが、俺の傍にいなきゃいけないヤツがどこを見ても見当たらない。

アウラ「ラディ……!」

 俺はすぐに立ち上がり剣を背中の鞘に収めると走り出した。ここがどこかも分からないままだという事をすっかり忘れて。

 

 森を抜けると妙な所に出た。俺達の世界では見かけない様なオブジェクトや材質が違うブランコ、地面の色や質が違うスペース。空には見慣れない物が雲を引いて横切って行く。

アウラ「そ、そういや、ここはどこだ?」

 息を整えながら頭の中を整理してみる。俺達はあのゲートの中に飛び込んだんだから、

アウラ「ここはドラゴンワールドじゃなさそうだな」

 そしてラディが近くにいない。これは不味いな、アイツから危害を加える事は無いと思うがここがどこだか分からない以上、アイツの身に何かあったら大変だ。何か問題が起きる前に早く見つけねえと……!

子供A「やめろよ、怖がっているだろ!?」

子供B「ああ、お前コイツの飼い主か何かかよ?」

子供A「そうじゃないけど……」

子供C「じゃあ、別に良いじゃん。それにオレたちは一緒に遊ぼうとしているだけだぜ?」

 声がする方に顔を向けると子供の喧嘩か……俺には関係の無い事だな。と思っていたら一人の少女が小さい竜を抱きかかえて怯えている。その小さい竜には見覚えがあった。

アウラ「ラディじゃねえか!」

 子供の喧嘩に巻き込まれる前にラディを救出しようと一歩を踏み出した瞬間、子供同士の殴り合いが始まった。ああ、もうタイミング悪いな……気付いた時にこうなるなんてよ!

子供B「お前なんか、この!」

子供C「ホント、いい子ぶって気持ち悪いんだよ!」

子供A「痛っ! やったな、このお!」

子供B「イテェ! ムカつくな、このヤロウ!」

子供C「お前もさっさとその竜、よこせよ!」

子供D「や、やめて! お願いだから!」

アウラ「おい、ガキども! 女の子に手を出すなんざ頂けねえな!」

 二人を虐めていたガキどもは手を止めて顔をこっちを向けた。

子供B「おじさん、誰だよ?」

アウラ「そこの竜の相棒だ」

子供C「はあ、おじさん何言ってんの?」

アウラ「うるせえ、これ以上そいつ等を虐めるなら俺が相手になってやるぞ」

 これ以上に無いぐらいの怒りのオーラを発するとガキどもはヤバいと感じ取ったのかさっさとその場から走り去った。まあ、ガキにはこれぐらいが丁度良いだろ。

アウラ「俺の相棒を守ってくれた事に感謝する。それでお前ら、大丈夫か?」

 片膝を付いて子供達の視線の高さに合わせる。一人は喧嘩していたから痣や擦り傷がたくさんあって痛々しそうな感じだった。

子供A「ボクは平気だよ」

アウラ「お前が一番平気そうじゃねえけどな。そちらのお嬢さんも大丈夫か?」

子供D「はい。あの、本当にこの子の飼い主さんなんですか?」

アウラ「ああ、そうだと言いたいところだが、俺は飼い主じゃない相棒だ」

子供A「……おじさんは誰なの?」

アウラ「俺か? 俺は『竜騎士 アウラ』だ。そして、そこにいる相棒はラディウスって言うんだ。ラディと呼んでやってくれ。お前達は?」

空「ボクは日向(ひゅうが)(そら)!」

碧「わたしは月村(つきむら)(あおい)です。そのアウラさんって、も、もしかしてドラゴンワールドの人ですか?」

アウラ「ああ。訳あってこの世界に来ている。それでここがどこだか分からないんだが、教えてくれないか?」

 そう言うと空達は互いに顔を合わせた。その数秒後、俺に顔を向けて一人が言った。

空「ここは地球だよ」

 その一言で俺は直感した。とてつもなくヤバい所に来てしまったと。だが、落ち着け、地球なんて騎兵学校時代に訓練で何回か来ているだろ? 大丈夫だ、変な事をしなければ問題無い筈だ、多分。

碧「あの、どうかしましたか?」

アウラ「い、いや何でも無い。そうか、ここは地球か……ありがとう、世話になったな」

 立ち上がり碧からラディを受け取ろうとした瞬間、背後から声を掛けられた。後ろを振り向くと青い服装に何やら武装している男が二人いた。にこやかでいるがその笑顔が怖い。

アウラ「何だ?」

男A「いや、お兄さんこそ何しているの?」

男B「随分と子供達と仲良さそうだね、お友達なのかな?」

アウラ「いや、さっき知り合ったばっかりだが」

 何だ、この威圧感は。まるで俺が怪しい人間かの様に疑っているな、これ。

男B「そうか~。じゃあ、お兄さんこの辺りで不審者がいるって聞いたけど知らない?」

アウラ「知らん」

空&碧「「あ」」

 背後で何か察したみたいだが気にしないでおこう。まさか俺がその不審者である訳無いしな。

男A「ふんふん、なるほどね。それでお兄さん、身分を証明出来る物は何か持っていないかな?」

 身分を証明する物か……何か持っていたか? いや、ここに来るって分かっていなかったからそれらしいは持ってきていないな。あるとしたら首に掛けているタグぐらいだな。まあ、正直に話せば分かってもらえるだろう。

アウラ「いや、そこまで証明出来る物は持っていない。だが、これでどうだ?」

 首に掛けていたタグを外して手に取り男達に見せる。すると男達は物凄く怪訝な顔つきになった。俺の個人情報が書かれているだけで別に何も怪しいものなんて無いのに。

アウラ「どうした?」

男A「……凄くお洒落なネックレスだね。お兄さん、どこで買ったの?」

アウラ「あ? いや、もらった物だが」

 男達は顔を合わせ何やら険しい顔つきで話し合うと突然俺の腕を掴んできた。

男B「お兄さん、ちょっと署で詳しく話を聞かせてもらおうか?」

 他人の事を疑ったり突然付いて来いなんて言い出したりしてきてよ、何なんだコイツらは。そう考えた時、俺はようやく男達の正体に気付いた。コイツら警察じゃねえか!

アウラ「ちょっと待て、俺は何も悪い事なんてやっていないだろ!?」

警官A「まあ、話は後で詳しく聞くから。ほら」

 警官に促され渋々歩き出す。流石にここで暴れる訳にはいかないからな。だが、不服だ。

アウラ「何で俺がこんな目に……」

 こうして俺は警官達に署という所へ連れて行かれた。あ、空達にラディを預けたままだ。せっかく再会出来たのによ……。

 

 

 俺は簡素な机を挟んで警官から取調べを受ける羽目になった。理由は分からない。

警官A「お兄さん、そういうのに憧れる年齢なのは分かるけどやっちゃいけない線があってね」

アウラ「だーかーら、俺は何もしてねえし、嘘を言った覚えはねえって!」

 さっきからこれの繰り返しで反吐が出る。おまけに俺の剣はもう一人の警官に取り上げられちまっている。

警官B「これ良く出来た模造刀だね。それに凄く重たいんだけど」

 その取り上げられた剣が本当に重たいのか警官が両手で一つしか持てなかった。もう一つはソイツの側の壁に立て掛けてある。

アウラ「本物だ、その二つの剣は。物は勿論、人だって斬れるぞ」

 その言葉を聞いた瞬間、場の空気が凍り警官達の顔がかなり険しいものになった。俺は何か変な事を言ったのか?

警官A「お兄さん、それ本当かい?」

アウラ「ああ、本当だ。嘘は吐いていない」

 というか、さっきから本当の事しか言っていないがな。なのに、信じてもらえていないだが。

警官A「悪いけど、お兄さん。それが本当ならアンタは銃刀法違反で逮捕だよ」

アウラ「はあ!? その銃刀法とか良く分からんが何で剣を持っていただけでそうなるんだよ!?」

警官B「あのね、剣とか銃とかはちゃんとした手続きをした人しか持っちゃいけない決まりなんだよ。お兄さん、見たところその免許とか持っていないみたいだし」

アウラ「免許とかそんなモンいらねえ世界で育ったんだ! 無いのは当然だろ!?」

警官A「ああ、その話は今度仲間同士でやってくれないかな? どちらにしろ、お兄さんの身柄を預かる事には変わりないけど」

アウラ「何で剣の事は信じて、俺自身の事は信じねえんだよ!?」

?「ワシは信じとるぞ。お前さんがドラゴンワールドのモンスターである事にな」

 ドアを開いて一人の男が入ってきた。背は小さいがガタイはかなり良い。腰には銃をぶら提げているのが気になるが。

アウラ「お前は誰だ?」

剛志「ワシは日向(ひゅうが)剛志(つよし)じゃ。お前さんの身元引受人じゃよ」

警官B「君、無断でここに入って来ては」

剛志「許可ならちゃんと貰った来たわい」

 何故だろう、コイツの許可の貰い方がヤバそうな気しかしないのは。他人の事を言えた義理じゃねえがそんな予感しかしねえ。

警官A「だとしても、その腰に提げている物は頂けないね」

剛志「これか? これはワシとバディの絆の証じゃ」

 剛志はホルスターに収まっている銃を軽く叩く。また空気が張り詰めたものになってきた。俺はその空気の中、気になる事を聞いてみた。

アウラ「その銃は本物なのか? 人を撃てるのか?」

剛志「そうじゃ。じゃけど、安心せい。ワシがこの銃で撃つのは悪い奴しか撃たんけん」

 おい、コイツの方が危険人物じゃねえか! 俺なんかよりもよっぽどコイツの方が危ねえだろ!?

警察B「き、君、今すぐその銃を寄越しなさい!」

剛志「まあ、落ち着かんかい。これには許可貰っておるし、それにワシは」

 剛志は懐から何かしらのデバイスを取り出し、それを見せてきた。そこにはバディポリスという文字が映し出されている。

剛志「バディポリスでソイツの保護を任されとるんじゃ。これで良いんじゃろ? 何なら直接バディポリスの長官に話を聞いてもらっても構わん」

 この時、俺はコイツの為に問いただされる長官という人物に同情を覚えると同時にまた面倒な人間に捕まってしまったと思ってしまった。

 

 剛志のおかげでどうにか警察から解放されたが今度はバディポリスに厄介なるとは……なかなかツイていない。ちなみに剣も返してもらった。

剛志「おう、そうじゃ。妹が世話になったそうじゃな」

 今度は剛志に連れられ、バディポリスの本部とやらに向かっている途中で剛志がそんな事を言ってきた。

アウラ「妹? お前に妹いたのか?」

剛志「ああ、そうか、分からんか。お前さんが会った時、擦り傷や痣を作っとった少年みたいのがおったじゃろ? ソイツがワシの妹じゃ」

 俺が会った時、擦り傷とか痣とか作っていたのは一人しかいない。……あれ?

アウラ「空って奴は女だったのか!?」

剛志「まあ、あんな見た目であの喋り方じゃけえ間違われる事なんてしょっちゅうある事じゃな」

 完全に少年だと思っていたぞ。まさか、あの警官達は俺をそういう目で疑っていたのか……! そう思った俺は警官への怒りを隠しながら話を続けた。

アウラ「それでお前がその空の兄貴だと」

剛志「そうじゃ。それで礼がまだしとらんけえ礼をさせて欲しいんじゃ」

アウラ「礼なんざいらねえよ。むしろこっちが礼を言いたい」

剛志「そうかい。お、噂をすれば来たわい」

 剛志が見ている方向に顔を向けると先程知り合った少年みたいな少女が相棒を抱えてこっちに向かって走って来るのが見えた。彼女の顔や腕には絆創膏やらガーゼやら貼ってある事からあの後にきちんと手当てを受けたらしい。

空「兄ちゃん、アウラお待たせ! それとラディも一緒だよ」

ラディ「ガウ!」

アウラ「おお、ようやく会えたな」

 ここで、ついさっき再会したばかりだろと言ってはいけない。何せ、再会してすぐに警察に連れて行かれたからこうやって落ち着いて話す事が出来なかったからな。

空「あれ? さっきも会ったばかりじゃなかったっけ?」

アウラ「それは言わないお約束だ」

剛志「ははは、空は正直すぎるんじゃけえすぐに口に出してしまうんじゃ。堪忍してやっとってくれ」

空「兄ちゃんには言われたかないやい! あ、そういえば何でボクも本部に向かう事になっているの?」

アウラ「え、お前もバディポリス本部に向かうのか? これはどういう事なんだ、剛志?」

ラディ「ガウ?」

 俺達の視線は剛志に集まる。剛志は軽く咳払いをした後にとんでもない事を口にした。

剛志「お前さんらをバディとして登録しに行くんじゃよ」

 あまりにも普通に話すトーンで言うものだから、「ああ、そうか」となりそうになったがそうじゃねえ。

アウラ「待て待て、それこそどういう意味だ?」

空「ボクもどういう事だが分からないよ」

ラディ「ガウガウ」

剛志「ああ、ワシはバディポリスといっても学生のバディポリスじゃけえそこまで自由は利かないけん。んで、お前さん方をバディすればこっちも言い訳が少し出来るけえ今からそうしようとしとるんじゃ」

 確かに他の奴らの世話になるよりコイツらの世話になった方が気が楽かもしれないな。だが、それで良いのか? 俺はともかく空が反対したら元も子も無いと思うが。

剛志「お前さんらにとって悪い話じゃなかろ?」

アウラ「ま、まあ悪い話では無いが……」

 空に視線を送る。空は俺の目を見た後、剛志と顔を合わせて言った。

空「ボクは良いよ、アウラなら良いバディになれると思う! アウラはどう思う?」

アウラ「お前がそれで良いなら俺もそれで構わん。お前には恩があるし、何より……」

空「?」

アウラ「俺もお前となら良いバディになれそうだ」

空「そっか、なら良かった!」

 直感的なものもあるがコイツはニ対一だろうと何だろうと相棒を守ろうとした。それは碧にも言えた事だが、更にコイツは立ち向かっていく勇気もある。手を出さないだけが正当な手段じゃねえからな。

空「じゃあ、これからもよろしくね。アウラ、ラディ!」

アウラ「ああ」

ラディ「ガウ!」

剛志「よし、決まりじゃな! さて、日が暮れてしまう前に本部へ向かうぞ!」

アウラ「ああ、それは良いんだが、お前って学生なんだよな?」

剛志「そうじゃが、どうしたんじゃ?」

アウラ「とてもそう見えないんだが、お前年いくつなんだ?」

剛志「十六じゃ。ついこないだなったばかりじゃ」

 学生という単語で予想していたがコイツ、俺より年下じゃねえか!

空「兄ちゃん、いかついから老けて見えるんだよね」

アウラ「そうか。悪かったな、急に変な事を聞いて」

剛志「別に構わん。ほれ、さっさと行くぞ。ワシにはまだ長官殿の説教が待っとるじゃけえ、早よう終わらせたいんじゃ」

 その後、俺達は日が暮れる前にバディポリス本部へ到着した。俺と空がバディの登録をしている間、剛志は長官直々にしょっ引かれたらしい。

 まあ、何にせよドラゴンワールドに戻るまでの間にバディが出来たのは嬉しい限りだ。故郷に戻った時の自慢話が出来るぜ。

 だが、俺はこの時知らなかった。アイツもまたこの地球に来ていたことに……。




 どうでしたでしょうか? 見るも無残な小説ですが、とりあえず一通り連載します。これは完全に作者の自分にとってのお試しみたいなものです。こういう小説書くの苦手なのでどこまでいけるのか分かりませんが、応援してくれると嬉しい限りです。
 活動報告にて、この小説に対する注意を出します。これからの事に関する事なので読んでくれると助かります。それと注意用の報告とは別にオリカやオリキャラの募集の活動報告も出します。こちらもこちらで一癖ある報告欄になると思うので、よくお読みなってからアイディアがある人は提案してください。よろしくお願いします。
 最後に次回も温かい目で見守ってくると幸いです。また感想や活動報告のコメントもお待ちしています。


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第2話:弱い奴、強い奴

 外はもう春なのに家の中が未だに冬で凍え死にそうです。おまけにベッドの上でパソコン作業をしていたら腰痛が再発するし、その腰痛を重くしないようにしてたら首をやられました。痛いです。
 そんな事より本編ですよね……今回は巻波自身が書くのが初めてなファイトシーン。ルール処理とかミスっていないか、不安です。

 では、本編の開始です。後書きの方でまたお会いしましょう。


 子供達の元気の良い声が朝から響く。その中で俺のバディは防具に身を包み、竹刀を振るっていた。お世辞にも良い太刀筋とは言えないが。

アウラ「暇なもんだ……」

 俺とラディは迷惑いを掛けない様にカード化して、空の荷物と一緒にいるのだがこの姿だと体の自由が利かないから窮屈なんだよな。その証拠にラディはさっきから寝ている。子供の気合が響いている中、良く寝れるな。

 さて、空の方はどうかと言ったら、さっきから相手に打ち込まれては挑んでまた打ち込まれての連続。

 踏み込みが甘いせいで体勢が崩れて強い打ち込みが出来ていないんだが、何度も挑み続けるそのガッツには目を見張るものがある。さすがは俺のバディだ。

アウラ「こりゃ帰ったら、少し稽古付けてやるか」

 ふと視線を別の子にも移したら、空とは別の意味で一際目立つ存在がいた。

 防具を被っているせいで顔が見えないから男か女かは分からないが、その太刀筋は恐ろしく鋭いものだった。とにかく相手に一太刀も打たせないその太刀捌きで次々と相手の空いたスペースに鋭く打ち込む姿は達人そのもの。

 しかし、どこか負の感情が見えるのは気のせいだろうか。俺が直接手を合わす訳にはいかないから後で空にあの子を聞いてみるか。

 まあ、その前に空の奴が疲れ切らなきゃ良いんだけどな。だって、また全力で行っては打ち返されているし、こりゃ本当に稽古付けなきゃいかんな。

 

アウラ「空、今大丈夫か?」

空「大丈夫だよ。どうしたの?」

 空が稽古を終え着替えて教室に向かう途中、声を掛けた。話す内容は勿論今朝の事だ。

 ちなみにまだカード化している。いきなり出ちゃ、ここの大人達に何言われるか分からないからな。

アウラ「お前、本当に弱いんだな」

空「う、それを言いたかったの?」

アウラ「いや、そうじゃないんだがお前が昨日夜そう言っていたのを思い出してな。少し疑っていた」

 バディを組む事にしたあの日の夜、アイツの家に無事迎えられた後にアイツの部屋でデッキを組む時に聞いた事だ。

 空はあまり喧嘩とかも強くないらしく、いつも返り討ちにあうそうでそれなりに気にしている様子。

 それで俺に稽古付けて欲しいと頼んできたんだが、あの日は断った。だが今朝のを見ていると必要だと感じた。

アウラ「まあ、気にするな。お前にはどんな強い相手に立ち向かっていけるガッツや勇気がある。それさえあれば強くなるし、それに」

空「それに?」

アウラ「俺がいる。今日のクラブとやらの稽古の後に俺が直々に教えてやるよ」

空「ホントに?」

 空の顔が一気に明るくなる。さっきまでの暗い顔が嘘みたいに。

アウラ「本当だ」

空「やったー! ありがとう、アウラ!!」

アウラ「馬鹿、声デケェよ」

空「あ、あははは……」

 バディが見事に周りから冷たい視線を浴びたところでもう一つ聞きたい事を聞く。

アウラ「そうだ。空、お前が散々打ち込まれた時に見ていたんだが一人かなり腕が立つ奴がいたな。お前、分かるか?」

空「ああ、あの人ね。ボクらの学校のエースだよ。めちゃくちゃ強くてさ、ボクはもちろん他の人もあの人に勝った事ないんだよ。それどころか、一本も体に入れる事ができなくてさ……」

 なるほど、やっぱり誰にも負けた事が無いんだな、あの中では。

アウラ「そうか。なあ、その子に兄弟はいるのか? 姉妹でも構わないが」

空「それなら、兄ちゃんがいるよ。兄ちゃんも強かったな~、それと面白い人だったね」

 面白い人と言うのは分からんがこれであの子から感じた負の感情は少し納得した。まだ推測の域を出ていないが。

アウラ「その兄貴はどれぐらい強かったんだ?」

空「何かグイグイくるね。そうだね、全国大会で上位にいるぐらいには強いよ」

アウラ「なるほどな」

 こりゃ妹だが弟だか知らんが比較されて大変そうだな。実際俺も騎兵学校時代に親父と比べられて面倒臭い思いをした。まあ、親父は俺が憧れている存在だから苦にはならんかったが。

空「それにバディファイトも強かったな~、ボクはその兄ちゃんに剣道やバディファイトを教えてもらったんだよ」

アウラ「ほう、そうだったのか。それで空?」

空「何?」

アウラ「もう行かなくて良いのか? 俺はここの時間は詳しく無いから分からんが」

空「いけね、もうすぐチャイム鳴るー!」

 空は走って自分のクラスへ向かう。廊下は走るなという声が後ろから聞こえた気がしたが気のせいだろう、多分。

 

 ギリギリで教室に到着した空は自分の席に着くと見知った顔が隣にいた。

碧「おはよう、空ちゃん」

空「おはよう、碧!」

 実に女の子らしい碧とどう見ても少年にしか見えない空。正反対な二人だが気がとても合う様で結構話している。その間を割って入る様に一人の少年が二人に話しかける。

?「おーす、空に碧ちゃん!」

碧「あ、岡星(おかぼし)くん、おはよう」

空「おー清晴(きよはる)、おはよう!」

清晴「今日も二人とも元気だな。そういえば、聞いたぜ。また空、上級生とケンカしたんだってな」

空「えー情報回るの早くない? ま、まあ、したんだけどさ」

 上級生と喧嘩だったのか、昨日の一件は。どちらにせよ、ラディを虐めようとした輩だ。碌な連中では無いだろう。

碧「でも、今回はちょっと違って怖そうなお兄さんが来てくれたから……あの人、あの後どうなっただろう?」

 怖そうとは余計だが碧は俺が警察に厄介になった後、知らないんだよな。もちろんラディの事も。

空「それならボクの兄ちゃんが……」

 空は俺や剛志から聞いた話を碧達に話した。二人は難色を示した表情をしているが。

清晴「お前の兄ちゃん、相変わらず無茶苦茶だな」

碧「それで良く話を聞いてくれたね、警察の人」

空「兄ちゃん、それでまた怒られてたよ」

清晴「んで、その怖そうな人はどうなったんだ?」

空「ここにいるよ」

 空はデッキから俺が入っているカード一枚を碧達に見せた。ジロジロ見られるのは気持ちが悪いがここは我慢するしか無いな。

清晴「え……モンスターだったの?」

空「そうだよ。じゃなきゃ、兄ちゃんがわざわざ警察署に行くわけないもん」

碧「そういえば、そうだったね。もしかして、空ちゃんとバディになったの?」

アウラ「もしかしなくてもバディになったんだよ」

清晴「うわ、カードが喋った!」

アウラ「ずっと黙っておくのも退屈なんだよ、少しぐらい喋ったって良いだろ」

空「それすごく分かる」

碧「あはは……」

 教室に誰かが入ってきた。すると子供達は一斉に自分の席に座り始める。

清晴「やべ、先生来ちまった。じゃあ、話の続きは休み時間な」

 清晴も自分の席に着き、俺はデッキの中に戻され引き出しの中に入れられた。

 

 

 授業の間は暇だ。教師と思われる声と子供の声が聞こえるだけで特に何も無い。

 算数や理科なんざ聞くだけだと退屈だ。国語はまだまともか。

 その中で一番面白かったのは社会だ。俺はあまり地球の事を知らないからドラゴンワールドとはまた違う歴史を聞いて面白い。

 今度空の教科書を借りたり、頼んで関連する本を読んでみるか。

空「ようやく授業終わった~!」

碧「そうだね」

 今日の分の授業が終わり、放課後になったのか辺りがバタバタとしている。空は引き出しからデッキを取り出した。ようやく俺も外を見れる。

清晴「おーアウラ、地球の授業はどうだった? 退屈しただろ?」

 清晴は授業の間の休み時間で少しずつ俺と話した事でもう慣れたらしく、空達と話すのと変わらない口調で話し掛けてきた。

アウラ「ああ、暇だったな。とは言っても騎兵学校の座学も退屈だったから別に問題無かったがな」

清晴「へー、座学って言う意味は分からねえけどやっぱ退屈なもんは退屈なんだな」

アウラ「そうだな」

空「あー! そういう話はいいから早く行こうよ!」

清晴「そうだな! ようやく解放されたんだ、さっさと行こうぜ!!」

碧「二人とも待ってよ~」

 空は机の上にあるデッキを手に取り自分の荷物を背負うと清晴と共に教室を走って出る。碧を置いて行っているが良いのか? とは言っても三人が三人とも違うクラブにいるらしいからあまり関係無いかも知れないが。

 それよりも碧の声とは違う声で廊下を走るなという言葉が背後から聞こえ気になるが、これ空の耳には届いていないな。

 

 クラブの稽古では朝と変わらず空は相手に打ち込まれながらも何度も立ち向かっていく。

 だが、朝と違い相手は朝見かけたあの腕が立つ奴だった。空の生半可な攻撃などもろともしない剣撃で確実に一本取っていく。

 その後にソイツは空にアドバイスを送っているが、どうしても負の感情を発するような態度じゃない。不思議なもんだ。

 しばらくすると稽古が終わり、後片づけに入った。その後に軽くミーティングがあり、終わると着替えて解散となった。

 

 空が通っている小学校から出て、ようやく俺とラディはカードから飛び出して体を伸ばした。

アウラ「ああ~外に出られるぜ~!」

ラディ「ガウ~!」

空「あはは」

 俺は空が行く方向に合わせて歩く。辺りは夕日の色を受けてオレンジ色になっていた。

空「公園に寄って行きたいんだけど、どうかな?」

アウラ「あ? ああ、別に構わないぜ」

 空の提案で小学校近くの公園に寄る事に。公園内のベンチに俺と空は腰掛けた。

 ちなみに俺の服装は剣とかマントとかそういうのは身に付けておらず、空の親父さんから借りた服を着ている。これなら昨日みたいな事は起きないだろ、多分。

空「はあ~今日も疲れた~」

アウラ「あんだけやって疲れない方がおかしいだろ」

空「あはは、そうだね」

アウラ「んで、何でこの公園に?」

空「ちょっとアウラにボクの太刀筋を見てもらたくて」

アウラ「それならさっきから散々見たがな。まあ、いいや、見せてみろ」

 そう言うと空は立ち上がり竹刀を取り出すと右足を一歩踏み出し半身をきり、右手を上に左手を下にして竹刀の柄を握る。

 そして稽古の時と変わらない踏み込みの甘さ、脇の甘い締まり、それらを為している剣士とは思えない裂帛した気合で繰り出された剣撃はお世辞にも良くない。

空「どうかな?」

 空はある程度振ると手を止め、こっちを見る。俺は頭を掻いた後、正直な事を言った。

アウラ「そうだな、まず脇をもっと締めろ。その構え方ならば左手の方がエンジンになるから右手に力を入らない様に心掛けとけ。それと踏み込みが弱い。踏み込みが弱いと軸が安定しないから中途半端な打ち込みしか出来ないんだ」

空「うわ、全部言われたことがあることだ」

 基本的なところしか言えないが今の空にはこれぐらいが十分だろう。何せ、俺が使う剣と空達が使う事を想定した剣は違うからな。俺の剣は叩き斬る下手すりゃ叩き潰す類の剣だ。とは言っても俺が持っている剣自体は物が切れるから似たようなもんだろ。

アウラ「なら、一層その事を意識する事だな。一朝一夕では身に付く事じゃないのは、お前だって分かっているだろ?」

空「う、うん、そうだね」

 空は再び構えると先程の動きを繰り返した。すると先程と違い鋭い太刀筋が何度か生まれた。

アウラ「やりゃあ、出来るじゃねえか」

空「何か落ち着いたらできた」

アウラ「なるほどな、お前は前に出る事で頭が一杯だったから中途半端になったって訳か」

空「うん、多分」

アウラ「なら、自分を信じろ。難しいと思うが最終的には自分がやってきた事しか信じられないからな」

空「自分を信じる……」

 空は何か考え込む様な仕草をする。自分が弱い事を知っているからあまり自信を持ててなかったんだろう。だが、空なら大丈夫だ。そんな確信が俺にはある。

空「分かった。自分ができることを精いっぱい頑張ってみるよ!」

アウラ「その域だ!」

 その時、俺達が盛り上がっている中、見知らぬ男が一人こちらにやって来る。

?「やあ、こんにちは。『竜騎士 アウラ』っていうのは君で合っているかな?」

 男は俺を見て言う。全く記憶に無い奴だ。

アウラ「誰だ、てめえ?」

旬「あ、オレは何でも屋をやっている野分旬だよ。ある人にアウラという男とファイトしてくれって頼まれてね」

アウラ「……『竜騎士 アウラ』ってのは俺の事だが、お前に頼んだ奴は誰だ?」

旬「それは言えないね」

アウラ「なら、お望み通りファイトで吐かせてやる! 空、やるぞ!」

空「え、マジで?」

アウラ「お前がファイトも弱い事なんて知るか! 俺はもうデッキに入るぞ!」

空「わ、分かった!」

旬「まあ、何であれファイトが出来るのはこっちとしても本望だね」

 こうして俺と空の初めてのファイトが開始される事になった。

 

 

旬「仲間と共に必ず突破口を見つけて勝利に繋げてみせる! ルミナイズ、『蒼穹と炎の協奏曲(コンチェルト)』!!」

空「蒼い炎は己の信念を示す証! その燃える信念が今煌めく! ルミナイズ、『蒼炎の輝跡』!!」

旬&空「「オープン・ザ・フラッグ!」

旬「ドラゴンワールド!」

 旬の手札:6/ゲージ:2/バディ:ライジングフレア・ドラゴン

空「ドラゴンワールド!」

 空の手札:6/ゲージ:2/ライフ10/バディ:竜騎士 アウラ

空「大丈夫かなぁ……」

 空は手札を見て小さな声で呟く。よっぽど自信が無いのか眉が八の字にしていた。

アウラ「大丈夫だ、俺がいるし、頼れる仲間がたくさんいる。お前はソイツ等を信じれば良いんだ。そしてソイツ等を信じる自分を信じろ」

空「うん、そうだね。そのためにボクができる事をすればいいんだ」

アウラ「そう言う事だ」

 空の顔付きが変わった。これは良いファイトが期待できそうだ。

旬「話は終わったかな。じゃあ、オレから行かせてもうよ! チャージ&ドロー!」

 旬の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

旬「まずはゲージを1枚払って『竜剣 ドラゴウィング』を装備! そしてライトに『蒼穹騎士団 スレインジ・ドラゴン』をコール!」

 旬の手札:6→5/ゲージ3→2/旬:ドラゴウィング/ライト:スレインジ・ドラゴン

 旬:竜剣 ドラゴウィング/攻4000/打撃2 ライト:蒼穹騎士団 スレインジ・ドラゴン/攻4000/防2000/打撃1

旬「センターが空いているからスレインジ・ドラゴンの能力でオレのライフを+1、さらにドラゴ・ウィングの効果でドラゴウィングの打撃力を+1する!」

 旬のライフ:10→11/ドラゴウィングの打撃力2→3

旬「行くよ! ドラゴウィングでファイターにアタックだ!」

 竜の翼を模った大剣が空に向かって振り下ろされる。

空「うわっ!」空のライフ:10→7

旬「これでオレのターンは終了するよ」

 旬の手札:5/ゲージ2/ライフ11/ライト:スレインジ・ドラゴン:サイズ1

空「ボクのターンだね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:6→7/ゲージ2→3

空「ゲージ1を払ってキャスト、『騎兵学校』を設置! さらにセンターに『竜騎士 ケンシン』を、ライトに『竜騎士 エル・キホーテ』をコール!」

 空の手札:7→4/ゲージ:3→2/センター:ケンシン/ライト:エル・キホーテ/設置:騎兵学校

 センター:竜騎士 ケンシン/サイズ2/攻防6000/打撃2 ライト:竜騎士 エル・キホーテ/サイズ2/攻防2000/打撃2

空「騎兵学校の効果でボクの場の竜騎士全ての攻撃力と防御力を+1000する!」

 ケンシン:攻防6000→7000/エル・キホーテ:攻防2000→3000

空「バトル! ケンシンでファイターにアタック!」

 ケンシンの腕から繰り出される剣撃は何も阻まれずに鋭い一撃を相手に与える。

旬「ぐっ!」旬のライフ:11→9

空「続いてエル・キホーテでファイターにアタックだ!」

 エル・キホーテが相棒の竜と共に突撃し、必殺の一突きを繰り出すが青い竜の盾がそれを阻んだ。

旬「キャスト、『ドラゴンシールド 青竜の盾』! 攻撃を無効化にしてデッキの上から1枚をゲージに置く!」旬の手札:5→4/ゲージ:2→3

空「ターンエンドだよ」

 空の手札:4/ゲージ:2/ライフ:7/センター:ケンシン/ライト:エル・キホーテ

旬「オレのターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 旬の手札:5→6/ゲージ3→4

旬「ゲージ1を払って、センターに『蒼穹騎士団 ブーメラン・ドラゴン』をコール、さらにゲージ2を払って、レフトに『ライジングフレア・ドラゴン』をバディコール! バディギフトでのオレのライフを+1」

 旬の手札:6→4/ゲージ4→1/ライフ9→10/レフト:ライジングフレア・ドラゴン/センター:蒼穹ブーメラン/ライト:スレインジ・ドラゴン

 センター:蒼穹騎士団 ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻3000/防1000/打撃1 レフト:ライジングフレア・ドラゴン/サイズ2/攻5000/防4000/打撃2

旬「バディギフトで回復したからドラゴウィングの打撃力を+1、さらにライジングフレア・ドラゴンの効果でケンシンを破壊!」

 ドラゴウィングの打撃力:2→3

空「そんな!」

 空のセンター:ケンシン撃破!

旬「さあ、バトルだ! ライジングフレアでファイターにアタック!」

 ライジングフレアが飛ばした炎が空に迫るが緑の竜の盾が空を守る。

空「キャスト、『ドラゴンシールド 緑竜の盾』で攻撃を無効化にしてライフを+1!」空の手札:4→3/ライフ:7→8

旬「まだまだ行くよ! 蒼穹ブーメラン・ドラゴンでファイターにアタック!」

空「うっ!」空のライフ:8→7

旬「蒼穹ブーメラン・ドラゴンの能力で攻撃が終わった後、蒼穹ブーメラン・ドラゴンを手札に戻してオレのライフを+1!」旬の手札:4→5/ライフ:10→11/センター:なし

旬「最後にドラゴウィングでファイターにアタックだ!」

 もう一撃喰らうかと思ったが青い竜の盾が出現した。

空「何の! キャスト、青竜の盾で攻撃を無効化にしてボクのライフを+1するよ!」空の手札:3→2/ゲージ2→3

旬「やるね。ターンエンド」

 旬の手札:5/ゲージ:1/ライフ:11/レフト:ライジングフレア・ドラゴン:サイズ2/ライト:スレインジ・ドラゴン:サイズ1

空「ボクのターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:2→3/ゲージ3→4

空「ゲージ1を払ってレフトに『竜騎士 アウラ』をバディコール! さらにバディギフトでライフを+1!」

アウラ「やっと俺達の出番か。行くぞ、ラディ!」

ラディ「ガウ!」

 空の手札:3→2/ゲージ4→3/ライフ:7→8/レフト:アウラ:サイズ2/ライト:エル・キホーテ:サイズ1

 

竜騎士 アウラ

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:竜騎士/火

サイズ2/攻6000/防4000/打撃2

■このモンスターはセンターにコールすることができない。

■[コールコスト]ゲージ1払う。

■このカードの攻撃か効果で相手にダメージを与えた時、相手の手札1枚を選択して、ドロップゾーンに送る。

[貫通]

 

空「騎兵学校の効果でアウラの攻撃力と防御力を+1000!」

 アウラ:攻6000→7000/防4000→5000

空「さらにゲージ1とライフ1を払って『竜剣 ドラゴブリーチ』を装備!」

 空の手札:2→1/ゲージ3→2/ライフ8→7

空「バトルだ! アウラでファイターにアタック!」

アウラ「任せろ、せいぁー!」

 ラディの炎と共に迷いなく青い炎を纏った剣でファイターを切り裂く。切り裂くと言っても本当に切り裂いて血が出る訳では無く、ただ衝撃を与えてるにすぎんがな。

旬「ぐわっ!」旬のライフ:11→9

アウラ「これだけじゃ、まだ終わらないぜ! 俺がお前にダメージを与えた時、お前の手札を1枚ドロップゾーンへ送る、でりゃ!」

 俺は続いてもう一つの剣の炎で相手の手札を焼く。偶然にもドロップゾーンに行ったカードは『蒼穹騎士団 ブーメラン・ドラゴン』だった。

旬「しまった!」旬の手札:5→4

空「続けてエル・キホーテでファイターにアタック!」

 エル・キホーテが再び突進して行く。その姿は威厳と自信に満ち溢れた古強者そのもの。

旬「くっ!」旬のライフ9→7

空「エル・キホーテの効果でこのカードがファイターにダメージを与えた時、ゲージを+1!」空のゲージ:2→3

空「ドラゴブリーチでファイターにアタック!」

 空が手にしている大剣が旬に迫った時、旬の声と同時に先程とはまた違う青い盾が現れる!

旬「まだだ! ゲージ1を払って、キャスト、『ドラゴンシールド 飛竜の盾』で受けるダメージを0に減らしてオレのライフを+1!」旬の手札:4→3/ゲージ:1→0/ライフ:7→8

空「う~届かなかった! ターンエンド!」

 空の手札:1/ゲージ:3/ライフ:8/レフト:アウラ/ライト:エル・キホーテ

旬「よし、行くよ! ドロー、チャージ&ドロー!」

 旬の手札:3→4/ゲージ:0→1

旬「一か八か賭けてみるしかないな。ドラゴウィングをドロップゾーンに置いて、ゲージ1とライフ1を払い、ドラゴブリーチを装備!」

 旬の手札:4→3/ゲージ:1→0/ライフ:8→7/旬:ドラゴウィング→ドラゴブリーチ

旬「そしてスレインジ・ドラゴンもドロップゾーンに置いて、『蒼穹騎士団 シーカーペンギン・ドラゴン』をコール!」

 旬の手札:3→2/ライト:スレインジ・ドラゴン→シーカーペンギン・ドラゴン

 ライト:シーカーペンギン・ドラゴン/サイズ1/攻3000/防2000/打撃2

旬「このままバトルに行くよ! ライジングフレアでファイターにアタック!」

空「うわー!」空のライフ:8→6

旬「次はシーカーペンギンでアタックだ!」

空「うっ!」空のライフ:6→4

旬「最後はドラゴブリーチでファイターにアタック!」

空「キャスト、青竜の盾で攻撃を無効化にしてゲージを+1!」

 空の手札:1→0/ゲージ3→4

旬「流石に押し込めなかったか、ターンエンド!」

 旬の手札:2/ゲージ:0/ライフ:7/レフト:ライジングフレア・ドラゴン/ライト:シーカーペンギン・ドラゴン

空「このターンで決めるよ! ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:0→1/ゲージ4→5

空「バトル! アウラでファイターにアタック!」

アウラ「喰らいやがれ!」

 もう一度俺とラディの炎で旬を攻撃するが読まれていたらしく、

旬「もうその攻撃は受けないよ! キャスト、緑竜の盾で攻撃を無効化にしてライフを+1する!」旬の手札:2→1/ライフ:7→8

 盾によって防がれてしまった。

アウラ「チッ!」

空「なら、エル・キホーテでファイターにアタック!」

旬「くっ!」旬のライフ:8→6

空「ドラゴブリーチでファイターにアタック!」

旬「ぐわっ!」旬のライフ:6→3

空「ファイナルフェイズ!」

旬「なんだと!」

空「相手のライフが4以下でボクのセンターが空いているなら使える! ゲージ4払ってキャスト、『レックレスアンガァァァ!!』。このカードの効果でドラゴブリーチの打撃力を+2してスタンド!」

 ドラゴブリーチの打撃力3→5

 空の武器からとてつもない闘気が発せられる。空の顔付きもどこか引き締まったものになっていた。

アウラ「行け、空! 決めちまえー!!」

ラディ「ガウ―!」

空「ドラゴブリーチでファイターにアタック!! この攻撃は無効化されない!!」

 空は今まで以上に強く踏み込みドラゴブリーチを振るった。その太刀筋は鋭く、空の気合も相まって裂帛した攻撃となった。

旬「オレの負けだよ」旬のライフ:3→0

 

WINNER:日向空

 

 

空「やったー!! 勝ったよ、ありがとうアウラ、ラディ!!」

アウラ「何、お前の力があってこその勝利だ。礼はいらん」

ラディ「ガウ!」

 勝利を喜ぶも束の間、俺は気になった事を旬に聞いてみた

アウラ「さて、その依頼主とやらを話してもらおうか」

旬「そんな約束した覚えないけど負けちゃったし、少しぐらいは良いか」

空「それでアウラの事を探してほしいって言った人は誰なの?」

旬「それは……」

?「私だ、アウラ」

 旬のデッキから一枚のカードが飛び出して来た。ソイツは俺が良く知っている奴だった。

アウラ「レックス……!」

レックス「久し振りだな。まさか、お前まで地球に来ていたとは思わなかった」

アウラ「それはこっちの台詞だ。てめえ、何で俺達を裏切ってインペリウムを持ち出しやがった!!」

レックス「お前はそればっかりしか言わないのだな。いつの間にか、つまらない男になったものだ」

アウラ「お前がやった事は忘れる訳がねえからな! インペリウムの力はお前だって理解しているだろう!?」

レックス「ああ、理解している。だからこそ、私が為す事に必要なのだ、この剣の力がな」

旬「オレにも話す気はなさそうだね、その分だと」

レックス「ああ、すまない。だが、アウラを探してくれた事は感謝する」

旬「良いけどさ、別に。それで彼を探した理由は?」

レックス「それはだな、アウラよ、事を為した後にお前と決闘しようと約束を取り付けに来ただけだ」

アウラ「何だと?」

レックス「話はそれだけだ。では、さらばだ」

 レックスは俺達に背を向けるとインペリウムを振るいゲートを開け、そのままゲートの中に姿を消した。ゲートはすぐ消えて、飛び込む暇を与えてくれなった。

アウラ「あの野郎……絶対にアイツがやろうとしている事を止めてやる!」

旬「そういえば君はレックスと同じくドラゴンワールドから来たみたいだけど、何でこっちにきたのかな?」

空「ボクもあまり詳しく聞いたことないや。アウラ、ラディ、どうしてレックスっていう人を追っているの?」

 ラディと目を合わせる。ラディは隠す必要は無いと言っているみたいだ。俺もバディにはあまり隠し事はしたくないから、そのまま言った。

アウラ「俺が地球に来た理由はレックスを追っていたからだが、レックスが手に持っている剣『竜聖剣 インペリウム』は強力な力を持つが故に封印されていた剣、それの封印を解いたレックスは俺達の仲間を次々と薙ぎ倒していった。つまり俺とラディはインペリウムを取り戻す為、そしてレックスを止める為にやって来たんだ」

旬「インペリウムと言うのはさっきゲート開いた剣だね」

アウラ「ああ、あの剣があれば世界を支配する事が出来ると言っても過言じゃない」

空「じゃあ、バディポリスに連絡しなきゃ!」

アウラ「……あの兄貴に話すのか?」

空「兄ちゃんなら協力はしてくれるよ。ただ派手にやることは間違いないね」

旬「なら、オレも協力させてもらうよ」

アウラ「どうしてだ?」

旬「興味本位ってのもあるけど、その前にオレは何でも屋だ。困っている人は放って置けないさ」

アウラ「そうか、感謝する」

 この後、空と旬は互いの連絡先を交換して帰宅する事になった。気が付いたら日は沈みきっていた。

 

 帰宅してからすぐ空のお袋さんから大目玉を喰らった後、空から剛志にレックスの件を話してもらい協力してもらう事になった。

 剛志自身も何か感じた事があったらしく調べものするから一人にして欲しいと言われ、俺達は空の部屋でくつろぐ事にした。

アウラ「そういえば空は何で剣道をやろうと思ったんだ?」

 空は自分のデッキを調整している手を止め俺を見る。物不思議そうな顔をしている。

アウラ「別に大した事じゃない。ただ、少し気になったんだ」

空「うーん、そうだね……兄ちゃんみたいに強くなりたいと思ったからかな」

アウラ「でも、それなら剣道以外にあったんじゃないか?」

空「そうだけど……これで強くなろうと思ったんだよね」

アウラ「そうか」

空「アウラは何で竜騎士になろうと思ったの?」

アウラ「俺か? 俺はだな、親父が竜騎士だったんだ。俺は親父に憧れて竜騎士になろうと思ったんだよ」

空「そうだったんだ。何だかボクらは似た者同士かもね」

アウラ「そうかもな」

空「ねえ、アウラ?」

アウラ「何だ?」

空「ボクは一人で強くはなれないけどアウラたちと一緒なら強くなれそうだよ。だからさ、二人で強くなろう」

アウラ「! ああ、そうだな。俺達なら強くなれる!」

 これは確信だ。俺達にしかない強さが今ここで目覚め始めたと俺は思っている。




 どうしたでしょうか? ファイトはあまりカードが動いていないので退屈だったかもしれません。正直な話、既存のカードだけでサポートを回すのは厳しいなあとは思っています。自分でもオリカを考えてみますが、お力を貸していただけると助かります。
 話の展開は雑で強引でしたので読みづらかったかもしれません。すみません。
 それととある作品に提案したキャラクターがちらっといます。作者様の許可を得て、こちらでも明言はしていませんが登場させています。

 次は三話目と行きたいところですがここで間の話を書きます。あの男が暴れ、あの少女が登場します。誰なのか予想しながら期待してお待ちしてくださったら幸いです。

 では、次回にお会いしましょう。活動報告のコメントと感想もお待ちしています。


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第2.5話:桜と弾丸

 やべー、やべえよワールドおもしれぇ! 面白すぎて朝の6時までやっちゃうよ。
 ……え? モンハンワールドをやっているのかって? 違うよ、Gジェネワールド(2011年発売)をやっているんだよ。
 エイプリルフールはとっくに過ぎてんだぞだって? うるせえ、その日は嘘を吐ける余裕が無かったんだよ! だから今日ぐらい吐かせろよ!

 とはまあ、戯言は置いといて……皆さん、こんにちは。今週健康診断を行ったら体重が前量った時よりも5Kg以上増えていて割とショックだった巻波彩灯です。
 今回もファイトシーンを入れました。ルール処理をミスっていないか不安です。それと今回のファイトから提供されたカードが登場します。……提供者さん、ごめんなさい。そのまま出すと思うと言いましたがやっぱり少しいじりました。

 では、後書きの方でまたお会いしましょう。


 朝、学生ならば登校している時間だ。無論、この男もいくらバディポリスとはいえ学生である。

剛志「朝は眠たくて敵わんな~」

 半袖のカッターシャツにズボンという姿でどこかヤンキーみたいな見た目をしている剛志は大欠伸をしながら通学路を歩いて行く。見知った顔や見知らぬ顔が急いで通り過ぎて忙しい時間だと知らせる。

剛志「ああ~バイク使いたいわい」

?「でも、おめえの学校はバイク登校禁止なんだろ?」

剛志「そうなんじゃ、騒音問題だとかなんとかで禁止なんじゃけえワシはこうやって歩くしかねえ」

?「自転車はどうなんだっけ?」

剛志「それは大丈夫じゃが、ワシは嫌じゃけえ乗っとらん」

?「男ならやっぱ単車だよな!」

剛志「じゃろ?」

 剛志が一人で何か喋っている様に周りには見えるが彼はバディと話しながら学校へ向かった。

 

 学校の昇降口で靴を履き変え自分のクラスの教室に行くといつもの騒がしい仲間が剛志に気付いて話し掛ける。

男子A「よお、剛志。お前、相変わらず眠たそうだな」

剛志「朝は弱いんじゃ。それに昨日は少しばかり夜更かししちょったしな」

男子A「また夜中バイクを走らせたのか?」

剛志「まあ、そんなところじゃな」

男子B「良いな~、オレも夜中走りてぇ」

剛志「何なら今度ワシと走るか?」

男子B「おお、良いぜ! いつ走りに行くか?」

剛志「そうじゃな~……」

 剛志と他の男子達が夜中のツーリングの打ち合わせをしている時、彼等の背後からいかにもしっかりしている優等生風の少女が話し掛けてきた。

女子A「アンタ達、また良からぬ事をしようとしているでしょ!?」

男子A「おいおい、長瀬どうしたんだよ? オレ達が何しようとしている見えるんだよ?」

男子B「そうだぜ! 決め付けるのは良く無いっていうだろ?」

剛志「そう言う事じぇけえ、何も問題は無いじゃろ?」

長瀬「そうかしら? アンタ達が集まると碌な事が起きないからね。だから、こうして釘を刺しておかないと何しでかすか分からないもの」

 長瀬はどうにも信用なら無い様子。彼女は彼等と中学時代から一緒にいるから分かっているのだ。彼等が夜中にツーリングしようとしているのを、そしてそれで問題を起こす事も。

男子A「今回は何もしねえよ。放課後、どこで遊ぶかとしか考えてねえからな」

長瀬「この間喧嘩相手を骨折させて謹慎を受けてた金本に言われてもねえ……」

金本「そりゃねえぜ」

男子B「じゃあ、オレや剛志が言えば説得力があるんだな」

金本「今お前が言った事で無くなった気がするぞ」

男子B「ええ!? マジかよ」

長瀬「と言うか、土原や日向に言われても結果は変わらないわよ」

土原「え~、そこは説得されてよ~知香ちゃん~」

知香「うるさい! 後、名前で呼ばないで!!」

 知香は土原に拳骨を喰らわせる。土原はノーガードで受けた為、その痛みで頭を抱えて蹲った。

金本「あいちゃ~相変わらず長瀬の拳骨は痛そうだな」

剛志「そうじゃな。ワシらは喰らわんで済んだわい」

知香「何言っているの? アンタ達も同罪に決まっているでしょ」

 知香の纏うオーラがどす黒くなり剛志と金本は土原を置いて逃げ出そうとした時、もう一人の少女が知香を制する。

?「知香ちゃ~ん、暴力はいけないわよ~」

知香「夏奈ちゃん、今は止めないで」

夏奈「そんな事しているから好きな人に振り向いてもらえないのよ~」

知香「なっ!」

 夏奈の突然の爆弾発言に知香は振り上げた拳を止めた。その爆弾発言を聞いた剛志達は面白いものを耳にした言わんばかりにニヤニヤした顔になる。

夏奈「だって、知香ちゃんの好きな人は~」

知香「待って待って、これ以上話さないで!」

 知香は急いで夏奈の口を塞いだ。夏奈は苦しげにせず、どこか残念そうな表情をしている。

知香「きょ、今日のところはこれで勘弁してあげるわ!」

 そう言うと知香と夏奈はその場を退散した。直後にチャイムが鳴り、剛志達も自分の席へ着く。結局彼女の好きな人が聞けなかった剛志達は剛志達で落胆していたが。

 

剛志(にしても、昨日の空やアウラの話……本当ならば本部にも連絡しちょった方が良いんじゃろうな。でも、あの堅物長官がまともに話を聞いてくれるとは思えんがな)

 昼休み、屋上にて剛志はバディポリス用の端末を操作しながら昨日の事を振り返っていた。

剛志(そんで、まだアイツから連絡が来ないのう。頼み事した身じゃけえあまり文句は言えんがえらい珍しく遅いな)

 メールボックスを漁るがその人物からのメールが来ていない。

 昨日の夜、空やアウラからレックスの事を聞いた剛志は調べ物をすると言って彼らを部屋から追い出した後、その人物に連絡してレックスの事を調べてもらう様に頼んだのだ。

 彼はバディポリスでは無いが頼れる相手に間違いは無い為、剛志はあえてバディポリス用の端末の連絡先を彼に教えていた。

剛志(ワシが夜中バディポリスのデータバンクにアクセスした時に情報という情報が見つからなかったからあっちも苦労してるじゃろうな)

 バディポリスのデータバンクというのはモンスターの情報は勿論の事、過去に捕まったクリミナルファイター、要注意ファイターや組織の情報が入っているのだ。

 但しアクセスできる権限がランクによって変わり、バディポリスユースである剛志はモンスターの簡単な情報のみしか知る事が出来ず、他の情報を得る事が出来ない。

 だが、簡単な情報でもそのモンスターの特徴がしっかり把握されているので侮れない。

 しかし、『竜騎士 レックス』というモンスターはそのデータバンクに名前しか載っておらず、情報は得られなかったのだ。

 剛志は考えるだけ無駄だと判断し一旦、端末の電源を落とすと仲間達の方へ歩み寄った。

金本「よう、剛志。調べ物は終わったか?」

 金本は煙草を口に咥え、ライターの火を灯していた。言っておくが彼は未成年である。未成年の喫煙は学校は勿論、法律でも禁止されている。

剛志「ああ、まあな。それよりお前さん、それバレたら謹慎通り越して退学になるぞ?」

金本「お前まで堅い事言うのか。別に良いじゃねえかよ、マナーは守っているからさ」

剛志「ワシはお前さんが吸おうが吸わないがどうでも良いんじゃが、面倒な奴が一人おったろ?」

金本「……確かに」

 そう言うと金本はライターの火を煙草に移し、紫煙をくゆらせる。

土原「おまたへー! 購買混んでたから時間掛かったけど例の物を買ってきたぜー!」

 土原が元気良く屋上の扉を開ける。その手には大量のパンが入った袋をぶら提げている。

金本「お、丁度良いタイミングで帰ってきたな。んで、早く例の物を出せよ」

土原「待てよ、そう焦るなって……ほれ!」

 土原は袋の中からボリュームがあるBLTサンドを取り出した。

剛志「おお、月に一回しか購買に現れない特大BLTサンドじゃな。ワシの分もあるか?」

土原「そりゃ、勿論。お前、弁当食っても足りねえだろうし、金もちゃんと貰ってあるからな」

剛志「よし、早速貰うわい! あ、タマゴサンドもあるか?」

土原「大丈夫、ちゃんと買って来てあるから」

 土原から特大BLTサンドやタマゴサンド、他にも焼きそばパンを貰い、剛志は持参している弁当と一緒に食べ始める。金本も煙草を吸い終えるとBLTサンドや他のパンを貰って食べ始めた。

 食べ始めてからしばらくした後、剛志の端末から通知音が鳴る。剛志は通知音を鳴らしている端末を取り出し、内容を確認する。バディポリス本部からだ。

土原「んで、何だったの?」

 土原は残ったパンを頬張りながら聞く。金本も言葉には出さないが気になる様だ。

剛志「ん? パトロールの人手を増やすじゃけえ手伝って欲しいんじゃって」

金本「珍しいな、こんな時間にユースのお前にそんな連絡が来るなんて」

剛志「割と珍しくは無いんじゃが……どうやらクリミナルファイターが暴れたらしいじゃけえ、そいつを早くとっ捕まえる為に人手が欲しいんじゃと」

土原「って事は午後はサボりか?」

剛志「そう言う事じゃ。じゃけえ、後頼むわい」

金本「おう、分かった。気を付けてな」

土原「バッチリ任せとけ!」

剛志「んじゃ、ワシはこれで」

 剛志は弁当とまだ食べていないタマゴサンドを手に持ち、教室に戻って行くと荷物を持ってそのまま学校を出た。

 

 

剛志「さてと、この雑踏の中をパトロールするんじゃな」

?「単車持って来た方が良いんじゃねえのか?」

剛志「んいや、そうすると見つけ辛いじゃけえ我慢するわい」

?「そうかよ。そんならとっとクリミナルファイターを見つけようぜ、相棒!」

剛志「そうじゃな」

 剛志は人混みの中、バディと話しながらパトロールをしていた。服装は未だに学校の制服を着たままだが、一つだけ違う所がある。

 それは腰にホルスターを身に付け銃を提げている事だ。目立つかと思えば案外大丈夫であまり目立っていない。

?「しかし、東京の人の多さはいつ見ても慣れないぜ」

剛志「そうか? まあ、ワシは東京生まれで東京育ちじゃけえあんまり気にしとらんがな」

?「……東京生まれで東京育ちでも人混み苦手な奴はいるだろうによ」

剛志「……確かにそうじゃな」

 剛志は人混みの間をすり抜けながら周りを見渡す。すると道の端で一人の少女がガラの悪い男達に囲まれているところを目撃する。

?「剛志」

剛志「分かっとるわい。行くぞ、相棒」

 剛志は一人の少女を助ける為に、人混みの中をすり抜けて男達に近づいて行った。

 

少女「あ、あの、私は……」

男A「だからさ、悪い事はしねえから俺らと一緒に遊ぼうぜ?」

 少女は男達に威圧に負け萎縮してしまっている。彼女は小柄な方では無いが萎縮している所為か、かなり小さく見える。

男B「へへ、俺達は嬢ちゃんと仲良くなりたいだけなんだって」

男C「そういう事なんだよ、だから一緒に行こうぜ?」

少女「い、いや……」

 一人の男が少女に触れようとした瞬間、彼らではない手が男の腕を掴み動きを止めた。

剛志「そこまでじゃ」

 男の腕を掴んだのは剛志だった。剛志は掴んでいる手に力を入れる。

男C「何しやがるんだ、てめえ!」

 剛志に腕を掴まれた男は彼の手を振り払い、怒りの感情をぶつける。他の男達も突然現れた剛志に警戒する。

剛志「女の子をそうやってナンパするのは良くないのう」

男A「ハッ! てめえが知った事かよ」

男B「つか、腰に提げている物はあれか、玩具か何か? よくよく見ればお前中学生だろ?」

男C「それならガキはごっこ遊びとかしてあっち行ってな! じゃねえと痛い目見るぜ」

 男達はある程度落ち着くと剛志の事を馬鹿にし始めた。剛志の提げている銃は玩具とかでは無く本物であるし、背は低いものの剛志自身は高校生なのだが――。

剛志「……それならこれを試してやるわい」

 そう言うと剛志はホルスターから銃を取り出し片手で構えた。

男B「ぎゃははは! 玩具の銃を向けられたってなんも怖くねえよ!」

男A「ああ、全くだ!」

 男達は本物の銃である事を知らずに玩具の銃と思い込んで爆笑する。

 だが次の瞬間、辺りは光に包まれた。そして光が消えると男達は失神して倒れ、剛志と少女の姿がその場には無かった。

 

剛志「はあはあ、ここまで来れば大丈夫じゃろ」

 剛志は少女を連れて先程の現場から少し離れた公園まで走ってきたのだ。それなりに走った為、二人とも息を切らせている。

少女「あ、あの助けていただきありがとうございます」

 少女は落ち着くと剛志に礼を言い丁寧にお辞儀した。驚いた剛志は慌てふためく。

剛志「いや、礼なんかいらんよ。ワシは当然の事をしたまでじゃし……ほら、顔を上げてくれんかい?」

 剛志に言われた通りに少女は頭を上げる。剛志はそれを見て一息吐くが彼女の口から聞いた言葉に再び困惑した。

少女「あの、一体何が起きたんですか?」

 少女は辺りが光に包まれた後、剛志に連れられるまま走ったので事をあまり把握していないのだ。

剛志「それはのう……」

 剛志が答えに困っていたその時、少女のお腹から可愛らしい音が聞こえた。少女は自分の空腹を知らせる音を聞かれ顔を真っ赤にする。

剛志「はは、まずは腹ごしらえしてかなじゃな」

少女「すみません」

 剛志と少女は公園内のベンチを見つけて座り、自分達が持っている食べ物を取り出した。少女のランチボックスにはタマゴサンドが幾つか綺麗に並べられている。剛志は余っていたタマゴサンドを取り出したが鞄の中の荷物に潰されたのか変形していた。

剛志「ありゃ、お嬢さんもタマゴサンドかい?」

梨子「はい、好きなので。それと私の名前は桜内梨子って言います……あなたは?」

剛志「ワシは日向剛志じゃ。桜内梨子……良い名前じゃな」

梨子「そんな……でもあるのかな……?」

 梨子は顔を再び真っ赤にしながら俯いてタマゴサンドを齧る。剛志はその反応にどうしたら良いものかと考え始めながらタマゴサンドを頬張る。

梨子(そう言えばこの人、さっきの男の人から中学生って思われていたけどどう見ても中学生には見えないな……)

 チラッと剛志の方を見てそんな事を考える。剛志は男性としては背は低いが体格はそんなに悪くなく顔も少し厳ついが割と年相応の顔付きをしている。

 だが、ヤンキーみたいな見た目の所為だったり背が低かったりしていてあまり年相応に見られないのだ。

剛志「どうしたんじゃ?」

梨子「い、いえ、何でもありません」

 剛志は梨子の視線に気付いて目を合わそうとするがすぐに逸らされてしまう。その後、しばらくお互い口を開かないまま食事を進めた。

剛志&梨子「「あの」」

 二人とも沈黙を破る為に声を掛けるが、タイミングが見事に一致して重なってしまった。

剛志「あ、桜内さんから喋って良いですよ?」

梨子「いえ、私は後でも構いませんから日向さんからどうぞ」

剛志「いやいや、ワシは別に大した事では無いじゃけえお先に……」

梨子「……分かりました。じゃあ、私から話しますね」

 梨子は剛志とようやく目を合わせて言う。

梨子「さっきは聞きそびれましたが、あの時一体何が起きたんですか?」

 梨子の言うあの時は辺りが光に包まれた時の事だ。剛志は誤魔化そうか考えたが正直に話す事を選んだ。

剛志「ああ、それはワシのこの銃で閃光弾を撃って目晦まししたんじゃよ」

 腰にあるホルスターの中に収まっている銃を拳で軽く叩く。

梨子「ええ!? それじゃあ、その銃は本物って事ですか!?」

剛志「そうじゃよ。な、バディ!」

?「おうよ、それは剛志と俺の友情の証なんだぜ! そう簡単に人を傷つけるモンじゃねえ」

梨子「え?」

 梨子は突然聞こえた声に戸惑いを隠せなかった。すると剛志のデッキケースから一枚のカードが飛び出しSD化して現れた。

ガロード「よっ! 俺の名前は『魔愚南無(まぐなむ)竜王 リボルバー・ガロード』だ、よろしくな!」

梨子「わ、私は桜内梨子って言います。よろしくお願いします」

ガロード「そんなに堅くなんなくって良いって。どうせ剛志と同い年だろうによ」

梨子(え、この人中学生なの……!?)

剛志(まあ、ガロードの言う通りじゃろうな)

 ガロードのこの一言の所為で二人は互いを誤解する。梨子は驚いていたが剛志は梨子の大人っぽい雰囲気から同い年だろうと思っていた為、特別驚かなかった。梨子も梨子で言い出せずそのまま流してしまった。

 因みに梨子は中学1年生であり、何度も言っているが剛志は高校生である。

梨子「……なら、日向君って呼んで良いかな?」

剛志「剛志で良いわい。そっちも桜内で良いんじゃな?」

梨子「私も梨子で良いよ。同い年だし……ね?」

剛志「そうかい、それなら遠慮無くそう呼ばしてもらうわい」

梨子「う、うん。あ、そう言えば剛志君はガロードさんがいるからバディファイトやっているんだよね? 今度ファイトしてくれないかな?」

 恥ずかしがり屋な梨子としては珍しく自分からファイトに誘う。

剛志「おう、良いぞ。ワシも梨子がファイターじゃったら、そうするつもりじゃったし」

梨子「そっか、それなら良かった」

 梨子がようやく笑顔を見せた。その笑顔を見て剛志の胸が一気に高鳴る。

ガロード「んなら、連絡先を交換した方が良いんじゃねえか? 今日は多分無理だろうしよ」

梨子「そうね。剛志君、良かったら連絡先を教えてくれないかな?」

剛志「ん、ああ、そうじゃな」

 剛志はバディポリス用とは別の端末を取り出した。だが、その動作はどこかぎこちない。

梨子「ど、どうしたの、剛志君?」

剛志「何にも無いじゃけえ、気にせんで良いわい」

ガロード(こりゃ、絶対にあれだな……)

梨子「そう? なら良いけど……」

 何も無く連絡先を交換し終えると剛志が持っている別の端末から電子音が鳴る。バディポリス用の端末からだ。

剛志「ああ、悪いじゃけえ今日はここら辺で。今度はファイトしような!」

梨子「ええ、また今度ね」

 剛志は自分の荷物をまとめると急いでガロードと共にその場を去った。彼を見送った後、梨子は呟く。

梨子「……結局、あの事は聞けずじまいだったわね」

 あの光の中で剛志が男達を伸した事は梨子はまだ知らないままだった。

 

剛志は移動しながら電話をしていた。相手は彼の頼れる人物からだ。

?『オレ、オレだよ、オレ』

剛志「オレオレ詐欺じゃったら切るぞ」

サトル『冗談だよ、日向。サトルさんがせっかく良い情報を持って来てやったのに切るなんて勿体無い事するなよな!』

 サトルと名乗った人物こそ剛志が昨夜連絡を取り、頼み事をした人物なのだ。

 彼はハッカーであり、バディポリスではないもののバディポリスとは友好的な関係を築いている。だが、その素性は不明だ。

剛志「それで情報と言うのは何じゃ?」

サトル『二つあるんだが、一つは落ち着いてから話すからもう一つの方を話すぜ。今お前達が追っているクリミナルファイターの位置が分かった』

剛志「そうかい。なら、話が早いわい。位置データを送ってくれんか?」

サトシ「言われなくてもやっているよ。事が落ち着いてたら、電話してくれ」

 そう言った後、電話が切れた。剛志は端末を耳から離し目の前に持って来てディスプレイを確認する。すると彼が言った通りクリミナルファイターの位置データが転送され、映し出された。

剛志「よし! 相棒、行くぞ!」

ガロード「おう! んだが、その前にお前に聞きたい事がある」

剛志「何じゃ、ノリが悪いのう」

ガロード「お前、梨子に惚れたな?」

 答えが返ってこない代わりに剛志の耳は真っ赤になっていた。

 

クリミナルファイター「くそ! 何で俺がこんな目に……計画は万全じゃなかったのかよ」

?「もしかしたら、私達は嵌められたのかもしれない。このダークコアデッキケースが正常に動かないところを見るとそうとしか考えられない」

クリミナルファイター「アークエンジェル……」

 東京の某所にある倉庫でクリミナルファイターとそのバディモンスターが身を潜めながら話していた。

 彼はある人物からダークコアデッキケースと呼ばれるデッキケースを受け取り、そのデッキケースの試用をしていたのだ。

 彼が持っているダークコアデッキケースと言うのは通常バディファイトのファイトシステム上、カードの中からアイテムやモンスターが出て攻撃されてもファイターが怪我しない様になっている。

 しかし、このデッキケースはファイトシステムを無視してファイターに直接ダメージを与える事が出来る。

 つまり、ファイト中に使用するアイテムやモンスターの攻撃は衝撃だけでは無く全て本物であり、それによってファイターが怪我する可能性が極めて高いのだ。

 幸いにも彼が持っているデッキケースは上手く作動しておらず普通のデッキケースと何も変わらない。

クリミナルファイター「畜生、このデッキケースを使ってファイト施設を襲撃しろって言われて暴れてみれば何の効果もねえじゃねえかよ!」

アークエンジェル「しっ! 誰か来たぞ」

 気配を感じた男とアークエンジェルは息を潜め、そのままやり過ごそうとする。だが、しかし相手が悪かった。

剛志「ここにいるのは分かっとるじゃけど、出てくる気配が無いのう」

ガロード「んなら、ドカーンと一発かませば良いんじゃねえの?」

剛志「それもそうじゃな。じゃったら、遠慮無く……!!」

 その直後にとてつもなく大きな銃声が響き倉庫内が揺れた。

 身の危険を感じたクリミナルファイターとアークエンジェルは慌てて倉庫から出る。そして目の前に銃声を轟かせた張本人達が立っていた。

剛志「お、出てきたわい」

クリミナルファイター「さっきの銃声はお前か!?」

剛志「そうじゃい。お前さんを逮捕しにきたんじゃ!」

クリミナルファイター「くそ……こうなりゃ、ファイトだ!」

アークエンジェル「ああ、行くぞ、雪路(ゆきじ)!」

ガロード「よっしゃあ、やってやるぜ!」

剛志「ワシも気合十分じゃ!!」

 剛志と雪路のファイトが開幕する――!

 

 

剛志「ワシらの魂は弾丸の様に熱く真っ直ぐ留まる事を知らんのじゃい! ルミナイズ、『竜魂の弾丸』!!」

雪路「装甲を纏った天使にお前も蹂躙されるが良い! ルミナイズ、『破壊の機械天使』!!」

剛志&雪路「「オープン・ザ・フラッグ!」」

剛志「エンシェントワールド!」

 剛志の手札:6/ゲージ2/ライフ10/バディ:魔愚南無竜王 リボルバー・ガロード

雪路「デンジャーワールド!」

 雪路の手札:6/ゲージ2/ライフ10/バディ:アーマナイト・アークエンジェル

剛志「ワシから行くぞ! チャージ&ドロー!」

 剛志の手札:6→5→6/ゲージ2→3

剛志「ワシは『炎魔連合 リーゼントホーン』をライトにコールじゃ! 効果でワシのデッキから『炎魔連合 リーゼントホーン』をドロップじゃい!」

 剛志の手札:6→5/ライト:リーゼントホーン/ドロップゾーン:0→1(『炎魔連合 リーゼントホーン』)

 ライト:炎魔連合 リーゼントホーン/サイズ2/攻5000/防2000/打撃2

剛志「さらにデッキからドロップゾーンに送ったリーゼントホーンの効果でワシのゲージを+1!」

 剛志のゲージ:3→4

剛志「アタックフェイズ! リーゼントホーンで相手にアタックじゃ!!」

雪路「ぐふ!」雪路のライフ:10→8

剛志「ファイナルフェイズ!! 『仏血義理チャージ!』じゃぁぁぁぁあ!!」

雪路「ど、どんな必殺技なんだ……?」

剛志「ワシもお前さんもデッキの上から4枚をゲージに置くんじゃ!」

雪路「はあ!?」

剛志「ほら、お前さんもさっさと置かんか」剛志の手札:5→4/ゲージ4→8

雪路「チッ、しょうがねえな」雪路のゲージ:2→6

剛志「これでワシはターンエンドじゃ。これならお互い気兼ね無く殴り合えるじゃろ?」

 剛志の手札:4/ゲージ8/ライフ10/ライト:リーゼントホーン

 剛志は人差し指をクイクイと動かし挑発する様に言う。とてつもなく余裕そうにして。

雪路「この野郎……お望み通りギッタギタにしてやんよ! ドロー、チャージ&ドロー!」

 雪路の手札:6→7/ゲージ6→7

 癇に障った雪路は怒り任せにドローフェイズを行った。その目は殺意にも捉えられる程に怒りで燃えている。

雪路「ゲージ2払って、『アーマナイト・フォーメーション』を2枚設置!」

 雪路の手札:7→5/ゲージ7→5/設置:アーマナイト・フォーメーション(2)

雪路「それでレフトに『アーマナイト・イーグル』、センターに『アーマナイト・ヘルハウンド』をコール!」

 雪路の手札:5→3/レフト:アーマナイト・イーグル/センター:アーマナイト・ヘルハウンド

 レフト:アーマナイト・イーグル/サイズ0/攻4000/防1000/打撃1 センター:アーマナイト・ヘルハウンド/サイズ1/攻5000/防6000/打撃1

雪路「2枚設置しているアーマナイト・フォーメーションの能力で俺の場の《アーマナイト》の攻撃力と防御力を+2000!」

 レフト:アーマナイト・イーグル/攻4000→6000/防1000→3000 センター:アーマナイト・ヘルハウンド/攻5000→7000/防6000→8000

剛志「こりゃ崩すのに時間が掛りそうじゃな」

雪路「何言ってんだ、これから本番だぜ!」

剛志「何じゃと!?」

雪路「俺の場にいるモンスターを全てソウルに入れてレフトに『アーマナイト・アークエンジェル』をバディコール、バディギフトでライフ+1だ!」

 雪路の手札:3→2/ライフ:10→11/ライト:アーマナイト・アークエンジェル(ソウル:2)

 ライト:アーマナイト・アークエンジェル/サイズ2/攻2000/防4000/打撃2/ソウル:2/2回攻撃

雪路「アークエンジェルはソウルの枚数分、攻撃力を+3000! 更に2枚設置しているアーマナイト・フォーメーションの能力で攻撃力+2000、防御力+2000だぜ!」

 ライト:アーマナイト・アークエンジェル/攻2000→10000/防4000→6000

剛志「面白くなって来たわい!」

ガロード「少しは危機感は持てよ……」

 ガロードは相方の反応に少し呆れる。しかし、これが彼なのでむしろガロードも安心しているぐらいだ。

雪路「手札をさらに少なくしちまうが、ゲージ1払って『魔槍 闇紡ぎ』を装備!」

 雪路の手札:2→3/ゲージ:5→4/雪路:闇紡ぎ/ライト:アーマナイト・アークエンジェル

 雪路:魔槍 闇紡ぎ/攻3000/打撃3

雪路「行くぜ、アタックフェイズ! 闇紡ぎでファイターに攻撃!」

剛志「流石にその打撃力は喰らいたくないわい! キャスト、『竜意周到』で攻撃を無効化じゃ!」

 剛志の手札:4→3

雪路「なら、アークエンジェルでアタック!」

剛志「ぐっ!」剛志のライフ:10→8

雪路「もう1回、アークエンジェルでアタックだ!」

剛志「ぐわ!」剛志のライフ:8→6

雪路「これでターンエンドだ!」

 雪路の手札:1/ゲージ4/ライフ:11/雪路:闇紡ぎ/ライト:アーマナイト・アークエンジェル/設置:アーマナイト・フォーメーション(2)

剛志「よっしゃ、ワシのターンじゃな! ドロー、チャージ&ドロー!」

 剛志の手札:3→4/ゲージ8→9

剛志「ライフ2を払って、キャスト、『天竜開闢』! ワシは2枚ドローじゃ! 更にキャスト、『竜王伝』でワシのゲージとライフをそれぞれ+1し、カードを1枚引く!」

 剛志の手札:4→6→5→6/ゲージ:9→10/ライフ:6→4→5

剛志「レフトに『ドラゴンキッド ヴァレリー』をコールじゃ!」

 剛志の手札:6→5/レフト:ヴァレリー/ライト:リーゼント・ホーン

 

ドラゴンキッド ヴァレリー

エンシェントワールド

種類:モンスター 属性:怒羅魂頭

サイズ0/攻3000/防1000/打撃1

■君のバディがカード名に「リボルバー・ガロード」を含むモンスターならコールできる。

■このカードが登場したとき、ゲージ1を払ってもよい。払ったら、デッキから《怒羅魂頭》のアイテム1枚を手札に加えて、デッキをシャッフルする。

■このカードが攻撃したとき、君の場にサイズ3の《怒羅魂頭》がいるなら、君の場のアイテム1枚を選んでもよい。そうしたら、デッキの上から1枚を選んだカードのソウルに入れる。

[ライフリンク1]

FT『装填なら、オイラの出番だな!』

 

剛志「ヴァレリーの能力でゲージ1を払って、デッキから《怒羅魂頭》のアイテムを1枚をワシの手札に加え、デッキをシャッフルじゃ!」

 剛志の手札:6→7/ゲージ10→9

 この時、剛志が手札に入れたカードは『友情のマグナム・リボルバー』というアイテムで《怒羅魂頭》のアイテムとしては珍しい形状をしているアイテムだ。

剛志「出番じゃ、ワシのバディ! リーゼントホーンをドロップゾーンに置いてゲージ3を払い、デッキの上から1枚をソウルインしてライトに『魔愚南無竜王 リボルバー・ガロード』をバディコールじゃい!!」

 剛志の手札:7→6/ゲージ9→6/ライフ5→6/レフト:ヴァレリー/ライト:リーゼントホーン→リボルバー・ガロード/ドロップゾーン:3→4(『炎魔連合 リーゼントホーン』)

 

魔愚南無(まぐなむ)竜王 リボルバー・ガロード

エンシェントワールド

種類:モンスター 属性:怒羅魂頭

サイズ3/攻10000/防6000/打撃2

■[コールコスト]ゲージ3を払い、君のデッキの上から1枚をこのカードのソウルに入れる。

■このカードが登場した時、君の手札から《怒羅魂頭》のアイテムを1枚選択して、[装備コスト]を支払わずに装備することができる!

■このカードは相手のカードの効果では破壊されず、手札に戻されない。

■相手のカードが攻撃した時、その対象をこのモンスターに変更する。

■【対抗】相手のカードが攻撃した時、ゲージ1とライフ1払ってよい。払ったら、相手の場のモンスターかアイテムを1枚破壊する!この能力は1ターンに1回だけ使える。

[貫通]/[ソウルガード]/[ライフリンク6]

FT「俺の拳は弾丸の様に痛いぜ?」

 

剛志「リーゼントホーンの効果でワシのゲージを+1じゃ!」

 剛志のゲージ:6→7

ガロード「そして俺が登場した時、剛志の手札から《怒羅魂頭》のアイテムを1枚選択して[装備コスト]を支払わずに装備することができる! 剛志!」

剛志「分かっとるわい! ワシの手札からヴァレリーの能力で加えた『友情のマグナム・リボルバー』を[装備コスト]無しで装備じゃ!」

 剛志の手札:6→5/剛志:マグナム・リボルバー/レフト:ヴァレリー/ライト:リボルバー・ガロード(ソウル:1)

 カードから現れるのでは無く腰に身に付けているホルスターに収まっていた銃を取り出して剛志はマグナム・リボルバーを構える。

 

友情のマグナム・リボルバー

エンシェントワールド

種類:アイテム 属性:怒羅魂頭/武器

攻6000/打撃1

■君の場にカード名に「リボルバー・ガロード」を含むモンスターがいるなら装備できる。

■[コールコスト]ゲージ2払う。

■【起動】“射撃”君のアタックフェイズ開始時、このカードのソウルを好きなだけドロップゾーンに置いてよい。そうしたら、相手の場のモンスターを1枚破壊し、さらに相手にドロップゾーンに置いた枚数分だけ相手にダメージを与える。「射撃」は1ターンに1回だけ使える。

■このカードにソウルがあるなら、ソウルの枚数分だけこのカードの打撃力+1!

[装填6](君のメインフェイズ中、1ターンに1度だけ君のゲージから1枚選択して、このカードのソウルに入れることができる。数字はこのカードに入れられるソウルの枚数の上限を表しているぞ!)

FT「これはワシとバディの友情の証なんじゃ! ワシ以外扱える奴はおらんよ」

 

剛志「ゲージを1枚選択してマグナム・リボルバーに装填! マグナム・リボルバーの能力でマグナム・リボルバーの打撃力+1! 更にゲージ1を払って手札から『炎魔連合 ジェットカウル』をリボルバー・ガロードにソウルイン!」

 剛志の手札:5→4/ゲージ7→5/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:1)/ライト:リボルバー・ガロード(ソウル:2)

 剛志:マグナム・リボルバー/打撃力1→2

剛志「アタックフェイズじゃい! リボルバー・ガロードでファイターにアタック! そしてソウルにあるジェットカウルの能力で、このターン中のリボルバー・ガロードの攻撃力は+3000されるんじゃ!」

 ライト:リボルバー・ガロード/攻10000→13000

雪路「けど、それだけじゃモンスターに対して攻撃しなきゃ意味無いぜ」

剛志「ほざけ、ここからが真骨頂ってもんじゃ。更にジェットカウルの能力で相手の場のカードのソウル1枚をドロップゾーンに置く、つまりアークエンジェルのソウルを1枚ドロップじゃい!」

雪路「何だと!?」

 雪路のライト:アーマナイト・アークエンジェル(ソウル:2→1)/攻10000→7000

ガロード「よそ見している暇は無いぜ! 喰らいな、弾丸の様な俺の拳を!!」

雪路「くそ!」雪路のライフ:11→9

剛志「次はヴァレリーでファイターにアタックじゃ! ヴァレリーの能力でデッキの上から1枚をマグナム・リボルバーにソウルイン!」

 剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:1→2)/打撃2→3

雪路「ぐは!」雪路のライフ:9→8

剛志「次はワシの番じゃ! マグナム・リボルバーでファイターにアタックじゃい!」

雪路「ぐわ!」雪路のライフ:8→5

剛志「これでワシのターンは終わりじゃい」

 剛志の手札:4/ゲージ:5/ライフ:5/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:1)/ライト:リボルバー・ガロード(ソウル:2)

雪路「くそ、面倒なモンスターが来たもんだぜ。ドロー、チャージ&ドロー!」

 雪路の手札:1→2/ゲージ4→5

雪路「よし、来た! ゲージ1とライフ1を払って、キャスト、『裂神呼法』! カードを1枚引いて、更に俺が武器を装備しているからもう1枚ドロー! 更にゲージ1を払ってキャスト、『死中活路』! カードを2枚引く!」

 雪路の手札:2→1→3→2→4/ゲージ5→4→3/ライフ5→4

雪路「レフトに『アーマナイト・オーガー』をコール! 更に2枚設置してあるアーマナイトフォーメーションの能力で攻撃力と防御力をそれぞれ+2000!」

 雪路の手札:4→3/雪路:闇紡ぎ/レフト:アーマナイト・オーガー/ライト:アーマナイト・アークエンジェル/設置:アーマナイト・フォーメーション(2)

 レフト:アーマナイト・オーガー/サイズ1/攻5000→7000/防3000→5000/打撃2

雪路「アタックフェイズ! アーマナイト・オーガーでファイターにアタックだ!」

ガロード「おっと、そうはさせないぜ! 俺が場にいる限りでお前の攻撃は全部俺が引き受ける!」

雪路「チッ、なら目障りなお前からだ! オーガーでリボルバー・ガロードにアタック!」

剛志「そう簡単に相棒をやらせんわい! キャスト、『逢羅武竜』でリボルバー・ガロードの攻撃力と防御力を+3000して[反撃]を与える!」

 剛志の手札:4→3/ライト:リボルバー・ガロード/攻10000→13000/防6000→9000/[反撃]

雪路「くそが!」

ガロード「何だ? カードは全部ゲージに流れちまったのか? んまあ、俺には関係無いがな!!」

 雪路のレフト:アーマナイト・オーガー 撃破!

雪路「なら、闇紡ぎとアーマナイト・アークエンジェルでリボルバー・ガロードに連携攻撃だ!」

剛志「リボルバー・ガロードの能力発動じゃ! ゲージ1とライフ1を払ったら、相手の場のモンスターかアイテム1枚を破壊する。リボルバー・ガロード、闇紡ぎを破壊じゃい!」

ガロード「おうよ! ドカーンと弾丸の様にぶっ壊して行くぜ!」

 剛志のゲージ:5→4/ライフ5→4

 雪路:闇紡ぎ 破壊!

雪路「だが、アークエンジェルの攻撃は通る!」

ガロード「へっ、なかなか痛てぇ攻撃してくれるじゃねえかよ!」

 剛志のライト:リボルバー・ガロード(ソウル:2→1)

雪路「ターンエンドだ」

 雪路の手札:3/ゲージ3/ライフ4/ライト:アーマナイト・アークエンジェル(ソウル:1)/設置:アーマナイト・フォーメーション(2)

剛志「ワシのターン! ドロー、チャージ&ドロー!」

 剛志の手札:3→4/ゲージ4→5

剛志「ゲージを1枚を選んでマグナム・リボルバーに装填! マグナム・リボルバーの打撃力が+1されるんじゃい!」

 剛志のゲージ:5→4/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:2→3)/打撃力3→4

剛志「アタックフェイズ! マグナム・リボルバーの能力を発動し、マグナム・リボルバーのソウルを全てドロップゾーンに置いて、アークエンジェルを破壊じゃ!」

 剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:3→0)/打撃:4→1

雪路「くそ、防ぐカードが無い!」

 雪路のライト:アークエンジェル(ソウル1→0)/攻7000→4000

 マグナム・リボルバーの強烈な弾丸がアークエンジェルを貫いた。

剛志「じゃけど、お前さんにも効果あるんじゃぞ。ワシがドロップゾーンに置いた枚数分だけ相手にダメージを与える、つまりお前さんには3発の鉛玉を受けてもらうわい!」

 剛志が構えたマグナム・リボルバーから更に3発の銃声が轟く!

雪路「な、ぐは!」雪路のライフ:6→3

剛志「さあ、仕上げと行くわい……リボルバー・ガロードでファイターにアタック! ソウルにあるジェットカウルの能力でこのターン中は攻撃力を+3000される! ソウルは……無いじぇけえ意味は無いけどな」

 剛志のライト:リボルバー・ガロード/攻10000→13000

ガロード「そんでも俺の拳が弾丸の様に痛てぇのは変わりないぜ、そらよ!」

雪路「これ以上喰らってたまるか! キャスト、『闘気四方陣』で攻撃を無効化!」

ガロード「んだ、持っていやがったのかよ」

 雪路の手札:3→2

剛志「なら、ヴァレリーでファイターにアタックじゃ! ヴァレリーの能力でデッキの上からマグナム・リボルバーにソウルインじゃ!」

 剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:0→1)/打撃1→2

雪路「ぐっ!」雪路のライフ:3→2

剛志「マグナム・リボルバーでトドメじゃ!」

雪路「まだだ! キャスト、『鳳凰壁』で受けるダメージを2減らす!」

 雪路の手札:2→1

剛志「まだ持っていたんじゃな。じゃが、まだ終わってないわい! ファイナルフェイズ!」

雪路「はあ!? まだ何かあるのか!?」

剛志「勿論じゃい! 相棒、今回はお前さんに譲るわい。一発決めて来い!」

ガロード「おうよ、任せとけ!」

雪路「くそがぁぁぁあ!」

剛志「これで終わらすぞ、バディ! リボルバー・ガロードのライフリンクを無効化し、ゲージ3を払って必殺コール! 『リボルバー・ガロード“琥琉斗・破威訴運(コルト・パイソン)!”』」

ガロード「いよっしゃあ! やってやるぜ!!」

 剛志の手札:4→3/ゲージ:4→1/ライト:リボルバー・ガロード→リボルバー・ガロード“琥琉斗・破威訴運!”(ソウル:1→2)

 

リボルバー・ガロード“琥琉斗・破威訴運(コルト・パイソン)!”

エンシェントワールド

種類:必殺モンスター 属性:怒羅魂頭

サイズ3/攻10000/防6000/打撃3

■[コールコスト]君の場にいるカード名に『リボルバー・ガロード』を含むモンスター1枚の上にライフリンクを無効化にして重ね、ゲージ3を払う。

■このカードが登場した時、相手の場のモンスターを1枚破壊し、さらにデッキの上から1枚を君の装備しているアイテムのソウルに入れる。

■このカードは相手の効果では破壊されず、手札に戻されない!

■相手が攻撃した時、その対象をこのモンスターに変更する。

■君が《怒羅魂頭》のアイテムを装備しているなら、このカードの攻撃力+1000、防御力+1000、打撃力+1!

[貫通]/[ソウルガード]/[ライフリンク6]

 

必殺ガロード「俺が登場した時、相手の場のモンスターを1枚破壊する! そして、剛志のデッキの上から1枚をマグナム・リボルバーのソウルに入れる!」

雪路「……くっ!」

 剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:1→2)/打撃2→3

 雪路のライト:アーマナイト・アークエンジェル 完全撃破!

剛志「ワシが《怒羅魂頭》のアイテムを装備しているけえ、相棒の攻撃力と防御力+1000して打撃力を+1じゃ!」

 剛志のライト:リボルバー・ガロード“琥琉斗・破威訴運!”/攻撃力10000→11000/防6000→7000/打撃力3→4

剛志「リボルバー・ガロードでトドメじゃあー!」

必殺ガロード「喰らいやがれ、魔愚南無・破威訴運(マグナム・パイソン)!!」

雪路「……ちくしょー!!」雪路のライフ:2→0

 

WINNER:日向剛志

 

 

日向「それでお前さんは何で暴れたんじゃ?」

 ファイトに勝った剛志は雪路に今回の事件についての事を聞き出そうとしていた。

 雪路は両膝を地面に付け俯く。表情は良くは見えないが確実に戦意や敵意は無い。

雪路「俺は、いや俺達はある人からこのデッキケースを託されてファイト施設を襲撃して来いと頼まれたんだ……」

 雪路は顔を上げ懐からダークコアデッキケースを剛志に差し出す。禍々しいデザインではあるものの邪のオーラみたいなものは出ていない。

日向「何じゃ、普通のデッキケースとは変わりないのう」

雪路「だよな。だけど、このデッキケースはファイターを傷付ける事が出来る代物なんだ。信じるかどうかはお前次第だが」

 剛志は少し沈黙した後、そのデッキケースを受け取った。

剛志「……お前さんが知らんじゃろうが、このデッキケースで確かに被害は出とった。じゃけえワシらにも召集が掛かったんじゃ」

 剛志は本部から送られて来たメールの内容を思い出す。

 それはファイトによってファイターに直接被害は無くても観戦していた人や建物に被害が出ていた事だ。

 幸い怪我人は出なかったが雪路がファイトを行って暴れた所為で施設のシステムは深刻なダメージを受け壊滅状態になっている。

雪路「そうか……一応俺達は目的を果たしていたんだな」

剛志「お前さんの目的ははっきり分からんが、お前さんには罰を受ける義務がある……!」

 剛志は拳を強く握りしめる。その目も怒りで燃えていた。

雪路「……罰か。別にどんなものでも構わないさ。俺にはもう……」

剛志「じゃっかしい!!」

 その直後、剛志の右拳が雪路の左頬をしっかりと捉えた。拳を受けた雪路はそのまま地面に叩きつけられた。

剛志「……さて、バディポリスが来るまで待っとくか」

雪路「え……?」

剛志「お前さんには然るべき罰が与えられるじゃろう? 今のは楽しいファイトをぶち壊された皆の分を先にぶん殴った過ぎんよ」

雪路「その銃で俺を撃たないのか?」

 雪路は上体を起こし剛志の銃を指差す。剛志はホルスターに収まっている愛銃を拳で軽く叩きながら言った。

剛志「確かにワシの銃は悪い奴を撃つ為の物じゃ。じゃが、()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてどこにあるんじゃ?」

雪路「…………」

 雪路はどこか納得が行かない顔をしている。しかし、剛志は何も気にしなかった。

 その後、バディポリスが到着し雪路の身柄が確保された。ダークコアデッキケースも一緒に回収され剛志の仕事は終わった。

 

その夜、剛志は帰宅し食事を済ませると自室でサトルと連絡を取っていた。

剛志「んで、お前さんが話したかった話って何じゃ?」

サトル『良くぞ、聞いてくれました! それじゃあ、話すぜ。お前が今日追ったクリミナルファイターいただろ?」

剛志「? ああ、アイツか」

サトル『そいつを手引きした奴がさ、モンスターの世界を研究している人らしくてよ……それで最近ドラゴンワールドからやって来たモンスターと手を組んだっていう噂だぜ』

剛志「良く分からんな、アイツと何の関係があるんじゃ?」

サトル『お前から聞いたダークコアデッキケースって代物だが、どうやらその研究者が関係しているらしいんだわ。何もより多くの世界を引き付けて世界を一つにする為だとか……』

剛志「何じゃ、そりゃ。漠然としているし大きすぎるじゃけえ付いて行けんわい」

サトル『オレも冗談だと思っているよ。けど、その情報をくれた奴と連絡が取れない……本当かどうか分からないがヤバいヤマに繋がっているのは確かかもしれないな』

剛志「……とりあえず、お前さんは出来るだけ確証のある情報を集めてくれ。あの長官殿は確実な証拠が無いと動かん人じゃからな。例え目の前で犯罪が起きたとしてもな」

サトル『分かっている、任せとけって! お前も気を付けろよな、んじゃ』

剛志「おう」

 電話を切ると別の端末から通知音が鳴った。梨子からだ。

剛志「お、早速来たわい。何が書かとるんじゃ?」

 通知の内容を見ると次の事が書かれていた。

 

 こんばんわ、剛志君。桜内梨子です。今日は助けてくれて本当にありがとう。お礼とは言ってはなんだけど今度の日曜日空いている? もし空いていたら、剛志君とファイトがしたいな。

 

 簡潔だがお誘いのメールを受けた剛志は狂喜乱舞して相棒のガロードを困らせたのは言うまでも無い。そして先程までの事件の事を忘れ、剛志は承諾の返信を送った。




 今回のファイトは如何だったでしょうか? 前回より動けているでしょうか?
 それと下記は今回使用した提供されたカードです。前書きにも書いてある通り、少しいじってあります。

ドラゴンキッド ヴァレリー
エンシェントワールド
種類:モンスター 属性:怒羅魂頭
サイズ0/攻3000/防1000/打撃1
■君のバディがカード名に「リボルバー・ガロード」を含むモンスターならコールできる。
■このカードが登場したとき、ゲージ1を払ってもよい。払ったら、デッキから《怒羅魂頭》のアイテム1枚を手札に加えて、デッキをシャッフルする。
■このカードが攻撃したとき、君の場にサイズ3の《怒羅魂頭》がいるなら、君の場のアイテム1枚を選んでもよい。そうしたら、デッキの上から1枚を選んだカードのソウルに入れる。
[ライフリンク1]
FT『装填なら、オイラの出番だな!』

 そして、今回剛志にオイシイ思いをさせてみました。よくよく考えてみれば自分の小説でこんな感じの書いた事無かったんですよね……。砂糖を吐くぐらいなら良いのですが、私みたいに胃液を吐きそうならないか心配です。……体調不良の中、長時間パソコン作業しているのが悪いですね。
 それと新しい活動報告欄を出しました。前回出てきた『野分旬』のデッキに関するアイディアを募集しています。後、活動報告の方で問いますが、この作品のオリジナルキャラクターのプロフィールは載せた方が良いんですかね? これは当活動報告にて回答を受け付けます。

 では、次回またお会いしましょう。感想と活動報告の方もお待ちしています。


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第3話:共闘

 まず最初に謝罪です。2.5話のファイトシーンでいきなり手札の枚数を間違えていました。申し訳ありません。その後はちゃんと修正したので大丈夫な筈です、多分。自分でもチェックはしていますが、もしルール処理や表記の間違えがあったら教えてください。自分勝手な事ですが、よろしくお願いします。

 さて、暗い話から切り替えて今日は5月11日です。宣言した日に間に合いました! ただ、前回の投稿から約1ヵ月は過ぎているんですよね……あはは。
 あ、今日は「BanG Dream!」のスマホゲームである「ガールズバンドパーティー!」略してガルパに登場するハロー、ハッピーワールドのドラムを担当する松原花音ちゃんの誕生日ですよ! おめでとう、花音ちゃん!!
 ついでに私の誕生日でもあります。ちなみに血液型も一緒です。つまり私はリアルかの、ぐはぁ!(←何者かにフルボッコにされた

 前置きはこれくらいにして本編に入りましょう! 今回は結構長いですよ。心して読んでください。では、後書きでまた会いましょう。


 今日は休日で俺と空はファイト施設に向かっていた。

 何もこないだ起きた事件によって行き付けの施設が休業している為、いつもより少し遠い場所の施設に向かわなければいけないのだが……正直、この人の多さはどうかしている。

空「おーい、アウラ。そんなにボーっとしていたらはぐれるよ」

 相棒はこの人の多さに動じていない。普通におかしいだろ!? 周り見渡してもどこもかしこも人だらけで!

アウラ「何だよ、この人の多さは! 祭りでもある訳無いのに何でここまで人が多いんだよ!?」

ラディ「ガウー!?」

空「そんな事言っていないで早く行くよ。ただでさえボクの手元に連絡手段がないんだからさ~」

 さっさとラディを頭に乗せている空は先を歩く。俺も小さい彼女から目を離さない様にその後ろを付いて行った。

 今日はファイト施設で何でも屋と言っていたアイツに会う約束があるのだが、空が言っていた様に俺達には連絡手段が無いから自力でこの人混みの中を掻き分けて探すしかない。

 そもそも何故、連絡手段が無くなったのか、それは今朝に遡る。

 

 今朝、空の部屋に聞き慣れない電子音が響いたので目を覚ましカードから出て、その音源を探していた。

 その音源は相棒の枕元にあった四角い何かのデバイス。それを手に取って音源を止め様としたが……。

アウラ「どうやって操作するんだ?」

 ボタンらしき物が見当たらない。あるのは文字とか時間が映し出された画面だけ。

ドラゴンワールドじゃあ、あまり見掛けない代物だな。マジックワールドやヒーローワールドに出てきそうだ。

 だけど、ボタンが無いのにどうやって操作するんだよ、これ?

 イマイチ操作方法が分からないから少しの間、画面と睨めっこする羽目になった。すると電子音は止んだ。

アウラ「何だったんだ、今の?」

 首を傾げ手に持ったデバイスを見つめる。地球の物は良く分からねえな。

アウラ「まあ、止まったなら戻しておけば良いなよな」

 デバイスを元の場所に戻そうとした瞬間、手に持っているデバイスから再び電子音がなる。

 その音に驚いてデバイスを落としそうになったがなんとかギリギリの所でキャッチした。

アウラ「一体何なんだ、これ?」

 繰り返し音が鳴るって新手の兵器か? いや、そんな事ある訳無いな。と言うか、これは本当にどうやって止めれば良いんだ?

アウラ「一か八かやってみるか……!」

 左の人差し指で思いっ切り画面を叩いた。不吉の音と共に画面に光が点り、同時に空が目を覚まして俺の方を見た。

空「おはよう、アウラ。あれ、何しているの……?」

アウラ「おお、おはよう。今あれだ、これから鳴っている音を止めようとしていたところだ」

 俺は空にデバイスを見せる。先程の電子音が無くなった代わりにかなり不吉な音が聞こえるが。

空「アウラ、それは……」

 空の顔が徐々に青くなって行く。何かが割れて崩壊しそうな音がしている以外は何も問題が無いのだが……と思っていたらパラパラと何かが俺の足元に落ちてきた。

空「嘘でしょ……」

 空の言葉を皮切りにデバイスは粉々になってしまった。原因は多分、さっきの一撃か……?

空「アウラのバカーー!!」

 空の叫び声が耳に響き、無残な姿になったデバイスは供養された。

 

 ――そんな訳で俺達には連絡手段が無い。まさか、あれが地球での連絡手段なんて思いもしなかったぜ。

空「それにしてもいつもの場所が使えないなんて……兄ちゃんも何も教えてくれなかったな」

アウラ「昨日からそんな事を言っているな。クリミナルファイターが暴れていたって公表されているんだから良いんじゃ無いのか?」

空「そりゃそうだけどさ、一人のクリミナルファイターが暴れたってだけでそう何日も閉めるのかなって思って」

アウラ「確かにそうだな……一日や二日ぐらいで元に戻ると思ってはいた。けど、何か他にも問題があるんじゃないのか?」

空「そうかも。でも、今兄ちゃんには聞けないね」

アウラ「ああ、そうだな」

ラディ「ガウ」

 連絡手段が無いというのもあるが、そもそも何故かは知らないがここ数日剛志の奴は浮かれていて真面目な話が出来そうに無い。

 何も惚れた女と仲良くなってその子から誘いが来たんだとか。それで今日はその子と一緒にいると言うのだから、あまり当てにならないな。

空「お、ようやく見えたよ」

アウラ「あれがファイト施設なのか」

 建物は大きく、屋上らしき位置には良く分からないマークの看板が立っている。アイツと待ち合わせいる場所だ。

空「よし、行こう!」

アウラ「そうだな」

ラディ「ガウー!」

 俺達は人混みの中をすり抜けて建物に向かった。

 

 建物に向かう途中にあるそこそこ大きい公園でファイトをしている音が聞こえた。

 俺と空は音がした方に足を運ぶとそこには見慣れた女の子と子供相手に全力でファイトをしている大きな子供の姿があった。

旬「これでトドメだね!」

碧「きゃっ!」

 碧のライフが0になった。大人気無いと言えば大人気無い一面を見てしまった気がする。

 だが、俺はそれで良いと思う。子供だろうが大人だろうが全力で勝負をするのが礼儀だと思うからな。

碧「ありがとうございました」

旬「こっちこそありがとう。良いファイトだったよ……ってあ、空ちゃんにアウラ君!」

 俺達に気付いた旬がこっちに手を振る。俺達はそのまま旬達のもとへ行った。

アウラ「さっきのファイト見てたぞ、と言っても最後のところしか見ていないがな。お前、容赦無いな」

旬「そりゃどうも。オレは何でも屋だからね、頼まれた事を全力でやるのが主義なんだよ」

アウラ「そういうの嫌いじゃないぜ」

碧「それにしても旬さんは強いですね。全く歯が立ちませんでした」

空「え? そうのだったの?」

旬「盾を多く入れているから攻撃を防ぐ回数が多かっただけだよ。元々の突破力とか攻撃力はそっちに分があった訳だし」

アウラ「俺達とやった時も割と盾多かったな」

旬「でも、オレが今使っているデッキは寄せ集めだから、すぐ事故って負けに繋がりやすいんだ」

空「へえ、そうなんだ」

旬「だから、新しいデッキにしようと考えているんだけど……何も考えが浮かばないんだよね~」

 旬は右手で自分の後頭部を掻きながら笑う。その様子はとても困っている様には見えないが。

碧「そう言えば、さっきアウラさんが俺達とやった時って言っていたけど空ちゃんたちも旬さんとファイトしたの?」

空「うん、何とか勝ったんだけどね」

旬「いや~あの時の手札は勝てると思っていたけど予想外だったよ」

アウラ「ま、俺達の力なら当然の事だな」

ラディ「ガウ!」

碧「スゴイね、空ちゃん!」

空「いや、ボクだけがスゴイ訳じゃないから……」

 空は謙遜な態度を取る。コイツらしいと言えばコイツらしい反応だな。

空「あ、旬さん。今日ボクたちが呼ばれた理由は?」

旬「ああ、ちょっと例の件とオレの新しいデッキ作りを手伝ってほしくて」

碧「例の件?」

アウラ「お前は気にしなくて良い。俺の事に関する事だからな」

碧「そうですか……。でも、デッキ作りのお手伝いはしますよ。さっきファイトの相手をしてもらったので」

旬「本当に? じゃあ、行こうか」

 俺達はファイト施設へ向かって歩いて行った。

 

 施設内に入った俺達はまず施設内にあるカードショップに向かった。店の名前はサブマリンとか何とか空が言っていた気がするが……ま、どうでも良い事か。

空「それで旬さんはどんなデッキにしたいの? ……って聞いてもイメージが湧かないんだっけ」

旬「ああ、そうなんだよ」

 早速ビルドコーナーって言う所でカードがテーブルの上に並べられている。旬は俺達と戦った時と変わらずドラゴンワールドを使っている様だ。

 盾が大量にあるのを見て今更思うが良く俺達はこんな堅い守りを突破出来たな。

アウラ「どんだけ盾入れているんだよ」

旬「まあ、センターを空ける戦法を多用するデッキだったし回復する事でどうにか勝とうって寸法さ」

碧「それに見た感じでは打撃力の力不足感は否めませんが突破力は十分にあると思いますよ?」

旬「そうなの?」

碧「はい。でも、ゲージが溜まりづらいかも。結構消費するカードが多いので土壇場で良くゲージが無くなるって事無いですか?」

旬「ああ、結構思い当たるよ……」

 そう言えば俺達とやった時もかなりゲージを消費して戦っていたな。

 空のデッキにはエル・キホーテがいるから安定してゲージが溜められるけど向こうはあまりゲージを溜められていなかった。

 それを碧はカードを見ただけで見抜いたのか、大したもんだな。いやファイターとしては当たり前なのか。

旬「ドラゴンワールドはバランスが良いからどう組もうか、迷うんだよな」

空「それだったらいっその事、別のワールドに変えて良いんじゃないですか?」

旬「……検討しておくよ」

 

 その後、一旦休憩に入り俺と旬は空達と離れて外に出た。例の件、レックスの事だ。

旬「あれ? 空ちゃんは付いて来ていないんだね」

アウラ「俺から後で話す。話がこじれると面倒だからな、アイツがそこまで頭が悪い奴じゃねえのは分かるが」

旬「確かに。彼女はまだ小学生だからね」

アウラ「んで、レックスについて何か分かったのか?」

旬「いや、彼と別れた以降は行方を掴む手掛かりはこれっぽちも掴めていないよ。でも、彼と会った時の事を話そうと思ってね」

 旬は一呼吸を吐くとレックスと出会った時の事を話す。

旬「オレと彼が会ったのは君達とファイトをする前の日だ。彼が現出した時にばったりと出くわしてね……それで彼と少し話していたら奇妙な事を言っていたよ」

アウラ「奇妙な事だと?」

旬「『私には今は亡きバディとの約束があるのだ』ってね。彼、元々バディがいたんだろ?」

 旬の問いかけに俺は目を閉じ少し頭を働かせる。……俺とレックスは年が離れていて先輩、後輩の関係だったが親友同士だった。

 そして、かつてアイツにバディがいた事は俺もアイツの口から聞いた事がある。レックスは人を貶めようとか自分の力を誇示しようとして支配者になろうとか考えない奴だ。

 だが、アイツが盗んだインペリウムには世界を支配しようとすれば支配出来るだけの力を持っている。……もし、そのバディとやらが関わっているのなら奴の行動に納得がいく。

旬「アウラ君……?」

アウラ「ああ、確かにアイツにはバディがいた。何でバディを解消したのかは話してはくれなかった。だが、そのバディとの約束があるのならアイツは必ず守るだろうな」

旬「今は亡きと言っていたから、恐らくそのバディは死んでいるね。つまり……」

アウラ「そのバディの未練を果たそうとしているのかもな。アイツらしい……だが、アイツの手で仲間を傷付けられたんだ。そんなの許せる訳無いだろ……!」

 自然と歯を食いしばり握り拳が固くなっていく。今でもレックスが仲間を傷付けた報せが届いた時を思い出すと腸が煮えくり返る。

旬「……腹を立てるのは勝手だけど、そろそろ戻ろう。彼女達が待っている。君にはバディがいるだろう?」

 旬のその言葉で我に返った。旬は既に踵を返して施設内に戻って行く途中だ。

アウラ「……そうだな、俺にはバディがいる」

 俺自身に向けてそう言うと旬の後を追いかけた。

 

空「おかえり~、アウラ、旬さん」

旬「やあ、ただいま」

 空達の場所に戻って来たら先程とは違う色のカードがテーブルの上に並べられていた。あんまり見掛けないモンスターばっかりだな。

アウラ「これ、何だ?」

碧「さっき空ちゃんが『別のワールドにしてみたら?』って話をしたからちょっと今持っているドラゴンワールド以外のカードを並べてみたんです。あまりカードの枚数は無いですけど……」

旬「へえ、バディファイトってこんなにカードがあったんだな。知らなかったよ」

空&碧&アウラ「「「え?」」」

 衝撃的な言葉が聞こえた気がした。まさか、コイツ実はバディファイトを知らないのか?

