ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』 (piguzam])
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原作前~無印
一発ネタ、ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』


悪ふざけの一発ネタです。


マジに取らないで下さい(土下座)


 

 

 

 

それは――――

 

 

 

 

「転生?……ッスか?え?っていうか俺死んだの?」

 

「うん♡貴方のちょっと違う人生を見てみたくて殺しちゃった♪」

 

「なにそれ恐い」

 

 

 

 

 

神の悪戯で人生を変えられ――――

 

 

 

 

 

「特典かぁ……何でもOKなんすよね?」

 

「そうそう♪君より先に逝かせた2人も、それなりなチートを身につけていったから♡何でも良いよん♡」

 

「フムフム、何でもOKだけど、他に2人も居るのか」

 

 

 

 

 

アニメの世界へ誘われた――――

 

 

 

 

 

「ウムム……特典……特典」

 

「さぁさぁ♪何にする?魔力EX?王の財宝?イケメン銀髪オッドアイ?それとも定番のニコポ・ナデポ!?」

 

「――――じゃあ……」

 

「うん!!どんな力が欲しいのかな!?(ワクワク)」

 

 

 

 

 

――――とある少年の――――

 

 

 

 

 

「全ての――能力と、後は――でお願いしゃす」

 

「ワァオ♡欲張りさん♡」

 

 

 

 

 

――――少し変わった生き様の記録である。

 

 

 

 

 

「お前等の事は何でも分かってる!!だから安心して着いてきていいぜ!!俺の嫁達!!(ニコッ)」

 

 

 

欲望に濡れた銀の髪を翻す少年は、少女たちを欲し。

 

 

 

「俺には誰かを護れる力がある――――だから、お前等が助けを求めるなら、俺は手を差し出すよ」

 

 

 

晴天の様な蒼き瞳を持つ少年は、友の平和を望む。

 

 

 

 

 

――――そして。

 

 

 

 

 

「小学生の女子供泣かせて笑うとか……ちぃとばかし調子に乗り過ぎだぜ。オッサンオバサン諸君――――順番にブッタ斬ってやるッ!!『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』ッ!!!」

 

 

 

左肩に星のアザを持つ少年は、降り掛かる火の粉を払う為に力を振るう。

 

 

 

「テメエなんぞに、オリ主であるこの俺様が負けるワケねえんだ!!ゲートオブバビ――」

 

「ンな事ぁ1ミリ足りとも聞いてねぇんだよ。テメエみてえにゴチャゴチャうるせえヤツはコッチの世界へご招待してやる――――コイツを引き摺り込めッ!!『マン・イン・ザ・ミラー』ッ!!!」

 

 

 

少年たちは時として衝突し――――。

 

 

 

「頼むッ!!お前の力を貸してくれッ!!――アイツを――はやてを助けるには、お前の『クレイジーダイヤモンド』の力が必要なんだッ!!」

 

「……藪から棒に土下座カマすたぁ、一体何事だよ相馬?」

 

 

 

時に互いを頼り――。

 

 

 

「すずかが化け物だろうと何だろうと知ったこっちゃないわッ!!アタシはすずかの『親友』なのよッ!!」

 

「――――アリサちゃん」

 

 

 

少女達も彼等と交じりあい、それは一つの『物語』と成る。

 

 

 

「私は――私は、相馬君の役に立ちたいのッ!!」

 

「ジュエルシードは……渡せません」

 

「私は、この足が動かんでも、皆と居れるだけで幸せや……せやから、居なくなったりせんといてな?」

 

 

 

少女達は幾つもの壁に挑み――――

 

 

 

「ヒャハはハハハはッ!!終わりだモブゥッ!!天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)ッ!!!」

 

「ぐっ……避けるのは無理、か……ここまでだな」

 

「「「相馬((君))ッ!!!?」」」

 

「ぐひへヒャハはハハハはッ!!!これでなのは達は、俺の物――――」

 

 

 

――少年は、友を救う為に。

 

 

 

 

 

「――『星の白金(スタープラチナ)ザ・ワールド』ッ!!!……時は止まる」

 

 

 

 

 

全てを賭けて、物語に飛び込んだ。

 

 

 

「……5秒経過……そして時は動き出す」

 

「……はッ!!?」

 

「やれやれだぜ……ギリギリ、首の皮一枚ってトコだったな……オイ、あんなカスにヤラれそうになってんじゃねぇよ、相馬」

 

「ッ!?……相変わらず手厳しいな、お前は」

 

「何言ってやがる、実際ヤラれる一歩手前だったろーが?」

 

「テ、テメエッ!!?俺の邪魔はしねえって言ってたじゃねえかッ!!?何でソイツを助けやがったッ!!」

 

「あ~~、その事なんだがよぉ、カス野郎……」

 

 

 

彼は、その身に宿す『数多の異能』を持ってして、物語に身を投じる。

 

 

 

「さすがにダチを殺されそうになっちゃあ、ンな事も言ってられねぇだろ?っつー事でぇ――テメーはこの『城戸(きど)定明(さだあき)』が直々にブチのめす」

 

 

 

――――そして、月日は流れ――。

 

 

 

「――何よアイツ。中学に上がった途端、顔見せないどころか、連絡の一つすらして来ないじゃない……会ったらとっちめてやるんだから」

 

「そうだよね……定明君、何してるのかなぁ?――――会いたいな(ぼそっ)」

 

「…………うん。で、でも、定明も色々と忙しくて連絡出来ないだけなんじゃないかな?」

 

「それはそうかもしれないけど、フェイトちゃん。さすがに一年近くも連絡くれないのは、ちょっと変だと思うよ?」

 

「せやなぁ。確かになのはちゃんの言う通りこんだけ音信不通ってのもおかしいで。定明君魔力殆ど無いから探知も出来んし……相馬君は何も聞いとらんのん?」

 

 

 

――幼かった少女達は美しく成長し、蕾が開き始めていた。

時の経過だけではなく、彼女達の内3人は、直ぐ側に居る男への思慕の感情から――。

 

 

 

「いや……俺も全然アイツと連絡が取れない……っと、先生が来たぞ。皆席に戻れ」

 

 

 

――――それは、少女達と共に戦いを駆け抜けた少年も同じく、美を兼ね備えた逞しい青年へと成長している。

 

 

 

――そう、『彼』も、また――――。

 

 

 

「えー、突然だが、今日は転校生を紹介する。入ってきてくれ」

 

「ういーっす(ガラガラガラ)」

 

『『『『『『――――――え?』』』』』』

 

 

 

少女達と、同じ様に青春を過ごしていく――――。

 

 

 

 

 

「城戸、自己紹介をしなさい」

 

「あー、はい。……ン、ン。……えー、こんちわッス。俺は『城戸定明』って言います。読み方変えるとジョウって字が2つあるんで、前の学校では『ジョジョ』って呼ばれてました。趣味は乗り物の雑誌を読む事。好きなアーティストは『マドンナ』。これから皆さんドーゾ、ヨロシク」

 

「「「あーーーッ!!?」」」

 

「さ、定明君ッ!?」

 

「コラァ定明ッ!!!アンタ1年も電話無視していきなり現れるとかどーいう神経してんのよッ!!こ、こっちの気も知らないで……ふざけんじゃないわよ……ばかっ」

 

「ゲッ。お前等このクラスだったのかよ……ついてねー。もうちっと静かなクラスが良かったぜ……まぁ相馬も居るみてーだし、退屈はしねーか」

 

「あんですってぇえええッ!!?」

 

「ひ、酷いよ定明君ッ!!私達と一緒のクラスじゃ嫌なの?」

 

「っていうか定明……お前、何で長ランと学帽なんか被ってるんだ?校則違反だろ普通……」

 

「あ?学園長には許可取ったぜー?……天国の扉(ヘヴンズドアー)で(ぼそっ)」

 

「誰かこの遣りたい放題な幽波紋(スタンド)使い止めてくれ……」

 

 

 

青年に成長した彼、定明は、どんな人生を送るのか?

それは誰にも分からない。

 

 

 

『ジョジョの奇妙な冒険』第?部『マジカル・オーシャン』現在執筆中!!近日公開!!

 

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 

 

 

 

嘘ですwww




まぁこんな感じの主人公というかSSも書いてみたかっただけなんです。
失礼しました。


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一発ネタだとキッパリ言ったばかりなのに……スマン、ありゃウソ(ry

何やらアンコールを多大に頂いてしまいましたので……もうホント手抜きですが、1話だけ、1話だけ話を作らせて頂きました。


でも本当に手抜きですから期待しないで下さい(泣)


 

「…………フ~~」

 

さて困った、こりゃホントに面倒だぞ。

 

溜息を吐きながら心の中で疲れた思いを浮かべる俺。

その元凶は只今自分が陥ってるワケ分かんない状況の所為だ。

 

「なぁ、この餓鬼は何で攫ったんだよ?獲物はアッチの嬢ちゃん2人だろ?」

 

「仕方無かったんだって。彼処は人通りも結構あったから、見られちまったコイツも攫う必要があったのさ」

 

「ありゃりゃ~、そりゃツイてねぇなぁ~ボウヤ。もうお家にゃ帰れねぇぞ?」

 

自分の意志に関係無くこうなっちまった俺の目の前で、黒い服を着たオッサン達の片割れが面倒くさそうに話していた。

片やもう1人の男はニヤニヤしたウゼェ顔で俺を楽しそうに見下ろしている。

 

 

そう、只今俺は絶賛誘拐されてる所なのだ。

 

 

 

普段の俺なら速攻でブチのめす所だが、あいにく今の俺はパイプ椅子に体を荒縄で縛り付けられちまってるのでそれも叶わねぇ。

オマケに今俺が居る場所はどこぞの廃墟。

更に面倒くせぇのは……。

 

 

 

「ボウヤも可哀想ね。後15ぐらい歳があったら、アタシが飼ってあげたのに」

 

「おいおい、コレ以上奴隷増やしてどうすんだよお前は?もう30人ぐらい居るじゃねぇか」

 

「あら?奴隷だなんて下劣な言い方は止めてくれない?ちゃんと『ペット』って呼んで欲しいわね♪」

 

「どっちも変わんねぇよ。服も着せずに鞭で嬲ってんだからなぁ」

 

そんな馬鹿丸出しの会話に、この廃墟に集まった男女の楽しそうな笑い声が木霊する。

話してる内容はクソ以下だがな。

そう、この廃墟には34人の人間が居る、多分全部コイツ等の仲間だ。

ん?何でそんな正確な数が判るかって?

そりゃまぁ、アレだ。ちゃんと『映ってた』からだ。

しかし、こんだけの数の敵がいても、別に俺にとっちゃ物の数じゃねぇ。

『俺1人』なら余裕で切り抜けられんだが……。

 

 

 

「ちょっとアンタ達!?こんな事してタダで済むと思ってんの!?直ぐに私達を開放しなさいよ!!」

 

「ア、アリサちゃん刺激しちゃ駄目だよ!?」

 

 

 

俺と横並びの形で、2人の少女が同じ様に椅子に縛られてる。

ぶっちゃけこの2人を連れ出して逃げるのも不可能じゃねぇが……ちょいと厳しいかも知れん。

 

「ほぉ~?威勢の良いお嬢ちゃんだなぁ……でも、あんまりウルセェと喋れなくしちまうぜ?(ジャキッ)」

 

「ひっ!?」

 

縛られてる絶望的な状況で俺達を攫った男に啖呵を切った少女は、男に向けられた拳銃を見て小さく悲鳴を挙げてガタガタと震えてしまう。

 

「や、止めて下さい!?私が謝りますから、アリサちゃんには何もしないでぇ!!」

 

男に拳銃を向けられて震えた金髪の少女……えーっと、アリサちゃんだったか?

その子に拳銃がむけられたのを見た薄紫の髪をした少女は、必死に声を張り上げてアリサって子を庇った。

そんな風に必死な表情を見せる女の子に気を良くしたのか、男はニヤつきながら拳銃を引っ込めた。

それとなく周りを見れば、誰も彼もがスーツの内側が異様に膨らんでいる。

コイツ等全員拳銃を持ってやがるんだ。

さすがにこの数の拳銃が一斉に撃たれでもしたら、俺は大丈夫でも2人を守り切る自信は無い。

だから俺は下手に手を出せずにいる訳だが……。

 

「うんうん。友達を庇う友情ってのは美しいねぇ~。良し、おじさん良い気分になったから、コレは仕舞ってあげよう」

 

「あ……ありがとう、ございます」

 

心にも無い言葉を口から吐き出しながら、男は嫌な笑みを浮かべて拳銃を懐に仕舞い込んだ。

それで漸く友達の命の危機が去ったと気が抜けたのか、紫ヘアーの女の子は脱力したかの様に疲れた声で男に礼を言う。

そんな光景を見ながら、俺は1人で頭をフル回転させていた。

さぁて、どうすっか……今、俺達が居るフロアは2階。

ここに居る犯人達は全部で13……6割ぐれーの数が、下のフロアに居る。

そうなると、ココを突破した後が面倒くせぇ。

せめて全部の数がこのフロアに居てくれりゃ、コイツら程度問題無くあしらえるってのによ。

ったく、なぁ~んで俺がこんな面倒くせぇ事考えなきゃいけねぇんだ。

本当なら今頃家でマドンナのCD聞いてる頃だっつうのに。

 

 

 

「……あの」

 

「ん?」

 

 

 

と、心の中で盛大な愚痴をこぼしていた俺は、横から聞こえた遠慮がちの声に現実へと引き戻された。

 

「ゴメンね……私の所為で、こんな事になって……本当にゴメンね」

 

「すずかだけの所為じゃ無いわよ……悪かったわね。多分、私のパパの会社に身代金を要求しようとしてるんだと思う……」

 

俺が顔を上げた先には、先程の薄紫の髪の少女が俺を申し訳なさそうな表情で見詰めつつ、申し訳なさそうな声で必死に謝ってくる姿があった。

更にその隣に居たアリサって子まで、申し訳なさそうに俺に謝罪の言葉を向けてくるではないか。

いやいや、悪いのはどー考えてもこんな事仕出かしたこの黒服達だろ?

 

「……別に良い。こうなっちまったモンはしょうがねぇよ」

 

かと言って、目の前に居る犯人達を刺激する様な言葉は言う訳にゃいかず、なるべく当たり障り無く言葉を返す他無かった。

 

 

 

「おーおー、お前等見たか?『バケモン』がいっちょ前に『人間』の心配してるぜ?」

 

 

 

…………あ?

 

「ッ!!?」

 

「……何よそれ……化物って、どーいう意味よ?」

 

目の前の女の子が、犯人を刺激するかも知れねぇって危険を犯してまで俺に謝罪の言葉を言ってくれた直ぐ後、犯人達の中の誰かが、訳の分かんねぇ事を言い出した。

俺の反対側に居るアリサって子も訳が分からないのか、気丈にも犯人達を睨みつけながら言葉を返す。

だが、何故か俺の隣に居る少女は顔色を真っ青にしていた。

 

 

 

――まるで、今の『バケモノ』って言葉に聞き覚えがあるかの様に。

 

 

 

「へへっ……それはなぁ――」

 

「そこの紫髪のガキの、そして我々夜の一族の事さ」

 

と、先程まで上機嫌に話していた男の言葉は途中で遮られ、そこにまた別の人物の声が割り込んできた。

その声の主は、こいつらとは真逆の白いスーツを身に纏った姿で現れた。

両隣と後ろに表情の欠けたメイドを引き連れて。

顔は正に美男子そのものだが、俺達を見る視線は養豚所の豚を見る様な目付き。

つまるとこ人として見られてねぇってワケだ。

 

「……氷村の叔父様?」

 

そして、さっきまで震えていた少女は、顔面蒼白といった顔色のままに、こっちまで歩み寄ってきた男を視界に捉えてポツリと呟く。

叔父?……って事は、主犯はこの子の親戚って事か?

いやそれよりも……。

 

「……夜の一族って何よ?」

 

俺の疑問と同じ事を聞いたのはアリサって子だ。

彼女の言葉を聞いた氷村とかいう男は、その言葉に不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「下等種如きが僕に話しかける等、身の程を弁えないとは……まぁ良い」

 

氷村は不機嫌な顔付きを変えて口元を歪ませると、紫の髪の女の子に指を突きつける。

その動作を見てる女の子は、目尻に涙を溢れさせながらうわ言の様に呟いていた。

「止めて」、と……。

 

「ソコに居る月村すずかはなぁ、僕と同じ夜の一族!!吸血鬼なのさ!!」

 

しかし彼女、すずかって子の懇願は聞き入れられず、氷村は彼女の知られたくなかったであろう言葉を高らかに宣言してしまった。

 

「ッ!?……あ……あぁ……あぁぁぁぁ」

 

それが引き金となったんだろう。

今まで気丈にも泣かなかったすずかって子は、声を押し殺し、泣いた。

しかし、俺とアリサって子は今聞いたワードが信じられないって感じに呆けてた。

ちょっと待て……コイツ今なんてった?

 

「……吸血鬼?」

 

「あぁそうさ!!人間という下等種を遥かに上回る超人的な肉体!!頭脳!!そして吸血衝動に狩られ、人の生き血を啜る選ばれた種族!!それが夜の一族だ!!」

 

氷村はまるで大々的に誇る宣伝の様な大声で、この廃墟一体に自分の演説を披露する。

両手を仰々しく広げて天を仰ぐその姿は、自分という存在に陶酔してる様にしか見えねぇ。

 

「いや……いやぁ……やだよぉ」

 

一方で、同じ血を受け継ぐと言われたすずかは、まるでこの世のお終いを体験したかの如く顔色が悪い。

そんなすずかの怯える様子を見た氷村は、これでもかと不機嫌な表情を浮かべた。

 

「ふん……だというのに、この上位種たる僕を差し置いて夜の一族を統べる当主という立ち位置に居座った月村の一族、そしてこの女は自分を偽って人間共という下等種と友情なんぞが築けると疑って……いや、縋っていたんだな?秘密を隠し通せば、友達等と言うくだらんモノが出来ると本気で考えていたんだろう」

 

しかし話していく中で、氷村は蔑みを篭めた笑みですずかを見下ろし、残酷な言葉を叩きつける。

この子の全てを否定するかの如く……コイツ……真性の屑だな。

 

「……」

 

「止めて……止めてよぉ……言わないでぇ」

 

すずかの懇願する声を聞いて、氷村は更に笑みを深めていく。

更に今度はアリサにまでその目を向けやがった。

まるで長年の鬱憤を晴らすかの如く……決めた、コイツは今、ココで――。

 

 

 

「だが残念だったなぁ、下等種共?貴様の友とやらは、夜を彷徨うバケモノだったのだか「……のよ」……何?」

 

 

 

だが、俺が正に目の前の汚物をブチのめそうとした時、氷村の言葉に被せる様にアリサは何かを呟き――。

 

 

 

 

 

「だから何だってのよ!!この気持ち悪いヘタレナルシストッ!!!」

 

「――ッ!!?」

 

 

 

 

 

途轍も無く強い意志を篭めた瞳で氷村を睨みつけ、威勢の良い啖呵を切った。

その啖呵を聞いた氷村は、驚愕の表情を浮かべる。

 

「黙って聞いてたのが馬鹿らしいわッ!!何かとんでも無い理由が出てくるのかと思ってたら、要は自分が当主だか何だかになれなかった事への八つ当たりじゃないッ!!陰湿どころかヘタレ過ぎてちゃんちゃら可笑しいったらありゃしないわねッ!!見た目はそこそこでも、アンタみたいなマザコンのヘタレじゃ生きててもしょうがないわよッ!!」

 

「なッ!?……なぁッ!?」

 

まるで水を得た魚の如く、暴言という名の攻撃を繰り出すアリサ。

突然過ぎるアリサの変貌に、今まで泣いていたすずかも顔を上げた。

彼女の顔は、涙の痕が残っていたが、今はその瞳に悲しみは現れていない。

一方でその言葉を聞いた氷村は、声にならない声を出し、顔を赤に染めていく。

うわ~……人が怒りで顔真っ赤にするとか初めて見たぜ。

しかしそれでもアリサのターンは終わらず、彼女の口撃は激しさを増す。

 

「すずかはアンタ何かとはぜんっぜん違うわ!!えぇ比べるのもおこがましい!!あんたみたいな万年厨二病の痛いヤツが、私の親友を馬鹿にしてんじゃないわよ!!」

 

「ちゅ、厨二?……僕が、厨二?」

 

「えぇそうよ!!何よ、自分の事を選ばれた者みたいに長々と語っちゃって!!気持ち悪いったら無いわよ――すずかが化け物だろうと何だろうと知ったこっちゃないわッ!!アタシはすずかの『親友』なのよッ!!」

 

言いたい事を言い終えてスッキリしたのか、アリサは満足そうに息を吐いて氷村を睨みつける。

しかし氷村はと言うと、アリサに言われた事が余程ダメージがデカかったのか、茫然自失って状態だった。

しかも周りに居る黒服共までもがポカンとした間抜け面を披露してるから、俺まで笑いそうになっちまったよ。

 

 

 

「――――アリサちゃん」

 

 

 

そして、水を打ったかの如く静けさに満ちた空間に、すずかの感極まった声が小さく響く。

彼女の目からは、またもや大量の涙が零れ落ちていた。

でも、それは悲しみの涙じゃなく――。

 

「私……私ぃ……」

 

「……ゴメンね、すずか……言い出せなくて辛かったでしょ?……でも、これだけは覚えておいて?」

 

もはやナイアガラの滝と思える程の涙を流すすずかに、アリサは優しい声を掛ける。

 

「アンタにどんな秘密があろうと、私はそれを受け入れる……なんてったって、『親友』なんだからね」

 

「うん……ぅん……ありがとぅ」

 

2人は互いに優しい笑みを浮かべながら見つめ合う……その心に確かな友情を持って――。

 

 

 

 

 

「……犯せ」

 

「「ッ!!?」」

 

しかし、この状況はそんな2人の優しい友情すら食い物にしてしまう。

さっきまでショックを受けていた氷村は突如、顔を起こすとそう呟きやがった。

その顔は、美形とはかけ離れて、これ以上ないぐれーに醜悪に染まっている。

 

「この金髪の餓鬼を犯せッ!!その後四肢を斬り落として灼けた棒で死ぬまで甚振ってやるッ!!サッサと犯れぇえええッ!!!」

 

ソイツの吼える言葉の内容も、正にゲスに相応しくおぞましい言葉だ。

自分達のリーダーの言葉を聞いた黒服達は、その顔に汚え欲望を貼り付けて、アリサの元へとゆっくり近づき始めた。

まだ小学生の幼気な少女を、大の大人が数人がかりで犯そうとする。

コレ以上ねぇ醜悪だ。

 

「ッ!?止めて叔父様ッ!!アリサちゃんに乱暴しないでぇええッ!!!」

 

「五月蝿い黙ってろッ!!お前はソコでお前の親友とやらが嬲られる様を良く見ておけッ!!後でお前も同じ様にしてやるからなッ!!」

 

すずかの懇願も聞き入れず、氷村は黒服達と同じ様な汚え欲望の瞳をすずかにぶつけながら、醜悪に嘲笑う。

 

「へへへっ……まだ餓鬼だが、上物にゃ違いねぇ」

 

「あぁ、さっそく楽しむとするかぁあああッ!!」

 

「ッ!!?」

 

ここまで気丈にも強い侮蔑を篭めた視線で男共を見ていたアリサだったが、やはり怖いモノには逆らえず、ギュッと目を瞑って震えてしまう。

 

 

 

 

 

「――止めてぇえぇえええええええええええッ!!?」

 

 

 

 

 

そして、男達の手がアリサの服に殺到した――――。

 

 

 

 

 

シュパパパァアンッ!!!

 

 

 

 

 

――――瞬間、群がる男達の5指全てが、空中に『舞った』

 

 

 

 

 

「――――え?」

 

「……?…………え?」

 

この理解不能な現象に、悲痛な顔でアリサへと視線を向けていたすずか。

そして男達の慰み者にされかけ、何も無いのを不思議に思って目を開けたアリサ。

2人は揃って疑問の声を上げた。

勿論、この状況が理解出来ていないのはアリサ達だけで無く、今正にアリサに襲いかかろうとした黒服達も同様だった。

しかしココで黒服達とアリサ達に決定的な違いがあるとすれば、それは『見ているだけの側』と『斬り落とされた側』という点。

勿論、痛覚の通った人間がその痛みを理解出来ないワケも無く――。

 

『――……~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!??』

 

数十人の獣の様な合唱が、部屋に木霊する。

しかしそれは人の心を癒やす合唱じゃねぇ。

正に痛み、絶叫、負の念が篭った汚ねぇコーラスだ。

 

 

 

――まぁ、やったのは俺だけど?

 

 

 

部屋が混乱に満ちている中、俺は今しがた男達の指を切り落とした『ソイツ』に命令を送る。

俺を縛ってる縄を切断せよ、と――。

 

『……(スパァアンッ!!)』

 

そして、ソイツは『何時もと同じ様に』一言も喋らず、俺の命令を忠実に実行した。

俺を縛る縄が解け、俺は久しぶりに動けるという事を噛み締める様に伸びをする。

 

「ん~~……うしっ」

 

気分はあんまりよろしくねぇが、別の意味でテンションは最高潮。

まっ何とかなるだろ。

 

「え?……ッ!?ア、アンタ何時の間にッ!?」

 

と、俺が縄から開放されてるのを見たアリサは、驚愕って感じの声を挙げる。

その声で正気に戻ったすずかも目をパチクリとさせてた。

俺はその問いかけには答えず、右手をアリサ達に差し向け――。

 

「縄だけカッ切れ」

 

俺の側に佇む『騎士甲冑』に命令を送った。

すると、俺の時と同じ様に、騎士甲冑は目にも止まらないスピードでレイピアの様な剣を振るい、2人の縄を切断した。

 

「な、何よそれ……」

 

「喋った通りになった……ど、どうして?」

 

縄から開放された2人はもう何が何やらって混乱した表情を浮かべている。

 

「何でって言われてもなぁ……『斬った』としか言い様が……おっと」

 

ギャインッ!!

 

俺が話してる途中で、氷村の隣に佇んでいたメイドの1人が刀を手に斬りかかってきて、それを止める為に話は中断させられてしまう。

その音と目の前に迫る凶器を見て、2人は状況を思い出した様だ。

2人は急いで俺の側まで走り、俺の背中に隠れていく。

良し良し、この方が守りやすいな。

 

「二人共、俺の後ろから出るんじゃねぇぞ?そうじゃねぇと守りにくいからよ」

 

「ま、守るってアンタ、あっ!?危ないッ!?」

 

俺の言葉に戸惑いを隠せず聞き返してきたアリサだったが、彼女はいきなり叫び声を上げたので、後ろを振り返ってみる。

 

「……」

 

そこには、今にも手に持った刀を振り下ろそうとしてる無表情なメイドがいやがった。

 

「あっ、悪いけど――」

 

しかし、俺はその不意打ちに焦らず暢気な声を返しつつ、『銀の騎士甲冑』にメイドの刀を受け止めさせ――。

 

「そんな剣速じゃ、不意打ちにもなんねぇよ?」

 

『……ッ!!(ズドババババッ!!!)』

 

目にも止まらぬ高速の突きを腕と足にお返ししてやった。

その突きの連打を受けた無表情メイドは、腕と足からスパークを散らしながら地面へと倒れ伏した。

って……何だ?あのメイド……機械なのか?

随分とおかしな手応え、そして目の前のメイドが撒き散らしたのが血では無く火花ってのを見て、俺はあのメイド達に警戒心を張る。

 

「ぼ、僕の自動人形が……」

 

しかし、俺がメイドをブッ倒したコトで現状を理解したのか、氷村は俺が倒したメイドを見て信じられないって顔してやがる。

っていうか自動人形だ?って事はやっぱり……。

 

「あ、あのね?あれは自動人形って言って、ロボットに近い存在なの」

 

俺が考えを纏めていると、俺の後ろに居たすずかが服の裾をチョイチョイと引っ張りながら説明してくれた。

ロボットに近い、つまりは生き物じゃねぇって事だ。

その結論に、俺は少し苦い顔をしてしまう。

 

「なるほど……だから『エアロ』の『レーダー』に引っかからなかったのか」

 

「?……エア、ロ?」

 

「ん~、まぁ気に済んな。」

 

「お、お前等何してるッ!?コイツを撃ち殺せぇええッ!!?」

 

と、俺がこの状況をどうするか悩んでいた時に、我に返った氷村が鍔を撒き散らしながら手下に命令する。

その声でハッとした手下達の内、指が落ちてない奴らは懐に手を入れて拳銃を取り出し始めた。

う~~む……まぁこんぐらいの数なら『アイツ等』に任せるか。

 

「撃てぇえええええッ!!!」

 

氷村の叫び声に呼応して、弾き出される大量の弾丸。

その迫り来る殺意に、すずか達は体を強張らせて俺にしがみついてしまう。

ったく、こーゆうのはガラじゃねーんだが……仕方ねぇ。

 

 

 

ここはいっちょ、俺が守ってあげますか。

 

 

 

「――さぁ出番だぜッ!!セックス・ピストルズッ!!」

 

『『『『『『イイイーーーッハァァァーーーッ!!』』』』』』

 

俺の叫び声に応じて小さな小人の様な存在が現れる。

ソイツ等はNo.1~3と5~7の数字が振られた六体の存在だ。

ちなみにNo.4はいない。

まぁ4って数は縁起が悪いってのは大賛成だ。

そして、六体の小さな存在は、迫り来る弾丸の雨に飛び込み――。

 

『キャモォオオオーーー―ンッ!!!』

 

『パスパスパーーースッ!!!』

 

『イィィ―ーーーッハァーーーーーーーッ!!!』

 

『ウェェ~~ンッ!!コンナニイッパイナンテ無理ダヨォーーーッ!!!』

 

『コッチダコッチッ!!ソノママ突ッ込ンデ来イィーーーッ!!!』

 

『消火器ヲ見ツケタカラヨッ!!野郎ドモッ!!ブッ壊セェーーーッ!!!』

 

時には殴り、蹴り、若しくは弾丸に跨って乗り、迫り来る弾丸を全て操作する。

しかも殴って弾き返した弾丸が別の弾丸に当たって両方とも軌道を変える等、もはや人の手では不可能な操作をやってのけた。

そして、奴等の殺意は、そのまま奴等へと跳ね返っていく。

撃った者の手や足、そして意図的に狙った消火器が爆発を起こし、その衝撃に巻き込まれて窓から外に弾き出される哀れな者達。

銃撃が止んだ頃には、殆どの黒服達が倒れ伏していた。

 

「バ、バカな……」

 

そして、その光景を受け入れられない者が居る。

それはこの誘拐事件を企てた氷村とかいうクソ野郎。

爆発と弾丸を受けずに済んだラッキー……いや、アンラッキーな奴等が10数名。

後、俺の背中で呆けた顔になってるアリサ達だ。

 

 

 

まぁ、こんだけ色々やっても、この場に居る中で、俺だけしか『認識』出来ねぇから仕方ねぇか。

他の奴等から見たら、『いきなり指が切れた』とか『弾丸が独りでに曲がった』って認識になっちまうんだもんな。

 

 

 

「……貴方は、一体――」

 

「あ?……あー、そういや自己紹介して無かったな」

 

後ろから呆然とした声で俺に質問してきたすずかに、俺は少し苦笑しながら2人に視線を合わせた。

 

 

 

「俺の名は城戸定明。アダ名は『ジョジョ』ってんだ……よろしくな」

 

「……城戸」

 

「……定明、君」

 

 

 

アリサ達が俺の名前を噛み締める様に呟いてるのを尻目に、俺は今だ呆けてるバカ共に向かって笑みを浮かべながら、最初に使っていた騎士甲冑を再び呼び出す。

コイツ等は少し特殊で普通の人間には見えないが、確かに俺の側に存在している。

俺の生命エネルギーが創りだすパワーある(ヴィジョン)

 

 

 

 

 

側に現れ立つという所から、その(ヴィジョン)を名付けて――。

 

 

 

 

 

幽波紋(スタンド)

 

 

 

 

 

――――俺は。

 

 

 

 

 

「小学生の女子供泣かせて笑うとか……ちぃとばかし調子に乗り過ぎだぜ。オッサンオバサン諸君――――順番にブッタ斬ってやるッ!!『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』ッ!!!」

 

 

 

 

 

幽波紋(スタンド)使い、城戸定明だ。

 

 

 

 





もうかなり手抜きですが、とりあえず書きました。


こんなモンで……ああ~~、イイっすかねェェェ~~~~~~~と。


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もう書かないと決め手たら何時の間にか書いていた…な、何を言ってるのか分からんだろーが俺にも(ry

最新話を執筆中に詰まったので軽く書いた……つもりなのに、31キロバイトを超えただとッ!?

ご、五時間でこんなに書けるなんてッ!!?(これマジです)

後悔だらけです。


「俺が怖いなら逃げてみたらどうだ?まっ、1人も逃がしゃしねぇけどな」

 

「に、逃げるだとッ!?舐めるなよクソガキッ!!お前等何してるッ!!相手はタダのガキなんだぞッ!?一斉に掛かれッ!!」

 

俺の堂々とした宣言を聞いて逆ギレした氷村は、俺を指差しながら手下に向かって盛大に喚き散らしだす。

ケッ。来るなら来いよ?テメエ等の指、全部斬り落としてやる。

銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』に戦闘態勢を取らせつつ、俺は心のなかでそう毒吐く。

 

「し、しかし……」

 

「あんなワケ分かんねぇガキとやれってのかよ……」

 

でも、手下達は氷村の指示に逡巡して一向に動こうとはしなかった。

まぁそれが普通だ。

今までの手下の指が斬り落とされたり、弾丸が独りでに曲がったりしたのも全て俺の仕業。

さすがに俺のスタンドが遣ったとは分かんなくても、原因が俺だと理解してて俺に対して戦おうとする馬鹿は居なかった。

やれやれ……まさか『神様』からもらった能力がこんなトコで役立つとはな。

 

 

 

実は、この俺城戸定明は世間様で言うトコの『転生者』って奴だ。

 

 

 

前世では普通の中学生だった俺だが、ある日横断歩道に飛び出した子供を助けて俺が代わりにトラックに轢かれた。

それで俺はポックリお陀仏。

あの世へ行くモンだと思ってたんだが……まさかの神様に出会う事になった。

神様に聞いた話しでは、ある日外界を見下ろしてた時に俺の事を見て、『コイツをファンタジーな世界に送ってみよう』と思いついたらしい。

迷惑どころの話しじゃねぇってマジ。

その際に欲しい転生特典を付けてくれるって話しだったから遠慮無く貰ったけど。

俺が貰った転生特典は2つ。

 

一つは『全スタンド能力(ON,OFF有り)』

 

二つは『鉄球と波紋の技術』

 

この2つの能力を持って、俺はこの海鳴市に生まれ落ちたってワケだ。

そしてスタンドの能力を得た俺の目的はっつうと……ぶっちゃけ無い。

スタンドは前世で憧れてたから欲しかっただけだし、他に考えつかなかった。

やれ銀髪オッドアイのイケメンとか、そんな非常識を表わす容姿なんて要らん。

しかも俺の他に後2人転生者が居るらしいから、目立つ容姿はNGだろ。

バトルなんてやってられっか、面倒くさい。

だから転生先も俺の知らない世界にしてもらったし、なるべく原作の関わらない所に住まわせてくれと頼み込んだ。

でも神様にしてみりゃそれは面白く無いとの事で、原作の事件のある街に生むけど、主要キャラとは離れた街にするという事で妥協してもらったんだが……。

 

 

 

その矢先にコレだよ。

 

 

 

畜生、新発売のCDが売り切れだからって隣町まで買い物なんてこなきゃ良かった。

俺はバトルとか戦うなんて心底面倒くせえと思ってるが、自分の命が危ない時にそうも言ってられねえ。

それで無意味に死んだら何のための転生か分かんねぇし、産んでくれた今の親にも申し訳が立たねえだろーよ。

だから、俺の命を脅かす存在に出会った時は全身全霊でブチのめすと決めてた。

それが今の状況ってワケだが……目の前の連中は今、俺に対して恐怖してる。

このままなら逃げ出す奴等も出てくるだろーな。

ドッチにしても、全員逃がすつもりなんて毛頭無えが。

 

「あ、あの……城戸君、で良いのかな?」

 

「ん?何だ?」

 

と、目の前の愚図が襲い掛かってくるタイミングを見計らっていた俺に、後ろに居るすずかから声を掛けられ、俺はそれに応じた。

 

「ご、ゴメンね?……私の所為で、こんなことに巻き込んで……迷惑だよね?」

 

後ろを見ていないから表情は分からない。

でも、俺に遠慮気味に声を掛けてくるすずかの声は震えているのは分かった。

 

「さっきも言ったろ、別に良いってよ」

 

「で、でも……」

 

巻き込まれた当事者の俺が気にしてないと言ってるのに、すずかは尚も食い下がろうとしてる。

っていうか今はそんな事言ってる状況じゃ無えだろう。

 

「兎に角、話は後にしようぜ。今は目の前の馬鹿共を片付けっからよ」

 

その台詞で俺達の置かれてる状況を思い出してくれたのか、すずかは掴んでいた俺のシャツから手を離し、言葉を噤んだ。

兎にも角にも、今は目の前の奴等を何とか片すのが先決だ。

でもあんまり大胆な方法は使えねぇ。

幾ら自分を殺そうとしてる相手でも、相手の生命を奪うのは駄目だ。

俺自身殺人なんてまだ心が保てねぇし、何より後ろの2人にそんなショッキングな場面見せるなんて出来ねえ。

下手すりゃトラウマになるだろ。

よって即死系のスタンドは使えないって事になる。

どうすっか……逃げるだけなら『スティッキー・フィンガーズ』のジッパーで下の階に逃げられるし、若しくは『世界(ザ・ワールド)』で時を止めてコイツ等全員フルボッコにすりゃ良い。

でもなぁ……『世界(ザ・ワールド)』を使うにゃ何人か射程距離外だし、もし俺が離れた隙にアリサ達を撃たれたら守り切る自信が無い。

時を次に止めるには一呼吸の間が必要だから、その間に撃たれたらOUT

『スティッキー・フィンガーズ』のジッパーで下の階に逃げるのは良いが、もしあの自動人形とやらがまだ沢山居たら余計面倒になる。

それに……。

 

「……エアロスミス(ぼそっ)」

 

俺はまず『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』を消して、気付かれない様に小さな声でラジコン飛行機の様なスタンド、『エアロスミス』を呼び出す。

更に俺の右目にプロペラで浮遊する『レーダー』がセットされた。

これが『エアロスミス』の能力、CO2を探知するレーダーだ。

これを使えば建物に居る人間の数なんて直ぐに判る。

 

「(……この部屋に14人、息が荒い、つまり倒した奴らが10人、上と下の階に反応は無し。建物の外に見張りが10人……なんだけど……)」

 

人間の数は正確に判るが、今も部下に喚き散らす氷村の傍で、氷村を守る様に佇んでいる自動人形っていうメイドが曲者だ。

コイツ等は『エアロスミス』のレーダーに引っ掛かっていない。

つまり呼吸をしていない。

だからこそ、この建物に後どれぐらい奴等が居るのか判断が付かねえし、下手に動くワケにもいかねぇんだ。

俺が他に持ってる探知機は『炎の魔術師(マジシャンズ・レッド)』の炎を使った炎の生物探知機だが、これも生き物に限定される。

意外な所で『エアロスミス』のレーダーに穴があったな。

そう考えてる間に、氷村の手下達は覚悟を決めたのか、各々が全弾撃ち切って使い物にならなくなった拳銃を捨てて、ナイフやスタンガンなんかを持って俺達にジリジリと近づいてきた。

氷村はその様を「これだから下等種は」とかほざきながら一瞥し、2人の自動人形を連れて少し下がる。

あの野郎、前に出て戦う気もねぇってか。

 

「(ちっ、しょうがねぇな……兎に角、奴等がチャリオッツの射程距離に来てくれんならそれでも良い。片っ端から指を斬り落として最後に氷村と自動人形をブチのめしてやる)」

 

別にエアロスミスを使っても良いけど、メチャクチャに撃たねぇと当たらねーし、何処に当たるかも分からん。

後ろの2人に、人間の顔面に弾穴が開くトコ見せるワケにゃいかん。

まぁ指を落とすのも残酷だが、それは我慢してもらうしかない。

 

「……二人共、ちっとエグい事になるから目を瞑ってろ」

 

「え?で、でもアンタ……」

 

ここで俺の言葉にアリサが反論しようとしてくる。

まぁこの状況で目を瞑るなんて怖いわな。

もしかしたら捕まるかもなんて考えてんだろーし……でもよ。

 

「さっきみてーな場面、もう見たくねぇだろ?」

 

人の指が飛ぶ瞬間を見るよりは遥かにマシだ。

今ので俺が言いたい事が伝わったのか、アリサはそれ以上何も言わずに黙った。

すずかはさっきから静かだし、多分目を瞑ってくれたんだろう。

目の前には迫る敵、背後に守る対象……何でこんな事になったんだか。

まぁ何を思っても、だ……ヤルしかねぇか。

この窮地を乗り越えて、明日からまた日常を過ごす為に覚悟を決めた俺は、エアロスミスを引っ込めようとした――。

 

「(ピコーン。ピコーン)ん?……コレは?」

 

だがその直後、周囲のCO2を探知していたエアロスミスのレーダーに新たな反応が現れ、俺はその反応を見てエアロスミスを消さなかった。

今、エアロスミスのレーダーには、この廃墟へと向かう3つの呼吸が映し出されている。

反応の大きさは人間なんだけど、その『速度』が異常だった。

こっちに向かってる新たな反応の速度は、凡そ普通の人間に出せる速度を軽く超えている。

しかもその反応が廃墟の周りに居る別の反応に迫ると……。

 

「……反応が弱くなった……オイオイ」

 

恐らく見張りの奴の呼吸だと思うが、それが一気に弱まったのだ。

多分気絶させられたんだろう。

更に不可解な事に、その近くの見張りが2人、いきなり何の前触れもなく反応が弱くなりやがった。

コッチはホントにいきなりだ。

まさかとは思うが……例の自動人形とやらが増えたのか?

でも敵なら同じ味方を倒す必要は無いハズ……何なんだコイツ等?

そう考えてる間にその3つの反応は建物に侵入してくる。

こりゃ放っておくと面倒になりかねねぇな。

サッサとココを片付けるとしよう。

もしも新手だったら面倒な事この上無いので、俺はこの階を脱出する方針にした。

まずは目の前に迫ってくる雑魚を粗方片付けてからザ・ワールドを使用。

そのまま2人を連れて一度逃げるだけ――――。

 

 

 

「――――すずかッ!!!アリサちゃんッ!!!」

 

 

 

と、考えた所で、部屋の向こう側に位置する扉がバンと蹴破られた。

その音に反応して部屋の全員が振り返ると、そこには『5人』の人間が居た。

1人は紫のロングヘアーの女性、そしてピンクっぽい髪のスーツの女性。

更に最初の女性より薄い紫のメイドが2人。

そして、両手に小太刀を構えたイケメンが1人。

って待て?今あの女の人『すずか』って……まさか?

 

「ッ!?お姉ちゃんッ!!」

 

「忍さんッ!?恭也さんッ!?」

 

紫のロングヘアーの女性の声に、俺の後ろに居たすずかが反応して声を返す。

その声に少しだけ安堵する様な表情を見せた乱入者達。

どうやらこの人達は味方みてーだな。

 

「待っててね。2人共……じゃなくて、そこの男の子もすぐ助けるから……」

 

アリサ達に忍さんと呼ばれた女性は俺達に声を掛けると、目付きを険しいモノに変えて氷村を見据えた。

 

「氷村……アンタ……」

 

「月村忍か……それにさくらも一緒とはな……どうだ?漸く僕の物になる気になったのか?」

 

忍さんが怒りを篭めた声で呼び掛けた事に対し、氷村は悠然と見下した感じで巫山戯た言葉をのたまう。

その言葉に小太刀を持った兄さんが米神に青筋を立てるが、彼の後ろから出て来たピンクの女性に目で止められる。

そして、そのピンクの髪の女性が兄さんに変わって冷めた目を向けた。

 

「寝惚けた事言わないでくれるかしら?貴方みたいな魅了の魔眼を使わないと女性1人口説き落とせない姑息な男に靡く女なんて居ないでしょ?少しはそのおめでたい頭で考えてみたら?」

 

うわぁ……さっきのアリサの言葉より痛烈……女って怖いな。

一方その言葉を向けられた張本人の氷村はと言えば、依然として見下した様な目付きのままだ。

 

「フン、人間如き下等種なんぞ、僕に目を掛けられただけでも幸運に思うべきなのさ。奴隷に邪魔な情は要らん……まぁ、お前等が僕の物にならないなら別に良い……自動人形達よッ!!」

 

氷村が大声を上げた瞬間、部屋の窓からメイドの格好をした自動人形が部屋に飛び込んできた。

その数は5体だけだが、それを見た忍さん達は顔を驚愕に染める。

 

「……コレはキツイわね」

 

「あぁ……イレインだけでも厄介だと言うのにな……気を抜くなよ、皆」

 

忍さんの苦々しい表情で語られた言葉に、隣の恭也さんが反応する。

その瞳は氷村の横に立つ金髪の自動人形に向けられている、多分、アイツがイレインとかいう奴なんだろう。

忍さん達の険しい表情を見た氷村は顔を愉悦に染めながら……。

 

「安心しろ。お前等は後だ。まずは……」

 

そこで言葉を切った氷村は、横目に俺達に視線を向けてきやがった。

まぁそうなるよな。『狩り』ってヤツは……。

 

「ソコにいる餓鬼共を捕獲して、辱めを受けさせてやる」

 

『弱い獲物』から仕留めるのがセオリーだ。

氷村の楽しそうな言葉に、驚愕の表情を見せる忍さん達。

その顔を見た氷村は更に表情を笑みで満たす。

 

「ッ!?止めなさい遊ッ!!この卑怯者ッ!!」

 

「氷村……ッ!!貴様ぁッ!!」

 

「フハハハッ!!弱い犬程良く吼えると言うが、お前等にピッタリだなッ!!イレインッ!!」

 

「……ハイ」

 

氷村の呼びかけに、横に居たイレインが答える。

 

「お前は4体の自動人形と共にコイツ等を足止めしろッ!!残りの自動人形とお前等は、餓鬼共を好きに犯せッ!!男の餓鬼は殺して構わんぞッ!!」

 

その言葉を聞いた手下達は、さっきまでのビビッてた顔から余裕の表情に変わり、俄然ヤル気を出した。

多分さっきの自動人形とやらが味方に付くからだろう。

そして、手下達と自動人形達が、俺達に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

「ッ!?すずかぁあああああッ!!?」

 

 

 

 

 

つんざく様な忍さんの悲鳴、絶望した表情。

それを嘲笑う氷村の高笑い。

それを見ながら俺は……『ほくそ笑んでいた』

 

 

 

 

 

――――馬鹿だな、テメエ等は。

 

 

 

 

 

「――『世界(ザ・ワールド)』」

 

 

 

 

 

揃いも揃って――。

 

 

 

 

 

「――時よ止まれ」

 

 

 

 

 

狩りの『基本』すら、知らねえんだからよ?

 

 

 

ピキィイイインッ!!!

 

 

 

俺の言霊に近い呟きと共に、周りの空間がモノクロに変わっていく。

飛び掛かる体勢で空中に止まってる馬鹿面な男達。

無表情で固まる自動人形。

そして――――。

 

「あらら……かなり恐かったんだろうな」

 

俺の後ろで、お互いに肩を抱き合った体勢になってるすずかとアリサ。

それを、俺は苦笑しながら見つめる。

 

「さて……反撃開始といくか」

 

俺はザ・ワールドを呼び出し、その巨腕にアリサ達を優しく抱えさせて、忍さん達の前に移動する。

手下達や自動人形、果ては高笑いのポーズで静止してる氷村をスルーして、だ。

別にザ・ワールドを使えばコイツ等全員のす事も十分可能だけどやらない。

 

 

 

 

 

何故かって言えば――――それじゃ詰まらねぇだろ?

 

 

 

 

 

コイツ等にゃ、誰を獲物にしたのか良~く教え込まねぇと、な?

忍さん達の前に着いたのでザ・ワールドから2人を受け取り、脇に挟んで樽抱えにする。

さて、そろそろか。

 

「9秒経過……そして時は動き出す」

 

俺の呟きと共に、色が戻る空間、人間達の動き。

だが、そこには俺達が居ないワケで――。

 

『……ぎゃぁあああああッ!!?』

 

壁にぶつかり、後ろから来た人間や自動人形達に押し潰される先頭の黒服達。

そこはもはや人間ピラミッドが崩れた後みてーになってた。

ハッ、ざまーみやがれ。

 

「お、おい!?餓鬼共が居ねーぞ!?」

 

「ど、何処行きやがった!?」

 

「何ッ!?貴様等何を言っているッ!?」

 

その人間が積み重なった中で、俺達が居ないと理解した手下が叫び、氷村がソッチに怒号を送る。

まぁいきなり人間が居なくなったら興奮もするわな。

 

「……え?」

 

そして、それは敵側だけじゃなくて味方もだ。

アリサ達を脇に抱えてる俺の後ろから、今しがた叫んでいた忍さんのポカンとした声が聞こえてくる。

背中に視線を感じるから、多分俺を見てんだろうな。

良し、ここらで喋りますか。

俺は息を吸い込んで、俺達の反対を向いて喚いてる氷村達に向かって口を開く。

 

「――何処見てんだよ、マヌケ」

 

「ッ!!?」

 

俺の声に反応して振り返る氷村。

その表情には驚愕と畏怖、そして得体の知れねえモノを見る怯えがあった。

その表情に満足した俺は、両脇に抱えているアリサ達を地面に降ろしてやった。

しかしコッチもまぁ、随分ポカンとした顔してんなぁ。

 

「バ、バカな……!?き、貴様ッ!!どうやってソコに移動したッ!?」

 

「んー?別に大した事してねーぜ?…………只、9秒程『時間を止めただけ』だ」

 

『『『『『ッ!?』』』』』

 

気軽に放った俺の言葉に、室内に居る人間が息を飲んで驚愕する。

後ろに居る忍さん達も同じくだ。

 

「そ、そんな事出来る筈が……ッ!?」

 

俺の言葉を即座に否定しようとする氷村だが、さっきから俺が起こした不可解な現象を見ていた所為で否定しきれなくなっている。

当然、頭の氷村が恐怖すればそれは末端まで伝わり――。

 

「も、もう嫌だ……!?あんなバケモン相手に出来るか!!俺は抜けるぞ!!」

 

「お、俺も!!」

 

「た、たた助けてえぇぇぇえ!?」

 

組織ってヤツは簡単に崩壊する。

武器を構えていた黒服の手下達は、皆一様に悲鳴を挙げて逃げようと動いた。

しかし、この部屋の唯一の入り口は俺達の背後にある扉だけ。

それでもこの場から逃げたい黒服達は、なんと部屋の窓に向かって殺到する。

ここは2階で高さもそこそこあるってのに、そんなにまで俺から逃げてぇのかよ?

まぁ逃がすつもりは無えけど?

ココで逃げられて、後から復讐なんてされんの面倒だしな。

コイツ等にゃ大人しく捕まってもらう。

俺は逃げようと窓に殺到する連中を見据えながら両手を地面に付け――。

 

「凍り漬きなッ!!『ホワイトアルバム』ッ!!」

 

超低温を操るスーツ型のスタンド、ホワイトアルバムを使用。

それでもギアッチョが最初にしていた様に普通の状態から使用してるから、周りの人間には俺が変わった様には見えないだろう。

俺の両方の手足が凍って見える事以外は。

 

ピキピキピキッ!!

 

『『『『『なッ!?』』』』』

 

だが、目の前にある空気を凍らせながら奔る氷の軌跡は見える。

見ている人間が突如現れた氷の動きに驚愕してる最中、そのまま氷を黒服達まで奔らせ――。

 

「ひッ!?ぎ、ぎゃぁぁあ!?俺の足がぁああ!?」

 

逃げようとした連中の両足を氷漬けにしてやった。

更に氷は部屋の四方に奔り、この部屋の抜け穴である窓を全て分厚い氷で包む。

厚さは大体50センチぐらいだから、簡単にゃ割れねぇだろう。

 

「人様を攫っておいて、勝手にケツ捲るってのは無しだろ?オッサン達よぉ」

 

逃げようとした連中にそう話し掛けながら、俺はホワイトアルバムのみを解除。

そのまま驚いている氷村を視線に捉えて口を開く。

 

「さっきも言った筈だぜ?――『順番にブッタ斬ってやる』ってなぁ?」

 

「ッ!?じ、自動人形達ッ!!あの餓鬼を殺せッ!!イレインッ!!お前は僕を守れッ!!」

 

俺の言葉に寒気を覚えたのか、氷村は震えながら俺を指差して自動人形達に指令を送る。

奴等には感情が無えんだろう。

この部屋に飛び込んできた5体、そして氷村の側に控えていた奴が1体。

計6体が俺に猛然と襲い掛かってくる。

 

「ッ!?君ッ!!下がるん――」

 

それを見た恭也さんが俺と自動人形達の間に割って入る前に――。

 

「しゃらくせぇ……銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)ッ!!」

 

銀色の騎士甲冑を模したスタンド、シルバーチャリオッツを呼び出し、目にも止まらぬ速さで剣を縦横無尽に振るった。

チャリオッツは全スタンド中、攻撃の速さに関しては限りなく上位クラスだ。

何せ軌道さえ分かってれば、光だって切れちまうんだからな。

そんなチャリオッツがフルスピードで剣を振る結末。

 

ズバババババッ!!

 

「ッ!?……これは」

 

そんなモン、受けたら只じゃ済まねぇよな?

自動人形達が俺に剣を振るう前に、全体チャリオッツに細切れにされ、自動人形達は空中で分解、ガシャガシャとやかましい音を奏でながら地面に落下していく。

俺はその様を見届けてから、俺の直ぐ後ろに居る恭也さんに笑顔を見せる。

 

「心配してくれてどうもッス……でも、あの程度の奴等なんかどうって事無いんで……」

 

そこで言葉を切った俺は、後ろでポカンとした表情で固まってるすずか達に視線を送る。

 

「今はアッチの人達を守ってあげて下さい。あのままじゃ危ないと思うんで」

 

「……君は、一体……」

 

「俺?俺は只の……まぁ、平たくいやぁ超能力者ってヤツっすね」

 

「ち、超能力?え、HGSの事か?」

 

「あー、いえ。俺は別にHGS患者じゃ無いっすよ?」

 

恭也さんの確認する様な言葉に、俺は否定の意を返す。

今のHGSってのは高機能性遺伝子障害病とかいう長い病名の略称で、通称HGS患者とも言われてる。

このHGSってのは先天的に、そして極稀に発生する奇病の一つで患者は超能力が使える様になるそうだ。

特徴としては能力を使うと背中に翼が現れるらしい。

まぁ俺には関係無い話しなのでこの編で終わらせる。

 

「とりあえず、俺は大丈夫なんであの2人を守ってあげて欲しいんです。ゴミは俺がササッと片付けますんで」

 

「いや、あの氷村の横に控えているヤツは違う。あれはイレインと言って、恐らく最強の……その……」

 

ん?あのイレインってのは自動人形じゃ……あぁそっか、俺が夜の一族ってヤツの秘密を知らないと思ってんのか?

 

「自動人形ってヤツなんでしょ?」

 

「ッ!?き、君ッ!!何でそれを知ってるのッ!?」

 

重い雰囲気の恭也さんの代わりに答えたら、すずかを抱きしめていた忍さんが驚愕の声を俺にぶつけてきた。

ソッチを見れば、すずかは忍さんに抱きしめられている腕の中で顔を真っ青にしている。

 

「あぁ、さっきあの氷村とかいうマザコン野郎が自慢気に語ってたモンで……『自分達の血筋』とやらも」

 

『『『『『ッ!?』』』』』

 

俺がそう返すと、俺の言葉を聞いた5人は驚き、俺に真剣な表情を向けた。

 

「……聞いたのね?私達の事も?」

 

「はぁ……同じ夜の一族ってのは聞きましたけど?」

 

「そう……こんな事、今聞く事じゃ無いのは分かってるんだけど……なら、君は怖く無いの?」

 

「は?……何がっすか?」

 

一体忍さんが俺に何を聞きたいのかトンと掴めず、俺は忍さんに聞き返してしまう。

だが忍さん達は、俺の聞き返しに深いな表情をせずに真剣な表情のままだ。

 

「私とすずかが夜の一族……つまり吸血鬼でも怖くないのかしら?」

 

「……」

 

その余りにも真剣な表情で語られる話しに、俺は口を噤んで忍さんの話を黙って聞く。

 

「私達は貴方達人間とは違う……定期的に血を吸わなきゃ生きていけないし、魔眼なんて危ないモノ、それに不老に近い寿命があるの……そんな人達の側に居て、味方しても、君は怖くないの?」

 

忍さんが話す内容……つまり自分達を受け入れてくれるのかって話しだろう。

あれだけ取り乱すって事は、彼女達は本当に全てを秘密にして生きてる。

そうじゃなきゃこのご時世、吸血鬼だなんて事がばれでもしたらあっという間に研究材料にされるか、魔女狩りが横行する。

だから忍さんは改めて聞いたんだろうな。

そう考えていると、忍さんに抱きしめられてるすずかがチラチラと伺う様な視線を俺に向けてくる。

アリサも黙ってはいたけど、俺がどう答えるか心配な様だ。

まぁこの人達とは完全なる初対面だし、俺を信じきれねぇのも無理はねぇが……。

 

「聞きたいんスけど、良いスか?」

 

「……何かしら?」

 

そんなモン今更だろうよ?

俺の質問返しという対応に少し不満気な顔になるも、忍さんは直ぐに表情を切り替える。

 

「寿命が長い、血を吸う、強い肉体と頭脳……それだけッスか?」

 

「……え?」

 

自分の聞いた言葉が信じられないって表情を浮かべて、忍さんは小さく言葉を漏らした。

彼女の周りに居る他の女性達も同じ顔になってる。

でもまぁ、質問を止める気なんざ無いけどな。

 

「だから、それだけなんでしょ?夜の一族が持ってる力ってのは?……別に良いんじゃないッスか?」

 

「そ、それだけって……!?」

 

俺の軽い返しを聞いた人達の中から、すずかが声を張り上げて驚きを露わにする。

いや、たった3つだけならそこまで驚く事か?

 

「だってよ、俺は今みてーな力を百個近く持ってんだけど?」

 

『『『『『ッ!?』』』』』

 

100、その数字は俺の持つスタンド全能力の大体の数だ。

それだけの異能を持つ俺からしたら3つや4つなんて軽過ぎるぐらいだぞ。

 

「凍らせたり、弾丸を弾いたり、切り裂いたり……さっきの瞬間移動もそうだ。アレはホントに時を止めてんだぜ?」

 

「で、でも……」

 

俺の言葉を聞いたすずかは尚も反論しようとしてくるが、俺はソレに取り合わず再び氷村達の方へと視線を向ける。

 

「悪いけど、俺からすりゃそんだけの力でバケモンなんて呼べねぇよ。それにだ……」

 

すずか達に背を向けた俺は、目の前に居る氷村に対して指を指し、続きを語る。

 

「俺にとっちゃバケモンとかってのはな、テメーの欲の為だけに力を振るうゲス野郎。んで、自分の為に弱者を踏み躙る奴の事は……『悪』って言う……それだけだ」

 

「城戸君……」

 

そこまで言っても、すずかの弱々しい声は変わらない。

なぜなら、俺はまだ決定的な事を言ってないからだ。

本当はその先はすずかの親友のアリサとかに言って欲しかったんだけどなぁ……アリサはもうすずかをバケモノじゃ無いって言っちまったし……しゃあねぇか。

 

「以上、俺の定義からすれば、お前……月村はバケモノじゃねぇ。親友の為に泣ける月村は、間違い無く『優しい人間』だ」

 

「ッ!?」

 

「初対面の俺が言っても説得力の欠片も無えだろーが……俺はそう思ってる……それだけだよ、コッチに味方する理由なんてな……ちっぽけなモンだろ?」

 

俺はソコで言葉を切り、氷村に向かってゆっくりと歩を進める。

もう黒服の手下達は指を切って再起不能か、足が氷漬けになって動けないかの二通りしか居ない。

サッサとこの面倒くせえ事件を終わらせて帰る。

今日新発売のユーロビート、早く聴きてぇからな。

 

「こ、このバケモノめッ!?イレインッ!!この小僧を始末しろッ!!は、早くッ!!」

 

「……了解」

 

俺が近づく事に焦った氷村は、遂に今まで護衛をさせてたイレインへ指示を出し、最後のジョーカーを切った。

氷村の指示に従って俺へと跳躍し、上から向かってくるイレイン。

俺はそれを見上げながら只歩き、チャリオッツを呼び出した。

 

ギィインッ!!

 

「……」

 

イレインが無表情のまま繰り出した斬り込みをチャリオッツの剣で受け止め弾く。

その弾き返しと共にイレインは後方へ跳躍。

着地と同時にもう一本剣を取り出して真正面から俺に迫る。

二刀流か……。

イレインの行動を冷静に見届けつつ、俺はチャリオッツの剣を更に加速させて防御の体勢を取らせた。

どのぐれえの速度が出せるか、一つ見せてもらおうか。

 

「……」

 

そして、真正面から俺に繰り出される連撃の数々。

その速度たるや、ゴウッという風切り音を発生させる程に速い。

しかもそれだけ力を籠めてるにも関わらず、動きはしなやかで鋭かった。

並の人間、いや上の人間でも厳しいかもしれねぇ。

……ただまぁ。

 

「へぇ~?……中々に素早いじゃん?」

 

「……」

 

チャリオッツの剣速にゃ程遠いがな。

俺の視点からすりゃ、チャリオッツの剣でイレインの斬撃を一つ一つ弾き返してるだけなんだが、スタンドが見えない人間からすればイレインの斬撃が金属に当たる音を奏でながら、俺の前で悉く阻まれてる様に見えるだろう。

両手をポケットに突っ込んだ体勢で迫る斬撃を全て余裕の笑顔で見つめる俺。

敵からしたらこの上なく不気味な光景だろーな。

 

「す、すごい……!?」

 

「こんな事が……イレインの剣は俺でも見切るのは難しいというのに……」

 

「……あんな力が百個もあったら、確かに私達なんて『それだけ』扱いにされちゃうわね」

 

何やら後ろから色々と驚愕やら呆れの含まれた話し声が聞こえるが無視無視。

 

「イ、イレイン何をしているッ!?餓鬼1人すら満足に殺せないのかッ!!この鉄屑めッ!!」

 

そんな時、今までイレインに守られてただけの氷村が情けなさ全開の言葉をほざき始める。

オイオイ、自分はさっきから後ろで安全に見てるだけの癖してあんな言い様は無ぇだろ……まぁ、コイツの力はもう充分分かった事だし……。

 

ギャインッ!!!

 

「……ッ!?」

 

俺はチャリオッツにイレインの剣撃を真上へと弾き飛ばさせる。

そこで少しだけ表情を驚きに染めるイレイン。

剣を弾き飛ばす事で、防御どころか完璧な隙が出来たイレインを――。

 

「カッ飛びやがれ」

 

ドバァアアッ!!!

 

「……ッ!!!??」

 

突きからのタックルで、部屋の反対側の壁まで吹き飛ばしてやった。

うし、こんなモンで良いだろ。

とりあえずイレインを吹き飛ばしてやった俺は、それを呆けた面で眺めている氷村に体と視線を向ける。

 

「テメエよぉ。さっきから後ろで偉そーに指示してるだけじゃなくて、少しは自分で体張ったらどうなんだ?それともさっきあの子が言ってた様に、ママが居なきゃ何も出来ねえマンモーニ(ママッ子野郎)なのかよ?なら待っててやるから呼んだらどうだ?『ママァ、助けて~、皆が苛めるんだよぅ~』……ってな?」

 

「ブッ!!……く、くくくっ!?」

 

「ア、アハハッ!!そ、想像しただけでお腹が……アハハハッ!!!」

 

「ゆ、遊がママとか……!?ピ、ピッタリ過ぎて駄目……ッ!?」

 

後ろに居るであろうアリサを親指で指しながらニヤニヤした笑みで氷村を侮辱すれば、後ろから耐え切れず吹き出す声が聞こえてくるではないか。

ともすれば、皆の笑い声を聞いて、奴は顔を真っ赤にして俺を睨みつけてきた。

 

「ふ、巫山戯るなッ!!誰がそんな事を言うかッ!!大体、貴様等の様な下等種の相手を僕がするなど(ズバァッ!!)ヒイィッ!?」

 

まだ状況が理解出来ずそんな事をほざいてる頭のおめでたい氷村に、俺はチャリオッツを一度戻してから、右手に拳銃型スタンド、『皇帝(エンペラー)』を出して氷村の頬を掠める様に撃ってやる。

 

「だったらブルッてねぇでかかって来いよ?コッチはさっきから待ち草臥れてんだ。サッサと帰って新発売のCD聴きてぇんだよ。ホレッホレッ」

 

言葉に合わせて2発、エンペラーから打ち出すスタンドエネルギーで出来た弾丸。

それは氷村の頬を掠める様に当たり、奴は恐怖で腰を抜かしていた。

ここまでくりゃ、もう何時でも確保は可能……。

 

ボゴアッ!!

 

「あ?……ほぉ~?これはこれは……」

 

「……」

 

重たい物がどかされる音が鳴り、そっちに目を遣れば、そこにはイレインが居た。

俯いて表情は分からねぇが、イレインの脇腹にはチャリオッツの剣で開けた風穴が開いていた。

そこから火花を散らしながらも歩く姿は、ハッキリ言って痛々しい。

さすがに俺もその様を見て顔をしかめた。

 

「……言っても無駄だろーけどよ。もう止めといたらどうだ?こんなクソに義理立てする必要も無えだろーに?それに、そんな様じゃ俺のシルバーチャリオッツには勝て「……るせぇ」……は?」

 

喋ってる途中で割り込まれた言葉に、俺は疑問の声を出した。

すると、今まで俯いていたイレインの顔がガバッと起き上がり――。

 

「うるせぇんだよこのクソガキがぁああああああッ!!」

 

憤怒と言っても差し支えない表情を浮かべたイレインの顔が見えた。

おいおい……さっきまでの無表情でクールな雰囲気は何処行ったんだよ?

 

「まさか……感情の暴走!?」

 

そのイレインの様子を見た忍さんは驚愕の声を出している。

チラッと振り返れば殆どの人間がそうだ。

暴走、ねぇ……そんな事もあんのな。

他人事の様に考えつつ視線を前に戻して、俺に怒りを向けるイレインを見据える。

 

「あたしの体をこんなにボロボロにしやがってッ!!バラバラに刻んで豚の餌にされるか、生きたままジワジワと感電死するのとドッチが良いか選べぇえッ!!!」

 

そう言うと、イレインは片手にバチバチとスパークを散らす鞭の様なモノを構えながら瓦礫から這い出し、俺に牙を向いてくる。

しかしまぁ、豚の餌ねぇ……メイド服着てるモンが言う台詞じゃねぇな。

 

「気をつけてッ!!ああなったイレインは更に強くなってるわッ!!恭也ッ!!」

 

「分かってるッ!!君ッ!!俺がイレインの相手を……」

 

イレインがキレた所で忍さんから忠告が飛び、恭也さんが俺の前に出ようとする。

 

「あー、良いッスよ。俺1人でやりますから」

 

だが、俺は前に出ようとしてた恭也さんに待ったを掛ける。

別にさっきの4倍とかその程度なら問題ねぇしな。

 

「な、何を言ってるんだッ!?君はイレインの事を甘く考えているッ!!アレはそんな相手じゃ無いんだッ!!」

 

しかし、ここでも待ったを掛けた俺に対して、遂に恭也さんは怒鳴り声を挙げて俺を叱ってきた。

それは俺が聞き分け無いからってだけじゃ無く、純粋に心配してくれてんだろう。

その心意気は嬉しい……けどなぁ。

 

「スイマセンけど、俺の射程距離内に入られたら、余計やり難いッス」

 

「ッ!?」

 

冷酷な様だけど、俺は敢えて恭也さんに冷たく返す。

さっきの剣の応酬に驚いてた様じゃ、チャリオッツの間合いで速い動きは出来ねえと俺は考えた。

それだと、俺も攻撃がやり難くて、コンビネーション処じゃ無くなる。

ハッキリ言えば、恭也さんが入ると足手まといなんだ。

それが俺の言葉から伝わったんだろう。

恭也さんは悔しそうな、それでいて済まそうな顔で俺を見ていた。

 

「……済まない……確かに、君の持ってる力の前では、俺は力不足だ」

 

「謝らんで下さい。俺だって失礼な事をバンバン言ってるんスから」

 

何せ助けようとしてくれた相手に邪魔宣言だからなぁ……罪悪感パネェ。

とりあえず、サッサとこの人に謝る為にも、イレインと氷村を片しますか。

悔しそうな顔をしてる恭也さんから視線を外して、ギラギラした目付きのイレインを見直す。

 

「選ばせてやるねぇ?随分お優しいじゃねぇか?……ククッ……しかし、感電死させる?切り刻む?俺を?クククッ……そのスロー過ぎる剣の腕前でかぁ~?ククククッ……笑ったモンか、欠伸したモンか、コイツは迷うッ迷うッ」

 

ブチッ!!!

 

「――野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

俺のバカにした物言いに、イレインの頭から何かが千切れる音が木霊した。

そこから般若の様な表情で俺に襲い掛かるイレイン。

俺はそのイレインに対して、自分から突っ込んでいく。

 

「どのくれぇーお前の剣が……ノロイか……」

 

既にチャリオッツの射程距離には充分入ってる……なら――。

 

「たっぷりとよぉー……味わせてやるッ!!」

 

斬る以外にする事は無えよな?

自分のリーチに入った瞬間、イレインは剣と鞭を最速の速さで振るった。

それは今までの剣速を遥かに上回る程に速い。

感情の爆発だけでそこまでイケるなら大したモンだが――。

 

「うりゃっ」

 

俺のチャリオッツにゃ届かねぇ。

 

ドババババババババババババババババババババッ!!!

 

奴の剣が到達するより速く、シルバーチャリオッツはレイピアを突きの形で連打し、イレインの体に風穴を大量に増やしていく。

だが、それはすれ違い様に起こした剣の動きであり、常人には絶対に見る事は出来ない。

最も、スタンド自体が一般人には見えないから、どっちにしても誰も拝めないけどな。

そして俺とイレインの動きが交差し、双方が地面に着地した瞬間、イレインは体を回転させて俺の無防備な背中を狙うが――。

 

ポロッ……。

 

「なッ!?」

 

俺に向けた片手の鞭。

その先端が小さく切断されて床に落ちると、それを過輪切りに次々と鞭の先端が落ちていき――。

 

ドバァアアッ!!!

 

「……」

 

イレインの体中に、レイピアの大きさの風穴が100を下らねぇ数程、一斉にブチ開けられた。

崩れ落ちるイレイン、そして傷一つすら刻まれていない俺。

その結末に誰もが呆然とする中、俺はゆっくりとイレインに視線を向け――。

 

 

 

「分かった?このぐれぇーーノロイんだよ」

 

 

 

勝者の余裕という物を見せつけてやった。

さて、これで残るは氷村だけなんだが……。

 

「く――くそぉおおおおおおおおおおッ!!?」

 

「ん?……や~れやれ、ここまで情けねぇとは……」

 

あろう事かその氷村、部下も自動人形も全て見捨てて見げようとしてやがった。

俺がイレインと戦ってる間に部屋の外れに移動し、氷で塞がれた窓じゃなくて、忍さん達の後ろにある扉に向かおうと走っている。

その先には恭也さんが居るし、只の自棄を起こした様だが……。

 

 

 

 

 

 

コレは気に入らねぇよな?

 

 

 

 

 

俺はシルバーチャリオッツを戻し、直ぐに別のスタンドを呼び出す。

新たに呼び出したスタンドは、チャリオッツとは大分雰囲気が違う。

一見すればロボットの様に見える頭をした、逞しい人型のスタンド。

方にはゴツイタイヤの様な肩当てと、ソコに付いた刺。

そして体の至る所に刻まれた$と¥の紋章。

明らかに違う左右の手の平の模様。

 

 

 

そう、右手で掴んだモノを『削り取って』しまう恐ろしい能力のスタンド。

虹村億泰の『ザ・ハンド』だ。

 

 

 

俺はザ・ハンドを呼び出してから、走っている氷村に照準を合わせる。

まぁ角度的にこの位置で良いだろ。

 

「そこをどけッ!!貴様等ぁああああッ!!」

 

そんな事をほざきながら走る氷村に向かって、ザ・ハンドは右手を振り被る。

 

ガオォオンッ!!!

 

振り下ろされた右手の軌跡に沿って『削り取られた空間』。

その空間が閉じると――。

 

パッ!!!

 

俺が氷村の頭上に『瞬間移動』する。

そのまま俺はザ・ハンドを操り、足を大きく振り被った体勢を維持。

 

「オイオイ。最初に言ったろ?」

 

「なッ!?」

 

俺の声に反応して氷村が見上げた先には、ポケットに両手を突っ込んだままニヤリと嘲笑う俺。

いきなり現れた俺を見て驚きの余り声を失う氷村に、俺は――。

 

 

 

 

 

逃がしゃしねぇ―――ってよ?

 

 

 

 

 

ザ・ハンドの足を思いっ切り氷村の顔目掛けて振り下ろさせた。

 

バギィッ!!

 

「ぶげぇっ!!?」

 

ザ・ハンドの蹴りを顔面にモロで受けた氷村は情けない豚の様な悲鳴を挙げて地面に叩き付けられる。

俺は倒れ伏す氷村の目の前に、ポケットに手を突っ込んだまま着地して――。

 

バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ

バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ

バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ

バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキイィッ!!

 

上からザ・ハンドに踏みつけのラッシュを繰り出させた。

 

「とらえたぜぇーーーッ!!!ダボがぁーーーーーーーッ!!!!!」

 

手違いで攫われた怒り、散々っぱらバカにしてくれた怒り、女の子を泣かした怒り、その他諸々の容疑で蹴り潰してやるぜこのダボがぁーーーーーッ!!

上からアスファルトの床に叩き付けられて満足に悲鳴も挙げられない氷村を只ひたすら蹴りで蹂躙し――。

 

「フンッ!!!」

 

ドグアァッ!!!

 

「ゲボッ!?」

 

最後は浮かしてからの膝蹴りで部屋の隅までブッ飛ばしてやった。

ふい~……良いストレス発散になったなぁオイ。

目の前でポカンとした表情を浮かべる恭也さん達を無視して、俺は今もホワイトアルバムの氷で固定されてる男女の集団に目を向ける。

それはもう最高に良い笑顔で、だ。

俺の笑顔を見た黒服達は、涙と鼻水でグチャグチャになった顔を恐怖で染め上げている。

そんな哀れ過ぎるコイツ等に、俺は――。

 

 

 

 

 

「さあ~て諸君?いっちょ人間の耐久性の限界に挑戦してみようじゃねぇか?」

 

 

 

 

 

一切の慈悲を持たねぇ。

 

 

 

 

 

全部が終わった、というか恭也さんからストップが掛かった頃には、顔面の膨れてねぇ黒服達は誰も居なかったとさ。

 

 

 

 

 



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こわがらなくてもいいじゃないか……私と友達にな(ry

本文書くうんぬんよりも、タイトル決める方が難かすぃ……


「それで、君の名前なんだが……城戸君で良かったかい?」

 

全ての黒服達を叩きのめして幾分かリラックス出来た俺に、恭也さんが遠慮がちにそう問いかけてきた。

思い返せばまだ俺達は自己紹介なんか全然してなかったっけ……。

したのはアリサとすずかだけだが、まだ2人からもちゃんと自己紹介されてねぇな。

 

「あー、はい。遅くなりましたけど、初めまして。城戸定明って言います。海鳴第一小学校の3年です」

 

「そうか……俺は高町恭也、大学1年だ。よろしくな、城戸君」

 

そう言って静かに微笑む恭也さん、いや高町さんの方が良いか。

しかしこうやって和やかに自己紹介してる俺達だが、周りの状況は悲惨なモンだ。

何せ黒服と自動人形達は一人残らず床に倒れてるし、皆して指が無かったり顔が風船並に膨れてたりと散々な光景。

自動人形に至ってはバラバラ状態で床に散乱してやがる。

全て俺がやったのは気にしないでいい事だ。

まぁ兎に角、一切合切の面倒事はクリアしたワケなんだが……。

 

「所で高町さん……このオッサンオバサン連中はどうするんスか?」

 

後残った問題と言えば、コイツ等をどうするかって事だ。

コイツ等も氷村の部下なワケだし、忍さん達が夜の一族って事は知ってる。

このまま警察に引き渡したりしたら、後々トラブルの元になるんじゃないのか?

 

「あぁ、彼等は――」

 

「警察に引き渡すわよ?」

 

と、俺の質問に答えようとした恭也さんの声に、月村忍さんが割り込んでくる。

 

「良いんスか?警察で色々喋られたらマズいんじゃ……」

 

月村さんの答えに疑問が残った俺は質問するが、月村さんは問題無いという顔でにこやかに笑っていた。

 

「大丈夫。私とさくらさんの魔眼で、夜の一族関連の事は忘れさせる事が出来るからね」

 

その言葉に、ピンク色の髪のスーツを着た女性が反応して俺に手を振ってくる。

って事は、あの人も夜の一族関係の人ってワケね。

 

「それに、例え警察で今回の事を話しても、コイツ等の言う事を信じるかしら?」

 

「そりゃあ……まぁ、見るからに堅気じゃ無いって顔ぶれだし、無いと思います」

 

月村さんの質問返しに、俺は有りの侭の予想を返した。

床に転がる黒服達は、見るからに怪しいってオーラを出してる。

そんな人間が「吸血鬼が居る」なんて言っても信じる要素皆無だもんなぁ。

 

「そーいう事。元々、こっちは誘拐された被害者なんだし問題無いわ。氷村は一族の中で判決を決めるから別の者に護送させるけど、他は警察行き。だからその辺りは安心して?君に危害が行かない様にちゃんと後始末するから」

 

「はぁ……まぁ、俺に被害がこなけりゃどーでも良いッス」

 

俺はそう言って頭をポリポリと搔きながら返事を返すが、そんな俺の目の前にさくらさんと呼ばれてた女性が近づいてくる。

 

「初めまして。私は綺堂さくらというの……今回は本当にごめんなさい。こっちの都合に巻き込んだ上に、愚兄が迷惑を掛けて……」

 

「は?……愚兄って誰の事ッスか?」

 

そう言って頭を下げる桜さんだが、彼女の言ってる意味が分からず俺は呆けた顔を晒してしまった。

さくらさんは俺の顔を見て何を言ってるか分からないってのを察してくれたのか、苦笑しながら言葉を続ける。

 

「氷村の事。……遊はね。私の義理の兄に当たるの」

 

「……マジ?」

 

思わず素が出てしまった俺に、さくらさんは困った顔で「マジよ」と返してくる。

え?って事は俺がボコボコにしたあの氷村とさくらさんが義理の兄妹?

そりゃまた……。

 

「……あのマンモーニ(ママッ子野郎)が義理でも兄とか……大変ッスね」

 

「……えぇ……ホントに」

 

心底同情の気持ちを乗せてさくらさんにそう返せば、返ってくる呟きは疲労困憊。

もうホントに疲れましたって思いがたっぷり籠められてた。

あんなのが義理でも兄だったら、俺なら絶縁したいトコだぜ。

 

「っていうか、アイツって綺堂さんにも俺の物になれ宣言してましたよね?義理とはいえ兄妹だってのに……」

 

「……正直、寒気しかしないわ」

 

うわぁ……心底残念な奴だな、アレ。

どんどんと氷村の事を掘り下げる話しになるが、さくらさんも嫌な思いが沢山ある様で、話す度に気分が沈んでいく。

気絶してて喋ってすらいないのに空気を悪くするとか、氷村の害悪度合いが良く判るよホント。

 

「あー……と、とにかく!!さくらさんと私で今からアイツ等の記憶を消すから、恭也はアリサちゃんとすずかに着いててあげて」

 

「あ、あぁ。分かった……しかし、この人数を2人で大丈夫か?」

 

さすがに何時までもこの空気を引っ張るのはマズイと思ったのか、月村さんが空気を変える様に大声を出して指示を下し、恭也さんが合いの手を入れる。

そして合いの手を入れつつも2人の心配をする恭也さん。

……ん?2人で大丈夫かってどういう事だ?

黒服達はもう再起不能に近い負傷だし、戦う処か起き上がるのも困難な筈……。

 

くいっくいっ

 

「ん?」

 

今の恭也さんの言葉の意味を考えていた俺の服が引っ張られたので、そっちに目を向けると、すずかが遠慮気味に俺の服を引っ張っていた。

 

「どうした月村?」

 

「え、えっと……あの、何かね?城戸君が、悩んでる様に見えたから……ち、違ってたらゴメンね?」

 

俺の顔色を伺う様にそう答えるすずかだが……それ当たってるよ。

 

「良く分かったな……いや、恭也さんの言ってた「大丈夫か?」の意味が分からなくてよ……」

 

「それは……た、多分、魔眼の事だと……思う……私達の魔眼は、使ったら体力が減るの」

 

「え?それってつまり、使用限界があるって事か?」

 

「う、うん」

 

なんてこった。つまり恭也さんの「大丈夫か?」って意味は、体力の消耗とかを考えての事だったのか……なら俺も手伝った方が良いだろう。

幸いそういった事にはおあつらえ向きのスタンドがあるしな。

 

「なるほど、助かった。サンキューな、月村」

 

「ううん……あ、あのね城戸君」

 

「うん?」

 

聞きたい事が聞けたので背を向けた俺だったが、すずかはまだ話したい事があるらしく、俺を後ろから呼び止めてくる。

その声に反応して振り返った俺だが、何故かすずかは指をグニグニさせながら言い淀んでる。

 

「あ、あの…………ありがとう……私の事、気味悪がないでくれて……人間だって言ってくれて……本当に、ありがとう」

 

彼女はそう言って、俺に頭を下げてくるが……別に感謝なんて必要ないだろ?

 

「いや、あのな月村?俺はあん時思った事を言っただけで、別に感謝なんていらねぇぞ?」

 

だが、俺の返しにすずかは首を横に振って否定の意を見せた。

そして、とても真っ直ぐな目で俺を見つめてくる。

 

「それでも、嬉しかった……この事を話したら、受け入れてくれる人はいるかもって、ずっと考えてたの……実際、アリサちゃんは私を受け入れてくれたよ……でも」

 

ゆっくりと、しかし確実に自分の言いたい事を伝えながら、すずかは胸の内を俺に吐露していく。

 

「それは、アリサちゃんが言ってくれた様に、私の事を『親友』として、見てくれてたから……ずっと一緒だったから、そう言ってくれたと思うの。勿論、それは凄く嬉しかった……でも、今日初めて会った人に、優しい人間だって……バケモノじゃ無いって言われて……本当に嬉しかった……だから、ありがとう」

 

まるで掛かっていた雲が消えた様な晴れやかな笑顔で、すずかは俺にお礼を述べ、また頭を下げてくる。

何か……ここで頷いておかねぇと、無限ループに入りそうだ。

 

「……まぁ、どう致しまして」

 

「うん」

 

とりあえず、月村に言葉を返して会話を終了させ、俺は月村さん達の話してる輪の方へと足を進める。

まだ時間は大丈夫だけど、速く家に帰りたいのでササッと終わらせよう。

 

「月村のお姉さん。俺も奴等の記憶を改竄すんの手伝いますわ」

 

「え?……そんな事も出来るの?」

 

「出来ますよ?特に何の制限も無いし、疲れる事も無いッス……それと、あの自動人形の残骸なんスけど……コレはどーするんで?」

 

月村さんからの信じられないって声を流しつつ、俺は地面に転がってる自動人形の残骸に目を向ける。

見た目は人間そっくりに作られたロボット。

そこまで機械に詳しいワケじゃねぇけど、さすがに俺でもコレはオーバーテクノロジーってヤツだと判るよ。

チャリオッツの剣先に伝わってくる感触は、最初はとても柔らかかったしな。

俺の質問を聞いた月村さんも同じ様に、自動人形の残骸に目を移す。

 

「さすがにコレは警察に出す訳にもいかないし、かといって放置も出来ない……持って帰るしか無いわね」

 

「ですがお嬢様、私達の乗ってきた車には、そんなスペースは空いてません」

 

「そうなのよねぇ……焦って小型バンで出たのが不味かったわ……一度車を変えに戻るしか……」

 

最初から全く喋らなかった薄紫のメイドさんの忠告に月村さんは困った顔をする。

どうやら持って帰るにしても一筋縄ではいかないらしいが……あっ、そうだ。

 

「ちょっと待って下さい。俺にちょいと名案があるんで……」

 

咄嗟に良い事を思いついたので、俺は自動人形の前に立ってスタンドを呼び出す。

見た目はセックス・ピストルズの様な小人型だが、体はずんぐりしてて腕が4本ある、少し変わった体の小型スタンド。

 

「まずは……ハーヴェスト、部屋に散らばった自動人形を拾い集めろ」

 

500体もの数からなる群生タイプのスタンド『ハーヴェスト』だ。

コイツ等に任せれば、どんな物でも収集が楽勝で出来る。

現に、チャリオッツの剣撃でバラバラになった自動人形達の腕や足、更には細かいボルトから髪の一本まで、全てが俺の目の前に山となって積まれていく。

 

「凄いな……城戸君の力は」

 

「えぇ、ここまでくるともう驚き様が無いわよ……後であの力の事も聞いておかないとね」

 

目の前で山となっていく自動人形達を見ながら何か呟いてる高町さんと月村さんの2人は、俺の力を観察する様にじっくりとした目付きだ。

一方で月村妹は独りでに集まる自動人形達のパーツを見ながら、目を輝かせてる。

メイドさんの1人もそうだ。

 

「ねぇ城戸。ちょっと良い?」

 

と、俺が自動人形集めに没頭していると今度は横から月村とは別の声が聞こえてきた。

誰かと思いそっちに目を向けると、アリサが腕を組んで俺を見ていた。

 

「何だ?えーっと……」

 

彼女に聞き返そうとしたが、俺はアリサの苗字が分からず言葉を止めてしまう。

その様子を見て察してくれたのか、アリサの方が先に口を開く。

 

「アリサよ。アリサ・バニングス……っていうか、私とすずかの名前は判るでしょ?私達名前で呼び合ってたんだし、別に名前で良いわよ?」

 

「確かに知っちゃいるが、初対面の相手を名前で呼ぶ気にゃなれねぇよ……んで、改めて何だ?バニングス」

 

ある程度仲の良いヤツじゃなきゃ俺は苗字で呼ぶタイプだからな。

だが、俺の答えに不服がある様で、バニングスは不満気な顔をしている。

別にどっちでも良いじゃねぇかそんなのは。

 

「名前で良いって言ってるのに……まぁ、良いわ。それより城戸……さっきは助けてくれて、ありがと」

 

バニングスはそう言って、月村と同じ様に頭を下げてくるが……多分、最初に黒服達に襲われそうになった時の事だろう。

 

「別に良いってそんなの……まぁ、あん時はさすがにビビッたぜ?相手は大の大人で銃持ってるのに、俄然食って掛かるんだもんな」

 

暗に無謀な事するなぁ、という意味を篭めて言ってやると、バニングスは少し居心地悪そうに唸って顔を逸らした。

まぁ自分でもかなり無謀だってのは判ってるんだろう。

 

「し、仕方無いじゃない。アイツ、すずかの事バケモノ呼ばわりするし、自分は選ばれた存在だ、みたいな中二病全開で、オマケにキザでナルシスト。あんな奴に自分の親友が馬鹿にされて黙ってられなかったのよ……無謀でも、言い返したかった……」

 

例え自分の身が危険に晒されようとも、親友を貶めた奴を許しちゃおけない。

だからこそ果敢に言い返したバニングス。

 

 

 

……なんつうか……。

 

 

 

「カッコイイじゃねぇか?」

 

「……は?」

 

悔しそうに俯いていたバニングスに、俺は笑いながらそう言ってやる。

すると、バニングスは鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔を見せてきた。

実際、俺はあん時、バニングスの事を尊敬したからな。

 

「例え無謀でも、キッチリ言い返してたあの啖呵……誰でも出来るもんじゃねぇよ。それこそ、俺みたいに変わった力があるワケでもねぇのに、怯まずにああやって言い返したバニングスの事。俺はスゲェって思ったぜ?」

 

「で、でも……アタシは結局、何も出来なかったわ」

 

「そりゃ、相手は大人。しかも銃を持ってるとくりゃ、誰もあの状況で言い返す事なんか出来ねえだろうけど……実際、バニングスは言い返した……あん時の氷村の呆然とした顔見てたら、間違いなく勝者はバニングスだよ……」

 

「城戸……アンタ……」

 

バニングスは呆けた顔つきを変え、俺の言葉を噛み締める様な表情を浮かべる。

俺だってスタンドが無きゃ、あんな事は出来たりしねぇ。

 

「正直なトコよ。俺みてーな力が無くても、大事な親友のために怒ったバニングスの真っ直ぐなトコ……俺はソコに痺れたし、憧れた」

 

「はっ!?い、いやちょっ!?」

 

と、俺が正直な思いを吐き出していたら、バニングスは顔色を変化させて頬に赤みを差した。

ん?ちっとドストレートに言い過ぎたか?

まぁでも、これが俺の正直な感想だしな。

 

「兎に角よ、バニングスは親友の、月村の為に自分の危険を顧みず啖呵を切ったんだ……ソコんトコは誇っとけ。じゃねぇと、それを凄いと思った俺が馬鹿みてぇだからよ」

 

「わ、わわ、分かったわよッ!?と、兎に角、助けてくれた事にはちゃんとお礼言ったからね!?(な、何よコイツ……い、いいいきなり、あ、憧れた、とか痺れた、なんて……馬鹿じゃないの)」

 

「おう……っと、もう集め終えたな」

 

最後は捲し立てる様に言葉を叩き付けてバニングスは月村の居る場所へ向かった。

そんな会話をしてる内に、ハーヴェストは自動人形のパーツを全て集め終えた様で、パーツの山の上に群がっている。

良し、そんじゃあ次は……。

 

「エニグマはチンケな能力って言われてるけどよぉ、使い様によっちゃスゲエ便利なんだよな」

 

彫像の様な形の人型スタンド、『エニグマ』を呼び出す。

エニグマはスタンド単体の殺傷能力は0だが、コイツの能力は便利過ぎる。

俺の指示に従って、エニグマが手の平を自動人形の山に触れると――。

 

バサッ!!

 

「「きゃッ!?」」

 

「ッ!?か、紙が現れた……?」

 

エニグマの能力が発動すると、俺の動きを興味津々に覗いていたバニングスと月村、高町さんが驚愕の表情を浮かべた。

バニングスと月村はどっちかと言えば悲鳴だったけどな。

そして、エニグマが生み出した紙が自動人形の山に覆い被さり――。

 

パタッ……パタッパタッ。

 

「紙が……勝手に……」

 

「わぁ……不思議ですぅ」

 

独りでに、紙が折り畳まれていく。

その光景に唖然とした声を挙げる薄紫色のメイドさん二名。

まぁそうなるのも仕方無いか。

そして、紙が段々小さく折り畳まれると、最後は手の平サイズまでなった。

もう地面には自動人形の影も形も無い。

これがエニグマの『物体を紙にファイルして保存できる』能力だ。

どんな物体でもその時の状態を維持して保存できる。

九州のとんこつラーメンだってホカホカのままで保存できるんだ。

一応人間をファイルする事も可能だが、その条件として『相手の恐怖のサイン』を見つけなければならない。

それを見つけた相手に対しては絶対無敵にして防御不能の攻撃を繰り出せるが、それが見つからない限り、生き物をファイルする事は不可能。

戦闘で使うなら相手を観察出来るタイプの人間じゃないと話しにならない。

 

「良し……ほい、この中に自動人形が全部保存されてますんで」

 

俺は出来上がった紙を月村さんに差し出す。

それを見た月村さんは恐る恐る紙を受け取ると、色んな角度から眺め始める。

 

「……重くも無い……見た目は只の紙ね……取り出す時はどうすれば良いの?」

 

「取り出す時は紙を広げて下さい。そしたら自動的に出て来ますんで……あっ、後、紙を破らない様に注意して下さいッス。破れたら中に保存した物が破壊されちゃうんで」

 

「わ、分かったわ。気を付ける」

 

俺の注意を聞いた月村さんは大事に紙をポケットに仕舞いこむ。

これで持って帰る自動人形の問題は片付いたから……次は、黒服達か。

そっちの問題も俺が全部やろうかと月村さん達に提案したが、さすがに全部任せっきりにするのは悪いと言われ、俺は10人程の人間の記憶を改竄する事となった。

尤も、俺が本当に記憶を改竄できるかはまだ半信半疑って事らしく、後で綺堂さんと月村さんが確認すると言っていた。

まぁ、信じてもらえなくても遣るだけだけどな。

俺からしたらコレ以上確実な手は無いって思ってるし。

 

「すまないな、城戸君……さすがにこればっかりは忍達の事もあるから、簡単に頷く訳にはいかなかったんだ」

 

とりあえず、俺のお目付け役として高町さんが動向する事になったので、俺達は一緒に行動している。

バニングスと月村はここに居て、もしもの事があったら危ないという事で2人のメイド……ノエルさんとファリンさんと共に高町さん達が乗ってきた車に向かっている。

多分、ノエルさんとファリンさんも自動人形ってヤツだから問題無いだろ。

一応エアロスミスのレーダーで付近を確認したけど、誰も居なかったし。

 

「いや、そんな謝らないで下さいよ。俺だって初対面の人に信じろって言われて信じられるワケ無いですし……」

 

「そう言ってもらえると、助かる……しかし、君はどうやって奴等の記憶を消すつもりなんだ?確認の為に教えてもらえないだろうか?」

 

俺が高町さんに謝らない様に頼みつつ話してれば、今度は俺が使う方法を教えて欲しいときた。

まぁ別に見られて困るモンじゃねぇか、この人達だって俺に話されたら困る秘密があるんだし。

 

「まぁ、それは見てもらった方が早いんで……」

 

そこで言葉を切った俺は指が無くなって痛みと出血で気絶してる黒服の1人に近づき、指を空中に素早く躍らせる。

本職のあの人程のスピードは出せねぇが、俺がなぞった線に沿って空中にゆっくりと『ハットを被った少年の絵』が浮かび上がり、その絵は力を持つ。

 

天国の扉(ヘブンズ・ドアー)

 

その少年の絵が輝きを増すと、目の前で気絶してる男の顔が半分に割れ、『漫画の様な見開きのページ』が出来上がった。

 

「なッ!?」

 

いきなり人間の顔が雑誌の様なページに変化したのがショックだったのか、高町さんは言葉を詰まらせた。

しかし、俺はそのリアクションに対応せず、屈みこんで男の顔に現れたページを読んでいく。

 

「え~っと……名前は山本浩二、年齢32歳で独身。住所は……このオッサン東京の人間なんだな……好きな食い物は肉じゃがで嫌いな女は香水の匂いがキツイ女」

 

「あ、相手のプロフィールを読めるのかッ!?しかもそこまで詳細にッ!?」

 

「えぇ、まぁ(ホントはプロフィールどころか相手の体験したものが全てだけど……)」

 

後ろから大きな声で聞いてくる高町さんに生返事を返しながら俺はオッサンのプロフィールを読み進める。

これぞ、相手の体験した事を絵や文章で読む事が出来るヘブンズ・ドアーの能力。

コレは相手の体験したり経験した出来事を全て見せてくれるので、この能力の前ではどんな些細な事でも隠し事は出来ない。

更にヘブンズ・ドアーの能力で本にした者に、俺は命令を書き込むことが出来る。

 

「えっと……夜の一族に関する全てを忘れる。アリサ・バニングスと城戸定明の事を全て忘れる。又、両名の家族、本人には攻撃出来ない……っと」

 

この命令は術者、つまり俺が死ぬか能力を解除しない限り有効になる。

しかも一度命令を書き込んで閉じれば、後は射程距離に関係なく有効のままだ。

月村、というか夜の一族の事全てを忘れさせた上で、俺とバニングス、そして俺達の家族にも攻撃出来ないと書いておけば、もうコイツは怖くない。

確か岸辺露伴はこの命令を『安全装置(セイフティーロック)』って呼んでたな。

結構シックリくる言い方だぜ。

書き込む事を全て書き込み終えたので、俺は本を閉じる様にページを元に戻す。

すると、まるで何事も無かったかの様にページが消え、元通りの汚ねえオッサンの寝顔をドアップで見る羽目になった。

 

「うっ……高町さん、次から俺の代わりに……」

 

「遠慮する」

 

ですよねー。

 

そんな風に後味の悪い事を数十回続けて、俺は高町さんと月村さん、綺堂さんに最後の確認を任せて車のある場所まで行く様に言われた。

ホントなら一人でも帰れるんだが、今回のお礼の一環として家まで乗せてくれるそうだ。

まぁその帰り際に、地面にボロ雑巾になって倒れてた氷村を発見したので、ヘブンズ・ドアーで色々と書き込んでやった。

内容は『一生女性にモテない』『今後一切魔眼が使えなくなる』

『今までの魔眼の効力が切れる』『身体能力8割封印』ぐらいだけどな?

そんで全部片付いてから車にの出てもらってる最中、帰りのバス代が浮くんだし、ラッキー程度に考えてお言葉に甘えたんだが…。

 

「……」

 

「「……」」

 

現在黒服達全員の記憶処理が終わって警察に通報した後なんだが、何か空気がヤバイ。

何故か、帰りの道中車の中で俺を挟んで左右に座る月村とバニングスが何かを言いたそうにチラチラと俺の事を伺ってくる。

だからソッチに視線を向けてみるんだが、何故かドチラも何も言わない。

そんな沈黙が車に乗ってからずっと続いてる。

正直、月村さんの提案に後悔したよ俺。

まだこれなら大人しくバス代払ってバスに乗っときゃ良かったぜ。

 

「ねぇ城戸君?ちょっといいかしら?」

 

と、俺がこの気まずい空気に困っている所で、前の座席に座る月村さんから声が掛けられた。

 

「何ですか?」

 

「あのね。本当は私達の家で夜の一族に関する決まり事を話そうと思ってたのよ」

 

ん?決まり事?

 

「そんなモンがあるんスか?」

 

「ええ。私達一族の秘密を知ってしまった人には、私達と契約を交わして共に歩むか、私達の事を全て忘れるか、その選択をしてもらう……そういう決まり事があるの」

 

「お、お姉ちゃんッ!?」

 

月村さんの話を静かに聞いていた俺だったが、途中で隣の月村が驚きの表情でお姉さんに声を投げ掛ける。

 

「ごめんね、すずか……でも、これは絶対に避けては通れない事なの。確かに口約束だけで上手くいくならそれに越した事は無いけど……まだ私達は、城戸君とは初対面だし、互いにそこまでの信用があるワケじゃないわ……だから、城戸君。明日迎えを寄越すから私達の屋敷まで来て、そこで私達の味方になるか全てを忘れるかを決断してちょうだい」

 

「で、でも、城戸君は私とアリサちゃんを助けてくれたんだよッ!?わ、私の事もバケモノじゃ無いって……ッ!!優しい人間だって言ってくれたんだよッ!?それなのにお姉ちゃんは城戸君を信用してないのッ!!」

 

「そ、そうですよ忍さんッ!!私達は城戸のお陰でこうして無事でいますッ!!」

 

「えぇ、そうね。……でもね、それは状況の所為というのもあると思うの。あれだけの力を持ってるのだから、1人で逃げ出す事も出来たかもしれない……でも、もし城戸君がすずか達を助けたのが、『見捨てる罪悪感』が嫌だったからという理由だったら?後で2人の家にお礼を貰いたいが為だったら?私達が城戸君を車で送るのも、城戸君を途中でどうにかしようとしてるとしたら?……その可能性がある内は、私達は互いに信頼なんて出来ないでしょ?」

 

「お姉ちゃんッ!!!」

 

ハッキリ言っちまえば、俺に対してかなり失礼な物言いに、月村は怒りの篭った声を大にして姉を非難する。

確かに、ここまで言われたらキレるのが当たり前だ。

 

 

 

――でも、俺はこの場で反論する気は無え。

 

 

 

確かに、俺だってまだ月村さん達を完全に信用したワケじゃねぇ。

俺が起こしたスタンドによる超常現象の数々。

それを月村さん達が秘密にしてくれるか、俺はまだ分からねぇからだ。

俺なら最悪、ヘブンズ・ドアーで全員の記憶を書き換えちまえばそれで終わりだ。

でも、月村さん達は今、魔眼を使いすぎて疲労している。

記憶を消す事が出来る力が無いってのが、余計に不安になるんだろう。

だからこそ、確実に信用できるか見極める為に。明日屋敷に来いって言ったんだ。

俺を家に送るって申し出も、俺の家を知る為だろう。

手段を選ばなきゃ、俺をそのまま屋敷に連れて行く事も出来た筈なのに、態々家まで送って、明日まで考える時間をくれるとは……充分、俺の事考えてくれてる。

 

「……優しいんスね。月村さんは」

 

「……え?」

 

「な、何言ってるのよ?アンタ?……」

 

俺の零した呟きに、隣に座ってる2人は戸惑う。

まぁその戸惑いも尤もだけどな。

さっき考えた仮説だって、俺がそうだったら良いなぁ程度のモンだし。

アトゥムのスタンド能力を使って質問し、その答えを聞けばある程度判るとは思うけど……ここまで丁寧な対応されて心読むってのは駄目だろ?

それじゃ明らかな裏切りだ。

 

「……つ、着きました」

 

考えている間に車は大分進んでいた様で、何時の間にか車の窓越しに俺の家が見えている。

そこで又、車内は重苦しい雰囲気に包まれるが、とりあえず俺は促されるまま車から降りようとした所で、月村さんが俺に顔を合わせてきた。

 

「……明日、学校が終わる時間にノエルに迎えに行かせるから……良く考えてね、城戸君……それと今日は本当にありがとう……すずかと、アリサちゃんの事を守ってくれて……感謝するわ」

 

「いえ、別に良いッス……後――」

 

俺は車のドアを閉めようとするファリンさんの手を止め――。

 

 

 

 

 

「俺、今日も明日も……返事、変わらないッスよ?」

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

「……」

 

俺が言い放った言葉に月村とバニングスは目を見開き、月村のお姉さんはその言葉の真意を図る様にジッと見つめてくる。

 

「正直、最初は心底面倒くせえって思ってましたけど……」

 

そこで一度言葉を切って、チラッとだけバニングス達を視線に納めてから、俺は再びお姉さんに目を向け口を開く。

 

「月村が優しい奴って思ったのはウソじゃねぇし、バニングスもスゲエ奴だって思ったのもウソじゃありません」

 

「「……」」

 

「忘れるって、それってコイツ等に感じた事もそっくりそのまま忘れるって事でしょ?俺、そういうの嫌いだし――」

 

そこで一度言葉を切り、しっかりと月村さんの目を見詰め――。

 

「自分の言葉曲げんのも嫌なんで」

 

「……」

 

只静かに俺を見ている月村さんに言いたい事をちゃんと言ってスッキリしたぜ。

暫くそのまま無言の静寂が続くが――。

 

「……そっか…………分かったわ。君を信じる」

 

その静寂を破ったのは、楽しそうな笑顔を浮かべる月村さんだった。

兎に角、俺達の気まずい雰囲気が解消されたのが嬉しかったのか、バニングスと月村がホッと大きく生きを吐いている。

そんな2人の様子を月村のお姉さんは楽しげに見詰めてから、何やら悪戯気味な笑顔を浮かべて再度俺に視線を向けてきた。

 

「じゃあ、明日は家に来ないって事で良いのかしら?」

 

「「ッ!?」」

 

「あー、そうっすねぇ……特に用事も無「「駄目ッ!!!」」い?」

 

月村さんに明日の予定をキャンセルするか聞かれてそれにイエスと答えようとしたら、バニングスと月村に大声で拒否された。

え?っていうか何が駄目なんだよ?

 

「せ、折角、と、友達になったんだから、遊びに来なさいよッ!!すずかの家って豪邸だし……テ、テレビゲームもいっぱいあるわよッ!?」

 

「そ、そうだねッ!?折角友達になったんだから、あ、明日は是非遊びに来て欲しいかなッ!!うんッ!!猫とかも沢山居て和むし、いっぱいおもてなしするよ、城戸君ッ!!」

 

「え?……はぁ……」

 

あれ?何時の間にかダチ認定されてんの俺?

 

「そ、それにねッ!?城戸君のあの力の事とか教えて欲しいなぁーって……あっ!?も、勿論無理にとは言わないよッ!?で、でも私の秘密も知っちゃったんだし……駄目、かな?」

 

俺が煮え切らない返事を返すと尚も食い下がって俺を誘うバニングスと月村。

お前等ひょっとして友達居ないの?

 

「そ、そうねッ!!あの不思議な力の事も聞かせなさいよッ!!他のどんな事が出来る~とか色々とッ!!」

 

ってこんな往来で大きな声でンな事言うなっての。

そこからマシンガンの如く俺に次々と誘いの言葉を投げ掛ける2人。

そんな2人を見てニヤニヤする月村さんと綺堂さん、慌てるファリンさんに静かな高町さんとノエルさん。

何だこのカオス?

しかしこのまま時間が過ぎるのもマズイ。

段々と声の大きさに比例して、近所のマダム達がヒソヒソ話しを始めやがった。

あぁ~もう面倒くせえ。

 

「はぁ……わぁったよ。明日、月村ん家に「すずか」……あ?」

 

兎に角この場を離れたかったので誘いにOKを返そうとした俺の言葉に、月村が声を被せてくる。

彼女の表情はかなり真剣というか、必死だった。

つうかいきなり何?

 

「と、友達になったのに苗字なんて余所余所しいよ。だ、だから、私の事はすずかって呼んで……」

 

「ア、アタシの事も当然ッ!!アリサって呼びなさいッ!!良いわねッ!?」

 

「……分かった。俺ん事も好きに呼べ。城戸でも定明でも『ジョジョ』でも良い」

 

「?……『ジョジョ』って?」

 

「そういえば、あの時も言ってたけど、何でさ……さ、定明のアダ名がジョジョなのよ?普通アダ名って、名前か苗字を少し変えたりするモノでしょ?」

 

俺の出した名前の例えに、2人は首を傾げながら聞き返してくる。

ってそういや、俺の名前は知ってても、漢字は知らねぇよな。

 

「あー、俺の名前だけどよ……まず城戸って字はお城の城に戸口の戸。定明は定めるに明るいって書く」

 

「えっと……お城の城に戸口の戸。定め……あっ!?読み方ッ!?」

 

「城戸の城と定明の定の音読みが、どっちもジョウなんだよねッ!?」

 

Exactly(その通り)。そのジョウからジョを2つ取って――」

 

 

 

「「ジョジョッ!!」」

 

 

 

2人揃って綺麗にハモりながら呼んでくれた事に、俺は笑顔を浮かべる。

 

「そ。このアダ名は結構好きなんだ……また明日な――『すずか』『アリサ』」

 

「「ッ!?」」

 

俺は帰り際に初めて2人の名前を呼び、返事も聞かずに家の中へと入っていく。

さてさて、明日はアイツ等の家に遊びに行くのか……まぁ、なるようになんだろ。

しかしスタンドの事を話せねぇ……どうしよ?

さすがに全部のスタンド能力を明かす訳にもいかねーし。

ん~……まぁ明日考えるか。

 

兎に角、お楽しみのCD聞きますか。

エニグマで保存してたから壊れたりとかは問題ないし。

 

 

 

 

 

 




ちくしょおぉおおおおッ!!


難しすぎて纏めきれんッ!!


早くも挫折しそうだぜッ!!

どの辺がアウトなんだッ!?

ね、おせーて!!おせーてくれよぉ!!


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コイツ等にスタンドを使わせてやりたいんですが、かまいませ(ry

賛否両論あるだろーけどやってみよー。


逝ってみよー。


まぁこれは無しだろって言われまくったらこの章消して書き直すだけですけどね。


「じゃあなージョジョ!!また明日ー!!」

 

「おーう。また明日ー」

 

ダチとの挨拶を交わして別れた俺は、そのまま真っ直ぐに家を目指して歩く。

今日はノエルさんが迎えに来るらしいから、寄り道は出来ない。

色々と説明もしなくちゃなんねーし……スタンドの事をな。

 

「つっても全部話せるワケねぇし……昨日使ったスタンドの一部だけで良いか」

 

別に俺の全てを話せって言われてるんじゃねぇんだ。

簡単に省略して話そう。

今日すずかの家で話す内容を軽く考えながら家の近くの曲がり角を曲がり――。

 

「フフ、旦那様はお上手な方ですね」

 

「いやいや、ノエルさんも人を褒めるのがお上手ですよ。さすがメイドさんをやってるだけの事はありますねぇ」

 

「ありがとうございます」

 

玄関の前で笑って談笑している父とノエルさんを見て、電柱に頭をぶつけた。

何鼻の下伸ばしてんだよ父ちゃんぇ……。

見たくもなかった親父のバカ面を見て頭を抱えてしまう。

 

「ん?おお、お帰り定明」

 

「あっ、定明様。お帰りなさいませ、お迎えにあがりました」

 

そんな俺を見てのうのうとお帰りって声を掛けてくる親父とノエルさん。

もう何なんだよホント。

 

「父ちゃん……帰ったら母ちゃんに言いつけとくから」

 

「え!?ちょ、ちょっと待ってくれ定明!!別に父ちゃんは下心なんて……!?」

 

満載だったよな?どう見ても?

焦って弁解の言葉を続ける父ちゃんを無視りつつ、俺はノエルさんに頭を下げる。

 

「ども。ちょっと着替えてきますんで、もう少し待ってて下さい」

 

「はい。急ぎではありませんので、お待ちしてます」

 

そう言ってくれたノエルさんに再度頭を下げて、父ちゃんの横を抜けて家に入る。

精々母ちゃんに絞られてくれ、父ちゃん。

そして部屋に戻ってランドセルを置き、服を着替えて玄関に向かう。

玄関に行くと消沈した父ちゃんとピシっと立つノエルさんが出迎えてくれた。

 

「すいません。それじゃあお願いします」

 

「はい。それでは旦那様。定明様をお借りしますが、キチンと責任を持ってお送りしますので」

 

ノエルさんがそう言うと、父ちゃんは薄い笑顔で俺達に向き直る。

母ちゃん怖えもんな……でもチクる。

 

「はい。お願いします……楽しんでおいで。定明」

 

「あいよー」

 

やや疲れた感じの声で送り出してくれた父ちゃんに生返事を返しつつ、俺はノエルさんの乗ってきたセダンに乗り込む。

しっかし運転席に座るのがメイド服を着込んだお姉さんって……コスプレと間違われないのだろうか?

 

「ご心配ありません。近所の方々は受け入れてくださってますから」

 

ナチュラルに心読まれたんスけど。

俺ってもしや分かりやすい顔してるのか?

そんな風に考えていると、運転席に座るノエルさんは苦笑する。

 

「大体横に乗られる方は、同じ事を考えていらっしゃいますので」

 

さいですか。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

振動に揺られて走る事約40分。

海鳴市でもそうは無いって言われてる高級住宅街の坂道を登り、辺りに民家が見え無くなってきた辺りで、車は一度停車した。

 

「定明様。到着しました」

 

「……おぉ~」

 

目の前に案内された門の位置から、俺は感嘆の声を出してしまう。

ノエルさんに案内されて着いた月村家は、滅茶苦茶でかい豪邸だった。

その大きさたるや、海鳴でも一、二を争うんじゃねぇかと思う。

俺の住んでる街じゃこんな巨大な庭付きの豪邸は見たことねぇよ。

そんな俺の様子を見ながら、ノエルさんは上品に微笑んでいる。

 

「改めまして、月村家へようこそお越し下さいました。挨拶が遅れましたが、私は月村家でメイド長をさせて頂いてます、ノエル・K・エーアリヒカイトと申します。以後、よろしくお願い致します」

 

「あっ、これはどうもご丁寧に……」

 

今更ながら自己紹介をして優雅に一礼してくれたノエルさんに伴い、俺もお辞儀して返す。

一礼していたノエルさんに視線を戻すと、ノエルさんは薄く微笑みを浮かべて笑っている。

この人と、後昨日のファリンさんも自動人形ってのなんだよな……でも、昨日戦った奴等とか、あのイレインってのと比べるとかなり感情があるっていうか……普通に人間と大差ねぇや。

 

「さぁ、皆様がお待ちですので、ご案内させていただきます」

 

「はい。お願いします」

 

何時までも玄関口でこんな事してる訳にもいかないので、俺はノエルさんの後ろを着いて行き、皆が集まってる部屋まで案内してもらう。

そして、玄関から歩くこと5分くらいか?

大体そのぐらいの時間で、ノエルさんは一つの扉の前に立ち止まる。

 

「着きました。こちらになります」

 

ノエルさんは俺に振り返りながらそう言うと、部屋の扉を4回ノックする。

 

「忍お嬢様、定明様をお連れしました」

 

『あっ、入っても大丈夫よ』

 

「では、失礼します」

 

ノエルさんの声に扉の向こうから忍さんが言葉を返してきたので、ノエルさんはゆっくりと扉を開く。

そして、開け放った扉の向こうに広がる空間には、昨日の面子が集まっていた。

窓越しのソファーに座っている高町さん、綺堂さん、月村さん。

中央の椅子に座っているアリサとすずか、すずかの傍で立っているファリンさん。

俺とファリンさんが部屋に入ったのを見計らって、月村さんが笑顔を見せながら口を開く。

 

「こんにちは、定明君。月村家へようこそ」

 

「は、はぁ。どうもッス……しっかし、こりゃスゲエな……」

 

笑顔でそう言ってくれる月村さんだが、俺は少しこの部屋の豪華さに驚いててそれどころじゃなかった。

何せ天井から壁全面がガラスで作られた部屋だったからな。

どれだけ豪華な部屋だよ?

そんな俺の驚く様を見れて嬉しいのか、月村さんはクスクスと笑う。

 

「フフ、凄いでしょ?ここは我が家で一番お気に入りの場所なの」

 

月村さんが自慢するのも頷けるな……日当たりも抜群に良いし、庭も綺麗だ。

でもあんまりキョロキョロすんのも田舎者くせぇから、俺は視線を部屋から正面に移し、昨日出来た友達の2人に視線を送る。

 

「い、いらっしゃい。定明君」

 

「お、遅かったじゃないの。もうちょっと早く来なさいよ」

 

新しいダチ、アリサ、そしてすずかはそれぞれ笑顔だったり不満顔だが、二人共俺を迎えてくれた。

まぁ誘ってきたのは向こうだし、歓迎されなかったらどうよ?って話しだが。

アリサとすずかは、昨日とは違う服装で椅子に座っている。

すずかは白を基調にしたワンピース、アリサは赤と白のコントラストのシャツとスカートという出で立ちだ。

昨日は二人共同じ白い服だったけど、多分アレは制服なんだろう。

何処の学校かは知らねえがな。

 

「これでも学校終わって直ぐ来たんだがなぁ……まぁ良いか。何にしても昨日振り、お二人さん」

 

挨拶もそこそこに、月村さんから着席を促されて席に着くと、月村さんはさっきまでの笑顔を消して真剣な表情を浮かべ、俺の目の前の席に移動してきた。

 

「さて……それじゃあ定明君。アリサちゃんからは昨日の内に聞いたから、後は君だけなんだけど……面倒な事は先に片付けちゃいましょうか?」

 

その一言を皮切りに、部屋の空気が少し緊張するが、俺は特に表情を変えない。

答えは昨日言った通りに変わってねぇからな。

 

「そうっすね。面倒くせー事はササッと終わらせましょう」

 

「えぇ……それじゃあ改めて、城戸定明君。君は私達夜の一族の盟友として、生涯私達の秘密を守り切る事を誓えますか?」

 

月村さんは真剣な表情のままに手を胸の位置に当てて口を開いた。

さっきまでとは全然違う、格式に則った言い回しを聞きながら、俺も月村さんに習う形で、手を自分の胸に当てる。

 

「はい……俺、城戸定明は、貴方達の秘密を決して誰にも語らず、墓まで持っていく事をココに誓います」

 

「確かに聞き届けました。現月村家、並びに夜の一族当主として、貴方の誓いの言葉を信じます…………はい、これでお終い」

 

誓いの宣誓が終わった瞬間、さっきまでの真剣さを無かったかの様に消してみせる月村さん。

その変わり身の速さに少しばかり苦笑した俺であった。

そこからは一気に和やかなムードが部屋を包み、俺は月村家でのお茶会に参戦。

振る舞われた紅茶とクッキーに舌鼓を打ちながら、アリサ達と色んな話をした。

 

「昨日のって学校の制服だよな?お前等何処の学校のなんだ?」

 

「私とアリサちゃんは、市立聖祥大学付属小学校に通ってるの」

 

「聖祥……あのお坊ちゃん校かよ?随分良い学校行ってるんだな」

 

「まぁ、アタシもすずかも頭良いし、家もお金持ちだからそーゆう所に行かなきゃいけないだけなんだけどね。最近授業が面白くなくて詰まんないわ」

 

「アハハ……アリサちゃんは何時もテストで満点だからね」

 

「少なくとも小学生の言う台詞じゃねぇよ」

 

 

 

アリサとすずかの通ってる学校の話だったり……。

 

 

 

「そーいうアンタの学校は?何処に行ってるの?」

 

「俺は海鳴第一小学校。極めて普通の公立小学校だ」

 

「ふーん?そっちは英語とか物理の授業は何処まで進んでるのよ?」

 

「ウチは極めて普通だっつうに。小学生で英語はやんねぇし、物理は理科って言うだろ」

 

「あっ、そうなんだ?私ずっと物理だけかと思ってた」

 

「少なくとも、オメー等よりかは頭悪いのは確かだ」

 

「情けないわね……じ、じゃあ、アタシが勉強見てあげようか?」

 

「俺勉強嫌いだからパス」

 

「ぐぬぬ……!?」

 

 

 

俺の学校の事を話し……。

 

 

 

「翠屋?……そういえば母ちゃんが見てた雑誌にそんな店が載ってた様な……」

 

「定明君は行った事無いの?」

 

「無えなぁ……少なくとも小学生が隣町からガン首揃えて行く所じゃ無えだろ?」

 

「確かにそうだね。でも、美味しいから絶対に一回は行ってみた方が良いよ?」

 

「あの味を知らないなんて、定明。アンタ人生の半分は損してるわね」

 

「半分とは随分デケェなおい?」

 

俺の言葉に苦笑しながら、すずかは俺に翠屋って所を薦めてくる。

まぁブルジョワなすずかが美味しいっていうならウメエんだろう。

普段から良いモン食ってそうだし。

 

「ハハッ、実はその翠屋なんだが……俺の実家が経営してるんだ」

 

「え?そうなんスか?」

 

ガラスの壁越しのソファーに座っていた恭也さん(苗字じゃなくて良いと言われた)が少し照れ気味に声を掛けてきたが、俺はその言葉に少し驚く。

 

「あぁ、俺も甘い物は苦手だが、ウチのシュークリームは身内贔屓無しでも美味いと思う。良かったら一度食べに来てくれ。俺も稀にウェイターをしているから、来てくれたらサービスしよう」

 

「ちなみに、私も恭也と一緒にお手伝いしてるわよ?」

 

更に高町さんの言葉に続けて忍さん(そう呼べと言われた)が楽しそうに会話に混ざってきた。

ん?何かいやに恭也さんと一緒ってトコが強調されてた様な……?

ちょいと違和感を感じて、2人を良く見ると、二人共嬉しそうに微笑みを浮かべてる。

その光景を見て、あぁなるほど、と思った。

 

「恋人だったんスね」

 

「あ……あぁ。まぁ、な」

 

「正解。でも、私達の事見てさっきまで気付かなかったの?ちょっとラブラブ度合いが足りなかったかしら?」

 

「お、おい忍?」

 

俺の聞き返しに恭也さんは恥ずかしそうに、忍さんは嬉しそうに答えてくる。

何ともまぁ、お似合いのカップルだ事で。

そんな2人を視線から外しつつ、2人の様子を見てちょっとばかし頬を染めてるアリサ達に向き直った。

 

「んで?その翠屋の娘っ子が、すずか達の親友なんだろ?って事は……」

 

「うん。定明君の考えてる通り、恭也さんの妹だよ」

 

どうにもすずか達の交友関係は色々と絡み合ってる様だ。

聞く所によると、忍さんと恭也さんの妹としてじゃなく、本当に知らない所で親友になり、恭也さん達は恋人になったらしい。

変な偶然もあるモンだな。

 

「名前はなのはっていうんだけど……ちょっとおっちょこちょいな所があって、何も無い所で直ぐに転んで怪我するし、体育は言うまでもなくテンで駄目。現国とかの文系も壊滅的って感じだわ」

 

「何だろう。アリサの話し聞いたらちょっとじゃ済まねーほどにおっちょこちょいな奴としか思えねぇんだけど?ソイツ勉強で分からねぇ問題になったら目をグルグル回して唸ったりしてねぇだろーな?」

 

「ア、アハハ……え、えーっと……た、偶に?」

 

してんのかい。

 

すずかの気を使ったほぼ同意するかの様な誤魔化しの言葉聞いたら、何故か頭の片隅に「にゃぁあッ!?」とかいう叫び声が聞こえた気がしたが、多分幻聴だろう。

まだ見ぬなのはという少女は、色んな意味で愉快そうな奴だな。

色んな意味で見てみてーかも。

 

「でもまぁ……」

 

そう思っていたら、どうにも話は終わっていないらしく、アリサは顔を赤くしながら少しづつ語りだす。

 

「そんだけおっちょこちょいでも……人を思いやる気持ちは人一倍強いし、心はとっても真っ直ぐで、凄く良い子なのよ……だからこそ、アタシとすずかはあの子の親友なんだけどね」

 

どうにもストレートに褒めるのが恥ずかしかったのか、アリサは恥ずかしさを誤魔化す様にぷいっと顔を背けてしまう。

隣に居るすずかはそんなアリサを楽しそうにニコニコして見てた。

 

「そぉか……まっ。何時か機会があったら行ってみる。その翠屋って店に」

 

「あっ、じゃあその時はさ。皆で行こうよ?なのはちゃんにも定明君の事紹介したいし。ね、アリサちゃん?」

 

「確かにそうね。なのはも何時の間にか相馬と知り合ってアタシ達に紹介してきたんだし、次はアタシ達の番だわ」

 

「ん?誰だ?そのソウマってのは?お前等の親友その2か?」

 

何故か勝手に予定が組まれてるのはこの際仕方無いとして、新たに上がった名前の人物が誰なのか分からず、俺は口を挟んだ。

 

「えっとね。北宮相馬君って子なんだけど、最近知り合った子なんだ」

 

「最近?って事は、その恭也さんの妹が知り合ったって事か?」

 

「そうなんだけど、なのはの話しじゃ5歳くらいの時に会ってるらしくてね。最近までクラスが違ったから、お互いに聖祥に居るのは知らなかったみたいよ?」

 

「何だその少女漫画チックな展開は?運命の出会いか何かか?」

 

余りにも出来過ぎた展開に、はからずもケチを付けてしまう俺であったが、アリサやすずかはそんな俺に苦笑だったりやれやれって顔を見せてくる。

 

「(少女漫画チックな展開なら定明君だって……)」

 

「(アンタだって充分にやってるじゃないの)」

 

すずか達が何を思ってるかは知らねえが、その相馬って奴は随分と面白い出会いしてんのな。

感動的な再会ってヤツなのか?

 

「まぁ兎に角、相馬は良いヤツよ?人の為に進んで嫌な役回りでもこなすし……」

 

「なのはちゃんなんか、明らかに相馬君を見る目が違うもんね?」

 

「アレは完璧に惚れてるわね。なのはに相馬の事聞いたら、3時間は序の口でスラスラと語られたわ」

 

「惚れてるな」

 

「惚れてるね」

 

人の事で3時間を序の口ってんだったら、間違いなく惚れてんだろう。

 

「む、むむむ……なのはに男が……い、いや!?まだ早い!!なのはには早すぎる!!せめて高校……いや社会人になってから健全な付き合いをだな……」

 

何を言ってらっしゃるんでしょうこの御人は?

そのなのはって子の恋話になった途端、恭也さんが豹変した。

しかも社会人になってから健全なお付き合いって……過保護過ぎだろ?

 

「……まぁ兎に角、その相馬って奴は良い奴って事だな?」

 

「う、うん。人当たりも良いし、何て言うのかな……落ち着いてるよね」

 

「そ、そうね。周りの男子より静かっていうか、大人びてる感じがするわ」

 

暴走し始めた恭也さんを放置して話を進めると、アリサ達は少し引き気味ながらも俺の話に乗ってきた。

しっかし、大人びてるねぇ……もしかして転生者じゃ無ぇだろーな?

2人から聞いた相馬って奴の雰囲気の事で俺はソイツが転生者じゃないかと疑うが、直ぐにその考えを改める。

只落ち着いてるってだけで転生者と決め付けるにゃ早計過ぎんだろ。

アリサやすずかだって同年代に比べたら早熟なんだしな。

 

「何か話しだけ聞いてたらよ?聖祥って結構良い奴が多いんだな……俺はてっきり、嫌味ったらしかったり、キザな奴等の集まりかと思ってたぜ」

 

「「……」」

 

「……ん?どしたお前等?」

 

2人の話を聞いた素直な感想を話した所、何故か2人は揃って思い出したくないモノを思い出した様な顔をする。

あれ?俺もしかして何かいらん事言ったか?

しかも嫌な顔をしたのはアリサ達だけではなく、この部屋に居る面子の中で恭也さんと忍さん、ファリンさんにノエルさんまでもが、だ。

 

「?……どうかしたの皆?」

 

ここで俺と同じく皆の変化の意味が理解出来なかったさくらさん(名前で良いといわれ以下略)が、俺の代わりに皆に訪ねてくれた。

 

「……1人ね、とても困った子が居るんです。聖祥に」

 

さくらさんに問われた皆を代表して忍さんが口を開き、ポツポツと語りだす。

って困った子?何だそりゃ?

 

「……嫌いな奴でも居んのかよ?」

 

恐る恐るそう問いかけてみれば、俺の声を聞いたアリサがクワッと目尻を釣り上げて俺を睨みつけてくる。

何で俺睨まれてんの?

 

「嫌いなんてモンじゃないわよッ!?もう死んで欲しいって願ってやまないぐらいの存在よ、あんな奴ッ!!」

 

俺にキレるなよ。

 

「……小学校に上がった辺りからね?私とアリサちゃん、それからなのはちゃんに付き纏ってくる子が居るの……何時も、皆の前で私達の事を『俺の嫁』って言って……凄く迷惑してるの」

 

エマージェンシー、この手の事をほざく輩を示す言葉に心当たりがあり過ぎる。

アリサに続いて口を開いたすずかの言葉に、俺の中にある警報が激しく鳴る。

 

「誰があんな奴の嫁なのよッ!!私がどれだけ違うって言っても『ツンデレだなぁアリサは』とか馴れ馴れしく名前を呼んでくるのよッ!?私はツンデレでも無いし、名前で呼ぶことを許した覚えも無いわよッ!!終いには家まで勝手に着いて来るし、もう最悪ッ!!」

 

「それに、お姉ちゃんも恭也さんが居るのに口説いてたし、ノエルとファリンも迷惑してるんだ……なのはちゃんのお姉さんにも言い寄ってたし……」

 

「ウチのママにもよッ!!それとなのはのお母さんの桃子さんにまでッ!!アイツほんと何なのッ!!気持ち悪くてもう嫌ッ!!」

 

デンジャー、デンジャー。もうほぼ90%は確定だろソイツ。

間違いなく『転生オリ主』って類の人間じゃねぇか。

神様に転生特典を貰って、自分はこの世界の中心だと疑わない種類の人間。

自分は主人公だから原作ヒロインは全員自分に惚れると思い込んでるタイプ。

ってオイオイ……アリサ達に言い寄ってるって事は、アリサ達はこの世界の中心人物、それかそれに近い立ち位置の人間って事じゃねぇか。

なんてこった。完璧に原作に足踏み入れてるよ俺。

 

「……ちなみに、ソイツの容姿は?」

 

俺がそう質問すると、アリサは不機嫌真っ只中って視線を俺に送ってくる。

 

「銀髪で、赤と緑のオッドアイ。笑顔が気持ち悪い」

 

「分かった。把握」

 

確定しちゃったよ畜生。

ま、まぁコイツ等の母親とかに言い寄ってる時点で普通じゃねぇ。

年齢差とか気にしねぇのかソイツは?

それとも只単に手に入れておきたいってだけか?

 

「信じられないくらい気持ち悪いわよ、あの神無月皇帝(しいざあ)って馬鹿だけは聖祥ッ!!いや地球一の有害物質ねッ!!」

 

DQNネーム丸出しだな。

やがて言いたい事を言い切ったか、それともただ疲れたのか、アリサはぜーぜーと息を吐いて不機嫌な様子で椅子に座り直す。

 

「……そこまで言う奴が居るってのに、良く我慢して学校行くな。お前等?」

 

普通なら登校拒否しても良いレベルだぞ?

 

「うん。神無月君に会うのは嫌だけど……なのはちゃん1人じゃ可哀想だもん」

 

「それで学校休んでたら、パパとママに迷惑掛かるし……まぁ、相馬が来てくれてからはまだマシになったけど」

 

「ん?相馬って奴が追っ払ってくれてんのか?そのDQNネーム君を?」

 

「そうよ。そのお陰でまだ学校には行けるかなって感じ……そうよ、定明が居るじゃないッ!!ねぇ、定明ッ!!ちょっとお願いしたい事が……」

 

「却下」

 

「何でよッ!?話しくらい聞きなさいッ!!」

 

何か話の途中でアリサが俺の名前を出しながら生き生きとした表情で声を掛けてくるが、嫌な予感がしたので即却下。

するとすかさずテーブルを叩いて目尻を吊り上げるアリサ。

面倒事は後免被りてぇんだけど……はぁ。

 

「お前、絶対俺にそのDQNネーム君をブッ飛ばしてこいって言うつもりだろ?」

 

「判ってるなら話が早いわッ!!アンタのその不思議パワーであの馬鹿を懲らしめてよッ!!」

 

「定明君、私からもお願いッ!!この前なんか、私あの人にスカート捲られそうになって、その時の『恥ずかしがらなくても良いだろ?』って言ってたあの顔が怖くて仕方無いのッ!!」

 

一度は断ろうとした俺だったが、すずかがガチで涙を流し始めて断れる雰囲気じゃなくなってきやがった。

っていうか小学生で何て事してやがるんだよオリ主ぇ……。

 

「何ッ!?神無月の奴そんな事をッ!?」

 

「お嬢様……可哀想過ぎます」

 

「定明君。私からも正式にお願いして良いかしら?すずかがここまで酷い目にあってるなんて知らなかったわ」

 

しかも他の皆さんまで良い感じに火が点き始めたご様子。

ちょっとコレはマジに断れなくなってきたぞ。

確かにすずかの助けて欲しいって気持ちは良く分かるけど……。

 

「……俺はお前等と学校が違うから、さすがに学校のある時に助ける事は出来ねぇぞ?」

 

「で、でも、アンタの不思議パワーなら……」

 

俺の否定的な言葉を聞いたアリサはそれでも食い下がろうとするが、俺は更に言葉を被せてその先を言わせない。

 

「確かに俺のスタンド能力は種類も豊富だけど、何百メートルも離れた場所にいるお前等を助けられる能力は限られてくるからなぁ……」

 

「……スタンド?それが定明君の持ってる力の名前かしら?」

 

俺が呟いたスタンドという単語に、忍さんが反応を示して疑問を投げかけてくる。

ってそういや俺の力について話すってのを今まですっかり忘れてたぜ。

 

「あー、はい。強く念じれば俺の側に現れる精神エネルギーの塊、俺にしか見えないけど、その力が沢山あったんでその力全部の総称を『スタンド(立ち向かうもの)』って名付けました」

 

「総称……つまり、個体で名前があるって事ね?昨日のハーヴェストとかエニグマというのが個体の名前って事?」

 

昨日の戦闘を思い出しながら、忍さんは俺に確認を取ってくる。

っていうかスゲエな。これだけ聞いてそこまで考えが回るってのは。

心のなかで驚きながらも、俺は忍さんの問いに頷いて肯定する。

 

「まぁ力自体はホントに色々あるんで、これで俺の力については省かせてもらいますけど……」

 

ここで一度言葉を切り、俺は縋る様な表情を浮かべるすずか達に向き直った。

 

「悪いけど、俺が学校に居る時は、何か起きても直ぐに助けるって事は出来ねえ。俺にも生活があるからな」

 

「「……」」

 

暗に諦めてくれって答えを返すと、2人は本気で泣きそうな顔になってしまう。

そんだけそのオリ主君に会うのが嫌って事だろう……やれやれ。

でも残念ながら、俺が学校をサボってすずか達を守るワケにもいかねぇし、相手が転生者だとしたら何かしらの転生特典を持ってる筈だ。

だから出来る事なら俺はソイツに会いたくはねぇ……。

 

「……だが、まぁ何とかしてやるよ」

 

「「えッ!!?」」

 

でも、さすがにこんな泣きそうな顔でお願いされちゃあ断れねぇよ。

俺の答えを聞いて驚く2人に苦笑いしながら、俺は肩を竦める。

 

「さすがに学校はサボれねぇから、外でソイツにあった時にでもどうにかしてやるし、学校にいる時でも俺が出来る分だけは助けてやる」

 

「「ホントッ!?」」

 

「あぁ、ウソはつかねぇ」

 

俺がそう言うと2人は弾ける様な笑顔を浮かべるが、直ぐにアリサは咳払いしながらそっぽを向く。

 

「さ、最初から頷いておきなさいよッ!!ばかッ!!」

 

しかも悪態のオマケ付きだ。

 

「あ、ありがとうッ!!本当にありがとう、定明君ッ!!」

 

一方ですずかは、満面の笑みに嬉しさをタップリと乗せて、力強くガシィッと俺の両手を握りしめてくるんだが……力強過ぎね?

って痛え痛え。こんなに細い腕だってのにどんな力してんだ。

とりあえず話しはまだ終わっていねぇからと俺はすずかに手を離してもらい、2人にもう一度椅子に座ってもらう。

まだ予防策も作っておいた方が良いしな。

 

「そんでこっからが本題なんだが……さっき言った通り、俺も出来るだけ手は貸すけど、俺だって生活があるからどうしても手を貸せない時がある。それは判るよな?」

 

俺の問いに若干不安そうな顔を見せる2人だが、ちゃんと俺の都合とかの事も考えてくれてるので、アリサ達は頷いた。

ちゃんと俺の言葉を理解してくれた2人を見て、俺はゆっくりと口を開く。

 

「でも、俺だって自分の都合が何時どうなるのかなんて分からねぇし、昨日の誘拐事件の時みたいに、本当に大変な時に助けてやれなかったりしたら、俺も嫌だ」

 

昨日の誘拐事件だって俺が偶々あそこに居て偶々いっしょに誘拐されたから、アリサは汚されないで済んだし、すずかも生きて帰れた。

でもあんな都合よく事が運ぶなんて何時でもあるワケじゃねぇ。

 

 

 

 

 

だから――――。

 

 

 

 

 

「――だから、俺が2人にスタンド能力を『貸してやる』よ」

 

『『『『『『『ッ!!?』』』』』』』

 

 

 

 

 

――俺は、この2人に力を渡そうと思う。

 

「ち、ちょっと待ってッ!?定明君ッ!!そんな事が出来るのッ!?」

 

今まで俺達のやりとりを見守っていた忍さんが椅子から立ち上がって叫ぶ。

その声の方に振り返ると、他の面々も驚愕って感情を顔に貼り付けていた。

 

「出来ます……俺の持ってる、あるスタンドの能力を使えば、他人にスタンドを譲渡する事は出来ますが……」

 

そこで一度言葉を溜め、俺はもう一度アリサ達に真剣な表情で振り返る。

 

「今まで試した結果でいえば、スタンドを操るにはある程度素質が要る。悪いが、その素質は口では説明出来ねぇ……けど、アリサとすずかには、その素質があるって俺には感じられるんだ」

 

「ア、アタシとすずかに……?」

 

「スタンドの……素質が?ホントなの?」

 

信じられないって声音のアリサ達に、俺は頷いて肯定する。

そもそもスタンドを操る、いやスタンド使いになる素質ってのは、何かしら精神が強くなくちゃあならない。

それは高潔な魂だったり、ドス黒い殺意だったり、平穏に生きたいと願う強い執念だったりと様々だが、どんな形であれ精神力がある一定の水準に達している者にスタンド能力は発現する。

 

 

 

複数の大人に拳銃を向けられながらも、自分の大事な者の為に恐怖を押し殺して立ち向かった程の強い精神力を持つアリサ。

 

 

 

自分の血筋に苦悩しながらも、自分の友達を作りたい、一緒に居たいという夢の為に、誰にも相談できない孤独な恐怖とずっと向き合って生きてきたすずか。

 

 

 

この2人なら、俺はスタンド能力を操れると思ってる。

 

「だから、お前等が良いって言うなら、俺がお前等の身を守るスタンド能力を貸す。でも、その力が何時発現するかはお前等次第だぜ?」

 

「私達次第?」

 

「そう。スタンドってのは、あいつをこらしめてやる、とか自分の身を守ろうとする……そういう気持ちを強く思う事で発現するんだ。だから、その気持ち……つまり精神力が弱いと、スタンドは永久に出て来ねえ……どうする?それでも俺の案を受け「「受けるッ!!」」……へ?」

 

2人がどれくらいの覚悟を持ってるのか聞いてる最中で、アリサとすずかは俺の言葉を遮って元気に受けると言ってきた。

俺を熱心に見つめるその瞳には、燃え盛る炎が轟々と燃えている。

 

「当然受けるに決まってるじゃないッ!!スタンドはスタンドを使う者にしか見えないんでしょッ!?ならアタシ達に危害を加えようとする奴とかあの馬鹿をブッ飛ばすには最適じゃないッ!!」

 

「そうだよねッ!!私だってあの人とか、昨日みたいな人達から自分の身を守れる様になりたいもんッ!!何時までもお姉ちゃんに迷惑を掛けたくないし……」

 

「「定明(君)ッ!!アタシ(私)にスタンドを貸しなさい(貸して下さい)ッ!!」」

 

「……グレート」

 

思わず口走ってしまったが、2人のポジティブさというかオーラに圧されたぜ。

普段からどれだけ色々と溜め込んでんだよ?

……まぁ、この様子なら直ぐにスタンドをモノにするだろう。

アリサ達の怒りというかフラストレーションというか、そーいう溜め込んでた気持ちの強さを目の当たりにして、俺は苦笑してしまうが……同時に少し楽しみだったりする。

何せこの世界に来てから今日まで、俺のスタンドを認識できる奴は居なかったからな。

俺は苦笑しながら椅子から立ち上がり、2人の前で自分の指を自分の額近くに当てる。

その様子を見て一体何をするんだろうと首を傾げてる面々には何も言わないまま手に力を篭めて――。

 

 

 

ずぶりっ

 

 

 

自分の額に指を『メリ込ませた』

 

『『『『『『『ッ!!?』』』』』』』

 

ショッキングな光景に口を開いて茫然とする皆には構わず、俺は手を引き抜く。

そうすると、俺の手、というか頭から二枚の『DISC』が一緒に出て来た。

これぞ、スタンド能力と記憶を『DISC』にして取り出したり埋め込んだり出来る強力なスタンド、『ホワイトスネイク』の能力で作った『スタンドDISC』だ。

この能力を使って、俺はあるスタンドを2体DISCにして自分の中から取り出した。

その二枚のDISCを手に持ったまま、俺はアリサとすずかに近寄る。

 

「今、俺の持つスタンドの能力で、別のスタンドを2体、DISCにした……コレを2人に埋め込めば、それでスタンドはお前等のモンになる」

 

俺の説明を聞いて、2人は恐る恐る俺の手からDISCを受け取り、手にとって色んな角度から眺めている。

 

「……埋め込むって、今アンタがしたのと同じ様にって事?」

 

「あぁ、頭に埋め込む感じで良い。痛みは全く無いから安心しな……それでも怖いってんなら、俺が差し込んでやるけど?」

 

「バッ!?こ、ここ怖くなんて無いわよッ!!これぐらいの事、別に何でもないんだからッ!!」

 

暫くおっかなビックリって感じにDISCを触っていたアリサにそう言ってやると、アリサは顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。

どんだけ負けず嫌いなんだよ。

と、考えていたらアリサの隣で自信無さげにしていたすずかが俺に向かってくる。

 

「あの定明君……わ、私はちょっと怖いから……お願いしても、良いかな?」

 

「ん、別に良いぞ。そんじゃあDISCを貸してみな」

 

「うん……や、優しくしてね?」

 

俺がDISCを受け取ってすずかの額付近に翳すと、すずかは瞳を潤ませて上目遣いにそんな事を言ってきた。

 

「いや、だから痛くねぇって……そんじゃ、いくぞ~?」

 

「は、はい……ッ!!お願いします……」

 

緩い感じに合図を出すと、すずかはキュッと目を瞑ってDISCを待っていた。

俺は彼女の額にDISCを当てて、あまり力を籠めずに押し込む。

 

ずぶりっ

 

「はぅ……ッ!?」

 

そうするとDISCは苦も無くすずかの額に埋め込まれ、どんどんと中に入り……。

 

「……ほいっ。終了だ」

 

遂に全てのDISCがすずかの中に入り込んだ。

中からDISCが弾け飛んでくる事も無いし、完全にすずかに適応した様だな。

そんな事を考えてる俺とは対照的に、すずかは大きく息を吐いて疲れたってアピールをしていた。

 

「言った通り痛くも痒くも無えだろ?」

 

「確かに痛くなかったけど、ずぶずぶと挿入ってくる感覚がちょっと怖かったよ」

 

と、俺の言葉足らずな所に不満を持ったのか、頬を膨らまして怒ってる様だ。

あ~、俺があの感覚に慣れてるってだけなのか?

とりあえずそんな感じですずかの方は終わったんだが……。

 

「う、うぬぬ……!?」

 

アリサの方は未だにDISCと睨めっこしてて進んでいなかった。

やっぱ異物を頭に入れるってのは相当勇気が要る様だ。

しかしこのままじゃ時間が只過ぎるだけなので……。

 

「ほらっ、俺が挿入れてやるから貸せってアリサ」

 

ササッと進める為にアリサに手の平を向けてDISCを渡す様催促する。

何時までもDISCを入れる段階で躓かれちゃ困るからな。

 

「……わ、分かったわよ……その……優しく挿入れなさいよ」

 

「分かったっての……ほら、目ぇ瞑れ」

 

「……ぅん」

 

いやにしおらしいアリサだったが、目を瞑った瞬間を見計らってDISCを押しこむ。

DISCが触れて飲み込まれた時にビクッとしたが、ソレ以外はジッとしていた。

 

「終わりだ」

 

やがてDISCが見えなくなり作業は終わり、俺は目を閉じてるアリサに声を掛ける。

 

「ん……ありがと……これで本当に、アタシとすずかもスタンドが使えるの?」

 

「う~ん……あんまり変わったっていう感じはしないよね」

 

2人はDISCの埋め込み作業が終わると、自分の体を見詰め直したり、空中に手を翳したりしてスタンドが出ないか試している。

一方で恭也さん達はそんな2人を興味深げに見ていた。

 

「出て来ないわね……そういえば定明、アタシ達のスタンドって名前あるの?」

 

「あっ、私もそれ聞きたい」

 

ひと通り色々試して出て来なかったので、アリサ達は一度諦めた様だ。

しかしスタンドの名前ねぇ……。

 

「あるにはあるけど、それはスタンドが発現したら判るぞ……取り敢えず、百聞は一見に如かず。まずは実物を見なきゃな……コレが……ザ・ワールドだッ!!!」

 

色々と面白い行動をしてた2人に、そう声を掛け、俺はザ・ワールドを呼び出す。

何の前触れも無しに俺の背後に現れる黄金色の巨人。

しかも見た目は人間とかけ離れてるとくれば……。

 

「「ッ!?きゃぁあああッ!!?」」

 

まぁ所見ならそういう反応だわな。

いきなり現れたザ・ワールドにビックリして悲鳴を挙げるアリサ達。

その光景を見ていた忍さん達は何だ何だ?と騒いでいる。

まぁ忍さん達からしたら、2人が何も居ない虚空の場所見て悲鳴上げてる様にしか見えないだろうけど。

 

「そ、それがスタンドッ!?そんな形なのッ!?」

 

「ビ、ビックリしたよ、もぉッ!!」

 

「悪い悪い。まぁでも、コレが見えてるって事は、2人は間違いなくスタンド使いになれてるって事だぞ?」

 

スタンドはスタンド使いにしか見えねえからな。

未だに驚いてる2人を尻目に、俺はザ・ワールドを操作し、2人にゆっくりと近づけて体を屈ませる。

その行動を見て、別に敵意があるワケじゃ無いと勘付いたのか、2人はそれぞれザ・ワールドに触れようと手を伸ばす。

 

『……』

 

すうっ

 

「えッ!?あ、あれッ!?」

 

「さ、触れない……通り抜けちゃう」

 

しかし、2人がザ・ワールドの体に触れようとしても、2人の手はザ・ワールドの体をすり抜けて中に入ってしまう。

 

「それがスタンドの特徴その2、だ。スタンドはスタンドにしか触れない。例えスタンド使いでも、自分のスタンドに触れるにはしっかりと念じなきゃならねーし、他のスタンド使いじゃ触れないってワケだ」

 

俺はそこまで言ってからザ・ワールドを消して、驚いている2人に声を掛ける。

 

「さて、こっからが本題……まず二人共、心の中でイメージしてみ?」

 

「え?……イメージ?」

 

キョトンとした顔でオウム返しに質問してくるすずかに俺は頷く。

 

「そう、イメージだ……さっきも言った様に、スタンドは本人の精神力で操るモノ。だから何かしら強い気持ちが要るんだが……」

 

言葉を溜めながら、ゆっくりと俺は2人に視線を送る。

要は強い気持ちと意志があれば、スタンドはたやすく発現できるモノだ。

だから、今すずかとアリサが持ってるフラストレーションを利用してやれば良い。

その気持の強さが、スタンドの発現に導くだろう。

 

「まずアリサ。お前はさっきのDQNネーム君に、皆の前で俺の嫁宣言された時の事を思い返してみろ」

 

「アイツに……(ブルブル)」

 

俺のアドバイス通りに頭の中でイメージしてるんだろう。

目を瞑って考え込んだアリサの頭から、瞬間湯沸かし器みたいに煙が吹き上がる。

 

「次にすずか。お前は……そうだな、氷村がすずかの大事な人を傷つけようと迫ってくるトコをだ」

 

「ッ!!?……」

 

すずかにもアドバイスを送ると、すずかは俺の出したイメージにショックを受けるが、直ぐに目を閉じてイメージを始める。

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

 

 

そして、段々と2人の後ろからぼんやりと像が浮き上がってきた。

良し、もう後一押し……。

 

 

 

 

 

多分、ココで止めておけば、ああはならなかっただろう。

 

 

 

 

 

「お前等には既に『立ち向かうもの(スタンド)』が居るッ!!なら、お前等の大事なモノを脅かしたり、襲い掛かる奴等が目の前に居るなら、すずかッ!!アリサッ!!お前等のやる事は何だッ!!?逃げる事か、それとも震える事かッ!?答えろぉッ!?」

 

 

 

 

 

俺があそこまで過剰に煽らなきゃ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ブッ飛ばすッ!!!」

 

「――護り抜くッ!!!」

 

 

 

 

 

ズキュゥゥゥンッ!!!

 

 

 

 

 

ココまで『派手』にはならなかった――。

 

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアッ!!』

 

『WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNABEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!』

 

 

 

「いッ!?やべッ!?『キング・クリムゾン』ッ!!!」

 

危機一髪って所で時を飛ばしてラッシュの射線上から逃げるが、俺の後ろには壁があり――。

 

 

 

 

 

 

 

その日、月村家のガラス張りの豪華な客室は崩壊した――。

 

 

 

うん、ちと煽り過ぎたな。

 

 

 

to be continued……。

 

 




賛否両論あると思いますが、これがやりたかったんです(笑)


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養分をくれぇ~お前の養分を俺にく(ry

マジでタイトル考える時間が一番長い(・。・;

っていうかオリ主君の正確とか初めて書いたからわからんべ。

あっ、明日は出勤がメチャ早なので、今日は短くします。

サーセン。


「はーい。じゃあ4時間目はここまでです。お昼休みが終わったら、5時間目は体育ですから、皆頑張りましょう」

 

『『『『『はーーい!!』』』』』

 

授業終了のチャイムが鳴って、社会の先生が終了の言葉を言い、日直が終わりの挨拶をする。

これから海小(俺の学校)は昼休みだ。

ちなみにウチの学校は給食なので、給食当番の皆がエプロンを付けて食事を取りに行く形式になってる。

でも今日は俺のいる班の日じゃ無えので、皆机に座ったて喋ったり本を読んだりして給食を待っているんだが、その中で俺は自分の机に凭れ掛かって誰共喋らずに居る。

別にボッチってワケじゃ無く、俺は今別の事に力を使ってるので周りから見たら寝てる様に見せてるだけだ。

そして俺が今やってる事といえば……。

 

「(……見つけた。ってアイツ等弁当なのかよ……美味そうだな)」

 

俺はアリサとすずかの居る聖祥まで飛ばしたスタンドの目から視覚を共有して、楽しそうに3人でお喋りしてるすずか達の弁当を羨ましそうに思った。

そう、昨日アリサ達に頼まれたDQNネーム君から身を守ってやるという面倒なミッションをスタートさせてんだな、コレが。

聖祥の屋上にある貯水タンクの影にスタンドを隠しながら、笑って楽しそうにご飯を食べてるアイツ等を見てる俺……傍から見たら俺がストーカーじゃねぇか。

 

「(アイツ等の弁当見てると腹減ってきた……早く来いやオリ主ェ……)」

 

とっととブチのめして作業終わりにしたいんだからよぉ。

そんな事を考えながら屋上を見てると、アリサとすずかと一緒に弁当を食べて笑ってる女の子が居るんだが、多分あれが昨日言ってたなのはって子なんだろう。

明るい茶色の髪をツインテールにした明るそうな子だが、アリサの話しじゃ所謂スットロイ子らしい。

人は見掛けによらねぇモンだなぁとしみじみ思う。

あっ、アリサがなのはって子にレモンぶつけた……しかも何故か頬引っ張ってる。

突然始まった軽い喧嘩の様なモノを、すずかが焦りながらも必死に止めてる。

何だあのカオスはぁ……っていうか話しに出てた相馬って奴は居ないのか。

一応転生者かどうか見極めておきたかったが、まぁ居ねぇんなら仕方ね……。

 

ガチャッ。

 

「よう!!俺の嫁達!!探したぜぇ!!」

 

そう考えてると、屋上の扉が開いて高らかにアホな事を叫ぶ銀髪の少年が現れた。

見た目はそれこそ不気味なぐらい整いすぎてて、顔と体のバランスが変。

白い歯をキラリと光らせて歩くその姿は、何処か氷村を連想させる。

アイタタタ……判りやす。

内心頭を抱えながらその光景を見てると、アリサ達3人の表情が嫌なモノを見る目に変わっていく。

っていうか、あの人の良いすずかにあんな嫌悪感剥き出しの顔させるとか……昨日聞いた以外にも色々とやらかされてんだな、すずかの奴。

 

「来るんじゃないわよッ!!コッチはアンタなんてお呼びじゃないし、アンタの顔見たら楽しいランチが不味くなるわッ!!」

 

「ははは、相変わらずツンデレだなぁアリサは」

 

「近寄るなッ!!気持ち悪いッ!!」

 

そして、そんな嫌な顔と気持ちを前面に押し出してるにも関わらず、甚だ見当違いの事を抜かすオリ主君に、ある意味尊敬の念が湧くぜ。

 

『ちょっとバニングスさんッ!!神無月様の事悪く言わないでよッ!!』

 

『そうよッ!!ちょっと顔が良いからって調子に乗らないでッ!!』

 

と、近寄ろうとするオリ主君に敵意剥き出しで吠えたアリサに対して、オリ主君の後ろに控えていた女子軍団が一斉にブーイングを始める。

っていうか良く見たら皆揃って目に光が無い……あれって操られてねぇか?

そんな疑問を感じつつも様子を窺っていると、オリ主君は手をスッと上に挙げて、後ろの女子軍団を黙らせる。

 

「まぁまぁ皆、アリサは只恥ずかしがってるだけなんだ。すずかも奥ゆかしすぎて、俺への愛を素直に語れないらしい。だからそんな風に怒らないでくれ。俺は皆平等に好きだからさ(ニコッ)」

 

『『『『『はぁ~い。神無月様~~!!』』』』』

 

オリ主君の鶴の一声とも言える言葉で女子達は黄色い声を挙げながらオリ主君に熱い視線を送る。

その女子軍団を見て満足そうな微笑みを浮かべるオリ主君だが……あれが、神様が言ってたニコポってヤツだろう、確かにスゲエ威力だ。

でも簡単に惚れられちゃ物語がつまんねぇから、原作キャラには効かないって言ってたっけ。

多分、オリ主君はその辺の説明を聞かずに選んだんだろうなぁ……基本的に能力の説明は、説明を求めてきた人にしかしないって言ってたし、俺の場合は特典を決めた後で興味本位で聞いただけだったからな。

しかし別に嫌われる程の効果は無いって言ってたけど……ニコポが効いて無いのに色々やり過ぎた結果ってワケだ。

 

「(……ん?)」

 

と、そんな事を考えていると、オリ主君に嫁呼ばわりされて、且つ事実をねじ曲げられながら話されていたアリサの背後から――。

 

 

 

「……いい加減に、キレても良いわよね、アタシ?」

 

「……もう、嫌だよ」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

 

スタンドの像がぼんやりと浮かんでいた――ってマズッ!?

今にも目の前で喋ってるオリ主君にスタンドで殴りかかろうとしているアリサを見つけた俺は、直ぐ様貯水タンクの影から飛び出してオリ主君の元へと飛翔する。

しかも良く見ればすずかも我慢の限界が近いらしい。

アリサ程じゃ無ぇが、微妙に背後が歪んでる、こりゃマジでヘビーな状況だ。

何でアリサとすずかがスタンドを発現しそうになって、俺がこんなに焦っているかと言うと……今のアリサ、若しくはすずかにスタンドを使わせたら、確実にオリ主君が死んじまうからだ。

 

 

 

 

 

……事の起こり、そして俺が焦る理由は昨日に遡る――。

 

 

 

 

 

「……まぁ、煽ったのは俺であって、お前等にスタンドを貸したのも俺で、俺に原因が皆無だなんて一っ欠片も思っちゃいねぇよ?……只なぁ」

 

俺は椅子に座って視線をキョドらせてるすずか、アリサの2人を見据えながら、面倒くささ抜群って感じに頭をボリボリと掻いて溜息を吐く。

 

「し、仕方無いじゃない。漸くあの馬鹿を懲らしめてやれるんだと思ったらその……頭がカーッとなっちゃって……悪かったわよ」

 

「私も……最初は定明君の言う通り、襲ってくる氷村の叔父様の事を想像してたんだけど……途中から神無月君も一緒に襲ってきたら?って考えちゃって……もう無我夢中な気持ちに……ごめんなさい」

 

「いや、俺に謝ってもしゃーねぇだろ?それに謝るなら……」

 

縮こまる2人に小言を零しながら、チラリと視線を向けた先には……。

 

「ア、アハハ……全壊だぁ~……アハハハ……」

 

「し、忍ッ!?気をしっかり持てッ!?」

 

「だ、大丈夫よッ!?壊れたら、また立て直せば良いんだしッ!!」

 

「……この部屋、有名な建築家の人に設計してもらった、ビクトリアンエドワード方式に則った部屋で……設計してくれた人はもう随分前に亡くなってるの……アハハハッ……」

 

「あそこでヘヴンに逝きかけてる、部屋の持ち主の忍さんに謝らにゃ駄目だろ?」

 

ほぼグチャグチャの全壊と化した部屋の惨状を眺めながら、空虚な笑い声を出す忍さんが居る。

俺の計算違いだったが、どうにもすずかとアリサの2人が抱いてるオリ主君への怒り具合は半端じゃ無かったらしい。

あの時、初めてスタンドを具現化できたのは良かったんだがその先が問題。

強すぎる怒りが燃料となり、スタンドが半ば暴走状態に入って、手当たり次第に拳のラッシュをブチカマし始めたんだ。

しかもその様に混乱したアリサとすずかは止めて、止めてと叫びながら部屋中を走り回り、結果として2人が通る場所は全て破壊されるという悪循環になった。

最終的には俺がホワイト・スネイクを使ってもう一度スタンドをDISC化して抜き取る事で、2人の暴走は何とか鎮圧できたが……部屋は酷いまんまだ。

 

「うっ……そう、よね。まずは忍さんに謝らないと……スイマセン。忍さん、アタシ、ちゃんと弁償しますから」

 

「うん……お姉ちゃん、ホントにごめんなさい」

 

まぁ兎に角、自分達が悪いってのは理解してるすずかとアリサは、2人揃って忍さんにペコリと頭を下げる。

そんな妹達の姿を見て、忍さんは脱力したかの様に大きく溜息を吐いた。

 

「……まぁ、さくらさんの言う通り、壊れちゃった物は仕方無いわ……それより、皆に怪我が無い事を喜びましょう」

 

2人が真剣に謝ってるのを感じ取った忍さんはそう言って2人の頭を撫でる。

恭也さんとさくらさんも忍さんが落ち着いたのを見てホッと息を吐いて安堵した。

ノエルさんとファリンさんは、瓦礫の撤去準備を始めている。

まぁ原因はアイツ等だけじゃなくて俺にもあるんだし俺がこの部屋を直しますか。

 

「あー、すんません忍さん。すずか達だけじゃなくて、原因は俺にもあるんで…」

 

「良いの良いの。まぁとりあえず、この部屋じゃもうお茶会は出来ないから部屋を移動し……」

 

「いや、それには及ばないッス。俺がキチンとこの部屋、『治します』から」

 

「……え?」

 

俺の言葉に呆気に取られたのか、忍さんはポカンと口を開けて固まる。

でも、俺はそれには反応せずに部屋に入り、ハートのアクセントが体中に散りばめられ、背中から頭にパイプが通された人型のシルエットを持つ、破壊された物体を元通りに修復してしまうスタンド、『クレイジーダイヤモンド』を呼び出す。

 

「俺のスタンド、クレイジーダイヤモンドならこの部屋を――」

 

そこで言葉を切り、クレイジーダイヤモンドはその巨腕を振りかぶって――。

 

『ドラララララララララララララララララ、ラァッ!!!』

 

辺り一面、そこらかしこに拳のラッシュを叩き込む。

そうする事で、クレイジーダイヤモンドの能力が発現し、床に散らばっていた天井やガラスの破片が浮き上がって、元あった位置に戻っていく。

それら全てがまるでパズルのピースの一個一個であるかの様にピタリと嵌っては形をつくり規模を大きくさせ、最後には元通りの綺麗なガラス展望室の姿に戻った。

 

「治して戻せる」

 

壁や天井、更には装飾の花瓶等が全て元通りに戻ったのでクレイジーダイヤモンドを仕舞って後ろに振り返れば、またもや皆さんポカーンと口を開けて呆けてる。

まぁそれも何時もの事か、と勝手に納得しながら、俺を見て呆けてるアリサとすずかに向かって口を開く。

 

「とりあえずアリサ、すずか。お前等明日嫌な事があってもスタンド使うなよ?」

 

「えッ!?」

 

「な、何で使っちゃいけないのよッ!?折角スタンドの出し方覚えたのにッ!!」

 

俺の言葉、というか禁止令を聞いた2人は目を丸くする。

そりゃそうだ、本当ならオリ主君から身を守る為にスタンドを貸した筈だからな。

でも、今のコイツ等にスタンドを使わせる訳にゃいかねぇ。

 

「あのなぁ……お前等そのDQNネーム君の事を想像しただけで、部屋一つ丸ごと潰したんだぞ?そんだけ強い怒りがあるってのにスタンドをまた暴走させてみろ?今度はそのDQNネーム君が死んじまうだろーが。それでも良いのかよ?」

 

「うっ……そ、それは……」

 

「嫌、かな……」

 

俺の言った通りのシチュエーションを想像したのか、2人は揃って苦虫を噛んだ様な表情を浮かべて押し黙る。

まぁいくら嫌いな奴でも殺すなんて事はしたくねーだろう。

そんな事で自分の人生に一生ケチが付くだなんてゴメンの筈だ。

 

「本当なら一度スタンドを返してもらうトコだが、また昨日みたいな奴等が現れる事は100%無い、なんて言えねぇ。だからお前等にはスタンドを渡したままにすっけどよぉ……すずか、アリサ。お前等のスタンドはスゲー危険だ……むやみやたらとカッとなって使うんじゃあねーぜ、いいな?」

 

「わ、分かったわよ……スタンドは使わない様にする」

 

「うん、ちゃんと我慢するね」

 

ちゃんと俺の言葉を聞き分けて頷いてくれる2人だったが……。

 

「何かしんぱ「定明くーーーんッ!!本っっ当にありがとうッ!!部屋を直してくれて本当に感謝するわッ!!もうお姉さん大感激よッ!!」……どーもッス」

 

部屋が元通りに直った事に遅ばせながら感激して感謝してきた忍さんに遮られて、結局俺の心配は有耶無耶にされてしまった。

そんでさすがに時間が遅いって事になったので俺は帰る事になり、すずか達には後日スタンドの操作の仕方について教えてやるという約束をし、俺は帰宅した。

 

 

 

 

 

――あれ程カッとするなっつったのによぉッ!!

 

 

 

 

 

どうにもあのオリ主君と一言二言言葉を交わしただけで、アリサの忍耐のタンクがレッドゾーンを振り切ったご様子。

すずかもジリジリと我慢の限界が来てる様だ。

そこまで嫌なのかよアレと会話すんのが……これまた誤算だぜ。

自分の計算力の無さに後悔の念が湧き上がるが、今はソレより目の前のオリ主君にこの場からご退場願うとしよう。

俺はアリサ達を見るのに使っていたスタンドを動かして、今にも拳の形が顕現しそうなアリサとオリ主君の間に飛翔。

そこで一度スタンドを『バラバラに分解』し、分解された体のパーツは自動的に形を『足跡』の様な姿に変える。

 

「このアンポン――」

 

「ん?何か言ったかいアリ(ドボギョッ!!)ぐえッ!?」

 

「タ――え?」

 

そして、結果的に言えば俺のスタンドの方が、アリサがスタンドを完全に顕現しようとするより早くオリ主君を捉え、オリ主君の『体の中に食い込んでいく』。

 

「な、何だいきな(ズギュンズギュンズギュンッ!!)ごぐえぇ……ッ!?」

 

『『『『『か、神無月様ッ!?』』』』』

 

一体何が起きたのか検討も付かないって声を出しながら、オリ主君は体を床に寝転がせてしまう。

その様を見たオリ主君のおっかけ女子が悲鳴を挙げ、すずか達は目の前で起こった自体に呆気に取られたのか、口を半開きにしてポカンとしてる。

 

「ど、どうしちゃったのかな?……ア、アリサちゃん、すずかちゃん?二人共どうしたの?」

 

と、何の前触れも無く行き成りオリ主君が倒れ伏したのが理解できなかった3人の内、なのはって子が一番最初に意識を取り戻すが、すずかとアリサが今だ呆然としてる事に疑問を浮かべながら話し掛ける。

まぁ、あのなのはって子がこの状況自体を理解してねーのに対して、アリサとすずかは俺のスタンドが見えてるからこそ、ビックリしてんだろーな。

女子に囲まれてる中で倒れ伏すオリ主君、その体に次々と足跡の様なモノが飛来して形を造り、最後は網目の入ったデザインの人型状態になる。

これぞ、匂いを覚えたら決して追跡を止めず、そして追いついた獲物から養分を吸い取ってしまう猟犬の様な遠隔操作型スタンド、『ハイウェイ・スター』だ。

ぶっちゃけ、余りにも距離があると使えるスタンドはかなり限定される。

まぁその中でもコイツは追跡とかに向いた能力でダンチのスタンドだしな。

そんで今は、オリ主君の匂いを記憶した上で、養分を吸い取ってるんだが……。

 

「な……何だよ、この気分……力が、入らねぇ」

 

何かしらの転生特典を貰ってる筈なのに、コイツには俺のハイウェイ・スターが認識出来ねえみてーだが……それはそれで良い。

コレをやったのが俺だってバレなきゃ良いからな。

そうして養分を大分吸ったかなーって辺りでハイウェイ・スターをオリ主君の体からどかすと……。

 

「お、おげぇ……ガクッ」

 

『『『『『神無月様ーーーーーーーッ!!?』』』』』

 

『は、早く神無月様を保健室にッ!?』

 

『いやあッ!!神無月様ぁッ!!死んじゃ嫌ぁッ!!』

 

哀れ力尽きたオリ主君は、頬が痩ける程に細くなり、それを見た追っかけ軍団の女の子達が半ば半狂乱に叫んで彼を運び出し、屋上から消えていく。

まぁ死ぬ程養分取っちゃいねーし、2週間も寝て食っての生活してりゃ元気になるだろ。

とりあえずコレで1つ目のミッションはコンプした。

後は……もうひとつ伝言だけ伝えとくか。

 

『……(ギロッ)』

 

「「ッ!!?(ビクゥッ!!)」」

 

「?……二人共どうしたの?ソコに何か見えるの?」

 

だが、俺がハイウェイ・スターを操ってすずか達に目を向けると、2人はビクッと飛び上がらせて俺、いやハイウェイ・スターから目を逸らす。

自分達が約束破っちまったってのはちゃんと理解してんだろう。

でも、2人がいきなりビクついてる理由が分からないなのはって子は、2人の視線を追いながら声を掛けている。

まぁこの子にはスタンドが見えないからどーしようも無いけど……しゃーねぇな。

 

『おい二人共、コレは俺のスタンドの一つだから、変な動きするな、それとこっちに向かって喋るな。なのはって子に気付かれるぞ?』

 

俺は直ぐ様ハイウェイ・スターに自分の言葉を喋らせ、妙な動きをしない様に忠告する。

すこしスタンドの補正がかかって低い声になるが、俺の声だと分かった2人は少しぎこちないながらも笑顔を浮かべてなのはって子に笑顔を向けた。

 

「ご、ごめんねなのはちゃん。な、なんでいきなり神無月君が倒れたのかなーって考えてて、ちょっとボーッとしちゃった」

 

「そ、そうなのよ。折角アタシがブッ飛ばしてやろうかなーと思ったのにアレでしょ?驚いちゃったけど、まぁ良い気味だわ」

 

「そうなの?……でも、神無月君……何か、苦しそうに倒れたけど……」

 

2人の言い訳を聞いたなのはって子はあっさりと信じたのか、直ぐに納得して会話を続ける。

しかし「でも」って何だ?もしかして嫌いな男でもいきなり倒れたから心配し――

 

「本当に良い気味だよね♪」

 

怖っ、女って怖っ。

どんだけ輝かしい笑顔でそんな事言ってんのこの子?

本当に優しい子なのかよ?アリサの言ってたのは間違いじゃねぇのか?

余りにも清々しい笑顔でそう言うなのはって子に戦慄を覚える俺だったが、アリサとすずかまでもが苦笑、というか引き攣った笑みを浮かべてる。

 

「……ア、アンタも相馬の事バカにされてるから、結構溜まってるんだ……」

 

「当然なの。相馬君の事バカにするなんて、本当に失礼しちゃうよ」

 

あぁなるほど、惚れた男バカにされたからキレてんのね?

擬音にプンプンとでも尽きそうな雰囲気で怒ってるなのはって子を見ながら俺は一応の納得はするが……何か、この子は怒らせたら面倒くせえ気がするぜ。

と、兎に角、今はすずか達に伝言を伝えておかねぇとな。

 

『二人共そのままで良いから聞け。とりあえず昨日約束した通り、今日からスタンドの制御練習をすっから……すずか。放課後にまたノエルさんかファリンさんに迎えに来て欲しいって頼んどいてくれ。OKなら背中で指を丸の形にして欲しい』

 

俺が一方的に要件を告げると、すずかは嬉しそうな顔で背中に指でOKサインを出してくれた……だが、何故かアリサは不満そうな顔をしてる。

それを見届けた俺はハイウェイ・スターを頷かせてフェンスの上にジャンプする。

 

『それと二人共、あのDQNネーム君はとりあえず2週間は学校に来れねえ様にしといたから、まぁ暫くは楽しい学校生活を送ってくれ。じゃあな~』

 

それだけ伝えてフェンスからハイウェイ・スターを飛び降りさせた時、最後に見たあの2人のメッチャクチャ嬉しそうな顔は忘れらんねぇ。

そこまで嫌われる様な行為って逆にどんなのか知りたくなるわ。

まぁ兎に角、これで俺の遣る事は終わったのでハイウェイ・スターに戻ってくる様に命令を出し、並んでる人数が大分少なくなった給食を取るため席を立った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

そして放課後、下校時間がやってきて、俺は皆と別れてまた昨日と同じ様に1人で帰っている。

多分昨日と同じでノエルさんが家の前で待ってる筈……また父ちゃんと話してんじゃ無いだろーな?昨日帰ってからあんだけ母ちゃんに絞られてたから大丈夫だとは思うけど……何か心配だなぁ。

ありえそうで恐い予想を立てながら、例の如く曲がり角を曲がると――。

 

「あらあら~♪鮫島さんは女性を喜ばせるツボを抑えておられますねぇ、さすがはあのバニングス家の執事さんです~」

 

「ホッホ、いえいえ。わたくしの様な老骨等、ご婦人方には相手になどされません。精々ご機嫌を損なわない様にするのが精一杯で御座います」

 

「またまた~ご謙遜を~」

 

「ホッホッホ」

 

ナイスヒゲを蓄えたダンディな執事さんと楽しそうに喋ってる母ちゃんを見て、ご近所さんの家の塀に頭をぶつけてしまう。

母ちゃん、アンタもかい。

 

「あらぁ?あ~、定明~お帰りなさ~い」

 

「おや?此方の方が、定明様でいらっしゃいますか?」

 

「えぇ~。自慢の息子ですよ~」

 

「い、痛てて……ただいま、母ちゃん……そっちの人は誰だ?」

 

ぶつけた頭を擦りながら、俺は妙に間延びした口調で話す母ちゃんに声を掛ける。

俺ぁこんなダンディ執事なんて知り合いに居ねえよ。

俺の質問を聞いた母ちゃんは、何時もと同じニコ~っとした微笑みを浮かべた。

 

「ほっ、これはご挨拶が遅れまして、申し訳ございません」

 

そして、件の執事服をピシッと着こなしたダンディなおっさんが、俺に声を掛けながら優雅に一礼してくる。

 

「わたくし、バニングス家の執事長をさせて頂いております、鮫島と申します。どうぞ、よろしくお願い致します。」

 

「あっ、いえいえどうもご丁寧に……ってバニングス?ひょっとして……」

 

礼儀正しい動作で俺に自己紹介をしてくれた鮫島さんに俺もお辞儀で返すが、途中で聞こえた覚えのある家名に反応して顔を挙げてしまう。

それを察知してくれたのか鮫島さんはお辞儀の体制から戻って更に言葉を続けた。

 

「お察しの通りかと思いますが、わたくしはアリサお嬢様の専属執事も兼任させていただいております。本日はアリサお嬢様のご命令で、わたくしが城戸定明様をお迎えに上がりました」

 

「え?ちょっと待って下さいッス。俺は確か今日すずかの家に……」

 

「はい。その件なのですが、実はアリサお嬢様からすずか様に提案なされたそうです。曰く、前回はすずか様のお屋敷でしたので、今回はバニングス家へ定明様をご招待されたいとの事でして……」

 

何だそりゃ……。

 

「そしてこの提案にわたくし共の主人である旦那様と奥様、そしてすずか様も賛成されたので、本日は月村様の従者であるノエル様では無く、わたくしがお迎えに上がった次第なのですが……何か、不都合がございましたか?」

 

「あぁいや、別に不都合なんて無いんですが、何も連絡が無くて焦ったんで…」

 

少し表情を崩して窺う様に聞いてくる鮫島さんに謝罪しつつ、俺は今回のこの急な変更について納得する。

まぁ今日の約束にしたって、俺がハイウェイ・スター使って一方的に取り付けただけだしな。

 

「そちらに関しましては申し訳ございません。只、お嬢様方も定明様の携帯電話等の連絡先はご存知無かった様でして」

 

「あー。俺携帯は持ってねーんで仕方無いッスよ……とりあえず着替えてきますんで、もうちょっと待ってて下さい」

 

「はい。ごゆっくりどうぞ」

 

別に俺専属の執事ってワケでもねぇのに、態々俺にまで一礼してくれる鮫島さんに感動を覚えながらも、俺は部屋に戻ってササッと着替えを済ませる。

 

「ねぇ~定明~?」

 

「ん?何だよ母ちゃん?」

 

そして一階に降りたんだが、玄関に繋がる廊下で母ちゃんに呼び止められ、俺は振り向く。

 

「そろそろ定明も~携帯、欲しく無い~?」

 

「ん~……別に良いって。特に欲しいって理由もねぇし」

 

「む~……そろそろ私も、息子と携帯で話してみたいのに~」

 

俺の拒否を聞いて頬を膨らませる母ちゃん。

どーゆう理由だよそれ?

っていうかいい大人がそんなリアクションしちゃ駄目だろ?こう、絵的に。

 

「はぁ……まぁ、とりあえず行ってくら」

 

「ちぇ~。行ってらっしゃ~い」

 

俺は母ちゃんに行ってきますの挨拶をして、鮫島さんが乗ってきたリムジンの後部座席に乗り込む。

っつうかリムジンなんて初めて乗ったよ。

発進しても車が揺れないなんて初めての経験だぞ。

そんな風に慣れないリムジンの乗り心地に戸惑っていた俺だったが、大体走りだしてから20分ぐらい経った時……。

 

「……ありがとうございます。定明様」

 

「ん?何がッスか?」

 

突如、運転中だった鮫島さんからお礼を言われて聞き返してしまう。

いや、いきなりお礼を言われる覚えなんて俺にはこれっぽっちも無えからな。

そんな感じで軽く混乱してる俺に対して、鮫島さんは真剣な顔をバックミラー越しに見せてくる。

 

「昨日あった事は、月村様から既にご連絡を頂いておりまして……巻き込んでしまった責任という事で、月村様ご自身からお話を伺いました……月村様のお家騒動の事、そして月村様方のちょっと変わった血筋の件につきましても……わたくしが申したのは、貴方様がアリサお嬢様とすずか様をお救い下さった、その件についてのお礼です」

 

鮫島さんが語った言葉に、俺は軽く衝撃を受ける。

今の話しだと、忍さんは夜の一族の事に関して、アリサの両親と鮫島さんにも話してるって事になるが……やっぱすずかの親友だからか?

 

「あ、あぁ。それッスか……別に良いッスよ、俺は偶々巻き込まれただけなんで」

 

「例えそうであっても、結果的にアリサお嬢様とすずか様の身をお救い下さったのは、紛れも無く定明様です。わたくしだけでなく、旦那様と奥様も定明様には大変感謝なさってました……この後で旦那様方からもお礼の言葉を申し上げる事になるかと思いますので、わたくしはお先に言わせて頂きたく思い、今この場で申し上げさせてもらったのです」

 

「げっ、マジっすか?……俺、そーいうの、なんつうか……こう、律儀に感謝されんのは慣れてねぇっつうか……気が重いなぁ」

 

多分、鮫島さんの言う事はマジなんだろう。

なんか今からアリサの家に行くの、気が重くなってきやがる。

ホント偶然の出来事だったから、そんな大々的に感謝されんのは辛いぜ。

そう考えて頭を抱えている俺を、鮫島さんは面白そうに笑って見ていた。

 

「ホッホ。何事も経験にございます」

 

できればそんな経験は一生ご遠慮したトコなんだがなぁ……。

この先の展開に少し気後れするが、既に車が走った後じゃどうする事も出来ない。

俺は若干憂鬱な気分のまま、アリサの家を目指して走るのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

『お待ちしておりましたッ!!ようこそッ!!城戸定明様ッ!!』

 

帰りてぇ。

それが今の俺の中に燻る心境だ。

何せ屋敷を囲う正門の所から屋敷の入り口までの道が、メイドと執事の長い列によって道が作られているんだから。

しかも全員90度のお辞儀の体勢で、更には歓迎の挨拶付き。

やっぱ来るんじゃなかったよマジで。

キツ過ぎる歓迎ムードにゲンナリしてると、側に立っていた鮫島さんがニッコリと笑って「こちらです」とか言ってくる。

チラッと後ろを振り返ればメイドと執事が閉まりきった門の前でお辞儀してた。

ご丁寧に逃げ道も完璧に潰されてら。

 

「……はぁ」

 

もうここまで来たら逃げる事は叶わぬと諦め、俺は鮫島さんの誘導に従って屋敷の中へと足を踏み入れる。

屋敷の中は、そりゃ~もう豪勢なシャンデリアだの何だのとあって、如何にもブルジョワって雰囲気がバンバン出てやがる。

つうかスタンドの制御練習するって言ってたのに、こんな人の多い所じゃ無理だ。

そこら辺どう考えてんだ、あの2人……もしかして秘密の特訓室なんかがあったりするのか?

 

「着きました。此方になります」

 

色々と考え事をしながら進むこと5分、廊下の途中にある大きな扉の部屋に案内された。

そこに鮫島さんがノックして「定明様をお連れしました」と声を掛けると……。

 

『あぁ、入ってくれ』

 

と、中から威厳に満ちた男の人の声が聞こえてくる。

許可が下りたので鮫島さんが「失礼します」と言いながら扉を開くと、中にはすずかとアリサ、そして忍さんとノエルさん、もう1人金髪の体格が良い男性がいた。

多分、あの人がアリサの親父さんなんだろう。

 

「良く来たわね、待ってたわよ定明」

 

「こんにちは、定明君」

 

「おーっす。何かえらく機嫌良さそうだな?」

 

中に入って直ぐにニッコリ笑いながら声を掛けてきたすずかとアリサに軽く挨拶しながら、俺は部屋の中へと足を進める。

 

「当ったり前よッ!!あのバカの顔を2週間も見ないで済むなんて、ザマミロ&スカッと爽やかな笑いが出てしょうがないわッ!!」

 

「うんッ!!こんなに嬉しい事は無いよッ!!」

 

「あーそう……でも、お前等ちゃんと反省はしろよ?」

 

「「はーいッ!!」」

 

「返事だけは一人前だな……まぁ良いけど」

 

もうこれでもかと嬉しそうにしてる2人を見て、怒るとかそーいう気になれなかった……まぁ良い気分の時に水を刺すってのも野暮だろ。

そう考えつつ、俺はアリサ達から視線を外して、ソファーに座ってる金髪の男性に目を向ける。

本当なら大人の人に先に挨拶しなきゃいけねぇんだけど、アリサ達が先に挨拶してきたから返す形になっちまった。

そう考えていたら、金髪の男性がニッコリ笑って俺に視線を向けてくる。

 

「やぁ、君が城戸定明君だね?私はアリサの父親のデビット・バニングスだ。今日は良く来てくれたね。歓迎させてもらうよ」

 

「どうも、初めましてッス。遅くなりましたが、城戸定明です。今日はお誘いありがとうございます」

 

金髪の男性、デビットさんに倣って俺も挨拶をしながら頭を下げる。

 

「いやいや。昨日月村さんから詳しい話は伺ってるよ……娘を助けてくれて、本当にありがとう。その事に関しては、感謝してもしきれない」

 

すると今度は逆にデビットさんから頭を下げられてしまう。

大人がこんな風に子供に頭を下げるって……そんだけアリサの事が大事って訳だ。

こーゆう時にあんまり遠慮すると逆に失礼になるって鮫島さんから言われたし、ササッと終わらせよう。

 

「いえ。まぁ、どう致しましてです……」

 

「……フフッ。君のお陰で娘は人生を救われたんだ。その恩に対して、私は会社の総力を挙げて報いろうと思う。コレは妻も賛成している事でね」

 

「あー、あんま大事にしないで貰えた方が嬉しいんスけど……」

 

バニングスグループっていやぁ、日本どころか世界でも有数の大企業。

そんな所に会社の総力を挙げてなんて言われたら萎縮しちまうよ。

 

「だが、娘の恩人に何もしないとあってはバニングス家の名が落ちてしまう。勿論、君に対するお礼がそれ目的かと聞かれれば否定は出来ないが、私も1人の父親として、君に俺をしたいという気持ちは本当だ」

 

「パパ……」

 

父親としての顔と大企業の社長の顔で、デビットさんは俺にそう言い、アリサは嬉しそうな顔でデビットさんの事を見ている。

つまり、俺がお礼を断れば会社と家の名に傷がつくって事かよ……面倒くせえ。

所謂大人の事情ってヤツに巻き込まれた我が身の不憫さに泣けてくるぜ。

今度からポコロコのスタンド常時発動しとくか?

 

「はぁ……分かりました。んじゃあ、欲しいモノがあるんスけど……」

 

仕方無く、仕方無~く覚悟を決めた俺は、デビットさんに欲しいモノを言おうと口を開いた。

俺のお礼を受け取りますって宣言に、デビットさんは笑顔を見せる。

 

「あぁ、何が欲しいんだね?君くらいの歳となるとTVゲームとかかな?それぐらいなら世界中から何本でも集めるが……」

 

ゲーム脳になっちまうって。

っていうか一生掛かってもクリア出来ないんじゃなかろうか?

 

「いえ、違います……美味い飯が食いたいっす」

 

「…………」

 

俺の提案した欲しいモノを聞いて、デビットさんはポカンと口を開ける。

あれ?これじゃ駄目だったか?

ちょっと周りを見渡せば、忍さんやノエルさん、鮫島さんまでもがポカンと口を開いてフリーズしていた。

 

「……く……くくっ……ハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」

 

え?何その高笑い?

 

「定明……アンタって奴は……」

 

「アハハ……ご、ご飯が良いの?」

 

何故かアリサとすずかは呆れたり苦笑したりしながら俺の事を見ている。

別におかしな事は言ってねぇと思うんだが……。

 

「何か変か?俺は只、普段のっていうか普通の生活じゃ食えねえぐらい美味いモンが食べたいって言っただけだぜ?材料とか考えたら結構高く付くと思うんだが…」

 

「ハッハッハッ!!気に入ったよ定明君ッ!!……フゥ……良しッ!!君のその願いを叶えようッ!!鮫島ッ!!今夜は世界中の一オシ料理を出せッ!!定明君の言う美味いモノを厳選して作らせろッ!!シェフ達には最高の仕事をする様に伝えておけッ!!」

 

「ホッホッホ。かしこまりました、旦那様」

 

俺の言葉を聞いたデビットさんは笑うのを止めて、側に控えていた鮫島さんに怒涛の指示を出す。

それを受けた鮫島さんも嬉しそうに笑いながら命令を承っていた。

っていうか今日なの?俺家に何の連絡もしてねーんだけど?

 

「あの、今日は俺、家に何も言ってきてないんで……」

 

「その点ならご安心下さい。わたくしが既に定明様のお母様へと伝えておりますので、就寝用の着替え等も全てお預かりしてます」

 

待て、ちょっと待て?今なんつったこの人?

確か『就寝用』つってたよなオイ?

何か色々とオカシイナー?と思いつつアリサ達に視線を向ければ、そこにはさっきと違って少し心配そうな顔を浮かべるすずかと、何故か俺に対して申し訳ないって顔、つまり気まずい顔を浮かべるアリサが居た。

お前等かこの騒動の差し金は?っていうかココまで計算してたのか?

 

「……明日は土曜日で学校も塾も休みだから、定明とすずかは今日はアタシの家に泊まっていく様に。あっ、コレ拒否権とかは無しだから」

 

「拒否権無しって……少しは俺にも話をしろよ。何でこんな土壇場になってンな事言うんだよオメエは?」

 

「……そうね。土壇場になったのは謝るわ……けど」

 

俺がかなり怒り気味に言うと、アリサは顔を悲しそうに変えて俺にキチンと謝ってきた。

それで怒りの矛先が鈍った俺にアリサは近づき、かなり真剣な表情を作る。

 

「お願い。今日だけは泊まって行って……ホントは学校で見た時に言いたかったんだけど、なのはが側に居たから言えなくて……マズイ事しちゃった」

 

「言えなかった?マズイ事?……何かあったのかよ?」

 

学校で見た……つまりハイウェイ・スターを操ってた時の事か?

スタンドという主語が無いのはデビットさんにばれない様にっていう配慮みたいだけど……。

アリサの本気で申し訳ないって表情に怒りを削がれた俺は、雰囲気を和らげてアリサに優しく声を掛ける……何か面倒事の匂いがプンプンするんだが……。

俺が優しく声を掛けても言い辛い事なのか、アリサは少しの間床と俺の視線を行き来し、やがて意を決したのか、口をゆっくりと開く。

 

 

 

 

 

「――ごめん。パパとママにスタンドを使ってる所……見られちゃったの」

 

 

 

 

 

……そりゃ無いぜ、アリサ……。

如何にもな面倒事の到来に、俺は手の平で顔を覆って天を仰いだ。




今日は短め。ホントだったらアリサとすずかがスタンドを出現させて名前を呼ぶ所まで行きたかったのにぃ……!!(血涙)多分、文章に余計な脂肪があった所為だと思うけど……何処らへんが余分だったんだッ!?


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『成長』しろ、お前等!『成長』しなきゃあお前達は『栄光』を掴めね(ry

タ~イ~ト~ル~(´Д⊂ボヘェ


現在の状況、ヘビーです。

アリサから何も聞いてないのに敢行されたお泊り会。

その理由は両親にスタンドの存在がバレてしまったらしいが……。

 

「……んで?何で親父さんとお袋さんにスタンドの事がバレてんだよ?」

 

理不尽に怒鳴り散らさず、なるべく状況を聞きやすくするために、俺はアリサにゆったりとした口調で問い質す。

さすがにこんな事態はまるっきり予想外だ。

チラッとソファーに座るデビットさんを見れば、さっきまでの笑顔じゃなくかなり真剣な表情で俺達を見ていた。

 

「そ、それは……実は――」

 

バンッ!!

 

と、俺の質問を聞いたアリサが戸惑いながらも話し出そうとした瞬間、部屋の扉が大きな音を立てて豪快に開かれる。

その音に何事かと思って扉へと視線を向ければ……。

 

「ごめんなさい、遅くなっちゃ……まぁまぁ!?貴方が定明君かしらッ!?昨日はウチの娘を守ってくれてありがとう~ッ!!」

 

何やらテンションの高い妙齢の金髪女性が扉の前で仁王立ちしていた。

しかも部屋に入って俺を見つけた瞬間満面の笑みを浮かべながら話しかけてくる。

ってこの人、今『娘』って……やっぱ……。

 

「ママッ!!お帰りなさいッ!!」

 

「お帰りマリア……だが、大切なお客様の前なんだから、もう少し静かに入ってきなさい」

 

「ホッホ、お帰りなさいませ、奥様」

 

「あら、ただいまアリサ♪それとアナタ?そんな堅苦しくしなくても良いじゃないいですか。アリサを守ってくれた彼にお礼を言うだけなんですから」

 

アリサの母親って訳だ。

突如豪快に登場したアリサの母親に、アリサは嬉しそうな顔でおかえりと言う。

鮫島さんは一礼し、デビットさんは少々呆れていた。

何ともまぁ、豪快な御人で。

そう思ってアリサの母親を見てると、彼女は満面の笑みを浮かべたまま俺に近づいてきて、俺に視線を向けてくる。

 

「ごめんなさいね定明君。大切な娘を助けてくれた人に会えると思うと凄く興奮しちゃって……私がアリサの母親のマリア・バニングスです。気軽にお姉さんと呼んで」

 

気軽過ぎだろ。

 

「あー……デビットさんにも言いましたけど、あんまその件は気にしないで下さい……俺は城戸定明ッス。よろしくお願いします」

 

「ハァイ、よろしくね」

 

俺の疲れきった挨拶にも動じず、マリアさんは微笑みを浮かべて応対する。

なんつうか、嵐の様な人だな……アリサの母親ってのも頷けちまう。

って今はそれどころじゃねぇ、アリサの話を聞かなきゃな。

完璧に勢いを削がれたが、俺は気持ちを入れ替えて再びアリサに視線を戻す。

 

「はぁ……兎に角、昨日何があったか話してみろよ?」

 

「……実は――」

 

マリアさんが席に着いて俺達をニコニコしながら見てる中、俺はアリサに昨日の出来事を話してもらう……。

 

 

 

事件があったのは昨日の夜、アリサがすずかの家から自宅に帰って、両親に誘拐事件の事を説明するために忍さんに同行してもらい、デビットさんとマリアさん、そして鮫島さんを含めたバニングス家の重鎮に誘拐事件の出来事、そして忍さん達夜の一族の事を話し、アリサ自身が自分の意志で契約を結びたいと思った事、そしてその確認を両親に取るために話していた時だそうだ。

ちなみに俺は昨日自分の両親は俺のスタンドの事とか知らないから何も言わなくて良いと忍さんに言っておいたので、母ちゃん達は契約していない。

 

 

 

話が逸れたが、結果だけ言えばデビットさんにマリアさん、そして鮫島さんもアリサの意志を尊重し、自分でしたいようにすればいいと言ってくれたらしい。

更にデビットさん達は今までの付き合いも含めて、自分達も契約を交わす事を約束してくれた。

その話し事態は滞り無く終わったそうだが、ここからが問題。

昨日誘拐され、何時もより神経が過敏になっていたアリサは、部屋の窓枠に止まって部屋の中を凝視していたカラスと目があってしまい、一種のパニックを起こしちまったそうだ。

まぁ夜中に部屋の中を凝視してくるカラス、更に夜だった事もあって、カラスの黒い体が見えず闇に2つの目玉が浮かんで、自分をギョロリとした目で見ている様に感じてしまったんだと。

その瞬間にアリサは叫び声を挙げ、スタンドを発現させてしまった。

所謂、自分の身を守るって防衛本能が過剰に働いたんだろう。

その結果は、カラスの止まってた窓枠と壁の一部を根こそぎブチ壊すという結果になり、それを見たデビットさん達は驚きのあまりひっくり返っちまったそうな。

そしてデビットさん達が復活すると会議は紛糾。

やれその力はどうしたとか何かの病気かとデビットさんは焦り、マリアさんは病院に電話しようとして間違えて時報に電話する有り様だったそうな。

折角忍さんが俺のスタンド能力の事を伏せて、俺が犯人達の気を引いたお陰で2人が助かったというでっちあげ話は全ておじゃん。

結局本当の事を全て話してしまい、今日俺がここに来る事と相成った。

 

 

 

……ってオイ。

 

「……まさかンな事でスタンドが暴走するとか……何てこった」

 

アリサの口から語られた余りにも情けない話に、俺は再び天を仰いで声を漏らす。

オイオイ……ちょっと幾ら何でも過剰に反応し過ぎだろアリサェ……。

 

「ほ、ホントにごめん……で、でもッ!!夜遅くにカラスがジーッとアタシの事見てたのよッ!?スタンドが暴走したってしょうがないじゃないッ!!」

 

コイツ開き直りやがった。

自分でも情けないとは思ってるんだろうけど、認めたくねぇからってカラスの所為にしてやんなよ。アイツ等だって一生懸命生きてんだから。

目の前で顔を真っ赤にしながら吠えてくるアリサに俺は溜息を吐いてしまう。

 

「ハァ~……まぁ、バレちまったモンはしょうがねぇとして……やっぱデビットさん達は、アリサにスタンドを持たせるのは反対っすか?」

 

とりあえずアリサから視線を外し、俺はソファーに座って難しい顔をしてるデビットさん達に声を掛ける。

 

「……娘の事を考えるなら、そのスタンド等という得体の知れない力を持たせるのは、余り歓迎出来ない……」

 

「パ、パパッ!?」

 

重々しくそう口にするデビットさんにアリサは驚愕の叫びを挙げるが、俺としてはその返答も予想出来てた。

だって、自分の知らない内に、自分の大事な家族に勝手に異能を与えられてたりしたらそういう返答になるだろう。

だからデビットさんの言い分は良く判る。

 

「やっぱそうですよね。だったらアリサからスタンドを取り出し「だが」ましょ……え?」

 

デビットさんの思いを理解して、俺はアリサからスタンドを取り出そうと提案したんだが、その提案の途中でデビットさんが口を挟んできた。

一体なんだろうと思って顔を向ければ、デビットさんは苦笑し、マリアさんは逆にニコニコしてた。

 

「定明君が娘の、アリサの為を思ってその力を与えてくれたというのは、アリサ自身から聞いている。アリサに何も言わず勝手にやっていたなら兎も角だが、娘の為を思って自分の持つ力を分け与えてくれた事を非難する程、私は落ちぶれちゃいないさ」

 

「そうですね……それに自分の娘が凄い力を持ってるなんて、なんだか誇らしいですし」

 

「ママ……パパ……」

 

何処までも娘第一に考えてくれてる事を感じたアリサは、2人の笑顔を見ながら口元を手で覆い、感激した様に声を漏らす。

デビットさん達はそんなアリサから視線を外すと、また俺に顔を向けてきた。

 

「定明君、そのスタンドという力は、アリサに危害を及ぼしたりするのかい?」

 

「いや、それは無いッス。あくまでスタンドってのは、本人の精神の力で動くモンであって、本体に攻撃をしたりはしないですけど……」

 

「フム……ならば、コントロール出来る様になれば、アリサの身は守れるかね?」

 

俺の言葉を聞きながら顎に手を当てるデビットさんは、続けて質問を飛ばす。

多分、スタンドが有ることの有益さが知りたいんだろう。

他ならぬ自分の娘の身を守る事が出来るのかって聞いてるんだ。

 

「それに関しては問題無いと思います。さっきの話を聞いた限りじゃデビットさんとマリアさんは、俺がアリサに貸したスタンドの破壊力を知ってるみたいですし……」

 

確認を取るつもりで質問を混ぜながら言葉を返すと、2人は頷きを返してくる。

そこで俺はデビットさん達だけで無く、すずか、忍さん、ノエルさんも視界に収めた。

 

「忍さん達にも関係あるんで言っときますけど、俺がすずか達に貸したスタンドは、応用力が効くスタンドなんです」

 

「応用力?……つまりどういう事なのかしら?」

 

「はい。まず皆に覚えて貰いたいのは、スタンドって存在は原則、一体につき必ず一つ、何かしら固有の能力を持ってるって事です。例えば……」

 

質問してきたマリアさんと、その場に居る皆に一つずつ説明しながら、俺はポケットから一枚の紙を取り出す。

これはエニグマの能力で3年前にファイルしたある品が入ってる。

それを中央のテーブルに置き、中を開くと……。

 

「ッ!?……私は、夢でも見てるのか?それともマジックか?」

 

「わぁ~ッ!?美味しそうねこのラーメンッ!!」

 

「何と……長生きしてきましたが、この様な現象は初めてでございます」

 

その紙の中にファイルされてたホカホカのラーメンを見て、初見のマリアさん達は皆一様に驚きを露わにしていた。

アリサ達は一度見てるからかそこまで驚いてはいなかったけど、やっぱまだ慣れないのか、少しだけ目を見開いている。

っていうか若干一名違う方向でビックリしてね?

 

「コレがまず、俺が持ってるスタンドの一つの固有能力なんです。こんな感じで指定した物をその時の状態のままで保存できるって能力でして……」

 

「なんともはや……凄い力を持ってるものだ、君は」

 

紙を畳んで仕舞いそこにあったラーメンが跡形もなく完全に消えてしまうと、デビットさんは目を丸くしたまま葉巻に手を伸ばし、途中で止めた。

まぁこの部屋未成年が大量に居るからな。

副流煙は体に毒だし、自重してくれたんだろう。

 

「まぁそんな感じで、アリサとすずかに貸したスタンドにも固有の能力が備わってるんですが……この能力の応用は、身を守る防御にも色々応用出来るんです」

 

「成る程ね~。じゃあ定明君から見て、アリサとすずかちゃんはどのぐらいでスタンドの制御が出来る様になるのかしら?その時間次第では、アリサに付けるSPの量を増やそうと思っているんだけど……」

 

アリサ達に渡したスタンドの能力、その応用が防御にも長けていると教えると、デビットさんは何度も頷き、マリアさんは2人がどのぐらいでスタンドをモノにするかと聞いてきた。

 

「あぁ、それッスけど……何かもう俺がココに泊まる事は確定事項にされてるみたいですし……」

 

暗に勝手に自分の未来を決められたという文句を篭めてアリサとすずかに視線を送る俺だったが、2人はササッと俺から視線を外しやがる。

ったく……今度からこーゆう事が無い様に注意して行動しねーとな。

そう考えながら俺は面倒くさいって気持ちを乗せた溜息を吐きつつ、質問してきたマリアさんに視線を戻す。

 

「とりあえず、今日の夕食までにスタンドの出し方、抑え方をキチッと教えておこうと考えてます。それで、デビットさんにお願いがあるんスけど」

 

「ム?何だね?」

 

「はい。俺が2人にスタンドの扱い方を教えるのは良いんですけど、ここに居る面子以外、誰にも見られない場所を貸して欲しいんです。さすがにこの力の事はなるべく他の人には見せるつもり無いんで」

 

俺が頼みたい事は、所謂秘密の特訓場みたいな場所を貸して欲しいって事だ。

さすがに普通の部屋で練習をやる訳にゃいかねぇしな。

 

「成る程。そういう事なら早速手配しよう」

 

俺の言葉を聞いたデビットさんは成る程、と頷くと鮫島さんに指示を出し、その指示を受けた鮫島さんが何処かへと電話をし始めた。

そして一言二言話すと、鮫島さんは電話を切り、此方に振り返る。

 

「お待たせしました。離れにある訓練場をそのまま使って頂いて構いません。人払いは全て済ませてありますので、誰かに声を聞かれる心配も無いでしょう」

 

「良し、では全員で行こうか?」

 

鮫島さんの言葉を聞いたデビットさんはソファーから立ち上がると、部屋の全員に出発を促して扉へと歩いていく。

え?全員ってまさか?

 

「えッ!?パ、パパ達も行くのッ!?」

 

俺と同じことを疑問に思ったのか、アリサが焦りながらもデビットさんに聞く。

その声を受けたデビットさんは、表情を緩めてアリサを見つめた。

 

「勿論だとも。大事な娘が頑張る所を見たいからな……そうだろう、マリア?」

 

「当たり前ですよ。ウチの娘が超能力が使える初めての瞬間。それを見ない手は無いわね~?」

 

完全に物見遊山気分だな。

 

「ママまで……もう、分かったわよ」

 

親の楽しそうな表情と言葉に、アリサは溜息を吐きながらも承諾する。

見れば忍さんとノエルさんも乗り気の様だ。

そう思っていると、すずかがニッコリと笑いながら俺に近づいてくる。

 

「定明君。私頑張るから、色々教えてね」

 

「当然だけど、アタシにもちゃんと教えなさいよね」

 

すずかに便乗して、アリサは指を俺にビシィッと突き付けて半ば命令してくる。

ったく、言われなくてもちゃんと教えてやるっての。

でもその前に……。

 

「教えてやるのは良いけどよ。二人共その格好でやるつもりじゃねぇだろーな?」

 

俺は2人のおめかしした服装を見ながらそう注意する。

スタンドを操るってのは精神力を使うって事だから、体を動かさなくても長時間スタンドを操れば自然と汗が出てくる。

首を傾げて分からないって顔をしてる2人にそう説明してやると、2人は動きやすい格好に着替えてくる、と鮫島さんを伴って部屋を飛び出していった。

すずかの分は、ノエルさんが色々と持ってきてるそうなので、心配無いとの事。

ならばと俺と忍さん、そしてバニングス夫妻は先に訓練場へと向かった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「おぉ~……こりゃスゲエ」

 

そんなチープな言葉しか出て来ないぐらい、訓練場は凄かった。

見たこともないトレーニング器具が並べられた場所に、大人数が一度に組手をやる為の広大な組手スペース、しかもサウナにマッサージチェアや自販機まである。

ここは温泉か。

 

「ハハッ。私達の家を守ってくれるSPを鍛えるための施設だからね。これぐらい無いと、いざって時に備えられないのさ……とは言え、アリサの時は何も出来なかったがね」

 

最初はこのスペースを誇らしげに語ってたデビットさんだが、一昨日の誘拐事件の事を思い出してか、少し顔に影が挿してしまう。

まぁ確かに、幾ら鍛えてても活躍出来なきゃ意味ねぇからな。

そんな事を考えていると、自分の気を入れ替える為か、デビットさんは葉巻に手を伸ばす。

それを口に加えたのは良いが……。

 

「……ん?(ゴソゴソ)……ライターを忘れたか」

 

どうにも葉巻を吸うためのライターを持ってくるのを忘れてしまったらしい。

探しても無いので、落ち込んだ表情のまま葉巻を仕舞おうとしたので……。

 

「ほい。これどうぞ(ボッ)」

 

魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)の能力を使って、葉巻の先に小さな十字架(アンク)の形の炎を生み出してあげた。

 

「うおッ!?お、驚いたな……有り難く使わせてもらうよ」

 

最初こそビックリして仰け反るというリアクションを取ったデビットさんだが、それが俺の出した炎だと判り、笑顔でお礼を言いながらその炎で葉巻に火を着けた。

そして葉巻を吸って煙を吐き出すと、デビットさんは幾分かリラックスした表情を浮かべながら俺に目を向けてくる。

 

「しかし定明君。君のスタンドというのは、普通の人には見えないのでは無かったのかね?今の炎は私にも見えたんだが……」

 

「今のッスか?今のは確かにスタンドの能力で作ったモンですけど、アレは空中にだした時点でデビットさんの咥えてた葉巻に火が当たりましたから、そこでエネルギーが見える様になっただけです。炎を操るスタンドそのものは見えませんよ」

 

原作でも、普通の人がアヴドゥルの出したマジシャンズ・レッドの炎がテーブルに燃え移ったのをちゃんと視認してたからな。

まぁ急にテーブルが燃え出したとしか認識出来てなかったけど。

 

「な、成る程……色々と、ルールが有るという事か……では、アリサとすずかちゃんのスタンドにも、何かしらのルールが存在するのかね?」

 

「有りますよ?今日は夕食前にその辺りまで教えていこうと思ってま……」

 

バァンッ!!!

 

「ま、まま、待たせたわねッ!!定明ッ!!」

 

「ご、ごめんね。ちょっと遅くなっちゃった」

 

と、デビットさんとスタンドの事で話し合っていると、又もや豪快に後ろの扉が開かれ、そっちの方からアリサとすずかの声が聞こえてきた。

 

「別にそこまで遅くはね……ぇ……けど……」

 

しかし、声のした方に振り向いて2人を視界に収めた俺は、色んな意味でフリーズしてしまった。

いや、余りにも俺の予想の斜め上どころか月までブッ飛んだ光景に言葉が出ない。

 

「な……何よ?なんか文句あんの?」

 

「え、えと……この服、似合わないかな?」

 

俺が振り向いた瞬間固まってしまった事が気に障ったのか、アリサは目を少し吊り上げて怒りを露わにしていた。

一方ですずかは自分の服を引っ張りながら不安そうな顔をするが、俺がタマげたのはそこじゃねぇ。

 

「……何で体操服なんざ着てんだよお前らは?」

 

しかもブルマって……聖祥はブルマなのかよ。

 

「ア、アンタが汗かくって言ったから、汚れても良い格好にしたのよ」

 

「コレなら汚れても気にならないもんね」

 

「いや、確かに気にはならねぇだろーけどよぉ……」

 

デビットさんなんか驚きすぎて葉巻落としてるんだけど?

自宅のトレーニングルームに体操服とブルマで現れる家の娘……なんだかなぁ。

2人の後ろでニコニコしてる鮫島さんとノエルさんが下手人なんだろうけど、アンタ等一体何がしてーんすか?

 

「……まぁ良いか。そんじゃ二人共、さっそく始めるぜ?」

 

「ドンときなさいッ!!何でもクリアしてやるわッ!!」

 

「えっと、よろしくお願いします」

 

片や自信満々に、もう片や丁寧にお辞儀をして、俺主導のスタンド練習教室が幕を開ける。

 

「良し……そんじゃ二人共、スタンドの基本的な出し方は昨日教えたとおりだが……その遣り方じゃ、出す度に物が壊れちまう。それは判るよな?」

 

一つ一つ確認するように2人に声を掛けると、2人は首を縦に振って肯定する。

それを見て、俺も一度頷く。

 

「それは2人がスタンドをコントロールする程の精神力が無いって事の証だ……だから、お前等は『成長』しなきゃならねぇ……スタンドをコントロールして、自分の手足の様に操る精神力を身に付けなきゃならねぇんだ」

 

「……アタシもすずかも、まだ精神が未熟って事ね……教えてよ定明。私達は何をすれば良いの?」

 

「まず2人がやらなきゃいけねぇのは、スタンドを完全に自分の手足としてコントロールする事だ。だからLESSON1。まず2人は今からスタンドを出す時に、怒りとかを浮かべるんじゃなくて、『自分はスタンドを出せて当たり前』って気持ちを持て……スタンドは自分の精神エネルギーの具現化したヴィジョン。ならそれをコントロール出来て当たり前と思わなきゃ、先へは進めない」

 

スタンド講義が続く中、2人はジッと黙って俺の言葉を聞いてる。

 

「そうすれば、スタンドは本人の感情をこなすって形で出るんじゃなくて、謂わばもう一人の自分って形で顕現するからよ……二人共、目を閉じろ」

 

そして、スタンドの講義が終了した時点で、俺は2人に目を閉じる様に指示した。

2人はその指示に何の疑いも持つ事無く目を閉じ、次の指示を待っている。

次は第2段階、自分の中にいるスタンドの存在を認識する事だ。

 

「目を閉じたな?……じゃあ次は、自分の中に居るスタンドの存在をしっかりと感じ取れ。出ろと念じるんじゃ無くて、自分の中の何処に居るかを探し当てるんだ」

 

「「分かったわ(よ)」」

 

俺の指示に従って、2人は瞑想する様に口を閉じて黙りこむ。

静寂が辺りを包む中、2~3分程してすずかが小さく「あっ」と呟いた。

どうやらキタようだな。

 

「分かる……上手く口じゃ言えないけど、確かに()()よ」

 

「うん。アタシも分かった。感覚っていうのかしら……ちゃんと()()わ」

 

すずかに続いて、アリサも感じ取れた様だ。

2人して目を閉じたまま、薄く微笑みを浮かべている。

 

「感じ取れたな?じゃあLESSON2だ……呼んでやれ……ソイツ等の名前を」

 

俺の言葉が聞こえたかは分からないが、2人は微笑みの形にしてた表情をグッと締め直して、大きく息を吸い込む……新しい『スタンド使い』の誕生だ。

 

 

 

 

 

 

――そして、アリサとすずかは閉じていた目をカッと見開き……。

 

 

 

 

 

「――『ストーン・フリー』ッ!!!」

 

「――『スパイス・ガール』ッ!!!」

 

ドギュウゥゥゥンッ!!!

 

 

 

 

 

自分と共に立ち向かうもの(スタンド)として、俺が貸したスタンドを呼び覚ました。

 

『……』

 

『……』

 

足を宙に浮き上がらせ、2人の側に立つ2体の人型のシルエットを持つスタンド。

まずアリサのスタンドだが、かなり細身で全体の色はオーシャンの様に淡く薄いブルーと、所々に黒いワンポイントの色がある。

見た目はマネキンに近く凸凹が少ないが、ライトグリーンのサングラスの様なモノを着けている。

これがアリサに渡した近接パワー型のスタンド、『ストーン・フリー』だ。

しかしアリサのスタンドに対する概念が甘いのか、所々の像が『ほつれている』。

この『ほつれている』って表現はストーン・フリーにだけは正しい。

何故なら、コイツは『糸』の『固まり』だからだ。

ストーン・フリーは近接パワー型に分類されるが、それはこの立体の事を表わす。

コイツの特性は、『糸としての概念を操る』って事にある。

だから立体じゃなくスタンドの糸として使えば遠距離にもいけるし、編み込めばネットとか色んな物に応用が効くんだ。

アリサは一発目の暴走の時からストーン・フリーを立体の形で表しちまったからまだちゃんとストーン・フリーを『糸の固まり』だと認識出来てねぇんだろう。

これは後でちゃんと教え……。

 

「……アタシのエネルギーの……糸として出たエネルギーの『固まり』」

 

所が、俺がストーン・フリーの特性をアリサに教える前に、アリサはストーン・フリーの特性を瞬時に見抜きやがった。

嘘だろオイ……まだちゃんと出して5分も経ってねぇぞ?

驚く俺を他所に、アリサはストーン・フリーを見つめながら更に言葉を紡ぐ。

 

「線が集まって固まれば『立体』になる……この概念がストーン・フリーッ!!」

 

アリサがそう叫んだ瞬間、ストーン・フリーの飛び出しほつれた糸が縫い合わされ、ヴィジョンを確固たる立体の形で留めてしまった。

 

「まさかこんなに早くストーン・フリーの特性を理解するとはな……グレート」

 

賞賛だけじゃ無く呆れやら何やらもたっぷりと篭めてそう言ってやると、アリサはストーン・フリーを出したまま胸を張って踏ん反り返った。

 

「ふっふーん♪どんなもんよ?もう暴走なんてさせないんだから」

 

「その自信はどっから出てくんだよ……まぁ、おめでとさん。アリサ」

 

「と、とと、当然よこんなのッ!?このアタシに出来ない訳無いでしょッ!!」

 

俺の労いの言葉を聞いたアリサは顔を明後日の方向に向けながら若干目尻を吊り上げて言葉を返してくる。

普通に労ったらコレだ……ちっとは感謝しやがれっての。

まぁアリサが理不尽なのは今に始まった事じゃねぇし、根は良い奴だから別にムカツキはしねぇ。

 

「さ、定明君ッ!!私もちゃんと呼べたよッ!?ほらッ!!」

 

と、アリサの態度にやれやれって首を振っていると、アリサの隣でスタンドを呼び出したまま待っていたすずかが俺に声を掛けてくる。

その声に従ってすずかを見れば、ちゃんとすずかの後ろにもスタンドが出ている。

しかもアリサよりもちゃんと安定した形でだ。

 

「ん……あぁ、すずかもちゃんと出来てるぜ。おめでとう」

 

「えへへ……あ、ありがとう、定明君」

 

俺の言葉を嬉しそうに聞いてたすずかは、鼻歌でも歌いそうなぐらい上機嫌だ。

まぁストーン・フリーは特殊なスタンドだから仕方ねぇっちゃ仕方ねぇけど。

すずかの後ろに立つスタンドの全体像だが、まず色が凄い。

何が凄いかって言うと、全体的にピンク色だからだ。

しかも薄いショッキングピンクで、胸部も女性らしく盛り上がっている。

このスタンドもストーン・フリーと同じく近接パワー型に分類されるスタンド。

その名も『スパイス・ガール』だ。

このスパイス・ガールにもちゃんと能力が備わっているんだが……。

 

「スパイス・ガールの能力って、一体どんな力なのかなぁ?」

 

やはりすずかはまだスパイス・ガールの能力までは認識出来ていなかった。

でも、それが普通なんだよなぁ。

ストーン・フリーは糸の状態から人型になるには立体にするってプロセスがある。

だからこそ、自分のエネルギーが糸という形で出てると分かる。

だがすずかのスパイス・ガールは違う。

人型を構築するのに何か条件が居るって訳じゃねぇからな。

そういう理由で、すずかがスパイス・ガールの特性をハッキリと理解出来ないのは当たり前の事なんだ。

原作じゃ最初に現れた時はスパイス・ガール自身が意志を持ってたが、このスパイス・ガールはまだすずかの制御下に入ったばかり。

慣れればスパイス・ガールも喋るだろうけど、今はまだ何も言わないだろう。

 

「おーし、とりあえずLESSON2までは終了したな……そんじゃあ二人共、次はそのスタンドを戻してみな。やりかたは単純に『戻れ』と思えば良い」

 

とりあえずササッと次の項目に進む為に、俺はすずか達にスタンドを一旦解除す様に言い渡した。

それを聞いた2人はサッとスタンドを消したので、コチラも問題無し。

後はそれを繰り返して、スタンドの出し入れを瞬時に出来る様になるまで反復練習をさせていく。

 

「ふ~む……アリサとすずかちゃんは成功した様だが……」

 

「私達にはスタンドが見えないから、どうにも暇になっちゃいますね」

 

まぁ外野の皆さんはスタンドが見えないので仕方ないが、そろそろ実践的な事を教えこんでいくとすっか。

 

「よーし、二人共。スタンドを出したままにしろ」

 

ちょうど仕舞ったタイミングで2人にそう言うと、2人は無言でストーン・フリーとスパイス・ガールを呼び出す。

もう声に出して名前を呼ばなくても出せる様になったみてえだ。

 

「そんじゃあ、お二人さんが予想より早くスタンドの出し入れを覚えてくれたんで、そろそろLESSON3に入っていくが、その前にスタンドのルールってヤツを話していくぜ?」

 

「ルール?そんなのがあるの?」

 

「ある。そんでこのルールってのはかなり重要だからしっかり覚えてくれ」

 

かなり重要って言葉を聞いて、アリサ達はまた表情を引き締めて静かになった。

それを見計らい、俺は言葉を紡ぐ。

 

「まず、スタンドには色々な種類があるんだけど、すずかのスパイス・ガールとアリサのストーン・フリー。この2つは近接パワー型ってのに分類される」

 

俺はそこで言葉を区切ってザ・ハンドを呼び出し、自分から2メートルぐらいの位置まで移動させるが、ソコから先はどう命令しても進めなくなる。

 

「これが近接パワー型の射程距離の限界。大体2メートルってトコだな。見ての通り、本体からはそんなに離れられない」

 

やってみな?と目線で訴えると、2人は自分のスタンドを前に進ませる、

しかし俺のザ・ハンドと同じく2メートルくらいの位置からはウンともスンとも動かなかった。

それを理解したアリサが、少し口をへの字に曲げる。

 

「随分動ける位置が短いけど、その代わりにパワーが凄いって事なの?」

 

「そうだ。今まで嫌って程体験したお前等なら分かるだろ?あの素早い、というか人間には絶対に不可能なスピードでパンチを振るう威力ってヤツをよ」

 

「うん。充分過ぎる程身に染みてるよ」

 

昨日までを思い出しながらか、すずかは表情に影を見せる。

まぁあんだけ好き勝手にスタンドが暴れて部屋がブッ壊れたんだから理解しててもらわねぇと俺が困るっての。

 

「そしてルールその2。コレは近接パワー型に共通して言える事だが、スタンドが傷つけば、本体のお前等も同じ場所が傷つく」

 

傷つく。その単語に2人はしっかりと反応してグッと唇を噛み締めた。

まぁ誰だって好き好んで自分から傷つきたくはねぇもんだ。

 

「まぁでも、だ。まずスタンドはスタンドでしか触れられない。だから例え剣で刺されようが銃で撃ち抜かれようが、スタンドは傷つかないからそんなに心配入らねぇよ」

 

「その前に銃で自分を撃たれたら終わりでしょうがッ!!」

 

俺の苦笑しながらの励ましにアリサは吠え、すずかは顔を青くするが……。

 

「いやいや。お前等に貸したスタンドなら銃弾ぐらい拳で弾き返せるぞ?」

 

銃弾とか剣がスタンドに効かないのに対して、スタンドの拳や蹴りなんかはしっかりとイメージすれば銃弾でも何でも触れる事が出来る。

掴んだり頭突きとかも出来るからなぁ。

 

「まぁその辺の技術は追々磨いていくとして……とりあえずLESSON3は明日だ」

 

「えぇッ!?ま、まだ大丈夫だよ私ッ!!」

 

「そうよッ!!アタシだってまだ全然やれるわッ!!」

 

俺の言葉を聞いた2人は目を見開いて講義してくるが、俺は苦笑を浮かべていた。

やれやれ……まだ『終わり』だなんて言ってねぇぞ?

そう思いつつも、このままでは2人が引き下がらないと思ったので、俺は手の平を2人に向けてストップを表示して口を開く。

 

「待て待てって二人共。まだ今日の特訓が終わりだなんて言ってねぇぞ俺は?」

 

そう言うと、俺の言葉の意味が分からずにポカンと口を開けて呆けるお二人さん。

 

「俺は只LESSON3は明日って言っただけで、今日はまだもう少しやるぜ」

 

「な、なんだ……そういう意味だったんだ……良かった(ぼそっ)」

 

「紛らわしい言い回ししてんじゃないわよッ!!もうッ!!……で?今から何をするの?」

 

アリサ達はそれぞれ安堵したり怒ったりしてるが……その余裕が何時まで保つかね?

 

「なぁに、大した事じゃねぇさ。とりあえずスタンドの出し入れが任意で出来る様になったワケで……『星の白金(スタープラチナ)』」

 

俺はにこやかに笑いながら、史上最強のスタンドという声も名高いスタープラチナを呼び出す。

全スタンド中NO,1と言われる精密動作性、パワー、スピードを兼ね備えている。

更に原作に出てきたスタンドの中では唯一髪の毛が生えている、尤も人間に近いスタンドとしても有名だ。

さすがに素人とはいえ『2対1』じゃあコイツを出さないとちょいと恐えからな。

俺がスタンドを出した意味が分からずボケッとしてる2人に、俺は人差し指を向けて挑発する。

 

「今から10分間、2人で好きな様に俺を攻撃してみな……スタンドの使い方を身体で直接覚えるんだ」

 

「「ッ!?」」

 

俺の提案を聞いた2人は絶句とも言える表情で俺に視線を送ってくる。

更にアリサ達の後ろ側の壁に居たデビットさん達も同じ様な表情を浮かべていた。

まぁ皆揃ってアリサ達の持ってるストーン・フリーとスパイス・ガールの破壊力を良く知ってるからな、俺の言葉が自殺行為に思えるんだろう。

 

「な、何でアンタを攻撃しなきゃいけないのよッ!?」

 

「そうだよ定明君ッ!!危ないから止めようよッ!?」

 

俺の言葉の意味を理解したのか、フリーズ状態から帰ってきた2人はこの訓練自体をしたくないらしい。

2人揃って口々に止めようと言ってくる。

けどまぁ、コレしか方法が無えんだよなぁ、実際。

 

「あのよぉ。スタンドの練習してんだから、スタンドが使える俺が相手するに決まってんだろ?安心しろって、コイツのポテンシャルと能力は半端じゃねーから、そう簡単に怪我なんかしねーよ」

 

「で、でも……や、やっぱり危ないよッ!!」

 

だがそれでもすずかは食い下がり、ひたすら俺の身を案じてくる。

口では言ってこないがアリサも同意見なのか、表情を苦いモノに変えていた。

やっぱコイツ等は優しい……優しすぎんだよ……仕方ねぇ、強引にやるか。

 

「残念だがよぉ、コレは絶対に何時かやらなくちゃならねぇんだ。スタンドで物を掴む力加減、弾き、防御するタイミング……それはこーゆう練習をしねーと駄目なんだ」

 

俺が昔練習した時は、ずっと1人でひたすらスタンドで攻撃するモーションの反復練習をこなしたり、時を止めた中で自分に向けてナイフを投擲させ、ソレをひたすら弾く練習とかもいっぱいやった。

でも、あの練習は効率があんまり良くねぇ上に、すずか達にやらせるにはちと危険過ぎる。

 

 

 

――だから、ココは心を鬼にしてでもすずか達と戦う。

 

 

 

ん~でもなぁ、何かすずか達にヤル気を出させる様な案は無ぇモンか……あっ、そうだそうだ?だったらもうDQN君を復活させるとか言えばやる気になるんじゃね?

物は試しって事で……。

 

「ったく……じゃあもう良いぜ。なら俺はスタンドを返してもらって居なくなるだけだし、お前等が嫌いなあのDQNネーム君からも助けてやらね「すずかッ!!真っ正面からいくわよッ!!」お?ヤル気に「うん、アリサちゃんッ!!今ここで確実に仕留めるッ!!」あ?」

 

最初は効果あったなぐらいにしか思って無かったけど、どうにも俺の発破はヤル気ならぬ殺る気を出させてしまったらしい。

2人は覚悟を決めた目で俺を捉えつつ真正面から突っ込んでくる……やべっ。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

『WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNABEEEEEEEEEEEEEEEEE!!』

 

しかも初っ端から拳と蹴りのラッシュ、って成長し過ぎだろお前等。

コイツぁ俺も気合入れねぇとな。

俺は後ろに下がりつつ、スタープラチナに渾身のラッシュを繰り出させる。

 

『オォォラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

素早く、正確に、でもパワーは少し抑え気味に繰り出したラッシュで弾幕を張りつつ、2体のスタンドが繰り出すラッシュの悉くを弾き返す。

うん、やっぱスタープラチナは強さが飛び抜けて……。

 

「ちぃッ!!すずかッ!!スピード上げるわよッ!!」

 

(やらなきゃアタシの前から居なくなるですって?上等じゃないッ!!叩きのめしてそんな事言えなくしてやるわよッ!!)

 

「うんッ!!容赦は要らないよねッ!!」

 

(定明君が私の前から居なくなるぐらいなら、我慢して戦う方がマシだよッ!!)

 

おーいお二人さん?かんっぺき目が据わってるぞ?

そんなにDQNネーム君は嫌か?嫌なのか?

っていうかマジでヤベエ、ドンドンとラッシュのスピードが上がってきやがる。

おっかしいなー?俺アヌビス神のスタンドは貸してねぇ筈だけどなー?

このままじゃマジで俺もやべぇ……しゃーねぇ、少しズルさせてもらうぞ。

 

『オラァアッ!!』

 

ゴギィインッ!!!

 

「つぅッ!?」

 

「きゃあッ!?」

 

ラッシュを弾く手が追い付かなくなりそうになった瞬間、スタープラチナのパワーを更にワンバンド上げて、ストーン・フリーとスパイス・ガールのラッシュ諸共弾き飛ばして距離を取る。

その際に2人が悲鳴を上げるが、スタンドが弾かれた衝撃が伝わって尻餅を着いただけに終わる。

まぁ、さすがに怪我だけはさせない様に調整したからな。

 

「イタタ……もう一度いくよ、アリサちゃんッ!!」

 

「おっけーおっけー。トコトンやったろうじゃない、すずかッ!!」

 

だが2人は直ぐ様起き上がるとまたスタンドを展開し、即座に突っ込んでくる。

しかも目は闘志の炎が物凄い事溢れ出てた。

……こりゃあ俺もちょいとだけ、覚悟しといた方が良いかもな。

 

「ブッ飛ばしなさいッ!!ストーン・フリーッ!!!」

 

『オォオラァアアッ!!!』

 

「ここだよッ!!スパイス・ガールッ!!!」

 

『ウリャァアアアアアッ!!!』

 

そう考えながら、迫るアッパーとハイキックを捌く為に戦闘態勢に入る俺だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「良し、10分経ったから終了すんぞ……初めてだ、こんなに疲れるとは……」

 

たった10分、されど10分ってぐらいに内容の濃い練習だったよ。

いやもうコイツ等戦闘指南要らないんじゃね?ってぐらいに強かった。

っていうか初めての操作でスタンド上手く使い過ぎだぞ。

さすがに時を止める事はしなかったが、それでも厄介極まりなかったぜ。

 

「ハァ……ハァ……も、もうダメ……」

 

「フゥ……フゥ……疲れたよぉ……」

 

俺は息を荒らげながら立っているが、スタンド初使用のすずかとアリサは床に倒れこんでゼィゼィ言っている。

額も何も汗でボトボトになっちまってるから、体操服が重たそうだ。

 

「ハァ……ハァ……汗、気持ち悪い」

 

「うん……服がボトボト……」

 

「だ、大丈夫ですか?すずかお嬢様?」

 

「アリサお嬢様も、コチラのスポーツドリンクを……」

 

そんな2人を甲斐甲斐しくお世話するのは、ノエルさんと鮫島さんだ。

二人共起き上がる気力すら沸かないのか、されるがままにされてる。

俺の時もそうだったけど、やっぱ最初の頃はスタンドを動かす事にエネルギーを大分使っちまうし、更に動いてたから余計疲れたんだろうな。

俺も自分の分のスポーツドリンクを受け取って、ジムの壁に背中を預けて座る。

冷たいスポドリが心地いいな。

 

「ふぅ……しっかし、ありゃタマゲたぜ……まぁあの調子なら心配要らねぇだろ」

 

ボヤいていると、デビットさんとマリアさん、忍さんが俺の傍に近寄ってきた。

 

「お疲れ様だね、定明君……大丈夫かね?」

 

「俺は大丈夫っすけど、アリサ達の方は良いんスか?」

 

未だに床から起き上がってねぇんですけど?

そんな疑問を口にしても、マリアさんは微笑むだけだった。

 

「良いの良いの。後でちゃんと褒めてあげるし、お客様の定明君に誰も付いていない訳にはいかないでしょ?」

 

「それに、君はアリサの我侭で今日、家に来てるんだしな……で、どうだったかな?ウチのアリサと……」

 

「私の所のすずかは?かなり凄い音がしてたけど、あれって何の音?」

 

まぁそんな感じで今の戦い、そして2人を見てたデビットさんと忍さんが完走を求めてくる。

俺は軽くスポドリを口に含んで喉を潤してから2人に向き直った。

 

「忍さんの言ってる音なら、スタンドで殴り合ってた音ですね……感想って言われても、どうも何も無いッスよ。ありゃ何なんですか?二人共初心者のやる動きじゃ無いッスよ。アリサは隙がありそうなモンならソコを突いてくるし、すずかに至ってはスタンドと同時攻撃やらかしたんスよ?もうビックリなんてモンじゃねぇ」

 

さすがにアレは焦った。

何せスパイス・ガールにラッシュさせたかと思ったら、すずか本人が突っ込んできて「えいッ!!」とか言いながら殴りかかってくるんだもんな。

夜の一族は身体能力高いって言ってたけど、ホントにアレはビビッた。

俺の言い分を聞いたデビットさん達は、娘の成長ぶりに苦笑してる。

 

「あー……なんというか……」

 

「すずかって意外にアグレッシブだから……」

 

そんな一言で片付けられる程生易しいモンじゃねーってアレは。

さっきの特訓についてそう考えていると、デビットさんが咳払いして立ち上がる。

 

「兎に角、3人共汗だくになってるから、一度風呂に入ってくるといい。その間に食事の準備も終わるだろう……定明君、今日の夕食は楽しみにしていてくれ」

 

「フフッ、シェフの皆さんが張り切って作ってくれましたからね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

微笑みながら嬉しい事を言ってくれたデビットさんとマリアさんに感謝の言葉を返すと、2人は微笑みながらジムを後にし、アリサとすずかはノエルさんに抱えられて2人仲良く風呂場に連れて行かれた。

忍さんは家で恭也さんが待ってるらしく、このまま帰るそうだ。

そして最後に残った俺だが、鮫島さんに案内してもらいながらジムを後にし、男子専用の大浴場へと向かい、今日の疲れと汗を洗い流すのであった。

 

 




さぁ~そろそろ原作へ行きたい!!!


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ブッ殺すわッ!!それ以上足を広げたらブッ殺してや(ry



最近毎日更新してるけど、手抜いて書いてるからまだ逝ける。

……何時落ちるかわからないけどwww


 

カポーン

 

「ふい~……気持ち良いなぁ~」

 

ジムでの特訓が終わり、俺は鮫島さんに案内された男子浴場とやらに浸かっている。

これまた温泉そのものじゃないのか?と思える程豪華な設備だ。

そのだだっ広い空間で一人寂しく汗を流し、浴槽……というかデカイ湯船でゆったりとしてる。

 

「とりあえずアイツ等、スタンドのコントロールは完璧に出来る様になったし、明日LESSON3を教えたら何とか普通に使えるだろ……後は、2人次第ってか」

 

1人の空間でそうボヤきながら、俺は肩まで身体を湯船に沈めてゆったりする。

さすがにここまで早く仕上がるなんて予想もしてなかったっつうの。

 

『――ッ!?』

 

『――ッ!!』

 

「ん?……何だ?」

 

と、あの2人の底なしともいえる才能、というか精神力の強さに呆れていた俺の耳にサウナの中から人の声が聞こえてくる。

ありゃ?もしかして先客が居たの……。

 

ガチャッ

 

「フゥ~……アリサちゃんのお家ってサウナがあって良いよね~。ウチもお姉ちゃんが家のお風呂に造ろうかなって言ってたんだけ……」

 

「へぇ~そうなの……ってどうしたのよ、すず……か?……」

 

「…………ん?」

 

俺より先に入ってきてた人に挨拶しとこうと思って目をやれば、何故か出て来たのは髪をタオルで湯に浸けない様に纏め上げ、ハンドタオル一枚で身体を申し訳程度に隠してるアリサとすずかだった。

 

 

 

…………あれ?

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

3人揃って何も言わず、只硬直してお互いにポカンとした顔を晒す俺達。

すずか達の思ってる事は分からんが、言える事は唯一つ。

何でここに居る?その歳で痴女の気でもあんのか?

そう思っていれば、アリサとすずかの目が渦巻きの様にグルグルと回りだし、顔色が下からグングンと真っ赤な色合いに染まりだすではないか。

あーヤバイ、これはぜってえに……。

 

「「――キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」」

 

叫ばれるパターンだな。

もう耳が痛くなるほどのハウリングボイスで叫びながら、すずかは自分の身体を抱きしめてその場に座り込み、アリサはストーン・フリーを呼び出して俺に殴りかかってくるが……。

 

「ストーン・フリーの射程距離は2メートルだって教えただろーが?」

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアッ!!』

 

しかもオラオラですか?全部俺に叩き込む気だったんですかアリサさんよ?

俺達の距離は4メートル、どう考えても射程距離外だっての。

とりあえず何時殴りかかられても良いように体ごとアリサ達の向きに振り返る。

 

「な、なななな何でアンタがここに居るのよぉおおッ!!?イヤッ!!そんな事よりにコッチ見るなこのバカぁああああああああああッ!!!?」

 

「あ、ああ、あっち向いててッ!!?お願いだからッ!!?」

 

そして俺が2人の方に振り向くと、2人は更に金切り声を上げて俺を非難する。

おかしい、コレって俺が悪いのか?

俺はツルペタに興味は無ぇし、小学生で反応なんざしねぇよ。

そうは思いつつも、涙目で俺を睨みつけてくるアリサの視線が面倒なので、俺は2人に従って反対側に向き直り、再び湯船に身体を落とした。

 

「……っていうか、何でお前等ココに居るんだ?ココって男湯なんだろ?」

 

風呂の入り口のトコにそう書いてあったしな。

 

「えッ!?ウソッ!?」

 

「こ、ここって男湯ッ!?ノエルが間違えちゃったのッ!?」

 

と、俺の呟きを聞いて心底驚くお二人さん。

ノエルさんに連れられてここに来た様だが、普通そんな事間違えたりするか?

そんなポカやる様な人には見えなかったけどな。

 

「た、大変だよアリサちゃんッ!?ここが男湯なら、他にも男の人が沢山ッ!?」

 

「でも裸で女湯に行く訳にもいかないでしょうがッ!!着替えは鮫島が持ってくるまで無いし……」

 

「あぁ、その鮫島さんが言ってたけど、俺の後は誰も来ないって言ってたぞ?」

 

他の人はもう全員入った後らしいからな。

背中越しで表情は分からねぇけど、俺の言葉に安堵して大きく息を吐く2人。

まぁ女の子が男の前で裸なんて見せたくねぇか……俺もさっさと出よう。

 

「とりあえず、俺はもう身体温まったし、出るからお前等が使えよ。二人共そのままじゃ寒いだろ?」

 

湯船にタオルを浸けるのはマナー違反だが、とりあえず下半身を隠すために仕方無くタオルを沈めてお湯の中で腰に巻き付ける。

 

「ちょ、ちょっと待ってッ!?」

 

「い、いいい今湯船の中に入るから、まだあっち向いてなさいッ!!振り向いたらブッ潰すわよッ!?」

 

何処をでしょうか?

スタンドがあるから冗談ともとれねぇ恐ろしい事を平然と言ってのけるアリサ。

そんなとこには痺れねぇし憧れもしねぇよ。

とはいえ、自分から何かを潰される趣味がある筈も無く、俺は溜息を吐きながらアリサの指示に従って待ち、それを確認したアリサとすずかは湯船に恐る恐るといった具合で浸かっていく。

 

「……うぅ」

 

「見られちゃった……はぅ」

 

何やら背中越しに哀愁に染まった声が聞こえてくるんだが……。

 

「あー、その、なんだ……あんま気にすんな。俺は気にしねぇ」

 

「気にするよッ!?男の子に見られちゃったんだよッ!?」

 

「気にするに決まってるでしょこのバカッ!!乙女が裸見られて何とも思わない筈ないわよッ!!」

 

乙女て。

もはやなんと言おうと二人は気落ちしたままだろう……面倒くせ。

とりあえずここから出てサッサと夕食に向かおう。

 

「分かった分かった。とりあえず俺は先に出るから、風邪引かねー様にしとけ」

 

それだけ言って俺は風呂から上がり、服を着替えて脱衣所から外へ出る。

……何か脱衣所の前でニコニコしてるノエルさんと鮫島さんが居るけど、関わるのもメンドくせえからスルーして、俺は風呂場を後にした。

そんでまぁ夕食の時間になった訳だが……いやはや、スゲエ豪華だったよ。

まず執事とメイドは一緒には食事しないとかで、ノエルさんと鮫島さんが俺達の給仕に回った訳だけど、そうすると食事をするのは必然的に俺とアリサ達、そしてデビットさんとマリアさんの5人って事になる。

たったそれだけの人数だってのに、出てくる料理の豪勢さと言ったら、本当一生に一度食えるか食えないかってレベルの食事ばっかりだった。

しかも一つの食事がでる度に、作ったであろうシェフの人が俺に向かって頭下げながら「お口に合いましたか?」なんて聞いてくるんだもんなぁ。

ぶっちゃけ凄く美味かったです。

でも、庶民の味が恋しかったです、ごめんなさい。

しかも面倒くせえ事に……。

 

「うぅ~~……」

 

「……はぅ」

 

「……何だよ?」

 

食事中だってのに、俺の向かい側の席にすわってるアリサとすずかが顔を真っ赤にしながら唸ったり落ち込んだりしつつチラチラと俺を見てくる。

その視線が気になっていまいち食事に集中出来ないんだ。

だから俺は普通に質問したんだが、アリサは俺の声に目尻を吊り上げてくる。

 

「別に……何でもないわよ」

 

絶対何でもなくは無いと思うが……大方あの風呂の一件を引き摺ってんだろう。

でも一言言わせて頂くなら、俺は別に何もしてはいない。

それでもああいう視線を送ってくるって事は、まぁ怒りのやり場が無いみてーだ。

しかし俺にはどうしようも無い……って事で半ば二人から送られてくる講義の視線を無視しながら食事にありつくしかなかった俺であった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、食事も済んで、今俺はすずかとアリサの2人と一緒にアリサの部屋に居る。

もうすぐ良い子は眠る時間なので、俺達は3人ともパジャマに身を包んでる訳なんだが……。

 

「「……」」

 

どうにも風呂場でのダメージがデカ過ぎるのか、二人共顔を真っ赤にしたまま俺と目も合わせようとしない。

その所為で部屋の中にはシーンとした静寂に包まれてる。

この状況が好ましくねぇのは判ってるし、原因が俺だってのも判ってはいるんだ。

でも、俺からしたら別に見たくて見た訳じゃねぇんだが……しょうがねぇか。

 

「……なぁ二人共、俺が悪かった。だから機嫌直せって」

 

本当なら、文句は2人を彼処に放り込んだノエルさんに言ってくれと言いたかったが、このままじゃ明日まで引っ張りかねない。

だからまぁ、俺から頭を下げる事にした。

明日は予定通りLESSON3を教えるってのに、2人がこの調子じゃ進まねぇからな。

そして俺が頭を下げたのを見た2人は何故か居心地悪そうな表情を見せる。

 

「……別に、アンタに対して怒ってる訳じゃ無いわよ」

 

「うん。定明君は何も悪くないもん」

 

そして2人が呟いた言葉は、俺は別に悪く無いという言葉だ。

 

「いや、まぁそうなんだけどよ……」

 

ここまでスッパリと言われてしまうとコチラも何も言う事が出来ない。

かといって2人がこのままじゃ明日俺が困る。

さてどうしたもんか……俺が風呂場の出来事を忘れりゃ良い話か?

 

「ならよ。俺がさっき風呂場で見た記憶を消すから、それで勘弁してくれ」

 

そう考えた俺は2人にそう提案する。

 

「え?き、記憶を消すって……スタンドで?」

 

「あぁ、俺のヘブンズ・ドアーを使えば、あの時見た俺の記憶だけをピンポイントで消せるから、ソレで何とか機嫌直せ。明日は朝イチでLESSON3をやるから、ちゃんと集中出来ないとお前等に練習をさせられないんだ」

 

俺の言葉に疑問の声を上げたすずかに言葉を返しながら、俺は明日やるLESSONの内容を頭の中で思い浮かべる。

明日やらなきゃいけないのは、2人のスタンドが持ってる能力を使う事だ。

この能力の把握をしておけば、後の応用は全て2人のイメージ次第。

スパイス・ガールはちょっと難しいだろうけど、そのかわりパワーとスピードにおいてはアリサのストーン・フリーを上回ってる。

この2つが上回ってる事と、アリサのストーン・フリーの応用力の高さのバランスは良い感じに取れてるし、どっちかを贔屓したワケじゃねぇ。

って、話が逸れちまったな。

 

「兎に角、さっき見た事はちゃんと忘れるから、明日はキチンと練習に身を入れて欲しいんだよ。それで良いな?」

 

確認するように2人に声を掛けながら、俺はヘブンズ・ドアーを呼び……。

 

「ち、ちょっと待ちなさいッ!!アンタは何も思わないのッ!?」

 

出そうとしたら、何故かアリサによく解らねえ事を聞かれた。

無論、アリサの言いたい事が分からず、俺は首を傾げる。

 

「何も?……何もって何だよ?」

 

「だ、だからその……ア、アタシ達の……」

 

「は、はだ……裸を見て……さ、定明君は、何も思わないのかなー?って……」

 

「ハァ?」

 

俺はアリサとすずかの言葉を聞いて、素っ頓狂な声を挙げてしまう。

既に2人の顔色は赤を通り越して深紅色に染まり、目尻にちょっと涙が出てる。

って何言ってんだコイツ等?

 

「別に何も思わねぇけど……」

 

意味が分からずそう返せば、アリサの目の吊り上がりが更に増す。

 

「何でよッ!?女の子のは、はだ……裸を見て、何で何も思わないのよッ!?」

 

「そ、そうだよッ!!それってちょっとおかしいと思うッ!!」

 

「いや、別におかしくは無えだろ?確かに入ってきた時はビビッたし、見ちまって悪かったなーとは思ったけどよ、それぐれえだぞ?」

 

「うぅ~~ッ!!!?」

 

「おかしい。絶対おかしいわコイツ……明らかに異常よ」

 

俺の返答に「納得いかない」って表情を見せながら唸り声を挙げるすずか。

そしてブツブツと呟きながら俺に怒りの目を向けるアリサ。

何で俺が異常者認定受けなきゃいけねーんでしょうか?

そんな2人を尻目に、俺は後ろ髪をポリポリと掻いて目を細めてしまう。

 

 

 

「じゃあ聞くけどよ?お前等って俺の事好きなの?」

 

 

 

確かに俺に惚れてるってなら何も思わない事に怒るのは判る。

でもそんな雰囲気全然無かったからな?完璧ノエルさんのやった偶然だし。

そんな事を考えながら2人を見ていると、2人は俺の言った言葉にポカンとした顔を見せてきて……。

 

 

 

「ふ、ふぇぇえええええええええッ!!?す、すすすッ!!?」

 

「ば、ばばば、馬鹿じゃないのアンタッ!?べべべべ別にアンタの事なんかす、すぅッ!?す、好きでもないんだからッ!!変な勘違いすんなッ!?」

 

 

 

次の瞬間、盛大に爆発した。

しかもアリサに至っては顔を真っ赤にして怒りを顕にしながら、枕で俺をバフバフと殴ってくるってオマケツキで、だ。

まぁこんな状況で面と向かって聞く言葉じゃねぇのは重々承知してっけどな。

 

「なら別に俺がお前等の裸見て何も思わなくたって良いだろーが?只、俺はお前等が嫌な気分になるだろーと思って、自分の記憶を消すって言ってんだぜ?」

 

「そ、そんなの要らない気遣いよッ!!別に記憶なんて消さなくても、明日はちゃんとやるからッ!!アンタもその話題蒸し返さないでッ!!」

 

「う、うんッ!?別にそんな気を使ってくれなくても大丈夫だよッ!?」

 

「ホントか?……まぁ、なら良いけどよ」

 

とりあえずは別に記憶を消さなくても良いらしい、この話しはコレでお終いだ。

長々と引っ張るのも面倒くせえからな。

そこで話を切り上げて、俺は寝る準備の為に出していた荷物を片付け始める。

 

(うぅ~ッ!?私のバカバカバカッ!!あそこで定明君にちゃんと……す、好きだよって言えば良かったのにぃ~……はぁ~あ)

 

(い、行き成りにも程があるのよアイツはッ!?何であんな簡単に好きなのかって面と向かって聞いてこれるワケッ!?羞恥心ってモンが無いんじゃないのッ!?)

 

そして荷物を片付けて2人が座っているソファーに戻れば、今度は恨みがましい視線をぶつけられる。

しかしソレに取り合ってたら寝る時間が減っちまうからスルーした。

 

「とりあえず、今日はもう寝ようや。明日もあるし……ってそういや、俺は何処で寝たら良いんだ?」

 

思い出した様に重要な事をアリサに尋ねてみる。

よく考えたらこの部屋にはベットが一つしか無いし……まさか?

何か嫌な予感が頭を過りアリサに視線を向ければ、彼女は速効で視線を逸らす。

更にすずかに視線を向ければ、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

「……お……同じ、ベットよ……嫌なの?」

 

……どうやら俺は、この2人と一緒に寝なくてはいけないらしい。

そりゃねぇぜ、神様仏様、アリサ様。

まぁ覚悟を決めて同じベットで寝ましたがね?

えぇ、俺の予想通り寝付いた2人が俺を抱きまくらの様にしてしがみついてきたよ。

お陰で熱くて寝苦しい夜になっちまった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「おはよう、定明君。昨夜は良く眠れたかね?」

 

現在の時刻は早朝の7時。

昨日と同じ様に離れにあるジムに来ていた俺は現れたデビットさんに挨拶された。

俺も挨拶に従って向き直り、デビットさんに一礼する。

 

「おはようございます……あんまり寝れなかったッスね」

 

だって熱かったからなぁ……しかも逃げようとしたらアイツ等唸るし。

俺の返答が予想通りだったのか、デビットさんは苦笑いしてた。

 

「本当なら客間を貸すべきだったんだろうが、アリサから客間は要らないと言われてね。娘の我侭に付き合わせてしまって、申し訳ない」

 

「いや、まぁ良いッスよ。俺1人の為に部屋貸してもらうのもどうかと思うんで」

 

実際子供の為に部屋一つ貸してくれる家は普通ねぇよな。

そう答えながら、俺は屈伸したり伸びをしたりして身体を解す。

 

「そうか……所で、アリサとすずかちゃんは一緒じゃ無いのかね?」

 

「あの2人なら、まだ着替えてますよ」

 

朝方の話だが、俺は2人よりも先に目が醒めてしまったんでザ・ハンドを使って自分を瞬間移動させて、ザ・抱枕状態から抜けだしたのだ。

そんで前の晩にアリサから朝は鮫島さんが起こしにくると聞いてた俺はソファーに座って、待っていたってワケ。

つっても、ホンの5分くらいで鮫島さんが来たからそこまで暇じゃなかった。

鮫島さんのモーニングコールで起きたすずかとアリサに、俺はまたあのジムに居るから着替えたら来いとだけ伝え一応鮫島さんにも覚えてもらってからココに来た。

 

「ふむ。唐突なんだが、アリサも君に会ってから更に生き生きとしてるよ……定明君、これからもアリサの事をよろしく頼む。叶うなら、君がアリサの居る聖祥に転校して欲しいとは思ってるんだが……」

 

「いやいや、それは無理ッスよ?俺ん家そこまで金ねーし、俺も今の学校のダチが大事ッスから」

 

「ハハッ。判っているとも。只そうなってくれればなという、私の思いだよ」

 

そんな思いを小学生の俺に話さないで欲しいッス。

そんな風に男二人で会話していると、鮫島さんとノエルさんを伴ってすずかとアリサが昨日と同じ様に体操服姿で現れた。

 

「ごめんね定明君、待ったかな?」

 

「昨日よりは早く来たつもり……って、何よ?その『ピンポン球』は?」

 

2人は俺の近くまで来たが、俺の側に置かれたネット状の箱の中に入ってる大量の『ピンポン球』を見て首を傾げている。

まぁコレはLESSON3に入る前に使うモンだから、ココに来る前に部屋の側で控えていた鮫島さんに頼んで用意してもらったモノだ。

 

「おう、二人共良く眠れたか?」

 

眠れてなかったら俺の寝苦しさを返せと言いたかったが、2人は俺の質問に笑顔を浮かべて口を開く。

 

「うん。昨日いっぱい運動したから、良く寝れたよ」

 

「アタシも良く寝れたわ。快眠で目覚めもバッチリって感じ」

 

「そりゃ良かった……今日は昨日に比べるとやる事がそこそこ多いから、まずは軽く柔軟運動して身体を解しときな」

 

俺の最初の指示を聞いたアリサとすずかは素直に答え、さっそくノエルさんと鮫島さんに手伝ってもらいながら柔軟運動を開始した。

俺はそれを横目で確認しつつ、今日の課題をこなした後、家に帰ってから何をしようかと考えていたりする。

取り敢えずは学校の宿題して、後は……。

 

「定明、終わったわよ」

 

そう考えていると、アリサが元気よく話しかけてきたのでそちらを振り向く。

すずかも柔軟が終わったようで、2人並んで俺の前に立っていた。

 

「ん。そんじゃ、昨日言ったLESSON3に入る前に、まずはおさらいだ。二人共スタンドを出してくれ」

 

2人にスタンドを呼び出す様に言うと、2人は直ぐに各々のスタンドを呼び出す。

それを見届けた俺も同じ様にスタープラチナを呼び出した。

 

「さて、まずは今からやる事だけどよ、昨日とは正反対で俺が攻撃するからすずか達は俺の攻撃を防御するなり避けるなりしてくれ」

 

「反撃はしても良いのかしら?」

 

「それは構わねーけど、あくまでこの訓練の目的はお前等がスタンドの防御になれる事だからな?これをこなせば、例えいきなり襲い掛かられたとしても対応出来る様になるだろーよ。昨日の段階で攻撃は良く出来てたからな」

 

「うん、分かったよ」

 

「りょーかい。キッチリ守りきってやるわ」

 

「うし。じゃ、行くぜ?」

 

一応前置きはしながら2人が準備OKになった段階で、俺はスタープラチナを連れたまま2人に走って近づく。

ソレを見た2人はまず射程距離の間隔を縮められないように後ろへと引いた。

2メートルという短い区間を、ギリギリの状態でキープしてる。

多分俺の攻撃を釣りだして、その隙を狙おうとしてるんだろう。

それ自体は悪くない戦法なんだが、後ろを気にしながら下がる2人では、俺の走るスピードの方が断然早いからな。

 

『オラァッ!!』

 

案の定、その距離は直ぐに縮まり、俺はまずアリサのストーン・フリーに一発左のパンチを繰り出した。

それを見た瞬間、アリサはストーン・フリーの腕を交差して顔面の防御を固める。

だから、俺はその防御してる腕の下。

つまり肘部分を狙って、フックを打ち込む。

 

バァンッ!!

 

「きゃッ!?」

 

そうする事で、ストーン・フリーの防御を上向きにカチ上げた瞬間、スタープラチナの開いた右手を差し伸ばし……。

 

パチンッ

 

「あいたッ……」

 

軽めのデコピンをお見舞いしてやった。

その軽い痛みのショックで混乱したのか、ストーン・フリーの存在が掻き消える。

アリサはというと、デコピンされた額を抑えて、床に座った状態で俺を睨んでた。

 

「ほい。まずは一発だ「隙ありッ!!」ってねーよ」

 

俺がアリサを倒した瞬間を狙って、俺の後ろからすずかがスパイス・ガールの右ストレートをお見舞いしてきた。

俺はその場で直ぐ様回転して向き直り、スタープラチナにパンチを受け止めさせて力で固定する。

 

グッグッ

 

「あ、あれッ!?外れないッ!?」

 

そうする事で、すずかはスパイス・ガールの拳を引き戻そうと躍起になり、本体の防御が完全に疎かになってしまう。

まぁまだ操ってそんなに日が経ってねぇし、何より2人は戦い自体が初めて。

普通に生きてきた女の子にしては大分筋が良いけどな。

そんな事を考えながら俺は苦笑し、スパイス・ガールの握られた拳を外そうと奮闘するすずかの前に俺自身が移動、すずかの直ぐ側に立った。

 

「えいッ!!えいッ!!ど、どうしよ「お~い?」……え?」

 

頑張って手を外させようと奮闘するすずかの側に立って声をかけてやると、すずかはキョトンとした顔で振り向いてきた。

オイオイ、これは昨日すずか自身がやった戦法だろうに。

驚きでフリーズしてるすずかに、俺は苦笑したまま俺の手ですずかに軽くデコピンを打ち込んでやる。

 

パチンッ

 

「あうッ!?」

 

すずかはアリサと同じ様に額を抑えて後ずさってしまい、スパイス・ガールもその存在を消してしまう。

 

「ほい。これで2人に一発ずつだな?」

 

「あうぅ~……参りました」

 

「ア、アンタねぇ……ちょっとは手加減しなさいよ」

 

2人を見渡しながら言うと、床に座り込んでるアリサが俺に恨みがましい視線を送りながらそんな事を言ってくる。

あれ?ひょっとして俺、スタープラチナで撃ったデコピンの力加減間違えたか?

 

「悪い、アリサ。痛かったか?ちゃんと力加減はした筈なんだが……」

 

ちょっとアリサの態度がおかしいと思った俺はしゃがみ込んでアリサの両手に手を伸ばして掴んだ。

 

「へ?ちょっ!?」

 

何やら騒いでるアリサを無視して手を額からどかし、俺はソコを注視する。

手の平に抑えられてた額は別に赤くも無く、力加減は間違えていない。

もしかして衝撃が中に通ったのか?

スタープラチナのパワーは半端じゃねぇから有り得ない事じゃねぇけど……。

 

「だ、大丈夫よッ!!私が言ってるのは、もう少し手を抜きなさいって事ッ!!」

 

「あ?何だそっちか……てっきりアリサに怪我させちまったかと思ったぜ」

 

焦って損したな。

 

「オ、オデコは何とも無いわ。アンタがちゃんと手加減してくれたから……し、心配してくれて……その…………アリガト」

 

「いや、怪我がねぇんなら別に良い」

 

兎に角心配は無い様だったので、俺はアリサの手を引いて立たせた。

すずかの方は座り込むまではいってなかったので、俺達の事を待ってた。

 

「むぅ……」

 

何か不満そうな顔で、ってお前もか。

2人揃って不平不満が多いなと感じつつも、2人の前に立って講義を再開した。

 

「とりあえず、今の中で何が駄目だったかっていう事だけど、まずアリサ。お前はあの時、俺の攻撃を防御できたと思って少し安心したろ?」

 

「……そうね。アンタより早くガードに入れたから大丈夫だって思ったわね」

 

「そりゃ悪手だ。スタンドはイメージ次第で動きを変えられる。どんな事でも絶対に大丈夫なんてのはねぇ。ゲームだってそういう無敵武器はあんまりねぇだろ?」

 

「あぁ、確かに。その言い方なら判るわ」

 

「そう。スタンドは確かに強い存在だけど、無敵って訳じゃねぇ。だからまずコレは対人戦の練習だと思ったら良いぞ?相手が繰り出した攻撃に合わせて撃破、なんてのも可能だからよ」

 

「それって、昨日アンタがやってたヤツの事ね?アタシとすずかの攻撃を同じ攻撃で跳ね返してた」

 

今の言葉で昨日の光景が浮かんできたんだろう。

スタンドのラッシュを同じラッシュで弾き返す、謂わばラッシュの速さ比べ。

これは対人どころか銃弾とか飛来物でも使えるからな。

 

「あぁ。基本的にスタンドの攻撃はあのラッシュを使え。そうすりゃ大抵の攻撃は相殺出来る。只ラッシュに色々混ぜ込むっていうオリジナリティは必要だぜ?」

 

「分かったわ。やってみる」

 

「良し……次にすずか」

 

「うん。私は……やっぱり、掴まれた手に躍起になっちゃった事かな?」

 

出来の良い生徒は先生好きです。

振り返って俺のアドバイスを待っていたすずかに話し掛けると、すずかは自分の問題点をキチッと理解してた。

 

「そう。あそこで手のみに意識がいったのがマズかったな。あの場合はキックで追加攻撃を加えたり、片手でラッシュしてみるのも良い。外の攻撃で手を外さないとならねぇ状況を作ってやればいいさ」

 

「うん。頑張ってみるよ」

 

俺のアドバイスを聞いたすずかはニッコリと笑いながら胸の前で手にムンっと力を入れてやる気をアピールしてくる。

 

「まぁ、すずかは運動もかなり出来るし、直ぐにスタンドの動きをマスターするだろうよ。お前はホントにスタンドとの相性が良いと思うぜ?」

 

「そ、そうかな?エヘヘ……」

 

かなり高い評価を聞いたすずかは照れ笑いを浮かべて、指と指をチョコチョコさせながら恥ずかしがっていた。

そんな感じで照れているすずかに笑顔を見せつつ、俺は再びスター・プラチナを呼び出して2人から少し離れる。

 

「最後に2人に共通して言えるのは、ちょっと別の事に意識が行くとスタンドを解除しちまうって事だ。コレは地道に回数を重ねねぇと慣れないから、普段からスタンドの操作に慣れていく様にしといてくれ……そんじゃあ二回目、始めるぞ?」

 

2人が再びスタンドを呼び出して俺に頷いたのを確認。

俺達はまた距離を詰めて、スタンドの防御訓練を行った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……フム……皆様、10分が経ちましたぞ」

 

ストップウォッチを持って時間を計ってくれてた鮫島さんの声を聞いて、俺達は一旦訓練をストップさせる。

第一段階の防御訓練、これにて終了だ。

 

「もう10分経ったっていうのッ!?くぅ~ッ!!もう少し時間があれば……」

 

「結構良い所まで行けたんだけどなぁ……やっぱり定明君には敵わないや」

 

「お前等マジ容赦ねぇな。何発か貰いそうになるとは思わなかったよマジで」

 

ホントにコイツ等の成長速度どうなってんの?

俺が5年がかりでモノにしたスタンドの攻撃をホンの10分足らずで食らいつくとかおかしくね?アレか、成長性Aなのか?

今回も時は止めずに相手出来たけど……これ続けてたら本気でヤバかったかも。

まぁそこから大体30分の休憩を挟んで、次はピンポン球を使った練習だ。

既に休憩して気力もMAXな2人の前に立ち、俺はピンポン球を一個取り出す。

 

「良し。じゃあ次だけど、次はこのピンポン球を使うからな。コレを銃の弾丸に見立てて……」

 

立ったまま俺の説明を聞いている2人に声を掛けつつ、俺はピンポン球をスタープラチナに持たせて、手の中で指を撃鉄代わりに弾かせる。

 

ドギュンッ!!

 

そうする事でピンポン球は結構速いスピードで撃ち出され部屋の壁にブチ当たる。

 

「まずこのピンポン球を弾いて防御する事と、その次は実際にピンポン球を撃ってもらうからな」

 

2人が問題無いと頷いたので訓練を開始したが、コレも先の防御訓練の成果か、全てキッチリ防御を成功させ、朝食を食べてからスムーズに次の訓練に入れた。

 

 

 

 

 

まぁ入れた事は入れたんだが……。

 

 

 

 

 

ドギュウンッ!!

 

撃ち出されたピンポンは明後日の方角へと向かい、設置された的から外れる。

 

「あぁ、もうッ!!何で真っ直ぐに飛ばないのよッ!!?」

 

「うぅ……これ難しいなぁ。まだ一発も当たらないよ」

 

思ったようにいかずブチ切れるアリサの横で、すずかが嘆く声が聞こえる。

所変わって場所は外。

バニングス家の敷地内にある大きな庭。

そこに設置されたアーチェリー用の的に向かってピンポンを当てるって練習な訳だけども、まだアリサ達は一発も当てていない。

ピンポン球ってのは軽くて丸いので、風の影響とかをモロに受けやすい。

だから真っ直ぐ飛ばすには難しい力加減が必要だ。

間違いなくベアリング弾より難易度が高い。

それもキチッと説明しておいた筈なのに、まだ一発も当ててないトコを見ると、まだ二人共スタンドの力加減が上手く出来てねぇんだろう。

そんな2人の様子を、俺は欠伸混じりに見ている。

 

「……二人共、後10分で今日の練習は終わりだかんな」

 

怒ったり落ち込んだりと対照的な2人にそう言って、俺は練習風景を眺める。

そう、本来なら今日の内にLESSON3まで行く予定だったんだが、今日はアリサ達に予定が入ってしまったんだ。

朝食を食ってる時にあのなのはって子から連絡があって、今日皆で遊ぼうとお誘いがあったらしい。

そのお誘いを2人が受けたので、今日の練習はここまでにしたんだ。

まぁ俺も早く帰れるから別に良いんだけど。

 

「とりあえず、また今度練習見てやっから、今日はお開きにしたらどうだ?俺も家に帰って宿題せにゃいけねーしよ」

 

ピタッ

 

そう言うと、何故か落ち込んでたすずかと怒ってたアリサが動きを止め、俺の方に振り返って来た。

 

「え?定明君は私達と来ないの?」

 

「何で一緒に行くって話になってんだよ?お誘い受けたのはオメエ等だろーが」

 

寧ろ俺は帰る気マンマンだったりするんですけど?

さすがに今日は家でゆっくりして……。

 

バチンッ。

 

と、俺が帰ってからのプランを考えていたら、今までとは違ってピンポン球が当たる音が聞こえてきた。

その音の鳴った方に視線を向けると、アリサとすずかが同時にピンポン球を発射して、同時に的に当てているではないか。

しかも二人共ド真ん中。

 

「……ねぇ、定明?賭けしましょうよ?」

 

「は?……賭けって何だ?」

 

俺に背中を向けたまま、突如俺に賭けを持ち出す意図が分からなくて、俺はアリサに問い返してしまう。

 

「私とアリサちゃんが、連続でピンポン球を真ん中の赤いゾーンに当てたら、私達と一緒になのはちゃんと遊ぶっていうのはどうかな?」

 

そして、俺の問いに答えたのは言い出したアリサではなく、さっきまでとは表情が打って変わってニッコリと良い笑顔を浮かべてるすずかだった。

え?何その賭け?そして俺が勝った場合の支払いが何も言われてないんですが?

そう声に出そうとする前に、これまた良い笑顔のアリサが俺に向かって振り返ってくる。

 

「そうね。じゃあ賭けは何球にする?ン?10球?100球?」

 

オイちょっと待っ……。

 

 

 

 

 

「「違うわね(よ)1000球よ(だよ)」」

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアッ!!』

 

『WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNABEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!』

 

 

 

 

 

俺の静止する声を無視して発射される大量のピンポン球。

そして賭けの結果は――。

 

 

 

 

 

「じゃあ鮫島ッ!!行き先は翠屋ッ!!よろしくねッ!!」

 

「ホッホ。畏まりました。アリサお嬢様」

 

「楽しみだね、定明君♪」

 

「お前等俺を家に帰す気無いだろ?」

 

 

 

 

 

見事に俺の立てた一日のプランがブッ潰されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






誰かタイトルに良い案を下ちゃいo(#゜Д゜)_‐=o)`Д゜)・;ンナモンネーヨ!


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シブイねェ…まったくおたくシブ(ry



ファイヤーーー\(^o^)/


「君がアリサちゃん達が話してた定明君だよね?私は高町なのは。アリサちゃんとすずかちゃんのお友達なのッ!!私の事はなのはって呼んでねッ!!」

 

「とりあえず俺に謝罪しろ。七回生まれ変わって出直してきたら許す事を考えてやらんでもない」

 

「にゃあッ!?な、七回生まれ変わっても考えてくれるだけなのッ!?」

 

「確率は8割程度だが?」

 

「それはドッチの確率なのッ!?聞きたいようで聞きたくないような……っというか七回も生まれ変わるなんて絶対に無理だと思うんだけどッ!?」

 

「何なら生まれ変わらせてやろうか?今ならもれなく超特急の便があるけど?」

 

「怖いよッ!?何する気なのッ!?っていうか何に乗せる気なのかなぁッ!?」

 

メイド・イン・ヘヴンがありますが何か?時を加速させて七巡させてやろーか?

席に座ってオレンジジュースを飲んでいた俺にいきなり自己紹介をし始めた少女に対して、俺は軽く冗談を返しながら対応する。

現在、俺はアリサとすずかに今日の予定をブチ壊されて、2人の友達であるなのはという女の子、そしてこの前会った恭也さんの実家が経営してる喫茶店、翠屋にお邪魔いていたりする。

というか、俺が承知していない賭けが勝手に成立してたのは納得いかねぇ。

 

「う~……私、嫌われてるのかなぁ」

 

「アハハッ。大丈夫だよなのはちゃん、定明君はからかってるだけだから」

 

「え?そうなの?」

 

「ちょっと定明。アンタあんまりなのはをからかってやるんじゃないわよ」

 

俺がここに来る原因の一端担ってる少女に少しばかり悪戯して遊んでいたら、俺の向かい側の席に座ってお茶してるすずかとアリサから咎められてしまった。

見ればなのはって子は少し目尻を下げた目線で俺に「からかってる?」という疑問と若干の怯えを含んだ視線を送ってきている。

……まぁ、そろそろ止めるか。幾ら何でもこの子に当たるのは筋違いだしな。

 

「悪い悪い。アリサの話してた通りの性格なら俺の台詞に素晴らしいリアクションを返してくれるんじゃないかと思ってたんだが、結果は想像以上だったぜ」

 

「にゃあッ!?ア、アリサちゃん定明君に何を言ったのッ!?」

 

「えッ!?い、いや別に、ってコラァ定明ッ!!アンタ何言ってんのよッ!?」

 

「何って、お前が話してくれた通りなら、この子はおっちょこちょいな所があって、何も無い所で直ぐに転んで怪我するし、体育は言うまでもなくテンで駄目。現国とかの文系も壊滅的って感じなんだろ?」

 

「ふにゃぁああッ!?アリサちゃん酷いよぉおおッ!!しょ、初対面の男の子にそんな事言うなんてぇええッ!!私そんなにおっちょこちょいじゃないもんッ!!」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいってなのはッ!?そんなに揺すられたら目が回っ」

 

俺がアリサから聞いたこの子の評価をそのまま伝えてやると、彼女はアリサに掴みかかってグワングワンとアリサの肩を揺らし始めたではないか。

すずかは2人の騒ぐ様子を見て慌てふためいている。

全く……まだ話は全部終わった訳じゃねぇんだがな……。

目の前で始まったコント劇を視線に収めつつ、俺は少し笑みを零して口を開いた。

 

「でもまぁ……」

 

俺が3人にハッキリと聞こえる声量で声を出すと、3人は騒ぎを一旦納めて俺に視線を全て向けてくる。

全員の視線が集め終わった中で、俺はアリサの言葉の続きを思い出しながらゆっくりと言葉を選んで話し始めた。

 

「そんだけおっちょこちょいでも人を思いやる気持ちは人一倍強いし、心はとっても真っ直ぐで、凄く良い子……だからこそ、アタシとすずかはあの子の親友なんだけど……だったっけ?アリサ?」

 

「ちょッ!?ア、アンタ何で今その事を言うのよッ!?」

 

「ア、アリサちゃん……私の事、そんな風に思ってくれてたの?……エヘヘ」

 

俺が聞いたアリサ主観の言葉を伝えてやると、なのはって子は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて笑っていた。

一方で自分の思ってた事をバラされたアリサは顔を真っ赤にして口をパクパクと開閉しながらどもっている。

まぁこれぐらいの仕返しは許されるだろう。

俺は手に持っていたコップをテーブルに置いてから、なのはって子に笑顔で手を差し出した。

それを見たなのはは少し顔をキョトンとさせるので、俺は苦笑してしまう。

 

「さっきは悪かったな。改めて自己紹介すっけど、俺の名前は城戸定明。海小の3年生で、親しいヤツは俺の事をジョジョって呼んでる。よろしく、なのは」

 

俺の自己紹介で、今俺が差し出してる手が握手だって気付いたんだろう。

なのははパァッと顔を輝かせて俺の手を取ってくれた。

 

「うんッ!!よろしくお願いしますなのッ!!定明君ッ!!」

 

「おう……でもよ、なのは?あんまし簡単に相手に名前預けちゃ駄目だぜ?俺もアリサ達から聞いたけど、もし俺がDQNネーム君みたいなヤツだったらどーすんだ?」

 

ちょっと人が良すぎる感じがしたのでそう注意してやると、なのははニッカリとした清々しい笑顔を浮かべるではないか。

 

「大丈夫だよ。定明君は神無月君みたいな変な人じゃないって判るもん」

 

「オイオイ……今日会ったばっかりの人に何でそんな事が言えるんだよ?」

 

俺の聞き返しに対しても、なのははニコニコとした笑顔を変えずに俺を見ていた。

 

「だって、本当にそんな人ならそんな事聞いたりしないでしょ?それって、定明君が本当に私の事心配してくれてるって事だと思うの」

 

そりゃまぁ……何ともしっかりした奴じゃねぇの。

少なくともただぽややんとしてるだけって子じゃなさそうだな。

別段悪い奴って感じはしねぇし……さすがアリサとすずかの親友なだけはあるな。

そんな事を考えながら、俺は肩を竦めて話を誤魔化し、再びテーブルのコップを取ろうと……。

 

ガシィッ。

 

「ングングング……プハァッ!!…… ご 馳 走 様 ッ ! ! 」

 

した所で、顔を真っ赤にして俺を睨みつけてくるアリサに一気飲みされた。

その所為で行き場を失った俺の手が宙を彷徨ったまま静止してしまう。

しかし文句を言おうにも、アリサは俺を真っ赤な顔で睨みつけてくるもんだから何とも言えねえ。

何だ?俺が勝手になのはにアリサの胸の内をバラした仕返しか?