 いや、俺達とやった時にルール処理とかちゃんとやっていたから初心者じゃないのは確かだろう。

 だが、さっきのコイツの言葉は本当に知らない人間みたいな言い方をしていたぞ……?

碧「旬さん、もしかして実はバディファイトを知らないままファイトをやっていたんですか?」

旬「ああ、そうだよ。ルールの方は大丈夫だけど、そのフラッグとかモンスターとか良く分からないんだよね~。だから、さっき空ちゃんが言っていた事とか理解出来ないしていないんだよ、あはは」

アウラ「笑っている場合じゃ無いだろ、それ」

空「まさかそう言うパターンの人がいるなんて、思いもしなかったよ」

 同感だ。俺でさえ他にどのワールドがあるかは分かるぞ。まあ、あくまでメジャーなワールドだけだけどな。それでも目の前の男が奇妙で仕方が無い。

碧「えっと、まずそこから説明した方が良いですか?」

旬「よろしく頼むよ」

 とりあえず碧が旬に対して説明を行っている間、俺と空は販売コーナーに行ってパックを2つぐらい買って開けた。……俺達のデッキにはあまり合わなさそうなカードばっかりだ。

空「碧、そっちはどう?」

碧「こっちは一通りの説明は終わったよ。空ちゃん、パック買ったんだ」

空「うん。だけど、相性の良いカードはあまり出なかったかな」

旬「そのカード達を見せてもらって良いかな?」

空「良いですよ」

 空は先程買って開けたばかりのパックを旬に渡す。旬は受け取ったカードを順に見ていく。これらの中からどのワールドを使うか決まると良いがな。

旬「……これ、面白いカードだね。よし、オレはコイツをバディにしようかな」

 その中から一枚カードを取り出し俺達に見せた。

空「何か強そうなカードだね」

碧「確かに結構強いカードですね。でも……」

アウラ「何と言うか、これまた癖があるカードを選んだな」

旬「あはは、オレは何でも出来るからこういうカードの方が燃えるよ」

 さらりとムカつく事を言いやがる。いっぺんぶん殴ってやろうかと思うが周りには空達がいるから我慢をする。

?「己に気安く触るな……!」

全員「「「「「!?」」」」」

 突然声がした。俺達は周りを見渡すが誰もその声を発した思わしき者がいなかった。気の所為か?

?「だから、己に触るなと言っているだろが……!」

旬「うわ!?」

 旬が持っていたカードが光り出すと小さい竜が出てきた。炎を纏い、両手剣と思われる剣を背負っている。……何故か物凄く俺達を見下した様な目付きをしている。気に喰わねえ……!

旬「えっと、君は……?」

トラディティオ「己は『炎嵐竜 ツヴァイヘンダー・トラディティオ』だ。覚えておけ、下等な人間共」

空「うわー、すごく長い名前……」

碧「うん。そうだね」

 俺も正直、一発では覚えられないな。ツヴァイ何とかかんとかは自分の名前が俺達に上手く伝わっていないのが分かったのか、溜め息を吐いた。

アウラ「自分から名乗っておいて、その反応は無いだろ」

トラディティオ「それはこっちの台詞だ。己が名乗ってやっているのに向こうはすぐに覚えてくれない。そんなに己の名前は覚えづらいか」

旬「覚えづらいと言うか、長いからどう呼べば良いのか分からないからなんじゃないかな?」

トラディティオ「そのまま己が名乗った通りにすれば良いのだ」

アウラ「だから、てめえの名前が長ぇって言っているんだろ」

トラディティオ「ほう、人間が己の名前に文句を言うか。面白い、貴様から直々に己が教え込んでやる」

アウラ「上等じゃねえか。やれるもんならやってみろよ……!」

空「だあー! ストップ!! 何でこんな事で喧嘩になるんだよ」

 空が竜と俺の間に入った。珍しく怒った顔だな。別に喧嘩をしようとしていた訳じゃない。だが、あの竜の態度がどうも気に喰わない。

碧「アウラさんもトラ……トラさんも落ち着いてください。今ここでモンスター同士で喧嘩したら周りに迷惑をかけるどころじゃないですよ」

 碧がえらい年に合わないぐらいに冷静な事をいう。その顔は喧嘩するなら他に方法があると言いたげだ。

アウラ「……分かったよ」

 納得は出来ないが、流石に俺達モンスターが大暴れをしたら拙いからな。一応、大人しくしてやる。

トラディティオ「己の名前が何故か省略されたのか後で問い質すとして、貴様もモンスターだったのか」

 碧にトラとかと呼ばれた竜は俺をじっと見つめる。見下した様な目では無く、ただ純粋に興味を持っている様な目だ。

アウラ「ああ、そうだ。そこにいるラディと俺で『竜騎士 アウラ』って言うドラゴンワールドのモンスターだ」

 碧に抱えられている相棒も指して説明する。ラディはともかく俺は何もしていなければ地球にいる人間と見分けが付かないからな。

トラディティオ「ふむ、脆弱な人間が戦うのか。それは竜のお荷物な癖にして偉そうに踏ん反り返っているしか気がしないな」

アウラ「あ!?」

ラディ「ガウ!?」

 今、俺の聞き間違えじゃなかったら物凄い偏見の塊の意見が聞こえたぞ? ……上等じゃねえか……!

アウラ「聞き捨てられねぇ台詞だな、おい。てめえ、竜騎士を馬鹿にすんじゃねえぞ?」

トラディティオ「人間は弱いからその英知で武器を作ったのに、竜と共に戦うなんて笑止。その武器を用いて戦えても所詮は人間、結局は竜の邪魔をしているだけではないか?」

空「それは違うよ」

トラディティオ「ほう、どういう事だ?」

空「竜にだって出来ないことがあるでしょ? 人がそれをカバーするんだよ。竜と人がそれぞれ得意なところと苦手なところを合わせて強くなれるのが竜騎士なんだ!」

 それ、俺が言いたかった言葉! だが、俺と思っている事が一緒って事は俺達竜騎士と戦ってくれているだけにあるな。

トラディティオ「……なるほど、やはり人間は面白いな」

 竜も納得してくれたみたいだ。これで俺の怒りも収まるかと思いきや、

トラディティオ「しかし、そこの男が本当にそれだけの実力があるかは疑わしいな」

アウラ「てめえは俺を貶さないと気が済まないのかよ!」

 この野郎、俺自体が気に喰わないのか……!

トラディティオ「貴様はよく吠えるからな。昔から吠える者程、口先しかないのは道理だ」

アウラ「てめえが俺の事が気に喰わねえ事は良く分かった。だが、俺もてめえが気に喰わない。……言いたい事が分かるか?」

トラディティオ「ほう、ならばファイトと行こうか。おい、己に最初に触った男。今時分だけ己のバディになってくれ」

旬「今だけじゃなく、これからもそのつもりだけど……弱ったな、まだデッキ新調していないよ?」

トラ以外三人「「「あ」」」

 そう言えば、元々の目的はそれだったな。すっかり忘れていたぜ。

旬「まあ、良いや。とりあえず、今のデッキでトラを入れてファイトするよ」

トラディティオ「何故、己の名前が勝手に省略されているのだ?」

碧「そっちの方が呼びやすくて、……すみません」

トラ「なるほど、こっちの方が己の名前が分かりやすいか。うむ、良いな。それで呼ばれる事にしよう」

 随分と柔軟な対応が出来る竜だな。俺に対してもそういう対応が何で出来ないんだ? まあ、良い。待ってばっかりで暇だったから、これでようやく暴れられるぜ。

 俺達はファイトスペースに向かった。だが、そこで思いもよらない出来事が起きようとはこの時の俺達は誰一人も予想出来なかった。

 

旬「さて、ここら辺で良いかな」

 空いているファイトスペースで俺達と旬達は向かい合う。

空「じゃあ、今日はよろしくお願いします」

旬「うん。こないだは負けたけど今回はそうはいかないよ」

トラ「こないだ、貴様が負けたのか?」

旬「まあね。今度はトラがいるから、そう簡単には負けない。だろ?」

トラ「ああ、己に任しておけ。あの竜騎士の男には負ける訳にはいかないからな」

アウラ「望むところだ!」

 俺はいつもの姿になりSD化を解いたラディに乗って剣を構えた。あの竜も本来の姿になっている。そして空と旬がルミナイズしようとした瞬間、轟音が施設内に響いた。

アウラ「何だ!?」

空「まさか、イリーガルモンスター!?」

旬「いや、厄介な人間が来たみたいだよ」

トラ「どちらにせよ、勝負はお預けという事になるな」

 モンスターが外壁をぶち破ってこっちに入って来た。それに続く様に痩せ細った男が入って来る。その手には武器が握られている。それを見た多くの人間は一斉に避難し始めた。

モンスター「木山殿、本当に例の子がいるのか?」

木山「知らねえよ! あの野郎がそう言っていたんだから信じるしかねえだぜ!」

 誰かを探しているらしいが、とりあえず碧や空を外に出した方が良いな。

アウラ「空、碧お前達は一旦外に出ろ!」

空「え? でも」

旬「あそこにいるファイター達は普通のファイターじゃないね。オレ達が無理に相手をすれば何が起きるか分からない。今はアウラ君の言う通り、避難するよ!」

 俺は旬が二人を避難させて行くのを目で追いながら、男のバディと思われるモンスターを警戒する。だが、予想外な起きた。痩せ細った男がカードを取り出すと衝撃波がカードから飛び出し旬達に向かって飛んで行く!

アウラ「くそ!」

 右手で持っている剣を振るって炎を飛ばし衝撃波を相殺させる。ラディから降りて旬達の近くに走って行く。旬達には怪我は無い様だ。

旬「今のは一体……?」

アウラ「分からない。ファイトをしている訳じゃないのに普通のカードが飛び出すかよ」

トラ「己も初めて見たな。ファイト中では無いのにカードが飛び出すのは」

空「でも、あれ本物だったよね?」

木山「おーい、月村碧とかいう子はいねえかいー? 返事しねえとバンバンこの建物壊していっぱいお友達を怪我させちゃうぞー!」

 男が軽く振るっただけで衝撃波が飛び交い建物にダメージを与えていく。早く止めないと建物が崩壊する。しかし、アイツとファイトするにしても危険だ。俺とラディだけで対処するしか無いな。……考えていたが一つ気になる事を言っていたな。月村碧はどこだと。

旬「アイツらはもしかして碧ちゃんが狙いか……新手の誘拐犯にしてはかなり手荒い事をするけど」

アウラ「奴らの目的が分かれば時間稼ぎも容易いぜ。旬、頼んだぜ」

 俺はラディに乗って構える。すると隣に一匹の竜が炎を纏い、風を起こしながらやって来た。

トラ「己の事を忘れるな。悪しき人間如きに好き勝手はさせん」

アウラ「分かったよ。てめえも時間稼ぎ、頼むぜ」

トラ「ふん、元よりそのつもりだ」

旬「この際、そのまま仲良くしてくれたら良いだけどね」

空「あー、ものすごく分かる」

碧「…………」

アウラ「うるせえ、それとこれは違うんだよ!」

トラ「その通りだ。今は状況的に共闘せざる得ない訳であって、そこの竜騎士なんぞ当てにしないわ」

アウラ「ああ!? てめえ、ふざけた事言っていると先にてめえからぶった斬るぞ!」

トラ「ふん、ならやってみせるが良い」

空「何でこうなるのかな……」

旬「まあ、不安はあるけど彼らに任せてオレ達は外に出よう。特に碧ちゃんはね」

碧「……そうですよね」

 旬が碧や空を連れて外に出ようとしているのを傍目で確認した後、改めてモンスターや男の方を見る。隣にいるいけ好かない竜のせいで忘れていたが、大分暴れてやがる。というか、何でこの竜は旬達の方に行かなかったんだ? 正直に言って、俺とラディだけで足りると思うんだが。

トラ「ここをとっと片付けてあの人間達と合流しなければな」

アウラ「そう思うなら、てめえが付いていけば良かっただろ」

トラ「だから、貴様は当てに出来ないと言っているだろうが」

アウラ「この野郎、本当にぶった斬るぞ……!」

木山「おい、お前ら何してんだ?」

モンスター「木山殿、あやつらを攻撃しても良いか?」

木山「ま、良いや。やってくれだぜ」

モンスター「承知」

 モンスターから放たれた衝撃波を俺達は気付いて難無く躱した。戦っていないで時間を稼いでいる様な気がするんだが気のせいか?

モンスター「何だ、ただ喧嘩していただけでは無かったのか」

アウラ「好きでやっているんじゃねえんだよ!」

 剣を横に薙ぎ、炎を飛ばす。ラディもそれに合わせて炎を吐く。

トラ「気に喰わないがそいつの言う通りだ。己も好きでこんな事をしている訳では無い!」

 炎の竜巻が起こり、モンスターと男を飲み込まんと迫っていく。だが、俺達の攻撃は別の方向からやって来たモンスターによってかき消された。

男「おい、木山。例の子は見つけてゲットした、さっさとずらかるぞ」

アウラ&トラ「「!?」」

 大柄の男の手には碧がいた。もがいているが男の力が強靭すぎてびくともしていない。

アウラ「おい、そこのお前! 碧を放しやがれ!!」

男「嫌に決まっているだろ。それに放せって言ってはい、分かりましたって言って放す馬鹿いねえだろ」

トラ「……これでは迂闊に攻撃出来んな」

アウラ「ああ、悔しいがその通りだ……!」

 くそ、今下手に攻撃したら碧を巻き込むかもしれねえし、アイツら碧を利用してどう動くかも分かったもんじゃない。打つ手が無い……!

木山「それにしても平木、お前良くその子捕まえられたな」

平木「上手く隠れて捕獲した。まあ、近くにいた男一人をぶん殴ったがな」

木山「お前、図体デカい癖に隠れられるなんて器用なんだぜ」

平木「うるせえ、今の内にずらかるぞ!」

旬「アウラ君、トラ!」

空「碧、助けに来たよ!」

平木「チッ! もう追いついたか……!」

 旬達が戻ってきた。旬の左頬には殴られた様な痣がある。

碧「空ちゃん、旬さん!」

空「碧を返せよ、おじさん達!!」

平木「嫌なこった。返して欲しけれりゃ力づくで奪い返してみやがれ!」

旬「なら、ファイトで勝負しよう! 君達もファイターだろ?」

木山「けけ、それなら文句は無いな。見せてやるぜ、新しいデッキケースの力を!」

平木「ああ、俺様達の力を見せつけてやる!」

 二人は禍々しいデッキケースを取り出す。何だ、この歪んだ力のオーラは……? 今まで感じた事がないぞ。

旬「どうやら、今回のファイトはかなり危なさそうだね。気を付けて、空ちゃん、アウラ君!」

空&アウラ「「うん(おう)!」」

木山「なら、タッグファイトで勝負なんだぜ!」

 俺達はタッグファイトで勝負する事になった。この勝負、絶対に勝つ!

 

 

旬「まさか、タッグファイトになるとは思わなかったよ」

アウラ「どちらにせよ、コイツらに勝てば良いって事だろ!」

空「うん、そうだね。旬さん、アウラ、このファイト絶対に勝つよ!」

旬&アウラ「当たり前だ(ね)!」

平木「ふん、雑魚共が何人掛かって来ても一緒だ!」

木山「けけ、この新しい力を試すのに良いカモだぜ」

碧「空ちゃん達、頑張って……!」

平木「お嬢ちゃんはそこで観戦してな」

 大柄の男は碧を俺達から遠いところに下ろし、持っているデッキケースから禍々しいオーラが出て、碧を守るかの様に包み込む。なるほどな、向こうもあくまで碧を連れ去る事が目的だから、下手に傷つけられないと……これならお互い思う存分に殴り合えるって事か。

 

平木「絶望を与えし魔獣が闇の力を得て、更なる絶望を与える迷宮と化す! ダークルミナイズ、『絶望の迷宮』!!」

空「「蒼い炎は己の信念を示す証! その燃える信念が今煌めく! ルミナイズ、『蒼炎の輝跡』!!」

木山「闇夜に紛れて裁く桜の色は真っ赤に染まるぜ~! ダークルミナイズ、『血桜吹雪の裁き』!!」

旬「古の竜が受け継いだものを進化させた時、炎嵐が全てを薙ぎ払う! ルミナイズ、『炎嵐無双』!!」

4人「「「「オープン・ザ・フラッグ!」」」」

平木「ダンジョンワールド!」

 平木の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:サンダースパルティス“Dark Side”

空「ドラゴンワールド!」

 空の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:竜騎士 アウラ

木山「カタナワールド」

 木山の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:遊び人 ザ・ゴールド“Dark Side”

旬「ドラゴンワールド!」

 旬の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:炎嵐竜 ツヴァイヘンダー・トラディティオ

アウラ「んで、このルールはどう動くんだ?」

旬「ああ、それはそれぞれ通常のファイトと変わらないライフ、手札、ゲージでライフやゲージは個人で使用する事になる。そして最初の3人のターンは先攻扱いになって最後の1人が後攻になるんだよ」

空「それでパートナーが攻撃されてもボクが魔法を使って無効化できるんだ」

アウラ「なるほど、仲間同士の連携が重要になるだな」

 そこでチラッと旬の隣にいるいけ好かない竜を見る。

トラ「…………」

 さっきまで共闘していたがコイツとだけは協力したくねえ……!

旬「頼むからファイト中に勝手にリアルファイトだけは起こさないでよ?」

空「あはは……。あ、そう言えば『相手にダメージを与える効果』の処理はどうなるの?」

木山「それは相手一人を選択してダメージを与えることになるぜ」

アウラ「敵にそう言う事を教えるなんて……お前、奇妙だな?」

平木「ファイトが成立しなきゃ、一方的に叩きのめす事も出来ないからな! 俺様が一番最初をもらうぞ! チャージ&ドロー!」

 平木の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

平木「最初からコールするぜ! ゲージ2とライフ1を払って『サンダースパルティス“Dark Side”』をセンターにバディコール!」

 平木の手札:6→5/ゲージ:3→1/ライフ:10→9→10/センター:サンダースバルティス“Dark Side”

 

サンダースパルティス“Dark Side”

ダンジョンワールド

種類:モンスター 属性:Dエネミー/魔獣

サイズ2/攻7000/防6000/打撃2

[コールコスト]ゲージ2とライフ1払う。

■このカードは効果で破壊されず、手札に戻されない。

■【対抗】“雷魔獣の咆哮!”相手のモンスターが場に登場した時、ゲージ2を払い、手札を1枚捨てる。そうしたら、登場した相手のモンスター1枚をレストする。「雷魔獣の咆哮!」は1ターンに1回だけ使える。

「絶望をさらに与える為に魔獣は闇に染まる」

 

平木「そして、キャスト『百鬼ミッションカード“連鎖を狙え!”』を設置し、更にキャスト『魔獣の雄叫び』で俺様のデッキの上から1枚をゲージに置いて、カードを1枚引く!」

 平木の手札:5→4→3→4/ゲージ1→2/センター:サンダースバルティス“Dark Side”/設置:百鬼ミッションカード“連鎖を狙え!”(1)

 

魔獣の雄叫び

ダンジョンワールド

種類:魔法 属性:Dエネミー/魔獣

■君の場に《魔獣》があるなら使える。

■君のデッキの上から1枚をゲージに置き、君はカードを1枚引く! 「魔獣の咆哮」は1ターンに1回だけ使える。

 

平木「“連鎖を狙え!”の能力で俺様が魔法を使った時、俺様のデッキの上から1枚を裏向きにして“連鎖を狙え!”にソウルイン!」

 設置:百鬼ミッションカード“連鎖を狙え!”(ソウル:0→1/1)

旬「結構回すね。ダンジョンってもっと癖があると思っていたけど……」

平木「ふん、貴様には分からないだろうな! アタックフェイズ、サンダースバルティスであそこの男にアタック!」

旬「!?」旬のライフ:10→8

 何だ、雷が地面を割った!? そんな事なんてこのファイト中にあり得るのかよ!

空「旬さん!?」

旬「大丈夫だよ、空ちゃん。直撃は免れたよ」

 旬の足元は焼け焦げ地面が割れている。どんだけの威力をしているんだよ。……このファイト、ただ事じゃないな。

平木「ははは、驚いたか! これがダークコアデッキの力よ!! ターンエンドだ!」

 平木の手札:4/ゲージ:2/ライフ:10/センター:サンダースバルティス“Dark Side”/百鬼ミッションカード“連鎖を狙え!”(ソウル:1/1)

アウラ「次は俺達からで良いか?」

トラ「ふん、今回は下等な貴様ら人間に譲ってやる」

アウラ「てめえには聞いてねえよ!」

旬「……次、空ちゃん頼むよ」

空「うん、分かった。チャージ&ドロー!」

 空の手札:6→5→6/ゲージ2→3

空「こっちもいきなり飛ばすよ! ゲージ1払って、キャスト『騎兵学校』を設置! さらにゲージ1を払ってレフトに『竜騎士 アウラ』をバディコール!」

アウラ「早速か! 行くぜ、ラディ!」

ラディ「ガウ!」

 空の手札:6→4/ゲージ3→1/ライフ:10→11/レフト:竜騎士 アウラ/設置:騎兵学校(1)

 レフト:アウラ/サイズ2/攻6000/防4000/打撃2/貫通

空「さらに設置した騎兵学校の能力でアウラの攻撃力と防御力をそれぞれ+1000!」

 レフト:アウラ/攻6000→7000/防4000→5000

空「アタックフェイズ! アウラであっちのガリガリにアタック!」

アウラ「おう!」

木山「ライフで受けてやんよ」木山のライフ:10→8

アウラ「まだまだ! 俺の攻撃でお前にダメージを与えた時、お前の手札を1枚選択してドロップゾーンに送る! このカードを燃やして斬るぜ!」

 宣言通り左手の剣で痩せ細った男の手札を燃やして斬った。

木山「んあ!? そんな面倒な能力を持っていたのかよ!」木山の手札:6→5/ドロップゾーン:0→1(手札:『鬼道 桜吹雪』)

空「ターンエンド!」

 空の手札:4/ゲージ1/ライフ11/レフト:アウラ/設置:騎兵学校(1)

アウラ「おい、そこのドラゴン! 見たか、これが竜騎士の力だ!」

トラ「人間にしてはやるではないか……まあ、人間はおまけに過ぎない割にはな」

アウラ「この野郎……!」

 後で覚えとけよ……絶対に後悔させてやる!

木山「何でモンスター同士で喧嘩してんだか分からねえけど、こっちには関係ないか。チャージ&ドロー!」

 木山の手札:5→4→5/ゲージ:2→3

木山「まず、『電子忍者 紫電』をライトにコール! そして手札の《忍法》を1枚捨て、ゲージ1を払って“サイバー・アラナイズ”を発動して、カードを2枚引くぜ!」

空「うげ! マジか……」

 木山の手札:5→4→3→5/ゲージ:3→2/ライト:電子忍者 紫電/ドロップゾーン:1→2→3(手札:『忍法 アイテム爆砕の術』)

 ライト:紫電/サイズ1/攻3000/防1000/打撃1

木山「けけ、レフトに『流浪忍者 飛び加藤』をコール!」

 木山の手札:5→4/レフト:流浪忍者 飛び加藤/ライト:紫電

 レフト:飛び加藤/サイズ2/攻4000/防3000/打撃3

木山「行くぜ、アタックフェイズ! 飛び加藤であの男にアタック!」

旬「またオレか!?」

空「そうはさせないよ! キャスト、『ドラゴンシールド 青竜の盾』で攻撃を無効化してボクのデッキの上から1枚をゲージに置く!」空のゲージ:1→2

木山「けっ!」

旬「助かったよ、ありがとう」

空「いやいや、どういたしまして」

木山「まあ、良い。ターンエンドだぜ」

 木山の手札:4/ゲージ:2/ライフ:8/レフト:飛び加藤/ライト:紫電

旬「ようやくオレの番だね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 旬の手札:6→7/ゲージ:2→3

旬「まずはキャスト、『ドラゴニック・チャージ』でオレのデッキの上から2枚をゲージに置く!」

 旬の手札:7→6/ゲージ:3→5

旬「出番だよ、トラ! ゲージ1払って『竜剣 ドラゴウィング』を装備! 更にゲージ2を払って『炎嵐竜 ツヴァイヘンダー・トラディティオ』をライトにバディコール! バディギフトでライフが回復したからドラゴウィングの打撃力を+1!」

 旬の手札:6→4/ゲージ:5→2/旬:竜剣 ドラゴウィング/ライト:炎嵐竜 ツヴァイヘンダー・トラディティオ

 旬:ドラゴウィング/攻4000/打撃2→3

 

炎嵐竜 ツヴァイヘンダー・トラディティオ

ドラゴンワールド/エンシェントワールド

種類:モンスター 属性:武装騎竜/ネイキッドドラゴン/火/風

サイズ2/攻6000/防6000/打撃2

■[コールコスト]ゲージ2払う。

■このカードは効果によって破壊されず、手札に戻されない。

■このカードが攻撃した時、君の場にこのカード以外の《武装騎竜》か《ネイキッドドラゴン》があるなら、相手の場のモンスターを1枚破壊する。さらにこのカード以外の《火》か《風》があるなら、モンスター1枚を破壊する。

[2回攻撃]/[ライフリンク3]

FT1「これが人間が作った武器か……なるほど、面白い!」

FT2「受け継いで進化していくもの、変わらずにそのままにいるもの、その両方が兼ね備わった竜」

 

 炎の嵐と共にアイツが現れた。そして、両手剣をしっかりと両手で握っている。

トラ「ふん、ようやく己の出番か……存分に暴れさせてもらうぞ!」

平木「悪いがそうはさせねえ。ゲージ2と手札を1枚捨てて、“雷魔獣の咆哮”を発動してテメエのその竜をレストだ!」

 平木の手札:4→3/ゲージ:2→0

トラ「何と!」

旬「あちゃー、いきなりか!」

 ライト:ツヴァイヘンダー レスト!

旬「ま、トラが使えなくてもやるしかないね。レフトに『蒼穹騎士団 スレインジ・ドラゴン』をコール! スレインジ・ドラゴンの効果でオレのライフを+1!」

 旬の手札:4→3/ライフ:11→12/レフト:蒼穹騎士団 スレインジ・ドラゴン/ライト:ツヴァイヘンダー

 レフト:スレインジ・ドラゴン/サイズ1/攻4000/防2000/打撃1

トラ「ぐぬぬ、己の出番が……!」

旬「仕方ないよ。アタックフェイズ! スレイン・ドラゴンでカタナワールドのファイターの方にアタック!

木山「それぐらい受けてやるよ!」木山のライフ:8→7

旬「今度はドラゴウィングでさっきのファイターでアタック!」

木山「キャスト、『うつせみの術』で攻撃を無効化だぜ!」木山の手札:4→3

旬「ターンエンドだよ」

 旬の手札:3/ゲージ:2/ライフ:12/旬:ドラゴウィング/レフト:スレインジ・ドラゴン/ライト:ツヴァイヘンダー

平木「とっとと終わらせてやる、ドロー、チャージ&ドロー!」

 平木の手札:3→4/ゲージ:0→1

平木「キャスト、魔獣の雄叫びで俺様のデッキの上から1枚をゲージに置いて1枚をドロー!」

 平木の手札:4→3→4/ゲージ:2→3

平木「俺様が魔法を使ったから“連鎖を狙え!”の能力でデッキの上から1枚を裏向きでソウルイン!」

 設置:“連鎖を狙え!”(ソウル:1→2/1)

平木「そしてライトに『サラマンダーフィラメント』をコール!」

 平木の手札:4→3/センター:サンダースバルティス“Dark Side”/ライト:サラマンダーフィラメント

 

サラマンダーフィラメント

ダンジョンワールド

種類:モンスター 属性:Dエネミー/魔獣

サイズ1/攻2000/防1000/打撃2

■君のセンターに《魔獣》がいるなら、このカードの打撃力+1。

FT「1体でも厄介な魔獣が2体や3体に増えれば、その絶望感は底を知れない」

 

平木「そして、キャスト『ライトニング・オブ・ボルテックス』で俺様の場に《魔獣》が2枚以上あるからゲージ1を払い、ガキの場にいるモンスターを破壊!」

 平木の手札:3→2/ゲージ:3→2

 

ライトニング・オブ・ボルテックス

ダンジョンワールド

種類:魔法 種類:破壊

■君の場に《魔獣》が2枚以上あるなら使える。

■[使用コスト]ゲージ1を払う。

■相手の場の防御力5000以下のモンスター全てを破壊する。

 

空「そうはいくもんか! ゲージ1を払ってキャスト、『大空を手に入れて』でアウラを手札に戻すよ!」

アウラ「ぬお!?」

 空の手札:4→3→4/ゲージ:2→1/レフト:アウラ→なし

平木「チッ……だが、“連鎖を狙え!”の能力でデッキの上から1枚を裏向きでソウルイン!」

 設置:“連鎖を狙え!”(ソウル:2→3/1)

平木「“連鎖を狙え!”にあるソウルが3枚以上になった時、このカードをドロップゾーンに置いて相手の場のカードを1枚を破壊する。俺様が破壊するのはガキの場にある騎兵学校だ!」

空「そんな!」

 平木の設置:“連鎖を狙え!” ドロップ!

 空の設置:騎兵学校 破壊!

平木「アタックフェイズ! サンダースバルティスでガキにアタック!」

空「キャスト、『青竜の盾』で攻撃を無効化にしてボクのデッキの上から1枚をゲージに置く!」空の手札:4→3/ゲージ:1→2

平木「なら、サラマンダーフィラメントでガキにアタック!」

空「うっ、手札が……!」

旬「キャスト、『緑竜の盾』で攻撃を」

木山「そうはさせねえよ! ライフ2を払って、キャスト『鬼道 桜吹雪』で魔法を無効化だぜ!」木山の手札:3→2/ライフ:8→6

旬「くそ!」旬の手札:3→2

平木「なら、このまま通るな。ガキを叩き潰せ、サラマンダーフィラメント!」

空「うわー!」空のライフ:11→8

 攻撃は直接には当たっていないが、その衝撃で空が吹き飛ばされた!

アウラ「空!?」

碧「空ちゃん!?」

 俺や碧はその場を動く事は出来ない。だから、近くに駆け寄る事は出来ないから声を掛ける事しか出来ない。だからこそ信じるしかないんだ……!

空「大丈夫、まだ行けるよ!」

 空は派手に吹っ飛ばされた割には目立った怪我は無く、難無く立ち上がった。

碧「良かった~」

 碧は安堵したのかその場にへたり込んだ。まあ、あんだけ派手に吹っ飛んでりゃ誰だって心配するな。流石に俺も胆を冷やしたぜ。

アウラ「ああ、分かった。頼むぜ、相棒!」

空「うん!」

平木「ふん、強がりを! 俺様のターンはこれで終わりだぜ!」

 平木の手札:2/ゲージ:2/ライフ:10/センター:サンダースバルティス“Dark Side”/ライト:サラマンダーフィラメント

空「行くよ、ボクのターン! ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:3→4/ゲージ:2→3

空「まずはレフトにゲージ1払ってアウラを再びコール!」

 空の手札:4→3/ゲージ:3→2/レフト:アウラ

アウラ「もう一度勝負だ!」

ラディ「ガウ!!」

平木「なら、ゲージ2を払って、手札を1枚を捨てて“雷魔獣の咆哮!”を発動! 竜騎士アウラをレストだ!」平木の手札:2→1/ゲージ:2→0

アウラ「何だ!? 体が重いぞ!」

ラディ「ガウ!?」

 ラディは地面に伏せ、俺も身体が自由が効かない。これが魔獣の力か……! ちくしょう、こんな時に……!!

 レフト:アウラ レスト!

空「うっ! でもライトに『竜騎士 トモエ』をゲージ1を払ってコール! トモエの能力でトモエが登場した時ドロップゾーンに《竜騎士》があればカードを1枚ドロー出来る! ドロップゾーンにある《竜騎士》には、さっき破壊された騎兵学校とかがあるからカードを1枚ドロー!」

 空の手札:3→4/ゲージ:2→1/レフト:アウラ/ライト:竜騎士 トモエ

 ライト:トモエ/サイズ1/攻5000/防2000/打撃1

空「よし、『竜剣 ドラゴフィアレス』を装備!」

 空の手札:4→3/空:竜剣 ドラゴフィアレス/レフト:アウラ/ライト:トモエ

 空:ドラゴフィアレス/攻3000/打撃2

空「アタックフェイズ! トモエとドラゴフィアレスでサンダースバルティス“Dark Side”に連携アタック!」

平木「なら、キャスト『ヒドゥン・クロスボウ』でトモエを破壊するぜ!」平木の手札:1→0

空「うっ……防げない……ごめん」

 空のライト:トモエ 撃破!

平木「けっ! 手札が無くなっちまった……」

空「……ターンエンド」

 空の手札:3/ゲージ:1/ライフ:8/空:ドラゴフィアレス/レフト:アウラ

 空は俯いて落ち込んでいる。こんな場面だからこそ一撃が入れば活路があると思っていたんだろうな。結果は失敗に終わったが――、

アウラ「空、こういう時こそ前を向け! まだまだこれからだぞ!」

空「! そうだね、まだファイトは続いている……!」

 空を顔を上げた。その目にはまだ戦う意志がある。大丈夫そうだな。

アウラ「そうだ! ライフがある限りまだチャンスはある!」

木山「ま、お前らにチャンスがくれば良いけどな! 俺のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 木山の手札:2→3/ゲージ:2→3

木山「ようやく来たぜ……まずはキャスト『明鏡止水』でデッキの上から3枚をゲージに置く!」

 木山の手札:3→2/ゲージ:3→6

木山「さらに紫電の効果発動、“サイバーアラナイズ!”でゲージ1と手札の《忍法》1枚を捨て2枚ドロー!」

 木山の手札:2→1→3/ゲージ:6→5/ドロップゾーン:6→8(手札:『流星十字手裏剣 右打ち』)

木山「けけ、行くぜ~! 紫電と飛び加藤をドロップゾーンに置き、ゲージ3を払ってライトに『遊び人 ザ・ゴールド“Dark Side”』をバディコール! 手札から《忍者》1枚をソウルイン!」

 木山の手札:3→2/ゲージ:5→2/ライフ:6→7/レフト:飛び加藤→なし/ライト:紫電→遊び人 ザ・ゴールド“Dark Side”(ソウル:1)

 

遊び人 ザ・ゴールド“Dark Side”

カタナワールド

種類:モンスター 属性:忍者

サイズ3/攻7000/防5000/打撃2

[コールコスト]ゲージ3を払い、手札の《忍者》1枚をこのカードのソウルに入れる。

■このカードがモンスターに攻撃をする時、代わりに相手の場のモンスター全てに攻撃する!

■“闇夜の桜吹雪!”このカードの攻撃で相手の場のモンスターを破壊した時、ライフを1払い、君の手札から1枚捨ててよい。そうしたら、相手に破壊したモンスター全ての打撃力分だけダメージを与える! 「闇夜の桜吹雪!」は1ターンに1回だけ使える。

[ソウルガード]

「裁くのは何も日がある内じゃない。闇の中に咲く桜は血の色だ」

 

木山「んで、『忍者刀 散桜』を装備するぜ~」

 木山の手札:2→1/木山:忍者刀 散桜/ライト:遊び人 ザ・ゴールド“Dark Side”

 木山:忍者刀 散桜/攻2000/打撃2

木山「アタックフェイズ! ザ・ゴールド“Drak Side”でツヴァイヘンダー・トラディティオに攻撃! ザ・ゴールド“Drak Side”の能力でお前ら二人の場にいるモンスター全てに攻撃するんだよ!」

空「え、そんな!?」

旬「これはキツイね」

アウラ「上等だ、そんなもんぶっ飛ばしてやる!」

 さっき攻撃に参加出来なかった分の返しをここできっちりと返してやる!

空「ごめん、アウラ戻って! ゲージ1を払ってキャスト、『大空を手に入れて』でアウラを戻すよ!」

アウラ「またか!? だが、良い判断だ!」

 空の手札:3→2→3/ゲージ:1→0/レフト:アウラ→なし

 空の判断でまた俺達は空の隣に戻った。この魔法、急に後ろに引っ張られるから心臓に悪いな。

木山「チッ、だがまだそっちの男のモンスター全てに対するアタックが残っているぜ~!」

旬「流石に一度には守れないからトラを選択してキャスト『ドラゴ・ボンド』でトラを場に残す! そしてオレのライフを+2!」旬の手札:2→1/ライフ:12→14

トラ「当然の選択だな」

木山「それでもトラディティオとスレインジ・ドラゴンはきっちり破壊させてもらうぜ!」

 旬のレフト:スレインジ・ドラゴン 撃破!

木山「ザ・ゴールド“Dark Side”の攻撃で相手のモンスターを破壊した時“闇夜の桜吹雪!”を発動! ライフ1を払って、手札を1枚捨てる事で相手に破壊してモンスターの打撃力分のダメージを与える! スレインジとトラディティオの持ち主であるお前にダメージだぜぃ!!」

 木山の手札:1→0/ライフ:7→6

旬「ぐっ!」旬のライフ:14→11

木山「散桜でガキの方にアタック!」

空「うっ!」空のライフ:8→6

木山「ターンエンドだぜ~」

 木山の手札:0/ゲージ:2/ライフ:6/木山:散桜/ライト:ザ・ゴールド“Dark Side”

旬「オレのターンだね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 旬の手札:1→2/ゲージ:2→3

旬「……?」

 旬は引いたカードを手にじっと見つめている。何かあったのか? 

アウラ「おい、どうした? 手が止まっているぞ」

旬「いや、ごめん。続けるよ、ゲージ2を払って『蒼穹騎士団 ボンブレイド・ドラゴン』をレフトにコール! ボンブレイドの登場時の効果でサイズ1以下であるサラマンダーフィラメントを破壊して、オレのライフを+1! そしてオレのライフが回復したからドラゴウィングの打撃力を+1!」

 旬の手札:2→1/ゲージ:3→1/ライフ:11→12/旬:ドラゴウィング/レフト:蒼穹騎士団 ボンブレイド・ドラゴン/ライト:ツヴァイヘンダー・トラディティオ

 旬:ドラゴウィング/打撃力:2→3 レフト:ボンブレイド/攻防5000/打撃1

平木「そう来るか」

 平木のライト:サラマンダーフィラメント 撃破!

旬「そして、ライフ1払ってセンターに『武装炎竜 バーニングブーメラン・ドラゴン』をコール」

 旬の手札:1→0/ライフ:12→11/旬:ドラゴウィング/レフト:ボンブレイド/センター:武装炎竜 バーニングブーメラン・ドラゴン/ライト:ツヴァイヘンダー・トラディティオ

空「前見た時と違う姿になっている……!」

 空の言う通り、今コールされたブーメラン・ドラゴンが前に見た時と違い炎を全身に纏っている。何で変わったんだ……? いや、そんな事よりも今はファイトに集中だ!

 

武装炎竜 バーニングブーメラン・ドラゴン

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:武装騎竜/火

サイズ0/攻3000/防1000/打撃1

■[コールコスト]ライフ1を払う。

■このカードのバトル終了時、このカードを手札に戻し、君のデッキの上から1枚をゲージに置く。

 

碧「これなら、トラさんの能力が……!」

旬「アタックフェイズ! トラでサンダースバルティス“Dark Side”にアタック! トラの能力でオレの場に《武装騎竜》がいれば、相手のモンスターを破壊する……ザ・ゴールド“Dark Side”を破壊!」

木山「何だとぉ!」

 木山のライト:ザ・ゴールド“Drak Side”(ソウル:1→0)

旬「まだまだ! さらにオレの場に《火》のモンスターがいれば、もう1枚モンスターを破壊できる。もう一回、ザ・ゴールド“Dark Side”を破壊だ!」

トラ「己が相手だった事を悔やむんだな!」

木山「マジかよ!? 何も出来ねえ……!」

 木山のライト:ザ・ゴールド“Drak Side” 完全撃破!

平木「チッ、こっちも防げねえ!」

 平木のセンター:サンダースバルティス“Dark Side” 撃破!

 あのモンスター達を一瞬で片付けやがった! あの竜、見かけだけじゃないって事か……気に喰わねえがその力、認めるしかないな。

旬「バーニングブーメランでそのまま大男の方に攻撃!」

平木「ぐわっ、アチィ!」平木のライフ:10→9

旬「バーニングブーメランの能力でバトル終了後にバーニングブーメランを手札に戻して、デッキの上から1枚をゲージに置く! 更にトラは[2回攻撃]を持っているからスタンド!」

 旬の手札:0→1/ゲージ:1→2/旬:ドラゴウィング/レフト:ボンブレイド/センター:バーニングブーメラン→なし/ライト:ツヴァイヘンダー・トラディティオ

 ライト:ツヴァイヘンダー・トラディティオ スタンド!

旬「トラで大男の方にアタック!」

平木「くそっ!」平木のライフ:7→5

旬「ボンブレイドで今度は痩せ男の方にアタック!」

木山「うごっ!」木山のライフ:6→5

旬「ドラゴウィングで痩せ男の方にアタック!」

木山「ぐへっ!」木山のライフ:5→2

旬「ターンエンドだよ」

 旬の手札:1/ゲージ:2/ライフ:11/旬:ドラゴウィング/レフト:ボンブレイド/ライト:ツヴァイヘンダー・トラディティオ

平木「まさか、たった1枚のカードの能力でここまで追い詰められるのかよ……! 俺様のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 平木の手札:0→1/ゲージ:2→3

平木「俺様はまだ負ける訳にはいかねえ! ゲージ3を払って『大魔獣 ディスペア・ビースト』をセンターにコール! ドロップゾーンにある《魔獣》1枚をソウルイン!」

 平木の手札:1→0/ゲージ:3→0/センター:大魔獣 ディスペア・ビースト

 

大魔獣 ディスペア・ビースト

ダンジョンワールド

種類:モンスター 属性:魔獣

サイズ3/攻8000/防10000/打撃3

■[コールコスト]ゲージ3を払い、君のドロップゾーンにある《魔獣》1枚をこのカードのソウルに入れる。

[2回攻撃]/[ソウルガード]/[ライフリンク2]

FT「その魔獣は純粋に強く絶望を与えるに相応しい」

 

アウラ「最後の最後で固いモンスターを出して来やがったな」

空「でも、トラがいるから簡単に突破出来ると思うけど……」

アウラ「俺達の攻撃に照準を合わせてきたって事か」

空「そうだね」

 俺と空の現在の攻撃力では突破出来ない。空が何かモンスターか魔法を引かないとな……それよりも今はアイツの攻撃をどう防ぐかがだ。頼むぞ、空。

平木「アタックフェイズ! ディスベア・ビーストでまずガキにアタックだ!」

空「うわっ!」空のライフ:6→3

平木「ディスベア・ビーストをスタンドさせて、もう一度ガキにアタック!」

空「キャスト、『ドラゴンシールド 緑竜の盾』で攻撃を無効化にしてボクのライフを+1!」空の手札:3→2/ライフ:3→4

平木「俺様のターンはこれで終わりだ!」

 平木の手札:0/ゲージ:0/ライフ:7/センター:ディスペア・ビースト

空「ボクのターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:2→3/ゲージ:0→1

空「ふう……行くよ、アウラ! ゲージ1を払ってレフトにアウラをコール! そしてライトに『竜騎士 エル・キホーテ』をコール!」

 空の手札:3→1/ゲージ:1→0/空:ドラゴフィアレス/レフト:アウラ/ライト:竜騎士 エル・キホーテ

 ライト:エル・キホーテ/サイズ1/攻防2000/打撃2

空「アタックフェイズ! まずはエル・キホーテでガリガリにトドメ!」

木山「くそ~、負けたんだぜ~!」木山のライフ:2→0

空「エル・キホーテの効果でファイターにダメージを与えた時、ボクのデッキの上から1枚をゲージに置く!」空のゲージ:0→1

空「そしてアウラとボクでディスペア・ビーストに連携アタック!」

平木「けど、それじゃあ届かないぜ!」

空「まだまだ! キャスト、『ナイトエナジー』でアウラの攻撃力を+3000!」空の手札:1→0

アウラ「力が溢れてくるぜ!」

ラディ「ガウ!!」

 空のレフト:アウラ/攻6000→9000

 魔法の力で激しく熱くなったラディの炎がディスベア・ビーストを焼いた。

平木「んだと……だが、ソウルが残っているぜ!」

 平木のセンター:ディスペア・ビースト(ソウル:1→0)

アウラ「それでも俺の剣はお前に届くんだぜ!!」

 上空でラディから飛び降り、ラディの炎を受けて更に燃える上がった二本の剣を相手に振り下ろす。

平木「ぐわー! その事をすっかり忘れていた……!」平木のライフ:7→5

 攻撃が終わったらラディに飛び乗って元の場所に戻る。今回は相手が手札が持っていなかったから、俺の能力は発動しなかった。

空「ボクのターンはこれで終わりだよ」

 空の手札:0/ゲージ:1/ライフ:4/空:ドラゴフィアレス/レフト:アウラ/ライト:エル・キホーテ

平木「木山の野郎がやられたから次のターンは俺様になるぜ。更に木山のところにあるゲージも引き継いで俺様が使える。ドロー、チャージ&ドロー!」

 平木の手札:0→1/ゲージ:2→3

平木「くく、まだ俺様にはツキがあるようだな。このままアタックフェイズに行くぜ! まず、ディスペア・ビーストであの小賢しい炎嵐竜とかやらにアタックだ!」

旬「ごめん、トラ。今回は何も出来ないよ」

トラ「ふん、そう言う時もある事ぐらい百も承知だ」

 旬のライト:ツヴァイヘンダー・トラディティオ 撃破!

旬「トラのライフリンクでオレはダメージを3受ける」旬のライフ:11→8

平木「[2回攻撃]で次にガキにアタック!」

空「うわー!」空のライフ:4→1

平木「ファイナルフェイズ!」

空「!?」

旬「マズイ……!」

 旬の焦る通り、今空の手札はない。だから、今ダメージを与えられると確実に負ける……!

平木「相手のライフが3以下で俺様の場に《魔獣》がいて、相手のセンターが空いているからゲージ3を払って、キャスト『ピリオド・アドベンチャー』! ガキにダメージ3だ!!」

 平木の手札:1→0/ゲージ:3→0

 

ピリオド・アドベンチャー

ダンジョンワールド

種類:必殺技 属性:Dエネミー/魔獣

■相手のライフが3以下で君の場に《Dエネミー》か《魔獣》がいて、相手のセンターが空いているなら使える。

■[使用コスト]ゲージ3を払う。

■相手にダメージ3!

FT「冒険が終わる時、それはダンジョンで命を落とした時だ……」

 

アウラ「空ぁー!!」

空「うわーー!!」空のライフ:1→0

 空の周りに砂煙が巻き上がって空自身の姿見えない。頼む、無事でいてくれ……!

平木「これでターンエンドだ! もう俺様の勝ちは決まったもんだな!!」

 平木の手札:0/ゲージ:0/ライフ:5/センター:ディスペア・ビースト

 ラディ俺は砂煙が収まった後、空の隣に駆け寄った。空は尻もちをついた状態でいて、見た感じでは大きな怪我はしていなさそうだ。

アウラ「空、大丈夫か!?」

空「う、うん。な、何とか……でも……」

アウラ「ああ、分かっている。でも、俺達の負けはまだ決まっちゃいないぞ」

空「え?」

アウラ「旬と……気に喰わんがあの竜がまだ残っている……!」

 本当に気に喰わねえが、あの竜の力は本物だからな。それに旬もこういう場面に強そうだし、まだ逆転できる筈だ。

空「でも、トラは!」

旬「そうだね。さっきのターンでやられちゃったけど、大丈夫。もう一回引けば良いだけの話さ。ドロー、チャージ&ドロー!」

 旬の手札:1→2/ゲージ:3→4

平木「そう簡単に引けるものかよ! そんな時に限ってカードってものは来ないのは貴様だって分かっているだろうが!!」

旬「……それでも、諦めずに信じて引くから来るんだよ。ゲージ2を払って、ツヴァイヘンダー・トラディティオをライトにコール!」

トラ「慢心した奴に勝利など無いのは貴様も分かっているだろう……!」

平木「何だとお!? あり得ねえ!」

旬「このままアタックフェイズに入るよ! トラでディスペア・ビーストにアタック! そして、オレの場にトラ以外の《武装騎竜》がいるからトラの効果でディスペア・ビーストを破壊!!」

トラ「これが己の力だ。とくと味わうが良い!!」

 名前の通り、あの竜は両手剣から炎の嵐を放ち、ディスペア・ビーストを飲み込んで跡形も無く消し飛ばした。無駄に胸を張っているのがむかつくが、やっぱりアイツは強い。

平木「ここまで来てぇ……!」

 平木のセンター:ディスペア・ビースト 完全撃破!

トラ「力の代償だ。その身にしっかりと焼き付けておく事だな」

平木「ぐおおおー!!」平木のライフ:5→3

旬「トラをもう一度スタンド! そしてボンフレイドとトラでトドメだ!」

トラ「バディ、貴様も来い!」

旬「……オーバーキルになるけどオレもアタック!」

平木「嘘だーーー!!!」平木のライフ:3→0

 

WINNER:空&旬チーム!

 

 

 ファイトが終わると碧の身の周りに漂っていたオーラが消えた。空は立ち上がり近くに駆け寄った。

空「碧、大丈夫?」

碧「私は大丈夫だよ。それより、空ちゃんの方が……」

空「ボクは平気だよ……って言っても説得力は無いか」

 確かに目立って大きい怪我こそ無いがあっちこっち細かい怪我をしている。さっきのファイトが如何に壮絶だったのかというのが分かる。

アウラ「それでも平気なら大丈夫だ。だろ?」

碧「アウラさんはもう少し心配した方が良いと思います」

アウラ「心配はしているんだけどな……」

旬「その言い方だと楽天的すぎるんだよ。どちらにせよ、今すぐには手当てが出来ないから我慢するしかないけどね」

トラ「己のバディの言う通りだな。バディポリスとやらが来ない限り、この悪党共の面倒も出来んからな」

 トラが言う悪党共とは先程ファイトしたあの二人組の事だ。ファイトが終わった後、倒れ伏して先程までの暴れっぷりが嘘の様に静かになっている。まるで、力が全て抜かれたかの様だ。

アウラ「はあ、それにしてもファイト中のアイツ等のパワーは異常だったぞ」

トラ「うむ。通常のファイトをしている感じでは無かった、むしろ、己達が普段戦っている感覚に近かった」

アウラ「てめえもか」

トラ「そうだ。あれだけの威力を持つ攻撃……ファイトシステムというものの関係上、己の力はセーブされる筈なのだが……?」

旬「かなり分からない事になっているね」

 そう言うと旬は悪党共の傍に寄った。そして手から離されたデッキケースをじっと見つめる。原因があるとすれば、あのデッキケースだろうか……?

旬「見た感じ、デザインが普通のデッキケースと違うだけでさっきまでの禍々しいオーラは無い。何だか、変だね」

 そう言った同時に突然男達が立ち上がった。旬はすぐさま距離を取り、俺とトラは臨戦態勢に入る。

平木&木山「「……」」

 何だ、何もして来ないのか? 不気味で仕方がねえ。と思った瞬間、アイツ等のバディモンスターがカードが出てきた。そして直後に男達はまた倒れた。

空「どうなっているの……?」

碧「空ちゃん達がファイトに勝ったんだよね?」

旬「どうも様子が変だね。何か操られているみたいだ」

アウラ「どうであろうとぶっ飛ばして、正気に戻せば良いんだろ?」

トラ「なら、全力で以って奴らを止めるぞ」

アウラ「当たり前だ! ラディ、もう一回合わせてくれ!」

ラディ「ガウ!」

 向こうもどうやらこっちに敵意剥き出しにしている。そして同時に俺達とアイツ等は全力の攻撃を放った。が、何者かが間に入って打ち消した。

?「ようやく、間に合いましたね」

 竜の上に女? 竜騎士か? だが、俺の記憶の中にはこんな奴は知らないぞ。

?「あんな方法であのモンスターを止めては周りに被害に出るだけです。もう少し考えてください」

アウラ「どこの誰だが知らないが、他に止める方法があるのか?」

トラ「……!」

 トラが何かに気付いた様だ。俺はさっぱし分からねえけど。

?「ええ、あります。そして今からそれを実践するのですよ」

 女はそう言うと右手に持っている剣を上に掲げ、剣は光を発した。そしてその光でモンスターの闇のオーラが取り払われるとモンスター達はカードに戻った。

アウラ「何がどうなっていやがるんだ?」

空「ただ光を出しただけにしか見えなかったけど」

碧「あのモンスターって、もしかして……」

旬「ん? 碧ちゃん、何か知っているのかい?」

碧「あまり詳しくは分からないですけど、竜騎士の中に神竜騎士って言うモンスターがいるって聞いた事があるんです。あの人はもしかして……」

旬「神竜騎士って事かもしれないか」

?「かもしれないのではなく、まさしくその通りです」

アウラ「じゃあ、てめえが……!」

アウローラ「私の名は『神竜騎士 アウローラ』。やっと会えましたね、日向空、アウラ」




 如何だったでしょうか? 何故かタッグマッチを書いてしまい、書いている途中で後悔していましたがこんな感じでタッグマッチはやります。ルールはどこか変更する可能性がありますが。
 しかし、思ったより多い文章量を書いたな~。短い方がやっぱり読みやすいですかね?
 それと下記にオリキャラのプロフィールを載せます。本編中、あまり容姿の説明が出来ていないのでこれでイメージが掴めればと思っています。

日向 空(ひゅうが そら)/女性/小4/10歳
使用フラッグ:ドラゴンワールド/使用デッキ:竜騎士/バディ:竜騎士 アウラ
容姿:緑がかった黒髪にショートカットで中性的な顔立ち。動きやすい服装を好み、ハーフパンツとパーカーにスニーカーで大変ボーイッシュな格好をしている。身長は138cm
性格:見た目に違わず活発でボーイッシュ。正義感が強く芯もしっかりしていて間違っていたらどんな人だろうとはっきりと物を言うことができる。ただ良くも悪くもはっきりと物を言ってしまうのでそこからトラブルに発展することも少なくない。一人称は「ボク」。

竜騎士 アウラ/男性/20代
容姿:紺色の短髪と額に巻かれた暗く濃い緑色の鉢巻が印象的。少し目付きが鋭く、やや悪人面。戦闘時の服装は赤くボロボロなマントの下に袖なしの灰色のシャツ、鎧は付けず金属製の胸当てに指ぬきグローブ、黒いパンツにブーツ。非戦闘時は鉢巻をバンダナに変えシャツとジーパンとシンプルな格好でいる。比較的細身な体つきだが筋肉隆々で剛腕の持ち主。身長は180cm。
性格:やや無愛想だが義に厚く芯が通っている熱血漢。竜騎士である事を誇りとしている為、竜騎士をバカにした発言を聞いた時はブチ切れる。その割には意外と冷静なところがあり、時と場合に応じて弁える事ができる。騎兵学校出身な為、割と知識はあるが地球では知らない事ばかりなので奇行に走る事もしばしばある。一人称は「俺」。

 と、とりあえずこんな感じです。うーむ、これ性格が行動に表れているのか……?

 それでは次回の更新で会いましょう。感想と活動報告欄のコメントもお待ちしています。


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第4話:神竜騎士

 どうも、巻波です。まさか6年間使っていたガラケーがぶっ壊れて泣く泣く機種変をすることになりました。ガラケーが壊れたのは更新が遅いからなのでしょうか……?
 それにしても新しくしたガラケーの仕様が前の携帯とはかなり違っている所為か、慣れるのに時間が掛かり少しイライラしてしまったり……文面にそのイライラが出ない様に気を付けます。

 話を変えますがそういえば、今日はAqoursの3rdライブツアーの大阪公演2日目ですね~。私は今日ライブビューイングに行って参ります。開演が16時30分からですのでそれ以降からライブが終わるまでは反応出来ません。あしからず。

 また話を切り替えますが、6月に入ったという事でバディファイトの新ルールが適用されていますが、雑記や諸注意で言った通りこの作品は旧ルールのまま突っ走ります。貴方って遅いのねと某駆逐艦の様に言われても気にしません。
 それでは、また後書きで会いましょう。


アウローラ「やっと会えましたね、日向空、アウラ」

アウラ「何で俺達の名前を知っているんだ?」

 突然現れた『神竜騎士 アウローラ』と名乗る女騎士が俺達を見て名前を口にした。すかさず、疑問を口にしたが……こいつ、何者なんだ?

アウローラ「それは……後でゆっくり話します。今はそれどころではないでしょう」

トラ「確かにな」

 気付けば聞き慣れない音が……見慣れない顔の奴等もやって来たな。いや、その中で見慣れた奴が一人いた。

剛志「おーい、空、碧、無事かぁー!!」

空「あ、兄ちゃんだ!」

バディポリスA「何だ、この有様は……!」

バディポリスB「こないだの比じゃないぞ!」

 次々と色んな奴がやって来た。さっきとは違った騒がしさだ。……俺とトラが暴れた事にならないよな? もう1回あそこにお世話になるのは嫌だぞ。

剛志「空……お前さん、ボロボロじゃけえどうしたんじゃ?」

空「あ~……それはそこの人達とファイトしたら……」

 空達の近くに駆け寄った剛志は空が指を差した方向に目を向けた。そして理解してくれたみたいだ。

剛志「アウラ、お前さんは大丈夫じゃったか?」

アウラ「俺は大丈夫だ。勿論、ラディもだ。だが……」

空「ボクは平気だよ。ぶっちゃけ、ファイトしただけだし」

アウラ「そうだな。碧も無事に取り戻せたしな」

剛志「碧の身に何かあったんか?」

アウラ「誘拐されそうになった」

 俺と空は剛志に事情を詳しく話した。話を聞いている時の剛志の顔はかなり険しかった。

剛志「碧も無事じゃったら問題な……」

 話を終わると剛志は碧の方に視線を向ける。タイミングが拙い事に旬と一緒にいる所だった。

剛志「あの男は誰じゃ?」

空「あの人は野分旬さんで何でも屋をやっている人だよ」

 空、説明ありがとうと言いたいところだが、あれはそう言う状況じゃない。バディポリスに旬は完全疑われているな。おい、トラお前バディなんだから何か言ったらどうなんだという視線を奴に向けたら、我関せずといった感じだ。

剛志「あの様子じゃと疑われているみたいじゃぞ?」

アウラ「何つうか、疑われている理由も分かるだがな」

空「……?」

 とりあえず、俺が助け舟を出してやるか。旬のところに行って俺も説明に加わるが……何故か俺も疑われかけた。そして、剛志と空の説明でようやく他のバディポリスも納得してもらえた。そんなに俺は怪しいのか? まあ、流石に今回の件で顔を覚えてもらったから俺がモンスターである事は問題無さそうだな。

碧「空ちゃん、旬さん本当に今日はごめんなさい」

 碧が頭を下げた。碧なりに罪悪感を感じているんだろう。今回のファイトはかなりヤバかったからな。だけど、それで文句を言う奴等じゃないだろ。

空「いや、大丈夫だって! ただファイトしただけなんだからさ!」

旬「空ちゃんの言う通りだね。オレ達はファイトをしただけで何もやられていないからね」

碧「……そうですか。でも、これだけは言わせてください。助けてくれて、ありがとうございます」

 碧は顔を上げて俺達に礼を言った。重たい空気が晴れた気がした。

アウラ「当然の事をしたまでだ」

空「アウラが持って言っちゃうと何か締まらないな~」

アウラ「ああ!? 良いだろ、そんぐらいは! お前も同じ事を考えていただろ?」

空「そうだけどね」

碧「ふふ」

救急隊員「他に怪我人はいませんかー?」

剛志「ほらお前さんらはさっさと手当てをせんかい」

ガロード「そうだぜ。後はバディポリスの俺達の仕事だからよ」

アウラ「そうだが……アウローラって言ったな、アンタはどうすんだ?」

 俺達から少し離れた所にいた彼女に声を掛けてみた。

アウローラ「丁度私の聴取も終わりましたから同行します。まだ話していない事もありますからね」

アウラ「そうか」

 俺達はその場を離れ、空と旬の怪我の治療の為に病院へと向かった。

 しかし、あいつ等は一体何の目的で碧を狙ったのか、あの力をどこで手に入れたのか、そしてアウローラという神竜騎士が何で俺達の前に姿を現したのか……今の俺には分からない事だらけだな。

 

 処置室の前で俺とSD化したラディ、同じくSD化したトラに武装を解除したアウローラが待つという奇妙な光景。俺やラディ、アウローラはともかく何でトラはカード化して旬の所に行かなかったのだろうか? モンスターとは言えども人間の俺には分からないな。

?「あの、野分旬って言う人がここにいるって……聞いたんですが本当ですか?」

 空達と比べて大人っぽく背の高いショートヘアーの女の子が肩で息をしながらやって来た。どことなく旬に似ているな。

アウラ「ああ、そこの処置室で手当てを受けている。と言っても、そんな大層なもんじゃねえけどな」

?「そうですか、ありがとうございます。えっと、貴方は……?」

アウラ「俺は『竜騎士 アウラ』って言って、俺のバディと旬が友達なんだ」

 そう言って良いのか分からないが、とりあえず無難そうな事を言っておく。

?「あの馬鹿兄貴に友達がいたんだ……」

アウラ「ん? どうした?」

恵「いや、何でもありません。あ、私は恵って言います。それで、そこに竜は誰のバディなんですか?」

 恵と名乗った女の子が指を差したのは旬のバディであるトラだ。トラは腕を組んで穏やかな口調で答えた。

トラ「己は貴様が捜していた野分旬のバディだ。己の名は『炎嵐竜 ツヴァイヘンダー・トラディティオ』である。呼びにくいのなら、トラで構わない」

恵「そんなんですか!? ……あの馬鹿兄貴はバディファイトもやっていたんだ……」

トラ「ん? 何か言ったのか?」

恵「いや、何でも無いですよ」

 そう言って恵は話を逸らす。何か怪しいな。

アウラ「なあ、お前は……」

旬「あれ? 何で恵がここにいるんだ?」

 タイミングが良いのか悪いのか、手当てを終えた空と旬、その付き添いの碧が戻って来た。

恵「あ、馬鹿兄貴! さっき家に連絡が来て心配して見てきたら……このロリコン!」

旬「えっ!? 何か恵、勘違いしているよ!?」

恵「うるさい! このロリコン馬鹿兄貴!!」

旬「ちょっと待って、ここは病院だから……痛いって!」

 急展開過ぎて追い付いていけねえが恵は旬の妹って訳か。何と言うか、哀れだな。

碧「あの、どちら様ですか……?」

恵「あ……コホン、私はそこの馬鹿兄貴の妹の野分恵。馬鹿兄貴に何かされたら遠慮なく言ってね」

碧「あ、えっと、分かりました?」

 遠慮なく言ったら、さっきの様な末路を旬が辿るって事か。前にも似た様な疑いを掛けられた気するな……。

空「あの~さっきからロリコンって言ってますけどロリコンってどんな意味ですか?」

アウラ「お前は知らなくて良い」

空「何でアウラが即答するのさ?」

アウラ「色々面倒な事になるから聞かないでくれ」

空「え~!?」

 空は不服そうにしているがあの言葉の意味を知ったら俺にまで良からぬ視線を向けられる事になる。言葉に出してはいないが1度疑われているからな……流石にあのやり取りは繰り返したくない。

アウローラ「これだけ元気があれば、皆さん大丈夫そうですね」

トラ「まあ、そうだな」

?「元気なのは良いが、場所を考えてもらいたいな」

アウラ「あ? アンタ誰だ?」

 恵よりも背の高くスーツに身を包んだ女性がやって来た。物凄く目付きが悪いな。

天海「私はバディカード管理庁の天海だ。年上には敬語を使え、クソガキ」

 天海と名乗った女性は物凄い鋭い目で俺を見る。俺と同い年に見えるぐらい若いと思っていたが……。

アウラ「分かりましたよ、天海さん。これで良いだろう?」

天海「最後までキッチリ言えたら、褒めてやろうと思ったがな……まあ、良いや。ちょっとアンタ達全員に聞きたい事がある時間良いか?」

 俺は空に視線を向ける。空は問題は無さそうな顔をしていた。

旬「オレは良いけど、トラと恵、碧ちゃんは大丈夫かい?」

トラ「己は問題はない。一応貴様のバディだからな」

旬「あ、一時的ではなくなったのか。そりゃ良かった」

恵「馬鹿兄貴が何もしでかしていない事の証明はまだされていないから、私も付いて行く」

旬「あはは……オレは本当に何もしていないだけどな……」

アウローラ「私も話したい事がありますから、良いですよ」

碧「あ、私もちょっと今回の事は知りたい……何で私を狙っていたんだろう?」

アウラ「お前は肝が据わり過ぎだろ。怖い思いしたのによ」

碧「それだったら空ちゃんや旬さん、アウラさんとかトラさんの方が怖い思いをしていると思いますけど……?」

 この子は本当に小学生か!? 俺なら絶対にそう考えないぞ。妙に達観しすぎじゃねえだろうか。

アウラ「そうか。なら、全員大丈夫だ……です」

天海「おう、じゃ場所を変えるぞ」

 俺達は天海に連れられて病院を後にした。今日は何だか色んな奴と話すな……。

 

天海「この部屋で良いだろう」

 そう言って通されたのは会議室の様な部屋だ。大きさはこの大人数が入っても少し余裕がある程度ぐらいだ。

天海「お前らにはもっと穏やかな件でこのカード管理庁に来て欲しかったが……事が事だけに今は少しでも情報が欲しい。協力してもらいたい」

 天海は近くにあった椅子に腰掛ける。そして俺達も天海の一声で各々近くにあった椅子に座った。

アウラ「んで、俺達に協力してもらたい事って何だ……ですか?」

天海「それはあの男達が持っていた妙なデッキケースの事だ」

旬「あれか……」

 旬が珍しく苦い顔をしている。確かにあのデッキケースは異様だった。どう見てもファイト用の攻撃じゃなかった。まるで相手を殺す為の攻撃だったな。

旬「あのデッキケースを扱っていたファイターのモンスターやアイテムの攻撃は今までに感じた事の無いパワーだったですね」

空「何と言うか衝撃が今までの何倍もありました」

天海「感じた事の無いパワー? 通常のファイトシステムのパワーだったら、そこまでの出力は出ない様にしているはずだぞ?」

旬「ですが、あれはそのファイトシステムを無視している感じがします」

天海「……なるほどな。納得がいく」

アウラ「納得がいくって……何がですか?」

天海「お前らはここ以外にファイト施設が襲撃されていた事は知っているよな?」

恵「はい。テレビのニュースで見ました。もしかして、それと関係があるんですか?!」

天海「ああ。今回の犯罪に使われたデッキケースがその事件と使われていた同じタイプだった。まあ、被害の差は違うがな」

アウラ&空「「あ(え)? それって本当か(ですか)!?」」

 俺と空は同時に立ち上がった。空も俺と同じ考えていたら、恐らく……。

天海「そうだが、どうした?」

アウラ「空の兄貴がバディポリスユースでその事件の事を知っていたんだよ」

空「兄ちゃん、何でこの事を黙っていたんだろ?」

天海「余計な事を言って不安がらせたくなかったんだろうな。それは当たり前だと思う。……ところでお前の兄さんの名前は?」

空「日向剛志って言います」

天海「日向剛志……なるほどな。分かった、だからお前等は座って落ち着け」

 天海の言う通りに俺達は座る。剛志の奴、空はともかく俺ぐらいには話して良かったのによ……。

天海「日向隊員はさっき話したこの前の事件の犯人を捕まえた当事者だ。そしてそのデッキケースの事を長官に口止めされていた筈だ。勿論、日向隊員以外のその情報を知っているバディポリスの隊員もな」

旬「まあ、妥当な判断だと思います。それでマスコミなんかに広がったら……」

天海「最悪な状態になっていたに違いないな。……他にお前達が知っている情報は無いか?」

空「あるとしたら……」

 空が俺やトラ、アウローラに視線を向ける。ファイトした直後の事を指しているのだろう。

トラ「ファイトした後にあの輩共の様子がおかしくなったぐらいだろう」

天海「どう言う事だ?」

アウラ「突然、あいつ等のバディモンスターが出たんだよ……何つうか、何かに操られているみたいだった」

天海「意識を操られた? それでどう対処したんだ?」

アウラ「それはそこの奴に聞いてくれ」

アウローラ「奴とは失礼ですね。もう少し貴方は年上を敬ったらどうでしょうか? まあ、話が進まなくなるのでこの程度で止めますが……彼等を直接止めたのは私です」

天海「ふむ」

アウローラ「私の力……曙の女神の名を冠する私は太陽の力を剣に込めてその光で闇を浄化する力を持っています。それを用いて闇を払ったに過ぎないのですが……」

天海「何か引っかかる点があるのか?」

アウローラ「はい。悪意のある闇では無かったと言いましょうか……まるで理想を成し遂げようとしている意志を感じました」

天海「理想を……? あの悪党共にそんなものは無いと思えるが、流石に情報が足りない現状で断定するのは危険だな」

アウローラ「そうですね、彼等には何かあると思います。無かったら、今回の様な事件も起きなかったでしょうし」

アウラ「碧も誘拐されそうにならくても済んだって事だな」

天海「誘拐されそうになった? どう言う事だ?」

 天海の鋭い目付きが更に鋭くなった。むしろ殺気すら放っている。この人が現場にいなくて良かった……あの犯人達を殺す予感しかしない。

アウラ「何で碧を狙ったかは知らん。ただ碧を狙っていたのは確かだ」

恵「それって、そこの馬鹿兄貴と同じロリコンだからじゃないんですか?」

旬「ちょっ、恵!?」

 辛辣な言葉だな。その言葉が俺の方に流れてこない事を祈る。俺もバディがな……。

旬「オレは別にそんな趣味は無いって!?」

恵「だって、その子達が馬鹿兄貴の友達って聞いたから……普通に考えたらいい歳した男が小学生ぐらいの子と友達と言ったらそんな性癖を持っているしか考えられないじゃん!」

旬「だから、そういうのじゃないんだってば!」

天海「兄妹喧嘩してても良いがそこの小学生ぐらいの子達の前でその手の話を控えてもらいたいが」

 同感だ。空がさっきから俺に対して疑問をぶつける目をしているから早く終わって欲しい。碧も何か言いたげにこっちに視線を向けてくるし、視線がもの凄く痛いんだよ。

旬&恵「「あ」」

天海「まあ、分かってくれるなら良い。それで誘拐されそうになった子は?」

 すると碧が名乗り辛そうに小さく手を挙げる。天海の顔はさっきまでの険しい表情ではなく穏やかな顔になっていた。

天海「……そうか。今日はもうお開きにしよう、あまりお前達を引き留めるのも悪いからな」

 ようやく話し合いが終わった。俺達は立ち上がり部屋を出ようとした時、トラが口を開いた。

トラ「部屋を出る前に己から一つ良いか?」

天海「別に構わないが、何だ?」

トラ「何故、バディポリスではない貴様が己達に?」

 ああ、そういや天海はバディポリスとしてではなくカード管理庁と言ったな。この仕事はどちらかと言うとバディポリスがやる仕事だよな?

天海「確かにこの手の仕事はバディポリスがすべきだが、バディカード管理庁としても今回の違法デッキケースは対策を講じなきゃいけない。何もバディポリスだけがバディファイトに関する事件を解決する訳じゃないんだよ」

トラ「ふむ、失礼した」

天海「別に構わない。それより私の方こそ疲れている中、長い時間付き合わせてしまったな」

 と膝をついて懐を漁る天海。そして懐から何かを取り出した……何かに包まれているが……飴?

天海「礼と言っては難だがこれでももらってくれ」

空「良いの!?」

天海「勿論だ。そこの子も遠慮なくもらってくれ」

碧「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 空と碧は天海から飴を受け取った。同時に天海は二人の事を抱き寄せた。だが、天海はすぐに二人を放す。天海の顔がまるで母親の様な表情している様に見えるのは気のせいだろうか?

天海「二人とも今日は偉かったな。お嬢ちゃんも坊主も」

空「え? 坊主……?」

 俺は思わず噴き出しそうになった。空には申し訳ないが流石にここまで来て間違われているのは笑いそうになる。俺も初対面の時は空の事を男子だと思っていたし、やっぱりコイツの見た目は男子なんだよな。それに性格や話し方も相まって余計に間違われやすい。まあ、俺は黙っておこう。何か喋ったら笑いが止まらなくなりそうだ。

碧「あの~、空ちゃんは女の子なんですけど……」

天海「な。そうだったのか。失礼した」

空「別に気にいないよ。いつものことだし」

 気にしていなかったら、突っ込まない様な気がするが気にしたら負けか。

天海「ともかく、二人共頑張ったな」

 天海は二人の頭を撫でた。少し乱暴だけどな。

天海「そうだ。お前等にもこれをやろう」

アウラ「は?」

旬「え?」

 天海が立ち上がり俺達にも飴を差し出す。ちょっと待て、空達はともかく俺や旬はいい歳した男だぞ?

天海「何だ、いらないのか?」

アウラ「まず俺達はガキじゃねえ」

天海「あ!? どうせ、お前等は20歳そこそこなんだろ。私から見れば十分にガキだ」

アウラ「そんなので良いのかよ……」

 この人の基準が良く分からねえ。俺達ですらガキ扱いかよ……。

天海「それとそこのお嬢ちゃんとお姉さんにドラゴンもこれやるよ」

 俺達と同じ様に飴を差し出す。本当にお構い無く渡していくな。

アウローラ「良いのですか?」

天海「別に構わない。むしろ貰ってくれ」

アウローラ「では、遠慮なく頂きます」

トラ「己も貰うぞ」

天海「どうした? 後はお前等だけだぞ?」

恵「私もですか……?」

 恵も戸惑っているみたいだ。

恵「私はそこの馬鹿兄貴とその友達さんと違って何もしていないし、関係していないし……」

天海「ここにいる時点で関係あるし、元々お兄さんを心配して来たんだろ? それだけで立派な理由じゃないか」

恵「……とりあえず、貰います。そのありがとうございます」

天海「礼は要らん。元々私が礼として渡しているだけだからな」

 とうとう恵まで貰ったか……。俺は旬と目を合わせる。旬は諦めた顔をしていた。これは諦めて俺達も貰うしか無い様だな……。

 その後。俺と旬も諦めて飴を貰い解散となった。碧は帰る方角が一緒という事で旬達が送っていく事になった。そして俺達はアウローラを連れて家に向かう事に。

 

 家に帰った後、また事情を説明して何とかアウローラを家に上げ飯や風呂を済ましたら空の部屋でゆっくりする事になった。部屋の主である空はもう自分のベッドで寝ている。今回は色々あったからな、すぐに寝てもおかしくはないか。

アウラ「なあ、アンタは何で俺達の事を知っていたんだ?」

 俺は壁に背中を預け、あの時に聞きそびれた事を彼女に聞いてみた。

アウローラ「そう言えば、まだ話していませんでしたね」

 そう言った後、アウローラは少し間を空けてから話を続けた。

アウローラ「貴方はレックスを追いかけてここに来ましたよね?」

アウラ「ああ」

 あの日、レックスが持っていた剣――インペリウムの能力で開いたゲートへラディと共に突っ込んだら地球にやって来た。そして今に至るって事だが……。

アウラ「俺がレックスを追っていた事と何か関係があるのかよ?」

アウローラ「ええ。彼が持っているインペリウムという剣はその強大な力故に悪しき者の手に渡らぬ様に私達神竜騎士が守っていた物です。貴方もご存知でしょう?」

アウラ「そんぐらいは知っている。って事はつまり、レックスがインペリウムをアンタ等神竜騎士から強奪したって事だからアンタも奴を追いかけて来たって事だろ?」

アウローラ「その通りです。彼を追っている人物が私達以外にもいるという事を仲間の一人から聞き、貴方と分かると私は貴方の動向を調べてここにやって来ました」

アウラ「ん? 俺の事は分かったが何で空の事まで分かったんだ? それに何故地球にやって来てすぐに俺に接触しなかったんだ?」

アウローラ「日向空に関しては貴方の動向を見ている内に知りました……まさかこんな幼い女の子をバディにするとは思いませんでしたが……」

アウラ「ほっとけ」

 その件に関しては俺も気にしているから触れないで欲しい。初っ端のあの事件から変な目で見られている節があるのは自覚しているからな……!

アウローラ「話が逸れてしまいましたね。ドラゴンワールドから来ても貴方にすぐ接触しなかったのはあの妙なデッキケースの事件がレックスと関わっていないか調べていたからです」

アウラ「レックスがあのデッキケースのか? いや、アイツがそんな事する訳ないだろ」

アウローラ「私もそう思います……ですが、彼に協力者がいてもおかしくない様な気がするのです」

アウラ「アイツは人望があるからな……確かにいてもおかしくはねえな」

 騎兵学校時代にアイツの周りにはたくさんの人がいた。アイツは周りから「王」だの何だのと言われていたぐらいカリスマ性やら強さやらを持っている。それに比べて俺は全くと言っていいほど人望はなかったな。ま、どうでも良い話だな。

アウローラ「流石にここまで来ると情報が無いので話を止めます。ですが、一つ貴方達にお願いをしても良いですか?」

アウラ「あ? 何だ?」

アウローラ「明日、私とファイトして下さい」

 

空「ボクが寝ている間にファイトする約束をしたの?」

アウローラ「いいえ。アウラから承諾は得ましたが、ファイターである貴方の返答を待っているといったところですね」

 授業が終わり家に帰っている途中、俺達は近くの公園まで寄る事になった。理由は昨日のアウローラに言われた事だ。

空「アウラも良いって言うなら大丈夫ですよ! ボクもファイトしたいし」

アウラ「そう来なくっちゃな!」

アウローラ「感謝します」

 公園に着き、ファイトの準備をする。そして互いに向かい合った。

アウラ「今更だが、何で俺達とファイトしたいと思ったんだ?」

アウローラ「それには理由が二つあります。一つは単純に貴方達の力を知りたいからです」

アウラ「もう一つは?」

アウローラ「ファイト後にお話しします。では、遅くなっても拙いので始めましょう」

空「はい!」

アウラ「おう!」

 

 

空「蒼い炎は己の信念を示す証! その燃える信念が今煌めく! ルミナイズ、『蒼炎の輝跡』!!」

アウローラ「夜明けの輝きを手に今勝利の栄光を! ルミナイズ、『サンライズ・グローリー』!!」

空&アウローラ「「オープン・ザ・フラッグ!」」

空「ドラゴンワールド!」

 空の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:竜騎士 アウラ

アウローラ「ドラゴンワールド!」

 アウローラの手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:神竜騎士 アウローラ

空「ボク達からだね。チャージ&ドロー!」

 空の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

空「行くよ、アウラ! ゲージ1を払って『竜騎士 アウラ』をライトにバディコール!」

アウラ「おう!」

ラディ「ガウ!」

 空の手札:6→5/ゲージ:3→2/ライフ:10→11/ライト:竜騎士 アウラ

 ライト:アウラ/サイズ2/攻6000/防4000/打撃2/貫通

空「アタックフェイズ! アウラでファイターにアタック!」

アウラ「喰らいやがれ!!」

 ラディと共にファイターへ攻撃する。俺の闘志に応えるかの様に右手の剣が激しく紅く燃え盛る!

アウローラ「ここは受けます」

アウラ「なら、てめえの手札も燃やしてやらぁ!」

 いつも通り俺のもう片方の剣で相手の手札を燃やして切る。

アウローラ「仕方ありませんね」アウローラの手札:6→5(『ナイトエナジー』)/ライフ:10→8

空「ターンエンドだよ!」

 空の手札:5/ゲージ:2/ライフ:11/ライト:竜騎士 アウラ

アウローラ「私のターンですね。ドロー、チャージ&ドロー」

 アウローラの手札:5→6/ゲージ:2→3

アウローラ「空、何故貴方は他のモンスターではなくアウラをコールしたのですか?」

空「え? 何でって……」

アウローラ「無理に答えなくて構いません。戦術なんて人それぞれですから……ですが、その戦術が如何なる弱点を持っているのかもう1度考えてください」

空「……?」

アウラ「アンタ、何を言っているんだ?」

 言っている意味が良く分からねえな。そんなもん当たり前だろ……?

アウローラ「これからその意味が分かりますよ。ライトに『憂い顔の騎士 エル・キホーテ』を、ライフ1を払って『竜剣 ドラゴゼーレ』を装備です」

 アウローラの手札:6→4/ライフ:8→7/アウローラ:竜剣 ドラゴゼーレ/ライト:憂い顔の騎士 エル・キホーテ

 アウローラ/竜剣 ドラゴゼーレ/攻5000/打撃1 ライト:憂い顔の騎士 エル・キホーテ/サイズ2/攻5000/防4000/打撃2

アウローラ「そしてレフトに『神竜騎士 アウローラ』をゲージ2を払ってバディコールです」

 アウローラの手札:4→3/ゲージ:3→1/ライフ:7→8/アウローラ:ドラゴゼーレ/レフト:神竜騎士 アウローラ/ライト:憂い顔の騎士 エル・キホーテ

 

神竜騎士 アウローラ

サイズ3/攻6000/防6000/打撃2

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:竜騎士/神

■【コールコスト】ゲージ2を払う。

■君の場にサイズ2以上の《竜騎士》がいるなら、このカードのサイズを2減らす。

■“太陽と極光”君のカードの能力で相手の手札が減った時、カード1枚を引く。“太陽と極光”は1ターンに1回だけ発動する。

[移動]

 

空「あれ!? サイズオーバーじゃ……!」

アウローラ「私の能力は私の場にサイズ2以上の《竜騎士》がいるのなら私のサイズを2減らす事が出来ます。つまり今の私はサイズ1のモンスターと言う事になります」

 レフト:アウローラ/サイズ3→1

アウラ「サイズ3のモンスターとサイズ2のモンスターが実質同時に場にいるって事か……!」

アウローラ「そう言う事になりますね。では、アタックフェイズに入ります。私でファイターにアタックします」

空「受けます! うっ!」空のライフ:11→9

アウローラ「センターが空いていれば貴方が攻撃を受ける……それは分かっていますよね?」

空「それぐらいは分かっています!」

アウローラ「では、エル・キホーテでファイターにアタックです」

空「キャスト『ドラゴンシールド 緑竜の盾』で攻撃を無効化して、ボクのライフ+1!」空の手札:5→4/ライフ:9→10

アウローラ「確かにそういった魔法があればセンターが空いていても守れますね。しかし、次の攻撃はそうは行きませんよ。ドラゴゼーレでファイターにアタックです。そしてこのカード1枚で攻撃しているならこのカードの攻撃を無効化に出来ません」

空「そんな、うわっ!」空のライフ:10→9

 そう言う事か! アイツのもう一つの理由もここに隠されていたって訳だな……!

アウローラ「打撃力こそは低いですが、攻撃を無効化されません。貴方達にそれを防ぐ手段がありますか?」

空「……一応、あります」

アウラ「何でここで自信のねぇ答え方になっているんだよ」

空「いや、あんまり使った事ないから……」

アウローラ「あるにはあるのですね。では、私はここでターンエンドです」

 アウローラの手札:3/ゲージ:1/ライフ:8/アウローラ:ドラゴゼーレ/レフト:アウローラ/ライト:憂い顔の騎士 エル・キホーテ

空「ボクのターン! ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:4→5/ゲージ:2→3

空「レフトに『竜騎士 エル・キホーテ』をコール、更にゲージ1とライフ1を払って『竜剣 ドラゴブリーチ』を装備!」

 空の手札:5→3/ゲージ:3→2/ライフ:9→8/空:竜剣 ドラゴブリーチ/レフト:竜騎士 エル・キホーテ/ライト:アウラ

 空:ドラゴブリーチ/攻5000/打撃3 レフト:竜騎士 エル・キホーテ/サイズ1/攻坊2000/打撃2

空「そしてゲージ1を払ってキャスト『騎兵学校』を設置して、ボクの場の《竜騎士》の攻撃力と防御力をそれぞれ+1000!」

 空の手札:3→2/ゲージ:2→1/空:ドラゴブリーチ/レフト:エル・キホーテ/ライト:アウラ/設置:騎兵学校(1)

 レフト:エル・キホーテ/攻防2000→3000 ライト:アウラ/攻6000→7000/防4000→5000

空「アタックフェイズ!」

アウローラ「[移動]は使いません」

空「アウラでファイターにアタック!」

アウラ「もう1度行くぞ、ラディ!」

ラディ「ガウー!」

アウローラ「キャスト『ドラゴンシールド 青竜の盾』で攻撃を無効化にします。更に私のゲージを+1します」アウローラの手札:3→2/ゲージ:1→2

アウラ「チッ!」

 くそ! ここ最近防がれてばっかりだぜ!!

空「エル・キホーテでファイターにアタック!」

アウローラ「受けましょう」アウローラのライフ:8→6

空「エル・キホーテが相手にダメージを与えたから更にボクのゲージを+1!」空のゲージ:1→2

空「最後にドラゴブリーチでファイターにアタック!」

アウローラ「では、もう1回キャスト、青竜の盾。攻撃を無効化にして私のゲージを1枚増やします」アウローラの手札:2→1/ゲージ:2→3

空「ターンエンド!」

 空の手札:2/ゲージ:2/ライフ:8/空:ドラゴブリーチ/レフト:エル・キホーテ/ライト:アウラ/設置:騎兵学校(1)

アウラ「なあ、アンタが不利な状況だがこれからどうするつもりだよ」

アウローラ「それはこれから分かりますよ。私のターン、ドロー、チャージ&ドロー」

 アウローラの手札:1→2/ゲージ:3→4

アウローラ「では、参りましょう。アタックフェイズ、私でファイターにアタックします!」

空「キャスト、青竜の盾で攻撃を無効化にしてボクのゲージを+1!」空の手札:2→1/ゲージ:2→3

アウローラ「では、憂い顔の騎士 エル・キホーテでアタックです!」

空「うわ!」空のライフ:8→6

アウローラ「憂い顔の騎士 エル・キホーテが相手に攻撃してダメージを与えた時、私のゲージは1枚増え私はカードを1枚引きます」アウローラの手札:2→3/ゲージ:4→5

アウラ「ゲージだけじゃなくて手札も増やしたのか……嫌な予感がするぜ」

アウローラ「貴方がどういう事を予感しているかは知りませんが、このターンで追い詰めます。ドラゴゼーレでファイターにアタック!」

空「うぐっ!」空のライフ:6→5

アウローラ「ファイナルフェイズ!」

空&アウラ&ラディ「!?」

アウローラ「私の場に《竜騎士》が2枚あり、《武器》があって尚且つ私のセンターが空いてるので、ゲージ4を払いキャスト『竜騎奥義 アルティメット・スマッシュ』! 貴方の場のモンスターとアイテムを全て破壊して、貴方にダメージ3を与えます!」

 アウローラの手札:3→2/ゲージ:5→1

空「そうは行くもんか! ゲージ1を払ってキャスト『大空を手に入れて』でボクの場のモンスターを全て手札に戻す!」

 空の手札:1→0→2/ゲージ:3→2/レフト:エル・キホーテ→なし/ライト:アウラ→なし

アウローラ「なるほど、そう来ましたか。ですが、貴方が装備しているアイテムと貴方へのダメージは無効化されていませんよ」

空「うっ!」空のライフ:5→2/空:ドラゴブリーチ 破壊!

アウローラ「私のターンはこれで終わります」

 アウローラの手札:2/ゲージ:1/ライフ:6/アウローラ:ドラゴゼーレ/レフト:アウローラ/ライト:憂い顔の騎士 エル・キホーテ

アウローラ「これで形勢逆転ですね。どうしますか?」

空「まだまだこれから! ボクのターン! ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:2→3/ゲージ:2→3

空「ゲージ1を払ってライトにアウラを、レフトにエル・キホーテをもう1度コール!」

 空の手札:2→1/ゲージ:3→2/レフト:エル・キホーテ/ライト:アウラ/設置:騎兵学校(1)

空「さらに騎兵学校の効果でボクの場の《竜騎士》の攻撃力と防御力をそれぞれ+1000するよ!」

 レフト:エル・キホーテ/攻防2000→3000 ライト:アウラ/攻6000→7000/防4000→5000

空「そしてボクのライフが5以下だからキャスト『ドラゴニック・グリモ』! 手札を全て捨ててカードを3枚引く!」空の手札:1→0→3

アウローラ「なるほど。理想的な形での使用ですね」

空「まだこれだけじゃ終わらないよ! 『竜剣 ドラゴフィアレス』を装備!」

 空の手札:3→2/空:竜剣 ドラゴフィアレス/レフト:エル・キホーテ/ライト:アウラ/設置:騎兵学校(1)

 空:竜剣 ドラゴフィアレス/攻3000/打撃2

アウラ「これで場は整ったな!」

空「うん! 行くよ、アタックフェイズ!」

アウローラ「私をセンターに移動します」

 アウローラ:レフト→センター

空「アウラがいるのにセンターに移動した!? アウラでセンターにアタック!」

アウラ「今度こそ喰らいやがれ!」

 俺の剣の炎とラディの炎がアウローラに迫るが――、

アウローラ「そう簡単にダメージを貰いませんよ。キャスト『マーシナリーズ』で攻撃を無効化にします」アウローラの手札:2→1

アウラ「くっ!」

 また防がれた。畜生、全然俺の攻撃が入らねえ……!

空「そんな手があったなんて……でも、まだボク達の攻撃は終わっていない! ドラゴフィアレスとエル・キホーテでセンターにアタック!」

アウローラ「ここまでみたいですね。ファイターエリアに戻ります」

 アウローラのセンター:アウローラ 撃破!

空「ターンエンド!」

 空の手札:2/ゲージ:2/ライフ:2/レフト:エル・キホーテ/ライト:アウラ/設置:騎兵学校(1)

アウローラ「私のターンですね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 アウローラの手札:1→2/ゲージ:1→2

アウローラ「いきなりアタックフェイズに入ります! 憂い顔の騎士 エル・キホーテでファイターにアタック!」

空「まだ終わらないよ! キャスト、緑竜の盾で攻撃を無効化してボクのライフを+1!」空の手札:2→1/ライフ:2→3

アウローラ「では、ドラゴゼーレでアウラにアタック!」

空「……ごめん、アウラ……」

アウラ「気にするな。これぐらい平気だし、すぐに戻って来てやるよ!」

 空のライト:アウラ 撃破!

アウローラ「これで私のターンは終了です」

 アウローラの手札:1/ゲージ:2/ライフ:6/アウローラ:ドラゴゼーレ/ライト:憂い顔の騎士 エル・キホーテ

空「……ボクのターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:1→2/ゲージ:2→3

空「有言実行にしては早すぎるよ……ライトにアウラをゲージ1を払ってコール!」

アウラ「すぐに戻って来てやるって言ったんだから当然だろ!」

ラディ「ガウ!」

 空の手札:2→1/ゲージ:3→2/空:ドラゴフィアレス/レフト:エル・キホーテ/ライト:アウラ/

空「騎兵学校の効果でアウラの攻撃力と防御力を+1000して……更にキャスト、ドラゴニック・グリモ! 手札を全て捨ててカードを3枚引く!」

 空の手札:1→0→3/ライト:アウラ/攻6000→7000/防4000→5000

空「アタックフェイズ! アウラでファイターにアタック!」

アウローラ「キャスト、マーシナリーズで攻撃を無効化にします」アウローラの手札:1→0

アウラ「ここまで来て、また防ぎやがった!」

空「だったら、【対抗】でキャスト『ドラゴニックチャージ』でボクのゲージを2枚増やすよ!」空の手札:3→2/ゲージ:2→4

アウローラ「このタイミングでゲージを増やしましたか」

空「今度はエル・キホーテでファイターにアタック!」

アウローラ「これは……受けるしかありませんね」アウローラのライフ:6→4

空「エル・キホーテの効果でボクのゲージを+1して、更にドラゴフィアレスでファイターにアタック!」

アウローラ「これも受けるしかありません」アウローラのライフ:4→2

空「ファイナルフェイズ!」

アウローラ「やはり、そう来ましたか」

空「相手のライフが4以下でボクのセンターが空いているからゲージ4を払って、キャスト『レックレスアンガァァァ!!』! ドラゴフィアレスの打撃力を+2してスタンド、そのままファイターにアタック!」

アウローラ「私の負けです。お見事でした」アウローラのライフ:2→0

 

WINNER:日向空

 

 

アウローラ「良いファイトでした。ありがとうございました」

空「こちらこそありがとうございました。……ところで、もう一つの理由って……?」

アウラ「無効化出来ない攻撃への対策だろ?」

アウローラ「…………」

アウラ「おい、何いきなり黙るんだよ?」

 俺はそんなに的外れな事を言ったか? この妙な沈黙が結構辛いんだが。

アウローラ「貴方がそこまで頭が働く人だと思いませんでした」

アウラ「てめえ、さらりと失礼な事を言いやがるな」

空「普段の事を考えたら、アウラって頭良さそうな気がしないもんね」

アウラ「てめえも何言っていやがんだ!」

 確かに俺はそこまで頭が良いって訳じゃねえ。かと言ってそこまで馬鹿でも無い筈……多分な。まあ、考えるのが面倒臭いから何も考えず行動している事が多いのは確かだけどな。

アウローラ「コホン、これは失礼しました。先日の貴方の言動で誤解していたみたいです」

アウラ「俺がそこまで頭を使わねえのは事実だから、別に気にしてねえよ」

アウローラ「そうですか。話を戻しましょう……と言ってもアウラの言う通り、私のもう一つの理由は無効化出来ない攻撃の対策を教える為ですね」

空「……あ! そう言う事か!」

アウローラ「もうお気付きだと思いますが、一つの手段として私みたいに[移動]を持つモンスターをセンターに移動させる事で防ぐ事が出来ます」

アウラ「俺達の今の戦い方にピッタリだな」

空「そうだね。昨日はセンターが空いていたから攻撃を受けすぎたからね……」

 空の言う通り、センターが空いている時間が長かったから防御カードが枯渇したんだよな。

アウラ「だけど、お前デッキの中に[移動]を持っている奴入れていなかったか?」

空「確かに入れているけど、大体出すタイミングが悪くてさ……それにアウラの事を考えたらサイズ的にもね……」

アウラ「ああ、そうだな……」

 こればっかりは何も言えねえ。

アウローラ「だからこそ、私の力を使って欲しいと思っていました」

空「でも、アウローラさんってサイズが……あっ、そっか! アウラがいても場に出せるんだった」

アウローラ「ええ。ですから、私からお願いがあります。貴方の力にならせてください」

空「そんな、とんでもないよ。こちらこそアウローラさんの力を貸してください」

アウラ「俺から頼むぜ」

空「アウラ、そこはちゃんとしようよ」

アウラ「むむ、ちゃんとしろって言われてもな……」

 何かムズムズするから敬語使うのは苦手なんだよ。それでも騎士かよと何度も言われてたから意識はしているが、どうしてもいつも通りになっちまう。

アウローラ「ふふ、ありがとうございます。だけど、もう彼の言葉遣いは気にしていませんし、これから一緒に戦う仲間に変に気を遣われても私だってやり辛いですから」

アウラ「だそうだ」

空「なら、良いや」

 新たな仲間が加わった。神竜騎士アウローラ――これ以上に無い戦力だな。しかし、あまり具体的に話していなかったがあの無効化出来ない攻撃を持った剣は……まるでアイツの剣術の対策の為にも思えるな。

空「どうしたの、アウラ? さっきからぼっーとしてさ」

アウラ「んあ? ああ、普段使わねえ頭をかなり使ったから頭がオーバーヒートしちまったんだよ」

空「脳みそってそんなもんだっけ?」

アウラ「そういうもんだ」

 今は変に考える事は止めよう。本当に頭がオーバーヒートを起こしちまう。それに例え相手がアイツだろうと俺は目の前の奴をぶった斬って仲間の為に道を切り開くだけだ……!




 思いっきりDDDのカードを使ってしまいました。ただ、主軸とするカードはあくまで無印や100つもりです。これからもそのつもりです。
 と言い切りたいところですが、最近この本編とは別にこの作品内でアナザーエピソード的なものを書きたいと思っています。その場合、DDDのカードをメインに使う事になるんですよね……実はDDD以降の環境ってあまり触れた事ないからさっぱしなんです。(←おい
 とはいえ書くとしたら、精一杯頑張ります。更新は遅いですが、気長に待っていただければ幸いです。

 では、次回の更新で会いましょう。感想と活動報告のコメントもお待ちしています。


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第4.5話:デート、そしてストーキング

 皆さん、どうも何故か増える文字量に泣いている巻波です。放っておくと1万字は当たり前に越えてしまいます。長いのが苦手だったり、嫌いな方には申し訳ないです……。
 それにしても前の話からもう2ヶ月ぐらい経ちましたね。半年に1回の更新ペースになるのも待ったなしの予感()。簡潔に言いますと更新が遅くて、本当にすみませんでした!
 
 あ、話が変わるのですがガルパ!がプロ野球のパ・リーグとコラボするという情報を公式サイトで見てライオンズファンの巻波はかなりテンションが上がっています!
 うわー8月16日のホーム試合見に行きたいよ~! お金が無いよ~! そもそもその日は行けないよ~! という状態で荒れ狂っていますが……。
 その前に、8月1日が……千歌ちゃんと一緒に描くデジモンはアグモンかブイモンどっちにしよう……。あ、ちなみにこれについて意見がある方はメッセージの方へお願いします。

 後、ついでにプロフィールを……。ぶっちゃけ、流して本編へ行っても構いませんよ?
日向 剛志(ひゅうが つよし)/男性/16歳/高1
使用フラッグ:エンシェントワールド/使用デッキ:怒羅魂頭/バディ:魔愚那無竜王 リボルバー・ガロード
東京支部所属のバディポリスユース。空の兄。
容姿:黒い短髪で少しツンツンした様な髪型で力強い眉と鋭い目付きが特徴的。やや厳つい顔立ちをしている。服装は勤務中でも私服で活動しており、暗い赤の半袖ジャケットを羽織って中に黒いタンクトップを着ている。青いジーンズに少しくたびれたスニーカーを履いている。また腰にリボルバー型の拳銃を収めているホルスターを付けている。筋肉質な体付きだが身長は165cmと低い。
性格::豪快で無鉄砲な熱血漢で能筋。やる事成す事が豪快で常識外れな為、周りから避けらているがチームプレイもできる。頭の回転は早いが勉学はさっぱりで周りから馬鹿扱いされている。細かい事は気にしないさっぱりとした性分で正義感が強い。一人称は「ワシ」。話し方が独特で語尾に「~じゃ」だとか「じゃい」と付く事が多い。

 前置きが長くなってしまいましたね。では、また後書きでお会いしましょう。本編へどうぞ!


 7月下旬、夏休みが目の前に見えてきた学生達は皆どこか浮かれている。

剛志「はぁ~……」

ガロード「どうしたんだよ? そんなシケた面しやがって、まさかこの間のデートが潰れた事をまだ気にしていやがったのかよ?」

剛志「違うわい。この間の一件は向こうが許してくれたし、夏休み入った直後にまた一緒に出かけてくれるって言うけえ、今から楽しみすぎてのう……」

ガロード「お前って、本当に単純だよな……」

 彼もまた浮かれていた。

 

 教室に入った剛志は金本と顔を合わすがいつもと少し違う景色に気付く。

剛志「ありゃ、土原はどこ行ったんじゃ?」

金本「それなら、響を呼びに行ったよ。ホント、土原の奴は響の事好きだよな」

剛志「ああ、そうじゃな」

土原「何か呼んだ?」

 噂をすれば土原が一人の男子生徒を連れて戻ってきた。その男子生徒は剛志は勿論、土原や金本よりも背が高い。それと少し体つきも良く短い髪を金色に染めその眼光はやや鋭い為か、かなり怖い見た目をしている。

金本「お前はまた響を呼びに行った事を話していたんだよ」

土原「だってぇ、ビッキーがまた曲作りに悩んでいるって聞いたからさぁ~」

金本「そうなのか、響?」

 金本は金髪の男子生徒に訊ねる。男子生徒もとい響はその外見と違えて人の良さそうの笑みを浮かべて話す。

響「まあ、確かに行き詰まっているな。でも、陽太郎が何かアイディアになるもんがあるって聞いて、こっちに来たんだ」

金本「そんなもんある訳……いや、あるな」

剛志「何じゃい、ワシを見て」

 剛志は金本や土原に視線を向けられて居心地悪そうにする。だが、響は良く分かっていない様だ。

響「剛志に何かあったのか?」

金本「ちょっと待て、ここ数週間あんなに浮かれていたのに何も無い訳ないだろ? つか、気付かなかったかよ!?」

響「ああ、全然気付かなかった。っで、何があったんだよ?」

土原「へへっ、じゃあビッキー聞いて驚け……何と剛志に彼女が出来たんだぜ!!」

剛志「じゃあぁぁぁ!! 違うわい! 友達じゃあ、友達!! 女子の友達じゃい!!」

土原「でも、その子の事が好きなんだろ?」

剛志「あっ……」

 肯定を示すかの様に剛志の顔はみるみる赤くなる。その様子に金本と土原は笑い出す。

土原「やっぱ、剛志は単純で分かりやすいなぁ~」

金本「本当に昔から変わってねえな、そういうところ」

剛志「じゃかましい!! 好きな子が出来て何が悪いんじゃい!!」

響「……それ、本当か? 剛志」

 響一人だけがこの状況に追い付いていない。

剛志「ああ、そうじゃ!」

 剛志は親友二人にからかわれた所為か、やけっぱちに言う。それを聞いた響は突然剛志の両肩を掴み、目の奥に強い輝きを見せる。

響「その話を詳しく聞かせてくれ! 何か曲のアイディアになりそうだ!!」

剛志「何でお前さんはいつも曲の事になるとそんなに暑苦しんじゃ!」

響「良いから、お前のその子への気持ちを聞かせろよ!」

 響の熱意に負け、剛志は渋々話す事に。隣で二人のやり取りを見ていた金本も響の熱意には苦笑い。

剛志「コホン……そ、その子とはちょっと訳あって、仲良くなったんじゃ。何と言うか桜みたい綺麗な子でな……笑顔がとびきり可愛くて綺麗で……」

響「よし、分かった! ありがとな、剛志! これで曲が書けそうだ!! じゃあな!」

剛志「ちょっ、お前さん、急展開過ぎじゃろ!?」

 剛志がそう言う頃には響は教室を出て行った。あまりの急展開に剛志は呆ける。

金本「いまいち、アイツのスイッチがどこにあるのか分からん」

土原「まあ、それがビッキーだからな。でも、オレはビッキーのそういうところ大好きだぜ!」

剛志「はぁ……ワシは何であそこまで恥ずかしい思いをして喋ったのか……疲れたわい」

 嵐が去った後は、ただ疲労と恥ずかしさがあるだけだった。

 

 そんな感じの朝が過ぎた後、剛志達はいつも通り授業を受ける。ただ、その途中で金本は半分ぐらい授業をサボって屋上で煙草を吸ったり、給水タンクの影を利用して昼寝をしたりとしていたが。

 ともあれ、何事もなく一日の授業が終わると生徒は家に帰ったり部活に向かったりして、人が少なくなっている。その中で剛志達は教室に残って喋っていた。

剛志「はあ~、ようやく帰れるわい」

土原「だな! あ、ビッキー誘って帰ろうぜ。ついでに金本も」

剛志「そうじゃな。……ん? 響は部活じゃないんかい?」

響「バンド仲間に追い出されたんだよ」

土原「おっ、ビッキー!」

 ギターケースを片手に響がやって来た。本来なら部活に行っているのだが彼が言った通りバンドから追い出された為、現在一人で活動している。

剛志「お前さんみたいな奴が追い出されるって、何が原因なんじゃ? 音楽の方向性の違いってじゃけえ?」

響「いや、それだったら良かったけどよ……同じバンドの女の子が泣いたから追い出された」

 響は納得出来ない顔で話しているが、剛志は察しが付いていた。

 響は外見が怖かったり音楽の事に関して少々逸脱しているところがあったりするが、基本的にはお人好し且つ穏やかな人柄で親しみやすい。ただ、恋愛事にとてつもなく疎く鈍感。

 それが原因で彼に好意を抱いた何人ものの女子を泣かせてきた。今回もその手の事だろう。

土原「剛志は分かっていると思うけどよ……また女の子を振ったんだぜ。しかも流石に今回のビッキーは酷かったぜ。あんな分かりやすい好意をさ、どう解釈したらああなるんだよ?」

 直接本人から話を聞いたらしい土原は頭を抱えていた。どうやら今回も響の鈍感ぶりが原因だった。

剛志「今回は何をやらかしたんじゃ?」

土原「ビッキーの事が好きだってストレートに言ったのに、ビッキーが勘違いして泣かせた」

響「あれって俺のギターの音が好きだって事じゃねえのかよ? 最近新調したばかりだから、音が合うか少し不安だっただけど」

土原「どこでそう解釈できるんだよ! ビッキーは少し音楽から離れろ! 後、女の子から告白されるなんて羨ましくてムカつく!」

剛志「最後に願望が出とるぞ。でも、ワシもそれは羨ましい限りじゃ!」

ガロード「おめぇはあの子がいるんだろ」

金本「何だか騒がしい事になってんな」

 金本が教室に現れた。かなり気だるそうな顔をしている。

土原「あ、金本! 聞いてくれよ、またビッキーが――」

 土原が金本に事情を軽く説明する。それを聞いている途中、金本はかなり苦い表情を浮かべていた。大方、予想は付いていた事だろう。

金本「ま、何言っても響は響だから仕方ないな。それで本当に女の子を泣かしたのか?」

 実際、泣かしたのなら追い出されて当然かもしれない。

響「いや、泣かしてはいないぜ。ただ、何かショック受けていたみたいだったけどよ」

金本「そりゃ、あんな話をされちゃな……」

 金本は呆れていた。剛志も土原も同様だ。と言っても、これ以上響を責めても仕方ないのでその話題はそこで止めて全員帰る事に。その時、剛志の端末から通知音が鳴る。相手は梨子からだ。

剛志「お、来たわい。……しゃあああああああ!!」

 内容を確認すると否や喜びの雄たけびとガッツポーズ。実に分かりやすい反応だ。

金本「うるせえな……」

 金本はあまりにの声の大きさに眉を顰める。ただ彼の反応からどういった内容のメールが来たのか読み取り、それ以上は何も言わなかった。

土原「ああ……とうとう剛志にも春が……オレにも来ねえかな」

 何も音沙汰が無い土原は嘆く。隣で響が慰めていたが逆効果だ。ますます拗ねていった。

 そんなこんなで男どもは寄り道をしながら帰宅した。

 

 数日後、剛志は朝から上機嫌で身支度を済ませる。彼が浮かれている理由は梨子から送られてきたメールに起因する。簡潔に言うとこの間ふいになってしまったデートのやり直しだ。だから、剛志はかなり浮かれている。

 その浮かれっぷりは妹の空とそのバディのアウラをドン引かせるには十分だった。ガロードに至ってはもう何も考えない様にしていた。

 そして、そのまま待ち合わせ場所へと愛車を走らせて行く、いや行こうとしたが思考停止状態から回復したガロードに止められその足で向かう。本人は若干不満そうだったが。

 待ち合わせの場所に着くとまだ梨子の姿がない。しかし、そんなに待つ間もなく彼女はすぐにやって来た。

梨子「ごめん、待ったかな?」

剛志「いや、ワシも今着いたとこじゃけえそんなに待っていないわい」

梨子「そっか。それは良かった」

 梨子が安心した様に微笑む。その笑顔で剛志は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

梨子「どうしたの、剛志君? 顔が少し赤いよ?」

剛志「いや、大丈夫じゃ。それよりも、さっさと映画館に行かないと席が取れなくなるわい」

梨子「うん、そうだね。じゃ、行こっか」

 二人は映画館に向けて歩き出した。付き合いたての恋人同士のかの様に。

 

 そんな二人を陰から見つめ追い掛ける者達がいた。いずれも高校生ぐらいの少年達だ。

高校生T「あれが剛志が惚れた女の子か……メチャクチャ可愛いじゃん! そりゃ、惚れない訳ないよな」

高校生K「ああ、そうだな。でも、俺はそれよりも早く帰りたいぜ……」

高校生T「ええ!? せっかく、剛志の彼女が見れるんだぜ? ここまで来たら追いかけるしかないでしょ!」

高校生K「そんぐらい、ほっとけよ。っておい!」

 一人の少年が剛志達の後を追い掛けに行った為、もう一人の少年も慌てて追い掛ける。理由は勿論その少年を止める為だ。

高校生H「付いて来たは良いものの、良く分かんねえな」

 先に行った少年達の背中を見て取り残された少年は呟く。いまいち、剛志達の関係にピンと来ていない様だ。ここまで来ると鈍感を通り越している気もする。

高校生H「しかしよ……あの剛志の隣にいた子って、中学生だよな?」

 

剛志(何か後ろにいよるわい……)

 後ろからの奇妙な視線に気付いた剛志は肩越しに後ろを見る。

 そこにはいつもの面子が建物の陰に隠れながら追い掛けて来ているのが見えた。本人達は隠れているつもりだろうがバレバレだ。

梨子「どうしたの?」

 剛志の視線に違和感を感じた梨子が聞いてくる。少し心配している顔だ。

剛志「何でもないわい、大丈夫じゃ」

 見知った人間が追い掛けているのが分かっているから、いつもと変わらない声音で話す。何かあったら、彼等の力を借りれるという安心感も手伝っているからでもある。

 梨子も彼の様子を見て不安がる事もなく先程まで話していた話題に会話を戻す。話していた話題は至ってシンプルに互いの好きな事や苦手な事についてだ。

梨子「剛志君が苦手な事って何?」

剛志「勉強じゃ。何喋ってんのか、さっぱし分からん」

梨子「あはは……何て言うか、剛志君らしいね?」

ガロード「無理してフォローする必要性はないぜ。そのまま馬鹿って言ったところで落ち込まないからな」

梨子「いや、それは流石に……」

剛志「わははは、ええんじゃそんな事言ってもワシは気にせん。梨子は優しいのう」

 豪快に笑い飛ばす剛志。あまり細かい事は気にしない彼らしいと言える。

梨子「う、うん」

 剛志に言われた事に照れて俯きがちではにかむ。面と向かって言われたのがとても恥ずかしかったのだろう。

剛志「そんいや、梨子の好きな事って何じゃ?」

梨子「え、私!? 私の好きな事は……絵を描いたり、ピアノを弾いたりする事かな」

ガロード「ほへ~、ぜってえ剛志には無い趣味だな」

剛志「じゃかましいわい」

 ちょくちょくガロードがちょっかいを出しては剛志はツッコミを入れる。梨子は彼等のやり取りが微笑ましく思った。

剛志「そうじゃ、今度梨子が描いた絵を見せてもらってええか? 無理には言わんわい」

梨子「そ、そんな私の絵はあまり上手じゃないよ? ……でも、剛志君に見せたい絵があるの。まだ描きかけだけど……」

剛志「そうかい。じゃあ、完成した時が楽しみじゃな!」

梨子「う、うん。ありがとう……」

 また梨子は俯きがちにはにかむ。剛志はそんな彼女を可愛いと思った。普段、彼の周りにはこんな反応をする女の子がいないから尚更に。

ガロード「お? そろそろ映画館が見えたぜ」

 ガロードの一言で二人は目の前を見る。目的の場所が見え、もうすぐ着きそうだ。

 

高校生T「真面目にムカつくな~、剛志だけ美味しい思いをしやがって……!」

 嫉妬の炎が激しく燃え盛っている。それには現在、自分には春が来ない事への怒りも混じっている。

高校生K「ったく、だから俺は反対したんだ。お前が損する事しかないだからってよ」

高校生T「うるせえ! これだから金本は……って、あれ!? ビッキーは!?」

金本「あ、響? 響なら……って、あっ」

 すぐ後ろにいた思っていたが遥か後ろに響の姿があった。どうやら老婆の荷物を運んであげている様だ。

金本「土原、俺も婆さんの荷物を運んで行くぜ」

土原「ちょっと待てぇ! お前、それを口実にして逃げるつもりだろ!?」

金本「……チッ」

土原「それならオレも一緒に行くぞ! それに大人数で運べば楽だしな!」

 その後、二人は響と合流して老婆の荷物を目的地まで運んで行った。そして、運び終わったら急いで剛志達を追い掛ける。

 剛志達の姿が見えた頃には二人が映画館に入って行っていた。だが、同時に良からぬ者達が映画館の出入り口に待ち伏せしているかの様に立っているのが見えた。

 土原達は知らないがこの間、梨子にちょっかいを出して剛志に伸された男達だ。ただ今回は二人で来ている。

土原「おい、何か良く分かんねえけどあの二人怪しくないか?」

響「確かにな。誰かを待っているかの様に見えるけど、ありゃ喧嘩待ちの面だな」

 喧嘩に巻き込まれる事が多い為、雰囲気で喧嘩する気か見抜ける上に誰かの恨みを買う事も多々あった経験から察した。

土原「あ、でも待てよ。あいつら、デッキケース持っているぜ」

 男達の腰にデッキケースが提げられているのも見て土原は金本に声を掛ける。

土原「おい、金本! デッキケース、持ってきているよな?」

金本「一応な。っで、まさかだと思うがやるのか?」

土原「当たり前だろ!」

 そう言うと土原は男達の所へ駆け出して行った。金本と響も何か大事になりそうな予感を感じ取り彼の後を追い掛ける。

 

土原「おっす! そこの兄ちゃん達、ファイターだよな?」

男A「な、何だお前は?」

土原「オレ? 兄ちゃん達と同じバディファイターだぜ!」

男B「あ? そんで、俺達に何の用だよ?」

土原「剛志達の邪魔をすんじゃねえって言いに来たんだよ、ファイトでな!」

男A「剛志? 誰だ、そいつは?」

 流石に剛志の名前までは知らない男達は誰の事だかピンと来ていない様だ。土原はてっきり知っているもんだと思っていたので拍子抜けしてしまった。

金本「ま、知らなくて良い名前だな。俺達のダチに危害を加えようとしている様に見えたから、話し掛けただけだ」

 金本が合流、話に割って入る。とりあえず面倒事にならない様にしたいと穏便に済ませようとしている。

男B「そうかい。お前らのダチが誰なのか知らないが、俺達は別に荒事を立てようって訳じゃないんだぜ?」

響「なら、良かったぜ。てっきり、背の低い男とそいつと一緒にいる女の子を物凄く睨んでいたから喧嘩を吹っ掛け様としてんじゃねえのかと思ったんだからな」

 合流した響の言葉で男達の表情が変わる。どうやら、当たっていたみたいでかなり鋭い眼光を向けてきた。

金本「ああ、面倒な事になって来たぞ……」

 穏便に済ませたかった金本にとっては最悪の事態。しかし、こんな事にならないとは思っていなかった訳ではない。諦観しているところがあるが。

男A「……お前ら、あのチビのお友達か?」

土原「おう、そうだぜ!」

男B「てめえらに直接な恨みはないが、ちょっと話し合おうぜ。こいつでな!」

 男がデッキケースを目の前に突き出す。どうやらファイトで穏便に済まそうという体だ。しかし、彼等から出ているオーラはかなり物騒だ。

土原「っしゃ、望むところだぜ! なあ、金本?」

金本「…………はぁ」

響「あれ? 俺はどうすれば良いんだ?」

土原「ビッキーは後ろで応援していてくれ!」

響「おう、分かった」

 全員、路地裏に移動。そこでファイトが行なわれる事になった。

 

金本「何でこうなるかね……」

土原「そーいう事は良いじゃん! とにかくファイトだぜ!!」

 ――ここでタッグファイトのルールを改めて説明する。

 それぞれ通常のファイトと変わらないライフ、手札、ゲージからスタートし、ライフやゲージは個人で使用する事になる。そして最初の3人のターンは先攻扱いになって最後の1人が後攻になる。

 パートナーが攻撃されてももう片方が魔法を使って無効化する事が出来る。『相手にダメージを与える効果』の処理は相手一人を選択してダメージを与える事になる。

 またパートナーのライフが0になった場合、同じチームのファイターがゲージを引き継いでそのファイターのターンもプレイする。

土原「鉄の様に揺るぎない不動の心で悪い奴をぶっ飛ばす! ルミナイズ、『鉄心不動』!!」

男A「悪魔に命を捧げて得たこの力を受けてみやがれ! ルミナイズ、『ソロモンの契約』!!」

金本「俺の邪魔をするだったら、とにかく叩き潰す。ルミナイズ、『ブロークン・エース』」

男B「モンスターを破壊されその身に受ける痛みに怯え、破滅へと向かえ! 『滅びへの讃美歌』!!」

3人「「「オープン・ザ・フラッグ!!」」」

金本「……オープン・ザ・フラッグ」

土原「ヒーローワールド!」

 土原の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:不動鉄機 ガンザウラー

男A「マジックワールド!」

 男Aの手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:怒りの堕天使 ベレト

金本「デンジャーワールド」

 金本の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:アーマナイト・タイガー“A”

男B「ダークネスドラゴンワールド!」

 男Bの手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:覆い尽くす闇 ガフナー

土原「うっしゃ、オレから行くぜ! チャージ&ドロー!」

 土原の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

土原「まずは『発進準備OK!』を設置! んで、『ハイパーエナジー』でオレのゲージを+4!」

 土原の手札:6→4/ゲージ:3→7/設置:発進準備OK!

土原「出番だぜ、オレのバディ! ライフ1払って『不動鉄機 ガンザウラー』に搭乗! バディギフトを使うぜ!」

ガンザウラー「堅きこと鉄のごとし! 不動鉄機! ガンザウラー!! ここに見参!!」

 土原の手札:4→3/ライフ:10→9→10/土原:不動鉄機 ガンザウラー

 土原:不動鉄機 ガンザウラー/サイズ2/攻5000/防5000/打撃2/搭乗

土原「そして、発進準備OK!の効果でオレが[搭乗]した時にカードを2枚ドロー! その後は発進準備OK!をドロップゾーンに置く!」

 土原の手札:3→5/設置:発進準備OK!→なし

土原「手札にある『海神 スラッシャーク』の能力発動! このカードをガンザウラーにソウルイン! んで、ガンザウラーの攻撃力と守備力をそれぞれ+1000する!」

 土原の手札:5→4/土原:ガンザウラー/攻5000→6000/防5000→6000

土原「行くぜ、アタックフェイズ! ガウザウラーでそこのロン毛にアタック!」

男A「うお!」男A のライフ:10→8

土原「ターンエンドだ!」

 土原の手札:4/ゲージ:7/ライフ:10/土原:ガンザウラー

男A「俺のターン、チャージ&ドロー!」

 男Aの手札:6→5→6/ゲージ:2→3

男A「ゲージ1払って、キャスト『ナイスワン!(最高だぜ!)』で2枚ドロー! 更にキャスト『ソロモンの鍵 上巻』でデッキの上から2枚をゲージに置く」

 男Aの手札:6→5→7→6/ゲージ:3→5

男A「そして、キャスト『ソロモンの鍵 下巻』で俺のライフを+1! 更にドロップゾーンにさっき使った上巻があるからカードを1枚ドロー!」

 男Aの手札:6→5→6/ライフ:8→9

男A「センターに『怒りの堕天使 ベレト』をバディコール! バディギフトで俺のライフを+1!」

 男Aの手札:6→5/ライフ:9→10/センター:怒りの堕天使 ベレト

 男Aのセンター/怒りの堕天使 ベレト/サイズ2/攻4000/防3000/打撃3

男A「アタックフェイズ! ベレトで黒髪の方にアタック!」

金本「っ! キャスト、『豪胆逆怒』。俺が受けたダメージ分だけの枚数をデッキの上からゲージに置く。俺が受けたダメージは3だからデッキの上から3枚をゲージに置く」

 金本の手札:6→5/ゲージ:2→5/ライフ:10→7

男A「ファイナルフェイズ!」

響「え? アタックフェイズで攻撃したから意味無いんじゃ……」

金本「設置魔法みたいに設置する必殺技があるんだよ。多分、それだ」

男A「チッ、分かってやがったのかよ。ゲージ1払って、キャスト『次世代大魔法 ザ・クリエイション』を設置だ!」

 男Aの手札:5→4/ゲージ:5→4/設置:次世代大魔法 ザ・クリエイション

男A「そして、ターンエンドだ」

 男Aの手札:4/ゲージ:4/ライフ:10/センター:ベレト/設置:ザ・クリエイション

金本「俺の番か……チャージ&ドロー」

 金本の手札:5→4→5/ゲージ:5→6

金本「まずはゲージ1を払って『爆斧 リクドウ斬魔』を装備」

 金本の手札:5→4/ゲージ:5→4/金本:爆斧 リクドウ斬魔

 金本:爆斧 リクドウ斬魔/攻6000/打撃3

金本「キャスト、『超力充填』でライフ1を払ってゲージを+3、続けてキャスト『烈神呼法』でゲージ1とライフ1を払ってカードを1枚ドロー、更に《武器》を装備しているからもう1枚ドロー」

 金本の手札:4→3→4→5/ゲージ:4→7→6/ライフ:7→6→5

土原「おお、お得意の形になってきたじゃん!」

金本「……うるせぇ。『アーマナイト・カーリー』をライトにコール、効果で俺の手札から『アーマナイト・ケロベロス“A”』をリクドウ斬魔にソウルイン」

 金本の手札;5→4→3/金本;リクドウ斬魔(ソウル:0→1)/ライト:アーマナイト・カーリー

 金本のライト:アーマナイト・カーリー/サイズ1/攻坊2000/打撃2

金本「ケロベロス“A”の能力でリクドウ斬魔の打撃力を+2。そしてレフトに『アーマナイト・イーグル“A”』をコール。更に俺のライフが5以下だからイーグル“A ”の能力を発動してリクドウ斬魔にソウルイン。これでリクドウ斬魔は手札に戻されず、破壊されない」

 金本の手札:3→2/金本:リクドウ斬魔(ソウル:1→2)/打撃3→5

金本「ソウルにあるケロベロス“A”の“ガルチャージ!”を発動。ゲージ3を払って、このターン中のリクドウ斬魔の打撃力を更に+3する」

 金本のゲージ:6→3/金本:リクドウ斬魔/打撃5→8

響「うわぁ、打撃力が半端ねえ事になってやがる……怖ぇ……」

土原「金本、面倒臭がり屋なのにここぞってばかりはやるからな……」

金本「面倒事は早目に終わらせてさっさと楽したいんだよ。さてとファイナルフェイズ」

男B「来るとしたら、あのカードしかないよな……?」

金本「まあ、そうなるだろうな。ゲージ2を払ってキャスト、『怒裏留バンカー!!』。リクドウ斬魔の打撃力を+2、更に[貫通]を得てセンターのベレトにアタック」

 金本の手札:2→1/ゲージ3→1/金本:リクドウ斬魔/打撃力8→10/[貫通]

男A「そうはいくかよ! キャスト、『ソロモンの盾』で攻撃を」

金本「無効化にはさせねえよ。と言う事で土原頼んだ」

土原「おう、バッチリ任せとけ! キャスト、『……という夢を見たのさ』! ゲージ2を払ってお前の魔法を無効化にするぜ!」

 土原の手札:4→3/ゲージ:7→5

男A「な、何だと、うおおおおおおおお!?」男Aのライフ:10→0

響「え、えげつねえ」

男B「マジかよ……」

金本「ターンエンドだ。後、リクドウ斬魔の打撃力は5に戻るぞ」

 金本の手札:1/ゲージ:1/ライフ:5/金本:リクドウ斬魔(ソウル:2)/ライト:アーマナイト・カーリー

 金本:リクドウ斬魔/打撃力10→5

男B「げ、ゲージを引き継いでお、俺のターン。ドロー、チャージ&ドロー」

 男Bの手札:6→7/ゲージ:6→7

男B「…………ゲージ2払ってライトに『覆い尽くす闇 ガフナー』をバディコール! バディギフトで俺のライフを+1!」

 男Bの手札:7→6/ゲージ:7→5/ライフ:10→11/ライト:覆い尽くす闇 ガフナー

 男Bのライト:覆い尽くす闇 ガフナー/サイズ2/攻5000/防4000/打撃2

男B「『鉄拳 ブラックナックル』をてゲージ1とライフ1を払って装備!」

 男Bの手札:6→5/ゲージ:5→4/ライフ:11→10/男B:鉄拳 ブラックナックル/ライト:ガフナー

 男B:鉄拳 ブラックナックル/攻3000/打撃3

男B「そして、キャスト『ペイン・フィールド』を設置! ゲージ2を払って俺にダメージ1! これでお前達はバディギフト以外では回復が出来ないぜ!!」

 男の手札:5→4/ゲージ:4→2/ライフ:12→11/設置:ペイン・フィールド

金本「面倒な魔法を設置しやがって……」

土原「やべ―じゃん!! 金本のライフって残り5だろ!?」

金本「まあ、もしもの時はよろしく頼む」

土原「そこはバッチリ任せとけ!」

男B「そこの黒髪に出番が来る前に何としてでもやらねえとな……レフトに『ブラックドラゴン コールドブレイド』をコール!」

 男Bの手札:4→3/男B:ブラックナックル/レフト:ブラックドラゴン コールドブレイド/ライト:ガフナー/設置:ペイン・フィールド

 レフト:ブラックドラゴン コールドブレイド/サイズ1/攻5000/防1000/打撃1

男B「アタックフェイズ! コールドブレイドでアーマナイト・カーリーにアタックだ!」

金本「そのまま破壊されるしか無いな」

 アーマナイト・カーリー 撃破!

男B「なら、コールドブレイドの“霊撃”でお前にダメージ1!」

金本「……流石拙いな」金本のライフ:5→4

男B「ガフナーで黒髪にアタック!」

金本「これも受ける」金本のライフ:4→2

男B「ブラックナックルでもう一度同じファイターにアタック、これでトドメだ!」

金本「キャスト、『闘気四方陣』で攻撃を無効化だ」金本の手札:1→0

男B「だが、ペインフィールドの効果でお前にダメージ1だぜ!」

金本「ギリギリだな……」金本のライフ:2→1

男B「ターンエンド!」

 男Bの手札:3/ゲージ:2/ライフ:10/男B:ブラックナックル/レフト:コールドブレイド/ライト:ガフナー/設置:ペイン・フィールド

土原「んじゃ、オレのターンって事だな! ドロー、チャージ&ドロー!」

 土原の手札:3→4/ゲージ:5→6

土原「まずは手札にある『鳥神 セイバード』の能力でこのカードをガンザウラーにソウルイン、続けて『獣神 タイガトラス』の能力でこのカードもガンザウラーにソウルイン! タイガトラスの能力でガンザウラーは[貫通]を得るぜ!!」

 土原の手札:4→2/土原:ガンザウラー(ソウル:1→3)/[貫通]

土原「そして、ゲージ1払って『鋼獣戦機 ガイテンオウ』をライトにコール! ドロップゾーンから《ブレイブマシン》のモンスター2枚をソウルに入れるぜ!」

 土原の手札:2→1/ゲージ:6→5/ライト:鋼獣戦機 ガイテンオウ(ソウル:2/内容:ガンザウラー、スラッシャーク)

 土原のライト:鋼獣戦機 ガイテンオウ/サイズ3/攻防7000→8000/打撃2/[2回攻撃]/[ソウルガード]

土原「行くぜ! ガイテンオウでファイターにアタック!」

男B「うっ!」男Bのライフ:10→8

土原「ガイテンオウでもう一度だ!」

男B「ぐは!」8→6

土原「ガンザウラーでファイターにアタックだぜ!」

男B「これも受ける!」男Bのライフ:6→4

響「あれ? 防御カードが持っていないのか?」

金本「さあ、どうだろうな」

土原「ファイナルフェイズ!」

男B「来たか! だが、それだけのゲージで与えられるダメージなんてたかが知れている」

土原「へへっ、それはどうかな! キャスト、『ブレイブエナジー・フルドライブ!』! ゲージ2を払ってお前にダメージ2! 更に[搭乗]しているカードのソウルの枚数分のダメージを与えるぜ!」

 土原の手札:1→0/ゲージ:5→3

響「ガンザウラーのソウルの枚数は3枚……つまり3ダメージを与えられるって事か! これなら決めれるな!」

男B「そうはさせるかよ! キャスト、『黒竜の」

土原「おっと、このカードのダメージは減らせないぜ!」

ガンザウラー「決して消えぬ勇気の炎、それが俺達が無敵である証だー!!」

男B「ま、マジかよ! ぐわあああああ!!」男Bのライフ:5→3→0

 

WINNER:土原&金本チーム!

 

 

土原「これで懲りたら、もう剛志の所に近づくなよ!」

男A「うるせえ! バディファイトで駄目ならこうだ!!」

 男はそう言うと土原の左頬を殴った。金本と響は止めようとしたが一歩遅かった。

土原「……痛ってぇな、この野郎!!」

 土原はぶち切れて殴った相手に掴み掛かるとさっき自分が殴られた様に男を殴る。ただし、殴る力は男の倍以上だ。

 しかも、一発で終わらず何発も殴り続けている。例え血を出して白目剥こうとお構いなく殴り続ける。

響「なあ、鉄平。何であんな奴がヒーローワールド使いなんだろうな?」

金本「知らねえよ、そんなの。まあ、世の中には理解出来ない事が山程あるから、これもその内の一つじゃねえか?」

響「ああ、そうだな」

 二人は土原を止める程の力が無い為、しばらく事態を傍観。やがて、土原は男を解放するともう一人の男が殴られ続けた男を抱えて逃げて行った。

 

 土原達が色々とやらかしている頃、剛志達は映画を静かに見ていた。ミステリー系の映画でラストシーンが感動して泣けると噂の映画だ。

 物語も佳境に入り、謎解きも大詰めになっている。梨子はちらっと隣に座っている剛志の顔を見る。かなり難しそうな顔をしている。どうやら謎を真剣に解いているらしい。

梨子(剛志君って、意外とこういうの好きなんだ……)

 映画が上映される少し前、剛志はあまり頭を働かす事は得意じゃないと言っていた。しかし、得意ではないと嫌いは別だ。今の剛志の表情を見て梨子は改めてそう思った。

 謎解きシーンが終わり、明かされた真実が告げられる。それはとても悲しくもありながら大切な人への愛情が分かる真実。その悲痛な思いが大切な人に伝わった時、物語は静かに幕を閉じた。

 

剛志「結構面白い映画じゃったな~!」

 剛志はエントランスに出ると体を伸ばした。そんな長時間座っていた訳ではなかった筈だが、それでも体は固まるものだ。

梨子「そうだね。特に最後の謎解きのところは凄かった……!」

 隣で梨子も感想を言う。泣くと噂されていた映画だが二人共、泣いた様な感じではない。

剛志「あそこの謎解きはさっぱしじゃった。答えを言うて、ようやく分かったって感じじゃ」

梨子「私は途中まで分かったけど、最後までは分からなかったわ」

剛志「やっぱり梨子は頭良いんじゃな。ワシと大違いじゃ」

ガロード「お前と比べちゃ梨子が失礼だろ。もう既に補習が確定しているお前とは」

 ガロードの辛辣な一言に剛志は苦い表情をする。事実が故に言い返せない。

 流石に言い過ぎだと思った梨子はガロードを少したしなめ、剛志にフォローを入れる。梨子に言われるとガロードもバツ悪くなり少し言葉を濁した。

 それから二人は映画館を出て、街中を少し歩いていく。その途中、とある雑貨屋に寄る。剛志が滅多に行かない様な少し洒落た雰囲気がする店だ。

梨子「ちょっと待っててくれる。少し買いたい物があるの」

 そう言われ、店の前で剛志は待つ事にした。自ら入るつもりがなかったというのもあるが。

ガロード「んだよ、剛志も入りゃ良いじゃねえか」

剛志「あ~、ワシはこういう店にはあまり興味無いんじゃ」

ガロード「そんなんだから、モテねえんだろ」

剛志「別に良いじゃろ、それぐらいは」

梨子「ごめんね、少し待ったよね?」

 剛志とガロードがまた言い合いになるところに梨子が店から出てきた。多分、買い物をしたのだろうが買った物らしき物は見当たらない。

剛志「そんなに待ってないわい。欲しい物は買えたんか?」

梨子「うん」

 少し頬を赤く染めながらも満面な笑みを浮かべる梨子。剛志は少し顔が火照っているのを感じると視線を逸らした。

剛志「んじゃ、もう少し歩くか」

梨子「うん」

 言葉数が少なくなったものの、二人はまた歩き出した。ファミレスで昼食を取ったり、遊んだりして満喫する。

 日も暮れて来た頃、二人は喫茶店にて軽食も兼ねて休息を取る事に。店は時間帯が時間帯な故に空いていた。

剛志「腹が減ったのう……」

 軽食を取るのは彼だけだ。頼んだ量もそれなりに多い。

梨子(やっぱり、男の子ね……)

 梨子自身がそこまで小食って訳ではないが、やはり年頃の男子には全くと言って良い程敵わない。その証拠に梨子は昼食を取ってから、あまりお腹が空いていない。

店員S「お待たせしました。ナポリタン一つとサンドイッチが二つです」

 どこかで見た事のある顔の店員が運んで来た。見覚えのない梨子は勿論、どこかで会った筈の剛志もその顔には気付かずスルー。しかし、ガロードがその店員の顔に気付いて声を掛ける。

ガロード「おい、そこのお前。空坊達と一緒にいた奴だろ?」

 その場を去ろうとしていた店員は足を止め、声がした方に顔を向ける。そこにはSD化して出て来たガロードがいた。

ガロード「やっぱり、そうじゃねえかよ」

剛志「ああ~!? お前さんはあの時の……!」

旬「ありゃ、バレたら仕方ないね」

 店員は空達の友人(?)の野分旬だった。彼の相方は見当たらないが恐らく近くにいるのだろう。

梨子「えっと、剛志君の知り合い?」

剛志「正確にはワシの妹の知り合いじゃ。んで、何でお前さんがおるんじゃ?」

旬「手伝いだよ。ここ、オレの行きつけだからね。たまに手伝っているんだ」

剛志「ほほう、なるほどじゃな」

 剛志が納得したのを見て、旬は梨子と顔を合わせる。梨子は思わず視線を逸らしてしまう。そんな彼女の挙動を見て旬はもう一度剛志の方に顔を向けて言う。

旬「ところで、剛志君。彼女は君の恋人かい?」

 この一言で梨子は顔を真っ赤にし、コーヒーを飲んでいた剛志も思わず噴き出しそうになるが何とか踏み止まる。そして飲み込んで反論。

剛志「ばっ、ワシらは付き合ってないわい! その友達同士っていうか、何と言うか……そう梨子はガールフレンドじゃい!」

ガロード「それ、彼女ですって言っているモンじゃねえかよ」

 それを聞いて旬は笑いを堪えて肩を震わす。剛志が言いたかった事を理解しているから余計に笑いが込み上げてくる。

旬「ま、まあ、君達は友達同士って事なんだね。せっかくのところを邪魔して悪かったよ、後はごゆっくり」

 少し落ち着くと旬はカウンターの方へ向かった。一応、彼は店員だ。まだ仕事は残っている。

剛志「空の奴め……とんでもない人と仲良くなりよって……!」

 何故か妹に怒りを抱いた剛志。ガロードはそんな剛志に呆れる。そして梨子の方に視線を向けるとそこには顔を真っ赤にしたまま固まった彼女の姿があった。

 

剛志「随分と日が暮れたのう……」

 カフェから出ると辺りは仄かに暗くなっていた。夏だから日が暮れる時間は遅いとは言え、やはり暗くなる時は暗くなる。

梨子「うん、そうだね。思っていたより日が暮れて来ちゃったね」

 梨子を家の近くまで送る為、二人で帰路を歩く。空にはまだオレンジ色が残っているが夜の色が大分見えてきた。

剛志「そういや、梨子はその門限とか大丈夫なんかい?」

梨子「ちょっとギリギリかも……でも、急いで帰らなくてもまだ大丈夫かな」

剛志「そうかい。なら、もう少しだけ話が出来るわい」

 二人はまた他愛の話をする。先程のカフェの一件にて剛志に妹がいる事から話を繋げて、自分達の家族の事や友人の事、学校生活の方にも話題に挙げていく。

 だが、学校生活の話になると互いに少違和感を覚え始める。もしかして、実は同い年ではないのではないかと。

 しかし、その違和感を確かめる前に梨子の家の周辺にまで着いてしまった。

梨子「もう目の前だから、大丈夫だよ。送ってくれて、ありがとう」

剛志「礼なんていらんわい。当然の事じゃからな」

梨子「ふふふ、でもお礼はちゃんと言わせて? そうじゃないと失礼だと思うから」

剛志「……おう」

 剛志は顔を少し赤くして視線を逸らす。照れくさいのだろう。

 梨子はそんな剛志を微笑ましく思いながら、バックからある物を出す。それは雑貨屋で買った物で小さい紙袋に包まれていた。

梨子「あの、剛志君。良かったら、これを……」

剛志「何じゃ、貰ってええんか?」

梨子「うん。はい、どうぞ」

 梨子から手渡される。サイズからしてキーホルダーぐらいだ。

剛志「ありがとうな。大切にするわい」

梨子「うん」

 梨子の笑顔で剛志はまた少し顔を赤くさせた。梨子もどこか剛志を意識しているのか、恥ずかしそうに視線を逸らす。

剛志「……もう帰らんでええのか? 家が目の前でも流石に時間がヤバいじゃろ?」

 少しの沈黙の後、剛志から話を切り出した。

梨子「そ、うだね。私はもう帰るね。剛志君、今日はとっても楽しかったよ! ありがとう!」

剛志「ワシもじゃ! ありがとうな!」

 梨子は家に向かって歩く……が、数歩歩いたところで立ち止まり剛志の方へ振り返る。

梨子「剛志君、最後に一つだけ良いかな?」

剛志「ワシは別に構わんぞ」

梨子「その……8月18日って空いてる?」

剛志「多分、空いている思うわい」

梨子「良かった~……」

 梨子は一呼吸置いてから、今一番言いたい事を言う。

梨子「あのね、その日にピアノの発表会があるんだ。良かったら、来てくれないかな?」

 剛志は目見開く。そして、少し間を置いて答えた。

剛志「分かった。楽しみにしているわい」

梨子「うん、ありがとう! それじゃあ、また今度」

剛志「おう」

 梨子は家に向かって再び歩き始めた。今度は一度も振り返らずに。

 剛志は梨子の背中が見えなくなるまで見届けると、自分も家に向かって歩き出した。いや、歩き出そうと振り返ったらいつもの顔ぶれが揃っていた。

剛志「何じゃ、お前さんらは?」

 やや怪訝な顔をする。こういう時に限って、この面子が揃うとロクな事はないと分かっているからだ。

土原「そう怖い顔するなよ~。とにかく、一緒に帰ろうぜ!」

剛志「言われなくてもそうなるじゃろ」

土原「つか、やっぱりあの子、剛志の彼女じゃん! 羨ましい限りだぞ!!」

剛志「ち、違うわい! あの子はワシの友達じゃい!」

 土原はおもむろにスマホを取り出して操作すると音声が流れた。

『梨子はワシのガールフレンドじゃい!』

 先程カフェにて旬に言った言葉だ。そして土原は企んだ様な笑みで言う。

土原「ガールフレンドって事は彼女って事だよな? やっぱり、お前彼女出来たんだな」

剛志「だあああああ!! そのスマホを寄越せ、今すぐぶち壊してやるわい!!」

土原「やなこったい! 捕まえられるもんなら捕まえてみせろよ!」

 土原と剛志が騒ぎながら走って行く中、響はずっと梨子が歩いて行った方向を見ていた。

金本「どうした、響? お前もあの子に惚れたのか?」

響「んいや、そうじゃねえよ」

 本当に違うと言った声音で答える。しかし、気になるには気になる様だ。

金本「何か、あの子からインスピレーションでも感じたのか?」

響「それは十分感じた。なあ、あの子ってよ……」

 そう言いかけて止め。少し考える。

響(言って良いのか分んねえけど、金本だったら大丈夫か)

 少しの間の後、響は口を開いた。

響「中学生なんじゃねえの?」

 それを聞いた金本は本人達が気付くまで黙っておく事にしようと思った。




 まさかのタッグファイト回でしたけど、如何だったでしょうか? 何か恋愛話を書く度に体調不良の時期にぶつかるのってもう呪われているとしか思えない。また喉の調子が悪いわ、鼻水は出るわで執筆期間の半分はグロッキーでした……。
 でも今回は、先日録画してもらった夏の歌祭りを動力源にどうにか乗り越えられました。その日は用事があった上に録画を頼み損ねて諦めていましたが……録画をしてくれた兄貴には感謝しかないです(´;ω;`)

 話が変わりますけど、今回登場した響というキャラクターは、口調がやや違いますが南條響として『バディファイト@サイバーダイバーズ』という作品に登場しています。ぜひ、読んでみては如何でしょうか?

 さて、次はどうしようかね……本編を進ませるかアナザーエピソードを書くか、どちらにせよ気長に待っていただければ幸いです。
 ……台風が来ている中、出歩くもんじゃないですね。

 後、これもついでに……。
土原 陽太郎(つちはら ようたろう)/16歳/男性/高1
使用フラッグ:ヒーローワールド/使用デッキ:ブレイブマシン/バディ:不動鉄機 ガンザウラー
容姿:髪型はツンツンとして整えられていて金髪に染めているが、所々黒くなっている。やや童顔でくすんだ黄色の瞳。私服はドクロの刺繍が入った長袖の白いシャツを袖を捲って羽織り、中にオレンジ色のTシャツを着ていて首にタグを付けている。灰色のGパンで腰回りにシルバーのチェーンが付いていて、お洒落なスニーカーを履いている。細身の割にはガッチリとした体格で身長は172cm。
性格:お調子者で好奇心旺盛でトラブルメーカーなところがあるが社交性が高く誰とでも打ち解けられる。穏やかそうに見えるが実は頭に血が上りやすく喧嘩っ早い。曲がった事は大嫌いなのだが喧嘩っ早いその性格の為か、しばしば実力行使(物理)に出てしまう事がある。ヒーローものとかロボットものとかが大好き。

金本 鉄平(かねもと てっぺい)/男性/16歳/高1
使用フラッグ:デンジャーワールド/使用デッキ:「“A”」デッキ/バディ:アーマナイト・タイガー“A”
容姿:やや長めの黒髪にツリ眉タレ目で青色の瞳。私服は青色の七分袖ジャケット、シンプルなブイネックのTシャツにベージュのチノパンとローカットスニーカー。やや猫背で痩せ気味。身長は175cm。
性格:冷静で明晰だが実はかなりの面倒臭がり屋でとにかくサボる事に頭を動かす。でも、面倒事は早目に済ませる為にやる時はきっちりとやる。三人組の中で学力はあり、いつも勉学の面倒を見ているが途中で面倒臭がって放棄する。一番の常識人。喫煙者で吸っている銘柄は「パーラメント」。

 そろそろオリキャラが欲しいな~|ω・`)チラリ。いや、何でもないです。すみません。
 では、次回の更新でお会いしましょう。感想や活動報告のコメントもお待ちしています。


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第5話:消えぬ炎

 皆さん、お久し振りです。無脳で更新が遅い巻波です。この度は年越しギリギリのタイミングまで更新するのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!!
 完全なる言い訳ですが、遅くなった理由は忙しくなって執筆の時間が取れなかったからなのと体調を崩してそれどころじゃなかったからです。本当に申し訳ありません。

 いきなり謝罪から話をスタートさせてすみません。少し話を変えて、近況報告をこの場でしていこうと思います。
 まず、活動報告を見てくださった方は知っているかもしれませんが、今月の中旬に行われた『神バディフェスタ』に参加させていただきました。フリーファイトのみですが、とても充実した時間を過ごせました。……まあ、清々しい程に負けてきたんですけどね。
 次に今日まで東京ビックサイトで行われていたコミックマーケット95、所謂冬コミに参加してきました。私は初日と二日目に参加してかなり乏しい軍資金で欲しい同人誌が買えたし、絵師の方とお話し出来たのでとても満足しています。

 ……自分の近況報告よりも本編ですね。では、後書きにてまた会いましょう。


 日が昇るも早くなったこの頃、空達は長期の休み――所謂、夏休みに入っていた。剛志も一昨日ぐらいに入ったらしく、今日は家にいない。

 俺はというと毎朝庭で窓辺に腰かけ空の稽古を見ている。初めて見た時よりかはマシになったが、それでもまだ太刀筋は情けない。気合だけは十分に迫力があるのだが。

空「アウラ、どうだった?l

 回数をこなした空がこっちに顔を向けた。その額には汗が流れている。

アウラ「良くはなっているが、まだまだだな」

空「そっかぁ~、まだまだなんだね」

 空は特段落ち込む事もなく、あっさりとした口調で言う。本人も分かっていたみたいだし、それだけでも十分だな。

アウラ「今日はそれぐらいにしとけよ」

空「何で?」

 キョトンとした顔で俺を見つめる。コイツ、忘れているな。

アウラ「今日は碧達と約束した日だろ?」

空「ああ~!? 忘れてた~!」

 空はそう言うと急いで家の中に入り、二階へと駆け上がって行った。やっぱり忘れていたんだな。

アウラ「あの事件から音沙汰がねえな……」

 俺達が襲われて随分と時が経つが、少なくとも俺達の周辺で何かしらの事件は起きていない。しかし、テレビという物で流れいた情報によれば、俺達がいる地域以外にも似た様な事件が起きているらしい。誰かしら裏で動いているのかもしれない……レックスか別の誰かかは分からねえが。

空「アウラ~! 置いて行くよ~!!」

 後ろを振り返ると準備が整った空が待っていた。俺は何も言わない代わりに腰を上げ、窓を閉めるとそのまま空に付いて行った。

 

 

 この頃、外出している時に思うのだが……暑い!! 何だ、ここの暑さは!? 気温が高いだけじゃなく湿気もあるから非常に蒸れているから気持ち悪いし、身体中の水分という水分が消えていく感じがするぞ。

空「アウラ、ラディ、何で死にそうな顔しているのさ?」

 前を歩く空に言われた。空の頭の上にいるラディは今にも溶けそうな様子でだらけている。お前、そんな風になるならカードの中にいとけって。

アウラ「そんなに死にそうな顔してんのか、俺?」

空「死にそうというか、すっげー暑いって顔に出てる」

アウラ「当たり前だろ!! 生まれ育った環境が違うんだよ!」

 ドラゴンワールドも夏は確かに暑い……とは言え、湿気はそこまでないし風も適度に吹いているから比較的過ごしやすかった。

 だが、ここは違う。暑さの質が違う。だから、くそ暑い。

空「そんなにドラゴンワールドって暑くないの?」

アウラ「いや、暑いには暑い。だが、ここよりかは過ごしやすい。な、ラディ?」

ラディ「ガウ」

空「そうなんだ……じゃあ、今度遊びに行きたいなぁ~」

 「そうだな」と言いたいところだが、レックスの件があるから素直に頷けない。でも、事を終えたら空を故郷に連れていきたいな。

アウラ「それだったら、宿題をさっさと済ませる事だな」

空「うっ……だから、それを片付けるために碧の家に行っているわけじゃん!」

アウラ「それもそうだったな」

 無事に片付くと良いがな……日頃から少しサボり気味だし、清晴も来るみたいだから進まないってオチも有り得そうだ。

 

空「そろそろ碧の家に着くね」

 しばらく他愛のない話をして歩いていると空が言った。どうやら、碧の家に近いらしい。

アウラ「そうなのか?」

空「うん。だって――」

 空が説明しようとした瞬間、とてつもない轟音が聞こえてきた。方角は空が指している方とは違うが、今はそんな事はどうだって良い。

アウラ「空、行くぞ!」

空「え、ちょっと待ってよ!?」

アウラ「しゃーねえな! こうすりゃ、良いだろ!」

空「ボクの意志が無視されてるんだけど!!」

 空を小脇に抱え、音が聞こえた方角へと走って向かった。

 

 勘で行ったものの迷いもせず現場に到着出来たのは良かったが、目の前には衝撃的な光景が広がっていた。

 一匹の赤い竜と一人の少年がいて、竜の足元から先の地面がかなり抉れて遊具は衝撃でいくつかが歪んでいる。俺達が前にやろうとした事の結果が目の前で示された気がした。

?「あ? お前ら、誰だ?」

 少年がこっちに気付いて、話しかけてきた。竜の方もこっちに視線を向ける。

アウラ「それはこっちの台詞だ……って言っておきてえが事態が事態だ。俺はアウラ、んで俺が抱えている奴が俺のバディの日向空って言って、こっちの竜がラディだ」

空「どうも」

ラディ「ガウ」

 一通り紹介が終わったから向こうも話すだろうと思ったが、少年の目の色がかなり変わっている。あ、これ展開読めた。

?「お前ら、バディファイターなのか! なら、俺とファイトしてくれ!!」

 正直、そうなると思ったぞ。だが、それよりも先に聞かなくちゃいけない事がある。

アウラ「お前等は一体ここで何をしてたんだ?」

 ここまでド派手な事をやったんだ。何もないって事はないだろう。

?「んあ? ああ、さっきまでファイトしてたんだよ。あそこに倒れているアイツと」

 少年が指差した方へ顔を向けると彼の言う通り、青年が一人倒れている。その傍らには見かけた事のあるデッキケースが……。

アウラ「おい!? お前、本当にアイツとやったのか!?」

?「そうだって言ってんだろ。そんな事より早くファイトしようぜ!」

アウローラ「それはまた大変な物を……」

 いつの間にかカードから出て来たアウローラが口を開く。アウローラの表情はとても硬い。

空「え? 何であのデッキケースがあるのさ?」

 空も疑問に言う。ラディもとても不思議そうな目で見つめる。

?「やっぱり、何かあるんだな?」

 竜が口を開いた。ファイトしたというのだから、何か感じ取っても不思議じゃねえだろうな。

アウラ「ああ、あのデッキケースは通常のファイトパワーを無視してファイト出来る代物だ。おまけにバディでも何でもないカードが具現化して、攻撃出来るんだよ」

?「なるほど……色々と合点がいった」

 竜はとても納得したみたいだ。一段落したところでアウローラに話を振る。

アウラ「そういや、闇とかどうとかどうなんだ?」

アウローラ「それに関してですが、先程の大事により闇も払われているみたいです」

 アウローラはデッキケースの傍らに寄り、調べていた。結果が分かって先程よりも表情が穏やかになっている。

アウラ「そうか、なら――」

?「だぁーー!! そんなつまんねえ事はどうだって良いからファイトしようぜ!!」

アウラ「あ!?」

 遂に少年が爆発した。つか、さっきからそればっかだな!

アウラ「空、どうすんだ?」

 一応、空に聞く。いつもなら許可なく俺が勝手に言うところだが、他人がやっているのを見ているとちゃんと確認しようと思えてしまうのが不思議だ。

空「ボクは大丈夫だよ!」

アウラ「なら、下ろすぜ」

 俺は空を下ろした後、アウローラに視線を送る。アウローラはどこか諦めた顔で肩を竦めた。

?「っしゃ! なら、さっさと始めようぜ!」

空「それは良いんですけど……えっと、名前は?」

闘真「俺の名前か? 俺は相楽闘真、こっちは相棒のザンバソードだ! ってか、んな事よりファイトだ!!」

ザンバソード「相棒がこんなんですまないな……だが、やるからには全力でやらせてもらうぞ!」

 状況うんぬんは抜かしてファイトする羽目になっちまったな……。まあ、そっちがその気ならこっちもこっちもやる気全開だぜ!

アウラ「臨むところだぜ! なあ、空?」

空「うん! こっちも全力で戦います!」

 

 

闘真「俺の全力を以って、お前の心の声を聞く! ルミナイズ、『ファイト・オブ・デュオローグ』!!」

空「蒼い炎は己の信念を示す証! その燃える信念が今煌めく! ルミナイズ、『蒼炎の輝跡』!!」

闘真&空「オープン・ザ・フラッグ!!」

闘真「ドラゴンワールド!」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

空「ドラゴンワールド!」

 空の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:竜騎士 アウラ

闘真「先攻は俺がいただくぜ! チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

闘真「まずはキャスト、『D・R・システム』を設置! そして、『ブーメラン・ドラゴン』をライトにコール!」

 闘真の手札:6→4/ライト:ブーメラン・ドラゴン/設置:D・R・システム

 ライト:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 旬が使っていた奴とはまた少し違うな。って事は手札に戻っていくのか……?

闘真「行くぜ、アタックフェイズ! ブーメラン・ドラゴンでファイターにアタックだ!!」

空「うっ!」空のライフ:10→9

闘真「ブーメラン・ドラゴンの効果でバトル終了時に手札に戻る! さらにD・R・システムの効果で俺の場のモンスターが手札かデッキに戻った時、ゲージを+1!」

 闘真の手札:4→5/ゲージ:3→4/ライト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 その名の通りにブーメラン・ドラゴンは闘真の手札に戻って行った。しかも、その効果を利用してゲージを増やすカードもある。ゲージが溜まる前に決着を付けたいな。

空「うえ!? ゲージが増えるの!?」

闘真「へへ、今はまだこれぐらいしか出来ないがな。ターンエンド!」

 闘真の手札:5/ゲージ:4/ライフ:10/設置:D・R・システム

空「ボクのターンだね! ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:6→7/ゲージ:2→3

空「ライトに『竜騎士 アウラ』をゲージ1払って、バディコール!」

アウラ「よっしゃあ!! 行くぜ、ラディ!!」

ラディ「ガウ!!」

 空の手札:7→6/ゲージ:3→2/ライフ:9→10/ライト:竜騎士 アウラ

 空のライト:竜騎士 アウラ/サイズ2/攻6000/防4000/打撃2/[貫通]

空「レフトに『竜騎士 エル・キホーテ』をコール! さらに『竜剣 ドラゴフィアレス』を装備!」

 空の手札:6→4/空:竜剣 ドラゴフィアレス/レフト:竜騎士 エル・キホーテ/ライト:アウラ

 空:竜剣 ドラゴフィアレス/攻3000/打撃2 レフト:竜騎士 エル・キホーテ/サイズ1/攻防2000/打撃2

空「アタックフェイズ! アウラでファイターにアタック!」

アウラ「オラァ!」

 いつも通りに斬りかかると青い竜の盾が目の前に現れた。

闘真「キャスト、『ドラゴンシールド 青竜の盾』で攻撃を無効化して俺のゲージを+1だ!」闘真の手札:5→4/ゲージ:4→5

アウラ「チッ!」

 防がれたか……こうも通らないと流石に苛ついてくる。

闘真「どうした! お前らの炎はそんなもんじゃないだろ!?」

アウラ「うるせぇ! まだまだこれからだ!!」

 次こそはてめえに炎を叩き込んでやる! こんなところで不貞腐れるのは……立ち止まるのは性に合わねえからな!!

闘真「へっ、その言葉覚えとくぜ」

 とても満足そうに頷く。こいつ、何考えているだか良く分からねえな。

空「次はエル・キホーテでアタック!」

闘真「ぐっ! いい攻撃だぜ……」闘真のライフ:10→8

空「エル・キホーテの効果でファイターにダメージを与えたからボクのゲージを+1するよ!」空のゲージ:2→3

空「最後にドラゴフィアレスでファイターにアタック!」

闘真「これも受ける! ぐわっ!」闘真のライフ:8→6

空「ボクのターンはこれで終わりだよ!」

 空の手札:4/ゲージ:3/ライフ:10/空:ドラゴフィアレス/レフト:エル・キホーテ/ライト:アウラ

闘真「俺のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:4→5/ゲージ:5→6

闘真「よし、来たぜ! 『竜王剣 ドラゴエンペラー』をゲージ1とライフ1を払って装備! さらに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』をレフトにコールだ!」

 闘真の手札:5→3/ゲージ:6→5/ライフ:6→5/ドロップ(武装騎竜の種類):0→1/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー・ドラゴン/設置:D・R・システム

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2 レフト:Wピコピコハンマー・ドラゴン/サイズ0/攻2000/防1000/打撃1

闘真「んでライトに『ブレイドウィング・ドラゴン』、センターにブーメラン・ドラゴンをコール!」

 闘真の手札:3→1/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー/センター:ブーメラン・ドラゴン/ライト:ブレイドウィング・ドラゴン

 ライト:ブレイドウィング・ドラゴン/サイズ1/攻防2000/打撃2/[移動]

アウラ「おいおい、俺がいるのに[移動]持ち出してどうするんだよ?」

 俺は[貫通]という能力を持っている。センターにモンスターを置いてもそのモンスターを破壊したらダメージが入れられるっていうやつだ。

 アウローラみたいに防御力がある訳じゃねえし、何か他に能力があるのか……?

闘真「まあ、黙って見てろよ。キャスト、『ドラゴニック・グリモ』! 俺のライフが5以下だがら発動出来て、俺の手札を全て捨ててデッキから3枚をドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

闘真「さあ、行くぜ……アタックフェイズ! ブーメラン・ドラゴンでファイターにアタックだ!」

空「受けます、うっ!」空のライフ:10→9

闘真「ブーメラン・ドラゴンは効果で手札に戻って、そして俺の場のモンスターが手札に戻ったからD・R・システムの効果で俺のゲージを+1!」

 闘真の手札:3→4/ゲージ:5→6/センター:ブーメラン・ドラゴン→なし

闘真「まだまだ俺の攻撃は続くぜ! ドラゴエンペラーとWピコピコハンマーでアウラにアタックだ!」

 俺の方に来やがった。当然と言えば当然か。だが、空が何かしらのカードを持っている筈だ。

空「ゲージ1を払って、キャスト『大空を手に入れて』でボクの場のモンスターを全て手札に戻すよ!」

 空の手札:4→3→5/ゲージ:3→2

 流石だぜ、相棒。だけど、やはりこの場から戻る時の感覚は慣れねえな……。

闘真「へっ、そう来たか……おもしれぇじゃねえかよ!! なら、俺はWピコピコハンマーの能力を【対抗】で使うぜ。Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置く事で俺のゲージを+1だ!」

 闘真のゲージ:6→7/ドロップ(武装騎竜の種類):1→2/レフト:Wピコピコハンマー→なし

闘真「俺の攻撃はまだ終わっちゃいないぜ! ブレイドウィングでファイターにアタックだ!」

空「キャスト、青竜の盾! 攻撃を無効化してボクのゲージを+1!」

 空の手札:5→4/ゲージ:2→3

闘真「へへっ、良いじゃねえかよ。ターンエンド!」

 闘真の手札:4/ゲージ:7/ライフ:5/ライト:ブレイドウィング

空「ボクのターン! ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:4→5/ゲージ:3→4

空「ライトにアウラをゲージ1払ってもう一回コール! さらにレフトに『神竜騎士 アウローラ』をゲージ2払ってコール!」

 空の手札:5→3/ゲージ:4→1/空:ドラゴフィアレス/レフト:神竜騎士 アウローラ/ライト:アウラ

 レフト:神竜騎士 アウローラ/サイズ3/攻防6000/打撃2/[移動]

闘真「んあ? サイズ3のモンスターがいんだからサイズオーバーだろ?」

アウローラ「私は空さんの場にサイズ2のモンスターがいる時、サイズを2減らす事が出来るのですよ」

 空のレフト:アウローラ/サイズ3→1

闘真「なるほどな。またおもしれぇモンスターを……お前、本当におもしれぇ奴だな!」

空「面白いって……何か調子が狂うなぁ~」

 空は困惑している。あんな奴から面白いって言われれば、そりゃ困惑するよな。

空「まあ、いいや。アタックフェイズに入るよ!」

闘真「攻撃に入る前にキャスト、『ドラゴンシールド 金竜の盾』!! 次に俺が受けるダメージを0に減らすぜ!」

 闘真の手札:4→3/ゲージ:7→6

アウラ「なっ!?」

空「うえっ!?」

アウローラ「そう来ましたか……これだと最低1回分はダメージを与える事が出来ませんね」

 冷静に言いやがる……って事は俺が[貫通]で通しても俺の能力が発動しねえ。くそ、やりやがるぜ。

闘真「そういうこった! ブレイドウィングをセンターに移動させるぜ!」

 ブレイドウィング:ライト→センター

空「それでもやるしかない! アウラでブレイドウィングにアタック!」

アウラ「オラァ! きっちり破壊はさせてもらうぜ!!」

 俺は右の剣を薙いでを炎を飛ばして赤い翼竜を燃やす。翼竜は為す術もなくあっさり黒焦げにされ消滅した。

 ブレイドウィング・ドラゴン 撃破!

闘真「金竜の盾の効果で俺が受けるダメージは0だ!」

 闘真のドロップ(武装騎竜の種類):2→3

空「これでダメージが入る! 次はアウローラさんでアタック!」

アウローラ「はあぁぁぁ!」

闘真「ぐおっ! へへっ、まだまだ!!」闘真のライフ:5→3

 攻撃を受けて笑顔になっている。アイツ、ドMじゃねえのか?

空「ドラゴフィアレスでファイターにアタック!」

闘真「キャスト、『ドラゴ根性!』!! 俺にダメージ1を与える代わりにライフを+3する! ぐっ!!」

 闘真の手札:3→2/ライフ:3→2→5→3

空「なら、ボクは【対抗】でキャスト、『ドラゴニック・チャージ』! デッキの上から2枚をゲージに置く!」

 空の手札:3→2/ゲージ:1→3

空「ターンエンド!」

 空の手札:2/ゲージ:3/ライフ:9/空:ドラゴフィアレス/ライト:アウラ/レフト:アウローラ

闘真「へへっ、かなりピンチだな! ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:6→7

闘真「俺のドロップゾーンに《武装騎竜》が3種類ある……出番だぜ、相棒!! ライトに『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払ってバディコールだ!!」

ザンバソード「待ちくたびれたぜ……これでようやく暴れられるって訳だな!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:7→4/ライフ:3→4/ドロップ(武装騎竜の種類):3→4/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 

超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:武装騎竜/赤竜

サイズ3/攻10000/防6000/打撃3

■君のドロップゾーンに《武装騎竜》が3種類以上あるなら、コールできる。

■[コールコスト]ゲージ3を払う。

■このカードはセンターにコールすることができない。

■このカードが1枚で相手の場のモンスターに攻撃した時、このカードとバトルしている相手のモンスターの能力全てを無効化する。

[貫通]

「コイツはなまくらだからなぁ、叩き潰すこと以外に使えねぇんだよ」

 

 ザンバソードの図体もデカイがその手に持っている剣も奴の身の丈程ある大きさだ。いくら俺でもまともに受ける気が起きない。

闘真「そして、ブーメラン・ドラゴンをレフトにコールだ! さらにキャスト、ドラゴニック・グリモで手札を全て捨てて3枚ドロー!」

 闘真の手札:2→1→0→3/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト:ザンバソード

闘真「行くぜ、アタックフェイズ!!」

空「[移動]は使わないよ!」

アウローラ「ええ、その方が良いでしょう」

闘真「なら、ブーメラン・ドラゴンでファイターにアタックだ!」

空「うっ!」空のライフ:9→8

闘真「ブーメラン・ドラゴンは手札に戻って、俺の場のモンスターが手札に戻ったからD・R・システムの効果で俺のゲージを+1! んで、ザンバソードでファイターにアタック!」

 闘真の手札:3→4/ゲージ:4→5

ザンバソード「どりゃぁぁ!」

空「キャスト、青竜の盾! その攻撃を無効化してボクのゲージを+1!」

 空の手札:2→1/ゲージ:3→4

ザンバソード「やるな!」

闘真「へへっ、相棒の攻撃を止めたか……! 次は俺だ、ドラゴエンペラーでファイターにアタックだぜ!!」

空「手札が……うわっ!」空のライフ:8→6

闘真「ファイナルフェイズ!!」

空「まだ攻撃が続くの!?」

闘真「そうだぜ! 俺がこのターンに《武器》で相手にダメージを与えたなら使える……キャスト、『竜撃奥義 デュアル・ムービングフォース』!! ゲージ2を払って、相手にダメージ2! そして、俺のライフを+2するぜ!」

 闘真の手札:4→3/ゲージ:5→3/ライフ:4→6

空「うわっ、嘘でしょ!?」空のライフ:6→4

闘真「ターンエンドだ!」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:6/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ザンバソード

空「まだまだこっから! ドロー、チャージ&ドロー!」

 空の手札:1→2/ゲージ:4→5

空「ドラゴフィアレスをドロップゾーンに置いて、『竜剣 ドラゴブリーチ』をゲージ1とライフ1払って装備!」

 空の手札:2→1/ゲージ:5→4/ライフ:4→3/空:ドラゴフィアレス→竜剣 ドラゴブリーチ

 空:竜剣 ドラゴブリーチ/攻5000/打撃3

空「キャスト、ドラゴニック・グリモで手札を全て捨てて、3枚をドローするよ! って、何か熱い!?」

 空の手札:1→0→3

 空が引いたカードで1枚だけ燃えている……まるで俺の剣の様に。もしかして、あのカードは――。

闘真「まさに反撃開始って感じだな! かかってこい!!」

空「行きます! アタックフェイズ!! まず、アウラでファイターにアタック!」

 んな事を考えている暇なんてねえな。とにかく目の前にいる奴をぶった切る!

アウラ「喰らいやがれってんだ!」

闘真「そう簡単に喰らうかよ! キャスト、『ドラゴンシールド 緑竜の盾』だ! 攻撃を無効化にして俺のライフを+1!」

 闘真の手札:3→2/ライフ:6→7

 まだだ! ここで止まる訳にはいかねえんだ!!

アウラ「空、さっき燃えてたカードを!!」

空「う、うん! キャスト、『ブレイジング・スピリット』! サイズ2のモンスターの攻撃が無効化された時に使えて、ボクの場のモンスター1枚をスタンドする……アウラをスタンド!」

 空の手札:3→2/ライト:アウラ スタンド!

 

ブレイジング・スピリット

フラッグ:ドラゴンワールド

種類:魔法 属性:竜騎士

■君の場のサイズ2の《竜騎士》のモンスターの攻撃が無効化された時に使える。

■【対抗】君の場の《竜騎士》のモンスター1枚をスタンドする。さらにカード名に「アウラ」を含むモンスターがスタンドしていたなら、君のデッキの上から1枚をゲージに置き、君のライフを+1。「ブレイジング・スピリット」は1ターンに1回だけ使える。

 

空「さらにカード名に「アウラ」を含むモンスターがスタンドしていたなら、ボクのゲージとライフを+1する!」

 空のゲージ:4→5/ライフ:3→4

アウラ「もう一度だ!!」

ラディ「ガウ!!」

闘真「へっ、そうだ……もういっぺん来やがれ!」

空「アウラでもう一度アタック!!」

アウラ「オラァ! 今度こそ燃えやがれ!!」

 ラディが炎を吐くのと同時に奴に向かって右手に持っている剣を振るう。その剣の炎は先程よりも紅く激しく燃えていた。

闘真「ぐはっ! やっぱり、お前の剣は熱いな!」闘真のライフ:7→5

アウラ「テメェの手札も一緒に燃やすぜ!!」

 手札を今度は左手の剣で薙ぎ、蒼い炎で燃やす。蒼い炎からは扱っている俺でさえ熱いと思う程、とてつもない熱さを感じた。

闘真「へへっ、さらに激アツだな!!」闘真の手札:2→1(『ドラゴ・ポンド』)

 とてつもなく楽しそうだな、コイツは。まさしく“コレ”を待っていたんだと言わんばかりの笑顔だ。

空「アウラの能力で相手の手札が減ったからアウローラさんの能力を発動! ボクはデッキから1枚をドローするよ!」

アウローラ「ここで私の能力の出番ですね」

 空の手札:2→3

空「次はアウローラさんでファイターにアタック!」

アウローラ「参ります……はあぁぁ、せい!」

闘真「ぐわっ! へへっ、こっちは鋭いな!」闘真:5→3

空「今度はドラゴブリーチでアタック!!」

闘真「へへっ、悪いな! ドラゴエンペラーの効果で俺が受けるダメージが3以上ならダメージを1減らすぜ!!」闘真のライフ:3→1

ザンバソード「つまり、まだまだ終わらないって事だ!」

アウラ「空、あのカードは!?」

空「引いてないよ!」

アウラ「こんな時に限ってか!?」

空「いつもいつもこんな時に引けると思うなよー!!」

 割りと引きが良いから期待はしていたが、ここでまさか引けていないとは少し驚いたな。だが、その分防御カードを引いているかもしれないし、まだ諦めるのには早い。空も諦めた様な目なんてしていないしな!

空「ターンエンドだよ!」

 空の手札:3/ゲージ:5/ライフ:4/空:ドラゴブリーチ/レフト:アウローラ/ライト:アウラ

闘真「まあ、そういう時もあるって事さ。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:1→2/ゲージ:3→4

 大分ピンチだった筈だが、コイツの態度はさっきから変わっていない。負ける事も楽しいと思える奴みたいだ。本当にバディファイトを心の底から楽しんでやがる。

闘真「このターンで決着を付けるぜ! レフトにブーメランドラゴンをコール!」

 闘真の手札:2→1/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメランドラゴン/ライト:ザンバソード

闘真「さあ、行くぜ! アタックフェイズ! ブーメランドラゴンでファイターにアタック!」

空「うわ!」空のライフ:4→3

闘真「ブーメランドラゴンの効果で俺の手札に戻って、さらにD・Rシステムの効果で俺のゲージを+1!」

 闘真:1→2/ゲージ:4→5

闘真「次は相棒でファイターにアタックだ!」

ザンバソード「今度こそ叩き潰してやるぜ、覚悟しな!」

 ザンバソードの大剣が空目掛けて振り下ろされるが直前でその攻撃は弾かれる。

空「まだまだ! キャスト、緑竜の盾で攻撃を無効化してボクのライフを+1!」

 空の手札:3→2/ライフ:3→4

ザンバソード「くっ! 今回も駄目か……!」

 その気持ち、痛いほど分かるぜ。俺もあのカードがなかったら、あそこで終わっていたしな。

闘真「なら、今度は俺だ! ドラゴエンペラーでファイターにアタック!!」

空「もういっちょ、キャスト! 緑竜の盾で攻撃を無効化してライフを+1!」

 空の手札:2→1/ライフ:4→5

闘真「へへっ、アタックフェイズ中に決められなかったか……! なら、ファイナルフェイズ!!」

 ここぞという時に限ってファイナルフェイズか……確実に負けたな、これ。

闘真「行くぜ……キャスト、『轟斬!ガルガンチュア・パニッシャー!!』! 無効化も減らす事も出来ない5ダメージを受けてもらうぜ!!」

空「うわっ! まさかのガルガンチュア・パニッシャー!? うわああああああ!!」空のライフ:5→0

闘真「へへっ、良いファイトだったぜ!」

 

WINNER:相楽闘真

 

 

闘真「へへっ、ありがとうな!」

 闘真はとてつもなく満面な笑みで礼を言う。隣のザンバソードは苦笑いをしているが。

空「こちらこそ、ありがとうございました!」

 空も礼儀正しく返す。アウローラも穏やかな笑みだ。……と思っていたら、空に「アウラも」と視線を送ってきた。

アウラ「良いファイトだったな」

ラディ「ガウ!」

空「ラディもありがとうって言っているのに、アウラはそれ~?」

アウラ「無理やり挑まれて、ありがとうって言い辛いだろ」

空「まあ、確かにそうだね」

アウローラ「二人共、正直すぎますよ」

闘真「別に俺は構わねえぜ。むしろ、その言葉が聞けて嬉しい限りだ」

 屈託のない笑みで言う。本当にバディファイトが好きなんだな。

空「闘真さんはバディファイトが好きなんですね」

 相棒も同じ事を思っていたらしい。

闘真「ああ、当たり前だ! 色んなファイターとファイトするのが楽しくってしょうがねぇんだよ!」

ザンバソード「だからと言って、あんな危険な奴とファイトするのは金輪際止めてくれよな」

 ザンバソードが言っている危険な奴とは恐らく俺達と少し離れた場所でうつ伏せに倒れているファイターの事だろう。確かにアイツが持っていたデッキケースの力は……って、あんだけの事が起きたんだから流石にバディポリスとか警察が来てもおかしくないよな?

空「あれ? 何かサイレンの音が近づいてこない?」

闘真「気のせいだろ」

ザンバソード「だったら、人なんて来ないぞ」

 ザンバソードの言う通り、各々の制服に身を包んだ数人がこっちにやって来る。ああ、俺達はまたお世話になりそうだな……。

?「轟音が響いたって近隣住人から通報があったが……君達は?」

 一人の男が近づき俺達に話しかけてきた。随分と落ち着いた雰囲気を感じる。俺や旬より年上な気がしなくもない。

闘真「んあ? 俺達はファイトしていただけだぜ。それがどうしたんだよ?」

 正しいが、何か足りない。コイツ、さっきと変わってかなり適当で投げやりな話し方になってやがる。

ザンバソード「正確には俺達とそこに倒れている奴とファイトして、その後一悶着してな……その時に派手にやっちまって、コイツ等がやって来てはまたファイトしてたって訳だ」

 ザンバソードが俺達の事を指差す。男は俺達にも顔を向け、話しかけてきた。

?「そうなのか?」

アウラ「ああ、そうだ。俺達はとんでもねえ音が聞こえたんで音が聞こえた方に行ってみたら、そこに人が倒れていて闘真達に話しかけられた……で良いよな?」

 念の為、アウローラに確認を取る。アウローラは首を縦に振った後、口を開いた。

アウローラ「アウラの言う通りです。そして、彼の傍らに置かれているデッキケースを見れば分かる筈です」

 促されて男はバディポリスや警察に囲まれている意識のないファイターを見やる。そして気付いた様だ。

?「なるほどな。前に起きたファイト施設襲撃事件に使われた代物を持っていたのか」

 男は人差し指の腹を顎に添え、少し考え込む様な仕草をする。

アウラ「ところで、お前は誰なんだ?」

 この男だけ警察やバディポリスと違い、黒いスーツに身を包んでいる。別に怪しいって訳じゃないが、気にはなる。

瀬戸「ああ、悪かった。申し遅れたけど、俺は瀬戸翔吾。カード管理庁に務めているよ」

 カード管理庁? どこかで聞いた様な……。

空「カード管理庁って天海さんと一緒だよね?」

 すかさず空が疑問を口にする。瀬戸は穏やかな笑みで返す。

瀬戸「ああ、そうだよ。天海さんは俺の上司なんだ」

 あの天海が上司か……怒らせたら命が無さそうだ。

瀬戸「……そうか、君達は天海さんが言っていた人達か。今回も巻き込まれた様だね」

アウラ「そんなに関わってないがな」

 まあ、巻き込まれた事は否定しねえが今回は事が終わった後に来た訳だし、終始を聞く前にファイトを挑まれたんだよな……。

瀬戸「そうなんだな。という事は君達の方が関わっているって事か」

 瀬戸は闘真達の方を見る。

闘真「別にファイトしただけだぜ」

ザンバソード「という事だ。完全に関係者だって事さ」

 どこか足りないが、瀬戸にも通じたらしく冷静な声音で言う。

瀬戸「なら、詳しい話を聞きたいから同行してもらいたいな」

闘真「めんどくせえ! それよりアンタ、ファイターだろ? なら、俺と……」

瀬戸「強制連行だな」

 そう言うと瀬戸は有無も言わせずに闘真を押さえ連れて行く。

ザンバソード「正しい扱い方だな。すまないな、無理やりファイトさせちまう事になって」

空「気にしていないよ! ファイト楽しかったし!」

ザンバソード「そうか、それは良かった。じゃあ、俺は相棒を追いかけないといけないからここらで」

 ザンバソードは強制連行されている自分のバディの背中を追いかけ、その場から去って行った。

 その後、俺達は警察やバディポリスの奴から簡単な聴取を終えると解放され、目的の場所へと歩き出した。

 

空「そういえば、さっき引いた新しいカードはどうしてボクのデッキにあったんだろうね」

 向かう途中、空が先程のファイトの事について口を開いた。

アウラ「さあ、知らねえな」

 かくいう俺も分からねえ。特別な事なんてしてねえし。

アウローラ「強い感情が起因でカードが生み出されると言われていますが、お二人は心当たりなさそうですね」

空「え~、アウラが原因かと思っていたけど……」

アウラ「あ~、苛ついてはいたが別に何か思った事はねえな」

 強いて言えば、諦めてはいなかったって事ぐらいだけだが、そんなもんいつも思っている事だから特別に思った事じゃ無いしな。

空「って事は……」

 空は自分の頭の上にいるラディに視線を向ける。

ラディ「ガウ?」

 ラディも何も心当たりがないらしい。

アウローラ「ふふ、なるほど……そういう事なんですね」

 アウローラが何か言っていたみたいだが、上手く聞き取れなかったから気にしないでおく。どうせ聞いてもはぐらかされるだろうし。

空「アウローラさん、何か言いました?」

アウローラ「いえ、何でもありせんよ」

 何事も無かった様に穏やかな笑みで返す。やっぱり、そうなるよな。

空「アウラは全然興味なさそうな顔しているね」

ラディ「ガウ」

アウラ「まぁな。俺にとっちゃ、あのカードがどうしても生まれたのか興味はない事だからな」

空「アウラらしいね……それもそっか」

 空は納得した様でこれ以上は何も聞かなかった。ラディも話を終えると眠り始める。

アウローラ「随分と引き際が良いですね」

 俺の方に顔を向けて言う。煽られている感じもしなくはないのだが、少し驚いているみたいだ。

アウラ「どうせ、話したくなったらお前の方から話してくれるんだろ?」

アウローラ「こんな事でも待っていてくれるのですね」

アウラ「当たり前だ。一応、俺も大人と言えば大人だからな。それぐらいの線引きはするさ」

空「その割には、この間トラと喧嘩していたよね」

アウラ「それはそれ、これはこれだ。一緒にするな」

空「えー、だってさ――」

 と、騒がしくしながら俺達は碧の家に歩いて行った。




 恐らく、今年最後の更新ですがどうだったでしょうか? まあ、目に余る酷い出来かもしれませんが、ここまで読んでいただいて感謝しかありません。

 あと、初登場した話で紹介したかったけど紹介出来なかった提供されたカードです。

神竜騎士 アウローラ
サイズ3/攻6000/防6000/打撃2
ドラゴンワールド
種類:モンスター 属性:竜騎士/神
■【コールコスト】ゲージ2を払う。
■君の場にサイズ2以上の《竜騎士》がいるなら、このカードのサイズを2減らす。
■“太陽と極光”君のカードの能力で相手の手札が減った時、カード1枚を引く。“太陽と極光”は1ターンに1回だけ発動する。
[移動]

 改めまして、提供してくださりありがとうございました!

 では、今年も終わるという事で少し長話を……(いつもしてんじゃんというツッコミはなしで)
 私自身、元々バディファイトの小説というかオリキャラを作って何かしらの物語を考えていましたが、あまり自信がなく書く事を避けていました。しかし、素敵なバディファイトの作品をたくさん触れていく内に書きたいと熱意が込み上がり、筆を執る事を決意しました。
 ストーリーやファイトの質は他の方々にかなり劣っていると思いますが、それでもここまで書き続けられたのは読んでくださる皆様のお陰です。本当にありがとうございます。
 来年もゆっくりとしたペースになると思いますが、どうか温かい目で時には厳しい目で見守ってくださると幸いです。

 それと少しお知らせです。活動報告の方でも触れていますが、改めましてこの場で話させていただきます。
 この度、この作品内でアナザーエピソードを書く事にしました。舞台は本編と同じく東京とサンシャインの舞台になる沼津です。空達とは違う物語を書いていき、時にはリンクする様な形で書いていく予定です。
 なのですが……沼津編に関してはある壁にぶつかっています。何でぶつかっているかは活動報告の方に譲るとして、お時間に余裕があるのならお力を貸していただけたらと思っています。
 東京編に関しては近日公開予定です。どんな物語になるのかは楽しみに待っていただけたら嬉しい限りです。

 では、ここで筆を休めます。長文を失礼しました。次の更新でまたお会いしましょう。
 今年一年間ありがとうございました。来年も皆さんにとって良い一年になる様に願っています。


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第6話:真実は突然に

 どうも、お久し振りです。巻波です。ちゃんと生きていましたよ。
 まあ、Twitterや活動報告の方であれこれ言っているので死んでいない事は確認してはいただけたと思います。

 後、毎度の事ですがこの度の更新が遅くなり申し訳ありませんでした!
 もう数ヶ月以上経っていますね……いい加減、間隔を狭めたいところです。

 一応、この場でいくつか近況報告をしたいと思います。
 まず、今日5月11日はバンドリ!に登場するガールズバンドの一つ、「ハロー、ハッピーワールド!」のドラム担当・松原花音ちゃんの誕生日です! 花音ちゃん、おめでとう!
 ちなみにTwitterの方でも報告させていただいていますが、私、巻波も誕生日を迎えました。反応をくださった皆様、ありがとうございます!

 次に、今月の5月3日に大バディ祭へ参加しました。その詳細は活動報告の方へ譲りますが、一言で言えばメチャメチャ楽しかったです!
 また参加したいなと思いますが、来年も一日だけの参加になりそうな予感です……。

 最後に、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』にハマりました。きっかけは『刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火』というゲームとコラボするという事で運良くアニメ全話一挙配信をしていたのを見た事からですね。
 そのハマり具合は自分がTwitterで上げたライフカウンターにも……。

 長々と話してしまいましたね。すみません。
 これから本編へ流そうと思いますが、久々過ぎて書き方忘れているし、展開も超急展開です。生暖かい目で見守っていただけたら、幸いです。
 では、後書きの方でまた会いましょう。


 やや歩いて俺達は碧の家の前に辿り着いた。流石にこれ以上人の声が聞こえたら近所迷惑になるかもしれないとアウローラはカードの方へ引っ込んじまった。

アウラ「まるで寮みたな建物だな」

ラディ「ガウ」

 建物にはいくつかドアが見える。そこに人が住んでいるのだろうが、これを家と呼ぶにしても素直に頷けない。

 まあ、つっても寮も家みたいなもんだから家って言っても問題ねえのか。

空「あー、かもね。ドラゴンワールドって、どっちかっていうとこういう家じゃない方が多そうだもん」

アウラ「そうだな、皆一つ建てだからあまりこういう建物は見ねえな」

空「じゃあ、碧のところまで行こうか! ……あっ!」

 空は歩いて数歩で再び俺を見る。しかし、その顔はとても真剣だ。何かアイツなり大事な事があるんだろう、ここはしっかりと聞いてやらねえとな。

空「アウラ……碧の家の中に入ったら、碧の父ちゃんの話はあまりするなよ。碧の父ちゃん、二年前にさ……」

 暗い顔になる空。その言葉の続きは言わなくても分かったし、俺も似た様な境遇だ。

 碧の親父さんに何があったのかは詳しく知らないし、親父さんの事自体が初耳だがそういう事なんだろう。

アウラ「ああ、分かったよ。そんな事より早く行かねえと碧とか清晴の事、待たせているだろ?」

空「うん! じゃあ、さっさと行こう!」

 空に連れられ碧が住んでいる部屋まで俺は歩いて行った。

 それにしても碧にはそういう過去があるなんてな……少し驚いた。でも、あれだけしっかりしているのには説得力がある理由だな。

 

 俺達は碧に招き入れられるとすぐさま居間に通された。そこには何やら立派な置物があり、その近くにあるテーブルを挟んで清晴と見知らぬ若い男が床に座っていた。

 男は俺や旬よりも若く見えるが、多分剛志よりかは年上ではないだろうかと思う。つってもアイツの顔つきはな……それよりか年相応に見えるってだけなんだよな。

清晴「よっ! 空、アウラ!」

空「よっ! 清晴に翔さん!」

翔「相変わらず元気そうだね、空ちゃん。っで、隣の人は誰なの?」

アウラ「俺は空のバディの『竜騎士 アウラ』だ。空の頭に乗っているちっさいドラゴンが俺の相棒のラディだ」

ラディ「ガウ!」

翔「あっ、君が碧ちゃんが言っていた空ちゃんのバディなんだね。僕は須藤翔、よろしく」

 俺の方が年上だと思うんだが、初対面でいきなりタメ口って事は同い年ぐらいに見えるのか?

 まっ、そんな事を気にしても意味ねえし、別に問題ねえから良いか。

アウラ「おう、よろしく」

清晴「空、そんなとこに突っ立ってないでおじさんのところにさっさとあいさつしにいけよ」

空「そうだね。じゃあ、ラディ頭の上からおりて」

 ラディは言われた通りに空の頭の上から降りて、その場に羽ばたく。空は立派な置物に近づいては、その正面に座り何やら棒を持って金属の器を叩いた。

 俺も突っ立ったままだと何か不自然だから空の隣に座り、空が手合わせて目を瞑っているのを真似する。

 良く分かんねえけど、これが清晴が言っていた挨拶なんだろう。今度、空に置物の事とかこの作法について教えてもらうか。

 空が目を開いたと思うタイミングで俺も目を開く。すると、隣で空が目を見開いてこっちを見ていた。

アウラ「……何だよ?」

空「んいや、アウラって意外とそういうとこしっかりしているんだなって……」

アウラ「分かんねえけど、挨拶とやらだけはしておこうとお前の真似をしただけだぞ」

空「そっか。なら、碧の父ちゃんもアウラのこと、好きになってくれると思うよ!」

 そう言うと空は屈託のない笑顔を浮かべる。正直、実感が湧かねえが碧の親父さんと面識のある空がそう言うならそうなんだろう。

空「よし! 今から宿題するぞ!」

清晴「ああ! ぜってえ、八月中はパラダイスにするぞー!!」

 テーブルの方には碧もいて、まさしくこれから勉強会が始まろうとしている。あの様子だと多分、監視役がいる訳だし大丈夫だろう。

 となれば、俺とラディが暇になる。なら、やる事は一つだ――。

 

空「アウラー、扇風機ひとりじめしないでよー」

アウラ「お前の宿題終わるまで暇だから、こうして大人しく待ってんだよ」

 そう俺達がやるとしたら、こうして大人しく待つだけだ。送風機の前に俺とラディが陣取り、涼む事でこの暑さを凌いでいる。

 ただ待つだけだとこのくそ暑い中じゃあ、気が狂っちまう。ラディに至っては今にも溶けそうだったし。

空「まあ、テレビに頭を突っ込もうとするよりかはいっか」

清晴「え? テレビに頭を突っ込む? それってどういうことだよ?」

 アイツ、このタイミングでその話題を出すか。あの箱の向こう側はどうなっているのか誰だって気になるだろうが。

空「アウラが家に来た最初の日にさ、テレビに驚いて仕組みがとうなっているのか気になって頭を突っ込もうとしたんだよ」

清晴「ああ、なるほどな……アウラならありえるわ」

 清晴は呆れた目で俺を見やがる。どうして、その目を俺に向ける。別に俺はおかしな事はやっていないぞ?

碧「空ちゃん、岡星くん、手が止まっているよ」

空「あ、はい」

清晴「う、うっす」

 碧の一声に空と清晴は気圧されて、ぎこちない返答をする。どうも碧はかなりのスパルタらしく、勉強が始まった瞬間から二人に厳しくしていた。

 多分、あの二人は気を抜くとすぐに別の事をやり出すからなんだろうな。こりゃ、こってり絞られるな。

 と呑気に考えながら、ふと棚の方へ目を向ける。棚の上にはいくつかの置物と写真立てがあった。

 どんな写真が写っているのかが少し気になったので、立ち上がり棚に近寄る。写真は家族写真が多く、楽しそうな笑顔を浮かべている碧とその家族の写真が主だった。

 やっぱり、アイツにもこんな時間があったんだな。だったら、なおさら親父さんの事は気を付けないといけないな。

 そう思った矢先、一枚の写真が目に入った。それは長い銀髪の男と黒髪を短く整えた男が写った写真だ。

 黒髪の男は今までの写真の流れからして、恐らく碧の親父さんだろう。そして、俺は銀髪の男に見覚えがある。――レックスだ。

 驚きのあまりに声が出ない。まさか、こんなタイミングでレックスの過去を知っちまうなんて思いもしなかった。

 旬の言ってた「今は亡きバディの約束」は碧の親父さんとの約束か? なら、この間襲ってきたアイツらが何で碧を狙ったのも理解出来る。

 いや、それにしては短絡すぎやしないか? けど、そうとしか思えねえ。

 流石にこの事を今聞くのは不躾すぎる。どこか碧と二人だけでゆっくり話す事が出来ればな……。

碧「アウラさん、どうかしたんですか?」

 碧の声がした方に顔を向けた。碧は特に疑う様な目をしておらず、ただ単に俺が何をしているのか気になっているだけみたいだ。

アウラ「いや、ちょっとただ待つのも暇なんでな……その悪かったな、変に物色しちまって」

碧「いえ、大丈夫です。ちょっと恥ずかしいですけど……」

アウラ「そ、そうか。なら、俺は大人しく待つか」

碧「あ、だったら空ちゃんと岡星くんの宿題の手伝いをしてください。二人ともすぐやる気なくして……」

アウラ「その見張りをしろって事か? 良いぜ、ついでに俺が分かるものがあるなら教えてやるよ」

 と言って、俺は空と清晴の間に座って二人がやっている課題の紙を見る。うーん、字が読めん。

 それでも、数字は一応読めるから、算数程度なら教えられるか。

アウラ「というか、翔はさっきから何も言わねえな」

翔「碧ちゃんがしっかりしているからね。僕がとやかく言う必要なんてないんだよ」

アウラ「それもそうか」

 俺が頷くと空が肘で小突いてきた。そしてこう耳打ちする。

空「ねえ? アウラ、さっき何見てたの?」

アウラ「ん? ああ、ちょっと写真をな……それよりもさっさと手を動かせって、八月中はパラダイスにしたいんだろ?」

空「そうだった! 清晴、ここは気合入れてがんばるよ!」

清晴「おう! 八月は遊び倒すんだ……! そして、優雅に夏休みを終わらせるんだよ!」

 二人はやる気になったのか、ひたすらに鉛筆で文字を書いている。

 ま、何か教える事があっても翔や碧がいるから俺の出番はねえかもな。それならそれで良い。

 そう思いながら、碧の方に視線を移す。碧も真剣な顔つきで問題を解いているみたいだ。

 翔はというと今のところ何もする事がないのか、呆けていやがる。何考えているのかはさっぱりだが、多分何も考えていないだろうな。そんな気がする。

 

 平和な日常で良いが、あの写真がやっぱり気になる。今は空がいるし、他の二人は事情を知らないからむやみに写真の事は言えねえ。けど、いつかは碧自身に聞かなくちゃいけねえ時が来る。

 碧には悪いが、レックスを止める為にも必要な事だと思う。もしかしたら、アイツを止めるきっかけになるかもしれない。

 アイツが大事をしでかして、誰かがまた悲しむ前に――。




 如何だったでしょうか? 元から丁寧に張っていない伏線を雑に回収したので、本当に見るに堪えなかったと思います。
 後、今回は結構短めになっていましたよね。まあ、文面はあれですが……。

 それと今回登場したキャラクターを一人紹介します。これはご提供されたキャラクターです。
須藤 翔(すどう かける)/男性/17歳/高3
使用ワールド:ダークネスドラゴンワールド/使用デッキ:黒竜/バディ:撃墜死竜 デスゲイズ "ABYSS"
性格:素直で単純。一人称は「僕」
容姿:168cmで黒の短髪にしている。目は少しだけツリ目で顔立ちは良い。普段はチェック柄かボーダーの入っている服を好んで着用する。

 彼のバディはオリジナルですが、今回は登場していませんのでまた別の機会に紹介したいと思います。
 では提供者様、ご提供してくださりありがとうございます! そして、長らくは出番を待たせてしまい申し訳ありませんでした!


 次回はようやく描きたかった外伝パートに入りたいと思います。その前に沼津編のアナザーエピソードも始動したいな……。

 では、また次回の更新で会いましょう。感想や活動報告の方もお待ちしています。


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6.5話(前編):夏色、交わる

 どうも、お久し振りです。無能で無脳な作者こと、巻波です。
 大変長らくはお待たせいたしました。ようやく外伝です。文字数……。
 後、いつも通りサブタイトルはかなり適当です。良いタイトル名が浮かばん。

 ところで皆さんはこの夏はいかがお過ごしだったでしょうか?
 私は夏の大半を病院で快適に過ごしておりました。夏がいつの間にか終わってしまった……。

 皆さんも怪我や病気には気を付けましょうね。私が言えた口ではないのですが。

 では、後書きの方でお会いしましょう。


 蝉が盛んに鳴く七月後半、剛志達は夏休みだというのに学校に登校していた。これから大学受験や就職に向けて講習を受ける者もいるし、部活動に打ち込む者もいるから夏休み中に学校にいる事自体がおかしいという訳ではない。

 しかし、彼らがいる理由はそれらに当てはまらない。何故なら、夏休みに入る前の期末試験にて、赤点を取ってしまったから。その補習に来ていたのだ。

 ただし、金本は赤点を回避している。彼だけは夏期講習という名目で登校していた……涼しい場所で過ごせるからという理由で来ているのもあるが。

 その為、金本とは違う教室で問題を解く補習対象者達。各々、目の前の問題に険しい顔をして向き合っている。

剛志「分からん……意味不明じゃ」

土原「だよな~、ホント何言っているか分かんねぇ」

 剛志と土原は英文で書かれた問題を見て、お手上げ状態。一応、担当教師の力を借りて解読はしているが、そもそも単語の意味が分からないから読み解くきっかけすら掴めない。

 一方、響は黙々と解き進めていた。途中、躓くところはあるけれど、それでも他の二人と比べて滞りなく答えを書いている。それもそのはずで響は学力的に赤点を取る程低くはない。しかし、今回は大きなミスを犯してしまった。

 それは――解答用紙に名前を記入し忘れた事だ。その為、彼もまた補習対象者となってしまったのだ。

 程なくして、補習授業は終わった。どう見ても頭脳労働が苦手そうな二人は力尽きていた。

金本「おーう。これまたこってりとやられたな」

 隣の教室で授業を受けていた金本が来た。そのすぐ傍には制服の上に白衣を着た小柄な少女がいる。

?「あれ、剛志君も陽太郎君も元気ないね」

響「おっ、鉄平にショーコじゃねえか。今、補習授業終わったとこなんだよ」

金本「見れば分かる」

ショーコ「あれ? 響君は何でそこにいるの?」

響「名前書き忘れたんだよ」

ショーコ「ああ、なるほど」

 響とショーコが会話している間、金本は魂が抜けている二人を叩き起こし、現実に戻した。

 二人は金本がいる事に少し驚く。が、ショーコがいる事にはもっと驚いた。

土原「あれ? ショーコちゃんじゃん! 何でいんの?」

ショーコ「あたし? あたしは先生を探しに来たんだよ、裏の畑の野菜について話したいことがあるからさ」

 ちなみに先程からショーコと呼ばれているが少女の本名は新代(にいしろ)晶子(あきらこ)。ショーコとは呼ばないのだが、読み間違える人が多いのか本人はショーコと呼ばれても気にしていないし、そう呼んでも良いとも公言している。

 尚、何故彼女は白衣を着ているのかというと元来彼女が活発だからというのがあり、すぐ服を汚してしまうからである。

 その為、大事な服を汚してしまわない様にと日頃から制服の上に白衣を着用している。物凄く暑そうに見えるが。

剛志「何じゃ、そういう事だったんか。……そうじゃ、金本もおるし、最終チェックもしてもええんじゃないか?」

土原「そうだな。じゃ、机くっつけるか」

晶子「最終チェック?」

 何も知らない晶子は首を傾げるが、当事者達は彼女の質問に答える代わりにシートを広げ、カードの束と数字が書かれた台紙やプラスチック製の物体を机に置く。

 晶子はそれらを見て理解した。――これからバディファイトをやるのだ。

土原「んじゃ、ビッキー。この間、教えたルール覚えているよな?」

響「とりあえずはな……ちょっとあやふやなとこがあるけど」

剛志「その度にワシらに聞けばええじゃけえ、問題はないわい。それにショーコもおるんじゃ、大丈夫に決まっとるわ」

晶子「えっ!? あたしも組み込まれているの!? あっ、でも響君がバディファイトする姿、珍しいから観戦しちゃお!」

響「マジか……」 

 響は自信なさげに自分のデッキを切っていく。対面している相手は慣れた手つきで山札を切り終えると、響の目の前に自分のデッキを差し出す。

響「うえぇ!? 鉄平、もう切ったのかよ!?」

金本「別に焦らなくて良いぞ。俺の休憩時間が増えるだけだから」

剛志「金本らしいのう」

 と、その間に響もデッキを切り終え、金本に自分のデッキを渡す。互いに相手のデッキをシャッフルして、持ち主のところへと返した。

金本「さて、ここは公式戦らしくコールしてもらおうか」

土原「自分で言う気はないのかよ」

金本「面倒」

晶子「鉄平君……まぁ、いっか! 私達でやるよ!」

 晶子が音頭を取り、それに続いて剛志も土原も声を合わせる。

晶子&剛志&土原「「「バディーファッイ!」」」

 

響「オープン・ザ・フラッグ!」

金本「オープン・ザ・フラッグ」

響「ドラゴンワールド!」

 響の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:竜楽団団長 コルネットホルン・ドラゴン

金本「デンジャーワールド」

 金本の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:アーマナイト・タイガー“A”

響「ええと、まずはチャージ&ドローだっけ?」

 いきなり初手から躓く響。すかさず、土原がフォローに入る。

土原「そうそう、先攻はドローできないからまずはそこからだぜ」

 彼の言う通り、先攻はドローする事ができない。しかし、任意で手札1枚をゲージに置いて、カードを引く事ができるのだ。

響「おう、分かった。チャージ&ドロー!」

 響の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

響「まずはどうするかな……じゃ、まずはライフを1払ってライトに『竜楽団 バリトン』をコールっと」

 響の手札:6→5/ライフ:10→9/ライト:竜楽団 バリトン

 

竜楽団 バリトン

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:竜騎士

サイズ2/攻4000/防4000/打撃1

■[コールコスト]ライフ1払う。

■このカードが相手にダメージを与えた時、君のデッキの上から1枚をゲージに置き、カード1枚を引く。この能力は1ターンに1回だけ使える。

[貫通]

「音楽に人も竜も区別はない。皆等しく音を楽しむのだ」

 

響「それでキャスト、『竜楽団楽“戦いの時は今”』で……設置って、何?」

晶子「それはドロップゾーンに置かず、フラッグの左側辺りに置いて使う魔法って事だよ!」

 設置魔法とはバディゾーンと反対側に置いて、初めて使える魔法カードだ。通常の魔法カードと違って場に残り続ける為、能力の条件や制限に気を付ければ半永久的に使える。

響「なるほどな、サンキュ。じゃ、それを設置」

 響の手札:5→4/ライト:バリトン/設置:竜楽団楽“戦いの時は今”

 

竜楽団楽“戦いの時は今”

種類:魔法 属性:ドラゴン

■【設置】

■[起動]君の手札からカード名に「竜楽団」を含むカード1枚をゲージに置いてよい。そうしたら、カード1枚を引く。この能力は1ターンに1回だけ使える。

■「竜楽団楽“戦いの時は今”」は君の場に1枚だけ【設置】できる。

 

響「それで“戦いの時は今”の効果を使って、俺の手札から「竜楽団」のカードを1枚ゲージに置いて、カードを1枚ドロー」

 響の手札:4→3→4/ゲージ:3→4

響「んで、ゲージ1払って『竜楽団旗』を装備。このカードが場にいる限り、俺の場の「竜楽団」の名前が入っているモンスターの攻撃力と防御力を+1000するぜ」

 響の手札:4→3/ゲージ:4→3/ドロップ(竜楽団の種類:0→1)/響:竜楽団旗/ライト:バリトン/設置:戦いの時は今

 

竜楽団旗

ドラゴンワールド

種類:アイテム 属性:ドラゴン/武器

攻2000/打撃1

■[装備コスト]ゲージ1払う。

■このカードが場にいる限り、君の場のカード名に「竜楽団」を含むモンスター全ての攻撃力+1000、防御力1000!

■このカードは、君のセンターにカード名に「竜楽団」を含むモンスターがいても攻撃できる。

「さあ、掲げよ! 我らが来たことを知らせるのだ!」

 

 響のライト:バリトン/攻4000→5000/防4000→5000

 

響「よし、これで今やれる事はやった! 次はアタックフェイズに入るぜ」

金本「おーう、かかってこーい」

剛志「何じゃ、その気の抜けた返事は? もうちっと、シャキッとせんかい」

 金本の返事に剛志がツッコミを入れる。しかし、気が抜けているのは声音だけで金本の表情は至って真剣だ。

響「バリトンで鉄平にアタック!」

金本「あー、打撃1か……微妙だな。いいや、そのまま受ける」

 金本のライフ:10→9

響「バリトンの効果でバリトンが相手にダメージを与えたからゲージを+1して、カードを1枚引く」

 響の手札:3→4/ゲージ:3→4

響「これでターンを終わるぜ」

 響の手札:4/ゲージ:4/ライフ:9/響:竜楽団旗/ライト:バリトン/設置:戦いの時は今

金本「じゃ、俺のターンっと。ドロー、チャージ&ドロー」

 金本の手札:6→7/ゲージ:2→3

 金本はドローフェイズを終えると自分の手札をじっと見つめる。顔つきもどこか悩んでいるのか厳しさが浮かんでいた。

金本「…………」

土原「おいおい、金本が長考に入っちまったよ」

晶子「もしかして、手札事故ったのかな?」

剛志「金本のデッキはピーキーじゃからな……あり得るわい」

 三人は彼の様子に各々率直に起きている事態を予測する。

 手札事故……バディファイトに限らず、TCGをやっている者にとって必ず遭遇した事のあるだろう危機。状況にそぐわないカードが手札に集中してしまうのは頭の痛い事だ。

 しかし、リカバリーができる可能性は少なからずある。幸い、金本の手札はまだ軽度の事故で済んでいた。

金本「……ライフ1払って、キャスト『超力充填』。ゲージを+3する」

 金本の手札:7→6/ゲージ:3→6/ライフ:9→8

 長考から脱した金本は魔法を使用する。ライフカウンターの数値を変動させ、デッキの上から3枚をゲージに置いた。

金本「っで、ゲージ1払って『爆斧 リクドウ斬魔』を装備。このカードの効果で俺はセンターにモンスターを置けない」

 金本の手札:6→5/ゲージ:6→5/金本:爆斧 リクドウ斬魔

 金本:爆斧 リクドウ斬魔/攻6000/打撃3

金本「それでキャスト、『烈神呼法』。ゲージ1とライフ1を払ってカードを1枚ドロー、更に《武器》を装備しているから、もう1枚をドロー」

 金本の手札:6→5→7/ゲージ:5→4/ライフ:8→7

金本「ライトに『アーマナイト・カーリー』をコール。効果で手札から『アーマナイト・ケルべロス“A”』をリクドウ斬魔にソウルイン」

 金本の手札:7→5/金本:リクドウ斬魔(ソウル:0→1)/ライト:アーマナイト・カーリー

 ライト:アーマナイト・カーリー/サイズ1/攻坊2000/打撃2

金本「ソウルにあるケルベロス“A”の効果でリクドウ斬魔の打撃力を+2」

 金本:リクドウ斬魔/打撃3→5

響(あれ……? これってヤバくね……?)

 響の脳裏には以前行ったタッグファイトにて、金本が成功させたワンターンキルが浮かんだ。

 デンジャーワールド、ひいては金本のデッキは特に打撃力に特化している。あの攻撃が最初から飛んでくるとなると……背筋が凍る。

金本「更にレフトにもう一度アーマナイト・カーリーをコール。それで手札から『アーマナイト・タイガー“A”』をソウルイン」

 金本の手札:5→3/金本:リクドウ斬魔(ソウル:1→2)/レフト:アーマナイト・カーリー/ライト:アーマナイト・カーリー

 金本はそんな響の心情を知ってか知らずか順当に手筈を進めていた。そして、容赦ない宣言をする。

金本「タイガー“A”の効果を使うぜ。リクドウ斬魔のソウルにあるタイガー“A”をドロップゾーンに置いて、リクドウ斬魔はこのターン中だけ[2回攻撃]を得る」

 金本:リクドウ斬魔(ソウル:2→1)/[2回攻撃]

響「えええええええ!? これ、どうすりゃ良いんだよ!?」

 驚くのも無理はない。打撃力5点という高打点が2回も来るという事は実質10点分のダメージを受ける事になる。

 これをいきなり受けるという現実に響はただただ動揺するばかり。

土原「落ち着け、ビッキー! まだどうにかなる段階だ!」

晶子「そうだよ。手札次第でどうにかなるよ、多分」

 土原と晶子の一声に響は落ち着きを取り戻し、自分の手札を見る。まだ可能性はある。

金本「安心しろ、今回はガルチャージはなしだ。という事でこのままアタックフェイズに入る」

 金本はゲージを一瞥した後、響に顔を向けて言った。彼の言葉で響は内心安堵した。

響「とりあえずかかってこい?」

金本「んじゃ、お構いなくリクドウ斬魔で響をぶん殴る。5点だ」

響「キャスト、『ドラゴンシールド 緑竜の盾』で攻撃を無効化して……」

金本「対抗でキャスト、『牙竜喝破』だ。ゲージ2とライフ1を払って、その魔法を無効化にして破壊する」

 金本の手札:3→2/ゲージ:4→2/ライフ:7→6

 そうそう事が上手く運ばず、あっさりと防御魔法を割られる響。5点の高打点が突き刺さる。

響「ひえ~!? 5点はキツイぜ!」

 響の手札:4→3/ライフ:9→4

金本「リクドウ斬魔をスタンドして、もう一回響にアタックだ」

響「まだだ! キャスト、緑竜の盾で攻撃を無効化してライフを+1」

 響の手札:3→2/ライフ:4→5

 今度はキッチリと防げた。もしなかったとしたら……想像は容易い。

金本「あー、2枚も持っていたのか。ガルチャージしなくて正解だったな。ライトのカーリーで響にアタック」

 一方、金本はゲージを確認しながら言った。ガルチャージをした場合、牙竜喝破が使えない為、全部の攻撃が空振りに終わるところだっただろう。

 そして、結果を踏まえて金本は次の行動を宣言した。

響「防御はないから受ける」響のライフ:5→3

 その宣言に対して響は対抗を持っているカードがなかった為、ダメージを受ける事に。

金本「レフトのカーリーで響にアタック」

響「これも受ける。……何とか首の皮一枚繋がったぜ」響のライフ:3→1

 本当に緑竜の盾が2枚来て良かったと思う。でなければ、このターンで決着が付いていただろう……あの高打点の連続攻撃で。

金本「これで俺のターンは終わりだ」

 金本の手札:2/ゲージ:2/ライフ:6/金本:リクドウ斬魔(ソウル:1)/レフト:アーマナイト・カーリー/ライト:アーマナイト・カーリー

響「っし、俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 響の手札:2→3/ゲージ:4→5

響「ええっと、これは……“戦いの時は今”の能力を使って、俺の手札から「竜楽団」のモンスター1枚をゲージに置いて、1枚ドロー!」

 響の手札:3→2→3/ゲージ:5→6

 未だに慣れない手つきで手札から1枚をゲージに置き、カードをドローする。しかし、思っていた程、良い札はない。

響「あー、こいつは……仕方ねえ、キャスト『ドラゴニック・グリモ』で仕切り直しだ」

 響の手札:3→0→3/ドロップ(竜楽団の種類:1→4)

響「っし! これなら行けるぜ! バリトンを押し出してセンターに『竜楽団団長 コルネットホルン・ドラゴン』をゲージ2を払い、ドロップゾーンから「竜楽団」を2枚ソウルに入れて、バディコール!」

 響の手札:3→2/ゲージ:6→4/ライフ:1→2/ドロップ(竜楽団の種類:4→2→3)/響:竜楽団旗/センター:竜楽団団長 コルネットホルン・ドラゴン/ライト:バリトン→なし

 

竜楽団団長 コルネットホルン・ドラゴン

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:武装騎竜/青竜

サイズ2/攻5000/防5000/打撃2

■[コールコスト]君のドロップゾーンからカード名に「竜楽団」を含むモンスター2枚までをソウルに入れ、ゲージ1払う。

■このカードが場にいる限り、君の場のカード名に「竜楽団」を含むカード全ての打撃力+1!