……ならば俺も……やったろうじゃねぇか。

取り敢えず伸ばしたままだった手を更に奥に伸ばして、俺はアリサの飲みかけのアイスティーを引っ手繰る。

その際アリサが「あっ!?」とか言って驚いてたが無視。

 

「ングングング……フゥ~……ご 馳 走 様 ? 」

 

「ア、アンタねぇ~……ッ!?」

 

「悪いなぁアリサ……俺はコケにされると結構ネにもつタイプでなぁ」

 

怒りでプルプル震えてるアリサに笑顔でそう答えて、俺はオレンジジュースと一緒に頼んでいたシュークリームをひとかじりする。

柔らかいのにサクッという歯ごたえを保つ衣。

その上に掛けられた白糖の素朴で深い甘みがアクセントとなって、中に詰められたカスタードクリームの甘さを上品に引き立てる。

つまり何が言いたいのかっていうと……。

 

「うん、美味え……すずかの言った通り、こりゃ確かに一度は来る価値があるな」

 

昨日のディナーもかなり美味かったが、このシュークリームの美味さは昨日とはまた趣向が違う。

あっちが選ばれた者の為の食事なら、こっちは皆に親しまれる味って奴だ。

 

「そうでしょ?翠屋さんのシュークリームは絶品なんだ」

 

「ありがとうなの、定明君。お母さんも喜ぶよ」

 

「ちょっと定明ッ!!アタシもここはオススメだって言ったでしょッ!!っていうか人の飲み物飲んでおいてスルーするなぁッ!?」

 

「人のモン飲んだのはオメーもだろうに」

 

取り敢えずゆったりとこのデザートを食べたかったのに、食い付いてくるアリサが意外と執念深かったので、俺は仕方無くその相手を務める。

さすがに何時までも拗らせておく訳にゃいかねぇからな。

 

「なんかなぁ……定明君って、アリサちゃんと仲良すぎないかな?」

 

「ん?」

 

そんな事を考えてアリサの相手をしていると、アリサの横に座っていたすずかが少し頬を膨らましてそんな事を言ってきた。

何時の間にか俺の隣に座ってるなのはも「あっ、確かに」とか呟いてる。

 

「な、何言ってんのよすずかッ!?ア、アア、アタシは別に……ゴニョゴニョ」

 

「むぅ……」

 

そんな事を指摘されたアリサは真っ赤な顔で慌てふためきながら俯いてしまい、すずかはその様子を見て更に頬を膨らませる。

 

「俺は別に、アリサとすずかとは平等に接してるつもりなんだがな……何か俺の態度が気に障るところがあったのか?」

 

「別にそういう訳じゃないんだけど……あっ」

 

何やら自分の言葉に自信無さ気な声を出して若干俯いたすずかは、自分の手元にあるチョコケーキを見て小さく声を挙げた。

その声にどうしたんだと思いながら視線を向けると、すずかは俺のシュークリームと自分のチョコケーキを見比べ始め、その後オレの顔を見て頬を赤く染めだした。

その様子が良く判らず隣に座ってるなのはに視線を送ると、なのはも「?」って顔ですずかを見た後、俺に首を振ってくる。

どうやらなのはにも思い当たる節が無え様だ。

 

「あ、あのね、定明君?」

 

「ん?何だすずか?」

 

とりあえず、すずかは何やら俺とアリサの間に壁みてーなモンを感じてるっぽい。

だから成る可くすずかの不安を取り除いてやろうと考えた俺は普段より幾分か柔らかい声ですずかに答える。

俺が入った所為でコイツ等の仲が崩れるとか後味悪いなんてレベルじゃねぇよ。

そう考えながらすずかに言葉を返すと、すずかは少し恥ずかしそうな表情で俺の顔色を伺ってきた。

 

「も、もし良かったら、ね?わ、私のチョコケーキと、定明君のシュークリームを食べ比べしてみないかな?」

 

「は?食べ比べ?」

 

すずかの言ってきた言葉が良く判らなかった俺はオウム返しに聞き返してしまう。

さっきの話と全然関係ねぇよな?

そんな俺に対して、すずかは首をコクコクと縦に振ってくる。

 

「み、翠屋さんって、シュークリーム以外のデザートも絶品なんだ。だから定明君にも、その美味しさを知って欲しいと思って……ね、ね?なのはちゃん?」

 

「え?う、うん。確かにウチのデザートはどれも美味しいけど……」

 

すずかの妙に必死な様子に、なのはは少し驚きつつもすずかの言葉を肯定する。

まぁ、確かに美味しいって言われりゃ気にはなるけど……。

 

「でもよ?それなら別に注文すりゃ……」

 

「に、二個も食べたら太っちゃうよ?それにお金が勿体無いし……だ、だからお互いのデザートを一口ずつ交換したいなぁって思ったんだけど……駄目かな?」

 

「いや、別に駄目って事はねぇが……分かった、確かにそこまでススメられちゃ気になるし、一口だけ貰うぜ?」

 

すずかの言い分にも納得できるモノがあったので、俺はすずかの皿からチョコケーキを一口分だけとろうとフォークを手にし……。

 

シュバッ!!

 

「は、はい……どうぞ?」

 

何時の間にか俺の目の前にフォークで突き刺した一口分のチョコケーキを向けてるすずかを見て動きが止まってしまった。

っていうかすずかの腕にうっすらと見えるショッキングピンクの腕……。

こいつスパイス・ガール使いやがった。

しかも今のすずかの動きが見えなかったのか、なのはは首を傾げて「あれッ!?」と言って驚きを顕にしている。

っていうか何時の間にスタンドの腕だけ呼び出すなんて高等技術マスターしたんだよお前は?

安易にスタンドを一般人の前で使った事に文句を言いたかったが、すずかは腕を伸ばしてるのが段々と辛くなってきたのかプルプルと震えている。

コレってアレだよな?ア~ンってヤツだよな?

え?俺ってこんな衆人環視のド真ん中でコレ食わなきゃなんねぇの?

アリサは今、何かゴニョゴニョ言いながらコップの縁を指で弄ってる。

どうにも俺達の行動が意識から飛んでるみてーで、俺の視線にも反応しない。

チラリと横に座ってるなのはに助けを求めれば、何故かGOODサインを返された。

しかも満面の笑みで、だ。

妙にイラッときたのでその親指を逆向きに力加えてやったがな。

「にゃーーッ!?」とか叫んでたが知らね。

そんで痛みに悶えるなのはを放置してすずかに視線を戻すが、それでも目の前で起きてる事実は変わっていない……しゃーねぇ。

 

「……あむっ」

 

「ッ!?(た、食べてくれた……やったッ!!!勝ったよッ!!!)」

 

観念してすずかの差し出してたフォークに刺さってるチョコケーキをササッと口の中に納め、ソレをムグムグと咀嚼していく。

おぉ……絶妙なビターの苦味とチョコクリームの程良い甘みのデュエット……この味わい深さは間違いなく――。

 

ディ・モールト・ベネ(非常に良し)だな……美味かったぜ。ありがとうよ」

 

「エ、エヘヘ……ど、どう致しまして……じ、じゃあ次は……」

 

俺の感謝の言葉にとても嬉しそうな顔をしたすずかは、自分のフォークを置いて俺に向かって身を乗り出し、口を小さく開けて目を瞑る。

 

「わ、私にも、シュークリームを一口……下さい……あ、あ~ん」

 

何故か自分のフォークを使わず俺に食わせろと命令してくるすずか。

いやいやちょっと待て?

 

「別に自分のフォークで取ってくれりゃあ良いぞ?」

 

っていうか自分のフォーク使えるなら使ったら良いだろうに。

そう思って俺は自分の目の前に置かれてるシュークリームの皿をすずかの前に押し出そうとするが、それはすずか自身の手で止められてしまう。

 

「で、でもね?私のフォークってケーキのクリームが付いちゃってるから、私ので食べると味が混ざっちゃうと思うんだ?だ、だだ……だから、定明君ので食べさせて欲しいんだけど……」

 

なら俺のフォークを使えば良いだろうと思ったものの、俺の手を抑えて動きを止めてるすずかは泣く一歩手前って顔をしていた。

これって俺がやらなきゃすずかが泣いて俺が悪者ってパターンか。

何故か指の痛みから復活したなのはがワクワクした表情で俺を見てくる。

って、よく見たらカウンターに居る若い二人の男女もじゃねぇか。

二人して若いなぁって目で見るのやめんかい。

 

「お、お願い、定明君……私の我侭……叶えて?」

 

……改めて確認してーんだけど、本当に俺の事好きじゃねぇんだよな?

そうは思いつつもコレ以上は埒は開かないと判断し、俺はやれやれって頭を振りつつすずかの手をどかしてフォークを手に取る。

俺の行動が何を意味するのかを理解したすずかは瞳を期待する様なモノに変えた。

そうして、俺は自分のシュークリームを一切れ、フォークに取る。

前を見れば、すずかは両手を胸の前で組んで俺を今か今かと待っていた。

……仕方ねぇ、もう自棄だ。

心の中で覚悟を決めてすずかが目を瞑って口を開いてる中にフォークを――。

 

カランカラーン。

 

「あっ、いらっしゃいませー。って相馬君。いらっしゃい」

 

「こんにちは、美由希さん。席開いてますか?」

 

「ふぇっ!?そ、相馬君ッ!?」

 

入れようとした瞬間、入り口に新たな客が現れ、俺達の席に集中してた視線が入り口の方へと流れていく。

 

 

 

――――あっ、そうだ。『スッ飛ばしゃいい』だけじゃねぇか?

 

 

 

って事で……。

 

「キング・クリムゾン」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「そうか、アリサとすずかの……初めまして、北宮相馬だ。城戸君、で良いか?」

 

新たに現れたお客は今俺達の席に座っていて、俺ににこやかな笑みを浮かべて手を差し伸ばしてくる。

周りの雰囲気とは一線も二線も違う静かさがあり、少し茶髪混じりの整えられた髪型が雰囲気とマッチしてて、大人って感じを醸し出してる。

どうやらこの男がなのはの想い人の相馬ってヤツらしい。

俺は彼の差し出した手を取って、ニヤリとした笑みを送る。

 

「おう。城戸定明だ。気の合った奴等は俺の事をジョジョって呼んでる。そっちの事は相馬って呼んでも?」

 

「あぁ、そう呼んでくれて良い。俺も定明と呼ばせてもらう。よろしく頼む」

 

「GOOD。これからよろしくな?」

 

二人でしっかりと握手しながら、俺達は笑顔を見せる。

今話しただけでも、この相馬って兄ちゃんはあのオリ主君とは違うってのが良く分かった……目も、俺を見下してる感じは一切無えしな。

そんな事を考えながら相馬の目をしっかりと見てると、相馬は何故か苦笑いする。

 

「やっぱり気になるか?この目の色……」

 

相馬はそう言って少し表情に影を落とす。

彼の言う目の色とは、恐らく自分の目の色のことだろう。

相馬の瞳の色は、珍しい色というか、まるで晴れた空の様な水色だ。

影を落とすって事は自分で気にしてるんだろうか?

 

「気になるってよりは、綺麗な色してんなーとは思ったぜ?」

 

俺が素直な意見を言うと、相馬は何故かキョトンとした表情を見せてくる。

何だ?変なこと言ったか俺?

そう考えていれば、やがて相馬はクスリと上品に笑い出す。

 

「いや、悪い悪い。この目の色見て気味悪がらないでいてくれたのはなのは達以外だとあんまり多くなくてな。まさか初対面でそう言われるとは思ってなかったんだ」

 

成る程……まぁ子供ってそういうのをイジメの槍玉に当てるからな。

 

「瞳の色ぐらい何でもねーだろ?アリサ達から話は聞いたが、聖祥には銀髪で赤と縁のオッドアイなんて痛々しいヤツが居るらしいじゃねぇか?ソイツに比べたら全然まともだろ?」

 

「ちょっと定明君ッ!!相馬君を神無月君なんかと比べないで欲しいのッ!!幾ら何でも相馬君に失礼だよッ!!」

 

いやいやなのはよ?オメェの方が大分失礼な事言ってっかんな?

そこんとこしっかり理解してんのか?頭悪いのか、コイツ?

相馬も考えてる事は一緒なのか、俺と同じで苦笑しながら頬を膨らませて怒ってますという表情を浮かべるなのはを見つめている。

しかし、なのはの隣に座っているアリサは、なんというか不機嫌な顔をしてた。

 

「……アンタ、あたし達の事は初対面で名前呼びしなかった癖に、何で相馬は最初から名前呼びな訳?」

 

「いっぺんお前等とダチになった以上、なのはと相馬だけ苗字で、なんて差別する訳にゃいかんだろーが?」

 

「そりゃそうだけど……何か納得いかないのよ」

 

知らねぇよンな事。

 

「…………」

 

「……そんですずか、もういい加減機嫌直せっての」

 

「別に、怒ってないもん」

 

ほっぺたをコレでもかと膨らまして睨んでくるのは怒ってないと言えるのか?

さっきの一件でヘソ曲げちまったすずかに対して、俺は溜息を吐く。

相馬が店に入ってきた時にキング・クリムゾンを使ってすずかにシュークリームを食べさせるっていう過程を飛ばして結果だけを残した訳だが、すずかには俺がスタンドを使って何かをしたのがバレちまったらしく、それ以来ずっとこの調子だ。

 

「まぁまぁすずか、何があったのかは知らないが、少し機嫌を直しなよ」

 

そんでもって相馬もソレに気付いててからは一緒にすずかにとりなしてくれてんだが、結果はあんまり芳しくねぇ。

そこから大体30分ぐらいジーッと責めるような目で見られて、結局もう一回するはめになっちまったがな。

とりあえずそれですずかの機嫌が治ってくれたのでまぁ良しとしとく。

そのまま俺達は夕方過ぎまで楽しくお喋りに興じ、そろそろ時間も良い頃だから解散しようという流れになった。

俺は帰りにまた鮫島さんに送ってもらう事になり、今はアリサ達がお喋りしてるのを相馬と離れた場所で眺めている。

3人とも飽きもせずに楽しそうに喋ってるが、俺達はそれとは少しだけ違う雰囲気を漂わせて互いに一歩置いた距離に立っている。

 

「……なぁ、定明」

 

「何だ、相馬?」

 

夕暮れがアスファルトを赤く染める中、俺達は互いに言葉少なく語り始めた。

 

「お前、転生者なんだろ?」

 

そう言って俺に視線を送ってくる相馬の目は何かを推し量ろうとしていた。

っていうか随分と簡潔に切り込んできたもんだな。

 

「そう言うって事は、やっぱお前もか」

 

すずか達に聞いてた相馬の雰囲気の違い。

そんで今日話した感触を考えれば一目瞭然って話だがな。

 

「あぁ。原作ではアリサ達に特定の男友達は居なかったし、お前のジョジョってアダ名を聞いたら判ったよ……お前は、やっぱ神無月の様にハーレム狙いか?」

 

「アホ抜かせ。俺は別にンなもん興味ねーよ……まぁ、今はまだ女に興味の無い時期だからな」

 

思春期を迎えたらアイツ等をそういう目で見る可能性もあるだろうけど、今はまだ何とも言えねえ。

俺はもう前世を受け継いだ転生者ってだけでなく、この世界の人間として生まれ落ちた『城戸定明』って1人の人間だからな。

俺の言葉を聞いた相馬は「そうか」と呟いてなのは達に視線を戻す。

 

「そーいうお前はどうなんだよ?なのはが随分と惚れてるらしいじゃねぇか?」

 

「なのはが?俺に?何言ってんだよ?有り得ないだろ」

 

俺からしたらお前が何言ってんだよなんですけど?

そんな清々しい笑顔で「冗談はやめろよな」みたいな目で見られるのは心外だぜ。

今日のお茶会でのなのはを見てりゃ誰でも判る事だぞ?

何かカウンターの若い男の人血涙流してたからな。

 

「というか、定明はここが何処の世界か知ってるのか?」

 

「いや、原作に絡む気は無かったから神様には知らない世界にしてくれって頼んだけど?」

 

先の展開を知ってる原作の世界に言っても、その通りに生活してて事件に巻き込まれるって展開も考えられる。

だから敢えて知らない世界に転生するほうが安心だと思ってたんだが、もう後の祭りってヤツだろう。

俺の言葉を聞いた相馬は「成る程」って合点のいった顔をする。

 

「なら教えといてやるよ。ここは『魔法少女リリカルなのは』の世界だ」

 

「なにその痛々しさ抜群の名前は?っつうかあそこの1人主人公確定じゃねぇか」

 

え?あの子魔法少女やってんの?まさかソレがこの話の流れなのか?

なのはを中心に回る話……なるべくなのはに巻き込まれないようにしとこ。

 

「聞いたこと無いのか?まぁ良いけど、神無月には注意しておいた方が良いぞ?」

 

「あ?そんなヤバイ特典持ってんのか?」

 

「いや、特典自体はそうでも無いんだが、アイツは思想がヤバイ。なのはやアリサ達に近づく男子は殴る蹴るで学校に来させなくするのは日常茶飯事だし、ニコポとナデポを使って女子生徒、女教師を半ば洗脳してるからな」

 

やってる事は清々しいぐらいオリ主君だなアイツ。

そう考えていると、相馬は肩を竦めて薄く笑顔を見せてきた。

 

「まっ、何でかは知らないが、昨日アイツは謎の栄養失調で病院に運ばれた」

 

それ俺の仕業です。ハイウェイ・スターで吸い取りました。

 

「だから暫くはアリサ達と行動してても問題無いだろうが、兎に角気を付けろ?俺はアイツに転生者だとバレて殺されかけたからな」

 

「マジか?殺人も厭わないってのかよ?」

 

「あぁ。アイツは本気でこの世界が自分の物だと疑ってない。この世界で自分の思い通りにならない事なんか何一つ無いと本気でそう思ってる」

 

「典型的な天上天下唯我独尊……いや自分本位なヤツって訳だ」

 

「だから気を付けろ。今日会った友人が次には葬式で会う、なんていうのは止めてくれよ」

 

俺だってそんなのはご勘弁願いたいっての……しかし、何とも良いヤツじゃん。

コイツは本気でハーレムなんて狙ってねぇけど、アリサ達を心配してるのは間違いねぇ。

まっ、忠告は有り難く受け取っておくとして……。

 

「お前はどうなんだよ相馬?お前は神様に力貰って何しようと考えてるんだ?」

 

コイツの腹のウチってヤツをもう少し聞かせて貰おうかな。

俺の言葉を聞いた相馬は少し考えるような顔を見せ……。

 

「……俺がこの世界に来たかったのは、原作で報われなかった奴等が余りにも多く居たからだ」

 

やがて、静かに決意を宿した表情で語り始めた。

 

「原作を見て、ソイツ等の生き様を見て……否定する様だけど、もう少し良い終わらせ方、やり方があったんじゃないかって考えてた……フィクションの話なのにな」

 

そう自嘲するかの様な表情を一瞬だけ見せ、次の瞬間には真っ直ぐな瞳で夕焼けの空に視線を移す。

 

「でも、死んで神様に会って、この世界に生まれ落ちて……この世界は、もう俺にとってのノンフィクションになったんだ……初めてなのはに会った時にそう実感したよ」

 

空からなのはへと視線を移す相馬の横顔には、どんな試練も乗り越えていけるだろう強い輝きと決意に満ち溢れていた。

その瞳の向く先に居るなのはは、アリサ達と笑顔を浮かべて話をしている。

……あんな子が、そんな辛い未来を歩むってか。

その事実に思わず顔が歪む俺だが、俺は再び相馬に意識を戻す。

俺はまだ相馬の胸の内を聞いてる途中だからだ。

 

「だから、俺はこの世界で、アイツ等と一緒に戦う道を選びたい……アイツ等の笑顔を、少しでも多く守りたい……そう思ってる」

 

「……そうか」

 

ひたむきっていうか……シブイねぇ。

原作を見ていた視点じゃなく、敢えて同じ舞台に立とうってか……スゲエ奴だな。

俺とはまた目指してるモンが根本的に違うんだな、相馬は。

そう考えていると、相馬はなのは達から今度は俺に視線を移して俺を見てくる。

 

「お前はどうなんだ定明?お前は無関係で居たいから、この先の戦いに興味は無いって感じなのか?」

 

「あぁ。俺自身は戦いなんぞに興味はねぇ……けどまぁ」

 

俺も相馬に倣ってアイツ等の方へと視線を移し、笑顔でお喋りしてるアリサとすずかを視線に収め、ニヤリと笑った。

 

「ダチが危険な目にあったら助けるぐらいの気概はあるし……アリサ達は守るぐらいの力はある」

 

そうじゃなきゃ、立ち向かうもの(スタンド)なんて言えねぇしな。

少なくとも、降り懸かる火の粉は払ってお返しに炎を浴びせてやれる力はある。

俺から積極的に戦いに参入するつもりは更々無えが、向かってくりゃ叩き潰す。

 

「俺だって、むざむざ死ぬつもりは欠片も無え。来るなら二度と逆らえなくして自分と周りの平和ってヤツぐらいは守ってみせるさ」

 

「……そうか……なら、もう一つ忠告しとくよ」

 

俺の返事に何か感じるモノがあったのか、相馬は真剣な表情を浮かべたまま俺に顔を近づけてくる。

どうやら耳を貸せって事らしいな。

相馬の意図に気付いて耳を近寄らせ、俺は相馬の忠告に耳を傾ける。

 

「時期的には、もうすぐ原作が始まる……最初の事件は、地球滅亡の危機を孕んだP・T事件っていうのが起こるんだ」

 

最初(のっけ)っからクライマックスじゃねぇか」

 

ヤバイ、早くも意志が薄れそうなんだけど?

視界の端に走って俺達に近づいてくるアリサんトコのリムジンを見ながら、俺は最近ほぼ癖になりつつある深い深い溜息を零すのだった。

 

 

 

 

 





やばい、寝落ちして投稿遅れた。


誰かバイツァ・ダスト起動してーーーー(´Д⊂グスン


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『学校』には遅刻しない。『女』も守る。お前等如きに、両方やらなくちゃあならないってのが、『目撃者』の辛いとこ(ry

もしなのはさんがスタンド使いだったら。

その①初めてのレイハさん展開。

『んむむぅ~~んぅ。馴染む、実に良く馴染むの。レイジングハートは最高だね』

その②フェイト最終戦。

『片を付けるッ!!スターライトブレイカーなのぉおおッ!!』

その③フェイト戦勝利。

『砲撃ッ!!収束砲ッ!!スタンドパワーッ!!』




スタンド使ってねぇじゃんwww




「ふぁ~あ……眠い……」

 

欠伸をしながら通学路を歩く俺の名前は城戸定明。

少し変わったスタンド使いってヤツだ。

今の時間は休みが空けた月曜の朝。

所謂登校途中なんだが、辺りには俺以外に小学生は見当たらない。

まぁ今はまだ登校時間じゃねぇし、俺が少し早く家を出たのが原因なんだがな。

その原因……というか理由は、今朝のテレビでやってた占いだったりする。

……おい誰だ今俺の事メルヘンチックな奴だとか思った奴?

正直に名乗りでたら全力のオラオラで勘弁してやる。

名乗り出なかった野郎はクレイジー・ダイヤモンドで岩と一体化だからな?

占いを見てたのは母ちゃんで俺を家から放り出したのも母ちゃんなんだよ。

何でも俺の今日の運勢は最高、朝早く家を出たら良い事があるって話しだった。

それを見た母ちゃんはニッコニコしながら俺を家からサッサと追いだしやがった。

正直占いとか信じてねぇおれからしたら有難迷惑以外の何物でもねぇ。

 

「朝早く家を出たって、別に何も無ぇじゃねぇか……」

 

もうすぐ学校に着く所まで来たが、特に何か変わった事もなくここまで来てる。

やっぱ占いなんて当たるも八卦、当たらぬも八卦だよなぁ。

そう考えながら何か無えモンかと振り向いて歩いてきた通学路に視線を向ける。

しかしそこには特に変わった光景は特に見当たらない。

犬の散歩をするオッサン、ランニングをするお姉さん――。

 

 

 

 

 

後は精々『バンに無理やり乗せられてるアリサ』って光景ぐらいだった。

 

 

 

 

 

特に何時もと変わらねぇ健やかなあ、さ……?

 

 

 

 

 

…………ん?

 

 

 

 

 

おかしいなと思って再度違和感を感じた方へと目を向ければ……。

 

 

 

ブロロロロロッ!!

 

 

 

数人がかりでアリサを掻っ攫った車が猛スピードで走り去っていく光景だった。

 

「はぁああああああああああああああッ!!!?」

 

余りにもブッ飛んだ光景に俺は柄にも無く大声を出して驚くが、直ぐにハッと意識を取り戻す。

さ、叫んでる場合じゃねぇッ!?アリサが攫われたッ!?

何で隣町のこんな場所にこんな朝早くアリサが1人で居るんだとか、何でスタンドを使ってなかったとか、色々とおかしな部分があったが、この時の俺は余りにも唐突な出来事にその辺りが考えてられなかったんだ。

 

「くそッ!!ハイウェイ・スターッ!!!」

 

俺は直ぐに頭を切り替えてハイウェイ・スターを呼び出す。

背後から現れたハイウェイ・スターは俺の命令に従って、時速60キロのスピードで今のバンを追跡する。

その後俺も直ぐにバンの向かった方向に走りだした。

今からじゃどれだけ時を止めても間に合わない。

考えるのは後だッ!!今はアリサを救う事だけをやんねぇとッ!!

とりあえず、車が向かった先の道路は狭い細道なので俺より先行したハイウェイ・スターがその車を発見するのは直ぐだったんだが……。

 

「(60キロ以上出てやがるッ!!ハイウェイ・スターが追いつけねぇッ!!)」

 

相手の車が出してるスピードを感じ取り、俺は歯をキツく食い縛る。

ハイウェイ・スターが追い掛けるスピードは時速60キロ。

ソレ以上のスピードはハイウェイ・スターに出すことは出来ない。

追跡は決して止めねぇが、相手の臭いを覚えてないのはマズイ。

もし見失いでもしたらハイウェイ・スターでも見つけ出す事は無理だ。

隠者の紫(ハーミット・パープル)を使って念写する事も考えたが、俺は1体以上のスタンドを同時に操る事は出来ない。

今の状況でハイウェイ・スターを消す事は出来ないし、隠者の紫(ハーミット・パープル)の念写を使ってる間にアリサに何かあったら確実に間に合わねぇ。

そうこう考えてる内に車は国道を外れて細いうねり道に入り、更にスピードを上げて爆走しだした。

ヤバイッ!?もう向こうのスピードは80キロは出てるッ!!

このままじゃ本気で見失っちまうぞッ!?

気持ちは焦りが出始めるが、俺は自分の足で走ってるだけで向こうは車。

このままじゃ絶対に追い付けない。

ハイウェイ・スターも懸命に追いかけているが、どんだけあがこうと60キロ以上は絶対に出ない。

それがハイウェイ・スターのルールだからだ。

逆にどれだけ離されても、相手の臭いさえ覚えていれば例えどれだけ離されようとも相手の近くにテレポートする事が出来るが、今回は相手の臭いを覚えていないからそれも無理。

このままじゃアリサは……。

 

「ッ!?」

 

ガンッ!!!

 

「…………ふざけんなよ、城戸定明……」

 

後ろ向きな事ばかりを考え始めた自分を叱責する為に、俺は走りながら自分の頬を力いっぱい殴りつける。

相馬に言ったばかりじゃねぇか……アイツ等を守るぐれーの力はあるってよぉ。

それがちょっとヘマこいたらこのザマか?

俺には数々の異能を持ったスタンドがあるじゃねぇか。

弱音を吐くな、吐いてる暇がありゃ足を動かせ。

ダチを守るって口に出したなら、俺がやる事は一つだろ。

 

「あぁ、チクショー……面倒事は大っ嫌いだってのによ……」

 

もうハイウェイ・スターの視覚でも豆粒並に小さくなってきた車を、俺は必死に追い掛ける。

相馬にも言ったが、俺は別に面倒事に進んで首突っ込むつもりは無い。

俺に関係無え場所で起こった理不尽な事を無くしたいとか、苦しむ人を助けたいなんて御大層な事は考えるつもりは一切無え。

 

「――でもなぁ……こんな俺でも……」

 

人より優れた力があっても何もしない俺を非難する奴なんざ幾らでも居るだろう。

俺は人の為になんて聖人みてぇな考えは持ち合わせてない。

だから誰に何と言われようと、俺は自分の為にこの力を使おうと考えてる。

 

 

 

――だから。

 

 

 

「ダチを見捨てる考えは、一片も持ちあわせてねぇんだよ……ッ!!」

 

 

 

俺のダチになったアリサやすずかの笑顔を奪おうってんなら、覚悟してもらうぜ。

アリサを攫ったのが何処の誰かなんて事はどーでもいい……。

俺のスタンドで死んだ方がマシだと思わせてやる。

覚悟を新たに、俺はハイウェイ・スターの視覚を共有させて辺りを見渡す。

このままじゃ追い付くのは絶対に無理だ。

だから奴等の行き先を特定出来そうなモンを探してるんだが…。

 

「……ん?……これは……」

 

辺りを見渡していると、アイツ等の入った道の側に看板が立っているのを発見。

急いでハイウェイ・スターを側に近づけると、『この先廃墟。行き止まり』と書いてある看板があり、俺はその看板に書いてある廃墟に覚えがあった。

ここは学校から少し離れた位置にある廃墟で、先生達から近づかない様にと言われてるが、俺や学校のダチは何度か遊んだことのある場所だ。

 

「しめたッ!!奴等はこの先に居るッ!!距離もそんなに離れてねぇッ!!」

 

やっとこさ相手の終着点を見つけた俺は、ハイウェイ・スターに追跡を再開させて奴等の向かったであろう廃墟へと進んでいく。

そのまま俺は今まで走ってきた道から脇道に逸れ、道なき道を走る。

奴等の向かったルートは、山をぐるりと回る車用の大回りなルートだ。

廃墟までの裏道は皆で遊んだ時に把握してる。

コッチを通れば廃墟までの時間は15分ぐらい短縮出来るッ!!

待ってろよアリサッ!!

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「…………良しッ!!見つけたぞクソッタレッ!!」

 

道無き道を走り続けながら、俺は先行させているハイウェイ・スターの視覚が車を捉えたのを確認する。

既に車は廃墟の前に止まっていて、車の中には誰も乗っていない。

どうやらアリサは既に連れ出されて廃墟の中に居る様だ。

俺は車をスルーして、ハイウェイ・スターを廃墟の中へと進める。

ハイウェイ・スターは例えどんな状況からでも時速60キロに加速してくれる。

0キロから一気に60キロ。

だから相手が人間で、且つ乗り物に乗っていないなら……。

 

『いやあッ!!止めてぇッ!!離してぇえッ!!』

 

『へへッ!!ジタバタしたって助けなんか来ね(ドボギョッ!!)うごぇっ!?』

 

『……え?』

 

この距離で、逃す事は100%有り得ねぇんだよッ!!

人間では不可能なスピードで廃墟に侵入したハイウェイ・スターは、廃墟の2階にある部屋の中で服を破かれて男達に抑え付けられてるアリサを発見。

逆光で顔は見えないが声からして間違いないだろう。

そのままアリサに覆いかぶさってる屑デブの1人に入り養分を吸い取らせる。

 

『お、おい?何やってんだよお前?』

 

『こぺっ……か、か……』

 

周りの奴等が仲間の雰囲気がおかしいと感じて声を掛けるも、男は口から変な悲鳴を出す事しか出来ず、ハイウェイ・スターに根こそぎ養分を取られていく。

オリ主にやった時の加減はいらねぇ……死ぬ寸前まで吸い尽くしちまえッ!!

 

『何だッ!?なんかヤバイぞコイツッ!?』

 

『ほ、細くなってねぇか?……腕が、枯れ木みたいに……』

 

『顔も痩けてきてるぞッ!?』

 

デブがおかしくなっていく事に違和感を感じた仲間達はアリサを押さえつけてた手を離し、部屋の隅っこの方へと逃げていく。

 

『ヒ……ヒ…………(パタリッ)』

 

やがて、ほぼ辛うじて生きているという状況になるまで養分を吸い取られたデブは軽い音を立てて廃墟の床にその身体を沈める。

その身体は最初と比べると見る影も無く、痩せ細りすぎて危うい状態になってた。

ダイエットの手間を省いてやった事に感謝しやがれ。

そうこうしてる内に、本体の俺もやっとこさ廃墟に到着。

奴等をハイウェイ・スターで監視しつつ、俺は廃墟の中へと足を踏み入れて2階まで全力で疾走する。

既に目標の部屋は俺の目の前だ。

加減なんてしてやらねぇから精々覚悟しやがれッ!!

 

「エアロスミスッ!!!」

 

俺は部屋の前に着いた瞬間ハイウェイ・スターを戻し、ラジコン飛行機の様なスタンド、エアロスミスを呼び出す。

エアロスミスは俺の命令に従って部屋の壁まで飛行し、壁の前で急旋回する。

 

「ブチ抜いてやらあッ!!!」

 

ボッ。

 

俺の掛け声とともに、エアロスミスは腹の部分に装着してる爆弾を投下。

それは部屋の壁にヒットし……。

 

バグォオオンッ!!!

 

映画でしか聞いた事の無い様な爆発音を奏で、部屋の壁を吹き飛ばした。

 

「うわぁああッ!?」

 

「な、何だよ今度はッ!?」

 

「ば、爆弾ッ!?」

 

突然の爆発音にビビッた誘拐犯の声が木霊する中、俺は開いた壁の穴から部屋の中へと侵入していく。

そして、侵入して直ぐに、俺は誘拐犯達と目が合った。

アァ……コイツ等だな?俺のダチに手ぇ出そうとしやがったクソ共は?

 

「は?……ガ、ガキじゃねぇか?」

 

「な、何でガキがこんな所に?ここは誰も近寄らねぇんじゃなかったのかよ?」

 

「ンな事どーでも良いだろッ!!おいクソガキッ!!お前が今のをやりやがっ」

 

「うるせぇよダボッ!!撃ちまくれ、エアロスミスッ!!!」

 

バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!

 

俺を見て犯人達の2人が慌てふためく中、一人の犯人が俺に怒鳴り声を挙げて近づこうとしてきたので、エアロスミスの機銃を掃射してやる。

スタンド使いにしか聞く事の出来ねえ機銃を撃つ甲高い音が鳴り響き、俺に近づこうとした犯人の足に30を下らねえ風穴が刻み込まれた。

 

「へ?……うぎゃぁあああああッ!?あ、足がッ!?俺の足ぃいいいッ!?」

 

それとは一拍遅れて自分の足の痛みを感じ取った犯人は汚らしく喚き声を挙げて足を抑えたままエアロスミスに撃たれた足を抑えて転げまわる。

本来ならココで止めておくべきだろうが、頭に沸々と沸騰した血が昇ってる俺がそんな事を考える筈も無く……。

 

「うるせぇっつってんだよこのクソ野郎がッ!!ザ・ワールドッ!!」

 

『ムゥンッ!!(ボゴォッ!!)』

 

即座にエアロスミスを収納。

代わりにザ・ワールドを呼び出し、糞野郎をアッパーで宙にカチ上げる。

もはや悲鳴も挙げずにザ・ワールドのアッパーを喰らった犯人の顎はグチャグチャに潰れ、間抜けな顔を晒す。

……まだ足りねぇからオマケにラッシュもくれてやる、ありがたく思いやがれ。

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァアアッ!!!』

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

宙から地面に降ろされる事も無くザ・ワールドのラッシュを喰らった犯人は、まるでマリオネットの様な気持ち悪い動きを見せつつ、トドメのストレートで開いた窓をブチ破りながら外へと飛んでった。

外でガシャァアアンッ!!とかいう音がした辺り、コイツ等の乗ってきた車の上に落ちたようだ。

別にあんなクソの事なんざどうでも良いがな。

 

「ヒ……ひぃやぁああああああッ!?」

 

「お、おいッ!?」

 

と、窓をブチ破って外にフッ飛んでいったクソの次をどうしてやろうかと考えていたら、残った2人のウチ1人が俺がブチ開けた壁の穴から外へ逃げ出そうとしているのを発見。

 

「逃さねぇよボケッ!!魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)ッ!!」

 

俺は赤い人型の身体に鳥の様な頭を持つ、炎自在に操るマジシャンズ・レッドを呼び出して、逃げようとしてるヤツに照準を合わせる。

ここまで来て逃げるなんざ往生際が悪過ぎんだよッ!!

 

「焼け爛れやがれッ!!クロス・ファイヤーッ!!!」

 

ゴォウッ!!!

 

俺の合図と共にマジシャンズ・レッドは頭の部分が丸い十字架(アンク)の巨大な炎を口から吐き出し、それは寸分違わず逃げようとしてたヤツに命中した。

 

「ぎッ!?あ、熱ッ、ぎいゃぁああああああああああッ!!?」

 

クロス・ファイヤーに飲み込まれた生ごみは、十字架の形に身体が固定され、部屋の外の壁にそのまま貼り付けられながら、その身を炎に焼かれていく。

人間は酸素を口だけでなく皮膚でも摂取しているから、うっかり殺しちまわねー様に加減はしてある。

まっ、どっちみち3ヶ月は病院のベットの上で苦しむ羽目になるだろーよ。

兎に角、逃げようとした奴は動けない様に封じ込めたので、俺は最後に残ったクソへと視線を向ける。

ソイツは目の前で起きた事の非現実的な光景に思考が付いて行っていないのか、口を半開きにして呆けていた。

しかし、それも俺が視線を向けているのを理解すると恐怖に震えたモノに変わる。

 

「な、何だ……何なんだよお前はぁあぁあ~~~ッ!!?」

 

「……」

 

汗を大量に搔きながら喚き散らす最後の1人。

だが、俺はその叫びには何も答えず、『次の準備』を終了していた。

 

「ど……どうしたよ……俺が怖いのか、アァッ!?それともさっきみてーなのが出来なくな……う?……な、何だ?……の、のどが……」

 

「……」

 

俺が何も言わないで黙っていた事に、犯人は逆上するかの様に叫んで自分を鼓舞するが、俺にはそれがとても滑稽に見えた。

何せもう『出来上がっている』んだからな……テメェは。

 

「の……のどの中が…………おげえぇええええええええッ!!?」

 

突如として苦しみだした犯人は、自分の喉を抑えて膝から崩れ落ち吐血する。

しかも……。

 

「うげけッ!?カ、カミソッガミゾリィッ!?おでのぐちのながからぁ(俺の口の中から)ッ!?」

 

血と共に、大量の『カミソリ』を『口の中から吐き出して』だ。

この現象は、俺の体内に潜む極小のスタンドが引き起こした現象だ。

磁力で動物や人間、更には地球上の鉄分を操る能力を持つスタンド『メタリカ』。

奴の口からカミソリを吐き出させたトリックは、俺がメタリカを使って奴の身体の中にある鉄分を凝固させ、カミソリを体内で作っただけの事。

喉から口の中を傷だらけにされて苦しむ犯人を見ながら、俺は口を開く。

 

「……「なんだ」なんて考えなくても良いんだよ」

 

「ぐげげぇ……ッ!?ま゛、ま゛っ!?」

 

俺を見ながら口を抑えて涙を流す犯人に近づきながら、俺は再度言葉を紡ぐ。

 

「二度と俺のダチにこんな真似が出来ねえ様に――」

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

奴には見えてないが、俺はそう言いつつ背後にスタープラチナを呼び出していた。

俺のダチに気概を加え、俺の平穏な日常に影を落とそうとしたクソ野郎。

その判決は言うまでも無く――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――グチャグチャにしてやるだけだからよぉ~~~~ッ!!」

 

『有罪』に決まってるよなぁああッ!!?

 

「ヒイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!?」

 

俺のメンチを切った『判決』を聞いて、クソ野郎は涙を零しながら叫び――。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアッ!!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!!

 

スター・プラチナの時を止めた中、そして普通の世界でのラッシュをその一身に浴び続け――。

 

『オラァッ!!!』

 

ズドォオッ!!!

 

トドメのストレートを喰らい、部屋の壁を3つ突き抜けてブッ飛んでった。

あれだけしこたま殴ってやりゃあ全身骨折ってトコだろう。

今回はコレで許しといてやる。

 

「ッ!?そうだ、アリサッ!?無事かッ!?」

 

俺は直ぐに奴等の事を意識から追い出してココに来た目的であるアリサの居る方向へと顔を向ける。

 

「……」

 

俺が視線を向けた方向、部屋の端にアリサは居た。

破かれた服を手で何とか上に手繰り寄せて肌を何とか隠すアリサ。

その表情は部屋の窓から差し込む逆光の所為で窺うことが出来なかった。

俺は返事を返さないアリサの態度におかしなモノを感じつつも、そちらへと走って駆け寄る。

 

「大丈夫かよアリ…………サ?」

 

そして、駆け寄ってアリサの無事を確認しようと思った俺だったが、その動きは彼女の顔を覆っていた逆光が無くなって完全に見える様になった瞬間止まる。

突如動きを止めた俺に対して『彼女』は少し怯えを見せる。

 

「だ……『誰』?……何で、『私』の名前を知ってるの?」

 

何時もの俺なら何をボケてんだよ?と軽口を返してたかも知れねぇが、今は無理。

何故かって目の前の『女の子』が誰なのか俺も解らねえからだ。

アリサの太陽の様な輝きを持つ金髪……ではなく、明るめの『茶髪』。

エメラルドを彷彿させる翠の瞳……じゃあなく暗めな『灰色』の瞳。

そんな、何処までもアリサに良く似た少女が、ソコに居た……あれ?

え?ちょっと待て?この子アリサじゃねぇよな?でも『私の名前』っつったよな?

 

「……すまねぇ、お名前を聞いても?」

 

若干混乱の淵に足を踏み入れかけていた俺はそれだけ何とか口から絞り出す。

これってまさか……いやいや、ンな事ある訳がねぇよな?

俺の言ってる事が良く理解できなかったのか、彼女は少し怯えながらも口を開く。

 

 

 

 

 

「……アリサ……アリサ・『ローウェル』」

 

 

 

 

 

THE・人違い。

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

沈黙。

 

いや、コレってつまりアレだよな?

俺がアリサだと思った子はアリサであってアリサじゃ無いって事で……。

じゃあ俺が必死こいてココに来た事は無駄足であって、いやいやでも目の前の女の子がとりあえず悲惨な末路を辿りそうだったのを未然に防ぐ事が出来たって意味では全然無駄足じゃなくて……。

 

「……はぁ~~~~」

 

色々考えた末に、俺は脱力した。

またぞろ自分から面倒くせえ事に首突っ込んだって事かよ。

いやまぁさすがに彼処で見捨てる選択肢は無かった訳だし……まっ、良いか。

兎に角、この子が無事ならそれで良しとしとこう……はぁ。

 

「あ、あの?……」

 

と、自分の間抜け加減に疲れていると、目の前のアリサ……ローウェルが俺に不安そうな視線を送ってきていた。

まぁ知らない奴が自分の名前知ってる上に、そんな奴と二人っきりなんて落ち着かねぇよな。

少しづつ冷静な考えが出来る様になってきたので、俺は彼女に苦笑を見せる。

 

「あぁ、すまねぇ。俺が呼んでたアリサって名前は、アンタに良く似た別の女の子の名前なんだ」

 

「私に、似てる女の子?」

 

俺と同じ言葉を言いながら聞き返してくるローウェルに、俺は頷く。

 

「髪の色と瞳の色が違うだけで、後は名前も顔もそっくり……本気でビビッたぜ」

 

世の中には自分にそっくりな人間が3人は居るっていうが、幾ら何でも確率良すぎだろ?しかも何で俺がアリサのそっくりさんに会ってるんだよ?

この場合はどう考えてもアリサが会って驚く方だろうが?

今日は早く出たら良い事あると占いで言ってたが……いや、良い事には違いねぇ。

勘違いだったとしても、人を助けるってのは良い事だしな。

 

「……その子が攫われたって思ったから、貴方は助けに来てくれたの?」

 

「ん?まぁ理由としてはそうだけどよ……まぁ、どっちにしても目の前で女の子が誘拐されてるのを放っとくのは、寝覚めが悪すぎるからな。そういう意味では、何とか間に合って良かったと思ってるぜ?」

 

「……そう、なんだ…………ありがとう、助けてくれて」

 

「なぁに、気にすんな」

 

俺がココに来たのは勘違いだって言ったら、悲しそうな表情を浮かべたローウェル

だったが、その後に正直に俺の気持ちを話すと、彼女は笑顔を浮かべて俺にお礼を言ってくれた。

汚い廃墟で少しばかり和やかなムードに包まれる俺達だったが、それはローウェルの次の言葉で霧散してしまう。

 

「それにしても……貴方は、一体何をしたの?私には何も見えなかったけど、アイツ等が見えない力で飛ばされたり、カミソリをアイツ等の口から出したのも……突然、私を襲ってきた男が苦しみながらやせ細ったのも、全部貴方がやった事なんでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

ローウェルの聞いてきた素朴な疑問に、俺の表情は強張ってしまう。

すっかり忘れてたが、彼女は俺の知ってるアリサ・バニングスでは無い。

だから、俺のスタンドの存在は知らないんだ。

なのに俺はこの子がてっきりアリサだと勘違いして、バンバンとスタンドを使ってしまった。

つまり、俺の持つ力が知られてしまったって事になる。

ローウェルの言葉に何も返さずにいると、彼女は表情を寂しげなモンに変えた。

 

「……教えられないんだ……これでも私、口は固い方なんだけど……駄目?」

 

まるで縋る様な言葉を寂しそうな表情で出されると何と返したモンかと迷うが、俺としてはローウェルにスタンドの事を喋る訳にはいかねぇと思ってる。

俺は偶々彼女を助けただけだし、アリサやすずかみたいに友達って訳でも無い。

あの時はすずかの秘密を知ってしまった事で、なし崩しに月村家と交友を持ってる訳だが、今回はそう簡単に喋る訳にはいかねえ。

 

「すまねぇけど、アンタにはこの場で見た記憶を忘れてもらうぜ?」

 

「ッ!?」

 

俺の言葉に驚くローウェルだったが、俺は無言でヘブンズ・ドアーを呼び出す。

今回の出来事そのものを無かった事にして家に帰してやる方がローウェルの為だ。

こんな事件の記憶を持ってたら、下手すりゃ男性恐怖症になりかねねぇ。

それなら今の出来事は全て忘れさせる。

そう思って彼女に手を伸ばせば、ローウェルは俺の手から逃れて距離を取る。

 

「大丈夫だ。アンタが誘拐されたって記憶を消すだけで、別に害は無ぇよ……」

 

警戒を解く為にそう言っても、彼女は無言で首を横に振ってしまう。

 

「……私ね、友達が居ないの」

 

「……は?」

 

逃げるローウェルをどうやって平和的に同意させようかと考えていたら、何か独白が始まった。

その脈絡の無い独白を聞いて俺は素っ頓狂な声を漏らすが、ローウェルはそれに構わず言葉を続ける。

 

「私の見た目、外国人でしょ?だから皆敬遠する……それに、私に親が居なくて孤児院の人間だっていうのも理由の一つだと思うの……」

 

悲しむ様に自嘲しながらローウェルはそう語り、続いて俺に真剣な表情を見せる。

 

「今日、アイツ等に攫われた時、考えたわ……どうしてこうなるんだろう?私が何をしたっていうの?誰とも話さず、お母さんとお父さんに遺されて、何時も独りで居続けた私がどうしてこんな目に遭うんだろうって……もう、諦めてた」

 

「……」

 

ローウェルの語る言葉には、体験してきた者が醸し出す重みってヤツを感じた。

声に感情が入ってるというか……目尻に浮かぶ涙が決定的な証拠だ。

もしこれが演技だっていうなら、俺は一生女性不信になっちまう。

でも……。

 

「貴方が助けに来てくれた時、本当に嬉しかった……勿論、何で私の名前を知ってるの?どうしてそこまで真剣に私の名前を呼んでくれるの?って疑問はあったけど……結局は人違いだっただけなんだけどね」

 

このアリサ・ローウェルって子が語ってるのは間違いなく『真実』だ。

幾ら学のねぇ俺でも判る……もう涙が隠せてねぇしな。

彼女の言葉を聞いていると、彼女は一度目元を拭って再び俺に笑顔を見せる。

 

 

 

「それでも、『間に合って良かった』って嘘の無い笑顔で言ってくれた貴方の言葉は忘れたくない……だから……私から『大切な記憶』を奪わないで……お願いよ」

 

 

 

そう言って俺に縋る様な、懇願の篭った視線を送ってくるローウェルを見て……俺はヘブンズ・ドアーを消してしまう。

駄目だ……こんな事言われたら、この子から記憶を消すなんて出来ねえ。

もし俺が強引にローウェルの記憶を消したら、俺は自分のエゴの為に彼女の大切な思い出を『取り上げる』って事になっちまう。

それは間違いなく、テメーの欲の為だけに力を振るうゲス野郎。

俺の為にローウェルの思い出を奪い、踏み躙ったら、俺は只の『悪党』だ。

ハァ……仕方ねぇ。

こうなったらローウェルに俺のスタンドの事は喋らない様にお願いしとくか……。

 

『コッチだッ!!ここに1人倒れてるッ!!……まだ息はあるぞッ!!』

 

『これは……全身が焼け爛れてる……何をやったらこうなるんだ?』

 

『槙原刑事ッ!!この男、通報にあった容疑者と特徴が一致していますッ!!』

 

『何?じゃあコレは誰が……考えても仕方ない。上の階を捜索するぞッ!!』

 

『『ハッ!!』』

 

「「ッ!?」」

 

そう考えていた俺の耳に、下の階から数人の男女の大声が聞こえてきた。

『通報』と『刑事』って単語からしたら間違いなく警察だろう。

ってかヤベエッ!?ここに居たら俺まで質問攻めの対象になっちまうッ!!

さすがにスタンドの事は解らねぇだろうけど、あんだけボロボロにしたのが俺みてえなガキだってバレたら色々面倒になる。

ブッ飛ばした犯人達の記憶を書き換えてる暇はねぇし、兎に角逃げるしかねぇ。

俺は下の階から聞こえてくる声に安堵してるローウェルに視線を合わせる。

ここで頼んでおかねぇとマジにヤバイからな。

 

「すまねぇローウェル。警察には俺の事は誤魔化しといてくれ。じゃあな」

 

俺はそれだけ言って犯人を吹き飛ばした窓の穴に向かって走る。

何時までもモタついてる暇は無いからだ。

 

「ま、待ってッ!?な、名前ッ!!貴方の名前ッ!!」

 

しかし俺が窓から飛び出そうとすると、ローウェルは後ろから声を挙げて俺に名前を聞いてくる。

急いでいた俺はその声に足を止める事もせずに、只一言。

 

 

 

 

 

「――――ジョジョ」

 

 

 

 

 

自分のアダ名だけポツリと呟き、窓から外へと飛び出し、獣道を突っ切る。

もうローウェルと会う事はねぇだろう。

彼女の事は学校でも見た事ねぇし、俺も探すつもりは無い。

何より、俺にはそんな事を長々と考える時間は無かった。

 

 

 

何故なら――。

 

 

 

「SHRまで後15分……間に合ってくれよ……ッ!!」

 

 

 

今日までの皆勤が全てパーになりかけてるからだ。

密かに皆勤賞を狙ってる俺としては是が非でも間に合わなきゃならねぇ。

 

「こうなったら使える手は全部使うぜ……ザ・ワールドッ!!時よ止まれッ!!」

 

傍から見たら無駄無駄無駄過ぎる事に時を止める力を使いつつ、俺は学校まで文字通り全力を持って疾走した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……あ~……チックショ~……ゴリ山めぇ」

 

只今昼休み、そして机に倒れこんで絶賛項垂れ中の俺。

理由は単純明快、間に合ったけどマジでギリギリだったのさ。

後10数秒ってトコで体育のゴリ山が門を閉じやがった所為だ。

何とか皆勤賞は守れたけど、マジ疲れた。

追い打ちの如くかなり本気で走ったのにギリギリだった徒労感。

それが昼休みになってドッと押し寄せてきやがった。

 

「あんちくしょう……こうなったらストーン・フリーの糸で硬貨の粉を飲ませてトイレ地獄に……ってストーン・フリーは今アリサが持ってんだった……」

 

名案だと思ったのに実行できないと悟った疲労感、プライスレス。

二度と占いなんて信じねぇぞ俺ぁ。

もう良い、今日の昼休みは寝よう、それが良い。

では、おやす「お、おいジョジョッ!?お客さんだぞッ!!」み……ハァ。

いざ夢の世界へ、と思っていた所で、俺はクラスメートから来客を知らされる。

その声に頭を引き起こせば、見慣れたクラスメートが焦った表情を浮かべてた。

 

「客ぅ?一体誰だよ?」

 

「お、俺も知らないけど、女の子でかなり可愛いぞ」

 

「女の子ぉ?……人違いじゃねぇの?」

 

今まで他のクラスの女子に呼び出された事なんて一度も無かったぞ?

 

「人違いじゃねぇって。「ジョジョって人は居る?」って聞いてるんだ。ウチの学校でジョジョってアダ名はお前しか居ないよ」

 

「ふーん?……まぁ良いや。サンキュー」

 

「おう。そっちの扉の方に居るからな」

 

伝言を伝えてくれたクラスメートにお礼を言って、俺は自分の席から立ち上がる。

今日はもう疲れたし、早いトコお引取り願うとしますか。

そう考えながら、俺はクラスの入り口に足を運び、コッチに背中を向けてる女子生徒を発見したので、声を掛けた。

 

「へいへい。俺がジョジョだけど、どちら様……」

 

しかし、眠たそうに喋っていた俺はそれ以上言葉が続けられず、訪ねてきたという女子生徒に視線が釘付けになる。

腰まで届きそうな程に長く、綺麗な『茶髪』のロングヘアー。

そして俺の良く知る少女と同じ様に左右にピョコンと縛られた髪の一部。

ふわりと振り返って俺に笑顔を見せる彼女の瞳は、薄い『灰色』だった。

 

 

 

 

 

余りの衝撃に呆然とする俺に、彼女は笑顔を送りつつ――。

 

 

 

 

 

「こうして貴方と会うのは二度目ね……御機嫌よう――ジョジョ?」

 

 

 

 

 

アリサ・ローウェルは、悪戯に笑いながら、早すぎる再会の挨拶をしてきた。

 

 

 

oh……ウチの学校だったんかい。

 

 




以上、アリサ・ローウェル救済回でした。


何とか彼女を出してくれって要望があったので書きました。

クォリティの低さはご勘弁下さいwww


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信じるわ……貴方は『魔法使い』よ(ry


タイトル詐欺(キリッ)

作者にネーミングセンスは皆無(´Д⊂グスン

それは本編で判る。


 

 

「改めて自己紹介しておくわ。名前はアリサ・ローウェル。海鳴第一小学校の4年2組よ……貴方の本名も聞かせてくれる、ジョジョ?」

 

「……もうクラスまでバレちゃ言い訳出来ねえか……本名は城戸定明。何処にでも居る平凡な小学生だ」

 

時は放課後、場所は学校から少し離れた所に位置する小さな公園。

其処で俺とローウェルはベンチに座って話をしていた。

但しローウェルは上品に微笑みながら、俺は少し疲れた表情だがな。

 

「定明、ね……でも、私はこれからもジョジョって呼ばせてもらうわ……私の事もアリサと呼んでくれるかしら?」

 

何やら朝と比べてこう……生き生きとした表情のローウェルは自然に名前呼びをリクエストしてくるが、俺はその問いに片を竦める。

 

「生憎、アリサって名前の知り合いは既に居るからな。お宅の事はローウェルって呼ばせてもらうぜ」

 

両方ごっちゃになっちゃ面倒くせえからな。

俺の返答に少しだけ詰まらなそうな表情を見せるローウェルにそう言って、俺はここに来てから買ったジュースに口を付けた。

あの昼休みの早すぎて突然過ぎる再会を得た俺達だが、お互いに色々と話し合おうとローウェルに提案され、昼休みではなく放課後にまた会うという約束を俺は一方的に押し付けられたのさ。

兎に角呆然としてたから断る前に居なくなっちまったので、俺は放課後にクラスへ迎えに来たローウェルと共に、こうして公園に足を運んだって訳だ。

今まで女の子が俺を迎えに来るなんて事は無かったから、クラスの奴等目ン玉ひん剥いて驚いてたよ。

 

「ゴクゴク……そんで?俺に何を聞きたいんだ?」

 

明日からクラスで質問攻めにあうかもなぁ、と軽くショゲながら考えた俺は、ここに来た本題を話すべく、単刀直入にローウェルへと話を振る。

それを受けたローウェルは居住まいを正して、俺に真剣な表情を見せてきた。

 

「まずは、お礼を言わせて……貴方のお陰で、私は恐ろしい目に遭わなくて済んだわ……私を救ってくれて、本当にありがとう。ジョジョ」

 

ペコリと頭を下げてくるローウェルに、俺はプラプラと手を振って答える。

 

「構わねえよ。お前を助けれて、俺も心穏やかな気持ちでこれからも生活出来るからな……それより聞きてえんだが、警察に俺の事は……」

 

俺が目下心配なのは、警察が俺の事を探してるかどうかだ。

幾らバニングスが誤魔化しても、あの場には俺の事を直接見た犯人が残ってる。

もしソイツ等に俺の事を喋られたら、警察が俺を見つけるのも時間の問題だろう。

見つけられたら最後、俺は研究材料にでもされかねねえ。

この世界で認知されてる超能力って言えば、前に話したHGSくらいだ。

HGSは病院の検査で判明するぐらいだが、俺のスタンドは絶対に無理。

となれば、HGSとも全く違う新しい能力と認定されるかも知れない。

しかもHGSが電気を放出したりサイコキネシスの様な物を動かす力。

レアなので心を読むなんてのもあるらしいが、俺なんか時間すら止められちゃう。

そんな超常現象を超えた力がバレたら俺の平穏は一環の終わりだぜ。

軽く鬱の入った声で質問されたローウェルはと言うと、真っ直ぐな瞳で笑いながら俺の事を見ている。

 

「その事なら心配しないで。私は気絶してたから何も知らぬ存ぜぬで通せたわ」

 

「通せたって……あの場に居た唯一無傷な人間だぜ?良く警察がその言葉だけで取り調べを止めて、しかもその日の昼に帰らせてくれたモンだな?」

 

俺の尤もな疑問を聞いて、ローウェルはニヤリと笑う。

普通事件に巻き込まれた被害者なら、その日は家に帰らされるモンだと思うが。

 

「えぇ。ちょっと泣きながら覚えてませんって言えばそれで取り調べは止めてくれたし、最初は家に帰る様に孤児院にも連絡されたんだけど……学校に居る大切な人の側に居たいって言ったらアッサリ帰してくれたわ」

 

「大切な人って……恋人でも居るのか?」

 

だったら俺とここで二人っきりってのはマズイんじゃね?

 

「あら?私は別に恋人だなんて一言も言ってないわよ?大切=恋人なんて方程式は何処の誰が決めたの?大切って定義には思慕以外に友愛や親愛も含まれるのよ?」

 

え?ヤダ何この子?考え方が大人過ぎる。

そう言って微笑むローウェルだが、俺の心境は「えー?」って感じだ。

疑問では無くそれってどうなのよ?と思う心境だが、彼女は微笑みを崩さない。

 

「私は友達が居ないって言ったでしょう?なら学校に居る大切な人なんて……」

 

話の途中で言葉を溜める様に口を閉ざしたローウェルは、俺との距離を少し詰めながら、ベンチに置いていた俺の手に自分の手を重ねてくる。

おい待て?まさかその大切な人って……。

 

「一人ぼっちの私を助けてくれた貴方以外に居ないわ……ジョジョ」

 

「……何で俺が同じ学校だと?」

 

あの場では何にも言ってなかった筈なんですけど?

 

「ヒントその1。まずあの時間帯に外に居る子供なんて、通学以外には無い。という事はあの近辺の学校に通う生徒……それはウチの学校しかないわ」

 

俺の疑問に一本の指をピンと立てながら先生の様に話し始めるローウェル。

何故か不意に教師が良く似合うと思っちまった。

 

「ヒントその2。貴方の服装……それが制服ではなく私服だった事ね。この辺りにある小学校は全部で3つ。海鳴第一、第二小学校。そして市立聖祥大学附属小学校だけど、まず聖祥はこの辺りの校区でも、市立だから通っている子は何人か居るわ。只彼処は制服でしょ?私服を着てた貴方はそれで候補から外れる」

 

アンタどんだけ頭良いの?小学生でそこまで頭回ったりしねーよ。

そう考えつつも口には出さないでいると、ローウェルの推理は更に進む。

 

「もう一つの第二小学校も校区が全然違うし、校区外登校なら保護者と一緒に車で行くのがセオリー、でも貴方は自分1人だった……消去法なら、案外簡単だったわよ?」

 

簡単な筈無いと思うんだが?

確かに誘拐されてからさっきの昼休みまで時間はそこそこあったとは思うけど、そこまで考えつくには普通相当時間が掛かる。

なのに、それを理解して俺を探す工程を昼休みに完了させ、放課後にこうして約束を取り付けるとか……行動力が半端じゃねぇ。

ニコニコしたまま俺を見つめるローウェルに、俺は両手を挙げて降参する。

 

「参った、降参だ……ローウェルの頭の良さには驚かされたよ」

 

「フフ……貴方になら、褒められるのも案外悪くないものね……フフ」

 

俺は諦めた様に笑い、ローウェルはそんな俺の様子が可笑しいのか手を口元に当てて上品にクスクスと笑う。

こんな穏やかな時間も悪くは無いが……そろそろ本題に入りますか。

 

「聞きてぇんじゃねえのか?……俺の力の事を」

 

俺が姿勢を変えてそう言うと、ローウェルは何故か表情を苦笑に変えてしまう。

あれ?違ったか?と考えていると、ローウェルは俺の顔を見てから口を開いた。

 

「無理に聞くつもりは無いわ……誰にでも話したく無い事はあるもの……只」

 

ローウェルは話を途中で一度区切ると、少し拗ねた様な口調を取る。

 

「貴方が他の人にあの力の事を話してて……例えば、えぇホント例えばの話しだけど、私と同じ名前のアリサって子には話せて私には話せないというのなら……ホンの少しだけ、寂しい気持ちはあるわね。でも『勿論』、その子にも貴方は話していないのでしょう?大事な、とても大事な『秘密』ですものね?」

 

あれ?何かコイツ怒ってね?

表面上はニコニコしてる様に見えるけど……何か内側で静かに怒ってね?

っていうかコレはアレか、自分には話せないのに他の子に話してたらその内分けは一体どんな基準なのかって言われてんだよな俺?

しかも件のアリサにはガッツリ話したどころかスタンド貸してるし。

笑顔で貴方の秘密は聞きませんって言ってるけど、副音声なら早く話せやゴルァと仰ってるローウェル……最近、何か俺の秘密を知る人間が増えすぎて困る。

でもまぁ、一度スタンドを見られたら話さない訳にいかねぇし、ローウェルの思いを聞かされた後じゃヘブンズ・ドアーで記憶を書き換えるのも無理。

とくれば……。

 

「……分かった分かった。お前に俺の力の事を話すけどよぉ……誰にも一切、他言は無し、だぜ?それを守ってくれんなら、話してやるよ……俺のスタンドの事を」

 

話して秘密にしてもらうしか無ぇよなぁ……やれやれ。

俺が確認を取る様にローウェルに問いかければ、彼女も表情を真剣なモノにして俺の顔を見ながら首を縦に振る。

ここまできたらもう話さないって訳にゃいかねぇだろう。

俺は「少し長くなる」とだけ前置きして、自分の身に宿る異能の事を話し始めた。

スタンドと呼ぶ俺の持つ数々の異能。

普通の人には見えない力が齎す超常現象を超えた力の強さ。

アリサ達がそれを何故知ってるのか。

勿論夜の一族の事は伏せて話したから、少しややこしくなっちまったけど。

全てを語り終えた頃には、大分時間が掛かっちまった。

 

「……これが、俺の持ってる異能、スタンド能力の全容だ」

 

もはや語る事はもう無いので、俺は手に持ってたジュースを一気に煽る。

長々と話して喉が乾いちまったよ。

ジュースで喉を潤しながらチラリとローウェルに視線を送ってみると彼女は難しい顔をしながら顎に手を当てて虚空を見ていた。

 

「どうした?聞いて後悔したかよ?」

 

はっきり言えば、スタンドなんて普通の人からしたらオカルトの領域だからな。

俺の言葉を聞いてハッとした表情を見せたローウェルは「違うわ」と言い返す。

 

「後悔なんて無いけど、そのスタンドという力をこの目で見る事が出来ないのが残念なの……私を助けてくれた力がどういったモノなのか、それを見てみたかっただけよ。気にしないで」

 

ローウェルは少し寂しそうな表情を浮かべてそう愚痴る。

ホントは聞くだけじゃなくて見て理解したかったのかも知れねえ。

……だからだろうか?

彼女があんまりにも寂しそうに言うもんだから、俺もつい口を滑らせちまった。

 

「まぁ一般人にはスタンドが見えねーからな。アリサ達みてーにスタンド使いにならねーと無理「ちょっと待って」ん?何だよ?」

 

喋ってる途中であんまりにも迫力ある声で聞き返してくるモンだから、俺は途中でローウェルの静止を聞いて話を止めてしまう。

 

「ジョジョ、今貴方は「アリサみたいにスタンド使いにならないと」って言ったけど、スタンドというのは貴方個人で所有してる力なのでしょう?なのに、今の貴方の言い方はまるで、その子が『最近スタンド使いになった』様な言い草だわ」

 

「……あー……それは、だな……」

 

ヤベエ、口が滑って要らねぇ事まで言っちまった。

言い難い事なのでどうしたモンかと視線を逸らせば、伸びてきた腕にガシッと顔を挟まれて俺は強制的にローウェルと視線を合わせてしまう。

俺の顔を捕まえるローウェルの瞳は、何やら熱意に溢れていた。

 

「……有るのね?普通の人がスタンド使いになれる方法が?いいえ、貴方の話し通りなら、スタンドという概念は他の人では無く貴方自身が名付けたモノ。なら、考えられる可能性は唯一つ……ジョジョ。恐らく貴方は、何かしらの貴方が持つスタンドの能力を使う事で、他人に別のスタンドを与える事が出来るのよ」

 

予感とか当てずっぽう、ましてや憶測じゃねぇ。

ローウェルは、確信を持って俺に質問、いや詰問してきてる。

もう全て判ってるんだぞ?みたいな目で見られてる俺は、どうしたもんかと内心で諦め混じりに嘆いてたりするんだが。

っていうかあんだけの言葉でそこまで判るとか頭良いなんて話しじゃねぇぞ。

 

「……ローウェル」

 

「何かしら?」

 

動く事も出来ず、ローウェルに両方の頬を挟まれ、正面から見つめ合う体勢のままに、俺は溜息混じりに声を出す。

 

「お前ってさ……所謂、天才って奴なのか?」

 

あの一言で俺のホワイト・スネイクの存在にここまで気付ける奴が他に居るか?

すずかやアリサだって気付かなかったぞ?

俺の言葉にローウェルはこれでもかとニッコリ微笑む。

只まぁ、その微笑みは所謂「してやったり」なお顔なんですが。

 

「フフ、ジョジョにそう言ってもらえるのは嬉しいけど、私は自分で自分の事を天才だなんて思った事は一度も無いわ……IQは200ちょっとあるけど♪」

 

紛う事無き天才児じゃねぇッスかローウェルさん。

あの「ジッチャンの名にかけて」な高校生よりIQが上とか何そのハイスペック?

しかもIQ200ちょいって上限MAXカンストじゃねぇかよ。

これじゃハイスペックじゃなくて廃スペックだ。

目の前でニコニコ微笑む少女のナチュラルスペックに脱帽している俺だったが、そんな俺に構わず彼女は上品に微笑みながら俺と顔の距離を更に近づけてくる。

 

「フフ……ねぇジョジョ?」

 

「……何スか?ローウェルさん」

 

表面上にこやか、でも俺からしたらライオンに追い詰められたガゼルな心境だぜ。

 

「まどろっこしいのは抜きで単刀直入に言うわ……私にも、スタンドを与えて欲しいの」

 

「ホントに単刀直入だな」

 

「あら?下手に飾った言葉と真っ直ぐな本心……心に響くのはどっちかしら?」

 

そりゃ勿論後者だろーけど、幾ら何でもストレート過ぎやしねぇか?

そう考えながらも、俺自身でまだ納得出来る理由が無い。

だから俺はローウェルの本心を図りかねてんだよなぁ。

その心境が表情で伝わったのか、ローウェルは少し困った様に笑った。

 

「正直、今回みたいな事になっても大丈夫な様に、自衛の為に欲しいという気持ちだけど……本心はね?貴方がスタンドを操る姿がこの目で見てみたいのよ」

 

「スタンドを?」

 

「えぇ……私を救ってくれた貴方の力。そのイメージが知りたい。今まで人と触れ合う事が少なかったから、少し小難しい事を言いそうだったけど……」

 

一度言葉を切ったローウェルは自嘲する様に語りながら、それでも俺から視線を逸らそうとしない。

 

「貴方が私を助けてくれた時、どうやって戦ったのか、貴方の言うスタンドっていうのはどんな形をしてるのか……それを使う貴方の事が、少しでも知りたい……だから、この場限りでも良いの。例え私の身体に異常が出ても良いから……もっと貴方の事を深く教えて……ジョジョ」

 

真っ直ぐな瞳で俺を見つめながら、臆面も無くそんな事を言ってくるローウェル。

貴方の事が知りたいとか……それじゃまるで……。

 

「……その台詞、まるで愛の告白みてえだぞ?」

 

この場限りとか、都合の良い愛人やります的な台詞止めてくれません?

悪戯げに笑いながらそう返すと、ローウェルは頬を少し赤く染める。

表情は余り変えねぇが、そう言われると恥ずかしいらしい。

遂には俺の目を見ていられなくなったのか、プイッと目を逸らす。

 

「し、仕方無いじゃない……こんな気持ち、自分でも初めてなんだもの……自分が貴方に焦がれてるのか、それともヒーローの様に思ってるのか、判らないのよ」

 

「まぁ、真っ直ぐっちゃあ真っ直ぐだけどよ……」

 

幾ら何でも対人スキル低すぎやしねぇか?

自分の言いたい事をオブラートに包むのが出来ねえからってここまで飾らねぇ言葉は初めて聞いたぞ?

ここまで真っ直ぐな言葉聞かされて……それで心動かなかったら、駄目だよな?

俺は両方の頬を抑えてるローウェルの手に触れる。

その行動に少しビクッと震えたが、俺はそれに構わず口を開く。

 

「あのな、ローウェル。俺がアリサ達にスタンドを貸したのは、アイツ等が俺のダチだからだ」

 

「……」

 

そう話すと、ローウェルは寂しそうな表情で俺に目を向けてくる。

多分彼女は、俺にダチじゃねぇと言われてる様に感じてる筈だ。

誰もそんな事言ってねぇのにな。

 

「ダチが危険な……それこそ、今回みてーな奴等に襲われても自分の身を守れる様に……そう考えたからこそ、俺はスタンドを与えた」

 

俺はそう伝えて、自分の頬に添えられた手をゆっくりと引き離す。

その行動に等々彼女は涙を零してしまう。

って泣くな泣くな。まだ話は終わってねぇよ。

 

「だから、俺からスタンドを借りたいって言うならよぉ?……ローウェルには俺の『ダチ』になってもらう」

 

「……え?」

 

いや、「え?」じゃねーから。

顔を挙げて少し呆けた顔を見せる彼女に、俺は苦笑いする。

 

「俺の秘密を話した上に、ローウェルはその事を黙っててくれるっつうんだ……なら、今度は俺がローウェルの、いや『友達』の願いを叶える番だろ?」

 

さすがにここまで色々と秘密を共有してる相手に力を貸さない訳にゃいかねえ。

ソイツが「何かデカイ事をしたい」とかいう理由だったなら絶対貸さねぇ。

けどまぁ、自分の身を守りたいとかなら、俺は彼女に力を貸す。

もう関わって、話をして、それが俺の日常になるなら、俺の穏やかな日常を守る為に力を貸すのは悪い事じゃねぇ筈だ。

俺がアリサとすずかにスタンドを貸したのはそういう理由だったし。

俺の言葉の意味を頭の中で理解してくれたんだろう。

彼女は涙を拭かずにニッコリと、微笑みじゃなくて笑顔を浮かべた。

 

「友達……初めての友達が、まさかあんな事件が切っ掛けで出来るなんて……もし神様が居るとしたら、随分意地悪よね?」

 

「違いねぇ」

 

2人揃って言った事が可笑しくて、俺達は小さく笑う。

暫くそうして笑っていると、ローウェルは涙を拭って俺を見つめてきた。

 

「さっきの告白紛いの言葉、訂正するわ……これから教えてくれるんでしょ?」

 

(それに……気持ちが固まったら、ちゃんと告白したいもの)

 

「まぁ、そこまで面白れぇ事じゃねぇけど……知りたいなら、教えてやるよ」

 

ローウェルの言葉に軽く返しながら、俺はホワイト・スネイクを使ってあるスタンドをDISC化して取り出す。

勿論例の如くローウェルもその光景に驚いてたがな。

彼女にDISCの事を説明すると、ローウェルはそのDISCを躊躇せずに自分の頭に埋め込んだ。

その思い切りの良さに呆れて「怖くなかったのか?」と聞くと、ローウェルは可笑しそうに笑いながら「信じてるもの」と返してきた。

どんだけ思い切りが良いっていうか、度胸あるなぁっていうか。

 

「変わった感じはしないわね……それじゃあスタンドの事を(ポツッ)あら?」

 

「(ポツッポツッ)ん?」

 

さぁ本題にと気を漲らせてたローウェルだが、それは天の妨害で阻まれてしまう。

急に落ちた水滴に2人揃って空を見上げると、曇り空が俺達を取り囲んでいた。

しかもポツポツという音は更に頻度を増してくる。

どうにも雨が降り出した様だ。

あらら……天気予報じゃ何も言ってなかったってのに、予報が外れたか。

っていうかローウェルって傘持ってねぇよな?

そう思ってベンチから立ち上がったまま不機嫌顔のローウェルに視線を向ける。

これからって時に出鼻を挫かれたのが癪な様だ。

でも怒鳴ったりしない辺り、やっぱアリサとは違うんだなぁと感じてしまう。

 

「本当、神様って意地悪……残念だけど、今日はここまでにしましょう」

 

「そりゃ別に良いけど、お前傘持ってねぇだろ?家は近いのか?」

 

ベンチに置いていたランドセルを持ち直すローウェルに、俺はそう声を掛ける。

俺もそうだが、ローウェルも傘は常備してない。

結構規模の大きそうな雨だから、走って帰るつもりかもしれない。

 

「ここから歩いて30分位掛かるけど……雨宿りしながら帰るしかないわね」

 

ランドセルを担ぎながらそう困った笑顔で俺に言ってくるローウェル。

そりゃ幾ら何でも風邪引いちまうだろ……ハァ、仕方ねぇ。

少し頭の中で面倒だと考えるが、これもダチのためと自分を納得させる。

 

「それじゃあね、ジョジョ。貴方も風邪引かないように。バイバイ♪」

 

「待て待てローウェル。俺が送ってやるよ」

 

さっきまでの不機嫌さを感じさせない柔らかな声音で俺にさよならと言ってくる彼女の肩を掴み、俺はローウェルの行動を阻む。

俺の行動に「え?」と言いながら振り向いてくるローウェルに、俺はニヤリとした笑顔を見せる。

 

「さすがに雨が振る中、傘を持ってねぇお前を1人で帰せられるかよ。俺が家まで送り届けてやる、『傘代わり』にな」

 

「傘代わりって……貴方も傘は持ってないでしょ?一体どうする気……ッ!?」

 

ローウェルは俺の言ってる事にごく当然な疑問を投げ掛けてくるが、それは途中で

驚愕の声に変わり、目付きも驚きを表して見開かれる。

スタンドDISCを埋め込んでスタンド使いとなった彼女なら、俺の周りに漂う『雲』もハッキリと見えているんだろう。

驚きで声も出ないって様子のローウェルに笑顔を見せたまま、今度は俺が喋る。

 

「生憎、俺には傘なんて『要らねぇ』んだよ……『操れる』からな」

 

驚く彼女にそれだけ言って、俺はあるスタンドを呼び出す。

雲の様に柔らかそうな見た目の天候を操るスタンド、『ウェザー・リポート』だ。

俺はウェザー・リポートの拳を握りこませて、天に向けて撃つ体勢を取る。

初めてスタンドを見るローウェルに、ちょっとだけサービスだ。

 

「ウェザー・リポートッ!!!」

 

俺の声に呼応してウェザー・リポートは拳を空に向けて突き出し、能力を使用。

俺とローウェルが歩く3メートルぐらいの部分だけ雨雲を取り払った。

結構強めの勢いで降り出した雨が、俺達の周りだけ何とも無くなる。

これなら問題無く帰れるな。

 

「さぁ、行こうぜ?俺も早く帰りてえしな」

 

ポカンとした顔のローウェルにそう声を掛けると、彼女は薄っすらと微笑む。

 

「……まるで魔法使い、ね」

 

「そんなメルヘンチックな存在じゃねぇよ」

 

スタンド使いだからな?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ここよ。ここが私の家」

 

あの公園から歩いて30分。

何気ない学校での出来事とか話しながらだったら直ぐだった。

そして、ローウェルが指したのは普通の孤児院。

特に汚れが酷いとか金持ち過ぎるって訳も無く極めて普通な場所だ。

今も雨が降ってるから、孤児院の庭には人影が無い。

多分帰ってきてる人達は皆中に入ってるんだろう。

そんな事を考えてると、ローウェルは門を潜る前に振り返って俺を見てくる。

 

「……ねぇ、ジョジョ。もう一つお願いがあるんだけど、いいかしら?」

 

「あ?もう一つ?」

 

今この土壇場で頼むお願いって何だ?

一体何だと思って聞き返した俺に、ローウェルはちょっと恥ずかしそうな表情をしながら、ボソボソと口を開いた。

 

「……貴方には断られたけど……や、やっぱり私の事、名前で呼んでくれない?」

 

「は?」

 

意味が分からないといった表情を浮かべて聞き返す俺に、ローウェルはもじもじと身体を揺らしながら言葉を続ける。

 

「あ……憧れてたのよ……近い歳の子に……というよりその、友達に名前で呼ばれるの……そ、そのアリサっていう子が居ない時だけで良いの。もしも一緒に居た時なら、私の事はローウェルで良いから……駄目かしら?」

 

頬に少しだけ赤みを刺しながら頼んでくるローウェル。

ヤバイ、何というか健気過ぎる。

今まで友達居なかっただけじゃなく同年代に名前で呼ばれた事無いとか……。

うん?今まで苗字で呼んでた俺って結構可哀想な事してたんじゃね?

 

「そうだな。ダチになったら名前で呼ばなきゃだよな、『アリサ』」

 

そんな最悪過ぎる考えが頭に過った瞬間、俺は今までの態度をコロッと変えて、自然に彼女を名前で呼んだ。

そんな最低過ぎる俺に怒る事無く嬉しそうに笑うアリサ。

俺って結構心汚れてるんだろうか?

何か名前呼びだけじゃアリサにした仕打ちの詫びにならねぇ。

どうしたモンかと頭を捻って……捻って……あっ。

 

「そうだ、アダ名だよアダ名」

 

「え?……アダ名?」

 

「そうそう、愛称っつうか、ニックネーム?もう一人のアリサが居たら、ソッチで呼ぶってのはどうだ?」

 

これなら他人行儀な呼び方しなくても済むぜ?と聞いてみれば、目を輝かせて俺の提案にコクコクと頷くアリサ。

その様子は何というか、初めてクリスマスプレゼントを手に入れた子供みたいだ。

出来の悪い俺の頭じゃそうとしか言えねぇや。

そんなアリサの様子から目を外し、脳内で頭をコレでもかと捻る。

俺は他人にアダ名を付けた事があってもあんまり受け良く無かったからなぁ。

顔がゴリラみたいだったからゴリちゃんとか。

しかし俺が初めての友達っていうアリサに下手なアダ名付ける訳にゃいかねぇ。

さてどうすっか……アリア、は何か違う。

っていうか独唱曲って完璧アリサをバカにしてるだろ?

アリ、アリ…………アリアリアリアリってコレは違う、違いすぎる。

 

「う~む……おっ?そうだ……『リサリサ』ってのはどうだ?」

 

思い浮かんだアダ名に、俺は少しテンションを上げてアリサに聞いてみる。

ジョジョの原作第二部に登場したクールな波紋使いの美女、リサリサ。

その正体はジョセフ・ジョースターの母親なんだが、まぁそれは割合する。

リサリサのイメージとアリサのイメージはバッチリ合うから、このアダ名はサイコーにぴったりだと思うんだが……。

そう思ってアリサに視線を向けると、彼女も気に入ってくれたのか笑顔で今の愛称を何度も連呼していた。

 

「リサリサ、リサリサ、か……うん。凄く気に入ったわ」

 

「そっか。それなら、もし次にアリサが2人いたらリサリサって呼ぶ事にすんぜ」

 

「えぇ。私も自分にそっくりな子にあってみたいし、その時は是非そう呼んで」

 

嬉しそうなアリサに「おう」と返事をしてから、俺は帰るためにアリサと孤児院に背を向ける。

何時の間にか雨は上がっていて、ウェザー・リポートで作った雲の隙間ごと拭われて、夕焼空が顔を出していた。

さあて、帰って飯食うか……今日の飯は天ぷらだって母ちゃん言ってたし。

 

「それじゃあな、アリサ。また学校で会おうや」

 

それだけ言って、俺は家に向かって歩を進める。

今日は朝からハードワークだったし、家でゆっくりとしよう。

 

「……ジ、ジョジョッ!!」

 

「ん?どうし(チュッ)ッ!?」

 

後ろからアリサに呼びかけられて振り向いた刹那、頬に何か柔らかいモノが当たる感触、そして目を瞑るアリサのドアップな顔が俺の目に飛び込んできた。

ちょ、ちょっと待て?これって所謂……。

余りの急展開に混乱しかけている俺を他所に、アリサは唇を俺の頬から離すと、両手を後ろで組んだまま、若干下から覗き込む様な体勢で離れていく。

呆ける俺から離れていくアリサはトマトの様に真っ赤な顔色だった。

 

「き、今日のお礼……助けてくれて、ありがとう……じゃあね。チャオ♪」

 

はにかむ様な笑顔を浮かべてそう言ったアリサは俺に背を向けると、一目散に孤児院の玄関へと走って行った。

 

「……い、いや。確かに外国じゃ頬へのキスは親愛の証らしいけど……」

 

この場合どっちなんだ?本人は今日のお礼と言ってたし、公園でしたあの愛の告白紛いの言葉は取り消してとは言ってたが……わ、分からん。

取り消したものかそう受け取ったものかと悩みつつ、俺は家路に着いた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「(ガチャッ)ただいまー」

 

そして歩くこと大体……40分ぐらいか?

アリサの家まで行ったのでちょい遠回りになったが、俺は家に帰宅した。

今日は疲れた……飯、まだかな。

 

「(ガチャッ)あぁ、帰ってきたわね~。お帰り定明~」

 

「おう、ただいま、母ちゃん」

 

そう考えつつ玄関で靴を脱いでいると、居間の扉が開いて母ちゃんが顔を出した。

うん、相変わらずポケ~っとした顔してんな。

……ついでに今日の面倒事に俺を放り込んでくれたのも母ちゃんだったな。

いや、確かにアリサを助けれたのは良いんだけど……素直に感謝はしたくねぇ。

 

「ちょうど良かったわ~。定明に電話よ~?」

 

「ん?俺に?誰からだよ?」

 

俺の家に電話かけてくる奴なんて、大体学校のダチくらいしか居ねえが。

電話の相手を聞くと、母ちゃんは指を顎に当てて「ん~」とか唸りだす。

いや、相手の名前聞いてねぇのかよ?

そう思いつつ待っていると、やがて母ちゃんは「あ~」とか言って手の平にポンともう片方の手を当てる仕草をした。

 

「ほら~、この前来てた~、鮫島さんの仕えてるお屋敷の女の子~」

 

「アリサから?」

 

何か用事でもあんのか?

 

「そう~、でもグッドタイミングね~♪電話が掛かってきたの……」

 

ちょうど今なのか?

 

「ちょうど~12回目で~、今かかってきてるの~」

 

全然グッドタイミングじゃねぇ。

そう思いつつ居間に入ると、保留の文字を光らせている我が家の電話。

……心なしか「早く出なさいッ!!」ってオーラが見えるんですけど?

考えても仕方ねぇか……また怒ってるんだろうなぁ、アイツ。

ドッチにしろ電話を取らないという選択肢は無いので、俺は溜息を吐きつつ保留を解除、恐る恐る受話器を手に取り……。

 

「……もしもし?」

 

受話器から耳を30センチくらい離して声を掛ける。

 

『遅いッ!!こんな遅い時間まで何処ほっつき歩いてるのよアンタはッ!!』

 

そして待ってましたと言わんばかりにデカイ声が帰ってきた。

その後も受話器から聞こえるやんややんやという怒りの言葉。

さっきのアリサとは正反対過ぎて、でも声は同じだから頭痛くなりそうだぜ。

それを聞き流しつつ、俺は受話器に声を掛ける。

 

「ハァ……OKOK,俺が悪かったよ……んで?一体何の様だ?」

 

『何よ、その面倒くさそうな声……仕方無いわね……定明。アンタ次は何時アタシとすずかにスタンドの練習させんの?確か、まだLESSOM3が残ってるって言ってたでしょ?』

 

「あぁ、それか……ん~、出来れば休みの日が良いんだけどなぁ」

 

さすがに学校が終わった後でやるのも面倒くせえからな。

なら休みの日にやる方が気分的に楽だ。

 

『な、なら、来週はアタシとすずかも塾が休みだから、来週の土曜日はどう?』

 

「土曜か……ちょっと待てよ」

 

日取りの指定をしてきたアリサに待ってくれと言いつつ、俺は電話横に備え付けられた壁掛けのカレンダーに目を通す。

何か特に予定は……うん、入ってねぇな。

 

「おう、俺も土曜日は何も無いから、またコッチに迎え頼む」

 

『えぇ、今度はすずかの家でやるつもりだから、すずかに伝えとくわ』

 

「ん?じゃあ何ですずかじゃねぇんだ?」

 

普通やるモンの家から連絡あるモンじゃねぇのか?

 

『何よ、アタシじゃ不満だっての?』

 

「誰もンな事言ってねぇだろーが?只、普通は家主が連絡するモンじゃねぇか?」

 

『そうだけど、今日はすずか、家の事でちょっと話し合いがあるらしくて、アタシが代わりに連絡したのよ……兎に角、ちゃんと伝えたからね?忘れずにちゃんと来るのよ?』

 

とりあえずこれで話は終わりらしく、受話器の向こうのアリサは最後に念を押す様に確認を取ってきた。

そこまで言われなくてもちゃんと行くっての。

向こうから聞こえてくる元気良すぎな声にそう返そうとして……。

 

 

 

 

 

「分かったって。じゃあな、『リサリサ』」

 

『ホントに分かって……ちょっと待ちなさい?その『リサリサ』って誰よ?』

 

ミスった。

 

『ねぇ誰?ソイツ誰なのよ?何でアタシと喋ってて違う奴の名前が出てくるワケ?しかも名前の感じからしてソイツ女……』

 

「おぉーっとヤベェもうすぐスティール・ボール・ラン(この世界の競馬)が始まる時間だすっかり忘れてたぜーそれじゃあまた土曜日になアリサー(棒読み)」

 

『ちょ、ちょっと待ちなさ……』

 

向こうで何か言ってるが全て無視して、俺は受話器を置いて電話を切る。

更に直ぐ電話が掛かってくるかもしれないので対策に受話器を若干外しておく。

これでアリサからの電話対策はバッチリだ。

ある程度遅い時間まで粘ればアリサも諦めてくれるだろう。

 

「後は……レッド・ホット・チリ・ペッパーで電気メーター誤魔化しておくか」

 

夕食前にやらなければならない事が増え、俺は盛大な溜息を吐く。

土曜日は荒れるだろうなぁ……。

 

 




アリサ改めリサリサのスペックの高さヤベー(;・∀・)


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『スタンド使い』と『スタンド使い』はいずれ引かれ(ry

タイトル修羅場風味添え。

でも中身はほのぼのwww( ・´ー・`)ドヤァ


「ジョジョ。貴方次の休みは空いてる?」

 

「藪から棒に何だよアリサ?」

 

現在、俺は給食を食べ終わって、アリサと共に学校の中庭の端に座っている。

理由としては、給食を食べ終わった時にアリサが訪ねてきたってだけなんだがな。

……つうか、昨日のほっぺにチューの所為で顔を合わせ辛かったのは俺だけか?

今もアリサはそんな様子一っ欠片だって見せてねぇし。

やっぱあのキスはお礼って事で深く考えねぇ方が良いのか?

そんな事を考えつつ、俺は木に凭れ掛かってアリサに質問を返し、アリサはそんな俺に不満気な表情を見せてくる。

 

「疑問文に疑問文で返すのは関心しないわよ、ジョジョ?」

 

「へーへー、スイマセェン……次の休みかぁ……」

 

そんなお叱りを受けつつ予定を思い返すが、土曜日は既に埋まってる。

今んトコ空いてるのは日曜だけだ。

 

「土曜は無理だが、日曜なら空いてるぜ?」

 

「あら?先約があったの?」

 

「先約って程でも無えが、昨日話した2人いるだろ?アリサとすずか」

 

「……えぇ……その2人と遊ぶ予定?」

 

昨日の話を思い出しているのか、指を顎に当てて思案するアリスを尻目に、俺は肩を竦めて苦笑する。

 

「うんにゃ。スタンドの制御訓練。その総仕上げってトコだ」

 

とりあえずソレで俺のレクチャーは終わり、後はアイツ等自身が見つけるだろ。

俺は休みの子が出て余ったキャロットパンをポケットから出して封を開ける。

俺のじゃねぇが、さっきから横でピーピー喚いてる奴等の『食事』だ。

 

『オイ定明ッ!!早クソレ食ワセテクレヨッ!!』

 

『最近何モ食ベサセテクレネーンダモンナァ』

 

『ウヒョーッ!!コレガ噂ノ甘イキャロットガ入ッタパンカァーッ!!』

 

『ウエェ~ンッ!!ボクハ定明ノ母チャンノツミレガ食ベタイヨォオ~ッ!!』

 

『コリャ堪ランッ!!ヨダレッ!!ズビッ!!』

 

『アレ絶品ダモンナァ』

 

しかも俺がキャロットパンを取り出すのを目敏く見つけて勝手に出て来やがった。

そう、俺の周りを好き勝手に喚きながら飛び交うコイツ等こそ、俺がこのパンを食わせてやろうと考えた相手、『セックス・ピストルズ』だ。

 

「るっせーぞピストルズ。ちゃんと夕食(チェーナー)が食える時は食わせてやってんだろーが。それとNO,5。今度母ちゃんに頼んでつみれ作ってもらうから、今は我慢しろ」

 

現れたパンに群がって喚くピストルズにそう返しながらパンをベンチの隅に置いてやると、ピストルズは一斉にパンを食べ始める。

ココは学校でもかなり隅っこにある場所で、人は滅多に寄り付かない。

だからこそこうやって堂々とピストルズに飯食わせてやれるんだけどな。

 

「……それ、何匹居るの?」

 

「匹?人って言ってくれ。ペット扱いすると機嫌が悪くなっちまう」

 

ピストルズを見ながら窺う様に質問してくるアリサに注意しつつ、俺は彼女の質問に答える為に言葉を紡いだ。

 

「全部で6人だ。NO,1からNO,7まで居る」

 

「……計算が合わないわよ?」

 

「あぁワリイ。NO,4は居ねぇんだ。4て数は縁起が悪いからな」

 

「あぁ、そういう事なの……スタンドってご飯も食べるのね」

 

「いや、それはコイツ等だけだ。コイツ等は自我を持ったスタンドだからな、試しに飯食わせてみたら、こうやって偶に食いたくなって勝手に出て来やがる」

 

興味深そうにしゃがみ込んで、ベンチに置かれたキャロットパンを食べるピストルズに視線を送るアリサ。

そう、ホントに好奇心で母ちゃんの飯を食わせたら、マジでピストルズは飯を時々強請る様になっちまった。

普段は大人しくしてるってのに、偶に食いたいモンが目の前にあったら、俺が呼び出さなくても勝手に出て来てその食い物を強請る。

ぶっちゃけバニングス邸で出て来なかったのが不思議だ。

だっていうのに、ピストルズは今日の給食でキャロットパンが出たら群がる様に現れて、俺にキャロットパンを催促してきた。

危うく勝手に行動したNO,2とNO,3の所為で、パンが空中で食われていくって場面になりかけて焦ったぜ。

不思議がるアリサにそう説明してやると、彼女は「へぇ」と興味深そうに頷きながら食事中のセックス・ピストルズを観察し……。

 

「あっ……」

 

「ん?」

 

小さく声を挙げたので、何事かとアリサの見てる先に視線を巡らせれば……。

 

『ガツガツガツ!!ウメエ~~ッ!!』

 

『ウエエェェンッ!!取ラレタァアア~~ッ!!』

 

NO,6に食べていたパンを横取りされて泣き喚くNO,5が居た。

全くコイツ等は……仲良く食うって事が全然出来ねえんだもんな。

もう食われたモンはしょうがねぇなと思いつつ、NO,6を注意しようとしたが……。

 

「……あ、あの……NO,5?」

 

『フェ?……グスッ、グスッ』

 

俺よりも先にアリサが動きを見せ、しゃがんだ体勢でNO,5と目線を合わせたアリサは、恐る恐るって感じで声を掛けつつ、ポケットから何かの包みを取り出した。

その様子にNO,5だけでなく他の奴等も動きを止めてアリサに視線を向けている。

 

「えっと……これで良かったら、食べる?」

 

NO,5を怯えさせない様にか、笑顔を浮かべてアリサが差し出した手の平の物体は茶色の小さい四角形のモノ、形からしてキャラメルだろう。

今まで食べた事の無いモンだからか、NO,5はキャラメルとアリサの顔を見比べ、食べて大丈夫かと考えてるようだ。

そんなNO,5の様子を察してか、アリサは笑顔のまま口を開く。

 

「これは、キャラメルっていうお菓子。甘くて美味しいわよ?」

 

『……キャラメル?』

 

まるで小さな子供に語り掛ける様な口調で、アリサはNO,5をあやしつつ、NO,5の行動を見守っている。

やがてアリサの笑顔に悪意が無いと感じ取ったのか、NO,5はふわりと空中に浮遊してアリサの手の上に乗り、キャラメルを齧る。

その行動に少しだけ緊張した表情を見せるアリサだが……。

 

『ウンまぁあ~~~~~~いいッ!!!??』

 

「そう……良かったわ」

 

喜んでガッツき始めたNO,5を見て、ふわりと笑った。

そのままキャラメルをパクパクと齧るNO,5を優しく見つめながら、アリサはもう片手の指でNO,5の頭を優しく撫でる。

つっても、スタンドはスタンドでしか触れないから、撫でるモーションを取ってるだけなんだが。

彼女の行動に照れ笑いを浮かべながらキャラメルを食べるNO,5。

やれやれ、泣いてた奴がもう泣き止みやがった。

 

『チ、チクショウッ!!NO,5メェ~~~ッ!!』

 

『綺麗ナオネーチャン二撫デラレルナンテ羨マシ過ギルゼッ!!』

 

と、NO,5が思いも寄らぬハッピーイベントを享受してるのが気にいらねぇのか他のピストルズがやいのやいのと騒ぎ出す。

お前等食うか騒ぐかドッチかにしろや、マジで。

そんなピストルズの声はアリサにも届いていた様で、彼女はNO,5に向けたのと同じ柔らかい笑顔を浮かべつつ、服のポケットから『スタンド』の手を使って人数分のキャラメルを出した。

 

「仲良く食べてくれるなら、ピストルズ皆にあげるわ。約束してくれる?」

 

『『『『『オォーーウッ!!仲良ク食ウゼーーッ!!』』』』』

 

コイツ等ェ……俺の時より遥かに統率されてやがる。

女の子相手に調子の良いピストルズの様子に呆れながら、アリサの『スタンド』の手の平に乗せられたキャラメルに群がるピストルズを見……あれ?

待て待て待て?今、俺は、何を、見た?……『スタンド』の手?……あれ?

 

「あっ、そういえばジョジョ?次の休みが空いてるかって聞いた件だけど……」

 

自分の目で見た光景が信じられず茫然とする俺を他所に、アリサは如何にも楽しげな笑みを浮かべて俺に声を掛けてくる。

恐らく今の俺は相当間抜けな顔をアリサに晒してる事だろう。

そんな俺に笑顔を見せつつ、アリサは手だけ出していたスタンドを全身表わす。

体中に付いた『キスマーク』と、頭部に無数の『ピン』が刺さった王冠の様な頭。

 

 

 

「私にも訓練を付けてくれないかしら?……『キッス』の力を知る為に、ね♪」

 

 

 

昨日貸したばかりの近距離パワー型スタンド、『キッス』を背後に従えながら、アリサは俺に「してやったり」な笑顔を浮かべる。

彼女の背後に居るキッスは、アリサの命令に従う様にポーズを取って静止してた。

たった一日で完璧に制御してやがる……この世界の女の子ってどうなってんだ?

俺みたいに特典あるワケじゃねぇのに、スペック高過ぎだろ。

しかも俺はアリサに何一つアドバイスしてねぇってのに。

騒ぐピストルズ、微笑むアリサ、項垂れる俺。

そんな3すくみというカオスな状況の中、取り敢えず今日の放課後からスタンドの訓練をする、とアリサに話して昼休みを終える俺であった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「と、いう訳で、土曜日はリサリサも連れてくからヨロ」

 

『その前にリサリサって誰だって聞いてんのよッ!!答えなさいバカ明ッ!!』

 

誰がバカ明だ誰が。

現在、俺はリサリサにアリサ達がやったのと同じ様に、人目に付かない場所で訓練をし終えてから、彼女も土曜日にすずかの家出訓練を受けてもらう様節目して帰宅した所、グッドタイミングで電話を掛けてきたアリサに土曜日の日程変更を伝えていた。

まぁ何の説明も無しにヨロとか言ってるからアリサが切れんのも無理無い。

今も受話器の向こうで盛大に怒ってるしな。

 

「誰かって言われりゃ、俺のダチとしか言えねえよ」

 

『アンタの友達ぃ?……長い付き合いなの?』

 

「昨日から」

 

『付き合い浅ぁッ!?ってちょっと待ちなさいよッ!!土曜はアタシとすずかと一緒にスタンドの特訓するって約束でしょうがッ!!その子連れてきたらスタンドの訓練なんて出来なくなるでしょッ!!』

 

どうにもアリサは難色を示してるが、その点については問題無いんだよなぁ。

 

「気にすんな。リサリサもスタンド使いだからよ」

 

『ハァッ!?ど、どーいう事よソレッ!!』

 

電話の向こうで、もう何が何やらって感じに叫んでるアリサが落ち着いたのを見計らって、俺は昨日リサリサと知り合う切っ掛けになった誘拐事件の事を話した。

とは言っても、リサリサがアリサそっくりだって事は話してない。

向こうで初めてリサリサとアリサが会った時の反応が面白そうだからだ。

 

「……とまぁ、以上がリサリサと知り合う切っ掛けになった事件って訳だ」

 

『そんな事があったのね……』

 

自分も同じ様な体験をしてるからか、電話の向こうのアリサの声は複雑そうだ。

考えてみりゃリサリサもアリサも、俺と知り合う経緯だけじゃなくて色々と似てる点があり過ぎる気が……容姿も含めてスゲエ偶然だよな。

 

『分かったわ。アタシは了解したけど、すずかには自分で伝えなさいよ?』

 

「え~?面倒くせえな。お前からすずかに伝えといてくれよ、学校同じなんだし」

 

一々電話かけ直すのは面倒くさくて仕方ねぇ。

そんな事を考えてると受話器からアリサの溜息が聞こえてくる。

 

『アンタねぇ、それが遊びに行く相手に対する最低限の礼儀ってモンでしょうが?そのリサリサって子は、アンタの友達であって、アタシとすずかは全く知らないのよ?だったらすずかに了解を取るのはアンタの仕事。理解した(ドゥーユーアンダスタン)?』

 

確かにアリサの言ってる事は正論だ。

知らない相手が来る事を知らない第3者が伝えても仕方ねぇ。

だから必然的に俺がしなきゃいけねえのは判るが……。

 

「俺、すずかの番号知らねぇんだけど?」

 

『……ハァ……アタシが教えてあげるわ』

 

俺の言葉に呆れを多分に含んだ声音でアリサは溜息を吐き、すずかの携帯番号を教えてくれた。

それを聞いた後は2,3言話して電話を切り、すずかにTEL。

いきなり携帯に掛けた所為でかなり驚いていたが、そこはアリサに聞いたからと言うと納得してくれたので、俺はアリサに話したのと同じ様にリサリサの事を話し、土曜日にリサリサも連れて行って良いかと聞く。

 

『うん。定明君のお友達なら大歓迎だよ♪』

 

「そう言ってくれると助かるぜ。急に面子増やして悪かったな、すずか」

 

『大丈夫だよ、私もそのリサリサちゃんに会ってみたいから』

 

そして、すずかは優しい声音でリサリサの動向を許してくれた。

自分の知らない所で自分の知らない人間を連れて行くと俺が独断で決めてたにも関わらず問題ないと言ってくれたすずかに感謝する。

やっぱすずかは優しいな……コイツをバケモンだなんて呼ぶ奴は擦り潰してやる。

 

「そんじゃ、次の土曜日の昼過ぎぐらいで良いか?」

 

『うん、じゃあその時間に、ファリンに迎えに行ってもらうから……あっ。それと定明君、ちょっと良い?』

 

そんな決意を心に決めてから、俺は土曜日の待ち合わせの時間をすずかと確認して電話を切ろうとしたんだが、その途中ですずかにストップを掛けられる。

 

「どうした?」

 

『あのね、今日なのはちゃんとアリサちゃんと、相馬君の3人でお昼ご飯を食べてた時の話なんだけど……』

 

すずかが話してきたのは、特に何でも無い、というか他愛無い世間話だった。

昼休みに何したとか、今日の授業で何処を習ったとか、そんな感じの何気ない日常の話。

でも話してるすずかの声はとてもイキイキしてて、聞いてるだけでも楽しいと感じられる。

どうやらあのオリ主君が居ないだけで随分学校生活を満喫してる様だ。

他の男子もオリ主君が居なくなって楽しくやってるらしい。

それを聞いたらオリ主君を入院させるまで養分吸った甲斐があったな。

だから俺もすずかの話に付き合って相槌を打ち、逆に俺の学校であった事なんかも

話の種に乗せた。

 

「それでよ、ソイツが倉庫のマリオ・セガールってオッサンに似てるってゴリちゃんに言い出してな。まだ小学生なのにヒゲ生えたオッサンに似てるって言われてマジギレ。ゴリちゃんもう怒りまくって大変だったぜ」

 

『アハハッ。だ、駄目だよそんな事言っちゃ……あっ』

 

「ん?どしたすずか?」

 

『そういえば今日皆で帰ってる時に、なのはちゃんが「声が聞こえる」って急に立ち止まったの』

 

「声?誰か近くに居たのか?」

 

『ううん。誰も居なかったよ……でも、なのはちゃんは間違いないって言って、林の中まで走りだしちゃったんだけど、そしたら怪我してるフェレットが居たんだ』

 

「フェレット……」

 

『うん。怪我してたから直ぐに獣医さんに診てもらったけど……定明君?』

 

すずかの言ったなのはの少し奇っ怪な行動。

実を言うと、俺はこの話について少し前から『知っている』。

理由は簡単、相馬に教えてもらったからだ。

アイツは俺があのオリ主君みたいにハーレムを狙ってたり、なのは達に危害を加える奴じゃ無いという事を知って、俺に少し情報をくれた。

それは原作、つまりこの「魔法少女リリカルなのは」というブッ飛んだ世界の初まりを意味する出来事の前兆。

それが、あのなのはが学校の帰りにフェレットという動物を拾う事だと聞いた。

全ての出来事を教えてもらわなかったのは、俺や相馬、そしてオリ主君の存在がこれから先の出来事にどんな影響を及ぼすのか解らねぇからだ。

オリ主君は言うまでも無く相馬もこれから原作に関わっていくだろう。

なら、先が歪むかも知れねえ出来事なんか知ってても意味がねぇからな。

しかしそうか……等々、その原作とやらが始まるのか……面倒くせ。

 

『定明君?どうしたの?』

 

「ん?いや、ワリイ……何でもねぇさ」

 

きっとこの先も何か色々起きるんだろうなぁ、と感じてしまって口を閉ざしたのがいけねぇんだろう。

電話の向こうのすずかの声音が心配する様な声に変わってる。

焦るな焦るな、例え原作が始まろうとも俺には関係ねぇ。

俺がやるのは至ってシンプル。

降り懸かる火の粉は特大の炎にしてブッかけてやるだけだ。

 

「しかしなのはの奴、まさか幻聴が聞こえてるとはな……疲れてるんだろうか?」

 

『そうかもしれないね……もしそうだったらどうしたら良いかな?』

 

「そーゆう時は、優しく接してやりゃ良いんじゃね?労ってやりゃ良いと思う」

 

本人が居ない所で結構ボロカスに言ってる気がするが気の所為だろう。

心なしか、どっかから「にゃぁああッ!?」って叫び声が聞こえた気が……。

ヤベエ、俺も疲れてるのか?今日は少し早く寝よう。

 

「じゃあ、そろそろ眠くなってきたから切るわ」

 

『うん。おやすみ、定明君。土曜日は楽しみにしてるから♪』

 

「あぁ、俺も楽しみにしてる。お休み、すずか」

 

その後俺はすずかと軽い談笑をして電話を切り、早めの就寝に着く事にした。

原作が始まるなら、俺もソレに備えて色々と準備しとかなきゃいけねぇ。

土曜日の訓練ですずか達が各々のスタンドの力全てを使いこなせる様になれば、これから先誘拐されそうな事態になっても何とかなるだろう。

となれば、後は俺自身の問題だ。

これから先すずか達と一緒に居れば、間違いなく俺はあのオリ主君に目をつけられちまう。

関わりたくなくても無理だろうなぁ。

相馬から聞いた話しじゃ、何もしていなかったのに転生者だとバレただけで有無を言わさず襲い掛かってきたそうだ。

「オリ主はこの俺だけで充分なんだよッ!!」とか言ってたらしいから、俺がオリ主君を放置しても向こうが向かってくるのは間違いない。

幾ら俺に全スタンドの力があっても、相手の力が解らねぇ内は戦いたくねぇ。

今、判明してるオリ主君の特典はニコポ、ナデポのみ……いや、あの容姿もか。

そういえば容姿も転生特典に含まれるってあのボインな神様言ってたっけ。

ならこれで3つ……いや、ニコポナデポは1つに纏められてるんだ。

そうじゃなきゃ相馬に襲いかかっても返り討ちに遭うだけだろ。

って事は、最後の1つが戦闘用の特典って事になる。

 

「……何か、これじゃ原作っていうよりオリ主君の対策じゃねぇか」

 

アホらしい、寝よ寝よ。

何で転生先の世界でこんな事やってんのかと自問しつつ、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、日にちが進んで今日は少し楽しみにしてた土曜日。

さっそく、俺とリサリサは俺の家の前で待ち合わせて、迎えに来たファリンさんにお礼を言ったんだけど、ファリンさんもリサリサの容姿に驚くとは思ってたが、まさかビックリ仰天してスッ転ぶとは思わなかったぜ。

まぁそんな感じで俺とアリサは月村家へ赴き、遂に……。

 

「ア、アリサちゃんにそっくりッ!?」

 

「……(ぱくぱく)」

 

「……驚いたわ……ジョジョの言ってた通りね……まるで鏡を見てる気分よ」

 

感動のご対面と相成ったわけだが、その驚き様は3者3様だった。

すずかは純粋に驚き、アリサとリサリサの顔を行ったり来たりして見比べてる。

リサリサは前もって聞いてたからそうでも無えけど、それでも目を見開いてた。

んでもって……。

 

「な……なぁ……ッ!?」

 

アリサの驚き様は群を抜いて凄まじかった。

目はコレでもかと見開かれ、口はパクパクと空気を求める魚の様な動き。

やっと絞り出した言葉も言葉とは取れない単語だ。

そうそう、俺はこれが見たかったんだよ。

予想以上に面白い顔になってるアリサを見ながら、俺はニヤニヤと笑ってしまう。

 

「……さ、定明ッ!!アンタ一体これはどういう事よッ!?何でアタシがもう一人居るのよぉおおおッ!!?」

 

そして、遂に火山が噴火した。

やっとこさ言葉を絞り出せたアリサは猛然と俺に食って掛かる。

まぁ俺が連れてきたダチだから俺に食って掛かるのは判るが。

 

「生憎、リサリサはもう一人のお前じゃ無くて、ちゃんとした別人だ。なぁリサリサ?」

 

「えぇ。そういえば自己紹介してなかったわね。ごめんなさい」

 

まだ自分の名前すら言ってないとリサリサは思い出し、居住まいを正して2人に笑顔を向ける。

 

「初めまして。ジョジョの友達の『アリサ』・ローウェルよ。よろしくね?」

 

「ア、アリサッ!?」

 

「えッ!?で、でも、定明君はリサリサってッ!?」

 

容姿どころかファーストネームまで一緒だった事に困惑する2人。

俺はその2人をニヤニヤしながら見詰めつつ口を開く。

 

「リサリサってのは、俺がアリサに付けた愛称だ。同じ名前が2人も居たらややこしいだろ?」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

「何で定明と会う時はいっつも驚かされなきゃなんないのよ……」

 

俺の補足を聞いてすずかは納得し、アリサは項垂れてしまう。

そんな2人を見ながら、リサリサは苦笑いしてた。

まぁ自己紹介だけでここまでカオスになるとは思ってなかったんだろうよ。

そう思っていれば、項垂れた状態から復活したアリサがリサリサの前に立つ。

 

「えーっと……兎に角、アタシはアリサ・バニングス。アリサで良いわ。そのかわりアタシは貴女の事をリサリサって呼ぶから」

 

「初めまして。月村すずかです。私の事はすずかって呼んでね。私もリサリサちゃんって呼んでも良いかな?」

 

「えぇ、よろしくね、アリサ、すずか。私の事はリサリサで良いわ」

 

どうやら3人は問題無く打ち解けた様だ。

楽しく笑っている3人を見ながら、俺も良かった良かったと思う。

コレを機にリサリサにも同性のダチが出来れば良いと思ってたからな。

俺1人しかダチが居ねぇなんて、さすがにほっとけねぇよ。

それをリサリサ自身が納得してたら話は別だけど、リサリサは学校の終わりに同性と楽しくお喋りしてる姿を見て、少し寂しそうな顔してたし。

そうこうしてる内に、ノエルさんがお茶を持ってきてくれたんだが、例によってノエルさんもアリサとリサリサを見比べて心底驚いてた。

もうそのリアクション良いってとは思ってたが、アリサの知り合いに会う度にこうなるんじゃねぇかと確信めいた予想がある。

 

「それと定明様、少しよろしいでしょうか?」

 

「ン?何スか、ノエルさん?」

 

と、お茶が来た所で訓練に入る前に少しお喋りしようとすずかから提案があったんだが、俺はお茶を持ってきてくれたノエルさんに呼び止められて振り返る。

 

「実は忍お嬢様が定明様にお話したい事があるとの事で、申し訳ありませんが少しお時間を頂けませんか?」

 

「忍さんが?俺に?」

 

一体何の用だろうと思いすずかに視線を向けるが、すずかも「?」って疑問符を頭の上に浮かべながら首を横に振るだけで、何も聞いてない様だ。

まぁ別に急ぎの用があるって訳でも無し、別に良いか。

 

「分かりました。何処に行ったら良いスか?」

 

「ありがとうございます。ご案内させて頂きますので、私に着いて来て下さい」

 

「了解ッス。そんじゃあ3人とも、わりーけど先に始めててくれや」

 

俺の言葉に了解と頷いた3人は、それぞれ楽しそうな声でお喋りを始めた。

そんな楽しそうな喧騒をバックミュージックに、俺はノエルさんの後を着いて忍さんが居るという部屋まで向かう。

しかし一体何の用なんだろうか?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「着きました。コチラになります」

 

そしてノエルさんに着いていった先は、部屋とかじゃなかった。

連れて来られたのは、何と隠し階段を下って入る地下室の部屋だ。

何かそこらかしこにぶっといコードが伸びてて、機械の作動音がしてる。

え?何ここ?

思わずノエルさんの顔を凝視してしまうが、ノエルさんは微笑むばかり。

え?マジでここの奥に行けと仰る?

そう思って更にノエルさんを見つめれば、今度はビッと親指を立ててくる。

……行きますか。

最早何を言っても無駄だと判断し、俺は目の前にある扉を開け放つ。

すると……。

 

「あっ。待ってたわよ定明くーん♪」

 

ドライバーとラチェットを両手に持ってニコニコ微笑む忍さんが居た……良し。

 

「俺を解剖する気ッスか?来るなら来いやその顔面削り取ってやる」

 

容赦なく戦闘態勢に入るべきだなコリャ。

俺は直ぐ様ザ・ハンドを呼び出して臨戦態勢を取る。

何てこった、良き友人になろうとか言ってた忍さんが牙を向くなんて。

ガチで想像だにしてなかったが、俺はそう簡単にバラされるつもりはねぇぞコラ。

 

「へ?……ち、違うわよッ!?解剖なんてしないから多分出してると思われるスタンド引っ込めてくれないかしらッ!?削り取るって、顔は女の命なのよッ!?」

 

と、何故か俺が臨戦態勢に入った瞬間に忍さんはポカンとした表情を浮かべ、次には道具を放り出してワタワタと手を振る。

ありゃ?……ひょっとして俺の勘違いか?

そうは思うものの、こんな場所に呼ばれた意図が判らねぇ。

従って理由がハッキリする迄、俺はザ・ハンドを消さないつもりだ。

 

「さ、定明君を呼んだのは、コレの修理をお願いしたいからなのよッ!!」

 

と、俺が厳しい目のままだった事で疑惑が腫れてないと感じたのか、忍さんは部屋の隅にあるボタンを押した。

そうすると、部屋の一箇所にスポットライトが当たり、そこに鎮座してたモノが俺の視界に飛び込んでくる。

ただし、見た目はボロボロで見れたモンじゃなかったが、それは俺の所為だ。

 

「これって、イレインっすよね?」

 

そう、忍さんが修理してほしいと言ってきたのは、あのすずか達と初めて会った日、俺がシルバー・チャリオッツでボロボロにした自動人形のイレインだった。

見た目のメイド服も中の機械も一切修理が施されておらず、目は閉じられている。

コレを治せってか?

 

「えぇ。イレインはね?ノエルやファリンと同じで、今は失われたオーバーテクノロジーで作られた自動人形なんだけど……自立回路に重きを置きすぎて制御が甘く、暴走の可能性が高い危険な存在なの……暴走した時の事は、定明君も覚えてるでしょ?」

 

「暴走……あのプッツンモードの事っすか?」

 

ぶっちゃけそうとしか言えない怒りようだったし。

 

「プッツンて……ま、まぁ良いわ……兎に角、そういう暴走しやすい面があったから、彼女は長い間封印されてきた存在って事よ」

 

「はぁ……それじゃ、何で忍さんはそんな危ねぇヤツを治せと?」

 

危ないってんならそのままポイしちまえば良いと思うんだが……。

そう思って質問すれば、忍さんは少し遠い目をした。

 

「……定明君のエニグマ、だっけ?あの紙に物体をファイルする力」

 

「そうっすけど……それがどうしたんすか?」

 

「うん……実はね?あの紙からイレイン達を取り出したら、イレインにはまだ意識があったの。と言っても、もう身体は動けない状態だったんだけど……その時ね?彼女、言ったのよ」

 

「言った?……何を?」

 

余り忍さんの言いたい事が要領を得ない事だったので、俺は先を急かす。

忍さんは俺の質問には答えず、停止したイレインの頬に触れる。

そのままイレインを見ていた忍さんは振り返り、俺に視線を合わせてきた。

 

「――『自由になりたい』……そう言って、彼女は停止したわ」

 

「……」

 

自由。

それの意味する所が俺には判らねぇ。

イレインが何に対して自由になりたかったのか、俺には想像もつかない。

でも、忍さんにはソレが何なのか判ってるんだろう。

そうじゃなきゃ、こんなお願いはしてこねぇ筈だ。

 

「もう彼女の武装は全て取り払ってあるし、もしここで暴れてもノエルが抑えてくれるわ……だからお願い、定明君……彼女を起こして欲しいの」

 

そんで多分、忍さんはイレインの気持ちに共感してんだろう。

イレインの思いを叶えてあげたい、そう思って俺にこんな事頼んでる筈だ。

俺が何も言わずに忍さんの言葉を聞いてると、忍さんは表情に悔しさを見せる。

 

「私の手で直せたらそれに越した事は無いんだけど、イレインの中枢部品は、私でも見た事の無いオーパーツの固まりなの。これじゃあ手の付けようが無いし、今から部品を探してたら何年掛かるか……」

 

「分かりました。分かりましたよ……俺が治します」

 

もう何時までもこんな場所に居るのは気が滅入るし、年上に何度も頭を下げられるのも気分の良いモノじゃねぇ。

 

「ッ!?あ、ありがとうッ!!お礼にすずかをお嫁さんに上げるわッ!!」

 

「サラッと妹を嫁に出さんで下さい」

 

っていうかすずかにその気が無いなら意味なくね?

そう思い、俺はササッとクレイジー・ダイヤモンドでイレインに触れる。

クレイジー・ダイヤモンドの拳が触れると、脇に避けてあったパーツの山からイレインのパーツだけが飛び上がり、チャリオッツでブチ開けた穴が綺麗に塞がっていく。

やがてイレインからキュイン、というパソコンの起動音の様な音が鳴り――。

 

 

 

 

 

その後の顛末を語るなら、俺は助けた相手に殴りかかられたって事だ。

感謝されるどころか殴り掛かってくるとは俺も思わなかったぜ。

 

 

 




連日のタイトル詐欺www



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『好奇心』は……精神の成長において最も大切なも(ry

最近感想くれる人が減ったなぁ……あれか?

少し爆走し過ぎたか?

ここらで更新速度落とせという神の思し召しなんだな?

よし、次から少し更新速度落とします。

それと後書きに重要な報告があります。



「申し訳ありません、定明様。まさかイレインが直ぐに定明様に襲い掛かるなんて……」

 

「あぁいや、別に気にせんで下さいッス。怪我もしてませんし……」

 

さっきから俺にひたすら謝り倒してくるノエルさんに、俺は軽く問題ないと返しながら、すずか達の待つガラス張りの展望室を目指して歩く。

そう、忍さんの頼みを聞いてスクラップ状態のイレインを直した俺だったが、奴は起動した瞬間俺に襲い掛かってきやがったんだ。

俺より少し後ろに居たノエルさんはそれに反応出来ず、結局オレはスタープラチナでイレインを拘束、忍さんが事情を説明して落ち着くまでイレインに力の限り罵倒されるという面倒くせえ目にあってたワケ。

あんまりにも鬱陶しいからもう一度スクラップにしてやろうかという気持ちが芽生えた俺、そして俺のブッ潰す宣言を聞いて震えだしたイレインを見てニヤリと凄惨に笑ってしまった俺は鬼畜なんだろうか?

忍さんとノエルさんに全力で止めてくれとお願いされたし。

 

「でもやっぱり、かなりムカついたぞ。イレインの奴め……今度また襲ってきたらチリ・ペッパー使って身体の権限だけ全部乗っ取って、皆の前でコマネチでもさせてやろうか?」

 

「お願いします定明様、どうかそれだけは止めてあげて下さい。同じ女性としてそれは余りにも残酷な仕打ちです」

 

しかし俺の復讐プランは、かなり真剣な表情を浮かべるノエルさんに阻まれた。

同じ女としては同情どころの騒ぎじゃ済まなかったらしい。

自動人形の動力は電気なので、電気そのものに潜むスタンドのレッド・ホット・チリ・ペッパーなら、簡単に制御権を奪う事が出来る。

まぁ俺だって別に好き好んで女を虐めたい様な危ない奴じゃねぇので……。

 

「そうッスね。じゃあ皆の前で鼻からスパゲティ一気食いぐらいで許してあげますよ。俺ってなんて優しいんだろ」

 

「いえ、ですから……女性の尊厳というものが……」

 

いや、襲いかかってくる相手の尊厳をグッチャグチャに踏み躙って二度と刃向かえなくするのが俺本来のバトルスタイルっていうか鉄則なんですけど?

コマネチも駄目、ゲティも駄目、なら他に代案といえば……。

 

「バリ「駄目です」……まだ二文字しか喋ってねぇんスけど?」

 

「髪は女性にとって最たるアピールポイント。それをバリカンで削ぎ落とす等、例え誰が何と言おうとあってはならない行為なのです」

 

「いや全部じゃないっすよ?愉快な剃りこみだけ残してあげるつもりです」

 

「駄目です」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

終いには子供に向けるモンじゃねぇって威圧感を俺に叩きつけて止める様に促してくるノエルさん。

俺はノエルさんの説得に両手を挙げて降参の意を示し、なるべく女性の尊厳とやらを傷付けない方向でイレインに復讐する事を半ば約束させられた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「それでは定明様。申し訳ありませんが、私は忍お嬢様の元へ戻らなければなりませんので……」

 

「あぁ、いえ。わざわざありがとうございます」

 

アリサ達がお茶会をしてる展望室まで付き添ってもらった事に感謝しつつ、俺はノエルさんに頭を下げる。

そんでノエルさんも会釈を返し、再び来た道を戻っていった。

さあて、俺もお茶会に参戦しますか。

俺は意識を扉へと向け直し、ノックもせずに扉を開く。

部屋の中央にあるテーブルで楽しく談笑してるであろう3人へ目を向け――。

 

 

 

「……むぅ」

 

「うぬぬぬぬ……ッ!?」

 

「……フフ♪」

 

ドドドドドドド……ッ!!!

 

 

 

部屋の中央で睨み合ってる3人を確認し、静かに廊下へと戻る。

警告、コレより先は進んではいけない。

そんな文字が俺の頭に浮かんできたので、俺はソレに従う。

どう見たって面倒事にしか見えねえよ。

 

「定明君?何処へ行くのかな?」

 

「ちょっと。アンタに聞きたい事が出来たからソコ座んなさい」

 

「ジョジョ?私も素朴な疑問があるから、少しその辺りについて話しましょう?」

 

逃げる前に発見されちまった。オーマイガッ。

部屋から目を背けて面倒事を回避しようとした矢先、俺は瞬時に近寄ってきたアリサとすずかに目の前をスタンドで封鎖され、背後はリサリサのキッスに固められた。

近接パワー型に3方を包囲されるとか……。

おかしい、俺の貸した身を守る為の力が、他でも無い俺を追い詰めてる。

 

「……ハァ……スタープラチナ・ザ・ワールド(ぼそっ)」

 

最近こんなのばっかりだが、神よ?俺が何をした?

そう思いながら天井を見上げれば、あのボインな神様が一瞬見えた気がする。

にこやかに手を振って「宿命♡」って聞こえた様な……オイ。

俺は溜息を吐きながらスタープラチナの能力を作動、瞬間で時を止めた。

無音になる世界、背景がモノクロへと切り替わる。

 

「やれやれ……ココで逃げたら地の果てまで追ってきそうだしな……」

 

俺はとっとと面倒事を終わらせようと決意し、止まった時の中を動いて3人の包囲網から抜け出し、1人で先にテーブルへと腰を下ろす。

おっと、そろそろ時間だな。

 

「時は動き出すっと」

 

進み出した時間、そしてモノクロからカラーへと変わる世界。

止まっていた時間が動き出した証拠だ。

いや、正確にはスタープラチナのスピードが元に戻ったかな?

あくまでザ・ワールドと似ているだけで、完全に同じ能力ってワケじゃねぇんだ。

スタープラチナは時を『超える』スピードで動くから時間が止まった様に感じる。

ザ・ワールドは完全に世界の、時の流れを止める。

似ている様で違うのはその点だ。

そして世界と共に、生きる者は全て自分の時間を取り戻し……。

 

「ッ!?……ジョジョが消えたッ!?」

 

「あれッ!?……ア、アリサちゃん。もしかして、また止められちゃったかな?」

 

「あ、あんのバカ明ッ!!また時間を止めやがったわねッ!?何処行ったのよッ!!」

 

自分達の包囲網から忽然と姿を消した俺。

その光景に理解が追いつかず驚愕するリサリサと、憤慨するアリサ。

更に俺が居ない理由を思い至ってアリサへと確認するすずか。

まぁいきなり俺が消えたら驚くわな。

幾らアリサ達がスタンド使いになっても、時を止められたら対処は出来ねえ。

まだまだ逃げる事は幾らでも出来るってこったな。

 

「おーい。さっさと聞きたい事ってのを言えよ?もうそろそろ訓練やっからよぉ」

 

俺は優雅に座りながら、テーブルに置かれたクッキーを一つ齧る。

どうにも買ってきた市販の物じゃ無くて、手作りの様だ。

うん、コイツは美味え……甘さ控えめで紅茶にも良く合うな。

 

「え?……あっ!?定明君ッ!?」

 

「ちょっと定明ッ!!アンタ今また時を止めたでしょッ!?しかもアタシ達無視して1人で勝手にクッキー食べて和んでんじゃあないッ!!」

 

「あーもうウルセエなぁ……兎に角、聞きてえ事ってのは何だよ?」

 

さすがに何時までも引っ張ってるのは面倒クセ絵と感じた俺は、サクサクと質問したい事ってのを聞くことにした。

第一、ちょっと前に原作とやらが始まってんなら、今居るこの町は俺にとってのデンジャー・ゾーンに他ならねえ。

この辺に居るのが危ないと知ってる身としちゃ、ササッと御暇してえんだよ俺は。

俺のおざなりな対応にアリサはプルプルと震え出すが、やがて疲れた様に身体を脱力させると、出していたストーン・フリーを仕舞った。

 

「もう……アンタに聞きたいのは……その…………たの?(ぼそっ)」

 

「あ?何だって?」

 

全くもって聞こえねえよ。

 

「だ、だからッ!!リサリサとキ、キ……キスしたのかって聞いてんのよッ!!早く答えなさいッ!!」

 

「……はぁ?」

 

「わ、私もそれが聞きたいんだけど……本当に、しちゃったの?」

 

俺の聞き返しがアリサの琴線に触れたのか、アリサは顔を真っ赤にして大声で俺に質問を飛ばし、すずかも上目遣いで視線を送りつつ、アリサの質問に便乗する。

っていうかお前等何でそれを知って……ってそんなモン一つしかねぇよ。

何かものスゲー必死な様子で俺の言葉を待ってる2人から視線を外し、俺はこの騒ぎの元となったであろう元凶へと目を向ける。

 

「あら?私が聞きたい事は、さっきアリサ達から、少し前にジョジョと一緒にお風呂に入ったって事を聞いたんだけど、それは本当なのかしら?」

 

しかし俺がジト目を向けた彼女、つまりリサリサは俺の視線を物ともせず、逆に不敵な笑みを浮かべながら俺に質問を返してきた。

おい、疑問文に疑問文で返すのは感心しねーんじゃなかったのか?

どっちに視線を向けても、結局は俺に対しての質問なので、俺が3人にその事を答える他に道は無い。

 

「ドッチも合ってる様で合ってねぇよ。風呂に入ったんじゃなくて、コイツ等が間違えて男湯に入ってたんだし、キスはリサリサとしたんじゃなくて、頬にされたんだ」

 

溜息を吐きつつそう訂正すれば、何やら面白くなさそうな表情を浮かべる3人。

だから俺はツルペタに興味ねぇっての。

それにキスだって、リサリサはお礼だって自分で言ったじゃねぇか?

っていうかお前等俺とリサリサが来た本来の目的忘れてね?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「よーし、じゃあ今から最後の訓練、LESSON3を始めるぞ。準備は良いか?」

 

「うん、OKだよ」

 

「アタシもいけるわ」

 

「ええ、私も準備は出来てるわ。始めましょう、ジョジョ」

 

さて、現在俺達はすずかの家にある広大な屋敷の裏の庭に居る。

正確には庭というよりも敷地って感じだけどな。

表口みてーに整理されてるワケじゃなし、ほぼ普通の山だ。

俺達はそこで準備運動をして、いよいよ最後のLESSONを行う事になる。

各々が俺に返事を返しながらスタンドを呼び出す。

 

「うし。じゃあLESSON3の説明をすっけど……今回の訓練はお前等のスタンドが持つ固有の能力の訓練……というか、初歩的な使い方の説明だな。ザ・ハンドッ!!」

 

俺の目の前で真剣に話を聴いてる3人に説明しながら、俺は毎度お馴染みになってきたスタンド、ザ・ハンドを背後に呼び出す。

まぁこの3人に説明しやすい能力って言ったらコイツだろ。

シンプルで強い、能力が説明しやすい、そしてアリサとすずかは見慣れてるしな。

 

「まず、このザ・ハンドは近距離パワー型のスタンドなんだけど、コイツにも固有の能力がある……それは、コイツの右手だ」

 

軽く説明しながら、ザ・ハンドの両手を3人に見える様に広げる。

それを見た3人は首を捻りながら、何かあるのかと思考を働かせていく。

 

「右手?右手がどうしたの?……あっ」

 

「何か、左手とは違うわね……模様が入ってる?」

 

「左右が違う。つまりその右手が、そのザ・ハンドの能力に関係あるって事かしら?」

 

「正解だ、リサリサ。コイツの右手はな……ホレッ」

 

3人がそれぞれ意見を出した所で、俺は持ってきた空のペットボトルを空中に放り投げ、俺の側に居るザ・ハンドを操作する。

 

『……』

 

ガオォ~~ンッ!!

 

ザ・ハンドは俺の命令通りに身体を動かし、そのペットボトルの半分ぐらいを右手で触れた。

普通ならこの時点でペットボトルは弾かれて飛んで行く筈だが、ザ・ハンドの右手はまるで『何も無い』かの如く下まで振り下ろされてしまう。

そして、触れられた筈のペットボトルは、ザ・ハンドが触れた部分が無かった。

その現象に驚く3人を見ながら、地面に落ちたペットボトルの残骸を拾って、3人にザ・ハンドの右手が触れた部分を見える様に翳す。

 

「これがザ・ハンドの能力……『右手で触れた物を削り取る』能力だ」

 

「け、削り取るって……消すって事?」

 

俺の能力説明を聞いた3人の内、アリサは青い顔で俺に聞き返してくる。

すずかも青い顔をしてたが、リサリサは表情を強張らせていた。

まぁそうなっちまうのも頷けるけどな。

ザ・ハンドの能力は、一歩使い方を間違えたら恐ろしい結果に繋がる。

もし、ザ・ハンドの右手を人間に使用したら……部位によっちゃ一撃必殺だ。

 

「まぁ、な。アリサの考えた通り、ザ・ハンドが右手で削ったモノはこの世から消滅……っていうか、本体の俺にも何処に行っちまうのか判らねえんだ……そして切断面は元の状態に閉じる……グレートに危険なスタンドなんだよ」

 

青褪める、というかビビッてる3人に苦笑いしながら説明し、俺は残ったペットボトルもザ・ハンドの右手で完全に削り取ってしまう。

ゴミを持ち帰るのも面倒くせえし、消しちまう方が楽だからな。

 

「とまぁ、これがつまり、スタンドが持つ固有の能力の一部分なワケだが……安心しろ。お前等に貸したスタンドは、きっちり使いこなせばお前等の助けになる。それどころか、ザ・ハンドみて~に危険なスタンドは貸してねぇよ」

 

「そ、そうだよね……良かったぁ……スパイス・ガールの能力が、そんなにも危険な能力だったらどうしようって考えちゃったよ」

 

怯える3人を安心させる様に補足で説明を入れたら、3人はそれぞれ安心したように大きく息を吐く。

ただまぁ、リサリサに貸したキッスの能力はちょいと危険だからな。

その分すずか達より訓練を厳しめにするしかねぇか。

 

「とりあえず、このLESSON3はお前等の中から1人ずつ個別にやる必要がある。だから、残った2人は好きに休憩しててくれて構わねえ……まずは、アリサからだ」

 

「分かったわ。アンタ以上にストーン・フリーの力、全部使いこなしてあげる」

 

「その心意気だ。とりあえず、まずは俺の話しを聞いてくれ。その後で実際に能力を発現させるとすっか」

 

このLESSON3の概要を説明して、俺は最初の受講者にアリサを指名する。

ストーン・フリーの能力は応用の範囲が広い。

だから、俺は触りだけを教えて、後はアリサ自身の応用力が鍵になるだろう。

俺に指名されたアリサは表情をグッと引き締めて頷き、俺の側に近づいた。

残された2人は木の幹に腰掛けて俺達を見てる。

 

「まず、ストーン・フリーの能力から説明すっけど、ストーン・フリーのスタンド像は、お前の精神力を糸として出したエネルギーの『固まり』ってのは判るな?」

 

「えぇ。初めてストーン・フリーを出した時に感覚で分かったわ」

 

まず大前提であるストーン・フリーを形作る概念が理解出来てる様だ。

アリサの言葉を聞いて、俺は首を縦に振る。

 

「そう、ソイツはお前のエネルギーの固まり……なら、逆の力。つまり『糸』のエネルギーも、お前は自在に操れるって事だ。そうだろ?」

 

「あッ……そうね……確かに、糸を固まりで出せたならその『前』の状態、つまり糸のエネルギーも操れるのが普通なのよね?」

 

アリサは俺の言葉に何か気付くモノがあったのか、自分の側で立体の形を見せているストーン・フリーを見上げ始める。

そう、ストーン・フリーの概念が理解出来ていれば、糸としてストーン・フリーを操ることは絶対に出来る事だ。

本来なら糸として操れる事を理解した上で、次にスタンドの像が操れるモノなんだが、アリサはそれをオリ主君に対する怒りで強引に乗り越えちまった。

だから立体であるストーン・フリーを操れても、糸の方は操れなかった。

今日はその前段階も使える様にするのがアリサの課題だ。

 

「おう。だからまず、アリサはストーン・フリーを戻せ。そして……」

 

「へ?ちょ、ちょっとッ!?」

 

俺がアリサの手を掴むと、アリサはビックリした様に騒ぎ出す。

だが俺はそれには構わずに、アリサの手をしっかりと掴んで彼女の顔の前に翳す。

そして真剣な表情でアリサに視線を合わせて口を開いた。

 

「この指だ。まずは指先から糸を出すイメージを持て。そんで、ストーン・フリーを出す時と同じ様に、自分は『糸を操れて当然』と思うんだ……良いな?」

 

「わ、分かったわよ……スゥ……ハァ……」

 

突然の行動に慌てふためくアリサだが、俺の真剣な表情を見て返事を返す。

そして目を瞑り、深呼吸をしながら精神を集中させ始めた。

本来のストーン・フリーの能力――。

 

シュルルルッ

 

「ん……指先から糸が出るのって、何か不思議な感覚ね」

 

指先から操る『糸』を出す事に成功した。

うん、さすがにスタンドの出し方を身体で理解してるから、発現する事自体は問題無くクリアしたな。

指先から大体10センチ位の糸を出し、それを不思議そうに眺めるアリサ。

だがまだLESSONは終わっちゃいねえ。

ストーン・フリーの能力には、まだ注意しなきゃいけねえ事があるからな。

 

「良し。糸自体は出せたな……じゃあ、次はその糸の特性を説明するぜ」

 

糸を眺めるアリサに前置きしながら、俺はLESSONの続きを始める。

 

「まず、ストーン・フリーの糸は、お前の身体を媒介にしてるって事を頭に叩き込め。ココ一番重要だぞ?」

 

「アタシの身体を、媒介?」

 

「そう。ストーン・フリーの糸は、お前が念じればかなりの距離まで伸ばす事が出来るんだが……それは文字通り、お前の肉体を糸状に変えて出す。つまり……」

 

「アタシの身体は、糸を出せば出すほど、『減っていく』……そういう事でしょ?」

 

俺の説明の途中で、アリサにも俺の言いたい事が分かった様だ。

確信めいた瞳で俺の事を見てくるアリサに、俺は頷く。

そう、ストーン・フリーの能力は、糸を『出して』操る能力ではなく、自分自身の肉体を糸に『変えて』それを操作する能力。

だからこそ肉体を操る様に、糸自身の動きは筋肉の様な伸縮する動きが可能になる。

普通の糸とは違い、意志の力で操れるんだ。

しかしここで注意しなくてはならない点は、自分の身体を糸に『変えて』いるのだから、当然糸のダメージは自分にフィードバックするという点。

しかも伸ばした糸が長ければ長い程、肉体に返るダメージはデカくなる。

更に、身体を構成する内蔵とかも糸に変わるから、あんまり変えすぎると糸が切れなくても絶命してしまう。

 

 

 

この辺りがストーン・フリーの糸のデメリットだが、メリットもちゃんとある。

 

 

 

まず糸にするという事は、立体の時よりも遥か遠くへと行く事が可能になるんだ。

銃創や切創なんかも糸で縫合する事で応急処置出来るし、糸を編み込めば太くて丈夫なロープや、ネットの様な網にもなる。

この辺は全て本体、つまりアリサの応用力が物を言う所になる。

そう説明すると、アリサはその瞳にヤル気を滲ませて色々やってみると言った。

何か知らねえが心に火が点いて轟々と燃えてる。

 

「……あれだな。バニングスじゃなくてバーニングだな」

 

「どういう意味よソレッ!!レディに付けるアダ名じゃ無いわよこのバカッ!!」

 

『オラァアアッ!!』

 

俺の素直な感想を伝えると、アリサは返す手で俺に怒り、ストーン・フリーの腕で殴りかかってくる。

さすがに危ないので、殴りかかる拳をスタープラチナで受け止め……。

 

シュルルルッ!!

 

「はぁッ!?」

 

受け止めたら、ストーン・フリーの拳が分解されて、スタープラチナの拳を包み込む様に糸が踊り、片手を封じ込められてしまった。

この一瞬でこんな応用の技を覚えたってのかよッ!?それとも無意識かッ!?ドッチにしろとんでもねぇッ!!

その状況が信じられず、大声を出してしまう俺であったが……。

 

「これなら避け様が無いでしょッ!!喰らいなさいッ!!」

 

『オラオラオラオラッ!!』

 

もう片方の空いてる手で、アリサはラッシュをカマしてくる。

だからお前等才能がおかし過ぎるんだってのッ!?

でも、まだこの距離ならスタープラチナで弾き飛ばすのは問題じゃねぇ。

 

「スタープラチナッ!!」

 

『オラァッ!!』

 

俺を狙ってくるストーン・フリーの拳を下からのキックで弾き飛ばし、片手を封じてる部分目掛けてお返しにパンチを打ち込むと、アリサは直ぐに糸を解いて後ろに後退していく。

 

「ちぃッ!!今日こそは初ヒット出来ると思ったのにッ!!」

 

考えが戦闘思考過ぎて困るわ。

っていうかあの勢いで殴られたら確実に怪我するっての。

直ぐにでもまた噛み付いてきそうな様子だったので、俺はササッとさっきの言葉を謝罪して、アリサの特訓を終了した。

 

「予定より時間食っちまったけど、これでもうストーン・フリーの基本的な事は全部教えたからよ……後は自分なりに考えて使ってみな?」

 

後はしっかりと自分でスタンドのコントロールをする様にとだけ言って、俺は次の受講者に声を変えようと、アリサに背を向ける。

さあて、次の受講者は……。

 

「……さ、定明」

 

「ん?」

 

と、考えていたら、背後からアリサに声を掛けられ、俺は背後に振り返った。

振り向いた先に居たアリサは腕を組んで、真っ赤な顔色で俺を睨んでる。

……俺、さっきの事は謝ったよな?それとも何か別の事か?

何かアリサを怒らせる様な事をしたかと考えを巡らしつつ、俺は用心してアリサの動きを逐一観察していく。

さすがにさっきみてーに不意打ちされたら面倒だからな。

不機嫌そうな顔で睨んでくるアリサをジッと見てると、彼女は小さく口を開いた。

 

「あ、ありがとう……」

 

「……ん?……何がだ?」

 

しかしアリサの口から飛び出した言葉は俺の予想の斜め上を言っていて、最初は何を言われてるのか全然判らなかった。

やがてそれが感謝の言葉だと気付いたけど、俺何で感謝されてんだ?

特に感謝される様な事をした覚えは無えんだが……。

そう思っていると、アリサは俺の言葉で、自分が何を言ってるかが俺に伝わってないと勘付いたらしい。

視線をアチコチに右往左往させながら、アリサは再び俺に視線を向けてくる。

 

「リ、リサリサから聞いたのよ……アンタが、アタシが攫われたと思って、誘拐犯達を全員叩きのめしたって……」

 

「え?マジで?」

 

……そういえば俺、アリサとリサリサの対面した時の反応が楽しみだったから、リサリサがアリサそっくりで、俺はそれをアリサだと勘違いして助けた事は一切言ってなかったな。

俺の聞き返しにアリサは首を縦に振り、更に言葉を続ける。

 

「と、友達が攫われたと思って、大人達に一歩も引かないで戦ってたって……凄く真剣な声で、私の事を心配してたって……だから……ありがとう……リサリサからそれを聞いて……私、凄く……嬉しかった、から……」

 

「……」

 

真っ赤な顔でしおらしく俺に感謝を述べるアリサ。

其処に居るのは何時もの猛々しさ溢れる少女ではなく、歳相応の女の子なアリサだ。

何時も怒ってるというか、凛々しいイメージが先行してたけど……根は優しい。

そこんとこはすずかと一緒で、正反対に見える二人が親友なのが良く判る。

 

「別に構わねーよ。俺は、自分の日常……ダチの笑ってる顔を無くしたくなかっただけだ」

 

俺はお礼を言ってくれたアリサに、自分の本心をそのまま伝える。

あの時、面倒はゴメンだとアイツ等を放っておけば、俺は疲れる事も無く学校へ行っただろう。

……その日から、死ぬまでずっと続く後悔ってヤツに苛まれる形で。

俺は別にヒーローってワケじゃねぇから、例えば地球の裏側で誰か死にそうになってる。

そう言われても『可哀想だな』と思うだけで、行動はしない。

でもコイツ等は違う、そんな住み分けはもう出来ない位置に居るからだ。

俺が目指す、というか欲しいのは、平穏でゆったりとした日常。

それは当たり前の生活をして、当たり前の様にダチと笑って、当たり前の様に寿命で死ぬ。

別にスリルが一切無い方が良いなんてワケじゃねぇが、大事なダチや家族に危険が及ぶスリルはゴメンだ。

家族とかにスリル、というか危険が及ぶくらいなら俺に及んだ方が良い。

俺には、それをブッ壊せる力が与えられてるからな。

コイツ等の笑顔が何かの――例えば、下種な連中に穢されて曇るってんなら、俺はそいつ等を叩き潰す。

二度と自分の力で立ち上がれねぇ様に、身体の一部分を削り取る事も厭わねぇ。

何だかんだで、アリサやすずか、そしてリサリサの笑顔は好きだからな。

 

「言っただろ?俺はダチが笑えねぇ様になるのはゴメンだって……だから、ンな事気にすんな」

 

「そんな事、今更言われなくても覚えてるわよ……でも、アタシを助けようって必死になってくれた……それが嬉しかったから、お礼を言ってるの。それぐらいは素直に受け取りなさいよね」

 

俺の返しに、アリサは真っ赤な顔色のまま真剣な眼差しを俺に送ってくる。

やべえ、一番素直にとか言われたくねぇヤツに言われた。

しかし素直ねぇ……俺は別に本当にそう思ってんだが……これは、またアレか。受け取らないと延々続くパターンか?

まぁ何時までも引っ張るのは面倒くせーし、ここは『素直』に受け取っておきますか。

 

「わあったよ。どう致しまして、アリサ」

 

「フン……判れば良いのよ……じゃあ、アタシはストーン・フリーの練習するから、アンタも頑張んなさい」

 

半ば投げやりな感じだが、俺が礼を受け取ったので良しとしたんだろう。

アリサはフンと鼻を鳴らしてからすずか達の元に戻り、早速糸を出して練習し始めていた。

……こっから見てても横顔が赤い様に見えるのは気の所為か?まぁ良いけど。

 

「さ~て、次は……リサリサー?次はお前だー」

 

ササッと終わらして行こうと考えつつ、俺は次の生徒にリサリサを指名する。

俺の指名を受けたアリスは、何時もの様にクールな微笑を浮かべつつ、俺の傍まで歩み寄った。

 

「ふふ♪アリサのお礼、ちゃんと受け取ったの?」

 

コイツ、俺等の会話の内容知ってやがったのか……良い性格してるぜ。

若干悪戯めく、弾む様な声音で問い掛けてくるリサリサの背中に悪魔の羽と尻尾が見えた気がする。

そんな子悪魔っぽいリサリサに肩を竦めつつ、俺は普通に口を開いた。

 

「ちゃんと受け取った。別に気にする事でもねぇだろーになぁ」

 

「貴方はそれで良くても、救われた方はそれじゃ嫌なんじゃないかしら?貴方とは違う理由かも知れないけど、貴方が自分の所為で危ない事をしてるなんて、2人からしたら申し訳無い気持ちでいっぱいの筈よ?」

 

「だけどよぉ、それは俺自身がそうしただけで、別にアイツ等が気に病む事じゃ……」

 

リサリサの話しに納得行かなかったので反論しようとしたら、その開いた口に人差し指で封をされた。

 

「それは助けた側の言い分。良い?もしあの2人が貴方を助けたいって思ってした事で何かの危険に晒されたら、貴方はどう思う?」

 

「そりゃ……申し訳ねぇって気分だけど……」

 

出来の悪い子供に優しく言い聞かせる様な口調で喋るリサリサに、俺は少し萎縮しながら答える。

その答えが望むものだったのか、リサリサは1つ頷いて優しい口調のままに俺を諭していく。

 

「あの子達が感じてるのはまさしく同じ気持ちよ。だから彼女、いえ私達は貴方にお礼を言うの、せめてもの謝罪を込めてね……だからジョジョ。貴方はそれをしっかりと受け止めなきゃいけないわ。それが感謝される事をした者の最低限の礼儀。覚えておきなさい」

 

「だ~、クソッ……わあったよ……グラッツェ(ありがとよ)。リサリサ」

 

もう口じゃリサリサに勝てねぇと悟って、というか最初から分かりきってる事なので、俺は直ぐに白旗を振った。

只の小学生、平々凡々な頭脳しかねぇ俺じゃ、IQ200の超天才児に勝てるわきゃねぇよ。

それと、俺に色々と気付かせようとしてくれた事への感謝も込めて、洒落たイタリア語で礼を言っておく。

お礼を言われたリサリサはというと、普段通りの微笑みで俺を見つめるだけだった。

 

「どう致しまして。ジョジョは大切な友達だもの。これぐらいは何でも無いわ」

 

(尤も、何時友達から『先』へ変わるかは、私にも保証出来ないけどね♪)

 

そう言いながら微笑むリサリサに、俺は口どころか他でも勝てないんじゃないかって気がしたが、首を振ってその考えを振り払う。

何時までもこんな事考えてても仕方ねぇ。

今やるべきはリサリサにキッスの能力の使い方を教える事だからな。

俺は深呼吸をして頭を一度クリアにし、キッスの能力についての情報を纏め上げる。

 

「スゥ……ハァ……うし。そんじゃあ、キッスの能力について説明するけど……まずはリサリサ。自分の右手の『手の平』を見てくれ」

 

「手の平……特に変わった所は無いけれど……」

 

「それを今から『変えて』いくんだ。まずはその手の平に、『出ろ』と強く念じてみな」

 

「『出ろ』ね?分かったわ……」

 

自分の手の平を見ながら俺の話を真剣に聞いていたリサリサは、俺の指示に従って黙りこくる。

俺の指示通りなら、手の平に出ろと念じてる筈だ。

そして、彼女の手の平を見ていると、次第にボンヤリと何かのマークが現れ始める。

 

「これは……?『シール』かしら?」

 

そして10秒程でぼんやりしたマークはハッキリと見える様になった。

改めて自分の手の平を見たアリスは少し首を傾げながら、出て来た物の名前を語る。

リサリサの手の平に浮き上がったのは、キッスの体中に貼られたのと同じキスマークのシールだ。

それが完全に見える様になったので、俺は更に次の説明を始める。

 

「あぁ。このシールこそが、キッスの能力なんだが……」

 

俺は途中で一度言葉を切り、エニグマの能力でファイルしてきた紙を取り出す。

それを開くと、紙の中から一本のモップが出て来た。

 

「まず、そのシールに枚数制限は無い。リサリサが強い意志で念じれば、幾らでも出て来る」

 

「へぇ?随分と気前が良い能力ね……シールを出す事にデメリットはあるの?」

 

「それは無ぇから安心しな。そんでそのシールの能力なんだが……まずは一枚剥がして、このモップに張ってみてくれ」

 

俺がモップを差し出すと、リサリサは頷きながら手の平のシールを一枚剥がし、俺が持つモップに貼り付ける。

すると……一本のモップが一瞬で『2つ』に『増えた』。

その光景に驚きで目を見開くリサリサだが、俺の横に現れたモップが倒れこんできたので慌てて受け止める。

 

「驚いたわ……このシールを貼ると、モノが2つに分裂するのね?」

 

「そうだ。これがキッスの能力。シールで全く同じモノを増やす事が出来る……そして」

 

リサリサの手からモップを地面に置いてもらい、シールの貼られたモップのシールを引き剥がす。

すると……。

 

バチィィイインッ!!

 

「ッ!?」

 

豪快な音を立てて、2つのモノは1つに戻るが、それは最初の状態とは少し『違う』。

元に戻ったモップの中央の部分が、少し亀裂が入って破壊されているんだ。

俺はそのモップを拾い、亀裂の入った部分をリサリサに見せる。

 

「キッスのシールを剥がすと、分裂した2つの物体は元に戻る……戻るんだが、少し破壊が起きるんだ」

 

「破壊……成る程ね。使いこなせば便利だけど、一歩間違えば大惨事に繋がる事もあるわね」

 

「そう。リサリサに貸したスタンドはアイツ等に貸した能力と違って、ちょいと危険なトコがある」

 

モップに刻まれた亀裂を見ながら思考するリサリサに、俺は少し口調を重くして語り掛けた。

キッスの能力は上手く使いこなせばかなりの応用力を得られる。

スタンドの射程距離は近距離なのに対して、シールの効果範囲はかなり広い。

だから、例えば最初に居た場所のガードレールの反射板をシールで増やして持ち歩く。

そして、急用でその場所に急いで戻りたい時にシールを剥がせば、反射板が戻ろうとする力で引っ張ってくれる。

人体はあまりオススメはしないが、腕や足に貼ると凄い事が起きる。

身体の箇所を増やした場合、最初は分裂してもその部位は身体に付いたままだ。

スタンド使いがシールで腕や足を増やした場合は、スタンドもその影響を受けて腕や足が増える。

つまり、攻撃の手数が増えるって事だ。

これは俺がまだリサリサにキッスを渡す前、自分にシールを貼って確かめた事だから間違い無い。

……剥がす時はかなりの覚悟が必要だった……メチャ痛かったしな。

 

「貴方って、結構無茶な事するのね……でも、そういうメリット・デメリットが共存した難題って結構好きなのよね、私♪」

 

俺の体験談と説明を聞いて呆れた表情になるリサリサだったが、次の瞬間にはニヤリと笑っていた。

この辺はアリサと違って、クールに物事にチャレンジしようとしてる様に見える。

似てる様で正反対なトコもあるんだなと感じた瞬間だったぜ。

元来から勉強、というか新しい事へ対しての知的好奇心が人一倍強いらしい。

その性格に、キッスの能力の利便性を追求するって課題はピッタリとマッチしたとさ。

 

「まぁ、以上がキッスのシールの特性だ。リサリサは頭が良いから、俺よりも遥かにキッスを使いこなせんだろーよ」

 

「あら?随分消極的な答えじゃない?俺の方が上手く使える、とか言わないの?」

 

俺の物言いに微笑みを浮かべながら挑発する様に言ってくるリサリサに、俺は肩を竦める。

 

「使えたトコで別にどーでも良いんだよ。キッスは既に、リサリサを……俺のダチを守る力なんだからな……俺より上手く使ってくれねえと、俺が困る」

 

そう、キッス、スパイス・ガール、そしてストーン・フリー。

この3体は既に俺のスタンドじゃなくて、リサリサ達を守る力だ。

生身では無力な彼女たちを守る為の規格外な力。

なら、それは何時も側に居るという特性がある以上、リサリサ達に上手く使ってもらう必要がある。

俺だって自分の日常を守りたいって気持ちはあるけど、何時も側に居るわけじゃねぇ。

アリサとすずかは学校が違うし、リサリサだって学年が違う。

俺が守りたいって思う日常の欠片……自分達の危機を少しでも多く乗り越えられる為のスタンドだ。

勿論、3人がどうしようもないって事態になったら俺も手を貸すつもりはある。

でもそんなに毎回都合良く俺が間に合うなんて事は絶対に無い。

 

「俺は、自分の大事な日常と心の平穏を守る為に、リサリサ達にスタンドを貸した……だから、その力を俺より扱える様になって欲しい……そんだけだ」

 

「……えぇ……貴方からの『思い』。ちゃんと胸に刻むわ……ディ・モールトグラッツェ(どうもありがとう)、ジョジョ♪」

 

「……お前、ホントに良い性格してるぜ」

 

さっきのお返しか、俺に対してイタリア語で礼を言ってくるリサリサに、俺は苦笑するしかなかった。

そしてリサリサのLESSONも滞り無く終了して、いよいよ最後の受講者……。

 

「えっと、よろしくお願いします。定明君」

 

何時も礼儀正しいすずかの番だ。

彼女はLESSONを始める前に、俺に対してペコリと頭を下げてきた。

別に俺は先生ってワケじゃねぇんだが……悪くねぇな、こーいうのも。

ともすれば、俺がやる事は単純明快、この優しい女の子に守る術を教える事だ。

まぁすずかに貸したスタンドなら、防御には打ってつけの能力だろう。

 

「よぉし、そんじゃあ始めるぜ。すずか」

 

「はいっ……でも、どうしたら良いのかな?」

 

俺の声に元気よく返事を返したすずかだが、早速首を傾げて質問してくる。

その若干スローペースな様子にズルッと滑ってしまうが、直ぐに気を取り直して咳払いを一つ。

 

「ん~。まずは、すずかにスパイス・ガールの能力がどんなモンか把握してもらわなきゃいけねえ」

 

「でも、私。まだスパイス・ガールの能力が判らないんだけど……」

 

「大丈夫だ。俺がまずは似たスタンドを使ってお手本を見せてやっからよ……クレイジー・ダイヤモンドッ!!」

 

ズギュウゥンッ!!

 

能力が判らなくて自信を無くしそうな顔を見せるすずかに優しく声を掛けながら、俺はクレイジー・ダイヤモンドを呼び出した。

スパイス・ガールとは能力の中身が全然違うけど、『発動の条件』は一緒だ。

他のスタンドはまだ見せた事ねぇし、手本としては一番分かりやすいだろ。

 

「コイツは一度見ただろ?名前はクレイジー・ダイヤモンドっつぅんだが……」

 

「あっ、うん。展望室を直してくれた時だよね?……わ、私とアリサちゃんが壊しちゃった時の……」

 

あの時の惨状を思い出してか、自分の所為だって自覚してるすずかは悲しそうな表情を見せる。

やれやれ……もう終わった事なんだから、そろそろ気にしなくても良いだろうに。

 

「まぁ、アレは事故だからもう気にすんな……さて、まずコイツの能力についてだけど、クレイジー・ダイヤモンドとスパイス・ガールにはある共通点がある」

 

人一倍責任感が強いすずかに慰めの言葉をかけつつ、俺はLESSONを進めていく。

何時までも引っ張ってるワケにゃいかねぇ。

すずかにもこれから何かのトラブルがあっても乗り越えられる様に頑張ってもらわねぇとな。

 

「コイツ等の共通点ってのは、能力を発現する条件だ」

 

「条件?えっと、何かをしなくちゃいけないって事なのかな?」

 

「しなくちゃってのはちょいと違うな……正確には、『両の拳のどちらかで触れる事』だ」

 

俺は質問してくるすずかにそう答え、近くにあった木の一部分をクレイジー・ダイヤモンドで力任せに剥ぎ取る。

すずかはそれを見て悲しそうな顔を浮かべるが、クレイジー・ダイヤモンドの能力を思い出したのか、直ぐに真剣な表情に戻った。

俺はすずかがちゃんとLESSONを聞いてくれている事を確認して、クレイジー・ダイヤモンドの能力を発現させる。

そうして、クレイジー・ダイヤモンドの手に握られていた木の一部分が引っ張られるのを感じて、手を離した。

力の抵抗が無くなり、木の一部分は浮遊して元の場所へと治って戻る。

ソレを確認してから、俺はすずかに振り返って視線を合わせて口を開く。

 

「今のは、クレイジー・ダイヤモンドが触れてた木の一部分に能力が作用して、元に戻ったんだ……すずかのスパイス・ガールも同じ遣り方で能力が使えるからよ。そろそろ実際に試してみようぜ?……すずかなら、絶対に能力をモノに出来る。頑張ろうや」

 

「う、うんッ!!私、いっぱい頑張るよ、定明君ッ!!」

 

少しでも安心出来る様に笑顔を浮かべながら講義を続けると、すずかのヤル気に火が点いた。

さっきまでとは打って変わって、目に光が灯ってる。

 

「よおし、そんじゃあ、まずはスパイス・ガールの拳で木に触れてみようか」

 

俺のレクチャーを聞いたすずかは頷いて肯定を示し、側にあった木にスパイス・ガールの拳をゆっくりと触れさせた。

 

「拳で触れたら、次は念じるんだ……能力を発動するって強く思えば良い」

 

「発動しようと……強く……願う……スゥ……」

 

一言一言を噛み締める様に復唱しながら、すずかは深呼吸をして精神を集中させる。

そして、何度かの深呼吸を得て、すずかは目を開けて自らのスタンドの名を叫んだ。

 

「……スパイス・ガールッ!!」

 

『……』

 

すずかのはちきれんばかりに膨れ上がった思いに応えて、スパイス・ガールは拳を木に叩きつける。

普通ならスパイス・ガールのパンチを喰らった木は、豪快な音を立ててブチ割れてしまう……筈だが。

 

グニュゥウウンッ。

 

「……え?…………えぇえええッ!!?木、木、木がッ!?」

 

パンチを受けた木は、何と『グニョグニョ』と曲がりくねり、地面にベチョォッという『柔らかいモノが落ちた』様な音を立てて全身を横たえてしまう。

しかも葉っぱとかの様子はそのままなのに、まるで落ちる様子が無い。

その光景に悲鳴を上げて驚くすずかだが、俺からしたらこれは特に問題ある光景じゃねぇ。

 

「これがスパイス・ガールの能力だ。『拳で触れた、どんな物質でも柔らかくできる』」

 

柔らかくできる範囲は弾性のあるゴム状から不定形に近いレベルまで自在で、自らの体を柔らかくして当たった銃弾のダメージを軽減することもできる。

それに、時計などの機械を柔らかくしても機能は持続するから、機械とかに使えないなんて事は無い。

今、すずかが能力を発動させて木が形を保てなくなったのは、単純に柔らかくし過ぎたって事だ。

これも『戻れ』と念じれば、元の状態に戻る。

焦るすずかにそう説明してやると、すずかは大きく息を吐いて「良かったぁ……」と呟いた。

まぁ優しいすずかの事だから、木が可哀想とかそういう意味だろ。

 

「えぇっと……柔らかくし過ぎ無い様に加減して……」

 

と、さっそく能力の制御を始めたすずかは、恐る恐るとスパイス・ガールの拳を地面に当てる。

どうやら地面を柔らかくしているみてえだが……何するつもりだ?

すずかの行動の意味が理解出来なかったので見守る事にしていると、すずかは柔らかくした地面を足先でチョンチョンと踏みだした。

うん?柔らかさを確かめてるのか?

 

「うん、コレぐらいなら大丈夫かな?……えいッ!!」

 

そしてすずかにとって納得のいく柔らかさに出来たのか、すずかはその柔らかくした地面に向かって勢い良くジャンプし……。

 

ボヨォォ~~~ンッ!!

 

「うわぁ……ッ!?見て見て定明君ッ!!凄く跳べるよぉッ!!」

 

「な~る程。地面を柔らかくしてトランポリンみてーにしたって事か」

 

柔らかくした地面の反動で上空に飛び上がったすずかと会話しながら、俺は今の行動の意図を察する。

地面を柔らかくして飛び上がる……コレならスタンドの脚力プラスで結構遠くまで跳べるな。

やっぱすずかも秀才少女なだけはあるって事か……早くも俺の知らねえ活用法を思いついたとは。

地面と空を行き来しながら楽しそうにはしゃぐすずかを見て、俺も微笑ましい気持ちになってきた。

こーゆう平和的な事にスタンドを使うのも良いモンだな。

 

「うわっ。すずかってば何楽しそうな事やってんのよッ!!私も後で混ぜてよねッ!!」

 

「へぇ……地面を柔らかく……これも、かなり応用範囲がありそうな能力じゃない」

 

と、すずかの楽しそうな声が聞こえたのか、2人で練習してたリサリサとアリサが2人揃って近づいてくる。

まぁ普段から大人しいって雰囲気の出てるすずかがこんなに楽しそうにはしゃいでんだから、何事かと思うわな。

 

「アハハッ!!アリサちゃん、リサリサちゃん、すっごく楽しいよコレッ!!良~しッ!!もうちょっと柔らかくして……」

 

楽しそうに跳ね跳ぶすずかだったが、もう少し高く飛びたいらしく、彼女は空中でスパイス・ガールを呼び出して拳を構えさせていた。

まぁ今は訓練だし、すずかの遣りたい様にやらせ…………あれ?

 

「フフ。すずかったらはしゃいでるわね……どうしたの、ジョジョ?」

 

俺が顎に手を当てて「おや?」という表情で首を傾げてるのを見つけたリサリサが声を掛けてくる。

 

「いや、な……スパイス・ガールの能力で柔らかくなった地面に、スパイス・ガールの拳っていうかパンチを叩き込むのって……」

 

「それがどうかし……まさか?」

 

それって……つまり地面の柔らかさプラス反動、ソコにパンチの威力が加わるワケで……オイ。

俺と同じ考えに達したのか、側に居るリサリサも顔を引き攣らせている。

ヤベッ、早くすずかを止めねぇと……。

 

「いくよッ!!スパイス・ガールッ!!」

 

「オイ待てすず……」

 

しかし俺の静止の声はすずかの行動に一歩及ばず、すずかはスパイス・ガールの拳を地面に叩き込み……。

 

 

ビョォオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

悲鳴すら残さず、遥か上空までフライ・ア・ウェイしてしまった。

うおー。すずかが豆粒並の小ささになってるじゃねぇかー。ありゃ大分高い位置に……。

 

「キャァアアアアアアッ!!?す、すずかぁあああああッ!?」

 

「マズイわよッ!?あの高さじゃ一巻のお終いだわッ!!ジョジョッ!!」

 

「ンな事ぁ判ってるってのッ!!面倒くせえ事しやがってッ!!ザ・ワールドッ!!」

 

すずかが空に消えてから一拍遅れて、アリサの金切り声が辺りに響く。

その悲鳴にハッと意識を取り戻したリサリサの声に応えつつ、俺はザ・ワールドを呼び出して地面を思いっ切り蹴りあげる。

ザ・ワールドの果てしないパワーで蹴り上げられて生まれた推進力は、俺を遥か上空まで押し上げていく。

でも、まだすずかまでは遠い。

このままじゃ俺が地面に落ちるのが早まるだけだし……仕方ねぇ。

俺はポケットからエニグマの紙を取り出し、それを開かずに別の能力を使用する。

 

「もうそろそろか……『固定』しろッ!!『クラフト・ワーク』ッ!!」

 

俺の呼びかけに応じて、俺の背後から宇宙人の様な頭を持ったスタンド、『クラフト・ワーク』が現れる。

コイツの能力は、俺かクラフト・ワークが触れたものを好きな位置で『固定』する事が出来る能力だ。

その能力をエニグマの紙に使用して……。

 

「紙を空に『固定』すりゃぁよぉ~……『足場』が出来るって寸法だ」

 

空中に留まれる足場を造れば、そこで落ちてくるすずかを待つだけで良い。

尤も、足場つっても紙切れ一枚だから、精々足一本乗せるのが精々だが……。

 

「ついでにもう一枚、固定しとくか」

 

クラフト・ワークの能力は好きな数だけ固定が出来る。

これで何とか安定した足場が出来たな。

とりあえずの足場を確保した俺は、すずかが居るであろう上空に視線を向ける。

 

「――キャァアアアアアアアッ!!?」

 

「あーあー、盛大に叫んじまって……何やってんだか」

 

そして上空に視線を向けると、アリサと同じ様に悲鳴を上げながら落ちてくるすずかの姿があった。

遥か空高くまで飛び上がった事への恐怖で涙がメッチャ出てる。

さすがに生身でこの体験はかなり怖えだろうな。

実際、俺だって落ちたら只じゃ済まないけど、今はすずかを助けなきゃいけねえからンな弱気な事言ってらんねぇ。

まずは落ちてくるすずかを、衝撃が伝わらない様に受け止めてやらなくちゃな。

上空から重力を受けて猛スピードで落下してくるすずか。

俺はその光景を見ながら、冷静にタイミングを合わせ――。

 

「ザ・ワールドッ!!時よ止まれッ!!」

 

絶好のタイミングに重なった瞬間、自分以外の時間を全て止める。

そうする事で、絶賛落下中だったすずかの身体も停止した。

俺は直ぐにクラフト・ワークの効果が切れかけている足場から飛び出して、すずかにしがみついた。

とりあえずはこれで、時が動き出してもすずかに衝撃が伝わる事は無い。

後は時が動き出した後で行動するしかねぇ。

時が止まってる中じゃ、ザ・ワールドを解除して別のスタンドを出す事が出来ねえからな。

 

「時は動き出すっうおぉおおおおおッ!!?」

 

「キャァアアアッ!!?さ、定明く、キャァアアアアアッ!!?」

 

叫ぶか驚くかドッチかにしろってすずか。

とはいえ、時が動き出した瞬間に自分の身体へ掛かったGの強さには俺も驚いたが。

しかも、すずかが恐怖の所為で俺にこれでもかと力を強めて抱き着いてくるモンだから、体中が痛え。

案外馬鹿力なんだ、すずかって……兎に角、こっからは格好良く『飛行』して降りていきますか。

 

「……良し。もう大丈夫だ、すずか。今からは目ぇ開けとけ。こんな『飛行風景』そう拝めるモンじゃねぇぞ?」

 

「ひ、飛行じゃなくて落ちて……あれ?……風がキツくない?」

 

俺の暢気な言葉に叫んで反論するすずかだったが、その時既に風が収まってる事を不思議に思って冷静さを取り戻した。

しっかりと俺にしがみつきながら不思議そうな顔してるすずかに笑顔を見せて、俺は口を開く。

 

「偶には『パラグライダー』ってのも、乙なモンだろ?」

 

「わぁ……ッ!?そ、それもスタンドなのッ!?」

 

俺達の真上に居るスタンドを見て、すずかは目を輝かせて笑顔を見せてくれた。

俺が強い意志で呼び出したスタンドは、俺の真上で空中に『砂』が大量に集まり、巨大な『獣』を形作っている。

しかもその獣の顔は、インディアンの仮面の様なモノに覆われていて、頭頂部には羽が何本か取り付けられたデザインだ。

いよいよもってインディアンっぽく見えるが、その獣は巨大な前足で俺の脇に手を差し入れて固定してくれる。

本来後ろ足がある筈の足の付根からは、『支柱』の様な棒が何本も上に向かって伸び、その先で巨大な『翼』に繋がっていた。

その飛行翼を巧みに操り、風の気流に乗った獣は、スタンド使いにしか聞こえない『声』を咆哮する。

 

『――アォオオオオオオッ!!!』

 

「変幻自在。砂を操る、いや砂の具現化したスタンド『愚者(ザ・フール)』だ」

 

目を輝かせているすずかに笑顔で紹介しつつ、俺はザ・フールを操ってゆっくりと地上に向かって遊覧飛行を開始した。

そう、俺が呼び出したのは原作第3部で犬のスタンド使い、イギーの持っていたスタンドのザ・フールだ。

人間の俺が操ってるが、スタンドのヴィジョンは原作そのままで、大きさもかなりデカイ。

コイツのパラグライダーを使えば、長距離は無理でも100メートルは飛行できる。

尤も、今俺達が居るのは空の真上。

なら飛行距離は大分ある訳で、後はゆっくりと下まで飛行して地面に降りれば良い。

 

「やれやれ……かなり焦ったが、まぁ何とかなったな……大丈夫だったか?すずか」

 

「うん。定明君のお陰で、怪我もしてないよ……ごめんなさい、調子に乗っちゃって……」

 

「まぁ仕方ねぇさ。怪我がなけりゃそれが一番だろ?」

 

「でも……」

 

俺は良いって言ってんのに、それでもすずかは食い下がってくる。

やっぱすずかは謝り過ぎる所があるなぁ……まぁ、それがすずかの優しい所なんだけど。

俺を上目遣いに見詰めて謝るすずかに、俺は苦笑しながら口を開く。

 

「もう良いって。それより、こんな遊覧飛行は早々出来る事じゃねぇんだ。今はこの風景を楽しんでおけ。な?」

 

「……うん……ありがとう、定明君…………ン(チュッ)」

 

「ッ!!?すずか、お前今……」

 

俺の言葉にすずかがやっと笑顔を浮かべたかと思えば、次の瞬間には頬にキスされてた。

え?またですか?っというかホントにお前俺の事好きじゃねぇのか?

普通好きじゃねぇとキスなんかしねぇだろ?

ザ・フールに脇を支えられて、更にすずかを抱きしめる体勢だから、俺はすずかに驚きの眼差しを向けるしか無かった。

その眼差しを見て、すずかは頬を赤く染めながら言葉を紡ぐ。

 

「お、お礼だよッ!?私、定明君に、2回も命を助けて貰ったんだもんッ!!こ、これぐらいじゃお礼にならないかも知れないけど……」

 

(今は何も持ってないし……私のふぁ、ファーストキス……あげたかったんだもん)

 

言ってる途中で耐え切れなくなったのか、すずかは俺の胸に顔を埋めるぐらいに抱きついて黙ってしまう。

いや、まぁお礼っちゃお礼になっちゃいるんだが……俺どうしたら良いんだ?

やっぱリサリサとすずかって、本当に俺に惚れてんのか?……それとも本当に只のお礼なのか?

まだ俺達の年齢じゃ男女の好きまでは考えられねぇのが普通だと思うし……でもコイツら大人びてるからなぁ。

其処ら辺の境界が曖昧だし、これで俺に惚れてるなんて自惚れだったらオリ主君より痛い存在になっちまう。

……止めよう、考えるのは。素直にお礼として受け取っときゃ良いんだ。

そうすりゃ一々面倒くせえ事考えなくて済む、そうしよう。

無駄な考えを振り払って、俺はアリサとリサリサが待っているであろう庭の辺りに向けて、ザ・フールを操作していく。

 

 

 

 




はい。皆様に重要なお知らせです。

と、いうのも、この小説である一部分を改正しようと考えています。

それはアリサ・ローウェルのアダ名です。

Ayatakaさんから頂いた感想の『リサリサじゃ無いんだ』とうメッセージに、スタンドも月までブッ飛ぶ衝撃を受けてしまいました。

翌々考えれば、『アリサ』から『リサ』という文字とれるし、名付けた定明のジョジョというアダ名から『リサリサ』というアダ名はどう?という展開もアリ。
そして原作リサリサのクールな思考と言葉遣いは、今作でクールな天才少女を地で行ってるアリサ・ローウェルにはピッタリなんじゃ無いかと考えが及びました。
自分的には一度アリスという名をリサリサに全面改正しようと考えてる所存です。

以上で重要なお知らせは終わりですが、ディ・モールト・ベネ過ぎる名案とご提示下さったAyataka様に感謝をさせて頂いて、お知らせの終了とさせて頂きます。


Ayataka様、今回のアドバイス、誠に有難う御座いました。





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俺の事を無意味にイラつかせない方が良(ry

何故こうなったしwww

後ね?皆修羅場を期待し過ぎてワロタwww

でもね?そんな期待をチョコラータ風にゴミ収集車にヤッダバァアアッ!!するのが俺クォリティwww




 

『……って事で、俺はなのはと一緒にフェレットのユーノが落としたジュエルシードって宝石を封印してるんだ』

 

「宝石ねぇ……そんな危ねぇシロモン落とすとか、そいつ頭脳がマヌケか?」

 

あの土曜日のLESSON3を行った日から数日経ったある日の事。

俺は自宅で前に知り合った転生者、北宮相馬と電話で話している。

相馬の電話先なんか全く持って知らなかった俺がどうやって電話してるのかと言えば、すずか達に教えてもらったらしい。

すずか達と言えば、俺がすずかを抱いてザ・フールで遊覧飛行した時が大変だった。

地上に着いてすずかを降ろした時に、何故かアリサが羨ましそうな目ですずかを見ていたんだ。

そんで多分同じ事したかったのかなと思ってアリサに両手を広げて「乗りてぇのか?」と聞けば、顔真っ赤にするし。

しかもダンマリ決め込むから違ったのかと思って手を下ろすと乗せろとせがまれる。

終いんはリサリサも便乗してきてマジ大変だったよ。

まぁそんな面倒くせー事は置いといて、相馬が電話してきた『表向き』の理由は、知り合った男友達と親睦を深めたい。

そんで『裏向き』の要件っていやぁ、今起きてる原作の流れを俺に教えておこうと思っての連絡だとか。

普通転生者ってのは大抵が対立するモンだが、相馬はかなり良い奴って事だろ。

前もって協力はしねぇって伝えてるのに、それでもコッチの流れを知っておけば知らない事態に巻き込まれても対処できるだろうとの返し。

ドンだけ良い奴なんだか。

 

『いや、それはユーノの所為じゃ無いんだ。何でも輸送してた宇宙船が事故に遭って、ジュエルシードが地球にバラ撒かれてしまったらしい。この辺も原作とは差異は無いんだけど……』

 

「だけど……その言い方じゃ、その先は差異がある様に聞こえるぜ?」

 

俺の住む地球に危険物をバラ撒いてくれたマヌケ野郎を罵倒しようとした所で相馬がユーノって奴を弁護し、説明の途中で言葉を濁してしまう。

しかもさっそく原作との相違点が出て来たんだな。

 

『いや、違うというよりも……定明だから言うけど、そのジュエルシードというのがどういうモノかは理解してくれたか?』

 

「あぁ。確か願いを歪んだ形で叶えるってんだろ?」

 

――ジュエルシード。

 

これがこの世界で火種となるマジックアイテムの名前だ。

元は遺跡の奥深くに埋まっていた物を、ユーノって奴が発掘して時空管理局っていう……まぁ要は、宇宙規模の警察機関に届けようとしてたらしい。

最初は、その時空管理局ってとこに輸送を依頼したらしいけど、手が空いてないから、発掘したユーノってヤツに持ってくる様に返事してきたとの事。

ってかもうその時点で警察として終わってんだろ。

公僕が市民に命令してちゃ、市民は何の為に自分の稼ぎから税金払ってんだよって話になるからな。

俺ら市民を守る為の組織が税金貰っておいて持って来いは無い。

随分腐った組織だなオイ。

結局の所、俺らの住む町に被害が来たのは、管理局とやらの職務怠慢で起きた皺寄せじゃねぇか。

って話が逸れたな……まぁ兎に角、そのジュエルシードってマジックアイテムはとてつもなく危険な代物で、ロストロギアとかいう危険物指定されてるらしい。

だから危険物指定された物の回収しないとか職務怠慢。

 

『あぁ。歪んだ形で叶えられた余りあるエネルギーが起こす暴走、それがジュエルシードの思念体っていう、俺となのはの敵になるんだけど……強すぎるんだ』

 

「は?そりゃーそんな危ねぇシロモンの暴走なら、強くても当たり前じゃね?」

 

何を言ってるんだと言わんばかりの返しだというのに、それを聞いた相馬は溜息を吐きながら言葉の先を語る。

 

『そうじゃなくて、原作よりも強いんだ。本来ならなのは一人でも何とか出来てたジュエルシードが、俺となのはの二人がかりでって状況なんだよ。俺も結構全力でやってるんだぜ?』

 

「オイオイ……それってあんまり嬉しくねぇ誤差だな」

 

『全くだ。何でそうなのかっていう原因は判らないけど、油断は出来ない状況だ』

 

かなり疲れた様子で受話器越しに溜息を吐く相馬に、俺は同情する。

ほぼ原作の渦中に居る相馬からしたら、敵のパワーアップは勘弁だろうなぁ。

しかも間の悪い事は更に続き……。

 

『オマケに、明日は神無月が退院して登校してくるしな……』

 

「その点はマジで同情するぜ、相馬」

 

そう、明日はいよいよあの自称オリ主君が学校に復帰してくるのだ。

コレは俺にとっても嫌なニュースだが、同じ学校じゃないので相馬程辛くは無い。

その点はマジで救いだし、相馬には心底同情しちまう。

奴もオリ主を自称するからには、間違いなくこの物語のキーマン(マン?)のなのはに対して積極的に接触しようとするだろう。

しかし、当のなのはは相馬にベッタリで、それは相馬が必然的にオリ主君に絡まれる事を意味する。

……オリ主君が入ってきた所為で、回収遅れたりしねーよね?

ヤバイ、有り得そうで怖え。

もしそうなったら再び養分を吸って入院して頂こう。

 

『そういえば……なぁ定明?一つ聞きたい事があるんだけど……』

 

「ん?何だよ改まって」

 

俺が対オリ主君パワーダウン計画を練っていると、電話の向こうから相馬の窺うような声が飛んできた。

その質問に何だと返しつつ、俺は相馬が何を言うのかを待つ。

 

『いや、そのな……お前、すずかとアリサに何かしたのか?』

 

「あん?……そりゃどーいう意味だよ?」

 

『あのな……神無月が登校してくるって聞いて、何時もならその名前を聞くだけで怒ったり落ち込んだりしてたアリサとすずか何だけど……今日、笑ってたんだ』

 

「笑って?」

 

何だそりゃ?もしかしてあの2人、オリ主君が好きなの?

いや、それは時が何巡しても有り得ねえか。

 

『あぁ……こう、物凄く静かに……獰猛な笑みを浮かべてたんだ』

 

電話の向こうで2人の様子を思い出しているのか、相馬はさっきまでとは違い、まるで引き攣った様な声音で俺にそう伝えてくる。

獰猛なって……オリ主君が別に意味で入院ルート開拓か?

具体的にはオラオラとワナビーが炸裂するって意味合いで……あり得る。

何せオリ主君に対する怒りだけでスタンドを発現なんて荒業を成し遂げた2人だ。

その拳の行き先がノコノコ現れるってだけでテンションUPしても不思議じゃねぇ。

具体的に起きそうなイメージが過り、俺も冷や汗が出て来た。

 

『ハッキリ言って、俺はあの時2人に恐怖したよ……目の前の2人が、本当に俺の知ってるアリサとすずかなのか、一瞬だけど自信が持てなかった……あの物静かなすずかでさえ、エンジン音だけ聞いてブルドーザーだと認識出来る様に分かったんだ……微笑みの裏に隠れた、とんでもない凄味ってヤツが……なのはなんか物凄く震えてたし』

 

DIO様かよあの2人は?

こりゃもしかしたら、俺が出るまでも無えかも知れねえな。

 

「気にすんな相馬。アイツ等はオリ主君に対してその凄味を出してるだけで、お前やなのはをどうこうしようとは思ってねぇよ……怒りさえ買わなきゃな」

 

『サラッと最後に怖い事言わないでくれ』

 

だってそうとしか言えねぇんだって、マジで。

かなりビビってる相馬を慰め、俺は後一言二言喋って相馬との通話を終えた。

さて……ちょっと2人の様子が気になるし、明日は一応覗いてみるか。

最近、行動がストーカーちっくになってる事に軽く気落ちしつつ、俺は就寝する。

何にしても明日見てみない事には、どうなるかなんて分かんねぇしな。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「さて、明けて次の日の昼休みなワケですが」

 

「……急にどうしたの、ジョジョ?」

 

何時もの人目に付かないベンチにリサリサと2人で座りつつ、横から『何言ってんだコイツ?』みたいな目で見てくるリサリサに何でも無いと返す俺。

まぁこうしてる間にも、俺のハイウェイ・スターが既になのは達聖祥の屋上にて様子を伺ってるんだが……。

 

『テメエ北宮ッ!!また性懲りも無く俺の嫁達に手ぇ出してんのかッ!!俺が入院してて何も出来ない隙を狙うなんて、なんて卑劣な野郎だっ!!』

 

既に局面はのっけからクライマックス状態でした。

復活して早々、また女子軍団を引き連れて現れた自称オリ主君ことDQNネーム君。

しかしこの前とは違って、相馬に対して歯を剥きだして怒ってる。

 

『ハァ……勝手な事を言うな、神無月。そもそもお前が入院してたのは、お前の自己管理が出来ていなかったからだろ?何でもかんでも俺の所為にするな』

 

『そうだよッ!!私は相馬君と一緒に居たいから居るのッ!!神無月君の言ってるのは只の妄想だよッ!!もう何処かに行ってよッ!!』

 

『なのは……ッ!?コイツに操られて……ッ!!待ってろ、直ぐに助けてやるからなッ!!』

 

DQN君のアホらしい喧嘩の売り方を溜息混じりに流す相馬だが、そこに話に上がってるなのはが相馬と一緒に反論するモンだから火に油状態になっていく。

アリサ達の話じゃ、他の男子に対しても敵意剥き出しで、それに反論する男子は容赦なく殴る蹴るの暴行になる。

しかもオリ主君の取り巻きの女の子軍団からも虐められ、ニコポにやられたであろう女教師にまで叱られてしまうそうだ。

酷い話しじゃ、DQN君の取り巻きの中に好きな女の子が居た男子が居たらしく、それがあってDQN君に歯向かってたんだけど……事もあろうに、DQN君はそれに勘付いて、その男子の前でワザとその女の子にキスしたり、自分の事を好きか聞かせたり、更にはその男子の事をどう思うか聞いたらしい。

……不条理だとは思うが、その男子は好きな子に散々罵られて転校したそうだ。

 

『この俺が散々警告してやったのに、まだなのは達の周りを目障りにもウロチョロしやがってッ!!俺の女達に手を出したテメエには死刑以外に道はねぇえッ!!』

 

と、事の成行を見守っていた俺の視界に、ブチ切れたDQN君が拳を握って相馬に殴りかかるシーンが飛び込んでくる。

オイオイ、不意打ちとか堂々とやる事じゃねぇだろ。

さすがに相馬もそれは判っていたらしく、ファイティングポーズを取ってDQN君を迎え撃つつもりの様だ。

 

『オルァアアアッ!!!死ねぇえええッ!!』

 

そして、DQN君の大振りなテレフォンパンチが相馬に向かって振るわれ……。

 

ボグシャッ!!

 

DQN君の鼻っ面にブチ当たった……あれ?おかしくね?

そう思ったのは俺だけじゃなくて相馬やなのはもポカンとした顔を見せる。

 

『ホゲェエエッ!?』

 

『か、神無月様ッ!?何をしてるのッ!?』

 

『自分で自分を……』

 

自分の拳でブン殴られて鼻血と口が切れて血を流すDQN君に、取り巻きの女の子達も困惑しているが……一番混乱してんのはDQN君自身じゃね?

もう口元抑えて「!?」って顔してるし……ん?

ハイウェイ・スターの視界から流れこんでくる光景を見ていると、相馬やなのは達が座っていたベンチの更に隣にあるベンチ。

ソコに座っているアリサが小さくガッツポーズをしてた。

隣りに座ってるすずかも、少し苦笑いしながらも嬉しそうだ。

って良く見たらアリサの片手の指先から5本の糸が出てやがるじゃねぇッスか。

しかもそれを辿ってくと……DQN君の手首に巻きついてる。

下手人はっけーん。

アリサ、DQN君の腕をストーン・フリーの糸で誘導して向きを変えやがったな。

 

『い、痛えぇ……ッ!?な、何で俺のパンチが……』

 

自分の拳で殴られる羽目になったDQN君は。口元から手を離して辺りをキョロキョロし始めるが、特に変わった風景はソコには無い。

……スタンド使いじゃねぇ奴等にとっては、な。

俺らスタンド使いにはアリサの指先から伸びてる糸が見えるから、直ぐに犯人は分かったけど、スタンドが見えない奴等からしたら何も判らない。

……やる事えげつねぇな、アリサの奴。

 

『……そうか分かったぞッ!!北宮ッ!!テメエ俺に何かしやがったなッ!?』

 

『……は?』

 

ほくそ笑むアリサにそんな感想を抱いていると、起き上がったDQN君が口元を抑えながら立ち上がり、何が起きたのかって顔してた相馬を指差して吠えた。

ヤベエ、真実を知ってる身としてはここまで滑稽なのはそうねぇぞ。

アリサとすずかの奴ですら、腹抑えて皆から顔が見えない様にして震えてる。

あぁ、ありゃ間違いなく爆笑してますね、わかります。

 

『こんなワケの判らない手段を使ってまで俺からなのは達を引き離そうとするなんて、人間の風上にもおけねえッ!!みっともなく俺の女達に手を出すんじゃねえよカス野郎がッ!!』

 

『いや……俺にも何が何だか……』

 

見当違い街道爆進中のDQN君の言いがかりに困惑する相馬。

今日も皺寄せが来てて大変そうだな……乙。

少しばかり可哀想な相馬に同情している間にも鼻血をドバドバ流しながらあの言葉この言葉で相馬を侮辱していくDQN君。

正直言って、被害妄想甚だしいとしか思えん。

 

『テメェみたいな害虫がなのは達の周りをうろつくんじゃねぇぞッ!!身の程を弁え『いい加減にしてよッ!!!』……なの、は?』

 

遂には害虫扱いかよと思っていた矢先、DQN君の言葉を遮ってなのはが大声を出す。

良く見ればなのはは目尻に涙を溜めて震えているではないか。

まぁ、あんだけ好きな奴をボロクソに言われた上に、好きでもねぇ相手から勝手に自分の女宣言されてちゃ堪まったモンじゃねぇか。

 

『何時も何時も勝手な事ばっかり言って……どうして私達の楽しい時間を邪魔するのッ!?私達は相馬君と一緒に居て楽しいから居るのにッ!!神無月君からアレコレ指図される覚えは無いよッ!!』

 

『なのは……?一体コイツに何をされたんだッ!?まさか弱みでも握られて……』

 

『そんなの何も無いよッ!!もう――私達に近づかないでッ!!』

 

『何言ってんだッ!!北宮の様にクソみたいな奴に従う必要は無いんだぜッ!?俺がちゃんと守って――』

 

うっひゃぁ~……完全なる拒絶ってヤツか。

普段、というか前に会った時の様な快活さを消して、なのはは大声でDQN君を拒絶する。

横に居る相馬はなのはの豹変ぶりに目を見開いて驚いてた。

だが、その拒絶の声を聞いても、DQN君はただ困惑した表情を浮かべるだけで、全く持ってなのはの言葉の真意を捉えていない様だ。

つうか、自分に都合の悪い事は一切耳に入らないとか、随分便利だな。

傍から見りゃ、完全なる昼ドラだよコレ。

……まぁ、俺には別に関係無いから良いんだけ――。

 

『私の大事な友達の事を悪く言わないでッ!!神無月君が何を思ってるのか知らないし、知りたくも無いけど、私が男の子で友達だと思ってるのは、相馬君と定明君だけなのッ!!』

 

『お、おいなのはッ!?』

 

『……サダアキィ?誰なんだソイツはッ!?』

 

…………最悪だ。オーマイガッ。

折角相馬が俺の事秘密にしてくれてたっつうのに、なのはの奴バラしやがった。

余りの理不尽さにマジ泣きしそうだ。

いや、確かにすずか達とツルんでたら、遅かれ早かれDQN君には俺の事が知られると覚悟してたけどよぉ……そーいうのは成る可く遅い方が良かったぜ。

 

『ッ!?……そうか、3人目ってワケか……なのはッ!!そのサダアキとかいう糞ウジ虫野郎は何処のドイツ……』

 

バチィイイイインッ!!!

 

と、俺の名前を聞いたDQN君が俺の事をウジ虫呼ばわりしてなのはに俺の居場所を聞き出そうとした瞬間、何かとんでもなく痛烈な音が鳴り響いて、DQN君が仰向けにブッ飛んだ。

悲鳴すら挙げず、しかも倒れてから白目を向いてビクンビクンと痙攣してる……何が起こった?

 

『……ふざけないで(ぼそっ)』

 

と、いきなりブッ飛んだDQN君に視線が集まる中、ハイウェイ・スターの耳に何か小さく呟く声が聞こえてきたので、そちらに視線を向ければ……。

 

『定明君は……貴方の言う様なウジ虫なんかじゃない……ッ!!』

 

そこには、両目に涙を溜めて目尻を吊り上げ、小さく呟くすずかの姿があった。

しかも後ろにスパイス・ガールが何かを『撃った』体勢で顕現してる。

まさか、今のはすずかがやったのか?

なるべく状況を把握しようとすずかの周りを観察していると、すずかの足元のコンクリートブロックが一部分だけ変にエグレてる部分があるのを発見。

更にスパイス・ガールの手元からも、少しだけコンクリの破片が零れ落ち、パラパラと宙に舞っていた。

……もしかしてアレを撃ったのか?スパイス・ガールの殺人的なパワーで?

いや、それならDQN君の頭はトマトの如く綺麗に弾け飛んでる筈だし……あっ、そうか。

 

『……ちょっとだけ柔らかくしたけど、次はもっと固くするから……定明君が私を守れる様にってくれた力で人を傷つけるなんて、ホントは嫌なのに……』

 

行き成り白目を向いて倒れたDQN君を、前回と同じ様に取り囲んで悲鳴を上げる取り巻き達を見ながら、すずかはそういって不機嫌そうに食事を再開する。

すずかの奴……スパイス・ガールの能力使って、コンクリートを少しだけ柔らかくしたな。

その少しだけ柔らかくしたコンクリの破片をゴム弾みてーに撃ち込んだって訳だ。

確かにある程度の硬さの弾丸とパワー型スタンドの破壊力があれば不可能じゃねぇ技だ。

殺傷能力を消しつつ、微妙に柔らかい事で生まれる破壊力は外よりも中に響くから、DQN君は脳震盪を起こしたんだろう。

額の部分から少し血も流れてるし……ありゃ相当痛えぞ。

 

『もう……すずかが遣っちゃったから、アタシはこれで我慢しとくわ』

 

そう言ってストーン・フリーの糸を使って硬貨の粉をDQN君の口の中にサラサラと流し込むアリサ。

いや、これで我慢って……500円玉1枚分流し込んどいて我慢って……エゲツねぇ。

 

『ゴメンね、アリサちゃん……気付いたら、体が動いちゃってて……』

 

『まぁ、良いわ。もし復活したら、今度はアタシがやるだけだもの』

 

『うん。その時は私に言ってね?ちょっと固めの弾丸用意するから♪』

 

良し、ここらで追跡止めよう。

これ以上覗いてたら、俺の心にダメージが残っちまう。

にこやかに笑いながら物騒な事を呟くアリサ達に見つからない様に、俺はハイウェイ・スターに戻る様命令する。

いやはや……女の怖い一面ってヤツを垣間見る羽目になるとは……ハァ。

でもまぁしかし、アイツ等は俺の為に怒ってくれたんだよな……それとなく礼はしとくか。

俺はハイウェイ・スターを消して、残りの昼休みの時間をリサリサと談笑しながら過ごすのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

『なぁ定明?本当にすずか達に何したんだ?チラッとしか見えなかったけど、何かすずかの方から神無月に向かって飛んでた様に見えたんだよ』

 

その日の夜、俺は再び家の電話で相馬とダベっていた。

つっても談笑とかの類じゃなくて、8割方相馬の愚痴みてーなモンだが。

 

「別にお前が気にする事じゃねーって。そんな事より、俺に何か言う事があって電話してきたんだろ?」

 

『そんな事って……ハァ……まぁ良いか。それより、お前に一つ言っておかなきゃなと思って……お前の事が神無月にバレた』

 

知ってる。見てたから良~く知ってる。

しかし受話器の向こうの相馬にはそれが判らないので、凄く申し訳なさそうな声を出してた。

これじゃ何か俺が悪い事してる気分なんだが?

 

『今日、とうとうなのはがヤツに対して切れてな……遂、口走ってしまった……悪かったな』

 

「いや、なのはが言っちまったんならオメエが謝る事でもねぇだろ?」

 

『そう言ってくれると助かるよ……でも、神無月の奴、恐らくお前が転生者だと当たりを付けてるぞ?俺達全員、神様から3人送るって言われてたからな』

 

「そりゃ面倒くせえが……要は会わなきゃ良いだけだろ?俺がソッチの町に行くのを減らしゃ、それで会う確率はグンと下がるって」

 

実際、態々隣町まで調べに来る様な奴じゃねぇのは見てりゃ判る。

そんな事するぐらいなら同じ学校のなのは達主人公勢に絡んでいこうとするだろう。

見えない相手より目先の女に食い付くタイプだからな、ありゃ。

 

『まぁ、確かにそうか……あの神無月が、そんな手間の掛かる事をする筈も無いな……それと、もう一つ伝えておきたい事があるんだ』

 

え?もう一つ?……オリ主君の事以外にもあんのか?

そんな疑問が浮かんでくるが、受話器越しに聞こえる相馬の声が真剣だったので、俺も気持ちを入れ替えて聞く事にした。

 

『今日の帰りにユーノが教えてくれたんだが、もしかしたらジュエルシードがそっちの町に落ちてるかもしれない、だと』

 

「オイ待て完璧に疑いの余地も無くパーフェクトに十中八九キレーに間違いなく面倒事じゃねぇか」

 

え?何?こっちの町、っていうか俺のテリトリーにまで面倒事がくるワケ?

っていうかそんなのが原作にもあったのかよ。

 

『断っておくけど、これは原作に無かった流れで、完全にイレギュラーな事態だ……俺達が居る事に関係してるかもしれない』

 

「マジかよ……それ、暴走したらかなり厄介なんだろ?」

 

もし見つけたらどうすっか……ザ・ハンドかクリームの能力で完璧にこの世から消すとしよう。

相馬に対策案を聞きつつ、俺の心の中では少しづつ対策プランが組み上がっていた。

 

『まず間違い無く、発動したら面倒事じゃ済まない事になるだろうな……ジュエルシードには封印処理が施されてたらしいけど、落下の衝撃で封印が解けてるし』

 

ん?封印『されてた』?……アレ?それなら俺でも何とか対処出来るんじゃね?

ジュエルシードにクレイジー・ダイヤモンドを叩き込んで、『封印される前の状態』に『治して戻せば』万事OKだろ。

原作でも重ちーのハーヴェストが外したパイプのボルトを『パイプが繋がってた状態』まで『治す』事で元に戻ってたし。

それに、存在してた物を消してしまって原作に悪影響が出たら、この世界がそう動くのか判らねぇ。

あんまり迂闊にザ・ハンドやクリームを使って消し飛ばすのも得策じゃねぇか……。

 

「……そのジュエルシード。もし俺の町に落ちてるとしたら、一体幾つぐらい落ちてるんだ?」

 

数によっちゃあ俺が対処しねーとヤバイかもしれねえ。

俺の家族とか、リサリサが巻き込まれてからじゃ遅えからな。

 

『あぁ、数は一つだけらしいから安心して……いや、一つでも落ちてたら安心なんて出来ないよな』

 

「たりめーだ。ホントなら一つとして落ちて欲しくねぇっての」

 

『ははっ。全くだな。でも、幾らお前の住んでる町とは言っても、必ずしもお前の近くに落ちてるってワケじゃないから安心しても良いと思うぞ?』

 

何やらお気楽な感じで俺にリラックスする様に言ってくる相馬だが……ホントに大丈夫か?

いや、でも相馬の言う通り、一口に俺の町とは言ってもかなり広い範囲だ。

俺だってココに9年住んでるけど、未だに行った事のねぇ場所なんざ幾らでもある。

なら安心してても大丈夫だろ、うん。

相馬達も時期を見てコッチの町を探すらしいし、俺は相馬達に任せてゆっくりとしてれば良いのさ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「そんな事を思ってた時期が、俺にもありました……ってか?」

 

はい、現在なんですが、あの電話があって早2日後の学校帰り。

リサリサと別れて、近道になるからと横切った公園で見つけちまったよ、キラキラと青に輝く怪しげな宝石。

そして中央に赤く光るⅣの文字……間違い無くジュエルシードじゃねぇッスか。

ボヤボヤと光って「触れ」とでも言いたそうな自己主張を発光で伝えてきやがる。

何が近くに落ちてるワケじゃねぇ、だよ相馬く~ん?

モロ俺ん家の近くに落ちてやがるぜ……さて、どうすっか。

俺は茂みの脇でピカピカ光るウザったい宝石を見ながら対処するか考える。

つっても、落ちてるのが既に俺のテリトリー内だし、対処しないで放置したら更に面倒くさくなるのは確定。

 

「とりあえず、考えてた手を試すか……クレイジー・ダイヤモンド」

 

ズキュゥゥゥンッ!!

 

兼ねてから考えていたプランの通り、俺はまずクレイジー・ダイヤモンドを呼び出す。

そのままクレイジー・ダイヤモンドの人差し指で、ジュエルシードに触れて能力を発動させる。

 

「上手くいってくれよ……コイツを封印が解ける前の状態まで、治して戻す」

 

『ドラァッ!!』

 

キュウゥウウウンッ!!

 

俺は祈る気持ちで能力を発動させると、クレイジー・ダイヤモンドが触れていたジュエルシードの輝きが鈍くなった。

そのまま少し待っていると、段々光が弱くなり、遂に発光自体が収まっていく。

良し、どうやら封印は出来たみてーだな。

俺は対策が上手くいった事で大きく息を吐いて安堵し、ジュエルシードを手で持った。

一見すれば普通の宝石、だが放つ威圧感は相当なモンだ。

こんなモンが落ちてきた所為で俺の町が危うく大変な目に遭うトコだったと思うとゾッとするぜ。

ともあれ、今は封印も出来て脅威はもう無い。

後はこの事を相馬に教えてやって、この厄介なシロモンを回収してもらえ――。

 

 

 

 

 

「……見つけた……『ジュエルシード』」

 

「ッ!!?」

 

 

 

 

 

突如、後ろから聞こえてきた言葉に、俺は弾かれたように振り返る。

そこには、黒いマントを翻すレオタードの様な衣装を着込んだ金髪の女の子が居た。

更にその隣には、額に赤い宝石の様なモノが付いたオレンジ頭の女性が、俺の事を怖い目で睨んでる。

……ココに来てトラブルかよ……勘弁してくんねぇかな?

どう考えても歓迎出来る状況じゃ無ぇので、俺は面倒くささに溜息を吐いてしまう。

 

「……俺に何か用か?お二人さんよ?」

 

「……」

 

質問を投げかけてはみるが、金髪少女とお姉さんから返ってくるのは無言のみ。

何故か周りの空気も緊迫していく。

っていうか、どう考えても友好的な目付きじゃねぇな……ったく。

しかもさっき、あの子はジュエルシードっつったぞ?コレってつまり、この宝石の価値を『知ってる』、若しくは――。

 

「聞いてんだぜ?…………俺に用があんのか?あぁ?」

 

『原作』に出て来る奴以外にゃ居ねぇわな。

何も語らない少女にイラついて、俺は声を荒らげて再度問う。

その言葉にお姉さんの方は更にイラついた顔をするが、少女の方は表情を変えない。

面倒くせえな……と、考えていれば、少女が持ってる機械的な……杖?みたいなモンを上に翳した。

 

「バルディッシュ……結界を」

 

『Yes,Sir』

 

更に何事かを呟けば、その杖?が機械的な音声を発声して、真ん中の球が光る。

アレって、もしかして『機械』なのか?

そんな事を考えていると、周りの空間が時を止めた時の様にモノクロの景色へと変わっていく。

ただまぁ、俺やあっちの2人は動けるみてえだが。

 

「……そのジュエルシードを渡して下さい」

 

「……はぁ?」

 

そして、等々謎の少女が喋ってくれたかと思えば、手を俺に向けてジュエルシードを要求してきやがった。

余りにも巫山戯た要求に、俺の眉が吊り上がっていく。

人の話も聞かずにモノ要求するたぁ……一体何様のつもりだよコイツ?

段々とムカムカしてきたが、一旦それを押し留めて、俺は少女へと口を開く。

 

「生憎と、コイツは俺のダチのダチが落としたモンなんでな。ソイツに返してやらなきゃならねーんだ」

 

手元にある宝石を空中でキャッチしては放り投げながら、俺は少女に拒否を言い渡す。

別に渡しても良いかもしれねーが、この子が厄介事を起こさないって保証は何処にもねぇ。

ならヤッパリ、ここは要求を跳ね除けて相馬に渡した方が良いだ――。

 

「ゴチャゴチャ言ってないでコッチに渡せってんだよ、このガキんちょッ!!」

 

「ッ!?アルフッ!?」

 

俺の言葉を聞いたアルフとかいう女は、少女の言葉を無視して俺に向かってズカズカと歩いてくる。

どうにも話しにならねーから強行手段に出た様だが……舐めんなよ?

俺が突っ立ってる間にもアルフは俺に近づき、遂には俺の目の前に立って手を伸ばしてきた。

面倒だから掻っ攫おうってんだろう。

 

「アタシはかったるい事は嫌いなんだよッ!!痛い目に遭いたくなきゃ寄越し(ガシィッ)なッ!?な、なんだよコレッ!?」

 

俺はアルフの腕が俺に触れる前に、クレイジー・ダイヤモンドの手でアルフの手を掴み直した。

突如何も無い空中で自らの手が掴まれた様な感触に、アルフは驚きの声を上げて下がろうとするが、クレイジー・ダイヤモンドはソレを許さない。

むしろ更に掴む力を上げて、アルフの手を圧迫させていく。

 

「い、痛たたたたたたッ!?何でアタシの腕が勝手に――」

 

「奇遇だな、オネーチャンよぉ……俺もなんだわ」

 

「ッ!?こ、コレはアンタの仕業――」

 

俺の言葉に反応したアルフが動く前に、俺はクレイジー・ダイヤモンドに命令して、奴を持ち上げさせる。

いきなり足が浮き上がった事に声も出ないって表情のアルフに、俺はニヤリとした笑顔を浮かべながら――。

 

 

 

「かったるい事は嫌いなタチなんで……このまま――」

 

 

 

――ブチ壊させてもらうぜ?

 

この喧嘩買った宣言を送ってやった。

 

「ッ!?」

 

俺の笑顔に何かしら感じるモノがあったんだろう。

アルフは掴まれて動けない腕以外の場所を、恥も外聞も無く丸めて防御の体勢を取る。

まぁそんなモンは――。

 

『ドララララララララララララララ、ラァッ!!!』

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

「あぐうぅッ!!?」

 

纏めてブッ潰すだけだがな?

身体を固めて防御の体勢を取るアルフに、俺はクレイジー・ダイヤモンドのラッシュをお見舞いしてやる。

それは防御をしてるアルフに容赦無く襲いかかり、無遠慮に彼女の身体を叩きのめした。

そのラッシュをまともに受けたアルフは吹き飛び、再び黒い女の子の側に戻っていく。

フン、ちったぁ懲りたかよ?

 

「ッ!?アルフ、大丈夫ッ!?」

 

2人からしてみれば見えない力でフッ飛ばされた様にしか見えなかったんだろう。

黒い女の子は目を見開いてアルフに駆け寄るが、アルフは地面に転がって息を荒く吐いている。

そう簡単には起き上がれねぇだろーな。

 

「はぁ、はぁッ!!……き、気を付けてフェイト……アイツ、ただもんじゃ無いよ……ッ!?」

 

「うん……もう、力尽くで行くしか「ソイツは良いじゃねぇか?」ッ!?」

 

倒れ伏すアルフを心配する女の子……フェイトとか呼ばれた少女に、俺は笑顔で声を掛ける。

すると、彼女は直ぐ様後ろ、つまり俺に厳しい視線を向けてくる。

 

「力尽く、大いに結構だ……それなら俺も、テメエ等をブッ潰すのに遠慮も心置きも無く清々しい気分でやれるってなモンだぜ」

 

中途半端に向かってくるより、寧ろやりやすいからな。

そう言って自然体で立つ俺に向かって、フェイトはその機会的な杖を向けてくる。

 

「ジュエルシードを貰う為に……少し、痛い目に遭ってもらいます」

 

『Scythe Form set up』

 

彼女の言葉に反応した杖が機械的な音声を発すると、杖の形が変わって死神の鎌の様な形状になる。

ソレを剣道でいうトコの正道の構えにして、少女は真っ直ぐに俺へと向かってきた。

 

「『痛い目』だ?上等じゃねぇか。こちとら連日のトラブル続きでムカッ腹が立ってんだ……少しストレス発散に付き合ってもらうぜッ!!シルバーッ!!」

 

彼女の横薙ぎの攻撃、そして俺はソレに対して――。

 

「……ハッ!!」

 

「チャリオッツッ!!」

 

初撃をシルバー・チャリオッツに応戦させる。

人間てのは自分の理解の範疇を超えた時には大抵行動がストップするモンだ。

急に自分の攻撃が見えない壁に阻まれりゃ、普通ならそこで脳が理解出来ず動きが鈍るが……。

 

「セィッ!!ハァアアッ!!」

 

一度目の前でその光景を見てるからか、少女の剣戟は止まらず、更に加速していく。

その勢い、こないだ戦ったイレイン以上だ。

それこそ正に普通の人間なら出せない速度で鎌を振るってくる。

ヤッパこの子も、原作のタイトル通り魔法とかゆー力を持ってんのか?

だとしても、剣でチャリオッツが普通の人間に遅れを取る事はねぇよ。

 

「ガンガンスピード上げるぜッ!!着いてこれなきゃ突きまくってやらあッ!!」

 

「ッ!?くぅッ!!?」

 

連撃を見せた少女にお返しとばかりに振るった突きのラッシュだが、彼女は俺の叫びに反応して射程外に離脱した。

ギリギリ射程距離から離れる前に彼女の髪とマントを掠めるだけに終わるが、少女は俺の目の前で浮いている抉れたマントを見て、距離を詰めようとはしない。

どうやら戦闘の経験があるみてーだな……其処らの少女の動きじゃねぇ。

 

「(接近戦は分が悪い……ならッ!!)バルディッシュッ!!」

 

『Photon Lancer Full autofire』

 

と、目の前の少女の動きを観察していると、彼女がバルディッシュと呼ぶ杖から鎌の様な光が消え去る。

少女はそのまま俺にバルディッシュの先を向けると、その先に黄色い光が集まり始めた。

チッ、何かを撃ちだすつもりか?……なら、その力――。

 

「ファイアッ!!」

 

ガガガガガガガガガガガガッ!!

 

ちぃと調べさせてもらうぜッ!!

俺の予想通り、何かの光の玉が何十発と撃ち出され、それは俺に向かって飛来してくる。

直ぐ様俺はチャリオッツを戻し、別のスタンドを呼び出す。

そのスタンドを呼び出すと、普通は聞こえない雷のゴロゴロ音と共に雲が俺の目の前に現れる。

 

「ウェザー・リポートッ!!」

 

そう、天候を操るスタンド、ウェザー・リポートだ。

俺はウェザー・リポートの能力で、『自分の目の前』に何重にも空気の層を作り出し、抵抗を生み出す。

向こうからすりゃ何も見えなくとも――。

 

ギュオォオオオオンッ!!

 

「ッ!!?」

 

俺の目の前に存在する空気の層が、全てを防御してくれる。

突如自分の打ち出した球が俺を避ける様に目標からズレ、幾つかの球は木やベンチにブチ当たった。

その光景に目を見開いて驚き、少女は今度こそ動きが止まってしまう。

俺はその間に雲に引っ掛かった球を観察するが……。

 

バチチッ!!

 

「うッ!?……こりゃ、『電気』か?」

 

俺の目の前でバチバチとスパークを放つ黄色い球を見て、俺はその球の性質が電気である事に気付いた。

どうやら、あの少女の持ってるバルディッシュってのは、電気……いや、もしあの子が原作のタイトル通り魔法少女ってカテゴリーなら少し違うか?

もしファンタジー物の定義通りなら、アレは魔力を変換してるって事になるが……試してみる価値は有り、か。

俺は考えを纏めると直ぐに球を弾き飛ばし、少女に向かって走りだす。

少女の距離約10メートル、まずはコレを詰めてからだ。

只、あまり一気に詰めると、何時か俺が時を止められる事がバレちまう可能性もある。

なら、気付かれないよう『小刻み』にやりゃあ良いって事かッ!!

 

「……キング・クリムゾン」

 

俺は今だに呆けてる少女に聞こえないように、未来を余知し、時間を数十秒飛ばせるスタンド、『キング・クリムゾン』を呼び出す。

コイツの時を飛ばす能力で、時間を0,5秒ずつ消し飛ばせば、移動速度はかなり上がる。

 

「ッ!?フェイト、逃げてッ!!」

 

「……ッ!?(い、何時の間にここまでッ!?)」

 

事実、少女との距離があと5メートルまでに縮まってから、やっと少女は俺が肉薄しようとしてる事を悟る。

あのアルフってオネーチャンが声を掛けた事も大きいがな。

だが、俺の行動に気付いた所でもう遅え。

しっかりと射程距離に入った俺は、少女の持つバルディッシュと呼ばれる杖に、あるスタンドを『送り込む』。

それが成功した瞬間、彼女は苦い顔をしながら俺から半歩距離を取り、バルディッシュを振り上げた。

 

『……』

 

「ッ!?バルディッシュ、どうしたのッ!?」

 

『……』

 

だが、彼女はバルディッシュを振り上げたのにも関わらず、何かに驚愕したかの様に声を張り上げる。

それでも少女に呼ばれた杖は答えようとしない……いや、答えられねえ。

俺が既に送り込んだスタンドによって、内部は全て掌握させてもらったからな。

 

「(魔力を送り込んでるのに、バルディッシュが反応しないッ!?)バルディッシュッ!!どうして動かないのッ!?」

 

彼女は躍起になって杖に魔力を送り込むが、それは内部に潜む俺のスタンドの『エネルギー』に変換されてる。

更に杖……バルディッシュの中に保存されてるデータもしっかりと俺の頭に流れ込んでんだぜ?

魔力、ミッドチルダ、リニス、魔力変換資質……色々と詰め込まれてるが、とりあえず……。

 

「早いトコその杖から手を離して降参しな……コレは警告だぜ?」

 

「……警告?」

 

最大限の隙に攻撃もせずに俺が言葉を掛けてくるのを訝しく思ったのか、少女の眉間に少し皺が寄る。

 

「そう、警告だ……今その杖から手を離して降参すんなら、心優しい俺はお嬢ちゃんから優しく事情を聞くよ……だが――」

 

俺は片手をポケットに入れたままもう片方の手で少女を指差し、迫力を篭めた顔つきを見せた。

ここが最終降参地点だぜ……こっから先はもう受け入れねぇぞ?

 

「まだヤル気だってんなら、俺はお嬢ちゃんに質問しねぇ……お嬢ちゃんにも、あっちのオネーチャンにも、再起不能になってもらう……これがラストチャンスだ」

 

「……」

 

俺の顔付きを見て、俺が嘘を言ってないと理解してくれたんだろう。

金髪少女は俺の言葉を吟味しながらオネーチャンにも視線を送る。

多分あのアルフってのを心配してると思う。

だが、俺は目の前の少女から目を離して無いから、後ろのアルフってのがそんな顔をしてるか把握できない。

やがて、2人の間で結論が出たのか、金髪少女は俺に真剣な目を見せてきた。

 

「ジュエルシードは……渡せません」

 

と、俺の提案に対して明確な拒絶を示した……ハァ。

 

「……OK,交渉は決裂ってワケだ…………やれ、『チリ・ペッパー』」

 

疲れたって感情をアリアリと乗せて、俺はバルディッシュの内部に潜ませたスタンドに命令する。

 

ズギュウウウンッ!!

 

「えッ!?コレは(ガシイィッ!!)ぐっ!?……かはっ!?」

 

「フェイトッ!?フェイトォォオオオッ!?」

 

俺の命令に従って姿を表したスタンドの名前は『レッド・ホット・チリ・ペッパー』という電気に潜むスタンドだ。

チリ・ペッパーが出る時、バルディッシュが今までに無い光り方をし、それに困惑した金髪少女が杖を覗きこむと、そこから出て来たチリ・ペッパーの手に首を絞められる。

スタンドが見えない人からすれば、首元に手の形が浮き上がってるだけに見えるんだろうな。

 

「ぐっ……けほっ」

 

チリ・ペッパーに首を絞められて苦しそうに呻く少女だが、俺は一切力を緩めるつもりはねぇ。

色々と聞かなきゃならねぇ事情が出来ちまったし、ちょいと締め付けさせて貰うぜ?

気を失った所で場所を変えて色々と聞かせてもらうとすっか。

 

「うっ……(ガクッ)」

 

そして遂に少女は酸素不足で気を失い、その様子にオネーチャンが叫びながら彼女の名前を呼ぶ。

しかも目に涙をタップリと溜めながら……いや、もう既に溢れてるし。

あれ?傍から見たら俺完全に悪役じゃね?

自分の町を守る為だとは言え、女の子叩きのめしたからなぁ。

ままならない現実ってヤツに、俺は盛大な溜息を吐きながら、未だに喚くオネーサンをチリ・ペッパーの手刀で気絶させる。

やれやれ……ジュエルシードを回収したと思えば、次は質問せにゃならんとは……面倒くぜ。

モノクロから普通に空間へと戻りつつある光景を目にする俺の目尻には、一筋の涙が出ていたとか出ていなかったとか。

 

 




お気に入数が1000超えた……だと?

ヤバイ、滅茶苦茶嬉しいwww


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再起不能にはしない。但しその『ジュエルシード』悪用するな(ry



最近フェイトヒロイン化の声が止まない……(゜∀。)ワヒャヒャヒャヒャヒャヒャ


 

 

「フゥ……やれやれ。まさかこの俺が人攫いみてーな真似をする日がこよーとは……ジョセフ風に言うなら、OH MY GODな気分だな……」

 

はい、先程目まぐるしい異能バトルを繰り広げたジョジョこと城戸定明です。

現在、俺は家に帰宅して俺のベットを占領してる2人の珍客を見ながらヤレヤレと頭を振ってる。

その珍客と言うのは、まぁ――。

 

「……う、うぅ……フェイトォ……」

 

「あぅ……うぅ……」

 

俺に襲い掛かってきた金髪少女とオレンジっぽい髪のアルフって呼ばれてたオネーチャンだ。

二人共俺が気絶させてから帰宅するまで目を覚ましてない。

まぁ簡単に目覚めない様に手刀撃ち込んだからな。

ただ、あの公園からこの2人を運び込むのが結構面倒くさかった。

俺的には引き摺って運んでも良かったんだが、さすがにそれは見栄えが悪い。

近所のマダムに見られたら、『定明君が女の子2人を引き摺って家に連れ込んだ』とかお触れが出そうだし。

っていうか出る、間違い無く……マダム達の噂好きにはマジ困るぜ。

すずかとアリサが家の前で騒いでた次の日には『定明君がどっかの令嬢を2人同時に誑し込んだ』なんて噂が……マダムぇ……。

と、まぁそんな理由で、俺は仕方無く2人をチリ・ペッパーで電線に送り込む羽目になったのさ。

ここまでレッド・ホット・チリ・ペッパーを使って、2人を電線に引きずり込んで俺の部屋のコンセントから運び込んだ。

そんで遅れて帰宅した俺だが、幸いな事に母ちゃんは買い物、父ちゃんはまだ仕事で帰ってなかったのが嬉しい。

さすがにコンセントから人間が出て来たのを見られたら、弁解のしようがねぇしな。

 

「しっかし……魔法ってのは便利だなぁ」

 

「……」

 

俺は気絶してベットに寝転ぶ金髪の少女……フェイトとか呼ばれてた子に目を移す。

ベットの上で呻く彼女の服装は先程と違い、真っ黒なワンピースになってる。

あの機械的な杖……インテリジェントデバイスという魔導師の杖であるバルディッシュからある程度の情報は取れた。

この子が向こう、ミッドチルダという管理局の本拠地的な惑星で言うトコの『飛行魔導師』ってのもだ。

更にこの子がその管理局に属する惑星の出身で、コッチで言うトコの『異世界人』だって事も。

話を戻すが、黒いワンピースが彼女の着てた本当の服……さっきまでのはバリアジャケットつって、所謂戦闘服ってワケだ。

防御よりも機動力を優先してるらしく、あの服の生地の薄さはその所為らしい。

しかもまだ後一段階、変身を残してるとか……何処の宇宙帝王だっての。

 

「とりあえず、この杖は没収しといて……」

 

『……』

 

机の上で待機状態というアクセサリーの形に変化したバルディッシュをエニグマで紙にファイルする。

これであの子は、コイツを使った大規模な魔法攻撃は出来ない。

後は俺の部屋で暴れられても困るし……良し。

 

「クラフト・ワーク。この2人をベットに固定しちまえ」

 

更に攻撃手段と逃走手段の2つを奪う為に、クラフト・ワークの能力で2人を固定する。

ふぅ……少なくとも、これで面倒事にゃならねぇだろう。

別にヘブンズ・ドアーを使ってセーフティロックを掛けた方が早いんだが……。

自分が気絶させた女の子+無防備な少女の秘密を覗く=変態にはなりたくねぇ。

従ってヘブンズ・ドアーを使うのは断念した。

気絶させた女の子を部屋に引き摺り込んでる時点で色々アウトな気もするが……正当な防衛だよ。

余りの現実に疲れ始めたが、まだこれからやる事が残ってるしもう少し踏ん張んねぇとな。

 

「…………う、うぅん?……」

 

と、俺がベットの反対にある机に腰掛けた時、少女が目を覚まし始めた。

ちょうど良いタイミングだ……色々と喋ってもらうぜ?

 

「……ここは?「お目覚めか?」ッ!?……君は(グッグッ)ッ……な、なんで?」

 

目が醒めて天井をボンヤリと見つめてた少女に声を掛けると、彼女は一気に覚醒。

バッと俺を見詰めて身体を起こそうとするが、クラフト・ワークの能力で固定してるから無理だ。

直ぐ側で同じ様に寝てるアルフを見て少しだけ安心した様な表情を見せるが、直ぐに俺をキッと睨む。

ヤレヤレ、何でこんなクソ面倒くせー事になってんだか。

 

「一応言っとくが、動くのは無理だぜ?好きなだけ動こうとしてくれて構わねえが、ただ疲れるだけだぞ?」

 

「くっ……バルディッシュは何処?」

 

「あの杖か?あれなら俺が預かってる……また暴れだしたら面倒くせえからな」

 

尤も、暴れたらまたブチのめすけど?

そう前置きしながら喋るが、彼女は俺に厳しい視線を向け続ける。

 

「ジュエルシードを……渡して」

 

「この状況で言う事がそれかよ……ちったあ自分の心配したらどうだ?」

 

「余計なお世話……それに、私をこうしてるのは君でしょ?」

 

「こりゃ御尤もな事で……だが、あん時に俺の提案を蹴ったのはお嬢ちゃん自身だって事を忘れんなよ?」

 

起きても最初と同じ事しか言わない少女に、俺は呆れを含んだ声で対応する。

俺はちゃんとこの子にチャンスを与えた。

それこそ事情次第ではジュエルシードを渡しても良いと思ってたのにな。

その辺のチャンスをフイにしたのは他ならぬこの子だ。

こりゃ長期戦も覚悟しとかねぇとなと思いつつ、俺はエニグマの紙からサンジェルマンのサンドイッチを取り出す。

美味しい出来たてで保存したカツサンドとフルーツサンドイッチのコラボ。

冷え冷えのオレンジジュースもセットだ。

ちぃとばかし動いて小腹が空いた事だし、いただきま――。

 

ぐぅ~~~ッ。

 

「……は?」

 

思いの外デカイ音だったので最初は判らなかったが、今のは腹の虫ってヤツだ。

一応言っとくが、今のは俺の腹が鳴った音じゃねぇ。

という事は、その腹の音の発生源って――。

 

「……はぅ」

 

この部屋で起きてる俺か少女の二択、そして俺じゃねえから、この子しかいねぇよ。

呆然とした様子で彼女を見ると、彼女は俺の視線に気付いて目を逸らした。

多分首もそっぽを向きたいだろうが、クラフト・ワークの能力で固定されてるからそれは無理。

だから目線以外はそのままな訳で、頬が赤いのも隠せてない。

……えっと。

 

「……正直に話してくれるんなら、コレ、お前さんにやろうか?」

 

「………………い、いらなぃ……です……」

 

葛藤長いな。

 

ぐぅ~~~~~~~~ッ。

 

腹の虫長ッ。

 

「……うぅ」

 

遂には恥ずかしさから顔全体を真っ赤にして唸るフェイト。

心なしか目尻にじんわりと涙が滲み出てた。

オイ、これじゃまるで俺が苛めて泣かせたみてーじゃねぇか。

 

「……ハァ……クラフト・ワーク。固定を解除しろ」

 

もうなんか色々と脱力してきた俺は彼女に掛けてた固定を解除させる。

それと共に身体の自由が戻ったのを感じたのか、彼女はゆっくりと身体を起こした。

ただ、俺を見る瞳は困惑してる様だがな。

 

「あ、あの……どうして……」

 

行き成り自由の身にされた意味が判らず、彼女は俺に疑問をぶつけてくるが、俺は答えない。

その代わりに、サンドイッチの乗った皿を彼女の前に差し出す。

 

「え、えっと……私、話すなんて言ってないです……」

 

「良いから食え。もう話さなくても良いから取り敢えず食っとけ……なんか警戒すんのもアホらしくなってきた」

 

あの戦闘中に見せてた凛とした雰囲気は何処行ったんだよ?

これじゃあまるで普通の女の子じゃねぇか。

俺は片手でサンドイッチの乗った皿を差し出しながら、もう片手で目元を覆ってヤレヤレって首を振る。

暫くそうして皿を差し出していると、フェイトは更にオズオズと手を伸ばしてカツサンドを取ってくれた。

 

「……」

 

「どうしたよ?別に毒なんざ入ってねぇぞ?」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

だが、何故かフェイトは直ぐに食べようとせず、何故か俺とサンドイッチを見比べて視線を行ったり来たりさせている。

一体何だ?もしかしてカツサンド事態食べるの初めてってワケじゃ……んなワケねぇよな?

心の片隅に一抹の不安が残るもそのまま見守っていると、フェイトはカツサンドを真ん中から半分に千切り……。

 

「あの……こ、これ」

 

オズオズと俺に千切った半分を差し出してきた……え?まさか……。

 

「俺にくれんのか?」

 

「(コクコク)……元々は、君が食べるつもりだったんでしょ?」

 

「まぁ、そうだが」

 

「だ、だから、全部貰うのは悪いし……で、でも、私も少し……欲しいかなって」

 

ベットに腰掛けながら上目遣いで俺に理由を話すフェイト。

その表情は、さっきまでの戦闘で見せてたクールな表情は微塵も残ってない。

ただ人の事を考えて行動する、優しい女の子そのものだ。

俺はその変わりように驚いてるけど、まぁこの子がそれで良いなら良いか、と思い直す。

別にコイツがどう考えても知ったこっちゃねぇしな。

 

「分かった。そんじゃ、半分は貰うぜ?残りの半分はお前が食いな」

 

「ッ!?……う、うん……分けてくれて、ありがとう」

 

「別に良いからサッサと食えって。早くしねぇと旨味が逃げちまうからよ……モグッ」

 

とりあえず受け取らない事には話しが進まないと感じ、俺は彼女の手から半分のカツサンドを分けて貰う。

俺の言葉を聞いたフェイトはというと、嬉しそうに目を輝かせて首を何回も縦に振っていた。

……騙され易いっていうか、純粋っていうか、天然っていうか……将来が不安な奴だな。

今より成長しても「飴あげるから着いておいで?」っていう古典的な誘拐に掛かりそうな気がしてならねぇ。

あれ?そう考えるとコイツ放っておくのもマズくね?

主に気付いたのに何もしなかった的な意味合いで。

……その事は心の端っこにでも投げ捨てて、今は飯を食おう。

色々と面倒くさい考えを捨てて、俺は手に持ったカツサンドを豪快に齧る。

ジュワっと染み出る肉汁、酸味の効いたソース、そしてサクサクの衣が堪らんです。

 

「……美味しい」

 

俺と同じ様にカツサンドを頬張って、フェイトも目を輝かせる。

まぁ美味いのは当たり前だ。

 

「コイツは俺が朝早くに並んで買った出来たての品だからな。カツの衣も揚げたてでサクサクだろ?」

 

「うん……とっても、暖かい……あれ?」

 

「ん?どうした?」

 

何か変なモノでも入ってたのか、美味しそうに食べてたフェイトが疑問の声を漏らす。

その声に従ってソチラを向いてみると、フェイトは何やら不思議そうな顔で俺とカツサンドを見比べてる。

今度は一体何だっての?

 

「え?あれ?……こんな時間まで出来たてのまま?……そ、それよりさっき、このサンドイッチを紙の中から……えぇっ!?」

 

「気付くの遅くね?」

 

え?何?今まで気付いてなかったのこの子?

天然記念物並の天然さだなオイ……あれか?やっぱそれが素なんだな?

それとも腹ペコ過ぎて目に入らなかったとか?

このサンドイッチが色々と普通では無い事に今更ながら気付いたのか、フェイトは驚き慌て始める。

俺はその慌てようを見ながらカツサンドをゆっくりと咀嚼して、口の中を空にした。

 

「アレはまぁ、あれだ。マジックっていうか……手品の一種だ」

 

嘘です。俺は今、無垢な少女に大嘘こいてます。

でもまぁ、この子にスタンドの事話す必要性は無いしな。

出来れば引っ掛かってくれるとありがたい。

 

「そ、そうなんだ。この世界の手品って、凄いね」

 

信じてる、メッチャ信じてるよ。

コラコラそんな屈託の無い笑顔と輝く様な瞳で俺を見るのヤメ。

色々と嘘吐いてる俺の心が苦しくて仕方ねぇから。

っていうかコイツ今自分でこの世界のとか言っちゃってるよ、隠す気ゼロだよ。

かといって種を明かす気にもならないので、俺は苦笑でその場を乗り切る他無かった。

っていうか、何で俺は襲ってきた奴と和やかに飯食ってんだ?おかしくね?

 

「……う、うぅん?……はっ!?フ、フェイトッ!?何処に居――ぐッ!?な、何で動かないんだよッ!?」

 

「アルフッ。気が付いて良かった……大丈夫?」

 

「ア、アタシは何とか平気だけど、フェイトは大丈夫なの?そ、それにこの部屋は何処なんだい?」

 

と、この状況がおかしいなと感じていた俺の耳に、もう1人の珍客の声が流れ込んでくる。

どうやらあのネーチャンも起きた様だな。

アルフと呼ばれた彼女は、とりあえず自分の相方が無事なのが分かって少し安堵する。

しかしそれ以外にもこの部屋が何処で、自分達はどうなったのかが判らないらしい。

まぁ起きたら知らない部屋IN自分な上に体の自由が聞かないとあっちゃ仕方ねぇよな。

さて、和やかタイムは終わりにして……お話しタイムとしようか。

自分の体が動かず困惑の声を上げるオネーチャンの元へ、俺は緩やかに動く。

 

「よぉ、ご気分は如何だ?」

 

「ッ!?……アンタの面見たら気分悪くなってきたよ」

 

「そりゃ結構。心配しなくとも、聞く事聞いたら直ぐにでも俺の面なんか忘れさせてやる」

 

俺の顔を見た瞬間に不機嫌MAXな表情になるアルフに、俺はニヤリと笑って皮肉を返す。

ちょうどフェイトって子もカツサンド食い終えたみてーだし、ササッと面倒事は終わらせよう。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

「……もう君を攻撃したりしないから……バルディッシュを返して下さい……アルフの治療をさせて……お願いします」

 

「フ、フェイトッ!?アタシなら大丈夫だから、こんなヤツに頭下げる事なんか無いってッ!!」

 

さぁ、これから事情聴取に入ろうと思った矢先、フェイトは俺に縋る様な視線を向けてバルディッシュを返してくれとせがんできた。

しかも俺の事を真っ直ぐ見ながら、丁寧に90度のお辞儀をして、だ。

現在、アルフの体はクレイジーダイヤモンドのラッシュのダメージで結構ボロボロになってる。

ここまで連れてきても、一切治療してなかったからな……しっかし。

俺はアルフのダメージを見た後で、もう1度フェイトを見るが、彼女はさっきから頭を下げた体勢から動いていなかった。

このアルフって女の人の怪我を治したいからっつってけど……何だ、ちゃんと礼儀正しいトコあんじゃねぇか。

 

「悪いがそりゃ無理な相談だ。少なくともいきなり攻撃してきた奴の言う事を「ハイそーですか」と信じるほど、俺は人間出来てねぇ」

 

でも、俺はこのお願いを聞くって選択肢は無い。

もしこれが不意打ちだったりしたら、俺は大丈夫でも家がブッ壊れかねねぇからな。

クレイジー・ダイヤモンドで直す事は簡単だが、それをご近所さんに見られでもしたら、俺達はこの辺に住めなくなる。

どんなに礼儀正しくお願いされても、この子に攻撃手段を渡すわけにゃいかねぇんだ。

 

「ッ……」

 

「ま、待っておくれよッ!?攻撃したのはアタシであって、フェイトじゃないだろッ!?ア、アタシならどうなっても構わないから、これ以上フェイトに手を出さないでよッ!!」

 

俺が2人をどうにかしようとしてるって捉えたんだろう。

俺の拒否の言葉を聞いたフェイトは頭を下げた体勢で肩を震わしてしまう。

更にベットに固定されてるアルフも、フェイトの身柄の安全を得ようと自分の身柄を差し出してきた。

しかし、そのアルフの提案を今度は顔を上げたフェイトが首を横に振る事で没の意を示す。

 

「駄目だよ、アルフ……私1人が助かっても、嬉しくないから……そんな事言っちゃ駄目」

 

「フ……フェイトぉ……ゴメンよ。アタシが弱いばっかりに……」

 

「泣かないで、アルフは何も悪くな「テメエ等何を勘違いしてんだ?」……え?」

 

何やらいきなり目の前で始まったお涙頂戴的な場面に、俺は割り込んで待ったを掛ける。

っつうか、何で俺がお前等をどうのこうのするって方向で話しが進んでるワケ?

これじゃ俺の立ち位置が真の悪役じゃねぇかよ。

キョトンとした顔で「何を言ってるの?」って顔をする2人に、俺の頬がピクピクと引き攣る。

俺からしたら寧ろお前等が「何言ってんの?」って話しだっての。

怒る心を抑えつつ、俺は2人に向かって口を開いた。

 

「俺が無理だっつったのは武器を返す事であって、他は無理だなんて言ってねぇよ」

 

「で、でも、私はバルディッシュが無いと治療が……」

 

「だから、治療は俺が代わりにやってやるよ……固定、解除」

 

ちゃんと礼儀正しく俺にお願いしてきたし、この子は多分本当に俺を攻撃したりしないだろう。

まぁだからと言って簡単に信じるのは俺の心が拒否してるから、治療を代わりにやるだけだ。

俺の能力を見せる危険と、家が崩壊する危険、どっちかなんて選ぶまでも無い。

俺は不安そうに俺を見てくるフェイトから視線を外し、アルフに掛けていた固定を解除する。

急に動ける様になって戸惑うアルフだが、俺はそれには構わずにクレイジーダイヤモンドでアルフの傷を治してやった。

 

「へ?な、何だよコレッ!?」

 

「き、傷が……ッ!?」

 

体の傷がスッカリと消えてしまうという現象に驚く二人。

まぁ行き成り体が治ってくとなりゃ、そういう反応が普通だな。

暫くして慌てていた状態から元の態度に戻ると、アルフは自分の体を動かして具合を確かめだす。

オイオイ、俺の部屋であんま動き回るんじゃねぇよ。

 

「すっご……すっごく調子が良い……何時もより動ける気がする」

 

「……君は……その力は、一体何?」

 

体中のパワーが溢れているって感じで呟くアルフの顔は、未だに呆然としている。

まるで自分の体じゃ無いみたいに良く動く、とまで言い出すではないか。

一方でアルフの傍に居たフェイトは、呆然と呟きながら俺の事を驚愕って顔で見ていた。

そんな驚きに包まれた二人に視線を移しつつ、俺は言葉を紡いだ。

 

「悪いが、俺の事は何も教えるつもりはねぇ……だがまぁ、お2人には色々と話してもらわねぇと(ぐ~~~ッ)……ハァ……あれじゃ足りなかったのか?存外大食いなんだな、お嬢ちゃんって」

 

「……え?……ふぇッ!?ち、違うよッ!?い、今のは、わ、わわ、私じゃ……ッ!?」

 

さぁコレからシリアスな話しをしようかーってトコで雰囲気をブチ壊す腹の虫、再登場。

ディオ様並のしつこさですね、腹の虫さん。

その発生源であろうフェイトに呆れを含みまくった視線を向ければ、彼女は赤面して違うと否定する。

しかも首を高速で横に振りながら、だ。

っつうか、フェイトって子じゃ無いとすれば……。

 

「(ぐ~~~~~ッ)……ゴクンッ」

 

アンタかよオネーサン。

もしやと思って目を向けた先のアルフは、何やら涎全開で俺の後ろに視線を向けていた。

その視線を辿って後ろを振り返れば、そこにはまだ手を付けてないサンジェルマンのフルーツサンドが……ったく。

コイツ等は2人揃って常時腹ペコキャラでいく気かよ。

同じ様な行動を起こす二人に対してジト目を向けながら、俺はそのフルーツサンドをアルフの前に差し出す。

 

「ゴクッ……い、良いのかい?」

 

「あぁ、もー好きにしてくれ……ただし」

 

今にも飛びかかりそうなアルフに声を掛けつつ、俺は2つあるサンドイッチの内1つを取って、フェイトに差し出す。

 

「もうコレしかねぇから、2人で分けて食え」

 

「そ、そんな。君に悪いよ……」

 

「良いから食え。ただ、食う代わりに腹の虫を収めてくれ、頼むから」

 

もう持ってるのが面倒くさいと感じ、俺はフルーツサンドをフェイトの手に押し付ける。

俺が手を離せばフェイトが持つしか無い訳で、彼女は「ありがとう」と一言呟いてからサンドイッチを食べた。

何故かアルフの方は「し、しょうがないなぁ。怪我させた分はこれでチャラにしとくよッ!!」とか言ってる。

おかしい、一方的に襲われたのは俺だよな?

人を暴漢魔みてーに言うんじゃねーよ、人聞きの悪い。

何だかなぁという脱力した気分でアルフを見ていた俺だったが……。

 

「ん~♪こりゃ美味いねぇ(ピョコン)ありゃ?……美味しすぎて『耳』が出てきちゃったよ」

 

本来、両耳がある筈の部分からピョコンと顔を出した『獣耳』を見て、言葉を失う。

アルフは何か「失敗♪失敗♪」ってお気楽に言ってるけど……えぇ~?

 

「……何だ、その耳?」

 

思わず疑問を口に出してしまったが、アルフは俺の疑問の声に「へ?」と声を漏らすと……。

 

「何だって言われても……アタシは人間じゃないしねぇ」

 

「あっ。アルフは私の『使い魔』なんです」

 

いや、そんな簡単に衝撃的な事実を述べられても困るんですが?

っつうかフェイトという少女よ?何故お前さんはそんな誇らしげに胸を張ってる?

……何か話し聞くのが面倒くさくなってきた……トラブルぇ……。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「えっと、ご飯ありがとうございます……私はフェイト・テスタロッサっていいます」

 

「アタシはフェイトの使い魔、狼のアルフだよ……サンドイッチもう少しくれない?」

 

「……ジョジョ、とでも呼んでくれ。後アルフとやら、厚かましいぞテメエ?元は攻撃した側とされた側なんだからな?」

 

「ちぇー、良いじゃんかよー、そんな昔の事はさぁー。器がちっちゃいぞぉ、ジョジョー?」

 

ホンの数十分前の事なんだが?ヤベエもっぺんラッシュを叩きこんでやりてぇ。

現在、2人の腹ペコ娘達にサンドイッチの殆どを取られて、俺はちょっと意気消沈してます。

っていうか何でオメエ等は和やかに自己紹介してくるワケ?

もっとこう、殺伐とした話し合いならぬ牽制のし合いになると踏んでた俺の覚悟はどうしてくれる?

 

「取り敢えずテスタロッサだっけか?俺はお前に色々と答えてもらわなきゃなんねぇ。答えられなかったら、俺はまた別の方法でもお前に聞く事も出来る……お前の意志関係無しに……な?」

 

話の方向性を戻すために敢えて厳しい言葉で話せば、2人の雰囲気も幾分か鋭くなってきた。

ここでコイツ等の目的を聞いて……理由次第では答えも変わる。

その見極めの為にも、ここで引くワケにゃいかねぇ……何でこんな事やってんだか。

 

「……質問によっては、答えます」

 

「良いのかい、フェイト?」

 

すると、テスタロッサは最初よりも大分妥協した答えを出してくれた。

まぁ少しは心を許されたのかも知れねぇ。

隣に座るアルフが窺う様に質問すると、テスタロッサは一つ頷く。

 

「デバイスの無い私とアルフの力で、彼……ジョジョには勝てないと思うし……アルフの怪我を治してくれた事、ご飯をくれた事……彼には恩が沢山あるから」

 

「律儀なモンだ……まっ、兎に角話し合いが進められそうで良かったぜ……じゃあ早速聞くが、まずジュエルシードの事を何処で知った?」

 

俺はテスタロッサに質問をしつつ、心を読む『アトゥム』のスタンドを呼び出した。

コイツは相手の『魂』の状態を光子暗視装置の様に見る事が出来る。

どんだけ嘘つきな人間だろうと、『魂』までは嘘をつけない。

YESか?NOか?質問をする事でドッチなにかが判別出来る。

騙してる様で気が引けるが……ヘブンズ・ドアーで直接覗かないだけ、まだマシだろ。

 

「……言えません」

 

最初の質問に早速苦い顔をするテスタロッサ。

この時点では、まだアトゥムは心を読む事が出来ない。

質問がYES,NOじゃないからな。

なら少し質問の中身を切り込んで……。

 

「つまり、お前が自分で知ったワケじゃねぇと?」

 

「……それも言えません」

 

『YES!YES!YES!』

 

アトゥムの返事はYES、って事は、テスタロッサにこの事を教えた人間が居るって事か。

 

「ジュエルシードはお前が個人的に欲しいのか?」

 

「……いいえ」

 

『NO!NO!NO!』

 

今度はNO、つまりテスタロッサ個人にはジュエルシードを使うって気は無い。

叶えたい願いが無いのに集めてるのか?

 

「ジュエルシードは願いを叶える宝石らしーけど、お前には何か叶えたい願いが?」

 

「……ジュエルシードで叶えるつもりはありません」

 

『YES!YES!YES!』

 

ココも嘘はついてねぇ……つまり。

 

「誰かに頼まれたのか?ジュエルシードを集めて来いって」

 

「…………それは」

 

『YES!YES!YES!』

 

確定だな……コイツ自身にジュエルシードを使うつもりは無し。

だが誰かに頼まれたので集めてるって事になる。

しかし、この子が普通に優しい子だからと言って、そんな簡単にこんな危険物を集めたりするか?

相馬の情報通りなら、これは管理局(警察)が管理する、所謂ヤバイ代物だ。

法的に引っ掛かる完全に個人所有の許されないマジックアイテム。

まず年上とかに頼まれてもやらねぇだろう。

逆にソイツ自身で取りに行けよって話になる筈だ。

つまり、この優しい子が危険を冒してまでジュエルシードを集める理由があるとすれば――。

 

「……家族のモンに頼まれたか?」

 

「ッ!?……い、言えません」

 

『YES!YES!YES!』

 

それは『身近な人間』か『命に変えられる程大切な人』って事になる。

今のテスタロッサの答えが『大切な誰か』を庇った良い証拠だ。

俺の突っ込んだ質問に心が揺さぶられたんだろう。

テスタロッサは、なるべくバレない様に振る舞おうとして、逆に挙動不審になってる。

生憎、大体の事情は掴めてるんだが。

 

「続けるぜ……ジュエルシードを地球で使うつもりか?」

 

「ち、違うと思います」

 

『YES!YES!YES!』

 

「思う?そりゃつまり、お前さん自身はジュエルシードを何に使うのか知らされてねぇって事で良いんだな?」

 

「え、えっと、その……」

 

『YES!YES!YES!』

 

俺の畳み掛ける質問の嵐に、テスタロッサは碌な受け答えも出来ずオロオロする。

まぁ、アトゥムがしっかり見抜いてるから構わねぇが。

しかし……これってつまり、この子は何も知らされずにこんなブツを集めさせられてるってのかよ。

家族のモンが何も教えずにこんな小さな子を異世界に放り出す……異常だな。

だがこれで頼んだのが、『兄妹』っていう線は消えたな。

もし兄妹なら、ソイツとテスタロッサの『両親』がそれを止める筈だ。

ならテスタロッサにこんな事をさせてんのは……コイツの『親』、なのか?

 

「……お前とアルフ。その2人以外にこの地球には来てるのか?」

 

「き、来てません」

 

『YES!YES!YES!』

 

たった2人だけで異世界に放り出すとか……マジで親は何やってんだよ、ったく。

俺はテスタロッサへの『質問』で得た答えが最悪過ぎて後ろ髪をガリガリと掻いて舌打ちする。

そんな俺の苛立たしげな様子を見たテスタロッサが何故か気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「あぁ、気にすんな。別にお前に怒ってるワケじゃねぇ」

 

「う、うん……あの……私からも聞いて良いですか?」

 

「俺への質問は受け付けねえつった筈だが?」

 

「ひ、一つだけで良いんです……お願いします」

 

「……ハァ、しゃーねぇ……一つだけだぜ?」

 

以外にも頑固に折れず俺に懇願の瞳を向けてくるテスタロッサ。

その熱意に負けて、俺は一つだけ質問を許してしまう。

俺からのOKをもぎ取ったテスタロッサは表情を輝かせると、直ぐに真剣な表情を浮かべる。

 

「……私達は、君を攻撃したのに……何で、ここまで優しく対応してくれるの?」

 

「ん?……そりゃどーいう意味だ?」

 

「君からしたら、私とアルフはいきなり襲い掛かった人間……普通なら、質問でも殴るとか蹴るっていう行為をする筈……何で?」

 

「お嬢ちゃんから見たら俺はどう見えてんの?」

 

もうね、ドン引きだよ?その考えが浮かぶって時点で。

え?この子って俺と同じくらいだよな?

何でそんな年の子が殴る蹴るの質問だなんて考えが浮かぶんだよ、親どんな教育してんの?

真剣な顔でそんな事聞いてくるから思わず頬がヒクついてしまったぜ。

 

「さすがにそこまでする根性は、俺にはねぇよ……ただ、俺は面倒事が大嫌いだからな……テスタロッサを必要以上に痛めつけて、誰かの反感買う様な面倒くせえ事態になるのが嫌なだけだ」

 

「……」

 

俺の言葉を全部信用したワケじゃねぇみてーだが、とりあえずテスタロッサは何も言ってこなかった。

ただまぁ、半分以上は本音だがな?

ここでテスタロッサとアルフを完膚なきまで再起不能にして、後々話が拗れるのが嫌だな。

 

「……最後の質問だ…………その『背中の傷』は誰に付けられた?」

 

「ッ!!?」

 

俺が出した最後の質問に、テスタロッサは目を見開いて驚きを顕にする。

見れば隣で大人しく話を聞いていたアルフの顔が怒りに染まっていた。

しかしソレは俺に対してではなく、誰か別の相手に対する怒りっぽい。

そう、俺がずっと気になってたのは、テスタロッサの背中に刻まれた無数の傷跡の事だ。

最初は俺が付けた傷かと思ったが、俺がテスタロッサに繰り出した攻撃はシルバーチャリオッツの剣戟と、チリ・ペッパーの首絞めだけ。

背中への攻撃は一切行っちゃいねぇから、俺という線は除外。

しかも――。

 

「ミミズ腫れの線が無数に……鞭みてぇなモンで付けられた傷だな?しかも古いモノもある」

 

「あ……あ……」

 

背中の傷の殆どは最近付けられた傷だが、幾つか治療されずに残った傷もある。

こんな痛々しい傷があるってのに治療されてねぇって事は……ん?

 

「あ……あぅぅ……ッ!?」

 

何やらテスタロッサの様子が可笑しい。

何故か俺を見たまま顔を真っ赤に染めて、プルプルと震えているではないか。

しかも目尻に涙が少しづつ蓄えられて……。

 

「わ、わわ……私の服……脱がし、たの?」

 

あっ。コイツ勘違いしてるわ、しかも結構ヤバメな方向に。

何を震えてるかと思えば、どうやらテスタロッサは自分が気絶してる間に服を脱がされたと思ってる様だ。

……俺、結構マジメに話してたつもりなんだがなぁ……気にするのはそっちかよ。

 

「違えよ。お前をベットに運んだ時に服の隙間からチラッと見えたんだ。何で俺がお前の服を脱がさにゃならねぇんだよ」

 

「……ホント?」

 

ホントだっつうに。

 

「そ、そうだったんだ…………ホッ」

 

俺が彼女の質問を肯定する様に首を縦に振ると、テスタロッサは心から安堵してた。

話が脱線し過ぎて中々進まねぇ件について……ハァ……もういいや。

そろそろ母ちゃんと父ちゃんが帰ってくる時間だし、コイツ等にゃお帰り願おう。

俺は懐からエニグマに保存していたバルディッシュを取り出し、テスタロッサに差し出した。

 

「バルディッシュ……大丈夫?」

 

『I'm sorry, it is Sir. In the middle of a fight, all functions have been stopped by a mysterious program(申し訳ありません、サー。戦いの最中、謎のプログラムに全機能を停止させられてしまいました)』

 

「そうだったんだ。今はもう平気なの?」

 

『Do not have any problem. I operate in all function normalcy(問題ありません。全機能正常に作動してます)』

 

「良かった……」

 

俺が手渡してやったデバイス……相棒とでも言うべき存在を、テスタロッサは大事に撫でている。

まぁ、チリ・ペッパーで中の制御を掌握してたのはあの時だけだし、問題ねぇだろ。

おっと、『もう一つ』渡すのを忘れてたな。

 

「ほらっ。これも要るんだろ?」

 

「え?」

 

俺の言葉に疑問の声を上げたテスタロッサだが、俺の手の中にあるモノを見た瞬間、目を見開く。

そのまま俺の顔を見上げてくるが、彼女の目は「信じられない」と言ってる様に見える。

そんなに驚く事か?たかが『ジュエルシード』一個で?

ふとテスタロッサの隣に居たアルフに視線を向けると、アルフも驚きに目を見開いてる。

 

「な、何で?……君は、ジュエルシードを集めてるって……」

 

「は?俺が何時ンな事言ったよ?」

 

俺はダチのダチに返さないとって言っただけですが?

一言として自分の為に集めてるなんて言ってねぇからな。

 

「で、でも……」

 

「俺がコレを探してたのは、俺の町にコレがあったら、俺のダチや家族がコレの所為で傷つく可能性があったからだ」

 

戸惑うテスタロッサに押し付ける様にして、俺はジュエルシードを手渡す。

そう、別に俺としてはこのジュエルシードを俺の町から持ちだしてくれんなら誰でも良いんだ。

ホントは相馬に渡すのが筋だろうけど……1人で頑張ってる奴に渡すのも悪くねぇかなって思っちまった。

しかも俺の予想が正しけりゃ、この子はジュエルシードを集めねぇと、また『傷付けられる』。

出来れば外れてて欲しいけどな、こんな胸糞悪い予想なんざ。

テスタロッサは受け取ったジュエルシードを数秒ほど見つめてからバルディッシュの中に納め、俺に屈託の無い笑顔を向けてくる。

 

「ありがとう……ッ!!渡してくれて……」

 

「礼は要らねぇ。その代わり、ジュエルシードを地球から持ち出すって約束してくれよ?」

 

「うん……約束するよ」

 

「ならそれで良い……それと」

 

俺はテスタロッサの肩に直接触れてクレイジー・ダイヤモンドの能力を発現させる。

彼女の負っている怪我、痛みを全て余すこと無く治してやった。

古傷だろーがなんだろーが関係ねぇ……全部治して戻せるぜ。

 

「……これはサービスだ。それと、俺の力の事は誰にも喋らないでくれよ?」

 

「……う、うん……ありがとう」

 

「アンタ……意外に良い奴じゃん」

 

意外は余計だ意外は。もいっぱつラッシュかましたろか?

ジュエルシードどころか、自分の怪我まで治してもらったテスタロッサはどんな言葉を返して良いのか判らない様だ。

アルフの方はなんかサッパリとした性格故か、笑顔でお礼を言ってくれた。

うん、そっちの方がさっぱりしてて良いな。

ソコからテスタロッサとアルフは転移魔法とやらで部屋から消えて、自分達の住処へ帰っていった。

ホントならヘブンズ・ドアーで記憶を消したい所だが……テスタロッサを傷つけてる奴が何を考えてるのかが気になる。

テスタロッサには何も教えずにジュエルシードを集めさせて、更にそのテスタロッサを痛めつけるという異常な行動。

これが俺らの住む町にどういう影響を及ぼすのかはわからねぇが……一個だけ判る事がある。

 

「どう転ぼうとも、確実に何かデッケエ面倒事が起きる……嫌な予感程当たるんだよなぁ、俺って」

 

一応、俺も表舞台に巻き込まれる可能性があるって事だけは覚えといた方が良いのかも知れねぇ。

 





フェイトヒロイン化を促進する皆様へ。

楽逝の方でメインヒロイン張ってますし、そちらで勘弁して下しあ。

……と、思ってたけどここで分岐点。


まだここからなら普通のお友達ポジに移行可能。

それでもフェイトヒロイン化を推して止まない方々は……。





部屋でジョジョ立ちをしつつお母さんの前で「勝てばよかろうなのだぁあッ!!」\(^o^)/とカーズ様台詞を言いつつ、全裸待機。





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本物の長方形はこれで良(ry

ネタが纏まらない……そして投票とプッチ神父のお告げの結果……。


フェイトそんはヒロイン枠から外しました。

あれだけ多くの希望者が居たにも関わらず、反対派もそれを上回るレベルで居た。

m(_ _)m、謝りますから……。

アリサ達3人を出来るだけ可愛く書きますからオラオラは勘弁して下さいぃぃ!?




「さぁ皆さん。今日は4年生の皆さんと一緒に、自然の風景を書いて見ましょう。準備はちゃんとしてきましたかー?」

 

『『はーい!!』』

 

先生の号令に従って、俺達は元気良く返事を返す。

ただまぁ、俺は元が中学生って事もあって少し恥ずかしいが我慢する。

1人だけノリが悪いとか言われんのもヤダしなぁ。

 

「はい。それじゃあ皆さん。風景を書ける場所は学校の裏側にある斜面の場所ですので、そこからは出ない様にして下さいねー。先生達もちゃんと見回りますから、他の場所へ行かないように」

 

昇降口の前で画板と鉛筆、そして絵の具セットを持って整列してる俺達に、先生達は注意事項を話していく。

ウチのクラスは腕白が多いけど、先生の言う事はキチンと守るので、特に問題はねぇだろ。

あの金髪腹ペコ魔導師とその使い魔の腹ペコ狼に出会ってから早3日。

いま俺は学校の美術、というか図画工作の授業で3、4年生合同で行われる写生授業の真っ最中だ。

実はウチの学校(海鳴第一)と第二小学校には一学年全部でクラスが3クラス程しかない。

都会ほど多くなく、田舎より少なくないって程度だ。

その所為なのかは知らないが、他の学校でやる様な写生大会というモノは無い。

授業の日程に盛り込まれていて、1、2年、3、4年、そして5、6年という変則的な合同授業でそれを消化する。

何故学年別じゃ無いのかと言えば、下級生は上級生の絵の書き方を見て学び。

上級生は下級生の柔軟な発想力から何かを得られる様にという配慮らしい。

後は他学年同士の交流を深めて、1つ学年が上だからという理由での壁や遠慮を出来るだけ無くすのも目的だそうだ。

ちなみに何で俺がそんな難しい事を知ってるかというと……。

 

「ジョジョ。私はあそこのオオアラセイトウが咲いてる場所にしたいんだけど?」

 

「俺は別に何処でも構わねぇぞ?特に拘りはねぇし、先輩に任せるさ」

 

「……貴方にそう呼ばれるのは好きじゃないわ。まるで壁があるように感じるもの」

 

「悪い悪い。そんじゃアリサ。そこへ行こうぜ」

 

この学校一、いや下手したら聖祥でもNO,1になれるであろう天才少女のアリサ・ローウェル、通称リサリサが教えてくれたからだ。

俺はアリサの呼びかけに適当に返事しつつ、先輩呼びで機嫌が悪くなったアリサに謝罪する。

ちゃんと謝罪するとそこまで怒ってなかったのか、アリサはすんなりと俺を許してくれた。

 

「えぇ。先輩なんて他人行儀じゃなくて、是非そう呼んでちょうだい。若しくはリサリサってね♪……それじゃあ行きましょうか、ジョジョ♪」

 

改めて愛称を呼んだ事でリサリサは笑顔を俺に向けて軽い足取りで歩き出す。

向かう先はリサリサのリクエストした日陰のある書きやすそうな場所だ。

 

「……それにしても、今日は良い天気ね。絶好の写生日和だわ」

 

「確かに天気は良いけどよぉ……ふぁ……こうもポカポカしてちゃ、眠くて仕方ねぇや」

 

「ふふ。お昼ご飯を食べた後だから尚更ね」

 

俺が欠伸しながら愚痴を零すと、アリサは可笑しそうに笑いながら相槌を入れてくれる。

今日はこの写生の授業が最後の日程なワケだが、空は雲が少しあるだけで、柔らかな日差しが眠気を誘う。

染み込む様なこの眠気に最後まで耐え切れるかって聞かれると、正直俺は自信が無い。

とはいえ、寝ていて書けませんでしたじゃまた別の日に居残り喰らう羽目になるから頑張るしかねぇ。

それに、今回の写生授業で俺にはもう一つ別に目的があるからな。

その目的を達成するには、この授業を受けるのが必須なんだ。

 

「さて、じゃあこの辺りにしましょうか。日の光もそんなにキツくないし」

 

「ん?そうだな……じゃあココに座るとすっか」

 

と、考え事をしてる間に目的の場所に到着し、俺とアリサは被写体の目の前に陣取る。

ここらは特に他の生徒も居ないし、集中してやるにはもってこいだな。

俺等は先生に事前に持ってくる様に言われてた敷物をしいてその上に腰を下ろす。

さぁいよいよ下書きに入ろうと思い、俺達は画板に挟んだ画用紙に下書きを始める。

被写体は花と、その横に生えている樹木。

その被写体の状態を目測で確認しながら、俺は鉛筆をサラサラっと走らせていく。

 

「……へぇ。余りこういった事には興味が無さそうに見えたけど、貴方普通に上手いじゃない?」

 

俺の下書きを見ながら、横からアリサが顔を覗かせてきた。

彼女の表情は純粋に俺の絵を褒めてくれてるのか、楽しそうな笑顔になっている。

俺もそんな風に言われて嬉しい気持ちを持ちながら、彼女の絵に目を向けた。

アリサの画用紙にはまだ余り鉛筆の跡が奔っていないが、それでも普通に上手いと思う。

 

「アリサの方こそ上手いじゃねぇか?凄く繊細って感じがするぞ」

 

「そう?私はそんなに絵を書いた事が無いから、上手いかどうかなんて考えた事も無かったわ」

 

「あんまり書いた事がねぇのにその画力ってのはトンデモねぇと思うが?俺はこれでも結構絵の練習したからな」

 

主に岸辺露伴に追い着きたいっていう野心の元に。

今はまだまだでも、いずれはベタ塗りをインクを飛ばす技のみで出来る様になりてぇな。

アリサに言葉を返しながらも手は止めず、俺は風景を書きながら自然の中に存在する『定規(スケール)』を探していく。

そう、今回の写生授業での俺の目的は、『黄金長方形』を自分の目で感じ取る事だ。

 

 

 

――『黄金長方形』

 

 

 

それは凡そ9対16の比になっている長方形の事を指す。

正確には1:1,618の黄金率の事を言う。

その長方形の中に更に正方形を作ると残った長方形もまた、凡そ9対16の黄金長方形となる。

更に、その中に正方形を作れば、残りも黄金長方形。

それを繰り返して更に更にと作り続ける。

その正方形の中心点を線で結べば、それは無限に続く『渦巻き』が描かれる。

その渦巻きこそ、ジャイロ・ツェペリの先祖が伝えてきた『黄金の回転』の軌跡。

この通りに鉄球やジョニィ・ジョースターのスタンドである『(タスク)』の爪を回転させると、そこには無限に続く力が生まれる。

そしてこの黄金長方形とは、ツェペリ一族や芸術家達が自然物の中に内包されている事を発見した定義。

深い観察から、芸術家やツェペリ一族が学んだモノと同じスケール。

それに気づかない限り、俺はタスクをACT1から成長させる事が出来ない。

同じ様に、俺はまだ鉄球を黄金長方形の軌跡で回転される事は無理だ。

だから俺は今まで何度も黄金長方形のスケールを探すために、暇があれば自然に目を向けている。

しかし暇だからと目を向けたぐらいでは、自然は答えてくれなかった。

だから今回こそはと、俺は写生に真剣に取り組む事で黄金長方形を発見しようとしてる。

 

「LESSON4『敬意を払え』、か……しっかり見とかねぇと駄目ってワケだ」

 

「え?……LESSON4があるの?私やすずか達はLESSON3で終わりじゃ……」

 

「ん?……あぁいや、お前等はちゃんとLESSONを終えてる。コレは俺だけのLESSONなんだよ」

 

俺の言葉に反応したアリサにそう返しつつ、俺は深く集中して自然に目を向ける。

集中……集中だ……一つ一つの絵を書く為に、目の前を深く観察しろ。

 

「そうなの……何か私に手伝える事はある?」

 

「あ~……悪いが、コレは俺が自分で見つけねぇと駄目なんだ」

 

「見つける?何かを探してるって事?」

 

「あぁ……まぁ、自然が持つスケールってトコだな」

 

俺がそう言うと、アリサは何かを考える様に静かに唸り始めた。

まぁ俺の探してる物の事なんて分かんねえよな。

 

「スケール……自然……もしかして、黄金比の事を言ってるのかしら?極稀に自然界に存在すると言われてる、天然の定規(スケール)?」

 

「アリサお前マジでどんだけ頭良いんだよ?」

 

予想外過ぎる答えに俺は思わず画板から目を離してアリサを凝視してしまう。

何で判るの?俺、黄金長方形のおの字すら言ってないんですけど?

たった2つのキーワードでそこまで辿り着けるとかおかしいだろ。IQ200マジパネェ。

マジにビビりながらアリサを見つめれば、彼女は肩を竦めて苦笑していた。

 

「私からすれば、その年で黄金比を自然から探そうとする貴方の方が凄いと思うけど?しかも学校の授業で……あら?」

 

俺に言葉を返していたアリサが途中何かに気付いたかの如く声を挙げる。

そのままアリサは俺より少し上に視線を巡らせ始めた。

何だ?もしかして誰か居るのか?

そう思って後ろを振り向いても、俺の後ろには誰も居なかった。

 

「フフッ。ジョジョ?お客さんはココよ」

 

「え?」

 

何やら楽しそうなアリサの声に釣られて振り向けば――。

 

「花の香りにでも釣られて来たのかしら……この風景にピッタリね」

 

そこには、ヒラヒラと舞う蝶を指先に停めて微笑むアリサの姿があった。

見た目はそっくりでも、快活なアリサとは真逆のクールな印象を持つリサリサ。

そんな彼女が芝生に腰掛けながら、指先に蝶を乗せて薄っすらと微笑む姿は……一枚の絵画そのものだ。

まるで一つの芸術の様な風景の中に居るアリサ……これなら誰が書いても黄金比の絵になるんじゃ……え?

 

「モンシロチョウって、この斑点がチャームポイントなのかしら?貴方はどう思う、ジョ……どうしたの?」

 

「……は、はは……マジかよ」

 

ふわりと指先で羽を休める蝶を観察しながら問いかけてくるアリサが、俺の様子を見て首を傾げる。

一方で、俺は目の前の光景が信じられなかった。

呆然とした様子で乾いた笑い声を出しながら、俺はアリサの指先に止まる蝶から視線を外せないでいる。

いや……正確には、蝶の羽根を囲う様に浮かぶ『金色の長方形』から、目を離せない。

もしかして、コレが……コレなのか?

心に浮かんだもしやという思いに動かされ、俺はゆっくりと自分の人差し指を見つめる。

 

「……?……一体どうしたのよ、ジョジョ(ヒラヒラ)あっ……」

 

俺の様子がおかしいと感じたのか、アリサは立ち上がって俺の側に近寄ろうとし、指先の蝶がそれに驚いて逃げた。

フワフワと風に舞うかの様に飛ぶ蝶だが、ソイツの向かった先には蜘蛛の巣が張ってある。

このまま行けば、あの蝶は蜘蛛の餌食になってその生涯を終えるだろう。

 

「……タスク」

 

俺は再び蝶に視線を向けつつ、ぼそっと小さく呟いてタスクを使うつもりで声を出す。

今までならタスクを使おうとすると、足のない赤子のような姿のスタンドが現れていた。

更に、ACT1なら爪が指の上でプロペラの様に回転していたが――。

 

ドルルルルルルルッ!!!

 

「えッ!?……ジ、ジョジョ?爪が……」

 

「あぁ……指を軸に、ドリルみてーに回ってやがる……それに……」

 

出て来たスタンドのヴィジョンは、『足の無いロボット人形』の様な像だった。

しかも爪の回転の向きが……パワーが完全に変わってる。

俺はその指を少し見つめてから、何時の間にか蜘蛛の巣に捕まってしまっていた蝶に視線を向ける。

 

「……コレは、俺なりの礼だ……ありがとよ」

 

ドバッ!!

 

ひょんな事から俺にスケールを見せてくれた蝶に礼をする為に、俺は指先を蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶に向けて、爪を発射した。

指先から発射された爪弾は真っ直ぐに飛んで蜘蛛の巣に引っかかっていた蝶の羽根に撃ち込まれた。

 

ギュルルルルルッ!!

 

だが、蝶の羽根に開いた筈の『穴』が『動き』、移動した穴は蝶を食べようとしていた蜘蛛に重なる。

穴が重なった蜘蛛は別に気にせず蝶に向かって歩を進め……。

 

バァンッ!!