[ソウルガード]

「我は竜楽団団長コルネットホルン・ドラゴン。君も音楽を愛してやまないのなら、我らは同志だ」

 

響「そしてコルネットホルンの効果で俺の場の「竜楽団」全ての打撃力を+1!」

 響:竜楽団旗/打撃:1→2 センター:コルネットホルン/打撃2→3

金本「おうおうおう、《新選組》じみたデッキだな」

響「んで、レフトに『竜楽団 スネア』をコール! コルネットホルンの効果でスネアも打撃力+1だ!」

 響の手札:2→1/響:竜楽団旗/レフト:竜楽団 スネア/センター:コルネットホルン

 

竜楽団 スネア

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:竜騎士

サイズ0/攻3000/防2000/打撃1

「馬鹿にするな、元々は人間が扱っていた道具なんだ」

 

 レフト:スネア/打撃1→2

響「このままアタックフェイズに入るぜ! まずはコルネットホルンで鉄平にアタック!」

金本「キャスト、『闘気四方陣』で攻撃を無効化」

 金本の手札:2→1

響「まだまだ、スネアで鉄平にアタック!」

金本「受ける」金本のライフ:6→4

響「竜楽団旗でアタックする前に確認なんだけど……陽太郎、これで殴っても大丈夫だよな」

 自分が装備しているアイテムカードを土原に見せる。すると、土原はサムズアップをして答えた。

土原「ああ、大丈夫だぜ! 条件はバッチし揃っているから問題ないぜ!」

響「そうか、なら竜楽団旗で鉄平にアタック。このカードはセンターに「竜楽団」のモンスターがいたら、攻撃できるぜ!」

金本「そうきたか、これも受ける」金本のライフ:4→2

響「んで、ファイナルフェイズ!」

金本「おお、何か来たみたいだな」

響「俺の場に……ええっと、《武装騎竜》と《竜騎士》がいるからゲージ1払って、キャスト『ドラゴンワールド・アライアンス』! 鉄平に2ダメージ!」

 響の手札:1→0/ゲージ:4→3

 響はカードのテキストを確認しながら、丁寧に操作を行う。

 彼がカードの能力を読み上げ終わると金本は自分の手札を見た。ダメージを無効化したり、減らしたりするカードはない。

金本「手札がない、受ける。俺の負けだ」金本のライフ:2→0

 

WINNER:南條響

 

晶子「おお、響君が勝ったぁー!」

土原「スゲーな、ビッキー! ちゃんとデッキ使いこなしてんじゃん!」

響「一昨日、昨日とお前んちで特訓したからな……いや、でも危なかったぜ」

剛志「確かにあの連撃はヤバかったのう」

 響が勝利したという結果に外野三人は盛り上がっていた。

 初心者である彼が金本に勝てない訳ではないが、経験の差というのものは大きい。しかし、それでも運を引き寄せられたのも彼自身の実力というべきだろう。

金本「まっ、それだけ動ければ多少は問題ないだろう。ルールもそれなりに理解していたし」

 対戦相手を務めた金本は平然とした態度で言う。

 普段あまりファイトをやらない響が勝利まで辿り着けたのだから、むしろ戦力として申し分ない。本番で緊張しなければ……と先の事も見据えていた。

土原「それにしても、腹減ったぁ~。大会までまだ時間あるし、どっか寄って食いに行かね?」

剛志「そうじゃな。ワシも頭動かした分だけ腹減ったわい」

響「お前らなぁ……って、時間もそんな時間か」

 響は教室の壁に掛けられている時計を見る。針はお昼頃、丁度昼食を取る時間帯だ。

金本「この時間、どこも混んでいるだろ? 俺は嫌だぞ」

響「でも、飯を食わねえと戦はできねえだろ?」

金本「飯食う前に戦になるから嫌なんだよ」

 そればかりは何とも言えない響であった。

 一方、土原が言った「大会」という単語に疑問を持った晶子はその発言者に質問を投げかけていた。

晶子「陽太郎君、大会って?」

土原「ああ、オレ達は今日店舗予選に出るんだよ! 高校生限定のな!」

 その解答に晶子は理解し納得した。彼が言った高校生限定の店舗予選とは今夏に行われる大型大会の予選の事だ。

 毎年のように行われるその大会は野球で言う“甲子園”であり、高校生バディファイターの憧れの大会である。

 その大会で優勝したチームはプロのバディファイトチームにスカウトされると言われ、プロバディファイターを目指す者にとっては登竜門のようなものだとすら言われている。

晶子「そっか、頑張ってね! 二次予選に行ったら、応援に駆け付けるからね!」

 きっと予選も厳しいものになるだろうと晶子は思いながらも彼らに声援を送った。

土原「マジで!? ショーコちゃんが応援に来るなら何としてでも店舗予選突破しなきゃな!」

剛志「じゃな。ワシもたくさんファイトしたいじゃけえ、勝ちまくるぞ!」

 剛志は店舗予選に先に待ち構えている強敵に思いを馳せる。勝ち上がり続ければ、よりたくさんのファイター達と戦える。その為にも店舗予選の突破は必須だ。

土原「あ、そうそう。この後、飯食いに行くんだけど、ショーコちゃんもどう?」

晶子「あたしは用事があるから、また今度ね」

剛志「そういえば、裏の畑がどうとか言うとったじゃな」

土原「くぅ~、オレは野菜に負けたのかぁ~!」

 この後、剛志達は晶子と別れて近くの飲食店へと足を運んだ。晶子にフラれた土原をなだめながら。

 

 その頃、バディポリス東京本部では今年行われる大型大会の進行や警備の計画を練るのに裏方にあたる人物達が忙しなく動いていた。

 バディポリスはバディファイターでないと務まらないと一般的なイメージがあるのだが、あくまでそれは花形。

 警察にも刑事だけがいる訳ではないように、バディポリスにも非ファイターの人材も多くいる。

 そんな彼らは当日警備を務めるであろうバディポリスのメンバーが、無理なくかつ迅速に対処ができる配置に付けるようにあれやこれやと日夜頭を働かせていたのだ。

?「失礼します。この前の計画書をお持ちしました」

 黒々とした髪を短く整え、黒縁の太いフレームの眼鏡を掛けた男性がある部屋に入った。

 豪勢な作りをしている装飾に似つかわしくない観葉植物が棚の上に置かれ、その植物達の世話をしている男性も質素という言葉が似合う程に細身で派手な装飾を身に着けていない。

?「やぁ、お帰り。どうかね、進捗は?」

?「これを見れば、分かると思います」

 眼鏡を掛けた男性は手に持っている紙の束を執務机の上に置いた。

 植物の世話をしていた男性は机に置かれた事を確認すると、霧吹きをその場に置き執務机に合わせて置いてある椅子に腰を掛ける。そして、計画書を手に取り目を通していく。

?「ふむふむ、前回出した案よりまとまっているね。この案を中心に細かいところを修正してもらおうか」

?「分かりました。後で修正箇所の提案をお願いします」

?「あ~やっぱりそうなるよね~」

 男性は苦笑いを浮かべた。しかし、この男は無責任ではない為、目についた粗に対して一つ一つ自分の意見を書いていく。時折、眼鏡の男性に意見を求めながら整理し、自分の書いた修正案は可能かどうかの質問も記した。

?「それにしても長官、よろしいのですか?」

長官「ん? 何がだね?」

 長官と呼ばれた男性は顔を上げて、発言者の方へ目を向けた。眼鏡の男性が無愛想な顔つきでこちらを見つめている。また大柄である事も相まってかなり威圧感があった。

?「バディポリスユース達を大会に参加させておいて」

長官「ああ、その件か……別に問題ないよ。有事の際には一番早く動ける立ち位置にいてもらっているからね」

?「なるほど、やはりそう考えていましたか。不破長官」

 長官――不破(ふわ)誠人(まさと)は間を置いた後、資料を置いて手元にあるコーヒーに口を付けてから返す。

不破「まぁね。それに彼らはまだ学生だ。青春してもらわなくちゃね、桐口君」

桐口「まるで私が青春時代を過ごしていないかのような言い方ですね」

 桐口(きりぐち)守人(もりと)は無愛想なまま軽口を言う。彼はあまり軽口を叩く人間ではないが、不破に対して一定の信頼を置いている為、たまにこうして彼なりの軽い冗談を言う時がある。

不破「でも、()()じゃ過ごしていないでしょ?」

桐口「ええ、()()では過ごしていませんね」

 桐口はこれ以上良い返しが思い付かない為、あっさりと認めてしまった。その言葉に不破は少し口の端を上げる。

桐口「長官はどういう青春時代をお過ごしだったのでしょうか?」

 ふと疑問に思った為、聞いてみる。不破はにこやかな表情を崩さないままコーヒーを一口飲むとその節を話す。

不破「僕は剣道少年だったからね……バディファイトも真面目にやっていたけど、とにかく剣道に打ち込んでいたよ」

桐口「なるほど、それは青春ですね」

不破「そのおかげで当時は彼女なんてできなかったけど」

桐口「そんな剣道少年が結婚して子供までできるのですから、大したものだと思います」

 不破のその事に対して特に表情を変えず、机の上に置いてある写真立ての写真を見つめる。

 彼と妻らしき女性、恐らくその二人の子供であろう幼い少女の三人で映った家族写真だ。

不破「結婚と言っても籍は入れていないけどね」

桐口「今度はいつ会いに行くつもりですか?」

不破「当分は会えないだろうね。大会の事もそうだけど事件の事もあるから」

 そう言って桐口に目を合わせた不破の表情はバディポリスの長官らしく厳しく引き締まっていた。

 その黒瞳の奥は彼の頑固な意志を示すかのように真っ直ぐに強い光が宿っている。

桐口「そうですね。今は面倒な事件が発生していますしね」

 桐口の顔色は変わっていない。常に厳しい表情をしているように見えるからかもしれない。だが、ここでふざけるような人物ではないのは周知だ。

 彼の言葉に不破は先程の調子になり、柔和な表情で再び資料を覗き込む。そして軽い調子で言う。

不破「さてと、仕事に戻ろうかな」

 再度資料に目を通して、ある程度書き込み終わったら、桐口に計画書を手渡して送り返した。

 

 バディポリスながらに大会参加を許された剛志は土原達と昼食を済ませ、目的のカードショップに向かう。

 店内に入ると剛志達と変わらないぐらいの年頃の少年少女達があちらこちらに見かける。彼らもまた店舗予選に臨む者達で各々作戦を立てながらカードを見たり、卓上用にサプライを買ったりとして受付が始まるまでの時間を過ごしていた。

金本「あ~もう帰りたい」

土原「って、帰ろうとすんな! まだ今日のメンバー決めていないんだぞ!」

 人の多さに幻滅した金本はさっさと帰ろうとするが土原に止められる。入口で立ち往生している訳にいかない為、一行は比較的人の流れの邪魔にならない位置に避難した。

剛志「っじゃ、今日の選抜メンバーを決めるわい! じゃんけんでええんじゃな?」

土原「ああ、そうだぜ。金本、お前もちゃんとやれよ」

金本「絶対に負けてやる」

響「負けることに執念を燃やすのかよ!?」

 男四人がじゃんけんした結果、見事宣言通り金本が負けた為、今回は剛志と土原と響の三人でこの店舗の大会を戦う事となる。

 規定により、一チームが一つの店舗大会に参加できるのが三人までとなっている。その為、剛志達はじゃんけんでメンバーを決めていたのだ。

金本「あ、そうそう響。ちゃんと相手のデッキはシャッフルしろよ」

響「急に何を言うかと思えば……するに決まっているだろ」

土原「そうだぜ、ビッキーが金本みたいに拒否される訳ないだろ!」

響「え!? どういうことだよ、それ!?」

 響は驚く。土原から自分のデッキのシャッフルを終えたら、互いにデッキを交換してシャッフルするのが常識だと教えられたからだ。

 それはこれから対戦する相手に失礼がないように正々堂々と戦う為の証拠だと言われているのだから、拒否する理由はどこにあるのだろうかさえ思っていた。

剛志「あの事件のことじゃな……」

 剛志は響にその当時の事を話す。カードショップ店内でのフリー対戦を行った時の事、金本の対戦相手が自分のデッキを彼にシャッフルされる事を拒否したのだ。

 さらに後々になって判明したのだが、その対戦相手は自分のデッキすら切り混ぜていなかったのだという。自分の欲しいカードが上に固めていたというのだ。

 しかし、金本が先攻を取ってワンターンキルをやってのけたので事は大事にならなかったそう。相手もワンターンキルに特化していたデッキだからこその悲劇とも言われていたらしい。

響「なるほどな……そんなことが……本当に鉄平はすげぇな」

金本「いや、向こうが防御魔法を一枚も手札に入れてなかっただけの話だ。まっ、負けても何も言う気はないけど」

土原「オレだったら一発ぶん殴りそうな事件だけどな!」

金本「お前なら一発どころか十発ぐらいは殴っていそうな気がするぞ」

 軽く談笑している内にアナウンスが入る。大会の受付を始めるアナウンスだ。

 参加するメンバーはデュエルスペースと呼ばれる机や椅子がいくつも並べられて置いてある空間に入っていく。そして受付を済ました者は紙に自分の名前と所属しているチーム名を記載する。

 参加者が出そろった後、店員がタブレットを使って参加者達が持っている用紙にある番号を読み上げて組み合わせを発表した。

 全ての組み合わせが発表された後、参加者達は指定された席に着く。剛志は中央付近に着席し、対面している相手と挨拶を交わす。

剛志「よろしくお願いしますわい」

?「おう、よろしくな」

 そう返したのはオレンジ色のウルフカットに近い短髪にややツリ目な灰瞳の少年。慣れた手つきで山札を切っていた。

?「そうだ! お前の名前、聞いてもいい?」

剛志「別に構わんわい。ワシは日向剛志じゃ!」

竜「俺は鹿島竜! 剛志、負けねえからな!」

剛志「望むところじゃい!」

 二人は互いのデッキを交換してシャッフルした後、持ち主に返して手札とゲージをセッティングし、先攻と後攻を決めるじゃんけんをする。

 じゃんけんの勝者は竜だ。そして準備が終わった頃、店員が全ての場所の準備が終わった事を確認し、掛け声をかける。

店員「制限時間は二十分です。それでは行きますよ、バディーファイッ!」

 それに合わせてファイター達は一斉に「オープン・ザ・フラッグ!」と声を発し、フラッグを公開する。

 

竜「レジェンドワールド!」

 竜の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:竜滅王 ベーオウルフ

剛志「エンシェントワールドじゃい!」

 剛志の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:魔愚南無竜王 リボルバー・ガロード

竜「俺から先攻行くぜ! チャージ&ドロー!」

 竜の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

竜「まずはレフトに『竜滅王 ベーオウルフ』をバディコール!」

 竜の手札:6→5/ライフ:10→/レフト:竜滅王 ベーオウルフ

 レフト:竜滅王 ベーオウルフ/サイズ1/攻3000/防2000/打撃2

竜「それでキャスト、『バディチャージ』! 俺のデッキの上から1枚をゲージに置く。さらに俺の場にはバディモンスターがいるから、さらにもう1枚ゲージに置くぜ」

 竜の手札:5→4/ゲージ:3→5

竜「キャスト、『バディヘルプ』でゲージ3払って、カードを2枚ドロー!」

 竜の手札:4→3→5/ゲージ:5→3

剛志「結構ゲージ使うデッキじゃのう」

竜「ああ、俺のデッキはまだまだカードが揃っていなくてな……現状で補えるカードで補っているんだよ」

 自分の使っているワールドのカードを集めきるのは現状難しいのだろう。しかし、ジェネリックというクランは一部を除いて全てのデッキに入れられる便利さがある。

 彼はそれ利用して、己の理想との距離を縮めているのだ。

剛志「なるほど、納得じゃわい」

竜「んじゃ、仕切り直して『聖護 プリドゥエン』を装備、センターに『戦乙女 輝きのワルキューレ』をデッキの上から1枚をソウルに入れてゲージ1払ってコール!」

 竜の手札:5→4→3/ゲージ:3→2/竜:聖護 プリドゥエン/レフト:ベーオウルフ/センター:戦乙女 輝きのワルキューレ(ソウル:1)

 竜:聖護 プリドゥエン/攻0/打撃0/[装備変更] センター:戦乙女 輝きのワルキューレ/サイズ2/攻5000/防3000/打撃2/[移動]/[ソウルガード]

竜「さて、こっからアタックフェイズに入るぜ。ワルキューレでファイターにアタック!」

剛志「ここは受けるわい」剛志のライフ:10→8

竜「俺のターンは終わりだぜ」

 竜の手札:3/ゲージ:2/ライフ:11/竜:プリドゥエン/レフト:ベーオウルフ/センター:ワルキューレ

剛志「ワシのターンじゃな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 剛志の手札:6→7/ゲージ:2→3

剛志「まずはキャスト、『竜王伝』じゃい! デッキの上から1枚をゲージに置いて、ライフ+1、さらにカードを1枚ドローじゃい」

 剛志の手札:7→6→7/ゲージ:3→4/ライフ:8→9

剛志「次はライトに『銃銃竜王 ワンショット・ガロード』をゲージ2払って、コールじゃい!」

 剛志の手札:7→6/ゲージ:4→2/ライト:銃銃竜王 ワンショット・ガロード

 

銃銃(ガンガン)竜王 ワンショット・ガロード

エンシェントワールド

種類:モンスター 属性:怒羅魂頭

サイズ3/攻10000/防6000/打撃力2

■[コールコスト]ゲージ2を払う。

■このカードは「リボルバー・ガロード」としても扱う。

■相手のカードが攻撃した時、その対象をこのモンスターに変更する。

■このカードが登場した時、君の手札の《怒羅魂頭》のアイテム1枚を選び、【装備コスト】を支払わずに装備してもよい。

[ライフリンク2]

FT「たまにはシンプルに行こうぜ、相棒!」

 

 場に出されたのはリボルバー・ガロードと似ているようで少し違うイラストが描かれたモンスターカード。リボルバー・ガロードと比べてどこか足軽そうな雰囲気だ。

剛志「ワンショット・ガロードの効果で、ワシの手札から『友情のマグナム・リボルバー』を装備コストを払わずに装備するわい」

 剛志の手札:6→5/剛志:友情のマグナム・リボルバー/ライト:ワンショット・ガロード

 剛志:友情のマグナムリボルバー/攻6000/打撃1/[装填6]

 卓上でやっている為、流石に本物のマグナム・リボルバーは取り出さない。代わりにカードをフラッグの上に重ねた。

剛志「それでマグナム・リボルバーの[装填]を発動じゃ! ゲージを1枚選んでマグナム・リボルバーにソウルイン! さらにマグナム・リボルバーの打撃力を+1じゃい」

 剛志のゲージ:2→1/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:0→1)/ライト:ワンショット・ガロード

 剛志:マグナム・リボルバー/打撃1→2

剛志「続いて、レフトに『ドラゴンキッド リッキー』をコールじゃい!」

 剛志の手札:5→4/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:1)/レフト:ドラゴンキッド リッキー/ライト:ワンショット・ガロード

 レフト:ドラゴンキッド リッキー/サイズ0/攻防3000/打撃1/[ライフリンク1]

 赤く小柄な竜が描かれたカードがモンスターエリアに置かれる。以前、彼が使っていた小柄な竜とはまた違う雰囲気が感じられた。

剛志「アタックフェイズに入るわい! そんでマグナム・リボルバーの“射撃!”は発動じゃい! ソウル1枚をドロップゾーンに置いて、お前さんのセンターにいるモンスターを選択して破壊し、さらにお前さんにダメージ1点じゃ!」

 剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:1→0)/打撃2→1

竜「ああ、対抗はないからワルキューレのソウルガードを使うぜ。後、ダメージも受ける」

 竜のライフ:11→10/ワルキューレ(ソウル:1→0)

竜「確認なんだけど、[貫通]はどれか持っているか?」

剛志「どれも持っていないわい」

竜「そっか。まっ、どちらにせよ[移動]はなしだ」

剛志「なら、マグナム・リボルバーでセンターにアタックじゃい!」

竜「キャスト、『オースィラ・ガルド』でワルキューレをドロップゾーンに置いて、デッキの上から1枚をゲージに置いて、カード1枚をドロー!」

 竜の手札:3→2→3/ゲージ:2→3/センター:ワルキューレ→なし

 カードの効果でワルキューレがドロップゾーンに置かれ、マグナム・リボルバーの攻撃は無効化される。

 竜は少しもったない気もしないが、どのみち破壊される訳だからと割り切り、効果の処理を行った。

剛志「うーん、空振ったみたいじゃな。だが、センターが空いているのは好都合じゃい! ワンショット・ガロードでファイターにアタックじゃ!」

 剛志はワンショット・ガロードのカードの向きを横に変えた。3点のダメージが竜に迫る。

 竜は少し悩んだ素振りでワンショット・ガロードとプリドゥエンのテキストを見比べた。

竜「3点は喰らいたくないけど……あ~、なるほど。プリドゥエンの効果使わないで受けるわ」

 竜のライフ:10→7

 自分の手札にあるカードを見て、ライフカウンターを確認。そしてその判断に至った。

剛志「最後はリッキーでファイターにアタックじゃい!」

竜「これも受けるよ」竜のライフ:7→6

剛志「ファイナルフェイズに行くわい! キャスト、『仏血義理チャージ!』じゃ! お互いにデッキの上から4枚をゲージに置くんじゃい」

 剛志の手札:4→3/ゲージ:1→5

竜「オーケー! 4枚をゲージに、だな!」

 竜のゲージ:3→7

 互いにゲージが4枚増えた。互いにとってメリットかもしれないが、必要なカードがゲージに全て流れている可能性がある為、容易には喜べない能力だったりもする。

剛志「これでワシはターンエンドじゃい」

 剛志の手札:3/ゲージ:5/ライフ:9/剛志:マグナム・リボルバー/レフト:リッキー/ライト:ワンショット・ガロード

竜「っし、俺のターン! ドロー、チャージ&ドロー!」

 竜の手札:3→4/ゲージ:7→8

竜「まずはキャスト、『スンベル・ガルド』! 俺のライフが6以下だから使えるぜ。だけど、ドロップゾーンに『ブレッフェン・ガルド』がないからゲージ1払って、カードを2枚ドロー!」

 竜の手札:4→3→5/ゲージ:8→7

竜「ライトに『竜滅騎士 ジークフリード』をゲージ1払ってコール。登場時の効果で……あ」

 竜の手札:5→4/ゲージ:7→6/竜:ブリドゥエン/レフト:ベーオウルフ/ライト:竜滅騎士 ジークフリード

 ライト:ジークフリード/サイズ2/攻4000/防5000/打撃2/[移動]

 剛志のカードに書かれている属性に気付くと竜の動きが止まった。これは彼にとって致命的なミスだ。

 ジークフリードの登場時効果である属性に「竜」か「ドラゴン」が入ったモンスターを破壊する効果は剛志の《怒羅魂頭》には効かない。読み方にドラゴンが入っているのだと言うのに指定した文字の関係で、対象外となってしまう。

 自分のやる事に集中しすぎて、すっかり抜け落ちていた。

竜「やべ、やらかしたわ……いいや、俺は俺のスタイルを貫く! [装備変更]を使って、プリドゥエンを手札に戻して『竜滅剣 バルムンク』を装備するぜ!」

 竜の手札:4→3→4/竜:プリドゥエン→竜滅剣 バルムンク/レフト:ベーオウルフ/ライト:ジークフリード

 竜:竜滅剣 バルムンク/攻3000/打撃2

 しかし、だからと言って自分のスタイルを曲げるのは嫌だから竜は続けてバルムンクを場に出す。

 剛志は彼の言葉に好感を持てた。ガチガチのメタデッキだから、刺さるデッキのファイターからすれば嫌だろうし、実際嫌われもしただろう。

 だが、メタカードが通用しない剛志のデッキにさえ、その竜殺しに特化したカード(ドラゴンスレイヤー)達をフル動員させたのだから逆に清々しい。

 ……ただ単に現状それしか手立てがないからそうせざるを得ないだけかもしれないが。

竜「これでアタックフェイズに入るぜ!」

剛志「ワンショット・ガロードは攻撃を全部引き受ける能力を持っておるぞ」

竜「なら、まずはバルムンクとジークフリードでワンショット・ガロードに連携アタック!」

剛志「キャスト、『竜意周到』で攻撃を無効化じゃい!」

 剛志の手札:3→2

竜「対抗でキャスト! 『ブレッフェン・ガルド』でその魔法を無効化するぜ! だけど、ドロップゾーンに『ベルセルク・ガルド』がないから、このカードは回収できないんだよな……」

 竜の手札:4→3

 残念ながら、そのカードはドロップゾーンには流れていなかった。

 もしベルセルク・ガルドがあれば、手札1枚とゲージ2枚を引き換えに回収する事ができたのだ。回収されたのなら、剛志にとってかなりの脅威と化していただろう。

剛志「それでもワンショット・ガロードが撃破されたのは変わりないんじゃがな……だが、リッキーの効果でワシはライフリンクを受けん!」

 剛志のライト:ワンショット・ガロード 撃破!

 それでもワンショット・ガロードを撃破した事には変わりない。だが、ライフリンクによるダメージはなかった為、剛志とって痛手ではなかった。

竜「なら、ベーオウルフでそのリッキーをアタックだ!」

剛志「ぬう!」

 剛志のレフト:リッキー 撃破!

剛志「リッキーのライフリンクを1点受けるわい」剛志のライフ:9→8

竜「ターンエンド!」

 竜の手札:3/ゲージ:4/ライフ:6/竜:バルムンク/レフト:ベーオウルフ/ライト:ジークフリード

剛志「ワシのターンじゃな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 剛志の手札:2→3/ゲージ:5→6

剛志「キャスト、『天竜開闢』でライフ2払って2枚ドローして、ライトに『陽陀羅竜王 ウェスタンビリー』をゲージ2払ってコールするわい」

 剛志の手札:3→2→4→3/ゲージ:6→4/ライフ:8→6/剛志:マグナム・リボルバー/ライト:陽陀羅竜王 ウェスタンビリー

 

陽陀羅(サンダラ)竜王 ウェスタンビリー

エンシェントワールド 

種類:モンスター 属性:怒羅魂頭/アウトロー

サイズ3/攻8000/防7000/打撃1

■[コールコスト]ゲージ2を払う。

■相手のカードが攻撃した時、その対象をこのモンスターに変更する。

■このカードが攻撃した時、君のゲージ1枚を君のアイテム1枚のソウルに入れても良い。

■【対抗】【起動】“サンダラー!”このカードが攻撃されている攻撃中、ライフ1を払い、君の場のアイテムのソウル1枚をドロップゾーンに置いてもよい。そうしたら、攻撃しているモンスター1枚を破壊し、そのターン中、次にこのカードが破壊される場合、場に残す。“サンダラー!”は同時に何回でも使える!

[3回攻撃]/[ライフリンク3]

FT「彼は情に厚い用心棒、雷を撃ち落とす男。金とそれ以上の絆を結べば、彼ほど頼もしい奴は居ない」

 

 再び現れたサイズ3のモンスター。今度は姿形が全く異なるモンスターであり、他の《怒羅魂頭》と違って暴走族というよりかは西部劇に出てくるガンマンと形容した方が似合っている。

剛志「さらにレフトに『ドラゴンキッド ヴァレリー』をコールじゃい! サーチ能力は使わん」

 剛志の手札:3→2/剛志:マグナム・リボルバー/レフト:ドラゴンキッド ヴァレリー/ライト:ウェスタンビリー

 レフト:ドラゴンキッド ヴァレリー/サイズ0/攻3000/防1000/打撃1

 ビリーとはまた違う特徴を持った小柄な竜が登場。ガンメタルの毛色が硬そうな印象を与える。

剛志「マグナム・リボルバーの[装填]を発動するわい。ゲージ1枚を選んでマグナム・リボルバーにソウルインじゃ! さらにマグナム・リボルバーの打撃力を+1じゃい!」

 剛志のゲージ:4→3/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:0→1)/レフト:ヴァレリー/ライト:ウェスタンビリー

 剛志:マグナム・リボルバー/打撃:1→2

剛志「アタックフェイズに入るわい!」

竜「なら、ジークフリードをセンターに移動させるぜ!」

 ジークフリード:ライト→センター

 残りライフも危うい為、竜はジークフリードを盾にするようにセンターに置く。

 “射撃!”を宣言すれば難なく破壊できるが、剛志はあえて使わず、ウェスタンビリーの攻撃を宣言する。

剛志「まずはウェスタンビリーでセンターにアタックじゃい! ウェスタンビリーの効果でこのカードが攻撃した時にワシのゲージ1枚をマグナム・リボルバーにソウルインするわい」

 剛志のゲージ:3→2/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:1→2)

 剛志:マグナム・リボルバー/打撃2→3

竜「キャスト、『グレムリンの嘲笑』で攻撃を無効化にするぜ!」

 竜の手札:3→2

剛志「ウェスタンビリーをもう一度スタンドじゃ。そしてもう一度、センターにアタックじゃい! 攻撃時の効果ももう一度使うわい!」

 剛志のゲージ:2→1/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:2→3)

 剛志:マグナム・リボルバー/打撃:3→4

竜「ぐう、破壊されるぜ!」

 竜のセンター:ジークフリード 撃破!

剛志「[3回攻撃]でさらにウェスタンビリーをスタンドじゃい。ウェスタンビリーでベーオウルフにアタックじゃ、攻撃時の効果は使わん!」

竜「くぅ~、悔しいけど破壊されるぜ」

 竜のレフト:ベーオウルフ 撃破!

剛志「ヴァレリーでファイターにアタックじゃい! ヴァレリーの効果でデッキの上から1枚をマグナム・リボルバーにソウルインじゃ!」

 剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:3→4)/打撃4→5

竜「これは……受ける!」竜のライフ:6→5

剛志「最後にマグナム・リボルバーでトドメじゃい! 打撃5点を受けてもらうわい!」

竜「5点!? そんなの受けたくねえよ! 手札にあるプリドゥエンの効果を使って、プリドゥエンを装備! [装備変更]でバルムンクを手札に戻す!」

 竜の手札:2→1→2/竜:バルムンク→プリドゥエン

竜「さらにプリドゥエンの効果を使うぜ! 俺がダメージを受ける時、ゲージ2払ってそのダメージを2点減らす!」

 竜のゲージ:4→2/ライフ:5→2

 間一髪で敗北の危機を逃れた。しかし、それでも残っているライフの数値はレッドゾーン。次に掛かっている。

剛志「やりおるわい! ワシのターンはこれで終いじゃ!」

 剛志の手札:2/ゲージ:1/ライフ:6/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:4)/レフト:ヴァレリー/ライト:ウェスタンビリー

竜「はぁ~首の皮一枚繋がった~。んじゃ、俺のターン……ドロー、チャージ&ドロー!」

 竜の手札:2→3/ゲージ:2→3

 何とか攻撃を凌いだ事に安堵した竜は一息を吐いて、落ち着く。そしてドローフェイズを終え、メインフェイズに入った。

竜「キャスト、スンベル・ガルド! 今度はブレッフェン・ガルドがあるからゲージを払わずにカードを2枚ドロー」

 竜の手札:3→2→4

竜「んで、バルムンクを装備。[装備変更]でプリドゥエンを手札に戻すぜ」

 竜の手札:4→3→4/竜:プリドゥエン→バルムンク

 使い慣れた愛剣は今回あまり効果を発揮できていない。それでも彼はその剣を選んだ……それしか攻撃力を持つアイテムを入れていなかったから。

竜「ライトにベーオウルフをコールして、レフトにワルキューレをゲージ1払い、デッキの上から1枚をソウルインしてコール!」

 竜の手札:4→2/ゲージ:3→2/竜:バルムンク/レフト:ワルキューレ(ソウル:1)/ライト:ベーオウルフ

 単体での攻撃力は全員ウェスタンビリーに届いていない。それは竜自身が一番分かっている。

竜「アタックフェイズ!」

剛志「ウェスタンビリーもお前さんの攻撃を全部吸い寄せる能力を持っているわい」

竜「だろうな! だから、バルムンクとワルキューレでアタックだぜ」

 モンスター同士で連携攻撃をすると全滅させられる可能性がある。ワルキューレはソウルガードを持っている為、まだ場に残る。だが、ベーオウルフは持っていない。

 このターンではどのみち相手のライフを削り切る事は叶わない。しかし、相手を追い込む事はできるはず。だから、敢えてベーオウルフは残した。

 けれど、その判断は用心棒の前に意味を為さなかった。

剛志「ウェスタンビリーの“サンダラー!”を使うわい! ライフ1払って、マグナム・リボルバーのソウルを1枚ドロップゾーンに置いて、ワルキューレを破壊じゃい!」

 剛志のライフ:6→5/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:4→3)

 剛志:マグナム・リボルバー/打撃5→4

 まさしく雷を撃ち落とすのかように、己に降りかかった災難を撃ち抜く。しかし、まだ災厄は続く。

竜「だけど、ワルキューレはソウルガードがあるからまだ攻撃は続行中だ!」

 竜のレフト:ワルキューレ(ソウル:1→0)

剛志「まだまだよ! さらにウェスタンビリーは次に破壊される時は場に残せるんじゃい」

竜「くぅ~、マジか! 倒し切れると思ったんだがな、ターンエンドだぜ」

 竜の手札:2/ゲージ:2/ライフ:2/竜:バルムンク/レフト:ワルキューレ/ライト:ベーオウルフ

剛志「このターンで決めるわい! ドロー、チャージ&ドロー!」

 剛志の手札:2→3/ゲージ:1→2

剛志「キャスト、竜王伝でゲージ+1、ライフ+1、カードを1枚ドローじゃい」

 剛志の手札:3→2→3/ゲージ:2→3

剛志「マグナム・リボルバーの装填を発動じゃい! ゲージ1枚をソウルイン!」

 剛志のゲージ:3→2/剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:3→4)

 剛志:マグナム・リボルバー/打撃4→5

剛志「このままアタックフェイズに入るじゃけえ、お前さん何かあるか?」

竜「ねえな」

 竜は自分の手札とライフを見て、敗北を悟った。そして剛志は宣言する。

剛志「なら、マグナム・リボルバーの“射撃!”を使うわい。マグナム・リボルバーのソウル全部ドロップゾーンに置いて、ワルキューレを破壊じゃ! さらにお前さんに4点分のダメージじゃい!」

 剛志:マグナム・リボルバー(ソウル:4→0)

竜「ライフは0だ。俺の負けだぜ」

 竜のライフ:2→0/センター:ワルキューレ 撃破!

 

WINNER:日向剛志

 

竜「くそぉ~、予想はしていなかった訳じゃないけど、ドラゴンじゃなかったのは痛かったぜ~」

剛志「ハハハッ、メタはある意味賭けじゃけえな」

 二人はカードを片付け、用紙を交換して勝敗を記す。尚、この店舗予選は一回負けたら敗退となるシングルエリミネーション方式――いわゆる勝ち抜き方式を採用している。

 その為、用紙に勝敗を書いても仕方のないかもしれないが、公式戦――ましてや、大型大会の出場を賭けた予選故に記録として必要なのだ。

竜「剛志、ありがとう! 次会ったら、必ずリベンジしてやるからな!」

剛志「おう、こっちこそありがとうじゃ! だけど、次もワシが勝つぞ!」

 再戦の約束を交わすと竜は席を立ち自分の用紙を持って、その場から立ち去った。周りを見渡すと最初の頃より人数は減っている。

 勝ち抜き方式の為、負けた者はすぐに去らなければならないからだろう。しかし、これは仕方のない事。

 そして制限時間を迎えると店員がやって来た。全員、制限時間内に決着を付けたらしく引き分けになった者はいない。

 店員はその事を確認するとタブレットに記録した残った番号を専用アプリで再度ランダムに混ぜ、組み合わせを発表する。

 残ったメンバーがその組み合わせに合わせて席を移動し、対面した相手ファイトをする。

 そしてまた制限時間が過ぎると店員がやって来て、残った参加者のマッチングをするというのを繰り返して優勝したのは――。

 

土原「ビッキーの優勝にカンパーイ!」

剛志「カンパーイじゃ!」

金本「カンパーイ」

 土原が陽気に音頭を取る。ノリノリな剛志と気だるけな金本が続く。中心の響は未だに現実を認められないのか、困惑している。

響「本当に俺が勝っちまったのかよ……」

 店舗大会で優勝したのは響だった。大会が終わった後、彼らは行きつけのファミレスで響の優勝祝いをしている。

土原「ビッキーが勝ったんだよ! だって、オレにも勝ったんだからな!」

 準決勝にあたる試合で響と土原がマッチングしてしまったのだ。まず、そもそも響がそこまで残ったのが凄いだろう。

 彼は天性の引きの強さで土壇場を制して勝ち上がっていた。それが土原との戦いでも発揮され、見事勝利をもぎ取ったのだ。

土原「それにしてもいつの間に『ドラゴン・ハート』なんて入れてたんだよ?」

響「今日の朝」

土原「マジか。気付かんかったわ」

 土原が必殺技を出した時、響は『ドラゴン・ハート』をキャストしてなんとか場を凌いだのだ。

 流石の土原もそれは予想してなかったらしく、手札を枯渇させてしまい、返しのターンで猛攻に遭い沈んだという。

金本「剛志は何と対戦して負けたんだ?」

 唯一参加していない金本は結果しか知らない。だから、剛志にも話を振った。

剛志「ワシは《新撰組》じゃな……序盤でリッキーとワンショットを焼かれたのがな……」

 準決勝での譜面を思い出す。先攻は剛志で、最初からワンショット・ガロードとリッキーを出し、マグナム・リボルバーを装備というフル武装だった。

 しかし、向こうがバウンス効果を持つカードと『竜騎士 ソウシ』や『竜騎士 イワモト』などのサイズ関係なくモンスターを破壊する効果を持つカードを上手く活用した為、序盤からライフリンクを受け続けるという苦しい展開を強いられてしまったのだ。

 その後、リボルバー・ガロードを出して対処したが、のらりくらりと躱されジリ貧の末にリボルバー・ガロードを倒された事によるライフリンクで負けた。

剛志「序盤でリボルバー・ガロードを出せたとしても向こうに『壬生の狼』があるじゃけえ……」

金本「ああ、なるほどな……確かにリボルバー・ガロードも突破できる火力はあるもんな、向こうは」

剛志「後、アルティメット・スマッシュでマグナム・リボルバーが破壊された痛かったわい」

金本「アイテム持っていたのか。なら、痛いな」

 マグナム・リボルバーはソウルを溜める能力があってもソウルガードは持っていない。その為、度々魔法や必殺技の効果で破壊される事がある。

 デッキの主軸でもある為、マグナム・リボルバーを破壊される事はかなり痛手だ。

土原「《新撰組》って、スゲェースペック低い分、効果めちゃくちゃ便利だもんなぁー」

響「ああ、俺も決勝で当たった時はモンスター一掃されて焦ったぜ」

 土原や響も話に加わる。運ばれてきた料理に舌鼓を打ちながら、今回の大会について振り返る。

剛志「そうじゃ、ガチガチのメタデッキを組んでおった奴がいたわい」

土原「メタデッキ? バルムンクみたいな竜殺しデッキ?」

剛志「そうじゃ。ワシが《怒羅魂頭》を使っていたじゃけえ、フルには動かんかったけどな」

金本「響のデッキだったら、危なかったな」

響「え? 俺のデッキとそんなに相性が良いか?」

 まだあまりカードについて詳しく知らない響が質問をする。

金本「ああ、メタカードと言ってな……特定のカードに対して強くなるカードがあるんだ」

土原「っで、今言っているカードはビッキーみたいにドラゴン使っている奴に対して超有効ってヤツなんだよ」

響「うぇ!? マジかよ!? ……あれ? でも、何で剛志のデッキには刺さらなかったんだ?」

金本「それは書いてある文字の問題。指定されているのはカタカナで“ドラゴン”か漢字で“竜”だから剛志の《怒羅魂頭》は対象外」

響「そうか……そういうことなんだな~」

 響は納得する。そして話は先程の決勝から巻き戻り、バディファイト談義は全員が食べ終わるまで続いていた。

 

 祝勝会を終え、響は夜道を一人歩く。帰り道は他の三人と違う。だからこそ、この時間もまた彼にとっては大事な時間だった。

 別に彼らといる事が苦痛という訳ではない。仲間達とワイワイ騒ぐのも大好きだ。だけど、自分の考えを整理する時間も必要だ。

 それ故に、彼は家に帰るまでの時間がとても大事だと思っていた。いつもこの帰路で曲のイメージを固めている。

 今日も新曲のイメージを固めながら、思いついたメロディーを鼻で歌う。帰ったら、ギターを取り出して公園に行こう。

 そうして帰宅後、母親に晩御飯がいらない事や公園に行く事を伝え、ギターを担いでいつもの場所へ向かう。

響「んあ? 今日は先客がいるみたいだな」

 公園の端に置かれているベンチに人影があった。外灯の光に照らされ、また距離の関係から姿形がはっきりと見える。

 ベンチに腰掛けていたのは銀色のロングヘアーと端正な顔立ちをしているせいで分かりづらいが男性だ。黒い服に身を包み、近くには剣が立て掛けてある。

 そして彼の手元には何かしらの本があり、それを覗き込むように見ていることから男性が読書中というのが分かる。また端正な顔立ちをしているが、落ち着いた雰囲気から自分より年上だろうと推察される。

?「お邪魔だったかね?」

 男性は響に気付くと本を閉じ、立ち上がった。

響「いや、別に……俺の方こそ邪魔だったっすよね?」

 男性の厳かな雰囲気に呑まれながらも響は受け答えをする。まるで別世界に生きている人間のようだと感じた。

?「構わんよ。それに君は……楽器を弾くのか?」

 男性は響が持っているギターに目を向け、問いかけた。響はその問いに頷き、先を答える。

響「そうっすよ。今、新しい曲でも作ろうかと思ってここにやって来たんす」

?「そうか……もし、君さえ良ければ、一曲聞かせてもらえないだろうか?」

響「良いっすよ!」

 響は意気揚々に男性の隣に座り、準備にかかる。彼が持ってきたギターはアコースティックギター。弦を右で抑え、左手で弾いてチューニングを行う。

?「もしや、君は左利きなのか?」

響「ええ、そうっすよ。左利きのままギター弾くのって、結構驚かれるんすよね」

 と言いつつ自分の耳だけで音を調整する響。淡々と準備をする彼の手つきに男性はただただ感心するばかり。

響「準備オーケーっす! 何かリクエストがあれば、聞くっすよ?」

?「そうだな……曲名が分からなくて申し訳ないのだが」

 男性はそう言うと口ずさむ。遠くになった故郷に思いを馳せる歌、かつて隣にいた人物が口ずさんでいた思い出の歌。

響「なるほど……そっちの方なんすね。じゃ、行くっすよ」

 弦を爪弾いてメロディーを奏でる。そのメロディーに合わせて響の歌声が乗る。曲調に合わせて響の優しくも温かい歌声が遠くの故郷を思い浮かばせる。

 男性は目を閉じ、記憶を呼び起こす。隣にいた人物、相棒と言っても差し支えなかった彼との思い出と約束。胸の奥には後悔が蘇る。

 曲が終わると男性は目を開いてはそっと立ち上がり、響と向かい合って静かに拍手を送った。

?「素晴らしい歌だった。ありがとう」

響「へへっ、それ程でもないっすよ! こっちこそ、ありがとうっす!」

 響は照れ臭いのか俯き、後頭部を掻く。面と向かって褒められるのはどこかむず痒い。

?「こんな素晴らしい歌にお返しができないのが悔しいものだ。……すまないが、私はこの辺で失礼するよ」

 男性は剣を腰に差すと踵を返して奥へと足を運ぶ。が、響が呼び止める。

響「アンタ、名前は?」

 その問いに男性は肩越しで響を見やり、そして名乗る。

レックス「私の名前はレックス。ドラゴンワールドの騎士だ」

響「俺は南條響って言うっす! レックスさん、また会いやしょう!」

レックス「ああ、そうだな。また、どこかで会おう」

 レックスはそう告げると闇の中へと消えて行った。また新たな約束ができた事に対して微笑みながら。




 Q.文字数多くない?
 A.いいえ、気のせいです。(二万三千字を書いたなんて幻想です)

 茶番はさておき、今回の話はいかがだったでしょうか?
 いつも通りの急展開ですが、またちょっと話が……さて、どうなるでしょうね。
 ちなみにこれで前編なので後編もあります。(読者殺す気かよ……)

 提供されたキャラクター紹介していこうと思います。

新代 晶子(にいしろ あきらこ)/女性/高1/16歳
容姿:身長150cm前後で、青みがかった黒の、僅かにウェーブがかっている様に見える髪。制服の上に白衣をよく着ている。
性格:天真爛漫で破天荒、お転婆
設定:とある高校に通う1年生、あだ名は“ショーコ”。いつも服を汚したりしてしまう為、白衣を身に着けている天真爛漫・破天荒・お転婆な少女。鞄には替えの白衣が何着か入っている。私服はツナギが多い。

 一応ファイターとして送られてきたのですが、ファイトシーンが書けそうにないのでファイター情報は省略させていただきました。提供者さん、こちらの力量不足で申し訳ございません!
 そして改めまして、ご提供ありがとうございました!

 では、この辺りで筆を休めようと思います。まだまだオリキャラやオリカの募集も行っていますし、感想もお待ちしてます。


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6.5話(後編):約束と夢の中で

 どうも、巻波です。前回言っていた後半の更新です。
 前回は狂ったように2回ファイトシーンを書きましたが、今回は無しです。
 また前回と同じ描写を書いています。一応、細かい点は変えていますが、大まかな流れは同じかと……。

 どうでも良い話、オトナバディフェスタに参加しようと思ったら、重要な用事と被って行けなくなりました。ナンテコッタイ。
 後、何か寒くなりましたねぇ~……地域それぞれだと思いますが、私の家はまだ扇風機が活躍している時期です。季節感……。

 では、後書きの方でまたお会いしましょう。


 これは少し昔の記憶。まだ隣に彼がいた頃の思い出。

 彼は眼下に広がる雄大な景色を見て、笑顔で浮かべながらこちらに話しかけてきた。

?「レックス、俺の夢って何なのか知っているか?」

レックス「それは世界を一つにする事。何度聞かされていたと思っている」

?「はははっ! 流石、俺のバディだな! そうだ、俺の夢は世界を一つにする事だ!」

 何度このやりとりを繰り返しただろう。あの頃は本当に楽しかった。

?「だからと言って世界平和を目指すとか、皆仲良くって訳ではないけどな」

レックス「知っている。しかし、それも出来たら理想だな」

?「確かにな。けれど、俺はあくまで学者、それも科学者だ。科学者らしく科学で世界を一つにしたいんだよ」

レックス「それでもわざわざ私の故郷に来る必要があったのか?」

 彼らがいる世界はドラゴンワールド。レックスの故郷だ。馴染み親しんだ景色を下に彼の夢が語られる。

?「あるさ、お前の故郷がどんなところか知らないと俺の夢も皆を苦しめる悪夢となるから」

レックス「そうか。お前の夢とは確か……」

 この言葉を何度吐いた事だろう。ああ、これが追憶の中だと自覚しなければ、どれだけ幸せでいられただろう。

 本当に自分の聡明さというものは嫌いだ。こんな幸せな夢でも現として捉えてくれないから。これはただの過去だと告げて足を止めさせる。

?「俺は色んな世界が自由に行き来出来るようにしたいんだよ。今は限られた機材と限られたバディ達しかこの世界に来れないからな」

レックス「ああ、そうだな。今は本当に一握りの人間とモンスターしか行き来できない」

?「そうそう。俺の家族にも俺の大切な相棒の故郷の景色を見てもらいたいんだけどな……出来ないのは悔しいなぁ……」

 とても悲しそうな彼の横顔。それなりに年を重ねているのように見えるが、妻子持ちと言われるとそう感じさせない若さがある。

 それに比べて自分は老けているなと常々自覚せざるを得ない。そこまで年は重ねていないつもりだが。

?「まっ、でもそれも今の内。ウチの研究所に優秀な奴が入るって聞いているし、俺も夢物語に終わらすつもりはないしな!」

 そんな未来を思い描いていた。あの時の自分も当然のようにこの先彼と共に歩んでいたのだろうと思っていたのだと。

?「だから、レックス。お前も力を貸してくれ」

 彼がこちらに目を合わせる。とてもとても真っ直ぐな瞳。その瞳に宿る情熱に自分は惹かれ、傍にいる事を決めた。

 だから、答えはもう決まっている。

レックス「当然だ。私のバディだぞ? バディに力貸さないのは相棒失格だろう。それに私の騎士としての矜持も許さない」

?「はははっ! ありがとう!」

 夢は終わる。徐々に彼の顔が、声が遠のく。幸せで苦しい回想の旅はここで途切れた。

 

 気が付けば、白い天井が見えた。年月が経っているのかあちらこちらにシミが目立つ。

 また左側から朝日が差し込んでいるのを視認し、肌で感じる。

レックス「……忘れられないものなのだな」

 誰一人いない一室で呟く。夢、いやあの頃の思い出は随分と心に深く刻まれていた。

 それ程に印象深い一時だった。だからこそ、思う。彼が願っていた夢を、最期に結んだ約束を果たさねばと。

レックス「もうすぐだ……もうすぐで……」

 この手の中にある約束を果たす日が来る――それが例え世界を壊す事になっても。

 

 身支度を整えたら、気晴らしに外へ出かける。あの夢の後味を拭う為に。

 自分の竜は自由奔放な性分で常に傍にいる事はなく、今日もどこかを出かけている。大方、最近付き合いが濃くなった野良猫の集まりにでも行っているのだろう。

 有事には亥の一番に翔けてくるのだが、一体どこでそれを感じているだろうか。もう何年もコンビを組んでいるものの、それだけは一切分からない。

 いや、そういう事を考えるのは止そう。詮索される事程、一番嫌いな竜だから。

 レックスは思考を逡巡させながら路地裏を歩く。目立つ格好なので日が出ている間はあまり人目につく所は行けない。それにバディポリスの目に留まったら、面倒この上なしだ。

 小脇に知人から借りた古書を挟み、どこか落ち着ける場所はないかと探す。しかし、路地裏にベンチというものはそうそうにある訳もない。

 少し困ったなと思っていた矢先、男女の声が聞こえてきた。会話の内容から女性が嫌がっているのにしつこく男性が話しかけているという感じだろう。

 淑女が困っているのは見過ごせないなとレックスはその現場に足を運ぶ事にした。

 

男A「んな、つれねえ事言うなよ、ネーちゃん。ここに来たって事は俺らみたいなのに話しかけられたいからだろ?」

女「ち、違います! 仕事でここを通らなきゃいけなかっただけで……」

男B「仕事ねえ……ここを通るって事は何かいやらしい仕事でもしてんでしょ?」

男C「そうそう、こんな所なんてソッチ系の仕事しかこなさそうだし……ねえ、俺達も一緒にさ」

レックス「紳士諸君、そこまでだ」

 と言い、レックスは女性を背で庇いながら男女の間に割って入る。男達はレックスの異様な格好に少し引いていた。

レックス「そんな口説き方ではレディを落とす事なんて出来ない。ここは引くべきだろう」

男A「何を言い出すかと思いきや、お姫様を守る騎士でも気取ってんのかよ!」

 男はゲラゲラと笑う。それもそうだ。彼がモンスターの世界からやって来た者だと知らなければ、小説や漫画などのキャラクターを気取っているただの痛い人間にしか見えないだろう。

 しかし、残念ながらレックスは本物の騎士だ。区分的には竜騎士であるが、それでも騎士である事は変わりない。

レックス「騎士か……確かに私は騎士だな」

男B「いい歳こいて、まだ夢の中かよ! 気持ち悪りぃな!」

男C「ホント、コイツ一発殴れば覚めるんじゃね?」

 残り二人も笑う。相手はそういう人種だと思い、見下していた。

 レックスはこの三人の下衆な笑いに辟易し、女性に逃げるように指示する。彼女が逃げたら、自分もこの場をさっさと立ち去ろうと思いながら。

男A「あっ! おい、ネーちゃん!」

レックス「ここから先は通行止めだ。紳士達よ」

 男達が女性を追わない様にレックスが立ちふさがる。しかし、立ち回りを失敗したなと思った。これだと確実に男達に絡まれると。

男A「なら、これが通行料代わりだよ!」

 男は右拳でレックスの左頬を殴る。レックスは何もせずただその拳を受けた。顔が右に向いただけでピクリとも動かない。

レックス「それだけかね?」

 レックスは顔を殴って来た男に合わせる。その眼光はまるで刀剣の切先の様に鋭い。

男A「クソ! 舐めやがって!」

男B「調子乗ってんじゃねえぞ、オラァ!」

男C「気持ち悪りぃんだよ! この野郎!」

 残り二人も加えて男達が襲いかかる。だが、誰一人レックスを捉える事はできなかった。

レックス「やれやれ、今日は素敵な一日だな」

 その呟きが男達の元に辿り着く頃には彼らは地面に伏せていた。どれも上段に蹴りが入り、男達を倒していったのだ。

レックス「喧嘩を売る相手は選ぶものだぞ?」

 レックスはその場から立ち去る。慣れない冗談や言い回しはするものではないなと省みながら。

 

 しばらく歩く。建物が影を作っているとはいえ、とても暑い。久々に戻って来て、いかに故郷の環境が過ごしやすいかと実感する。

 ここで使われる現金は古書を貸してくれた知人から一応貰っている。男達との一悶着が終わった後に近くにあった自動販売機で適当なものを買った。

 水分はまだ大丈夫だろうと感じるが、少しばかり空腹を覚える。だからと言って気にする程でもないが。

 そんな事をつらつらと考えていたら、また近くに声がした。今度は子供の声だ。しかも泣いている声。

 無視しては騎士の名折れだろうとレックスは声の元へと向かった。

 

 レックスが辿り着いたら、小学生ぐらいの少年が泣いていた。近くに駆け寄り、目線を合わせて彼に話しかける。

レックス「少年よ、どうしたのだ?」

 少年は涙声ながら「迷子になっちゃの」と言い、自分の手で拭う。目はかなり腫れている。

レックス「そうか。では、誰と一緒にいたんだ? 私も一緒に探そう」

 レックスは自分が置かれている状況を忘れ、少年に寄り添う。元来、お人好しな性分。だから、放っておけないのだ。

少年「お姉ちゃんとはぐれっちゃったの。今日、一緒に遊ぶ予定だった」

レックス「どこで遊ぶ予定だったのだ? まずはそこに行ってみよう」

 少年と一緒に当初遊ぶ予定だった場所へと行く事にした。

 

 結果から言うと少年が探していた人物はいなかった。だから、別の場所へと動く事にする。

 その間で少年とレックスは少し言葉を交わす。

少年「お兄さんにはお姉ちゃんとお兄ちゃんはいないの?」

レックス「いない。だから、少年が少し羨ましい」

少年「そんな事ないよ……お兄ちゃんもお姉ちゃんも怒ると怖いもん」

レックス「ふふっ、良いな。怒ってくれる人がいて」

 そう言えば、随分と怒りをぶつけられた事はない。周りに囃し立てられてばかりだったなとつくづく思う。

 窮屈で鬱陶しかった。けれど、あの男だけは違った。対等に付き合いをし、間違っていると思ったら真っ向から怒りをぶつけてくる。

 歳は違えど、気の置ける友人であった事は変わりない。今更だが、気づいた。

少年「そうかな……」

レックス「そうさ。そういう人は大事にした方が良い」

少年「う、うん?」

 少年は要領を得ない様子で頷く。今は分からないだろうが、間違っていると言ってくれている人間はとてもありがたい事だ。

 少年の兄妹がどういう事で怒るのかは知らないが、少なくとも姉とは友好な関係なのだろうし、むやみやたらと怒る事はしないはず。恐らく。

 ここからは推察に過ぎない上に邪推してはいけないと思い、レックスは思考を止め話を切り換えた。

レックス「それで少年よ、他に行く充てないか?」

 

 少年がいくつかの候補地を挙げ、それらを訪れていく内に時間が経過する。それでも日はまだ高い。

少年「あっ! お姉ちゃん!」

 少年が目の前で背を向けている少女に呼びかける。少女は少年の声に反応し、振り返った。少女の顔立ちは少年に良く似ている。

 少女は少年の名前を呼び、近くへ駆け寄った。迷子になった事に怒ったが、その後はキチンと慰める。

 レックスはその二人のやり取りを聞いている最中、足早にその場を去った。人探しで忘れていたが、自分はかなり目立つ格好の者。

 騒ぎになるかもしれない、またはもう既に噂は流れているかもしれないと考えたら、これ以上は留まる事は危険だと判断して。

 

 それから再び路地裏を歩いていくと次第に日が暮れ、いつの間にか辺りが暗くなる。

 ふと見かけた公園でレックスは読書も兼ねて小休憩する事にした。

 

 遠い昔、モンスター達の世界に破滅を呼ぶものを繋げる門が出現し、破滅を呼ぶものがその世界に出現しようとしていた。

 破滅を呼ぶものが門の外に出てしまえば、確実に世界が滅びる。その危機感に各ワールドの有志達が心を合わせ、門を破壊し破滅を呼ぶものを追い返そうとした。

 しかし、破滅を呼ぶものは自分の分身をいくつか生み出し、連合軍に激しく抵抗。連合軍側の被害は尋常ではなかった。

 このままでは世界を守れぬと判断した首脳部達は、角王や各ワールドの高位モンスター、特別に絆が強いモンスターと人間から生み出される力を利用し、分身を撃破してそのまま門を破壊する作戦を立案。

 作戦通り、それらの力で無理やり分身を倒した。だが、破滅を呼ぶものの猛攻は止まらず、選ばれた者達は疲弊し次々と倒れていく。

 最後は護衛に付いていたモンスターに力を全てを託し、そのモンスターが特攻する形で門を破壊する事で何とか危機を救われた。多大な犠牲を払い、得た勝利は苦いものだと物語は締めくくられる。

 

 その顛末まで読み終える頃、人の気配がした。顔を上げて向けると、短い金髪に背が大きくガタイも良い青年が立っていた。

レックス「お邪魔だったかね?」

 レックスは自身の用が済んだ事もあり、本を閉じて立ち上がった。

青年「いや、別に……俺の方こそ邪魔だったっすよね?」

 青年は砕けた敬語ながらも穏やかな口調で答える。見た目は中々強面だと思うのだが、性根は温厚らしいと察した。

レックス「構わんよ。それに君は……楽器を弾くのか?」

 レックスは青年が持っているギターに目を向け、質問を投げかける。ドラゴンワールドでギターを弾くものは見た事ある。人間にしても竜にしてもだ。

 年少の頃から音楽と付き合いがある為、それなりの興味を惹かれる。

青年「そうっすよ。今、新しい曲でも作ろうかと思ってここにやって来たんす」

レックス「そうか……もし、君さえ良ければ、一曲聞かせてもらえないだろうか?」

 青年には悪いとは思うが、少し音楽を聴きたい気分だ。ここに来てから聴いている時間がなかった。だから、無理を承知で頼んでみる。

青年「良いっすよ!」

 青年はその願いを快諾し、意気揚々にレックスの隣に座って準備をする。彼は持って来たギターの弦を右で抑え、左手で弾いてチューニングを行う。

 レックスは今まで見慣れたものと反対の体勢を取る青年を不思議に思った。昔見た事ある演奏者を思い出し、重ね合わせて彼に訊ねる。

レックス「もしや、君は左利きなのか?」

青年「ええ、そうっすよ。左利きのままギター弾くのって、結構驚かれるんすよね」

 軽い調子で返す青年。しかし、顔つきは真剣にギターの一音、一音を聞き取っている。その慣れた手つきにレックスはとても感心していた。

青年「準備オーケーっす! 何かリクエストがあれば、聞くっすよ?」

レックス「そうだな……曲名が分からなくて申し訳ないのだが」

 青年がそう伝えるとレックスはかつて相棒がよく口ずさんでいた音色を思い出し、重ねるように自分も歌う。

 それは遠くになった故郷に思いを馳せる歌、かつて隣にいた人物が口ずさんでいた思い出の歌。

青年「なるほど……そっちの方なんすね。じゃ、行くっすよ」

 青年は曲を把握するとすぐさま弦を爪弾いてメロディーを奏で、そのメロディーに合わせて彼の歌声を乗せる。

 レックスは青年の優しくも温かい歌声に耳を傾け目を閉じ、記憶を呼び起こす。隣にいた人物、相棒と言っても差し支えなかった彼との思い出と約束。あの夢がぼんやりと蘇る。

 でも、思い出しているのは終わったの夢の話。そして自分はその夢の続きを作ろうとしている。彼が抱いた夢の続きを。

 曲の最後の一音までしっかり聞き取るとレックスは目を開いてそっと立ち上がり、青年と向かい合って静かに拍手を送った。

レックス「素晴らしい歌だった。ありがとう」

青年「へへっ、それ程でもないっすよ! こっちこそ、ありがとうっす!」

 青年は照れ臭いのか俯き、後頭部を掻く。自分にはない初々しさがあるものだなと少し微笑ましくなる。

レックス「こんな素晴らしい歌にお返しができないのが悔しいものだ。……すまないが、私はこの辺で失礼するよ」

 読書の際に下ろした剣を腰に差し、来た道へと踵を返す。だが、それを呼び止める青年の声が。

青年「アンタ、名前は?」

 レックスは足を止め、肩越しに青年を見やる。お返しと言っても足りないと思うが、それぐらいしないと不義理かと考え、自分の名を言う。

レックス「私の名前はレックス。ドラゴンワールドの騎士だ」

響「俺は南條響って言うっす! レックスさん、また会いやしょう!」

レックス「ああ、そうだな。また、どこかで会おう」

 少し楽しみができたなと微笑み、レックスは先程向かおうとした道へと歩を進めた。

 

 レックスはとある施設に訪れた。自分に協力してくれている者が拠点としている研究施設。

 裏口から入り、その人物がいるであろう部屋に足を運ぶ。

?「随分、遅い帰りだったな」

 奥で椅子に座り机と向き合っていて背を向ける男がいた。レックスに気付きながらも、彼に振り向こうとしない。

レックス「すまない、少し良い事がなったのでな……」

?「ほぉ、良い事ね……まっ、俺にはどうでも良い事だが」

 男は煙草をくゆらせているらしく紫煙が微かに上っていた。煙草の臭いにレックスは眉を顰める。

レックス「ここは禁煙ではなかったのかね?」

?「禁煙だな。だが、俺は吸いたいから吸っている。それに報知器が鳴らなければ問題はない」

 そう言って、ようやくレックスと顔を合わせる男。深緑のショートヘアーに目つきは鋭くいかにも悪人という面構えをしているが、白衣を着ている事から研究職に就いている人物である事は何となく読み取れる。

レックス「全く貴様という奴は……」

?「ふん、そんな事はどうでも良い。それによりも俺が貸してやった本はどうした?」

レックス「貴様がマジックワールドからくすねてきたものはここにある」

 レックスは男に近づき、そして手に持っていた本を手渡す。本の表紙はかなり古びており、かつて豪勢な絵が描かれたのだろうが今はタイトルの一文字も読めない程にかすれてしまっている。

?「くすねたとは人聞きの悪い事を……拝借しただけだ」

 男はレックスから渡された本を手に取っては開き、ペラペラと紙をめくって内容を一読する。書かれている文字はこちらで使われている言語ではない。

?「コイツには、かなり重要な事が書かれている。少なくとも今現在に確認されている世界ではない事をな」

レックス「貴様がそれを見たいと言っていたな」

?「そうだ。新天地を求めるのは男の……いや、人間のロマンというヤツだろう?」

 男はレックスに顔を向けて微笑む。しかし、その微笑みは穏やかさを象徴するものではない。獰猛な笑みはまさしく悪魔そのものだ。

レックス「貴様が言うと何か意味が変わってしまうな……」

?「ふん、俺なりの冗談だぞ? 笑え」

レックス「笑えぬさ。そんな顔をされてしまえば、背筋が凍る」

?「実際はそうではない癖に良く言う」

 男は本を閉じ、立ち上がる。背は平均的な男性より高く、線も細くはなくひ弱そうな印象は見受けられない。それどころか他を圧倒し寄せ付けないような雰囲気がある。

 またIDカードを封入したネックストラップを首からぶら下げている。そこから確認できる男の名前は――天王寺(てんのうじ)在良(ありよし)

在良「さて、お前も来た事だし、少し下の方を見に行くぞ」

 在良は机の上に置いている灰皿に煙草を押し付け火を消す。そしてレックスと共に部屋を出て、地下へと向かった。

 

 厳重なセキュリティをパスした先にあったのは、機械の重々しい稼働音だけが響く暗い部屋。

 彼らの視線の先には大きな機械が鎮座していた。禍々しい気配が先に繋がっているかのように。

在良「今のところ、順調だ。これならば、近い内にお前の剣の力を使って世界を一つにできるやもしれんな」

レックス「……そうか」

 レックスは遠いところに思いを馳せる。あの日、相棒が口にしていた夢が約束が果たせるのだと。

在良「まぁ、二年前の大霊災とは比較にならん程の被害は出るかもしれないがな」

レックス「しかし、それは貴様にとっても関係ない事だろう?」

 在良の一言で現実に戻るレックス。そして、彼の意中を的確に捉える。

在良「そうだ。お前の剣がまだ見た事もない世界も含めて全て引き寄せるのなら、俺は構わん」

レックス「狂っているな……」

在良「それはお前もだろう? 世界を物理的に繋ぎ合わせようとしているのだから」

レックス「それもそうだな」

 そうして二人は闇の中に蠢く何かを見る。外に出ようともがいているような感じがする。

在良「俺が作ったデッキケースはあれの力を使っているが、思った以上に調整が上手くいかないものだな」

 在良はその何かを見つめながら静かに呟く。先程の悪魔の様な表情ではなく、冷静に事を分析する科学者そのものの顔つきだ。

レックス「そうなのか?」

在良「デッキケースは俺の専門外でな……見様見真似で作ったは良いが、幾つか動作不良を起こしているらしい。動作チェックはちゃんと行ったがな」

レックス「なるほど……何でもできそうな貴様にもできぬ事が……いや、専門外だというのにデッキケースを作れてしまう時点でおかしいか」

在良「それはそうだ。俺の研究の応用みたいなものだからな、あれは」

 その赤色の双眸は冷たく暗い光を放ち、ただ一点を見つめる。

 在良が今までダークコアデッキケースを手渡した人物は、前科持ちの人物だったり、町で偶然見かけた心に影を落としているように見える人物だったりとネガティブなイメージを持つ。

 前科持ちは知り合いのハッカーにそのデータリストを提供してもらい、そこからピックアップした。

 心に影を落としていそうな人物は彼の観察眼をもって、それを見抜き甘言を用いて力を授けた。いずれも引き出せている者達は引き出せている。

在良「ただ俺の発想は実物をワープさせて実体化させる方式だ。あれの力がなければ今のところ成立せん」

レックス「それ程にあれの力は凄いのか……」

 今にも門の外に出ようとしている何かから二人は目を離さない。それだけ惹きつけられる存在である事は間違いはないのだろう。

レックス「しかし、ずっと気になっていたのだが、あれはいつからこのゲートに?」

在良「二年前の霊災の時だ。世界と世界がぶつかりあった反動でどうやらここに繋がったらしい」

レックス「狙ったのか?」

在良「まさか。俺でさえ、繋がるとは思わんかったさ」

 在良は肩をすくめる。それもそのはず、霊災が起きた日は偶然その機材の試験運転日。霊災自体も現代科学では予測はできない。

 その偶然が重なった結果が現在の状況だ。ただ在良にとってはとても嬉しい誤算だった。

在良「ともかく、お前の計画には協力するからお前も俺の計画に協力しろ」

レックス「分かっている。このゲートの力がなければ、約束を果たせないからな」

 男達の野望と約束は世界を混沌と化さんとばかりに加速し始めていた。




 如何だったでしょうか? 今回も日常回でしたね()
 いい加減、話進めろよ! と思った方、その通りだと思います。本当にスローペースですみません。
 決着自体はもう決めてありますので、そんなにダラダラと続かないかと思います、多分。

 そういえば、オリカとかオリキャラの募集欄、あまり溜まっていないんですよね……まぁ、オリキャラに関してはその場で3秒で生み出すようなやつがこの作品の作者なので何ともですが……。
 オリカに関してもスペックを100ぐらいが基準なのがネックなのでしょうか……?

 そんな事を言っても仕方ないですね。無い脳みそをフル回転して善処しようかと思います。

 では、この辺りで筆を休めたいと思います。オリカやオリキャラの募集も引き続き行っていますので、良かったら当該する活動報告を覗いてみてください。
 また感想の方もお待ちしております。


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アナザーエピソード:東京編
第1話:闘いの中で真実を知る者


 近日公開って、一体どれぐらいの事を指すのでしょうか……? 宣言してから約2ヶ月が経つのは確実に近日ではないですよね……?
 皆さん、お久し振りです。無能で無脳な作者、巻波です。この度は大変更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
 本当に執筆するとエネルギーがえらいぐらい削れてしまい、こまめに書けません。こんなのは言い訳ですね。コンスタントに更新出来る方は本当に凄いなと思います。

 昨年、身内に不幸があって新年からドタバタしていました。その中でバンドリ24時間マラソンを一睡も眠らず完走したり、神バディワールドやグレムリン・Kの10勝ファイトなどに参加したりとしていました。他にも色々とありますが、近況報告は以上です。

 新年明けてからの最初の更新です。では、また後書きにて会いましょう。


「ここはどこだ?」

「俺も分からない。ただ……ここも東京だと思いたいがな」

 東京の某所――昼間だというのに誰もいない公園で一人の少年と一匹の竜が道に迷っていた。

「まだファイターにも会っていねえし、道はよく分からねえし、どうなっていやがるんだよ……」

「ファイターはともかく、道はスマホ持ってんだから地図見れるだろ?」

「俺が地図読めねえの知ってんだろ」

「そうだな。だから、こんな事になっているんだったな」

 竜は諦めたかの様な口調で言った。しかし、少年は特に気にせずどこに強い“ファイター”がいるかと辺りを見回す。

「誰もいねえ……」

「そうだな、奇妙に静か過ぎるな。まるで嵐が来る静けさみたいで嫌なもんだ」

 竜がそう言うと一人の青年がやって来た。丸刈り頭で背が高い男が、目元を非常に険しくして何かを探している。またどこか禍々しいオーラを放っている。

「おい、あれファイターじゃねえか?」

 少年は目を強く輝かせながら言う。竜の方は警戒している様で険しい顔付きになった。

「いや、何か様子がおかしい。あまり関わらない方が――」

「よし、ファイトしに行くぜ!!」

「どうしてそうなるんだよ……」

 少年は早速その青年に話し掛ける。青年は何かを物色しているかの様な目で少年を見る。

「おい、お前! ファイターだろ? 俺とファイトしろよ!」

「…………」

 青年は無言で少年をじっと見つめていた。しかし、興味を失ったのかすぐさま顔を逸らし、探索を続ける。

「何だぁ? 変な奴だな……」

「そんな変な奴に話しかけるお前も相当変だと思うぞ?」

 竜は冷静に青年を観察しながら、少年にツッコミを入れる。その顔は険しい。

「まあ、ファイトすりゃ分かんだろう。って事でファイトするぞ!」

「お前らしい考え方だな……仕方ない、乗るか」

 少年は再び青年に声を掛けると今度は自分のデッキケースを相手に向けて差し出した。

「俺とファイトしろ!」

「……お前、名前は……?」

「んあ? 俺の名前か? 俺の名前は相楽闘真だ! そんな事よりファイトしようぜ!!」

「探していたものとは違うが……まあ、良い。さっさと片付けやる……!」

 青年はそう言うとデッキケースを取り出す。そのデッキケースは禍々しいオーラを纏っていた。

「気を付けろ、闘真。やっぱりこのファイター、何かおかしいぞ」

「へっ、そんな事知るかよ! 行くぜ!!」

 少年もとい闘真と青年のファイトが今、始まる――!

 

 

「俺の全力を以って、お前の心の声を聞く! ルミナイズ、『ファイト・オブ・デュオローグ』!!」

「止まらぬ赤い閃光がお前の未来を奪う! ダークルミナイズ、『レッドシフト・スティール』!」

「「オープン・ザ・フラッグ!!」」

「ドラゴンワールド!」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

「スタードラゴンワールド!」

 青年の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超赤偏 スペクトル“Dark Side”

 

「俺が先攻だぜ! チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

 ドローしたが欲しいカードが引けなかった様だ。しかし、焦っていても仕方が無い。それにまだ1ターン目である。まだまだこれからだ。

「行くぜ! ライトに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』をコールだ!」

 闘真の手札:6→5/ライト:Wピコピコハンマー・ドラゴン

 ライト:Wピコピコハンマー・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 

 その名の通り、両手にピコピコハンマーを持った小さい青い竜が現れた。元気良くピコピコハンマーを振り回している。

「アタックフェイズ! Wピコピコハンマーでファイターでアタックだ!」

「了解! くらえ~!!」

 Wピコピコハンマー・ドラゴンはファイターに向かって勢い良くピコピコハンマーを振り下ろす。あまり威力はなさそうだが、これも立派なモンスターの攻撃だ。

「これは受ける……」青年のライフ:10→9

「ここでWピコピコハンマーの効果を使うぜ! Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置く事で俺のゲージを+1!」

「オイラの最大の出番だな! 後は頑張れ、闘真!!」

「おうよ!」

 闘真のゲージ:3→4/ライト:Wピコピコハンマー→なし/ドロップ(武装騎竜の種類):0→1

 

 Wピコピコハンマーはその場から消失し、闘真のデッキの上から1枚のカードが導かれる様にゲージに置かれる。

「これで俺のターンは終わりだ!」

 闘真の手札:5/ゲージ:4/ライフ:10

 

「オレのターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 青年の手札:6→7/ゲージ:2→3

「まずは『超星骸 スターレムナント』をレフトにコール!」

 青年の手札:7→6/レフト:超星骸 スターレムナント

 レフト:超星骸 スターレムナント/サイズ0/攻防3000/打撃1

 

「気を付けろ、闘真。初手からかなり飛ばして来るかもしれん」

 相棒の竜――ザンバソードはまだそこまで相手の場が整っていないのにも関わらず、かなり警戒している。しかし、これだけでは終わらないと思うのは当然だ。

「へへっ、それはそれで楽しみじゃねえか!」

 闘真は全くと言って良い程、警戒した様子を見せない。これから相手が行動をするのか楽しみで仕方が無いといった感じで笑みを浮かべていた。

「次に『超未来竜 ドラム・ザ・ネオ』をセンターにコール! レフトにいるスターレムナントの効果で《ネオドラゴン》の[コールコスト]に書かれているゲージを1減らすから、払うゲージの枚数は1枚になる!」

 青年の手札:6→5/ゲージ:3→2/レフト:スターレムナント/センター:超未来竜 ドラム・ザ・ネオ

 センター:超未来竜 ドラム・ザ・ネオ/サイズ2/攻防5000/打撃3

 

「なっ! コストが軽くなっただと!?」

 この様子にザンバソードは驚きを隠せない。コストが軽くなるという事はより強力なカードを出しやすくなるという事だ。厄介な事態なのは確実に分かる。

「……出来るだけ早目に終わらせたいからな。『竜装機 タルナーダ』をライトにコール、そしてドラム・ザ・ネオと星合体! タルナーダの効果で《ネオドラゴン》のソウルに入った時、オレのゲージを+1する」

 青年の手札:5→4/ゲージ:2→3/レフト:スターレムナント/センター:ドラム・ザ・ネオ(ソウル:1/タルナーダ)

 

「お、ソウルを増やして尚且つゲージもか……なるほどな」

 闘真は純粋に感心していた。知っている手だとしてもその意味合いは対戦しているファイターによりけり。だから、彼は青年が持っている行動の意味合いを感じ取ろうとしているのだ。

「続いて、ライトに『超源粒 クァンタムルーラー』をコール! クァンタムルーラーの効果でオレの場にソウルが1枚以上ある《ネオドラゴン》がいるから、ゲージを+1してカードを1枚ドロー!」

 青年の手札:4→3→4/ゲージ:3→4/レフト:スターレムナント/センター:ドラム・ザ・ネオ/ライト:超源粒 クァンタムルーラー

 ライト:超源粒 クァンタムルーラー/サイズ1/攻4000/防1000/打撃1

 

 青年の場が整っていく。このターンに終わらせる事が出来なくとも、早いターンで終わらせたいという思いがひしひしと伝わっていく。

 その思いに闘真はもう少し楽しめば良いのにと思っていた。まだファイトは始まったばかりだし、そんなに焦っていても何も楽しくないだろと。

「ここまで来るとかなり壮観なものだな」

 ザンバソードは相手の場を見てしみじみに言う。闘真と比べてかなり警戒心を表に出しているが、歴戦の戦士らしくどこか余裕そうだ。

「ふん、まだあるぞ。オレは『コスモセイバー ダークマター』をゲージ1とライフ1を払って装備!」

 青年の手札:4→3/ゲージ:4→3/ライフ:9→8/青年:コスモセイバー ダークマター/レフト:スターレムナント/センター:ドラム・ザ・ネオ/ライト:クァンタムルーラー

 青年:コスモセイバー ダークマター/攻3000/打撃2

 

 青年の手には不気味な雰囲気を纏った光剣が握られている。まるで闇そのものを表しているかの様だ。

「アタックフェイズ! まず、スターレムナントでファイターにアタック!」

「その攻撃を受けるぜ! ぐわっ!」闘真のライフ:10→9

 スターレムナントの攻撃が確実に闘真の体を捉え、軽々と吹き飛ばす。闘真は受身を取り出来るだけ受けるダメージを減らす。しかし、普段よりも体に響いたのか攻撃で立ち上がる瞬間、少しふらついてしまった。

「闘真!」

「へっ、心配いらねえよ! むしろ、これからだ!!」

 ザンバソードの心配をよそに今度はしっかりと立ち上がり相手を見据える。その瞳の輝きはとても強い。

「さあ、どんどんかかってきやがれ!」

「言われなくとも……クァンタムルーラーでファイターにアタック!」

「これも受ける! ぐおっ!」闘真のライフ:9→8

 クァンタムルーラーの攻撃もその身で受け止めるが、やはり通常のファイトパワーではない攻撃にもう一度吹き飛ばされる。だが、また受身を取りダメージを軽減させ、再び立ち上がる。

 このタフさに相棒のザンバソードは目を見開いていた。いくら闘真が打たれ強くても流石にあのモンスター達の異常な攻撃に耐えられないと思っていたからだ。

「お前、どんだけタフなんだよ……」

「へへっ! ファイトが終わるまでは倒れる訳にはいかないからな!」

「そうかよ。だが、次はヤバいぞ?」

 ザンバソードの言う通り、後には打撃力2のダークマターと打撃力3のドラム・ザ・ネオの攻撃が控えている。先程の攻撃であれだけの威力をファイターに叩き込むのだから、それ以上の打撃力を持つカードの攻撃が当たれば無事でいられる保障はない。

 しかし、闘真はそんな事を気にしていない。これから受ける攻撃にどんな想いが込められているのか、それを感じるのが楽しみで仕方がないのだ。

「……ドラム・ザ・ネオでファイターにアタック! そしてドラム・ザ・ネオの効果でドロップゾーンにあるカードを1枚このカードに入れる! オレはドロップゾーンにある『超赤偏 スペクトルス“Dark Side”』をドラム・ザ・ネオにソウルイン!」

 青年のセンター:ドラム・ザ・ネオ(ソウル:1→2/内容:スペクトルス“Dark Side”)

 

 青年は闘真のタフさに動じず、ドラム・ザ・ネオに攻撃命令を下す。ドラム・ザ・ネオは右手に持っているドリルに模した光剣を闘真に向け、そのまま勢い良く突進していく。

「流石にダメージ3はキツイぜ……キャスト、『ドラゴンシールド 青竜の盾』! ドラム・ザ・ネオの攻撃を無効化にして。俺のゲージを+1だ!」

 闘真の手札:5→4/ゲージ:4→5

 

 ドラム・ザ・ネオの光剣は青い竜の盾によって闘真の体を貫く事が出来なかった。そして、青い竜の盾の力で闘真のデッキの上から1枚がゲージに置かれる。

「なら、ゲージ1を払ってキャスト『スターオルタネート』! ドラム・ザ・ネオのソウルにあるスペクトルス“Dark Side”をゲージ1とライフ1を払ってドラム・ザ・ネオの上に重ねてバディコールだ! 更にデッキの上から1枚をソウルイン!」

 青年の手札:3→2/ゲージ:3→2/ライフ:8→7→8/センター:ドラム・ザ・ネオ→超赤偏 スペクトルス“Dark Side”(ソウル:2→3)

 

超赤偏(ちょうせきへん) スペクトルス“Dark Side”

スタードラゴンワールド

種類:モンスター 属性:ネオドラゴン

サイズ2/攻7000/防6000/打撃1

■[コールコスト]ゲージ2とライフ1を払って、デッキの上から1枚をこのカードのソウルに入れる。

■このカードのソウルが3枚以上なら、このカードの攻撃力+3000、打撃力+1!

■[起動]“レッドシフト!”ゲージ1払い、手札1枚を捨ててよい。そうしたら、このターン中、このカードの打撃力+1し、このカード1枚の攻撃を無効化されない!「レッドシフト!」は1ターンに1回だけ使える。

[貫通]/[ソウルガード]

「お前の目では私を捉える事は出来ても、お前には止める事は出来ない……」

 

 スターレムナントの効果でスペクトルス“Dark Side”の[コールコスト]に書かれているゲージから1枚減った為、ゲージ1とライフ1でコール出来たのだ。更にスベクトルス“Dark Side”のソウルは3枚以上ある為、攻撃力と打撃力が上がる。

 

 青年のセンター:超赤偏 スペクトルス“Dark Side”/攻7000→10000/打撃1→2

 

「なるほど、バディをソウルに入れていたのはここまで繋げる為だったのか」

「悪いが闘真、これは感心している場合じゃないぞ」

 能天気に感嘆な声をあげる闘真と気を引き締めるザンバソード。しかし、青年は二人の様子に注意を向けずに次の指示を出す。

「スペクトルス“Dark Side”でファイターにアタックだ!」

 スペクトルス“Dark Side”は言われた通りに闘真に向かって真っ直ぐ飛んで行き、右拳を躊躇わず闘真の頭上から振り下ろした。

「その攻撃受けるぜ! っ!!」闘真のライフ:8→6

 咄嗟に避けたは良いものの衝撃波が凄まじく、今までよりも派手に吹っ飛ばされてしまった。しかし、持ち前のタフさですぐに復帰する。

 スペクトルス“Dark Side”は拳を引いて元にいた場所に戻っていく。先程まで闘真のいた場所はその攻撃によって大きな穴が出来ていた。直撃していたら……ファイトが続けられなかっただろう。

「へへっ、どうやら物理的にも早目に終わらそうとしてやがるな」

 命の危機に晒されていたのにも関わらず楽しそうに笑みを浮かべて闘真は相手を見る。青年はあまり興味がないのか闘真と視線を合わせようとしない。

「なあ、何でそんなに楽しそうじゃないんだ?」

 闘真は目も合わせようとしない青年に問いかける。しかし、青年はその問いに答えず自分の手にある光剣を構えた。

「最後にダークマターでファイターにアタック! ダークマターは自分のセンターにモンスターがいても攻撃出来る!」

 青年が振るうと、ダークマターの刀身はセンターにいるモンスターをすり抜け闘真に迫っていく。しかし、その刃は闘真を傷つける事はなかった。

「キャスト、『ドラゴンシールド 金竜の盾』! ゲージ1を払って俺が受けるダメージを0に減らす!」

 闘真の手札:4→3/ゲージ:5→4/ドロップ(武装騎竜の種類):1→2

 

 金竜の盾がその攻撃を防ぎ、弾き返した。青年は眉を少し動かすが特に表情を変える事なく体勢を戻した後、構えを解く。

「……ターンエンドだ」

 青年の手札:2/ゲージ:2/ライフ:8/青年:ダークマター/レフト:スターレムナント/センター:スペクトルス“Dark Side”(ソウル:3)/ライト:クァンタムルーラー

 

「へへっ! 俺のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:3→4/ゲージ:4→5

「俺も全開で行くぜ! まず、『竜王剣 ドラゴエンペラー』をゲージ1とライフ1払って装備!」

 闘真の手札:4→3/ゲージ:5→4/ライフ:6→5/ドロップ(武装騎竜の種類:2→3)/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2

 

 闘真が手にしたアイテムは竜王の魂を宿していると言われている片刃の大剣。彼の闘志に呼応して輝きを増している。

「んで、『D・R・システム』を設置! さらにライトにWピコピコハンマー・ドラゴンをコールして、センターに『ブーメラン・ドラゴン』をコールだ!」

 闘真の手札:3→1/闘真:ドラゴエンペラー/センター:ブーメラン・ドラゴン/ライト:Wピコピコハンマー/設置:D・R・システム

 センター:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 

 再び姿を現したWピコピコハンマー、名前の通りブーメランに似た姿をしているブーメラン・ドラゴン。彼らも気合十分といった様子だ。

「次はキャスト、『ドラゴニック・グリモ』! 俺のライフが5以下だから使えて、俺の手札を全部捨ててカードを3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

 

 新たに引いたカードの中には相棒の姿が。闘真は迷いなく宣言する。

「相棒、出番だぜ! 『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払ってレフトにバディコール!!」

「さてと、暴れさせてもらうか……!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:4→1/ライフ:5→6/ドロップ(武装騎竜の種類):3→4/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン/センター:ブーメラン・ドラゴン/ライト:Wピコピコハンマー

 

超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

ドラゴンワールド

種類:モンスター 属性:武装騎竜/赤竜

サイズ3/攻10000/防6000/打撃3

■君のドロップゾーンに《武装騎竜》が3種類以上あるなら、コールできる。

■[コールコスト]ゲージ3を払う。

■このカードはセンターにコールすることができない。

■このカードが1枚で相手の場のモンスターに攻撃した時、このカードとバトルしている相手のモンスターの能力全てを無効化する。

[貫通]

 

 闘真の隣にいたザンバソードがファイトエリアと移動する。大型モンスターだけあって迫力があり、その手に握っている身の丈程の大剣がまた存在感を強くしている。

「アタックフェイズ! ザンバソードでセンターのスペクトルス“Dark Side”にアタック!」

「早速か! なら、叩き潰すぜ!!」

 ザンバソードは重量ある得物を軽々と片手で扱い、スペクトルス“Dark Side”に振り下ろした。だが、直前に赤い色のバリアが現れる。

「キャスト、『マーズバリア』! 相手の攻撃が連携攻撃でないなら、攻撃を無効化にする!」

 青年の手札:2→1

 

 攻撃を防がれたザンバソードは舌打ちをした後、構え直す。防がれる事は予想していない訳ではないが、やはり攻撃が決まらないと気持ちは良くない。

「相棒の攻撃は通らなかったか……んなら、ブーメラン・ドラゴンとWピコピコハンマーでスターレムナントにアタックだぜ!!」

 闘真は特に悲観せず次の指示を出す。Wピコピコハンマーは先程と同様に両手に持っているピコピコハンマーを元気良く振り回しながら突撃する。

「おらぁ! 行って来い!!」

「合点承知、ぶった切って来るぜ!!」

 ブーメラン・ドラゴンはザンバソードに尻尾を掴まれ、横投げで飛ばされる。二体の攻撃にスターレムナントは為す術もなく倒された。

 

 青年のレフト:スターレムナント 撃破!

 

 その様子に青年は少し眉を顰める。スターレムナントはネオドラゴンをコールする時のゲージを減らす能力があり、尚且つサイズが0という事で手数を増やせるモンスターだ。破壊されたのは少し痛い。

「ブーメラン・ドラゴンの効果でバトル終了時にブーメラン・ドラゴンを手札に戻す! さらにD・R・システムの効果で俺の場のモンスターが手札に戻ったからゲージを+1!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:1→2/センター:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

 投げ飛ばされた勢いそのままにブーメラン・ドラゴンは闘真の手札へと戻って行った。すると、元の場所に戻っていたWピコピコハンマーが彼に視線を送る。闘真はその視線を受け宣言。

「後、Wピコピコハンマーの効果を使うぜ。Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、ゲージを+1だ!」

「そう来なくっちゃな!」

 Wピコピコハンマーは光となって姿を消し、闘真のデッキの上から1枚がまたゲージに置かれる。

 

 闘真のゲージ:2→3/ライト:Wピコピコハンマー→なし

 

「最後はドラゴエンペラーでスペクトルス“Dark Side”にアタックだ!」

 そう言うと闘真は柄を両手で握り、勢い良く突進する。スペクトルス“Dark Side”は微動だにせず、彼の荒々しい剣撃をその身で受け止めた。

 

 青年のセンター:スペクトルス“Dark Side”(ソウル:3→2)

 

「これで攻撃力も打撃力も下がるだろ?」

 闘真は獰猛な笑みを浮かべ、やや挑発的な口調で言う。

「……そうだな」

 それに対し、青年は淡々と事実を肯定する。スターレムナントを破壊された時と比べて表情に変化がない。

 

 青年のセンター:スペクトルス“Dark Side”/攻10000→7000/打撃2→1

 

「俺のターンはこれで終わりだぜ!」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:6/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ザンバソード/設置:D・R・システム

 

「オレのターン。ドロー、チャージ&ドロー!」

 青年の手札:1→2/ゲージ:2→3

 

「オレはクァンタムルーラーをドロップゾーンに置いて『竜装機 チャージャー』をライトにコール! そしてスペクトルス“Dark Side”と星合体! チャージャーの効果でゲージ1を払い、カードを1枚ドロー!」

 青年の手札:2→1→2/ゲージ:3→2/センター:スペクトルス“Dark Side”(ソウル:2→3/チャージャー)/ライト:クァンタムルーラー→竜装機 チャージャー→なし

 

「そしてスペクトルス“Dark Side”のソウルが3枚以上になったから、スペクトルス“Dark Side”の攻撃力と打撃力が上がる!」

 青年のセンター:スペクトルス“Dark Side”/攻7000→10000/打撃1→2

 

「次に『超檄星 メテオフォールン』をレフトにコールだ!」

 青年の手札:2→1/青年:ダークマター/センター:スペクトルス“Dark Side”(ソウル:2)/ライト:超檄星 メテオフォールン

 ライト:超檄星 メテオフォールン/サイズ1/攻防2000/打撃3

 

「いよいよヤバいんじゃないか?」

 相手の場のカードを見てザンバソードは少し焦りの色を見せる。闘真のライフは6だがら、相手の攻撃が全て通れば確実に負ける。1枚でも防御カードを引いていれば話は変わるのだが……。

「このターンで確実に終わらせてやる……ゲージ1と手札1枚を捨てて“レッドシフト!”を発動! スペクトルス“Dark Side”の打撃力を+1して、このターン中、このカードの単体攻撃は無効化されない!」

 青年の手札:2→1/ゲージ:2→1/センター:スペクトルス“Dark Side”/打撃2→3

 

 能力を発動したスペクトルス“Dark Side”は全身に赤くも暗いオーラを身に纏う。より確実に相手を倒そうとしているのが良く分かる。

「へへっ、すげえことになってんな」

 闘真は臆せずしっかりと前を見据える。目の奥の輝きは消えることも揺らぐもなく強く真っ直ぐに輝いていた。

「ったく、こんな時も呑気でいられるぜ」

 その様子に相棒は少し呆れていた。流石に今回は状況が状況なだけにその後の想像が容易く焦りを見せてもおかしくもない。

 しかし、彼はその事を気にせず、目の前にあるファイトに夢中になっている。ザンバソードはそれが彼だと改めて理解し、ため息を吐いた。

「かかってこいよ……! 今回は全部受け止めてやるぜ!」

「言われなくとも……アタックフェイズ! スペクトルス“Dark Side”でファイターにアタックだ!」

 スペクトルス“Dark Side”は先程よりも速いスピードで闘真へと向かって行き、その勢いを利用してタックル。

「へへっ、ただじゃ受けないぜ! ドラゴエンペラーの効果で俺が受けるダメージが3以上ならそのダメージを1減らす! ぐっ!」

 闘真のライフ:6→4

 

 闘真はドラゴエンペラーを盾にし、その攻撃を受け止める。だが、受け止めきれず吹っ飛ばされてしまう。それでもまた立ち上がった。

「へへっ、流石に何度も重いのをもらうとキツイな……」

 と言いながらもどこか楽しげだ。ファイトが楽しくて仕方がない、変わらぬ心境。

「……何でそうまでもして立ち上がれる?」

 対して青年は何度も立ち上がる闘真に苛立ちを隠せないでいた。早く決着をつけたいと思っているからというのもあるが、心の底で何かが引っ掛かり彼本来の感情が表に出ている様にも見える。

「決まってんだろ、バディファイトが楽しいからだ!」

 闘真は胸を張って言う。実に彼らしい理由だ。

「なら、一生バディファイトが出来ない体にしてやる……! メテオフォールンでファイターにアタック!」

「これも受ける! ぐおっ!?」闘真のライフ:4→2

 メテオフォールンの攻撃をドラゴエンペラーの力で受け止めるが、やはりパワーが凄まじい。しかし、今度はどうにか踏ん張る事が出来た為、吹き飛ばされる事はなかった。

「なあ、何でお前はそんなに楽しそうじゃないんだよ? せっかく、こんな楽しいファイトをしているってのに何でそんなに苦しそうなんだ?」

 先程、答えが返ってこなかった問いをもう一度口にする。闘真は青年の些細な表情や挙動の変化、そして今まで受けた攻撃に込められた思いを感じ取り、青年が何か苦しそうだと感じていた。

 青年は闘真の言葉に今まで以上の動揺を見せる。心の底にある感情や思いを隠していたのだが、闘真に勘付かれてしまったからだ。

「……別に苦しくなんかない」

 青年はそう答える。だが、闘真は納得していない。

「嘘だろ。お前がどんな事で折れたかは知らないが、それが大切だったんだろ? なのに、それだけが大切だと思い込んじまっている……違うか?」

 闘真は真っ直ぐと青年に目線を合わせて言う。彼の事など完全に理解した訳ではない。しかし、苦しんでいる原因が青年にとって大切なものだと感じていた。

 闘真がバディファイトが大切な様に青年にも大切なものがあった。しかし、青年はそれしか見えなくなり、いつしか周りが見えなくなっていた。

「……何を知った風な口を叩きやがって、オレの事なんて何も知らないくせによ!!」

 青年本来の感情が爆発する。その感情の昂ぶりに呼応する様にダークマターの刀身が更に負のオーラに包まれ禍々しくなる。

「へへっ、ようやくお前の心が聞けたぜ」

 青年の様子に闘真は満面な笑みを浮かべる。彼の言う通り、ようやく心の声が聞けたから満足しているのだ。

「何がそんなに笑えるんだよ……この野郎、すぐに終わらせてやる!!」

 青年は怒り任せにその手に握っている光剣を振るう。負のオーラを纏った刀身は先程より妖しく輝いていた。この攻撃が決まればファイトは終わる。

「へへっ、まだまだ終わらねえぞ! キャスト、『ドラゴ根性!』! 俺に1ダメージを与える代わりに俺のライフを+3だ!! うおおおおおおおっ!!」

 闘真の手札:3→2/ライフ:2→1→4→2

 

 闘真の気迫に応じてドラゴエンペラーの輝きが増し、ダークマターの刃を受け止めては弾き返した。

「宣言通り、全部受けやがったな」

 今まで黙っていたザンバソードが口を開く。そう、闘真は一度も攻撃を無効化にせずダメージも0に減らさずに受け止めたのだ。正直、かなり危うかったが。

「へっ! 根性がありゃどうにかなるもんだぜ」

 闘真は自信を持って言う。ザンバソードは呆れた様な安堵した様なため息を吐いた。こいつは結局こんな奴だったなと思いながら。

「何でそんな強いんだよ……何で立っていられんだよ」

 青年は全ての攻撃が通ったのにも関わらず耐えられてしまった事にショックを受ける。いや、自分にない強さを目の当たりにして目を向けられないと言う方が正しいか。

「そんなの簡単だぜ。まだファイトは終わっちゃいないからだ」

 闘真は青年にもう一度顔を合わせる。とても真剣な目で語りかける。

「だから、諦めるのにはまだ早いぜ?」

 そう言うと先程の真剣な表情は消え失せ、いつもの楽しそうな顔になる。

 青年はそこから何かを感じ取ったのか、とても穏やかな口調で言う。

「……そうか。ターンエンド」

 青年の手札:1/ゲージ:1/ライフ:0/青年:ダークマター/センター:スペクトルス“Dark Side”/ライト:メテオフォールン

 

「へへっ、じゃあ行くぜ! 俺のターン! ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:3→4

 

「もう一度、ライトにブーメラン・ドラゴンをコールだぜ!」

 闘真の手札:3→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ザンバソード/ライト:ブーメラン・ドラゴン/設置:D・R・システム

 

「闘真、分かってんだろうな。これで決めないと負けるぞ」

 ザンバソードは落ち着いた声音で言った。D・R・システムのもう一つの能力があるとしても決め切れなかった場合、状況によりけりだが負ける確率がグンと上がる。

「分かっているぜ。だが、そればっかりは相手次第ってのもあるぜ」

 その事を理解していない闘真でもない。それでも笑顔を絶やさないのは彼が純粋にこのファイトを楽しんでいるから。ただ、それだけだ。

「そうだな、じゃあ俺の攻撃が無効化されたら腹を括ってくれ」

「当然だぜ。アタックフェイズ! ザンバソードでセンターのスペクトルス“Dark Side”にアタックだ!!」

「っし! 今度こそ叩き潰させてもらうぜー!!」

 言葉を言い終えると同時にザンバソードは己の得物を振り下ろした。刃は分厚いものの潰れてしまっている為、本来の切れ味はなくただその重みを相手にぶつけるのみ。

「ここに来てカードが……! 仕方がない、ソウルガー」

「ソウルガード? 悪いな、俺だけで攻撃した時、俺とバトルしている相手モンスターの能力を全て無効化にするんだぜ!!」

「何だと!? ぐわぁぁぁぁ!!」

 ザンバソードの大剣がスペクトルス“Dark Side”をソウルごと叩き潰し、その衝撃波で青年にもダメージを与えた。

 

 青年のライフ:8→5/センター:スペクトルス“Dark Side” 撃破!