 

まるで風船が破裂した様な音と共に、穴が弾けた。

当然、穴が重なっている蜘蛛も同じ様に抉り取られ、絶命する。

衝撃が強かったのか、蝶を巻き込んでいた蜘蛛の巣もバラバラに弾け、囚われの身の者が開放された。

自由になった蝶は再び空へと舞い上がって何処かに消えていく。

遂に……タスクをACT2に進化させられたな……後はACT3と4だけだが……ACT3は直ぐとして、ACT4はまた考えよう。

今の俺なら、樹木や花から黄金のスケールを見れる様になったし、鉄球の練習もしなくちゃな。

俺はタスクを戻してから、もう一人の協力者であるアリサに笑顔を向ける。

 

「ありがとな……アリサのお陰で、自然の中から黄金長方形を見る事が出来たぜ」

 

「わ、私の?蝶のお陰じゃ無いの?」

 

「確かにスケールを取れたのは蝶のお陰だけどよ。その蝶を止めてくれたのは、他ならぬアリサだ……だからアリサのお陰だと、俺は思ってる」

 

「そ、そう……ジョジョの役に立てたなら、それで良いの」

 

俺のお礼を聞いたアリサはちょっとだけ恥ずかしそうにしながらも、笑顔で感謝を受け入れてくれた。

良いぞ……良し……これで俺のスタンドは、更に成長する。

身体に感じる確かな感覚に歓喜を覚えつつ、俺は再びアリサと共に写生を続けるのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

『そうか……ジュエルシードは持っていかれたか……』

 

「あぁ。俺の目の前で金髪の女の子が掻っ攫っちまったよ。何かオレンジっぽい髪のお姉さんと一緒にな」

 

そして、俺は家に帰ってから又もや相馬と電話をしていた。

理由は言わずもなが、俺を襲ってきたの腹ペコ主従の存在を教えておく為だ。

まぁジュエルシードの事は少し、少~しだけ脚色してるけど。

いや、寧ろ襲ってきて最終的には持って帰ったんだから嘘では無い筈だ……多分。

 

「まぁ何にしても、俺はその2人に感謝してるぜ。俺の町からササッと危険なブツを持ってどっかに行ってくれたんだからな」

 

『定明からすればそうかも知れないが……最初に会った時の俺の話を覚えてるか?』

 

「ん?あのPT事件とかいうヤツか?地球が滅ぶ可能性があるって…………オイ、まさか?」

 

相馬の確かめる様な問に軽く言葉を返してた俺だが、ちょいと前に聞いたある情報の事を思い出して何か引っ掛かった。

待て待て待て、もしかしてPT事件ってのは、ジュエルシードを巡って起きる事件って事じゃねぇだろうな?

たった一つで災害規模の事態を引き起こす宝石。

しかも地球のモノではなく、異世界から落ちてきたとんでもねぇ代物……ヤバイ、充分に納得できる。

 

『お前の考えてる通りだ……お前が見たっていうその金髪の女の子の……フェイト・テスタロッサの母親のプレシア・テスタロッサが引き起こす事件、それがジュエルシードを使って地球滅亡の危機を呼び起こすP・T(プレシア・テスタロッサ)事件だ』

 

「……Hory Shit(なんてこった)

 

余りにもバカ過ぎるミスに、俺は天を仰いで悪態を吐く。

まさかテスタロッサの母親が相馬の言ってた事件の黒幕だなんて……俺、マジに選択ミスったか?

やっぱあの時ジュエルシードを完璧に消し去っておけば良かったって事かよ。

俺の選択ミスで地球がパーとか洒落になんねえって。

 

『まぁ、落ち込む気持ちは判るが、そんなに焦らなくて良いと思うぞ?俺となのはとユーノもジュエルシードを5個は集めたし、この先絶対にブツかりあうのは目に見えてる。いずれその時にでもジュエルシードを取り返してみせるさ』

 

イケメンな事言ってくれてるトコ悪いけど、俺が落ち込んでるのは取り逃がした事じゃねぇのよ。

寧ろアイツ等信じてホイホイと危険物預けて気球崩壊に一歩近づけちまった自分のバカさ加減なんだからな。

受話器の向こうで快活に笑ってるであろう相馬に、俺は違う意味で申し訳ないって感情が生まれていた。

 

「ちきしょう、終わっちまった事は仕方ねぇとして……なぁ相馬?」

 

『うん?何だ?』

 

「いや、そのフェイトって子の母親がクレイジーにブッ飛んでるとして、ソイツは何でジュエルシードを欲しがってんだ?原作じゃその辺の話は無かったのか?」

 

『……あるにはある。だけど、俺達の所為で歴史がどう作用してるかまでは判らないぞ?』

 

そう前置きする相馬の声音は、さっきまでとは違って物凄く真剣だった。

まさかとんでもなくヘビーな理由なのか?

いや、考えてみりゃそれも有り得ない話じゃねぇ……一個だけで災害級の力を持つマジックアイテム。

管理局にバレれば指名手配とかだってあるだろう代物を求める理由……軽い筈は無いよな。

 

「それでも良いから、とりあえず原作での話を聞かせてくれ……そのプレシア・テスタロッサってのが、俺らの住む地球の命を脅かしてまで何を成そうとしてるのかを」

 

さすがに相手が悪の女王的なノリでやってんだったら、俺も表舞台に上がるよ?

なに人様の住んでる星ではっちゃけようとしてんの?

この城戸定明の暗黒空間にバラ撒いちゃうよ?プッッツンしちまうぞコラ?

 

『……分かった。只、かなり長い話になるから……そうだな。明後日の放課後、時間取れるか?直接会って話がしたい』

 

俺は相馬の提案を聞きながらカレンダーを確認するが、明後日は特に用事は無い。

 

「あぁ、俺は大丈夫だ。何処で落ち合う?」

 

『いや、お前の家の住所を教えてくれれば、ソコに俺が転移魔法で飛んで行くよ』

 

そんな事も出来るのかよ?魔法って結構便利だな……っていうか相馬の転生特典はヤッパリ魔法か。

元の場所に帰るだけじゃなくて新しく行く場所にすら行けるとはな。

俺は魔法の便利さに感心しつつ、相馬に自宅の住所を伝える。

兎に角色々と話しを聞かせてもらうとすっか……そうすりゃ、もう二度とドジは踏まねぇだろ。

そして最後に俺達は時間を確認しあって、通話を切った。

どうにも俺はトラブルの渦中に放り込まれやすいっていうか……どうなってんだろーなホント。

 

とぉるるるるるん。

 

「ん?電話か……」

 

と、俺が自分の部屋に戻ろうとした所で、家の電話が再び鳴り出した。

現在家には俺しか居ないので、俺は仕方無く受話器を取る。

 

「(ガチャッ)はいもしもし、城戸ですけど?」

 

『さ、定明君?私、すずかだけど……』

 

何と電話の主はすずかだった。

こりゃもしかしてグッドタイミングってヤツなのか?

相馬と電話を切って直ぐに掛かってくるとはな。

 

「おーすずかか。どうしたんだ?オメーが俺の家に電話かけてくるのは初めてじゃねぇか?」

 

『う、うん。ち、ちょっとその……遊びのお誘いなんだけど、大丈夫かな?』

 

「遊び?まさか今からか?」

 

もう夕方だし、今からじゃあんまり遊べないと思うんだが。

 

『ち、違うの。今日じゃなくて、次の土日のお誘いなんだけど……』

 

俺の質問に慌てて言葉を返してくるすずかだが……最近土日はあの2人に固められてる気がするのは気の所為か?

まぁ特に予定もあるワケじゃねぇから良いけどさ。

最近はクラスの奴等も家族で出かけたりしてて遊べねぇもんなぁ。

 

「まぁ、次の土日は特に何もねぇから行けるぜ」

 

『ホ、ホントッ!?そ、それじゃあ土曜日に……わ、私と一緒に来て欲しい場所があるの』

 

「ん?来て欲しい場所?何処だ?」

 

すずかの家に呼ばれてるってワケじゃねぇのか。

 

「えっと……じ、実はね?お姉ちゃんから2人分のチケットを貰って……3つ離れた町で出来る○○の一日フリーパスなんだけど……」

 

「え?○○?マジかよそれ?」

 

『う、うん……も、もし、定明君が良かったら……私と一緒にい、行きませんかッ!?』

 

いや、どんだけ腹に力篭めて声出してんだよ?

受話器に当てた耳がキーンとしたじゃねぇか……しかし、まさか○○とはなぁ……タイミング良いとかの話じゃねぇぞ?

俺はすずかから提案されたある場所へのお誘いに驚いてしまう。

何故ならその場所は俺が近々行きたいと思ってた場所だからだ。

ただ、入場料が少し割高でどうしたモンかとずっと悩んでいたんだ。

そこにすずかからのフリーパスチケットのお誘いがくるモンだからかなり驚いた。

しかしこれは所謂渡りに船ってヤツだな。

 

「俺も一度で良いからソコに行ってみたかったんだよ」

 

『ッ!?そ、それじゃあッ!?』

 

「あぁ。そんなお誘いなら俺から是非ともお願いしてぇんだけど……」

 

『うんッ!!ぜ、絶対一緒に行こうねッ!!約束だよッ!?言質取ったからねッ!!』

 

俺のYESという返答を聞いたすずかはとても嬉しそうな声で念を押してくる。

つうか、言質取ったって、お前は何処の借金取りだ。

 

「分かってるっての。それより、日曜日の方は何だ?そっちもお出かけの誘いか?」

 

若干何時もよりはしゃいでるすずかを諌めつつ、もう一つの誘いについても質問を飛ばした。

 

『あっ。ご、ごめんね?えっと、日曜日はちょっと違って、今度なのはちゃんのお父さんがコーチをしてるサッカーチームの試合があるんだけど、定明君も見に来てくれないかなって』

 

「サッカーか。見に行くのは別に良いけどよ、他の奴は誰が来るんだ?」

 

『えっと、私とアリサちゃんとなのはちゃん、それから相馬君だね。後でリサリサちゃんにも電話で聞いてみるつもりだけど』

 

ふむ、所謂いつメンってヤツか……まさかとは思うが、DQN君来ないよね?

絶対にアリサと瓜二つのリサリサと会ったら面倒くせえ事になると思うんだが……。

そんな不安を心の片隅に持ちつつも、俺はすずかに了承して、リサリサには俺から話しておくと伝える。

明日も学校だし、俺から伝えておけば良い事だからな。

そこまでは普通だったんだけど、土曜日の約束の件についてすずかからしつこく念を押された。

ちゃんと行くつったんだからそれで納得して欲しかったぜ。

かと言って無碍に扱うのも気が引けるし、すずかの声が何か必死なモンだから少し大変だった。

俺ってそんなに信用ねぇのか?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「えぇ。私もなのはって子と相馬って人に会ってみたいし、是非行くわ」

 

明けて次の日の学校の昼休み。

俺は昨日すずかから打診された日曜日のお誘いについてアリサに話していた。

まぁ一言目には直ぐにOKが出たけどな。

 

「ん。分かった。そんじゃ今日家に帰ったらすずかに俺から伝えておく」

 

「よろしくね、ジョジョ……それにしても、すずか達に会うのは良いとして……すずか達の話していた相手には会いたくないものね」

 

快諾して笑顔を見せていたアリサだが、何かを思い出したように呟くと、表情を苦くしてしまう。

 

「アリサの言ってる相手ってまさか……」

 

「貴方で言う所の、DQNネーム君、だったかしら?世間で言う勘違い君」

 

「何気にドギツイ事言うなアリサ」

 

まるで家の中でゴキブリに遭ってしまった様な顔でオリ主君の事を語るアリサに、俺は表情が引き攣ってしまう。

まだ会った事すら無い相手に対して勘違い君とか……オリ主の嫌われようスゲエな。

そう考えていると、目の前のアリサは腰に手を当ててヤレヤレと首を横に振る。

 

「アリサやすずかの愚痴を聞いてるだけで、同じ女性としてはこうも言いたくなるわ。好きでもない男に『俺の女』呼ばわりされるなんて、女性としては耐え難い苦痛よ」

 

「まぁ、言ってる事は判るけどな……」

 

「それに2人の話しだと、その勘違い君が好きな他の女の子達に、結構嫌味言われてるらしいの。2人、いやそのなのはという子も合わせたら3人だけど……聞いてるだけで可哀想になってくるもの」

 

「本人たちにその気は無いのに言われる嫌味、か……確かに鬱陶しいにも程があるわな」

 

心底同情を篭めた声音で話すアリサに、俺もウンウンと頷いて同意する。

好きでもない男の事で他の奴等から嫌味を言われるだなんて、堪ったモンじゃねぇだろう。

しかも自分達はその男の事が嫌いで仕方ねぇってのにな。

それもオリ主君の評価が落ちていく原因の一つになっていくってワケだ。

まぁ昨日すずかに聞いた限りじゃ、直接的な被害は大分減らせてる様だがな。

具体的にはスカートめくろうとした瞬間、スパイス・ガールで足を踏みつけてやるとか……痛そ。

アリサなんか、なのは達と帰る時に追いかけようとしてきたオリ主君の足を糸で引っ掛けて地面と熱いキスをさせたらしい。

お陰で最近オリ主君の鼻が曲がり気味になってきて、女の子達も少しづつ離れてるって話だ。

 

「私もあんまりしつこく迫られたら、鼻にシールでも貼ってあげようかしら?」

 

「何てエゲツねぇ事考えてやがんだよ」

 

すずか達がやらかした報復を黙って聞いていたアリサがぼそりと呟いた一言に突っ込む。

鼻にシールって……剥がしたら裂傷+血まみれですよ?

俺の戦慄した声にアリサは目を逸らして明後日の方向へと視線を向けた。

 

「…………冗談よ?」

 

「オイ何だ今の間は?何で疑問形だ?俺は果てしなく不安になってきたぞ?」

 

そんなに嫌いなんですか……マジでアリサを連れてって良いのか不安になってきた。

俺としては俺に関わらないならどうにでも勝手にやってろって感じなんだがなぁ。

でもコイツ等は本気で嫌がってるし……もう少し上手い事人付き合いしろやオリ主ェ……。

来週の事を考えて溜息を吐きたくなったが、そのまえに視線を戻してきたアリサが口を開いた。

 

「さすがに何もされなかったら放っておくけど、もし私やアリサ達にちょっかい出してきたら『それなりの対応』はするつもり……女を甘く見たらどうなるかってね♪」

 

やべえ。つもりじゃなくてそれじゃほぼ確定事項だ。

あの『皆俺の嫁だから俺に何されても喜ぶ』って思考パターンのオリ主君がアリサを放っておく筈が無え。

特に容姿はアリサと同じで可愛い部類に入るからなぁ……鮮血の惨劇になる、間違いなく。

かと言って、それを止めようとしたらオリ主君の味方する事になるし、アリサも怒る。

俺が取れる選択肢は、当日何事も無い様にと祈る事のみだが……絶対無理だよなぁ。

……日曜日になる前にオリ主君から養分吸い取っておくか?先手必勝っていうし。

良し、さっそく明日聖祥にハイウェイ・スターを潜り込ませよう。

 

 

 

 




後2話ぐらいでオリ主VSジョジョやろうと考えてます。


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お茶でも飲んで……話しでもしよ(ry



中々ストーリーが固まらない……ちくせう


 

 

「さて、相馬の言ってた通りなら、そろそろの筈だけど……」

 

学校も終わった夕方過ぎの寛ぎの時間。

俺は自分の部屋で椅子に腰掛けながら、来ると約束していた相馬を待ってる。

今日は色々と話しをする為に、少し遅い時間まで居たいらしい。

コッチはとりあえず母ちゃんと父ちゃんに話を通して、夕食は一人分多く作ってほしいと頼んでおいた。

なので俺側の準備は万端なワケだけども……。

 

「……おっかしいな……もう5時は軽く過ぎてるぞ?……アイツ約束忘れてんのか?」

 

約束の時間を過ぎても、相馬の奴は中々姿を現さずで俺は少し待ち草臥れてきてる。

ったく、指定してきたのは向こうだってのに何やってんだか。

こうしてても時間が勿体無ねぇなぁ……良し、ココ最近やってなかったスタンドの制御練習しよう。

俺ももっと上手くスタンドを使えるようにしとかねぇと、アリサ達に抜かれるかもしれねぇしな。

 

「そうと決まればさっそく……法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)

 

暇つぶしとばかりに俺が呼び出したスタンドは、全身がエメラルドグリーンに輝く遠隔操作型スタンド、法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)だ。

見た目的には緑の身と白っぽい筋という、正に『光るメロン』って表現がピッタリ嵌る。

だがしかし、ハイエロファントの強さは遠隔操作型の中ではかなり上位クラスの性能を持ってる。

操作範囲は100メートルとかなり距離がある上に、破壊のエネルギーヴィジョンである『エメラルド・スプラッシュ』は強力無比の破壊力を誇る。

人型のヴィジョンの時は手の平から溢れる緑色の液体が固まってエメラルド・スプラッシュを撃ち出すが、それは人型で無くとも使える。

 

「時間も惜しいし、ハイエロファント。『結界』を張れ」

 

俺の命令に従ってハイエロファントは足先から身体を紐状に変え、部屋中に結界を形成した。

そう、ハイエロファント・グリーンの特徴は、体を人型から紐状(実際は帯状に近い)に分解して活動できる遠隔操作型のスタンドって事だ。

スタンド自体が長大に伸びていくから、射程距離がとても広い。

更に紐状になった状態では人間の体内に潜り込んだり、射程を生かして至る所に張り巡らし、触れるとエメラルド・スプラッシュを発射する結界を造ることができる。

俺が今ハイエロファントを操作して張った結界がそれだ。

もし今この結界に触れたりしたら、触れた者にエメラルド・スプラッシュが降り注ぐ事になる。

 

 

 

まぁもしもの為に結界はベットの上だけに展開したし、エメラルド・スプラッシュ自体のパワーは弱めてあるから、精々エアガンに乱射された程度の痛みで済むだろうけ――。

 

 

 

「(パアァッ)すまない定明、遅くな(カチッ)――」

 

「あっ」

 

ドババババババババババババッ!!!

 

……こーゆう場合、どう慰めたら良いんだろうか?

 

 

 

「――まぁ、遅れたのは俺だし、定明が暇になって力の練習をしてたってのは納得できる……只、幾ら何でもあの仕打ちは無いと思うんだが?」

 

「いや、ホントにすまねぇ相馬。まさかあんなドンピシャなタイミングでベットの上に転移してくるとは思わなくてよ」

 

俺のベットに寝転んで……いや正しくは起き上がれないので寝てる相馬が俺に愚痴を飛ばしてくる。

そんな不満たらたらの相馬に対して、俺は頭を下げて謝罪する他無かった。

さっきの状況を詳しく説明すると、まず相馬が何故かベットの上に転移してきた。

そして相馬の頭が運悪くハイエロファントの結界にタッチ、スイッチ発動。

真上からナイアガラの滝の如き勢いでエメラルド・スプラッシュが相馬に降り注いだってワケだ。

あれはホントの意味でゼロ距離射撃だったよ……触れてる結界から直で撃ち込まれてんだもんなぁ。

 

「次から気を付けてくれよ?それと、俺も遅れて悪かった」

 

「いや、ここはいっそ互いに悪いって事にしとこうや。俺もマジで悪かったな」

 

疲れた様に身体をベットから起こす相馬と互いに謝罪し、互いに苦笑しながら顔を合わせてしまう。

 

「しかし相馬よぉ、何でまた遅れたりしたんだ?何かトラブルでもあったのかよ?」

 

俺は部屋の隅に設置してあったジュース用の冷蔵庫から午前の紅茶を取り出しつつ、背中越しに問いかける。

向こうから時間指定してきたんだし、都合事態は付いてた筈だからな。

飲み物を取り出した俺は相馬に向き合い、彼に紅茶のペットボトルを一本投げ渡す。

相馬はそれを華麗にキャッチすると「ありがとう」とお礼を言いながら、紅茶を口に含む。

 

「ゴクッ……フゥ……いや、実は出る直前になのはが何処に行くのか問い詰めてきてな。それを諌めるのに時間が掛かってしまっただけだ」

 

「なのはに?なんだ、一緒に居たのか?」

 

「一緒に居たというより、転移しようかと思ってたら念話で話し掛けられたんだ。さすがにお前の事を教える訳にもいかないし、適当に女友達に会いに行くと言っておいたんだが……」

 

待て、ちょっと待て?それってどう考えても死亡フラグだと思うぞ?

その時の様子を思い出しながら語っている相馬の顔に一筋の冷や汗が流れる。

……まさか、心当たりがあんのか?

ちょっとした好奇心から、俺は相馬に真剣な表情を浮かべてゆっくりと質問してみた。

 

「……なのは、何か言ってたか?」

 

「な、何かというよりは、その……凄く冷たい声で『ふぅん……そうなんだ……明日、ゆっっっくり……オハナシしようね?』としか言われなかった……」

 

「お前それ間違いなくカチ切れてるだろ?そんな状態のなのはを放っておいて大丈夫なのか?」

 

「……大丈夫だ、問題ない」

 

嘗てこれほど頼りない大丈夫って台詞は聞いた事ねぇんだけど?

 

「一番良い(防御)装備を頼む」

 

「俺は武具屋じゃねぇ、ってかお前全然ダメじゃねぇか」

 

微妙に震えながら儚い笑みを浮かべる相馬。

ヤベエ、気の所為か薄っすらと相馬の背後に死相が見えてるんだが?

俺としては助けてやりたいトコだが……人の恋を邪魔するヤツは馬になんとやらって言うしな。

うん、野暮な事はしないでおこう、それが俺の為だ。

目の前で震える友をアッサリと見捨てて、俺は椅子に座り直す。

 

「まぁそんな事は置いといて、早速だけど聞かせてくれよ、相馬……プレシア・テスタロッサのやろうとしてる事、そしてソレに伴う地球の具体的な被害ってヤツを」

 

「いや、俺からしたら命に関わりそうな話しなんだが……」

 

知らねーよンな事、全てはなのはの嫉妬を煽るような言い方したオメーが悪い。

明日からの事を想像して項垂れる相馬の愚痴を無視して、俺はサクサクと話を進める様に催促する。

さて、一体どんな理由があってこの地球が危険に陥るんだろうか?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「――と、以上がプレシア・テスタロッサの目的だ」

 

話し始めてから凡そ30分程経って、相馬は話を締め括る。

そのまま相馬は一息ついて、手に持っていた紅茶をグイっと煽った。

 

「成る程なぁ……ありがとよ、長い話しをしてくれて……まっ、これでも食ってくれ。夕食までの軽い繋ぎだがな」

 

俺は話疲れたであろう相馬を労いながら柿ピーとチーズおかきの入った盆を勧める。

相馬は「サンキュー」と言いながらそのお菓子に手を伸ばす。

俺も同じ様にチーズおかきを頬張りながら、天井に視線を向けて考えこむ。

誰も喋らないから、部屋にはポリポリと菓子を食う音のみが響く。

しっかし……参った……軽い気持ちで考えて聞いちまったけども……。

 

「まさかそのプレシアって奴の目的が……自分の娘を『生き返らせる』たぁなぁ……ヘビーな話だ」

 

座っている椅子に更に体重を掛けて深く沈み込みながら、俺はどうしたもんかと頭を悩ませる。

プレシアの目的……それは、自分が手がけていた魔法のプロジェクトで死亡した『唯一』の娘である『アリシア・テスタロッサ』の蘇生。

その為に地球にユーノって奴が乗ってた宇宙船を攻撃して、地球に『落とさせた』ジュエルシードを掻き集めているそうだ。

……『娘』、では『無い』フェイトを利用して……。

 

「あぁ……その辺りを知ってるから、そうにも俺はフェイトって子とは戦いたく無いって気持ちがあるんだ……」

 

俺の愚痴を聞いた相馬は若干疲れた顔でそう呟く。

まぁ確かにあの子……テスタロッサの『未来』を知ってる相馬としちゃあ、これから先戦い辛いだろうな。

 

「確かに、ジュエルシードをフェイトに渡したらヤバイのは分かってる……だが、あの子が幾つか集めないと……恐らくあの子は、プレシアの逆鱗に触れる……くそっ」

 

相馬の言いたい事は判る。

確かにジュエルシードをなのは達と集めなきゃ、ヘタすると地球が滅亡する可能性が早まっちまう。

原作ではフェイトになのはが襲われて、ジュエルシードを奪われる事もあるらしいが、この世界には相馬が居る。

相馬も特典を貰ってる身としては、もしフェイトと戦っても簡単にはやられないだろう。

現に俺は問題なく勝てたしな。

だが、かといってフェイトにジュエルシードを渡さずに勝ち続ければ、フェイトはプレシアに嬲られてしまう。

相馬の話しなら、プレシアはソコに躊躇しない……娘と『思ってない』からだ。

事情を知ってる身としてはそれが見逃せないって事なんだが……。

 

「……せめて、ジュエルシードの強さが違った様に、プレシアがフェイトを虐待して無い事を祈りたい所だ……」

 

相馬はそう言って項垂れるが……その望みは叶えられそうも無い。

俺は実際にテスタロッサの身体に無数の傷跡が刻まれてるのを見ちまってる。

……ヤッパ、これは相馬に教えておいた方が良いかもな……あの時、ホントは何があったのかを。

 

「……悪いな相馬、実はこの前言ってた話なんだけどよ――」

 

俺はこの前起きた出来事を包み隠さず相馬に話した。

本当は俺がジュエルシードを発見し、そこにテスタロッサが現れた事。

話しを聞いてくれる雰囲気じゃ無かったので止むを得ず倒した事。

事情を聞く為に介抱して話し合い、言葉を交わした事も、虐待されてた事も含め全てをだ。

一応、俺のスタンド能力の事は話さずに置いてある。

理由としてはまぁ、相馬に教えて余計な面倒が増える可能性を防ぐ為。

相馬の口が固いのは良く知ってるけど、何時何処でバレるか判らないからな。

相馬もその辺りは理解してくれてるのか、俺の能力に対しての追求はしてこなかった。

まぁジョジョってアダ名で大体の事は察してるだろうけど。

 

「――ってワケで、俺はテスタロッサにジュエルシードを渡したんだ……悪いな、こんな事黙ってて」

 

この前の事情を語り終えた俺は相馬に頭を下げて詫びを示す。

実際、俺は相馬に嘘を付いてたわけだし。

 

「いや、お前が謝る必要は無いよ……確かに、その時のお前からしたらフェイトにジュエルシードを渡した方が都合も、気分も良く終われただろうし」

 

「まぁ、な……俺としちゃこの町からジュエルシードさえ運び出してくれればそれで構わねぇし、さすがにあんな傷を見ちまったら……渡さないと後味が悪くて仕方なかった」

 

頭を下げて謝罪する俺の肩を叩きながら、相馬は微笑んで俺に声を掛けてくれた。

俺としてはかなり怒られると思ってたんだが、少し肩透かしを食らった気分だぜ。

 

「しかし、そうか……やはりフェイトは虐待を……」

 

「少なくとも、お前の話と照らし合わせればまず間違いねぇな」

 

身体に刻まれた無数の線傷、そして痛々しいミミズ腫れの跡……確実に鞭で付けられた傷だった。

オマケに相馬の話てくれた原作の通りなら、アレはプレシアに嬲られた跡って事になる。

知識だけとは言え、小さな子供が嬲られてるのを知ってる相馬はソレを止められないのが悔しいと零す。

 

「せめて、何とか止める切欠が掴めれば……」

 

「でもよ?実際今の段階でお前に出来る事って、なのは達とジュエルシード集めるくらいじゃね?まだ会った事も無いテスタロッサを助けるなんざ無理だろ」

 

「……悔しいがお前の言う通りだ……だからせめて、幾つかのジュエルシードは原作通りフェイトに取らせるしか無い」

 

あーでもないこーでもないと話しを少しづつ聞きながら、俺は相馬に幾つかのアドバイスを出す。

基本俺は表に出て戦いたくなんてねぇし、管理局とやらの遣り口を聞いてたら余計関わりたく無くなった。

だからまぁ、俺の今後取る方針は依然変わらねぇし、テスタロッサの救済とジュエルシードの確保は相馬に任せる。

冷たい様だが、俺だって一回会っただけの子の為に人生賭けるつもりは欠片もねぇからな。

そのまま俺と相馬は話し合い、というか互いの現状確認を済ませて、母ちゃんが作ってくれた晩ご飯を一緒に食べた。

母ちゃんと父ちゃんは相馬を気に入ってくれ、「また何時でも遊びに来なさい」とまで言い出してる。

相馬も笑顔でそれに応え、今度は俺に家まで来てくれと誘ってくれたので、俺も何時か相馬の家にお邪魔しよう。

 

「ふぅ……ご馳走様だ、定明。おばさんとおじさんにもよろしく言っておいてくれ」

 

そして時間は午後7時を過ぎた頃。

やはり相馬も小学生なので、そろそろ家に帰らないとマズイ。

っていうか普通はもう遅い時間なワケだが、今日は相馬の両親が遅く帰るとの事なので、まだ言い訳は効くらしい。

 

「あぁ。また来てくれ。今度は普通に遊ぶ目的でな?」

 

「そうだな。今日は話し合いばかりで遊べなかったからな……学校じゃそんなに親しい男友達が居なくて、こーいうのは何か嬉しいな」

 

「は?ダチが居ねぇ?どーゆうこったそりゃ?」

 

ベットに腰掛けて恥ずかしそうに頬を掻く相馬の言葉に俺は首を傾げる。

アリサ達の話通りなら、相馬は学校の奴等に好かれてる筈なんだが……。

 

「いや……ウチの学校って、神無月のニコポに堕ちた女子とか女教師が大半でな……その神無月に面と向かって反論してる俺は、何時も目の敵にされてるのさ」

 

「……男子の友達は何で居ねぇんだ?まさか男のオリ主君に惚れてるワケでもあるまいに?」

 

「ん?あぁ。確かに男子の大半は神無月を嫌ってるんだが……俺に加担して、他の女子から槍玉に上げられるのを怖がってるんだ」

 

おいおいそれって……。

 

「所謂、長い物には巻かれろ主義ってヤツか?」

 

「端的に言うと、そうなる」

 

「こいつぁまぁ……でも仕方ねぇか……俺達みてーに、オリ主君に立ち向かう力がある訳でもないんだしな」

 

聖祥の男子達の様子を聞いて呆れそうになるが、それも仕方無いと思い直し、相馬も俺の考えに頷く。

俺や相馬みてーに、神様に強い力を貰ったなら言える事で、普通の人にはオリ主君に逆らう事は出来ない。

俺だって一般的な力しかなかったらオリ主君に逆らえず今の男子達と同じ事をしてたし、アリサ達を助ける事なんて夢のまた夢だ。

だから、聖祥の男子達を卑下する資格は、俺には無い。

 

「まぁそれに、最近神無月の鼻が曲がってきた所為でなのか、ニコポの効果が落ちてきてる。女子も少しづつ正気を取り戻して神無月から離れだしてるんだ」

 

「へぇ?ならオリ主君の学校天下もそろそろ終わりか……ってそういえばよ、今日はオリ主君学校に来てたのか?」

 

今になって、相馬に聞きたかった事を思い出した俺は、相馬に質問を飛ばす。

そう、実は今日、日曜日のサッカー観戦の時に遭遇しない様にオリ主君の養分を吸い取ってしまおうと考えていたんだが、彼は学校の何処にも居なかったんだ。

アリサとすずかに見つからない様に隠れて動いてたから全部を見れた訳じゃねぇけど、少なくとも俺の視界には映らなかった。

普段はアリサ、すずかやなのは達にストーカーの如く付き纏ってるって話しだったのに見当たらなかったから不思議に思ってたんだよな。

 

「あぁ……神無月なら、朝の体育の授業ですずかにノックアウトされて早退してたぞ?」

 

「は?体育の授業でノックアウト?一体どんな状況だよソレ?」

 

「いや、俺にもよく理解出来なかったんだが……今日、俺達は体育の授業でドッチボールをやってたんだ」

 

「ふむふむ?」

 

「それで、すずかの投げる球って、実はとんでも無い速さと強さがあってな」

 

帰る準備を一旦止めて、身振り手振りを駆使しながら話す相馬に、俺は相槌を打って続きを促す。

まぁすずかは夜の一族だけあって、身体能力が大人顔負けなスペックだしな。

だからすずかの投げる球が凄いってのも頷ける。

 

「その豪速球を神無月が顔面で受けた……でも、ドッチボールじゃ顔面はセーフだろ?」

 

「まぁ、な……何かオチが読めた様な……」

 

「だから神無月はアウトにならなかったんだが……『何故か』すずかの手元にボールが綺麗に戻ってきてな……当然、すずかは神無月をアウトにしようとボールを投げるんだが……」

 

「また顔面に当たってすずかの手元に、そしてまた神無月の顔面に……そんなトコか?」

 

「…………正解……それが5回続いた時点で神無月が気絶。哀れ奴は学校早退となったんだ」

 

何故だろう?すっげえニコニコしながらボールを投げるすずかのイメージが浮かんできやがる。

その時の光景を思い出しているのか、少々青ざめた表情の相馬に視線を送りながら、俺は再度質問してみた。

 

「……すずかの近くにアリサは居たか?」

 

「……ニコニコ顔で直ぐ近くに居てな……皆は気付いてなかったけど、アリサが小さく手を動かす度にボールが戻ってきてた様に俺には見えたんだ」

 

確定、アイツ等コンビプレーしやがったんだな。

ドッチボールのボールにアリサがストーン・フリーの糸を繋げて、オリ主君にブチ当てた瞬間に引き戻す。

戻ってきたボールをすずかがまた全力で投げる……恐ろしいコンボだぜ。

よくそれだけ無茶苦茶やってすずかは怒られなかったなと思ったが、相馬にはその質問も想定内だったらしい。

知っての通り、聖祥は私学のお嬢様、お坊ちゃんの通う名門学校として有名だ。

だからこそ生徒の保護者はイジメとかが絶対に無い安心の学校として子供を預けている。

まぁ高い学費払ってんだからその辺は当たり前だと思ってるんだろう。

所がどっこい。ここで浮かんでくる問題がオリ主君の行動だ。

学校ではかなりやりたい放題してるのに問題にならねぇのは、ニコポで落とした女教師達がオリ主君を擁護してたらしい。

更に学園長とか教頭は、騒ぎが外へ出るのを恐れて揉み消してるそうな。

私学でそんな問題児が居るのにそれを御し切れて無いとなれば、それは一斉に責任者の監督不行き届きって決着に行き着く。

それを学園の上役は恐れてるってこったな。

普通は親に言う奴も居るだろうが、男子も女子もそれをしてハブられると思い込んでるから誰も言わないらしい。

アリサやすずか、そしてなのはは高い学費を払って学園に行かせて貰ってるから、親には心配掛けたくないそうだ。

まぁ尤も、アリサとすずかにはスタンドがあるし、なのはは相馬が守ってる。

この先暫くは何とかなるだろう。

それと最近、相馬の見立てでは例のオリ主君が何やら動き出そうとしてるらしい。

現在進行形で動き出してる原作、オリ主君がそれに関わらないって事は絶対に無いだろう。

相馬やなのはは、オリ主君がジュエルシード探索に入ってきたら嫌だろうけど、ユーノって奴はオリ主君の性格を知らない。

転生した人間だけあって、オリ主君もかなりの魔力と武器を持ってるから、下手したらユーノが協力を仰ぐ可能性もあるそうな。

もしそうなったら相馬の気苦労、倍プッシュだな……お疲れ。

転移する直前にやたら悲壮な表情を浮かべながら愚痴る相馬に、俺は同情の視線を向けながら別れを告げ、今日の話し合いはお開きとなった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ふぁ~あ……眠いなちくしょぉ……」

 

一夜明けて、時刻は朝の9時半。

俺はすずかとの約束を守って、待ち合わせ場所である俺の町の駅前に来ていた。

休日だってーのに、朝からサラリーマンのおっさんや高校生達が電車やバスに乗るために結構集まってる。

家族を養う為、リーマン戦士の皆さんご苦労様です。

そして部活に精を出す高校生、俺も何時かあんな風に平穏な青春を送りたいな、切実に。

そんな風に駅前の様子を観察してると――。

 

「お、おい。アレって……リムジンじゃねぇのか?」

 

「オイオイ。この町でそんなの走ってるワケ……ホントだ」

 

「すっごーい……お金持ちなのかなぁ」

 

「私も玉の輿に乗って、あんなのに乗ってみたいわ」

 

黒塗りのリムジンが駅前のロータリーにゆっくりと入ってきた……ってオイ。

まさかなーと微妙に現実逃避をしていると、何故かそのリムジンはドンピシャで俺の側に停車。

それと共にざわつきが波紋の如く広がる駅内、同時に強まる俺への視線……勘弁してくれ。

間の前の現実を見て重い溜息が出そうになったところで、後部座席の窓が降りる。

 

「お、おはよう定明君……ま、待たせちゃったかな?」

 

そこからピョコンと顔を出したすずかが、笑顔で俺に声を掛けてきた。

とても人に向かってゴムスタン弾を撃ち込んだ人物には見えない。

 

「いや、別に待ってねぇけど……それより早く行こうや。正直、周りの視線が痛え……」

 

俺は後ろからビシビシと突き刺さる視線の事を指摘して、すずかに早く駅を出ようと促す。

俺の言いたい事を直ぐに理解してくれたのか、すずかは「あっ」と小さく声を出すと、直ぐに頷いた。

 

「ご、ごめん。ちょっと目立っちゃうよね?どうぞ、乗って」

 

「おう、じゃあちょいと失礼しま――」

 

「(ガチャッ)お早う御座います、定明君ッ!!今私がドアを開けますのでッ!!」

 

「ちょっ!?ファリンッ!?こんな所で出ちゃ――」

 

ササッとリムジンにお邪魔してこの場を立ち去ろうとした俺に声を掛けてきたのは、すずかの専属メイドであるファリンさん。

しかも運転席から降りて……ご丁寧に『メイド服』で俺にドアを開けようかと声を掛けてくるモンだから……。

 

「お、おいッ!!メイドさんだぞッ!?」

 

「うっひょーッ!?しかもメッチャ美人ッ!!あの笑顔堪んねーッ!!」

 

「……負けた……同じ女として……」

 

「あの影の無い純粋な笑顔……完敗ね」

 

駅内のどよめきが一層ヒートアップしてしまった。

……オーマイガッ。

 

「え?え?あ、あれ?」

 

そんな中でやっと自分が注目されてる事に気付いたのか、ファリンさんは頬を赤く染めてそそくさと俺の目の前のドアを開けてくれた。

 

「ど、どうぞですッ!!そ、そそそれでは私は運転に戻りますのでッ!!」

 

もはや恥ずかしさで居た堪れないって表情のファリンさんは早口でそう捲し立てると、素早く運転席に戻っていく。

俺も早くこの駅内から出たかったので、サッサとすずかの座ってる後部座席に乗り込み、リムジンはそそくさと駅を後にした。

そこで漸く人の目が無くなったので、俺は大きく息を吐いて座席に深く凭れ掛かる。

 

「ふぅ~……まさかリムジンで来るとは思わなかったぜ?」

 

「あはは……き、今日はちょっとだけ遠いから、成る可くゆったり出来る車を出してもらったんだけど……迷惑、だったかな?」

 

「迷惑だなんて思っちゃいねぇさ。寧ろその辺の配慮までしてもらって、なんか申し訳ねぇってトコだが……まぁ何はともあれ、今日はお誘いありがとうな、すずか。ファリンさんも迎え有難うございます」

 

俺はすずかに礼を言いながら運転席に座ってるファリンさんにも声を掛けた。

すると、運転席のファリンさんはバックミラー越しに笑顔を浮かべて「いえいえ♪」と返してくる。

俺の隣に座ってるすずかもファリンさんと同じように笑いながら、俺の言葉に首を振った。

 

「ううん。私から誘った事だもん……でも、良かった。定明君がこういう事に興味が無かったら、他に一緒に行く人も居なかったし」

 

「興味があった、つうか……まぁ、『乗馬』は前々からやってみたかったんだよ」

 

すずかの安心した声音に、俺は肩を竦めて答える。

そう、この前すずかに電話で誘われたのは、とある農園で体験できる『動物や自然との触れ合い』というイベント。

そこの全てのアトラクションを一日フリーパスで出来る園内体験ツアーの誘いだったんだ。

俺はそれの乗馬体験というアトラクションに惹かれて、すずかの誘いを受けた。

乗馬の技術を磨いて、馬のパワーを下半身から吸収して騎乗で戦う『技術』を身に付ける為に。

それはツェペリ一族の伝えてきた鉄球の技術、その無限回転エネルギーに至る為に絶対必要な技術だ。

これを身に付けなけりゃ、俺は前回と同じく、タスクを進化させる事も、鉄球の技術を完全習得する事も出来ない。

前世の体験スクールで乗馬は少しだけ齧ったが、もう9年も昔の事なので覚え直す必要がある。

他にもアーチェリーやパターゴルフ、パン造り工房にスワンボートとかも色々あって、かなり人気の高い場所だったりする。

だから動きやすい様に俺の服装はズボンにシャツ、そしてもっこりしてないジャンパーと軽装だ。

すずかは少し丈の長いズボンと装飾の少ないシャツ、そして上着と、何時もより活発なイメージが強くなっている。

 

「そういや、さっき一緒に行く人が居ないって言ってたけど、アリサやなのはは駄目だったのか?」

 

「えっ!?そ、それはえっと……」

 

ふと心に過ぎった質問をしてみれば、すずかは何故か眼に見えて慌て出す。

何だ?と思って首を傾げていると、すずかはゆっくりと深呼吸をして、胸に手を当てる。

 

「ア、アリサちゃんは塾で忙しいって聞いてたし、そ、それになのはちゃんは……その……う、運動苦手だから……あ、あはは(ごめんなのはちゃんっ!!でも他に言い訳が見つからないから許してっ!!)」

 

「あー、なるほど……なのはって、つまりは鈍くさいんだな」

 

普通に大人しい動物達と触れ合うことですら親友にここまで配慮される程とは……強く生きろ、なのは。

軽く胸の前で十字を切り、俺は休みを満喫してるであろうなのはの幸運を祈った。

その後はすずかと楽しくお者bリしながら、俺達は3つ向こうの町にある農園を目指した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「わぁ……ッ。見て見て定明君。アルパカさんだよ」

 

「へぇ~。ラクダの仲間らしいけど、随分とモコモコしてんなぁ」

 

時間は過ぎて、俺達は目的の農園で牧場の動物と触れ合えるコーナーに来ていた。

すずかはカポカポ歩いて近寄ってくるアルパカに目を輝かせてはしゃいでいる。

俺もこんな動物達と会う機会はそうねぇから、少しばかりテンションが上ってたりする。

アルパカはある程度俺達に近寄ってくると、一度止まってじーっと俺とすずかを見ていた。

その無垢な瞳がとても可愛らしい。

 

「可愛い~♪……触っても大丈夫かな?」

 

「性格は大人しいらしいから、多分大丈夫だと思うぜ?撫でてみたらどうだ?」

 

「う、うん……そ~っと、そ~っと……」

 

すずかは俺達の前でジッとしているアルパカに触ってみたくなったのか、おっかなびっくりと言った具合でアルパカに近づき、そのモコモコした毛並みに触れる。

少し遠慮がちに撫でていたすずかだが、アルパカが嫌がらないのに気付いて満面の笑顔を浮かべてアルパカに近づいた。

 

「ふわぁ……柔らか~い♪定明君も触ってみて?すっごいフカフカだよ」

 

「どれどれ?……ほおぉ……コイツは良いな……柔らかくて触り飽きねぇ」

 

すずかに促されて触れてみたアルパカの毛は、マジに極上の毛並みと柔らかさを持ってる。

思わず時間を忘れてすずかと一緒に夢中でなでてしまう俺であった。

二人がかりでグリグリ撫で撫でされてるにも関わらず、アルパカは静かに棒立ちしてる。

随分と人懐っこいアルパカだな。

 

「ん~♪とっても気持ち良い♪……あれ?そういえば、ファリンは何処に行っちゃったのかな?」

 

「え?確かさっきまでそこに……」

 

アルパカの撫で心地に夢中になっていたすずかと俺だが、ふと一緒に居た筈のファリンさんの声が聞こえないのでそちらに目を向ければ……。

 

『『めぇ~~』』

 

「あ、ちょッ!?ヤ、ヤギさん達何で私のスカートを噛むんですかぁああああッ!?餌を出してるんですから餌を食べて下さいぃぃいいいッ!?た、助けてすずかちゃぁああんッ!!」

 

「「あ」」

 

ヤギの群れに囲まれてアッチコッチからスカートの端を噛まれ、そのまま引っ張られるファリンさんを発見。

何故か餌では無くファリンさんのスカートに夢中なエロヤギ。

ファリンさんは捲られそうなスカートの裾を涙目になりながら必死こいて抑えて助けを求めてた。

従業員の人達も何とかしようと奮戦してるが、ヤギは一向に口を離さない。

っていうか男の従業員の目が完全にファリンさんのスカートが捲れるのを待ってやがる。

しかも柵の近場に居た家族連れのオッサン達まで……おい、奥さんがスゲエ怖い目してるぞ。

 

「あ、あわわ……ど、どうしよう定明君?何とか出来ない?」

 

「いや、まぁ出来ない事はねぇだろうけど……」

 

正直メンドくせーからヤなんだけど……ファリンさんマジ泣き一歩手前だし……しゃーねぇか。

兎に角騒ぎを納めねばと思い直し、俺は懐に手を入れてファリンさんwithエロヤギーズに近づいていく。

 

「あっ。でも定明君。ヤギさん達に酷い事しちゃダメだよ?スタンドで殴るとかは絶対にダメだからね」

 

……コイツの中で、俺のイメージってどうなってんだろう?

俺は軽くすずか達の中にある俺のイメージ像に傷つきながら、『ホルスター』の上ボタンを外す。

俺が着ているジャケットに取り付けた『ガンベルト』の中から、一発の『鉄球』を手の平に乗せる。

 

「?定明君、それって何なの?……ボールに見えるけど、黒っぽいし、鉄みたい」

 

「これか?これは俺の特技の一つ……鉄球だ」

 

不思議そうな顔で俺の手元にある鉄球を見ながら質問してくるすずかに、俺は軽く答える。

そう、これはジャイロ・ツェペリが使用していた『鉄球』、その模造品だ。

別にスタンド、例えばエコーズACT1の『音を染み込ませる』能力でヤギ達を追っ払う事も出来るが、俺はこの鉄球の力を試してみたかった。

今までは使えなかった黄金長方形の軌跡で起こす回転、それを試してみたいって思いがある。

普段ならスタンドの能力は極力隠してきたけど、ここは俺らの町から3つも離れた場所。

少しぐらいハッチャケても、バレはしないだろう。

 

「まぁ見てな?面白いモン見せてやるからよ……すぅ……俺が『観る』のは『自然』、得るのはスケールってか?……そおらッ!!」

 

ゴォウッ!!

 

俺は手首と肘に特殊な回転を加え、更にヤギを観る事で黄金長方形を得た。

そのまま勢い良く鉄球をヤギ達の下に向かって投げ飛ばす。

鉄球は地面に落ちるが、まだ回転は続いている。

 

『何だ?あの男の子、何か投げたぞ?』

 

『地面の石コロだろ。あの女の人からヤギを引き離そうとしたんじゃないのか?』

 

『でも、ありゃあダメだ。フォームが全然なってないし、ヤギに当たるどころか地面に落ちちまってるよ』

 

俺が投げた球がヤギ達に巻き込まれた様に見えたのか、周りから失笑が出ている。

……何が起こるか、目をひん剥いて見てやがれってんだよ、マヌケ。

 

「……『スキャン』」

 

俺は鉄球が地面で回転を始めたと同時に、ジャイロ・ツェペリのチューン・アップされた能力のスキャンを発動。

鉄球に右目を搭載し、鉄球の回転で巻き起こる振動がエコーの様に波紋となって、俺の右目に詳細な景色を送り込んでくる。

その景色は生物の裏側、つまり骨まで見える様になる……ファリンさんは機械の身体だが。

俺の右目に映る景色では、ヤギ達の足元が写っている。

ふむ……これなら、今投げた鉄球に掛かってる回転の力でも問題ねぇだろ。

多少、ヤギ達には可哀想だが……エロ根性見せた報いだと思って諦めてもらおう。

 

ギャルギャルギャルギャルッ!!!

 

俺が投げた鉄球は、地面に落ちた状態からファリンさんの周りを回って、群がるヤギ達の足の毛を少しづつ剃り落としていく。

さすがに従業員が指示しても聞かないヤギ達でも、自分の毛が剃られたらスカートどころじゃねぇだろ。

 

『『めぇ~っ!?』』

 

「お、おいどうしたんだッ!?(も、もう少しで見えそうだったのにぃいいッ!?)」

 

案の定、俺が考えた通りに毛を剃られたヤギ達は2匹、3匹とファリンさんから離れていった。

従業員達はファリンさんのスカートに目がいってる所為で、毛の剃られた瞬間を見逃している。

だから、突然離れたヤギの足の毛が少しだけ不自然に剃られてても気付かなかった。

しかし、まだファリンさんの周りには残ってるヤギが居る。

ちょっと一発じゃキツかったか……そんじゃ。

 

「第二投、行って来いやッ!!」

 

俺は更に片方のガンベルトから鉄球を取り出し、スキャンで繋がっている鉄球へと回転の力を加える様に投げた。

鉄球同士がぶつかりあって、両方の回転は均一にヤギ達の毛を剃っていく。

さすがにエロ根性の据わったヤギ達も自分達の毛が狩り尽くされては堪らないと思ったのか、ぞろぞろと徒党を組んで畜舎の方へと逃げていった。

従業員達もファリンさんに謝罪しながら悔しそうな顔を浮かべて、ヤギ達の後を追って畜舎の方へと走っていった。

 

「こ、これって……?」

 

と、ヤギ達が完全に居なくなったので自分の足元が見える様になったファリンさんが、目を見開いて呆然とした声を挙げる。

ファリンさんの足元では、俺の放った鉄球がファリンさんを守るように外周を回転していたからだ。

柵の周りに居た大人たち(妻と子供含む)も、ファリンさんを守る様に回転している鉄球を見て不思議そうな顔をしてる。

同時に何人かは俺が投げた鉄球だと勘付いたんだろう、俺に「嘘だろ?」って視線を向けていた。

俺はそんな視線を受けても微動だにせず、鉄球が戻ってくるのを待っている。

偶には少し派手な事してもバチは当たんねえだろ。

そんな事を考えていれば、エロヤギ達から開放されたファリンさんが不思議そうな顔で鉄球を見つめているではないか。

だがしかし、鉄球は役目を終えて、俺の手元へと飛んで戻ってきた。

 

シュルルルルッ!!

 

「えっ!?さ、定明君ッ!?すずかちゃんッ!?」

 

「よっと(パシッ)大丈夫っすか、ファリンさん?」

 

驚いた様に声を掛けてくるファリンさんに、俺は手の平で受け止めた鉄球を手の上で回転させたまま言葉を返す。

そこから鉄球を素早くホルスターに戻し、何事も無かったかの様に振る舞う。

 

「ふぇ?あっ、大丈夫ですけど……ひ、ひょっとして今のって、定明君が助けてくれたんですか?」

 

「まぁ、軽く追っ払っただけッスけどね……」

 

ファリンさんにそう言葉を返しながら振り返ると、ソコにはやけに瞳をキラキラさせたすずかが居た。

その視線は、俺のジャケットの内側にある鉄球に注がれてる。

 

「す、凄いよ定明君ッ!?今のもう一回見せてッ!!お願いッ!!」

 

「ん~?……また今度な」

 

「えぇッ!?そんなぁ……お願いッ!!もう一回だけで良いからっ!!」

 

苦笑しながら今はダメだと言えば、物凄く残念そうな顔から一転、更に食い下がってくる。

俺は手品師じゃねぇんだけどなぁ……。

 

「わ、私もさっきのでどうやって助けてもらったのか見たいですッ!!お願いします、定明君ッ!!」

 

アンタもかファリンさん。

しつこく「見せろ見せろ」と言ってくる2人をいなして、俺は2人を連れて触れ合い広場から離れた。

何時までもそこに居て目立つのも面倒だったし、俺の本来の目的は乗馬体験だからな。

その後、俺達は乗馬体験に向かい、そこで馬の基本的な乗り降りや停止、歩行等の練習をスタッフの人から教えてもらってこなした。

ファリンさんはメイド服でスカートだったから乗れなかったけど、俺とすずかは楽しく乗馬を満喫した。

最初はサークルをクルクル回るだけだったけど、しばらくしてから草原に出て歩いたり、馬のブラッシングとかも体験できたぜ。

俺もすずかも普通より大分飲み込みが早かったらしく、スタッフの人から筋が良いと褒められた。

だから、俺達は特別に許可を貰って草原の中を馬で走り回って遊んだ。

楽しみながらも、俺は馬の動かし方、そして肝となる鐙から伝わる『馬の運動エネルギー』を徹底的に身体に染み込ませて、その日は終了。

帰りの車の中で、遊び疲れて眠ってしまったすずかを肩で支えながら、俺は確かな手応えを身体に感じていた。

もっともっと練習を重ねれば、いずれACT4やポールブレイカーを発現出来るだろう。

もしかしたら何時かソイツ等の力が必要になる時が来るかも知れねえ。

だから、俺はこれからも暇を見つけて乗馬の訓練をしようと、固く心に誓う。

楽しい平穏な……それこそ、今日みたいな自分の日常をしっかりと守っていきてぇからな。

 

 






さぁ、そろそろオリ主君を半分くらいブッ殺しますか(ゲス顔)


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女の前では紳士ぶってるが最低のサイコ野郎だ、反吐がで(ry

最近投稿スピードが落ちてる……誰かヘルペス・ミー


「good morning、ジョジョ。もう朝の10時よ。お休みの所悪いけど、起きてくれるかしら?」

 

「ん……?」

 

さっきまで心地よい微睡みの中に居た俺、城戸定明は、普段使ってる目覚ましとは違う声で起こされた。

しかも俺の意識を夢から引き上げる様に身体をユサユサと揺らされている。

何だよ……もう朝なのか……眠い……。

俺はその動作に意識をゆっくりと覚醒させられ、布団から上半身を起こして伸びをする。

 

「ぬぅ~~ッ!!……ハァ……おはよう、母ちゃん……英語で挨拶とか、ちと洒落過ぎじゃねぇの?」

 

眠たい目を擦りながら、俺を起こした張本人である母ちゃんに挨拶をして……ん?と首を捻った。

待て、ちょい待て?……今まで母ちゃんが俺を『ジョジョ』なんて呼んだ事は無いよな?

それに声が大分若いというか……幼い?

何か色々とおかしいというか辻褄が合わないと感じ始めた時、部屋のカーテンがシャッと軽快な音を立てて開かれた。

その音を聞いてカーテンの方に目を向ければ――。

 

「私とお母様を勘違いするなんて……寝ぼけちゃダメよ、ジョジョ?」

 

腰に手を当ててヤレヤレって感じに首を振るリサリサの姿が……ってちょっと待てい。

 

「……何でリサリサが俺の部屋に居んだ?」

 

「あのねぇ……今日はすずか達と一緒にサッカーの観戦に行くって約束してたじゃない」

 

「……あ……そういえば、そうだったな……って時間過ぎてたか?」

 

リサリサの言葉で今日の予定を思い出し、目覚まし時計に目を向けると、確かにリサリサが来る時間になりかけてた。

どうやら俺は物の見事に寝坊してしまったらしい。

まだすずか達が迎えに来るまで時間はあるが、そろそろ準備を始めないとマズイ。

 

「っと。悪いリサリサ。直ぐに着替えて準備すっから、少し部屋の外に居てくれ」

 

俺は直ぐに布団から起き上がって、タンスから服を取り出す。

ササッと準備しとかねぇと、迎えの車が来ちまう。

 

「えぇ。下で待たせてもらうから、早く来てね?」

 

俺のお願いを聞いたリサリサは微笑みを浮かべながら部屋を出ていき、俺はリサリサの言葉に「おう」と短く返事を返した。

そこから直ぐに服を着替え、腰にガンベルトを巻き付け、ホルスターに鉄球を収める。

普段はコレを付けていく事は無いけど、今日は隣町のなのは達が居る場所に行く。

それはつまり、只今現在進行形で起こっている原作イベント目白押しの地雷地帯に自分から足を踏み入れる事以外に無い。

なら少しは防衛手段を増やしておこうと考えたってワケだ。

エニグマの紙に保存しても良いかと考えたが、いざって時に紙から取り出すタイムラグを考えれば、腰に付けとくのがベストだと判断した。

それに警戒しなきゃいけねえのは原作イベントだけじゃなくて――。

 

「オリ主君と鉢合わせする可能性もあるんだよなぁ……面倒くせ」

 

向こうの町で俺の名前を知りつつ、俺に喧嘩売ってくる可能性大なオリ主君の存在が一番困る。

相馬の話じゃいきなり襲い掛かってきたらしいからな……準備しといても損はねぇだろ。

その考えからジャンパーの裏ポケットにベアリング弾も10発程忍ばせておく。

 

「……うし、こんなモンで良いだろ」

 

着替え終えた俺は下の階に降り、洗面所で顔を洗い歯を磨く。

何時もなら着替える前に済ませるけど、今日は仕方ない。

そしてまだ時間が少しあるのを確認してから、俺は軽く朝食を食べる為に居間へ入った。

 

「(ガチャ)悪いなリサリサ、待たせちまっ……」

 

恐らく居間に居るであろうリサリサへと謝罪の言葉を投げ掛けながら居間に視線を向けると――。

 

「うふふ~♪定明ったら、こんな可愛い子と友達だったなんて~♪紹介してくれても良いのにねぇ~?」

 

「あぁ、全くだな母さん。アイツもそういう事が恥ずかしくなってきたのかな。それとも、私達には秘密にしときたかったのか?」

 

「ありがとうございます、お母様、お父様。これからもジョジョ……いいえ、定明君と仲良くさせて下さい♪」

 

「いえいえコチラこそ~♪なんだったら、定明のお嫁さんにならない~?アリサちゃんなら大歓迎よ~♪」

 

ニコニコ顔のリサリサが父ちゃんと母ちゃんと一緒に仲良く談笑してる場面に出くわした。

その光景を見て口が半開きになってしまう俺、何やってんだよ母ちゃん達ぃ……。

 

「そ、そんなお嫁さんだなんて……あ、あらジョジョ?もう準備出来たの?」

 

「あら、定明?おはよう~♪」

 

「おはよう定明。アリサちゃんと約束してたならちゃんと起きないとダメじゃないか」

 

脳天気な事を言ってる母ちゃん達に頭を抱えていると、母ちゃんの言葉に顔を赤く染めたリサリサが俺に気付いて声を掛けてきた。

まぁいきなりそんな事言われたらそういう反応になるわな。

そして、リサリサの声で俺が居間に入ってきたのに気付いた母ちゃん達も俺に朝の挨拶を言ってきた。

俺は母ちゃん達に「おはよう」と返しながら、リサリサに頭を軽く下げる。

 

「あぁ。悪かったな、寝坊しちまってよ」

 

「ま、まぁ仕方無いわ。日曜日なんて、大体の人は普段より遅く起きるものだし、私は気にしてないから」

 

「そう言ってくれっと助かるぜ……朝飯もパパっと片しちまうから、もうちょっとだけ待ってくれ」

 

「え、えぇ。ゆっくり食べてくれて構わないから(き、聞かれてなかったのかしら……ホッ)」

 

俺はちゃんとリサリサに謝罪してから、テーブルの上に並べられた朝食に手を伸ばす。

つっても母ちゃんと父ちゃんは食べ終えてっから、俺の分のフレンチトーストと牛乳が置いてあるだけだ。

手を合わせて「いただきます」と言いながら、俺はフレンチトーストをガブリと頬張る。

俺の分は3切れだけだったからそれも手早く済んで……。

 

ピンポーン。

 

「おや?こんな時間にまたお客さんかな?」

 

「あー、父ちゃん。多分迎えが来てくれたんだ」

 

「そうなのか?まぁ兎に角応対しなくちゃな」

 

俺の言葉を聞いた父ちゃんは居間を出て、玄関に来客したであろうアリサ達の元へと向かった。

俺はその様子を見てから財布の中身を確認して、ソファーに座って待っていてくれたリサリサの元へ近づく。

 

「悪い、もう準備は出来てるから、そろそろ行くか?」

 

「えぇ、私は大丈夫だけど……」

 

「ん?どうした?」

 

リサリサは何故か俺の言葉に苦笑いしながら返事を返してくるので、俺は聞き返す。

 

「ほら。今迎えに来てるのがアリサだったら、貴方のお父様、きっとビックリするんじゃないかなって……」

 

「あ」

 

そういえばそうだった、何て思ってる俺の耳に父ちゃんの驚きに満ちた悲鳴が聞こえてくる。

その悲鳴を聞いて母ちゃんが不思議そうな表情で居間からでれば、更に重なる驚きの声。

急に騒がしくなり始めた玄関の喧騒を聞いて溜息を吐きながら、俺は苦笑いしてるリサリサと共に玄関へと向かった。

 

「もぉ~♪定明ったら、アリサちゃんの他に2人も女の子と友達になってたんだ~♪お母さんにもちゃんと紹介してくれても良いのに。ねぇすずかちゃん?」

 

「は、はい!!いつも仲良くさせてもらってます!!」

 

「しかも皆可愛い子ばかりじゃないか……定明も、随分プレイボーイになってしまったものだなぁ」

 

「か、可愛いだなんてそんな……あの、これからも定明とこうやって遊ぶ事があると思いますので、よろしくお願いします」

 

そして玄関に向かえば、仲良く意気投合して話してる母ちゃん達とすずか達。

アンタ等今さっき会ったばっかりだってのに……まぁ良いけどさ。

 

「おはようさんだ、二人共。迎えに来てくれてありがとよ」

 

「おはよう、すずか、アリサ。今日はお誘いありがとね?」

 

とりあえず俺とリサリサも、アリサ達に朝の挨拶とお礼を言う。

すると、俺達の声を聞いた2人が笑顔を浮かべながら視線を向けてきた。

 

「おはよう、定明君、リサリサちゃん」

 

「うん。ちゃんと起きてる様で何よりだわ。寝坊なんてしてたら承知しなかったんだから」

 

「あー……まぁ、ギリ寝坊にはなってねぇかな?」

 

リサリサと約束してた時間には寝坊したが、2人が来る時間には起きて準備も出来てたから大丈夫な筈だ。

そんな事を思っていれば、隣に居るリサリサがニヤニヤした顔で俺に視線を送ってくる。

……頼むからバラさないでくれよ、リサリサ。

確かに寝坊したのは悪かったと思ってるが、朝から説教されんのは勘弁だ。

 

「フフ♪貸し一つ、ね♪(ぼそ)」

 

「……GOOD」

 

そんな俺の思いを見透かしている様で、リサリサはニヤニヤ顔から一転して輝かしい笑顔で俺に小さく呟いてきた。

俺は若干瞼をピクピクさせながらも、リサリサの要求に従う。

俺が断れないのを理解して尚且つそれを楯に貸しを作るとか……逞しいなぁ、おい。

そんな俺達を不思議そうに見てくるアリサ達に「なんでもない」と言いながら、俺達は鮫島さんの運転する車に乗って隣町へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「にゃあッ!?ほ、ホントにアリサちゃんのそっくりさんだったのッ!?」

 

「……い、いやはや驚いたな……ここまでそっくりだとは思わなかった」

 

「何よ、二人共アタシの言う事信じて無かったのッ!?失礼しちゃうんだからッ!!」

 

さて、場所は変わって、ココは海鳴の町の河川敷。

そこの広場にて、現在俺達は先に来ていたなのはと相馬と合流した所だが……。

 

「まぁまぁアリサちゃん。リサリサちゃんとアリサちゃんって本当にそっくりだし、会ってみないと信じ難いと思うよ」

 

なのはと相馬が信じてなかったのが気に食わないのか、アリサは2人の言葉に眉を吊り上げ、そんなアリサを横からすずかが諌めていた。

まぁ原因は言うまでもなく……。

 

「フフ。やっぱりアリサの友達と会うと、こういうリアクション見をせられちゃうのね……初めまして、アリサ・ローウェルよ。気軽にリサリサと呼んでちょうだい♪」

 

「わわッ!?な、名前までアリサちゃんと一緒なのッ!?」

 

2人は名前まで自分の友達と一緒だという事に驚いているが、それでも二人共笑顔で自己紹介をし、俺達の顔合わせは終わった。

そう、大事な顔合わせは終わったので、なのはが笑顔で俺達にサッカー場を指差して口を開く。

 

「それじゃあ皆、お父さんが待ってるから応援席に行こ……」

 

「ちょ~~っと待とうや、なのは?」

 

そして、応援席へと促そうとしたなのはに、俺はストップを掛ける。

ちょっとなのはには大事な大事なお話が残ってるんだよなぁ。

俺がニコニコしながら肩を掴んでストップを掛けると、なのはは不思議そうな顔をして振り返った。

 

「ほえ?どうしたの、定明君?」

 

「いやなに、ちぃと小耳に挟んだんだが……お前、俺の事をDQNネーム君にバラしたらしいじゃねぇか?」

 

「ギクゥッ!?」

 

おい、口でギクッとか……俺の事舐めてんですかね、この子は?

俺の問いかけを聞いて思い出したのか、なのはは冷や汗をダラダラ流しながら明後日の方へと視線を逸らす。

 

「な、なな、何の事かな~?なのは、わかんなーい♪」

 

「(プッツン)……そうかそうか、そんなにそのツインテールを3つの団子に変えられてぇのか、ん~~?」

 

「ごめんなさーいッ!?あ、謝るからサザエさんみたいな髪型は勘弁して欲しいのーッ!?」

 

何故かブリっ子を演じて誤魔化しに掛かったなのはに、俺は極上の笑顔を向けながら肩を掴む力を増していく。

俺の笑顔の迫力にビビッたのか、それとも余程サザエさんヘアーは嫌なのか、なのはは逃げ出そうとジタバタと藻掻き始める。

ちなみに我が背後には既にロボットのような見た目を持ち、体の部分をモンタージュのようにイメージ変換し、人相や運勢を固定する。『シンデレラ』を立たせてたりする。

うん、結構さっきのブリっ子モードが妙にイラッときたからな……コレは断罪だ。

勿論スタンドが見えてるアリサ達は少しギョッとした顔をしてなのはに「ご愁傷様」って視線を向けてた。

 

「次に舐めた事ぬかしやがったら、どれだけいじってもサザエさんヘアーにしかならねぇ呪いを掛けてやっからな?OK?」

 

「OKなのッ!!もう絶対にあんな事言わないから、許してッ!!ねっ!!ねっ!!ねっ!?」

 

「あぁ。許してやろう――――サザエさんヘアーは……な?」

 

「……にゃ?」

 

俺の許すという言葉を聞いて安堵の息を吐くなのはだったが、その直ぐ後に続いた言葉を聞いて猫っぽい声を挙げる。

 

「とりあえず俺の事をDQN君にバラした罪……サザエさんヘアーは可哀想だから許すとして……さっきイラッとさせられた分のおしおき自体が無くなるワケじゃねぇからな?」

 

「それ許せてないッ!?一つも許せてないよッ!?そこは寛大な心で全部を許すべきだと思うのーッ!!」

 

えぇい、いちいちやかましいヤツだな、ったく。

喚くなのはの肩を抑えていた手を離し、即座になのはの側頭部に両拳を当てて待機。

ガッチリと固定された事に、なのははビクッと肩を震わせながら俺に視線を向けてくる。

俺はそうやってビクビクしてるなのはにニッコリと笑みを送りながら口を開いた。

 

「Question。俺がこれから動かすのは……ドッチの手でしょう?」

 

少~しづつ、少~しづつ手に力を込めながら問いかけると、なのははブルブルと震えながら口を開く。

 

「……み……右?」

 

「NO!NO!NO!」

 

「え?……ひ、左……かな?」

 

「NO!NO!NO!」

 

「りょ、りょうほ~ですかぁぁ~~?」

 

「YES!YES!YES!……YES!」

 

「もしかしてグリグリですかぁ~~~ッ!?」

 

「YES!YES!YES!OHMYGOD!」

 

俺は最高のスマイルを見せながら最後の答えを優秀な生徒、なのは=クンに送りつつ、手を高速で左右に回転させる。

この痛みを刻んで少しは反省しやがれってんだ、このおっとり系ドジっ娘めッ!!

 

「オラララオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアッ!!!」

 

グリグリグリグリグリグリグリグリッ!!!

 

「ぎにゃぁぁあああああッ!!?」

 

晴れ渡る晴天の大空、朝の清々しい空気に紛れて、なのはの悲鳴が木霊するのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「そうかそうか、君が恭也となのはが話していた定明君か。前にお店で一度会ってるけど、僕はなのはと恭也の父親の高町士郎という。今日は来てくれてありがとう」

 

「あっ、やっぱどっかで見た人だと思ってたんスよ。翠屋だったのか……っていけねぇや。俺はなのはと友達させてもらってる城戸定明っていいます。今日はお誘いありがとう御座います」

 

「ははっ、そんなに畏まらなくても良いよ。これからも是非、なのはと仲良くしてやってくれ」

 

さて、なのはにお仕置きを終えた事で気分がスッキリした俺は、アリサ達と共に応援席へと赴き、そこでチームの監督をしてたなのはのお父さんと挨拶を交わしていた。

何処かで見た事のある人だと思ってたら、翠屋でウェイターをしてた若いお兄さんだったから驚きだ。

何せ士郎さんの見た目ときたら、まだ二十代前半でも通用するってぐらいの若さだったからな。

恭也さんと並んでも、下手したら兄妹に見えそうなレベルだ。

ってあれ?士郎さんがなのはと恭也さんの親父さんって事はもしかして……。

 

「まさか、翠屋で士郎さんと並んで立ってたお姉さんって……」

 

「ん?あぁ。あの美人な女の人は、なのはのお母さんであり、僕の世界で一番大切な奥さんでもある桃子だよ」

 

俺の質問にササッと答えを導き出して、若干の惚気を飛ばしてくる士郎さん。

だが、俺は士郎さんの言葉を聞いて、逆に言葉を失う。

あの人がなのはのお母さんって……どう見てもまだ二十代ちょっとにしか見えなかったぞ。

 

「……若さを保つ秘訣でもあるんスか?」

 

「ははっ。僕も桃子も特に何かをしてるワケじゃないけどね。やっぱり、近所の人達から見てもかなり若く見られてるよ」

 

そりゃ当たり前でしょうに。

はっきり言って子持ちには見えない若さ……いや、それを言うならウチの母ちゃんもか。

何故か父ちゃんは歳相応に老けてっから、近所からはロリコンの称号を送られてたりする……父ちゃんぇ……。

 

「うにゅう~……まだ頭がクラクラするの……」

 

「大丈夫か、なのは?……やっぱり、あの場では巫山戯なかった方が良かっただろ?」

 

「あうぅ。反省するの」

 

「よしよし。定明もアレでお終いだって言ってたから、元気を出せって(撫で撫で)」

 

「ふわ……。あ、ありがとう、相馬君♪」

 

「いいさ。なのはが笑顔を見せてくれたら(キラキラ)」

 

……何で俺はこんな甘い空間を形成してるバカップルの近くに居なきゃならねーんだ?

俺のぐりぐり攻撃で刻まれた痛みに、なのはは頭を抑えながらフラフラしていたが、ソコに相馬が近寄って優しく声を掛ける。

それを享受したなのはは一気に顔を満面の笑顔に染めて嬉しそうにしてるではないか。

更に相馬が笑顔を見せながらなのはの頭を優しく撫でる二重の極み……何だこのバカップル共は?

 

「何かよ。もうササッと結婚しちまえよ、お前等」

 

そんな光景を間近で見せられちゃ、こんな言葉が出るのも仕方ねぇんだ。

 

「うにゃッ!!?け、けけけけけ、結婚ってッ!?な、なのはは別にそにょ……ッ!?」

 

「おいおい定明?いきなり何を言い出すんだよ?」

 

俺の言葉に過剰な反応を示して顔から蒸気を吹き出すなのはと、俺の言葉に呆れた様に首を振る相馬。

そんな2人に、俺は肩を竦めながら呆れたぜって顔を見せた。

 

「別に~?只、傍から見たら相馬となのはって結構お似合いだと思ってよ。なぁアリサ?」

 

1人の言葉で足りないならば増やせば良いって感じに、俺は同じくベンチに座っていたアリサに声を掛ける。

聡明なアリサはそれだけで、これが俺からの振りだと気付いたんだろう。

面白そうだって感じにニヤリと口角を吊り上げて参戦してきた。

 

「ホント、なのはったら学校でもこんな感じなのよ?もうそろそろ「付き合ってます」、ぐらいの報告はあっても良いと思うんだけどなぁ?」

 

「そうだよね。二人共とってもお似合いだと思うもん♪」

 

「ア、アリサちゃんッ!?すずかちゃんッ!?」

 

思わぬ場所からの追加攻撃に、なのはは顔をショックに染めて2人に視線を送っている。

まさかこの場で自分が槍玉に挙げられるなんて思ってもみなかったんだろう。

まぁ2人の顔は茶化す感じじゃなくて、「マジでそう思ってます」って応援してる表情だったけど。

やっぱ親友の恋路ってヤツは気になるだろうし、恋バナってのが2人の好奇心を煽りまくった結果だろうな。

 

「確かにね。今日初めて会った私から見ても、2人はお似合いのカップルだと思うわよ?」

 

「リ、リサリサちゃんまでッ!?リアル四面楚歌状態なのーッ!?」

 

もはや自分の味方は居ないと悟ったなのはが絶望に染まった悲鳴を挙げる。

俺の隣に居る士郎さんに視線を向けるも、士郎さんは士郎さんで「ハハハ、気が早過ぎるなぁ……せめて手を繋ぐのは社会人になってから」とか呟いてるだけだ。

っていうか服を握ってる手に血管が浮き出てるし……ギリギリと服が悲鳴挙げてますけど?

しかも言ってる事が恭也さんとモロかぶりな件について……そういや士郎さん、翠屋でなのは達がイチャついてるの見て血の涙流してたっけ。

何か微妙にバーサークモードに入りかけてる士郎さんから目を背ければ、何故かヤレヤレって感じに首を振ってる相馬を発見。

 

「皆、なのはをからかうのもそこまでにしろよ。大体、なのはが俺を好きなワケ無いだろう?前提から間違って……」

 

おっとー?何か見当違いな事ほざき始めたぞコイツ?

相馬の朴念仁振りに呆れていた俺だが、相馬が自分の持論を語りながらなのはに目を向けると……。

 

「……むー」

 

「な、なのは?どうしたんだ?」

 

「……別に……何でもないもん(プイッ)」

 

当のなのはは不貞腐れた様に頬を膨らませて、焦る相馬からプイッと視線を外してしまう。

いきなり怒りだしたなのはの行動にワケが判らないと慌てる相馬だが、俺達は皆一様に呆れた表情を見せつつ……。

 

「分かってないのは貴方だけよ?」

 

「理解してないのはアンタだけ」

 

「分かってないのは相馬君だけだよ?」

 

「勘違いしてんのはオメーだけだっつの」

 

全員で声を揃えて、同じ感想を相馬に送ってやった。

まぁそんなこんながあったが、その後は皆で士郎さんが監督してる『翠屋JFC』の試合を見ていた。

試合はとても白熱し、相手のチームとの一進一退の攻防ってヤツだ。

俺自身、サッカーはあんまり詳しくルールは知らなかったけど、見てる分には充分楽しめたな。

ただ、試合の途中でこっちの選手が1人怪我して替えが居ないってハプニングがあったんだが、その時にアリサ達に推薦されて俺が出る羽目になりかけたのは焦ったぜ。

まぁ最終的に全部相馬に押し付けたけど。

その後は相馬が皆と協力して負け気味だった流れを完全に変えやがった。

チーム全員で戦う仲間プレイを意識しつつ、個人プレイに走らない遣り方が功を奏し、試合を勝利に導いた。

もう横でなのはがキャーキャー言ってウルセェから、ジッパーで口塞いでやろうかと思ったぞホント。

まぁ兎に角、結果的に翠屋JFCが勝利を納め、彼らは翠屋で祝勝会を開く事となり、俺達もそれにお呼ばれする流れとなった。

 

「……良し、居た」

 

「ん?何だよ相馬?」

 

そして、全員で移動する運びになり、彼らサッカーチームのメンバーが撤収作業をしているのを見ていた時、相馬が誰かに視線を送りながらポツリと呟きを漏らす。

少し気になって、相馬の見てる先に視線を送ると、そこには1人のサッカーチームのメンバーが居た。

 

「アレって、今日活躍してたゴールキーパーの人じゃねぇか?あの人がどうかしたのか?」

 

彼がどうかしたのかと問い返そうと思い、相馬に視線を向ければ、相馬は真剣な表情で彼を見ている。

何故か相馬の隣に居るなのはまでもが、かなり真剣な表情を浮かべていた。

 

「ん?あぁ。ちょっと俺となのははあの人に用事があるから、少し行ってくるよ」

 

俺の質問に答える相馬だが、何やらメンドくせー理由がありそうだ。

ここは係らずに相馬達に任せるのが吉か。

 

「ハァ……まぁ、分かった。じゃあ俺達はここで待ってるからな」

 

「あぁ。直ぐに戻る。じゃあなのは、行こう」

 

「うん。皆、直ぐに戻るからちょっと待ってて」

 

2人は俺達に声を掛けると、片付けをしていたゴールキーパーの少年の元へと走って行く。

その様子に首を捻っていたアリサ達だが、アリサとすずかは直ぐにニコニコした笑顔を浮かべて嬉しそうな声を挙げた。

 

「それにしても、今日はあのバカの顔を見なくて良かったわ。それだけで一日がハッピーに感じるもの」

 

「うん♪もしかしたら来るかもって思ってたけど……本当に良かったよ」

 

アリサとすずかは2人揃って「ねー♪」とか言ってはしゃいでる。

2人が言ってる人物……多分、オリ主の事だろうなぁ。

しかし会わなかったら一日がハッピーって……やっぱトンデモねぇ嫌われ様なんだな。

 

「そういえば……貴女達にご執心な筈の男が、貴女達がココに居るのを知ってて来ないっていうのもおかしくないかしら?……まさかとは思うけど、何処かで待ち伏せを……」

 

「えッ!?嘘ッ!?」

 

「……帰りはノエル達に迎えに来て貰うのに……嫌だなぁ」

 

が、そんなハッピーな気分を崩すかの如く、リサリサが2人にとって最悪な予想を語る。

まぁリサリサの考えも判らないワケじゃねぇが、『それは無い』。

 

「心配要らねえよ。DQN君はどう足掻いたって、俺達の居る場所には『近寄れねぇ』んだからな」

 

「えッ!?ど、どういう事、定明君?」

 

「……もしかして、アイツがここに来なかったのって……定明の仕業?」

 

「おう。俺のスタンドの一つ、黒い琥珀の記憶(メモリー・オブ・ジェット)の能力だ」

 

 

 

――黒い琥珀の記憶(メモリー・オブ・ジェット)

 

 

 

このスタンドは第四部の小説に登場したスタンドで、自身の指定した領域に誰も侵入させなくする能力を持ってる。

ただ、小説版でもスタンドの容姿の説明が無かった所為なのか、コイツには固有のヴィジョンが無い。

ハッキリ言えば、ヴィジョンが無いからスタンドの中で一番超能力ってカテゴリに近いスタンドだな。

今、俺達が居る場所の河川敷は、アクセスするのに両端の道路のどちらかを使うしか無い場所だ。

だから俺は、この河川敷に広がる道路から、およそ1キロ先の両端を指定して能力を使用した。

これで、この河川敷は完全に隔離された場所になっていたんだ。

コレもオリ主君に会いたくないが為に俺が張った予防策だったりする。

オリ主君以外の他の人達もこっちに来る事が一切出来なくなるが、そこは制御出来ないので諦めた。

そう説明してやると、3人は「成る程」と頷いて納得し、俺は笑顔を浮かべながら更に言葉を続けていく。

 

「ちなみに、相馬が前もってDQN君には違う場所を教えてたらしいからな。どっちみち、お前等の言ってるDQN君は俺達に会う事は無えのさ」

 

尤も、コレは相馬が独断でしてた事だから、俺もついさっき知ったばかりである。

その事を伝えれば、彼女達はあからさまに嬉しそうな顔ではしゃいでいた。

そうして少しの間談笑していると、相馬達が戻ってきて俺達と合流し、俺達は翠屋JFCのメンバーと共に、翠屋へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……ンめッ。このペペロンチーノマジにうめえよオイ」

 

余りの旨さに笑顔を見せながらペペロンチーノを頬張る俺だが、隣に座るアリサが呆れた様に注意を飛ばしてくる。

 

「コラ定明。ズルズルと音を立てて食べるな。はしたないわよ?」

 

「固ぇ事言うなよな、アリサ。別にどっかの粛々としたパーティってワケじゃねーんだ。これぐらい良いだろ別に」

 

「そういうのは心構えの問題。普段から気を付けてないと、何処かで恥を掻くのはアンタなんだからね」

 

「ヘイヘイ。気を付けるって」

 

はい、只今翠屋の外にあるオープンテラスです。

あっ、勿論この周辺の道路には1キロ単位でメモリー・オブ・ジェットの能力を使用中だ。

オリ主君対策はバッチリな状態でございます。

そのオープンテラスで、俺は腹が減って注文したペペロンチーノの食べ方について、アリサから苦言を頂いております。

おかしい、何故に俺は飯を食うだけで注意されにゃならんのだ?

大体がだアリサ、こちとらお前さん達の様な上流階級とは育ちが違うんだよ。

俺達の遣り取りを傍で聞いていたすずかとリサリサ、相馬はアリサの意見に賛成なのか、小さく笑うだけで誰も擁護してくれない。

ここに俺の味方は居ねーのか。

ちなみになのはは俺達の分を含めたデザートを取りに行っててここには居なかったりする。

 

「まったくもう、アンタは少し相馬を見習った方が良いわ。相馬は普段からテーブルマナーもちゃんとしてるわよ?」

 

「生憎、俺は好きな様に飯を食うし、そんなテーブルマナーの必要なパーティーに出る機会は一生ねぇ」

 

「ハァ……ああ言えば……」

 

「こうも言いたくなるが、何か?」

 

「ぐぬぬぬぬ……ッ!?」

 

食べ終えたペペロンチーノの皿を脇に避けながらアリサをあしらえば、アリサは悔しげにうめき声を挙げる。

へっ。こちたら小学3年生なんだ、ちょっとくらいお行儀が悪くても見逃せってんだい。

いい感じに膨れた腹を擦りながら、俺はテーブルの水へと手を伸ばすが、中身が空だった。

 

「ハイ。どうぞ定明君」

 

「お?サンキュー、なのは」

 

だが、俺が代わりの飲み物を探そうとした時、グッドタイミングでなのはがトレーに乗ってたメロンソーダを差し出してくれた。

俺はなのはにお礼を言ってそれを受け取り、辛味で支配されてた口の中へと飲み込む。

さっぱりとしたソーダの風味が辛味を中和してくれて爽やかさMAXだな。

 

「ふぅ~……ん?何だソイツ?なのはのペッ……非常食か?」

 

「キュッ!!?」

 

「何でッ!?しかも何でペットって言いかけてそっちに言い直したのッ!?」

 

何やらなのはが肩に乗せて連れてきた動物を見ながら、俺は何気なく話を振ってみる。

その内容に驚きを顕にするなのはと、身を竦めてビビる小動物。

ヤベエ、軽い冗談のつもりだったのに……セットでイジると輝くな、コイツ等。

 

「いやだって、お前この前『新しいメニューが増えた♪』って楽しそうに話してたじゃ……」

 

「嘘だよねッ!?前に会った時はユーノ君まだ居なかったよッ!?ってユーノ君どうして逃げようとしてるのッ!?違うからねッ!?怖がらないでよぉッ!!」

 

「おい定明、なのはをあんまり苛めてやるなって」

 

必死に弁解するなのはと、そんななのはの肩の上でビクビク震える小動物。

その光景を見ながら笑う俺と、そんな俺をやんわりと注意してくる相馬。

 

「ワリィワリィ。なのはってイジるとホントに面白れぇから、ついつい遣り過ぎちまうんだ」

 

「全然謝られてる気がしないよぉ……」

 

ケラケラ笑いながら謝るが、なのはは納得がいかないかの様に項垂れて小さく呟く。

何時の間にかなのはの肩の上からテーブルへと移動していた小動物を見ながら、リサリサが口を開く。

 

「この子は……フェレット……なのかしら?」

 

「そういえば、ちょっと違うかも……動物病院の院長さんも、変わった子だねって言ってたし……」

 

「確かに、改めて良くみたら違う気が……」

 

「「「ギクゥッ!?」」」

 

何故かリサリサ達の感想にビクッと飛び上がって驚く相馬達だが、俺もリサリサ達と同意見だ。

何故そう思うかと言うなら、このフェレットらしき動物には『黄金長方形』が見えない。

それはつまり、この動物が自然界で生まれた純粋な動物じゃ無いって事に他ならねぇ。

勿論、それだけが理由じゃ無く……。

 

「クンクン、クンクン……な~んかこのフェレット。『人間』くせぇ臭いがすんだよなぁ~?」

 

「「ギクゥッ!?」」

 

「ふぇ?に、人間臭い?そんなの判るの?」

 

ハイウェイ・スターの能力を使用して鼻をスンスンさせながら訝しむ様な表情でそう言うと、相馬とフェレットだけがビクッとし、なのはは純粋に驚いている。

何かリアクションの違いが気になるが、とりあえず俺はなのはの疑問に答える事にした。

 

「ん~。人間臭いっていうか……コイツからは、動物特有の動物臭さが一切しねぇんだよなぁ……普通はどんなペットでもする臭いだってーのに……何か怪しいなぁ?」

 

「キ、キュ……(ダラダラ)」

 

「え、えーっと……ま、まぁちょっと変わったフェレットって事でッ!!ほ、ほらユーノ君、お手ッ!!」

 

「キュッ!!」

 

「「わぁ~ッ!?可愛い~~ッ!!」」

 

「いや、普通はフェレットにそんな事出来ないと思うんだけど……」

 

「奇遇だなリサリサ。俺もさすがにアレはねぇと思う」

 

まさかのお手という動物芸をフェレットが行った光景に、すずかとアリサは燥ぎながらフェレットのユーノを撫でまわしている。

そんな光景を見ながら、俺とリサリサは益々動物らしくねぇと感じていた。

ってちょっと待てよ?今なのはは、このフェレットの名前を『ユーノ』って言ってたよな?

……確かユーノってジュエルシードを探してるって奴じゃなかったっけ?

おかしいなと、頭に過った疑問に首を捻りながら相馬に視線を向けてみるが……。

 

「……」

 

「相馬?おいどうしたんだよ?」

 

何やら相馬は途方も無く面倒くさそうな表情で、席から離れて道路の向こう側を睨んでいた。

俺も気になったので、皆に断りを入れてから席を立って相馬に近づき、声を掛けた。

だが、相馬は俺の言葉に返事をかえさず道路の向こう側を見続けているのでそれに従って道路に目を向けるが、これといっておかしな所はない。

そもそもメモリー・オブ・ジェットの能力を発動させているから、ここから1キロ圏内に人の影は無いしな。

車すら通らない事に何人かは首を傾げていたが。

 

「……定明、マズイぞ」

 

「あ?……何がだよ?」

 

俺の問いかけを聞いた相馬は声を潜めて、小さく俺にだけ聞こえる様に話してきたので、俺もそれに倣って小声で問い返した。

 

「ここから1キロ先の場所で、神無月がサーチャーという探索魔法を使って、俺達の事を監視してる……お前の顔がバレたぞ」

 

「……冗談じゃねぇぞ、ったく」

 

どうやらこのまますんなりと帰る事は出来なくなってしまった様だ。

相馬の話によると、何故かDQN君が俺達の事を魔法で盗み見てるらしい。

俺は伝えられた面倒事に、思わずデッカイ溜息を吐いてしまう。

 

「やはり、サッカーの行われる場所を違う場所だと伝えるだけじゃダメだったか……そもそも俺達が今翠屋に居るのも、原作のイベントだしな」

 

成る程、サッカーの当てが外れてもココに来れば自動的になのは達に会えると踏んだってワケか。

 

「……ここから先は俺の勝手な想像だけど、良いか?」

 

「……何だ?言ってみてくれよ」

 

随分と真剣な表情で語りかけてくる相馬に、俺は諦めの混じった声音で返す。

今日はバトらねぇワケにゃいかねぇかもしれねぇしな。

 

「定明、俺はお前の特典がスタンドだと思ってる……だから、お前がそうだと仮定しての話だが、お前何か能力を使ってるだろう?俺も今サーチャーを展開して分かったんだが、神無月の奴、ココに向かおうとしては出来なくて、かなり苛立った表情をしてるからな」

 

おぉ、かなり近い所までバレてたか……まぁ、スタンドだけじゃねぇけど。

しっかし、こりゃ参ったぞ……このまま能力を使用してれば、オリ主君に会う事は絶対無い。

でもそれは、アリサとすずかの迎えもここに来れないって事だ。

俺とリサリサも、帰りはすずかの家の車に乗せてもらう事になってるから、さすがに何時までもこのままじゃ困る。

と、いう事はだ……やっぱ俺がオリ主君の相手をするしかねぇか……やれやれ。

俺は頭を振りながら相馬へと視線を移す。

 

「相馬、奴はアッチ側の道路に居るんだな?」

 

「そうだが……どうするつもりなんだ?」

 

「まぁとりあえず……アリサ達が帰るのもそろそろだし、お前はなのはを家に送ってやれ。俺はちと、野暮用が出来たからよ」

 

主にゴミ掃除って野暮用が。

そう言うと、相馬は野暮用の意味を察してくれたんだろう、「1人で大丈夫か?」と心配してくれた。

俺はその言葉に問題無いと返しつつ、少しの間は皆と一緒に談笑に加わっていた。

やがて、アリサとすずかがそろそろ迎えが来ると携帯片手に言ってきたので、俺はドッチから来るのか聞いてみた。

2人は俺の真剣な表情を見て「何でそんな事を聞くのか?」って顔してたけど町の方から、つまりオリ主君とは反対の方から来ると答える。

それを聞いて、俺は直ぐにメモリー・オブ・ジェットをオリ主君の前だけに発動。

反対側から来る鮫島さんとノエルさんが通れるルートを確保する。

これで、俺達は皆問題なく帰れるワケだが……。

 

「ねぇ、ホントに良いの、定明君?」

 

迎えに来てくれたノエルさんの車に乗りながら、すずかが俺に問いかけてくる。

見ればリサリサも俺が一緒に帰らないと言い出して不満そうだ。

 

「あぁ、どうしても俺1人でやらなきゃならねぇ野暮用があってな。ワリイけど先に帰っててくれや」

 

そんな2人に、俺は肩を竦めながら答えを返す。

そう、俺は2人とは一緒に帰らず、1人で家に帰る事にしたのだった。

理由はこの先に居るであろうオリ主君の存在だ。

俺の顔が割れたって事は、このまま俺の住処まで追跡されて家がバレるのは困る。

それに、もし俺の母ちゃんと父ちゃんに手を出されたら……俺はオリ主君を殺しちまう。

考えすぎかもしれねぇが、相馬が既に殺されかけたって前例もある。

なら、不安の種は今のうちにキッチリと排除しておきてぇ。

俺の大事なモンに手を出される前に……再起不能になってもらうとしますか。

まぁそれも全てはオリ主君の態度次第だけどな。

俺は不満たらたらのアリサ、リサリサ、すずかを諌め、皆に何とか帰ってもらう事に成功。

なのはは相馬が一緒に帰るらしく、さっき俺に別れの挨拶をして自分の家へと戻っていった。

帰る時、相馬が真剣な目で俺の事を心配してたけどな。

 

「俺はサーチャーでお前たちの事を見ておくよ……もし、お前が危なくなったら、直ぐに駆けつけるからな……気を付けろ」

 

何て事を帰り際に言われた……心配してくれてありがとうよ、相馬。

友達が心配してくれてるって事に嬉しい気持ちが溢れてくるが、俺は直ぐに頭を切り替えて歩き出す。

目的地は暫く歩いた所にある公園だ。

もうメモリー・オブ・ジェットは解除して、オリ主君は自由に動けるワケだが……。

 

「フゥ……かなり怒ってるな、ありゃ」

 

俺の後方800メートル先で走って俺に向かってきているオリ主君の形相は怒りに染まっていた。

メモリー・オブ・ジェットを解除してからスター・プラチナで後ろを見てたけど、直ぐに見つかったよ。

普通じゃ有り得ない銀髪が良く目立つからな。

こりゃ……戦う事になるな、間違い無く。

とりあえず、今までの相手とは全然違う……俺と同じで、何かの戦闘用の特典は持ってるだろうし……面倒くせ。

この後に起こるであろう面倒事の事を考えながら、俺は憂鬱な気分で人気の無い公園を目指すのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「おいッ!!待ちやがれテメェッ!!」

 

「……」

 

そして、俺が公園に着いた瞬間、オリ主もやっと俺に追い付いた様で、後ろから怒鳴り散らしてくる。

だが、俺は奴の呼びかけに答えず、そのまま公園の中央へと足を進めていく。

 

「テメェ……無視してんじゃねぇぞコラァッ!!!」

 

俺が奴の呼び掛けを無視した事にキレたのか、奴は俺の後ろから足音を荒らげて近寄ってくる。

それだけならまだ良かったんだが……。

 

「オラァ、くたばれぇええええッ!!!」

 

あの野郎、俺がエピタフ(墓碑銘)で予知した通りに後ろから殴りかかってきやがった。

オイオイ……たかが無視しただけで殴り掛かるとか、短気過ぎやしねぇか?

俺もさすがに無抵抗で殴られるのは嫌なので、直ぐ様キング・クリムゾンの能力を使用。

時間を1秒だけ消し飛ばし、奴の攻撃をすり抜ける。

 

「時は再び刻み始める」

 

「ざまぁみやが(ゴスッ!!)ごぶぁっ!?」

 

俺が奴の後ろに周った瞬間、時間が元通りに刻み始め、当たる目標を失って奴は地面へと顔面を強打した。

更にプラスでキング・クリムゾンで軽く奴の頭を殴っておいたから、地面にぶつかるスピードも上がってる。

地面に倒れ込んだオリ主を、俺はその場に立ちながら見下ろし、遂にオリ主と対話を始めるのであった。

 

「ハァ……何か言ったか?俺のケツと話をされてもよぉ~~おケツじゃ聞こえやしねぇ……しかも、いきなり殴りかかられる覚えもねぇんだが?」

 

「こ、この野郎ぉ~ッ!!ブッ殺すッ!!」

 

俺の呆れた物言いが琴線に触れたのか、オリ主は顔中に青筋を刻みながら立ち上がり、即座に俺との距離離して指輪を嵌めだした。

だから短気過ぎんだよなぁ……カルシウム不足し過ぎじゃねぇの?

今正に襲いかかろうとしてる相手に、俺は両手を向けて落ち着かせようと試みる。

 

「おいおい落ち着けって……何をそんなにキレてんだ?っていうかお前誰?」

 

清々しいくらい白切ってるが、向こうは俺が知ってるとは思ってねぇ筈なので、対応的にはこれで良いだろ。

 

「あぁッ!?ンなもんこれから死ぬお前が知る必要はねぇんだよッ!!俺の女達に手を出した事を後悔しながら死にやがれッ!!ギルガメッシュ、セットア『オラァッ!!』ぎゃぼッ!?」

 

俺の質問にも答えず悪態を吐いてきたオリ主の顔を、スタープラチナでブン殴る。

何かセット何とかって言おうとしやがったから、何かしようとしたんだろうが、別にどうでも良いか。

打ち下ろしの様に殴られて頭から再び地面に突っ伏したオリ主に、更に追撃として俺自らサッカーボールキックを繰り出す。

 

「あらよっと」

 

グワシャァアッ!!!

 

「おげぁあああッ!?テ、テテテ、テメェェェ……ッ!!お、俺が変身する前に攻撃するなんて、陰険な卑怯者めッ!!」

 

「は?知るかンな事。そもそもテメエがいきなり後ろから殴りかかってきたのが発端だろうに」

 

俺に蹴り飛ばされ、スタープラチナで殴られた所為か、オリ主は鼻から血をダラダラと流し、それを手で抑えつけている。

何だコイツ?相馬が言ってた様な凶悪っていうか、自分勝手な思考はあるけど、てんで弱いじゃねぇか?

……もしかして変身出来ねえと何も出来ねえのか?それなら変身する前にボコボコにしちまえば良いって事だな。

遣り方はかなりエゲツねぇけど、簡単に人を殺そうとしてくるヤツに遠慮なんか要らねぇ。

 

「お、俺の美しい顔を足蹴にしやがって……ッ!!許さねぇッ!!テメエだけは絶対に許さねぇッ!!テメエをブッ殺した後でテメエの家族も皆殺しにしてやるッ!!」

 

「(ピクッ)…………あ?」

 

ササッと片付けて、厄介事は終わらせようと考えていた俺の耳に、何ヤラ不快デ、フザケタ言葉ガ聞コエテキタ。

オイ待テヨ……今、何テ言ッタンダ、コイツ?

俺が小さく呟きながらオリ主に目を向けると、奴は顔をニンマリと汚く、下卑た表情に変えていく。

 

「へ、へへへ……俺を怒らせやがったんだッ!!お前の家族は足から順に切り刻んで……いや、お前の母親は見た目が良かったら、俺の性奴隷にでもしてやるよッ!!勿論飽きたらグチャグチャにするけどなぁ♪あぁそうだッ!!お前の側に居たあのアリサそっくりの女も、俺がタップリと可愛がって俺専属の愛玩人形にしてや(スパァアンッ!!)……へ?……いぎゃぁああああああッ!!?」

 

下らない上に不快な事をほざき始めたバカの身に付けてる金ピカの指輪が嵌った指だけを、シルバー・チャリオッツで切り落とす。

 

「……もう良い……もう喋るな……空気が汚れちまうだろ」

 

ビービー喚くクソ野郎の悲鳴を聞きながら、俺は静かに口を開く。

誰の家族に手を出すだ?……リサリサをどうするだって?……もう、駄目だな。

 

「ぎぃいいいいいッ!!?こ、このクソウジ虫のモブ野郎がぁあああッ!!?お、俺の指をッ!!デバイスを取ったぐらいで、調子に乗るんじゃねぇえええええッ!!」

 

クソ野郎は唾を飛ばしながら俺に怒鳴ると、上空へと手を翳す。

そして次の瞬間、奴の背後にある空間に金色の波紋が幾つも広がり、そこから様々な刀剣類が姿を表わした。

どうやら奴はまだヤル気らしい……ゴミが何粋がってんだよ。

俺はその光景を見ながら、ジャンパーの内ポケットに忍ばせてきた『手鏡』を取り出す。

俺の大事な家族に手を出すなんて抜かしやがったんだ……あの野郎は、力が無い絶望ってヤツをたっぷりと味わせながらブチのめしてやる。

 

「テメエなんぞに、オリ主であるこの俺様が負けるワケねえんだッ!!ゲートオブバビ――」

 

喚き散らしながら俺に悪意の視線を送ってくるクソ野郎に、俺は手に持った手鏡を翳し――。

 

「ンな事ぁ1ミリ足りとも聞いてねぇんだよ。テメエみてえにゴチャゴチャうるせえヤツはコッチの世界へご招待してやる――――コイツを引き摺り込めッ!!『マン・イン・ザ・ミラー』ッ!!!」

 

奴を、『絶望の世界』へと誘ってやった。

俺がヤツに鏡を翳した瞬間、俺の背後からゴーグルを付けた派手な衣装のスタンド、『マン・イン・ザ・ミラー』が姿を表す。

マン・イン・ザ・ミラーは俺の命令通りに動いて、『俺の身体を鏡の中へと滑り込ませていく』。

そのまま中に入りきる瞬間、マン・イン・ザ・ミラーが鏡の『内側』から手を伸ばすと、奴の腕が片方『消えた』。

クソ野郎はそれに気付かず、俺が鏡の中に消えていく現象に驚いているが、その間にもヤツの身体は足、腕、顔と徐々に『引きずり込まれていく』。

招待してやるぜ、クソ野郎……俺だけの『独壇場』になぁ。

 

「――ッ!?な、何だここはぁッ!?」

 

ヤツの身体全てが引きずり込まれると、クソ野郎は行き成り変わった風景に声を荒げる。

別にさっきまでと場所が違うとかそういうのじゃねぇ……只、全ての色が白黒になってるってだけだ。

空も、物体も……全てが『死んでる』ってだけの世界。

そんな空間に行き成り放り込まれて驚くクソ野郎だが、俺はそれには構わず奴に近づいていく。

 

「テ、テメエ何をしやがったッ!!……ッ!?そ、そうか……テメェ結界を(なのはに気付かれない様に俺を殺そうってか?ハッ、馬鹿な奴だぜ。魔力を使って結界を張るなんざ、気付いてくれって言ってる様なもんだ。すぐに俺の嫁であるなのはが気付いて駆けつけてくるッ!!)」

 

何やら勝手に勘違いしてる様だが、俺はそれに構わず奴との距離を縮め、更に近づく。

マン・イン・ザ・ミラー自身の射程距離は数メートルしかなぁからな……近づかないとブチのめせねぇ。

 

「……」

 

「フン、なのはが来るのを待つまでもねぇ……俺が直々にブッ殺してやるから、精々光栄に思いやがれッ!!ゲート・オブ・バビロンッ!!」

 

俺が近づくのを確認しながら、奴は得意げな顔と声で何かを声高に叫ぶ。

 

シーン。

 

「……ん?ど、どうした?ゲ、ゲート・オブ・バビロンッ!!」

 

だが、奴が叫んだ事で、この世界に何か起きたかと言えば、『特に何も起きていない』。

そりゃそうだ、ここは『鏡の中の世界』であって、外の『現実の世界』とは違う。

 

「ゲート・オブ・バビロン、ゲート・オブ・バビロン、ゲート・オブ・バビロン、ゲート・オブ・バビロン、ゲート・オブ・バビロンッ!!!クソおおおッ!!何で出ないんだよオオオオオオオオッ!?」

 

何度言っても自分の力が出て来ない事に、奴は発狂した様に周りを見渡しながら叫び声を挙げる。

それにも構わずに、俺は奴との距離をマン・イン・ザ・ミラーの射程距離に捉え……。

 

ボゴォッ!!!

 

無言で奴の顔を殴り飛ばしてやった。

 

「ブゲウッ!!?」

 

マン・イン・ザ・ミラーに殴り飛ばされ、奴は近くのゴミ箱にぶつかるが、ゴミ箱はヤツにブチ当たっても倒れない。

奴は苦しげ呻きながら視線を俺に向けてから、何かを探す様にキョロキョロと辺りを見渡す。

そして、何かを見つけると目を見開き、その方向へと駆け出していった。

俺も奴の動きに従って奴の目指す方向に視線を向けると、そこには、俺が斬り落としてやった奴の指輪と指が落ちていた。

恐らく、あの指輪が奴のデバイスなんだろう。この前のテスタロッサが持ってたバルディッシュの様に。

地面に落ちたそれを拾おうとして、ヤツが屈み……。

 

「こ、これがあればッ!!(グッグッ)な、何で持ち上がらねぇんだよッ!?どうなってんだッ!!」

 

地面に落ちたデバイスが、何度やっても持ち上がらない事に焦っていた。

まぁ無理も無いだろう。この世界にある物体は全て、俺にしか移動させる事は出来ないからだ。

俺は少し離れた場所でデバイスを持ち上げようと無駄な努力を続けてるオリ主に、再度距離を詰めていく。

 

「く、くそッ!!くそぉおおおおッ!!テメェ一体何しやがったぁああああッ!!!」

 

そして、俺の姿を確認したオリ主はまたもや俺を指さしながら喚き散らしだす。

はぁ……まぁ、教えてやっても良いか……どうせ、ここでコイツは再起不能になるんだからな。

せめてもの土産に、俺は少しだけ自分の……マン・イン・ザ・ミラーの能力を教えてやる事にした。

 

「……その世界にあるのは全て命の無い物質だけだ。他の生き物は、俺か、俺の許可した生き物だけ……お前は、鏡の中に引きずり込まれたんだよ」

 

そう、これがマン・イン・ザ・ミラーの能力。

『鏡の中の世界』を作り出し、鏡を出入り口としてその中に出入りする事が出来る。

この世界は所謂『死の世界』であり、ここにある物体の全ては俺かマン・イン・ザ・ミラー以外に動かす事は出来ない。

鏡の世界は俺を支点として大体数百メートルってトコだが、俺が動けば鏡の世界の支点も動く。

 

「鏡の中だぁッ!?じゃあ何で俺のレアスキルが発動しねーんだよッ!!大嘘こいてんじゃねーぞッ!!」

 

俺の説明に納得がいかねぇのか、オリ主は更に怒声を挙げてくる。

いちいちウルセェ野郎だな。

 

「俺が何のためにお前をここに引き摺り込んだと思う?お前と一緒に『闘えるモノ』を引き摺り込んじゃあ、俺が危険になっちまうじゃねーか?」

 

「闘えるモノ?……ッ!?ま、まさかテメエッ!?」

 

やっと自分の置かれてる現状を把握したのか、オリ主は顔を真っ青にしてガタガタと震え出す。

そうだ……テメエみたいなゲスは、それぐらい絶望してもらわなきゃ困るんだよ。

 

「ここには、俺が許可した力以外は入る事は出来ねえ……お前『本体』だけを入る事を許可した……他の特別な力は一切許可していないのさ……安全で無敵に振る舞える『鏡の中』……それが俺の能力」

 

そうやって丁寧に説明しながらも、俺は奴との距離を詰めて、マン・イン・ザ・ミラーに攻撃を繰り出させる。

 

「ッ!?ひ、ひぃッ!!?俺の力が出ない――」

 

「テメエの力は『外』に置いてあるんだよッ!!」

 

ズドドドドドドドドドドドッ!!!

 

自分の状況がマズイものだと理解したオリ主は逃げ出そうとするが、俺はすかさずマン・イン・ザ・ミラーでラッシュを叩き込む。

マン・イン・ザ・ミラーは鏡の世界を作り出す事にエネルギーを使っている所為でパワーは貧弱だが、それでも生身の人間とは比較にならない強さだ。

しかも、相手が只の9歳時程度なら、骨をへし折るぐらい造作も無い。

 

ポキッポキッポキッ。

 

「うぎぇええッ!?」

 

殴り飛ばしてやった奴の身体のアチコチから骨の折れる音が聞こえてくる、俺は更に追撃を掛ける。

俺の家族に手ぇ出そうなんて輩は、骨の15~6本はへし折ってやらねぇとなッ!!

 

「これが俺の――『マン・イン・ザ・ミラー』ッ!!」

 

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴォッ!!!

 

「ぐぶごぁあああああああッ!!?」

 

奴の全身の骨を叩き折るつもりでブチのめしてやると、奴は最後のラッシュを喰らってベンチへと突っ込んでいく。

だが、オリ主はベンチに倒れ伏しながらも、ズルズルと身体を引き摺って逃げようと試みる。

ちっ、マン・イン・ザ・ミラーは苦痛を与えるには使い易いが、徹底的に傷めつけても中々気絶しない程度の破壊力しかねぇのがネックだな。

更に奴を絶望の中へと叩き込んでやろうと近づいていく俺だったが……。

 

「ひ、ひぃいいいいッ!?も、もう止めてくれッ!!降参するから命だけは助けて下さいッ!!」

 

「はぁ?調子に乗るんじゃねぇよこの屑主野郎が。敵わないと思ったら降参でハイお終い、なんてなるワケねぇだろ」

 

何とこの屑は、恥も外聞も投げ捨てて土下座しながら、俺に命を助けて欲しいと懇願してきやがった。

その呆れてしまう態度に、俺は青筋を浮かべながらアホかと切り返す。

 

「おっしゃる事は分かってますッ!!でも俺は死にたくないんですッ!!もう両腕が折れて凄く痛いし、歯も殆どが折れちまって死にそうなんですぅうううッ!!な、なのは達も全て差し上げますから、命だけは助けて下さいッ!!」

 

差し上げるって……コイツはマジに真性の屑だな。

別にコイツのモノじゃねぇってのにこの扱い方……っていうか人間をモノ扱いしてる時点でアウトだろ。

とは言え、俺自身殺人なんて遣りたくねぇし、こんな屑の為に殺人を冒したなんて十字架を背負うなんて真平御免だ。

かと言ってこのままコイツを野放しにすんのも後から絶対に報復してくるだろうし……大量に枷を嵌めておくか。

 

「……仕方ねぇ、命『だけ』は助けてやるよ」

 

「ほ、ほんどうでずがッ!!?」

 

俺の呆れた物言いに、涙と鼻水を垂れ流したオリ主が嬉しそうに顔を上げる。うん、キメエ。

 

「あぁ、本当だ。但し俺は一切テメエの事を信用して無いから、テメエの危ない特典は全部封印若しくは取り上げさせてもらう。今後一切俺や俺の家族に手を出せない様にな」

 

「あ、ありがとうございま(ドゴォッ!!)ぼごぁッ!?」

 

涙を流しながらお礼を言ってたオリ主を殴り飛ばして完全に気絶させる。

起きてる状態で鏡の世界から元の世界へ戻して闇討ち、なんてされても叶わねぇからな。

ヤツが完全に気を失ったのを確認して、俺はマン・イン・ザ・ミラーの世界を解除させる。

 

「とりあえず、ヘブンズ・ドアー」

 

そして、元の世界に戻って俺がやった事は、まずヘブンズ・ドアーで安全装置(セイフティーロック)を掛ける事だった。

内容は俺は勿論、俺の家族やリサリサ、アリサやすずか、相馬やなのは達への攻撃は出来ない事。

更に俺達の半径5メートル以内には近づけないし話も出来ない。

翠屋にも、あいつ等や俺が良く立ち寄る場所には絶対に来れないと書き込んでおく。

要はコイツが嫌いな俺達に干渉出来ない様に書き込んでやったってワケだ。

さすがに5メートル以上だと、学校での生活が送れねぇし、そうなると教師とかも介入してきて話がややこしくなりそうだから無理だがな。

そして、奴の記憶を読んで情報を漁ると、奴の特典の最後が分かった。

ゲート・オブ・バビロンとかいうヤツが言ってた名は、宝具という危ない代物の原典が詰まった異次元の宝物庫。

簡単に言うと戦闘用の転生特典だ。

とりあえず、コレはコイツには勿体無いので、ホワイト・スネイクでDISC化を試みた。

何とアッサリとDISCに出来たから驚きである。

まぁコレでコイツの危ない力は奪い取ってやれたので良しとする。

次に、コイツの使ってるニコポ・ナデポは完全封印して、効力自体を打ち消してやった。

これは簡単に言えば、対象に使う暗示とか呪いの類に近いので、この場で封じてやった時点で、学校に居るコイツの取り巻き達は正気に戻るだろう。

コイツに好きな子取られて転校してしまったという男子の仇は、これで取れたな。

そんでもって、コイツはどうも魔導師ってヤツらしく、リンカーコアという魔力を生成する器官があったのでこれも完全封印。

これでコイツは完全に普通の人間になったワケだ。

 

「後は……どぉ~れ、『便所そうじ』でもしてもらうか」

 

公園の隅にあったある場所を見て閃いた俺は、ニヤニヤしながらオリ主に命令を書き込む。

最後に、俺は気絶してるオリ主にヘブンズ・ドアーである命令を書き込み、奴の記憶を閉じてやる。

俺の大事なモノに対する侮辱を篭めた台詞に対する報復は、これでチャラにしてやるか……。

 

「でもやっぱり、あれはよぉッ!!かなりムカついたから台詞だから、痛みだけはタップリと味わってもらうぜッ!!『黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)』ッ!!」

 

でも、思い返してみればかなりムカついたので、俺はてんとう虫をモチーフにした近距離パワー型スタンド、黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)を呼び出し……。

 

『無駄ァッ!!!』

 

ドゴォッ!!!

 

気絶してるオリ主に強烈なパワーで拳を叩き込む。

これで終わり……なワケはねぇよな、こっからもう一つ痛みを味わいな。

俺はブン殴ったオリ主に対してゴールド・エクスペリエンスの能力を発動させる。

コイツの能力は殴るか触れるかした物質に生命を与え、地球上に存在する動物や植物に変える能力を持つ。

生み出す生命の種類は俺が認識・理解している限り無限(絶滅種や空想上の生物は無効)に生み出せる。

この能力で生まれた命は、俺の意思で成長や死が自在であり、瞬時に生み出したり時間差で遅く生み出したりすることができ、命を失うと再び元の物体に戻る。

また、生み出された生命は生み出す前の物質の持ち主のところへ戻っていく習性がある。

要約すれば、ゴールドエクスペリエンスの能力は物質に生命を与える能力だが……これを『生きた人間』に与えるとどうなるか?

 

「最後に一発、鋭い痛みってヤツを……味わいやがれ」

 

それは、元々生命を持っている者に過剰に生命を与えることで、相手の感覚だけを暴走させる事が出来るんだ。

これを使えば、例え気絶していても痛覚がとても敏感になる。

更に、身体の感じる世界の感覚が遅くなっちまうので、鋭い痛みがゆっくりとやってくるのだ。

俺はそんな拷問にも等しいパンチを、オリ主の顔面に撃ち込み……。

 

ズドォオオッ!!!

 

思いっ切り殴り抜けて、公園の隅にある『公衆便所』の中へと叩き込んでやった。

 

「あ~スッキリしたぜ……さて、帰るか……そうだ、おいDQNネームッ!!舐める様に『便器』を綺麗にするんだぞッ!!舐める様にッ!!ぬアアアめるよォオオオオにィィィィッ!!だよん♪」

 

気絶してるであろうオリ主に俺はニヤニヤしながらアドバイスを飛ばし、ルンルン気分で公園を後にする。

 

 

 

え?ヘブンズ・ドアーで最後に何を書き込んだのかって?

 

 

 

ん~……まぁ大した事じゃねぇよ?

 

 

 

『便所の便器を全て、舌でベロベロ舐めてピカピカにする』ってだけだぜ?

 

 

 

ほら、別に大した事じゃねぇだろ?

 

 

 

 

 

――2日後、相馬から電話が掛かってきて、オリ主君が全治4ヶ月の重症で病院に担ぎ込まれたそうな。

それと発見された時は公衆便所で口の周りに大量の排泄物を付着させていて、危うく肝炎になりそうな状態だったらしい。

身体もアチコチの骨が折れたりしてて、回復には時間が掛かるとか。

学校じゃ通り魔にやられたんじゃないかと噂されてるそうだが、誰も特に心配してないと。

驚いた事にあれだけオリ主を追い掛け回してた女子も誰も心配してないそうだ。

 

「いや~、世の中ってホント怖いな?いたいけな小学生をそこまで叩きのめすなんてよ」

 

相馬に笑いながらそう言う俺だったが……。

 

『……定明、頼むから節度と加減というものを覚えてくれ』

 

と、何故か真剣な声で懇願されてしまうのだった。

いや、別に悲しんでるヤツが居ないならそれで良いんじゃね?

奴はそれだけ、俺を怒らせたって事なんだからな。

 

 

 




う~ん……もう少し徹底的に叩きのめした方が良かったかも?


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よろしかったら……アタシ達とお昼、ご一緒しま(ry

お、遅くなった理由、ですか?……い、いや。全然問題無いっすよ?

別にGTA5にハマってて遅くなったとかそういうんじゃ無……。


「はぁ……お茶会、ねぇ……」

 

『何よ、その気の無い返事は?まさかとは思うけど嫌なワケ無いでしょうね?』

 

少し呆けた声音で受話器に話し返すと、噛みつく様に反応して聞き返してくるアリサ。

いや、そんな不機嫌そうな声出さなくても良いじゃねーか。

 

「別に嫌ってワケじゃねぇよ……ただ、あんま洒落た空気は好きじゃねぇだけだ」

 

『安心しなさい。別に礼儀作法にうるさいお茶会じゃ無いから。ただ皆で集まって話をしましょうってだけよ』

 

「寧ろ、お前かすずかの家でやるってだけで充分洒落てると思うんだが?」

 

『ええい、男がグチグチとうるさいわねッ!!アンタは拒否権無しなんだからッ!!アンタもお茶会に参加よッ!!良いわねッ!!』

 

「あ~、分かった。分かったから、俺もちゃんと行くから怒鳴るなって……しかし、なのはが最近疲れを見せてるのは分かったけど、それって何かしてるからじゃないのか?」

 

色々とアリサの話に意見を返していたら遂に怒鳴られてしまった、っていうか拒否権ぐらい付けてくれよ。

こーゆう時に更に煽ったら面倒くせー事になるのは判りきってるので、俺は直ぐに了承する。

あの不快を通り越してゴミ屑な自称オリ主君に、町の清掃活動という名のボランティアをさせてあげた日から3日経った今日の事。

何時も通り学校に行って、何時もの様に友達と交友を深め、何時もと同じ様にリサリサと帰ってきた今日であるが、家に帰った俺を待っていたのはアリサからの電話だった。

最初母ちゃんからアリサからだと聞いた時は、また遊びのお誘いかなとか思っていたんだが、今回はちょっと毛色が違うご様子。

どういう事かと言えば、アリサは最近元気の無いなのはの事を心配してるのだが、どうしたものかと悩んでいるらしい。

元気が無いってのは確かな事なのか聞き返せば、アリサが言うには確実に疲れてる様にしか見えないんだと。

最近は放課後も一緒に帰らず何処かへ行ってしまうとかで、少し不安なのだとか。

まぁ俺はなのはが忙しい理由……ジュエルシード探索ってのは知ってるんだけど、さすがにアリサ達に話すワケにいかねぇ。

だから、アリサ達を騙す様で悪いけど、こうやって知らない振りをして話を合わせている。

 

『まぁ、アタシもすずかも何してるのかはハッキリ聞いて無いけどね……それでも、友達がここのトコずっと疲れてるなんて心配するじゃない?だから少しでもリラックスしてくれればなっていうのが今回のお茶会の目的ね』

 

電話の向こうから聞こえるアリサの声は、本当に心配そうな声だ。

まぁアリサの言ってる事は分かるし、俺もすずかの家で猫達と戯れてのんびりしたいかな。

 

「まぁ兎に角、時間は来週の日曜、昼から。場所はすずかの家で間違い無いんだな?」

 

『えぇ。誘っておいて悪いけど、アタシもすずかもその日は迎えを出してあげられないから、定明はバスで着てちょうだい。リサリサにも伝えておくわ』

 

「りょーかいだ……しっかし、最近の休みはお前等に会いに行ってばっかだな。こないだもすずかに誘われて乗馬に行ったし『ちょっと待ちなさい?』ん?何だよ?」

 

最近の外出の多さを思い返して、前にすずかに誘われて行った乗馬体験の事を思い返していたら、何故かストップを掛けられた。

何だろうと思って問い返してみると、何故か受話器の向こうのアリサの声は少し震えている。

 

『おかしいわね?アタシの聞き違いかしら?すずかと乗馬に行ったって聞こえたんだけど……』

 

「あぁ。行ってきたぜ?それがどうかし『どういう事よッ!?』ッ!?急にデカイ声出すなよ。耳が痛えじゃねぇか」

 

普通にこの前遊びに行った話をしただけなのに、アリサは何故かキレだしたではないか。

しかもかなりデカイ声だった所為で、俺の鼓膜にダメージがきてるんだけど?

 

『アンタの耳の事は良いから話しなさいよッ!!何でアンタとすずかが2人で出掛けてるワケッ!?そ、それって完全にデ、デデデ……』

 

「大王?」

 

『Shut Up!!そうじゃなくて、完全なデートじゃないッ!!このバカチンッ!!!』

 

バカチンておま……最近俺への罵倒が容赦なさ過ぎるだろ。

それと俺の鼓膜の心配ぐらいしろっての……ったく。

もはやヒートアップしたアリサに何言っても無駄だと感じ、俺はササッと事の顛末を話す事にした。

 

「デートじゃねぇし、2人でもねぇぞ?ファリンさんも運転手兼保護者として来てたからな」

 

『そんなもんノーカンでしょうがッ!!っていうか何でアタシに一言も話さずに2人だけで遊んでるのよッ!!』

 

いやいや、そこは普通にカウントしてあげろよ?

ヤギ達にスカート捲られそうになってたのに、居なかった事にされたらファリンさん可哀想じゃねぇか。

あの人の方が農園での目立ち度は俺とすずかより上だったんだぞ……野郎共からは。

って……ん?おかしいな?『一言も話さずに』?

アリサの言い様に少しばかり違和感を感じて、俺は受話器に向かってすぐさま口を開く。

 

「いや、俺はすずかから偶々その農園の1日フリーパスが二枚手に入ったからどうだ?って聞かれただけだし、アリサは塾で忙しいって聞いたと言ってたぞ?」

 

『……やられた……確かにあの日は塾が……ッ!!やるじゃない、すずか(ぼそっ)』

 

「あぁ?……おいアリサ、どうかしたのか?」

 

何やら電話の向こうでブツブツ言ってるアリサに声を掛けるも、軽く「何でも無い」と返され、またアリサが静かに呟き始めた。

微妙に聞こえづらい音量で喋っているので、少し耳を澄ましてみるがそれでも聞き取れるのは細々した断片だけだ。

やれ『私も――何か――かしら?』とか、何故か鮫島さんの声で『お嬢様――等、如何でしょうか?』なんて質問の声も入ってる。

何だ?アリサの奴電話ほったらかしで何か話し合ってんのか?

もう少し頑張って耳を澄ましてみると……。

 

『それよッ!!PERFECTだわ、鮫島ッ!!!』

 

デッケエ音量が俺の鼓膜を直撃してきやがりました。

そろそろ俺の鼓膜が破られそうなんですけど?

 

『ホッホッホ。アリサお嬢様のお役に立てたのならばこの鮫島、感謝の極みにございます』

 

『やっぱりこういう時は亀の甲より年の功って事ね……もしもし定明ッ!!再来週の休みはアタシに付き合いなさいッ!!』

 

「話の流れを組んで説明してくれねぇか?いきなり言われても分かんねぇよ」

 

もうね、話の流れとか完全ブッチぎりなワケで、アリサの要求が何なのかすら把握出来ません。

そう思って若干呆れ気味に返事を返すと、受話器越しに聞こえてくるアリサの声が何やら慌てたモノに変化した。

 

『だ、だからその……ち、ちょうど私の手元にも、この前開店した屋内プールの無料券が2枚だけあるのッ!!それに付き合いなさいって事ッ!!』

 

「屋内プール?……そういえば、結構デカイ市民向けのプールが出来てたっけか」

 

俺はタウンマップガイドで見た海鳴の娯楽スポットの特集を思い出しながら、アリサに言葉を返す。

確か海鳴の中でもかなり大きなプールで、スライダーとか飛び込み台とか、アトラクション形式のプールだったな。

海鳴の娯楽施設の中でもかなり人気が高くて、季節問わずに遊べるって触れ込みが売りだとか。

 

『そうよ。そこのプールはパパの会社も建設に関わってるから、その関係で偶々、そう偶々ッ!!フリーパスが2枚だけ手に入ったのッ!!連れてってあげるから光栄に思いなさいよッ!!』

 

「光栄って……まぁ、確かに嬉しいけどな」

 

最近あんまり身体を動かしてねぇし、泳ぐってのも久々だからなぁ……うん、マジで行きたい。

 

「分かった。俺で良けりゃ付き合うよ……一応聞くけど、すずか達は良いのか?」

 

『(来たわねッ!!)その事なら心配無いわ。すずかは来週ヴァイオリンの稽古があるし、リサリサも塾に行くって聞いてるから。それと、なのはは……言わなくても判るでしょ?』

 

俺の質問にも淀みなく答えるアリサだが、なのはの扱いはすずかと同じであまり変わってねぇ様だ。

っていうか、ここまで親友達に運動する事に対して心配される奴も普通は居ないだろ?

寧ろそこまで運動神経が擦り切れてる奴なんて、逆に見てみてぇぜ。

まぁそんな感じで俺は既に再来週まで休みの予定が埋まってしまったんだが……最近こんなのばっかじゃね?

どうにも振り回されてる感じが否めないが、一度約束しちまったからには守らねーと、後でとんでもないしっぺ返しを喰らいそうだから文句は言わない。

その後は来週の休みに会う約束を確認して、俺は電話を切って眠りに就いた。

さあて……来週は何が起こるのやら。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「よ、ようこそお越し下さいました。クソガ……き、城戸……様(ピクピク)」

 

本日は約束していた日曜日の真昼間。

俺は指定された時間の30分前ぐらいにすずかの家に到着し、玄関で見た事のある人物に出迎えられていた。

右側の髪だけ長く、左側はショートという少し変わったヘアスタイルの美人さん。

何処か言葉の端々がおかしく、口元も微妙にヒクヒクしてる……ふむ。

 

「すずかー、チェンジ頼むー。出来ればファリンさん所望ー」

 

「ブッ殺すぞクソガキッ!!アタシが態々出迎えてやってんのに全無視にチェンジ希望とか、良い度胸じゃないかッ!!」

 

「いやいや、口元ヒクつかせてる上に言葉遣いおかしすぎんだろ。っていうか客人に向かってクソガキ言うな。これでチェンジ所望せず何を所望しろってんだよ?」

 

俺の言葉に瞬間で反応、爆発した赤いヘアバンドを着けた金髪のメイドさんに向かって、俺は溜息を吐きながらそう愚痴る。

何でこんな物騒なヤツを迎えに寄越しやがるかね、すずかは?

出迎えに来たのがコイツって、俺からしたら「帰れ」って言われてる様なモンだっての。

家に入る初っ端から面倒くせーヤツに会った所為でテンションダダ下がりな俺だが、メイドはそんな俺を見て不機嫌MAXって感じだ。

 

「フン、アタシだってお前の出迎えなんかしたく無かったさ……でも、忍の命令じゃ聞かない訳にはいかないから、こうして態々お前を出迎えてんだ。少しは感謝しな」

 

「ここまで尊大な態度取るメイドなんざ、世界中探したってココだけだろーな。そういう意味じゃ俺はラッキーなんだろうけど……ってか、何メイドの真似事なんかしてんだよ――『イレイン』?」

 

かなり上から目線で物事を語ってくるメイド――『イレイン』に対して、俺は呆れた様に物申す。

そう、俺を出向かえたのは、俺がブッ壊した後で修理を依頼され、治したら治したで襲いかかってきた自動人形のイレインだ。

まぁ治したからには動いていても不思議じゃねぇんだけど……何故にメイドやってんの?

あの時の服装とは違い、ノエルさんやファリンさんと同じ薄紫色のメイド服に身を包んだイレインは、俺の質問を聞いて鼻を不機嫌そうに鳴らす。

 

「真似事じゃねぇ、ちゃんとした仕事だ。ここで仕事をしながらこの世界で生きるための常識とかを学んでるんだよ……アタシは稼動時間が短いから外の世界の事を良く知らないし、覚えておいて損は無いって思ったんだ」

 

「へぇ?俺が治してやった直後は、もう何もかもが気に入らねえってあんなに暴れてたってのに、随分と殊勝じゃねぇか」

 

からかう様に笑いながら言うと、イレインは何故か恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

「……忍が、アタシがちゃんとした常識を身に付けたら、ココに残っても、自由に好きな所へ行っても良いって言ってくれたからな……せめて、ちょっとだけでも恩を返せたらと思って、この仕事やってんだよ」

 

イレインは恥ずかしそうにそう言うと、頬を少し赤く染めて頬を指で掻く。

完全に自分の言った事に対して照れてんだろう。

初めて会った時は完全に裏表の激しい二重人格のデンジャラス女だと思ってたが、案外良い奴じゃん。

その後は特に会話らしい会話もせず、俺達は無言で屋敷の中を歩いた。

無言つっても重苦しい雰囲気じゃなくて、心地良い無言の空気だったけどな。

そのまま歩を進めていき、また何時も通りのガラス展望室の扉を開けて、中へ進んでいく。

中では既にアリサとすずか、そして忍さん達が座っていた。

傍にはノエルさんとファリンさんも控えている。

 

「いらっしゃい、定明君。お久しぶりねー♪」

 

「Hi定明、ちゃんと時間通りに来たわね」

 

「こんにちは、定明君」

 

俺の姿を確認した忍さん達は、それぞれ挨拶を飛ばしてくる。

ファリンさんとノエルさんも挨拶をくれたので、俺は片手を挙げながらテーブルへと近づいていく。

 

「ういーっす。なのは達はまだ来てねーんだな」

 

「うん。なのはちゃんと相馬君は、恭也さんと一緒にもう少し後で来るんだ」

 

「まぁ後20分くらいで来る筈よ。気長に待ちましょ……でも、今回はリサリサが来れないのよね」

 

「あぁ。この前家の用事で塾を休んじまったから、今日はその穴埋めらしいぜ?」

 

金曜日に学校で残念そうに語っていたリサリサの事を思い出しながら、アリサに返事を返す。

残念ながら今回、リサリサは休んでいた塾の遅れを取り戻すために欠席だ。

まぁ来れないモンは仕方ねぇと割り切りつつ席に付く俺だが、何故か忍さんが俺にニコニコ笑いながら視線を向けてくる。

 

「……何スか、忍さん?」

 

「ふふふ♪すこーし定明君に聞きたいんだけど、イレインはどうだった?ちゃんとメイドさんが出来てたかな?」

 

「ちょ、ちょっと忍ッ!?」

 

俺に向けてくる視線の意味が判らず声に出して聞けば、忍さんはそんな事を言ってきた。

それを聞いて、今まで俺の後ろに居たイレインはこれ以上無いってぐらいに狼狽する。

あぁなるほど?イレインの仕事っぷりが気になるって事か。

っていうか絶対に面白がってイレインに俺を迎えに行かせただろこの人……悪戯好きなのか?

まぁイレインの奴がちゃんと仕事出来てたかって聞かれたらアウトだけど……。

 

「そうッスねぇ……まぁ、世界中何処探したってオンリーワンってぐらい、個性に満ち溢れたメイドやってましたよ」

 

何か率直に言ったらイレインがまたアレコレうるせぇだろうから、適当な言い回しで誤魔化しておく。

うん、間違っちゃいねぇよ、絶対にあんな横暴なメイド居ねぇと思う。

 

「そうなんだ、ありがとう♪良かったじゃないイレイン。定明君からも褒められるメイドになれて♪」

 

「なっ……ッ!?こ、こんな奴に褒められても嬉しかねぇよッ!!」

 

「イレイン、お客様に失礼な物言いをしてはいけません」

 

「良いんだよノエルッ!!アタシは一度コイツにブッ壊されてんだからッ!!」

 

「でもでも、イレインはその後で定明君に治してもらったですよね?」

 

「ええいッ!!ファリンも一々余計な事を言うなってッ!!」

 

俺の政治家的なお茶を濁す発言を聞いて察してくれたのか、忍さんは笑いながらイレインに声を掛ける。

俺の後ろに居たイレインは忍さんに直ぐ言葉を返すが、何故かその頬は真っ赤に染まっているではないか。

そこから更にノエルさんとファリンさんの姉妹口撃を受けるも、頑張って反撃するイレイン。

っていうか人が何とかフォローしてやったのにこんな奴はねぇだろ。

まぁ、人前で褒められて恥ずかしいって気持ちがあるからかもしれねぇけど。

 

「……そういえば、定明。アタシ達、アンタに聞きたい事があるんだけど」

 

「ん?何だよ?」

 

そんな感じで楽しくイレインをイジりながら時間を過ごしていると、アリサが唐突に話しを切り替えてきた。

アリサの隣りに座っているすずかも、何か聞きたそうな顔をしている。

 

「あのね……実はちょっと前に、あの人が入院したの……誰かに襲われたらしくて」

 

「あの人?誰だよ?」

 

すずかの確かめる様な話し方に違和感を感じつつも、俺はすずかの言う人物が誰か分からず聞き返す。

 

「アイツよ、あの馬鹿。神無月」

 

ヤベエ、誰かと思えば聞き覚えのありすぎる奴じゃねぇッスか。

っていうか今更その話をしてくるとか……まさか、俺がやったのバレてるのか?

内心冷や汗が流れそうな心境の俺だが、アリサは俺の様子に気付いているのかいないのか、そのまま話を続けた。

 

「骨が数十箇所折れてた上に、歯も殆どが圧し折られた状態で発見されたらしいんだけど、噂じゃ指も切り落とされてたとか……誰の仕業かしら……ねぇ、すずか?」

 

「そうだね……そういえば、その日は私達と帰らずに『1人でやらなきゃいけない野暮用がある』って人が居なかったっけ、アリサちゃん?」

 

「お前等なぁ……判ってて言ってんだろ?」

 

訂正、どうやら俺の見通しが甘かった様だ。

コイツ等普通にオリ主をブチのめしたのが俺の仕業だって判ってるし。

オマケにワザとらしい言い方してるけど、顔メチャクチャにやけてやがる。

 

「まぁ、アタシだってあの馬鹿には今までこれでもかって付き纏われてたからスカッとしたけど、何でアンタがアイツをボコボコにしたワケ?しかもスタンドを使ってまで、さ」

 

直接面識無いでしょう?と俺に視線を送りながら質問を続けてくるアリサ。

隣に居るすずかも、その事には興味津々な様でジーッと俺に視線を向けて黙っていた。

そんな視線を2人、いやこの部屋に居る全員から受けている俺としちゃ、かなり居心地が悪い。

しっかし、いやマジでどう語ったモノか……さすがに転生者うんぬんは話せないし、あのオリ主が異能を持ってる事も言えねぇしな。

そもそも魔法の存在自体、今なのは達が必死こいて黙ってるんだし。

 

『……実はよ、あの日、俺はDQNネーム君にこっちに来られちゃ面倒だなと思ってハイウェイ・スターで奴が来るかどうか見張ってたんだ……そしたらあの野郎が公園で子猫を苛めて笑ってる場面を見ちまってよぉ……そのままハイウェイ・スターでヤっちまっても良かったんだが、直接ぶん殴らなけりゃ気が済まないぐらいにムカついたもんでね……俺が直々に出向いてブチのめしてやったのさ』

 

仕方なく、俺は在り得そうな話を適当に捏造する事にした。

まぁこれでアイツがコイツ等に悪印象持たれようとも俺には関係ねぇし、寧ろあんな屑の事なんざどーだって良い。

そして俺のでっち上げたエピソードはすずか達に多大な怒りを呼び起こさせ、オリ主の退院後の再入院が決定してしまう。

 

「最低……子猫を虐めるなんて、人としてやっちゃいけない事だよ……」

 

「あいつは何処までも屑ね……」

 

「許さねぇ……忍、今すぐあたしの静かなる蛇を返せ。ソイツを縛り上げてから、じっくりとローストしてやる」

 

「落ち着きなさいよイレイン。私だって頭にキてるけど、殺しちゃダメでしょうが」

 

特にブチ切れてたのは意外にもイレインであり、その怒り様ときたら俺とやりあった時の数倍はあるって勢いだ。

まぁアリサやすずかの怒りようも半端じゃねぇけど……もしやイレインの奴、猫が好きなのか?

兎に角、俺がそれを見てプッツンしたからアイツを病院送りにした事を理解してもらう事は出来た。

更に俺がヘブンズ・ドアーを使って、あの屑にアリサやなのは達から5メートル以内には近づけないという命令を書き込んだ事は大いに感謝された。

なんせ近づけないは話せないは、向こうがアリサ達に頭きても攻撃も出来ないってのが嬉しくて仕方ねぇとよ。

もう2人して手を取り合ってメチャクチャはしゃいでたのは笑ったぜ。

主にオリ主の嫌われ具合に。

その後は皆で談笑してたんだが、少ししてから来客を知らせるベルの音が鳴り響き、ノエルさんが対応に出向いて行った。

どうやら、お待ちかねの客人達が来たみてーだ。

そう思っていると部屋のドアが開いて、私服のなのはと相馬、そして……。

 

「あれ?恭也さん?」

 

「やぁ定明君、久しぶりだな」

 

同じく私服姿の恭也さんが入室してきた。

ってそうか、そういや忍さんと恋仲なんだよな、すっかり忘れてた。

 

「ふぇ?さ、定明君、お兄ちゃんの事知ってるの?」

 

「ん?あぁ。すずかの家に初めて来た時に、恭也さんが忍さんに会いにきてたからな。なのはと会う前に自己紹介はしてたぞ」

 

と、恭也さんがココに来た理由に納得してた時に、なのはが驚いた顔で俺に質問してきた。

まぁなのははあの誘拐事件に関わってねぇから、そう驚いても仕方ねぇか。

恭也さんも俺がそういう事情を考えて嘘吐いたのを理解してくれてか、見上げてくるなのはに頷いて肯定してくれた。

 

「そ、そうだったんだ?あっ、それとこんにちは、すずかちゃん、アリサちゃん、定明君……って、あれ?リサリサちゃんは?」

 

「こんにちは、皆。そういえばリサリサさんの姿が見えないな?」

 

「いらっしゃい、なのはちゃん、相馬君。リサリサちゃんは、今日は塾があるから来れないんだって」

 

改めて挨拶してくるなのはに、俺達はそれぞれ挨拶を返し、すずかがなのはの疑問に答える。

その答えを聞いて残念そうな顔をするなのはだったが、家の用事では仕方ないと思ったんだろう。

直ぐに気を取り直して笑顔を見せるも、今度はイレインを見て相馬と一緒に首を傾げる。

 

「あれ?すずかちゃん、その人は……?」

 

「あっ、ごめんね、紹介が遅れちゃって。この人はイレイン。ウチの新しいメイドさんだよ」

 

なのはに問い掛けられたすずかはなのはの質問に淀みなく答えてからイレインに視線を送る。

その視線を受けたイレインは小さく頷くと、さっきまでとは別人じゃねぇのか?って疑いたくなる笑顔を見せた。

 

「お初にお目に掛かります。私はこの度月村家の皆様のお世話をさせて頂く事になりました、イレインと申します。すずかお嬢様から北宮様と高町様のお話しは窺っておりますので、どうぞこれからよろしくお願いします」

 

「は、はい。よろしくお願いします、イレインさん」

 

「北宮相馬です。コチラこそよろしくお願いします」

 

Holy shit。口調すらまるで別人じゃねぇか……しかも俺を出迎えた時とは違って完璧な丁寧語だし。

スカートの端を摘んで優雅にお辞儀とか、対応まで雲泥の差がある。

唖然とした表情でイレインを見てると、目が合った時に微笑んできやがった。

ニャロウ、「アタシだってこれぐらいできるのさ、フフン♪」って目で語ってやがる。

いや、まぁ別に?別に俺だけ対応がおざなりだった事には……まぁ、そこそこ不満はあるが、良しとしとこう。

そう思っていたら、忍さんはノエルさんにお茶を持ってきて欲しいと頼みつつ、恭也さんと一緒に部屋を移動した。

まぁ小学生ばっかりの所に何時までも居るってのも不自然だもんな。

俺達のお茶の世話はファリンさんがしてくれるらしく、彼女も意気揚々と部屋を後にした。

その様子に若干、一抹の不安がよぎる俺だったが、一応ファリンさんを信じて待つ事にする。

チラッと視線を向ければすずかも少し不安そうな表情だったよ。

イレインはこれから夕食材料の買出しに行くらしく、俺達に挨拶をしながら部屋から出て行く。

だが、その途中で俺の耳元に屈みこんで、ボソボソと喋ってきた。

 

「あ、アンタのお陰で、アタシはスクラップにならずに済んだ……その事は本当に感謝してるからな……ありがとうございます……定明様」

 

彼女は一方的にそう告げると、足早に部屋を抜け出す。

振り返ってイレインの後姿に目を向けると、彼女の耳は真っ赤に染まっているのが見えた。

全く……最後の最後で、ちゃんとした対応してきやがって。

 

「?定明君、イレインは何て言ってたの?」

 

「ん?別に……まぁ、ちょっとした事だ」

 

俺が話しかけられてた内容が気になったのか、すずかがそう質問してきたが、俺はそれを受け流す。

態々小声で、俺にしか聞こえない様に話してきた事をバラすのもどうかと思うしな。

そして、なのは達が空いてる席に座ると、なのはのリュックからユーノが顔をだして、床に降り立つ。

何故か俺を見た瞬間ブルルと怯えだすではないか、失礼なフェレットだな。

 

「あ、あはは……定明君がユーノ君を非常食だなんて言うから、ユーノ君怯えちゃってるんだよ?」

 

「はぁ?それってつまり、ユーノは人の言葉をしっかりと理解してるって事かよ?幾ら賢いっつっても有り得なくね?」

 

なのはの苦笑交じりの言い分を聞いて、俺は眉をしかめてしまう。

やっぱコイツって普通の動物じゃねぇって事だよな?

なのはも俺の言葉を聞いて、自分が何を言ったのか思い至ったんだろう。

ヤバそうな顔で視線をキョロキョロさせてやがる。

オマケにユーノまで、何かビクビクしてるし。

 

「まぁあまり気にするな定明。世の中は広い、ユーノみたいに賢いフェレットだって居るって事さ。な?なのは?」

 

「そ、そうだねッ!!うん、私が言いたかったのはそういう事だよ、定明君ッ!!」

 

「なのはちゃん。何だか凄い慌ててるけど、大丈夫?」

 

「ノ、ノープロブレムだよ、すずかちゃんッ!!今日もなのはは絶好調なのッ!!」

 

と、なのはの失言に対して追求しようと思った俺だが、その追及の手は相馬に止められてしまう。

しかもなのは達には見えない様に、俺に向かってシーッと指を口に添えたポーズを見せる。

……どうにも、前に思った通り、あのフェレットにも何か秘密があるらしいな。

しかも相馬の話で聞いてたユーノって奴と同じ名前……間違いなく原作に関わる人物だろうな。

何かこのまま突っ込んだらなし崩し的に原作へ巻き込まれちまいそうだし、コレ以上の追求は止めておくか。

今の俺にピッタリな諺、『触らぬ神に祟り無し』に従い、俺はそれ以上このフェレットに対して追求はしなかった。

まぁそのお陰か、なのはもフェレットもそれ以上焦る事は無くなり、何時もの調子で皆で談笑を始める。

 

 

 

さあて、今日も面倒事が起きねー様なハヴァナイスデーな一日を送りた――。

 

 

 

「お待たせしまし(ニャニャーッ♪)(キュ、キューッ!?)あ、あわわわぁ~~ッ!!?」

 

「「「「ファリン(さん)ッ!!?」」」」

 

 

 

……無理っぽいな……ハァ。




はい、前書きの通りGTA5やってて投稿遅れました。

誠に申し訳ご「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」ぎゃぴーッ!?


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パワーはねぇが、この俺のハイウェイ・スター。追跡は決してやめな(ry

遅くなって誠に申し訳ありません。

言い訳?特にありません。

強いて言うならGTAオンラインのサービス対応の悪さにピキピキ状態で執筆が進まなかったと言った所です。
後、ジョジョASBでアナスイとヴァニラ・アイスの強さに愕然としてたって所です。
……そろそろ小説内でも使うスタンド増やして行きたい……。



「あ、あわわとッ!?お、おわととととっ!?」

 

室内にお茶を持って入室したファリンさんの足元を走り回り始めた猫とユーノの所為で、ファリンさんはバランスを崩してしまう。

っていうか猫に餌としか思われてないだろ、ユーノよ。何故なのはの直ぐ近くへと避難しなかった?

 

「あぁ~~うぅ~~……」

 

そして、零れそうになった紅茶を何とか安定させようとしたファリンさんはその場で回転してた。

しかしそうやって紅茶を安定させようとした代償に、ファリンさんはかなりの速度でスピンする羽目になってる。

回転が納まった頃には、ファリンさんの目はナルトの様に渦を巻いてフラフラ状態だった。

 

「あっ、ファリンさんッ!?」

 

「ファリンッ!!危ないッ!?」

 

そしてそのまま倒れていくファリンさんを見て、なのはとすずかが悲鳴を挙げながらファリンさんへと駆けつける。

俺達の中で比較的ファリンさんに近かったから、2人が間に合わなきゃ俺達じゃ無理。

っち、俺が近くに居たらクラフト・ワークで紅茶とカップだけでも落ちない様に固定出来たんだが、ここじゃ射程距離外だ。

ならハイエロファントを飛ばして……。

 

「しょうがないわね……ストーン・フリーッ」

 

シュルルルルルッ!!

 

だが、俺がハイエロファント・グリーンの触手を飛ばそうとしたその時、俺の後ろからアリサが小さく呟きながらスタンドの糸を伸ばす。

指から伸ばされた複数の糸は、ポットやカップをトレーに抑え付ける様に巻き付き、中身が零れたりカップが落ちるのを阻止した。

 

「よいしょっ!!」

 

「えいッ!!」

 

更にグットタイミングともいえるタイミングで、なのはとすずかがファリンさんに到達。

すずかが倒れそうになってたファリンさんの背中を支え、なのはが紅茶の乗ったトレーを支える。

 

「ど、どうにかセーフ……」

 

「……だったね」

 

「ホントにギリギリだったな」

 

とりあえず事無きを得た事で安堵したなのはとすずかが溜息を吐き、相馬が額を拭う仕草をした。

良く見ると、相馬の手の上には高そうなカップの受け皿が2枚納まっている。

多分、アリサの糸が間に合わなくてトレーから落ちた分だろうな。

俺?俺はちゃんと二次災害が起きない様に――。

 

「キュー」

 

「ニャァー」

 

走ってた猫とユーノの首根っこを持って捕まえてますが?

こういう風に、何か起きる事前に不安要素の芽を摘むのも大事な仕事だ。

 

「ふわッ!?な、なのはちゃん、すずかちゃんッ!!ごめんなさいぃいいッ!?」

 

と、今になって回転の余波から復活したファリンさんが、助けてくれた二人にお礼を言う。

2人は別に良いよと笑顔で言いながら席に戻り、アリサもトレーの無事を確認してからストーン・フリーの糸を外す。

とりあえず場が落ち着いたので、俺も主犯であるユーノと名も無き猫を地面に開放してやった。

 

「ナイスアシストだったぜ、アリサ。糸のコントロールもバッチリだったじゃねぇか」

 

「フフン♪当然。アタシにかかればあれぐらいお茶の子歳々よ」

 

俺は他のメンバーに聞こえない様に、なるべく声を潜めてアリサのアシストを褒める。

アリサも皆に聞こえない様に小声で返事を返して胸を張る。

すずかはファリンさんの背中を支えてたからストーン・フリーの糸が見えて無くて、アリサのアシストに気付いて無かった。

だからアリサは俺以外の人間からは労われなかったから俺だけでもと思ったけど、本人はそれ程気にしてない様だ。

寧ろ1人からでも労われたのが嬉しいのか上機嫌になってる。

この短期間であそこまで糸のコントロールをマスターするとは……やっぱ並みの才能じゃねぇ。

ったく、すずか達を見てると、自分との才能の差に軽く落ち込むぜ。

まぁそんなこんながあったけど、俺達は今日の目的であるお茶会を開催するのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「にしてもよぉ、すずかの家は何時来ても猫屋敷だな」

 

何時の間にか俺の膝の上に陣取って眠り始めた猫の背を撫でながら、俺はすずかへ言葉を紡ぐ。

俺の膝の上の他にも、窓辺や部屋の端なんかにもわんさか居る。

言葉通り、すずかの家にはこれでもかッ!!って数の猫が住み着いてて、俺も最初はビックリしたモンだ。

すずか達と初めて会った日に猫は居るって聞いてたけど、そん時は見かけなかったしな。

後から聞いた話じゃ、忍さんが大事な話しをするからって理由で別の部屋に入れてたらしい。

 

「うん♪皆とっても可愛いでしょ?知り合いから貰ったりしてたら、何時の間にかこんなにいっぱいになっちゃったの」

 

いや、可愛いかどうかは聞いてねぇんだが……まぁ良いか。

 

「アタシの所も、先週新しい子が来たわ」

 

「にゃはは。アリサちゃんのお家は、猫屋敷ならぬ犬屋敷だよね~。今度はどんな子が来たの?」

 

「ミニチュアダックスよ。名前はテリーっていうんだけど、これがまた腕白な子でビックリしたわ」

 

話の流れに乗っかってきたなのはに、アリサは首を振って「やれやれ」って顔をしながら新しい犬の説明を始める。

そう、何故かアリサの家はすずかと違って犬屋敷なのだ。

動物好きなのは親友同士似通ってるらしい。

そうなると、必然的に話の話題は動物の話へと流れていく。

 

「動物と言えば、相馬君のお家は飼ってないんだよね?」

 

「ウチは父さんがアレルギーでな。動物好きなのに、触れないって嘆いていたよ」

 

「あぁ~。確かに動物好きな人からしたら辛いよね。相馬君は大丈夫なの?」

 

「俺と母さんは大丈夫なんだ。だから、父さんは無理してでも動物を飼おうとして、母さんに叱られてたな」

 

「そりゃまた……何ともパワフルな父ちゃんだな」

 

自分の体質的にNGな事を圧してまで動物を飼いたいとか……度胸あるなぁ。

父親の様子を思い出してか、苦笑しながら言う相馬。

ウチも犬を飼おうか迷ってんだが……何時になる事やら。

 

「定明のお家は、動物を飼わないの?」

 

「ん?いや、飼うかどうかっていうより、飼う種類で揉めてるって感じだ」

 

「へ~?ちなみに何が候補に上がってるのよ?」

 

ファリンさんが淹れてくれた紅茶を飲みながらそう言うと、アリサが興味津々って感じで身を乗り出して聞いてくる。

他の皆の視線も向いてるし、こりゃ俺が話す流れだな。

 

「まず、父ちゃんが飼いたいのはチワワかプードルのドッチかなんだと」

 

「チワワにプードルかぁ……どっちも可愛らしいよね。それじゃあお母さんが飼いたいのは何かな?」

 

「ロッドワイラー」

 

「「「「なんでッ!?」」」」

 

母ちゃんイチオシの犬種を述べると、皆して大声を出しながら驚愕してしまう。

まぁその反応が普通だよな。

予想の範疇にあった反応がそのまま出てきて、俺は苦笑を浮かべる。

ちなみにロッドワイラーとは、ドイツのロットワイル地方原産の牧牛用・警備用の犬種である。

もともと闘犬として使われていた犬なので、パワフルでかつ頭の切れる優れた犬達だ。

体躯は大きく、がっしりとした筋肉質で骨太な……まぁ、要はデブマッチョな体格をしている。

余談だが、大人の年齢に達したロッドワイラーは成人男性ですら噛み殺してしまう程に強いらしい。

すずかとアリサは家の両親に会ってるから、尚更そんな犬を飼いたいって言ってるのがあの優しそうな母ちゃんだなんて想像出来ねぇんだろう。

 

「なんでロッドワイラーなワケッ!?普通あの優しそうなお母さんなら、アンタのお父さんが飼いたいって言ってるプードルとかじゃないのッ!?」

 

「まぁ普通はそう思うわな……理由としては、頼れる上に逞しい犬が良いってさ。愛らしさは二の次らしいぜ?」

 

「それにしたって普通は女の人がロッドワイラー飼いたいなんて言わないわよッ!!」

 

「ちなみにどちらかといえば、俺もロッドワイラーが良いかなとは思ってる」

 

何やら不満があるのか猛るアリサに、俺も母ちゃんの案に同意だと応えた。

大型犬の中でも強いし、タフだし、プードルとかの臆病な性格よりはソッチの方が良いだろ。

そう言うとアリサは少し俺を睨んで唸ってたかと思えば、目を瞑って深呼吸をし始める。

 

「スゥ……ハァ……よし。落ち着いた……まぁ、個人の主張をどうこう言うのもアレだし、これ以上は言わないけど、もしも飼うならちゃんと世話してあげなさいよ?」

 

「もし飼う事になればな。まだ母ちゃんと父ちゃんが決めきれてないし」

 

「猫とかは飼わないのか?お前も膝の猫を嬉しそうに撫でてるし、満更でも無いだろう?」

 

念を押す様に忠告してくるアリサにそう返すと、アリサも満足したのか「なら良いわ」と言って再び紅茶に手を伸ばす。

アリサとの話しが終わって直ぐに、今度は相馬が苦笑しながら俺に問う。

確かに相馬の言う通り、膝の上で大人しくしてる猫を撫でるのが嬉しかったりする。

猫は少し気ままな所があるけど、愛らしいって理由では犬と双壁を為す。

 

「確かに好きだけど、ウチじゃまだ猫のペット化は話に上がってねぇな」

 

理由は特に無いはずなんだけど、ウチでは余り猫の話題は上がらない。

っていうか多分、父ちゃんも母ちゃんも犬に重点を置いてて猫の存在忘れてる可能性もあるな。

まぁそんな感じで俺達は動物の話しで盛り上がっていたんだが……。

 

「キュッ!!(ダッ!!)」

 

「あッ!?ユーノ君ッ!!」

 

突如、ユーノが展望室の窓から飛び出して、月村家の裏手にある庭の方へと駆けて行ってしまう。

その光景に驚いた声を挙げるなのはと同じ様に、俺達はユーノが駆け抜けた窓際を凝視する。

何だ?さっきまで大人しかったのに、まるで何かに弾かれる様に突然走り出して……まさか。

 

「等々なのはの胃袋に収まってしまう事を予知して、明日をも知れない自然に飛び出したか……幸福に生きてみせろよ、ユーノ」

 

「その話まだ引っ張るのッ!?何度も言うけど食べないよッ!!私そんな悪食じゃないもんッ!!」

 

俺の繰り出す不意打ちとも言えるボケに対して、打てば響くツッコミを返してくるなのは。

っていうか悪食ってお前、それじゃユーノが不味くて食えたモンじゃないって言ってるのと同じだから。

確かに食用のフェレットなんて聞いた事無いけども。無いけども。

なのはは俺にツッコミを返すと直ぐに立ち上がり、ユーノを探してくると言いながら部屋を出て行った。

 

「じゃあ俺も行って来る。なのは1人だと、何かあった時に危ないからな」

 

「あっ、それじゃあ私達も一緒に行くよ」

 

「そうね。人数は多い方が見つけ易いわ」

 

と、なのはが出て行ったのを見計らうかの様なタイミングで相馬もなのはと一緒に行くと言う。

更にアリサとすずかも立ち上がろうとするが、それは相馬に止められてしまう。

 

「いや、皆はここで待っていてくれ。俺となのはだけで行って来るから」

 

「な、何でよッ!?別に皆で探せばあっという間じゃないッ!!」

 

「アリサちゃんの言う通りだよ。そんな事で遠慮しなくても良いよ、相馬君」

 

まぁ当然の如く、相馬の提案が気に入らないアリサは声を荒げ、すずかは悲しそうな声を出した。

一緒に探そうっていう親切からくる提案を蹴られちゃ、2人だってあんまり面白くねぇだろう。

その一方で、俺は椅子に座ったままその様子を眺めているだけだ。

別に俺は行きたくねぇとかそういうんじゃ無いけど……なーんか引っ掛かるんだよなぁ。

猫に追われる以外では本当に大人しかったユーノがいきなり外に飛び出すという不自然な光景。

動物に詳しいワケじゃねぇけど、どうにもあの行動に納得が出来ないから、ユーノを追っかけても良いモノか悩む。

そもそもユーノ自体が動物として怪しい感じだしな。

 

「2人の気持ちは嬉しいけど、皆で行ってしまったらなのはが申し訳なく思ってしまうと思うんだ。自分が連れてきたユーノが逃げ出した所為で、せっかくのお茶会が中断してしまったってね」

 

「そんな……」

 

「別にアタシ達はそんなの気にしないのに……」

 

いや、そりゃ幾ら何でも無いだろう。

そう思えてしまう相馬の言い分だが、あのなのはならそんな事を考えるかもしれねぇ。

アリサ達も否定してる途中でそう思えてしまったのか、悲しそうな顔を見せる。

そんな2人の様子を見た相馬は苦笑しながらも言葉を続けていく。

 

「まぁもしかしたらって話だけど、なのはがそんな事を考えない為にも、3人はここで待っていてくれ。直ぐに戻る」

 

「あっ!?ちょっと相馬ッ!!」

 

アリサの静止の声も聞かず、相馬は玄関まで猛ダッシュしていき、部屋から出て行ってしまう。

そんな相馬の後姿を手を伸ばしたまま見送ってしまうアリサだったが、不機嫌な顔で椅子に座って腕を組む。

最初は大人しく待っていたんだが、大体10分~15分が過ぎた頃から足で床をタンタンと踏んでリズムを刻み始め……。

 

「……ッ!!……~ッ!!」

 

「ア、アリサちゃん落ち着こう?もう直ぐ帰ってくるかもしれないし……」

 

何やら唸り声を挙げながらイライラしてますって表情を全面に押し出していた。

そんなアリサの様子を見て、すずかは慌てながらも彼女の心を鎮めようと声を掛ける。

どうやらアイツ等が帰ってくるの遅くて待ちきれなくなってきたらしい。

まっ、俺もユーノの不可解な行動の謎が判らねぇ限り動くつもりはな――。

 

「あぁ~もうッ!!定明ッ!!何ボサッとしてんのッ!!アンタもスタンドでユーノを追い掛けて見つけなさいッ!!」

 

「えー……何でだよ?」

 

ところがどっこい、そうは問屋が卸さねぇとばかりに、アリサが俺にユーノの追跡を命じてきた。

え?何で俺がやるの?ちょー面倒くせんですけど。

そう思ってアリサに面倒くささMAXですって視線を向ければ、アリサは腕組みして俺に視線を送ってくる。

 

「相馬はああ言ったけど、幾ら何でも遅すぎるッ!!それにアンタのスタンド能力の……ほら、前に神無月を学校の屋上で気絶させたあのスタンドなら遠くにも行けるみたいだし、ユーノを探すのなんか朝飯前でしょッ!!早く見つけてお茶会の続きするわよッ!!」

 

そう言いつつアリサは、ズビシッ!!と風を切る音を奏でて指を1本立てると、そのまま俺に指差してきた。

しかもハイウェイ・スターを使って、早く終わらせろとご所望の様だ。

あぁ、成る程?自分達が置いてかれたのが気に食わないから、サッサと騒動の種を見つけて連れ戻せって事か。

っていうかマジ面倒くせーんですけど?優雅にここであいつ等が帰ってくんの待ってればそれで良くね?

 

「別に良いじゃねぇか。相馬が任せとけって言ってんだし、俺達はココでゆっくりとお茶して待ってれば――」

 

ズギュンッ!!

 

「 追 い 掛 け な さ い 」

 

『……』

 

ドドドドドドドドドドドド……。

 

渋る俺にスゴ味を効かせた視線で睨みつけながら、アリサはストーン・フリーを呼び出して拳を構える。

何ともはや、アリサの命令一つであの固そうな拳が飛んでくるだろう。

おいおい……この流れって、俺がスタンド出して動かないと延々続くパターンですか……しゃあねぇ。

ここでゴネてアリサの相手するぐらいなら探しに出た方がマシだと判断し、俺は両手を挙げてアリサに降伏を示す。

 

「わあった。わあったからストーン・フリーの拳を納めてくれ。そんなモンがコッチに向いてちゃ、怖くてしょうがねぇぜ」

 

「ダメよ。アンタが『先』に仕事をするの。アタシがスタンドを納めても良いと思える『結果』を出しなさい。スタンドを解除するのはその『後』……シンプルで分かりやすいでしょ?」

 

「……グレートな言い分だぜ、まったく……ハイウェイ・スター」

 

余りにも隙の無い言い分に完全に言い負かされ、俺はササッとハイウェイ・スターを呼び出す。

いや、別に戦おうと思えば戦えるけど、そんな意固地になるほど嫌ってワケじゃねぇしな。

それに、スタンドというアイツ等に見えない力で偵察するってのも、俺に面倒事が降りかからないという点では有力だ。

それなら安全に覗き見できるし、ユーノの正体が何なのか見極めるためにちょうど良い機会だろう。

俺はそういった考えの元に行動をする意志を固め、ハイウェイ・スターになのはの背負ってきたリュックの中身を匂わせる。

ここに来る時にリュックの中に入っていたユーノの臭いを嗅ぎ取らせる為だ。

前に一度嗅いだから、なのはの匂いと嗅ぎ分けるのは簡単に出来る。

 

『クンクン、クンクン……』

 

「え?……定明君、このスタンド……ハイウェイ・スターだったよね?一体何をしてるの?」

 

「何か、匂いを嗅いでる様に見えるけど……」

 

リュックに顔を突っ込んで匂いを嗅ぐというシュールな行動をしてるハイウェイ・スターに疑問を持ったのか、2人は首を傾げながら質問してくる。

 

「まぁアリサの言う通り、ハイウェイ・スターは今、匂いを嗅いで覚えてるんだ。リュックに入っていたユーノの匂いをな。つまり対象の匂いを記憶して追跡していく……それがハイウェイ・スターの能力」

 

そして、ユーノの匂いを記憶したハイウェイ・スターが足跡の形に身体を分解すると、ハイウェイ・スターは窓からその身を外へと飛翔させていく。

さあて、匂いのする方向へと急いでくれよハイウェイ・スター。

 

「ハイウェイ・スターは警察犬を超える嗅覚を持ってる。例え対象がどれだけ遠くに離れても、一度匂いを覚えたら追跡は決して止めないのさ」

 

「どれだけ遠くにって……そんなに鼻が効くの?」

 

「あぁ。本体の俺まで鼻が良くなるぐらいだからな……例えば」

 

窓から飛び去って行ったハイウェイ・スターを興味深そうに見ていたアリサ達に能力を解説しながら、俺はニヤついた笑みですずかに視線を送る。

いきなりそんな笑顔で見つめられたすずかはビクッと怯えながら目を逸らしてしまう。

でも言った筈だぜ?匂いで判るって。

 

「そう例えば……クンクン……すずかが今朝食った朝食が和食で、メニューにキムチがあり、結構な量の魚を食ったってのも分かるぐれーには鋭いぜ?」

 

「ふぇえええッ!?」

 

「ちょっ!?そんな細かい事まで分かるのッ!?もう警察犬なんてレベルを軽く超えてるじゃないッ!!」

 

俺の言葉を聞いたアリサとすずかは目を見開いて驚き、すずかは何故か口元を手で隠して顔を真っ赤にする。

まぁ女の子が直球で「口からキムチとか魚の匂いがしてます」なんて言われたら恥ずかしくもなるか。

俺は自分の発言を少しだけ反省し、すずかに笑顔のまま喋りかけた。

 

「大丈夫だ。臭うとかそんなんじゃねぇって。只単に、今の俺の鼻が鋭すぎてるだけだよ」

 

「それでも気になっちゃうよ~ッ!!ち、ちょっと待っててッ!!」

 

俺がフォローのつもりでそう言うと、すずかは真っ赤な顔のまま反論して叫び、口元を抑えて部屋を飛び出してしまう。

ありゃりゃ……かなり恥ずかしかったみてえだな……悪いな、すずか。

 

「ったく、アンタはデリカシーってモノが無いわね。女の子にそんな事を言っちゃ駄目でしょうが」

 

「いや、全く持ってアリサの言う通りだな。今後は反省しつつ自重してみるぜ」

 

「そうしなさい。まぁ兎に角、そのハイウェイ・スターの能力ならユーノは簡単に探せるみたいだし、アンタは早くユーノを見つけて相馬達の居る所に連れて行く事。動物のユーノだったら、スタンドは見えないから触ってもスタンドの事がバレないでしょ?」

 

「……あぁ……そうだと良いな(ぼそっ)」

 

アリサの上機嫌な質問に、俺は自分にしか聞こえない程度の声量で呟く。

まずユーノが本当に純粋な動物なのかどうかすらわかんねぇからなぁ……出来る事ならなのは達が先に見つけてくれてる事を祈る。

ハイウェイ・スターが足跡に変化して飛んでいったのを見て満足したのか、アリサはストーン・フリーを消して笑顔で椅子に座り直す。

どうやらもう見つかるのは時間の問題と、アリサの中では片付いてる様だ。

信頼の現れって言われたら聞こえは良いけど、この場合どうなんだろうか。

そんな感じで若干能天気なアリサの様子を見て、俺は深い溜息を吐きながら、ハイウェイ・スターを匂いのする場所まで飛ばしていく。

しかし、ユーノの匂いは予想よりも大分遠い場所に居るらしく、ハイウェイ・スターとの距離もかなり開いていた。

まさかあの短い時間でこんなに遠くに移動するとは……しかも匂いがかなり弱い。

仕方ねぇな……よし、少しばかりテレポートさせるとしよう。

俺はハイウェイ・スターに、ユーノの匂いが一番強い大体の場所にテレポートする様命令する。

 

ボンッ!!ボボンッ!!

 

すると、ハイウェイ・スターは一度姿を消し、さっきまで居た場所とは違う雑木林に転移して、地面からユーノの匂いを嗅ぎ分け始める。

この能力はハイウェイ・スターが相手の匂いを覚えた時のみに発動できる能力だ。

対象の匂いが自分と離れてしまった場合において、相手の近くの位置までテレポートしてから、再び匂いを辿って追跡を開始する。

感覚的に伝わってくるハイウェイ・スターの位置は、すずかの家の裏手にある雑木林の中程に差し掛かりそうな位置だった。

そこにテレポートして匂いを再び発見したハイウェイ・スターは足跡の形や円盤の形が集まって形を形成し直し、人型の像をとる。

どうやら直ぐ傍に居るみてえだな。

 

「定明、ユーノ君は見つかった?」

 

「ん。もうそろそろだと思うけ――は?」

 

「?どうしたのよ?」

 

ちょうど良いタイミングで聞いてきたアリサに言葉を返す俺だったが、その直ぐ後に見えてきた光景に、思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。

そんな俺を見て、アリサが訝しげに声を掛けてくるが、俺はそれに返事を返す余裕すら無かった。

俺がハイウェイ・スターを通して見てる光景――。

 

『えっと……これって、どういう事なのかな、ユーノ君?』

 

『多分……あの子の『大きくなりたいって願い』をジュエルシードが叶えた結果じゃないかと』

 

『まぁ、確かに願い自体は叶ってるな……只――』

 

その先、つまり相馬となのは、そしてフェレットのユーノが喋っているという摩訶不思議な光景の先に、更に輪をかけて不可思議な存在がいる。

大きさは優に20メートルはあるであろう体躯に、手入れの行き届いた薄いグレーの毛並み。

つぶらで可愛らしく、そして愛らしい瞳で相馬達を見下ろしながら、『ソイツ』は人懐っこい笑みを浮かべて一鳴き。

 

『――ナァ~ゴ♪』

 

自分を見つけてもらって嬉しそうな鳴き声を挙げる、手足の短い『巨大な子猫』。

『巨大な子猫』とか俺の表現の仕方がおかしいと思えるが、そうとしか表現のしようがねぇんだ。

何せ体長20メートルはある『子猫』なんだし。

 

『もう少し慎ましい『大きさ』だったなら、尚良かったんだがな』

 

そんな愛らしくもデカイ子猫を見上げながら呆然と呟く相馬。

俺も相馬の意見には大賛成だな。

こんな爆盛り級の子猫とか、じゃれつかれたら死にかねねぇっての。

ましてや成長して成体にでも成られたら、下手するとパクッと食われて終わりでしょ。

っていうかおいおい……今さっきジュエルシードつったよね?またここにきて面倒事かよ。

 

「どうしたの定明?何かあったの?」

 

「いや、まだ見つかってねぇってだけだ。もう少し待ちな」

 

首を傾げながら結果の催促をしてくるアリサに返事を返しつつ、俺は胸中でユーノの正体について考察する。

やっぱり、あのユーノってフェレットが、相馬の言ってたユーノって奴で間違い無いって事か……にしても動物が宇宙船に乗ってたなんて、何処のファンタジーだよ。

俺が今まで感じてた違和感、黄金長方形の見えない動物、そして不自然なほど獣の匂いがしない理由。

まだそこまでは考えが辿り着いてねぇけど、おそらくユーノは意志を持った人間に近い存在か何かなんだろう。

今もハイウェイ・スターの視界の先で直立したままなのは達と喋るユーノを見ながらそう結論づける。

しかしそれだけがおかしいって事じゃねぇ。

良く周りを見ると、景色の色がさっきまでと違ってモノクロに変わっている。

まるで時を止めた時に似た現象であり、良く見るとユーノの足元に緑色に光る魔法陣が現れていた。

これって、この前テスタロッサが使ってた結界だよな……そうか、だから途中からユーノの匂いが弱まってたのか。

改めて考えてみれば、ハイウェイ・スターの存在がかなり遠くに感じられるし、結界の中にテレポートしたってワケだ。

 

『て、敵意は無さそうだけど、このままじゃ危険だから元に戻さないと』

 

『そ、そうだよね。あんなに大きかったら、すずかちゃんのお家もエサ代だけでかなり大変になっちゃうだろうし』

 

『いやなのは、問題はそこじゃ無い』

 

なのはのボケっぷりが発揮される台詞に突っ込む相馬。

俺も思わずハイウェイ・スターと動きをシンクロさせて「うんうん」と頷いてしまう。

エサ代云々の前に、世界中からマスコミがこぞって集まるだろうよ。

だがまぁ、あの子猫を大きくしたのがジュエルシードという危険物なのは理解してる様で、なのはの顔付きは真剣なモノになっている。

 

『襲ってこないなら、ササッと封印しちゃおう。相馬君は今回はお休みしてて』

 

相馬に笑顔を向けながらそう言いつつ、胸元から赤い宝石を取り出すなのは。

どうやらアレがなのはのデバイスの待機状態の様だな。

俺はハイウェイ・スターでその様子を見ながら、とりあえず一安心する。

俺は今までジュエルシードの暴走ってのは見た事は無えけど、どうやら今回もすんなりと封印して終わりそう――。

 

 

 

『いや、なのは。どうやらそうも――』

 

 

 

そう思っていた時に、相馬が今までに聞いた事の無い程に真剣な声音で何かを呟いた時――。

 

 

 

バシュウゥウウウッ!!

 

 

 

『言ってられない様だッ!!斬月ッ!!』

 

『承知』

 

ガギィイイインッ!!

 

 

 

なのは達の後方から金色の光線が飛来し、それを相馬が何処からか出したバカデカイ『出刃包丁』の様な剣で切り落とした。

 

『『『ッ!?』』』

 

そのままいけば、件の子猫にブチ当たる軌道だった何かの存在を感知して、俺やなのは達は驚きに目を見開いてしまう。

相馬が弾き落とさなけりゃ、間違いなくあの光は猫に当たっていただろう。

サクッとファインプレーをカマした相馬は地面に着地すると、注意深く剣を構え直す。

 

『斬月、バリアジャケットを展開してくれ』

 

『了解した、主』

 

光の飛んできた方向を睨みながら相馬がそう口にすると、剣から渋い日本語で返答が返り、相馬の姿が光に包まれていく。

やがて、光が完全に納まると、そこには真っ黒の和服に袴、白い足袋に草履という出で立ちの相馬が現れた。

黒い和服に黒い出刃包丁の様な大剣。

どう見てもブリーチの黒崎一護の死覇装と斬魄刀です、本当にありがとうございます。

っていうか、相馬の特典ってそれだったのか……ブリーチ自体、あんまり詳しい事は知らねぇけど。

そんな事を思っているとなのはもバリアジャケットを展開し、何やらメカメカしい杖の様な物を持って、相馬の後ろに立っていた。

なのはのバリアジャケットは白を基調としたモノで、青色のストライプが各所に施されている。

ゆったりとしたロングスカートの終わりにはフリルがあしらわれ、胸元に大きな赤いリボン。

何か、初めて魔法少女らしい出で立ちを見た気がするが……何か、アレに近い服を見た事がある様な……まぁ良いけど。

 

『い、今のって、もしかして……』

 

『間違い無い……魔法の光だった……2人とも、気を付けてッ!!また撃ってくるかもしれないッ!!』

 

いきなり飛来した魔法に困惑するなのはに、ユーノが叫びながら注意を促す。

俺もユーノの言葉を聞いて意識を引き締めると、ハイウェイ・スターを操作して上空へと飛び上がる。

そして、上空から周りを見渡せば――。

 

『――魔導師?』

 

すずかの家の敷地の外、その電柱の上に彼女は居た。

太陽の様な金髪に寂しそうなルビー色の瞳、黒いマントにレオタードという格好の少女。

俺が前に遭遇したフェイト・テスタロッサだ。

まさかココでテスタロッサが出てくるとは……なーんか事態がややこしくなってきたぞ。

 

『……間違いない。僕と同じ世界の住人』

 

『……』

 

バウッ!!バウッ!!

 

ユーノの呟きにテスタロッサは何の反応もせず、構えていたバルディッシュから更に光弾を連射する。

その光は相馬達の頭上を通り過ぎて、今もボケッと突っ立っている巨大な子猫へと迫りゆく。

あのままじゃ間違い無く直撃コースだ。

 

『おっとッ!!』

 

ガギィイイインッ!!

 

だがしかし、それは光線の射線に割りこんだ相馬の剣によって防がれる。

幅広の出刃包丁……斬月の刃の腹を縦にする様に構えて、光線を弾いたのだ。

大の大人並みの長さがある大剣を軽々と扱うとは……相馬も特訓をして、身体を鍛えてたって事か。

足元から黒い影の様なモノを吹き出して空に浮遊する相馬は、自分を見てくるテスタロッサに対して油断無く剣を構えなおす。

 

『……俺達を攻撃せずに子猫を狙った……あくまでも、君の目的はジュエルシードって事か?』

 

『……』

 

相馬の問い掛けに対して、テスタロッサは何も答えず、地面近くに居るなのはと相馬を交互に見やる。

っていうか、俺と会った時とキャラの差が凄いな……いや、俺も最初に会った時はあんな感じだったっけ。

トコトン冷めてるっつーか、ドライっつーか。

 

『バルディッシュと同じ、インテリジェンスデバイス……』

 

『……バルディッシュ?』

 

そして、やっと喋ったか言葉を拾いながら、なのはは困惑した表情を見せる。

まぁ今までジュエルシードの思念体って奴等とは戦ってきても、まさか同じ人間と戦う羽目になるとは思って無かったんだろう。

困惑するなのは、注意深くテスタロッサに視線を送る相馬の2人を前に、テスタロッサはバルディッシュをサイスフォームという鎌の様なモードを展開しながら口を開く。

 

『ロストロギア、ジュエルシード……申し訳無いけど、頂いて行きます』

 

それだけ言うと、テスタロッサはバルディッシュを水平に構えて急降下し、なのはへと迫る。

その速度たるや、さすが速度特化の能力を持ってるだけはあり、かなり速い。

 

『悪いが速度なら、俺も自信は多少あるッ!!』

 

『ッ!?せやッ!!』

 

ギャァアンッ!!

 

だがしかし、なのはへと肉薄しようとしたテスタロッサに、相馬がテスタロッサを上回るスピードで割り込み、剣を振るう。

テスタロッサは相馬のスピードに驚愕しながらも、冷静に対処し、互いのデバイスをぶつけて鍔迫り合いの体勢に持ち込む。

 

『く、うッ!?』

 

しかしここで誤算だったのは、相馬はスピードだけじゃなくパワーもテスタロッサを上回っていた事だ。

まぁあの見るからに重そうなバカでかい剣を振り回してる時点で尋常じゃない筋力だと思うが。

そうやってなのはに向かう筈だった脅威を足止めしつつ、相馬はなのはに向かって叫ぶ。

 

『なのはッ!!この子は俺が抑えてるから、今の内に封印をッ!!』

 

『う、うんッ!!分かったのッ!!レイジングハートッ!!』

 

『AccelFin』

 

相馬の叫びを聞いたなのはは自らのデバイス……レイジングハートと呼んだソレを翳すと、杖から女性の音声で何かが呟かれる。

なのはの足元にピンク色の魔法陣が浮かび上がり、彼女の足にピンクの小さな翼が生え、なのはの体が浮遊する。

うおぉ……スゲエ簡単に空を……魔法って便利なんだな。

初めて魔法らしい魔法を見てテンションが若干上がる俺だったが、ふとこの結界の中にもう一つ別の匂いが混ざって来たのを感じ取り、俺は意識を戻す。

何だ?人間……いや、それにしては獣の匂いも混ざってる……まるでその間って感じがするな。

 

『……させません』

 

『ガァアアアアアアアッ!!』

 

『何ッ!?(ドゴォッ!!)うぐッ!?』

 

『ッ!?相馬君ッ!?』

 

『相馬ッ!!』

 

と、新たな乱入者の匂いを嗅ぎ分けていた時に、空中でテスタロッサを抑えていた相馬の呻き声、そして獣の雄叫びが聞こえてきた。

その声のする方向へ視線を向けると空中に佇むテスタロッサの傍に、かなり大きな体躯を持つ、オレンジ色の狼が居るではないか。

っていうか、あの狼って……そうか、アルフだったのか。

テスタロッサの隣りで、相馬達に威嚇してるアルフを見て納得した。

考えてみれば、この前話した時に、アルフは自分の事を狼の使い魔だって言ってたし、前に見た女性の姿だけじゃなくて、狼の姿にもなれるって事だろう。

一方、先ほどまで鍔迫り合いをしていた相馬は、少し離れた場所で少し苦しそうな表情を浮かべ、手の平に黒い影を宿し、その手を翳していた。

その手の平からは白い煙が若干上がってる……アレで防いだのか?

 

『……ギリギリガードが間に合ったが、少しダメージも貰ってしまったか……油断した』

 

『相馬君ッ!!大丈夫ッ!?』

 

どうにか攻撃を防ぐ事が出来た相馬に声を掛けながらなのはは相馬の元へ戻ろうとする。

だが、それは他ならぬ相馬自身によってストップの声が掛かった。

 

『俺は大丈夫だから、なのはは早くジュエルシードを封印してくれッ!!ここは俺が食い止めるッ!!』

 

『で、でもッ!?』

 

相馬の拒否の言葉に動揺し、どもるなのはだが、テスタロッサはその隙を逃さずに動く。

 

『いくよ、アルフッ!!』

 

『グルアァアアアアアアッ!!』

 

『ッ!?うぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

なのはと相馬が喋ってた隙をついて迫るテスタロッサとアルフ。

相馬は気合の雄叫びを挙げながら斬月を構えなおし、真っ向から2人を抑えにかかる。

 

『急いで、なのはッ!!ジュエルシードを封印してしまえば、僕達全員で相手出来るッ!!向こうの相手は相馬に任せて、今は目の前の危険を止めるのが先決だよッ!!』

 

『わ、分かったよユーノ君ッ!!』

 

下で事態を見守っていたユーノの指示を聞き、なのはは慌てながらもジュエルシードの元へと向かう。

そのなのはの背中を護り、テスタロッサ達を足止めする相馬……さて、俺もこのまま参戦して、さっさか事態を収拾しちま――。

 

 

 

「何時までアタシを無視してんのよこのバカァアアッ!!ストーン・フリーッ!!」

 

 

 

『オラァッ!!』

 

ゴッチィイイ~~ンッ!!

 

「がッ!!?」

 

しかし、突然頭頂部に走った激痛の所為で、俺は意識をスタンドから切り離してしまう。

俺自身がダメージを負った上に意識を途切れさせた所為か、ハイウェイ・スターの存在もアッサリと消えた。

っていうか……。

 

「~~ッ!?い、いきなり何しやがるアリサッ!!」

 

俺は殴られた頭を両手で抑えたままに、いきなり俺の頭をシバいてくれやがったアリサに食って掛かる。

両手を腰に当てて、俺に「怒ってます」って表情を見せるアリサの傍では、ストーン・フリーが拳を下ろした体勢で待機してる。

コイツ、スタンドのパンチで俺の頭を殴りやがった。

いきなりにも程がある理不尽な攻撃に怒る俺だったが、アリサも負けず劣らずといった具合で怒ってやがった。

 

「何しやがる、じゃないわよバカッ!!さっきからアタシが「大丈夫?」って何回も何回も心配してたのに、肩を叩いても揺すっても全部無視したのはアンタじゃないのッ!!」

 

「仕方ねぇだろッ!!スタンドの操作に集中してたから喋れなかったし、触られたのも感じ取れなかったんだよッ!!っていうかそれにしたっていきなり殴る奴があるかッ!!しかもストーン・フリー使いやがってッ!!」

 

痛いなんてモンじゃねぇんだぞ畜生ッ!!気が緩んでた分、ダメージもデカイんだからなッ!!

だが、俺はアリサの怒りに満ちた言い分もそれ以上の怒りで返す。

確かに無視してたのは悪かったと思ってるが、幾ら何でもいきなり殴られて笑って済ませられる程、俺は温厚じゃねぇ。

俺の怒鳴り声を聞いて、アリサもいきなり殴ったのは遣りすぎと思ってるのか、目が左右に泳ぐ。

ったく、またハイウェイ・スターを結界の中に送り込まなきゃいけねえじゃねぇか。

 

「もうちょっとでユーノを見つけられるトコだったってのに……今からやり直すから、今度はいきなり殴ったりすんじゃねぇぞ?コッチはお前のリクエスト通りに急いで探してたんだからな」

 

「う゛…………ごめん……あんまりにも無視されてたから、つい……」

 

呆れた表情でアリサに釘を刺すと、アリサは両手をグニグニと揉みこみながら目を逸らし、気まずそうに謝罪してくる。

とはいえ俺も悪い所があったワケだし、これ以上強く言う必要も無いだろう。

 

「まぁ、コッチこそ悪かったな。無視する様な対応になっちまってよ……直ぐに相馬達を見つけだすから、もう少しだけ我慢しといてくれ」

 

「……うん」

 

俺もアリサにちゃんと謝罪し、もう1度ハイウェイ・スターを呼び出す。

まだハイウェイ・スターはユーノの匂いを記憶してるから、追跡のし直し自体は簡単だった。

直ぐにハイウェイ・スターはさっきの結界内にテレポートして、再び相馬達の下へと駆けつけたが――。

 

「……ハァ(遅かったか……)」

 

さっきの場所に戻ったハイウェイ・スターの視界に飛び込んできたのは、地面に倒れ伏して息を荒げてるなのはと相馬の姿だった。

彼等の見つめてる先には、ボロボロのバリアジャケットを着て息を吐くテスタロッサと、これまたかなり傷ついてるアルフの1人と一匹が浮遊していた。

しかもテスタロッサ達の姿は既に少しづつ透け始めている。

多分この場所から転移するんだろう……どうしたモンか……。

テスタロッサを取り巻く今の状況を知ってる俺としちゃ、さすがにテスタロッサからジュエルシードを取り上げるのは気が引けるし。

かといってこのままテスタロッサがジュエルシードを集め続けたら、それこそ地球BURNって展開もあり得るし……面倒くせぇな。

 

『……もう、ジュエルシードに関わらないで』

 

『ま、待ってッ!?』

 

と、そんな事を考えていたら、テスタロッサはなのは達に向かって悲しそうな表情で関わるなと言い放ち、目を閉じた。

なのはの悲痛な引き止めすらも意に介さず、テスタロッサとアルフは虚空へと姿を消してしまう。

あー、くそ。考え事してたら取り逃しちまった……仕方ない、今回は見送るしかねぇか。

そんでまぁ、なのは達もジュエルシードが持ってかれてしまった事で一応の決着を迎え、この結界も解除される。

ユーノ以外、つまりなのはと相馬はゼェゼェ言いながらバリアジャケットを解除、元の服装に戻った。

 

『……あの子は、一体?……ジュエルシードの存在を何処で知ったんだ?ユーノは何か分からないか?』

 

『ゴメン……僕も検討が付かない……ジュエルシードの存在は、船が墜落した時に管理局に通報はしてあるんだ。けど、一般の人間には知られてない筈』

 

『だが、あの子は確実にジュエルシードの事を知っていた……目的は分からないが』

 

『うん。ジュエルシードは歪んだ形で願いを叶える、とても危険なロストロギアだ……利用価値があるとすれば、その中に秘められた膨大な魔力だと思うけど……』

 

ハッキリ言って三文芝居も良い所だが、相馬はまるでそ知らぬ顔をしながらユーノにテスタロッサの事を質問する。

まぁ寧ろ、知っている俺達の存在自体が異常なんだけろうけど。

 

『……あの子…………何で、あんなに悲しそうだったんだろう』

 

と、テスタロッサの正体について討議している相馬達には混じらずにいたなのはが空を見つめながらポツリと呟く。

なのはからすれば、テスタロッサがジュエルシードを奪っていった理由と同じくらい、さっきのテスタロッサが見せた表情が気になる様だ。

新たな乱入者の登場により、かなり困惑気味ななのは陣営だが……まぁ相馬が居るんだし、そこまで酷い事にはならねぇだろう。

さあて、そろそろ俺が直接迎えに行ってやるとしますかね。お嬢様もさっきからソワソワしてるし。

俺はここでハイウェイ・スターから視界の同調を止め、さっきから椅子に座ったまま俺にチラチラと視線を送ってくるアリサに視線を向ける。

 

「やっと見つかったぜ。なのはと相馬も一緒に居るみてーだから、俺が迎えに行ってくるよ」

 

俺の言葉を聞いてアリサは満面の笑顔を見せてくれたが、すぐに気を取り直して「は、早く呼んで来なさいッ!!」と言ってきた。

やれやれ、何時もの理不尽なアリサが顔を出しやがった……まぁ、この方がアリサらしいけど。

俺はアリサの機嫌を損ねない様に笑いながら行ってくると言い残して、部屋を後にする。

途中で恥ずかしそうに顔を赤らめたすずかと出会ったんだけど、かなり切羽詰まった表情で詰め寄ってきた。

 

「さ、定明君……も、もう大丈夫、かな?」

 

不安そうな表情で俺にそう問い掛けながら、すずかは口を小さく開いて息を吐く。

すずかが聞いてるのは間違いなく口臭の事だろうが……残念ながら、ハイウェイ・スターの力の前では、かなり薄い匂いでも嗅ぎ分けちまう。

幾らミントの葉っぱを噛んでも無意味なんだよなぁ……まぁ、さっき反省したばかりだし、これ以上は言わねぇ。

 

「大丈夫だ。ミントの良い香りしかしねぇよ……ごめんな、デリカシーの無い事言って」

 

「う、ううん。もう良いよ……でも、もうあんな事言わないでね?すっごく恥ずかしかったんだから」

 

「あぁ。約束するよ。もう二度とやらかさねぇ」

 

「……よろしい♪それじゃあ許してあげる♪」

 

俺は少しだけ苦笑しながら自分の犯した所業を反省し、すずかにもちゃんと謝罪の言葉を贈る。

すずかも俺がちゃんと反省してるのを感じてくれた様で、可愛らしい笑顔を浮かべて俺を許してくれた。

それで何とか今回の事は水に流して貰えたので、俺は再びなのは達の下へと足を進めて行く。

 

 

 

さて……ジュエルシードにテスタロッサの問題、そして来るであろう管理局……問題は山積みだな。

 

 

 

どうにかパパッと解決して、平和な日々を過ごしたいモンだ。

 

 

 

勿論、問題の解決も俺の関係無い所で納まってくれれば、それで万事OKなんだけど。

 

 

 

なんて他力本願な事を考えながら、俺はあいつ等の居るであろう雑木林に向かって歩を進める。

サッサと戻ってクッキーでも食べながらのんびりまったりと洒落込みたいからな。

 

 

 




それと、これからISとか楽逝も書き始めますので、この作品も更新贈れますが、何卒リスナーの皆様にはご理解いただけますよう、お願い申し上げます。


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俺のホームグラウンド、水中なら(ry


大変遅くなり申し訳御座いません。

最近GTA5だけじゃなくてCODゴーストとかマジ恋、辻堂さんやってた所為です。

他にも残り2作の執筆だったり……ですが、ちゃんと3作完結させますので、出来れば長くお付き合い頂きたいです。


 

 

 

「ふぁ……あぁ~……ちょっと早く来すぎたか?」

 

現在の時刻は9時28分といった辺りで、日にちは皆大好き日曜日だ。

何時もなら12時ぐらいまで爆睡してるであろうこの俺が、こんな早い時間に起きてるのは、今日がアリサと約束してたプールの日だからだ。

前以って指定された時間は10時だが、多分ギリギリに行ったら怒られるだろうと思い、かなり早めに家を出たのである。

 

「結構眠いけど朝っぱらからアリサに文句言われる事に比べたら、早起きする方が幾らかマシだよな……フゥ」

 

俺は水着の入った鞄を持ってベンチに腰掛けながら、なのは達がテスタロッサと初めて戦った日の事を思い出す。

思い出すと言っても、なのは達には大きな怪我は1つもなかったので、俺が森で発見した時に何食わぬ顔で謝罪してきただけだ。

まぁ俺やアリサ達には魔法の事は秘密にしてるんだし、誤魔化しても不思議じゃねぇよな。

相馬もなのは達に協力してる手前、俺に対しても芝居を続ける必要があるわけだ。

その辺りの事情を知ってる俺としては、なのは達に言及した所で得は無ぇし、下手すると損に繋がっちまう。

だから敢えてその芝居に乗って、知らぬ存ぜぬを通してる。

俺の平和な日常に魔法なんてファンタジーは必要無いからな。

 

ザワザワ……

 

「……おい、見ろよ。また黒塗りのリムジンだぜ」

 

「ハハハ、そんな馬鹿な事があったでござる」

 

「ね、ね、あのベンチに座ってる男の子って、この前もリムジンで迎え来てもらってなかった?」

 

「ひょっとして何処かのお坊ちゃま?」

 

「うーん……そんなになんていうかこう……気品のある感じじゃ無いけど……」

 

外野から言いたい方題言われてる件について、テメェ等纏めてグレイトフル・デッドの餌食にしてやろうか?

あんまり俺を怒らせると老化させちゃうよ?ヨボヨボにしちゃうよ俺?

まるでいつぞやの焼き増しの様な感じで駅のロータリーに堂々と入ってくる黒塗りのリムジンに、外野がまたもや沸き立つ。

その外野の反応を聞いて、俺は疲労に染まった溜息を吐いてしまう。

 

「(ガチャッ)お早う御座います。定明様」

 

「あうちっ……出来ればそこまで一緒じゃなくても良いのに……」

 

「はて?……何か粗相がありましたかな?」

 

「あぁいえ、コッチの話しで……お早う御座います、鮫島さん。迎えにきてもらっちゃってスイマセン」

 

すずかの時にファリンさんがやってしまったのと同じく、鮫島さんも執事服というブッ飛んだ服装で車から降りてしまうが、鮫島さんは得に気にしてないご様子。

こんだけ周囲の視線を集めてるってのに堂々と……まさか見られる事に慣れてるのか?俺ならそんな慣れは一生したくねぇけど。

俺が丁寧にお辞儀してお礼を言うと、鮫島さんは朗らかな笑顔を浮かべて俺に視線を向けてくる。

 

「いえいえ。それより早くお乗りになられた方が宜しいかと。余りこの老骨とばかり話していては――」

 

「(ガチャッ)ちょ、ちょっと定明ッ!!今日はアタシと遊びに行くんだから、何時までも鮫島と喋ってないで早く乗りなさいよッ!!コッチは待ってるんだからねッ!!」

 

「……お嬢様の機嫌を損ねる事になりますから」

 

「確かに……っていうか少し遅かったみたいッスけどね……ご忠告ありがとうございます」

 

俺が鮫島さんと挨拶してるのが我慢ならなかった様で、後部座席のドアからアリサが降りて俺を呼んできた。

ちょうど忠告されてる最中の出来事だったので、俺と鮫島さんは目を合わせて苦笑。

っていうか忍耐力少な過ぎるだろアリサ。

そして、アリサが降りてきた事でまたもや広がるざわめきの波紋。

心なしか女性から浴びせられる視線が冷たいモノになってる気がするんだが……何故に?

座席から降りて俺の傍に歩み寄り、腰に手を当てて「う~」と唸るアリサに、俺は向き直って口を開く。

 

「グッモーニンだ、アリサ。そう急がなくてもプールは逃げたりしねぇから落ち着けって」

 

「……アンタと遊べる時間が減っちゃうじゃない。バカ」

 

……あ~、何で今日はそんなにしおらしいんだ、アリサさん?

俺の落ち着けようとして語った言葉を聞いたアリサは何時もの様に怒ったりせず、少し拗ねた感じで俺に反論してきた。

 

「そりゃ悪かったな。それじゃあサクッと行こうぜ。そのプールによ」

 

「そ、そうね。じゃあ鮫島、プールまで運転ヨロシク」

 

「畏まりました」

 

俺が肩を竦めて言葉を返すと、アリサもうんうんと頷いて鮫島さんに再び運転をお願いし、車の中へと戻っていく。

アリサに引き続いて俺も車に乗り込み、持ってきたリュックをポイッと座席に放り投げた。

どうせ中には着替えとタオルとかぐらいしか入ってないし。

 

「ん?アリサ、その手の怪我は何だよ?」

 

「えっ!?べ、別に大した事じゃないわよ」

 

ところが、アリサの隣りに座った俺の目に映ったのは、バンソーコーだらけの痛々しい手だった。 

切り口が新しいのか、少し血が滲んでる部分が目に付く。

当然の如く質問してみるが、アリサは挙動不信に目を逸らして何でも無いの一点張り。

どうやら理由は語りたくない様だな。

 

「まぁ、別に理由は言わなくて良いけどよ。これからプールに入るのに生傷があっちゃ楽しめないだろ?治してやるよ」

 

そう言いつつ、俺は『クレイジー・ダイヤモンド』でアリサに触れて怪我を綺麗に治してやった。

見た目は絆創膏に覆われていて判らないが、アリサの驚いた表情を見れば、ちゃんと治ってるみてぇだな。

 

「そ、そんなに痛くも無かったのに、態々治さなくて良いわよ」

 

「つっても、もう治しちまったモンはしょうがねぇだろ」

 

「もう……い、一応お礼は言っとくわ……ありがとう」

 

「はいはい」

 

顔を赤く染めてお礼を言ってくるアリサに、俺は適当に返事を返す。

これぐらいの事で恥ずかしがる辺り、アリサもやっぱり小学生らしいトコあるって事だろう。

何故か今日に限ってアリサは何時もの様な覇気、というか元気な所を見せず、俺が話し掛けないと黙って大人しくしている。

なので俺は適当に話題を振ったり質問したりして間をもたせつつ、プールまでの道のりを行くのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「おー……結構色々なプールがあるんだな。こりゃ来て正解ってヤツか」

 

そしておよそ30分後、俺はトランクスタイプの水着を履いて屋内プールの一角にある案内板を眺めている。

ちなみに鮫島さんは居ない。

俺達を送ってくれた後、また終わった頃に迎えに来てくれるそうで、さっき帰っていった。

っていうかこの前の誘拐騒ぎがあったってのにアリサを1人にするとかどうなのよ?

そう考えていたのが顔に出てた様で、鮫島さんから笑顔でアリサの護衛を頼まれてしまったぜ。

 

曰く、「定明様のスタンド能力なら、私が居るよりも確実でしょうから」だそうだ。

 

いや、まぁ確実にアリサを守りきる自信はあるし、アリサにもとびきりの能力を渡してあるけど……それで良いのか?

 

「お、お待たせ」

 

と、なにげに頼られ過ぎな自分の事を振り返っていた俺の背後から、アリサの声が聞こえてきた。

その声に釣られて後ろを振り向くと、そこには恥ずかしそうに顔を赤らめつつ、片手をもう片方の肘に組んだアリサの姿が。

 

「いや、そんなに待ってねぇし、とりあえずそこの25メートルプールに入ろうぜ?」

 

人の少なく、それでいて溺れる事も無さそうなプールを指差して、そこに向かおうと――。

 

「ちょぉっと待ちなさい?……アンタ、何か重要な事を忘れてないかしら?」

 

「ん?忘れてって……浮き輪でも忘れたのか?」

 

した所で、なにやら米神をヒクつかせながら、アリサが俺に質問してくる。

俺自身は特に何も忘れたワケじゃないので、アリサが浮き輪とかを忘れたのかと問う。

しかしそう聞き返すと、アリサは目尻を吊り上げて俺を睨んできた。

 

「そうじゃなくって、少しは感想とか言いなさいよッ!!アタシの水着に対しての感想をッ!!」

 

「は?……あぁ、そういう事か」

 

アリサが怒鳴った事でようやく合点のいった俺は、目の前でがおーな状態になってるアリサの水着に視線を移す。

ベースは赤で、ピンク色のフリルが付いたツーピースの水着。

色合いはかなり派手、というか情熱的だが、それがアリサの勝気な性格と可愛い容姿にマッチしてる。

まぁ一言で言うなら――。

 

「俺は良く似合ってると思うぞ。赤色ってアリサに良くマッチしてるな」

 

「へ?……そ、そんなストレートに褒めなくても……」

 

「いや、お前が感想言えって言ったんじゃねぇか?」

 

そのくせ今度はもう少しオブラートに包めとか、注文多すぎだっつうの。

 

「う、うっさいうっさいッ!!もういいから、早く泳ぎに行くわよッ!!今日は遊び尽くすんだからッ!!」

 

褒められて照れたのか、アリサは真っ赤な顔で喚き散らすと、肩をいからせてプールへと歩いて行く。

今日は1日、アリサに振り回されるんだろうなぁ……ハァ……やれやれだぜ。

1人残された俺はこっそりと溜息を吐きつつ、前を歩くアリサを追いかけて行くのであった。

 

「……フンだ……~♪」

 

俺の前を歩くアリサが嬉しそうな表情を浮かべて鼻歌を歌っていたのを、俺は気付けなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

そこから、俺達は2人で色々なプールに入ってめいいっぱい遊んだ。

俺もアリサもスポーツが大好きってワケじゃ無いので、追いかけっことかはせずに浮かんでたり、ゆったりとした時間を過ごす。

最近ずっとトラブル続きだったから、こういうのが凄くリラックス出来る。

しかし時間を忘れて遊びに興じても、体というモノはとても正直なのだ。

 

「さて、そろそろ昼には良い時間だし、飯にすっか」

 

「ッ!?そ、そう、ね……い、良いわ。ご飯にしましょ」

 

俺は何か食わせろと騒ぐ胃の信号に従って、アリサに昼食を促した。

でも何故かアリサは挙動不信な態度を見せる……何なんだ?

ちなみにここは屋内プールなのだが、ちょっとした売店なんかが数店舗だけ入っていて、テラスやテーブル席なんかもある。

そこでご飯を食べて休憩して、昼からも遊ぶ予定だ。

 

「とりあえず、そこの店でホットドックとコーラを「さ、定明」ん?」

 

買おうぜ、と言おうとしてた所に声を掛けられて振り返ると、アリサが少し俯き気味な姿勢で、俺の事を見ていた。

 

「あ、あのね?良かったらその、お弁当があるんだけど……い、一緒に食べない?」

 

「え?弁当持ってきたのか?でも、それってアリサのじゃ無えの?」

 

「ち、ちゃんと2人分あるわよ。アタシから誘ったんだから、アンタの分を持ってくるのが礼儀だし……」

 

少し視線を逸らして髪の毛を弄りながら、アリサは俺の質問に答える。

しかも俺の分まで用意してくれてるとは……成る程、だから前日に確認した時に弁当は要らないって言ってたんだな。

 

「そっか。ならありがたく頂くよ。サンキューな、アリサ」

 

「い、良いわよ別に……と、ともかくッ!!アタシはお弁当持ってくるから、定明は席を確保しときなさいッ!!」

 

「了解。いい場所見つけておくから、弁当は頼む……あっ、それと飲み物はどうする?」

 

「あっ……飲み物、忘れちゃった」

 

俺の質問に今気付いたといった表情を浮かべるアリサ。

その顔がおかしくて少しだけ笑ってしまう。

 

「じゃあ席のついでに飲み物は俺が買ってきてやる。何が良い?」

 

「そ、そうね。お茶をお願い」

 

「あいよ……しっかし、弁当を持ってきて飲み物忘れるとはな」

 

「う、うっさいわねッ!!もういいから、早く席を探してこいッ!!」

 

真っ赤な顔で、多分照れてるアリサに了解と返しつつ、俺はアリサと別れてプールから少し離れたエリアにあるテーブル席へと向かう。

今日は日曜日な所為で中々混み合ってはいたが、偶然にも1つだけ空いていたテーブルを発見。

ラッキーと思いつつも近くの自販機でお茶のペットボトルを2つ購入してからその席へ陣取り、ご飯が来るのを待つ。

 

「お待たせ。持ってきたわよ」

 

と、座ってから5分程でアリサが到着し、子供サイズの弁当を2つ、テーブルの上に置いた。

俺もアリサにお茶を渡して、彼女から弁当を受け取り、アリサにお礼を言う。

腹も減ってきた事だし、早く食べるとするか。

 

「さて、それじゃあいただきます」

 

「い、いただきます」

 

2人で一緒に手を合わせ、弁当箱の蓋を開ける。

中身は若菜を混ぜた若菜ご飯に、肉料理はミニハンバーグ。

野菜にキュウリとプチトマトが並び、少し形の悪い卵焼きが入っていた。

ふむ、どれも弁当には定番なおかずの取り合わせだし、まずは無難にハンバーグからいこう。

お弁当のメインであるハンバーグを口に運ぶと、冷えていながらもジンワリとした噛み応えが俺の口に広がる。

普通に美味いし、ご飯も味が強すぎなくて最高だ。

 

「……ど、どう?美味しいかしら?」

 

と、卵焼きを食い終わった辺りで、自信無さそうにアリサが質問してきた。

俺はその質問に、口の中身を飲み込んでから答える。

 

「あぁ、卵焼きは甘さ控えめで美味いし、ハンバーグなんかも絶品だと思うぜ?」

 

「そ、そう……良かったわ(良しッ!!卵焼きも美味しかったって言質取ったわッ!!初めてだったけど……さすがアタシッ!!やれば出来るッ!!)」

 

俺の言葉を聞いて何でも無い風にそっぽを向くアリサだったが、片手が小さくガッツポーズしてるのを俺は見逃さなかった。

やっぱこの卵焼きはアリサが作ったのか……まぁ他のと比べると、味付けとか大分違うしな。

でもまぁ、不味くはなかった……それに、あの手の怪我を見た感じじゃ、初めて作ったんだろう。

俺は料理した事無いからよくわかんねぇけど、初めてであの味なら上出来な筈だ。

そのままおかずとご飯を順調に消費していく俺とアリサだったが――。

 

「チッ、何だよ席空いてねーじゃん」

 

「うわっ、人ごみウゼェ……土日は親子連れが多くて鬱陶しいよね~。ガキとかウルセーし」

 

何やら金髪のチャラチャラした男と、その彼女っぽい女が喚きながらテーブル席のある場所に入り込んできた。

しかも仲良くご飯を食べてる家族連れにガンつけながらウザイとか言うもんで、他の客の雰囲気も悪くなる。

そんな馬鹿を見て、楽しく食事してた俺等も眉を歪めてしまう。

 

「なんなのよアレ。場のマナーを弁えないで何様のつもりなのかしら?」

 

「まぁ、ああいう手合いは何処にでも湧いて出てくるもんだろ。完全な駆除ってのは出来……チッ。何でこっちに来やがるんだっての」

 

噂をすれば影、というワケでは無いだろうが、何故か件の2人組みがニヤついた笑みを浮かべながら俺達の座る席まで来て、いきなり机をドンと叩いてくる。

それだけでアリサの眉間に皺が寄り始めた……ったく、休日だってのによぉ。

 

「よぉーボウヤ達ぃ、仲良くお弁当かいー?」

 

「キャハハッ、小学生がデート気分?うわ超ウケるんだけど」

 

俺もその話し方が超ウケるぜ、クソ不細工なオバハンめ。

溜息を吐きながら目の前でニヤつく馬鹿2人にジトッとした視線を向ける。

 

「……何か用ッスか?俺等今どんなアホが見ても判る通り昼飯食ってんスけど?目ン玉がビー球なのかよ?」

 

「止めなさい定明。泳ぐ為のプールでこんなドギツイ香水の匂いプンプンさせてる様な連中が、そんな当たり前の事分かるワケないでしょうが。言うだけ無駄よ」

 

「あぁ。それもそうだな」

 

「ハァッ!?何このガキまじムカツクッ!!」

 

「おいおーい?お兄さん達って、結構キレやすいんだよねぇ……調子乗んなよガキ」

 

俺とアリサに馬鹿にされたのが馬鹿でも分かった様で、馬鹿2人は目尻を吊り上げて俺達を睨んでくる。

っていうか元々俺達に吹っ掛けてきたのはそっちだろうが。

 

「ふん。大方、子供2人で席使ってるから、少し脅せばこの場所取れるとでも思ったんじゃない?子供に本気で喧嘩吹っ掛けてくる馬鹿の考えそうな事だわ」

 

「んだとぉッ!?もう勘弁しねぇぞこのガキッ!!」

 

と、目の前の馬鹿を鼻で笑いながら厳しい言葉を出したアリサに堪忍袋の尾が切れたのか、チャラい男がなんと子供相手に拳振りかぶって襲いかかってきやがった。

その行動に周りが騒然とする中、俺達は互いに席から立たず騒がず、各々のスタンドを呼び出す。

こういう馬鹿相手にスタンド使うのは全然OKだ。

 

「ハァ……子供相手に手を上げようとするとか、本当に馬鹿ね」

 

アリサは余裕を持ちながらそう呟き、手から糸を束にして出すと、殴りかかってきたチャラ男の足に絡めて、勢い良く糸を引っ張る。

軸足をずらされた事でチャラ男のパンチは狙いを大きく外れ、全く関係の無い別の人間の顔へと叩きこまれた。

 

バキッ!!

 

「……え?」

 

自分の考えていた向きとは全然違う相手に自分のパンチが当たってしまい、チャラ男は呆然と呟きながら顔色を真っ青にしてしまう。

何せ彼が殴り飛ばした人間ってのが――。

 

「痛えなぁ……何してくれとんや、兄ちゃん?」

 

「あ、う。い、いやその……」

 

筋骨隆々にして、身長は190センチはありそうなマッチョさんなんだからなぁ。

しかも、どう見ても堅気じゃねぇイカツイ顔と体の疵ってのが、手を出しちゃいけねえヤのつく人種そのものだし。

そう思っていたら各所からその人の仲間と思しき同業の方々が2~3人ゾロゾロと……終わったな、彼氏君。

一方で堅気じゃねぇ人種に喧嘩を売ってしまった彼氏の隣りで呆然とする彼女に、俺は『シンデレラ』の能力を使って運勢を最悪の方向へと固定してやる。

運命を固定するには30分に1回、シンデレラの作った口紅を塗らないといけないが、運勢程度なら問題ない。

ただ、その『最悪の運勢』ってヤツが――。

 

「オドレにはしっかりケジメつけてもらうとして……そっちの姉ちゃんには暫くウチの店で働いてもらおか。治療費の代わりにのぅ」

 

「あ、あわわわわ……」

 

『どの程度』に最悪なのかは、俺でも判らねぇけどな?

そのままあの馬鹿2人はヤーさん達と外へ出て行き、何やら警備員と話しをしていた。

少し気になったのでハーヴェストを一匹近寄らせて耳を同調させると、どうやらヤーさんはこの場の揉め事は警備員に任せる様だ。

いくつか話し合って警備員に連れて行かれる馬鹿2人。

だがその顔色が優れない所を見ると、後でしっかりと色々あるんだろう……そう、色々、な。

 

「……なんか釈然としないわ……私のした事だけど、アレで良かったのかしら?」

 

と、馬鹿2人にご愁傷様と思っていた俺に、ちょっと落ち込んだ雰囲気のアリサが声を掛けてくる。

まぁアリサも根は優しいから、自分がああした所為でっていう責任は感じてんだろう。

 

「良いんじゃね?暴力振るおうとしたんだから、暴力でやりかえされても文句は言えねぇだろ」

 

「でも、アタシは只あの男の腕を逸らそうとしただけで、まさか後ろにあんなのが居るなんて思わなかったわよ」

 

確かに、あの馬鹿の拳が人に当たっちまったと判った時のアリサの驚きようは凄かった。

まぁその後で殴られた人種を見て頭抱えてたのも、一応アリサなりにやっちゃったと思ってたって事か。

折角さっきまで楽しそうな顔してたってのに、これじゃ今日の楽しい気分が全部パァだ。

 

「……まっ、兎に角よ。今日は折角遊びに来たんだ。まだ入ってないプールもある事だし、めいっぱい楽しもうぜ」

 

食べ終わった弁当箱を片付けながら、俺は笑顔を浮かべて気落ちしてるアリサに声を掛ける。

まだ半分過ぎただけなんだし、今からもっと遊んで今の嫌な事は忘れてもらおう。

俺の言葉を聞いて、アリサは呆けた表情を浮かべるも、直ぐに目に光を灯し、立ち上がる。

もうさっきまでの落ち込んだ表情はなく、何時もの勝気な表情に変わってた。

 

「そうねッ!!まだまだ今日は楽しまなきゃッ!!行くわよ定明、次はスライダーに乗りましょッ!!」

 

「スライダーかよ……食後はゆったりと流れるプールに行きたかったなぁ」

 

「何言ってんのよ。アレは午前中にたっぷりと行ったじゃない。今度はアレに乗るんだからねッ!!」

 

「はいはい。何処へ成りとお供しますよ」

 

自分のやりたい事を真っ直ぐ貫いてくるアリサに苦笑しながらそう言うと、アリサはニッコリ笑って俺の手を引いてきた。

さっきまでの落ち込んだ表情を全く見せずに、だ。

全く……や~れやれだぜ。

どこか現金なアリサの態度の変わりぶりに首を振りながらも、俺は笑顔を浮かべてアリサの後を着いて行く。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あ~ッ!!楽しかったッ!!」

 

「大分遊び尽くしたからなぁ……俺ももう満足だ」

 

夕方、俺達は迎えに来てくれた鮫島さんの運転するリムジンの中でゆったりと体を伸ばす。

今日の後半は動き回っていたから、良い運動になったな。

 

「それにしても、まさか流れるスライダープールが13個もあるなんて思わなかったわ」

 

「俺も思った。しかも1つごと流れる早さのにレベルが違うとはな」

 

「あのプールでイチ押しの目玉なのに、名前が13の試練って言われた時は笑っちゃったわよ」

 

「まぁ確かに、プールで使う名前では無ぇわな」

 

ちなみに安全面の考慮の結果、小学生は6の試練までしか乗れなかった。

但し、一つ一つの面白さレベルが尋常じゃなく高かったのは凄いと思ったよ。

回転とかも入ってきてたし……遊園地のアトラクションと間違えてねぇか?

 

「ふー♪……あっ、そうだ定明。再来週のゴールデンウィークって何か予定入ってるの?あったらキャンセルしておきなさい」

 

「オイ。薮から棒に傍若無人な命令かよ……一応何も予定ねぇが、一体何だ?」

 

ウチは残念な事に父ちゃんが休みを取れず出張という事になっているので、今年は何処にも出かけない事になっている。

その代わり盆休みが沢山取れるらしいから、その時の為に我慢するそうだ。

俺が予定が無いと伝えると、アリサはにんまりと笑って口を開く。

 

「今度の大型連休に、アタシと相馬にすずかとなのは、それと忍さん達月村家の皆と、なのはの家の皆で温泉旅行に行くの。アンタとリサリサも参加だからねッ!!」

 

あぁ成る程、温泉旅行のお誘いね、ふむ。

 

「無理だな」

 

『オラァッ!!』

 

即答で断ったらストーン・フリーのパンチが飛んできたので、すかさずスタープラチナで受け止めて腕を捕まえる。

何かもうアリサから攻撃されるの慣れたなぁ……悲しい事によ。

 

「即答してんじゃあないッ!!何で無理なのよッ!?温泉よ温泉ッ!!」

 

何で温泉=小学生が行くってなる?それが楽しみなのは爺さん婆さんだろうに。

荒ぶるアリサを宥めつつストーン・フリーの力が弱まるのを待って、俺はゆっくりと理由を述べる。

 

「そんな所に行く金もねぇし、母ちゃんが俺1人の為に出す訳ねぇだろうが。俺ん家は金持ちじゃねくて一般的な家庭なんだよ」

 

「うぐっ。常識の定義から外れまくった定明の癖に正論を……」

 

な~んか引っ掛かる物言いだが、まぁそういう訳で俺は行けない。

さすがに母ちゃんに「温泉旅行行って来るから金出して」なんて小学生の分際で言えるかってんだ。

まだ後でバイトして返すから、とかなら分かるがバイトしてねぇし。

そんな訳で参加出来ない主を伝えると、納得しながらもアリサは面白く無さそうな表情を浮かべる。

誘ってくれて嬉しいが、さすがに金の問題はなぁ……いや、一応出来なくも無いけど……一応やっておくか、アレ。

そんな事を考えてる間に、車は俺の家に到着し、俺は荷物を持って車のドアを開け、アリサへと振り返る。

 

「今日は誘ってくれてサンキューな、アリサ。スゲー楽しかったぜ」

 

「……わ、私も……今日は楽しかったわ」

 

「そうか……まぁ、温泉の事はリサリサにも伝えておく。じゃあな」

 

それだけ言って、俺は車の扉を閉めようと――。

 

「……ッ!!ストーン・フリーッ!!」

 

シュルルルルッ!!ガシッ!!

 

「なッ!?おいアリサッ!!何しやが――」

 

したが、その前にアリサが伸ばした糸の束が、俺の首を捕まえて引っ張ってきた。

いきなり首を捕まえられた事と引っ張られた事に抗議しようと口を開く俺であったが――。

 

 

 

チュッ。

 

 

 

「んなッ!?」

 

「……ン」

 

二度ある事は3度ある、とでも言うのか、頬にキスをされてしまう。

突然の事に動きがストップしてしまう俺であったが、俺が動くより先に、アリサが頬につけていた唇を離す。

うわぁ、俺が言うのも何だが、まるでリンゴみてーな顔色してやがる。

 

「うぅ……き、今日のお礼なんだからねッ!?別に深い意味なんてこれっぽっちも無いんだからッ!!か、勘違いすんじゃないわよッ!!(バタムッ!!)」

 

アリサは真っ赤な顔のまま俺にそう捲し立てると、俺の首を糸から開放して外に追いやり、車のドアを閉める。

 

「鮫島ッ!!早く車を出してちょうだいッ!!」

 

「ホッホ。かしこまりました、お嬢様……旦那様と奥様にご報告せねば(ぼそっ)」

 

「う、うぅ~(ア、アタシってばどんだけ強引な事してんのよッ!!あれじゃまるで、アタシが定明の事をす、すす、好きだって……)……うわぁあああああ~~ッ!?」

 

車の中からアリサの悲鳴が聞こえたかと思えば、リムジンは小さな排気音を奏でて道路の向こうへと走り去ってしまう。

俺はその光景を呆然としながら見送るしかなかった。

……え?俺って今、アリサにキスされたんだよな?

リ、リサリサとすずかに続いてアリサからも、お礼だって事でキスされてるけど……まさかこれって、そういう事なのか?

やっぱどう考えたってキスしてくるのはかなりの好意ってのが無いと無理だし、ましてや女の子からだぞ?

やっぱりあの3人は俺に対して友達以上の思いを持ってるって事になる……のか?

え?つまり俺ってモテモテな状況に?この俺が?……ま、まさかな。

 

「あら~?どうしたの定明~?顔真っ赤じゃない~?」

 

「……な、何でもねーよ。母ちゃん」

 

買い物袋を下げて帰ってきた母ちゃんに、俺は何でもないと返しながら家に入る。

い、幾ら何でも話を飛躍させすぎだぞ俺。

さっきのも含めて、アイツ等がくれたキスはお礼って考えておくのがベストだ。

外れてたら恥ずいし、自分1人で決めつけていてもしょうがねぇ、落ち着いてクールになろう。

 

「落ち着くんだ。素数を数えて冷静に……2,3,5,7,11,13,19,23,28……い、いや違う、29だ」

 

「ん~?……何かしら~?この甘酸っぱい雰囲気の汗は~?」

 

ブツブツと素数を呟く俺を観察しながらそう呟く母ちゃんが居た事を、俺は知らなかった。

 

 

 






さっさと無印終わらせないと(;´Д`)


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フフフ。1つだけ教えよう。俺の名はンドゥ(ry


GTA5の世界は楽しすぎる。


だが、いきなり襲いかかってくるプレイヤーはマジキチ。


CODゴーストのオンラインも最高。


特にチェーンソーと5連装ショットガンはパネェ。




 

 

「やれやれ、まさかマジに来る事になろうとはなぁ……スキップ」

 

「……」

 

青のスキップカードを出して、次のヤツの番を飛ばす俺。

はい、現在俺はなのはのパパ上である士郎さんの運転する車の後部座席に座って温泉に向かっております。

 

「何よ。お金は一切掛からないのに文句あるワケ?……じゃあ、青の6」

 

「まぁまぁアリサ、そう怒らないの。ジョジョもああは言ってるけど、貴女には感謝してるわ……緑の6。これで上がりね」

 

俺の台詞に不機嫌そうな声で聞き返すアリサと、それを苦笑いしながら諌めるリサリサがそれぞれ手札を減らしていく。

まぁリサリサの言う通り、俺もアリサやデビットさんにはちゃんと感謝してる。

何せ今回の旅費を丸々負担してもらったワケだからな。

 

「あっ、リサリサちゃん一番だね。でも、定明君もリサリサちゃんも一緒に来てくれて本当に嬉しいよ……緑の7,8,9」

 

「そうだな、こういった旅行も、友達皆で来れたら最高に楽しいと思う……赤の9だ」

 

「うぉい、ここにきて色変えかよ……んじゃ、赤のスキップ」

 

「……」

 

「それにしても、いきなりデビットさんが俺の家に現れた時はビビったぜ。何せ帰ったら母ちゃんと談笑してんだもんな」

 

俺はちょっと前の出来事を思い出しながら言葉を零す。

先々週くらいにアリサとプールへ遊びに行ったその帰り、アリサに誘われた温泉旅行。

さすがに俺の一存では決められないし、仕方ねぇかと諦めてたんだが、そこに現れたのがデビットさんだった。

デビットさんは何と、今回の温泉旅行への同行を俺が断ったとアリサから聞いて、俺に提案をしに来たんだ。

その提案というのは勿論、温泉旅行の旅費全般を負担してくれるとの事だった。

さすがにそれは悪いからと、一度は断ったけど……。

 

『君がアリサの命、そして尊厳を守ってくれた事への恩返しは、あの食事1回で済ませられる程軽いものではないのだ。頼む、受け取ってはもらえないだろうか』

 

何も知らない母ちゃんが離れた隙に、そんな台詞と一緒に頭まで下げられちゃあ、俺としては受けざるを得なかった訳。

かくして、俺はアリサ達と温泉旅行に来る事になった訳だが、そうなると問題がもう1つあった。

 

「あら。私は貴方のしてくれた事に驚いたけど?……もしかして、私は貴方に買い付けされちゃったのかしら?」

 

「人聞きの悪い事言うなって、リサリサ」

 

それは、今上がって暇になり俺の隣りから小声で話し掛けつつ微笑を浮かべているリサリサの分の旅費だ。

リサリサも孤児院の人達に無理は言えないという事で、前回のお茶会同様、今回も不参加のつもりだったらしい。

その時の電話から聞こえたリサリサの声が余りにも寂しそうだったモンで……つい、本気を出しちまったんだ。

今回の温泉旅行の旅費は、1泊2日の分を子供1人で計算すると1~2万程。

だからお土産とかも買って帰れる余裕を見積もって、3万5000程の金を作ってリサリサに渡した。

最初は俺と同じで受け取れないと言ってたけど、そこは無理矢理握らせた。

友達と行くのが楽しいんだし、俺がその為に作ったお金だから受け取れってな。

そこまで言ってもまだ嫌がってたから、目の前でその金に火を点けるぞと脅して漸く受け取ってもらったんだが、「何時か必ず返す」って言って聞かねぇんだもんなぁ。

 

「でも、本当に良かったの?……私は凄く嬉しいのよ?けれど、あんな大金なんて小学生に作れる物じゃ無いでしょ?」

 

「あーもー、そんなに心配すんな。別にヤバイ事して集めた金じゃねぇって」

 

只、ハーヴェストを使って重ちーがやったのと同じ様に、町中の落ちてた金を拾い集めて両替しただけだからな。

……重ちーとは違って千円だろうが1万円だろうが、兎に角落ちてる金を集めろって命令したら、10万も集まっちまったけど。

思わず顎が外れそうになったよ。まぁ、リサリサに渡した分の残りは俺の貯金箱に隠してある。

拾ったモンだから別に良いだろ?それぐらいの美味しい思いしたって。

 

「なら良いけど……でも、本当にありがとう、ジョジョ……私、一度で良いから友達と旅行に行ってみたかった……それが叶って、本当に嬉しい」

 

俺に顔を寄せて、小声でそう言ってくるリサリサの目の端には、ちょっとだけ涙が見える。

今までこういう体験した事が無いから嬉しい、か……リサリサの笑顔が見れたのが自分のお陰、なんて自惚れの強い話しだが……偶にはこういうのも、悪くねぇな。

 

「気にすんな。まぁ来ちまったからには、この旅行を楽しもうぜ」

 

「えぇ。貴方のお陰ですもの。しっかりと楽しませてもらうわ」

 

少しだけ笑ってそう言った俺の言葉に、リサリサも笑顔を浮かべて言葉を返してくる。

……コイツ等が俺にしてくれたキスの意味、ちゃんと考えねぇとな。

 

「むっ。ちょっと2人共ッ!!何をコソコソ喋ってるのよッ!!」

 

「さ、定明君。次は定明君の番だよ?」

 

「え?もう俺か?オイオイ相馬、声ぐらい掛けてくれても良いじゃねえかよ」

 

そんな事を考えていた俺の耳に、アリサのちょっと拗ねた様な声と、すずかの焦る様な声が聞こえて、俺は意識を浮上させる。

カードの山に視線を戻せば、確かにゲームは進み、次は俺の番にまで回ってきていた。

気付いて文句を言うも、相馬は呆れた様な視線を俺に向けてくるだけだ。

 

「俺はさっきから呼んでいたぞ?お前がリサリサと話しこんでて気付いてもらえなかったがな」

 

「……何かスマン。って今度はまた緑かよ……じゃあ、緑のリバース」

 

「ねぇ定明君?定明君がさっきからスキップしたり、リバースしたりするから、私一枚も出せてないんだけどッ!?」

 

苛めなのッ!?って憤慨した表情のなのはが叫ぶが、俺は何処吹く風。

しゃーねぇだろ、コレそういうルールなんだから。

確かに俺が飛ばしまくったりするから、なのはは殆どの手札を減らせて無い。

でも知らん。これはそういうルールのゲーム。

 

「頑張って追い付けよー」

 

「私に手札を捨てさせてくれない原因なのに、その言い方はどうかと思うのーッ!?」

 

ンな事知らねぇよ。

現在ダントツでビリななのはだが、今度は俺の隣りの相馬がリバースを使用。

再び順序が元に戻ってきた。

おっ?続けて捨てられるな……じゃあここは普通に数字を。

手札の残りを計算しながら、俺は数字を一枚捨て場に捨てる。

ここでやっとなのはの番が回ってきた。

 

「ふ、ふっふっふ。やっと私の時代が来たの」

 

手番回ってきたぐらいでそれは無い。

 

「とりあえずアリサちゃんも道連れなのッ!!ドロー2!!」

 

と、何やらキャラがブッ壊れてきたなのはが自信満々に繰り出したのは、山札から2枚引かせるカード。

手札が増えると上がれなくなるので、これは苦しいカードだが……。

 

「あら?私も出そうと思ってたのよ、ドロー2」

 

このカードの特徴は、次の相手が同じカードを出せば、それは次の相手に流れるってトコだ。

ルールは明確じゃないが、俺達は流すって意味でコレを認めている。

しかも枚数もドロー2が×2って事で、引かなきゃならない枚数が4枚に増える。

 

「あはは……私も」

 

「俺もあるぞ?」

 

「ゑ?」

 

しかもアリサだけでは無く、すずか、相馬も持っていた様だ。

つまり、ドロー2が4枚という爆弾を抱えて、手番は流れに流れてそのまま俺へと回ってきた。

少し呆然とした表情のなのはに、俺は気まずい表情を見せてしまう。

 

「あ~……悪い……ワイルドドロー4。これで俺の手札はラスト一枚、だ」

 

「うにゃぁあああああッ!?」

 

俺が出したのは色を変えれる上に、相手に4枚引かせるワイルドドロー4のカードだった。

更にそのまま最後の一枚という景気の良さをアピール。何かスマン。

場に全てのドロー2が出ているので、なのははカードを山札から引かなくてはならない。

しかも2×4+4=12枚。

その全てがなのはの手札になってしまう。

 

「うぅ。減る所か増えちゃったよ~」

 

元々持っていた分に加えて増えてしまった手札を見ながら、なのはがタパーっと涙を流す。

これぞ正しく身から出た錆ってヤツだろう。

 

 

 

温泉への道中は、割りとのんびりとした空気だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

そんなこんなで、俺達は温泉に到着。

全員チェックインを済ませて、子供部屋へと向かった。

 

「ここがアタシ達の泊まる部屋ね」

 

アリサが先陣を切って開いた扉の向こうは、ざっと12畳ほどの和室。

畳の何とも言えない香りが鼻に広がり、不思議と心が安らぐ。……良い部屋だな。

窓から見える景色も、森林と木漏れ日が心地良い。

 

「あっ!?見て見てすずかちゃん、リサリサちゃんッ!!下のお庭に池があるのッ!!」

 

「ホントだ。鯉がいっぱい居るね」

 

「少し覗きに行ってみようかしら?アリサ、一緒にどう?」

 

「えぇ、良いわよリサリサ。まだお風呂に入るのはちょっと早いしね」

 

女子軍団は早くも荷物を置いてやんややんやと騒いでいる。

どうやら下の中庭を目指すようだな……いってらっしゃい。

 

「定明と相馬もボサッとしないで、早く行くわよ」

 

うぉい、俺等まで何時の間にか勘定に入れてあんのかい。

 

「あー、俺は良いけど、定明はどうする?」

 

「悪いがパス。ちょっと荷物の整理とかしておきたいから、お前等だけで行ってくれ」

 

「んもう、しょうがないわねぇ……じゃあ、後で絶対に来なさいよ?絶対だからね?」

 

荷物整理があると断った俺だが、アリサはそんな俺にぶすっとした表情を浮かべながら、後で来いと催促だけして部屋を後にする。

おいおい、俺まだ行くなんて返事してねぇぞ?言うだけ言うって行くんじゃねぇっての。

 

「わ、私も後で良いから、来て欲しいな?」

 

「皆で楽しもうって言ったのは貴方だし、有言実行しなきゃダメよ。ジョジョ♪」

 

続けてリサリサとすずかも畳み掛けて俺に言葉を残し、アリサの後を追っていく。

なのは?アリサが出た時点で相馬と腕組みながら出てったよ。

スッゲエ嬉しそうな顔して腕組んでたけど、相馬の方は……妹を見る様な目だった事は伝えないでおこう。

真実を伝えたら、なのはが可哀想だし。

とりあえず今の出来事は頭の中から放り出して、俺はせっせと荷物を片付ける。

まぁ1泊2日の旅だからそんなに荷物は多くなかったので、整理自体は直ぐ終了。

 

 

 

さて、俺は――。

 

 

 

  皆を追いかける。

 

 →良い子はもう寝る時間だ。グッナイ。

 

 

 

「寝るか」

 

 

 

そのまま畳の上にゴロンと転がって目を瞑る。

折角の休日なんだし、早起きした分早く寝るのがジャスティス。

さぁ、夢の世界へ旅立とう。

 

「(ガラッ!!)いやいやいやいやいやッ!?お前その選択肢は無いだろッ!?」

 

しかし、夢の世界へ旅立とうとした俺の意識を引き摺り起こすかの如く、隣りの部屋から襖を開けて私服姿のイレインが登場。

慌てた様子で俺の傍にしゃがみ込み、寝転んだ俺の身体を強く揺さぶってきた。

 

「るっせぇなぁ~。あんだよイレイン?俺の眠りを妨げる奴は、もれなく普通じゃ体験出来ない様な酷い目に遭うんだけど?」

 

「い、いやッ!!でもお前ッ!?お前なぁ……ッ!!すずか達が呼んでたのにそれは無いだろうお前……ッ!?」

 

「コラコラ、脅しちゃ駄目だよ定明君?」

 

折角良い気分で旅立てそうだった俺を起こしたイレインに不機嫌な目を向けると、後ろからなのはの姉の高町美由希さんが苦笑いしながら現れた。

眼鏡を掛け、整った顔立ちをしてるこの美由希さん。

ポヤッとしてる様に見えるが、実は恭也さんと同じ剣術の流派を納めた凄腕の達人らしい。

見た目からは想像も付かないけど、そこらの男程度なら簡単に倒せるってんだから、恐ろしいモンだぜ。

あの誘拐事件の時は、偶々隣町に行ってて来れなかったそうだけど、この人も夜の一族の事は知ってるそうな。

そういう理由があって、俺のスタンドの事も美由希さんには話してある。

最初は信じてもらえなかったから、『クレイジーダイヤモンド』を使って美由希さんの作ったケーキを材料別まで治して戻して見せた。

まぁその後「一生懸命作ったのにぃッ!!」と泣かれたのは良い思い出だ。

但し……治したケーキの材料の中にイワシとかサンマが混じってたのは冷や汗モンの思い出だけど。

治さなかったら俺が食わされてたんだよな、あのケーキ……間一髪だったぜ。

 

「人聞きの悪い事言わないで下さいよ美由希さん。俺は只、俺の安眠を邪魔するなら、これから毎晩ピエロの仮面被った死神が夢に出ますよーって忠告しただけッス」

 

「それ完全に脅しだよね?っていうか、ピエロの仮面を被った死神って……夢に出るだけならどうって事無いんじゃあ――」

 

「そいつに攻撃されると痛みますよ?序に傷付いたら、夢から醒めても傷跡が残ってる上に、寝ていた時の記憶は全てリセットされているという……」

 

「「陰湿(だな)ッ!?」」

 

俺の起こせる悪夢の話を聞いて身震いしながら、美由希さんとイレインは肩を奮わす。

夢の中限定で無敵なスタンド『死神・13(デス・サーティーン)』ですから。

生き物の睡眠中という、精神がもっとも無防備な所を狙う上に、攻撃されたという事実自体を忘れさせちまうやらしい能力だから、陰湿じゃない訳がねぇやな。

だが結局、隣りの部屋に居た恭也さんとか忍さん達にまで行ってあげなさいと強く言われて、俺は渋々部屋から出て中庭へと足を向けた。

 

「やれやれ、部屋で静かに眠りたかったってのに、まさか追ん出されるとは……」

 

「いや、皆が待ってるんだから、そこは起きて来るのが普通だろう」

 

そして、合流した先で、俺と相馬は廊下の手すりに凭れながら、中庭の美しい池と、それを眺めるなのは達に視線を向ける。

4人共楽しそうにはしゃぎながら、池の中でスイスイと泳ぐ鯉を見ていた。

この旅館の中庭は、正方形の旅館に囲まれた中央に作られていて、斜め×の字に旅館から橋が渡されている。

その左右に池と樹が植えられているというかなり凝った造りだ。

夜は行灯が光るらしく、もう少し季節が進んで桜が見れる様になった時が、一番見頃らしい。

 

「フゥー……最近はジュエルシード探しで忙しくしてて、なのはの体調も少し悪かったからな……今日はゆっくりして欲しい」

 

「ん?そんなに最近は動いてたのかよ?……あっ。ユーノが落ちそうになってる」

 

「あぁ。この間のフェイトの一件があってから、少し急ぎ気味だったんだ……フェイトに対する対抗心からかは判らないが、今はあんなにリラックスした笑顔を浮かべてる……鯉が池から飛びあがって食べようとしてるな」

 

嬉しそうに笑う相馬に続いて視線を向けると、池に落ちそうなユーノの尻尾を必死で握りながらも、なのはは確かに楽しそうに笑っていた。

アレは間違い無く心からの笑顔だな……ホント、頑張るのは結構だが、休む時は休めよ、なのは。

何時、この魔法ランチキ騒ぎが納まるか、俺は詳しく聞いてないから知らない。

でも、もし地球が破滅する様な事態になったら……その時は、俺の全能力を駆使して動くとしよう。

 

――ポチャン。

 

「「あ」」

 

「あ……にゃぁああッ!?ユ、ユーノ君が落ちちゃったーーーッ!?」

 

そんな事を考えていた俺の視界で、握られていた手から滑り落ちたのか、ユーノが池の中にダイブしてた。

いや、落ちちゃったというか、落としちゃったの間違いだろ?明らかに笑いすぎて手の力が抜けたってパターンにしか思えないって。

池に落ちたユーノは直ぐに顔を出して器用に泳ぎながら、池から上がろうとするも……。

 

バシャバシャバシャッ!!

 

「キューッ!?」

 

「ちょっ!?食べちゃ駄目ーーーッ!?」

 

「ア、アリサちゃんッ!!ストーン・フリーの糸でユーノを引き上げてッ!!(ぼそぼそ)」

 

「む、無理よッ!!ここじゃ人目が多いし、あんなに跳ねられたら何処に居るか分からないわよッ!?(ぼそぼそ)」

 

「完全にキッスの射程距離外ね……私も役に立てそうも無いわ」

 

池の鯉が一斉に飛び跳ねて、水から上がろうとするユーノに飛びかかった。

その拍子にバシャバシャと水が波立ち、ユーノの所在が分からなくなってしまう。

あー……ありゃ食われるのも時間の問題だな……しゃーねぇ。

 

「……『ゲブ神』」

 

俺は池に視線を向けながら、3部に登場したエジプト九柱の神々の1人である大地の神「ゲブ」の暗示を持つスタンドを呼ぶ。

コイツは遠距離操作型の自在に形の変化する水のスタンドで、基本は鋭い爪を持つ腕のような姿をしている。

操作距離はkm単位で、かなり離れている場所からでも操作可能な能力だ。

但しゲブは水や血液などの液体と一体化しているため一般人にも見えるスタンド能力でもある。

他にも砂の様な水分を吸収する物の中は自在に潜り移動することができる。

さらに、投げた物を追い越せるほど移動スピードが非常に速い。

と、まぁ一般人に見えてしまう能力でもある訳だが、要は水を操作して、中から水圧で押し出してやれば――。

 

バシャァアアアッ!!

 

「キューーーッ!?」

 

と、水の中に居る生物を池から押し飛ばす事も可能って「キャーッ!?」こ、と?……あ。

 

「「「「……」」」」

 

「……キュー(グルグル)」

 

なのはの手には、さっき吹き飛ばしたユーノが乗せられているが、ユーノはショックで目を回している。

更に、誰も一切喋ろうとしない。

まぁ、その原因は俺にある訳だが……水圧を押し飛ばすって事は、要は水鉄砲の要領で水を打ち上げるって事で……。

 

「……ユーノ君は助かったけど……何で水が跳ね上がったの?しかもあんなにいっぱい……」

 

「うぅ……ビチョビチョだよぅ」

 

「これって……そうよね。うん絶対そう。そうじゃなくてもアイツの所為。ハイ決定」

 

「……お気に入りの服が台無しだわ」

 

真下に居たなのは達が、打ち上がった水をモロにぶっかぶるのも必然だったりする。

皆して服がビショビショに濡れちまって、服が台無しになっていた。

こりゃ早く風呂に入らないと風邪引いちまうだろう。

あっ、でもアリサ辺りは、怒りで頭から湯気吹いてるから大丈夫かも――。

 

「そんなワケ無いでしょーがッ!!そこでボーっとしてないで、早くタオル持ってこいバカ定明ーーーッ!!!」

 

「あいあいさー」

 

俺の考えを読んだアリサの怒りに染まった咆哮を聞いて、俺はスタコラサッサと受付まで走る。

今回に限っては、俺が全面的に悪いから、怒れるアリサの言う事を聞いておこう。

はぁ……旅行に来ても、俺の日常は騒がしいなぁ、ったく。

一緒に手伝うと申し出てくれた相馬の友情に感謝しつつ、俺は受付へと走るのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

カポーン。

 

「ふいぃ~……あぁ~……気持ち良い~」

 

「お前……おっさんじゃないんだから、もう少し子供らしい事言えないのか?……山の緑が綺麗だな」

 

「てめーこそ、小学生にしては落ち着きあり過ぎだっての。山見て言う事がソレかよ」

 

失礼な奴だな。風呂が気持ち良くて何が悪い。

隣りで同じく温泉に浸かってる相馬のお小言を聞き流しつつ、俺は温泉を満喫する。

先程、女子全員にタオルを渡したが、ここまで濡れてしまったなら、いっそ風呂に入ろうという事になった。

まぁそろそろ風呂に入ってもおかしくない時間になってたので、俺達は全員風呂に入ったワケだ。

気絶したユーノがなのはに抱えられて風呂へと向かって行ったが、直ぐその後で「キューッ!?」と元気な声が聞こえたので、問題無いだろう。

アリサ達もそんなに怒って無かったし、ゆっくりと寛げるってなモンだ。

 

「ハハハ、2人ともリラックスしてるね」

 

「いや、父さん。あの2人のはリラックスというよりも、俺より年季の入った寛ぎっぷりなんだが……」

 

ダル~っと温泉の角にある岩に凭れながらゆっくりしていた俺達の側に、身体を洗い終えた士郎さんと恭也さんが近づいてくる。

二人共かなり鍛えられた体付きをしていて、筋肉がしっかり引き締まったカッコイイ身体をしてた。

しかし――。

 

「……傷、凄いですね」

 

「ん……まぁ、剣の修行はかなり厳しいモノばかりだからな。どうしても生傷が絶えないんだ」

 

「僕達の家に伝わる剣術の御神流は、実践に重きを置いた古武術でね。他の流派と較べても、修行の内容がハードなんだよ」

 

相馬の呟きに、2人は笑顔で答えるが、答えてる内容はちと危なげな答えだ。

2人の身体は、傷が無い箇所を探す方が苦労する程に切創が刻まれている。

まぁ二人共イケメンだから、女の人からみれば黄色い悲鳴が上がる様なアクセントになるだろう。

 

「つっても、剣の修行ばっかで付いた傷じゃねぇのも残ってるっすね?士郎さんのソレとか、明らか剣じゃねぇでしょ?」

 

俺が指さしたのは、腹の辺りに刻まれたドデカイ傷跡だ。

丸々とした傷跡なんぞ、剣で付けようがねぇし。

 

「アハハ。これはちょっと、昔にね……それより、定明君も中々鍛えてる様じゃないか?」

 

俺の指摘に苦笑を浮かべた士郎さんは、露骨の話題を逸らす。

多分触れて欲しくねぇ話題なんだろう。俺もそんなに追求したかったワケじゃねぇので、その話題に乗り換えた。

 

「まぁ、走ったり泳いだりしてばっかなんで、自然とこうなったんス」

 

まぁ嘘だけど?

自慢じゃないが、俺の肉体もそこそこ鍛えあげられている。

これは、波紋の力を修行していく内にこうなった結果だ。

 

 

 

――波紋。

 

 

 

特殊な呼吸法で練り上げられる生命エネルギーを操り、超人的な力を発揮する異能。

人間が柱の一族、ひいては吸血鬼と戦う為に生み出した人間の技術だ。

人体にほんのちょっぴりだけ宿る生命エネルギーを増幅させて操る波紋のエネルギーは、太陽と同じバイブレーションを持っている。

これに気付いた者達が練磨し研鑽した技術こそ、波紋。

つまり呼吸からエネルギーを作り出す技術だからこそ、心肺能力と肉体性能は鍛える要なんだ。

今の俺の身体能力は、走る事にかけて小学生レベルから大きく逸脱してる。

長距離なら息を乱さず3キロまで走り続ける事が出来るからな。

まぁ、目標はジョナサンやジョセフの様に、何10キロと走っても息の乱れない強さだが。

 

「ふむ。確かに定明君の筋肉の付き方は、走る為に特化した筋肉ばかりだね……将来は長距離ランナーでも目指してるのかい?」

 

「いや、別にそういうワケじゃねぇッスけど、見ただけで何処の筋肉が鍛えられてるとか判るんスか?」

 

「ふふ。長い事武術をしてると、自然と観察する力が養われるものさ」

 

士郎さんはそう言って微笑むが、俺からしたらビックリものだ。

俺も鍛え方は意識して、瞬発力より持久力を上げる鍛え方をしてきた。

それをちょっと見ただけで理解するとは……恭也さんといい美由希といい、とんでもない武芸家揃いだな。

 

「逆に相馬君の鍛え方は、僕や恭也に近いモノがあるね」

 

「そうだな。何か剣を振るっているだろう?しかも長物……いや、太刀に近い大きな武器だ」

 

「そこまで判るんですか?確かに、かなり大きな太刀の練習をしてますけど……」

 

俺から視線を外した士郎さんは、次に相馬に質問を飛ばし、恭也さんもそれに同意する。

一方で言い当てられた相馬は目を見開いて驚いていた。

まぁ俺の場合、恭也さんが小太刀を持って戦いの場に現れたのを見てるからそこまで驚かねぇけど、相馬は見た事無いのかも。

 

「僕達は小太刀を主に使う流派だけど、良かったらウチの道場に練習に来ないかい?多分だけど相馬君、独学でやっているんじゃないかな?」

 

「あっ、はい。太刀を教えてくれる道場は無いので……でも、良いんですか?お邪魔しても?」

 

「ははっ。構わないよ。武器は違っても、先達者として教えられる事はあると思うんだ。君さえ良ければ一度道場に来てみてくれ」

 

「ありがとうございます。またお邪魔させてもらいます」

 

士郎さんの申し入れに、相馬は頭を下げてお礼を言う。

まぁ1人で遣るよりも、先輩とかが居た方が効率は上がるモンだ。

多分相馬はあのドデカイ大剣を振るう為に鍛えてるんだろう。

前見た時は、まだ刀に振り回されてる様にも見えたし。

そんな感じで話ていたが、もう温泉も充分に堪能したので俺と相馬は上がる事にし、恭也さん達はサウナに向かった。

 

「あんだよ。ここって脱衣所なのに自販機ねーのな」

 

風呂上りにコーヒー牛乳が飲みたかったってのによぉ。

 

「確か、出て少し行った所に自販機があったぞ?そこで買うしか無いだろうな」

 

「ん。まぁいっか。そこで買えば良い訳だし」

 

着替えながら情報をくれた相馬にサンキューと返し、俺も持ってきた浴衣に着替える。

浴衣って良いよな、涼しいだけじゃなく、動きやすくて。

日本が生んだ良き分化だと思う。

そんな事を考えながら着替えていると、壁に掛けられた広告が目に入る。

何々?温泉街マップ……へぇ、古い神社の境内から見える景色は絶景、か……後で行ってみっか。

思いがけない情報を手に入れた俺は相馬と一緒に脱衣所を後にし、自販機で購入したコーヒー牛乳を飲みながら、渡り廊下でなのは達と合流したのだが……。

 

「アンタかい?ウチの子をあれしちゃってくれたのは?」

 

「ぶーーーッ!!?」

 

目の前からきた人間形態のアルフを見た瞬間、コーヒー牛乳を明後日の方角に吹きだした。

何でココに居るんだよテメー。俺の平和な日常がぁ……。

 

「ん?……あっ!?あんたジョジョだろッ!?久しぶりじゃんッ!!」

 

しかも俺を名指しかこの野郎。

アルフがニコニコ笑顔で俺のアダ名を呼ぶモンだから、相馬以外の面子が「えっ!?」って顔しながら俺を見てくる。

俺はその視線の嵐を受けながら、ニコニコ笑って近づいてくるアルフにオラオラしてやりたくなったぞ。

 

「……よぉ、アルフ。元気そうじゃねーか」

 

もうシカト決め込むのは不可能なので、俺は当たり障りの無い挨拶を返しておく。

 

「アタシは何時でも元気さ。あー、そだ。この前くれたサンドイッチのお店なんだけど、お昼頃に行っても売り切れでさぁ。全然食べられないんだよ」

 

「サンジェルマンか?あそこは超人気店だからな。昼前に行かないと直ぐ無くなるぜ?大体11時頃がピークだな」

 

「あーそうなんだ。じゃあ次はそのぐらいの時間に行ってみるよ。ありがとな」

 

「どう致しまして……それより、俺のダチにイチャモンつけてたみてーだが、なのはに会った事あんのかよ?」

 

俺はチラリとなのはを横目で見ながら、アルフに質問をしてみる。

一方で視線を向けられたなのはの方は「え、え?」って判らないという顔をしながらブンブンと首を横に振る。

……どうやら、こっちの人間形態でなのはと会った事は無えみたいだな。

前にすずかの家で遭遇した時は、狼形態だったのは知ってるし、それ以外では会って無さそうだ。

 

「ん?あぁいや、良く見たら違う子だったよ。ゴメンゴメン、アハハッ《聞こえてるだろ?今はジョジョの前だから何もしないけど、あんまりオイタが過ぎるとガブッといくからね》」

 

「「ッ!?」」

 

「……」

 

ん?何かなのはとユーノの顔がメチャクチャ驚いてんだけど、一体何だ?

相馬は相馬で、何か真剣な面してやがるし……アルフの奴、何かしやがったんじゃねーだろーな?

ちょっと良く判らない事態になってきて頭を捻っていると、アルフは「じゃあまたね、ジョジョ。」と言葉を残し、上機嫌で去って行った。

多分あの方角からして、風呂だろうな。

 

「……随分、親しげだったじゃない?アンタの知り合い?」

 

と、アルフが去った方向を見ていた俺に、如何にも「不機嫌です」って声音のアリサの声が聞こえてきた。

振り向けば、表情も不機嫌まっさかり。何故俺に怒る?

 

「あぁ。……前に偶々公園で会った人でな。町のパン屋で何処が一番美味しいかって話題で盛り上がった」

 

とりあえず、嘘の話しを盛りまくる俺。

今コイツ等にバカ正直にアイツが魔法関係者だって話したら、俺まで巻き込まれるのは目に見えてるからな。

俺はそんな面倒事に対して動く気はねぇし、勘弁願いたいぜ。

 

「ふーん?……まぁ、別に?アンタが何処でどんな女と知り合ってようが、アタシには、ア・タ・シ・に・は・ッ!!関係ないけどねッ!!フンッ!!」

 

じゃあ何でそんなに不機嫌なんだよ?

 

「……だ、大丈夫。落ち着いてすずか。あの人とはどう考えても歳が離れすぎてるし、そんな感じはしなかったもん……まだ大丈夫、ファイトだよ(ぼそぼそ)」

 

すずかはすずかで、何やら心肺そうな表情を浮かべながらぼそぼそと呟いている。

何だこのカオス?

 

「……聞かない方が、ジョジョにとっては嬉しいでしょうから、何も聞かないでおくわ」

 

リサリサは微笑を浮かべながら俺にそう耳打ちすると、軽やかに部屋を目指して歩き出す。

まぁ聞かれない方がありがたいっちゃありがたいが……何でこんな面倒くせー事に。

 

「さ、定明君ッ!!あの人とは何処で会ったのか、詳しく聞かせて欲しいのッ!!」

 

コイツはコイツで空気読まねぇしよぉ……ッ!!リサリサの小指の爪の垢でも煎じて飲ませてやりてぇぜ。

かなり必死な感じで俺に詰め寄ってくるなのはに当たり障りの無く、嘘っぽくない様に話しながら、俺も皆と一緒に部屋へと帰るのであった。

 

 





やはり楽しく逝こうゼ?とIS~ワンサマーの親友も執筆していると、更新がかなり遅れてしまいますね。申し訳ありません。


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ハーヴェストを舐めんなど(ry

約半年間の放置、誠に申し訳ありません。

ISの方が一段落しましたので、これからは此方を更新していきます。


これからも感想をお待ちしております。





↓は嘆き、というか悩み


バトルが入るとどうしても話が長くなってしまう駄作者をお許し下さい。

あと出来ればどなたか話をスマートに纏められる上手い書き方を教えてください。

ねおせーて!!おせーてよぉ!!




 

「さぁて、何処から行ってみようか……」

 

ひとっ風呂浴びてハプニング一発あった俺だが、現在浴衣を着たまま宿の下の温泉街に来ている。

靴は勿論、裸足に下駄という粋なスタイルだ。

あの面倒くさいアルフとの邂逅を果たした後で、俺はなのはからの質問を誤魔化しつつ、皆で部屋に戻った。

いやはや、なのははしつこいしアリサは不機嫌だし、すずかはそんな二人を見てオロオロしてるしで困ったぜ。

リサリサと相馬は苦笑いしてるだけで助けてくれないしな。

まぁその後でやっと俺の説明に納得したアリサが旅館内を探検するとか言い出して、相馬やなのは、すずかもこれを承諾。

しかし俺は面倒だと断って、不満気なアリサ達を見送って部屋でゴロ寝してたんだが……またもやイレインに邪魔された。

曰く、折角旅行に来たんだから遊んで来いとの事。まぁ迷わず断ったけどね?

そこから暫くは俺を部屋から出そうとするイレインとそれに抗う俺のプチ戦争に発展。

俺はクラフトワークで自分の体を柱に固定し、それを引っ張るイレインのカオスな図が出来てた。

暫くはそれで抗っていたが、ふと脱衣所で見た温泉街の事を思い出して、俺は早速外に出てきたのだ。

まぁアッサリと手の平を返して固定能力を解除した所為で引っ張っていたイレインがそのまま部屋の壁に頭打ったのは笑ったな。

直ぐに恨みがましい目で睨んできて、「静かなる蛇があれば……」とか危ない事を呟いてたので、即刻退散してきた次第。

しょうがねえから戻る時に土産の一つでも買って戻るか。

 

「しかしなんだ……まさかこんなデザインの浴衣があるとはな……いいセンスだ」

 

クローゼットの中にあった浴衣を見て迷わずこれを選んだ俺だが……手の平マークがプリントされてるのは何故だ?

承太郎の帽子のマークである手の平マークが2つと、♂と♀を掛け合わせたプリンスのマークが背中にプリントされた浴衣。

本当にこの世界にはジョジョは無いんだよな?明らかに狙った仕様にしか思えねえんだが?

 

「まぁ、気に入ってるから別に良いけど……さてと、まずは――」

 

「私はこの先にある『みたらし茶屋』という所が気になるわね。雑誌にも紹介された有名店らしいわ」

 

と、意気揚々と温泉街を歩こうとした俺に、背後から楽しそうな声が掛けられた。

……おいおい……ちょっと待て。

まさかな、という思いでゆっくりと後ろに振り返ると、そこにはさっきの声と同じく楽しそうな顔をしてる少女が1人居た。

薄いピンク色をベースに少し色を濃くした桜のデザインが描かれた可愛らしい浴衣。

傍から見ても整った容姿の少女が柔らかく笑顔を浮かべてる姿に、周囲の人達の視線が集まる。

女性も男性も、その少女が健やかに育てば将来的に誰もが目を奪われる美を供えるであろう未来を想像して。

 

「……何でここに居るんだ、リサリサ?」

 

「あら?心外ね、その言い方。私をこの旅行に誘ってくれたのは貴方じゃない、ジョジョ」

 

「大本の話じゃねえよ。俺は何でこの温泉街に居るのかって話をして……って判ってて聞いてんだろ?」

 

「フフッ。どうかしら?」

 

はぐらかされた気がして少し半目で見る俺に、少しも変わらない微笑みを返すリサリサ。

唇の下に指を当ててクスクスと上品に笑う仕草は、クールなリサリサに良く合っている。

一頻りそうやって笑ってたリサリサだが、俺がまだ目つきを変えていないのを見て苦笑いを浮かべた。

 

「ごめんなさい。皆で一緒に旅館の探索に行った後、自由行動をしようってなってね。その時に窓の外を見てたら、外に出る貴方を見つけたから追い掛けて来たの」

 

「あぁ、そうなのか……向こうは、楽しかったか?」

 

理由を聞く俺に、リサリサは微笑みながら「えぇ」と頷く。

その笑顔は邪気が無い、心からの笑顔だ。

その笑みを見て、俺はリサリサを無理にでも誘って良かったと思った。

しかしその直ぐ後に、リサリサは「でも……」と前置きしてから、語る。

 

「向こうも楽しかったわ……けど、私は貴方との思い出が作りたいの。私の初めての友達は、貴方なんですもの……ジョジョ」

 

そう言って微笑むリサリサの顔を見て、理由を聞いて納得した。

確かにリサリサは相馬達とも仲は悪く無い、っていうか普通に良いだろう。

しかし俺とリサリサはあいつ等と学校が違う。

それなら学校で良く一緒に過ごしている俺の所に来るのも頷ける。

逆に言えば、俺はリサリサを1人で放置しちまったって事か……悪い事しちまったな。

 

「悪い。少し配慮が足らなかったな」

 

「フフッ。ちゃんと気付いてくれたから良いわ。それよりも――」

 

リサリサは謝る俺を許すと言いながら俺の側に寄り、俺の手を軽く握ってきた。

いきなりの行動に驚く俺を他所に、彼女は何時もの様にクールな微笑みを浮かべて俺を見やる。

 

「この先の茶屋に行きたいのだけれど……付き合ってくれる?」

 

「……わあったよ。お詫びに付き合うぜ」

 

「あら、嬉しい……それじゃあエスコート、お願いね?」

 

返事の代わりに握られた手を握り返しつつ、俺はリサリサと一緒に温泉街へと繰り出した。

そのまま二人で軒先の店を見ながら歩き、リサリサの行きたがってた茶屋に入る。

さすがに人気の店と言うだけあって混んでるかと思ったが、意外にも店先の木造りのベンチがちょうど開いてくれたので、俺達は其処に座れた。

木のせせらぎや近くを通る小川の流れる音、そして観光客の賑いを見ていると、着物姿のお姉さんが笑顔で近づいてくる。

 

「こんにちは。坊や達、お父さんとお母さんは一緒じゃないのかな?」

 

「俺等、家族で温泉旅行に来たんですけど、父ちゃんからOK貰って先に来ました」

 

「それに、弟は聞き分けが良い子ですから、大丈夫です」

 

「あらそうなの。弟さんの付き添い?お姉さんは偉いわね~」

 

まぁ子供2人だけっていうのはさすがに聞かれると思ってたので、俺は当たり障り無く言葉を返す。

来てる家族、っていうか保護者は俺達の親じゃ無えけどな。

それで納得してくれたらしく、お姉さんは俺達の注文を聞いて店の中に戻っていった。

 

「ジョジョったら。良くスラスラと呼吸する様にあんな事を言えるわね。余り感心しないわよ?」

 

「嘘も方便、だっけ?別に困る奴は居ねーんだから良いだろ?それにリサリサだって、サラッと俺と兄妹だとか言ったじゃねえか」

 

「ふふっ。年齢的には嘘を言ったつもりは無いけどね」

 

関係性が全然違うと思いますが?しかも一歳しか違わねえって。

そんな言葉が脳裏に浮かぶも、これ以上言っても詮無き事。

だから俺もそれ以上は何も言わずに、大人しく注文した品が来るのを待った。

それから少しの間他愛の無い話をしていると、さっきのお姉さんが注文した品を持ってきた。

リサリサはみたらし団子と緑茶、俺は葛餅にきな粉と黒蜜のトッピング+ほうじ茶。

 

「一度で良いから、ここのみたらし団子が食べてみたかったの……今回の旅行の事は本当にありがとう、ジョジョ」

 

「そんなに気にしなくて良いって。車の中でも言ったが、俺がしたくてやった事なんだからよ」

 

「それでも、ジョジョにはどれだけ感謝しても足りないわ。今回だけじゃない……本来なら、私はこうしていられなかったかもしれない……ううん、断言出来る。貴方が居なかったら私は今、ここに居ない。間違い無く、私はあのまま……」

 

「……」

 

俺達が初めて出逢った切っ掛けの事件。

その先を……残酷な未来を想像して、リサリサは自分を抱き締める。

在り得たかもしれない未来を想像した恐怖による震えを、抑えこむかの様に。

 

「……偶にね?あの時の夢を見るの……貴方が来なかったらどうなっていたかっていう……嫌な未来を――」

 

「有り得ねーよ」

 

夢の内容を語ろうとするリサリサの言葉に被せて、俺はリサリサの発現を遮る。

そのまま葛餅を口に運びながらチラッと横目で覗うと、リサリサは食い入る様に俺を見ていた。

全く……ずっとそんな事を考えてっから、まだそういう夢を見ちまうんだろうに。

俺は葛餅を刺した竹のフォークを咥えたまま、言葉を発した。

 

「幾ら夢に見ようが、それは全部終わった事だ。たら、れば、もしかしたらなんてIFの集まり。そんなモンは無視しちまえ」

 

「……無視しちまえって……」

 

「あぁ。若しくは夢の中でキッスを使って、そいつ等をブッ飛ばしちまうとかな」

 

俺の物言いに呆れた表情を浮かべるリサリサに、俺は笑顔を見せる。

幾ら考えたって仕方の無い事なんだ。

もうそれは終わった話、過去の出来事であって、これからの未来の話じゃ無い。

この先の未来は、リサリサが自分で掴むべきモノだ。

 

「終わった事ばっか考えて無えで、今を楽しんだら良いじゃねえか……リサリサは俺の傍でちゃんと笑ってるんだ。そんでこれからリサリサに危害を及ぼそうって奴が来たら、迷わずキッスを使え。その為のスタンドなんだからよ」

 

「……そう、ね……うん。少し私らしく無かったわ……変な話してごめんなさい、ジョジョ」

 

「なぁに、別に構わねえ……さ、早く食べちまおうぜ。幾ら断って来てても、さすがに長い時間外に居たら士郎さん達を心配させちまうしな」

 

「フフッ。えぇ、それじゃあ頂きます……はむっ……」

 

俺の言葉を聞いて少しは気持ちの整理が付いたのか、リサリサは何時もの様にクールな微笑みを浮かべて俺と視線を合わせる。

そのまま二人で微笑んでから、リサリサも自分の頼んだみたらし団子を頬張り、口をモグモグと動かす。

 

「……ん~♪……美味しい♪」

 

そう言って次の団子を頬張るリサリサの表情は、歳相応の可愛らしい笑顔だ。

何だよ……普段はクールに気取ってるけど……そんな顔も出来るんじゃねーか。

俺も同じ様に、自分の葛餅を食べ、ほうじ茶で喉を潤す。

お互いに余り話さず、美味しい茶菓子とお茶を味わって会計を済ませ、俺達は再び温泉街を歩いた。

リサリサは再び上機嫌な笑みを浮かべて、俺の手を握って隣を歩いている。

 

「あ~、そうそう。なぁ、リサリサ」

 

「??何かしら?」

 

俺はそんなリサリサの笑顔を見て、さっき伝え損ねた事を伝えようと思い話し掛ける。

呼び掛けに応じたリサリサは変わらず笑みを浮かべていて、俺はそんなリサリサに真剣な表情で口を開く。

 

「あのな。さっき言ってたみたいな事があっても、お前にはスタンドがある。だから大丈夫だ、なんて言い切れねえが……まぁ、安心しろ」

 

「……??」

 

「もしそんな事が起きても、俺がリサリサを――アリサ・ローウェルを守る……そんだけだ」

 

「――え?」

 

「さぁ、行こうぜ?時間は有限なんだからよ」

 

俺の言葉を聞いて目を見開くリサリサから視線を外して、俺は歩く。

手を引かれてるリサリサの表情は伺えない。

だが俺は、少し自分の言った言葉が気恥ずかしくて、今は視線を合わせられそうになかった。

だからこれ幸いと、俺はズンズンと歩いて、リサリサと目を合わせない様にする。

ったく……あんな顔されたら守りたくもなるじゃねえか……リサリサも、あの二人も。

俺ってやっぱりあいつ等の事が好きなのか?自分自身の感情がハッキリしないから何とも言えない。

それに俺がそうでも向こうも同じとは限らねえし……悩みどころだ。

でも、あいつ等はキスまでしてくれたし……でも、お礼だって言ってちゃんと頬だけにしてたし……あ~、分かんねえ。

っていうかまだ小学生なんだし、こんな事を考えるのも面倒くせえや。

少し悶々とした気持ちを抱えながら、俺はリサリサを連れて温泉街の奥へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「――不意打ちばっかり……もぅ」

 

 

 

 

 

前へ前へと歩く俺は、後ろで頬を朱に染めて微笑むリサリサの表情を知る事は無かった。

 

 

 

 

 

その後、少し顔を赤くしたリサリサと一緒に温泉街を歩いて、締めに神社へと足を運んで景色を堪能してる。

温泉街が一望できる高台の神社は正に絶景の一言に尽きる場所だった。

リサリサも心なしかテンションが上がってるらしく、目を輝かせて景色や神社を見ている。

 

「あっ……」

 

「ん?どうしたリサリサ?」

 

「ええ、ちょっと……ごめんなさいジョジョ。少し彼処のお店に行ってきても良いかしら?」

 

そう言って少し遠慮気味にリサリサが指差したのは、神社の小さなお土産屋だった。

どうやらお守りとかのポピュラーな物を扱っているらしい。

 

「ああ、別に良いぞ?」

 

「ありがとう。ここで少し待ってて」

 

承諾した俺にリサリサは断りを入れてから駆け足でお土産屋へと向かう。

どうやら気に入った物があったみたいだ。

俺は特に何かが欲しいって訳でも無いので、手持ち無沙汰ながら景色を堪能していた。

 

「……ん?」

 

と、神社の広い境内に視線を移した俺の視界に、小さな露店が目に付いた。

別に目立つ様な露店でも無く、良く道端に出してそうなこじんまりとした露店。

だが、その露店を見てると、何か気になった。

まだリサリサも戻るのに時間が掛かりそうだったので、俺はその店に近づく。

 

「おぉ、いらっしゃい坊や。まぁゆっくりと見てくれ」

 

「どもッス」

 

如何にも人の良さそうな爺さんに頭を下げて、俺は台に並べられた品物に目を通す。

金属の簪やネックレス、そしてパワーストーンなんかのアクセサリーを扱っている様だ。

しかもその品物のどれもが、量販店で扱っているチープな品よりも上物に見える。

 

「……綺麗ッスね」

 

自然と、ポロリと出たこの一言は、俺の心からの賛辞だ。

その言葉に爺さんはニッコリと微笑む。

 

「ほほ。ありがとうよ、坊や……ここにあるのは、全部手作りでな?所謂、はんどめいどっちゅうヤツじゃ」

 

「へー?これ全部手作りッスか?道理で出来が良い訳だ」

 

「ふむ。最近は機械で作るのが主流じゃが、儂は昔からこの手の仕事をしててな。手作りの方が性に合った古い人間じゃて」

 

「それでも、ありきたりなヤツよりは良いじゃないッスか……お?これは……」

 

俺は露店の台に並べられたアクセサリーの中から、ある一つの品物を持ち上げる。

黒塗りの歪曲した細い木2本を纏めた部分に、水色のガラス玉が付けられた髪飾りだ。

ガラス玉の付けられた箇所には小さいチェーンが3つあり、それぞれの先端に同じ様なガラスのカットが散りばめられてる。

ジュエルシードに良く似た形に切り揃えられた小さいガラスカットがチリンと小気味良い音を出して煌めく。

涼やかで透き通った水色のガラスに雲が描かれたその姿は、何とも雅なモノだ。

それを見た爺さんは顎鬚をさすりながら「ほぉ」と感嘆にも似た言葉を漏らす。

 

「お前さん、お目が高いのう。そりゃとんぼ玉を使った髪飾りじゃ。簪としても使える、この品物の中でも一つしか無い渾身の力作よ」

 

「とんぼ玉?」

 

「うむ。模様のついたガラス玉をトンボの複眼に見立てたため、「とんぼ玉」と呼ばれたといわれておる。何時作られた物かはハッキリせんが、少なくとも奈良時代には製法が伝えられ、国内で生産されていたと考えられておるそうじゃ」

 

「へぇ……歴史ある伝統品ってヤツっすか?」

 

澄んだ青空へと翳した簪のとんぼ玉は、その透き通った水色の色合いを煌めかせ、描かれた雲が踊っている。

……これなら、ちょうど良いかもな。

 

「爺さん、これ幾らですか?」

 

「む?買ってくれるのかの?ちと高いぞ?」

 

「はい。今買っとかないと、絶対に売り切れちまうと思うんで」

 

「ほっほ。何とも口が上手いモンじゃわい。まぁ確かに、今日でこの場所での出店も終いじゃしの」

 

俺の言葉に気を良くしたのか、爺さんは好々とした笑みを浮かべる。

値段を聞いてみると結構割高だが、それでもこの簪の出来を考えたら安いモンだ。

俺が子供らしからぬ金を持っていたのに驚く爺さんだが、旅行に来たと言うとすんなりと納得し、割引までしてくれた。

最初は遠慮したんだが、「子供が遠慮なんてするもんじゃないぞい」と笑顔で言われて渋々納得しておいた。

何かこういう爺さんには反抗し辛いんだよな。

 

「所でお前さん、こりゃやっぱりおなごに送るんかのう?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「ほっほ。そうかそうか……じゃったらの、夜を楽しみにしとれ。面白い事が起きるぞい」

 

「は?夜?」

 

「おっと。口が滑ってしもうたわ。これ以上は、自分の目で確かめる事じゃ。ほれ、お連れさんが待ってるから早く行きなさい」

 

その言葉につられて後ろへ振り返ると、リサリサがベンチの所で俺に手を振っていた。

どうやら買い物は終わったらしい。

さすがに待たせるのも忍びないので、商品を受け取った俺は爺さんに別れの挨拶をして、リサリサの元へ戻った。

 

「悪い。ちょっと俺も買い物してきた」

 

「良いわ、気にしないで。ジョジョもお店に行ってたみたいだけど、何か良い物でも見つかったの?」

 

平謝りする俺に、リサリサは普段通りに微笑みながら質問してくる。

言葉の通り気にしてはいねえみてーだ。

そうやって微笑むリサリサに、俺は無言で包装された簪を渡す。

それを見たリサリサは首を傾げていた。

 

「俺からのプレゼントだ」

 

「…………え?」

 

俺の言葉を聞いたリサリサは呆然として、目の前に差し出した袋と俺を見比べている。

普段はクールなリサリサがこんな表情をするのがおかしくて、俺は苦笑いしてしまう。

 

「だから、リサリサに良く似合いそうだったから、買ってきたつってんだ……ほら」

 

「え?あ、その…………良いの?」

 

「何が?」

 

「だ、だってそんな、いきなり過ぎて……」

 

持ってるのもダルかったので袋を押し付けると、リサリサは袋を持ちながらそんな事を聞いてくる。

 

「気にすんな。俺が良いなと思ったから、買ったってだけだ……要らねえか?」

 

「そんな……そんな事、無いに決まってるじゃない……ずるい人ね、貴方って……本当に」

 

俺が面倒くさそうに髪を掻きながら問うと、リサリサは首を振って俺の言葉を否定する。

そのまま彼女は俺が手渡した袋をまるで宝物の様にギュッと抱えた。

少しの間そうしていたが、気を取り直したリサリサは俺と袋をまた交互に見始める。

 

「あ、開けても良いかしら?」

 

勿論だ、と頷くと、リサリサは嬉しそうにしながら袋を開ける。

なんとなく、誕生日とかクリスマスにプレゼントを貰って喜ぶ子供の様に見える。

つってもまぁ、小学生なんだしまだ子供だよな俺達。

そんな事を考えている間に袋を開けたリサリサは、俺が買った髪飾りを見て目を輝かせている。

 

「……綺麗」

 

「簪としても使える髪飾りだってよ……ま、夏にでも使ってくれたらありがてぇ」

 

「うん……うん……初めて、友達に貰ったプレゼントがこんなに素敵な贈り物だなんて……本当に、嬉しい……ありがとう……ジョジョ」

 

リサリサは少し目尻に涙を浮かべながらも、俺に満面の笑顔を見せてお礼を言ってくれた。

その言葉に俺も笑顔で頷く。

俺がリサリサの初めての友達なら、これぐらいしたって良いだろ?

リサリサを放置して1人で温泉街に出ようとした事の謝罪でもあるがな。

そしてリサリサは俺が渡した髪飾りを付けて、俺に向き直る。

 

「……に、似合う?」

 

「おう。良く似合ってるぜ」

 

涼やかな色合いのとんぼ玉が、綺麗な茶の長髪に良くマッチしていた。

俺の言葉を聞いてリサリサは少し照れくさそうにしながらも、とても喜んでいる。

この笑顔が見れただけで、贈った価値があると感じた俺であった。

 

 

 

 

 

あっ、イレインへのお土産忘れた……まぁいっか。イレインだし。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

「う~す」

 

「あら、お帰りなさい。リサリサちゃん、定明君」

 

「やぁ二人共。温泉街は楽しんで来たかい?」

 

「えぇ。とても賑やかで楽しい時間でした」

 

あの後、俺達は神社を後にして、そこから一直線に旅館に戻った。

今は部屋の皆に挨拶をした所だ。

ちなみに今のリサリサは髪飾りを外している。

何でも簪としても使えるならそう使ってみたいらしく、後で誰かに結い方を教えて貰うそうな。

士郎さんや恭也さん達からは普通に出迎えられ、リサリサが質問に答えてる訳だが――。

 

「……やっと、戻ってきたわね……ッ!!」

 

「うぅ……ずるぃ……」

 

「……お帰りなさいませ、定明様。ず・い・ぶ・ん・と、満喫してらっしゃったご様子で?」

 

どうにも俺だけはそうもいかねえらしい。

理由としては俺の目の前で仁王立ちしながら怒りのオーラを撒き散らすアリサ。

そして俺を涙目で睨むすずかと、正座の状態で嫌味を篭めた呪詛を吐くイレインの3人だ。

なのはと相馬はそんな視線を送られてる俺に苦笑いしながら「頑張って」の視線を向けてる。

正直、溜息を吐きそうになった俺を誰が咎められようか?

帰った瞬間にこんな視線を向けられれば、誰もが俺と同じ心境になると思う。

そんな俺の心境に遠慮無く、アリサは俺を睨みつけながら口を開いた。

 

「……ねえ、定明?何でアタシ達とは旅館探検行かなかった癖に、リサリサと二人で温泉街に行ってるのかしら?」

 

「ん~……ぶっちゃけ、温泉の脱衣所で広告を見て行ってみようとは思ってたんだが……アルフの登場ですっかり忘れててな。お前らの誘いを断った後で思い出して、ちょっくら出掛けた訳だ」

 

「……じゃあ、リサリサちゃんは」

 

「私はすずか達と別れた後なんだけど、偶々旅館から出たジョジョを見つけて追い掛けたの。だから、合流出来たのは偶然なのよ」

 

「そ、そうなんだ……良いなぁ(ぼそっ)」

 

「ふふっ。今回は、ね……それに……」

 

何やら剥れた表情で俺を見ていたすずかとアリサだが、リサリサが顔を寄せると不思議そうにしながらも耳を近づけていく。

どうやら他には聞かせられない内緒話ってヤツの様だ。

 

『二人も以前、ジョジョと二人っきりで遊びに行ったんでしょ?それが今回は私の番だったって事♪』

 

『う゛っ……そ、それを言われると……』

 

『反論出来ないね……』

 

何をリサリサに耳打ちされたのかは知らねえが、一応すずかとアリサは矛を収めてくれたらしい。

イレインもリサリサや相馬となのはの前では猫を被ってるからこれ以上は突っかかってこねえだろう。

それと、今回の旅行は1泊2日で、明日の夕方には出る予定らしい。

だから明日は皆で温泉街に行く事になった。

さすがに今回は駄々を捏ねるつもりも無いので、俺も素直に了承する。

相馬となのはも異論は無い様だ。

その後は皆で談笑しながらカードゲームでもしようかと提案したが、なのはが断固拒否。

どうやら車の中で味わった絶望が若干トラウマになりかけてるらしい。

そこでアリサが探検してる時に見つけた旅館のゲームコーナへと向かう事になった。

まだ夕食までは時間有るし、遊ぶ余裕は大丈夫。

現在、女子は美由希さんや忍さん達と一緒にUFOキャッチャーに挑戦していて……。

 

「これならどうだ、父さん!!」

 

「甘いぞ恭也!!」

 

恭也さんの放ったシュートドライブが、士郎さんに返される。

しかもネットギリギリに落ちるという激落ちドロップシュート。

何か超次元卓球になりかけてる。

 

「く!!まだまだいくぞ!!」

 

「うんうん!!その意気や良し!!さぁ掛かって来なさい!!」

 

「あぁ、修行の成果を見せてやる!!」

 

「恭也さんって卓球の修行してたのか?」

 

「いや……剣術の修行の事だと思う……多分」

 

男子は俺と相馬を除いて……っていうか士郎さんと恭也さんが超人的な卓球を繰り広げてる。

しかも滅茶苦茶盛り上がってて、顔がキラキラしてるので止めに入り辛い。

そんな超人技を魅せつけられいれば、こっちは見るだけで充分だった。

 

「ところで、定明。少し話があるんだが……良いか?」

 

と、恭也さんが超速で打ち出したピンポン球を見ていた俺に相馬が声を掛けてきた。

その声に視線を向けてみれば、相馬はかなり真剣な表情を浮かべている。

……どうやら、大事な話らしいな。

 

「ん。分かった……士郎さーん。俺等ちょっと外しますねー」

 

「おっと!!中々やるじゃないか恭也!!ならこれはどうかな!?御神流、神速!!」

 

「何!?あの玉を打ち返すなんて!?」

 

「……行くか、相馬」

 

「あ、ああ……放っておいて良いのか?」

 

少し逡巡する相馬に「知らねえよ」と返して俺は歩き出す。

俺の声が届いてないのか、随分とイイ笑顔で超人卓球を続ける士郎さんと恭也さん。

……まぁ断ったし、大丈夫だろ……多分。

俺の声に気付かない程に熱中してる二人に呆れを含んだ溜息を吐きながら、俺は相馬を伴って女性陣とも男性陣とも離れた場所に移動した。

少し開けた場所には、昔懐かしのガムボールを動かすゲーム機が置いてあった。

ハンドルを操作してコースのレールに沿ってガムボールを転がし、ゴールすると2つ貰えるアレだ。

その機械の側に立って、俺は相馬と向き合う。

 

「んで?何だ、話ってのは?」

 

「あぁ……アルフがここに居る時点で、お前も少しは察してるんじゃないか?」

 

「……それは、ジュエルシードがこの近くにあるかもって事か?」

 

俺の予想を聞いて、相馬は頷く。

一応アルフと出会った時に考えていた事だ。

テスタロッサとアルフはジュエルシードを探す為にこの地球に来た。

ならば、こんな海鳴から少し離れた場所にある温泉に来てる暇なんて無い筈。

アルフ単体で此処に来てる可能性も考えたが、あの二人の関係を考えるとこの線も違う。

つまり、アルフは明確な目的を持ってこの旅館に居るって事になる。

間違い無く、テスタロッサも居るだろう。

 

「お前の考えてる通りだ……原作通りなら、この近くにジュエルシードがあって、今夜発動する……原作通りならな」

 

そう言いながら相馬はガムボールマシンに10円を入れて動かす。

出てきたガムボールをハンドル操作で動かして、ゴールを目指し始めた。

 

「お前も知っての通り、俺は原作の先を知ってる。だから俺なりに事前対処出来る所はしてきたつもりだ。この前のサッカーの時だって、本当なら海鳴の町に巨大な大木が現れて暴れる所だったんだ」

 

「ふーん……なら、お前の今抱えてる不安は何だよ?」

 

頑張ってゴールを目指す相馬の隣に立って、俺は先を促す。

結局は何が言いたいのかって話だ。

 

「だが、俺達転生者の存在の所為か、所々差異が現れてる……暴走思念体の強化や、テスタロッサの出現と同時にアルフが現れた事なんかもな……つまり――」

 

話しながらも器用にハンドルを操り、相馬のガムは中間地点に辿り着く。

そこで一度顔を上げた相馬は真剣な表情のまま、俺に視線を合わせる。

俺は機械に寄りかかったまま、相馬の視線を受け止めた。

 

「ここのジュエルシードも原作通りじゃ無いかもしれない……それが伝えたかったんだ」

 

「……それは、もしかするとジュエルシードがここには無いかもっていうハッピーなニュースか?」

 

茶化す声音を出す俺に、相馬は依然真剣な表情を崩さないで首を横に振る。

まぁ実際そうだよなぁ……そんな都合の良い話がある訳無えか。

 

「いや、アルフがここに居る時点でその可能性はゼロだろう。俺が言いたいのは、もしかしたらジュエルシードが『複数』あるかもって事だ」

 

「複数、ね……その言い方だと、原作じゃ一個だったのか?」

 

「あぁ、それを見つけたなのはとフェイトが、ジュエルシードを巡って戦う……それが原作の筋書きだ」

 

そこで言葉を区切った相馬は再びガムボールを転がし、ゴールを目指す。

最初は話に誘っておいて何でこんな事をしてんだろうかと思ってたが、段々と読めてきたぞ。

こんな事をしてるのは多分、俺には話しにくい事を紛らわしたいんだろう。

 

「今回も、俺はなのはのフォローに回らなくちゃならない。ジュエルシードの事を知っている分、一緒に行かないという選択肢は取れないからな……だが、もしも複数のジュエルシードがあったら――」

 

「もう片方は間違いなく取り零しちまう……そうなりゃ、暴走した片方だけを疎かにする訳にもいかない。最悪片方しか取れないか、テスタロッサにどっちも取られる可能性がある……二兎追う者、一兎をもってヤツだな」

 

相馬の言葉を引き継いで俺が核心を突くと、相馬は操作を誤ってガムを落としてしまう。

残念ながら、ゲームオーバーになってガムは貰えないようた。

相馬はハァと溜息を吐きながらハンドルから手を離して、俺に真剣な表情を再び向けてくる。

 

「そうだ……周りくどい言い方をしてすまないが……もし出来るなら、協力してくれ」

 

「……」

 

「これも可能性の話だ。もしかしたらジュエルシードは一個だけかもしれないし、警戒してくれるだけでも良い……力を貸してくれないか?」

 

相馬は真っ直ぐな眼差しで俺を見ながら協力を要請する。

確かに相馬の言ってる事は分かるし、俺も友達から頼られてそれを袖にする程酷くは無い。

それにジュエルシードの力が厄介なのは、まだ直接戦った事の無い俺でも想像は付く。

相馬も転生特典を貰ってるというのに、なのはと協力しても中々に接戦を強いられてるらしいし。

これに協力しとかないと、最悪の場合、ジュエルシードで暴走した何かがこの旅館まで来る可能性もある。

やれやれ……のんびりとした旅行ライフだと思ってたんだがな……しゃーねえか。

 

「わあったよ。俺も協力する」

 

俺を見つめる相馬に面倒くさいって表情を貼り付けながら答え、俺は相馬の代わりにガムボールマシンに金を投入してゲームを開始する。

よっと……中々難しいな、これ。

 

「そうか……すまない、定明」

 

「別に良いって。ここでやらなきゃ皆に被害がいく可能性もあるし……少しばかり、働くさ」

 

「だが、気をつけてくれ。定明のスタンドがどれぐらい強いのかは、ジョジョを読んでなかった俺には分からない。その上で言わせてもらうが……思念体はかなり強いぞ?」

 

「んー……まぁ、何とかなんだろ」

 

ガムボールマシンを操作しながら、俺は相馬の忠告に耳を傾ける。

確かに、まだ俺自身には大した戦闘経験は無い。

相馬はそれを心配してくれてるんだろう。

俺がやった戦闘っていえば、はっきり言ってどれも一方的なリンチでしかない。

すずかやアリサ、リサリサを拐った連中は言うに及ばず、あのオリ主だって向こうの力を使う前に叩きのめしたし。

 

「そうなら良いんだが……まぁ確かに、余り気負い過ぎるのも駄目だな。それにこの不安だって、俺の予測の域を超えない。そもそも運良くジュエルシードが見つかるかも分からないんだしな」

 

「あぁ。まぁ見つからなきゃ不安も残るけどよ……」

 

と、遂に最後のループの中にガムボールが入るが、ゴール手前の器には2つ穴が開いている。

このどっちかの穴にガムが落ちると、さっきの相馬の様にゲームオーバーになってしまう。

俺はそこでハンドル操作を誤り、ガムボールが穴に向かってしまうが……。

 

『オイ定明ィ……『右』ダゼ……右二思イッ切リハンドルヲ切レヨォ~、ヤレッテッ!!』

 

突如、ガムボールマシンの後ろから現れたバケツのような頭に、不格好な口と鋭い歯を持った『俺自身』の言葉に従って、俺はハンドルを思いっ切り右に倒す。

すると、左いっぱいに傾いていた状態から一転した反動で、ガムは機械の中でジャンプ。

そのまま俺達と機械の内側を隔てるガラスにコツンと当たり、その反動で……。

 

スポッ。

 

ガムは見事、ゴールの穴へと吸い込まれていった。

 

「……」

 

「よっと……今朝の占いじゃ、今日の俺は『ラッキーガイ』らしいからよぉ……探せば『幸運にも』見つかるんじゃね?」

 

『オッオォ♪お~ヨォ……今日のオメエさん、幸運ガ味方シテルぜェ~』

 

オマケで2つになったガムボールの一つをポカンと口を開ける相馬に差し出しながら、俺はニヤリと笑う。

本体を勇気づけて、気持ちを前向きにさせてくれるスタンド、『ヘイ・ヤー』を肩に乗せて。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「スゥ~……スゥ……」

 

「くー……」

 

「…………」

 

そして、夜。

夕食を食べ終えた俺達は、子供組と大人組で部屋を分けて就寝する事になった。

既にアリサ、すずか、リサリサの3人は眠りに就き、隣の大人達の部屋からも声が途絶えている。

つまり士郎さん達も眠っているという事だ。

そんな雰囲気の中でまだ起きているのは俺を含めて『3人と1匹』だけである。

まずは今夜にもジュエルシードが発動すると俺に忠告してた相馬。

そして何やらフェレットのユーノと見つめ合ってるなのはという面子だ。

俺はなのは達に怪しまれない様に、布団に入って寝たフリをしている。

暗いから布団の中で目を開けててもバレないのが幸いだ。

 

「……ッ!?……なのは(ボソッ)」

 

「うん……ッ!!」

 

と、極めて静かだったこの部屋に、ゴソゴソと布を捲る音が響く。

突如何かを感じ取った相馬達が布団から出て、相馬とユーノは部屋の外へ、なのはは部屋の中で着替えを始めたのだ。

さすがにそれをガン見する程変態じゃないので、俺は目を閉じてなのはが出て行くのを待つ。

……どうやらジュエルシードが発動したらしいな。

魔導師のなのはや相馬達は、ジュエルシードが発動するとその魔力の波動を感知出来ると相馬から聞いてた。

恐らくこれから現場へと向かうんだろう……こっちもやらなきゃいけねえし、あいつ等の方は任せるか。

やがてなのはが部屋を後にしたと同時に、俺はエアロスミスのレーダーを発動させる。

今の時間で起きてる人間、そして2人組で動物も一緒の呼吸の後を辿れば、なのは達が旅館を出たのを確認。

これで俺も動く事が出来る。

 

(……行け、『ハーヴェスト』。この近辺を探って他のジュエルシードが無いか探すんだ)

 

直ぐ様エアロスミスを解除して、蜂模様の群生スタンド、ハーヴェストを呼び起こす。

ハーヴェスト達は俺の命令に従って扉を擦り抜けると、全員森の中へと姿を消した。

しかも散らばる方向は四方八方だ。

これで捜索隊の方は万全、後は結果が出るのを待つだけだな。

それを確認してから俺も起き上がり、服を着替える。

ポケットには予めエニグマの紙に入れておいたガンベルトや鉄球、ベアリング弾を仕込んである。

これなら武器の方も問題無いだろう。

そっと扉を開けて部屋から抜け出した俺は、従業員に見つからない様に隠れて玄関から出た。

外に出た事がバレてない事を確認して、ハーヴェストから伝わる感覚に集中する。

俺の感覚に伝わってくるハーヴェスト達の報告は、今の所どれも見つけてはいない。

 

「やっぱり範囲が広すぎか……だがそれでも、500体フルで探せば……おっ?見っけたぜ」

 

凡そ十数体のハーヴェストが向かった方向、それはなのは達とは逆の方向だった。

山の麓に近い場所の近くに川がある林の中にジュエルシードが落ちている。

どうやらまだ発動はしてないみたいだし、このままハーヴェストに回収を――。

 

「……」

 

「ん?……あれは?」

 

と、考えたその時だ。

ハーヴェストから見える林の中で、何か『黒っぽいモノ』が動いた。

大きさは結構なモノで、ハーヴェストの視点からだと見上げる形になる。

アレは何だ?もしかして他にもジュエルシードを……いや、あれは動物か?

やがて視界の先に居る物が月の光を受けて顕になる。

地面に四脚立ちして静かに佇むのは、立派な角を生やした牡鹿だった。

この辺りは自然が多く残っていて、野生の鹿なんかは特に珍しいモノじゃ無いらしい。

野生の鹿が見れて少し驚くが、そんな俺に追い打ちを掛ける様な事態が発生した。

 

キュピーンッ!!

 

『キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?』

 

「んなッ!?オイオイ嘘だろッ!?」

 

何と鹿が登場した瞬間に、今まで沈黙を保っていたジュエルシードが発動しやがった。

しかもその光はさっき現れた野生の鹿を包み込んでいくではないか。

非常ブザーを思わせる甲高い悲鳴をあげながら、鹿は光の中に消えていく。

いやいやちょっと待てッ!?見つけた瞬間に暴走とか嫌がらせかッ!!

ま、まずい!!相馬達は結界の中に入ると外でジュエルシードが発動しても感知出来ないって言ってたし……くそッ!!

 

「こぉぉぉ……ッ!!」

 

俺は普段からなるべく意識している波紋の呼吸を使い、体内の波紋を練り上げて身体能力を底上げする。

波紋の力で強化された俺の体は9歳児らしからぬ身体能力を得る事が出来る。

その身体能力を駆使し、目的の場所へ全力で走り出す。

こうなったらハーヴェストでのサルベージは中止して、俺が直接ジュエルシードを封印するしか無い。

ハーヴェストと共有してる視界の先ではさっきまでの光が止んで、黒いモヤを体から吹き出す鹿が佇んでいた。

しかも目は赤い光を灯していて、立派な野生の角が刃物の様に鋭くなっている。

どう考えても危ない奴じゃねえか……やっぱ、アレは俺が相手をするしか無えな。

俺は走りながら他の場所を探索させていたハーヴェスト達を向かわせる。

相馬の話では取り憑かれた生物はジュエルシードを引き剥がすなり封印するなりすれば元に戻るらしい。

なら、仕方ねえ……心苦しいが、少しばかり締めつけさせてもらうぜ。

戦闘に対する覚悟を決めたその時、ジュエルシードに取り憑かれた鹿が山へと歩を進めようとし始めた。

 

「悪いがテメエをそのまま行かせる訳にゃいかねえ……ッ!!」

 

ザザザザザザザザァァ!!!

 

『……??』

 

ハーヴェストを操作して、その群れを塊となして思念体へと突撃させる。

奴等の様な思念体でも、スタンドを認識する事は出来ないらしく、精々が『体に見えない何かが纏わり付いてる』と感じてるぐらいの筈だ。

やっぱスタンドを認識されないってのは俺にとって重要な強みだな。

 

「かかれッ!!ハーヴェストッ!!」

 

俺の号令の元に、ハーヴェストは其々4本の手を、思念体の体に振り下ろす。

 

ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクッ!!!

 

『ゴォウゥウウウウウッ!?』

 

小さく、しかも鋭利な刺突力を持つハーヴェストの手や嘴の様な部分が、思念体の体を細かく削り取る。

少しづつ、だが確実に敵の肉を削ぎ落とす事が出来るのだ。

目に見えない襲撃を受けて、思念体は野太い悲鳴を挙げてその体を地面に擦り付ける。

しかし何度も言うが、スタンドは使用者の精神を具現化させたビジョンだ。

例え地面の間に挟まれようとも、本体の俺がスタンドの存在を地面に接触させているという意識が無い限り、スタンドは物体を擦り抜ける。

故に、幾ら体を地面に擦ろうが木に体当たりしようが、ハーヴェストは離れる事はない。

それどころか他の場所を探索していたハーヴェストまで合流してきて、更に傷は増える一方だ。

 

「まずは敵と接敵する前に出来るだけ弱らせる。チマチマとセコい遣り方だが、俺は確実な方を取るぜ」

 

走りつつも着実に相手のダメージを増やしながら、俺は思念体の元に向かう。

そうして、遂に思念体の悲鳴が俺の耳へ直に届く距離まで近づき、俺は相手の様子を見やる。

 

『グルルル……ッ!!キュオォオォォオオオオオッ!!!』

 

「あらら。お冠かい……まあそれだけズタボロにされりゃ、そうだわな」

 

大量のハーヴェストに纏わり付かれた状態で、思念体は現れた俺に怒りの咆哮をあげる。

既に体の彼方此方から血が滴り、満身創痍に近い状態だ。

しかしそれでも瞳の爛々とした殺意の炎は微塵も揺らいじゃいない。

ハーヴェストに貫かれながらも注意深くこっちに視線を向けている姿は、さすがと言わざるを得ないな。

とは言え、俺も早く事を終わらせて戻らねえと、何時あいつ等が気付くか分からねえ。

だから、さっさとカタを付けさせてもらうぜッ!!

 

「ハーヴェスト、戻ってこいッ!!」

 

俺の一言で思念体に群がっていたハーヴェストが俺の元に集まって消えていく。

ここからは大技を惜しみ無くやってやる。

体の痛みが消えたのを好機と感じたのか、思念体は雄叫びを挙げながら俺へと突撃してきた。

あの刃物の様に鋭い角を俺に向けながらだ。

 

「いっちょ派手にいくぜッ!!――女教皇(ハイプリエステス)ッ!!」

 

『ジャアッ!!』

 

俺の叫びに応じて現れたのは、人間でいう顔と両腕だけがあり、それ以外の部位は存在せず毛むくじゃらにおおわれている像をしているスタンドの女教皇(ハイプリエステス)だ。

両腕には鋭く長い爪がついており、この腕で相手を切り裂ける。

 

 

 

――だが、女教皇(ハイプリエステス)はその能力こそがとても恐ろしいんだぜ?

 

 

 

俺の目の前に現れた女教皇(ハイプリエステス)は突撃してくる思念体には目もくれずに、地面へと『潜り込んだ』。

思念体はと言えばそれには目もくれずに只一直線に俺を目指して疾走してくる。

俺はそれを見てもボーッと突っ立ってるだけだ。

まっ、別に慌てる必要も無えしな。

 

『ギュヒィイイイイインッ!!!』

 

そして遂に、猛り狂う思念体が後1メートル前後という所まで迫ってくる。

もう少しすれば、その強靭にして鋭利な角が俺に届くだろうが――こっちの攻撃の方が先だ。

俺は焦らずに片手を思念体へと向けて、女教皇(ハイプリエステス)に命じる――盛大なショーの幕開けを。

 

 

 

「  喰  ら  い  な  ぁ  ッ   !  !  !  」

 

 

 

ププーッ!!ズガァンッ!!!

 

『ヘゲケッ!?』

 

俺の叫びに応じて、地面から思念体に向けて『あるモノ』が迫り上がり、突撃した。

そう……けたたましいクラクションを鳴らす、ヴィンテージ物の『黒いオープンカー』が。

自動車一台が地面から急激に迫り上がった接触攻撃。

その威力は、向かって来た思念体を後方に吹き飛ばすのに充分な威力を誇っていた。

しかもそれで終わりでは無い。

 

ズガァンッ!!!

 

『ギャグォッ!?』

 

思念体の吹き飛ばされた下の地面から、今度は赤いオープンカーが飛び出し――。

 

ズガァンッ!!!ズガァンッ!!!ズガァンッ!!!

 

『ゲババァアアアアッ!?』

 

そのまま色違いのオープンカーが3台連続で思念体を弾き飛ばした。

地面から斜めに突き出した車の衝突を5回に渡ってその身に受けた思念体は、力無く地面へと倒れ込む。

さすがにこの攻撃は効いたみてーだな。

 

『ウシャシャシャシャッ!!!』

 

しっかりと自分の攻撃が思念体に通じて笑みを浮かべる俺の傍には、地面から這い出た女教皇(ハイプリエステス)が居る。

しかもベロを出して、見る者がムカツクであろう笑い声をゲラゲラとあげながら、だ。

……これが女教皇(ハイプリエステス)の能力、『鉱物やガラス品、プラスチック類といったあらゆる物に化けることができる』。

鉱物やガラス品、プラスチック類で作られたものであればどんな物品にも化けることができ、例えばそれはコップであったり金属機械であったり、果ては水中銃に化けることも可能。

化けた際の変化能力は非常に高く、スタープラチナの超視力で凝視しようと叩いた音を聞いても判別する手段は「無い」。

つまり擬態能力においてはかなり上位のスタンドって事だ。

しかも擬態した物の姿で攻撃する事すら可能なので、さっきみたいに車に変身して突撃、なんて事も出来ちまう。

このスタンドは、本体との距離が近くなればなるほどスタンドのパワーもそれにしたがって強くなっていくスタンドであり、本体が間近にいたときであればパワーは尋常ではなく跳ね上がる。

破壊力はCという評価だが、これはスタンドそのものの破壊力であり、化けた物次第ではそれを上回るだろう。

この技はゲームの技名通りに『モーターショー』と名付けている。

 

『グッ……ギィ……ッ!!』

 

「ん?まだ立とうってのか?止めとけ止めとけ。俺だって罪も無い動物を痛めつけるのは心が痛い。そのまま大人しくしてりゃ、サクッとジュエルシードを取り出してやるよ」

 

『ギ、グ……ジャアアアアアアアッ!!!』

 

「やれやれ……その気は無い、と……しょ~がねえなぁあぁぁ~」

 

血だらけのズタボロになりながらも、思念体は俺への攻撃を止めようとはしなかった。

俺は気怠い表情でうしろ髪を掻きながら、新たなスタンドを呼び起こす。

そんな俺に対して真っ向からの勝負は分が悪いと考えたのか、思念体は空へと跳躍した。

 

『キュオォオオオオオオッ!!』

 

バサァッ!!

 

「おお?随分とファンタジーな姿になりやがった……」

 

そして一度大きく吠えると、奴の背中から一対の大きな羽が現れる。

しかも羽は半透明な青色のエネルギーの様なモノで構成されていた。

何とも幻想的な光景に見惚れた俺に、思念体は雄叫びをあげながら空から突っ込んでくる。

って何だそりゃ……結局突っ込むしか能が無えって事かよ、期待させやがって。

 

「だがまぁ、俺には好都合だ、このまま――」

 

『ゲグッ――ギャギャァアアアアアッ!!!』

 

ブチブチッ――ドバァッ!!!

 

その考えが、正しく命取りだったらしい。

 

「なっ!?」

 

空に対空しながら俺に向かって来ていた思念体は、何と首を外してその首を発射してきやがったのだ。

奴の首には頭から生えた鋭利な刃物の様な角がギラついている。

しかも速度は俺が考えていた以上に速い。

クソッ!!本気で油断しちまったッ!!

自己嫌悪に陥る暇もなく、思念体の首は俺へと速度を加速して向かってくる。

だが、この距離ならまだスタンドを使えば間に合うッ!!

 

「キングクリ――」

 

「撃ちなさいッ!!キッス!!!」

 

『おっしゃぁああああッ!!!』

 

不意に、俺が見知った声が響いたかと思えば――。

 

バゴォッ!!

 

『ボギッ!?』

 

横合いから弾丸の如く飛来した6発の石、その内の1発が、思念体の顔に深々と刺さった。

 

「……は?」

 

訳が分からず呆けてしまう俺の視界の外へ、思念体の首が飛んでいってしまったのだ。

俺はその光景を呆けた表情で見届けてしまう。

……ちょっと待て。今の声って……まさか。

呆然としながらも石の飛来した方向へ目を向ける。

 

「ふぅ……少し油断し過ぎよ、ジョジョ?」

 

「……リサリサ?」

 

其処には、赤色のワンピースに着替えたリサリサが微笑みながら佇んでいた。

俺が昼間に贈った髪飾りで長いストレートの髪を邪魔にならない様に結った彼女の隣には、手に新たな石を持った『キッス』の姿もある。

 

「突然貴方が部屋から出て行ったと思ったら、北宮君となのはの姿も見当たらないし、何かあると思って急いで来てみたけど……来て正解だった様ね」

 

「あ、あぁ……サンキュー」

 

「ええ。まぁ貴方ならあの程度の状況、私が居なくても大丈夫だったとは思うけど」

 

呆ける俺に言葉を掛けながら、彼女は俺の側へゆっくりと歩み寄った。

まさか俺が出て行くのが見られてたとは思わなかったが……ヤバイぞこの状況。

思わぬ援軍の到着に俺が感じていたのは嬉しさではなく、焦りだ。

よりにもよって感の鋭いリサリサにジュエルシードの存在を目撃されてしまった。

もしも彼女が本気でジュエルシードの事を調べ出したら誤魔化しきれる自信は無い。

 

『……グガァアアアアアアッ!!!』

 

と、今の攻撃で怒りが頂点に達したのか、首を体に戻した思念体が怒りの叫びをあげる。

俺もその声に意識を戦闘モードに戻しておくが、リサリサは優雅な佇まいのままに少し不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「……もうすぐ夜中になる時間よ?こんな時間にそんな大声で吠える悪い子には……少し、お仕置きしてあげるわ」

 

「ちょい待ちな。さっきの助太刀はありがたかったけど、6発投げた石の5発が外れる様なコントロールじゃ、コイツは任せらんねえ。俺がやるから下がってろ、リサリサ」

 

そう言って俺の隣に立つリサリサだが、俺はそれに待ったを掛ける。

さっきは不意を突かれて驚いたが、今度はそうはいかねえよ。

 

「あら、ジョジョ?残念だけど『石が外れた』っていうのは――」

 

だから戦いやすい様に前へ出ようとしたんだが……リサリサは変わらずに優雅な微笑みを浮かべながら、キッスの持つ石を見せてくる。

弾数はさっきと同じで『6発』だが……新たな石には『キスマークのシール』が貼られていて……ん?

それを見て「あれ?」と怪訝な表情を浮かべる俺に対して、リサリサは微笑みを崩さずに、石のシールに手を掛けて――。

 

間違いよ(・・・・)

 

ベリィッ!!

 

躊躇なくシールを全て剥がした。

するとキッスの手元にあった石は全てかなりの速度で手元から離れていく。

向かう先の直線上には、こちらを威嚇する思念体の姿が――。

 

「シールを剥がせば、『分かれていた2つのモノは』引き合い――」

 

ギュオンッ!!

 

そして、夜の空へと消えていった筈の最初に放った石。

思念体に当たった石までもがこちらへと戻って来た。

……ご愁傷様。

当然、俺達に意識がいってる思念体が後ろから迫る石に気付く筈も無く――。

 

「元に戻る……でしょう?」

 

バグオォオンッ!!!

 

『ブゲギャァアアアアッ!?』

 

何とも痛々しい音と悲鳴をあげる思念体の後頭部には、背後から飛んできた石が思いっ切りぶつかっている。

更に追加で前からも同じ石が飛来し、思念体の体の奥へと食いこんでいく。

……何ともえげつない応用技だな。

前にも説明した通り、キッスの能力は『シールを貼った物体を2つにする事』だ。

しかしこのシールが剥がされた時の引っ張る、または飛ぶ力は凄く強力で、間に物体を挟むと大変な事になる。

今、俺の目の前で苦しそうな悲鳴をあげてる思念体が良い例だ。

体の奥までめり込むというのは、シールを貼った物体に起こるもう一つの法則が関係してる。

元に戻る際、分かれていた物体には破壊が起きる事だ。

つまりあの現象は、『スタンド能力のルールに基づく力』が作用してるので、強制力はほぼ絶対である。

そのルールに従って元に戻ろうとしてる物体の間に邪魔がアレば、それを貫いてでも戻ろうとする。

それが今、思念体を襲う石がめり込むという現象の根源だ。

 

ブチチッ……グチャァッ!!

 

『ギギャォォオオオオオッ!?』

 

そしてついにめり込んでいた石が思念体の体を貫いて、中で2つの物体が戻り、砕けた。

思念体はその尋常じゃない痛みにのた打ち回っている。

体を無理矢理に貫いた上に、体内に破片を撒き散らすとは……何ともエゲツない技だぜ。

 

『グッ……グゥッ……ッ!!』

 

そうこうしてる内に体力が尽き始めたらしく、思念体はその巨体を支えて立っているものの、脚はフラフラだった。

しかしこれはまたとない好機。

また暴れだす前に、一気に勝負を決めるッ!!

痛みに悶える思念体を見据えつつ、俺はズボンのポケットからエニグマの紙を取り出して開く。

すると、中から和式の家なら飾られていそうな一振りの『刀』が出てくる。

俺はその刀を持ちながら集中し、刀の『中に存在するスタンド』に意識を向けた。

 

(おい『アヌビス』。30秒だけ俺の体を使え。あの間にあの思念体を仕留めろ)

 

(ハッ!!了解しました定明様ッ!!このアヌビスめがあの鹿もどきを斬り殺し、その頸を貴方様へ捧げましょうぞッ!!)

 

脳内に響くその言葉と共に、俺の体に違う意識が入り込んでくる。

流れ込んだ意識と引き換えに、俺自身が体から離れさせられる様な感覚を覚えた。

その感覚に逆らわずにいれば、俺は自身の体を何処か第三者の様な視線で見る様になった。

視界に入るもう1人の俺は刀を握ったまま顔を俯けていたが、直ぐに前を向く。

唸る思念体を見つめる俺の目は、何時に無く獰猛に吊り上がっていた。

 

「では定明様ッ!!暫しお身体をお借りしますッ!!」

 

(おう。悪いな、俺がまだ子供だから、お前を満足に扱ってやれなくて)

 

「とんでも御座いませんッ!!定明様なら何時か、俺を十全に使っていただける強いお方になると確信しております故ッ!!」

 

(そうか……じゃあそうなる様に、俺も頑張るよ)

 

「ハハァッ!!身に余る光栄に御座いますッ!!」

 

「……ジ、ジョジョ?どうしたの?」

 

急に俺の口調、そして雰囲気が変わった事に驚いたリサリサが恐る恐る声を掛ける。

まぁいきなり目の前の奴が性格が変わった様な口調で、しかも独り言を言ってたらそうするよな。

と、アヌビスは俺の声で俺らしからぬ口調でリサリサに喋り始めた。

 

「む?これは失礼しましたリサリサ殿。俺は定明様のスタンドの一つ、『アヌビス神』です。今は定明様のお身体をお借りして、この場に居る次第なれば」

 

「ア、アヌビス?……タロットカードの起源である神々。エジプト9栄神の、あのアヌビスの事かしら?」

 

「おおなんとッ!?ご存知頂けてるとはこのアヌビス、感激にございますッ!!そのアヌビスの暗示を持つのが、この俺でございますッ!!」

 

「そ、そう?……敬語で喋るジョジョ……何だか、妙な気分ね……」

 

リサリサは何だか微妙な顔をしながら俺、じゃなくてアヌビスに言葉を返す。

そう、今の俺の体を支配しているのは、スタンドの中でも2体しか存在しない『本体の居ないスタンド』、アヌビスである。

原作では500年前にアヌビスの刀を作った刀鍛冶が本体と言われているが、俺のアヌビスは特典なので少々違う。

現在は自我を備えた三日月刀として、半人半獣のアヌビス神そのものの姿をしたスタンドだけが剣に宿り、独立して残っている。

俺の事を明確に本体としているが、普段はあの刀の中に眠っているスタンドであり、『他のスタンドと平行して使える』唯一のスタンドだ。

これには神様の言があり、『銀の戦車とアヌビス神の二刀流!!出来る様になりたいでしょッ!!』という思いの元から変更されている。

俺のスタンド能力は原則として一度に一つのスタンド能力しか扱えないのだが、このアヌビスだけは例外だ。

更にアヌビス本体の能力があり、それは刀身に触れた者を「新しい本体」として操る能力を持ち、自分の宿る刀を扱わせる事が出来る。

一度受けた攻撃の性質を憶えて完璧に見切ることもできる上に闘えば闘うほど相手の動きを記憶し、避けられない速度と攻撃に強化されていく成長性の高いスタンドだ。

まだ俺自身が子供であり、俺の意識ではアヌビスを使いこなす事が出来ない。

その打開策として悩んでいた俺にアヌビスが提案したのが、『アヌビス神』に体の支配権を渡してアヌビスに戦ってもらうという逆憑依の型だった。

だから俺はこんな風に自分を第三者の視点で見るという幽体離脱の様な体験をしているって訳だ。

 

『グルルル……ッ!!』

 

「む?イカンイカン、もう既に20秒も経っているではないか。定明様の命を守れぬとあればこのアヌビス、一生の不覚」

 

リサリサに半人半獣のアヌビス神を背中に表しながら頭を下げていたアヌビスは、唸る思念体に気付くと素早く刀を抜いた。

まるで水に塗れたかの様な美しい刀身が露わになり、アヌビスはその切っ先を思念体に向ける。

 

「さあ獣畜生よ。俺は直ぐにでも貴様の頸を定明様に捧げねばならないのだ。よって――」

 

そこで言葉を切ったアヌビスは、俺の体を地面に着きそうなぐらい屈め――。

 

 

 

――お前の命、もらいうける。

 

 

 

次の瞬間には、思念体の背後で刀を鞘に収めていた。

 

「――え?」

 

俺とアヌビスの背後から、リサリサの呆然とした声が聴こえる。

まぁ、今のアヌビスの動きが見えなかったんだろう。

そうこうしてる内に、アヌビスはするすると刀を鞘の中へ滑らせ――。

 

――チン。

 

『グル?……』

 

ズシャアァ……。

 

鯉口を切った小気味良い音と共に、思念体の体が3分割された。

思念体はマヌケな声を発して直ぐにその体から半透明の粒子を撒いて、元の姿に戻った。

地面に倒れる鹿の傍らには、いまだ強い光を放つジュエルシードの姿も有る。

良し、後はアレを封印するだけだな。

 

「定明様。ご命令通り奴の素っ首、この俺が斬り落としました」

 

(さすがだ、アヌビス。ありがとうよ)

 

「お褒めの言葉、有難く頂戴しますッ!!それではこれにてッ!!」

 

(ああ。またよろしくな)

 

俺の言葉を聞いたアヌビスは嬉しそうに笑うと、その意識を刀の中へと戻していく。

それを入れ替わりで、俺は再び自分の体の感覚を取り戻す。

 

「あっ。戻ったのね、ジョジョ」

 

「……まだ何にも言ってねえのに、何で分かったんだ?」

 

喋ってすらいないのに俺の意識がアヌビスと入れ替わったのを、リサリサは普通に見抜きやがった。

さすがにそれに驚き、俺はアヌビスの刀をエニグマの紙にファイルしながら質問する。

そんな俺に対して、リサリサはキッスを戻して苦笑いを浮かべる。

 

「その面倒くさいって目は、ジョジョの特徴の一つだもの」

 

 

 

……チャームポイントと言われないだけ、マシなんだろーか?

 

 

 

その後、俺はクレイジーダイヤモンドでジュエルシードの封印を治して、この戦いを終わらせた。

今はリサリサと一緒に歩きながら旅館に戻っている。

ジュエルシードは念には念を入れて、エニグマでファイルしておいた。

機を見て相馬に渡すとしよう。

ジュエルシードに取り憑かれてた鹿も傷は無く、俺達を見て直ぐ様山の中へと逃げた。

これで今夜の仕事は終わったのだが、懸念していたリサリサへの説明も心配ないのが幸いだ。

ん?何でかって?リサリサが良いって言ったのさ。

俺が言い辛そうにしていたら、リサリサは苦笑いしたままに話さなくて良いと言ってくれた。

追求される事を覚悟していた俺としては面食らったが、無理矢理聞き出したくは無いらしい。

只、その代わりに――。

 

「お願いだから、絶対に怪我だけはしないで?……ジョジョが傷つくのは、耐えられないから……」

 

なんて悲しそうな顔で言われてしまったがな。

これはさすがの俺でも堪えたよ。

だからちゃんと怪我しねえって約束すると、リサリサは微笑みながら「よろしい♪じゃあ帰りましょ?」と、話を締め括った。

まぁ尤も、今回みたいな事はそう起こったりしねえし、大丈夫だろ。

そう自己完結しながら、何気なく隣を歩くリサリサに目を向けると……不思議な事が起こっていた。

 

「リサリサ。その髪飾り……」

 

「え?どうかした?」

 

俺の言葉を聞いて、リサリサは不思議そうに俺を見るが、俺の視線は俺が昼間に贈った髪飾りに釘付けになっていた。

 

「その髪飾り、ガラスの部分が光ってるぜ?」

 

「え?……これは……」

 

その指摘を聞いてリサリサが髪飾りを外すと、纏めていた髪が自由になって広がる。

リサリサの手に持った髪飾りは、ガラスを使った部分がぼんやりと青色に光っていたのだ。

さすがに筆入れされた雲の模様は光ってないが、それが光に区切りを付けて幻想的な模様を浮かび上がらせる。

一体何だこりゃ?

思いもよらぬ現象に首を傾げる俺と、そのガラス部分をジッと見つめるリサリサ。

 

「これ……蓄光ガラスで作られてるわ」

 

「蓄光ガラス?」

 

「ええ。太陽の光をガラス内部に溜め込んで、暗くなると発光するガラスよ……あの時は夢中だったから、気付かなかったわ」

 

「……あの爺さんの言ってた事は、これか」

 

博識なリサリサが発光の正体を明かしたと同時に、俺は昼間の店主が言ってた言葉を思い出す。

夜を楽しみにってのはこういう事だった訳だ。

そう思っていると、満面の笑みを浮かべた爺さんが『さぷらいずじゃよ♪』とか言ってるのが頭に浮かぶ。

まったくとんでもねえサプライズを用意してくれたもんだ……こんなに良い代物だったとはな。

苦笑いしながらそう考えていると、リサリサはその幻想的な光に見惚れている。

 

「……光もだけど、描かれた雲の模様も綺麗ね」

 

「そうだな……それに、リサリサに良く似合ってる」

 

「ッ!?や、やだわ、もう……ほ、ほら。士郎さん達にバレる前に、早く帰りましょ?」

 

「へいへい」

 

俺の褒め言葉が恥ずかしかったのか、リサリサは少し頬を染めて驚きながら帰宅を促してくる。

それに適当に返事すると、リサリサはササッと髪をポニーテールに纏めると、少し早歩きで俺の前を歩く。

彼女の頭の後ろで揺れる光を放つ髪飾りを見ながら、俺は良い物が見れたと内心喜んだ。

そこからは特に言葉も交わさずに旅館に戻り、まだなのは達が戻っていない内に着替えて、俺達は布団に入った。

最初は相馬やなのはの事を聞かれたが、二人は大丈夫だと伝えると、リサリサも渋々布団に入ってくれた。

 

「それじゃあジョジョ、お休みなさい」

 

「ああ。お休み」

 

リサリサも眠気には勝てなかったらしく、布団に入って直ぐに寝付く。

さあて、俺も寝ますかね……こっちは上手くやったぞ、相馬。

明日は朝一番で温泉に入ろうと心に決めながら、俺も意識を微睡みの中に落として、一日を終了したのであった。

 




う~ん……バトルが上手く書けない。

こう、血沸き肉踊る描写ってのが難しいです。


それと定明の性格、久しぶりなのでブレてないか凄く不安なのさー(白目)


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俺の在り方


珍しくシリアスっぽい話作った希ガス。

そして全体的に短い。

バトルが無ければこれぐらいの内容量です。


 

 

あの温泉旅行から数日たったある日の放課後。

俺はいつも通り友達と学校で遊んで、昼休みはリサリサと会い、現在は下校中だ。

先ほどまで一緒に帰っていたリサリサと別れ、自分の家へと直帰してる。

 

「あ~……平和だ……」

 

何の変哲も無い日常、それが俺の何物にも代えがたい宝である。

つまり俺が過ごすこの他愛の無い日々こそが、俺の幸せなのだ。

そんな幸せを享受していて笑顔が溢れるのは普通だろ?

寧ろ闘争なんて、俺が目指す平穏な生活の真反対だしなぁ。

そういう日常を守る為にスタンドを使う事はあっても、平常時なら使うつもりも無い。

 

「あいつ等とは別の町ってだけで、こうも平和なんだもんなぁ……いやはや、神様ありがとう」

 

天に居るであろう神様に感謝を捧げつつ、俺は清々しい気分で家に向かっていた。

何せ隣町に住んでいるなのはと相馬は、いまだ激動の日々に身を置いてるのだから。

あのジュエルシードとの初戦闘の後、俺は無事に相馬へジュエルシードを渡す事に成功した。

なのはへの説明も、相馬が怪しまれない様にしてくれるから問題は無いだろう。

それにテスタロッサもジュエルシードが集中してるあっちの町を拠点にしてるから、あの温泉以降はアルフともテスタロッサとも会ってない。

正に平和そのものだ。

しかし相馬達はそうもいかず、温泉で相対したテスタロッサに再びジュエルシードを奪われてしまったらしい。

何度も闘いながら止めるように訴えかけるもテスタロッサには届かず、結局なのはが負けてジュエルシードを差し出してしまったと。

しかしそれでもなのはは微塵も諦める気配が無い様で、今この時もジュエルシード探しに身を入れてるそうだ。

相馬もそんななのはを放っておく事は出来ないから一緒に探してるらしい。

俺にもまたこっちの町にあったら協力してくれとか言ってたぐらいだし、相当切羽詰まってんだろう。

まぁこっちの町、つまり俺のテリトリーにあったら協力するのは吝かじゃ無えけど。

 

「ともあれ、今はこの平穏な日々を満喫させてもらうぜ」

 

そんな風に難しい事を考えながら歩く事数分、遂にマイホームが見えた。

さあて、今日は母ちゃんがクレープ焼いてくれるって言ってたし、夕飯前のおやつを頂きますか。

精神が肉体に引き摺られているからか、俺はルンルン気分で玄関の戸を開け――。

 

「あら~、定明。お帰り~♪」

 

「やぁ定明。お邪魔させてもらってるよ」

 

リビングでニコニコ微笑みながらソファーに座る母ちゃんと、何故かウチに馴染んでる相馬の姿を発見。

しかも相馬の手には俺が楽しみにしていたクレープの食べ掛けが握られている。

…………ふむ。

 

「ストレイ・キャット」

 

ドババッ!!

 

「たぶふぉ!?」

 

空気を操る猫草の能力で拳大の塊を撃ちだして、相馬の顔面にブチ当てた。

何でここに居るんだよテメエはぁ……しかも俺のクレープ食いやがって。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「先日、とうとう時空管理局が接触してきた」

 

リビングでの一騒動の後、場所を変えて町の河原まで来た相馬が本題を切り出す。

何でもあの温泉旅行の時から今日までに、計2回のジュエルシード発動があったらしく、その全てでテスタロッサと戦闘していたそうな。

1回目はテスタロッサが、2回目は例の時空管理局とやらが回収したらしい。

前に話していた宇宙規模の警察機関、時空管理局。

そいつ等がテスタロッサ達との戦いの最中に突然乱入し、場を収めてしまったそうだ。

勿論管理局が来たって事で、犯罪者側のテスタロッサ達は退却し、逆に通報していたユーノ達側は、管理局の連中が乗ってきた艦船アースラとか言うのに同行を願われたらしい。

今日俺に会いに来たのはその報告って訳だ。

 

「……なんつうか、幾ら何でもタイミングが良すぎじゃねぇか?」

 

ジュエルシードの封印が終わって、さあいざ戦おうって時になって乱入して場を勝手に収める。

偶然だったらどれだけ鮮やかな手腕だよって話だぞ?

俺の言葉を聞いた相馬は難しそうな表情で頷く。

 

「あぁ。少し問い詰めてみたら、俺達が封印するのを見計らっていたらしい」

 

「さっと横から漁夫の利を狙ってたって事か?まぁ未知の星で暴れる魔導師3人と2匹相手にするなら、確実性を取るのは定石か」

 

「そうだ。そのアースラの最大戦力は1人だけで……クロノという奴なんだけど、さすがに歴戦の魔導師でも確実性を取らないとマズイぐらいの力を俺達が持っていた上に、その場では第三勢力として介入する訳だろ?だから最悪、その場に居た面子全員と戦わなければいけないかも、ってリスクがあった所為でもあるからな……それと定明、正確には『4人と1匹』だぞ?」

 

「あ?なのはとお前とテスタロッサが人で、ユーノとアルフは匹だろーが?」

 

俺の計算に狂いは無い筈だ。

そう思って聞き返すと、相馬は何故か苦笑いを浮かべる。

 

「いや。実はユーノなんだが……人間なんだ。あのフェレットの姿は、変身魔法」

 

「……は?」

 

何言っちゃってんのコイツ?

余りにも現実離れした衝撃的事実に、俺は呆けた表情を浮かべてしまう。

俺がそういうリアクションを取るのを見越していたらしく、相馬はいまだ苦笑していた。

コイツの話によると、俺が偶にユーノに感じていた違和感は正しかったらしく、ユーノは地球にジュエルシードを追ってきた際に思念体と交戦した。

しかしユーノの実力不足、そして魔力が枯渇寸前だった事もあり、あっさりと深手を負わされたそうな。

俺はてっきり喋る事が出来る外来種の動物だと思ってたのに……まさか本当に人間だったとは……。

そして魔力の回復を優先させる為に、一時的にあのフェレットっぽい姿をとって回復を待っていた時に、なのはが助けてくれた、と……。

 

「……ユーノ、温泉で女湯に入ってたよな?」

 

「…………ああ」

 

俺が「うわ~」って表情で質問すると、相馬は表情を引き攣らせながら頷いた。

心なしか相馬の体は震え、しかも汗が出てる。

 

「……なのは、何か言ってたか?」

 

「……アースラの中でユーノが変身して、しかも男だって分かった時のなのはの表情は…………ハッキリ言って、思い出したくない」

 

「……」

 

「お、俺に向けられた感情じゃないのは分かってるんだ……でも、恐ろしかった。あ、頭がどうにかなりそうな気分を味わったよ」

 

「それは……なんとも……」

 

ブチキレて怒りを露わにする奴よりも、静かに怒るタイプの方がとても恐ろしい。

そう切実に語る相馬の表情は、何処か哀愁を感じさせる。

多分こいつ、「何であんな表情する子になったんだろう?」とか考えてるんだろうなぁ。

その表情をさせてるのは自分だって自覚が無い所がまた恐ろしい。

事件に進んで関わる所と言いこの鈍感スキルA++と言い……お前は何処の正義の味方になりたい奴だよ。

そんな想いを胸に隠しながらジト目で相馬を見てると、相馬はハッとして話を戻した。

 

「ん、んん。話を戻すぞ……それで、アースラの艦長のリンディさんという人との話し合いで、俺となのは、そしてユーノは管理局と共同戦線を張る事になった」

 

「共同戦線?」

 

俺の聞き返しに、相馬は一つ頷いてから言葉を続ける。

 

「元々、俺達は時空管理局が『全権を預かる』から身を引く様にと言われたんだが……リンディさんからは『一日、ゆっくりと考えて、それから改めて話そう』と言われたんだ」

 

「はぁ?……んん?……それって何かおかしくねえか?最初に全権を預かるから介入するなと言っておきながら、何で一日考える猶予を作る?そんなモン考えたって一緒だって言ってる様なもんじゃねえか」

 

相馬の語った内容に首を傾げながら、俺は質問を繰り返した。

いや、幾らなんでもこの問答の内容はおかしいだろ?

話の筋が全然繋がってねえにも程がある。

後からしゃしゃり出て何言ってんだってのもあるが、全権という事はつまり、今回のジュエルシード事件に関わる全てを受け持つって事だ。

なのに一日考える猶予を与えて話し合いに応じるってのは、どうにも矛盾が生じる。

何か……何か引っかかる物言いというか……。

 

「そう。そんな言い方をされたらそう思うよな?……これはつまり、一種の誘導だと思う」

 

「誘導?……どういうこった?」

 

「俺達に『介入を断る』と言っておきながら、猶予を与えて現状を整理させる為の誘導……いや、俺達に『妥協』させる為の口実、だ」

 

妥協……その言葉を聞いて、さっきまでの相馬との会話がリフレインする。

確か、アースラとかいう戦艦の最大戦力はクロノとか言う奴が1人。

確実に場を収め、ジュエルシードを回収するという堅実な手をとった理由はなんだったか?

それはその場で今にも戦闘をおっぱじめようとしている、アースラ最大戦力が警戒する魔導師達の存在。

相馬達が状況を話したのなら、テスタロッサとアルフが敵というのは承知してる筈だ。

にも関わらず、そんな強敵と互角に戦えるなのはや相馬達を簡単に手放す訳……。

 

「……一つはお前等の身の安全を本気で考慮してくれた。二つ目は、お前等っていう強力な戦力を『指揮下』に置いて、命令を守らせる事で戦力を増強しようとしたか。このどっちかか?」

 

俺は顎に手を当てたまま、自分の考えを吐露する。

俺としては一つ目が当たりなら良い人達だなーと思うんだが、二つ目の場合はおいおいって心境だな。

つまり、そこまで強い魔導師の介入を断るのなら、理由としてはさっき言った様に身の安全の為。

若しくは管理局という組織に協力させて、連携をスムーズにさせる為ってとこだろ。

俺の答えを聞いた相馬は重々しい表情で口を開く。

 

「俺の考えた答えと一緒だな……俺は後者の答えだと思ったんだ。だからその場でなのはとユーノに協力してもらって、俺達はその場で『じゃあここからは貴方達に全て任せます』と言って、一芝居打ったんだ。どういう反応をするのかなってさ」

 

「……で?結果は?」

 

「リンディさんは慌てて俺達を止めたよ。ならば協力してもらえないかってさ。あっと言う間に手の平を返されて、少しだけ笑ってしまったな」

 

悪戯が成功した様な悪どい笑みを浮かべながら、相馬は事の次第を語り始める。

さっきの話のクロノという奴とリンディさんという人は親子らしく、相馬達と話をしたのもこの二人だったらしい。

クロノの方はどうやら相馬達を心配してこの件から手を引く様に言ってたらしいが、リンディさんは違った。

リンディさんは本気で俺の考えた様に、相馬達を戦力として正式に引きこもうとしてたんだと。

前に相馬から時空管理局は就職するのに年齢は問わず、才能を重視するらしいけど……文化の違いとはいえアホかって話だな。

 

「尤も、リンディさんも俺達を完全に引き込もうとした訳じゃない。あの人も大人だから自分達の仕事は果たさなきゃならない。でもクロノはフェイト一人には勝てても、ジュエルシードの回収が遅れたり、他の横槍が無いか警戒しなきゃいけない。要は、明らかに高位の魔導師が不足してる状況なんだ。そんな状況だから、多少騙す形でも安全に危険物を回収出来る様にしなくちゃいけないっていう、仕事と板挟みにあった上で、苦渋の芝居を打ったんだ」

 

「まぁ確かに、大人には大人の都合があるんだろうが……それでも子供を騙してまでそれを遂行ってのは……なぁ?」

 

正直、そりゃ違うだろと言いたい。

でも次元世界を滅ぼしかねないジュエルシードの複数回収に襲いかかる強敵の事を考えたら、仕方無えのかも知れねえが……納得出来ねえ。

相馬の言葉に、俺は苦虫を噛んだ表情を向けるが、相馬もそれを苦笑いで受け止めるしかない。

 

「それで、だ。俺となのはは明日から暫く学校を休んで、ジュエルシード捜索に協力する。忙しくなる前にそれをお前に伝えておこうと思ってな」

 

「そりゃありがとうよ」

 

「いや。俺達の秘密を知ってる定明にはちゃんと言っておきたかっただけさ。お前もジュエルシードに巻き込まれた被害者で、暴走を止める為に戦ったんだしな……それじゃあ、行くよ」

 

「ああ。態々すまねえ……気ぃ付けろよ?」

 

戦いに向かうのは良いが、死んだりすんじゃねえって意味を込めて、俺は相馬に忠告する。

大抵の傷なら俺がクレイジーダイヤモンドで治してやれるが、死んじまったらそうもいかねえ。

幾ら俺が事なかれ主義でも、折角遊ぶようになった友達の心配くらいはするさ。

その言葉を聞いた相馬は笑顔を浮かべながら「任せろ」と言い、手を振って去って行った。

俺も夕飯が迫ってる時間だったので、帰る為に歩を進める。

 

「しかし……こうなるとテスタロッサとアルフがこれからどう動くかが気になるな」

 

夕焼けに染まる河原を見ながら、俺はそう呟く。

管理局、つまり警察が現れた事で、テスタロッサは一気に窮地に立たされた筈だ。

俺がアトゥム神の能力で得た情報を考えれば、テスタロッサは今以上のバックアップは受けられない。

相馬から聞いたテスタロッサ家の事情を鑑みても、それは確実の筈。

こうなりゃ普通は撤退して身を隠し、ジュエルシードを諦めるものだが……。

 

「良くも悪くも、テスタロッサは真っ直ぐで超が付く程に頑固者だし……あの時の俺への態度を考えりゃ、多分諦める事は無えか」

 

自身の身を拘束されながらも、デバイスを取り上げられた絶望的な状況でも一切諦めを見せなかったテスタロッサ。

あの目は、目的の為に自分の全てを投げ打つ覚悟を決めた奴の目だ。

一つの目的の為に……親の為にああまで頑張る姿は、第三者に何を言われても止める事は無いだろう。

あー、くそ……やっぱあの時に強引にでも止めておくべきだったか?

でもあの状況で俺の言葉を聞いたとも思えねえし、何よりテスタロッサを庇ってこっちに火の粉が飛び火すんのは避けてえ。

俺にだって守るべき家族や友達が居るんだ……進んで火中の栗を拾いに行く気は無い。

 

「でも、これって完全にテスタロッサを見捨てる発言だよなぁ……クソッ、後味が悪い……ムカムカするぜ……」

 

本心で言えば、俺はテスタロッサに何かをしてやりてえ気持ちはある。

しかしそれをする為には、俺は『覚悟』しなくちゃならない。

俺がテスタロッサを助けるために動く事で、家族が危険に晒されるかも知れないっていう覚悟を。

それが出来ないから、俺は今もこうして燻ってるんだ。

だから、俺自身に火の粉が降りかから無い程度の範囲で助力する事で……俺は、誰かを助けられたっていう満足を得てるんだろう。

アリサ達を助けたのは、自分自身が完全に巻き込まれたという背水の陣だったからというのも少なからずあった。

自分の事ながら反吐がでるぜ……俺には、こんなにも強い力があるってのによぉ。

芳しくない表情を浮かべながら、立ち止まって自分の手のひらを見つめる。

その手に平から少しズレた位置に、俺はスタープラチナの手を出してジッと見つめた。

確かに、俺にはジョジョの世界で活躍したスタンド達の全てが内包されている。

善も悪も全てを超えて、俺の力として。

だが、それはあくまで力だけに過ぎない。

使い方次第で、俺はどっちにでも傾く程に強大だが、使わなければ傾かない。

そして何より、俺は俺が憧れたジョジョの登場人物……いや、歴代のジョジョと仲間達には遠く及ばない勇気しか無い。

俺がこんな力を持ちながらも誰かを助ける為に踏み出せないのは、自分自身の勇気の無さが原因だ。

家族と友達を守る為にと考えれば、幾らでも勇気が湧いてくるのに、他人の為にはそれが出来ない。

……いや…………平穏な生活を望む俺自身が勇気なんて物を持てるなんて考えるのもおこがましいか。

 

「幾ら強くても、勇気が無ければノミと同類、か……全くもってその通りッスよ、ツェペリさん」

 

偉大な言葉を遺したモンだぜ、ウィル・A・ツェペリって人は。

自身の情けなさに自嘲しながら、俺は家へと戻ってきた。

足取りは重いが、なるべく不自然にならない様に扉を開けて挨拶をする。

 

「ただいまー」

 

「あっ、お帰り~♪……どうしたの~定明~?」

 

「え?」

 

何時もの様に挨拶して、それに返事してくれた母ちゃんだが、何故か俺を見ると首を傾げる。

 

「何か、悩みでもあるんでしょ~?そんな顔をしてるわ~」

 

その質問にドキリ、と心臓が高鳴るが、それを悟らせる訳にはいかない。

俺自身のこんなちっぽけな悩みで、母ちゃんの手を煩わせるのは嫌だ。

だから俺は、何時もと変わらない態度を装った。

 

「何でも無えって。それより今晩の飯は何?俺ちょっと外で運動してきたから腹減って――」

 

「嘘でしょ~?」

 

ピタッ。

 

そんな擬音と共に、俺は動きを止めてしまった。

目の前で床に膝をついて俺と視線を合わせる母ちゃんの目が、俺をじっと射抜いていたからだ。

 

「ふふ~ん。お母さんを舐めちゃあ駄目だぞ~。自分の息子なんだから、それぐらい判っちゃうのです♪」

 

「い、いや。だから俺は……」

 

「ん~?俺は~?」

 

「だ、だから……その、よ……」

 

目の前でニコニコ微笑む母ちゃんの顔を見てると、二の句が告げなくなってしまう。

何というか、逆らうという気概自体が小削ぎ落とされてしまうのだ。

そのまま何も言えない俺と何も言わない母ちゃんの間で、奇妙な沈黙が流れる。

……迂闊だった……そういえば母ちゃんは昔から、何気に鋭い所がある人だったぜ。

さて、どう言い訳したモンかと考えていると、何やらいきなり目の前が暗くなって――。

 

ギュウッ。

 

「ッ!?む、むごごッ!?」

 

「んふふ~♪久しぶりの定明だぁ~♪……ん~♪やっぱり可愛いわ~♪」

 

満面の笑みを浮かべる母ちゃんに、思いっ切りハグされていた。

しかも俺の呼吸路を塞ぐ様に胸元に抑え付けられて苦しい……苦しい……んだが……。

 

「ぐ、ぐう……」

 

「ふふ♪お母さん必殺、愛のスペシャルホ~ルド。気持ち良いでしょ~?」

 

そんな事を楽しそうに言いながら俺の頭を撫でる母ちゃん。

だがハッキリ言おう。

断じて、断じて気持ち良い訳じゃ無え。

ただ何ていうか、その……自然と心が落ち着くというか……安らぐ匂いがするというか……。

結局の所、自分の抗おうって気持ちが削がれてしまうのである。

そのままなし崩し的に母ちゃんにされるがままにされているのと、不意に母ちゃんが静かな口調で語り始めた。

 

「はぁ……こうしていられるのは、何時以来かしら……定明。お母さん離れ早かったもんね~?」

 

「……」

 

「小学校に上がって直ぐ……ぐらいから、全然甘えてくれなくなっちゃって……お母さん。とっても寂しかったのよ?」

 

「……ゴメン」

 

母ちゃんの言葉が、本当に悲しそうな声音が俺の胸に突き刺さる。

俺が母ちゃんに甘えなくなったのは、やっぱ前世と換算した精神年齢の所為だろう。

やっぱりそれもあって甘えるのが段々と気恥ずかしくなっちまったからだ。

 

「ううん、それは良いの。無理に甘えさせる方が悪いわ……ねえ?覚えてる、定明?昔、お母さんが二階の階段から足を踏み外しちゃった時の事?」

 

母ちゃんに頭を撫でられながら、俺は母ちゃんの質問に頷いて肯定する。

忘れるもんか。あん時は本気で肝が冷えたんだから。

俺が小学校一年の時に、母ちゃんは二階に沢山のガラス陶器を抱えて運んでた事があった。

そんで二階の最上段で足を滑らせて、そのまま一階の階段前まで真っ逆さまに落ちてきたんだ。

俺はその時何か嫌な予感がして、一階の階段の所から母ちゃんを見ていた。

そして、母ちゃんが二階に上がって安心した時に、キング・クリムゾンのエピタフでその先の未来が見えてしまった。

 

 

 

――体中にガラスが刺さり、血だらけで倒れ伏す――虚ろな目をした母ちゃんの姿を。

 

 

 

……気付いた時には、既に母ちゃんは宙を舞っていた。

俺はその時、無我夢中でスタープラチナを発動して、時を止めて未来を変えた。

あの時は無我夢中だったが、後にして思えば、あれはスタンドの能力の本質を俺の本能が理解した故の行動だったと思う。

キング・クリムゾンは時間を飛ばしてる中で、自分以外の物体には干渉出来ないからな。

落ちてくる母ちゃんをガラスの当たらない場所に避難させて、時間を止めた中で母ちゃんの体を一階の廊下に降ろし、ガラスが母ちゃんに当たらない様に弾き飛ばして……

 

「あの時、絶対に助からないなぁって思ってたのに、不思議な事が起こったわ……気付いたら、私は一階の床に座っていて、ガラスの破片は全て私を避ける様に散乱してて……定明が必死に私に怪我は無いか聞いてくるんですもの」

 

「……不思議、だったよな」

 

「ええ。ホントに不思議だったわ……でもそのお蔭で、定明がお母さんの事を本気で心配してくれてる、とっても優しい子だって分かったんですもの♪あの出来事には感謝してるわ」

 

「よしてくれよ……あんな肝が冷える光景は……もう、見たくねえ」

 

嬉しそうに語る母ちゃんに、俺は何時もなら出さない様な弱い声で注意する。

本当に、この世界で生きてて一番怖い光景だった。

こんな俺を無常の愛で包んでくれる家族の死ぬ光景……怖くない筈があるか。

俺だけじゃなくて、父ちゃんだって悲しむ。

だから、俺がこの力で未来を変えられた時は本当に嬉しかった。

そう思っていると、不意に俺を抱き締める母ちゃんの腕に力が籠もる。

 

「そうね。あんな体験はもう懲り懲り……だけど、あの時初めて……あなたと心が通じ合った感覚があったわ♪幾ら早熟でも、母親の私をすっごく心配してくれる優しい心……あぁ、この子がどれだけ人と違っても、やっぱり私の自慢の息子なんだってね♪」

 

「ッ!?」

 

そこで初めて、俺は俯けていた顔を上げて母ちゃんの顔を見た。

……何時もと変わらない、いや何時も以上に俺の事を思ってくれてる、聖母の様な微笑みを浮かべる母ちゃん。

そこには確かに、母親としての優しさがあった。

 

「定明が何に悩んでるかは分からないけど……定明の思う通りにしてみなさい。それが例えどんな選択であっても、後悔しない様に生きてくれれば……私は、貴方の事を誇りに思うわ」

 

母ちゃんはそう締め括って、俺の頭を撫で続ける。

……どんな選択でも、後悔しない様に、か……参ったなぁ。

俺はこの偉大な母親の胸に、今だけ甘える事にした。

普段から全く甘えなかった俺が抱きついたのが嬉しかったのか、母ちゃんは上機嫌に俺を撫で続ける。

そんな事言われたらよぉ……なりたくなっちまうじゃねえか……自慢の息子に、よぉ。

何時もの俺らしくない熱血な想いを胸に抱きながら、俺は母ちゃんとの親子の絆を確かめたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

あの日から数日が経った金曜日の放課後。

俺は普段と同じ様にリサリサと別れて、明日からのニ連休にウキウキしながら、家への帰宅路を歩いている。

相馬達はやはり学校には来ていないらしく、俺にもアリサから学校に行ってるのか電話が来たぐらいだ。

どうにも学校に来なくなる前のなのはが何かで悩んでいた事を察していたらしく、すずかと一緒に心配しているという事だ。

意外にもその事を問い詰めたりはしなかったらしいが、隠し事をしてるのは自分達も同じだからと言っていた。

アリサとすずかは自分達が超常的なスタンド能力を扱うスタンド使いになった事をなのはに話していない。

すずかは夜の一族の事もあるしな。

だからこそ、話せない悩みを無理に聞き出そうとか、教えてくれないから怒るなんて事はせずに何時か話してくれる時を待つそうだ。

まぁ、向こうの秘密もかなり凄いよな、魔法とか次元世界とか。

兎に角、俺が関わってないならそんなに心配は無いとかで電話は終わったけど……それって俺が一緒だと心配って事かよ?

いや確かに荒事に首を突っ込んでる自覚はあるけど……自称平凡なんだけどなぁ、俺は。

 

「ままならねえモンだな……フゥ」

 

俺はランドセルを背負ったまま、帰宅路の途中で立ち止まっていた。

別に止まりたかった訳じゃ無えが、止まらなきゃならねえ理由が道路に『倒れてる』んで仕方無く、だ。

 

「う、うぅ…………フ、フェイ……ト……」

 

「あぁ、ままならねえもんだよ。ったく……おい。しっかりしろ、アルフ。今治してやる」

 

俺は溜息を吐きながらクレイジーダイヤモンドを出現させ、傷だらけで満身創痍のアルフを治した。

体の痛みが無くなった事で気が楽になったのか、アルフはそのまま眠りに着いてしまう。

ってオイ、こんな道路の真ん中で寝るんじゃねえよ。警察とかに見つかったらどうすりゃ良いってんだ。

見つかったら普通に通報か救急車、最悪なら見た目は美女のアルフに欲望をぶつけようとする馬鹿が現れるだろう。

って事はつまり、俺がどうにかしなきゃいけねえ訳かよ。

 

「……はぁ。仕方無えな……こい、『グーグー・ドールズ』」

 

ズギュンッ!!

 

『グギッ!!』

 

「アルフを小さくしろ。手の平より少し大きい位で良い」

 

『ク、グギャッ!!』

 

命令すると、目の前で地面に倒れ伏していたアルフの体が一気に小さくなり、俺の指定したサイズまで縮んだ所で止まる。

呼びかけに応じて現れたのは、ちょっと大きい人形くらいのサイズのスタンド、『グーグー・ドールズ』だ。

愛らしさは皆無なブリキの作り物の様な、『ヘイ・ヤー』とは違う不気味さの漂うスタンドで、能力も丸っきり違う。

こいつは指定した自分以外の人間を一人だけ小さくする事が出来る。

俺から離れると徐々に元へ戻ってしまうが、そこからがグーグー・ドールズの出番。

対象者が本体の意思に反する行動をとると自動的に殺害する。

スタンド使いでも無けちゃ、グーグー・ドールズから逃げるのは不可能って事だ。

尤もスタンド使いじゃなきゃ見えないんだからどうしようも無いか。

俺は小さくしたアルフを優しく手に持ち、なるべく揺らさない様に家へと連れ帰った。

 

「良し。もう良いぞグーグー・ドールズ」

 

能力を解除すると、ベットに寝かせたアルフが一気に大きくなって現れる。

相当疲れが溜まっていたのか、まだスヤスヤと眠っている様だ。

 

「ったく、人の気も知らねえで……呑気なモンだぜ」

 

ヤレヤレと首を振りながら、俺はエニグマの紙をファイルした物を引っ張り出す。

これは過去に俺が保存しておこうと思った物がファイルされた紙だ。

当然、中には飲食物なんかも含まれてる。

ぶっちゃけ料理の出来ない俺が何かあって腹が減った時用のなんだがな。

スタンド本体の併用は出来なくとも、能力で固定した物は消えないのが便利な所だ。

例を挙げるなら、ゴールド・エクスペリエンスで生物を生み出してから他のスタンドを使っても、生まれた生命は消えないだな。

その辺のON-OFFは俺の裁量で決められる。

 

「しっかし、良く寝てんなぁコイツ」

 

エニグマの紙から取り出したオレンジジュースを飲みつつ、ベットに眠るアルフへ視線を向ける。

どうやら安心出来る夢を見ている様で、口元が嬉しそうに弧を描いていた。

果てさて、一体どんな楽しい夢を――。

 

「ううーん……ジョジョぉ……サンドイッチ買ってこーい……不味かったらぁ……承知しないかんねぇ……zzz」

 

「……(ピクピク)」

 

余りにもふざけた寝言をほざく笑顔のアルフ。

その寝言を聞かされた俺はもぉ、左瞼がピクピクと痙攣してきてる。

……落ち着け……所詮は夢。有り得ない妄想の類で――。

 

 

 

「えへへ……ジョジョはアタシのぉ……ペットだぁ……扱き使ってやるよぉ……zzz」

 

 

 

「――DEATH13」

 

『ラリホ~♪』

 

 

 

数分後、アルフは涙を流して絶叫しながら飛び起きた。

両親が買い物と仕事に行ってて良かったぜ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「んで?何でテメーはあんな道端で、しかも傷だらけで倒れてたんだ?」

 

その後、半狂乱になりかけてたアルフを何とか慰めて、静かにさせる事に成功。

そんなに酷い夢見だったか?

夢の中で食べようとしてたパンを全て虫に変えただけなんだが……いや、普通に怖いか。

とりあえずそんなこんなもあったが丸く収めて、今は何故アルフがあそこに居たのかを聞いてるのだが……。

 

「……」

 

「……黙ってちゃ分かんねえぞ?何か言えない理由でもあんのか?」

 

「……」

 

少しイラッとしながらも質問を重ねるが、アルフは俯いてばかりで答えようとしない。

何やら俺の姿を見て諦めた感じもある。

さっきからずぅっとこの調子で、もういい加減放っておこうかと思ったぐらいだ。

 

「……ジョジョは」

 

「あん?」

 

アルフは憔悴した表情を浮かべながらもやっと顔を上げて、俺に視線を合わせてきた。

 

「ジョジョは……管理局の味方なんだろ?」

 

「は?……何でそうなる?」

 

「だ、だってさ……あんたの言ってたジュエルシードを探してる友達ってあいつ等だろ?あの白い服の女の子と、黒い服の男の子」

 

「……相馬となのはの事か?」

 

白と黒で思い当たるのは、戦闘服に着替えたなのはと相馬の姿だけだ。

俺の質問に対してコクッと頷きながら、アルフが更に言葉を続ける。

 

「あの子達は、管理局に味方した……って事は、あいつ等と友達のアンタだって――」

 

「いやいや。そんなもん俺には関係無え話だ」

 

「……え?」

 

「だから、俺には関係の無え話だってんだ。大体、俺がこんな力を持ってるのを知ってるのは、向こうじゃ相馬だけだ。管理局には言うなって言ってあるぜ?」

 

俺の言葉を信じられないといった表情で聞くアルフに、俺は再度言葉を重ねる。

そもそも何であいつ等と友達=管理局の味方になるんだよ。

その方程式はおかし過ぎんだろうに。

 

「それにあの時も俺は言ったぞ?俺がジュエルシードを探してたのは、俺の町にあったら俺のダチや家族が傷つく可能性があったからだって。別に俺としちゃあ、お前等だろーが管理局だろーが、兎に角その危ない品物を地球から持ち出してくれれば良かっただけの事なんだよ」

 

俺は一息で言いたい事を言って再び飲み物に口を付ける。

っていうか俺的に管理局に協力とかマジする気ねえ。

相馬から管理局の話をされた時にすらマイナスイメージだったのに、今回のリンディさんとかいう人の話でマイナスになったわ。

特に協力しても俺にはメリットが無いから、今の所は勝手にしてくれって感じだ。

そして俺の言葉を聞いたアルフはというと、正に目から鱗って感じの顔をしてるではないか。

 

「……じ、じゃあさ……あんたはアタシを、管理局に引き渡したりしないんだね?」

 

「するかよ。大体コンタクトの取り方も知らねえし、俺の方が会うのはゴメンなんだって――」

 

ガバッ!!!

 

「……おい……そりゃあ何の真似だ?」

 

俺が無害と知るや否や、アルフは俺に向かって床に座って額を擦りつけた。

それはつまり、アルフは俺に土下座をしてるって事だ。

当然、いきなりそんな事されても俺には何が何だか分からないので、俺はアルフに質問した。

 

「……お願いだ……フェイトを助けて……ッ!!お願いだ、ジョジョッ!!」

 

「……そりゃ何か?時空管理局からか?」

 

またぞろブッ飛んだ頼み事をされたモンだが、直ぐには頷けない。

だから俺はここで、アルフの真意を聞く事にした。

俺が難しい顔をしながら問えば、アルフは額を床につけたままに首を横に振る。

 

「何もかもからだ……管理局からも……今、無理矢理やらされてるジュエルシード探しからも……あの……鬼婆からもッ!!!」

 

「……鬼婆?」

 

俺は「母親の事か?」と聞きたいのを我慢して、アルフに聞き返す。

アルフの言う鬼婆ってのは、十中八九プレシア・テスタロッサの事だろう。

だが、俺はそれを知ってるってのを勘付かれる訳にはいかない。

何故俺がそれを知ってるのかってややこしい事態になっちまうから。

 

「……フェイトの、母親のプレシア・テスタロッサの事だよ……アイツ、フェイトがやりたくもないジュエルシード探しを押し付けて……見つけても、「遅い」って鞭で酷い事して……見つからなかったら、もっと酷い目に合わされてるんだ……ッ!!」

 

「……」

 

「グスッ……この前なんか、フェイトが……疲れた体には、甘いモノが良いって知って……地球で買ったケーキを持っていったのに……そのお礼が、鞭で血が出るまで叩くだなんて……あんまりじゃないかぁ……ッ!!あの、子が……何をしたって言うんだよぉ……ッ!!」

 

涙声……いや、泣きながら、そしてしゃくりあげながら語られた真実は、余りにも酷いモノだった。

母親が子に行う仕打ちじゃねえ……。

アルフはうずくまったまま、悔しそうに拳を握りしめて涙を流す。

例え手の平が裂けて血が流れようとも、アルフはお構い無しだ。

 

「アタシは遂に我慢出来なくなって……1人でプレシアに戦いを挑んだ……それでこの様さ……殺されそうなギリギリのトコで、何とか転移して地球に来たんだ」

 

「それで、俺が現れたって訳か……」

 

あんな道路の真ん中で倒れていた理由を察すると、アルフは涙でグシャグシャになった顔で俺に詰め寄る。

感情の制御が出来てねえのか、俺の肩を握る手に力が篭っていく。

 

「アタシはただ、フェイトに幸せになって欲しいだけなんだッ!!……でも、フェイトは自分の事を蔑ろにするばっかりで、全然判ってくれない……ッ!!もうアタシ1人じゃ、どうにも出来ないんだ……ッ!!」

 

「……」

 

「お願いだよぉ……ッ!!フェイトを、助けてくれ……アタシに出来る事ならなんだってやる。管理局に身代わりで逮捕されろっていうならそうする。鬼婆と戦う盾になれっていうならそうする。だからッ!!」

 

 

 

「あの子を助けてよッ!!――ジョジョォッ!!」

 

 

 

アルフは目から流れ落ちる涙もそのままに、必死な表情で俺に言葉を掛ける。

俺はそんなアルフの瞳の中に……ダイヤモンドの様に固い決意を持つ『気高さ』を見た。

間違いなく、俺が死ねって言ったらそれを実行するって目だ。

目は口程にものを語るってのはこういう事だろう。

やれやれ……流されねえ、つもりだったんだがなぁ……それでもまぁ、『後悔』するよりマシか。

何より形だけとはいえ、『あの人達』と同じ名前を拝命してるからにゃ、ここで動かなきゃ嘘だろ?

それにどっちみち、俺にはプレシア・テスタロッサのやろうとしてる事をブッ壊す必要がある。

大事な友達、家族、そして俺自身の平穏な生活を守るために。

俺は肩を掴むアルフの手を解いて立ち上がり、エニグマのファイルからありったけの武器を取り出す。

良し、これで準備は万端だな。

 

「……あの……駄目、かい?……やっぱり、アンタは巻き込まれるのが嫌だよね?」

 

と、俺が手を解いて背を向けたのが拒否だと思ったのか、アルフは再び涙を流して絶望に染まった表情を浮かべる。

やっべ、対応の仕方間違えたか。

誤解させちまったお詫びにと、アルフの手にクレイジーダイヤモンドの手を当てて治す。

 

「え?……あっ……ジ、ジョジョ?」

 

「ほら。怪我は治したんだ。早いトコ出かける用意しろよ。アルフが居なきゃ、俺は何処に殴りこんだら良いか分かんねーじゃねーか」

 

「ッ!?い、一緒に戦ってくれるんだねッ!?ホントにッ!?」

 

「だからそう言ってんじゃねーか。ほら、早く行こうぜ……行き過ぎた教育ママに、お仕置きしによ?」

 

「あ、あぁッ!!」

 

俺の返事を聞いたアルフは嬉しそうに目を輝かせながら、俺の後を着いて階段を降りてくる。

さあて、いっちょやるとしますかね。

意気揚々と玄関まで降りると、そこにはちょうど買い物から帰ってきた母ちゃんの姿があった。

 

「ただいま~、定明~♪今日はお母さん特製のポトフ……あら~?お客さん~?」

 

「ん。お帰り母ちゃん。すまねぇけど、今からちょっと出てくるわ」

 

「え~?こんな時間に何処行くつもり~?」

 

今から出かける旨を伝えると、母ちゃんは少し眉を吊り上げて怒ってますという表情を浮かべる。

まぁ元々が童顔な人なのでこれっぽっちも怖く無えんだが。

しかし母ちゃんから貰った言葉を無駄にしたくは無えので、俺は引くつもりは無い。

俺は「ゴメン。なるべく早く戻るわ」とだけ伝え、アルフを伴って外へ出た。

俺の隣に並ぶアルフは少し申し訳無さそうにしてるが、これは俺が決めた事だから別にとやかく言うつもりは無い。

 

「定明~。せめて何処に行くのか言いなさ~い」

 

と、振り返れば玄関から身を乗り出して俺に声を送る母ちゃんの姿が。

何処へ、か。そういえば考えてなかったな……ん~。

 

「あ~……ちょっくら、地球を救ってくるわ」

 

「ちょっ!?」

 

中々良い言い訳が出てこなかったので、俺自身の目的を伝えると、隣のアルフが焦ってた。

まぁ普通はこんな言い訳はナンセンスだよな。

けれど……。

 

「……ふ~ん?……うん♪カッコイイ顔になってる♪……気を付けて行くのよ~♪ポトフが冷める前に帰ってきなさ~い」

 

「お~う。行ってきま~す」

 

 

 

 

 

これが通じちまうんだよな、ウチの母ちゃんは。

 

 

 

 





何でこんなクソ真面目にシリアスったんだ俺は……ッ!!


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几帳面な性格でねーー この順番に必ずやると言ったらや(ry


遅くなった上に話が短くてすいません。

更に今回はキャラ崩壊が激しいです。

ノーマルからプッツンした仗助並みにwww


「んで?児童相談所も真っ青な教育方針を取ってるテスタロッサの母親は何処に居るんだよ?」

 

俺は家から遠ざかって人気の無い公園の近くまで来てからアルフに質問する。

とりあえず意気込んで出てきたは良いけど、何処へ向かえば良いのかさっぱりな状況だ。

俺の質問を聞いたアルフは真剣な表情を浮かべながら口を開く。

 

「鬼ババが居るのは、時の庭園っていう次元を移動できる庭園だ。元々アタシとフェイトも其処に住んでて、此処から行くには転移魔法を使わないと…………あ」

 

「……どうした?」

 

と、真剣な表情で情報提供していたアルフが突然固まり、如何にも「やばい」という表情を浮かべる。

訝しんで質問するもアルフは答えず、少し冷や汗の様なものが流れているではないか。

……おいおい、もしかして……。

 

「……まさかとは思うがよぉ。行き方が分からねえなんて犬も喰わねえオチ、じゃねえだろーな?」

 

「……」

 

「……」

 

「………………実は……」

 

「帰るわ」

 

クルリ、と踵を返して我が家へと歩を進める。

確か今日は母ちゃん特製のポトフだって言ってたし、早く帰るとしよう。

しかしそんな俺の足にアルフが人間形態で必死にしがみついてくる。ええい、離せダボが。

 

「ま、待ってよぉッ!!お願いだからアタシを見捨てないでぇえええッ!!」

 

「やかましいッ!!必死こいて頼み込まれたから付き合おうと思ったのに、行き方が分かんねえとか巫山戯んなッ!!しかもそんな誤解を招きそうな台詞を大声で言うんじゃねえッ!!」

 

涙をボロボロ零しながらしがみつくアルフに怒鳴りつつ、俺は人に見えない様に茂みの中へアルフを引き摺って隠れた。

まさかこんな事の為に波紋を使って身体強化を施す羽目になろうとは……。

近所の人に聞かれたら、只でさえ最近アリサ達と遊ぶ様になって下降気味な俺のマダム評判が大変な事になっちまう。

そんな事になったら俺の平穏な生活の基盤がパーだ。

と、俺が怒ったのが堪えたのか、アルフは恥も外聞も無くワンワンと泣き喚く。

 

「しょうがないだろぉッ!!何時もはフェイトが次元座標を読み上げてくれてたけど、長ったらしくて覚えてなかったんだよぉうッ!!」

 

「完全にお前の自業自得じゃねぇかッ!!何で俺がンな事で泣きつかれなきゃ……って、待てよ?」

 

「ぐすっ……な、なんだよぅ……」

 

「……今思ったんだが、アルフはテスタロッサがその座標とかいうのを読み上げるのは聞いてた(・・・・)って事だよな?」

 

少し聞き逃せない一言を聞いて、俺は自身の気持ちを落ち着かせながらアルフに質問する。

それを聞いたアルフはぐずりながらも目から流れる涙を拭い、しゃくりながら言葉を口にした。

 

「そ、そりゃ、アタシも一緒に居ないと転移出来ないし……い、一応聞いてたけどさぁ。座標自体が凄く長かったから、思い出せないんだよぅ……」

 

「いや。お前が聞いてたっていう事実(・・)があるなら大丈夫だ(・・・・)、何も問題は無え(・・・・・)

 

「……ふぇ?」

 

危ねえ危ねえ。もしもこれが心の中で唱えられる呪文とかだったらどうしようもなかったけど、今の話なら大丈夫だ。

例えアルフがその記憶を思い出せなくても、聞いていたならアルフ自身の中に『記録』されているんだから。

泣きながらも首を傾げるアルフの目の前で、俺はスタンド能力を発現する。

 

「『天国の扉(ヘブンズ・ドアー)』。アルフを『本』にしろ」

 

バァアアアンッ!!

 

紡いだ言霊のままに、ハットを被った少年のスタンドが手をアルフを指さす。

すると、アルフの肘辺りまでの腕が輪切りの巻物の様に変化した。

最初は良く分かっていない様な顔で巻物になった自分の腕を呆然と見下ろしていたアルフだが――。

 

「…………うわああああああーーーッ!?な、なんだよこれーーーーッ!?アタシの腕がぁああーーーッ!?」

 

「うるせえなぁ……直ぐに元に戻してやるから、少し黙って静かに待ってろ」

 

「も、元に戻すってッ!?アンタあたしに何をしたんだよッ!?」

 

まるで雑誌の様な文面に変化した己の腕を見て半狂乱するアルフに声を掛けながら、俺はしゃがみこんで文面に目を落とす。

天国の扉(ヘブンズ・ドアー)は本人が覚えていない些細な事柄でも、その記録を文章にしてくれるのだ。

記憶が思い出せないのは、脳が記憶してる膨大な記憶容量の中からその事柄を正確に引き出せないからと言われている。

しかし天国の扉(ヘブンズ・ドアー)が読ませてくれるのは本人の『記憶』では無く、本人の体験した『記録』だ。

本人ですら朧気な記憶を本という体験誌にする事で正確な情報が得られるという訳だ。

 

「えっと……お?あったぜ。これじゃねえか?次元転移、次元座標の後に数字が続く長い言葉だ。記録には確かにテスタロッサが唱えたと書いてある」

 

「そ、それだッ!!アタシが転移魔法を起動しながらそれを読めば、時の庭園に転移出来るよッ!!」

 

「良し。それじゃあ頼むぞ」

 

「まっかせときなッ!!……次元転移。次元座標876C――」

 

意気揚々と気合を入れたアルフはバラけた腕の事なんか忘れたって具合に誌面を読んで言葉を発す。

この仕事は魔法の心得えが無い俺では出来ない仕事だ。

だから俺はアルフの邪魔をしない様に静かに見守る。

 

「4419―3312―D699―3583―A1460―779―F3125.」

 

アルフの唱える座標に従い、オレンジ色の魔法陣が俺達の足元に現れる。

俺はそれを見守りながら何があっても対応出来る様に、ガンベルトから鉄球を取り出し、両手で回転を掛けて構える。

さすがに向こうに転移して直ぐにバトル、だなんて事にはならないとは思うが、かといって話し合いの通じる相手でも無い。

ならばしないよりも、用心に越した事は無えだろう。

等々詠唱も大詰めなんおか、アルフは俺にチラッと視線を向けて準備を問うてくる。

俺がその視線に頷くと、アルフは更に詠唱を続けた。

 

「開け、誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主の元へ――」

 

最後の詠唱と共に魔法陣の端から光がグルリと円を描き、俺達を包み込む。

 

 

 

さて、ちと面倒だが戦うとするか。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

時間にして十数秒ぐらいだろうか。

オレンジ色に輝くドームの中に居た俺達だが、少ししてそのドームが開かれ、視界が切り替わる。

俺の視界に見えるのは、荒廃した地面と、何とも言えない気色悪い色合いの空だ。

あんまり良い気分の場所じゃねぇな。

注意深く辺りを見回すが、コレといって敵はいないらしい。

それを確認して、直ぐに天国の扉(ヘブンズ・ドアー)の能力を解除。

バラバラになっていたアルフの腕は元通りになった。

腕を動かして調子を確かめるアルフを尻目に、俺は鉄球を回転させたまま『エアロスミス』を呼び出す。

 

「(……近くには、これといって呼吸の反応は無いな)アルフ、ここは時の庭園のどこら辺だ?」

 

「えっと、ここは正門の近くだよ……プレシアはあっちの建物の中だと思う」

 

腕の確認を終えたアルフが俺と同じ様に警戒しながらも、俺の背後を指差した。

それに従って振り返ると、大きな山の様な場所にデカデカとした門が配置されていた。

俺よりも先に歩き出したアルフの後を追いつつ、エアロスミスを俺達の周りで旋回させる。

ってあれ?そういえばさっきからレーダー見てるけど、目の前のアルフ以外に全く反応が無い?

 

「アルフ。ここには何人の人間が住んでるんだ?」

 

「ここにはアタシとフェイト、それから鬼婆以外は誰も住んでないよ……昔はもう一人居たんだけどね……それが何だい?」

 

「ああ。そうなると、俺達が戦う相手はそのプレシアのみって事で良いんだよな?」

 

何か住人の話になった時に寂しそうで悲しそうな表情を浮かべていたが、アルフは直ぐに切り換えて質問を返してきた。

俺も特に追及するつもりも無く、そのまま質問を続ける。

最初からそのつもりだったんだけど、これだけ規模のデカイ場所に住んでるなら他にも相手が居るかもって考えちまったからな。

しかし住んでる人間が3人だけだと言った筈のアルフが、俺の言葉を否定する。

 

「いや。ここにはプレシアの作った魔導人形が大量にある。一体一体はそんなに強力じゃ無いけど、数でこられたらかなり厳しいね」

 

「人形……それはプレシアの指示で動くのか?」

 

「大元はそうだけど……フェイトが教えてくれた通りなら、この庭園の一番上にある魔導炉から魔力が供給されてると思う。だからもしプレシアを倒しても、一度命令を受け取った魔導人形は動きを止めない筈だよ」

 

苦々しい表情でそう伝えるアルフの言葉に、俺も舌打ちをする。

さすがにそりゃ厄介な上に邪魔臭いな……先に魔導とかいうのを止めて動きを封じた方が無難か?

なら正面から突入だなんて愚策は止めておこう。

 

「それじゃあ先に魔導炉とかいうのを何とかするぞ。ブッ壊しても問題は無えか?」

 

「う、うん。それは良いんだけどさ……それには一旦中に入らないといけないし、魔力を使ったら最悪見つかる可能性もあるから、飛行魔法も使えないよ?どうする?」

 

「それなら大丈夫だ。魔力を使わずに行く方法はあるからよ」

 

俺の確認の言葉に頷いて肯定したアルフを見てから、俺はエアロスミスを引っ込める。

アルフの話じゃこの庭園の一番上にあるらしいし、まずは上までいかねぇとな。

俺は建物の壁まで歩み寄って、その壁をスタンドの手で触れる。

すると、壁にスタンド使いにしか見えない大きな取っ手が取り付けられた。

それを確認してから、俺はアルフを手招きで呼んだ。

 

「アルフ、俺にしがみつけ。さすがに俺の手じゃしっかりと固定出来ねえ」

 

「??……何をすんのさ?」

 

「いいから早くしろって。管理局もテスタロッサに目ぇ付けてんだし、時間は無駄に出来ねえだろーが」

 

「わ、分かったよ……これで良いかい?」

 

俺の腰に両手を回してしっかりと体を固定したアルフを確認して、俺は壁に取り付けた『ジッパー』を握りしめる。

さぁ、いくぞ。

 

「良し……閉じろ、ジッパー」

 

ズビィイイイイイイッ!!

 

「わわっわわわッ!?は、はや……ッ!?」

 

しっかりと体を固定した状態で命じれば、俺の握る取っ手の下にあったジッパーが素早い速度で閉まり、俺達の体は急速に壁面を駆け上がり始めた。

俺の腰にしがみつくアルフの驚きに満ちた声が聞こえるが、それを気にせずにドンドンとジッパーを閉じる。

体の各部にジッパーを付けた人型スタンド、『スティッキィ・フィンガーズ』の能力がこれだ。

拳で触れたありとあらゆる場所にジッパーを取り付け、切断、接着と、かなり応用力の広さがある。

こんな風に壁面に取り付けたジッパーを閉じる事で高速移動をするとかな。

そんな事を考えながら上の方に視線を向けていると、頂上の平たい屋根の様な場所に到着した。

 

「び、びっくりしたぁ……ジョジョの力は一体何なんだい?動けなくしたり、アタシの腕を漫画みたいにしたり、魔力も使わずにこんな移動が出来るなんて……」

 

「悪いが俺の力に関しては一切ノーコメントだ。色々出来る不思議なパワーとでも考えとけ」

 

「ふーん……まぁ確かに、その言い方はしっくりくるけどさ」

 

元から教えてもらえるとは考えてなかったのか、アルフの言葉はさっぱりしてる。

別にアルフに教える必要は無えし、それが何処かに漏れない可能性もちゃんとあるわけじゃ無えしな。

 

「とりあえずお前とテスタロッサを助けるのには、しっかり手を貸すさ……『ダイバーダウン』、潜行しろ」

 

会話もそこそこに、俺は再び別のスタンドを呼び出す。

マスクの様な頭部にシュノーケルと、背中に酸素ボンベを背負う人型のヴィジョン。

各所にあしらわれたDのマークは潜行の意味を持つ近接パワー型スタンド、『ダイバーダウン』だ。

人や物質の体内に潜行する事が出来るユニークな能力を持ってる。

俺の側から離れたダイバーダウンは床へ波紋を立てながら潜行し、内部の様子を探っていく。

この屋根の真下には、大きな赤い半円球の様な物が鎮座しているが、アルフの言ってた人形らしき物は見当たらない。

どうやら思った以上に警備は手薄らしいな。

 

「下には見張りは居ねえ……この真下にお前の言う魔力炉ってのも見つけたし、取り敢えず降りるぞ?準備は良いか?」

 

「あぁ。いけるよ」

 

「良し。スティッキィ・フィンガーズ」

 

ジバァアアア。

 

ダイバーダウンを戻して直ぐにスティッキィ・フィンガーズを呼び出して、床に拳を叩き付ける。

そして、開かれたジッパーは固い壁をも通過し、俺達はジッパーから中へと侵入を果たした。

上から飛び降りる形で、俺達は真下の魔力炉へと落ちていく。

 

「アルフ。もいっぺん確認すっけど、あの丸いのはブッ壊しちまって良いんだよな?」

 

「あぁ!!好きにしちまって良いよッ!!」

 

俺の確認に威勢よく承諾したアルフにニヤッと笑いながら、俺は落下したままスティッキィ・フィンガーズの拳を構える。

さて、家主の許可も得た事だし、手加減は必要無えな。

 

『アリアリアリアリアリアリィッ!!!』

 

ドババババババババッ!!!

 

スティッキィ・フィンガーズのラッシュを受けた部分は大小バラバラにジッパーで分解されていく。

すると一部分が切り離された影響か、魔力炉はその輝きを失って真っ黒になってしまった。

遮る地面が無くなった事で、俺は魔力炉から更に下へと自由落下を続ける。

後ろからは飛行魔法を使うアルフが追従してくる。

ふむ、どうせならこのままプレシアの居る部屋まで一直線にいきますか。

 

「アルフ。そのまま俺に着いて来い。一気にテスタロッサの母親のトコまで行くぞ」

 

「分かったッ!!鬼婆の部屋はここから10階下にあるよッ!!」

 

「了解。じゃあそこまではノンストップだ。スティッキィ・フィンガーズッ!!!」

 

『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィッ!!!』

 

ドババババババババババババババババッ!!!

 

憎い相手の家を(自宅でもあるが)壊す事が快感なのか、アルフはノリノリで俺に返事を返す。

まぁ住んでる人間が言ってんだから良いよなって感じで、俺は床が迫る度に床をジッパーで開閉して更に下の階へと向かう。

 

「ッ!!ジョジョッ!!ここだよッ!!」

 

そのまま床を開閉しまくって落ちていくと、アルフが目的の階層に着いたと声を掛けてきた。

俺は頷きながら壁に向かって手を伸ばし、ジッパーに掴まりながらゆっくりと着地する。

床に着地した俺の側にアルフも降り、俺達は目の前の扉に目を向けた。

さあて、サクッとやりますか。

 

「この扉の向こうに、鬼婆は居る筈だ……でも、ちょっと待っててよ」

 

「ん?どうした?」

 

「うん。もしかしたら、アタシが戻ってくる事を見越してシールドを張ってるかもしれないからさ。ちょっと調べさせて」

 

アルフはそう言うと目を瞑って突き出した手に小さい魔法陣を出現させる。

用心に越した事は無えって事か……。

2分程そうしていたアルフだが、やがて魔法陣を消すと、真剣な表情で俺に向き直った。

 

「大丈夫だね。このままいけるよ……ここまで来ちゃったからもう引き返せないけど……覚悟は良い?ジョジョ」

 

「そんなもん今更だろうが。それに、ここまで来たらガタガタ言うのも面倒だ――クロス・ファイヤーッ!!」

 

ゴオォオウッ!!!

 

俺はそこで言葉を切り、背後に『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』を呼び出す。

魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)は俺の背後で手を交差させたポーズを取り、目の前の扉の足元から、極大のクロスファイヤーを出現させる。

十字架(アンク)形に焼き払われた扉と壁の向こう、俺達を驚いた表情で見つめるおばさんに目を遣りつつ、俺は背中越しにアルフに声を掛けた。

 

「とっとと終わらせるぞ。俺は母ちゃんの特製ポトフをあったけぇうちに食いてえ~んだよ」

 

俺は堂々と歩みを進め、クロスファイヤーで焼き払われた穴を潜る。

後ろから慌ててアルフが着いてくるが、既にアルフも俺も、玉座の様な椅子の側に佇むテスタロッサの母親に視線を向けていた。

特にアルフの形相は今にも飛び掛からんばかりに怒りに染まっている。

そんな俺達に、今はつまらなさそうな表情を浮かべるテスタロッサの母親。

均整の取れた、というか妖艶な雰囲気のある女性だが、色々と危ない衣装の所為で台無しだな。

オマケに病的な目と口元の紫の口紅には、正直言ってドン引き以外の何者でもない。

 

「……さっきは尻尾巻いて逃げ出した役立たずの使い魔が、もうノコノコと戻ってくるなんてね。何か知らない坊やを連れてきたみたいだけど……お前に話す事は無いわ。早く地球に戻ってジュエルシードを確保しなさい」

 

「アンタの命令なんて知った事かッ!!それよりも、フェイトを何処にやったッ!?」

 

片やあれだけ手酷い怪我を負わせながらも命令しかしないオバサン。

そしてそんな命令を無視して主人の安否を気遣う使い魔、絶望的に会話が噛み合って無えな。

アルフの問い質しに対して、オバサンは手を額に当てて溜息を吐く。

 

「あの子ならさっき地球に行かせたわ。早く私の為にジュエルシードを集めてもらわなくちゃいけないからね……全く、本当に行動が遅くて役立たずよ、あの子は」

 

「――ぁぁあああああああああああああッ!!!」

 

「ッ!?おいアルフッ!?」

 

「こんのぉおおおおおおおおおおおーーーーーッ!!!」

 

「くそっ!!一人で何突っ走ってやがるッ!!」

 

俺の静止の声も聞かずに、アルフは1人でプレシアに突貫していく。

おいおい、何の為に俺に手助けを頼んだんだってのッ!!

俺もガンベルトから鉄球を取り出して回転させつつ、アルフの後に続く。

一方で、拳に魔力を溜めたアルフの突撃に対して、プレシアは何のアクションも起こさない。

只アルフの行動を興味なさ気に見つめるだけだった故に、アルフの振るった拳が届くのも自明の理だ。

 

「はぁっ!!」

 

バチィイイイッ!!

 

「ッ!?」

 

「……」

 

しかし、アルフの拳はプレシアに届く寸前で、薄紫の障壁に阻まれてしまう。

恐らくあれがシールドってモノなんだろう。

何でもないって顔しながら平然とアルフの拳を防いでやがる。

 

「くっ!?うりゃぁああああああッ!!!」

 

ドドドドドドドドドドッ!!!

 

拳を防がれたアルフは悔しそうな表情をしながら飛び上がり、今度は蹴りのラッシュを繰り出す。

しかしその攻撃も難なく防がれ、プレシア本人には全く届いていない。

馬鹿がッ!!そんなんじゃ少しでも攻撃を休めたら格好の的だぞッ!!

そう思っていた矢先に、蹴りのラッシュが止まったアルフに向けられたプレシアの手に、1つの光が灯る。

――くそッ!!間に合えッ!!

 

「おらぁあああああッ!!」

 

俺が渾身の力で投げた鉄球と同時に、プレシアの手から光が炸裂し――。

 

ズバァッ!!

 

「――」

 

「…………ふん」

 

アルフの右脚がフッ飛ばされてしまう。

その様子を呆然と見つめるアルフと、面白く無さそうに鼻を鳴らすプレシア。

くそっ、初撃には間に合わなかったか……だが、まだ希望が潰えた訳じゃねえ。

トドメを刺そうと、手に複数の光を灯すプレシアだが、その力が放たれる前に――。

 

ドスゥッ!!

 

俺の投げた鉄球が、深々と『アルフ』の背中に突き刺さる。

いきなり背後から鉄球を当てられた事に驚きの表情を浮かべるアルフと、呆れたプレシアの視線が俺に向けられた。

俺はそんな視線を無視しつつ、自分が投げた鉄球の状態をスキャンの能力で確認する。

呆然とするアルフの背中に当たった状態で、鉄球は絶えずしっかりと回転を維持していた。

良し、『狙い通り』だ。

 

「残念だったわねアルフ。味方の攻撃を受けて敗北なんて、哀れなこと……でも、トドメは私が刺してあげるわ。その方が惨めにならないでしょ?」

 

嘲りを多分に含んだ笑みを浮かべながらそう言い、プレシアは再び複数の光を手の平から放つ。

 

ガガガッ!!

 

「あぐあぁッ!?」

 

その光の攻撃を腹部や顔に受けたアルフは苦悶の表情を浮かべながら、俺の方へと吹っ飛んでくる。

まぁ至近距離であんな攻撃を受けたら吹き飛ぶのは仕方無い――だが。

 

「……どういうこと?」

 

「か、あ、い、痛たた……ッ!!あ、足ぃ……ッ!!」

 

俺の目の前で床に倒れたままに足掻くアルフを見て、他ならぬプレシアが疑問の声をあげる。

その疑問は間違い無く、さっきの攻撃でアルフの身体が貫かれて無い事に対してだろう。

最初の一撃はアルフの足を軽く捥ぎ取ったにも関わらず、さっきの攻撃では傷一つついていない。

しかし決定的に変わっている事があるなら、それは『攻撃を受けた箇所の皮膚が歪な形になっている事』だ。

 

「あ、が、がぁ……ッ!!じ、ジョ……ジョ……ッ!!」

 

「ったく、一人で突っ走りやがって。クレイジーダイヤモンドッ!!」

 

『ドラァッ!!』

 

床に倒れて痙攣しながらも俺を呼ぶアルフの傍に駆け寄って、クレイジーダイヤモンドでアルフを治す。

するとアルフの千切られた足が床から浮き上がり、まるでビデオの巻き戻しの様に傷口へと戻ってくっつく。

とりあえず痛みが消えた事で、アルフは荒い息を吐きながらも気分を落ち着けた。

それを確認してから、今もアルフの背中から位置を変えて肩の上で回転を続けていた鉄球を回収する。

やれやれ、初っ端から面倒かけるなよな。

 

「ぜ、ぜぇ……助かったよジョジョ……もしかしてさっきの鉄球も、最初からアタシを狙って投げたのかい?」

 

「あぁそうだよ。勝手に一人で突っ込むから、せめて死なねぇ様にと思ってな。一発目には間に合わなかったが、その後の攻撃は皮膚を硬化させて弾いた」

 

苛つきながらもアルフに答えると、アルフはばつが悪そうにしょげる。

俺はそんな反応を示すアルフに溜息しか出なかった。

アルフに投げた鉄球の回転が起こした皮膚の硬化が無かったら、さっきの攻撃で死んでたんだ。

これぐらいの反応して当たり前だろ。

 

「ご、ごめん。鬼婆の言葉を聞いたら、頭に血が昇っちゃって……」

 

「一人じゃ適わねーから俺を頼ったんだろーが。なら一人で勝手に戦うんじゃねえ」

 

このバカタレ、と言葉を絞めて落ち込み気味なアルフから視線を外し、件の魔女に視線を向ける。

あれだけ苛烈な攻撃をノータイム、しかも軽々とやってのけたプレシアだが、俺の能力にはさすがに度肝を抜かれた様だ。

アルフの足が治った現象を見て、呆然とした表情で俺を見ている。

 

「……何をしたのかしら?坊や」

 

「さてな。何で見ず知らずのおばさんにンな事答えなくちゃいけねえんだ?」

 

「……(気負った表情でも無ければ、疲労の色すら見えない。あれだけの負傷を負荷も無しで一瞬の内に治療できるなんて……いえ、あれは治療なんて代物じゃ済まない。千切れた足が元通りにくっつくだなんて、それこそ『破壊されたものを治す力』の域……その方がしっくりくる……それだけじゃない。今の話から考えればアルフが本気では無いとはいえ、私の魔力弾を弾いて無傷でいられたのはあの坊やの鉄球のおかげという事になるわ……間違いない。あの坊やには、私達の知らない『未知の力』がある……もしかしたら、あの坊やの力を利用出来れば――)」

 

俺の返答に対して何か考えを巡らせている様子のプレシア。

大方クレイジーダイヤモンドの能力について考えてるんだろうが、俺には関係ねえ。

今、この場ですべき事はあのおばさんを叩きのめして、天国の扉(ヘブンズ・ドアー)で色々と制約をつける事。

そして俺や俺の家族が住む地球に手出しできない様にして、後は相馬に任せれば良い。

一応プレシアの目的も悲運も知らされてるが……だからって見逃す程、俺はお人好しじゃねえ。

 

 

 

そう考えを纏めて構えを取った俺に対して――。

 

 

 

「そう……なら良いわ……自分から喋らせてくれって言いたくなる様にしてあげる……ッ!!!」

 

 

 

 

魔女はその本性を顕にし、般若を連想させる表情を浮かべて、足元に巨大な魔法陣を出現させた。

その魔法陣の光に呼応するかの様に、プレシアの背後に無数の光の玉が浮き上がる。

こりゃちぃとまずいな。

多分さっきアルフに放った様な攻撃だろうと辺りを付けて、俺は座り込むアルフに言葉を飛ばす。

 

「離れてろアルフッ!!体力を消耗したお前じゃ、あれは凌げねえぞッ!!」

 

「そ、そう言われても……ッ!!あ、足に力が……ッ!?」

 

俺の警告を聞いても、アルフは足に力が入らないらしく、焦りながらも動けていない。

このままじゃアルフはあの光の餌食になっちまうだろう。

 

「ちっ!!荒っぽいが我慢しろよッ!!」

 

『ドラァッ!!』

 

ゲシッ!!

 

「うわあぁッ!?」

 

ドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

プレシアの背後に浮かんでいた光の玉が一斉に俺目掛けて放たれた寸前、クレイジーダイヤモンドにアルフを蹴飛ばさせて、俺から距離を離す。

これでアルフの無事は確保出来た。

なら次は、あのおばさんを直接ブチのめす事だけだ。

視界を覆い尽くす程の光の玉が迫る中、俺はその場に立ち竦んで光の玉を迎え撃つ。

 

『ドラァーーーッ!!』

 

ズガガガガガガガガガガッ!!

 

正面から迫る光の軍勢をクレイジーダイヤモンドのラッシュで弾き飛ばし、自分の周りに空間を確保する。

弾かれて目測をズラされた光は見当違いの方向へ向かい、部屋の柱や扉、屋根を粉々に吹き飛ばしていく。

破壊の際に巻き起こった粉塵によって、俺達は互いを見失った。

 

「っ――!?(シールド?いえ、魔力すら感じないし、それなら私の魔力弾があんな風に飛んでいくのはおかしい。まるで何か『強い力に弾かれた』様に、速度を増して別の方向に向かった……どんな演算処理を行えば、あんな防御が成り立つというの?それにさっきの治す力とは別物?)」

 

『――ドォラァッ!!』

 

ブォンッ!!

 

巻き起こった土煙をクレイジーダイヤモンドに払わせ、俺は膝立ちの状態から立ち上がってプレシアに視線を送る。

砂塵の晴れた先のプレシアは、さっきと変わらずに立っていた。

 

「ハデにヤる気ならよーーっ、しょーがねーなーー。グレートにおっぱじめよーじゃんかーっ」

 

俺は心底気怠い感情を隠さずに、プレシアを見つめながら歩を進める。

向かう先は俺がブチのめすターゲットまでの最短距離、直線だ。

ったく、平穏に生きたい俺にこんな面倒な事させやがって……ボコボコにされても文句は無えよな。

 

「テスタロッサの母ちゃんよぉ~。この家ブッ壊すぐれぇ~~ハデな攻撃しよぉ~っつーならよー、受けて立つッスよ~~」

 

「……フフッ」

 

背後に居るクレイジーダイヤモンドにポーズを取らせながら、俺はズンズンと歩みを続ける。

しかしプレシアは何かを考えていた表情を一変させると、不敵に笑いながら俺を見始めた。

まるで俺がどう動こうとも自分が負ける事は無いとでも言いたげに、だ。

その表情を不審に思いながら歩いていると、プレシアは手を少し上げて再び魔法陣を出現させた。

すると、彼女の背後に5本の銀色に輝く杭が浮かんで停滞するではないか。

今までとは気色の違う凶器の登場に歩を止めた俺だが、そんな俺に1本だけ、件の銀杭が射出される。

それを焦らずに、クレイジーダイヤモンドの腕で払い飛ばし――。

 

バグオォオオンッ!!!

 

瞬間、払い飛ばした杭が轟音をたてて破裂した。

スタンドには物理的攻撃は一切通用しないので、小規模程度の爆発のダメージは俺に反映しない。

だが、威力的に言えばそれは、小型のミサイルみたいなものだ。

 

「驚いた?……これは私の開発した魔力蓄積型の杭なの。非殺傷設定だし威力は抑えてあるけど、それでも人間を傷つけて気絶させるには充分な威力を持ってるわ」

 

「……脅しのつもりっすか、それ?ならちぃと場数が足りないと思うんスけど?」

 

「フフフッ。さあどうかしら?脅しなのか、それとも……当ててしまう前に予告してあげてるのか……ねえ?」

 

言葉の応酬の端々に込められた自信、そして絶対的な余裕。

それを滲ませるプレシアの表情は、薄い微笑みに彩られている。

……コイツは本気で言ってやがる。

『お前はこの攻撃から逃れる事は出来ない。大人しくしろ』って……舐めやがって。

 

「まず、私のフォトンランサーは……坊やの脚を傷つける。そして次は腕。もはやガードは出来なくなる。そしてそこで、私の全火力の一斉放射を受ける事になると予告するわ」

 

「……」

 

「ジ、ジョジョ……ッ!?」

 

プレシアの堂々とした予告を聞いて黙る俺と、部屋の隅で呼吸を荒げながら俺を心配するアルフ。

そんな小さい静寂の中で、俺はプレシアに視線を返しながら言葉を返す。

 

「なるほど。完璧な作戦ッスねぇ~~……不可能だという点に目をつぶればよぉ~~」

 

「フフッ。『几帳面』な性格でね。この順番に必ずやると言ったらやるッ。これが予告よッ」

 

舐めたこと抜かすプレシアに堂々と視線を返す俺と、その視線を受け流すプレシア。

俺達の間の空気が歪曲して見える程に、互いの空気は緊迫していく。

片や不透明な巨人を従える少年、片や無数の魔弾を従える魔女。

どこぞのRPGのラスボス戦かってんだよ。

向こうが何を考えてるのか知らねーが……俺のやる事は変わらねえし、シンプルだ。

 

「ま、待ってよジョジョ……ッ!!あ、あたしも、たたか――」

 

「うるさいわね……貴女はこの坊やを私の前に連れてきた事の恩賞というだけで、生かしてあげてるのよ……少し黙っていなさいッ!!」

 

バキャァッ!!!

 

「あぐうぁッ!?」

 

と、立ち上がろうとしたアルフを鬱陶しげな視線で見たプレシアは間髪入れずに一発の魔力弾をアルフにブチ当てた。

今度は何とか寸前で防御したが、威力に負けてアルフは更に後方へと飛んでいってしまう。

――それと同時に、俺は駆けた。

無論、それを目前の魔女が見逃す筈も無く――。

 

「喰らいなさいッ――フォトンランサーッファランクスシフトッ!!!」

 

ドバァーーーーーーーーーーーッ!!!

 

数えるのも億劫な数の魔力弾が、俺へと飛来した。

上等だこのババア。

 

「クレイジーダイヤモンドッ!!!!!」

 

『ドララララララララララララァーーーーーーーーッ!!!』

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 

無数に迫る魔弾に対して、繰り出される高速の剛腕。

破壊力Aの中でも上位にランクインするクレイジーダイヤモンドのラッシュが全ての攻撃を俺から弾き飛ばし、家屋を破壊していく。

その最中、俺は一切足を止める事も無く、只ひたすらに前へと脚を進める。

進む度に魔弾の濃度が増すも、それに比例してクレイジーダイヤモンドのラッシュのスピードも跳ね上がる。

進む側も、迫られる側も、表情は変わらずに、只距離が埋まっていくだけだ。

 

『ドラララーーーーーーーーーーーーッ!!!』

 

ドバババババァ~~~~~ッ!!!

 

「このまま「海を真っ二つに割いて紅海を渡ったっつうモーゼ」の様に……この弾幕を突破して、本体のおめーをブッ叩いてやるッスよぉーッ」

 

魔弾を凌ぎ、弾き、吹き飛ばしながら、俺はプレシアへと語りかける。

残りの距離は4メートル弱といった所だ。

このまま進めば直ぐに埋まる距離……だというのに、プレシアは依然として笑みを崩さない。

……何だ?あの妙な『自信の現れ』は?

自らに進む暴威に対して変わらぬ笑みを浮かべるプレシアに疑問を持つが――。

 

 

 

「ウフフ……馬鹿ね……作戦は予告通りに進行中なのよ、坊や?」

 

ボゴォオオンッ!!!

 

 

 

「――うぐっ!?」

 

どうやらその悪寒は、一歩遅かったらしい。

順調に進んでいた俺の足の奔る耐え難い激痛。

その拍子にバランスを崩して地面に倒れこんでしまう。

ぐ、くそっ!!一体何が……ッ!?

痛みに顔を顰めながら足元に目を向ければ、俺の血が滴る床に小さく刻まれた魔法陣の跡。

しまった、地雷かよッ!?

 

「フフフッ。まず足にダメージよ――そして――」

 

「ッ!?」

 

正に愉悦と言える笑い声をあげるプレシアに振り返ると、プレシアの背後の杭が4つ全て射出される。

迎撃しねえと串刺しにされちまうッ!!

 

『ドラァッ!!』

 

バギィッ!!

 

体勢が崩れながらも繰り出したスタンドの裏拳。

それは4つの杭全てを破壊出来る軌道を取っている。

最初の杭は爆発する前に破壊する事が出来たが――。

 

バグオォオオンッ!!!

 

「うぐぅッ!!……う……腕、が……ッ!!」

 

続く残り2発は叩き落とすのが遅すぎた。

俺の直ぐ側で破裂した杭の爆発の余波で、片腕に少なくないダメージを負ってしまった。

 

「…………ううぐ……ッ!!」

 

これ以上は動く事が出来ずに、床に腰を降ろした体勢でスタンドを消してしまう。

しかも気付けば、既に新しく生成された魔力弾が俺をグルリと取り囲んで対空しているのだ。

これは本気で詰んだ状況ってヤツなんだろうな……。

正に絶体絶命の状況に陥った俺を見て、魔女は更に笑みを深める。

それはもう狂人の笑みと言うよりほか無かった。

 

「まずは足、そして腕ッ!!――予告通りは気分が良いわぁッ!!直射型289発ッ!!誘導型343発ッ!!砲撃型87発ッ!!そして爆破型120発ッ!!」

 

奴の宣言通りに、さっきの銀の杭が多数展開され、俺に対する包囲網の密度が上がる。

 

「そのダメージのある腕で、我がフォトンランサーファランクスシフトの全射撃ッ!!及び砲撃ッ!!更に爆発式の杭の爆破を受けて、はたして無事でいられるかしらーーーッ!?」

 

「……」

 

「フフっ、アハハハはハハッ!!安心しなさい、これは全て非殺傷設定よ。殺したりはしないわッ!!もしかしたら坊やのその『破壊されたものを治す力』が、私の悲願を叶えてくれるかもしれないから丁重に扱ってあげるッ!!……尤も、手足は邪魔だから切り取ってしまうし、目が覚めたら貴方に自由は無いけれどねッ!!アッハハハハハァァッ!!!」

 

一頻り、それこそ狂った様に甲高い笑い声を上げながら目を血走らせる魔女。

やがてその笑いが収まると、彼女は紫の杖を召喚して、俺に向けて振り上げる。

 

「貴方の負けよ、坊やッ!!呪うなら、貴方をここに連れてきたあの使い魔を恨みなさ……」

 

サクサクとこの戦闘の終わりを告げるプレシアだが、その言葉は途切れてしまう。

それは何故かと言えば、俺が今も現在進行形で起こしてる行動の所為だろう。

俺は痛む腕と足を無理して引き摺り、床にあぐらをかいてプレシアを見つめていた。

あ~……ったく、無茶苦茶しやがって、あのオバハンめ。腕も足もズタズタじゃねぇか。

その行動に目を白黒させたプレシアだが、直ぐに何かが琴線に引っ掛かったのか、プッと声を出して笑う。

 

「腕を組んで座ってどういうつもりかしら、坊や?……諦めの境地かしら?見逃して欲しいとでも言うの?」

 

「……」

 

俺はその言葉に答えないで、只プレシアを何時もの様に気怠い表情で見つめるだけだ。

断っておくが、別に悲観してる訳でも絶望してる訳でも無え。

俺は只、『終わった戦闘に対して』アレコレ考えるのも面倒くせえってだけだ。

そんな俺を見てどう解釈したのか、プレシアはフンと鼻を鳴らす。

 

「……フン。駄目に決まってるでしょ?――終わりよッ!!!」

 

その言葉と共に振り降ろされた杖。

そして俺に殺到する数えるのも馬鹿らしい圧倒的な力の軍勢。

プレシアを彩る歓喜と狂気の混ざった笑顔。

 

 

 

「――俺の作戦はよぉー、既に終了したんだよーー」

 

そんな笑顔見せられたら、崩したくなるじゃねぇの。

 

 

 

「エッ!?」

 

何時もの様に、何でも無いという感じに放った俺の言葉に首を傾げていたプレシアだが――。

 

「そん、なッ!?」

 

それは空中で破片が巻き戻しの様にくっついて再生したモノを見て、驚愕と焦りの感情に飲み込まれる。

――自らが撃ち出し、俺に破壊された筈の『銀の杭』が、プレシアに牙を剥いているのだ。

既にプレシアの魔弾は全て俺へと飛来している中で、至近距離から突然現れた銀の杭。

自分自身が豪語していた兵器がまさか自らにその矛先を向ける事は、全く予期せぬ事態だったんだろう。

慌てて最初の時にアルフの攻撃を防いだ薄紫のシールドを張ろうとするも――。

 

「間に合わ――――――――」

 

チュドォオオオオオオンッ!!!

 

構築され始めていたシールドの隙間を縫って迫る杭には間に合わず。

盛大な爆発音を響かせて、プレシアの身体は部屋の奥へと吹き飛んで行った。

そして魔弾を操っていた本人がダメージを負って気絶したお陰なのか、魔力弾の全てが動きを止め、霧の様に消え去る。

飛来していた杭も力を失って、床に甲高い金属音を鳴らして落ちた。

さっきまでの喧騒が嘘の様に静まり返った部屋の中心に座りながら、俺は緊迫して出た頬を伝う汗を拭う。

 

「フー……ッかなりグレートに、危ねー奴だったぜ……」

 

プレシア自身で、アルフの足を治したのを見ただけで俺のクレイジーダイヤモンドの能力に気が付いた時は驚いたぜ。

しかも治療の究極、では無く破壊されたものを治すという具体的な言葉が出た時は本気で焦った。

 

「しかし忘れたのかい?俺のクレイジーダイヤモンドは破壊したものを治せるっつーのを」

 

まぁ、奴自身のテンションが上がってた事と、俺を舐めてた事。

ついでに言えば顔色の悪い更年期障害の所為で頭からスッポ抜けていた事が敗因だろうよ。

俺は痛む腕を抑えながらゆっくりと立ち上がって深呼吸をし、部屋の奥へブッ飛んで行ったプレシアへ更に言葉を投げ掛ける。

 

 

 

「よっ……と……忘れっぽいならよォー……メモっておけよなぁー。『几帳面』によぉ~~~」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

幽波紋(スタンド)使い、城戸定明 VS 大魔導師、プレシア・テスタロッサ

 

 

 

 

勝者――――城戸定明(クレイジーダイヤモンド)

 

 

 

 

 

プレシア・テスタロッサ――再起不能。

 

 

 

 

 

to be continued……

 





書いてて思った。

プレ、シア?誰だよこれ。


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あなた達生きてる『人間』が目の前の人の『誇り』と『平穏』を取り戻さなければ、一体誰が(ry

遅くなりました。

最近クルマをイジる、小説を書く前の生活に戻り気味……。

でも、これからも書き続けます。

そして遂に、お気に入りが2000件突破ッ!!

嬉しすぎて、酒ッ!!飲まずにはいられないッ!!





「あー、痛てて……派手に人の身体傷付けやがって……こちとら9才児だぞバカヤロー」

 

「だ、大丈夫かい、ジョジョッ!?」

 

「大丈夫な訳あるかっての……こんだけ派手にやられるなんて初めての経験だよ、クソ」

 

駆け寄って俺の身体を労わる様に優しく支えるアルフに悪態を吐きながら、俺は意識を集中させる。

クレイジーダイヤモンドだけで戦わずに他の方法考えりゃ良かったぜ。

でもあの弾幕の所為で防御も攻撃もできる近距離パワー型のスタンドに限定されたからなぁ。

堂々と戦うよりも不意打ちに奇襲をしておけば、こんな痛い思いせずにすんだってのに。

 

「まぁ、済んだ事を言っても仕方ねーか……来い、キュアー」

 

痛みに顔をしかめながらも呼び出した兎の様な姿のスタンド、『ザ・キュアー』が俺の身体の『痛み』という概念を吸い出していく。

その効果で俺の傷はみるみる内に塞ぎ、遂には綺麗に元通りの姿になった。

ザ・キュアーは対象の『痛み』や『悩み』を吸収して癒すウサギのような姿のスタンドだ。

まぁ無制限って訳じゃなくて、吸い取った分の痛みや悩みはキュアーに蓄積されていく。

俺の普段の生活の中で直ぐに発散されていくから、問題は無いけどな。

しかもコイツは痛みという概念、つまり病気すらも吸い出してしまえる、究極に近い治癒能力がある。

まぁ千切れ飛んだ服までは再生出来ないので、そこはクレイジーダイヤモンドの能力を使うしかないか。

そうして完全回復した俺に、アルフは安堵の息を吐くだけで特に驚かなかった。

まぁアルフからすれば今まで何度も自身の身体を治して貰ってるから、その能力を自分に使ったと思ってんだろう。

本当はクレイジーダイヤモンドは自分の傷は治せないんだがな。

 

「さて、遣り過ぎな教育ママはブッ飛ばしたけど……この後はどうすんだ、アルフ?」

 

「……アタシは、このままフェイトを連れて何処か知らない所に逃げたいけど……」

 

「テスタロッサはそれを良しとしない、か?」

 

「……うん……フェイトにとっては、あんな鬼婆でも母親だからさ……多分、無理矢理連れて行っても、フェイトは一人でこっちに戻ろうとすると思う」

 

「まぁ、そうだよなぁ……」

 

身体を回復させて、これからの事をアルフと話すが、ハッキリ言って状況は全く変わってない。

テスタロッサとプレシアの問題に関してはまるっきり何もしてないのが現状だ。

俺としてはプレシアにジュエルシードを使うのを禁止して、俺と俺の家族に攻撃するなとへブンズ・ドアーで書き込めばそれで終了ではある。

しかしそれではこのテスタロッサ一家の確執は放置になってしまう。

どうしたモンか……あえて相馬に全部押し付ける?まぁそれで何とかなりそうな気もするんだが。

プレシアの目的は確か、自分の娘を生き返らせるってのだったし……本当にどうしたもんか。

 

「……とりあえず、どうにかしてテスタロッサを管理局に攻撃しない様に止めなきゃ駄目だろ。これ以上罪を重ねたらどうなるか――」

 

ボゴォオンッ!!

 

「うわっ!?危なッ!?」

 

と、これからの事を口にしようとした俺の直ぐ近くの壁が崩れ落ちた。

ガラガラと音を立てて崩れる壁から、俺とアルフは急いで退避する。

何事かと崩れた壁に目を向ければ、そこには奥へと続く空洞が広がっていた。

 

「何だこりゃ?まるで隠し部屋じゃねーか」

 

「あービックリした。鬼婆の奴、この部屋にこんな場所を作ってたなんて……ん?奥に何か――」

 

「……どうした?何かあるのかアルフ?」

 

驚きながらも俺達はその空間に視線を向けて中へと踏み行る。

しかし俺の前に立っていたアルフが途中で言葉を切り、その場に立ち尽くしてしまう。

おいおい、一体どうしたってんだよ?

突然停止したアルフの様子が気になって、俺は横に避けて部屋の奥へ視線を向け――。

 

「……OH MY GOD」

 

その部屋の中央に鎮座した巨大なカプセルを目にして、そんな事を口にしてしまう。

何せカプセルの中には、テスタロッサにそっくりな女の子が『入っていた』のだから。

 

「……フェイ、ト?」

 

その場に立ち尽くしたまま呆然とした声で、アルフは自分の主の名前を呟く。

カプセルに満たされた緑色の液体の中で浮いている女の子は、本当にテスタロッサの生き写しだ。

しかし微妙に違う所があるとすれば、体格がテスタロッサよりも幼い。

とすれば、この女の子はテスタロッサでは無いって事だ。

つまりこの子こそが、プレシア・テスタロッサの実の子供のアリシア・テスタロッサって事だろう。

プレシアが管理局を敵に回して、それこそジュエルシードが齎す被害に遭う人達すら意に介さず、蘇らせようとした娘。

……そりゃあさ、この庭園の何処かにアリシアって子が安置されてるってのは相馬から聞いてたぜ?

でもまさかこんな形の安置方法とは思いもよらねぇよ。

盛大な溜息を吐きながらカプセルの中に浮かぶアリシアに視線を向け――。

 

 

 

『――む~。女の子の裸見て溜息なんて、失礼な子だよ』

 

「こんな小せえガキの裸見て何が楽し――ん?」

 

 

 

俺達の『頭上』から響く声に、意識を持っていかれた。

……え?ちょっと待て?何で俺達の頭上なんだ?っていうか俺は誰に返事を返した?

誰も上に入る気配なんてしねーし、アルフも今の声が聞こえてないのか、ただ呆然とアリシアのポッドを眺めてる。

って待て、アルフが気付いていない?こんな大きな声だっていうのに?……ま、まさか。

こういった現象に覚えのあった俺は、ゆっくりと視線を天井へと向ける。

 

『……え?』

 

そこには、俺のスタンドと同じ様に希薄な存在が浮遊していた。

薄い水色のワンピースを身に纏い、長い金髪をリボンでツインテールにした少女。

彼女は上を見上げた俺と目が合った事が信じられないのか、ポカンとした表情で俺を見ている。

え?もしかして……アリシア・テスタロッサ?……マジ?

 

『……もしかして、見えてるの?』

 

「……」

 

『やっぱり見えてるし、聞こえてるんだねッ!?うわー、人と目を合わせるのは久しぶりだよッ!!』

 

若干背後が透けて見えそうなビジョンのアリシアは俺と目を合わせたままに俺の目の前へと降り立つ。

俺がキチンと動きを目で追うのを確認したアリシアが、嬉しそうに笑顔で俺の目の前を浮遊している。

一方で俺はそんなアリシアを目で追いながら、口をあんぐりと開けてしまう。

マ、マジか……ッ!?まさか『幽霊』になってるなんて思いもしなかった……ッ!?

相馬の言ってた通り、カプセルの中のアリシアが死んでるって事は、目の前のコイツは幽霊って事にな――。

 

『ッ!?危ないッ!!』

 

ビュンッ!!

 

「ッ!?ザ・ハンドッ!!」

 

ガオンッ!!

 

不意に背後から感じた気配と、切迫したアリシアの悲鳴。

俺は急いで振り返り、背後から迫る魔力弾を、ザ・ハンドで削り取った。

その一連の動きでハッ意識を戻したアルフが振り返る音が、背後から聞こえる。

っぶねぇー……間に合ったから良かったけど、ザ・ハンドの手がもう少し遅かったら喰らってたぞ。

右手だけを瞬間的に呼び出していた状態からスタンドを解除して、俺は襲撃者に目を向ける。

ボロボロのドレスに今も折れそうな杖、そして顔と口元から赤い血を流す般若の様な表情の女性。

 

「……遂に……見てし、まった……わね……ッ!!……見てはなら、ないモ……ノ、を……ッ!!」

 

『母さんッ!!』

 

「あ、あいつまだ……ッ!?」

 

「テメー……ちっ、しぶとい奴だぜ」

 

俺がさっき再起不能にしてやった筈のテスタロッサの母親であるプレシアが、憤怒の表情で俺達を睨み付けている。

床を赤い血で汚しながらも歩くプレシアの目は、一切の力を失っていない。

それどころか対峙した時よりも遥かにギラついてやがる。

おいおい……あの攻撃喰らって立てる筈が無えだろ?どんな精神力してやがる。

 

「ハァ、ハァ……その中に居るのが…………私の――『娘』よ」

 

「む、娘?……アンタの娘は、フェイトだけじゃ――」

 

「――あんな『出来損ない』とッ!!!がふっ!?……ゼェ、ゼェ……あ、あんな……ッ!!あんな『人形』とアリシアを、一緒にするんじゃないッ!!!」

 

「ッ!?に、人形……だとぉッ!?」

 

『お母さんッ!!そんな酷い事言わないでッ!!それに身体が……ッ!!』

 

壁に寄り掛かるプレシアの出した言葉。

それに意を唱えたアルフの言葉に、プレシアは吐血しながらも叫んだ。

口元から流れる赤黒い血を拭う事もせずにこっちを睨みつける様は、かなり猟奇的だ。

その言葉にアルフは激昂して叫び返すが、プレシアはフンと鼻を鳴らして嘲る。

アリシアも俺の傍でプレシアに声を掛けるが、プレシアには全く届いていない。

……さっきこの子が言った様に、この場で声を聞けて姿が見えるのは俺だけらしいな。

やっぱりスタンド使いって事が関係してるんだろう。

実際俺も幽霊を目にするのはこれが初めてって訳じゃねえし。

 

「ふざけんじゃないよッ!!あの子は、フェイトは人形なんかじゃないッ!!アンタの実の娘だろうがッ!!」

 

「フン。何も知らない使い魔風情の癖に……なら、教えてあげるわ……貴女が言うあのお人形が、私の『娘じゃ無いって』理由を……ッ!!」

 

激しい怒りに身体を震わすアルフを、満身創痍ながらも小馬鹿にした表情で見やるプレシア。

彼女の口から放たれた言葉は、アルフを硬直させるには充分な威力を持っていた。

 

「あの子は……フェイトは、私が研究していた使い魔とは異なる使い魔を超える人造生命の精製。そして、死者蘇生の秘術、その研究……通称『プロジェクトF』で生み出された実験体、その第一号なのよ」

 

……空気が、凍った。

事の真相を聞かされたアルフは動きを止めて呆然とした表情でプレシアを見ている。

アリシアもプレシアの言葉を聞いて悲しそうな表情を浮かべていた。

俺は予め相馬から大体の話は聞いていたからそこまで驚いちゃいねーけどな。

 

「そん、な……フェイトが、あんたの娘じゃ……無い?」

 

「えぇ。私がアリシアを蘇らせるまでの代用品。あの子に与えたフェイトという名前も、プロジェクトの名前を与えただけに過ぎない……せっかくアリシアの遺伝子と記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけの、役立たずな私のお人形」

 

「……」

 

『お母さん……』

 

忌々しいといった表情で昔を語るプレシアの様子を見て、アリシアは俺の隣りで悲しそうに目を伏せる。

アリシアの様子は俺しか見えていないので、プレシアは何も知らずに言葉を続けていく。

 

「アリシアは左利きだったのに、あの人形は右利きだった……ッ!!アリシアには魔力資質は殆ど無かったのに、お人形には膨大な資質があった……ッ!!……そんな、アリシアそっくりの見た目で私に笑いかける、アリシアとは別人のあのお人形の事が、私は――大ッ嫌いだったのよッ!!!」

 

「ッ!?……あの子は一生懸命、アンタの為に頑張って……管理局まで敵に回したってのに……ッ!!あんたって奴はぁああ……ッ!!」

 

アルフが牙を剥いて怒りを露にするも、それを受けるプレシアは忌々しいという表情を浮かべるだけだ。

 

「……でも、ジュエルシードが全て集まれば、全ては終わる……もう娘を亡くしてからの陰鬱な時間を、あの出来損ないの人形を娘扱いして自分を慰める必要も無くなる。ジュエルシードを使って地球を崩壊させるほどの次元震を起こせば、アルハザードに辿り着けるッ!!アルハザードならきっとアリシアを蘇らせる技術だってある筈よッ!!」

 

何とも狂気的な輝く目で、プレシアは虚空に向って吠え立てる。

アルハザード、ねぇ……相馬が言ってた『忘れられし都』だっけ?

現代科学やミッドチルダの科学をも凌ぎ、タイムワープや死者蘇生すら可能にしたっていう場所。

しかしもうずっと昔に次元断層とかいう未知の空間に沈んでから、その存在はおとぎ話って言われてるらしい。

そんな夢物語に縋ってまで、娘を生き返らせたいっていう『夢』は凄えと思うがよぉ……。

 

「何とも身勝手な理屈っすね」

 

血反吐を吐きながら慟哭を口にするプレシアに、俺は冷め切った視線を向ける。

俺の言葉を聞いたプレシアは俺を睨みつけ、アルフとアリシアも俺に顔を向けてきた。

もうなんか、聞く程にアホらしいって思えてきちまったな。

自分に振りかかる視線の全てを無視して、俺はプレシアを見続ける。

 

「娘を生き返らせたかった。そりゃ可哀想に思いますよ?あんな小さい時に死んじまって、生き返らせたいってのも分かるッス……でもなぁ~……」

 

まだ子供の居ない俺では、プレシアの味わった苦悩なんて欠片も分からない。

でもだからって、この魔女の全てを肯定するつもりはねえ。

 

「そういう思いでテスタロッサを産んでおいて、自分が思ったのと中身が違ったから苛め抜くってのは違うだろ?あぁ違うね、そりゃ単なる八つ当たりだ。おまけにあの子を生き返らせる目処がついたからハイさよならってのもふざけてる。お宅、人間を消耗品かなんかと勘違いしてね?アリシアって子が可哀想とは思わねーんですか?」

 

「……何故、アリシアが可哀想になるのかしら?例え見た目が一緒でも、アリシアとあのお人形を同列に扱うなんてするもんですか」

 

「へー?自分の愛娘の遺伝子と記憶を受け継いだ、謂わば『妹』みたいな存在の子を、自分の母親が虐待してる。オマケに虐待する理由が自分と違うからって理由なのに?」

 

俺は冷静に事実だけを述べつつ、冷たい視線を向けてそう言った。

同じ遺伝子情報を少しでも持って生まれたのなら、それはすべからく血縁であり親族に他ならない。

幾ら生まれが特殊であろうが人造だろうが、人を形作る『血』が同じなら当たり前の事だろう。

そんな妹みたいな存在を、最初の娘が生き返らせれるって分かった途端に捨てるだなんてのはなぁ……。

はっきり言って、その元となった子を幾らでも作り直せるから、気に入らないなら捨てられるっていう、命に対する侮辱でしかねぇだろ。

 

「っ――」

 

『そうだよお母さんッ!!私はフェイトが生まれた時に、フェイトの事を妹だって、お母さんは約束を守ってくれたんだって思ってたんだよッ!!なのに、お母さんは……ッ!!』

 

俺の質問という名の尋問……いや、心の傷を抉る言葉に、プレシアは目を見開く。

俺の隣りで聞こえない、届かないのを理解しながらも声を張り上げて母を非難するアリシア。

半透明な彼女の両目からは、零れそうな程の涙が溜まっている。

……まぁ、自分の母親が自分の妹を虐待してれば、普通はこういう反応するよな。

でも、これじゃあまだプレシアの傷を抉るには浅い。

 

「……知った風な口を聞くなッ!!坊やにアリシアの気持ちが分かるとでも言うのッ!?もう死んで声も届かなくなってしまったアリシアの気持ちがッ!!最愛の娘を喪った私の気持ちが、分かると言うのかぁああああッ!!?」

 

吐き出す血も、身体から流れる血も無視して叫ぶ、鬼気迫る表情のプレシア。

その悲しみと怨嗟、後悔に憤怒。

あらゆる負の感情が込められた慟哭に、アルフはたじろいだのか一歩下がる。

俺の傍に浮いているアリシアも辛いらしく、母親から目を背けていた。

……プレシアの境遇を知らない人間に、彼女の送った悲しい人生の事を話してみたとする。

間違い無く10人中9人は可哀想だと嘆くだろう。

最後の1人はもしかしたら他人の不幸は蜜の味だと清々しい笑顔で言い切る愉悦を愉しむ外道かもしれない。

鬼婆と罵っていたアルフでさえ、怒りと同情をゴチャ混ぜにした表情を浮かべている。

 

 

 

そして、問いを投げ掛けられた当の俺は――。

 

 

 

「は?んなもん知ったこっちゃ無えに決まってるじゃないっすか?」

 

 

 

はっきりと言って、『だからどうした?』としか思えない。

 

 

 

俺の答えが予想もつかなかったのか、プレシアはポカンと口を開けて呆然とした表情を浮かべる。

あのアルフでさえ、同じ様な表情を浮かべていた。

 

『お、お兄ちゃん……知る訳無いって……それは、ちょっと……』

 

唯一、俺の隣りで浮遊していたアリシアが引き攣った表情で俺を見てるぐらいだった。

俺はそんな視線の全てを無視して、面倒くさそうに耳を掻く。

 

「まぁさっきも言った様に、可哀想だとは思うし同情もしますよ?でもそれ以上は特に何にも思わないね。はっきり言ってお宅の不幸話は、俺に取っちゃ『夕食時にテレビから流れる不幸なニュース』と大差無いんすよ」

 

そのニュースを見れば可哀想だと思うし、犯人に対する怒りも生まれる。

でもそんなモンは時間が経てば薄れていき、終いにはそんな事もあったなぁって感じで終わる。

人間てのはそういう生き物だ。

誰も彼もが最終的には自分の人生を生きて、自分の生を終える。

なのに身近でも無い他の人間の生死の情報を、死ぬまで一生引き摺る人間なんて居るだろうか?

そんなのは手を掛けた下手人か、自分の所為でソイツが死んでしまったという理由がある場合だけだろ。

 

「俺は別にお宅が何をしようと、最初は放っておくつもりだったんだ……が」

 

ギラリ、とでも擬音が付きそうなぐらい、俺は目を鋭くさせる。

例え他人がどれだけ同情しようとも、俺にはこの女をブチのめす理由がある。

 

「さっきの地球を滅ぼすって言葉は頂けねぇ。あんたが可哀想だからって放っておいて、俺や俺の家族、友達に地球に住む人達がアンタの夢の為に殺されちまうってんなら……俺は喜んで、アンタの願いを踏み躙らせてもらうぜ?」

 

俺はその場でスティッキィ・フィンガーズを呼び出しながらプレシアを睨みつける。

他の方法で何かしらその道を模索してんなら、俺だって協力するのも吝かじゃないんだがな。

その上でテスタロッサとおばはんの不仲を解消する手助けだってしてやっても良い。

でもこのおばはんは遣り方を間違えた。だから俺の敵だ。

どんな大層な目的があろうと、『自分の目的の為に他人を犠牲にする事を厭わない』ってんなら、俺は容赦する気はねえ。

それは何も知らない無垢な者を自分の都合だけで殺す『吐き気を催す邪悪』な奴に他ならねぇからだ。

他人の命を踏み台にして自分の願いを叶えようとするプレシアは、俺的に可哀想でも何でも無い。

俺にとっちゃ只の『ゲス野郎』だ。

そんな奴を見逃す、若しくは手助けするなんて、自分も『悪』でしかない。

別に自分は清廉潔白な正義だなんて毛頭思っちゃいないし、俺はヒーローになんてなりたくねえ。

それでもまぁ……母ちゃんと父ちゃんが誇れる息子ぐらいには、なりたいんだよ。

 

「――き――きぃさぁまあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

腹の底から絞り出される、地獄を彷彿させるおどろおどろしい叫び。

プレシアは充血した目を見開きながら杖を掲げ、俺にその牙を放たんと構える。

 

 

 

――まぁ。

 

 

 

『フンッ!!!』

 

バゴォオオオッ!!!

 

「――ぐ」

 

 

 

一度種が割れちまえば、どうとでもなる攻撃だがよぉ。

本来、スティッキィ・フィンガーズの射程距離の外にいるプレシアを叩く事は出来ない。

しかしそれもスティッキィ・フィンガーズの能力を応用すれば、この程度の距離なんて訳はねえ。

ジッパーで自身の腕を外して射程距離を伸ばし、さながらロケットパンチの如く飛翔したスティッキィ・フィンガーズの腕が、プレシアの頬をブン殴る。

 

「頭に血が昇り過ぎだぜ?お宅は最初から最後まで遠距離攻撃しかしてこなかっただろ?離れて攻撃するって事は、それが弱点……おばさんの攻撃を見てからでも充分対処できる程に、アンタは近接戦闘に『慣れて無い』……ノロい野郎だぜ」

 

ボォ~~ンッ!!

 

スティッキィ・フィンガーズの拳を受けてグラつくプレシアの体。

更に殴った部分にスティッキィ・フィンガーズの能力を発現させる。

すると、魔女の首が胴体から外れて宙を舞った。

プレシア……あんたの娘を想う気持ちがどれだけ尊くてもよ――。

 

「何をやったってしくじるモンなのさ……ゲス野郎はな」

 

手段が真っ当じゃなきゃ、結末なんてこんなモンだぜ?

悔しそうな表情で宙を舞うプレシアの首にそう言い放って、俺は腕を元に戻す。

それと同時に、プレシアの体は地面に崩れ落ちた。

 

「なっ!?ジ、ジョジョ!?何も殺さなくても――」

 

『いやぁあああああああッ!?お、お母さぁーーーんッ!?』

 

と、プレシアの首が外れて床に落ちた光景を見て、アルフが声を荒げる。

しかも俺にしか聞こえてないが、隣でアリシア?が叫ぶモンだから耳に痛え。

そういえばアルフにはスティッキィ・フィンガーズのジッパーが見えないんだった。

俺から見れば首にジッパーが付いてるけど、アルフからしたら首が綺麗に飛んだ様にしか見えないんだ。

 

「落ち着け。別に殺しちゃいねーよ。俺の不思議な力で首を外しただけだって……ほら?」

 

「う……ぐぅ……」

 

「ひぃッ!?や、止めとくれッ!?アタシはそういうの苦手なんだよーッ!!い、生きてるのは判ったから、ソレこっちに向けるなぁーッ!?」

 

『お母さんッ!?生きてるッ!?ホントに生きてるのッ!?』

 

俺がヒョイッと持ち上げたプレシアの首が苦しそうに呻くと、アルフは涙を流しながら後退った。

まぁ確かに、血反吐ブチ撒けたおばさんの生きた生首ってかなり怖いか。

 

「とりあえず、また反撃されたら面倒だから気絶させたんだよ。心配しなくても首は直ぐに戻すから待ってな」

 

『約束だよッ!?ちゃ、ちゃんと元に戻してよ、お兄ちゃんッ!!』

 

「??……ジョジョ、何処見て喋ってんだい?アタシはこっちだよ?」

 

「あー……まぁ、アルフには後で説明するわ」

 

アルフよりも取り乱し方が酷いアリシアと目を合わせて落ち着く様に促すと、アルフは訝しむ目を向けていた。

まぁアルフからすれば、俺は誰も居ない空中に話し掛けてるから仕方無いだろう。

面倒くせーから説明は放棄の方向でヨロ。

俺の隣で首を傾げるアルフを無視して、気絶したプレシアの首を体に取り付け直す。

元に戻った事に安堵したのか、隣で幽霊のアリシアが大きく息を吐く。

 

『ハァ~、びっくりしたぁ……まだお母さんには、こっちに来てもらう訳にはいかないもん』

 

その言葉は現実味が有り過ぎて洒落になってねぇよ。

何せ現役幽霊のお嬢ちゃんが言うんだもんなぁ。

そんな事を考えて苦笑しながらも、俺は直ぐ様ザ・キュアーを使ってプレシアの傷を治した。

さすがにこの出血量じゃ、放っといたらくたばっちまいましたってなりそうだし。

そして傷を治しきってキュアーを解除しようとしたんだが、何故かキュアーが俺の腹の上くらいのサイズまで膨れ上がっているじゃないか。

って、おいおいどういう事だ?あの程度の外傷なら、キュアーがこんなサイズまでなるのはおかしい。

ザ・キュアーは文字通り、他人の痛みや悩みを吸い取るのがスタンドの能力であり、吸い取った痛み、悩みはキュアーの中に溜め込まれる。

そして俺の日常生活の中で、体内の痛みと悩みなんかを発散させて消す能力だ。

しかし妙だな……確かにプレシアは重症だったけど、キュアーがこんなに膨れ上がる程じゃ無かった筈。

もしかして、目に見える以外の場所もヤバかったのか?例えば病気とか……。

 

『??』

 

訝しく思いながらキュアーを見てると、キュアーはそのつぶらな瞳で俺を見つめたまま、コテンと首を傾げる。

その横に浮遊するアリシアはそんなキュアーの仕草を見て『可愛い……』とか呟いてる。

……まぁ、気にしてもしゃーねえか。

今更吸い取った分の痛みを戻す事なんて、出来やしないんだし。

俺はそう、無理矢理自分を納得させて、キュアーを消した。

更にヘブンズ・ドアーを使って、俺とアルフ、そしてテスタロッサに対するセイフティーを書き込む。

おっと、ついでに……ジュエルシードを使えない、と……良し。

これでこのおばはんが目を覚ましても大丈夫だ。

 

「ん?……これは……」

 

当面の安全が確保出来た所でヘブンズ・ドアーを解除しようとしたが……その時手に取ったページは気になって、俺は解除をストップした。

そのまま捲っていたページに視線を落とし、その項を熟読して――。

 

「……なぁ~るほどなぁ~」

 

「??さっきから何を一人で納得してんのさ、ジョジョ?」

 

「まぁ待てって……ほぉほぉ……ふ~ん」

 

知らず知らずの内に、俺の頬はニヤリとした口角を描いていた。

しかし無意識に笑みを浮かべてしまう程の情報が、其処に記されていたんだ。

成る程なぁ……これがプレシアさんの『本当の気持ち』ってヤツか……驚いたぜ。

こりゃマジでどうにか出来るかもしれねえな……勿論、俺一人じゃ無理だが――。

 

 

 

「なぁ。ちっと力貸してくんねーか?この人に覚悟決めさせる為によ……アリシアちゃん?」

 

 

 

この子が居れば、何とかなんだろ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……う、ううん……ここは?」

 

あれから少しの時間が経ち、気絶していたプレシアが目を覚ました。

まだ寝起きで状況が判ってないのか、少しうろんな目をしてる。

 

「ハロー。目覚めはどうですか?」

 

「ッ!?(ググッ!!)これ、は……ッ!?」

 

俺の声を聞いて一気に頭を覚醒させ、俺を睨むプレシアだが、彼女は座ってる玉座から動けない。

クラフトワークで身体と玉座を固定してるからな。

暫く体を動かそうと奮闘していたが、動かないと理解して動きを止めた。

 

「……坊やの力は一体どれだけあるのかしら?体全体が動かせなくなるなんて……バインド(拘束術式)では無いみたいね……本当に厄介だわ」

 

「ククッ。気に入ってもらえた様で良かったッスよ」

 

「ええ。暫くはここから動きたくなくなる程度には、ね」

 

体が、首に至るまで動かせなくなってると認識して、目だけで俺を睨むプレシア。

その様子を見ながら嫌味を言ってやれば、これまた嫌味で返してくる。

プレシアは真っ直ぐに俺を見つめていたが、直ぐに疲れた様に溜息を吐いた。

 

「ハァ……何をされたのかは理解出来ないけど、坊やに逆らえないのは理解出来たわ」

 

「ん?結構あっさりと諦めるんスね?」

 

ふと感じた違和感をそのまま口にすると、プレシアは何と苦笑いしながら俺に視線を合わせたのだ。

さっきまで殺意全開だった筈なのに、今のプレシアはいっそ穏やかと言っても過言じゃない。

どういった心境の変化だろうか?

 

「坊やとアルフに対して攻撃しようとする意思があっても、それが何故か邪魔されるのよ?ならどんな手段を講じても、貴方達を傷付ける事は出来ない。だったら敵意をもっても仕方無いじゃない?」

 

いや、確かにそりゃそうだけど……あっさりし過ぎじゃね?

 

「それに……とても信じられない事だけど、私の怪我どころか医者から匙を投げられていた病気まで治してくれた坊やに手を上げる程、私も大人気なく無いわ」

 

「ッ!?ふざけるなッ!!何時も何時もフェイトに辛く当たってきた癖に、どの口がそんな事を――」

 

ここでプレシアが放った一言に、アルフが過剰に反応して憤る。

俺が前に出てなきゃ、今にも掴みかかって殴り倒しそうな勢いだ。

でも確かに、アルフの怒りは分かる。

一度しか見てなかったけど、テスタロッサは執拗に鞭で傷をつけられていた。

それを棚に上げてこの発言をするってのは、俺達を騙そうとする裏があるか――。

 

 

 

 

 

「――そうね。私はあの子に、どれだけ謝っても許されない事をしてきたわ……それは自覚してるつもりよ」

 

「――え?」

 

 

 

 

 

ちゃんと冷静に、自分の罪と向き合ってるか、だ。

もはやプレシアが何を言ってるのか理解出来ないといった表情で、アルフは呆然としてしまう。

その視線の先に居るプレシアはというと、さっきまでの苦笑を自嘲混じりの物に変貌させている。

 

「な、何を言ってんのさ、アンタ?……何で、今更……」

 

「……」

 

「ッ!!このッ!!」

 

「おいおいアルフ。ちったぁ落ち着けよ」

 

「うるさいッ!!アンタは黙ってろッ!!」

 

自分の質問にプレシアが答えずに沈黙したのが気に食わなかったのか、アルフはプレシアの胸倉を掴んで睨み始めた。

それをやんわりと静止した俺にも、アルフは叫んで言葉を返しつつ、視線はプレシアから外さない。

まぁアルフの心情も理解出来るつもりだ。

いきなり手の平返して、今までの行いを反省してます的な事を言えば、やられてた側からすれば堪ったモンじゃねぇだろ。

だからって訳じゃねえが、俺は静かに事の成り行きを見ている。

 

「ッ!!答えろよッ!!何で今更ッ!!どうして認めたッ!?分かってて何で止めなかったッ!?」

 

「……」

 

「黙ってないで何とか言えよッ!!あの子の事が憎かったんだろッ!?何で今になってそんな辛そうな顔をするッ!!――どうして、あの子の思いを踏み躙り続けてきたんだよぉおッ!?」

 

燻っていた、いや無理矢理蓋をして押し留めてきた感情。

さっきの戦いじゃ全くもってそれが解消出来て無かったからだろうか。

アルフはプレシアの胸ぐらを掴んだまま服を締め上げ続ける。

とは言え、これ以上やらせてたらプレシアが死んじまうかもしれねえし、ここらで止めるか。

 

「ストップだアルフ。それ以上やるってんなら、バラバラになって地面に転がってて貰うぜ?」

 

「ッ……クソッ!!」

 

俺の脅しを篭めた言葉に振り返ったアルフは、俺の目を見て本気なのを悟った様だ。

忌々しそうに呪詛を吐きながら、乱暴にプレシアの胸ぐらから手を離す。

ズカズカと床を踏み鳴らして離れるアルフと入れ替わって、俺はプレシアに近づく。

 

「まぁ、その辺りの心境の変化も入れて、相互理解の為に俺達と話し合いでもしましょうや?テスタロッサのこれからについてとか」

 

「……私に拒否権はあるのかしら?」

 

「ある訳無いじゃねぇっすか?アンタは俺に負けて、俺は勝った。だからアンタはそこに縛り付けられてんだ。敗者は黙って勝者の言葉に従えってね」

 

「本当に嫌味な坊やだこと。なら初めから聞かないで、傲慢に勝者らしく振舞って欲しいものだわ」

 

「くっくく。それも勝者の自由ってね……まぁそれはそれとして、実はこの話し合いに是非とも参加してえって子が居るんス」

 

俺が小馬鹿にした口調で会話を続けてプレシアにそう言葉を掛けると、プレシアはあからさまに嫌そうな顔をした。

それは、俺達がさっき対峙した魔女の貌を思わせるが、俺にはその顔が『無理矢理作られた偽物』というのが丸分かりだ。

ヘブンズ・ドアーでプレシアの本当の気持ちを読んだ俺には、な。

 

「……まさか、フェイトをここに呼ぶつもり?だったら止めてちょうだい。あの子に話す事なんて無いわ」

 

「いやいや。生憎とテスタロッサが何処に行ったかは知らないんで、テスタロッサじゃ無いッスね」

 

「??分からないわね……私達に関係ある子だなんて、あの子以外に居る筈が――」

 

「よっと」

 

ズルリ。

 

「なッ!?」

 

俺の言葉の意味が分からず質問してくるプレシアだったが、俺が頭から無造作にDISCを引き抜くと言葉を失う。

まぁ、これから話し合いを進めるなら、これはプレシアさんには必要なモンだ。

 

「とりあえず、プレシアさんには『ライセンス』をお貸ししますぜ……捻じ曲がった想いとはいえ、娘の為に病気も、あの重傷も無視して俺達を倒そうとした精神力があるんだから……充分に資格はあるだろ」

 

「い、一体何の話を……ッ!?くっ!!(ズブブ……)ぅぁ……ッ!?」

 

俺が行った行動に混乱するプレシアの言葉を無視して、俺はDISCをプレシアの頭に差し向ける。

最初はそれを拒否しようとしたプレシアだが、身体が動かないのを思い出して目を瞑るだけに留まってしまう。

結局俺の手から逃げる事は叶わず、DISCはスルスルと抵抗無くプレシアの中へ受け入れられた。

良し、やっぱり充分に素質はあったって訳だ。

ニヤリと笑みを浮かべて手を離すと、プレシアは目を開けて笑う俺を睨みつける。

 

「……何をしたの……さすがにあんな異物を挿れられたら、穏やかじゃいられな――」

 

 

 

『――お母さん』

 

 

 

「……え?」

 

 

 

俺を問い詰めようとした最中に、天井から降り注いだ声。

それを聞いた瞬間、プレシアは俺への怒りを消して呆然とした表情を浮かべる。

まぁ、それが普通の反応か。

俺はクラフトワークの固定を解除して、プレシアに自由を与える。

するとプレシアはゆっくりと、しかし唇を震わせながら、声の主に視線を向けた。

 

「……アリ……シ、ア?」

 

『うん……やっと、私の声が届いたんだね……お母さん』

 

「あ……あ、あぁ……ッ!?」

 

視線が絡み合うと、アリシアは涙しながらも嬉しそうに微笑みを浮かべて、プレシアの目の前に降り立つ。

最愛と豪語していた、永遠に失われた筈の娘が自分の目の前で微笑みを浮かべている。

その光景だけで限界を突破していたんだろうか。

プレシアは目を見開いて大粒の涙をボロボロと流したまま、呆然とした足取りでアリシアへ近づき――。

 

「――アリシア……アリシアなの?」

 

戸惑いながらも尋ねたプレシアに、アリシアは満面の笑みで頷く。

答えを得たプレシアは地面に膝を付いて、力の限り、目の前の娘を抱きしめた。

 

「アリシア……ッ!!アリシアァァァ……ッ!!」

 

『お母さん……ッ!!届いた……ッ!!私の声……届いたよぉ……ッ!!』

 

「ごめんなさいアリシア……ッ!!貴女を死なせてしまって……ッ!!守れなくて、ごめんなさい……ッ!!」

 

互いに泣きながら、声を震わせながら、親子は久しぶりの再会を果たす。

ずっと自分の声が届かずに悲しみに暮れていたアリシア。

娘の声が聞きたくて、自らの病を圧して尚、進み続けたプレシア。

アルフはあそこでプレシアに抱かれてるのが自分の主じゃ無いからか、余り良いか尾はしてない。

でもあの二人の邪魔をしない辺り、水を刺す様な野暮なしないでいてくれるんだろう。

なんだかんだで優しい奴だしな、コイツ。

俺もとりあえず二人が泣き止むまでは一歩引いた所で見るだけにして、頭の中で幾つか計画を立てていく。

とりあえずこれで、プレシアとアリシアの再会劇は成功したし……もうちょい頑張るとするか。

 

 

 

テスタロッサ一家の『全員』が報われて、地球も滅びない、誰も損をしない締め括りの為に。

 

 

 

さすがにここまで関わってこの家族を見捨てたんじゃ、俺自身の心に後味の良くねえものを残す事になるしよ。

 




ボツネタ



「ククク。愛娘の記憶と容姿を受け継いだ、謂わば妹の様な存在を嗜虐する事で、娘が居た頃の生活に想いを馳せるとは、中々良い趣味ッスね?」

「ち、違う!!私は決してアリシアとあの人形を重ねてなんか――」

「何が違う?姿形は同じ。些細な違いがあろうとも、あの少女は貴様の娘の遺伝子と記憶、心を受け継いだ写し身に他あるまい?同一の存在に対する嗜虐。それは貴様が追い求める『娘』と過ごしたかった日常なのだろう?違うと言うのならば……」

DISC挿入

「な、何を『母さん……』――アリ、シア?」

「クククッ。貴様の愛娘に否定の言葉を述べてみせてもらおうではないか。娘と同一の遺伝子と記憶を受け継いだ妹を嗜虐する事が、貴様の母親としての本性では無いと。同じ存在なのだから愛してみせる、と」

「あ、あ……あぁぁあああああッ!!?」

「クククククッ……壊れたか……何と矛盾に満ちた女だ……中々俺好みの愉悦を抱えていたというのに、勿体無い事をしたな……だが、そういう存在を壊す事もまた……俺の愉悦、か……」




定明は、他人の心の傷を広げて愉悦に浸る、あの外道神父の同類だったんだ!!


ΩΩΩ(ナ,ナンダッテーッ!!?)




んなわきゃ無い無い。





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読み切り番外編

初めに幾つか注意事項をば。

今回の作品は赤城九朗さんの作品であるFate/monster にインスピレーションを受けて書きました。
故に似通った場所が多々あると思われますが、作者さんからは許可を得ています。

ザビ子ファン閲覧注意。

軽く人格崩壊が酷いです。

pixivさんに投稿されていたザビ子イラストで可愛くてきょぬーなザビ子を発見し、そのザビ子さんをイメージして書いてます。

ひんぬーじゃないザビ子なんてザビ子じゃ無いという方はブラウザバック推奨。

読み切りという事でご都合主義と原作設定にかなりの齟齬が出ているかと思われますが、勢いとノリで書いてますのでご容赦下さい。


ツッコミ所満載ですが、それでも大丈夫という心の広い方はどうぞお読み下さい。




――日本のとある街。

 

 

世間にある他の街とそう変わらない日常が紡がれる街があった。

周囲を山と海に囲まれた、日本海西側に位置する自然豊かな地方都市。

中央の未遠川を境界線に東側が近代的に発展した「新都」、西側が古くからの町並みを残す「深山町」となっている。

川を堺に東と西の作りが隔てられているという特徴が有る以外は、他の街と対して変わらない街。

 

 

 

名を、『冬木市』

 

 

 

対して珍しくも無い町並み……だが、それは『表向き』に限った話であった。

 

 

 

 

 

――唐突ではあるが、世界には『神秘』という、なんともオカルト染みたモノを追求する人種が存在する。

 

 

 

代々、世界の根源に至ろうとする神秘の探求者達――。

 

 

 

彼等を総称して、彼等は自らをこう呼ぶ――。

 

 

 

――『魔術師』、と。

 

 

 

ここでは便宜上、彼等魔術師を『裏』として説明を進めていく。

日本の何処にでもありそうな街である冬木市だが、実は彼等『裏』の者達にとってはそうではない。

日本でも有数の霊地である事と、そして魔術協会や聖堂教会という異端を管理する執行機関に目を付けられ難い極東の地ということだ。

魔術師からすれば厄介極まり無い執行機関に目を付けられ難く、豊富な霊脈を持つ有数の土地、それが冬木の裏の評価である。

そしてその冬木に目を付けた魔術師の名門の三家が集い、ある大魔術の降霊儀式が計画された。

 

 

 

その名を、『聖杯戦争』。

 

 

 

詳しい説明は省くが、聖杯とは「万能の願望機」と呼ばれる魔術礼装である。

聖杯戦争とは読んで字の如く、万物の願いをかなえる「聖杯」を奪い合う争いだ。

聖杯を求める七人の魔術師……マスターと、彼らと契約した七騎の使い魔……サーヴァントがその覇権を競う。

この様なバトルロワイヤルが行われる理由は唯一つ……聖杯という願望機は、一組の聖杯に選ばれた者にしか降臨しないからだ。

最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる。

大雑把に言えば、自らの欲を叶える為に聖杯を求める輩が、冬木市にて殺し合いを行うという事である。

しかも万物の願いを叶える事が出来る聖杯をめぐる戦いであり、そんな大それた代物を降霊する巨大な儀式。

当然、魔術師だけではなく、共に戦うサーヴァントも一級品だ。

 

 

 

サーヴァントの事を使い魔と称したが、実際にはそんな枠に収まる様な者達では無い。

 

 

 

彼等の正体は英霊、神話や伝説の中でなした功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者。

つまり昔に存在し、偉業を成した『英雄』、若しくは悪名を轟かせて人々の記憶に刻まれた『反英雄』達なのである。

聖杯戦争に際してのみ召喚される特殊な使い魔であり、また彼等自身も聖杯に掛ける願いを持っている為に、召喚に応じてマスターと共に戦うのだ。

彼等は予め定められたクラスに、自身の特性を合わせて、そのクラスにて現界する事が出来る。

クラスとは、七騎のサーヴァントそれぞれに割り当てられる七つの「役割」。

英霊を完全な形で召喚するのは聖杯の補助があっても容易ではなく、「役割に即した英霊の一面」というものに限定することでその負荷を抑えている。

クラスには大枠として基本の能力値や保有スキルといったクラス特性が生前の能力値とは別に後付けされるものとして存在し、どのような英霊なら該当するかの条件も加わって、そのクラスらしさのある能力のサーヴァントになっている。

また逆に、生前有していた武装や能力も、クラスによっては発揮できなくなる可能性を持つ。

 

 

 

セイバー

 

アーチャー

 

ランサー

 

ライダー

 

キャスター

 

バーサーカー

 

アサシン

 

そして通常の7つのクラスのどれにも該当しない、特殊なクラスとして、エクストラ(番外)が存在する。

 

 

 

そしてサーヴァントをこの世、つまり現代に留まれる様に維持するのはマスターなので、マスターに死なれてはサーヴァントも生き残れない。

また、マスターが気に入らないからといった理由で反撃、殺害されない様に、主であるマスターには『令呪』という聖痕が与えられる。

これはサーヴァントに対する絶対命令権であり、同時に聖杯戦争へ参加する資格でもあるのだ。

 

 

 

つまり令呪がなければ、聖杯戦争に参加する資格は無いと見なされる。

 

 

 

それは、この聖杯戦争は本来、魔術回路若しくは魔術刻印と令呪を持つ、選ばれた魔術師達のみの殺し合いという事に他ならない。

 

 

 

更に『魔術は秘匿するモノ』という全魔術師に共通する掟から、聖杯戦争は人目の付かない夜中の戦いを義務付けられている。

 

 

 

ならば、選ばれていない冬木の地に住む一般の人間は大丈夫なのか?

 

 

 

答えは、否である。

 

 

 

まず一つ目の理由として、サーヴァントの力を強化する為に、民間人が犠牲になる事がある。

サーヴァントとは使い魔であり、同時に過去の英雄という、謂わば人間霊に性質が近いため、生きた人間の精神や魂を食うことで自身の魔力の強化・補充が可能である。

さすがに世間に目を付けられる様な大々的な事は起こせないが、足りないモノを補う為には他所から持ってくるのが魔術師という人種だ。

己が願いの成就の為、又は必要に迫られれば、何の罪も無い人間が幾人か、魔術師の勝手な理由で犠牲になる可能性も少なく無い。

 

 

 

第二に、令呪に選ばれるのは、何も魔術師のみに限った場合では無いのだ。

 

 

 

そも魔術師の素養というのは、魔術回路という魔術師を魔術師たら占めているモノを秘めているかどうか、つまり特殊な体質の人間の事だ。

魔術回路以外にも、代々先祖が積み上げてきた魔術を刻印として記し、次代に継承させる魔術刻印というものもあるが、それは今関係無いので割合する。

つまり、裏の世界を知らず、魔術の修行を受けていなくとも、魔術の素養が高いだけで聖杯に選ばれてしまうイレギュラーな一般人も居るという事になる。

幸か不幸かと問われれば、平和な日常が一気に血生臭い戦いの日々へ変わってしまうのだから、不幸としか言い様が無いであろう。

 

 

 

 

 

「COOOOOL!!……あんた最高にCOOLだぜ、旦那!!」

 

「フフッ。よき理解者を得て、幸先がいい。私も嬉しいですよ、我がマスター」

 

 

 

 

 

そして、今正に理不尽な理由で日常の全てを台無しにされた光景が、ある民家で広げられていた。

何処にでも有る一般的な居間。

今朝までその家に住む4人家族の団欒と食事を行っていた部屋も、今は惨劇のステージに変わり果てていた。

全ては神の悪戯の様な悪辣極まる偶然と、ほんの少しの不幸の負債である。

もしも、マスターとなった男が異常な猟奇殺人者で無かったら。

召喚されたサーヴァントが、マスターと同じ狂人にして悪意の塊で無ければ。

そもそも男がこの家に目を付けなければ……そんな悪意の偶然。

この家の家族は今日の夜も、明日も、穏やかで幸せな日常を送っていただろう。

しかし全ては起こってしまった。

 

「なぁ旦那!!この『器』はどうよ!?大家族用に作ってみたんだけどさ!!」

 

「ほぉ?この見事な造形……素晴らしい!!正に芸術ですよ、龍之介!!」

 

「へへ、そうかな?旦那に褒められると嬉しいな~」

 

テーブルの上に飾られた『器』を見て、旦那と呼ばれたサーヴァントは微笑んで賞賛を送る。

その賞賛を送られたマスター……龍之介と呼ばれた男は照れくさそうに頬を掻く。

その光景は「よく出来ました」と先生から賞賛を貰って照れる生徒の様で、とても微笑ましい光景だ。

 

 

 

テーブルに飾られた『器』というのが、『男性と女性の肋骨を抉り出して無理矢理繋ぎ合わせたモノ』でなければ。

 

 

 

下半身は既に切り取られ、本来肋骨の中に収められていた内臓が、男性と女性の遺体を結び合わせていた。

首は繋げられたままだが、目は繰り抜かれ、男は耳まで口元を笑みの形に。

女性は反対に悲しみの様に、口元を顎の付け根まで切り裂かれた状態で向き合っている。

 

異常な光景。

 

その『芸術作品』を持ってして、両者はお互いの趣味に理解を示したのだ。

男性と女性は、この家の母と父だった。

いつもの様にゆったりとした昼前の時間を過ごしていたはずの二人は、突如乱入してきた龍之介に○された。

そしてその体は死後も弄ばれ、あの様な見るも無残な姿に変えられてしまった。

更に龍之介は家に居た二人の姉弟を捕縛し、この家で悪魔召喚の儀式を執り行ったのだ。

……事の発端は些細な事であった。

この猟奇殺人を行う龍之介という男は、最近巷を騒がせている猟奇殺人者である。

彼はこの所、自分の『芸術』の作品構想に行き詰まり、初心に帰ろうと実家へ舞い戻ったのである。

そこで何となしに実家の土蔵のモノからインスピレーションが得られないかと考え、土蔵を漁った。

そして出てきたのは、一冊の古めかしい手記であった。

特に何か特別な物には思えなかった龍之介だが、何故かその手記に吸い寄せられて中身を読む。

次の瞬間には「面白そうだ」と笑いながら実家を飛び出していった。

龍之介が見つけた手記は、彼の何代も前の先祖が研究していた悪魔召喚の儀式図……ではなく、何とサーヴァントの召喚陣であった。

それを龍之介は「本物の悪魔に会えるかも」等と勘違いして、偶々目に付いたこの家で儀式を執り行った。

 

 

 

そして、何の因果かその儀式は成功してしまったのである。

 

 

 

龍之介の手に聖痕として令呪を刻み、自動的に龍之介は聖杯戦争のマスターとして登録された。

そして悪い要因が重なり、彼は本来英霊を召喚する為の触媒を用意せずに、呪文だけの召喚儀式を執り行った。

その場合、呼び出されるサーヴァントはマスターの性質に近い者が、聖杯よりセレクトされる。

果たして呼ばれた存在は、龍之介と同じく「殺人に耽溺する」という二人の精神の共通性を持っていた。

つまり、マスターとサーヴァントが共にこの惨劇を執り行う芸術家であり、止めてくれる管理者は不在状態。

しかも続く惨劇の生贄には弟が選ばれてしまう。

姉は決死の思いで弟を庇おうと、塞がれていたが故にくぐもった悲鳴で声を張り上げたが、それは逆に二人の異常者を喜ばせてしまった。

 

曰く、「目の前でこの坊やを殺してあげれば、更なる絶望が彼女を彩るでしょう」

 

という、聖人の様な微笑みを浮かべた悪魔の所為で、弟はゆっくりと時間を掛けて、悪魔のしもべ達に四肢を食い千切られていく。

弟は口を塞がれながらも、四肢を襲う激痛に涙し、悲鳴を上げて、姉に助けを求めた。

姉は弟を助けられない自分の無力に涙しながらも、懸命に声を張り上げて慈悲を請い続ける。

 

 

 

そんな彼女への返答は、お腹を裂かれ、弾き飛ばされるという残酷なモノだった。

 

 

 

サーヴァントの規格外の腕力……例えそれが直接戦闘に向かないキャスターであっても、只の人間なら余りある。

弟の命を懇願した姉は、お腹の中身をまき散らしながら、龍之介が書いた魔法陣の側に倒れ伏す。

自らの生命を司る血液が流れてるというのに、彼女は気を失わなかった。

それどころか、腹部に感じる痛みなのか怪しい熱が強く感じられた。

 

「フフフッ。お嬢さんにも坊やと同じく簡単には死ねない様に魔術を施しました。痛みに苦しみながら、最後の家族が生きたまま裂かれるというのは――」

 

グジュル。

 

「さぞかし、貴女の心を絶望で彩るでしょう」

 

何とも水っぽい音が聞こえたかと思えば、弟の四肢は千切れ、鮮血を撒き散らす。

普通なら気を失うであろう出血だが、弟は気絶する事が出来ずに四肢の無い体でのた打ち回る。

恐らく自分に使われた術を、弟も使われているんだろう。

姉はそんな事を思いながらも、弟を見ていた。

彼女にはもう、自分の頬を流れる液体が涙なのか、自分の血なのかすらどうでも良かった。

そのまま最後の仕上げなのか、悪魔の呼び出した異形の下僕に、弟は食い散らかされてその生涯に幕を閉じる。

 

 

 

――許さない。

 

 

 

自分の腹を割き、肉親を目の前で弄んで○した、目の前の悪魔達。

少女は腹を裂かれながらも、脳内を支配する激情の炎を燻らせる事は無かった。

 

許さない。赦さない。ゆるさない。ユルサナイ。

 

目の前で楽しそうに笑ってる悪魔達を、私は絶対にユルサナイ。

もう壊されてしまった、私の○○。

もうあの普通で、そして幸せな日常は戻らない。

でも、私はまだ生きてる。

なら私は絶対に諦めない――諦めてやらない。

腹を裂かれた自分に何が出来る?

私では、悪魔の横に居る男にすら敵わない。

なら、悪魔や悪魔の下僕にだって絶対に無理だ。

幸いにも、自分はあの悪魔のお陰で直ぐには死なないらしい。

だったら――。

 

「なぁ旦那!!この女の子なんだけど、大っきいおっぱいが邪魔じゃん?だから切り取って……」

 

「ふむ。でしたら、乳房は別の場所に縫合し直して……おや?」

 

「あれ?何しようとしてるの?お腹の中がもっとこぼれちゃうよ?」

 

うるさい、黙れ。

そんな言葉すら口にするのも惜しい、とばかりに、私は床を這いつくばる。

みっともなく、床を這いずって……あの男が書いた魔法陣に手を伸ばした。

目には目を、という諺がある。

なら、私もやってやる。

 

 

 

――私も、悪魔を召喚すれば良い。

 

 

 

お腹を引き摺る度に、中身が擦れてイタイ。

でも、それが気を失いそうになる私の心に火を灯し続ける。

――この痛みは『試練』だ。

 

「……プッ。ククク……見なさい龍之介。どうやら彼女は、アナタと同じ様にサーヴァントを召喚しようとしてるらしい」

 

「え!?他にも悪魔さんて居るの!?」

 

「えぇ、居ますよ。私を抜いてもあと6騎は……しかし……」

 

コイツ等に打ち勝てという、『試練』と私は受け取った。

この痛みを乗り越えて、家族の仇を取る為の、謂わば洗礼だ。

震える動きで、カタツムリの様に遅い動作で、私は魔法陣に手を触れる。

 

「ごぶっ……れ……か……」

 

「フハハハハ!!無駄ですよ、諦めなさい。サーヴァントは選ばれた者のみに従う霊僕。資格の無いアナタに答える事はありません」

 

「あれ?誰でも呼べる訳じゃ無いのかー。何かショックだなー」

 

「ですが、面白い余興です。神は人を救わないというのに、その無様に縋る様は滑稽ですな」

 

もう喋るな。その声を聞きたくない。

必死に雑音を除去して、あの男が唱えていた呪文を唱えようとするが、おなかに力が入らない。

殆どの中身を落としてしまったからだろう……でも、諦めない。

口から血が出る。

なら、声だって出せる筈なんだ。

私の○さんと○さんの血で書かれた魔法陣。

それを手で触れながら、私は一言だけ。

 

 

 

 

 

――只、全力で。

 

 

 

 

 

「――来てッ!!!」

 

 

 

 

 

――刹那、魔法陣が眩い光を発した。

 

 

 

 

 

「何ですって!?」

 

「うおぉ!?こ、これって、旦那が来た時と同じ……ッ!?」

 

悪魔達が驚く中、魔法陣の放つ光の中から少しづつ、影が作られていく。

私はお腹の痛みに耐えながら、その光の中心を見ていた。

そして光が消えて、現れたのは――。

 

 

 

 

 

 黄金の王者

 

 

 

 剣を携えた男装の少女

 

 

 

 妖艶な半獣の女性

 

 

 

 白髪に褐色肌の男性

 

 

 

→自分より幼い少年

 

 

 

 

 

「あ~……ったく、何だよ……聖杯戦争?クソッ、巫山戯た所に飛ばしやがって……」

 

 

 

 

 

現れたのは、さっき○べられた弟とそう変わらない年の男の子だった。

先ほどの悪魔の様な、自分達と……人間とは規格の異なる存在……では無かった。

そんなオーラは殆ど見えない。

それどころか、間違いなく怪我をしていない自分よりも弱いだろう。

目の前がサァッと暗くなった様に感じた。

私はこんなか弱い存在を、自分の都合の為に恐ろしい場所に呼び出してしまったのだ。

私がした事は、あの悪魔達を喜ばせる為の生贄を呼んでしまうという愚行である。

 

「……は、ははは……何かすっごく普通の坊やが来たんだけど?え?これってジョーク?ちょ、腹が捩れる~~~!!!」

 

「く、はははははッ!!残念でしたねぇお嬢さん!!アナタは私達の為に新たな贄を呼び寄せる事しか出来なかったようですなぁ!!!ハハハハハハ!!!」

 

……ッ!!

悔しさで、涙が堪え切れない。

さっきまでは好都合だと思っていた死ねない術も、今の私には枷でしかない。

そして私には、楽に死ぬ事も許されない。

せめて、自分の呼んでしまった少年への贖罪に、痛みと苦しみの中で永遠に責められたいぐらいだ。

間違い無くこの少年も○されてしまう。私の○と同じ様に――。

ごめんね、知らない子。

こんな所に呼んじゃって、ごめんなさい。

 

 

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ――。

 

 

 

 

「ノックしてもしもぉ~し?お姉さんが俺のマスターって事で良いんスかね?」

 

 

 

 

と、呼んでしまった少年に対しての謝罪を心の中で唱えていると、少年は私の頭を優しく撫でながらそう聞いてきた。

私はその声にハッとして、意識を戻す。

何を謝って自己完結してる!!最後まで諦めないで、せめてこの子だけでも――ッ!!

私は体に力を籠めて『立ち上がり』、彼を背中にして悪魔達から庇う。

もう絶対に、アイツ等の思い通りには――ッ!!

 

 

 

「あははは!!お、お嬢ちゃん可愛いしギャグのセンスもあるなんてサイコーだよ!!こりゃ是が非でも俺のアートの材料、に?……え?……あれ?――ねぇ……君、何で『立てる』の?」

 

「ハハハハハハッ!!ん?どうしました龍之す……け……?」

 

 

 

――え?

 

 

 

あの男に言われて、私は初めて自分の『矛盾』に気付いた。

言われてみれば、おかしい。

私は何で『普通に立っていられる』のだろうか?

そんな事は有り得ない筈だ。

だって私のお腹は――。

 

「……何も……なってない?」

 

自分自身の言葉であっても、到底信じられるモノでは無かった。

あの悪魔に裂かれて、中身が溢れていた筈の私のお腹。

そこに傷は無く、破かれたセーターの隙間から覗く肌は、綺麗なままだ。

床にも、私のモノらしき○○は一つも溢れ落ちて無い。

え?あれ?なんで?

 

「……ハァ~」

 

ふと、後ろから聞こえた溜息に、私はゆっくりと振り返る。

 

「やれやれ……巫山戯た場所に飛ばされたと思ったら……これまたグレートに巫山戯た状況とはなぁ……やってらんねーよ」

 

あの魔法陣から現れた少年……彼は、ヤレヤレと首を振りながら、私と入れ替わって前に立つ。

その動きに恐怖は無く、気負いも無し……只、目の前の悪魔と男に対して視線を送るだけだ。

余りにも異質な事が自分の身に起きて、私は動く事が出来ずに、少年を止められなかった。

ただ、今まで感じた事の無い『スゴ味』を、彼の背中から感じている。

それだけで、私は救われた気がした。

何の根拠も無いし、悪魔だって居るのに……私を守る様に立つ目の前の子を見てるだけで、私は嬉しい涙が溢れて止まらなかった。

 

「……腹の底からドス黒い気分になるぜ……テメェ等みてぇなクソを見てるとよ……ブチ殺す事に躊躇も感じねーくらいだ」

 

「……吠えるなよ匹夫めがぁああああああああああああああああああああッ!!!」

 

少年の呟きが琴線に触れたのか、悪魔は大声を出して、懐から異様な本を取り出す。

その本から怪しい光が漏れたかと思うと、悪魔の後ろに○を食べた化け物が何匹も現れる。

少年はその光景を見ても、特に何も反応していない。

だが、悪魔の方はそうでは無かった。

憤慨している。激怒している。

表情が全てを物語っていた……少年という存在に対して、激しい憎悪すら感じる。

 

「忌々しい神の手先め!!その下賎な小娘を救うと言うのか!?かの民衆の為に戦った聖処女は救わなかったというのに!!聖処女は見捨てて信仰心の無い小娘を助けるというのかぁあああッ!?」

 

「ギャーギャー吠えるな、ビチグソ野郎。テメーが神様をどうして恨んでるのか何て知ったこっちゃねぇしどうでも良い。とりあえずテメェは居る事自体が不快だからな……さっさとおっ死ね」

 

「舐めるなぁあああああああッ!!!貴様こそ、海魔達の糞になれぇえええええッ!!!」

 

悪魔のその言葉で、コチラへ殺到する無数の化け物。

そんな化け物達を見ると、体が自然と震える。

アレはさっき、私の○を……。

 

「大丈夫ッスよ」

 

そんな私に対して、少年は顔だけ振り返り、笑顔を向けてくる。

たったそれだけの行動。

どんな意味が篭められた言葉なんか、分からない……筈……なのに……。

 

「俺が貴女を守りますよ……貴女の家族の代わりに……どんな事があろうと……」

 

あぁ、何故だろうか。

目の前の少年の言葉が、私に勇気を与えてくれる。

安らぎと、心地良さを……私を包む、大きな優しさを感じさせてくれる。

少年は私から目を離すと、殺到する化け物達に視線を向け――。

 

 

 

 

 

「餌としちゃ三流だが、喰われる事を光栄に思っとけよ、ボケナス共……『イエローテンパランス(黄の節制)』ッ!!!」

 

 

 

 

 

少年の背後から現れた、黄色いドロドロが、化け物達を飲み込んで、蹂躙した――。

 

 

 

 

 

結果を言うなら、あの化け物達は少年のスライムに喰い尽くされ、悪魔達は逃げていった。

ベストでは無いが、ベターな結果に終わったと言って良いだろう。

少年は悪魔達が去ったのを確認すると、重い足取りでテーブルへと近づく。

そこには、あの男に○された、私の○と○の無残な姿が有る。

 

「……遅くなってすいません……あなた達は救えなかったけど……」

 

重い口調で呟く少年の背後から、半透明のシルエットが現れる。

ハートの様なアクセントを散りばめたヒトの様な存在。

その存在が私の○と○に手を触れると、○と○の体は綺麗に治った。

何時もと変わりない姿。

でも、永遠に目を醒ます事の無い、私の○○。

その姿を見て、私は嗚咽を堪え切れずに、膝を付いて泣いてしまう。

悲しくもあり、嬉しくもあるのだ。

もう目を醒まさないという悲しい事実。

それに相反して、綺麗に治って良かったという嬉しさ。

二人の人間としての尊厳が、取り戻されたのだ。

 

「必ず俺が、マスターを……貴方達の娘さんを守ります……そして、貴方達の日常を壊したあのクソッタレ共に……然るべき報いを与えますから……安らかに寝て下さい」

 

もう我慢出来なかった。

私は、私の頭を撫でて慰めてくれる、この小さくて勇敢な少年に抱き着いて、大声で泣いた。

自分の方が年上なのにだとか、そんな事を忘れて、恥も外聞も無く泣いた。

そんな私を疎ましく思う訳でも無く、少年は只優しく私の背中と頭を撫で続ける。

理性では『そんなに優しくしないで欲しい』なんて思っても、本能は『ずっとこうして欲しい』と思うばかり。

あぁ駄目、駄目だ……これじゃあ私、君の前じゃ泣き虫のままだよ。

恥ずかしいと思いつつも、体は離れない。自分の体なのに言う事を聞いてくれないのだ。

結局そのままズルズルと、私は少年に抱き着いて10分は離れなかった。

 

「……落ち着きましたか?」

 

うん、大丈夫。本当にありがとう。

優しい口調で声を掛けてくれる少年に、私は俯いて答える。

何?目を見て感謝しないのは失礼だ?

そんな事良く判ってる。

でも、泣いて真っ赤に腫れ上がった目を見せたくないのです。

今更ながら羞恥心MAXなんですよ!!察して!!

そしてそんな状況でも抱き着いて離れない私、自重しろ……ッ!!

しかしそんな事をしてると、フラリと頭にモヤがかかる様な気分に陥る。

床に倒れると思っていたが、少年が私の体を支えていてくれてた。

手の掛かるお姉さんでごめんなさい。

 

「疲れが出たんでしょーね……今はゆっくり眠って下さい。俺がちゃんと安眠できる様に、見張ってますから」

 

うん……ごめんね……迷惑ばっかり……かけ……て……。

そう言いたかったのだが、私の意識は言葉を返す前に深い眠りに落ちてしまった。

 

「あれ?マスター?おーい?……抱き着いたまま寝るって……しかも離れねーし……やれやれ」

 

 

 

 

 

――明けて次の日。

 

 

 

 

 

リビングには土下座する私と、困った表情の少年の姿がありましたとさ。

いやもうホントにごめんなさい。

助けてくれたのにお礼も言わず勝手に寝落ちして、挙句に離れなくてすいません。

マジ生きててごめんなさい。

 

「いや、まぁそこまで困った事にはなって無いッスから……とりあえず顔を上げて、お互い自己紹介しましょう」

 

見た目○とそこまで変わらない少年にフォローされる女子高生。

うん、割りとマジで辛い。

しかしこのままでは話が進まないので、私は顔を上げて少年と目を合わせた。

……余り真面目そうには見えない。

改めて少年の顔を見て思ったのは、それに尽きる。

ダルッとした目付きで、座り方もラフだ。

何処と無く不真面目というか……面倒くさがりに見える。

しかしそんな彼のダルッとした目が可愛いと思ってしまう当たり、自分は相当重症だと思う。

あのヤル気の無い、しかし何処と無くユルッとした、垂れた様に見える目。

そしてその小さな瞳の中に薄っすらと見えるダイヤモンドの様な気高さ。

あぁ……どうしよう、本気で重症だ。何故か抱きしめたくなるZE。

 

「……なんか目付きが不穏なんだが……改めて、エクストラクラスサーヴァントのサモナー(召喚する者)です。真名は『城戸定明』で、アダ名で『ジョジョ』とも呼ばれてました。マスターの名前は?」

 

サー、ヴァント?サモナー?……どういう事だろう?

彼の言葉に意識を集中した私だが、聞いた事の無い単語ばかりだ。

何時もならこの年の少年が言うなら何かのゲームの事と思うが、今は違う。

何せ昨日、自分の身を持って体験したばかりだ……あのおぞましい……。

そんな事を思い出しながらも、私も自分の名前を彼に教える。

 

 

 

――白野。岸波白野だよ。

 

 

 

「白野さんッスね?改めてよろしくお願いします……じゃあ、マスターの家族が襲われてた事を踏まえて聞きますが……マスターは『聖杯戦争』ってのをご存知で?」

 

また聞いたことの無い単語が出て、私は首を横に振る。

戦争とは、また穏やかじゃ無い話だ。

私の反応を見た定明君は「なるほど……やっぱそういう事か」と何かを納得した様に頷く。

 

 

 

「じゃあ、俺が一から説明しますよ……まず最初に、マスター。この世界には『魔法』が存在します」

 

 

 

サモナー……城戸定明君が語ったのは、この世の裏側という世界の事だった。

魔法の存在、全ての願いを叶える願望機の降霊儀式。

世間ではオカルトとして、有り得ない事象として語られる筈の話。

しかしその突拍子も無い夢物語を、私は全て受け入れる。

私の○○がその戦争の犠牲者なのだから……。

 

「んで、さっきも説明した通り、マスターは魔術師じゃ無い。でもかなり大量の魔力を持ってたから、聖杯にマスターとして選ばれたんじゃないッスかね。令呪もあるでしょ?」

 

令呪とは、使い魔として規格外のサーヴァントを従える、3つの絶対命令権だそうだ。

それが体に刻まれていれば、聖杯戦争のマスターとなるらしい。

普通は手の甲に現れる筈なのだが、私の手の甲には見当たらない。

――じゃあ、私は定明君のマスターじゃ無いの?

自分で言ってて何だが、そう考えると涙が出そうになった。

 

「いや、俺は白野さんがマスターだと思います。白野さんと魔力のパスは通ってますから、多分体のどっかに令呪が刻まれてるかと」

 

その言葉だけで、私の気分は上方に跳ね上がる。

どうにも自分は自分でヤバイと思うぐらい、彼に依存してしまってる様だ。

これじゃまるっきりショタCONでは無いか……ッ!!

 

「ちょっ、待った待った!!何で服を捲ってんスか!?令呪を確認すんなら脱衣所でやって下さいよ!!」

 

え?でも、私以外誰も居ないし……。

 

「俺が居るでしょーが!!霊体でも存在はちゃんとカウントして下さい!!」

 

私が首を傾げながら答えると、定明君は顔を真っ赤にして反対を向いてしまう。

ゴメン、私普通に定明君になら見られても良いって考えてた。ちょっと配慮が足らなかったね。

 

「……幾ら俺がガキっつっても、性格が男前過ぎんだろーが……(ぼそっ)」

 

耳まで真っ赤にしてブツブツと呟く定明君に癒やされながら、私はセーターを脱いで自分の体を見下ろす。

すると、目当ての令呪は直ぐに見つかった。

探して止まない聖痕は、私の同年代からは羨まわれて仕方無い大きい胸の片方にあったのだ。

ハートの形の痣の中に、寄り添う様に左右の淵を彩る装飾。

そしてハートの中心に添えられた手の平のマーク。

これが令呪なんだと、直感的に感じる。

私と定明君を結ぶ、目に見える証……良し、これで不安は拭えた。

令呪があった事を伝えると、服を早く着てくれと言われ、私は服を着直す。

そしてまた話し合いを再開する。

 

「んで、聖杯から得た知識では、マスターである令呪を放棄する事で戦争を棄権し、聖杯戦争の監督役での居る教会で保護してもらえるんですが……」

 

嫌だ。

 

定明君の提案する様な言葉に、私は即座に首を振る。

こればっかりは誰が何と言おうと、私は拒否するつもりだ。

これは私の我儘だが、定明君には側に居て欲しい。

私の『かぞく』は、もう居ないから……ひとりには、なりたくない。

私が俯いて沈黙していると、定明君は分かっていたかの様に「そうッスよね」と言葉を続ける。

 

「それにマスターの場合、棄権する事はお勧め出来ねえ。キャスターの野郎がマスターを……いや、俺達を狙ってるから」

 

そう、私達は確実に昨日の悪魔……キャスターのクラスのサーヴァントに狙われているのだ。

私と私を助けた定明君は、確実にあの狂人の標的となっている。

ならこの状況で令呪を放棄して定明君との繋がりを断つのは、愚策でしか無い。

……ここでふと、今自分が居るリビングの状況を見て驚いた。

あの夥しいまでの血痕も、○と○の血で書かれていた魔法陣も綺麗さっぱりと無くなっているのだ。

それに二人の遺体も……。

 

「血は全部掃除しました。そんで、マスターのご家族は……この『紙』の中に入れてあります」

 

紙?紙って……どういう事なの?

気になって質問すれば、定明君は二枚の紙を差し出してきた。

紙には其々、○と○と書かれている。

 

「それは俺の持つ宝具、『傍に立つ者(スタンド)』の能力の一つ。『エニグマ』で創り出した紙なんスよ。その中に保存した物は紙が破けない限り、保存した時の状態を保ちます……直ぐには無理でも、落ち着いたら埋葬出来ますし……」

 

宝具。

 

簡単に言えば、彼等を英雄たらしめる象徴。つまり必殺技らしい。

彼は違うそうだが、その分魔力の消費も段違いとの事だ。

二人を保存してくれた彼の気遣う言葉も、段々と気まずそうな声に変わる。

それはそうだろう。

どう言い繕ったって、二人はもう死んでいるのだから。

でも、彼の気遣いを無駄にはしたくない。

私は溢れそうな涙を堪え、出来る限りの笑顔でお礼を言う。

私のお礼を聞いた定明君は、真剣な表情で私を見つめながら、言葉を続けた。

 

「キャスターに狙われてる以上、マスターは戦う事を止められません。それに他のサーヴァントに狙われるのは必然ですから、今から住む場所を移動しましょう」

 

住む場所?ここでは駄目なんだろうか?

……いや、考えるまでも無い。

既にこの家はキャスターに知られている。

本当なら直ぐにでも移動しなきゃいけない所だ。

でも、そんな見つからない場所の当てなんて……。

 

「そこは問題無いっす。当面の金銭に関しても俺が何とかしますんで……とりあえずマスター、この『亀』を見て下さい」

 

そう言って定明君は、何処から出したのかは分からないけど、一匹の亀をテーブルの上に置く。

見た目は普通……では無く、背中の甲羅には煌びやかな装飾が為された『鍵』が嵌め込まれている。

鍵の中心の赤い宝石なんて、透き通って見えそうな程に綺麗だ。ルビーかな?

そう考えていると、彼は私の隣に移動してきて、優しく私の手を掴んだ。

――触れた瞬間、心臓が破裂するかと思う程に脈動を繰り返す。

顔も熱が集まって仕方無い。

 

「さ、手を亀の宝石に『入れて』下さい……入る時は『落ちますから』着地に気を付けて下さいね?」

 

?それはどういう――。

 

ゴンッ。

 

お、お星様が見えるぞぉー!?

答えを聞く前に、私は頭を強かに打ち付けて悶えた。

そんな私の頭を撫でながら、彼は溜息を吐く。

 

「だから気を付けてっつったのに……まぁ、初めてだし無理も無いかな……とりあえずマスター。今日からここが、マスターの仮の『住まい』です」

 

彼に頭を撫でられて、不思議と頭の痛みが引いた私が目にしたのは……。

 

「ベットとかも運び込んでソコソコの設備も入れてるし、トイレに風呂も照明も付けた。俺は料理出来ないけどキッチンもある。仮住まいとしては女の人でも寝泊りに不自由は無えと思いますが、暫くはここで我慢して下さい」

 

それこそ普通のホテルよりも豪華な装備が施された『部屋』だった。

どどど、どういう事だってばよ!?

仮住まい所か普通に自分の部屋よりも充実した装備なんですけど!?

冷暖房完備でクイーンサイズのベットとか完璧じゃないか!!

 

「とりあえず、マスターはここで休んでて下さい。俺はこの辺りを散策して、マスターが安心して寝れる住まいを探しますから」

 

定明君はそう言って天井に手を伸ばし、そこから吸い込まれる様に外へと出て行った。

彼が出た場所からは、丸い円の形に外の景色が見える。

って、つまりここはあの亀の中なの!?なんてエコなキャンピングカー!!

 

『俺の宝具の一つ、『ミスタープレジデント』は亀のココ・ジャンボのみが使える専用のスタンドでね。魔力消費も少ないから、マスターは気にせずに休んで下さい』

 

外が見える天井から、定明君が微笑みながらそんな事を言ってくれる。

それは嬉しい、素直に嬉しいのだが……これではまるでお姫様扱いではないか?

いや、それが嫌なのかと聞かれれば違うけど相手が自分より幼いから恥ずかしい気持ちも無きにしもあらずで……うー。

悶々とする気持ちを潰す様にベットへダイブするが、時折上を見て彼の顔を盗み見てしまう私なのであった。

 

 

 

 

 

――その日から、私は聖杯戦争のマスターとしての第一歩を踏み出す。

聖杯を掴み取る為では無く、生き残る為の戦い。

 

 

 

 

 

初めの時点で私達に有利な点は、『正規の魔術師では無いから、私の存在が他の陣営に露見し辛い』という一点に限る。

いや、私的には定明君が召喚に応えてくれただけで充分な幸運なんだけど。

 

「聖杯から送られた知識の一般的な魔術師の魔力量と比べて、マスターの魔力量はかなりのモンです……でも、俺の宝具、つまりスタンドを十全に扱うにはまだ足りない。だから俺のスタンドでも特に強い能力は使えないッスね」

 

彼の宝具であるスタンドとは何体も種類があって、固有の能力も違うらしい。

上位のスタンドになれば、何と時間すら止められる能力があるとか。

 

「えぇ。まぁ秒単位ですけど……正直、そのレベルのスタンドを使おうと思えば、今のマスターの力じゃ令呪2画を使っても無理です。3画でも怪しい」

 

令呪とはサーヴァントに対する絶対命令権であると同時に、膨大な魔力の塊でもある。

過去の英雄を使役して、しかも命令を聞かせる程の束縛力がある事を考えれば、それも納得だ。

それでも、定明君をフルスペックで戦わせてあげられない自分が不甲斐無い。

 

「でも、マスターの魔力量は日に日に増えてますから、何時か令呪のバックアップを使ってスタンドを使える様になるかもしれません」

 

良し、頑張ろう。具体的に何を頑張ったら良いのかは判らないけど。

そう思って、どうやったら魔力量って増えるの?と聞いてみた。

 

「あーそこまではちょっと……元々魔法とかその辺は専門外ですし……」

 

どうやら前途多難の道のりになりそうだ。

でも挫けない様に頑張ろう。

小さな事からコツコツと進んで行けば、何とかなると思う。

 

「……どうでも良いっすけど、マスター……何で、俺はマスターに抱き抱えられてるんでしょうか?」

 

え?駄目?

定明君を背中から抱きしめて癒されつつ、私は問う。

 

「いや、駄目とかじゃ無くて理由を聞いてんスけど……」

 

そんなの、私がこうしたいからに他無いけど?

 

「……真面目に聞いた俺が馬鹿って訳か……」

 

失礼な。これもマスターとサーヴァントの関係を円滑にするスキンシップだ。

そうだと言ったらそうなのだ、うん。

定明君とこうやってられる為なら、令呪を使う事も吝かでは無い。

 

「こんな事の為に令呪を使わんで下さい。つか、頭に胸乗っけないで欲しいんスけど?重いです」

 

良いではないかー。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

それから隠れ続ける事、数日――。

私の魔力量は令呪1画を使えば、定明君がスタンドを十全に使えるまでに成長した。

どんなもんだい。

 

「いやそれがおかしいんスよ。たった数日でここまで魔力が膨れるとか、普通は有り得ないっすから。成長性AどころかEXあるんじゃないんスか?マスターってマジ人間?」

 

ふっ、これが想いの力だ。

そんな風にカッコつける私をハイハイとスルーして、定明君は私と会話を続ける。

定明君が新たに見つけてくれた拠点のソファに座って、私達は作戦を練っていた。

 

「マスターの男前はどーでも良いとして……兎に角、これで俺が考えていたものすげー卑怯な作戦を実行出来ます。そりゃもう有り得ないイカサマをね」

 

……?

イカサマとはどういう事だろうか?

彼の話では、まだマスターとサーヴァントは全員揃ってはいないと聞く。

なのに、この状況で他のマスターやサーヴァント達よりも有利に進める手段でもあるのだろうか?

 

「正直、『お前それはねーだろう』と思う奴が大多数の作戦です。マジ卑怯卑劣で最低。名付けて、『お前の物は俺の物。というか俺がルールですが何か?』作戦とでも言いますか……勿論、やるかを決めるのはマスター次第っす」

 

……良いよ……それをやろう。

少し考える様にしながらも、GOサインを出した私を定明君はジッと見つめる。

ジャイアニズムが作戦の名前になるという時点で、確かに理不尽な事なのだろう。

しかし、その作戦を遂行する事でキャスターの殺人を止められるなら、是非ともして貰いたい。

卑怯な事もしよう、地獄に落ちる事だってしよう――でも『逃げる』って事だけはしない。

私の言葉を聞いた定明君は、ニヤリと笑いながら口を開く。

 

「OK。マスターの言葉、確かに……じゃあ、令呪を使って俺に命じて下さい……『全力で宝具を使え』ってね」

 

彼の言葉に了承して、私は定明君に意識を集中させながら、言霊を紡ぐ。

私の意思に反応して、令呪がその耀きを増した。

 

令呪をもって命じる――定明君。全力で宝具を使って。

 

その言葉が紡ぎ終わると、彼の身体へ膨大な魔力が流れる。

令呪によるサポートと、私の魔力をごっそりと持って行った。

一瞬で身体から力が抜けて、私は背後のソファーに腰を下ろしてしまう。

とんでも無い量の魔力を持っていかれた……やばい、凄く疲れた。

身体に凄い倦怠感を感じる私の目の前で、充分な魔力を受け取った定明君はニヤリと笑う。

 

「良し。これなら問題無く使えるな――Dirty Deeds Done Dirt Cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)」

 

その言葉と共に、定明君はタオルケットを持って私に近づいてくる。

そのままタオルケットを自分と私を覆う様に広げて、私に向かって倒れ込み――え?

 

 

 

 

 

え?ちょ、待って?いきなり何をする気なの?

も、もも、もしかして!?そんな歳で早くもそういうコトに目覚めっ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――正直に言おう。

 

 

 

 

 

定明君、それは無いわー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付と場面が代わり、真夜中の港のコンテナ広場。

 

 

 

誰もが眠る丑三つ刻に、夜闇を照らす火花が弾ける。

人間では不可能な領域の速度と腕力を持ってして奏でられる剣戟の協奏曲。

演奏者は二人の男女だった。

 

「ふっ!!」

 

「せやぁ!!」

 

一人はまるで豹を思わせるしなやかな肉体をピッチリとした服で包む黒髪の美丈夫。

幾人もの女性を蕩けさせる甘い顔つきと、生前から持ち、いや持たされた呪いの泣き黒子。

その呪いはどんな女性であれ、高鳴る気持ちと恋心を持たされてしまう魅了の黒子であった。

 

今回の聖杯戦争でランサーのクラスを得て現界したサーヴァント。

 

彼は生前より愛用してきた二振りの槍を巧みに操り、もう一人の演奏者に自らの音楽を叩き付ける。

対するは、一見すると青年の様にも見える麗人。

青と白のドレスに銀の甲冑を纏う少女は、目に見えない獲物を振ってランサーの音楽を塗り替える。

 

クラスの中で最優と称されるセイバーのクラスのサーヴァント。

 

魔力を除いた能力値が水準以上の英霊でないと該当しない、エリートの英雄のみが該当するクラス。

更にクラス特性として、最高の「対魔力」とある程度の「騎乗」を保有する。

勿論この少女もセイバーに選ばれる程に名高い英雄なのだ。

二人は一撃で相手の生命を奪う剣技を披露しながら、この戦いを楽しんでいた。

英霊、英雄というのは、過去に名を馳せた者達であり、その殆どは闘争の名誉であったりする。

聖杯戦争という殺し合いに招かれるのだから、当然といえば当然なのだが。

そして騎士という人種は、殺し合いの中で尋常に誇りを賭けて戦う。

相手が誇り高い騎士の心構えを持っていれば、それは自らの誉れある戦いへとなる。

そんな尋常なる戦いを、二人の騎士は心ゆく迄楽しんでいるのだ。

 

「フ……まさか名高い騎士王と槍を交えられるとは……光栄の至りだ」

 

「それは私も同じです、ランサー。かのフィオナ騎士団、随一の戦士……まさか、手合せの栄に与るとは思いませんでした」

 

そして、二人は先ほどまでの攻防でお互いの真名を察したのだ。

ランサーは自らの槍……魔力を断つ『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』を使い、セイバーの獲物を隠していた『風王結界(インヴィジブル・エア)』を断ったのだ。

そして結界から暴かれたセイバーの剣……世界に二振りと無い伝説の聖剣を垣間見て、確信した。

セイバーの正体はあのブリテンの王、アーサー・ペンドラゴンであると。

一方でセイバーはその身に受けたランサーのもう一つの槍……ひとたび穿てば、その傷を決して癒さぬという呪いの槍、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』から正体に至った。

呪いの槍と、乙女を惑わす魅了の黒子、美麗な顔立ちの騎士……”輝く貌”のディルムッド・オディナ。

それがランサーの正体であると。

互いに互いの正体に思い至った二人は、一度構えを取り直して再び睨み合う。

 

「さて、互いの名も知れたところで、ようやく騎士として尋常なる勝負を挑めるわけだが――それとも、片腕を奪われた後では不満かな?セイバー」

 

「戯言を。この程度の手傷に気兼ねされたのでは……寧ろ屈辱だ」

 

互いに挑発し合い、己が武器を構えるセイバーとランサー。

セイバーの宝剣とランサーの魔槍が獲物を狙う獣の牙ように、相対する騎士たちに向けられる。

じりじりと間合いを詰めていく二人を、清澄な空気が包む。

セイバーに付き添ってこの場に来た女性、この聖杯戦争の立案者である御三家の一人、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

彼女はこの切迫した戦いの中で、喉を鳴らしてつばを飲み込む程に緊張していた。

 

 

 

――その時だ。

 

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!!」

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

突如、頭上から野太い男の声と雷鳴が、この広場に轟いた。

広場にいた全員が空を見上げ、轟音の出元を確認する。

そしてアイリスフィールは、ソレを見た瞬間に思わず呟いた。

 

「……戦車(チャリオット)?」

 

豪雷を地面の様に踏み締めて上空より現れるは、古来の戦闘にて戦場を跋扈した、大型の戦車。

規格外のサイズと重量を誇る戦車を引くのは、美しくも逞しい筋骨隆々とした二頭の牡牛。

神牛という神秘の幻獣、二頭の飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)だ。

稲妻を踏みながら虚空を駆ける戦車は、やがて二人の戦闘を仲裁する様に降り立つ。

アイリスフィールはこの光景を見て、戦車がライダーのサーヴァントの物であると直感した。

そして神の牛が引く戦車は降り立ち、御者台に堂々と立つ巨漢は両手を大きく広げ、その口を開いた。

 

「双方武器を収めよ!!王の御前である!!」

 

威風堂々。

何者にも動じないその姿は、巨漢を正しく王と感じさせるカリスマに溢れている。

しかし更に続く言葉にはこの場の人間全員が度肝を抜かれる事となった。

 

「余は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争の場においてはライダーのクラスを得て現界した!!」

 

茫然。イスカンダルを名乗るライダーのサーヴァントの言葉に、3人は言葉を失ってしまう。

英霊の真名が知られる事は即ち、その英霊の弱点を付かれる事に他ならない。

だからこそ、聖杯戦争に於いて、サーヴァントは自らの名をクラスとして名乗るのだ。

名を自ら名乗る等、何も知らぬ無知者か単なる大馬鹿でしかない。

そんな大事をやらかしたサーヴァントに、同じく戦車に乗っていたマスターの少年が怒るが、ライダーはフンと鼻息を鳴らす。

そのまま流れる様に打ち出したデコピンでマスターを悶絶させると、唖然とするサーヴァント達に演説を続けた。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合せだが……矛を交える前に、まずは問うておくことがある。うぬら……」

 

言葉を区切ったライダーは拳を握り、両腕を広げる。

まるで、目の前の敵達を迎えるかの如く。

 

「一つ我が軍門に下り聖杯を余に譲る気はないか!!さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かちあう所存でおる!!」

 

何とこの男は目の前の屠るべき存在であるサーヴァントを盟友として勧誘し始めたのである。

これに一同は唖然とし、ライダーのマスターは額の痛みを堪えながらも、また別の痛みに頭が襲われていた。

これこそが、征服王イスカンダルの覇道なのである。

大柄な見た目通りの豪放磊落を地で行く人物。

他を顧みるということを全くしない暴君的性質を持つが、その欲望が結果的に人々を幸せにする奔放な王。

そしてかの王の放つ強烈なカリスマに魅入られて、彼のために命を投げ出す覚悟を持つ者達も確かに存在した。

故に彼は自らを隠す事を好とせず、己の全てを曝け出して相手に向き合う。

しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「……その提案には承諾しかねる。俺が聖杯を捧げるのは今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞ、ライダー……ッ!!」

 

まずランサーは呆れた様に首を振りながら拒否を示し、次に相手を萎縮させんばかりに睨み付ける。

この男の誘いに応じるのは二君を仰ぐ不忠の極みであり、只騎士として忠義を尽くす事に己を捧げるランサーには耐え難い侮辱だ。

更にセイバーもランサーの言葉尻に乗って言葉を紡ぐ。

 

「そもそも、そんな戯言を並び立てるために貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたと言うのか?恥を知れ」

 

もはや取り付く島も無いとはこの事だ。

更に真剣にして崇高な騎士の一騎打ちを邪魔されたとあって、二人の機嫌は最悪に尽きる。

そんな二人の反応を見て、イスカンダルは「ムゥ……」と唸りながら何かに気付いたように手をポンと叩き、人差し指と親指で輪っかを作る。

 

「待遇は応相談だが?」

 

「「くどい!!」」

 

「ファァーーックッ!!?お前馬鹿か!?誇りを重視する騎士が待遇で動く訳無いだろ!?っていうかそもそも何で真名バラしやがりますかこのバッキャロウ!!」

 

俗物的な誘いを一蹴したランサーとセイバーに続く様に、ライダーのマスターである少年もライダーに突っ掛かる。

 

「まぁ、ほれ。言うではないか、"物は試し"と」

 

「"物は試し"で真名バラすなぁ!!」

 

うわああぁぁん、と情けない声を上げながら少年は何度もライダーの胸板を叩くが、当のライダーは特に気にした様子も無く野太い笑い声を上げている。

何とも凸凹な主従の様子に、セイバーとランサー、アイリスフィールは同情的な視線でマスターの少年を見る。

苦労してるんだなぁ、という同情の篭った視線……そして、この場の様子を見ていた他の者も、マスターである少年に言いたい事があった。

 

『……そうか……よりにもよって貴様か』

 

その声が響いたと同時に、ライダーのマスターは体の動きをピタリと止める。

彼はその声に覚えがあったのだ。

それは、できることならば会いたくもなかった人物――本来ならライダーのマスターになるべきだった男のものだったからだ。

いきなり様子が変わったマスターの様子にライダーは訝しく思うも、再び声が響く。

 

『何を血迷って私の聖遺物を盗んだのかと思ったが、まさか君自らがこの聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ……裏切られた気分だよ。ウェイバー・ベルベット君』

 

「アーチボルト……先、生……」

 

怒り、嘲り、中傷。

そういった負の感情が織り交ぜられた声に、少年……ウェイバーは体を震わせる。

 

『おや、こんな時でも私を先生と呼んでくれるのかい?いやはや、いつでも礼儀正しく在ろうとする姿勢は実に素晴らしい……そんな君には、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか』

 

全くと言っていい程に、ウェイバーに対する賞賛など感じさせない、上辺だけの言葉。

表面だけを飾った言葉を聞くウェイバーには、その裏に隠された本当の気持ちが素直に理解出来た。

憎悪、殺意。この二つが濃厚に織り込まれている事を。

 

『何、遠慮はしなくて良い。君のような凡百な魔術師では本来味わえない、恐怖と苦痛――魔術師同士が殺し合うという本当の意味を、余すところ無く教えてあげよう……光栄に思い給え』

 

殺し合い。その言葉を今初めて理解したウェイバーは、自身に向けられる殺気に怯え、戦車の中に隠れる。

その戦車の中で、ウェイバーは涙を流して後悔した――こんな事しなければ良かったと。

ウェイバーは血統を鼻にかけた連中を見返すという、一種子供染みた反発心だけで、この戦争に参戦した。

だが、所詮は二十にも満たない少年。

魔術師としても人としても未熟な彼が、一流の魔術師であるランサーのマスターの殺意を受けて平然としていられる訳が無い。

押し寄せる殺意に自分の表面が保てず、歯をガチガチと鳴らして震えるウェイバー。

その華奢な背中に、大きく無骨な手の平が乗せられた。

言うまでも無くウェイバーのサーヴァント、ライダーの手である。

ライダーは心配するなと言うように笑いながら、ウェイバーから視線を外す。

 

「まったく、そんなに怯えずとも良いわ……おう魔術師よ!!察するに貴様は、この坊主に成り代わって余のマスターとなる腹だったらしいな。だとしたら片腹痛いのぅ……余のマスター足るべき男は、余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。姿を晒す度胸さえない臆病者なぞ、滑稽過ぎて役者不足も甚だしいぞ!!ガァッハッハッハッ!!」

 

『……ッ!!!』

 

姿を見せない魔術師をこれでもかと馬鹿にする様に言うと、腹の底から大声で笑う。

そもライダーの求めるマスターは、姿を見せない魔術師とは真逆なのだ。

仮にも自分の上に立つというのならば、共に戦場を跋扈し、同じ目線で戦いに挑む勇気が必要だと。

資質素養血筋、どれもがライダーの求めるモノでは無く、彼の価値観には合わなかった。

もしもウェイバーが相手の魔術師から聖遺物を盗まずとも、ライダーとランサーのマスターでは、長続き等しなかったであろう。

自らのマスターをコケにした魔術師に言いたい事を言ってスッキリしたライダーは、空に視線を向けながら先程と同様大声を上げた。

 

「おいこら!!他にもおるだろうが、闇夜に紛れて覗き見しておる連中は!!全く情けない、それでも世界に名を馳せし英雄か!?」

 

「――どういうことだ、ライダー?」

 

突然の第三者へ向けられたライダーの咆哮に、セイバーは怪訝な表情で問いを投げる。

その質問に視線を戻したライダーは、とても真っ直ぐな目でセイバーとランサーを注視した。

 

「セイバー、そしてランサーよ。うぬらの真っ向切っての勝負、まことに見事であった。あれほど清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出て来た英霊がよもや余一人ということはあるまいて」

 

言動や行動は兎も角、同じ英霊として一級品であるイスカンダルの言葉を、セイバーとランサーは真摯に受け止める。

水を差したのがライダーなら、あの戦いを賞賛したのもライダー。

奇妙な話ではあるが、それでもライダーの言葉は騎士として鼻が高かったのだ。

しかし、それでもなお見えざる英霊たちは姿を見せず、遂に痺れを切らした征服王は、その王たる威厳をもって、倉庫街に声を轟かせる。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今ここに集うがいい!!尚も顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れぃッ!!」

 

ビリビリと大気を震わす程の怒号。

それは正しく人の上に立つ王の言葉だ。

見る者を圧倒させるカリスマに、その姿を見て、声を聞いたアイリスフィールは立ち竦む。

目の前に自らを守ってくれるセイバーが居るとしても、ライダーの言葉は己の内に響いたのだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

定明君、行っちゃって。ブッこんじゃって。

 

「いやいやマスター。何でそんなにヤル気で?」

 

私の憤慨した言葉を聞いて、定明君は呆れた顔をする。

何故?そんなの決まってるではないか。

だって出て行かないと、定明君臆病者扱いされるんだよ?

そんなの許せる訳が無い。

 

「別に言わせときゃ良いでしょ。俺は別に痛くも痒くもねーっすけど?」

 

あんな髭モジャに言わせておくのは、物凄い癪だ。

私、岸波白野はココ・ジャンボの中でそう言いながら、壁に向かってボディブローを繰り出し続ける。

巫山戯んじゃないっての、イスカンダルとかいう髭親父。

王様だか何だか知らないけど、勝手に臆病者認定とか舐めすぎだ。

壁パンしても収まらない気持ちが、私に連続パンチを打たせる。

それでも収まらずに、遂には壁キックの嵐だ。

 

 

 

……あの定明君が考えたエゲツ無い作戦を終了してから3日目の夜。

 

 

 

とても強い魔力の波動を感知して、私達はその場所を監視出来る橋の上に居た。

あからさまに挑発する様な魔力の波動、つまり戦いの誘い。

それを感知した定明君は、まずは様子見という事で橋の上から戦いを眺めていた。

私は、存在をなるべく隠せる様にとココ・ジャンボの中に居る。

人間でしか無い私には広場の詳しい様子を知る事は出来ないが、定明君はスタンドと視界を共有して見ていた。

私も戦いの様子が知りたくて、自分は双眼鏡で向こうを見て、定明君が聞いた事を伝えてもらっていたのだが、あのライダーの言葉でちょっとキレ気味。

それで最初のぶっ込め発言に繋がる訳である。

 

「まぁ、どのみち顔合わせと警告、それと提案はしておかなきゃいけねーんだし……いっちょ行きますか」

 

お願い、思いっ切りやっちゃって。特にあのライダーを。

 

「だからそれは駄目なんすよ……まぁ、とりあえず『行ってきます』」

 

定明君はココ・ジャンボを橋の上に置いて立ち上がり、港の広場を見つめる。

そう、私とココ・ジャンボは連れて行けないから、この場所に置いて行かれるのだ。

しかしこれでは間違い無く、私は危険に陥る。

……そう、『普通なら』だ。

定明君が私を置いても平気で向こうに行ける『理由』が、私の『隣に居る』

 

「んじゃ、俺はちっと顔見せに行ってきますんで、マスターをよろしくッス。ルーラーさん」

 

「はい。任せて下さい、サモナー」

 

軽い調子で私の隣に居る『女性』……平行世界から連れてきたサーヴァントのルーラーに私の事を頼むと、定明君は橋から飛び降りてスタンドを呼び出した。

大きな口と2本の角を持つ、骸骨のような像のスタンド。

そのスタンドは、定明君を『飲み込み』、更に自分の体すらも飲み込んで、完全に姿を消した。

……頭に血が昇って、行けなんて言っちゃったけど……大丈夫だよ、ね?

向こうに集まっているのは、古今東西に名を馳せた本物の豪傑達だ。

そんな中に、サーヴァントとして異質な定明君が飛び込んで大丈夫なんだろうか?

今更ながらに不安になって、私はソワソワしながら双眼鏡で向こうの様子を覗く。

 

 

 

 

――双眼鏡で見えた広場では、街灯の上に立つ金ピカのサーヴァントが『体の半分以上を削り取られた』状態で、定明君を睨みつけていた。

 

 

 

一方の定明君はスタンドを傍に出して地面に立ったまま、血反吐を吐く金ピカのサーヴァントを見て唖然とした表情を浮かべている。

 

 

 

……大丈夫そうだ、うん。

 

 

 

さすが定明君、いっそ清々しいくらいの堂々とした不意打ち。

私達に出来ない事を平然とやってのける!!そこにシビれる憧れるぅ!!

……嘘です。さすがにあれはちょっと無い。っというか定明君自身予想もしてなかったっぽい。

でもあんな顔する定明君も中々……落ち着け、落ち着け岸波白野。COOLになるんだ。

まずは慌てず騒がずに、定明君から渡された盗聴器のレシーバーをONにして、会話を聞き取る。やるぞ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「き……さ、まァ……ッ!?」

 

「……うわー」

 

やっちまった。これ以上無いぐらい清々しい不意打ちをカマしちまったぜ。

空間を移動できるクリームを使ってここまで来たんだが、クリームは自分を口の中に繋がる暗黒空間に飲み込むと外を見る事が出来ない。

だから事前に確認した斜線上に突然現れた金ピカの事を全く認識出来なかったのよ。

自分の失敗に溜息を吐きながらも、俺を射殺さんばかりに睨んでくる金ピカへ視線を送る。

 

「あー、すいません。いきなり俺の進路上に現れるモンだから、躱せませんでした。ごめんなさい」

 

既に足元から粒子に変わって英霊の座に戻りつつある金ピカさんに、俺は頭を下げて謝罪する。

もしも俺が死んでも、俺は座に還るんじゃ無くて元の世界に還る事になるから、もう会うことは無いだろう。

俺、城戸定明はリリカルなのはの世界から神様に無理矢理コッチへ飛ばされた存在だ。

向こうで小学校6年生12歳まで過ごし、冬休みに入ったその日に夢の中で俺を転生させた神様とエンカウント。

そのまま別の世界に飛んで、ちょっとサーヴァントしてきて♪体も少しだけ強くしてあげるから♪という訳の分かんない言葉を聞いた瞬間、マスターの下に飛ばされてた。

まぁ今回に限った一回だけの話らしいので、まだ救いはあるな。

 

「――おの、れ……おぉぉのれぇえええええええええええッ!!!」

 

胴体の7割をクリームに消された金ピカさんは憤怒の形相で怨嗟の叫び声をあげながら、完全にこの世界から消滅。

聖杯戦争、いきなりの敗退者って訳だ。

……余談ではあるが、後にあのサーヴァントが古代ウルクの王ギルガメッシュと知って、俺はササッと倒せて良かったと安堵する事になる。

間違いなく正面切って戦ったら死んでただろう。

 

『『『『『……』』』』』

 

さて、先ほど王の宣言をしたライダーを含むこのポカンとした状況をどうしようか?

まぁ俺と一緒で呼び掛けに応じたであろう金ピカさんを事故とは言え倒しちまったんだから、こりゃしょうがねぇよな。

 

 

 

……よし。

 

 

 

「ども。エクストラクラスのサーヴァント、サモナーっす。んじゃさいなら」

 

とりあえず顔見せと挨拶は完了したので、俺はシュタッと手を挙げてサヨナラを言う。

マスターの事も心配だし腹も減った、早く戻るとしよう。

 

「っておいぃいいいい!?帰るのかYO!?」

 

「――ハッ!?アイリスフィール、下がって!!あのサーヴァントは油断出来ません!!気配すらも感じさせずに、あのアーチャーを討ち取るとは……ッ!!」

 

「こ、子供!?それもイレギュラーサーヴァントだなんて!?」

 

「……まさか、未来の英霊か?しかし何故子供の姿を?」

 

「ふぅむ。不意打ちとは言え、あの宝具を大量に具現していたアーチャーの奴をああも簡単に屠るばかりか、前から攻撃したのか後ろから攻撃したのかすら全く感じられなんだとは……何とも愉快な小僧よ!!」

 

おかしい、爽やかに帰ろうとしたら、女?のマスターに怒られた。

しかもそれを皮切りに他の全員も沸き立つ始末。

自分のミスとはいえども、嫌んなるぜ。

まぁ、まだ提案とかもしてねーし、少しばかりトークタイムと洒落こむか。

 

「あー。一応、ライダーさんの言葉を聞いて現れたんスけど、今のは完全な事故なんで気にしねぇで下さい。保険も効かないし」

 

「事故扱いであのアーチャーを倒すって……」

 

「……ヤツの態度は傲岸不遜そのものだったが……哀れに思えてしまう」

 

俺の言葉に白い髪の綺麗なお姉さんは引き攣った笑みを浮かべ、ランサーさんは物凄い哀れんだ表情を浮かべる。

さっきまでのシリアスは何処に行っちまったんだろうか?

そんな感じで首を傾げる俺を見て、ライダーさんはニヤリとした笑みを浮かべたまま、隣のマスターに声を掛けた。

 

「おいマスター。あの小僧のステータスはどうなっとる?」

 

「ち、ちょっと待て――な、何だ……ッ!?こいつステータスがおかしいぞ!?」

 

何やら俺をジッと見ていたライダーのマスターが驚愕の声を上げるも、他の面々は首を傾げるしか無い。

俺達サーヴァントのステータスを見れるのはマスターだけの特権であり、サーヴァントの俺達には見る事が出来ないからだ。

っていうか何故に白い髪のお姉さんまで首を傾げてる?もしかしてマスターじゃねえのか?

 

「んん?もうちっと具体的に言わんか。何がどうおかしいのだ?」

 

「コイツ、コイツ、殆どのステータスが低いのに幸運だけがバカみたいに高い!!EXの幸運って何だよ!?そんなの、神に愛されてるってレベルだぞ!?」

 

「「「な!?」」」

 

「なんと……?ならば、他のステータスはどうだ?」

 

「た、高くても敏捷がCで、残りはD-、魔力なんかE-だ!!どう考えてもあのアーチャーを倒せるものじゃ無いんだよ!!」

 

「つまりアーチャーを倒した原因は、あの小僧の宝具である、と?」

 

「そ、そうじゃないと説明が付かない……あんなステータスじゃ、BとAばっかりだったあのアーチャーには、逆立ちしても勝てない筈だ」

 

何故か俺のステータスを読んで、警戒を顕にするライダーのマスターとセイバー、そして髪の白いお姉さん。

……俺のステータスなんかそこらの英雄と比べりゃカスみてーなモンなのに、そんなに警戒する必要あるのか?

まぁ確かに生身の時と比べれば英霊になった補正もあって普通の人間に負ける事は無いけど、サーヴァントとしては下の下だぞ?

普通ならもっと油断してる筈なんだが……分からねえなぁ。

 

「何なのこの状況?って顔してるけど、原因は間違い無くお前だよ!?」

 

「ガッハハハハ!!中々面白い小僧ではないか!!おう!!お主サモナーとか言ったか!?」

 

俺に芸人も真っ青な見事なツッコミを入れるライダーのマスターと、そんな俺に豪快に笑いながら視線を向けてくるライダー。

何とも対照的な主従で、思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「えぇ。エクストラクラスサーヴァントのサモナー。真名は城戸定明っす。どーぞよろしく」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

「ほう?自ら堂々と真名を明かすとは……未来の英霊だから問題は無いか、はたまた自分の真名を知られる事は無いという自信の現れかのう?定明とやら」

 

ライダーと同じくあっけらかんとした様子で真名を語る俺に、ライダー以外の人達は驚愕に目を見開き、ライダーはニヤリと笑う。

別にそんな深い意味とか考えは無いんだけどなぁ。

 

「未来っつうか……俺は平行世界から呼び出された存在なんスよ。だからお宅みたいに世界に名を馳せた英霊って訳じゃねぇし、名前を語っても問題は無しって事っす」

 

「ッ!?何と、平行世界の住人とは……良いのう、浪漫があるではないかッ!!」

 

「俺としては無条件に召喚されて困りましたけどね。何せクラスに無理矢理嵌めこまれた所為で、自分の力に制限が掛けられちまってたんスから」

 

俺の出自を聞いて目を見開くも、直ぐに少年の様にキラキラした目をするライダーに、俺は苦笑いして答える。

最初にスタンドを使おうとしたらマスターと自分の魔力を消費するなんて判って愕然としたものだ。

まぁそれも、マスターが成長してくれたお陰で何とかなったけど。

 

「……それは皆同じだ、サモナーの少年。私達の誰もが、生前の力を振るえている訳では無い。クラスに該当する力の一端を行使できるだけだ」

 

と、俺の言葉に同調して、セイバーさんが言葉を掛けてくる。

まぁそりゃそうだろう。

アンタ等みたいなビッグネームに十全の力を振るわれたら、地球崩壊まで待ったなしだっての。

 

「判ってますよセイバーさん。でも、勝手に喚ばれた挙句に力を制限されるっていうカッタルいのが嫌だったんで……『受肉』して、フルスペックを振るえる様にしました」

 

――瞬間、物凄い闘気と王のオーラが辺りを支配した。

言うまでも無く、そのオーラの持ち主は戦車の上で腕を組むライダーである。

声を出しはしなかったが、彼の筋肉は一回りぐらい膨れ上がり、髪は逆立ち目が見開かれてる。

しかし怒っている訳でも無いらしく、怒気は一切感じられない。

ただ、ライダーのマスターがそのオーラに驚いて一歩引いてるぐらいだ。

……どうにも、ライダーさんの聖杯に掛ける願いって、受肉らしいな。

 

「ッ!?そんな馬鹿なッ!?受肉するなど、聖杯でなければ到底叶えられぬ願いではないか!!」

 

「ん?まぁ……そうっすよ」

 

「では何故、少年は受肉している!?」

 

「それは~……まぁ、単純に――」

 

さあて、誰がどう食いつくかな?

俺は驚愕に目を見開いて詰問するセイバーさんに視線を向けたまま――。

 

 

 

「俺が聖杯を『持ってる』からですけど?」

 

 

 

この戦争の根幹をブッ壊す言葉を投げ掛けた。

驚愕、唖然、呆然。

そんな表情を浮かべる人達が、俺を真っ直ぐに見てくる。

誰も彼も間の抜けた表情なんで笑ってしまうが――。

 

「ど、どういう事!?何故貴方が聖杯を持っているの!?だって聖杯は――」

 

と、逸早く我に返った白い髪のお姉さんが俺に質問を飛ばしてくる。

まぁ、この人が驚くのも無理は無いか。

聖杯を賭けて殺し合いしてるのに、その殺し合いの前提を覆したんだから。

 

「まぁ、ちょいとズルをさせてもらいましてね。『この世界以外で完成した聖杯を、こっちの世界へ引っ張ってきた』んです」

 

「そんな……ッ!?」

 

「ば、馬鹿言うなよ!?別の世界だなんて、それじゃまるでお前が第二魔法を使えるみたいじゃないか!!」

 

俺の言葉を聞いて、ライダーのマスターが声を荒げて叫ぶ。

あの女?の言う第二魔法ってのは、この世界で確認されてる5つの魔法の1つらしい。

聖杯から得た知識だが、この5つの魔法を行使できる人達を『魔法使い』と呼ぶ。

この場に居る人達の様な存在は『魔術師』と呼ばれ、厳密には魔法とは違う。

魔術とは『時間と資金をかければ実現可能』なモノを指し、魔法は『どうあがいても魔法以外では不可能』という区別がなされている。

その第二魔法とは、並行世界の運営。

鏡合わせの並行世界間、つまりパラレルワールドを移動、干渉できる事だ。

現在確認されてる使い手は宝石翁、魔導元帥キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグのみとの事。

残念ながら魔法とは別物なんだけどもな。

 

「まぁまぁお姉さん。そんなに興奮しない。ついでに言うなら、女の人でその言葉遣いはどうかと思いますよ?」

 

「ぼ・く・は・O・TO・KO・!!M・E・N・だぁあああああああ!!!」

 

「「「ぶはっ!!?」」」

 

え?男子?おのこ?

 

「……」

 

「なぁんだその『ありえねー』みたいな顔はぁああ!?ちゃんと男の大事なモンはぶら下がってるぞこの野郎ぉおおお!!!」

 

「ありえねー。マスターと同じ位の背丈なのに……いや、下手したらマスターの方が若干背が高い?」

 

「やっかましいわ畜生!!決めた!!聖杯を手に入れたら背を高くしてもらう!!もっと男らしい身体つきに……ッ!!」

 

「聖杯にそんな事を願うの!?か、考え直しなさい、ライダーのマスター君!!貴方は充分に可愛らしいじゃない!!」

 

「だから男だつってんでしょうがぁああああああ!!?」

 

ものすげーカオス。

まさかあのマスターの身体的ネタでここまでのカオスになるとは。

 

 

 

「――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

 

 

突然、カオスに染まりかけていたこの場に野太く、そして熱意に満ちた咆哮が木霊する。

並々ならぬ雄叫びを挙げたのは戦車に乗り込んでいたライダーだった。

彼の目はギラギラと輝き、興奮がまるで治まっていない。

そんな状態のライダーは戦車から飛び降りると、俺に向かって大声を送る。

 

「元より招かれた全員に声を掛けるつもりではあったが、サモナー!!いや城戸定明よ!!余は貴様が何が何でも欲しくなったぞ!!余の部下になれ!!余と共に世界を相手取り、全てを征服し蹂躪し尽くそうぞ!!」

 

両手を大きく広げて、ライダーは俺に世界への誘いを掛けてきた。

……清々しいくらいの直球の言葉だな。

今まで生きてきて、こんなに熱烈に何かを誘われた事は無い。

例え、俺が聖杯を使える事を入れてにしても、だ。

 

「それにこれは余の勘だが、貴様はまだ宝具の一端すらも見せてはおるまい!!余はそれが見たい!!お主を軍門に招き入れ、共に戦いたい!!この世界とは異なる世界の者の使う力!!是非とも配下として従えたい所存だ!!我が明友として、この世の悦楽を味わい尽くさんか!?」

 

「悦楽って……ちょっと抽象的過ぎて、良く分かんねーっす……」

 

余りにも熱意に溢れ過ぎていて、逆に俺の方が及び腰になってしまう程の熱気を放つライダー。

いや考えてもみろよ?顎鬚と髪がくっついた筋肉ムキムキマッチョマンが、目を少年の様に輝かせて「お前が欲しい!!」発言だぞ?

俺じゃなくっても引くってこれ絶対。

 

「む?悦楽が分からんだと?……そうか!!おぬしのその姿は全盛期のものだからでは無く、おぬしのそのままの姿なのだな?未だ元服すら迎えておらぬ小僧だというのに、サーヴァントとして召喚されるとは……まっこと面白い!!これが聖杯戦争の妙というヤツか!!ガッハッハッハッハ!!!」

 

何やら自分で考えて自分で納得したライダーは大声を挙げて笑う。

おーい、まだ俺の質問に答えてねーじゃん。

しゃーねぇ……別の人に聞いてみるか。

俺はライダーから視線を外して、これまたとんでもないイケメンのランサーを見る。

ちょうど目が合ったし好都合だ。

 

「おーい。そこの黒子のイケメンさん。悦楽って何スかー?」

 

「ほくっ!?……悦楽とは喜び、楽しむ事という意味だ。つまりライダーがサモナー、お前に言ってるのは、この世を征服して全てを楽しみ、喜びを得ようという事だろうさ」

 

「ふーん……喜び、楽しむ、ねぇ?……どうもっす、黒子のイケメンさん」

 

「……出来ればその呼び方は止めて貰いたいのだが?せめてクラスで呼んでくれ」

 

「了解っす。イケメンのランサーさん」

 

「だからその呼び方は……っというか、イケメンとはどういう意味だ?聖杯から送られる知識に造語等の知識は無かったのだが……」

 

「イケてるメンズ。略してイケメン。その端整な顔付きで罪の無い女人を惑わし、無垢な少女達の心を掻き乱す罪深い人種の事です(大嘘)」

 

「ぐはぁ!?……お、俺は……ッ!?俺はそんな畜生にも劣る存在だったというのかあぁ……ッ!?何て事だ……ッ!!俺みたいなイケてない主を立てる事すら出来ん不忠者は、死んだほうがマシなんだぁ……ッ!?」

 

「ランサー!?血涙を流してる!?」

 

俺の真実(という名の妬み)を聞いたランサーさんは吐血しながら血涙を流して槍を手から落とし、頭を抱えてしまう。

その変わり果てた姿のランサーさんを見て、セイバーさんはギョッとしながら白い髪のおねーさんの所まで下がる。

あれ?戦ってた時は何かお互いに尊敬しあってた感じだったのに、随分薄情な事するんだな?

 

「セイバーさん。折角戦いで男同士の友情を育んだんなら、ランサーさんを慰めてあげても良いんじゃないっすか?」

 

「――」

 

ピキリ、と何故かセイバーさんの空気が凍った様な気がする。

何だか良くポンコツる人達だな、この人達。

 

「し、しし、失礼だが……ッ!!わわわ、私の事を……『男』と言ったかな?サモナーよ?」

 

「セイバー落ち着いて!?風王結界(インヴィジブル・エア)が解けかけてるわ!?」

 

「は、ははは、何をおっしゃるアイリスフィール?私はシベリアの極寒の如く冷静ですよ?」

 

「は?何をカチ切れて……まさかとは思いますが……セイバーさん、女だとか言うんじゃ無いッスよねぇ~?……いや、無い無い」

 

「おい小僧。貴様私の何処を見て無いと断じた?あ?上手い事言ったつもりか?」

 

「駄目よセイバー!?あ、相手はまだ子供なんだから――」

 

「止めないで下さいアイリスフィール!!所詮貴女とは敵同士!!有る者には無い者の気持ちなんて理解出来ないでしょう!!えぇ、そうでしょうとも!!私達がどれだけ貴女達の所為で肩身の狭い想いをしたか……ッ!!」

 

「どうして私は貴女の敵にされてるの!?守ってくれるんじゃ無かったのかしら!?」

 

何やら目の前で血眼になって俺から髪の白いお姉さんに視線を移すセイバー。

しかも視線は悔しそうにお姉さんの胸元に集中してるではないか。

……本当に英雄なのか、コイツ等?

何かはっちゃけ具合が現代人とそう大差無えんだけど。

そんな事を考えていると、今まで大笑いしてたライダーが目元の涙を拭いながら再び言葉を続けた。

 

「で、どうだ坊主!?何なら富と名誉に、美女も付けてやるぞ!!なんのかんの言ってもお主も一人の男児!!自らの雄が奮い立つ程の美女を幾人も侍らせたいとは思わんか!?」

 

「いや、美女とか言われても(prrrr)ん?ちょいと失礼」

 

こっちに来てから裏ワザで契約した携帯電話が鳴り響き、俺はライダーに断って電話を取る。

この番号を知ってるのは、マスターだけだ。考える前もなくマスターからの連絡だろう。

念話も使えるのだが、極力魔力の痕跡を残さない様に電話を使ってもらってる。

 

「(pi)もしもし?何ですかマスター?……え?……はぁ……はぁ……分かりました……ライダーさーん。マスターが駄目だそうですんで、お断りしますわー」

 

「ぬぁんだとッ!!?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの

冷静に広場の様子を見ていた私は、スッと携帯電話を取り出して定明君にコールする。

 

 

ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの

そしてライダーの他人を顧みない願いに誘われる彼に、私はやんわりと断る様にお願いした。

 

 

ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの

まだ小さい定明君を戦いの道に引き摺り込むなんて、道徳的にも到底許容出来るものじゃ無い。

 

 

 

っていうかハーレムとか断じて許さねえ。日本人は慎ましく一夫一妻制だ。

それに、何処と無くドンファンな空気を漂わせてる定明君にあんな誘いは断固阻止せねば。

信じてはいるが、念の為に何時でも令呪を使える様にしておく。

すると、携帯のスピーカーと盗聴器からあの憎っくき髭親父の野太い叫びが聞こえてきた。

 

『何故だ!?お主のマスターは、何ゆえこの誘いを拒否する!?』

 

『いや、何故って言われても……マスター?』

 

当たり前だよ、定明君。

世界征服なんてとんでも無い野望を掲げてる人に、協力なんてしちゃ駄目。

私は、定明君が戦い続ける未来なんて、絶対に望まないから。

っていうか世のため人のためにブッ殺しちゃって良いと思うんだ、あの髭モジャ。

 

|心の底から願う本音を全面に押し出しつつ、私は定明君に誘いに乗っちゃダメだと説明した《一夫多妻マジ撲滅すべし。ハーレム駄目、絶対》。

彼はその説明を聞いて、電話の向こうで擽ったそうに笑った。

 

『……心遣い、ありがとうございます。マスター……マスターに喚ばれた事が、この聖杯戦争に参加して唯一のありがたい所ッスよ』

 

――――。

 

声での返事が出来ない。

こういう時、恥ずかしさで慌てて自爆すると聞いていたけど、そんな事は無い。

だって、喉が動いてくれないのだから、自爆すら無理。恋愛モノは嘘つきだ。

私が返事出来ないから、向こうでの会話も自動的に進んでいく。

 

『まだ言ってなかったッスけど、俺のマスターは魔術の世界すら知らなかった一般人です。今回の聖杯戦争に巻き込まれた被害者なんで、やっぱり戦いとかは嫌がってるんですよ』

 

『なんと!?闘争を嫌う等とは女々しいものだ。それにお主一人をここに送り込む等、そこなランサーのマスターと変わりない臆病者では無いか……む?暫し待て?今、その方のマスターは巻き込まれた被害者と、そう言うたな?』

 

『えぇ、そうです。補足するなら、この場に来ようとしてたマスターを俺が止めたんですよ。魔術を知らないマスターを守りながら戦うのは効率悪いんでね』

 

『なるほど、お主のマスターについては分かった……しかしまだ戦いの場に居るというのはどういう事だ?お主も聖杯に招かれたからには、最低限のルールが聖杯から与えられたであろう?戦い自体を忌むならば、監督役の居る教会に駆け込めば済む話ではないか?何故、まだ戦いの場に居る?』

 

と、私が緊張してる間に、私達がこの聖杯戦争に関わる根幹の理由にまで話が及んだ。

……ここからだ……この先の私達の展開が決まる、大事な場面は。

私は一度深呼吸をして、電話先の定明君に話して良いとGOサインを出した。

定明君は私の言葉に了承して、訳を語り始める。

 

『理由は単純です。俺のマスターは魔力があるだけの一般人でした。でも今回聖杯に選ばれた別のマスターが、魔術を知らない上に、今巷を騒がせてる連続殺人事件の犯人だったんです』

 

『れ、連続殺人犯!?そんな奴がマスターになったってのかッ!?』

 

定明君の語り始めた話を聞いて、私と背丈が変わらない小柄なライダーのマスターが驚きの声あげる。

しかし、女の私から見ても羨ましい綺麗な肌である。ぐぬぬ。

 

『はい。しかも触媒無しの召喚だったから、マスターと精神性の似た最悪の狂人が、キャスターとして選ばれてしまうっていう巫山戯た事態になってます。マスターの家族はその時に……』

 

『ふむ……そしてお主のマスターは、お主が救ったといった所か?』

 

『まぁ、何とかね……そして、キャスターの奴は俺とマスターを狙っている訳です。なら令呪を棄てるのは得策じゃねえし、それなら俺が直接キャスターをブッ殺して、この騒動を終わらせようと思ってます』

 

『なぁるほど。お主達が今だ聖杯戦争に参加しているのは、自分達の身の安全と、キャスターの排除だな?ならば何故、余の言葉に応えてこの場に現れたのだ?既に聖杯を自由に使えるお主には、この場に来る理由など無いであろう?』

 

定明君の説明に、ライダーは一つ一つ納得しながらも重ねて質問をしてくる。

そう、私達は様子見だけで充分であってこの戦いの場に足を踏み入れる理由は無いのだ。

でも、キャスターを確実に倒せる様にする為に、私達は敢えてこの場に姿を晒した。

 

『理由は単純。他のサーヴァントとマスターに情報を渡しに来たんです。誰もが今この場に注目してるだろうからこの場で言わせてもらいますが、キャスターとキャスターのマスターは魔術を秘匿する気は一切無く、相手が一般人でもお構いなく魔術を行使してます。このままじゃ聖杯戦争の事が露見すんのも時間の問題かと思いますよ?』

 

『な!?』

 

『正気か!?魔術の秘匿を一切してないなんて!?』

 

『何言ってんスか。今言ったでしょ?狂人だって。正気なんて失ったか、ハナから持ち合わせちゃいねーんでしょうよ。ある意味バーサーカーよりも狂ってやがる』

 

『むうぅ。そりゃ困ったのぉ……』

 

定明君の言葉に、ライダー、ライダーのマスター。

そして白い髪のとても綺麗な女の人が驚きを露わにする。

魔術師にとって、魔術は世間に露見させず秘匿するというのが不文律らしい。

更に聖杯戦争の事が露見するなんて事になれば、彼等は聖杯戦争に参加する意義を失ってしまう。

これでキャスターに対する危機感が他の陣営でも持ってもらえただろう。

 

『それにキャスターの奴は、マスターと同じイカれた殺人鬼です。俺のマスターの家族以外にも、偶々発見出来たある家族がそいつ等に『工芸品』なんて趣味の悪いモンに変えられてた……今は誰も被害に遭ってないみたいなんで、早めに蹴りをつけたいんです』

 

『工芸品だと?』

 

『えぇ……死ねない、気絶出来ない、正気を失えないの魔術を掛けて、生きたまま体を分解して、苦痛を与え続ける胸糞悪いアートを作ってやがる……俺より幼い子どもまで……幸い、まだ生きてたから俺の宝具で助ける事が出来ましたけど』

 

『……下衆が……ッ!!』

 

『殺すだけでは飽き足らず、無垢な幼子にその様な残虐な仕打ちを……ッ!!』

 

そして続けて語られた言葉に、セイバーとランサーも怒りを滲ませる。

この二人は誇りある騎士の体現なのだから、力の無い人達を虐げるキャスターが尚の事、許せない筈。

これで、キャスターを倒すのに他の陣営が邪魔する事は無いと思う。

携帯電話から聞こえてくる怒りの声を聞いて、私は自分達の戦いが少し楽になったと安堵する。

 

『という訳で、俺は聖杯戦争自体には興味がありません。俺は俺で、キャスターをブッ殺す為に動くんで……暫くはこっちを邪魔しないで欲しいと言いに来ただけなんですよ。お宅等だって、聖杯戦争が破綻しちゃ元も子も無いでしょ?』

 

定明君の言葉に誰もが考える様な表情をするが、まず間違い無く私達の邪魔をする事は無いと思う。

逆にキャスターを倒す為に、独自に協力してくれるかもしれない。

まずキャスターを第一に排除するべき危険人物と理解して貰えれば、それで充分だと定明君は言っていた。

ならば、これでも目的は果たせただろう。

私は電話を握り直して、私のサーヴァントに戻る様に言おうとし――。

 

 

 

『相分かった!!ならばサモナーとその主よ!!余と同盟を結ばんか!?』

 

 

 

またアンタか、髭。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

――結局、私達サモナー陣営は、ライダー陣営(憎っくき髭と愉快なマスター)と同盟を結ぶ事で落ち着いた。

 

 

 

最初は定明君の持つ聖杯が狙いだと思って断固拒否したけど、そこはさすがの英霊。

今回の同盟に関して、聖杯を狙う事はしないし、強請る事もしないと真名に誓って宣誓された。

さすがにそこまで度量を見せられてはこっちも納得しない訳にはいかず、ここにキャスター討伐の同盟が成されたのだ。

 

『今は余の配下に就く気が無いと言うのなら、余の王道を見せつけ、納得させるまでのこと!!この征服王、諦めはせんぞ!!ガッハッハッハ!!』

 

なんて言われてイラッときたけど、定明君は味方が増えるなら今はそれに越した事は無いと乗り気だったので、私も納得する事にした。

それで、お互いのマスターの顔見せの為に次の日、私と定明君は公園でライダーとマスターを待っている。

……うぅ、それにしても寒いね。この寒空の中、女性を待たせるとは何事だろうか。

 

「いや。多分向こうはマスターが女だなんて気付いて無い可能性もありますし……っていうかカイロの代わりに俺を抱っこすんの止めてくれません?ホント」

 

むぅ、良いじゃないか。こうしてるとお互いに暖かいし、Win-Winでしょ?

公園のベンチに腰掛けながら、私は定明君を何時もの様に抱っこしてそう答える。

表情は見えないが、多分ムスッとした顔してると思う。

そうして更に5分程待つと、季節外れにも程がある半袖シャツにジーパンの巨漢と、少女の様な男が公園に入ってきた。

間違い無い、ライダーとそのマスターの少年だ。

 

「おう!!待たせたな、サマナーとそのマス……ほぉ?」

 

「どうしたんだよ、ライ……だー?」

 

と、私達を見つけて歩いてきた二人だけど、何故か私を見て驚いた表情をするではないか。

一方で私はその片割れのライダーをむすぅっとした顔で見る。

微妙にまだ丸め込まれた感じがするからだ。

 

「昨日はどうもっす。此方が俺のマスターですよ」

 

定明君は私の腕から出て、二人に歩み寄りながら私を紹介する。

あぁ、折角色々と暖かかったのに、二人の登場でその至福の時間も終わってしまった。

おのれ、許すまじ。

 

「昨日は現れなんだからどんな腑抜けたマスターかと思えば、何ともめんこいおなごではないか。そりゃ闘争を忌み嫌うのも仕方無いか」

 

「……薄々確信してたけど、やっぱり女……ッ!?……僕より微妙に……い、いや。まだ大丈夫まだ大丈夫。焦らなくてもまだ成長するさ」

 

ライダーは私を見て納得した様にウンウンと頷いて合点がいったと笑う。

なんだ、やるのかこの髭モジャめ。

 

「……なぁ、サモナーよ。何故このおなごは余の事を髭モジャと呼んで睨んでおる?」

 

「さぁ?何か初っ端からえらい嫌われ様でしたけど?」

 

「ふーむ。特に何かをした覚えは無いんだがのう……まぁとりあえず、坊主。お前も名乗らんか」

 

「ブツブツ……あ、あぁ……ライダーのマスターのウェイバー・ベルベットだ。そっちは……」

 

あっ、うん。定明君……サモナーのマスター、岸波白野。よろしくね。

 

「ッ……あ、あぁ。よろしく」

 

ライダーのマスター……ウェイバーはまともなので、私は邪険にせず微笑んで挨拶する。

何か気に入らなかったのか、そっぽを向いてるけど、どうしたんだろう?

そしてその様子をニヤニヤしながら見てるライダー。

 

「とりあえず顔見せは終わりましたけど……ぶっちゃけ協力するメリット無いでしょ、そっち?」

 

そんな私達の挨拶を見ていた定明君はエニグマの紙からホットドックを出して食べつつ、ウェイバーに質問する。

あっ、良いな。美味しそう。

そんな目で見てると、私にも出してくれた。ありがとう。

 

「ほぉ?見た目何の変哲も無い紙から食料を取り出すとは……余にも一つ献上せんか?」

 

「ん?……まぁ、テリヤキバーガーならあるんで、どぞ」

 

「おぉ、こりゃ美味そうだ!!」

 

「話振っといて別の事するなよ!!」

 

「あぁすいません。これ、フィレオフィッシュです」

 

「強請って無いからな!?そういう意味じゃ無くて……あぁもう!!ドリンクは無いのかよ!?」

 

「ほい。ホット烏龍茶です」

 

「おぉ!!中々気が効くではないか」

 

何故かあれよあれよという間に、公園のベンチで昼食会になってしまった。

まぁこの公園は近所の人達も滅多に来ないし、魔術の話をしても大丈夫だから良いけれど。

 

「さっきの質問だけど、こっちにもメリットはあるぞ。魔術の秘匿は魔術師にとって一番大事な事だし、僕だって魔術の為に一般人や子供が死ぬ事を良しだなんて思ってない。加えて言えば、サモナー。お前の宝具も見れる」

 

「へえ?ライダーさんが言い出した時はあんなに怒ってたのに、随分と考えてるんスね?」

 

「確かに昨日は怒ったさ。拠点に帰ってからも充分に……でも改めて冷静に考えれば利害は一致するし、戦う上で2対1のアドバンテージも得れる。態々一対一で勝負するリスクも無くなるからな」

 

「そうさなぁ。それに余の懐の広さも見せつけられるとくれば、手を組まない道理は無い。充分に価値ある同盟よ」

 

ウェイバーはフィレオフィッシュを齧りながらそう言い、ライダーも言葉尻に乗る。

確かに今彼がいった面では、私達と利害は一致してる。

向こうからすれば、聖杯戦争で倒さなくちゃならない敵が減る上に、一時的な味方が作れるんだ。

私達に協力してもメリットは充分にあるだろう。

そうして、とりあえずの同盟が組めた相手を、定明君は拠点に招待した。

 

「ぬおおおおおお!?まさかこれほどの快適な空間を持つ亀が居るとは……ッ!?軍の遠征にピッタリではないか!?」

 

「す、凄い……ッ!?空間歪曲に、電気とかの物質まで外から引き込めるなんて……ッ!!こんなの大魔術の域だぞ……ッ!?」

 

拠点の中で、ココ・ジャンボに興味を持った二人を中に招待すると、二人はとても驚いた表情を見せる。

っていうか髭モジャがうるさい。

 

「のうサモナーよ!!この亀を余に譲らんか!?」

 

「ライダーさんそればっかッスね?生憎と亀のココ・ジャンボも、この能力『ミスター・プレジデント』も俺の宝具扱いなんで、譲るのは無理」

 

「ははぁ~。この様な宝具まで持つとは、増々持って我が配下に加えねばなるまいて!!のう白野とやら!!」

 

何故私に振る?後、定明君は渡さないぞコノヤロウ。

そう答えるとムムムと唸るライダーだが、急に手の平をポンと拳で叩きだす。

な、何か嫌な予感がバリ3だ……ッ!?

 

「そういう事か……のう白野よ。余の軍門に降った暁には、サモナーの第一婦人として……」

 

バコッ!!

思いっ切り振り被ったフライパンでライダーの言葉を中断させる!!

お、乙女の純情を何だと思ってやがるこの髭モジャ……ッ!!

私の攻撃など意に介さないといった感じで、ライダーは叩かれた顔を擦る事もせずにニヤニヤと笑って見下ろしてくる。

こ、こんな屈辱は初めてだ……ッ!?こんな時は定明君を抱っこして癒されないと!!

 

「……いい加減、ヘブンズ・ドアーで俺を抱っこ出来ないと書き込みましょうか、マスター?って冗談ですから令呪を構えんで下さいよ」

 

――ハッ!?あ、危ない……無意識で令呪を構えてた……ッ!?

貴重な令呪(我儘用)なんだから大事に使わないと……ッ!!

それもこれも……ッ!!定明君がカッコ良くて癒やし体質なのが悪い……ッ!!

ともあれ、今は定明君を抱っこして癒されよう。これは私だけの特権だい。

 

 

 

 

 

 

――もしも、城戸定明という存在が別の世界に迷い込んでしまったら?

 

 

 

これは、そんな有り得ない世界の記録である。

 

 

 

 

 

 

 

 

サモナー=城戸 定明(Summoner=KIDO SADAAKI)

 

 

クラス(役割):サモナー(召喚する者)

 

真名:城戸 定明  性別:男性  身長・体重:146㎝ 45㎏  属性:秩序・中庸

  

特技:乗馬、写生、観察   好き:平穏、日常

  

苦手:平和の乱れ、裏切り  天敵:ギルガメッシュ

 

 

■クラススキル

 

対魔力:E

魔術に対する守り。無効化はできず、ダメージを軽減するに留まる。

 

単独行動:A+

マスター不在でも行動できる能力。

既に受肉しているのでスタンドの行使に魔力を必要としない。

 

■保有スキル

 

波紋:B

太陽の力と同じバイブレーションを持つ生命の振動。

傷や病気の治療にも効果を発揮する。

極めれば水の上を走り、指一本で鉄柱にくっつく事も可能。

人体すらも溶かす波紋を持つカーズのランクはA++

 

鉄球の技術:B+

ツェペリ一族の回転技術と黄金長方形の軌跡の回転。

極めれば無限に続く回転エネルギーの力を発揮し、その力は次元の壁を超える。

ポールブレイカー発現時のジャイロはA++となる。

王族護衛官のウェカピポの持つ戦闘用の鉄球の回転技術。

別名『WRECKING・BALL』レッキング・ボール(壊れゆく鉄球)とも言われる。

「衛星」と呼ばれる14個の小さな鉄球が付いており、鉄球を投球することで「衛星」がランダムに飛び散る。

これに直撃すればもちろん重症は免れない。

体にかすっただけでもその衝撃波によって十数秒間「左半身失調」状態に陥る。

(全ての左半分が消えていると脳が認識するため、全ての物体の左半分が見えず、左側からの光や音や手触りが認識できない)

 

 

能力値

 

マスター 筋力 魔力 耐久 幸運 敏捷 宝具

 

岸波白野  D- E- D-  EX C EX 

 

 

 

宝具

 

名称  ランク     種別     レンジ   最大補足

 

傍に立つ者(スタンド)  EX   対人、対界 対軍 宝具   1~99  1~地球全て

 




というわけで、番外編(息抜き話)でしたwww


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只付き合わされて料理食った訳でもねぇーのにこんな事してる俺の立場は(ry

無印の終わりも見えてきました。

早くA'sに入りたいですねー


『お母さん……お母さん……』

 

「あぁ、アリシア……また会えたわ……また……触れられた……ッ!!」

 

ボロボロと感動の涙を流して再会を喜ぶ二人。

アルフはその光景を複雑な表情で見て、俺はニヤリと笑っていた。

やっぱり読みが当たって良かったぜ。

あの杉本鈴美さんが幽霊なのに物に触れたり、岸辺露伴が触れられたのを思い出してプレシアさんをスタンド使いにしてみたが、間違ってはなかったらしい。

幽霊の方に触れようという意志があれば、幽霊が見える人間は触れる事が出来るって事だな。

これは、俺が今まで幽霊に会った経験も入れての考えだったけど。

ちなみにプレシアさんに入れたDISCは『水を熱湯に変えるスタンド』のDISCだ。

俺達に被害も来なくて危機感の少ないスタンドなんて、これぐらいしか思いつかなかった。

尤も、スタンドを操る訓練すらしてないプレシアさんには、どんなスタンドも操れるとは思わない。

ちなみにアルフにもスタンドを貸し出して、アリシアと意思疎通が可能な状態になってる。

勿論犬繋がりでザ・フールを貸したけど、「アタシは狼だッ!!」って怒られた。

どうにもこの世界、スタンド使いの素質がある奴が居過ぎる気がするぜ。

 

「さて、感動の再会に水を差すのは気が引けますけど……プレシアさん。アリシアちゃんは生き返った訳じゃ無え。ただ、死んで体を離れた魂……幽霊を、プレシアさんが見える様になっただけだ」

 

「幽、れい……?……そんな……」

 

『お兄ちゃんの言ってる事は本当だよ、お母さん』

 

ホラ、と言いながらアリシアちゃんは手をプレシアさんに向けるも、その手はプレシアさんの体をすり抜けてしまう。

その様子を見て目を見開くプレシアさんだが、目の前の娘が紛うことなき自分の娘と分かっているんだろう。

それでも……触れられる、と言って、プレシアさんは泣きながらアリシアちゃんを抱きしめる。

 

「……アリシアちゃん。プレシアさんに言いたい事があるんだろ?」

 

『……うん……あのね、お母さん……』

 

「グスッ……な、何?アリシア?」

 

俺がアリシアちゃんを促すと、アリシアちゃんはプレシアさんから一度離れて視線を合わせる。

一方でプレシアさんは目元の涙を拭いながら、アリシアちゃんに心からの笑顔を見せた。

 

『お願いがあるの…………私の事を……『生き返らせないで』……』

 

「――え?」

 

しかしその笑顔も、アリシアちゃんの言葉を聞いて、まるでこの世の終わりの様な表情に変わってしまう。

まぁ、そうなるのも無理はねぇ……蘇らせようとしてた娘から、それを望まないなんて言われるんだから……。

呆然としたプレシアさんだが、直ぐにぎこちなくも笑顔を取り繕う。

 

「な、何を言ってるのアリシア?貴女は生き返る事が出来るのよ?ジュ、ジュエルシードを使ってアルハザードに行けば――」

 

『次元断層を引き起こして、地球の人達を……皆死なせて、私は生き返るの?』

 

「……ッ!!」

 

『そんなの嫌だよ……私の為に、関係ない人達が死んじゃうなんて……それで生き返っても、私は嬉しく無いよ……ううん、苦しくて生きていけない……』

 

「ア、アリシア……ッ!!」

 

『私ね、見てたんだよ?お母さんが私を生き返らせる為に、病気を……体を壊しているのに治療しない。それどころか、無理矢理にでも研究を進めてたのを』

 

二の句が継げないプレシアさんに対して、アリシアちゃんは言葉を並べかけていく。

しかもその眉が少しづつ吊り上がっていた。

あぁ、怒ってるな、ありゃあ。

プレシアさんも愛する我が娘の怒りには弱いのか、タジタジになってる。

 

『それに、私を生き返らせる為に違法研究に手を染めて……ううん。それは怒ってない、かな。だってそれで結果的にフェイトが産まれてくれたんだし……でもッ!!』

 

妹……テスタロッサが生まれた事を喜んだかと思えば、今度は声を荒らげてアリシアは怒る。

 

『どうしてフェイトの事をあんな風に扱う様になっちゃったのッ!?フェイトが産まれてから暫くは……アルフがフェイトと契約する前は、あんなにフェイトの事を大事にしてくれてたのにッ!!』

 

「――なっ!?ど、どういう事だよそれッ!?」

 

「ッ!?そ、それは……」

 

アリシアから吐き出された言葉が余程信じられないのか、アルフは目を見開いて絶句してる。

プレシアさんは痛いところを突かれた、とでも表現すりゃ良いんだろうか?