 

「流石は相棒だぜ! ここ一番で決めてくれるとはな!」

「当たり前だ。むしろ、ここで決めなきゃ格好が付かないだろ?」

 攻撃が当たったお陰かザンバソードの表情が明るくなる。先程は無効化されたのもあり少しフラストレーションが溜まっていたのか、かなり陽気だ。

「へへっ、そうだな。次はブーメラン・ドラゴンでファイターにアタックだ!」

「さあ、飛んで行け!!」

「合点承知! もう一回ぶった切ってやるぜぇ~!」

 再びザンバソードに尻尾を掴まれ投げ飛ばされていく。ザンバソードが投げただけあってかなりの勢いで回転し、青年へと向かって行った。

「これも受ける。っ!」青年のライフ:5→4

 ブーメラン・ドラゴンの攻撃をダークマターで受け止める。安全なファイトパワーで行なっている為か、闘真の様に吹き飛ばされる事はなかった。しかし、その攻撃は手が少し痺れるぐらいには重い。

 一方、ブーメラン・ドラゴンは青年に一撃を与えるとそのままの勢いで闘真の手札へと戻って行った。

「ブーメラン・ドラゴンが手札に戻ってきたから、D・R・システムの効果で俺のゲージを+1だ!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:4→5/ライト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「へへっ、最後は俺だぜ。ドラゴエンペラーでファイターにアタック!!」

 宣言と同時に闘真は青年に斬りかかる。しかし、目の前に現れたバリアが剣撃を阻んだ。

「まだ終わっちゃいないと言ったな……! キャスト、『アースバリア』! その攻撃を無効化にして、オレのライフを+1!」

 青年の手札:1→0/ライフ:4→5

 

「これでこのターン中にお前が勝つ事が出来なくなったな」

 青年は闘真の手札に必殺技があると睨みながらも、自分のライフを見て恐らく条件は脱したと思っていた。

「へへっ、そいつはどうかな?」

 闘真は不敵な笑みで言う。だが、5以上のダメージを与える必殺技はそうそうにない。

 もしかしたら、相手にダメージを与えつつ自分のライフも回復する必殺技を持っているかもしれないが、次の相手のターンに左右されるところもある。やはり、このターンで決めないと厳しいだろう。

「だがよ、ガルガンチュア・パニッシャーでも圏外だ。オレの手札がないとは言え、お前に確実に決められる必殺技なんざないだろ?」

「そうだな、確かにそんな大技そうそうにねえかもな。ファイナルフェイズ!」

 闘真の宣言に青年は身構える。5ダメージも与える大技がないと予想しているとはいえ、他にも必殺技はある。自分の引きの問題もあり、それによっては自分も勝ち切れない可能性もあるのだ。

 しかし、彼は一つ忘れていた事があった。ガルガンチュア・パニッシャーの上を行く、カードの存在を――。

「相手のライフが5以下で互いのセンターが空いているなら、このカードが使えるよな? キャスト、『轟斬!!ガルガンチュア・パニッシャー!』! ゲージ5払って、無効化も軽減も出来ない5ダメージをお前に与えるぜ!」

 闘真の背後に突如現れた火山の火口に巨大な竜の手が突っ込み、これまた巨大な片刃の剣を引き上げる。その片刃の大剣はかなりの熱を帯びており、触ったら火傷では済まされない程の熱さを宿している。

「……確かに諦めるのには、まだ早かったな」

 青年はその様子を見て自分の敗北を悟り、穏やかな表情で見つめる。そして、片刃の大剣が青年に向かって振り下ろされた。直撃した瞬間、辺り一面は炎に飲み込まれ空高く炎の竜が昇って行った。

 

 青年のライフ:5→0

 

「へへっ、良いファイトだったぜ!」

 闘真は青年の方をじっと見つめて、いつもの調子で言った。

 

WINNER:相楽闘真

 

 

 ファイトが終わり周りが静かになった時、先程まで立っていた青年は倒れていた。その傍らには禍々しいオーラを纏ったデッキケースが落ちていた。

「何がどうなっていやがるんだ?」

 いくら『轟斬!ガルガンチュア・パニッシャー!!』のパワーが凄くともファイターを気絶させる程のパワーは出ていない。しかし、青年は気を失って倒れている。不可解だ。

「分からないな……」

 ザンバソードも何が起きてたのか理解出来ない。これまでファイターがファイト後に体調を崩すという場面には何回か立ち会ってきたが、気を失うまでのレベルまではなかった。

 やはり彼の持つデッキケースが何かしらの原因に思える。

「とりあえず、近付くか」

 楽観的に闘真はそう言い、そのまま青年の方へ足を進める。しかし、闘真が近付こうとした瞬間、彼のデッキケースから強大な負のエネルギーが溢れ出してきた。

「離れろ、闘真!」

 先程よりも危険だと状況と判断したザンバソードは闘真の前に立ち、己の得物を構える。

 溢れ出た負のエネルギーが1枚のカードに集中し具現化。スペクトルス“Dark Side”だ。

「どうやら本気でやるしかないみたいだな……!」

 ザンバソードは腹を括る。状況はいまいち理解出来ていないが、分かる事が一つ。ここで奴を止めなければ、相棒が危ない事だ

 スペクトルス“Dark Side”が禍々しいエネルギーを右拳に集中させ、特大のエネルギー弾を放出させた。

「とりゃぁぁぁぁぁあ!!」

 エネルギー弾を大剣で受け止め、野球のバッティングの様に打ち返した。そのままエネルギー弾はスペクトルス“Dark Side”に向かって一直線に飛んで行く。

 スペクトルス“Dark Side”は先程の一撃を放つのに全ての力を使い果たしたのか、微動だにせずエネルギー弾に直撃する。その瞬間、轟音と共に辺りが強い光に包まれた。

「……何とかなったか?」

 光が収まるとザンバソードは辺りを確認する。スペクトルス“Dark Side”の姿はないが、自分の足元から地面が抉れ近くにあった遊具がいくつか歪んでいる。その事から先程のエネルギー弾がどれ程の威力だったのかを示すのには十分だ。

「何だよ、今の……」

 闘真は困惑気味に口を開く。これまでに出会った事のない出来事にただ呆然とするだけだ。

「俺もよく分かっていない。だが、さっきのはヤバかった。それだけは言える」

 ザンバソードは冷静に自分の中で物事を整理していく。しかし、やはり不可解な点が多く上手く整理が付かない。

 そんな時、先程の轟音を聞きつけたのかバンダナを巻いた青年が子供を脇に抱えてやって来た。

 

 その後、青年――『竜騎士 アウラ』というモンスターとそのバディの日向空から闘真達は事情を聞き、ある程度の事実を知った。

 闘真からすれば彼らがバディファイターである事以外は興味がなく、とにかくファイトを持ちかけては実際に対戦をした。結果は闘真の勝利。それでも僅差だったが……。

 轟音を聞きつけた警察やバディポリス、果てはカード管理庁の人間まで来て軽い事情聴取。今回の一件に深く関与している闘真達はカード管理庁の瀬戸翔吾に強制連行され、バディポリス東京本部の方へと足を運ぶ事になった。

 

「今回は訳あってこの場所になった。本来ならカード管理庁の方で事情聴取したかったんけど……」

 通された部屋は小会議室にあたる部屋でそこまで広くはないが、二人で話すのには十分な広さだ。

「まあ、ちょっと詳しく話を聞かせてもらおうか。そこら辺の椅子に座ってくれ」

 瀬戸に促されるまま闘真は適当に席に着いた。瀬戸も机を挟んで闘真と対面する席に座る。

「長話は俺も得意じゃないから、手短に一つ一つ確認するよ。まず君達はあの青年とファイトしたんだよね?」

「ああ、そうだぜ。何度言わせんだよ」

 闘真はファイト時とは全く違い、いい加減な話し方で答える。基本的にファイト以外はやる気を出さない為、真面目に答えない。

「そうか。なら、彼に変わったところはなかったかい?」

 瀬戸は闘真のいい加減な態度に眉一つ動かさず次の質問を言う。これより酷い人間を見てきたから、あまり動じる事はない。

「変わったところ……? あるとしたら、アイツが大切な事で悩んでいた事以外は特に」

 ファイトの事を思い出す。そして真面目に答えた。

「彼の大切な事というのは知っているのかい?」

「いや、知らねえよ。分かる前にファイトが終わっちまったし」

 結局、彼の悩みの根本までは聞く事が出来なかった。しかし、闘真はそこまで気にしていない。また今度ファイトすれば分かると思っているからだ。

「なるほど……じゃあ、話を変えよう。あれだけの被害が出た原因は?」

「それは俺だな」

 ザンバソードが口を開く。そして何が起こったのかを説明した。

「やっぱりあのデッキケースが原因か……繋がっているな……」

「あ? 何が繋がってんだよ? それよりファイトしようぜ!」

 闘真はとにかくファイトしたくてたまらない様子だ。ザンバソードは止める気はない。

 瀬戸は自分が持っている情報をある程度整理すると思考の海から脱する。そして闘真の要求に対してこう答える。

「分かった、卓上で一戦だけなら良いよ」

「っしゃ! なら、準備するぜ!」

 と言って、自分のデッキを取り出してシャッフルをする。相棒もこのファイトには興味があるみたいだ。

「……アイツがいればな……押し付けられたんだけど……」

 瀬戸の呟きは闘真やザンバソードの耳に届く事なく消えていった。

 

 卓上で行われたファイトは瀬戸が勝った。瀬戸が上手く守り切り、逆に闘真の陣営を壊滅させたのだ。

 そしてファイトが終わると闘真達は瀬戸に見送られながら本部を後にした。

 随分あっさりと終わったのは瀬戸があまり深く質問をしなかったからだ。彼らが深く事情を知っている様子ではないと判断し、以前起きた事件の情報と何か共通点がないか探るだけに留めた。

 それに闘真が長時間真面目に話せるとは思っていないというのもあって短めに切り上げたのだ。

 そんな事情なんて知る由もなく闘真達は地元へ帰る為に駅へと歩いて行く。

「やっぱりあの兄ちゃん強かったな!」

「ああ、そうだな」

 卓上であるが望み通りファイトが出来たから、闘真はえらくご機嫌だ。その様子に相棒は苦笑い。

「それにしても、ここどこだ?」

「俺にも分からんな」

「だよな。まっ適当に歩いていけば、その内駅に着くか」

「着けると良いな」

 

 

 日も暮れ、辺りがオレンジ色に変わろうとしている。

 その中を闘真達は地元に帰る為に駅を目指して歩いていた。……そもそも駅がどこにあるのか分からず、現在どこを歩いているのかも分からずに、である。

「全然駅が見えてこねえ……」

 流石の闘真も長時間歩いても目的地が見えてこない為、辟易していいた。

 それもそのはず、彼らが歩いている方向と駅がある方向は正反対にあるのだから、見えてこないのは当たり前である。

「なら、最終手段を使うか?」

 ザンバソードはこのままだと帰れないと思い、闘真に一つ提案する。ちなみに彼が言った最終手段とは闘真の幼馴染を呼ぶ事だ。これで大抵は帰れる。

「それは嫌だ」

 短いがハッキリと拒否する。その返答にザンバソードは無理強いせず、それ以上は何も言わなかった。

 

 それから、しばらく歩くとたくさんの人影が見えた。どう見ても通路を塞いでいる様に広がって立ち止まっている。

 その様子に闘真は舌打ちし、そのまま歩を進めた。ザンバソードは相棒がこれからどの様な行動を取るのか読めた為、それを制止する様に彼に声をかける。

 しかし、闘真はその制止を耳に入れず歩み続け――立ち止まっていた集団の一人を思いっきり蹴り飛ばした。

「痛ぇ!」

 蹴られた人間は当然ながらに痛がっていた。それを見ていた仲間達は闘真に視線を集中させる。

 その視線を闘真は無視し、そのまま通り過ぎようとした。しかし、集団のリーダーらしき人物が立ちはだかる様に彼の前に立って声をかける。

「おい! お前、今何をしたか分かってんのか!?」

「分からねえな、目の前にあったでけえ小石を蹴っ飛ばしただけだろ?」

 闘真は目の前に立っている人物に目を合わせて悪びれずに言う。

「はぁ!? さっき、オレの友達を蹴り飛ばしただろ!」

 目の前にいる人物は少し大人びてはいるが闘真より年下に見える。周りの子供達も小学生ぐらい顔立ちと体格だ。

 その小学生ぐらいの子を蹴り飛ばした闘真は興味ない様子でリーダー格の少年を見つめる。

「知るかよ。てめえら、俺の邪魔すんならまとめて蹴り飛ばすぞ?」

 迷子の上に足止めまでされて、気が短い闘真は我慢の限界だ。鋭い目つきは更に鋭さを増し、話し方も威圧するかの様な話し方になっている。

「闘真、これ以上は暴れるな」

 ザンバソードがとても冷静で穏やかな口調で釘を刺しながらも周りを観察する。

 周りはリーダー格の少年と蹴られてた少年を含めて数人の小学生男子とその男子達と同年代ぐらいの少女が一人が集まっている。そして、まるで少女取り囲むかの様に男子達が立っていた。少女の顔や腕には多人数から暴力を受けていた様な痣が見受けられる。

 この事からザンバソードは悟った。こいつらは少女に対していじめを行っていた最中だったという事を。

「蹴り飛ばされたくなかったら、さっさとそこをどけ! 今俺は機嫌が悪ぃんだよ!!」

 闘真は相棒の忠告を聞き流し、更に小学生達を脅す様に話しかける。……その殆どが自分が原因である事は彼の頭には無い様だ。

「……はんっ! お前なんか全然怖くねえし、蹴り飛ばせるなら蹴り飛ばしてみせろよ!」

 見た目が怖い闘真の脅しに本当に怖くない訳がなく、ビビッて声が震えて裏返っている。

「悪い事は言わないからとりあえずそこをどいてくれ。ただでさえ、通行人の邪魔になっているんだからよ……」

 ザンバソードが正論を言いながら事を穏便に済ませようとした。しかし、その願いは空しくも潰える事になる。

「うるさい! お前なんかギタギタにしてやる!!」

 そう言うとリーダー格の少年は周りにいる他の少年達に闘真を殴るように命令する。闘真は大人しく一発二発は殴られた。

 だが、全く効いていない。むしろ蹴り飛ばす理由を作ってしまった事に少年達は気付いていない様子だ。

 そして闘真は殴ってきた少年に膝蹴りを一発入れる。勢いがありかつ良い角度で入った為、少年はその場に蹲ってしまった。

 蹲った少年を気にかけず闘真は殴ってきたもう一人の少年に一撃。少年は少し飛ばされると膝蹴りを入れられた少年と同じくその場に蹲る。

 この様子にザンバソードはため息を吐き、呆れていた。殴ってきた少年達も悪いが事の発端は闘真にあるし、容赦なく蹴り返す彼に今はどんな言葉を言っても聞こえないだろう。

「おい、さっさとどけよ……! じゃねえと今度はもっと蹴り飛ばすぞ!」

 群がる少年達をかなり鬱陶しいと感じ、更に闘真のフラストレーションは溜まる。脅しを通り越して宣言だ。

 リーダー格の少年は流石にこれ以上はマズイと感じたのか、仲間達に引き上げる様に言うと蹴られた少年達を抱えて逃げる様にその場を走り去って行った。

「ったく、最初からそうすりゃ良いだろ……」

 闘真は走り去って行く少年達の背を見送りながら毒気づく。何度も言うが、事の発端を開いたのは闘真の方だ。しかし、少年達にも非があるとはある為、一概に彼が原因とは言えないが……。

「お前もお前だ、闘真。いくらなんでも、あそこまで蹴り返す必要はなかっただろう?」

 ザンバソードの声音には幾分か怒りの色が感じられる。だが、事情は把握していたから、あまり責める様な物言いにはならなかった。

「正当防衛だ」

「お前の場合は過剰防衛だがな」

 ザンバソードの言う事は最もである。しかし、闘真は特に悪びれもせず、それが当たり前だという様な態度を崩さない。

「んな事より、さっさと駅の方へ行こうぜ。向こうに着く頃には日が沈んちまうかもしれねえし」

「はぁ……それもそうだな」

 相棒はこれ以上の口論は時間を浪費させるだけと判断して諦めた。そして、闘真達が歩き出そうとした瞬間、その場に残っていた最後の一人が口を開いた。

「あの、待ってください!」

 その声に反応し、闘真は声がした方に顔を向ける。その視線の先には、少女がいた。先程、少年達に取り囲まれる様に集団の中心にいた少女だ。

「何だよ? 何か用か?」

 闘真はえらくぶっきらぼうな話し方で返す。少女は闘真の態度に少したじろぐが、それでも芯がぶれずに話し続ける。

「その……助けてくれてありがとうございます」

「あ?」

 闘真は予想外の言葉にただ口悪く返すだけになってしまった。

「悪いがコイツはお前を助ける為に蹴り飛ばした訳じゃないぞ?」

 事情を察していたザンバソードは冷静ながらも穏やかな口調で言う。

 彼の言う通り、闘真は少女の事を視野に入れていないし、邪魔だったから少年達を蹴り飛ばしたに過ぎなかったのだ。礼を言われる事ではないだろう。

「でも、助けてくれた事には変わりないのでお礼はちゃんと言いたいんです」

「そうか。だってよ、闘真」

「俺に振るなよ。てめえなんかどうでも良いんだけど」

 正直な意見が発せられるとザンバソードは今日何度目かのため息を吐いた。

「つか、お前いつからいたんだ?」

 闘真は少女が最初からいた事に気付いていなかった。この質問に少女は苦笑いを浮かべながら答える。

「最初からいましたよ。後、いきなり暴力は振るうのはいけないと思います」

「あ? でけえ小石を蹴り飛ばしただけで何でそう言われなきゃいけねえんだよ?」

「でかい小石って、それ矛盾していますよ」

「知るか。これ以上、てめえも何か言うんなら蹴り飛ばすぞ?」

 女の子相手でもこの態度。どんな相手にでも我を通す闘真にザンバソードは呆れていたが、目の前の少女はどこか憧憬の様なものを抱いていた。

「闘真、流石に女の子を蹴り飛ばす様な事はするなよ?」

 釘は刺すがこの制止を一度たりとも聞いてもらえていないのが、ザンバソードの頭を悩ませる種の一つ。

「うるせぇ、もう用はねえし帰るぞ」

 と再び歩き出すが、少女に呼び止められる。

「そっち、駅の方角じゃないですよ」

 親切に教えてくれる少女。しかし、闘真はもう一度足を止められた事に腹が立ち、少女の方に振り返り距離を縮める。

「おい、闘真止せ!!」

 ザンバソードの制止も振り切り、闘真は容赦なく少女を蹴り飛ばした。周りに人がいなかった為、騒ぎにはならないがこれは人として褒められない。完全なる理不尽な暴力だ。

「痛ぁ……」

 少女は尻餅をつき、蹴られた箇所をさする。余程、痛かったのかその目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

「闘真! お前、流石に今のは見過ごせんぞ!!」

 流石のザンバソードも堪忍袋の緒が切れ、烈火の如く激しい怒りをぶつける。

「あ!? 何でてめえにまで文句言われなきゃいけねぇんだよ!?」

 闘真はザンバソードの態度に反抗し、苛立ちをそのまま口にする。

 両者が激しい口論がしている最中、少女は闘真の腰にあるデッキケースと彼のバディであるザンバソードを見て、ようやく闘真がバディファイターである事に気付いた。

 このまま両者が喧嘩を続けていたら、周りの人に迷惑がかかるかもしれないと思った彼女は二人の間に強引に割って入る。

「ちょっと待ってください! とりあえず、二人とも落ち着いて!!」

「ああ!? 何でてめえが入ってくんだよ?」

「あのバディファイターですよね? 道を教えますから私にバディファイトを教えてください!」

「あ!?」

 これまた予想外な少女の言葉に闘真は驚く。ザンバソードもその意見に驚き、次言おうとした言葉を飲み込んでしまった。

「お前、バディファイターじゃねえのか?」

 闘真は先程とは打って変わって穏やかな声音で訊ねる。少女は首を縦に振った。

「……そうか。まぁ、ファイターが増えてくれた方が俺も楽しみが増えるからな」

 と言って、闘真は少女の要求を快諾した。

 その時、少し暗かった少女の表情は一気に明るくなる。恐らく、それが彼女本来の性格で感情だろう。闘真はさほど気にしなかったが。

「そういえば、お前の名前は?」

 ザンバソードが少女の名前を聞く。少女は明るく元気の良い笑顔で答えた。

「私、鳥田汐って言います! よろしくお願いします!」

 

「……っで、何で俺がアイス奢らされてんだ?」

「汐を蹴り飛ばした罰だ。それぐらいは当然だろ?」

 相棒にそう言われると闘真は周りにも聞こえるぐらいの大きさでため息を吐く。その隣で汐は買ってもらったアイスを美味しく味わっていた。

 道を教えてもらう代わりにバディファイトの事を教える事になったのは良いが、途中でまさかアイスを買わされるとは思ってもなかった。

 その経緯はザンバソードが汐を蹴り飛ばした一件を無かった事にしたくなかった為、どうにか闘真を謝罪させその賠償としてアイスを奢る事になったのだ。アイス一つ分で済むなら安いものである。しかし、万年金欠な闘真にとってはかなり痛い出費だった。

「これで新しいパック買うのまた我慢しなくちゃいけねぇな……」

 誰に向けた言葉ではない独り言。アイスを食べ終わった汐がその独り言を聞いたのか、本題を持ち出す。

「あ、そうだ。バディファイトの事……」

「んあ? そうだったな……」

 と言って、闘真は何から話そうかと悩む。デッキを組む時以外には見ない姿であるから、ザンバソードは少し新鮮に思えた。

「お前はどこまでバディファイトを知っている?」

「えっと、ルールは分からないけどモンスターの世界が私達の世界と繋がっている事とか、色んな世界のモンスターと一緒に戦うカードゲームなのは分かります」

 汐は自分が分かる範囲でバディファイトの事について話す。バディファイトは世間的に広く知れ渡っているTCGな為、この辺りは常識的な範囲内だ。

「おう、そうか。なら、あんま細かい話をしなくても良いな」

 バディファイトがどういうカードゲームかという事を説明しなくて済む事を確認すると少し安堵する。あまりこの手の話の説明は苦手であるからより一層に。

「つか、敬語で話さなくて良い。めんどくせぇ」

「……え? でも、少なくとも私より年上に見えるから敬語で話した方が……」

「めんどくせぇ」

「あ、はい」

 そう返事はしたものの闘真の事を知らない汐はどう話して良いのか分からない。すかさず、ザンバソードのフォローが入る。

「変に気を遣わなくて良いって事さ。多分、年はそんなに離れていないと思うしな。念の為に聞くが汐はいくつだ?」

「十一です。今年で十二になります……あ」

 思わず敬語で話してしまった。その様子にザンバソードは苦笑いをする。

「大丈夫だ、怒りはしないって。それに闘真も十三だから年も離れていないし、無理して話す事はないぞ」

「てめえが何で俺の年を知ってんだよ?」

「バディだからな、それぐらいは覚えているさ」

「あっそ」

 至極興味がない様子だ。汐は闘真という人間がとても分かりやすい反応をする人間だという事を改めて知る。バディファイトだと真剣になるのに……。

「じゃあ、闘真君って呼んで良いの?」

「好きにしろ」

「わーい!」

 汐は両手を上げ喜びを全身で表す。まとも名前を呼べる知り合いが出来て、とても嬉しいのだ。

 闘真は興味なさ気に彼女を見つめる。彼女の喜ぶ理由が思い当たらない。

「お前って奴はよく分かんねぇな」

「それって酷くない!?」

 喜んだかと思ったら今度は怒り出す。闘真はそれを適当に聞き流しながら、バディファイトについてどんな事を話そうか内容をまとめていた。

 しかし、まともにバディファイトについて語る暇もなく目的地に着いてしまった。

「あ……」

 その事に気付いてしまった汐は少し落ち込んでしまった。彼女の気持ちを知ってか知らずか闘真は口を開く。

「おい、今度また東京に来るからその時に話してやるよ」

 彼の一言で汐の表情は明るくなる。闘真自身も満更ではない様子で少し笑った。

「じゃあ、また会えるんだね!」

「それは分からねぇけどな。でも、今一つ教えてやる」

「何?」

「バディファイトは対話だ。色んな奴らと繋がれる最高のカードゲームって事さ」

 そう言うと闘真達は駅構内へと足を踏み出す。

「ねえ、最後に一つ良いかな?」

「何だよ?」

 ここに来て少し眉を顰める。バディファイト以外では本当に短気だ。

「今度会ったら、バディファイトの事を教えてくれる?」

「当然だ。一人でもバディファイトを楽しんでくれる奴が増えるなら嬉しいからな」

「うん、ありがとう!」

 汐は満面な笑みで礼を言う。闘真もつられる様に口の端を少し上げる。

 そして彼らが駅構内へ入って姿が見えなくなるまで汐はその背中を見送った。ようやく出来た一つの約束を胸に――。




 如何でしょうか? 実はお試し連載という事もあり、本編と書き方を変えてみました。沼津編もまたこれとは違う書き方にします。
 私自身、TCG系の小説は初めてなので試行錯誤しながら書いています。まあ、文章力の皆無さやファイトのしょぼさは相変わらずかと思いますが……。
 後、空達との詳しいファイト内容は本編の最新話(これより1つ前の話)をお読みください。(姑息な宣伝)

 皆さんもお気付きかと思いますが、俊介様の作品『ラブライブ!サンシャイン!!×バディファイト~みんなで掴む輝き』にて活躍中の「鳥田汐」をこの作品に登場させています。
 この作品はどの作品の(特にラブライブ!サンシャイン!!関連なら)過去にあてる事が出来る設定(作中の年代がラブライブ!サンシャイン!!本編の4年前)故に、他の作者様のところへ提案したキャラクターが登場した場合はそのキャラクターの過去を描いている事になります。
 そこで一つお願いがあります。それはこの作品で起きた事や他の作者様へ提案したキャラクターの言動などは“この作品はこの作品、あちらの作品はあちらの作品”とある程度割り切って読んでくださると嬉しいです。
 細かい点が違っていたり、もしかしたら別人の様な感じになっていたりするからです。その点もご留意していただけると本当に幸いです。

 話を切り替えてアンケートの方も設けてみました。新しく追加された機能でちょっと使ってみたくなりましたので……アンケートの内容もそんなに堅苦しいものではないはずなので気軽に答えていただけたら嬉しい限りです。

 後、主人公の紹介です。初っ端から問題を起こしていましたが……。

 相楽 闘真(さがら とうま)/男性/中1/13歳
使用ワールド:ドラゴンワールド/使用デッキ:武装騎竜/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン
容姿:少し暗めのオレンジ色のボサボサしたショートヘアーに少し暗めの青色の瞳で三白眼。首に2枚のタグが付いたネックレスを身に付けており、1枚目のタグにはドラゴンのイラストが、2枚目のタグには自分の個人情報が彫刻されている。私服は左肩にドラゴンのイラストが描かれているワッペンが付いている半袖のポロシャツ、青色のジーンズに赤いラインが入ったスニーカーでまとめている。ポロシャツの襟は立てるタイプ。中肉で身長は158cm。
性格:口がかなり悪く、かなり短気で暴力的。己に正直で周りを考えない行動が多い。ファイトは相手との対話を意味していると考えており、常に強い“ファイター”とのファイトを望んでいる。そして常にファイターとして正しい選択をしようと心がけている。自分の興味ない事は気にせず無視する。一人称は「俺」。
概要:神奈川の横浜に住んでおり(尚、本人は横須賀って言った方がいい地域だと言っている)、横浜の中学校に通う中学生。普段の横暴な態度が目立つ所為であまり周りに分かってもらえていないが、バディファイトが大好きでありファイトを通じて相手の内面を知る事が出来ると考えている。彼の判断基準はファイターとしては良くても人間としてはあまり良くない。その為、多くの人達からは白い目で見られている。

 最後に一つ改めて紹介させてください。
 今回登場した「鳥田汐」も活躍している俊介様の作品『ラブライブ!サンシャイン!!×バディファイト~みんなで掴む輝き~』をぜひ読んでみては如何でしょうか?

 では、ここら辺で筆を休めます。次の更新でまたお会いしましょう。また感想や活動報告のコメントもお待ちしています。


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第2話:デュオローグ

 皆さん、お久し振りです。巻波です。
 年明けから全く更新できずに申し訳ございませんでした! 誰か土に埋めてくれ!
 懺悔は以上です。


 話題を切り替えて、バディファイトの話を少し……ようやく《ネイキッドドラゴン》の新規カードがキタ――(゚∀゚)――!!
 しかも、アイテムの新規追加も来ましたので、嬉しさのあまりに泣きながら小躍りしている状態です。騒がしい()
 さらに《新選組》からも新規追加が来ているので、もう4月のブースターは買うしかない。いや、買うぞ!


 また話を変えて、この話を書いていた時の裏話を一つ。
 この話を書いていた時、家入レオさんの「未完成」という曲を聴きながら執筆していました。
 何というか曲の世界観が東京編にピッタリだったので聴いていたのですが、歌詞やテーマを見て何だかとあるキャラと境遇が……となってしまいました。

 気が向いたらで良いんで「未完成」を流して読んでみたら、どうでしょうか?
 それかドラマ風にラスト辺りで流してみるのもアリだと思います。

 多分、東京編のイメージテーマソングは家入レオさんの「未完成」がピッタリかと思いますので。


 ……とまぁ、無能で無脳な作者のくそ騒がしい戯言はここまでに留めます。

 最後に忠告として、今回の話は外伝話及び東京編第1話よりもかなり長くなっています。時間がある時にお読みください。
 後はくそしょぼいファイトしか書いていないので、ブラウザバックするなら今の内です。

 では、後書きの方でまた会いましょう。


 鈍い音が響く。小さく悲鳴が耳朶を打つ。何度も繰り返される。

 明かりをつけていない部屋の中、男女が小さな少女を交互に殴ったり、蹴ったりしていた。

 彼らから暴力を受けているのは、闘真達といつぞやに出会った少女――鳥田汐だ。

 汐はただひたすらに耐える。暴力と同時に自らの存在を否定する言葉を吐かれても。何故なら、相手は彼女の両親だから。

 このまま我慢すれば、いつかまた笑い合える日が来ると淡い願いを胸に抱いて、彼女は両親の虐待をその身で受け止める。

 しばらくすると二人は気が晴れたのか、汐の元から離れていく。そして明るい部屋で談笑する。

 信じられない光景かもしれないが、それが彼女の日常だ。汐は窓に背を預けて、声を殺して泣く。

 いつからか彼女は世界から拒絶されていた。その現実を受け止めるには幼すぎた汐は、どうすれば良いのか分からず泣くしかない。でも、誰も手を差し伸べてはくれない。いや、差し伸ばしても巻き込みたくないから払い除けてしまう。

 それでも彼女がまだ歩いて行けるのは、毎晩微かに聞こえる男性の歌声と――。

 

 

 約束を交わした日から数日が経った頃、闘真は再び東京に来ていた。いつも通り、道に迷いながらだが。

「……ここはどこなんだ?」

 スマートフォンの画面に地図を表示させるが、闘真は意味を読み取る事ができず首を傾げる。隣にSD化したザンバソードが覗き込むが、「どこなんだろうな?」と頭に疑問符を浮かべるばかり。

 これ以上は悩んでも仕方ない為、闘真はスマートフォンのアプリを閉じた後、ポケットにしまって歩き出す。いわゆる「歩いていれば何とかなるだろ」という行動原理だ。確かに立ち止まっているよりかは事態は動き出すが、好転するとは限らない。それでも彼は歩を進める。

 程なくして闘真達の右手側に公園が見えた。ふと立ち止まり、ファイターがいないか探してみる。

 滑り台やブランコ、鉄棒に砂場と遊具が置かれている普通の公園。木陰にはベンチが設置してあり、人影がある。

 自分よりも少し年下に見える少女が読書している様子が見受けられる。その姿に闘真は見覚えがあった。

 そして自ら歩み寄り、少女に声をかける。「おい、お前」ぶっきらぼうで威圧的な調子で言うものだから、ザンバソードは頭を抱えた。もう少し優しくしろと言わんばかりに。

「あ、ど、え!? 闘真君!?」

 声をかけられた少女――汐は闘真の方へ顔を向け、大きく目を見開いていた。ここで出会うと思わなかったからか、リアクションも大きくベンチから転げ落ちそうになる。

「んだよ、今度来たら教えてやるって約束したんだから来たってのにその反応は」

 一方、闘真の方は口元をへの字に曲げて不満げに言う。だが、彼の目的は汐との約束を果たす為ではなく、ファイトすることにある。それでも会ったら教えるという事は忘れてはいなかった。

「ごめん、ごめん。こんな所で会うって思っていなかったから」

「そうかよ」

 言葉短めに返した後、闘真は無遠慮に汐の左隣に座る。そして背もたれに左腕を置いて肘掛け代わりにし、右足を組んで彼女に顔を向けた。これが話をする体勢かと問われれば、彼はそうだと返すだろう。

「っで、お前、基本ルールは知らねえだよな?」

「うん。皆が遊んでいるところは遠目から見ていた時はあったけど、ルールは分からない」

「んじゃ、決まりだな。デッキ取り」

「あー、その前に一つ良いか?」

 闘真はショルダーバックを開いて、デッキケースを取り出そうとするが、ザンバソードに制される。

 止められた闘真は睥睨するもザンバソードは平然とした様子で話を続けた。「何で、汐はバディファイトを教えてもらいたんだ? しかも、こんな奴から」若干相棒への悪口も含みながら。

「ええっと、それは……」

 答えに困窮する汐を見て、「すまん、いらん質問だったな」ザンバソードは謝り、「今のは聞かなかった事にしてくれ」と闘真に続きを促そうとする。だが、汐は返答した。

「私、友達いないから……学校の皆と話ができなくて、教えてもらおうって思っても教えてもらえなくて」

 それまでとは打って変わって暗い表情で汐は話す。そんな彼女の変化に驚くザンバソードと驚かない闘真。

 闘真は口元をへの字に曲げたままだが、彼女の顔から目を離さずじっと次の言葉を待つ。

「それで闘真君と出会って、イチかバチかで声をかけてみたの……バディファイトができれば、輪の中に入って遊べるかなって」

「バディファイトができても輪の中に入れるかは分かんねえだろ」

 ぶっきらぼうな闘真の言葉。「気に入らねえ奴なんて追い出すに決まってんだろ」その言葉は汐の胸を突き刺した。

 だが、彼女の事なんて気にかけず闘真は続ける。

「でも、バディファイトで友達はできるかもしれねえな。何てったって、相手と対話して本気をぶつかり合うゲームだからな」

 そう言う彼の顔はファイトしていると変わらない程、楽しそうに笑っていた。

 輪に入れる保証はなくとも輪を作れる可能性がある。繋がりはどこで生まれるかは分からないが、バディファイトがそのきっかけ作りになるという事は闘真の経験から感じていた。

「それに相棒だってできる。こんなに面白れぇカードゲーム、他にはねえよ」

 楽しげに闘真は喉を鳴らす。先程まで不機嫌な顔つきをしていた人物とは思えない程に。

 汐もザンバソードも彼の意見に鳩が豆鉄砲を食ったような顔して目をしばたたかせるが、やがて腑に落ちたかのように納得し首肯した。

「そっか、やっぱりバディファイトを知りたい!」

 屈託のない笑みで汐は改めて決意を示す。その言葉を聞いた闘真は満足げに頷いて、「なら、ちょっと待ってろ。今デッキ取り出すからよ」再びショルダーバックの中を漁る。

 そして闘真がデッキケースを取り出そうとした瞬間、彼らの元に来客が訪れる。以前、闘真と一悶着を起こした少年とその兄らしき人物だ。

「てめえか、俺の弟をいじめやがったのは?」

 髪の毛を金髪に染め、眉毛を剃って闘真を睨みつけるその様はまさしく不良と言っても差し支えない。普通の人間ならば、恐れるだろう。何されるか分からないのだから。事実、汐は怯えていた。

 だが、それで怯む闘真でもない。「知らねえよ。ってか、てめえこそ誰だよ?」不良に負けず劣らずの鋭さで睨み返す。

「あん? 質問してんのは、こっちだろうがちゃんと答えろよ」

「質問ならさっき答えたぜ。てめえが答える番だろ?」

 両者一歩も引かずに睨み合う。やがて、不良の弟の方が口を開き、「アイツだよ。オレたちをいじめた奴は」闘真を指差した。

 するとさらに不良の目つきが鋭くなる。「よくも俺の弟をいじめやがったな」語気もまた強い。

「は? だから、何だよ? 別に俺は悪い事はしてねえぞ?」

「うるせぇ! 一発殴らせろ!!」

 怒声に乗せた拳が闘真の顔面目掛けて振り下ろされる。大振りで洗礼されていないが、殴られるという衝撃だけでも動けない人間は多数だろう。

 さらに闘真は椅子に座っている。とてもじゃないが避けられる体勢ではない。けれど、彼に焦りの色はなかった。

 不良の拳を右手で受け止め、にやりと笑う。「喧嘩よりバディファイトがしてえなぁ」不良の腰にあるデッキケースを見つけ、挑戦状を叩きつけた。

「チッ、お望み通り、バディファイトでボコボコにしてやるよ!」

 拳では通じないと即座に判断のしたのか、不良は闘真の誘いに乗る。その言葉を聞いて、闘真は不良の手を放し、荷物を汐に預けて立ち上がった。

「最初からそうしようぜ? ファイターならファイトで語り合うのが一番だからな」

 闘真は不敵に笑い、ベンチから少し離れた場所で不良と向き合う。不良も渋々応じるように彼の後を追い、対面する。

「んじゃ、始めようぜ。とびっきり楽しいファイトをな……!」

 双眸は楽しげ細められ、その奥には決して消えぬ闘志の炎が宿っていた。

 

 

「俺の全力を以って、お前の心の声を聞く! ルミナイズ、『ファイト・オブ・デュオローグ』!!」

「世界には法則がある。法則に従えば、おのずと勝利は掴めるんだよ! ルミナイズ、『ラウ・オブ・ディスティニー』!」

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

「ドラゴンワールド!」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

「マジックワールド!」

 不良の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ

 

「俺から行くぜ! チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

「っで、今日はどうするんだ? オーディエンスがいるから、少し落ち着いたファイトにするか?」

「何言ってんだ。いつも通り、やるだけだぜ! 『D・R・システム』を設置して、ライトに『ブレイドウイング・ドラゴン』、レフトに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』をコール!」

 闘真の手札:6→3/レフト:Wピコピコハンマー・ドラゴン/ライト:ブレイドウイング・ドラゴン/設置:D・R・システム

 レフト:Wピコピコハンマー・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 ライト:ブレイドウイング・ドラゴン/サイズ1/攻防2000/打撃2/[移動]

 

 青い小柄な竜と赤い翼竜が闘真の両サイドを挟むように姿を現す。各々、自分の武器を掲げ、いつでも相手へ攻撃ができる意を示していた。

「さらに『竜王剣 ドラゴエンペラー』ゲージ1とライフ1払って装備!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:3→2/ライフ:10→9/ドロップ(武装騎竜の種類):0→1/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー/ライト:ブレイドウイング/設置:D・R・システム

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2

 

「珍しいな、いきなりアイテムを装備するなんて」

 目を見開きザンバソードは闘真を見つめる。彼の驚きに闘真はにやり笑い返し、「まぁ、そこは臨機応変にってな」と手札を一瞥して言った。

「んじゃ、アタックフェイズだ! ブレイドウイングでファイターにアタック!」

「ここは受ける。ぐぬっ!」不良のライフ:10→8

 ブレイドウイングの名の通り、刃物のように鋭利な翼が不良の体を引き裂く。しかしながら、実際に引き裂いている訳ではないので血は飛び出ない。あるのは衝撃だけだ。

「このタイミングでWピコピコハンマーの能力を使うぜ。Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージを+1!」

「オイラも活躍したかったな……」

「わりぃな、今は我慢してくれ。次出した時は、大暴れさせてやっからよ」

「なら、許す! 頼むぞ、闘真!」

 そう言いながら、Wピコピコハンマーは消失し、闘真のデッキの一番上のカードがゲージに置かれる。

 

 闘真のゲージ:2→3/レフト:Wピコピコハンマー→なし/ドロップ(武装騎竜の種類):1→2

 

「ターンエンドだ!」

 闘真の手札:2/ゲージ:3/ライフ:9/ライト:ブレイドウイング/設置:D・R・システム

 

「俺のターンか……ドロー、チャージ&ドロー!」

 不良の手札:6→7/ゲージ:2→3

 

 不良は口の端を吊り上げる。歪な笑みは早速勝利を確信したか。

 対する闘真は切り札的カードがもう既に手札にあると察した。彼もまた笑う、獰猛に。

「キャスト、『ナイスワン!(最高だぜ!)』。ゲージ1払って、カードを2枚ドロー!」

 不良の手札:7→6→8/ゲージ:3→2/ドロップ(魔術師の種類):0→1

 

「さらに『ソロモンの鍵 上巻』をキャストして、ゲージ+2! 続けて『ソロモンの鍵 下巻』をキャストでライフ+1、ドロップゾーンに上巻があるから、カードを1枚ドロー!」

 不良の手札:8→7→6→7/ゲージ:2→4/ライフ:8→9

 

「流石はマジックワールド、回してくるな」

 不良のプレイングに感心するザンバソード。ここ最近、回転力が高いデッキと対戦していないことも相まって感服だ。

 ザンバソードの言葉を受けて、不良は鼻で笑っては口を開く。

「ふん、パワーだけで勝てる時代なんて終わってんだよ。脳筋デッキなんざ屁でもない」

「へへっ、そいつは分からねえぜ? 組み立てられた戦略も馬鹿力一つで簡単に吹っ飛ぶからよ」

 不敵な笑みで闘真は言い返す。確かに戦略は大事だろう。膨大な経験や知識によって計算され尽くしたデッキは負けることが少ない。けれど、想定以上のパワーを持つカードが一枚あるだけで簡単に崩れてしまう。

 本当にどう転がるか分からないから楽しい――闘真は愉快そうに喉を鳴らした。

「なら、てめえに思い知らせてやる。世界がどう動いているかをな……『神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ』をゲージ2払い、手札から魔法を1枚ソウルに入れて、センターにバディコール! バディギフトでライフを1点回復だ」

 不良の手札:7→6/ゲージ:4→2/ライフ:9→10/ドロップ(魔術師の種類):1→2/センター:神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ

 

神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ

マジックワールド

種類:モンスター 属性:魔術師/タロット 

サイズ3/攻5000/防5000/打撃2 

■[コールコスト]君の手札の魔法1枚までをソウルに入れ、ゲージ2を払う。

■【対抗】[起動]場のモンスター1枚を選び、手札の《魔術師》か魔法1枚を捨ててもよい。捨てたら、次の4つから1つを選んで使う。この能力は1ターンに1回だけ使える。

●このターン中、選んだモンスターの攻撃力+5000、防御力-5000!

●このターン中、選んだモンスターの攻撃力-5000、防御力+5000!

●このターン中、選んだモンスターの打撃力+1!

●このターン中、選んだモンスターの打撃力-1!

[2回攻撃]/[ソウルガード]

「表も裏も、あなたに不幸が訪れる」

 

 神の塔に住み、髪が恐ろしいほどに長い魔女は悠然と不良の前へと躍り出る。その姿は美しいという言葉では形容できないほどに整えられ、まさしく神に愛された者だと知る。

「そして、『ガンロッド シンフォニオン』をライフ1払って装備!」

 不良の手札:6→5/ライフ:10→9/不良:ガンロッド シンフォニオン/センター:ラプンツェル

 不良:ガンロッド シンフォニオン/攻2000/打撃2

 

 不良の手には杖とも銃とも似つかない歯車仕掛けのアイテムが握られている。延々と回り続ける歯車は規則正しい音を立て、歯車を原動力に音楽が微かに流れていく。

 そして、不良はシンフォニオンを軽く振るい、緑色の光弾を出現させた。

「シンフォニオンの効果を使うぜ。シンフォニオンをレストして、お前にダメージ1だ!」

 不良の宣言と共に緑光の弾丸は高速で闘真の元へと飛来する。

「っしゃ、受けるぜ!」闘真のライフ:9→8

 闘真はドラゴエンペラーを盾にし、光弾を受け止めた。速さのわりには威力自体はなく、ファイターに与えたダメージも少ない。

 何事もなかったのように闘真はドラゴエンペラーの峰を右肩に乗せ、相手の出方を窺う。相変わらず、挑戦的な笑みを浮かべたまま。

「アタックフェイズに入るぜ」

「なら、ブレイドウイングをセンターに[移動]だ!」

 ブレイドウイング:ライト→センター

 

 赤い翼竜は闘真を守るように不良の前にそびえ立つ。小柄な体躯故に迫力という迫力はないが、それでも気迫は満ち足りている。

「こっちはラプンツェルの効果を発動! ラプンツェルを選び、手札の『バトルウィザード ザ・ストレート』を捨てて、ラプンツェルの打撃力を+1! さらに捨てたストレートの効果で、ライフ1払ってゲージ+2だ!」

 不良の手札:5→4/ゲージ:2→4/ライフ:9→8

 センター:ラプンツェル/打撃2→3

 

「なるほど、打撃力を上げたか」

「まぁ、この状況なら自分の攻撃力上げたり、相手の防御力の下げたりするよりかは良いわな」

 二人は落ち着いて状況を分析。相手のカードがそこまで火力のあるものではないと把握しているが故に、そこまでは慌ててはいない。

 だが、ラプンツェルには[2回攻撃]がある為、油断はできないのは確かだ。これを如何に防ぐだろうか。

「ラプンツェルでブレイドウイングにアタック!」

 不良の指示でラプンツェルは右手を前へと突き出し魔法の詠唱をする。音や羅列はどの言語のものでもない不可思議なもので、理解しようとしても脳が拒絶。

 彼女の手元から魔法陣が浮かび上がり、どこからかエネルギーが収束していく。そして、詠唱を言い終えるか終わらないかのタイミングで光線が放たれた。

「【対抗】はねえ、そのまま破壊されるぜ」

 手札を一瞥した後に闘真は言う。覿面のブレイドウイングの背を見つめていた。

 ブレイドウイングは背中越しに闘真をチラリと見やった後、再び顔を前に向けて自身やファイターを守るように翼を交差させる。

 その結果、光線の軌道を逸らすことに成功するも自身は跡形もなく消し飛んだ。

 

 闘真のドロップ(武装騎竜の種類):2→3/センター:ブレイドウイング 撃破!

 

「ラプンツェルをもう一度スタンド! そして今度はファイターにアタックだ!」

 悲しみに暮れる暇も動揺する暇も与えないまま再度ラプンツェルは魔法を詠唱する。

 守るものがない闘真はドラゴエンペラーを盾のように構えて攻撃に備えた。笑顔を浮かべたまま。

 ラプンツェルの掌から光線が放たれた。

「このまま受ける! ドラゴエンペラーの能力で3点以上のダメージは1点減らす! ぐっ!」闘真のライフ:8→6

 しかし、ドラゴエンペラーの力で辛うじて光線の威力を弱める事に成功する。

 ドラゴエンペラーの刀身は光線を直に浴びた事により、高熱を発していた。

 その様子に不良は苦虫を噛み潰したような表情をして舌打ち。

「ターンエンドだ」

 不良の手札:4/ゲージ:4/ライフ:8/不良:シンフォニオン/センター:ラプンツェル

 

「俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:3→4

 

 引いたカードを見て、表情は歪めない。けれど、手札が厳しいことは明白だ。

 それでも楽しげに喉を鳴らし、闘真は手を打つ。

「行くぜ、ライトに『ドラムバンカー・ドラゴン“バリアブレイカー”』をゲージ2払ってコール! さらにレフトに『ブーメラン・ドラゴン』をコールだ!」

 闘真の手札:3→1/ゲージ:4→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト:ドラムバンカー・ドラゴン“バリアブレイカー”

 レフト:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻2000/防1000/打撃1

 ライト:ドラムバンカー・ドラゴン“バリアブレイカー”/サイズ2/攻6000/防1000/打撃3/[貫通]

 

「酷い手札だな……お前、今日かなり運悪いぞ?」

「へへっ、そういう日もある。だから、面白れぇんだろ」

「お前らしいな」

 場に出されたカードのみでザンバソードは闘真の手札を察する。だけど、それでも動じないのが闘真だ。

 彼は笑って流す。いつもと変わらないままで。

「ふん、そんなのただの構築ミスかプレミだろ。そんなちゃらんぽらんな姿勢で俺に勝とうなんざ百年早えんだよ」

 彼らの会話が耳に届いたのか、不良は呆れた様子で闘真を見つめて口に出す。双眸には侮蔑の色すらある。

 けれど、それで取り乱す闘真でない。彼の対応にも笑って返した。

「かもな。でも、さっきも言ったけどよ、最後まで何が起きるか分からねえだろ?」

「くだらない。“運”なんて要素を信じる奴なんて雑魚しかいねえよ」

「へへっ、それでも“運”で勝っちまったら、言い訳できねえよな」

 奇跡が起きるかは分からない。だが、ファイトは終わっていない限りはできる限りの事はする。

 闘真の瞳には揺るぎない信念が宿っていた。もちろん、楽しむ事だって忘れてはない。

「このままアタックフェイズに入るぜ!」

「【対抗】でラプンツェルの能力を使う。手札から『バトルウィザード・ザ・エース』を捨てて、ラプンツェルの攻撃力を-5000する代わりに防御力を+5000! さらにエースの能力でライフ1払って、カードを1枚ドロー!」

 不良の手札:4→3→4/ライフ:8→7/ドロップ(魔術師の種類):2→3

 センター:ラプンツェル/攻5000→0/防5000→10000

 

 ラプンツェルは青色の光に包まれると同時に眼前に強固な光の壁を出現させる。

 これにより生半可な攻撃は通じなくなった。――現状、闘真の場のカードでは単体での突破は不可能となったのだ。

 闘真も少し躊躇う……かと思いきや、躊躇なく宣言する。

「なら、俺達全員でラプンツェルでアタック! 全部で14000だから通るはずだぜ!」

 宣言と同時に闘真はブーメラン・ドラゴンを投げ飛ばし、ラプンツェルへ肉薄。ドラムも彼らに続いて突貫する。

「【対抗】でキャスト、『マジカルグッパイ』! ゲージ2払って、お前のライトにいるモンスターを手札に戻す!」

 不良の手札:4→3/ゲージ:4→2

 

 だが、ドラムの足元に魔法陣が浮かび上がり、驚嘆の声を上げる間もなくドラムは吸い込まれてしまう。

「このタイミングか……なるほどな! そのままドラムを手札に戻してD・R・システムの効果発動! 俺のゲージを+1だ!」

 闘真の手札:1→2/ゲージ:2→3/ライト:ドラム“バリアブレイカー”→なし

 

 ドラムはそのまま闘真の手札に戻る。それにより闘真とブーメラン・ドラゴンだけとなった為、突破は不可能と化す。

 だが、勢いは衰えずブーメラン・ドラゴンは光の障壁と激突する。

 傷は付けられないまま去ると続いて闘真が壁に向かって猛烈に剣を振るう。

 鈍い音が響き、火花が激しく散った。

 しかし、闘真の荒々しい剣撃もまた光の障壁に傷一つ付けられない。

 闘真はあらかた攻撃し終えるとさっさと自分のファイターエリアへと戻る。

「ブーメラン・ドラゴンを手札に戻す。D・R・システムの能力は1ターンに1回しか使えないから、発動しないぜ」

 闘真の手札:2→3

 

「俺のターンはこれで終わりだ」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:6/闘真:ドラゴエンペラー

 

「このターンで決めてやる。ドロー、チャージ&ドロー!」

 不良の手札:3→4/ゲージ:2→3

 

「キャスト、ナイスワン! ゲージ1払って、カード2枚ドロー! 続けてキャスト、ソロモンの鍵・上巻! ゲージを+2」

 不良の手札:4→3→5→4/ゲージ:3→2→4/ドロップ(魔術師の種類):3→4

 

 ふと不良の視線がドロップゾーンに向けられる。闘真もつられて彼のドロップゾーンを見つめる。

 ほんの数秒の間だが、彼が何を気にしているのか――闘真は察した。

 彼の目論見通り行けば、闘真は負ける。そんな未来を想像しても闘真はただ笑っているだけ。

 今度はどんな行動に出るのか楽しみで仕方ないのだ。

「シンフォニオンの能力を使う。シンフォニオンをレストして、お前にダメージ1!」

「受けるぜ。っ!」闘真のライフ:6→5

 再び放たれる緑色の光弾をドラゴエンペラーの刀身で受け止める。威力は低いものの確実に闘真を追い詰めていた。

 そんな状況でも楽しげに喉を鳴らす闘真。双眸にはまだ闘志が燃えている。

「……何で、そんなに笑ってられる?」

 どんな状態でも変わらずに笑い続けられる闘真に、不良は理解に苦しみ眉を顰めた。シンフォニオンを握る力が自然と強くなる。

「決まってんだろ、楽しいんだよ。このファイトが」

「こんな絶望的な状況がか? 頭おかしいんだろ」

「でもよ、ここから逆転できたら最高に燃えねえか? そういうところも醍醐味だろ?」

「ハッ、馬鹿を言え。そんな奇跡起きるわけない。雑魚は雑魚らしく泣いて跪けば良いんだよ」

 不良は鼻を鳴らし闘真の言葉を一蹴する。彼の瞳には対戦相手に対する敬意はなく、ただただ侮蔑の色を表しているだけ。

 だが、その瞳に気付かない闘真でもない。一瞬間後、彼は真剣な表情をして言う。

「お前さ、頭良いんだろ? んでもって、自分のレベルに釣り合わねえからって他人を馬鹿にして、その頭脳をひけらかしているだけじゃねえのか?」

 思いもよらない言葉に不良は鼻白み閉口してしまう。闘真の言葉はまだ続く。

「頭良いから、色んな戦略が組めるし、手も読める。けどよぉ、相手を理解しようとしねえの、勿体ないぜ」

「だから、何だ? まぐれ勝ちで喜ぶような奴を理解しようとする方がアホだろ。何にも考えてねえ脳無し馬鹿と付き合わされるのはうんざりなんだよ」

「お前が思っているほど、単純なものじゃないぜ? ……来いよ、お前が信じない奇跡を起こしてやる」

「けっ、言わせておけば……“運”頼りなアホに教え込んでやるよ! アタックフェイズ! ラプンツェルでファイターにアタック!」

 不良の指示にラプンツェルは小さく頷くと再び呪文を詠唱。今度は両の掌にそれぞれ一つずつ光の球が出現する。

 そして右手に持っている方を闘真の方へ投げつけた。光球は目に止まらぬ速さで飛来する。

「これも受ける! ぐぅっ!」闘真のライフ:5→3

 ドラゴエンペラーを盾にして防ぐ。先程よりも大きい衝撃が腕に伝わり、僅かに呻きを漏らした。

 だが、にやりと笑い覿面のラプンツェルを睨みつける。「もっと来いよ!」さらに口の端を獰猛に吊り上げた。

「言われなくても……! ラプンツェルでもう一度ファイターにアタック!」

「受けるぜ! ぐっ!」闘真のライフ:3→1

 ラプンツェルの左手から放たれた光球を再びドラゴエンペラーで受け止める。確実に疲労は溜まり、痺れも多少出てきた。

 けれど、闘真は目を逸らさず眼前にいるラプンツェル、彼女の後ろにいる不良を見つめている。笑みは変わらない。

「どうした? これで終わりか?」

 炯々と輝く暗い水色の双眸。どこまでも崩さない不敵な笑顔。――闘真はまだ諦めていないのだ。

 何故なら、ファイトがまだ終わっていない。ここから何があるのか分からないから、笑っていられる。

「安心しろ、次で終わらせる。ファイナルフェイズ、キャスト『ド・ガイダ・クラッシュナックル!』。 ゲージ3払って、相手にダメージ2!」

 不良の手札:4→3/ゲージ:4→1

 

 魔力がラプンツェルの右拳に集中する。空気が震え、木々が騒めき出した。

 小鳥たちが危機を感じて飛び立っていく様が散見される。

 やがて、魔力の充填が終わると「魔力の鉄拳、とくと味わいなさい! ド・ガイダ・クラッシュナックル!」ラプンツェルの掛け声と共に右拳が突き出された。

 彼女の魔力の鉄拳は何もかも打ち砕いて闘真の元へ迸る。そして彼を飲み込んだ。

 粉塵が煙立て、その先が見えなくなる。果たして――

「奇跡は起きたぜ」

 晴れた視界の先には不敵に笑う闘真の姿があった。手にはカードがあり、それを公開していた。

「D・R・システムの効果でD・R・システムをドロップゾーンに置いて、デッキの上から1枚をドロップゾーンに置く……んで、『ドラゴ・ポンド』を引いたから俺のライフは2になるぜ」

 闘真のライフ:1→0→2/設置:D・R・システム→なし

 

 D・R・システムのもう一つの能力をしていた事により、闘真は負けなかった。

 ただこの能力は、デッキの上からドロップゾーンに置いたカードが魔法でなければ復活する事ができない為、運要素が混じっている。

 引く可能性は低いとは言わないが高くもないのは了知の範疇内だろう。それでも引き寄せたのは、彼がそれを信じた――否、諦めなかった他ならない。

「さぁ、どうする? まだあんのか?」

「……ねえよ、ターンエンドだ」

 不良の手札:3/ゲージ:1/ライフ:8/不良:シンフォニオン/センター:ラプンツェル

 

「へへっ、俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:3→4/ゲージ:3→4

 

「Wピコピコハンマーをレフトにコール、そしてキャスト、『ドラゴニック・グリモ』! 手札を全て捨てて、カード3枚ドロー!」

 闘真の手札:4→3→0→3/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー

 

 再びピコピコハンマーを両手に持った小柄な竜が姿を現す。今にも飛び出さんとばかりの勢いで両腕を振り回し、気合が十分な様子が伝わってくる。

 そして闘真は手札に目を向けた。枚数は多くないものの、逆転への足がかりはある。

 隣にいるザンバソードを一瞥し、宣言する。

「待たせたな、相棒! 『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払って、ライトにバディコール! バディギフトで俺のライフを+1!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:4→1/ライフ:2→3/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー/ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン/サイズ3/攻10000/防6000/打撃3/[貫通]

 

「ようやく真打登場ってか……さてと、暴れさせてもらうぜ!」

 ザンバソードは傍らに突き刺していた大剣を引き抜き、モンスターエリアへ移動。

 いつ見ても赤い巨躯と身丈と同じぐらいの大剣が彼の存在感を際立たせ、幾千の死闘を潜り抜けた猛者特有の覇気も相まって非常に迫力があり、見る者を圧倒する。

 また瞳の奥からは力強い光が放たれ、闘志を煮え滾らせていた。

「アタックフェイズに入るぜ!」

「【対抗】でラプンツェルの能力を発動! バトルウィザード・ザ・ストレートを捨てて、このターン中のラプンツェルの攻撃力を-5000する代わりに防御力を+5000!」

 不良の手札:3→2

 センター:ラプンツェル/攻5000→0/防5000→10000

 

「さらにストレートの効果でこのカードが手札から捨てられた時、ライフ1払ってゲージ+2!」

 不良のゲージ:1→3/ライフ:8→7

 

 ラプンツェルの前には先程のターンでも闘真達の行く手を阻んだ光の障壁が現れた。生半可な攻撃では瓦解しないだろう。それ程に強固な壁だというのは、誰もが理解している。

 それでも闘真は不敵な笑みを消さない。さらに双眸が炯々と輝く――これからそれを突破しようという気概が見て取れる。

「へへっ、相棒頼むぜ! ザンバソードでセンターにアタックだ!」

「おうよ、一発かましてやるぜ!」

 ザンバソードは大剣を構え、即座にラプンツェルへ疾走。その巨躯と重量武器を持ち合わせたとは思えない程に身軽で鈍重という言葉からかけ離れていた。そして、剣を振り上げて一閃を奔らせる。

「キャスト、『チェレックス!』。ゲージ1払って、俺が次に受けるダメージを0に減らし、俺のライフを+1!」

 不良の手札:2→1/ライフ:7→8

 

「だが、俺の剣の前じゃ、ソウルガードは意味ないぜ!」

 切れ味という切れ味は全く持ってない得物だが、持ち前の重みで障壁が叩き壊され、さらにラプンツェルまでをも押しつぶす。美しい声音で奏でる断末魔が響き渡った。

 しかし、大剣から生み出された衝撃波は不良の元へ届く事なく、彼を守る風の壁によって掻き消される。

 

 不良のセンター:ラプンツェル 撃破!

 

「……ぐっ、そんな能力が……でも、それだけじゃ、俺を倒せないぜ」

 不愉快げに顔を歪めるものの現状から不良はまだ自分が有利だと信じていた。事実、この後の闘真とWピコピコハンマーの攻撃では完全に削りきれないのは火を見るよりも明らか。

 だが、それで止まる闘真でもない。「そんぐらい分かっているさ。でも、まだ終わっちゃいないぜ」にやりと笑い返す。

「Wピコピコハンマーでファイターにアタック!」

「受ける」不良のライフ:8→7

 大して威力がないように見えるWピコピコハンマーの打撃だが、これもまた立派なモンスターの攻撃。

 愛用のハンマーで不良を叩く度にピコッ、ピコッと可愛らしい音が耳朶を打つ。だが、そこまで相手にダメージを与えている様子はない。

「Wピコピコハンマーの能力を使うぜ! Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージ+1する!」

 闘真のゲージ:1→2/レフト:Wピコピコハンマー→なし

 

 元の位置に戻ったWピコピコハンマーは自分の主に似た不敵な笑みを浮かべ、闘真に向かってサムズアップして消失する。闘真もサムズアップで返し、見届けた後は両手でドラゴエンペラーの柄を握り直した。

「次は俺の番だ! ドラゴエンペラーでファイターにアタック!」

 相棒と負けず劣らずの軽快な動きで駛走し、不良へ肉薄する。その様はまさしく獲物を狩ろうとしている肉食獣そのものだ。

「チッ、これも受ける。ぐお!」不良のライフ:7→5

 持ち主の闘志に呼応してドラゴエンペラーの刀身が輝く。銀閃は確実に不良の胴を薙ぎ、彼の体を二つに分断したかのように知覚させる。

 当然ながら、与えられるのは衝撃だけで体は真っ二つにはならない。けれど、それを感じさせるのは十分すぎるもの。

 そして闘真はまだ止まらない。続けて、彼は宣言する。

「ファイナルフェイズ! キャスト、『竜撃奥義 デュアル・ムービングフォース』! ゲージ2払って、お前に2ダメージ与えて、俺のライフを+2だ!」

 闘真の手札:2→1/ゲージ:2→0/ライフ:3→5

 

 赤いオーラを全身に纏い、再び銀弧を閃かせる。力が漲ると同時に先程までの疲労が癒されるのを感じながら。

「そんな隠し玉持っていたのかよ、ぐわぁっ!」不良のライフ:5→3

 肩口から肉どころか骨すらも断ち切るぐらいの一閃が走り、確実に不良のライフを刈り取る。

 ダメージの総量は先程と変わらないが、受ける衝撃に耐えきれず不良は蹈鞴を踏んで後退った。瞳は侮蔑よりも動揺の色が灯り、揺れている。

 そんな彼の様子を認めながら闘真はファイターエリアに戻り、口の端を吊り上げて言う。

「俺のターンはこれで終わりだぜ」

 闘真の手札:1/ゲージ:0/ライフ:5/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ザンバソード

 

「……俺のターン、ドロー、チャージ&ドロー」

 不良の手札:1→2/ゲージ:3→4

 

 予測できなかった事態なのか不良が動揺しているのが目に見えて分かる。

 ――まさか、俺が“運”で負けるのか。そんな声すら聞こえてきそうだ。

「キャスト、ソロモンの鍵・下巻。俺のライフを+1、そして上巻がドロップゾーンにあるから、カード1枚ドロー」

 不良の手札:2→1→2/ライフ:3→4

 

 引いたカードを見て、負けを確信したのか見る見る内に不良は不機嫌な顔つきに変貌する。

「おいおい、何でそんな顔すんだよ?」

 不審に思った闘真は少し眉根を寄せ、不良へ問いかけた。「まだお前のターンだぞ?」真意を察したか察していないか、そのように声をかける。

「うるせぇ!! 俺は認めねぇ、認めねぇ!!」

 返ってきたのは否認の言葉。誰に対しての怒りか――それは理解できないが現実を受け入れたくない叫びである事は確かだ。

 静かに見守ってきたザンバソードが口を開く。「“運”で負けることがか?」穏やかな口調でさらに続ける。「それはお前の実力不足だから、起きた結果だな」冷静に紡がれた言葉は残酷な事実を告げた。

「俺の実力不足……? あり得ねぇ、“運”で勝とうなんて実力でも何でもねえだろ!」

「それでも“運も実力の内”と言うだろう? 勝利の女神って奴は、意地が悪い奴にしか微笑まねえんだよ」

 ザンバソードはかなり落ち着いた様子で諭す。「まぁ、女神は気まぐれだから、どうにもなんねぇ時はどうにもならないけどな」と軽い調子で笑い、付け足した。

「へへっ、だから何が起こるのか分かんねえから面白れぇんだよ。“運”だとか何だとかゴチャゴチャ考えるより、楽しんだもん勝ち……だぜ?」

 愉快げに喉を鳴らす闘真。実際、“運”がどうとかを小難しく考えずファイトしている彼だからこそ、掴めたのだろう。

 確かにファイトはデッキの構築やファイトの戦術で勝負が決まるかもしれない。だが、予想外というのはつきものだ。

 それを認めなかった不良は“運”に見放されてしまったのだと言えよう。

「……っ! シンフォニオンの能力を使って、シンフォニオンをレストして、お前にダメージ1」

「受けるぜ!」闘真のライフ:5→4

 緑色の光弾が疾駆するが今までよりも速度は出ておらず衝撃も軽い。まるでファイターの内心を表しているようだ。

「なぁ、そんな顔してもつまんねえだろ? もう開く直って笑った方が良いぞ?」

 もはや戦意はなく不貞腐れている不良に対して、闘真は笑ってたしなめる。これが彼でなければ、対戦相手は不快に思うのだから、当然と言えば当然の声かけだろう。

 それでも不良は応じず、不愉快げに眉を顰めてはそっぽを向く。言葉はもう届かない。

「……ターンエンド」

 不良の手札:2/ゲージ:4/ライフ:4/不良:シンフォニオン

 

「へへっ、俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:1→2/ゲージ:0→1

 

「俺もこのままアタックフェイズに入るぜ! ザンバソードでファイターにアタック!」

「さてと、フィナーレと行こうじゃねえか! おらぁぁぁ!!」

 そう言って突進するザンバソードは得物を不良に直接ぶつけず、一歩手前から大剣を振り下ろした衝撃波で攻撃する。

 大剣から生み出された衝撃波は音よりも速く、真っすぐに不良の元へ駆けて行く。

「……受ける。ぐっ!」不良のライフ:4→1

 身を守るものは何もなくただその身で受け止めるだけ。瞳はもう闘志を宿しておらず、先程の勢いなど微塵も感じさせない。

「ドラゴエンペラーでファイターにアタック! これでトドメだ!」

 間髪入れず闘真は地面を強く蹴り出して疾走する。そして片刃の大剣を再び不良の肩口に向かって振るった。

 躊躇とは疎遠な少年が繰り出す一閃に迷いはない。最後まで闘真は不良と目を合わせようとする。

「これも受ける。ぐぅっ!」不良のライフ:1→0

 だが、最後の最後まで不良は目を合わせなかった。言葉は虚しく響く。

 それでも無慈悲にドラゴエンペラーの刃は強く煌めきながら不良の体を断ち切り、ライフを消失させた。

 

WINNER:相楽闘真

 

 

 

 ファイトが終わった後、闘真は不良の方へ歩み寄る。「楽しかったぜ、ありがとうな」右手を差し出し、握手を求めた。

 だが、不良はそれに応じない。それどころか闘真の手を払い除け、拳を振り上げた。憤怒の形相で闘真を見下す。

 闘真は驚く事はせず、ただじっとそれを見つめる。むしろ、平然としていた。

 そのまま拳が振り下ろされ――ることはなかった。不良の腕を見知らぬ男が左手で掴み、止めていたのだ。

「いくら何でも、それは人として酷くないか?」

 青みがかった黒髪をツンツンとした感じで短めに整え、黄色の瞳は眼光鋭く不良を睨みつけている男性。

 決して怒っている訳ではないだろうが、彼が発する圧力に不良は気圧される。額に冷や汗すら見えているぐらいだ。

「どんなスポーツでも最後はお互いに握手するだろう? 違うか?」

 穏やかな口調で諭すが不良は反論する。「うるせぇよ! アンタには関係ねえだろ!」男性の手から腕を引き剥がそうとするが、強靭な膂力の前にビクともしない。それどころか男性が力を入れたのか痛がるばかり。

「互いの健闘も称え合えないなら、それこそファイターの恥だぞ」

 男性は声音は極めて落ち着ている。だが、不良の腕を掴んでいる手は力入っているらしく、骨が軋む音さえ聞こえてきそうだ。

 ようやく不良は諦め、離すように要求する。痛みに耐えきれず、このまま握り潰さそうな恐怖心に負けて。

 その事を察して男性は手を放す。「ほら、ちゃんと握手しろよ」相変わらず穏やかな口調で促す。

 しかし、不良は舌打ちした後に「覚えてろよ!」と闘真や男性に向かって捨て台詞を吐き、弟を連れて足早に立ち去った。

「すまない、助かった」

 ザンバソードが開口一番に礼を言う。ファイトが終わった為、既にSD化の状態に戻っている。

「別に構わないさ。汐のボーイフレンドを助けないとな」

「汐の?」

 闘真は訝しげに眉を顰める。目の前に現れた男性が汐と知り合いと思っておらず、疑惑の目を向けていた。

 先程の彼女の話からして、親しく話せる人物はいないと思っていたが……。

「師匠! 闘真君はボーイフレンドじゃないよ!」

 顔を真っ赤にしながら汐は反論し、彼らの元へ歩み寄る。手には闘真ののショルダーバックと自身が読んでいたハードカバーの本を抱えていた。

「……え? コイツとはそういう関係じゃなかったのか? お前と親しく話していたから、てっきり……」

「もう、違うってば! 闘真君は……何だろ?」

「少なくともてめえの友達ではねえな」

「いや、そこは友達だと言えよ。まぁ、どう形容してい良いのか分からない気持ちは分かるが」

 師匠と呼んだ男性に闘真をどう紹介しようと言葉に困る汐に助け舟とは言い難い闘真の言葉。

 ザンバソードがツッコミを入れるが、彼らの関係を簡単に言葉にできないのは確かなので、それ以上は言えない。

「ま、お前がどうであれ汐と親しくしているなら、問題ない。これからも頼むよ」

 穏やかに微笑む師匠。不良に向けていた鋭さはそこにはなく、あるのは温かみのある光だけ。

 珍しく穏やかな対応されたせいか、闘真は若干たじろぐ。「お、おう?」意図が読み取れず、返事もぎこちない。

「あ、俺は汐に師匠と呼ばれているが、ちゃんと名前があるんだぞ? 俺は切谷(きりたに)勇吾(ゆうご)って言うんだ。師匠が本名じゃないぞ?」

「いや、それが本名だったら驚くぞ」

 冷静な闘真のツッコミ。切谷という男の発言がわざとなのか素なのか掴みきれず、とにかく眉根を寄せてしまう。その為、元々鋭い目つきがさらに鋭さが増し、不機嫌に彼を睨みつけるような表情になっていた。

 それに気づいた汐に「闘真君、顔怖いよ」とたしなめられる。だが、直る気配が一向にない。

「その事で気になったのだが、汐は切谷の事を何で“師匠”って呼んでいるんだ?」

 二人を交互に見た後にザンバソードは汐に問いかける。名称から何を習っているのは分かるのだが、それが何なのか純粋に疑問を持ってしまったからしれない。

 汐はザンバソードの質問に嫌な顔一つせず、屈託のない笑顔で返す。

「それはね……師匠は剣道? ……剣術だっけ? そういうのを教えてくれるからだよ!」

「まぁ、汐の状況があれだったから、ちょっと放っておけなくてな。それに師匠って呼ばれているけど、俺は大した事ないぞ?」

 だが、先程の状況を鑑みると彼は相当の強さを内包していると言っても差し支えないだろう。そんな推察がザンバソードの中でよぎる。

 それは闘真も何となくだが感じ取っていた。彼から発していた圧力は街中で暴れているチンピラや不良とは違うものだと。もし切谷がバディファイターだったら一戦交えようと考えていたところだが、生憎デッキケースが見当たらない上にそれらしい“匂い”を感じない為、非常に残念な気持ちが胸の内から生まれる。

「それで師匠、今日は用事があるから来れないって言ってなかったっけ?」

 話が一段落したところで汐が新しい話題を切り出す。

 その問いに切谷は「あ、そういやそう言っていたな」と思い返して、言葉を続けた。

「思いの外、早く終わったから来れたんだ。そうしたら、あの現場だったんだよ」

「そうだったんだ。でも、師匠が来てくれて良かったよぉ~」

「確かにな。あの場で殴られたら、闘真も確実に殴り返していたからな」

「おい、人を何だと思っているんだよ?」

 相棒の軽口に睨みつける闘真。実際、殴られたら殴り返す男である事は周知だろう。その現場をザンバソードと汐は見ている。

「……あっ! 今用事を思いついた!」

 切谷は掌に鉄槌を軽く打ちつけて、アイディアが出た事を示す。まるでこの場から逃げる為の口実ような言い方だが、普段からこんな調子なのか汐は何事もないように尋ねる。

「何、師匠?」

「今から皆で神田明神に行こう!」

「あ?」

 突然の事で訳が分からず闘真は口悪く返してしまう。いよいよ彼の意図を読み取るのも馬鹿馬鹿しくなってきたと感じながら。

 ザンバソードも「どうして、神田明神なんだ?」と聞き返す。汐も頭に疑問符を浮かべていた。

「それは……行ってからの楽しみだ!」

 この時の切谷の笑顔は闘真達よりも年上なのに、同い年ぐらいの子供っぽく悪戯っ子のような笑みだった。

 

 それから闘真達は切谷に連れられるように神田明神に足を運んだ。各々、自分の荷物を持って。

 長い階段を乗り越えた先にお社。夏の日差しが照り付ける中、真っ先に文句を言いそうな闘真でさえ文句の言葉はなかった。それは恐らく汐の存在があってこそだろう。

 ぶっきらぼうだが彼女の話に付き合い、それからバディファイトの話になるとすぐに目を輝かせ語る。

 単純な彼の言動に汐は笑いながら相槌を打つ。傍から見れば、親しい仲に見えるだろう。

「よし、着いたぞ。……五円玉はあるか?」

「あ? 五円玉……? 十円じゃ駄目なのか?」

「馬鹿言え、“ご縁がありますように”って願う為に必要なんだぞ?」

「別に五円玉じゃなくても良いんよ。むしろ、一円玉の方がご利益があるかもしれへんよ?」

 賽銭箱の手前で熱弁する切谷と呆れている闘真の間を優しい声が割って入る。全員、声がした方に顔を向けるとそこには桔梗色の長い髪を一つにまとめ、巫女装束に身を包んだ少女が立っていた。

 少女の顔立ちからして十代後半から二十代前半といったところで、少なくとも闘真や汐よりは年上だと見受けられる。

 そんな少女は口の端を小さく緩やかに上げ、話を続ける。

「昔は白い幕とか白い紙に包んでお米を神様から奉納してたんよ。今年も良い実りになりましたって、感謝の気持ちを伝える為にね……だから、お願いするんやなくて感謝の気持ちを伝える為に白い硬貨の方がええんよ」

「へぇ~、そんな意味があったんですね。勉強になります!」

 目を輝かせて感動する汐。先程熱弁していた切谷も「そんな意味があったんだな……一円玉あったかな?」と感心しては早速自分の財布を開けて中を確認する。

 その中でただ一人、別の事に興味を向けていた。闘真は少女の顔に見覚えがあり、彼女の話を聞き流しながら思い出そうとする。

 ふと感じたのは、かつてバディファイトの大型大会で名を馳せた伝説的なバディファイトチームの一人に似ているなと。

 その人物はよく神社でバイトしていると噂されており、時たま参拝客を占っているという闘真にとってどうでも良い情報だったが、もしかしたら目の前にいる巫女は元メンバーかもしれない。

 予感を胸に秘めながら闘真はその人物の名を呼ぶ。――アンタ、東條(とうじょう)(のぞみ)だろ? と彼女を睨みつけて。

「およ? ふふっ、何でウチが“東條希”だと思うん? 人違いかもしれへんで?」

「勘で言っただけだから、本当にそうなのかは分かんねえよ。けど、アンタが“東條希”かどうか確かめる方法はあるぜ」

 不敵に笑い、腰に提げているデッキケースを少女の眼前へと突き出し、「俺とバディファイトしようぜ!」闘真は少女を見据えた。

 突然の展開に汐と切谷は困惑する。ザンバソードに至っては呆れてのため息を吐くばかりだ。

 だが、事と言うものはそんな簡単に通るものではない。闘真の鋭い眼光もものともせず少女は穏やかに笑い返す。

「ごめんなぁ~。ウチ、今デッキケース、家に置いて来ているんよ……タロットカードならあるんやけど」

「何でタロットカードがあるんだよ」

 予想もしない方向に返されたが故に闘真は思わずツッコミを入れてしまう。それは誰だって思うところだった。

 とんだ拍子抜け……強いファイターとファイトできると思った闘真にとっては落胆もの。

 しかし、少女は闘真の心中などお構いなしに話を続ける。

「まっ、でもウチが東條希って分かった事は褒めてあげる。今回は特別にタダで占ってあげるんよ」

「何で上から目線なんだよ……っつか、占いよりもファイトがしてえんだよ」

 二人のやりとりを他所に汐と切谷は首を傾げていた。「闘真君、その人知っているの?」汐が質問を投げかける。

「あ? 知っているのも何もコイツはファイターの中でも有名プレイヤーなんだよ。お前も“μ's(ミューズ)”の名前ぐらいは知ってんだろ?」

「うーん、聞いた事があるかもしれないけど、知らないかな……師匠は知っている?」

「俺も知らないな……そんな有名人なのに意外と間近で会えるのか」

 バディファイト界隈に疎い二人の反応は鈍い。世界的に有名なカードゲームで名を馳せているとはいえ、興味がない人間には中々耳に入らない情報だ。

 そんな彼らの反応に希は驚いたように目を見開くが、やがて元の落ち着いた表情に戻り、微笑んで言葉を紡ぐ。

「ウチらもそこそこ有名になったとは思ったやけど……まだまだ知らない人がおるんやね。世界って、狭いようで広いってよう分かるわ」

「……何かすまないな。知らなくて」

「ええんよ、それぐらい。むしろ、ちょっと新鮮やったから……せや、特別に占ってあげるんよ」

 有無を言わさず、どこからかタロットカードを取り出してカードを引く。占いの結果は――。

「うーん、ちょっと良からぬ事が起きそうやね……何か全部壊れそうな……でも、すぐに良い事がやってくるから、そこまで深く考えなくてもええかも」

 歯切れが悪い。占いに詳しくない闘真と汐は頭に疑問符を浮かべる。闘真に至っては眉根を寄せて、「つまり、どういう事だよ?」とぶっきらぼうに返していた。

 あまりハッキリしないのは闘真の好みではなく、今にも殴りかかりそうな雰囲気すらも醸し出している。

「まぁまぁ落ち着け。さて、占い師さんや、それは俺達三人の今後の運命って事だよな?」

 切谷は闘真をたしなめ、希を確認を取る。この時の彼の瞳には剣呑さを感じさせる程に歪んだ光が宿っていた。

 まるでその運命は自らが成し遂げるような意志が。それは対面している希以外は知らない。

「……そやね。三人の関係についてやね。正直、ウチからはこれ以上は言えない……かな」

「んだよ。自分から占うって言っておいて、それかよ?」

 胡乱げに闘真は希を見つめる。とは言いつつもあまり占い結果など興味はないので、そこまで苛立っている訳ではない。

 ハッキリとした事を言われなかったのは快くなかったが。

「うーん、意外と難しいんよ。何か複雑なものが絡んでいるとねぇ~」

 苦笑いを浮かべつつ希はタロットカードをしまう。「でも、全部壊れたとしても時間をかけながらゆっくりと直せば良いって事は確かだから……要は諦めなきゃ良いって事やね」とりあえず、今言える分だけは伝えておく。

「そうか、それは良い事を教えてもらったな。んじゃ、お礼に参拝するか!」

 そう言って切谷は賽銭箱に百円玉を放り込み、鐘を鳴らした後に二礼二拍手をし、手を合わせて黙想する。

 ほんの少しだけの沈黙が流れた後、一礼して闘真たちの元へ体を向けた。

「汐はお金持って来ているのか?」

「うん、一応あるよ!」

「そうか……本、預かるぞ?」

「ありがとう、師匠!」

 汐は切谷に本を預け、パーカーのポケットからコインケースを取り出す。そして一円玉を手に取り、賽銭箱に投げようとするがそこで手が止まる。「闘真君も一緒にやろうよ」何も行動していない闘真に声をかけた。

「あん? 別に俺は神様なんざに用事はねえよ」

「でも、神様に感謝すれば、もっと色んな人とバディファイトできるかもしれないよ?」

 ドっ直球な汐の返しに闘真は呻きを漏らす。彼にとって、これほどクリティカルな話はないだろう。

 別に神田明神はバディファイトの神様を祀っている訳ではないが、伝説的なバディファイトチーム“μ's”由縁の地。少なからず、その伝説にあやかって訪ねるファイターはいる。

 だからこそ、そういった縁はあると信じられている。それでも必ずしもご利益があるとは限らないが。

 とは言え、闘真からすれば様々なファイターと巡り会えるのは願ってもいない好機である為、少しでもチャンスは増やした方が良い。汐に手を引かれつつ彼も参拝する事となった。

 そして全員が参拝し終わった後、希に礼を言って神田明神を後に――しようと思ったら、切谷だけが彼女に呼び止められる。

「ちょっとこのお兄さん、借りるんけどええかな?」

「あ? 別に良いけど」

「私も大丈夫です……じゃ、師匠、下で待っているね」

 闘真たちは階段を降っていく。彼らの姿が見えなくなったのを見届けると二人は対面する。

 切谷は穏やかで落ち着いているが、希は訝しげに眉を顰め、先程打って変わって険しい表情を彼に向けていた。

「随分と怖い顔するな……俺が何かしたか?」

「せやね……今は何もしとらんけど、これから何かするから、かもしれへんね」

「これから何かをするか……またまた面白い冗談を言う」

 希の言葉に切谷は目を細める。先まで穏やかに笑っていた青年の面影はなく、酷く濁った眼光を煌めかせる猛獣の姿がそこにあった。口元も不敵に吊り上げる。

「……あの子達、特にあの女の子に近づかないで置いてくれへんか? あの子にとって、アンタは」

「良くないという事か? 構わないさ、それでも……俺はあの子を守る」

 あまりにも清々しい返答に希は鼻白む。目の前にいる男はどこか狂気を、いや狂気そのものような存在すら覚えた。

 黄色の双眸は何かが歪み壊れた破片を映し出し、それをさらに狂わせて淀んだ光を宿している。純粋とは何か――その言葉の定義など意味を成さないかのように。

「話は終わりかな? まっ、それでもご忠告ありがとう……心優しき占い師さん」

 いつの間にか先程と同じように穏やかに笑う青年の姿に戻っていた。

 変化に追いつけず希は喉元に言葉を詰まらせてしまう。ようやく言葉が口元に届く頃には切谷の背中を見つめるぐらいしかできなかった。

「アンタは一体何者なん……」

 希は彼らを占う際に引いたカードを再度取り出し見つめる。タロットカードは“死神”の正位置、それがこれからの彼らの運命を示していた。

 

 一方、闘真と汐は最下段に座り、切谷を待っていた。

「……つか、お前、そんなもん着て暑くねえのかよ?」

 と汐が羽織っているパーカーを指差す。薄手ではあるが炎天下の中で活動するには、しばし暑いだろう。

 ザンバソードもまた同じように思っていたらしく、「今日もそれなりに暑いぞ?」疑問を口にした。

 それでも彼女は近くの自動販売機で買った水を飲んだ後、苦笑いをして「私、こう見えて結構寒がりだから」と返す。それ以上は問わない。

「あ、そうだ。私ね、闘真に合ったら、渡そうって思っていたものがあるんだ」

 汐は切谷に返してもらった本を開いて、栞と一緒に挟んであったカードを取り出す。そして闘真に手渡した。

 手渡されたカードを見つめる闘真。ザンバソードも覗き込むように一緒に見る。

 カードは古びており、ところどころ傷があるがプレイする分には使えそうだ。

「『超竜剣 ドラゴデザイア』……効果は……」

 真剣に闘真はテキストを読む。やがて目を見開いて、にやりと笑う。「コイツは……使えるぜ。ありがとうな、汐」彼の口から出た言葉とは思えない言葉が彼らの耳に届く。

 ザンバソードも汐も目を丸くし、顔を見合わせては今聞こえた言葉が信じられないような表情で闘真を見つめた。

 当然、闘真からすれば快くないので口元をへの字にして、不機嫌そうに眉根を寄せる。

「んだよ、俺が何かおかしい事言ったか?」

 いつも通りの彼の表情に戻り、口調にも刺々しい。汐は首を横に振って否定する。

「ううん、そうじゃなくて……闘真君らしくないって言うか、闘真君にしては珍しいと言うか」

 目は泳ぎ、声は若干上擦っては出てくる言葉は誤魔化そうとしても誤魔化しきれていない。別に悪い事を言っている訳ではないが、相手が相手だけに言葉を選んでいる。だが、上手くはいっていない様子。

「ああん? どういう意味だよ?」

 さらに目つきは険しくなり、拳すら構えたりしている。もう一押しがあれば、確実に闘真は汐を殴っているだろう。

 ハッキリしないのは好きじゃないのもあるが、二人の反応には心外だという思いもある。怒気そのものはもう溢れていた。

「お前がそんな事を言うなんて思いもしなかったんだよ。まさか礼を言うなんてな」

 汐を庇うようにザンバソードが闘真の眼前に躍り出る。誤魔化しが利かない以上は、もう正直に話すしかない。

 当の闘真は「俺だって、それぐらい言うわ! 俺を何だと思ってんだよ!」と爆発させたが。

「いや、だって……闘真君、バディファイト以外でそういうの言わなさそうだから」

「人からカード貰ってんのに礼を言わねえファイターがどこにいんだよ!」

 この言葉で汐は気付く。自分が渡したカードはバディファイトのカード、つまりはバディファイトに関する事は大方真面目な態度を見せる闘真ならば、あり得ない対応ではないと。

 普段が普段なだけに耳を疑ってしまっていたが、冷静に考えたら何もおかしいところはないと納得した。

「……そうだね。闘真君の言う通りだ。お礼を言わない人はいないかも」

「だろ? はぁ……今ので、すげえ喉乾いた。お前の水、飲んで良いか?」

 本人の承諾なぞ取らないまま汐の傍らに置いてあるペットボトルを手に取り、闘真はそのまま蓋を開けて口付ける。

 呆気に取られた汐は口を開けたまま水を飲む闘真の姿を眺めていた。が、ある事実に気が付いては顔をみるみる内に赤くさせていく。

 ザンバソードですら予想もしていなかった事態で引き攣った笑みが顔に張り付き、喉からは乾いた笑い声しか出ない。

「流石に全部は飲まねえよ。ほら、返す……って、何でそんなに顔赤いんだ?」

 飲み終わった闘真は蓋を閉めて返すが、汐が赤面している理由に気付かず首を傾げた。中身は彼の言う通り、それなりに残っている。だが、問題はそこじゃない。

「お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」

「あ? 汐の水を飲んだだけだぞ? 何か問題あるのか?」

「問題大有りだよ!」

 相棒に言われても意図が読めない為、闘真はますます眉間に皺を作り、頭に浮かばせている疑問符の数を増やす。

 友人同士の回し飲みとしか認識していない故に、彼らの意識とは齟齬があった。要は異性として認めているか否かの問題であり、その認識が疎い闘真にとって最も縁遠い話である。

 仮にも友人とはいえ、汐自体は闘真を異性と見ているし、彼女も彼女で年頃の女の子……恋愛的に好きかはともかく、そういった経験には繊細だ。本の中でしかない経験だろうと思っていた出来事がたった今起きたのだから、脳は処理しきれず恥じらいの感情が爆発したのだ。

 彼女の心中など察せられない闘真からすれば、当分分からない事であるには間違いないのだが。彼はただひたすらに何が悪かったのかのかをザンバソードや汐に投げかけるだけ。

「いやぁ~、青春って良いな」

 背後から声がした。全員が後ろを振り向くと切谷が笑顔で見つめていた。「いつからそこにいたんだよ?」闘真は眉根を寄せたままぶっきらぼうに訊く。

「そうだな……君が汐の水を飲んでいたところからかな? まぁ、近くにいたのはって事だけど」

 それを聞いた時には汐は大慌てに手を動かす。「それだったら声かけても良かったじゃないですか!」早口に言葉が紡がれる。

 切谷はその言葉を聞いて笑う。実に目の前で起きた事を楽しむように。

「すまん、すまん。何か邪魔したくなくってな」

「まぁ、気持ちは分かる」

 彼の言葉にザンバソードが同意する。だが、些か気難しい顔をしていた。気が抜けいていたとはいえ、幾多の戦いを戦士たるザンバソードが近づく切谷の気配を感じ取れなかった事に対して、少しばかりの疑念があるように見えた。

 けれど、それは一瞬で次の瞬間には苦笑いを浮かべて話を続ける。

「歳を取るというのはこういう事なんだな……」

「ああ、俺達おじさん組には眩しすぎたな」

「って、師匠はそこまで歳取ってないでしょ? 確か、二十六ぐらいじゃなかったけ?」

「汐……それでもお前とは一回り歳の差があるんだよ……」

 無邪気な一言に切谷は凹み、項垂れた。ザンバソードは愉快げに喉を鳴らし、特に年齢には興味ない闘真は無関心に切谷を見つめる。

「なぁ、次どこ行くか決めてんのか?」

 それどころか闘真は次の話題を放り込む。だが、これが幸いしてか元々切り替えの早い人物なのか定かではないが、切谷はすぐに顔を上げた。

「決めていないな……どうせならアキバドームとかに行くか」

「何で、そこに?」

「そりゃ、彼の……えっとバディファイトの有名な場所だからかな?」

「アンタでもそこは知ってたのか、いや地元の人間だから知らない訳ねえか」

 少し驚くが思い直す闘真。少なくともアキバドームはバディファイト以外にも様々なイベントで使われる会場である為、近場に住んでいる人たちには馴染み深いだろう。

 ――実のところ、闘真はアキバドームに行った事がなかった。目指してはいたものの極度の方向音痴のせいで、その付近にすら辿り着いた事がなく、あちらこちらを彷徨い歩いていたのだ。無論、彼自身がこの事を認知している訳がない。

 何がともあれ、闘真達は再び歩き出した。しかし、そこで思わぬ出来事に遭遇しようとは……その時の彼らは知る由もない。

 

「ここがアキバドームか……でけぇな」

 眼前の建物を見つめて闘真は呟く。それもそのはず、高校野球で目指す場所と言えば甲子園と言うように、アキバドームもまたバディファイター達にとって聖地のようなものだ。

 バディファイトのイベント会場にも使われるドーム型の施設――アキバドーム。周辺に人はいるが野球の試合も他のイベントもない為、そこまで多くない。

 一人のファイターとして闘真もまた例外なく目を輝かせる。ここで行われる大型大会はバディファイト界隈では一大イベントなのだから。対象が高校生のみなので、現在中学生である闘真は参加できない。

 しかし、ここでいつか自分もファイトしたいという夢は抱くものだ。ここならば、“強いファイター”とファイトできると。

「デカイよな。こんな馬鹿デカイ場所で野球やら何やらやるんだから、さぞ気持ち良いんだろうよ」

 切谷もアキバドームの大きさを口にしながらも内部で行われるイベントを想像する。思い出を馳せているのか、どこか懐かしむような表情で眺めていた。

「ここでバディファイトの試合をするんだよね? ……いつか闘真君の応援に行きたいな」

「あん? 何を言いやがるんだ。てめえは今から教わるんだろ? なら、一緒に出るぞ」

「あはは、そうだね。でも、私にチームメイトとかできるのかな……?」

「いなきゃ、俺が組んでやる。んな事より、今はルールからだろ」

 少し思い出に浸っている切谷を他所に闘真と汐はその先の話をする。今からでもルールを教えたい闘真はどこか落ち着ける場所がないかと辺りを見回した。

 ベンチが何ヵ所かに分かれて設置してあり、誰も座っていない場所があった為、そこで少し話をしようと考えた。

 しかし、その考えはすぐ消し飛ぶ事になる。――何気なく歩いている青みがかった黒のロングヘアの少女に狙いを定めたからだ。

 すぐさま不敵な笑みを浮かべ、闘真は少女の元へ歩み寄る。その様子に汐は困惑しながらも後を付いていく。

 改めて少女を見ると左腕の肘から先がなく、長い袖がただ風に煽られていた。しかし、闘真は気にしない。

「おい、お前バディファイターだろ?」

 腰のアタッチメントを外し、デッキケースを少女の眼前に差し出す。「俺とファイトだ!」決まり文句を言い放ち、挑戦的な笑みと闘志を宿した双眸を彼女へ向けた。

 何故、少女がバディファイターだと思ったか――それは彼自身の勘というものだ。野生の勘かファイターとしての闘争本能かは定かではないが。

 しかし、少女の応答は薄い。闘真に呆れている訳ではなく、そもそも感情の波が希薄というよりは何かに支配されている感じだった。

 それを感じ取ったザンバソードは闘真に呼びかける。「気を付けろ、コイツ……この間の奴と似た臭いを感じる」彼女から発せられる禍々しい雰囲気に覚えがあった。

 汐も少女の禍々しいオーラを感じると不安そうな表情の顔で闘真を見つめる。この人とファイトしない方が良いとさえ言いそうだ。

 けれど、当の闘真は止まる訳がない。にやりと笑って言う。「んな事よりファイトしようぜ」目の前にいるファイターとどんなファイトが繰り広げられるのか、楽しみでしかないのだ。

「……あなたが誰なのかは分からないけど、探している人ではないのは確かね」

 ようやく少女が口を開く。言っている事は闘真達と関係あるようでないように聞こえる。

 事実、闘真は思い当たる節がない為、眉を訝しげに顰めるしかなかった。汐も首を傾げて、疑問符を浮かべている。

 だが、二人の反応など解せず少女は話を続けた。

「でも、ファイトは受けるわ。やりましょう」

「そうこなくっちゃな! 相棒、やるぜ!」

「おいおい、良いのかよ? ……また危ないファイトになるかもしれないぞ?」

 数日前のファイトの事を思い出しているのだろう。ザンバソードの表情はかなり苦々しいものとなっていた。

「そんなの関係ねえよ。せっかく受けてくれるのに断るのはファイターが廃るってもんだぜ」

 相棒の意を察しているのか察していないのか闘真は自分の欲望を優先する。覿面の少女がどんなファイターなのか、どんなファイトを好むのか……興味があるのはそこだけ。

 ファイター二人は人がいない事を確認する。そして闘真は汐に荷物を預けてファイトスペースで少女と対面。彼は不敵に笑い、少女は緊張した面持ちで相対する。

「何か、いつの間にか凄い事になっているな」

「ふぇっ!? 師匠、いつの間に!?」

 闘真達からやや離れた場所に汐と切谷が並び立つ。先程の会話に参加していない切谷が突然傍らに立っていた事に汐は驚いた。

「ついさっきだな。まっ、それよりファイトが始まるようだぞ」

 切谷に促されて汐は視線を闘真達の方へ戻す。そして、戦いの幕が切って落とされた。

 

 

「闘う為なら神も闇へと染まり、力を得る……! ルミナイズ、『プロエリウム・ウォルンタース』!」

「俺の全力を以って、お前の心の声を聞く! ルミナイズ、『ファイト・オブ・デュオローグ』!!」

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

「エンシェントワールド!」

 少女の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:武神竜王 デュエルズィーガー

「ドラゴンワールド!」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 

「私が先攻をもらうわ! チャージ&ドロー!」

 少女の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

「まずはキャスト、『天竜開闢』! ライフ2払って、カードを2枚ドロー!」

 少女の手札:6→5→7/ライフ:10→8

 

 少女は手始めに手札を増やす。手札を見つめる瞳は恐怖と歓喜が入り混じった複雑な色をしていた。

 

――――――――

 

「え? ライフ、自分で減らしちゃったよ!?」

 汐はライフを自ら減らした少女の行為に酷く驚いた。

 勝敗に直接関係するライフを自ら減らす行為は傍から見れば、自殺行為に見えるのだろう。

「だが、手札が増えた。しかも、あの中に回復手段があれば、払った代償はチャラになるな」

 切谷の言う通り、時としてそれを削る事により大きな利益を得る事もあるし、リカバリーするカードがあれば代償は軽くなる。彼女が最初に使ったカードはまさしくそういった効果を持つカードだ。

「なるほど……そんなカードもあるんだ……」

 感心の言葉を吐き、汐は再びファイトへと意識を向ける。

 

――――――――

 

「続いてキャスト、『竜王伝』! ゲージを1枚増やして。ライフを1回復し、1ドロー!」

 少女の手札:7→6→7/ゲージ:3→4/ライフ:8→9

 

「順当な手だな」

「だな。んでもって、何が出てくるのか楽しみだぜ!」

 少女が出した札を見てザンバソードと闘真は言葉を交わす。

 ザンバソードは少女からこの間の少年と雰囲気が似ていると感じており、全く気にしない相棒に少しため息をついた。

 結局、いつもと変わらず楽しそうにファイトしているなと。そこが彼の良いところでもあるとも。

 

「最初から行くわよ! 『武神竜王 デュエルズィーガー』をゲージ3払い、手札から《ドラゴンロード》2枚をソウルインしてセンターにバディコール! バディギフトでライフ+1するわ!」

 少女の手札:7→4/ゲージ:4→1/ライフ:9→10/センター:武神竜王 デュエルズィーガー(ソウル:2)

 センター:武神竜王 デュエルズィーガー/サイズ3/攻防7000/打撃2/[2回攻撃]/[ソウルガード]/[ライフリンク5]

 

 神々しさ溢れる赤い竜が少女を守るかの様にそびえ立つ。幾度の死闘を乗り越えた武神が眼前にいる相手を睨み付ける。

「いきなり大型モンスターの登場か……ゲージは平気なのか?」

「初っ端からコイツを出すって事は問題ねえって事だろ? それにしてもいつ見てもデケェよな、デュエルズィーガーは」

 闘真達はデュエルズィーガーの有無を言わさぬ迫力を前にしても己のペースで会話をする。

 特に闘真は感嘆の言葉を呑気に吐いては強者を目の前にして口元を獰猛に吊り上げる。闘争心がさらに燃え上がり、好奇心が溢れ出ている証拠だ。

 彼女がどんなファイターなのか……それを今から感じられるのが楽しみで仕方がない。

「余裕ね……羨ましい限りだわ……」

 少女は闘真の様子を見て、羨望の言葉を呟いた。誰にも聞こえない呟きだが、彼女が本心が少し漏れ出している。内なる恐怖と戦い、余裕がない自分が。

 しかし、そんな事は気にしてはいられないと少女は気持ちを切り換えて、プレイを続行する。

「まだこれで終わらない……キャスト、『竜枯盛衰』! ライフ2払って、ゲージを+4!」

 少女の手札:4→3/ゲージ:1→5/ライフ:10→8

 

 少女はライフを再び払い、枯渇寸前だったゲージを増やす。これで問題は解決された。

「なるほど、持っていたんだな、そのカードを……へへっ、面白くなってきたぜ!」

「このままアタックフェイズに入るわ! デュエルズィーガーでファイターにアタック!」

 少女は宣言するとデュエルズィーガーは高らかに吠え、そのまま真っ直ぐ闘真の元へと駆け寄り右拳を突き出す。

「受けるぜ! ぐおっ!」闘真のライフ:10→8

 障害も何もなくデュエルズィーガーの右拳は闘真を捉え、そのまま突き飛ばした。武の神を名乗っているだけの威力が闘真の体に伝わる。

「闘真君!」

 汐の悲痛な叫びを耳にしながら闘真は背中から地面に叩き付けれられた。デュエルズィーガーの拳は今までの受けたものより重みがあり、痛みが走る。しかし、彼は苦悶の表情を一つ浮かべず立ち上がった。

「闘真君、大丈夫!?」

「問題ねえよ、こんなの! むしろ、これからだぜ……よく見とけよ!」

 闘真は汐の心配をよそに自分が元いた場所へと戻る。その瞳は常に対戦者へと向けられていた。

 視線を向けられた少女はバディが戻って来たのを認めると次の行動を宣言する。

「デュエルズィーガーは[2回攻撃]持ちだからスタンドするけど、私は先攻……だから、ターンエンドよ」

 少女の手札:3/ゲージ:5/ライフ:8/センター:デュエルズィーガー

 

「っしゃ! 俺のターン、行くぜ! ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:6→7/ゲージ:2→3

「レフトに『ブレイドウイング・ドラゴン』、センターに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』、ライトに『ジャハマダル・ドラゴン』をコールだ!」

 闘真の手札:7→4/レフト:ブレイドウイング・ドラゴン/センター:Wピコピコハンマー・ドラゴン/ライト:ジャハマダル・ドラゴン

 レフト:ブレイドウイング・ドラゴン/サイズ1/攻防2000/打撃2/[移動]

 センター:Wピコピコハンマー・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 ライト:ジャハマダル・ドラゴン/サイズ2/攻8000/防4000/打撃2

 

 彼の目の前には両手にピコピコハンマーを持った青い小柄な竜が、武神竜王の威圧に負けじと堂々とした立ち姿で現れる。覇気……というものはないもののそれでも頼りがいがある強さを発していた。

 その両隣には赤い翼竜と両腕にジャハマダルという特殊な剣を装備している緑色の竜が並び立つ。彼らも気圧される事なく、ただ目先の巨大な相手を倒さんとばかりに闘志を滾らせている。

「そして、『竜王剣 ドラゴエンペラー』をゲージ1とライフ1払って装備するぜ!」

 闘真の手札:4→3/ゲージ:3→2/ライフ:8→7/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/レフト:ブレイドウイング/センター:Wピコピコハンマー/ライト:ジャハマダル

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2

 

 闘真はカードから現出した片刃の剣を両手で握る。彼の闘気に応えるかように刃が輝きを増し、さらなる闘志の昂りを促していた。

 

――――――――

 

「ん? 何でアイツ、アイテムを装備したんだ?」

「どうしたの、師匠? 闘真君の動き、何か変なの?」

「ああ、変というか……明らかにおかしな状態である事は確かだな」

「えっと、それってどういう意味?」

 まだルールを覚えていない汐は切谷が疑問に思った箇所が理解できず聞き返した。ただ何となく闘真の眼前にいる青い竜と闘真が持っているアイテムが関係しているというのは分かるが。

「普通は自分のセンターにモンスターを置いたら、自分の味方を背中から斬っちまう事になるからアイテム持っても攻撃できないんだよ」

「そうなんだ……でも、大丈夫だと思うよ。闘真君にきっと考えがあるはずだから」

 切谷が解説してくれた事により汐はルールをようやく理解するが、これより前に行った一戦であのカードがどんな動きをするのか分かっている為、心配には及ばないとなだめる。

「そりゃそうだろうけどよ……」

 センターが空いていないのに何故アイテムを装備したのか……闘真がどういう能力のカードを持っているのかを把握していない切谷は心配そうに彼のプレイングを見つめるばかり。

 

―――――――――

 

 二人の視線は気にせず闘真は手を進める。

「行くぜ、アタックフェイズだ! ジャハマダルとWピコピコハンマーでデュエルズィーガーに連携アタック!」

 彼の命令に従い、ジャハマダルとWピコピコハンマーがデュエルズィーガーに襲いかかる。

「……ソウルガードを使うわ」

 少女のセンター:デュエルズィーガー(ソウル:2→1)

 

 少女は手札を確認し考慮した上で攻撃をそのまま受ける事を選択。

 その結果、デュエルズィーガーはジャハマダルの強烈な一突きで怯み、Wピコピコハンマーのピコピコハンマーにより一度は倒される。だが、その程度では倒し切れる訳がなく、武神竜王は何事もなく立ち上がり次の攻撃を待っていた。

「んで、Wピコピコハンマーの能力を発動! Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージ+1!」

「オイラの真骨頂だ!」

 闘真のゲージ:2→3/センター:Wピコピコハンマー→なし/ドロップ(武装騎竜の種類):0→1

 

 Wピコピコハンマーは力強く叫ぶと消滅する。その代わりに闘真のデッキの上から1枚がゲージに置かれた。

 そして、センターにいたWピコピコハンマーはいなくなった事により、闘真が攻撃に参加できる状態となる。

 

――――――――

 

「なるほど、あのカードにはそんな能力が……」

「うん、そうだよ。だから、大丈夫だって言ったじゃん!」

 汐はそう言って屈託のない笑みを切谷に向ける。切谷もつられるように口角を上げる。

「そうだな。心配に及ばなかったな」

「だけど……」

 今度は汐が不安そう表情を浮かべる。このターンの後にまたあの攻撃が闘真に襲いかかるかと思うと一刻も早く止めたい気分だ。しかし、止める術を持たない彼女はただ見つめる事しかできない。

「まぁ、大丈夫だろ? そこは信じてやろうぜ?」

 汐の心中を察した切谷は彼女の頭を優しく撫でながら諭し、彼女と共に再びファイトへと視線を戻した。

 

――――――――

 

「次は俺とブレイドウイングでセンターに連携アタックだ!」

 闘真はブレイドウイングと共にデュエルズィーガーに突撃。ブレイドウイングとドラゴエンペラーの刃が武神竜王の魂を刈り取らんとばかりに激しい斬撃が繰り出される。

 しかし、もう一度簡単に倒される武の神ではない。

「そう何度もやられないわ! キャスト、『竜神無頼』! このバトル中、攻撃力と防御力を+3000して、ブレイドウイングに反撃よ!」

 少女の手札:3→2

 センター:デュエルズィーガー/攻防7000→攻防10000

 

 淡い光がデュエルズィーガーを包み、筋肉が膨張し力を得た事を証明する。そして、闘真達の攻撃を弾き飛ばし巨木のように太くなった腕に鋼のような硬い拳が唸りを上げて突き出された。

 ブレイドウイングはその拳にあっけなく体を貫かれ消滅する。

 

 闘真のレフト:ブレイドウイング 撃破!

 ドロップ(武装騎竜の種類):1→2

 

「おいおい、防御手段がいきなり減ったぞ?」

 ザンバソードはブレイドウイングが破壊された事に苦い顔を浮かべた。防御札の消費を抑える為に必要なモンスターだったのだが、それがいきなり破壊されれば少しばかり頬を歪めても仕方がない。

 しかし、闘真は気にも留めず強気な言葉を吐く。

「へっ、こんぐらい問題ねぇ! もう1ターンぐらい防いでみせるぜ!」

「頼もしい限りだな……本当に頼むぞ」

 ザンバソードの言葉に闘真は不敵な笑みで頷く。むしろこの状況だからこそ防がなければならない。

 大してピンチである事はないかもしれないが、手札を激しく消費してしまえば次に繋げる事はできないのは明白。

 ただ幸いライフはまだある方だ、まだどうにかなるはずだと闘真は見立てる。相手の出方次第というのもあるが。

「ファイナルフェイズは飛ばして、俺のターンはこれで終わりだ!」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:7/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ジャハマダル・ドラゴン

 

「ターンもらうわ……ドロー、チャージ&ドロー!」

 少女の手札:2→3/ゲージ:5→6

 

「キャスト、天竜開闢! ライフ2払って、カードを2ドロー!」

 少女の手札:3→2→4/ライフ:8→6

 

 少女は躊躇いは一切見せずライフを代償にして利益を得る。彼女の場合はデュエルズィーガーが倒されない限り、意外とライフ運用には余裕がある。

 効果ダメージを主軸としたデッキが相手であれば、このような選択はしなかったと思うが、幸い闘真のデッキはそういったデッキではない。

 だから、積極的にライフをコストに使う事ができるのだ。

「私も後ろで突っ立っている訳ではいかないし、飛ばして行くわよ! 『爆散甲 エンマ』をゲージ2払って装備!」

 少女の手札:4→3/ゲージ:6→4/少女:爆散甲 エンマ/センター:デュエルズィーガー

 少女:爆散甲 エンマ/攻5000/打撃2

 

 少女の右手には爆散という単語が示す通り、燃えているようなデザインの手甲が装備されている。ただ左手には装備されていない為、重心が右に傾く。

 それでも少女は気にせず構え、闘真を睨みつけた。

 

――――――――

 

 一方で観戦していた切谷はまた難色を示していた。

「あっちもセンターがいるのにアイテム装備したな」

「闘真君みたいにセンターのモンスターが動くんじゃないの?」

「そいつはどうかな……さっきはモンスターをドロップゾーンに置く事でセンターを空けたが、あの大型モンスターだとそれは考えにくい」

「多分、さっきまでいた闘真君のところの赤いドラゴンみたいに場所を移すんだと思う……?」

 汐は推測を口にする。先の一戦で見せた闘真の戦法を思い浮かべてみたが、実際その能力を持っているかどうか分からないから疑問形となってしまった。

「うーん、その赤い竜がどういう能力を持っているのか分からないからな……どうなるんだろうな?」

 二人はその答えを少女へと求める。

 

――――――――

 

「このままアタックフェイズに入るわ! まず爆散甲エンマでファイターにアタック! 爆散甲エンマは私のセンターにサイズ3のモンスターがいても攻撃できて……なおかつこのカード1枚で攻撃しているなら無効化されない!」

 と言って、少女は武神の背中を借りて飛び上がり、上空から右拳を叩き付ける。

 闘真はその少女の攻撃に合わせて、ドラゴエンペラーを頭上へ掲げて盾として構えた。

「へへっ、上等だぜ! 受け止めてやらぁ!!」闘真のライフ:7→5

 金属と金属がぶつかり合った事により甲高い音が響き渡る。闘真の腕には少女の体重分と上空からの落下スピードを合わせた衝撃が伝わった。

 骨が軋む音が聞こえ、痛みや痺れで腕が悲鳴を上げるものの苦しげな唸り声を上げては歯を食いしばって耐える。

 しかし、それでも口元は吊り上げたままで少女から視線を外さない。

 少女の瞳には恐怖の色が見え隠れするが、それ以上に歓喜や楽しさが上回っている事が認められる。

 楽しんでいるなぁ……強えなぁ……と闘真はさらに笑顔となり、相手の攻撃を弾き返した。 

 どういう形であれ、強いファイターと対戦できるのは願ってもみない好機。とことん楽しまなければ、意味がないだろう。

「さぁ、次だ! もっと来やがれ!」

 そう煽り立てる闘真。それに応じてかドラゴエンペラーもさらに輝きを増す。

「言われなくとも……デュエルズィーガーでファイターにアタック!」

 デュエルズィーガーは勢いよく飛び出し右腕を振り上げ、闘真に向かって鋭く振り下ろした。

 風を切り、唸りを上げた拳……直撃すれば、ひとたまりもないだろう。

「キャスト、『ドラゴンシールド 青竜の盾』! その攻撃を無効化して、俺のゲージを+1だ!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:3→4

 

 武神の鉄拳は青い竜の頭部をモチーフにした盾と衝突し、鈍い音を響かせる。

 盾は砕けなかったものの拳の威力は計り知れないものだと証明しているようにも聞こえた。だが、武神は止まらない。

「なら、デュエルズィーガーをもう一回スタンドさせて、今度はライトのジャハマダルに攻撃よ!」

 少女に指示に合わせて、デュエルズィーガーは標的を変更した。

 両腕に名前の由来元であるジャハマダルを装備した緑竜に対し、先程と同じように拳を振り下ろす。

「【対抗】はねぇ……破壊されるぜ」

 闘真の一言により、ジャハマダルの運命は決まった。その身で武神の一撃を受け、破壊される。

 

 闘真のライト:ジャハマダル 撃破!

 ドロップ(武装騎竜の種類):2→3

 

「これで私のターンは終了よ」

 少女が言い終わると同時にデュエルズィーガーは彼女を守るかのように立ちはだかった。

 

 少女の手札:3/ゲージ:4/ライフ:6/少女:爆散甲 エンマ/センター:デュエルズィーガー

 

「へへっ、大分やべえな……ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:4→5

 

「全くだ……今のでかなりライフ削られたからな。手札もないし、手立てはあるのか?」

 相棒に問われ、闘真は状況を確認する。手札もライフもギリギリな状況……しかし、闘志は消え失せる事なく燃え続け、笑みを絶やさない。

「へへっ、あるに決まってんだろ……お楽しみはこれからだぜ!」

「だろうな。頼むぞ、闘真」

「任せとけって……キャスト、『D・Rシステム』を設置! そして、『ブーメラン・ドラゴン』をライトにコールだ!」

 闘真の手札:3→1/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ブーメラン・ドラゴン/設置:D・Rシステム

 闘真のライト:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 

 闘真のライトにはブーメランに似た形をしている竜が現れる。「ブーメラン、ぶった斬る」と言葉を発しながら、その時を待っているかように闘気を滾らせていた。

「まだまだこれで終わらねえぜ、キャスト『ドラゴニック・グリモ』! 俺の手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

 

 ここで相棒を引かなければ敗色が濃くなるなと思いながら、デッキからカードを3枚引く。その中には望んでいた1枚が含まれていた。

「へへっ、相棒……出番だぜ! 『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払って、レフトにバディコールだ!」

「待ちくたびれたぜ! 神だろうが竜王だろうが、叩き潰してやる!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:5→2/ライフ:5→6

 闘真のレフト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン/サイズ3/攻10000/防6000/打撃3/[貫通]

 

 開始からずっと隣にいたザンバソードが闘真の左手前へと出る。人より大きい体躯とその身丈の程の大きさを誇る大剣が、デュエルズィーガーにも負けず劣らずの存在感を放つ。

 デュエルズィーガー程ではないものの彼もまた幾多の死闘を乗り越えたもの……武神を前にしても不敵な笑みと激しい闘争心は消えない。

「っし、アタックフェイズ入るぜ!」

「なら、キャスト『臥竜嘗胆』! 次受けるダメージを3減らすわ!」少女の手札:3→2

 ザンバソードの能力に警戒したのか、少女はダメージを減らす能力のカードを使用する。これならば、[貫通]によるダメージは軽減できる……丁度減らせる上限とザンバソードの打撃力が一緒の為、実質ダメージはない。

 しかし、その魔法を使われた瞬間、闘真の中で違和感が芽生える。おかしくはない判断だと思うが、それは少女のスタイルと違う気がした。

 センターを無視するモンスターやアイテム対策に入れているだろうし、デュエルズィーガーにある奥の手を使う際に[貫通]によるダメージは避けたいだろう。

 闘真は何でこんなところに引っかかっているのか分からないまま次の行動を言う。

「マジか……そんでも、相棒頼むぜ! ザンバソードでデュエルズィーガーにアタックだ!」

「任しとけ、叩き潰してやる!」

 ザンバソードは肉薄し、その大剣を振るう。彼の並外れた膂力により繰り出される一閃は、重量武器を扱っているとは思えない程に軽やか。しかし、その重みは本物だ。

「ソウルガー」

「させねえよ! 俺だけで攻撃している時は、俺とバトルしているモンスターの能力は全て無効化するんだッ!」

「でしょうね……そんな気がしていたわ。破壊されるわね」

 少女は現実を冷静に受け止め、結末をじっと見つめる。双眸に密かな後悔と恐怖の色を織り交ぜながら。

 その瞳に気づいた闘真は違和感が確信へと変わる。やはり、これは本来の彼女のスタイルではないと……何かに恐れ逃げているだと。

 闘真と少女の視線をよそにザンバソードとデュエルズィーガーは激しく競り合う。ザンバソードの猛烈な剣撃を前にデュエルズィーガーは巨大な体に見合わない軽々しい身のこなしで躱していくが、一瞬の間隙を縫われしまい強撃をまともに受け倒されてしまった。

 

 少女のライフ:6→?/センター:デュエルズィーガー 撃破!