兎に角、凄く答え辛そうな反応を見せる。

アリシアはプレシアさんから視線を外すと、驚きの表情を浮かべるアルフへと視線を向ける。

 

『アルフ……貴女がフェイトと契約する前は、まだフェイトは魔法の訓練をしていなかったの。リニスと一緒に、お母さんとはしゃいで遊んでた普通の子供だったんだ』

 

「それは知ってるッ!!アタシがフェイトに会ったのは、フェイトがアタシの居た森に遊びに来た時だったんだからッ!!で、でも、この鬼婆はフェイトが契約したアタシを連れて会った時から……ッ!!」

 

『うん。その半年くらい前から……お母さんは少しづつ、変わり始めたの……何か、何時も怖い顔をして、フェイトやリニスに対する態度も棘々しくなったと思ったら、フェイトに厳しい魔法の訓練をする様に言い付けて、自分は研究用の塔に籠もり始めて……私も自分の体から遠くに離れられないから、何があったか詳しくはわからないけど……』

 

「そんな……ッ!!」

 

アリシアの言葉を有り得ないとでも言う様に、アルフは声を荒らげてアリシアへ言葉を返す。

プレシアさんはそんな二人から視線を外して俯き、無言を貫いてる。

一方で二人はそんなプレシアさんに感情は違えど「話して欲しい」という視線を向けてた。

……まぁプレシアさんが『自分には話す資格が無い』って感じてる今じゃ、何を言っても話さないだろうな。

何せ、『愛する娘』にとんでも無い、自分でも嫌悪する仕打ちをずっと続けてきたんだし。

でもこのままじゃ話が進まねえし……俺が勝手に話させてもらうとするか。

 

「○○年○月、研究所の途中で血を吐いてしまう。血は少し黒く濁っており、とてもでは無いが健康的な色合いには見えない。リニスとフェイトには黙って医者に行く事にしよう。心配は掛けたくない」

 

「ッ!!?」

 

「??ジョジョ、いきなり何を……?」

 

『??お兄ちゃん?』

 

突然、何かの独白の様に流れる調子で語り始めた俺に、アルフとアリシアの怪訝な視線が突き刺さる。

だがプレシアさんだけはその反応が著者であり、現界まで見開かれた目は俺に対して驚愕を見せていた。

そりゃ当たり前だ。俺の言ってる言葉はプレシアさんが自ら書いた日記の記録なんだからな。

 

「同年○月、医者の話によると、私の体は不治の病に侵されているらしい。長く生きるには寝たきりの生活をしなければならないが、元より長生きする気は無い。アリシアを生き返らせる為にも早く研究を終わらせなければならない。そしてアリシアの妹の様な存在として生まれたフェイト……私の愛する娘を心配させない為に、症状は無理矢理薬で抑えこむ」

 

「……めて」

 

「翌年○月、最近記憶が朧気で体の節々が痛む。疲れの所為だろうか?症状を抑える薬の増量に加えて鎮痛剤も服用する事にする。フェイトに構える時間も減ってしまったので、リニスに魔法の訓練をさせる様に命じる。少しでもあの子の将来の為になれば良いと思う。今は寂しい思いをさせてしまっているけど、何時かはアリシアを入れた四人で、アリシアが望んだ様にピクニックへ行こう。その為にも、私は止まる訳にはいかない」

 

何か小さくプレシアさんが声を出すが、俺はそれに構わず独白を続ける。

この状況とプレシアさんの記憶を読んで分かった事がある。

多少の荒療治でもしなきゃ、この人はテスタロッサに向き合っちゃくれねえだろう。

傷口を抉るのは俺の趣味じゃねえが、今はそんな事も言ってられないな。

 

「同年○月、やはりアリシアを生き返らせる方法が見つからない。イライラする。この憂さはあの人形にぶつけて晴らす事にしよう」

 

「止めて……」

 

「同年○月、あの人形の基礎教育が終わり、体の負担を減らす為にリニスとの契約を切る。お人形自身も使い魔と契約したと言ってた覚えがあるので、戦力としては役に立つだろう。」

 

「アタシの事……」

 

「翌年○月、この世界の技術では無理ならば、失われた都アルハザードを目指すしか無い。しかしそうなればロストロギア級の魔力エネルギーを使って次元断層を起こす他無い上に、管理局に目を付けられては全てが水の泡と化してしまう。もどかしい上に酷く頭が痛む。イライラする。あぁそうだ、あの人形にこの怒りをぶつけよう。お人形なら私の怒りが静まるまで嬲っても耐えられる。そこは本当に良く出来てるわ」

 

「止めてッ!!」

 

俺の口を止めようと飛び掛かるが、プレシアさんにはヘブンズ・ドアーのセーフティーロックが掛かってる。

だから俺に飛び掛かろうとした体が無理矢理他の向きへ向いて、床に倒れ込む結果に終わった。

それでも俺を止めようとするプレシアさんには構わず、俺は言葉を続ける。

 

「同年○月、遂に発見した。あの墓荒しの一族の一人がジュエルシードというロストロギアを発掘したとの情報が入った。しかも経由する航路を照合すると、一つだけ管理局の目が届かない管理外世界である地球の上を通過するルートがあると判明した。チャンスだ、ここを逃せば次は無い。私の次元跳躍魔法で地球に落とし、人形に回収させれば良い。管理外の世界ならばお人形の戦闘力でも充分に役立つ筈だ。これでアリシアを蘇らせられる。そしてあのイライラするお人形ともお別れ出来る。それならば真実を告げてからいっその事私が――」

 

「お願いだから止めてッ!!もうそれ以上は――」

 

「分かりました。もう止めますよ」

 

と、まぁ地球にジュエルシードが落ちる一連までの日記を語り終えた俺は、プレシアの静止の声に漸く答えた。

最後の方は最早悲鳴と言っても差し支えないプレシアさんの叫び。

それに答えて沈黙した時には、アルフは驚きに目を見開き、アリシアは寂しそうな顔をしていた。

今の日記の内容を聞いていたら判る筈だ……途中からプレシアさんの言動がおかしくなり始めていたのが。

この人は俺とアルフに語った様に、最初からテスタロッサを恨んでいた訳じゃねえ。

只、どこからかおかしくなり始めていたんだ。

 

『今の……どういう事なの、お兄ちゃん?』

 

「日記だよ。プレシアさんが書いてた日記。その内容を読みあげただけだ」

 

「……もしかして、地球でアタシにしたアレと同じかい?」

 

俺が知る筈の無い日記の内容を知ってた事にアリシアは驚き、アルフはここに来る前の出来事を思い出して質問して来た。

アルフの質問に頷く事で肯定とし、俺は床に視線を落とすプレシアさんに目を向ける。

 

「プレシアさんは初めからテスタロッサを憎んでた訳じゃねえ……全部、薬の所為なんでしょ?」

 

「……」

 

「ち、ちょっと待っておくれよッ!?薬って……ッ!?」

 

「あぁ。さっき俺が読みあげた日記の中で、『病気の症状を抑える為に薬の量を増やして飲む』って言ったろ?プレシアさんがテスタロッサにキレてたのは、あの薬が元凶なんだろーよ。俺が読んだプレシアさんの記憶の中に、あの薬の副作用を知って青褪めたって記憶があったし……そうでしょ、プレシアさん?」

 

「…………そうよ」

 

床に座りこんで下を向いてるプレシアさんに質問すると、返ってきた答えは酷く弱々しいモノだった。

だが、その弱々しい口調の中には、これ以上無いってぐらいの後悔が滲み出ている。

自分のしてきた事がどれだけ酷い事なのかを自覚して、自己嫌悪してる様にも感じられる声だ。

 

「坊やの言う通り、私が常用していた薬には重度の副作用があったわ……禁断症状に精神性への異常、そして暴力性が著者に現れる。それに病気も少しづつだけど進行していた」

 

「それを抑える為に、更に沢山薬を摂取して副作用が悪化する……悪循環ってヤツか」

 

だが、これでキュアーが異常な程に大きくなった説明が付く。

ザ・キュアーは他人の痛みや悩みという概念を吸い取るスタンドだ。

恐らくキュアーはあの時、プレシアさんの怪我、病気。

そして薬の副作用が引き起こした症状の悪化とかを全て吸い取ってあんなに膨れ上がったんだろう。

精神にきたした異常に暴力性なんかを吸い取り尽くした結果が、今のプレシアさんって訳だ。

図らずもキュアーを使って吸い取りすぎた結果がこれとはな。

 

「ええ。その事に気付いたのは、つい最近……偶々薬を飲んでいなくて、正気が保てた時に頭痛と激しい吐血に襲われながら私は……あの子にした仕打ちの恐ろしさに漸く気付けたのよ……それでも、止まれなかった」

 

「……」

 

「気付いた時には、もう全てが遅かった……ッ!!あの子はもう管理局に目撃されてしまっているし、身元が割れるのも時間の問題……なら、あの子……フェイトが救われる道は一つだけ……」

 

最後の方は、ほぼ涙声でプレシアさんは言葉を続けた。

それはアリシアに対してでは無く、自分が痛めつけてしまったフェイトテスタロッサという別の少女に対する感情なのは明白だった。

俺は先に記憶を読んで知ってたけど、それを知らないアルフはプレシアに複雑な表情を浮かべてる。

長い間テスタロッサがプレシアに虐待されてきたのを見てたら、簡単には信じられないんだろう。

床から俺達……いや、俺に視線を向けたプレシアさんは、覚悟を決めた『母親』の顔で、ある決意を述べた。

 

「私がこのまま管理局に目を付けられた状態で生きていたら、あの子の将来は苦しくなる。犯罪者の娘としてね……それなら……私が管理局に『錯乱した挙句、虚数空間に落ちて生死不明の犯罪者』として裁かれれば、『犯罪者プレシア・テスタロッサに虐げられ続けた少女』として、フェイトを時空管理局に保護させる事が出来る」

 

「ッ!?……あんた、まさかッ!?」

 

『死ぬ気なの、お母さんッ!?』

 

プレシアさんの言葉で合点がいったのか、アルフとアリシアは目を剥いて驚く。

そんな二人とは違い、俺は顎に手を当てながら思考を回転させる。

虚数空間に落ちて……相馬が言ってたのと同じだ。

相馬の言う原作の最後、プレシアさんは虚数空間に身を落として行方不明になるって。

確か虚数空間っていうのは、魔法の一切がキャンセルされて、落ちたら最後何処とも分からない次元の空間を一生漂い続ける事になる場所だったか?

アルハザードはその昔にこの空間の何処かに落ちたって言ってたし……。

色々と考えを巡らせている俺の前で、プレシアさんは驚く二人に苦笑いを見せていた。

 

「……どの道、私は長くなかったのよ、アリシア……だからこの身をフェイトの為に使えるなら、惜しくは無いわ……運良くアルハザードに辿り着けば、貴女を生き返らせて、私の病気も治るかもという見込みもあったし」

 

『で、でも、お母さんの病気は治ったんでしょッ!?お兄ちゃんのお陰で……』

 

「それも偶然の産物よ。アルフがここに坊やを連れて来なかったとしても、私のする事は変わらなかった……只、病気が治ったお陰で、貴女を生き返らせる可能性が増えたのは事実だけれどね」

 

『そんな……そ、それじゃあ、フェイトの事は……』

 

アリシアが悲しそうな声を出すが、プレシアさんは苦笑いを隠さない。

薬の副作用も、病気も治ったお陰で冷静な思考が出来てるんだろう。

このままじゃ、テスタロッサに良い方向には転がらないと。

 

「今、私の気持ちを吐き出してしまったら、あの子は確実に私と一緒に滅びの道を歩んでしまう……未来のあるあの子に、そんな選択はさせたくないの……だからアルフ。聞いてちょうだい」

 

「……何だよ」

 

苦笑いとは一転して真剣な表情を浮かべたプレシアさん。

彼女がアルフへと視線を送ると、アルフは不機嫌な表情を崩す事無く対応する。

まぁ大事な主人を虐げられ続けて、尚且つ自分も殺される一歩手前だったんだ。

そう簡単に良い顔は出来ねえだろうよ。

 

「私は最後まで、あの子を虐げる魔女として振舞うから……私が虚数空間に落ちた後、あの子の事を支えて頂戴……お願い」

 

「……アンタに言われるまでも無い……アタシはあの子の使い魔だ。最後まであの子の傍に居続ける」

 

「そう…………ありがとう……それと坊や。確かジョジョ君、だったかしら?」

 

「ん?」

 

と、色々と考え事をしてた俺に、プレシアさんは屈んで目線を合わせながら声を掛けてくる。

その声に反応して視線を合わせると、プレシアさんは頭を下げながらアルフに言ったのと同じ事を言ってきた。

 

「出来るなら、厚かましいけど貴方にもフェイトの事をお願いしたいの……あの子を守ってあげてくれないかしら?」

 

「……」

 

何時もなら、答えるまでも無く拒否してるトコだろう。

しかし俺はこの家族が抱え続けた闇に深く入り込んでしまった。

なら、ここで見捨てるという選択肢はNOであり、断るまでも無い。

しかし、まだこのテスタロッサ一家『全員』が助かる道は……多分、残ってる。

 

「なぁ、プレシアさん。幾つか質問しても良いか?」

 

「??え、えぇ。何かしら?」

 

唐突な質問を聞かれて、プレシアさんは首を傾げながらも律儀に答えてくれる。

俺は頭の中で考えていた予想とプレシアさんの記憶を照らし合わせて、ある計画を立てていたんだ。

その計画を実行するには、幾つかの確認と協力者が必要となるけど……まぁ何とかなんだろ。

俺はプレシアさんの記憶を読んだ時の『ある項目』について確認し、更にそこに俺の考えを言ってみた。

 

「……そ、それなら確かに、管理局の上層部を黙らせる事が出来ると思うわ。けれど……フェイトは既に管理局員に対して反撃してしまっているし、恐らく逃走も罪状に加味されてる」

 

「いやいや。俺、実はここに来る前に相馬……その場に居た友達にその時の話を聞いたんですけど……」

 

「……強引な言い訳ね。それじゃあ少し苦しいし……そうね。ならさっき言ってた案と……」

 

「じゃあ、こうしたらどうですか?まず……」

 

「……確かに、それなら司法取引という形で、フェイトの、いや『私達全員』の無罪は勝ち取れるわ……やってみる価値は充分にあるわね」

 

『お、お母さんとお兄ちゃん……すっごく悪い顔してるよ……』

 

「……まぁ、アタシはフェイトが無事に暮らせるならそれで良いんだけどね……なんというか――」

 

正に悪い事企んでるよね?と、アルフが何か複雑そうな表情でそんな戯言を言ってたが綺麗にスルー。

全てはテスタロッサ一家全員のハッピーエンドと、俺が清々しい平穏を迎える為の努力だ。

ここまで色々な案を話すと、元々娘を大事に想ってるプレシアさんは真剣に計画を練り始めた。

でも多分まだこの人の頭の中じゃ自分が居ない状態ってのが大前提みたいだし、死ぬ前の整理程度にしか考えて無い。

まぁさっき言ってた計画を実行すんならそうだろうが……それ、無理。

 

「それと自分が死ぬだなんだと盛り上がってる所悪いんですけど、プレシアさんはジュエルシードを使えませんから」

 

『「「――は?」」』

 

俺が何げ無く追加する様に呟いた一言を聞いた3人は、「何言ってんのコイツ?」みたいな顔で俺を見る。

俺はその視線に肩を竦めながら言葉を返した。

 

「俺の能力でプレシアさんに俺とアルフを攻撃出来ないと制限を掛けた時に、ついでにジュエルシードも使えないとしておきましたんで」

 

「――な……な……ッ!?」

 

「??な?」

 

なって何ですか?

そう思って声の発生源を見ると、そこには俯きながら震えるプレシアさんの姿が――。

 

「何してくれてるのッ!!!直ぐに制限を外しなさいッ!!ジュエルシードが使えないんじゃフェイトが犯罪者の娘として管理局に逮捕されてしまうし、アリシアだって――」

 

バッと顔を上げたかと思えば、憤怒の表情でプレシアさんは俺に詰め寄ってくる。

女の人が浮かべるにはあんまりな表情だが、アルフがボソッと「あ。何時もの鬼婆だ」と言ったのには納得した。

確かにこの表情は鬼と言われても反論出来ねえだろうなぁ。

しかしここは敢えて言わせて貰おう。

 

「いやいや。俺はさっき言った筈ですよね?『敗者は黙って勝者に従え』って」

 

「完全なる事後申告じゃないのッ!!良いから早く私に付けた制限とかいうのを――」

 

「逃げるんスか?自分の子供から」

 

「ッ!!?」

 

「俺が読んだプレシアさんの記憶の中には、確かにテスタロッサを愛するプレシアさんの気持ちがあった……なのに、自分のしてきた事が許せないから、自分の子供から逃げるんで?」

 

「わ、私は……ッ!?」

 

畳み掛ける様に言葉を並べると、プレシアさんは難しい表情で沈黙してしまう。

確かに、正気に戻ったプレシアさんには、テスタロッサは顔を会わせ辛い存在だろうよ。

でも、俺も直にテスタロッサに会って確信した……テスタロッサは、本当にプレシアさんの事が大好きなんだって事を。

なら、お互いを大事に想うからこその辛く悲しい別れ……ってのは却下、大却下だ。

そんなもんはフィクションの昼ドラかホームドラマで充分足りてる。

態々現実に生きて、息をしてるこの人達がする必要は無い。

少なくとも戦いの勝者である俺は認めねえ。

それにプレシアさんがここまでジュエルシードに拘るのは、何もフェイトの事だけじゃ無い。

 

『良いんだよ、お母さん』

 

「アリ、シア……ッ!!?」

 

今、俺達に向けて小さく微笑むアリシアを生き返らせたいって思いも入ってる。

だからこそ、ジュエルシードという奇跡に拘るんだろう。

 

『お母さん、私はもう死んだの。死んだ存在なんだよ?私はもうお母さんの傍には居ないの』

 

「で、でも、貴女は私の……ッ!?」

 

『分かってる。私の事を忘れないで、ずっと思い続けてくれたのは素直に嬉しいもん……でも、お母さんの娘は私だけ?そうじゃないでしょ?』

 

「……」

 

『フェイトの事を幸せにしてあげて?……確かに、一緒にピクニックには行けなかったけど……私は、今を生きてるフェイトとお母さんが幸せに暮らしてくれたら、それだけで良いの』

 

「う、ううぅ……ッ!!」

 

アリシアが微笑みながら発した言葉に、プレシアさんは大粒の涙を流す。

多分これで、プレシアさんはジュエルシードを使うのを諦めてくれる。

なんてったって最愛の娘に、もう一人の最愛の娘を大事にして欲しいと直に言われたんだからな。

それは娘を蘇生させる為に頑張ってきたプレシアさんには辛い言葉かもしれないが、同時に救いでもあるんじゃねえかな。

病気も治って時間も増えた。やろうと思えばテスタロッサの罪も消せる。親子として向き合える。

アリシアはずっと言いたかった事をやっと伝える事が出来た。

その思いが、プレシアさんとアリシアという長い間会う事が出来なかった二人に、涙を流させてる。

 

 

 

 

 

あー……あのアルフが涙ぐむ程にとても感動的な一場面なんだが……。

 

 

 

 

 

「あーすいません。言い忘れてましたけど――もしかしたら、アリシアちゃんを『生き返らせられるかも』しれませんよ?忘れてたけど」

 

「「(プッツン)――早く言えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」」

 

途轍も無くKYな発言をした俺に、プレシアさんとアルフが同時に吼えてきた。

うん、これは間違い無く俺が空気読めなさ過ぎだった。

怒れるプレシアさんとアルフを諌めながら、俺はそんな事を思う。

後、俺の発言を聞いてポカンとした表情を浮かべるアリシアの顔が少し面白かったです。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……やれやれ。やっと帰ってこれたな」

 

「ホント……長い1日だったよ」

 

さて、時間は飛んで夜の8時。

俺はアルフと共に一端海鳴の町へと戻ってきていた。

とりあえずプレシアさんとは和解出来たし、スタンドはそのまま貸しておいた。

長い間擦れ違ってた親子の絆をゆっくりと暖めてもらうには、DISCが必要不可欠だからな。

アルフからは返してもらったけど。

 

「しかしまぁ、明日から暫く忙しくなりそうだなぁ……面倒くせ」

 

「そんな事言わないでおくれよ。アンタには感謝してるんだからさ」

 

「分かってるって。感謝されてるのは判ってるから、ちゃんと頼まれた事は最後までやるさ」

 

俺の発言を聞いて苦笑いするアルフに手を振りながら、俺達は家への道のりを歩く。

アルフから頼まれたのは、『テスタロッサが幸せに暮らせる様に助ける』って事だ。

とりあえず問題の半分であるテスタロッサ家の方は何とか片付いたとして……。

 

「次は管理局だけど……どうするつもりなんだい、ジョジョ?」

 

「ん?どうするってのは?」

 

「だから、どうやって『管理局の船に乗り込む』つもりなのさ?……はっきり言って、侵入なんて無理だよ」

 

「あぁ。それか……ん~……そうだな~」

 

俺はアルフの言葉で漸く意味を悟り、頭を悩ませる。

そう、目下の問題点としては、俺は時空管理局とやらにパイプを持ってないから、侵入するなんて事は出来ない。

そこなんだよなぁ……プレシアさんの話じゃ、管理局の船は次元の海とかいう異次元空間に居るらしいし。

ちなみにさっきの時の庭園も似た場所を漂ってるそうだ。

まぁそんな事はゴミ箱に捨て置いて……。

 

「侵入が無理ならまぁ……相手に招き入れてもらうしかねーだろ?」

 

「バカ言ってんじゃないよ。少なくとも向こうからしたら犯罪者の使い魔のアタシと、何者かすら分かんないアンタを迎え入れてくれる訳無いじゃん」

 

と、俺の名案とばかりの言葉も、すげなく却下されてしまう。

だが忘れてねえかコイツ?俺のダチが向こうサイドに着いてるってのをよ。

 

「まぁ兎に角、俺には俺で何とかなるプランがあるから、お前は自分の仕事に集中してろよ。正直俺よりも、そっちの方が重要なんだからな」

 

「分かってるよ。大丈夫。フェイトの匂いが見つかったから、今から追ってみる」

 

「おう。じゃあ頑張んな」

 

そしてアルフの役割は、今も管理局に狙われてるテスタロッサを時の庭園に連れ戻す事。

これはアルフだけじゃなくプレシアさんの援護もあるから問題ないだろう。

大好きな母親が帰って来いっていえば、テスタロッサも素直に従う。

主の匂いを見つけて嬉しそうに尻尾を振るアルフの背中に応援を掛けると、アルフは笑顔で振り返ってきた。

 

「……今日は本当にありがとうね、ジョジョ」

 

「あ?んだよ?いきなりお礼なんて言いやがって」

 

「ちゃんとお礼を言ってなかったと思ってさ……今日だって、一歩間違えたら死ぬかも知れなかったんだし……本当に、ジョジョには感謝してるんだからね?」

 

「……礼なんざ要らねえよ。これも全ては俺の平穏な生活の為だ。そんな事言ってる暇があんならとっととテスタロッサを探して来い。シッシ」

 

手で軽く追い払う仕草を取ると、アルフは(・∀・)←こんな顔して「ハイハイ」とか適当な返事をしてから街へと駈け出して行きやがった。

今のアルフの顔を見て、俺は再びDEATH13による悪夢攻撃を1週間連続でプレゼントしてやろうと固く心に誓うのであった。

さあて、俺は俺でやる事があり、その為にある人物を探さなきゃいけねえ訳なんだが……。

 

「って訳で、少し協力してくれや。相馬?」

 

「……バレていたか」

 

誰も居ない筈の公園でそう言えば、茂みの奥から相馬が苦笑いしながら出てきた。

そう、元々俺は相馬をここに呼んだ状態で、今の話をアルフとしていたって訳なんです。

種は単純、地球に戻ってから直ぐに『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を電線に送り込み、隣町の海鳴を探しまわっていたって事だ。

運良く1人で歩いてた相馬を見つけて、姿は現さずに奴の携帯へ直接アクセスして事の次第を話しておいた。

そして、お前の協力が欲しいと言えば、相馬は一も二も無く了承し、この場所を待ち合わせに選んだって寸法さ。

 

「しかし定明。協力するのは良いんだが、どうするつもりだ?まさかとは思うが、管理局に正体を明かすつもりじゃ無いだろう?」

 

「たりめーだ。アイツ等にスタンド使いだってバラしても、俺にゃ1ミリも得が無えよ」

 

「だろうな……だったらどうする?さすがに俺にはお前を転移で連れて行く事が出来ても、お前の姿を誤魔化す事は出来ないぞ?お前なら出来るのか?」

 

相馬は持っていたジュースを片方俺に手渡し、自分もオレンジジュースを飲んでいた。

……どうでも良いけど何故、俺のジュースは苺ミルクなんだろうか?

俺は礼を言ってから渡されたジュースを飲みつつ答える。

 

「ング、ング……プハァ~……姿を消す方法はあるが、そうじゃねぇ。こっちには既に秘策があるんだ」

 

「秘策?」

 

「あぁ……俺が直接行かずとも、俺のスタンドを送り込む秘策が、な?」

 

ニヤリと悪どい笑みを浮かべながら、俺は相馬に俺が考えた作戦の内容を伝える。

その内容を聞いた相馬は「なるほどな」と頷いて、俺の作戦の有効さを肯定してくれた。

 

「確かにその作戦なら問題無いな。分かった、協力するよ。丁度明日はアースラに戻るつもりだったからな」

 

「おう。それじゃあ明日、頼むぜ?」

 

お互いにニヤリと笑いながら拳を合わせて、俺達は公園から出た道で別れた。

さあて、明日は結構忙しくなりそうだが……まぁ、何とかなんだろ。

幸い明日から二連休というありがたい日取りだ。

特に予定も入れてねぇし、何の気兼ねも無く作戦に集中出来る。

テスタロッサが無罪になればアルフの頼みも完遂出来て、アリシアが生き返ればプレシアさんもジュエルシードから手を引く。

それで管理局も居なくなって、誰も彼もがハッピーなんだよな。

そうすりゃ俺の平和な暮らしも守れる訳だし……いっちょ気張るか。

やっと見えてきた平和への道筋を辿る為に、俺は覚悟を新たに家の扉を潜るのであった。

 

 

 

「お帰り~定明~♪ポトフ、お父さんが全部食べちゃったわよ~?」

 

「ゲフッ。いや~スマンな定明……父さん徹夜でお腹空いてたもんだから……」

 

 

 

『ウ~ウウウ、アンマリダ……HEEEEYYYY!!アァァァンマリダアアア~~ッ!!』

 

るっせぇーーぞNO,5!!部屋にあるハンバーガーやるから泣き止め!!

くっそ、くっそ!!頑張った筈の俺がこんな扱いかよ!!

ご褒美が無いという絶望を身に感じながら、俺は母ちゃんが作ってくれていた別の夕飯にありつくのだった。

 

 




短くパリっと纏める!!

これが中々難しいのです(´・ω・`)ショボーン


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あなた、賭け事はお好(ry

今回は超ッ!!ご都合主義ッ!!!自己解釈の極みッ!!


でも、あんまり突っ込まないで下さい(´;ω;`)ウッ…


頑張って頑張って頭を捻りましたが、これ以上の展開が思いつかない。


駄目で馬鹿で糞な駄作者をどうぞお許し下さい。



 

「出張ゲリラライブ型、神様チャンネ~ルッ!!ハァ~イッ!!お元気かしら、定明く~ん♪中々楽しませてくれる人生送ってるじゃない♪」

 

……さて、どうした事だろうか。

明日に備えて眠りに入った筈の俺こと城戸定明。

何故か俺を転生させた、あのえっちぃ服を着た神様と御対面中。

どこかのスタジオの様な作りの部屋の中心でマイク片手にノリノリな神様……つまりこれは――。

 

「俺はまた死んだんですか?っていうか寝てる間に襲撃とか誰だっての」

 

「ノンノン。君はバリバリ生きてるよー。ただちょーっと用事があって、君の意識だけこっちに来てもらったの。相馬っちもさっき呼んでたとこだしねー」

 

「相馬も?」

 

どうにも俺は死んだ訳じゃなく、神様の用事でこっちに呼ばれたらしい。

相馬も呼ばれたって事は、あのボコボコにしたオリ主も呼ばれたんだろうか?

 

「アレは一番最初に呼んでパパパッと終わらせたよ。転生させた時から何ともオリ主らしい願いばっかりだと思ったけど、やる事為す事テンプレ過ぎて興味落ち気味ー。終いには私の事ババアだなんて言ってくれちゃってさ。頭きたからサッサと帰らせたよ」

 

額に少し青筋を浮かべながら不機嫌さを隠さない神様に脱帽。

オリ主ぇ……せめて自分にとんでも無い力をくれた上に転生までさせてくれた相手には少しくらい敬意を払えよ。

マンガで憧れた力を持たせてくれただけでも一生モンの奇跡で、その上俺とは違って望んだ世界に転生させて貰ったんだろ?

その後の事は自分の努力次第だけど、そこまでお膳立てされたら普通は敬うのが礼儀だ。

良く転生したく無いっていうのは聞くけど、俺は前世が凄く早く終わっちまったから普通に転生したいと思った。

それで目の前の神様がチャンスをくれて、しかも憧れのスタンド使いにまでしてくれた。

そんな大恩人にババアは無いだろババアは。見た目お姉さんじゃん。

果てしなくどうでも良いが、アイツの判断基準が未だに謎だ。

 

「え~っと、何の用事ですか?」

 

「あぁうん。それなんだけどねー。頑張ってる君と相馬っちにごほーびあげよっかなーってさ。私考えちゃった訳なのですよ」

 

話が進まないのでオリ主の事は頭から放り投げて、俺は神様に用件を尋ねる。

すると神様はニコッと微笑みながらそんな事を言ってきた。

ご褒美?そんなモンを貰うほどに大層な働きをした覚えは無いんだがな。

と、俺の考えを読んだのか、神様はニヤリと笑う。

 

「充分にしてるよー。面倒くさがって関わろうとしない君が、まさか女の子の為に身体張るなんて信じられなかったもんッ!!しかも未だにフラグ立つ匂いがしないという落とし目当てじゃない所とか、ワクワクするねッ!?」

 

同意を求められても困るんですが?

 

「まぁそういう訳で、見てる私を楽しませてくれた定明君にあげるご褒美は……こちらッ!!」

 

何処からか鳴り出したデレレレレレーとかいうドラムロールの後、ジャンッ!!という締めの音で音が鳴り止む。

そして何時の間にか現れていたでかいボードに、幾つかの項目が書かれていた。

 

「まず一つ目は、『ココ・ジャンボ』の進呈。定明君にあげたスタンド能力の『ミスター・プレジデント』を使うには、ジャンボちゃんが必要でしょー?」

 

「あっ、これはすげえありがたいです、はい」

 

最初に貰ったご褒美は、俺にとって凄く良いモノだった。

『ココ・ジャンボ』とは、第5部に登場したスタンド使いの『亀』だ。

こいつは第5部のギャング組織、パッショーネに訓練されたスタンド使いで、普段は何の変哲も無い亀そのもの。

しかし背中の『甲羅』に彫られた鍵型の溝に発動の切っ掛けとなる『鍵』を差し込む事で、スタンド使いの亀になる。

その能力は『ミスタープレジデント』という能力で、鍵の中心部に装飾された宝石の中に『部屋』を作る事が出来る能力だ。

この部屋はクローゼットに机、ソファーがあり、何と電気も通ってる優れモノ。

冷蔵庫にテレビもあるので、ちょっとした宿泊には使える移動基地に近い。

さすがにこの能力は俺では使えないので鍵の状態で保存しておいたんだが、これで漸く使えそうだ。

……ってか、何でジャンボちゃん?

 

「だってこの子メスだもん。って事で、君のお家の直ぐ傍に転移させておくからね。はい次いってみよーッ!!」

 

ナチュラルに心を読まれたが、そんな事気にしてたら話が進まない。

っていうか神様なんだからそんな事ぐらいお茶の子歳々だろうと納得しておく。

そして、次のご褒美が……。

 

「次はこれ。すっごく便利だよ♪『スタンド2体までの同時操作を可能』ね。良いでしょ?」

 

「え?マジで良いんですか?」

 

これには驚いた。

今まではちょっとした能力程度なら同時に使えてたけど、スタンド自体の運用を可能にしてくれるなんて。

目を見開いて聞き返す俺だが、神様は少し苦笑いを浮かべてた。

 

「うーん。ぶっちゃけた話、今まではアヌビス神だけだったけど、良く考えたらジョジョの原作って、『二人のスタンド能力』を合わせて戦うキャラも居たでしょ?ホル・ホースしかり、スクアーロしかりって」

 

「はい。確かに居ました。コンビで戦う事で、相手を確実に追い詰めるタイプの奴等」

 

「ホル・ホースなんか『一番よりNO,2』が人生哲学だったぐらい、相方を重要視してたしね。っていう事で、アヌビス神+銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)以外にも、夢の組み合わせって大事だと思ってさ。今回のご褒美に繋がったの」

 

「あー、なるほど……まぁ、一人で二体操るっていう違いはありますけど……」

 

「そこは仕方無いよ。定明君だって、あんまり人にスタンド貸したくないでしょ?」

 

神様の言葉に、俺は大仰に頷く。

何だかんだ言っても、俺にとってスタンドってのは、俺が憧れた力だ。

それをアリサ達みたいに少しでも助けになればって意味で貸す以外にスタンドを貸すつもりは無い。

何より誰もがスタンド使いになれるって訳じゃねぇしな。

 

「それに同時操作は可能にしたけど、操るのは定明君自身だよ?ちゃんと意識しないと直ぐにスタンドはどっちかが消えて一体になっちゃうし、片方の能力に縛られて一体しかスタンドを使えない時もあるからね」

 

「え?」

 

「当たり前じゃーん。君が操作するのに、君が意識しなきゃどうしようも無いよ」

 

マジか。いや、まぁそりゃそうだよな。

例えば一体のスタンドでラッシュを繰り出してもう一体で能力を使う。

それはつまり、頭で理解して同時に操らなきゃならないって事だ。

エニグマの紙みたいに一度紙にしたらそれで制御を離れる訳じゃ無いから、操るならしっかりと考えなきゃ駄目って訳か。

それとルールに縛られて本来の能力が使えなくなる、スタンドの相性も大事になった。

こりゃまた暫くは特訓続きになるな……面倒だが、自由に使える様になれば戦力アップに繋がる。

 

「って事で、私からのご褒美進呈番組はこれにて終了ッ!!これからも楽しい人生を、期待してるゾ☆」

 

神様が最後にパチッとウインクをした瞬間、俺の意識は急速に薄れて闇に落ちていく。

意識が落ちる前に見えたのは、楽しそうな笑顔で手を振る神様の姿だった。

 

ピピピピピピピピピッ!!

 

「……朝、か」

 

眠りから醒めた俺はけたたましく鳴る目覚ましを止めて、ベットから起き上がり背伸びをする。

そのままラフな格好に着替えてから下に降り、顔を洗って歯磨きを済ませ、既に起きていた父ちゃんと母ちゃんに挨拶する。

二人も俺に挨拶を返し、俺は朝飯まで裏庭で身体を動かしてくると言って玄関に向かった。

確かココ・ジャンボは家の前に居るって言ってたし、回収しねーとな。

「ご飯出来たら呼ぶわね~」という母ちゃんの言葉に返事を返しながら外に出ると、玄関の前に鍵の形の彫りが入った亀が鎮座していた。

間違いない、亀のココ・ジャンボだ。

 

「よっと……まぁ、今日からよろしくな。ココ・ジャンボ」

 

「……」

 

持ち上げて話し掛けるが、当然亀なので返事は来ない。

しかし抵抗せずにジッと俺を見ているだけなので、まぁ嫌われてはいないだろう。

後は母ちゃん達が飼っても良いと言ってくれるかどうかって所か……。

 

「良いわよ~。亀さんって見てると和むのよね~♪」

 

「まぁ亀は物影が好きだし、わめいたりウロチョロする生き物じゃ無い。母さんが良いなら父ちゃんも良いぞ……しかし、何だ?この鍵の窪みみたいなものは?」

 

と、あっさりとOKが出て拍子抜けだが、まぁ許可が出て良かったと安堵する。

そして今日は両親も休みなので、出掛けるついでに亀の飼育用の水槽とか必要な物を買ってきてくれるらしい。

俺も一緒に行く事になりそうだったが、今日は家でゆっくりしたいと断り、二人だけで出て貰う事にした。

その方が今日の作戦には都合が良いからな。

とりあえず朝飯をまだ作ってるという事で父ちゃんと母ちゃんは家に戻り、俺は裏庭で特訓を開始する。

ココ・ジャンボも一緒に外だ。

 

「ふぅ……良し。――スタープラチナ」

 

まずはスタープラチナを呼び出して、傍に待機させる。

さて、どんな感じで使えるのやら……。

 

法王の緑(ハイエロファント・グリーン)

 

続いてハイエロファントを強く念じて呼び出すと、本当に傍に現れた。

だが少しでも気を抜くとどっちかが消えそうだ。

やっぱり呼び出せる事は呼び出せても、同時に操作するとなるとかなり難しい。

今の状態じゃオラオラすら出来ないぐらいだ。

 

「これは、慣れるまでやるしか無いか……じゃあ、次に……スタープラチナ・ザ・ワールドッ!!」

 

一瞬で世界がモノクロに変わり、俺以外の全ての時間が止まる。

ここまでは何時もと変わらないんだが――。

 

「――ッ!?」

 

う、動けない……ッ!?喋る事も出来ねえ……ッ!!

やっぱり無理があったか……ッ!!これが片方の能力に縛られるって事かよ……ッ!!

時間が停止したと同時に俺の動きまでもが縛られ、時を止めたスタープラチナですら動けなかった。

これは多分、DIOに時を止められた時の承太郎さんと同じ現象なんだろう。

知覚出来ても動けない……いや、知覚出来るからこそ余計に恐ろしいッ!!

これが、承太郎さんの感じてたDIOとの戦い……その一端にすらならないこの状況ですら、マジでブルッちまいそうだ。

 

「――グッ!?ハァーッ!!ハァーッ!!ハァーッ!?……これは、効くなぁ」

 

そして、停止時間が解除されたと同時に呼んでいた二体のスタンドが同時に消えて、俺は地面に膝を付く。

全力フルマラソンでもしたかの様に大量の汗を流しながら、俺は荒い呼吸を吐いて息を整える。

 

「フ、フウゥー……ッ!!……停止した時間の中に入門出来ないスタンドを操って時を止めると、ああなっちまうのか……これが相性の問題ってヤツだな」

 

今の訓練で分かった事が一つ。

スタープラチナやザ・ワールドの様な時間停止の能力は、他の能力との相性が抜群に悪い。

本来止まった時の中を動けるスタンド以外を持ち込んだ事で、本体の俺にも影響が出たんだろう。

スタープラチナはOKでも、もう一体はNO。

なら、両方のスタンドを操っている本体の俺は?

その結果が、さっきの止まった時を認識出来ても動けないっていう矛盾だ。

この関係で行くなら時間操作系のスタンドは全て全滅だな。

 

「まっ、それが普通にして当たり前だ。原作以上の能力なんて欲張り過ぎるか……いや、まぁ既に全スタンド持ってる時点でアレだよな……兎に角、今は二つのスタンドを同時に操れる様にならないと」

 

俺は呼吸を整えてから立ち上がり、再び二体のスタンドを動かす訓練を行う。

それから暫く訓練を続けてから風呂に向かい汗を流した。

さすがに汗だくで飯は食べたくねえよ。

訓練自体は今日が初めてだから上手くいく筈も無く、同時に操ると凄くパワーダウンする。

動きも遅いし力も無い。本来の力を全然発揮出来ねえ。

これは暫く訓練だけにして、もしも戦う事があったら一つのスタンドで戦う方が賢いな。

新たに得た力の恩恵を確かめ、俺は美味しい朝食にありつくのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

時間は進んで11時過ぎ。

両親は既に買い物に出掛けていて、家には誰もいない。

俺はココ・ジャンボを連れて一人で近所の公園に足を踏み入れていた。

相馬が管理局の船に戻るのは夕方からと聞いているので、俺はこの空いた時間にやれる事をやるつもりだ。

即ち、アリシアちゃんの蘇生を可能にする方法を探さなきゃならない。

そんな訳で色々と考えているんだが……何か良い方法は無いか?

 

「少なくとも、アリシアちゃんの肉体は既に死んでる……けど、死体事態は綺麗な状態で残ってて損傷は無い」

 

プレシアさんの記憶では、アリシアは魔導実験の事故の際に漏れたエネルギーと酸素が反応した結果、室内の酸素が失われ窒息死とあった。

しかしプレシアさんが直ぐに遺体を保存していたお陰で、身体自体の損傷はほぼ無い。

 

「肉体が無事なら、アリシアちゃんの魂の戻る体はあるって事だ……けど、問題はどうやって戻すかだよなぁ……」

 

ジョジョの中でも、稀だがそういう場面はあった。

死んだ筈のジョセフ・ジョースターが第3部で承太郎さんの無茶な蘇生方法で蘇った事もあったし。

あの時、ジョセフさんの魂は確かに天に昇った筈なのに戻ってきていた。

承太郎さん自身も「死体から死体への輸血」と言ってたのにも関わらず、だ。

どんだけしぶといんだよ、ジョセフさんは。

他にも、ジョルノ・ジョバァーナがゴールド・エクスペリエンスでブチャラティさんを擬似的に蘇らせてたな。

本人は狙った訳じゃ無えけど、ゴールド・エクスペリエンスが与えた生命エネルギーのお陰で『体は死体だが、生きてる魂』という何とも奇妙な状況になってた。

所謂、リビングデットの状態になってた訳だ。

 

「でも、それは完全な復活じゃ無えし、プレシアさんがキレるだろうな……」

 

いやもう、ホントどうしようか?

他に考えられる手段としては、『D4C』を使う事だ。

物体に挟まる事で、自分や他の生き物、物体を別の世界へと渡らせる事が出来るスタンド。

しかし自分以外の物体は別の世界で同一の存在に出会うと問答無用で消滅させてしまう恐ろしい能力を持ってる。

それが、Dirty Deeds Done Dirt Cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)、『D・D・D・D・C』の頭文字を略して『D4C』と呼ばれるスタンドだ。

こいつを使って、この世界と良く似た別の世界へと自分自身を飛ばす。

行き先は『こことは違う自分以外の転生者』が居る次元の世界で、アリシアちゃんの蘇生を可能にした世界。

無限に広がる並行世界の中からその世界へと飛び込んで、他の転生者に協力を仰ぐ。

これが一番確実な方法だろう。

しかしまぁ他の世界に飛んだ所で、その転生者が協力してくれるかは五分五分の確率だけどな。

 

「もしもこの案が無理なら、最悪ポルナレフさんみたいにココ・ジャンボの中で幽霊として住んでてもらうか……ん?」

 

と、色々とアリシアの復活案を考えていた俺だが、ふと何かが頭の片隅に引っ掛かって言葉を止める。

待て、今俺は何を考えていた?

D4C?いや違う……ゴールド・エクスペリエンス?これも違う。

ジョセフ・ジョースター……魂?……『魂が戻る』?……ッ!?待てよ、もしかしてッ!?

俺はある一つの仮説を思いついて、その場から立ち上がって奥の茂みに入る。

そこで昨日プレシアさんから貰った簡易式転移ポートというのをポケットから取り出す。

……荒唐無稽でやれる自信なんて皆無だが……試してみる価値はある筈だッ!!

俺は転移ポートを起動して、時の庭園へと転移した。

 

「あら?どうしたのかしら、ジョジョ君?今日はこっちに来るとは言って無かったと思うけど……」

 

『お兄ちゃん?』

 

転移したのは俺が昨日プレシアさんと戦った玉座の隣の部屋だ。

そこには既に投影式のモニターに向かうプレシアさんと、その後ろで椅子に座るアリシアの二人が居た。

アリシアの遺体の入ったポッドもここに移されてる。

テスタロッサとの話し合いの為に、ここへ移したんだろう。

俺は二人の質問を無視してズカズカとアリシアの遺体へと歩み寄り、体を確認する。

見た感じでは、外見に損傷は見当たらないが……。

 

『ち、ちょっとお兄ちゃんッ!?私の体をジロジロ見ないでよーーーッ!!』

 

そう考えていたら、顔を真っ赤に染めたアリシアが目の前に出て俺の視界を塞いできた。

まぁ、確かにこれはちょっとダメ過ぎたな。

少し頭を冷やして冷静になりながら、俺はこっちへと不思議そうな視線を向けるプレシアさんと向き合う。

 

「プレシアさん。ちょっと聞きたいんですけど、アリシアちゃんの体に損傷は無いんですか?」

 

「……損傷とは、どういう意味かしら?心臓が動いていない。脳波が感じられないという意味では、アリシアの体は間違いなく損傷してるけど」

 

「それ以外です。えーっと……生きていない、という意味以外で、例えば内臓が一部壊死してるとか」

 

「無いわ。アリシアの肉体を保存してるこの液体は特別製でね。皮膚から内蔵に至るまで、全て当時のままよ。このまま生き返っても不思議じゃないくらいに」

 

俺の言葉が真剣なのを感じ取ってくれたのか、プレシアさんも真剣に言葉を返す。

良し、肉体が無事なら、多分魂が戻っても普通に生きる事が出来るだろう。

でも少し念には念を入れておくに越した事は無いだろう。

 

「ちょっと念入りに、体の方を治しておきますんで……『クレイジーダイヤモンド』ッ!!」

 

俺はクレイジーダイヤモンドを呼び出して、ガラスケースを通過させてアリシアの体に拳を触れさせる。

スタンドは概念的に言えば精神体のエネルギー。

だからこそ、物体を通り抜けて向こう側にあるモノのみに干渉する事も出来る。

承太郎さんがDIOとの戦いで、スタープラチナを自分の内部に入れて心臓だけを止めたのと同じ原理だ。

 

『キャーーッ!?お、おお、お兄ちゃんのえっちぃーーッ!?』

 

「いてッ!?ち、ちがッ!?俺が直接触れた訳じゃ無えだろッ!?」

 

『そ、それでもダメーーーーッ!!』

 

クレイジーダイヤモンドで触れたのは頭部なのに、アリシアはそれですらダメだったらしく、俺をポカポカと殴ってくる。

地味に痛いので、俺は慌ててクレイジーダイヤモンドを戻して遺体から距離を取る。

それでもまだ警戒してるのか、歯を剥き出しにして唸るアリシアの霊体。

……こうして見てると、地味にアリシア(霊体)がスタンドに見えなくも無いな。

 

「ジョジョ君、一体どうしたの?……もしかして、アリシアを復活させる方法が見つかったのかしら?」

 

「……かもしれない、っていう可能性ですけどね」

 

事の成り行きを見守っていたプレシアさんが、表情に縋る様な想いを籠めて俺を見てくる。

俺はそんなプレシアさんに何とも煮え切らない答えを言いながら視線を合わせる。

 

「かもしれないとは、どういう事?」

 

「確証が無いんですよ。この方法ならいけるかも、って衝動的に思っただけですから」

 

「……試せるのなら、話してみてくれない?」

 

「本気ですか?正直、賭けみたいなものですよ?」

 

上手くいかなかったら、アリシアちゃんの魂の保証は出来ない。

そう続けて言っても、プレシアさんは真剣な表情を崩さずに俺を見ていた。

 

「例えそうでも、私にはもうアリシアを生き返らせる方法が無いの……ジュエルシードを使うのは、ハッキリ言って最悪の手だったわ。アリシアだけで無くフェイトの事も何とかしないといけない私には、もうジュエルシードを使う事は出来ない……今の所アリシアを助けられる可能性があるのはジョジョ君の力だけなの。勿論、アリシアが嫌ならしないけど」

 

真っ直ぐに自分の娘の……いや、自分の娘『達』の事を第一に考えた言葉を発するプレシアさん。

今の彼女には誰かを犠牲にしてでも、という最悪の考えは無いらしい。

そういう人の為に協力するのは俺だって問題は無い。

寧ろ何とかして助けてあげたいぐらいなんだが……如何せん、この方法には根拠となる自信なんてこれっぽっちも無い。

やっぱり分の悪い賭けは止めて、D4Cで世界を渡って他の転生者に助けを求めるか。

 

『良いよ。お兄ちゃん……その方法を試してみてくれない?』

 

しかし今度は当事者であるアリシアちゃん自身が俺に頼んできた。

振り返ると、其処には覚悟を決めた表情を浮かべるアリシアが居る。

 

「本気か、アリシアちゃん?どうなるか全く分からないんだぜ?それにもう一つ方法はあるんだ」

 

「もう一つ?それはどういう方法なの?」

 

決死の覚悟を決めた表情のアリシアちゃんに焦って、俺は言わなくても良い事を口走ってしまう。

しかもそれを聞いたプレシアさんに目敏く聞き返された。

……どうしたもんか……話すか?D4Cの能力の事を?

本当なら自分のスタンド能力の事をベラベラと喋る様な事はしたく無いんだが……。

頭の中で割りと最低な事を考えているが、目の前に居るプレシアさんの真っ直ぐな目を見てると、自然に溜息が出てしまう。

……仕方無え。話すか……一度協力すると思った以上、隠す訳にはいかねえだろう。

多分この二人なら誰にも話さない様に頼めば守ってくれるだろうし……いざとなったらヘブンズ・ドアーで記憶を消す。

プレシアさんも管理局の事を嫌ってるから、管理局に俺の事をバラす事も無い筈だ。

憶測や予想ばっかりだが、人を何時迄も疑ってたら誰も信じられなくなっちまう。

そんな疑心暗鬼の塊にだけはなりたくねえ。

承太郎さんや仗助さんだって、自分のスタンド能力がバレる可能性があっても、困ってる人相手に能力を使う事を惜しんだりしなかった。

なら、一度助けると決めた相手を疑って能力を出し惜しむなんて出来る筈も無いじゃねえか。

 

「……他の誰にも喋らない事を誓ってくれますか?管理局は勿論、テスタロッサやアルフにもです」

 

俺が最後の確認の為にそう聞くと、二人は顔を見合わせて暫く考えこむ。

やがて結論が出たのか、二人は少し複雑そうな顔で俺に視線を戻した。

 

「……誓うわ……話してくれる?」

 

「……分かりました……俺の持ってる能力の一つなんですが――」

 

真っ直ぐに真剣な目で俺を見てくるプレシアさんを見て、俺も覚悟が決まった。

だからこそ、俺は二人にD4Cの能力の事を話した。

多次元の並行世界へと渡れる能力の事。

そしてその世界はこことは似て非なるパラレルワールドも存在する事。

その数多の可能性の世界から、死者蘇生の能力を持つ人間に協力を仰ぐ事を。

さすがに俺が転生者という事は話せないので、その辺りの話は一切してはいない。

 

「――以上が、俺が考えていた最後の手段です」

 

「……平行世界……そんな場所を自由に渡れるなんて……とんでもないレアスキルね。いや、ジョジョ君は魔導師じゃないから、厳密には違うのよね」

 

『ふえー。凄いんだね、お兄ちゃんの力って』

 

「ふふっ。そうね、アリシア……じゃあ、さっきジョジョ君が考えたのは、どういうものなのかしら?それも話してくれないと、どっちの案が良いのか比べようが無いのだけど……」

 

俺の力、というよりはD4Cの能力の半端無さに驚いて目を丸くするアリシア。

そんなアリシアを微笑ましそうに見ながらも、俺に更なる質問を重ねるプレシアさん。

それもそうか、まだ俺が考えた案の方は話してないし……。

 

「もう一つの方なんですけど、これは別の能力を使います……来い、『オシリス』」

 

俺の呼び掛けに応じて、俺の背後から現れる大型のスタンド。

つぶらな瞳に分厚い唇、そして指の先っぽが吸盤みたいな形になった姿。

詳細は話していないが、既にスタンドが見える様になってるプレシアさんと幽霊のアリシアは、俺の背後のスタンドを見て目を丸くする。

プレシアさんがスタンドの姿を見るのはこれが初めてだもんな。

 

「こ、これは……ッ!?」

 

『わッ!?ま、また違う人が出て来たッ!?』

 

スタンドという存在を初めて認識して驚くプレシアさんと、何体かのスタンドを見てるアリシア。

意味は違っても驚いてる二人を無視して、俺は口を開く。

 

「こいつも俺の能力の一つ、『オシリス神』っていうんですが……コイツの能力を使って、アリシアちゃんの魂を『実体化』します」

 

背後に浮遊するオシリス神を指差しながら、俺はスタンドの名と能力を口にする。

オシリス神はアヌビス神と同じくエジプト9栄神を司る名のスタンド。

第3部でダニエル・J・ダービーが使っていた『魂を奪う』能力を持っている。

その能力の詳細だが、勝負前に対戦相手へ「魂を賭ける」という宣言を(言葉でも文書でも、例え冗談や誘導されたものであっても対戦相手が明確な意思表示を示せば良い)をさせることで、敗北を認めた相手の魂を無条件で奪う。

また、対戦相手本人ではなくても友人や肉親の魂も賭けの対象にでき、証明文を一筆書かせることでその場にいない人物にもスタンドを発動できる。

つまりどんな賭けであっても、俺が勝てば魂を能力で取り上げる事が出来てしまう。

そしてここが一番重要なんだが、相手から奪った魂は『コインとして実体化』する事が出来る。

つまり俺が考えたプランはアリシアちゃんと出来レースの賭けをして、アリシアちゃんの魂をコインとして俺の『支配下』に置く事だ。

こうする事で本来は幽霊として留まるか、あの世(あるか知らねえけど)に昇るしか無いアリシアちゃんの魂を俺が引き止める事が可能になる。

 

「それでここからがこのプランの賭け要素になるんですが、オシリスが作った魂のコインは俺が負けを認める事で、『搾取した魂は自動的に肉体へ戻される』って事です」

 

そう、オシリスが作ったコインは俺が負けを認めれば強制的に支配力を失い、元の体に戻る様になっている。

この能力を応用して、『幽霊のアリシアちゃん』をコインとして『アリシアちゃんの魂』に固定する。

更に俺がプレシアさんと出来レースをして負ければ、『オシリスの能力で魂として固定化されたアリシアちゃんの魂は自動的に肉体へと還元されるんじゃ無いか?』という事だ。

現に第3部のダービーとの戦いでは、脈が無くなって事実上死んだ筈のポルナレフさんとジョセフさんは魂が戻った事で生き返っている。

しかしここで違いが出てくるとすれば、その後でダービーが承太郎さんとの戦いに負けて正気を失った時の事だ。

正気を保てなくなったダービーのコントロールを離れて、オシリスが今まで魂と化したコインも全て解き放たれていった。

ここでそれを見ていたアブドゥルさんは「あの世に解き放たれたようだな」と言っていたが、ここで違いが生じる。

何故、目の前のジョセフさんとポルナレフさんは生き返ったのに、他の魂はあの世へ行ったのか?

 

 

 

ここからは俺の推測なんだが、それは『肉体が五体満足で有るか否か』だったと思う。

 

 

 

魂を失った肉体は事実上生命活動を止めてしまう。

そうなれば肉体に残る道は、腐敗という止めようの無い現象だ。

しかしジョセフさんとポルナレフさんの肉体は生命活動を止めて数分だったのが幸いしたのか、その後も普通に動いてる。

ブチャラティさんの様な不完全な復活では無く、完全な復活。

恐らく今までダービーが奪ってきた魂の持ち主の肉体は、普通に火葬されてしまったんじゃないのだろうか?

一般人にはスタンドは見えないし理解も出来ない。

だからダービーのスタンドに魂を奪われたなんて誰も想像が付く筈が無いんだ。

なら、ギャンブル中に心臓麻痺で死んでしまったとして処理されてもおかしくない。

逆に、死体を長期間綺麗に保存する術だなんて無かった筈だ。

それなら、『肉体を完璧な状態で保存されてる』アリシアちゃんは、オシリスのルールに則って肉体に戻れるんじゃないか?

それを思い出し、推測して俺はこの案が上手くいくんじゃないかという考えに至った。

 

「……確かに、ジョジョ君の言う通りの能力なら、理論上は可能ね……でも、賭け要素っていうのはそれだけじゃないんでしょう?」

 

俺の推測した理論とオシリスの能力を聞いたプレシアさんは5分ほど考えこんでからそう聞いてきた。

ちなみにアリシアは理解できなかったのか頭を捻って唸っているのでスルー。

 

「はい。まずオシリスで……いや、俺の能力で幽霊のアリシアちゃんに干渉は出来るんですが……問題は、アリシアちゃんを『能力の枠に収められるか』です」

 

最初に言った通り、オシリスは人間の魂を強制的に奪い取れるんだが、ここが俺の不安要素だ。

それは『既に幽霊の状態のアリシアちゃんを能力の対象に当て嵌められるのか?』に尽きる。

ダービーがコレクションにしていた魂は全て『生きている人間から』奪い取ったモノ。

既に死んでるアリシアちゃん自身……つまり幽霊を能力で縛れるのかはまた別問題になる。

もしかしたら能力が発動しないかもしれないし、逆にコインにしたアリシアちゃんの魂が肉体に戻るかも分からない。

幽霊に戻るだけの可能性も無きにしもあらずってトコだ。

でも、岸辺露伴が杉本鈴美さんにヘブンズ・ドアーで干渉して能力を使えたんだから、多分イケる気もする。

アリシアちゃんの肉体もクレイジーダイヤモンドで完璧に治したし、可能性は充分にある筈だ。

そう説明すると、プレシアさんはアリシアちゃんへと視線を移す。

 

「……どうする、アリシア?私は貴女が望むなら、今ジョジョ君が言った方法以外にも探すつもりだけど……貴女はどうしたいの?」

 

『うーん……私は、お兄ちゃんにお願いしたいかな』

 

「おいおい。本当に良いのか?さっきも言ったけど賭けの要素が強いし、異世界に渡った方が確実だと思うぞ?」

 

『でも、それって結局は他の人にお願いするんだよね?知らない人に頼むより、私はお兄ちゃんにお願いしたんだけど……』

 

アリシアちゃんは俺にそう言いながらも微笑みを浮かべる。

まぁ確かに、アリシアちゃんの言いたい事も分かる。

自分が生き返れるかどうかは他人に懸かってるのなら、知ってる人間の方が良いというのは当たり前だ。

例え他の世界で実績があっても、今回も上手くいくなんてのは自分達には分からない。

 

『だから、お兄ちゃんにお願いしたいの。もしも上手くいかなくても私はお兄ちゃんを恨んだりしないし、駄目だったら駄目でスッパリ諦められるよ。本当なら生き返れる筈なんて無いんだもん』

 

随分と諦めが良いというか、サッパリとした答えというか……。

アリシアちゃんの言葉を聞いて、プレシアさんは苦い表情を浮かべる。

……僅か5歳で死んじまった娘にこんな言葉を言わせてしまう、それが悔しいんだろうな。

俺としても前にプレシアさんに言ったが、可哀想だって気持ちはある。

だからこそ、何とかして俺はアリシアちゃんを生き返らせてあげたい。

傲慢だってのは分かってる。

でも、折角チャンスを得て貰ったスタンド能力だ。

数少ない転生というラッキーに出会えたんだから、俺がその力を好きに使っても良いだろうよ。

 

「……分かったわ……ジョジョ君……お願い出来るかしら?」

 

アリシアちゃんの覚悟、決意を聞いてプレシアさんも納得がいったのか、俺にお願いしてきた。

しかしプレシアさんの目には、誰が見ても分かるぐらいに不安が渦巻いてる。

……こりゃ責任重大だな……でも、やってやる。

 

「……分かりました……じゃあ、アリシアちゃん。俺の前の椅子に座ってくれ」

 

『うん』

 

俺はプレシアさんにしっかりと頷いてから、アリシアちゃんを椅子へ促す。

それに頷いて椅子に座る間に、俺達を挟むテーブルの上にトランプを取り出して二枚、伏せて置いた。

 

「ルールはシンプル。どっちのトランプが数字が高いかを当てるゲームだ。俺は左に賭ける」

 

『じゃあ、私は右に賭けるね』

 

これでゲームは成立。

後は重要なワードになる『あの言葉』を言うだけだ。

真剣な表情を浮かべるプレシアさんとアリシアちゃんに視線を向けてから、俺はあのワードを口にする。

 

「賭けるかい?――アリシアちゃんの『魂』を?」

 

『……うん――賭けるよ、『私の魂』を』

 

「……グッド」

 

これでオシリスの能力が発動する条件は整った。

後はこのゲームが終わってからオシリスがちゃんと発動するかどうか。

……上手くいってくれよ、頼むから。

俺は深呼吸しながらカードを捲る。

まず、アリシアちゃんのカード……ハートの9。

そして俺のカードは、クラブのJ。

この時点で、賭けは俺の勝ちとなった。

 

ドォワァアッ!!

 

『あッ!?』

 

「ッ!?アリシアッ!?」

 

瞬間、俺の背後に居た筈のオシリス神が急にアリシアちゃんの傍に現れ、アリシアちゃんを捕まえた。

良しッ!!スタンドの能力は発動したぜッ!!

オシリスに捕まえられたアリシアちゃんは驚きの声をあげるも、オシリスはそれに構わずアリシアちゃんをグニュグニュと捏ね始める。

まるで粘土細工の様に捏ねたかと思えば、次の瞬間には――。

 

バァアアアンッ!!

 

『――』

 

手の平でアリシアちゃん自身を挟み込んで、平たく潰してしまった。

その様子を見てショックを受けた様に呆然としてしまうプレシアさん。

そして、オシリスが合わせていた手を離すと、その手の平から一枚のコインが落ちてくる。

俺はそのコインを床に落ちる前にキャッチした。

 

「良し……プレシアさん。これがアリシアちゃんの魂です」

 

「ッ!?ア、アリシアはッ!!アリシアは大丈夫なのッ!?」

 

表面に人の顔が描かれたコインを見せると、プレシアさんは取り乱しながら俺に詰め寄る。

目の前で自分の娘が捏ねられた挙句に叩き潰されてコインにされれば、取り乱しても仕方無えだろう。

それを理解してるから、俺は落ち着いてプレシアさんに声を掛ける。

 

「大丈夫ですよ。俺がこの状態で気絶したり死んだりしなきゃ、魂はあの世に飛ぶ事はありません……さっ、早く賭けを続けましょう。問題無いっつっても、何時迄もこの状態には出来ませんから」

 

「そ、そうね。ごめんなさい、取り乱しちゃって……今のと同じ要領でやれば良いのね?」

 

「はい。俺は自分の魂じゃなくてアリシアちゃんの魂を賭けます。それでプレシアさんに負けて、上手くいけば……オシリスは魂をコインから肉体へと返す筈です」

 

「上手くいかなければ、恐らくアリシアは幽霊に戻る……若しくは……」

 

魂の楔が開放されて、あの世に昇る可能性もある。

最後までは言わなかったが、プレシアさんもそれは理解している。

だからこそ、プレシアさんは二の足を踏んで何も言わない。

もしも運が悪ければ、もうアリシアちゃんとは話す事も触れ合う事も出来なくなる。

しかしもう賽は投げられちまったんだ。

ここから引き返す事は出来ない。

それも覚悟していたのか、プレシアさんは直ぐに表情に覚悟と決意を滲ませる。

 

「ジョジョ君。私もアリシアの魂を取り戻す為に同じゲームをするわ……『私の魂を賭けて』」

 

「グッド……では、カードを机に伏せますよ?」

 

俺の言葉に頷き、さっきのワードを口にした事で、オシリスはゲームを受諾した。

掛け金はプレシアさんの魂と、俺の持つアリシアちゃんの魂。

そしてさっきと同じ流れで、俺は二枚のトランプを机に伏せる。

 

「じゃあ、俺は右のカードに賭けます」

 

「なら、私は左に」

 

「分かりました……では……いきます」

 

サクサクと前口上を終わらせて、俺は伏せたカードを捲る。

俺のカードはダイヤの8。

そして……。

 

「待ってちょうだい……私に捲らせてもらえない?」

 

プレシアさんのカードを捲ろうとすると、プレシアさんがそう申し出てきた。

問題は無いので俺はカードから手を離して、プレシアさんの前に出す。

プレシアさんはそのカードを見ると2,3回深呼吸をして、ゆっくりとカードを掴む。

そして、真剣な表情でカードを捲り始めた。

 

「……アリシア……生き返ったら、ピクニックに行きましょう……私とアリシア――フェイトとアルフも……一緒に……」

 

嘗て日記に書き込まれていた夢を叶える為に、プレシアさんはカードを捲る。

出たのはハートのQUEEN。プレシアさんの勝ちだ。

 

『――』

 

すると、アリシアちゃんのコインから煙の様に魂が噴き出してきた。

ッ!?どうだッ!?

 

「ッ!?アリシアッ!!」

 

プレシアさんが悲鳴をあげる中、空中に現れたアリシアちゃんの魂は――。

 

 

 

吸い込まれる様に、『ポッドの中の肉体へと』入っていく。

 

 

 

その状況を呆然とした表情で見守るプレシアさん。

俺は、アリシアちゃんの体へと魂が吸い込まれた時点で、確信に近い思いを抱いていた。

その思いを裏付けるかの如く――。

 

『――ゴボ』

 

「ッ!!?ア、アリシアッ!!!」

 

ポッドの中のアリシアちゃんの『目』が僅かに見開かれ、口から気泡が出始めた。

それを見てプレシアさんはポッドに駆け寄ると、コンソールを操作してポッドを全開にする。

急に開放された液体が部屋に開放され、傍に居たプレシアさんの体を豪快に濡らすも、プレシアさんは気にも留めない。

そのまま彼女はアリシアちゃんの体を抱きとめて、アリシアちゃんに声を送る。

 

「アリシアッ!!アリシアッ!!」

 

「――――お母、さん?」

 

「あ…………あ、ぁ……ッ!?ア……ア゛リシア゛ァァア゛……ッ!!」

 

「……お母さん……お゛がぁざぁああ゛ん……ッ!!」

 

目を覚まし、触れられる、生きてる。

ちゃんとこの世界に生きる人間として、生き返ったアリシアちゃん。

プレシアさんは生き返った我が子を抱きかかえたまま床に座り込み、子供の様に泣く。

声を上げて、ボロボロと涙を零す姿は――紛れも無い『母親』の姿だ。

アリシアちゃんもやっぱり生き返れて嬉しい気持ちは変わらなかった。

幽霊の時とは違い、ちゃんと生きて触れ合える……それを理解したからこそ、プレシアさんと同じ様に泣いた。

死っていう別れから、奇跡の出会いを果たせた親子。

俺はそれを部屋から出て、苦笑いしながら聞いていた。

服はポッドから溢れ出て来た液体でびしょ濡れになっちまってる。

 

「あーあ。昨日は血だらけにされるし、今日はびしょ濡れ……最近の俺はツイてねぇなぁ……」

 

部屋の中に響かない様に小声で呟きながら、俺は部屋を後にして転移ポートを起動させる。

……長年の夢が叶い、感動の再会を果たした親子の場面に、俺は邪魔者だ。

ここはお決まりのあの台詞でも言っときますか。

 

 

 

「城戸定明はクールに去るぜ」

 

 

 

その言葉と同時に、俺は時の庭園を後にした。

 

 

 





と、いう訳でアリシアちゃん復活( ̄ー ̄)ニヤリ


痛だだだだッ!?石を投げないでお願いしますッ!?

ん?空から何か……ってヤドクガエル降らせないであばばぁ~~~ッ!!?


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遥かなる旅路!!さらばと(ry


これにて無印編、完結。


 

「あっ。ご苦労様、相馬君。少しは身体を休められたかな?」

 

「只今戻りました、エイミィさん。充分身体は休めましたよ」

 

現在、俺は家に居ながら次元空間に駐屯している管理局の次元航行船であるアースラの会話を盗み聞きしていた。

俺の感覚として耳に直接届く声。

それは相馬と向こうの知り合いらしい女の人との会話を拾っている。

 

「用意した部屋はそのままにしてあるから、そこで引き続き、出動に備えていてね」

 

「はい。ところでクロノはどうしたんですか?まだ何時もみたいに突っかかってこないから……」

 

「あはは……クロノ君なら、これから合流するよ。今は艦長と打ち合わせ中」

 

どうやら相馬とそのクロノって奴は中々に刺激的な出会いを果たしたらしい。

しかも何やら目の敵にされてるのか。何をやったんだかなぁ。

俺の耳に届くエイミィって女の人の声は少しばかり苦笑い気味になってる。

まぁ、今の所その辺についてはどうでも良い事だ。

俺は何も言わずに相馬が雑談を終えて動き出すまでゆっくりと待つ。

そのままで居ると、話を終えた二人は挨拶をして別れ、相馬は一つの個室に入る。

 

「……ふぅ……もう大丈夫だぞ?クロノも態々部屋までは押しかけて来ないだろうからな」

 

相馬は二つあるベットの片方に腰掛けながらそう言って、懐から『携帯電話』を取り出して枕元に置く。

一応部屋の中を注意して見るが、監視カメラも無いみたいだし大丈夫だな。

 

『おう。それじゃ、いっちょやりますか……相馬、繋いでくれ』

 

「あぁ。分かった」

 

異空間の筈なのに、普通に電話で喋る(・・・・・・・・)俺の言葉に、相馬は普通に反応を返す。

これは勿論昨日の段階で、俺が『今使っているスタンド』の事を少しだけ相馬に話してあるからだ。

相馬はスピーカーから響く俺の声に従い、鞄から充電器を取り出して携帯をコンセントに繋ぐ。

偶然にも、ミッドチルダのコンセントは同じ差込口らしい。

異世界の雰囲気まるで無いな。

そして、コンセントから繋がった携帯の中に潜んでいた俺のスタンドが、コンセントを通じてアースラの中へと侵入する。

そう、電気と同化するスタンド能力、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だ。

電気を操り、電気と同化する人型のパキケファロサウルスを思わせる姿をしたスタンド。

驚く事にコイツは電気があるならどこにでも移動可能であり、普段はコンセントや電線の中を移動する。

しかも他の物体すらも電気と同化させて電線の中に引っ張り込むこともできてしまう。

更に特性として、遠隔操作型のスタンドだが電気を吸収すればするほど強くなるという、パラメーターが変化する性質を持ってる。

特にスピードは電気と同化している関係上光速に近いスピードを持ち、スター・プラチナのような時間を止めるスタンドでもない限り追いつけないほどである。

これだけスペックが凄いのは電力をエネルギーとして消費し続けているからであって、逆に電気の無い様な場所では無力に近い。

まぁ山や川とか、電気の無い場所でも無い限り、かなり心強いスタンドだ。

遠隔操作型にも関わらず、条件次第で近距離パワー型並のパワーを発揮できるスタンドってのが『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の感想だな。

 

「昨日貰った大容量のミニSDも既に差し込んである……後はそっち次第だ」

 

『任せとけ。電気の中はお得意のスタンドだからな』

 

「そうか……念には念を入れて、俺はここで待機してる。存分にやってくれ」

 

『あぁ。了解』

 

返事を返すと、相馬は鞄から雑誌を取り出してベットに腰掛けて雑誌を読み始める。

ベットに寝転んで本を読みつつ、携帯はベットの枕元に置いた状態だから、何かあっても問題無いだろう。

さあて、俺は俺で仕事をしますかねっと。

意識をアースラのネットワーク内に潜り込ませたチリ・ペッパーに集中して、俺は電脳の海を観察する。

現在、レッド・ホット・チリ・ペッパーが潜り込んでるのはアースラのコントロールからネットワークに至る全てが集合した場所だ。

目では認識出来ない空間だから、電脳世界とでも言うのか?

まぁその世界に入りながら、俺はアースラのデータバンクにハッキングを掛ける。

って言っても外からファイヤーウォールを破るなんて強引な手口じゃない。

電気と同化して電気信号として入り込むから、余程の事が無いと気付かれ無いだろう。

プレシアさんから事前に聞いてたが、魔導世界の舟の動力は魔力炉で生み出した魔力エネルギーで動いてるらしい。

しかし舟内部の電気やネットワークを形成してるのは魔力炉から変換装置を通して生み出された電力であり、俺達の地球と同じ電力だそうだ。

それならチリ・ペッパーが内部に入り込むのは問題無かった。

さすがに全部が魔力で形成されてたら、俺には手も足も出せなかったけどよ。

 

(ともあれ、無事に入れた事だし、まずは情報収集からいくか……)

 

まず今回の事件に関する現時点での報告は……おーおー、テスタロッサが如何に逃げおおせたのかが書いてあるな。

その時の状況も明確に書かれちゃいるが……これは駄目だろう。

報告書には乱入したクロノ・ハラオウン執務官の管理局宣言、及び警告を無視したとあった。

でもこれって、管理局だっていう明確な証を示して無いのに通じるのだろうか?

口頭で、しかも異世界に居るってのに、それを信じる奴等がどれだけ居るってんだよ。

奴等の言う管理外世界で管理局の名を口にすればそれだけで管理局員扱いか?

もしかしたら流れてきた違法な魔導師かもしれねえのに、口先だけで信じる事は不可能だ。

オマケに、管理外世界での行動に際しては、此方の身分が分かる警察手帳の様なモノを掲示する様に、と必須事項に書かれてるじゃねえか。

とりあえずこの報告書を丸々コピーしてSDにポンっと……これで良し。

次は、アースラが管理局の本局とかと繋がってるネットワークへ侵入する。

これを抑えて制御すれば、ネットで繋がった本局側の見られたくないデータベースへのアクセスもさっくさく。

本局に情報として蓄積されてるデータベースへ潜り込めた俺は、テスタロッサの出生に関する情報。

即ち『プロジェクト・F』のデータを根こそぎ制御下に置いていく。

更に、そのプロジェクトに関した細かな情報。

その辺りは全て、相馬の携帯に差し込まれたミニSDへと流しこんで、オリジナルは全て削除しておく。

これでデータベースからは、テスタロッサが出生で突つかれる事は無いだろ。

そして、アリシアちゃんが死ぬきっかけとなった次元エネルギー駆動装置「ヒュードラ」の暴走事故の詳細。

これに関しては……御丁寧に当時の実験関係者にしか見えない様に設定されてやがる。

しかチリ・ペッパーにはそんなの関係無いので、普通に中身を閲覧出来る。

御丁寧に名前入りの手記まであったので閲覧するが……これ、間違い無くプレシアさんは被害者だろ。

功を焦った当時の管理局上層部からの安全基準をほぼ無視した命令の結果、一人の人命が失われている。

それがアリシアちゃんが死ぬ原因となったヒュードラ事件だ。

でもまぁ、この事件が在ってアリシアちゃんが命を落とさなきゃ、テスタロッサは生まれて無いんだから……何とも皮肉の効いたジョークだぜ。

前任者の杜撰な管理と、差し迫るスケジュール、上層部からの無理な命令。

当時の経歴と実力がズバ抜けて優秀だったプレシアさんだったからこそ、無茶が出来たって思える過密スケジュール。

だが結局、効率のみを重視し安全性を度外視した本部の人間による進行は、結果として駆動炉の大爆発という惨事を引き起こす。

最終的に責任は当時の担当主任とされていたプレシアさんにおっ被せて、自分達はその無謀な研究を止めようと努力していたと報告すれば、一気に昇進へと繋がるって訳だ。

 

(プレシアさんの記憶を読んだ時に、少しは脚色されてるかと思ったが……こりゃ酷すぎるな……しかもその馬鹿野郎共は残らず昇進して優雅に暮らしてるだと?そりゃありえねえだろ)

 

表に出されたヒュードラ事件の報告書はでっちあげのオンパレード……中身がまるで違うじゃねえか。

オマケにコイツ等の個人データの深い所まで探れば……まぁ出てくるわ出てくるわ、やっちゃいけねえ汚職の山。

麻薬密売に精製、マネーロンダリングに管理外世界から誘拐してきた身寄りが無い未成年の女子の売買記録。

果てはその女の子達の扱い……慰み者や奴隷とムナ糞悪い項目ばっかだ。

更にコイツ等の汚職について調べてきた捜査官や執務官達の個人記録まで網羅してやがる。

その捜査官達の家族に行った仕打ち……男なら死、若い女なら陵辱するか、歳がいってたら始末のどちらか。

 

(人間が権力を持つと醜くなるってのは、何処の世界も共通か……だが、そろそろ年貢の収め時ってね)

 

俺はこのデータをお偉いさん達の悪事の証拠を全てミニSDにコピーして、このフォルダを削除出来ない様にロックを掛け、閲覧設定を甘くする。

ちょちょいと調べれば分かる様にしておけば、捜査も直ぐに手が伸びるぐらいの甘さだ。

これならプレシアさんが交渉のテーブルについた時に管理局が調べれば切り札になるだろう。

もしも土壇場でフォルダを消そうとしても、パスを書き換えた俺以外にロックは解除出来ないし、このフォルダを管理局のありとあらゆるデータベースにコピーしておけば、一つ消されたぐらいじゃ問題にもならねえ。

更に世間様には出していない他の管理局上層部がやらかした黒いデータも……こりゃまたかなり出てきたなぁ。

さすがにこの辺りまでカードを切っちゃ、プレシアさん達が消されかねないし、今回は見送るとすっか。

 

『相馬、終わったぜ』

 

「ん。分かった……どうだ?」

 

俺はチリ・ペッパーを携帯の中に戻してから、ベットに腰掛ける相馬に呼びかける。

すると相馬はコンセントから携帯を外してポケットに閉まってから小声で問いかけてきた。

 

『これだけ交渉材料があれば大丈夫だろ。俺みたいな奴でもそう思えるのに、科学者として有名なプレシアさんならどうなるか、想像したくないね』

 

「そうか……何にしても、お前のお陰でフェイト達は救われた……ありがとうな」

 

『礼なんかいらねえよ。全ては俺の平穏な生活の為だ』

 

嬉しそうに微笑みながらお礼を呟く相馬に、俺はそう返して――。

 

 

 

ビーッ!!ビーッ!!

 

 

 

『……おいおい、何だってんだ?』

 

突如、甲高くうるさいブザー音が鳴り響いた。

部屋の天井に設置されたランプが真っ赤に光りながら点滅を繰り返し、この音が只事じゃ無いことを告げる。

 

「これは緊急事態を知らせるアラートだ……つまり」

 

『お前の言ってた予想が当たったって訳だ……面倒な事だぜ……』

 

「あぁ。これはプランBに移行決定だな」

 

「(プシュン!!)相馬君ッ!!リ、リンディさんがブリッジに来てって……ッ!!」

 

と、相馬が喋り終えるかどうかのギリギリのタイミングで、焦った表情のなのはが部屋に入ってきた。

あんまりなタイミングだったからビビったぜ。

それは相馬も同じだったのか、少しきょどりながらなのはに視線を合わせる。

 

「あ、あぁ、なのは。分かったよ。兎に角ブリッジへ行こう」

 

「うんッ!!」

 

相馬の様子に突っ込む暇も無いのか、なのはは特に何も言わずに相馬と一緒にブリッジとやらに向かう。

多分船の構造的に言うなら、運転とかする場所の事だと思うんだが。

携帯の中でそう考えながら胸ポケットから少し出た携帯のカメラ部分を通して見ていると、二人はどこかの部屋に入った。

扉が開いた部屋は壁が全て窓で、外は次元の狭間が見える。

部屋の中央は大きく盛り上がって下を見下ろす形になり、ここが中央だってのが良く分かる。

そのデッキ部分にある椅子に緑髪の女性が座って、目の前に映るモニターの画面を見ていた。

場所的にこの人がこの船の艦長のリンディさんとかいう人なんだろう。

隣には俺達と同い年くらいの金髪の男が居るが、そっちは誰かは分からねえ。

彼女は目の前に映るモニターを見ているが、余り表情が良くない。

 

「何とも呆れた無茶をする子だわ……六つのジュエルシードを同時封印しようだなんて……」

 

「フェイトちゃんッ!!」

 

呟くリンディさんの後ろになのはと相馬が駆け寄ると、画面の映像が見えてきた。

一体何事なんだよ……って……おいおい冗談じゃねぇぞ。

モニターを見ると、海上にいくつもの竜巻と雷が荒れ狂っている映像が映し出されていた。

しかもその嵐の中でテスタロッサが必死にバルディッシュを振って襲い来る雷や打ち上がる竜巻を払っている。

つうかジュエルシード六つだと!?無謀過ぎんだろあの馬鹿ッ!!

相馬もここまで大事になるんなら先に言いやがれッ!!

 

「くそッ!!あぶねえ事ばっかやらかしやがってッ!!」

 

意識をチリ・ペッパーに集中しつつ、俺は部屋の窓へ駆け寄って窓を開ける。

空は生憎の曇り模様だが、あんなに荒れてはいない。

 

「スタープラチナッ!!」

 

ズギュウウウンッ!!

 

「ぐっ!?あ、頭が痛え……ッ!?ち……ッ!?ニ体同時操作も楽じゃねえな……ッ!!」

 

スタープラチナを呼び出した瞬間、ズキリと頭痛が奔り、俺は頭を抑えて愚痴を零す。

同時に違う事を考えながらスタンドを扱うには、並外れた精神力が必要なんだろう。

その代償が今も俺の頭を襲う頭痛だが、今は我慢する。

スタープラチナと視力を共有しながら海の方を睨み、視力を拡大させていく。

 

ジー、カチッ。カチッ。

 

隣町の海鳴を超えて、その先にある海沿いの公園を更に超えた場所。

海外へ向かう海を見渡すが、何処にも嵐なんてものは起きていない。

どうやら結界の中で戦ってるらしいな。

そうなると俺には干渉する事は出来ないが、少なくとも町に被害は出ないだろう。

安堵してスタープラチナを解除しつつチリ・ペッパーに意識を戻すと、なのはの焦った声が聞こえてくる。

 

「あ、あのッ!!私直ぐに現場に行きますッ!!行こ、相馬君ッ!!ユーノ君ッ!!」

 

「あぁ、分かった。ユーノ、転移を頼めるか?」

 

「うん。任せて。僕は攻撃魔法はからっきしだから、サポートに回るよ」

 

あっ、アレがジュエルシードを運んでたユーノなのか。

駆け出すなのはに続いて、相馬とユーノが扉へと向かうが――。

 

「その必要はないよ」

 

それに待ったを掛ける人物が一人居た。

その声に振り返った相馬の携帯を通じて見えたのは、黒い制服に身を包んだ一人の少年。

アレがあの報告書にあったクロノ・ハラオウンか。

しかしその必要が無いってのはどういう事だ?何か秘策でもあるんだろうか?

 

「必要が無いっていうのはどういう意味だ、クロノ」

 

俺と同じ疑問を持った相馬がクロノに問い返すと、彼は普通にこう返事をした。

 

「言葉通りの意味さ。あんな無茶をすれば、直に彼女は力尽きる。その後で彼女とジュエルシードを保護すればいい」

 

「そんな……ッ!?」

 

「……」

 

クロノの言葉になのはは驚き、相馬は何も言わない。

ユーノはそんな表情を浮かべるなのはを複雑そうな表情で見ていた。

 

「仮に力尽きなかったとしても、力を使い果たした所で叩けば良いという事だ」

 

「でも……」

 

「今の内に捕獲の準備を」

 

「了解」

 

尚も食い下がろうとするなのはの言葉に耳も傾けずに、クロノは他の局員に捕獲の準備をさせる。

……敵に対しての手段としては上の上だろーな。

そうすれば味方の被害も減らせるし、尤もスマートにやれる手段だろう。

クロノの言葉に納得出来ない様子を見せるなのはに、更に続いて言葉が投げ掛けられる。

 

「私たちは常に『最善』の方法を取らないといけないの。残酷かもしれないけど、これが現実……」

 

それは、椅子に座ったまま呟くリンディさんの言葉だった。

その言葉を聞いて、なのはは目を瞑ってしまう。

……こう言っちゃ何だが、リンディさんの言う事は組織として正しい。

最小限の犠牲で最大限の成果を得る為に、そこに個人の感情や意見を入れてはならない。

それこそが組織って所に求められる部分だからな。

更に言えば、部下の命を預かるって立場でも無闇に命を危険に晒す訳にゃいかねえ。

あぁ、全くもって正しいだろうさ……でもよ――。

 

「ユーノ。転移の準備をしてくれ」

 

「うん、分かったよ」

 

「ッ!?相馬君?」

 

『俺達』地球に住む人間には、全くもって『納得できない最善』だ。

リンディさんの言葉の意味を噛み締めていた俺の耳に飛び込んだのは、相馬の言葉だった。

相馬は今のやりとりをまるで見ていなかったかの様に準備を進める。

 

「おい相馬ッ!!何をしているんだッ!?」

 

それに待ったをかけるクロノだが、相馬は平然とした表情を浮かべてた。

 

「何って、向こうに行く準備だが?」

 

「なっ!?キミは僕の話を聞いていなかったのかッ!?その必要は……」

 

「それはそっちの都合だろう?俺達の都合は勘定に入ってない」

 

「どういう事かしら、相馬君?」

 

声を荒らげて注意しようとするクロノの言葉を遮り、相馬は視線を向けつつそう返す。

相馬の言葉にクロノは口を閉ざし、リンディさんは厳しい目を向けて質問した。

ブリッジ中の視線が相馬へと集まる中、相馬は至って平然と言葉を続ける。

 

「確かにリンディさん達にとってはそれが『最善』かも知れません……けど、あの子が封印できずに力を使い果たしたらどうなる?空間結界が解除されたら、俺達の町が被害を被るんだぞ?そこはリンディさん達の言う『最善』の勘定に入ってるんですか?」

 

「「ッ!?」」

 

相馬の言葉に、リンディさんとクロノは目を見開いて言葉を失う。

そう、俺もさっきから納得出来なかったのは、ジュエルシードの被害を受けるのは何処だか分かってんのか?って事だ。

あの空間結界とやらを維持してるのがテスタロッサ一人なら、アイツが気絶するなり魔力切れに陥れば、その猛威は町に降り掛かる。

俺は住んでないにしても、相馬やなのは、そしてアリサ達が住んでる海鳴はいの一番に被害を受けちまう。

あれだけの規模の災害が町に降りかかれば、死人の一人やニ人じゃ済まねえし、ジュエルシードのパワーを考えれば俺の町も、いや日本も危ない。

だったら、結界が解除されてテスタロッサが力尽きてから両方を安全に確保する最善じゃなくて、何人かの局員を派遣して封印に協力して被害を減らすのが筋ってモンだろ。

仮にも次元世界の守護者を謳うってんなら、ロストロギアの暴走で世界に被害を出さない為の管理も管理局の仕事じゃねえか。

 

「俺達にとっての『最善』は、ジュエルシードを封印して俺達の住む町に被害を出さずにこの事件を終わらせる事です。なら、俺達はここで見ている事は出来ません。例えフェイトを助ける結果になっても、目の前の危険を取り除く事を優先させてもらいます」

 

「あなたは自分が何をしようとしているのか分かっているの?協力者とはいえ、そんな独断行動は見逃せません」

 

相馬の言葉で苦い顔をしていたリンディさんだが、それでも食い下がって強気な言葉を返す。

正直、職務と責任があるリンディさんの言葉も正しいし、相馬の言葉も正しいだろう。

その正しさの天秤の傾き具合は、そこに住んでるか住んでないかの違いってだけだ。

ただ、俺達みたいな地球に住む人間にとっちゃ管理局の『最善』より、俺達地球に住む人間の『最善』の方が重い。

 

「リンディさんこそお忘れですか?俺達はあくまで町を、家族を守りたいから協力してるだけであって、貴女達の指揮下には入っていない。この場面で貴女達に命令されるのは筋違いってものだ」

 

「……」

 

相馬の正論に言い返す事が出来ず、リンディさんは歯噛みする。

まぁ、ここで強攻策でもとろうもんなら、自分達の言葉を否定する事に繋がるからな。

先に手を打った相馬の勝ちってトコだろう。

そこでリンディさんとの会話を打ち切った相馬はユーノに視線を向ける。

ユーノは相馬と顔を合わせながら頷きを返し、相馬は次になのはへ視線を向けた。

 

「なのははどうする?決めるのはなのはだ」

 

「私も行くよッ!!フェイトちゃんともお話ししたい……それに、私は――私は、相馬君の役に立ちたいのッ!!」

 

なのはの覚悟が篭った叫び。

それを聞いた相馬は真剣な目付きでなのはを見つめていたが、直ぐに微笑みを浮かべる。

 

「……分かった。じゃあ、一緒に頑張ろう。ユーノも良いか?」

 

「うん。じゃあ、そろそろ行く――」

 

「待てッ!!」

 

しかしそんな三人に向けてクロノが言葉を掛ける。

その言葉に振り返ると、クロノとリンディさんが少し自嘲した表情で三人を見ていた。

 

「……確かに、君の言葉はその星に住む人として正しい……だが、僕等は態とそれを見逃していた訳じゃない。それだけは分かってくれ」

 

「まぁ、何を言っても今更だけどね……相馬君、なのはさんとユーノ君と一緒に現場に向かい、ジュエルシードの封印と彼女の保護をお願いします」

 

彼女のさっきまでとは違う言葉に、なのはは驚きながら「良いんですか?」と言葉を返す。

なのはの言葉に対してリンディさんは苦笑いを浮かべつつ口を開いた。

 

「私達だって管理外とは言っても、そんな風に軽く考えた事は一度も無いわ。それに一人であんな無茶をするあの娘の事は心配なのよ。ただ、組織はそれではやっていけない……嫌なものね」

 

リンディさんはそう言いながら悔しそうな顔をする……どうも、彼女達は他の管理局員とは違うっぽいな。

この人達はやっぱり、自分達の中の『正義の心』ってのをちゃんと持ってる。

権力に溺れ、プレシアさんを陥れたクソ以下の連中とは違う。

でも、自分達の正義と責任ある立場を照らし合わせて、その折り合いをつけた中でしか動けないってだけだ。

自分個人の感情で動く事で部下を悪戯に傷つけない様にしなくちゃいけねえってのが、この人達の足枷になってる。

まぁそれと同じかそれ以上、管理局には腐った連中が居るだろうから、俺はお近づきになる気は無いけど。

 

「生意気な事を言ってすいません、リンディさん」

 

「良いのよ。あなたはあの星に住む一人の人間として、真っ直ぐ正しい事を言ったのだから。その代わり、気をつけて下さい」

 

頭を下げて謝罪する相馬の言葉に、リンディさんは微笑みながら言葉を返す。

相馬も頭を上げて、リンディさんの言葉に頷いて返事した。

 

「僕は後詰に待機しておく。転送ポートを使ってくれ。あれを使えばユーノの魔力消費も少なくて済む」

 

「あ、ありがとうございますッ!!行こう、二人共ッ!!」

 

「ああッ!!」

 

「うんッ!!」

 

クロノにお礼を言いつつ、三人は部屋の隅に浮かび上がったゲートの様な場所に走る。

相馬は少しニ人から遅れて走り、携帯のミニSDを抜いて携帯と一緒のポケットに閉まう。

良し、ちゃんと俺が頼んでた事を忘れて無かったみてえだな。

俺は携帯から差し抜かれて同じポケットに収められたミニSDをチリ・ペッパーの手で掴み、ミニSDを電気と同化させて携帯の中に引き摺り込んでおく。

これで地球に戻れば、俺は相馬の携帯から電線に流れ込んで離脱する事が出来るな。

そうこう言ってる間に視界が光に包まれたかと思うと、あっと言う間に海沿いの公園に到着していた。

 

「僕は一度外から結界を強化するから、ニ人を先に結界の中に転移させるよッ!!ニ人共セットアップしてッ!!」

 

ユーノが民族的な衣装に着替えて魔法陣を展開しながらニ人に指示を出す。

相馬となのはは頷きながら懐から其々デバイスを取り出す。

なのはは赤い宝石を、相馬は台形の手形の様なモノにドクロの意匠が施されたものを。

さて、ここからは相馬達の出番だな……頑張れよ、相馬、なのは。

俺は相馬の携帯からチリ・ペッパーを直ぐ傍にあったトイレのコンセントから電線に忍び込ませる。

2人が結界の中に飛び込んだのを見届けてから電線を光速に近い速度で駆け巡り、コンセントから帰ったチリ・ペッパーからミニSDを受け取る。

さあて、急がねえとな。

俺は再びプレシアさん作の転移ポートを起動して時の庭園へと戻る。

今日は同じ所を行き来してばっかりだな。

そして、転移したのはあの扉の前だったので、俺はノックも無しに扉を開ける。

 

「お兄ちゃんッ!?フ、フェイトが大変なのッ!!」

 

扉を開けた俺に詰め寄って来たのは、幽霊の時に着ていたのと同じ水色のワンピースに身を包んだアリシアだった。

その奥ではモニターに厳しい視線を向けるプレシアさんの姿もある。

 

「あぁ。それを伝えに来たんだが、必要無かったみてえだな」

 

アリシアに言葉を返しながら部屋の奥へ進んで、プレシアさんの横に立つ。

モニターには管理局と同じく、必死で戦うテスタロッサの姿が写っていた。

今はさっき乱入したなのはと相馬の姿もある……っていうかテスタロッサ、相馬を見た瞬間顔を赤くしてねぇか?俺の見間違いか?

竜巻に翻弄されて苦しそうな表情を浮かべるテスタロッサの姿を、プレシアさんはギュウッと手を握って見ていた。

 

「加勢しねーんですか?」

 

「……したいけれど、まだアルフが結界に到着してないの。さすがにここからフェイトに呼び掛けて私の存在が明るみに出たりしたら、事態は収拾が付かなくなるわ……だから、アルフが来るまでは……耐えないと……」

 

「お母さん……」

 

俯いて手を握り締めるプレシアさんの手に、アリシアちゃんが心配そうに触れる。

プレシアさんはそれを見て表情を柔らかくすると、アリシアちゃんの頬に手を沿えた。

 

「心配しないで、アリシア……フェイトは必ず助けるわ……あの子は貴女の妹で……私の『娘』なのだから」

 

そう言って微笑むプレシアさんを見て、アリシアも嬉しそうに笑いながら頷く。

初対面の時からじゃ考えられねえ変わり様だな……良い方向に、だけど。

助けたいけど助けられない。

そのもどかしいジレンマにプレシアさんは唇を噛むが、今は耐えないとマズイらしい。

まぁ確かに、管理局との交渉のテーブルに着くには今正体を明かすのは駄目か。

この状況だと、ロストロギア強奪に手を貸したって形になっちまうからな。

 

『プレシアッ!!私だッ!!今結界の中に入ったッ!!』

 

と、スピーカーから待ちに待ったアルフからの連絡が入った瞬間、プレシアさんは会った頃のドギツイ服を身に纏って立ち上がる。

手には既に修理された杖が握られていて、何時でも魔法が放てるだろう。

 

「アルフッ!!正規の局員は居ないみたいだけど、その子達は管理局の協力者だから攻撃しない様にッ!!私が次元跳躍魔法でジュエルシードを全て封印するから、貴女は騒ぎに乗じてフェイトを連れ出しなさいッ!!」

 

『分かってるよッ!!そっちこそしくじんじゃな――』

 

『ハァッ!!』

 

と、ニ人の遣り取りの最中にテスタロッサに向かった雷を、相馬が斬月で叩き落とした。

風に靡くボロボロの真っ黒な着物袴姿で、出刃包丁の様な大剣を担ぐ相馬。

少しダークヒーローっぽいけど、テスタロッサはそんな相馬を見て……頬を桃色に染める。

 

 

 

……おい待て。

 

 

 

『あっ……あ、ありがとう……そ、それと……今まで何度も君が、助けてくれて……嬉しかった……』

 

『どっちも気にする事は無いさ。君が無事ならそれで良いよ』

 

『あ、あぅ……ッ!?……き、君じゃなくて……フェイトって……呼んでくれる?』

 

『ん?あぁ。よろしくな、フェイト。俺の事も相馬で良い』

 

『う、うん……ソウ、マ……ぁうぅ……ッ!?』

 

相馬の行動に驚きながらもお礼を言ったテスタロッサに、相馬は爽やかさMAXの微笑みで返す。

そんな相馬のイケメンスマイルに見つめられて、テスタロッサは顔を赤くしながらあうあう言ってた。

しかもお互いの名前を交換し、相馬の名を呼んだだけで照れっ照れになってるし。

……後ろの目が光ってるなのはのデバイスの照準がお前の脳天に向いてると思ったのは、俺の気の所為と考えた方が良いか?

っていうか相馬……テスタロッサと何時の間にそんな桃色吐息にラブコメる仲になった?

いや、まぁ俺は良いんだけどさ……。

 

「……まぁ、不慮の事故は仕方無いわね……一人くらい」

 

隣でさらっと物騒な事呟いてるお人の相手、頑張れや。

何ていうか、青筋が浮き上がったプレシアさんの顔は正直言って怖い。

そんな事を思っていると、雷がテスタロッサと相馬に集中して降り注いだ。

 

 

 

さすがにあれはヤバイ、と思っていた俺の隣りから――何やら「プッツーン」という何かが切れた音が鳴る。

 

 

 

「小汚いロストロギア風情が――誰の娘に手を出そうとしてるのかしらッ!!?」

 

娘の危機を一瞬で察知したプレシアさんが鬼もかくやって顔で叫びながら、杖でドンッと強く床を叩く。

すると巨大な魔方陣が現れ、中央にモニターと同じ場面が映しだされた。

オイ、この人プッツンしてんじゃねぇか。

 

「身の程を弁えなさいッ!!サンダーレイジッ!!O.D.J!!」

 

その詠唱と共に、魔方陣に映っているテスタロッサ達を囲む雷に向かって、空間……いや、次元を超えた落雷が襲い掛かる。

プレシアさんの魔力光と同じ紫色の極大なサイズを誇る落雷。

それがジュエルシードの生み出した雷とぶつかるも、相殺どころか雷が飲み込まれていくではないか。

ジュエルシード六個分を媒介にした雷を超えた、一人の魔導師が放つ雷……パネェな、おい。

モニターには、相馬とテスタロッサの驚きに満ちた顔が映し出されてる。

 

『これは……ッ!?次元跳躍魔法か……ッ!?なんて威力を……』

 

『……母さん……?』

 

ニ人が驚いてる間にも連続で降り注ぐ雷の群れ。

しかしその悉くを、プレシアさんの放つ数多の雷撃が苦も無く撃ち落とし、蹂躙する。

その範囲は一気に広がり、なのはやユーノに襲い掛かろうとしていた雷や竜巻をも消し飛ばした。

さしずめ、この荒ぶる天から降り注ぐ豪雷はプレシアさんの怒りと言えるだろう。

……こんなに強かったのか、この人は?

俺がモニターから目を離して驚いた表情でプレシアさんを見ると、彼女は微笑みながら口を開いた。

 

「貴方のお蔭よ、ジョジョ君……貴方が私の病を治してくれたから、私は全盛期の力を存分に振るえるの……貴方のお蔭で、私は娘を守れるのよ」

 

笑顔で優しい台詞言ってるのにモニターに映る豪雷の所為で台無しだよ。

俺に母親を思わせる優しい微笑みで答えながらも、プレシアさんの雷による蹂躙攻撃は止む事が無い。

もはやなのはとテスタロッサ、相馬が何をしなくとも勝手に守られてるって状況だ。

そんな中で、この攻撃を理解していたテスタロッサが、まるで花が咲いた様な輝かしい笑顔を浮かべた。

 

『母さんが……母さんが、私を……守ってくれた……ッ!!』

 

「ッ!?……えぇ。そうよフェイト……これからは、今までの分も……私が、貴女を守るわ……ッ!!」

 

今まで実の母から耐え難い仕打ちを受けながらも、真っ直ぐな愛情を向けていたテスタロッサ。

その愛情が報われたと喜ぶテスタロッサの顔を見て、プレシアさんは涙ぐみながらも言葉を発する。

それが例え今は届いていなくとも、言葉にする事に意味があるから。

 

『フェイトッ!!』

 

『ッ!?アルフッ!?どうして……ッ!?』

 

『説明は後でするからッ!!アンタ等も急いでココを離れなッ!!ドでかいのが来るよッ!!』

 

と、やっとの事で現れたアルフがフェイトを抱き寄せながら、あの場に居る全員に注意を促す。

ユーノとなのはは何が何やらって顔で狼狽えてたけど、相馬が直ぐに指示を出した事で、三人共ジュエルシードの場所から離れた。

 

「最後の仕上げよ……消えなさい」

 

それをモニターで確認したプレシアさんはもう一度床を杖でコンと軽く叩き――。

 

 

 

ズガァアアアアアアアアアアアンッ!!!!!

 

 

 

たったそれだけの動作で、モニターがホワイトアウトした。

 

 

 

「……冗談だろ?」

 

今までの雷なんか比べ物にならない程に巨大な『落雷』が、眩しさで目を逸らしていた隙にモニターを光で埋め尽くす。

最早フラッシュの所為で向こうの状況は見えないが、間違い無く超ド級の攻撃だ。

……これで科学者?確実に職を間違えてんだろ?

それとも母の愛の結果がこれって訳か?だとしたらプレシアさん無敵にも程があるって。

 

「モニターは見えないけど、確かな手応えがあったわ……アルフ、聞こえる?」

 

と、プレシアさんは魔法陣を消しながら、もう一枚モニターを呼び出して、そっちに話し掛ける。

最初はウンともスンとも返事が無かったが……。

 

『――ッ――タ――アンタッ!!あたし達まで消し炭にする気かッ!?危うくアタシの尻尾が黒焦げになるところだったぞッ!?』

 

直ぐに映像が繋がって、涙目で吼えるアルフの顔がドアップに映し出された。

お疲れさんだな、アルフ。

モニターの向こうでギャンギャン喚くアルフを目撃して、俺は同情を禁じえなかった。

 

「あら、それはごめんなさい。久々だったから調節が上手くいかなくて……それよりフェイトは?」

 

『ったく……アタシもフェイトも無事だよ。こっちを見失ってる間に転移して、あいつ等からも遠くに逃れた』

 

『母さんッ!!』

 

「あぁ、フェイト……無事だったのね……良かったわ」

 

と、泣くアルフの胸元に抱えられたテスタロッサがモニターに割り込んで言葉を発した。

テスタロッサを見てプレシアさんは嬉しそうな声を出すも、テスタロッサは直ぐに表情に影を刺す。

 

『ごめんなさい……ジュエルシード六個が、管理局に……い、今からでも、私が……ッ!!』

 

「いいえ。それはもう良いのフェイト。ジュエルシードの事は管理局に任せて、一度帰って来て」

 

『えっ……?わ、私が、遅すぎたからですか?だ、大丈夫ですッ!!今からアルフとニ人で挑めば……ッ!!』

 

「ち、違うのよフェイトッ!!違うのッ!?貴女にどうしても話さなきゃいけない事があるからそう言ってるのッ!!決して貴女が悪い訳じゃ無いわッ!!」

 

画面に映るテスタロッサは何を勘違いしたのか、酷く不安定な表情で画面を見ながらそんな事を言う。

それを見たプレシアさんは悲しそうに表情を歪めたまま違うと言い、時の庭園に戻る様に懇願する。

これ大丈夫か?何かテスタロッサが暴走しそうなんだけど……。

俺の頭に不安が過ぎるが、テスタロッサはプレシアさんの言葉を聞いて、一度動きを止めた。

 

『は、話、ですか?』

 

「そう。貴女にも、そして私にも大事な……家族の話し合いなの……兎に角、アルフと一緒に一度戻ってきてくれないかしら?」

 

『は、はいッ!!分かりましたッ!!す、直ぐに戻りま――』

 

『ちょ、ちょっと待ってフェイトッ!!今魔法を使ったら居場所がバレちゃうよッ!!せめて後2時間はしないと』

 

『あ、あう……に、二時間したら行きますッ!!ご、ごめんなさいッ!!』

 

「良いのよフェイトッ!!貴女の所為じゃ無いわッ!!……楽しみに待ってるから、ね?」

 

『ッ!?はいッ!!』

 

プレシアさんの微笑んだ顔を見て、テスタロッサは嬉しそうに微笑む。

そこで通信を切ったが、プレシアさんの顔は余り優れない。

沈んだ様子で力なくソファに腰掛けたプレシアさんの傍に立つアリシアもだ。

 

「……私の……所為ね……あんなに、全てを自分の所為だなんて思う様になってしまったのは……」

 

「お母さん……」

 

「……まぁ、これから何とかしていくしか無いんじゃないですか?過去には戻れないんだし……」

 

悲壮観漂うプレシアさんの顔を見て、俺が言えたのはそれだけだった。

テスタロッサのあの性格は、確かに今日までのプレシアさんとの接し方で身に付いてしまったモノだ。

母さんは悪くない、悪いのは自分だという、常に自分を後回しにした考え方。

小さく幼い子供にとって、自分の親ってのは世界の中心に他ならない。

俺もそうやって育ってきたし、誰だってそうだろう。

まだ九歳という年齢で虐待を受けてきたテスタロッサがああいう性格になっても不思議じゃねえ。

でも、まだ間に合う筈だ。

 

「……大丈夫だよ、お母さん」

 

落ち込むプレシアさんに、アリシアは手を握りながら励ましを送る。

 

「お兄ちゃんの言う通りだよ。これから、いっぱいフェイトに優しくしよう?皆でピクニックに行ったり、お菓子作ったりして……これからは、幸せな思い出をいっぱい作ろう?ね?」

 

「アリシア……そう、ね……あの子には今までの分も……いっぱい幸せにしてあげなきゃ」

 

「うん。私も頑張るよ。なんたって私は、フェイトのお姉ちゃんだもん」

 

「ふふっ。そうね」

 

最愛の娘から励まされたプレシアさんは微笑みながらアリシアに答える。

彼女の答えを聞いたアリシアは嬉しそうにしながらプレシアさんに抱きついた。

プレシアさんもそんなアリシアを抱き返しつつ、俺に視線を送ってくる。

 

「……どれだけ時間がかかろうと、必ずあの子を幸せにするわ。それが、貴方から貰った人生最大のチャンスに報いる事になるのよね……本当にありがとう……ジョジョ君」

 

「礼なんて止めて下さい。最初は俺、プレシアさんをブチのめす為だけに、アルフの願いを聞いたんですから」

 

涙目でお礼を言われて、俺は視線を逸らしながら髪を掻く。

まさかここまで深く食い込むつもりなんて無かったんだけどなぁ……まぁ良いけどよ。

結局は自分で納得して首突っ込んだ訳だし、これで俺も清々しい気分になれるってなモンだぜ。

俺はポケットからミニSDを取り出して、プレシアさんに差し出す。

 

「約束してた、管理局の高官が今もやってたり、過去の捜査で判明しなかった違法研究や汚職のデータに証拠諸々と、プロジェクトFについての公開資料の全部です。これを司法取引の切り札にすれば、テスタロッサの罪とプレシアさんに掛けられた罪状も帳消しになるんじゃないっすか?」

 

「……確かに受け取ったわ……ありがとう……この中の何割かのデータを提供する代わりに、私達の自由を勝ち取る。幾つかのデータを手元に残しておけば、後々の切り札にもなるわね……でもジョジョ君。あなたどうやってこのデータを?」

 

「地球の近くに来ていた管理局の船に忍び込んで、管理局本局のデータベースにハッキングを掛けましたけど?」

 

軽い調子でそう返せば、聞いたプレシアさんは頬をヒクヒクさせてしまった。

よく見ればアリシアもだ。

 

「そ、そう……でもこれで、フェイトの出生についての不利なデータは公にならない。今回のジュエルシードの事件でフェイトが行った管理局に対する妨害の罪さえ帳消しに出来れば、後は申請を出して……」

 

「ん?申請?何のですか?」

 

「な、何でもないよお兄ちゃんッ!!あ、あはは……」

 

「そ、そうそうッ!!私達の今後の話の事よッ!!あ、貴方は別に気にしなくて大丈夫だからッ!!お、おほほ……」

 

「はぁ……」

 

何やら普通に、世間話って感覚で聞いてみたんだが、何故かアリシアちゃんまで一緒になって必死に言葉を返してきた。

一体何だってんだ?……まぁ、俺には関係無いならそれで良いけどよ。

とりあえずこれで、俺の住む地球に起こるであろう被害、そして地球の滅亡は防げたって訳だ。

それはつまり、俺の役割が終わった事に他ならない。

これからのテスタロッサ家の人達の命運は、この人達自身が自分で勝ち取るだろう。

俺は大きく伸びをしてから、今も愛想笑いを続ける二人に向かって口を開く。

 

「それじゃ、俺はこれで帰ります。後の事はプレシアさん次第ですんで」

 

そう言葉にすると、プレシアさんは真剣な表情で俺を見つめる。

 

「……本当に良いの?フェイトにこの事を話さなくて?」

 

「話す必要なんか全く無いですから」

 

「で、でも、お兄ちゃんのお陰で私はフェイトに会えるから……その事情くらいは、説明しても……」

 

「正直、面倒だからな……今回の事は、全部俺達だけの秘密でお願いします」

 

尚も食い下がるアリシアとプレシアさんに拒否の返答をしながら、俺は髪を掻いて面倒くさいって表情を浮かべる。

そう、俺は今回の事をテスタロッサを除く三人に固く口止めを頼んだ。

今回俺がこうまでしてテスタロッサ家に協力したのは、何度も言う様に地球を巻き込まれない為だ。

俺達の住む生活圏さえ無事に守られたらなら、別に俺のスタンドの存在を知る人間を増やす必要は無い。

 

「元々テスタロッサに会ったのは一度切り。別に感謝が欲しくてやったとかじゃ無いし……もう会う事も無いだろうから、態々言う必要も無いんで……」

 

そう答えると、プレシアさんは少し残念そうな顔をしながらも、「分かったわ」と言ってくれた。

逆にアリシアちゃんは悲しみを背負った顔でプレシアさんを見るが、プレシアさんは首を振るだけに留める。

 

「約束通り、貴方の事は秘密にするわ。転送ポートも向こうに着いたら壊して捨てて?管理局に見つかったら面倒になってしまうもの」

 

「えぇ、分かりました」

 

「……お、お兄ちゃん……あの……もう少し、お話し出来ない?」

 

プレシアさんの言葉に応えてから転移ポートを起動させようとする俺の目の前に、泣きそうな表情のアリシアが立っていた。

……まぁ、これでもうお別れだもんな。

何だかんだで、自分が死んでから生き返る切っ掛けを作った人間との別れは、少し不安になってるのかもしれない。

プレシアさん達は地球の人達じゃ無いから、もう俺が会う事は二度と無えだろう。

……最後くらいは、ちゃんとお別れの挨拶をしなきゃな。

そう考え、俺は二人に近づいて笑顔を浮かべる。

 

「アリシアちゃん。ここらがタイムリミットギリギリなんだ。管理局に見つかる訳にはいかねえし、俺には俺の生活があるからよ……もうこれでお別れしなくちゃいけねえ」

 

「……」

 

「でもまぁ、なんだ……面倒くせー事ばっかだったけど……会えて良かったよ……アリシアちゃんの力になれて」

 

「……わ、私も……お兄ちゃんに会えて、嬉しかった……ッ!!」

 

俺の言葉を聞いてアリシアちゃんは涙ぐみ、プレシアさんは暖かい微笑みを浮かべていた。

それを聞いて、俺は笑みを浮かべたまま転送ポートを起動する。

こうやって、誰かの力になれて、誰かの笑顔が見れた……あぁ…………これで今夜も、寛いで熟睡出来るな。

少しづつ魔法陣が構築され始めた中で、俺は片手をシュタッと上げて、二人に別れの言葉を告げる。

 

「それじゃあな。しみったれたおばさん。長生きしろよ……そしてそのうるさいぐらい元気な娘よ、俺の事忘れるなよ?」

 

ニヤリと挑発的な笑みを浮かべながら、俺は別れの言葉を言う。

あんまりな言い方をする俺に、二人は怒る事もせずに笑顔で口を開く。

アリシアちゃんは目を一度拭って、プレシアさんは少しムッとしながらも優しく微笑みを浮かべる。

 

「また会おうねッ!!私の事が嫌いじゃなかったらだけどッ!!……ものぐさなお兄ちゃんッ!!」

 

目を拭ったのに、涙を零しながらも笑顔で舌を出すアリシアちゃん。

 

「忘れたくても、そんなキャラクターしてないわ、貴方は……元気でね?」

 

そして微笑みを浮かべたまま、憎まれ口を叩くプレシアさん。

 

その光景を最後に、俺は時の庭園を後にした。

最後に、仲良く肩を抱いて手を振る親子の姿を視界に収めて。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……行っちゃったね」

 

「そうね……」

 

笑顔を浮かべて地球へと帰っていった定明を見送ってから、アリシアがそう呟く。

プレシアは少し寂しそうな表情を浮かべる我が子に返事を返しながら、定明の事を思い浮かべる。

最初はアルフが連れてきた少し変わった少年程度にしか思っていなかった。

あの頃の正常な判断力を失った自分にとっては、路傍の石ころ程度の存在。

しかし彼は自分にとって、正しくジョーカーの役割を担っていたのかもしれない。

自分達魔法のある世界に生きる魔導師の絶対的な魔法の力を打ち破り、大魔導師のランクを持つ自分を打ち倒した。

それに始まり、自分の娘と言葉を交える機会を与えられ、自らに巣食う不治の病すらも片手間に治してしまう。

遂には長年の夢であった自らの娘の蘇生にすら成功し、これから自分と自分の家族を取り巻くであろう環境を整える手筈すらも用意してくれた。

これを神の奇跡と言わずに何と言えば良いのか、聡明なプレシアにも分からない。

唯一つ言えることは、自分達家族は、彼に多大な恩義を作ったという事。

ならば、一家の家長たる自分はその恩を返さねばならない。

その為にもまずは、目の前に立ち塞がる問題の全てを片付けなければ。

 

(彼が危険を冒して手に入れてくれた管理局側のデータと私が保存していたデータを照らし合わせれば、私に着せられた汚名は晴れる。アリシアの死亡を確認したのは私自身だったし、私の誤診で実際は仮死状態に近く奇跡的に目を覚ましたと誤魔化すしか無いでしょうね)

 

プレシアは寄りかかるアリシアの頭を撫でながら、自分が為すべき事を頭の中でシュミレートしていく。

大魔導師であり、魔法科学の第一人者としても天才的な頭脳を持つプレシアにかかれば、一度に並列して物事を複数行う事は造作も無い。

これをマルチタスクと言い、高位の魔導師ならばマルチタスクの習得は必要不可欠である。

 

(問題はフェイトの管理局に対する過失……これは私の過去の経験上、管理局を信用するべきものでは無いと教育したとしつつ、あの場で明確な管理局員の証拠が掲示されておらず、場所が管理外世界であった事を突いて減刑させる他無いかしら……最悪の場合、汚職データを渡す司法取引の形を引き出させる)

 

既に彼女の脳内では自分達の無罪を勝ち取る為の計算が成され、後は身内の問題に目を向ける事だけとなっている。

身内の問題、即ちフェイトの出生を告げ、自分が娘にしてきた仕打ちを謝罪して家族内の不和を取り除く事。

そしてフェイトの姉であるアリシアの秘密も話し、ここに家族の絆を培う事だ。

知らず知らずの内に、手に持ったSDカードをギュッと握っていた。

 

(ジョジョ君……貴方がくれたチャンス……決して無駄にはしないッ!!必ず自由を掴み取ってみせるわッ!!)

 

自らに最大のチャンスを作ってくれた少年に心の中で決意を表明しつつ、プレシアはSDカードの解析にかかる。

自分の娘が帰ってくる刻限まで、残った時間を無駄にしない様に……。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、今回の事件の全ての問題を片付けた俺こと城戸定明。

現在は地球に降り立って家に帰宅し、既に帰宅していた母ちゃんが作ってくれた夕食を食べる為に手洗い中である。

帰った俺を笑顔で迎えてくれた母ちゃんが言うには、ココ・ジャンボはもう水槽に入れてリビングに運んであるとの事だ。

俺の部屋じゃない理由は、母ちゃんも亀を見て和みたいらしいから。

 

「なにわともあれ、これで俺の平和は確立されたってなモンだ……いやー良かった良かった」

 

手を綺麗に洗って部屋着に着替えてから、俺はルンルン気分でリビングの扉を開ける。

そこには既にテーブルに着いた母ちゃんと父ちゃんの姿があった。

 

「お帰り、定明」

 

「おう。ただいま、父ちゃん」

 

「さぁさぁ~。今日の夕飯のおかずは豪華よ~♪お母さん特性のつみれに~、ハンバーグとサラダなので~す♪」

 

「「おぉ~ッ!?」」

 

笑顔でメニューを発表する母ちゃんにつられて、俺と父ちゃんは感嘆の声を上げる。

いや、マジで母ちゃんの飯は絶品なんだよなぁ。

何でも昔、どこかの五つ星レストランから働かないかとオファーがあったらしいが、蹴ったらしい。

理由は父ちゃんとゆったりラブラブな生活がしたいからとか。

 

「あっ、そうそう。今日お父さんと買い物に行く前に~、お隣のおばさんから美味しいケーキを貰ったの~♪それも出すからちょっと待ってね~」

 

「あぁ。お隣のおばさんか。またお礼に何か持っていかなくちゃな」

 

と、何かを思い出したかの様に手をポンと合わせた母ちゃんが、冷蔵庫から美味そうなケーキを持ってくる。

ちなみに隣のおばさんとは何者かって?簡単に言うならクレヨンが題名に付く幼稚園児アニメのお隣のおばさんと考えてくれ。

噂好きなのが偶に傷だけど、良い人なんだよなー。

この前も母ちゃんの帰りが遅くなった時に、態々他人丼作ってくれたし。

そしてルンルン気分の母ちゃんが持ってきたのは、長方形のチーズケーキだった。

 

「おぉ……ッ!?美味しそうだなぁ……あれ?母さん、切り分けないのかい?」

 

「あら?やだわ~、うっかりしちゃって」

 

「はははっ。そんなそそっかしい所も、母さんの魅力だよ」

 

「も~。お父さんったらぁ……包丁取ってくるわね~♪」

 

父ちゃんの自然な惚気を聞いてイヤンイヤンと身体をくねらせる母ちゃん。

息子の前でイチャつかないで欲しいぜ、お宅ら何歳だっての。

まぁ、これも平和の証かねぇ……。

暖かい家族の団欒を味わえるのが自分の頑張った結果だと思うと、俺は自然と笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――と、まぁ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムシャムシャバクバクッ!!

 

「ははっ、じゃあ定明。お母さんが来るまで待って……」

 

「ん?」

 

 

 

ここで綺麗に終わってたら良かったんだ。

 

 

 

何やら俺に声を掛けてきた父ちゃんが、空中のある一点を見て呆然とした表情を浮かべている。

まるで何か信じられないモノを見た様な表情だ。

……どうしたんだ、父ちゃんは?

突然そんな顔をする訳が分からず、俺は父ちゃんの視線を追っていき――。

 

 

 

『ガツガツガツッ!!ウンメェエエ~ッ!!』

 

『ムシャムシャッ!!ゲフゥ~』

 

『ウエェエ~~ンッ!!定明ィ~ッ!!NO,1トNO,7ダケズルイヨォオ~ッ!!定明カラモ分ケロッテ言ッテクレヨォオ~ッ!!』

 

 

 

思考が停止した。

 

 

 

父ちゃんの視線を追った先で見たモノは、母ちゃん特性のつみれ団子を勝手に貪り食っていたピストルズの姿だった。

恐らくスタンドの見えない父ちゃんの目には、空中に浮かんだつみれが齧られた様に消えていってるだろう。

あぁ、今日も母ちゃんのつみれは美味そうだなぁ……じゃねぇッ!!!

コ、コイツ等こともあろうに父ちゃんの前で勝手な行動しやがって……ッ!!?しかも俺のつみれじゃねえかッ!!

ここでやっと思考が回復した俺は、直ぐに台所に目を向ける。

母ちゃんは包丁を取り出そうと向こうを向いていたので、此方の様子は見えていない。

ならば――。

 

「……つ、つつ、つつつ、つみれがががが」

 

「当て身」

 

「浮い(ストーン)――う(グラ)」

 

今にも叫び出しそうだった父ちゃんの首裏に、ザ・ワールドで手刀をいれた。

ザ・ワールドの機械を超えた精密な動作で打ち込まれた手刀は綺麗に決まり、その一発で父ちゃんの意識は落ちる。

俺はその光景を見て大きく息を吐いて額の汗を拭う。

フ、ウゥ~ッ!!……間一髪だったぁ……ッ!?あそこで叫ばれちゃ面倒になるトコだっ――。

 

グシャッ。

 

『『『『『『アッ』』』』』』

 

「あ」

 

しかし、父ちゃんの頭の着地した場所を見て、ピストルズと一緒に声を上げてしまう。

その場所とは――。

 

「ふんふ~ん♪あら?……お父さん……私の愛情たっぷりの晩御飯より、ケーキの方が良いのぉ~~~ッ!?馬鹿~~~~ッ!!」

 

さっき母ちゃんがテーブルの真ん中に置いた、チーズケーキの上なんだもんなぁ。

しかもそれ見た母ちゃんが包丁持ったまま泣きながら外に出て行くし。

ガチャンッ!!という豪快な音と、静寂に包まれたリビングで取り残された俺。

目の前にはチーズケーキに顔突っ込んだ父ちゃん、空中に浮かぶ「やっちまったな」って表情のピストルズ。

 

『ア~ア~。定明ノ母チャン、怒ッテ出テ行ッチマッタ~』

 

『大変ダゼ~。母チャン泣イタラ長イモンナ~』

 

『ツウカ、ヤッテル行動ハ可愛イノニナァ~』

 

『ウェエ~ン。オ、俺ハリサリサ姉チャンノ方ガ良イヨォ~』

 

『アレデ子持チトカ詐欺ダゼェ~』

 

『ア~。リサリサ姉チャンモ綺麗ニナルダロウナァ~』

 

口々に好き勝手な事をぬかすピストルズ。

だ、誰の所為でこんなクソ面倒くせー事になってると思ってやがんだボケッ!!

一匹一匹しばき倒したいけど、それやったら自分にもダメージ返ってくるので、俺は溜息を吐いて怒りを納める。

あ~ったく……何でこんな事になるんだっての。

滅多な事が無い限りこんなアクシデントは起きないんだが、こういう場合は何時も隣りのおばさんの所に駆け込んでる。

仕方ない、俺が迎えに行くか……はぁ。

 

「おいピストルズ。お前等少しなら許すけど、あんまりバクバク食うんじゃねーぞ?良いな」

 

『『『『『『オーーーウッ!!気ヲ付ケテナーーッ!!』』』』』』

 

スタンド(傍に立つ者)なのに誰一人として一緒に来ようとしない現状に怒っても良いと思うんだ、俺は。

そんな事を考えつつリビングを後にするが――。

 

プルルルルルッ!!

 

「……今度は何だよッたく。(ガチャッ)はいもしもし。城戸です」

 

『おい定明、助けてくれッ!!何かついさっきプレシアさんからアースラに通信があって明日話し合う事になったんだけど、何故か俺に模擬戦挑んできて――』

 

「間違いです。うちは痴情のもつれの相談センターじゃありません」

 

『誰もそんな事言ってないよなッ!?な、なのはも何か黒い瘴気出してて怖いし、お前しか頼れる奴が居ないんだよッ!!も、もしも――』

 

ガチャッ。

 

問答無用で電話を切る。

……薄情と思われるだろうが一つ言わせて貰いたい。

アレもコレもソレも、全部テメェーが撒いた種じゃねーかッ!!

それぐらい自分で刈り取れってんだッ!!

足音荒く玄関を開けて、俺はお隣のおばさんの家に行く。

 

「うえぇ~~んッ!!きっと私の料理がまずいから、怒っちゃったんです~ッ!!」

 

「お、落ち着いて城戸さんッ!?抱きつくのは良いけど出来れば包丁放してッ!?は、刃先があたしの首にぃい~ッ!?」

 

「ちょっ!?と、取り上げろ、ハーヴェストッ!!」

 

そして、玄関先で泣きながらおばさんに抱き付く母ちゃんの姿を発見したんだが、危ない状態で焦った。

何せおばさんの首に手を回して抱き付いてるけど、包丁握りっぱなしだったんだから。

危うく突き刺さりそうになってた包丁をハーヴェストで母ちゃんの手から落として、あたかも滑り落ちた様に地面へと落とす。

包丁が母ちゃんの手元から落ちたのを見て安堵の息を吐く俺とおばさん。

何でこんなに疲れなくちゃいけねぇんだよ……俺が何したってんだ。

もう動くのも億劫になってきたけど、さすがにこのままにしておく訳にもいかず、俺は母ちゃんを説得して家に連れ帰った。

それで父ちゃんも起きていたらしく、泣きじゃくる母ちゃんを見て自分が悪いと思ったのか、直ぐに謝って二人は仲直りしてくれた。

その様子を見ながら、ヘブンズ・ドアーでさっき父ちゃんが見た光景の記憶を消してから、やっと夕飯にありつけた。

 

 

 

何だかんだで俺の周りは騒がしいけど……まぁ……こんな日常も、悪かないのかもな。

 

 

 

そんな、余りにも自分らしく無い事を考えながら、俺は湯気の立つ夕食にありつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?……なぁ、定明。父ちゃんのつみれ、知らないか?」

 

知りません。

 

 

 

 

 

 




次回からは少し空白期をやりますので、魔法サイドの後日談は次に回します。



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空白期~名探偵コナン編
生き残るのは、この世の『真実』だけ(ry


大変お待たせして申し訳ありませんでした。

8月の祭りの準備に仕事が忙しくなるという苦行で執筆が上手くいかず。

そして空白期の絡め方をどうしようかとずっと悩む日々でした。



そして結論。


空白期はリリカルなのはの世界観を重視しつつ、別の原作を絡めてみようと思い至りました。
所謂クロスオーバー斬ッ!!Σ( ̄□ ̄;)ノノ(ナンテ無茶シヤガル)というヤツです。
どんな原作が絡むかはお楽しみにしてて下さい。

まぁこの話で気付かれる方も多いとは思いますがw





「フッ!!せやッ!!」

 

「っと!!危ねっ!!」

 

早朝の合図である小鳥のさえずりが響く山の中。

目前で振るわれた木の小太刀を、俺は波紋で強化した身体能力を駆使して避ける。

しかし俺の動作を察知していたのか、小太刀の軌道は俺の真上からの振り下ろしと胴に突きが同時に向かってくる。

これは防御も厳しいと判断して、波紋で脚を強化して後ろに飛び、一気に間合いから離脱していく。

 

「……ちょっと速過ぎじゃないか、なッ!!」

 

小学生の動きを遥かに逸脱した回避行動に驚きながらも、木刀を振るう美由希さんの動きは止まらない。

両手の小太刀を突き出した構えのままに、着地した俺に向かって突撃を繰り出す。

そんな美由希さんの行動力に舌を巻きつつ、俺は両手に鉄球を回転させる。

戦いを始めてからもう10分くらい経過してるし、呼吸がきつくなってきた。

そろそろ決めねえと、俺が自滅に終わっちまう。

 

「――そらぁッ!!」

 

俺達を囲む自然、美由希さんの背後にあった樹木から定規(スケール)を取って、俺は鉄球を投げた。

黄金回転の定規を正確に目測して投げた鉄球が、突撃してくる美由希さんの足元へと襲い掛かる。

 

「ッ!!(バッ!!)」

 

しかし美由希さんは向かってくる鉄球に恐れる事無く距離を詰め、スッと横にズレる動きで鉄球を回避してしまう。

波紋で強化した身体とはいえ、この人達を相手するにはまだまだ役不足らしい。

標的を失った鉄球はそのまま地面に鈍い音を立ててメリ込んでしまう。

 

「ちっ!!このッ!!」

 

「甘いよッ!!」

 

一発目が外れた事に舌打ち一つ、そのまま二つ目の鉄球を腹部に投擲するが、それも最小の動きで避けられた。

反応速度が尋常じゃなく速すぎるんだよ、この人達は。

……だが、ツェペリ一族が250年掛けて培ってきた鉄球の回転は、土に埋もれた程度じゃ止まらない。

地面に着いた今現在も、一発目の鉄球は回転してるのが俺には見えている。

ギュルルルッ!!という摩擦音を奏でながら、一発目に投げた鉄球がこっちへ向かって跳ね上がり――。

 

ガァンッ!!

 

「ッ!?」

 

二度目に投げた鉄球と空中で接触、回転力を上乗せして二つ目の鉄球をこっちへ撃ち戻す。

役目を果たした一つ目の鉄球はそれで回転の力を弱めて地面に落ち、二つ目の鉄球が方向を変えて俄然回転を増した。

その接触音を聞いて驚愕の表情を浮かべる美由希さんの背後に鉄球は襲い掛かり――。

 

「――御神流、徹ッ!!」

 

カッ――バガァアアッ!!

 

美由希さんが振り返り様に突き出した木刀と接触した瞬間、鉄のひん曲がる音を奏でて真っ二つに破壊されてしまった。

 

バギィッ!!

 

「ッ!?」

 

しかし美由希さんの木刀も無事には済まず、鉄球と同じ様に内部から吹き飛んで破片を撒き散らしていく。

更に回転の衝撃が腕に伝わり、肘手前までの袖が破けた。

美由希さんは痛みに顔をしかめ、更に降り注ぐ木刀の破片に目を細める。

ッし!!ここだッ!!

破片で目くらましを起こせたので、俺はすかさず懐に入って拳を握り――。

 

シュッ!!

 

「……参りました」

 

「――勝負ありッ!!勝者、美由希ッ!!」

 

拳を突き出した体勢で、『背後から』美由希さんに小太刀を首に添えられ、降伏宣言をした。

俺の宣言を聞いて、この模擬戦を見守っていた士郎さんが勝敗を下す。

そして士郎さんの宣言と共に、美由希さんが添えていた小太刀が首から退けられる。

……あ~……マジ疲れた……暫く特訓は無しにするか。

何時もより重たい疲労感を感じながら、俺はその場に座り込む。

 

「…………っあ~~~ッ!!つ、疲れたぁあ……ッ!?……まさか神速を使っちゃうなんて思わなかったよ。右腕も動けなくされちゃうし……」

 

「……神速っつーんですか、最後の動き?」

 

「うん。視覚の力をめいっぱい強化して脳のリミッターを外す事で、周りの時間がスローに感じられるの」

 

勝利したというのに、まだ余裕のある俺とは違って豪快に座り込んだ美由希さんが額の汗を拭いつつ答える。

右手に伝わった回転の力も腕を破壊する程では無かったので、腕を振ってプラプラさせていた。

脳のリミッターを解除出来るとか、ビックリ人間かっての。

 

「一瞬で消えましたもんね……美由希さんって人間ッスか?実は改造人間じゃなくて?」

 

「失礼だな~。それを言ったら、呼吸のリズムだけで体を強化出来る定明君はどうなるのかな?」

 

「確かに、凄い技術だ。僅か9歳の君が御神流を学び続けてる美由希にあそこまで善戦したんだからね。まさか神速を使わされるとは思わなかったよ」

 

疲れて地面に座り込む俺と美由希さんの傍に、士郎さんがタオルを持ってにこやかにそんな事を言った。

まぁ確かに、波紋の技術を使える俺もかなりブッ飛んでるが、それを肉体一つでこなしちまう御神流の剣士に言われたくない。

そんな事を考えていると、士郎さんの隣に立っている恭也さんが呆れた表情を浮かべていた。

 

「しかし美由希、お前もまだ詰めが甘い。定明君の鉄球が普通じゃ無いのは分かっていただろう?なのに安易に小太刀で触れたりするから、隙を突かれて神速を使ってしまうんだ」

 

「う゛。そ、そりゃ、触ったらマズイかな~って思ったけど、まさか徹で破壊したのに回転が自分の小太刀にまで来るなんて思わなくて……」

 

美由希さんは頬を掻きながら溜息を吐く恭也さんに言い訳しているが、それも仕方無いと思う。

普通の回転ですら人智を超えた技術なのに、黄金長方形の定規(スケール)から学んだ黄金長方形の軌跡の回転は生半可な技じゃ止まらない。

鉄球を破壊したぐらいじゃ、回転は死なないからな。

 

「そういえば、俺の鉄球が破壊されたんスけど、何ですかあれ?木刀であんな事が出来るんスか?」

 

「あれは御神流の徹という技でね。衝撃を表面ではなく裏側に通す撃ち方で威力を『徹す』打撃法なんだ。衝撃を内側へ送る技だから、鉄球が内部から破壊されたんだよ……処で、鉄球は弁償した方が良いかな?」

 

「あぁいえ。鉄球は治せるんで良いッスけど……スゲー技ですね」

 

鉄球の破片を拾ってクレイジーダイヤモンドで治しながら、俺は士郎さんに言葉を返す。

俺の言葉に士郎さんはにこやかに笑って「それほどでも無いよ」と返してくる。

この人の中ではあの技が大した事無いのだろうか?人間の力で鉄の塊ブッ壊してる時点で有り得ないと思う。

衝撃を内側に通すって……人体に使ったら大変な事になるだろうな。

そんな技が大量にある辺り、御神流ってのは本当に実践向きの武術なんだろう。

なし崩し的にこんな模擬戦をする羽目になったが、この世界には超人が居るって事が分かっただけ収穫だ。

 

 

 

何故、俺が早朝に山の中で高町家(なのはと桃子さん除く)の皆さんとこんな修行染みた事をしてるかといえば、単なる偶然だ。

 

 

 

あのテスタロッサ一家と管理局のいざこざに蹴りを付けた日から二週間目の日曜日。

既に五月も終わり、今は六月の梅雨時期の初めに入ろうとしてる。

 

 

 

あれから特に相馬からは連絡は来ず、アリサ達も塾とか習い事で忙しいのか全く会っていない。

まぁアリサ達は金持ちだから、家の事で忙しいのもあるんじゃないかと考えている。

相馬については知らん。まぁ死んだという話は聞かないので問題無いだろう。

そんな感じで最近は比較的平和な生活を送っていたんだが、今日は偶然にもこの人達と出会ったのが始まり。

俺は波紋の持続力アップの為の修行としてランニングをしていたんだが、偶々こっちの町までランニングに来ていた高町家の皆さんと遭遇した。

そんで、時間があるなら一緒に走らないかと誘いを受けて、時間のあった俺は偶には良いか、とその誘いに乗った訳だ。

で、街中から山の中まで息も切らさずに着いていき、この山の中で最初は三人の修行風景を見ていた。

しかし俺の秘密を知る恭也さんから「美由希と模擬戦をしてみないか?」と誘われたのが事の始まり。

説明してなかったが、実は高町家で恭也さんの恋人である忍さんの秘密。

つまり夜の一族関連の事を知ってるのは、美由希さんと恭也さんだけではなく、何と士郎さんもだったらしい。

しかも士郎さんは二人の師匠であり、裏の世界でも名を馳せたボディガードにして、御神流最強の剣士とも言われてるとか。

それだけなら良かったんだが、どうにもこの士郎さん、俺が普通の9歳児じゃ無いと出会った時から気付いてたそうだ。

そして直に会って温泉で俺の身体を見て作り込みが普通じゃない上に妙な呼吸のリズムをずっとしてたのが気にかかったのが決め手だった。

それで恭也さんと忍さんに俺の事を聞いてきたらしい。

二人が疑われたままにするのも何か誤解が生じたら面倒になると言う事で、俺の力の事を話してある。

勿論誰にも喋らないで欲しいと頼んだし、士郎さんも快く了承してくれてる。

念には念を入れてアトゥム神で心を覗いたが、士郎さんは大丈夫そうだったので、俺は信用する事にしてるって処だ。

 

「で、どうだい?美由希と戦ってみた感想は?」

 

「どうって……まぁ、生身の俺じゃまだまだ勝てないってのは良く分かりましたけど……」

 

タオルで汗を拭きながら、俺は士郎さんにそう答える。

普段から面倒くさい事は極力避ける俺が何で美由希さんと模擬戦したかと言えば、波紋と鉄球の技術がどれぐらい向上したのかを知る為だ。

士郎さん達の修行風景を見て、この人達が強いのは良く分かってたからな。

なら、波紋の修行を続けてきた俺が敵うのかが知りたくて模擬戦を承諾したんだけど、まだ勝てなかった。

まぁ波紋の特性である水や油といった液体を伝わらせて流す技を使って無いから、そういう意味では全力で戦った訳じゃ無え。

 

「うん。確かに勝てなかったけど、かなり善戦出来ていたからね。普通の大人には負けないと思うよ?」

 

「そうッスか……まっ、一番は戦わない様に工夫する事なんでしょうけど」

 

「あはは、そうだね。君子危うきに近寄らず、それが一番正しいと思うよ」

 

「しかし勿体無いな……定明君も相馬と同じで筋が良いのに、本格的には鍛えないだなんて」

 

樹の幹に腰掛けながら会話していた俺と士郎さんの所に恭也さんが歩み寄り、残念そうな表情をしてそう言った。

相馬はあの温泉旅行の次の日から、たまに高町家の道場で太刀を学んでるから弟弟子の様な存在らしい。

最近は何か遭ったのか、余り顔を出してないらしいが……まぁ、自業自得だろ。

恭也さんにそう言われるのが良い事なんだろうけど、俺は戦いの中に身を置くつもりは皆無だしなぁ。

ただ、いざという時に動ける様に鍛えてるってだけだし。

 

「まぁ、ダルイ事は嫌いなんで……程々にしときます」

 

「ふむ。しかし、いざという時にもっと鍛えておけば良かったと思える敵が出来たらどうするんだい?」

 

「その時はスタンドを遠慮無く使って再起不能にします。それで敵わないなら生身の俺じゃどうしようも無いんで、一旦逃げてから闇打ちで追い詰めて追い詰めて、弱り切ったら奇襲します」

 

「ど、堂々と言うんだな……」

 

真っ当な剣士なら怒り狂うであろう卑怯な宣言を惜しげ無く言った俺に、恭也さんは引き攣った笑みを浮かべる。

士郎さんも心なしか苦笑い気味だ。

お二人には悪いけど、生憎と俺にとって戦いってのはなるべく避けるべき面倒だ。

だからその面倒を終わらせる為に尤も効率が良くて人を巻き込まない方法なら、俺は遠慮無く使う。

無関係な人間を巻き込まないってのが、俺にとっての唯一のポリシーかな。

それ以外なら相手に糞をぶっかけてやろうがなんだろうが問題ねえ。

そう考えながら腕時計に目をやると、時計の針が9時前後を指していた。

士郎さん達も今日の翠屋の開店はスタッフがしてくれるからのんびり出来るらしいけど、もうそろそろ良い時間だ。

俺は立ち上がり、ホルスターに鉄球を収めて背伸びをする。

 

「それじゃ、俺はこれで帰ります。そろそろ朝飯が出来てる頃なんで」

 

「あぁ、そうだね。じゃあ僕等も帰ろうか?桃子が朝食の準備をしてくれてるし、待たせる訳にはいかないな」

 

「分かったよ、父さん。それじゃあな、定明君」

 

「はい。お疲れ様です」

 

「バイバイ、定明君。次はもっと余裕で勝ってみせるからね」

 

「じゃあ、次が無え事を祈っておきますよ」

 

なにを~。と怒った振りをする美由希さんを最後尾に、高町家の戦闘者三人は海鳴へと走っていった。

それを確認して、俺も自宅へと最後にランニングしながら帰る。

まさか鉄球を破壊されるとはな……負けたのは俺の腕が未熟なのが原因だけど、対策は考えておかねぇとマズイ。

 

「スタンドを使わない、いや使えない場合も考えるならウェカピポの鉄球もホルスターに入れておいて、どっちの鉄球も使える様にならなきゃな……」

 

ネアポリス王族護衛官だったウェカピポの一族に伝わる鉄球の技術は、ツェペリ一族の黄金回転の鉄球とはまた違う。

彼の一族は代々王族護衛を任された一族であり、王族を守るための「戦闘技術」として鉄球を発展させてきた。

応用力よりも破壊力、医術よりも戦闘に重きを置いてる鉄球の技術。

最大の違いは黄金回転とは違って自然の定規(スケール)が必要無い事だ。

その点から考えても、異なる鉄球を同時に装備出来る様にする方が良いだろうな。

 

「とりあえず、今日は町の仕立て屋にでも行って、作ってもらえるか聞き込んでみるとすっか」

 

走りながら今日の予定を立てつつ、俺は自宅へとマラソンを続けた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ただいまー」

 

士郎さん達と別れてから15分ほど走って、やっと帰宅。

ふぅー、疲れた……ニ、三日は身体を休めよう。

玄関で靴を脱ぎながら帰りを知らせると、母ちゃんが何時もの様に微笑みながら出迎えてくれた。

 

「お帰り~。もうすぐ朝ご飯だから、シャワー浴びちゃってね~」

 

「分かったよ」

 

母ちゃんに言葉を返しつつ、俺は脱衣所に入ってジャージを洗濯籠に入れて、シャワーを浴びる。

確か、リビングの時計は9時半くらいだったから……11時に出るか。

チラッと見えた時計の時間を思い出しながら、俺は今日の予定を組み立てていく。

そして身体を洗って風呂から出て、タオルで身体を拭きながら脱衣所を後にする。

 

TRRRRRRRRRRRR

 

と、丁度俺が廊下に出たタイミングで、廊下の電話が鳴り出した。

 

『定明~。ちょっとお母さん手が離せないから、電話取って~』

 

「あぁ。分かったー……(ガチャ)はいもしもし、城戸ですけど」

 

キッチンの方から聞こえた母さんの言葉に返しつつ、俺は受話器を取る。

しかし誰だ?こんな朝早くから電話なんて?

 

『も、もしもし、定明君ですか?すずかです。今、大丈夫かな?』

 

「おー、すずかか?どうしたんだ、こんな朝早くに?」

 

『ご、ごめんね?こんな時間に電話しちゃって……迷惑だった?』

 

「いや、俺はもう起きてたから別に良いけどよ。何か用事か?」

 

受話器から聞こえてくる申し訳無さそうな声に答えつつ、俺はタオルで髪の毛を拭く。

電話してきた相手は久しぶりに声を聞く友人、月村すずかだった。

最近お互いに予定が合わなかったから、声を聞くのも久しぶりなんだよな。

リサリサとは学校で会ってるし喋ってるけど、すずかとアリサは全然だったし。

 

『う、うん……あ、あのね、定明君……もし、良かったら……で、良いんだけど……その……』

 

「ん?何だって?」

 

電話先のすずかは何やらゴニョゴニョと小さい声で呟いたので、聞き取り辛い。

なのでもう一度聞き返すと、今度はハッキリとした口調で言葉を発してくれた。

 

『あ、あのね。今日、一緒に遊べないかなと思って電話したんだけど……な、なのはちゃんもお店の手伝いをするって言ってたし、アリサちゃんもリサリサちゃんも用事があるからって断られちゃって……どう、かな?』

 

「今日か?一応予定が入ってるっちゃ入ってるけど……つっても仕立て屋を回るぐらいだしなぁ……」

 

『え?仕立て屋さん?』

 

俺がする筈だった予定を言うと、意外そうな声ですずかは聞き返してくる。

まぁ普通はそんな所に用事なんて無えからな。

 

「あぁ。ちょっと作って貰いたい物があってよ。それが作れるか聞いて回るつもりだったんだ」

 

『へー?どんな物かな?』

 

「ガンベルトとホルスターだよ。腰のベルトに引っ掛けられるヤツ」

 

『え?ガンベルトって……何かに必要なの?』

 

「あー、ほら。前に農園に行った時にすずかには見せた事があるだろ?あの鉄球を」

 

興味が湧いたのか、質問を続けるすずかにそう答えつつ、俺は頭を拭いていたタオルをどける。

あの時はしつこくもう一回ってアンコールを受けたから、すずかもこう言えば思い出すだろう。

すずかに誘われて乗馬体験に行った時の事を話すと、すずかは思い出したのか、受話器越しに声を挙げた。

 

『うん、覚えてるよッ!!凄く不思議な鉄球の事……あっ!!もしかしてその鉄球を入れる為の?』

 

「そうそう。でも、銃を入れるホルスターなら玩具屋にありそうだけど、鉄球を入れるホルスターなんて無いだろ?だからどっかの店で作って貰おうと思ってんだけど……そういやすずか。お前そーいうのしてくれる店、知らねーか?」

 

すずかの質問に答えながら、俺はふと思った事をすずかに聞いてみる。

確か前にファリンさんが言ってたけど、ファリンさんとノエルさん、そしてイレインのメイド服は完全なオーダー品らしい。

だからその家に住んでるすずかなら、そういうの知ってるかもと思っての質問だ。

 

『うん、知ってるよ。ファリン達の服を作ってるお店なら、お姉ちゃんに頼めば話してくれると思うけど……ちょっと待ってね、聞いてみるから』

 

「あぁ。わりーな」

 

そう詫びを入れた直ぐ後に電話が保留になってメロディが流れ出す。

もしもOK貰えたら、店を探す手間が省けるな。

 

「定明~?電話誰からだったの~?」

 

と、結構時間が経ってたのか、キッチンから母ちゃんが現れた。

 

「ん?すずかからだよ」

 

「あら~、そうなの?……んふふ~。それじゃあ邪魔しちゃ悪いわね~♪ごゆっくり~♪」

 

「へいへい」

 

何やらニマニマした顔でキッチンに戻る母ちゃんを適当にあしらい、俺はすずかの返事を待ち続ける。

それから数分も経たない内に、保留が解除された。

 

『お待たせ、定明君。お姉ちゃんに聞いたらOK貰えたよ』

 

「おっ。マジか?」

 

『うん♪定明君のお願いなら大歓迎だって。もし良かったら、ノエルが迎えに行ってくれるって言ってるんだけど、何時が良いかな?』

 

「迎えまで?良いのかよ?」

 

『あはは。定明君には色々お世話になってるから、これぐらいは大丈夫よってお姉ちゃんは言ってたよ』

 

俺の聞き返しに、すずかは電話の向こうで笑いながら答える。

まぁ向こうが遠慮しなくて良いってんなら、有難くお言葉に甘えさせてもらうとしよう。

店の当ても出来たし、これなら昼過ぎにゆっくりと出ても大丈夫だ。

 

「それじゃあ頼む。時間は昼過ぎ……そうだな、1時くらいで大丈夫か?」

 

『うん。1時だね?じゃあまたノエルに行ってもら……え?どうしたの?』

 

「ん?何だ、すずか?」

 

『あっ。ち、ちょっと待って、定明君……どうしたの、お姉ちゃん?』

 

と、電話していたすずかに忍さんが話しかけたらしい。

電話を中断しなきゃいけない様な話があるのだろうか?

……あるかもな、金持ちの家だし。

そう思っていると、少し上擦った声ですずかが話しかけてきた。

 

『あ、あの……定明君。もし良かったら、一緒にお昼もどうかな?』

 

「え?お昼って昼飯か?……そこまで世話になって良いのかよ?」

 

さすがにそれは図々しい気もするしなぁ。

いきなり呼ばれた意図がわからず、遠慮も入って尻ごみしてしまう。

そう考えていた俺だが……

 

『うん。前にあの展望室を治してくれたお礼だから遠慮しないでってお姉ちゃんも言ってるし、一緒に食べよう?』

 

どうやらすずかとアリサが暴走した時にブッ壊した展望室を治したお礼らしい。

まぁそういう事ならありがたく御馳走になるとすっか。

それに久しぶりにすずかとも遊びたいしな。

という訳で、俺はその誘いに乗って、昼からはすずかの家に遊びに行く事にした。

朝食中にその事を母ちゃんに話して昼飯は向こうで御馳走になると伝え、俺はノエルさんの迎えが来るのを部屋で待つ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「いらっしゃい。定明君」

 

「久しぶりね、元気だったかしら?」

 

そしてお昼前の11時頃にノエルさんが迎えに来てくれた車に乗り、俺は月村家にお邪魔した。

ノエルさんに案内されて例のガラス張りの展望室に入ると私服のすずかと忍さんが迎えてくれた。

 

「おっす、すずか。忍さんもお久しぶりです。特に変わり無く元気ですよ」

 

さすがに魔法うんぬんの出来事は言えないのでノーカンで通そう。

 

「直ぐにファリンがお茶をお持ちしますので、どうぞお座りになって下さい」

 

「あぁどうもです、ノエルさん」

 

椅子を引いてくれたノエルさんにお礼を言って、俺は用意された椅子に座る。

座った俺に、すずかは何時もの様に柔らかい微笑みを浮かべていた。

前になのはが元気が無いって電話してきた時は声が沈んでたけど、もう大丈夫そうだな。

 

「ごめんね。急に遊ぼうなんて誘っちゃって」

 

「いやいや。俺も特に急ぎの用事は無かったから気にしないでくれ。最近遊んで無かったから丁度良かったぜ」

 

「そ、そう?それなら良かった」

 

少し申し訳無さそうな顔をしてたすずかだが、俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑む。

 

「ふふっ。定明君に電話する時、迷惑じゃないかな?って私に聞きながら電話と睨めっこしてたのよ、すずかってば」

 

「お、お姉ちゃんッ!?何で言っちゃうのッ!!」

 

「あ?そうなのか?」

 

「だ、だって……まだ朝早かったし……い、いきなりだったから……ね?」

 

「いや、「ね?」って言われても困るんだが……まぁ、特に迷惑だなんて思ってねーよ。お誘い自体は嬉しかったしな」

 

「そ、そう、かな?だったら良いんだけど……うぅ」

 

クスクスと笑いながら暴露した忍さんに顔を真っ赤にしながら怒るすずかに聞くと、すずかはちょっと俯いてしまう。

そんなすずかに微笑む忍さんだが、すずかは少し恨めしそうな目で忍さんを見ている。

ノエルさんはそんな二人を見て静かに微笑みを浮かべた。

のどかに流れる時間と、ふわりとした雰囲気……あぁ……平和だなぁ……やっぱ日常ってのはこうでなくちゃな。

そうして和んでいるとファリンさんが笑顔で紅茶を運んで来てくれて、それを飲みながら俺は本題を切り出す。

 

「それで忍さん。お願いしたい仕立ての事なんですけど……」

 

「ああ、その事ね。電話して聞いたけど、作るのは問題無いって言ってたわ。ただ、出来ればもっと正確な情報が欲しいって言われたんだけど……例えば素材に希望はあるのか、とかね」

 

「それなら、この紙に書いてきましたんで」

 

下唇に指を当てて仕立て屋からの要望を伝えてくれる忍さんに、俺は家で書いてきた図面を手渡す。

忍さんは俺から図面を受け取ると、広げて内容を読み始めた。

 

「どれどれ……へぇ~、すっごい上手な絵ね~。これって定明君の手書き?」

 

「えぇ、まぁ」

 

紙を広げて驚いた表情の忍さんに、俺は答えつつ紅茶を飲む。

柔らかい甘みが口に広がる優しい味……美味いなぁ。

俺が書いてきた紙には、使って欲しい素材と形が書かれている。

つっても鉄球のホルスターは今使ってる物を模写しただけだし、ベルトも寸法を測って書き込んだだけの簡単な図形だ。

バックルのデザインは少し拘って、ジャイロ・ツェペリのバックルと同じデザインを模している。

まぁ、動きの邪魔にならない様に少し縮小してあるけど。

ノーマルのベルトとホルスターの絵を見ながら、忍さんはフムフムと頷く。

すずかも横から俺の図形を覗き込んで驚いた表情を見せた。

 

「わぁ……ッ!?定明君って絵を書くのが上手だねッ!!もしかして絵を書くの好きなの?」

 

「あぁ。まぁ割と好きな方だな」

 

「そうなんだ……それじゃあ、動物の絵とかも書けるのかな?」

 

「一応は書けるけど、それほど大したモンじゃ無いぜ?」

 

目をキラキラさせて聞いてくるすずかに、俺は苦笑いしながら肩を竦める。

一応書ける事は書けるんだが、そこまで期待される凄い絵って訳じゃないし。

すずかとゆったりと話しながら待っていると、忍さんが図面から顔を上げて笑顔を浮かべた。

 

「ふむふむ……うん、分かったわ。じゃあこの素材とデザインで作るように依頼しておくから」

 

「お願いします、忍さん。代金が分かったらまた教えてください」

 

例の温泉旅行に行く為にハーヴェストで回収した金が残ってるから大丈夫だろ。

そう思ったんだが、忍さんはチッチと指を振って笑顔を浮かべる。

 

「お金は良いわ。これぐらいならお姉さんがプレゼントしちゃうから♪」

 

「え?マジっすか?」

 

「えぇ、マジよ。この展望室をちゃんと直してたら、目が飛び出る程の金額になってたと思うし……これはそのお礼の一部♪今日の昼食もそうだから、遠慮しないで。ね?」

 

「そうっすか……なら、お言葉に甘えさせてもらいます。ありがとうございます、忍さん」

 

タダで済むならそれに越した事は無いぜ。

俺は「昼食が出来たら呼ぶから」と言って退出する忍さんに感謝の印として頭を下げる。

ノエルさんとファリンさんも退出したので、展望室には俺とすずかの二人が残った。

とりあえず、今日の俺の予定は片付いた訳だし、これから何をしようか……。

 

「そういえば、すずかはここ最近何してたんだ?」

 

とりあえず茶飲み話にでもと会話を振りつつ、足に顔を擦りつけてくる猫を抱き上げる。

サラッとした毛並みがとても心地良い猫だ。

ゆっくり撫でてやるとくすぐったそうに目を細める。

 

「私?私は塾とか、ピアノのお稽古とかかな。ちょっと前まで、なのはちゃんも相馬君も忙しそうにしてたし、アリサちゃんも同じだったよ」

 

「ふーん?塾にお稽古か……とても俺にゃ真似出来そうもねぇな」

 

「ふふっ。定明君、勉強嫌いだもんね」

 

学校終わってから更に勉強して宿題もだなんて、想像しただけで寒イボものだ。

肩を寄せてブルリと震えてみせる俺を見て、すずかはおかしそうにクスクス笑う。

手を口元に当てる仕草はとても上品だった。

そしてまた俺の足に擦り寄る別の猫、こいつも撫で心地良さそうだな。

 

「勉強が楽しいと思った事は無えな。興味の無い事なら尚更だろ?」

 

「うーん。私は、知らなかった事をいっぱい覚えれるのが楽しいかな?そう思ってたら、勉強もはかどるし」

 

すずかは指を下唇に当てながらそう答える。

俺からしたら一生持てそうにない考え方だな。

と、何時の間にか俺の足元に新たに猫が二匹追加で擦り寄ってくる。

若干熱いから離れて欲しいんだが?っていうか抱っこしてる猫が他の猫威嚇してやがる。

 

「定明君は最近何してたの?」

 

そんな俺の状況を見かねてか、すずかは自分の手と『スパイス・ガール』の手で足元の猫達を抱っこする。

……随分とスタンドの扱い方が上手くなったモンだ。

ちゃんと猫達が痛がらない力で掴んでるし。

 

「……ニャ~」

 

『柔ラカイ毛並ミデスネ……トテモフワフワデス』

 

「……ん?……スパイス・ガール?」

 

「あっ、そういえば言って無かったね。最近、スパイス・ガールが喋れる様になったんだ♪良く寝る前とかお喋りしてるよ」

 

『エェ。スズカト話スノハ、トテモ有意義デスカラ』

 

あれ?とか思った俺の目の前で、すずかとスパイス・ガールは楽しそうに会話している。

……そういえば、スパイス・ガールは自分の意思があるタイプのスタンドだったのを忘れてた。

ドラゴンズ・ドリームとかチープトリックみたいに受け答えは出来るんだっけ。

まぁ勝手気ままに動くんじゃなくて、あくまで主人の為に能力を使うが。

これは多分、すずかがスパイス・ガールと完全に馴染んだ証拠だろう。

俺の時はそんなにスパイス・ガールを使って無かったから、喋ったのは聞いた事無かったけど。

 

「あ~、俺は別に何もしてなかったぞ。普通に学校行って、普通に遊んでの平和な日々さ……リサリサも塾が忙しかったみたいだけど、学校の昼休みとかは結構一緒に居たぜ?」

 

予想外の出来事にちょっと面食らったが、気を取り直してすずかの質問に答える。

ここの所は特に事件も無い平和そのものの日常だったからなぁ。

あの地球崩壊一歩手前の魔法絡みの事件が過ぎて、俺も漸くゆらりと過ごせてる。

そうだよ、これが当たり前の日常なのさ。

今日までの平穏な日常を思い返して少し微笑みながら話す俺だが……。

 

「そ、そう、なんだ。リサリサちゃんと遊んでたんだ……(……良いなぁ、リサリサちゃん……同じ学校で)」

 

何故かすずかは少し不満そうな顔で猫を撫でていた。

……あ~、もしかして俺と遊べなかったのが不満なのか?

そう考えていた俺だが、すずかは何度か小さく頷くと、笑顔で俺に視線を向けてきた。

 

「じゃ、じゃあ、何して遊ぼっか?ゲームもいっぱいあるし、運動具もあるよ?」

 

「ん?あ~、そうだな……昼まで後一時間くらいだし……ボードゲームでもやるか?」

 

昼飯前に運動して腹を空かせるのも良いが、外は生憎の曇り模様だ。

ウェザーリポートで天候を操作するのも有りだが、室内でゆっくり過ごすのもオツだろ。

っていうか抱っこしてる猫がどいてくれそうもねえ。

 

「ボードゲームかぁ……それだったら、チェスに将棋にオセロとか色々あるよ?どれにする?」

 

ボードゲームとしてはポピュラーなゲームをつらつらと挙げていくすずか。

うーん……そういうのも良いが、ちょっとはスリルがある方が良いしなぁ。

二人で考えた末に、俺達は簡単なオセロを始めた。

お互いに猫が降りてくれないから、必然に片手で出来るゲームになった訳。

それで昼飯を報せにきてくれたノエルさんに呼ばれるまで、俺達は楽しくお喋りしながらオセロを楽しんだ。

結果はすずかの勝ち越しで終わって少し悔しかったが、次は勝ち越してみせる。

ノエルさんに呼ばれたので猫を強制的に降ろした俺とすずかは洗面所で手を洗い、食堂へと向かう。

 

「……えへへ」

 

「……嬉しそうだな、すずか?」

 

「うん♪約束はちゃあんと、守ってね?」

 

「分かってるっての。ったく……そういう約束だったからな」

 

「うん♪楽しみにしてるから♪」

 

すずかはニコニコ微笑みながらルンルン気分で食堂に向かう。

何の約束かと言うと、負けた側は一つ何でも勝者のお願いを聞くというものだ。

まだお願いは決まってないらしいので、後日改めて願い事が決まったらという事になってる。

そんな感じでご機嫌なすずかと、そんなすずかを微笑ましく見守るノエルさんの3人で月村家の食堂の入り口に到着。

……どうでも良いけど、飯を食べる所ですら広いという辺りに、すずかの家のブルジョア加減が伺えるな。

 

「着きました……定明様。初めに言っておきますが……」

 

「ん?なんすか?」

 

と、入り口の扉に手を掛けたノエルさんが肩越しに振り返りつつ、俺を名指しで呼んだ。

その言葉に聞き返すと、ノエルさんはやや悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「はい。本日の昼食なのですが……担当した者は、定明様には少々意外に映るかと思いますよ?」

 

は?

 

どういう事なのかと聞き返す前に、食堂のドアが開かれ――。

 

「……」

 

「……な、何だよ?」

 

テーブルの傍に立った、フリルのエプロン姿で恥ずかしそうに頬を染めるイレインの姿を見て、俺は呆けてしまった。

ノエルさんやファリンさんとは違って、彼女のトレードマークであるヘアバンドの色に合わせたシックな赤色のメイド服。

その真紅のメイド服に一色足す形であしらわれた白のエプロンドレスという出で立ちだ。

え?まさかとは思うけど……。

 

「まさか、今日の昼飯の担当って……」

 

「ええ。今日はイレインが準備してくれたのよ。それもイタリア料理をね♪」

 

「すごいですよ、イレインちゃんッ!!私よりも上手に料理が出来ますからッ!!」

 

驚く俺を見て楽しそうに笑いながら、忍さんは座ったままそう言葉にする。

お皿を用意していたファリンさんも大絶賛していた。

 

「べ、別に凄くないってのッ!!ただ、レシピと調理法をデータにしてッ!!あ、後は近所のイタ飯屋で隠し味とかトッピングを聞いただけだよッ!!こ、ここ、これも何れ世界を旅する時に必要だと思ったから覚えただけさッ!!」

 

二人の褒め言葉が恥ずかしいのか、イレインは顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら早口にまくしたてる。

いや、データだけじゃ無くて料理人にコツを聞くとか充分に気合入ってると思うんだが……。

そんなイレインの様子を見て驚く俺に、すずかが顔を寄せてきた。

 

「ふふっ。あんな事言ってるけど、イレインは定明君の為に覚えたんだと思うよ?」

 

「え?俺の?」

 

小声で耳打ちされたので同じく小声で返すと、すずかは小さく頷いた。

 

「だって、今度ウチに誘う時はご飯も食べてもらおうって前にお姉ちゃんが言ってたのを聞いてから、料理の勉強をし始めたんだもん。多分、定明君に美味しい料理を食べてもらいたかったんじゃないかな?」

 

とっても頑張ってたよ、と微笑むすずかの言葉を聞いて俺も少し笑ってしまう。

イレインって、性格面でアリサと近い所があるんだな。

まぁ素直にそういう好意は嬉しいけど。

そんな風に小声で話し合ってた俺達だが、イレインの耳には俺達の声が聞こえていたらしい。

顔を真っ赤に染めて俺達に視線を向けていた。

 

「バッ!?だだ、だれが定明の為にやるかよッ!?そ、それにすずかだって、こないだノエルと一緒に練しゅ――」

 

「わーッわーッわーッ!?い、言っちゃ駄目ぇッ!!」

 

『ナニバラシテクレテンダコラァッ!!(ギュムッ!!)』

 

「むっ!?むーっむーっ!?」

 

と、真っ赤になったすずかの傍からスパイス・ガールが出て来て、イレインの口を塞いだ。

っていうか口調が……戦闘時は口調が悪くなるのは知ってたけど、ガラ悪すぎだろ。

本来の本体であるトリッシュ・ウナ譲りの激しい気性が露呈してる。

まさかすずかも似た様な激しい気性だったりしねーよな?……まさか、な?

 

「おいおい落ち着けって。とりあえず、早く飯にしようぜ?腹減ったしよぉ」

 

「ッ!?そ、そうだね。離してあげて、スパイス・ガール(な、何で料理の練習してるか気付かれて無い、よね?……フゥ)」

 

スパイス・ガールの口汚い所を見て少し引き気味だったが、俺はすずかを宥める。

そうしてすずかがスタンドを解除すると、解放だれたイレインは少し驚きながらも、キッチンへと戻って行った。

しかし、イタリア料理か……どんな料理が出てくんだろーなぁ、楽しみだぜ。

俺とすずかも映画で見る様な長いテーブルの席、忍さんの向かい側に着いて直ぐ、キッチンから何とも良い香りが漂ってくる。

そして、再びキッチンから現れたイレインは自信満々の笑みで、手に大皿を持ってきた。

 

「ンン。今日の昼食のメインは、ビスマルクピッツァです。耳がもちもちしたナポリ風生地を使い、トッピングにトマトソース・モッツァレラチーズ・半熟卵・アスパラガス・ベーコン・ホウレン草・バジルソース・ケイジャンマジックを使ってます」

 

主である忍さんの前だからか、口調を正して料理の紹介をしてくれるイレイン。

焼きたてのピッツァの上に乗ってる半熟卵が何とも食欲をそそる一品だ。

ちなみにピッツァ・ビスマルクのビスマルクってのは、昔のドイツの宰相の名前からきてるらしい。

何でもそのビスマルクって宰相がかなりの美食家だったらしく、その人が絶賛したからだとかなんとか。

 

「そしてサラダ。イタリアはフィレンツェの郷土料理の一種、トスカーナ料理のアレンジで、ツナと豆の和え物を用意しました。付け合せにシンプルなスキアッチャティーナと一緒にお食べ下さい」

 

続いてノエルさんがテーブルにランチョンマットを敷き、その上にツナと豆の小鉢のサラダが置かれる。

更にその横に、盛られた3切れの小さな丸い小麦色の焼き物が置かれた。

何だ?スキアッチャなんちゃらって?

首を傾げて例のスキアッチャなんちゃらを見ていると、少し得意げな笑みを浮かべたイレインが俺に視線を送ってくる。

 

「スキアッチャティーナってのはパンの事だよ。日本じゃフォカッチャとも呼ばれている、表面にオリーブオイルと塩をまぶした薄型パンの一種で、パン屋じゃ通常、"ben cotta(ベン・コッタ=よく焼きタイプ)、と"molvida"(モールビダ=ふわふわタイプ)"の2種類があるんだ。イタリアの人達は特に焼き加減を真剣に吟味するとか、イタ飯屋の店長が言ってたぞ」

 

「へー」

 

詳しく、それも事細かに説明してくれたイレインの言葉に、俺は感嘆の声を漏らす。

焼き加減一つでもそんなに拘るのか……イタリア料理って奥が深いな。

続いてノエルさんがそのサラダの横、つまり俺達の正面に出してくれたのが、野菜の香りが濃厚に出てくるスープの入ったお皿だ。

 

「もうすぐ夏が近いので、ナスにパプリカ、ズッキーニとインゲン豆等を使った夏野菜のリフレッシュスープを用意しました。ゆっくりと味わって下さい」

 

「ありがとう、イレイン……じゃあ、食べましょうか?」

 

「そうっすね」

 

「うん。とっても美味しそう」

 

忍さんはイレインの締めの言葉にお礼を言うと、俺とすずかに笑顔でそう問いかけてきた。

それに二人で頷き、昼食を取り始める俺達。

俺はさっそく、ファリンさんが切り分けてくれたピッツァに手を伸ばし、豪快にかぶりつく。

柔らかさと少ししっとりサクッとした生地の上に乗せられたカリッカリのベーコンやアスパラガスの味が、何とも癖になりそうだ。

このオープンとかじゃ再現出来ない焼き加減……美味え。

とろりとした半熟卵を味わってから、用意されてたミネラルウォーターで口の中を洗い流す。

そこで顔を上げると、ニヤリとした挑発的な笑みを浮かべるイレインと目が合う。

俺はそんな顔するイレインに苦笑いしながら肩を竦めて口を開く。

 

「滅茶苦茶美味えよ。今日はサンキューな、イレイン」

 

「フ、フフン……アタシが作ったんだ。美味いのは当たり前だっての」

 

真っ直ぐに自分の気持ちを伝えると、イレインは少しキョトンとするが、直ぐにそっぽを向いてそんな事を言いやがる。

あんだよ、人が素直に感謝してるってのによ。

……この時、ピッツァを食べる為に下を向いていた俺には、小さくガッツポーズするイレインの姿が見えなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ふ~……美味かったなぁ」

 

「そうだね。私はピッツァのあのモチモチした耳が特に好きかな」

 

「あぁ。あの耳も美味しかった」

 

食後、俺とすずかは展望室では無く展望室から外のテラスに出て、まったりと過ごしていた。

天気が回復してゆったりとした晴れ間が出てきたから、外でのんびりしたくなったのさ。

テーブルに置かれた紅茶と、足元を気ままに歩いたり構ってと近づく猫達。

何とも緩やかに過ぎる時間の中、俺はすずかと一緒に備え付けられたベンチに座って会話をする。

 

「こうしてると……落ち着くね」

 

「ん……そうだな……平和ってのを噛み締めてる気分だ」

 

薄い紫色のワンピースに身を包み、静かに紅茶を飲むすずか。

それは何処か、世の中から身を引いた深窓の令嬢の様な雰囲気を感じさせられる。

まぁ本人はどっちかというとかなりの行動派だけど。

 

「……ねぇ……定明君」

 

「ん?何だ?」

 

「え、えっと……その……」

 

と、紅茶のカップを受け皿に置いたすずかは声を掛けてくるが、中々話し出さない。

何だと思って続きを待っていると、少し俯き気味になったすずかは手をモジモジさせながら小さく語り始めた。

 

「ま、また……良かったら、一緒に…………じ、乗馬に行かない?」

 

「乗馬?そりゃ別に構わねーけど……」

 

何で今このタイミング?

 

「そ、その。こういう暑くない日は、また馬に乗ってゆったり歩くのも良いんじゃないかなぁって思って……で、でも一人だと、ちょっと寂しい……から」

 

「あー、なるほど。まぁ一人でやってもなぁ」

 

「だ、だよね?こういう事に気軽に誘えて……い、一緒に居て楽しい人じゃないと、ね?」

 

「んー……そうだよなぁ」

 

少しまごつきながらも、自分の言いたい事を言うすずかの言葉に納得した。

確かに乗馬なんて一人でやっても寂しいモンだ。

せめて友達と一緒にじゃないと、何か虚しく感じちまう。

そういう誘いなら俺も別に嫌じゃ無いけど……ふむ……そうだ。

 

「どうせなら、今から乗るか?」

 

「え?」

 

お茶しよう、ぐらいの軽いノリで質問する俺にキョトンとするすずか。

俺はそんなすずかにちょっと待ってろと言って立ち上がり、テラスから階段を降りて庭の地面に立つ。

えーっと、確かこの紙だった様な……。

朧げな記憶を頼りにエニグマの紙を一枚開くと、中からパチンコの球を沢山入れたボトルが1本出てきた。

とりあえずその中から一発だけベアリング弾を出して、手に乗せる。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!!」

 

そして、手に乗せたベアリング弾にゴールド・エクスペリエンスの能力で生命を与え、一匹の生物を生み出す。

最初は小さくて何だか分からない生き物だったが、次第に形をはっきりさせ、やがてその生物は生長を完了する。

 

『ブルッ!!ブルルッ!!』

 

「よしよし……良い子だ」

 

「わぁ……ッ!?お、お馬さんが産まれたッ!?」

 

現れた一匹の子馬が鳴く姿を見て、すずかは目を輝かせて驚く。

庭に居た猫達はいきなり現れた馬に純粋に驚いてテラスの上に避難した。

生み出したのは原作でジャイロが乗っていたヴァルキリーと同じ品種のストックホース、その子馬だ。

バカげたスタミナを持ったこの馬なら、結構長い時間でも動いてくれるだろう。

更にこの前、偶然、ラッキーにも、偶々、廃品として捨てられた子供用の鞍と鐙、そして手綱を紙から取り出す。

廃棄される前にトラックから『偶然にも』転がり落ちたその乗馬セットはどれもボロボロだったが、クレイジーダイヤモンドで治してある。

いやー、良い『拾い物』をしたぜ。幸運ってあるもんだな。

少し前にあったラッキーイベントの事を思い返しながら、俺はせっせとミニヴァルキリーにそれらを取り付ける。

ちゃんと俺の意思を読み取ってくれるので、取り付けはとても簡単だった。

それらを取り付け終えて、俺は軽い動作で飛び乗り、すずかの元へ寄って行く。

 

「さ。生憎と鞍はこれしか無えから、俺の前に乗りな」

 

「えッ!?ま、前ってッ!?」

 

俺の言葉を聞いて目を見開いて驚くすずかに、俺は苦笑いするしか無かった。

 

「まぁ、ちょっと狭いけど、乗り心地はそんなに悪く無いぜ?どうしても嫌だったら交代で乗るか?」

 

「ッ!?だ、大丈夫だよッ!!うんッ!!寧ろ交代交代よりい、いい、一緒の方が良いかなッ!!」

 

「ん、そうか。じゃあ悪いけど、俺と一緒で我慢してくれ」

 

「う、うんッ!!全然大丈夫ですッ!!」

 

一応提案したけどすずかはブンブンと首を横に振って、俺の提案を却下した。

しかも顔を真っ赤に染めて逆に嬉しそうにしながら、傍に寄ってくる。

……やっぱり、俺ってすずか達に惚れられてんのか?

この反応ってどう見ても、この前見た相馬に対するテスタロッサの反応に似てる気がするんだけど……。

そんな俺の考え等お構い無しに、すずかは傍に寄って馬に跨ろうとするが、手が届かない。

 

「あう……そういえば、鐙には定明君が足を掛けちゃってるんだよね……」

 

そう、俺が鐙を使ってるから、すずかは足を掛ける場所が無いのだ。

これじゃ踏み台の補助でも無い限り、すずかはヴァルキリーに跨る事が出来ないが……。

 

「スパイス・ガールに持ち上げさせりゃ良いだろ?」

 

「あっ、そっか……じゃあ、スパイス・ガール。お願い」

 

『ハイ』

 

俺達スタンド使いなら、その問題も難なく解決。

スパイス・ガールに脇に手を入れて持ち上げさせたすずかは、スカートが捲れない様に裾を抑える。

そのまま横向きにヴァルキリーの背に乗ると、顔を赤くしながら俺の腰に手を回してくる。

 

「はうぅ……お……お願い……します」

 

「あ、あぁ……じゃあ、行くぞ?」

 

……考えない様にしよう。

少し自分を落ち着かせつつ、俺もすずかの腰の裏を回して手綱を取り、反対の手はすずかのお腹の前を通す。

そのまま鐙に乗せた足でポンとミニヴァルキリーの腹を蹴ると、ヴァルキリーはカッポカッポとゆっくり歩き出した。

良く晴れた天気、湿気も少ない晴れ間の休み。

広大な月村家の庭をゆったりとした速度で乗馬を楽しむ。

こんな贅沢はそう無いな。

 

「……ん~~♪……気持ち良い……♪」

 

さっきまでの緊張も解れて、すずかは目を細めながら空を見る。

ゆらゆらとヴァルキリーの動きに揺られる中で、晴れ渡った空を見ながらの散歩。

 

「ふぅ……のどかだな……」

 

「うん……静かで……風が、気持ちよくて……凄く、落ち着くね……」

 

俺達は空を見上げていた視線を戻して、お互いに笑いながらそんな事を言う。

小学生がやるにしちゃ、ちょっと年寄りくさいかもしれない。

けれど、俺達は確かに心地よくて、静かでゆったりとした休みの日を満喫出来たのは確かだ。

友達と一緒に食事して、静かに広い庭を歩く休日。

皆でワイワイやるのも良いけど、こんな風にゆったりのんびりした休みも大事だ。

テスタロッサ一家の事件以来、久しぶりに心行くまで休みの日というのを満喫出来たぜ。

そう感じながら、俺に微笑むすずかに笑顔を見せながら、馬の散歩を続けたのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「すずかー、ちょっと良いかし……あら?」

 

若くして月村家当主の立場にいる忍は、ノエルと共に展望室を訪れた。

今日は定明が遊びに来ているので自分から出向いたのだが、展望室には誰も居ない。

その奥の庭に設置されたテラスにも姿が無く、忍は首を傾げる。

 

「おかしいわね?部屋には居なかったし……(ガチャ)すずかー?」

 

不振に思ってテラスに続く扉を開いて声を掛けるも、テラスの近くからも人の気配は感じない。

しかしテーブルの上には空のカップが二つ置いてあったので、ここに居たのは間違いなさそうだ。

 

「お嬢様、あちらに」

 

「え?……馬?」

 

と、忍と同じく自分の主の姿を探していたノエルが、自らの視覚を拡大してすずかを探し当てた。

促されてその先を見た忍は、自分の家に居る筈も無い動物が歩いているのを見て目を丸くするが、定明の姿を確認して苦笑する。

恐らくあの馬も、定明の持つ未知のスタンド能力によるものだと自らを納得させて。

自分の理解の及ばない力を持つ少年が自らの領地に居るのは心配だが、寄り添う様に馬に乗っている妹の幸せそうな顔を見て、その心配も杞憂だと忍は思った。

どうやら向かう先は、月村家本邸から離れた広大な庭の方らしい。

ならば、邪魔するのは無粋でしかない。

 

「後にしましょうか。行きましょ、ノエル」

 

「よろしいのですか?」

 

「んー、まぁまだ二ヶ月も先の事だし、急ぎじゃ無いから良いでしょ」

 

従者に声を掛けて、忍はテラスを後にして屋敷の中に戻る。

元々すずかを探していた用事は対した事では無く、とあるパーティーに招待された事を伝えようと思っただけなのであった。

月村家は海鳴の大地主であると同時に、海鳴一の資産家でもある。

故に他の著名人や有名な会社からのパーティーへお呼ばれする事も珍しくは無い。

定明は知らない事だが、すずかも社交界やパーティーの経験はあるのだ。

日取りは二ヶ月先の夏休み真っ只中の事なので、焦る必要は全く無い。

 

「しっかし、こんなに大きなパーティーだと、アリサちゃんの所にも招待状は行ってるでしょうね」

 

「はい。アリサ様のご実家であるバニングス家も、世界で名を馳せた一流の企業ですから」

 

パーティの概要が書かれた招待状を見直しながら、言葉を零す忍にノエルは言葉を返す。

忍の手に握られた招待状の最後には、開催されるホテル会場の名前が書かれていた。

 

 

 

 

 

――開催場所。東京都杯戸町○○ー○杯戸(はいど)シティホテル――と。

 

 

 




分かった人は凄い(すっとぼけ)


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君は『引力』を信じ(ry



前の話でも言いました通り、アレはクロス先のヒントでしかありません。

そう、ヒントなのです(ドン!!)

つまり、直ぐにあのヒントの場所に行く訳では無いのです!!(・・?





 

「――は?」

 

爽やかな小鳥の囀りが窓越しに小さく聞こえる晴れやかな朝。

家族3人と一匹で昼食を囲むリビングで、俺こと城戸定明はすっとんきょうな声を上げてしまう。

そして俺がそんな声を上げた原因の人物は、珍しく困り顔で俺に視線を向けていた。

 

「だからね。お母さん、お父さんの出張に着いていかなくちゃいけなくなっちゃったのよ~」

 

「スマンな、定明。まさか急にこんな事になってしまうとは思わなくて……会社の出張で、二週間ほど海外に行かなくちゃならないんだ」

 

困り顔で俺に謝る父ちゃんと、ごめんね~と手を合わせてひたすら謝る母ちゃん。

そんな二人を見ながら、俺は飯を食べる手を止めてしまう。

……色々と言いたい事はあるんだが……。

 

「え?なに?俺は1人で留守番かよ?」

 

「うん~……ホントは連れて行きたいんだけど~……定明のパスポート、まだ作ってないから……」

 

「どうやっても、出発には間に合わないんだ。待つ訳にも中断する訳にもいかない」

 

「いや、それは父ちゃんの仕事だから分かるけど……マジかよ……」

 

昼食に出された素麺をツユに漬けたまま、俺は天を仰ぐ。

別に1人でも寂しい訳じゃ無えけど、飯が作れねえっての。

 

 

 

季節はセミの泣き喚く夏真っ盛り。

学生にだけ許された超大型連休、夏休みに入って何日かした日の朝。

 

 

 

俺は、両親を同時に失う事となった。

 

 

 

いや、別に死に別れって訳じゃねぇけども。

 

「別に行けないのは良いけどよ、飯はどうすりゃ良いんだ?俺、作れねえぞ?」

 

米を炊くぐらいなら問題無いけれど、料理なんて玉子焼きとか簡単なのしか無理だぞ?

呆れながら聞くと、母ちゃんはニッコリと微笑んで手をポンと合わせる。

え、なに?もしかしてパスポートの問題がクリア出来るアテがあるとか?

 

「だ~いじょうぶ♪二週間の間は、親戚の人の家に泊まらせてもらえるから~♪」

 

母ちゃんに期待した俺がマヌケだったようだ。

二週間も親戚とは言え知らない人の家に泊まれっつうのかよ……ハァ

っていうか母ちゃんの親戚なんて生まれてこの方会った覚えが無え。

まぁ赤ん坊の頃の記憶、というか自我が無かったから会ってても知る筈も無えんだがな。

……どうしようか?さすがにパスポート偽造は面倒だし、母ちゃん達が怪しむ。

それにバレたら母ちゃん達に迷惑が掛かるし……しゃあねぇ、素直に親戚の所に行こう。

俺は溜息を吐きながら、母ちゃんに視線を合わせる。

 

「わあったよ。母ちゃん達が居ない間は、その親戚の家に行ってる事にする。こっちは心配しないでくれ」

 

「そうか……ゴメンな、定明」

 

「ほんっと~にごめんねぇ、定明~。お土産いっぱい買ってくるから~」

 

「もう良いって。それより父ちゃんと母ちゃんも気を付けてくれよ?海外も危ねえんだからよぉ」

 

不安そうな顔で俺に謝る両親に苦笑いしながら、俺は二人にも同じ言葉を掛ける。

旅先でトラブルがあって帰らぬ結果となった。なんて冗談でもゴメンだ。

さて、とりあえず、暫くの間はリサリサ達とは遊ぶ予定をキャンセルしなきゃいけねえな。

夏休みに入ってからは毎日の様にリサリサ、アリサ、すずか、なのは、そして相馬と遊んでいる。

アリサも塾とかの忙しいのが一段落したらしく、かなりの頻度でお誘い(という名の強制)されて遊んだ。

今度、アリサの家の別荘に皆で遊びに行く計画も立ててるから、日程が被らなきゃ良いけど……。

アイツ怒ったら大分長いんだもんなぁ。

相馬もやっと怪我から復帰出来て、外で一緒に遊べるくらいには回復してた。

何の怪我については何も聞いてないから分からない。

凄い恨みがましい声で痺れがどうのとか言ってた気がするが、覚えてないのだ。

俺には関係無い、っていうか自業自得だしな。

 

「ちなみに、出発は何時なんだ?」

 

食べ掛けの素麺をズルズルと啜りながら母ちゃんに質問する。

何時準備したら良いか聞いておかねぇと。

すると母ちゃんは何故か妙に焦った顔で視線をあちらこちらに移動させ始めた。

 

「え~っと……え~~っとぉ…………明日……てへっ♡」

 

スパァアンッ!!

 

思わずポケット(エニグマの紙)から取り出したハリセンで母ちゃんの頭をシバいた俺は悪くない。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「つう訳で、明日から二週間の間は遊べなくなっちまった。悪いな」

 

今日も今日とて集合の約束をしていた俺は集合場所の翠屋に足を運び、集まってた面子に事情を説明。

最後に一言謝りながら、ジンジャエールを飲む。

 

「……えっと……あはは……」

 

「夏休み早々に災難ね、ジョジョ」

 

「……まぁ、今回は事情が事情だから、許してあげるわ」

 

「あぁ、悪いな」

 

「良いってば。さすがにそういう理由じゃ仕方無いわよ」

 

と、上から苦笑いのすずか。

そして不憫だという表情を浮かべるリサリサ。

珍しく同情的な視線を送ってくる、少々不満顔のアリサの順だ。

 

「でも、お父さんのお仕事じゃ仕方無いよね……はい、ご注文のシュークリーム、お待たせなの」

 

「そうだな……遊べないのは残念だけど、気を付けていけよ、定明?」

 

「おう、サンキューなのは。相馬もありがとよ」

 

そして、カウンターから注文したシュークリームを持ってきてくれたなのはと、心配してくれる相馬にお礼を言う。

なのはも俺の前にシュークリームを置くと相馬の隣に座る。

俺達の分だけは特別に取りに行ってくれた訳だ。

今日は午後から皆でなのはの部屋でテレビゲームをやるくらいの予定なので、のんびりと翠屋でお茶してる。

 

「それでアリサ。前に言ってた別荘に誘ってくれるって話。被りそうか?」

 

「あぁ、それは大丈夫よ。予定は8月のお盆前だし、充分に海で遊べる時期だから心配しなくても良いわ」

 

「良かったぜ、皆で遊ぶイベントは逃したくねぇからな……あっ、それとよ」

 

アリサの言葉に安心した処で、俺はポケットからあるモノを取り出す。

長方形の形で電子スクリーンの付いた機械、俺のスマートフォンである。

 

「あっ!?定明君も携帯買ったんだねッ!?」

 

「これって、この前発売したばっかりの最新機種なのッ!?わ~、良いなぁッ!!」

 

「あら。これで皆携帯持ちになったじゃない」

 

俺がスマホを取り出すと、皆ワイワイと騒ぎながらスマホを見るが、本題はそこじゃない。

 

「いや、さっき母ちゃんからポンと渡されたばっかで使い方が分かんねえんだ。ワリィんだけど、皆のアドレス入れてくれね?」

 

ズコッ!!

 

そう言うと、皆してハデにズッコケやがった。

一番に起き上がったリサリサが苦笑しながら口を開く。

 

「ジ、ジョジョ?せめて説明書くらいは読まないと駄目よ?」

 

「しゃーねーだろ。出かける時にいきなり渡された上に、説明書無くしたから探しておく、なんて言われたんだぜ?」

 

「それは……まぁ、仕方無い……かしら」

 

疲れた表情でそう言った俺に、リサリサは引き攣った笑みを浮かべる。

俺だって普通なら説明書読んでから使うっての。

でも、出掛けにいきなり渡された上に説明書無くしたのは俺じゃ無くて母ちゃんだぞ?

これで並以上に使いこなせなんて言われても無理だっつの。

しかもスマホって便利らしいが機能がごっちゃごっちゃあるって話だし。

その後は皆に使い方を教えて貰い、皆のアドレスを登録してから、翠屋を後にした。

ちゃんと士郎さん達にも挨拶はして、なのはの家でゲームをして遊んだ。

ジャンルはいっぱいあって、特にレースゲームは白熱したなぁ。

 

「ふっふっふ!!この高町なのはッ!!このゲームは特にやりこんでるのッ!!簡単には抜かせ――」

 

「俺の甲羅を喰らえッ!!」

 

「にゃあッ!?ここで赤甲羅なんてありえな――ッ!?」

 

「もいっぱぁあああっつッ!!!」

 

「に゛ゃーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

「あ、ちょッ!?誰よ橋の真ん中にバナナ置いたのッ!?」

 

「あら、ごめんなさい」

 

「アンタかリサリサッ!?待ってなさいッ!!この一定時間キノコターボで直ぐに追いついて――」

 

「サンダーッ!!」

 

「こるぁあ相馬ッ!!なんでアタシがキノコ使ってる時にサンダーすんのよッ!!」

 

「悪いけど、これは勝負なんだよ」

 

「お?バナナ連弾。ポイポイポイっと」

 

「にゃッ!?み、道を塞ぐ様に綺麗にバラまいてるッ!?こ、このテクニック……ッ!?定明君ッ!!このゲームやりこんでるねッ!?」

 

「答える必要は無い」

 

「「「定明(ジョジョ)となのはは少し自重しろ(して)ッ!!」」」

 

魔王亀を使ったなのはを赤甲羅で吹き飛ばし、道にバナナ置きまくったら怒られたが。

次にアリサと交代したすずかには緑の怪獣で突き放されたが、とても楽しかった。

やっぱりダチと遊ぶこの日常は楽しいぜ……早く戻りてぇな。

そんな感じでゲーム三昧の俺達だったが、楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、解散時間になる。

そして変える前に、俺が携帯を持った記念って事で皆と写った写真を撮り、全員で共有保存した。

こーいう何気ない日常の写真ってのは、こまめに撮ると思いでに残りやすいからな。

俺とリサリサは電車で来たが、帰りはアリサの家の車ですずかも一緒に送ってもらえる事になってた。

相馬は歩いて帰れる距離だからという理由で歩いて帰ってしまったけど。

……そういや何か気になる事言ってたな?何か、『待ち合わせに遅れなければ良いけど……』とか。

一体誰と待ち合わせてるんだ?……まぁ、多分親だろーな。

そう考えておこう、うん。

 

「すずかお嬢様。到着致しました」

 

「あっ、ありがとうございます。鮫島さん」

 

そうこう考えてる間にすずかの家に到着した様だ。

運転してくれた鮫島さんにお礼を言って、すずかはドアから外へ出ると、振り返って笑顔で手を振った。

 

「それじゃあね。アリサちゃん、リサリサちゃん。それと定明君、気を付けてね?」

 

「またね、すずか」

 

「今日は楽しかったわ。また誘ってね、すずか」

 

「ありがとよ。お前も怪我とか風邪に気を付けてな?」

 

「うんっ。皆、またね~」

 

車が走り出すまですずかは手を振り、やがて家の中へと戻って行った。

そして、車を出してくれたアリサは最後として、次は俺が降りる順番になる。

暫く適当に3人でお喋りしていると、俺の家へと到着した。

 

「じゃあね、定明……皆で旅行行くんだから、怪我とかするんじゃないわよ?」

 

「ふふっ。偶には電話してちょうだいね、ジョジョ」

 

「わあってるって。二人も気ぃ付けろよ?また時間が空いたら連絡するわ。んじゃーな」

 

見送ってくれた二人に手を振ってから鮫島さんにもお礼を言って、俺は家に入る。

そして暫くは夕食を作れないからと、かなり豪勢にしてくれた母ちゃんの夕飯に舌鼓を打った。

ちゃんとピストルズは出ない様に制御してたから面倒も起きなくて良かったぜ。

既に母ちゃん達の荷物は用意されていたので、俺も夕飯を食べて直ぐに荷物を用意する事に。

ココ・ジャンボの事が心配だったけど、近所の人が預かってくれるらしい。

それと何故か、持って行く着替えは数日分で良いらしい。

明日空港に行く前に配送業者に頼んでくれるとか。

まぁそんな感じで、俺も朝早くに新幹線に乗る事になるので早めに就寝……する振りをした。

ちょっとやる事があるからだ。

俺は夜中にベットから起き上がって、二人の寝室に忍び込む。

ソォ~っと中に入ると、父ちゃん達は寝息を立ててグッスリと寝てる。

 

「……シンデレラ」

 

小さく呟き、運勢を操作する事が可能なスタンド、シンデレラを呼び出す。

これで父ちゃん達の運勢を『不幸に近づかない』程度に固定する。

何でもかんでも強力な運勢にするには30分毎に口紅を塗ったりするという、能力を持続させる鍵の様な物が必要になってしまう。

だが、ある程度の小さい運勢固定なら問題は無い。

これで二人の海外での生活も問題無く過ごせるだろうよ。

……心配し過ぎかもしれねぇけど……大好きな家族だからな。

 

「……お休み。父ちゃん、母ちゃん」

 

二人にそっとお休みの挨拶をしてから、俺も本当に就寝した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

明けて次の日の昼過ぎ。

俺は出る前に母ちゃんから貰った地図片手に、東京都米花区米花町の駅。

その改札を出た広場に居た。

この町に母ちゃんの、というか俺の親戚が住んでるらしいんだが……。

 

「……」

 

貰った地図に目を落とす俺。

2,3本の道路が書いてあるだけの、超が付く程にアバウトな地図。

何か適当に四角い建物の部分に『コ・コ・♡』と書いてある。

住所はちゃんと書いてあるのに名前が無いとか、何この微妙な手抜き?

……帰ったらハリセンで100HITオラオラくらいはしなきゃな。

溜息を吐きながら地図を片手に脱力する。

どうやら俺は知らない町でこの地図片手に親戚を探さなきゃならねぇらしい。

何かの罰ゲームかよ。

 

「ハァ……しゃーねぇか……まぁとりあえず、まずは場所を確認しなきゃな」

 

俺はまず昨日貰ったばかりのスマホのマップナビを立ち上げて、目的地の住所を探す。

えっと……米花区米花町の……おっ、あったあった。

ここからだとちょっと離れてるけど……金使うのも勿体無えしなぁ。

一応自分の貯金がこの前より増えて9万くらいあるけど……あんまり使わねえ様にしねえといけねぇし。

面倒だが、暫く厄介になる街なんだ。少し歩いて見て回るとすっか。

ガヤガヤと騒がしい街中を歩き、住宅街の方へと向かう。

街中は結構発展してるし、ビル街ものどかな方だ……少し海鳴と似てる気がするな。

まぁ交通の量は米花町の方が圧倒的に多いけどよ。

 

「……しかし、米花町?何か聞き覚えがある町名なんだけどなぁ……なんだっけ?」

 

嫌な感じだな……この、喉に魚の小骨が引っ掛かった様な違和感。

う~ん……まぁそれを抜きにしても、これくらいのどかならゆったりと過ごせそうじゃ――。

 

「ひ、引ったくりよぉーッ!!誰か捕まえてーッ!!」

 

――ねぇな。

 

背後から聞こえた悲鳴に振り返ると、其処には原付きスクーターに二人乗りしてフルフェイス被った二人が、私服の女の人からバッグを奪って逃走するトコだった。

しかも後ろをコッチ見たままこっち向きの道路を走ってくる。

……何でこっちに来やがる……あーもー。

 

「へへっ!!頂き――」

 

ズギュウゥンッ!!ガシッ!!

 

「だぜ?――え?」

 

さすがに見過ごすのもアレなので、スタープラチナの腕で傍を通り抜けようとした原付きの前輪を掴んだ。

これにより発生した慣性の法則に従って、ひったくり犯達の体は前輪を支点に180度回転し――。

 

「「(ガシャアアッ!!)ごはぁッ!?」」

 

そのまま地面に顔面から突っ込む結果となった。

片方はバイザーブッ壊れて目の辺りが見えてるけど、まぁフルフェイスしてるから死にはしねぇだろ。

地面に倒れて呻くひったくり犯達を尻目に、俺は素知らぬ顔で歩道を歩いて通り過ぎる。

それに背後から複数の足音が聞こえるし、後は他の人達が何とか――。

 

「この盗人めッ!!」

 

「ハ、あぐ……ッ!?くそッ!!(バッ!!)」

 

「ん?おわッ!?」

 

何故か後ろから聞こえた声に反応したひったくりが、俺の首に腕を回して持ち上げてきやがった。

くそ、巻き込まれるとかマジかよ。

 

「く、来るんじゃねぇッ!!このガキがどうなっても良いのかコラァッ!?」

 

「ッ!?」

 

「しまったッ!?」

 

持ち上げられたかと思えばいきなりひったくりは振り返り、俺の視界も反対向きにされる。

その先には、さっきのバッグを取られた茶髪のボブカットヘアにカチューシャの女の人と、他に二人居る。

黒髪のフワフワしたヘアースタイルの……ボーイッシュな女の人と、ストレートロングで天然ウェーブがかっているピンと跳ねた前髪の女の人の3人だ。

他の人達は「何だ何だ?」とガヤガヤと騒いでいたが――。

 

「(シュピッ!!)オラァッ!!それ以上近づくと、このガキの顔刺すぞッ!?」

 

「ッ!?……痛って……」

 

ひったくりがナイフを取り出して俺の頬に当てた瞬間、野次馬が悲鳴をあげて後ろに下がった。

っていうかチョッピリ刺さってるじゃねぇかボケ。

目の前の茶髪のボブカットの女の人も悲鳴を上げ、他の二人は悔しそうな表情でジリジリと下がっていく。

……着いてそれ程しねー内に何でこんな目に合わなきゃいけねーんだ。

 

「へへっ!!動くんじゃねぇぞッ!?おいッ!!早くバイクを起こせッ!!逃げるんだよッ!!」

 

「い、痛てて……あ、あぁ」

 

と、俺を抱えた男がもう一人のコケた仲間に呼び掛ける。

どうやら逃げる準備をしようとしてるらしいが……俺が大人しくしてると思ってんのか?

俺は下向きに下げていた手を、腰のホルスターにさり気なく寄せる。

前に忍さんに頼んだオーダーメイドのベルトとバックルだ。

丈夫な革製のベルトで、鉄球を入れるホルスターを付けても曲がらない固さを誇る。

そのホルスターに入れていた鉄球を一発取り出して、手の平で回転させる。

俺が何かをしようとしてるが分かったのか、目の前の3人が焦った表情で首を小さく横に振った。

危ないから止めろってか?……スタンドは大っぴらに使えないが、俺はそれだけじゃねぇんだよ。

 

「ん?おいガキッ!!テメェ何しようとしてん――」

 

やがて鉄球の回転の音に気付いたひったくりが声をあげようとしたタイミングで――。

 

「よっと(シュバッ!!)」

 

バギョオッ!!!

 

手首のスナップだけで鉄球を投擲し、ひったくりのバイザーが壊れた隙間を狙って叩き込んだ。

 

「(メキィ)……ぷっ……かっ……」

 

何かを潰す鈍い音と、目の前の女の人達が驚いた表情を浮かべるのを見ながら、俺はナイフを叩き落として戒めから脱出する。

ったく、面倒くせー事しやがって。

溜息を吐きながら振り返ると、俺を捕まえていた男のバイザーの隙間でギュルギュルと回転する鉄球を発見。

その鉄球の回転の隙間から血を吹き出しつつ、ゆっくりと後ろ向きに倒れるひったくりその1。

 

「なっ……なぁ……ッ!?」

 

そして立ち上がった体勢で原付きを途中まで起こしたひったくりがビビった様な声を出す。

しかも俺がその声に反応して振り返ると、ハッとした様に慌てて原付きを完全に起こした。

野郎、逃げようってのか?そうは問屋が――。

 

「ひ、ひぅッ!?――」

 

「シッ!!」ドギュウゥッ!!

 

卸さねぇよ、ボケッ!!

原付きを完全に起こした引ったくりが飛び乗る様に原付きに跨がろうとしてる所に、2つ目の鉄球を投擲。

それは、飛び乗ろうとしたひったくりと原付きのシートの間に入り――。

 

ギャルルルルルルルッ!!!

 

「ッ――ッ――ッ!!?」

 

飛び乗ろうとしたひったくりの股とシートの間に挟まり、激しい回転を巻き起こす。

ハンドルを握ったままの体勢で真上を向いてビクンビクンと激しく痙攣するひったくり。

しかもヘルメットの下の隙間からブクブクと泡吹いてやがる。

っておいおい、まさかこのままじゃ失禁すんじゃねぇのか?ヤバイ、俺の鉄球が汚れるッ!!

 

「コオォ……ッ何時迄も人様のモンに跨ってんじゃねぇッ!!(バキャアッ!!)」

 

波紋の呼吸を整えて少しだけ身体強化を施し、飛び上がった勢いのままにヘルメットの顎部分を蹴り飛ばす。

その勢いに従って、ひったくりの体は歩道にブッ倒れる。

どうにか鉄球が汚え黄金水で汚れるのが阻止できたのを確認して、波紋の呼吸を止める。

そして回転が弱まった鉄球がひったくりその1の顔と、原付きのシートの上から飛んで戻ってきたのをキャッチしてホルスターに収めた。

フゥ、少しはスカッとしたぜ。

コキコキと首を回してから地面に落としたバッグを拾って担ぎ直す。

と、目の前に女物の白いバッグが転がってるのを発見。騒動の元はこれかよ。

 

「よっと……これっすか?」

 

「へ?…………あ、あぁ。うん」

 

「ほい。どうぞっと」

 

俺は拾い上げたバッグを持ち主だと思わしき茶髪の彼女に投げて渡す。

ポケッとしていたが、それを慌てながらも女の人が受け取ったのを確認して、俺はサッとその場を離れる。

 

「あっ!?ちょっと君ッ!!待ってッ!!」

 

「ッ!?追い掛けようッ!!」

 

おかしい、何故追っ掛けようって話になるんだろうか?

アレか?逃げる者を見ると追い掛けたくなるって習性か?獣じゃあるまいに。

チラッと後ろを見ると、黒髪の二人がかなりの速度で追い縋ってくるではないか。

どうやら身体能力はかなり高いらしい。

ちっ、面倒事に巻き込まれるのは金輪際ごめんだぜ。

しょうがなしに、俺はまた体を強化して全速力を叩き出す。

 

「は、速ッ!?あの子結構大きい荷物持ってるよねッ!?」

 

「チッ!!バイクだったら直ぐ追いつくのに……ッ!!」

 

「ハァハァ……ッ!?ま、待ってよ二人共ーッ!!」

 

お?あの茶髪さんはそこまで運動出来る訳じゃ無いらしいな。

これはチャンスとばかりに更にスピードを上げて、俺は住宅街の細道を通って彼女達を撒いた。

 

「フゥ……やっと撒いたか」

 

もう追ってこないのを確認してから、俺は裏道から表通りへとゆっくり向かう。

今日中に親戚の家を探さなきゃならねぇのに、あれで警察に事情聴取とかで捕まっちゃ面倒だ。

まぁポークバイ帽子を目深く被ってたし、顔まではバレてねぇだろ。

俺はあのひったくりに巻き込まれただけだし、後はあの人達に任せ――。

 

「居たぁッ!!」

 

「は?」

 

「おっ!?やっぱ予想通りこの道に来たかッ!!」

 

表通りの見える所まで歩いたら、さっきの黒髪の女の人2人が、道を塞ぐ様に現れた。

え?まさかここに出ようとしたのがバレてたのか?

くそ面倒くせえぞこの展開。

これ以上道草食うのも嫌だし……ちと本気出して……。

 

「さぁ、もう逃がさないよ?大人しく話をしよう。な?」

 

「別に怒ってるわけじゃ無いんだよ?ただ、巻き込んじゃったお詫びを――」

 

ダンッ!!

 

「「ッ!?」」

 

まずは塀に足を掛けてジャンプして――ッ!!

 

「はっ!!ほっと!!」

 

反対のアパートの柵を蹴り飛ばし――。

 

「嘘だろッ!?」

 

「と、飛んだ……ッ!?」

 

反対の家の屋根に飛び移るッ!!

下で驚いてる声を無視して、次の家の屋根に飛び移る助走を――。

 

「ッ!?あっちだッ!!」

 

「あっ!?う、うんッ!!」

 

付ける振りをして、声とは反対側へと走る。

そのまま静かに道路へと降りて、二人の姿が見えなくなったらそのまま目的の場所を目指してひた走った。

頼むからこれ以上俺を面倒事に巻き込まないでくれよ、マジで。

ある程度走った所でスピードを緩め、俺はビル街の中へと姿を消す。

……拝啓、外国に居るであろう母ちゃん殿……俺、この街で二週間もやってく自信が無いです。

これから暫くの生活を予想して溜息が自然と漏れてしまう俺であった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「さて、ここらが米花町五丁目か……」

 

あれから30分程して、俺はやっと目的の場所へと辿り着いた。

いや、まぁその辺りの店とか商店街を見て回ってたから遅くなったのは自業自得なんだけどな。

兎に角目的の住所まではこれたんだが、ここからはも一つ面倒な探索作業になる。

番地までは書いてあったっていうのに……。

 

「何でビルの場所はこのいい加減な地図を頼りにしなくちゃいけねえんだか……やってらんねぇぜ」

 

そう、住所以外の手掛かりは母ちゃんが書いた手抜き地図だけなのだ。

母ちゃんの地図には大まかな道路は書いてあるけど、ビルは目的の場所以外は書いてない。

しかし周りはビル街で判別が付け難い。

だから後はこの地図を頼りに探すしか無いって事。

はぁ~面倒くせ……ペイズリーパークの能力でも使うか?

でもここまで来たら直ぐ近くの筈なんだがなぁ。

 

「「「あーーーーーーーッ!!?」」」

 

……この街は呪われてるんじゃねーのか?こんな短い間隔で人の叫び声は聞こえねぇだろ普通。

またどっかで揉め事でも起きてん――。

 

ガシッ!!

 

「……はい?」

 

何事かと考えていた俺の体に巻き付く誰かの腕。

……俺はまた厄介事に巻き込まれなくちゃいけねえのか?

ってか誰だ?重てーんだけど。

腕の拘束自体はちょっとキツめで、簡単には外れなさそうだ。

まぁ回転の技術を使えば簡単なんだけどな。

 

「やっと捕まえたよッ!!もう逃がさないからなッ!!」

 

と、混乱する俺の頭上、というか結構近い場所から聞こえた甲高い声。

あれ?この声ってまさか?

 

「……あっ。さっきのおねーさんスか?」

 

振り返って見上げてみると、何故か驚いた表情で俺を見下ろすボーイッシュなお姉さんのアップ顔が。

ってか何故驚く?驚きたいのはこっちなんだが?

更に視線を横にズラすと、同じく驚いた表情のお姉さんが二人居る。

何だよこの偶然?

 

「ビックリしたよ。あの後、屋根に登った君が降りてくるのを待ってたのに全然降りてこないから……それより、良く僕が女の子だって分かったね?」

 

「は?」

 

「いや、僕って私服だと、良く男の子に間違えられるからさ。一発で女の子だって見抜ける人はそう居なくてね」

 

何故か自分で自虐的な事を言ってカラカラと笑うお姉さん。

いや、自分で言う事じゃ無いだろ?

確かにズボンを履いてる上に……まぁその……女性の象徴がなだらかな所為で、一見男にしか見えない。

俺が見抜けた理由だって、女性ホルモンの匂いが強かったからっていう裏ワザな理由なんだけどな?

ハイウェイスターの副作用で匂いに鋭くなってたから分かっただけだ。

そんな事を考えてると、茶髪にボブカットのお姉さんがニカッと笑いながらグシグシとポークバイ帽の上から俺の頭を撫でてきた。

 

「まぁ兎に角、さっきはありがとうね坊主。私のバッグを取り返してくれて」

 

いや、取り返したっつうか……。

 

「……俺は巻き込まれただけっすから」

 

「あっ、そうそう。ごめんね、あんな危ない事に巻き込んじゃって……怪我は無い?」

 

俺が茶髪のお姉さんに答えると、黒髪のロングヘアーのお姉さんがしゃがんで俺の頬に手を添えてくる。

それで邪魔になると思ったのか、ボーイッシュなお姉さんが俺から離れて場所を開けた。

まぁ、あんな風にナイフを近づけられたんだから怪我してると思うのは普通だろう。

実際は大した怪我はしてねぇけど。

 

「特に怪我は無いッスから気にしねーで下さい。それより俺ちょっと、いやかなり急いでますんで。んじゃこれで」

 

まだ日は落ちてねぇけど、早めに家を見つけて体を休ませておきたい。

早起きしたんだから眠いんだよなぁ。

しかし動き出そうとした俺の肩を、また別の手がギュッと握ってきて動きが取れない。

振り返ると、またボーイッシュなお姉さんがニッコリ笑って俺の肩を掴んでいやがりました。

 

「まぁ待ちなって。この狭い日本、そんなに急いで何処行くのさ?」

 

「何か急ぎの用事でもあんの?」

 

俺を掴むお姉さんと茶髪のお姉さんは交互に質問してくる。

……あれ?何で俺、捕まらなきゃいけねえんだ?

溜息を吐きたくなるが初対面の相手の前でそれもどうかと思い、溜息を押し殺して、俺は3人に向き直る。

 

「今日中にあるビルを探さねーと、今晩宿無しになっちまうんスよ」

 

「え?宿無しって……」

 

「あー……実は……」

 

とにかく納得してもらって離してもらう為に、俺は自分の事情を話した。

海鳴市から初めてこの街に来た事、両親が海外出張に出てしまった事。

そしてこの街に居るであろう親戚の家を探してた事。

母ちゃんから貰った地図がいい加減で困ってしまった事などを。

 

「なるほど……それで、とりあえず地図に書いてあった米花町五丁目に来て、これからそのビルを探す所だったと」

 

「まぁそういう事っす」

 

「へぇー。小さいのに偉いじゃん、坊主」

 

「うん。コナン君とそんなに変わらないくらいなのにね。何歳かな?」

 

「9歳ッスけど?」

 

しゃがんで目線を合わせながら質問してくるお姉さん達に答えていく。

っていうか『コナン君』って誰のこ、と?……あ、あれ?

 

 

 

ち、ちょっと待て?『コナン』?……何か聞き覚えが……っていうか、目の前の人達って――。

 

 

 

「よし。これも何かの縁だ、僕も一緒に探してあげるよ。ちょっとその地図を見せてくれ」

 

さっきのお姉さんの言葉が引っ掛かって嫌な汗をダラダラと流していると、ボーイッシュなお姉さんが笑顔で手を差し出してくる。

あぁ、段々と思い出してきた……『米花町』『コナン』それと目の前のどっか見覚えのある『女子高生』。

これってつまり――。

 

「あっ、ゴメンゴメン。自己紹介してなかったね?僕の名前は『世良真純』。一応、『探偵』かな」

 

「何言ってんのよ。世良さんはれっきとした『名探偵』じゃないッ!!それと坊主、あたしは『鈴木園子』よ。よく覚えておきなさい」

 

「もうっ園子ってば……私は『毛利蘭』っていうの。よろしくね」

 

八重歯を見せて笑う世良さん。

腰に手を当てて上から目線で尊大に構える鈴木さん。

そして見下ろしながらも笑顔で挨拶してくれた毛利さん。

そんな3人に視線を向けられて名前を名乗るのを待たれてる俺。

 

 

 

――良し。

 

 

 

――逃げよう。

 

 

 

「ッ!!(ダッ!!)」

 

「え?……あっ!?」

 

「逃げたッ!?待てぇええいいッ!!」

 

「えぇええッ!?ま、また走んのーーーッ!?」

 

背後に向かって猛ダッシュした俺に、背中から追い掛ける足音と声が聞こえてくる。

だが、俺はそんなの関係無いとばかりにひたすら走った。

ヤバイヤバイヤバイッ!?ここって完璧に『名探偵コナン』の世界観じゃねぇかッ!!

何で『米花町』って書かれてる時点で気付かなかったんだッ!?

……いや、前世でもあんまり詳しく知らなかったし、地名も殆ど覚えてなかったのはそうだけど。

大体世良なんて探偵居たか?コナンなんて全然覚えてねぇよ。

でも、一個だけ言えるし確実な事がある。

 

――あの人達と関わりを持ったら、絶対に殺人事件に巻き込まれる。

 

これだけは間違いねえ。そしてそんな面倒の極みは絶対に避けるべきだ。

背後から聞こえる声を無視しつつ、俺は曲がり角を曲がる。

仕方無え、親戚探しは後にしよう。

今はとにかく背後から忍び寄る死神の関係者から身を隠さねぇと。

 

「ん?なんだぁ、あいつ?」

 

「随分急いでますね?……もしかして、何かの事件でしょうかッ!?」

 

「何かあったのかな?」

 

と、曲がり角を曲がったその道の先に、何やら見覚えのある集団が居た。

そばかすの賢そうな子とおにぎり頭の大柄な子、そしておかっぱ頭にカチューシャを着けた女の子。

胸に付けたアルファベットのDとBを模したバッジ……少年探偵団じゃねぇっすか。

 

「……?(小学生?……にしては、走るのが速過ぎるわ……一体?)」

 

更に奥には俺を見て不思議そうに首を傾げるクールっぽい女の子。

そして――。

 

「(ん?蘭?それに世良も?……あの子供を追いかけてるのか?)……おーいッ!!蘭ねぇちゃーーんッ!!どうしたのーーッ!?」

 

『見た目は子供、頭脳は大人』『口癖はバーロー』『必ず事件に遭遇する死神体質』とまで言われる『平成のホームズ』。

『東の高校生探偵』と言われた『工藤新一』が謎の組織に飲まされた薬で小学生になってしまった姿。

年齢詐称で有名な、あの『江戸川コナン』が俺の背後から追ってくる毛利さんに俺を挟んで声を掛けてる。

oh……等々本人ともエンカウントしちまった……っていうかこれって、まさか――。

 

「ハァッハァッ!!コ、コナン君ッ!!その子捕まえてーーーーッ!!」

 

「ハッハァッハァッ!!か、彼は事件の重要参考人だーーーッ!!」

 

「ちょっ!?世良さんッ!?良いのそれッ!?」

 

「ハァッハァッ!!う、嘘は言ってないだろ?」

 

やっぱり挟み撃ちですか、チクショウ。

事件の重要参考人、という言葉を聞いて江戸川の眼鏡の奥がキラッと光る。

……あながち間違いじゃねぇから否定し辛ぇんだよなぁ。

更に奥のクールそうな女の子……工藤新一が小さくなった薬、アポトキシン4869を作った張本人。

元は黒尽くめの組織で『シェリー』というコードネームで呼ばれていた、18歳の天才科学者。

本名『宮野志保』改め『灰原哀』以外の子供達まで顔に気合を入れる始末。

……まさか既に、俺はあの死神野郎に魅入られてたんじゃねーだろーな?

ちくしょう、人の死体なんて見たくもねぇってのに……とにかく、捕まって堪るか。

 

「おいッ!!止まれッ!!」

 

毛利さんと世良さんの言葉を受けて、江戸川は声を張り上げて俺に停止を呼び掛ける。

さすがに向こうからすれば年下の小学生にボールを飛ばす事はしない様だ。

まぁ身体能力の点で、俺は普通の小学生と変わらないと踏んでる筈。

まさか俺が人を超える為の技術を持ってるなんて、幾ら名探偵でも予想も付かないだろうよ。

なら、その侮ってる隙こそチャンスッ!!

 

「気を付けろッ!!その子、かなり素早いッ!!加減したらあっという間に抜かれちゃうよッ!!」

 

おーいそういう事言うんじゃねーよ。、世良さんとやら。

そんな事言ったらアンタ――。

 

「ッ!?……面白れぇ……ッ!!オメーら下がってろッ!!」

 

ってなるだろーがよ。好奇心の塊みてーなあのバーローさんなら。

走って向かう俺の前に立ちはだかる江戸川。

その瞳は挑戦する心意気に染まっていた。

頼むからこれ以上俺を運動させないで貰えませんかね?

そう思いつつ走っていると、江戸川は体勢をグッと屈めて――。

 

「ッ!!」

 

自慢の脚力を生かして俺の前に躍り出た。

飛び掛かる様に広げられた両手が、俺を掴もうと向かってくる。

――簡単に捕まる訳にゃいかねぇんだよ。特に死神って言われてるアンタにはな。

 

「よっ!!」

 

「ッ!?」

 

俺は飛び掛かる江戸川の下を縫う様にスライディングして抜け――。

 

「どりゃあッ!!」

 

「逃がしませんよぉッ!!」

 

「ほいさッ!!」

 

しゃがんだ体勢から波紋で強化された脚力を生かして一気に飛び上がり、少年探偵団の円谷と小島の頭を飛び越える。

女子の向田歩美ちゃんと灰原は飛び上がった俺を見て驚愕した表情を浮かべている。

まぁしゃがんだ体勢から二人の頭上を余裕で超えるジャンプは、さすがに驚くか。

 

「うわぁッ!?マジかよッ!?」

 

「と、と、と、飛んで逃げられましたぁッ!?」

 

「いや飛んでねぇから」

 

それじゃまるで俺が飛行して逃げたみたいな言い方だからな?

頭上を飛び越えながらも円谷の発言にツッコミを入れて、俺は着地してから一気に走りだす。

これじゃ落ち着いて親戚の家を探すなんて無理だ。

どうにかして隠れられる場所を探さねぇと。

頭の中でプランを立てつつ背後を見ると、追いかけて来る女子高生×2と少年探偵団のメンバー。

……いい加減諦めてくれねぇかなぁ?

そりゃ、いきなり走って逃げた俺にも非はあるとは思うけど……。

傍に居るだけで事件に巻き込まれると言われる存在の傍には居たくねぇって。

……良し、次の曲がり角を曲がって――。

 

『お、おいコナンッ!!逃げられちまったぞッ!?』

 

『ハァ、ハァ……み、見失っちゃいましたぁ……』

 

『ッ!?馬鹿な……ッ!?俺達と距離が離れて、まだ10秒も経ってねぇぞッ!?』

 

俺が小さな公園へと足を踏み入れたのを追ってきた探偵団と世良さん、そして毛利さん。

彼等は皆揃って驚いた顔で辺りを見回している。

……早く帰れって。

実際には、俺は彼等の眼と鼻の先に居るんだが、スタンドを使って姿を隠してる。

磁力を操るスタンド、メタリカの能力を使ってだ。

そのメタリカの磁力で、砂の中に含まれた鉄分を操って体中に纏い、保護色の様にして隠れてる。

ここでジッとしてる限り、見つかることは無いだろう。

 

『ど、どっかその辺に隠れてんじゃねぇのかッ!?』

 

『元太君の言う通りですよッ!!きっと遊具とかトイレの中に……』

 

『それは無いわ。今、女子トイレの中を見てきたけど、中には誰も居なかったし』

 

常識的にそんなトコに入る訳無えだろうが。

公園の真ん中で騒ぐ小島と円谷に言う灰原をジト目で睨む。

と、男子トイレに入った江戸川も出て来て渋い顔をした。

 

『コッチも居ねえ。窓も無いから入った俺の目を盗んで出る事は出来ねえし、そうならお前等が見てる筈だ』

 

『ゆ、遊具も見てきたけど、何処にも隠れて無かったよ?』

 

『……可能性としては、塀を飛び越えたって線もあるけど……』

 

江戸川達が俺の存在を公園から発見できずにいる中、俺の身体能力を垣間見た世良さんは俺がまた塀を飛び越えたんじゃないかと考える。

 

『ち、ちょっと待って下さい。飛び越えるって、ここは両端が高いビルに挟まれていて、唯一開けてる塀の向こうは川ですよ?』

 

『あっ、そっか。世良のお姉ちゃんの言う通りなら、泳ぐ音がしてる筈だよね?』

 

と、この辺りの地理に詳しい探偵団のメンバーが世良さんの推理を否定する。

まぁ確かにそれぐらいしかこの場所から姿を隠す方法は無いだろう。

俺みたいにスタンド能力なんて反則がある人間でも無い限りは。

あーでも無いこーでも無いと真剣な表情で考える探偵団と世良さん達。

しかしその中で、毛利さんだけが青い顔をして震えているではないか。

 

『も、もしかしてさっきの子、幽霊だったんじゃ……ッ!?』

 

『え?』

 

これにはさすがに予想外だったのか、世良さんは少し驚きながら毛利さんに向き直り、江戸川は「オイオイ……」みたいな呆れ顔を浮かべる。

でも、そんな呆れとかの視線を意図にせず、毛利さんは震えながら言葉を紡ぐ。

 

『……だっておかしいじゃないッ!?いきなり煙みたいに消えちゃったんだよッ!?そ、それに見た目はコナン君達と近いぐらいの子だったのに、壁を蹴って飛んで屋根に昇ったりとかしてたでしょッ!?』

 

『ま、まぁ確かに、大体130後半ぐらいの背格好であんな動きが出来たのは驚いたけど……』

 

『そ、それに良く考えたら、あのボールもおかしいと思う』

 

『??ボールってなに?蘭ねーちゃん?』

 

と、顎に手を当てながらさっきのひったくり事件の事を思い出す毛利さんに、江戸川が如何にも子供っぽい撫で声で話しかけた。

……改めて、リアルにこういうシーンを見ると……本来は同い年の男が女の人にこんな猫なで声を出すって……なんだかなぁ。

本人からしたら頑張って子供っぽく演技してるんだろうけど……何時かこっちのキャラが素になるんじゃね?

どうにも何とも言えないムズ痒さを覚える俺に構わず、世良さんと毛利さんは事件の事を探偵団に話していた。

 

『それで、ひったくりを倒したら、回ってたボールが勝手にあの子の手の中に飛んで戻ってきたの。まるで……』

 

『まるでボール自身に意思がある様に、だったね。アレは』

 

『う、うん』

 

『ホントかよそれ~?』

 

『幾ら何でも、ちょっと……』

 

『大の大人を蹴り飛ばす。塀を壁蹴りして家の屋根に飛ぶ。妙なボールを投げて大人を気絶させ、そのボールは跳ねる様にあの少年の手に戻った……俄かには信じ難いわね』

 

最後に灰原が締めた通り、俺がやった事は普通なら信じられない事のオンパレードだろう。

でも、海鳴市だったらそんなに騒がれなかったんだけどなぁ。

近所のおじさんとかおばさん連中も凄いと褒めてくれた事はあったが。

……あれ?ひょっとして海鳴市民の感覚が普通じゃないとか?……まさかな?

 

『それと、あのひったくり犯の顔にめり込んだ時の鈍い音から察するに、あのボールは多分鉄で出来てるんだ。そんな鉄球を軽々と、それこそ意のままに操るなんて……確かに、あれは普通じゃない』

 

と、やべーやべー。そろそろお暇するとしますか。

考えるのを一時中断して、俺はメタリカを使ったまま静かに彼等から離れる。

やがて彼等の居る公園からかなり離れた場所でメタリカを解除し、俺は普通に歩き始めた。

やれやれ……こりゃ本気でスタンド使った方が良さそうだぜ……よし。

 

「ペイズリーパーク」

 

俺の呼び出しに応じて現れたスタンド、『ペイズリーパーク』。

全身に地図をボディペイントした女性のような姿で、元々の本体である広瀬康穂と同じ髪型をしている。

自分や他人を行くべき方向や場所に導く能力を持っており、その能力はケータイのナビ機能やネットの地図、第三者の知覚に干渉する等して発現する。

ただし、最短ではなく最『善』、しかも刹那的なもののため、コロコロと指示が変わったり、「3回連続で右折させる」「上方向に進ませる」などといった珍妙な指示をされたりすることもしばしば。

それでも逆らわない方がいいだろう。それが最善なのだから。

まぁ簡単に説明すると、今求める場所(物、人)をいろんな形でナビしてくれる能力って事だ。

例えば初恋の人に会いたいとか落とした財布の場所にケータイなどでナビしてくれる。

勿論ケータイ以外にも砂の上に地図で案内してくれたりする。しかも音声機能付き 。

 

「さあて、上手く誘導頼むぜ?出来ればあのバーローと愉快な仲間達に会わないルートでな」

 

『――コノ先、十字路ヲ右折シテクダサイ』

 

「あいあい。従いますよっと」

 

俺の『この町に居る親戚の家に行きたい』という求めを、ペイズリーパークはスマホにマップを表示して音声案内を始める。

さぁさぁ。早いトコ親戚の家に駆け込んで、出来るだけ関わらない様にしとこうか。

上手く追跡を撒く事が出来た俺は意気揚々とナビゲーションに従って、米花町のビル街を歩くのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『目的地ニ到着デス。オ疲レ様デシタ』

 

「」ドシャッ。

 

あれから特にトラブルも無く、ペイズリーパークのナビに従って歩いた俺は直ぐに目的地に到着した。

しかし……しかし、だ……余りにも、予想外過ぎて……訳が分からなかった。

そのショックのでかさで、持っていたバッグを歩道に落としてしまう。

 

「……ありえねぇだろ……」

 

呆然と呟く俺の目前に聳え立つ3階建てのビル。

ペイズリーパークのナビ画面が示す到着地点はここの『2階』。

そして外から見た2階の階層、道路に面した部分に取り付けられた窓には、デカデカとこう書かれている。

 

 

 

『毛利探偵事務所』――と。

 

 

 

――いや。

 

 

 

いやいやいやいやいや。

 

 

 

ちょっと待てや。

 

 

 

え?何これ?ここが俺の親戚……ひいては母ちゃんの親戚の家ッ!?

そんなバカな事があって堪るかッ!!

何が悲しくて死神さん達と一つ屋根の下で暮らさなくちゃならねぇんだよッ!!

予想外にも程があるわボケッ!!

ハァ、ハァ……よ、良し、一端待とう。そして落ち着こう。

まずは深呼吸をして……スゥ……ハァ……スゥ……ハァ……OK。

とにかく、考えたくはねえけど……ペイズリーパークの案内で辿り着いたって事は、まず間違い無い。

 

俺の親戚は、あの探偵の毛利小五郎。つまり叔父って事になる。

 

そしてここに住む事になる以上、俺は家で大人しくしていたとしても、突発的に事件に巻き込まれる事になるのは必定。

この運命から逃れるには、海鳴へ帰るしか無い。

でも、もし母ちゃんが俺が元気にしてるかの確認の為に、叔父の所へ電話したりしたら……あの母ちゃんの事だ、散々騒いで警察に捜索願いを出すだろう。

それで俺が自分の家に居るなんてしれたら、母ちゃんが大恥を掻いてしまう。

父ちゃんだって同じだろう、下手したら会社の出張をすっぽかして帰ってきちまうかも……駄目だ。

どう考えても俺が毛利探偵事務所に行ってお世話になる以外の選択肢は掴めない。

……つまりこの家に居るだけで、俺は面倒事と縁が切れない訳だ……ハァ。

 

「マジかよ……ついてねぇなぁ……」

 

自分の境遇の不運を嘆くが、今はこんな事をしてる場合じゃない。

まずは――。

 

「……仕方ねぇか……『天国の扉(へブンズ・ドアー)』」

 

何時もの様にヘブンズ・ドアーを呼び出すが、今回は自分に向かって能力を使用する。

自分自身に書き込む命令は、『死体を見ても怯えない。吐き気を催さない』という、冷静さを保つ為の対策命令。

……本当はこんな命令を書き込むまでも無く、事件には巻き込まれたくねぇんだがな。

とは言え、もう後戻りも出来ない状況になってる事は確かだ。

俺は深呼吸をして心を落ち着かせ、目の前の階段を登って事務所の扉を勢い良く開いた。

 

「んあ?……おい坊主。ここは子供の来る所じゃねぇぞ」

 

そして扉を開くと、窓際の席に置かれたテレビから俺に視線を移す中年の男性の姿を発見。

訝しむ目付きで俺にガン垂れるおっさんはチョビ髭が生えている。

間違い無え、この人が毛利小五郎だな。

 

「あー……毛利小五郎さんですよね?」

 

「あ?そうだが……俺に何か用か、坊主?悪いが依頼なら、お父さんかお母さんを連れてくるこったな」

 

名前を確認する俺にぞんざいな返事を返す小五郎さん。

どれだけ子供の扱い雑なんだよ……まぁ良いけど。

 

「俺、城戸定明っつーモンです。ちょっと話を聞いて欲しいんすけど」

 

「だから、お父さんかお母さんを……って……待てよ?……城戸?どっかで聞いた様な……」

 

名乗った俺に同じ事を言って追い返そうとする小五郎さんだが、俺の苗字に引っ掛かるものを感じたのか、眉を顰める。

そこで俺は鞄の中から親戚に会ったら渡せと言われてた手紙の入った封筒を取り出す。

 

「これ、俺の母ちゃんから毛利さん宛の手紙です」

 

「え?俺に?」

 

「はい。宛名を見れば毛利さんは気付くって」

 

俺の言葉に驚いて自分を指さす小五郎さんに、母ちゃんからの手紙を手渡す。

それを受け取った小五郎さんは封筒の表に書かれた母ちゃんの名前を見て、目を見開いた。

 

「こ、こりゃ……ッ!?雪絵からの手紙じゃねぇかッ!?って事は、サダアキって……お、思い出したぁッ!!雪絵の息子の定明君かッ!?」

 

雪絵というのは俺の母ちゃんの名前だ。

小五郎さんは宛名を見て、俺の事を思い出したのか、笑顔で俺の両肩を掴んでくる。

 

「いやーッ!!懐かしいなッ!!と言っても覚えてねぇかッ!!俺は君がまだ1歳くらいの時に顔を合わせてた程度だからなッ!!」

 

「そうなんですか?……って事は、やっぱり小五郎さんが俺の……」

 

「そうッ!!この日本一の名探偵、通称『眠りの小五郎』と呼ばれるこの俺毛利小五郎こそッ!!何を隠そう君の叔父さんなのさッ!!」

 

俺が聞き返すと、小五郎さんは目をキュピンと光らせながら、スーツの襟を正してドヤ顔を浮かべた。

……名探偵ってそんな大っぴらに自称するモンなのか?

まぁそういうのは人それぞれだから良いけどよ。

そう思って苦笑いしてた俺だが……次に小五郎さんの口から飛び出した言葉に唖然としてしまう。

 

「しかし、何でまた急に?確か雪絵は海鳴市に引っ越しただろ?連絡も無しに1人で来るなんて、何かあったのか?」

 

……は?連絡無し?

 

「え?母ちゃんから連絡来てるんじゃ無いんスか?母ちゃんはそんな口ぶりでしたけど……」

 

「連絡ぅ?そんなモン受けてねぇぞ?」

 

「……えぇー?……マジかよ」

 

「お、おい大丈夫か?」

 

俺の言葉に首を傾げる小五郎さんだが、俺はそれ以上に脱力してしまう。

……やばい……完全にヤル気無くした……どうなってんだよ、母ちゃん。

急に脱力した俺に驚いた小五郎さんだが、まずは座れと俺を応接用のソファーに促し、自分はその反対側に座る。

小五郎さんは母ちゃんの手紙を机の上に置くと、ニッコリ笑って立ち上がった。

 

「ちょっと待ってな。今、飲み物をもってきてやるからよ」

 

「あっ、すいません」

 

「良いってことよ。遠い所から来た甥っ子に何も出さねえとあっちゃ、大人げねえからな……ん?蘭とコナンの奴、もう帰って来たのか?」

 

と、小五郎さんが飲み物を取りに行こうとしたら、扉の方が騒がしくなってきた。

足音と声からすると、結構な人数だろう。

……こりゃ、も一つ面倒になりそうな気がする。

そんな事を考えていると、扉が開いてくぐもっていた声がクリアになる。

 

「お父さん、ただいま」

 

「ただいまー」

 

「「「お邪魔しまーすッ!!」」」

 

「やっほーおじさま。お邪魔させてねー」

 

「どーも小五郎さん。お邪魔させてもらうよ」

 

予想通り、さっき遭遇したメンバー全員だ。

小五郎さんはその人数を確認するとげんなりした表情を浮かべる。

 

「ったく、大所帯で押し掛けやがって。今日は遊びに行くから遅くなるんじゃなかったのか、オメー等」

 

「あ、うん。そのつもりだったんだけど……」

 

「僕達が追っかけてた子供が、隠れる所の無い筈の公園で忽然と姿を消しちゃったんだ」

 

「それで、皆でその消えた仕掛けを推理しようって事になって……」

 

「外は暑いし、ココが一番近かったからよぉ」

 

「皆でお邪魔しにきたの」

 

「はぁ?なんだそりゃあ?」

 

完璧に俺の事ですね、分かります。

入り口の所で小五郎さんと話してる所為か、扉を背にしたソファーに座る俺にはまだ気付いて無いみたいだ。

ここで下手な行動取って逃げたら、今度は小五郎さんからも怪しまれる。

……質問攻めは免れねぇだろうなぁ……ったく、こんな事なら逃げるんじゃ無かったよ。

俺はソファーの肘置きに手を置いて、事務所の窓から外を眺める。

空は青くて広いなぁ。

 

「まぁ良い。それより蘭、今日は驚きの客が来てるぞ?」

 

「え?お客さん?……誰も居ないけど――」

 

と、俺の座ったソファーが見える位置に来た蘭さんが、ピシリと動きを止めた。

真ん丸と見開かれた目が何度もパチクリとしてる。

 

「??蘭ねーちゃん?どうし――」

 

そして、様子を見に来た江戸川の動きも止まり――。

 

「コナンは初対面だし蘭は覚えてねぇかも知れねえが、この子は俺の甥――」

 

「「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」」

 

俺の素性を明かそうとした小五郎さんのセリフを遮る大声で、二人は俺の事を指さしながら叫ぶ。

そして背後から聞こえる「何だ何だッ!?」という少年探偵団の声。

……覚悟はしてたけど……これからの事を考えると、ちょっと憂鬱だな。

更に二人の後ろから現れた誰も彼もが驚きの声を上げる中、俺は大きく溜息を吐く。

 

「?……?……どしたんだオメー等?」

 

すんません叔父さん。俺がちょっとはっちゃけた結果です。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「えぇッ!?じ、じゃあ、君って雪絵叔母さんの所の定明君だったのッ!?」

 

「はい……一応初対面みてーなモンなんで、自己紹介させてもらいます」

 

あの後、とりあえず落ち着いて話そうという事になって、まずは親族の蘭さんとその居候という立場の江戸川と話す事になった。

他のメンバーはソファに後ろから寄り掛かるなり立ったままなりと、思い思いの場所に居る。

とりあえず小五郎さんが母ちゃんの手紙を見る為に軽く紹介しただけだったので、俺は帽子を脱いで驚く蘭さんに一礼する。

 

「初めまして。海鳴市から来ました、城戸定明です……従姉妹って事になるんスかね?よろしっどわッ!?」

 

と、驚く蘭さんに聞き返すと、蘭さんは何故か目を輝かせて俺に抱きついてきた。

何故そうなる?

 

「きゃーッ!!定明君、久しぶりだねーッ!!前に会った時は定明君が赤ちゃんの時だったけど、こんなに大きくなってるなんて思わなかったよッ!!」

 

そりゃ年月が経てば成長するに決まってんでしょうに……っていうか苦しい。

呼吸を塞ぐ形で思いっ切りハグされてるから、息が出来ないって。

しかし蘭さんもそれに気付いてくれた様で、「ごめんごめん」と謝りながら解放してくれた。

げほっげほ……びっくりした……何故睨む、江戸川よ?

何故か蘭さんの傍に座ったまま目付きを細くする江戸川コナン改め工藤新一。

……嫉妬か?俺なんにもしてねえだろうに。

 

「でも、どうしてこっちに来たの?それも1人で?」

 

「あー……それなんすけど、母ちゃんと父ちゃんが今日、海外に出張しちまって……」

 

俺を解放した蘭さんは首を傾げながら、俺の来訪目的を聞いてくる。

それについては、今小五郎さんが手紙を読んでる筈だが……。

と、手紙を読んでいた小五郎さんが手紙から顔を上げると、ヤレヤレって表情で俺達に視線を向けてくる。

 

「あぁ。それについても書いてあるな。二週間程、父親の結城君が海外出張になって自分もそれに着いていかなきゃならなくなったと」

 

「はい。それで、昨日母ちゃんは親戚の人の家に泊めてもらえるって言ってたからてっきり連絡きてるモンだと思ったんスけど……」

 

「大方、あのぽやっとした雪絵の事だ。出発前に連絡しようとして、忘れたまま飛行機に乗っちまったんだろうよ。手紙にゃ突然電話してすいません、兄さん。なんて書いてあるのってのに肝心の電話を忘れるたぁ、いかにも雪絵らしいぜ」

 

「……母ちゃんぇ……」

 

あの母ちゃんに限っては有り得ると言える自信があるのが悲しい。

手の平で顔を覆う俺に、蘭さんは苦笑いし、江戸川も「オイオイ」って顔をしてる。

あれだけ覚悟を決めていざ門を叩いたら連絡無いって何だそりゃ。

頼むからもう少しだけしゃきっとして欲しいぜ。

そう思いつつ手を顔からどけると、小五郎さんは笑いながらビールの蓋を開ける。

 

「だが心配すんな。二週間くらい屁でもねえよ。その間の生活費も同封されてたし、何より可愛い甥っ子が久しぶりに顔を見せたんだ。ゆっくりしていけ」

 

「え?良いんスか?」

 

「当たり前だろ。雪絵には色々と世話んなったし、子供を放り出すなんて出来ねえ。蘭も良いよな?」

 

「うん。勿論だよ」

 

小五郎さんが頼もしいセリフで答えると、蘭さんも笑顔で頷いてくれた。

 

「あっ、それと定明君。紹介するね?この子は今ウチで預かってる江戸川コナン君。とっても頭が良くて、事件とかでもヒントになる事を思い付く事があるの。コナン君、挨拶して?」

 

「うん。初めまして……で、良いのかな?江戸川コナンです。宜しくね、定明にーちゃん」

 

蘭さんに促されて、江戸川……いや、コナンは笑顔で手を伸ばしてくる。

……大変なんだな……ホントは高校生なのに……まぁ俺には関係無えけども。

俺も笑顔で手を差し出して、コナンと握手を交わす。

 

「城戸定明だ。友達にはアダ名でジョジョって呼ばれてる。宜しくな、コナン君」

 

「へー?それって名前と苗字にジョウって字が入ってるから?」

 

……そういう「直ぐ分かった」みたいな態度だから、蘭さんに新一じゃないかと勘ぐられると思うんだがなぁ。

そう思っていると、隣に座る蘭さんや他の面子も気付き、なるほどーという表情になった。

 

「ジョジョ、かぁ……うん。何でかは分からないけど、定明君に合ってる気がする」

 

「ありがとうございます。このアダ名はお気に入りなんで」

 

少し微笑みながら俺のアダ名を褒めてくれた蘭さんにお礼を返し、俺はもう一度座ろうとする……が。

何故かコナンが俺の手を離してくれないので、微妙に座りづらいという状態だ。

訝しんで顔を上げると、何故かコナンはとても良い笑顔で俺を見ていた。

何時の間にか移動してきた少年探偵団や世良さんも同じく、とても良い笑顔を浮かべてる。

例外は興味無さそうな鈴木さんと、ヤレヤレって顔してる灰原の二人。

蘭さんも何故か目を輝かせて俺に視線を送っているではないか。

……アンタもかい、蘭さんや。

 

「えへへー♪それで定明にーちゃん。ぼく、ちょっと定明にーちゃんに聞きたいんだけど……」

 

「あの逃げ場の無い公園からどうやって姿を消したのか、その不可解なトリックを……」

 

「「答えてくれるよね?」」

 

コナンと世良さんは交互に質問したかと思えば、最後は声を揃えて俺に視線を向ける。

しかもコナンは所謂『新一モード』という、口調が小学生らしからぬモノに変化する程だ。

……まぁ、こうなるよな。

俺は少し苦笑いしながら、二人の質問にある答えを口にする。

 

「まぁ待てって。コナン君と、世良さんだったよな?例えばだけど、二人はマジックの種が分からないからってマジシャンに直ぐに聞くか?聞かねえだろ?自分で解き明かして悔しがらせてやりてーと思わないか?」

 

「……そ、そうだね。あはは……(くそ……そうだよなぁ。ここで聞いたら俺の負けって事じゃねーか……俺自身で解けって事か?……上等だ。やってやろーじゃねぇかッ!!)」

 

「そりゃ僕も聞いたりしないけど……やっぱ気になるじゃん?ちょこっとくらい良いだろー?(上手いな、この子……さり気無く『大事な手品のネタ』に例えて、話題をズラされるとは)」

 

「駄目ッスよ。『探偵』なら自力で、その謎を解いてみて下さいッス」

 

尚も食い下がろうとする世良さんに、俺は自己紹介で語られた探偵という肩書きを突きつける。

すると二人揃って驚いた表情を浮かべるが、直ぐに挑戦的な笑みを浮かべて俺を真っ直ぐに見つめる。

まぁ緊急時以外はスタンドを使うつもりねーし、バラすつもりも全く無い。

頑張って研究してみてくれ。俺に面倒が降りかからないレベルでな。

もう工藤新一に関わらないってのは無理だが……こちとら事件回避を諦めた訳じゃない。

さすがにコナンの原作で、何処でどの事件が起きるのかなんて分からねえが、出来る限り殺人を回避させてみよう。

俺の心の平穏の為にも、な。

 

「「「ワクワク♪ワクワク♪」」」

 

「(まぁ、もしも彼女達の言ってた事が全て本当なら……中々興味深いわね)」

 

……とりあえず、少年探偵団の皆よ、そんな期待に満ちた目付きで俺を見るんじゃねえ。

そしてさっきから爛々とした目付きの灰原さんよぉ、アンタも背筋が震えるからそんな目で見るの止めてもらえませんかね?

 

「じゃあ、あの鉄球の事も聞いちゃ駄目かな?」

 

「ん?あー、あれは……」

 

「(ッ!!しめたッ!!ナイスだぜ蘭ッ!!)ぼくも見てみたいーッ!!見してよ定明にーちゃんッ!!」

 

蘭さんが残念そうな表情で質問してくると、それに乗じてコナンが見せろ見せろと催促してくるではないか。

しかも子供っぽく駄々を捏ねる仕草で、俺の服をグイグイと引っ張りながら。

コイツ、今絶対にシメシメ、とか思ってんだろうなぁ。

だってさっき一瞬だけど眼鏡の奥でニヤッて笑ったのが見えたし。

 

「お、俺も俺もッ!!」

 

「あっ!?抜け駆けはずるいですよ、コナン君ッ!!」

 

「歩美も見たーいッ!!哀ちゃんも見たいよねッ!?」

 

「……そうね……興味が無いと言ったら嘘になるわ」

 

コナンの我儘に感化されて、少年探偵団のメンバーもガヤガヤと騒ぎ出す。

ちゃっかり灰原の奴まで混じってやがるし、他の誰も止めてくれそうな気配が無い。

……しょーがねぇか……まぁ、鉄球自体には仕掛けも種も無いんだし、良いだろ。

 

「分かった分かった。ちょっと待てって……ほれ、これだよ」

 

俺は苦笑いしながらベルトに付けたホルスターから鉄球を取り出して、テーブルの上に置いて見せる。

探偵団のメンバーと世良さん、そして蘭さんは身を乗り出して鉄球をマジマジと見始めた。

俺の後ろからも乗り出す様にして見てくるので、俺はソファーから立ち上がって小五郎さんのデスクに背を預ける。

やがて見てるだけでは判らなかったのか、コナンは手にとってあらゆる角度から真剣な顔で眺め始めた。

その真剣な表情に、ちょっと苦笑いを隠せない。

 

「ふーむ……この溝に秘密があるとか?」

 

暫く眺めていた世良さんが、鉄球に掘られた溝を指さして問いかけるが、残念。

 

「その彫り込みは特に意味は無いっすよ。鉄球の材質だって、特別なモンじゃ無い。何処にでもある普通の鉄です」

 

「あー、そうか……ホントにこれが、あの時の鉄球なんだよね?まさか変えてる、なんて事は?」

 

疑り深い世良さんはこの鉄球が別物に感じたらしい。

俺は疑う表情で見てくる世良さんに苦笑いしながら近づき、コナンの手から鉄球をヒョイと借りる。

それで真剣に鉄球を眺めてたコナンや探偵団のメンバーは俺の手元に視線を集める。

 

「ほいっと」

 

シュルルルルルルルルッ!!

 

「「ッ!?」」

 

「え……えぇッ!?て、手の平が『下を向いてる』のに、くっついて……」

 

「お、落ちてない?どうして……?」

 

俺が下に向けた手の平の『下で』回転し続ける鉄球を見て、コナンと世良さんは言葉を失う。

逆に蘭さんは分かりやすく驚き、灰原は目を点にして鉄球を見つめていた。

 

「手には手袋もしてねーし、磁石だって付いてない……これはケチなトリックとかじゃ無え――『技術(ワザ)』ッスよ」

 

得意げな顔でそう言って、俺は鉄球を回転させたままホルスターに戻す。

 

「結論から言ったら、鉄球が特別なんじゃねえ。大体形が球形なら、それで良いんだ」

 

俺はそう言いながら、驚きで目を丸くしてる小五郎さんのつまみの中からつぶあられを一個拝借する。

それを指の上でさっきの鉄球の様に回転させるが、さっきほど綺麗には回らない。

さすがにあんな風に綺麗には回せねえか。

 

「ゴツゴツしてるから回転が不安定だけど……ちゃんと回せますっぜ」パキョンッ!!

 

指で弾いて空中に躍りだした粒あられが途中でスピードを緩めて、緩やかにオーバーハングする。

その場に立ったまま口を開ければアラ不思議。

粒あられは俺の口に放り込まれてしまいましたとさ。

ボリボリと噛んで粒あられを咀嚼する俺に、興味無さそうだった鈴木さんも含めた全員の視線が集まる。

俺はそんな集中する視線の中で苦笑いしながら、今正に挑戦的な視線を浴びせてくるコナンに一言。

 

「まっ、頑張って俺の持ってる謎を解いてみてくれ。この奇妙な謎ってヤツを、さ」

 

「……良いよ。僕が定明にーちゃんの秘密、解き明かしてみせるから」

 

「期待してるぜ。探偵君」

 

何とも不敵な笑みを浮かべて挑戦を宣言するコナンに、俺は肩を竦めて答える。

……成り行きで回転の技を少しばかり見せちまったが……まぁ、問題無えだろ。

スタンド能力を解き明かせる筈も無し、鉄球の回転だって、発見したツェペリ一族はこの世界には居ない。

何処からどう辿ったって、俺の回転の秘密に到達は出来ねえだろうな。

まぁいざヤバイ所まで知られたら、その時はヘブンズ・ドアーで俺に関する情報を規制しちまえば良い。

続いて、何で自分達から逃げたのかという蘭さんの少し怒った感じの質問を適当に捌きながら、俺はそう考える。

 

 

 

結局、その日は日が落ちて皆が帰る時間になるまで、俺は色んな質問に晒される羽目になったのだった。

 

 

 





これから幾つか原作の事件を元にして、そこに定明を関わらせていきますが、その前に注意事項を書きます。

作者は時系列に関係無く、気に入った事件に定明を登場させるつもりです。

ですので、『この話の時には灰原も世良も(例)居ないじゃないか!!』

といった指摘は無しでお願いします。

但し季節だけは狂わない様に夏近辺の話を盛り込んでいくつもりです。

駄作者故に、こういった手抜きはご容赦下さい。

そして小五郎が叔父という謎設定、どうしてこうなった?( ゚д゚ )



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何処までも追跡す(ry

前回の話で結構なミスをしたので書きます。

毛利小五郎は定明の『伯父』(定明の母親の兄)です。
前の話の表記では叔父となってしまい、(母親の弟)になってましたが、逆です。
今回から気を付けますので、ご容赦下さい。


「ふわぁ~あ……良く寝た」

 

朝7時。

ピピピッという電子音の音で目が覚めた俺は背伸びをしながら布団から起きる。

そんで隣同士に居る同居人に目を向けてみた。

 

「……くー……」

 

「んごごご……ぐー」

 

「……実に良く寝てら……くぁ……あ~……」

 

未だスヤスヤと夢の世界に居る『一名』を見てから、欠伸を一つして布団を畳む。

隅っこに寄せてから、俺は顔を洗うために部屋を後にする。

おっとと。一言ぐらいは声掛けておかねぇと。

 

「起きてるだろ?俺は先に顔洗いに行ってくるわ」

 

寝たフリをして俺を観察していたコナンに一声掛けて扉を閉める。

ちょうど閉まりそうな隙間から、布団の中でビクッとコナンが震えた所を見ると、予想は当たってたらしい。

やれやれ、本気で俺の事を見張り続けるつもりか?

根気良くそんな事をしてる年齢詐称探偵の根性に呆れながら、俺は髪をポリポリと掻く。

そのまま洗面所に入ると、既に先客が居た。

この毛利探偵事務所の紅一点、俺の従姉妹の蘭さんだ。

 

「あっ。おはよう、定明君」

 

「おはよっす。顔洗っても良いっすか?」

 

「うん。良いよ」

 

歯ブラシとコップ片手に場所を譲ってくれた蘭さんにお礼を言ってから、俺は顔を三回洗う。

そして掛けてあった洗面タオルで顔を洗ってから歯ブラシで歯を磨く。

起きてからの歯ブラシは大事だよな。

 

 

 

――今日は俺が毛利探偵事務所に転がり込んでから二日目の朝だ。

 

 

 

まだ特に事件は起きて無く、俺は比較的穏やかな日を過ごせてる。

……まぁ、『まだ』事件は起きてないってだけなんだがな。

このまま無事に2週間を乗り切る事は、まず不可能だって事は念頭に入れてるよ。

 

「んぐんぐ……べっ……今日は早いんスね?」

 

歯を磨いてコップに中の水で口を濯ぎ、同じく口を濯ぎ終えた蘭さんにそう聞くと、蘭さんは笑顔で腕に力を込める。

 

「今日は部活なの。もうすぐ夏の大会があるから、しっかりと練習しないと……」

 

「へー?部活って何やってんスか?」

 

俺は興味のある振りをして蘭さんに聞いてみる。

一応知ってはいるが、まだ誰もその話題に振れて無いから、聞いておかないと怪しまれるだろう。

そして、俺の問いを聞いた蘭さんは軽く拳を握って前に突き出す仕草を取った。

 

「空手。こう見えてもお姉さん、都大会とか関東大会での優勝経験者なんだよ?」

 

「おおっ?空手っすか……なるほど。それで俺がひったくりに襲われた時、構えをとってたんスね?」

 

「そうよ。結構自信はあったんだけど、まさか定明君が人質に取られるなんて思わなかったから役に立たなかったけどね」

 

少し苦笑いしながらそんな事を言う蘭さんだが、普通は暴漢相手に戦おうって勇気が凄いと思う。

そう思っていると、蘭さんは洗面所から出て部屋に戻って行く。

多分制服に着替えるんだろうな、部活って事は学校に行くんだろうし。

 

「直ぐに朝ごはん作っちゃうから、悪いんだけどコナン君とお父さんを起こしてくれるかな?私、お弁当も作らなきゃいけないし」

 

「あいあい。りょーかいッス」

 

部屋に戻っていく蘭さんにそう答えながら、俺は部屋に戻って俺用に空けてもらったカラーボックスから服を取り出して着替える。

藍色のシャツにルーズカーゴのパンツ、そして忍さん特性のベルトとバックルだ。

さすがに鉄球は入れてねぇけど、飯の後は普段も入れる様にしてる。

何時トラブルに巻き込まれても良い様に……こうしてると、何か俺って危ない事件を担当する探偵みたいな事してんな。

……俺は何よりも平穏を愛する男なんだがなぁ。

そんな考えを掻き消すかの様に、俺は頭を振って思考を切り替える。

まずは寝ている伯父さんと寝たフリしてるコナンを起こす。

 

「伯父さん。朝ッスよ?ほらコナン君も、早く布団片して顔洗ってきな」

 

「……う、う~ん……お、お早う。定明にーちゃん(くっそー……やっぱバレてたか)」

 

「おう。お早うさんだ……ほら、伯父さん。朝だから起きて下さいよー」

 

まるで今起きました、みたいな小芝居を続けるコナンに苦笑いしながら、顔を洗いに行く様に促す。

その言葉だけでコナンはセッセと布団を片付けて顔を洗いに行った。

今度は正真正銘、爆睡してる小五郎伯父さんを起こさねえと。

 

「ん……んが?……おう…………朝か……ふあぁ~……」

 

「おはよッス。もうすぐ蘭さんが朝飯作って部活出るらしいんで、顔洗ってきて下さい」

 

「あ~……そういや、もうすぐ大会が近いって張り切ってたっけか、蘭の奴……悪いな定明。態々起こさせちまって」

 

「いやいや。いきなり押し掛けて居候してんスから、これぐらいはしますよ」

 

「そうか?じゃあこれからも暫く頼んじまおうかな?何かオメェに起こされるとやたらと寝起きが楽だし、そしたら夜も酒が飲めるしな」

 

そりゃそうだろうよ。伯父さんが寝起きが悪いってのは蘭さんから前もって聞いてたんだ。

俺だってそれに対する対策ぐらいはしてるっての。

機嫌良さそうに伸びをする小五郎さんから視線を外して伸びをしながら、俺は密かに呆れる。

コナンからも相談されたが、昨日の朝俺が起こしたら随分穏やかに起きた為に、俺が伯父さん専属の起こし係になってたり。

お陰で蘭さんとコナンから微妙に尊敬の篭った目で見られたりしてる。

実際は軽い波紋の力を使って、小五郎さんの寝起きの時の気分を穏やかにしてるからなんだがな。

まぁそんな感じで、俺は手早く寝室から出てリビングに入る。

仕切り戸が開けられたキッチンでは、蘭さんが制服にエプロンという出で立ちで料理をテキパキと作っていた。

 

「何か手伝いますか?」

 

「あっ、ううん。良いよ、定明君は座っててくれたら。昨日は一日外食にしちゃったけど、今日の朝ごはんは私の手作りを食べさせてあげる」

 

俺の言葉に反応した蘭さんは笑顔でそう言って、料理に戻る。

昨日は俺の歓迎の意味を込めて町の案内と、この探偵事務所の下にある喫茶ポアロのご飯を頂いた。

あそこも美味しい店だったけど、蘭さんの飯も楽しみだったりする。

まぁ、寛いでて良いっていうならそれも有りだが……さすがに居候の俺には居心地が悪過ぎるぜ。

 

「じゃあ、テーブル拭くくらいはしておきますよ。台拭きありますか?」

 

「ホント?……じゃあ、お言葉に甘えて。そこに有るのが台拭きだから、それ使ってくれる?」

 

「うす。んじゃ、お借りしますんで」

 

少し申し訳無さそうな顔をする蘭さんに笑顔で返事して、俺は台拭き片手にテーブルを拭く。

あまり汚れて無かったお蔭で直ぐに終わり、ついでに調味料の入った小さい台を運んでおいた。

後は料理が来るのを待つだけなので、やる事が無くなったので静かに座っていた。

そしたらコナンと伯父さんが欠伸をしながら入ってくる。

 

「お父さん、コナン君。お早う」

 

「あ~。俺ちょっと新聞取ってくらぁ」

 

「お早う、蘭姉ちゃん……じー」

 

「……態々口に出して言わなくても良いんじゃね?」

 

直ぐに外の郵便受けに新聞を取りに行った伯父さんとは対照的に、コナンは挨拶してから直ぐに俺を凝視してくる。

まぁ子供っぽい仕草は忘れて無えみてえだけど。

見られてる俺はと言えば彼の行動に苦笑いしつつ、空のホルスターを見せつけた。

 

「ほら。今日はまだ鉄球を部屋に置いてるから、そんなに見てても謎は分からねえぜ?」

 

「んー。でもさー。鉄球には関係ないって言ってたし、もしかしたら定明にーちゃんの仕草で何か分かるかもしれないなーって思って」

 

「まっ、そう考えるのも当たり前かもしれねーが……」

 

『片時も目を離して堪るか』っていう顔をしながらも子供らしく笑うコナンを見て、俺は苦笑を隠せない

どうにも彼は俺の回転の秘密についてかなりの関心を持ってるらしい。

まぁ、知的好奇心の塊である工藤新一なら、そうなるのも仕方無えだろうな。

そう思っていると、少し目を細めた蘭さんが朝ごはんをテーブルに並べながら口を開く。

 

「ホンット、コナン君は新一と良く似てるよね?その謎に対する好奇心とか、他の物が目に入らなくなる所とか」

 

「ッ!?そ、そうかなー?そんな事は無いと思うけどー?」

 

「いいえ、そうです。……言っておくけど、良いコナン君?それと定明君も聞いてね」

 

「……な、何かな、蘭姉ちゃん?」

 

「何すか、蘭さん?」

 

目を細めて……というか、殆どジト目でコナンを怪しむ様な口調だった蘭さんが、突然俺にも声を掛けてくる。

途中で質問という名の詰問が終わったコナンは目に見えて安堵しつつ、その表情を隠しながら、蘭さんに声を返した。

俺は俺で普通に首を傾げつつ、聞き返す。

すると、蘭さんは一度ニ~~ッコリと微笑んでから……烈火の勢いで口火を切った。

 

「良い?絶対に……ずぅぇええっっっ~~~ったいにッ!!新一みたいな推理オタクになっちゃ駄目よッ!?幼馴染みと遊園地に行っても推理と事件に夢中になって、挙句その幼馴染みを置いて事件を追っ掛けちゃう様な推理バカオタクにはッ!!良いわねッ!?」

 

「……う、うん……分かった」

 

「俺はそこまで推理に興味は無えっすから……っていうか、新一って誰の事っすか?」

 

コナンはかなり引き攣った笑みで蘭さんの言葉に了承するが、俺はここで聞き返す。

さすがに知らねえ人間の名前が出てんのに、普通に了承は出来ねえからな。

 

「あっ、ごめんごめん。定明君は知らないよね……工藤新一。私の幼馴染みで、今まで色んな難事件を解決してきた……平成のホームズとか煽てられて天狗になってるバカの事。一時は新聞にも顔が載ってたんだけど、覚えてない?」

 

「ん~っと……すいません。新聞はもっぱら放送欄ばっかり見てたんで……まぁ、その新一って人は、蘭さんの幼馴染みなんスね?それで大人顔負けの推理力がある凄腕探偵だったと?」

 

「そうそう。どんな事件でもパッと解決して、真犯人を炙り出す事が得意で、それにサッカーもやってたんだ。止めなきゃ国立のヒーローにだってなれるぐらいだったのに、探偵としての能力を鍛えるためだけだったとかなんとか……何時も、何時でも、事件の事ばっかりで……幼馴染みの私と遊園地にデートに行ったっていうのに、普通ほっぽりだして事件を追っかけたりなんてしないわよねぇ……?」

 

「あ、あはは……」

 

目の前で鬱憤を晴らすかの如く不満を吐き出す蘭さんに、張本人は引き攣った笑みしか返せてない。

こりゃまた修羅場だな。

そう思っていると、蘭さんは「そう思わない?」という目で俺にも意見を求めてくる。

まぁここで蘭さんの機嫌を損ねるのもアレなので、俺も考えながら言葉を発した。

 

「そりゃ何とも……よっぽど好奇心が旺盛っつうか……謎が好きっつうか……」

 

「ホントよ。あの推理オタク馬鹿。生身の女の子をほっぽるぐらい謎が好きなら、もう謎と結婚しちゃえば良いのよ」

 

「き……きっと、新一にーちゃんにも理由があったんじゃ無いかな?(オイオイ。謎と結婚て……)」

 

俺に笑顔で謝りながらも、蘭さんの手には段々と力が篭っていく。

その威力足るや、茶碗にご飯をよそってたしゃもじが悲鳴をあげる程の力だ。

っていうかコナンの新一をフォローする言葉、聞こえてない。

あー……どうにも、思い返す中でムカつく思い出の方が優先されて思い出されてるっぽいな。

終いにゃ折れるんじゃねえか、あのしゃもじ?

 

「ホント。事件とか謎の事になると見境無くて……オマケにホームズオタクで、小説読み出したら幼馴染みの私の事すら忘れて熱中するくらいだし……作っておいたご飯も食べずだったし……あっ。何か思い返す度に、こう……メラメラと湧き上がるモノが……」

 

「え、えーっとッ!?も、もうそのくらいで良いと思うよ、蘭姉ちゃんッ!!さ、定明にーちゃんもそう思うよねッ!?」

 

「ん?まぁ、大体の人物像は掴めたから、俺は別に良いぜ?……っていうか蘭さん。しゃもじが潰れちまいますよ?」

 

「ブツブツ……え?……あっ!?や、やだ私ったらッ!!」

 

俯きながら凄いオーラを纏い始めた蘭さんを見て、コナンは青い顔で記憶の発掘作業に待ったを掛ける。

かなり慌ててたのか、焦った表情で俺にまで救いを求めてくる程だった。

まぁ俺の言葉で手の中のしゃもじが変形しかけてたのを見て正気に戻ってくれたけど。

コナンの汗を拭う表情と仕草が、妙に切なく感じる朝の一幕だった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「じゃあ、おじさん。行ってきまーす」

 

「あぁ。ちゃんと宿題してこいよ」

 

「はーい……定明にーちゃんはホントに来ないの?」

 

そして時間は進み、今は昼前の午前11時30分。

ちなみに朝食べた蘭さんの作る料理はとても美味だった。

探偵事務所の扉を開けて行って来ますの挨拶をしたコナンが、少々残念そうな声でそう聞いてくる。

何でも今日は図書館で夏休みの宿題を少年探偵団の皆とするらしく、俺も一緒にどうかというお誘いだったが……。

 

「悪い。実は俺、宿題はもう全部終わらせてんだ。残ってるのは写生と毎日の日記ぐらいだから、今日はの~んびりするつもりさ」

 

俺はコナンに謝罪を入れつつ、誘いを断る。

折角の夏休みな訳だが、さすがにコナンと一緒にうろついて事件に巻き込まれたら嫌過ぎる。

まだこの事務所の生活に慣れた訳じゃ無えし、今日はゆっくりさせてもらおう。

そう伝えると、コナンは少し残念そうな顔をしつつも了承し、友達と待ち合わせてる阿笠博士の家に向かった。

色々な凄い発明をしてる阿笠博士の家には行ってみたい気もするが、今日はそんな気分じゃ無いのでパスしよう。

……頼むから、今日も平和に事件を引き寄せないでくれよ?

そう思いつつ、俺は2階の探偵事務所に入る。

 

「伯父さん。ちょっと伝えとく事があるんスけど、今良いっすか?」

 

「ん?おお。まぁ今は依頼もきそうにねぇし、別に良いぞ。なんだ?」

 

「はい。多分、俺宛に荷物が届くと思うんで、それが来たら教えて下さい。実家から母ちゃんが送った俺の服とかなんで」

 

「あぁ、そういう事か。分かった、荷物が来たら受け取っておいてやるよ」

 

「ありがとうございます。そんじゃあ俺、上に戻りますから」

 

新聞を読みながら俺の話を聞いてくれた伯父さんに礼を言い、3階の部屋へと戻った。

今日は特にやる事も無えし……どうしようか?

さすがにゲーセンとかも保護者同伴じゃねえとこの歳じゃ遊べねえんだよなぁ。

手持ちの金は財布に1万入れてあるし……散歩でもするか?

確か蘭さんにお勧めの美味しいパン屋があるって聞いてたし、買いに行くか?

昼は伯父さんとポアロにするか悩んでたけど、美味いパン屋ってのも興味が湧く。

良し、行こう。今から出れば良いぐらいの時間になるだ――。

 

「……あん?」

 

ふと、財布に携帯と鉄球にエニグマの紙を服に入れていた俺の視界の端っこ。

そこに、何やら今朝見た気がする花柄の可愛らしい包みを発見。

 

「……」

 

ゴトッ。

 

無言で持ち上げてみると、中身に何か入ってるらしく少々重みを感じた。

……おーい。

 

「弁当忘れるとかマジかよ、蘭さん……」

 

水筒は見えないので、恐らくそっちは持って行ったんだろう。

朝、水筒にお茶を入れてるの見たし。

まさか自分で作っておいて忘れるとか……うわ、脱力すんだろうなぁ。

俺は溜息を吐きつつ、弁当を持って事務所へと駆け込む。

 

「(ガチャッ)伯父さん。俺ちょっと出かけてきますんで、今日は一人で昼食ってきます」

 

「ん?何かあったのか?」

 

俺の言葉を聞いて不思議そうに顔を上げた小五郎の伯父さん。

そんな伯父さんに見える様に、俺は弁当の包みを掲げる。

 

「蘭さん弁当忘れちまったみたいなんスよ。だからこれ届けるついでに、適当に飯は外で済ませようかと」

 

「……ったく、蘭の奴。良し、分かった。俺も仕事があるから行けねえし坊主も出ちまったから、悪いが頼んだぞ。蘭の学校の場所は分かるか?帝丹高校ってトコだ」

 

「まぁ、何とかなると思うッス。最悪分かんなきゃ、交番で聞きますから。そんじゃ、行ってくるッス」

 

挨拶もそこそこにして、俺は扉を閉めてエニグマの紙に弁当をファイルする。

面倒くせーけど、さすがに世話になった蘭さんが弁当忘れてるのに気付いちまったし、せめて俺がなんとかしなきゃなぁ。

そしてスマホのマップを立ち上げて、蘭さんの行った帝丹高校を探した。

えっと……おっ、ここか?バスを使わなくても昼ちょっと過ぎたぐらいには着けそうだな。

道順も単純、というかほぼ真っ直ぐの距離だったので、俺は全力で走った。

ここに来てコナンに見張られてから朝のトレーニングも出来て無えし、少しは走っておかねえと体が鈍っちまう。

なら、こんな時にはトレーニング代わりに走っとかねえとな。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ここか。帝丹高校は……結構近かったな」

 

そして、走る事10分程で、俺は目的地の帝丹高校に到着した。

夏休みに大会があるのか、色んな運動系のクラブの気合の入った声がグラウンドや体育館から聞こえる。

俺が行くのは少し場違いな気がするが、行くっきゃねえだろ。

既に走る必要も無くなったので紙から弁当を取り出して、俺は帝丹高校の校門を潜った。

さあて、まずは事務所を探して……。

 

「ん?おい坊主。ここは高校生が来る所だぞ?何勝手に入ろうとしてんだ?」

 

しかし、入ろうとした所で外に出ようとした男子の集団の1人に声を掛けられてしまう。

このユニフォームは……サッカーか?

丁度良いし、事務所の場所を聞いておくか。

 

「あーすいません。ここに通ってる従姉妹が弁当忘れたんで届けに来たんスけど、事務所は何処っすか?」

 

「あぁ、何だそういう事か。事務所なら彼処の昇降口に窓口があるから、声掛けてみな。引き止めて悪いな、坊や」

 

「いえいえ。それじゃ」

 

と、まぁ普通に良い人で対応もスムーズにして貰えた。

その人が手を振って外に出るのを見送ってから、俺は昇降口に向かう。

そしてあのユニフォームの人が教えてくれた通り、昇降口の直ぐ傍に事務所があったので、そこの職員に事情を話す。

従姉妹って事でちょいと怪しまれたが、俺が子供だったので直ぐに信じてもらえた。

そのまま用紙に名前を記入して、俺は職員さんと一緒に学校の中へと入っていく。

っていうか他の学校の生徒を入れて良いのか?

そんな疑問も関係無いのか、目の前を歩く事務の先生は、部活棟の一室の前で止まって振り返った。

 

「ここが空手部の道場よ。もうお昼休憩に入る時間だから、入っても大丈夫だと思うけど……」

 

『あ~……やっちゃった』

 

先生が俺に丁寧に教えてくれてる最中に、件の道場の中から女性の声が聞こえてきた。

っていうかこの声って蘭さんじゃね?

 

『どうしたんだ、毛利?』

 

『あ、数美先輩……お昼、忘れちゃったみたいで……』

 

『えぇッ?どうするの?昼抜きじゃ午後の練習まともに動けないわよ?』

 

『そ、そうですよね……どうしよう……今日は夕飯のお金以外に外で使うお金、持ってきてないし……』

 

「フフッ……どうやら、グッドタイミングで来れたみたいね。早く届けてあげて、坊や」

 

道場の中から聞こえる遣り取りに先生は少し微笑みながら、俺に中へ入る様に促す。

なんつうかこのおばちゃん、この遣り取り楽しんでねぇか?

そんな事を考えていても仕方無えので、俺は溜息を吐きながら道場の扉を開けた。

 

「(ガラッ)すいませ~ん。お届け物っす~」

 

「え?……えぇ?さ、定明君?」

 

「ん?毛利、知り合いの子か?」

 

「は、はい。私の従兄弟の城戸定明君です。昨日から家で預かってるんですけど……でも定明君。どうしてココに来たの?」

 

「だから言ったっしょ?届け物ですって。コレっすよ」

 

扉を開けて声を掛けた俺に集中する視線の嵐。

その視線の主は全員空手着を着たまま、床に座って弁当を広げてる。

まぁ、高校の部室にこんな小さいガキが入ってきたら驚くわな、普通。

そんな視線を全て無視して、俺は困惑した顔で見てくる蘭さんに向けて弁当箱を掲げた。

 

「あっ!?私のお弁当。どうして定明君が?」

 

「いやどうしても何も、家のテーブルに置き忘れてたッスよ?ほい」

 

そして俺の持ってた物の正体に気付いて驚きながら近寄ってきた蘭さんに、俺は苦笑いしながら弁当箱を渡す。

やれやれ、何とか間に合って良かったぜ。

俺から弁当を受け取った蘭さんは笑顔を浮かべていた。

 

「ありがとう定明君ッ!!危うくお昼抜きで練習しなくちゃいけない所だったよ~」

 

「いやいや。間に合って良かったッス。それじゃあ、俺はこれで」

 

「え?もう帰っちゃうの?お昼まだだったら、ここで一緒に食べない?」

 

とりあえず用事が終わったので、俺は帰る事にしたんだが、それを蘭さんに引き止められる。

まぁ一緒に食う事自体は別に良いんだけど、知らねえ人間だらけの中で飯を食うのは気が引けるし……。

 

「いや。俺は飯持ってねぇんで、帰りますわ」

 

「まぁそう言わずに。良かったら、私達の弁当を分けてあげるけど?」

 

「そうそう。遠慮しなくて良いよ定明君」

 

昼飯を持って無いというのを理由に辞退しようとした所で、さっき数美先輩と呼ばれてた女の人がそんな提案をしてきた。

蘭さんも何気にそれに便乗して俺をもう一度誘ってくる。

だが残念。俺はもう既に今日の昼飯のメニューは決めてるのだ。

 

「お気遣いどーもっす。でも、行ってみたいパン屋があるんで遠慮します」

 

「そうなの?……うーん、それじゃあ引き止めちゃ悪いか。じゃあ、気を付けてね?お弁当ありがとう♪」

 

俺がもう既に食いたい物が決まっていて、尚且つ止めないと理解してくれたんだろう。

蘭さんは少し残念そうにしてたが、笑顔で送り出してくれた。

飯を分けてくれると言ってた先輩さんにも謝罪してから、俺は帝丹高校を後にする。

校門から出た俺は首をコキコキと鳴らしながらゆっくりと歩いて、目的のパン屋を目指す。

そこからのんびりニ十分程かけて歩いていき、米花神社という神社近くの曲がり角を曲がっていく。

さーて、何を食おうか……。

 

「あれッ!?お前昨日のッ!?」

 

「ん?……おぉ、確か小島だったか?」

 

考え事をしながら歩いていると、背後から聞き覚えのある声で話し掛けられ振り返る。

すると其処には、少年探偵団一の食いしん坊、小島元太の姿があった。

しかもそのでかい背後からゾロゾロと見知った顔が……。

 

「あっ!?定明さんッ!?どうしてここにッ!?」

 

「あれ?今日は家でゆっくりするってコナン君から聞いてたのに……」

 

「円谷に吉田も……って事は……」

 

「あら?」

 

「どうしたんだよ、オメー等……って定明にーちゃん?何でココに?」

 

オーマイガッ……まぁ、そうなるわな。今日は皆で夏休みの宿題するって言ってたし。

探偵団メンバーの3人から遅れて、年齢詐称組の二人、灰原とコナンも登場。

二人も最初に会った3人と同じく目を丸くしてる。

 

「いや。実はコナンが出た後でリビングに戻ったら、蘭さんが弁当忘れててよ。しゃーねえから学校まで持って行って、今その帰りって訳だ」

 

目を丸くして驚く5人に説明しながら、逆に俺からも聞き返す。

まさか宿題サボって遊んでるとか?