 

「……でも、まだ終わらないわ。手札の『デュエルズィーガー“スパルタンド”』の効果を使い、[ライフリンク]を無効化してドロップゾーンのデュエルズィーガーをソウルに入れ、ゲージ3を払い」

「センターにコールすんな!」

「はぁ?」

 突如、声を荒げる闘真。対する少女は訝しげな表情を浮かべていた。観戦している汐も切谷も困惑の表情で彼を見ている。

 視線が一挙に集まったものの、お構いなしに闘真は言葉を続けた。

「お前、それが本来のファイトスタイルじゃねえだろ?」

「……別に今回はたまたまこうなっただけよ。第一、エンシェントワールドの基本的な戦い方は大型モンスターをセンターに置いて戦うの、あなただって分かっているでしょ?」

「そんでも、それがお前の戦い方だって言い切れるのか?」

「馬鹿馬鹿しい、何かと思えば……確かにあなたの言う通り、今はセンターにモンスターを置かない方が良いかもしれないけれど、その前にあなたを叩き潰せば良いだけの話だわ」

 少女は一呼吸した後に「センターにコールする」と宣言し、彼女の目の前には武神竜王が新たなる姿で再び現れる。しかし、デュエルズィーガーは後ろにいる少女へ向けてどこか寂しそうな視線を送っていた。

 

 少女の手札:2→1/ゲージ:4→1/ライフ:6→6/センター:デュエルズィーガー“スパルタンド”(ソウル:1)

 少女のセンター:デュエルズィーガー“スパルタンド”/サイズ3/攻防8000/打撃3/[2回攻撃]/[ソウルガード]/[ライフリンク5]

 

「んなら、俺とブーメラン・ドラゴンでセンターにアタックだ!」

 躊躇う時間はなく、闘真は飛び出してドラゴエンペラーを振るう。神を倒そうと意気込んでいるのか、いつにも増して剣撃は荒々しい。

 そんな彼の援護をするようにザンバソードにぶん投げられ、高速で回転しながらブーメラン・ドラゴンが飛来する。

「ソウルガードよ」

 少女は手元にある1枚を確認すると、ソウルガードを選択した。苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて。

 その間、スパルタンドがブーメラン・ドラゴンに気に取られている隙に闘真は高く跳び上がり、片刃の大剣をスパルタンドの頭上へと振り下ろした。刃は闘真の闘志に呼応して、煌めきを放つ。

 闘真の一振りに対し、スパルタンドは咄嗟に左腕を掲げて上段を守る。腕一本が切り落とされた。

 

 少女のセンター:スパルタンド(ソウル:1→0)

 

「ブーメラン・ドラゴンの能力で、バトル終了時にブーメラン・ドラゴンを手札を戻す。そして、俺の場のモンスターが手札に戻ったからD・Rシステムの効果でゲージ+1!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:2→3/ライト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

 闘真はファイターエリアに戻り、ブーメラン・ドラゴンを受け止める。ブーメラン・ドラゴンは光となって、闘真の手札へと収まった。

 それを見届けると闘真は眼前の武神を睨みつける。このターンに倒しきれなかった以上、返しのターンがより激しいものになると予想しながら。

「俺のターンはこれで終わりだ」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:6/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ザンバソード

 

「私のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 少女の手札:1→2/ゲージ:1→2

 

「キャスト、天竜開闢! ライフ2払って、カードを2枚ドロー!」

 少女の手札:2→1→3/ライフ:6→4

 

 少女は自分のゲージを確認する。この枚数では足りないと判断し、すぐさま魔法を使用した。

「そして、キャスト、竜枯盛衰! もう一度ライフ2払って、今度はゲージ+4!」

 少女の手札:3→2/ゲージ:2→6/ライフ:4→2

 

――――――――

 

 メインフェイズを飛ばさず、プレーする少女に汐は頭に疑問符を浮かべる。察した切谷が「どうした?」と投げかけた。

「だって、このまま攻撃すれば、闘真君のライフは0になるのに……」

「念には念をって事だろう。勝利が目前となっている時ほど、より入念に仕込んで確実に仕留めければならない……まだ闘真の手札が残っているからな」

「そっか、そうだよね……まだ終わっていないもんね」

 汐の瞳はいつまでも楽しそうに笑っている闘真を映していた。どうして、いつもは不機嫌そうなのに、バディファイトの時だけ笑っていられるのか……汐はただただ不思議で仕方がなかった。

 

――――――――

 

「キャスト、竜王伝でゲージ+1、ライフ+1、カードを1枚ドローするわ」

 少女の手札:2→1→2/ゲージ:6→7/ライフ:2→3

 

 準備を整えると少女は目を閉じ、一呼吸を置く。瞼の裏には辺り一面が炎で焼き尽くされ、黒い翼を持ったモンスターと男がこちらを見て嗤っている光景が浮かぶ。

 それを振り払うかように目を開き、覿面にいる闘真を睨み付けた。恐怖がこびりついて取れない。

「アタックフェイズに行くわ! まずは爆散甲エンマでファイターにアタック!」

「かかってこい! ぐうぅぅぅ!」闘真のライフ:6→4

 鋼と鋼が激しくぶつかり合い、火花を散らす。少女の拳が重く響く。

 闘真は体全身でドラゴエンペラーを支え、受け止めた。笑顔は保ったままだが腕は酷く痺れ、感覚が鈍い。

「どうして、あなたはいつも笑っていられるの?」

 あまりにも闘真の表情が変わらないことに鼻白んだ少女は、思わず問いかける。

 その問いに闘真は、鋭い犬歯を覗かせたまま「決まってんだろ、楽しいからだ!」と声高く告げた。

 彼の心中はいつだって変わらない。どんな状況でもファイトを楽しむ――それが闘真の最適解。

「あなた……本当に変わっているわね」

 呆れたようにため息を吐くと、少女はファイターエリアへと後退する。そして、「今度こそ、トドメを刺してあげる。スパルタンドでファイターにアタックよ!」彼女のセンターを守る武神に命令を下す。

 スパルタンドは先程よりも勢いを増して突進。再び唸りが聞こえる。拳が風を纏っているかのようだ。

「キャスト、青竜の盾! 攻撃を無効化してゲージを+1!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:3→4

 

 鈍重な響きが闘真達の耳朶を打つ。闘真が呼び出した盾でなかったら、きっとその拳を止める事ができなかっただろう。

 けれど、それで安堵できるものではない。これで相手に選択肢が増えた――ザンバソードを倒すか闘真のライフを削るかの果たしてどちらだろうか。

 闘真は笑っていながらも少女の一挙一手に眼光を光らせ注視。彼女の選ぶ選択、その裡を見つめていた。

「一つ聞くけど、あなたは怖くないの?」

「何がだ?」

「このファイトの事……あなた、自分の命が晒されているのよ?」

 一方の少女は闘真から薄気味悪さを感じていた。身を削っても尚、何故笑っていられるか不思議でしかない。

 自分はまだ過去の炎がその場焼き尽くさんとばかりに蘇ってくるのに、彼からは一切恐怖を感じられないのだ。

 闘真に恐怖の感情がないのか――いや、人間誰しもが抱く感情がそうそう欠落している訳がないはず。

 なのに、どうしてもそう思わざるを得ない。少女は内なる恐怖を意識していた。

「それ、さっきも言ったぜ? 楽しいからだ」

「命が晒される事が?」

「違う。バディファイトがだ。お前だって、楽しそうにしてんだろ……顔、ずっと笑っているぜ?」

「え……?」

 自分では気付かなかったのか、少女は目を見開き、指の腹で口元を触れる。初めて自分の顔の筋肉を意識し、明らかに笑っていたような使い方をしていた事を自覚する。

 まさか、楽しんでいたなんて――少女の口から漏れた言葉。とても自身を信じられなかったのだろう。

「さっき俺に攻撃した時なんて、すげぇ楽しそうだったぜ。やっとバディファイトができるってよ」

 本当に楽しそうに語る闘真。彼は彼女の詳しい身の上は知らない。けれど、少女の思いを感じ取り、その思いに応えようといつも通り楽しんでいた。

「……あなた、エスパー?」

「まさか、俺がそんな器用な事ができると思っているのか?」

「いいえ、そんな気はしないわね」

 ただ話していて不思議とこびりついていた恐怖が消えていた。その言葉を心中にしまい、少女は楽しそうに笑って言う。「ファイトを続けるわよ。スパルタンドで……ザンバソードにアタック!」本来の調子に戻った彼女に歓喜したのか、スパルタンドの咆哮がより一層空気を震わす。

 そして、スパルタンドはザンバソードの元へ再び駛走すると、何もかもを打ち砕く鉄拳を振り下ろす。

「すまねぇ、ザンバソード。手札がない」

「気にするな。また戻ってくるさ」

 肉を打つ、重々しい響きが広がる。ザンバソードはその身で武神の鉄拳を受け止め、膝から崩れ落ちては光となって消滅した。

 

 闘真のレフト:ザンバソード 撃破!

 

「私のターンはこれで終わりよ」

 少女の手札:2/ゲージ:7/ライフ:3/少女:爆散甲 エンマ/センター:スパルタンド

 

――――――――

 

「マズイな……主軸が消えたぞ」

 先程のプレイを見て、切谷は苦々しく呟く。ザンバソードを失った闘真は、手札にあるブーメラン・ドラゴンしか戦力がない。

 もちろん、これからの彼のドローフェイズで変わる。だが、現状のままだと倒し切っても少女が次の一手を用意していない訳がないから、苦しいのは火を見るよりも明らか。

「闘真君、頑張れ」

 切谷の呟きをよそに汐は闘真を応援する。その声は小さく、彼の耳に届いているかは不明だが、ただ真っ直ぐでしっかりとしていた。彼ならきっと勝てる――そんな予感を含みながら。

 

――――――――

 

「へへっ、マジで楽しくなってきた! ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:4→5

 

 引いたカードを見る。一番見慣れた姿がそこにあった。「超特急で来やがったな」また楽しそうに笑う。

「ザンバソードをライトにゲージ3払ってコールだ! そして、ブーメラン・ドラゴンもレフトにコール!」

 闘真の手札:3→1/ゲージ:5→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト;ザンバソード/設置:D・R・システム

 

「不死鳥ならぬ不死竜ってな……まぁ、少し違うが」

 軽い調子でザンバソードは再び戦場へ立つ。決して挫けぬ闘志を青い双眸に宿している。

「すぐ復活したから、そう名乗っても問題ないぞ。キャスト、ドラゴニック・グリモ! 手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

 

「不死竜に関しては遠慮しておく。俺は不死身じゃないからな」

「何だよ、二つ名みてえでカッケェじゃん。まぁ、お前がそう言うなら、俺がどうこう言える事じゃねえな」

 軽口を叩き終わった後、闘真は目前のスパルタンドと少女を見つめ、「行くぜ、アタックフェイズだ!」獰猛な笑みでドラゴエンペラーの柄を両手で握りしめる。

「俺とブーメラン・ドラゴンでセンターのスパルタンドにアタック!」

「そぉれ! 行って来い!!」

「ブーメラン、ぶった切るッ!!」

 猛烈なスピードでスパルタンドへ肉薄するブーメラン・ドラゴン。躱す間も与えず、武神の肉を抉る。

 間隙を縫って、闘真が跳躍し、ドラゴエンペラーを振り下ろした。何の変哲もない一振りだが、片刃の大剣は闘真の闘志に呼応して強い輝きを放つ。その輝きは武神を視界を奪うには十分。

「対抗はないわ」

 少女の宣言が届く頃――ドラゴエンペラーの刃がスパルタンドの肉を裂いては骨を断ち、頭から足元へと一気に両断する。闘真の足が地に着いた時にはスパルタンドの体は二つに分かれ、光となった。

 

 少女のライフ:3→?/センター:スパルタンド 撃破!

 

 闘真は武神の最期を見届けると速やかにファイターエリアに戻り、ブーメラン・ドラゴンを受け止める。ブーメラン・ドラゴンは手札に戻り、D・R・システムの効果により闘真のゲージが1枚増えた。

 

 闘真の手札:3→4/ゲージ:2→3/レフト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「まだ終わんねえだろ?」

 獰猛な笑みはそのままに闘真は少女に問いかける。少女も彼に負けず劣らずの不敵な笑みを浮かべて答えた。

「ええ……まだ終わらないわ! スパルタンドのライフリンクを無効化して、『デュエルズィーガー“Dark Side”』をゲージ3払って、ライトにコール!」

 少女の手札:2→1/ゲージ:7→4/ライフ:3→3/少女:爆散甲 エンマ/ライト:デュエルズィーガー“Dark Side”

 

デュエルズィーガー“Dark Side”

エンシェントワールド

種類:モンスター 属性:ドラゴンロード

サイズ3/攻10000/防10000/打撃3

■[コールコスト]君の場の「デュエルズィーガー“スパルタンド”」が破壊された時、「デュエルズィーガー“スパルタンド”」の『ライフリンク』を無効化し、ゲージ3を払う。

■【対抗】“狂いし竜王の咆哮!”君のアタックフェイズ中、相手のセンターにモンスターがいないとき、ゲージ1を払い、君の手札1枚を捨ててよい。そうしたら、相手のレフトかライトのモンスター1枚を相手のセンターに置く。「狂いし竜王の咆哮!」は1ターンに1回だけ使える。

[貫通]/[3回攻撃]/[ライフリンク即死]

 

 光は少女の右手側へ移動し、禍々しいオーラを纏ったデュエルズィーガーとなって三度立ちはだかる。禍々しいオーラを纏っているのにも関わらず、神々しさは相変わらず見る者を圧倒させる。

「へへっ、やっぱりあったか。ザンバソードでも良かったかもな」

「でしょうね。でも、私にそれを防げる手段があるとしたら……」

 ザンバソードの能力は便利だが、単体での攻撃を条件としている。ほとんどのワールドには、センターが塞がっても連携攻撃でなければ防御できるカードがある……その事を考えたら、闘真が取った行動は比較的堅実と言えよう。

「まぁ、どう転がっていたかは分かんねえな。だけど、このターンで終わらせるぜ! ザンバソードでファイターにアタックだ!」

「さぁ、こいつでトドメだ!」

 ザンバソードの大剣が少女を叩き潰そうとばかりに迫りくる。しかし、少女は余裕の笑みを浮かべた。

「キャスト、『竜意周到』! 攻撃を無効化するわ!」少女の手札:1→0

 少女を守るかのように突風がザンバソードの大剣を止める。「ぐうぅ、これ以上は振り下ろせん!」ザンバソードの身丈ほどある大剣が押し返された。

「やるな! だが、次は叩き込む!」

 大剣を引き付け、体勢を整えるザンバソード。瞳には僅かながら悔しさを滲ませていた。

「へへっ、ターンエンドだぜ」

 闘真の手札:4/ゲージ:3/ライフ:4/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ザンバソード/設置:D・R・システム

 

「私のターンね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 少女の手札:0→1/ゲージ:4→5

 

「このターンで決めるわ……!」

 手札を見て少女の目つきが鋭くなる。もう後には引けない状況だからこそ、確実に倒すという決意を瞳に宿す。

「行くわ、アタックフェイズ! 爆散甲エンマでファイターにアタック!」

 果敢に少女は闘真へと迫る。何物にも防げない炎の鉄拳を彼の胴体を捉えようと突き出していく。

 けれど、拳は闘真に届かず、彼の得物と激突し火花を散らす。

「へへっ、防げないなら受けるまでよ! キャスト、『ドラゴ根性!』! 俺に1ダメージを与える代わりに、俺のライフを+3だ! うおおおおおお!!」

 闘真の手札:4→3/ライフ:4→3→5→3

 

 ドラゴエンペラーの輝きが増し、闘真にさらなる力を与える。そして、闘真は少女の拳を弾き返した。

「やるわね。でも、まだ終わらないわ! 今度はデュエルズィーガー“Dark Side”でファイターにアタック!」

 筋骨逞しいデュエルズィーガー“Dark Side”は、巨躯を持て余すことなく自在に操り、鈍重とは程遠い動きで肉薄する。

「さらにデュエルズィーガー“Dark Side”の効果を発動! ゲージ1払い、手札1枚を捨てて、ザンバソードを相手のセンターに変更よ!」

 少女の手札:1→0/ゲージ:5→4

 

「くっ、そう来るか!」

 闇に狂いし武神の咆哮が、ザンバソードがいたところを揺るがし、足場を脆くさせる。

 足場の崩壊を察知したザンバソードは素早く飛び退き、闘真の目の前と立つ。

「へへっ、面白れぇ!」

 デュエルズィーガー“Dark Side”の能力を目の当たりにしても尚、闘真の態度に変化はない。

 一方のザンバソードは苦々しい表情を浮かべる。自分がいることで闘真の防御手段を潰したのも当然、それに向こうが[貫通]を持っていない訳がないだろうと推察しているから余計に無力感に苛まれているのだ。

「すまん、闘真。俺では盾にはなりそうもない」

「気にすんなよ、そうなっちまったのは俺の責任だ」

 闘真の口から「責任」という言葉が出てきたこと自体に驚き、ザンバソードは振り返る。

 そこにはいつも通りに笑っている闘真の姿があった。

「反省会は後回しだ。まだ終わっちゃいねえからよ」

「そうだな、その通りだ」

 ザンバソードは正面を見据え、迫る武神の拳を捌こうと体勢を整える。武神の拳は咆哮と違えない程に唸りを発し、何もかもを破壊しようという気迫に満ち足りていた。

 それをザンバソードは自身が持つ大剣を用いて、一度二度は捌く。しかし、さらに速度を上げていく連打に対応しきれず、大剣は砕かれ自身も滅多打ちにされてしまう。

 たたらを踏んで後退した隙に、闇を纏った武神の右拳がザンバソードの胴体を貫いた。拳は後ろにいる闘真にも届く。

 だが、ドラゴエンペラーの力により、勢いは削がれてしまい本来の威力が伝わらなかった。

「できるだけ、反省会を始める時間を遅くしてくれよ……」

「分かっているって、後は任せろ!」

 闘真の返答にザンバソードは満足そうに微笑み頷くとその身は光となって消失した。

 

 闘真のライフ:3→1/レフト:ザンバソード 撃破!

 

「あなたの主力もこれで消えた……後はトドメを刺すだけね」

 どこか名残惜しそうな調子で呟く少女。少しだけ前を向けて、久々に楽しめたファイトだからこそ、終わらすのは物寂しいとも言いたげだ。

「さぁ、来いよ……まだ終わっちゃいねえぜ?」

 逆境になったとしても獰猛な笑みを絶やさない闘真に少女は安堵した。もし彼でなければ、次の行動は移せなかったのではないかと思うほど。

「でも、これで終わらすわ! デュエルズィーガー“Dark Side”でトドメ!」

 少女の高らかな宣言に合わせてデュエルズィーガー“Dark Side”は再び拳を振り上げ、闘真めがけて叩き付ける。

 が、肉を打つ重々しい響きではなく、金属がぶつかる鈍い音が耳朶を打った。

「キャスト、青竜の盾! 攻撃を無効化にして、俺のゲージを+1!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:4→5

 

「まだよ! もう一度、デュエルズィーガー“Dark Side”でアタック!」

 少女の何としてでも打ち倒そうという気迫が、デュエルズィーガー“Dark Side”に伝播し、拳が風を置き去りにして下から上へと突き上げられる。

 ドラゴエンペラーを盾にしたとは言え、威力は先程よりも上がっており、闘真の体が浮き上がっては遠くへ飛ばされていく。

 闘真が次に認知できたのは背中から叩きつけられる衝撃だ。

 肺から空気が漏れ呼吸が一瞬止まり、ドラゴエンペラーを手放す。

 両腕は先程から受け続けていたダメージの蓄積から、もはや使い物にならないと言って良いほど動かせない。

 視界もぼんやりとした色彩しか捉えられないでいる。万事休す――そう思う人間は多数だろう。

「闘真君!」

 汐の声が耳に入る。とてもハッキリと。それにより、遠のきそうな意識は戻って視界も晴れる。

「立ちなさい! あなたには、まだ“手”が残っているでしょ!」

 続いて対戦相手である少女の声で上体を起こし、状況を確認する。デュエルズィーガー“Dark Side”は元の位置に立っていた。

 覿面の少女の腰辺りから白い煙が……注視すると彼女のデッキケースからその煙が上がっている。――残された時間は、あまりないようだ。

「へへっ、言われなくとも……D・R・システムの能力を発動するぜ! D・R・システムをドロップゾーンに置いて、デッキの上から1枚をドロップゾーンに置く。魔法なら俺のライフは2になって、続行だ」

 そう言うと闘真はゆっくりと立ち上がり、自身の腰にあるデッキケースへと手を伸ばす。

 ファイトに関わっている全員が闘真の挙動に固唾を呑んで見守る。この一枚で全てが決まるからだ。

 彼が引いたカードは――。

「『ドラゴエナジー』だ……つまり、俺のライフは2になるぜ!」

 闘真のライフ:1→0→2/設置:D・R・システム→なし

 

 闘真は口の端をさらに獰猛に吊り上げる。まだ終わらない、終わらせない彼の執念が実った瞬間だ。

 少女もつられて笑う。手札がない以上、自身の敗北は必須。けれど、それでも負の感情は湧き出てこない。

 あるのはファイターとしての純粋な闘志と楽しむ心、それが彼女が持つデッキケースに異常を引きこ起こしたのだ。

「私のターンはこれで終わりよ」

 少女の手札:0/ゲージ:4/ライフ:3/少女:爆散甲 エンマ/ライト:デュエルズィーガー“Dark Side”

 

「俺のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:5→6

 

「レフトにブーメラン・ドラゴンをコールして、そのままアタックフェイズに入るぜ!」

 闘真の手札:3→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン

 

 傍らに放置されていたドラゴエンペラーの柄を今持てる力の限りで握って構える。瞳の奥の光はとても強い。

「ブーメラン・ドラゴンでファイターにアタック! おらぁ!」

 ブーメラン・ドラゴンの尾を掴み、右足の爪先を軸に遠心力を利用して投擲。

 流石にザンバソードが投げる時よりも格段に勢いは落ちているが、満身創痍の少年が投げたとは思えないほどの速度で、少女を目指す。

「受けるわ。ぐっ!」少女のライフ:3→2

 少女の右腕と衝突する。弾き飛ばされることはなかったものの、威力は確実に伝わる。炎の手甲は相手の攻撃を防いではくれない。

 そんな少女を尻目にブーメラン・ドラゴンは闘真のところへと戻って行く。けれど、先程の効果でD・R・システムはドロップゾーンに行ってしまった為、ゲージを増やすことはできない。

 

 闘真の手札:2→3/ライト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「次でトドメだ! ドラゴエンペラーでファイターにアタック!」

 闘真はドラゴエンペラーの柄を両手で握りしめ、少女の元へ疾走。そして、大きく振りかぶる。

 彼の瞳には穏やかに笑う彼女の姿が映っていた。手を止めることなく、銀閃を一直線に振り下ろす。

「これで、良かったのよ……」

 少女の独白と共に彼女のデッキケースは爆散して、カードが飛び散る。

 激しいぶつかり合いを繰り返したファイトは、闘真の一振りにより幕を閉じた――。

 

WINNER:相楽闘真

 

 

 ファイトが終わった直後、少女は片膝をついた。元々意識があったとはいえ、影響を受けていたのだから負担はそれだけあっただろう。少しばかり青ざめている。

「おいおい、大丈夫か、うおっ!」

 闘真もまた膝から力が抜け、尻餅をつく。実体化したモンスターの攻撃をほぼ生身で受け止めていた為、流石に体は限界を迎えていた。顔色に全く変化はないが。

 最初は何故体が言う事を聞かないのか不思議だったのだが、やがてどうでも良くなった。全力を出し切った末でなおかつ楽しめれば問題ないのだから。闘真は笑う。

「何がおかしいのよ?」

 少女が訝しげに闘真を見る。体勢をくずして、いきなり笑い出すものだから、気でも触れたのかとさえ思ってしまう。

「いや、やっぱファイトした後は気持ち良いよな!」

 愉快に喉を鳴らす闘真。相棒のザンバソードはカードから出てくると「それだけボロボロにされたってのによく言うぜ」呆れた様子で見つめる。「そんでも楽しいファイトだったから良いんだよ」穏やかな声音で闘真は返した。

 彼らの言葉を聞いて一瞬の逡巡の後、少女も静かに笑う。「そうね。これだけ大暴れしたからスッキリしたわ」その笑みは清々しい。

「お前ら、大丈夫なのか? 肩貸すぞ?」

「俺は良い。そこの……お前、誰だ?」

「今それ聞く? 名前なら後で名乗るわよ……そちらの方のご厚意ありがたくいただくわ」

「わ、私、カード集めるね!」

 切谷に肩を貸してもらい少女は立ち上がる。そして近くのベンチへと移動して腰掛けた。彼女が一息吐いたところを切谷は彼女の為に大急ぎで水を買って渡す。少女はそれを受け取り、少しばかり飲んで落ち着かせた。

 それを傍目に汐は散らばった少女のカードを拾い集める。闘真も手伝ったおかげか、デッキはすぐさま集まった。

 デッキケースも拾い上げると闘真も立ち上がり、一緒に彼女の元へ歩いてはそれらを手渡す。

「あの……これ」

「ありがとう」

 器用に蓋を締めては右手を端に置き、汐からデッキを受け取った。カードは一目見たところ傷一つ付いていない様子。

 派手に爆散した割にはダメージを与えていなかったようだ。しかし、闘真が手にしている彼女のデッキケースは原型を辛うじて留めているものの機能していない。

「それも一緒に持って行かなきゃね」

「その前にいくつか聞きたい事があるんだが、良いか?」

 少女の左手側に立つ切谷が口を開く。少女自身にもそうだが、彼女のデッキケースにも興味があるらしく先程から交互に見ていた。

「ええ、良いわよ。……と、その前に自己紹介しないとね。私は槙野(まきの)靖雫(せな)、槙野でも靖雫でもどちらでも良いわ」

「俺は切谷勇吾、そこの女の子が鳥田汐で……君は何て言うんだっけ?」

「あん? 俺か? 俺は相楽闘真……良いからさっさと話進めろよ」

「そうだな。んじゃ、改めて靖雫さん……まずそのデッキはどこで手に入れた?」

 自己紹介をした後に本題へと入る。切谷の目は好奇心の色で溢れていた。歪んだ光もまた漏れ出していく。

 笑みもまたどこか邪な思いを含んだものとなっているが、誰も気付かない。

 少女は考え込むように足元を見つめ、やがておもむろに口を開いた。

「白衣を着た目つきの悪い男と偶然会って、そのデッキをもらったの」

 視線の先には闘真が手に持っているデッキケースがある。注視する視線受けて闘真もデッキケースに興味を向けた。

 どこか見た事のあるデッキケース――ようやく闘真は思い出す。先日、ファイトした青年も似たようなデッキケースを持っていた事を。

「ああ、そういやこれ持っていたの、他にもいたな」

「それ本当なの? どう見ても認可品ではないわよ?」

「俺が嘘言うかよ。これと同じやつを持っていたし、ファイトもした」

「証拠という証拠はないが、俺もコイツと一緒に戦ったぞ。今回は面倒事が起きなかったけどな」

 ザンバソードまでもが戦ったという発言に靖雫達はそれ以上疑わず信じる事にした。そもそも闘真が嘘吐くような少年ではないのもあるが。

 しかし、興味はまた生まれる。「面倒事? 何が起きたんだ?」切谷は闘真達に問いかけた。

「まぁ……簡潔に言えば、ファイト終わった後も相手のバディモンスターが暴れたという事だな」

「ほう、モンスターが暴れたねえ。そういえば、この間どこかの施設が壊れたというが……それが原因かもな?」

 にやりと笑う切谷の答えに闘真は肩を竦めるだけ。それは彼の知るところではない。

「話を元に戻そう。それで靖雫さんは男の名前とか覚えているか?」

「名前……駄目ね、そこまで思い出せないわ」

 しばしの思索の後、靖雫は頭を緩く横に振って意を示す。「とりあえず思い出せるのは白衣と目つきが悪かった事、後は身長があなたと同じぐらいで意外と若かったぐらいかしら」切谷に顔を向けて身体的特徴をスラスラと述べた。

 疑われると思ったのか切谷は両手を前に出しては否定するように手を振って、「俺じゃないぞ」と付け足す。

 誰もが彼だとは思っていない。代表して靖雫が「それぐらい分かっているわよ」少し軽い調子で切り返した。

「だって、師匠もバディファイト分からないじゃん。デッキケースを渡すって事はバディファイトに精通しているって事だよね?」

「精通しているかは分からないが、少なくとも俺より知っているな」

 納得したように切谷は頷く。天然というべきかひょうきんというべきか彼の表情は掴み切れない。

 そんな所感を闘真は抱いていた。ファイトしたら面白そうな人間だとも思っていたが。しかし、何やら胸騒ぎがする。

 決して彼とはファイトをするなと裡から囁く。覗いてはいけないものを覗いてしまう事になるぞと。

 ただその声に注意を傾ける事なく現実へと戻る。そして切谷の声に耳を向けた。

「後は、何でそのデッキケースを手に取った?」

 非常に簡単で分かりやすい質問。しかし、それは靖雫の裡をいとも容易く触れてしまっていた。

 靖雫の表情はそこまで大きく変化していないが、先程よりも翳りが濃くなる。左腕の袖を握り締め、彼女は答えた。

「縋ってしまったのよ。そこにある闇が希望だと信じられるぐらいに」

 その言葉は重く響いた。別に靖雫の声が震えている訳でもなく、逆に落ち着いていて穏やかだった。

 けれど、裡に秘めている炎が彼女を彩り、苦しめているという事が言葉に乗ったのだ。

「それであんなに楽しそうだったんだな」

 重い言葉の後に闘真は軽く言ってのける。ファイトした時の彼女の表情は闘真と負けず劣らずに楽しそうな笑みを浮かべていた。もっとも、当の本人は指摘されるまで気付かなかった訳だが。

「そうね……ちょっと前にファイト恐怖症になっちゃって、できなかったのよ。それで今日久々にファイトできたのだから」

 そう言って靖雫は闘真に向けて微笑む。「あなたには感謝ね。とっても楽しいファイトをありがとう」憑き物が落ちたように青の双眸を穏やかに細めた。

「へへっ、それはこっちのセリフだ。俺も楽しかったぜ」

 普段眉間に皺を寄せては常に喧嘩を売って歩いているような少年とは思えぬ穏やかな笑みに全員が面食らう。

 相棒であるザンバソードでさえ目を丸くして凝視していた程だ。とても信じられないという視線が彼に集中する。

「おいこら、てめえら……何でそんな顔するんだよ?」

 すぐさま元の鋭い目つきになり、眉を顰めては頬を歪ませる。これまた心外だったようで、沸点へすぐに到達しようとしていた。

「いや、だって闘真君が変な顔するから……今の顔が闘真君っぽいって感じが」

「てめえ、ぶっ飛ばす!」

 ――しばらく汐と闘真の追いかけっこが続いたのは言うまでもないだろう。もちろん、ザンバソードも切谷も靖雫も止めに入ったが。

 

「ホント……女の子を追いかけ回すって、どういう神経しているのよ」

「うっせぇ、ムカついたからぶっ飛ばすの当たり前だろ」

「その道理自体がおかしいわよ」

 汐達と別れて闘真と靖雫は駅まで歩いていた。日は落ち、微かにオレンジ色を残しながらも辺りは暗くなっている。

 街灯や店内から漏れ出す光で街を彩っていく。スーツ姿の人が昼間よりも増え、もう既に酒気を帯びている者さえいた。

 その間をすり抜け、彼らは先程の事を掘り返しながら歩を進める。

「あ? 道理なんざ無理通せば引っ込むんだろ? それかまかり通すかのどっちかだろ」

「あなたの道理はまかり通しては駄目でしょ。それにしてもあなた、日頃からあの子に暴力振るってないでしょうね?」

「何で会って間もねえのに普段から殴らなくちゃいけねえんだよ」

「初めて会った日に蹴飛ばしただろ……」

 ザンバソードが辟易したように一言を発すると靖雫の切れ長の目が鋭く細められ、静かな怒気が周囲を凍らせんばかりと発せられた。これが並みの人間ならば、小さく悲鳴を上げては体を固まっていただろう。

 だが、闘真は怪訝そうな顔をして「てめえ、余計な事言うなよ」相棒を睥睨した後に、靖雫には「そんな顔すんなよ。蹴っ飛ばしたっつってもそれ一回だけだ」と泰然とした態度で言ってのける。

 一回だけ――それでも汐に暴力を振るった事には変わりないだから、当然靖雫は烈火の如く怒った。

「はぁ!? アンタ、女の子を蹴り飛ばしたの!? 信じられない……アンタ、最低よ!」

「んだよ、別に男だろうが女だろうがムカついたら蹴り飛ばすに決まってんだろ」

「蹴り飛ばす事自体おかしいのよ!!」

 闘真は耳元で怒鳴られて首を傾けては距離を取ろうとし、やがて右耳を指で塞いで軽減する。眉間の皺はさらに深くになり、頬を歪ませていく。何でそんな事で怒られなきゃいけないと辟易していた。自業自得と言えように。

「うるせぇな、近所迷惑だろ」

「それは謝るわ。けど、私の腹の虫が収まらないわよ」

「落ち着けよ。そんなに目くじら立てちゃ、頭の血管切れるぞ」

「これで怒らなきゃ、人間辞めているわよ」

 まだ怒りが収まらない様子で靖雫は闘真を睨めつける。般若のような顔つきでこめかみには青筋すら見えそうなぐらいだ。いつまた義憤が爆発するか分からない。

「まぁ、一応向こうにも許しは得ているんだ……そこまでにしてやってくれ」

 これ以上、説教に時間をかけてはある疑問を解決するのが遠のくと判断してか、ザンバソードは助け舟を出す。「コイツはバディファイト以外だとこうも自分勝手なんだ。そこは認めてくれ」全く相棒をフォローをする気はない。

 しばしの沈黙の後、靖雫は「分かったわよ」と手を引いた。まだ納得していないと顔に書いているものの、先程の問答を通して闘真がどのような人物か理解したようだ。「あなたも大変ね」同情の声音で言う。

「まぁな……それよりも何で汐の事を?」

「あ、いやあの子の顔とか手とかに痣があったから……もしかしたらと思ってね」

 先程打って変わって遠くを見るような目つきに変わる。自分とは境遇は違うのだが、少しばかり気にしているようだ。

 しかし、その話題に興味がない闘真は胡乱げに彼女を見つめるだけ。話に乗る気はない様子。

「ああ、確かにな。切り出して良いのか分からないもので、触れなかったが……」

 汐の身辺を少しばかり知っているザンバソードは指の腹を顎に添えて考え込む。いじめ、だけでは少し足りないぐらいと思う。しかし、それ以上は推測の域を出ない。余計な推測は混乱を招くのみ。

「それ以上は言えないわね。赤の他人、それも今日会ったばかりの私なんかが不用意に踏み込む問題ではないと思うわ」

 靖雫も分かっていたのか、本当にそれ以上は言及しなかった。無論、会って日が浅いザンバソードも同意して何も言わない。闘真に至っては元々話す気すらなかったが。

 それからしばらく無言の間が流れる。気まずさというものはなく、元々あったかような静けさだけがあった。

 だが、その沈黙も間もなく破られる。唐突に靖雫が口を開いた。

「……あなただけに昔話をしてあげる」

 何故、突然そう言ったかは闘真は分からないし、聞きもしない。喋るなら勝手に喋っていろと言わんばかりに一瞥し、顎をしゃくって続きを促した。興味がなければ、聞き流すだけだから。

 靖雫も闘真の反応に期待していた訳ではなく、まるで自分の中に燻るものを落ち着かせようとしているかのように一人で話し続けた。

「青い鳥は憧れていたの、全てを焼き尽くす強者に……強さが全てだと、それが正しい道だと信じて羽ばたいていた」

 淡々と語られる昔話。少し興味が湧いたのか、闘真は靖雫の方へ目を向けた。彼女は至って平然としている。

「だけど、黒い鳥が生み出す炎に焼かれ、青い鳥は羽を失い飛べなくなったの……そして自分を見失った」

「……その黒い鳥は青い鳥が憧れた者と一緒だったのか?」

 静かに闘真が尋ねる。特別興味があった訳ではないが、思うところがあり少しばかり興味を向けていた。

 強さとは何か、それは何のゲームをするにしても付きまとう永遠の課題。それ故にか、彼の目はいつになく真剣だった。

「分からない。ただ言えるのは、それもまた強くて……失うものが多かったというだけよ」

「それが強さを求めた鳥の末路か」

「そうね。鳥は空を飛ぶ事に恐怖すらしてしまい、結局底の見えない暗い希望に縋ったのよ」

 彼女が言い切る頃に駅が目の前に見えた。ここで二人は別れる事となる。

「んじゃ、俺はこのまま帰るわ」

「ええ、迷子にならないようにね」

「うっせぇ、余計なお世話だ。……お前はこれからバディポリスに行くんだよな? 開いているのか?」

「開いてなければ電話で無理やり話を入れるわよ。それで出なきゃ、出るまでかけてやるわ」

 先程、闘真をたしなめた人物とは思えぬ発言。靖雫は何食わぬ顔で腰に再度取り付けたデッキケースを軽く拳で叩く。

 そしてシニカルな笑みを浮かべて、さらに言葉を継いだ。

「こんな物、いつまでも持っている訳にはいかないもの」

 闘真も笑って頷く。「その通りだな」愉快げに喉を鳴らし、彼女の発した言葉を楽しんでいた。

「じゃ、またどこかで会いましょう」

 踵を返した靖雫の背中に「ああ、またどっかでな」と告げると闘真も駅構内へと歩み出す。

 泰然としているが、頭の中では靖雫との話が回想されていた。昔話、汐の事、これらは闘真の中で引っかかっている。

 強さを求めて走る先は破滅かそれとも――。それらが何故か一人の男に繋がっていく。

「……んな事、あり得るかよ……」

 否定の言葉を口の中で呟くが、疑惑は拭い切れていなかった。

 

 

 一方、汐と切谷は暗い夜道を進んでいく。いつになく上機嫌な汐に切谷もまた微笑ましさを感じていた。

「それだけ闘真君に会えたのが嬉しいのか?」

「うん! あ……でも、また教えてもらえなかった」

 先程の上機嫌が嘘のように消え失せ、眉尻を下げて肩を落とす。せっかく会えたのに約束が果たせなかった――その事が心残りでしかない。

 そんな様子に切谷は口の端を緩やかに上げ、穏やかな声音で彼女をなだめる。

「そう気落ちするな。また会った時に教えてもらえば良いさ」

「そうだね。次会う時が楽しみだなぁ……」

 本を胸に抱いて、汐はまた出会う時の事を想像した。きっと目を輝かせてルールを教えてくれるに違いない。そんな闘真の姿を見るのが好きなのだ。本当に好きなんだなと感じさせる熱意は本に通じるものがある。

「そういえば、今日はご両親どうしているんだ? 帰り遅いのか?」

 話題を切り替えて、切谷は汐の身辺を聞く。顔は笑っているが、目が笑っていない。普段の彼らしからぬ冷たさがそこにあった。

「うん、今日は遅いかな。でも、そろそろ帰らないとご飯準備できないから」

 彼の目には気付かず、汐はそのまま答える。少しばかり声が強張っていた。彼女にとって両親はそのような存在だと察せられる。恐怖の対象そのものだ。

「そうか、なら丁度良かったな」

 そう言って切谷は覿面にそびえ立つマンションの一室を見つめる。視線の先は汐が住んでいる部屋の玄関ドアだ。

 残念ながら彼らがいる所からでは人がいるのかいなのかは分からない。ただ誰もいない事を願うばかり。

「じゃ、師匠、またね!」

「ああ、またな」

 マンションのエントランスへ入ろうと駆け出す汐だが、扉の少し手前で足を止めて振り返る。どこか申し訳なさそうに笑みを浮かべて切谷に向かって言った。

「……実はね、私、今日誕生日だったんだ」

 切谷はその事に驚き、目を丸くして返した。「そうだったのか」一切何も聞かされていないとはいえ、少し後悔が生まれる。もう少しだけ彼女に楽しい思いをさせれば良かったと。

「凄く楽しかった。師匠もいたし、闘真君もいたし、バディファイトの事を少し知れて」

 察したのか察していないのか汐は屈託のない笑みで今日の事を述べる。少しでも自分を受け入れてくれる人が近くにいて、小さな目標にも少しでも近づけた――今の彼女にとって、それほど幸せな事はないだろう。

「そうか、それなら良かったな。また今度改めて祝うよ」

「良いよ、そんな事しなくても。じゃ、またね!」

 踵を返して汐は遠くへ行く。切谷はその小さな背を見て、自分の中の幻影を重ねる。いつも自分の身を案じてくれた大切な人の面影を。

「……()()()()()()()()()()()()()()……」

 静かにそれでいて狂気に満ちた笑みで呟く。その言葉は誰の耳に届く事なく、どこかへと消え去った。




 分割するところを見失って、そのまま載せました。
 ぶん殴られる覚悟はできております()

 まぁ、それは置いて……東京編の次回は恐らく大きな局面を迎えると思います。
 予定では4話構成なので、完全に終盤ですね()

 さて、彼らが行く先がどうなるのか、楽しみに待っていただけたら幸いです。

 あ、それといらないかと思いますが、汐のプロフィールも掲載しておきます。

鳥田 汐(とりた うしお)/女性/小6/12歳
容姿:赤茶色のショートヘアーであまり髪の手入れがされておらず、かなりボサボサ。緑色の瞳だが、若干暗い感じの目。顔や腕、体のあちこちに痣がたくさんある。基本的に柄が付いた半袖のTシャツとハーフパンツ、スニーカーで過ごしており、怪我の状況によっては薄手のパーカーを羽織っている。痩せ気味で147cm。
性格:明るく前向きだが、親からの虐待、同級生達からのいじめにより暗い表情をしている事の方が多い。物が壊されたり、貰えなかったりするので必然と物を大事にする為、物持ちが良い。また人との関係性も大事にする為、自分の現状に巻き込まない様に他人を配慮する。
概要:東京に住み、空達と同じ小学校に通う小学6年生。親からの虐待や同級生達からのいじめに耐え抜きながら、日々を過ごしている。初めて来た東京に迷った闘真と偶然出会った事から彼と交流を持つ。また剣術を教えてくれる“師匠”とも仲が良い。


 では、この辺りで筆を休めたいと思います。また感想や活動報告のコメントなどお待ちしております。


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第3話:デザイア

 どうも、巻波です。今回の話は、一応閲覧注意です。
 ようやく残酷な描写のタグが仕事しているからです。といっても、そこまで仕事していると思いませんが。

 シリアス3回唱えれば、シリアスとなっているように努力しましたが、如何ほどに……では、後書きの方へまた会いましょう。


 闘真は駅に降り立ち、改札を通り抜け、出入口へ向かう。汐と再び会う為に。

 駅を出た後、ふと空を見上げる。妙に外が暗いと思えば、空が曇っていた。今にも雨が降りそう。

「折りたたみ傘って、持っているのか?」

 ザンバソードが訊ねる。至って落ち着いた声音だが、表情は少し不安げだ。雨に濡れるのが嫌だからだろう。

 問いかけに闘真は「いや」と言いながら首を横に振る。デッキと財布ぐらいしか持ち物は基本的に持っていない。

 折りたたみの傘なんて持っている訳などある訳ないだろうと睥睨さえしていた。

「だよな。お前が傘持っている訳ないか」

 語調はそこまで残念がっている風には聞こえない。表情も諦観しているようにも見える。それなりに長い付き合いだからだろうか。彼が持っていない事は想定済み。だから、特に気に留めていないのだろう。

「にしても、天気悪ぃな」

 あまりにも悪天に呟く闘真。何となく胸騒ぎを覚える、まさか、あの占いが当たる訳が……脳裏に思い起こされる占いの結果、それを振り払い目的地へ歩いていく。何も起きない、そう決めつけて。

 

 とある公園――切谷はベンチに腰掛け、目を閉じて物思いに耽っていた。瞼の裏には高校生ぐらいの少女の顔が浮かぶ。

 青みがかった黒髪を長く伸ばし、切れ長が印象的な黄色の瞳。優しげに微笑む彼女は、額や頬に青痣をいくつも作っていた。いや、顔だけはない腕や足にも痣や生傷が散見される。日頃から暴力を受けているのは一目瞭然だ。

 それが唯一の家族と呼べる姉の姿。幼い頃に両親が離婚し、母親は切谷と彼女を捨てて家を出た。そして彼らはもう一人の住人で暮らす事に。

 彼らの父親だ。父親は彼らを養おうと必死に働くが、日に日に消耗し、やがて働けなくなるぐらいに体を壊す。そこからが地獄の始まり。自暴自棄になった父親は切谷達に暴力を振るうようになったのだ。

 姉は高校を中退して数々のアルバイトを掛け持ちしながら家計を支えていたのだが、彼女の行動が父親の癪に障ったのだろう。常日頃からストレスの捌け口として暴力を振るわれてしまう事に。

 それでも彼女は強かった。決して心折れず、父親からの暴力に耐えながら懸命にまだ幼かった切谷へ愛情を注ぐ。彼だけは真っ当な人生が歩みめるようにと願って。

 切谷自身も姉が好きだった。だから、彼女の願いを受け止めつつ、役に立てる事はないかと考えていた。

 けれど、その願いは脆くも崩れ去る。父親は遂に切谷にも暴力を振るうように。何度も頬を殴られ、時には壁に強く突き飛ばされた。あの時の痛みは忘れない。あの時の姉の悲しそうな顔を忘れられない。

 二人は父親からの暴力に耐えて過ごしている日々を過ごしていると、転機が訪れる。それは今日のように曇天が目立つ日の事。

 いつものように彼らは父親から殴られ、蹴られ、叩かれと好き勝手されていた。姉は依然と気丈に振る舞い、父親に反論する。

 この日ばかりは父親の機嫌が悪かったのか、一層荒れ狂い、終いには彼女を押し倒した。そして身ぐるみを剥がし、自分の欲望を満たし始める。

 まだ幼く純真だった切谷には衝撃的な光景。目の前にいる姉を助けるどころか、ただじっと眺めるだけ。彼女の声が今でも耳に残る。涙声で汚される事への恐怖、あるものに対する嫌悪感などが言葉となって耳朶を打つ。

 父親は自分の欲望を満たしたのか、姉から体を離して一旦姿を消した。部屋に残っていたのは切谷と姉だけ。

 彼女に何と声をかければ良かったのだろうか。むせび泣く彼女の背を見て、切谷は声を発する事ができなかった。

 そんな彼を察したのか姉は振り向き、微笑みかける。虚ろになりそうな瞳は、ただただ自身が愛情を向けている者へと精一杯の慈しみを注ぐ。

 何故だろうか、この時の姉の表情には理解できなかった。どうして、酷い目に遭ったのに自分へそのような感情を向けられるのか。姉の表情が理解できなかった時点で、自分の感情は壊れていたのかもしれない。

 すると、父親が戻ってきた。手に持っていたのは包丁。危機を知らせようと声を出そうとしても、喉から上がってくるのは空気だけ。口をぱくぱくとさせ、何も音を発さない。

 包丁が握られた手が振り上げられ、音もなく振り下ろされた。銀色は迷いなく姉の背中へ走り、肉を突き刺す。

 姉は何事かと思い、肩越しに父親の姿を認めた。もはや、彼はかつて真面目に仕事をして、子供達に愛情を注いでいた父親ではない。現実から目を背け、感情に身を任せるだけの禽獣そのもの。

 死期を悟った姉は切谷に顔を向け言葉を紡いだ。最期に彼女が伝えたかったのは何だっただろうか。何も聞き取れなかった切谷は、虚ろな瞳で微動だにしない姉を見つめるだけ。そこからの記憶は混濁している。

 気が付いたら、手に包丁を持ち、父親だったものを滅多刺しにしていた。気が済むまで刺したら、姉の亡骸に歩み寄り、光を失った瞳をまじまじと眺める。自分と同じ色をしているのに、どこか違う瞳。ただ綺麗だと感じていたのは確か。

 何を言いたかったのだろうか。生への渇望、助けてくれない事への怨嗟、弟に生きて欲しいとの願い。もはや、どうでも良い事だった。生の光を灯さない瞳に魅入られたから、自分を断罪して欲しいと姉に希求したから。

 それが彼の生きる理由となり、今日まで生きてきた。幾度も罪を重ねて――。

 

 過去を思い返し終えると、切谷は意識を耳元へ向ける。黒のイヤホンから流れる騒音は、部屋の中で誰かが暴れているようだった。人の声も聞こえる。ある程度、年を重ねた男女の声と少女の声。

 怒声と悲鳴。物が崩れる音と人を床や壁に叩きつける音。どう聞いても普段生活している環境音ではない。

 時折ノイズが入るのは、盗聴器の付近に物が叩きつけれているのか、電波が悪いせいなのか。どちらせよ、昨日公園で汐や闘真に出会う前に、彼女の家に忍び込んで安物の盗聴器を仕込んで損はなかったと。

 右手には小太刀が、いつの間にか握られている。鞘に描かれているのは、雷の中を飛ぶ鳥の姿。まるでその刀を示しているよう。

「さて、行くか」

 目を開け、立ち上がる。黄色の瞳は歪に光を反射させ、剣呑な輝きを宿していた。口元は獰猛に吊り上げられ、肉食獣のような相貌に。

 小太刀を右腰に差し、歩き出した。足取りは悠然と、それでいて楽しげに軽く。曇天を仰いで、切谷は呟いた。

「待っててくれ、姉さん。今、助けるから」

 まだあの頃の面影を見続けながら、彼は音の発生源へと向かっていく。

 

 目的地のマンションに辿り着いた切谷は、目指すべき部屋のベランダを見据える。周囲は誰もおらず、閑散としていた。

 夏休みに入っている時期、子供の姿があっても良いのだが、天気が悪いからか幼い声はイヤホンの外からは聞こえない。

竹俣兼光(たけのまたかねみつ)

 虚空に声をかけると、虎頭に黄色と黒の縞模様が印象的な剛毛、人の背などゆうに超えている背丈と筋骨逞しい体格を持つ獣人が姿を現す。甲冑を着ているが、身軽さを重視していてか軽装だ。腰には太刀を携えており、華美な装飾など一切見られない。質実剛健という言葉が似合う程に、実戦に重きを置いて装飾は可能な限り削ぎ落されている。

「何用だ?」

「あそこまで俺を運んでくれ」

「我は飛脚ではないぞ……だが、承知した」

 偉丈夫な竹俣兼光の肩に乗り、切谷は目的の部屋を見据えていた。よじ登れば、辿り着けそうな位置なのだが、時間はかけたくない。

 マンションの構造上、跳躍しながら登るのは些か面倒なのもあって、あえて相棒である竹俣兼光に頼む事に。

 頼まれた竹俣兼光は体を撓ませ、膝を曲げる。強く地面が蹴り出し、地面が抉りながら指示された場所まで一気に飛び上がり、切谷はベランダへ飛び移った。切谷が移動している間に竹俣兼光は役目を終えたと察し、カードに戻る。

 ベランダに降り立った切谷は右腰に差した小太刀を鞘ごと抜き、覿面にある硝子戸へ叩きつけた。割れる音が響く。

 鍵の近くに穴が開き、そこに手を突っ込んで開錠して、部屋の中へと入る、男女二人が驚愕の表情で見つめていた。

 黒髪の男性は汐と同じ緑色の瞳に彼女と似た目元から、恐らく父親だろう。女性の方は汐とよく似た茶髪を長く伸ばし、パーマがかかっていた。こちらは母親だと切谷は推察する。

「お邪魔するぞ」

 飛散した硝子を踏みしめながら、左手で柄を握り、抜刀する。銀に輝く刀身が晒され、触れただけでも斬られそうだ。

「お前、誰だ?!」

 父親は段平を持って部屋の中に入ってきた切谷に怯懦し、体を強張せる。辛うじて右手の人差し指で指す事はできたが、指先は震えていた。それでも構わず切谷は歩み寄っていく。

「少し話に来たんだ」

「だから、誰なんだ!? 目的は!?」

 問いかけをよそに切谷は隣の部屋を一瞥した。壁に寄りかかって座り込んでいる汐の姿を視認。体中に切り傷や痣が見受けられ、壁に頭を強く打ちつけたのか、ぐったりとして項垂れている。指一本も動かさないのは、気絶しているのか、意識はあるが動かせないのか。どちらにせよ、重傷だと窺える。

 一瞬間だけ重なる姉の姿。あの時は助ける事ができなかったが、今はできる。彼女を生かさなければ、誰が自分を殺してくれようか。

「これからの事を話しに来た」

「は?」

「後、人の事を指差すのは失礼だぞ」

 言葉と同時に左手を右下から切り上げ、一閃を奔らせる。小太刀が頭上で輝いている頃には、赤が一面に広がり、部屋全体を染めていく。床に人の手が落ちていた。誰の手なのか、何も言うまい。

 自身の手が斬り落とされた事に 父親はパニックに陥る。奥にいる母親も怯懦の表情を浮かべ、腰が砕けたかのようにへたり込んでいた。

「まだ話をしていないのに、何騒ぎ立ているんだ?」

 左手をもう一度振るい、血を払い落とす。獰猛な笑みを浮かべ、品定めをするような目つきで彼らを見つめていた。

 何を言えば、面白いか。何を話せば、土産になるのだろうか。少しだけ思考を巡らせる。意識を小太刀の方へ向けた。

 そういえば、彼らは汐の事を理解しているのだろうか。いや、両親だから理解しているはずだ。それでも疑問が湧いてくる。ならば、訊いてみるしかない。

「なぁ、汐って利き手どっちなんだ?」

 訊ねる内容が何故それなのか。一聴すると些細な事だろう。けれど、今の切谷にとって重要な事なのだ。

 姉の面影と自身の過去が混濁していく。瞳の奥に宿している光は歪に妖しく揺らめき、切谷の内面を示しているかのよう。

 質問したところで、パニックに陥っている相手がまともに答えられる訳がない。ただ現状を理解できず、返答にならない声を発するだけ。さらに顔から血の気が引いていくのが見て取れる。このまま放っておけば、失血死するのは避けられないだろう。

「右か左か、どっちが良い?」

 だが、切谷は問いかけ続ける。相手が返事できるかどうかに全く頓着していない。質問したら必ず返すものだと思っているから。目の前の状況など気にも留めてないのは火を見るよりも明らか。

 相手が死にそうだろうと自分の疑問の解決を優先させる彼は、情という情が欠落していると言わざるを得ない。男性の目には悪魔か化け物か……いずれせよ、切谷の事を人ならざるものとして映っているのは確かだろう。

 最後の力を振り絞り、父親は左手を動かし何かを示そうとした。声を発しても言葉にならず、立つ力もない。辛うじて片膝をついて倒れないようにするだけ。

「そうか、やっぱり左利きなんだな」

 彼の行動を切谷は答えだと受け取る。そして、小太刀を薙いだ。重たいものが地面に落ち、転がっていく音が寂静の中で響く。再び赤い雨が降り注ぎ、鮮血が部屋を満たす。父親の体は力を失い、倒れ伏した。まだ血がフローリングの床を染めている。しかし、父親は身じろぎもしない。頭部と体は綺麗に分かれてしまっているから。

 耳を劈くような悲鳴が部屋中に響く。声の主である母親は変わり果てた夫の姿を見て、何を思うか。そんなもの、切谷が知る由もないが。

 もう一度、汐の方を見る。相変わらず、彼女は壁に背を預け、項垂れていた。変わったとすれば、彼女の足元まで血が及んでいる事ぐらいか。

 彼女を見ながら思い返す。剣術を教える事になった日、木刀を手渡した際、彼女は左手で受け取って扱っていた事を。

 他にも左手で物を扱う事が多かった。ただすぐに右手に直していたのは、家庭の環境からだろう。いや、ここ最近の状況と言った方が正しいか。どちらせよ、答えが分かったのだから、その先の理由はどうでも良い。

 切谷は彼女にかつての自分を思い重ねる。母親が家を出ていくまでは、左手で物を扱う事を許されていたと。けれど、離婚してからは右手で扱う事を強要され、家の中では何としてでも不慣れな右手を使おうと努力していた。

 その頃を思い出し、切谷はある一つの答えに至る。この子は俺と同じだと。姉の面影を残しながら、俺と同じものを持っていると感じ取っていた。だからこそ、彼女には千鳥が相応しいと改めて考え、彼女なら俺を殺せると希望を強く抱く。

「あんたは、汐が何で本を読んでいたのか、知っているか?」

 またもや普遍的な質問をする。誰もが思うだろう、些事ばかりしか何故訊かないと。それは彼の自身と彼女を重ねる為。

 より自分を殺せるという確信を得たいが為に問いかける。断罪して欲しいと願いを裡に秘めて。

 しかし、母親もまともに答えられる状態ではない。いきなり夫が斬殺され、血に濡れた刀を向けられて平常でいられる方がおかしいだろう。余程、そのような状況に慣れていなければ、冷静に動ける訳がないのが道理。

 それでも口を開くが、空気が漏れるだけ。音はどこかへと消えてしまい、伝わらない。

「まっ、どうでも良いか」

 一向に返事が返ってこない事から切谷は興味を失う。次に母親が声を出そうと口を開いた瞬間、左手を突き出して小太刀を腔内へねじ込む。頸部まで切っ先は突き抜け、母親の目は大きく見開かれていた。それ以上の反応はない。

 小太刀を引き、力を失って前に倒れてきたところを頸部を撫で斬り、鮮血を溢れさせる。二度と動かない人間の出来上がりだ。

 切谷は無言で死体を眺めた後、部屋の奥まで歩を進め、違う部屋へと移動する。勉強机と椅子、ベッドと小さな本棚ぐらいしかない簡素な部屋の中で、一冊の本を見つけた。昨日、汐が持ち歩いていた本、見覚えがあるのはそれだけはない。

 かつて、自身も読んだ事がある児童小説だ。図書館で借りて、懸賞で当てたカードを栞代わりにしながら読み、父親に破かれないようにそのまま返却した覚えがある。巡り巡って、ここに辿り着くとは感慨深い。

 思わず返り血を浴びた手で本に触れる。当然ながら、本の表紙に血が付く。けれど、構わず手に取った。そして本を持ったまま移動し、汐の元へ歩み寄る。

 まだ息があるようだが、彼女も危ない状態なのは変わりない。頭を強く打ちつけただろうから。だが、電話している暇はないのも明白。ここまで来る前に相当騒いでいたから、誰かしら通報しているはず。自分からかける必要はないとも言えよう。

 となれば、急いで用を済ませる必要がある。切谷は左手に持っている小太刀をカード化し、汐の前に片膝を屈した。

 手に持っているカードは『名刀 千鳥』、かつて雷を切ったと言われ、「雷切」という異名を持つ刀。

 本を小脇に挟み、改めて向き合う。虚ろで焦点が合っていない緑の瞳が、目の前にいる切谷に気付いて懸命に彼の顔を見ようとしていた。

 切谷は彼女を見て、初めて会った日の事を思い出した。半年前の冬の日、寒さが厳しい中、公園で寝ていたところに汐から声をかけられた事を。

 寒空の下、公園で本を読もうとしている彼女に驚いたが、何となく会話を交わす内に情が移ってしまった。笑った顔が愛おしく思っていた姉の面影と重なり、余計に思い入れが強くなる。だから、このような行動を起こしたのだ。

 自分を断罪できる唯一の存在として生かしておく為に。そして、力をつけさせる為に。

 追憶から戻った後、柔らかな笑顔を向ける。いつも師匠と呼ばれて、応える面倒見の良い青年の姿。だが、先程小太刀を振るって両親の命を奪った畜生と同一人物という残酷な事実が、血まみれの服装から突き付けていた。

「生きていて、嬉しいよ」

 答えは返ってこない。大して期待していなかったから、別に問題はないと考えていた。むしろ、返答がなくて良かったぐらい。柔らかい語勢で言葉を継ぐ。

「これからはお前一人で空を飛べるようになる」

 汐の左手にカードを優しく握らせる。双眸はこれまで以上に優しく光を灯していた。けれど、やはり歪んでおり、真っ直ぐには照らしていない。向けるべきは覿面にいる者ではないから。

「強く生きろ」

 これまで以上に明瞭で力強い語気で吐き出された言葉。寂静の中で強く響く。この言葉に込めた想いは、重い。

 姉の面影を重ね、かつての自分を重ね、見つけた断罪してくれる存在。ようやく渇望を満たす人間が現れた。

 優しい笑みの裏に隠された歪んだ欲望は、歪な光を生み出す。姉が自分に向けた慈愛を注ぐように緑瞳を見つめ、もう一度「強く生きろ」と言葉を紡ぐ。

 伝えたい事を伝え終わった後、立ち上がって来た道を戻っていく。まだ向かうべきがある。次なる目的へ向かうべく、切谷は姿を消した。残ったのは、凄惨な光景だけ。

「……し、しょう……」

 微かに発せられた汐の声。誰の耳に届く事なく、どこかへと消えてしまう。やがて、彼女も力を失い、目を閉じた。

 

 一方、その頃の闘真達は案の定迷っていた。何となく昨日訪れた公園に行けば、汐に会えると信じているのだが、肝心の公園に辿り着かない。頼みの綱であるザンバソードもそこまで土地勘がある訳ではなく、さらには昨日と違う道を歩いているから余計に分からないのだ。

「ここ、どこだ?」

「俺に聞くなよ」

 いつも通りの会話。スマートフォンの画面に地図を映しても、現在地が分からない。それでも歩けば到着できるだろうという楽観的な考えで歩く。しばらく街を彷徨いながら、歩を進めていた。

「あれ? ここじゃねえか?」

 足を止め、闘真は右手側に視線を移す。先には昨日、汐がいた公園が。彼女が腰掛けていたベンチには、人影があった。

 短く整えられた黒髪、見ているだけ暑くなりそうな黒のロングコート、紺のシャツにジーンズ姿の男性が本を開いて目を落としている。その人物には見覚えがあった――切谷勇吾だ。

「おい、汐はどうしたんだよ?」

 闘真は読書中の切谷に近づいて声をかける。眉を顰め、訝しげに見ていた。彼女が必ずしもいるという訳でもないし、それどころか会って間もないから動向なんて分からないが、彼がいるならいてもおかしくはないだろうと。

 そもそも汐に用事があるから、彼女に会わないと意味がない。けれど、何かしらの違和感を覚える。彼が持っている本に既視感が芽生えていた。本について質問しようとしたところで、切谷が本を閉じて口を開く。

「お前が来るのを待っていた」

 言い終えると同時に立ち上がり、切谷は不敵な笑みを浮かべる。「これ、汐に返してくれ」本を手渡す。

「何でアンタが持ってんだよ?」

 疑問を口にしつつ受け取り、闘真は表紙に目を落とす。改めて、汐が持っていた本だと認めるが、血が付いている事に気付いて驚く。明らかに以前見た時はなかったものだ。そして、切谷にも目を向けると、黒のコートは分かり辛いがジーンズやスニーカーには血が付着している。異様な光景としか言いようがない。

「少し懐かしくて借りてきた。昔読んだ事ある本だからな」

 驚愕の表情を浮かべる闘真をよそに切谷は話を続ける。「まっ、ちょっと汚れてしまったけどな」軽い調子で言った。

 流石の闘真も「汚れすぎだろ。怒られるぞ」と至極真っ当な言葉で返す。「それで汐はどうしたんだよ?」語気は強くなり、顔を顰めて睨めつけた。脳裏には、最悪の事態が浮かぶ。約束を果たせなくなるという最も想像したくない事態が。

「汐の事は、これで話そう」

 懐からデッキケースを取り出す。一見何の変哲もないデッキケースだが、闘真は大きく驚く。「アンタ、ファイターだったのか!?」自身の嗅覚すら気付けなかった程の隠していた事に驚嘆したからだ。

「ああ、そうだ。とっとと始めよう」

 切谷は肯定してファイトの準備を促す。「お前なら、ファイトの方が話しやすいだろ?」口元に浮かぶ笑みは獰猛で、まるで悪魔か肉食獣かのよう。黄色の双眸は、光を歪めて反射し、炯々と輝いていた。

「お、おう……」

 珍しく困惑しながら闘真は準備する。切谷と対面して、胸騒ぎが大きくなるのを感じた。ワクワク感や高揚感は不思議と感じない。あるのは、危険を知らせる信号だけ。こんなにも楽しみだと思えない自分の感情に戸惑うしかない。

 今にも雨が降りそうな曇天の中、彼らの対話が始まる――。

 

 

「俺の全力を以って、お前の心の声を聞く! ルミナイズ、『ファイト・オブ・デュオローグ』!!」

「その研ぎ澄まされた刃は命を駆る歌を奏で、生きる意味を示していく! ルミナイズ、『絶命の刃生(じんせい)』!!」

「「オーブン・ザ・フラッグ」」

「ドラゴンワールド!」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 

「カタナワールド!」

 切谷の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:狂斬の刀獣 竹俣兼光

 

「俺から行くぜ! チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

 手札を見ながら、闘真はある事を考える。何故、切谷がファイターである事を見抜けなかったのか、このタイミングでファイトをしようと持ち掛けてきたのか。疑問は尽きない。だけど、それはファイトしていけば分かるだろうと振り切り、目の前の事に集中する。

「キャスト、『D・Rシステム』を設置するぜ! 続けて、『ブーメラン・ドラゴン』をライトにコール!」

 闘真の手札:6→4/ライト:ブーメラン・ドラゴン/設置:D・Rシステム

 ライト:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 

 ブーメランの形状によく似たドラゴンが唸り声を発しながら姿を現す。「ブーメラン、ぶった切らん」と声を立てながら、攻撃体勢に入っていた。

「このままアタックフェイズを入るぜ。ブーメラン・ドラゴンにアタック!」

 尾を掴み、闘真はブーメラン・ドラゴンを投擲。風を切って、高速回転しながらブーメラン・ドラゴンは切谷に向かって進んでいく。生身で受け止められない程の質量と速度。けれど、切谷は余裕そうな笑みを浮かべていた。

「受ける」切谷のライフ:10→9

 微動だにせず、切谷はそのまま受けた。彼の体をブーメラン・ドラゴンの刃が切り裂く。だが、実際に切り裂いているというわけではなく衝撃を与えるだけ。それを分かっているのか、切谷が不敵に笑っている。しかも、不気味だ。

「ブーメラン・ドラゴンの効果でバトル終了時にブーメラン・ドラゴンを手札に戻す! そしてD・Rシステムの効果でブーメラン・ドラゴンが手札に戻ったからゲージ+1!」

 闘真の手札:4→5/ゲージ:3→4/ライト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

 勢いそのままに戻ってきたブーメラン・ドラゴンを受け止め、手札に戻す。

 何か違和感を感じる。心がざわつき、何かを知らせるかのよう。目の前にいる相手は、楽しんでいるとはまた違う感情を発しているのだろうか。しかし、まだファイトは始まったばかり。頭を緩く振って、考えている事を打ち消した。

「ターンエンド!」

 闘真の手札:5/ゲージ:4/ライフ:10/設置:D・Rシステム

 

「俺のターンか。ドロー、チャージ&ドロー!」

 切谷の手札:6→7/ゲージ:2→3

 

 剣呑な輝きを秘めながら、切谷はにやりと笑う。何か良いカードを引いたのか、それとも他に要因があるのか。

 闘真は彼の一手一足を事細かに注視し、裡にあるものを理解しようと努めていた。彼の態度が気に入ったのか、切谷はさらに口の端を吊り上げ、次の行動を起こす。

「キャスト、〈明鏡止水〉。デッキの上から3枚をゲージに置く」

 切谷の手札:7→6/ゲージ:3→6

 

 ゲージが増える。序盤から増やすという事はゲージを大量に消費するデッキだろうと、闘真は見当をつけながら動向を見守る。それよりも先程から浮かべている笑顔の奥の方が気になるところだが。

 闘真の心中など露知らずに切谷はさらに進めていく。瞳の奥で渦巻くは、歪な愛情と決意。

「そして、『数打の太刀』を装備」

 切谷の手札:6→5/切谷:数打の太刀

 

数打の太刀

カタナワールド

種類:アイテム 属性:日本刀/武器

攻3000/打撃2

「大量に作られた粗悪品の刀。切れ味は保証せん」

 

 左手に握られた太刀は輝きが鈍い。業物と呼ばれるものには程遠く、なまくらではないのは分かるにしても切れ味に甚だ疑問が残る。それでもれっきとした武器である事を誇示するかのように、切谷が振るった際の風を切った音は鋭かった。

 一連の行動を見て、闘真は切谷の持っている武器は実物なのではないかと推察。空を切った音が生々しい。そんな所感が胸の中を騒めかせている。今まで実体化したものとファイトしてきたが、今度はどう見ても違うと。

 デッキケースはどこをどう見たって、闘真が使っているものと同じ型のものだ。禍々しいデザインをしていなければ、妖しい気も発していない。けれど、どうして実体化していると言えるのだろうか。

「おい、闘真。どうした?」

 傍らにいるザンバソードが声をかける。普段なら笑っている相方が、いつになく真剣に見ているからだろうか。何かしらの異変を感じ取って、気遣うような声音で話しかけていた。

「……なぁ、あいつの持っているのアイテムって、本物に見えるか」

 一拍を置いた後、闘真はおもむろに口を開く。顔つきはいつものような笑顔を浮かべておらず、真剣そのもの。元々鋭い目つきがさらに鋭さを増していた。語調も鋭利で少しも楽しげに弾んでいない。

「何だ、藪から棒に。本物に見えなくはないが……いや、本物だったら、おかしいだろ」

「だよな、本物だったらおかしいよな。でも、本物に思えちまうんだよ」

「待て、アイツのデッキケース、どう見ても普通のものだぞ?」

 あまりにも突飛な発言にザンバソードは戸惑う。「それがどうして、実体化できるって言うんだ?」彼の言う事はもっともだ。何の変哲もないデッキケースではどうやっても実体を持たせる事はできない。

 それは闘真も理解している。だからこそ、不可解なのだ。本物だと感じてしまう事に。

 彼らの疑問は切谷までに波及する。そして、にやりと笑いながら彼らの会話に割って入った。

「俺自身がその実体化させる装置だって言えば分かるか?」

「ああ? お前が? そんな事できるかよ」

 唐突の返答に闘真は訝しげに眉を顰める。目の前にいる青年は何を言っているのだろうか、人間がアイテムを実体化なんてできるものだろうかと疑いの眼差しを向けていてた。しかし、内心ではそれが答えなのではないかと言う自分もいる。

 どちらにせよ、彼の言葉を待たなければ解明はされない。

「簡単に言えばこういう事だ」

 言葉を言い終えるか終わらないかのタイミング、切谷は太刀を投擲した。空気を貫き、風を切る音はとても粗悪品とは思えない。

 あまりの速さに闘真は目で追えず、一歩も動けなかった。傍らを通り過ぎる頃には、左頬に赤一文字が走り、血が流れ落ちる。振り返ると、太刀は背後にある巨木に突き刺さっていた。

「これで理解できたか?」

 穏やかで静かな語勢で語りかける切谷。表情も落ち着いていて、逆に怖いくらいだ。双眸は相変わらず剣呑な輝きを秘めている。彼の裡には果たして何があるというのだろうか。

「アンタ、何者だ……?」

 顔を切谷の方へ向き、闘真は問いかける。驚愕と疑惑が入り混じり、動揺をはっきりと示していた。鋭い目元は大きく開かれ、可能な限り覿面の人間を捉えようとしている。紛れもなく本物が横切ったが故に、どう受け止めて良いのか分からない。珍しく闘真の顔が緊張で強張っていく。

「俺は切谷勇吾だ。それ以下でもそれ以上でもない」

 悠然とした態度で切谷は答える。口の端は獰猛に吊り上がったまま。ファイトへの楽しみにより、闘真が理解を示してくようとしている事に喜びを感じているよう。双眸は炯々と輝いていた。

「んな事を訊いているんじゃねえ。何で実体化できるんだよ?」

 自分が知り得たかった情報を聞く事ができなかった為、闘真は苛立っている事を主張するかのように語気を荒くする。

 この前までのファイトはまだ理解できる。デッキケースの力があったから。けれど、切谷の場合はそうでない。自分自身の力で具現化したと言うのだ。理解に苦しむのは当然。それでも必死に呑み込もうと闘真は正面を見据えている。

「それは俺にも分からない。けど、実体化できるという事だけは分かる」

「答えになってねえぞ」

「さっきも言っただろ。何故、具現化できるかは分からない。分かるのは俺に守る力があるというだけだって」

「守る力……?」

 闘真は眉根を寄せ、目元を鋭く吊り上げた。「それって、どういう意味だよ?」語勢は鋭利で荒々しい。真剣な眼差しが切谷を射貫く。守るという単語で脳裏に浮かんだのは汐の顔。まさか、守る対象が彼女だとは思いたくない。

「お前なら分かるはずだ」

 それ以上は答えない。切谷は中断していたプレイを続行させる。闘真が考えている事を理解できると信じてだろうか。

「ライトに『狂斬の刀獣 竹俣兼光(たけのまたかねみつ)』をバディコール! ゲージ2払って、デッキの上から1枚をソウルイン! さらにバディギフトでライフを+1する!」

 切谷の手札:5→4/ゲージ6→4/ライフ:9→10/ドロップ(日本刀の種類):0→1/切谷:数打の太刀/ライト:狂斬の刀獣 竹俣兼光(ソウル:1)

 

狂斬の刀獣 竹俣兼光(たけのまたかねみつ)

カタナワールド

種類:モンスター 属性:刀獣/日本刀

サイズ3/攻7000/防2000/打撃2

■[コールコスト]ゲージ2を払い、デッキの上から1枚をこのカードのソウルに入れる。

■君のドロップゾーンにある《日本刀》が3種類以上あるなら、このカードの打撃力を+1する。

■[起動]【対抗】“鉄砲斬り!”君のドロップゾーンにある《日本刀が》5種類以上なら、相手の場のカード1枚選んで、ゲージ1と君の手札から《日本刀》1枚を捨ててよい。そうしたら、選んだ相手の場のカードを破壊する。「鉄砲斬り!」は1ターンに1回だけ使える。

[2回攻撃]/[ソウルガード]

「邪魔だな……斬るか」

 

 黄色と黒の縞模様が目立つ毛並み、人よりも高い背丈と筋骨逞しい肉体、身軽さを求める故に着込んだ甲冑は足軽のような軽装だ。虎頭の相貌、瞳は目の前の獲物を今すぐに狩りたいと言わんばかりに炯々と輝き、唸り声を発しながら獰猛な牙を覗かせる。右手に持っている刀は切谷が持っていたものと違い、鋭利な輝きを放ち、触れただけでも真っ二つに切れそうだと思わせるに充分。

「続けて、レフトに『悲刃の刀獣 今剣(いまのつるぎ)』をコール」

 切谷の手札:4→3/切谷:数打の太刀/レフト:悲刃の刀獣 今剣/ライト:竹俣兼光

 

悲刃の刀獣 今剣(いまのつるぎ)

カタナワールド

種類:モンスター 属性:刀獣/日本刀

サイズ0/攻2000/防1000/打撃1

■【対抗】[起動]君のターン時、場にあるこのカードをドロップゾーンに置いてよい。そうしたら、君のデッキの上から1枚をゲージに置く。この能力は1ターンに1回だけ使える。

「再び主人を殺したくない……」

 

 小柄な狐が姿を現す。狩衣を着て、手元の短剣を軽く振るう。刃は妖しく光り、見る者を魅了。しかし、狐の表情は悲しげで場に出る事を快く思っていないようだ。

「アタックフェイズ、まずは竹俣兼光でファイターにアタック!」

「承知……いざ、参らん!」

 納刀し、居合の構えを取る。そして地面を強く蹴り出し、神速の如き速さで闘真へと迫り立てていく。黄色の弾丸は音すら置き去りにして、一閃を奔らせた。

「受ける。ぐっ!」闘真のライフ:10→8

 攻撃を防ごうと咄嗟に出した右腕に衝撃が走る。まるで斬り飛ばされたかのような感覚に襲われるが、彼の右腕は健在。それでも尋常ではない衝撃だったのか、右腕を抑える。珍しく苦痛に顔を歪めていた。

「闘真、どうしたんだ?」

「何でもねえよ!」

 心配そうな相棒の声を怒鳴り立てるように闘真は返答。珍しくファイト中に声を荒げるが、痛みを誤魔化す為だ。

 実体ではないのに鋭利な痛みが走る。しかも、今までよりも痛い。だが、これぐらいでへこたれている場合ではないと歯を食いしばり、正面を睨めつけた。水色の双眸は闘志で強く輝いている。

「我の一閃を受けて、まだ戦意を保つとは……見所がある少年だ」

 にやりと静かに笑う竹俣兼光。低く発せられた声音は感嘆が混じり、眼光は鋭く、剣呑な光を宿らせていた。

 刀は再び鞘に納めており、もう一度放つ用意を整える。体を撓ませており、いつでも抜刀できるよう。

「もう一度、竹俣兼光でファイターにアタックだ!」

 切谷の指示と同時に抜刀。銀色は音もなく弧を描く。人の目では追えない刃が再度闘真へと迫る。竹俣兼光の表情が浮かべている獰猛な笑顔は肉食獣そのもの。双眸は獲物を狩る楽しみで炯々と輝いていた。

「キャスト、『ドラゴンシールド 青竜の盾』! 攻撃を無効化にして、俺のゲージ+1!」

 闘真の手札:5→4/ゲージ:4→5

 

 甲高い音が鳴り響き、金属同士がぶつかった事を知らせる。青い竜の頭を模られた盾が銀弧を防ぎ、闘真のデッキの上から1枚を導くようにゲージへ置く。闘真の顔は安心したかのように、少しだけ緊張を緩めた。

 剣撃を阻まれた竹俣兼光は不敵な笑みを崩さないまま素早く納刀し、軽快な動きで後退する。入れ替わるように切谷が飛び出し、肉薄しながら宣言。黒の疾風が猛烈な勢いで迫っていく。

「次は俺でファイターにアタック!」

「これは受ける!」闘真のライフ:8→6

 気付いた時には切谷の顔が目の前に。反射的に顔を庇うが、それが仇となる。切谷の右拳が鳩尾に叩き込まれ、呼吸が一瞬止まった。拳が離れた頃には体の芯に力が入らない感覚に襲われ、片膝をつく。鋭利で重々しい拳により、何とも形容しがたい痛みが走り、芯まで力が伝わらない。呼吸も乱れ、するだけで精一杯だ。

「闘真!? おい、切谷!」

 ザンバソードが駆け寄り、相方を気遣い、太刀を取りに行った切谷の背に荒げた声を立てる。義憤と驚愕が入り混じった双眸が射貫く。

 確かに平時は殴られてしまっても、文句は言えない行いをしているだろう、けれど、ファイト中、彼が卑劣な行為に走った事があっただろうか。いや、ない。

 相棒だからというのもあるが、いくら何でも目の前の行為は許されたものではないだろう。

 同時に殴り飛ばされようが蹴り飛ばされようが平然としていた頑健な少年が、ここまで崩れたのだから驚きは隠せない。このままではファイトができなくなるという懸念すら浮かべている程だ。

「……気にすんな。まだファイトは、終わってねぇ……」

 闘真は苦しげに声を絞り出して、ザンバソードを制する。けれど、瞳の奥にはまだ強い光が残っていた。闘志は消えていない。むしろ、切谷という男を知り得る為に対話する決意で漲っている。

「そうだ、まだファイトは終わってないぞ?」

 背後から切谷の声が。首筋に冷たく細長いものが軽く当てられていた。それが、先程投擲した太刀だと知覚すると、首筋から警鐘が鳴らされる。命の危機がすぐそこにあると。

 けれど、闘真は動揺せずに返す。「だったら、とっとと再開しようぜ」呼吸が落ち着き、語気を強めた。

「ああ、続けるさ。今剣でファイターにアタック!」

 太刀を闘真の首元から離し、切谷は悠然とした足取りで自身のファイターエリアと戻っていく。傍らで小さな弾丸が通り過ぎる。小柄故にすばっしこく、目で追うだけでも疲れそうだ。

「受けるぜ、っ!」闘真のライフ:6→5

 立ち上がり、闘真は腰を深く落としては腕を十字に交差して受け止める体勢を作る。同時に今剣が持つ短剣が右腕に刺さった。竹俣兼光に斬り飛ばされた時と比べて痛みはなく、衝撃もない。それでも闘真の表情は依然険しいままだ。

「今剣の能力を使う。今剣をドロップゾーンに置いて、俺のゲージを+1する」

 切谷のゲージ:4→5/ドロップ(日本刀の種類):1→2/レフト:今剣→なし

 

 今剣が消失すると、闘真の右腕に刺さっていた短剣も消える。それに伴って闘真も一旦構えを解くが、眉間の皺が寄ったままで険しい。いつも浮かべている楽しげな表情はなかった。

「どうした? 楽しそうじゃないな?」

「お前、ファイトしているつもりねえだろ」

「対話はしているだろう?」

「殺し合いの間違いだろ。吐き違えんな」

 これまで聞いた事のない低く冷たい声音。思わず、相方のザンバソードが大きく目を開き、闘真を見つめる。平時ならともかく、ファイト中にそのような調子で話すのは滅多にないからだろう。

 当の闘真は眼光鋭く眼前の切谷を睨みつける。「ファイトは、殺し合いの疑似体験じゃねえんだぞ」静かに凄んでいる語勢は、いつも楽しそうに笑っていた姿とかけ離れていた。

 ファイトが楽しいと思えなかったのは、自分が肉体的に苦痛を味わったからではない。もし苦痛が理由であれば、昨日のファイトなど楽しそうにしているはずもないだろう。

 切谷から感じるのは、ファイトを楽しむというファイターとして至極当然の感情ではない。強い者と戦い、命のやり取りを楽しむ感情だ。当然、彼らが使っているシステムでは人は殺せない。さらに言えば、実体化できる能力を持っているのは切谷だけ。殺し合いではなく、一方的な殺傷でしかない。

「違うな、殺し合いじゃない。俺はお前と対話しているんだ」

 否定の言葉が切谷の口が出る。「だから、こうして話しているんだろ?」吊り上がる口の端。不敵を通り越して、不気味でしかない。「俺はお前に伝えたい事があるからな」黄色の瞳は相変わらず光を歪ませていた。

 闘真は何も返答しない。確かに話はしている。けれど、これは望んだ形ではないのも確か。対話はしているが、嫌な予感は増すばかり。

「俺のターンはここまでだ。お前のターンだぞ」

 切谷の手札:3/ゲージ:5/ライフ:10/切谷:数打の太刀/ライト:竹俣兼光(ソウル:1)

 

 相変わらず、口元に獰猛な笑みを浮かべる切谷を見つめ、間を空けて開口した。

「……ターンもらうぜ。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:4→5/ゲージ:5→6

 

 まだ答えが見えない。何故、突然ファイトを持ちかけたのか。汐の事ついても疑問がある。この場に彼女がいない理由。

 解明するには、彼から直接訊くしかないし、今は考えている場合じゃないと頭を緩く振って思考の海から脱する。

「まず、『竜王剣 ドラゴエンペラー』をゲージ1とライフ1払って、装備するぜ!」

 闘真の手札:5→4/ゲージ:6→5/ライフ:5→4/ドロップ(武装騎竜の種類):0→1/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2

 

 右手に握られた片刃の大剣は、竜王の魂を宿している事を示しているように輝く。さらに闘真の闘志にも呼応し、輝きが増す一方。けれど、輝きはどこか鈍い。まるで闘真自身の心を表しているよう。

「次はライトに『ブレイドウイング・ドラゴン』をコール! 続けてブーメラン・ドラゴンをレフトにコールだ!」

 闘真の手札:4→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト:ブレイドウイング・ドラゴン

 ライト:ブレイドウイング・ドラゴン/サイズ1/攻防2000/打撃2/[移動]

 

 左手側にはブーメランに似た姿をしている竜が再び。低い唸り声を発し、戦意を高める。少し離れた場所には、赤い翼竜が翼を力強く羽ばたかせ、いつでも飛び込んでいける事を示す。

「さらに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』をセンターにコール!」

 闘真の手札:2→1/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/センター:Wピコピコハンマー・ドラゴン/ライト:ブレイドウイング・ドラゴン

 センター:Wピコピコハンマー・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 

 両手にピコピコハンマーを握り締めた小さな竜が眼前に現れる。可愛らしい見た目をしているが、これでも立派なモンスター。威勢良くピコピコハンマーを振り回して、やる気は充分。

「キャスト、『ドラゴニック・グリモ』! 手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン/センター:Wピコピコハンマー/ライト:ブレイドウイング

 

「アタックフェイズ! Wピコピコハンマーで、ファイターにアタック!」

 指示に合わせて、Wピコピコハンマーが飛び出す。小さな体躯で疾走し、肉薄してピコピコハンマーを振り下ろす。

 迫力もなく、威力もなさそうな攻撃だが、それでも精一杯の攻撃。ハンマーを振り下ろす手に迷いは感じない。

「受ける」切谷のライフ:10→9

 ピコピコハンマーを切谷は右腕で受け止める。可愛らしく高い打音が響く。だが、大した威力は出ていないが故に、切谷は平然としていた。一方のWピコピコハンマーは、たくさんハンマーを振り回した反動か、ひどく疲労している。

「Wピコピコハンマーの能力を使うぜ。Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージ+1!」

 闘真のゲージ:5→6/ドロップ(武装騎竜の種類):1→2/センター:Wピコピコハンマー→なし

 

 振り返って、闘真にサムズアップして消失するWピコピコハンマー。闘真もこの時は笑ってサムズアップで返す。

 険しい表情からいつもの楽しそうな相好に戻った事に安堵して、Wピコピコハンマーも笑っていた。

「次はブーメラン・ドラゴンでファイターにアタック!」

 覿面にいたWピコピコハンマーが消えるのを見届けた後、闘真は続けて宣言。先程の笑みは嘘のように消え、眼光に鋭さを増して眉根を寄せてながら、ブーメラン・ドラゴンを投げ飛ばす。

 彼の変化も気に留めず、ブーメラン・ドラゴンは対象を斬る事に集中。高速で回転しながら飛来していくそれを並の人間では受け止めきれないだろう。

「これも受ける」切谷のライフ:9→8

 切谷はにやりと笑い、太刀を振るった。左手一本で易々と受け止め、弾き返す。風を切る音から強勢である事は確かだったが、ものともしない膂力で簡単にブーメラン・ドラゴンの攻撃を捌いたのだ。

 攻撃を弾かれたブーメラン・ドラゴンは驚嘆と共に闘真の手札に戻る。闘真もザンバソードも驚きを隠せない様子で今でも信じられないと言葉が出そうだ。

「……ブーメラン・ドラゴンが手札に戻ったから、D・Rシステムの効果でゲージ+1する!」

 闘真の手札:3→4/ゲージ:6→7

 

「ブレイドウイングでファイターにアタックだ!」

 驚きで一瞬だけ忘我した後、すぐに切り替える闘真。彼の指示を聞いたブレイドウイングは飛翔し、威勢よく突撃していく。けれど、それを阻むようにもう一度銀色が走る。

「キャスト、『刀技 相抜(あいぬ)き』。デッキの上から3枚をドロップゾーンに置いて、ダメージを0に減らす」

 切谷の手札:3→2/ドロップ(日本刀の種類):2→3→4

 

刀技 相抜(あいぬ)

カタナワールド

種類:魔法 属性:日本刀/剣術

■相手のターン中、君が《日本刀》のアイテムを装備していて、君のセンターにモンスターがいないなら使える。

■[使用コスト]君のデッキの上から3枚をドロップゾーンに置く。

■【対抗】そのターン中、次に君が受けるダメージを0に減らす!

「相討ちを超えた誰も傷つかない境地、それが相抜き」

 

「さらにドロップゾーンの《日本刀》が3種類以上集まったから、竹俣兼光の打撃力を+1する」

 切谷のライト:竹俣兼光/打撃2→3

 

 ブレイドウイングが翼で斬撃を繰り出すと同時に銀弧が薙ぐ。幾度か火花が散った。太刀を振るう切谷の双眸は、自身に向けられた刃に喜びを感じて燦然と輝く。これが実体ならば、命の危機をもっと楽しめたとも言いそうだ。

 いずれにしてもブレイドウイングの翼は切谷の身に届かず、全て防がれる。ブレイドウイングは悔しそうな表情で後退。

「最後はドラゴエンペラーでアタック!」

 地面を強く蹴り出して、闘真は疾走する。そして、荒々しい剣撃で切谷を攻め立てていく。一閃は鋭利で力強い。

「受ける」切谷のライフ:8→6

 獰猛な笑みはそのままに、切谷は冷静に闘真の剣撃を捌く。金属が激しくぶつかり合い、甲高い音が響き、火花が散る。

 数合重ねて、鍔迫り合いへ。力の差は歴然だが、膠着状態。切谷が力を抜いているからだ。

「いつもみたいに楽しんでくれよ」

「てめえみたいな奴とファイトなんざ楽しめねえよ!」

「俺が人殺しだからか?」

「そうだよ!」

 闘真は切谷の返答に声を荒げる。「お前はファイトをファイトとして見てねえだろ!」感情が爆発する。瞳の奥は嚇怒の炎が揺らめていた。楽しいと思えるファイトは鎬を削り合う事ではあって、命を削り合うものではない。

 対面する相手は命をすり減らす事に楽しみを見出している。勝つ事が全てを通り越して、負ければ死ぬという思いが重ねた切っ先から伝わっていた。だから、闘真は叫ぶ。それはバディファイトではないと。

「その必要がどこにある? バディファイトのカードは元々命を削り合って生きてきたモンスター達だぞ?」

「それでもカードゲームに命のやりとりなんて必要ねえんだよ!」

 これまで以上に闘真は語勢を強くする。対話に命を賭ける必要はない。今まで実体化したモンスターやアイテムを扱っていたファイター達は、命を賭ける事や危機に晒す事に対して肯定的な感情はなかった。

 もちろん、デッキケースの力で感情を抑えられていたからというのもあるが。少なくとも切谷のように嬉々として命のやりとりを望む想いは感じなかった。

 それぞれの悩みに対する負の感情や純粋にファイトを楽しんでいた感情だけが、彼らから発されていたと思い返す。

「けれど、強さを求めるならば、時として命も賭けなければ得られない」

 切谷の声音が急激に低くなる。笑みも消え失せ、無表情で闘真の双眸を射貫く。「強さを求める事を忘れた奴は、死んだ方が良い」冷淡な口調、場の空気が一種にして凍えるよう。「強くなければ生きていけない」言葉は重々しく響いた。

「人の生き死にとバディファイトをごっちゃにするんじゃねえ!」

 語気を荒くして、闘真は反論。「んなもんの為にバディファイトを利用するじゃねえよ!!」憤りを露わにし、目尻をさらに吊り上げていく。強さを求める事はファイターたる者、ある意味必然だろう。けれど、そこに人の生き死にまで巻き込むのは、間違っていると闘真は強く否定する。

「バディファイトも与奪の手段だ」

 冷たく言い放った後、切谷は押し返した。力負けして尻餅をついた闘真を見下す視線は冷たく、無機質。もはや、人としての温かみなどなかった。冷淡な語調で次の句を継ぐ。

「どうするんだ? まだお前のターンは終わっていないぞ?」

 対して闘真は「分かっているよ!」と怒鳴りながら立ち上がり、手札から1枚を取り出して宣言する。

「ファイナルフェイズ! キャスト、『竜撃奥義 デュアル・ムービングフォース』! ゲージ2払って、お前に2ダメージ与えて、俺のライフを+2する!」

 闘真の手札:4→3/ゲージ:7→5/ライフ:5→7

 

 再びドラゴエンペラーを荒々しく振るう。しかし、ただ闇雲に振り回しているだけで隙だらけ。闘真自身もどこか冷静さを欠けており、怒りと焦りがあった。

「まぁ、これも受ける」切谷のライフ:6→4

 闘真と対照的に切谷は落ち着いて、自分の得物で一閃を払う。攻撃の空隙があるのに攻めないのは、まだ話しておきたい事があるからなのか、ただ単に手を抜いて煽っているからなのか。真意は切谷が次に発した言葉で判明する。

「丁度良い、汐の事も話そう」

「汐に何かあったのかよ!?」

 大きく動揺する闘真、一瞬だけ動きが緩慢に。それでもすぐに立て直し、銀弧を薙いだ。闘真の闘志に呼応して、片刃の大剣は輝きを増して視界すら奪う。

 何度目かの甲高い音。火花は相変わらず、激しく散る。

 輝きで一瞬見えなっても、切谷は何事もなく受け止めた。冷たい眼差しと眉一つも動かさない固い相好。紡がれる語調もどこか無機質だ。

「あの子には俺と同じ資質がある。だから、道を示した」

「っざけんじゃねえ!!」

 切谷の言葉に闘真は怒鳴り立て、ドラゴエンペラーを乱暴に振り回す。持ち主の怒気に反応して、ドラゴエンペラーも切っ先に熱を宿して湯気を発していた。双眸は嚇怒の意を示すかのように鋭利な光を放つ。

 汐に人殺しして欲しくて教えようと思っている訳ではない。ファイターとして純粋にファイトを楽しんで切磋琢磨したいという願望があって、彼女に教えようと思った。時として自分の欲望を優先して先延ばししたが。

 けれど、東京に来た意味のほとんどは汐にファイトを教える為。それも自分と同じように楽しんで欲しいから。

 それを切谷のような人間に歪まされたくない。命を賭ける事が楽しみになるような強さを求めるファイターになって欲しくないと。

「……お前なら、そう反応してくれると思ったよ」

 か細く呟かれた切谷の言葉。乱暴な風切り音と闘真の怒声でかき消され、闘真の耳には届いていない。しかし、切谷は大して気にしていない様子。むしろ、満足そうに柔らかく笑みを浮かべているぐらいだ。

 ひとしきり暴れた後、闘真は自身のファイターエリアに戻る。額から大量に汗が流れ落ち、肩で息をする程、疲れ切っていた。それでも威勢よく声を発する。

「ターンエンド!」

 闘真の手札:3/ゲージ:5/ライフ:7/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ブレイドウイング/設置:D・Rシステム

 

「俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー」

 切谷の手札:2→3/ゲージ:5→6

 

「『雷切(らいきり)の太刀 竹俣兼光(たけのまたかねみつ)』を装備! 装備コストとして数打の太刀をドロップゾーンに置き、ゲージ2払う!」

 切谷の手札:3→2/ゲージ:6→4/ドロップ(日本刀の種類):4→5/切谷:数打の太刀→雷切の太刀 竹俣兼光

 

雷切(らいきり)の太刀 竹俣兼光(たけのまたかねみつ)

カタナワールド

種類:アイテム 属性:日本刀/武器

攻7000/打撃1

■君のドロップゾーンにある《日本刀》が4種類以上あるなら、装備できる。

■[装備コスト]君が装備している《日本刀》のアイテム1枚をドロップゾーンに置いて、ゲージ2払う。

■場のこのカードは能力を無効化されない。

■【対抗】“雷切の一閃!”君の場の《日本刀》のモンスターかアイテムが1枚で攻撃していて、相手が魔法を使った時、ゲージ2を払い、君の手札から《日本刀》1枚を捨ててよい。そうしたら、相手の魔法を無効化にして破壊する。「雷切の一閃!」は1ターンに1回だけ使える。

[2回攻撃]

「雷神を2度斬り、鉄砲をも斬ったこの切れ味……お前も感じてみるか?」

 

 鈍い輝きを放っていた太刀は消え失せ、新たに握られたのは触れただけでも真っ二つに斬られそうな名刀。拵えは質実剛健と言って良いほど、余計な装飾は削ぎ落され、機能美という別種の美しさを引き立てている。

 空気が異様な程、静けさを増す。一陣の風が吹き、軽く砂塵を巻き上げる。張り詰めた緊張感が場を支配していた。

「これで雷でも鳴れば、完璧なんだがな」

 重苦しい空気の中、切谷がおもむろに口を開く。空を仰ぎ、今でも雨が降りそうな曇天を見つめる。「雷切は二つある……だから、雷が落ちても良いんだよな」何気ないように一言を吐き出した。

「雷切? 二つあるって、どういう事だ?」

 意味が理解できないとザンバソードが訝しげに眉を顰めて、質問を投げかける。「それは汐の事にも関係あるのか?」激情に駆られた相棒と対象的に語調は落ち着ているが、どこか刺々しい。双眸も厳しさを増し、切谷を射貫く。

「この刀ともう一振りには、“雷切”という別名がある。その名の通り、雷を切った事から由来している」

 視線をザンバソードに向け、切谷は淡々と話を続ける。「雷神を切った刀が二振りもある。ならば、一振りは託して当然だろ?」静かに微笑みを浮かべるが、もはや悪魔と言っても差し支えない程、禍々しい笑み。

「それで汐に自分と同じ道を辿らせたいと……気味の悪い話だ」

 珍しく冷たく吐き捨てるザンバソード。苦虫を噛み潰したような相好で切谷を見据えていた。

 闘真でなくとも、切谷自身の事に憤りを感じるだろう。さらには目の前にいる人物が人間なのか、疑わしいぐらい気味の悪さを覚えて吐き気すら込み上げてきそうだと。言葉には出さないが、言いたげな雰囲気を醸し出している。

 切谷は「ああ、そうだ」と首肯し、「あの子は俺を殺せる」と確信めいた言葉を力強く吐き出す。今まで歪に光を反射していたのが嘘のように瞳の奥から強く真っ直ぐな光が走る。吊り上げた口元も自信に満ち溢れていた。

「正直、お前どうかしているぞ」

「俺からしたら、普通だと思うがな」

「それはお前だからだろ」

 対応するザンバソードの眉間に皺が寄っていく。理解できそうにないとも言いたげだ。もはや、対話する意味もないとも。それでもまだ切谷から視線を逸らさなかったのは、戦士たる者の戦意の表れか。

「ファイトを進めるぞ。俺のドロップゾーンに《日本刀》が5種類以上あるから、竹俣兼光のもう一つの能力が使う」

 鋭利な語勢のまま切谷は次の言葉を継ぐ。「手札から『破邪の刀獣 数珠丸恒次』を捨てて、ゲージ1払い、お前の設置魔法を破壊する」指示を受けて、竹俣兼光は自分の得物を納刀し、目を閉じる。一呼吸置いた後、刀を奔らせ、真空波を一文字に放った。

「【対抗】はねえ!」

 いつもの余裕はなく、焦りを声に滲ませて闘真は返す。目に捉えられない神速の刃が傍らを通り過ぎてフラッグをはためかる。虚空を斬ったかと思われるが、闘真が設置したD・Rシステムを破壊したのだ。

 

 切谷の手札:2→1/ゲージ:4→3

 闘真のドロップ(武装騎竜の種類):2→3/設置:D・Rシステム→なし

 

「キャスト、『百鬼閻魔帳』。手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー」

 切谷の手札:1→0→3

 

「このままアタックフェイズに入る」

「ブレイドウイングをセンターに[移動]だ!」

 ブレイドウイング/ライト→センター

 

 赤い翼竜が闘真の覿面に羽ばたく。小柄が故に盾となりそうな雰囲気はないが、それでも我が身を全て投げ捨てる覚悟を双眸に宿している。

「まずは俺の竹俣兼光でセンターにアタック」

 言い終わるか終わらないかのタイミングで切谷は駛走し、黒の疾風となりてブレイドウイングへと迫り立てていく。銀一文字を閃かせ、風切り音が耳朶を打つ。

「【対抗】はねえ、破壊される!」

 ブレイドウイングは何度か切谷の剣撃を躱すが、一瞬体勢を崩してしまい、間隙を縫って奔る銀弧によって胴を二つ分けられてしまった。絶叫にも似た悲鳴が木霊し、赤い翼竜は姿を消す。

 

 闘真のドロップ(武装騎竜の種類):2→3/センター:ブレイドウイング 撃破!

 

「俺の竹俣兼光をスタンド、今度はファイターにアタックだ」

 間髪入れず、今度は闘真へと凶刃を振るう。剣速は音すらも消す程に速く、目にすら映らない。

「受ける! っ!?」闘真のライフ:7→6

 宣言と同時に闘真の眼前を衝撃波が横切り、切谷の一閃を弾き飛ばした。反応ができなかった闘真を守る為、ザンバソードが自らの得物で地面を叩きつけ、衝撃波を放ったのだ。

 衝撃波に阻まれた切谷は特に表情を変化させず後退する。黒のコートをはめかせ、左手に持つ刀を煌めかせる佇まいはまるで死神を彷彿させていた。

「……ありがとうよ」

「相棒を守るのは、当たり前だからな」

 互いに落ち着いた声音で言葉を交わす。先程の激情を抑えて、闘真は平静な相貌でザンバソードを一瞥。相棒も至って冷静な表情をしていたが、瞳の奥は敵意にも似た戦意を宿していた。対話すべき相手ではないと。

 再び切谷と目を合わせ、ドラゴエンペラーの柄を強く握り締める。どんな経緯があれ、とにかく今は勝つしかないと決意を固めて。

「次はモンスターの方の竹俣兼光でアタック」

 無言のまま竹俣兼光は地面を力強く蹴り出して、疾駆。黄色と黒の縞模様が目を引く剛毛を靡かせ、元来持っている剽悍な動きで地面を抉りながら、弾丸の如く迫り立ててる。目に止まらないどころか、映る事すら許さない。

「キャスト、青竜の盾で攻撃を」

「なら、【対抗】で俺が持っている竹俣兼光の能力を使う。ゲージ2払い、手札から『幻夢の刀獣 鬼丸国綱』を捨てて、お前が使った魔法を無効化にして破壊する」

 左手に持っている刀を右腰の鞘に納め、神速の如き速さで抜刀して真空波を放つ。闘真と猛虎の間に割って入る盾は、あっけなく二つに断ち切られ、役目を果たせなくなった。そして、竹俣兼光が薙いだ銀弧が闘真に迫る。

「ぐっ!」

 咄嗟にドラゴエンペラーを盾にして受け止める。両手に伝わる衝撃は生半可なものではなく、歯を食いしばって力を込めなければ、弾き飛ばれそうだ。

 痺れが走り、両手の感覚が鈍くなる。片刃の大剣を持つのも厳しいと感じるが、それでも低い唸り声は発しながら握り締める力を強めた。押し負けないように。

「見事だ」

 静かに竹俣兼光が口を開く。虎頭の双眸は、感嘆の意を示していた。「だが、まだ終わらんぞ」一旦大きくバックステップで距離を取り、次なる攻撃に移れるように体を撓ませる。獲物を逃すまいと力強い目つきで闘真を睨めつけていた。

 

 闘真の手札:3→2/ライフ:6→3

 切谷の手札:3→2/ゲージ:3→1

 

「竹俣兼光をスタンドして、もう一度ファイターにアタック」

 切谷の言葉と同時に、竹俣兼光は二度目の疾走。肩口から斬りつけようと刀を振り上げ、銀色が閃く。

 甲高い音が鳴り響き、火花が再び激しく散った。

「キャスト、『ドラゴ根性!』! 俺にダメージ1して、ライフ+3!」

 闘真の手札:2→1/ライフ:3→2→5→2

 

 再度、竹俣兼光の一閃を受け止める闘真。もう既に両腕は限界だが、それでも歯を食いしばって振るう。感覚という感覚はなく、酷い痺れにより、力を伝わり辛い。いつ手から滑り落ちてもおかしくはないが、闘志を滾らせて何度も襲い来る銀閃を弾く。

 闘真の闘志に呼応して、片刃の大剣は熱を放ち、輝きを増す。触れたら、大火傷を負いそうだと印象を与える。

「ふむ。倒しきれなかったか」

 切っ先を数合重ねたところで、竹俣兼光は立ち合いを切り上げて後退。刀を納刀し、次の行動をすぐに起こせるように体を撓ませて静かに待つ。

「ターンエンドだ」

 切谷の手札:2/ゲージ:1/ライフ:4/切谷:竹俣兼光/ライト:竹俣兼光(ソウル:1)

 

「……俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:1→2/ゲージ:5→6

 

 疲弊した様子でカードを引く闘真。平時の泰然とした姿はなく、ドローする手つきにも威勢はない。

 けれど、水色の瞳はまだ闘志の炎を燃やし、光を真っ直ぐ力強く放って眼前の相手を見据えていた。

「ブーメラン・ドラゴンをレフトにコールだ!」

 闘真の手札:2→1/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン

 

「キャスト、ドラゴニック・グリモ! 手札を全て捨てて、3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

 

 勝機を手繰り寄せられるか、緊張が走る。引いたカードの中には、ようやく相棒の姿が見えた。

 まだ運には見放されていない。そう思いながら、闘真は叫ぶ。

「相棒、行くぜ! 『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払って、ライトにバディコール! バディギフトで俺のライフを+1!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:6→3/ライフ:2→3/ドロップ(武装騎竜の種類):3→4/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン/サイズ0/攻10000/防6000/打撃3/[貫通]

 

「キャスト、『居合の極意』。ゲージ1払って、ライトのモンスターをレストさせる」

 切谷の手札:2→1/ゲージ:1→0

 

居合の極意

カタナワールド

種類:魔法 属性:日本刀/剣術

■[使用コスト]ゲージ1払う。

■【対抗】相手の場のモンスター1枚をレストにする。

「鞘の中の勝……つまり刀を抜かずに勝てば、誰も傷つかない」

 

「くそったれ、やりやがる」

 ザンバソード右手側に躍り出ると同時に片膝を屈する。しかし、双眸は静かに闘志の炎を燃やし、燦然と輝いていた。切谷に対する敵意も体の奥から威圧するように発して、場が張り詰めていく。

「悪いな、俺もそう簡単に負けてられないんだよ」

 切谷も淡々とした語勢で答える。黄色の瞳に歪な光を宿したまま、静かに口の端を吊り上げた。

 まるで懐かしい友を受け入れるかのような優しげな笑みを浮かべて。対照的に左手に握られている太刀は、鋭利な輝きを放ち威嚇するよう。

 また場の空気が静まり返った瞬間、闘真が力強く声を発した。

「ドラゴエンペラーをドロップゾーンに置いて、『超竜剣 ドラゴデザイア』をゲージ2とライフ1払って装備!」

 闘真の手札:2→1/ゲージ:3→1/ライフ:2→1/闘真:ドラゴエンペラー→超竜剣 ドラゴデザイア/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト:ザンバソード

 

超竜剣 ドラゴデザイア

ドラゴンワールド

種類:アイテム 属性:ドラゴン/武器

攻7000/打撃2

■君のライフが6以下で、君のドロップゾーンにある《武装騎竜》が4種類以上なら、装備できる。

■[装備コスト]ゲージ2とライフ1を払う。

■場のこのカードは相手のカードの効果によって破壊されず、手札に戻されない。

■【対抗】[起動]君の手札1枚を捨ててよい。捨てたら、君の場にいるサイズ3の《武装騎竜》をスタンドし、君のライフを+1!この能力は1ターンに1回だけ使える。

[貫通]

「欲望もまた一つの希望……その剣には持ち主の希望が込められている」

 

 新たな手にした大剣は、ドラゴエンペラーと同じく片刃。竜頭を模った鍔以外は目立つ装飾はない。刀身は銀色、ドラゴエンペラーとはまた違う鋭利な輝きを放つ。闘真の闘志に反応して、薄っすらとオレンジ色のオーラが刀身を包んでいる。

「やっぱり、そのカードはお前に渡っていたか」

 懐かしそうに柔らかな語調で切谷が口を開く。「お前にそのカードが渡って良かったよ」安堵したように紡がれる言葉。今いるのは狂気に満ちた死神ではなく、汐が「師匠」と呼び慕っていた優しげな青年だ。

「これ、お前のカードだったのかよ……!?」

 思いもよらない告白に闘真は激しく動揺する。目は大きく見開かれ、双眸も信じられないと言った様子で揺れていた。柄を握り締める力が弱くなり、ドラゴデザイアが纏っているオーラが乱れ、闘真の動揺を表しているよう。

 まさか汐からもらったカードが元々切谷のものだとは思いたくはない。ここまで来ると仕組まれているのかさえ考えてしまう。彼の計画に加担させられている感覚を覚えるが、頭を横に振って否定。その為にバディファイトをしている訳ではないと振り払い、覿面の切谷を見据えた。

「昔、雑誌の懸賞で当てたカードなんだ。その当時はバディファイトをやっていなかったけどな」

 闘真の動揺も気にせず、切谷は話し続ける。「汐の本も昔俺が借りた本で、あれにそのカードを挟んでいたんだ」淡々とした語調で告げられる事実。これには闘真もザンバソードも絶句するしかない。

「偶然が二度起これば、偶然ではなく奇跡だな」

 悠然とした調子で切谷は言葉を紡ぐ。微笑みは柔らかく、嬉しげに目を細める。先程の狂気に駆られた姿が嘘のようだ。

 けれど、左手の太刀は少しずつ禍々しいオーラを纏う。狂気が伝播しているように、妖しく燦然と輝いていた。

「さて、三度目の偶然は起こるかな?」

 次の瞬間、好青年の姿を消えて、狂気に満ちた死神に変わる。切谷の告げた言葉と同時に、彼が握っている竹俣兼光はさらに妖しく輝き、持ち主の狂気を表す。死神が浮かべている笑顔も禍々しく獰猛だ。

「……これ以上、胸糞悪い偶然なんて起こさせるかよ。ドラゴデザイアの能力を使うぜ」

 真っ向から闘真は吐き捨て、語気を強める。「手札を1枚捨てて、ザンバソードをスタンドして、俺のライフ+1!」オレンジ色のオーラに包まれると、ザンバソードは立ち上がり、身の丈もある大剣を威勢よく振るった。

 砂塵が巻き上がり、突風が吹き荒れていく様は風神のよう。木々が騒めき、危機を感じた小鳥達が次々と飛び立っていった。ひとしきり大剣を振り終わった後、切っ先を切谷に向け、臨戦態勢と映る。闘志を滾らせて。

 

 闘真の手札:1→0/ライフ:3→4

 

「アタックフェイズ! ザンバソードでファイターにアタックだ!」

「おらよ! こんでも喰らいやがれ!!」

 鈍重そうな武器や巨躯からは想像もできない程、軽快な動きで肉薄する。大剣を振り上げ、猛烈な勢いのまま押し潰すように振り下ろした。

 切谷や竹俣兼光と比べて鈍重な一閃だが、相手の足を止めるには充分すぎる程、巨大な刃が襲いかかってくるという迫力。並みの人間では気圧されて動けないところだろうが、切谷は不敵な笑みを浮かべて告げる。

「キャスト、『鬼道 おぼろ幻舞』。その攻撃を無効化にする」切谷の手札:1→0

 そのままザンバソードは得物で切谷を押し潰すが、手応えがない。舞い上がった砂塵が晴れた時、大剣の傍らに切谷が見上げていた。「残念だったな」語勢は至って平坦だが、にやりと笑い、歪んだ光を強く放つ。

 悔しげに唸りながらもザンバソードは後退する。「すまん」言葉短めに吐かれた謝罪の言葉。沈痛な声音が耳朶を打った。

「気にすんなよ、まだ終わってねえぜ」

 ようやく笑った闘真。相棒に心配かけさせまいと浮かべた笑顔は、まだ楽しげではない。けれど、ザンバソードを落ち着かせるには充分だった。「頼むぞ、相棒」ザンバソードの口から確かな信頼の言葉が紡がれる。

「任せろよ。次はブーメラン・ドラゴンでライトにアタックだ」

「さぁ、行ってこい!!」

 ザンバソードに投擲されたブーメラン・ドラゴンは、空気を切り裂いて唸りにも似た音を発しながら、虎頭の武人へ迫り立てていく。強靭な膂力で投げ出された強勢なブーメランはモンスターでさえ、まともに受ける事を避けたくなる程。

「ソウルガードだ」

 静かに紡がれる切谷の言葉。それを掻き消すような甲高い衝突音。

 真正面から竹俣兼光はブーメラン・ドラゴンを自らの得物で受け止めた。まともに衝突したのは一瞬で、直後に竹俣兼光の刀が折れてしまい、体を切り裂かれる。けれど、残像にすぎず、本体はブーメラン・ドラゴンを簡単に躱していた。

 ブーメラン・ドラゴンは竹俣兼光の残像を真っ二つにした後、勢いそのままに闘真の手札へと戻っていく。戻る際の表情は、実に悔しげだった。

 

 切谷のライト:竹俣兼光(ソウル:1→0)

 闘真の手札:0→1/レフト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「最後はドラゴデザイアでライトにアタックだ!」

 改めて柄を握り締め、闘真は地面を強く蹴り出して疾走。決して速いという訳ではないが、迷いはない。

 荒々しい剣撃で攻め立てる。激しく火花が散り、金属同士が激突した音が響き渡った。

 洗礼された竹俣兼光の剣捌きに攻めあぐねてしまい、決定的な一撃を与える事ができない。

「見ての通り、【対抗】はない」

 ふわりと言葉が流れる。激しい攻防の中、竹俣兼光が一瞬だけ手を緩めた隙にドラゴデザイアの刃が肩口に走った。

 袈裟から肉や骨ごと断ち切り、竹俣兼光の体を二つに分けていく。「見事」静かに力強い声が耳朶を打つ。

 振り下ろしきった頃には虎頭の武人は姿を消しており、先には遊具や建物が見えた。

 

 切谷のライト:竹俣兼光 撃破!