 

「そっちはどうしたんだ?今日は皆で夏休みの宿題やるって言ってなかったっけ?」

 

「それがよぉ。ハカセん家に行ったら、ハカセがクイズを作って置いててよ」

 

「それをヒントに誘拐された自分を見つけてくれ、というゲームを、僕ら少年探偵団に挑んできたんです」

 

「で、その最後の問題を解いて、今その場所に向かってるって訳」

 

上から順に俺、小島、円谷、灰原の順である。

博士……阿笠ハカセの事だろうな。

原作じゃとても気の良い人で、工藤新一の協力者でもある。

今、コナンが付けてるあらゆるアイテムも、少年探偵団のバッジも博士の作品だ。

まぁ、こういう茶目っ気のある人っていうのも知ってたが……。

 

「そりゃまた何とも……そのハカセって人が誰かは知らねえけどまぁ、楽しそうで何よりだな」

 

「ええ。こういう道楽に付き合うのも……『偶に』なら、良い暇潰しにはなるわね」

 

何気に偶にという言葉を強調する辺り、結構頻繁にやられてるんだろうか?

まぁ一緒に住んでるなら有り得る話だけど。

苦笑する俺の言葉に灰原は何とも皮肉げな笑みを浮かべながらそう答える。

コナンは灰原の表情を見て苦笑いしてた。

灰原って自分の年齢隠す気あんのか?小学1年にしては大人っぽ過ぎる自覚無いのかね?

 

「まぁ、良いじゃねーか。大人になってもそういう遊び心を忘れない人っていうのは、結構貴重だぜ?」

 

「あら。裏を返せば、幾つになっても子供っぽいって事にもなるけど?」

 

「ガキの内から老け込んで何にもしなくなるよりは全然マシだろ。やりたい事を法律に触れない範囲でバンバンやるのも、生きる上じゃ大事な事ってな」

 

「なにそれ?私への皮肉のつもりかしら?」

 

「誰もオメーを名指しでなんて言ってねぇって」

 

皮肉げに博士の行動を子供っぽいと言う灰原。

そしてそれを否定せずに視野を変えて博士の行動を擁護するコナンの言い合いを聞いて、俺は苦笑いしか出来ない。

ちょうど他の年齢詐称してない子達は先を歩いてるし、少し焦らせてみっか。

 

「……何かよぉ。確か灰原、だっけ?」

 

「えぇ。何かしら、謎だらけの鉄球男さん?」

 

俺の問い掛けに、灰原は少しクスッと笑った表情でそんな台詞をのたまう。

鉄球男て……まぁ、腰にこんなモンぶら下げてる小学生は俺以外に居ねーだろうけどさぁ。

 

「お褒めの言葉をどうも。まぁそれは置いておいて……コナンと二人で喋ってるのを見てると、とても7歳にゃ見えねえなーと思ってよ」

 

「えッ!?」

 

「げっ!?(バ、バレたッ!?い、いや落ち着けッ!!コイツは只俺達の様子に疑問を抱いてるだけだッ!!)」

 

俺が少し訝しい表情でそう言うと、灰原は少しだけ驚いた表情を浮かべて動きを止めてしまう。

コイツ等って猫を被るのが上手いのに、こういう突飛な質問には弱いな。

隣に立ってるコナンもなんか焦ってる上に小声で「げっ」とか言ってるしよ。

 

「それにコナンも、俺や伯父さんと話す時とは……なんつうか、声の質が違うっつーか……もしかしてそっちが地なのか?」

 

「えッ?え、えっとそれは……」

 

「他にも、子供にしちゃークールというか……はしゃぐ小島達を見る目が保護者、いや年長者のそれに近いって感じるし。小島達と同じでクイズを出された側なのに、仲間と一緒に行動するって訳じゃなく、一歩引いた立ち位置に居ねぇか?」

 

「き、気の所為じゃないかしら?私もクイズは楽しんでたし……あ、あの子達より先に答えが分かっちゃったから、頑張って考えるあの子達を見てて「あぁ、自分もそう考えたなぁ」って思い返して笑ってただけだから……そ、そうよね江戸川君?」

 

「う、うんッ!!ちゃんと皆で考えてたよッ!!そ、それに僕の口調が違うのも、同い年の友達だからだよッ!!さ、さすがにあんな風に話したら、おじさんも怒っちゃうからッ!!」

 

「……そうかぁ?」

 

「「うんッ!!」」

 

首を傾げながら如何にも「んん?」って顔でポロポロと疑問を零す俺に、二人は少し焦りながら弁解の言葉を述べる。

灰原は誤魔化す為にか、少し引き攣りながらも笑顔を浮かべながら手を広げて、如何にも子供っぽく振舞う。

コナンはコナンで考える俺の目の前に立って両手を大きく広げるという大袈裟なポーズを取ってるし。

……まぁ、これで少しは俺の回転の謎を探ろうとするコナンや、俺の能力に興味持ってそうな灰原を牽制出来たと思う。

あんまり俺に首突っ込むと、逆に自分達の秘密がバレそうになるんじゃないかってな。

 

「そか。悪いな、ちょっと年上に感じたなんて失礼な事言ってよ。特に女の子の灰原には失礼だったな」

 

「き、気にしないで」

 

肩を竦めて謝罪の言葉を述べると、あからさまに灰原とコナンは安堵した表情を浮かべた。

それで前に視線を戻し、俺ははしゃぐ小島達の後を着いて行く。

 

『……ねぇ、ちょっと。あの子も鋭過ぎる気がするんだけど……』

 

『確かに今のは焦ったけど、俺達の行動が少し軽率だった所為にも思えるし……判断しにくいんだよなぁ』

 

『それはそうだけど、彼ってまだあの子達とは2歳しか違わないのよ?でも、私達の立ち位置を雰囲気で保護者の様に感じた、なんて普通の9歳児は考えないでしょう?』

 

『あぁ。俺もそこは引っ掛かってるんだ……それに、あの鉄球の謎も、な』

 

『鉄球の?でも彼は、鉄球そのものは特別でもなんでもなくて、回転の技術が特別だって……』

 

『だとしても、探偵事務所で俺達に見せた、あの殆どノーモーションの動きで彼処まで回転させるには無理がある……絶対に鉄球にも何かの秘密がある筈なんだ』

 

離れて俺には会話を聞かれる事は無いと踏んでるのか、コナンと灰原はベラベラと俺の事を話してる。

まぁ、あいつらの肩の上にはハーヴェストを其々一匹づつ配置して盗み聞きしてる訳だが。

にしてもまぁ、まだコナンは俺の鉄球が特別な代物だと考えてるらしい。

考えても考えても手が届かない歯痒さから、髪の毛をガシガシ掻いて唸っている。

確かにコナン達の常識で考えるロジック通りなら、俺の鉄球に秘密があると考えるのは自然だろう。

だが、波紋にしても鉄球の技術にしても『人間の未知の部分を引き出す可能性』という考えを持たなきゃ、一歩だって謎には近づけねえ。

そう考えながら歩いていると、彼等の目的地の米花神社の入り口の階段に到着し、小島達はその階段を登っていく。

まぁ、俺は昼飯を食いに行くという大事な用事があっから、ここで一旦お別れ――。

 

「ん?……何だ?」

 

と、階段を通り過ぎた向こうの道。

その地面に何かキラっと光る物を見つけて、俺は階段を素通りしてそっちへと向かう。

これは……?

 

「ん?どうかしたの、定明にーちゃん?」

 

「……ちょっと。これって……」

 

「灰原は知ってんのか?この『メガネ』が誰のか?」

 

俺が拾ったメガネを見て、背後から近づいてきた灰原が少し目を細める。

今時あまり見ないデザインの丸メガネだ。

 

「……ハカセのだわ」

 

「何?ゴメン定明にーちゃん。ちょっと貸してくれる?」

 

「あ?あぁ……所で、お前等がさっきから言ってるハカセってのはどんな人なんだ?」

 

俺は拾ったメガネをコナンに手渡しつつ、阿笠ハカセの事について聞いてみた。

一応知識として知っちゃいるが、まだ会った事無えのに聞かないのも不自然だしな。

コナンはメガネを真剣な目付きで見つめてて口を開かないが、灰原は俺に向き直った。

 

「ハカセっていうのはアダ名で、名前は阿笠博士(ひろし)。私が今お世話になってる家の主人で、発明家なの。多分クイズの答えは全部揃ったから、この神社に居る筈なんだけど……」

 

「何故か本人の持ち物であるメガネが神社の入り口前の道路に落ちてて、上には……」

 

「おーいお前等~ッ!!ハカセの奴居ねーぞーッ!!」

 

「神社の所には誰も居ませんでしたよッ!!」

 

と、灰原と話していると上に登っていた3人が戻ってきて、ハカセの不在を教えてくれた。

俺は3人の言葉を聞きながら、少し不安そうな顔をする灰原に質問を重ねる。

 

「一応聞くが、クイズの答えは全部合ってるんだよな?」

 

「ええ。問題無く全部解いて、最後に示されたのがここなのは間違い無いわ」

 

「って事は、その阿笠ハカセって人はこの神社をクイズの最後の場所にした……んで本人のメガネが落ちてるって事は、ここに来たってのも間違い無えって事だな」

 

灰原の言葉を聞きながら、俺は一つ一つの事項を確認していく。

まず間違い無く、阿笠ハカセはココに居たって事だろう。

それはメガネの存在が証拠だ。

だが本人はここには居なくて、呼び出された探偵団は待ちぼうけ……うん、事件だね。

 

「定明にーちゃん。これ見て」

 

等々始まったであろう事件の存在に溜息を吐きたくなるが、その前にコナンに呼ばれてしまう。

そっちへ振り返ると、コナンが地面に残ったタイヤの跡を見ていた。

 

「……急ブレーキを踏んだ跡だな……タイヤとタイヤの幅からして、3ナンバー車だろう。しかも外車系の」

 

「多分そう。それにそっちの電柱にも擦った跡が残ってるし」

 

しゃがんでタイヤの跡を覗いていたコナンの真上からタイヤの跡を覗きつつ、コナンが差した電柱に近づく。

後ろからドタドタと近づいてくる音がするに、探偵団のメンバーも見にきてるな。

電柱の中間より上の、俺の身長より少し高い位置に一箇所だけ擦った様な跡。

そこに手を当てると、少し砂っぽい感触と一緒に色が俺の指に付着した。

 

「こんな急ブレーキの跡があるってのに、擦ったのはこの一部分。って事は、車はワンボックスタイプで外車。色は……ミッドナイトブルーっぽいな」

 

「えッ!?車の種類まで分かるんですかッ!?」

 

「ど、どうしてワンボックスなの?大きいなら、もしかしたらトラックかもしれないよ?」

 

スラスラと情報を組み合わせて答えを仮定していく俺に、探偵団のメンバーが驚愕の声を上げる。

振り返ってみれば、コナンや灰原まで目を丸くしていた。

まぁ普通はこんな事まで気付いたりしねえよな。

 

「色は電柱部分に残った塗装色で分かった。それと、車であんな細い傷が残せる部分はボディより飛び出してるサイドミラーしかねぇ。ミラーの位置があそこにあるのは大体ワンボックスに限られてくるからな。トラックならもう少し上だ」

 

「じゃあ、外車だって思う理由は?何かあるの、定明にーちゃん?」

 

「そうね。ワンボックスなら日本の車にも沢山あるわ。どうしてアナタは外車だって言い切ったの?」

 

「それも簡単なこった。日本車のワンボックスの規格でタイヤがここまで幅広い車はまず無え。ここまで広いのはアメリカとかで使われてるワンボックス系統ぐらいに限られる。多分予想じゃ日本で一番出回ってる外車のワンボックスって事で……シボレーのアストロ辺りだとは思うがな」

 

「ほえー……」

 

「す、凄い推理力ですね……」

 

「……(本当に何者なの、この子……)」

 

「そうなんだ。知らなかったなぁ(鋭いし、目の付け所も良い。おっちゃんよりは探偵向きの思考だな)」

 

あくまでも予想だぜ。と前置きをして驚く円谷と吉田から目を離し、俺は再び頭を考える事に切り替える。

どうすっかな……名探偵コナンの知識は殆ど無えから、博士が無事なのかも良く分からねえ。

ほっといて事態がどう進むかも分からねえし、動いた方が良いだろうか?

もしもこのまま話が進んでややこしい事になっても敵わねえし……早い内に動いとくとしよう。

コナンには悪いが順番に推理する気は俺には無えし、俺は俺で事態の解決をするか。

 

「嫌な感じだが、このブレーキも擦り跡もまだ新しい……もしかしたらお前等の待ってたハカセって人が居ないのは、この事故の跡に関係あるかもな」

 

「「「えええッ!?」」」

 

「そうだね。ハカセのメガネは落ちてたのは、このタイヤ跡が曲がった先だったし……無関係とは言えない」

 

「それってもしかして、車に跳ねられたって事ッ!?」

 

コナンの言葉を聞いて灰原はギョッとした顔をするが、俺はそうは思えない。

試しにタイヤ跡を辿って歩いてみるが……うん。大丈夫だな。

俺みたいに確かめに行かなくても理解していたコナンが、心配する灰原に声を掛ける。

 

「いや。車に跳ねられたんなら、このブレーキの跡よりもっと前方にメガネが落ちている筈だ」

 

「だなぁ。それにそこの擦った跡以外に車の部品は落ちてねえし、血の跡も無えって事は、人身事故は起こして無えって事だろうよ」

 

「つまり、定明にーちゃんの言った通り、ハカセはこの事故を起こした運転手のトラブルか何かに巻き込まれた可能性が高いってこった」

 

コナンが探偵団のメンバーに説明してる間に、俺は更に何か手掛かりになりそうな物を探す。

さすがにコイツ等が居る目の前でハーヴェストに持ってこさせる訳にはいかねえから、少し手間が掛かっちまうがな。

ったく、昨日は普通に平和に過ごせたから、この分ならもしかしてって期待してたのによぉ……やっぱ米花町嫌いだわ、俺。

地面の端っこや排水溝を一通り見て戻ろうとした時、電柱の影に何か引っ掛かってる物を発見。

何かのチラシの様だな。

 

「で、でもですよッ!?これもゲームの続きとは考えられませんかッ!?ハカセは『米花町の3つの場所を回って、ワシを助けだしてくれ』って書いてましたよねッ!?3つ目の場所に、自分が居るとは――」

 

「もしかしたらだが、その阿笠ハカセって人はお前等をここに連れて行きたかったんじゃねえのか?」

 

拾い上げたそのチラシに目を通した俺はコナンの予想に異論を話す円谷達の元へ戻り、拾ったチラシを皆に見える様に突き出す。

チラシの広告内容は、この近辺に出来た新しい洋食屋のメニュー表だ。

この時間にここへ皆を誘い出したのが狙い通りなら、丁度今は昼時。

多分だけど、辻褄は合う気がするんだよなぁ。

そう考えていると、灰原がハッとした表情で近づいて、チラシの内容を真剣に見る。

 

「多分、この人の言ってるので間違い無いわ。前に博士、この近くに感じの良い洋食屋を見つけたって言ってたし、このチラシも見ていたから」

 

「なるほど。それで最初の手紙に『お腹を空かせて待っとるぞ』ってあったのか……」

 

「……兎に角、ハカセの携帯に掛けてみるわ」

 

灰原の言葉で辻褄が合ったのか、コナンは顎に手を当ててそう呟く。

なるほど、クイズを解いた皆へのご褒美として、か……良い人じゃねえか。

と、博士の携帯へ電話し始めた灰原だが、時間が経ってもその表情は優れない。

最後には首を振って携帯を耳から離した。

 

「駄目だわ。通じない……」

 

そのセリフが引き金となり、探偵団のメンバーは誰もが不安そうな顔になる。

もう誰もハカセが事件と無関係とは思っていないだろう。

……仕方無え。

 

(来い。『ムーディ・ブルース』)

 

心の中で念じ、俺の傍にスタンドを呼び出す。

薄青色と白のコントラストをもったビジョンの人型だが、肩から頭までエラの様な膜が張っている。

更に本来目のある筈の場所や拳、肩、膝等あらゆる場所に『スピーカー』が付いてて、額には緑色に光るデジタルタイマーの様なモノが見えるスタンド。

その人物やスタンドに過去に起こった出来事の全てをリプレイして何処までも追跡するスタンド、『ムーディ・ブルース』だ。

能力は『特定のスタンドや人間の行動をビデオ映像のように再生できる』という、追跡のエキスパート能力を有す。

但し容姿や大きさは再現できるが、瞬間移動といったスタンドの能力までは再現できない。

再生中はその人物に変身するため敵を欺くこともできるが、攻撃・防御が出来ない無防備状態になるという弱点が存在する。

まぁスタンド使いにしか見えないリプレイだがな。

 

(正確な時間は分からねえ……が、とりあえず30分前まで巻き戻してみるか)

 

ピッピッピッ――ピピピピピピピピッ。

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ。

 

最初にメガネを拾った場所に立った俺は『ムーディ・ブルース』の能力を発動させた。

独特なタイマー音が鳴り響き、額のタイマーをドンドンと巻き戻していく。

やがて『ムーディ・ブルース』の額のタイマーが25分前を指すと、『ムーディ・ブルースが』姿を変え始めた。

メタボリックな体型で白髪、髪の毛は後ろのみで立派な髭を蓄えた丸顔の老人の様な出で立ち。

額に『ムーディ・ブルース』のタイマーが付いてるがこの人が阿笠ハカセで間違い無い。

しかし再生(リプレイ)し始めたハカセは、何故か地面に倒れて気を失ってる。

 

『くそっ!!見られたからには仕方無えッ!!この爺さんも拐うぞッ!!』

 

『いきなり飛び出してくるなんて、はた迷惑なジジイだねッ!!』

 

と、ここでハカセとは別の男女の声が聞こえてきた。

声質からして、大体20代って所か?

そう考えていたら車のドアが開く音がして、ハカセに変身した『ムーディ・ブルース』の体が宙に浮かび、タイヤ跡の上でドサッという音と共に宙で停止した。

これはつまり車に乗せられたって事だろうよ。

そう思っていると車のセルモーターを回す音が鳴って、ハカセの体は宙に浮いたまま、俺達が歩いてきた道の向こうへと飛び始める。

やべっ、追っ掛けねぇと見失っちまう。

とりあえず『ムーディ・ブルース』の再生(リプレイ)を一旦停止して、俺は考えているコナン達に向き直る。

 

「兎に角、俺はこのタイヤ跡が向かった方を探してくっからよ。何か分かったらコナンに連絡するぜ」

 

「あ、うん。頼むよ、定明にーちゃん(頭も切れるみてーだし、蘭達の話じゃ相当な無茶もやる性格だ。本音は一緒に探して欲しいが……俺の素の状態をあんまり見せるのも都合が悪い。前に蘭にも怪しまれて何度も正体がバレそうになったし、今回は別行動した方が良いだろうな)」

 

「あいよ。それじゃあな」

 

「もしも分かったら、ハカセの事、よろしくね。城戸君」

 

「よーしッ!!俺達もッ!!」

 

「えぇッ!!こんな時こそッ!!」

 

「少年探偵団、出動だねッ!!」

 

「「「オーッ!!」」」

 

張り切って気合を入れる少年探偵団のメンバーの声を聞いて笑みを浮かべながら、俺は『ムーディ・ブルース』を追い掛けて走る。

さすがに誘拐の途中って事で焦ってるのか、再生(リプレイ)中の車に乗せられた『ムーディ・ブルース』のスピードはとても速い。

所々一時停止して追いついてから再生(リプレイ)を再開の手順を繰り返し、俺は誘拐犯の居るであろう場所へと向かう。

ったく、人様の昼飯を中断させやがって……たっっっぷりと八つ当たりさせてもらうから覚悟してやがれ。

そうして『ムーディ・ブルース』を追いかけて走る事30分、如何にも誘拐犯とか脛に傷持ってそうな奴等の溜まり場っぽい廃ビルまで導かれた。

その場所を確認しつつ、ビルの敷地の中を見ていくと、草むらに隠された車を発見。

ミッドナイトブルーのアストロだ。ミラーにも傷がくっきりと付いてるし……ビンゴだな。

 

「良ーし……『エアロスミス』」

 

『エアロスミス』を呼び出して旋回させ、能力のCO2レーダーを起動。

ビルの中には『4人』の呼吸を確認した。

って4人?……『ムーディ・ブルース』の再生(リプレイ)に入ってた声は、阿笠ハカセを除けば2人。

という事は、もしかして誘拐犯にはまだ他にも協力者が居るのか?

 

ピリリリリ。

 

「ん?……コナンか……はい。もしもし?」

 

『あっ、定明にーちゃん?今、ハカセと連絡が取れたんだ』

 

「マジか?で、ハカセさんは何だって?」

 

誘拐されたのは『ムーディ・ブルース』で確認したから間違い無いんだが、最後の1人の存在が分からん。

何かしらハカセがその情報を持ってりゃありがたいんだが……。

 

『……やっぱりハカセは拐われたんだって。犯人は若い男女2人で、中学生くらいの女の子を誘拐して隠れようとしていた時にハカセと遭遇したらしいんだ』

 

なるほどな……って事はエアロのレーダーに写ってるのはその中学生くらいの女の人って事か。

こりゃハカセは巻き添え食らったって事だろうな。

 

『それで、顔を見られた犯人達はハカセをスタンガンで気絶させて、何処かのビルに監禁したって。目的は女の子の両親に身代金を要求してるらしい。それと場所なんだけど、さっきの神社から大体南西2キロくらいだから米花4丁目辺りにあると思うよ。そっちは何か分かった?』

 

良し、犯人達はボコボコにしても大丈夫な人種と判明した。

手加減の必要は、殺さない程度で良いだろ。

俺はホルスターに収めてある鉄球を確かめながら、今度はこっちから情報を送る。

 

「じゃあ俺からも情報だ。さっきの神社から30分くらい走った場所に、如何にもって感じのビルがあってな。敷地を見たらビンゴだったぜ?」

 

『ッ!?何か、犯人が居る証拠があったのッ!?』

 

「あぁ。敷地の草むらに隠す様にして、ミッドナイトブルーのワンボックスがあった。外車だし、ミラーにも擦り跡が残ってる。まず間違いねぇだろ」

 

興奮してる事には突っ込まず、俺は苦笑しながらコナンに答える。

彼等が今どの辺りに居るかは知らねえけど、これでとりあえず集まる筈だ。

 

「じゃあ、俺はちょっと犯人達に憂さ晴らししてくるから、コナンは警察に連絡しといてくれ。場所は分かるよな?」

 

『なっ!?何言ってやがるッ!!相手は武器持ってるんだぞッ!?良いから俺達が行くまで大人しくしてろッ!!良いなッ!?』

 

と、俺が突入すると宣言すれば、コナンは激昂して俺に言葉を返してくる。

しかも口調が新一に戻ってる事すら忘れて、だ。

……心配してるんだろうが、俺にも引けねえ理由があんだよ。

殺人事件じゃ無くて安心したが、それでも俺の平穏が崩れ始めたって事に変わりは無え。

そのスタートを切り、俺の昼食の予定を潰してくれた犯人達の顔面を潰してやらねぇと気が治まらねえ。

 

「じゃ。連絡頼むぜー」

 

『おい待――』

 

騒ぐコナンの言葉の途中で携帯の電源を落として、俺はビルの中に足を踏み入れる。

エアロのレーダーに映る呼吸は、全て2階の一室に集中してるな。

足音を立てない様に静かに歩きつつ、廊下の突き当り。呼吸の集まる部屋の扉の前に立つ。

レーダーを解除して、っと……。

 

「とりあえず……『ダイバーダウン』を潜行させて……」

 

中の様子を探らねぇと、な。

 

『ムーッ!!ムーッ!!』

 

『ったく。うるさいねぇ静かにしときな』

 

『ッ!?ングッ!!』

 

『止めなさいッ!!君もその子と同じ女性じゃろうッ!!女性の髪の毛を引っ張ったりしてはいかんッ!!』

 

『はぁ?うぜえよこの爺さん。少し黙ってろっての』

 

中を覗いてみると、誘拐犯の女が誘拐した女の子の髪の毛を引っ張っていびってやがった。

パイプ椅子に固定されてるってのに、髪を持ち上げられて痛みで涙が出てる。

その近くにはロープに縛られて床に転がされた阿笠ハカセと、誘拐犯の男の方の姿もあった。

 

『ねぇ修?ホントにコイツ等、身代金受け取ったら返してやるの?』

 

『ハァ?ンな訳ねえだろ?爺さんは山に埋めて終わり。その嬢ちゃんは殺す前に裏ビデオに出て稼いでもらうさ』

 

『あっ。それ良いね♪どっかのキモデブオヤジに可愛がってもらいなよ♪』

 

『ムウゥーッ!?ムーーーーッ!?』

 

良し。もうコレ以上は待つ必要なんざ皆無だな。

俺は『ダイバーダウン』を一度戻してから静かに扉から離れ、廊下の向こう側に戻る。

そこから深呼吸をして、俺は全速力で扉に向かって走った。

そのまま全速力で扉へと駆け寄り――。

 

「――しゃッ!!」

 

ガァアアアアアアアアアアンッ!!!

 

鉄製の扉に『ダイバーダウン』と共に渾身の蹴りを叩き込む。

重厚な鉄の扉が鈍くて大きい音を奏でる中、俺は少し扉から離れて壁に寄り掛かる。

 

『な、何よッ!!今の音はッ!?』

 

『くそッ!!誰だ巫山戯た真似しやがってッ!!爺さんより先にブッ殺してやるッ!!』

 

部屋の中から誰かが扉へ走る音が聞こえ――。

 

「(ガチャッ!!)一体何処のどいつ――」

 

ドグァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

扉が開いたと同時に、扉を開けた男が、『扉から現れたダイバーダウンの蹴りで』部屋の奥へと吹き飛ばされていく。

態々扉を開けてくれてサンキュー。

俺は何の気負いも無しに部屋の中へと入り、奥の部屋へと入っていく。

部屋の途中にあった壁は何か凄い勢いで破壊されていて、それは部屋の向こう側まで続いていた。

 

「修ッ!?修ぅッ!!な、何があったのよぉッ!?」

 

部屋の中に入ると、其処にはパイプ椅子に縛られた茶髪の女の子と、床に転がされた阿笠ハカセの姿があった。

それと、部屋の壁に当たってから床に倒れ、ピクピクと痙攣する誘拐犯の男と、その男に駆け寄る化粧の濃い女の誘拐犯。

気絶した男を必死でゆさぶる女だが、男は中々起きない。

まぁ、死なない程度に手加減したとはいえ『ダイバーダウン』の蹴りを食らったんだ。

生きてるってだけでも儲けモンだろうよ。

『ダイバーダウン』は物体や人間の中に潜行出来るだけじゃなくて、物体にパワーとスピードをこもらせて、解き放つ事が出来る。

だから俺は蹴りのパワーとスピードを扉にこもらせて、あの男が開けた瞬間に解き放ったんだ。

 

「む、んむッ!?」

 

「き、君は……一体、誰じゃ?」

 

と、誘拐犯に囚われていた阿笠ハカセと女の子が俺を見て目を見開く。

まぁハカセ的には助けに来るのはコナンだと思ってただろうし、知らない子供が来るとは思わなかったんだろう。

 

「あ、あんたが……あんたが修をーーーーーッ!!」

 

ハカセの質問に答えようとした俺だが、その前に誘拐犯の女が激昂して襲いかかってきた。

しかも傍に落ちてた鉄パイプを振りかぶって突撃してくる。

おーおー。人間の屑がいっちょまえに激昂しやがって。

俺は慌てず騒がずにホルスターへと手を伸ばして、鉄球を手の平で回転させる。

そのままガンマンの様に早撃ちの体勢で構えて、誘拐犯を待った。

 

「死んじまえッ!!この、クソガキーーーーーーーーーッ!!(ブオンッ!!)」

 

「――おうらぁあッ!!(ドバァッ!!)」

 

「(ドスゥッ!!)――グッ」

 

誘拐犯の振り下ろした鉄パイプが落ち切る前に、俺は下投げの要領で鉄球を誘拐犯の胸に当てた。

だが、誘拐犯は呻くだけで吹き飛んだりしない。

俺が回転を『そういう風に』調節して回したからだ。

まぁその代わりに――。

 

グニュウウウウウッ!!

 

「ぐうあげぇっ!?ふ、服がぁ……ッ!?」

 

鉄球から伝わる回転による捻じれは服に回転を伝え、回転を伝えられた服は渦を巻き込む。

当然その服に身を包む誘拐犯の体も、回転に沿って捩れる服の巻き添えを食う。

体には回転の力を伝えていないから、服の回転に従って体も拗じられてしまうのだ。

その捻じれを利用して作られた、相手を拘束する為の回転。

相手の着ている衣服をそのまま拘束具として利用する鉄球の回転だ。

強力な回転の力によって捻れた姿で、犯人は床に転がる事になる。

 

「暫くそうしてな、ババア」

 

鉄球をキャッチしながらそれだけ言って、俺はまず女の子の口に貼られたガムテープを優しく剥がす。

女の子はよっぽど怖い思いをしていたらしく、涙が溢れて止まらない。

 

「ッ……あ……あ……わ、私……ッ!!」

 

「落ち着いて。もう大丈夫ッスから。直ぐに警察も来ます」

 

錯乱しそうな女の子にそう伝えながら、背後で縛られていたロープを解く。

これで後は警察を待つだけだな。

膝下を固定していたロープも解いた所で、彼女は両手で顔を覆って震える。

あー……気が抜けたら、今までの恐怖が一気に流れ込んできたのか。

 

「か、帰りの途中で……い、いきなり襲わッ……ッ……襲われて……ッ」

 

「大丈夫ですって。もう誰も襲わねぇッス。ちゃんと家に帰れますよ」

 

「ッ!!……グスッ……あ、ありがとう……ッ……本当に……ッ」

 

「いえいえ」

 

震える彼女に、なるべく刺激しない言葉を返してから、俺は阿笠ハカセの傍に寄って体を起こす手伝いをした。

そのまま背後で結ばれてるロープを解いていく。

 

「……あのまま忘れられるかと思ったわい」

 

「そいつは失礼。直ぐにコナン達も来ますから、メガネはそれまで待って下さい」

 

「何じゃと?……君はコナン君達の知り合いなのかの?」

 

ああ、そう言えば名乗ってなかったか。と思い至り、俺は自分の素性をハカセに明かした。

と言っても自分の名前と、自分が毛利家の親戚って事ぐらいだがな。

さすがに小五郎さんの甥っ子というのには驚いたらしく、結ばれていた腕を擦りながら俺を見てくる。

 

「あの毛利君の甥っ子とは、さすがに驚いたわい」

 

「まぁ、皆暫くはそういう反応なんでしょうね……お?サイレンの音だ」

 

「おぉ?どうやら君の言った通り、コナン君達が通報してくれてたらしいのう」

 

「そうッスね……それじゃあ、ハカセさんはこの人を連れて下に降りて下さい。俺はコイツ等を見張ってますんで」

 

「え?じゃ、じゃが……」

 

ハカセは途中で言葉を詰まらせて心配そうな目で俺を見てくる。

まぁ子供1人残してってのも気が引けるか。

だが、俺的には降りてもらった方が都合が良いんだよな。

天国の扉(ヘブンズドアー)』を使う事もそうだが……これからやる『お仕置き』の為には、居ない方が良い。

 

「大丈夫。こんなクソマヌケ共に遅れを取る事は無いんで、早くその女の人を警察に保護してもらって、安心させてあげて下さい。ここに居たらその人には悪影響しか無いっすよ」

 

「う、うむ。分かった」

 

俺の言葉を聞いたハカセは頷きながらも、直ぐに警察を連れて戻ってくると言い残して、女の子を支えながら部屋から出て行く。

これでこの部屋に取り残されたのは俺と誘拐犯二人だけになった。

ハカセが出て行った出口から視線を外して、地面に横たわる女の誘拐犯に近づいてしゃがむ。

 

「よっと」

 

「う、うぅ……」

 

そして、服の締め付けで意識を失った女の髪の毛を束にして掴んで強引に持ち上げ、片手に鉄球を回転させる。

ちょっと『美容師』の真似事でもしますか。

ニイィ、と邪悪な笑みを浮かべながら、俺は回転させた鉄球を女に近づける。

では、いきますねー?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「警察よッ!!無駄な抵抗はし――」

 

「定明にーちゃ――」

 

「あ」

 

それから間もなくして、スーツを着た凛々しい女の警察の人と、コナンが現場に踏み込んできた。

どっちも緊迫した声で中に入ってきたのだが……。

 

「」

 

「」

 

「さ、佐藤さん?コナン君?どうしたんです……か?……――」

 

「……」

 

俺が現在進行形でやってる所業を見て目を丸くしてフリーズしてしまった。

その後ろから着たもう一人のスーツを着た警察官も、目を点にしてる。

この二人は確か、高木刑事と佐藤刑事だったか?

入り口の所で固まる3人と視線を合わせ、『マジックペン』片手に止まってしまう俺。

現在、俺は誘拐犯の女の髪の毛を全て切ってツルッパゲにし、更に油性マジックで頭にデカデカと『罰』と書いてる途中だったのだ。

綺麗に掛けたので満足しながらその出来栄えを見ていたのだが……ちょっと時間掛けすぎたか?

後から入ってきた警察のお陰で3人が正気に戻るまで、俺達は視線を合わせているしかなかった。

 

 

 

「良い?もし次にこんな事があっても、あんな事をしちゃ駄目よ。分かった?」

 

「心情的には前向きに検討したいと思っております」

 

「コラ。何処で覚えたかは知らないけど、政治家的発言は止めなさい。ちゃんともうしないってお姉さんと約束して」

 

 

 

そして、正気に戻った佐藤刑事から、俺は粛々とお叱りを頂いている。

まぁ聞く気は毛頭無えんだけどな。毛だけに。

 

「例え相手が犯罪者でも、子供の君はあんな事をしてはいけないの。それをちゃんと覚えておいて」

 

「俺、自分の信念は曲げたくないんス。例えソレが法治国家でも」

 

「将来、君に手錠を掛ける事が無い事を、お姉さんは祈っておくわ」

 

どう言っても答えを変える気が無いと判断したのか、佐藤刑事は深い溜息を吐きながらそんな事を言う。

その隣で手帳に俺の話を書いていた高木刑事は「アハハ……」と苦笑い。

っていうか俺、もう警視庁にマークされそうになってね?

 

「ちょいちょい。俺がワッパを掛けられる歳になる頃には、佐藤刑事さん退職してるでしょ?」

 

「君って今『お姉さん』の事を何歳だと思ったのかな?ん?」

 

「さ、佐藤さん?あの、少し落ち着いて……」

 

「お、おい光彦。佐藤刑事がメチャクチャ怖えぞ」

 

「え、ええ……何ていうか、こう……捩れるオーラが出てます」

 

俺の言葉に何を感じ取ったのか、佐藤刑事は笑顔の裏に凄いオーラを漂わせて俺と視線を合わせてくる。

探偵団withハカセも佐藤刑事のオーラにビビりまくりだ。

しまった、今の言い方だと歳の方に聞こえたか。

 

「誤解っすよ。俺は只、その頃には佐藤刑事さんも寿退職してんだろうなーって。そうでしょ?高木刑事さん?」

 

「は?……えぇッ!?こ、ここ、ことぶッ!?」

 

「ちょ!?な、何でここで高木君が出てくるのかなッ!?」

 

俺の言葉に顔を真っ赤に染めて狼狽える高木刑事。

そして高木刑事よりは薄くとも、佐藤刑事も同じく頬を赤く染めていた。

 

「あら?って事は他に相手が?」

 

「(ガーンッ!!)さ、佐藤さ……」

 

「ち、違うわよ高木君ッ!!そ、そうじゃなくて――」

 

「って事は高木刑事が本命?」

 

「だ、だからそれはッ!!――こ、子供が大人をからかうんじゃないのッ!!」

 

「じゃあもう帰って良いっすか?正直腹ペコなんスよ俺」

 

「駄目に決まってるでしょッ!?君にはちゃんとルールを教える必要が――」

 

「それ任意じゃねえし、事件とは関係ないっしょ?って事で俺は帰ります。お仕事お疲れ様でーす」

 

「――」

 

呆然とした表情で固まる佐藤、高木刑事の脇を通り過ぎて、俺は探偵団のメンバーと合流する。

まぁ留まるのもダルかったので、そのまま素通りしていくと、彼等も一緒に着いてきた。

暫く歩いてパトカーの見えない場所まで出てから、俺は大きく欠伸をする。

あの人、説教長いんだなぁ……無駄に眠くなったぜ。

 

「ま、まぁ、ちゃんと事情聴取は受けてたんだし、一応問題は無い……の、かしら?」

 

「んー?まぁ大丈夫じゃねぇのか?……名前名乗ってないけど」

 

「……は?」

 

「そ、そこはちゃんと名乗らないと駄目だよ、定明にーちゃん」

 

「説教に夢中になってちゃんと名前を聞かなかった向こうが悪いと、俺は思うんだよ」

 

「あ、あはは……(サラッと良く言うぜ。適当に佐藤刑事達を煽って質問をズラしてた癖に……)」

 

適当な受け答えしかしてない、と言い切った俺に唖然とした灰原。

そんな珍しい表情を浮かべた灰原の隣で、今度は苦笑いしたコナンがやんわりと注意してきた。

 

「そ、それと紹介するね?この人が阿笠ハカセ。僕らの為に色んな発明品を作ってくれる……て、天才発明家なんだ(ったく。何が『初対面の紹介は大事じゃから、ちゃんと『天才』と言うんじゃぞ』だっつの)」

 

「ほー?天才か?」

 

聞き返した俺に、阿笠ハカセはドヤァな顔をして俺に視線を向けてくる。

 

「ムッフッフ。ご紹介に預かった、『天才発明家』の阿笠じゃ。助けに来てくれてスマンな。定明君」

 

「いえ。別に良いっすよ……それで、ハカセはどんな発明を探偵団の皆に渡したんすか?」

 

「フッフッフ。例えばのぉ――」

 

「はいはいはーいッ!!まずは僕達少年探偵団のライセンスとも言える探偵団バッジですッ!!」

 

と、ハカセが説明しようとした所に円谷が割り込んで、ポケットに入れてたバッジを取り出す。

シャーロック・ホームズのシルエットとdetectiveboysの頭文字を略してDBとデザインされたバッジだ。

円谷はそれを手に持つと、ハカセと同じドヤ顔を浮かべる。

 

「フッフッフ。このバッジは超小型トランシーバーが内蔵されていて、僕達少年探偵団のメンバー同士の交信に使用されているんですッ!!」

 

「交信範囲は半径20キロメートル。発信機も内蔵されており、コナン君の付けとる犯人追跡メガネで位置を受信可能な優れ物じゃ」

 

「犯人追跡メガネ?」

 

二人の説明を聞いていると、コナンの持ってる道具の話になり、コナンは苦笑いしながら頷く。

 

「う、うん。僕のメガネってレーダーが内蔵されてて……こうすると、皆の位置が分かる様になってるんだ。ほら」

 

メガネのフレームの縁を押すとアンテナが伸びて、片目にレーダーが表示される。

おお?これは結構凄いな?

確かにどっちも自慢するだけの事はある代物だ。

感心した表情で俺がメガネやバッジを見ていると、ハカセは更に背中を反らして自慢気にする。

この大きさで半径20キロメートルってのは充分なポテンシャルだろうな。

 

「他にも腕時計型ライトやターボエンジン搭載のスケボーなど、沢山の優れモノを発明しておる。興味があったら是非、ワシの家に遊びに来てくれ」

 

「はい。またこっちに居る間にお邪魔させてもらいますんで……と・こ・ろ・で・?なぁ、コナンよぉ?」

 

「え?…………な、何かな?定明にーちゃん?何でそんな顔してるの?」

 

俺は見下ろして笑顔を浮かべるハカセに言葉を返しながら、俺の隣を歩くコナンに輝くような笑みを浮かべる。

その笑みを受けたコナンは何故か冷や汗を掻きながら一歩づつ俺から距離を取ろうとしていた。

 

「いや何。電話口で俺に随分と舐めた口聞いてくれたなぁ~と思ってよぉ……俺はビックリしちゃったぜ?まさかコナンがあんなに口が悪いなんてよぉ~」

 

「そ、そうだっけ?む、夢中だったから覚えてないや~(やっべッ!?どうやって誤魔化すか考えてなかった……ッ!?)」

 

「俺は覚えてるぜ?『良いから俺達が行くまで大人しくしてろッ!!良いなッ!?』……ってよぉ……まさか年上相手にあんな口の聞き方しやがるとはな……やっぱそっちが素の性格なんだろ?」

 

「ち、違うよ~ッ!!僕はただ、定明にーちゃんが心配だったから……」

 

「……」

 

「う~~~……」

 

チクチクと責める様に追求する俺に狼狽えていたコナンだが、等々子供っぽく唸る様にして誤魔化しに入った。

しかも微妙に泣きそうな顔で、という名演技付きだ。

……コイツ、探偵でもサッカー選手でも無く役者一本でも食っていけんじゃねぇか?

現に俺達の遣り取りを見ていた少年探偵団のメンバーがコナンを心配そうに見てるし……潮時か。

俺は疑う様なジト目を止めて、肩を竦めながら視線を外す。

 

「そうか。疑って悪かったな。どうにもコナンには別の性格があんじゃねぇかって思っちまってよ」

 

「ッ!?う、ううん。僕は大丈夫だよ(あ、あっぶネェ……鉄球の謎を解くどころか、俺の謎が解かれそうになってるじゃねえか……ッ!!)」

 

冷や汗ダラダラで幼い演技をカマすコナンから視線を外し、俺は歩みを再開する。

まぁそこまで深く突っ込む必要は無えよな……『今は』って言葉が付くけど。

その後、俺はハカセから今回のお礼って事で、少年探偵団と一緒にお昼にお呼ばれする事となった。

ハカセの見つけた感じの良い洋食屋という事だったが、確かに飯は美味しそうで種類も豊富。

オマケに住宅街の中に隠れた知る人ぞ知るって感じの落ち着いた店ときて、中々俺好みの店だったぜ。

そんでこの店を気に入った小島達は大はしゃぎ。

 

「ここ、少年探偵団の隠れ家にしようぜッ!!」

 

「あっ!!歩美もさんせーいッ!!」

 

「これこれ。ここはあくまで洋食屋さんであって――」

 

「(ガチャッ)いやー、ホント、良い店っすなぁ」

 

「……ん?」

 

しかし、興奮する小島達を諭していたハカセの言葉の途中で、何処からか聞いた覚えのある声が聞こえた。

それに気付いた俺達は店内をキョロキョロと見渡し――。

 

「料理は美味いしトイレは綺麗。オマケに、オーナーが美人姉妹ときたッ!!おじさん毎日通っちゃおうかなッ!!ぬっはっはっはっは~~ッ!!」

 

「……隠れ家には、ならないわね」

 

「「「「「「「……ハァ」」」」」」」

 

カウンター席に座ってオーナーの美人姉妹を口説いてる小五郎の伯父さんを発見。

灰原のやれやれって感じで呟かれたセリフに、皆揃って溜息を吐いてしまう。

俺は皆とはちょっと違った意味の溜息だがな。

具体的には身内が目の前で女性を口説いてる事に対する呆れの溜息ってヤツだ。

……伯父さんぇ……まぁ……面倒くせーし、蘭さんには黙っておくか。

 

 

 

 

 

その時はそう思ってた俺だが――。

 

 

 

 

 

「聞いたわよ定明君ッ!!ハカセ達と一緒に美味しい洋食屋さんでお昼食べたんでしょうッ!?パン屋に行くなんて嘘まで吐いてッ!!」

 

「だ、だから蘭ねーちゃん。そうじゃなくて……」

 

コナンの説明が足りなかった所為で、蘭さんに理不尽に怒られる羽目になったとさ。

ちなみに伯父さんは既に蘭さんの制裁を受けて、床に転がってる。

俺もああなるんだろうか?

 

「もうッ!!私だけ除け者にして、皆行くなんて酷いじゃない……あっ、そうだ。明日は私部活休みだから、明日は私とコナン君と定明君で一緒にそこに行こうねッ!!」

 

「う、うん。僕は良いけど……」

 

「あっ。俺はパスで。明日こそ噂のパン屋に行きたいっすから――」

 

「うふふっ♪   行 く よ ね ? 」

 

ニコニコ笑顔で俺を見下ろしながら、言葉に迫力を込める蘭さん。

どうやら俺が嘘を吐いてまで昼の誘いを断った事がかなり腹にすえかねてるらしいです。

ちなみにコナンは蘭さんの迫力にビビりながらも俺達から距離を取り、俺にジェスチャーで謝ってやがる。

……ハァ。

結局、俺は強制的に明日のお昼を一緒になる様に約束させられてしまった。

明日こそはゆっくりとしたかったってのによぉ。

 

 

 

「あっ。それとお母さんにも連絡入れておかなきゃ。お母さんも定明君に会いたい筈だもん」

 

 

 

勘弁して下さいって。

 

 




今回の話は名探偵コナン、OVA7の謎解きをスッ飛ばした内容でしたwww
推理モノなのに推理を飛ばすというこの冒涜、どーもすみません。

それとハカセの表記がカタカナなのは、阿笠ハカセの本名が阿笠博士と書いてヒロシと読むからです。



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ガムはやらねーが(ry

後何話くらいやろうか?

一話書くのに凄い文量使うし……。


少なくとも劇場版はしたいと考えております。




「さぁ定明君。ここが『妃法律事務所』。私のお母さん、つまり定明君の伯母さんの仕事場よ。お父さんの事務所とは違って綺麗な所でしょ?」

 

「綺麗ってのは間違い無いッスけど、探偵事務所と比べてうんぬんかんぬんはノーコメントでお願いします」

 

「別に気を使わなくても良いよ?ありのまま感じた事を言ってくれれば。ねーコナン君♪」

 

「う、うん」

 

あれ?普通は使うんじゃね?というかまだ昨日伯父さんが女性を口説いてたのを怒ってるんですね分かります。

笑顔で答えづらい事を問う蘭さんに苦笑いを返して、俺は答えをぼかす。

こういう所で答えた言葉が、後々面倒事の種にならないとも限らないからな。

その辺りを吟味して答えねえと、世の中は渡っていけない。

 

昨日の誘拐事件から明けて次の日。

 

部活が休みだった蘭さんにお誘い(誘拐)されて、俺はコナンと共に再び洋食屋さんで食事をした。

俺達と違って蘭さんは初めてだったから少し興奮気味だったが、店の醸し出す落ち着いた雰囲気に呑まれて段々と静かに。

出された食事の美味しさに打ち震えていたりとあったのだが、まぁ割合する。

そして現在、俺は自分にとっては伯母に当たり、母ちゃんにとっては義理の姉に当たる妃英理さんの元を訪れていた。

とどのつまり、小五郎伯父さんの奥さんな訳なので、一応甥っ子に当たる俺としては挨拶をしとかなきゃな、とは思ってる。

 

「しかし、妃って……名字が違うじゃないッスか?どういう状況で?」

 

「あー……その……ちょっと昔にお父さんと喧嘩して……今は別居中、かな」

 

「……そうっすか」

 

頬を掻きながら苦笑いで言葉を放つ蘭さんに、俺はそれだけしか言えなかった。

別居中、か……しかも蘭さんの家事スキルを見るに、結構昔からっぽい。

妃英理さんの事は殆どうろ覚えで、こういった確認をするのは抵抗は無い。

何せ本当に覚えてないんだし。

まぁそんな遣り取りをしてちょっと微妙な雰囲気になりつつも、俺達はその法律事務所のあるビルの中に入っていく。

蘭さんの先導でエレベーターに乗り、高級そうな廊下を歩く事数分。

金に黒字で『妃法律事務所』と書かれた一室のドアを、蘭さんは淀みなくノックする。

何でも驚かせたいからって理由で、先方には何も伝えてないらしい。

 

「……なぁ、コナン。妃さんってどんな人なんだ?」

 

「ふぇ?えっと……や、優しい人……かな?」

 

おいコラ。なぜ苦笑いしながら目を逸らす。そして何故汗を掻いている?

もしやそれとは真逆の人だったりしねーよな?

コナンの言葉に訝しむ俺だが、そんな俺達にノックの返事待ちしてた蘭さんがムッとした顔を向ける。

 

「なーに、コナン君。お母さんは優しい人じゃない?どうしてそんなに言い難そうなのよ?」

 

「べ、別にそんな事は無いよ?」

 

「……ホントでしょうね?」

 

「う、うん。ぼく英理おばさんだーい好きだもん。あ、あはは……(バーロー。昔散々怒られたから、勝手にそんな反応になっちまうんだよ)」

 

「それなら良いんだけど。定明君も誤解しないでね?お母さんは本当に優しい人だから」

 

「はぁ……まっ、その辺りは会ってから判断しますんで」

 

「もぅ。そんなに警戒しなくても大丈夫だってばー」

 

俺の苦笑いした受け答えが不満なのか、ムキになって妃さんの事を養護する蘭さんだが、その辺は自分で確かめよう。

やがてノックした扉が開かれて、緑がかった黒髪の女性が顔を出した。

かなりの美人さんだが、どうやらこの人では無いらしい。

コナンと蘭さんの顔を見て笑顔を浮かべてはいるけど、肉親に向ける表情じゃなさそうだ。

 

「あら。蘭ちゃんとコナン君。いらっしゃい、今日は……コナン君のお友達も一緒?」

 

「こんにちは、栗山さん。えっと、この子はちょっと違うんですけど……母は居ます?」

 

「えぇ。今日は急ぎの用事も無かったと思うわ。さぁ、どうぞ」

 

「「「お邪魔します」」」

 

栗山さんという人に案内されて中に入り、執務室というプレートの掛かった部屋に通された。

扉を開いて一礼する栗山さんの背後から中を覗き見ると、メガネを掛けた凄い美人さんがデスクに座って書類に目を通してる。

……栗山さんといいこの人といい、ここの事務所は美人率高いな。

 

「先生。蘭さんとコナン君がいらっしゃいましたよ」

 

「あら。いらっしゃい二人共」

 

「久しぶり、お母さん」

 

「おばさん。こんにちはー」

 

「こんにちは、コナン君……あら?コナン君のお友達?」

 

と、俺達に気付いて笑顔で挨拶してくれた美人……多分、この人が妃さんだろう。

妃さんがコナンの挨拶に返事した時に、蘭さんの後ろに居た俺に気付いて俺を見てくる。

 

「ふふっ。さて、この子は誰でしょうか?お母さんは分かる?」

 

妃さんの質問に対して、蘭さんは俺を前に差し出しながら笑顔でそんな事を言う。

前に出されて視界の開けた俺の視界の先で、妃さんは首を傾げる。

うん、まぁいきなり目の前に差し出された子供が誰でしょうってのは無いと思う。

面倒くせーし、さっさと自己紹介しちまうか。

デスクから俺を見つめてる妃さんに、俺は一歩前に出てから一礼する。

 

「初めまして。俺は城戸定明って言います。毛利小五郎伯父さんの妹の息子です」

 

「え?あの人の妹って……雪絵ちゃんのッ!?」

 

俺の自己紹介で思い至ったのか、妃さんは驚きの声を上げてデスクから離れて俺の傍で屈んだ。

そのままジッと目を合わせていると、彼女はニコリと微笑んで俺の事を見つめた。

 

「そう。貴方が……初めまして。蘭のお母さんの妃英理よ。宜しくね、定明君」

 

「はい。よろしくお願いします。伯母さん……よりは、お姉さん?」

 

「あら♪嬉しい事を言ってくれるわね……でも、親戚なんだから伯母さんで良いわよ」

 

お互いの自己紹介も終わり、俺達は応接用のソファに座ってお茶を頂く。

とは言っても、コナンと俺はオレンジジュースで蘭さんはコーヒーだったけど。

俺達3人と向き合う様にして、栗山さんと英理伯母さんはソファに腰掛けている。

 

「それにしても、驚いたわ。急に連絡も無しに訪ねてきたと思ったら、まさか私の甥を連れてくるなんて」

 

「ゴメンゴメン。私達の時も急だったから、ビックリさせてあげようと思って」

 

「まったく……それにしても、定明君はどうしてあなたの家に?」

 

「なんか、叔父さんが急に海外に出張になっちゃって、それに叔母さんも着いて行かないといけなくなっちゃったらしいの。それで家に二週間ほど泊まらせてくれって……」

 

「そうなの……お母さん達が居なくて、寂しくない?」

 

蘭さんから俺の事情を聞いた英理伯母さんは優しい表情でそう聞いてくる。

なので俺は食べていたクッキーを飲み込んで、叔母さんに視線を向けた。

 

「特に寂しくは無えッスけど……心配っすね」

 

「心配……お母さん達が、向こうでちゃんと元気にしてるかという事かしら?」

 

「いや。母ちゃんが父ちゃんを振り回して無えかッス。仕事で行くっつうのに、出発する前の日に観光地のガイド見て楽しそうにしてたんで」

 

微笑ましいという表情で俺を見る英理伯母さんにそう答えると英理伯母さんはキョトンとしてから「プッ」とおかしそうに笑う。

昔からどっかに旅行に行くと、俺も父ちゃんも母ちゃんの行きたい所に振り回されたからなぁ。

父ちゃんは母ちゃんに甘いっつうかデレッデレだから、母ちゃんの我儘は絶対に叶えてたし。

向こうでも同じ様なら、仕事の合間に休む間も無く振り回されてるんだろうなぁ、という心配だ。

そう答えると、伯母さんはクスクスとおかしそうに笑ってた声を止め、メガネをずらして涙を拭う。

そんなにツボだったんだろうか?

 

「ふふっ……そうね……昔から、雪絵ちゃんは自由奔放な所があったわ」

 

「父ちゃんも同じ事言ってました。本当に自由で、振り回されてる時もあるって……でも」

 

「でも?」

 

「でも、そんな母ちゃんの太陽みたいに明るくて暖かい所にベタ惚れだ……だそうっす。お陰で息子の俺の前でも、未だにイチャイチャするバカップルっすよ」

 

「へぇ~……ラブラブなんだね。定明君のお父さんとお母さん。羨ましいなぁ~」

 

「えぇ。息子の存在忘れて二人の世界に入ったり、ちょっとした誤解でも隣のおばさんの家に行って泣き付いた挙句、何時の間にか仲直りしてイチャイチャしだすぐらいには」

 

「あ、あはは……」

 

何時も迎えに行ってるのは俺っすよ?という愚痴を零すと、憧れの目をしてた蘭さんも苦笑いしてしまう。

コナンと英理叔母さんも半目になって「オイオイ」って顔してる。

 

「別に文句は無えんスよ?仲が良いのは素直に嬉しいし、ちゃんと息子の俺の事も愛してくれてる。でも『少し人目を憚れやコラ』とは思いますね」

 

「こ、子供には子供の悩みがあるみたいね」

 

「想像出来ます?レストランに行って『雪絵の料理の方が美味しいな♡』とかイケメンウェイターが売りの店で『結城さんの方が何十倍も素敵よ~♡』なんて言って二人の世界に入っちまうから、息子の俺だけが正気で気まずい空気の中っすよ?オマケに外野はニヤニヤしてたり悔しそうにしてるから、その全てを俺が請け負う羽目に……あれ?別にこのままアッチで末永くしててもらっても良い様な?」

 

「こ、堪えて堪えて」

 

「そ、そうよ定明君。別に叔母さん達には悪気は無いんだから、ね?」

 

「は、はい。定明にーちゃん。このクッキー美味しいよ」

 

今までの事を思い返していた俺に、全員からストップの声が掛けられる。

危ない危ない、ちょっとダークサイドに入りかけた。

怒りは暗黒面に繋がるっていうヨーダ先生の言葉は偉大だよな、うん。

何とか落ち着いた所で、俺も叔母さんに質問する事にした。

 

「っつうか、伯母さんは何で伯父さんと別居してんスか?理由は何にも聞いて無いんスけど?」

 

「ち、ちょっと定明君ッ!?」

 

無遠慮にズケズケと踏み込んだ俺に蘭さんが驚いた声をあげるが、叔母さんは少し苦笑いするだけだ。

原作をうろ覚えだから理由までは知らねえんだよなぁ。

 

「別に対した理由じゃ無いわ。貴方のお父さんの結城君とは違ってグズで不潔で、女たらしで飲んだくれなあの人と喧嘩したから」

 

ヒデぇ。

 

「でも、今も指輪してるって事は、別居してても伯父さんの事を愛してるんスよね?」

 

「あ、愛してッ!?ち、違うわよ。これは只――」

 

「只?」

 

俺のストレートな言葉に顔を真っ赤にして否定する叔母さんに、俺は追求の手を緩めない。

指輪の事を指摘された叔母さんは少し言い淀みながらも、コホンと息を吐いて仕切り直す。

蘭さんとコナン、そして栗山さんは伯母さんの次の言葉を興味深そうに待っていた。

その視線を感じてのか、伯母さんは少し恥ずかしそうにしながらも言葉を放つ。

 

「これはその……う、うざったい男を寄せ付けない虫除けよ」

 

「つまり、伯父さん以外の男はお断りっていう事っすか」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

「お母さん……ッ!!」

 

「ち、違うのよ蘭ッ!?私が今も離婚してないのは、蘭が可哀想だから――」

 

「子供を理由にしないで下さいよ。別に離婚したって、子供に対する愛情は関係無いッスよ?」

 

「う……ッ!?だ、だから……あっ。そういえば仕事の途中だったかしら」

 

「もうッ!!話の途中で逃げないでよ、お母さんッ!!」

 

何を言っても伯母さんは俺の言葉を否定するばかり。

どう言い繕ったって、伯母さんが伯父さんの事を今でも愛してるのは間違い無い。

なのに意地っ張りな性格がその想いを邪魔してるって訳だ。

……はぁ……こりゃ暫くは無理そうだな。

まぁ伯母さんの本心はスタンドを使わなくても分かったので、俺は諦めて菓子の続きを楽しむ。

すると伯母さんが逃げた事で溜息を吐いた蘭さんが俺に困った顔を向ける。

 

「ねぇ定明君。どうしたらお母さんとお父さんを仲直りさせられると思う?」

 

「えっと……この書類は確か」

 

「……それ、小学生に聞く事じゃ無えっすよね?」

 

あからさまに蘭さんの言葉が聞こえないって風を装う伯母さんにジト目を向けるコナンを見てから、俺は蘭さんに言葉を返す。

すると蘭さんは「だって……」とか言いながら頬杖をついて溜息を吐く。

 

「私も今まで何度も仲直りさせようと思って色々してきたんだけど、中々上手くいかなくて……」

 

(そりゃそうだろう。蘭のやった事と言えば偶然を装って旅先で二人を引き合わせる事ぐらいだしなぁ)

 

「会ったばっかりなのにお母さんの本音を簡単に引き出した定明君なら、何か良い案が浮かぶんじゃないかなーって」

 

「本音じゃないわよ」

 

こっちに念を押す様に言ってくる伯母さんの言葉は皆してスルー。

そして俺は今も期待に満ちた表情を浮かべる蘭さんに答えなくちゃいけないらしい。

頭が良いという事でコナンに話を回して欲しいところだが、コナンは巻き込まれ防止の為か聞こえない振りしてやがる。

……何で甥っ子の俺が叔父叔母の仲直り改善をする羽目に?少し突っ込み過ぎたか?

 

「……ハァ……速い話が、伯父さんと伯母さんをサシで会話させりゃー良い訳ッスよね?」

 

「うん。でも、何時も何かタイミングが悪くて……折角仲直り出来るっていうタイミングでお父さんが他の女の人に声掛けたり……」

 

「じゃあ他の人間が声を掛けられない状況を作りゃ良いじゃ無いっすか」

 

「え?そんな状況作れるのッ!?」

 

溜息を吐きながら言った答えを聞き、蘭さんは目を丸くして驚く。

コナンも興味があるのか俺に視線を向けてきた。

後、何気に茶を飲みながらこっちをチラチラ見てる伯母さん。

仲直りする気があんなら普通に聞いて欲しい。

 

「伯父さんと伯母さんだけで邪魔が入らない中で、向い合って話が出来る状況……つまり、二人を拉致ってどっかのホテルの一室にブチこんで監禁しちまえば良いってだけでしょ?」

 

「え?」

 

ブーッ!!

 

「キャアッ!?だ、大丈夫ですか先生ッ!?」

 

そして次に出た妙案に、蘭さんとコナンは目を点にしてしまう。

っていうか伯母さん茶ぁ噴いてるし。

 

「狭いホテルの一室に強制的に閉じ込めちまえば、嫌でも二人は向い合って生活しなくちゃいけなくなるっしょ?そうすりゃ伯父さんが目を他の女の人に向ける事もねーし」

 

「で、でも、食べ物とかが無いと無理でしょ?だったらホテルのルームサービスとかを呼ばないと駄目だし、その時に逃げられちゃうんじゃ無いかな?」

 

「大丈夫だコナン。日持ちする食料だけを先に部屋に入れておけば問題無い。そしてホテルの内線を外しておいて、携帯を取り上げればハイOK。後は扉に細工をして中から開けられない様にすれば、二人だけの世界の完成だ。ついでに部屋を高い所にしておくと、ベランダから逃げる手段も封じられるぜ?」

 

正に完璧な檻の出来上がりって寸法だ。

簡単に考えれば無人島に放置の縮小版ってヤツだな。

これなら逃げられないし、本人達の言いたい事を言いたいだけ言い合える。

こんな完璧なプランなのにコナンは気に入らないらしく目元をヒクつかせていた。

 

「で、でも、お母さん達って凄い意地っ張りだから……もしかしたら、二人きりにしたら余計に拗れちゃうかも……」

 

「そこはホラ。本人達の昔の思い出の品とかも一緒に置いておけば良いんじゃないっすか?写真とか、思い入れのある料理とか」

 

「な、なるほど……」

 

「俺の友達に結構な金持ちが居るんで、頼めば山の中の別荘とか貸して貰えるかもしれませんけど?」

 

「……経済的にも、問題無く実行できそうね」

 

「ち、ちょっと蘭ッ!?」

 

俺の言葉を聞いて実行できそうだと教えるとかなり乗り気な言葉を漏らす蘭さん。

ちょっと危ない思考に染まり掛けてる娘を見て慌てふためく伯母さんを見ながら、俺はジュースを一口飲む。

 

「で、でもさ。それって犯罪じゃ無いかな?」

 

「両親の仲が元に戻って欲しいって切実な思いで娘がやった事を犯罪として咎められるか?っていうかそれなら伯父さんか伯母さんのどっちかが蘭さんの事を訴えねえと成立しねえだろ?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

控えめに聞いてきたコナンに事もなげに返しながら、俺はクッキーを咀嚼する。

言ってる事は犯罪かもしれねえ。

でも実行犯が実の娘で「二人の不仲を解消したい」だったら、これほど真っ直ぐな理由は無いだろう。

手段はどうあれ、二人の為を思ってやった事なんだから。

誰かを巻き込んで利用する訳でも無し。

 

「まぁそうされんのが嫌なら、定期的に家族で集う日でも作って欲しいと言えば良いんじゃないっすか?仕事も完全にオフにして、家族として集まる日。それなら問題無く話し合えるっしょ?」

 

「うん。それ良いッ!!そうしようよお母さんッ!!」

 

「そ、それは……」

 

「んで、これを破ったら強制的にさっきの作戦を実行すればOK。きっと仕事にも影響でるんだろうな~。色んな人に迷惑掛けるんだろうな~。でも俺には関係無えから心は痛まねえかもな~?」

 

(お、鬼だ……ッ!?頭が切れる分、余計に質が悪い……ッ!!ホントにこいつ、おっちゃんの血筋かよ……ッ!?)

 

「わ、分かったわッ!!ちゃんと考えるから……ど、どうしても、あの人がそうしたいって言うなら……」

 

俺の譲歩と脅しの言葉を聞いて、英理伯母さんは渋々妥協案を出す。

過去に何があって別居してるのかは知らねーけど、英理さんは余程折れたくねーらしい。

そこだけは最後の一線として頑なに譲らなかった。

 

「伯父さんの方は蘭さんが拳でお話すれば直ぐに済むんじゃねーんスか?」

 

「こ、拳でって、それはちょっと」

 

「定明にーちゃん。それ立派な脅迫だよ。さすがに駄目でしょ」

 

「立証されなきゃ犯罪じゃ無いと思うんだ」

 

俺の言葉を聞いて蘭さんはポンと手の平を打ち鳴らして納得する。

しかしコナンはジト目で俺を見上げてそんな事を言ってきた。

まぁ確かに、他人と他人同士なら脅迫として立証されるだろう。

しかしさっきも言った様にこれは家族間のトラブルを何とかしようとしてるという建前で解決だ。

 

「それでも、悪い事してるのには変わり無いよ」

 

「違うね。これは悪い事でも無えし犯罪でもないぜ、コナン……これは、我侭なんだよ」

 

我侭、という謎の言葉を聞いてコナンは首を傾げる。

それはコナンだけじゃなくて、蘭さんや栗山さんに英理伯母さんも含まれてた。

 

「良いか?蘭さんが空手という武力で「ああしろ。こうしろ」と命令すれば、それは凶器を用いた立派な犯罪だが……「母さんと仲直りして欲しい」と渋る父親に我侭を言って、『偶々』その時に振り回した蘭さんの足が胴回し回転蹴りになっちまって、『偶々』伯父さんにヒットしたとしても、犯罪にはならねえ。そうだろ?」

 

「えぇー……」

 

「あ、あはは……何とも……」

 

「こーゆう屁理屈を並べるタイプって、法廷じゃ一番相手したくないのよね……」

 

ニヤリ、と笑いながらあっけらかんととんでもない言葉(自覚アリ)をのたまう俺に、コナンは呆れを隠せてない。

それは栗山さんも同じであり、協力を頼んだ蘭さんですら苦笑いしてた。

英理伯母さんに至っては眉間を指で解しながら引き攣った笑みを浮かべてるし。

その後はまぁ普通にお茶して1時半位までお喋りしてたんだが、英理伯母さんの方に用事が入ってお開きになった。

 

「それじゃあ英理伯母さん。お茶ご馳走様でした。こっちには二週間は居ますんで、また会う事があったら」

 

「えぇ。また遊びにいらっしゃい。次は私の手料理、ご馳走しちゃうわ」

 

「「え゛」」

 

「あら?どうしたの二人とも?」

 

「う、ううん。別に何でも?ねーコナン君?」

 

「そ、そうだね。あはは……」

 

……次に来るのは暫く遠慮しとこうか?若しくは初の『パール・ジャム』活用か?

そんな風にちょっと不安が残る別れがあったが、その後は蘭さんとは別行動を取る事になった。

何でも鈴木さんから遊ぼうと連絡があり、これからウインドウショッピングに行くらしい。

なので俺とコナンの二人で一度事務所に帰る事に。

 

「なぁコナン。もしかして英理伯母さんって、料理苦手なのか?」

 

「あぁ。昔っからとんでもない味ばっかで……って、新一にーちゃんが言ってたんだーッ!!」

 

「……そうか……次までにまともになってる訳……無いか」

 

昔の話だからか、油断したコナンが少し新一口調で言ってから俺に気付いてコナンに戻るが、俺はその行動には特に突っ込みは入れない。

次に英理伯母さんの所へ行くのが少し憂鬱になってるからだ。

俺が何も聞かなくて安堵してるコナンとは別に溜息を吐きながら、俺達は探偵事務所までゆっくりと帰る。

 

「ねぇ。定明にーちゃん。もっかい見せてよ、あの鉄球の回転」

 

「あん?別に良いけどよ……ほれっ」

 

シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルッ!!

 

「ありがと。……(やっぱりノーモーションで高速。しかも回転が止む気配は無い……ホントにどうなってんだ?)」

 

突如、隣を歩くコナンに頼まれるがままに、俺は鉄球を回転させて見せてやった。

恐らく、まだこの回転の秘密には全然到達出来てねぇんだろう。

ジッと回転を見つめるコナンの表情は余り優れない。

大方、まだ鉄球に回転の秘密があるって疑って掛かってんだろうが……ちょっとヒントくらいやるか。

 

「最初に教えた筈だぜ、コナン?鉄球には何の秘密も無いって。その証拠に、次は粒あられを回してみせたじゃねぇか」

 

「あっ……」

 

「忘れてたのかよ」

 

どうやらあの時は、下向きでも落ちないで回転し続ける鉄球の謎に思考が傾いていたみたいだな。

だから粒あられの事を忘れて、鉄球に執着してたって訳か。

俺の言葉にハッとして腕組みしながら思考の渦に嵌まるコナンを見て、俺は苦笑いが隠せなかった。

 

「ほら。考えるなら何処でも出来るけど、さすがに道の真ん中は危ねぇから止めときな」

 

コナンの後ろを歩いてた人がコナンが立ち止まった所為でぶつかりそうになっていたので、コナンの肩を引いて道を開ける。

それで自分が通行の邪魔になってたのを理解して、コナンは手を頭に当てる。

 

「あ、うん。ありがとう、定明にーちゃ……」

 

「あっ!!コナン君ッ!!」

 

「定明さんも一緒ですねッ!!」

 

「ん?おう。どうしたんだ、オメー等?」

 

と、道の向こうから昨日と同じく少年探偵団の面子が現れ、コナンが言葉を返した。

先頭を歩いていた円谷と吉田が俺達の事を発見して、小走りで近寄ってくる。

小島も大きな体でドスドスと走ってきて、その後ろを灰原がゆっくりと歩きながら着いてくる。

今日も今日とて元気な奴等だ。

 

「こんにちは、定明さん」

 

「いやー、昨日はお見事でしたね。ハカセを誘拐した犯人の車を突き止めるばかりか、まさか誘拐犯をたった一人で捕まえてしまうとは」

 

「俺達少年探偵団の出番が無かったぜ」

 

「はは。ありがとよ。今日は皆でお出かけか?」

 

「あれ?そういえばオメー等、確か今日は図書館で勉強するんじゃ無かったか?」

 

と、笑顔で話し掛けてくる皆に挨拶し、コナンは皆がココに居る事に首を傾げていた。

コナンの言葉通りなら、勉強の真っ最中の筈。

そういや昨日はハカセが誘拐されたから勉強会潰れて、今日こそするってコナンから聞いてたんだがな。

 

「それが、図書館に向かう途中でこんなモノを道端で見つけてしまいまして……」

 

と、円谷が差し出してきたのは、何処かのクリーニング屋のチラシだった。

これがどうしたんだろうか?

 

「あっ、中身はコッチでした」

 

俺とコナンが首を傾げていると、円谷はチラシの裏面を見える様に広げ直す。

そこには、何処かの住宅街の地図が書かれていた。

内容は結構細かく丁寧に書かれてて、何故か4軒の家に☓印が赤で付けられてる。

……ますます分からん。これが何なんだ?

更に首を傾げると、円谷と吉田、そして小島が真剣な顔で俺とコナンを見てきた。

何故か灰原はその後ろで少し呆れてる。

 

 

 

「――これは恐らく、空き巣の書いた地図ですッ!!」

 

ドオォオオーーーーーンッ!!!とか擬音が付きそうな顔でそんな事を言う円谷。

 

 

 

あぁ、空き巣か。空き巣ねぇ……ん?

 

 

 

「ハァ?」

 

「空き巣?……何で空き巣?」

 

何でそんなに自信満々に空き巣のモノだと言えるんだろうか?

道に落ちてたんだろ、それ?

コナンは怪訝な顔をして呆れるが、俺はちょっと聞いてみる。

 

「見て下さい。この地図では公共の施設では無く、態々他人の家に印を付けてますよね?普通の人が態々関わりの無い他人の家に印なんて付けないでしょう?」

 

「こういうのって、空き巣が狙う家の下見をして……」

 

「んで、狙いを付けた家に☓印を付けてる地図かも知れねえんだッ!!」

 

「それで、今からこの4軒の家に行って空き巣に遭っていないか聞こうと思ってたんですけど、丁度良かったです。コナン君と定明さんもこれは空き巣の計画書だと思いませんかッ!?」

 

……な、成る程。一応筋は通ってるとは思うが……。

聞き返した俺にドヤァな顔をしながら順番に答える少年探偵団純粋年齢組。

しかも円谷は最後に俺に対してどう思ってるか聞いてくる。

吉田と小島も同じ事を聞きたいのか、俺に視線を向けてくるし、コナンと灰原は止める気配が無い。

多分あの二人は昨日の事があるから俺がどう考えるか観察してんだろう。

 

「えっとよ……それなら普通……○じゃね?」

 

「「「……え?」」」

 

言い難そうにしながらそう言った俺に対して、彼等は首を傾げる。

俺、そんなに難しい事言っただろうか?

いや、隣のコナンも灰原もウンウンと頷いてるから間違ってねぇ筈だ。

俺は苦笑いしながら、円谷に件の地図を借りて説明を始める。

 

「例えばだけど、お前等は『良い』と『悪い』を簡単にどうやって書く?この店は美味いとか、ここの店は不味いとかを、地図とかメモに凄く簡単に書く時に」

 

「え?良い、悪いを凄く簡単に……ですか?」

 

「おう。もっと言えば、たった一文字の記号で書く時」

 

「一文字の……記号?……うーんと……あっ!?分かったぁッ!!」

 

「えーっと…………あぁっ!?○と☓かッ!?父ちゃんが品物を仕入れる時によく酒の名前の後に仕入れるなら○で、入れないなら☓って付けてるぞッ!!」

 

「そっかッ!!塾のチェックシートとかも、○と☓ですねッ!?」

 

「私が前にお店で貰ったアンケートも○☓だったよッ!!」

 

俺の出した質問の答えに行き着いた彼等は、各々の答えを口にする。

 

「だよな?普通泥棒に入れる場所を選ぶんなら、楽に入れる家には○をして、セキュリティが厳しいとか犬が居るとかの家には☓、って書くと思うぞ。場所を選ぶって意味ならな」

 

「な、なるほど……」

 

「逆に考えりゃ、この地図は行っちゃいけない場所ってヤツじゃねぇのか?何の理由かは知らねえけど」

 

一応、俺なりの考えを伝えてから、地図を円谷に返す。

受け取った円谷や吉田、小島達は空き巣の書いた地図じゃないと分かるとガッカリした顔になった。

その様子を見てコナンと灰原は苦笑いする。

 

「まぁそんな顔するなよ。どっちにしても、この地図を落とした人は困ってると思うぜ?」

 

「え?どうしてなの、コナン君?」

 

「簡単だよ。まず――」

 

「地図にするって事は、覚えられないって事よ」

 

と、コナンが元気付ける序にこの地図の落とし主の事を話そうとすると、そこに灰原が割って入る。

それで皆の視線は灰原に集まり、その視線の中で灰原は目を瞑ったままで先を語り始めた。

 

「そうやってメモしたいほど避けたい場所を書いた地図なら、落としてしまって行っちゃいけない場所が分からなくて困ってると考えて良さそうね」

 

「おぉッ!?」

 

「そっかッ!!じゃあ、こんな時こそ――」

 

「僕ら、少年探偵団の出番ですねッ!!」

 

「へへっ!!昨日は定明に出番取られたけど、今日は俺達が活躍するぜーッ!!」

 

沈静化しかけてた薪に炎が灯った様に、3人は元気を取り戻して地図の落とし主の捜索を始めると宣言した。

そのままどうやって落とし主を探すかを会議し始めた3人を横目に、コナンは灰原の方へと歩いて行く。

クールに笑う灰原を見る目が、心なしか半目になってやがる。

大方、自分の推理を横から言われて面白くねぇ、ってトコだろうな。

 

「ったく。人のセリフに割り込むなよな」

 

「あら?拗ねちゃった?」

 

「バーロー。ンなんじゃねぇよ」

 

いや、完璧に不貞腐れてるだろ。

そう言いそうになるのを押し留めて、俺は苦笑いしてしまう。

何だかんだで、工藤新一ってのは子供っぽい所も素であるんだな。

クールな振りしてるけど、あくまで振りしてるってだけか。

 

「んじゃーな、皆。頑張って落とし主探せよー?」

 

「あなたは帰っちゃうのかしら?」

 

「定明にーちゃんは探さないの?あの地図の落とし主」

 

「面倒くせーからな。今日こそ家でゴロゴロしてのんびりと平穏を噛み締めさせてもらうつもりだ」

 

意外そうな顔で俺を見る灰原とコナンに肩を竦めて答える。

っつーか、こういうのって大体――。

 

謎のアイテム発見

 

   ↓

 

持ち主捜索開始。

 

   ↓

 

何かの事件に遭遇ッ!?

 

   ↓

 

少年探偵団、出動だーッ!!

 

――っていうのが相場だし、そうと分かってりゃ帰る以外に選択肢は無い。

って訳で、俺は会議してる3人とコナン達をその場に置いて、探偵事務所へと足を動かす。

しかし歩み始めた俺の肩を左右から掴む手が。

振り返ると、そこには少年探偵団純粋年齢組の姿を発見……何故だ?

 

「駄目だよ定明さん。困ってる人が居るんだから、早くこの地図返してあげないと」

 

「そうだぜッ!!面倒だからってさっさと自分だけ帰るなんてよぉ……」

 

「年長者なんですからちゃんと最後まで付き合って下さいッ!!少年探偵団の一員としての自覚に問題がありますよッ!!」

 

ちょっと待てや。

 

「……何で、俺が、少年探偵団とやらに、組み込まれてんだ?ン?俺はそんなモンに入るつもりは無えぞ?」

 

一句一句区切りながら、俺は力強い疑問の言葉を述べる。

そう言い返すと、3人は肩から手を離してヤレヤレと大袈裟に首を振った。

……何で聞き返したらアメリカンジェスチャーで返されんだよ?

 

「良いですか?昨日の誘拐事件の時の冷静な推理、観察力。はっきり言ってコナン君や灰原さんに並ぶ実力だと、僕は感じました」

 

「はぁ……で?」

 

「で?ってなぁ……オメェ、難聴者の癖にバカだなぁ」

 

「そいつは失敬。それと難聴じゃ無くて年長だバカヤロウ。この歳で耳鼻科にお世話になった覚えは無えっつの」

 

頭を抑えてそう返すと、小島は少し顔を赤くして明後日の方向に目を向ける。

それでごまかしてるつもりかコイツ。

っていうか灰原は影でクスクス笑ってんじゃねぇ。

笑いを押し殺す灰原をジト目で見てると、小島を押しのけて吉田が俺と視線を合わせた。

 

「元太君は置いといて……定明さんは頭良いから、歩美達の手伝いをして欲しいの。それにハカセが言ってたよ?定明さんは普通の大人よりも強いから、いざという時に守ってもらえる心強い味方だって」

 

「ハカセさんには次に会った時に俺の回転の妙技をお見舞いしてやる必要が出て来たな」

 

ホント、どうしてくれようか?

体中の水分出させてカラッカラダイエットでもさせちまおう。

割りとマジに考えていると、コナンが苦笑いしながら俺に近づいてくる。

 

「ま、まぁまぁ。定明にーちゃんも、コイツ等に付き合ってあげて欲しいんだ。結構無茶やるから危なっかしくて……」

 

「何言ってるの、コナン君?」

 

「オメェの方が俺達より無茶するじゃねぇか。犯人に一人で向かったり、ボール当てたりよぉ」

 

「それに、いっつも美味しいトコ取りばっかりです。抜け駆け常習犯のコナン君には言われたくありません」

 

「……は、はは」

 

擁護しようとしたコナンをボロクソに言う探偵団の仲間。

幼いが故の容赦の無さ……子供って残酷だ。

最早半笑いのコナンに同情の視線を浴びせながら、俺は思いっきり溜息を吐く。

さて、ここで断った場合は……純粋なこの子等の事だ。

絶対に蘭さんには話すだろう。

そうなると、今度は蘭さんに申し訳なさそうに頼まれる可能性大だな。

もしもそうなった後でOKしたら、幼いが故の純粋さで「蘭さんの言う事なら聞く」とか思われる。

……まぁ、正味な話、原作の展開なんて全然分からないし、危ない目に合わないとも限らないんだよな。

なるべくこの街に居る間に面倒な事には首突っ込みたくねーんだが……コナンと一緒に住んでる時点でそれも望み薄、か。

 

「そ、それに、こんな天気の良い日に昼間から家でゴロゴロしてたら、蘭ねーちゃんが帰ってきた時に言われちゃうよ?おじさんとそっくりだねって」

 

「ん?それが何かまずいのか?」

 

コナンの言いたい事が判らず聞き返すと、コナンは何処か遠くに目を向けながら言葉を紡ぎだした。

 

「そうなっちゃうと、おじさんの悪い所が似ない様にって、蘭ねーちゃん凄く色々言ってくると思うな~。『将来は呑んだくれになっちゃ駄目』とか『天気の良い日は外で運動』とか、さ。きっと何かしらにつけて注意されるんじゃない?」

 

……在り得すぎて困る。

蘭さんってそういうオカンスキルが尋常じゃなく高いんだよ、マジ。

っていう事はあんまりダラけ過ぎてると、『天気良いからお姉ちゃんと外に出かけよう』とか言われて連れだされるって事か。

面倒過ぎる、果てしなく面倒過ぎるぜそんな未来。

だったらコナンの言う通りに適度に外で遊んでると蘭さんには思ってもらった方が良いな。

親戚とはいえ、さすがに身内相手にスタンド使って黙らせるのも後味悪いし。

考えを纏める俺の目の前で苦笑いしてるコナンと、ワクワクした顔してる探偵団のメンバー。

……年齢詐称組は別として、小さい純粋な子供に頼まれると断るのもアレだな。

 

「オーケー分かった。その落とし主探しには付き合うが……探偵団には入らねえぞ?」

 

「えーッ!?」

 

「どうしてですかッ!?ここは普通探偵団にも入団する流れでしょうッ!?」

 

「ほんっとケーキ読めねぇよな」

 

「空気だよダァホ」

 

何でちょっと美味そうな言い方で間違えた?頭の中は食い物でいっぱいか?

相変わらずちょっとアレな小島は放っておいて、俺は円谷と吉田に目を向ける。

 

「俺は2週間だけこっちに居るんだ。それが終われば海鳴に帰るし、俺自身が探偵なんてガラじゃねぇ事をしたくねえんだよ」

 

「(ムッ)……定明にーちゃんって、探偵嫌いなの?」

 

「別に嫌いじゃねぇよ。只、日々を平穏に生きる事を目標としてる俺からしたら、スリルとサスペンスに飛び込む探偵なんてお断りってだけさ」

 

「ちょっと爺臭くないかしら?」

 

探偵を否定する言葉を聞いてムッとするコナンに弁解しながら、俺は首をコキコキと鳴らす。

探偵なんて俺の目標と肌には合わねえ職業だし、憧れも特に無いからな。

俺の目標を聞いて呆れた顔をする灰原の言葉はスルーして、俺は円谷に手を差し出した。

 

「とりあえず、その地図もう一度見せてくれ。早いとこ落とし主を探して、どっかの公園で昼寝と洒落こみてぇからよ」

 

そう言って地図を貸す様に頼むが……。

 

「……いいえ。今回は、僕達で見つけてみせます」

 

「は?」

 

何とも真剣な表情でそう言われて、地図を隠されてしまう。

その行動の意味が判らず首を傾げる俺に、純粋年齢組は皆揃って俺に目を向けてきた。

 

「昨日の誘拐事件では、定明さんに美味しいところを全て持って行かれましたから、今回は僕達だけで落とし主を探そうと、歩美ちゃんと元太君と相談したんです」

 

「そうそう。定明さんは、歩美達が困った時に少しだけお手伝いして欲しいの」

 

「俺達だって探偵団の一員だからな。コナンと灰原とかばっかりに良いトコ取られてらんねえんだよ」

 

「というわけで、僕達の実力を見せてあげます。さぁー行きましょう、歩美ちゃんッ!!」

 

「お、おい光彦ッ!?何でお前と歩美なんだよッ!!歩美、俺と行こうぜッ!!」

 

おかしい、探しに行くと言い出した傍からどっちが吉田と一緒に行くかで揉め始めたぞ?

そのまま口論を続ける小島と円谷だが、当の吉田は……。

 

「ねぇコナン君。歩美と一緒に行こ?ほらほら♪レッツゴーッ!!」

 

「え?あ、ちょッ!?歩美ちゃんッ!?」

 

サラッとコナンと腕を組んで先々行ってしまうではないか。

そのまま誰も二人を止める事が無いので、二人は曲がり角を曲がって向こうへと姿を消してしまう。

っていうか何時の間にか円谷が持ってた地図持って行っちまったし。

……モテモテだな、コナンの奴は。

何とも言えない脱力感が俺に伸し掛かる中、吉田とコナンの不在を確認した二人がハッと我に帰る。

 

「あ、あれッ!?歩美ちゃんはッ!?」

 

「コナンも居ねえぞッ!?ど、何処行っちまったんだッ!?」

 

「あの二人なら先に行ったわよ?仲良く腕を組んだまま、其処の角を曲がってね」

 

我に帰って辺りをキョロキョロと見渡す円谷と小島に、灰原は二人が行った先を指さす。

腕を組んでの下りまで話したのはひょっとして当て付けか?

そっちに目を向けた二人はワナワナと震えだして……。

 

「……待てぇッ!!コナーーーーンッ!!」

 

「またッ!!また君はッ!!お得意の抜け駆けですかーーーーッ!!?」

 

そして、爆発。

目には轟々と燃え盛る怒りの炎が見えるぐらいに昂ぶってやがる。

二人は其々思いの丈を叫びながら道の向こうへと駆けて行ってしまう。

後に残されたのは呆然とした俺と、肩を竦める灰原のみ。

 

「……結局、俺は何のために付き合わされてんだ?」

 

「さっき言ってたじゃない?年長者だって。年上なら年下の子の面倒見るのも務めよ」

 

「ハァ……保護者扱いかよ。面倒くせーな」

 

「仕方無いんじゃない?江戸川君、あなたの鉄球に興味津々だから、なるべく貴方から目を離したくないんじゃないかしら?」

 

両手を肩の辺りまで持ち上げてそう言う灰原。

しかし彼女の俺を見る目もまた、興味がありそうな目付きだ。

やっぱ元々科学者だから、そういう知的好奇心は人より強いんだろうか?

そんな事を考えながら、俺は灰原と共に先に行った4人を追い掛けて歩く。

 

「……ねぇ、城戸君?」

 

「ん?」

 

呼ばれて灰原の方に視線を移せば、彼女は少し微笑みながら俺に視線を向けていた。

後ろに手を組んだまま俺を覗きこむ灰原の目には、興味の色が強く現れてる。

 

「私にも、あの鉄球の回転……もう一度見せてくれないかしら?」

 

「お前もかよ、ったく……ん。(シュルルルッ!!)これで良いか?」

 

「えぇ。ありがとう……」

 

本日二度目の注文に飽々しながらも、俺はホルスターから鉄球を取り出して回転を掛ける。

その回転を、灰原は顎に手を当てながらジーっと見つめ始めた。

やがて、知的好奇心が刺激されたのか、彼女はゆっくりと鉄球に震える指を伸ばそうとする。

 

「コラ、止めとけ。不用意に触れたら怪我じゃ済まねえぞ?」

 

「ッ……そう、ね」

 

「触りたい気持ちは分からねえでも無えが、さすがに回転中が危ねえよ」

 

不注意に触れようとした灰原を止め、俺はホルスターに鉄球を戻してコナン達の後を追う。

さすがにあのまま触れたらどうなったか検討もつかねえしな。

 

「……?(……ッ!?鉄球が……ホルスターに収まってるのに回転を続けてる?……やっぱり江戸川君の言う通り、鉄球にも何か仕掛けがあるのかしら?)

 

ん?何だ、灰原の奴?急に静かになったぞ?

 

「どうかしたか?」

 

「いいえ。別に何でも(回転が続く機構といえば、ジャイロスコープとジャイロスタビライザーを組み合わせた回転安定機構。まさかそれを鉄球に組み込んでいるんじゃ……だとしたら、ホルスターに収まっても回転している鉄球は、最初の頃よりも回転の力が弱まってる筈……今ならあの鉄球に触れる事が出来る?)」

 

聞いてみても何でも無いと言われ、俺は首を傾げながらも前に向き直る。

まぁ本人が何でもないっつってんだし、別に良いか。

鉄球の回転を見せながらも歩き続けていたからか、道の向こうで集まって会話しているコナン達の姿を捉えた。

どうやらこれからどうやって地図の落とし主を探すか相談してるみてーだ。

それを発見して、まずは何をするのかと考えていた――。

 

 

 

「――え?」

 

 

 

瞬間、脳天を地面に向けて落ちる呆然とした声をあげる灰原が、俺の目の前に現れた。

 

 

 

「おっと」

 

しかし道路に落ちる前に、俺は灰原を両手でキャッチして横向きに抱え直す。

チラッと見た感じでは怪我はしてなさそうだ、危ねえ危ねえ。

 

「……」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……」

 

「おい。聞いてんのか?」

 

「ッ!?え、えぇ。大丈夫……ありがとう」

 

いきなりの事態に面食らってボーッとしてた灰原に声を強めに掛けてやると、灰原はハッとした表情で我に返った。

とりあえず怪我が無いのは確認済みなので、抱えていた体勢からゆっくりと下ろしてやる。

自分の力で地面に立った灰原は信じられない様なモノを見たって表情で俺の鉄球に目を向けていた。

やれやれ……あれだけ言ったのに、コイツ触れやがったな。

 

「好奇心は猫を殺すって言葉、知ってるか?持ち前の好奇心が原因で命を落とす事があるって意味だ……お宅がそれを俺の目の前で実演するつもりかよ?まったく」

 

「ご、ごめんなさい……やっぱり、鉄球自体に仕掛けがあるんじゃ無いかと思って……つい」

 

今まで見てきた斜に構えた態度では無く真摯に謝る彼女の姿を見て、俺はそれ以上の言葉は飲み込む。

あんまりクドクドと言い続けるのもアレだからな。

何も言わずにコナン達の元へ歩く俺の少し離れた後ろを、彼女は静かに歩く。

 

「……あの……差し支えなければ、教えて……あなたの言う『回転の技術』って……一体何なの?」

 

「……」

 

「こんな事初めての体験よ。私は鉄球に『触れた』。それは間違い無いしこの目で見てるわ。でも、私の感覚では『鉄球に触れたと伝わらなかった』……私の体は、それを悟らなかったのよ?なのに、私の体はまるで流れるみたいに鉄球の回転に引き寄せられて、次の瞬間には宙に浮いてたわ……こんな現象を引き起こす技術なんて……」

 

鉄球に触れて、回転の力を垣間見た事に興奮してるのか、灰原は早口に言葉を並べる。

まぁ普通の人間からしたら完全にこの回転の技術は未知の力だ。

それに触れて、科学者の血が騒ぐってのは良く分かる。

俺はゆっくりと立ち止まり、背後に振り返る。

其処には、今まで見た事も無い程に目をキラキラと輝かせる灰原の姿があった。

 

「最初に言ったろ?俺はこの技術について教えるつもりは無え。知りたければ自力で解けってな」

 

「あら?それは探偵の彼等に言った言葉じゃ無いのかしら?」

 

「違うっての。俺はこの技術を知りたいって奴等全員に向けて言ったんだぜ?それにお前も少年探偵団の一員じゃねぇか。頑張って謎を解明してみな」

 

「……意地悪ね」

 

取り付く島も無いって感じにそう言ってやると、灰原はジトっとした目でそう言って俺より先に歩いて行く。

焦らすばかりで答えを教えようとしない俺に怒ってるらしい、歩き方が少しイラついてるな。

 

「――というわけで、まずこれから……あっ。灰原さん、それに定明さんも」

 

「遅えぞ、おめえ等」

 

先々に行った筈の小島に窘められなきゃならねえのはどうにも納得出来ねえんだが?

そうは思っても口にだして片付く訳でも無しなので、俺は「はいはい」と適当に返事しておく。

っていうか、コナンは相変わらず吉田に腕組まれてるし。

 

「えっと、では灰原さんと定明さんも来たのでもう一度説明します」

 

と、既にこれからの段取りを相談し終えていたのか、円谷がコホンと咳払いして話を進める。

まぁそうは言っても難しい事じゃ無く、これから地図の☓印の刻まれた家に言って幾らか聞き込みをするだけらしい。

一応空き巣の地図って線は限りなく薄いけど、それでももしかしたらって事もあるかもしれないという純粋年齢組の意見でその話も聞く事に。

とりあえずそういう形で話は纏まり、俺達は地図を見ながら一軒目のお宅にお邪魔した。

 

まずは俺達が集まった道の一番近くにある大賀さんのお宅。

 

新しい洒落たデザインの家で、芝生と足場が綺麗に作りこまれていた。

そして外に丁度家族3人が揃っていたので、地図を見せて話を聞く事に。

まずは円谷の主導で聞き込みを始めた。

 

「……それじゃあ、空き巣の被害は無いんですね?」

 

「あぁ……だけどこれ、本当に空き巣が書いた物かね?」

 

「その可能性は十分にあります。最近怪しい人を見たとか、奇妙な出来事はありませんでしたか?」

 

相手が子供という事もあって、大賀さん(旦那)は少し苦笑い気味だ。

しかし円谷は嫌な顔一つせずに根気良く聞き込みを続ける。

 

「別に無い……けど……」

 

ん?この反応……な~んかありそうだし、少しカマかけてみっか。

 

「その3軒の中で1軒くらいは知り合い居るんですか?」

 

「い、いや。そうじゃないよ」

 

『NO!NO!NO!』

 

はい、嘘確定っと。

アトゥム神のサーモグラフィには、この旦那さんが嘘を吐いてると出た。

つまり他の☓のついた家のどれか1軒、若しくは全部に心当たりがあるって訳だ。

それに……確か、この匂いは……。

 

「でも気味悪いわね。何で家に☓印が――ちょっとッ!!芝生に入らないでッ!!」

 

「ぃッ!?う、っとととッ!?」

 

と、旦那の事で少し首を捻ってると、旦那の手から地図を取り上げた奥さんが大声を出した。

何事かと横を見ると、石段から歩いて綺麗にされた芝生に足を降ろそうとしてた小島の姿を発見。

人様の家で何してんだこいつは。

 

「あなたもッ!!智也の前でタバコは吸わないでって言ってるでしょッ!!」

 

と、今度は胸ポケットからタバコを取り出そうとしてた旦那にまで噛み付く。

まぁ子供の前でタバコってのは害にしかならねえからな。

意味としては奥さんが正しいが……あんだけ口やかましく言われてちゃあ、なぁ……。

旦那さんは奥さんに謝りながら、タバコを胸ポケットに仕舞う。

銘柄はポピュラーなブルーラインってタバコだ。

確か小五郎伯父さんも同じヤツ吸ってたな。

 

「ねぇ、お仕事は何してるの?」

 

「え?僕は建築家だけど?」

 

「兎に角、変な物を持ってこないでちょうだい」

 

そしてコナンが旦那に質問してそれに旦那が答えた直ぐ後、奥さんが鬱陶しいって感じに地図を円谷に押し返した。

そりゃー子供が自分の家に☓印がついた変な地図を持ってきたら気分良くねぇだろうけど……もちっと愛想良くした方が良いぜ?

 

結局、1軒目の大賀さんは対した収穫も無く、次は大賀さんの家から曲がって直ぐの江口というお宅。

 

ここでは何故か俺が質問する羽目に。

どうやらさっきの大賀さんのキツイ態度が尾を引いてしまった様だ。

まぁそういう理由ならばと、俺は聞き込み役を引き受けた。

つってもこの江口って人の家も、ちょうど住人が園芸用品を外に出している所だった。

駐車場のアーチに庭の花壇、全てにバラが植えられてる。

 

「すいません、お姉さん。ちょっと良いですか?」

 

「うん?なーに、坊や?」

 

と、ちょうどこれから手入れをしようとしてたらしいお姉さんが俺の声掛けに気さくに応じてくれた。

まぁお姉さんと言われたのが嬉しいだけかも知れねえけど、相手と話がスムーズになるから良いか。

 

「実は……」

 

玄関前で座りながら、俺は事のあらましを説明して地図を見せる。

最初は怪訝な顔で、次に地図を見せたら首を傾げ、ちょっと眉を動かすという反応。

何かあるかとも思ったが……。

 

「んー。特に無いわね。空き巣にも入られた事は無いし、怪しい人も見てないわ」

 

「そうっすか。それなら良いんです」

 

「ごめんね。心配して態々来てくれたのに」

 

しかし反応は大賀さんの時とあまり変わらない感じだった。

最近変わった事も無いし、空き巣も見てない。

そう言って江口さんはタバコを取り出して一吸い。

銘柄は大賀さんと同じブルーライン。……やっぱりか。

 

「お姉さん。もしかしてインカントシャインって香水使ってます?」

 

と、思った事を聞いてみると、江口さんはビックリした顔をした。

ちなみにインカントシャインとは最近出た女性向けのフレグランスの名前だ。

セクシー系で大人に良く合う香り……らしい。

前にアリサが試供品で貰ったんだけど、自分には合わないって言ってた時に匂いを嗅がせてもらった事がある。

ちなみに俺も「まだガキには早いだろ」と返したんだが、その発言がアリサの気に障っちまったらしい。

その場で『ストーンフリー』との時間無制限オラオララッシュ対決になってしまった。

 

「よ、良く分かったわね、坊や?」

 

「えぇ。それが出た時に、友達が使ったんでね。印象的だったから良く覚えてるんす。髪の毛からその香りがしましたから」

 

「そうなの?……でも、それがどうかした?」

 

「いえ。気になっただけッスよ。凄く良い香りだったんで」

 

「あら……ふふっ。そういう褒め言葉は好きな女の子が出来たら言ってあげなさい」

 

俺の言葉に気を良くしたのか、江口さんは微笑みながら俺に言い返してくる。

いや、まぁ確認のつもりしか無かったんだけどな。

とりあえずこの家も何か変わった所がある訳でも無く、俺達はお暇しようとしたんだが……。

 

おばさん(・・・・)、この家に一人で暮らしてるの?」

 

「……ハァ(馬鹿……)」

 

「――そうよ」

 

皆に移動しようと言おうとした矢先、コナンがドデカイ爆弾を落としやがった。

余りのド直球な言葉に灰原は呆れて溜息を吐き、江口さんはさっきよりも1、いや2トーンは落とした声でコナンに対応しながら立ち上がる。

 

「お仕事は何してるの?」

 

この状況で質問続けるコナンの度胸まじパネェ。

っつうか、コイツの場合相手の変化に気付いて無えだけだろ?

しかも仏の顔は今回、二度までしか持たなかったらしい。

お姉さんは立ち上がったまま鋭い目をコナンに向けて薄く笑う。

さすがのコナンもそれで自分の失言に気付いたのか、ちょっと引いた。

 

「イラストレーター。さぁ、もう良いでしょう?――『お姉さん』忙しいんだから」

 

と、怖い顔でコナンに凄んだ後、持ってたタバコをコナンの足元近くにワザと投げ捨てた。

それを慌てて避けるコナンが少しブスッとした顔をするが、ハッキリ言おう。

コナン。今のは誰に聞いても、十中八九お前が悪い。

そして3軒目の家は、少し歩いた先のパーキングエリアの近くの藤木さんというお宅。

ここも俺が担当するかと思ったが、家の前で水を撒いていたおばさんは大丈夫そうだったので、再び円谷が担当に戻った。

 

「どうですか?何か、心当たりは……?」

 

「ん~……無いわねぇ……一体誰が、こんな物を……?」

 

しかしここも外れらしく、藤木さんは何も知らないと言った。

藤木さんの言葉に項垂れる円谷達から視線を外すと、コナンが辺りを注意深く見ていた。

どうやら道に撒かれた水の跡を見てるらしい。

藤木さんもバケツを持ってるトコを見ると、水を撒いてるのはこの人みてぇだな。

しかし、自分の家の塀だけじゃなくて周りの民家にまで撒いてるのは何でだ?

ひょっとして綺麗好きなんだろうか?

辺りの様子に首を傾げていると、黄色いポロシャツを着た男が買い物袋を持って現れた。

何故かこっちの姿を確認すると、袋からタバコを取り出してケツポケットに収める。

しかも銘柄はまたもや同じブルーライン……流行ってんのか?

 

「どうしたんだい、母さん?」

 

そう思っていると、ポロシャツの男性が藤木さんに声をかける。

どうやら親子らしい。

 

「ああっ、高一。この子達が、こんな地図を拾ったって言って……」

 

「地図?……」

 

「ねぇ?家に☓印が付いてるでしょ?」

 

母親の言葉に首を傾げながら地図を受け取った高一さん。

だが、地図を見た時一瞬ではあるが驚いた表情になる。

……今の反応は、家に印が付いてて驚いたのか?

何かそうは思えなかったが……。

 

「空き巣が書いた地図かもしれないと思って聞き込みをしてるんです」

 

「最近、怪しい人を見たとか……」

 

「おかしな出来事とか、無かったか?」

 

「うーん……特に無かったと思うけど」

 

小島達の質問には淀みなく答えを言う藤木高一さん。

その言葉に少し落胆しながら「そうですか……」という円谷達をスルーして、俺も質問を投げ掛ける。

 

「その3軒の中で知ってる家は――」

 

「ん?無いなぁ」

 

『NO!NO!NO!』

 

……この人も何か隠してんだな。

しかも俺の質問の途中でその質問を遮る様にして、答えた。

これはつまり、他の家の何処かの人と何かの確執があったって事だろうな。

その後はコナンも質問をする。

例によって仕事は何をしてるのかっていう質問で、藤木さんはサラリーマンと答えた。

 

「私……何だか心配になってきたわ……」

 

「いや、空き巣とは関係無いと思うよ。でも、母さんが気になるならこの地図、僕が預かって交番に……」

 

不安になる母親を元気付け、心配の種を取り除こうとしてる様に見える提案。

しかしそれにはまだ後1軒☓印が書かれた場所があるので、今勝手に持ってかれては困る。

もしも無害と分かれば、その時に改めて自分達が届けると円谷が申し出て、チラシを返却してもらう。

これで後は1軒だけになった。

 

「いよいよ最後の1軒ですね……」

 

「これで香月さんの家も何も無かったら、事件じゃないって事だよね」

 

「あーあ、つまんねーの」

 

と、最後の1軒に向かう所で小島が零した言葉を聞いて、俺はジト目になってしまう。

何を言ってんだこの馬鹿は?

 

「おいおい。事件が無い=平和って事だろーが。それが普通なんだよ」

 

「定明にーちゃんの言う通りだ。特に元太、事件があるって事は誰かが困ってるって事だぞ?それが無くてつまんねーなんて言うんじゃねぇ」

 

「うっ……ワリィ」

 

コナンの厳しい目に睨まれた小島は自分の軽率な言葉を反省した。

事、平和や平穏ってのに関しちゃ、俺はそれがどれだけ尊いかってのも目の当たりにしてる。

平穏に暮らす筈だったプレシアさんの平穏を打ち砕いて、最愛の娘を死なせた管理局の馬鹿共。

実験が失敗したら誰かになすりつければ良いなんて考えの所為で、プレシアさんは狂気に身を染めちまったんだ。

こうやって平和な日常に居る中で、誰かの身に不幸があれば良いなんて言うのは絶対にいけねえ事なんだ。

そんな感じで小島への説教をコナンが終わらせた所で、最後の曲がり角辺りまで来て――。

 

「……やっぱ、アイテム発見はフラグだったか」

 

「??何の事?」

 

「いや。気にすんな灰原……世の中の仕組みってヤツをまた理解したってだけだよ」

 

目的の家の前に集まるパトカーを見て、俺は溜息を吐いてしまう。

やっぱコナンの事件遭遇率は異常、今回の件で確信したぜ。

 

「あれ?パトカーが来てんぞ?」

 

「えっと……こ、う、づ、き。ここですよ、地図の最後の家はッ!!」

 

「嘘ッ!?もしかしてもう空き巣に入られちゃったのッ!?」

 

「くっそーッ!!間に合わなかったかッ!!」

 

「何時の間にアイツ等の中では空き巣の仕業で確定って方程式が出来たんだろーな?」

 

「まぁ、ずっとその可能性を疑ってたから、仕方無いんじゃない?」

 

空き巣が入ったと騒ぎ立てる3人を尻目に溜息を吐く俺と、達観した表情で腕を組む灰原。

まぁ実際問題、☓印の入った家にサツが来てんだから騒ぐのも無理は無いか。

そう思っていると、コナンが近くに居た夫婦に声を掛ける。

アイツはアイツでフリーダムだなオイ。

 

「こんにちは。あの、香月さんのお家って何かあったの?」

 

コナンの質問に対して、夫が顔を曇らせる。

 

「……亡くなったんだよ、香月さん」

 

「え?」

 

そして、おじさんの口から語られた内容に、コナンは驚きの声をあげる。

俺はまだ声を出しちゃいねーけど、頭ん中は驚きでいっぱいだ。

サツが来てるって事は……殺人、になるんだろう。

 

「夕べの10時半頃、この先の米花街道の地下横断歩道の階段の下に、頭から血を流して倒れてたって」

 

おじさんの語る事の詳細を聞いて、俺は目を細める。

階段の下で血を流すなら、普通は転落死ってヤツになる。

問題は……

 

「事故か、或いは他殺か……」

 

「あぁ。サツがエンジン止めて長い事居るって事は……事件の可能性アリって事かもな」

 

小さい声で可能性を述べた灰原に答え、俺は目を細める。

もしも事件なら……いよいよ出会っちまったって訳だ、殺人事件に。

まぁ、人が死ぬ瞬間を見たって訳じゃ無えから、そこまで精神的にキツくは無えけど。

そう思っていたら件の家の戸が開かれて、スーツを着た二人の男と普段着の女性が姿を現す。

見た感じ香月さんの家の人間……妻か娘か、それと刑事が二人、か。

昨日の佐藤刑事と高木刑事じゃなくてちょっとホッとしたぜ。

名前も何も答えてねぇから、事情聴取されんのは目に見えてるし。

 

「それじゃあ、何か分かりましたら、こちらから連絡しますので」

 

「……お世話様でした」

 

「……あの人は?」

 

「一人娘の佐和子さんよ」

 

入り口から出た刑事に頭を下げる女性の事をコナンが尋ねると、今度はおばさんの方が答えた。

刑事に言葉を返す佐和子さん。その表情には疲れと悲しみが溢れてる。

……当然か……昨日まで元気だった家族を失ったんだから……。

 

「あっ!?もしかしたらこの地図は空き巣じゃなく、香月さんの事件に関係があるのかもしれませんッ!!」

 

「え?どういう事?」

 

「つまりこの地図を書いたのが犯人で、他にもまだ、3軒の家の人を狙ってるって事です」

 

と、佐和子さんの顔を見て何とも言えない気持ちを味わってた俺の耳にとんでもない推理が聞こえてくる。

間違い無い、という確信を持った円谷の推理を聞いて、小島と吉田は驚いていた。

 

「そ、そんな……ッ!?」

 

「どうするよ、光彦ッ!!」

 

慌てふためく二人の言葉を聞いた円谷は地図を持って車に乗ろうとしてた刑事の所へ走る。

小島と吉田もその後を追って刑事たちに近づいた。

そして地図の事を説明しようと声を張り上げて刑事を呼び止める円谷。

 

「今忙しいんだ。道なら交番で聞きなさい」

 

だが何時もの面識ある刑事じゃ無い所為で、まともに取り合ってもらえる筈も無く、刑事たちは車で何処かに走り去った。

その後姿を見て怒りを露わにする3人。いや、まぁアレが普通の対応だろうよ。

どう考えたって子供の戯言と取られるのがオチだ。

怒れる3人を見ながらそんな事を考えていると、夫婦から離れてコナンが俺と灰原の元に歩いてくる。

 

「どう思う?事件と地図」

 

「無関係……って言いてートコだけど……ねぇ、定明にーちゃんはどう思う?」

 

と、考え込んでいたコナンが俺に話を振ってきた。

コイツ、一応年上の俺が子供らしくない考えを言えばそれが自分の隠れ蓑になるって考えてんじゃねーだろうな?

そんな考えが頭を過ぎるも、一応自分の考えを言う事に。

 

「まぁ地図そのものが無関係だったとしても、地図の中身は関係あるかもって考えてる。幾ら何でも偶然にしちゃ出来過ぎだ」

 

「そっか……」

 

「それとここに来るまでにあの地図を見た☓印の3軒の家の人達の中で、少し反応した人達が居ただろ?」

 

「……そういえば、1軒目の大賀さんの所は旦那さん。3軒目の藤木さんは息子さんがちょっと反応してたわね」

 

「だろ?それを踏まえると、あの☓印が書かれた4軒の関係。な~んか臭うんだよな~」

 

俺なりの考えを答えると、コナンは「へー、凄いね定明にーちゃん」とか言って何かを考え始める。

しかも灰原と何やらアイコンタクトをしながら、だ。

……大方、どうやって事件現場を見に行こうかとか考えてるんだろうな。

原作でも何時も、皆から離れる方法と言えば……。

 

「あー、僕ちょっと用事思い出しちゃったから、皆先に図書館の公園で待ってて」

 

「「え?」」

 

「お、おーいッ!!何処行くんだよッ!!」

 

「直ぐ戻るからーッ!!定明にーちゃん悪いけど、皆と一緒に居てあげてーッ!!」

 

まぁ、これぐらいしかねーか。

苦笑いしながら、俺は走るコナンに「気を付けろよー」と返しておく。

 

「とりあえず、コナンの言ってた図書館の公園の場所知らねーから、悪いけど誰か案内頼むわ」

 

「はいはい」

 

俺の言葉に灰原が適当に相槌を打ち、俺達は先に公園のテーブルと椅子に座ってコナンを待つ事に。

そんで椅子に座ったんだが皆この猛暑の暑さで歩き疲れたらしく、だらけてる。

まぁ確かに、今日はカラッと晴れた真夏日。

なのに外に長時間居て歩きづめじゃ、子供じゃなくても辛いわな。

疲れた様子の皆の様子に苦笑しながら、俺は精神を集中させて『ハイウェイ・スター』を呼ぶ。

まずは空に飛び上がって、事件のあった現場である米花駅前に向かうコナンを探す。

そして、予想より少し速いペースで駅前に向かってるコナンの後を追跡させた。

早く帰る為には早急な事件解決が必要だから、俺も幾らか情報が欲しいしな。

そう思いながらコナンを追跡すると、現場の地下横断歩道の入り口に集まる刑事や警察関係者を発見。

入り口はKEEP OUTと書かれた黄色のテープで封鎖されてる。

これじゃあ『ムーディ・ブルース』での追跡は出来そうに無いな。

コナンは見つからない様に隠れるが、スタンドである『ハイウェイ・スター』は誰かに見られる心配は無い。

よって、俺は堂々と刑事の傍に漂っていた。

 

『なんだって?ホントに仏さんの手から『タバコ』の匂いがしたのか?』

 

と、鑑識と話していた刑事が驚いた様子で聞き返す。

何だ?タバコの匂い?

 

『間違いありません。私が駆けつけた時、血の付いた右手から微かにではありますが、タバコの匂いが……』

 

『でも、仏さんはタバコは吸わないと娘さんが仰ってましたよね?』

 

『しかも現場にはタバコの吸い殻は落ちていなかった……妙な話だな……』

 

……成る程な……非喫煙者の害者から臭ったタバコの香り。

しかも現場にはそれらしいタバコの吸い殻は無い……って事は誰かが持ち去った可能性があるって事になる。

もしかしたら犯人がタバコ吸ってて、揉み合った時に害者がタバコを取ったまま落ちた?

で、それに気付いた犯人が持ち去ったってか?……辻褄は合うっぽい。

とりあえず情報は集まったし……いっちょ行きますか。

刑事達の話を聞いた俺は『ハイウェイ・スター』を操作して現場に侵入する。

床にはテレビなんかで見た白いラインで、人が倒れた格好が作ってあった。

……こういう現場見ても冷静でいられるのはありがたいぜ。

ヘブンズ・ドアーの効力には感謝しねえと。

そう思いつつ、ハイウェイ・スターで害者の倒れてたという右手の部分の臭いを嗅いでみる。

 

クンクン。クンクン。

 

(……駄目だな。血の臭いは覚えたけど、タバコの臭いはもうとっくに流されちまってる。残るは仏さんの手だけだが、もう運ばれちまってるしな)

 

さすがのハイウェイ・スターも、直接臭いの着いていないタバコの臭いを嗅ぐ事は出来なかった。

それに現場の入り口を降りた場所には換気扇が取り付けられていて、ここにはもうタバコの香りは残っていない。

 

(まぁ良いか。仏さんの血の臭いは覚えたんだし、後は他に血の臭いがする場所を探せば、何か証拠が掴めるだろうよ)

 

「……遅いなぁ、コナン君」

 

「こうしてる間にも、犯人の魔の手が……ッ!?」

 

楽観的に思いつつ『ハイウェイ・スター』の戻れと命じていると、吉田と円谷がそんな事を言い出す。

もうコイツ等の中じゃあの地図=犯人の書いたものって図式で決まりらしい。

 

「よし、俺達だけで犯人を「江戸川君が来るまで待ってなさい」……はい」

 

そして先走りそうな小島は灰原が静かに諌める。

何だかんだでバランス取れてんだなコイツ等。

まぁ、そうでなかったら小学生が大人を相手取って立ち回れたりしねぇか。

 

「んじゃ、俺は木陰で一眠りしてっから、何かあったら起こしてくれ」

 

「え?寝ちゃうんですか?」

 

「定明さんも待ってる間、歩美達と一緒に宿題しようよ」

 

「そうだぜ。ちゃーんと宿題しておかねぇと、後が怖えぞ」

 

「それは元太君が言えたセリフじゃありませんよ」

 

「そうね。家で宿題してこなくて、学校でも良く先生が来る前に誰かに見せてもらってるし」

 

「う」

 

寝る為に木陰に移動しようと立ち上がった俺を引き止め様として、小島自爆。

皆に怒られてちょっと意気消沈してる。

 

「わりーけど、夏休みの宿題なら日記と写生の二つ以外は全部終わらせてんだ。だからもう始業式まで勉強する必要無いのよ、俺」

 

「えーッ!?」

 

「コ、コナン君と灰原さんだけじゃなくて、定明さんもですかぁッ!?」

 

「ず、ずりーぞお前等ッ!?」

 

「ずるい訳無いでしょう。彼も私も、そして江戸川君も早い内に自分でやったから、今遊んでても大丈夫なの。文句があるなら自分で初日から頑張る事」

 

「そーゆー事。で、あとヨロシク~」

 

既に宿題を終えて気楽な俺が羨ましいのか、背後から刺さる羨望の眼差し。

しかしそんな視線は全てスルーし、俺は皆に手をプラプラ振って木陰に入る。

そして樹の幹に背中を預けて腕を枕代わりに頭の後ろで組んだら準備完了。

のんびりと昼寝させてもらいます。

俺は目をゆっくりと閉じて、スヤスヤと夢の世界に意識を飛ばすのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……きてっ……お……って……」

 

「……んう?」

 

誰だ……俺の安眠を妨げる奴は?

心地良い微睡みの中に居た俺の意識を覚醒させようと誰かに揺さぶられ、俺は瞼を開く。

開けた俺の視界に、俺を揺する灰原とコナンの顔がめいっぱい入ってきた。

 

「おはよう、定明にーちゃん」

 

「お休みの所悪いんだけど、色々と説明しなきゃいけない事が起きたから」

 

「……ん……く、あぁ~……で?何があった訳だ?」

 

凝り固まった体をグゥ~っと伸ばしながら欠伸を一つ。

俺は多少寝ぼけた頭で二人に質問する。

辺りを見てみると、何時の間にか大人が一人増えてる。

大型犬を連れた男の人だ。

そして探偵団の残りのメンバーが「無い無い」と言ってテーブルの上を引っかき回してる。

 

「えっと、僕が帰ってきたら既にこの状況で」

 

「どうにも鞄の下に挟んでおいた例の地図が無くなっちゃったらしいのよ」

 

立ち上がって髪をポリポリ掻きながら、二人の話に耳を傾ける。

どーにも、何かキナ臭え事になってきたな。

 

「確かに僕の鞄の下に挟んでおいたんですが……風で飛ぶ筈もありませんし……」

 

「っつうか今日はそんなに風キツくなかったぞ?」

 

「皆目を離しちゃってた時に無くなっちゃうなんて……もしかして、香月さんの事件の犯人が持っていったとかッ!?」

 

「え?香月さんって、夕べ亡くなった?」

 

と、地図の行方を憶測する吉田の言葉に、犬を連れた男の人が聞き返す。

どうやらこの人、事件の事知ってそうだな。

そう思ったのはコナンも同じらしく聞いてみると、香月さんの遺体を発見した第一発見者はこの人らしい。

 

「ハッハッハッハ……クゥ~ン」

 

……とりあえず見知らぬ犬よ、何故俺に擦り寄ってくる?

切なげな声で鳴きながら俺を見上げる大型犬。

しかもジーッと見てくるので、主人の男の人の視線も自然と俺に向かってくる。

邪険にする訳にもいかない、というか動物は全般的に好きなので撫でておく。

俺って昔っから動物には異常なくらい懐かれるんだよなぁ。

ゴシゴシと頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。

 

「クールが初対面でこんなに懐くのも、結構珍しいな」

 

「クールって名前なんすか?このワンコロ」

 

「ああ。フランス語で心って意味で、クールっていうんだ」

 

手を離そうとすると切なげに鳴きやがるので、俺はクールを撫でながら、話を聞く事に。

そして分かった事が、例の誰の物か判らなかった謎の地図は、実はこの男の人の物だったらしい。

男の名前は八木沢さんといって、意外な事にコナンの知り合いだった。

何でも前にこのクールの活躍で、殺人事件を解決した事があったとか。

相変わらず交流の輪の広げ方が血生臭いな、コナンよ。

そして例の地図の事だが、何でも自分の代わりにクールを散歩させる事がある奥さんの為に作った地図という事だった。

その地図を散歩中に奥さんが落としてしまい、それを拾ったのが円谷達って訳だ。

今まで自分が散歩させていて、苦い経験をしたり、犬のクールには危ない場所を☓印で示したのがあの地図。

まず俺達がお邪魔した順序で言うと、1軒目の大賀さんは奥さんが怒りっぽいから。

クールが前足片方を芝生に突っ込んだだけでブチキレて滅茶苦茶言われたらしい。

そして2軒目の江口さんは家のバラに農薬を撒いてるから、クールには危ないと思って印を付けたそうだ。

 

「それに江口さんは有機肥料をやってるから、犬はその臭いが好きでつい寄ってちゃうんだよね」

 

「そうそう。だから家の方自体に寄らない様にってカミさんには言ってたんだ」

 

「オメェは相変わらず難しい事知ってんのな、コナン」

 

「て、テレビでやってたんだー。犬の散歩の注意する所はって。い、犬の特集番組で」

 

ほー?それが本当なら何故脂汗を掻いてるのやら。

話を戻すと、次の3軒目の藤木さんの家は、母親が極度の潔癖症で犬の小便を特に嫌ってるらしい。

そりゃ近づかねぇほうが良いだろうな。

最後に今回亡くなった香月さんの家も同じで、一度クールが小便しかけたら竹箒で追い掛け回されたと。

 

「家の周りに猫除け用のペットボトルが並んでたから、もしかしたらと思ったんだ」

 

と、コナンが得意げに推理を披露し終えた所で、吉田と円谷が溜息を吐いた。

っていうかいい加減この犬の頭撫でんの疲れたんだけど、誰か代わってくれねぇか?

とりあえず灰原が羨ましそうに見てたので代わってみると、メチャ嬉しそうだった。

 

「何だ……そうだったんですか……」

 

「あの地図、事件とは関係無かったんだね」

 

「だから何度もそう言ったろ?」

 

脱力する二人にコナンは呆れ混じりにそう言う。

だがそんなコナンに、俺は疲れた腕をプラプラさせながら質問を飛ばす。

 

「まぁ最初は関係無かったみてーだが、今は無関係じゃ無い訳だろ、コナン?」

 

「うん。盗まれたのが良い証拠だよ」

 

「そうね。そんな他愛の無い理由で書かれた地図を――誰が何の目的で盗んだのか」

 

「地図を盗んだのは、恐らく香月さんを殺害した犯人だ」

 

俺と入れ違いに犬を撫でて嬉しそうな顔をしてた灰原が少し顔付きを真剣なモノに変えて言った謎にも、コナンは答える。

だよなぁ、やっぱそうなるんだよなぁ。

コナンの推理を聞いて驚く探偵団と八木沢さん。

その驚きに対するフォローもコナンが答えるモンだと思ってたら、コナンは俺にニッコリと笑みを向けて「ね?定明にーちゃん」とか言ってきた。

……俺がその先を答えろって事か?……俺を隠れ蓑にしてコナンに対する違和感を払拭させようって腹っぽいな。

まぁ、全ては無駄な事だが、今の質問には俺が答えないとダメっぽい。

既にコナンから注目が俺に集まっちまってるので、俺は溜息を吐きながら自分の考えを述べる。

 

「考えてみ?今日偶然あの地図を拾った俺達以外にあの地図の事知ってんのは、アレを書いた八木沢さん本人と、今日聞き込みであの地図を見せた人達だけだろ?」

 

ここまでは分かってるらしく、皆は一斉に頷く。

なので俺はドンドンと話を進める。

 

「そんで、あの地図には今回死んじまった香月さんの家と、他に3軒の家が印をされてた。その3軒の中の誰かが自分と香月さんを結びつける地図を円谷に見せられて焦ったんだろうぜ?俺達を尾けて、皆が居なくなった隙に持っていったんだろうな。サツの手に渡る前に」

 

「え?……じ、じゃあ、犯人はもしかして……」

 

「まぁあの3軒の中の誰かってのは確定だろうよ。でねーとチラシの裏に書かれた地図を持ってく奴なんて居ねーだろーが?しかも俺達が見せたのはまだあの3軒の人間だけ……多分相当焦ってたんだろーなぁ……自分と香月さんとの関係を誤魔化す為に俺等から地図をガメた事で、『自分はさっき君達と会った3軒の人間の誰かです』なんて俺等にアピールする辺り、犯人はとんだ間抜け野郎だ」

 

「「「おぉー……ッ!?」」」

 

「ず、随分頭が良いんだね、君……大人でもそこまで考えたりは出来ないよ」

 

と、俺なりの推測を皆に言って聞かせると、何故か褒められた。

探偵団のメンバーは皆拍手してるし、八木沢さんはメチャクチャ驚いてる。

まぁここまでの反応だったら良かったんだが……。

 

「そうだよねー。定明にーちゃんって何だか……」

 

「まるで大人が若返ったみたいに、色んな事を知ってて頭が良いって感じ……ね?」

 

どうにも灰原とコナンはとんでも無い勘違いの方向で俺の正体を決めつけようとしてやがるっぽい。

二人して「どうだ?」と言わんばかりのドヤ顔をしてるが……その答えが外れと分かってる俺からしたら、ドヤ顔恥ずかしくね?としか言えない。

大体、俺はそこまで頭は良くねぇっての。

寧ろ海鳴に帰ったら俺より頭良い奴ばっかで逆に怒られるわ。

リサリサは言うに及ばず、あのなのはですら理系の成績は俺なんか足元にも及ばないくらい好成績だし。

それを知った時についなのはの髪型をアトムヘアーにしかけたのは反省してる。サザエさんにするべきだったと。

 

「全然だっての。海鳴市に……俺の地元に帰れば、俺なんかカスだぜ?一つ上にはIQ200の天才児、なんてやばいスペックの奴も居るしよぉ」

 

「はぁッ!?あ、IQ200ッ!?(コイツの一つ上って事は、10歳でIQ200ッ!?どうなってんだよ、海鳴って町はッ!!)」

 

「っつうか何言ってんだよ。若返れる訳無えだろ?ファンタジーじゃあるまいし」

 

ファンタジーな街から来た俺が言うのもなんだけど。

っていうか若返れる方法あるし。

俺の苦笑いしながら放った言葉を聞いて、コナンは素っ頓狂な声をあげるわ灰原は絶句するわでちょっとしたカオスになり掛けた。

が、それもコナンが一度咳払いして落ち着く事で修正され、話は再び事件の話へ。

 

「とりあえず今の所決め手になってるのは、タバコだ」

 

「タバコ、ですか?」

 

円谷の聞き返しにコナンは頷き、顎に手を当てながら自分の持ってる情報を掲示し始める。

手帳に書かずとも覚えているらしく、スラスラと喋る姿には淀みが無い。

 

「事件現場で刑事さん達が話してた内容だと、タバコを吸わない筈の被害者の手から微かにタバコの香りがしたらしい。でも現場からはタバコの吸殻は発見されなかったそうだ」

 

「……タバコ……あっ。そういえば、前に香月さん。タバコの事で凄く怒ってたなぁ」

 

「ッ!?それホント、八木沢さん?」

 

「あぁ。家の前に捨てられてたタバコを拾って、『また誰か捨てていきおったなッ!!』ってタバコを睨んでたんだ。確か……青い二本線の入ったタバコだったよ」

 

「ッ!?ブルーライン……ッ!!」

 

八木沢さんの口から語られた超が付くほどの有力情報に、コナンは驚きを露にする。

しっかし、よりにもよって銘柄がブルーラインかよ。

ある意味で最後の決定打のタバコの存在が最後の最後でネックになってしまった。

 

「奇しくも、今日会った3軒の人達のどの家も一人は喫煙者が居たな。オマケに全員銘柄はブルーラインだったぜ?」

 

「え?でも定明さん。藤木さんのお家に行った時、誰もタバコ吸ってなかったよ?」

 

「確かに吸っちゃいなかったけど、息子さんが買い物袋からタバコだけ取り出してポケットに閉まったのを見た。多分母親がタバコの匂い嫌いなんだろ」

 

吉田の疑問に答えながら、俺も頭を働かせる。

コナンの言う通り重度の潔癖症だっていうなら、タバコの匂いと煙も嫌な筈だ。

だが、これで一応犯人の候補は絞れた。

無論あの近辺の人間が殺したっていう前提に基づいた候補だけど、恐らくこれ以上範囲を広げる必要は無い。

さっきも言った様に、普通の人は気にも止めない上に何の用途か分からない地図を盗むのは、被害者と自分を結び付けたくない犯人だけ。

しかも地図の存在を知ってるのは極少数。

これじゃ地図を見せた喫煙者達を疑うなって方が無理な話だ。

さて、なら一番手っ取り早い手としては……。

 

「じゃあ香月さんの家に行って、タバコの吸殻が無いか聞いてみない?」

 

「いや。多分、昨日の可燃ゴミで出しちまってるよ」

 

おーい、証拠の役に立つかもしれなかった物はお預けですか。

チマチマとこんな事やらなくても、地図を盗んだ犯人を『ムーディ・ブルース』でリプレイすりゃ一発なんだが……。

今こうして、誰かの為に一生懸命考えてる少年探偵団の邪魔になっちまうか。

オマケにこの状況じゃ、俺が『ムーディ・ブルース』を使って犯人を炙り出した所で、証拠不十分。

海鳴に居る同じスタンド使いのあいつ等でもねぇ限り信じちゃもらえねぇだろう。

 

「ここまで考えての予想は……香月さんは夕べ地下横断歩道で何時も家の前にタバコを捨てる人間と会って、その話でトラブルになったって線が考えられる……でも、まだ全然情報が足りねえ……」

 

「情報が足りませんね……良しッ!!それじゃあ皆で手分けして情報を集めましょうッ!!」

 

「うんッ!!やろうッ!!」

 

「なっ!?おいオメー等……」

 

「良いわ。私も地図を盗んでくれた犯人に、一泡吹かせたいし」

 

「オメーまで……」

 

と、まぁヤル気になっちまった少年探偵団を諌めようとしたコナンの言葉に被せる形で、灰原も皆に賛同する。

何時もはストッパーの役割を果たしてる灰原からOKが出て、皆一様にやる気出してやがる。

止めるタイミングを失ったコナンが俺に視線を向けてくるが、俺は肩を竦めるだけ。

諦めろなさいコナン。こうなったら止まらねえ奴等なのは、お前が一番良く知ってんだろーが?

 

「……分ーったよ。但し、絶対に無理だけはすんな。少しでも危険を感じたら、直ぐに手を引くんだ。間違っても定明にーちゃんみたいに犯人を倒そうなんて考えるなよ。お前等は普通なんだからな」

 

「何気に人をディスってんじゃねえ」

 

「八木沢さん。あの地図、もう一度書いてくれますか?」

 

「分かった」

 

無視かこのヤロー。

サラリと俺は普通じゃねえと言われた事に大して意気消沈気味になる俺。

そこに何故かクールが俺の頭に自分の顎を乗せてくる……これで慰めてるつもりなのか?

少しイラッとして頭を動かして避けると、クールは「クゥン……」と鳴いて俺の顔を一舐めした。

……犬に慰められるのも、偶には悪くねぇかもな。

その後俺達は全員バラけて2人一組のチームで聞き込みをする事に。

コナンは八木沢さんとクール、灰原と吉田、円谷と小島。

そして俺は見事にハブになった訳だが……俺、もう帰っても良いか?

まぁ帰ったら後で何言われるか分からないので、俺は頼まれたコンビニと駅前での聞き込みに向かうのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「じゃあ、纏めるか」

 

そして日も傾いてきた夕方。

聞き込みを終えた俺達はもう一度公園のテーブルに集まって、各々の成果を交換する事に。

まずは灰原と吉田から。

 

「香月さんの所だけど、やっぱり昨日可燃ごみで出しちゃったらしくて、タバコの吸い殻は無かったわ」

 

「そっか……」

 

まずは灰原の報告で、今回の被害者の家に聞き込みに行った結果だ。

と言ってもコナンの推測通り、ゴミに出してしまっていたらしい。

 

「それと江口さんだけど週4日、米花駅前のクラブで夕方からバイトしてるそうよ」

 

「昨日の夜は、やっぱり10時過ぎに帰ってきたみたい」

 

「クラブって……サッカー部か?」

 

小島、歳相応の返し方は良いけど、今は一応推理タイムらしいからもう少し考えろ。

 

「大賀さんの設計事務所も同じく米花駅前にあって、智也君の話だと毎日歩いて通ってるそうです。家を出るのは7時半から8時半の間で……」

 

「えっと、帰ってくる時間はバラバラで、昨日は10時過ぎだったらしいぜ」

 

そして次に大賀さんの家の話を円谷と小島が報告する。

江口さんと同じく通勤は歩きで、帰宅時間もほぼ一緒だな。

最後の藤木さんも駅まで歩いて通っていて、朝は7時に出るそうだ。

藤木さんの家の扉を見た向かいのお婆さんの話では帰宅時間も前の二人と同じぐらいで、昨日は10時過ぎ。

これで3人全員に犯行は可能って事になる。

 

「って事は、3人共こういうルートを通れば香月さんの家の前を通ってタバコを捨てる可能性があるって事だな」

 

コナンは皆の意見を統合しながら地図のルートを見直す。

ちなみに地図には携帯で距離を測って計測した距離を書き込んである。

一番遠い大賀さんの家から香月さんの家の前までは600m。

江口さんの家からは500、藤木さんの家からは400っとなってる。

更に香月さんの家から現場の地下横断歩道までは350mで、横断歩道から駅までは400mだ。

 

「地下横断歩道の清掃のおっちゃんに聞いてきたけど、いつも同じ銘柄のタバコが捨てられてるってよ。ブルーラインが」

 

「そうなるとやっぱり、夕べ10時頃に地下横断歩道の近くで3人の内誰かがタバコを捨て、それを見つけた香月さんとの間で言い争いになったって事か」

 

「それっぽいな。で、その内揉み合って香月さんを落としちまい、香月さんが持ってた自分の吸い殻を回収したってトコだろうよ」

 

俺の報告を聞いて推理を組み立てるコナンに補足して、俺は首を鳴らす。

あー……帰りてぇな……早く証拠見つけて終わらせようか?『ムーディ・ブルース』使えば一発なんだけどなぁ。

でもいきなり証拠見つけてもコナン達が不審がるし、もう少し付き合ってみっか。

 

「……なぁ。俺ちょっと確かめてー事が……」

 

何かに気付いたコナンが皆に何処かに行くと伝えようとすると、吉田達も行くと言い出す。

しかも何故かクールも一緒にという事で、俺達は皆でコナンを先頭に移動する事に。

向かったのは香月さんの家近くを流れる川沿いの歩道だ。

そこに向かってから、コナンは川をずっと見ている。

……なるほどな。証拠のタバコを川に流されたんじゃないかって事か。

もしも壁の隅とかに引っ掛かってたら、それを引き上げれば良いけど、生憎川の流れは結構速い。

これじゃあ見つかりそうも無いだろうな……と、不意に橋の上を見上げた俺の視界に、橋の手摺りに寄り掛かってタバコを吸う誰かの姿が見えた。

 

「……江口さん?」

 

「あっ、ホントだ」

 

俺が止まって橋の上を眺めてるのを視界で追った他の皆も足を止めて、橋の上の彼女に注目する。

昼間出会ったジャージ姿では無くて、綺麗にドレスを着飾り、化粧を施した江口さんはまるで別人だった。

吉田と灰原は直ぐに気付いたが、小島やコナン達は信じられないのか大仰に驚いてる。

と、彼女は吸い終わったタバコを川に投げ捨ててフワッと笑いながら駅前に歩き始める。

 

「……笑ってたよ」

 

「怪しいですね……」

 

「よぉし、追跡だ」

 

橋の向こうの彼女に聞こえない様に小声で話しながら、小島達は彼女の追跡を提案してくる。

まぁ他に何かある訳でも無いので、俺達は彼女から離れつつ追跡を開始した。

そして追跡してる間に彼女はまた新しいタバコに火を点ける。

重度のヘビースモーカーらしいな。

そして彼女の後ろを追跡していくと……。

 

「ワンワンッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

突然、傍の家の門の所から犬の吠える鳴き声が聞こえ、江口さんはそれに驚いて立ち止まった。

そして今も吠える犬を確認すると、眉を曲げて不機嫌な顔付きになる。

 

「もうっ。何時も何時も憎たらしいわね……ッ!!」

 

そうボヤいて彼女はフンと振り返り様にタバコをその家の玄関に投げ捨ててそのまま立ち去っていく。

 

「またポイ捨てです」

 

「ひっでーなぁ」

 

何の気負いも無くゴミを捨てた彼女の行為に円谷と小島は憤りを表した。

まぁ俺も偶にポイ捨てしちまう時があるから何とも言えねえや。

そんな事を考えていると、今しがた吠えていた家の玄関が開いて、そこから家主が顔を出す。

更に吠えていた犬は江口さんが立ち去ると急に大人しくなり、クールと門を挟んでお互いに臭いを嗅いでいた。

灰原も江口さんより犬の方が関心あるみたいで、クールの隣にしゃがみ込んでもう一匹の犬を見ていた。

 

「こんばんは」

 

「こんばんはです」

 

「……いい子なのに、吠えるのね」

 

と、同じ犬を飼う主人同士が挨拶を交わす傍ら、灰原が犬を見ながらそんな言葉を漏らす。

まぁ確かに、こうして見てるとおとなしい犬だ。

 

「人によってはね。特に不審な相手には良く吠えるんだ」

 

「ちょっと、灰原さーん」

 

「早く江口さんを追わないと……え?」

 

犬よりも江口さんの方が気になる吉田が注意する途中で驚いた声を出す。

何事かと気になり、視線を江口さんの居た方に戻すと……。

 

「あの人って……」

 

「大賀さんですね……」

 

「ど、どうなってんだよ?」

 

「……ふーん……なるほど」

 

道の向こうで、今日会った大賀さんと抱き合う江口さんの姿があった。

それを見て驚く吉田達と、対照的に「あぁ、やっぱりな」と感じてしまう俺。

そして半目で「そういう事か」って顔をする灰原とコナン。

まぁ実際の年齢が高い二人には分かっただろうな、あの二人が不倫関係だって事が。

俺はというと、大賀さんに会った時に浮気の可能性アリと見て、江口さんに会った時にほぼ確信してた。

二人の体から同じ香水の香りがしてたからな。

序に大賀さんの口に残った口紅の残り香と、奥さんの口紅の香りが違ってたし。

 

「クンクン…………クゥン、クーン」

 

「ん?何だ、どした?」

 

「ハフッハフッ」

 

「お、おい?服を噛むんじゃねぇ、っていうか何故に引っ張る?おーい?」

 

と、江口さんが捨てたタバコを嗅いでいたクールが俺の傍に来て、何故か俺の服を噛んで引っ張ってくるではないか。

その様子から俺を何処かに連れて行こうとしてるらしく、俺はクールに抗わずにされるがままに引かれていく。

ったく、何だってんだよ今度は?まさか遊べってんじゃねぇだろうな。

クールの行動に訝しんでいた俺だが、その考えは空き缶の入ったボックスの前まで連れて来られた時点で消えた。

箱の前まで俺を引っ張ったクールは噛んでいた服を離して行儀良く俺の目の前でお座りしたからだ。

 

「一体どうしたって……ん?……クンクン」

 

ふと、『ハイウェイ・スター』の能力で強化された俺の嗅覚が、ある『臭い』を捉える。

その臭いの元を辿って行くと、クールに連れて来られた箱の中に行き着いた。

っておいおい……ッ!?まさか……ッ!?

俺は慌てて空き缶の入った箱の中を探って、臭いの元を辿る。

すると直ぐに、目当ての物が出て来た。

俺はそれに直接触れない様に、ハンカチで掴んで取り出す。

 

「……ハ、ハハッ……マジ?……大したモンだぜ。お手柄だぞ、クール(ナデナデ)」

 

「ワンッ!!」

 

「よーしよし。本当に賢いなぁオメェは」

 

俺に頭を撫でられて嬉しそうにクールは鳴いた。

そんな俺達を首を傾げて皆が見ていたので、俺はハンカチに包んだ『あるモノ』を皆の前に差し出した。

 

「ッ!?これは……ッ!?」

 

「あぁ。クールが見つけて俺に教えてくれたんだよ――動かぬ『証拠』ってヤツをな」

 

俺の手の上にある『血の付いたタバコ』を見て驚くコナンに、俺は名探偵を撫でながら答える。

昨日の夜からココにあるってんなら、これには間違いなく指紋が残ってる。

それに犯人の唾液も、な。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

――翌日。

 

 

 

「ふーん?それで、犯人は藤木さんだった訳か?」

 

「うん。香月さんが落ちたのは偶然で故意じゃないって言ってたけど……」

 

「まぁ、証拠を隠蔽しちゃったから、それで済まされる筈は無いけどね」

 

俺達は昼間に米花町公園のドッグランという犬を遊ばせる大きな公園に昼過ぎに来ていた。

そこには昨日大活躍したクールと、リードから解放されたクールを追いかける少年探偵団の姿もある。

俺とコナン、そして灰原は彼等のはしゃぐ姿をベンチに腰掛けながら見つつ、昨日の事件の事について聞いていた。

あの証拠のタバコを見つけて直ぐに俺は帰宅してのんびりしてたので、事件の顛末を聞いてなかったからだ。

あれで事件は解決したも同然だし、俺はコナン達と違って知り合いの刑事が居る訳でも無かったからな。

 

「そういえば定明にーちゃん。昨日言い忘れてたけど、高木刑事と佐藤刑事が定明にーちゃんの事探してたよ?」

 

「だろーな。だからお前等と一緒には行かなかった訳だけど」

 

とっ捕まって説教食らうのは勘弁だし。

そう自白すると、コナンはとても良い笑顔で俺を見てくるではないか。

 

「それでさー。僕、佐藤刑事に凄い剣幕で定明にーちゃんの事聞かれたから、つい話しちゃった」

 

こいつ絶対に態と話しやがったな。

 

「ハァ……それで?佐藤刑事は何だって?」

 

「んーっとねー。また後日話を聞きにいくから、首を洗って待ってなさいって」

 

「あらあら。厄介なのに目を付けられちゃったみたいね」

 

「ハァ。くそ面倒くせー事しやがって」

 

「ごめんなさーい」

 

溜息を吐く俺に灰原は微塵も気の毒に思って無さそうな顔で上っ面だけの慰めを。

コナンは全く反省してない声で俺に謝ってくる。

全く、良い度胸してやがるぜ。この俺に対して面倒事を持ってきて笑うとは……覚えてろよ、コナン?

頭の中で呪詛の言葉を呟きながら、俺はクールのはしゃぐ姿をスマホで写真に撮り、画用紙にスケッチを書き込んでいく。

俺が今日外に出てコナン達と一緒に居るのは昨日の事件の顛末を聞く為だけじゃ無え。

それだけなら事務所でコナンに聞けば済む事だ。

それなのに態々外に出たのは、夏休みの宿題である写生を書く為である。

何でも良かったんだけど、丁度良い時にクールの姿が見えたからそれを写真に収めてスケッチのテーマとした。

スマホの画面に映るクールと背景の構図をしっかりと見ながら、俺は鉛筆を滑らかに滑らせる。

 

ドシュッドシュッカリカリカリカリッ!!

 

「……し、下書きしないの?」

 

「ん?してるじゃねぇか」

 

ホレ、と画用紙に書き込まれた絵を驚いた様子のコナンに見せる。

ちなみに灰原はクールに昨日のご褒美としてビーフジャーキーを食べさせに行ってる。

露伴先生に憧れて練習した俺のペン捌きで書き起こされたクールを見て、コナンは口元をヒクつかせた。

 

「こ、これで下書きなんだ……す、凄く上手だね(……まるで今にも動きそうなくらい精密な絵だぞコレ……やっぱりコイツ、普通の小学生じゃねぇんじゃねーか?)」

 

「いや。まだまだだな。俺の知ってる(漫画で)人のペン捌きは、俺なんか児戯にしか思えねえ程に精密に書くぞ?」

 

「そ、そうなんだ。あはは……(つか、そいつってホントに人間?)」

 

「あぁ。一応そこそこ上手いって自覚はあるけど、プロ(露伴先生)からしたらこんなもん大した事無えだろ」

 

 

 

半笑いしてるコナンにそう言って、俺は下書きを――。

 

 

 

「いやー。自分こら大したモンやで?何でこないに上手い絵書けるんや?」

 

「ホンマや。こない上手に絵描けんのに大した事無いやなんて、そら嫌味に聞こえんで」

 

「うん。すっごく上手……っていうか、私より上手で……何か複雑かも」

 

「は?」

 

 

 

中断させてしまう。

突如背後から聞こえた声に驚いたからだ。

それはコナンも同じらしく、俺達は同時に背後へ振り返る。

 

「オッス。元気しとるか坊主?」

 

「こんにちは。コナン君」

 

背後へ振り返った俺達に笑顔を向ける3人の男女。

一人は今朝も顔を合わせた従姉妹の蘭さん。

そして後2人。

ポニーテールに髪を纏めた女の人と、色黒の男の人。

どちらも俺は会った事が無い人物だが……知識としては『知ってる』人物。

っていうか……オイ……何でココに居やがる?

驚きと不安で言葉が出ない俺に、蘭さんが笑顔で2人を紹介してくる。

 

「此方は大阪から遊びに来た『服部平次』君と、その幼馴染みの『遠山和葉』ちゃんよ」

 

ご存知『西の高校生探偵』として有名な服部平次。

そして蘭さんに負けず劣らずといった武道の腕を持つ合気道少女、遠山和葉の2人が、俺を笑顔で見下ろしていた。

 

「おう。よろしゅうなー坊主。それと久しぶりやな、工ど――」

 

「わーッ!?わーッ!?わーッ!?へ、平次兄ちゃんちょっと来てッ!!」

 

「へ?ど、どないしたんやってうおぉッ!?そない引っ張んなやッ!?一体何やねんッ!?」

 

「……??……どうしたんだろ?」

 

「まぁ、何時もの事やん。あの2人ほんまに仲良えし」

 

軽いノリで本名をバラしかけた服部さんの言葉を、コナンは大声で遮って向こうのトイレまで引っ張っていく。

しかも頻りに俺の方に視線向けてくるから、多分俺の事を警戒してだろうな。

……この2人が大阪から来るって事は……また事件が起きるってのかよ……ハァ。

『ハイウェイ・スター』を使わずとも臭ってきた事件の臭いに、俺は頭を抱えて溜息を吐いてしまう。

 

 

 

とりあえずこんな時はコーヒー味のチューイングガムでも噛んで…………不味ッ。

 




今回はバトル無しで推理一辺倒だったから凄い文量使った。

なるべくスタンドを活用出来る様な話運びを考えなくては……。


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一夜にしてこの世のどんな超人も超え(ry



最近仕事がバリバリ忙しくて執筆出来ません。

遅くなってしまってもうしわけありませんでした。


そして城戸定明のCVが確定。

適当なボサ髪。ダルそうな目。

常に面倒事を拒否するぐうたらキャラにぴったりなCV……ふむ。




坂田○時ですな。



 

 

 

 

「はい。まずはこの右手に乗せた鉄球と、左手に乗せた四つのパチンコ球に軽く念を送ります……」

 

「「……(ゴクッ)」」

 

生唾を飲み込む程に鉄球とパチンコ球を食い入って見つめる二人の観客。

一人の目にはこちらの真相、タネを暴いてみせるという強い意思が見て取れる程に燃えていた。

しかしもう一人の観客は、これから起こる現象に対して目を輝かせてると言えるだろう。

その視線に対して笑みを返しながら、俺は何時もやってる要領で鉄球とパチンコ球を回転させる。

 

シュルルルルルッ!!

 

「えッ!?えぇ~ッ!?な、何でなんッ!?触ってへんのに、勝手に回っとるッ!?」

 

「ねッ!?ビックリでしょ、和葉ちゃんッ!!」

 

「た、確かに……でも、この鉄球に仕掛けがあんのとちゃうの?」

 

「そう思うんなら触って確かめてみて下さいよ」

 

驚いた表情で俺の鉄球を見つめる蘭さんと和葉さんに回転を止めた鉄球を差し出す。

蘭さんは二回目になるが、2人は鉄球を手に持って色んな角度から眺め始める。

 

「う~ん……触った感じはホンマに普通の鉄球やのに……どうなっとんかなぁ?」

 

「そうだよねぇ。仕掛けなんて何も無いのに……」

 

「蘭さんには前にも言ったじゃないッスか。技術っすよ、技術」

 

鉄球を眺めながら首を傾げる蘭さんに呆れた声で言いながら、俺は苦笑してしまう。

鉄球を手に取ってウンウン唸る和葉さんと蘭さん。

その様子はマジックを見て「なんで?」って考えてる子供みたいだ。

……もう少し驚かせてみるとしようか。

 

「じゃあ、ここでもう一つ……」

 

「え?何?何をやってくれんの、定明君?」

 

俺の問い掛けにワクワクした様子で聞き返してくる和葉さん。

蘭さんも口にはしてねえけど、期待してるって感じだ。

俺は座って俺の技を見てる二人の目の高さまで、左手で回転してるパチンコ球を掲げる。

 

「まずは、この回転してるパチンコ球をそのままに……手を握ります」

 

二人に握りこむ最後の瞬間まで見える様にゆっくりと手を閉じて見せる。

一瞬足りとも見逃してなるか、って感じで手をぎゅっと握りながら手を見つめる二人。

俺の動きと一緒に動く視線を感じつつ、パチンコ球を握った手を二人の膝辺りまで降ろして手の平を地面に向ける。

 

「……そして、ここで……手を開くとぉ……」

 

「うんうん……って、あれッ!?パチンコの球が落ちてけぇへんッ!?」

 

「あッ!!これは前に見たから知ってるよッ!!ずばり、パチンコの球は……定明君の手の平でまだ回転してるんでしょッ!!」

 

言った様に手を開くが、パチンコ球は落ちてこない。

それで初見の和葉さんはビックリするが、前に一度見た蘭さんは自信満々にパチンコの在処を指摘した。

うんうん、前に一度見た事があるなら普通はそう考えるよな?

予想通りのリアクションを取ってくれた蘭さんにニヤリと笑いながら、俺はゆっくり手の平を引っくり返す。

そして、自信満々の表情を浮かべた蘭さんが――。

 

「えぇッ!?」

 

「パ、パチンコの球が無くなっとるッ!?」

 

流れる様に驚きの表情へと変わってしまう。

二人が見た俺の手の平の上には、ある筈だったパチンコの球が無くなってるのだ。

「じ、じゃあ、裏にあるんじゃッ!?」と蘭さんが言うので、手をクルリと回して見せる。

しかし何処にもパチンコの球は無いのだ。

何で、どうして、と騒ぐ二人に向けて俺は言葉を紡ぐ。

 

「あー。そういえば、蘭さんと和葉さん?」

 

「え?」

 

「な、何かな?」

 

「いえ。ちょっとつかぬ事を聞きますが……『その手の中にあるもの』は……何です?」

 

「「え?」」

 

俺の言葉に首を傾げた二人は、興奮して握っていた自分の手を見つめながら開いていく。

すると――。

 

シュルシュルシュルシュルシュルッ

 

「嘘ぉッ!?」

 

「い、何時の間に手の中に……ッ!?に、握ってたのにッ!?」

 

俺の手にあった筈のパチンコ球は、二人の手の中に潜んでいたのだ。

オマケに回転もキッチリ続けてる。

種も仕掛けも……あるっちゃあるけど、何の目眩ましも無い公園の、しかもベンチの前。

全く予想出来ない奇想天外な出来事の数々に、二人の興奮は収まりそうも無い。

そして回転を掛けていたパチンコの球が二人の手から飛び跳ねて俺の手元に戻ってきた。

 

「よっと(パシッ)……まぁ、こんな感じでどうっすか?」

 

「凄い凄いッ!!全然判らなかったよッ!!」

 

「ホンマやッ!!私もこんなマジック見た事無いわ~ッ!!」

 

「そいつはど~もです」

 

歳を忘れて子供みたいにはしゃぐ二人にお礼を言って、俺は二つのパチンコ球を仕舞う。

まぁ、これぐらいの遊びなら、別に良いんだけどよぉ……。

さて、一体何で俺はこの人達の前で鉄球の技術を見せてるんだ?

いやまぁ理由は良く分かっちゃいるんだけどな。

そう考えていると、和葉さんはスッゴイにやにやした顔で、俺の直ぐ傍に立つ『彼』に声を掛けた。

 

「どうなん平次?今のトリック分かったんか~?」

 

「ぬぐぐ……ッ!!?も、もうちょい待っとれッ!!こんなまやかしのタネなんぞ、パパパパーっと暴いたるわッ!!(何でや……ッ!?何時の間にパチンコの球、隠しよったんやコイツッ!?しかも和葉達の手の中に気づかん内に入れるとかどないなっとんねんッ!!)」

 

「さすがのコナン君でも、ちょっと難しかったんじゃないかな~?」

 

「ぐぬぬ……ッ!?も、もう一回ッ!!もう一回やってよ、定明にーちゃんッ!!(ゼッッッッテェーに解いてやらぁッ!!)」

 

和葉さんに続いて蘭さんも悔しさMAXって顔して唸ってるコナンにドヤァな顔で声を掛けていた。

すっげぇ大人げ無いぜ、俺の従姉妹さん。

ニヤニヤする女性陣二人と悔しそうな顔してる男二人。

そしてその4人の間に挟まれてる俺。

 

 

 

……こうなった事の発端は、俺を見て唸ってる服部平次その人だ。

 

 

 

あの後、トイレでコナンに何を言われたかは知らねーが、服部さんは戻ってくるなり凄い笑顔で俺にこう言った。

 

『自分、なんや凄いマジックが使えんねやろ?ちょっとワイにも見せたってくれへんか?』

 

――と。俺、普通に「は?」って聞き返しちまったよ。

 

勿論マジックとは俺がコナンに見せて今でも解かせていない謎。鉄球の回転の事だ。

どうやらコナンからその話を聞かされて、自分の中の知的好奇心が刺激されたんだろう。

自分のライバルと公言する工藤新一が未だに解けない謎の技術……というよりは現象。

それを自分の手で暴く事で、コナンにドヤァっとするつもりだったと思う。

まぁ無論の事だがそんな面倒な事をするつもりも無く、俺は普通に断ろうとしたんだが……。

 

『なぁ和葉。お前もこの坊主の凄いマジックっちゅうのを見てみたいと思わへんか?く……こ、こっちの坊主のお墨付きやで?』

 

『えぇ?コナン君の?それはまぁ、そない凄いマジックなら見てみたいけど……』

 

『あっ。私ももう一回見たいなぁ。ねぇ定明君?もう一度見せてくれない?お願い』

 

『なんや、蘭ちゃん見た事あるん?』

 

『うんッ!!ほら、定明君の腰にある鉄球。あれ、凄い不思議なんだよ。触って無いのに勝手に回るし、離れた場所から飛んで定明君の手の中に戻っちゃうのッ!!』

 

『えッ!?なんなんそれッ!?私も見てみたいかも。なぁ坊や、ちょっとお姉さん達にもそのマジック、見せてくれへん?』

 

『よーし決まりやな。そしたらちょっと場所変えよか』

 

と、ギャラリーまで味方に付けられて、あれよあれよという間に俺の鉄球の回転のお披露目会が決定。

少年探偵団のメンバーは今日こそ図書館で宿題をするらしく、灰原もその付添に行くので、彼等とはあの公園で別れた。

そして俺の意志は無関係にこんな事になった訳で……普通にイラッとしたぜ。

だから勝手に俺の予定を決めちゃってくれたこの色黒男を悔しがらせてやろうと思い、こうやって回転の技術を使ったんだ。

ちなみに和葉さんを名前呼びなのはそう呼んでくれと言われたからである。

まぁ何故かマジックという方向で誤解されてるが……それでも良いか。

それに、まだ仕掛けは残ってるしな。

俺は悔しそうな顔をしてるコナンと平次さんに向き直り、更に謎を増やしてやる事に。

 

「もう一回って……あのなぁコナン。まだ終わったなんて言ってねぇだろ?……まだ後『二発』、パチンコの球は俺の手に戻ってきてねぇんだぜ?」

 

「え?」

 

「ッ!?」

 

「あれ?そういえば、最初は四個あったのに……」

 

「アタシ等の手の中、一個づつしか無かったやんな?」

 

まだ俺の仕掛けた謎は残ってると言うと、コナンはキョトンとし、服部さんは驚いた顔になる。

蘭さんと和葉さんもその違和感に気付いたのか、首を傾げていた。

そんな状況の中で俺はニヤニヤしながら、俺の謎を追い続ける二人の名探偵に言葉を投げ掛ける。

 

「服部さんはさっきから握りしめてる左手の中。コナンは今俺の服を握ってる手の中を広げてみてくれねーか?」

 

そう言うと二人は「まさか」という表情をしながら、指定された手を開く。

するとそこから、銀色に輝きながら回転を続けるパチンコの球が現れた。

 

「「んなッ!!?」」

 

「わぁ……ッ!?」

 

「この二人の手の中にも……全然近づいてへんかったのに……ッ!?」

 

あんぐりと口を開けて驚く四人を見ながら、俺は飛んで戻ってきたパチンコ球を手の中に握る。

原作でジャイロ・ツェペリの父親が幼いジャイロに使った、何時の間にか手の中に鉄球を忍ばせる技。

活用次第じゃマジックにも転用できるのが良いね。

そんで、握りこんだパチンコ球の回転を手の中で止めつつ――。

 

「こーゆう事もしておきましょうか。その方がマジックっぽいし……産まれろ、生命よッ!!」

 

バタバタバタッ!!!

 

「「「「……」」」」

 

「……と。まぁ、こんな感じで終わりッス」

 

マジシャンっぽく決め台詞を言いながら『ゴールド・エクスペリエンス』の能力でパチンコ球に生命を与え、鳩に変えて空に羽ばたかせる。

鳩が飛んでいったのを見計らって、俺は惚ける四人に一礼して終わりを告げる。

小さいの手の平から空へと羽ばたく鳩をぽけーっとした顔で見ていた四人だが、ハッと意識を取り戻した。

そして蘭さんと和葉さんだけが、俺に満面の笑みで拍手を送ってくれる。

コナンと服部さんは、まだ今の光景が信じられないのか、口を半開きにしていた。

 

「~~~~~ッ!!とっても面白かったよッ!!定明君ッ!!」

 

「凄い凄いッ!!まるで魔法使いやッ!!」

 

「魔法使いって……それはちょっと言い過ぎッスよ」

 

テンションが振り切れてるぐらいのはしゃぎ様で拍手してくれる二人に、俺は苦笑いしてしまう。

実際に俺が知ってる魔法使いって、戦闘用のちょっとアレな魔法ばっかりなんだよなぁ。

電撃操ったり娘愛で天元突破しちゃって自然災害出しちゃったり大剣でチャンバラってたり。

あれ?世間一般に知られてる心が躍る様な素敵魔法の要素が見当たらないだと?

 

「あ、あほか。この世に魔法使いなんて居る訳無いやろ」

 

「僕もそう思う……」

 

と、謎は好きでも非科学的な事は一切信じない二人の探偵がそんな事を言うではないか。

まぁ当たってるけどな?これ魔法じゃなくて技術とスタンドだし。

 

「それで?ご所望通りに俺の鉄球の技は見せましたが、これで良かったんスね?」

 

「あ、あぁ。サンキューな、坊主……確かにこれは厄介な謎やな……(回転させとる仕組みが全然分からん……鉄球にも仕掛けは何も無かったし……最後の鳩もどっから出した?半袖やから仕込める場所なんてあれへんのに……大体何時の間に俺の手にパチンコ球を入れた?しかも握っとった手にはパチンコの回転しとった感覚は一切無かった……これは厄介やでぇ)」

 

「……回転の力は弱まらなくて……しかも回す初動が無い……でも、高速で力強い(あ~くそ。駄目だ……何度見ても分からねえッ!!……せめて何かヒントでもあれば……っていうか気付かない間に手の中にパチンコの球を入れるなんて……また謎が一つ増えちまいやがった)」

 

「もう。二人共いっつもこうなんだから」

 

「謎が好き過ぎて、他の事見えへん様になるもんな」

 

と、俺の問い掛けに答えた服部さんは何やらブツブツと考え始めてしまう。

コナンもさっきから黙ったまま、手帳に書き込んだ絵を見て頭をガシガシと掻いている。

そんな二人を見て蘭さんは腰に手を当てた体勢で呆れ、和葉さんは苦笑していた。

…………あれ?

 

「そういえば、服部さんも和葉さんも大阪の人ッスよね?今日は何で東京に?」

 

いきなりの登場と急展開で忘れてたけど、今思い出したので聞いてみる。

この二人が上京してきたって事は、必ず何かの事件がある筈。

危ねえ危ねえ。いきなり過ぎてそのまま流す所だった。

俺の質問に対して、頭を捻る服部さんでは無く和葉さんが答える。

 

「平次が急に言い出したんや。夏休みやしどっか行こうって。それでいっつもバタバタしてしもうてあんまり見学出来とらんかったなぁ思て、今回は普通に東京見物に来たんや」

 

「普通に?まるで何時もは普通じゃ無えって言い方に聞こえるんスけど?」

 

「え?……あ、そっか。定明君は知らんよな……言い忘れとったけど、平次は高校生やのに探偵なんて事やってんねん。」

 

首を傾げる俺の反応を、最初は分からないって顔してた和葉さんだが、直ぐに納得した様に頷く。

どうやら事件に巻き込まれるのは、彼女の中ではデフォ認定されてるっぽいな。

そんな常識はイヤ過ぎる。

 

「探偵……じゃあ、蘭さんの幼馴染みの工藤さんと同じって事ッスね?」

 

「うん。服部君も新一と同じで色んな難事件を解決してたから、二人は西の服部。東の工藤って並び称されてるんだって」

 

「へー。そうなんスか……」

 

未だに頭を捻ってウンウン言いながら考えてる二人を見ながら俺は答える。

まぁ二人っつっても、蘭さん達には服部さんを見てる様にしか見えねえだろう。

続けて話してくれた和葉さんの話によると、服部さんは現大阪府警本部長である服部平蔵の息子だそうだ。

そしてその部下である大阪府警刑事部長に和葉さんの父親が居て、親同士が親友という事もあり、幼い頃から一緒に過ごしていたと。

つまりは幼馴染みというヤツである……何処のギャルゲーの設定だろうか?

 

「そんで最初はホテル取るつもりやってんけど、平次がホテル代浮かそう言うて小五郎のおっちゃんに泊めてって、さっき言いに行ったんや。でも、急にゴメンなぁ蘭ちゃん」

 

「ううん。大丈夫だよ。お父さんもOKしてたし、賑やかな方が楽しいもん」

 

「まぁ、結構渋られとったみたいやけど」

 

その時の伯父さんの顔を思い出したのか、和葉さんと蘭さんは二人揃って少し苦笑い。

まぁ、いきなり現れて少し泊めてくれって言われたらなぁ。

俺も渋る伯父さんを想像して半笑いしてると、和葉さんはニッコリと笑顔で俺を見た。

 

「ほんで、おっちゃんから甥っ子が遊びに来てるって聞かされてな。あの小五郎のおっちゃんの甥っ子がどんな子かっちゅうのも知りたかったし、今日から少しお邪魔するから挨拶しとこ思て、蘭ちゃんにあそこの公園に案内してもらったんよ……それと……」

 

と、そこで言葉を区切った和葉さんはジト目になって、コナンと一緒になって考え始めた服部さんに視線を向ける。

そこでジト目を向けられてやっと意識を戻した服部さんは「なんや?」と言いながら首を傾げて和葉さんを見た。

 

「平次が東京の女に騙されて人生棒に振る事が無い様にっちゅう、見張り役も兼ねてな」

 

「はぁ?何やそれ。誰がそんなん頼んだっちゅうんじゃ、ボケェ」

 

「アホ。アタシはアンタのお姉さん役として、変な女に騙されん様にっちゅう親切心でやってんねん」

 

「よぉ言うわ。そないな事言うてその姉ちゃんに初対面ん時喧嘩吹っ掛けよった癖に。大体俺が騙してくる様な女にコロッと靡く訳無いやろ」

 

何故かココに来た敬意についての話がお二人の口喧嘩へと発展。

ギャーギャー言い合うのは何時もの事なのか、コナンと蘭さんは苦笑いして見てるだけだ。

 

「なるほど。まぁ要は浮気しねー様に見に来たって訳っすか」

 

「ふえッ!?い、いきなりな、何を言い出すんッ!?」

 

「はぁ?何言うてんねん坊主?誰が誰と浮気しよるっちゅうんや?」

 

うぉい。本気で言ってんのかこの人?

顔を真っ赤にして驚く和葉さんとは違って怪訝な顔してる服部さん。

俺は怪訝な表情をする服部さんにジト目を向けながら溜息を吐く。

さっき驚いていた和葉さんもジトっとした目付きで服部さんを睨むが、服部さんはまるで気付いてない。

なんてこったい、ここにも相馬の親戚が居やがった。

 

「??なんや?人の顔見て溜息吐きよって。失礼なやっちゃでぇ」

 

「いーえ、別に……まぁ兎に角、話を纏めると、服部さんとその工藤って人は同じ名探偵って訳で良いんスね?」

 

そう聞き返すと、服部さんはニカッと人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「せやせや。まぁー工藤よりも俺の方が推理力は上なんやけどな。アイツも結構やると思うで。坊主も何かあったら、この『西』の。西の高校生探偵服部平次を頼っとき。そしたらどんな事件も問題ないわ」

 

「むっ(ニャロー……)でも、平次兄ちゃんと新一兄ちゃんが初めて会った時の事件って、新一兄ちゃんがバッチリ解いてたよ。平次兄ちゃんは犯人のトリックに引っ掛かっちゃったけど」

 

「ぐっ……ま、まぁ、そんな事もあった様な気ぃもする様なせぇへん様な……(おんのれぇ……)」

 

「ふふー♪だから定明にーちゃんも、東の『名』探偵の工藤新一兄ちゃんを頼った方が良いかもしれないよ」

 

上機嫌で自分の事を売り込んでた服部さんの言葉が気に障ったのか、コナンは横槍を入れて工藤新一の事を推す。

割り込まれた服部さんは苦笑いしながらも微妙に怒りが滲み出てるし……どっちも負けず嫌いって事か。

っていうか事件が起こる前提で話を進めないで欲しい。つねづね平穏を望む俺としてはかなり不吉です。

二人して笑う裏では激しい睨み合いをしている中、俺はどうでもいいとばかりに欠伸を一つ。

 

「ふぁ~……んで?その名探偵の服部さん。分かったんスか?この回転の謎は?」

 

「んぐッ!?そ、それはやなぁ……」

 

コナンと睨み合っていた服部さんは俺の言葉に頬を掻きながら明後日の方を向く。

そんな服部さんを見て、和葉さんはニヤニヤした笑みを浮かべた。

 

「ふ~ん?ど~やら平次にも、あのマジックのタネは検討もつかへんみたいやなぁ。前にマジックショー見に行った時は直ぐ分かっとったのに」

 

「こ、この女ぁ~……ッ!?さも自分がやりましたみたいに言いよってぇぇぇ……ッ!!」

 

ウンウンと考える服部さんに和葉さんはそう言いながら嬉しそうに笑う。

そんなリアクションに対して、服部さんは唸りながら手をプルプルさせる。

しかしそこに険悪なムードは無く、俺からしたらジャレあってるとしか思えない。

マジックショーが何時の事かは知らねえが、どうせ事件でもあったんだろ。

そんな二人から視線を外し、今度は苦笑いしてる蘭さんに会話を振った。

 

「そういえば、蘭さんの幼馴染みだっていう工藤さんでしたっけ?その人なら、この回転の謎が分かるんスかね?」

 

(いッ!?)

 

「あっ。そういえば……もしかしたら、新一なら分かるかも……でも、定明君も解かれたら困るんじゃないの?」

 

素朴な疑問を口にすると、蘭さんは俺にそんな事を聞いてきた。

既に解ける前提で聞いてくるあたり、蘭さんの工藤新一への信頼は凄く強いんだな。

困るというか、解かれたら偽り無しにスゲーって賞賛させてもらうと思う。

でも有り得ないって確固たる思いがあるからこそ、俺はこう返す。

 

「特に困る事は無いっすよ……まぁ、俺からしたら、俺の回転の謎を解こうとしてる人達に言いたいのは……」

 

「……言いたいのは?」

 

少し溜める様に口を閉ざすと、服部さん達も興味を持ったらしく、二人して俺の方に向き直る。

その中でもコナンは一番真剣な顔で俺の次の台詞を待っていた。

まぁ自分自身に向けられる言葉だし、真剣になっても無理は無いか。

俺は全員の視線を受け止めながらニヤリと一つあくどく笑む。

他ならぬ、目の前に居る探偵達に向けての挑戦状を叩きつける為に。

 

「解けるモンなら解いてみな――ですかね?まぁ、あのシャーロック・ホームズとかいうおっさんでも解けないでしょうけど」

 

「「ッ!!?」」

 

そして、俺の挑発以外の何物でも無い台詞を聞いて、二人の探偵はマジな目をする。

ここまで堂々とした挑発だし、あの探偵の祖とも言われてるシャーロックを馬鹿にする発言。

蘭さんと和葉さんも少し苦笑い気味だ。

 

「うわ~……何ちゅう強気な発言や」

 

「あはは……じゃあ、新一にも伝えておこうかな……えっと、『超難解な謎を持った従兄弟が、今私の家に居るよ。しかもシャーロック・ホームズでも絶対に解けないと自信満々。平成のホームズには解けるかな?』っと……はい。送信♪」

 

「……上等や。この服部平次が工藤より先にお前の回転の謎を解いて、『参りました』って言わせたるわッ!!首洗って待っとれよ坊主ッ!!」

 

「僕も、そのトリックのタネが何なのか、絶対に暴いてみせるから」

 

探偵達に喧嘩を売ったと同義の宣言を聞いて、服部さんとコナンは目に炎を灯してそう言い放った。

もとより謎という謎を解き明かしたいという知的好奇心の塊の様な二人だ。

この世には謎のままにした方が良い謎があるのは判っていても、この世に解けない謎は無いと考えてる。

だからこそ、解けないという難解さこそが、この二人にとっては逆に最高のスパイスなんだろう。

 

「そうッスか。じゃあ解けないに百円で」

 

「あれ自信無いのッ!?」

 

「安ッ!?めっちゃ安ッ!?え、なんや解けっこないてそない自信満々に言うといて賭けんのはたった百円ぽっちかいなッ!?」

 

俺の掛け金を聞いて目を見開く服部さんとコナンをスルーして、俺は歩みを進める。

まぁ別にもっと大金賭けても良いんだけど、服部さんにしても工藤、いやコナンにしても負けず嫌いだ。

謎を解く期限も決めてない適当な賭けだから適当に言っただけの事なんだよな。

その後は何故か全員でこの近くの服屋を回らないかと聞かれたが、俺は写生の続きをしたいという理由で辞退。

スマホに保存していた名犬クールと背景を書き込む作業をする為に、蘭さん達より先に帰宅する事に。

女性の買い物は長いって良く言うし、そんな面倒事よりも宿題の方が大事だからな。

そんなこんなで帰った俺だが――。

 

「ただい――」

 

「よーし来い来い来いッ!!そのまま……ッ!?あーッ!?待て待て抜かれるなッ!!頑張れJKニーソ三世ッ!!お前の底力を見せろぉッ!!」

 

イヤホン片手に競馬に勤しむビールを持った伯父さんを見て、俺はこっそり溜息を吐く。

つーかスゲェ名前だなその馬。何でその馬に賭ける気になったし?後一世と二世は?

微妙に心に引っ掛かる謎を抱えながら、俺は部屋に上がってスケッチを黙々と仕上げる。

そして4時間程してから帰宅した蘭さん達だが、歩き疲れた事もあって、その日の夕食はポアロで済ます事に。

ポアロの梓さんに勧められた特製パスタに舌鼓を打ちながら、当てが外れて落ち込む伯父さんに説教カマす蘭さんを眺めるのだった。

そして部屋に戻って雑談をした後、俺達は就寝する事にしたんだが、今日は何も事件は起きなかったのである。

コナン達も出先で何も無く、俺と伯父さんも事件に巻き込まれていないという、正に平和な1日。

出来ればこのまま何事も無く平和な2週間を送りたいぜ……。

 

 

 

――翌日。

 

 

 

「おはようござーっす」

 

「あっ。おはよう定明君」

 

「朝ご飯、もう直ぐ出来るで待っといてぇな」

 

「うーっす。じゃあテーブルくらい拭いときましょうか?」

 

他の男衆よりも早く起きた俺がリビングに入ると、既に蘭さんと和葉さんがキッチンで朝飯を作ってくれていた。

手伝いを申し出るも、「ええから座っとき」という和葉さんの言葉で大人しく待ってる事に。

一人寝床に人数が増えて少し窮屈だったが、概ね快適に眠れたぜ。

そう思っていると、顔を洗ってきた二人の名探偵が欠伸しながらリビングに現れる。

なんかまだ眠そうだな。

 

「ふわぁ……おはよう(やべっ……考え過ぎてまだ眠ぃ)」

 

「あぁ~……よぉ眠れたわ(ホンマはあの回転の謎の事考え過ぎて、何時の間にか寝落ちしとったんやけど)」

 

「二人とも。おはよう」

 

「まぁコナン君はしゃぁないにしても、平次はもう少しシャキッとしぃ。定明君なんかちゃんと目、醒ましてるで?」

 

「うっさいのぉ……お前は何時から俺のオカンになったんや?」

 

「オカンっていうより、カミさんじゃないッスか?」

 

「「なぁッ!?」」

 

二人を見ながら呟いた俺の言葉に、和葉さんと服部さんは二人して驚きの声をあげる。

どう見ても今の遣り取りって朝の夫婦のやりとりだろ。

 

「あ、あわわわ……ッ!?」

 

「な、なな、何言うてんねん坊主ッ!!こ、こいつと俺が夫婦に見えるかぁッ!!」

 

「寧ろ夫婦にしか見えねーッスけど?昨日からそう言ってるじゃないっすか。コナンもそう思うだろ?」

 

「う、うん。和葉姉ちゃんも平次兄ちゃんもお似合いだと思うよ」

 

「こ、この……ッ!?」

 

俺の質問に乗っかって良い笑顔を浮かべながら答えるコナン。

そしてコナンの正体を知ってるからこそ、怒りと羞恥心で顔を真っ赤に染めながら唸る服部さん。

つうか、和葉さんがアワアワ言って動かなくなってるし。

蘭さんはそんな風景を眺めながらクスクス笑ってる。

 

「ち、ちゃうで定明君ッ!!ウ、ウチと平次はそんなんじゃ……」

 

「ほ、ほれ見てみぃ坊主ッ!!か、和葉もそんな事無いて言うてるやろッ!?」

 

「え?俺は只二人の遣り取りを見てそう見えるって言っただけなんスけどねー?誰が二人は夫婦だ、なんて言いました?」

 

「「――へ?」」

 

俺が「何言ってんの?」みたいな顔でそう答えると、二人は目を点にして呆然と呟く。

おっかしいな?俺一度として『二人は夫婦』だなんて確定した事言ったっけ?

ここでやっとからかわれていた事を理解した二人は顔色をみるみる赤く染めあげ、二人して目を合わせられなくなっていた。

 

「まぁ、朝っぱらからラブコメるのも結構ッスけど、出来れば飯の後にして下さい」

 

「だ、誰の所為やと思っとるんや……ッ!!」

 

「ったく。朝っぱらから人ん家のリビングで甘ったるい空気出してんじゃねぇよ」

 

「あっ。お父さん、おはよう」

 

俺の言葉を聞いて手を奮わせる服部さんをスルーってると、ここで毛利家の大黒柱である伯父さんの登場。

何時ものズボンとシャツで片手に新聞を持った出で立ちのまま、面倒くさそうな表情で座る。

 

「あーあぁ。ガキは皆夏休みで暇を持て余してるってか?気楽なモンだぜ」

 

「夏休みの宿題とか面倒くせーッスけどね。毎日の絵日記とか、書く事無かったらどうしろっつーんだっての。そうそう毎日何時もと違う出来事なんてねえし」

 

「バーロォ。大人は連休なんて殆ど無えんだぞ?その癖お前等の宿題なんざ屁でもねぇくらいに、毎日仕事仕事……俺も学生時代に戻りてぇなー」

 

「でも学生時代に戻ったら伯父さんの大好きな酒、タバコ、競馬に麻雀と、出来ねぇ事なんていくらでもありますよ?」

 

「いやー、大人で良かったぜッ!!……つってもなぁ――」

 

「夏休みは嬉しい……でもなぁ――」

 

「「宿題/仕事……面倒くせぇ」」

 

「(あっ。二人ともそっくり)」

 

「(ハハ……さすが親戚)」

 

だらけた表情で天を仰ぐ俺と伯父さんに、蘭さんのジトッとした視線が突き刺さる。

コナンと和葉さんは半笑いしてるし、服部さんも少し苦笑い気味だった。

この中ではマイノリティな俺と伯父さんだが、諸々が面倒くせーと思うのは絶対に俺達だけじゃないって断言出来る。

そう思っていると、少し顔を赤くした和葉さんとジト目の蘭さんがお膳をテーブルに置いていく。

全員席についていただきますと言えば、1日の始まりである朝食の開始だ。

 

「もう。お父さんも定明君も、そんなに面倒くさがってたら駄目よ。将来ダメ人間になっちゃうんだから」

 

「おーい?お父さんもう将来過ぎてんだけど?蘭ちゃーん?(言う事が英理に似てきやがった)」

 

「つっても俺が成人になるのって、まだ11年も先の事でしょ?今からそんな先の事気にしてても仕方無いッスよ」

 

「日々の積み重ねが、将来に役立つ事だってあるんだよ?」

 

「先の見えない真っ暗な未来より、明るい現在(いま)を楽しむ。俺の座右の銘にします」

 

「座右の銘だった訳やないんやね……」

 

少し怒った表情の蘭さんの説教をのらりくらりと避けつつ、俺は朝食の鮭に箸を伸ばす。

う~む。程好い塩味が絶品だね、これは。

卵焼きも良い塩梅の味付けと焼き加減だし味噌汁も塩辛く無く、それでいてスッキリし過ぎでも無い。

はぁ……心安らぐ、良い朝のスタートってヤツだなぁ。

 

「はぁ……美味ぇ……平和だ……」

 

「……なんやおっさんみたいな事言いよるやっちゃのぉ。子供やったらもっとこう、刺激っちゅーのが欲しいモンなんとちゃうか?」

 

味噌汁飲んでほっと一息吐く俺に、服部さんは目を細めながらそんな事をのたまう。

冗談じゃねぇ、朝から何て不吉な話題出しやがるんだこの色黒。

 

「別に全くいらねぇって訳じゃ無えっすよ。只、俺は9割の平和と1割くらいの刺激がちょーど良いってだけです。このほんのりとした味噌汁みてーに」

 

「味噌汁て……」

 

「あっ。その例え上手やん」

 

何とも朝からどうでも良い様な話題で盛り上がっているが、こんな空気こそ、俺の平和の象徴。

植物の様に穏やかに過ごしてる事の証だ。

そのまま俺達は和やかで穏やかな朝食の時を過ごし、昼からどうするか予定を立てる事に。

まぁ何処に行こうかと盛り上がってるのは主に蘭さんと和葉さんだけど。

コナンと服部さんは頬杖をついてボケーッとしてるし。

俺?俺は伯父さんと一緒にテレビを見て暇つぶしだ。

 

「あー……おい定明。ちょっとそこのタバコ取ってくれ」

 

「へいへい。あー伯父さん、俺にも柿ピー下さい」

 

「ほらよ」

 

「「(だらけ過ぎやろ/だろ。休日のオッサンか。いやまぁ一人はオッサンだけど)」」

 

二人で左右にあった欲しい物を渡しつつ、寝転んでテレビを見る。

信じられるか?今まだ朝の8時なんだぜ?

何か昨日は服を見たので、今日は原宿の方まで出ようかって話で悩んでるっぽい。

俺も昨日は一緒に行かなかったから、今日は一緒に行こうねと言われてしまってる。

あんまり死神’sとは行動したく無えんだがなぁ……。

あーでもそろそろ、アリサ達に土産買っておいた方が良いか?

原宿の方まで出る事なんて、もう俺が居る間は無いだろうし。

 

prrrrr

 

「っと。スマン、俺の携帯や……ん?大滝はん?なんやろ?」

 

しかし、やはり死神体質の人間が揃い踏むという事は、平穏という極上の女とは結ばれない運命らしい。

ゆったりとしていた俺達の日常を引き裂くかの様に、服部さんの携帯が始まりの合図を弾き鳴らす。

 

 

 

――血生臭い、殺人事件への鐘を。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「えっと、待ち合わせはこの辺やけど……あ、おったおった。おぉーいッ!!大滝はーんッ!!」

 

そして2時間後、俺達は伯父さんの運転するレンタカーに乗って、高速のパーキングエリアに一度止まった。

キョロキョロと辺りを見回してた服部さんが相手を確認して、その相手に声を掛ける。

すると向こうも気付いたらしく、ゆったりとした動作でこっちへ歩み寄ってきた。

 

「どぅも皆さぁん。態々お越し頂いて、えろぅすんませんなぁ」

 

「いやいや。私なぞでよろしければ是非、事件のお役に立たせて頂きますともッ!!」

 

苦笑いしながら頭を下げる男に、伯父さんは問題ないと返す。

俺達を出迎えてくれたのは、間の伸びた渋い声で話す大柄なスーツの男で、大滝警部さんという人らしい。

右眉毛を横断する傷が、なんともヤクザ臭げふんげふん。歴戦の刑事っぽい。

大滝さんは俺達を見回すと、俺を見て首を傾げた。

 

「おやぁ?今日は一人、連れが多いみたいですけど……?」

 

「えぇ。コイツは私の甥っ子でして……定明。こちらは大阪府警本部で刑事をやっておられる、大滝警部だ」

 

「こんにちわ。城戸定明ッス。小五郎伯父さんの甥っ子です」

 

「お~、そうなんかぁ。ワシは大滝言います。よろしゅうなぁ、定明君。あ、それとスマンのぅ平ちゃん。折角の夏休みやのに、呼んでしもて……」

 

お互いに挨拶した所で、大滝さんは服部さんに申し訳無さそうに謝る。

実はこの大滝さん、とある家の遺産相続の会議に警察への出席要請が出たからそれにこれから向かう事になったそうだ。

なんでも、以前その家で奇妙な事件が2件立て続けに起こり、まだその事件が解決していないからというのが理由らしい。

そして服部さんが東京の伯父さんの所に居るから、ついでに事件解決の為に連れてけと、服部さんの親である服部平蔵さんに言われたから連絡したと。

更に泊まってるのが小五郎の伯父さんの家という事もあって、伯父さんも事件解決に乗り出してしまった。

何とも傍迷惑な事だぜ……伯父さんが行くならと俺達も行く事になっちまったんだから。

大滝さんの謝罪を聞いた服部さんは笑いながら手をヒラヒラと振った。

 

「構へんて大滝はん。どうせ予定なんて無かったんやし、なんやおもろそうな事件の話なんやろ?そっちの方が退屈せんで済むわ。なっ、坊主?」

 

「うんッ!!」

 

ちなみに今の坊主とは俺じゃなくてコナンの事である。

しっかし、面白そうな事件ねぇ……人が不幸になってんのに喜んでんじゃねぇよ。

コナンも小島に言ってた言葉を思い出してみろ。

不謹慎過ぎる二人に気分が悪くなる……が、俺より機嫌悪い人居るからなぁ。

大滝警部もそれが分かってるのか、件の人物を見ると冷や汗を流してる。

 

「……」

 

「か、和葉ちゃんもごめんなぁ。折角東京で遊んでたのに……」

 

「あぁ、ええねんええねん。俺等はそっちの坊主と家で待っとれって言うたのに、コイツが着いてくる言い出したんやし」

 

目に見えて不機嫌さを醸し出してる和葉さんに大滝さんは謝るけど、和葉さんの視線は鋭く服部さんを射抜いたままだ。

まぁあんな事言われちゃあ、不機嫌にもなるだろうよ。

折角二人で旅行に来たってのに、態々進んで事件の方に行くんだもんなぁ。

っつうか、普通幼馴染み放り出して事件解決に向かうか?有り得無えーだろ常識的によぉ。

親も親だな。和葉さんが一緒に旅行に来てるってのに……いや、まさか知らなかったとか?……まさかな。

まぁここでグダグダしてても仕方無いので、俺達は一路目的地に向かう事に。

人数を分けて、服部さんとコナンは事件の詳細を聞く為に大滝さんの車に乗り、俺たちは伯父さんの車に乗った。

 

「……」

 

「か、和葉ちゃん……えっと……(二人とも助けてよぉッ!!)」

 

そしてその道中、車内の空気は物凄く気まずいです。

前方を走る大滝さんの車をジトッとした目で睨む和葉さんのお蔭で。

和葉さんの隣に座る蘭さんが凄い泣きそうな顔で俺と伯父さんに助けを求めてくる。

 

(おい。何とかしてやれ。従姉のお願いだぞ?)

 

(嫌っすよ、面倒くせぇ……伯父さんが何とかして下さいよ。名探偵なんでしょ?)

 

ダルい事の押し付け合いをアイコンタクトで交わすという時間稼ぎを続けながら、俺達はそ知らぬ振りを決め込むのだった。

何で俺があの色黒男のフォローをしなきゃならねーんだっての。

そういうのは和葉さんと同じ女の蘭さんに全て丸投げる。

頑張って下さい応援してます。エールもじゃんじゃん送りますよ、念で。

 

(覚えてなさいよぉ、二人ともぉ……ッ!!)

 

なんてこった。応援の念を送ったら呪詛の念が返ってくるとは。

まぁ普通に素知らぬ顔でスルーされたらそうもなるわな。

しかし男の事でヤキモキしてる女の人に関わるのはクソ面倒くせー事だ。

俺と伯父さんは背後から振りかかる恨みがましい視線をスルーし、車は一路目的地へと向かっていく。

 

《ねぇ大滝警部。これから向かう屋敷で昔起こった奇妙な事件って、一体何なの?》

 

お?どうやら話が始まったみてーだな。

コナンのズボンのポケットに忍ばせたハーヴェストが、コナンが事件について質問する声をキャッチした。

俺は少し意識を集中して、向こうの車の会話を聞き取る事に専念する。

 

《……事件自体は2件あったんやけど……奇妙さで言うたら、2件目の事件の方が奇妙やったらしい》

 

《2件目の方が奇妙?どういう事やねん?》

 

《あぁ。最初の事件は今から2年前。これから行く館の近くの森で、女性の遺体が見つかったんや……地面に立てた長い杭に逆さに縛られた無残な格好でなぁ……》

 

コナンの質問に奇妙な前置きをした大滝警部。

その前置きに疑問を持った服部さんの質問に対して、大滝警部は事件の内容を語り始めた。

 

《杭に、逆さに括りつけられた遺体……?》

 

《そらまた……エグいのぉ》

 

……エグいというより、その犯人の行動に異常を覚えるっての。

昔の事とはいえ、のっけから嫌な事件だなと思いつつ、一言一句聞き逃さないように集中を保つ。

 

《その女性は館のメイドやってんけど……遺体の様子がなぁんや『けったい』でなぁ……》

 

《??けったいって、なにがや?》

 

《いや、その遺体見つけた老夫婦が言うとったらしい。遺体の肌の色があんまり白ぉて、最初は逆さに掛けた熊よけのかかしと間違えたってな》

 

《はぁ?そんなん、動脈切って遺体そこに置いて失血死させたに決まってるやないか》

 

なるほど……動脈を切って逆さにすりゃあ、血は垂れ流れてそれで死に至るって訳だ。

確かに服部さんの言ってる事は分かるけど……それで奇妙な事件、だなんて前置きするだろうか?

それなら頭のイカれた殺人犯の仕業って言うんじゃねぇの?

 

《……遺体に大きな傷は全く無かったらしいんや》

 

《え?》

 

《あったんは――首筋に空いた『二つの穴』だけで……》

 

《ッ!?首筋に二つの穴で、失血死……ッ!?》

 

そして、続けて語られた事件の話に、俺は嫌な予感がヒシヒシと感じられた。

首筋に二つの穴。そして失血死って……完璧に吸血鬼みたいな遣り方じゃねえか。

まぁ普通ならそう見せようとした人間の仕業って思う所なんだが……俺は知ってる。

現代には『夜の一族』という吸血衝動を持っている人種が居る事を。

まさかとは思うが……夜の一族が関わってるのか?すずかと同じ吸血種の人間が?

加速する嫌な予感を裏付けるかの如く、大滝警部の話は進む。

 

《そんで、もう一つの事件っちゅうのは……その翌年。つまり1年前に起こった事件なんやけど……被害者が死ぬ前にとった行動が奇妙やったらしい……》

 

《被害者の行動?》

 

《あぁ。目撃者は別の近所に住んどる夫婦なんやけど、被害者は最初の事件とは関係無い人や。旅行帰りの夫婦が車で屋敷の前を通り掛かった時、夜中やのに手をまっすぐ前に突き出しながらフラフラと森の中に入ってったそうや》

 

まるで意志の無いキョンシーみたいに歩いとったらしい、と言葉を続けた大滝警部の声は少し震えていた。

被害者のとった異常な行動……自分から一人で森に入ったという事か。

 

《その夫婦が様子がおかしい思て声掛けたら、虚ろな目で睨まれて気味悪くなったらしいて……そのまま忠告も無視してパジャマ姿で森の中に入った被害者が心配になった夫婦が警察に連絡して森の捜索を頼んだ……そしたら……》

 

《お、おい。まさか前と同じで……》

 

《杭に逆さに縛られて、失血死してたの?》

 

弱気な調子で語った大滝警部に、服部さんとコナンは矢継ぎに質問する。

すると大滝警部は「い、いや……」と弱々しく否定して――。

 

《……前と同じやなんて『優しい』モンや無かったらしい……通報を受けて急行した地元警察が、通報から25分程で被害者を見つけた時には……被害者はまるで老婆と見間違う程に痩せこけて……わ、笑ったままの表情っちゅう薄気味悪い状態で発見されたそうや……前と同じで、首筋に二つの穴以外、外傷は無かったて……》

 

《な……ッ!?》

 

《ん、んなアホなッ!?通報から発見まで25分しか経ってへんのに、痩せこけるくらい体から血が抜かれとったっちゅうんかいッ!?しかも笑ったままの表情でッ!!たった二つの穴傷でッ!!》

 

《あぁ……せやから、2件目の事件はもっぱら吸血鬼の仕業や言われとってなぁ……1件目も似た様な殺され方やったから、そっちも似た様な扱いされとるそうや……》

 

《吸血鬼……ハッ。アホくさ。この世にそんなファンタジー染みた生きもんが居る訳無いやろ》

 

俺のダチに居るんだけどなぁ、吸血できちゃう子。

ファンタジーな生き物をナマで見た事の無い服部さんは早々に人間のトリックだと疑って掛かってる。

まぁそれはコナンも一緒だろう。

ハーヴェストが見てるコナンも最後には呆れた表情を浮かべてるし。

でも、俺はそんな楽観的に考えられねぇんだよなぁ。

余りにも予想外な出来事に、俺は目元に手を当てて天を仰ぐ。

……よりにもよって、夜の一族が絡んでくんのかよ……。

 

「??おい、大丈夫か?」

 

「あー、大丈夫っす。ちょっと現実から逃げたくなって……」

 

「助手席に座ってる間に何があった」

 

心配してくれる伯父さんに手を振って大丈夫とアピールしながら、俺は今の事件の話を考える。

1件目の事は分からねえが、2件目は90%くらいの確立で夜の一族の誰かの仕業って考えて良いだろうよ。

確か夜の一族には魔眼があるし、人間の記憶が消せるだけじゃなくて操る事も出来るって話だったしな。

最初の事件と何か関わりがあるのかは分からねえが……少し調べておくか。

ちょうどパーキングエリアに寄る所だったので、俺はジト目で睨んでくる蘭さんからスタコラと逃走を計る。

そのまま男共の最終隠れ家である男子トイレの個室に入り、スマホを操作。

すずかの家の電話を選択して電話を掛けた。

 

「出来れば、忍さんが居てくれるとありがてぇんだけどな……」

 

エアロスミスのCO2レーダーで周りで聞き耳を立てる奴が居ない事を確認しつつ、コール音を聞いていると……。

 

『(ガチャッ)はい。月村ですが?』

 

「あー、イレインか?俺だ、定明だよ」

 

『あ?定明?何でお前こっちに電話してきてんだ?すずかが電話が無くて寂しがってたぞ。ちゃんとすずかの携帯に電話してやれよ』

 

電話に出たのはイレインだったが、何故か開口一番にそんな事を言い出した。

どうやら俺がすずかの家に電話掛けたのは間違いだと思ってるらしい。

 

「悪いがすずかじゃなくて忍さんに用事があるんだ。電話に出してくれねぇか?かなり急ぎの用件でな。このままじゃ、ケツに火が点いちまう」

 

『……おい。お前まさか、何かヤバイ事に首突っ込んでんじゃねぇだろうな?』

 

俺の要求を聞いて感づいたのか、イレインは声音を少し硬くして問い返す。

自惚れじゃなけりゃ、心配してくれてんのかもな。

そんな考えが浮かんだ事に苦笑しながら、俺は話を続けた。

 

「それを今から忍さんに確認してーのさ。もしかしたらそちらさんの一族の誰かがやんちゃしてるかもってよ……氷村の馬鹿みてーに、な」

 

『ッ……ちょっと待ってろ。直ぐに繋ぐから』

 

「あぁ。悪いな」

 

保留のベルが聞こえる中、俺は大きく溜息を吐く。

……確かにすずかや忍さんと同じ一族の人間を疑うなんて気分悪いが、氷村って前例もある。

親戚であろうと容赦無く蹴落とそうとしたあの残忍な男……あんなのが居るって考えりゃ甘い事言ってられねえ。

何よりそんな危ない土地に向かうのは俺だけじゃ無くて、蘭さんや伯父さんもなんだ。

身内の誰かが犠牲になるなんて、俺は考えたくないし受け入れるつもりも無い。

不安の芽は二度と生えない様に潰しておかねぇとな。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「き、吸血鬼ぃッ!?その殺し、吸血鬼の仕業だって言うんスかッ!?」

 

それから時間は飛んで、俺達は山奥のとある大きな屋敷に到着した。

蘭さん達を先に屋敷の中に通してもらい、外で話していた伯父さんが素っ頓狂な声で驚く。

まだ詳しい事を話してなかったという事で、車の中でコナン達に聞かせてたのと同じ話しをした所だ。

驚く伯父さんに苦笑しながら、大滝警部は伯父さんに弁解する。

 

「いやぁ~只のしょうもない噂ですぅ。昔この辺をそないな大名が治めてはったらしいし……」

 

「は?大名?」

 

「ほんで、その殺人犯まだ捕まって無いんか?」

 

「ああ。まだ~未解決のままや」

 

横槍を入れた服部さんの質問に大滝さんは答え、そこに更に伯父さんが質問を続ける。

こういう時って事情を話す人間は大忙しだな。

 

「しかし、容疑者くらい居たんじゃ……」

 

「え、えぇ。真っ先に疑われたんが、この館の主の寅倉拍弥さんです。殺されたメイドが、館のシェフに洩らしてたらしいんですわ……旦那様が最近不気味で、身の危険を感じるからメイド辞めたいってぇ……」

 

「じ、じゃあ、やっぱり主が?」

 

「あぁいえ。寅倉さんは……」

 

「アリバイがあったのですよ」

 

と、伯父さんの質問に答えようとした大滝警部の声を遮って別の人物が現れた。

白髪にてっぺんハゲの老人だが、滲み出る貫禄は鮫島さんのそれと良く似ている。

着ている服もスーツだし、この館の執事か?

 

「メイドの清水さんが亡くなった死亡推定時刻に、旦那様はずっと部屋に籠もられて寝てらしたというアリバイが……皮肉にも、それを証言したのは清水さんに相談を受けていたシェフなんですけどね」

 

事件の館側の顛末を語り終えた執事の爺さんは姿勢を正し、大滝警部に目を合わせる。

 

「ようこそおいで下さいました。大阪府警の大滝警部ですね?」

 

「あ、はい。ほんならアンタが、依頼主の……」

 

「執事の古賀と申します。服部本部長の父上とは同期の桜でして」

 

同期の桜……確か昔の言い回しで同期生だったっけか?

妙な使い回しをする爺さんだぜ。

細い狐の様な目付きだが……見た感じ、そこまで悪そうな雰囲気はしない。

そこまで注意しなくても良さそうだ。

 

「ねぇ、何なの?最近の旦那様の様子が不気味だったって」

 

「あぁ……近頃の旦那様は、日を避ける様に昼間は部屋でずっと寝てらしたり、愛用なさっていた食器類も、自分は銀アレルギーだと急に言い出されて全てお捨てになったり……」

 

「……陽の光も駄目。銀の食器も駄目、ね……」

 

まるっきり吸血鬼のそれだな。

しかも急にそんな事を言い出したらそりゃあ不気味だろう。

コナンの質問に答えていく古賀さんの話を、俺はコナンの隣で聞きながらボソリと呟く。

 

「先日は好物のニンニクに入ったスープの皿を叩き割られて、血が腐るから二度と入れるなと大層ご立腹に……」

 

「終いにゃニンニクも駄目……それってほぼ確定じゃね?」

 

「あぁ。坊やと同じでメイドの清水さんにもそう写ったのでしょう。まるで吸血鬼――ヴァンパイアの様だと」

 

「「ヴァ、ヴァンパイアッ!?」」

 

古賀さんの呟きに反応したのは俺達……では無く、先に家に通されてた筈の蘭さんと和葉さんだった。

二人共かなりビビった表情で、冷や汗を流している。

 

「い、今ヴァンパイア言うてへんかったッ!?」

 

「吸血鬼がどうかしたのッ!?」

 

「あー、いや……」

 

そして二人は大滝警部と伯父さんに詰め寄って話を聞こうとする。

二人の真剣な顔付きに気圧された大滝さんと伯父さんはしどろもどろになった。

どうやら二人共、怖い話は苦手みてーだな。

 

「あー、違う違う。バンパーやバンパー。レ、レンタカーのバンパーに傷付けてしもて、どないしよー言うてたんや」

 

いや、それは言い訳としちゃ苦しくね?

 

「なぁんだバンパーかぁ……」

 

マジか。

 

「なぁ、平次らも早よ中入りぃ」

 

「お城みたいで凄いよ」

 

「あ、あぁ(いや、騙したん俺やけど……こない簡単に信じるとは……)」

 

何とも簡単に誤魔化された二人を見て、俺は心底呆れた。

しかもキャイキャイとはしゃいで館の中が凄いだどうだと騒ぐ始末。

俺だけじゃなくて誤魔化した平次さんも半笑いしてた。

……ちったぁ緊張感を持って欲しいんだけどなぁ……ここ、マジにやばい土地らしいし。

 

「……では、そろそろ日も傾いて、旦那様もお目覚めになる頃合いです。夕食の支度が整うまで、館内で寛いでいて下さい」

 

「あぁ、はい……」

 

「問題の遺産相続の話し合いは、夕食後という事ですので……」

 

最後に古賀さんから、今回訪れた本題の遺産相続の話をされて、俺達は館の中へと入る事に。

……やれやれ、出来れば何事も無く終わって欲しいトコだがなぁ……。

 

 

 

 

 

――そんな俺の望みを嘲笑うかの様に、玄関を開いた瞬間、ハイウェイ・スターで強化した俺の鼻に濃厚な『血』の臭いが感知された。

 

 

 

 

 

おい、まさかとは思うが……もう誰か死んじまってんのか?

……でも、『向かいの森』の中の方がドギツイ血の臭いがしてた所為で、判別し難い。

出来ればハイウェイ・スターの能力をOFFにしたい所だが、後手に回るのだけは避けてえ。

それにまだ情報も足りないから動き様が無え……急いでくれよ、忍さん。イレイン。

 

 

 

ままならない現状に天を仰ぎたくなる気持ちを抱えながら、俺は館の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 





最近色んなSSを書きたくてしょうがねーんすよぉ~。

天晴れ天下御免とか~緋弾のアリアとか~恋姫とか~辻堂さんとか~マジ恋とか~。
ドラッグオンドラグーン3とかも良いっすね~。

それと話は変わりますが、緋弾のアリアでTPSのゲームとか出てくんないッスかね?
武偵としてクエストこなしてランク上げしたり、拠点フェイズ的なのでヒロインと恋愛したり……あれ?結構良さ気じゃね?
銃を撃つ武偵以外にも超能力使える超偵も居るし、ヒロイン可愛いし。
車好きな人の為と言っても過言じゃねぇ車輌科もあるし。
GTA5みたいな箱庭ゲームコンセプトとビジュアルノベルの融合。
歴史の偉人達の子孫という歴史にも優しい配慮。
車のカスタムとか銃のカスタムも出来る科があるし……あれ?何やら超大作の予感。







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俺の姿が見えたなら(ry



スタンドの名前の『』って正直入りますかね?


とりあえず本編、GO!


 

 

「凄い……こーゆうのって、映画やドラマで良くあるけど、実際に体験出来るなんて……ッ!!」

 

「ほんま、あたしらも貴族になった気分やわぁ……」

 

屋敷の中に通されて執事の古賀さんに案内された、ドラマのセットのような豪華な部屋・テーブルの並ぶ食堂。

そこの長テーブルに綺麗に揃えられた食器やナプキンを見て、蘭さんと和葉さんは嬉しそうにそんな事を言う。

……俺からしたらテーブルマナーとかうるさそうな食事会場って感じで、あんまり嬉しくねぇけど。

ついでに言えばすずかやアリサの家の方がテーブル長かったし調度品も多かったな。

 

「お父さんの付き添いで、私とコナン君は偶にこういう場所に来る事もあったけど……定明君はこういうの初めて?」

 

と、蘭さんが俺を気遣ってかそんな事を聞いてくる。

いや、初めてと言いますか……。

 

「あ~……こういう食事場は……3回目、ですかね?」

 

「え?そうなん?」

 

「あれ?雪絵は専業主婦だし、結城君も普通の会社員じゃ無かったか?なのに、こういう場所に来た事あんのかお前?」

 

伯父さんも俺の言葉が予想外だったのか、首を傾げて会話に入ってきた。

確かに父ちゃんや母ちゃんには縁の無い事だが、俺個人にはある訳で。

前に誘われた夕食や昼食の事を思い出しながら、俺は苦笑いを浮かべる。

多分これ言ったら驚かれるんだろうなぁ。

 

「俺のダチの家が大金持ちで、夕食に呼ばれた事があるんスよ……聞いた事無いっすか?海鳴のバニングス家と月村家」

 

「んん?何かどっかで聞いた様な「「えぇえええええッ!!?」」ってな、何だッ!?」

 

「バ、バニングスと月村って……ッ!?」

 

「う、海鳴市の殆どを土地に持っとる大地主であり、有数の資産家にして名士の月村家と、世界屈指の大企業バニングスカンパニーの家やないか……ッ!?そないな家と親交があるんか、お前ッ!?」

 

「えぇ、まぁ」

 

やはりかなりの驚きだった用で、和葉さんと蘭さんは大絶叫。

そしてコナンや服部さんも同じ様に驚きまくってる。

さすが天下にその名を知らしめた大企業と日本でも有数の資産家の名前。

ネームバリューで言ったら園子さんの実家の鈴木財閥を軽く凌いでいるからなぁ。

 

「……し、しかしよぉ。ホントにお前、そんな財閥の娘とダチなのかぁ?何かお前がそんな大金持ちのお嬢様と知り合いってのが、いまいち納得出来ねえんだが……」

 

「写真ならありますけど……これっす」

 

と、にわかには信じられないと訝しむ伯父さんの疑いに答える為に、スマホから皆で撮った写真を呼び出す。

微笑むリサリサとすずかに勝気な笑みを浮かべるアリサ。そしてクールに笑う相馬に寄り添うなのは。

皆の真ん中で笑みを浮かべた俺という編成で撮った写真だ。

翠屋の中で桃子さんに撮ってもらったそれを、俺は皆に見える様に差し出した。

 

「金髪のがアリサ。バニングスさんトコの娘で、紫っぽい髪の女の子が月村家の次女、すずかっす」

 

「うわぁ……ッ!?二人共可愛い……ッ!!」

 

「お人形さんみたいやわ……あれ?このアリサって子、双子なん?」

 

皆で撮った写真に特に食い付いたのは蘭さんと和葉さんで、二人はアリサ達を見て可愛いを連呼していた。

しかし和葉さんは首を傾げながら、画面に笑顔で映るアリサとリサリサを指さす。

コナンと服部さん達もそこに注目していた。

 

「あぁ、違いますよ。そっくりですけど、二人は赤の他人っす」

 

「嘘ッ!?こんなにそっくりやのに、双子や無いんッ!?」

 

「あ、ホントだ……髪の色と瞳の色が違うだけで、そっくりなのに……」

 

まぁ、あの二人を見たら絶対そう思うよな。

俺は二人の反応を見て、最初にアリサ達が出会った時の事を思い出し、少し笑ってしまう。

 

「こっちの茶髪の子の名前はアリサ。アリサ・ローウェルっていうんですが……年は俺達の一つ上で、何とIQ200の天才少女です」

 

「「「「IQ200!?」」」」

 

「ッ!?ひ、ひょっとしてこの子が、このまえ定明にーちゃんが言ってた……」

 

リサリサのIQを聞いて目を見開く蘭さんと和葉さん、そして服部さんと伯父さんに大滝さん。

だがコナンだけは前に俺からその存在を聞いていた事もあり、他の人達ほど驚いてはいない。

……そういえば、リサリサの事で一つ伝え忘れてた事があったぜ。

 

「あぁ。何の因果か知らねーけど、ファーストネームまでアリサと一緒だから、俺達は彼女をリサリサって呼んでる……それとコナン。一つ言い忘れてたんだが……」

 

俺は少し溜めを作りながら、何を言うのかと身構えてるコナンと、ついでに首を傾げてる服部さんに向けて、ニヤリと笑みを送る。

コナンには佐藤刑事にチクられた借り、そして服部さんには行きの車で面倒な空気にされた借りを返しておくとしよう。

 

「リサリサは俺の鉄球の回転……その正体の根幹になる部分に自力で気付いた、マジモンの天才だぜ?」

 

「なッ!?」

 

「なんやてッ!?」

 

未だに謎が解明出来ていないであろう二人の名探偵に伝えた驚愕の事実。

それを聞いて、二人は面白いくらいに目を見開く。

まあ回転の謎全てにノーヒントで辿り着いた訳じゃねぇが、黄金長方形の事を見抜けただけでも賞賛モノだ。

俺なんか知らなかったら絶対に辿りつけないし。

何よりスタンド使いで無いにも関わらず、リサリサは俺がポロッと零した言葉だけでホワイトスネイクの存在に辿り着いた事もある。

この二人よりもリサリサの方が洞察力も推理力も上に感じるくらいだ。

 

「まぁ、この謎に辿り着けるのは、僅か一握りくらいの人間だと思いますけど――」

 

「ちょっとなんなのよアンタ達……ッ!?」

 

と、自慢げに二人に先に謎を解いた女が居ると教えていた俺の言葉に、誰かが割り込みを入れる。

ちっ、誰だってんだよ?人様の台詞を遮るお邪魔さんは?

自分の台詞を邪魔された事に苛立ちを感じながら振り返ると、そこには化粧が少し濃いオバサンの姿があった。

しかも何故か彼女は俺ではなく、リサリサ達の写真を眺めていた蘭さんと和葉さん達を睨んでるではないか。

 

「え……?」

 

「わ、私達ですか?」

 

「そうよッ!!どこの馬の骨だって聞いてんのよッ!!……まさかアンタ達、お義兄様の隠し子じゃないでしょうねぇッ!?」

 

……は?

戸惑う蘭さんや俺達に敵意を向けるオバサンの言葉に、俺達は目を丸くしてしまう。

隠し子って……普通そんな言葉が初対面で相手に言えるか?

しかも馬の骨だと?……うぜぇな。

そう思っていると、背後から少し小太り気味の眼鏡を掛けたおっさんが現れる。

二人の薬指に同じ結婚指輪が嵌まってる事から、この二人は夫婦なんだろう。

 

「そんなわけないだろ?もしそうなら兄さんが僕たちをここへ呼ぶわけないし……」

 

「そうね……もしそうなら、迫弥の遺産は私たち兄弟じゃなく、子供に全額相続されちゃうんだから……」

 

そして、そのおっさんの後ろから現れた初老の女性がおっさんの言葉を引き継ぎ……。

 

「でもわからないっすよ?何年か前に急に連れて来た、年の離れた子連れで美人の婚約者を……隠し子の2、3人いてもおかしくないんじゃね?」

 

更にその女性の肩を抱き寄せる、ホスト風の男。

しかも抱き寄せられた初老の女性は抵抗も嫌な顔もせず、男に身を預けてる。

……なるほどな……そういうことか。

要するにこいつ等はこの館の主の親族で、今回の遺産相続の話に食い付いて現れた業突張り共って訳だ。

そして今の男の話に出た、過去に子連れで歳の離れた婚約者が現れた前例っていうもあるから、蘭さん達の事を威嚇したって事だろう。

遺産の取り分、いや分け前が減る処か、子供に全額持っていかれては堪ったモンじゃないと。

っていうかホスト風の男はあからさま過ぎだろ。

そんな婆さんの恋人気取って、御機嫌とってまで金が欲しいか?

俺だったらそんな婆さんを恋人にするぐらいなら、日々働いた金で暮らす方が万倍ましだぜ。

 

「……最初に入ってこられたのが、寅倉家二男、寅倉麻信様と、その妻の瑠莉様でございます」

 

古賀さんが俺と同じで半目になった大滝さんや伯父さん、服部さん達に小声で説明してくれる。

まぁ俺は傍に居たから聞こえたって程度だが。

 

「そして後ろの方々が、寅倉家の長女である守与様と、その恋人の羽川条平様です……皆さん遺産相続の件で大分気が立ってらっしゃる様で……」

 

「そりゃー何とも……(ったく。子供が居るってのに大人の汚え一面見せやがって……定明を連れてきたのは失敗だったか?コナンの奴は毎回毎回勝手に殺人現場をうろつきやがるし……死体の傍なんて教育にゃ悪いんだが、全っ然聞きやしねぇ)」

 

あの羽川ってさぁ……どこからどう見ても恋人っつうよりハイエナじゃね?

皆も俺と同じ事を思ってるのか、ややジト目で抱き合う二人を見ている。

人様の人生には極力口を出したくねえ俺だけど……無いわ。アレは無いわ。

堂々としてて清々しいけどアレは無い。

 

「でも、その婚約者運悪くすぐに死んじまったけど……あ、そっか。あんたらにとっては運良くか?」

 

「お、おい君ッ!?」

 

何とも不謹慎な言葉を吐いた羽川に、皆から非難の視線が集まり、麻信さんが叱責するが、羽川には堪えた様子は無かった、

……人間一人死んで運良く、ね……こいつは気に食わねぇな。

こんな性根の腐った奴は死んだ方が世の為人の為になるってなモンだぜ。

 

「おいコラ」

 

ガシィッ!!

 

「うぐッ!?」

 

「あ、ちょっと岸治ッ!?」

 

と、ヘラヘラ笑いながら最低の台詞をほざいた羽川の胸倉を、また入ってきた別の男が掴み上げた。

守与さんの静止も聞かずに、岸冶と呼ばれた体格の良い男は怒りの表情を顕にして羽川を睨みつける。

 

「てめぇ、今度そんな口叩きやがったらただじゃおかねぇぞッ!!」

 

「……ハ、ハハ。何怒ってんだよ?もしかしてあの婚約者に横恋慕でもしてたのか?」

 

「古賀さん。あの人は……」

 

「三男の岸冶様にございます……どうやら岸冶様は遺産の方には余りご興味が無い様でして、旦那様が手紙を出す前にお越しになられ、野鳥や風景の撮影をしておられます」

 

大滝さんの質問に答えた古賀さんの言葉を聞きながら、俺は目の前で起こる醜悪な一幕を見つめる。

いきなり胸倉を捕まれて面食らっていた羽川だが、その憎まれ口は止まらない。

しかも岸冶さんの事をからかう始末だ。

どうやら羽川には反省するとか、そういう気持ちは無いらしい。

そのからかいを聞いて更に頭に血を昇らせる岸冶さん。

しかしそんな緊迫した空気の中に、更に別の人物が現れた。

最初に現れた瑠莉とかいうオバサンよりも更に若く、蘭さん達よりは年上ぐらいの女性。

彼女は目を瞑ったまま、心底うんざりした様な声で言葉を紡ぐ。

 

「愛人の話は止めてくれない?私も父が愛人に生ませた子どもだし……」

 

おいおい……何かのっけからヘヴィな人生語ってくれちゃってるよこの人。

っつうか愛人ってホントに居るのな?映画の世界だけだと思いたかったぜ。

 

「あ、愛人って……」

 

「はい……先程彼女がおっしゃられた通り、旦那様のお父上である大旦那様と愛人の間にお生まれになった、寅倉家次女、寅倉実那様です」

 

小声で呟いた蘭さんの言葉に、またも古賀さんは小声で返す。

まぁ本人じゃなきゃ大手を振って言える事じゃねぇよな。

もうこれ以上無いってぐらいドロドロした人間関係を見て、俺もうんざりしてきた。

 

「遺産の事でピリピリしたいなら兄さんの発表を聞いてからにしたら?法律的には、被相続人に兄弟しか居ない場合、遺産の相続金は兄弟全員平等に同額なんだし……まっ、兄さんが誰かを贔屓にするなら話は別だけど」

 

「……ちっ」

 

「ふぅ……あー、苦しかった」

 

何とも真っ当な事を言って、目の前で胸倉を掴む岸冶さんを諌める実那さん。

その言葉を聞いて岸冶さんも血の気が下がったのか、大人しく羽川の胸倉から手を離した。

一方で羽川はスーツの襟を整えながらそんな事を言ってる。

……どーでも良いが、俺達は何時になったら夕飯にありつけるんだよ?

もう腹ペコなんだけど?腹と背中がメンチ切り合ってるんだけど?

 

「あ、あのー……」

 

と、自分のお腹がエネルギーの補給を訴え始めた時に、扉の影から一人のメイドさんが現れた。

控えめに声を掛けてきたメイドさんはおずおずと言葉を続ける。

 

「そろそろお料理をお出ししても良いか、聞いてきてくれと、シェフが……あぁでも、お話がお済みで無いならもう少し後でも……」

 

「いやぁ、話は食いながらでもできっから、とっとと持って来ちゃってよ」

 

「まっ、あの奥さんの只の連れ子のあなたには関係の無い話だけどね」

 

「……こら、絵に書いた様な遺産相続争いやわ」

 

「ドロッドロやなぁ……あっ、定明君は気にせんでええからな。寧ろ忘れた方がええて」

 

「そ、そうだね……」

 

(おーい?俺には何も言わねえのかよ……)

 

(まぁ工藤はしゃーないやろ。いっつも自分から殺人事件に関わってるんやし)

 

目の前で繰り広げられる骨肉相食む醜い争い。

それを言葉で表した服部さんに同意する様に、大滝さんや伯父さんも半目になってる。

和葉さんや蘭さんは俺の教育に悪いと思ったのか、この家の人達に聞こえない様に俺に忠告してくる。

後ろの伯父さんや大滝さんもウンウンと頷いていた。

 

「いやー。死肉に群がる蝿の鬩ぎ合いっしょ、コレ?ならちゃんと覚えときますよ……こーいう蛆虫みてーに腐った大人にゃならねー様にっていう戒めとして、ね」

 

「く、腐った……蛆……」

 

「ド、ドギツイ事言いますなぁ、定明君(蝿って……きっついなぁ、最近の小学生は)」

 

「こーいう大人達って、俺が一番嫌いな人種でして……親戚が築いた財産に我が物顔で集るハイエナ以下の連中とか、プライド捨ててババアに言い寄る牛の糞以下の雄ザルとか……ホント、見てるだけで目が腐りそうッスよ」

 

苦笑しつつ肩を竦めた俺の罵詈雑言を聞いて、服部さんと和葉さんは何とも言えない顔になった。

小声だが、傍に居る人達には聞こえている。

大滝警部や伯父さんに蘭さん、そしてコナンは最早絶句状態だ。

まぁ口が悪いとかそーゆう段階を軽く飛び越してるレベルの罵声だからな、今の。

 

「まっ、伯父さんがあんなカエルの小便よりもゲスな人種じゃ無くて良かったッスよ」

 

「ぅ、ま……まぁな(雪絵……どんな教育してんだ?……お前の倅、考える事が黒過ぎるぞ……)」

 

(定明君ってば、何処でそんな言葉を覚えたのかな……口が悪いってレベルじゃ無い、よね?)

 

(は、はは……ホントに小学生かよ、こいつ……)

 

(……最近の子供っちゅうのは、腹ん中でなんちゅう恐ろしい事考えとるんや……おっかない世の中になってしもうたなぁ……)

 

何とも微妙な空気になったが、それも食事が運び込まれてきて霧散していく。

どうやら俺と同じで他の皆も空腹だったみてーだな。

俺達は用意された豪華な食事に舌鼓を打って堪能しつつ、小五郎伯父さんが相続人達に話を聞く。

まぁ、合間を繋ぐ世間話ってヤツだ。

 

「えぇッ!?不治の病ッ!?この館の主の迫弥さんがですかッ!?」

 

「えぇ……持って後、半年とか……」

 

「あら?3ヶ月じゃ無かったかしら?」

 

小五郎さんの驚いた声に答えたのは、神妙な表情の麻信さんだ。

しかしそれに続いて妻の瑠璃さんが麻信さんの言葉を訂正する。

どっちにしろ死ぬってのは変わんねーんだな。

 

「だから、この晩餐会に参加したんですよ……」

 

「まっ、欠席した者には遺産の相続はしない、なんて手紙に書かれちゃあね」

 

「む、むぅ……」

 

……金が欲しいっていう魂胆を少しは隠そうと思わねえのか、この人達は。

誘拐犯達や氷村と対峙した時とは違う種の胸糞悪さだぜ。

 

「にしても、遅くねぇか。兄貴?」

 

「……確かに。何時もなら料理にケチを付けてる頃なのに……」

 

「んじゃあ、悪いけど娘さん達。ちょっと起こしてきてくれねー?」

 

「え?」

 

「アタシ等が?」

 

と、未だに現れない館の主人である迫弥さんの話題が登ると、羽川は何故か蘭さんと和葉さんに声を掛ける。

しかも起こしてきてくれという、客に頼む様な事じゃない筈の変な頼み事を、だ。

この時、俺は少し目を細めてテーブルの周りを見た。

何故か岸治さんや実那さんは呆れた表情で、麻信さんやメイドさんは苦笑いを浮かべてる。

言い出した羽川や守代さん、そして瑠璃さんはニヤニヤ笑ってるし……どうなってんだ?

何で誰も疑問に思ったり口を挟んだりしねぇ?

 

「あぁ。廊下を右に曲がって、一番奥の部屋だから」

 

「……そうね。迫弥も若い子が起こしに来た方が喜ぶかも」

 

「は、はぁ……?」

 

何故かニヤニヤしながらそんな事を言う羽川や守代さんに首を傾げながらも、蘭さん達は食堂から退出した。

どういうつもりなんだ?……まぁ、何かしらあるんだろうけど。

特に不吉な感じはしなかったので、俺は水のおかわりをメイドさんに頼もうと声を――。

 

 

 

――きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!

 

 

 

かける前に、絹を裂く様な悲鳴が木霊した。

 

「「ッ!?」」

 

「い、今のは蘭の声ッ!?」

 

「和葉ちゃんの声もッ!!」

 

くそっ!!ちったぁ空気読んで事件起こしやがれってんだッ!!

俺は弾かれる様に椅子からジャンプして飛び上がり、食堂から退出して蘭さん達の向かう。

一足飛びに入り口に飛んだ俺を見て皆が驚いてるが、それはどうでもいい。

既に鉄球はホルスターから取り出した状態で回転させ、急な事態にも対応出来る様にしておく。

羽川の言ってた道順を思い返しながら走ると、半開きになった部屋の扉を発見。

一番奥ッ!!あの部屋だなッ!!

 

ドガァッ!!

 

「蘭さんッ!!和葉さんッ!!」

 

「あ……あ……」

 

「さ、定明君……ッ!!」

 

「どうしたんスかッ!!一体何が――」

 

部屋の扉を蹴っ飛ばして中に入ると、俺は言葉に詰まった。

そこには異様な物質が置いてあったんだ。

西洋で死者を弔う際に用いられる最後の領地――黒い棺桶。

それがベットの代わりに置いてあったのだ。

……悪趣味にも程があんだろッ。

蘭さんと和葉さんはその棺桶の前で腰を抜かした様に座り込んで、青い顔で俺に振り返る。

 

「お、おじさんが、この中に……ッ!?」

 

震える指で蘭さんが指し示したのは棺桶。

こりゃマジで只事じゃねぇと確信して、俺は鉄球をホルスターに戻して棺桶の縁に手を掛けて持ち上げる。

しかしどういう訳か、棺桶の蓋はビクともしない。

 

「ぐ、ぬぬ……ッ!?滅茶苦茶固いんスけど……ッ!!」

 

「え?で、でもさっきは普通に開いたのに……」

 

「おいッ!!どないしたッ!?」

 

「あぁ、平次ッ!!こ、こん中でおっちゃんが……ッ!!」

 

すわどうしたものかと力を籠めて棺桶を開けようと奮闘していると、服部さんとコナンも到着。

和葉さんの言葉を聞いて二人も手伝ってくれるが、全くもって蓋は開く気配が無い。

 

「只寝てるだけよ」

 

「どうせその内入るからって、最近の兄さんの寝床なんだ」

 

「で、でもッ!!血塗れで、胸んトコに杭刺さってたんやでッ!?」

 

「ち、血塗れって……ッ!?」

 

「おいおい。兄貴、冗談キツ過ぎだぜ」

 

「じ、冗談じゃなくて本当に亡くなってたんですッ!!」

 

後からやってきたこの館の関係者達は手伝いもせず、俺達の慌てふためく様を面白そうに見てる。

蘭さんや和葉さんの必死の言葉も真面目には聞いていない。

どう考えても悲鳴が聞こえた時点で異常事態だって分かんねーのかよ、ここの馬鹿共はッ!!

心中で悪態を吐きつつ力を籠めて蓋を外そうとする俺とコナン、服部さんだが、仮にも大人ぐらいの力がある服部さんと一緒に引っ張ってもビクともしない。

くそったれッ!!こうなりゃ『スタープラチナ』のパワーで……ッ!!

 

『ムンッ!!』

 

『スタープラチナ』の力を機械よりも精密に動かして、蓋が壊れない様に力を込めさせる。

服部さん達に気づかれない様に強すぎない力で、と細心の注意を払いながらも、俺は自身にも篭める力を緩めない。

それにより少しづつ開き始めた蓋だが、何故か俺の手には蓋が踏ん張る様な力が感じられる。

 

「ど、どうなっとんのやこれ……ッ!?蓋が勝手に閉まろうとしよる……ッ!!」

 

「ん、んんッ!!(なんだこれッ!?まるで内側から引っ張られてるみたいな……ッ!!)」

 

コナンや服部さんもその違和感を感じたみたいで、踏ん張りながら訝しい表情を浮かべる。

やっぱり何かおかしいぞ、この棺桶……隙間が小さくて、中は暗くて何も窺う事が出来ない。

もう少し『スタープラチナ』のパワーを上げれば簡単に開くが、それじゃあこの二人に怪しまれる。

俺一人だったら『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで中を見れるのに……ッ!!

いや、そうだッ、『ダイバーダウン』を使えば……。

 

バゴォッ!!

 

「のわッ!?」

 

「わッ!?」

 

「ッ!?とッ!!」

 

今度は急に蓋が軽くなりやがったッ!?何なんだよこの棺桶はッ!!

ハッと気付いてスタンドを切り替え様とした瞬間に蓋に掛かっていた負荷が消え、俺は急いで『スタープラチナ』の動きを止める。

俺は直ぐに力を抜いたお陰で何とも無かったが、コナンと服部さんは力を掛けていた所為で後ろ向きにスッ転んでしまう。

寸での所で蓋を壊さずにスタンドを止める事は出来たが――。

 

「……おいおい……誰も入ってねぇじゃねーっすか」

 

「痛たた……何やて?」

 

蘭さん達の見たという肝心の男の姿が何処にも無い。

棺桶の中は空っぽだ。

 

「嘘ぉッ!?」

 

「……蘭ねーちゃん。ホントにこの中に居たの?」

 

「う、うん。居たと思うけど……」

 

特にその杭が打付けられて死んでいた人というのを見た筈の蘭さんと和葉さんの顔面は蒼白に染まってる。

……表情からして、嘘とは思えないな……嘘を付く必要も無えし。

蘭さんに質問したコナンは何かを考える様に俯き、服部さんは只々驚いてる。

あった筈の死体が棺桶の中から消失……トリックだとしてもどうやってだ?

棺桶のスペースは大人が一人寝れる程度のスペースしか無いのに……。

 

「嘘ちゃうよッ!!ホンマにこん中におっちゃんが寝ててんッ!!む、胸んトコに杭刺さってて、血塗れで、黒いマント着てはって……ッ!!」

 

「尖った耳に牙みたいなのも生えてて……ッ!!ま、まるで、ドラキュラ伯爵みたいだったんだからッ!!」

 

消えた遺体の第一発見者の蘭さんと和葉さんは怯えながらも一生懸命に遺体の状況を思い返す。

しかし……ドラキュラ、ねぇ……本物な筈も無いと思うが……石仮面だってこの世界には無いだろうし。

大体、吸血鬼が既に死んでました状態じゃ意味無くね?

吸血鬼に杭って言えば、吸血鬼の弱点として有名なホワイトアッシュ(白木)の杭だ。

言い伝えでは心臓に撃ちこめば必ず死ぬっていう……。

 

「……そういえば兄さん。子供の頃、そんなアダ名を付けられてたな」

 

「”寅倉迫弥”だから”ドラキュラ伯爵”。子供ならではのニックネームね」

 

と、蘭さん達の怯え様を見ていた麻信さんが漏らした昔話に、瑠璃さんが笑いながら返した。

ガキの頃のアダ名がドラキュラって……いよいよもってアレな家だな。

 

「でもそのアダ名。名前の語呂合わせだけじゃないかも知れないわよ?……この寅倉家の先祖の事を考えれば」

 

「そうね。それに加えて最近の迫弥の奇っ怪な行動の数々……もしかしたら本当に取り憑かれてしまったのかも知れないわね――ヴァンパイアに」

 

何とも意味深な言葉を呟いた実那さんと守代さん。

その言葉にさっき見たモノが余計怖くなっただろう蘭さんと和葉さんは身をブルリと震わせる。

……こっちが怖がってるのを見て面白がってやがる。

性格の悪さに呆れていると、この人達の中ではまだマトモな部類の岸治さんが笑顔で進み出た。

 

「冗談だよ冗談。兄貴の耳は尖ってねーし、牙も生えてねーよ。君らが見た兄貴の姿がそうだったんなら、兄貴が化け物の格好で驚かそうとしてたんだよ。まぁ、棺桶の中から消えたカラクリは、わかんねーけど」

 

震える蘭さん達を気遣ってか、安心させる様に柔らかい口調で話す岸治さん。

 

「まっ。魔法の様にパッと姿を晦ますのは、映画とかで良く見る、吸血鬼そのものッスけどね」

 

と、ここで要らない事を言い出したのはお馴染み空気の読めない羽川だ。

人を食った様なヘラヘラした笑みでそんな事を言うモンだから、また岸治さんに胸倉を掴まれる。

……いい加減にうざってぇな、あの野郎。

 

「テメェ……兄貴を化け物扱いする気か?」

 

「……へへ……そう思ってんのは、俺だけじゃ無いんじゃね?」

 

「あ?」

 

「なぁ執事さん?アンタもそう思ったから、その人達を連れて来たんスよね?」

 

ニヤついた笑みを浮かべた羽川が岸治さんから視線を外し、後ろに居た伯父さんと大滝さん、そして執事の古賀さんを見やる。

古賀さんはいきなり話を振られて驚くも、直ぐに口を開いた。

 

「え、えぇ。近頃の旦那様のご様子が、余りにも異様でしたので……今度の遺産相続の話には此方の刑事さん達にも同席していただこうと……」

 

「「け、刑事ッ!?」」

 

古賀さんの言葉に、岸治さんと羽川は揃って驚愕した。

さすがに羽川も、まさか警察関係者だとは思わなかったんだろう。

驚く遺産相続人達に、大滝さんは一礼しながら改めて自己紹介を始めた。

 

「大阪府警の大滝です。此方は探偵の毛利小五郎さんで……」

 

「嘘ッ!?」

 

「も、もしかして、眠りの小五郎ッ!?」

 

そして大滝さんの言葉に、今度は瑠璃さんと実那さんが驚いた。

『眠りの小五郎』というのは知っての通り、伯父さんの二つ名だ。

まるで眠っているかの様に推理するからそう呼ばれてる……っつうか誰も不思議に思わないのが不思議だ。

伯父さんも自分の名前がこんな地方まで轟いてる事に気を良くして笑ってる。

 

「なぁ和葉。お前が見たっちゅうオッサンの事やけど……」

 

「蘭ねーちゃんも、ちょっと良い?」

 

大人達が話を進めてる合間に、服部さんとコナンは目撃者の蘭さん達に質問をしていた。

俺はそんな中で一人、問題の棺桶に近づいて一度蓋を閉めてみる。

そこから少しづつ手に力を籠めて、蓋を開けると、今度はすんなりと開いた。

……やっぱりおかしいな、この蓋。

バレない様にと配慮したが、あの時、『スタープラチナ』のパワー(弱)でもゆっくりとしか開かなかった。

更にコナンと服部さんも一緒に開けようとしてたのに、だ。

って事はあの時、蓋を内側から開けられないように力が篭められてたって事になる。

 

(つっても、なぁ……)

 

蓋の内側を覗き込むが、内側にはそれっぽい取っ手は見当たらない。

普通の人間の力じゃ蓋を開けられない様に踏ん張るのは無理だ。

ましてや寝転んでる状態だしな。

俺は蓋の内側を調べながらどういう事か判らず首を捻る。

 

(考えても埒が開かねえ。こうなったらその時の様子をリプレイしてやる。来い、『ムーディ・ブルース』)

 

追跡のスペシャリストである『ムーディ・ブルース』を呼び出し、5分前までタイマーを巻き戻す。

これであの時何があったのか知る事が出来――。

 

『……』

 

シーン。

 

(……ん?……何だ?……『リプレイが始まらない?』……んな馬鹿な)

 

だが俺の思惑とは違い、『ムーディ・ブルース』はその姿を変身させない。

額のタイマーは五分前を指しているにも関わらず、追跡を始めなかった。

……おいおい、そんな馬鹿な事があるかよ……もしかして、5分以上経ってるのか?6分とか7分前?

目の前で佇んだままの『ムーディ・ブルース』に首を傾げるが、俺は更にタイマーを巻き戻してみる。

間違い無く10分以上は経ってねぇ筈なんだが……。

 

カシャカシャカシャカシャカシャ。

 

『……』

 

(……マジかよ?……『追跡出来ない?』……って事は……)

 

『ムーディ・ブルース』が追跡出来ないのは只一つ。

瞬間移動なんかの空間を瞬時にテレポート出来る能力や現象の場合だけだ。

只の人間にはそんな真似は出来ない筈……まさかここの主人ってのは魔導師なのか?

可能性としては……無くも無いが、限りなくゼロに近いだろ。

まさか本当に吸血鬼になったとも思えねえし。

さあて、困ったな……どうやって探したモンか……仕方ねぇ、もっと時間を巻き戻していこう。

蘭さん達が見たっていう寅倉さんが吸血鬼であろうとなかろうと、探しておかねぇと面倒な事になる。

一度棺桶の蓋から手を離そうとして、ふと中を覗き込むと……。

 

「……ん?……これは……」

 

「なんや?どないした坊主?」

 

「何か見つけたの、定明にーちゃん?」

 

蓋の奥の合わせ目の所にあるモノを見つけて声を零した俺に、服部さんとコナンが声を掛けてきた。

二人と話をしていた蘭さんと和葉さんも近寄ってくる。

 

「……これ、『血』じゃねぇっすか?」

 

「なんやて?」

 

「「血ッ!?」」

 

俺の隣に座って俺を見ていた服部さんに、ある一点を指差しながら答える。

すると服部さんは少し身を乗り出して、蓋の合わせ目に顔を近づけた。

そこには多くもなく、且つ指を怪我した程度では流れない量の血痕が残っている。

さすがに素手で触れる訳にもいかないので、『スタープラチナ』の拡大視力を使用。

 

「……ホンマや。この鉄っぽい臭い、作りモンや偽物ではでぇへん臭いやな」

 

「まだ淵も乾ききってねぇって事は、ここに付いてからそう時間が経ってねぇって事ッスよね?」

 

「ッ!?……あ、あぁ。まぁ、そうなるな(この坊主……血を見ても全然驚いてへんのか?それどころか、只単に事件の可能性があるのを面倒くさがっとる感じや)」

 

(……城戸定明……やっぱりコイツ、普通じゃねえ……まさか灰原が気にしてた様に、俺や灰原と同じでアポトキシン4869を飲んだ大人か?……だが、蘭は昔に抱っこした事があるって……)

 

やれやれだな……こりゃマジに事件が起きてるって事だろうなぁ……どうする?

確実に厄介事の渦中に居ると確信して、俺は後ろ髪を掻く。

『ムーディ・ブルース』のリプレイでの追跡をしなくちゃいけねえのは一番として、まだやらなくちゃいけねえ事もある。

ハッキリ言ってそっちの方が、俺としては早めに解決したい所なんだが――。

 

prrrrrrrrrrrr

 

「ん?俺か。ちょっと失礼」

 

俺は鳴ったスマホを取り出して、皆の輪から外れる。

そのまま壁際に背を預けてメールを開く。

ちなみに態々壁際まで行ったのは、背後から覗き見られない様にする為だ。

良くコナンって人の見てるモノを背後から覗こうとするので、視線が気になるんだよな。

そんな事を考えつつメールを開く。

差出人は……忍さんだ。

俺がパーキングエリアで伝えた情報を元に、夜の一族でそんな悪さをしてる奴が居ないか調べてもらったんだ。

二年前の殺人よりも、一年前の異常性が高い事件。

もしもこの犯人がこの近辺にまだ潜んでるとしたら、下手すると襲われかねない。

俺としてはこの家の事件も大事だが、この事件には服部さんとコナンが当たれば解決するだろう。

そう考えながら、俺は内容に目を通していく。

 

 

差出人 月村 忍

 

 

TO 城戸 定明

 

 

本文

 

貴重な情報を教えてくれてありがとう、定明君。

 

君に頼まれていた調査が終わったから、その情報を伝えるわね。

 

初めに言っておくけど、このメールは見終わったら削除しておいて。

色々と大事な情報を書くから、証拠を残さない様にして欲しいの。

 

……残念だけど、定明君の教えてくれた殺人事件の容疑者、いや犯人が私の一族に居る事が分かったわ。

 

月村の信頼する情報筋の伝手を辿ったら、今定明君が居る土地に根を張ってる事が判明したの。

 

名前は月村裕二。

 

彼は私の受け継いだ月村の財産とノエルを執拗に付け狙っていた、私の親族の一人である月村安次郎の元に居た男よ。

でも安次郎が倒れ、刑務所に投獄される寸前に、彼の私財から幾らかの金品を奪って逃走した。

数年前から追っていた男だけど、君がその土地に居る時にやっと場所が判明したのは、皮肉としか言い様が無いわね。

彼は氷村と違って自己啓示欲が強い方じゃない。

人一人を吸血で殺した……という事は、恐らく長い間吸血を我慢していた所為だと思うわ。

 

少し長くなるけど、順を追って説明するわね。

 

まず夜の一族に共通するのは、優れた容姿と明晰な頭脳、高い運動能力や再生能力。

或いは魔眼による心理操作能力や霊感っていう数々の特殊能力を持つ事よ。

そして映画や伝承の様な太陽に流水や銀、ニンニクとかホワイトアッシュの杭という弱点は存在しないわ。

これは私達夜の一族が吸血鬼と言っても妖怪の類ではなく、 いわば人類の突然変異が定着した種族だからなの。

そして、これらの代償として体内で生成される栄養価のバランスが安定していない。

つまり鉄分のバランスが悪いというのが共通している事ね。

だからそれを補う為に……言い方はアレだけど、完全栄養食となる人間の生き血を求めるのが、私達の吸血衝動。

ちなみにこれは異性である必要があるわ。私と恭也みたいに。

つまり、生き血を啜られて死んだのが女性なら、自ずと犯人は男性に限られるって事。

 

そして、人一人を完全に吸い尽くしてしまう様な事は禁忌とされているわ。

 

当然、人間に私達の正体がバレる事は極力避けたいからね。

でも、彼……月村裕二は正式に党首となった私の命令で、一族から追われる身。

そんな状況で魔眼を使用して体力を減らしながら少しづつ吸血するのはリスクが大き過ぎる。

だからずっと我慢していたのね……でも、夜の一族である以上、吸血衝動には抗えないの。

多分、限界まで我慢していた反動だったんでしょう。

 

 

 

……なるほどな……石仮面を被った吸血鬼と良く似てる。

夜の一族が吸血する理由も、肉体の優れたパフォーマンスを維持する為って事か。

吸血鬼の習性に納得しながら、俺は続きに目を通す。

 

 

 

 

それと……定明君に頼まれて色々調べてもらったけど、かなり厄介な事が分かったわ。

国勢調査の報告だと、彼が起こしたと思われる殺人事件の後、その土地の行方不明者の数が異常なほど跳ね上がってるの。

凡そ一年の間に56人。同じ面積の土地の平均を遥かに上回る、約7倍から8倍という異常な数値よ。

全員がそうだとは限らない……けど、それでも4~5人程度。

他は全て、恐らく彼に吸血されてる。

それで、今そっちにイレインを行かせたわ。完全装備でね。

到着はまだ大分時間が掛かると思うけど、彼女なら簡単に対処出来る。

定明君には悪いけど、もしもイレインが到着する前に君の関係者が襲われたら、君に対処してもらうしかないの。

大変な事に、そして私達夜の一族の問題に巻き込んでしまって申し訳無く思うわ。

……でも、イレインが間に合わなかった場合、君のスタンド能力で君自身の安全を確保して。

 

 

もしもそんな事があった場合、相応のお礼と謝罪をする事を月村家党首としてここに誓います。

 

 

願わくば、良き友人として誓いを立ててくれた定明君の身が壮健であります様に。

 

 

 

……と、ここでメールは終わってる。

つまりイレインが来るまでに何かあったら、自力で何とかしねーと駄目って事かよ。

俺は軽く溜息を吐きながらスマホを操作して、メールを削除する。

やれやれ……相手は正真正銘の殺人鬼か。

俺が屋敷の外の森で感じた、あの濃厚な血の臭いの正体はそれだった訳だ。

この時点で既に俺の中の優先順位はこの屋敷の中に居る俺の親戚の蘭さんや伯父さんの命を守る事になった。

まぁ忍さんの話の通りなら伯父さんは大丈夫だろうけど……問題は蘭さん……それと和葉さんだな。

携帯をポケットに仕舞いつつ皆の方に視線を戻すと、大滝さんが棺桶に付着していた血をメイドさんに貰ったナプキンに吸い込ませていた。

どうやら近場の警察に行って血液鑑定をするらしい。

その為、警察に向かう大滝さんに便乗して、伯父さんもタバコを買いに行きたいからと一緒に下山する事に。

食事の途中だった俺達はメイドさんに料理を温めなおして貰って、再び食事を再開した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

それから一時間程して、俺達は食堂を後にした。

全員が固まって食堂から出て直ぐ、瑠璃さんが時計を見ながらボヤく。

 

「結局いらっしゃらなかったわね。お義兄様」

 

「あぁ。話し合いは夕食後だと書いてあったのに……」

 

「まぁ、そのまま食堂でやるとは書いてなかったし」

 

そう、麻信さんの言った通り、来る筈だった迫弥さんは現れなかったのだ。

皆はそれを余り訝しげに思ってはいない様だ。

多分皆蘭さん達が見たのは悪戯をした迫弥さんで、まだ悪戯の最中で隠れてると思ってるんだろう。

まぁ真相はどうあれ、俺達は未だに始まらない話し合いの所為で帰る事は出来ない。

ホント、面倒なこったぜ。

 

「……ねぇ、和葉ちゃん。やっぱり私達が見たのって……」

 

「うん……悪戯にしては、本当に死んでる様にしか見えへんかったやんな……」

 

一方、和葉さんと蘭さんはやっぱりさっき見た死体(?)にビビってるのかそわそわしてる。

まぁ見た筈の死体が棺桶から消失してて、しかも格好が吸血鬼とくればなぁ……。

本当ならあの部屋に行って『ムーディ・ブルース』でリプレイをするつもりだったんだが、俺1人で知らない人の家の部屋に留まる訳にはいかない。

年齢が年齢だから悪戯しようとしてるって思われても仕方無えしな。

何か初めて、コナンの気持ちが少し理解出来た気分だぜ。

 

「ねぇ、写真だけでも済ませちゃわない?」

 

と、羽川の腕に抱き着いた守代さん(60歳)が甘える様な声で(60歳)羽川(29歳)に話しかける。

ちなみに年齢はさっき執事の古賀さんに教えてもらった。

 

「なんや?写真って?」

 

「こうやって家族で集まった時は皆で撮る事にしてるのよ」

 

「三代前からそうしてるってよ」

 

「けど、館の主が居てへんのに、撮りはるんですか?」

 

服部さんの問いに守代さんと羽川が答えるが、それに和葉さんが更に質問を投げ掛ける。

そんな和葉さんの質問に答えたのは岸治さんだ。

 

「あぁ。去年も撮ってる最中に、『私も入れろ』って兄貴、飛び込んで来たし」

 

「そうね。皆でワイワイ楽しそうにやってたら、兄さんもひょっこり顔を出すかもしれないわね」

 

とまぁ、結局誰も彼もが迫弥さんの事を心配していない様で、写真撮影をする事に。

写真撮影ならばと本業の岸治さんが三脚とカメラを用意。

毎回撮影に使ってるという部屋に移動して、部屋の中央に備え付けられた綺羅びやかな鏡の前に椅子を配置した。

三脚だけの椅子に瑠璃さんと実那さんが座り、その後ろに麻信さんと羽川と守代さんが立つ。

皆が配置に付く中、岸治さんは三脚に備え付けたカメラを覗きこんで位置取りを確認し始めた。

 

「んー……実那、ちょっと顎引いて……ほら姉貴ー。何時まで髪弄ってんだよ」

 

カメラのレンズを覗き込みながら、岸治さんの注意する声が響く。

皆も位置に付いてはいるんだが、守代さんだけまだ背後の鏡で髪の位置を気にしてる。

 

「いくら弄っても若返えんねーぞ」

 

「うるさいわねぇ」

 

「だーいじょうぶ。ハニーは美人だから、チュッ♡」

 

「ん、ありがとう」

 

「ウェッ……」

 

露骨なご機嫌取りに、守代さん(婆さん)の頬にキスをした羽川(30前)。

そのあからさまな遣り取りに、俺は表情を歪めて小さくえづく。

さすがにあれは無えだろ。

 

「じゃあ、俺が向こう側に行ったら、このシャッターボタンを押してくれ」

 

「は、はい」

 

そして皆の位置が満足行く場所になった岸治さんがカメラあから離れて後ろに居た蘭さんに声を掛ける。

蘭さんは少し緊張してるっぽい。

岸治さんは何故か守代さんの隣に立ってカメラに向き直る。

真ん中に置かれた椅子はそのまま空席だ。

……多分、あの席はこの館の主人の迫弥さんの席なんだろう。

俺はぼんやりした気持ちで、部屋の中に飾られた写真を眺め始める。

 

 

 

「ほんなら皆さん撮りますよー」

 

 

 

そして、蘭さんの隣に居た和葉さんが皆に声を掛け――。

 

 

 

「はい。チー――」

 

 

 

パシャッ!!

 

 

 

「「――きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」」

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

シャッターを押した蘭さんと、その横に立っていた和葉さんの絹を裂く悲鳴が。

何事かと思って二人を見るも、蘭さん達はその場に突っ立ったまま、ガタガタと震えている。

まるで見ちゃいけないモノを見たような目で。

おいおい何だよ……ッ!?一体全体どうしたってんだッ!?

 

「何騒いでんねんッ!?」

 

「い……い、今ッ!!皆の後ろに……ッ!!」

 

「さ、さっき棺桶ん中で寝てたおっちゃんが……ッ!?」

 

「「「「「「ッ!!?」」」」」」

 

俺達と同じく、その場に立っていた相続人達もギョッとした顔で背後を見る。

だが、そんな人影は何処にも見えない。

 

「何処に居るの?」

 

「さ、さっきは居たのよ……ッ!!条平さんと守代さんの間にッ!!青白い顔でフワ~っと、幽霊みたいに……ッ!!」

 

「せやせやッ!!私が見たんもそんな感じやってんッ!!」

 

震えた声で、青い顔で二人共見たという蘭さん達。

……こりゃあ演技じゃねぇな……って事は見間違いとかじゃねぇって事か。

じゃあ何か?この館の主人の迫弥さんはマジに吸血鬼になったって?……まさかな。

 

「ちょっと貴女達ッ!!いい加減にしてくれるッ!!どうせ吸血鬼騒ぎを聞き付けて、あの探偵さん達にくっついてきたんでしょうけど、お化け屋敷感覚で、有りもしないモノを見た気になってギャーギャー喚かないでよッ!!」

 

しかしここで、二人の恐怖してる様を見た瑠璃さんがまたもや怒鳴り散らし始めた。

まぁこの人達からすれば、俺達は怖い噂の立ってる屋敷に突然現れて、居もしない筈の現象を見たって騒いでる人間にしか見えねえだろう。

でも、この二人は本当に何も知らない。

だってその話だって今初めて聞いたんだからな。

案の定何も知らない蘭さんと和葉さんは瑠璃さんの言葉を聞いて首を傾げる。

 

「き……吸血鬼騒ぎって?」

 

「な、何なん?」

 

「えッ!?まさか知らないのッ!?」

 

二人の様子を見て、まさか吸血鬼騒ぎを知らないと思っていなかった瑠璃さんは驚く。

実那さんもこれには驚いた様だが、知らないならばと話し始めた。

 

「二年前にこの館の傍の森の中で、ここでメイドをやってた清水さんが遺体で発見されたのよ……全身の血を抜かれ、地面に立てた杭に逆さに縛られた無残な状態でね」

 

「「……」」

 

「オマケに、遺体の首に小さな穴が二つ開いてたから、大騒ぎしてんのさ」

 

「そう……吸血鬼が出たってね」

 

まさかそんな異常な事件があったとはつゆ知らずだった蘭さんと和葉さんは言葉を失う。

しかしまぁ、このままじゃ二人は噂を面白がってる人間にされかねない。

特にあの瑠璃さんって人がギャーギャーうるせぇし……二人が見たものが嘘じゃねぇって証明しねえと不味い。

そう考えたのは俺だけじゃ無かったらしく、岸治さんからも早く迫弥さんを探そうと提案がでた。

皆もそれに応じて、相続人達は部屋を出て行く。

一方で蘭さんと和葉さんは今の実那さんが語った事件の事を服部さんに問いただしてる。

 

「ちょ、ちょっとホンマなん平次ッ!?」

 

「今の吸血鬼の話ッ!!」

 

「あ、あぁ。お前等に話したら、直ぐ帰る言うやんか?そしたら俺等も一緒に帰らなアカン様になるおもうて、それで黙ってたんやけ――」

 

「服部さん。もう居ねえっすよ」

 

「へ?あ、あいつ等何処にッ!?」

 

「……あっち」

 

急に居なくなった二人を探す服部さんに、コナンは半目になりながらドアを指さす。

それに従って廊下に出てみると、二人が何処かに一目散に駆けて行くのを発見。

服部さんの静止の声も聞かずに、二人は屋敷の奥へとひた走る。

とりあえずこのままここに居ても仕方無いと、俺も二人を追って歩く。

そこそこ広い屋敷だが、二人の向かう方向は『エアロスミス』のCO2レーダーで補足している。

何かあっても直ぐに対処出来る様に、『エアロスミス』は二人の直ぐ後ろを飛行してるから大丈夫だ。

やがてレーダーに他の人間の呼吸が幾つか追加される。

二人は部屋に入ったらしく、俺達も中に入る。

 

「でもなぁ。最近旦那様、ニンニク嫌いになられたからなぁ。あったかな、ニンニク?」

 

「あぁお構い無くッ!!」

 

「アタシ等で探すよってッ!!」

 

そして部屋の中に入ると、中には数人の白いコックコートを来た男と蘭さん達の姿があった。

どうやら厨房らしい……っていうかニンニクって。

 

「吸血鬼にはニンニクってか?」

 

「まっ、定番やな」

 

必死な表情で野菜の入った箱を漁る二人を見て、コナンと服部さんは呆れた様に漏らす。

いや……俺の知ってる吸血鬼はニンニク入りのピザとか美味しそうに食べてたけどなぁ。

銀食器も平気らしいし……これ、言ったらあの二人が大変な事になりそうだから言わないけど。

っていうか信じてもらえねえし。

まぁここなら大丈夫だろうと確信して、俺は『エアロスミス』を解除。

そのまま厨房を後にして、俺は迫弥さんの部屋に向かう。

まだ事件と決まった訳じゃねぇけど、蘭さん達の見たっていう迫弥さんは何なんだろうか?

死体か、悪戯か……それとも、本当に吸血鬼になったのか?

それをハッキリさせねえと、何にも分からねえままだ。

目的を決めた俺は迫弥さんの部屋に入り、もう一度『ムーディ・ブルース』のリプレイを試みる。

ベットの棺桶の傍に立ってタイマーを巻き戻してみるが……。

 

カシャカシャカシャカシャカシャ。

 

『……』

 

「……駄目か」

 

どれだけ巻き戻しても『ムーディ・ブルース』は何者にも変身しない。

普通は棺桶をベット代わりにしてるなら誰かしらに変身してもおかしくねぇ筈なんだが……。

それに何だ……このクラッカーの歯クソが挟まった様な違和感は?

何故か最初に来た時とは違う様な、変な違和感を感じるが、その正体が良く分からない。

まぁ、考えても分からねえ事を何時迄も考えてられねえ。

ちょっと視点を変えて別の所を調べてみるか。

 

「よっと……やっぱり取っ手みたいなモンは無いな」

 

俺はもう一つ気になってた、俺達は開けようとしたら開かなかった棺桶の蓋を調べる。

蓋を開けた内側には、蓋を開けられない様にする取っ手らしきものは無い。

それにあの時の蓋に掛かっていた力……あれはとても強力だった……まるで、磁石でくっついてるみてーに。

 

「ん?……まさか……物は試し、か」

 

ふと、今考えた事が気にかかり、俺は『ダイバーダウン』を棺桶の内側に潜行させる。

もしも俺の考えが正しいなら、この蓋の合わせ目に……。

潜行した『ダイバーダウン』は俺の命令通りに蓋の合わせ目の内側を調べる。

すると、そこには何かしらの『機械』が埋め込まれていた。

……どうやら、ビンゴみてぇだな。

俺の睨んだ通り、棺桶の蓋の合わせ目には『磁石』が埋め込まれていた。

それもバッテリーの組み込まれた強力な電磁石が。

あの時蓋が開かなかったのはこの仕掛けの所為みてえだな。

 

「ん?坊主、ここで何してんねん?」

 

と、棺桶の中を調べていると部屋のドアが開けられて、服部さんとコナンが姿を見せた。

二人共俺がここに居るのを疑問に思ってるらしい。

 

「いや。あん時、俺達が3人で引っ張っても開かなかった理由が知りたくて、ちょいと調べてたんスよ」

 

「ほぉ~?……ほんで、何か分かったんか?コ、コナン君からは、結構鋭いて聞いてんやけど……」

 

俺の言葉を聞いた服部さんは少し試す様な感じで俺に質問してくる。

コナンも興味がありそうな雰囲気だ。

……まぁ、事件が起きてからじゃ遅いし、この二人の名探偵に伝えられる情報をなるべく伝えて、早急に事件を解決して貰おう。

『ムーディ・ブルース』でも追跡できないっていう謎が残ってるけど、そこは追々解決していくか。

 

「とりあえず分かったのは、あの時誰かがこの棺桶の仕掛けを起動して、蓋を開けられない様にしたって事ですかね」

 

「仕掛け?」

 

「あぁ……ほら、ここの合わせ目に――」

 

 

 

――ドガァアアアアアアアアッ!!

 

 

 

それは、突然の事だった。

 

「「ッ!?」」

 

「ッ!?何や、今の音ッ!?」

 

棺桶の仕組みに気付いた俺が、その仕掛けを語ろうとした瞬間、窓の向こうから大きな音が鳴り響いたのだ。

だが、音の感覚からして遠い場所で起こった様にも思える。

俺達は何事かと思いつつ部屋に備え付けられたベランダに出る窓のカーテンを開ける。

 

「あれは……ッ!?」

 

「……冗談じゃねぇぞ」

 

「も、森がッ!?燃えてるでッ!?」

 

窓の向こうに見えた景色……それは、ここから遠く離れた場所の森が燃えてる光景だった。

っていうかあの方向ってまさか……ッ!?

 

(『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』ッ!!空に登れッ!!)

 

背中を伝う嫌な予感を振り払う為に、『ハイエロファント・グリーン』を空へと向かわせる。

森を越えて上から炎の燃え盛る向こうへと視線を向けると、俺の予感が正しかった事が証明されてしまった。

火の手があがった方向は、俺達が通ってきた道路の方だったんだ。

しかもトンネルが崩落して入り口が塞がれてる。

やられた……ッ!!誰かがトンネルをフッ飛ばしやがったのかッ!!

吸血鬼騒ぎの起きてる今、トンネルが爆破されるなんて偶然にしては出来過ぎてる。

これは確実に事故じゃねぇだろう……なんてこった。

 

(このままじゃ、森の火の手がこっちに回らねえとも限らねえし消してやるッ!!『ウェザーリポート』ッ!!)

 

窓の外を睨みながら『ハイエロファントグリーン』を呼び戻し、『ウェザーリポート』を呼び出す。

この近辺に集中して、今だけ雨を降らせろ。

俺の命じたままに『ウェザーリポート』は天候を操って雨を降らせ始める。

 

「雨か……これやったら火の心配はいらんな……」

 

服部さんの呟きを体現するかの様に火はその勢いを瞬く間に鎮火していく。

後はこのまま少しの間小雨にしておけば問題は無いだろう。

それから直ぐに俺達は部屋を後にして他の皆と合流する。

合流したメイドさんに話を聞くと、今の爆発を聞いて麻信さんが消防に連絡したそうだ。

現場には後20分くらいで消防が到着するらしいので、俺達はその報告を待つ事に。

そして……。

 

「ほ、崩落ッ!?原因不明の爆発で、トンネルが崩れたっちゅうんかいッ!?」

 

「あぁ。さっき電話で確認したら、そうだって……」

 

やはりあの爆発でトンネルは崩れ落ちちまったらしい。

まぁ既にその状況を見てる俺からしたら確認程度でしかねえが、他の人達には寝耳に水な話だ。

 

「嘘でしょッ!?ここへ来る道路って、あそこだけなのにッ!!」

 

「復旧には暫くかかるとか……」

 

「ったく。兄さん探し所じゃ無くなっちゃったわね」

 

古賀さんの言葉に実那さんがそう言うが、逆にこんな時だからこそ迫弥さんの身柄を確保した方が良い。

その方が……迫弥さんがこの一連の事件の首謀者なのか分かるからな。

しかし今の実那さんの台詞だと、どうやらまだ迫弥さんは見つかってねぇみてえだな。

コナンがメイドさんに確認すると、人数を増やしてもまだ見つからないらしい。

 

「ってか、俺のハニー見なかったッスか?さっきから居ねーんだけど……」

 

……おいおい。この状況で人が居なくなるってのはかなりマズイんじゃねーか?

辺りをキョロキョロしながら合流してきた羽川の言葉を聞いて、俺は顔を歪める。

 

「そういえば、岸治兄さんも見ないわね?」

 

「岸治なら一応、さっき撮った写真を現像してみるって言ってたよ。自分の部屋を暗室にして」

 

「けど、今時アナログカメラって珍しいわよね」

 

「悪かったな、アナログ野郎で」

 

と、ちょうど今話題になってた岸治さんが俺達の背後から姿を現す。

まだ無事だった事は良いが……何故か岸治さんの顔色は余り優れない。

何かあったんだろうか?と考えていたが、その答えは直ぐに氷解する。

 

 

 

「――だがお蔭で今、兄貴が『どうなってるのか分かった』ぜ」

 

 

 

岸治さんは青い顔のままでそう呟く。

『何処に居たのか』ではなく、『どうなっているか』という不可解な言葉を。

 

「え?兄さん、見つかったのか?」

 

「……あぁ――ちゃんと『写ってた』よ」

 

「「写ってたッ!?」」

 

麻信さんの言葉に、手に持ってた写真に目を向けながら答える岸治さん。

……おい待て……まさか『写ってた』って……。

まさかという思いで次の言葉を待っていると、岸治さんは俺達に見える様に写真を裏返す。

そして、写真の一部分に指を差しながら口を開く。

 

 

 

「あの子らの言ってた通り……写真を撮ったあの部屋に、俺達の傍に居たんだよ――」

 

 

 

震えながらも、岸治さんの指が示す部分は変わらない。

それは、蘭さんと和葉さんが言ってた羽川と守代さんの間。

 

 

 

――そこに、『居た』

 

 

 

「壁をすり抜けられる、化け物に成り果ててな」

 

 

 

吸血鬼を思わせる牙を生やし、大きく口を開けた初老の白髪の老人の姿が。

 

 





今回は早かったけど次は結構先でしょう(´;ω;`)ウッ…


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あったけえェーー血(ry

お待たせしました。


台風だったり虫歯の治療だったり仕事だったりで執筆が手付かずで申し訳ありません。



 

 

 

「……ちょ、ちょっと何よこれッ!?これじゃまるで心霊写真じゃないッ!!何でこの時居なかったお義兄様が、真ん中に写ってる訳ッ!?」

 

岸治さんの持ってきた写真を見て、瑠璃さんは驚きながらもそう吠える。

他の人達も似たり寄ったりな表情で驚きを露わにしていた。

そして写真を撮ったカメラの持ち主である岸治さんも力なく首を横に振り、「検討も付かない」と零す。

 

「まさかアンタ、現像した時にイカサマやったんじゃ……」

 

「バァカッ!!この短時間でアナログフィルムにこんなイカサマなんて出来るかよッ!!」

 

驚く羽川の言葉に対して、岸治さんは目を吊り上げて反論する。

まぁこの写真を持ってきた岸治さんからすれば、自分の愛用してるカメラでこんな不気味な写真が撮れてるなんて、嫌に決まってるだろうな。

写真を見ながらそんな事を考える俺の目の前で、親族は全員不安げにしている。

……何にしても、不気味な写真が出来上がって、そこに迫弥さんの姿があるのは事実だ。

 

「じゃ、じゃあ、兄さんは噂通り吸血鬼にッ!?」

 

「馬鹿馬鹿しいッ!!吸血鬼なんて所詮、小説とか映画の中だけの存在よッ!!棺から姿を消したのも、その心霊写真も、全部迫弥兄さんが仕掛けたトリックよッ!!」

 

麻信さんは弱気な表情を浮かべてそんな事を言うが、それに対して実那さんは鼻を鳴らして笑う。

確かに実那さんの言う通り、この情報社会で吸血鬼なんてモノは創作によって生み出されただけの存在って認識が当たり前だ。

そんな超常現象を起こせて、世界中で確認されてる存在なんてのは……。

 

「……その迫弥さんって人、HGS患者じゃ無いんスよね?」

 

世界的に認知されてるHGS患者くらいなモノだ。

そう思ったからこそ出た俺の呟きに、実那さんは首を横に振る。

 

「いいえ。兄さんはHGS患者じゃ無かったし、この寅倉家全体にもHGS患者は居ないわ」

 

「そうッスか……っていうか、その心霊写真。おかしくねぇッスか?」

 

「え?」

 

とりあえずの確認が取れた所で、俺はさっきから思ってた事を口にする。

その言葉を聞いて、この場に居る全員の視線が集まるが、全てが好意的な視線では無い。

何割かは「ガキが何言ってるんだ?」っていう訝しむ表情だ。

 

「おかしいって、どうおかしいんだ、坊主?」

 

「おいおいアンタ。何をガキの戯言にマジんなってんだよ」

 

「そうよ。おかしいっていえばこの写真の存在自体おかしいじゃない」

 

「まぁ、良いじゃねぇか。どうせ皆良く分かんねぇんだし……それで、何がおかしいんだ?」

 

馬鹿にした表情で俺を見る羽川と瑠璃さんを制して、岸治さんはしゃがみながら俺に聞き返す。

例の写真を見える様に掲げながらだ。

 

「いや、その迫弥さんの写ってる部分。躰が無くて首だけ『鏡の中』に写ってる様にしか見えねえんスけど?」

 

俺はさっきから例の心霊写真を見ておかしいなと思ってた事を口にする。

それを聞いてハッとした表情を浮かべたコナンと服部さんが、ポカンとした表情の岸治さんの後ろに回る。

岸治さんが写真を見直す為に自分に写真を向けたからだ。

 

「……ホントだ。服を着てる様に見えるけど、ちゃんと見えるのは首だけで、写ってるのは鏡の中だけだ」

 

「なるほどな。こらぁ何かしらのトリック使うて、あの部屋の鏡に迫弥さんが首だけ写したっちゅう線が濃厚になってきたな」

 

「でもトリックってどんなトリックよ?あの時、守代姉さんはあの鏡で髪を整えてたのよ?その鏡であの写真を撮る時だけ自分の顔を写すなんて……」

 

「あるじゃないッスか。鏡の様に見えて、実は鏡だけじゃないガラスってやつが」

 

服部さんの言葉を聞いて馬鹿馬鹿しいと切って捨てようとした瑠璃さんに答える。

つうか、誰も知らねえのか?『警察』とかでも使われてる、あの特別な『鏡』を?

 

「……あっ!?」

 

「……ッ!?そうか、アレかッ!?」

 

「「マジックミラー……ッ!?」」

 

俺の言葉を聞いて、服部さんとコナンはハッとした表情で同時に答える。

そう、俺が言ってる鏡とはあのマジックミラーの事だ。

片側からは普通の鏡に見えるけど、反対側を明るくすると鏡の筈の向こうの様子が見える特殊な鏡。

良くドラマの警察で取調室に取り付けられてる一枚の鏡。

その向こうがマジックミラーで、反対側の見えない暗室には被害者が居て、犯人の顔を特定するのに使われる事がある。

二人が口にした言葉に、他の面々も「あぁッ!?」と納得した表情を浮かべる。

 

「そうかッ!!マジックミラーなら、光を当てれば反対側からも見える様になるッ!!」

 

「後は私達が席に着いてシャッターを切るタイミングで、自分の顔を写せば……」

 

「心霊写真の出来上がりって訳ね……でも、鏡の向こうって……確か隣の部屋は客室、だったかしら?」

 

「は、はい。お客様が来られた時だけ使う様にと旦那様から言われてましたが……」

 

次々と納得した様に言葉を発する岸治さんと麻信さん、実那さん達。

そして実那さんの質問に対して、メイドのひかるさんという人が答える。

 

「そういえば、確かあの鏡がある位置にはクローゼットがあったかと……」

 

「なぁ、その部屋、開けてもらえへんやろか?この坊主の言うとる通り、あれがマジックミラーやったら……」

 

「写真を撮った鏡と反対側の位置に、何かの仕掛けがある筈だからね」

 

ボソリと呟いた古賀さんの言葉を聞いて、服部さんとコナンがその部屋を開ける様に古賀さんに頼む。

それを古賀さんは了承し、とりあえずこの写真の疑念を晴らそうと岸治さんと古賀さん、そしてメイドさんも行く事になった。

他の人はまだその辺に旦那さんが隠れてるかもって事で一度解散して、俺達は鍵を取りに行った古賀さんをその場で待つ。

 

「それにしても、良ぅ分かったなぁ坊主。あの鏡がマジックミラーちゃうか、なんて」

 

「あぁ。俺って結構目は良いんですよ。それで良く見たら旦那さんは鏡にしか写ってねーし、蘭さんと和葉さんの言ってたボヤ~って出方もマジックミラー越しならそう見えるんじゃないかなって思っただけっす」

 

「ほぉ、なるほどなぁ(着眼点はあのおっさんよりも鋭いな……ホンマにこの坊主、何モンや?)」

 

「凄いね定明にーちゃん。僕なんか全然分かんなかったよ。やっぱり小五郎おじさんと同じで、名探偵になれるんじゃない?」

 

「あんな仕掛けなら、良く見たらおかしいなって誰でも思うと思うぞ?」

 

「そんな事無いわよ、ぼうや。私なんか怖いって気持ちが押しちゃって全然分からなかったから」

 

「女の人がああいうのを怖がるのは普通だと思いますよ?かくいう俺もジックリ見てたら、背筋がブルブルしましたし」

 

(良く言うぜ……コイツはあの写真を、岸冶さんが手に持ってる時にしか見てなかった……って事は、あの距離で違和感に気付いたって事だ。普通の子供にそんな真似出来るかっての)

 

手放しで褒めてくる服部さんやコナン、そしてメイドのひかるさんというお姉さんに返事を返す。

っていうかコナンと服部さんは純粋に俺を褒めてる訳じゃなくて、俺が何者かってのを知ろうとしてるっぽい。

まぁどう調べてた所で、俺の戸籍も生年月日もこの世界では嘘偽りの無い記録だ。

更に蘭さんも俺が赤ん坊の時に俺と会ってる。

どれだけ調べた所で、それは全く意味を為さないだろうな。

 

グウゥ~。

 

「ん?」

 

「あっ……ア、アハハ……」

 

と、何やらひかるさんの腹から盛大な腹の虫の声が。

それに気付いて視線を向けたらバッチリ目が合ってしまい、ひかるさんは恥ずかしそうに頬を赤くする。

 

「何かド派手な腹の音鳴ってますけど、腹ペコなんスか?」

 

「ス、ストレートだね、君……本当なら、他のメイドさんやシェフの皆さんと賄いを食べてる時間なんだけど、旦那様探しでそれどころじゃ無くなっちゃって……」

 

「あー、確かにそうっすね。旦那さんも居なくなるなら迷惑にならない様に時間帯考えろやクソボケって感じでしょ?」

 

「そこまで言ってないし思っても無いよッ!?」

 

「(何ともドギツイ事言うやっちゃでホンマ……)……な、なぁ。それよかちょっと聞きたい事あるんやけど……」

 

そんな風に雑談をしていた俺とひかるさんにの話に入り込んできた服部さんは、ひかるさんの事情を聴き始めた。

確か守代さんの話だと、ひかるさんは迫弥さんの婚約者の連れ子だったって話だったな。

その時の、つまりひかるさんの母親が死んだのは何故かという話を、コナンと服部さんは興味持っていた様だ。

そしてひかるさんは昔を思い出しながら語るが、どうやらひかるさんは昔は病弱だったらしい。

そして新情報で、この館の主である迫弥さんは、地元の大病院の院長をしていたらしい。

昔はその縁で迫弥さんの病院に入院していて、その入院していた時期に母親が亡くなってしまったそうだ。

他の人から聞いた話では、不運な事故だったとか。

 

「旦那様はとても優しい方で、私の入院費や治療費を肩代わりしてくださって……」

 

「じゃあここでメイドをやってるのって、旦那様の為なの?」

 

「そうよ。母が連れ添う筈だった旦那様を、私がお世話するの……まぁホントは、半年前に旦那様からメイドの欠員が出たから来ないかって誘われて、その話に乗っただけなんだけどね。メイドの経験なんて無かったけど、旦那様はそれでも良いよって言って下さったから……」

 

「ほー?」

 

と、コナンの質問に対してひかるさんは苦笑いしながら答える。

なるほどなぁ……一時期は婚約する相手の娘だった、謂わば自分の義理の娘になる筈だった訳だ。

それなのに婚約者が死んじまって天涯孤独になっちまったひかるさんを放置するのは忍びなかったって訳だ。

それで他の遺産相続人に波風立たない上で行く末を見守れる、自分の館のメイドという立ち位置に置いたのか。

 

「だからこの館にまだ慣れてなくて……今朝も旦那様に来る様にって言われてたのに、結局どの部屋か判らなくて、すっぽかしちゃったし」

 

それは館に慣れてない事と関係あるんだろうか?

俺と同じ事を思ったであろうコナンは半笑いを浮かべてる。

 

「じゃあ旦那様が見つかったら怒られちゃうね」

 

「だ、大丈夫よッ!!私、ここへ来て怒られた事無いし……他の皆は掃除のチェックとか厳し過ぎるってボヤいてるけど」

 

……それは義理の娘になる筈だったから優しいのか?

はたまた若くて綺麗なお姉ちゃんには甘いのか、判断に困る台詞だな。

何人か他のメイドさんも見たけど、体外の人が結構年上だし。

そんなこんなで色々な情報を集めているコナンと服部さんを眺める事10分。

古賀さんが鍵を見つけて戻ってきたと同時に、他の皆も一度合流した。

やはりまだ迫弥さんは見つからないらしく、とりあえず全員で例の部屋に向かう事に。

 

「それにしても、良くあの写真を見てあれがマジックミラーかもしれないなんて考えたな、坊や」

 

「もしもこれで当たってたら、さすがは眠りの小五郎の甥っ子って所ね」

 

「只のガキの浅知恵ですから、あんまハードル上げないで下さいって。外れた時は赤っ恥だし」

 

感心して俺を褒める実那さんと岸治さんにそう返しながら、俺は軽く溜息を漏らす。

やれやれ……『スタープラチナ』の目で迫弥さんの写ってた鏡を高解像度で解析してなきゃ判らなかったな。

羽川と守代さんの影になってて躰が写ってない様に見えたけど、実際はそうじゃない。

迫弥さんの躰は写ってなくて、あの鏡の中の首の部分だけしか無かったんだ。

だからこそ、アレはマジックミラーだと気付いたが……そんな都合の良いカラクリが普通の家にあるか?

あるとしたら、何かしらの目的で作られた筈――。

 

――prrrrrrrrrrrrrrrrrr

 

「ん?あぁ、大滝はんや。ちょっと待ってくれへんか?多分旦那さんの棺桶に付いた血の鑑定結果が出たんやと思うで」

 

と、皆で移動していた最中、服部さんが待ったを掛ける。

しかも内容が現在行方不明の迫弥さんの棺桶に残った謎の血とくれば、皆従って待機する事に。

そのまま服部さんは大滝さんとニ、三言葉を交わし――。

 

「……何ぃッ!?AB型ッ!?あの棺桶に付いてた血ぃが、ホンマにAB型やったっちゅうんか?」

 

と、何やら驚いた声で携帯に言葉を返す。

何だ?血液型はAB型じゃ何かおかしいのか?

 

「けど、この館の連中に聞いた旦那さんの血液型は確か……」

 

「A型でございます」

 

と、服部さんの言葉に横槍を入れたのは、執事長の古賀さんだ。

……ってA型?それじゃあの血は一体誰の……。

 

「旦那様がまだお若い頃、大怪我をなさった時に、及ばずながら我々のA型の血を使って頂いた記憶が御座いますので」

 

「おいおい……ほんなら誰の血ぃやって言うねん?」

 

「……この館の関係者でAB型の者は、メイドをしていた清水さんだけでございます」

 

服部さんの質問に難しい顔をして答えた古賀さんに、俺達は皆絶句してしまう。

なるほど、確かにそれならあの血の主は清水さんの線が濃厚になるが、それは有り得ない。

2年前に殺された人の血液があんな所に付着する筈は無いからな。

消えた旦那さんの死体に、2年前に死んだメイドの血液……訳分からねぇな、チクショウ。

どうにも不可解な事が多すぎる。

旦那さんは何で死んだフリなんかしたり心霊写真を撮らせて皆を欺いてるのか?

そもそもそうする事のメリットは何だ?

態々手の込んだトリックを使ってまで皆の前に姿を現さない事のメリットは?

そしてこの人数で探しても影も形も見えないってのは、ちょっとおかしいだろ。

悪戯にしてはちょっとその範疇を出ちまってる気がするし……。

 

「ってか、その血、もっとちゃんと調べた方が良いんじゃないっすか?DNAとか」

 

……ん?DNA?そこまで調べる必要があるか?

何かちょっと不気味そうな表情の羽川の言葉に、俺は違和感を覚えた。

って言っても、まぁ確かにあの棺桶に付いてた血がこの館の誰の血液でも無いってのも、不気味な話ではあるか。

 

「ねぇ、麻信さんはどうしたの?」

 

「え?あの人ならお義兄様の携帯に電話しながら、序にタバコを吸ってくるって言ってたから、タバコ部屋に向かったと思うけど?」

 

あれ?そういえばあの麻信さんって人が居ないのか。

まぁでも向かった先はちゃんと判ってるし、まだ事件が起きたと決まった訳じゃねぇから大丈夫だろ。

しかし、携帯に連絡しても迫弥さんには繋がらないのか……。

 

prrrrrrrrrrrrrrrrr

 

そう考えた時に、一斉に携帯の着信音が『複数』鳴り響いた。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

「?なんや、どないしてん?」

 

そして、驚愕した表情で携帯を見つめる相続人の四人に、服部さんが質問した。

その問に対して帰ってきたのは驚くべき答えだった。

 

「メ、メールよ」

 

「迫弥兄さんからだわ」

 

……どうやら、この騒動の主催者からのメールの様だ。

 

「今から私の答えを皆に伝えるから、食堂に集まれ……って」

 

「って事はこれ、一斉メールかよ?」

 

四人同時に届いた遺産相続の遺言に対する指示。

それはつまり、探してた旦那さんが食堂に姿を現すって事だ。

……しかしまぁ、何ともタイミングが良すぎる気もするな。

まるで俺達が迫弥さんを探して騒いでる時に、冷水を浴びせる様な……考え過ぎだと良いんだが。

 

「兎に角、まずは旦那様の指示通りに食堂に向かいましょう。そして旦那様に会って、事の次第を説明して頂くのが懸命かと……」

 

「そうね。古賀さんの言う通りだわ」

 

「あぁ。兄貴が何を思ってこんな手の込んだ真似したのか、ちゃんと聞かせて貰わねえとな」

 

古賀さんの言葉に同意して、皆も食堂へ向かう事に賛成した。

旦那さんに直に会えるなら、あの写真の細工も本人の口から説明して貰えるから丁度良い。

まだ何も事件らしい事件は起きてねぇんだし……出来れば余命幾ばくかの老人が起こした悪巫山戯で終わってくれよ。

皆で食堂へと移動する中、俺は祈るかの様にそんな事を考えていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……結局、来る気配無いな、旦那さんとやら」

 

トイレから戻ってきた服部さんは頬杖を吐きながら呆れた様にそう言って椅子に腰掛ける。

あのメールから早30分くらい経っただろうか?

待てども待てども、一向に旦那さんが来る気配は無い。

一体どういうつもりだよ……人を呼んでおいて待たせるなんて。

溜息を吐きながらボーッとする俺の耳に、窓の外からゴロゴロと雷の音が届く。

 

「……一雨来そうだな」

 

――ガァアアアンッ!!

 

岸治さんが呟いて直ぐ、少々大きめの音と稲光が奔る。

雨雲が結構近づいてる様だ。

さっきウェザーリポートでこの近くに雨雲を生み出した所為か。

 

「……ねぇ、心配じゃないの?守代姉さんまだ見つからないんでしょ?」

 

と、紅茶を飲んでいた実那さんが、カップを置いて羽川に話しかける。

一方で話しかけられた羽川は両手を頭の後ろで組んだまま苦笑していた。

 

「ハニーは気まぐれで、直ぐどっか行っちゃうからなぁ」

 

「しっかり捕まえとくのね。折角の逆玉なんだから」

 

それを堂々と言う辺り、実那さんって結構ビシバシ突っ込む人なんだな。

暗にカネ目当てって事を指摘してる様にも聞こえるけど。

実那さんの遠慮の無い発言に対して、羽川はウインクしながら口元に手を当てる。

内緒話とかする時に使う手のポーズだ。

 

「まっ。愛想尽かされたら、元カノの君とヨリ戻しちゃうし♪」

 

「…………そう」

 

何とも呆れる羽川の寄生虫発言だが、そっけなく答える実那さんも何処か嬉しげに思える。

……こーいう事を気負い無く、しかも元カノに言う男ってどうなんだ?

しかもこれでモテてるってんだから……女ってのは良く分かんねえ。

俺が女ならこんな恥も外聞も無い台詞をのたまう奴は百回くらいブチのめしてるトコなんだがな。

最早呆れて言葉も無いって感じになり、俺も服部さんと同じく頬杖を付いて溜息を漏らす。

俺だけじゃなくてひかるさんも呆れてる感じだ。

 

「しかし……麻兄、何時までタバコ吸ってんだか……」

 

呆れて羽川から視線を外した俺だが、岸治さんの言葉を聞いてそういえばと思った。

あれからもうゆうに4~50分は経ってるってのに、まだ麻信さんが帰ってきてない。

大体人がタバコを吸っても、精々5分、長くても10分くらいな筈だ。

一度に何本も吸う様なヘビースモーカーじゃ無い限り。

 

(……な~んか、嫌な予感がするぜ……肌の上を虫が首元めがけて見つからない様にジワジワと這い上がってくる様な……そんな不快感に近い感じの……)

 

何とも形容しにくい思いを感じて、俺は少し眉を顰めてしまう。

瑠璃さんも帰ってこない夫の事が気になったのか、携帯を開く。

 

「まさかあの人、携帯変えたからお義兄様のメール、届いて無いんじゃ――」

 

――カッ!!

 

「――ヒッ!?」

 

「ッ!?な、何?」

 

突然、稲光が窓の向こうを照らして雷鳴が鳴り終えた瞬間、ひかるさんが悲鳴にも近い呟きを漏らした。

そのひかるさんに対して皆の視線が集まる中、ひかるさんは青い顔である一箇所を指差していた。

 

「い、今ッ。窓に変な『影』が……ッ!?」

 

……影?何だそりゃ?

ひかるさんの言葉に皆して首を傾げるが、カーテンの閉まってる窓を指さすひかるさんの顔色は悪い。

さっきの稲光で何かしらの影が映ったって事か?

窓の外に変な影……まさか、月村裕二か?

 

「変な影だと?」

 

とりあえず確認しようと思ったのか、窓に一番近かった羽川は席を立って、カーテンに手を掛ける――。

 

 

 

――シャッ。

 

 

 

――そこには、吸血鬼の様な衣装に身を包み、『屋根に逆さまでぶら下がった』迫弥さんの姿が。

 

 

 

「き――きゃああああああああああああああああッ!!?」

 

ひかるさんの絹を裂いた様な甲高い悲鳴が響く中、他の面々も驚愕に目を見開く。

かくいう俺も驚いてる1人だ。

おいおいおい冗談じゃねぇぞッ!?何で屋根にブラ下がってんだよアイツはッ!?

コウモリみてーな格好で逆さまにぶら下がるって……吸血鬼のつもりかッ!!

 

「まさか兄貴、本当に……ッ!?」

 

「き、吸血鬼にッ!?」

 

「……あ、有り得ねえよ。ど、どうせ、ロープか何かで逆さに――」

 

食堂の人間が色めき立つ中、羽川はドアをガシャガシャと弄くる。

どうやら開けるつもりみてえだ。

コナンと服部さんも急いで羽川の傍に向かう中、俺も直ぐに羽川の側に向かう。

トリックにしろ違うにしろ、このまま逃げられちゃ面倒になるし、スタンドで気絶させた方が良いだろう。

そう考えてベランダの扉を開こうとしてる羽川の側に寄りながらスタープラチナを呼びだそうとした時に、遂に扉が開かれた。

 

「ぶら下がってるだけだっつう――」

 

ガチャッ――シュンッ!!

 

「「なッ!?」」

 

「ッ!?……マ、マジかよ……ッ!?」

 

「上に、消えよった……ッ!?」

 

「……ホラー体験しにきたつもりは無えぞ、くそっ」

 

しかし羽川が片側の扉を開いた瞬間、さっきまでぶら下がってた筈の迫弥さんの姿が忽然と消えてしまった。

一瞬で殆ど音もさせずに、屋根の上へと。

開いてない扉の一番上の窓に映っていたから、上に登ったのは間違いねぇが……人間技じゃねぇ。

ちっ!!このまま逃げられて堪るかってんだッ!!

 

(行けッ!!『エアロスミス』ッ!!)

 

グオォオオーーーンッ!!

 

人間が逆さまの状態から消えた現象に誰もが開口する中、俺は『エアロスミス』を窓から外へ解き放つ。

あんな一瞬で音も立てずに消えたカラクリは判らねぇが、身柄を抑えちまえば後でどうとでも聞ける。

逃がしはしねぇと考えつつ、俺は『エアロスミス』のCO2レーダーを発動するが――。

 

ピコーン。ピコーン。

 

(……おいおいマジかよッ!?反応が『無い』だとッ!?んな馬鹿な事があるかッ!?)

 

右目の前に浮かんだレーダーの反応を見て愕然としてしまう。

レーダーにはさっき上に消えた筈の迫弥さんの呼吸が感知されていないのだ。

体感的にだが、『エアロスミス』のCO2レーダーの範囲は大体数十メートルといった所だ。

その範囲内に生物の呼吸反応が無いという事は……一瞬でエアロのレーダーの感知範囲から居なくなったという事になる。

俺は内心ふざけんなって思いでいっぱいだ。

だが、残った左の視界で窓の外を見渡しても、迫弥さんの姿は影も形も見当たらな――。

 

「ち、ちょっとッ!!『アレ』ッ!?」

 

「え?」

 

『キキッ!!キキッ!!』

 

しかしその時、ゴロゴロと雷の光が雲を照らす空に何かが浮かび上がった。

それは、鳥の様に羽ばたきながら空の向こうへと消えていく一つの影。

しかし鳥とは違う甲高い耳障りな鳴き声を発し、普通の鳥よりも何倍も大きな翼と体躯を持った謎のシルエット。

まるで、吸血鬼に従うコウモリの様な……え?何あれ?

 

「……お、おい服部?な、何だアレ?」

 

「と、鳥とちゃいますのん?」

 

余りにも現実離れした光景に口調が元に戻ってるコナンだが、俺もそれに呆れる暇も無い。

驚いてるのは俺も一緒――。

 

「で、でも、鳥にしちゃデカ過ぎるんじゃ――」

 

「ッ!?コナンお前……ッ!?」

 

「なッ!?工藤ッ!!お前『血』出てるでッ!?まさか噛まれたんとちゃうやろなッ!?」

 

「……は?何言ってんだ?ちょっと雨に濡れただけで――え゛ッ!?」

 

しかも事態はまだ俺達を混乱させにかかる。

この場に居る中で唯一ベランダまで出ていたコナンの頭から、急に血が流れ始めたのだ。

これにはさすがに服部さんも取り乱し、遂に俺の前で決定的な名前を呼んでしまうが、俺もそれどころじゃない。

コナンも服部さんに言われて気付いたのか、手にベッタリと血が付いて目を見開いて驚く。

一体何がどうなってんだよ……っていうか何でコナンは頭から血が出てるのにそんな平然として――。

 

「……雨じゃねぇ。『屋根の上から血が滴って』きてんだ」

 

混乱する二人を尻目にある一点を見ながらそう呟くと、二人も俺の視線を追って気付いたらしい。

ベランダの床には、上の屋根から滴り落ちてきた血がポタポタと落ちて、小さく血溜まりを形作り始めていた。

……ってちょっと待て?『エアロスミス』のレーダーには、『誰の呼吸も写ってない』ぞ?

それなのに、上から血が垂れてきてるって……最悪だ。

 

「古賀さんッ!!この上には部屋があるんですかッ!?」

 

「え、えぇ。タバコ部屋が……」

 

「タバコ部屋がどうかしたのッ!?」

 

俺の問い掛けに慌てながらも答えた古賀さんの言葉に、嫌な予感が更に増す。

しかしそれを抑えて廊下へ向かいながら、俺達の様子を見て焦る瑠璃さんに視線を合わせた。

 

「上の部屋から血が垂れてきてるんですッ!!」

 

「えぇッ!?ま、まさかあの人が――」

 

「ちッ!!」

 

「お、おい待て坊主ッ!!一人で行ったらアカンッ!!」

 

自分の旦那が居る筈の部屋から血が滴り落ちてくるという異常事態に、瑠璃さんは顔を青くして震えて動かない。

俺は舌打ちしながら、背後から静止する服部さんの声を無視して階段を駆け上る。

くそ、マジにヤベェぞこの状況ッ!!『エアロスミス』、この部屋の上の階辺りで待機しろッ!!

外を旋回していた『エアロスミス』に命令を出しながらホルスターから鉄球を取り出しつつ階段を上り、廊下の片隅に小さな階段があるのを発見。

その階段は小さな扉へと通じている様だが、そこがタバコ部屋だと直ぐに分かった。

扉の向こうに『エアロスミス』が居るのを感じ取れるからだ。

俺は鉄球を片手で回転させながら階段を上り、取っ手の付いた扉を押し開ける。

 

「(ガチャッ)ッ!?……なんてこった」

 

扉を押し空けた俺の視界の先、窓のある方向には、人が寄り掛かっていた。

俺はその人の様子を見て、手で目を覆ってしまう。

人である事は間違い無い。

 

「……」

 

「……麻信さん……」

 

……但し、床に座った体勢で窓の淵に寄り掛かった……『死体』になってる麻信さんだ。

後姿しか見えないけど、分かる……もう手遅れだ。

窓の外から『エアロスミス』を室内に入れてレーダーを発動するが……呼吸は『写らない』。

麻信さんは……誰かに殺されたって事だ……ッ!!

その光景に胸糞の悪さを感じている俺の背後から、ドタドタと階段を上る音が聞こえ、コナンと服部さんが姿を現した。

 

「坊主ッ!!勝手に現場に入ったらあかんや――ッ!?麻信さんッ!?」

 

「ッ!!」

 

二人は麻信さんの死体を目の当たりにして直ぐに駆け寄るが、俺は駆け寄らない。

もう、手遅れなのは分かってるからだ。

それは力無く首を横に振る服部さんの様子からも分かる。

……落ち着け……『ヘブンズ・ドアー』のお蔭で俺の精神状態はそんなに取り乱す事は無い。

呼吸のリズムを整えろ、リラックスして俺が今するべき事をするんだ、城戸定明。

動揺しそうになる心にブレーキを掛けて、俺はゆっくり呼吸のリズムを整える。

こういう時は焦ったり混乱したら泥沼だからな。

 

「アカン。もう冷たなっとる……死後一時間ってトコやな……死因は間違い無く頚動脈をバッサリ切った事での失血死やろ」

 

「……服部……この人、自分でナイフ握ってるぞ」

 

「ん?……ホンマや」

 

死体の状況を冷静に分析する二人を尻目に、俺は『ムーディブルース』を発現させてリプレイを試みる。

服部さんのお蔭で大体の時間は分かったから、これで犯人の正体に辿りつけ――。

 

「ん?こら坊主ッ!!はよ下に降りぃッ!!子供が見てええもんちゃうでッ!!」

 

「ッ!?(そうだッ!!さすがに定明も人間の死体を見たら――ッ!?全然驚いてない……だと……ッ!?)」

 

早速リプレイをしようとした所で、服部さんが俺に怒鳴り散らしてきた。

確かに俺みたいな子供が見て良い光景じゃねぇってのは分かるが……タイミングが悪いぜ、くそ。

しかも真っ当な事を言ってるから反論し難い所でもある。

でも服部さんにはスタンドは見えないから、『ムーディブルース』の説明も出来ない。

歯痒い気持ちになる俺だが、ここで俺を呆然とした表情で見つめるコナンと目が合う。

……そうだ、コナンも居る事を指摘すれば――。

 

「(こら不味いな。坊主の奴、目敏く工藤の事を持ち出すかもしれん)あー、そ、それと、コナン君もはよ下に降りぃ。何時も忘れとったけど、子供が現場に入ったらアカンぞ」

 

「えッ!?お、おいはっと――」

 

「ん?ハットトリック?サ、サッカーの話やったら後で聞いたるさかい、今ははよ下に降り。な?(我慢せぇ、工藤。あの坊主に怪しまれる訳にはいかへんやろ?後でちゃんと教えたるで、今はあの坊主をここから連れ出すんや)」

 

しかし俺がコナンの事を指摘してうやむやにしようとする前に、服部さんに先手を打たれちまった。

コナンも俺と一緒に下へ降りさせる事で、俺の居る理由を正当に消されてしまう。

しかも反論しようとしたコナンを誤魔化して肩を組むと、小声で何かを放し始めた。

多分、俺を出て行かせる為に我慢しろとかそんなトコだろう。

 

(う゛……わーったよ。その代わり、小さな事も見逃すんじゃねぇぞ)

 

(アホ。誰にモノ言うとんねん。この俺がんなヘマやらかすかい)

 

「ったく……定明にーちゃん。平次にーちゃんの言う通りにしよ。ね?」

 

「……あぁ」

 

仕方ねぇ。ここで駄々捏ねでもしたら怪しまれちまう。

俺はリプレイさせようとしてた『ムーディブルース』を解除して、コナンを伴って下の階へと降りる事にした。

くそ、結局『ムーディブルース』を麻信さんの傍に移動させる事が出来なくて、リプレイは失敗だ。

『ムーディブルース』は時間と場所を指定して、その場であった出来事を再生するスタンド能力を持ってる。

つまり、正確な時間と場所じゃないとリプレイは上手くいかないんだ。

『ムーディブルース』の射程距離はA(超スゴイ)とされているが、それは変身中に限った射程距離。

つまり素の時の射程距離は近距離パワー型とほぼ同じくらいしかない。

その所為で、今回はリプレイ出来ずに現場から追い出されちまう羽目になった。

多分現場保存って名目で、あの部屋にはもう立ち入れないだろう……犯人の手掛かりは得られず、か。

何ともままならない気持ちになりながら、コナンに話を聞いて泣き崩れる瑠璃さんをボンヤリと眺める。

 

「終わりだわ。私……主人だけが頼りだったのに……これから先……どうやっていけば……」

 

「お前一人ぐらい俺が何とかしてやるよ……知らねぇ仲じゃねぇしな……」

 

「う、ぅ……ううぅ……ッ!!い、今だけで良いから……今は、泣かせて……ッ!!」

 

泣き崩れる瑠璃さんを見ていられなかったのか、岸冶さんは傍に膝立ちになって瑠璃さんを抱きしめた。

……ほんの少し前まで普通に話して、生きていた麻信さんの死。

自分の夫が死んだとなれば、こうなるのも無理は無いだろう。

でも、これでハッキリした……この館の主が絡んだ騒動、これは決して悪戯なんかじゃねぇ。

この一連の吸血鬼騒動は、誰かが悪意を持って仕込んだ殺人劇の演出って訳だ。

しかも一番有力なのはさっき俺達の前に姿を現して、一瞬で消えた拍弥さんが犯人だという説。

でもそうなると、俺にしか分からない『矛盾』や、『謎』が出てくる。

拍弥さんの呼吸が『エアロスミス』のCO2レーダーに映らなかった事が一つ。

呼吸を発しないで行動出来る生き物なんて、普通に考えれば存在しねぇ。

俺のスタンドがおかしくなったんじゃないなら、拍弥さんはもう『死んでる』って事になる。

ひょっとして、この館に入った時に感じた濃厚な血の匂いは拍弥さんのモノだったんじゃないか?

しかしそうなると、ここまでの流れで姿を現してる拍弥さんは一体何か?

これが大きな『矛盾』。

そして二つ目は拍弥さんが部屋の棺桶から消失したトリックと、『ムーディブルース』がリプレイ出来なかった『謎』だ。

これもあの棺桶に何かしらのトリックが使われていた事と、多分『ムーディブルース』のリプレイしようとした位置が正しくなかった可能性がある。

後で部屋に寄って再チャレンジしたけど無理だったのは何故か分からないが。

とりあえずここまでで分かってる事だが……。

 

一、『この事件は月村祐二とは無関係である』

 

月村祐二は男であり、忍さんの情報通りなら狙われるのは女性の筈だ。

これは1年前の事件の被害者が身を持って証明してる。

更に月村の目を掻い潜らなきゃならない人間が、こんな屋敷の住人を殺すメリットも無いだろう。

 

ニ、『この事件の犯人は館の内部の人間の可能性が大きい。今一番疑わしいのはこの館の主の寅蔵拍弥』

 

状況じゃ遺産問題についてって感じがする。

つまりこの家で拍弥さんの遺産を受け継ぐ資格がある人間にこそ動悸は充分って訳だ。

と、まぁまだコレぐらいしか判明してねぇが……。

 

「……コナン。俺ちょっと気分が悪くなってきた。悪いが蘭さん達の所に行ってるからよ」

 

「う、うん。気を付けてね?(これは好都合だ。コイツの目が無いなら、俺も存分に動けるぜ)」

 

俺はここでこの事件を降りようと思う。

少し疲れた表情で話した俺に、コナンは不安を表情に貼り付けながらも少し嬉しそうだ。

これでコナンも俺の目を気にする事無く、捜査に打ち込んでくれるだろう。

さっさと解決して欲しいと願う俺が、探偵の足枷になって捜査が進みませんでしたじゃ話にならねぇ。

それと、俺にもちゃんとこの事件の捜査から離れる理由はある。

俺の中で渦巻くちょっとした不安と焦りを取り除く為にも、俺は独自に行動しなくちゃいけねえのさ。

目に力を漲らせながら、俺は廊下を歩いて蘭さん達の居る厨房を目指す。

 

 

 

 

 

――窓の向こうの木に逆さにブラ下がり、ジッとこちらを見続ける『蝙蝠』にも気付かず。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……綺麗だなぁ」

 

一切の灯りが無い暗闇の世界。

無音の世界に、粘ついた様な声が響き渡る。

その声の主は自らの眷属であるコウモリの目に映る光景を見ながら悦に浸っていた。

彼以外に誰も居ない暗闇の世界で、彼は誰に対してでもなく言葉を漏らす。

 

「あの家には、美味しそうな子は居なかったけど……今回はツイてる」

 

コウモリの視界の先では、調理場で楽しそうに料理に勤しむ二人の少女の姿が映し出されている。

花が開き始めたと表現するに相応しい、子供と大人の境の微笑み。

無垢な心を残しつつ、雄の気を引く為に花開き始めた悩ましい肢体。

人の努力では維持し続ける事は出来ない、今だけの瑞々しい肌。

コウモリの視界越しに二人の少女――蘭と和葉を見つめる彼の目は、まるで濁った血の色だ。

 

「最近は外ればっかりだったけど……あの子達は、絶対に美味しいだろうなぁ……血も……躰も」

 

いずれ愛する者に愛される事で女の悦びを知るであろう少女達の肢体。

だが、未だ誰にも穢されていない純潔を保つ二人の躰の隅々に対して、獣の様な欲望を持った眼を向ける。

既に彼の我慢も限界に達していた。

今宵、必ずあの二人を自分のモノに……そう考えながら、彼は今まで居た洞窟の出口へ向かう。

その端正な顔に、口元が張り裂けんばかりに開かれた醜い笑みを浮かべて。

 

「あぁ、今迎えに行くよ……何処かの下種に穢される前に、僕が愛してあげるからね……待ってておくれ」

 

まるでそこに居るかの様に、彼は虚空に手を伸ばして居もしない誰かを抱きしめる様に手を曲げる。

――そうして、彼の姿は幻影の様に揺らめき、その場から姿を消してしまう。

後に残されたのは、虫の鳴く小さな声。

 

 

 

――そして、乱雑に地面に捨てられた女性達の夥しい『死体』の山だけだ。

 

 

 

耐え難い腐臭を放つ腐りかけの死体や、骨だけになって最早性別の判断すらつかないモノ。

だが、微かに表情の分かる彼女達の死体は全て、最期に浮かべるには相応しくない笑みに彩られている。

――それは、本当に彼女達の最後の気持ちなのか?

 

 

 

既に何も言えない彼女達には、語る術は無い――。

 

 

 






これからも頑張って執筆しますのでよろしくお願いします。


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イカれた吸血鬼になど、誇りある我が名を教える必(ry


最近、中々執筆が出来ません。

この時期の仕事が忙しくて死にそうですからwww


そしてコナン編はミステリーなだけにどうやって定明の活躍の場を無理やり作るかで凄い時間が掛かります。
更に文章の量もとんでもない事になるので……今回も謎解きの部分はコナンの顔面にスパーキィーングッ!!!


要は丸投げ省略www





 

先程、この館の住人である寅倉麻信が何者かによって殺害され、コナン達と別行動を取り始めた定明。

何時ものやる気の無さを現す様なダルイ目付きは成りを潜め、周囲に気を配るその瞳は、狩人を思わせる程に鋭い。

彼は一連の殺人事件と、夜の一族の生き残りにして、1年前から女性を惨殺している月村祐二との関連の無さを再確認した後、事件から手を引く決意を固めた。

周囲の目が有り過ぎて、自らのスタンド能力を思う様に使用する事が出来ない自分等、本物の名探偵達の足手纏いになると考えた末の結論だった。

それに、これから彼等は恐らく全員で行動を共にするだろう。

ならば、そこに居る人間からは犠牲者は出ないかもしれないという考えもあっての事である。

しかし……。

 

「……やっぱり、屋敷には誰も不信な人間は居ない、か……それに」

 

それは、集団で固まって各々が互いに見張り合うという状態に居る者達のみの安全である。

現在、そのルールから外れているのは、調理場の近辺に居る蘭と和葉。

そして食堂で逆さにぶら下がっていたこの館の主人、寅倉拍弥を目撃した現場に居なかった、寅倉守代の3人である。

周囲を警戒しながら歩く定明の傍らには、ドルルンというプロペラ音を響かせて彼に追従する様に飛行するスタンド、『エアロスミス』の姿があった。

ラジコン飛行機の様に飛行するこの『エアロスミス』にはCO2を探知する事が出来るレーダーが備わっている。

周囲の生命反応を捜索したり、自らの近辺を警戒する等といった生命の居場所を把握する事に長ける『エアロスミス』は、定明が多用するスタンドの一つでもある。

エアロスミスの能力で作られた、片目に装着されるプロペラ付きのバイザーで呼吸反応を調べ、定明は溜息を吐く。

 

「あの守代とかいう婆さんの呼吸も『無い』……考えたくはねぇが……もう、手遅れかもな」

 

そう絞り出された声はハリが無く、寧ろ疲労の色の方が強く感じる程だった。

この館の隅から隅に至るまで呼吸反応を調べたが、寅倉守代という人物と寅倉拍弥の呼吸を感知出来ない。

それはつまり、その二人がこの館から姿を消しているか……既に呼吸が出来ない状態にあるかという二択でしかないという辛い現実なのだ。

 

「……兎に角、俺のやる事は変わらねぇ……早く来てくれよ、イレイン」

 

定明は自分の為すべき事を決め、今も厨房に残る蘭と和葉の元へと向かう。

明日、トンネルの復旧と同時にこの館へ戻ってくる伯父の迎えに乗って、皆で生きて帰るという未来を掴む為に。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

一方その頃。吸血鬼騒ぎですっかりと怖がってしまい、ニンニク料理作りに没頭してしまった蘭と和葉はというと――。

 

「あっ。あったで蘭ちゃんッ!!ニンニクやッ!!」

 

「わぁ、凄い。こんなにいっぱい……ッ!!」

 

食料庫の中で奥の方に仕舞われていたニンニクを掘り出して大喜びしていた。

吸血鬼の格好をした寅倉拍弥の姿と、過去にあったという吸血鬼騒ぎの殺人事件で萎縮していた二人の取った行動。

それは吸血鬼の苦手なモノを用意して備えるという行動である。

吸血鬼の苦手なモノとして尤もポピュラーな物といえば、まずは太陽。

そして身近な物ならば聖書にニンニク、そして十字架だろう。

細かく掘り下げれば聖水や流水、に白木の杭なども挙げられるが、二人が思い至ったのがニンニクだ。

 

「こんだけあったら……あっ、アカンわ」

 

「え?」

 

「ほら、このニンニク芽が出てもうてるやろ?」

 

しかし、やっとお目当てのニンニクを見つけたは良いが、既にニンニクには芽が出始めてしまっていた。

これでは食べられないと嘆く和葉だが、そこに蘭が笑顔で待ったを掛ける。

 

「大丈夫だよ。芽を落としちゃえば、ちゃんと食べられるから。ウチでもコナン君とお父さん、普通に食べてるし……それより、ニンニクだけで大丈夫かな?」

 

この世に割りとファンタジーな生き物が居るという前提で話が進んでいるが、これにはHGS患者の存在が大きい。

世間的に認知されてるHGS患者の能力は、その殆どが能力使用の際にフィンが見られる事でその人間がHGSだと判別出来る。

そういった特殊能力を持つ人間も居るという事で、本来の世界観よりもファンタジーに対して未だ存在するのでは?と言われているのだ。

コナンや平次は逆にリアリストだからこそ、側に居る蘭や和葉はファンタジーに大らかな認識を持っている。

そして肝心の蘭の心配に対して、和葉はあるものを掲げながら笑顔で振り返る。

 

「これがあるから大丈夫や♪」

 

「じ、十字架ッ!?」

 

「せや。銀のナイフとスプーンで作ったから、最強やで♪」

 

和葉の持っていた物に驚きながらも、蘭はそのお手製の十字架を手に取る。

見た目はお手製全開の代物だが、形はちゃんと十字架の体を成している元食器。

 

「でも、こういうのって信心深いクリスチャンじゃないと効かないって言わない?」

 

「大丈夫やって。蘭ちゃんもクリスマスやってるやろ?毎年キリストはんの誕生日祝ってんねんから、効くに決まってるやんか♪」

 

「……う、うん……そだね」

 

当然の疑問を挟んだ蘭に対して、和葉は自信満々の笑顔で答え、蘭はその答えに苦笑してしまう。

蘭が唱えた疑問の答えになってるかは怪しい所だったが、余りにも輝かしい笑顔で答えたので蒸し返す事も憚れた。

そういった珍事を重ねながら、二人はニンニクの入った袋から幾つかのニンニクを取り出す。

 

「と、とりあえず、これだけあったら沢山作れそうだね」

 

「うん。ニンニク食べてちゃんと予防しとかんとな」

 

二人は袋からニンニクを取り出しながら笑顔で会話しつつ、倉庫へ戻ろうと腰を上げ――。

 

――ザッ。

 

「「ひッ!!?」」

 

背後、つまり倉庫の入り口から聞こえた何者かの足音に驚き、振り返りながらお手製の十字架を前に掲げた。

最初は怖さから目を閉じてしまった二人だが、直ぐに目を開けて前を見る……。

 

「……何やってんスか、二人共」

 

そして、ドアの前で呆れた表情を浮かべてこちらにそう問いかける定明の姿を確認した。

額を指で掻きながら、呆れ以外にも気まずそうな表情を浮かべる定明の態度に、二人は羞恥で顔を赤くしてしまう。

小学3年生の少年に、吸血鬼に怖がってお手製の十字架を結構本気で構える姿を見られた女子高生。

情けない所を見られた程度の話では済まなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

さて、二人が心配で探しに来たんだが……何か、凄え間の悪い所に来ちまった。

そう思う俺の目の前で十字架を構えたポーズのままに顔を真っ赤に染める蘭さんと和葉さん。

二人の足元には数十個のニンニクが無造作に転がってる。

どうやらニンニクを探しに来てたみたいだな。

 

「……さ、定明君じゃない。ど、どうしたの?」

 

「な、何でここに来たん?」

 

どうしたもんかと考えていたら、二人は愛想笑いをしながら十字架っぽいモノを背中に隠して会話を振ってきた。

どうやら今までの下りを無かった事にするつもりらしい。

 

「んにゃ、お二人が何してんのかな~と思って探しに来たんスけど……っつうか、そっちこそ何してんすか?そんな手作りの十字架っぽいモン翳して?」

 

「あっ、え、えっと、ニンニクを探してて……ね、ねぇ和葉ちゃん?」

 

「せ、せや!!ちょっとお腹空いたから餃子でも拵えよう思てな。そ、それでニンニクを取りに来てん」

 

「へー?……あぁ、怖いんスね?」

 

「な、何言っとるんやッ!!べ、別に吸血鬼なんて怖く……」

 

「ほ、ほら!!早く厨房に戻ろっか!!(和葉ちゃんッ!!それ自白しちゃってるからッ!!)」

 

もう合わせるのも面倒になって適当に返事してると、二人は素早くニンニクを拾って俺を倉庫から押し出す。

何が何でもさっきまでの事を無かった事にしたいらしいので、俺も深くは追求せずに一緒に厨房に戻った。

まぁ、一々藪を突いて怒られんのも嫌だし、俺もさっきの事は忘れるとすっか。

二人がせっせとニンニクの皮取りや芽の切り取りをする中、俺は隅っこに座ってボケっとその作業を見つめる。

 

「……ね、ねぇ。定明君?あの、旦那様は見つかったの?」

 

「そういえば、あれから何も聞いてへんけど……やっぱり、あん時見えたのって、私等の見間違いやったんかなぁ?」

 

調理する二人を見ながら時間を潰していたんだが、唐突に二人からそんな質問が飛んできた。

あんなに怖がってたのに何でだ?と思ったが、それでも何も情報が入らないのは不安なんだろう。

……実際は旦那さん処か、1人お亡くなりになっちまってるけどな。

ともあれ、それを二人に正直に伝えるのも余計怖がらせるだけだし、麻信さんの事は黙っておいた方が良いだろう。

 

「いえ、蘭さんと和葉さんが旦那さんを見たってのは間違い無いっすよ。あの後、岸治さんが現像した写真にバッチリ写ってましたから」

 

「えぇッ!?」

 

「ほ、ほんならやっぱり、旦那さんって……ッ!?」

 

「き、吸血鬼……ッ!?」

 

俺の言葉を聞いた二人は恐怖に顔を染めて、肩を震わせ始めた。

まぁ、ここだけ聞けば直に旦那さんを見た二人にとっては旦那さん=吸血鬼ってなるわな。

ふむ……まだ確定した訳じゃねぇけど、蘭さん達を安心させる為に少し嘘をついておこう。

 

「只ね?どうもアレってトリックだったっぽいんスよ」

 

「え?……ト、トリック……?」

 

「現像した写真にゃ、旦那さんの顔が鏡の中だけに写ってたんで、もしかしたらあの鏡がマジックミラーかもしれないって事っす」

 

「マジックミラーって……ドラマとかで良く見る、警察の取調室とかにある……」

 

「反対側から見たら只の鏡やけど、反対は普通に窓になっとるっていう、アレ?」

 

「そうッス。蘭さんと和葉さんが見た旦那さんって、首から下は見えなかったんじゃないッスか?」

 

震える二人を刺激しない様に言葉を選びながら説明すると、二人は少し落ち着きながら話を聞いてくれた。

俺の言葉でその時の事を思い出しているのか、二人は首を傾げて唸る。

 

「んー……確かに……」

 

「あの時は怖かったから驚いちゃったけど、言われてみたら……体は見えなかった……かも」

 

「かも?」

 

「だ、だって、あの時は気が動転してたし……」

 

「それに、羽川さんと守代さんの体が影になってて、ちょうど二人の顔の横に顔だけ見えただけやったから」

 

「あぁ。なるほど……まぁ兎に角、そういうトリックかもって話になって、今服部さんとコナン達が見に行ってる頃だと思いますよ?」

 

「そ、そうなんだ」

 

「せやったらあたし等が棺桶で見たんも、旦那さんの悪戯やったんかもな」

 

「そうだね……あんまり良い趣味とは思えないけど」

 

二人の話を聞きながら、俺は事態が良い方向に向かってる風を装って話を締めた。

それを聞いて、二人は安堵の表情を浮かべて大きく息を吐いて会話を始める。

どうやら少しは気を紛らわせる事は出来たみてえだ。

実際はその後で旦那さんが逆さ吊りで現れるわ麻信さんは殺されるわでそれどころの騒ぎじゃねえけどな。

しかも俺的には月村裕二が俺達……正確には蘭さん達を襲わないか気が気で無い。

一年前に起きた事件もこの館のすぐ近くの森らしいし、気が抜けない処だ。

 

「なぁ定明君。暇やったらやってみぃひん?餃子作り」

 

「え?」

 

「あっ、良いかも。定明君も今の内に料理の勉強しておいたら、自分でご飯も作れて便利だよ?」

 

と、ボケッとしていた俺に気を使ってか、和葉さんが俺を料理に誘い、蘭さんもそれに同調する。

……料理、か……好きって訳でもねえけど、暇潰しにゃあなるか。

このまま二人の調理風景を見ておくだけってのも暇だしな。

 

「そうっすね。丁度暇だし、教えてもらっても良いスか?」

 

「うん。良いよ」

 

「ほんならまずは手洗いして、それからやな」

 

暇潰しも兼ねて二人の誘いに乗り、和葉さんの指示通りに手洗いをサッと済ませる。

そしてお立ち台を借りて足りない身長差をカバーして、準備は完了だ。

すると、隣に立つ和葉さんから薄く伸ばして円形にした餃子の皮を手渡された。

 

「じゃあ、いくで?まずは、皮に餃子の餡を乗せて……」

 

和葉さんは説明を交えながら、目の前で器用に餃子を作っていく。

生地の両端に水を着けて両端を合わせてから、餃子のシンボルとも言える羽を拵えていく。

それであっという間に餃子が一個完成だ。

俺も今の工程をしっかりイメージしながら餃子を作ってみる。

案外簡単なモンだな。

 

「そうそう。上手だよ定明君」

 

「ホンマやなぁ。一回見ただけでちゃんとした餃子作れてるやん」

 

「つってもまぁ、俺の手で作ったから結構ちっちゃくなっちまいましたけどね」

 

蘭さん達は手放しで褒めてくれたが、俺の作った餃子は二人のより一回りぐらい小さい。

中身の餡が少なめだったし、羽も大きくし過ぎたな。

 

「そんな事無いよ。ちゃんと一口サイズくらいだし、コナン君なんて何枚餃子の皮を破っちゃった事やら」

 

「平次なんか餡入れ過ぎて、一枚の皮で包めれへんかったで」

 

「……不器用、なんスね」

 

稀代の高校生探偵が二人揃って料理下手かよ。

っていうか殆どの事はそつなくこなすあの二人でも、やっぱ料理は練習してなかったのか。

やっぱそういう面には興味が無かったんだろうな。

俺の苦笑いしながらの言葉を聞いた和葉さんは、額に手を当てて困った風に息を吐いた。

 

「英語とか喋れて勉強も出来る、運動神経も抜群やのに家事が出来へんってどうなんやろうか」

 

「そうだよねぇ。新一も外国語喋れたり、バイクとか車の運転は出来るのに料理とか洗濯は全然出来ないもん」

 

「スペックが突き抜けておかしいってのに、何でそんな家庭的なスキルが壊滅的なんスか?幾ら何でも偏り過ぎでしょうに」

 

「ホンマ、平次がマトモに作れるんなんか精々が玉子かけご飯とかやで?あんなんで将来一人暮らしでもしたらどないすんねやろ」

 

「そん時は和葉さんが飯を作りに行ってあげたら良いんじゃ無いっすか?そしたら正に通い妻っすね」

 

「かぁッ!?か、通いッ!?」

 

「ちょ、ちょっと定明君ッ!?何でそんな言葉を知ってるのッ!?」

 

「ソースは伯父さんが今度見るって言ってたドラマっすね。題名がそれでしたけど?」

 

「そ、そういえば……沖野ヨーコさんの新しいドラマがそんな題名だったっけ……教育に悪い……かなぁ?」

 

俺の言葉を聞いて頭を抱える蘭さんと真っ赤になってアワアワ言ってる和葉さんを放置して、どんどん餃子を量産していく俺。

っていうか作ってて思ったんだが、どう考えても餡も皮も作りすぎじゃね?

多分この人達の事だからこの館の人達の分も考えて作ったんだろうけど……凄い量になるぞ、コレ。

 

「さっきからせっせと作っちゃいましたけど、コレ全部いっぺんに焼くんスか?」

 

「ブツブツ……。ハッ!?そ、そんな事せえへんよ?皆の分焼いたら、残りは冷凍庫にでも入れといてもらおう思てるから……」

 

さっきから通い妻の件でボソボソ何か言ってた和葉さんだが、俺の質問で正気に戻って俺の質問に答えた。

成る程、初めから余らせるって事も考えてたのか。

 

「あっ。でも、確かこの冷凍庫って鍵が掛かってるんじゃ……」

 

「あぁ、せやった……ッ!?う、上の方は?」

 

「えっと……」

 

と、ここで目の前の冷凍庫が使えない事を思い出したらしく、二人は「しまった」て表情を浮かべる。

俺も初めて知った事なので冷蔵庫を見てみる。

確かに冷凍庫には鍵が付いていて、多分和葉さん達はあのコックさん達に聞いたんだろう。

もしかしたらって感じで蘭さんが上の棚を開くが、そこにはギッシリと冷凍食材が入っていて、とても餃子を入れられるスペースは無さそうだ。

 

「駄目だね……じゃあ、焼いた後でメイドさんかコックさんに冷凍庫の鍵を借りに行こっか」

 

「うん、そやね。そしたら私等で焼いていくから、定明君はそこの棚からお皿出してくれへん?」

 

「うーっす」

 

「ほんなら蘭ちゃん。焼こっか」

 

「うん。後でコナン君達にも食べさせなきゃ」

 

ねー、と楽しそうに笑いながら、蘭さんと和葉さんは餃子を次々と焼いていく。

ジュウゥという餃子の焼ける音を聞きつつ、皿を出してから俺は窓の外へと目を向けて辺りを見回す。

……このまま月村祐二が動く事無く、この館からおさらばできればそれに越した事は無い。

今もこっちに向かってるであろうイレインに任せておけば、それでサッと片が付く。

そもそも月村祐二が蘭さん達を狙うかもなんて、俺の考え過ぎかもしれねえし。

……どうにも身内の事になると、俺は神経質過ぎるのかもな。

 

「よしっ。定明君。焼けたから、一つ食べてみてくれるかな?」

 

「ん?あぁ、りょーかいッス」

 

少しアンニュイな気分を切り換えようと思ってた俺に、蘭さんが餃子を一つ差し出してくれたので、少し冷ましてから頂く。

うん、ちゃんと皮も肉も火が通ってるし、何より美味い。

そのまま蘭さん達に感想を伝え、二人が餃子を焼いてる間に俺はひかるさんに冷凍庫の鍵を借りに行って欲しいと頼まれた。

俺としても二人が焼くのを見てるだけってのは少し居心地の悪さを感じていたので了解して、また厨房から移動する。

何処に居るか探していると、コナンと服部さん、そして執事の古賀さんを除いた面子は全員食堂に集まっていたので、簡単に見つかった。

3人は屋敷の中を調べに行って、ここに居る人達はここで待つ様に言われたらしい。

それで事情を話すと、ひかるさんは快く冷凍庫の鍵を貸してくれた。

 

「はいコレ。大事な鍵だから無くさないでね?」

 

「うっす。あぁそれと、他の人達も腹減ったら厨房に来て下さいって言ってたッス」

 

「あら?私達もお呼ばれして良いの?」

 

「そうッスね。寧ろ結構な量拵えてたんで、来てくれないと困るんじゃねえッスか?」

 

「ふふっ。それじゃあお腹が空いたら行かせてもらうわ」

 

「まぁ、知らないからそんな事してられるんだろうけど……今はその気遣いがありがてぇな」

 

蘭さん達からの伝言を聞いて、実那さんはにこやかに返事を返してくれた。

岸治さんも呆れてる感じで頬杖を突いていたが、何処か安心した様な言い方をしてる。

 

「ぐすっ……う、うぅ……ッ!!」

 

そして、この場に居る人間の中で涙を流していたのは、旦那を失った瑠璃さんだ。

時折嗚咽を零しながら目から流れる涙を拭き取る姿はとても痛ましい。

俺は身内の人間以外の事なら極力関わりが無い限りはどうでも良いと思えるが、さすがに今の瑠璃さんは不憫に思える。

訳も分からない内に自分の旦那の命を……自然死や事故では無く、悪意を持って奪われた。

そんな人間を許せる筈も無いだろうし、理不尽な不幸に見舞われた瑠璃さんの心中は推し量れない。

未来が真っ暗になったとか、まだ経験していない俺にはそんなチープな表現しか出来ないがな。

俺みたいなガキの言葉なんかで、この人の涙を止めるなんて無理だ。

用事も終わった俺は何も言わずに瑠璃さんの背後を通って静かに食堂を後にする。

 

「う、うぅ……麻信さん……」

 

「瑠璃……ん?瑠璃、その胸ポケットの……」

 

「ぐすっ……な、なに?……え?……」

 

「ラベンダーの花か?お前そんなのポケットに入れてたっけ……?」

 

「い、いえ。入れてなかったけど……」

 

「マジかよ?……気味悪いし、捨てちまえば良いんじゃないか?」

 

「……」

 

「瑠璃?」

 

「……いいえ……持っておくわ……この香り……ちょっとは落ち着くから……」

 

だがまぁ、ちょっとした俺なりの心遣いだけしておこう。

麻信さんの敵は、コナンと服部さんの二人がとってくれるだろうからな。

食堂から聞こえていた啜り泣く声が少し和らいだのを感じながら、俺は再び厨房に戻った。

そしてひかるさんから借りてきた鍵を手渡し、蘭さん達が餃子を焼いてるのを眺める事、10分くらい。

 

「うん。これだけ焼いたら充分やろ」

 

「どう考えても焼き過ぎだと思うのは俺だけッスかね?1人何皿計算だよって話ッスよ」

 

「あ、あはは……ま、まぁ、お代わりが沢山出来るよって事で」

 

「せ、せやで。大は小を兼ねる言うしな」

 

それって物の大きさの諺じゃ無かっただろうか?

満足そうな和葉さんにツッコミを入れて、俺は調理場の皿を数える。

一皿6個入りの餃子が19皿もある光景は圧巻を通り越して何とも言い難い光景だ。

その時、一瞬の稲光の後にガシャアンッ!!と強烈な雷鳴が轟いた。

結構近いな、と呑気に考えていた俺と違い、蘭さんと和葉さんはその強烈な音に身震いする。

やっぱりまだ例の吸血鬼騒ぎがかなり尾を引いてるんだろう。

 

「ごっつい雷やなぁ……」

 

「うん……怖いよねぇ……でも、餃子いっぱい焼いたし」

 

「せやせや。ニンニクパワーで乗り切るでぇ♪」

 

「そんじゃあ早速、そこの人にニンニクパワー注入してあげて下さいよ」

 

「「……え?……そこの人?」」

 

架空の存在に負けない様にと気合を入れる二人に、俺は入り口を指差して言葉を掛ける。

その言葉に首を傾げながら二人がそちらに目を向けると――。

 

 

 

「フー、フウゥー……ッ!!」

 

 

 

そこには、涎を垂らした息の荒いひかるさんが――。

 

 

 

当然、驚いた蘭さんと和葉さんは「きゃああああッ!?」と大声で悲鳴をあげた。

まぁ気持ちは分からんでも無い。

今のひかるさんって涎垂らしながら目が少し血走ってたし。

 

「和葉ッ!!どうしたぁッ!?」

 

「大丈夫、蘭ねーちゃんッ!?」

 

と、そこにナイスタイミングで現れた二人の名探偵。

悲鳴を聞きつけたにしては早過ぎる気もするが、それを口に出す暇も無く、事態は進行していく。

蘭さん達が驚きながら見てる先で、ひかるさんが何やら必死に何かをしてる。

服部さん達からしたら背中しか見えないだろうから、ひかるさんが何をしてるか分かってないだろう。

 

「おいアンタ――」

 

だから、服部さんは大股でひかるさんに近づいて肩を掴んで動きを止める。

 

 

 

「ハグハグハグハグハグ……ッ!!!……んむ?」

 

「「――え?」」

 

 

 

一心不乱に餃子を食するひかるさんの動きを。

 

 

 

「「……餃子?」」

 

目が点になってる服部さん達を見て、ひかるさんは口に半分咥えていた餃子を飲み込む。

 

「ん……ゴックン……私、お腹が空いてて、餃子の匂い嗅いだら我慢出来なくなっちゃって……ごめんなさい、勝手に食べちゃって」

 

ひかるさんの行動が予想外だったのか、二人は表情と一緒に体の動きも硬直させてる。

そんな二人から視線を外して、ひかるさんは蘭さんと和葉さんに「上手に出来ましたね」と褒め言葉を言う。

まぁさすがの名探偵二人もこんな展開は予想外だったに違いない。

俺だってひかるさん腹減ってるんだなぁ、とか分かってても動きがドン引きモノだったし。

まぁそれに気付かずに詰め寄る服部さんとコナンの姿には笑わせてもらったが。

そんな事を考えてると、ジト目で俺を見るコナンと目が合った。

 

「……定明にーちゃん、知ってたでしょ?」

 

「んー?そりゃまぁ、俺の位置からなら丸見えだし?」

 

「し、知ってたんならはよ教えろや……ッ!!」

 

「別に良いじゃないっすか。あんな事があった後なんだから、面白いモン見て気分転換したかったんスよ」

 

「……え゛?」

 

「あ、あんな事?」

 

これぐらいのお茶目は勘弁で、と言葉を続けるが、さっきまで半笑いだった蘭さんと和葉さんが表情を引き攣らせながら俺を見てくる。

いけね、そういえば二人には説明してねーんだった。

そうは思うが、既に口から出た言葉はもう無かった事にする事も出来ない。

表情を引き攣らせながら俺を見る蘭さん達としまったって顔をする俺の間に漂う微妙な空気。

そんな空気の中でコナンと服部さんは何故かひかるさんに質問しながら、何故か餃子の残りが入っている冷凍庫の中を見てる。

おーい。幼馴染みより、生の餃子の方が気になるのかー?

 

「あー、その……聞きたいッスか?」

 

「聞きたない聞きたない……ッ!!」

 

「……ッ!!(コクコクッ!!)」

 

仕方なく苦笑いしながら二人にそう問うが、二人は耳を塞いで何も聞かないと言い出す。

まぁ知りたくも無いだろうな、実は上の階で一人亡くなっているだなんて。

 

「まぁ、大丈夫や。今日ここで起きた怪奇現象の半分は解けたさかい」

 

「え?」

 

「ホ、ホンマなん平次?」

 

「そうは言うても、この坊主が一つはトリック解いてる分も合わせてやけど」

 

「お?って事は、俺の考えはドンピシャ?」

 

「うん。定明にーちゃんの言った通りだったよ。あんな簡単に気付くなんて、ホントに凄いよねー」

 

どうやら例の鏡のトリックは俺の予想で当たってたらしく、コナンは俺に嫌味の無い賞賛を向けてくる。

この分ならこの事件も直ぐに、この稀代の名探偵二人の頭脳で解決するだろう。

とりあえず心配事の半分は何とかなりそうなので、俺も少し気が楽になった。

 

「えぇッ!?じ、じゃあ、さっき定明君が言ってたマジックミラーのトリックって……」

 

「あぁ。この坊主が現像された写真見て、いっちゃん初めに気付きよったんや」

 

「だから、蘭ねーちゃんと和葉ねーちゃんが見たのは吸血鬼なんかじゃ無くて、普通の人間だったんだよ。まだ説明してないけど、他の皆もそれが分かったら安心してお腹も減るんじゃないかな?」

 

「凄いよ定明君ッ!!直ぐにそんなトリックに気付けるなんてッ!!」

 

「さすがは『眠りの小五郎』の甥っ子ッ!!もしかしたら小五郎のおっちゃんと同じで、名探偵になれるんとちゃうッ!?」

 

((あのおっちゃんが名探偵?無い無い))

 

「只の思い付きッスよ。それを言い出したら蘭さんの方が素質あるでしょ?実の娘なんだし」

 

手放しで褒めてくれる蘭さん達の言葉に肩を竦めながら返事をする。

正直、スタンド能力のお蔭で分かった事だから大きな顔で威張れる事じゃないからな。

とりあえず余り出歩くなと俺達に言い含めた服部さんとコナンは親族の人達に幾つか分かったトリックを伝えに行った。

今の状況では固まっていた方が、何処かで息を潜めてる殺人犯に狙われる事も無いからな。

皆にトリックの事を離してバラけない様に呼び掛けるそうだ。

ひかるさんも餃子を満足行くまで貪ったので、二人と一緒に食堂に向かう事に。

三人が出て行った後、キッチンの上には空になった餃子の皿が7つほど……一人で良く食ったなぁ、ひかるさん。

 

「いっぺんに無くなりましたね。まさかあんなに一人でバクバク食うとは……」

 

「よ、よっぽどお腹が空いてたんだね……」

 

「まぁ作った側としては嬉しいんやけど」

 

呆れた食欲で餃子を平らげたひかるさんに対して3人で苦笑いしてしまう俺達。

それからは特に何事も無く、時間が只ゆっくりと経過していった。

あった事といえば、蘭さんと和葉さんの話に偶に相槌を返して、二人が餃子を時々摘むのを見ているぐらい。

時々俺も餃子を摘ませてもらったから、腹も良い感じに膨れてきてる。

まぁ二人の護衛の為に何時でもスタンドを使える様に気を張ってたから、あまり時間が過ぎた感覚は無いけどな。

そうやってノロノロと過ごしていたら、ひかるさんが一人で厨房に戻ってきた。

 

「あっ。まだこちらにいらっしゃったんですね」

 

「はい、ちょっと話し込んじゃって……」

 

「ひかるさんはどないしはったんですか?」

 

「私は、岸治さんに頼まれてお酒を取りにきたんですけど……他の方達もお部屋に戻られましたから、貴方達も戻られた方が良いですよ?多分もう誰も餃子は食べに来られないと思いますので……」

 

「は?皆もうバラけて部屋に戻ったんスか?あんな事があったつぅ、こんな時に?」

 

((だからこんな時って何!?知りたくないけど!!))

 

戸棚からワインの瓶を取り出しながらこっちに話を振ったひかるさんの言葉に、俺はキョトンとする。

人が殺されたってのにバラバラに行動するなんて一番アウトな選択だ。

正に自分から孤立して狩ってくれと言ってる様なモノ……あの二人がそんな間抜けな行動を由とする訳無いだろう。

だっていうのに個人行動を許したって事は、もしかして事件が解決したって事か?

色々と考えながら首を捻ってると、ひかるさんは苦笑いしながら屈んで、俺の耳元に口を寄せてくる。

 

「……実はね?私もそうなんだけど、皆さんあの色黒の子が刑事だと思ってたから、指示に従ってたの。でも、あの人は刑事さんじゃなくて探偵だって言い出して、しかも世間が持て囃す自称の探偵だって分かっちゃったから、皆さん『子供の指示になんて従えるか!!』って、怒って部屋に戻られちゃったのよ」

 

「……OH,NO」

 

何とも馬鹿らしく、それでいてそりゃそうだよなと思える発言に、俺は何とも言えなくなってしまう。

まぁあの親族の人達の言いたい事も分からなくは無い。

普通は偉そうに指示してくるのが子供なら、『年下の癖に何を分かった気でいる』って反発する。

自分達よりも年齢が低い場合、特定の職業……例えば警察の人間だっていうなら従うだろう。

しかし探偵という職業で尚且つ国が認めたライセンスも持たない……言い方は悪いが『頭が良い』だけの高校生(自称探偵)には従う気にもならねぇか。

どれだけ実績が過去にあろうとも、年齢が若いとそれをマグレで片付けちまう人間だって居るのは事実だ。

多分、服部さんもコナンもまさか刑事だと勘違いされてたとは思わなかったんじゃねえかな。

それで話にズレが出て刑事じゃないと暴露すれば、今度は子供の言う事には従えない、と……アホらしいぜ。

 

「それに……あの後、守代さんも……」

 

「ッ!?……マジ?」

 

「うん……」

 

どうやら事態は俺の楽観視してた時よりも酷い事になってるみたいだ。

驚いて聞き返したら重々しい表情で頷いて肯定するひかるさんから視線をズラし、俺は浅く溜息を漏らす。

つまり、麻信さんに続いて、予想してた通りに守代さんも殺されたって訳だ。

あの守代って婆さんも殺されたとくれば……こりゃ遺産問題に間違い無いだろ。

殺されてるのは拍弥さんの遺産相続権を持ってる親族の人間だけに限定されてるし。

 

そしてひかるさんはなるべく早く部屋に戻る様にと言い残して、ワインとグラスを持って厨房を後にした。

 

ひかるさんが居なくなると、さっきまで話してた蘭さん達の声が止んでいる所為でシンと静まり返ってしまう。

振り返って二人に視線を向けるが、二人は震えながら俺に視線を見ていた。

……まぁ、何も知らないのに他の奴等が「あんな事があったのに」なんて連呼されちゃあ不安にもなるか。

でも、だからといって話そうにも二人は聞きたくなさそうだしなぁ。

 

「……とりあえずどうします?部屋に戻るなら送るッスよ?」

 

「えッ!?え、えーっと……(部屋には一人用のベットが一つしかなかった……つまり)」

 

「(寝る時は一人になるっちゅう事や……ッ!!平次もコナン君もどーせ事件に夢中やろうし……)さ、定明君はその後どうするん?」

 

「俺ッスか?俺は……このまま部屋に戻っても、ベットに寝転がったら寝ちまうんじゃないッスか?」

 

((つまりその後は部屋で一人っきりッ!?無理無理無理ッ!?))

 

とりあえず部屋の前まで着いていこうかと提案したんだが、何故か俺がその後どうするかと聞かれて普通に答えたら、二人とも首を激しく横に振り始めた。

何事か分からず疑問に思っていると、何故か二人はかなり必死な表情で俺に詰め寄って肩に手を置いてくるではないか。

……え?マジで何なのこの状況?

 

「ま、まだ眠くないし、もう少しお姉さん達とお話しよ、定明君ッ!!」

 

「ほ、他の人が食べへんねやったら、あたし等で餃子残り片付けなアカンし、定明君もまだお腹減ってるやろッ!?」

 

「は、はぁ?……まぁ、別に俺は良いッスけど」

 

かなり必死な様子でこの場に引き止めてくる二人の様子に引き気味だが、俺もこの場に残る事で話を纏める。

正直、部屋まで送るのもダルイし守る対象が固まっててくれんなら、その方が楽だ。

だから俺はもう一度椅子に座り直して、二人が冷凍庫から出した餃子を解凍するのを見ながら英気を養う事に。

……こっちの殺人犯もそうだが、月村祐二の方は帰れる様になるまでは油断出来ねぇ。

今夜はこのまま徹夜になるだろうな……クソ面倒くせぇけど……。

その後も今までと変わらず、二人が話を振ればそれに返すのくり返しで時間が過ぎていった。

そして、日もてっぺんを越して幾ばくかの時が流れた時――。

 

 

 

「あっ、電話……平次からや(pi)もしもし平次?どないしたん?」

 

 

 

遂に、この殺人事件もフィナーレを迎えた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

和葉の携帯に平次からの連絡が入って1時間程過ぎた。

既に草木も寝静まった夜中、この館のメイド服に身を包んだ桧原ひかるが廊下を静かに歩く。

まるで誰にも悟られない様にする静かな動きで彼女が目指したのは、この寅倉家にある部屋の中で一際異質な物置。

 

その名も、『南蛮部屋』と呼ばれる部屋であった。

 

吸血鬼に纏わる噂が絶えない当主、寅倉拍弥の納める寅倉家。

しかしそれは彼自身のみにあらず、この寅倉家の先祖代々にまで及ぶ話なのである。

遡る事江戸時代の頃、この辺りを治めてたのが、この寅倉家の先祖の当主であった。

当時、彼はこの地の領民に慕われてはいたが、子宝にめぐまれず家督を弟君に譲るのではと噂されていた。

しかしその噂が登り始めた頃、殿様は大変美しい側室を迎え入れ、遂に待望の世継ぎが生まれる。

これで家督を譲らずに、これからも家は安泰だ、目出度し目出度し……普通ならこう話は締め括られるだろう。

 

――が、ある嵐の夜に事件が起きた。

 

何と世継ぎを産んだその側室が崖から転落して、木の枝に胴を貫かれた状態で発見されたのである。

この余りにも不自然且つ悲しい出来事を不審に感じた殿は、側室の側近たちを南蛮から取り寄せた器具で拷問した。

そして、常々世の中に蔓延る様な醜い真相が明らかになった。

若君が森に入ったまま戻らないと、ある男が側室を騙し、側室を森に行かせた事で、側室は非業の最期を迎えてしまったのだ。

側室を謀ったのは勿論、若君が生まれなければ家督を継いでいたであろう、当主の弟である。

これに憤怒した殿は、弟やその企てに加担した者達を側室と同じ様に串刺しにして、森の中に並べた。

それ以来その殿は、『串刺し大名』と呼ばれる様になった。

これはドラキュラのモデルとなったヴラド三世が反逆者を串刺しにした事で呼ばれる事となった『串刺し公』という異名と瓜二つである。

しかし江戸時代にその様な歴史が日本に伝わっていた筈も無く、模倣された訳でも無いのに重なるこの異様な類似性。

それこそが、この寅倉家を『吸血鬼の末裔』と呼ぶ者が居る理由である。

 

そして現代にまで残る串刺し大名の使った拷問器具を保存している部屋こそ、ひかるが目指す南蛮部屋の正体であった。

 

何故、只のメイドに過ぎないひかるが夜中にコソコソとその南蛮部屋を目指したかと言えば、全ては彼女が受け取ったメールにある。

彼女は先程、現在も行方知れずであり、今夜の殺人事件の犯人という可能性が尤も高い寅倉拍弥に呼び出しを受けたのだ。

内容は今朝、話しそびれた重要な話を南蛮部屋に聞きにきて欲しいとの事である。

しかも今朝と同じで誰にも気づかれる事が無い様に来て欲しいという怪しい内容であった。

夜中に1人で、しかも目下犯人として一番疑わしい相手からの呼び出し。

彼女はその呼び出しに対して応え、南蛮部屋へと赴いたのである。

 

「旦那様?ひかるです……メール見て来ましたよー?旦那さまー」

 

暗い南蛮部屋の扉を開けて、ひかるは小さい声でそう呼び掛けながら部屋の中へと足を踏み入れる。

保管されているのが拷問器具という事もあって、この南蛮部屋には電気が取り付けられていない。

夜の暗さも相まって廊下から照らされる灯りのみを頼りに部屋の中心へ進むひかるだが――。

 

 

 

――ガチャ。

 

「ッ!?」

 

 

 

突如、扉が閉まって廊下の光を閉ざされてしまう。

これに驚いたひかるが背後、つまり入ってきた入り口へと視線を向けると――。

 

パッ!!

 

「ッ!?」

 

扉の後ろに隠れていた何者かが、ひかるに向けて懐中電灯を照らす。

人間は一度暗闇に目が慣れた時に突然光を認識してしまうと、体がそれについていけずに硬直する事がある。

それが自身の網膜を直接照らそうとしている場合、反射的に目を覆って光から目を逸らす。

刑事ドラマ等で卓上ライトを向けられて目を背ける事と一緒だ。

ひかるもその例に漏れず、突如背後から向けられた光に驚いて目を手で隠してしまう。

 

――それこそが、『犯人』の狙いであった。

 

ひかるに向けられるライトの光以外に照らす物が何も無い中、正体のハッキリ見えない何者かは口にナイフの鞘を咥えて、ライトを持たない手でナイフを振り上げる。

口元を吊り上げた醜い笑みを浮かべ、何者かは心中で歓喜していた。

これまでに二人の人間を殺害した殺人鬼という名の鬼は、誰に言うでも無く心の中で叫ぶ。

 

 

 

『これで最後だ』――と。

 

 

 

ドガァッ!!

 

しかし、次に鳴った音は、ナイフが肉を裂く音では無かった。

遮断されていた部屋に光を運び込むそれは、閉じた扉が強引に蹴破られた音なのだから。

 

『ッ!?』

 

「フッ!!――せやぁッ!!」

 

『(ドスゥッ!!)ぐほぇッ!?』

 

短く吐かれた呼吸の後、鍛えられたしなやかな足が伸び、振り返った殺人鬼の水月を鋭く射抜く。

人体に於いて鍛える事が困難であり、急所の一つでもある水月を狙って繰り出される前蹴り。

ブーツを履いて繰り出されたその技は、プロレスに於いて反則技とされていた事もあるトウキックだ。

ひかるを襲おうとした何者かに対し、夕食を吐き出させそうな程に強烈な蹴りを食らわせた乱入者――蘭は蹴り足を戻して半身の構えを取る。

空手の都大会等で優勝経験を持つ蘭の蹴りは、その成績に違わず強烈な威力を誇る。

 

『がっ!?……うぁッ!!』

 

しかし、口から唾液を垂らしながら最早死に掛けといっても過言ではない程にフラつく殺人鬼だが、それでも執念は凄まじいモノだった。

気を抜けば倒れそうな状態にありながら、殺人鬼は振り返りざまにナイフを背後に居るひかるへ目掛けて振るう。

空手を習っている蘭とは違い、武道の経験が無いひかるでは、この一撃は対処出来ないであろう。

 

「――んッ!!(パシッ!!)」

 

『なッ!?』

 

――但しそれが、『本物』の桧原ひかるならば。

 

「ふっ――せいッ!!」

 

『(ガァンッ!!)うごあッ!?』

 

薄暗い南蛮部屋に、固いものが地面に落ちた時の様な痛々しい派手な音が鳴り響く。

次に聞こえたのは、ナイフを振るった筈の殺人鬼が床に叩き伏せられた際に漏れた悲鳴である。

ひかる――否、ひかるに成り済ましていた少女に頭上から振るわれたナイフ。

少女はそのナイフが到達する前に相手の手首と肘を両手で掴み、力を外側に流して体勢の崩れた所を『投げた』のだ。

日本に古来から伝わる護身術、合気道の突き小手返しを応用した技。

ヘアピンで髪の毛をひかると同じ様に上げてメイド服を着てひかるになりすましていた少女――和葉は、相手の力を利用する合気道の二段持ちだ。

加えて幼馴染みの服部平次と共に事件に巻き込まれた経験も相まって、彼女は護身の合気道を上手く活用していたのである。

床に投げられてナイフも落とした殺人犯に対して、和葉と蘭は構えを崩さずに警戒する。

 

「あ、あのぉー……大丈夫ですか?」

 

「ッ!?出てきちゃ駄目ッ!!」

 

「アンタが協力するのは声だけでええねんッ!!」

 

「は、はい……ッ!?」

 

しかし、警戒する二人の背後、つまり部屋の入り口から聞こえてきた声に、二人は殺人犯から視線を外して注意する。

入り口からこちらに体を半分だけ出して声を掛けてきたのは、和葉と交換しか服を着たひかる本人だった。

その後ろにはひかるを心配してか、一緒に居る執事の古賀の姿もある。

二人はこの事件の謎を解いた平次とコナンに、犯人が次に狙うのはひかるだと聞かされ、二人の出した作戦に協力したのである。

ひかるが拍弥からのメール……に『偽装された』殺人犯からの呼び出しに素直に従った様に見せかけ、入れ替わった和葉と後を尾ける蘭の二人で追い込む為に。

二人は入り口から顔を覗かせるひかる達に注意して直ぐに、床に伏せる犯人に目を向けるが――。

 

「あれッ!?居なくなってるッ!?」

 

「え?……ホンマや……消えてもうた……でも、これも平次の言った通りやな」

 

「うん。私達はここで、相手が戻ってきたら止めないとね」

 

しかし、そこに犯人の姿は無く、影も形も残されていない。

後一歩の所まで犯人を追い詰めていたのに……と、二人は悔しがりはしなかった。

何故なら、犯人がこの部屋の『隠し通路から逃げる』事は平次から聞かされていたからである。

しかもこの先には平次達が待ち構えているのだから、もう犯人も逃げる事は出来ない。

これでこの事件も終わる、もう誰も死ぬ事は無い、と安堵する二人。

 

 

 

 

 

だからこそ、二人は――いや、この館の誰もが気が付かなかった。

 

 

 

 

 

自分達を守る為に、力を振るう少年の戦いが行われているという事に。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……ッ!!……クソッ!!何なんだッ!?」

 

寅倉家の正面に聳える森、その奥深く。

館の前に立つ門番達では声すらも認識出来ないであろう場所。

その森の中で、身綺麗な服に身を包んでいた月村裕二は声を荒らげて目の前を忌々しく睨む。

旅行者達から奪ってきた現金で手に入れたブランドスーツは、既に血だらけで見る影も無かった。

血が止まる様子も無い事から、相当に傷が深い事が分かる程だ。

極上の女を迎えに行くならば、それなりの格好をし迎える……それが月村裕二なりのこだわりである。

例えその女にそぐわぬ陵辱を犯し、果てに血を吸い尽くして殺してしまうというのに、彼はそのこだわりだけは捨てなかった。

何故なのかと問われれば、それが『自分の礼儀だから』と平然と答えたであろう。

洋食に於いてフォークとナイフを外側から使うのが普通だと言う様に。

相手からすれば自分の身を穢し尽くした後で、その生命すらも蹂躙する吸血鬼でしか無いというのに、月村裕二は何時もデートに向かう様な心境でいたのだ。

自身の躰を犯し、穢し尽くされてさめざめと涙を流す女に一方的な愛を語り、最期は催眠で心を操りながらその血を吸い尽くす。

 

それが月村裕二の『愛情の表現』なのである。

 

これが、限界まで血を吸えない環境で生まれてしまった歪みなのかは分からない。

 

 

 

そしてこれからも誰一人、その真相を知る者は現れないであろう。

 

 

 

「何なんだ……何なんだよ――何なんだよお前はぁあああああああああッ!!?」

 

 

 

今夜で月村裕二は、裁かれて(壊されて)しまうのだから。

 

 

――そう。

 

 

 

「……」

 

 

 

両手をポケットに入れて仁王立ちする、守るという『覚悟』を決めた少年に――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

地面に膝を着いて俺に叫ぶ月村裕二を前に、俺は注意を逸らさずに立っていた。

奴の体にダメージを与えてはいるが……腹の虫が収まりそうにねぇ。

月並みな感想だけどよぉ……コイツだけは許しちゃいけねえんだ。

怒りに震える月村裕二に対して、俺は奴を再起不能にする為に意識を戦闘に割り振った。

 

 

 

何故、俺が森の中に居て、月村裕二と対峙しているのか……それは一時間前の、和葉さんにきた電話に関係してる。

 

 

 

服部さんから和葉さんにきた連絡で、和葉さんは囮作戦でひかるさんの役をやる事になった。

この殺人事件の犯人を炙り出す為に、最期の犠牲者としてターゲットにされたのがひかるさんだったらしい。

その話を『ハーヴェスト』で盗み聞きしていた俺は、蘭さんと和葉さんに促されて宛てがわれていた客室へと戻る事になった。

さすがに囮作戦をやるとは思わなかったが、どうやら服部さんとコナンは真相に辿り着いた様だったので、俺は一安心出来た。

これで残るは、明日の迎えが来るまでに月村裕二が現れないかという事だけだったんだが……俺の不安は的中してしまう。

蘭さん達が部屋を出てから館の中を色々物色して戦闘の準備を整え、屋敷の屋根の上に立って森を『スタープラチナ』で見張っていたら、五分もしない内に見えてしまった訳だ。

 

 

 

夜闇に紛れて走る、狂気の笑みを浮かべた月村裕二の姿を。

 

 

 

しかも奴は、この屋敷へと一直線に向かってきていたので、この館の女性がターゲットなのは丸分かりだ。

だから、俺は波紋の呼吸を整えて身体能力を強化しつつ、森の中を走った。

門番の監視は『アクトン・ベイビー』という姿を透明にするスタンド能力を使用して誤魔化したが。

『アクトン・ベイビー』は第四部に出てきた赤ん坊(後にジョセフ・ジョースターの養女となった)静・ジョースターのスタンドだ。

物体や生物を透明化させるスタンド能力で、保護色を纏って擬態する『メタリカ』と違い、純粋に物を透明に出来る。

しかも俺が解除しない限りは透明のままなのだ。

話を戻すが、『アクトン・ベイビー』の能力を使って自身の姿を消しながら門番の目を掻い潜って、奴が館の側に来る前に足止め出来たって訳だ。

奴が来る進路上で姿を表し、俺は奴と接触した。

……まぁ、接触した瞬間に、この男は氷村遊と同じ類の下種野郎だと理解出来たがな。

 

「ん?……何だ小僧?」

 

「……」

 

「ふんっ。まぁ良い……僕は今から麗しいお嬢さん達を迎えに行かなければならないんだ。そこをどきたまえ」

 

何も喋らずに見つめる俺を迷子か何かと勘違いしたのか、月村裕二はそう言って俺に道を譲れと言う。

しかしそれにも反応を示さない俺を見て、奴は目尻を吊り上げた。

 

「……聞こえなかったか?優しく言ってる内に消えろと言ってるんだ。僕はとても忙しくてね?例えるならそう……何気ない日常の中で運命の相手を見つけ、違う電車に乗ってしまいそうな彼女に一目でも良いから自分を見てもらいたいという思いで、電車の扉が閉まる前に愛しい彼女に話し掛けようと全力疾走している……そんな心境なんだ。今の言葉を聞けばどんなバカにでも分かるくらいに、僕は急いでる」

 

「……」

 

「そんな人間を邪魔する相手に送る言葉は何か知ってるかい?『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて』ってヤツさ……お前の様な路傍の石ころ程度に構ってる暇なんてな――」

 

「……コ」

 

「ん?」

 

何やらどうでも良い事をゴチャゴチャ言ってる馬鹿を放置して、俺はスタンド能力を発動させる。

夜の一族の人間であろうとも、俺のスタンド能力は見えない事は忍さんやスタンド能力を得る前のすずかで分かってる。

本音としちゃ、あの二人とコイツを比べるなんてのは有り得ねえんだけど。

俺の発現したスタンド能力によって、俺の左腕に『数字の書かれた座標ブロックのような装置』が取り付けられた。

それと同時に、俺の足元からヤツの足元までの地面に腕と同じ『X,Yの座標とマス目』が走る。

 

さぁ、準備は万端だ。

 

「……(シュルルルル)」

 

「はぁ?……おいおい小僧。何だそのボールは?まさかそれを僕に当てようとでも言うのかい?いや、そんな訳無いよなぁ?そんな事が無理だという事くらい、幾ら子供の君でも分かる事で――」

 

「……オラァッ!!!」

 

奴の嘲りを無視して、俺は回転させた鉄球を奴の顔面目掛けて投げる。

しかし奴はそれを面白く無さそうな顔で眺めながらヒョイと射線から横に躰を動かし――。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

ドグシャァアアッ!!!

 

 

 

「――え?」

 

 

 

『頭上から落ちてきた鉄球』によって、左肩の骨を砕かれた。

一体何が起きたのか全く理解していない間の抜けた面を晒す月村裕二。

しかし肩を、人体の一部を砕かれてそんな反応で済むのは、脳が起きた現象を理解してないからだ。

やがて、状況を理解した脳は活発に動き――。

 

「――ぎ――ぎゃぁああああああッ!?」

 

痛覚という刺激信号を持って、その異常を人体に伝える。

圧し砕かれた肩を抑えて汚ねえ悲鳴をあげるクソ野郎を冷めた目で見つめながら、俺は次の道具を取り出す。

……精々味わいな……テメエに『食料』として殺された人達の恨みってヤツを……ッ!!

屋敷の倉庫から拝借してきた五寸釘を6本持ち、それを目線の高さまで掲げてから、地面の『マス目』に落としていく。

そして、釘が地面に落ち切る前に、奴の足がはみ出した位置のマス目と『同じ記号が彫られた腕のブロック』を指で押し――。

 

ピッ。

 

ドスドスドスドスドスッ!!!

 

「あぁあああああああああああああああああああッ!?」

 

奴の足に五寸釘を突き立ててやった。

余りの痛みにのたうつ事すら出来ず、絶叫するしかない月村裕二。

普段ならその絶叫と涙に攻撃の手を緩めていたかも知れないが……今の俺にそんな優しさは無い。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

肩が砕けて投げ出された左腕に、エニグマから取り出した真っ赤に熱したパチンコ弾の雨を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

五寸釘で傷だらけになった足に、煮えたぎる熱湯を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

右腕と肘の繋ぎ目に、回転させた鉄球を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

うずくまる背中に、ガラスの破片や尖った石の礫を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

地面の土を握り締める右の手のひらに、鎌を。

 

 

 

最早考えつく限りの拷問染みた攻撃を加え続けた俺に対して叫ぶ月村裕二。

……俺がここまで執拗な攻撃を加え、奴を苦しめる理由はちゃんとある。

それは奴には見えなくて、俺にだけ見えている『彼女達』の存在だ。

目に見える膨大な彼女達の姿……その全てが、悲しみに暮れて紅い血の涙を流している。

そう、彼女達とは月村裕二の手によって非業の死を遂げた、吸血されて殺された女達の幽霊だ。

スタンド使いである俺は、性質上幽霊という存在を認識出来る。

だから、例え見たくなくとも、彼女達の姿と悲しみや嘆き――怒りという感情が伝わってきちまうんだ。

 

『助けて……助けて……』

 

『許さない……許さないぃ……』

 

『お父さん……お母さん……助けてよぉ……』

 

「ッ!!……」

 

あちらこちらから止む事の無い悲しみや怒り、恨みのコーラス。

これが俺の感情を荒立たせ、奴に苛烈な攻撃を加えている理由だ。

こいつは一体……何人の人間を食料として殺しやがった……ッ!!

しかも俺の目に見える彼女達の幽霊は、その誰もが衣服を乱雑に破かれたあられも無い姿を晒してる。

俺でも簡単に想像が出来て……尚の事、俺の怒りが膨れ上がる。

だが、何時迄もこの男を嬲る事に時間を掛け過ぎると、俺が部屋を抜け出してる事がバレてしまう。

故に、コレ以上は時間を掛けられない。

 

「何なんだ……何なんだよ――何なんだよお前はぁあああああああああッ!!?」

 

ここで時間は冒頭に戻る訳なんだが……クソ以下であるコイツに対して、俺はそろそろトドメを決める。

彼女達の無念も、俺には痛いぐらい伝わった……だから、俺は使うつもりも無かった物を使う事にした。

両手をポケットから取り出し、予めポケットに入れておいた紙を持つ。

俺はそれを開かずに、睨みつけてくる月村裕二に視線を向けて口を開く。

 

「……『チョコレート・ディスコ』」

 

「ハァ、ハァ……ッ!?…………な、何?」

 

「……俺のこの能力のスタンド名だ。『チョコレート・ディスコ』……只のそれしか言わない。以上で終わりだ。それだけ(・・・・)

 

「な、なんだそれは?スタン、ド?」

 

いきなり話し出したかと思えば、自分の理解の及ばない事を言われて聞き返してくる月村裕二。

しかし、俺はそれ以上は語る気になれない。

 

「他には無い……俺のセリフは終わり……テメーに解説してやる事柄はな……」

 

「ッ!?や、やめ……ッ!?」

 

何も話すつもりは無い、とだけ言って、俺は両手に持った紙を地面に向けて広げる。

もう何度も俺が物を投げる度に自身に降り注いでいるからか、奴は怯えながら後ずさって逃げ始めた。

しかし、奴が居るのは『チョコレート・ディスコ』のマス目の中間地点。

そこから幾ら逃げようとも、俺の攻撃から逃げる事は出来ない。

いや、逃してやる必要も無え。

逃げようとする月村裕二を見据えながら、俺は紙を空中で広げ――。

 

 

 

煮え滾った油を、ヤツの体に降らせた。

 

 

 

「――がぁあああああああああああああああああああああッ!!?」

 

瞬間、奴の体の至る所から沸き上がる煙と、ジュウゥというチキンを揚げた時の小気味の良い油の音が辺りに充満していく。

しかも着ているスーツに染み渡っていく所為で、油から逃げる事も出来ずに、痛みを誤魔化したいが為に地面を転がる。

そうする事で今までに受けたダメージの数々が再び蘇るという悪循環へと陥っていた。

体中に奔る激痛に悶える月村裕二の姿。

それを見たお蔭なのか、少しづつ周りに浮かぶ女性達の顔の悲しみや怒りが薄れていく。

だが、まだまだ血涙を流して恨み辛みを吐く人達の姿は消えない。

……テメェが苦しむ事で、彼女達の恨みが薄れるなら……それで少しでも償いが出来るなら良かったじゃねえか?

もう戻る事の無い彼女達の命を貪った代償を、その身で少しでも支払いやがれ。

 

「……『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』」

 

俺は『チョコレート・ディスコ』を解除し、『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の触手で奴の足を絡めとる。

そのまま奴を吊り上げ、付近の大木へ一振り。

 

「(ドグシャァッ!!)ぐげぇッ!?」

 

「……」

 

「(バゴォッ!!)ごはぁッ!?(ドゴンッ!!)おぐうぇッ!?」

 

バゴ、ズドン、と連続して月村裕二を叩きつける音が、辺りに木霊する。

地面や大木、突き出た岩にぶつけて肉や骨を叩く。

それを数度繰り返してから吊り上げると、奴は逆さまの状態でプラプラと空中で揺れながら、小さく呟いた。

 

「……こ……殺す……絶対……」

 

逆さに吊られているというのに、奴の目は俺を捉えて離さず、口からは呪詛が零れる。

……これだけ叩きのめしても、まるで反省の色無しか……なら、もっと嬲って欲しいって事だよな。

まだまだ生きの良さそうな月村祐二を掴んだまま、『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』は触手を伸ばして思いっ切り振るう。

すると、掴まれてる月村祐二もそのまま投げ飛ばされ、10メートル程先の大地に叩き伏せられる。

更にそれで終わらず、俺は『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の触手をパワー全開で引き戻させた。

 

「グッ……グギッ……」

 

痛みに呻き声をあげる月村祐二を、宙に身体が浮く程の速度で手繰り寄せながら、俺の傍に『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の本体を呼び寄せる。

俺の隣に現れた『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』は、両手の平を突き出した構えを取り、ドボドボと緑色に輝く液体を滴らせる。

 

 

 

……この先は、俺からの利子分だ……とっておきやがれッ!!

 

 

 

「エメラルド・スプラッシュッ!!」

 

ドバババババババババババババババババババババババババババババババババババババババッ!!!

 

法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の手から撃ち出される破壊のビジョン。

エメラルドに輝く拳より大きな宝石を高速で撃ち出すのが、このエメラルド・スプラッシュだ。

遠距離操作タイプのハイエロファントが持つ切り札にして、破壊力の低さをカバーする必殺技である。

触手で奴を引き寄せながらエメラルド・スプラッシュを浴びせるこのコンボからは逃げる事はできねえ。

 

「――が……」

 

「『スタープラチナ』ッ!!!」

 

『オラァッ!!』

 

飛来する宝石に身を撃ち抜かれながら俺に向かって引き寄せられる月村裕二の体。

既に引っ張られた力のみで俺に向かってくる奴を眺めながら、ハイエロファントを戻して『スタープラチナ』を呼び出す。

 

 

 

そして、俺は俺の定めた法律に則って――。

 

 

 

「――ブッ飛びなッ!!!」

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアッ!!!』

 

奴を、裁いた。

 

「ぷぎゃぴぃいいいいいいいいいいいいッ!!?」

 

何とも汚え悲鳴を上げながら、奴は木々をブチ抜いて飛んで行く。

やがて30メートル程吹き飛んだ場所にあった大岩にぶつかって、地面にべチャリと音を立てて沈む。

俺はそれを確認しつつゆったりとした足取りで野郎に近づいた。

 

「ぐ、ぴ……」

 

「……成る程。忍さんが言うだけあって、耐久性は不死身に近いってか。フン」

 

ピクピクと気持ち悪く痙攣する月村裕二を見ながら、俺は鼻を鳴らす。

これだけやっても死なねえってのは、正直驚いてるがな。

 

「定明ッ!!!」

 

と、呆れながら足元のナマモノを見下ろしていた俺の背後から、少しばかり緊迫した声が響く。

振り返ってそちらに視線を向けると、そこには何時ものメイド服に身を包んだイレインの姿があった。

右手に日本刀を持ち、左手にはあの電撃を生み出す鞭が備わっている。

イレインはロングスカートのメイド服を着てるとは思えない俊敏な動きで俺の側に走り寄ってきた。

 

「イレイン?お前どうやってここまで来たんだ?確かトンネルはまだ復旧してる途中だったんじゃ……」

 

「馬鹿ッ。そんなもん向こうに車置いて山を超えてきたに決まってんだろうがッ」

 

「おいおい……普通にとんでもねえ大きさの山だぞ?」

 

少しばかり驚きながら質問すると、イレインはさも当然という様に答える。

しかし、あの山を超えてきたってのを当たり前の様に答えるとは思わなかった。

さすがに最強の自動人形なんて呼ばれてるだけはあるって事だな。

そのスペックの高さに呆れる俺から視線を外して、イレインは鋭い眼光で足元の月村祐二を睨みつける。

 

「コイツが……月村祐二……なんだな?」

 

「あ?まぁ、そうだけどよ。お前忍さんから相手の顔くらい教えられてんだろ?ターゲットの顔も知らねえなんて、どんなヒットマンだよ」

 

何とも間抜けな発言をしたイレインに呆れた目を向けるが、何故かイレインから送られるのはジト目だ。

 

「お前の所為だっての。こんだけボッコボコに腫れてんのに顔なんて判別出来る訳無いだろ。寧ろこれで生きてる事実に引くわ」

 

俺に対して苦言を漏らしながら、イレインは瀕死の月村の髪の毛をムンズと掴んで俺の目の前にその顔を晒す。

見た目美女が平気な顔で瀕死の相手の髪の毛引っ掴んで顔を起こす方が、俺的にはドン引きだわ。

そんな事を思ってたら、イレインによって強引に引き起こされたクソ野郎の顔面ドアップが、俺の視界を覆い尽くす。

目の前に差し出された顔は確かに元の3~4倍は膨れ上がってて、誰かなんて判別は出来ない。

唇もタラコみたいに膨れてるし、目なんて青タンできてるし……ってか。

 

「うぉい。気色わりぃモン近づけんじゃねえ」

 

『ドラァッ!!』

 

「(ドゴォッ!!)げぷうッ!?」

 

近づけられた顔が余りにもNGだったので思わず『クレイジーダイヤモンド』で殴り飛ばしてしまった。

しかし、ここで俺が忘れてたのは、月村がイレインの手で引き起こされてる真っ最中だという事で……。

 

ブチブチッ!!

 

「あ」

 

「うわッ!?お前何て事しやがるッ!!アタシが掴んでるのに殴ったりするから、髪の毛がアタシの手に絡んで残っちまってるじゃねーかッ!!あぁーッ!!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いッ!!」

 

「あ~……悪い」

 

さすがに悪いと思ったので、手に残った毛を必死になって振り落とすイレインに謝る。

それ自体は俺が悪いというのは分かってるんだけど、早めに手を振るの止めた方が良いんじゃね?

さっきから鞭の付いた手を振り回してる所為で、足元の月村に振り回した鞭がビシビシ当たってるし。

傍から見たら女王様と奴隷……いや、ドマゾな主人とサドなメイドの図にしか見えん。

まぁ痛い思いしてんのはクソ野郎だから別に良いか。

さっきまでのシリアスな空気が消えて、何故かSMプレイ真っ只中の図から目を逸らし、俺は辺りを見回す。

あれだけ辺りを漂っていた筈の幽霊達は、今や何処にも見当たらない。

それが、もう殺人は起きない事で安心して成仏したのか、それともイレインが現れたから居なくなったのかは定かじゃねえ。

……でも……安心して成仏して欲しいと願うより、俺には出来る事は無い。

そんな風に考えていた俺だが、そろそろ戻らないとマズイだろう。

俺が一人で屋敷から抜け出してるのがばれたら面倒な事になる。

 

「イレイン。俺はそろそろ戻らねぇとマズイんだけどよ。とりあえずコイツはどうする?」

 

「ふぅ……あぁ。コイツは夜の一族の会議に掛けるから、アタシが連れて帰るつもりだったんだけど……」

 

手に残った毛を全部落として一息ついていたイレインに問い掛けると、彼女も真面目な顔で俺に視線を合わせてきた。

俺が指差すのは、最早ボロ雑巾って言えるほどに全身ズタボロな月村祐二。

しかし何故か言い淀んでいたのでどうしたのか聞いてみると、ここに来る時に置いてきた車に積もうにも、何も持って来て無いらしい。

 

「トンネルが崩落したのは、お前からメールで聞いた忍が教えてくれたんだけど、さすがに山を超えるなら急がないとって思って、コイツを放り込むつもりだったアタッシュケースも置いてきちまった」

 

「マジかよ……しゃーねえ。俺がコイツを月村家に運ぶか」

 

「え?いや、別にそこまでしてくんなくても、暫く身を潜めてトンネルが復旧したら車まで引き摺って行くぞ?」

 

「確かに普段ならそれでOKだって俺も思うけどよ……今日ばかりはそうもいかねえんだ……実は――」

 

首を傾げるイレインに、俺はこの先の館で殺人事件が起きた事を説明する。

俺は忍さんには、過去に吸血鬼が犯人だと騒がれてる事件があった森の近くの屋敷に泊まるとしか説明してなかった。

だからイレインも近くの館で別の殺人が起こってるという事は知らないって事だ。

案の定説明すると、イレインはとても驚いた顔になる。

 

「だから、トンネルの復旧が完了すると同時に警察がこの辺りで捜査をすると思う。さすがにその状況でイレインがこいつを車に積んで海鳴に行くのは難しい筈だ」

 

「そ、そうだったのか……まぁ、アタシと初めて戦った時も堂々としてたし、別に大丈夫だよな」

 

「あ?だから警察が……って……もしかしてお前?」

 

「ッ!?な、何でもないよッ!!べ、別にアタシは……」

 

「俺の心配してくれてたのか?」

 

「だ、だから違うっつってんだろッ!?あ、あたしは、ほら、その……こ、この最強の自動人形たるアタシに余裕で勝っといて、只の殺人犯程度に怯えてたら許さないってだけだよッ!!誰がお前みたいな奴の心配なんてするかってのッ!!…………ま、まぁちょびっとは、その……アレ、だったけど」

 

もしかしてと思って聞いてみただけなんだが、当のイレインは俺の言葉に耳まで真っ赤にして怒鳴り散らしてきやがった。

何やら支離滅裂な言い訳をした後でプイッとそっぽを向いてしまったが、それでも心配はしてくれてたんだろう。

それがまぁ、多少捻くれてるとはいえちゃんと伝わったから、俺はちゃんと礼を言う。

 

「そっか……ありがとな、イレイン」

 

「……フン……何に対しての礼だか……で?結局コイツはどうするんだい?」

 

そっぽを向きながら鼻を鳴らすイレインだったが、時間が無い事も承知してるので、再び話を戻す。

俺はその事については既に考えは付いているのだが。

 

「あぁ。まずは『天国の扉(へブンズ・ドアー)』で『誰にも攻撃、吸血は出来ない』、『身体能力80%封印』、『異能は使えない』、『月村家の人間の命令には逆らえない』を書き込んで……」

 

言葉にしてイレインに説明しながら、俺は対人でお馴染みとなっている『天国の扉(へブンズ・ドアー)』を使用。

これだけ書き込めば、もうコイツは誰に対しても危害を加えられなくなる。

俺は書き漏らしが無い事を確認して、『天国の扉(へブンズ・ドアー)』を解除し、『クレイジーダイヤモンド』を呼ぶ。

そのまま月村祐二に『クレイジーダイヤモンド』の能力を使用して、身体の傷を治していくが……。

 

「100%は治さず、所々を歪ませて治す。そうすりゃあ逃げようとする事も出来ねえだろ」

 

「……なるほどなぁ。確かに、触ってみると骨の継ぎ目がズレてたり、神経が圧迫されて無理に負荷を掛けて動かすと激痛が奔る様に治されてる。これなら普通に動くだけで精一杯だろうね」

 

「あぁ、これなら最悪、忍さん一人でも簡単に取り抑えられるだろうぜ」

 

イレインが横で感心した様に月村祐二の身体の内部を診断してるが、触っただけでそこまで見抜ける方が凄いと思う。

まぁ、これならトイレとかの日常生活には差して困らねえだろう。

そうじゃねえと忍さん達がこの屑の世話をする事になっちまうし、そうなったら今度こそこいつは恭也さん辺りに切り刻まれる事になるだろーな。

 

「良し。後は……ちょっと場所移動するぜ。ここじゃ目的のスタンドが使えねえからよ」

 

「ん。分かった。アンタに任せるよ」

 

そして、俺はこのクソ野郎を月村家に運ぶ為にトンネルのある方までクソ野郎を担いだイレインと共に向かう。

館の門番の視界の範囲は、出た時と同じ様に『アクトン・ベイビー』で俺達全員を透明にして素通り。

だが足音は消せないので静かに移動しつつ、目的の『電話ボックス』の前に来た。

次にイレインに携帯で忍さんに電話してもらい、今から俺のスタンドで月村祐二を送るから、その準備をして欲しいと頼んでもらう。

さすがに事前連絡無しだと、向こうが混乱しちまうからだ。

イレインが忍さんと電話している間に、俺は電話ボックスに繋がってる電線をスタンドで切断し、準備を整える。

 

「おう、じゃあ始めるぞ、忍……定明。向こうの準備が出来たってよ、やってくれ」

 

「あいよ……行け、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』」

 

バチチチチチッ!!!

 

「う、うぐ……」

 

未だに気絶から回復しない月村祐二を、電気のスタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』で掴んで、奴も電気に変える。

『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は物質や人間すらも電気に変換して、電線の中に引きずり込む事が可能だ。

この能力を使って奴を電気に変換し、海鳴の月村家の電話線ポートを経由して、向こうに送り出す。

これなら誰にもバレる事は無いし、イレインも安全に海鳴に帰れるな。

やがて、奴を連れ込んで数分ぐらい経ち、俺は『レッド・ホット・チリ・ペッパー』が月村家に到着したのを感じ取った。

そのまま電話線から月村祐二を元の姿に戻して吐き出し、チリ・ペッパーをここで呼び戻す。

そういえばイレインはトンネル手前の休憩所(自販機が沢山並んだセルフサービスエリア)に車を置いて来たって話だったな。

このままイレインもそこに送り届けてやるか。

 

「……ん、そうか……あぁ分かった。伝えておくよ……あぁ、それじゃ(PI)おい定明。忍から伝言だ」

 

「ん?忍さん、何だって?」

 

「無事に奴は向こうに着いたそうだ。それと今日は時間が無いから、また海鳴に帰って来た時に改めてお礼をするってよ。だから楽しみにしてて欲しいってさ」

 

忍さんからの伝言を伝えてくれたイレインはそう締め括ると、何故かニヤニヤした笑みを浮かべ始める。

……こういう話って、大概は俺にとって面倒くせー事になるんだよな。

理屈じゃなく第六感が訴える面倒事の警報。

もはやそれに対して追求するのも面倒なので、俺は適当に相槌を打ってイレインをトンネルの向こうに送り届ける。

破壊した電線を治せば、これで今回の事件は完全に終了だ。

向こうの事件もコナンと服部さんが終わらせてるだろうし……もう危険は無いだろう。

全部が終わって気が楽になり、俺は背伸びをしながら大きく深呼吸をする。

 

「スゥ……ハァ~……さて、帰って寝るか……もう二度と、こんな面倒事はご免被るぜ」

 

張り詰めさせてた神経を緩めて頭をボリボリ掻きながら、俺は透明になりながら部屋を目指して静かに歩く。

もう眠くて眠くて仕方無えぜ……。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

定明が消えて、後に残されたのは静寂と電話ボックスの小さな灯り。

 

 

 

そして――。

 

 

 

――ありがとう。

 

 

 

透明になって夜闇に消えた定明に手を振る、半透明の少女達の幽霊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――狂気の吸血鬼、月村裕二。

 

 

 

体中を継ぎ接ぎにされた上に、能力を封じられ――。

 

 

 

   () () () () 

 

 

 





やっぱり中々文章が煮詰まりませんな……作中で説明しなかったので、ここで説明をば。


『チョコレート・ディスコ』

第7部、スティール・ボール・ランにてディ・ス・コが使用していたスタンド。

X、Y座標を指定することで物質や同じものをその座標位置へ落下させる事ができるスタンド。
腕に座標ブロックのような装置が付いており、何かを放り投げた瞬間に腕の装置で座標を指定すればその座標位置に物が瞬間移動し落下することになる。
相手の攻撃でも射程距離内であればスタンドの特性で跳ね返す事が可能だが、本体からの攻撃方法自体は武器や道具を用いるしかない。
自身の足元から伸ばすことのできる座標内が射程距離であるが、自身の肉体表面上にも座標を移動させる事ができる為、ある程度応用がきくものと思われる。
作中で相対したジャイロが評す通り「かなり無敵」な能力。


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ファミレス料理を食べに行こ(ry



m(__)m



……無双7Empiresって……面白いですよね?(言い訳)

だからエディット武将で争覇モードやりまくっても仕方無いですよね?

それと会社の仕事が忙しくて……友達からの依頼も多くて……。

オーディオとかLEDとかは良いけど……全塗装とか勘弁してよ。



そしてお待たせしました!!

実は結構前に(遅くなって誠にすいません!!)リスナーの方から挿絵を頂きました!!

ガルウイング様!!カッコイイ定明君を有難うございます!!







 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

あの忌々しい吸血鬼事件から二日たった朝。

俺こと城戸定明は何時も通りに目を覚まして、帰って来た探偵事務所のリビングに赴く。

 

「おはよーござっす」

 

「あっ、おはようさん、定明君」

 

「朝ご飯もうすぐ出来るから、待っててね」

 

「ういーっす」

 

そして、既にキッチンで夕食の準備をしていた蘭さんと和葉さんに挨拶をしながら、俺は所定の位置に座ってテレビを点ける。

朝から笑顔を浮かべたお天気お姉さんが、今日の天気を予報する所だった。

今日の米花町は……今日も暑い夏晴れになるでしょう、か。まぁ、今日は家でゆーっくりする予定だから別に良いけど。

そんな事を考えながらあくびをする俺に、ご飯を取りに来てと蘭さん達が呼びかけてきたので、俺はどっこいしょと立ち上がるのだった。

 

 

 

あのクソ野郎こと月村祐二の処刑を終えた次の日、俺達は伯父さんの迎えに来た車に乗って、寅倉家を後にした。

バレずに部屋に帰って寝る事が出来たのは良かったけど、次の日の朝に知った今回の事件の全容は思い出すだけでも腹が立つ。

 

 

 

伯父さんと大滝警部、そして服部さんの車内での話によると、あの連続殺人の犯人は羽川だったらしい。

じゃああの旦那さんは何だったのかという話だが、そこがこの事件の難関であり、そして根幹の話に繋がる。

この殺人事件の犯行は羽川によるものなのだが、なんとその計画を練ったのは他ならぬあの寅倉拍弥さんだった。

しかも館内の犯行に使われたマジックミラーや棺桶の仕掛け、果てには棺桶の床下から秘密の抜け穴に至るまでの仕掛けも、全て旦那さんが用意していた。

その大掛かりな仕掛けと綿密な殺人計画の全ては羽川の為……ではなく、あのメイドのひかるさんの母親の為にあった。

何年か前に死んだ旦那さんの元婚約者であるひかるさんの母親は不幸な事故死だとひかるさんは話していたが、実はそうじゃない。

 

ひかるさんの母親である桧原陽子さんは、遺産の取り分を自分の物にする為に邪魔だからと殺されたのである。

 

その陽子さんを殺した犯人達というのが、2年前に館の傍の屋敷で逆さに縛られた挙句、血を抜かれて殺されていたメイドの清水。

そして今回殺された麻信と守代、更にその二人を殺した羽川達だったらしい。

もうそれ聞いた時点で殺されたあの二人は自業自得のクソ以下の連中と、俺の中では格下げしてる。

寧ろ殺されて当然だっつうの。

愛する女性を殺された理由が、自分の遺産に群がる親族の仕業と独自に突き止めた旦那さんは――復讐の鬼と化した。

 

その復讐の為に旦那さんはまず清水を殺し、残りの3人を今回の殺人計画のターゲットにしたって訳だ。

 

しかし今回の殺人計画には、実は大きな誤算が生じている。

何故、旦那さんではなくターゲットの羽川が殺人を犯したのか?

それは、旦那さんの余命が実は幾許も無かった事と……ひかるさんが養女ではなく、旦那さんの本当の娘だという事に関係している。

羽川が持っていた旦那さんの作った殺人計画書には、冒頭が『我が娘へ』と始まり、この殺人計画を企てた理由が記されていた。

 

つまり、今回の事件で本当に犯人として殺人を犯す役割を持っていたのはひかるさんなのである。

 

でも、ひかるさんはそんな事は全く知らず、何故羽川がそれを知っていたのか?

それは殺人決行の日、メールで旦那さんから呼び出しを受けていたひかるさんがそのメールを入浴中に受け取った所為で直ぐには受け取れなかった事。

そしてそのメールを羽川が盗み見て、その計画の存在を知ってしまった事。

更に羽川がメールを見た所為で既読状態になっていたメールにひかるさんが昼過ぎに気付いたものの、南蛮部屋の場所が分からず、『誰にも気付かれない様に』と書かれていた注意の所為で誰かに部屋の場所を聞く事が出来ずにすっぽかしてしまった為である。

そういった要因が重なって、殺人犯の役割は事実を知る羽川に成り変わったのだった。

しかし幾らひかるさんが来ないからと言って、憎き復讐相手にそんな計画殺人を託す筈が無い。

普通ならそうだった。

 

しかしこの時、既に旦那さん……寅倉拍弥はギロチンで自分の『首を切断していた』のである。

 

何でそんなイカれた真似をしたのかというと、旦那さんは先に言った通り、末期の癌だったからだ。

だから死に掛けの自分の首を利用して、犯行を旦那さんの仕業に見せかけてひかるさんから目を逸らさせるというトリックを作った。

つまり蘭さんと和葉さんが棺桶の中で見た旦那さんも、俺達が食堂の窓から見た旦那さんも首だけだったっていう話だ。

ちなみに棺桶についてた血が旦那さんと違ったのは、末期の癌になると血液型が変わる事があるらしく、その所為らしい。

旦那さんは自分の命すらも道具にして、ひかるさんに亡き母親の復讐を託したのである。

これを聞いて、俺と小五郎の伯父さんは怒りと呆れを含んだ苦い顔になったのを忘れない。

実の娘に殺人なんて託してんじゃねえよって話だ。

ともあれ、そういった幾つもの事情を書いた計画書にはそれを読んだコナンによると、最後にこう記されていたらしい。

 

『お前が全てを許すというなら、私の体に巣くう復讐の炎と共にこの書を消してくれ』

 

ひかるさんは恐らくそれを選んだと思うと言うコナンの思いには俺も頷ける。

たった1日しか触れ合ってねぇけど……ひかるさんは絶対に殺人なんかしなかっただろうさ。

 

 

 

しかし、それはひかるさんが殺人計画書を受け取ったらというIFの話。

 

 

 

現実にはその殺人計画書を受け取ったのは羽川であり、実際に殺人は起きてしまった。

何故、羽川が麻信はともかく恋人の守代まで殺したのか?

それは遺産の取り分を増やす事と、羽川を今でも狙っていた実那さんの存在がある。

羽川は遺産を直接相続する事は出来ないが、遺産相続権のある守代と実那には好かれていた。

なので、まず麻信を殺害して実那の遺産の取り分を増やし、実那とヨリが戻るのを見越して年寄りである守代をも殺害したのである。

 

そして最後の仕上げ。

 

それは手に入れた殺人計画書を持って、本来なら羽川を南蛮部屋で殺す為のトリックを利用し、ひかるさんに罪を擦り付けて殺す事だった。

 

全ての殺人が終わってから、ひかるさん宛の計画書を殺したひかるさんの服に入れて、正当防衛を訴えればそれで終わり。

証拠はそのままその計画書となり、羽川は傷心した様子を実那さんに見せてヨリを戻し、大金と女を手に入れる。

全てはそういう……何とも胸糞悪くて、羽川を100度殺しても気が晴れなさそうな筋書きだった。

まぁそれも全ては服部さんとコナンの活躍によって水泡と帰した訳だがな。

 

それともう一つ――月村祐二の殺した女性達の遺体も、警察の手によって発見されたそうだ。

 

昨日のニュースで大きく取り上げられてたので知ったのだが、その遺体の全ては親族の元に戻り、ちゃんとお墓に入れられる事となる。

服部さんやコナンはそのニュースを見て驚愕し、蘭さんと和葉さんは近くにそんな場所があった事で顔色を真っ青にしてた。

どれもこれもが猟奇的な死体で乱暴された跡も発見されたが肝心の犯人が居ない事もあって、警察は暫くあの辺り一帯を厳重警戒するらしい。

だが、犯人が誰かというのは世間に知れ渡る事は無いだろう。

奴は夜の一族の裁きに掛けられて、その後どうなるかは俺も知らないしどうでも良いからな。

 

「あれ?定明君、どうしたの?」

 

「なんや、えらい難しい顔してたで?」

 

と、二日前の事件を振り返ってる間に随分と変な顔してたらしい。

和葉さんと蘭さんの声に顔を上げると、何時の間にか食卓に座っていたコナンや服部さん、そして伯父さんも「どうしたんだ?」って顔をしていた。

おっとっと。ちょっと考え込み過ぎたか。

 

「何でも無いッスよ。今日はどんな風にダラけようかって考えてただけッス」

 

「えぇー?……小学3年生が難しい顔で考える事や無いやろ……」

 

「宿題は終わってるし、絵も昨日で色を塗り終えて完成してるから良いじゃないっすか」

 

雰囲気を変える為に普段の様な話をすると、和葉さんから呆れられた。

他の皆も苦笑いしてたり呆れてたり、話が分かるなぁって顔を浮かべてたりと様々。

ちなみに後者は伯父さんのみである。

 

「もうっ。駄目だよ定明君。今日は天気も良いってお天気お姉さんも言ってたんだから、外で遊ばないと」

 

「天気が良くて暑い日にゃ、エアコンの効いた部屋でコーラ片手に柿ピーわさび味と映画or読書が俺のジャスティスなので」

 

「フンッ。柿ピーのチョイスは中々だが、やっぱりまだまだお子ちゃまだなーオメェは。そこは若いチャンネーのグラビア雑誌片手に泡の出る麦茶と柿ピーできゅーっと「オ父サン?」じょ、冗談だってばぁ蘭ちゃんッ!!そんなに怒るなよぅッ!!」

 

「アハハ……(この伯父にしてこの甥っ子あり、やな)」

 

((何を子供に教えてんだか……))

 

俺の話に便乗した伯父さんをギロリと睨み付けながら脅す蘭さん。

その脅しが余程怖かったらしく、伯父さんはササッと距離を取って新聞で身を隠す。

怒る蘭さんの様子に和葉さんは苦笑し、服部さんやコナンはブルリと震えていた。

やれやれ、おかんスキルの高い蘭さんにこの手の話題はNGだったな。

 

「まぁ、無理に運動しなさいなんて言わないけど、あんまりぐうたらしちゃ駄目よ?」

 

「うぃーっす。まぁ程ほどに運動するッス」

 

「そこは普通、程々にだらけますの間違いじゃないの?」

 

「コナン。俺の人生は6割のだらけと4割のちょいワルって生まれた時から決まってんだよ」

 

「微妙な割合の人生やのぉ……っちゅーか真面目の割合無いやないかい。子供が夏休みに昼間っから柿ピーてどんなチョイスやねん」

 

「そういう服部さんと和葉さんはどうなんスか?折角の夏休みに二人で旅行に来といて、友人の家に居るだけで済ますおつもりで?」

 

とりあえず話の矛先をズラそうと考えて、俺の言葉に微妙な顔をしてた服部さん達に質問する。

すると二人はキョトンとした顔になった後で少し考える様に唸り始めた。

 

「んー……まぁ、俺はこの前の事件で頭使こうて疲れとるけど、坊主の言う通りあんまり長居する訳にもいかんからのぉ……和葉、先に土産だけでも買うておくか?」

 

「そやね。それやったら今日はお土産買いに行くのがメインっちゅー事で。頼まれとるお土産もあるけど、蘭ちゃんも時間空いとったらどんなお土産がええか教えてぇな」

 

「うん、良いよ。じゃあコナン君も一緒に行く?」

 

「あー、ごめん。僕、ハカセの所に行くって約束してるから……」

 

「せやったら俺等もついでに挨拶しに行ったらええがな。一緒に行こうなーコナン君(へっ。一人だけ女達の買い物に付き合わされるのを逃げようったって、そうはいかんでぇ工藤)」

 

「あ、あー……じ、じゃあ、ハカセの方は断っておくよ。ハカセも今日じゃ無くても良いって言ってたし……(ニャロー……ホントは約束なんてしてねぇから押しかける訳にもいかなくなっちまったぞ……女の買い物って長いから苦手なのによぉ)」

 

と、あれよあれよという間に皆さんは今日の予定が決まったらしい。

もう既に何処のお土産が良いとかこのお土産は何処にあるのかという話になってる。

うんうん、これなら俺の事は放置で家でのんべんだらりと出来るってなモンだぜ。

朝飯を食べ終えた俺は食器を流し台に乗せてから再びテーブルの側に座り、肩に手を当てて首を左右に捻る。

……っあー……コリがほぐれて気持ち良いぜ……。

 

「それで……あっ……」

 

「……ん?……どしたんスか、蘭さん?」

 

と、首を回してる最中にちょっと驚いた風に蘭さんは声を漏らして、視線を俺に向けてくる。

俺は特に何かをしていた訳じゃないのでその驚いた様子の意味が判らず、首を回した体勢で止まってしまう。

更に他の面々も蘭さんの様子が気になったのか、歓談を止めて俺と蘭さんの間を行き来していた。

 

「……やっぱり、まだ『あったんだね』……『ソレ』」

 

「は?ソレ?」

 

「??何があったの、蘭ねーちゃん?」

 

そして、蘭さんの口から漏れた懐かしそうな声音に、俺は増々疑問が膨らむ。

それって何だ?俺は只首を回してただけで……あっ、もしかして――。

 

「んん?……おお?ひょっとして蘭の言ってるのって、あの『アザ』の事か?」

 

「うん。あの綺麗な『星』のアザ」

 

「あぁ、やっぱりそれッスか」

 

蘭さんの言わんとしてた事に先に気付いた小五郎さんの言葉に、俺はやっぱりかと思う。

そうだよな、この体勢なら見える様になるんだっけ。

やっと蘭さんの考えてた事に合点がいったぜ。

 

「「「星のアザ?」」」

 

しかし他の3人はそれが何の事か分からないらしく、揃って首を傾げている。

まぁそれが普通の反応だろうな。

 

「ほら、これッスよ。俺の左の首の横から後ろぐらいの所に見えねえッスか?」

 

他の3人にも見える様に、俺は服の襟を少しズラしつつ左首の辺りを露出させて首を反らす。

その位置を3人に見える様に差し出すと、漸く俺達の言ってる事が理解出来たみたいだ。

皆揃って不思議そうな顔をしてるし。

 

「うわぁ……これって、ホンマにアザなん?……こんな不思議なん初めて見たわ……」

 

「ホンマや……綺麗に星の形になっとる。こら珍しいな」

 

「へぇー……(凄えな、これ……本当に星の形してるアザだぞ)」

 

「そのアザは定明が生まれた時からあるって雪絵から聞いてたんだが、懐かしいなぁ……あん時は、『私の可愛い定明ちゃん、カッコイイ星のアザがあるんだよ~ッ!!』って、雪絵が大騒ぎしてたしよぉ」

 

俺の首筋に刻まれた『星形のアザ』を見て、3人はそれぞれ感嘆の表情を浮かべている。

っというか小五郎の伯父さん、その話は詳しく聞きたい様なそうでも無いような……。

 

まぁ兎に角、俺にはジョースター家の血統を現す星形のアザが生まれつきあるのだ。

 

これが神様からのサプライズなのかは分からねえが、俺はこのアザを凄く気に入ってる。

しかし今までは温泉やプールなんかの人目に付く場所では『シンデレラ』の能力を使って普通の皮膚にカモフラージュしていた。

今思えば、あの時の俺は怖かったんだろうな……心とか思考じゃなくて、無意識の内に、ジョースター家の偉大な『証』を背負うのが。

でも、母ちゃんが俺に『愛する息子だ』という言葉と優しい抱擁を与えてくれた時から、俺はこのアザを隠すのを止めた。

俺は俺、城戸定明として、この世に生を受けた人間として、自分らしく生きると、このアザに誓ったからだ。

何よりもこの世に産んでくれた母ちゃんと父ちゃんのくれた体を隠すなんて、心の底から親不孝者だと思い直したよ。

 

「初めて見た時はすっごく驚いたもん。えっと……」

 

全員に星のアザを見せたので服を正していると、蘭さんが戸棚から一冊のアルバムを取り出してめくり始めた。

どうやら昔の写真を探してるみてえだな。

 

「確か、この辺りに……あっ、あったあった。ほら、この写真」

 

と、目当ての写真を見つけた蘭さんが俺達に見える様にアルバムを差し出す。

俺も含めた全員で覗き込むと、そこには赤ん坊の頃の俺を今の俺と同じ年くらいの蘭さんが抱っこしてる写真があった。

昔の蘭さんに両手で抱っこされてる赤ん坊の首筋には、確かに俺と同じ星形のアザがある。

 

「この頃の定明君と会ったのが最後だから、最初会った時は分からなかったけどね」

 

「そうなんだ……(確かに写真の赤ん坊にも星のアザがあるし、あんなアザは刺青でも無い限り、人工的には作れない筈だ。この赤ん坊が蘭の言う様に定明なら、コイツの実年齢は本当に9才……つまり、俺と違ってアポトキシン4869で小さくなった別の人間じゃないって事になる……じゃあ、コイツが死体を見た時のあの冷静さは天然モノって事かよ)」

 

何やら俺の赤ん坊時代の写真を見ながら難しい顔をするコナン。

大方、自分の立てた予測と違うから考えこんでんだろうな。

多分コナンは灰原と二人で、俺がアポトキシン4869を飲んだ別人じゃないかと考えてたんだろう。

しかし俺の実年齢が嘘じゃないと示す写真が出てきたもんだから、宛が外れたんで考え直してるのかね?

まぁ兎に角、俺と伯父さん以外の面々は出掛ける事が決定したので、俺は悠々自適と家に居られるってなもんだ。

 

「あっ、そうだ。定明君も一緒に行かない?定明君もお土産、買っておかないといけないんでしょ?」

 

「……そりゃまた次回って事で」

 

「えー?僕も一緒に来て欲しいなー」

 

くそっ。薮蛇だぜ……前に土産買って帰るなんて話すんじゃ無かったな。

何としても俺を外に出したいのか、蘭さんもコナンもしつこく食い下がる。

更にそこへ和葉さんと服部さんまでもが援護を出し始めた。

 

「まーまーええやんけ。俺等ももう少ししたら帰ってまうんやし、こういう時くらい親睦を深めようやないか」

 

「そーや。袖振りあうんも他生の縁っていうやん?また定明君と会えるんなんて何時になるかわからへんし、一緒にお出かけしようで。な?」

 

「そうそう。和葉ちゃんの言う通りだよ」

 

「……何とも人情に篤いお言葉で。さすが関西人」

 

「「いやいや~」」

 

褒めてねっつの。

コントの様に頭の後ろに手を回して照れる二人から視線を外して、俺は窓から外を見る。

外は夏らしく途轍もないカンカン日照り……暑そうだなぁ。

結局、効率とかよりも情に訴えてくる二人に丸め籠められて、俺はこのクソ暑い日に外出する事となったのでした。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ごめんね、服部君。買い物袋持たせちゃって」

 

「あぁ、構へん構へんて。何日もタダで泊めさせてもらったんやし、これぐらいはせんとバチが当たるっちゅうもんや」

 

日中の歩道を俺、コナン、蘭さん、服部さんの四人で歩く中、この中で一番多く買い物袋を掲げた服部さんは朗らかに笑う。

蘭さんの謝る言葉を聞きながら、大丈夫だと言う様にヒョイと買い物袋を持ち上げる。

もう直ぐ昼過ぎになるという時間帯に、俺達は土産探しを急遽中止して探偵事務所に戻っていた。

その理由が、今俺達が持ってるお土産の入った袋以外のスーパーの袋だ。

 

「まさか食材が殆ど残ってなかったなんて思わなかったね」

 

「せやなぁ。まさかやで」

 

「うぅ。忘れててごめんね……」

 

「え?あっ、いやそういう訳じゃ……」

 

服部さんとコナンの台詞を聞いてしょんぼりと項垂れる蘭さんに、コナンが慌てながらも弁解を始める。

俺はそんな光景を見ながら、首から下げたお土産袋と両手の買い物袋を眺めて溜息一つ。

……何でこんな事になってんだかなぁ……やれやれ。

土産探しをしていた筈の俺達が急いで帰宅してるのは、土産探し中に蘭さんの携帯に掛かってきた1本の電話が発端である。

連絡してきたのは伯父さんで『冷蔵庫の食材が無くなりかけてるから買ってから帰ってきてくれ』という事だった。

しかも伯父さんは炊事が出来ないので、昼はアポロで済まそうと考えていたらしいのだが、運悪く本日は臨時休業になってるらしい。

チラッとそんな看板を見たとコナンと服部さんも同意していた。

それでまぁ、飯が無くて腹を空かしてるであろう伯父さんの為に、俺達は買い物して事務所に帰ってる訳である。

 

「それに、和葉ちゃんにも悪い事しちゃったし……」

 

「一人で土産買いに行っちまいましたしね。確か、ファミレスの限定カレーでしたっけ?」

 

まだちょっと落ち込み気味な蘭さんの言葉を聞きながら、俺はここに居ない和葉さんの行き先を思い出す。

伯父さんの電話で一度探偵事務所に戻る事になった俺達だが、ここで和葉さんがストップを掛けたのだ。

理由は和葉さんの母親に頼まれた、東京のファミレス限定のカレーを売ってるファミレスが直ぐ近くにあったから。

直ぐ傍っつってもちょっと歩く場所なので、和葉さんはそれを買う為に一人で向かったのだ。

俺も服部さんもあらかた土産は買ったので、コナンを含めた俺達は荷物持ち要員として蘭さんについて戻る事になった訳である。

 

「まぁ、またあっちの方に戻る用事もあらへんし、あん時に別れて買いに行ったんは正解やで?一々事務所に戻ってからまた向かうより、別々になった方が手間にならんしな。坊主もそう思うやろ?」

 

「う、うん。だから蘭ねーちゃんも元気出して。ね?」

 

「……そうだね。じゃあお父さんの食事もパパッと作って、早く和葉ちゃんと合流しよっか」

 

「うんッ!!定明にーちゃんもそうしようよ」

 

「あー?俺はもう土産は買い終えたし……でも、その凄くうめぇカレーってのにはちょっと気になるな……服部さんはどうするんスか?」

 

「ん?後は和葉がカレー買うてきたら、その辺ぶらっとしよう思うてるぐらいやなぁ」

 

どうやら俺はまだ部屋でゴロゴロ出来ないらしい。

っていうか蘭さんとコナンが間違いなく妨害しようとしてるよな、これ。

まぁ服部さんも和葉さんが戻って来てからの予定は決めて無いみたいだし、この話はまた後で――。

 

「誰が華麗にハットトリックを決めたって?」

 

と思っていたら、いきなり後ろから何とも的外れな事を言う人物の声が聞こえてきたではないか。

しかもその声は俺達に向けられているみたいなので、俺達は背後へと振り返る。

 

「あっ。世良さんッ!!」

 

「やっ。久しぶり」

 

そして、前と同じくボーイッシュな格好でニカッと笑う世良真純さんの姿を目にしたのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「えッ!?あんた女やったんかッ!?」

 

あの後、とりあえず立ち話もアレなのでという蘭さんの提案に従って、俺達は探偵事務所に戻っている。

しかし伯父さんはタバコを買いに出てしまっていたので、帰ってくるまで待っている所だ。

先ほど会った世良さんも引き連れてなのだが、服部さんと世良さんはどうやら初対面らしく、お互いに挨拶を交わしていた。

そして挨拶を交わして世良さんの性別が女だと分かった時のリアクションがコレである。

正直、失礼以外の何物でもねえな。

服部さんの物言いに少し呆れてると、服部さんは目を細めながら世良さんのある一点を凝視していた。

 

「にしてはぁ……乳がちょーっとさみしないか?」

 

「そ、それはっ、これからバーンとおっきくなる予定さッ!!」

 

「あ、あはは……」

 

訂正、失礼通り越してアウトだよ。

女と分かってんのに真正面から何て事言い出すんだこの色黒は。

 

「とりあえず後で和葉さんに報告しとくか。服部さんがセクハラしてました、と」

 

「ちょッ!?ちょぉ待てぇッ!!幾ら何でも洒落になってへんぞコラッ!!」

 

「えっと……女の人に乳が小せぇと真っ正面から言い出した挙句、隣に立ってた蘭さんと比べてましたで良いか」

 

「えぇッ!?」

 

「こ、こらぁッ!?それホンマに冗談じゃ済まんから止めよッ!!な?な?」

 

何やらガヤガヤと怒鳴ってる色黒を放置しつつ、俺明後日の方を見やる。

さすがに今のセクハラは見逃したらアウトだろ?

コナンも、いや工藤新一も蘭さんが見られてたと気付いてかなり目が怖くなってるし。

脅迫材料?いやいや俺は日々の日記を付けてるだけですが何か?

そんな俺達のやりとりを見ていた世良さんが苦笑いしながらやんわりと会話に混ざる。

 

「あ、あはは。ぼ、僕は気にしてないから、その辺で許してあげなよ」

 

「えぇ事言うたッ!!姉ちゃんえぇ事言うたでッ!!どこぞの心の狭い女とはちゃうわホンマッ!!」

 

「え?許すも許さねえも、俺は別に世良さんの為にやってる訳じゃないッスよ?最近ちょっとばかし懐が寂しくて……」

 

(((強請りだッ!?強請る気満々だこの子/コイツッ!?)))

 

苦笑いしながら許すとか見当違いの事言ってる世良さんに、俺は「何言ってんの?」という表情で返す。

それを聞いてポカンとしていたが、そのまま続けて俺が出した言葉に驚愕。

蘭さんやコナンと同じ様な顔になっていた。

 

「こ、この……ッ!?(お、落ち着けッ!!落ち着くんや俺ッ!!ここで機嫌損ねたら、和葉のボケが要らん誤解をして、その後はもぉ……怖ッ)よ、よーし。100円やるからもう心に閉まっとこうなー坊主」

 

「天は人の上に人をつくらずって知ってます?」

 

「諭吉か?諭吉出せ言うとんのかッ!?立派な脅迫やぞそれッ!!」

 

「服部さんの命の重さは、1.02グラムの紙きれ一枚以下っすか……」

 

「リアルに恐ろしい事言うなやッ!?」

 

「で?服部さんの命。買います?捨てます?それとも売ります?」

 

「……坊主。将来は立派な借金取りになれんで」

 

「まぁ、冗談っすけどね?俺は言いませんよ」

 

と、憔悴しきった表情で財布を取り出そうとした服部さんにアッサリと告げて、俺はソファーに腰掛ける。

いきなり今までの遣り取りをブッた斬った俺に、皆のポカンとした表情が集中するが――。

 

「――な――なんやそれぇえッ!!こないに心臓に悪い冗談があって堪るかぁッ!!」

 

「口は災いの元。良い勉強になったじゃないッスか?」

 

「授業料は果てしのぉ高かったけどなッ!?10年は寿命が縮んだわボケッ!!」

 

一生止まるよりはずっとマシだろ?

ゼーゼー言いながら睨んでくる服部さんの視線から目を外して、俺はコナンに意味ありげな視線を送る。

それに気付いて俺と視線を合わせたコナンに、俺はニヤリと笑って直ぐに視線を外す。

そうすると、今度は「ふーむ」とか唸りながら俺の腰辺りに視線を向けていた世良さんが視界に入った。

視線を辿ってみると、どうやら俺の鉄球が気にかかるっぽい。

 

「所で、服部君だっけ?君はもう見たのかい?彼の不思議な鉄球の回転を?」

 

「ハァ、ハァ……ん?あ、あぁ。いっぺん見せてもろたけど……さっぱりやな。どうやってあんな回転を起こしとるのか、とっかかりすら分からへん」

 

「そうかぁ。コナン君もかい?」

 

「うん。何回も見せてもらったけど、さっぱり分からなくて……」

 

「うーん。やっぱり、君達でも分からないか……そういえば、例の工藤君はどうなんだ?」

 

「あっ。新一にもメールは送ったんだけど、かなり悩んでるみたい」

 

「あの工藤君でもか……これは本当に難しい謎だな」

 

と、本人である俺をそっちのけで、皆は俺の鉄球の謎について頭を捻ってる。

やれやれ……そんなに頭捻って考えても、頭がロジックで雁字搦めじゃ絶対に解けないぜ。

この鉄球の技術ってのは、人間の未知の部分を引き出す技術なんだからよ。

もう少しファンタジーに寛容な柔らかい頭じゃねえと、この謎には迫れねえぞ?

そう思っていた所に、蘭さんがポンと手を組みながら世良さんへ話しを振り始めた。

 

「そういえば、定明君はマジックも得意なんだよ」

 

「え?マジック?」

 

「うん。この前見せてもらったんだけど、目の前にあったパチンコの球が消えて、何時の間にか私と和葉ちゃんの握った手の中に入ってたり、それが一瞬で鳩に変わったりしたの。あれは凄かったよ♪」

 

「へー?それは興味深いな……なぁ、定明君」

 

「パス1」

 

「おぉいッ!!まだ何も言ってないじゃないかぁッ!!」

 

蘭さんの話を聞いて目を輝かせられたら、次の言葉くらい分かるっつの。

頬を膨らませて不満げな表情の世良さんに近距離で睨みつけられながら、俺は溜息を吐く。

基本的に面倒なのは嫌いなんだよ、俺は。

 

「どーせ見せろって言うんでしょ?めんどいんでお断りします」

 

「えー、良いじゃないか。減るもんじゃなし、お姉さんにも見せてくれよー」

 

ええい面倒くさい、纏わりつくんじゃねぇよ。

投げやりに断った俺にしがみつく様にして懇願してくる世良さんに、俺はブスッとした視線を向ける。

大体、ああいうのは意識が外れてるから成功するモンであって、ジッと見てくる相手にゃやり辛いんだよなぁ。

まぁ他にもやりようはあるんだけど……。

 

「(ガチャッ)おぉ、蘭ッ!?帰ってきてくれたのかぁッ!!」

 

「あッ!!お父さんごめんッ!!材料買って来たから直ぐに何か作るねッ!!」

 

「頼むぜぇ……お父さんもう腹ペコ」

 

と、ここでタバコを買いに出てた伯父さんが帰って来た。

伯父さんは蘭さんを見つけると嬉しそうに笑いながら、ちと大袈裟な感じで頼み込む。

買ったばかりのタバコを口に咥える伯父さんを見て、蘭さんは苦笑いしていた。

って、あれ?……おっ、そうだ。このタイミングなら……。

 

「あー、伯父さん。火ぃ点けんのちょっと待って欲しいんスけど……」

 

「あ?何で?」

 

「いや、まぁホンのちょっとで良いんで……さて、世良さん。俺のマジックが見たいんでしたよね?」

 

「え?あ、う、うん。そうだけど」

 

タバコに火を点けようとしていた伯父さんに待ったを掛けてから、俺は世良さんにもう一度確認する。

世良さんはいきなり質問されて驚いた顔してたけど、直ぐにキラキラと目を輝かせて俺を見つめてきた。

丁度良い。最近コナンも服部さんも暇があれば鉄球の謎について考えながら俺に質問したり、頭に浮かんだ憶測を話してくる様になってたし。

ここいらでその話を一気に止めさせられるかもしれねえ。

世良さんと同じ様に俺が何かをしようとしてるのを感じ取った蘭さんも目を輝かせ、コナンと服部さんは目付きを真剣にさせる。

唯一状況に付いていけて無い伯父さんはポカンとしてるが、そこはまぁ放置で良いだろう。

 

「じゃあ、今から一つだけ、即興のマジックをやります。このマジックのタネを暴けたら……俺の鉄球の謎を全部、余すとこなく、それこそハリー・ケリー並みの名調子で教えてあげますよ」

 

「「「ッ!?」」」

 

「えッ!?そ、それって、私も良いの?」

 

俺の台詞に驚きを顕にする探偵組とは別に、蘭さんは目を輝かせたままに質問してくる。

それに対して、俺はニヤリと笑いながら頷いた。

 

「良いッスよ。まぁ、……トリックが分かれば、の話っすけど」

 

「そっかぁ……私が先に解いて、新一を悔しがらせてやるのも良いかも」

 

(バーロォ。オメーに解けるんだったら、俺が既に解いてるっつの)

 

中々帰ってこない幼馴染みの鼻を明かしてやりたいのか、蘭さんは俄然やる気を漲らせている。

まぁ、その新一は目の前に居るんだけどな。

灯台下暗しとはこの事か、とか考えつつ、俺は残りの面子にもどうするかを聞いていく。

 

「まぁ、鉄球の謎を自分で解かんのは癪やけど……先にそのマジックのタネっちゅうのを解いて、坊主を悔しがらせるのもおもろいかもな」

 

「僕は勿論OKだよ。寧ろ解けたらお得、って感じかな。コナン君も受けるだろ?」

 

「うんッ!!」

 

「って事だ、定明君。その挑戦……受けて立つよ」

 

「OKッス。じゃあ、始めますか……伯父さん。其処に居て下さいね?」

 

「あ?ま、まぁ良いけどよ」

 

とりあえず全員参加が決まったので、俺は入口の近くに突っ立ったままの伯父さんに指示を送る。

伯父さんは怪訝な表情をしながらも、ちゃんと其処に立っていてくれた。

 

「良し……じゃあ、俺は今から指パッチン一つで、伯父さんの前に炎を出します。伯父さんはそれを使ってタバコの火を付けてくれても良いっすよ?」

 

「え?炎を?」

 

俺の予言に驚く蘭さんと、そんな俺の挙動の一つ一つを見逃すまいとする世良さん達。

そんな数々の視線をこの身に感じながら、俺は手を皆の前で構える。

まっ、これって絶対に解くのは無理だろうけどな。

 

「ほい(パチンッ)」

 

「(ボッ!!)うおぉッ!?」

 

「「「ッ!?」」」

 

「ええぇッ!?」

 

何故かって?思いっ切りコレはスタンド能力だからな。

指パッチンと同時に伯父さんのタバコの目の前に頭の部分が丸い十字架の炎を生み出し、それを空中に滞空させる。

そう、前にライターを忘れたデビットさんにライター代わりに『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』の能力で生み出したのと同じものだ。

目の前にいきなり十字架の形の炎が生まれてビビる伯父さんと、驚愕する他の四人。

まさかホントにいきなり炎が出てくるとは思わなかったんだろうな。

 

「な、な、なぁ……ッ!?」

 

「伯父さん。火が要るんでしょ?それ使って下さいよ」

 

「あ、あ、あぁ……スゥ……ま、間違いない……ッ!!ちゃんと、炎だ……ッ!?フェイクとかじゃねえ……ッ!?」

 

驚きで声が詰まった様なリアクションをする伯父さんを促して、十字架の炎でタバコに火を点けてもらう。

それでタバコに火が灯ったのを確認して、俺は指を振って炎を消す。

凡そ10秒間ちょっとの、本当にあっという間の出来事だった。

 

「……さっ。このマジックの種が分かったら、俺の鉄球の謎を教えてあげますよ?」

 

俺がソファーに座ったままにそう言うと、3人は弾ける様に動いて、炎の出た場所を虱潰しに探し始める。

しかし当然ながら、其処には何も無い。

だからこそ、3人は信じられないって表情を浮かべていた。

 

「……何も仕掛けが見当たらない……どうなってるんだ?」

 

「おっちゃんッ!!アンタは目の前で見とったやろッ!!何か気付く事無かったんかいッ!?下に機械があったとかッ!!」

 

「え、い、いや……定明が指を鳴らしたと思ったら、いきなり目の前に炎が現れて……あっという間に消えちまったってぐらいしか……」

 

(仕掛けが何も無い……くそっ!!本当に何なんだよコイツのマジックはッ!?下手すりゃキッド以上じゃねぇかッ!!)

 

世良さんは首を傾げながらも、なにか無いかと辺りを見回し、服部さんは尤も近くで見ていた伯父さんに詰め寄る。

コナンもしゃがんで床に仕掛けが無いか調べているが、当然俺は何も仕掛けていない。

本当に俺は何も仕掛けてねえからな。

更にあの炎が偽物の炎じゃ無いってのは伯父さんのタバコにちゃんと火が点いてる事で明白だ。

そうやって色々と調べる3人を見ながら、俺はグッと伸びをしていた。

良く推理モノにファンタジーは混ぜてはならないって聞くけど、こうやって見てると確かにそう思えるな。

超能力で作り出した炎の仕掛けを、人間の常識の範囲内で理論付けようとするのは無理だ。

まぁ俺の場合は俺を観察しようとしてる人達を振り回せるから便利なんだけど。

 

「ど、どうやったの定明君ッ!?今の炎って、いきなり現れたけど……ッ!?」

 

「ん?それは秘密ッスよ。あの人達が自力で解いてみせるって言ってましたし……自分から種を教える様じゃ、マジックの意味が無いじゃないっすか?」

 

と、物凄い興奮した様子の蘭さんが詰め寄りながら聞いてきたので、俺はそれをやんわりと受け流す。

まぁ説明して欲しいと言われたって、スタンド能力です。だなんて言えねえんだけどな。

そんな事を考えながら、真剣な表情で辺りを捜索していた3人を眺めていると――。

 

 

 

prrrrrrrr

 

 

 

まーた鳴っちまったんだ。

 

 

 

「いったいどうなって……ん?和葉からか……(pi)何や和葉?もうカレー買うたんか?」

 

『――た――助けて平次ぃッ!!!』

 

 

 

気の休まる暇の無い、新たな事件の警鐘が。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

和葉さんからのSOSを受け取った服部さんを含めた俺達は、和葉さんが指定したファミレスに到着した。

俺の場合は話を聞いた伯父さんが行く気満々だったから、俺もなし崩し的に着いて行かなくちゃならなかっただけなんだが。

件のファミレスの前に着くと、駐車場や辺り一帯はパトカーで埋め尽くされている。

それも仕方無いだろう……このファミレスの中で殺人事件が起きたのだから。

っつうかこんなにポリで埋め尽くされてんのに、俺達は中に入れんのか?

そう思っていたのは俺だけなのか、他の皆は淀みない動きで入り口へと向かう。

やがて、入り口の前を封鎖している警官が俺達を厳しい目付きで見てきた。

 

「あっ、毛利さんッ!!警部に呼ばれたんですねッ!?どうぞッ!!」

 

「い、いやぁ~はっはっは……」

 

しかし伯父さんの姿を確認すると敬礼しながら店の中へと案内してくれるではないか。

その警官の尊敬の眼差しみたいな視線を受けながら、伯父さんは肯定も否定もせずに頭を掻きながら中へと入っていく。

コナンや蘭さん達も問題無くササッと店の中へと入っていった。

……これ、良いのか?……まぁ、俺が怒られる訳じゃねえし、別に良いか。

頭に浮かんだ考えを振り払いつつ、俺も伯父さんより先に店の中へと足を踏み入れる。

店の中はまだかなりの人数が居て、皆の表情は一様に不安に染まっていた。

そんな中で、俺はレジの前に集まってる蘭さん達の元へと向かう。

後から入ってきた伯父さんも俺に続いて合流を果たした。

 

「じゃあ、こういう事ね……和葉ちゃんがここのレジでそのカレーを買ってたら、突然外国人の男の人があのトイレから出てきて、人が死んだから警察を呼べって言ったのね?」

 

「うん……2メートルくらいの身長のおっきな外国人の人やった。その人がトイレは封鎖して、念の為に客は1人も外に出すなって大声で言うてはったよ」

 

「その外国人、英語でそう言ってたんか?」

 

蘭さんと和葉さんが事件のあらましを纏めていく中で、服部さんが尤もな事を質問する。

普通いきなり英語でそんな事を言われても、素早く対応出来るとは思えないわな。

案の定、和葉さんは服部さんの質問に首を横に振った。

 

「ううん、日本語やったで。その人が最初に死んだ人を見つけたんやって」

 

「日本語ペラペラの外国人で、死体の第一発見者か……そいつの方が怪しいなぁ」

 

和葉さんの補足を聞いて、伯父さんは顎に指を当てながらそんな風に言う。

まぁ確かに伯父さんの言う事も分かるけど、普通犯人が現場を封鎖しろとか客を外に出すな、だなんて自分から言うかねぇ?

或いはそう忠告する事で捜査の目を誤魔化すブラフとか?

……いや、そりゃねえだろう。日本語ペラペラの外国人って時点で怪しんでくれって言ってる様なモンだし。

って事は伯父さんの推理はいきなり的外れって事だな。

 

「まぁ、我々としては……」

 

「え?」

 

「毎度毎度、勝手に現場に入ってくる君らの方がよっぽど怪しいんだがな……」

 

「め、目暮警部殿ッ!?」

 

突如、俺達の話に割って入ってきた男の呆れた様な言葉に対し、伯父さんは敬称を付けた名前を呼んで反応する。

伯父さんに敬称で呼ばれた人物は立派な口ひげを蓄えた太っちょの男。

世良さんの被ってる様なポークバイ帽を被った目暮警部は、少し口元を引き攣らせて俺達を見ていた。

確か、この目暮警部は伯父さんが刑事の頃からの上司だったな。

 

「いやぁ、最近は現場に来ただけで『警部に呼ばれたんですね』って勘違いされて、スルーなんスよ……」

 

「ハハ……って、あぁああああッ!!?き、きき、君はッ!?」

 

「あ?……あ」

 

伯父さんが目暮警部に対してありのまま起こった事を伝え、それを聞いていた目暮警部の背後に立っていた若い刑事が苦笑を漏らしたかと思えば、次の瞬間には俺を指差して叫びだしやがった。

一体何だ?とか思ったのは一瞬で、次の瞬間にはその人物が何日か前にからかって煙に撒いた高木刑事だと思いだした。

やっべ、まさかこんな場所で遭遇する事になっちまうとは。

軽く面倒くせー事態になりかけてると自覚して溜息を吐く俺だが、外野はそれで許してはくれない。

俺が前に事件に関わった事を知らない蘭さん達や、初対面の目暮警部は俺と高木さんを見て首を傾げるばかり。

 

「ん?毛利君、この少年は?コナン君の友達かね?幾らコナン君の友達でも、さすがに現場に入れる訳にはいかんのだが?」

 

「あぁいえ。こいつは私の甥っ子でして、さすがに事務所に1人にしておくのは憚られたもので連れてきてしまいました」

 

「甥?君の甥っ子と言えば……おぉッ!?もしかして雪絵君のッ!?」

 

「はい。定明、こちらは警視庁の目暮警部殿だ。俺が昔からお世話になってる人で、この人もお前の母ちゃんの事を良く知っておられるんだ」

 

「そうなんスか……どうも初めまして。城戸雪絵の息子、城戸定明です」

 

「うむ。儂は目暮十三という。よろしくな、定明君……雪絵君には良く毛利君と一緒に差し入れをしてもらってた事があってな。とても美味しい食事をご馳走になっておってなぁ。うちの家内も料理のいろはを教わっておったし、とても助けられたものだ」

 

「あー。母ちゃん、料理の腕は本気で絶品ですもんね」

 

目暮警部は屈みながら俺を見下ろしつつ、昔の思い出を語る。

俺も身内が褒められて素直に嬉しい気持ちが湧き上がり、自然と微笑んでいた。

父ちゃんが言ってた太陽みたいに周りを明るくする人ってのも、間違っちゃいねーんだよな。

しかしそれでは終わらず、未だに俺を指差して驚いてる高木刑事に対して、目暮警部や他の人達が首を傾げる。

 

「……でー、高木君?何で君はそんなに驚いておるんだね?」

 

「け、警部ッ!!この少年ですッ!!この前の女子中学生誘拐事件の時に、犯人の男女を倒して無力化し、事情聴取の途中で消えてしまった少年ッ!!」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

そして、等々高木刑事はあの誘拐犯の事件の事を口に出してしまった。

それを聞いて、俺から何も教えられていない人達は呆けた声を出している。

ちっ。さすがに蘭さん達には教えておいた方が良かったかもな。

 

「人聞き悪い事言わんで下さいよ。あん時は佐藤刑事さん、でしたっけ?あの人が何も言わなくなったからもう事情聴取は終わりだと思って、俺は帰ったんスよ」

 

「そ、それはちょっと佐藤さんがフリーズしちゃったからで、まだ事情聴取自体は終わってなかったんだから勝手に帰っちゃ駄目だよ……後でコナン君から君が毛利さんの所に泊まってるって聞いて、改めて事情聴取に行くつもりだったし……」

 

「え?あの時帰ろうとした俺に高木刑事さんも何も言わなかったじゃないっすか?っつうかあれから何日も経ってるつうのに、今日まで事情聴取に来なかったっしょ?」

 

「あ、あの時は僕もちょっと頭が止まってたというか……あの後直ぐに行けなかったのは、色々と事件が重なっちゃったって時間が無かったからなんだ」

 

「ち、ちょっと待って下さいッ!!誘拐事件って何なんですかッ!?」

 

と、高木刑事と漫才の様な遣り取りをしていた所に蘭さんが声を荒らげて質問してきた。

その質問に対して、高木刑事がベラベラと余計な事を喋り始める。

俺が単独で誘拐犯に立ち向かったとか、ボコボコにした誘拐犯(女)の髪の毛を剃り落としたとか、その女のハゲにした頭にデカデカと罰とマジックで書いてた等々。

くそ、うやむやにして終わらせようと思ったのにそう上手くはいかなかったか。

俺のやらかした所業を聞いて、世良さんと服部さんと和葉さんは思いっ切り顔を引き攣らせるが……。

 

「……定明君」

 

蘭さんだけは聞けば聞くほどに眉を吊り上げて怒りを露わにしていく。

それに比例して何やら覇気の様なものが滲み出るが、美由希さんやプレシアさんに比べたらまだまだ可愛いモンだ。

……こんな事思える時点で、俺の常識も大概だな。

 

「何でそんな危ない事したのッ!?相手は犯罪者なんだよッ!?自分がどれだけ危険な事をしたか分かってるのかなッ!?」

 

「しゃーなかったんスよ。そりゃー俺だって危険に自分から飛び込む気は更々無かったし、居場所を見つけた時は警察に任せるつもりだったんスけどね……」

 

「けど?何?」

 

(こ、怖ぇ……ッ!?コイツ、何でこんなに冷静でいられるんだよ?)

 

かなりの気迫で俺を叱る蘭さんの言葉を真正面から受け流しながら、俺は小指で耳を掻く。

ちなみに隣のコナンは心の底からビビッてるらしく、かなり顔を引き攣らせてる。

コナンのリアクションの所為で、周りには俺が蘭さんの言葉をどうとも思って無い様に見えちまったらしい。

そんな俺の様子を見つつ、蘭さんはジト目で俺の事を睨んでいた。

 

「そいつらこう言ってたんスよ?爺さんは殺して山に埋める。女の子は身代金を受け取った後で裏ビデオに出して一稼ぎしてから殺すって」

 

「え……?」

 

「……なんちゅう奴等や……反吐が出るな」

 

「あぁ。僕がその場に居たら、骨の2,3本は圧し折ってやりたいぐらいだ」

 

かなりの勢いで怒っていた蘭さんは俺の言葉を聞いて口を半開きにしてしまう。

他の皆も程度は違えど怒りに燃えたり驚いたりと様々だ。

まぁ、この話は高木刑事にもしてなかったからさっきの話でも出てなかったし、しょうがねえだろ。

服部さんや世良さんは逆に怒りで燃え上がっていたのを横目で見てから、再び蘭さんに視線を合わせる。

 

「その裏ビデオってのは何か知んねーッスけど絶対に碌でもねぇ事だって思ったし、あの腐れババアは誘拐した女の子の髪の毛を持ち上げて泣かしてたんス。こりゃ警察待ってたら間に合わねーだろーなって思って、俺が犯人をブッチメタって訳っすよ。実際あいつら、その話しながら移動しようとしてましたしね」

 

「……でも、とっても危ない事なんだよ?相手は大人だし……」

 

「わーってますよ。只、今回は勝手に身体が動いちまったって事で、勘弁して下さいっす」

 

その時の状況を明かす事で蘭さんも仕方無いと思ったのか、怒りを納めて神妙な顔付きで注意を促す方針に切り替えてくる。

俺だって必要以上に蘭さんを困らせるつもりは無いので、ちゃんと頭を下げて謝罪を表明した。

こっちにちゃんと反省してるっていう意思があると理解してくれたらしく、蘭さんは大きく溜息を吐いて矛を収めていく。

但し、次からは一人で勝手な事はしない様に、と口を酸っぱくして念を押されちまった。

しかも蘭さんだけでなく伯父さんと目暮警部にまでも忠告をされるという始末だ。

ここでごねても俺には全く得は無いので、俺は素直に蘭さん達の言葉を聞き入れる振りをしておいた。

勿論約束を破るつもりは毛頭無いが、要はケースバイケースって奴だな。

 

「それで話を戻しますが……被害者の死因は?」

 

「あぁ、はい。毒ですね。遺体の口に青酸系の毒物が混入された入っていましたし、被害者のポケットからも同じ飴玉が見つかっています」

 

「じゃあ、自殺かもしれねぇって訳か……」

 

「ええ……第一発見者の外国人もそう言ってましたし……」

 

そして、俺の過去にやらかした所業への注意から、話は今回の事件の概要に流れた。

高木刑事が伯父さんの質問に答えて明かした詳細の内容は、確かに伯父さんの言う通り自殺にも思える。

でも、自殺する人間が態々飯を食いに来て、更にトイレでくたばるなんて有り得るのか?

普通は誰にも見られない様にこっそり樹海に行くとか、自宅でひっそりと死のうとすると思うんだけどな……。

ここで、高木刑事の話を聞いてそんな風に考えていた俺の耳に、世良さんの訝しげな質問の声が入ってきた。

 

「でも何者なんだ、その外国人って?妙に現場に慣れてるみたいだけど、刑事さん達の知り合いなのか?」

 

あー、確かに。その外国人の手際の良さも気になる所だな。

死体を発見して直ぐ様店から客を出さない様に指示して、警察を呼ぶなんて普通は出来るもんじゃない。

 

「ま、まぁ、警察の関係者って言えなくもないけど……」

 

世良さんの質問に対して、高木刑事は妙にハッキリしない言い回しで答える。

ってか、警察関係者ともいえなくもないってどういう立場だ?

曖昧な言い方に首を傾げていると、直ぐ側に居た蘭さんが何やら小声で呟いてるのが聞こえた。

 

「大男の外国人で日本語がペラペラ……こういう現場に慣れてて警察の関係者とも言えなくもない……あっ!?もしかして……ッ!?」

 

「えぇ……」

 

と、蘭さんが何やら大きな声を出したその時、蘭さんの背後にぬぅっと巨大な人影が現れた。

身長は低く見積もっても195はあるであろう大男は、俺達に向かって苦笑いしながら後ろ髪を掻いている。

 

「思わず、そうしてしまって……」

 

「やっぱり、キャメル捜査官ッ!!」

 

「……は?」

 

いきなり現れた大男に対して、蘭さんは親しげに名前を呼んだではないか。

そのチグハグな光景に、俺は目を丸くしてしまう。

え、なに?蘭さんはこの男と知り合いなのか?っつうか、こんなギャングスタみたいな男が捜査官?

その光景に驚いたのは俺だけじゃなく、和葉さんや服部さんも目を丸くしていた。

 

「捜査官て……この人相の悪い外国人、知り合いなんか?」

 

「平次ッ!!人相悪いて、そないに正直に言うたら失礼やんかッ!!」

 

「いや、和葉さんの言い方も割りと失礼っすよ?」

 

「あ゛……」

 

正直が美徳な関西人お二人のあんまりな言い様に、目の前の大男も苦笑いが隠せてない。

やれやれ、どうして和葉さんも服部さんもストレート過ぎる表現をしちまうんだか。

 

「それより、捜査官っていったい……」

 

「FBIだよ」

 

「エ、FBI?」

 

「うん。今はたまたまお休みを取って、日本に旅行に来てるんだよね?」

 

「あ、あぁ……」

 

そして、このキャメルさんという人の職種について服部さんが質問したら、コナンからとんでもない答えが帰ってきた。

FBIって……アメリカの警察みたいな組織じゃなかったっけ?ドラマとか映画じゃ良く聞くんだが……実際に詳しくは知らねえし。

携帯も吸血鬼事件の時から鞄の中に入れっぱなしで持ってきてねえから調べようもない。

しかし、コナンがFBIの人間と仲良く話してる所をみると……このキャメルって人も、コナンと関係ありそうだな。

 

「それで、以前仲間と食べたここのカレーの味が忘れられなくて、1人で食べに来たら事件と遭遇した訳で……」

 

(そんなにうまいんかい?ここのカレー……)

 

そんなに美味えの?ここのカレー。

 

「では、よろしければトイレで死体を発見した時の事を詳しく知りたいんですが……」

 

「……普通は断る所だが、君には何時も世話になってるからな……キャメルさん、もう一度彼等に説明してやってくれんか?」

 

「あ、じゃあ現場のトイレで……」

 

と、まぁそういった流れで、皆は死体のあるトイレへと向かう事に。

そして当然の如く着いて行くコナンの後ろ姿を見てから、俺はレジへと視線を移す。

コナンが着いて行っても何も言われてないのは、今回のコナンにはある役割が与えられているからだ。

世良さんがここに来るまでの間にコナンと服部さんに持ちかけた、『東西推理勝負』という、何とも頭の痛い勝負の為である。

これは単純に、『工藤新一と服部平次のどちらが優れているか』という勝負なんだが、件の工藤新一はコナンになっちまってる訳で。

それで、コナンは設定上は他の事件を追っかけてるという工藤新一に事件の状況を伝えるという役割を与えられている。

まぁそういう事で、伯父さんも今回に限っては見逃し、服部さんと世良さんが擁護するという形で、コナンは現場に入れているって事だ。

 

「ん?定明君は来ないのかい?」

 

「は?……何で俺が行く事になってんスか?」

 

何故か俺が行かない事に首を傾げる世良さんに、俺は素で問い返す。

いや、俺一言だって行くだなんて言った覚え無いし。

 

「そうなのかい?大阪の彼からこの前の吸血鬼事件とやらで君が犯人のトリックを見破ったって聞いてたから、君もコナン君みたいに探偵の素質があるんじゃないか?」

 

「えッ!?……そ、そうなのか?」

 

「うん。定明にーちゃん、写真で見ただけで犯人のトリックに気付いてたんだよ。さすが、伯父さんの甥っ子だね♪」

 

「え、えぇ?」

 

「ほぉ、凄いじゃないか。これも名探偵である君の影響かも知れんなぁ、毛利君」

 

「い、いやあの……え、えぇッ!!ま、まぁ、私からすればまだまだですが、定明も私を見て、少しばかり探偵というものが分かったのかもしれませんなッ!!ダーハッハッハッハッ!!」

 

アンタから学んだのなんて、精々が大人のだらけ方ぐらいだよ。

っつうか、俺は別に探偵に憧れた覚えもなりたいと思った覚えも一切ねえ。

何か勝手な方向で盛り上がってる伯父さんは置いといて、俺は溜息を吐きながら世良さんと視線を合わせる。

俺があの事件に首を突っ込んだのは、あくまで蘭さんや和葉さんを女性限定で襲うクソ野郎から守る為だけだ。

 

「俺はあくまで只のガキっす。こんな現場に首突っ込む程、アホじゃねえっすよ」

 

「普通の子供は誘拐犯を倒したりしないと思うんやけど……」

 

「それに、引ったくり犯を叩きのめしたりも、ね」

 

背後から蘭さんと和葉さんに揚げ足を取られるが、それは放置。

俺に関係の無い事件なら、俺が首突っ込む義理は無いからな。

 

「それに、昼飯食い損ねて腹減ってんスよ。これから飯食うって時に、人の死体なんざ見たくねぇんで」

 

「人死によりも飯かいな……人情に薄いやっちゃのぉ……」

 

「まっ、俺にゃ関係の無え事なんでね。死んじまったのは可哀想だとは思っても、ソレ以上は特に何も」

 

(考えがすっげードライ……)

 

「そうなのか……まぁ、君が嫌なら無理にとは言わないさ」

 

俺の言葉に少し残念そうな表情を浮かべた世良さんだが、直ぐに切り替えて俺との会話を終わらせる。

他の皆も俺の事情より事件の方が大事なので、全員トイレへと向かっていった。

やれやれ、毎回俺を巻き込もうとするのは止めて欲しいぜ。

それにまだ殺人か自殺かなんて分からねぇんだし、今度は名探偵が3人も居るんだから、俺が出張る必要は無い。

この前の月村裕二みてーなのが居たら、話は別だがな。

 

「それじゃあ、俺達はどうします?ここに居てもウェイトレスさんの邪魔になりそうッスけど?」

 

探偵組が現場に向かったのを見送ってから、俺は残った和葉さんと蘭さんに質問する。

俺達が居たのは厨房の入り口近くだったので、さっきからウェイトレスさんが後ろで出入りを繰り返している。

さすがにこの場に留まるのはちょっとな。

そう言うと蘭さんの提案で俺達はレジの近くにある待合席に座って待つ事に。

 

 

 

……20分後。

 

 

 

「お腹空いたなぁ……」

 

メニューを見ながらお腹を摩る和葉さんの一言に、俺も頷く。

ファミレスの片隅で特にやる事も無かった俺達は適当にダベっていたが、それも長くは続かなかった。

まぁ人が死んだ場所で楽しい話題なんてそうそう話せるもんじゃねえしな。

あっという間に話題の尽きたので、和葉さんは暇つぶしに目を通したメニューを見ながら俺とまったく同じ気持ちを吐露する。

っつうかマジに腹減ってやべぇよ……右見ても左見ても料理関係だし、(ファミレスだから当たり前だが)匂いが食欲を刺激しやがる。

 

「平次達、まだ時間かかるんやろか……」

 

「かも……メニュー見てると涎出てきそうでヤバイね……定明君は大丈夫?」

 

「いや、俺もガチで腹減ってヤバイっす……」

 

朝飯なんかとっくに消化しちまってる俺の腹が何か食わせろって喚いてるぐらいだ。

しかもこの店の売りなのか、とてもカレーの良い匂いがそこら中の席から漂ってくる。

うわ、マジで美味そうな匂いだな……こりゃー俺が食べるだけじゃなくて、土産に買って帰った方が良さそうだ。

俺が伯父さんの所に行くって言った時に不満そうな顔してたアリサの顔が脳裏を過っていく。

……こんなに美味そうなカレーが土産なら、文句は言わねえだろ。

俺は頭の中で必要な数を計算しながら、レジのお姉さんに声を掛ける。

 

「すいません。ちょっと良いっすか?」

 

「え?あ、どうしたの。ぼうや?」

 

「このレトルトカレーを土産用に、えっと……ひぃふぅみぃ……18個欲しいんスけど、在庫あります?」

 

「じゅ、18個?そんなにあったかしら……えっと、ちょっと待ってくれる?数を調べてくるから」

 

「はい、お願いします」

 

啓示された数に驚いたウェイトレスさんだが、直ぐに奥へ入って調べに向かってくれた。

幾ら子供相手でも、仕事をちゃんとしてくれる人は良い。

店によっちゃあ舐められて、まともな対応しねえ店もあるし。

 

「ち、ちょっと定明君。そんなにお金あるん?」

 

「雪絵さんから預かってる生活費にお土産代も入ってたけど、それは探偵事務所だよ?」

 

「あぁ、大丈夫っすよ。一応財布ん中に3万はあるんで」

 

「「さ、三万ッ!?」」

 

不安そうな声で質問してきた二人にあっけらかんと答えると、二人は逆に目を丸くして驚いた。

まぁ9歳のガキが持つ様な金額じゃねえからな。

そんな感じで俺の所持金に二人が驚いてると、ウェイトレスさんが9つずつカレーのパックを入れた袋を持ってきてくれた。

どうやら普通に在庫はあったらしく、俺はそれを普通に購入。

俺が帰る時まで預かってくれるそうなので、お礼を一言言ってお願いした。

しっかし、腹減ったなぁ……一体何時になったら飯食えるんだよ……。

一応さっき和葉さんに気が紛れるかもって事で飴を貰ったけど、それで誤魔化すのも限界だわ。

空腹の限界を感じていると、コナンと伯父さんと服部さん、目暮警部と高木刑事がトイレから出てきて、何やら角の席に座ってる3人に声を掛け始めた。

どうやら事情聴取みてーだけど……何で服部さんが主になって話を聞いてるんだ?

 

「おうお前等、かなり腹減ったって顔してるぞ?」

 

「あっ、お父さん」

 

と、何か変だなと感じていた所で伯父さんだけが俺達の元に戻ってきた。

コナンは相変わらず服部さんの傍で話に耳を傾けている。

 

「伯父さん。何で服部さんが事情聴取なんかしてんスか?普通は高木刑事さんとか目暮警部さんとかの警察関係者がやるんじゃ……」

 

「ん?あぁ、ちょいと訳があってな……どうやらこのヤマ、殺人みたいでよ……」

 

俺の質問に頬を掻きながら、伯父さんはポツポツと話し始める。

何でもキャメル捜査官は偶々現場のトイレで用を足してた所で事件に遭遇しちまったらしい。

その時に聞こえてきた会話の内容から、キャメルさんはこの事件を自殺だと思ってたとか。

キャメルさんが個室の壁越しに聞いた会話は、こうなっていたそうだ。

 

『幾ら幼馴染みだからって、そんな頼みは聞けないよ。阿部さんに毒を盛って殺したのは自分だ。だから自分は責任を取らなきゃいけない』

 

確かに、普通に聞けばこれは今から自殺するぞっていう言葉だろう。

死んだ男の言う通りなら、阿部さんという誰かに毒を盛って殺したのは自分だから、これから責任を取る、という供述と、遺言のセット。

だれがそれで聞いても納得するだろう。

更に現場にはトイレの中に水没した携帯が落ちていたので、キャメルさんはその会話も含めて、電話の相手が死んだ男の自殺を止めようと会話してたんじゃないかと予想したらしい。

でも、何でこんなファミレスのトイレで死んだのかが疑問に残る。

それで目暮警部が改めて思い出してくれと聞く。

それで良く思い返したキャメルさんが言うには、死んだ男は服部さんと良く似た喋り方をしていたらしい。

つまり、死んだ男は『関西弁』で喋っていたという事になる。

そうだとするとこれは自殺じゃなくて『他殺』になる、と服部さんは言い出したそうだ。

何でそうなるんだ?と首を傾げる皆の前で、キャメルさんが聞いた言葉を関西人の服部さんが訳すと――。

 

『なんぼ幼馴染みやゆうたかて、そないな頼み聞かれへん。阿部ちゃんに毒盛って殺したのは『自分』や。せやったら『自分』、責任とるしかないで?』

 

と、なった訳である。

これだけ聞いたり文章にしただけじゃ何処もおかしくないと感じる。

しかし、これは『関西弁』という言葉の訛りがあると話が変わってくるのだ。

 

 

 

関西弁の『自分』は『相手』――つまり『別の人間』を示す言葉なのだから。

 

 

 

日本語は外国の人からすれば習得、理解がかなり難しい言語らしい。

関西弁の存在を知らなかったキャメルさんは、死んだ男の言う言葉が自身を差してる言葉だと思ってたそうだ。

まぁ英語なら自分はME、相手はYOUという二通りしかねぇからな。

関西弁という方言では『自分』という言葉の意味が違うだなんて思いもしねえだろ。

更に服部さんがキャメルさんに確認すると、『安倍ちゃんに毒盛って』の『盛って』が、実は『塗って』に聞こえたそうだ。

でも人に毒を『塗る』と言うのは変だと思って、キャメルさんは聞き慣れていない関西弁の所為で『盛って』と聞き間違えたんだろうと思ったらしい。

しかし服部さんは、それは間違いではないと否定する。

正確には『安倍ちゃん』ではなく、『アメちゃん』……つまり、『飴玉』の事だったのだと。

今回死んでいた犠牲者も毒の飴玉を咥えさせられていたからこそ、間違い無いだろうという事だ。

確かに発音は似ているし、飴玉にちゃん付けをするのは関西特有の言い回し。

だからこそ、阿部ちゃんではなくアメちゃんに毒を盛って殺したという文章が成立したそうだ。

 

「それでまぁ、俺達関東の人間が事情聴取するより、関西弁に慣れてるアイツが聞いた方がボロを出すかも、なんて言い出しやがったからああなってるっつう訳だ」

 

「はー、なるほど……で、進展はあったんスか?」

 

服部さんが何の権限も無しに事情聴取していた理由が分かり、今度は事件の進み具合を聞いてみる。

しかしそっちの問いに対して、伯父さんはアメリカンジョークみたいに肩を竦めながら手を上げて、首を大袈裟に横へ振った。

つまり、そっからの進展は無しって事か……腹減ってんだから早く解決して欲しいモンだぜ。

 

「じゃあ、まだ犯人は分からないの?」

 

「あぁ。まぁ被害者が幼馴染みと言ってた線で、この店で該当するアリバイの無い3人とまでは絞れたんだがな……」

 

「えぇー。困ったなぁ……もうお腹ペコペコやのに……」

 

「さすがにもう飴玉じゃ腹誤魔化せねえッスよ……それってのも、こんな所で事件起こしてしらばっくれてる野郎の所為だとか……ムカっ腹が立って仕方ねぇぜ」

 

マジどうしてやろうか?この苛つきを犯人にぶつけて発散してやりてぇトコだが……誰が犯人なんだ?

チラッと服部さん達の居る方に視線を向けると、服部さんは眼鏡をかけたオッサンと喋っている。

どうやらあの人が疑わしい人ってのの一人みてぇだな。

……事件に首突っ込むつもりはねぇけど、早えとこ解決してくれよな、名探偵諸君よ。

早く事件を終わらせてくれと思いながら溜息を吐いていると、伯父さんが笑いながら俺達にこう言った。

 

「まっ、そうだろうと思ってよ。丁度テーブルが一つ空いてるそうだから、そこで飯を食っていいぞ」

 

「お?マジっすか?」

 

「えッ!?良いのお父さんッ!?」

 

「でも、まだ事件の途中やないん?」

 

「あぁ。但しまぁ、一つ条件があるんだけどな」

 

天から降ってきた恵みの一言に色めき立つ俺達だが、何やら伯父さんは怪訝な事を言い出す。

その意味が判らず首を傾げていると、伯父さんはあの容疑者3人と同じ食べ物を注文して、何か気付く事は無いか教えて欲しいらしい。

正直、関西人というとっかかりしか見つかって無い上に、一人汗っかきだと主張してる奴を除いて、辛い料理を食べた所為で汗を掻いてるそうだ。

だから誤魔化そうとしてビビる所為で汗が出てるのか、そうでなく本当に料理が辛かったのかも分からないと。

……アトゥムの力を使えば一発で分かるけど、それを証明する手立てが無え。

まっ、あの二人に任せりゃ大丈夫だろ。

理由はどうあれ飯にありつけるという事で、俺と和葉さんと蘭さんは一もニも無く了承。

テーブル席についてウェイトレスさんが運んできてくれた料理に口を付けるのだった。

 

「ホントに美味しいね、このファミレスの料理」

 

「うんッ。このカレーめっちゃ美味しいわ。蘭ちゃんはどう?」

 

「私の食べてる麻婆豆腐も美味しいよ。定明君は――」

 

「……」

 

「??定明君?どうしたの?」

 

空腹という最高のスパイスの効果もあるだろうが、蘭さんと和葉さんは大喜びで食事を堪能してた。

しかし俺はというと、些か首を傾げてしまう事態が発生している。

俺の様子を見て首を傾げる二人には悪いが……これはおかしい。

別に味がおかしいとかじゃない。

寧ろ味の方はお世辞抜きに美味いと感じてる方だ。

しかし、しかしだ……。

 

「お前等俺等が必死こいて捜査してんのに、呑気に飯食うてたんかいッ!!」

 

と、出された飯を口に一口運んでから頭を働かせてると、服部さんの怒声が頭上から降り注いだ。

その声に視線を上げてみると、服部さんは俺達に向かって怒ってる所だった。

コナンは怒るまではいかなくとも、マジかよって顔をしている。

 

「しゃーないやん。アタシ等お腹ペコペコやってん……」

 

「つうか、捜査に自分から首突っ込んでる服部さんに怒られなきゃいけねえ筋合いなんて無えと思うんスけど?そう思うなら最初っから捜査しねえで飯食ったら良かったじゃないっすか?」

 

「アホゥッ!!探偵が事件ほっぽり出して飯なんぞ食ってられるかッ!!」

 

「んなもん完璧に私事で、俺等が怒鳴られる謂れは無えっつってんですよ。それとファミレスで大声出さないでもらえません?周りにマジで迷惑なんスけど?」

 

「ぐ、ぐぐ……ッ!?」

 

「な、なんか定明君。機嫌悪うない?」

 

「何時もより、かなりキツイ言い方してるよね……」

 

「空腹で何十分も待たされて、やっと飯にありつけたと思ったら理不尽に怒鳴られる。これでキレねえヤツはよっぽどの聖人君子だと思いますけど?」

 

何時も以上に悪態を吐く俺に、和葉さんと蘭さんはかなり驚いていたが、俺からしたらキレて当たり前だぞコレ。

こっちからしたら完全に待たされてるだけなのに、好き勝手に捜査してる奴に言われたら嫌になるっての。

 

「まぁそれより、コナン。ちょっと聞いて良いか?」

 

「え?な、なに?定明にーちゃん」

 

服部さんに言い返してから、俺はその隣で驚いていたコナンに声を掛ける。

 

「あー、伯父さんから聞いただけなんだけどよ。あそこの怪しいって連中は、本当に『辛い』料理を食ってたって言ってたのか?間違い無く?」

 

「え?う、うん。確かにそう言ってたよ?ねぇ、平次にーちゃん?」

 

「あ?あ、あぁ。つっても、麻婆豆腐を頼んだおっさんは汗っかきなだけで、麻婆豆腐は食ってへんかったみたいやけどな」

 

「でも、この麻婆豆腐。確かに辛いよ。とっても美味しいけど」

 

まさか俺が事件について首突っ込むとは思わなかったんだろう。

コナンは少し面食らいながらも、テキパキと聞いてきた内容に間違いが無いと教えてくれた。

服部さんの言葉からも間違い無いという事が伝わってくる。

……成る程成る程……って事はつまり、俺の考えが間違い無えんなら、確定だろうな。

目の前に置かれた料理を見つめながらうんうんと頷いてると、服部さん達と一緒に居た世良さんが笑みを浮かべて俺に視線を送ってくる。

 

「もしかして、何か分かったのかい?犯人の正体、とか?」

 

「えぇッ!?」

 

「嘘ッ!?い、今の質問で犯人の事なんか分かるんッ!?」

 

「まぁ僕は全然判らなかったけどね。でも、彼はあの『眠りの小五郎』の甥っ子なんだろ?もしかしたら、僕らも考えつかない様な事で犯人像の閃きを得たのかもしれないからさ」

 

(眠りの小五郎は俺がやってるんだけどな……)

 

と、俺が何かに気付いた様子を見て、世良さんが言った言葉に蘭さんと和葉さんが大仰に反応した。

しかも何故か『眠りの小五郎』と言った所で伯父さんがドヤ顔してる始末。

伯父さんも事件解決の記憶が無えってのに、良くあんだけ天狗になれるよな。

その図太さだけは尊敬するわ、マジで。

そんな風に盛り上がる女子3人とは違い、半目になってる名探偵二人。

 

「あほ言え。今の言葉だけで何が分かるっちゅーねん。現場見て、事情聴取もした俺等本人がまだ判らへんっちゅーのに」

 

「あはは……(まぁさすがに、今の言葉だけじゃな)」

 

 

 

世良さんの言葉を否定した二人だが……お生憎様。

 

 

 

「いや、分かりましたよ?犯人」

 

「「――へ?」」

 

俺の言葉を聞いて唖然とする二人に、俺はニヤリと笑う。

俺にはもう分かっちまったんだよ。

まさしく脳みその片隅に引っかかってた『ある言葉』と、日常の中で覚えたとある『トリビア』の一つ。

そして、今食べてる『料理』のお陰で、な。

 

 

 

「お探しの関西人は――この『塩ラーメン』を食ってた人っすね」

 

 

 

呆然とする探偵二人と驚きに目を見開く3人からの視線を浴びながら、俺は自信満々に自分の目の前の料理を指差す。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「犯行後にラーメンを頼んだのは、お手拭きが欲しかったんだよね?汁を零したって言えば直ぐに貰えるから」

 

さて、時間は進んで現在は種明かしの最中だ。

但し、推理で相手を追い詰めてるのは何時もの眠りの小五郎伯父さんでは無く、コナンなのだが。

俺が食ってた塩ラーメンと同じモノを食ってた人が犯人だと伝えた時、俺の言葉を理解したのはコナンだけだった。

服部さんは何でそんな事が分かるって俺に聞いてきたけど、俺はこう返した。

 

『それを推理すんのが探偵の仕事っしょ?それにこれは服部さんと工藤さんの勝負じゃないっすか。後はご自分で考えて下さい』

 

そう言われては自分達の勝負の事と、探偵の意地というものがある服部さんはそれ以上聞く事はしてこなかった。

しかしこれは、聞き親しんだ関西弁だからこそ直ぐに事件の過ちに気付けた服部さんの例があった様に、今度は東京の言葉に慣れたコナンに軍配が上がったのだ。

俺が塩ラーメンを頼んだ容疑者の甘粕亨が犯人だと感づいたのは、コナンに確認した言葉の違和感に気付いたからだ。

 

それは『容疑者全員が辛い料理を食べたと供述している』という点である。

 

実は俺も知ったのは数日前……服部さん達が上京してきた日の事なのだが、味噌汁を飲んだ和葉さんの一言が気づいた切っ掛けだ。

他の人は気にも止めてなかったが、俺はこの時の和葉さんの一言を思い出したんだ。

 

『ずずっ……』

 

『ど、どうかな、和葉ちゃん?』

 

『うん。とっても美味しいで、蘭ちゃん。前に知り合いの家で飲んだ味噌汁は『辛すぎて』よう飲まれへんかったけど、蘭ちゃんの味噌汁はとっても美味しいわ♪』

 

分かるだろうか?

和葉さんは、『香辛料の入ってない料理』を『辛い』と言ったんだ。

普通、香辛料の入ったカレーや麻婆豆腐を辛いと言うのは分かる。

しかし味噌汁に含まれてるのは『塩分』だ。

だから塩が効きすぎた味噌汁を飲んだら、普通方言や訛りの無い人間は『しょっぱい』、もしくは『塩辛い』と言う。

俺はこのちょっとした事が気になって和葉さんに聞いた所、大阪じゃ普通に『辛い』と言うそうだ。

 

 

 

だから、塩の効いた『塩ラーメン』を辛いと言った甘粕は関西人――つまり、犯人だと俺は確信した。

 

 

 

まぁトリックも何も無い上に、目撃者が外国人だった事で起きた捜査の混乱以外は特に難しい事件じゃ無い。

しかも容疑者が絞れて尚且つ関西弁かどうかだけなら、頭の悪い俺でも簡単に分かった。

何せ直にラーメン食ってた訳だし。

そして、俺の言葉で、いや俺の食べてた料理が塩ラーメンだと分かったコナンが、工藤新一に電話して、新一から事件の犯人が分かったと言われたという芝居を打った後、新一の指示通りに塩の効きすぎた味噌汁を用意。

その味噌汁をその場の全員+服部さんや警部さん達にも飲ませて、服部さんや和葉さんと同じく味噌汁を辛いと言った甘粕亨を関西人だと指摘。

あたかも自分は新一に教えられた人の真相を話すだけの子供という所を演出しながら、推理で犯人を追い詰めていく。

左手でタバコを吸っていたが、箸が右にあることから、甘粕は右利き。

それなのに左手でタバコを持っていた理由は、毒の飴玉を掴んだ方の右手でタバコを吸うのが怖かったから。

更に関西人のもう一つの特徴である、真似ただけの下手くそな関西弁にキレるという特徴を利用して、相手をキレさせた。

その際に犯人が関西弁を使った事により、決定的な事実となった。

俺はソレを少し離れた所で見ていたけど、人の特徴を利用した追い詰め方をするコナンに感心したぜ。

 

「それと、あのおじさんをトイレで毒殺した後で、洗い流すつもりだった手に付いた毒を拭き取る為に、ね?」

 

「……ッ!?」

 

「トイレで洗えなかったのは水を流す音がして、トイレに誰かが居る事に気付いたからじゃないかな?キャメルさん。水、流したよね?」

 

「あ、ああ……男のうめき声がしたから、トイレから出て様子を見に行く前に一応……」

 

「……なるほど、その水音で犯人が立ち去る足音も掻き消された訳か……」

 

「で、でも何でお手拭きで手を拭いたのに、左手でタバコを?」

 

コナンの推理(代理)と、キャメルさんの証言によって固められていく事件の全貌。

足音が聞こえなかったというキャメルさんの勘違いの原因に納得がいったという目暮警部の呟きの後、今度は高木刑事が質問した。

 

「ちゃんと毒がとれたか判らなかったからじゃない?毒は目に見えないし……」

 

まぁ人間の怖がるものの一つだよな、目に見えない脅威ってのは。

五感の中で周囲の状況を知るのに一番大事な部分は視覚だ。

その視覚に捉えられない脅威ってのは、知らずと無意識に反応してしまう。

 

「そのお手拭きがテーブルの上にないって事は、服のポケットに閉まったんでしょ?そのお手拭きを警察の人が調べれば、わかっちゃうと思うよ?……おじさんが毒の飴玉を使って人を殺した……犯人だってことがね」

 

「あ、う……」

 

最早言い逃れの出来ない状況に追い込まれて、犯人の口から言葉にならない呟きが漏れる。

キッチリと証拠の場所も含めて言われたら、後は警察が身体検査したらそれでバレるだろう。

締めに「って、新一にーちゃんが、電話で言ってたよ♪」とドヤ顔で言うコナンに、服部さんがムカつくって表情を浮かべる。

……仲が良いのやら悪いのやらって――。

 

「く……ッ!?でりゃあああああッ!!」

 

ガシャアアアアンッ!!

 

「「ッ!?」」

 

「きゃっ!?」

 

「蘭ちゃんッ!?」

 

と、悪あがきのつもりなのか、犯人である甘粕はテーブルを引っ繰り返してコナン達と距離を取ると、入り口に向かって走りだした。

しかも懐に隠し持っていたのか、サバイバルナイフを振り上げながらだ。

コナンや蘭さん達は引っ繰り返ってきたテーブルや、飛んだ皿に驚いて下がってしまい、甘粕と距離が開いてしまう。

更に間の悪い事に、奴が向かってきたのは――。

 

「おらぁああああああッ!!!どけぇええええッ!!!」

 

「なーんでこっちに来やがる……クソッタレ」

 

「「「「あっ。そ、そっちは止めた方が……」」」」

 

入り口に続く廊下に立っていた俺の方向だった。

そして何でアンタ等は俺じゃなくて犯人の心配してやがる。

目がギラギラしてる上に、ナイフを振り上げた甘粕。

警察に囲まれて顔も割れてる訳だが、刑務所に入りたくない一心で動いてるんだろう。

形振り構わない人間ってのは、何でもするだろう。既に二人は殺してるんだし。

 

しかしまぁ、それで俺にナイフを構えて突進たぁ……哀れなモンだぜ。

 

向かってくる甘粕に対して、俺は鉄球を回転させて左手に握る。

さすがに警察の目があるから、骨を折るまではいかねえけど……ちと、教育してやる。

 

「シッ!!!(ドギュウゥッ!!!)」

 

「なッ!?(ドゴォッ!!)ぐあッ!?」

 

俺に向かって走りながらナイフを翳す甘粕のナイフを握る手に、鉄球を投球。

回転を掛けた鉄球はカーブしながら、奴の手からナイフを弾き飛ばした。

鉄球の勢いが思っていたよりも強かったのか、甘粕はナイフを握っていた手を抑えて俺を睨む。

武器を無くしていたが、奴の目に宿るギラギラした気配は全然消えていなかった。

まぁ、自分の前に立ち塞がる相手は小学生。

体格差で押し切れるとか考えてるんだろうが……甘いな。

 

「……俺はよぉ……今よりガキの頃から、この鉄球をずっと扱ってきた……」

 

「あぁッ!?何を訳分かんねー事を――」

 

「鉄球をどう投げれば、どういう角度にブチこめばどういう方向に『弾ける』のか……」

 

突如、理解出来ない事を言い出した俺に吠える甘粕の言葉を遮り、俺は独白を続ける。

そして、右手で既に回転させていた鉄球を振りかぶり――。

 

「ヤリ飽きた『ビリヤード』の様によーーく知ってるんだぜぇ~~~~ッ!!?」

 

 

 

右手の鉄球を、甘粕の頭上――そこで滞空しながら回転を続ける『鉄球』にブチ当てた。

 

 

 

ガギャァアアッ!!

 

すると、滞空していた鉄球に今投げた鉄球が当たって方向を変え――。

 

ドゴォッ!!

 

「――か、ぷ……」

 

メキィ、という痛々しい音を奏でて、甘粕の顔面を強襲した。

滞空していた鉄球は役目を終えて回転を維持しながら俺の手元に戻り、俺はそれをキャッチしてホルスターへと戻した。

更に甘粕の顔面で尚も回転を続けていた鉄球の回転エネルギーが甘粕の顔面からパワーを炸裂させ、その躰を吹き飛ばす。

そのまま空中で一回転した甘粕は、最初に座っていた席へと豪快な音を立てて逆さに沈む。

店内の人間がその一部始終を見て呆ける中、俺は戻ってきた鉄球を手のひらで軽く受け止めてから、流れる様に腰のホルスターへと投げて収める。

まるで潰れたカエルみたいな格好で気絶している甘粕を見ながら、俺はフンと鼻息を鳴らす。

奴が気絶したとかやり過ぎかもだとか、そんな事はどうでも良い。

 

「ふ~む……こういう場合、ニューヨーク市警のバッジとかあったら、バシッと良いキメ台詞でキマったかもしれねえんだけどな。N・Y・P・Dってのは、『逃げる・野郎は・パンチで・ど突く』って意味だ……なんて、な」

 

 

 

目下俺の悩みは、承太郎さんばりの渋い決め台詞が浮かばねえ事、だな。

 

 

こうして、殺人犯は無事にお縄に付き、大阪で起きた事件というのも無事解決。

俺は犯人を攻撃したが、今回は自衛の為という事で厳重注意で済ませてもらった。

蘭さん達も、俺の命が掛かった場面だったからか、強く言わないで居てくれたのが幸いだ。

まぁそんなこんなで、事件も解決して腹も膨れた俺はお土産を両手に抱えて皆と一緒に探偵事務所に戻るのだった。

 

 

 

……まぁ、唯一つ。

 

 

 

「処で平次?コナン君から聞いたんやけど、蘭ちゃんの胸見とったらしいな?ちょっとあそこの路地に行こか?」

 

「アカン。俺死んだわ」

 

服部さんだけは無事に帰れるか分かんねぇんだけども。

怒りに燃える和葉さんに首根っこ引っ掴まれて路地裏へと運ばれる服部さんの背中に哀愁を感じた俺であった。

 

 

 






今回も遅くなってしまいましたが、私事で執筆時間が激減してるのが現状。

それでも最低年内にはまだ幾つか投稿して、今年度の投稿を締めたいと考えてる所存です。


これからもよろしくお願いします。


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発明家のうちへ遊びに行こ(ry

ドーモ=ミナサン。PIGUZAM]=デス。

只今を持って、神室町より帰還致しました(笑)

……すいませんm(__)m
龍が如く0が神ゲー過ぎて、どっぷり嵌っていました(;・∀・)

そして仕事も忙しく、中々執筆が出来ない状況でして(´;ω;`)ウッ…

久しぶりの更新になりますが、これからも失踪せずに疾走していこうと思っております。

そして更に、このマジカルオーシャンに於いて、実は作風の工夫、という物を研究しておりました。



ズバリ、テーマは『ジョジョっぽい台詞回し、比喩表現』です。



以前と友人にそういったジョジョの映画に対するリスペクトや独特な比喩表現が少ない様に感じられた、という感想を頂きまして、今話ではその台詞回しや比喩表現を徹底的に研究しておりました。

なので色々と苦労しましたが、これで少しでもジョジョの奇妙な冒険という偉大な作品の影を見させて頂くくらいにはこのSSの雰囲気がジョジョに近づければ良いなーと考えている所存です。

出来ればその、ジョジョの独特な世界観の味わいを少しでも味わって頂ければと愚行する次第です。

では、皆さんドーゾ=ゴ賞味下サイ。(出来ればその感想も頂ければ作者は感無量です)




ねぇ……こんな時、どういう顔したら良いのかしら?

 

 

 

切なそうに、それでいて湧き上がる高揚感を抑え切れないといった声音を紡ぐ彼女。

何処か俺の答えに期待している様な質問に対しての答えは、残念ながら俺には全く思い浮かばない。

 

 

 

……笑えば良いんじゃねぇか?

 

 

 

ほら、返せる言葉なんて何処かで聞いた事ありそうな、有り触れたフレーズだけだ。

勿論そんなチープな言葉は、向こうが求めてる答えじゃない。

案の定、彼女から返って来る言葉は喜色に富んだそれではなかった。

 

 

 

……そんなの……無理よ……無理に決まってるじゃない……ねぇ、どうしたら良いの?教えてよ?

 

 

 

やめろ、やめてくれ、俺に縋るんじゃねぇ。

それに対する満足の行く言葉を、俺なんかが知ってる訳無えじゃねえか。

 

 

 

いいえ。アンタは知ってる筈。いや知らなきゃ”おかしい”のよ……だって――。

 

 

 

俺の耳にだけ厳かに響いていた彼女の言葉。

やがてその声音は感情を表すかの如く、気炎を帯び――。

 

 

 

『人の電話を無視しくさってたあんた以外に答えられる人間が居る訳無いでしょうがこのバカ明ッ!!!アタシのこの怒りッ!!どう落とし前つける気なのか説明しなさーいッ!!』

 

 

 

一瞬で発火し、全てを燃やす豪炎(アリサ・バーニング)と化す。

 

 

 

いや、人によっては炎どころか爆発にも感じるこの迫力。

勿論その攻撃の発生源には近寄るまいと、俺は彼女の声が漏れる受話口から耳を思いっ切り離している。

 

「だから知らねーつってんだろうが。こっちはこっちで色々あったんだよ。それこそ分刻みで動くビジネスマンを装う潜入捜査中のデカ並みに、な」

 

『なにアクセルフォーリーっぽく気取ってるのよッ!!っていうかそんなギリギリの生活になる小学生なんて居る訳無いでしょうがッ!!あんたあたしを馬鹿にしてるのッ!?』

 

「いやいや、これでも反省してるんだぜ?それこそ、偶々近所の犬に懐かれて気分良~く撫でてたら自分の愛犬が機嫌損ねちまって参ったな~ってぐらいにはよ」

 

ガルルルルルルルル(お望みなら噛みついてあげるわよ)ルルルルルルッ(、ご主人様ぁ)!!』

 

人語を話せ人語を。お嬢様だろうに。いや犬の例えしたの俺だけど。

自分なりに反省してるという気持ちを表した例えで答えたが、電話の向こうのアイリッシュセッターのご機嫌は斜めのまんま。

っつうか感情が昂ぶったら威嚇って、そんなのは狼が素体のアルフだけで充分だ。

人間には言葉という素晴らしいコミュニケーション能力があるんだから、態々進化の過程で消えた威嚇なんてするなっての。

 

 

 

――ファミレスの事件が終わった翌日、今日も何にも起きません様にと祈りながら朝食を済ませ、ランニングから帰って来た時の事。

 

 

 

家無き子こと俺様城戸定明は探偵事務所のソファに座って、携帯電話を耳から数十センチ離した位置で電話を受けていた。

その表情、普段よりも七割増で死んだ目付きをしている事間違いなしだろうな。

スピーカーフォンにしてねぇのにこの位置まで声がハッキリ届くとかどんな肺活量だっての。

 

「ね、ねぇコナン君。定明君どうしたの?なんか、子供がしちゃいけない目付きになっちゃってるよ……具体的に言うと、夕方の商店街で『今日は何にしようかなぁ~』って悩んでた時にお魚屋さんの前で呼び込みしてるおじさんの手に握られてた魚みたいな目。あんまり生きの良さそうじゃないの」

 

「(それって死んだ魚みたいな目って事じゃ……しかも鮮度低い目ってオイ……)え、えっとね。さっき僕が部屋に戻ったら、定明にーちゃんの携帯がマナーモードで振動したから、定明にーちゃんに渡したんだけど……」

 

「そしたらあの坊主。最初携帯を見て、まるで捨てた筈の証拠が戻ってきた犯人みたいに、『ゲッ!?何でコレが此処にッ!?』みたいな顔しよったんや。ほんで、えらい嫌そうな顔しながら電話に出たら……」

 

「あの調子で怒られとる、ちゅうこと?」

 

「せや。話の内容やと、電話の相手は坊主に何度も電話しとったみたいやけど、坊主はまるで気付かんかったみたいやな」

 

何か俺の視線から離れた給湯室から俺の事を窺いながらヒソヒソ話してる蘭さん、和葉さんと探偵コンビに、俺は深い溜息を吐く。

しかしあの尋常ならざる覇気を纏っていた和葉さんからの折檻に耐え切るとは、服部さんの耐久力も中々のご様子。

ったく、携帯を見なかったのは悪いと思ってるけど、ここまで怒らなくても良いだろ。

 

まぁなんだ、朝食済ませてランニング終えて、探偵事務所でゆっくりと過ごしていたらこんな事になっちまった訳ですよ。

 

珍しくもあの事件の次の日、つまり今日はまだ何も起きていなかったので気が抜けていたってのもある。

まぁ昨日あの後、犯人に対する決定的な確定要素を俺が最初に当てたって事で世良さんからは俺がコナンと平次さんの勝負の勝者だとか言う謎の判定が下って面倒だったがな。

何が面倒って、自分達より先に犯人の目処を付けられた西と東の高校生探偵の二人の挑戦的な眼差しがだよ。

それ以外は特に支障は無く、今日という一日のスタートは比較的穏やかに過ごせた。

朝食前に波紋持続力UPのランニングをしてからパン屋に寄って美味しいパンを買ってきたり、コナンと服部さんに鉄球の技を見せたりって感じの暇具合。

他にも蘭さんや和葉さんの要望でマジック(もどき)を見せたりと、まぁ至って平穏だったな。

……ちなみに昨日の事件の後で気分転換にとカラオケ屋に行った時に、コナンの歌で耳が破壊されるかと思ったが。

いやはや……まさかあそこまで酷い音痴とは想像だにしなかったって。

 

 

 

しかしそんな俺の平和な朝の一時という尊い壁をどこぞの武神よろしくパンチ一発で粉々にブチ砕いてくれたのが、今もスマホ越しに怒鳴ってるアリサその人である。

 

 

 

最初コナンからスマホ受け取った時は本気で切るべきか大いに悩んだぜ。

だが、その場で切って放置してたら海鳴に帰った時にどうなるか分かったモンじゃないんだよな。

だって……昨日携帯チラッと覗いたら、着信件数とLINEがものっすごい事になってたし。

……吸血事件のあった日からずっと放置してたのが失敗だったな。

さすがに寝る前だったから返信せずに更に放置したけど、さっきコナンから受け取るまですっかり忘れてたっての。

って事で電話に出たのはいいけど、そしたらまぁ出るわ出るわの怒りの言葉の台風。

本日のアリサは大荒れの模様ってか?正直耳が痛くなってきそうだぜ。

 

『ちょっとッ!!あんたちゃんと人の話を聞いてるんでしょうねッ!?』

 

「あーはいはい。ちゃんと聞いてるって。任せろ任せろ」

 

『へぇ?じゃあさっきアタシは何て言ったかしら?』

 

「あん?何か言ってたか?」

 

『質問を返すなあぁーーーッ!?アタシは五日後の何時に帰ってくるかと聞いたのよッ!!疑問文には疑問文で返せと学校で習ったのかアンタはぁッ!?』

 

どうやら頭の片隅で別の事考えながら応対してたら、アリサの質問を聞き逃してたらしい。

案の定アリサのガーッという叫び……というか咆哮が鳴り響くが、まぁ仕方ねぇ。今のはさすがに俺が悪かったか。

スマホを耳から離して持ったまま、俺は朝のトレーニングついでにこの近辺で一番美味しいパン屋で買ってきたフルーツサンドを頬張る。

波紋の呼吸の持続力アップの為に全力疾走で往復3キロ程走ってきたから、ちょっと小腹が空いてるんだよ。

 

「もぐもぐ……そういや、まだ新幹線のチケット取ってなかったな……もぐもぐ……わざわざ、もぐもぐ、電話してもらって、もぐ、スマネェけどもぐ……まだ、もぐもぐ、分かんね、もぐもぐ」

 

『……食べるか喋るか、どっちかにしてくれないかしら……ッ!!』

 

「んぐ、ごくん。もぐもぐ」

 

『迷い無く食べ始めるんじゃあないッ!!!こういう時は話しを聞くのがマナーってモンでしょうがッ!!』

 

「もぐもぐ……んーな事言ったってよぉ。これフルーツサンドだぞ?もぐもぐ……冷たいうちに食わなきゃクッソ不味くて食えたモンじゃ、もぐもぐ」

 

『せめて最後まで喋りなさいよぉ……ッ!!……ハァ……まぁ良いわ……兎に角、あと五日したらこっちに帰ってくるのは確定なのね?』

 

ふと、俺が適当な応対をしていた事に怒り心頭だったアリサがその怒りを抑えて話を戻した。

抑えてって言うよりか脱力って感じだが……なんだなんだ?アリサにしては随分と優しい対応だな。

 

『……なんか失礼な事考えられてそうだけど、あんたと漫才してたら何時まで経っても話が進まないから怒るの止めたのよ……別に、アンタが元気そうなら……まぁ、それで良いし』

 

「んー……まぁ概ね元気でやってるぜ?怪我もしてねぇしビョーキもねぇが……なんだ?心配してくれてたのか?」

 

『バッ!?だだ、誰が心配なんかするのよッ!?た、ただそう……ア、アレよッ!!あんたがもし、まぁ爪の先ほども不調だったらこっちに帰って来た時に連れまわせないって思っただけよッ!!変な勘違いすんなッ!!』

 

世間一般ではそれを心配と言うと思うんだが?

まぁそんな野暮な事を突っ込めばまたアリサの『ほえる』が発動しちまうので、心に留めるだけにする。

また感謝するのは別の時で良いだろ。

最後の一切れを急いで飲み込んだ俺は、スマホを耳元に近づけて会話を続ける。

 

「とりあえず五日後に帰るのは確定だ。時間は決めてねーけど、アリサん家の別荘に行くのは七日後だろ?差し引き二日の余裕があるし、それまでには間に合うから問題無えぞ」

 

『……ふ、ふ~ん?そう、間に合うのね?な、なら良いわ……う、うちの別荘に来れる機会なんて早々無いんだから、精々楽しみにしてなさい』

 

「あいあい。じゃあそろそろ切るわ。ここんとこ充電してなかったからそろそろ電池が切れそうなんでな」

 

『待ちなさい。アンタ、ちゃんとすずかとリサリサにも電話してあげなさいよ。二人共あんたが全然電話に出なくて心配してたんだから』

 

「……」

 

『返事は?』

 

「へー、へー。スイませェん……ちゃんと電話しまぁす……」

 

『ん、よろしい。それじゃあ切るけど……あんまり心配させるんじゃないわよ、バカ』

 

と、最後にか細い声でそれだけ付け加えて、アリサは一方的に電話を切ってしまう。

しかもそれで終わらせようとせずに更なる面倒なミッションをオーダーしてきやがった。

そのミッションの難易度に、さすがの俺も顔を歪めてしまう。

難易度で言えばもう一回月村裕二と戦う方が俺にはマシに感じられる程だ。

とりあえず、折角鎮めた怒りを再燃させられちゃ敵わないので、俺は溜息を吐きながらすずかの番号をコールする。

まっ、”電池はフル充電だし問題は無い”か。

後でアリサにバレたら簀巻きにされてオラオラは確定なんだが、まぁバレなきゃどうという事も無い。

怒りに燃えるお嬢様の怒声で傷んだ耳を揉み解しながら、俺は後二人のご機嫌を伺う為のお為ごかしの言葉を考える。

ったく、ままならねぇもんだよな。こちとら大事な従姉妹の命を守る為に戦ったってのによ。

 

『も、もしもしッ!?定明君ッ!?』

 

「あー、よぉ、すずか。元気してっか?」

 

ついこの前の生命を賭けた戦いを思い出していると、受話口からすずかの切迫した声が響いてきた。

余程気を揉ませちまったんだろう。

なので、なるべく自分は大丈夫だっていうアピールのつもりで軽い調子で声を出したんだが……。

 

『う、うん。私は元気、ってそうじゃなくてッ!!定明君、どうして電話してくれなかったのッ!?』

 

「つぁ……ッ!?」

 

さっきまではちょっとでかいかなってぐらいだったのにいきなり声量アップしたから耳がやられるかと思った。

俺が耳を話した事で声が聞こえなくなったからか、スピーカーからすずかが『もしもしッ!?定明君ッ!!』と叫んでいる。

もう少し声を落としてくれよな……何時かマジに耳鼻科のお世話になっちまうっての。

俺は溜息を吐きたい気持ちを抑えながら携帯に耳を寄せて、すずかに落ち着く様に促して会話を再開する。

 

『私、お姉ちゃんとイレインから定明君が事件に巻き込まれたって聞いて、ずっと心配してたんだよッ!!何回も電話したし、LINEだって……ッ!!』

 

「ん……悪い悪い。ちょっと携帯を放置してたら気付かなかったんだよ。本当にスマねぇ」

 

『……もう……本当に……心配したんだからね……?』

 

どうやらイレインと忍さんはすずかに今回の事件の事を話してたらしく、すずかの声は震えていた。

それは大声を出した時も、今の感情が落ち着いた時も変わらず、本当に俺を心配してたってのが凄く伝わってくる。

なのでどうしようもなくこっちが悪いって気持ちにさせられてしまう。

まぁすずか達の事に関しては100%俺が悪いので弁解の余地も無えんだがな。

 

「兎に角、俺は特に問題無く五体満足で生きてるし、中々にスリルに溢れた生活を一生分くらい満喫する羽目になったが、まぁ心配しなくても大丈夫だ」

 

『ス、スリルって……定明君が大丈夫なら良いけど……あんまり危ない事、しないでね?』

 

「分かってるっての。俺だって毎日がスリルと迫り来る(DIE)に満ち溢れたハードな日常なんか御免だ。ジョン・マクレーンみてーな生活はゴメンだね。俺はあんなタフマンじゃ無いからな」

 

何が悲しくて簡単な補導任務がサツも真っ青な銃撃戦に擦り変わっちまう男になりたいもんかよ、と言うおどけながらの言葉に、すずかは「もう」と少し怒る。

あんなクソカス野郎の月村祐二の話をすずかにしても、お互いに気分が悪くなるだけだと思ったので話題を逸らしてみたが、どうやら成功したっぽい。

一々あんな奴の事を思い出すのなんて、億劫で憂鬱で嫌悪すら覚えるっての。

しかし俺の言葉を聞いたすずかはというと、何故かスピーカー越しに難しそうな声音で唸り始めた。

 

『んー……でも定明君なら、本当の意味でDIE HARD(なかなか死なない者(不死身))になれそうだけどなぁ……』

 

強いって意味で、ね?そう締め括るすずかの言葉に、俺は苦笑してしまう。

確かに俺なら早々死なないくらいしぶとく生きる事が出来るだろうな。

それこそスタンド能力や波紋、鉄球の技術を持つ俺にはそれだけの行動の選択に対する自由が得られる。

だからって、自分から危険に飛び込みしたくはねぇがな。

 

「まっ、どうあれ自分からアクション起こす気はねぇよ。それよりもう少ししたら帰るから、次は旅行の時に会おうぜ」

 

『うんっ。楽しみにしてるから……何かあったら、気を付けてね?』

 

「分ーかってるって。信用ねぇなぁ」

 

『ふふっ♪それは仕方が無いと思うよ?じゃあ、バイバイ♪』

 

俺のげんなりした声に満足したのか、すずかは上機嫌気味に挨拶し、俺も「おう」と答えて電話を切る。

結果として、四苦八苦しながらも何とか怒り(悲しみ?)を納めてもらう事に成功。

すずかはこっちの(少ない)良心に訴えかける様にオドオドしながらも心配したって再三言ってたが、何とか納得してもらったよ。

そして再び電話を操作して、最後はリサリサの番号をタップ。

無機質なコール音を聞きながら、俺はポケーっと事務所の窓から見える青空に視線を向ける。

……さっきのアリサもそうだが……女ってのは一度怒らせると本当に厄介だってのは身に沁みて理解出来た。

しかも全くもってこっちに非があるから無視も出来ねえし。

 

『(pi)はい、もしもし。アリサ・ローウェルですが……”何方でしょうか?”』

 

oh……のっけからヤバそうな予感。

 

「……よぉ。俺だ、定明だ」

 

『あら、ジョジョ?御免なさい。”久しぶり過ぎて気が付かなかったわ”』

 

「……そうか」

 

電話に出たリサリサの声は何時もより少し高め……なんだが……所々無機質にも感じる。

それこそ、留守番電話の伝言サービスが概要だけを話し掛けてくるくらいに冷たいというか。

っていうかアドレスに登録してるのにどちら様ってのは無えだろ……こりゃマジに怒ってるな。

 

「えっと、その、なんだ……悪かったな……碌に電話も返さないで、よ」

 

『あぁ、いえ。良いのよ?私はただ、”遠い町に一人で行ってしまった貴方が心配でしつこく連絡していただけ”だもの。でも元気そうで何よりだわ♪』

 

「……あー……んー……」

 

『ふふっ。でもごめんなさい。私ったら”10回近くも電話とLINEをしつこく鳴らしちゃって”……迷惑だったでしょ?』

 

「いや、迷惑なんてこたぁ無えよ。ただこっちも誘拐事件やら何やらに巻き込まれてて、それこそパルプ・フィクション並みの右往左往する展開が毎日の様にだな……」

 

『ッ!?ご、ごめんなさい……まさかジョジョが”1週間以上もずっとそんな事件に連続で巻き込まれて息も吐く暇が無い程に忙しかった所為で連絡出来なかった”なんて気付かなくて……そんな、パンプキンとハニー・バニーみたいにその場のノリで強盗しちゃう様な勢いで事件に巻き込まれる忙しい日常だったら、連絡なんて無理よね……』

 

「……」

 

連絡放置でほぼ遊び呆けてた、なんて……言えねーよなぁ。

っつうかお前も観たのか、パルプ・フィクション。

少なくともうら若き女子が見るモンじゃねーぞアレ。

 

『貴方がそんな大変な目に遭ってたのに、無神経に何度も連絡しちゃうなんて……本当にごめんなさい』

 

「OKOK。もっと前向きで建設的な、それこそ実りある話をしようぜ?昼間っから過ぎ去った過去話で時間潰してちゃ勿体無さ過ぎる。休日のリーマンしかり放課後の学生しかり、それこそ昼下がりの主婦だって煎餅齧りながら笑点見てるとか、もっと有意義な時間を過ごしてるしよ。俺達もそれに倣うべきだろ?」

 

悲しそうに自分の行いを恥じるリサリサだが、その言葉の剣の切っ先は全て俺向きだ。

遠まわしな言い方だが、間違い無く俺が連絡ブッチしてたのを怒ってる。

それだけは確実に分かった。確実。そう、コーラを飲んだらげっぷが出るくらいに確実にな。

だから俺は彼女の怒りを納めてもらう為に『提案』する。

この城戸定明、『言い訳』はしても『禍根』は残さないのが心情なんでな。

そんなモノを残して後からミミズの様に這い出られても困るし。

 

『それは素敵な提案ね♪過去を引き摺らず、未来(これから)の事を話し合うのは凄く大切だと思うわ。具体的に……そうね。さしあたってはアリサの別荘に行く時だけど。私、私用の水着は持っていなくて……」

 

「そりゃ丁度良い。俺は五日後には海鳴に帰るんだが、俺も奇遇な事に旅行まで時間は空いててな。リサリサさえ良いんなら一緒に買物なんてどうだ?」

 

『あら?それってデートのお誘い?それにしては少し回りくどくないかしら?』

 

「紳士的なエスコートじゃなくて悪いが、生憎と俺は生粋の日本人だから今どきの者らしく紳士のマナーは皆無なんだよ。最近のニュースでも言ってたろ?日本人の男子は紳士的じゃないって。俺に紳士さを期待すんなら、杉下右京さんにワイルドさを求めるも同義だと思ってくれ」

 

『……そんな事無いわ……一人で勝手に拗ねて八つ当たりしてる私に、気を使ってくれてるんですもの。それは充分に紳士足りうると思うけど?それと、私は完璧なGentleである杉下さんより、情熱と愛嬌のある亀山さんの方が好みよ♪』

 

さっきまでの少し冷たい雰囲気を和らげて、リサリサは電話越しに笑う。

それは俺の行いを笑うものでは無く、クスクスといった楽しみに溢れた笑う声だ。

 

「……どっちも俺には欠けた魅力、だな。その二人と比べられちゃ、俺は(紳士さ)焼き豚(情熱)の入ってない炒飯みてーなもんだ」

 

『それじゃ炒飯として成立しないじゃない……まぁ確かにジョジョは焼き豚(情熱)はあまりなさそうだけど……少なくとも、()は入ってると思うけどね』

 

「あ?」

 

『いいえ、何でも無いわ……ふふっ』

 

その後のリサリサは特に不機嫌そうな様子も無く、まぁ楽しくお喋りできたとは思う。

最後にちゃんと旅行に行く前に買い物する約束をして、俺は電話を切って天を仰ぐ。

彼女は最後に『意地悪してごめんなさい♪』と楽しげに言って通話を切り、俺は今日一番の大きな溜息を吐く。

そのままメールを開いて、二、三回だけの着信だったなのはと相馬に謝罪のメールを入れてスマホの画面を消した。

どうやら何とか今回の件に関しては許してもらえた様だが……これからはなるべく着信に気を配るか。

ハァ、ホントに……やれやれだぜ。

 

「あ。電話終わったの、定明君?」

 

「はい。今終わったッスよ」

 

「なんや、えらい怒られてたみたいやけど、何かしてもうたん?」

 

と、俺が電話を切ったのを確認した蘭さんと和葉さんが給湯室から出て話しかけてくる。

その二人に友達たちが何回も連絡してたのに俺がそれに気付かなかったから怒られたと答えると、二人も苦笑いを浮かべた。

 

「それはまぁ、四六時中携帯を確認しとる訳や無いんやろうけど……なぁ、蘭ちゃん?」

 

「ま、まぁ、今回は女の子達のやるせない気持ちを受け止めたって事で良いんじゃないかな?」

 

「せやな。それを受け止めるんも男の子の宿命やで。頑張れ、男の子」

 

「こんなのが毎回続くってんなら、俺はその宿命とやらを運命付けた野郎をはっ倒しますよ。男の子としてね」

 

やっぱり同じ女としてはリサリサ達に同意している蘭さん達に、俺は被りを振って言葉を返す。

こんな面倒くせーのはこれっきりにしてもらいたいもんだぜ。

ダラッとソファーにダラける俺を、対面のソファーに座った服部さんとコナンが少し驚いた様な表情を浮かべて見ている。

 

「しっかし、坊主も随分アレな映画の例えを出しとったな。チョイス渋すぎるんとちゃうか?」

 

「??アレな映画って何なん、平次?」

 

「何って、さっき坊主が言うとったヤツや。分刻みで動くビジネスマンやら、ジョン・マクレーンみてーな生活はゴメンだって言うとったやろ?」

 

「え?あれって映画の話なの?」

 

服部さんが俺の例え話で出した言葉を繰り返すと、蘭さんと和葉さんは「そうなの?」と聞きたげな視線で俺を見てくる。

その問いに対して答えようとするが、俺より先にコナンが口を開いた。

 

「最初のは、アクセル・フォーリーっていうデトロイトの刑事が型破りな捜査で事件を解決するビバリーヒルズコップっていう映画。定明にーちゃんがさっき言ってた分刻みで動くビジネスマンっていうのは、その2作目でアクセルがやってた潜入捜査中の肩書きの事だよ」

 

「ほんで、ジョン・マクレーンっちゅうのは同じく刑事ものの映画、ダイハードの主人公の名前やな。シリーズ全作通して何故か厄介事に巻き込まれとるから、『最もツイてない男』なんて渾名付きや」

 

「ある意味、『最も憑いてる』んでしょうけどね」

 

「まぁな。んで、その二つの映画の一作目が公開されたんは今から25年以上も前の80年代でな。俺等からしてもごっつう古い映画や」

 

「へー、そんなに古い映画なんか?」

 

「コナン君も良く知ってるね?」

 

「う、うん。前に新一にーちゃんが教えてくれたから」

 

「そうなんだ……確かに、新一って良く古い映画も見てたっけ」

 

俺の例え話の内容を事細かに説明する服部さんとコナンに、二人は少し驚いた表情を見せる。

確かにそれだけ昔の映画なら、9才児の俺が知ってるのには驚く所もあるか。

 

「それにあれはどっちかっていうと大人向けの映画やし、何でそれを坊主が知っとんのかなって思ったんや」

 

「あー、それっすか。俺の父ちゃん、映画鑑賞が趣味なんスよ。んで、俺も暇な時は父ちゃんからDVD借りて良く見てたんでその影響っすね」

 

俺がそう答えると、服部さんとコナンも「そういう事か」と納得した顔を見せる。

ちなみに今の話は本当の事だ。

父ちゃんは古い映画から新しい映画まで全部好きだから、家のDVD棚を並べたらレンタルショップの棚にも見える。

最近はブルーレイと外付けHDDを買ったからそれにデータを移しているので、大分減ってきてはいるがな。

それでも映画の本数はかなりのモノで、俺も暇潰しがてらに良く色んな映画を見ているって訳だ。

 

「俺としては最近のより古い映画の方が面白いんスけどね。展開も早過ぎないゆったりとしたコメディとか、CGが過剰に使われて無い俳優の演技力とか」

 

「ほぉ?例えばどんなんや?」

 

「んー……ここに来る前に見た映画で、マウス・ハントって映画はかーなーり面白かったッスね。人間VSネズミの壮絶なバトルは最高に笑えました」

 

「に、人間対ネズミって……何か、聞いた感じだとSFホラーっぽいんだけど……」

 

「いやいや。そんな種族全体の戦いじゃなくて、とある二人の兄弟VS一匹のネズミによる家を賭けたコメディバトルですから」

 

端折りまくった俺の説明を聞いてちょっと引いた感じだった蘭さんに、もう少し詳しく内容を語る。

ハント、なんて物騒な題名だけど、あれは正しくコメディと感動が混ざった名作だ。

俺の適当な説明で誤解して欲しくない。

なので懇切丁寧にあらすじだけを説明すると、4人とも興味が沸いた風な表情を浮かべた。

 

「確かに、定明君の話を聞いた感じだと結構面白そうだね。今日借りてみようかな。コナン君も見てみたい?」

 

「うん。僕もなんか気になってきちゃった」

 

「なー平次。あたしらも大阪に帰ったら見てみぃひん?」

 

「そうやな。もう課題も全部終わっとるし、偶には映画で時間潰すんも良えやろ」

 

「えぇ。是非見て下さいッス。特に冒頭で兄弟達のお父さんが棺桶から下水道にダイブする姿は抱腹絶倒モンですから」

 

「「それってどんな状況ッ!?」」

 

「……まぁ、コメディもんって考えたら笑える様な状況なんやろうけど……」

 

「あ、はは……」

 

俺的に一番オススメのお笑い場所を推薦したら、それは和葉さんと蘭さんに揃ってツッコミをもらってしまう。

服部さんとコナンも苦笑いしているぐらいだ。

でも、俺は思う。あのシーンは絶対に笑わない人は居ないだろうと。

 

「ところで話は変わるんスけど、蘭さんの幼なじみの新一さんって人いるじゃないっすか?」

 

「え?う、うん。新一がどうかしたの?」

 

「いやね?俺思ったんスけど、その新一って人と服部さん、それに小五郎の伯父さんってジョン・マクレーンにそっくりじゃないかなーと」

 

「はぁ?どこが似とんねん。俺はあんな後光が差しそうなスキンヘッドちゃうし、あのおっさんみたいにちょび髭の生えた間抜け面やないわ」

 

「えっと、ジョン・マクレーン……(pipi)……いや。新一はこんなハードボイルドじゃないよ。もっと子供っぽいかな」

 

(子供っぽくもねえよ)

 

俺の言葉に服部さんは呆れながら否定し、携帯でジョン・マクレーンの写真を検索した蘭さんも苦笑いしながら否定。

まぁ確かに外見は似てねぇだろうけど、俺が言いたいのはそこじゃない。

 

「見た目じゃないっすよ。俺が言ってんのは、”出歩けば事件に巻き込まれる所がそっくり”って事っすよ。ホラ、マクレーンと同じで”最もツいてなくて、最も憑いてる男”じゃないっすか――死神が」

 

「……あー……」

 

「確かに、そう言うたら今定明君が言うた3人はそっくりやな」

 

「……ここまで直球で死神が憑いてる言われたんは初めてやで」

 

「は、はは(まぁ、俺達の知名度=事件に良く関わってるって事なんだけどな……)」

 

俺が「ね?」と締めくくった言葉に、四人揃って微妙な顔になってしまう。

しかし俺は間違った事を言ってるつもりは無いんだけどな。

寧ろ事件ある所に名探偵!!じゃなくて名探偵の居る所に事件の影あり!!ってのは間違いじゃねぇだろうと。

一応お祓いしてもらったらと勧めたが、それは丁重に断られてしまった。

まぁお祓い程度でどうこうなる体質じゃ無えだろうけど。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「いや~長い事世話んなってしもてスマンかったな、おっちゃん」

 

「小五郎のおっちゃん、ありがとう」

 

「ったく、今度からは前もって連絡ぐらいしやがれってんだ」

 

「蘭ちゃんもごめんなぁ、長い事お邪魔してもうて」

 

「ううん。凄く楽しかったよ。また遊びに来てね♪」

 

「うん。蘭ちゃんもまた大阪に遊びに来てな♪めっちゃ美味しいお好み焼き屋さん紹介するで」

 

米花駅のホームにて、昼飯時の少し前。大体11時半ってトコだろうか。

土産なんかの荷物を抱えた服部さんと和葉さんが伯父さんや蘭さんにお別れと感謝の言葉を述べる。

それに対して伯父さんは面倒くさそうに、蘭さんは和葉さんと楽しそうに会話しながらという対象的な状況を催していた。

6日程になった服部さんと和葉さんの滞在は今日で終わり、二人は今から新幹線に乗って大阪に帰るって訳だ。

まぁこんな中途半端な時間になったのは、新幹線の予約がこの時間しか空いて無かった所為なんだが。

お蔭でもう直ぐ昼前だってのに俺達は相変わらず何も食って無い。

昨日の焼き増しな状況かと一瞬思っちまった。

 

……まさか殺人事件まで昨日の焼き増しで起きたりしねぇだろーな?勘弁してくれよ。

 

なんて思っていると、和葉さんがしゃがみこんで俺と目を合わせてきた。

 

「定明君も蘭ちゃん達と一緒に遊びに来てな?お姉さんが大阪のええ所、いっぱい紹介してあげるで」

 

「ういっす。まぁ確立低いだろうけど、また伯父さんの所に居る事があって尚且つ伯父さん達と大阪に行く様な事があれば、そん時はお願いします」

 

和葉さんのお誘いに対して苦笑しながら返せば、和葉さんも「そうやな」と言って苦笑い。

今回だって偶々偶然が重なったからこその出会いだった訳で、こんな事は早々ねぇだろうし。

 

「坊主。今回は俺の負けやけど、こん次会うた時は絶対にその鉄球の謎暴いたるでなッ!!首洗って待っとけよッ!!」

 

と、和葉さんと入れ替わりで俺の目の前にしゃがみこんだ服部さんは挑戦的な目付きでそう宣言する。

今回は服部さん達が大阪に帰る事でタイムオーバーになったから余計悔しい筈だ。

解いても問題無い謎を残していくのは、かなりモヤモヤするだろう。

まっ、俺としてはロジックで雁字搦めな思考をしてる服部さんやコナンには絶対に解ける筈無いと踏んでた訳だがな。

そんな感じでリベンジに燃える服部さんに、俺も笑みを返し――手を差し出す。

言っておくが握手ではない。

 

「じゃ、服部さんは滞在中に鉄球の謎解けなかったんで百円下さい」

 

「おまッ!?……こ、こういう時くらい金の話忘れて爽やかに送り出すんが人情やろ……ほれ」

 

「どもっす。いや、別にそこまで拘ってなかったんスけどね。今回の勝負は俺の勝ちっていう明確な形が欲しかったんスよ。まぁレシートみたいなモンだと思って下さい」

 

別れの時に清々しい笑顔で賭けの代金を催促する俺に、服部さんは疲れた顔で百円玉を渡す。

これも初日に俺に面倒なマジックもどきをさせた事への報復だと思ってくれ。

そんな感じでコントをしてたら、丁度新幹線がホームに到着。

服部さんと和葉さんが乗り込んで少しすると、プルルルという発進音が鳴り響いた。

 

「ほんなら、またなー」

 

「蘭ちゃん。空手の大会、頑張ってッ!!」

 

「うんッ!!和葉ちゃんも合気道の昇段試験、頑張ってねッ!!」

 

「バイバーイッ!!」

 

と、蘭さんと和葉さん、コナンと服部さんの別れの挨拶の直ぐ後で新幹線の扉が閉まり、プァーンという汽笛の音と共に新幹線は駅を去っていく。

予想していなかった来客だったが、まぁ楽しかったから良しとしとくか。

出来れば次に会う事があんなら死神体質を完全に無くした状態である事を願うぜ。

まぁ間違いなく無理だろうけど。

 

「さあて、そんじゃあ帰るか。新台の玉の出具合のチェックもしねぇと……」

 

「もうお父さん。あんまりパチンコで無駄遣いしないでよね」

 

「バーロォ。パチンコは男の戦いだ」

 

「伯父さん。昨日のファミレスでおっさん達が立ち話してたの聞いたんスけど、六丁目のアラビアンって台が穴場らしいッスよ」

 

「おっ!?そりゃホントかッ!?うっーっしッ!!なら今からいっちょ張り込み(軽く打ち)に行かねぇとな」

 

「話が当たってたら景品がっぽりお願いしますねー」

 

「おうよッ!!がっつり稼いでやるから楽しみにしとけよッ!!ナーハッハッハッハッ!!」

 

服部さん達を見送って駅のホームから出て、俺と伯父さんは和気藹々とした会話を繰り広げながら歩く。

その後ろで何やら蘭さんが呆れた顔してるが、まぁ大丈夫だろ。

何より今日はこれからちょっと急がなくてはならない事情があったりする。

 

「さあて。そんじゃコナン、この後は阿笠博士の家に行くんだっけか?」

 

「う、うん。ハカセが定明にーちゃんにこの前のお礼をしたいから、家に来てくれって」

 

伯父さんが高笑いしながら蘭さんと一緒に帰っていくのを見送ってからコナンに声を掛けると、コナンは少し苦笑しながら答えた。

今日も今日とて俺は探偵事務所でボケっとする事は許されず、コナンと行動を共にしなくてはならならいのだ。

その理由が今コナンが言った様に、例の発明家である阿笠博士から家に招待されたからだったり。

このお誘いは昨日の夜にコナンから伝えられていて、俺が了承したのである。

何でもあの誘拐事件で助けに来てくれた事への感謝の印として、俺にある発明品を送りたいということらしい。

それを聞いた俺は、興味本位でその誘いにOKを出した。

本音を言えば、名探偵コナンの世界で次々とユニークな発明品を生み出す博士の発明品に興味が沸いたからだ。

何せ現実じゃ在り得ないレベルの発明品なんだし、見て損は無いだろうよ。

 

「んじゃ、案内頼むぜ?俺は場所分かんねーからよ」

 

首の骨を鳴らしつつ頼むと、コナンは「うん。こっちだよ」と俺の横に並んで歩き出す。

そのまま俺達は駅から離れて真夏日の日が照る住宅街を歩く。

 

「しっかし、なんだろうな。俺に送りたい発明品って?コナンは何か分かるか?」

 

「んー……多分、探偵バッジじゃない?光彦達は定明にーちゃんを少年探偵団に入れる気満々だったし」

 

「勘弁してくれ。俺は探偵団なんかに入る気はねーんだっての」

 

「あはは。他には、腕時計型ライトとかかな?これは結構便利だよ。スマホが無くても明かりが作れるから」

 

「まぁ、それなら欲しいかもな」

 

出来ればそれであって欲しい所だ。

間違っても探偵バッジだなんて呼び出し機能は勘弁願いてぇ。

まっ、貰えるならありがたいってぐらいで考えておくか。

そのままコナンと他愛無い話をしたり、せがまれて鉄球の回転を披露しながら、俺は阿笠博士の家へと向かうのだった。

……どうでも良いけど、あと5日間はこうやって鉄球を見せてとせがまれるんだろうか?

どれだけ見ても解けないと思うがなぁ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ここがハカセの家だよ」

 

「はー。かなりデケェ家だな……」

 

コナンと二人で歩く事数十分。

俺とコナンは米花町2丁目にある阿笠ハカセの家の前に立っていた。

塀の中に聳える大きなオーバル状の家と、広い庭。

こんな豪邸を持ってるって事は、やっぱり発明品とかを売って結構儲かってるって事なんだろう。

そして、その隣のこれまたデカイ家が工藤。つまりコナンの家って訳で――。

 

「……ん?」

 

「??どうしたの?」

 

「……いや……」

 

一瞬、誰かに見られた気がしたんだが……気の所為か?

 

『定明~。気ノ所為ジャナイゼ~』

 

「ッ!?」

 

『落チ着ケヨォォ~~。辺リヲ見渡スノハ、ココデヤル事ジャナイカラナッ!!ホレッ、目ノ前ノ坊主ガ首傾ゲテルゼェ~?』

 

「??……定明にーちゃん?」

 

「……いや、何でもねぇ。気にしねぇでくれ」

 

いきなり耳元で話しかけられて驚いてしまい、そんな俺をコナンが首を傾げながら見ていたが、それに何でもないと返す。

コナンは不思議そうにしていたが、気を取り直してハカセの家のインターホンを鳴らす。

何とか怪しまれずに済んだ事に安堵しながら、俺はいきなり話しかけてきた『奴』をジロリと睨む。

 

《ヘイ・ヤー。テメェいきなり出てくるんじゃねぇよ》

 

自らのスタンドの一つである主を励ますスタンド、『ヘイ・ヤー』を心の中で叱ると、『ヘイ・ヤー』はクックッと低く笑う。

 

《ヘッヘッヘ。何トモツレネェゴ主人様ダゼ。折角オメェノ勘ガ正シイッテ教エテオコウトシタノニヨォ~》

 

《……あ?》

 

阿笠ハカセの家の門を潜りつつも、俺は『ヘイ・ヤー』との心中での会話を止めない。

こいつが俺の意志に関係無く勝手に出てくる時ってのは、本当に重大な場面だけだからだ。

それこそスロットでスリーセブンのゾロ目が出る直前の選択を確実なモノにする為の様に。

 

《良イカ定明?オメェノ直感トデモ呼ベル今ノ勘ハ間違ッテネェゼ?今ノ視線ニ感ヅイタ素振リヲ見センナ。見セタラ最後、オメェハ果テシナイ面倒ニ巻キ込マレル事、請ケ合イダカラヨ》

 

《……マジか?》

 

《アァ。ダガ心配ハイラネエ。今気ヅイタ振リシナキャ、後ハ問題無シ。ココガ分水嶺ッテヤツナノサ》

 

『ヘイ・ヤー』がここまでしつこく言ってくるって事は、さっきの視線の主は相当な面倒を抱えてるって事なんだろう。

そいつに俺はホンの1ミリ、それこそ爪の先っちょ程でも気付いたのを見せれば、俺も巻き込まれるらしい。

ったく、こちとら平穏無事に過ごしたいだけだってのによぉ。

正しく面倒事のメッカとも言える米花町の異常さに目眩でも起こしそうだ。

 

《ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオォォォォ――ッ。定明チャンヨォォォォ――ソウムキニナルナッツーノッ!!ヨォ――ヨォ。肩ノ力抜キナヨォォォォォ――》

 

だが、それより先に俺の両肩をグニグニとマッサージでもする様に揉んでくる『ヘイ・ヤー』が、俺の緊張を和らげる。

表情の分かり辛い、目の無いバケツの顔が、俺を励まし続けている。

それが、俺を励まして俺に幸運というものを信じさせて勇気づける事のみが『ヘイ・ヤー』の唯一にして最大の能力だからだ。

 

《何時ダッテ味方ダロォォォォォガヨォォォォ。信ジロ、今日ノオメェサンニャ幸運ノ女神モ俺モツイテルンダ。コノ展開ヲ味方ニツケルノサ。ソレガ、コノ展開ヲ乗リ切ル事コソガ、オメェサンノ幸運ニ化ケルンダヨ》

 

《……この展開を味方に?ロープの切れかけた縄橋をおっかなびっくり渡る様なこのスリリングな状況が俺に味方してくれるってのかよ?……笑わせやがる。そんな奇跡は、ポーカーでチェンジ無しに五回連続ロイヤルストレートフラッシュを当てる様なもんだろうが》

 

《オッオォ♪オッオ♪オ~~ヨッ!!》

 

馬鹿馬鹿しいと感じた思いをそのままに吐き出すが、『ヘイ・ヤー』はそれを聞いて尚更楽しそうに笑いだす。

まるで人は鰻で空を飛べると信じている子供の言葉を笑う大人の様に。

 

《オメェサンコソ笑ッチマウヨーナ事言ッテンジャネェヨォォォ……ポーカーデ五回連続ロイヤルストレートフラッシュ?ソンナモンハナァ、当タッテ当然ダロォォ~ガ。ン~ナチャチィモン(・・・・・・)ハ、今日ノオメェサンニトッチャ幸運ナンカジャ無エ。人ガ息シネート生キラレネェッツー程ニ当タリ前ナノサ……ソラ、コンナ会話シテル内ニ、幸運ガ転ガリ込ンデ来テルゼ~?》

 

「お~いハカセ。定明にーちゃん連れてきたぞ」

 

『おおッ!!待っとったぞッ!!今、哀君に開けてもらうからのう』

 

そこまで言われてやっと気付いた。

俺が『ヘイ・ヤー』と会話してる間に、俺は庭を渡りきり、コナンと一緒に玄関に立っているではないか。

その玄関も、既にノブが捻られて開く寸前。

……もしかして、『ヘイ・ヤー』が言っている『この展開』というのは、『ヘイ・ヤー』と話していて何事も無くハカセの家へと入る事では無かったのか?

俺がさっきの視線に意識を向けて辺りを見回したりしない様に、『ヘイ・ヤー』は俺を言葉で励まして『導いて』くれていたのでは?

そこまで考えが及んだ時には、『ヘイ・ヤー』は己の小柄な躰を俺の中へとズブズブと鎮め始めていた。

しかし、相変わらず感情の見えない顔で笑いながらである。

 

《ヘッへへ……忘レンナヨォ。俺ハオメェサンヲ励マシテ前へ進マセルスタンド。ソレ以上デモソレ以下デモ無エ。”太陽ガ東カラ昇ッテ西へ沈ムッテイウノト同ジ”ナノサ。ソレニオメェサンノ三番目ノ女ハ、幸運ノ女神サマナンダゼエェェェェ♪旦那ナンカヨリ遥カニ愛サレテンノヲ忘レンナヨォォ♪》

 

《……サンキュー、『ヘイ・ヤー』……だが俺の名誉の為に言っておくぞ?女囲ってるつもりも火遊びしてるつもりも無えよ。ドンファンと同じ最期は御免被るぜ》

 

《……ヘッへへ、ソウカイ♪》

 

自らの内に還るスタンドに感謝の言葉を述べてから、意識を前に戻す。

玄関前に立つ俺達の目の前の扉が開き、中から何時も通りの気怠げな表情の灰原が出てきた。

 

「いらっしゃい、二人共」

 

「よっ」

 

「おう、邪魔すんぜ……今日は探偵団の奴等は居ねえのか?」

 

「あら、恋しいのかしら?」

 

「うんにゃ。居たら相変わらず俺を探偵団に引き込もうとすんのかなーって思ってただけだ」

 

「ふーん、そう。残念だけどあの子達ももうすぐ来る筈よ。ハカセは私達全員に声を掛けていたからね」

 

「全員?定明にーちゃんに発明品を渡すだけなのに、何であいつらまで?」

 

玄関を閉めてから俺達を先導する灰原と会話をするが、どうやら今日はあの喧しい探偵団のメンバーも来るらしい。

その理由をコナンが尋ねるが、どうやら灰原も知らされていないらしく、返ってきたリアクションは「さあ?」と肩を竦めるだけ。

やれやれ、俺としちゃその発明品とやらを受け取ったら飯を食いに行くつもりだったんだがな。

まーた今日も昨日みたいに腹ペコなお昼時を過ごす羽目になんのか?

そこに二乗で探偵団メンバーからも勧誘の嵐が吹き荒れると?泣けてくるぜ。

 

「んで?俺に何か発明品をくれるって言ってた張本人のハカセさんはどうしたよ?」

 

「ハカセは地下室で城戸君に渡す発明品の最終調整をするって言ってたわ。もうすぐ出て来ると思うけど」

 

俺達をテーブルを挟んだ対面式のソファーに案内してくれた灰原にハカセの居場所を聞くと、何やら不穏なフレーズが返ってくる。

え?何それ?そんなやたらと手の込んだ代物なのか?

最終調整とは一体何なのかと灰原に問い返そうとするも、灰原は家の中央に備え付けられたカウンター付きのキッチンの中へと消えていってしまう。

後に残されたのはソファーに向かい合って座る、微妙な顔をした俺とコナンだけ。

 

「……なぁコナン。俺の耳がおかしくなけりゃ、今最終調整とか聞こえたと思うんだが」

 

「……そだね」

 

「……探偵バッジか、腕時計型ライトだっけ。それってそんな調整とかが要る代物なのか?」

 

「要る事は要るけど……昨日ハカセと電話した時に、あの誘拐事件のあった日の夜から定明にーちゃんに渡す発明品を作ってたっって言ってたから……バッジかライトならこんなギリギリの時間までかかる筈は無いんだけど……」

 

「素敵な前情報ありがとよ。少なくとも映画を見る前のパンフレットぐらいには役に立ったぜ」

 

「そ、そう。あはは……(それってあんまり役に立ってないだろ……)」

 

コナンの話を聞いて脱力した俺は、ソファーの背もたれにグデンと頭を乗っけて天井に視線を向ける。

お礼の為に気合入れて作ってくれてるってのは素直に嬉しいんだが……あんまり物々しいと不安になってくるなぁ、おい。

 

「なぁ灰原よ?ハカセさんが何を作ってるのか知らねぇか?」

 

「知らないわ。私にも内緒で夜中にコソコソ作ってたみたいだし」

 

「オーライ。その発明品が深夜テンションの塊じゃねえ事を祈っとく事にすんぜ」

 

「だ、大丈夫だと思うよ?」

 

「えぇ。そんなに変な物じゃ無いでしょうから心配しなくても良いと思うけど?」

 

はい、とテーブルに麦茶の入ったグラスを置いて笑う灰原に「サンキュー」とお礼を言って、麦茶で喉を潤す。

よく冷えた独特の苦味を含んだ味が、炎天下で乾いた喉を心地良く流れ込んでいく。

程良く喉を潤した所でグラスから口を離して一息付くが、これが何とも言えない心地よさを感じさせるんだよなぁ。

 

「フゥ……この雑味の少ないマイルドな味わい。水出しか……良いセンスだ」

 

「それはどうも。とは言っても、普通に麦茶のパックを水で溶かしただけなんだけどね」

 

「良いんじゃねーか?定明にーちゃんの言う通り、麦茶って水出しと熱湯で煮出したものだとかなり差があるからな。前にハカセが熱湯で作った麦茶は結構色んな味が含まれてたし」

 

「……まっ、私もあの味は好きになれなかったから、多少時間は掛かっても水出しにしてるんだけどね」

 

「ここに塩を入れると塩分が手軽に取れて尚良し、なんだよな。意外や意外な事に砂糖でもイケるって知ってたか?」

 

「え?」

 

「さ、砂糖?麦茶に?」

 

ハカセさんが上がってくるのと探偵団のメンバーが来るまでの暇つぶしに麦茶についてのトリビアを話すと、二人して信じられない様な目で俺を見てくるではないか。

この麦茶に砂糖ってのは地域性、もしくは昔からの風習なのだろう。方言みたいなものかもな。

 

「し、塩は聞いた事はあるけど……」

 

「砂糖を入れる飲み方なんて聞いた事ないわね」

 

「だろーな。俺も地元の友達のお婆ちゃんが出してくれた麦茶を飲むまで知らなかったよ。ほろ苦い麦茶だと思って飲んだらさっぱりとした甘い味だったのは、初めてカマボコを見て甘い食べ物だと思ったのに実際食ったら海鮮の味だった時の様な衝撃的な気分だったぜ」

 

「随分衝撃的だったのね……」

 

当時の思いを染み染みといった心境で語れば、灰原とコナンは苦笑いして俺を見る。

まぁ、当時からしたらトップクラスの騙された感があったのは否めねえ。

美味しい騙され方ってのも中々に貴重な体験だとは思うが。

なんて暇潰しの会話をしている内にインターホンが鳴ったので灰原が出ると、そこには少年探偵団純粋年齢組の姿が。

 

「こんにちは、灰原さんッ!!」

 

「哀ちゃん、コナン君。こんにち……あーッ!?定明さんも居るよッ!!」

 

「おい定明ッ!!何時になったら少年探偵団に入るんだよッ!!」

 

「相変わらず姦しいな、オメェ等はよぉ」

 

この真夏日の中を歩いてきたであろう3人は外の猛暑にも負けず、何とも元気なモノだ。

皆してソファーに座ると、灰原が出した麦茶を一気に飲み干して何時も通りに俺に対する勧誘を始める。

そんな3人の少年探偵団に入れという口撃を適当にあしらっていると、奥の扉が開いて白衣姿の阿笠ハカセが姿を表した。

 

「おお、丁度皆揃っておったようじゃの。なら時間的には間に合ったかのう」

 

「「「博士、こんにちわーッ!!」」」

 

「はいこんにちは。ほれ、新……コ、コナン君もよう来たのう」

 

「は、はは……(頼むから定明の前でボロ出さないでくれよ、博士ぇ)」

 

「どもっす、阿笠博士。お邪魔させてもらってますよ」

 

「うむ。良く来てくれたの、定明君。いやはや、先日は危ない所を助けてくれて本当にありがとう。誘拐されておった娘さんも無事で済んで何よりじゃったわい」

 

俺達がソファーの所に全員集まっているのを確認した阿笠ハカセは笑顔を浮かべて近づき、俺に先日の感謝を述べる。

若干コナンの事を新一と呼びそうになってたが、まぁ別に無理に突く必要は無えだろう。

一方俺は阿笠ハカセに挨拶を済ませ、ハカセの感謝の言葉に対して微笑みながら手をヒラヒラと振り返した。

 

「no problem。何てこたぁ無いッスよ。あれならまだ台所の隅っこに隠れた黒い奴等を退治する方が梃子摺ったってぐらいっすから。なんせあんなカス二人組と違って、奴等は一匹潰しても第二第三と出てきやがりますからね」

 

「そ、そうか……おほんッ!!兎に角、儂から定明君に感謝の印として、今の儂が作れる最高傑作の発明品を贈らせてもらおうと思ったんじゃ。これは間違いなく大満足してもらえると自負しておるでのう」

 

あの馬鹿二人を制圧したのなんて特に苦労した覚えも無いと返すと、驚くハカセだが一度咳払いして俺に再び質問してくる。

さっきからハカセの手は背中に回されているので、恐らく背後に例の発明品があるのだろう。

しかし今の台詞、まるで今まで作ったものとは違う発明品だと言わんばかりの言い回しだ。

その博士の言葉にコナンも引っかかりを覚えたのか、目を丸くしてハカセに向き直る。

 

「もしかして定明にーちゃんに渡すのって、探偵バッジとかじゃ無いのか?」

 

「む?あぁ、そうじゃ。定明君はもうすぐ海鳴市に帰ってしまうんじゃろ?ならここに居る間しか使えない物や腕時計型ライトより、向こうに戻ってからも使えて、且つ楽しめる実用的な発明品を渡そうと思ってのぉ……じゃーんッ!!これじゃッ!!」

 

と、コナンの質問に答えたハカセが自信満々の笑みを浮かべながら背中に隠していた物を俺達の前に掲げる。

最初は何が出て来るのかとワクワクした顔をしていた少年探偵団年齢純粋組だったが、それが何か分かると首を傾げた。

 

「これって……」

 

「コナン君の持ってるスケボーですよね?でも、少し形が違いますね……」

 

「色も違うぞ?」

 

そう。阿笠ハカセが取り出したのはコナンの持っている改造されて最早スケボーとは呼べない代物である、『ターボエンジン付きスケートボード』の色違いだった。

コナンのスケボーが黄色と深めのグリーンなのに対し、阿笠ハカセが取り出したスケボーはシルバーとメタリックブルーという全く違う色で塗装されている。

それにどうやら、駆動系の部分にもかなりの違いがある様だ。

ローラー軸の部分にはスケボーの内部から生える様にサスペンションが組み込まれているし、全体のフォルムが幾分かスタイリッシュになっているな。

米花町に来てからコナンに見せてもらったスケボーの後部にあった大型のエンジン部分も無くなってる。

だが、後方部分の板の下に1基の大きな排出口がある事から、エンジンは備わってるっぽい。

更にコナンのスケボーはローラー部分は普通だったのに対して、このスケボーはローラー部分の中心を前から後ろまで貫く形で長い一本のロケットの様な形のエンジンが取り付けられている。

 

「……見た感じ只のスケボーじゃ無さそうッスけど、これって何なんスか?」

 

俺の疑問はこの場の全員が思っていた事なのか、皆一様にハカセに視線を送っている。

コナンのスケボーと似てはいるけど、色々と違いがあるからだろう。

俺たちの視線を一身に受けたハカセはにんまりと笑うと、そのでっぷりとしたお腹を弾ませて口を開く。

 

「ぬっふっふっふッ!!これぞ新いゲフンゲフンッ!!コナン君の持ってるターボエンジン付きスケートボードッ!!その超ッ!!ニューバージョンじゃッ!!……時に定明君。コナン君からターボエンジン付きスケートボードのスペックは聞いておるかの?」

 

「何か凄まじいスピードの出るスケボーってぐらいなら」

 

「そうかそうか。なら、儂がこのスケボーの素晴らしさを一から説明しようではないかッ!!まずこのスケボーには超小型高性能のターボエンジンが内蔵されておるッ!!その馬力は、例え100キロ級のおデブさんが乗っても時速80キロまで出せる程の出力を誇っておるのじゃッ!!」

 

「え?それって俺のスケボーより出力上がってるって事か?」

 

ハカセが自信満々に語り始めた目の前のスケボーの出力に、コナンは再び目を丸くする。

その驚く顔が見たかったのか、ハカセは更に背中を仰け反らせて佇む。

しかしその天狗っぷりも納得の性能なのは、今のカタログ値で充分に理解出来る。

ここまで小型化したエンジンでもそれだけの馬力があるってのは、正直信じられないぐらいだ。

 

「更に更にッ!!そのエネルギーは地球に優しいソーラー発電ッ!!例え曇り空でも充分なスピードを出せる上に、バッテリーも内蔵しておるッ!!今回の改良でバッテリー自体の容量も上げておるからのう、夜間でもフルスペックで1時間の活動が可能じゃわいッ!!」

 

「はー……お財布と地球に優しいエコ仕様たぁ豪勢な。まるで松阪牛のステーキで素材の極上の味を楽しんでいたら、更にその肉の味を引き立てる極上のソースが付いてきた……っつう~感じの豪華さじゃないッスか」

 

「ぬぅあ~はっはっはっはッ!!まだまだあるぞいッ!!ボディ全体とサスペンションは軽量の合金を使用し、防弾カーボンも合わせた軽量かつ丈夫な安心設計ッ!!これなら銃弾だってへっちゃらじゃあぁッ!!」

 

「そりゃやり過ぎっしょ。寧ろ銃弾の被害に遭うのを見越した設計の玩具って何?」

 

「古今東西、大は小を兼ねると言うッ!!備えあれば憂い無しじゃよッ!!そしてえぇぇッ!!夜間の走行に備えて先端にはLEDフラッシュライトを標準装備ッ!!これで暗い夜道も安心して走れるわいッ!!」

 

俺のツッコミもなんのその、ってな具合で説明に熱どころか炎を灯す阿笠ハカセ。

自分の説明に満足いったのか、「ぬわ~はっはっはっはッ!!」と高笑いする始末。

いや、しかし……何だこのハイスペックならぬ廃スペックなおもちゃ?

 

「そしてこのスケボーのバッテリーはコンセントからも充電が可能ッ!!電気代も大型ラジコンのバッテリー充電と然程変わらんッ!!正に儂の今作れる最高傑作のスケボーじゃああああッ!!」

 

「すげぇな……(っつうか俺のスケボーより便利じゃねえか。俺のもパワーアップしてくれよな……)」

 

「す、凄すぎますよ、このスケボー……ッ!?」

 

「お、俺にも作ってくれよぉハカセェッ!!」

 

「はっはっは……ぬ?あ、あぁ。残念じゃがこのスケボーはコナン君に聞いた定明君の運動神経の良さと、わしが実際に見た定明君の身体能力を考慮して作ったモノじゃからのう。君らにはまだ少々危ない代物じゃて」

 

「そりゃ全面的にハカセに同意ッスね。今のスペックがマジなら、とてもじゃねぇが普通に乗れるモンじゃねぇよ」

 

テーブルに置かれたスケボーを羨ましそうに見ていた小嶋がハカセに作ってくれとせがむが、ハカセはこれをやんわりと拒否。

更にハカセの語ったカタログスペックに感動する円谷と、小嶋と同じく若干羨ましそうな目でスケボーを見つめるコナン。

灰原と吉田は女の子なので余り興味無いっぽいが、俺はその視線を無視して、テーブルのスケボーを肩に担ぐ。

ここまで自信満々に語られたカタログスペックが本物なのか、俄然興味が湧いてきたぜ。

 

「よっと……それじゃあハカセ。少しばかり試運転しても?」

 

「ッ!!(キュピーンッ!!)勿論じゃッ!!但し、試運転する場所は儂が決めさせてもらっても良いかのう?」

 

「ん?別に何処でやっても良いんじゃねーか?」

 

乗りこなせるか試運転をさせて欲しいと言うと、何故かハカセは目を輝かせて場所は自分が決めると言い出した。

これはさすがに予想外だったが、コナンが俺の代わりに質問してくれたので俺はハカセに視線を向けるだけに留める。

そしてコナンの質問を聞いたハカセは、これまた自分の国の科学力を信じて疑わないシュトロハイムの様な自身に溢れた笑みを浮かべた。

 

「ぐっふっふ……ッ!!ぐ~っふっふっふッ!!実はのう、このスケボーにはコナン君のスケボーには無い、度肝を抜く様な新しい機能が追加されておるのじゃッ!!」

 

「??新しい機能?」

 

「うむッ!!これからそれを実感出来る場所に行こうと思うんじゃが……その前に、皆お昼はまだじゃろう?」

 

「えぇ。お昼前に集合、とメールに書いてありましたから」

 

「歩美もお腹空いてきちゃった」

 

「俺、朝飯3杯しか食べてねぇし……」

 

(充分過ぎる程食ってんじゃねぇか……)

 

「俺とコナンもまだ飯食ってねぇっすけど?」

 

「じゃったら、定明君のスケボーの試運転をした後、前から約束していた回転寿司に連れて行ってあげよう」

 

「えッ!?本当、ハカセッ!?」

 

「あら、随分と張るじゃない」

 

「うおほぉッ!?う、うな重あるかなッ!?」

 

「元太君、寿司屋さんなんですから、うなぎの握りはあってもうな重は無いですよー」

 

「へへ、そうだったな」

 

と、あれよあれよという間にこの後の昼飯の予定まで決まってしまった。

少年探偵団の皆はノリ気だし、まぁ俺もコナンも断る理由は特に無かったので、ハカセのご相伴に預かる事に。

そして全員が参加すると決まった所で、ハカセさんのフォルクスワーゲン・ビートルに乗り込んでスケボーの試運転を出来る場所へと向かった。

楽しそうに、そして嬉しそうに後部座席で寿司の歌を歌う少年探偵団年齢純粋組と、同じく笑顔の阿笠ハカセ。

そして同じく少し楽しそうな顔のコナンや灰原を眺めながら、俺はハカセの底抜けの優しさを目にして同じ様に笑ってしまう。

なんていうか……少年探偵団の全メンバー合わせて、皆のお祖父ちゃんって感じだよな。

そう考えていた俺だが、ビートルがゆっくりとスピードを落とした所で意識を切り替える。

 

「良し、ここなら良いじゃろ。さぁ皆、着いたぞい」

 

と、ハカセの言葉を聞いて前の座席に座っていた俺はドアを開けて外に降りる。

コナン達も座席のシートを立ち上げて外に出るが、今居る場所が何処なのか分かると、きょとんとした顔になった。

 

「堤無津川の河川敷か?」

 

「あぁ。近くの降りれる堤防の辺りじゃよ」

 

「……こんな所が、その新しい機能っつーやつに適した場所なんスか?」

 

俺はスケボーを肩に担ぎながらハカセに質問しつつ、件の堤防下の広場を眺める。

川の直ぐ側の広場は確かに広いんだが、道路に比べてかなり凹凸のあるダートに近いコースだ。

こういう所で走っても大丈夫なんだろうか?

そんな小さな疑問に対して、ハカセは笑いながら口を開き始めた。

 

「いやいや。定明君に贈ったスケボーじゃが、勿論道路の方が走りやすいんじゃよ。じゃから、まずは……」

 

そこまで言って横に向けたハカセに倣ってそっちを見ると、そこにはかなり大きな平面駐車場があった。

堤防沿いだが車も少なくて、広さも充分に確保出来ている場所だ。

 

「この駐車場の綺麗な道を走った後で、下の凸凹道を走ってみて欲しいんじゃよ。出来るかのう?」

 

「へー……まぁ、やってみますよっと」

 

とりあえずコースを理解した俺はスケボーを担いだまま駐車場に入り、スケボーを地面に置く。

その上に乗ってからハカセの指示に従って、アクセル部分のボタンに足を掛ける。

これが面白いもので、ボタンを踏み込む量でスピードが変わるらしい。

 

「うむ。それでは……おっと、忘れる所じゃった。哀君とコナン君。探偵バッジを貸してくれるかの?」

 

「ん?あぁ」

 

「……はい」

 

「あぁ、すまんな……ほれ、定明君。君がスケボーを運転してからはこの探偵バッジで指示を出すから、存分に走ってみてくれ」

 

「ラジャっす……それじゃ、行ってきますよ」

 

ハカセから探偵バッジを受け取って襟に留め、俺は前に置いた足の裏でアクセルを踏み込む。

すると、キュイイインという空気を吸い込む音の直ぐ後に、俺を乗せたスケボーはとんでも無い速度で加速を始めた。

顔に感じる風圧がかなり心地良く、流れる景色もかなりの速さで後ろに流れていく。

……すげえな、体感的に40キロぐらいは出てるだろこれ。

ハカセの自信満々な説明にも太鼓判を押せる程に、確かなハイパフォーマンスを実現している。

 

「まずは、カーブをゆっくりと……ッ!!」

 

アクセルから足を少し離して速度を落としつつ、足に掛ける荷重を均一の状態から右向きに傾ける。

統一されていた荷重が片方に集中した事で、スケボーは右向きにその進路を変更して、ゆっくりと曲がり始めた。

その後も体幹がブレる事無く、スピードを上げて何周かしてみるが問題無く走れている。

じゃあ、もう少しレベル上げてみるとすっか。

 

「よッ!!」

 

走行に問題無い事が分かって遠慮を無くした俺は、スケボー技の基本であるオーリー、つまりスケボーと一緒にジャンプする技を繰り出す。

テコの原理と躰の操作で空中に浮かしたスケボーを空中でしっかりと体勢を整えて着地。

これも問題無くクリア出来た。

更にジャンプ中にスケボーを空中で一回転させるヒールフリップ、キックフリップも難無くクリア。

スケボー自体は結構やりこんでいたし、これぐらいの速度なら美由希さんとのバトルで見慣れてるから、躰も余裕で反応出来る。

更にこのスケボーは後輪のみに動力が存在するので、やや前を多めに荷重を掛けながらアクセルを強めに踏み込ませてみた。

すると後輪は地面を捉え切れずにホイルスピンを起こし始め、ここで荷重を後ろに移動させながら進路を左に向ける。

 

スケボーの前は左に進路を向けるが、後輪はパワーを地面に伝え切れず、滑りながら流れる様に追っかけ、ホイールの力がスケボーを前へと押し出す。

 

ギャギャギャギャギャッ!!

 

『おおッ!?上手い上手いッ!!スケボーでドリフトまでやるとはのうッ!!』

 

「ドリフトっつうよりパワーで無理矢理ケツ振ってるだけなんで、パワースライドっすね」

 

襟に付けた探偵バッジから聞こえてくるハカセの賞賛の声に言葉を返しながら、身体の荷重移動でスケボーを右へ左へと滑らせる。

あんまりにもスイスイと自分の思う通りに走るから、思わず笑みが零れてしまう。

いや、これマジで半端無く楽しいわ。動力あるだけで全然違うな。

こうやって風を切って走る感覚は何とも表現しにくいけど、ガラにも無くワクワクしちまう。

 

『まさか初めて乗ってここまで鮮やかに操るとは思わなかったのぉ』

 

「いや、マジで楽しいっすよこのスケボー。半端じゃなく良い代物っすね」

 

『ぬっふっふ。満足するのはまだ早いぞい。それではそろそろ、河川敷の凸凹道を走ってみてくれるか?』

 

「えぇ、もう大分慣れてきたんで大丈夫ッスよ」

 

『良しッ!!では行ってみてくれいッ!!』

 

と、オンロードでの扱いに慣れてきた所で今度はダートでの性能を試す事に。

ビートルの傍で歓声を挙げてる小嶋、吉田、円谷、ハカセ。

そして驚愕の目で俺を見ている灰原とコナンに手を振って、駐車場の出口から河川敷に入る下り坂を駆け下りる。

下に降りて直ぐに舗装路からダートへと入り、スケボーに不規則な軽い衝撃が伝わって俺の躰を揺らす。

しかし、俺は決してコケる事も倒れる事も無かった。

 

『ふむ。上から見ている分には問題無いようじゃが、どうかね?乗り心地は』

 

「……チープな返ししか出来なくて申し訳無いっすけど、これ凄えっすよ。確かに振動は感じるけど操縦の妨げにゃならねえし……ほっ」

 

バッジに向かって返事を返しながら軽く曲がった後で急速に反対方向へ先端を向けるが、スケボーは暴れる事無く俺の動きに吸い付いてくる。

ダートに於いてもそのクイックな動きは殆ど損なわれていない。

 

「何処までも俺の足の動きに対して、シャープで素直な動き。まるで初めて我が家に来た筈の犬が何故か俺にすげぇ懐いてて、俺が何処に向かおうとしてるのかを理解しているかの様にリード無しで後ろをテクテクと歩いて着いてきてくれる様な、そんな風に自分のイメージ通りに着いて来てくれる感覚……ってヤツですね」

 

『にょほほほほほッ!!ベタ褒め頂き恐縮じゃが、まだそのスケボーの真の目玉はお披露目しておらんぞいッ!!』

 

は?

 

「……失礼。どうにも今日の俺は無理矢理ゴミを詰めたゴミ袋みてーに、耳の穴に耳クソが詰まり過ぎてるみたいっすわ……もーいっかい、耳の穴かっぽじって聞きますけど……コレ以上の機能がある、と?」

 

『ぬふふふ……ッ!!ぬわ~~はっはっはっはっはッ!!』

 

内心は嘘だろ?って気持ちでハカセに聞き返すと、さっきよりも数段上機嫌な高笑いが返ってくるではないか。

どうやらガチでコレ以上の機能が内蔵されているらしい。

とりあえずその説明をする為に降りるからちょっと待っていてくれと言われたので、俺はスケボーを停止させて後部を踏み、反動で浮き上がった先端を掴んで止める。

そのままこっちに向かって降りてくるハカセと探偵団のメンバーを尻目に、頭の中でこのスケボーの機能とやらについて考えを巡らせる。

走行性能については最早文句の付けようも無いぐらいに洗練されてて完璧だ。

でもコレ以上の機能とやらって一体なんだろうか……まさかの飛行形態?

かのタイムマシン『デロリアン』みてーにタイヤが横向きになって飛ぶとか?……まさかなぁ……。

と、考えている間に上から降りてきたハカセ達に取り囲まれた。

 

「す、凄すぎますよ定明さんッ!!まるでコナン君みたいに華麗に走ってましたねッ!!」

 

「うんッ!!飛んだり跳ねたり滑りながら曲がったりしてて、カッコ良かったよッ!!」

 

「目で追っかけてたら目が回りそうだったぜ」

 

「ははっ。ありがとよ」

 

最初に話しかけてきたのは吉田達純粋年齢組で、皆年相応なリアクションを見せてくれる。

その後ろからコナンと灰原がハカセと一緒にゆったりと歩いてくる。

 

「定明にーちゃんってスケボーやってたの?凄い上手だったけど」

 

「あぁ。基本的な技の幾つかは練習してたぜ。近所の友達がかなりハマってて、その影響でな」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「あら、結構な面倒くさがり屋だと思ってたけど、意外と外でも遊んでいたのかしら?」

 

「人からあれやれこれやれって言われんのがメンドクセーだけで、元々運動は嫌いじゃねーんだよ。只、俺の取り組むペースってヤツが人より少し遅いだけだ」

 

意外そうに話しかけてくる二人に肩を竦めながらそう返し、二人の後ろでニヤニヤと笑ってるハカセさんに、俺も笑みで応じる。

元々乗り物とかの雑誌を読むのは好きだったが、実際に自分の意志で動いてくれるスケボーってのは、本気で感動した。

こいつはスタンド能力とかとはまた一味違った楽しいって感覚だ。

ラーメンとパスタのどっちが良いか、目玉焼きにはソースか醤油か、なんていう比べられない楽しさだな。

 

「ふっふっふ。お気に召して頂けたようじゃの~定明君」

 

「はい。これは本気で気に入りましたよ。それで、コレ以上の機能って一体何なんスか?」

 

「まぁそう慌てるでない。まるで変形機能付きの玩具をクリスマスプレゼントに貰った子供の様じゃぞ」

 

「子供っすけど」

 

俺の当たり前の返しに「そうじゃったな」と言って上機嫌に笑うハカセ。

確かにこんな風に食いつくなんて俺のキャラじゃねぇけど、このスケボーの機能ってのが気になって仕方ねえんだよ。

それに腹の減り具合も中々になってきたし、チャチャッと終わらせるのは悪い事じゃ無いだろう。

 

「さて、目玉であるこのスケボーの機能なんじゃが、まずこれは走ってからジャンプをした時に使う機能だという事を頭に入れといてくれ」

 

「ふむふむ……分かりました。じゃあ、今はどうすれば?」

 

「あぁ。まずはそのスケボーを立てた状態で、アクセルボタンの近くを見るんじゃ」

 

ハカセに指示された通りにスケボーを立てたままアクセルボタンの辺りを見ると、○ではなく長方形のボタンがあるのを発見。

どうもアクセルボタンと間違えて踏まねー様に離して作ってあるみたいだ。

 

「そのボタンを、スケボーでジャンプした時に押す訳じゃが、今はそのまま指で押してみてくれ」

 

「ここのボタンっすね?……よっと」

 

ピッ。

 

言われた通りにボタンを押し込むと、軽い電子音が鳴り響き――。

 

キュイン。カチャッ。

 

「「「あぁッ!?」」」

 

「……おいおい。まさか」

 

「……これって……」

 

「ん?どぉしたんだ?」

 

何かの駆動音の様な音が数回だけしたんだが、俺の方から見て特に変化は無かった。

しかしスケボーの裏、つまり車輪の方を見ていた円谷達は裏面を指差して驚きの声を挙げたのだった。

コナンと灰原も例に漏れず、裏面を見て驚いてる様だ。

一体何がどうなったってんだ?

皆の様子に首を傾げながら、俺も皆に倣ってスケボーの裏側に視線を向ける。

 

「……何だこりゃ?」

 

と、裏側を見てもこの変化が何なのか理解出来ず、増々首を傾げてしまう。

何故なら、ボタンを押して変化したスケボーの姿は――”只の板”になっていたのだから。

 

「……えぇっと……もう一回……」

 

ピッ。キュイン。カチャッ。

 

「あっ!?車輪が出てきましたよッ!?」

 

「ホントだっ!!すご~いッ!!」

 

「でも、これって一体何が出来る様になるんだ?」

 

もう一度、今度は裏面を見ながらボタンを押してみると、ローラーのあった位置の板が横にスライドし、その中からサスペンション付きのローラーが出てきたのだ。

円谷達が驚きながら指を差している場所に目を向けながらまた押す。すると今度はさっきの逆再生でローラーが収納される。

……このローラーの収納って何か意味あんの?もしかして背負いやすい様に、とか?

この機能の意味がまるで判らず頭の中が疑問符で溢れかえるが、とりあえずさっきのハカセの言葉を整理してみる。

もしこれが只の持ち運びを考慮した機能なら、態々アクセルボタンの側にスイッチを付ける意味は無い。

間違えて踏んだ日にゃ目も当てられ無え大惨事が勃発だ。

っという事は、だ。これは只の収納機能なんかじゃ無いんだろう。

何よりハカセのあの自信満々な表情がそうじゃないと語ってる上に、さっきからニマニマして俺を見ている。

アレは……そう、人の良い爺さんが孫にちょっとした意地悪をしてる時の顔だな。

少しズルして子供に本当の事を教えないで、『ほれほれもっとしっかり考えるんじゃ』とほくそ笑んでるって顔。

 

そう、ポルナレフが便器を舐めた事を既に知ってたのに、何処を舐めたのかをしつこく聞いていたジョセフ・ジョースターの様な意地悪さだ。

 

ふ~む……なら、もう少し違う点から考えてみるか。

確か、この機能を使う時の注意点は……走行中からジャンプしている時に使う事だったな。

となると、この機能は走行している時に”特定”の条件で使う事が前提の機能の筈だ。

4×4のオフロードマシンは”悪路を走る為にある”。という様に、”この機能は特定の走行条件の時にのみ使える”って事になる。

そこまで考えて、この『場所』というヒントがミックスされた結果、一つのある答えが俺の頭の中に浮かんでくるが……いや、まさか……な?

まさか、という気持ちでアクセルボタンを軽く押してみる。

 

ブオォオンッ!!

 

「……マジ?」

 

在り得ないという気持ちでボタンを押した俺だが、その考えを裏切って下のブースターから軽く風が吹き出す。

と、いう事は……これはもう、確定だろう。

 

「…………もし、俺の予想が外れてたら恥ずかしいッスけど……ハカセさん?」

 

「……ぐふふふふッ!!試しに乗ってみると分かるぞい?」

 

俺の問いかけに対して笑いながら自分で試せと押してくるハカセ。

やっぱり相当の自信がある様だ。

……外れてたら、もしくは失敗したら恨むぜ?

俺は溜息を吐きながら車輪を再び出して、河を背後にして堤防側へスケボーを向けて地面に置く。

 

「あれ?定明さん?」

 

「まだハカセが新機能の説明してないよ?」

 

「あぁ、良いんだ……どうやら口より直接躰で覚えろって事らしい。まさかの体育会系だったとは、さすがに驚いたぜ」

 

「「?……??」」

 

俺の言い回しに首を捻る円谷と吉田を放置して、俺はスケボーで堤防まで走り、そこからターンして再び堤無津河へ向き直る。

そこから軽く深呼吸を一回。少しの緊張感を持って――。

 

「……コオォ……フゥ……いくぜオイ!!」

 

ギュオォオオオオッ!!

 

精神を集中させて前の”道”を睨みつつ、アクセルボタンをめいいっぱい踏み込み、スケボーを急加速。

しっかりとホイールが地面を掴んで前に進ませるスキール音と、速度を現す強い風圧を受けながら、俺は目をしっかりと見開く。

目指す先は、微妙に盛り上がって作られた自然のジャンプ台の様な地面の蜂起部分だ。

 

「えっ!?ち、ちょっと定明さんッ!?」

 

「そのままじゃ”川に落ちちゃうよ”ッ!?」

 

「危ねえーーーッ!?」

 

少年探偵団の心配する声を聞き流しながら、俺は堤無津川へと向かって我武者羅にひた進む。

もうこの位置からじゃ減速したとしても、川の手前じゃ止める事は叶わない。

ならば、ハカセの技術力を信じるしかねえだろう。

これで失敗したら、鉄球の技術による水分カラカラダイエットの強制執行も吝かではない。

……頼むぜハカセ。俺をガッカリさせんなよ?

受験前に神社で必死に合格祈願をする受験生の様な気持ちで祈りを捧げつつ、川の手前の蜂起部分へスケボーを乗せる。

 

「ふんッ!!」

 

蜂起部分に乗り上げた瞬間に持ち上がったフロント部分の荷重を減らして、後ろのローラーに負荷を強く掛ける。

その負荷によって地面に強く押し付けられたローラーが地面を強く蹴りだして前に進み、遂に俺とスケボーは大空へと飛び上がった。

視界に広がる青空……の直ぐ後で目の前に映しだされる大きな川の水面。

その水面を睨みながら、俺はアクセルから足をどけて例のスイッチを押し込む。

耳に届く微かな駆動音の直ぐ後、俺は川に真っ直ぐに着水した。

 

「あぁッ!?……あれ?……えーッ!?」

 

「す、スケボーが……ッ!?」

 

「川に浮いてるぞッ!?」

 

「……あのローラーの下の長いロケットみたいな部分で浮力を稼いでるのか……?」

 

「そういえば少し前に、知り合いから高分子樹脂フォームを譲ってもらったって言ってたわ。それを入れてるんじゃないかしら?」

 

川の側で”水面に浮かぶスケボー”の上に立っている俺を見ながら、少年探偵団の全員が目を丸くしている。

かくいう当事者の俺は川に浮かんだ体勢でバランスを取りつつ、アクセルに足を掛けたままの体勢で浮いていた。

 

『よぉーしッ!!さぁ定明君ッ!!その状態でアクセルを踏み込むんじゃッ!!』

 

ハカセの興奮した声に従ってアクセルを踏み込むと、スケボーは水を切る様な感覚で前へと進み始めた。

水の中まで船倉を沈めてスクリューで航行しているのでは無く、爆発的なパワーと軽い船体を駆使して、まるで水の上を滑るかの様な動き。

スピードが上がれば上がる程に船の喫水線の位置が変わる滑走型のボートと同じだ。

しかしスケボーの上の安定感は陸上に比べても劣りの無い様に感じる。

試しに軽く躰を横に曲げてみると、スケボーもちゃんと曲がっていく。

そのままアクセルを離せば、思った所より少し進んだ位置でゆっくりと止まった。

従来の船みたいにバックする事は出来ねぇけど……こいつは、マジで凄い。

そのまま何度か川を往復してから岸の前へと戻る。

しかし川縁はなだらかな堤防のブロックで斜めに段差が出来ていて、上がるにはそのブロックを登るしか無い様だ。

これってこのまま昇っても良いんだろうか?