 

「ターンエンドだぜ」

 闘真の手札:0/ゲージ:/ライフ:4/闘真:ドラゴデザイア/ライト:ザンバソード

 

「俺のターンか。ドロー、チャージ&ドロー」

 切谷の手札:0→1/ゲージ:0→1

 

 場の緊張感が増す。切谷が引いた一枚で勝敗が分かれるから。

 今、切谷の場にモンスターがいないものの、打撃力が2点以上のモンスターを出してしまえば闘真の負けが確定する。

 闘真達が固唾を飲んで彼の行動に注視。静寂が訪れる僅かな瞬間。緊張ばかりが張り詰めていく。

「キャスト、百鬼閻魔帳。手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー」

 切谷の手札:1→0→3

 

 緊張という緊張などどこ吹く風のように、切谷の語勢は至って平静だった。表情も落ち着いているのが、逆に恐ろしく感じるぐらい。風が不穏な音を立てて、黒のコートをはためかせる。

「キャスト、明鏡止水。ゲージを+3し、さらに竹俣兼光をライトにコール。ゲージ2を払って、デッキの上から1枚をソウルイン」

 切谷の手札:3→2→1/ゲージ:1→4→2/切谷:竹俣兼光/ライト:竹俣兼光(ソウル:1)

 

 再び姿を現した虎頭の武人。右手に自身の名と同じ太刀を持ち、鋭利な双眸は力強く光を宿していた。

「さらにドロップにある日本刀の種類が3種類以上あるから、ライトの竹俣兼光の打撃力を+1する」

 切谷のライト:竹俣兼光/打撃2→3

 

 ライトにいる虎頭の剣士を認めた闘真は敗北を確信する。手札がないのは、火を見るよりも明らか。水色の瞳は、不思議なぐらい落ち着きを払い、乱れを感じさせなかった。ただ真っ直ぐと切谷と目を合わせて見据えているだけ。

「アタックフェイズ、ライトの竹俣兼光でファイターにアタック」

 指示を受けて、竹俣兼光は大柄な体に似つかわしくない剽悍な動きで疾駆する。肉薄した後に銀弧を薙いだ。

 音すら消える速度で銀色が闘真の体へ迫り立てていく。

「受ける! うぐっ!」闘真のライフ:4→1

 両手の痺れから反応が遅れ、胴から切り裂かれる。本物ではない為、本当に切り裂かれた訳ではないが、体の芯まで尋常ではない衝撃と痛みが走った。

 一瞬体の力を抜け、膝を屈しそうになる。まだファイトは終わっていないと自分を奮励し、歯を食いしばりながら踏ん張って眼前から目を逸らさない。負けが確定している現在でも、双眸は闘志で炯々と輝き、炎を絶やさないでいた。

 せめて堂々と全てを受け止める。闘真の胸中は、闘魂で満たされ、ファイターとしての覚悟を固めていく。

「……やはり、ファイターはお前にこそ相応しい」

 決して目を逸らさない闘真の強さを見て、切谷は小さな呟きを繰り返す。「お前ならば、あの子を強くしてくれるだろうな……」風に消えてしまう程、声は小さく闘真の耳には届かない。だが、気にする程でもないのも切谷だ。

「俺でトドメを刺す。何か言いたい事はあるか?」

「てめえの思い通りにさせねえ……絶対に!」

「そうか。なら、汐を頼んだぞ」

 言葉は後ろに流れ、黒の弾丸が空気を突き破って接近。今まで以上に速く強く地面を蹴り出して疾走して、平突きを繰り出す。狙いは闘真の胸元。確実に仕留める気だ。

 闘真は「受ける」と宣言するが、反応できない。為す術もなく、ただ自分に迫り立ててくる凶刃を見守るだけ。ザンバソードの怒号が聞こえるが、意味など成さない。

 走馬灯にも似た景色が脳裏に流れ、自身の死期を悟る。仮に汐が生きていたとしても、バディファイトを教えられないなと。

 けれど、銀色が闘真の体を貫く事はなかった。むしろ、何かによって弾き飛ばされ、黒のコートを翻す結果に。

「何が起きてんだ……?」

 体の力を抜いて流れに身を任せた故に、闘真は尻餅をついた。手元のドラゴデザイアはオレンジ色の光を激しく輝かせ、闘真の身を守るように雷を迸らせる。持ち主の危機に反応したのだろう。竜頭の瞳は緑色に光り、力を発している事を示していた。

「まさか、雷を切った刀が雷に弾かれるとはな」

 語調からは特に動揺している様子はないが、切谷は意外そうに見つめる。「これは驚いた。そのカード、意志を持っていたんだな」刀の熱を冷ますように左手を振るい、黄色の双眸は興味深そうにドラゴデザイアを注視。予想外な事だったらしく、目を丸くしていた。

「意志……それって、どういう事だよ?」

「そのままの意味だ。カードに意志があったから、お前は助かった。運が良かったな」

 右腰に差してある鞘に刀を納め、切谷は視線を闘真の方へ向ける。「それでも俺の勝ちには変わりない」背後に竹俣兼光が開いたゲートが出現する。「話したい事も話したから、俺は行く。達者でな」踵を返し、そのまま切谷と竹俣兼光は奥へと消えていく。闘真達はただ呆然と背を見届けるしかなかった。

 

 闘真のライフ:1→0

 

WINNER:切谷勇吾

 

 

 切谷達が立ち去った後、闘真は背中に汚れがつく事を厭わず、大の字になって寝転がった。そして、雨が降る。

 雨が降っても微動だにしない闘真。ファイトの疲労から動けないのもあるが。切谷が告げた言葉の数々が頭の中を駆け巡り、動く気力を奪っている。思考の整理、いや心の整理というべきか。まだ現実を受け止められないでいた。

 ザンバソードもそれを察しているらしく、「風邪引くぞ」とぐらいしか声を掛けない。ファイトの事は一切触れずに、箭内へ避難する事を促す。けれど、闘真は動かなかった。

 しばし闘真が雨に打たれ続けていると、誰かが近づく気配を感じる。雨音に紛れて、二人ぐらいの足音が耳朶を打った。

「大丈夫!?」

 女性が倒れている闘真に気付いて、駆け寄って顔を覗き込む。紅紫の瞳が不機嫌そうな相好をしている闘真を映していた。

 気遣いなど無遠慮に闘真は無言で体を起こす。女性を睥睨した後、視線を正面へ移して、切谷達の影を追う。まだ何を話せば良いのか、分からない。

「ここにいたら、風邪引くよ」

 無言で覿面を睨みつける闘真から心情を察したのか、女性は優しげな語調で促す。先程もザンバソードに言われたのだが、どうにもここから動く気力が湧かない。これ以上考えたところで仕方ないのだが、まだ頭が切り替わらず、さっきの事ばかりを追っている。

「闘真、汐の事もあるだろうが、今はここで止まっている場合じゃないだろ?」

 一向に動こうとしない闘真にザンバソードが穏やかな語勢で話しかける。「分からないなら、動くしかない。そうだろ?」相棒に向けた眼差しは優しく温和。彼もまた動揺があるだろうが、それを表に出さずに気遣うのは流石と言うべきか。

 ザンバソードに促されて、ようやく闘真は立ち上がる。改めて女性と対面すると、彼女はバディポリスの制服に身を包んでいた。近くに立っている薄茶髪の男性も同じくバディポリスを着ているが、腰に拳銃のようなものを携えている。彼は非ファイター隊員なのだろう。

「何があったかは分からないけど、お話なら聞くよ?」

 雨に濡れながらも女性の顔立ちは明るく、紅紫色の瞳は柔らかく温かみのある光を宿して、闘真を見つめる。口元に浮かべた微笑みも優美で穏やか。虫襖(むしあお)色のロングヘアーをお嬢様結びでまとめて、如何にも名家のお嬢様という印象を与える。

 闘真もまた可憐な女性に目を惹かれたが、決して彼女に見惚れた訳ではない。顔に見覚えがあったからだ。昔、バディファイトを教えてくれた人物に似ていると。

「何か私の顔に付いている?」

 女性の疑問に闘真は首を横に振って、「いや、何でもねえ」と否定する。恐らく気のせいだろうと思い、疑念を振り払った。

 その後、バディポリスの二人に促されるまま、闘真達は公園を立ち去る。まだ心は先程のファイトに囚われたまま。

 

「それで拾ってきたのが、コイツなのか」

 パトカーの車内、助手席に座る男性が口を開く。バックミラー越しに闘真の表情を確認している目つきは鋭い。

 先程女性と一緒にいた男性は運転席に座っており、助手席にいる男性は闘真達がパトカーに乗る際に合流したバディポリスの隊員。彼らは闘真達がいた公園の近辺で起きた事件を調べていたらしく、助手席の男性は事件現場に行っていた様子。そして、運転手と女性は近隣で他に被害がないか確認していたところを闘真と出会ったという。

「拾ってきたって、犬じゃないんですから」

 闘真と共に後部座席に座っている女性が苦笑いを浮かべながら返す。「正成先輩、口が悪いですよ」男性の名を呼んで、たしなめた。声音は至って優しい。バディポリスを務められるのか、少し疑問に思えてくる程に。

「清音のように育ちは良くないからな」

 正成と呼ばれた男性は、淡々とした口調で返答した。後部座席の方に顔を向けて、闘真と目を合わせる。

 七三に分かれた紫檀の短い頭髪、切れ長で吊り上がった翡翠の双眸に精悍な顔立ち。人を寄せつけなさそうな印象を覚えるが、不思議と話しかけられる親しみやすさがある。

 闘真は彼の顔を知っていた。バディポリスのエース、(くろがね)正成(まさなり)だと。バディファイト界隈では、名を知らない人間はいない程の有名人だ。ただ彼の顔もまた昔どこかで見たような気がする。それも幼い頃に。気のせいなだけかもしれないが。

「私はそこまで育ちが良くないですよ。一般家庭で育った身ですから」

 正成に清音と呼ばれた女性――梅平(うめひら)清音(きよね)は、やんわりと否定した後、「それと」と付け加えて「先輩、怖がらせちゃ駄目ですよ」からかうような調子で掣肘する。「先輩の顔は怖いんですから」僅かに漏れる笑い声は大人しく品を感じさせる柔らかい声だった。

「生まれつきなんだから、仕方ないだろ」

 眉一つも動かさず、正成は言う。「そいつだって、目つき怖いだろ」一言も話していない闘真にも飛び火させていく。

 巻き込まれてしまったが故に、闘真はやや不機嫌そうに正成の顔を睨みつけて、「俺も生まれつきだよ」苛立ちを少し含ませた語調で返した。

「お前もか、大変だな」

 他人事のように言い放つ正成だが、改めて闘真の顔をまじまじと見つめる。「お前、どこかで会わなかったか?」無愛想な相貌から紡がれた言葉は疑問だった。

「んだよ、唐突に」

 あまりにもいきなりの事で反射的に口悪く返答する闘真。傍らで清音がたしなめるが聞き流す。

 ついさっきまで同じ事を考えたのだから、もしかして会っているのかもしれないと考えるのだが、バディポリスの知り合いなどいないからあり得る訳ないと否定する。そんな偶然なんて起きないだろうから。

「お前の顔に何か見覚えがあるなと思ってな」

 相変わらず仏頂面で答える正成は、どうやら闘真の言葉遣いにはさほど気にしていない模様。「清音はどうだ?」疑念を解決する為に清音にも話を振った。

「私も見覚えが……でも、気のせいのような気もしますけど」

 彼女も闘真の顔を見つめる。優しげな眼差しは、闘真にとってどこか居心地の悪さを覚えさせた。

 ここまで温かみのある瞳を見るのは慣れていない。ついつい目を逸らしてしまう。吸い込まれそうな予感がするから。

「アンタらがテレビで見た事あるぐらいだぞ」

 きっと見間違いだと思い、闘真も否定の言葉を吐く。「アンタらとファイトした覚えがねえよ」語気は意外と穏やかで、いつもの刺々しさはない。最近の記憶を巡っても、彼らと思わしき人物と対戦した覚えがなく、気のせいだろうと。

 ふと、頭の片隅にバディファイトを始めた頃の記憶が甦る。他人を寄せ付けない性格から、孤立して誰一人として対戦してくれなかった頃。そんな中、優しげに声をかけてきた少女と対戦してくれた青年の姿を薄っすらぼんやりと思い起こす。

 まさか、この二人がその二人だと言う事はないだろう。闘真は思い浮かんだ記憶をそっと振り払った。流石にできすぎていると。

「そうか、聞いて悪かったな」

 そう言って、正成は顔を覿面の方に向けた。「もう一つ質問なんだが」と言い出し、冷淡な語調で次の句を継ぐ。

「あの近辺で起きた事件について、何か知っているか?」

 彼がいう“あの近辺”とは、切谷とファイトしていた公園の近くだろうと闘真は何となく推察する。そして切谷の身なりを思い出す。血まみれの衣服と血に濡れた汐の本。これらから導き出される答えに、胸をざわつかせる。

 せめて最悪な事態だけは避けて欲しいと願いながら、闘真は口を開いた。

「事件は分かんねえけど、関係していそうな奴なら知っている」

「誰だ?」

「……切谷勇吾って言う奴だ」

 いつも軽い調子で言う闘真が珍しく重々しい口調で名を言う。

 嫌でも思い出したくない。彼と対戦して思ったのは、二度と対戦したくないという気持ち。何故か、あそこまで楽しいと思わなかったファイトは初めてだと振り返る。それだけ彼の存在が禍々しいというのが分かる証拠とも言えよう。

「切谷勇吾って、昔捜査していた人じゃなかったっけ?」

 今まで黙っていた運転手が開口する。「確か、ファイターを狙った連続殺人で容疑にかけられた人だったはずだけど」正成を一瞥して質問を投げかけた。

「ああ、四年前ぐらいに挙がっていた名前だな」

 問いかけに答える正成。平静な語勢はそのままに「と言っても、資料でしか見た事がない」と付け足す。「俺達が高校生ぐらいの話だったはずだろ」バックミラー越しに清音の方に目を合わせる。相変わらず眼光は鋭い。

「四年前と言えば、それぐらいですよね」

 清音は首肯して、顔を闘真の方へ向け、「君はその人の事をどれぐらい知っているの?」穏やかな声音で問いかけた。

「詳しくは知らねえ」

 不機嫌な調子は変わらず、闘真は続ける。「分かるのは、汐の剣術か何かの師匠とバディファイターの皮を被った人殺しぐらいだ」いつもより低く重々しい語勢で吐き捨てた。彼を通して、強さを求めた先に見えた最悪の未来。汐にそのような道を辿らせたくないという思いが胸中を満たす。

「鳥田汐と仲良かったのか?」

 意外だと思ったのか、少し驚いたかのように正成は訊ねる。闘真も闘真で汐の名前が自分以外に出るとは思わなかった為、大きく目を見開く。さらには今にも身を乗り出して食いつきそうな勢いもあった。

「何で、アンタが汐の名前を知ってんだよ?」

「その子が、あの近辺で起きた事件の被害者だからだ」

 淡々と告げられた事実。ぼんやりとした疑念が確信へと変わる。切谷の言葉から汐は殺された訳ではないだろう。

 だが、胸の中から焦りを感じる。それを無理やりを抑えながら、闘真は詳細を知ろうと問いかけた。

「汐に何かあったのか!?」

「頭を強く打ったらしい。病院に搬送されている」

 語勢を荒げて闘真に対して、正成は一切平静を崩さないまま返答する。「それでなくとも傷だらけだったらしいしな」人づてで聞いた情報なのか、少しあやふやな論調。けれど、闘真を動揺させるには充分だった。

「おい、汐が病院って……!?」

 殺されている事はないと思っていたが、病院に搬送されたとなれば話は別。珍しく水色の瞳が不安で揺れていた。何かしら命に危機があったのだろうか。

 思い返されるのは、昨日の帰り際に交わした靖雫との会話。普段から暴力を受けているのではないかという疑問が、今さら脳裏に甦る。あの時は大して気にしていなかったが、今になって気になるとは。我ながら、虫の良すぎると自虐の念も心中にあった。

「安心しろ、生きている事は確かだ」

 特に表情を変える事なく、正成は淡々とした調子で言葉を継ぐ。「現場にいた人間に聞いた限りだけどな」当時の事情を眉一つも動かさずに話していく。「俺が現場に到着した時は、搬送された後だから、その先は知らない」先程まで淡々と話していたが、言い終わるまで段々少し投げやりな口調に。これ以上聞かれても困るとも言いたげだ。

 正成の話を聞いて、ひとまず闘真は安堵して胸を撫で下ろす。生きているなら、まだ大丈夫。約束は果たせると。

 そして汐の話で思い出した事があった。いつも使っているショルダーバックから、一冊の本を取り出す。切谷から預けられた汐の本。表紙は血で汚れて、本紙も雨に打たれたが故に紙本来の硬さが失われている。

「先輩、ダッシュボードから」

「手袋だろ? すぐに取り出す」

 隣にいる清音が事件に関連あるものだと察し、正成から手袋を受け取ると、すぐさま闘真から本を渡してもらう。そして真剣な眼差しで本を調べ始めた。

「君はどこでこの本を?」

 しばし本を調べていた清音が口を開く。双眸は真剣ながらも先程の優しげな光を灯しているまま。

 言わなくても構わないとも告げているように思えた。けれど、闘真は気にせず返答した。

「公園で切谷から。元々は汐の本なんだけどな」

 闘真の言葉を聞いて「被害者の……」と静かに呟いた後、清音は指の腹を顎に添え、本に目を落としながら考え込む。

 しばし沈黙が流れた。妙な緊張が車内に走る。けれど、それは僅かだった。

「ごめん、しばらくこの本預かっても良いかな?」

 清音が沈黙を破るかの如く開口。再び闘真に向けられた眼差しは、変わらず優しく温かみがある。

「汐に返すなら別に。俺のものじゃねえし」

 ぶっきらぼうだが、いつになく真剣な声音で返答する。「汐に返すって事ぐらいは約束してくれ」再度同じ事を告げた。

 大切なものなのかどうかは分からないが、大切そうに扱っていたと思い起こす。血で汚れている上、雨に濡れて変わり果ててしまったから、謝りにいかないとなとも思い立つ。ここまで他人に興味を持つ事なかったと、過去の自分を比べていた。

「分かりました。調べ終わった後、この本は彼女に返します」

 真剣な語調で清音は告げる。先程の砕けた言葉遣いではなく、丁寧な調子で話していた事から、彼女なりに重く受け止めているのだろう。自然と人を信用させようと思い起こさせる。闘真も彼女の事を信用する事にした。

「いや、そこまで汚れた本は受け取りたくないだろ」

 バックミラー越しで確認していたのか、正成が口を挟む。「せめて、新品にしてやれ」彼なりの気遣いなのだろうが、完全に雰囲気を壊していた。冷淡な口調がより一層無情に闘真達の心を突き刺していく。

「正成先輩」

 僅かに発せられた清音の言葉。静かな怒気を孕ませた呼びかけに、正成は閉口する。心なしか冷や汗をかいているようにも見えた。この時ばかりは闘真も傍らにいる清音に内心恐怖する。怒らせてはいけないと本能で察したから。

 また沈黙が流れる。降り注ぐ雨音が耳朶を打つ。そして何度目かの交差点を通る瞬間、正成が口を開いた。

「次哉、コンビニ寄ってくれ」

「今言うの!?」

 運転している薄茶色のツンツンとした短い頭髪が特徴的な青年――片石(かたいし)次哉(つぎや)は驚く。彼曰く、もうすぐバディポリスの本部に到着するとの事。だが、正成は構わず続ける。

「煙草が吸いたくなったから、コーヒーを買いに行きたい」

 彼の一言により、一旦近くのコンビニで休憩を取る事となった。雨が止む気配は、まだない。

 

 コンビニに駐車して、各々コンビニで用事を済ませる。闘真は軽食を買った後、正成に連れられ、喫煙所の付近まで付き合う羽目に。

「お前とは一対一で話したいと思ってな」

「バディポリスの本部でも良かっただろ」

「あそこだと部屋全面が禁煙なんだ。喫煙がてらに話せない」

 正成の言った理由に呆れて、闘真はため息を吐く。「んなどうでも良い話して、どうするんだよ?」胡乱げな目で正成を睨めつけていた。喫煙がてらの話でまともな話は出た覚えがない。関係のない話までしている余裕がないとも言える。

「少しだけ頭の片隅に入れておいて欲しくてな」

 紫煙をくゆらせ、正成は平静な口調で「それでもつまらん話には、変わりないから聞き流してくれ」と告げた。煙を吐き出す瞬間、闘真から顔を逸らし、虚空へと空気が流れる。屋外用の灰皿に灰を落とし、再び咥えて言葉を継ぐ。

「鳥田汐って子の……あの子にとっての一番の友達として接してやれ」

 ぞんざいな語調と裏腹に翡翠の双眸は真剣で、どこか悲しみを帯びていた。過去に似たような経験をしているかのように。

 だが、闘真は訝しげな表情で彼を見つめる。いきなり何の事だか分からず、真意を掴み損ねているからだ。何故、そのような言葉を言うのだろうか。不思議でしかない。

「恐らく犯人は、あの子に心の傷を深くして、俺達と同じような道を辿らせたいんだろう」

 返答や相槌がないまま正成は話を続ける。「俺は、あの子を過去に囚われせたくない」独白とも取れる言葉だが、闘真に向けられていた。静かな語勢には悲しみが幾分か混じる。過去を思い起こしているように。

「……俺達って、どういう意味だよ?」

 どのような末路を辿らせたいのかは分かっている。だが、俺達と付く意味が分からない。

 闘真は眉根を寄せて、静かに訊ねる。雨音に消されないように明瞭な声音で。

「俺もカードを具現化する能力を持っているからだ」

 冷淡に紡がれる言葉。闘真は大きくを目見開いて、傍らで煙草を吸っている声の主を見つめる。自分より遥かにある背丈、見上げる先は無愛想な相好で煙草を味わっている男の横顔だった。

 翡翠の双眸は平静のまま虚空を眺めている。眼差しはどこか遠い過去を見ているよう。

「現場にあったカードが意志を持っていた」

 相変わらず話が続いていく。「恐らく犯人は、意志のあるカードを具現化できると見立てている」彼の推察を聞いて、闘真は先程のファイトを思い出す。切谷が言っていたカードを具現化できるという能力。あれは嘘ではなかった。

 現に頬を切り裂かれ、出血している。今は血は止まっていて、手当てしてもらっているから問題ないが。

「あの力って、何なんだよ……?」

 まだ頭の整理が追い付かず、絞り出した質問は漠然としていた。どこに焦点を絞ればいいのか分からない。

 そんな闘真の心情を斟酌したのか、正成は静かに答えを言う。紫煙をくゆらせたままで。

「あれは過去に囚われた奴が発現する能力なんだよ」

 相変わらず表情が微動だに動かない正成だが、声音はどこか固い。「子供の頃に心に深い傷を負う経験した事が原因で発現する」滔々と詳細を語っていく。翡翠の瞳は、一切闘真に向く事なく遠くを眺めていた。「子供の内は余程の事がない限り発現しないが、成長して何らかの拍子で発現してしまう」煙を一旦吐き出し、灰を落とす。煙草は短くなっている。

「過去に囚われて弱者、それが俺達“カティヴム”だ」

 灰皿の上に煙草を止めたまま、強く響く言葉。聞き慣れない単語に、思わず眉根が寄ってしまう。何じゃ、そりゃとも言いたげな闘真の険しい顔つき。察してか正成も「“カティヴム”については、覚えなくていい」と告げ、次の句を継いだ。

「だから、あの子が未来に向かって歩めるように、お前が傍にいてやってくれ」

 今まで聞いた中で正成の声音が一番温かく優しい。けれど、翡翠の双眸は今まで以上に悲しそうに揺れていた。

「……約束、果たしてねえからな」

 了承の代わりに紡がれた闘真の言葉は雨音に消えていく。煙草も吸えないぐらいに短くなり、火が消される。

 話が終わった後、彼らは無言のままパトカーに戻り、バディポリス本部へ向かう。そして、事情聴取して解放されると、闘真の一日は終わった。

 

 数日後、闘真達はまた東京へ訪れていた。天候は前に訪れた時と比べて良好だが、曇天である事は変わりない。

「っで、改札で待っていりゃ良いんだっけ?」

 改札の近くで通行人の邪魔にならないように、闘真はとある人物を待つ事に。

 連絡が来たのは昨日、正成から汐の面会が許されたから病院に向かって良いと。ついでに彼の学生時代の先輩が案内するから、迷子になる心配もないとも告げられた。

 と言いつつも顔を知らない人物なのだから、反応に困るしかなかったが。ただその人物が汐と関わりがあるのは確かで、いち早く彼女の元へ駆けつけられたから、病室まで知っている事だろう。

 彼女が元気だったら、いよいよ教えられるなと気持ちが高まる。奥には切谷と正成の言葉が飛び交っていた。それでも自分は汐と約束を果たすんだと振り払い、少しの間柱に寄りかかって待つ。

 すると、辺りを見回しながら、こちらに近づいてくる女性の姿が。汐とよく似た赤みがかった茶髪を首元で切り揃え、吊り上がった露草色の瞳が気の強そうな女性と印象付ける。

 目が合った瞬間、女性は闘真の元へ歩み寄った。白のブラウスにジーンズといったシンプルなファッションでまとめ、元々闘真より背が高いかつパンプスを履いている影響から、実際の身長より高く見える。耳にはシンプルなデザインのピアスが煌めく。

「君が、正成の言っていた相楽闘真君だね?」

 女性の声音は思いの外優しく、闘真は少々面食らう。けれど、すぐに切り替えて「ああ、そうだけど」無愛想な語勢で言いながら首肯。汐にどことなく似ているのに、少し声音が違うだけで調子が狂るう。

「アンタが、案内人って奴か?」

 眉根を寄せながら、闘真は目の前の女性に質問を投げかけた。語調は荒々しさはないが、言葉遣いが悪い。今に始まった事ではないが。

「こら、年上には敬語を使うものだぞ」

 見た目相応の強い語気で女性はたしなめるが、「まっ、正成も似たようなものだから、今さらかな」あっさりと諦める。表情もどこか諦観している様子。そして、すぐに切り換えて言葉を継いだ。

「私が案内人の(たちばな)千尋(ちひろ)、よろしくね」

 快活そうな笑みを浮かべて、千尋は右手を差し出した。彼女の笑顔が一瞬汐と重なり、闘真は一瞬たじろぐ。他人の空似だろうと即座に否定し、「よろしく」と言葉短めに返事して差し出された手を握る。

「じゃ、いこっか」

 握手を解いた後、千尋に促されて、共に病院へ赴く事に。歩き始める瞬間、通り過ぎた風が妙な冷たさを帯びていた。

 

 病院に到着すると、面会受付を行う。闘真は端の方で、千尋が終わるのを待っていた。

 消毒液の匂いが漂う中、行き慣れない場所で渋面を作って周りを見渡す。老若男女様々な患者や医療関係者が行き交っており、待ち時間を潰す為に知り合いと話し込む人達の声が聞こえてくる。

 テレビの方へ目を向けると、先日いた公園の近くで起きた事件について報道されていた。まだ情報を掴み切れていないのか、情報が漠然としている。視聴している者の中からは、この病院近辺で報道関係者が何人か来ていた事も耳にした。

 どれも闘真にとって興味の薄い事ばかりだが。それでもニュースを見る度に切谷との一戦を思い出してしまう。

 楽しいという感情や高揚感が一切感じられなかった最悪のファイト。二度としたくないとさえ思ってしまう程に。

「お待たせ。さっ、行きましょ」

 受付が終わった千尋に声をかけられ、闘真はテレビから目を離す。そして、彼女から面会者用のストラップを受け取り、首にかけて歩き出した。

 病室へ向かう途中の階段、千尋が唐突に踊り場で足を止める。闘真もつられて止まり、訝しげな表情で「んだよ」と訊ねた。

 千尋は周りに人の気配がないか確認してから、口を開く。「さっき、テレビ見てたでしょ?」待っている間に見ていた事が気がかりのようだ。露草の双眸は強い光を放ち、見た目相応に気丈な印象を与えていた。

「テレビ見ていたな」

「気になる?」

「そういうアンタこそ、何でそこまで気にしているんだよ?」

「私があの子の叔母だからよ」

 思わぬ一言で闘真は驚く。「アンタ、汐の親戚だったのか」言葉に出した瞬間、納得した。でなければ、面会はそうそうに許されないなと。だから、正成が案内人として彼女を立てたのかとも。そして、彼女の笑った顔が汐と重なって見えた事にも合点がいった。

「そうよ。あの子のお母さんの妹が、この私なの」

「んで、何でテレビの事、気にしていたんだよ?」

「あの子に事件の事を思い起こさせたくない……それだけの話」

 先程の明るさは鳴りを潜め、愁眉を寄せた表情になり、目を逸らす。こればかりは闘真も賛同し、その先は口を開かなかった。正成との約束もあるし、個人的にも前向きにバディファイトを楽しんで欲しいという思いもある。

 しばし沈黙が流れる。間が持たないと思ったのか、無言のまま千尋は歩き出していく。闘真もその後を追いかけていった。

 廊下に出ると踊り場と違って、人の流れがある程度あり、窓から光が差し込まれて場が明るい。

 明るい陽射しを受けて気持ちが切り替わったのか、千尋は快活な笑みを浮かべながら、からかう調子で質問する。

「君はあの子とどんな関係なの? 友達? ボーイフレンド?」

「ちげえよ。アイツとは……何なんだろうな?」

 即答した良いものの、汐との関係に首を傾げる闘真。前にも似たような質問をされたのだが、その時も答えられなかった。ボーイフレンドはないにしても、友達としても微妙な関係。何とも言い表しがたい関係だと思い知る。

「え? じゃあ、何で汐ちゃんの所に?」

 当然、千尋は驚く。からかうつもりでいたのだが、返ってきた反応に困惑するばかり。聞き返すのも必然だろう。

「バディファイトを教えるって約束したからだよ」

 今言えるのは、それだけ。確かに言えるのは、これだけというのも不思議なのだが、闘真にとって大切な事なのは変わりない。他人から見れば、義理もへったくれもない話だが。

「そっか、なるほどね」

 最初こそは面食らって困惑していたが、千尋はやがて飲み込むと優しげに微笑んだ。「まっ、そこまで義理堅いなら、汐ちゃんも顔は覚えているわね」楽しげに目を細め、笑い声を軽く漏らす。けれど、直後に千尋は気難しそうに眉根をよせた。

 突然の変化に闘真は戸惑うが、気を取り直して訊ねる。先程から話題に挙がっていた汐の事についてだ。

「それで汐は元気なのかよ?」

「ま、まぁ、元気にはしているかな」

 どこかぎこちない千尋の返答。先程よりも焦りが表に出ているのは確かで、「や、やっぱり会いたい?」と訊ねた声音は上擦っていた。目も合わせようとしているが、泳いでしまっている。

「会いたいというか、約束を果たしてぇんだよ」

 千尋の態度に対し、眉間に皺を寄せて訝しげに思いながらも闘真は言葉を出す。何かしらあるのだろうかと訊こうと思うが、会えばきっと分かるだろうと考え、疑問は胸の内にしまった。

 それよりもバディファイトを教えて、たくさん対戦したいという気持ちが勝っていたから。

「そ、そっか」

 何とかして平静を取り戻そうとしながら、千尋は言葉を紡ぐ。「……多分、君なら大丈夫だと思いたいけど……」その声は闘真の耳元へ確かに届けられず、小さな雑音にしかならなかった。

「何か言ったか?」

「ううん、何にも。さっ、もうすぐそこが汐ちゃんの病室よ」

 先行していく千尋を見ながら、「何か変な人だなぁ」と呟きながら闘真は目的の部屋へと辿り着いた。

 

「さっ、中へお入り。私はロビーの方へいるから」

 千尋に通されて、室内に入ると個室でベッドには一人の少女が窓を眺めていた。病院着に身を包んだ少女の頭や腕には包帯が巻かれ、白さが逆に痛々しさを物語っている。

 それでも見慣れた少女の後ろ姿である事には変わりはない。闘真はショルダーバックから手渡そうと思っていたデッキケースを取り出し、静かに彼女の名を呼んだ――汐と。

「えっと、その……あなたは誰ですか?」

 呼びかけに反応して振り向き、顔を合わせてからの開口一番に出た言葉。言った本人である汐の顔はきょとんとしており、初めて闘真を見たような反応をしていた。

 あまりの対応に闘真は理解が追いつかず、「あ? 冗談でも言ってんのか?」口悪く返答してしまう。あれだけ人懐っこく「闘真君」と呼んでいた少女が、いきなり誰だと訊ねるのだから無理もない。

 けれど、闘真の希望を砕くかのように、汐がさらに言葉を継ぐ。「あなたは誰ですか?」困ったような笑みを浮かべて、優しい声音で再度訊ねてきた。今の彼女にとって、闘真は初対面だという事を告げているかのよう。

「……俺は、相楽闘真だ」

 名乗った声は酷く震えて、汐を見つめる双眸は困惑と悲しみで揺れていた。自分の事を忘れている――いや、彼女と会っていた事は夢や妄想だったのかとさえ疑いたくもなる。

「相楽さんって言うんですね。わ、私の友達かな?」

 よそよそしく汐は疑問を口にする。何かを探るのように、相手の顔色を伺いながら、「私の名前、知っていたみたいだし」と言葉を続けて。闘真に向けている眼差しに親しみはなかった。

「………わりぃ、出直してくる」

 動揺を悟られないように目を伏せ、闘真は踵を返して足早に部屋を退出する。その際、手に持っていた市販のプラスチック製デッキケースを落としてしまう。虚しげに落ちて転がる音、闘真は落とした事さえ気づかないまま出てしまった。

「ちょっと待って!」

 言葉は届かず、闘真の背は扉の向こう側へと消えていく。残されたのは汐と地面に転がっているデッキケースだけ。

 汐は、しばらく扉の先を見つめていたが、やがて視線をデッキケースの方へと移す。ベッドから足を投げ出して、立ち上がり、少し覚束ない足取りでデッキケースの元へ近づいて拾う。

 先程、闘真が落としたもの。何が入っているのだろうかと思い、蓋を開けてみた。中身はカードが大量に入っており、何種類かイラストが描かれている。何となく見覚えのあるデザインだが、思い出せない。

 ふと、テーブルの上に目を向ける。テーブルの上には本と一枚のカードが置いてあった。カードは、先程見たカード群と似たデザインをしている。書かれている文字やイラストは違うけれども。

 ぼんやりと眺めていた時、何となく頭の中で言葉は思い浮かぶ。そして、声に出してみた。

「バディファイト……」

 何も残っていない少女に残された僅かな記憶が繋がった瞬間だった――。




 今回のファイトは、今まで設けたスペックをオーバーしているカードが散見していますが、今後の展開も考えて設定したものです。
 ここまでオーバースペックなカード出しておいて、扱いこなせていないのは巻波が単に無能なだけなので、せせら笑っていただければ幸いです。

 また、今回のキーマンである人物を紹介します。書いていて、一番疲れた。

切谷 勇吾(きりたに ゆうご)/男性/24歳
使用ワールド:カタナワールド/使用デッキ:刀獣/バディ:狂斬の刀獣 竹俣兼光
容姿:青みがかった黒髪でツンツンとした短髪、黄色の瞳。黒の半袖Tシャツ、灰色のジーパンにスニーカーというシンプルな格好をしている。ある事に関しては、黒いコートを着て活動している。筋肉質で身長は176cm。
性格:少し天然なところがあるが、しっかりとしていて面倒見の良い親分肌。しかし、倫理観が狂っており、人を殺す事を何とも思っていない。また強者と立ち合い殺し合う事に楽しみを見出している戦闘狂である。一人称は「俺」。
概要:汐に“師匠”と呼ばれ慕われている青年。彼女には剣術を教えつつ、会話を交わしていく内に仲良くなった。かつて親の虐待により姉を亡くしており、その時に自分の親を殺した過去を持つ。意思を持ったカードなら具現化できる能力を持っており、バディカードでなくともカードを具現化でき、それで人を殺すことも。ただし、具現化できるのは一つだけと上限がある。

 他の方から提供されたオリキャラも含めて、オリキャラが何人か初登場していますけど、今回は切谷のみです。ご容赦ください。

 ちなみに、今回初登場したオリキャラの中で「鉄正成」というキャラクターは短編(という名の短期連載作品)で活躍しているので、余裕があればそちらも読んでみてください。
 リンクは下記の通りです。

バディファイト短編→https://syosetu.org/novel/224104/

 東京編は残すところ、後1話です。予定通りならば、次回で最終回になりますが、果たして。

 では、この辺りで筆を休めたいと思います。感想やオリカ・オリキャラの案など、お待ちしております。


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最終話:夕焼けの約束

 どうも、巻波です。ようやく辿り着きました。

 色々思うところがあると思いますが、最後まで闘真達の行く末を見届けてください。


 病室から出た闘真は、とにかく足早に廊下を歩いていた。自分の身に起きた事を否定がしたい為に。

 だから、途中にあるロビーにも脇目を振らずただひたすらに歩く。先程の上っていた階段だって、目に映らない。

 約束した事は夢なのか、単なる自分の妄想だったのか。では、以前彼女から聞いた話は全て幻想の中だったという事。

 それはあり得ないと首を強く横に振って否定する。間違いなく現実だった。

 ようやく闘真の足が止まる。約束果たさなければいけないのに、自分は何をやっているんだと。

 例え、記憶が失っていようとも、教えてやるのだが自分だっただろうが。少しだけ心が落ち着いたが、顔はまだ伏せたまま。来た道を引き返し、今度はゆっくりとした足取りで歩み出す。

 自分の心が通じるのだろうか。きちんと対話できるのだろうか。違う迷いが生まれる。らしくないと、いくら叱咤しても心が晴れない。いつまでも前を向く事ができなかった。

「相楽君」

 階段付近に差し掛かろうとしている所で呼ばれる。ようやく顔を上げて、声の主と顔を合わせた。目の前には眉尻を下げて、困ったような笑みで温かく迎える千尋の姿が。

 彼女の笑顔を見て、先程の汐の表情を思い出してしまう。どうすれば分からない中で、上手く笑えていない笑顔が脳裏で甦っていた。

「その様子だと、君も駄目だったみたいだね」

 千尋の声音は、優しくも哀愁が漂っている。彼女も似たような体験をしたのだろう。容易に想像できるぐらい、千尋の表情は明るさがない。

 闘真は首肯して、睨めつけるかように眼光鋭く正面を見据えた。普段の彼ならば、誤魔化されていた事に怒っていたところだろう。けれど、一切立腹した様子が見られない。彼女の身に何が起きているのかを知りたいという気持ちが強かった。

 今できる事はあるなら、何とかしてでもやりたい。まだここで止まってはいられないから。

「……ちょっと外の空気を吸いに行こうか」

 一息吐いてから、千尋が提案する。先程よりかは明るいが、まだ愁眉は寄せたまま。語勢も元来の快活さは感じられない。

 彼女の提案に闘真も賛成する。ここで話題を切り出すのは、空気が重すぎる。一旦、落ち着ける場所で話を聞きたい。

 だから、先を行く千尋の背を追いかけて、階段を下りていく。上った時よりも足取りは重かった。

 

 比較的利用者が少ない出口から外へ出ると、ネイビーのストローハット、白のポロシャツにスーツパンツ姿の髭面が印象的な男性が少し離れた場所で辺りをうろつくように歩いていた。カメラを首にぶら下げ、ボイスレコーダーを手に、時折左手の腕時計を確認ながら誰かを待っている様子。

 双眸に好奇心と使命感を帯びた強い光を炯々と輝かせ、口元は薄っすらと不気味な笑みを浮かべている。

「げっ、アイツ、何でいるのよ」

 視線の先に男性を認めると千尋はボソリと呟く。声音もいつになく低く、嫌悪感を滲み出していた。

「知ってんのか?」

「まぁ、同業者だからね。気付かれない内に」

 少し言葉を交わした後、二人は足早に立ち去ろうとする。けれど、すぐさま足音が近づく。先程の男性が気付いて、走り出したのだ。

 絡まれたくないと思った千尋は、闘真の腕を掴んで駆け出していく。だが、男が追いつき、彼らの進路を塞ぐように立ち塞いだ。男性の笑みは気味が悪く、双眸は禍々しい好奇心に満ち足りている。

「相変わらず、足が速いわね」

「そりゃ、特ダネを掴みたいからな。記者は瞬発力が命なんだからよ」

 男性はボイスレコーダーを片手に「ほら、被害者の子がここに入院してんだろ?」千尋に詰め寄っていく。人の距離なぞお構いなしに己が欲望を満たそうとしているよう。

「さて、何の事かしらね?」

「とぼけたって無駄だぜ、いるんだろ? 会わせろよ」

「ここにはいないし、いたとしても会わせる訳ないでしょ」

「被害者じゃなくて、加害者だからか?」

 思いがけない一言に傍らで聞いていた闘真は目を見開いて驚く。だが、千尋は「何言ってんの?」と平静を保ちつつ、「あんた、また思い込みで追いかけ回してんの?」毅然とした態度で突っぱねる。語勢は強くなり、相手を威圧していく。

 彼女から発せられる怒気を肌で感じ、闘真は改めて千尋の横顔を見つめる。元々吊り上がっていた目尻はさらに吊り上がり、口をへの字にして頬を歪めせていた。

 彼らの関係性は完全に把握した訳ではないが、恐らくジャーナリストや雑誌か新聞の記者なのだろうと見当がつく。だからこそ、情報に対する熱が違うのだと。

 そして、一つの疑問が浮かぶ。男性が言っている被害者は汐の事だろうが、何故彼女が加害者として疑われているのか。

 犯人らしき人物は何となく知っている闘真だが、あえて口に出す事はしなかった。面倒な事になると、朧げに感づいているから。ただ男性に対して、眼光鋭く睨みつける。それは違うと反抗の意を込めて。

「あん? やたら目つきの悪いガキを連れてんなぁ」

「この子は知り合いから預かった子、無関係よ」

「知り合いのガキ? ますますきな臭いぜ」

「あんた、何でもかんでも決めつけて疑う癖、治しなさいよ」

 千尋はまるで母親が子をたしなめるかのような語調で掣肘する。表情は険しく、眉間の皺がさらに濃くなる一方。「それだから、色んな人に恨みを買うのよ」呆れたような物言いで言葉を継いだ。

「何言ってやがる。俺達、ジャーナリストは恨まれて、なんぼだろうがよ」

 男性は悪びれる事なく、言い返す。「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うだろ?」双眸は歪んだ好奇心を映し出すように、禍々しくも炯々と輝いていた。

「そこまでして得たいもんってなんだよ?」

 あまりにも男性の態度が不遜すぎて、思わず口を出してしまう闘真。話に割って入るつもりはなかったが、危険を冒してまで得たいものかと疑問に感じてしまい、気が付けば質問を投げかけていた。

 バディファイトならリスクを背負って、賭けに出る場面があるから分かる。覿面にいる男性も似たようなものだろうか。

 いや、それにしては無茶苦茶だ。相手がいてこその話だろうに、わざわざ相手を離れていく選択をしているような気もしなくもない。

 もっとも闘真も普段の言動からは言える立場ではないが……それでも彼ですらそう考えてしまう程に、男性の言葉は圧が強いと言えるだろう。

「単純だよ。真実が欲しいんだよ、真実が」

「あんたがそうだと信じたい情報の間違いでしょ」

 即座に千尋が強い語気で否定し、「そろそろどいてくれる? 私達はこれ以上あんたに関わっている暇はないんだけど」さらに突き放すように冷淡な語調で言う。腕を組んで、睨みつけている形相は険しい。

「何を言ってやがる。俺は情報を得るまで、関係者を地の果てまで追い続けるぞ」

「なら、ストーカー被害で逮捕されても仕方ないな」

 永遠に続くかと思われた押し問答に、冷たく強勢な声音が割って入る。男性の背後からバディポリスの現場服に身を包んだ正成の姿が。炎天下の中、顔色一つ変えずに歩み寄っていく。

 男性は正成の姿を認めると荒々しく舌打ち。「またお前か。職権乱用野郎が」小声で言ったつもりだろうが、誰の耳にも届くぐらいハッキリとした声量で毒気づく。

「職権乱用とは人聞きの悪いな。お前が、俺の邪魔をしたからだろ」

 火に油を注ぐような物言いで正成は言い返す。表情は目に見えて変わっていないが、心なしかどこか呆れているようにも見える。

 そして正成の一言に千尋は片手で顔を覆い、ため息を吐いていた。「何で、あんたはそう言う言葉遣いしかできないのかな……」隣にいる闘真にしか聞こえないぐらいの大きさで呟く。声音には呆れの感情が多分に含まれていた。

 黙って事態を見守っていた闘真は、何故この場に正成がいるのかと訝しげに眉を顰めつつも、閉口したまま大人らの言葉を待つ。考えたい事は他にある。だから、早く終わってくれというのが本音。

「ふん、真実を得て伝えるのが俺達の義務だってのに、邪魔してんのはどっちだよ」

「真相云々の前に、無断で現場に入り込む奴を追い払うのが俺達の仕事だからな」

 静かに両者は睨み合う。正成よりも小柄な男性は見上げるように相好を険しくするが、やがて正成の足元に唾を吐き捨て、「今日のところはここまでにしてやる」と言い終わる頃には立ち去った。

 男性の背が見えなくなったところで、正成と改めて顔を合わせる。「災難だったな」開口一番に出た言葉がどこか憐みを含んだものだった。

「もう慣れっこよ。ただここまで面倒な事になるとは思わなかったけど」

「本当に危なかったら、ちゃんと被害届出せよ。後、俺も協力する」

「ありがとう。……っで、あんたは今日も巡回?」

「そういったところだ」

 互いの語勢が柔らかい。仲の良いという事が言葉の端々から伝わってくる。

 先程まで険しい表情をしていた千尋の相好は崩れ、穏やかに笑いかけていた。露草の双眸も穏和に細めている。

「お前は、あの子には会えたのか?」

 いつになく正成の語調が穏やかな事に驚きつつも、「会えた」と言葉短めに返す闘真。どこをどう言って良いのか分からず、困惑や悲痛が入り混じった複雑そうな表情を浮かべる。

 脳裏に思い出されるのは、先程「誰だ?」と問いかけてきた汐の姿だ。彼女の表情から言って、本当に何も分からないまま訊ねてきたのが分かる。分かるからこそ、現状をどう言えば良いのか。

「そうか」

 闘真の心情を察してなのか、正成はそれ以上言及せず、「じゃ、俺は巡回に戻る」と踵を返して来た道へと戻っていった。

「私達も行きましょ。ここにいたら、干乾びちゃう」

 おどけた態度で千尋が言い、闘真は無言で首肯する。そして、二人はそのまま病院の敷地から立ち去った。

 

「この時間帯だと、やっぱりテラス席は空いているわね」

 アイスコーヒーを片手に千尋は空いている席に座り、優雅にコーヒーに口を付ける。パラソルの下、そよ風が赤みがかった茶髪を撫でていく。端正な顔立ちと穏やかなに流れる風が相まって、まるで映画のワンシーンのよう。

 闘真も彼女と対面するように座り、買ってもらったコーヒーを喉に通す。口の中で苦みを持て余しながらも、どこかまろやかな味わいを感じて呑み込んでいく。ラテにしてもらえば良かったとも後悔しつつも、この程度の苦みなら飲めない事もない。

 視線を上げると、覿面の千尋が驚いたように少し目を見開いていた。「君、ブラック飲めるんだ」端麗な唇から紡がれた言葉には驚嘆の色が含まれ、数回瞬きをする。

「まぁ、これぐらいなら飲める」

「へぇ、中学生なのに意外ね。背伸びなくなるわよ」

 からかいの調子で言われ、闘真は眉を顰めながら「余計なお世話だ」と不機嫌そうに語調を強めて返した。彼の背丈は中学生として低い訳ではない。かと言って、特別背が高いという訳でもないが。

 カフェに来る事自体なく、何を頼めば良いのか分からなかったから、コーヒーを頼むしかなかった。他にもメニューはあったが、特にこだわりはなかったし、余程変なものを食べなければ良いと考えていた。

 それでコーヒー飲んで背が伸びなくなると言われても、実のところ、そこまで気にしていない。からかいの調子が汐と似ていたから少しだけ気が逆立ったが。

 少しの間、また風が穏やかに通り抜けていく。氷が溶けて、別の氷と軽くぶつかる音が耳朶を打つ。

「なぁ、汐ってよ……」

 闘真が違う話柄を切り出す。眉間に皺は寄ったままだが、水色の双眸は困惑で揺れていた。今口に出す事がどれだけ重いのか、今さら自覚して弁舌が動かせない。言葉が喉元で詰まってしまう。何かが壊れる気がする、そんな恐怖が裡を巣食っていた。

「彼女は、記憶喪失なのか?」

 言葉を継げない闘真の代わりに、ザンバソードがカードから出現し、問いかける。彼の表情も明るくない。沈痛な思いが伝わるぐらい、悲しげに瞳が揺らめていた。

「そうよ、あの子の中の思い出は全部消えた……消えちゃっていたのよ」

 彼らの質問に対して、千尋は真剣な眼差しで答える。しかし、最後に言った言葉はか細く、彼女も衝撃を受けて動揺している事を如実に表していた。露草の瞳は翳りを見せ、伏せていく。

「つまり、闘真だけじゃなくお前の顔も分からなかったのか……」

 ザンバソードの言葉に千尋は「ええ」と頷き、顔を伏せたまま話を続けた。

「あの子とそこまで顔を合わせていた訳ではないけど……」

 テーブルの上で組まれた両手に力を込め、「家族の事も友達の事も分からないって、何も思い出せないって」声音に暗く悲しみの色を滲ませていく。

 先程までの気丈で快活なの姿はなく、目の前の困難に打ちひしがれている一人の女性が頭を抱えていた。彼女も似たような立場にいるのだと、闘真は実感して空を仰ぐ。

 濃い緑色の布地が一面に広がり、青空が見えない。まるで行く手を遮る壁のよう、今の闘真の心にも一枚ガラス壁がそびえ立ち、約束を果たしたいという気持ちがあるのに、前へ行かせてくれない。

 ふと、思い返す。結局汐の事情なぞ知らないままだったと。辛うじて分かっているのは友達がいない、だからバディファイトを教えて欲しいというぐらいだ。

 何も知らないのに、忘れられたからショックを受けるのもおかしいのではないかさえ思ってしまう。もういっそ、このまま彼女に会わずに生きていこうか。

 ……いや、無理だ。やっぱりバディファイトを教えたい、一緒にファイトできる仲間を増やしたい、もっと楽しいファイトをしたいと心が訴えかけている。これを無視したら、一生バディファイトと真剣に向き合う事ができない。

 けれど、今自分の言葉は彼女に届くのだろうか。伝わらない恐怖が裡を侵食し、迷いを生み出す。

 咳一つもないまま時が流れる。氷が溶けていき。コーヒーと混ざり合っていくのも気に留めない程、重たい空気が彼らの中で支配していた。

「相席してもいいですか?」

 沈黙の間を破るように、一人の少女が話しかけてくる。声がした方に顔を向けると、桔梗色の長い髪を二つに結び、優しげな瞳が印象的な少女――東條希がTシャツにロングスカート姿で立っていた。

「あら、東條さんじゃない。珍しいわね」

 突然の来訪者にも気さくに声をかけ、「相席してどうぞ」千尋はにこやかに促す。愁眉を開いており、元の明るい表情に戻っていた。ただ少しだけ露草の瞳は笑っておらず、憂いを帯びている。

「それじゃ、お構いなく」

 希は二人の間に入るように席に着く。アイスラテが入った容器をテーブルの上に置き、肩に掛けていた小さなショルダーバックを邪魔にならないように膝上にまとめた。

 一連のやり取りを見て、闘真とザンバソードは不思議そうに彼女達を交互に見つめる。そして互いの顔を合わせ、二人が知り合いだったのかという疑問を共有していく。

「ふふ、ウチらの関係にビックリしているやね」

 緩い笑い声が耳朶を打つ。改めて希に顔を向けていく。彼女はいたずらっぽく微笑みかけており、闘真の視線に気付くとウィンクしながら、さらに言葉を続けた。

「この人はね、ウチらが大会に優勝する度にインタビューしてきた人なんよ」

 ウィンクを解くと視線を千尋の方に移し、「音ノ木坂の魅力もいっぱい伝えてくれたし、色々とお世話になった人やからね」莫逆の仲だという事を示すかのように、親しげに語っていく。常盤緑色の瞳は優しげな光を灯していた。

「一応バディファイト専門に取材している身だしね」

 氷が解けたアイスコーヒーを口付けてから、千尋は話し続ける。「だから、彼女達を取材していたのよ」片眉を上げ、おどけたような調子で述べた。

 少し驚嘆するが、闘真はすぐに納得する。病院で一悶着を起こした男性と知人だった事を考えると、彼女がジャーナリストなのは見当ついていたし、先程の話を聞いて希と知り合いだとしても腑に落ちた。

 けれど、違う疑問が湧く。何故、希がここにいると――目で訴えかけるかように眉根を少し寄せ、鋭い眼光を彼女に向ける。

「そんな怖い顔をしているから、女の子に避けられるんよ」

「あ? 何で女子の話になんだよ?」

 いきなり予想もしていないところから返答をされてしまい、闘真は困惑して口悪く返事。

 顔つきが怖いのは今に始まった事ではないから、どうしようもないし、どうする気もない。というより、答えて欲しい疑問があるから構わず質問を投げかけた。

「んな事より、何でアンタがここにいんだよ?」

「たまたまお店に入る時に、二人を見かけたからやね」

 ぶっきらぼうな闘真の声音に動じる事なく、希は緩やかに口の端を上げて次の句を継ぐ。「ちょっぴり意外だなと思ったから、こうして話しかけたって訳なんよ」言い終わった後、アイスラテを一口飲んで、「ところで」と話題を切り換える。

「この前、神社に一緒に来ていた女の子とは上手くいっているん?」

 優しげに問いかけられた内容は、今の闘真には即座に言えるものではなかった。返答は無言で示し、如何に言い難いかを目で伝える。水色の双眸はいつもの力強さを失い、迷いを表すかのように揺れていた。

「そうやんね……」

 何も言わない闘真の表情から察したのか、希の相好も少し暗くなる。つい先日に占った結果が当たってしまった……そのような言葉さえ漏れ出しそうだ。せめて、空気を重たくなりすぎないように慮ったのか、困ったような笑みを闘真へ向ける。

「今、その子がどうなっているか、聞かせてくれる?」

 チラリと千尋の方に視線を送る闘真。どこから説明しても良いのか、そもそも汐の事自体を話しても良いのかも分からない。肉親である彼女に判断を仰ぐ方が、きっと問題ないはず。目つきの鋭さを保ったまま、睨みつけるような眼差しで千尋と目を合わせた。

 一拍空気を吐いた後、千尋は周囲に誰もいない事を検めて、「東條さん達が言っているの子が、汐ちゃんの事なら――」前提を確認してから事の経緯を話す。流石に事件に巻き込まれた事は伏せていたが。

 千尋の真剣な眼差しに応えるように、希も相好を険しくして耳を傾ける。笑って流せる程、事が軽くないのは聞いていて明白。希とて、簡単に部外者へ話す事はないだろうと料簡を立てながら、闘真も話を聞いていた。

 いや、むしろ彼女だからこそ話せる話題かもしれない。嘘をついても見破られそうな気もする。そもそも闘真自身は嘘が苦手だから、誰に対してもごまかせるとも思えないが。

「その子は何も覚えていないと……」

 記憶喪失の事を知り、希は考え込むように指の腹を顎に添える。全員の視線が希に集中する中、彼女は少しの黙考を経て口を開いた。双眸は優しげな光を保ちながら、闘真の顔を見つめる。

「君は約束を果たしたん?」

 柔らかな語調で質問を投げかけられ、闘真は首を横に振って即答した。「何も教えてねえよ」低く絞り出された言葉は、現実を突きつけて跳ね返ってくる。何も知らないし、何も教えてない。だから、何も残らなかったのだと責め立てるように。

「もしかして、今の君だと届かないと思っているから?」

 答える代わりに闘真は口をへの字にして視線を逸らす。図星だ。正直、対話できる自信がない。

 たった数日間しか付き合いはないし、そこまで自分が記憶に留めている程ではなかったかもしれないと言っても合点はいく。けれど、どうしてだろうか。そんなはずはないと叫んでいる自分がいるのは。

「お姉さんからアドバイス。今を見て分からなかったら、過去を見てみるべきやんね」

 まるで子供を諭すような口調で希は語りかける。彼女の言葉に闘真は「過去?」と眉を顰め、顔を向けた。

 どうして過去だろうか。問題は今にあるというのに、思い出すような事なんてあるはずもない。

「君がバディファイトを始めた頃を、思い出せば良いんよ」

 希の言葉を受けて、闘真は腕を組み、目を伏せて沈思する。自分がバディファイトを始めた頃の追憶を――。

 

 

 

 バディファイトを始めたのは、まだ小学生の低学年だった頃。

 当時から血気盛んで、暴れん坊だった事から友達と呼べる友達などいなかった。誰もが彼を避けていき、時には心ない罵倒や侮蔑の言葉を吐いていくばかり。琴線に触れた言葉を吐いた人間は、全員残らず叩きのめしたから余計に人なんて寄りつくはずもない。

 完全に孤立していた闘真は、テレビで放送されていたバディファイトの試合を見て、強く惹かれた。

 一進一退の攻防、モンスター達の激しいぶつかり合い、楽しそうな笑顔を浮かべて次の一手を繰り出すファイター。

 目に映るもの全てが楽しそうだと感じ、自分もやってみたいと心が動く。そこからデッキを手に入れるまで時間はかからなかった。

 コツコツと貯めていた貯金をはたいて、デッキを買い、ルールブックを一生懸命読みながら一人で回す。けれど、あの日見たワクワク感は得られない。何故だろうかと考えたが、答えはすぐに出た――相手がいないからだ。

 相手を求めて、公園やカードショップに行っても同年代の子達は、闘真との対戦を避けて仲間外れにしていく。

 途方に暮れた闘真は、通い慣れた公園のベンチで座り込み、握り締めたデッキをただ眺めていた。誰とも対戦できないのでは意味がないし、諦めるべきだろうかとさえ考える程に落ち込む。

 そんな時だった。制服に身を包んだ高校生ぐらいの男女二人が闘真に話しかけてきたのは。

「こんな所でどうしたの?」

 虫襖のセミロングにお嬢様結びした少女が優しげに声をかけ、傍らに立っていた青年は翡翠の双眸で無愛想に闘真を見つめていた。

 どこにも頼るあてがない闘真は、思い切って二人にファイトの相手がいなくて困っていると告白。

 闘真の告白を聞いた二人は顔を見合わせ、しばし言葉を交わした。その後、少女に「私達とカードショップ行こうか?」と提案され、断る理由もない闘真は頷いて二人に連れられてカードショップを訪れる事に。

 ……今にして思えば、汐も似たような心境だったのかもしれないと悟る。教えてもらう相手がいなくて、対戦する相手がいなくて困り果てていたあの頃の自分と同じ。だから、見ず知らずの自分を頼ってきたのだと。

 

 カードショップに到着したら、闘真はファイトスペースの椅子に座らされ、対戦相手を決める二人のやりとりを眺める。

 最初は少女の方が「ファイトする」と申し出たが、青年が「待て、俺がファイトしたい」とストップをかけ、しばし見つめ合う二人。

 どちらでも良かった闘真は、何をしているだろうかと幼いながらに、冷ややかな視線を送っていた。

「ここはレディーファーストで譲ってもらえませんか?」

「男女平等が俺の主義だ。譲れない」

 二人とも頑として譲らない。いくつか言葉を交わしても、やはり納得いく結果にならず、少女がある提案をする。

「仕方ありませんね。ここはじゃんけんといきましょうか」

「清音、恨みっこなしだぞ」

「正成先輩こそ、根に持たないでくださいね」

 両者、構えて真剣にじゃんけんをする様は、傍から見れば滑稽極まりないだろう。正直、この時の闘真も何やってんだかと内心呆れていた。けれど、彼らは気にせず、じゃんけんで勝とうと必死に拳や掌などを出していく。

 数合、あいこを重ねた後に勝利を収めたのは青年の方。闘真と対面するように座り、自分のデッキを取り出す。

 紫檀の短い頭髪、吊り上がった翡翠の瞳に精悍な顔立ちに加えて、ワイシャツの上でも分かる体格の良さが相まって近寄りがたい印象。けれど、不思議な事にあまり威圧感はない。ごく普通の高校生にしか見えないのだ。

「どうした? シャッフルできないのか?」

 一向に山札を切らない闘真に青年はぶっきらぼうな口調で訊ねる。翡翠の双眸は突き放す事もなく、静かに返答を待っていた。

 我に返った闘真は、慌てて自分のデッキをシャッフルし始める。自分の手にはあまり大きさだが、器用に山札を切っていく。初めての対人戦で少しだけ緊張が走り、顔が強張っていた。

 闘真の傍らに座っていた少女は、闘真の様子を感じ取ってか、冗談めかした調子で覿面の青年に語りかける。

「きっと、正成先輩の顔が怖いんですよ」

「これは生まれつきだ。そいつも目つき悪いだろ」

「他人を巻き込んじゃ、駄目ですよ」

 少女にたしなめられながらも、「お前が言えた口か」と鋭利に言い返す青年。口をへの字に曲げ、からかってきた少女を睨めつける。

 眼光鋭く向けられた眼差しに少女はたじろぐ事なく、「そうやって睨みつけるから怖がられるんですよ」と優しくも穏やかな声音で掣肘。微かに漏れた笑い声は、気品を感じさせ、どこかのお嬢様かと疑ってしまう程。

「ごめんね。怖がらせちゃったよね?」

 紅紫の瞳に優しい光を灯しながら、少女は闘真の方へ顔を向ける。あまりにも優しそうな表情で見つめるものだから、居心地悪さに「べつに……」と闘真は視線を逸らして返答してしまった。

 今まで自分に優しげな顔して話しかけてくる人なんていなかったから。幼馴染でさえ、怒った顔で迫り立て、優しげな表情を一度たりとも見た事がない。大抵は闘真が問題を起こしているからだろうと言えども。

 それから青年とデッキを交換してシャッフルし、自分の手元にデッキが戻ってきたら、手札とゲージの準備を整えて「オープン・ザ・フラッグ」とフラッグカードをめくって対戦を開始する。

 

 ファイトは場数を踏んでいる青年が優勢だった。闘真も躓いたところは、少女や青年の手助けを得ながら奮戦するが、経験の差が埋まらず劣勢に追い込まれる。

 けれど、不機嫌になる事はない。初めて対戦して、あの日見たワクワク感が満腔を満たし、どんな状況だろうと楽しめたからだ。

 それには、相手を弱いからと決して否定しない青年や躓いた時に優しく教えてくれる少女がいてこそ。この二人に支えながら闘真はファイトを進めていく。

「アーマナイト・ドラムでトドメだ」

 結果は青年の圧勝。実力の差は歴然だったが、闘真は至って気にしていない。むしろ対戦できた喜びの方が勝って、自分が負けた事さえどうでも良くなっていた。

「楽しかったか?」

 青年に問われ、迷いなく頷く闘真。とにかく楽しかったの一言に尽きる。ようやく得た対戦相手と心躍る一戦で、胸は既に満たされていた。もっと対戦したとさえ、希求してしまう程に。

「それは良かった」

 初めて青年の相好が崩れる。「ファイトってのは、相手も自分も楽しんでこそだからな」僅かに口角が上がり、語調も今までよりも優しくなっていた。翡翠の瞳も先程のような鋭さはない。

 闘真は食い入るように青年を見つめ、彼が次に吐く言葉を待つ。自然と真剣に聞かなければならないと心が動いていた。

「相手と対話して、心を理解する。それが醍醐味だ」

 翡翠の双眸は正面を見据える闘真を捉え、幼い水色の瞳と合わせる。穏やかながらも真剣な眼差しは、先程と違った印象を与えていた。まるで弟を見守る兄を見守るように、優しく温かみのある光を発して。

 言葉の意味が分からず、闘真は「たいわ……?」と聞き返す。首を傾げ、眉間に皺が寄っていく。

「さっきの俺とお前みたいに、色々と話しながら楽しむって事だ」

 嫌な顔一つもせず青年は優しく答える。そして、息を一つ吐いた後、次の句を継いだ。

「相手がいてこそのファイト、だから強さばかりを求めるなよ?」

 そう言った青年の顔は、いつになく神妙な表情をしていて、今でも忘れられない。

 楽しいファイトをしたいなら、相手と対話する。――今の姿勢ができたのは、間違いなくこの時だと闘真は思い出し、追憶の旅から帰還していく。

 

 

 

 過去を振り返るのを止めようとした瞬間、ふと思い出す。

 先日会ったバディポリスの鉄正成と梅平清音、間違いなく自分が幼い頃にバディファイトを教えてくれた恩人達だと至る。

 しかし、今はそこまでで留めておく。向き合うべき問題はそこではないから。

 改めて意識を現在に戻して、希と目を合わせる。彼女は優しげに微笑んで「見つかったみたいやね」と柔らかい声音で迎えた。

 希の言葉に闘真は首肯し、「やる事は変わんねえけどな」苦笑いを浮かべながら返す。今だから話せる事があるはずだと、ようやく思い至って。

「じゃ、君の手助けになるように占ってあげる」

 そう言いつつ、希はバックの中からタロットカードを取り出して、山札を切っていく。ある程度混ぜたら、テーブルの上に何かしらの法則に則ってカードを並べ、もう一度山札を作る。

 そして一番上からカードを一枚引いて、表に出す。旅人のような恰好をした人間が描かれたイラストだ。

「愚者の正位置……なるほど……」

 出たカードを見て、希は含み笑いをしながら呟く。カードの意図が読み取れない闘真は何の事か分からず、眉を顰めて彼女を睨めつける。千尋もザンバソードも希と視線を向けていき、彼女の一手一足を見守るように注視。

「君は何も知らない、何も分からないからこそ踏み出せるんよ」

 全員から注目されているのにも関わらず、希はマイペースに闘真へと視線を合わせて読み取った結果を伝える。

「知らないは、誰かとの縁を結ぶきっかけになるんよ」

 そよ風のように柔らかく温かな語勢で紡がれた言葉。不思議と闘真の心に染み入り、裡から何かが湧き出ていく。

 今こそ動く時だと感じて、闘真は席を立ち上がり、テラス席を去ろうとする。が、「病院の場所分かるのか?」と相棒の一言によって足を止める事に。

「分かんねえ」

 振り返り、闘真は千尋に案内を求めた。彼女は苦笑いを浮かべて、「分かったわよ」と了承する。困ったような笑みは、病室で会った汐の笑顔とよく似ていた。

 

 病院に戻ってきた闘真は、もう一度汐の病室を訪ねる。

 彼女は本を読んでいたらしく、闘真の来訪に気付いてテーブルの上に置いて、彼と向き合う。

 病室には闘真と汐だけ。互いに距離感を測りながら、言葉を探り合い、咳一つもない森閑とした時間が流れていく。

「……さっきぶりだな」

 最初に口を開いたのは闘真だ。「お前とバディファイトしにきた」静かで柔らかい語勢で伝え、水色の双眸も今までにないぐらいに穏やかな眼差しで正面を見据える。

 あの時の青年達のように上手く教えられる自信はないが、せめてバディファイトの楽しさを体験して欲しいと。

「……バディファイトって、これだよね?」

 汐は、テーブルの上に置いてあったデッキケースを手に取り、闘真に見せる。それは先程、病室を出る際に落としていった闘真のデッキケースだ。

 落としていた事を気付かなかった闘真は、汐の言葉に頷いて肯定するものの、どうして彼女が持っているのか分からずに訝しげな表情でデッキケースを見つめる。

「えっと、落としていったんだよ?」

 鋭い目つきにたじろぎながらも汐は丁寧に答えた。「この部屋出る時に落としてたのを拾ったの」両手で大事そう抱え、緑色の瞳は見上げて闘真を見つめる。「よ、良かったら、教えてくれないかな……?」口調はおどおどしいが、双眸は好奇心で満ち溢れて、燦然と輝いていた。

 もちろん、断る理由もない為、闘真は二つ返事で承諾。二人が対面できるようにテーブルを動かして調整する。

 汐はベッドから足を出し、闘真は近くにあった椅子に座り、高さを調整したテーブルに対戦用シートを広げてデッキを置く。

「あ、そうだ。このカードも入れて大丈夫?」

 テーブルの片隅に置いてあった一枚のカードを手に取って見せる汐。彼女が見せたカードは、『名刀 千鳥』というカタナワールドのアイテムカードだ。

 そのカードを見て、闘真は彼女が持っているデッキのフラッグカードを見る。カタナワールドだと確認し、「問題ない」と告げて、フラッグカードとバディカードの置き方を教えた。

 返答に安堵して汐はデッキの中に千鳥を入れ、彼に教えられた通りにフラッグカードとバディカードを裏向きにして置く。

 鏡合わせのように山札を切り、互いのデッキを交換してまたシャッフルをする。

 普段なら気にしなかったが、闘真は何故か鏡合わせになっている事に気付いて、汐の切り方を観察しながらシャッフル。

 自身が右で切っているから、彼女は左で切っている事になる。何となくだが、汐は左利きなのではないかと料簡を立てた。普段の生活を知らないから、実際どっちなのかは分からないし、知ったところで何かに繋がる訳でもないが。

 山札を切り終わった後で、手札の枚数やゲージの枚数などを伝え、準備を整えていく。

「準備は良いな?」

 改めて汐と顔を合わせ、闘真は確認を取る。汐も神妙な顔つきで首肯し、万端という意を示す。

「っし、行くぞ。バディ―ファイッ!」

 闘真の掛け声の後、「オープン・ザ・フラッグ」と威勢よく二人の声が病室に響いた。

 

 

 

「か、カタナワールド」

 汐の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:無寓の刀獣 大包平

 

「ドラゴンワールド」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 

「えっと、最初はドローから?」

「いや、先攻の最初のターンは、初めからドローできない。チャージ&ドローならできるぜ」

「チャージ&ドロー?」

「手札から1枚を選んでゲージに置いて、カード1をドローするってヤツだ」

 まだルールを覚えていない汐に、苛立つ事なく闘真は丁寧に教える。普段の彼から考えられないような穏やかな語勢で教える姿は、平時を知っている人間なら誰もが驚くだろう。

 闘真自身は、あの頃の恩人達のようにできる限り丁寧に教えるつもりでいるから、特段不思議でも何でもない。むしろ、これでも雑すぎないか気にしているぐらいだ。

「チャージ、&ドロー」

 汐の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

 第一歩を踏み出したは良いものの、また手が止まる汐。メインフェイズは一番できる事が多い分、何をしたら良いのか分からないだろう。

 目敏く彼女の心情を斟酌して闘真は再び口を開く。水色の双眸に鋭さはなかった。

「最初はモンスターをコールしてみろよ」

「うん……って、どこにコールするの?」

 汐の疑問に闘真はテーブルの上に敷いたシートに表記されているモンスターエリアを指差し、「レフト、センター、ライトのどれかにコールして良いぜ」となぞりながら場所を示す。

「モンスターなら何だって良いの?」

「ああ、良いぜ。ただ出せるサイズの合計は3までだからな」

 手札にあるカードを見て、「サイズ……あ、これか」と汐は理解する。そして闘真に言われた通り、場にモンスターを出す。

「じゃ、レフトに『誠信の刀獣 堀川国広』をコール」

 汐の手札:6→5/レフト:誠信の刀獣 堀川国広

 

誠信の刀獣 堀川国広

カタナワールド

種類:モンスター 属性:刀獣/日本刀

サイズ1/攻3000/防2000/打撃1

■[起動]“信念の旗本に!”ゲージ1払い、君の手札から《日本刀》1枚を捨ててよい。そうしたら、カードを2枚引く。「信念の旗本に!」は1ターンに1回だけ使える。

「誠に生きて、誠と共に散る。それが俺達の生き方さ」

 

 美麗な犬のイラストが描かれたモンスターがレフトに置かれる。脇差を抱え、草原に腰を落として町を眺めている様子だが、モンスターの双眸はどこか悲しげだ。

「おっ、面白いカード出したな。能力を使ってみろよ」

「えっと、[起動]とか書かれている部分だよね?」

 彼女が指差した先を確認して、「そうだぜ」と闘真は肯定し、言葉を続ける。

「ゲージ1枚と手札から《日本刀》を1枚選んで、ドロップゾーンに置いて発動できるぜ」

「ゲージ1払って、手札から『名刀 大和守安定』を捨てて、カードを2枚ドローっと」

 汐の手札:5→4→6/ゲージ:3→2/ドロップ(日本刀の種類):0→1

 

「この“信念の旗本に!”って能力は、一回しか使えないから……他の事をすれば、良いんだよね?」

「おう、その通りだ。次は魔法でも使ってみろよ、手札増えてんだし」

 穏やかな語勢はそのままに「魔法を使う時は、“キャスト”って言ってから使うんだぜ」魔法を使用する際の宣言も伝える。にこやかに笑いかけ、いつになく楽しそうな表情を浮かべていた。

「うん。キャスト、『明鏡止水』。デッキから3枚をゲージに置くよ」

 汐の手札:6→5/ゲージ:2→5

 

「ええと、次はライトに『鬼斬の刀獣 童子切安綱』をコール。ゲージを2枚払うよ」

 汐の手札:5→4/ゲージ:5→3/ドロップ(日本刀の種類):1→2/レフト:堀川国広/ライト:鬼斬の刀獣 童子切安綱

 ライト:鬼斬の刀獣 童子切安綱/サイズ1/攻5000/防3000/打撃1

 

 ライトに置かれたカードは。赤い甲冑に身を包んだ凛々しい犬が自身の名を冠する刀を持っているイラストが映えている。鬼を斬ったという逸話を持つ太刀に相応しい堂々とした迫力は、卓上でも伝播していく。

「童子切安綱が登場した効果で、デッキから『名刀 千鳥』を持ってくるね」

 汐の手札:4→5

 

 デッキからアイテムを手札に加えた後、汐は不慣れな手つきで切り混ぜる。カードが散らばらないように、丁寧に切って元の位置に戻した。

 一連の行動を認めた闘真は、汐のドロップゾーンに置かれているカードを一瞥して、口を開く。

「ドロップゾーンに《日本刀》があるから、童子切の打撃力は1点増えて、[貫通]も得るな」

 

 汐のライト:童子切安綱/打撃1→2/[貫通]

 

「次は……アイテム、装備するか? 装備するカードはフラッグカードの上に重ねろよ」

「うん、分かった。『名刀 千鳥』をゲージ1とライフ1払って装備!」

 汐の手札:5→4:ゲージ:3→2/ライフ:10→9/汐:名刀 千鳥/レフト:堀川国広/ライト:童子切安綱

 

名刀 千鳥

カタナワールド

種類:アイテム 属性:日本刀/武器

攻5000/打撃2

■[装備コスト]ゲージ1とライフ1を払う。

■場のこのカードはカードの効果で破壊されない。

■君の場の《刀獣》のモンスター全ては[移動]を得る。

 

 ここぞとばかりに声高く宣言して、汐はアイテムをフラッグカードの上に重ねる。

 脇差ぐらいと思われる刀と雷の中を飛ぶ鞘が交差しているイラストが描かれていた。雷切と呼ばれる由縁の逸話をモチーフにしたデザインと言えよう。

 さらに千鳥を装備した効果で、汐の場の《刀獣》全てに[移動]が付与される。

 

 汐のレフト:堀川国広/[移動]

 ライト:童子切安綱/[移動]

 

 闘真はアイテムを注視し、妙にテンションが高い汐に目を向ける。彼女の双眸は、ようやく憧れのカードを使えると言うように燦然と輝く。

 嬉しいのは分かるが、どうしてこのカードに思い入れがあるのかは分からない。思い切って彼女に訊ねてみる。

「どうして、千鳥を出した時、そんなに喜んだんだ?」

「えっとね、今読んでいる本にこれと同じ刀が出てきて、主人公が使っているからだよ!」

 口の悪い訊ね方にも関わらず、汐は鼻息荒く返答した。直後に「本当は、その主人公と肩を並べたかったけどなぁ……」と呟き、嘆息を漏らす。

 正直な言葉に闘真は苦笑いを浮かべ、彼女が今使っているデッキにそれらしきカードを入れていない事に申し訳なさが少しだけ湧く。ただ主人公の話に興味が向き、さらに質問を投げかけた。

「その話の主人公って、どんな奴なんだ?」

「こんな感じだよ」

 汐はテーブルの片隅に置かれていた本を手に取り、表紙を闘真に見せる。

 表紙には黒の体毛に覆われた二足歩行の犬が、紅葉柄が映える白の着流しと臙脂色の羽織を着て、左腰に脇差を差してどこかへと歩いている様子が描かれていた。

 タイトルやイラストを見るに、冒険活劇ものだと闘真は察する。まだ清音に預けた本は戻ってきていないのだと頭の片隅では考えていた。安堵の思いもあるのも確かだが。

「困っている人を助けながら、姿を消した自分の君主に捜して旅をしているんだよ」

 楽しそうに物語の事を語る汐。「どんな敵でも負けず、だからと言って容赦なく倒す訳じゃなくて……」ファイト中だという事を忘れているかのように滔々と話し続ける。

 話を聞いている闘真は、嫌な顔を一つもしなかった。彼女の言葉や声音を思い留めようとして真剣に耳を傾けながら、微かに口角を上げ、優しげな眼差しを向ける。

 まだ知り得なかった汐の話を聞けて嬉しい。こうして話しているだけでも楽しくなる。不思議とそう思えた。

 今までもファイトして楽しいと感じていたが、今感じている思いは全然違う。ようやく約束を果たせたからだろうか。

「……あ、ごめんなさい。ファイト中だったよね」

 ある程度まで話し終えると、汐は現在の状況に気付いて、申し訳なさそうな顔で謝罪する。

 けれど、闘真は「別に良いぜ」と愉快げに喉を鳴らして流して、「汐は本を読むのが好きなんだな」楽しげに目を細めたまま言う。

 つられて汐も笑顔になって「うん」と頷き、さらに言葉を続けた。

「普段じゃ体験できない事も体験できるし……一緒に笑ったり、悲しんだり、悩んだりするのって楽しいから!」

 本を抱きかかえて、満面の笑みで言い切る。闘真が今まで見た中で一番嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。

「そうか、だから本が好きなんだな」

 対照的に闘真は静かに笑う。表情も穏やかで、鋭い目つきも優しく細められ、刺々しさはない。

 胸に感じていた不安や迷いは消え、心中は穏和で温かな気持ちで溢れていた。これで良かったとそう思えて。

「んだよ? 俺の顔に何か付いているのか?」

「いや、そうじゃないよ。とうじゃなくて、相楽さんって、そんな風に笑うんだって……」

「あ? 俺だって、大声張り上げずに笑うわ。それに闘真で良い」

 つい普段のぶっきらぼうな調子で返してしまう。今さらと取り繕っても意味がないと考え、そのままの調子で「年だって一つしか違わねえしな」と告げる。

 少し語気が強めの言葉に驚くが、汐はすぐに笑って頷き、「闘真君って呼ぶね」と人懐っこい笑顔を浮かべて言った。

 特に断る理由もない為、闘真は提案を承諾。内心、一つだけ元の日常に戻ったと実感する。

 汐は嬉しげに礼を言った後、「ファイトに戻るけどさ、攻撃して良いんだよね?」自分のカードを指差して訊ねた。

「アタックフェイズに入るんだな。最初の攻撃は1回だけだぜ」

「うーん、どれにしようかな……?」

 盤面を見て、汐は悩み始める。千鳥と童子切安綱は打撃力が2点、堀川国広は打撃力1点だ。

 与えるダメージを重視するなら、千鳥か童子切安綱に絞られるだろう。

「せっかくなら、好きなカードで攻撃すれば良いじゃねぇか」

 眉根を寄せていく彼女を見て、闘真は楽しげに笑って助け舟を出す。「攻撃するカードは横向きにしてな」声音に刺々しさはなく、凪そのもの。目元も柔らかい。

「千鳥で闘真君にアタック!」

「っしゃ、受けるぜ」

 闘真のライフ:10→8

 

 アイテムカードが横向きにされ、攻撃される。普段システムを用いたものならば、衝撃か多少の痛みがある訳だが、卓上だからそれすらもない。

 卓上だからこそ個々の身体能力に頼らずにファイトできるという利点がある。いや、卓上こそが本来あるべき姿と言っても過言ではない。

 その事を闘真は頭の片隅で考えていた。ファイトシステムでファイトするのも良いが、案外自分は卓上の方が肌に合っているかもしれないと。

「攻撃は一回だけだから……これで終わりかな」

「この後にファイナルフェイズっていうフェイズがあるが、必殺技持っていないならここでターンエンドだな」

「じゃ、ターンエンドだよ」

 汐の手札:4/ゲージ:2/ライフ:9/汐:千鳥/レフト:堀川国広/ライト:童子切安綱

 

「んじゃ、俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー」

 闘真の手札:6→7/ゲージ:2→3

 

 手札を見て、少し逡巡する。意外と整っている布陣である汐の盤面をどう崩すか、どうやって次に繋げられるようになるか。

 散らばっているいくつかの思考を一つにまとめ、解を出したら動き出す。

「まずは、キャスト、『D・Rシステム』を設置するぜ」

 闘真の手札:7→6/設置:D・Rシステム

 

「魔法って、場に置くものもあるんだ」

「ああ、場に置いて使えるタイミングになったら能力を発動できるのが設置魔法だぜ」

 フラッグカードの近くに置いた『D・Rシステム』に対して、興味津々な汐の疑問に答えるように楽しそう笑って返す。

 特に目新しいカードではないが、初心者の汐にとっては何でも新しく見えるだろう。当たり前の事だが、できるだけ分かりやすく教えないと、より一層闘真の気持ちを引き締めた。

「次はライトに『ジャハマダル・ドラゴン』、レフトに『ブレイドウイング・ドラゴン』をコールするぜ」

 闘真の手札:6→4/レフト:ブレイドウイング・ドラゴン/ライト:ジャハマダル・ドラゴン

 レフト:ブレイドウイング・ドラゴン/サイズ1/攻2000/防2000/打撃2/[移動]

 ライト:ジャハマダル・ドラゴン/サイズ2/攻8000/防4000/打撃2

 

「センターに『ブーメラン・ドラゴン』をコールして、『竜王剣 ドラゴエンペラー』をゲージ1とライフ1を払って装備だ」

 闘真の手札:4→2/ゲージ:3→2/ライフ:8→7/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/レフト:ブレイドウイング/センター:ブーメラン・ドラゴン/ライト:ジャハマダル

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2

 センター:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻2000/防2000/打撃1

 

 いつものフォーメーション。ここでアタックフェイズに入って即座に攻撃をするが、盤面を眺める。

 汐が装備しているアイテムを見て、「そのカード見て良いか?」と指差して訊ねた。汐も二つ返事で承諾して、カードを手渡す。

 効果を確認した闘真は、礼を言って返し、改めて盤面を見る。これから説明する事をまとめると、口を開いた。

「アタックフェイズに入るぜ。汐、今から言う事はよく聞いておけよ」

 声音を少しだけ真剣にして、話しかける。汐が神妙な顔つきで頷き、聞く体勢を整っている事を確認すると話を続けていく。

「まず自分のセンターにモンスターがいる時は、アイテムで攻撃できない。味方の背中を斬る事になるからな」

「うん……ええ!? じゃあ、闘真君のアイテムは攻撃できないよ!?」

「へへっ、それについては後で良いものを見せてやるよ」

 にやりと笑い、闘真は軽い調子で言い返す。そのままの調子で「それに」と付け加え、次の句を継ぐ。

「センターにモンスター置く事は、デメリットばかりじゃない。センターに置けば、相手の攻撃も防いでくれる」

 闘真の解説を聞いて、汐は理解したように首を縦に振る。闘真も汐の表情を見て、彼女が理解した事を読み取ると、視線を汐のアイテムカードに向けた。

 そして指で指し示しながら、次の事を話し始める。できるだけ、語勢は穏和を保つようにしながら。

「今、お前が装備しているアイテムの効果で、お前の場のモンスターは全員[移動]を持っている」

「[移動]って……?」

「[移動]ってのは、お互いのアタックフェイズに入る時に、空いているエリアにカードを移せるって効果だ」

 オウム返しの質問に闘真は指をモンスターエリアの方へ移動し、モンスターカードを指差した後に空いているエリアと移動するようになぞっていく。そしてセンターに指を止めて、再び言葉を紡いだ。

「だから、センターに置いて、自分の身を守る事もできるぜ」

 その言葉を聞いて、汐は考えるように手札と自分の盤面を交互に見ると、「[移動]しないのもアリだよね?」顔を上げて質問を投げかける。緑の双眸は、好奇心を保ちつつも真剣な眼差し。

 真剣な瞳を向けられ、闘真は楽しそうに口角を上げて答える。双眸は優しげに細められたまま。

「問題ねえよ。むしろ、[移動]しない方が良い時もあるしな」

 汐は「なるほど」と頷き、もう一度盤面と手札を眺める。しばし思考した後、口を開いた。

「童子切安綱をセンターに[移動]させるね」

 左手で童子切安綱のカードを持ち、行く手を塞ぐようにセンターに置く。赤い甲冑を身に纏った犬の剣士が、主君を守るように立ちはだかっているようにも見えた。

 

 童子切安綱/ライト→センター

 

「っしゃ、まずはジャハマダルからセンターにアタックだ!」

 ジャハマダルのカードを横向きにし、攻撃を宣言。「【対抗】はあるか?」汐の方へと目を向け、確認を取る。

「あるよ。キャスト、『刀技 斬釘(ざんてい)截鉄(せってつ)』! 童子切安綱を場に残して、このターン中だけ[反撃]を与えるよ」

 汐の手札:4→3/ドロップ(日本刀の種類):2→3

 センター:童子切安綱/[反撃]

 

 手札から1枚を取り出し、場に出す。狼のようなモンスターが中心に描かれたイラスト。

 闘真は効果を確認した後、自分の手札を見る。今場に出せるカードがない為、「ジャハマダルは破壊されるぜ」と言い、ジャハマダルをドロップゾーンに置いた。

 

 闘真のドロップ(武装騎竜の種類):0→1/ライト:ジャハマダル 撃破!

 

 魔法の処理が終わった後、カードはドロップゾーンに送られ、仕切り直しに。

 一つ息を吐いて、闘真は「次はブーメラン・ドラゴンとブレイドウイングでセンターに連携アタックするぜ」二つのカードをそれぞれ横向きにして攻撃する。

「えっ!? そんな風にして攻撃しても良いんだ……」

 驚く汐を見て、闘真は笑って「そうだぜ」と頷き、弾んだ語調で説明していく。

「2枚以上のカードで攻撃した時は、攻撃力が合計された数値になるから強いモンスターも倒せるようになるんだ」

 話し終えると、再び汐と目を合わせて「【対抗】はあるか?」もの柔らかな語勢で訊ねた。

「うーん……ないから、破壊されてドロップゾーンに置くね」

 汐は先程から変わらず左手で扱い、センターに置かれていたカードをドロップゾーンに移動させる。少し申し訳なさそうな表情をして、「ごめんね」とそっと呟く声が耳朶を打つ。

 

 汐のドロップ(日本刀の種類):3→4/センター:童子切安綱 撃破!

 

「ブーメラン・ドラゴンの効果を発動。このカードのバトル終了時、手札に戻すぜ」

 慣れた手つきでブーメラン・ドラゴンを手札に戻し、「さらにブーメラン・ドラゴンが手札に戻ったから、D・Rシステムの効果でゲージ+1」デッキの上から1枚をゲージに置く。一連の動作にぎこちなさはなく、何度も繰り返した動作だと窺える。

 

 闘真の手札:2→3/ゲージ:3→4/センター:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「あ、闘真君のセンターが空いた!」

「へへっ、カードによっては、こうしてセンターに置いても空ける事ができるんだぜ」

 と言いつつ、闘真は汐のライフカウンターを視認。彼女の残りライフと攻撃できるカードの打撃力を鑑みて、次なる行動へと移す。

「ラストはドラゴエンペラーで、レフトにアタックだ」

「う~、こっちも【対抗】はないから破壊されるよ」

 

 汐のレフト:堀川国広 撃破!

 

「ファイナルフェイズをスキップして、ターンエンドだぜ」

 闘真の手札:3/ゲージ:4/ライフ:7/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブレイドウイング/設置:D・Rシステム

 

 自分のターン終了宣言をした後、思い出したかのように声を上げ、「ドローして良いぞ」と伝える。

 汐は首を縦に振って、理解の意を示し、「ドロー、チャージ&ドロー!」威勢よく声を出してカードを引く。

 

 汐の手札:3→4/ゲージ:2→3

 

「そういや、バディコールについて説明してなかったな」

 唐突に口を開く闘真。まだ互いのバディがコールされていない状況だから、伝えるのを後回しにしていたが、汐の方はそろそろバディが出てきてもおかしくない。

 いきなり発した単語に「バディコール?」と首を傾げる汐に、闘真は水色の瞳は穏やかな光を静かに湛えて答える。

「フラッグの隣にモンスターカードがあるだろ? それと同じカードを場に出した時に言える宣言の事だ」

 口の端を柔らかく静かに上げながら、さらに言葉を継ぐ。「たった1回しかできない分、バディギフトでライフ1点回復できるぜ」柔らかな語気で告げた。

 そして自身の場のモンスターカードを手に「バディコールする時は……」と説明を続ける。

「バディゾーンのモンスターと場に出すモンスターを入れ替えて……」

 実演しながら、「バディゾーンのモンスターを横向きで置くまでやる必要があるぜ」と伝えた。実演が終わったら、元の位置にカードを戻す。ふと、違うカード同士でやってしまったなと一抹の後悔をするが、すぐに消え去った。

「ちょっと手間がかかるね」

「だから、たまにそのままバディゾーンにあるカードを横向きしちまう事があるんだよな」

 苦笑いをして、闘真は言葉を返す。特別ルール違反している訳ではないが、正式な手順ではないのは確か。

 自分で言っていて、少しだけ忸怩たる思いも込み上げてきて、今度から気を付けようと意を固める。

「こっから大丈夫だな?」

「どうかな……?」

「安心しろよ、何かあったら教えてやるって」

 闘真の頼りがいある返答に引っ張れ、汐も元気よく頷く。そして、左手に1枚のカードを握って、場に出した。

「『無寓の刀獣 大包平』をライトにゲージ2払って、バディコールだよ! バディギフトでライフを1点回復」

 汐の手札:4→3/ゲージ:3→1/ライフ:9→10/ドロップ(日本刀の種類):4→5/汐:千鳥/ライト:無寓の刀獣 大包平

 

無寓(むぐう)の刀獣 大包平(おおかねひら)

カタナワールド

種類:モンスター 属性:刀獣/日本刀

サイズ2/攻5000/防4000/打撃2

■[コールコスト]デッキの上から1枚をソウルに入れて、ゲージ2払う。

■君のドロップゾーンに《日本刀》が4種類以上あれば、このカードの打撃力を+1し、[2回攻撃]を得る。

[ソウルガード]

「逸話を持たぬが、今から伝説を作ればよい」

 

 場に出たモンスターカードは、赤い体毛に黒い甲冑を着込んだ荒々しい形相の犬の剣士。目つきは鋭く、右手に握られている刀は飾り気もないのに美しく煌めていた。

 そのカードの持ち主はテキストで躓いているらしく、しかめっ面でカードを見つめる。やがて悩んでいる箇所を指差して、助けを求めるように口を開く。

「ドロップゾーンに《日本刀》が4種類って、名前が違うカードが4枚って事で良いんだよね?」

「おう、属性が《日本刀》で名前が違うのが4枚以上あれば良いぜ。ドロップゾーンを確認してみろよ」

 言われた通り、汐はドロップを確認。丁寧に枚数を数えた後、プレーを再開する。

「4種類あったから、大包平の打撃力+1で、[2回攻撃]を持つよ」

 フラッグカードの上に重ねられたカードにも視線を移し、「さらに千鳥の効果で[移動]も得るよ」得た能力を告げた。

 

 汐のライト:大包平/打撃2→3/[2回攻撃]/[移動]

 

「『破邪の刀獣 数珠丸恒次』をレフトにコール。登場した時、場に《日本刀》がいるから、ゲージ+1」

 汐の手札:3→2/ゲージ:1→2/汐:千鳥/レフト:破邪の刀獣 数珠丸恒次/ライト:大包平

 破邪の刀獣 数珠丸恒次/サイズ1/攻3000/防1000/打撃2

 

 額に巻いた鉢金と両手で持って構えている日本刀が印象的な猫型モンスターが描かれたカードは、汐の左手側に置かれる。顔つきはやる気に満ち足りているが、小柄故に可愛らしさが抜けない。

「このままアタックフェイズに入るよ!」

「ブレイドウイングをセンターに[移動]させるぜ!」

 レフトにいた赤い翼竜をセンターに移し、相手の行く手を阻む壁と化す。直後、闘真はドロップゾーンを一瞥。

 内心、一抹の不安がよぎる。このまま次のターンまで溜まるのだろうかと。

 

 ブレイドウイング/レフト→センター

 

「まずは千鳥でセンターにアタック!」

「【対抗】はねえから破壊されるぜ」

 闘真のドロップ(武装騎竜の種類):1→2/センター:ブレイドウイング 撃破!

 

 ドロップゾーンにまた一つカードが送られ、束が厚くなる。それでもまだ足りない。もう1枚と希求する闘真。

 彼の思いをよそに、汐は間髪入れず、「次は大包平で闘真君にアタックするよ!」ライトのモンスターカードの向きを変えた。

「これは受けるぜ」

 闘真のライフ:7→4

 

 ライフカウンターの台紙を受けた数値分だけずらして傍らに置く。手札と交互に見て、相手の盤面も眺める。

 何もなければ凌げると微かに希望を抱くが、まだ予断は許されないと闘真は気持ちを引き締め、正面を見据えた。

「[2回攻撃]だから、もう一度スタンドして、大包平で闘真君にアタックするよ!」

「これ以上は受けきれねえ。キャスト、『ドラゴンシールド 火竜の盾』!」

 竜の頭を模り、赤く燃え盛っている炎が映える盾を出して、「デッキの上から3枚をドロップゾーンに置いて、受けるダメージを0に減らすぜ」祈るように一番上から順にデッキからカードをめくる。

 1枚目はモンスターと人が一緒に戦っているイラスト、2枚目はドリルを持った勇ましいドラゴン、3枚目はピコピコハンマーを両手に携えた小柄で愛らしいドラゴン。

 何とか枚数が揃い、闘真は僅かに嘆息を漏らす。昨日、パックを買って当てた甲斐があったと安堵して胸を撫で下ろした。

 

 闘真の手札:3→2/ドロップ(武装騎竜の種類):2→4

 

 しかし、安堵したのも束の間。続けざまに汐が「今度は数珠丸で闘真君にアタックだよ!」力強く宣言する。

「へへっ、受けるぜ」

 闘真のライフ:4→2

 

「う~、減らし切れなかったぁ~」

「へへっ、マジで危なかったぜ」

 悔しげに呻る汐を見て、闘真は力が抜けたような笑い声を立てる。二重の意味で危機が訪れていたが故に、乗り越えられて安心したところ。

 けれど、まだ気は抜けない。少しだけ笑い声を抑え、「ファイナルフェイズは?」と訊ねた。

「ないよ。これでターンエンド!」

 元気良く返答する汐。緑色の双眸は、闘真に負けず劣らず楽しげに細められる。心底楽しいと言うのが伝わってくるよう。

 

 汐の手札:2/ゲージ:2/汐:千鳥/レフト:数珠丸/ライト:大包平

 

「俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:4→5

 

 引いたカードを手札に加え、真剣な目つきで睨みつける。盤面とも鑑みて、どう動くかをまとめたら、1枚のカードを左手側に置いた。

「まずはブーメラン・ドラゴンをレフトにコールするぜ」

 闘真の手札:3→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン

 

 先程も場にいたブーメランに似た形状をしたドラゴン。カード越しでも唸り声が聞こえてきそうだ。

「次はドラゴエンペラーをドロップゾーンに置き、『超竜剣 ドラゴデザイア』をゲージ2とライフ1を払って装備!」

 闘真の手札:2→1/ゲージ:5→3/ライフ:2→1/闘真:ドラゴエンペラー→超竜剣 ドラゴデザイア/レフト:ブーメラン・ドラゴン

 闘真:超竜剣 ドラゴデザイア/攻7000/打撃2/[貫通]

 

 鮮やかな青が映えた片刃の大剣がドロップゾーンに置かれ、代わりに出てきたアイテムは銀色の刃が煌めく片刃の剣。

 鍔は竜の頭が模られ、緑色に光っている。刀身の周りにはオレンジ色のオーラが雷のように迸っていた。

「そして、キャスト、『ドラゴニック・グリモ』。手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

 

 手にしたカードの中に、勇猛果敢に大剣を振るう巨大な赤竜が大々的に描かれたイラストのカードが。バディゾーンにあるカード絵柄が寸分違わず一致している。そのカードを見て、にやりと笑った。

「行くぜ、『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払って、ライトにバディコール!」

 手際よくバディゾーンのカードと交換し、ゲージを全てドロップゾーンに置く。「バディギフトでライフ+1!」ライフカウンターの台紙もスムーズにスライドさせる。まだ数字の色は赤い。

 

 闘真の手札:3→2/ゲージ:3→0/ライフ:1→2/闘真:ドラゴデザイア/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 ライト:ザンバソード・ドラゴン/サイズ3/攻10000/防6000/打撃3/[貫通]

 

「センターに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』をコールだ」

 闘真の手札:2→1/闘真:ドラゴデザイア/レフト:ブーメラン・ドラゴン/センター:Wピコピコハンマー/ライト:ザンバソード

 センター:Wピコピコハンマー/サイズ0/攻2000/防2000/打撃1

 

 場に出たのは、先程火竜の盾の効果でドロップゾーンに送られたのと同じカードのモンスター。

 両手にピコピコハンマーを握っていおり、果たしてこれが武器と呼べる代物なのか甚だ疑問に感じる。けれど、相手にダメージを与えているという事は、武器としての役割は果たせているのは間違いない。

 そのモンスターがセンターに置かれている訳だが、汐から何も言及はなかった。ブーメラン・ドラゴンの一件があるからだろう。

 盤面から目を離し、闘真は顔を上げて覿面にいる汐に笑いかける。「アタックフェイズに入るぜ!」力強く声は発せられ、目つきも幾分か獰猛とも言える程に鋭さを増していた。

 宣言を受けて汐が大包平に触れた途端、「[移動]の前に言っておくぞ」と留める闘真。まだ伝えていない事が盛りたくさんだと思いながら、言葉を続ける。

「俺の場には、センターにモンスターを置いても、ダメージを与えられる能力があるからな」

「うえっ!? それって、どういう事!?」

「[貫通]って言ってな、モンスターを攻撃で破壊したら、打撃力分だけダメージを与える能力だ」

 再び汐がしかめっ面になる。どうするだろうかと闘真は黙って見守り、彼女の答えを待つ。少し間が空いた後、解を得た汐は口を開く。

「それでも大包平を[移動]させるよ」

 意外な返答に闘真は「どうしてだ?」と聞き返す。普通に考えたら、センターに置かない方が守れるだろうに。

 彼の疑問に答えるように、汐は大包平のテキストに目を落として読み取った後、もう一度闘真と顔を合わせてハッキリとした語勢で話す。

「だって、[ソウルガード]って、破壊されても場に残るよね? なら、少しだけでも防げるかなって」

 カードに書かれていた説明と現状の手札を見て考えた彼女なりの答え。闘真は否定する事はなかった。

「へへっ、なるほどな。んじゃ、ザンバソードでセンターにアタック」

 笑って頷き、右手側にあるモンスターカードを横向きに変える。ふと相棒が裂帛した気合を発しながら、大剣を振るう姿が脳裏に浮かぶ。そんな自分に少し苦笑い。

 意識を今の状況へと向ける。テキストを読んで、泰然とした口調で伝えていく。

「ちなみにザンバソードは1枚だけで攻撃した時、バトルしている相手のモンスターの能力全て無効化にするぜ」

「へ? それじゃあ……?」

「つまり、[ソウルガード]も無効化するって事だよ」

「ズルイよ、そんなの!」

 汐に文句を言われ、再び苦笑い。「ズルくはねえよ」穏やかな語勢で彼女をなだめ、次の句を継ぐ。

「って事で、3点ダメージな」

 

 汐のライフ:10→7/センター:大包平 撃破!

 

「そんなのあるとは思わなかったよ~」

 大包平をソウルごとドロップゾーンに置き、ライフカウンターの台紙を動かしていた時も、汐は悔しげに呻り声を上げていた。

「まだ止まらねえぜ。ドラゴデザイアの効果で手札を1枚捨てて、ザンバソードをスタンド。俺のライフも+1!」

 闘真の手札:1→0/ライフ:2→3

 

 追い撃ちをかけるように、さらにザンバソードを縦向きにする。

 この意味を理解した汐は「嘘!?」と慌てふためく。手札と睨めっこして、気難しそうな表情を浮かべ、やがて顔を上げた。闘真を見つめる相好はとても悔しそうにしていた。

「へへっ、行くぜ。ザンバソードで汐にアタックだ!」

「受けるよ!」

 汐のライフ:7→4

 

「次は、Wピコハンマーで汐にアタックするぜ」

「これも受けるよ!」

 汐のライフ:4→3

 

「Wピコピコハンマーの効果を使うぜ。Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージを+1!」

 闘真のゲージ:0→1

 

 目の前に立っていた小さな竜は姿を消し、闘真と汐の間を隔てるものはなくなった。

 カードが横向きになっていないのは、左手側のモンスターとフラッグカードに重ねたアイテムだけ。

 これで決まれば勝てるが、まだ気が抜けない。デッキを作った張本人だとしても、相手が握っているカードは分からないから。

「まだまだ終わらないぜ。ブーメラン・ドラゴンで汐にアタック!」

「この攻撃も受ける!」

 汐のライフ:3→2

 

「ブーメラン・ドラゴンの効果で、このカードを手札に戻して、D・Rシステムの能力で俺のゲージも+1だ」

 闘真の手札:0→1/ゲージ:1→2

 

 何とかライフカウンターの数値をドラゴデザイアの打撃力と同じ数値にする事ができた。

 だが、最後のアタックは決まるだろうか。何となく決まりそうな予感はするが、相手に手札がある以上は確信は持てない。ただ決まらなくても良いと思っていた。どっちが勝っても楽しいから。

 闘真は楽しげに笑って「ドラゴデザイアで汐にラストアタックだ」アイテムカードを横向きにした。「【対抗】はあるか?」優しく穏やかながらも弾んだ調子で最後の確認。これで全てが決まる。

「ううん、ないよ。これも受けるね」

 汐のライフ:2→0

 

 ライフカウンターの数値が0を示した。「まずは俺の勝ちだな!」闘真は楽しげに喉を鳴らして、水色の双眸を細める。

 ようやく第一歩を踏み出したと噛みしめて。

 

WINNER:相楽闘真

 

 

 

 それから二人は何度もファイトを繰り返した。汐が負ける度に「もう一回!」と言い続けているから。

 闘真も快く了承して、何回でもファイトに付き合う。分からない事があったら、できるだけ分かりやすく教え、幾度もファイトに勝つ。

 そんな繰り返しの果て、もう両手では数えられない程の回数をこなした頃の事。

 汐が両手を上げて「ようやく勝てたぉ~!」全身で喜びを表現する。闘真のライフカウンターが0を示していた。

「へへっ、よく粘ったな」

「いやぉ~、闘真君が中々勝たせてくれないんだもん」

「そりゃ、少しでも威厳ってヤツを示したいからな」

 二人は笑って話し合う。まるで長年付き合ってきた友人のように。二人の溝は、ほとんどなくなったと言っても過言ではないだろう。

「そういえば、バディファイトにも大会はあるんだよね?」

「あるぜ。どうしたんだよ?」

「うーんとね……」

 いきなり恥ずかしがり、言葉を詰まらせた汐に、眉を顰める闘真。「言いたい事があるなら、ハッキリ言えよ」ついぶっきらぼうな口調で言い出してしまう。猫を被る気など毛頭にないから、気にもしないが。

 闘真の言葉に少したじろぎ、汐は顔を俯かせるが、やがて闘真と目を合わせて口を開く。

「私もいつか出ても良いのかなって……」

 緑色の双眸は不安に揺れ、声音も震えていた。如何にも自信なさげな表情をしている彼女に、荒い語勢の言葉が返る。

「あ? 何言ってんだよ。出て良いに決まってんだろ」

 普段の鋭さが戻り、闘真の目尻は吊り上がって睨みつけるかのような眼差しに。真剣な表情のまま言葉を続けていく。

「それに“いつか”って考えんな。“今すぐにでも”って思って準備しろよ」

 真面目な語調で紡がれた言葉。汐は何か気付いたかのように我に返り、もう一度快活な笑顔を見せて、頷いた。

 夕焼け空を背にして笑った姿に、昔を思い出して懐かしみながら闘真は静かに笑う。そういえば、出会った頃も夕暮れ時で今と変わらないような会話をしていたなと。

 過去と一別し、闘真は改めて汐を見つめた。そして「一つ約束して良いか?」と笑いかけながら訊ねる。

「良いけど……何?」

「絶対、デカイ舞台でファイトしようぜ。それもとびっきりな」

「うん! 約束だよ!」

 汐が左手を差し出す。小指を立て、鍵を作る。闘真も「おう」と言いながら、左手を出して、小指を絡ませていく。

 夕日が差し込む病室の中、二人は新たな約束を結んだ――。




 今回の話を以って、アナザーエピソード東京編完結です。
 間が長く空きすぎて、更新に時間がかかってしまい、非常に申し訳ございませんでした。


 終わりを迎えると言えば、バディファイト自体も8月に発売する「リバイバルバディーズ」で商品販売を終了しますね。

 個人的に複雑な感情が入り混じっていますが、今はカードリストがいつまで残ってくれるのか、《戦神機》の強化があるのかが気がかりです。

 特に《戦神機》は、現在メインで回しているデッキの中で未だに強化が来ていない為、この際入っていると良いのですが……。


 それはさておき、東京編を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
 作品自体は、まだまだ終わりを迎えていないので更新を続けますが、一つの区切りを迎えられて良かったと思います。

 では、一旦ここで筆を休めます。
 オリカやオリキャラの募集はもちろん、これからも温かい応援、感想をよろしくお願いいたします。


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アナザーエピソード:沼津編
第1話:夏祭り


 どうも、巻波です。Twitterで「わりと近い内に更新できるかもしれない」と呟いて、月が変わってました。それでも当者比で近い内に更新できたと思います。
 ……毎度、更新遅くて申し訳ございません。楽しみに待っていてくださる方はいるかどうか分かりませんが、それでも本当に遅くて申し訳ございません。

 話を変えて、今回の話についてですが正直バディファイト関係ない話になっているので興味のない方はブラウザバックを推奨します。何でも許せる方だけ読んでいただけたら幸いです。

 では、後書きにてお会いしましょう。


 男は目を覚ますと美少女達に囲まれていた。両隣の二人と男に乗っかっている一人。

 ただ男も美少女達もちゃんと衣服は着ているし、布団が汚れたなどの乱れた痕跡はない。至って健全な状態だ。

 しかし、この状況は異常事態と言っても過言ではない。見る人が見れば誤解を招きかねない。

男「おい、千歌。重たいから降りろ」

 男は事態に大して動揺せず、自分の上に乗っている少女の名前を呼んで降りる様に促す。

千歌「えー? おじさん、少しぐらい驚いてくれたって良いじゃん!」

 みかん色の髪の少女――高海千歌は不満そうに頬を膨らませる。童顔故にか、その表情はかなり幼く見える。

男「はぁ……ああ、はいはい驚いた、驚いた。だから、どいてくれ。後、両サイドのお前も」

 ため息を吐いて、感情のこもっていない声音で言う。このイタズラを仕掛けた魂胆が分かる為、呆れているのだ。

千歌「ちぇー、おじさんのいじわる~。果南ちゃんや曜ちゃんのような美少女がいてもちっとも反応しないんだから」

男「俺は美少女には興味ないの。俺を動揺させたいなら美女になってからにしろ」

 その言葉に両サイドにいる青色のポニーテールの少女――松浦果南と亜麻色のショートボブの少女――渡辺曜は苦笑いを浮かべる。男の事をある程度知っているから、ただただ反応に困る。

男「ってか、いい加減に降りろ。重たいんだよ!」

千歌「あっー! 女の子に重たいは言っちゃいけないんだよ!」

男「流石に動けねえから言ってんだよ! さっさとどけって!」

果南「……多分、美女だったら言わなかったよね……」

 ポツリと男の内心を突く言葉が吐かれる。男は表情を強ばらせ、言った本人の方に顔を向けた。

男「なぁ、果南。それは言わねえお約束だぜ?」

果南「だって、おじさん美女なら良いっていつも言ってたじゃん」

男「ははは、そりゃキツイ冗談だぜ」

 事実な為、否定は出来ない。今の彼はただ乾いた笑いで場をごまかすしか出来なくなってしまった。

千歌「なあんだ。やっぱりおじさん、そういう人だったんだ」

 先程まで子供の様に言い争っていた相手にまで冷たい視線を浴びせられる。ただし、彼女に対しては別だ。

男「お前はお前で降りろ」

千歌「むー、もう少しぐらいいいじゃん!」

男「嫌だ! 重てぇ!」

千歌「ほんっと、おじさんって、でりかしーってもんがないよね! サイテー!」

 どう見ても子供の言い争い再開。しかし、起きてからずっと同じ体勢でいる為、いくらそれなりにガタイが良くとも男の体は限界だ。

 このまま言い争いを続けたら腰が悲鳴を上げそうである。誰か助け船をくれと男は願った。

曜「千歌ちゃん、もうさすがに降りたら?」

 願いは通じた。この中で一番男と付き合いがあるだけ、それなり意図を汲み取ってくれる。

曜「今日はめいっぱい遊べるんだから、その時にとことん遊ぼうよ!」

 前言撤回。願いは半分通じていなかった。これから男にとっての地獄が待っている事を思い出させたのだ。

千歌「あ、そうだね! おじさん、今日はとことん遊ぶよ!」

 そう言って千歌はようやく男の上から降りた。その笑顔は若干含んでいたが。

?「あんた達、朝から騒がしいわね……志満姉からもう少し静かにしてくれってお達しがきたわよ」

 襖を開けて顔を出した少女は千歌達も幾分か大人びていた。しかし、顔がどことなく千歌に似ている。

千歌「あ、美渡ねえ。ごめんなさい」

美渡「分かればよろしい。というか、あんた保護者なんだから、注意しなさいよ」

 高海家の次女の美渡は気の強い言葉で男をたしなめる。ちなみに彼女が先程口にした志満姉とは高海家の長姉――高海志満の事である。

 年下の少女にたしなめられた男は思いつく限りの言い訳を述べた。

男「騒がしくしない努力はした。だけど、静かにならなかった」

美渡「言い訳が雑すぎるでしょ。……それにしても、あんたさ……もしかして……」

 美渡の笑いが何かを企んでいたかの様に悪いものになっていた。含み笑いをする表情は千歌の姉だけあって似ている。

 ただ美渡の笑顔で男は今回のイタズラの主犯が彼女だと確信した。

男「お前なぁ、大人をからかうのも大概にしろよ……」

美渡「あら? 美少女達に囲まれて目が覚めた朝は格別じゃなかった?」

男「格別だったよ。えらい体力使った」

美渡「でしょうね」

 他人事の様に装う美渡。朝の騒ぎは大体彼らが起こしていると思っていたし、千歌達に指示を出したのは自分だからある程度は察していた。

 男の方も事の起点は美渡にあると察していた為、怒りを覚えない訳でもない。現に拳を固く握り締め震わせている。

男「全くこんなイタズラはもうこりごりだぞ?」

美渡「まぁ、でもあんたが妹達に手出さないと思っていたし、私が言わなくとも千歌達が勝手にやっているでしょ?」

男「そんな気がする……」

 千歌達の顔を見回す。三人とも遊びたい盛りの子供故にか、いかにも男にイタズラをしそうな顔をしていた。

?「美渡ちゃん達、志満さんがご飯できたから降りておいでって言っていたよ」

 美渡と同い年ぐらいの少女が顔を覗かせる。空色の髪に美渡よりも気が強そうな目つきがかなり印象的だ。

美渡「あっ、みや。朝ご飯、もうできたんだ。じゃあ、皆の者ご飯食べ行くぞー!」

 千歌達もさすがにお腹は減っていた為、素直に賛同し美渡に付いて行く。残ったは男とみやと呼ばれた少女だけだ。

みや「あの……広海さん、大丈夫ですか?」

 見た目に違えて優しい声音で男を気遣う。男は疲れ切った様子で答える。

男「もう疲れた……三十路手前でこれは勘弁してくれぇ……」

みや「あはは、ごめんなさい。美渡ちゃん達は多分悪気があってやった事ではないと思うので……」

男「ああ、分かっているよ……まぁ、あいつらの面倒見るのは疲れるけど」

 そう言って男――朝野広海は立ち上がる。そしてみやに先に行く様に促すと済ましておきたい事をやってから自身も下へと降りた。

 

志満「じゃあ、朝野さん。千歌ちゃん達をよろしくお願いします。私も手が空いたら、そっちの方へ顔を出すので」

 朝食後、志満に頼まれる。彼女は大学生でありながらも旅館を背負う将来の女将として修業中の身である。

 高海家の実家は「十千万」という旅館ですぐ目の前に海が広がっている景色の良さが評判となっている。また彼女達の父親が料理長として宿泊客達にその腕を振るっている。

 ちなみに母親は現在東京の方で仕事をしているらしく旅館を留守にしている。その為、広海は彼女達の母親には会った事がない。

広海「ああ、分かった。任せてくれ」

 その後、彼は支度を済ませると旅館の目の前にある海にへと足を運ぶ。そこにはすでに千歌達が楽しそうに遊んでいた。

 また彼女達のバディもSD化して表に出ており、交ざって遊んでいる様子も確認できる。

広海「あいつら、海の家の手伝いの事、忘れてんじゃねえだろうな……」

 他にも頼まれた事を思い出しながら広海もその中に入っていく。

 

 午前中、夏だけあってそれなりに暑い。しかも、これから気温が上がるというのだから、たまったものじゃない。

 そう思いながら広海は海の家で鉄板を温めたり、かき氷を作る為の準備をしていた。

 千歌達が本格的に手伝うのは暑くなる午後からだ。それまでは彼一人で切り盛りする事となる。

 とはいえ、今のところは地元のご老人達が集まり、ビールを飲んでは話が盛り上がっているだけで特に忙しい訳ではない。

 余裕があれば、店の出入り口前まで動いて千歌達の方に気が向く事もできる。幸い、今は美渡やみやがいる為、彼一人の負担も軽い。

?「暇ならお前も遊びに行けばいいじゃないか? 目の保養にもなるだろう?」

 広海の隣に蛇にも似た姿をした黒竜が姿を現す。尚、他の人間に刺激を与えない様にSD化している。

広海「レックか……お前が店の方を見ておいてくれるなら……って、お前は“手”がねえじゃねえかよ!」

レック「あ、すまん。すっかり忘れていた」

 レックと呼ばれた広海のバディモンスター〈沈海竜 レクセアン〉は軽くおどけた。

 広海はそんな相棒に呆れた様なため息を吐く。バディを組んだ時から本気なのか冗談なのか分からない言動に振り回されてきたからだ。

広海「つか、あいつらじゃなくてとびきりの美女じゃなきゃ俺の目は保養できねえよ」

レック「それもそうだな、あの子達じゃ幼さ過ぎる。だが、微笑ましいだろう?」

広海「ああ。俺も早く遊びてえ~!」

 退屈をしのぐ様に体を伸ばす。元来、広海は子供と遊ぶ事が好きで時間を見つけては近所の子供達と全力で鬼ごっこやかくれんぼに興じている程である。事情を知らない周りの大人からは白い目で見られてしまっているが。

?「ホント、広海は体動かす事好きだね」

 声をかけられた方に顔を向けると癖のあるショートヘアに柔和な顔立ちをしている男性が立っていた。

 服装は半袖のポロシャツにクリーム色のパンツ、スニーカーと海に遊びに来たのか疑ってしまう程の恰好をしている。 また右肩にはショルダーバッグを掛けている。

広海「おっ、直樹! 来たのか! 悪いな、せっかくの休暇だってのに付き合わせちまって」

直樹「別に良いよ。家でだらけているよりかはこっちの方が良い気分転換になるからさ」

 柔和な男性――成宮直樹はその柔和な顔立ちを崩さないまま笑みを浮かべた。幾分か広海より若そうな印象だ。

広海「すまねえ、後は頼んだ!」

 そう言って広海は上着を脱いで水着一枚になると一目散に海で遊んでいる子供達の所へと走って行った。

直樹「相変わらず広海は元気だなぁ……」

レック「ああ、そうだな。でもなぁ……」

直樹「まだ立ち直っていないのか……」

レック「俺もいい加減子供達と――」

 その先の言葉は風によってかき消された。けれど、直樹はその先の言葉を知っている。それは彼にとっても望んでいる事だから。

 

 それから広海は千歌達と海で泳いでは情け無用で競争したり、ビーチフラッグやビーチバレーなどでは容赦なく襲いかかったりともはや大人というよりは体が大きいだけの子供として遊んでいた。

 ただ彼は今年二十八歳になった男。もうすぐ三十路になるし、年の差が最大十五歳も離れているのだから体力的には十代でまだまだ遊び盛りな千歌達に負ける。

 その為、体力はすぐに尽きた。大人になるにつれ、体力というものはいかに有限かというのを示した事だろう。

果南「おじさん、情けないよ。私達、まだまだ遊び足りないんだからさ」

 この中で最も体力があるであろう果南が追い打ちをかける。浜辺でぶっ倒れ、今にも死にそうな広海にとって彼女は鬼や悪魔だと思った。

広海「俺はぁ……この中じゃあ、年寄りなんだぞ……丁重に労われ……」

美渡「それだったら、私達もまだ子供なんだから少しは手加減しなさいよ」

 美渡の言う事は間違ってはいない。何せ、広海は怪我させない範囲とはいえどもほぼ全力で千歌達と遊んでいた。

 子供相手ましては野郎ではなく少女が相手なのだから、少しぐらい力をセーブしないといくら彼女達が運動神経や身体能力が優れていても体格差は埋められない。

 一番足が速い曜や全体的に身体能力がある果南でさえ完敗しているのである。ただし代償として体力をほとんど使い切ってしまい、動けなくなってしまっているが。

広海「子供なんかに手加減できる程、余裕はねえよ。それに全力で遊ばねえと楽しくねえだろ?」

 何とか呼吸を整え上体を起こす。水滴が濡れた黒の短い髪の毛を伝い、浅黒い額からは大量の汗が流れ落ちていく。

千歌「それは千歌もそう思う! ねっ、バル!」

バル「バル!」

 千歌のバディモンスター〈太陽竜 バルドラゴン〉は千歌に似て元気良く返事をする。

曜「おじさん。ラムネ買ってきたよ~!」

みや「皆の分もあるから今の内に水分取ってね、はい」

 海の家の方に向かっていたみやと曜がラムネ瓶を人数分抱えて戻って来た。それぞれが彼女達から受け取り、ビー玉を押し込んで蓋を開けるとそのまま一気に炭酸が入った透明な液体を飲み込んでいく。

 素朴な甘さが疲れを癒していくと一番疲れている広海は実感しながら一気に飲み干した。

広海「ぷはー! 生き返るー!」

みや「ふふ、よかったです」

 配り終わった後、みやは広海の隣に座り、彼の様子を見て柔らかく笑った。彼女は目元が厳しい事から性格も厳しそうに思えてしまうが、とても優しく穏やかな少女。

 そんな彼女だから、先程体力切れでぶっ倒れた広海を心配して飲み物を買ってこようと提案していたのだ。

 また午後には志満から頼まれた海の家での手伝いもある為、今の内に休息を入れようとも考えて人数分買う事にした。

 代金に関しては、流石に女子高生に全て任せる訳にはいかないと広海が受け持ったが……。

果南「じゃあ、もう少ししたら第二ラウンド開始だね!」

広海「それは嫌だ。お前とやるとまた三途の川を渡りそうだ」

 これまで果南と体力勝負をして、何度のその川を渡りそうになった事か。それだけ彼にとって彼女からの挑戦状はトラウマでしかない。

 もちろん、勝負は楽しい。ただ彼女の場合は何度も繰り返すから次第に広海の体力が限界になる。そして勝負が終わる頃にはもう一歩も歩けない程に疲弊していた事なんて珍しくもない。

曜「いっそ泳いで渡る?」

広海「その川は泳いだら最後だぞ」

 この後、広海は海でたくさん泳ぐ事になり、曜の言う通り三途の川までも泳いで渡りそうな程になけなしの体力を使い切ってしまった。

 

 昼食を挟んで昼下がり、海の家の手伝いが始まる。海で泳いだり、砂浜で遊んでいたりしていた客が集まっていた。

 午前中で既に体力を使い果たした広海はその人だかりを見るだけでも辛いが、料理をしている間は人を見なくても良い為、料理に集中する。他にも調理係は曜とみやが担当している。

 ホール係は美渡を中心としてテキパキと注文を受けたり、料理を運んだりとしている。たまに千歌や果南が注文間違いをする事があるものの客も気が荒い人物が少なかった為、大きな問題に発展せず至って穏便に済んでいた。

 午前中から飲んでいる老人達や海に入っては一杯飲み、また海に入ってと繰り返す海水浴客のテンションが高く少し騒がしいところはあるが。

 そうして日は暮れていき、海水浴場に人がいなくなっていく。今日はいつにも増して人が減るスピードが早かった。

広海「俺達も撤収準備に入るかぁ~」

 と言いつつも使い終わった料理器具や食器は洗い終わっており、片付けという片付けはゴミの整理ぐらいだ。

直樹「いつもはこれぐらいなのかい?」

広海「いや、もうちっと遅いかな。今日は沼津の方で祭りがなるからな」

直樹「ああ、なるほど。そういえば、もうそんな時期だったね」

広海「流石に今年は翔吾は来れねえだろうな……」

 持ち込まれた缶や紙食器を分別しながら、ここにはいない幼馴染の名前を交えて近況について話す。

直樹「そうだね。何だか向こうは大変な事件が起きているらしいから、忙しいだろうね」

広海「かくいうお前も忙しそうしてるじゃねえか」

直樹「そりゃ忙しいけど、一時期の広海や翔吾と比べたらまだマシだよ」

広海「今の俺は忙しいと無縁……ではねえな……」

 少し離れたところで作業をしている子供達の方へと視線を向ける。千歌とバルが遊んでははしゃぎすぎてゴミが散乱させてしまい、その回収作業に追われていた。

 千歌とバルは美渡に叱られ、落ち込んでいた。見かねたみやが美渡をやんわりとなだめては千歌達を慰める。

 曜と果南はその間にゴミを回収していた。彼女達のバディもSD化した姿で手伝い、散らかってしまったゴミをビニール袋に入れていく。

直樹「あはは、彼女達は元気だね……」

 その一連の流れを広海と一緒に見ていた直樹は、まるで昔の自分達を思い出してはその面影を重ねて穏やかに笑った。

レック「これから祭りに行くってのに……子供の体力は無限大だな」

広海「ああ、そうだな。特にあいつらの体力は化け物すぎる……」

 中学生になってからようやく半分を迎えようとしている千歌と曜、家がダイビングショップである影響か持久力が特に秀でている果南。中学生達と比べて大人しいとはいえ、広海よりか十歳は若い美渡とみや。

 結論をいえば、若さには勝てないという事である。多少鍛えても根本的な体力や気力というものは、年を取るごとに衰えていくのだから仕方のないといえば仕方のない事。

直樹「まあ、まだ広海は二十代だし大丈夫だと思うよ」

広海「もうすぐ三十路なんだけどな。もうちっと労わって欲しいぜ……」

直樹「何言っているのさ、まだ二年もあるじゃないか。それに三十越えたって人間まだまだ動けるよ」

広海「…………」

 ――鬼は身内にもいた。

 

 その後、何事もなく店を閉め、事後報告の為に十千万に戻って来た広海達。到着した後はそれぞれ自分達の準備の為に分かれた。

志満「ごめんなさい。結局、様子見に行けなくて……」

広海「何、大丈夫だったぜ。今日は直樹も来てくれたし、客の減りも早かったからな」

志満「そうですか……えっと、直樹さんっていう方は?」

広海「ああ、今紹介する。おい、直樹!」

 広海は男性用の更衣室で着替えを済ませ、玄関口の広間にある畳の上に座って志満と話をしていた。

直樹「よく出てくるタイミングが分かったね」

 お手洗いから戻って来た直樹は少々驚きながらも広海達がいる畳の上に座る。その所作はかなり整えられていて、育ちの良さが表れていた。

志満「貴方が直樹さん?」

直樹「ええ、そうです。僕は広海の幼馴染の成宮直樹と言います。いつもウチの広海がお世話になっています」

志満「いいえ、こちらこそ、いつも朝野さんにお世話になっています。千歌ちゃん達といつも遊んでくださって……」

直樹「そうですか。広海らしいですね」

 と、直樹は視線を広海に向ける。広海は特に照れる様子はなく、顎に生えている無精鬚を擦っていた。

直樹「ところでその彼女達は……?」

 旅館に着いて、すぐお手洗いを借りていて近くから離れていた為、直樹は千歌達が今どこで何をしているのか知らない。

志満「千歌ちゃん達は今上の部屋で着替えていますよ。今日は皆で沼津の祭りに行く日ですから」

直樹「なるほど。じゃあ、もう少し待ちますか」

広海「志満だって、着替えても良いんだぜ?」

志満「ごめんなさい。私は旅館のお手伝いがまだ残っていて……」

広海「そうか、それはちょっと残念だな」

 志満の様な美しい女性の浴衣姿を見れない事に内心がっかりしながらも仕方がないと割り切る。

 彼女以外にも自分の知り合いで今年の夏祭りに参加できない人物もいるのだから、なおさらだ。

広海「んで、お前も大丈夫かよ? 明日は一応仕事だろ?」

直樹「そりゃそうだけど、行ける内は行かないとね。研修が終わったら、本格的に忙しくなるだろうし」

広海「ああ、そうか。じゃあ、下手したら今年しか行けなくなるって事か」

直樹「そういう事だね」

 世間話もそこそこに階段から人が降りてくる音が聞こえてくる。それも一人分ではない。数人が揃って降りてきている。

みや「お待たせしました。準備できましたよ」

 自身の髪の色と同じ様な色を基調とした浴衣に身を包んだみやが顔を出す。昼間と違い、随分と大人びた印象を覚える。

広海「おう、なら行くか」

直樹「そうだね。広海、ちゃんと財布持っていくよね?」

広海「お前なぁ……いくら何でもそれぐらい持ってくぞ?」

 直樹は疑いの目を向けるが、広海の財布が彼のズボンのポケットに入っている事を確認すると疑うのを止めた。

志満「それじゃあ、朝野さん、成宮さん。千歌ちゃん達をよろしくお願いします。みやちゃんもよろしくね」

広海「おう、任せてくれ」

直樹「ええ、分かりました」

みや「はい。じゃあ、行ってきます!」

 

 広海達はバスに乗り、会場近くで降りて屋台が行われている場所まで歩いて行った。もう既にたくさんの人が行き来しており、混雑しているのがはっきりと分かった。

広海「お前ら、はぐれんじゃねえぞ。ただでさえ人混みが凄いんだから、迷子になっても捜すの難しいからな」

千歌「分かっているって! そのために集合場所も事前に決めたんでしょ?」

広海「そうだな。一番迷子になりそうなお前が一番分かりやすい場所にしたんだからな」

千歌「私も子供じゃないんだから、そう簡単に迷子にならないよ!」

 千歌はそう言ってみかん色の浴衣の袖をパタパタと振って抗議する。浴衣のデザインは子供らしさがあるものではないが、その行動と童顔な顔立ちに故にか実年齢よりも幼く見える。

 その為、周りからは小学生の女の子が父親に反抗している様にしか見えない。実際、千歌自身は少し前までは小学生だったが。

果南「まぁ、でもこんな人混みなら大人の人でも大変そうだよね……」

みや「携帯も通じない可能性もあるから、なおさらはぐれない様にしないとね」

 果南とみやは二人のやり取りをよそに冷静に状況を確認する。巾着の中にある携帯を取り出して、電波状況も確認するが繋がるかどうか少し怪しい。

美渡「そんな事よりせっかく祭りに来たんだから、さっさと行くよ! ここら辺、部活帰りの運動部の連中もいるんだから食べ物全部食べられちゃうかもよ?」

曜「そうだね! 私も早く食べたいし、遊びたい!」

 美渡と曜が先頭を行く様に歩き出していく。それにつられて果南やみやも動き出し、千歌は先を行く二人を小走りで追いかけた。

 広海と直樹はそんな彼女達から目を離さない様にしながら、最後尾で歩いて行く。

直樹「こんな大人数で祭りに行くのは初めてだね」

広海「いつもは三人で回っていたからな。今年は遊び倒せる気はしねえけど」

 昔を思い出しながら、彼らもまた祭りを楽しもうとしていた。

 

 通りの両端には様々な屋台が賑わっていた。

 客も様々で両手一杯に食べ物系を抱えて回る人やくじ引きや射的などで欲しかった景品を得て、それを片手に駆け回る子供。その子供が転んだり、はぐれたりしない様に気を張りながら自分も買いたい物を買う大人。

 皆、それぞれにこの祭りを楽しんでいる。もちろん、広海達も楽しんでないはずがない。

 焼きそばやたこ焼きに綿あめやクレープなどを頬張りながらくじ引きで景品を当てたり、射的で景品を落としたりと自分のお小遣いの限りに楽しんでいた。

直樹「今のところ、誰一人もはぐれていないのは幸いだね」

広海「そうだな」

 広海や直樹はそれぞれ焼きそばとたこ焼きを食しながら、先を行く少女達を見守る。浴衣姿の少女達はワイワイと騒がしくもしながらあちらこちらの屋台へと顔を覗かせる。

 そして、その手には景品や食べ物でいっぱいになっていく。しかも、千歌に至っては自分のバディの分まで持っているのだから、浴衣が汚れないか心配だ。

 ちなみにバルは通りに入ってから食べ物につられ、カードから出てきた。おまけに屋台にピザがないかと騒いでいる。

広海「おい、千歌! 荷物の一つぐらいは持っておいてやるぞ?」

千歌「ホント? じゃあ、これお願いするね!」

 と手渡さたのはくじ引きで引き当てた景品。特別珍しいものはなく、どれもデパートや専門店で売っている様なものばかりだ。

 しかし、少しばかり数が多く何か入れる袋が欲しいところ。と思っていたら、曜がとある屋台の前に立ち止まり、じっと見つめている。

果南「曜、どうしたの?」

曜「あ、いや、あのぬいぐるみ……」

 彼女が指した方に視線を向けるとそこにはつぶらな瞳でこちらを見つめ返すぬいぐるみが鎮座していた。セイウチをモデルとしているのか全体的にはずんぐりとしており、口元にはその瞳に似つかわしくない獰猛な牙が生えている。

 ぬいぐるみのサイズとしてはバディモンスターのSDサイズとあまり変わらず、抱きかかえても前が見えないという事はないだろう。

 曜は自分の手元を確認する。別に足りないという訳ではないが、この後の事も考えるとある程度は残しておきたい。

 しかし、ここは射的の屋台。くじ引きと比べれば手に入れやすいだろうが、腕が良くなければ何回も挑戦しなければならない羽目になる。

広海「何だ、あのぬいぐるみが欲しいのか?」

曜「わっ、おじさん! ええっと……」

 直樹に荷物を預け、話に交ざる。そして件のぬいぐるみを見る。どう見ても水族館で買った方が安上がりだと思うが、それでも彼女は欲しいのか手元とぬいぐるみを交互に見てはその眉間に皺を寄せていく。

広海「……よし、俺に任せろ!」

曜「え!? お、おじさん!?」

広海「ちょっとは大人に頼れ!」

 自分の財布から料金を払い、コルクを受け取った。その手にあるコルクの数は五つ、つまり挑戦できるのは五回までという事を示している。

直樹「広海、しくじるなよ」

広海「分かってるよ! こんぐらい余裕だぜ!」

 近くで野次を飛ばす直樹。そんな事も軽く流しながら、広海はコルクを銃口にはめると銃を構える。

 肩で固定し、片目を閉じて標準をそのぬいぐるみの頭部に合わせる。まさしく獲物を狙う狙撃手さながらの集中力で細かなブレを調整し、そのブレが収まった瞬間に引き金を引いた。

 命中。しかし、ぬいぐるみは大きく後ろにのけぞるも倒れる事なく体勢を立て直す。

果南「惜しい……! もう少しだったね」

広海「ああ……ちくしょう、一撃で倒すつもりだったんだがな……」

みや「後、一回ぐらいで倒れるんじゃないですか?」

広海「かもな。じゃあ、もう一発かますか!」

 次弾装填。もう一度構え先程の結果を踏まえて微調整をして、軽やかな発砲音を鳴らしながらコルクを目標に向けて飛ばして行く。

 今回も命中。だが、先程よりも大きくのけぞっても倒れない。

美渡「倒れないわね……」

直樹「倒れないね」

広海「倒れねえな」

 冷静に結果を口にする。しかし、広海は内心少し焦っていた。大見得切ったは良いが、目的の物は倒れていない。

 弾数は残り三発。いい加減に倒さないと格好が付かない。流石に大人として情けないという思いが心を巣食う。

 そしてコルクを一発装填し、構えては微調整をする。今度こそ倒れてくれと願いを込めながら、引き金をもう一度引いた。

 命中、だが倒れない。

広海「マジかよ……」

 これには苦い笑いを浮かべるしかない。命中して、しかものけぞっているのにも関わらず倒れないのは中々精神的に辛い。

千歌「おじさん、あと何発ぐらい残ってるの?」

広海「後、二発だ。もう一度金を払いたくねえから、この二発に掛ける」

 と言って、先程と同じ過程を繰り返し銃を構える。小刻みに銃身が揺れる。それでも制して落ち着いた刹那に引き金を引いた。

 命中、まだ倒れない。残り一発だけになった。

 その様子に見守っていた者達は歯がゆい思いをしているし、広海はもっとしている。

 最後の弾を装填。ただでさえ、お金を持っていない広海にとって再挑戦は金銭的にキツイし、何よりも格好が付かない。

 ここは大人らしく格好良く決めたいという願望を引き金にかける。そして彼の願いを乗せてコルク弾は軽やかな音を立てながら放たれた。

 命中――ようやく獲物は倒れた。見物した客はその結果を見て感嘆や歓喜の声を上げる。

広海「っしゃあ!!」

 ガッツポーズをして喜ぶ。後ろで見ていた直樹は大人げない広海の喜び方を見て、笑ってしまった。子供の時から変わっていないと思いながら。

千歌「おおっ! おじさん、やったね!!」

バル「やったバル!」

広海「おうよ! 俺の手に掛かれば、こんなもんだぜ!」

 先程まで張りつめた表情から一変、子供っぽく無邪気な笑顔を見せる広海。そこだけ見れば、千歌達と変わりない体が大きいだけ少年だ。

曜「おじさん、ありがとう!」

 射的屋の店主からぬいぐるみを受け取った曜は広海に礼を言う。広海も「どういたしまして」と上機嫌に返した。

直樹「ほら、もう用がないならここから離れよう。後がつっかえちゃうよ」

みや「あ、そうですね。千歌ちゃん、曜ちゃん出るよ」

 千歌と曜はみやに促され、射的屋から離れる。美渡と果南は既に直樹と共に先へ行っており、広海はコルク銃を返した後、最後尾に付いて歩いて行った。

 

 それから、しばらくして花火が打ち上げられた。広海達はその様子を見晴らしが良い場所で眺めて楽しむ。

 そこは広海や直樹が学生時代に花火を楽しむ為に見つけたとっておきの隠れスポットで、人がいないから心置きなく楽しめる場所となっている。

 最後の花火が打ち上がり、綺麗な大輪の花が咲いては散る。空に残ったのは煙だけだった。

バル「千歌、花火もう終わりバルか?」

千歌「多分、今ので終わりなんじゃないかな?」

バル「え~!? バル、もっと花火見たいバル~!」

千歌「わっ、バル!? ちょっと暴れないで!?」

 花火が終わった後、千歌の腕に抱きかかえられていたバルが駄々をこねて暴れ出した。

みや「ほら、バル。今度、皆花火やるって約束したでしょ? それまで我慢して?」

バル「いやバル! 今、見たいバル!」

みや「じゃあ、花火の代わりになんだけどファイトしよっか! それなら良い?」

バル「やるバル!」

 やる気満々と千歌の腕から降りて両腕に力こぶを作るバル。その様子を見て、みやは千歌に申し訳なさそうな笑みを向けた。

みや「ごめんね、千歌ちゃん。勝手にファイト申し込んじゃって……」

千歌「ううん、別に良いよ! それに今日はまだみや姉とファイトしていなかったからね!」

みや「ありがとう!」

 そう言ってみやと千歌はある程度の距離を取って向かい合う。広海達はファイトの中に起こる余波に巻き込まれない様に少し遠くに移動する。

曜「頑張ってね! 千歌ちゃん、バル!」

千歌「うん!」

美渡「みや、千歌の事ボコボコにして良いからね!」

みや「いや、それは流石に……でも、負ける気はないよ!」

 それぞれが声援を送る。千歌は曜の言葉に士気を向上させ、みやは美渡の言った事に困惑しながらも勝つ意志を表示する。

広海「っで、誰が掛け声かけんだよ……」

果南「それはもちろん、おじさんなんじゃない?」

広海「俺がか?」

直樹「まあ、広海が言った方が締まるんじゃないかな?」

 「自分が言った手前だしな……」と言うと広海は咳払いを一つする。そして両者に確認を取る。

広海「二人とも用意は良いな?」

 二人は頷く。それを肯定を意と捉えた広海は力強く宣言する。

広海「それじゃあ、行くぞ! バディーファッイ!」

千歌&みや「「オープン・ザ・フラッグ!」」

 

曜「千歌ちゃんとみや姉のファイト凄かったねえ」

広海「そうだな……ただ、あそこで千歌は凡ミスしなきゃ勝てたかもな」

曜「あはは、あれは仕方ないよ。でも、次はしないじゃないかな……多分」

直樹「ふふふ、そうだね。次に繋がると良いね」

 夏祭りの帰り道、千歌達と別れ広海、直樹、曜は自分達の家がある方角へと歩いていた。明日から曜は部活があり、直樹は仕事がある。広海はというと海の家の手伝いぐらいしかないし、それなら逆方向になるのだが……。

広海「んで、曜は明日ちゃんと起きれるよな?」

曜「お、起きれるよ!」

広海「本当か? この間なんて俺がたまたまお前の家に行かなきゃ、寝坊していただろ?」

曜「うっ……」

 彼らが言っている出来事というのは夏休み入る少し前に曜が珍しく朝寝坊してしまい、たまたま曜の家に用があった広海が母親に頼まれ叩き起こされた事だ。

 曜自身、しっかりとしていて同年代の中ではかなり頼りにされいてる方だ。しかし、最近では広海と関わっているせいか抜けているところも表に出てき始めている。

 とは言っても、大人と関わっている時だけで同世代の子達の前ではまだまだしっかり者として馴染んでいる。

広海「まっ、一応信じてやるよ。だけど、俺は起こしに行かねえからな」

直樹「とか言って、どうせ起こしに行くんだろ?」

広海「何でそうなるんだよ! 俺はツンデレか!」

 成人男性二人と女子中学生一人が夜中を少し賑やかにしていきながら帰路を歩く。それから少し時間が経つと曜の家が見えてきた。

曜「じゃあ、この辺で。おじさん、直樹さん、また明日!」

直樹「また明日、気を付けてね」

広海「おう、また明日な。寝坊すんじゃねえぞ」

曜「それはしないよ! じゃあね!」

 元気良く手を振る曜の姿が見えなくなるまで見届けると広海達も歩く方向を変え、自宅に帰って行った。

 

 帰宅後、直樹は明日の準備と身支度を整えるとすぐさま寝てしまった。広海は居候する際に充てがわれた部屋からベランダに出て紫煙を燻らせていた。

 広海は元々東京の方で仕事をしていたが、半年前に起きた出来事をきっかけで辞めてしまい、現在は地元の方に戻って直樹が住んでいるアパートに彼と同居している。

 仕事を辞めてしまっている為、今の彼は無職だ。ただ一応、日雇いの仕事をしているし、この時期は海の家の手伝いがある為、完全には無職ではない。それでもフリーターと呼べる程に生活費を稼いでいる訳ではないが。

 ちなみに彼が家に戻って来たのは煙草がもうすぐ切れる上に家に予備を置いてきたから、それを取りに行く為だから。

 そして今、最後の一本を吸っている最中だ。

広海「…………」

 広海はズボンのポケットから二つ折りの携帯を取り出して、慣れた手つきでアドレス帳を開いてはある人物に電話を掛けた。

 携帯のスピーカーを耳に当て電子音を聞き取る。待っている間、弱くゆっくりとまるで熱々のスープを吸うかの如く煙草を吸い、口の中に広がる煙草の味をたっぷりと味わうと吐き出す。

 彼が吸っている煙草は燃焼材などを含んでいない無添加な煙草故に非常に長持ちする上、煙草本来の味わいを楽しめると愛煙家達に評判の銘柄だ。広海も煙草を吸い始めてからずっとその銘柄を愛煙しているぐらいに気に入っている。

?『すまないな、広海。出るのが遅くなって』

 電話の向こうから聞き慣れた声が聞こえた。忙しそうにしている様子はなく、声音は落ち着いている。

広海「いや、こっちこそ悪ぃな。急に電話をかけちまって」

?『別に構わないさ。俺もお前に電話をかけようと思っていたところだから……直樹は寝ているだろ?』

広海「ああ、もう寝ているさ。医者は朝が早えからな」

?『そうだろうな。っで、少し話が変わるんだが、広海』

 電話口はそう言って、語気を鋭くさせた。彼が真剣な話をする時の合図だ。

?『昨日、こっちで起きた事件の犯人が今日の朝方に目を覚ました』

広海「本当か!? それでどうだったんだ?」

?『その事件の事はあまり記憶にないそうだ。ただ彼とファイトした人物の言葉が強く印象に残っているみたいだったな』

広海「そうか……それでその子は……?」

?『とりあえずは釈放だろうな。それで自分の居場所に戻ってもらう』

 広海はその報告を聞いて胸を撫で下ろした。何にせよ、その人物が日常に回帰出来れば幸いだ。

?『まあ、色々と問題は山積みだが犯人の子はお咎めなしになるだろう。むしろ、子供相手にさえ、心の弱みに付け込んでそそのかした奴を許せないと躍起になって捜査しているよ……バディポリスの大人達は』

広海「俺もその場にいたら、そうなっていたかもな」

?『そうだろうな。特にお前なんかは頭に血を昇らせて犯人のところに殴り込みに行きそうだ』

広海「違いねえな。っで、お前の方はどうなんだよ、翔吾?」

翔吾『俺か? もちろん、頭にきているさ。今目の前に現れたら、一発ぶん殴っている』

 幼馴染だから分かる。声音は穏やかだが、瀬戸翔吾の目は絶対に笑っていない。むしろ、怒りに燃えているだろう。

 広海はそんな幼馴染を思い浮かべては今の自分の境遇に苦笑いを浮かべた。今の自分には――。

翔吾『……広海、今変な事考えていただろ?』

広海「バレたか? やっぱり、お前には敵わねえな」

翔吾『幼馴染だからな。この手の話題なら多分そう考えているだろうなと思っていた。……焦るなよ?』

広海「ああ、分かっている。すまねえな、いつも」

翔吾『気にするな。じゃあ、今日は伝えたい事は伝えたから俺は寝る。お前も早く寝ろよ』

 と言って通話が終了した事を知らせる電子音が鳴る。止めて、一服に戻る広海。

 見上げると星が満天に広がっていた。もし星に願いを込めるとしたら、何を願おうかと少し思案するがすぐに止めた。

 今、自分の心を見るのが怖い。だから、何も願わない。




 いかがだったでしょうか? まあ、一応前書きにて忠告させていただきましたが、バディファイトが関係しない話だったと思います。
 え? ファイトシーン? そんなもんなんて書いていなかったはず……。
 後、書き方変えると言って外伝と同じ書き方になっているのはツッコミを入れないで……。

 それとこの小説、連載開始してから地味に一年経っているんですよね。……一年経ってもたった十話程度しか書けていないお試し連載がかつてあっただろうか……。
 ただ合計文字数がこの話を更新する前だと13万字ぐらいでした。更新遅いのに文字量が多いのはお試し(以下略)

 次は本編の外伝(~.5話)を更新しようかなと思います。一か月以内に出たら、死ぬほど頑張ったんだなと生暖かい目で見てやってください。

 ついでにこのパートの主人公を紹介します。流してもかまいません。

朝野 広海(あさの ひろみ)/男性/28歳
使用ワールド:ダークネスドラゴンワールド/使用デッキ:黒竜/バディ:沈海竜 レクセアン
容姿:ボサボサした黒髪で短髪、青い瞳で肌は日焼けしていて浅黒く顎に無精髭を生やしている。私服は紺色の七分丈袖シャツ、黒のズボンにサンダルが通常のスタイル。釣りに行く時はそれに加え、麦わら帽子を被る。身長は185cmで筋肉質。
性格:面倒見が良く、特に子供の面倒を見るのが好き。名前の通り広い海の様に心が広いものの、子供っぽいところがあり大人気ない。ただ、全力で遊んでくれるので子供達に好かれている。後、美人には目がなく見かけたら口説いているが、あまり成功していない。ただし、20歳未満は子供として見ているので抱き着かれようが何されようが(常識的な範囲なら)動じない。
概要:半年前に仕事を辞めて沼津にやって来た為、ほぼ無職。家は従弟の成宮直樹の家に住んでおり、曜の家の近所。趣味は釣りでよく直樹の船で釣りをしている。曜とはいつも船で釣りしているところを見られていた事がきっかけで仲良くなり、今では彼女が家に遊びに来る様になるぐらいになった。東京にいる瀬戸翔吾、共に暮らしている従弟の成宮直樹とは幼馴染で交流も深い。喫煙者で子供達の前では吸わないが、吸っている銘柄は「アメリカン・スピリット」。

 彼もまた見かけた事のある方があると思います。アナザーエピソード東京編の後書きで述べた通り、あの作品はあの作品、この作品はこの作品とある程度割り切って読んでくだされば幸いです。

 では、次回の更新でお会いしましょう。感想や活動報告のコメントもお待ちしております。


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第2話:新しい仲間とこれから

「朝から元気だなぁ~……」

 広海は呆れたような目で砂浜ではしゃぐ少女達を見つめる。まだ誰も来ていない旅館の眼前にある海辺で、千歌達は入れ替わり立ち代わり、対戦相手を変えてファイトを繰り返していた。

「これが若さというものだな」

 隣でレクセアンがからかうように呟き、階段に腰かけて眺めている広海の顔に視線を向ける。蛇にも似た顔立ちが憫笑とも取れる微笑みを浮かべていた。

「悪かったな、三十手前のおじさんでよ」

 まるで子供が拗ねたような口調で言い返し、広海は眉根を寄せていく。目の前でファイトしている少女達と十歳も離れていて、彼女らと比べて朝から元気でいられる体力はない。

 というより、千歌達が元気すぎるのではないかと思う程だ。確かに内浦は、田舎だから人が行き交う量は多くないから、その分だけ伸び伸びと活動する事ができる。

 けれど、ここまで元気に動き回るのは千歌達だけだろうと思う。早朝からファイトを何度も繰り返すのは、今のところ彼女達しか見た事ない。

「まぁ、三十手前でもこの涼風を浴びるのは気持ちいいだろ?」

「そうだな。なおかつ、面白いファイトが何度も観戦できるんだから特等席だ」

 相棒の一言に広海も眉根を開いて、実年齢よりも若く見えるぐらいな快活な笑顔で返答。まだ日差しが砂浜全体を照らしていない中、海から運ばれる潮風が体全体を包み、数少ない涼を与えてくれる。

 こんな風に早起きするのも悪くないなと思いつつ、広海は視線を少女達の方へと向けていく。

 対面しているのは、曜とみや。近い内にショップ大会があり、千歌と曜、果南の中学生組はそこに参加する予定で今はその為の特訓というところ。

「頑張れよ」

 穏やかに青の双眸を細め、静かに微笑みながら広海はそのファイトを観戦する。

 

 

 

「翼を得た勇ましい竜達は蒼き空を駆け抜ける! ルミナイズ、『蒼穹の翼』!」

「黒き竜達は死と破壊を求め、虚空を旅する! ルミナイズ、『黒の衝動』!」

 二人は元気よく「オープン・ザ・フラッグ」と叫び、フラッグを公開。浜辺に立てられた旗は、潮風で穏便に靡いている。

「ドラゴンワールド!」

 みやの手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:蒼穹騎士団 ドラムバンカー・ドラゴン

 

「ダークネスドラゴンワールド!」

 曜の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:黒き死竜 アビゲール

 

「先攻は私がもらうね。チャージ&ドロー!」

 みやの手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

「まずは〈竜剣 ドラゴウイング〉をゲージ1払って装備!」

 翼のようにも見える黒の両手剣を握り締め、温厚な彼女の口から出たとは思えないような力強く語気で次の句を継ぐ。「次に〈蒼穹騎士団 スレインジ・ドラゴン〉をレフトにコール!」両手に注射器のような武器を携えた青い竜が姿を現す。

 

 みやの手札:6→4/ゲージ:3→2/みや:竜剣 ドラゴウイング/レフト:蒼穹騎士団 スレインジ・ドラゴン

 みや:竜剣 ドラゴウイング/攻4000/打撃2

 レフト:蒼穹騎士団 スレインジ・ドラゴン/サイズ1/攻4000/防1000/打撃1

 

「スレインジの能力で登場時にセンターが空いているからライフ+1!」

 クールな出で立ちから「こいつを受け取りな!」と陽気な語調でスレインジは注射器を一つ射出する。注射器は途中で分解され、そよ風のようにみやの周りを包み込んでいく。

「さらにライフが回復した時、このターン中、ドラゴウイングの打撃力を+1するよ!」

 そよ風を受けた翼が大きくなり、より一層頑健そうな印象を与える。穏やかな少女に無骨で堅牢な剣という一見するとアンバランスな組み合わせだが、どことなく似合っているのは彼女の裡に秘めたる闘志がドラゴウイングを通じて溢れ出ているからだろうか。

 

 みやのライフ:10→11

 みや:ドラゴウイング/打撃2→3

 

「アタックフェイズに入るよ! ドラゴウイングで曜ちゃんにアタック!」

 砂浜という悪地をものともせず力強く蹴り出し、華奢な体格から想像もできないような剽悍な動きで攻め立て、豪快にドラゴウイングを振るっていく。黒の一閃は強勢で受け止めるのには、文字通り骨が折れるかのよう。

「ここは受けるよ! うわっ!」

 両手をクロスさせて受け止める。強烈な一撃からやってくる衝撃からか、若干苦悶の表情を浮かべ、声を上げた。けれど、次の瞬間には立ち直り、楽しそうに水色の双眸を輝かせて細めていく。

 

 曜のライフ:10→7

 

「ターンエンド!」

 みやの手札:4/ゲージ:2/ライフ:11/みやドラゴウイング/レフト:スレインジ

 

「私のターンだね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 曜の手札:6→7/ゲージ:2→3

 

「キャスト、〈ブラック・ドレイン〉! みや姉にはデッキの上から3枚をドロップゾーンに置いてもらうよ!」

 掌から黒の波動弾を生み出し、みやに向かって放出して彼女のデッキから3枚をドロップゾーンへ落としていく。「そして私のゲージを+1!」同時に曜のデッキの上から黒いエネルギーがゲージに溜まり、まるで吸収したように思わせる。

 曜の手札:7→6/ゲージ:3→4

 

「やるね、曜ちゃん……最初からデッキアウトの方も狙っている?」

「それはどうかな!」

 みやの問いに対し、にやりと不敵に笑い返したら、曜は楽しげに声音を弾ませて次の一手を打つ。

「〈黒き不夜城 ディムボルギル〉をライトにコールするよ!」

 名前に城を冠しているだけあって、彼女の右手側に雄々しい黒い竜が出現して鎮座する。「さらにみや姉のドロップゾーンが3枚以上あるから、攻撃力と防御力を+3000!」紫のオーラを纏い、戦意を昂ぶりを示すかのように静かで重々しい唸り声を立てていく。

 

 曜の手札:6→5/ライト:黒き不夜城 ディムボルギル

 ライト:黒き不夜城 ディムボルギル/サイズ2/攻3000→6000/防3000→6000/打撃2/[移動]

 

「〈死海銃 ヴァイスビロー〉をゲージ1とライフ1払って装備!」

 白銀に水色のアクセントが走るカートリッジ式のライフル銃が右手に握られている。「さらにヴァイスビローにゲージを[装填]するよ!」銃身からカートリッジを取り出し、弾倉に弾丸を込めていく。装填作業している彼女の顔はいつになく真剣で険しい。

 

 曜の手札:5→4/ゲージ:4→3→2/ライフ:7→6/曜:死海銃 ヴァイスビロー(ソウル:0→1)/ライト:ディムボルギル

 

死海銃 ヴァイスビロー

ダークネスドラゴンワールド

種類:アイテム 属性:黒竜/水/武器

攻4000/打撃2

■[装備コスト]ゲージ1とライフ1払う。

■相手のドロップゾーンの枚数が3枚以上なら、このカードの打撃力+1!

■[起動]“射撃!”君のアタックフェイズ開始時、このカードのソウルを好きなだけドロップゾーンに置いてよい。そうしたら、相手の場のモンスター1枚を破壊し、さらにドロップゾーンに置いた枚数分だけ相手にダメージを与える。「射撃」は1ターンに1回だけ使える。

[ソウルガード]/[装填3](君のメインフェイズ中、1ターンに1回だけ君のゲージから1枚選んで、このカードのソウルに入れることができる。数字はこのカードに入れられるソウルの枚数の上限を表しているぞ!)

 

「みや姉のドロップゾーンの枚数が3枚以上だからヴァイスビローの打撃力を+1!」

 装填作業を終え、普段の快活な笑みを浮かべる曜。右手のライフル銃は彼女の闘志に応え、水色のラインが光り輝く。

 

 曜:ヴァイスビロー/打撃2→3

 

「さらにキャスト、〈アビス・シンフォニア〉! ゲージ1払って、カードを2枚ドローするよ」

 曜の手札:4→3→5/ゲージ:2→1

 

「〈黒き死竜 アビゲール〉をゲージ1払って、レフトにバディコール!」

 彼女の隣で時を待っていた黒竜は力強く翼を羽ばたかせ、左手側に並び立つ。「バディギフトで私のライフを+1!」アビゲールが纏っていた紫のオーラが伝播し、曜に力を与えていく。

 

 曜の手札:5→4/ゲージ:1→0/ライフ:6→7/曜:ヴァイスビロー/レフト:黒き死竜 アビゲール/ライト:ディムボルギル

 レフト:黒き死竜 アビゲール/サイズ1/攻6000/防1000/打撃2

 

「アタックフェイズ! まずはアビゲールでみや姉にアタックだよ!」

 曜の言葉を受けて、「俺の攻撃を受けてもらうぞ」と語気を強めながらアビゲールは疾駆する。みやに迫っていく姿は、まさしく黒の弾丸そのもの。人間の目では追うの至難としか言いようがない。

「受けるよ!」

 真正面からやってくると察したのか、みやはそのままドラゴウイングを振るう。剛健なもの同士が激しくぶつかり合い、火花を散らす。アビゲールもみやも心底楽しそうな笑顔で互いを見つめ、一瞬間後には離れた。

 

 みやのライフ:11→9

 

「次はディムボルギルでみや姉にアタック!」

 重々しい響きを立て、ディムボルギルは突進していく。アビゲールと比べて速さこそないが、その分力強さがあり、見る者を圧倒するような迫力で迫り立てていく。並大抵の者ならば迫力に押し負け、足を震わせながら硬直しているだろう。

「これも受ける!」

 しかし、みやは勇敢に立ち向かい、堂々と真っ向からドラゴウイングを振り下ろして力勝負に出る。流石に力の差は歴然で、彼女の足が後ろに下がっていく。「流石に勝てないよね」分かっていたのか、苦笑いをして距離を取った。

 

 みやのライフ:9→7

 

「最後はヴァイスビローでみや姉にアタックするよ!」

 ディムボルギルが戻ったタイミングで曜は銃を構え、狙いを定めたらトリガーを引く。重厚な銃声が轟き、放たれた水色の弾丸は何の躊躇いもなくみやへと一直線に奔る。

「キャスト、〈ドラゴンシールド 青竜の盾〉! 攻撃を無効化にして、ゲージを+1!」

 水色の弾丸を阻む青い竜の頭を模った巨大な盾。鈍い音を響かせながら弾丸を受け止め、その力をみやのゲージへと変換していく。

 

 みやの手札:4→3/ゲージ:2→3

 

「ターンエンドだよ!」

 曜の手札:4/ゲージ:0/ライフ:7/曜:ヴァイスビロー/レフト:アビゲール/ライト:ディムボルギル

 

「ここからは飛ばしていくよ! ドロー、チャージ&ドロー!」

 みやの手札:3→4/ゲージ:3→4

 

「まずはライトに〈蒼穹騎士団 システミックダガー・ドラゴン〉をコールするよ!」

 背中に翼を生やした薄紫の肌が印象的な竜が静かに降り立ち、猛々しく嘯く。涼やかな空気を震わせ、熱を波及していくよう。

 

 みやの手札:4→3/みや:ドラゴウィング/レフト:スレインジ/ライト:蒼穹騎士団 システミックダガー・ドラゴン

 ライト:蒼穹騎士団 システミックダガー・ドラゴン/サイズ1/攻2000/防1000/打撃1

 

「さらにセンターに〈蒼穹騎士団 ブーメラン・ドラゴン〉をゲージ1払ってコール!」

 通常のブーメラン・ドラゴンと同じ体形だが、蒼穹を現しているかのように体色が青い。心なしか普段の姿よりも頑健に見え、一段と頼もしさを感じさせる。相も変わらず唸り声を立て、士気が高い事を示していた。

 

 みやの手札:3→2/ゲージ:4→3/みや:ドラゴウイング/レフト:スレインジ/センター:蒼穹騎士団 ブーメラン・ドラゴン/ライト:蒼穹システミックダガー

 センター:蒼穹騎士団 ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻3000/防1000/打撃1

 

「システミックダガーの効果を発動するよ!」

 再び吹くそよ風。今度はシステミックダガーが生み出し、みやの服を優しく靡かせる。「蒼穹騎士団」の名前を含むモンスターが登場したからライフを+1して、カードを1枚ドロー!」空色の髪はふわりと舞い、双眸は穏やかながらも芯が熱い闘志を宿していく。

 

 みやの手札:2→3

 

「ライフが回復したから、このターン中、ドラゴウイングの打撃力を+1するよ!」

 もう一度ドラゴウイングは刀身を大きくさせ、力強さを増す。先程よりも重量が増したというのに、みやは余裕そうに一つ二つ振るい、強風を生み出して力を誇示。吊り上がった目尻は少しだけ鋭くなっていた。

 

 みや:ドラゴウイング/打撃2→3

 

「アタックフェイズに入るよ!」

 強勢な口調でみやは宣言すると、「ディムボルギルをセンターに[移動]させるよ!」曜はすぐさまディムボルギルを眼前に移動させる。

 二人の間を阻むかのようにディムボルギルは静かに佇み、堅牢な城のように聳え立つ。これ以上に頼れるものは中々いないだろう。

 

 ディムボルギル:ライト→センター

 

「それならブーメラン・ドラゴンとスレインジでセンターに連携アタック!」

 スレインジが注射器から爆弾を放っている間に、みやはブーメラン・ドラゴンの尾を掴み、ハンマー投げの要領で遠心力を利用して投擲。

 か弱そうな少女が投げたとは思えないほどの強勢を保ったままブーメラン・ドラゴンは、風を切りながらディムボルギルへと駛走する。

「キャスト、〈デビル・スティグマ〉! ディムボルギルを破壊して、ゲージを2枚置き、ライフを1点回復!」

 ディムボルギルの足元に爆弾が放り投げられ爆発する寸前に、曜がヴァイスビローで覿面にいる仲間を撃ち抜き、自身の力に変換していく。

 直後、爆発が起き、辺り一面は砂煙に覆われる。その中をブーメラン・ドラゴンが高速回転しながら突進していくが、虚空を切り裂いただけ。渾身の一撃は空振りに終わってしまう。

 

 

 曜の手札:4→3/ゲージ:0→2/ライフ:7→8/センター:ディムボルギル→なし

 

「なるほど……それなら、ゲージも増やせるね」

 曜の一手に感嘆し、みやは穏やかに笑いかける。戻ってくるブーメラン・ドラゴンの姿を見て、「ブーメラン・ドラゴンの能力でこのカードを手札に戻して、ライフ+1するよ」受け止める体勢に入り、難なく手札に戻していく。

 

 みやの手札:3→4/ライフ:8→9

 

「うわ~、みや姉のライフが徐々に回復していくよ~!」

「ふふっ、これが蒼穹騎士団の特徴だからね」

 驚嘆の声を立てる曜に、みやは穏和ながらも強気な笑みを浮かべては、「次はシステミックダガーでレフトにアタック!」次の一手を繰り出す。

 彼女の指示を受けてシステミックダガーはその翼を力強く羽ばたかせ、猛烈な勢いで疾走する。空を専門としている部隊にいるだけあって、その速さは折り紙付きだ。

「アビゲールはやらせないよ! キャスト、〈ゲイル・デストラスクション〉!」

 システミックダガーの突進を阻むようにアビゲールの顔とよく似た盾が出現。「システミックダガーを破壊して、みや姉のデッキの上から2枚をドロップゾーンに置いてもらうよ!」口が開かれ、システミックダガーを飲み込み、骨や肉を噛み砕いていく。

 そして咀嚼した分をエネルギーに変えて、黒の魔弾を生み出し、みやに向かって放出。魔弾自体はみやの一閃で弾かれたものの飛散した欠片が、彼女のデッキに直撃してドロップゾーンへと導いた。

 

 曜の手札:3→2/ゲージ:2→1

 

「私だって、そう簡単に破壊させないよ。キャスト、〈ドラゴ・ポンド〉!」

 みやの体を空色のオーラが包み込み、盾の中に飲み込まれたシステミックダガーへと伝播していく。「システミックダガーを場に残して、ライフを+2!」やがてシステミックダガーは盾を突き破り、生来の勢いをそのままにアビゲールへ隕石の如く猛進する。

 

 みやの手札:4→3/ライフ:9→11

 

「アビゲール、ごめん!」

「気にするな。必ず戻ってくる」

 曜は両手に合わせて、申し訳なさそうな表情を浮かべ、謝罪の意を告げる。水色の瞳は悔しさを滲ませ、相棒への申し訳なさを伝えているよう。

 それを感じ取ったのか、アビゲールは怒る事も落ち込む事もなく極めて平静な声音で返答し、自身の運命を受け入れて姿を消した。

 

 曜のレフト:アビゲール 撃破!

 

「ラストはドラゴウイングで曜ちゃんにアタックするよ!」

 もう一度力強く蹴り出し、みやは駛走する。華奢な見た目とは裏腹に閃く黒の太刀筋は、豪快で剛健。さらに先程よりも鋭さを増し、風を切る音がより鋭利になっていた。

「受けるよ!」

 持ち前の反射神経と瞬発力で受け止める曜。体格差やドラゴウイングの質量、みやの強勢な一閃から冷や汗を流し、攻撃を受けるのに苦労しているのが目に見えて分かる。それでも彼女の顔から笑みが消える事はなかった。

 

 曜のライフ:8→5

 

「これでターンエンド!」

 みやの手札:3/ゲージ:1/ライフ:11/みや:ドラゴウイング/レフト:スレインジ/ライト:蒼穹システミックダガー

 

「まだまだ負けないよ! ドロー、チャージ&ドロー!」

 曜の手札:2→3/ゲージ:1→2

 

「まずはキャスト、アビス・シンフォニア! ゲージ1払って、カードを2枚ドローするよ!」

 曜の手札:3→2→4/ゲージ:2→1

 

「〈黒き揺籠 クレイブル〉をライトにコールして、次に〈黒き鬱屈 バルザム〉をレフトにコール!」

 黒い体とオレンジ色の爪が目を引く四足歩行型の竜が、猛々しい咆哮を上げて姿を現す。ディムボルギルとはまた違った剛健さがあり、好戦的な目つきで獲物を探していた。

 反対側には漆黒の蛇体に翼を生やした竜が出現。鬱屈の名を冠しているだけあって、陰鬱な雰囲気を醸し出し、クレイブルとは対照的に静かに獲物がやってくるのを待っているよう。

 

 曜の手札:4→2/曜:ヴァイスビロー/レフト:黒き鬱屈 バルザム/ライト:黒き揺籠 クレイブル

 レフト:黒き鬱屈 バルザム/サイズ1/攻3000/防1000/打撃2

 ライト:黒き揺籠 クレイブル/サイズ2/攻6000/防1000/打撃1

 

「さらにバルザムの効果で、バルザムが登場した時にクレイブルがいるから、ゲージ+1!」

 曜のゲージ:1→2

 

「そして、キャスト、ブラック・ドレイン!」

 今度はヴァイスビローを構えて、狙いを定めたら引き金を引き、黒の弾丸を放つ。「もう一度、みや姉のデッキトップから3枚をドロップゾーンに置いてもらうよ!」高速で飛来していく黒の弾丸は、いとも簡単にみやの剣撃で防がれてしまったが、飛散した破片がまたもや彼女のデッキに触れて、上から3枚をドロップゾーンに置く。

「さらに私のゲージも+1!」

 始終を見届けた後、黒いオーラが曜のデッキに纏い、ゲージをチャージする。まるで名前の通り、みやのデッキからエネルギーを吸収したかのように。

 

 曜の手札:2→1/ゲージ:2→3

 

「アタックフェイズ! ヴァイスビローの“射撃!”を発動!」

 そのままのポジションで照準を変更。曜は次のターゲットに真剣な眼差しと銃口を向けて宣言する。「ソウルを1枚捨てて、システミックダガーを破壊! そして、みや姉にダメージ1だよ!」もう一度トリガーを引き、弾丸を撃つ。

 乾いた銃声と共に放たれた一発は、今までよりも重々しく、けれど今まで以上の速度で迫っていく。

 

 曜:ヴァイスビロー(ソウル:1→0)

 

「随分と強引だね……でも、どれも受けるよ!」

 みやは少しだけ苦笑を浮かべて所感を述べる。ブラウンの瞳はライトにいるシステミックダガーに向けて、申し訳なそうに謝罪の意を送っていく。彼女の対応にシステミックダガーも不満を表す事なく、むしろ自分の役目が果たせたおかげか、満足げな表情で応えて即身で弾丸を受け止めた。

 システミックダガーが弾丸に貫かれた後、水色の弾丸は意志を持ったかのように曲がり、みやの元へと走って彼女の身を穿つ。

 

 みやのライフ:11→10/ライト:蒼穹システミックダガー→なし

 

「だって、このターンで決めないと厳しいんだもん!」

 僅かな焦りを滲ませて返答し、弾丸の行方を見届けたら、水色の双眸をさらに鋭利に細めて言葉を紡ぐ。「まずはバルザムでみや姉にアタック!」バルザムはしなやかな動きでみやに迫り、口から漆黒の炎を吐き出す。

「確かにそうかもしれいないね……攻撃を受けるよ!」

 それでもみやは炎を薙ぎ払い、直接攻撃を受けないように防ぐ。しかし、流石に直に炎と対面して熱かったのか、眉間に皺を寄せて鋭利な目つきはさらに鋭さを増す。一通り攻撃が終わると嘆息を吐き、目尻も穏やかになっていった。

 

 みやのライフ:10→8

 

「次は……クレイブルでアタック!」

 右手側を一瞥して逡巡する曜。クレイブルには攻撃でモンスターを破壊すれば、相手の山札の上から数枚をドロップゾーンに置く能力がある。しかし、この状況でそれを使うべきか迷ったのだろう。

 彼女の出した答えはファイターへの直接攻撃、クレイブルも拒否する事なく、猛々しくオレンジ色の爪を振るって激しく攻め立てる。

「これも受ける!」

 オレンジ色の一閃を一つ一つ確実に捌いていく。ドラゴウイングとクレイブルの爪が衝突する音は、金属同士がぶつかったように甲高い。また激突する度に火花が激しく散り、どれだけ激烈な攻防を繰り広げているかを物語っている。

 

 みやのライフ:8→7

 

「最後はヴァイスビローでみや姉にアタックするよ!」

 力強く語勢で曜は宣言し、銃口を再びみやの方へ移す。彼女の闘志に呼応してか、銃身に走る水色のラインが光り、銃にも意思があるかのように思わせる。真剣な顔つきのまま、曜はトリガーを引いて水色の光弾を撃ち出した。

「流石に3点は……ううん、ここも受けるよ!」

 自身の手札を一瞥して、判断に迷う素振りを見せるが、結果はドラゴウイングを盾にする行動に出る。ぶつかった瞬間、水色の光弾が如何に猛烈な勢いで飛来したのか分かるぐらい鈍い音が響き、みやの表情も少しだけ歪む。

 

 みやのライフ:7→4

 

「ファイナルフェイズ! バルザムを押し出して、〈アビゲール“バニシング・デスホール!”〉をセンターに必殺コール!」

 バルザムは黒い霧の中に包まれて姿を消し、「クレイブルを破壊して、ゲージ3払うよ!」クレイブルはまるで硝子が割れたかのように体を飛散させて消失すると、強勢な風を纏ったアビゲールが上空から舞い降りた。

 

 曜の手札:1→0/ゲージ:3→0/曜:ヴァイスビロー/レフト:バルザム→アビゲール“バニシング・デスホール!”/ライト:クレイブル→なし

 レフト:アビゲール“バニシング・デスホール!”/サイズ3/攻8000/防8000/打撃3

 

「さらにファイナルフェイズに登場したから、アビゲール以外の場のモンスターを全て破壊するよ!」

「うん、いいね。ストレインジは破壊されるよ」

 強烈な突風にさらされ、スレインジは体勢を保てなくなると、次の瞬間にはアビゲールが放った真空波によって切り裂かれてしまう。名残惜しそうにスレインジはみやの方を見つめると、やがて光となってその場から消え去った。

 

 みやのレフト:スレインジ→なし

 

「さらにアビゲールは相手のドロップの枚数が6枚以上なら打撃力+3して……」

 曜はみやのドロップゾーンへ視線を向けつつ、「12枚上なら1枚での攻撃を無効化されないけど……」と不安げな表情で浮かべて、「みや姉、今ドロップゾーンの枚数は?」質問を投げかける。

「13枚だね。条件は達成しているよ」

 ドロップゾーンの枚数をカウントしたら、みやは穏やかな語勢で告げた。彼女の返答に曜は安堵したかのように、ゆkっくり大きく息を吐いて、気持ちを落ち着かせていく。

 

 曜のレフト:必殺アビゲール/打撃3→6

 

「よぉーし、アビゲール、ラストアタックを決めるよ! アビゲールでみや姉にアタック!」

「任せておけ! きっちり決めてみせる!」

 彼女の想いに応えるようにアビゲールは語気を強め、自身の翼で強勢な風を生み出して、中心に真空弾を作っては容赦なく放つ。音すら置き去りにする真空の弾丸が、飛来してきてもみやは至って平静だった。

「攻撃が無効化できないだけ……なら、そのダメージを減らすよ! キャスト、〈ドラゴンシールド 飛竜の盾〉!」

 彼女の覿面に先程現れた青い竜の盾と似たような盾が現れ、「ゲージ1払って、次に受けるダメージを0に減らし、私のライフを+1!」目に映らない真空弾をいとも簡単に防いでは、持ち主の傷を癒していく。

 

 みやの手札:3→2/ゲージ:1→0/ライフ:4→5

 

「うそー!? このタイミングで!?」

 これで決まると確信してらしく、曜は酷く動揺して驚く。声音や表情からして予想外という事が伝わり、みやを含めた他の人間達は苦笑いを浮かべるばかり。

「ふふっ、ごめんね。結構良い感じにライフが調整できそうだったから、温存していたの」

 あまりの驚きようにみやは眉尻を下げて苦笑しながら言葉を返す。そして手札をもう一度一瞥し、盤面を見て状況を確認していく。その眼差しは熱誠を湛えており、元来の真面目さを表してるかのよう。

「で、でも、まだアビゲールがいるから……な、何とかなるはず」

 想定外の出来事に狼狽えながらも何とか冷静さを取り戻し、「ターンエンドだよ」とみやと目を合わせるように正面を見据えて告げた。

 

 曜の手札:0/ゲージ:0/ライフ:5/曜:ヴァイスビロー/センター:必殺アビゲール

 

「私もそろそろ畳み掛けないと厳しいね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 みやの手札:2→3/ゲージ:0→1

 

「まずはブーメラン・ドラゴンをゲージ1払ってレフトにコールするよ」

 もう一度青いブーメラン状の竜が登場する。変わらず低い唸り声を立て、威嚇するように喉を震わせていた。

 

 みやの手札:3→2/ゲージ:1→0/みや:ドラゴウイング/レフト:蒼穹ブーメラン・ドラゴン

 

「キャスト、〈ドラゴニック・チャージ〉! デッキの上からゲージを2枚置くね」

 みやの手札:2→1/ゲージ:0→2

 

「さらに続けて、キャスト、〈ドラゴニック・グリモ 背水の牌文〉!」

 通常のドラゴニック・グリモとはまた違う雰囲気の石板が目の前に出現し、「手札を全て捨てて、ゲージ+2、カードを2枚引くよ!」空色の風が優しく吹き渡り、みやの手札とゲージを整えていく。

 みやの手札:1→0→2/ゲージ:2→4

 

「お待たせ、出番だよ! 〈蒼穹騎士団 ドラムバンカー・ドラゴン〉をゲージ1払ってライトにバディコール!」

 ずっと彼女の隣で立っていた蒼穹ドラムは「ようやく暴れられるぜ!」と意気揚々にドリルバンカーを持って、右手側に並び立つ。赤い体に青い鎧と色鮮やかな出で立ちと背中に生えている翼が目を引く。

「バディギフトで1点回復、さらにこのターン中のドラゴウイングの打撃力を+1!」

 そよ風がまた吹き渡ると、今度はドラゴウイングの刀身が大きくなる。相棒の翼に負けず劣らず雄々しく力強い。

 

 みやの手札:2→1/ゲージ:4→3/ライフ:5→6/みや:ドラゴウイング/レフト:蒼穹ブーメラン・ドラゴン/ライト:蒼穹騎士団 ドラムバンカー・ドラゴン

 みや:ドラゴウィング/打撃2→3

 ライト:蒼穹騎士団 ドラムバンカー・ドラゴン/サイズ2/攻5000/防3000/打撃2/[ソウルガード]

 

「アタックフェイズ! ドラムとブーメラン・ドラゴンでセンターにアタック!」

 蒼穹ドラムが先陣を切って疾駆。ドリルは持ち主の闘志に応えるかのように甲高い音を響かせ、まるで竜巻を起こさんとばかりに高速で回転する。

 後を追うようにブーメラン・ドラゴンも横回転を行いながら風を切り、雄叫びを上げながらドラムを援護するように突進していった。

「ドラムが攻撃した時、ライフ+1するよ!」

剽悍な動きで接近していき、自慢の得物を突き出してアビゲールの肉体を貫こうと試みるながら相方に力を与えていく。

 

 みやのライフ:6→7

 

「ごめん、アビゲール! また何もできなくて……」

「仕方のない事さ。そういう時もある」

 手札がない状況ではどうしようもできず、曜はまた謝罪の句を述べるだけ。それでもアビゲールは泰然とした態度で返し、迫りくるドラムのドリルを躱す。

 しかし、避けた先にブーメラン・ドラゴンが飛来しており、回避する間もなく体を真っ二つに切り裂かれて消失した。

 

 曜のセンター:必殺アビゲール 撃破!

 

「ブーメラン・ドラゴンの効果で、ブーメラン・ドラゴンを手札に戻して、ライフを+1!」

 強勢を保ったままブーメラン・ドラゴンは帰還。みやにまた一つ力を与え、彼女の手札へと収まる。

 

 みやのライフ:7→8/レフト:蒼穹ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「次はドラゴウイングで曜ちゃんにアタックするよ!」

 相棒の蒼穹ドラムに劣らないほどの剽悍な足取りで地面を蹴り、黒い翼の大剣を激しく振るって強烈な一撃を生み出していく。風を切る音が今までよりも力強く鋭利。彼女の剣撃がどれほど重たいかを示しているかのよう。

「受ける!」

 またもや手札がない為、ヴァイスビローで黒の剣撃を受け止める。あまりにも一撃が重たいせいか、ヴァイスビローの銃身が軋むような音が耳朶を打つ。それでも懸命に捌き、何とか攻撃を受け切った。

 

 曜のライフ:5→2

 

「ファイナルフェイズ! 〈蒼穹騎士団 ドラムバンカー・ドラゴン“ブルーインパルス・ハリケーン!”〉をドラムに重ねて必殺コール!」

 しかし、ここで止まる彼女ではない。みやは蒼穹ドラムと目を合わせた後に必殺コールを宣言し、「コストとしてゲージ3払うよ」先程より深い青色の鎧を身に纏ったドラムが出現する。

「流石、オイラのバディだ!」

 不敵な笑みを浮かべ、ドラムはみやともう一度アイコンタクトを交わす。みやも自信に溢れた笑顔で頷き、信頼の眼差しを彼に向けた。

 

 みやの手札:1→0/ゲージ:3→0/ライト:蒼穹ドラム→蒼穹騎士団 ドラムバンカー・ドラゴン“ブルーインパルス・ハリケーン!”(ソウル:1)

 

蒼穹騎士団 ドラムバンカー・ドラゴン“ブルーインパルス・ハリケーン!”

ドラゴンワールド

種類:必殺モンスター 属性:武装騎竜/赤竜

サイズ3/攻6000/防4000/打撃3

■[コールコスト]君の場のカード名に「蒼穹騎士団」を含むモンスター1枚の上に重ね、ゲージ3払う。

■このカードが攻撃か効果で相手にダメージを与えた時、君のライフを+1する!

[移動]/[貫通]/[ソウルガード]

 

「行くよ! ドラムでラストアタック!」

「わりぃな……今回もぶっ放すぜぇぇぇ!!」

 エンジンが唸りを上げ、さっきの倍以上にドリルが回転する。そして蒼い竜巻が発生し、雷も帯びた一撃を曜に向けて放つ。

 その場の空気を一変させる程の力を持つ竜巻が曜を巻き込んでいき、「うわあああああ!?」彼女の悲鳴が木霊する時には辺り一面は竜巻が砂塵を巻き上げて跡形もなく吹き飛ばしていた。

 

 曜のライフ:2→0

 

WINNER:紀道みや

 

 

 

 ファイトを眺めていた広海は「うわぁ、えげつねえ」と零し、曜に対して憐みの籠った眼差しを向ける。流石にここ一番の一撃を全て封じられてしまっては、手も足も出ないと。こればっかりは彼女に同情するしかない。

「凄いファイトでしたね」

 唐突に声が掛けられ、後ろを振り返るとカーキのシャツジャケットと紺色のワークキャップが目を引く少年が立っていた。

 恵まれている体格から高校生ぐらいに見えそうだが顔つきは意外と幼い。……案外千歌達と同い年ぐらいだろうか。

「ああ、そうだな」

 料簡を立てながら返答し、広海は視線を少女達の方へと向けていく。あまりにも不憫なファイトだった故にか、曜が周りから慰められていた。

 曜の後半の追い上げも良かったと思うが、土壇場でダメージを与えなかったのは、流石みやと言うべきか。ただ苦笑いを浮かべるしかない。

「ところで、あなたはファイトしないんですか?」

 少年に訊ねられ、一瞬言葉が詰まる広海だが「そういうお前こそ混ざってきたらどうだ?」と返し、口元を吊り上げていたずらっぽい笑顔を浮かべる。自分はあの中に混ざる事なんてできない。心中にある過去の負債が胸を締め付けていく。

「俺は……良いですよ。ちょっと気が引けるし」

「別に男だからって、気にするような連中じゃねえよ」

 千歌達に目線を向けた少年が参加に渋る反応を見せ、広海は軽く笑い飛ばすような口調で答えて、「それどころか誰でも引き込むような奴らだぞ」語弊がありそうな言葉を付け足す。

 実際、本当に誰であろうと関係なく誘う人間しか揃っていない。だから、いつも広海は体力の限界まで付き合わせられる羽目になるのだが。

 少年と言葉を交わしていく内に千歌と曜が走って近づいて来る。そして千歌が開口一番に「あなたは誰?」と訊ね、「もし良かったら私達とファイトしようよ!」蜜柑色のショートヘアーを揺らして元気よく誘い、彼の手を引く。

 彼女の隣にいる曜も「早くファイトしようよ」と同調する。広海に顔を合わせ、「おじさんも一緒に」とやや浅黒い彼の腕を持つ。広海は断ろうかと思ったが、千歌に強引に引かれていく少年の姿を見て、放っておけないという気持ちに駆られ一緒に合流していく。

 

 ファイトは千歌と少年の二人で行われる事となり、二人は向き合って話を進める。

「俺は鎬山(こうやま)鉄大(てつひろ)。君は?」

「私、高海千歌! よろしくね、鉄大君!」

 威勢よく返答する千歌の圧に少し気圧されるかのように「よ、よろしく」と鉄大の声が震えていた。人見知りではないだろうが、流石に千歌の元気の良さには負けるか。広海は二人のやり取りに苦笑いしながら耳を傾ける。

「バル、今日も頑張るよ!」

 千歌の呼びかけにバルも「バル、がんバル!」と快活に返答し、両腕に力こぶを作ってやる気を示す。何度もファイトしていたというのに、疲労と言う疲労を感じさせない。

「俺も負けない」

 彼女らに影響されてか、鉄大も静かに闘志を燃やして言葉を紡ぐ。黒茶の瞳は力強い光を宿し、真っ直ぐに覿面の少女へと向けられていた。

「んじゃ、お前ら準備はいいな?」

 二人が同時に頷いて了承の意を示す。彼らの意思を視認すると広海は「バディ―、ファイッ!」掛け声をかけてファイトをスタートさせる合図を送った。

 

 

 

「俺達の鋼の意志はまだ見ぬ果てへと挑み続ける! ルミナイズ、『鋼の剣王』!」

「太陽の煌めきを背に、私達の心はいつだって燃えているよ! 『爆熱の必殺竜』!」

 千歌は活発な声音で、鉄大は落ち着いた語調で「オープン・ザ・フラッグ」と言い、互いのフラッグを公開する。

「エンシェントワールド!」

 鉄大の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:鋼剣竜王 ブレイズ・ダルキス

 

「ドラゴンワールド!」

 千歌の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:太陽の竜 バルドラゴン

 

「先攻は俺がもらうぞ。チャージ&ドロー!」

 鉄大の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

「まずはキャスト、〈天竜開闢〉! ライフ2払って、カードを2枚ドロー」

 鉄大の手札:6→5→7/ライフ:10→8

 

「次にキャスト、〈竜王伝〉! ゲージとライフを+1して、カードを1枚引く」

 鉄大の手札:7→6→7/ゲージ:3→4/ライフ:8→9

 

「〈シュロスドラゴン ヴァンシュタイン〉をゲージ2払ってライトにコール!」

 青い鱗が如何にも堅牢そうな印象を覚えさせる竜が出現し、静かに悠然と佇む。その出で立ちは、さながら古くからある城の番人かのよう。

 

 鉄大の手札:7→6/ゲージ:4→2/ライト:シュロスドラゴン ヴァンシュタイン

 ライト:ヴァンシュタイン/サイズ3/攻8000/防5000/打撃3/[移動]/[ライフリンク1]

 

「さらに〈宝輪 始源のホノオ〉をゲージ1払って装備!」

 右手にオレンジと青が混ざったチャクラムを持ち、軽く振るって炎を発する。「始原のホノオの能力でヴァンシュタインの攻撃力と防御力をそれぞれ+1000だ」オレンジと青の炎はヴァンシュタインに力を与えるかように包み込み、動き合わせて変幻自在に姿を変えていく。

 

 鉄大の手札:6→5/ゲージ:2→1/鉄大:宝輪 始原のホノオ/ライト:ヴァンシュタイン

 鉄大:宝輪 始原のホノオ/攻2000/打撃2

 ライト:ヴァンシュタイン/攻8000→9000/防5000→6000

 

「アタックフェイズ! ヴァンシュタインでファイターにアタックだ」

 ヴァンシュタインは平静に唸り声を立て、自身を覆う炎を操り、猛火を千歌へと走らせる。見ているだけ火傷しそうなぐらい猛々しく燃え盛る炎は千歌を飲み込まんとばかりに勢いを増し、大きく広がっていく。

「受けるよ!」

 炎の渦に巻き込まれながらも無事に生還した千歌。けれど、よほど熱かったのか、Tシャツの襟を摘まんでは仰いで体を冷やそうとしていた。

 

 千歌のライフ:10→7

 

「ターンエンドだ」

 鉄大の手札:5/ゲージ:1/ライフ:9/鉄大:始原のホノオ/ライト:ヴァンシュタイン

 

「私のターンだね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 千歌の手札:6→7/ゲージ:2→3

 

「まずはキャスト、〈プロミネンス・ピース〉! 私のゲージとライフを+1するよ!」

 右手に赤く静かに燃え上がる炎が現れ、空に掲げると炎は飛び散って、千歌の周りを優しく照らしつつ力を与える。

 

 千歌の手札:7→6/ゲージ:3→4/ライフ:7→8

 

「よし、バル行くよ! ライトに〈太陽の竜 バルドラゴン〉をゲージ1払ってバディコール!」

 準備万端と言った様子で構えていたバルに声をかけ、相棒を右手側に出るように指示。「バディギフトで1点回復!」蜜柑色のオーラがバルの体から発せられると千歌の体を包み込み、穏和に彼女のダメージを癒す。

 

 千歌の手札:6→5/ゲージ:4→3/ライフ:8→9/ライト:太陽の竜 バルドラゴン

 ライト:太陽の竜 バルドラゴン/サイズ2/攻5000/防3000/打撃2/[貫通]

 

「次はレフトに〈フレアファング・ドラゴン〉をコール! そして“フレアギフト”を発動するよ」

 二本の牙に炎を宿させた竜が勇ましく登場して嘯き声を上げ、「登場時にバルがいるからゲージ+1して、カード1枚ドロー!」彼が発した炎により、ゲージにカードが溜まっては千歌の手札が増える。

 

 千歌の手札:5→4→5/ゲージ:3→4/レフト:フレアファング・ドラゴン/ライト:バルドラゴン

 レフト:フレアファング・ドラゴン/サイズ1/攻3000/防1000/打撃1

 

「さらに〈太陽剣 デイライト〉を装備!」

 黄金に輝く剣が千歌の前に現れ、彼女は柄を両手で握り締め、力強く振って感触を確かめた。刀身は太陽の光に反射して、さらに眩い光を放ち、見る者に太陽のような輝きだと思わせるには充分。

 

 千歌の手札:5→4/千歌:太陽剣 デイライト/レフト:フレアファング/ライト:バルドラゴン

 太陽剣 デイライト/攻3000/打撃2

 

「アタックフェイズに入るよ!」

「なら、ヴァンシュタインをセンターに[移動]! さらにヴァンシュタインの能力を使う」

 鉄大を庇うようにヴァンシュタインは彼の眼前に聳え立ち、番人の如く立ちはだかる。「ライフ1払い、手札から〈マウントドラゴン シャウジゥロン〉を捨てて、次に破壊される場合は場に残す」さらに身に纏う炎が激しさを増して、彼の鎧のように厚さを増す。「またこのターン中、ヴァンシュタインは[反撃]も得る」オレンジと青の炎は剣のような形を模り、ヴァンシュタインの両手に収まっていく。

 

 鉄大の手札:5→4/ライフ:9→8

 ヴァンシュタイン:ライト→センター/[反撃]

 

「さらに手札から捨てたシャウジゥロンを能力でライフ1払って、ゲージを+2する!」

 鉄大のゲージ:1→3/ライフ:8→7

 

「うえええ!? って事は破壊しても、場に残っちゃうって事だよね!?」

「そうだ。1回分だけだが、場に残って[反撃]できる」

「う~ん、どうしよう……」

 まさかの事態に千歌は盤面を見回しつつ考えあぐねる様子を見せる。確定的に[反撃]があるのなら、連携攻撃しても自分の場のモンスターを1体破壊されてしまうだろう。

 ふと視線をバディであるバルに向ける。「ここはバルに任せるバル!」頼もしい言葉を吐き、胸を叩くバルを見て、千歌は決意を決めた表情をして次の句を継ぐ。

「……ならバルでセンターにアタック! バルが攻撃している時、バルの攻撃力は+5000されるよ!」

 彼女の言葉を受けて、バルは力強く地面を蹴り飛ばして疾走する。「ちょーがんバル!」と言いつつ、右手に激しく燃えさかる赤い炎を宿させて、ヴァンシュタインの体に正拳を叩き込む。

「さっき使った能力でヴァンシュタインは場に残って、バルドラゴンに[反撃]だ」

 バルの右拳をそのまま受け止め、相手の炎を吸収しては自身の力に変え、両手に握っている炎の剣をバルの胴体へ突き刺す。バルは為す術もなく炎に包まれ消えていくが、「破壊したから[貫通]で2点受けてもらうよ!」自分で放った炎が鉄大の元へ飛び火して、彼の体を包み込んでは燃やす。

 しかし、炎に包まれても鉄大は眉一つ微動だにせず消えるのを待ち続け、炎が消えた後も平然と立っていた。

 

 千歌のライト:バルドラゴン 撃破

 鉄大のライフ:7→5

 

「次は……フレアファングとデイライトでセンターにアタックだよ!」

 フレアファングとアイコンタクトを交わしたら、同時に地面を蹴って疾駆。デイライトの輝きが相手の視界を奪い、フレアファングの獰猛な牙がヴァンシュタインの堅牢な肉体を噛み砕かんとばかり剥き出しになる。

「キャスト、〈竜胆不敵〉! ヴァンシュタインの攻撃力と防御力を+3000!」

 自身が纏う炎の勢いが増し、千歌とフレアファングを迎え撃つかのように炎を放つ。さらに手足の筋肉は膨張し、まるで大木のような太さに変化すると、そのまま突進してフレアファングの牙を折ろうと試みる。

 

 鉄大の手札:4→3

 センター:ヴァンシュタイン/攻9000→12000/防6000→9000

 

 

「私もまだあるよ! キャスト、〈シャインエナジー〉! フレアファングの攻撃力と防御力を+3000!」

 燦然と輝く蜜柑色のオーラを纏ったフレアファングは口から轟然と燃え盛る炎を吐き出し、自分達に向かってくる炎を打ち消した。そして突進してきたヴァンシュタインの右腕を噛み、牙に宿した炎で火傷させながら骨ものとも噛み砕く。

 ヴァンシュタインが痛みに呻いている間に、千歌が大きくデイライトを振り上げ、勢いよく黄金一閃を奔らせて体を真っ二つに切り裂いた。

 

 千歌の手札:4→3

 レフト:フレアファング/攻3000→6000/防1000→4000

 

「なら、始原のホノオでライフリンクで受けるダメージを1減らす!」

 手元にあるチャクラムがヴァンシュタインが倒された瞬間に輝き出し、鉄大が共有している痛みを和らげるかのように淡い光で場を照らす。「ヴァンシュタインのライフリンクは1点だから実質ノーダメだ」特に苦悶の表情を浮かべる事なく、落ち着いた語調で鉄大は言葉を紡いだ。

 

 鉄大のセンター:ヴァンシュタイン 撃破!

 

「ファイナルフェイズ!」

 力強く宣言して、手札から1枚のカードを取り出す。「〈バルドラゴン“バルバースト・スマッシャー!!”〉をフレアファングに重ねてレフトに必殺コール!」ハンマーを携えたバルが姿を現し、「コストとして、ゲージ3払うよ」血気盛んに振り回して力を誇示。一撃が重そうな印象を与え、誰もが警戒する程の迫力に満ちていた。

 

 千歌の手札:3→2/ゲージ:4→1/レフト:フレアファング→バルドラゴン“バルバースト・スマッシャー!!”(ソウル:1)

 レフト:バルドラゴン“バルバースト・スマッシャー!!”/サイズ2/攻11000/防6000/打撃4/[ソウルガード]

 

「バルバーストでファイターにアタック! バルバーストだけで攻撃している時は攻撃を無効化されないよ!」

 バルは体全身を使ってハンマーを大きく振り回し、遠心力と自身が持てるパワー全てを利用して、鉄大に一撃を叩き込む。生半可な盾など通用しないのが一目で分かるぐらい質量と勢いがあり、防ぐのは困難なのは火を見るよりも明らか。

「もう早くもこれを使うとはな。キャスト、〈オペレーション・レストレイン〉!」

 それでも鉄大は冷静さを失わず、手札から1枚のカードを取り出して透明なシールドを展開する。「手札から〈レイクドラゴン テスタリア〉を捨て、次に受けるダメージを0に減らす!」ハンマーは透明なシールドと衝突した瞬間、いきなり力を失って地面に落ちて砂柱を上げていく。威勢よく飛び散る砂を被っても鉄大は、顔色一つ変えずに真剣な眼差しで千歌と目を合わせていた。

 

 鉄大の手札:3→2→1

 

「さらにテスタリアの能力を使う。ライフ1払って、カードを1枚ドロー!」

 鉄大の手札:1→2/ライフ:5→4

 

「うう……これでターンエンドだよ」

 千歌の手札:2/ゲージ:1/ライフ:9/千歌:太陽剣 デイライト/レフト:必殺バル(ソウル:1)

 

「かなり危なかったな……ドロー、チャージ&ドロー!」

 鉄大の手札:2→3/ゲージ:3→4

 

「こんな状況だが、やるしかない。〈鋼剣竜王 ブレイズ・ダルキス〉をライトにバディコール!」

 無言のままダルキスは鉄大の右側に並び立ち、両手に生えている鋼の剣を大きく振って強勢な風を起こし、砂塵を巻き上げる。「ドロップゾーンから〈アルティメットバディ!〉と竜王伝をソウルイン!」「コストでゲージ2払い、手札を1枚捨てる。さらにバディギフトで1点回復だ」緑色のオーラが鉄大に伝播し、彼のダメージを癒していく。

 

 鉄大の手札:3→1/ゲージ:4→2/ライフ:4→5/鉄大:始原のホノオ/ライト:鋼剣竜王 ブレイズ・ダルキス(ソウル:2)

 

鋼剣竜王 ブレイズ・ダルキス

エンシェントワールド

種類:モンスター 属性:ドラゴンロード/ネイキッドドラゴン/地

サイズ3/攻15000/防15000/打撃3

■[コールコスト]君のドロップゾーンからカード2枚までをソウルに入れ、ゲージ2払い、君の手札1枚を捨てる。

[3回攻撃]/[移動]/[ソウルガード]/[ライフリンク即死]

 

「ソウルにあるアルティメットバディの効果で攻撃力+5000、さらに始原のホノオで攻撃力と防御力を+1000する」

 さらに緑色のオーラの輝きを強め、自身が持っている鋼剣を巨大化させる。満身の鋼は強度を増して、如何なる攻撃も弾いてしまうかのように堅牢な重圧を与え、相手の戦意を損なわせるかのよう。

 

 ライト:ダルキス/攻15000→21000/防16000

 

「キャスト、〈起死竜生〉! 手札を全て捨てて、カードを3枚引く」

 鉄大の手札:1→0→3

 

「始原のホノオをドロップゾーンに置いて、〈破弓 ウィルトス・テッラ〉をゲージ1払い、手札1枚捨てて装備!」

 新たに鉄大の手に握られたのは、剛健な造りをした長弓。華美な装飾は一切なく、ただひたすらに機能を求めたが故の美しさが際立ち、見る者を圧巻させる。彼の腰には長弓で射る為の矢が入っている矢筒が装備されており、そこからいつでも矢を取り出せる状態だ。

「さらに手札から捨てたテスタリアの能力を使って、ライフ1払ってカードを1枚ドロー!」

 鉄大の手札:3→2→1→2/ゲージ:2→1/ライフ:5→4/鉄大:始原のホノオ→破弓 ウィルトス・テッラ/ライト:ダルキス

 

破弓 ウィルトス・テッラ

エンシェントワールド

種類:アイテム 属性:ネイキッドドラゴン/ドラゴンロード/武器

攻2000/打撃3

■[装備コスト]ゲージ1払い、君の手札を1枚捨てる。

■【対抗】君の場のサイズ3の<エンシェントワールド>のモンスターが相手の場のモンスターとバトルしている時、ライフ1払い、君の手札から1枚捨ててよい。そうしたら、バトルしている相手のモンスター1枚を破壊する。この能力は1ターンに1回だけ使える。

 

「始原のホノオがなくなったから、ダルキスの攻撃力と防御力は-1000する」

 ライト:ダルキス/攻21000→20000/防16000→15000

 

「キャスト、竜王伝! ゲージとライフを+1して、カードを1枚引く!」

 鉄大の手札:2→1→2/ゲージ:1→2/ライフ:4→5

 

「このままアタックフェイズだ! ダルキスでレフトにアタック!」

 重々しい背中の翼で風を受けて飛び立ち、巨大な体躯に見合わない速さでバルへと猛進していく。「さらにウィルトス・テッラの能力を発動!」矢筒から一本取り出し、つがえて弦の限界まで引く。狙いは左目で定め、中心を穿つように集中する。「ライフ1を払い、手札を1枚捨てて、レフトのモンスターを破壊!」僅かなブレが収まった瞬間に矢を放ち、目にも止まらないスピードで風を切って疾走。剽悍に迫る一矢は、並みのモンスターでも躱す事は困難だろう。

「そして、手札から捨てたシャウジゥロンの能力で、さらにライフ1払い、ゲージ+2する」

 鉄大の手札:2→1/ゲージ:2→4/ライフ:5→4→3

 

「キャスト、〈ドラゴンシールド 太陽の盾〉! 攻撃を無効化にして、ライフとゲージを+1するよ!」

 バルの顔に似た盾が出現し、ダルキスの重々しくも猛烈な剣撃を弾き飛ばす。「効果破壊は無効化できないから、バルは[ソウルガード]で残す!」けれど、ダルキスの攻撃を受け止めた後に砕け散り、後から迫る矢を防ぐ事はできない。

 容赦なく矢はバルの胸を突き刺し、心臓の鼓動を止めるかのように深く侵入。バルは苦しみながらも筋肉で矢が深く刺さらないように締め、勢いが止まったら矢を抜いて傍らに放り投げた。

 

 千歌の手札:2→1/ゲージ:1→2/ライフ:9→10/レフト:必殺バル(ソウル:1→0)

 

「ダルキスをもう1回スタンドして、今度はファイターにアタックだ!」

 自分が元いた場所に戻る事なく、ダルキスは素早く千歌に接近し、右腕の剣を振り下ろす。一閃は鋭利で生半可な防御なら簡単に断ち切ってしまうだろう。

「受けるよ! うわぁ!」

 剣は見事に千歌を捉え、彼女の体を真っ二つに割る。しかし、彼女の体は本当に真っ二つになった訳ではない。その分だけ衝撃が走り、千歌の体を吹き飛ばしていくのだが。

 

 千歌のライフ:10→7

 

「さらにダルキスをスタンド! 3回目もファイターにアタック!」

 今度は左腕を矢をつがえるように限界まで引き、弾丸のように空気を貫きながら強勢な一突きを放つ。破裂音が轟き、一突きの速さと力が如何に尋常ではないかを教えている。

「これも受ける! うぐっ!」

 体を貫かれ、満腔にとてつもない衝撃が彼女を襲う。それでも何とか耐えきり、赤い双眸を細めて楽しそうな笑みを浮かべていた。 

 

 千歌のライフ:7→4

 

「ウィルトス・テッラでファイターにアタック……通ってくれよ!」

 少しだけ愁眉を寄せたが、彼女の楽しそうな笑みを見て、もう一度平静に戻って矢をつがえる。最後に呟いた言葉は、誰の耳に届く事なく潮風の中に消えていく。後に続いたのは、放たれた矢の風切り音だけ。

「これも受け止めるよ!」

 デイライトを盾のように構え、常人が視認できないような速さで迫り立てる矢を受け止める。衝突したのが矢だと思えない程の鈍い音が響き渡り、まるで鈍器を殴りつけられたよう。これには千歌も驚きを隠せず、目を大きく見開く。

 

 千歌のライフ:4→1

 

「ファイナルフェイズ! キャスト、〈怒竜爆炎掌!〉!」

 一通りの攻撃を終え、鉄大は大きく息を吐いて必殺技を取り出して、「ゲージ3払って、相手の場のモンスターを全て破壊して、相手にダメージ2だ!」炎に変換するとダルキスの右腕に生えている鋼剣に纏わせる。

 ダルキスは右腕を豪快に振り上げ、轟々と燃え盛る炎を叩きつけるかのように勢いよく振り下ろした。千歌達の元へ轟然と燃える深紅の炎が迸り、辺り一面を焦がしていく。

 

 鉄大の手札:1→0/ゲージ:4→0

 

「ふ、防げないよぉ!? う、うわあああ!?」

 手札を見て慌てふためている間にバル共々、烈火に飲み込まれてしまい、ライフを焼き尽くされてしまった。

 

 千歌のライフ:1→0/レフト:必殺バル→なし

 

WINNER:鎬山鉄大

 

 

 

 ファイトの始終を見届けた広海は、「これまたえげつねえな」と口の中で呟く。千歌のファイトも悪くなかった。けれど、それ以上に相手の動きが良かったのだ。

 近くで観戦していた美渡やみや、果南や曜もそれぞれ苦笑いや憫笑を浮かべている程。当の千歌は相当悔しかったのか、もう一戦しようとせがみ、バルと一緒に鉄大にしがみつく。

「分かったから離してくれ!」

 千歌達の猛チャージに根を上げ、鉄大は何とか引き剥がすように千歌の顔を押しのける。「ちょっと母さん達に連絡したいから!」この言葉を聞いて、ようやく千歌とバルは離れ、彼の行動を待つ。

 それから電話でしばらく千歌達と同行する許可をもらった鉄大を加え、広海達は海辺で遊んだり、海の家の手伝いをしたりして一日中ほぼ海で過ごした。

 

「いや、すみません。晩御飯までお世話になってしまって」

「別に良いんじゃねえの? 俺も世話になってるし」

「酔っ払いが何偉そうに言ってんのよ」

「美渡ちゃん、ちょっと言いすぎなんじゃ……」

 夕餉(ゆうげ)を囲み、今日海で遊んでいたメンバーで志満の手料理に舌鼓を打ちつつ、話をしていく。広海はその中で銀色の缶からビールをコップに注ぎ、苦みとキレのある辛さを堪能しながら箸を進める。

 お酒を飲みながらご飯を食べるというのは実に楽しい。なおかつ、大人数で会話を弾ませながら飲み食いするからもっと楽しくなり、弁舌も軽やかになる。

「間違っちゃいねえよ、みや。確かに今の俺は酔っ払いだよ」

 気の強い美渡の一言にめげる事なく、広海は大らかに笑い飛ばして無言で箸を進める鉄大に視線を向ける。「お前はこの近所の奴か?」ビールを一口飲んだ後、朗らかに質問を投げかけた。

「いえ、東京から……お盆も含めて祖父母の家に泊まっていたんです」

 少しだけ顔を強張らせながら鉄大は丁寧に返答。「今日はたまたま散歩していたらファイトしている子を見かけて……」日中ワークキャップで見えなかった黒茶の短髪を掻いてはにかむ。

「んな固くならなくて良いって! ここには同い年ぐらいのと、ちょっと年上がしかいねえんだから!」

「でも、おじさんは美渡姉やみや姉よりもっと年上だよね?」

 曜の鋭い一撃で閉口。確かに女子高生の美渡達とさえ、十歳は離れている。その事実はいつ聞いても衝撃が凄まじいもので、何度聞いても認めたくない。

 残酷な現実を何としてでも飲み込む為に、ビールを一気に喉へ流し込む。苦味が喉元にあった言葉を流して、その先の言葉を胃に戻す。ビールを飲み保してコップをテーブルの上に置き、話題を切り換える。

「東京と言えば、今度みや達が遊びに行くよな?」

 あからさまな話題転換に苦笑しつつもみやは頷き、「明後日には出発しますね」とブラウンの双眸を穏やかに細めた。

「いいなぁ~、東京~。千歌も行きた~い!」

 駄々をこね始める千歌に対し、みやは申し訳なそうに「ごめんね。千歌ちゃんの分も出せなくて」眉尻を下げて言葉を述べる。すかさず、鉄大が「そんなに東京に行きたいのか?」千歌に向かって疑問をぶつける。

「千歌達はずっとこの田舎で育ったから、東京は憧れなの!」

「そうなのか……俺は逆に内浦みたいな所が憧れるんだけど」

「そりゃ、隣の芝生が青いってヤツだろ」

 広海はご飯を頬張り、咀嚼して飲み込んだ後に「都会の奴は田舎に、田舎の奴は都会に憧れる話は少なくねえからな」かつて住んでいた東京の地を思い出しつつ言葉を吐いた。

 初めて東京に来た時は人や時間が流れる速さに驚いたような気がする。内浦ののんびりとした空気が肌に合っているのが身に染みている程に。

「かもしれないですね。俺、生まれも育ちも東京だから」

 納得したように鉄大は頷き、また箸を進める。「年に一回か二回ぐらいしかここに来ませんからね」天ぷらを口の中に放り込み、咀嚼して喉に流し込んだ後に黒茶の瞳に憧憬の念を宿しながら弁舌を動かす。

「まぁ、ゆっくりしていけよ。ここには育ち盛りのお転婆娘が勢揃いしているからよ」

 愉快げに喉を鳴らし、広海は穏やかな笑いかけながら次の缶ビールを開けて、コップを黄金色に染めていく。

 思った以上に賑やかになる周りを見て、過去の自分達を映すかのように青い瞳はどこか不安げに揺れていた。

 

 夕食も終え、就寝するまでの穏やかな時間、広海はもう一度旅館前の浜辺で流木に腰かけていた。

 煙草の箱から一本取り出して口に咥えつつ、ジッポライターの蓋を軽やかに開け、火を灯す。煙草を火に近づけさせながら煙草の箱をズボンのポケットにしまい、紫煙をくゆらせる。

「また新しい子が来たな」

 這い出てくるかのように、レクセアンは音もなく隣に姿を現す。SDサイズの小柄な体躯をしているが、顔つきは鋭く可愛らしさなど微塵もない。

「そうだな、また子供が一人増えたな」

 口から煙を吐き出し、「一層賑やかになるぜ」楽しげに双眸を細めて笑う。賑々しい彼女達に新しい友人ができた事は非常に喜ばしい。自分の子ではないが、自分の子のように嬉しい限り。

「それでもファイトをしないのか?」

 楽しげな雰囲気から一変、レクセアンの怜悧な言葉に広海は青瞳を後悔一色に染めて揺るがす。「……しない」無理やり煙を吸い込み、過去の事を思い出さないように押し込めてから、煙と同時に言葉を吐く。

 先程よりも重々しく、けれど力強さはない。脳裏に浮かぶ火の海と片腕を失くした少女が思い起こされ、それを振り払うかのように頭を緩く横に振って「俺にその権利はねえからな」と述べる。

「怖いだけだろ? 大丈夫、あの子達は強いさ」

 楽観的なレクセアンの言葉。だが、広海の心をささくれ立たせ、青の双眸を鋭く細めさせる。鋭利な目つきは相棒ではなく自身の足元に向け、自責の念を激しく露わにしながら言葉を紡ぐ。

「純粋に楽しむ事なんざ、最も許されねえ事なんだよ」

 刺々しい口調と裏腹に、広海の顔は今にも泣きそうなぐらい酷く歪んでいた。




 お待たせしました。沼津編の2話目です。

 今回はいつもより文字数少なめで送りしています。視点となっているキャラの都合上、ファイト中の心理描写が書けないんですよ……ずらしてよかったけど、ごちゃごちゃになりかねないので止めました。

 そして今回から、東京編と同じような形で連載していきます。単純にこっちの方が書きやすいからです。台本形式で書くのがしんどくなったというのもありますけど。

 今回初登場したオリキャラについては、次回以降にプロフィールを公開したいなと思っています。

 ……あれ? 果南ちゃん、今回一言も喋ってなくね?

 では、この辺りで筆を休めたいと思います。感想やオリカ・オリキャラの提案などお待ちしております。


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