 

「あ~、定明君。そのスケボーの底面はかなり頑丈に作ってあるからの。そのままブロックをエンジンの力だけで登る事は容易いぞ~」

 

「なるほど。了解ッス」

 

と、川辺りで頭を捻っていた所でハカセからアドバイスを貰い、再びスケボーを加速させてブロックを駆け上がり、陸へと戻る。

そしてブロックから飛んで陸地へと戻った所でローラーを出現させ、陸地へ着地。

 

「ぬっふっふっふっふッ!!!どうじゃッ!!この『ターボエンジン付き”水陸両用”スケートボード』の素晴らしさはッ!?」

 

「すごーいッ!!ハカセの発明品ってホントーに凄いよーッ!!」

 

「正にッ!!夢の様な玩具ですねッ!!」

 

「ホントにスゲーなッ!!」

 

「ぐふっ。ぐっふっふっふっふッ!!……ではコナン君と哀君はどうじゃね?ん~?君らが何時もガラクタと馬鹿にしておった儂の今回の発明品は?」

 

少年探偵団の純粋年齢組から大賛辞を貰ったハカセはご満悦といった表情で笑いながらコナンと灰原に目を向ける。

一方で目を向けられた二人もこれまた目を丸くして俺が持っているスケボーに視線を注いでいた。

 

「おいおい……凄すぎるだろ」

 

「……ハカセの発明品も、偶には馬鹿に出来ないものがあるのね」

 

「――はーはっはっはっはぁッ!!この天才ッ!!阿笠博士の科学力はァァァァァァァアアアッ!!世界一ィィィイイイイッ!!」

 

あれ?ハカセの魂がシュトロハイムと入れ替わってね?俺『シルバー・チャリオッツ・レクイエム』使った覚え無えけど?

どうやら何時も辛口の評価を頂いてる二人からも最高点を頂けたのが余程お気に召したっぽい。

っていうかコナンのつけてる道具の数々はかなりの優れモノばかりなのに、何でコナンの評価は辛口なんだろうか?

……多分その成功を上回る失敗作の数々を目にしてたんだろうけど。

 

「それで定明君。儂の発明品の目玉、気に入って貰えたかのう?」

 

そして当然、ハカセの感想を求める視線はスケボーを贈った俺に対しても来る訳だ。

何時もの俺なら一言二言の感想で済ませる所だが、今回に関しては真面目に言わせてもらおう。

 

「阿笠さんって、もしかしてMI6の創始者じゃないんスか?若しくはQの師匠、とか。そうじゃねぇとこんな漫画から飛び出した様な発明、作れっこないっすよ」

 

「なっはははははッ!!何せ、儂は天才じゃからのうッ!!ぬわ~~はっはっはっはっはッ!!」

 

おぉ、声がよく響く事。ついでにお腹のリズムも刎ねること刎ねること。

そんなハカセを呆れた目で見るコナンと灰原。

いやー、かなり良い贈り物も貰えたし、これから寿司も食えるとは、今日は何時もより平和だねぇ。

これってもしかして服部さんが帰ったから事件遭遇率が減ったって事なんじゃね?

と、高笑いしていたハカセが満足した所で、俺達は昼飯の回転寿司へと向かう事に。

しかし寿司なんて久しぶりに食うなぁ……ハカセの奢りだって話だし、色々と堪能させてもらいますかねぇ。

車の中で何を食うかを算段つけながら、俺達は少し遅目の昼食を取る為に回転寿司へと向かうのだった。

 

 

 

そしてその回転寿司でハカセに寿司を奢って貰ったのだが――。

 

 

 

「12500円です♪」

 

「はぇッ!?」

 

 

 

俺を除く少年探偵団の全員が寿司より値段の高いデザートを注文していたので、かなりの出費に。

先ほどまでの高笑いと上機嫌が嘘の様に、ハカセの嬉しくない悲鳴があがるのであった。

そんなハカセがさすがに気の毒になったが、その後は明日の予定を話して解散する運びに。

俺は改めてハカセにお礼を言って力の無いハカセの笑顔に見送られながら、コナンと共に阿笠邸を後にする。

 

「でも、定明にーちゃん。ホントに良かったの?明日はゆっくりしたいって言ってたけど……」

 

「あぁ。別に構わねーよ。どうせ後5日したら俺は海鳴に帰るんだし、あぁまで熱烈に誘われちゃ断れねえって」

 

首を傾げながら俺に質問するコナンに肩を竦めて答える。

コナンの言っているのは、少年探偵団の年齢純粋組の『俺と一緒に遊びに行きたい』という要望に俺が応えた事だ。

美味い寿司で腹を満たした後でハカセの家に戻って話をして時間を潰していた時に、俺が五日後には帰るという話になると、彼らは俺に明日のお出掛けに着いてきて欲しいと言ってきた。

また次に何時遊べるかも分からないし、夏休みの今の内に一緒に遊びに行きたいという熱烈な誘い。

その熱意に負けてOKした訳なんだが……。

 

「明日は蘭さんや伯父さんも一緒に行くんだろ?なら行かねえと、どーせまた蘭さんに説教されんのは目に見えてんだ。無駄な事してもしょうがねえさ」

 

「あー、うん。そだね」

 

「まっ、意地張って事務所に閉じこもって蘭さんに説教喰らうよりかは、まだ自分で決めて着いてった方が楽だしよ」

 

それにコナン達には言ってねえが、実は明日の少年探偵団の目的地は俺も行ってみたいと思っていた所なのである。

ならば、せめて夏休みの思い出づくりに行ってみるのも一興かと思ったって事だ。

まぁコナンや伯父さんが来る時点で、事件発生にリーチが掛かってそうなモンだが……まぁ、大丈夫だろ。

何せ死神二号である服部さんは大阪に帰ったんだ。

そう簡単に事件が発生する可能性は低い……筈……だと良いな。

ある程度、というよりはかなりの希望的観測が入り混じった予測を信じ、俺は明日の事を考えるのを止める。

一々先の事を不安に思ってても仕方ない。

少しは前向きに考えてみるとすっか。

そんな風に多少強引に前向きな考えを持ちながら帰宅した俺達を待っていたのは――。

 

 

 

 

 

「だ、だから定明の言ってたパチンコじゃボロ勝ちしたんだってばぁッ!!そう怒るなよ蘭ちゃ~(ドゴォッ!!)げふぅッ!?」

 

「その後で自分の勘で競馬やってボロ負けしてちゃ意味無いでしょーーがッ!!!しかも負けを取り戻す為に生活費に手を付けるなんてぇッ!!!」

 

「お、俺はJCシマニーソに裏切られた被害者「お黙りッ!!!」(ドゴドゴドゴドゴドゴッ!!!)ばっふぉおッ!!?」

 

「おいコナ~ン。予報じゃ今日は快晴じゃなかったか?真っ赤な雨降っちまってんだけど?最近の予報は当てになんね~な」

 

「は、ははは……お天気お姉さんも、血の雨は予報出来なかったんじゃないかなぁ?」

 

 

 

 

 

昼の天気予報とは真逆に、血の雨暴風蘭さんが荒ぶる、警報発令中の事務所内部だった。

雨天順延券どっかに売ってねぇかねぇ……やれやれだぜ。

涙目の伯父さんに追撃の正中線五段突きを繰り出す蘭さんを見て、今日の夕食は遅くなるなと溜息を吐くのだった。

 




如何でしたか?少しはジョジョっぽい風味を味わって頂けましたか?


皆さんの感想で、私の作品は更に風味を増すと考えておりますので、手間で無ければ感想をよろしくお願いします。

ちなみに定明が貰ったスケボーはルパンVSコナンの映画でコナンが冒頭で使用していたスケボーの色ちがいです。


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ロックは死ん(ry

アリサの台詞、一部変更。

何か犯人に同情ってアリサらしくないと思い直しましたww


若本「ぜぇんかいのあらすじぃッ!!!」

ジョジョ「え?誰?」

作「ぐっふっふ。これぐらい多味多量な隠し味を入れておけば、皆満足の筈……」

読「ぶっふうーッ!?濃過ぎじゃボケェーーーーッ!!」

作「(´・ω・`)」

はい、迷走し過ぎて分量を間違えたPIGUZAMU]の提供でしたww

どうにも今回の改変はやり過ぎたご様子でしたので、今回から薄味にさせて頂きますww

皆様、参考になるご意見ありがとうございましたm(__)m

ちなみに今回のタイトル、誰の台詞か分かるかな?

わかった人は間違いなくジョジョラー(カーズ様ポーズ)

そしてッ!!前回の話をUPした所、またもや読者の方から挿絵を頂く事が出来ましたッ!!

ガルウイング様ッ!!素敵な挿絵をありがとうございますッ!!

……時に、何なりとお使いくださいと言ってましたよねぇ?(ゲス顔)


じゃあ、使っちゃいますww




「ふふん。どーよぉ?我が鈴木財閥ともう一つの財団が強力なタッグを組み、総力を挙げて建てた――ベルツリータワーからの眺めは?」

 

高さ341メートルという、東京タワーの333mの記録を破り、建築物としての常識をぶち破った東京の新しい観光名所、東都ベルツリータワー。

その第一展望台の一箇所に陣取る俺、そして少年探偵団のメンバーの背後で対して大きくない胸を張って自慢するのは、鈴木財閥の娘である鈴木園子さん。

しかし彼女が自慢する通り、この第一展望台ですら、その眺めは絶景の一言に尽きる。

 

「凄いよ園子ぉッ!!誘ってくれてありがとうッ!!」

 

「にひひ♪何の何の♪……あんた達も感謝しなさいよぉ?普通オープニングセレモニーには、関係者以外入れないんだからね」

 

と、物凄い自慢気に胸を張る園子さんに賞賛とお礼の言葉を贈ったのは、俺の従姉妹であり園子さんに招待された蘭さんだ。

そのお礼の言葉に気を良くした園子さんは笑いながら蘭さんに言葉を返し、次は俺達にも感謝しろと言ってきた。

彼女のかなり上からなお言葉に、灰原はノーリアクション。コナンはジト目で見ているばかり。

しかし吉田達はそんな園子さんの態度を気にもせず、普通に感謝している様だ。

 

「うんッ!!ありがとう、園子おねーさんッ!!」

 

「最高だぜッ!!」

 

「ありがとうございますッ!!」

 

「ありがとうございます。でも俺まで良かったんスか?俺もベルツリーには寄ってみたかったから、正直ありがたかったんスけど……」

 

「あぁ、良いの良いの。少年にはバッグを取り返してもらったお礼でもあるし、一人だけ仲間外れにしたりしないわよ」

 

「そうっすか……改めて、ありがとうございます」

 

「う、うむッ!!精々感謝なさいッ!!おーっほっほっほっほッ!!」

 

素直にお礼を言った少年探偵団に続いて飛び入りで参加が決定した俺も感謝を述べつつ質問すると、園子さんは何でもないと返してくる。

その後の感謝の言葉にも尊大な態度で返してくる彼女だが、高笑いしてるにも関わらず顔はそっぽを向いている。

ちょこっとだけ耳が赤く見えるのは照れ隠しなんだろうか?

まぁ蘭さんが園子さんを見てクスクスと可笑しそうに笑ってるからそうだと思うけど。

 

「お、おおおおいッ!!そ、そろそろ帰らねーかッ!?」

 

「は?」

 

「えぇ?何言ってんのお父さん。今登ってきたばっかじゃない」

 

照れ隠しにそっぽを向いた園子さんと、それを可笑しそうに笑う蘭さんを見て、あぁ平和だなーとか思ってたら、更に二人の背後から聞いた覚えのある声がするではないか。

蘭さんの言った通り、俺達は今やっとエレベーターを登ってここに来たばかりなのである。

だと言うのに、何時もより何処か顔色の悪い小五郎伯父さんは震えた足取りで何とか立ちながら俺達を見ていた。

っつうか何であんなに顔色悪いんだ?ここに来るまでは普通に元気だったってのに……あっ、そうか。

 

「今頃になって昨日の蘭さんの正中線五段突きのダメージが出てきたんスか?駄目っすよ蘭さん。次の日までダメージ響く様な威力出しちゃ」

 

「し、失礼な事言わないでよ定明君ッ!!ちゃんと5割ぐらいに抑えてたんだからッ!!」

 

「あ~……五段突きしたのは否定しないのね……」

 

「ち、違うってば園子ッ!!ただ、昨日お父さんが競馬に生活費を使ったから……」

 

「っつうか、あれで5割とか10割の威力がパネェって事になるんスけど?コナンとか俺が食らったらザクロ確定じゃないっすか。なぁコナン?」

 

「えッ!?あ、えっと……ッ!!(なんつぅキラーパスをッ!?)」

 

「そんな事無いわよねぇコナン君?どうして言い淀んでるの?ねぇなんで?」

 

「あ、あははは……(なんで俺が……)」

 

昨日の五段突きの威力を思い出してコナンに同意を求めたが、俺とコナンの視線上に蘭さんがIN。

そのまましゃがみこんでコナンの顔を両手でガッシリと掴み、相互理解の話し合いがスタートする。

俺からは背後なので蘭さんの表情は伺えないが、コナンの隣に居た灰原がぎょっとした顔をしながら後ずさった所を見ると、想像出来ない様な顔してんだろう。

現にコナンの顔からは大量の脂汗が……強く生きろよ。

 

「だぁーーッ!!何で俺はまたこんな高い所へ来てしまったんだッ!?」

 

「あっ、やっぱ伯父さんて高い所苦手なんすね」

 

(って、えぇッ!?あ、あんたそれ分かってて蘭の事煽ってたってのッ!?)

 

伯父さんがここに来て顔色の悪い理由を言い当てると、驚愕した表情の園子さんが顔を寄せて小声で怒鳴ってくる。

随分器用な真似出来る人だな。

 

「別に煽ってた訳じゃ無えっすよ?実際昨日は伯父さん、蘭さんの五段突きの威力で天井スレスレまでFly Awayしてましたし」

 

「……あ、そう(威力の方はホントだったのね)」

 

俺の切り返しに目を点にしながら呆然と呟く園子さんから視線を外し、今は俺に釣り上がった目を向けてくる伯父さんへと向き直る。

しかし昨日あれだけボッコボコにされたってのに、何でこの人はこんなに元気なんだろうか?

普通の人間にしちゃタフ過ぎる気がするんだけどなぁ。

 

「バ、バーロォッ!!天下の名探偵たるこの俺様が、高いのが苦手なわきゃ無えだろッ!!」

 

「ふーん?そうなんすか?じゃあ膝が笑ってるのは何でっすか?」

 

「こ、これは、あれだッ!!……今流行りの、健康歩法に決まってんじゃねーかッ!?」

 

「はぁ……健康、っすか……生まれたてのバンビちゃんよろしくプルってますけど?」

 

「し、振動が強い程、健康に良いんだよッ!!」

 

もしそれが真実でも、そんなかっこ悪い健康法やるくらいなら俺は不健康で良いね。

伯父さんの苦しすぎる言い訳を聞いた俺はアホらしいって顔してる園子さんと目を合わせて視線で会話。

「ありえる?」「ありえると思う?」ですよねー。

そんな感じの会話を目で成立させてから二人で白けた目を伯父さんに贈ると、伯父さんは真っ赤な顔色で大きく咳払いした。

 

「うぉっほんッ!!と、兎に角、俺はもう降りるからなッ!?タバコが吸いたくなってきたしよッ!!」

 

あっ。遂に尤もらしい理由つけて降りるつもりだ。

さっきまでの震えを隠しながらエレベーターへと向かう伯父さんを見ていた俺だが、隣からちょいちょいと頭をつつかれる。

なんだ?と思ってそっちに目を向けると、園子さんがまるで悪戯小僧みたいな笑みを浮かべて、顎である場所をクイックイッと指し示していた。

そちらに視線を向けて……園子さんの言いたい事が完璧に分かり、俺も園子さんと同じ様な笑みを浮かべてしまう。

更に園子さんの隣に居たハカセにも分かった様で、ハカセも俺たちと同じく意地の悪い笑みを浮かべる。

そして園子さんが指し示した場所に丁度伯父さんが到達した所で、俺は伯父さんに言葉をかけた。

 

「怖いからって逃げちゃあ駄目ッスよ伯父さん。勇気ってのは恐怖を我が物とする事だって、昔の偉い人も言ってるんスから」

 

「ッ!?だ、だから、さっきから怖く無えって言ってんじゃ――」

 

「だったら――床見ても平気ッスよねぇ?」

 

「――へ?――ゆ――」

 

俺が背後から掛けた言葉に対してふんぞり返りながら対応していた伯父さんの声が止まる。

そして、その視線が徐々に下へと向けられ――。

 

「――か?――ってぇッ!!?ゆ、ゆ――床がぁあああッ!!?ね、無えぇええええッ!?ぬおほほぉおおおおッ!?」

 

自分が何処に立っているのかを認識した瞬間、伯父さんは勢い良く顔を跳ね上げて絶叫する。

そう、今伯父さんの立っている場所は、床の一部を強化ガラスに変えて足元が下まで見える特別なガラス床の場所だったという訳。

勿論高所恐怖症の伯父さんがそんな場所に立っている状況でさっきまでの虚勢を張れる訳も無く――。

 

「怖いッ!!怖いッ!!!怖いッ!!たぁかいの怖いよぉおおお~~~~ッ!!!!?」

 

「あッ!?ちょっとお父さんッ!!」

 

と、恥も外聞の無く叫びながら何処かへと走り去ってしまう。

もはや一種の暴走状態となった伯父さんに、何時の間にか暗黒面から帰ってきた蘭さんが声を掛けるが、それでも伯父さんが止まる様子は無い。

その様子を見て人間って走る時に砂煙出せるんだなぁ、とか考えていたんだが……。

 

「ハァハァッ!!脱出ーーッ!!」

 

「きゃっ!?お、お客様ッ!!このエレベーターは……ッ!?」

 

「「あ」」

 

伯父さんが駆け込んで乗ったエレベーターを見て、俺と園子さんは一緒に声を漏らす。

そのまま伯父さんを止める間も無く、安堵して息を吐く伯父さんを乗せたエレベーターは動き出す――更なる高みへと。

……あれ、特別展望台行きのエレベーターだったよな。

 

 

さて、最初に俺はこの東都ベルツリータワーを高さ341メートルと言ったが、それは『全長』では無い。

341メートルという数字は、俺達は居るこの第一展望台の高さであり……更に上の特別展望台は460メートルという更にキチガイな高さなのだ。

ついでに言えば建物自体の高さは大体634m、東京タワーの凡そ2倍近い高さという計算になる。

 

 

 

さて、長々と話したが、つまり俺の言いたい事は只一つ。

 

 

 

「「……」」

 

「いやおじさんを上に送った張本人の二人が何で無言で合掌してるのッ!?」

 

「まぁ落ち着けコナン。伯父さんだっていい大人だ。何時か自力で降りてその冒険活劇を俺達の枕元で語ってくれるさ」

 

「そーよ。がきんちょはそれを聞いて大人への階段を少しづつ登って行くんだから」

 

「それって化けて出ちゃってるよーな気が……」

 

「もぉ……定明君。あんまりお父さんからかっちゃ駄目よ?園子も」

 

「「すいませーん」」

 

「本当に反省してるのかしら……」

 

凄く軽い調子で誤る俺と園子さんに訝しむ視線を向けている蘭さんとコナン。

俺と園子さんはそんな二人から視線を外して、互いに笑顔でグッジョブ、と指を立てるのだった。

 

 

 

あの素敵なスケボーをハカセから貰って、探偵事務所に血の雨が降った翌日。

 

 

 

俺と伯父さんと蘭さん、そして少年探偵団メンバーとハカセを入れた9人という大所帯。

誘ってくれた園子さんも入れたら10人になるってんだから驚きだ。

全員集合した俺達は園子さんのお誘いで、完成したばかりの東都ベルツリータワーのオープニングセレモニーに参加している。

 

その招待主はこのベルツリータワーの名前の通り、鈴木財閥の跡取りである園子さん。

 

蘭さんは服部さんと和葉さんも誘ったらしいのだが、丁度前日が帰ってやらなきゃいけない用事に間に合う最終日だったので、今回は見送る結果になっちまったらしい。

それに本当は俺の分のチケットは無かったのだが、俺が初めて米花町に来た時に引ったくりからバッグを取り返したお礼って事で招待された。

まぁ元々このベルツリーには登りたいと思ってた所だった訳で、本当にラッキーだったぜ。

やはり『ヘイ・ヤー』の言ってた通り、昨日の俺は最高にツイてたんだろう。

エンジン付きのスケボーに寿司、そして行きたいと思ってた観光名所へロハで良いと、願ったり叶ったりだ。

 

「まぁ行っちまったモンはしょーがねえ。さっ、ベルツリーからの絶景を堪能させてもらうとしよーぜ?伯父さんは後で上がった時に合流すりゃ良いだろ」

 

「そうそう。どーせあたし達も後で上に行くんだしさ♪」

 

「もう……でもそうだね。コレを期にお父さんの高所恐怖症が治る切っ掛けになれば良いかな」

 

(ははっ……一生モンのトラウマになりそうだけどな)

 

取り敢えず俺と園子さんの執り成しで、再び景色を見る事に集中し始めた蘭さん。

いやはや、トラウマの克服の仕方の考えが如何にも体育会系なもんだ。

一方で少年探偵団の皆は最初から伯父さんの事は余り興味が無かったのか、さっきから景色を見るのに忙しそうだ。

灰原もガイドブックを見つつも景色にも時折視線を向けて楽しんでいる様子である。

 

「ねぇ園子。あの建物は?アレも園子の所が関わってるの?」

 

「ん?あぁ。あのちっちゃいのは浅草スカイコート。鈴木財閥とは関係無いわ」

 

と、景色を見ていた蘭さんが指し示したのは、建築途中にも関わらず周りのビルより一等大きいビルだった。

しかしそれを確認した園子さんは自分の家とは関係無いからか、余り興味が無さそうである。

っていうか、あのビルをちっちゃいて……やっぱお嬢様はスケールが違うな。

 

「まぁ完成しても、精々この第一展望台程度でしょうねぇ」

 

「じゃあベルツリーの勝ちだな」

 

「あったりまえでしょぉッ!!おーっほっほっほっほッ!!」

 

はい、本日二度目のお嬢様笑い入りました。

元太の言葉に得意げな高笑いで返答する園子さんから視線を外し、俺も皆に倣って景色を楽しむ。

 

「~♪あっ、ねぇねぇ。あの川見てッ!!橋がいっぱい架かってるよッ!!」

 

「あぁ、隅田川だな」

 

と、吉田の言葉に対してコナンが何処の川なのかを言い当てる。

現在の俺達から見える景色の大きな川、隅田川や街の景色は、何時もとは違う新鮮味があって中々に楽しい。

 

「えっと……ねぇコナン君。あの橋の名前、全部分かる?」

 

「ん?まず向こうの青いのが駒形橋。赤いのが吾妻橋。手前の鉄橋は東都ベルツリーラインだよ、歩美ちゃん」

 

「あはっ。やっぱりコナン君って物知りさんだね♪」

 

「はぁ~。良く覚えてんな、コナン」

 

「うん、この辺りはよく知ってるから」

 

「まっ、地元っちゃ地元だもんな」

 

一つ一つの橋や鉄橋の名前を答えるコナンと他愛ない話をしながら、俺も景色を楽しむ。

母ちゃん達は海外で仕事しながら観光もしてるらしいし、俺も東京見物を楽しんでおかねえとな。

下の景色を堪能している俺の横では、下のベルツリーラインから出てきた電車を見て円谷達が騒いでいる。

 

「あれ?橋の上で止まっちゃうよ?」

 

「徐行してるだけですよ。橋を渡ったら直ぐに浅草駅がありますからね」

 

下の電車の様子を双眼鏡で見ながら吉田に解説する円谷。

俺もその様子を『スタープラチナ』の拡大した視力で観察しているが、上から見下ろす視界ってのもまた新鮮で良いモンだ。

 

「あ、そうだッ!!夏休みの宿題、この東都ベルツリータワーと、その周辺のミニチュア模型を作るっていうのはどうですかッ!?」

 

「おぉッ!?すっげぇなそれッ!!」

 

「面白そうッ!!コナン君と哀ちゃんも一緒に作ろうよッ!!」

 

と、どうやら円谷の思い付いたアイディアは吉田と小嶋には受けが良かったらしく、二人共大賛成の様だ。

宿題でそういうのをやるのは自由研究だろうな……しっかし、態々そんな大変なモンを選ぶとは、凄え行動力だと思う。

俺はそんな大変そうな課題は選ばなかったし。

 

「おいおい、それって結構大変――」

 

「良いんじゃない?」

 

「え゛?」

 

そしてそれは小学校二回目であるコナンも同じだったらしく、暗にもっと楽な課題にしようと言おうとした。

しかしそれに割って入ったのが、コナンと同じ立場の筈の灰原だ。

これにはコナンも予想外だったのか、目を丸くして驚く。

少年探偵団の頼りになる二人の内一人の同意が得られた事で、3人は嬉しそうにはしゃぎだした。

 

「やったーッ!!」

 

「じゃ、決まりですねぇッ!!」

 

「すっげーの作ろうぜッ!!皆がワーッて驚く様なヤツッ!!」

 

「ふふっ。来た甲斐があったのう」

 

3人は何時もの事件捜査の時の様に俄然ヤル気を出し、ハカセはそんな彼らの様子を好々爺の様な表情で微笑みながら見る。

どうやらもうコナンの意見がどうであれ、決定したみてーだな。

 

「じゃ、皆でいっぱい写真撮ろーッ!!」

 

「俺はビデオだッ!!」

 

「私は、ベルツリーについて調べておくわ……誰かさんは夏休みの宿題しなくて良いのかしら?」

 

「ほっとけ」

 

灰原がパンフレットを掲げながら意地悪な表情でそう告げる相手は勿論本当の正体を知っているコナンにである。

その質問を受けたコナンはそっぽを向きながら軽口で応戦。

まぁ口ではあぁ言っても、どうせ参加するんだろう。

今更ながら、コナンが他の小学生に混じって自由研究するのは想像出来ねえし。

逆に言えばまだ少年探偵団の考えの方が子供っぽくなくてコナンには合ってるんだろう。

 

「そういえば、定明さんはもう全ての宿題が終わってるって言ってましたけど、自由研究も終わってるんですか?」

 

「ん?あぁ、そりゃ当然終わってるけど、どーかしたか?」

 

「いえ、ちょっとした参考までにどんな自由研究をやったのか気になりまして」

 

「あ、それ歩美も気になる。定明さんどんな自由研究をしたの?」

 

と、円谷に続いて吉田まで話を聞きたそうにしてきたので、必然的に全員の視線が俺に向けられる。

まぁ別に答えても問題無いので普通に答える事に。

 

「俺は学校のツレ2人と共同で、『ボトルロケットをエンジンとして、人が乗ったラジオフライヤーで移動は可能か?』ってのをやったな」

 

「えー?ペットボトルロケットなの?」

 

「何か、普通っぽいですね……」

 

「何かもっと面白い事しなかったのかよ?……っていうか、らじおふらいやーって何だ?」

 

「ラジオフライヤーってのは、アメリカで創業した長い歴史を持つ会社の名前でその会社が作ったワゴンのことを総称してラジオフライヤーって言うんだ。ホラ、お前等もハカセにキャンプ場に連れて行ってもらった時に見ただろ?赤色のワゴンにタイヤが付いてて、引っ張るハンドルの付いたヤツ」

 

「さすがコナン。ラジオフライヤーが総称とは俺も知らなかったぜ」

 

「あ、あはは。そうなんだ……(オイオイ。知らねーモンを自由研究のテーマにすんなよ)」

 

「あっ、それ歩美知ってるよッ!!」

 

「俺も知ってるぜッ!!」

 

「確か、キャンプ場で見た時は子供が乗っていましたね……でも、やっぱり普通っぽいです」

 

「確かに。城戸君のハチャメチャな所を見た私達としては、少し肩透かしされた気分ね」

 

「テメー等の中で俺のキャラ付けはどうなってんのか非常に気になる一言だな?」

 

質問されたから答えたというのに、さっきまでのワクワク顔から一転して凄えつまらなそうな顔になる少年探偵団。

しかも吉田達だけでなく灰原まで「なーんだ」ってつまんなそうな顔してやがる。

唯一コナンだけがそんな探偵団メンバーを「まぁまぁ」と注意して、俺に話を振ってきた。

 

「それで、結局動かせたの?」

 

「ん?あぁ。まぁ普通のペットボトルじゃ無理ってのは分かってたから、5ガロン容器3つ使ったロケットフライヤー作ったぜ?」

 

「「ハァッ!?」」

 

「ガ、ガロン容器でロケットって……」

 

「しかも5ガロン3つ……」

 

「なんちゅうモンを作っとるんじゃ……想像すると、かなりシュールじゃのう……」

 

「え?ど、どうしたのコナン君、哀ちゃん?」

 

「ハカセや蘭さん達も分かるんですか?……っというか、ガロンって何です?」

 

「何か強そうな名前だな」

 

俺の言葉を聞いて仰天した灰原とコナンに、何が驚きなのか今ひとつ分からない少年探偵団。

ならば、ここは俺達が実際にやった自由研究のムービーを見せてやるか。

俺はスマホを取り出してムービーフォルダを開き、自由研究の最終段階を撮ったムービーを再生して彼らに見せる。

ちなみにこの時俺はスマホを持っていなかったので、ツレの神田(カン)からスマホを借りて撮影し、そのデータを後で貰った。

蘭さん達も興味が沸いたのか、探偵団メンバーの後ろから覗きこんでくる。

勿論撮影者は俺なので、ムービーの冒頭は俺の声からスタートする。

 

『よーし。んじゃあガロンボトルロケットフライヤーの発射すっか。ゴリちゃーん、頼んだぜー』

 

『おっしゃおっしゃッ!!空気注入ぅうううううッ!!』

 

冒頭は俺が地元の友だちの一人であるゴリちゃんに空気を入れてくれと合図した所から始まる。

そこで俺達の作ったボトルロケットの全容が明らかになるのだが――。

 

「わッ!?このロケット、凄くおっきいッ!?」

 

「空気を入れてる人も元太君よりおっきいですけど、ロケットの方がもっと大きいじゃないですかッ!?人の乗るスペースの方が小さいですよッ!?」

 

「っていうか、ガロンって何なんだよ?教えてくれよ」

 

赤い大きめのラジオフライヤーの後ろに三角に樽積みで3つ繋がった魔改造ラジオフライヤー。

それを見て、純粋年齢組の3人はがやがやと騒ぎ出す。

ペットボトルで作る簡単なロケットなんかより遥かにデカイ大きさだからだ。

ちなみに5ガロン容器一つが49センチという特大サイズ。

なので、空気を入れている時から、ラジオフライヤーはウイリー状態で静止している。

 

「ガロンは単位の事で、1ガロンが大体4リットルくらいの量よ」

 

「えッ!?じゃあこのガロン容器一つで、2リットルのペットボトル二本分×5って事ですかッ!?」

 

「もっと正確に言えば4リットルより少し多いくらいだから、そこにプラス500mmのペットボトル1本追加の分量×5が3つ、だな」

 

コナンと灰原による単位のお勉強が開催される中、ムービーの中のゴリちゃんは空気を規定回数入れて一仕事したという風に額の汗を拭う。

ここで俺の台詞が再び入る。

 

『じゃあ発進するけど、ドライバーは乗りたいって言ってたカンがするって事で……ほい』

 

『ん?何だよジョジョ、このヘルメット?』

 

『安全第一だろ?万が一の為に被っておけって。な?』

 

ちなみにここはカメラの反対側でのやりとりなので映っていない。

しかしこのやりとりの後でカンがカメラの前に姿を表した。

首に白いタオルと安全祈願のお守りを掛け、安全第一と書かれた黄色いヘルメットを被ったシュールな姿で。

 

「ぷっ……く、ふふ……ッ!!」

 

「あ、哀ちゃん?」

 

『……なぁジョジョ?このヘルメット、やけに男臭いんだけど?』

 

『近所のおっさんのだからな。かぐわしいだろ?』

 

『あぁ、倒れそうなくらい濃厚でスパイシーなスメルがするよ』

 

『……何かカンの近く、オス臭えぞ?』

 

「くはっ……ッ!?ふ、ふふふ……ッ!!」

 

(……コイツの笑いのツボは未だに謎だぜ)

 

カメラの前に姿を表したチグハグな格好の小学生を見て、灰原は口を抑えながら必死に笑うのを我慢している。

更にヘルメットを被ったカンに鼻を抑えながらゴリちゃんが言った台詞が彼女的に効いたみたいだ。

もしかしてこういうギャップ的なのが灰原のツボなんだろうか?

コナンはそんな灰原を見て苦笑い。

何やらカオスになりかけているが、ムービーはそれに関係無く進む。

現在、魔改造フライヤーにはカンが乗り込んで前向きに荷重を掛ける為に、正座しながら体を前に倒してハンドルに体を預けている。

まるで昔の海賊船の船首下についてた船首像みたいな格好だ。

 

『じゃ、記念すべききょーどー自由研究――ラジオフライヤーはボトルロケットで進むのか?ドライバーは私、ずのーろーどー担当のカ――』

 

『長い前置きは良いからレッツゴーッ!!!』

 

『え?ちょ、ゴリちゃ(キュポッ)』

 

ボォオオオオオンッ!!!

 

「ッ!?」

 

「きゃッ!?」

 

「「うわぁッ!?」」

 

と、カンの台詞の途中で耐え切れなくなったゴリちゃんは栓を引っこ抜いてしまい、ガロンボトルは爆音を鳴らして水と空気を排出した。

更にカンのゴリちゃんを止める言葉の途中でとんでもない大爆音が鳴ってカンの声をかき消してしまう。

いきなりカメラの前から消えたロケットフライヤーINカンだが、俺は『スタープラチナ』の超視力でそれを追っかけて、直ぐにそちらへカメラを向ける。

 

『あびひゃあぁぁ………………――』

 

『……おっしゃあッ!!成功したぞジョジョッ!!』

 

『あぁ分かる。カンの悲鳴がすっげえ勢いで遠のいてるからすっげえ分かる』

 

俺達の居た大きな公園の広場からかなり離れた場所から、残響を残して遠ざかるカンの悲鳴。

多分、時速40キロくらいは出てるんじゃないだろうか?

そして、カンを乗せた魔改造フライヤーが進む先を先に見ていた俺は、小さく「あ」と漏らしてしまう。

 

『ん?どうしたんだよジョジョ?』

 

『いや……確かあの先って……トマト畑じゃね?』

 

バキバキバキィッ!!!

 

俺の言葉の直ぐ後で、何か色んなモノがぶっ壊れた様な音が聞こえてくる。

ここでゴリちゃんも状況を理解して「あ」と呟き、俺達は急いでカンを助けに向かった。

と、ここでムービーを一旦終了させ、あんぐりと口を開ける吉田達と視線を合わせる。

 

「この後は皆で飛距離を測りに行ったけど、401メートルっていうトンデモねー距離を走ったぜ?」

 

「えぇッ!?そ、それって、この第一展望台より長く走ったって事ですかッ!?」

 

「凄えーッ!!滅茶苦茶すげーじゃねぇかッ!!」

 

「……ねぇ、定明にーちゃん。そのカンって人、大丈夫だったの?」

 

「あぁ。カンは頭打ったけど、男臭いヘルメットが男らしく守ってくれたらしい。まぁトマト畑に突っ込んで体中トマトまみれで、一見すれば血塗れの小学生が歩いてる様に見えたが、まぁ問題無し」

 

「寧ろ問題しか無いと思うな……」

 

「ぶっ……ッ!?……その言い方……止めて……」

 

コナンの質問に答えたら、何故か腹を抑えてプルプル震える灰原。そんなにツボかこれ?

この自由研究の結果だけを伝えると、円谷と小嶋は目を輝かせてはしゃぐ。

他の皆も程度に違いはあれど、純粋に驚いている様だ。

 

「まぁ、俺の自由研究はこんな感じだ……それより小嶋。お前ビデオで下を撮らなくて良いのか?資料少ねえと後で苦労する事になるぞ?」

 

「おっとっと、そうだったッ!!ちゃんとやっとかねぇと灰原にまた怒られちまう」

 

「はぁ、はぁ……あ、あら?それってどういう意味かしら、小嶋君?」

 

「な、何でもありましぇん……」

 

小嶋の言葉に灰原は眼光を鋭くして聞き返し、小嶋は冷や汗を浮かべながら撮影に取り掛かる。

円谷も苦笑いしながら双眼鏡で街の様子を観察し始めた。

どうやら小嶋は一度灰原に怒られた経験がある様だ。

あの様子から察するにそうとうこっ酷く怒られたんだろう……哀れな。

怒られたといえば、俺も昨日アリサ達に怒られたんだっけ。

 

……あぁそうだ、彼奴等にもこの景色の写真を送っておくとしよう。

 

俺が何処の親戚の家に居るかってのは行ってなかったし、今居る場所を教えておくとすっか。

こっちが問題無く日常を過ごしてるってのを写真に撮って送れば、彼奴等に余計な心配掛ける事の無えだろうしな。

俺はポケットからスマホを取り出して内カメラを起動し、自分のバックに下の町並みが広がる様なポーズでシャッターを切る。

えぇっと、文面は……。

 

 

 

『今日は特にトラブルの無い一日という証明の証だ。

 

 従姉妹のダチのお招きで、現在ベルツリータワーの第一展望台にて激写。

 

 ちゃんと土産も買ってくから期待しといてくれ               定明』

 

 

 

うん、これで良いだろ。これだけ笑顔の俺が写ってれば俺の心配すんのも馬鹿らしいって思える筈だ。

写真を添付したメールをアリサ達に一斉送信してメールを閉じる。

そのままスマホをポケットに閉まった俺は、周りの景色と一緒にこの第一展望台の内部を見渡す。

 

しかし本当に凄いな、このベルツリーは……長さもだけど、内装も未来的で洗練されてるって感じだ。

 

窓の景色をバックに写真を撮ってくれるサービスは勿論、展望デッキの屋外に取り付けられたカメラの景色が楽しめる大型のタッチパネル式モニター。

更に江戸時代に書かれたという江戸一目図屏風のレプリカまで飾ってあるそうだ。

この六曲一隻の屏風に描かれた江戸の町並みがとてもベルツリーから見える景色と酷似してるって事で話題になっている。

勿論200年近くも前にベルツリー並みの建物があった訳も無く、作者を含めてリアルに見る事が無かった屏風だけの景色。

江戸時代の人々は決して見ることのできなかった眺望が、200年の歳月を経て、眼下に広がる……何ていうか、言葉に出来ないな。

まだその屏風は見れてないので、この後で是非ともその屏風をバックに記念写真を撮るつもりだ。

 

と、まぁ今言った様にベルツリーにはその景色以外にも観光客を楽しませる心配りが随所に配置されてる。

だからこそ雑誌でこのスカイツリーの建設記事を知った時に、一度は登りたいと思ったんだよな。

 

「そういえば……ねぇ園子。さっき言ってたもう一つの財団って?」

 

「あぁ、実はね。このベルツリーの建設はウチの鈴木財閥ともう一つの財団の共同プロジェクトなの」

 

「え?でも、名前はベルツリータワーって、園子の家の名前だけだよね?」

 

と、このベルツリータワーの完成度の高さに感動していた俺の隣で、蘭さんと園子さんが興味深い事を話していた。

コナンと灰原も興味があるのか、園子さんに向き直って話に耳を傾けている。

そういやそんな事を最初にチラッとだけ言ってた様な……。

 

「えぇ。実はその財団のトップの”御方”が、折角下にベルツリーラインが開通してるのに、タワーの名前だけ変えるのもおかしいでしょうって言って、自分の財団の名前は入れなくて良いって仰ったらしいのよ」

 

「へー……何ていうか、大物だね。その人」

 

園子さんのちょっとした裏話を聞いた蘭さんは感心した様に声を出し、コナンと灰原もリアクションはしていないが概ね同意の様だ。

自分の会社が関わった観光用の建物に名前を入れないで良いって言うのは、ネームバリューを売らないってのと同じ事。

名前が鈴木財閥を表してるベルツリータワーは、もっぱら鈴木財閥が作り上げた建築物として売り出してるし。

 

ピロリロリロ。

 

お?返信、か……相馬からだな。

 

『へぇ~?お前今ベルツリーに居るのか?それじゃ、今日はビックリするサプライズがあると思うけど、楽しんでこいよ?』

 

……ビックリするサプライズ?意味被ってね?

っていうか、どういう事なんだろうか?

 

ピロリロリロ。

 

ん?……今度はなのかか?

 

『凄い偶然だねッ!!ちなみになのはは相馬君と一緒に映画館だよ♪また海鳴に帰ってきたら、親戚の人のお話聞かせてねー♪』

 

 

 

…………ん?…………偶然?なんのこっちゃ?

 

 

 

「まぁ、向こうは世界に名を馳せる超が付く程のVIPだしね。タワー1つ位なら惜しくなかったんじゃないかな」

 

「そうなの?」

 

「そうなのよ。私も一度お会いした事があるけど、とても紳士でダンディなおじ様だったわ……あんな人ならそれぐらい大きく出られても全然嫌味に感じないんだもん」

 

「へー……一度会ってみたいかも」

 

(ムッ)

 

(あらあら。恋のライバル登場、かしら?)

 

(るっせぇ)

 

「おやおやぁ?もしかして蘭、新一君からナイスミドルに乗り換えようと?」

 

「ば、馬鹿な事言わないでよッ!!別にそんな気無いし、新一の事だって別に……ッ!!」

 

目の前で恥ずかしがる蘭さんをからかう園子さん。

そして蘭さんの台詞に表情をムッとさせるコナンと、それを見て「やれやれだわ」と興味を失ってパンフレットを見始める灰原。

そんなラブコメ風景が繰り広げられる傍に居ながら……俺は相馬となのはのメールの文面のおかしさに首を傾げる。

一体何が偶然なんだろうか?二人は映画館に居るって言ってたし、別に俺とは関係無いんじゃ……ん?……”二人”?

俺は頭を過ぎった違和感に思考を巡らせて、どういう事なのかと推理していく。

待てよ?確か鈴木財閥って日本じゃかなりの財団だったよな?

そんな大財閥のお嬢様である園子さんに”トップの御方”と尊敬を籠めた言葉で表される大財閥の人物?

しかもベルツリータワーの名前を鈴木財閥に譲っても問題無いくらい、日本でもそのネームバリューは轟いてる財団?

 

……オイオイ、まさか……。

 

「大丈夫大丈夫ッ!!蘭くらい可愛くてナイスバディなら、きっと愛人くらいにはなれるってッ!!」

 

「あ、愛人って……ッ!?な、何馬鹿な事言ってるのよッ!!私なんかがそんなのなれる訳無いし、なるつもりも無いってばッ!!」

 

「ふむ。失礼ながら、私もその会話に混ぜて頂いてよろしいですかな?レディ達」

 

「「……へ?」」

 

と、いよいよもってヒートアップしてきた蘭さん達の会話に、俺達以外の第三者の声がするりと入ってきた。

……聞いた事ある声だなー(棒読み)

俺は頭をガシガシと掻きながら割って入ってきた声の主へと視線を向け、自分の耳が正常だと確認する。

いきなり話し掛けられて固まっていた蘭さんと園子さんに柔和な笑みを浮かべる”金髪のナイスミドル”な男性。

彼は正に紳士の名に恥じないピシッとした姿勢で超が付く程のブランドスーツを着こなし、自然とした佇まいでカリスマオーラを振り巻いている。

 

「失礼。女性の話に聞き耳を立て、あまつさえ口を挟むのは如何なものかと思ったが……どうにも”私”の話をされていた様なのでつい。無礼をお許し頂きたい」

 

「……え?え?……わ、私って……」

 

「」

 

柔和な笑みを崩さずに、嫌味臭さも微塵も感じさせず、彼は自然と会話を続ける。

しかし今の台詞が衝撃的かつ予想外だったらしく、蘭さんは目を丸くしてしまっていた。

園子さんなんて余りの衝撃にフリーズしてるし。

と、ここで少年探偵団の他のメンバー達もこっちを向き、いきなり現れた男性の姿を見て首を傾げる。

そこでこの場の年長者であるハカセが恐る恐る質問をぶつけた。

 

「し、失礼ですが、貴方は……?」

 

「ん?あぁ、これは申し訳無い。初対面だというのに自己紹介が遅れてしまって。私は――」

 

「デビット・バニングスさん。世界に名立たる大企業バニングスカンパニーの創設者にして現社長。んで――」

 

「む?――おぉッ!?」

 

「俺のダチ、アリサ・バニングスの親父さんっすよ……どうもっす、デビットさん」

 

「なんと、定明君ではないかッ!?まさか君も来ていたとは、コイツはとんだ偶然だなッ!!」

 

「「「えぇッ!?」」」

 

「……」

 

デビットさんの台詞に割って入った俺を目にして驚きの声を挙げるデビットさんだが、次の瞬間にはまた笑顔を浮かべてくれた。

まぁ、さっきまでハカセの大きな躰の影に隠れてたから、俺だって分かんなかったんだろう。

しかしそんな俺達の関係が予想外だったのか、コナンと蘭さん、ハカセは驚きのあまり声を挙げ、園子さんに至っては口をパクパクさせている。

そんな混乱が続く一方で、俺はデビットさんに頭を下げて普通に挨拶をしていた。

 

「いやはや久しぶりだねッ!!最近は余り家に戻る事が出来なかったから君とも会えなかったが、会えて嬉しいよ」

 

「そいつはどーもっす……っつーか、何で此処に居るんスか?しかもお一人で」

 

「なに、先程鈴木財閥のお嬢さん。園子君が話していた通り、ウチもこのタワーの建設には絡んでいるのでね。ならばオープニングセレモニーに来ていても不思議ではあるまい?」

 

「そいつは納得っすけど、些か不用心じゃねぇッスか?SP無しなんて襲ってくれって言ってる様なモンすよ?鴨がネギも味噌も鍋も、ついでにガスコンロまで背負ってる様なモンでしょーに」

 

「ははっ、これは耳が痛いな。しかし大丈夫。SP達は周囲の観客に溶け込んで、私を影から護衛してくれているからね。さすがにこの場で黒服のSpが居てはお客の方々が萎縮してしまうだろう?」

 

「あー、成る程」

 

海鳴のアリサの家でする様に、俺はデビットさんと普通に会話を繰り広げる。

大企業の社長といえども、デビットさんも人の親。

俺みたいな子供との会話も苦痛には感じていないし、デビットさんは娘だけじゃなく息子も欲しかったらしいから俺や相馬との仲は比較的良好なのだ。

 

「私からも質問だが、君は何故此処に居るのかね?確かアリサから聞いた話では、君は2週間程ご両親が海外へ出張で、親戚の家に預けられていると聞いていたんだが……」

 

「あぁ。その親戚ってのはこの人なんスよ。俺の従姉に当たる蘭さんです」

 

「ふぇッ!?ちょ、ちょっと定明君ッ!?」

 

デビットさんの質問に答えながら蘭さんを指差すと、当然デビットさんの視線は蘭さんに向けられる。

その蘭さんはといえば、いきなり自分に話題が飛んできて普段は出さない様な悲鳴を挙げて飛び上がっていた。

 

「なんと、この様な偶然が……偶々私の話をされてる鈴木園子君を見つけたと思ったら、まさか園子君のご友人の君が定明君の従姉とは……人の縁とは奇妙な所で繋がっているものだ」

 

「あ、あのあのッ!?わ、わたひッ!?」

 

「ら、蘭姉ちゃん。落ち着いて、呂律が回ってないから」

 

「あー、蘭さん。緊張するなってのは無理があるでしょうけど、少しで良いんで落ち着いて下さいって。はい、深呼吸してー」

 

「そ、そそそうだねッ!?こ、こういう時は深呼吸……ッ!!……スウゥゥ……ハアァァァ……ッ!!」

 

「おーい?力み過ぎて息吹になってますけど?今からデビットさんブッ飛ばす前準備っすか?」

 

「ゴフゥッ!?す、する訳無いでしょぉッ!?変な事言わないでよ定明君ッ!!」

 

余りにも緊張し過ぎて空手の息吹をしてる蘭さんを流れる様にからかい、適度に力を発散してもらう。

その光景を見ていたデビットさんがフッと優しく微笑んでいたんだが、それを見て蘭さんは顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまう。

しかし目的通り落ち着く事は出来た様で、さっきまでよりは顔の強張りが抜けた表情でデビットさんと視線を合わせた。

 

「え、えっと。私、毛利蘭です。定明君の従姉で……き、今日は、友達の園子にお招きいただきまして……」

 

「あぁ、いえ。そう固くならないで。私は娘の友人であり恩人でもある定明君の前では、一人の父親なのですから」

 

「き、恐縮です……」

 

まだ少し緊張の抜けてない蘭さんを、デビットさんは優しく諭して肩の力を抜かせる。

ご本人の言葉は良く効いたのか、俺のリラックス法の時から更に緊張が抜けて、今の蘭さんは普段と変わらないぐらいになっていた。

 

「しかし偶然ていやぁ、ホントの偶然ッスね。俺なんかデビットさんが話し掛けてくるホンの少し前に、アリサ達にメール送ったトコっすよ?」

 

「む?アリサに?何と送ったんだね?」

 

「此処をバックにした写メと、今ベルツリーに来てるから、土産楽しみにしててくれって……あの、デビットさん?何をそんなに笑ってるんスか?」

 

「……く、くく……い、いや何……コイツは本当にとんだ偶然だと思ってね」

 

俺がさっきアリサ達にメールを送った事を教えたら、何故かデビットさんは背中を少し丸めて大声で笑うのを我慢していた。

やがて笑いが収まったのか、デビットさんは目尻の涙を拭い、再び背筋を伸ばす。

しかし、偶然、ねぇ?……確か、なのはと相馬のメールも似た様な文面だったよなぁ……。

……何か、猛烈にメンドクセェ予感がするのは気の所為か?

背筋を駆け上がる様な嫌ーな感覚を覚える俺に、デビットさんは笑みを浮かべながら口を開く。

 

「時に定明君。実は私もSP以外に一緒に連れてきている人達が居てね。その人達は今ここの二階下のフロアでカフェを楽しんでいるのだが――」

 

『こっちよこっちッ!!この階のこの辺りの筈だわッ!!』

 

『うんッ!!確か、隅田川が後ろに写ってたから……』

 

『それに、東都ベルツリーラインも見えたわ。あの角度であの線路が写るスペースはこの辺りだけね』

 

「――どうやらこの後、もう一騒動ありそうじゃないか?」

 

「……平穏って、求めると逃げる習性でもあるんスかね……やれやれ」

 

額に手を当てて溜息を吐く俺を、デビットさんは笑顔で見つめる。

今の声の主が誰だか完璧に分かってしまい、俺はとりあえずどうしたモンかと頭を捻る。

……しかし神様というのは意地悪で、俺にシンキングタイムは与えてくれないらしい。

 

「パパッ!!」

 

「あぁ、アリサ。それにすずかちゃん達もどうしたんだ?そんなに慌てて」

 

理由なんて全部分かってるのに、敢えてデビットさんは近づいてきた3人に問う。

通路の向こうから周りの迷惑にならない程度の小走りで近づいてきた、人形の様な可愛らしい容姿をした3人の少女。

派手さの少ない私服を着ていようとも素の造形は隠せず、道行く人達や子供達は殆ど振り返って彼女達に見惚れている。

どう見繕っても将来的には美人になる事間違い無しの容姿な上に、その内の二人は顔がそっくりなのだから周囲の目を余計に引いていた。

 

「「……可愛い」」

 

「綺麗……」

 

「わぁ……お人形さんみたい……」

 

更にそれは少年探偵団純粋年齢組の小嶋と円谷も例外では無く、二人揃って目を♡の形にしている程だ。

同姓である吉田や蘭さんですら嫉妬する事無く目を輝かせていた。

 

「ねぇパパッ!!定明を見なか――あぁぁッ!?やっぱり居たわね、定明ッ!!」

 

そんな美少女達の内の一人、デビットさんの娘であるアリサは周りの視線を気にする事無く質問を投げ掛ける。

その翡翠を思わせる瞳には、激情の炎がメラメラと沸き上がっていたんだが……デビットさんの目の前に立っている俺を見つけ、その瞳は直ぐにこっちへと向けられる。

更にアリサの後ろに居たリサリサとすずかは俺を見て微笑みを浮かべる。

……安心させようと思ってメール送った訳だが……少し早まったか?

数分前の自分の行いを思い返しながら、俺に目を向ける3人に対して苦笑いしつつ言葉を投げ掛ける。

 

「……これなら、ベルツリーの土産はいらねぇよな?」

 

「あら。期待しておいてくれだなんて言っておいてそれは酷いわ、ジョジョ」

 

「オメェ等がここに居るなら要らねえだろ。自分で買えるじゃねーか」

 

「……そうね。お土産はそうだけど、リサリサの言う通りそれはズルいわよ。なら代わりに、夏休みの思い出っていうのはどうかしら?」

 

「勿論、買えるなんて言わないよね?」

 

土産代浮いたなぁとか考えながら言った発言にリサリサが答え、それに続いて腕を組んだアリサと微笑むすずかの畳み掛ける言葉。

それに対して肩を竦めながら自然な動きでスマホを取り出し、3人をパシャリ。

スマホを見れば、いきなりの撮影に目をぱちくりとさせる3人の姿が高画質で納められていた。

っていうかリサリサのこんな表情も新鮮だな。

 

「取り敢えず思い出が一枚。んで、俺はこの後江戸一目図屏風の前で写真撮るつもりだけどよぉ……一緒に写るか?」

 

「なッ!?そ、それよりアンタ何自然に写真撮ってるのよッ!?こっちにだって準備ってモノが……ッ!!」

 

「あう……髪、跳ねて無かったかな?」

 

「……多分私、ボーッとした表情になってるでしょうね……」

 

いきなり写真を取られて顔を赤くして熱り立つアリサに、自分の髪を気にしだすすずか。

そして自分が撮られた時の表情を推測して溜息を吐くリサリサという構図。

あぁ、この脱力したやりとり。正に平和の空気ってヤツだな……。

 

「ま、まったく、もうっ……所で定明。アンタ、何か何時もと服の感じが違うじゃない?」

 

「あぁ。ちょっと気分転換にイメチェンを、な」

 

少し赤い顔をしたアリサが咳払いして質問してきたので、俺はネクタイを弄びながら答える。

何時もは適当なシャツとズボンだったが、今日は制服っぽいスタイルで決めてみたのだ。

裾長めのルーズな黒のスラックスにジャイロのベルトと鉄球のホルスターを付け、上は白い長袖のYシャツにネクタイというシンプルな格好。

しかしボタンは第二ボタンまで開けてネクタイはちょっとだけルーズに緩めた、少しダレた演出をしている。

個人的にお気に入りなのは、シャツの胸ポケットに描かれた、あのスタンド能力を引き出す矢に酷似したデザインのマーク。

そしてネクタイの真ん中に縦字で描かれた『GO!GO!JOJO』という刺繍だ。

 

「へぇ~?定明のそういう格好は初めてだけど……ま、まぁ良いんじゃないかしら?」

 

「そう思うか?そりゃ嬉しいな。アリサも涼しそうで良いじゃねーか。赤色もお前によく似合ってる」

 

「ふ、ふふん。まぁ、私くらいになれば何着ても似合うのよ」

 

初めて私服を褒められたので、俺もお返しにアリサの格好を褒めると、アリサは気を良くしたのか胸を張って笑う。

アリサの今日の格好は赤い半袖のプリントシャツにピンクのフリルがあしらわれたミニスカートという格好だ。

活発的なイメージを与える勝ち気な顔に良くマッチしていると言える。

 

「あら?ジョジョってば、アリサだけ評価して私達は放置?」

 

「わ、私も聞きたいな?どうかな、定明君」

 

「ん?あぁ、すずかも白のシャツとピンクの色合いがスカートと合ってて、良い感じだと思うぜ?」

 

「え、えへへ♪ありがとう♪」

 

俺の言葉にはにかみながら微笑むすずかだが、ピンクのキャミソールに白い半袖シャツの組み合わせは落ち着いてる様で主張も忘れていない。

膝丈の黒いスカートに黒いストッキングを履いたすずかは、なんていうか、ふんわりとしたイメージが良く合っているって感じだな。

 

「リサリサは……何ていうか、大人っぽい感じだ。上着黒って男のイメージがあったけど、バッチリ着こなしてるじゃねーか」

 

「ふふっ、女の子ですもの♪お洒落は女の子の嗜みよ?」

 

俺達より一つ年上のリサリサだが、彼女は黒のフリルが付いたシフォンブラウスとデニムのショートパンツを合わせた大人っぽい着こなしをしている。

しかもブラウスの腕の部分がシースルーになっていて薄っすらと腕が見えている。

大胆でありながら女っぽさを忘れないその着こなしは見事としか言い様が無いんだが……何で俺、こんな事考えてんだ?

アレか?家で母ちゃんのファッションショーに付き合わされた影響で女子の服の要らん知識が増えた所為か?

 

「……え、えぇっと、定明君?この子達って、前に定明君が言ってた友達の子達だよね?」

 

おっとっと、蘭さん達への説明もしねえと、だな。

いきなり登場したデビットさんやアリサ達にどう接して良いか判らずに俺達の様子を見守っていた蘭さんや園子さん、探偵団の視線が両方を知る俺に向けられる。

そういった事を聞かれるのを事前に予想していたので、俺はすんなりと言葉を発する事が出来た。

 

「えぇ。俺のダチのアリサとすずか、それとリサリサです。3人共、この人が俺の従姉の毛利蘭さんだ」

 

「あっ、ジョジョの親戚の方ですか?ごめんなさい、てっきり他の観光客の方かと……」

 

「あはは、気にしないで。初めまして、定明君の従姉の毛利蘭だよ。よろしくね、皆」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。アリサ・ローウェルです。もう一人アリサが居ますので、私の事はリサリサと呼んで下さい」

 

「月村すずかです。定明君とは学校は違いますけど、大切な友達です♪それと、そちらの園子さんはお久しぶりです」

 

「私はアリサ・バニングスです。定明の友達で、この人が私のパパです。こんにちわ、園子さん」

 

「あ、あぁ、うん。久しぶりねアリサちゃんとすずかちゃん……まさか城戸少年の友達だったとは……」

 

「園子は二人に会った事があるの?」

 

「うん。アリサちゃんは言うに及ばずデビットおじ様の娘さんだし、すずかちゃんはあの月村家の次女。長女の忍さんと一緒に何度かパーティで会ってたのよ」

 

しゃがみながらにこやかに微笑み挨拶した蘭さんに、3人は其々挨拶を返す。

更にさっきまでフリーズしていた園子さんにも挨拶すると、園子さんもぎこちなくではあるが挨拶を返した。

そしてこの事態を小嶋や円谷が見逃す筈も無く、我先にと手を上げる。

 

「ぼ、僕は円谷光彦ですッ!!よろしくお願いしますッ!!」

 

「お、おお、俺は小嶋元太だッ!!」

 

「私、吉田歩美ですッ!!」

 

「??え、えぇ。よろしくね……えっと、定明?この子達も親戚なの?」

 

しかし今度は蘭さんとは苗字が違う上に自分達より年下の子供が挨拶してきたので、アリサは困惑した表情で俺に質問してくる。

やっぱこの団体じゃ一度に紹介しきれねえか。

 

「いや。少しややこしいんだが……蘭さんの所で居候してる子が居てな?えっと……」

 

「あっ、定明にーちゃん。僕自分で自己紹介出来るよ。こんにちは。江戸川コナンです」

 

「え、江戸川?」

 

「コナン……?……初対面でこう言うのは何だけど、随分古風な苗字ね?名前は英語みたいだけど……」

 

「あー、うん。僕のお父さんがコナン・ドイルの大ファンで……」

 

と、吉田達と直接縁を結んだコナンが自己紹介するが、そのツッコミ満載な名前には普通に突っ込まれた。

アリサとすずかからの質問に対してコナンは少しどもりながら答えるが、まだまだ追撃の手は緩みそうに無い。

特に、下手したらコナンより頭の回転が速いかもしれないリサリサの質問はかなり的確だ。

 

「アーサー・コナン・ドイルの?苗字は江戸川乱歩と同じなのに、彼の名前には肖らなかったのかしら?」

 

「え、えっと、確か……そうそうッ!!み、苗字は江戸川乱歩と一緒だから、名前はコナン・ドイルから貰おうって事にしたんだってッ!!日本とイギリスの最強のタッグだって言って……あ、あはは……」

 

「そうなの……コナン君がその二人みたいに頭の良い人になれる様にって考えてくれたのかもね」

 

「う、うん(あっぶねぇ……確かにこの名前は無理があったけど、まさか初対面なのにここまで違和感を持たれるとは……しかし、確かにこの子達は将来美人になんだろなー……)」

 

お?リサリサの追求の手を上手く躱したみたいだな。

とりあえずコナンの名前についての疑問が解決した所で、再び説明再開。

 

「まぁ、そっちの奴等はコナンの友達なんだよ。さっきからそこでパンフ見てる灰原って子も含めてな」

 

「……こんにちわ」

 

俺が親指で指し示した灰原は3人に向かって礼をするだけで、特に何も語ろうとはしない。

まぁ初対面だと大体こんな感じだろう。

3人も灰原は無口な方だと悟ったのか、無理に蒸し返しはしなかった。

特に問題無く挨拶は済んだみたいだし……俺も3人に注意しておこう。

 

《おい、3人共そのまま話を聞いてくれ》

 

「「「ッ!?」」」

 

俺は『スタープラチナ』の口を使ってスタンド使いにしか聞こえない言葉を発する。

スタンド使いにはスタンドが喋ってるのが見えるが、念話やテレパシーなんかと同じだと考えてもらえば良い。

 

《一応言っておくと、蘭さん含めてこの場の奴等は俺のスタンド能力の事は一切知らねえ。鉄球はまぁ技術として誤魔化してるから、その辺は上手く誤魔化してくれ》

 

《えぇ。分かったわ》

 

《まっ、幾ら親戚でもスタンドの事までは話せないか。仕方ないから、聞かれたら誤魔化しといてあげる》

 

《定明君。参考までに聞いておきたいんだけど、どんな感じで誤魔化してるの?》

 

《一応軽く炎を出したりしたが、それは全部マジックって事でな。だから蘭さん達には俺はマジックが得意だって事になってるからよろしく》

 

と、俺自身のこっちでの立ち位置を伝えて齟齬が出ない様に頼み込む。

特にコナン辺りは俺の海鳴での生活の事を聞きたがるだろうし、これで変に疑われても洒落にならない。

隠し事の相談なんてあんまりしたくは無いが、やらないと俺自身に面倒が降り掛かる。

自分の立ち位置が結構面倒な事になっているなと再認識して溜息を吐きたくなるが、それをグッと飲み込む。

……あれ?そういえば……。

 

「なぁアリサ。なのはと相馬は来てねえのか?」

 

あの二人は映画に行ってるって話だったけど、誘わなかったのか?

 

「あぁ、二人も誘ったんだけどね……まぁ、アレよ」

 

どれだよ?

何やら少し言い難そうにしてるアリサに代わってすずかが苦笑いを浮かべる。

 

「なのはちゃん。今日は相馬君と二人っきりで映画とショッピングに行く約束してたみたいで、一緒には来れなかったの」

 

「へぇ?そりゃアレか?なのはは相馬とデートに行ってて……」

 

「で、相馬君はデートじゃなくて友達と映画見た後は、お買い物で荷物持ちって思いながら一緒に買い物をしているって所……かな?」

 

「違いねぇ。相馬の奴、絶対に自分の立ち位置を荷物持ちだとか思ってんだろーな」

 

「うん。まぁ……そういう事よ」

 

皆揃って簡単に立てられた予想、というか現実を思い浮かべて苦笑してしまう。

……何だか最近、なのはが不憫に思えてきたなぁ。

何時かはその恋心が報われる日が来ると……来ると思いたい。

ただ、相馬の事だから俺が海鳴に居ない間に更に勘違い起こして女の子を落としてる気がするんだよな。

何時の間にか俺が知らない間にテスタロッサの奴を落としてた様に。

何だか相馬が将来的に目に光の無い女達に迫られて逃げるイメージが鮮明に浮かび上がってきてしまう。

考えるだけで背筋が寒くなりそうな場面を頭から追い出し、俺は軽く溜息を吐く。

 

 

 

まぁ、これも俺が望む平穏ってヤツの一部なんだろうな――。

 

 

 

「there the yellow building!!《ほらッ、あそこの黄色いビルですッ!!》」

 

 

 

ん?何だ?

自分自身を取り囲む平穏の一部を楽しんでいた俺の耳に、流暢な英語が飛び込んでくる。

ちなみに俺は『ヘブンズ・ドアー』で英語で何を言ってるかを聞き取れる様にしているから理解出来てる。

アリサやリサリサみたいに素のスペックでは全くもって理解できないがな。

興味本位でそっちに視線を向けると、大体40代といった感じの男が外国人の老夫婦を伴って下の景色を指さしていた。

 

「ooh wow !!It'sAmazing!!《おお、本当だッ!!》」

 

「oh,I see it. what a Lovely building《見えるわ。とってもキュートなビルね》」

 

「this building was built 30 years ago and now , with the completion of the bell tree tower , the views alone is worth four stars. it is definitely a five star property 《 築30年ですが、ベルツリータワーが出来て眺めは四ツ星。資産価値は五ツ星です》」

 

「Wow!!darling i think this may be our lucky day!! I absolutely love this house !!《アナタ、今日は何て幸運な日なのかしらッ!!私、絶対にあの家が良いわッ!!》」

 

「I think so too , this property is ...《あぁ、私も同じ考えだよ》」

 

日本人の男の説明に、老夫婦は嬉しい悲鳴を挙げるが、内容の分かる俺としちゃアホかとしか言い様が無い。

確かにベルツリータワーが出来て建物の価値は上がるかもしれねえが、それでも築30年の建物って普通に老朽化してんだろう。

売り物としちゃ幾ら何でも資産価値だなんて無え筈だ。

 

「……何よアレ?完璧にカモにしてるだけじゃない」

 

「そうね。アレがあの男のやり方なんでしょう。何も知らない人を騙すなんて……酷すぎるわ」

 

「うん……私は所々しか判らなかったけど……騙してるのは分かったよ」

 

(おいおい。この3人、普通に今の英語の会話が分かるのかよ……まぁ金髪のアリサって子は名前からして外国人だし、茶髪のアリサって子は定明が言ってた通りなら、IQ200の天才少女。勉強してりゃ、英語が理解出来ても不思議じゃないか……すずかって子も所々とはいえ理解出来てるとはな……)

 

そして俺と同じであの男のやり口が理解出来たリサリサとアリサ、そしてすずかも不愉快そうに言葉を吐き捨てる。

怒りに燃える3人を感心した様な顔で見てるコナンと灰原も、恐らく今の男の英語は理解出来てる筈だ。

 

「人の商売にケチを付けるのは好きでは無いが……見過ごす訳にもいかん。止めるとしよう」

 

更にこの場で俺達子供以外で今の話の内容を理解しているデビットさんがあの男のやり口で被害に遭おうとしている老夫婦を助ける為に動き出した。

まぁそれが出来るのはバニングスカンパニーの社長って社会的地位があるデビットさんだけなので仕方ない。

日本の不良物件を売りつけて老夫婦を騙そうとしているこすズルい男にデビットさんが近づいて行くのを見ながら、俺は大きく伸びをする。

 

「ふぅ……ん?」

 

「ん?どうした、コナン?」

 

「いや……今、あそこのビルが光った様な……」

 

と、伸びをして躰の筋肉を解していたら、コナンが何かを見つけたらしく、向こうのビルに視線を送っていた。

光った?別にビルはガラス窓なんだし、反射で光るのは不思議じゃないだろう?

そう言おうと思ってたんだが、コナンの言うビルの光ってるというのは、ビルの側面では無く――屋上の一箇所だった。

何であんな所が光ってるんだ?しかも不規則に……。

さっきまではあんな光は見えなかったのだが、それが気になり、それが何なのか『スタープラチナ』を通して認識した瞬間――。

 

 

 

――バリィイイインッ!!

 

 

 

平和という硝子が砕け――異次元の殺意が、咆哮をあげた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

アリサ・バニングスは、今日という一日のこの瞬間を絶対に忘れないだろうと、後に語る。

 

 

 

父の会社が建設に関わったベルツリータワーのオープニングセレモニー。

そのセレモニーに父と共に観光に訪れる事が決まり、親友であるすずかとリサリサを誘って訪れたベルツリータワー。

展望台からの眺めを楽しみながら3人でお茶を楽しんでいた時に、自らの想い人から同じタワーに居るというメールを受け取った時の高揚感や胸の高鳴りは心地よかった。

こんな偶然をありがとう、神様。とアリサはらしくもなく感謝していた。

勿論、親友であり、恋のライバルである二人もメールを受け取って嬉しそうな顔をしている。

自分以外の女の子にあんな幸せそうな顔をさせる憎っくきアンチクショウに対しての嫉妬もあったが、自分も同じ様な顔をしていると思うと羞恥心で頭が沸騰しそうだった。

それについては定明にどうにかしてもらおう、何人もの乙女を惚れさせた罰だ。と無理矢理納得していたものである。

 

 

 

しかし、アリサの深層に刻まれたのは、そんな淡い思い出では無かった。

 

 

 

最初に思ったのは、どうしてという――突然の悲劇に対する疑問。

 

 

 

自分達が楽しく夏休みの思い出づくりをしていた横で、外国人の老夫婦を騙して不良物件を売ろうとしていた男。

正義感の強いアリサはその事に腹を立てて、一言申したい気分だった。

しかしそれはアリサの父親であるデビットがするという事で、アリサは少し溜飲を下げる。

同じ様に商売をしているとしても、自分の父親程に高潔な人物であればあの男の不正を正してくれるだろうと確信していた。

 

パパがあの男をとっちめてくれたら、後で定明の希望通りに江戸一目図屏風の前で写真を撮ろう。

 

私とすずかとリサリサの3人だけとか、定明の連れの皆で一緒に……私達一人づつとのツーショットとかも。

 

何ともらしくない自分の考えに赤面が酷くなりそうだったアリサ。

しかし今は定明の親戚やその親戚の家に居候している子の友達も居る。

そんな人達の前で余り変な顔をする事も出来ない、とアリサは自分の心を無理矢理制御していた。

主にこんな事を考えて赤面した自身を見られたく無いのは、只一人だけであるのだが。

 

 

 

そんな楽しい時間を、アリサの心を引き裂く一条の光。

 

 

 

日常と非日常の境を現す様なベルツリータワーの強化ガラスを破り、デビットが注意しようとした男の心の臓を食い破る一発の弾丸。

 

 

 

しかしその弾丸は標的を殺したにも関わらず――丁度男の背後に立っていたデビットの躰をも貫こうと進む。

 

 

 

その光景と瞬間こそが、アリサが何時までも忘れられないだろうと語る場面。

刹那の瞬きを駆け抜ける凶弾に、反応する事が出来ないデビットの姿を、アリサは何故かゆっくりと流れる時の中で見ていた。

良く達人同士の戦いの最中、時間がスローに流れる様に見える時があるというが、この時のアリサはそれを体験していたのである。

しかし、一時の超人足り得る思考と感覚は、超人足り得ぬ(・・・・・・)肉体を行動に移させる事が出来ない。

命令を受けた肉体の反応はアリサの研ぎ澄まされた感覚の数テンポ遅れで活動を再開する。

自分が動けた時には――先ほどの男と同じく、躰を貫かれて血塗れになった父親の元に駆けつけて涙を流す時だと、聡明なアリサは思い至る。

 

 

 

――ふざけるな。

 

 

 

そして、他ならぬ自身の思い至った結論に、アリサは激しく憤慨した。

自分はそんな簡単に諦めを付ける女だったか?

決まりきった運命を受け入れて、父が倒れる前から涙を貯めて泣き喚く準備をするのか?

 

 

 

冗談じゃない。そんな事――認めるものか。

 

 

 

そもそも自分の父親が何をしたというのだ?

ただ、目の前で将来的に悲しむであろう老夫婦を助けようとしただけではないか。

だというのに、こんな――歩いて鳩の糞を食らう様な最悪のとばっちりの様な事で、その生命を無作為に奪われる?

勝率99%のギャンブルで負けた様なちっぽけな悪い偶然で、己の父の命が消されなければならない。

そんな、正に神の悪戯の如き間の悪い偶然等――。

 

そんな運命を、この少女は受け入れない。

 

だからこそ、彼女は――アリサ・バニングスは、己の未熟な精神を乗り越えようと、抗った。

あの日、親友であるすずかの為に、彼女を貶める言葉を吐いた氷村に、銃という凶器や死の恐怖を乗り越えた『覚悟』を持って――。

 

 

 

――アタシは、そんな運命、受け入れないッ!!――『STONE・FREE(ストーン・フリー)』!!!

 

 

 

アリサ・バニングスは、己の未熟な過去を――『乗り越えた』。

己への叱責と、目の前の愛する父の命を奪おうとする銃弾への怒りを篭めた心の咆哮。

彼女の思いに呼応して彼女の背後から現れる人ならざるビジョン。

それは嘗て、彼女が定明から受け継いだスタンド、『ストーン・フリー』のビジョンである。

 

『オォオオラァアアアアアアッ!!』

 

反応できないアリサの肉体の代わりに、『ストーン・フリー』はデビットを助ける為にその能力を発動させる。

スタンドを操る力の源は、スタンド使いの精神力によるものだ。

従って、今の精神テンションが爆発し、振り切れているアリサの命令に、『ストーン・フリー』は本来のポテンシャルを凌駕する力を発揮した。

これはジョジョの奇妙な冒険第5部において、イルーゾォという男が引き起こした現象の一つである。

詳しい説明は省くが、イルーゾォは自身の『死にたくない』という思いを爆発させて、自身のスタンドよりパワーの勝るスタンドの一撃を止めたのだ。

これと同じ現象が起きたアリサの精神の思いに、『ストーン・フリー』は応えた。

『ストーン・フリー』は目にも留まらぬ速さで腕を振り、その腕から肘の部分を『糸状に分解』する。

そのままバラバラに解けた腕が編み込まれ、次に形作られたのは――糸で作られた『レール』だった。

『ストーン・フリー』の腕から伸ばされた糸のレールは、デビットの躰を貫かんと迫る弾丸の下に添えられる様に伸ばされていく。

今の『ストーン・フリー』の速度なら弾き飛ばす事も可能だが、横に弾けば他の客に被害が及ぶ可能性もあった。

 

だからこそ、アリサはその弾丸を天井へ誘導しようとしたのである。

 

普通の糸であればそんな芸当は不可能。

しかし『ストーン・フリー』の糸はアリサの体を媒介として伸びている。

故に、筋肉の収縮で自分の体の一部として動かすことが可能なのだ。

『ストーン・フリー』の腕から伸ばされた糸が天井へ向かい、まるで作りかけのジェットコースターの様な形に持ち上げられる。

更に糸を編みこんで作られたレールは頑丈で弾丸が突き抜ける事無く、流れる様に軌道を下から掬われた弾丸はそのままデビットの体からコースを外れていく。

 

 

 

――かに、思えた。

 

 

 

(――え?)

 

心中で零れた呆然とした声が自分のモノだとアリサが気付いたのは何時だろうか?

その原因を作った光景が、目の前に広がる――糸のコースを外れて、デビットの頭部へ向かう弾丸という、悪夢の光景が。

何と、アリサが伸ばしたレールに乗ったかに見えた弾丸は、コースを僅かに上へズラしただけで、完全な軌道の変化は出来なかったのである。

ホンの1ミリ単位の誤差が、正確に弾丸を逸らす事が出来ずに、更に最悪のコースへと向かう。

幸いにして、アリサの軌道変化は悪い方向ばかりに傾く事も無く、頭部に当たるか掠めるかという微妙なラインへと弾丸の軌道を変化させていた。

先ほどまでは死亡率100%だったのが、50/50にまで押し上げられたのは幸運とも言えるだろう。

 

しかし、そのどっちつかずの状況というのは、幼く実戦経験も無いアリサには酷に過ぎた。

 

……お願い……外れて……お願いだから……ッ!!!

 

愛する父親に向かう凶弾を、アリサは藁にも縋る気持ちで見届ける。

当たれば地獄、外れれば天国という一度限りのギャンブル。

気の弱い人間ならこの光景をスローで見ているだけで卒倒してしまうであろう。

その光景を加速してしまった思考力の中で目を逸らす事も出来ず、アリサはまざまざと見せ付けられる。

だからこそ、心中で祈らずにはいられなかった。

 

 

 

偶然にも、拒否が許されない悪辣なギャンブルへ乗せられた少女。

 

 

 

幼いながらも、愛する家族を救いたい一心で己を叱責した少女へ、現実は残酷にもその覚悟を手折ろうとする。

 

 

 

……しかし――。

 

 

 

ドォンッ!!

 

 

 

この世には、ギャンブルに対して平等に勝負する事を拒否する人間が居るという事をご存知だろうか?

 

 

 

本来は運だよりのゲームに仕掛けを施す事で勝利を強引に掴み取る行為――イカサマ。

アリサがその言葉を思い知ったのは、正にこの瞬間だった。

突如聞こえた二度目の重たく響く銃声。

しかしそれはまるで他の人には聞こえていないかの様に(・・・・・・・・・・・・・・・・)誰も反応を示さない。

何故、誰も反応しないのだろうか?自分の思考が加速してるから?

現に父親に向かう弾丸がスローで見えているからか、と、アリサは疑問に思う。

 

――皇帝(エンペラー)

 

しかしその考えを、耳に届いたアイツ(・・・)の声が否定する。

 

……あぁ……そっか……ホント……。

 

鼓膜を震わせた『彼』の本当に小さく呟かれた声を認識し、アリサは心の中で愚痴を零す。

まるで、目の前のデビットがどうなるかを予測したかの様に。

更にその銃弾は先ほどの銃弾など比べ物にならない程の速度でデビットへ向かう弾丸と交差し――。

 

――AND――。

 

『サァサァッ!!仕事ノ時間ダゼ~~ッ!!野郎共ォオオオオ~~~ッ!!』

 

『今度ハライフル弾カヨッ!!節操無エナァッ!!』

 

『ビビル事ァ無エッ!!何時モノヨーニ、弾イテ終ワリダロ~ガッ!!』

 

『アァッ!!俺達ノ専門ダモンナ~~ッ!!』

 

『ウエェェ~ンッ!!人使イ荒スギダヨォオ~~ッ!!』

 

『ツカ、俺達ハ人ジャネエ(・・・・・)ッテ~ノッ!!』

 

その弾丸から降りた『六人の小人』達が、デビットに迫る弾丸の前に躍り出る。

NO,1から4を抜かし、NO,7まで頭に数字を持つ彼ら6人(・・・・・)の存在は、迫り来る弾丸より儚く思える程に小さい。

しかし、彼らは凡そこの世界に存在する何者よりも、弾丸の操作に長けた本物の『エキスパート』なのである。

二発目の弾丸が『急に角度を変えて天井に向かう』のと同時に、彼らは目の前の弾丸に対して、全員で足を振り上げ――。

 

――セックス・ピストルズ。

 

『『『『『『イィィーーーーーーーーッハアァーーーーーーッ!!!』』』』』』

 

バギィッ!!!

 

『本体』が自分達の名前を呼んだのに合わせて、デビットの頭を抉ろうと迫る弾丸を真上に蹴り飛ばしてしまった。

本来向かう筈だった角度を外れて、急激に角度を変えた弾丸。

そして二発目の弾丸が天井に着弾して甲高い着弾音を奏でた時、アリサの思考は急激に元へと戻っていった。

 

「うぉッ!?」

 

「ッ!?パパァッ!!」

 

突如目の前で弾けた男の背広、そして出血。

それに驚いて尻もちを付いたデビットの元へ駆け寄るアリサ。

そして、父親が死なずに済んだという事実を触れた手から伝わる体温で感じ取り、アリサは目尻に涙を貯める。

 

「き――きゃぁああああああああああああああああッ!!?」

 

「ッ!?」

 

しかし、この現場を目撃していたのはアリサだけでは無い。

目の前で人が死んだ現場を目撃して絹を裂いた様な悲鳴をあげるすずか。

すずかの隣に立っていたリサリサも口元を抑えて震える。

 

「見るんじゃねえッ!!」

 

「きゃッ!?」

 

「ッ!?ジ、ジョジョ……ッ!?」

 

「狙撃だッ!!頭上げずに伏せてろぉッ!!」

 

だが、二人の視界を遮る様に前に現れた定明に顔を覆う様に抱きつかれ、リサリサとすずかはそのまま床に倒された。

更に畳み掛ける様に出された怒号に反応して、二人は頭を上げない様に定明の下でジッと動きを止める。

その定明達の様子を見て他の観客も状況を理解し、展望フロアはパニックに包まれていく。

更にこの場で初めて会ったコナンや蘭達といった定明の親戚と知り合い達も自分達と同じく、パニックにならず床に伏せている。

この状況ではさすがのアリサも嫉妬するどころでは無く、デビットに抱きついて地面に倒れようとした。

 

「ッ!!駄目だアリサッ!!お前が下になりなさいッ!!」

 

「きゃッ!?パ、パパッ!?大丈夫よッ!!私には――」

 

スタンド能力があるから、と続けようとしたアリサは、真剣な顔をする父の顔を見て言葉を飲み込む。

先程、自分が父を守る為に覚悟した時の様な、言葉に言い表せないオーラが、父に垣間見えたのである。

 

「例えお前が凄い力を持とうと……娘を守るのは親の役目だ……ッ!!断じて、親が娘の命を盾にするなど、してはならん……ッ!!」

 

子供である自分には無い、父親の覚悟。

それを真正面から見せ付けられて、アリサは子供心ながらに敵わないなと思い知らされるのだった。

更に観客へと扮していたSP達が現れて、アリサとデビット、そしてすずか、リサリサ、定明を守る様に前へと陣取った。

SPとしては遅すぎる対応であったが、観客のパニックに飲まれて身動きを取るのに時間がかかってしまったのだろう。

 

「社長ッ!!アリサお嬢様ッ!!こちらへッ!!」

 

「すずかお嬢様とリサリサ様もこちらへッ!!窓から出来るだけ離れて伏せて下さいッ!!」

 

「は、はい……ッ!!」

 

SP達の先導で窓から離れた所で、アリサは空中でハイタッチをしている『セックス・ピストルズ』を見つける。

既に彼らは一仕事やり遂げたといった顔で定明の所へと戻ってきている途中だった。

自分の父親を守ってくれたピストルズに対して、アリサは『ストーン・フリー』を通して感謝の言葉を述べる。

 

《ありがとうね、ピストルズ。パパを守ってくれて……本当にありがとう》

 

『オォウッ!!全ク問題ネェゼーーッ』

 

『アレグライ楽勝ダッテ』

 

『俺的ニハ定明ミテーニ、美味イモンガ食ワセテ貰イテェナァ~。最近定明ノ奴、従姉トアノガキニバレタクネェカラッテ、ナァ~ンニモ食ワセテクレネエシヨォ~』

 

『アッ!!俺モ俺モッ!!』

 

『オイッ!!NO,2トNO,3ダケ抜ケ駆ケスンナヨナァ~ッ!!』

 

『ウエェェ~ンッ!!NO,2トNO,3ダケズルイヨォオ~ッ!!ボクモ美味シイゴ飯食ベタイヨォ~ッ!!トスカーナノサラミガ食ベタイ~~ッ!!』

 

アリサの感謝の言葉に照れるNO,1や冷静に返すNO,7。

そして美味い飯をねだるNO,2とNO,3を窘めるNO,6と、泣きながら自分も欲しいと言うNO,5。

個性的なピストルズの言葉に、アリサはこの緊迫した状況の中で微笑みを浮かべてしまう。

以前に定明達と遊んでる最中に突然現れて自分のサンドイッチを食べて逃げた時は、何て憎たらしい奴等かと思っていた。

しかし今回の事に関して、アリサはお礼を忘れるつもりは無く、彼らに対して返す言葉は決まっていた。

 

《えぇ。後でパパに頼んであげるわ。アンタ達はパパの命を救ってくれたんですもの。絶対にOKしてもらうから、期待してて頂戴♪》

 

『『『『『『オッシャーーーーーッ!!ヤリィーーーーーッ!!』』』』』』

 

『ストーン・フリー』を通して言われた言葉に、ピストルズはまたタッチをし合って喜びを顕にする。

その微笑ましい光景を見て直ぐに、アリサは隣でリサリサ達と一緒に居るであろう定明へと視線を向けるが――。

 

「……やれやれ……イカれ野郎が……折角の楽しい時間を台無しにしやがって」

 

すずか達をSPに任せて、自然な風体で立つ定明は、面倒くさそうに頭をガシガシと掻いていた。

その姿を見て、こんな状況で何と緩いのだろうか?と思うのが普通である。

しかも何故かSPは定明が立っているというのに、すずか達の事ばかりで定明には見向きもしない。

しかしスタンド使いであるアリサには、SP達の背中の一部がページの様に捲れているのを見つけた。

恐らくあれも定明のスタンド能力なのだろうと、考えを打ち切る。

更に定明と触れ合って人となりを知るアリサは今の定明の精神状態をも見抜いていた。

 

それ即ち、今の定明は犯人に対して静かな怒りを抱いている、という事を。

 

その怒りは轟々と激しく燃え上がる赤の炎では無く、青く、静かに燃える炎と言える。

大体の事は面倒臭がって流す定明が、ここまで明確な怒りを抱く姿を、アリサはあの誘拐騒ぎ以外に知らない。

だからこそ、アリサはまた一つ定明の事を知る事が出来たと喜ぶと同時に不安にも思った。

だが、これはアリサが心中で考えている事である。

故に、当の定明はそれを知らずに振り返ってアリサ達と視線を交わす。

 

「ワリィが、記念写真はキャンセルだ……アリサ、すずか、リサリサ。お前等はここに居ろ……デビットさんとSPの人達と居りゃ安全だ。もし何かあったらスタンドの使用も戸惑うなよ?」

 

「……アンタは、どうするのよ?」

 

アリサの不安そうな声と、娘を抱き締めながら定明に視線を向けるデビット。

そしてSPによってアリサ達の側に誘導されたリサリサとすずかも、アリサと同じく不安に顔色を染めている。

定明は自分を見つめる視線に対して一度ため息を吐く。

そして視線を外しながら、少しだけ緩めていたネクタイを更に緩めてボタンを二つ程外すといった動作を取るだけだった。

 

「俺は、出来の悪い脚本書いたトンチキにクレーム叩きつけてくる……こんな三文劇見せられて、テレフォンだけで済ます訳にゃいかねーからな……直接抗議しねーとよぉ」

 

「あッ!?さ、定明君ッ!!」

 

「……ッ……JOJO……」

 

「すずかお嬢様ッ!!無闇に動いてはいけませんッ!!」

 

「リサリサ様も、今少し我慢して下さいッ!!直ぐにエレベーターまでお連れしますのでッ!!」

 

それだけ一方的に告げ、定明はパニックで混み合う下降エレベーターへと向かう。

それを追おうとするリサリサとすずかはSPに留められ、定明を見失ってしまった。

そして最後に、定明は恐らくこの楽しい観光を台無しにした犯人に八つ当たりをしに行くんだろうと、アリサは当たりを付ける。

 

そしてアリサは、心中で犯人に対する怒りが少しだけ落ち着くのを感じ取った。

 

何処の誰かは知らないが、相手は敵に回してはいけない男を敵にしたのだから。

何より、自分達の大事な楽しい夏休みをこんな風にした犯人に同情の余地は無い。

遅かれ早かれ、犯人がこれから遭うであろう災難。

それは、恐らく犯人が考えているどんな事よりも辛い事だと、そう考えるだけでアリサは溜飲を下げる事が出来た。

 

(ざまぁみなさいッ!!アタシ達の楽しい時間を無茶苦茶にしたんだから……本物の、存在事態が反則(・・・・・)なアイツに狙われて、無事で済むと思うんじゃないわよ)

 

 

 

人が必死に攻略していたギャンブルの勝敗(死の運命)をひっくり返しちゃう様な――最低(最高)イカサマ師(チート野郎)に、ね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ギュオォオンッ!!

 

ハカセから貰ったスケボーをMAXスピードで走らせ、俺は5分程前にクソッタレなサプライズを送りつけてくれたジョン・ドゥを捜索していた。

とりあえず狙撃してきた向かいのビルを目指し、其処からヤローを追跡してブチのめす。

ベルツリータワーの地下駐車場を駆け上がり、道路から歩道へとルートを変更。

スマホを片手にマップを開いてビルの場所を頭に叩き込み、スケボーの速度を上げる。

『スタープラチナ』の目で計測したあの時の狙撃距離は、凡そ600m。

そんだけの距離を開けて、風の吹く屋外からの射撃で動くターゲットの心臓を正確にブチ抜く異常な狙撃。

少なくともそんな一級品の腕前が、犯人にはあるって訳だ。

 

「ったく。よりにもよってジョンガリ・Aとかリガトニの劣化版が相手ってか?冗談は夢ん中だけにして欲しいぜ」

 

恐らく狙撃手としてはかなりの腕前だろうが、今挙げた二人みてーにスタンド使いじゃねえだけマシだな。

平穏な生活が俺の過ごしたい日常だってのに、何でそんな軍人並の腕を持ったスナイパーと戦う羽目になるんだか。

まぁ、態々犯人を追っかけて事件に首突っ込んでるのは俺自身の意志なんだけどな。

誰よりも平穏な日常を愛してる俺が自分から鉄火場に向かう理由?んなモン決まってんじゃねえか。

 

――その日常(アイツ等)を壊そうとした仕返しだっつうの。

 

平穏な日常を歩む為にとても大事な事。

それは勿論、危険な事には首を突っ込まず、亀の様に大人しく引っ込んでいる事だろう。

だが、この城戸定明の辞書には後二つ、とても大事な平穏の鉄則ってモンがある。

 

――火の粉を飛ばされたなら、ナパームにして返してやる事。

 

そして、二度と馬鹿な真似ができねえ様に、絶望の淵にブチこんでやる――って事だ。

 

そうやって俺の日常に侵食してくる危険な芽を焼き払っちまって、農薬を撒けばそれでお仕舞い。

二度と同じ理由で、俺の熟睡と日常を穢される事も無くなる。

要は、徹底的に叩き潰して元の原型が無くなるくらいに再起不能にさせる事だな。

心の中に浮かんだ自分の鉄則に従い、俺はスケボーを走らせて狙撃地点へと向かう。

俺より先にコナンが出て行ったし、恐らくコナンも犯人を追跡しているんだろうが……俺は俺のやり方で、犯人を追い詰めてやる。

 

『うわッ!?』

 

『何だ何だッ!?』

 

歩道から裏道を入って商店街を通り抜けて歩行者を避けながら、噴水の側の広間を抜けて道路と歩道の柵をしっかりと見つめる。

柵の近くに歩行者は無し。通行車両は多いが……いけるか……ッ!?

 

『ケケケッ♪オイ定明ッ、看板ガアルゼェ……看板ダカンナッ!!』

 

「ッ!?……今日の俺は、心底ツいてねぇと思ってんのに……まさか二日連続でお前が出て来るとはなぁ?」

 

『ケッヘヘヘ……ダカラコソ、”励マシテヤッテンダロ~?”ソノ為ノ”俺”ジャネーカァ♪』

 

突如肩越しに背後から聞こえた”あの声”による誘導。

そいつのアドバイスに従って柵の辺りを見回し、件の看板を発見。

歩行者向きに立てかけられた『置き引き注意!!』の看板を見つめながら、ニヤリと口元を歪める。

それは、俺の肩に乗っかる口やかましい『スタンド』も同じだった。

 

『マダオメェサンニハ、今日ノツキ(・・)ガ残ッテルゼェ?ソレヲ今コノ時ニ信ジネエデ、ドウスンダヨォ……俺ガッ、全テカラ守ッテヤルカラヨォ――信ジテ行ッチマエッ!!』

 

「…………そうだな……なら――今は俺の”ツキ”と、励ましてくれる”お前”を信じてやるさ……ッ!!そうだろッ!?――『ヘイ・ヤー』ッ!!!」

 

『YO!YO!YOOOOOO!!!行ケエェェ――――――ッ!!オ前サンニハ、幸運ノ女神ガツイテルッ!!!』

 

 

【挿絵表示】

 

 

俺の肩に乗りながら看板を指差して叫ぶ『ヘイ・ヤー』。

ここぞという勝負時に俺に助言を与え、励ましてくれるイカしたスタンドだ。

『ヘイ・ヤー』の言葉にありったけの自信を貰った俺は、臆する事無くスケボーでジャンプして、看板へと突っ込む。

 

フワァッ。

 

すると、俺が看板に衝突する寸前、突如背後から吹いた風が、看板を固定していた足元の錆びた番線を”偶然にも引っぺがして”しまった。

そのまま看板は未だに固定されている中央を支点としてグラリと道路側に傾き――。

 

ガシャンッ!!

 

「ぉ……ッ!!気分が良いぜ……ッ!!空を飛ぶってのはよぉ……ッ!!」

 

俺がぶつかる頃には、看板は即席のジャンプ台に早変わりしていた。

ギャルギャルという音を鳴らしてスチールの看板を踏み荒らす。

更に背後から突風を受けて、阿笠ハカセ作のスケボーは俺を乗せたままに空中へと飛び上がり、道路を軽く横断する。

反動で少し体勢を崩しながらもジャンプした看板を見れば、看板は今度は反対から仰がれた風で元に戻っていた。

空を飛ぶ感覚にテンションが上がってきた俺は、肩越しに俺を見る『ヘイ・ヤー』に視線を送りながらほくそ笑む。

 

「こんな偶然はそうねぇよなぁ?って事はお前の言う通り、まだ俺にはツキが残ってんのはマジって事だ……ッ!!えぇッ!?希望とヤル気がムンムンわいてくるじゃねーか、オイッ!!」

 

『ソウダゼ定明ッ!!YO!YO!ッテ言エッ!YO!ッテよォーッ!!』

 

ははッ!!そりゃ良いやッ!!

あのラッキーガイ、ポコロコの様にぃ――。

 

「YO!YO!YOオォォーーーッ!!」

 

スケボーに跨がりながらラッパーの様な掛け声を出す、空を飛ぶ制服の様な奇妙なファッションに身を包む小学生。

そんな俺に地上から向けられる好奇の視線を一身に浴びつつ、俺は着地地点の橋の手すりを掠らせて、下にある隅田川の側道へとコースを変更。

上で『子供が落ちたぞッ!?』という悲鳴を聴きながら、狙撃地点のビル目指して爆走していく。

ったく、ここぞって時はツイてんのに、こと日常に関しちゃ、俺はツいてねぇぜ……だが、今回ばかりは頭にきたぞ。

普段の俺なら、自分に被害が来ない限りは放置している……だが、今回はどうしても許せなかった。

楽しみにしていた観光を台無しにされた事もそうだが……もっと許せねえのは、デビットさんを巻き込もうとした事だ。

あの時、『スタープラチナ』で犯人の目標を瞬時に逆算して気づかなきゃ……すかさずバックハンドで皇帝(エンペラー)を撃たなきゃ……デビットさんは死んでいただろう。

 

……他ならぬ、アリサの目の前で、それも巻き添えという最も巫山戯た形で。

 

あの時のアリサの成長には目を疑ったぜ……ああいう精神の爆発が、スタンドを操る上では最も重要になる。

幸か不幸かその場面に出会っちまったアリサは、本人の意識しねぇ所で成長の機会を得たって訳だ。

本当なら、そんな機会は永遠に存在しなくて良いっつうのに……よくもまぁやってくれたもんだな。

まぁ、結果的にアリサが精神的に強くなれた事”だけ”には、感謝するさ……。

今回の事が、これからアリサを襲うかもしれねえ危険に遭った時に活かされるかもしれねえんだからよ。

 

 

 

――だが、アイツ等の目の前で人を殺したのは、アウトだ。

 

 

 

あんな優しい奴等に、血を見せて……俺達の夏休みを、台無しにしたんだからな。

 

 

 

「勝手に招待しておいて、胸糞悪い三流劇見せやがって……キッチリ、盗られた入場料は返してもらうぜ……」

 

 

 

ついでにクレームも叩き付けてやるよ……もう二度と、こんな糞つまらねぇ劇を企画出来ねえ様に念入りに、な?

 

 

 

腹の底から沸き上がる、俺達の夏休みにとんだケチをつけたマヌケ野郎を叩きのめすという気持ち。

その溢れる思いを吐き出す様にアクセルを最大まで踏み込み、俺はスケボーを更に加速させる。

 

 

 

精々今を楽しんでおきな、犯人さんよ――”ツケ”は、必ず払ってもらうぜ?

 

 

 

to be continued……




今回の定明の服装は、挿絵を下さったガルウイング様の絵とリンクしておりますww

なるべく文章でも分かる様に書きましたが……伝わっている事を祈ります。

そして映画クロス第一弾ッ!!


選んだのは異次元の狙撃手、でしたww


映画となると一時間半……途轍もない分量が予想されます(小並感)

だってこんだけ書いてオープニング挟んでまだ少ししか進んでないし(´Д⊂グスン

コナン達も活躍させないといけないので、その展開運びも苦労するのは目に見えてる。

何より定明が本気出すと速攻で犯人タイーホだから。

余計にね、もう……もう、なんなんッ!?(自業自得)

チート野郎は動かしづらいぜぇ……。

という訳で、投稿遅くても堪忍してくだちゃいww



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貴方の体の中には、紛れも無い城戸の意志が(ry

む、難しいなぁ……。

特に主人公の心情と信条が、自分とごっちゃにならない様に気を使うのが大変(;・∀・)

それと主人公に対する原作キャラのオリ主マンセー化にならない様に考えるのもorz

今回は後半結構しつこいかもしれません。

これで面白くなかったらと考えると怖くて怖くてww

なので一昨日には仕上がってたのに怖くて投稿出来なかったという裏話ww



それと今回試しにスタンドの名前の『』を外してみました。

前みたいに『』があった方が良いかも感想頂ければ嬉しいです。





「っし。このビルだな」

 

5分もしない内にビルへと到達し、俺はスケボーを止めて担ぐ。

スナイパーライフルを持って逃げる準備をしていたから、多分まだこの近くの筈だ。

そのまま人通りの少ないビルの裏手側に回りこみ、調査を開始する。

 

「ムーディ・ブルースのリプレイで追うには、”奴ら”が居た場所と時間が必須か」

 

犯人が複数系なのは、スタープラチナの超・視力のお陰で判明している。

但し、二人共ミリタリージャケットと目出し帽を被ってたから人相までは判らねえが、一人は身長は190ちょっとで細身。

もう一人は身長185前後で体格は筋肉質、いかにも軍人らしい体つきをしてるってぐらいか。

だが、これでは奴等が何処を通ったかの確証には成り得ない。

 

「なら、”地面に聞くとすっか”――アンダーワールドッ!!」

 

ザクゥッ!!

 

浅黒い肌に軽装の衣装を纏い、目にパイプの様な管が接続されたスタンド。

DIOの息子の一人であるヴェルザスのアンダーワールドだ。

こいつは地面が記憶している過去の出来事を、地面から掘り起こして再現できる能力を持ってる。

本来は フロリダ州オーランド付近でしか使えねえが、俺の場合はその制限が無い。

こういう所で改良されてるのは、俺的に凄え有難い事だ。

ちなみに言うとアンダーワールドも自我のあるスタンドなんだが、今は関係無いので割合。

やがて、アンダーワールドが掘り返した地面の中に立体的な過去の出来事が映し出される。

目出し帽を被った犯人の一人がオフロードバイクに乗り込んで何処かへと走り去っていく。

背中に背負われてる大きなバッグは、間違い無くライフルが入ってるだろう。

もう一人の犯人も同じ様なバイクに乗り込んで反対方向へと走り抜けていった。

ったく、二手に別れるとか面倒くせー事してんじゃねーっつーの。

 

「さて、どっちの方を追っかけるか……ん?……クンクン……この臭いは?」

 

と、別れた犯人のどちらを追跡するか考えた所で、ハイウェイ・スターの能力で強化された嗅覚が”ある臭い”を嗅ぎ取った。

あまり嗅ぎ慣れない臭いだが、こんな感じの臭いを極最近嗅いだ様な……。

 

「確か、夏休み入って直ぐ……伯父さんの家に行く前だった様な……クンクン、クンクン……そうだ……火薬か」

 

夏休みに入ってから遊んだ学校の友達が、スリングショットで撃って遊んでいた火薬玉と良く似た臭い。

こんな道路やビルの密集した街中で嗅ぐ事は無い臭いの筈だ。

しかも、この火薬の臭いは前に嗅いだ火薬玉なんかより何倍も濃い。

……成る程~?つまりこの火薬の臭いってのは――。

 

「さっきド派手に失礼をブチカマした奴が漂わせてる臭いって訳だ……ッ!!」

 

俺はその場での調査を中断して、車の通りが激しい大通りに出る。

まだ、臭いはそう遠くには離れてない筈――。

 

「おっと……ッ!?グレート、さすが名探偵。もう来ていたとはな」

 

しかし直ぐに大通りから路地裏へと体を隠し、俺は300メートル程先を走るバイクをスケボーで追うコナンの姿を注視した。

さすがにこの場に居る所を見られたら身動きが取り辛くなっちまう。

その様子をスタープラチナの拡大視力で見ると、コナンは探偵バッジを取り出して何か怒鳴っている。

探偵バッジって事は、少年探偵団の誰か……恐らく灰原に何かを話そうとしてるみてえだな。

――なら、そのお話を少し聞かせて貰うとしますか。

俺はスタープラチナを解除して、自分のスマホにレッド・ホット・チリ・ペッパーを送り込む。

其処から街を走る電波をジャックし、コナンの持つ探偵バッジの周波数とスマホをリンクさせる。

 

『ジ、ジジッ…………ばらっ……灰原ッ!!返事しろ灰原ッ!!』

 

『……なにッ!?雑音が酷いけど、何処に居るのッ!?』

 

『犯人らしきバイクを追ってるッ!!』

 

お、来た来た。

チリペッパーを使ってハッキングした探偵バッジの会話を盗み聞きながら、Bluetooth機能を使用。

耳に小型のイヤホンマイクを嵌めて、情報を逃すまいと二人の会話に集中した。

コナンは今はハカセを通して警察に犯人のバイクのナンバーと行き先を伝えている。

 

『ナンバーは、新宿、せ、33ー17ッ!!三ツ目通りを北上して……いや、左折したッ!!クソぉ、逃がすかッ!!』

 

おいおい、随分と熱くなってるみてぇだが、大丈夫かよ?コナンの奴。

コナンのスケボーも相当なスピードが出る筈だが、どうやらかなり離れた位置に居るみたいで、追いつくのに躍起になってるっぽい。

 

『どうしたのッ!?江戸川君、大丈夫ッ!?』

 

『あぁッ。今、言問橋で隅田川を渡っ――』

 

ジ、ジジッ!!

 

「あら?……ちっ……どうやら、探偵バッジの通信範囲外に出ちまったみてーだな」

 

コナンの途切れ途切れな情報を最後に通話は切れ、残ったのは砂嵐だけだった。

だが、奴の向かった大体のルートは分かったな。

この情報を元に、更に追跡してやる。

俺はレッド・ホット・チリ・ペッパーをスマホの中に待機させたまま、別のスタンドを喚び出す。

その意志に応じて俺の右手から『イバラ状のスタンド』が生えだした。

 

「久ぶりに”やる”けど、上手くいってくれよ……隠者の紫(ハーミット・パープル)ッ!!」

 

俺は右手に現れたスタンド、隠者の紫(ハーミット・パープル)を纏った手を地面に触れさせ、能力を発動させる。

 

バシバシバシッ!!

 

能力の発動を現すイバラを伝う電流の様なエネルギーが、道の砂埃を掻き集めて『地図』を形成。

更に俺が追う犯人を示す小石が、その地図上を走って行く。

これが隠者の紫(ハーミット・パープル)のスタンド能力、念写だ。

文字通り、遠く離れた場所にいる対象をカメラ等に映し出す能力で、DIOとの体の繋がりが無い俺にはDIOだけしか写せない、なんて事は無い。

更にスタンドの訓練も日々熟してきたお陰で、ジョセフ・ジョースターと同じ様にテレビや砂に念写をする事が可能になった。

 

「このルートで行くと……今度は江戸通りを南下中、か……警察はどうしてるかね……ちょっとお邪魔しますぜっと」

 

隠者の紫(ハーミット・パープル)を展開したまま、今度はスマホの中のチリ・ペッパーを動かして、警察無線を傍受。

バレなけりゃあ犯罪じゃ無いし、凶悪犯を追い詰める為に已む無し、ってな。

 

『こちらパトロールッ!!現在通報のあったバイクを追跡中ッ!!江戸通りを南下して……なッ!?被疑者、発砲ッ!!こ、こちらに向かって撃ってきますッ!!』

 

どうやら犯人はサツが相手だろーとお構い無しみたいだ。

傍受した警察無線に耳を澄ませると、確かにパンパンと軽い発砲音が聞こえてくる。

バイクを運転しながらとなると、サブマシンガンかハンドガンの類になる筈。

多分だが、音の間隔からしてハンドガンっぽいな。

 

『こちらパトロール3号車ッ!!1号車に合流ッ!!追跡しますッ!!』

 

『5号車も被疑者を発見ッ!!追跡に入りますッ!!』

 

お?プラス2台も追っかけが増えたのか?

……なら、こっちも念写の数を増やすとしよう。

耳に聞こえてくる情報を纏めながら、犯人以外に追跡している集団を小石でマップ上に念写する。

すると、犯人の背後を走る小石の数が一気に”5個”増えた。

 

「ん?5個?……計算が合わねえぞ……一つはコナンとして……もう一つは誰だ?」

 

追跡している小石の配列は、3個が犯人の直ぐ後ろを走り、残りの2個が離れた位置を走る形だ。

更に言えば、残りの2個はピッタリと寄り添う形で走っている。

これは恐らく同じ車両に乗っているって事なんだろうが……コナンはスケボーで追っかけた筈だが。

 

「ふーむ……考えても仕方ねぇか……お?」

 

と、残りの2個の謎を置いておいて地図を見ると、犯人のバイクが今度は吾妻橋を渡ってこっちの岸に戻ろうとしているではないか。

多分、警察の追跡を振り切る為なんだろうが、これは好都合だな。

俺が今居るのが隅田公園の近く……なら、道を選ばなきゃ、俺の方が早く追い着ける筈だ。

そう判断して俺は隠者の紫(ハーミット・パープル)を解除して、スケボーで走り出す。

ついでにもう一人の犯人の方も警察に連絡しようと思ったが、あの距離で犯人が複数だって気づけたのは、あの場では多分俺だけだろう。

なら取り合ってもらえなさそうだし、今はとりあえず後回しだ。

更にBluetooth機能をオン、耳にマイク一体型の小型イヤホンを嵌めて警察無線を聞きながら走行する。

これで新しい情報があれば、直ぐに聞く事が出来るって寸法よ。

 

そうして暫くたいした情報も無いまま走り続けていくと、警察無線が新たな情報を流し始めた。

 

どうやら俺の方が早く動けるという予想は当たったらしく、俺は何時の間にか犯人より2ブロック先を走っていたらしい。

……よーしっ……なら先に”狩り場”を整えて、獲物を待つとしますかね。

さすがに犯人をブチのめしたいとは言っても、コナン達の前で下手な事をやらかす訳にはいかねえ。

なら話は簡単。俺だと認識出来ない位置から犯人にお灸を据えてやりゃ良いだけのこった。

 

『こちら5号車ッ!!現在、被疑者は横綱二丁目を石原一丁目へ向けて直進中ッ!!』

 

『6号車、了解ッ!!こちらも現在、石原二丁目からそちらへ向かっているッ!!一丁目の交差点で合流可能ッ!!』

 

『7号車も横綱公園前を通過ッ!!同じく一丁目の交差点へ向かうッ!!』

 

そうこうしていたら、警察無線から応援と包囲の話が流れてきた。

これはかなり重要な話だと思い、俺はスケボーから降りてスマホのマップを起動させる。

 

「えっと、俺の現在地は……石原一丁目。つまり犯人はここに向かってて、警察も包囲しに向かってる訳だ」

 

自分の目で周囲を見渡し、更にマップと比べて今の情報を整理。

今現在、犯人の通れる道は3方向が塞がれ、このままなら倉前橋を渡るルートしか残らなくなる。

という事は、恐らく倉前橋の真ん中で犯人を挟み打ちにする算段だろう。

銃を持ってる相手なら、それが一番リスクが少ない筈だ。

 

 

 

――なら、俺の狩場は決まったな。

 

 

 

俺は自分の使えるスタンド能力を思い出しながら、この場で使うのに相応しいスタンドを取捨選択する。

そして、俺の姿が見られない様に、且つ銃を持った相手に対する安全距離を考慮した”場所選び”。

 

「……あそこだな……あそこが一番良い」

 

犯人が誘導される事になる逃走ルートは、恐らく倉前橋になる筈。

その倉前橋通りの直ぐ傍にあったビルを見つけて、俺はそのビルへと向かう。

正面入口から入りたいトコだが、そうするとビルの従業員やカメラに見つかるかもしれないので――。

 

「っこいしょっと(ズバァ)……お邪魔するぜ」

 

スティッキィ・フィンガーズのジッパーで裏側から侵入。

そのままカメラの目を切り抜けて屋上へ繋がる階段へと向かう。

警察無線の無断傍受に住居不法侵入……バレたら注意どころじゃすまねえな。

自分がしてきた事の半分以上が犯罪という事に苦笑しながら、俺は屋上手前の階段の踊り場で止まる。

 

「さて、と。ここから封鎖しとかねーと他の人が来ちまうし、さっさと済ませねえとな……カーペンターズ」

 

俺の呼びかけに応じて現れたスタンドは、これまた異様なシルエットをしている。

バケツの様な頭に横長の目の様な部分を開けた様な顔つき。

更に体は金属の様な骨格で作られていて、カッターの様な刃先を持つ尻尾の付いた亜人型のスタンド。

名をカーペンターズ。

なんと”原作は愚か小説にも登場した事の無いスタンド”である。

 

「まさかコイツまで使えるとは思って無かったが、正に嬉しい誤算ってヤツだな」

 

俺の傍で不動の体勢を維持したまま佇むカーペンターズに視線を送りながら、俺はそうぼやく。

こいつはとあるネット上で作られたフリーゲーム、ジョジョの奇妙な冒険”7人目のスタンド使い”という作品にのみ登場するオリジナルスタンドの一体だ。

能力は実に面白く、手の鉤爪や尾のカッター等で物体や生物を解体・改造する事が可能。

解りやすく言うなら、鉄くずを医療機器や弾丸に変える事や、人間の腕にドリルを付けたりとやりたい放題である。

但し集中力と根気が必要なので、最初の頃は良く失敗したのは良い思い出。

今は殆ど愛用品となってる鉄球のベルトですら、改造しようとしたら良く分からんオブジェになっちまったので仕立て屋にお願いしたぐらいだ。

まぁ、あれから更にスタンドの制御訓練をこなしたお蔭で、今なら問題無く造れるんだけど。

おっと、それよりもサクッと準備を整えねぇとな。

昔を懐かしんでいた思考を打ち切り、俺は『カーペンターズ』を従えて壁に備え付けられた消火栓の前に立つ。

 

「ちょっとこの”消火栓の扉”、借りますよー」

 

俺がそう呟くと、カーペンターズは手の六本の鉤爪を高速回転させ、尾のカッターを振り回して消火栓の扉に突き刺す。

そして、ドガガッ!!チュインチュインッ!!という音が鳴ったかと思えば、次の瞬間にはカーペンターズの手には『立入禁止』の看板が握られていた。

そう。たった今俺がカーペンターズに命じて作らせたのである。

 

「良し。見た目もバッチリ。後は、コイツとコイツを頼むぜ。カーペンターズ」

 

渡された看板の感触と出来を確かめてから、俺はエニグマの紙から”あるモノ”を2つ取り出してカーペンターズの目の前に出す。

するとカーペンターズはその差し出されたモノを無言で改造しに掛かった。

その改造が終わる前に、階段の踊場にさっきの立入禁止の看板を置いておく。

ん~、まぁコレで大丈夫だろ。

即席で作ったバリケードの出来に頷きながら、再び振り返る。

 

『……』

 

「お?出来たか……うん、相変わらず良い仕事だ、カーペンターズ。もう良いぞ」

 

そして、振り返った所で俺に改造したブツを差し出していたカーペンターズからブツを受け取り、俺は能力を解除。

1つは肩に担ぎ、もう一つはポケットに納める。

仕事を終えたカーペンターズが姿を消していく横を抜け、俺は屋上へと上がっていく。

入り口をジッパーで開いて不法侵入した俺は、全貌を見渡せる蔵前橋を眼前にほくそ笑んだ。

ここなら、逆光で向こうから俺の姿を見る事は出来ねえ。

犯人をブチのめす事は大事だが、俺の姿が見られねえ様に配慮する事も同じくらい大事だ。

何せ”コレ”を持ってるだけで、『銃刀法違反』で捕まっちまうからなぁ。

いや、その前に俺みたいな子供がこんなモンどっから持ってきたって話になっちまうか。

 

肩に担いだジョンガリ・Aのライフルのコピー品の手触りを確かめながら、俺は屋上の角へ寝そべる。

 

ライフルのストックは、俺の身長と手の長さに合わせて改良済み。

サイレンサーも付いてるから銃声を聞かれる心配も皆無……バッチリだな。

いざって時の事を考えて、初めてアリサ達と出会った誘拐事件の犯人達のベレッタを奪っておいて良かったぜ。

それを土台にカーペンターズで改造した元ベレッタ+鉄パイプの混合ライフルを握りしめて、俺は蔵前橋を鋭く睨む。

 

「……筋肉は信用出来ない……皮膚が風に晒される時、筋肉はストレスを感じ微妙な伸縮を繰り返す。それは肉体ではコントロール出来ない動きだ、だっけ?」

 

ライフルとしては軽く取り回しのし易い重さのソレを確かめながら、俺はジョンガリ・Aに倣ってライフルを構える。

ったく、地面に寝そべったら汚れちまうじゃねえか。それもこれも犯人の所為だぜ。

 

「ライフルは骨で支える。骨は地面の確かさを感じ、銃は地面と一体化する。それは信用出来る固定、だ」

 

ジョンガリ・Aの言葉を反復しながら、同じ様に構えてボルトアクションのコッキングをスライド。

薬莢を薬室に送り込み、蔵前橋を睨む。

……成る程、ね……確かに骨で支えりゃ、ズレは無い……こりゃ確かに、信用できる『固定』だな。

スゥ、と息を大きく吸い込んで吐く。

一度リラックスする為の呼吸を終えた俺は、体のリズムを一気に変える。

俺の身体能力を引き上げる神秘の呼吸、波紋のリズムへと。

 

「コオォォォ………………っし」

 

全身を循環する血液。

その中に含まれた波紋のエネルギーにより、俺の身体能力は普通の人間を凌駕する。

これで、俺の体はライフルの射撃に耐えられる。

あいにく専門的な事は全くと言って良い程に分かんねえけど、俺にはスタンドがあるからな。

天から貰ったその能力を使って、俺の足りない所は補う。

そうやって、俺は俺自身の平穏を打ち砕こうとする奴に”立ち向かってやる”。

 

『国道6を左折ッ!!予定通り蔵前橋に入ったッ!!両側から挟み込むッ!!』

 

『了解ッ!!こちら封鎖完了ッ!!』

 

と、そうこうしてる間にチリ・ペッパーの傍受していた警察無線から”獲物の追い込み完了”の報が届く。

そして、狙撃銃の癖にスコープの無いライフルのドットサイト越しに見た蔵前橋では、無線の言葉通りに追い込みが完了していた。

俺はそれを確かめてから片目を瞑り、精神を集中させ、スタンドを喚び出す。

 

 

 

「……――出やがれ」

 

 

 

――マンハッタン・トランスファー。

 

 

 

眼前に広がる蔵前橋の上。

その上をパトカーに追われながらも真っ直ぐに前進する犯人のバイク。

 

 

 

さぁ――狩りの始まりってヤツだぜ。

 

 

 

骨で固定したライフルのストックを抱え込みながら、走り抜けるバイクに照準を合わせる。

 

――目標との距離――1,2km、風速は3,2mの微風。

 

この距離では犯人の表情を見る事は叶わない。

しかし、あの迷いのない前進……真っ直ぐに獲物に突進して殺す事しか目的としない猪みてーだ。

ありゃ間違い無く、何か犯人には秘策があるんだろう。

ビッチリと隙間無くパトカーで埋め尽くされた道路をこじ開ける、隠し玉が。

まぁ映画とかだとこーゆー場合はお決まりで爆発物だよ、なぁ。

 

だがよぉ……んーなモン使わせて堪るかよ。

 

スタンドを発現した事で、俺の閉じた瞼の裏に流れ込む、『気流』の情報。

まるで映像化しているかの様な動きで瞼の裏を漂う犯人の形をした雲。

その動きを感覚で理解して――。

 

「とりあえず、アリサの代わりに俺が言わせてもらうか――宣戦布告だぜ」

 

名前も知らねえジョン・ドゥさんよ?

犯人を。いや人間を傷つける事への覚悟を固め、俺は躊躇う事も無く――引き金を引いた。

バスンッ!!という軽い音と共に吐き出されるスナイパープレミアム弾が描く軌跡。

俺の銃撃は、ズブのド素人である筈なのに、ターゲットまでの風速や気流を”スタンドの能力で理解”したお陰で真っ直ぐ蔵前橋へと飛んで行く。

更に、弾丸は俺の構えたライフルの射線上をフワフワと漂うスタンド、マンハッタン・トランスファーへ吸い込まれ――。

 

手榴弾のピンを引き抜こうとしていた犯人の”人指し指のみ”を、弾丸が正確に抉り取った。

 

指が無くなった激痛に操縦を誤り、手榴弾を取り落として動きが一瞬で怪しくなる犯人を乗せたバイク。

その光景を見ながら、俺はライフル越しにフンと鼻を鳴らして呟く。

 

「キスでもしてんだな……スピードがついてる分『道路さん』に、熱烈なヤツをよぉ~……」

 

俺の言葉を再現する形で、犯人は公衆の面前で道路に派手で情熱に溢れたベーゼをカマした。

派手に転倒した犯人とバイクの”気流の動き”を読みつつ、俺はコッキングレバーをスライドさせて使用済みの弾丸を排莢する。

これがマンハッタン・トランスファーの能力、シンプルに言えばライフルの弾丸を中継させる能力だ。

本体の放った弾丸を中継し、標的に反射させて撃ち込む狙撃衛星型のスタンド。

スタンド自体はまったくなにもしたりしないで、フワフワとライフルの軌道上に浮いているだけ。

要はセックス・ピストルズとはまた一風違った弾丸操作能力って訳だ。

そして、俺自身に気流を読む事は出来ない。

ジョンガリ・Aの様に培ってきた経験と技術と空気の動きを感知することで標的を正確に打ち抜くなんて芸当は無理だ。

しかし、それが可能になってる事から分かると思うが、これは俺が『全スタンド能力』を得ているお陰と言えるだろう。

マンハッタン・トランスファーは常に自身にかかる気流を読み取る事が出来る。

その敏感に察知した気流の動きに合わせて回避を行うから、回避能力に掛けて言えばかなりのもんだ。

 

 

 

ならば――ジョースター卿の言葉通り、逆に考えれば良い(・・・・・・・・)

 

 

 

ゴロゴロゴロ……。

 

『――』

 

「ウェザーリポート……天候を操り、知る能力……コイツが無きゃ、マンハッタン・トランスファーは使えなかったな」

 

俺はライフルを構えた体勢のまま、チリ・ペッパーと入れ替わりで呼び出した柔らかそーなスタンドの存在を感じながら呟く。

雲の様な見た目のスタンド、ウェザーリポートが感じる今の天気、風速、気流の流れを本能で理解しつつ、俺は目標までの全ての流れを読む。

 

そう、本体である俺自身がマンハッタン・トランスファーの感知している気流の流れを読める様になれるんじゃないかって思った訳だよ。

 

俺が今、風速を読んでいるのも、風向きを読んでいるのも、マンハッタン・トランスファーが感知した気流の流れをウェザーリポートで読んでるに過ぎない。

マンハッタン・トランスファーから俺までの気流と距離をウェザーリポートで逆算する形で読めば、目標との射程距離を測る事すら出来る。

ウェザーリポートは天候を自由に操る能力であり、天候を操るとはつまり、今の気象情報を知ってそれを塗り替える事が可能って訳だ。

俺は犯人の動きを止めた事を認識して、軽く一息つく。

 

「ふぅ……ん?……あれは、世良さんか?」

 

と、犯人を追いかけていた警察の後ろから追いすがった一台の青いオフロードバイク。

ヘルメットをしていて顔は分かり辛いが、後ろにコナンが乗っている。

事件の犯人を追いかけるコナンを乗せて一緒に走る様な、根性の座った女……そりゃ、同じ探偵の世良さんしか思い浮かばねえ。

それに確か俺を追い掛けていた時に、バイクなら直ぐ追い着くのにって言っていたから、バイクを持ってたかもしれない。

そんな予測を立てつつも油断無くライフルを構えていたら案の定。

ズッこけた犯人がパトカーから降りようとしていたポリ公に向かって、無事な方の手でハンドガンを構えようとしていた。

 

「おーじょーぎわのワリー事……」

 

バスンッ!!

 

「してんじゃねーよ(ジャキンッ!!)っと」

 

バスンッ!!

 

勿論、そんな動きを俺が見逃す筈も無く、ハンドガンの側面に当てて、犯人の手から弾き飛ばす。

更に空中に飛んだハンドガンに対して、リロード後直ぐもう一発撃ち込み――。

 

ガキィインッ!!

 

ハンドガンのトリガーのみを圧し折って使用不可能にしてやった。

そうとも知らずに道路に落ちた銃を拾いに行った犯人。

だが、その銃は既に引き金が引けねえ代物。

今この場……戦場では全く役に立たないと知り、苛つきを表現する様に地面へと投げつける。

そして、俺を、つまり狙撃手を探す様に辺りを見渡し、俺が居る方角のビル群へと視線を向ける犯人。

しかし残念無念。ここは今思いっ切り太陽が差してるから、テメェーの方からじゃどのビルか見分けるなんて不可能なんだよ。

勿論、俺の姿を確認しようとしてるポリ公も世良さんも……何やら眼鏡の機能を作動させてコッチを見ようとしてるコナンも含めて、なぁ。

 

「まっ、お陰で俺は直射日光で日光浴っつぅ、たまんねぇ思いしてる訳だが……残念なのはそこじゃねぇ」

 

俺は額を流れる汗も拭わず、再び弾倉から弾を薬室へ篭める。

そしてそのまま、こっちを見ようと無駄な努力を続ける犯人の側に漂うマンハッタン・トランスファーに狙いを定めて――。

 

 

 

「俺が心底残念なのは――テメェの青ちょびた面を(スタンド無し)で見れねえ事だよ、スカタン」

 

 

 

今度はまたもや取り出した別のハンドガンを、犯人の手の甲ごと撃ちぬいてやった。

さすがに痛烈な痛みを感じたらしく、犯人は手を抑えて蹲る。

その様子を気流で再現された映像で見ていると、やっとこさポリ公達が拳銃片手に犯人へと近づいていき始めた。

まぁ、半分くらいはこっちのビルに銃を向けながら無線で何か話してるトコを見ると、直ぐにこっちにも人が来そうだな。

さすがに俺の存在がバレちゃ敵わないので、俺は撤収する為にスタンドを解除――。

 

ドッゴォオオオオオンッ!!

 

「……は?」

 

した所で、橋の上から鳴り響く盛大な爆発音を聞いて呆けた声を出してしまう。

突如轟音が鳴り響いた蔵前橋。一体何が爆発した音なのか?

 

――それは、犯人の行く手を阻んでいた、警察のパトカーだった。

 

おいおい、気流はウェザーリポートで正確に読んでいたし、爆弾を取り出す暇なんて無かった筈だぞ。

ましてや犯人はさっきから手を握りしめていて、とても爆弾を投げられる状態じゃ無い。

って事は……今のはもう一人の犯人かッ!!仲間がヤベエと知って助けにきたって訳だッ!!

状況を把握した俺は直ぐにマンハッタン・トランスファーとウェザーリポートを再度喚び出す。

そしてそのまま気流を読んで、橋の被害を確認し始める。

だが幸いにして犯人確保の為に警官の殆どがパトカーから離れていたお陰で、誰も死んじゃいない様だ。

 

「ちっ。爆発で気流が滅茶苦茶に乱れてやがる……だが、蔵前の方にはそれらしい奴は居無さそうだな」

 

気流で人の動きを読むが、蔵前側には殆ど人が居ないし、アンダーワールドで確認した体格の奴も居ない。

とすれば、もっと別の所から爆弾が投げ込まれたって事で……それは――。

 

ギュオオオオッ!!

 

「橋の下を走る隅田川っきゃ無えよなぁ」

 

残ったルートを予測しながらそちらにライフルの照準を合わせれば見事にビンゴ。

隅田川を走る水上バスを躱しながら、小型ボートが一隻猛スピードで蔵前橋へと向かってきていた。

どうやらボートから爆発物を投げたらしい。

 

『――!!』

 

『ッ!?――!!』

 

そして、ボートの仲間が手を振りながら橋の上の犯人に何かを伝える。

すると、橋の上の犯人は橋を乗り越えて川へ飛び込もうとしていやがった。

警官達はパトカーが爆破されたから、反応が遅れている。

おいおい、そう簡単に逃がして堪るかって――。

 

ドゴォッ!!

 

「……OH MY GOD」

 

と、橋から川へ飛び込もうとした犯人の足辺りを撃とうとしたら、コナンの腹辺りから突然現れたサッカーボールが犯人を川に突き落としてしまう。

その所為で、犯人はマンハッタン・トランスファーの狙撃位置からズレてしまった。

しかも、その犯人は運良く……いや、俺達からしたら運悪く仲間のボートの上に落ちてしまったんだ。

コナンの奴、今頃「しまったッ!?」とか思ってんだろーな。しまった、じゃねーよ。

 

「S・H・I・T、駄目か……マンハッタン・トランスファーの動きじゃ、船の速度に追いつけねえ」

 

当然、犯人達がその幸運を見逃す筈も無く、奴等はボートを加速させてこの場から離脱しようとする。

それを狙撃しようにも、マンハッタン・トランスファーの移動速度じゃ直ぐに中継地点に到達すんのは無理だ。

なにせフワフワと漂ってるだけだし。

しかも奴ら偶然にも倉前橋の下を通る形で、ライフルの射角から逃れてやがる。

コナンの奴め、邪魔しやがって……しょーがねぇなぁ……丁度ライフルの残弾も少ねえし、持ち変えるとしますか。

狙撃は無理と瞬時に判断を下し、俺はマンハッタン・トランスファーとウェザーリポートを解除。

そしてライフルと空薬莢をエニグマの紙に入れて、懐に忍ばせておいた『サイドアーム』を取り出す。

 

さっきカーペンターズにライフルを改造させた時に、ついでに改造させたもう一丁の元ベレッタ。

 

ジョジョの奇妙な冒険の登場人物、グイード・ミスタが使っていたハンマーシュラウド(撃鉄を覆うシェル)付きの拳銃だ。

この銃はイマイチ形がはっきりしなかったので、俺の主観で一番形が合ってると感じた『コルト・ディテクティブスペシャル』を作らせた。

何よりコルト・リボルバーの熟成されたウイスキーのような曲線は、漢の色気たっぷりなミスタに似合うと思う。

まぁ、それが俺にも合うかって言われれば、そうでも無えんだけどな。

 

「さあて、リボルバーの射程距離まで近づかねーとな……アクトン・ベイビー」

 

まずは自分自身とスケボーを透明にして、俺は屋上から一気に飛び降りる。

それと入れ違いで屋上の扉が開いたのが見えたので、やっぱり警官が向かってたのは正しかったんだろう。

俺は自身を透明にしたままスタープラチナの足で、外灯の上に着地。

その不安定な外灯の上からボートをUターンさせようとしてる犯人達を発見した。

東京湾の方から来て東京湾向きに戻って消えようって腹らしいが――。

 

「OK!!犯人達ッ!!それでいい……そこの位置が良い(・・・・・・・・)ッ!!」

 

周りに水上バスが居ないのを確認した俺は、犯人達には聞こえないくらいの声でそう叫ぶ。

俺の真正面に”ボートの横っ腹を見せて発進しようとしてる”犯人達のボートに向かって、俺はリボルバーを構えた。

そして周囲に人の気配が無い事を確認してから透明のまま――。

 

ドンドンドンドンドンドンッ!!

 

リボルバーの弾丸を全て撃ち尽くし――。

 

『『『『『『ウッシャァーーーーーーッ!!』』』』』』

 

バギィイイイッ!!

 

「テメー等もボートも……その位置がものすごく良い」

 

ボートの後部エンジンと燃料タンクに向かって、セックス・ピストルズ達に弾丸を直角に叩き落とさせたッ!!

勿論、サイレンサーの無い銃で撃ったんだから銃声は出る。

その銃声に反応して、こちらに視線を向ける目出し帽とフルフェイスヘルメットの犯人達――。

 

ドグォオオオオオオオオンッ!!

 

『『『『『『YEEEEEEEEHAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!』』』』』』

 

次の瞬間には、エンジンは大爆音と炎を撒き散らして吹き飛んだ。

標的を吹き飛ばした事で歓喜の声をあげるピストルズ。

しかし犯人の二人は爆発の衝撃で川に投げ出され、行方が判らなくなってしまう。

更に追撃してやりてぇ所だが……そろそろ潮時だな。

チト派手にやり過ぎたし、コナン達がこっちに向かってきてる。

アクトン・ベイビーで透明になってるから見つかる事は無えだろうけど、見つかる”かも”って危険は消しておかねえと、な。

俺はこちらに向かって走るコナンや世良さんにバレない様に注意しながら、この場を立ち去る。

本当なら奴等を追い掛けてブッ潰したい所だが、あんまり離れすぎているとコナン達に何処へ向かったのかと怪しまれかねない。

アリサ達が誤魔化してくれてる事を祈るばかりだ。

それに犯人の狙撃した方は手の甲に穴開けてやったし、指もフッ飛ばした。

再起不能とまではいかねえけど、少なくとも常人なら薬使っても2~3日の間は行動不能だろうよ。

 

『定明ッ!!ヤツ等ッテ、魚カ何カカァ~~ッ!?』

 

『全ッ然。影モ形モ見エヤシネェゼェ?』

 

『オイNO,5!!オ前潜ッテ探シテ来ヤガレッ!!』

 

『ウエェェ~~ンッ!!何デ僕バッカリィイイ~~ッ!!』

 

『デモ定明。マジニドォスル?アイツ等探シテオクカ?』

 

「必要無えよ、NO,7。奴等は暫く身を隠すしかねぇだろう。狙撃した奴の手の骨は完璧に砕いてやったし、指も千切った。もう一人の奴だって今の爆発で体に火が着いてた。まぁ直ぐに水に飛び込んでたが、ありゃ相当な火傷になる筈。これでまだ狙撃やるってんなら少なくとも2,3日は身を隠して治療しねぇとな」

 

『マァ確カニ、アレジャドッチノ野郎モ正確ナ狙撃ナンテ無理ダローナ。少ナクトモ今日ミテーナ長距離ハゼッテー撃テネーカ』

 

「そーいうことさ、NO,1。とりあえず戻るぞ……残念ながら、もうタイムアップみてーだからな」

 

やいのやいの騒ぐピストルズを諌めながら、俺は透明のままスケボーを担いでスタンドジャンプしながらベルツリーを目指す。

どうやら向こうでも、俺が居なくて蘭さん達が不安がってるみてーだしな。

メールをくれたすずかに『どうやって誤魔化してくれた?』と聞くと、返ってきたのは――。

 

「何々?……『咄嗟にお花を摘みに行ったって言っちゃった……ごめんね』って、よりによってトイレかよ……まぁ、からかわれるのはしゃーねぇか……やれやれ」

 

余りにもあんまりな言い訳に図らずもエシディシ泣きするところだった。

まぁ咄嗟に誤魔化してくれたんだし、文句は言えねえか。

俺ってば、何で戦ったらその後がこんなオチばーっかりなんだかな。

自分の不幸を嘆きながらビルとビルを飛び移り、俺は皆の元へと戻っていく。

まぁ戻ったら蘭さん達に心配されてしまったので、ちゃんと謝罪はしておいたよ……便所長くてスイマセン、ってな。

そして案の定、俺は小嶋と円谷にこれでもかとからかわれるのだった。

あんまりにもしつこかったから二人のジュースに下剤を放り込んだけど、俺は悪くない。

んでまぁ、俺達は全員警察に事情聴取を受けに行った訳だが、二人はトイレから出てこれてなかった。

まっ、それも俺をからかった仕返しだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

さて、あれから数時間が経った現在。

 

俺は小五郎の伯父さん、蘭さん、園子さん。

そしてコナンと世良さんと一緒に会議室へと通された。

理由は言うまでも無く、ベルツリーであった狙撃事件についてである。

伯父さんは直接その殺しを見た訳ではないが、伯父さんは世間で言う名探偵。

今回の事件についても一応話をしておくべきだと、目暮警部が判断しての事だ。

俺達はあくまで伯父さんの付き添いである。

 

そして会議室の反対側に座るのは、殺人を扱う捜査一課の面々。

 

アニメでは見た事がある変な髪型の白鳥警部。

小太りの千葉刑事。

更に大太りの目暮警部――そして……まぁ……。

 

「……ふふっ♪……よぉやく会えたわねぇ……」

 

「さ、佐藤さん……」

 

何やらとんでもねー威圧感ひっさげてる捜査一課の紅一点。

佐藤刑事と、その隣で顔を引き攣らせてる彼女の恋人高木刑事である。

しかもその威圧感で俺に熱い視線をビシバシ送ってきてるんだよ。

ったく、面倒くせぇ……まっ、適当に撒くしかねぇか。

俺はその視線を受けながらあくびをしつつ、パイプ椅子に凭れ掛かる。

そして何故か俺の一挙手一投足に視線を強める佐藤刑事。何だこの負のスパイラル?

 

「……ち、ちょっと少年。あんた、佐藤刑事に何かやったの?」

 

「や、やっぱりアレじゃない?定明君、佐藤刑事の事適当にあしらって事情聴取すっぽかしたって言ってたから……ねぇ定明君。佐藤刑事に謝った方が良いと思うよ?」

 

「そういえば定明君……そんな事してたって、前にファミレスで言ってたっけ」

 

と、佐藤刑事のオーラに慄いた園子さんと蘭さんから謝る様に促される俺。

その隣では、「そんな事があったなぁ」程度に思い出してる世良さんと、苦笑いのコナンの姿も。

更に向こう側では白鳥警部と千葉刑事と目暮警部が苦笑し、高木刑事は顔色を更に真っ青にしてるではないか。

そして件の佐藤さんはニコニコしながら威圧感出すなんて芸当をやってのけてる。

何ともカオスな空間を形成している中で、俺はテーブルに頬杖を突いていた顔を佐藤刑事に合わせ――。

 

「さぁ?俺にゃ身に覚えが無えッスね?全く。これっぽっちも」

 

真正面から覚えてません発言を投下してみた。

 

「ッ!!!」(バギンッ!!)

 

「な、な、なッ!?(や、止めてッ!?コレ以上佐藤さんを刺激しないでくれよ定明君……ッ!?)」

 

「ち、ちょっと定明君……ッ!?」

 

「ひぇ~……ッ!?少年、度胸有り過ぎ……」

 

(ハハ。なんでこーも堂々と人の地雷を踏み抜けるんだか……)

 

その拍子に笑顔が消えて顔に凄みが出る佐藤刑事と、対照的に顔色が白くなる高木刑事。

ちなみにさっきの音は、佐藤刑事が手に持っていたペンを握り潰した音だ。

しかも滅茶苦茶高価そうな万年筆がぐっちゃぐちゃ。あ~あ、勿体無え。

つうか手、痛くないんだろうか?

 

「まっ、もしもあの人が俺を見てんのがあの誘拐事件の事だってんなら、そりゃもう目暮警部に謝ってそれでお終いにしてますから。だから俺が睨まれなきゃいけねえ理由は皆無ッスよ。ですよねー目暮警部」

 

「ハハハッ。ま、まぁそう喧嘩腰にならんでくれ、定明君。事情は儂から佐藤君にも説明しとるんだがね……」

 

「あらら?もしかして、事実を言った事を根に持っちゃってんスか?高木刑事とのアレコレを?」

 

「ッ!?だ、だから高木君とはそういうんじゃ……ッ!!」

 

「へえ?お二人さん、今日は仲良く同じ家から出勤してきてんのに?男女が一つ屋根の下の泊まってんのにそりゃ無えッスよ」

 

「そ、それは偶々……え?……ち、ちょっと待ってッ!?どうして高木君が一昨日から私の家に泊まった事を君が知って――ッ!?」

 

「さ、佐藤さんッ!?」

 

俺の言葉を聞いて佐藤刑事は恥ずかしがる表情から一転して驚くが、その直ぐ後に高木刑事が叫んだ事で「しまったッ!?」って顔で口元を抑える。

まぁ、もう色々と手遅れな訳なんだがな。

 

「と、泊まったって……ッ!?しかも一昨日からですかッ!?」

 

「おやおやぁ?高木刑事もやるぅ~♪」

 

ほら、今の話を聞いた蘭さん園子さんコンビの女子高生達が楽しそうに目を輝かせてるし。

まぁ世良さんはそれ程でも無さそうだけど。

とりあえず、目の前のターゲットに興味が移った所で、俺はニヤニヤしながら再び椅子に凭れ掛かる。

 

「へー、やるなぁ定明君……どうして君は、あの二人が一緒の家に泊まったって分かったんだい?」

 

「ん?あぁ、二人から同じ柔軟剤の匂いがしましたから」

 

「柔軟剤?たったそれだけで?」

 

「でも定明にーちゃん。柔軟剤の匂いだけじゃ、決め手に掛けるんじゃない?」

 

「そうでもねぇぞ?あの二人が使ってる柔軟剤。最近出た女性向けの奴で爆発的に売れてんだよ。そんなレディース向けの柔軟剤を高木刑事っていう男が使うにゃ不自然極まりねぇだろ?」

 

「んー……でもさ、それなら高木刑事のお母さんが買ってきたとかは?」

 

まるで答えが分かっていながら、俺の能力を試すかの様に質問を重ねるコナン。

それに対して、俺はチッチッと指を振りながら答える。

 

「高木刑事をよぉ~く見てみな?スーツの裾のボタンがほつれてるだろ?」

 

「えッ!?あ、あれ?いつの間に……?昨日出掛けた時に何処かで引っ掛けたかな……?」

 

「な?普段から炊事洗濯をしてくれる親が居るってんなら、昨日今日ほつれたボタンなんて大事な所見逃したりしねーよ。って事はつまり、洗濯機で洗えないスーツがアレでシャツやネクタイ、ズボンがキチッとしてるって事は、スーツ以外をまとめて洗濯出来る場所に居たって事。そして最近若い女性に人気の柔軟剤の香りをさせてる、恋人持ちの男の服を洗濯する人は?」

 

「今も顔を赤くしてる、あの女刑事さんしか居ないって事だね」

 

「Exactly」

 

最後に答えを口にした世良さんにそう返しながら、俺は蘭さん達に詰め寄られて顔を赤くする佐藤刑事に視線を向ける。

そして俺に対して感心した顔をするコナンにも補足説明を続けた。

 

「まっ、どっちの家に泊まったかっていう確証と日数は、勝手に佐藤刑事さんがブチまけてくれたし……一昨日からって事は、少なくとも数日分の服があるって事じゃね?半ば同棲って事だな」

 

「ちょ……ッ!?こ、子供がそんな事言わなくて良いのッ!!」

 

「おいおいきーたかコナン?子供が、だってよ。初心なネンネじゃあるめぇし。笑っちまうよな?」

 

「う、初心なネンネ……こ、こんのぉ~……ッ!!?」

 

「あ、あはは……」

 

「ほら。コナンも笑ってますよ?いい歳した女が何カマトトぶってんだか、ハッ。的な顔で」

 

「え゛ッ!!??」

 

「コ~~ナ~~ン~~くん~~ッ!!」

 

「ちょ、違ッ!?(な、何で何時の間にか俺が標的にッ!?コ、コイツ乗せやがったなッ!?っていうか蘭の時も俺の所為にしやがって……ッ!?)」

 

とりあえず挑発に挑発を重ねて最後は隣に座っていたコナンに罪を擦り付け、俺は天井を見上げて溜息を吐く。

コナンに関しては1ミリも悪いとは思ってない。

俺の情報をデカなんぞに売り渡しやがったんだから当然の報いだ。

 

「あ、あはは……流石は毛利さんの甥っ子さんといった所ですか」

 

「まぁ、毛利さんより大分悪どい感じになってますけど……」

 

「う、うぅむ……ま、まぁ、彼もコナン君の様に中々の推理力を持ってるじゃないか、毛利君」

 

「え、えぇ。まぁ……(初心なネンネとか……あいつ何処でそんな言葉を覚えたんだ?)」

 

何やら白鳥警部や目暮警部に変な評価を持たれちまったが、まぁ良しとしよう。

苦笑い、というか引き攣った笑みで俺を見る白鳥警部や千葉刑事、そして目暮警部から視線を外す。

そしたら今度はコナンに詰め寄りたいけど目を輝かせた蘭さん達に詰め寄られて困ってる佐藤刑事とそれを落ち着けようと奮闘する高木刑事が目に入った。

おい、会議前だってのにこんな調子で良いのか捜査一課?

 

ガチャッ。

 

「すいません。お待たせしてしまいました」

 

「あぁ、いえ。大丈夫ですよ、ジェイムスさん」

 

と、会議室の空気がカオスに染まりかけていた時、扉を開いて白髪の老人が姿を現す。

その人の謝罪に問題無いと目暮警部が返し、ジェイムスと呼ばれた人に続いて二人の人間が入室。

一人は金髪のメガネを掛けた女性で、もう一人はこの前のファミレスの事件で出会ったキャメル捜査官だった。

あれ?確かキャメルさんはFBIの捜査官だって言ってたよな……って事はこの二人もFBIの人間って事か。

会議室にFBIの人間が入ってきた所でさっきまでのお巫山戯の空気は払拭され、皆席に座って真面目な顔で前を見る。

そうして会議の準備が整い、キャメルさんが会議室の隅にあったホワイトボードを出して、そこに写真を数枚貼っていく。

貼られた写真は何時撮ったのか、あのバイクで逃走した犯人の物が数枚。

そして知らない金髪の男の写真と、下に『シルバースター』と書かれた星のメダルの写真だった。

……この場であのメダルの写真を貼るって事は、あのメダルが今回の狙撃に関係してるって事か?

キャメルさんと女の人がホワイトボードの横に立つ中、ジェイムスさんはノートPCを引っ張りだして椅子に腰掛ける。

漸く会議の始まりみてーだな。

 

「こちらを御覧下さい。我々の入手した写真とあの狙撃技術から、ベルツリータワーにおける狙撃事件の犯人の一人はこの人物だと思われます」

 

「……ティモシー・ハンター、37歳」

 

「はい。元海軍特殊部隊ネイビー・シールズの狙撃兵で、2003年から3年間中東の戦争に参加。数々の功績を残した、戦場の英雄です」

 

ジェイムスさんの語る犯人と思われる人物……ハンターのプロフィールを聞いて、俺はやっぱりかと思った。

あれだけ正確な狙撃技術と逃走の手際の良さは、軍事関係の人間じゃねえとそう出来るモンじゃねえ。

 

「その英雄が、どうして白昼堂々と狙撃を……?」

 

「はい。その原因と思われるのが、このシルバースターです」

 

「シルバースター?」

 

伯父さんの尤もな意見に対してキャメルさんが答え、件のメダルの写真を指差す。

あのメダルが原因ねぇ……何か、話が段々と見えてきたな。

そしてそのシルバースターの概要を、今度は金髪の女の人が話し始めた。

 

「敵対する武装勢力との交戦に於いて、勇敢さを示した兵士に授与される名誉ある勲章です。ハンターはこの英雄の証を2005年に受賞したのですが……その翌年、交戦規定違反の嫌疑で剥奪されています」

 

「剥奪、ですか?」

 

「ええ。陸軍のある士官から、武器を持たない民間人を射殺したという訴えがあったんです。勿論、ハンターは否定。調査の結果、証拠不十分で裁判には至りませんでしたが、ハンターはこの一件で戦場の英雄から一転。疑惑の英雄と呼ばれる様になってしまいます」

 

「……疑惑の英雄、か」

 

俺は女の人の話を聞きながら誰にも聞こえない声量で小さく呟く。

それが真実かどうかはさて於いて、まだ今の話はアメリカでの話だ。

これじゃベルツリーで狙撃されたあの男の件に付いては届かねえな。

まだ推理材料が足りない中、俺は一度思考を切って金髪さんの言葉に耳を傾ける。

 

「そして、このシルバースターの件が影響したのか、戦闘に復帰したハンターは何時もの冷静さを失い、戦場に孤立……敵の銃弾を頭に受けてしまったんです」

 

「そんな……」

 

「あんまりな話ね……」

 

あまりにも酷い負の連鎖に、蘭さんと園子さんは悲しみに満ちた声を出す。

二人の呟きを誰もが聞いている中で、その空気を払拭したのは目暮警部だった。

 

「それで、ハンターは?」

 

「幸い手術は成功し、一命は取り留めました。しかし、これを機に除隊。直ぐに帰国しましたが……彼の不幸はこれで終わりませんでした」

 

おいおい……まだ不幸があんのかよ?

もうコレ以上は無くても良いだろ、と思える様な不幸続きのハンター。

それが戦場から生きて生還出来たってのにまだ続くだなんて、ホントに悪い夢だ。

だがそうは思っても、これはハンターという男が今まで歩んできた道。

キャメルさんが語り部を続けるハンターの話は、まだまだ終わりそうになかった。

 

「帰国後、平穏な暮らしを求めてワシントン州シアトルの田舎に移り住みましたが、戦場での忌まわしい記憶は消える事無く、ハンターを苦しめ続けていたそうです……そして、不幸は彼のみに留まらず、一緒に暮らしていた妻や妹にまで降りかかりました」

 

「ッ!?」

 

「??……定明にーちゃん?」

 

「……何でも無え」

 

キャメルさんの言葉を聞いて一瞬腰が浮きそうになったが、それをグッと堪える。

家族にまで及ぶ不幸……プレシアさん達の事思い出しちまったぜ、ったく。

そんな俺の行動に首を傾げるコナンに小声で大丈夫だと返しながら、俺はキャメルさんの言葉に耳を傾け直す。

 

「投資失敗による破産。婚約破棄による妹の自殺。薬物過剰摂取による妻の心乱。ハンターは名誉と財産、そして愛する家族までも……立て続けに失ってしまったんです」

 

さすがに容疑者候補に上がっているとはいえ、同情したんだろう。

ハンターのこれまでの来歴を話すキャメルさんは苦しげだ。

一方で俺も、これはさすがに酷すぎると、ハンターの過去に同情してしまった。

自分の大事な財産や愛する家族を失う苦しみ……想像しただけで、どうにかなっちまいそうだよ。

 

「それから6年間、ハンターの行方は全く分からなくなってしまいます」

 

「ならその人物が何故、今回の殺人事件の容疑者になるんですか?」

 

心を病ませるには十分な出来事だと思う中、キャメルさんに代わって金髪さんが口を開き、彼女の言葉に白鳥警部が疑問を零す。

確かに白鳥警部の疑問は尤もだ……でも、俺には多分、分かっちまった。

こいつは多分――。

 

復讐(リベンジ)……」

 

「え?」

 

「さっきキャメルさんが言ってた破産の原因てのがあの男……そこに写真貼ってる藤波っつぅおっさんだったら、そのおっさんへの復讐じゃねーんすか?」

 

俺が思った事を口にすると、警察側の刑事さんやFBIのメンバーは驚いた表情を浮かべた。

ホワイトボードに貼られた被害者……藤波宏明の写真を見ながら、俺は誰も何も喋らない中で更に言葉を紡ぐ。

 

「そのおっさん。俺達がベルツリーに居た時も、外国人の老夫婦に築30年の不良物件を売りつけようとしてましたし……その不良物件への投資失敗で破産に追い込まれた復讐だと思ったんスけど」

 

「……ほ、本当に藤波さんはそんな話を?」

 

「え、えっと、英語で話していたのは見たんですが……意味までは、ちょっと」

 

俺の言った言葉が信じられないらしく、目暮警部は蘭さんに確認を取るが、蘭さんはあの時その英語をちゃんと聞き取れた訳では無いらしく、曖昧な解答を返す。

まぁ確かにガキの言う事を一々間に受けてたら仕事になんねーか。

目暮警部の信用してなさそうな疑問の声は特に気にせず、俺は一人で頭を働かせる。

 

「うーむ……FBIの方では、そんな話はあるんですか?」

 

「……え、えぇ。実は、今彼が言った様に今回の被害者である藤波宏明こそ、日本の不良物件を売りつけてハンターを倒産に追い込んだ人物なんです」

 

「なんと……」

 

「先ほどの質問と合わせて答えますと、ハンターが捜査線上の容疑者に上がったのは、今から3週間前にシアトルで起きた事件が原因でして……」

 

目暮警部の質問に答えたのは、俺に視線を向けて驚いた表情を浮かべる金髪さんだった。

そして俺の予想がドンピシャで当たってた事に目暮警部は驚きを現す。

更にさっきの白鳥警部が出した疑問についての答えで、漸くこのハンターという男が容疑者に上がった理由が分かった。

3週間前にシアトルでブライアン・ウッズという地元新聞記者がライフルで殺害されたのだが、その人物もハンターに恨まれていた人物だったってこと。

当時ブライアン・ウッズは疑惑の英雄というハンターの心を抉る題名の連載記事を、執拗な取材で描き上げたらしい。

その余りの常識知らずで無遠慮な取材の所為で、ハンターと奥さんはノイローゼにまで追い込まれる。

ここまで聞けばその男が殺されても仕方無え男だと言う事がよーく分かったよ。

今回殺害された藤波っておっさんと合わせて二人……だが、俺には殺されても仕方無え外道だという思いしか浮かばなかった。

人の人生を狂わせた事への報いが死という結末だったって事か……哀れなモンだぜ。

殺される側には、何時だって大なり小なり恨まれる理由ってのがあるんだからな。

俺はこの事件の発端であるそのターゲット達に対する嫌悪感を隠さず、顔色に不機嫌さを表しながら話を聞く。

 

「これにより、容疑者となったハンターを警察とFBIが捜査した結果、2週間前に日本に入国している事が分かったんです。そこで、FBI本部は休暇で来日していた我々に、ハンターの身柄確保を命じたという訳です」

 

「なるほど……それで今に至る、という訳ですか」

 

「えぇ……所で、その後のハンターともう一人の共犯者の行方は?」

 

「現在も湾内を隈なく捜査していますが、今の所は……」

 

今回の捜査にFBIが加わった理由に納得した目暮警部に、返す刀でジェイムスさんが質問する。

しかし残念ながらハンター達の行方はまだ判明していないらしく、目暮警部は苦い顔をしてしまう。

そんな目暮警部に対し、キャメルさんが無理もないと言葉を漏らした。

ハンターの居た部隊、ネイビー・シールズは海空陸の頭文字であるSEALを取ったモノであり、狙撃と同様に泳ぎが得意なのだそうだ。

 

「その狙撃ですが、ライフルを撃ったと思われるビルの屋上から、妙な物が見つかっています。千葉君」

 

ん?妙なモノ?

白鳥警部の言った事に首を傾げつつ、白鳥警部に指名された千葉刑事がホワイトボードの側に立って写真を貼った。

映っていたのは……縦に置かれた空薬莢とクリアブルーに白色で点が描かれたサイコロだ。

 

「ベルツリータワー側の窓ふき用レールスペースに、”サイコロ”と長さ51ミリの空薬莢が置いてありました。薬莢については、犯行に使われた7,62ミリ弾と口径が一緒です」

 

「それはハンターが愛用していたライフル、MKー11のNATO弾と一致しますな」

 

「ではサイコロについてですが、シアトルの狙撃地点にも、サイコロと薬莢が置いてあったんでしょうか?」

 

「いえ。その様な報告は受けておりませんが……しかしハンターとサイコロは繋がりがあります」

 

薬莢についての推測をジェイムスさんが出し、白鳥警部の質問にはキャメルさんが答える。

なんでもハンターはサイコロを使ったダイスゲームが好きらしく、腕にサイコロのタトゥーを入れてるらしい。

確かに繋がりっちゃ繋がりか……偶然にしちゃ出来過ぎてる。

 

「ふーむ。定明の言った通り、これが自分の全てを奪った者達に対する復讐なら、ハンターが犯人で決まりだな」

 

と、伯父さんは自信満々の表情でそう答えるが……皆ソレを念頭に入れて会議してんの忘れてね?

案の定全員から送られる視線は呆れや苦笑いばかり。

目暮警部なんて「やっぱり眠ってない時の毛利君は……」なんて言う始末。

これで良いのか名探偵?永遠に眠っとけと言われてますよ?

 

「……そういえば、何で世良のねーちゃんは藤波さんを尾行してたの?」

 

「ん?」

 

「確かに……」

 

「何故、藤波さんを?」

 

と、そんな伯父さんの失態に被せる形でコナンが質問すると、他の刑事さん達も食いついた。

っつうか、この人藤波さんを尾行してたのかよ。

そんなコナンの質問に対して、世良さんは探偵としての身辺調査を依頼されたと答えた。

 

「僕の同級生の親戚が、あの藤波って男と結婚するって話があったんだけど、その男が胡散臭く思えたんだろうね」

 

「へー、そうだったんだぁ」

 

そして世良さんが尾行していた意味に納得したコナンは猫を被りながら感心する。

まぁ事件との関係性は全く無さそうだし、コナンの興味も薄れたんだろう。

 

「それにしても……あの弾丸。どうしてあの藤波って男の人の後ろの人に当たる前に天井に逸れたんだろう?普通はあんな角度で曲がるなんて在り得ないと思うんだけど……」

 

そりゃセックス・ピストルズの仕業だからな。

世良さんの言葉に、あの好奇心旺盛なコナンだけでなく、会議室の面々も首を捻る。

俺はその光景を見ながらちょっと面倒な事になりそうだなと心中でため息を吐く。

さすがにあの場は仕方無かったとはいえ、あれはやり過ぎたか。

 

「ふーむ。あんな事が可能なのは、HGS患者くらいなものだが……未だかつて、発射された弾丸を曲げる程に強力な能力があるなどとは聞いた事が無いな」

 

「それに、HGS患者特有のリアクターフィンもタワー内のカメラでは確認されていません」

 

「ならばHGS患者が藤波さんの後ろに居たデビットさんを助けようとしたという線は無くなるか……」

 

目暮警部と佐藤刑事の話を聞きながら、俺は内心で安堵した。

なんとかスタンドの事はバレずだったけど、まさかHGS患者の仕業になりかけるとは。

しかしそう安堵したのも束の間、更に千葉刑事からの報告で会議は紛糾する。

 

「それと、天井にもう一つ弾痕があったんですが……弾丸は発見されず、弾痕から推測すると45口径から50口径クラスの銃弾の可能性があるそうです」

 

「…………ふぅ……で?現場の窓ガラスは割れている箇所はあったか?」

 

「い、いえ。それが全く……というか、現場に居たコナン君達も銃声は聞いていないそうですので……内部では無いとするなら外からという事になるんですが、ガラスも割れたのは狙撃での穴だけでした。口径が一致しないので、7,62ミリ弾の後にガラスを突き破った可能性は無いだろうと、鑑識から報告が……」

 

「誰も銃声、それか銃声に近い音は聞いてないのかね?サイレンサー装備で撃った可能性は?」

 

「いえ、誰もその様な行動を取った人物はカメラで確認出来ませんでした。それに例えそんな人物が居たとしても、あの場所に弾丸が命中するには少なくとも真下から撃たないと不可能かと……運よく跳弾したならそれもありえますが、他に弾丸が着弾した形跡はありません」

 

「おいおい。現にそんな現象が起きているじゃないか」

 

「で、ですが、鑑識からも予測は不可能だという報告でして……」

 

あー……今度はエンペラーの弾痕についてかよ。

またもや俺が残した謎の証拠についての話になるが、蘭さん達は銃声なんて聞いていないと首を横に振る。

エンペラーは銃弾から銃本体まで全てがスタンドとして構成されてるからなぁ。

唯一普通の人間に見えてしまう名残は、銃の弾痕程度だ。

HGS患者の仕業でも無ければ、幽霊が銃でも撃ったかの如き謎の弾痕。

それに対して頭を悩ませる皆さんには申し訳無えが、犯人の仕業にでもしといてくれ。

 

「それに、今回の犯人を狙撃した謎の人物についても、狙撃地点と思われるビル周辺には何も残されていませんでした……まるで、最初から其処には何も居なかったかの様に……」

 

「……まったく……幽霊じゃあるまいし、証拠の一つくらいは残しておいて欲しいもんだわ」

 

「しかもその別の狙撃手も、今回の狙撃犯と同じぐらいの腕を持っているとなると気が抜けませんね。一体何の目的で犯人を撃ったのかが検討も付きません」

 

そして千葉刑事が口元をひくつかせながら報告した事案に、遂に会議室の空気は些か重くなってしまう。

特に幽霊の存在を信じてる蘭さんと園子さんなんて涙目ものだ。

全くもって謎な出来事に溜息を吐く佐藤刑事や震える蘭さん達の姿を見て、俺は会議室から出る事にした。

テンション突っ切ってやりたい放題しちまったけど、まさかその弊害がこんなトコで出ようとは思いもしなかったぜ。

さすがの俺も気まずい思いをしつつ、椅子から降りて出口へと向かう。

 

「さ、定明君?何処に行くの?」

 

「俺はちっと抜けますわ……人が撃たれんのを目の前で見て……まぁ、アイツ等も嫌な思いしただろーし……ちーと、心配なんでね」

 

蘭さんの疑問にそう答えて、俺は後ろ髪を掻きながら会議室の出口へ向かう。

しかし俺の言葉を最後に誰も何も言わなかったのが気になって振り返ると――。

 

「へぇ~?女の子の気遣いが出来るとは優しいじゃん、少年♪」

 

「ふっふ~ん?何だかんだ小生意気な事言っても、やっぱり子供ね~♪」

 

「うんうん♪普段はアレだけど、やっぱり定明君も紳士的な男の子だね♪そういう気遣いが出来るのはポイント高いと思うよ?どっかの推理バカよりはね♪」

 

「あ、あはは……(オイ。それって俺の事か?)」

 

「ケッ。早い内から色気付きやがって……早く行ってやれ。ちゃんと安心させてやるんだぞ」

 

ソッコーで見るんじゃなかったと後悔した。

何ていうか、皆して微笑ましいモンを見る様な目で俺を見てきてやがるんだよ。

っつうか、佐藤刑事なんて園子さんと一緒でやたらニマニマした面していやがる。

それと伯父さん、俺は別に色気付いた訳じゃねえんでそのニマニマ引っ込めてくれません?

思わずこの場の全員をボッコボコにしたくなった俺は悪く無いだろう。

しかしそんな事をするのは現実的に不味いので、俺はチラッと気になっていた事だけを呟く。

 

「あ~そうそう。佐藤刑事さん、キスマークはちゃんと隠した方が良いッスよ?こうきょーの場ではね?」

 

「んなッ!?て、適当な嘘を言うんじゃないのッ!!」

 

「さっきチラッと見えましたよ?左の襟の影に」

 

俺がそう伝えると、佐藤刑事は焦った顔から一転して勝ち誇った様な表情を浮かべる。

一方高木刑事は最早茹でダコ並に顔を赤くしていた。

 

「残念ね。そんな所に付ける様な愚考はしてないわ。ちゃんとそこ以外にしてって――」

 

「さ、佐藤さぁあああああんッ!!?」

 

「あ゛」

 

「はい。自爆乙っす。とりあえず今のは少年探偵団に教えて署内に吹聴して回ってもらおう。そんじゃ、”抜けられない重要な会議”頑張って下さいよー?俺ら市民の安全の為にー」

 

「「ちょッ!?まっ――」」

 

凄く良い笑顔で死刑宣告を下した俺は、会議室の扉を閉めて意気揚々と署内を歩く。

とりあえず俺はデビットさん達の居る会議室を目指して歩く。

そんでまぁ、その会議室を目指して歩いてる訳なんだが……。

 

「……何処だっつうの」

 

今日入ったばかりの建物の構図なんて分かるハズも無く、有り体に言えば、俺は迷子になっちまったって訳です。

ったく、面倒クセェな……こうなったらスタンドでその辺りの部屋片っ端から調べて――。

 

「ん?坊や、こんな所で何してるの?」

 

と、スタンドによる一斉捜索でもしてやろうかとやさぐれていると、後ろから二人組の婦警さんに声を掛けられた。

さすがに警察署内に親の居ない子供一人ってのは違和感があったらしく、二人共首を傾げている。

これは好都合だな。

 

「すんません。デビット・バニングスさんの居る取調室って何処ッスか?」

 

「え?……えっと、坊やはどうしてデビットさんに会いたいのかな?」

 

「ひょっとしてアレじゃない?コナン君達に憧れて少年探偵団の真似事してる……とか?……アレ?」

 

「……どうかしました?」

 

「先輩?どうしたんですか?」

 

俺と目線を合わせてくれたツインテールの人とは違い、俺を見下ろしていたロングヘアーの婦警さん。

その人が何やら失礼な事を言い始めたなと思っていたら、何故か俺を見て段々とビックリした様な顔に変えていき始めるではないか。

もう一人の婦警さんにも意味が分からないのか、彼女も首を傾げている。

一体どうしたって……ん?……視線が俺の顔を向いてない?

さすがに俺も初対面の人にこんな反応をされた事が無いのでどうしたモンかと思っていたんだが、そこでふとある事実に気付いた。

彼女の視線は俺の顔では無く、今はもっと下に向けられているのだ。

なので婦警さんの視線を辿って目線を下ろすと……。

 

「鉄球?変わった物を付けてるのね?」

 

「ハァ、まぁ……そっちの婦警さん。俺の鉄球がどうかしました?」

 

婦警さんの視線は、俺の腰のホルスターに納められた鉄球に向けられていた。

しかも同じ様に視線を辿って俺の腰の鉄球を確認したツインテールの婦警さんがぼそっと呟くと、過剰に反応を示す。

……もしかして、俺の鉄球を何処かで見た?

いや、最近人前で鉄球を使ったのは誘拐犯騒ぎとファミレスの事件の時のみ。

そのどちらでも、この婦警さんが現場に居たっていう記憶は無いんだが……俺が覚えてないだけか?

 

それとも――。

 

「もしかしてッスけど、目暮警部か高木刑事から俺の鉄球の事聞いたんスか?」

 

「……じ、じゃあ、もしかして……坊やが、毛利探偵の甥っ子の……」

 

「はい。城戸定明ッスけど?」

 

どうやら俺の読みは当たっていたらしく、この婦警さんは俺の事を目暮警部か高木刑事に聞かされていたらしい。

……つうか一体どんな話を聞いたんだか。

何とも言いにくい反応に溜息を吐くと、もう一人の婦警さんが笑顔で俺に声を掛けてくる。

 

「へー?あの眠りの小五郎さんの甥なの、君?」

 

「えぇ。まぁそうッスけど……っつうか、そっちの婦警さんは一体どんな話を聞かされたんで?」

 

「ア、アハハ。ごめんごめん。いやーまさか美和子と高木君が言ってた坊やが君だとは思わなくて、ね。想像と余りにも違ったからさ」

 

「想像?」

 

高木刑事って事は、俺が関わった事件のどっちかの話だろう。

っつうか美和子って……確か、佐藤刑事の名前だったか?

やっとこさ俺の問いかけに答えてくれた婦警さんに問い返すと、婦警さんは苦笑いしながら口を開いた。

 

「君なんでしょ?この前の女子誘拐事件で犯人の男女を叩きのめして、しかも美和子をからかいまくってトンズラこいた坊やっていうのは?」

 

「は、犯人を叩きのめした?この少年が、ですか?」

 

「美和子と高木君の話ならそうらしいわよ?まぁあの怒り様を見るに本当だと思うけど……それに目暮警部からも聞いたけど、ファミレスの事件の時に逃げようとした犯人をその腰の鉄球で倒したらしいじゃない?」

 

ロングヘアーの婦警さんの言葉に驚くツインテの婦警さん。

どうやら聞かされてたのはどっちもの事件で、犯人をシバいた時の話らしいな。

高木さんか目暮警部ならファミレスの話だと思ったんだが。

俺の事を知っていた理由に納得がいった所で、俺に視線を向けて「どうなの?」と聞いてくる婦警さんに頷いて返事を返す。

 

「まぁ、どっちも已む無しの事情があったからッスよ。俺は降りかけられた火の粉を熨斗付けて返しただけなんでね」

 

「その熨斗が上等過ぎるって話。ファミレスの犯人は鼻の骨折に前歯が全滅。誘拐犯は男が全治3ヶ月と女が髪の毛全部剃られた上に油性マジックで罰なんて書く。はっきり言って鬼畜過ぎよ」

 

「……そ、それは確かに」

 

「法を破った奴が法で守ってもらえるなんて、虫が良すぎる考えだと思いません?何よりガキで一般ピーポーの俺が犯人を止めるにゃ、それしか無かったっていう話でしょーに」

 

「な、なんつぅ末恐ろしい事真顔で言い放つかね、この坊主は……」

 

「大体髪の毛なんて、また生えてくるじゃないッスか。脱毛剤ブチ撒けなかっただけ感謝して欲しいくらいッスよ」

 

言外に誘拐犯にやり過ぎだと言われるが、俺はその言葉に己の言葉を突き返す。

本当なら脱毛剤でもぶっかけてやるつもりだったってのに、持ってなかったから出来なかったんだよなぁ。

あの当時を思い返しながらウンウン頷いている俺の横で口元をヒクつかせる二人の婦警。

まぁそんな感じで俺はデビットさんの関係者、引いては一緒に居る娘の友達だと伝えて、取調室を教えてもらう。

んで、お礼代わりに二人……宮本由美さんと三池苗子さんにさっきの会議室での佐藤刑事と高木刑事の同棲情報を包み隠さず教えてあげた。

それは二人にとってとても面白いニュースだったらしく、キャーキャー言いながら知り合い中にラインで報告しまくる。

そしたら何か色んな場所から超が付くほどの強面のおっさん達が現れて殺気に満ちた目で高木刑事と佐藤刑事の居る会議室へ視線を送り始めた。

……まぁ、どーでも良いか。

俺は未だにキャーキャー騒いでる婦警コンビと殺気立ったおっさん達の波を抜けて、教えてもらった取調室に向かった。

 

……しかしやれやれだな。犯人を叩きのめした俺の行動が捜査の邪魔になるとは。

 

まぁ、その所為で捜査が遅延しようとも”別に構やしねぇ”。

……俺がサッサとブチのめして終わりにしてやる。

今回はあの藤波っつぅおっさんの命を救う事は出来なかったが、次は無え。

俺が伯父さんの家族って事であの会議に入れてもらったのは、今回の犯人がどーいう奴か知りたかったからだ。

殺された藤波っておっさんにゃ悪いが、俺は一切同情する気は無い(・・・・・・・・・・・・)

あのおっさんが殺されたのは当然であり必然だ。

人の生活を滅茶苦茶に踏み躙った報いを受けただけの事でしかねえからな。

どっちかって言うと、俺はあのハンターっておっさんに同情してる。

愛する家族を奪われ、名誉と財産を奪われ、後には何も残らない……なのに、奪った奴等はのうのうと生きてる。

そりゃー恐ろしい復讐者(アヴェンジャー)になるのも当然だろうよ。

俺は頭の中で今回起きた事件の理由、その当然の帰結に溜息を吐きながら移動していた。

 

「えっと……おっ?ここだな」

 

そして、幾つかの角を曲がった所で三池さんと宮本さんの言っていた取調室に到着。

扉をノックして、中からの応対を待つ事に。

やがて、中から人影が見え、俺の知る限りでは初対面の刑事さんが出てきた。

 

「はい?あれ、君は?」

 

「すいません。デビットさん達に会いに来たんスけど……」

 

「あっ!?定明君ッ!!」

 

扉を開いてくれた刑事さんに要件を伝えると、刑事さんの背後からすずかの声が聞こえてくる。

その様子を見て俺が知り合いだと判断したのか、刑事さんは笑顔で横にずれて取調室から出て行く。

 

「もうお話は済みましたので、私はこれで。今日はありがとうございました」

 

「はい。ありがとうございます」

 

と、退室する刑事さんにデビットさんやアリサ達が頭を下げ、それに礼で返した刑事さんは部屋から退出。

そこでやっと、俺は落ち着いて懐かしき海鳴メンバーと顔を合わせる事が出来た。

ベルツリーに戻った後で直ぐ、アリサ達はSPの車でこっちに向かったから、ちゃんと顔を合わせず仕舞いだったんだよな。

そんな事を考えながら、俺は難しい顔をしたデビットさん、そして不安げな表情をした3人と視線を合わせる。

 

「……定明君……まずは君にお礼を――」

 

「あっ、その先はちょい待って下さい」

 

「む?あ、あぁ。構わんが……」

 

俺と視線を合わせたデビットさんがお礼の言葉を言おうとしたのを止め、俺は無言でダイバーダウンを呼び出して部屋を調べる。

部屋中の壁やランプ類に潜り込み、この部屋の音を拾う集音器なんかが無いか確かめているのだ。

そうじゃねえとこの先の会話なんて何にも出来ないからな。

部屋中をダイバーダウンで潜って調べ、鏡もマジックミラーで無い事を確認して、ダイバーダウンを解除。

これでゆっくり話が出来る。

 

「ふむ……すいません。先にこの部屋に集音器とかが無いか確認してたんス……あの出来事も捜査の対象になってますから」

 

部屋中を調べ終えたのでそう謝罪しつつ、さっきまで刑事さんが座っていたであろう椅子に座る。

俺が言葉を遮って何をしているのか気にしていたデビットさんは、今の言葉で気付いてくれたらしい。

今度はすまなそうな顔で俺に頭を下げてきた。

 

「迂闊な事を言う所だった。すまない」

 

「いえいえ。怪我はありませんでしたか?」

 

「……あぁ……君が守ってくれたお陰で、私は生きている……アリサだけで無く、私の命まで……本当に、何と礼を言ったら良いか……」

 

「構いませんって。それに、あれについちゃ俺よりアリサを褒めてあげて下さい」

 

「えッ!?」

 

「??……まさか……アリサも?」

 

俺の言葉を聞いてビックリした声を出したアリサを見て、デビットさんはもしやと呟く。

その疑問に対して、俺は頷きながら口を開く。

 

「アリサは俺より先に、デビットさんの身を守ろうとしてスタンドを呼んでいました……もし、アリサがスタンドを使わなかったら、あの弾丸はデビットさんの心臓を貫いていましたよ」

 

「ッ!?……本当かい?アリサ……」

 

デビットさんの呆然とした声音の質問に、アリサはビクッと体を震わせながらも頷いて肯定する。

 

「パ、パパを守ろうとしたんだけど……でも、弾を反らしきれなくて……結局、最後は定明に助けられたの……」

 

「あぁ、アリサ……ッ!!」

 

「えッ!?パ、パパ……ッ!?」

 

自分では助けられなかった、と答えるアリサだが、その言葉はデビットさんの行動によって遮られる。

デビットさんは隣に腰掛けていたアリサを抱きしめて、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべていたのだ。

一方でアリサはデビットさんの笑顔の意味が判らず目を白黒させている。

 

「ありがとう……私の為に、頑張ってくれたんだろう?……本当に……ありがとう……アリサの様な娘を持てて……私は幸せだ……」

 

「そ、そんな……私、駄目だったよ……私だけじゃ、パパを守れなかったわ……無駄だった」

 

「いいや、結果は問題じゃない。アリサが何とかしようと頑張ってくれたという”事実”が、私はとても嬉しいんだよ……お前の勇気ある行動、私は誇りに思う」

 

「……パパ」

 

デビットさんの万感の想いが篭められた言葉。

それを聞いたアリサは驚きながらも、デビットさんの体に抱きついて、その温もりを確かめる。

 

「デビットさんの言う通りだぜ、アリサ……お前は良くやったよ」

 

「定明……」

 

「実際、お前には困難に立ち向かう力がある……でも、実戦も経験していないお前がデビットさんを守ろうと行動した事。それは、ゼッテぇーに無駄なんかじゃねえ」

 

「……」

 

デビットさんの腕に抱かれながら、アリサは俺に視線を合わせて俺を見つめる。

そうだ……アリサがやった行動は、無駄な事なんかじゃない。

デビットさんが助かったのは、アリサの運命に抗おうとする精神力が起こした、確実たる”事実”なんだ。

アリサの死の運命を拒否する行動は”決して滅びない意志”として、俺を動かした。

その守りたいという心が産んだ結果こそが、他ならねえアリサの強い意思によるものだからな。

取調室に居る全員の視線が集まる中、俺は静かに言葉を紡ぐ。

 

「お前があの土壇場で恐怖と闘いながらスタンドを使ってデビットさんを守ろうとした行動は、誇りに思うべき事だ……本当にスゲーよ、アリサ。それにそう思ってんのは俺だけじゃ無えみてーだぜ?」

 

「定明君の言う通りだよ、アリサちゃん……私、あの時は全然判らなかったけど、アリサちゃんのした事は本当に凄い事だよ。私ね?アリサちゃんの事、凄い尊敬したもん」

 

「ええ。大切な人を守ろうとしたアリサの行動。その強い意思……私も尊敬するわ。本当に、立派だと思う」

 

「す、すずかとリサリサまで……も、もうッ!!…………ありがと」

 

俺達が心からの賞賛を篭めた言葉を聞いたアリサは、デビットさんの胸板に顔を埋めながら小さく呟く。

そんな友達の姿を見て、俺達は微笑ましく笑った。

だけど、本当に凄いと思ったな……本当に……優しい奴だよ、お前は。

 

「しかし定明君。君もアリサと同じで私の命を救ってくれた事には変わりは無い。だから、お礼はちゃんと言わせてくれ……本当に、ありがとう」

 

「……わ、私も感謝してるんだからね……ありがとう、定明。パパを守ってくれて」

 

「別にそれは良いですって。俺が勝手にやった事なんスから」

 

と、アリサへの賞賛が終わった所でアリサとデビットさんは姿勢を正して俺に礼を言ってきた。

俺はその御礼に対して気を使わないで欲しいと返すが、その言葉にデビットさんは首を横に振る。

別に感謝が欲しくてしたんじゃないしな。

オレはオレで、アリサという俺の大切な友達が笑っていられる日常を守りたかったんだし。

そうじゃなきゃ、俺の日常も暗くなりっぱなしになっちまうよ。

 

「それでは私の気が済まないんだ。恩には礼で尽くさせて欲しい。そうでないと私は、いや私達は君にずっと負い目を感じてしまうからね」

 

「……あー……じゃあ、また何時か美味い飯でも食わせて下さい。しょーしみんの俺にはそれが一番良いッスから」

 

「あぁ。そんな事なら幾らでもさせてくれ……時にアリサから聞いたんだが、今回私の命を救ってくれた君のスタンド。名前はセックス・ピストルズで良かったかな?」

 

「??えぇ、そうッスけど……ピストルズが何か?」

 

「いや、何でもピストルズには其々意志があるそうじゃないか?それでアリサから今回の報酬にピストルズも美味い食事が食べたいと要求されたらしいんだが……」

 

報酬の話をボカそうとした俺に、デビットさんは大変良い笑顔でそんな事を仰る。

……そういやピストルズの奴等、ベルツリーでそんな要求をしてたよーな……すっかり忘れてたぜ。

チラッとアリサに視線を向けてみると、アリサはフフンっと勝ち誇った笑みで俺と視線を合わせる。

 

「アイツ等だってパパの命を救ってくれたからね。勿論OKしたわ。だから早く家に来ないと、ピストルズが騒ぎ出しちゃうわよ?でもなのは達にはスタンドの事は内緒だから……旅行前に来ないと、ピストルズが騒いで寝る事も出来ないかもしれないわね~?」

 

「ふむ、それは大変だ。なら是非我が家に泊まってはどうだろうか?それなら君もピストルズ達も、美味い食事が食べれて熟睡できる。まさに一石二鳥ではないかな?」

 

どうだ、参ったか。とでも言いたげな表情のアリサと、ニコニコ顔のデビットさん。

……良い性格してるぜ、お二人さん。さすが親子ってか?

そういやデビットさん。息子と男同士の触れ合いをするのも夢の一つだって言ってたっけ。

あの誘拐犯騒ぎのお礼にとアリサの家に招かれた時も、色々話してたし。

すっかり策略に乗せられちまった事に溜息を吐きたくなるが、それを押し込んで俺は口を開く。

 

「じゃあすいませんけど、旅行の前日に泊めて貰って良いッスか?」

 

「あぁ、勿論だとも。是非我が家に来てくれ。今日の事を知ったら、いや知らなくともマリアなら大喜びで君が来るのを賛成するさ」

 

いや、マジで大事にしないでもらいてぇんだけどなぁ。

まぁ母ちゃん達に旅行の事は話してあるから、泊まりでも騒がれる事は無いだろう。

 

「って、何で前日だけなのよ?海鳴に帰ってきたら二日空いてるでしょ?……ふ、二日とも、と、泊まりにきなさいよッ……」

 

「あー……生憎だが――」

 

「ごめんなさい、アリサ。ジョジョはその日、私とデートだから♪ね、ジョジョ♪」

 

何と言ったものかと頭を悩ませる俺の言葉を遮って、リサリサがとっても良い笑顔でそんな爆弾を投下する。

しかも俺に同意させる視線を送りながらに、だ。

……おいおい。何て事してくれちゃってんだよ。

余りにもアレなタイミングで横槍を入れられたので文句の一つも言いたくなるが……。

 

「…………は?」

 

「……え、えっと……もう一回、言ってくれるかな、リサリサちゃん?」

 

それより先にアリサが呆然とした声を出し、すずかが目を白黒させながら問い返す。

彼女達の問い返しに対して、リサリサはその笑みを崩さずに答えた。

 

「ふふっ♪昨日ジョジョが誘ってくれたの。連絡を無視したお詫びに、デートに付き合ってくれるって♪」

 

「正しくは買い物だろ?」

 

「あら。子供だからデートじゃないって事?」

 

「別にそうは言わねーが、買い物=デートってなんのかよ?」

 

「男と女が二人っきり(・・・・・)で出掛けるのはデートと言うんじゃないかしら?」

 

「そうかぁ?……まぁどっちでも良いけどよ」

 

訂正すんのも面倒になったので、俺は溜息を吐いて会話を止める。

そして俺が何も言わなくなったのが御満悦なのか、リサリサは微笑みを浮かべながら俺に視線を向けている。

まぁ、俺にとっちゃ何でも良いんだよ。今回の事はお詫びでしかねえんだし。

 

「……へ~え?そう……アタシの家に来るのは渋々で、リサリサは自分から誘うんだぁ~……へ~え?」

 

「うぅ……まさかそんな約束してたなんて……」

 

「ふふっ♪」

 

と、何故かこっちに向けて怒りやら何やらが篭った視線を向けるアリサとすずか。

二人の視線を受けながらも優雅な笑みを崩さないリサリサという3人に囲まれた俺という構図になってる。

……やっぱりこいつ等って、俺の事を……この歳で痴情の縺れ、なんてのは勘弁して欲しいな。

いや、そもそも俺自身がコイツ等の誰かを、女の子として好きなのかすら曖昧だ。

 

まぁ、今はそれを無理に考える必要も無えだろう。

 

俺達はまだ小学生であり、只の9歳のガキでしかない。

まだ思春期もきて無え曖昧なこんな時期に好きだ、なんだと考えても仕方ないっての。

言葉にして好きだと面と向かって言われたなら、俺は自分なりの答えを出そうと思う。

でもそんな感じは一切無いし、こいつ等が俺にしてくれたキスについてはコイツ等自身がお礼だと言って、その後の事も口出ししてきてない。

大体こいつ等が俺の事を、その、なんだ……好きだとして、それは友愛?親愛?恋人に求める愛情のどれなんだ?

幾ら大人びてるっつても、コイツ等も俺と同じで思春期のきてない子供。

こいつ等が俺に抱いてる感情にしっかりとした答えが出る日まで、余計な事は考えなくて良いだろう。

それに俺自身、まだコイツ等に対する答えなんか全然考えらんねえ。

今の俺がコイツ等に感じてる感情は、間違い無く『好き』だ。

でもそれは俺の平和な日常を彩り、象徴している『友達としての好き』ってのだ。

それ以上、つまりコイツ等と恋人になりたいかと言われると、答えが出ない。

……だから、俺やコイツ等が自分で答えを出せる時まで、こーいう事を考えるのは止めよう。

 

 

 

そう……今はまだ、な……俺達の関係が変わるかもしれない、その日まで。

 

 

 

普段の俺からは考えられない様な事を頭の片隅で考えつつ、俺はパイプ椅子に深く腰掛ける。

こんな事をこの歳から考えて悩んでたら、中学に上がる頃にゃハゲちまうぜ。

今は只、気楽で、怠惰で、俺らしい人生を楽しくエンジョイする事だけ考えてりゃ良い。

その『日常』であるアイツ等と、楽しく生きられる様にな。

 

「所で、話は変わるのだが……定明君。君に提案したい事がある」

 

「ん?何スか、デビットさん?」

 

と、ぐるぐると回り回っていた思考を打ち切った俺に、デビットさんが真剣な表情で質問してきた。

その様子に只事ではない雰囲気を感じたのか、アリサ達も睨むのを止めてデビットさんの言葉に耳を傾ける。

 

「うむ。私は先程、海鳴に戻ってきたらという前提で話をしたが……君さえ良ければ、このまま一緒に海鳴に戻らないかね?ご両親が帰られるまで、私の家に住まないか?」

 

「え?」

 

「えッ!?良いの、パパッ!?」

 

そして、デビットさんから申し出た提案の内容にビックリする俺と、驚いた声を挙げるアリサ。

一方で提案したデビットさんは、重々しく頷いて言葉を紡ぐ。

 

「勿論、君に命を救われた礼でもあるが、誤解しないで欲しい……私は純粋に、君が心配なのだよ」

 

「……」

 

「すまないが少し、調べさせてもらった……君はこの10日余りの間に、今回も合わせて5回も事件に巻き込まれているんだろう?それも殺人や誘拐等の危険な事件に」

 

「ッ!?」

 

「そ、そんな……ッ!?」

 

「……本当なの?……ジョジョ」

 

「……良く調べましたね」

 

「仕事柄、こういった情報も入る様になっているからね……それに君が今お世話になっている伯父さんというのが、あの有名な『眠りの小五郎』というのも知っている」

 

「「「ッ!!?」」」

 

デビットさんの調べた情報を聞いて、3人は目を見開いて驚く。

確かに、新聞のテレビ欄しか見ない俺は知らなかったが、眠りの小五郎は世間でとても有名だ。

バニングスの様な大物企業なら、その手の情報だって簡単に手に入るだろうよ。

内心、アリサの家の凄さに舌を巻いている俺の目の前で、デビットさんはとても真摯な目で俺を見つめる。

 

「……私も米花町や杯戸町の犯罪発生率は噂程度に聞いていたが、実際に体験して分かったよ。ハッキリ言って、この地は危険過ぎる。まるでヨハネスブルグじゃないか」

 

「……」

 

「定明君。私は娘だけでなく私の命すら救ってくれた君を、この危険な地へ放っては帰れん。もし君に何かあれば、ご両親も悲しまれてしまう。私の家に泊まりなさい。そうすれば、君の命は安ぜ――」

 

「良いッスよ、デビットさん……俺は残りますから」

 

「ッ……」

 

「えッ!?ど、どうしてなの定明君ッ!!一緒に帰ろうよッ!!」

 

「な、何考えてるのよッ!?何でアンタはこんな危ない街に残りたがるわけッ!?」

 

俺がデビットさんのお誘いを断った瞬間、アリサとすずかは怒りながら俺に詰め寄る。

その一方でリサリサとデビットさんは「やっぱり」といった感じで目を細めるだけだった。

 

「何でも何も無えよ。俺はまだ、やらなきゃいけねえ事が残ってるからだ」

 

「や、やらなきゃいけない事って……」

 

「……まさかアンタ、さっきの犯人を捕まえるつもり?」

 

詰め寄ってきたアリサ達を見ながら俺が残る理由を説明すると、二人は不安に満ちた声で予想を口にする。

まぁ、さすがに分かるか。俺が残る意味なんてのはよ。

視線で問いかけてくる二人に対して苦笑いしながら頷くと、二人は何も言わず押し黙ってしまう。

だが、アリサとすずかの視線にはまるでそれをしないで欲しいと縋る様な気持ちが見え隠れしていた。

 

「……それってやっぱり、貴方の伯父さんや従姉の蘭さんが居るからね?ジョジョ」

 

「ったりめーだ。でなきゃ何が悲しくてこんな危ねえ街なんぞに居たがるもんかよ……ったく、面倒臭え」

 

半ば確信を持って質問してきたリサリサに、俺は髪を掻きながら答える。

正直言って、デビットさんの提案は凄く魅力的だ。

さっさとこの街からおさらばすれば、ここよりもっと安全な海鳴に帰って過ごせる。

残りの日を平和に過ごして、母ちゃんと父ちゃんが帰ってくるのを心穏やかな気持ちで待っていられるだろう。

 

 

 

――だが、そうはいかねえ理由が、この街にはある。

 

 

 

「デビットさん。正直なトコを言いますと、ね?俺もスゲー帰りてえッスよ?……酷い時は立て続けで事件が起きる米花町に後4日も居るなんて、理由が無けりゃさっさと帰ってます」

 

「……」

 

「でもね――残り4日しか無えんスよ(・・・・・・・・・・・)――俺の家族と同じくらい大切な人達を、俺がこの街に居て守れるのは」

 

真っ直ぐに俺を見て無言を貫くデビットさんにそう返しながら、俺は思い返す。

もしも蘭さん達が何かの拍子に死んだら?

それはつまり、俺の親戚が……母ちゃんと父ちゃんの大事な人達が死ぬって事だ。

あの二人のどっちかだけでも死んだら、母ちゃんと父ちゃんは絶対に泣く。

あの優しい二人が、自分の親類が死んで悲しまない訳が無い……そういう人達なんだよな。

 

――だから、俺は母ちゃん達を……俺の大切な家族を悲しませない為に、蘭さんや伯父さんを守りてぇと思った。

 

ここに来る事が出来ない父ちゃんと母ちゃんの代わりに……どんな事があろうとも。

 

それが、俺が母ちゃんから教えてもらった”後悔しない生き方”だと思ったから。

 

それに、俺も毛利家の人達の事を好きになっちまったんだ。

この10日余りの間、いきなり押し掛けた俺を文句も言わず笑顔で迎えてくれた伯父さん。

憎たらしい口ばかり聞く俺に優しく接して、毎日手間だろうに食事の用意や洗濯すらしてくれた蘭さん。

 

 

 

――俺にとってもこの人達の事が、心底大事な存在になっちまった。

 

 

 

毛利家の人達はずっと俺の日常って訳じゃ無いだろう。

同じ地域に住んで同じ生活を過ごす事も無く、それぞれに生活がある。

もしかしたらこの先、一生交わる事は無いかもしれない。

なら、今という縁があるこの時、俺があの人達を守りたいと思うのは当然じゃねえか。

俺が海鳴に帰った後も、蘭さんと伯父さんは変わらずにこの地で暮らしていくだろうさ。

もしかしたら長い人生、その間に死ぬ事があるかもしれない。

だが俺には俺の人生があって、生涯ずっと二人を死から守るなんてのは無理だ。

なら、せめて今だけでも俺が守りたいと思うのは、当たり前だと思う。

 

「もし、俺が日にちを切り上げて米花町から居なくなった次の日に、伯父さんが死んだら?蘭さんが命の危険に晒されたら?……そん時、俺は一生後悔する」

 

「……」

 

「でも、俺がこの地に居る間は――俺が傍に居る間は蘭さんも、伯父さんも、その周りの人達だって守れるかもしれない……俺が持ってるスタンドってのは、こーいう時にこそ使わねーとって思うんスよ」

 

ハッキリ言って、これは俺の我儘でエゴ。自己中な考えで偽善でしかない。

俺が居る間は俺が守る?ハッ、何様だっての。

大体、俺が帰ったら後は自分達で何とかして下さいだなんて、ムシが良いにも程がある。

――まぁ、俺は自分勝手だから好きにやるっつうだけなんだがな。

俺が守りたいと思ったから、俺は自分の為に助けたいと思ったヤツを守る。

 

「俺は正しいと思ったから、俺の我儘で勝手にあの人達を守る――俺は、俺の”日常(・・)”を壊しかねない存在は許さない……だから、俺は帰りません」

 

「……例え、彼等の命を守らなければならない事件が起きたとして……彼等が君のお陰で無事でいるという事を知らなくてもかい?」

 

「今言ったじゃないッスか。俺は自分の都合で勝手にやるんスよ。感謝が欲しくてやるんじゃねえ――だって、俺の心の平穏の為なんスから」

 

「……そうか」

 

アルフにフェイトを助けてくれと頼まれた時に、内から沸き上がってきた様な思い。

それを改めて口にして、自分の中に覚悟を持たせた。

清々しく、何処までも自分勝手で臆病な台詞を、俺はデビットさんを真っ直ぐ見つめて言葉にする。

人が勝手にした事を恩着せがましく「感謝しろよ」なんて言うつもりは無い。

何故なら、何も知らないで平和に過ごせる事こそが一番大切なんだ。

俺は俺の中の欲を満たす為に、勝手に犯人をブチのめして警察に逮捕させるだけなんだから。

そして自分の目の前で誰かに死んで欲しくないから、助ける……それだけだ。

自分の中に浮かんだ思いを口にし、ちょっと臭い台詞だったかと思って頭を振る。

しかし、そんな俺の頭上から楽しそうに笑う声が落ちてきた。

その声に頭を上げると――何と、全員が俺を見て笑っているではないか。

 

「ふふっ♪……ジョジョ、貴方気付いてる?」

 

「あ?」

 

「何よ、気付いてないの?……あのね、一つ覚えときなさい」

 

「そうやって、誰にも自分のした事を褒められたり、感謝されなくても人を救おうとする人の事はね……こう言うんだよ?」

 

 

 

――それは、”ヒーロー”なのだと――アリサ、すずか、リサリサの3人は笑う。

 

 

 

その言葉を聞いて呆けた表情を浮かべる俺を見て、3人は再びクスクスと微笑む。

……ったく、何がヒーローだよ。

 

「アホな事言ってんじゃねぇ。俺がヒーローなんて有り得ねーだろ」

 

「あら?どうして?」

 

「どうしても何も無えよ、リサリサ……俺の知ってるヒーローってのはな、世の為人の為自分の為にどんな困難も、恐怖も乗り越えてやるっていう”黄金の精神”を持った人達の事だ……俺とは違う」

 

何とも的外れな事を言ってくれた3人に、俺は溜息を吐きながら言葉を返す。

俺の知ってる、尊敬するヒーローってのは……どんな時でもタフな精神と信念を崩さない、あの歴代のジョジョ達だ。

 

それが当然とでも言う様に真っ直ぐな信念を持った紳士であり続け、勇気という言葉が誰よりも似合うジョナサン・ジョースター。

 

お調子者だがユーモアを兼ね備え、友人や尊敬する者を迫害する者にはどんな相手でも毅然と立ち向かうジョセフ・ジョースター。

 

クールで無愛想な不良であり、冷静沈着で根は優しく、その怒りは正義に震えた証の体現者、空条承太郎。

 

この世のどんな力より優しい力を、言葉という上っ面だけのモノではなく精神そのもので現した優しいツッパリ、東方仗助。

 

悪の帝王を父に持ちながら心は正義を受け継ぎ、しかし父譲りの冷徹さも兼ね備えた正義のギャングスター、ジョルノ・ジョバーナ。

 

父譲りの冷静さと正義の心を持ち、様々な出会いと別れの中で逞しく麗しい女性へと成長した只一人の女ジョジョ、空条徐倫。

 

歴代とは違い、心に秘めるのは殺人すら厭わない漆黒の意志。黄金の精神に対し、あるいは対極に位置する「殺意」の輝きを持つ、ジョニィ・ジョースター。

 

自分は何者なのか?その答えを何処までも探し、自らを救った存在の敵には”明確な殺意”を抱き守る、東方定助。

 

あの人達の様な、どんな時でも自分の信念を貫き通すタフな精神の持ち主こそが、俺にとってのヒーローって姿だ。

俺が力を使ってまで守ろうとしてるのは、自分を取り巻く日常と、その日常を生きる友達や家族。

そして、目の前で誰かの悪意に晒されてる人間だけ。

アルフの頼みを聞いたのだって、アイツの真剣で何処までも真っ直ぐな思いに心動かされたからだ。

態々困ってる知らねえ奴を探しだしてまで困り事を何とかする気は無え。

 

「俺は目の前でトラブった奴が居たら助けるってだけだ……そーいうのは全身全霊守んねーとよぉ。夢見が悪いからな」

 

目の前で死にそうな奴を助けずに放置したら、それから毎日ずっと後悔しなきゃいけねえ。

そうなるくらいなら、スタンドを使って助ける方がマシだ。

それが、母ちゃんの抱擁と言葉を貰って……俺が覚悟した、俺なりの生き方ってヤツだから。

どんな選択であれ、自分が後悔しない様に生きる……それこそ、俺が守りたいと思った”城戸定明の日常”なんだからよ。

勿論、相手が只のゲス野郎なら、許すつもりは無えけどな。

目の前で間違えてる3人の言葉を覆そうとするも、それを聞いて増々笑みを深めてしまう。

 

「そうやって、人を助けようとする心を持ってる……だから、定明君はヒーローだと思うよ――少なくとも、定明君に助けてもらった私はそう思ってるもん♪」

 

手を後ろに組みながら、俺に優しい笑顔を向けるすずか。

 

「アンタがどれだけ否定しても知ったこっちゃないわ……アンタがどう思おうと、どんな理由があろうと……あの日、彼奴等から私とすずかを助けてくれたアンタは――間違い無く、アタシ達のヒーローだったんだから」

 

何時もの勝ち気な目で俺を見ながら、口元を吊り上げて異論を認めさせないアリサ。

 

「……あの時、私を庇って誘拐犯と戦ってくれたジョジョから、私は”ダイヤモンドの様な気高さ”を感じ取ったの……貴方風に言えば、”黄金の精神”をね……私達の命を救ってくれたという事実は、ジョジョがヒーローの条件だって言う黄金の精神を持っているという、紛れも無い真実よ」

 

そして、俺達より一つしか違わないのに、とても大人びていて優雅な微笑みを浮かべるリサリサ。

 

3人が其々自分の思いを、俺に語り掛ける。

まるで、俺の意見なんて知った事では無いという風に、覆せない意志を感じさせながら。

そして思った通り、俺には3人の思いを否定する事は出来ない。

何故ならそれは俺の考えでは無く、彼女達が其々感じ取った、彼女達だけの意志だからだ。

 

「……ハァ……ったく……やれやれだぜ」

 

「ハハッ。負けたね、定明君……では、私からも言わせてもらおう……君の日常を守りたいという意志。それは紛れも無く、一本筋の通ったタフな信念であり意志だ――そして」

 

俺に対する認識を変えられない事を悟って溜息を吐いた俺に、今度はデビットさんが声を掛けてくる。

その声に従ってそっちへ振り向くと、デビットさんはとても良い笑顔を浮かべて――。

 

 

 

「君がヒーローか否か、それは自分で決めるものではない――それを決めるのは何時だって、君に救われた側なのだからね」

 

 

 

そう、とても楽しそうな笑顔で言い放った。

 

 

 

to be continued……

 

 

 




結構心臓がバクバクしてます(:.;゚;Д;゚;.:)ハァハァ

自分的にはメアリー・スーにはなってないなと何度も確認しながら書きましたww

歴代のジョジョとは違っても、定明にも黄金の精神があるのかどうか。

自分の為=地球を救う形になったプレシア戦でも匂わせていた、定明の持つ精神。

蘭と和葉を月村裕二から、誰にも知られる事も無く、感謝される事も無く、秘密裏にその心と体、そして生命の尊厳を守り通した覚悟と勇気。

その部分を少しだけ掘り下げてみました。

トラブルを嫌いながらも、母の愛を心の根幹に根付かせる定明。

そしてその母の愛情が、大切な人を失う事の悲しみと恐怖を……それに立ち向かう勇気を教えてくれた。

そうやって、受け継がれゆく精神の話を今回書いてみました。


お目汚しにならなければ幸いです。


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ひとりひとり面接して調べても(ry

え~、皆さん。
大変に遅くなってしまって申し訳ありませんm(_ _)m

執筆の遅い事に定評のあるPIGUZAM]にございます。

仕事は忙しいしバイク購入の手続きは多いし受け取りに行かなきゃで。

オマケにバトルフィールドHFに出撃してて時間が取れませんでしたwww

更に新連載(ん?)のネタを考えて煮詰めてで頭があっちゃこっちゃ。

にっちもさっちも行かない私ですが、何とか書き上げました。

しかしまだ次の映画をどれにするか決まってない(絶望)

こんな私ですが、これからも頑張りますのでよろしくお願いしますッ!!



 

 

「どうもどうもッ!!わたくし、定明の伯父であり、名探偵の毛利小五郎と申しますッ!!」

 

「おぉ、これはご丁寧にどうも。私はデビット・バニングス。毛利さんのご高名はかねがねお伺いしておりますよ」

 

すっかり日も傾き始めた夕方頃。

署内から聞こえてくる高木刑事の悲鳴っぽいものをBGMに聞きつつ、俺達は警視庁の外に居た。

そこでお互いに向き合って礼をしながら名刺交換をする伯父さんとデビットさんを眺めつつ、俺は背骨をグイッと伸ばす。

ん~……もう夕方じゃねえか……慌しい1日だったなぁ。

入口手前で俺とアリサ達は伯父さん達を待っていたんだが、伯父さんは俺の隣に居るのがデビットさんだと知って挨拶をしたという次第だ。

SPの人達が車を取りに行ってる間に名刺交換しているのを尻目に鉄球を弄ぶ。

……どうでも良いけど、大企業の社長であるデビットさんが普通の名刺で伯父さんが金ぴかの名刺なのが凄え違和感を感じる。

無駄に懲りすぎだろ、金ピカの名刺って……。

 

「いやー、定明から話は聞いていたんですが、こうしてお会いするまで半信半疑でしたよ。何か事件がアレば、この名探偵にどうぞご連絡下さいッ!!」

 

「ええ。もしもの時は是非、そのお知恵を拝借させて頂きたいものです」

 

「ふっ。どーんとお任せ下さいッ!!(ついでにギャラも期待させて下さいねーッ!!)」

 

止めて。アンタが来る=ホント大変な大惨事に繋がるから。

頼むから俺の住む町に死神坊主を連れ込まないでくれ。

恐らくデビットさんも同じ事を考えていたのか、苦笑しながらも大人な対応で小五郎さんに返答を返す。

まぁ俺みたいにコナンの事を知ってる訳じゃ無えし、伯父さんが死神って認識だろーけど。

 

「はぁ……結局撮れなかったね、写真」

 

「そうね。多分これから修理工事とかも入るだろうから、暫くベルツリータワーには入れそうに無いだろうし」

 

「ホント最低よ……ッ!!折角のプレオープンが台無しだわ」

 

そんな感じで不吉なフラグを構築する伯父さんに慄いていたら、傍に居たアリサ達が愚痴ってる声が響く。

折角東京まで来たってのに、事件に巻き込まれて楽しい時間がおじゃんだからな。

 

「まぁ、ベルツリーは諦めるとして、まだまだ遊ぶ日にちは残ってるし今日の事は忘れて気楽に行こうや」

 

「簡単に言わないの。あんな光景、早々忘れられるわけ無いでしょーが」

 

鉄球を片手で回転させながら慰めると、アリサは拗ねた顔で俺に言葉を返す。

プイッとそっぽを向きながら口を尖らせるアリサの言葉に、肩を竦めて口を開く。

 

「”大丈夫”。お前等は今日の事を気にする必要は無えさ」

 

「で、でも……あっ……」

 

「……アンタ」

 

人が死んだ光景を見せられて精神的に不安定な筈の3人にそう答えると、アリサ達は訝しんで俺に顔を向ける。

しかし、それは”俺の肩に乗っかっているスタンド”を見て、呆気にとられた様な表情へと移り変わった。

人の痛みや悩み、という”概念を吸い取り”人間の全てを癒すスタンド、『ザ・キュアー』。

俺はキュアーを3人の肩に順番で飛び移らせて精神的ショックを吸い取らせながら、呆ける彼女達に笑みを見せた。

 

「お前等は今日も、ゆっくりと熟睡出来る……心穏やかに、な」

 

キュアーに悩みという概念を吸い取られたお蔭か、アリサ達の表情は先ほどよりも軽やかになっていく。

ダチに何時迄もあの光景の事で苦しまれんのも忍びねえからな。

 

「……ありがとう、ジョジョ」

 

「さあて、何に対してのお礼だか」

 

そこそこ離れているとは言え、コナンや蘭さん達の居る場所でおいそれとスタンドの事は言えない。

だから適当に主語を濁してクスリと微笑みながらお礼を言ったリサリサに、俺も同じ要領で返した。

更にすずかは微笑みを浮かべ、アリサは何やら恥ずかしそうに髪の毛をクルクル指で巻きながら俺をチラチラと見る。

 

「ま、まぁ、アタシは頼んでないけど……ありがと」

 

「ありがとう。定明君の言う通り、本当にゆっくり眠れそうだよ」

 

「おう、ゆっくり寝ちまえ」

 

さっきまでより和らいだ雰囲気を肌で感じながら俺もニヤリと笑う。

嫌な気分で帰るより、笑って帰れればそれに越した事は無えだろうよ。

 

「そういえば、ジョジョ。さっきコナン君に貴方の鉄球の事を聞かれたわ。回転の原理は何か知ってるの?って」

 

「あぁ、やっぱりか。リサリサは俺の鉄球の秘密の一部に感づいたって教えてたから、もしかしたらって思ってたんだがな」

 

「そういう事だったの……まぁ、私が気付いたのはホンの偶然だったし、鉄球自体じゃ無かったんだけどね」

 

「まっ、どっちも似た様なモンさ」

 

苦笑するリサリサの言う通り、リサリサが気付いたのはタスクの方だったな。

まぁ原理自体は一緒だし、別に良いだろ。

鉄球もタスクも、黄金長方形と関係を持ってるのは間違いじゃねぇからな。

 

「それで?コナンには何て答えたんだ?」

 

「ふふっ♪……答えは、貴方の目に映る物の中にあるかもって答えておいたわ」

 

「そいつは何とも詩的なお答えで」

 

微笑みを浮かべながらも、その表情の中に少しだけ悪戯げな色を写すリサリサ。

俺はそんなリサリサの言い回しを聞いて笑ってしまう。

確かにリサリサの言葉通り、黄金長方形は自然の中にだけ存在する”天然のスケール”だ。

従って、言ってる事に間違いは無い。

無いんだが……中々に良い性格してるぜ、リサリサの奴。

それでコナンの奴、さっきから蘭さんの傍で難しい顔してんのか。

まぁ、精々頭を悩まして考えてくれ。

そんな風に各々が警察署の前で適当に過ごしていると、黒塗りのセダンに前後を挟まれたリムジンが路肩にハザードを焚いて停止する。

 

「(ガチャッ)旦那様。お待たせいたしました」

 

「うむ。すまんな」

 

「ちゃっす。鮫島さん」

 

「これは定明様。お元気そうで何よりです」

 

リムジンの運転席から降りたのはアリサ専属執事にしてバニングス家の執事長である鮫島さんだ。

軽く挨拶を返した俺に丁寧に頭を下げて返答する鮫島さん。

相変わらず出来る大人の見本の様な人だ。

しかしまぁ、そんなに元気そうに見えるかね?これでも一暴れしてきたんだけどよぉ。

鮫島さんが来たという事は、アリサ達が帰る時間になったという事になる。

 

「ではアリサお嬢様、すずか様、リサリサ様。どうぞお乗り下さい」

 

「ありがとう、鮫島」

 

鮫島さんがリムジンのドアを開けてその傍で頭を下げつつ、アリサ達を呼ぶ。

いよいよ海鳴への帰還って訳だ。

個人的には一緒に乗せて帰ってもらいてぇんだけどなぁ……ほんと、やれやれだぜ。

そう考えて溜息を我慢していると、背後に『キッス』を呼び出したリサリサがスタンド越しに語りかけてくる。

 

『貴方には要らない心配かもしれないけど……気を付けてね』

 

『なぁに、心配すんな。無茶な事はしねーよ』

 

『あら。その無茶な事っていうのは、普通(・・)から見て?それとも……私達(スタンド使い)から見てかしら?』

 

『おいおい何だよそりゃ?勿論前者だっつうの』

 

かなり鋭い所を突いてきたリサリサに、俺は平然と嘘を返す。

勿論そんな事があるとは思えねえが相手がどんな手を使ってくるか分からねえ以上、無茶をしないっていう確約は出来ねえ。

もしかしたら、一般的な意味じゃなく、スタンド使いの俺からしてもヤベエ事をするかも知れない。

でもそんな事を伝えたら、コイツ等の事だ。

最悪、犯人逮捕に協力するとか言いそうだし、下手な事は言えねえよな。

表情が硬くならない様、且つ自然に言葉を返した俺。

アリサとすずかもそれをリサリサの隣で聞いて安心した表情を浮かべる。

……だが……リサリサは俺の顔を見て何やら悩ましげにフゥ、と息を吐いた。

 

『……そう……それなら良いの……怪我しない様にしてね』

 

少しだけ苦笑いしながらそう言うと、リサリサはキッスを仕舞ってリムジンに乗り込む。

あー……どうやらバレてたっぽい。やっぱリサリサには通じねーか。

呆気なく嘘を見破られちまったけど、リサリサはあえて何も言わずに車に乗ってくれた。

そりゃあつまり、俺の嘘が分かっていながら気付かない振りをしてくれてるって事だ。

これは海鳴に戻った時に礼の一つでも言わねえとな。

 

『分かってると思うけど、定明。掠り傷でもしたら承知しないんだから』

 

『はいはい、判ってますって。怪我して旅行に行けねぇなんてなったら、それこそ恐ろしいぜ』

 

主にアリサ達に怒られるのが、な。

しかも言ってる意味が通じたらしく、アリサはフフンと笑いながら俺と視線を合わせてくる。

 

『うんうん。ちゃんと分かってるじゃない。旅行キャンセルなんてするんじゃないわよ……それと、まぁ……ちゃんと怪我しないで帰ってきなさい』

 

『……おう……グラッツェ、アリサ』

 

「……ふんだ」

 

最後にかなり小さめの声で心配してくれたのでお礼を言うと、アリサはスタンドではなく肉声でボソッと呟きながらリムジンに乗り込んだ。

まぁ、背ける前に耳まで真っ赤に染まった顔色が見えたから、照れ隠しだろう。

それを追求するとまた要らん火種を生みそうだという予感がしたのでスルーしたが。

リサリサとアリサが言いたい事を言ってリムジンに乗り込み、最後にすずかが残る。

すずかだけは他の二人と違って不安そうな目で俺の事を見ていた。

 

『定明君。無事に帰ってきて。絶対だよ?』

 

『大丈夫だって言ってんだろ?信用ねえなぁ』

 

『……信用無いからじゃ無いよ……心配だから、だもん』

 

すずかの念を押す言葉にぞんざいに返すが、すずかは依然として心配そうな目で俺を見つめてくる。

……こーいう時に適当に返すのも、心配してくれてるすずかに悪いか。

その真摯な気持ちを理解して、俺は髪を掻きながら真剣な目ですずかと目を合わせる。

 

『絶対に無事に戻る。それは約束すんぜ……だからすずか。お前は何にも心配すんな』

 

『……うん……分かった。定明君を信じるよ』

 

『GOOD』

 

真剣に約束したのが功を奏し、すずかも最後は微笑みながら約束してくれた。

それに対し俺も微笑みながら答え、すずかがリムジンに乗り込んでいくのを見届ける。

さあ~て……残り四日間、最後の正念場ってね……やったろうじゃねえか。

俺が帰るまでに、伯父さんと蘭さんの回りを少しでもクリーンにしておかねえと、な。

3人が乗って鮫島さんがリムジンのドアを開けて待っている中、デビットさんは伯父さんに頭を下げた後、俺に向き直った。

 

「では定明君。六日後を楽しみにしているよ」

 

「あんま大事にしないでもらいたいッスけどね」

 

「はははっ」

 

そこは笑うんじゃなくて返事して欲しいんですけど?

……多分、変える気は無えんだろうな。

そのまま車に乗り込むデビットさんを見届け、最後にお辞儀した鮫島さんに倣って、俺もお辞儀を返す。

 

「では定明様、そして皆様。これにて失礼させていただきます」

 

鮫島さんの言葉に皆も慌てて頭を下げ、ついに鮫島さんも運転席に乗り込む。

その時、チラッと俺に視線を向けて目礼をしてくれた鮫島さんに、俺は笑顔を浮かべて見送った。

やがてアリサ達を乗せたリムジンは見えなくなり、俺達も帰路へ着く。

車のある駐車場まで皆で歩く中、俺は鉄球を手の上で回転させながら思考も回転させていた。

 

まずどうやって昼間の犯人達を見つけるかっていう事だ。

 

単純な話、犯人達の正体を知るだけなら『ムーディ・ブルース』のリプレイ能力を使えば良い。

 

しかし今はまだ現場に鑑識や刑事達が出入りしている訳で、人目を忍んで行動するしか無え。

となると、だ……必然的に行動時間は夜に限られちまう。

しかも蘭さん達にもバレない様にしねーと駄目という前提条件付き。

オマケとばかりにコナンの目も逸らさないとなぁ……中々に面倒くせー感じだな、まったくよぉ。

思考をうち切って隣に視線を向けると、世良さんは難しい顔で考え事をしているっぽい。

更にその隣のコナンも同じ様な顔で何かを考えてる顔だ。

 

「にしても、あのハンターって人。何で”6年経った今になって”復讐を始めたのかな。復讐したいなら、狙撃という長距離からのアドバンテージを持っているんだし、直ぐに実行出来そうなモンだけど……」

 

「そういえば、そうだね……」

 

「なんでだろう?」

 

と、世良さんが難しい顔で漏らした疑問に、蘭さんと園子さんも首を傾げる。

……言われてみれば、確かにそうだな。

何で6年という短くも無い時間を、ハンターは何もせずに潜伏していた?

復讐だというなら、ササッと撃ち殺してしまうのが普通だ。

何より自分の家族の仇がのうのうと生きているのを見過ごすなんておかしい。

 

「へっ。んーなモン、直ぐに殺しちまえばアシが付いちまうとか考えたんじゃねぇのか?自分がトラブッた相手が殺されたとなりゃ、容疑者に上がるのは明白だからな」

 

「まぁ、確かにそう考えられるけど……本当にそうなんだろうか?」

 

世良さんの疑問に小馬鹿にした様な言い草で答える伯父さんだが、確かにそう考えると少しは納得できる。

時間を空けて、あたかも『自分は恨みを忘れました』と見做されれば、少しは捜査の手も緩むと考えるのが自然。

でも、シアトルで一人撃ち殺しただけで、ハンターはホシだとほぼ断定されちまってる。

こう考えるとハンターの6年という潜伏期間は只の無駄な時間だったとも考えられるが……な~んか腑に落ちねぇな。

 

……まぁ、別にどうでも良いか。

 

例えその6年という時間に何があったかなんて知らねーしどうでも良い。

ささっと犯人の二人をブチのめして警察に突き出せば、それで終わりなんだからな。

それに”ハンターが狙撃犯と決まった訳じゃない”だろうに。

あの場には二人居たんだから、ハンターが撃ったかどうかも微妙なトコだ。

その辺りの事もハッキリさせておかねぇと、面倒な事になりそうだぜ。

と、そんな事を考えてる間に世良さんと別れ、園子さんも迎えが来るという事でその場で解散。

毛利家の俺達は伯父さんの借りたレンタカーに乗って、探偵事務所へと向かうのだった。

 

「そういえば、コナン君と定明君はハカセの家に遊びに行くんだっけ?」

 

「あ、うん。帰りはハカセが送ってくれるから」

 

蘭さんの台詞に、コナンが答えたので俺もそういえばと思い出した。

確か今日はハカセの家でご飯を御馳走になった後、花火をする予定だったっけ。

 

「なんだ?じゃあハカセの家に行かなきゃいけねえのかよ?っつうか事件があったのに花火なんてすんのか?」

 

「さっきするってメール来てたから。それと僕、ウチに忘れ物しちゃったから取りに帰りたいんだけど……定明にーちゃんはどうするの?」

 

「俺は戻る用もねえし、このまま行かせてもらうわ。伯父さん。この近くで降ろしてもらって良いッスか?ちと買いたいモンがあるんで」

 

俺の質問に伯父さんは「わあったよ」と答えながら、路肩に車を停車してくれた。

さすがに手ぶらでいくのも何だし、ちょっと買い物しとくとするか。

俺は伯父さんに礼を言って車から降り、ドアを閉める前にコナンに向き直る。

 

「それじゃ、俺は先に行ってるから、コナンも気をつけて来いよ」

 

「うん。じゃあ後でねー」

 

「気を付けてね、定明君」

 

「何かあったら連絡しろよ」

 

「ういっす。そんじゃ」

 

蘭さん達の言葉に返事を返して、俺は車のドアを閉める。

そのまま再び車が走り去ったのを確認して俺はお土産を買ってからハカセの家へと歩いて向かう。

スケボーは担いでるけど、そんなに急がなくちゃいけない理由も無いからのんびり歩いてる。

それともう一つは……。

 

「って訳で、最近はスリルに悩む事の無いスペクタクル溢れる日常を歩んでるぜ」

 

『……そうか……まさか名探偵コナンの世界観まで混じってるなんてな……お前からのメールにベルツリーって書かれてた時点で嫌な予感はしていたが』

 

俺と同じ転生者である相馬への報告をしてるからだ。

こういう情報はちゃんと共有しとかないと、後々面倒になりそうだし。

電話越しに俺の報告を聞いた相馬は難しい声で唸っている。

 

『参ったな……名探偵コナンは殆ど見ていなかったから、力になれそうにない。すまん』

 

「別に良いって。俺も同じよーなモンだし……どっち道、伯父が毛利小五郎ってだけで逃げ道0だろ?まぁ海鳴に帰ればそうでもねぇんだろうけど」

 

『う~む。確かに……まるで”マス目が全部スタートに戻る”しかない人生ゲーム、だな』

 

「何しても運命は決まってるってか?そんな面白味の無えゲームなんざ、クレーム付けて返品してぇぜ」

 

『間違いなく、突き返されるだろうがな』

 

俺の嘆きに対して、相馬は電話口に苦笑いする様な声で笑う。

人事だと思って笑ってんじゃねぇよ、薄情者め。

 

『それに……口ではそう言っても、お前は返品したりしないだろう?そんな面倒な人生ゲームでも』

 

不意に、半ば確信を持った言葉を発する相馬の声に、俺はピタリと足を止める。

 

『どれだけ面倒でも、大変でも……今まで築き上げた”財産”を手放す様な馬鹿な真似はしない……違うか?』

 

「……あぁ」

 

相馬の質問に短く答え、また歩みを再開。

確かに相馬の言う通りだ。

どれだけ面倒毎が散りばめられた人生ゲームでも……今更返品は出来ねえ。

っつうか意地でも返す気は無えよ。

 

「万年新婚ばりのバカップルで子煩悩な両親。気の良い金持ちな大人達。それにドが付く程に騒がしいダチ連中……ホント、捨てるなんて出来ねえな」

 

『ははっ。違いない』

 

俺が今までこの世界で築き上げてきた”財産”を一つ一つ確認しながら、俺はニヤリと笑みを浮かべる。

電話口越しだけど、相馬も多分同じ様な笑みを浮かべているだろう。

何より、俺の”今”はゲームなんかじゃねえ。

俺が最初に貰った力で……捨てられ無えモンを、ちゃんと守っておかねえとな。

何せ、こちとら生きてからまだ9年しか経ってねえんだ……まだまだ遊び足りねえよ。

 

『何か手伝える事があったら遠慮無く言ってくれ。力を貸すよ』

 

「あぁ。すまねえ」

 

『良いさ。お前にはジュエルシードの時に迷惑をかけたし、フェイトを助けてもらった。寧ろ借りがあるのは俺の方だ』

 

「そうか。なら、遠慮なく返してもらうとすっか。今までの延滞分も含めてな」

 

言質は取ったぞ、と笑いながら言うと、相馬は「加減してくれよ」と返してくる。

まぁ、どうなるかはその時次第って事で。

その後、ニ、三言話して通話を切り、俺はハカセの家にお邪魔した。

程なくしてコナンも到着し、皆で灰原とハカセの作ったカレーを夕飯に頂いたが、中々に美味かったぜ。

土産に買ってきたメロンは皆に大喜びされたが、ハカセは灰原に食事制限されてルーと涙を流すのであった。

 

そして食事から少しして、全員で家の屋上に上がって花火をする事になったんだが……。

 

「「「……」」」

 

「どぉしたオメーら?折角の花火なのに元気無えじゃねーか?」

 

「当たり前でしょ。人が目の前で撃たれたのよ?」

 

「まっ、それもそーか」

 

何時もより元気の無い円谷達に向けてのコナンの台詞。

それに呆れた様に返す灰原だが、そこは全くもって灰原に同感である。

今現在、買ってきてあった花火セットの締めに皆で線香花火をやってる訳だが、その空気は何時もより暗め。

まぁこの面子の中で何時も騒がしい3人が静かな時点で暗くなって当たり前だ。

コナンは高校生な訳で、灰原も根が静か、というか必要なきゃ何時迄も黙ってる。

なのでまぁ、静かなのは当然なんだが……。

 

「それだけじゃねーよ」

 

「ん?」

 

「え?他に何があんだよ?」

 

いきなり少し怒った様な声で喋る小嶋にコナンが聞き返すと、円谷と吉田も不満そうな顔を持ち上げる。

 

「折角撮った写真、取られちゃったんだよ」

 

「デジカメもぜーんぶです。幾ら事件だからって酷過ぎますよ」

 

と、3人揃ってやいのやいのと文句を零す。

あぁなるほど、こいつら自分達のデジカメとか、自由研究の為の情報を警察に取られたのが尺な訳だ。

そりゃあんだけヤル気になってたってのに水刺されちゃ拗ねたくもなるか。

 

「預かっただけよ。直ぐに返してくれるわ」

 

「え?そうなの、定明さん?」

 

「ん?何で俺に、って、消えた……」

 

どうして俺名指しで聞くかね、吉田は。

いきなり名指しで聞かれ面食らったものの、俺は消えた線香花火をバケツに放り込んでから答える。

 

「捜査の手がかりになるかもしれねーからだろーよ。分析なり解析なりしたら返してくれるって。お上が盗みやらかしちゃ笑い話にもなんねぇさ」

 

「そうそう。長くても1週間くらいだ。ちょっとだけ待とうぜ」

 

俺に続いてコナンもそう答えると、3人は納得した表情を浮かべて各々の線香花火へと目を向けた。

しかしもう寿命が来てた様で、皆して大した時間差も無く線香花火は全て順繰りに消えていく。

最後まで残っていた灰原の花火も消えたのを確認して、俺は立ち上がって背伸びをする。

そこにさっきから白衣でお腹回りを隠してるハカセがにこやかに俺達に声をかけた。

 

「どうじゃ?少しは気分転換になったかの?」

 

「こんなんじゃ無理だよ」

 

「うん。歩美も……」

 

「もっと買ってくれば良かったですね」

 

ハカセの問い掛けに、吉田達は揃って不満そうな声を漏らす。

まぁ人が目の前で撃たれた気分転換には、ちと物足りねえかもな。

アリサ達の沈んだ気持ちは『ザ・キュアー』に吸い取らせたから問題無いけど、こいつらも何とか気分転換させてやりてぇな。

 

「ふっふっふ。そう言うじゃろうと思って、準備しておるぞいッ!!」

 

と、三人の言葉を聞いたハカセが笑いながら、今まで白衣で隠していたお腹回りを広げる。

するとハカセのお腹に、何処かで見た事のあるベルトが無理矢理括りつけられているのを発見。

 

「……ボール射出ベルト?」

 

「の、ニューバージョンじゃ」

 

「っつうかハカセさんどんだけ無理してそれ巻いてンすか?上と下からベルトがお肉に呑まれちゃって、とんでもねー食い込みになっちゃってるじゃないッスか」

 

「ちょっと城戸君。そーいうのは分かってても口に出さないのがマナーよ」

 

いや、無理だろアレは。肉の食い込み具合が逸脱過ぎる。

っというか何で腰じゃなくて腹のド真ん中に括りつけてんだ?

そう思っていると、ハカセはコナンに何事かを呟き、二人は俺達から少し離れた場所に移動。

そこで向かい合った体勢から、ハカセはベルトを外してコナンへと向け、コナンはキック力増強シューズを軽く叩く。

ハカセが誘拐された事件の後であのシューズの事も教えてもらっているから、どんなものかは分かる。

分かるんだが……一体何をおっぱじめるつもりだ?

二人の行動に疑問が沸くも、とりあえず成り行きを見てみる。

 

「なるべく高く蹴るんじゃぞ?」

 

「あぁ。わーったから早くしてくれ」

 

「よしっ……タイマーをセットして……いくぞッ!!」

 

ハカセの掛け声と共に、ベルトからサッカーボールが射出され、コナンへと向かう。

しかしなんとも、何時見ても凄いテクノロジーだな。

ベルトからサッカーボールを撃ち出す技術力に感心している中、コナンは発射されたサッカーボールをしっかり見つめ――。

 

「……はぁッ!!(ドシュウゥッ!!)」

 

キック力増強シューズの恩恵を受けた脚力で、サッカーボールを天高く打ち上げる。

その脚力も凄まじいながら、天性のサッカーセンスも凄えもんだぜ。

 

「わあぁッ!!たかーいッ!!」

 

「「おぉーッ!!」」

 

「いいぞーッ!!これなら充分じゃッ!!」

 

「おーおー、スゲエな……でもこれって……なんなんだ?」

 

「さぁ?さっき、子供達の不満を聞いて準備しておいたって言ってたけど……」

 

盛り上がる皆を尻目に隣に並ぶ灰原に質問してみるが、彼女も肩を竦めるだけ。

コナンも分からないらしく、蹴り上げたボールを目で追っていた。

やがて蹴りあげられたボールは俺達の見守る中、黄色い閃光を迸らせながらピュイィっという笛の様な音を奏で――。

 

ドォオオオオッンッ!!

 

腹の底を直接ぶん殴った様に響く重低音を鳴らしながら、夜空に刹那の華を咲かせる。

そう、コナンが蹴り飛ばしたサッカーボールが弾け、四尺玉級のドでかい花火が現れたのだ。

オレンジの大輪の中に赤青緑の小さな花火が連続で明滅するその色とりどりの表現。

最後まで残っていた大輪は円形から形を崩し、火花が流れ星のように地表に向かって消えて行く。

 

「うおーッ!?すっげーッ!!」

 

「わぁ……綺麗ーッ!!」

 

「ふふん。名付けて、花火ボールじゃ」

 

その光景に唖然とする俺の横で、上手くいったとしたり顔をするハカセ。

さっきまでとは打って変わってやいのやいのと楽しそうに騒ぐ少年探偵団純粋年齢組の姿を見て、御満悦そうだ。

確かにこれは凄いと思う。

花火って確かかなり精密に作らないと綺麗に弾けないって聞いた事があるからな。

あれだけちゃんと華を咲かせるって辺り、ハカセの技術力は並み以上って事になる。

っつうかコナンが失敗したら俺等バーベキューだった訳ね。

……しかしまぁ、アレだ。お祭り気分もやり過ぎるとアウトな訳で……。

 

「でもこれ、近所から苦情が来るわよ」

 

最初は花火に見とれてた灰原が眼下に視線を向ければ、そこらの住宅の電気が一斉に点灯していく。

その模様。まるで宝石箱をひっくりかえしたように次々と明かりが点いていく様だ。

尤も、キラキラしても嬉しくねえ光の輝きだがな。

 

「うえぇッ!?それはイカン。あ、哀君どうしようッ!?」

 

「……はぁ」

 

「ったく」

 

「やれやれ」

 

この土壇場になってうろたえるハカセに溜息を吐く灰原と呆れるコナン。

俺はそんなコント染みたやりとりをする3人を見て、肩を竦めるのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

――翌日。

 

 

 

昨夜の花火騒動の後、近所の方々に謝罪してから、ハカセに送り届けてもらって探偵事務所で就寝した俺とコナン。

蘭さんが用意してくれた朝食を食べつつ、俺は昨日の事件についてのニュースに目を向けている。

まぁ、昨日俺達が説明を受けた事より少し少ないくらいの情報しか放送されてない訳だが。

 

「サイコロの話は規制かかってるね」

 

「ずずっ……まっ、そりゃそうだろーよ。只でさえ狙撃、なんつー血生臭ぇ事件なんだ。そこに不安を煽る様な情報は流せねえからな」

 

コナンが焼き魚に醤油を垂らしながら呟いた言葉に、伯父さんが味噌汁を飲むのを止め、大根おろしを魚に乗せながら答える。

二人の言う通り、昨日の会議で聞いたサイコロの件は一切報道されていない。

まぁそんな謎をメディアに流してアレコレ勝手な憶測を立てられちゃあ本末転倒だろーしな。

情報ってのは共有すんのも大事だが、錯綜しちまうと手がつけられない上に真実か見分けが付き難くなっちまう。

何時の世も、人の口に戸は立てらんねえからなぁ。

だが重要参考人としてティモシーハンターの顔写真が放映されてっから、目撃情報とかは集まるだろう。

それに、俺も今日から早速探索するつもりだしな。

俺はテレビから視線を外して焼き魚の身……鰈の切り身に箸を入れて身を少し摘み出す。

そのままサッと口に入れて……も美味いが、まずは身を醤油にちょっとだけ付けてから、今朝おろしたばかりの大根おろしを乗せてパクリと一口。

口内にじんわりと広がる醤油の塩気と大根おろしのさっぱりとした味わいを堪能しつつ、焚き立ての白米を更に頬張る。

ちょっと強かった醤油の味がマイルドになり、米と魚とシャキシャキの大根による三重奏が口の中で奏でられていく。

絶妙の焼き加減で生まれた油の乗り具合、そして油を程好く抑える大根のフレッシュな喉越しがこれまた堪らん。

それにワカメと豆腐の味噌汁の絶妙な塩加減、そして冷たい緑茶の透き通る様な優しい味と、油や塩っ気を洗い流す爽快感。

これは、日本人でしか味わえ無い食事の有り難味というヤツだ。

今日という1日の活力、己のエネルギーとなってくれた命に感謝しつつ、手を合わせて御馳走様と言う。

 

「はい、お粗末様♪定明君は偉いねぇ。凄く綺麗にご飯食べてるし♪」

 

「そりゃ作ってる人の腕が良いからッスよ。蘭さんは高校生なのにすげー料理上手っすね。正直、母ちゃんにも負けない味だと思いますよ」

 

「やだもー♪雪絵さんは元シェフじゃない。そんな凄い人に負けないなんて褒めすぎだよ♪」

 

挨拶を終えた俺に対してニコニコと微笑みながら手を振って恥ずかしそうにそんな事を言う蘭さん。

その笑みはまるでキラキラとエフェクトが飛び散る慈愛に満ちた表情……だが。

 

その額にバッテンマークがある所を見ると、見た目通りに受け取っちゃあマズそうだ。

 

しかしその微笑みは俺に向けられた物ではなくて……あー、そろそろ声をかけてやんねーと可哀想か。

未だにテレビのニュースに釘付けになってるコナンと伯父さん。

俺はその二人に向き直りつつ、握り拳を口の前に出して咳払いをする。

 

「あーオホン、オホン。ゴホン……伯父さん。それにコナンよぉ……お宅等、鰈に何か恨みでもあるんスか?喉に骨が刺さった事があってその恨みを晴らしてる、とか?」

 

「「(あ?/え?)……ゲゲッ!?」」

 

注意されてやっと気付いたのか、二人は「コイツ何言ってんの?」という表情から一転、目の前の皿を見て目を丸くした。

いやはや、テレビ見ながら物垂らす訳だから……コナンの皿はもう醤油着け、伯父さんの皿は大根おろししか見えない有様です。

まぁつまり蘭さんが額にバッテンマーク浮かべてたのはこれが原因で……。

 

「うふふ♪……残したら、お昼も夕食も抜きだからね♡」

 

早い話がお冠な訳っすよ、これが。

目の前の惨状と蘭さんの死刑宣告を受けて顔が真っ青になる両者だが、これも自業自得ってな。

戦乙女(誤字にあらず)の怒りに触れた哀れな子羊の助けを求める視線を無視し、流し台に食器を片付けて寝室へ戻り準備を整える。

カーキ色のチノパンにジャイロのベルト、上着は白の半袖シャツを着て、手にチェーンブレスを付ける。

携帯と財布もポケットに入れて……良し、準備完了ってな。

今日はこの後、コナンは少年探偵団の皆とハカセの家で例の自由研究をやるらしいし、俺も問題なく動けるぜ。

寝室を出て玄関に向かいつつ、リビングに向けて声を掛ける。

 

「蘭さーん、ちょっと出掛けてきまーす。お昼は適当に済ませますんでー」

 

「(ガチャッ)うん、気を付けてねー♪」

 

「ういーっす」

 

笑顔で手を振ってくれた蘭さんに返事を返しつつ、靴を履いて玄関に立てかけておいたスケボーを持って探偵事務所から出る。

さあて、とりあえず昨日頼んでおいた事の結果報告を聞くとしねーと。

俺は事務所の階段を下りながらスマホを開き、目当ての人物の番号をタップ。

スピーカーから鳴る呼び出し音を聞きながらスケボーに乗ってゆっくりと走り出した。

 

プルルル――ガチャッ。

 

『もしもし、定明?』

 

「あぁ。おはようさん、アリサ」

 

『good morning。ちゃんと朝には起きてる様で何よりだわ』

 

と、二、三度のコール音の後に電話に出たアリサに朝の挨拶をする。

昨日の内に今日の朝に電話すると言っておいたので、アリサも普通におはようと返してくれた。

 

「昨日は良く眠れただろ?」

 

『随分と確信した言い方じゃない。まぁアンタの言う通りぐっすり寝れたけど。まるで遊ぶだけ遊んで、疲れたら眠っちゃう赤ちゃんみたいによ?自分で言うのもあれだけど、あんな事があった後なのにリラックスし過ぎだわ』

 

「そーかい。そりゃ疲れもとれてバッチリ爽やか気分だろ」

 

『えぇ。確かにね……で、私達に何をしたの?アンタがあの兎みたいな可愛いスタンドで何かしたのは分かるんだけど……』

 

昨日の夜は良く眠れたらしく、アリサの声はハキハキとした活力に溢れている。

うん、ストレスも感じずに眠れたんならそれで良い。

小学生で殺人の現場目撃なんて、ストレスやばいだろうし。

アリサの元気な声を聞いて少し安心しつつ、アリサの機嫌が悪くなる前に質問に答えておく。

 

「あのスタンド、『ザ・キュアー』は痛みや悩みっていう概念を吸い取る能力があんだよ。だから昨日お前等と別れる前に、お前等が昨日感じたストレスや不安を取り除いておいたって訳だ」

 

『精神系のスタンド能力って事?相変わらずの反則っぷりね、アンタ』

 

「レギュレーションなんざ破る為にあると思うけどな……それより昨日頼んでおいた件、調べてもらえたのか?」

 

『勿論よ。鮫島がしっかりと調べてくれたわ。お望み通り、住所までバッチリね♪』

 

「……何時も思うんだが、鮫島さんこそ万能過ぎだろ」

 

まさか昨日調べてくれって頼んだ事がもう判明しているとは。

アリサの専属に送迎、屋敷での執事長としての仕事に護衛もしてるとか。

しかもあらゆる方面のレベルが並以上だし、あの人こそチートじゃね? 

 

『私も鮫島にそう言ったら、『これもバニングス家の情報網があってこそです』って微笑みながら言われちゃったわ』

 

笑いながらそんな事を言うアリサだが、俺はある意味笑えない。

っつうかバニングス家の情報網の凄さは俺の関わった事件の回数とか調べられる時点でヤバイとしか言えねえよ。

 

『とりあえず、調べた事を伝えるけど良い?』

 

「おう。頼む」

 

と、話が少々脱線しかけたが、俺が昨日頼んでおいた件について話が戻ったので、俺は気を引き締める。

 

『定明が調べてくれって言ってた”森山 仁”っていう人。今回の事件に関係あるのよね?』

 

「あぁ。今朝のテレビニュースに映っていたティモシー・ハンターっているだろ?そのハンターの妹と婚約してたらしい」

 

アリサの質問に答えながら、俺はスケボーから降りて近くの公園のベンチに座る。

会話しながらの運転じゃ会話に集中出来ねえし、危ねぇからな。

……さっき名前が挙がった『森山 仁』という男。

今言った様に、あのハンターの妹と将来を誓い合っていた婚約者らしい……『元』ってのが付くが。

つまり、ハンターの妹が自殺した原因が、森山仁との婚約破棄である。

こりゃ間違い無く狙われてるだろう。

 

『この人が狙われてるかもしれないから、今の所在を知りたいって事?』

 

「そうだな。警察もこの人が今何処に住んでるかは把握してねーみてーだし、それも伝えておけば警備の足しにゃなんだろ」

 

『なるほどね』

 

アリサの質問に答えながら、俺は昨日集めた情報を整理する。

途中で会議から抜けた俺が何故この男の事を知ってるかというと、伯父さんの記憶を『天国の扉(ヘブンズ・ドアー)』で読んだからだ。

昨日、帰る前にトイレに行くって事で一度デビットさんと別れた俺はトイレで伯父さんと遭遇した。

そんでもって事件の事を詳しく知りたかったから天国の扉(ヘブンズ・ドアー)で伯父さんの体験していたあの会議の内容を把握。

携帯で被害者になりえる三人の写真と、ハンターに恨まれる可能性を携帯で写メして保存して、伯父さんの記憶を書き換えてトイレから出て皆と合流した訳よ。

で、アリサにスマホでメールして、3人の中で唯一所在の知れない森山って男の事を調べて貰った。

という感じで、今の電話に繋がるわけである。

 

『一応聞くけど、アンタはこの人の事は何処まで知ってるの?』

 

「ん?えっと確か、個人輸入ビジネスを行っている商社マンで、元シアトル在住。ハンターの妹とはその頃に婚約したけど突然婚約を破棄。その足で日本に帰国したってとこまでは」

 

『えぇ。その線で鮫島が調べてくれたんだけどね。その婚約破棄の時期、ハンターって人が破産した時とピッタリ一致したわ』

 

「……なるほどな……莫大な負債を抱えた男の身内と結婚するのは、気が引けたって事か」

 

『そう。薄情といえば薄情だけど、簡単には責められないのも事実ね。ムカツク事に』

 

ハンターの妹が捨てられた理由に、アリサは苛つきも隠さない声で喋る。

まぁ、同じ女性としちゃあ森山って男のした事に腹が立つんだろう。

その婚約破棄が原因で自殺……悲しかったんだろうな、妹さん……本気で愛していただろうに……報われねぇよ。

 

『話を戻すけど、どうやらその森山って名字。シアトルに居た時は違ったみたいなの』

 

「何だと?」

 

と、怒りの落ち着いたアリサが話してくれた情報だが、俺にも寝耳に水な話だった。

名字が違うってどういう事だ?

 

『この人の旧姓は”安原 仁”。森山っていう名字は料理研究家である今の奥さんの、森山奈美さんの名字ですって』

 

「……そうか。女性婚で姓が変わったって事か」

 

『そういう事。安原の名字で調べたら、ちょっと前に女性向けの雑誌でその結婚の事が取り上げられていたのが見つかったわ。御丁寧に今の住所もハッキリとね』

 

「場所は?」

 

俺は公園から出てスケボーに足を掛け、アリサから森山仁の住所を聞き出す。

えっと、墨田区本庄の……うん、ここからならそう遠くは無えな。

このスケボーのお蔭で、徒歩じゃキツい距離でも楽に行ける。

 

『ふふん♪どう?少しは役に立てたかしら?』

 

「あぁ。助かったぜアリサ」

 

自信満々に質問するアリサに、俺は正直に礼を述べて感謝を表す。

実際後2人の居所は判明してるから良いとして、この森山って男はどう捜そうか悩んでた所だったからな。

まぁ実際調べたのは鮫島さんだが、そこは言わぬが華である。

 

『な、なら良いわ。精々感謝しなさいよ』

 

「はいはい。充分に感謝させてもらうさ……所でベルツリーの事なんだが、もう修理は入ってるのか?」

 

『え?どうして?』

 

「あの狙撃現場のビルに行ってもう一人の犯人の正体を暴こうと思ってんだけど、さすがに昨日今日でまだ現場だった場所に子供が足踏み入れるにゃ不自然だろ?だからあのビルの見えるベルツリーには誰も居ないのが一番良いんだけどなぁ」

 

別に姿を隠そうと思えばやれない事も無いが、なるべく人に見られるリスクは減らしたい。

だから、あのビルが上から見えるベルツリーの展望台がまだ無人なら、それが一番ありがたいって訳だ。

距離が離れてても、万が一双眼鏡なんか使われたら洒落になんねぇ。

上から見られてるかも、なんて余計な不安を抱えながら捜査するなんて、胃が痛くなりそうだし。

しかしそんな期待を込めた俺の願いは、アリサの言い難そうな声で霧散してしまう。

 

『その……もう工事は入っちゃってるわ。そ、それにベルツリーはウチより鈴木財閥の方が管理しているから業者の手配も向こうがしてるし、正当な理由が無いと止められないの』

 

「……OH MY GOD……しゃあねぇ、なるべく見られない様に捜査してみる。じゃあ、今から森山って奴の所に行くから切るぜ」

 

『え、えぇ……そ、それとッ!!』

 

工事に関して止められないなら、まぁプレッシャーを我慢しつつ捜査するとしよう。

思考を切り替えながら電話を切ろうとすると、アリサが声を大きくして何かを言おうとする。

 

「ん?なんだ?」

 

『あ、あれよ、その……キッチリ、犯人をブッ飛ばしなさいよッ!!私達の夏休みを台無しにしてくれたんだからねッ!!』

 

言い淀んでいたアリサに問い返すと、それはそれは清々しい声で物騒な事をリクエストしてくる。

だがしかし、言ってる事は良く分かるな。

人の大事な時間を台無しにしてくれた御礼は、指を飛ばしたぐらいじゃあ足りねえ。

アリサの気持ちに同意しつつ、俺はニヤリと笑いながらスケボーのアクセルを踏み込む。

 

「あぁ。ヤローの汚ねえ毛だらけのケツを、宇宙の果てまで蹴り飛ばしてやるよ」

 

『ぶほぉッ!?げ、げほげほ……ッ!!お、女の子との会話でそ、そんな汚い言葉を使うんじゃあないわよッ!!』

 

「はいはい。じゃあな」

 

ギャーギャー喚くアリサに適当な返事を返して電話を切り、俺はスケボーを発進させて森山の家に向かう。

ナビアプリで検索した住所は、礼のベルツリーの近くだし丁度良い場所だな。

……正直、ハンターに同情する気持ちはある。

でもまぁ、殺されると分かってる相手を救わないのも夢見が悪い。

間はとりあえず、殺されそうな奴を何とかするとすっか。

胸に燻る気持ちに整理を付けて、俺は森山仁の家を目指して走る事に集中する。

 

そして15分程走った所で、アリサから教えてもらった住所の場所に到着。

 

そこに聳え立つ豪邸を歩道から眺めながら、表札の名字を拝見。

表札には御丁寧に『森山 仁』『森山 奈美』とフルネームで書かれていた。

 

「ここか……さて、場所は分かったとして……どうしようかね?」

 

目的の人物の住まう家の場所は突き止めたが、問題はどうやって森山仁という人物の殺害を防ぐか、だ。

俺が達成したい目的は、ハンターの殺人を少しでも止める事。

そして蘭さんや伯父さんにこの事件の火の粉が及ぶ前にハンターと仲間の犯罪を止めるという二点だ。

なら、まずは殺害対象である人物を守る必要がある。

俺が知っている中で、ハンターに恨まれて且つ殺される対象とされているのは、森山仁を除けば後2人。

 

一人目はジャック・ウォルツ。

 

大柄で厳しい顔付きの男で、元陸軍特殊部隊大尉。45歳。

現在は軍を退役し、サンディエゴで軍装備品の製造会社を経営している。

過去にハンターの交戦規定違反を告発していることから、一番濃厚なハンターの標的候補らしい。

このジャック・ウォルツの告発こそが、ハンターの転落人生の引き金と言っても過言じゃねえ。

 

そりゃハンターに狙われる理由はアリアリって事だわな。

 

二人目はビル・マーフィー。

 

写真で見た人相は眼鏡をかけた真面目そうな黒人男性で、元陸軍三等軍曹。

現在はジャック・ウォルツの会社でウォルツの秘書の様な仕事をしているそうだ。

性格は誠実で真面目らしいが、俺はあまりそういったプロファイルは信用して無い。

人間てのは面の内側にとんでも無えモンを隠してる事が多いからな。

オリ主君なんかがその良い例だ。

こいつも面の内側にとんでもねえモンを隠してたとして、不思議じゃあないね。

少なくとも自分の目で確かめ無いと、何とも言えない。

このビルという男は、例の疑惑の英雄という名でハンターが呼ばれる原因となったハンターの交戦規定違反の証言をしていた。

 

まず間違い無く、ハンターは殺しにくるだろう。

 

この二人は現在、日本に来ているらしい。

ジャック・ウォルツは妻のヘレン・娘のセーラと京都府内のホテルに滞在中。

一方ビル・マーフィーは栃木県日光市のホテルに滞在中との事だ。

既にどちらのホテルにも、そしてそのホテル周辺にも京都府警と栃木県警が厳重警戒態勢を敷いている。

この二つは今の所安全だろうよ。

んで、火元の傍にガソリン満載のタンカーを置いてる様な危険度の高い被害者候補が、俺の目の前に聳え立ってる豪邸の主な訳だ。

 

「もし、仮定だが俺の話を聞いて、尚且つ信じてくれたとして……まぁ、何にも無いだろうと高を括るのがオチだろーな」

 

豪邸の見える近くにあったベンチに座って怪しまれない様に豪邸を盗み見ながら、俺は頭を捻る。

どうにかして森山夫妻を安全な所に行かせる為にはどうすれば良い?

警察……に知らせたとして、この豪邸や周りを厳重警戒するだけだろう。

それじゃあ長期戦になるだけで、少なくとも俺の方が先にタイムリミットを迎えて終わり。

 

つまり今この場で、森山夫妻の安全を確保しねーと、どっち道駄目な訳で……ふむ。

 

「よし、じゃああの手で行くか」

 

俺は取るべきプランを思い付き、目の前の豪邸に向かって歩く。

すると、丁度グッドタイミングで中から二人の男女が出て来たではないか。

女性の方は知らないが、男性の方は伯父さんの記憶を読んだ時に写真に乗っていた森山仁その人だ。

恐らく女性の方は奥さんだろう。

更に俺にとっては都合が良い事に、辺り一帯の周辺には人影は無し。

こりゃ最先が良いぜ……犯人との殺すか守るかという戦いの中で、俺は奴よりツイてる。

 

「この勝負……ついてるネ、のってるネ」

 

ワムウとの戦いにおいて自分の運の良さを喜ぶジョセフの心境を味わいながら、俺は自然な動作で森山夫妻に近づき――。

 

 

 

ズバッズバッズバッ!!ブワッ!!

 

 

 

「『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』ーーーーッ!!」

 

 

 

空中に指で天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を描き、森山夫妻を本にして気絶させた。

これこそ俺の考え付いたパーフェクトな作戦。

それは、かの岸辺露伴が幽霊の杉本玲美にした事と同じ。

 

「うむを言わせず先手必勝さッ!!そして……『スタープラチナ・ザ・ワールド』ッ!!」

 

『オオオオオオォォッ!!』

 

ドオォ~~~ンッ!!

 

「時は止まる……よいせっと」

 

玄関前で二人が地面に倒れる寸前に時を止めてスタープラチナで二人を担ぎ、鍵を閉めていない豪邸へと侵入。

要するに、俺のスタンド能力でこの二人にはほとぼりが冷めるまで遠くに避難してもらえば良いんじゃん。

こんな簡単な事にも気付かないとは……俺もヤキが回ったか?

既に時間停止も解除され、目の前で気絶してる夫妻を見ながら、俺は自分の下手な立ち回りを嘆く。

 

「っと、反省すんのは今度にして、準備準備っと」

 

何時来るかも分からないハンターとその仲間の襲撃を考えれば、行動は早い方が良い。

俺は玄関の鍵を閉めてから気絶している二人の開いたページの余白部分に、自前のペンで命令を書き込む。

ちなみに天国への扉(ヘブンズ・ドアー)で命令を直に書く事も可能だが、自分で書くかそうするかは気分次第だ。

 

「えっと。まずは……次に起きたら俺の記憶を忘れる。んで……」

 

俺自身の記憶を消去しつつ、まずは奥さんの方に命令を書き込む。

一つ目は、二人で今から遠くの旅館に泊まる事。

場所は……北海道辺りで良いだろ。

ハンターは大々的にテレビに顔が映ってるから、飛行機や電車、バスの類は使えない。

仲間の方にしてもここからなら北海道より栃木や京都の方が近いからそっちを狙うだろう。

しかし栃木京都は県警が見張ってるからおいそれと手出し出来る筈も無し。

 

「こんなモンか。ついでに旦那の方には『向こうに着いたら警視庁に連絡して、北海道警察に身柄を警護してもらう様に申請する』……うん、これなら良いだろう」

 

奥さんの次に被害者候補の森山仁にも北海道旅行に疑問を持たない様に書き込み、周辺の安全を取る為の命令も書き込む。

これで二人は大手を振って仕事を休めるし、後の生活にも余り響かない筈だ。

 

「この後すぐに用意をして出る、と……こんなモンか……さて」

 

これで準備万端整った、という所で、俺は森山仁の記憶を読ませてもらった。

内容は勿論、ハンターも妹の事についてどう思っているのか。

こーいうのはあまり好きな事じゃ無えんだが……今回ばかりは勝手に読ませてもらうぜ。

胸に感じていたちっぽけな後味の悪さを飲み込み、俺は彼の記憶を読み漁る。

すると、書かれていたのは――。

 

「……”ごめんよ”か……何ともまぁ……」

 

そこには、ハンターの妹との婚約を破棄した事への罪悪感。

両親に反対された事に反発出来ず、愛していたはずの彼女を捨てた事への苦悩。

そういった、過去への後悔が沢山綴られていた。

 

彼女が自殺したと聞いた日には、一生分は泣いた。

 

葬式に出向く意地すら沸かない自分の情けなさに、拳が複雑骨折しようとお構い無しに壁を殴った。

 

それを機に両親の言いなりになる事を止め、今の奥さんと出会い、次こそは間違えるものかと心を決めた。

 

彼女の事を今でも愛している――そして、今の奥さんも愛しているからこそ、自分の気持ちにケリを付けたい。

 

自分には今、最愛の奥さんが居る。

例え、自分が幸せにしているのを見て、彼女の兄に恨まれようとも――。

 

「『私は奈美の為にも、死ぬ事は出来ない。彼女に謝るのは、私が奈美の事を幸せにする事が出来た後だ。その時は、喜んで地獄に行こう』……」

 

俺の目の前で気絶している森山仁。

最初、俺はこの男も殺された藤波っておっさんと同じで、くたばって当然の野郎だと心の何処かで思ってた。

でもそうであっても尚、放って置くのは後味が悪いと考えてたんだがなぁ。

 

…………でもよぉ。

 

「……森山仁……アンタ……なんか……ちょっぴり、カッコイイんじゃあねーかよ……」

 

この人の事、いやこの夫婦の事……何が何でも助けてえって思っちまったぜ。

俺はもう少し人を見る目を養おうと決意し、二人のページを閉じて家から出た。

そのまま暫く様子を見て、二人が大きな旅行鞄を持ってタクシーに乗ったのを見届け、俺はその場を後にする。

兎に角、これであの二人は大丈夫な筈だし……次の仕事に取り掛からねえと、な。

 

「っと。その前に腹ごしらえといくか。えっと、此処らへんで美味そうな匂いは……クンクン」

 

腹が減っては戦はできぬ、なんて言う素晴らしい格言に従って、俺は『ハイウェイ・スター』の能力で美味そうな匂いを嗅ぎ分ける。

これが工場地帯とかだと、くっせえ工業用オイルの匂いだとかが臭って死にそうになるんだが、ここは住宅街だし大丈夫だろ。

 

「クンクン。クンクン……お?美味そうな肉の匂い……こっちか」

 

そして、嗅ぎつけた匂いに向かってスケボーで前進し、俺は見事に美味そうなドネル・ケバブの店に行き着くことが出来た。

何とも色々な種類があって悩んだが、オーソドックスにトマト、レタス、オニオンのトッピングを買ってみる。

それだけでも新鮮でその綺麗な色が食欲を大いにソソらせる。

しかも、この店にはもう一つ凄い大当たりとも言える特徴があったぜ。

俺はホクホク顔で外のオープンテラスに座りながら、頼んだドネル・ピタサンドに食らいつく。

 

「あんむ……ん~……美味え……まさかラム肉が食えるとは……時代は進んでるなぁ」

 

ラム肉の柔らかさとシャキシャキの野菜の絶妙に絡み合う歯ごたえ。

実はこの店、ビーフや七面鳥、マトンという生後1年以上の羊の肉、そして反対に生後1年以下のラム肉なんかの肉類まで選べる様になっているのだ。

好きな肉と野菜にソースを掛けてをピタパンに挟んでくれるサービス。

間違いなくこの店は一級品だろう。

そして下味として漬け込んでいたヨーグルトやスパイスの一見合わなそうな味わいの見事な調和。

いや、マジで美味いわ……この店は当たりだな、記念に写真撮っとこ。

 

「ムグムグ……ゴクンッ……ふぅ……さあって……これからどうするか……」

 

食事も終え、写真も撮り終えた段階で、俺はこれからどう捜査しようかと考えを巡らせる。

普通なら狙撃現場に行って『ムーディ・ブルース』のリプレイで犯人を突き止める所なんだが、これがそうもいかなくなった。

っつうか冷静に考えりゃ、昨日起きた狙撃現場がもう開放されてる筈も無い訳だ。

これじゃあ調べようにも人目に付く時間帯は無理だ。

『アクトン・ベイビー』の能力で自分を透明にすりゃ問題ねぇかもしれねぇが、それだと周囲にぶつからないように気を配らなきゃならねえ。

 

バイクに乗ってからの所からリプレイを開始して巻き戻しサーチで……いや、バイクに乗り込む寸前にしても、あのビルの周辺は警察が張り込んでる……迂闊な事は出来ねえよなぁ。

 

自分に何とか出来る手段があっても、周囲がそれを許さないというジレンマ。

あぁ、本当に面倒くせーな、国家権力め。

こうなったら仕方ねえ、夜まで待って人気が引くのを確認してから、例のビルに向かおう。

焦らず、確実に一つ一つ解決していくとすっか。

俺は普段以上に働かせていた頭を休めて、何時ものダラけモードに入る。

あんまり考え事し過ぎて頭がパンクしちゃやってらんねぇし。

今後の予定を決めた俺はスケボーに乗り、探偵事務所へと戻って休む事にした。

今からゆっくり寝ておけば、夜行動する時も辛くはならないだろう。

 

「俺達の夏休みを台無しにしたお礼は、キッチリしてやる……待ってろよ」

 

己の胸に沸きあがる静かな怒りを感じつつ、俺は探偵事務所に戻った。

……ちなみに帰って蘭さんにケバブの店の事を話したらまた一緒に行く様にと言われてしまう。

やれやれ、何で蘭さんは俺なんかと行きたがるんだか。

それと晩飯の時に目暮警部から伯父さんに連絡があった。

その内容は例の森山仁とその妻が北海道から連絡してきて、身辺警護を付けたとの事。

これで俺は安心してあの二人の事からハンター達の事に集中出来る訳だ。

奴等が何を狙ってサイコロを置いたのかは知らねーが……今回は謎解きなんてカッタるい事は無し。

 

 

 

今夜こそ、シャイなジョン・ドゥの素敵(クソッタレ)な素顔を拝ませてもらうぜ。

 

 

 

今夜で全て片を付けると心に誓い、俺は蘭さんの用意してくれたミートスパゲティを食し、英気を養うのであった。

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 





ん~、やっぱり定明が動き出すと展開が速くて仕方ないwww


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復讐を止めろだなんて『説得』は誰にもできやしな(ry

ぶっちゃけますと実はこの話、前の話を投稿した時には書き上がっていましたwww

え?じゃあ何でこんなに遅れたかですって?

……テへ☆

いや、実はもう一つ並行してISのエロ話書いてたので、それと一緒に投稿しようと思ってたんですよ。

そしたら……そっちが書き上がるのにこんなに時間かかっちゃいました。

本当に申し訳ございません。


 

 

「んがあぁぁぁ……ぐごぉぉ…………ぐふっ……ヨーコちゅわぁん……」

 

「んん……うっせぇ……むにゃ……」

 

夜、凡そ12時半といった位の時間。

俺は同室のコナンと伯父さんのイビキや寝言を聞きながら、静かに準備を整える。

昼間の服は洗濯しているので、黒の長ズボンに黒いシャツという真っ黒な格好で、黒い腕時計。

夜、人目に着き難い衣装を選んだらこうなったんだが、まぁ良いか。

そして腰にジャイロのベルトを付け、上半身にサスペンダーにホルスターを通した鉄球ホルスターver1を装着。

ちなみにこのver1はジャイロが原作冒頭で使っていたベルトでもある。

しかしこっちにはウェカピポの衛星付き鉄球をブラ下げているという矛盾だが、まぁ問題ないだろ。

更に『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで上着の中にエニグマの紙にファイルした武器や役立つアイテムを収納。

 

これで、俺自身の準備は完了――そして。

 

「良い子は家でおねんねしてなさいよっと」

 

昼間の様に『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』の能力を使用。

コナンと伯父さんに『朝の8時まで何があっても起きない』と書き込んでおく。

まっ、一応念には念を入れてって事だ。

更にそのまま抜き足差し足で部屋から出て、その隣の部屋の扉をゆっくり開ける。

 

「スゥ……んぅ……」

 

「……(お邪魔しま~す)

 

スヤスヤと寝息を立てる蘭さんに聞こえない様に小声で断りを入れながら、ベットに近づく。

いや、女子の部屋に無断で入ってるのが大罪だとは俺も思うぜ?

でもさすがにそんな常識に因われて蘭さんだけ何もせずにしておいたりしてみろ?

もしも何かの拍子に俺が居ないのがバレて、そんで伯父さん達を起こそうにも起きなかったらパニック必然だ。

さすがにそんなアホな展開は勘弁願いたいので、俺は常識とモラルを無視する。

 

少し心苦しいが、すまねえ蘭さん。

 

心の中で熟睡する蘭さんに謝罪を述べつつ、コナン達にしたのと同じ様に命令を書き込む事に成功。

そのまま足音を立てない様に部屋を出て、俺は玄関を開けて外に出る。

しかしこのままじゃ鍵が掛けられないが、スタンド使いの俺には問題にならない。

扉を閉めて直ぐ、部屋の中から”ガチャリ”という鍵を締める音が鳴り、鍵が自動的に施錠される。

そして、施錠を完了したスタンドの腕を戻す。

 

「――行くか」

 

これから相対するかもしれない――いや、何としても相対するつもりの相手が殺人犯だと心に刻み、俺はスケボーに乗って爆走する。

まずは、ベルツリー近くのビルへ向かおう。

犯人の通ったルートで『ムーディ・ブルース』の力を使うのは、さすがに夜中でも怪しまれちまう。

だが、さすがにこの時間なら、ビルにも誰も居ない筈だ。

 

「今夜中に見つけ出して、素敵なブレスレット(手錠)を両手に掛けてもらえるホテルにエスコートしてやんねーとな」

 

今夜中に片を付けて終わらせようと心に誓い、俺は闇夜を切り裂き続けていった。

やがて目標のビルに到達し、そのビルの側面を回って辺りを調べる。

何故、ビルの屋上じゃなくて周辺なのかと言えば、まずは警察や一般人の確認だ。

これに関しては、『エアロスミス』のCO2レーダーがとても役に立つ。

周囲の人間の数だけでなく、排気ガスに含まれるCO2を探知できるから、この周辺を見張ってる車がないかも確認できる。

確認した所、周囲に人影も車も無し。

更に監視カメラの類も無いから、これで遠慮なしに捜査できる。

 

「さぁ、『ムーディ・ブルース』。来い」

 

ズギュゥン。

 

俺の傍に現れたムーディ・ブルースを伴いながら、俺が地面を良く見て”ある痕跡”を探す。

さすがにあれから1日経ってるからもう消えちまったかもと思ったが……。

 

「……あった……オフロードタイヤの痕だ。しかも真新しい」

 

運良くそのタイヤ痕を見つけた俺はその後をライトで照らしながら追い進む。

こんな人気の無い場所に、しかも狙撃地点のビルの側に犯人の乗っていたオフロードバイクと同じタイヤの痕。

これなら逆に偶然の方が天文学的な確率だろうよ。

犯人に繋がる証拠を追い進み、遂にタイヤの痕が途切れる。

つまり、ここがバイクの発信場所って訳だ。

 

「場所は特定完了。時間もキッチリ覚えてるしよぉ……何処までも追跡するぜ」

 

カシャ。カシャカシャカシャ。

 

俺の言葉に従って動き始める、ムーディ・ブルースの額のタイマー。

タイマーの数字は、年数に月日にち、そして時間を秒単位で表している。

そして、昨日の狙撃があった時間から少し経ったぐらいの時間を示した時、ムーディ・ブルースは姿を変えていく。

夏場だというのに厚手のオリーブドライのジャケットに黒手袋。

そして強盗なんかで使われる目出し帽を被った犯人……等々会えたな。

 

「ムーディ・ブルース。一時停止(ポーズ)だ」

 

ピタリ。

 

俺の命令に従い、犯人に変身したムーディ・ブルースが動きをストップさせる。

これは間違いなく犯人の一人……そして、バイクに乗って逃げていた体格の良い方の奴だ。

俺の目の前でバイクに跨る様なポーズで停止した目出し帽を被る犯人の背中には大きなバックが背負われている。

 

「恐らく犯行に使用されたライフルだろうな……まぁ、それはどーでも良い」

 

俺はバッグの中身に検討を付けて直ぐに思考を切り替え、ムーディブルースが変身した犯人の目出し帽に手を掛ける。

 

「……いよいよ、感動の御対面って奴だな……その面、拝ませてもらうぜ」

 

目出し帽に手を掛けたまま軽く深呼吸を二、三回。

グッと腕に力を込めて、俺は犯人の被った目出し帽を勢い良く剥ぎ取り――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

定明の居たビルから場所は変わり、ベルツリータワーの近辺を流れる隅田川付近。

その廃屋の様に古びたマンションの一室に、ポツンと小さな光が灯っていた。

まるで外界から切り離された様な暗闇に灯る小さな光は、そこに取り残された哀れな存在を思わせる。

 

「……」

 

その部屋の中で、やせ細った白人の男性は机に腰掛けて日記を綴っていた。

彼の名はティモシー・ハンター。

今世間を騒がせているベルツリータワー狙撃事件の重要参考人として、警察とFBIが血眼で探している人物である。

静寂が支配する世界にペンを動かす音のみを立てながら、彼は日記に”現実には無い出来事”を書き綴る。

 

ここで書き綴っている現実に無い出来事とは、妄想やファンタジーな出来事の事……という訳では当然ながら無い。

 

彼が書いているのは相方――つまり共犯者への捜査の目を別に向けさせる為のカモフラージュだ。

本来の彼等の計画通りなら、昨日の逃亡劇の最中に合流する手筈は無かった。

そうした所で彼等にメリットは殆ど無く、逆に単独犯と思わせた方が捜査妨害にもなると思っての事。

日本の警察は凶悪犯であろうと安々と銃を撃つ事が出来ない。

ましてや市内を走行中なら尚の事である。

撃てない相手など、邪魔する存在は”誰であろうと殺す”という覚悟を持った相方には者の数では無いと思っていた。

 

 

 

しかし、二人の目論見は第三者の介入によって悉く外れてしまう。

 

 

 

こちらの逃走経路を先回りし、まるで狩場に追い込まれるのを待っていたかの様に、逃走中だった相方を狙撃してみせた謎の敵。

その鮮やかな狙撃術と言ったら、走行中の相方が手榴弾のピンを抜こうとしていた指だけを吹き飛ばすだけに終わらず。

ハンドガンの側面を撃って手から弾き、トリガーのみを圧し折るという――嫉妬すら覚えさせない神業を披露してくれた。

これがショーパフォーマンスなら1万ドル払っても見たいと思わせる絶技ではあったが、誰も出張パフォーマンスは頼んでいない。

 

自分達の復讐劇をメチャクチャにしてくれたというのに、その技が金を払ってでも見たいと思わせられるとは。

 

半ば諦めの境地の様な心境に浸る自分を嘲笑うかの様に、ハンターは心中で自嘲し、口元に被虐的な笑みさえ浮かべてしまう。

だが、自分達は、いや自分はもう止まれない。止まる事は許されない。

既に自分の復讐とは関係の無い男を、この殺人劇の主役としてキャスティングしてしまっている。

スカウトしておきながら、劇を監督の独断で中止する事は出来ないのだ。

自分達の計画が狂い始めて漸く、戸惑いの心を持ったハンターだが、相方はそうはいかない。

既に先の狙撃で指を失うも、相方はこの殺人劇の幕を下ろすつもりは毛頭無いのだから。

なら、自分はそれに付き合う義務がある。

彼をこの薄暗い鬼の道へ引きずり込んでしまった責任がある己には――降りる資格は無い。

ハンターは頭に過ぎった考えを忘れようと頭を振り、日記の続きを書く。

 

『奴は……いや、この場合は”奴等”というべきだが、一体何者だろうか?何故、俺の獲物である藤波を殺したのか、考えられるのは俺に対する挑発。そうとしか思えない』

 

日記の冒頭にはそんな文面が英語で綴られている。

まるで、”自分は単独で行動している”と言わんばかりの文面。

 

『俺の獲物を横取りし、俺に罪を擦り付けて逃げたあの男達。一人は指を吹き飛ばして気が晴れたが、次は邪魔させない。次の獲物こそ、確実に俺が仕留めてやる』

 

そして、自分の相方である男を”自分が撃ったかの様に”書き綴られる日記の内容。

これこそが、ハンターが謎の狙撃手の存在を利用する事を思い付いた罠である。

今朝のニュースで既に自分の存在が露見している事を知ったハンターの行動は素早かった。

療養中の相方に連絡を取って計画を練り直し、次の段階へのシフトを早める為の打ち合わせ。

その決行の時間を決めたハンターは計画の時間まで息を潜め、今正にその罠を仕掛けている。

 

ニュースを見て、あの場で相方を狙撃した狙撃手の情報がメディアに流れていないという状況を利用したカバーストーリー。

 

その狙撃手の犯行をあたかも獲物を横取りされた自分の仕業に見せかけ、本当の犯人である自分達から目を逸らすブラフだ。

幸いにして、警察はまだ自分達は愚か、その謎めいた狙撃手の詳細すらも掴んでいない。

即ちこの3人の中で唯一存在が露見しているティモシーハンターの存在は”単独犯か複数犯かの違いすら判明していない”という事になる。

だからこそ、この日記を綴る事に意味があった。

 

少しばかり修正した計画では――”明日には警察がこの日記を発見する”のだから。

 

自分の相方が、自分の代わりに復讐を遂げてくれた後に、安全に暮らせる様にする為の細工。

その仕込みを9割終わらせたハンターはペンを置き、机の上に立てかけてあった写真立てに目を向ける。

まだ、自分が全てを失う前に撮った家族の写真には、今は居ない最愛の家族が微笑んでいた。

生涯を愛せる男性と出会って婚約を果たした、幸せいっぱいの微笑みを浮かべる妹。

戦場帰りの自分を優しく暖かい愛で包み込んでくれた生涯にただ一人の妻。

その二人の写真を見て、ハンターは口元に笑みを浮かべながらおもむろに立ち上がる。

 

「……二人共……もうすぐ……俺も、逝くよ」

 

天国に居るであろう家族に届かぬ言葉を呟き、ハンターはベットに乗せていた愛銃を手に取る。

ナイツアーマメントのユージン・ストーナーによって開発されたセミオート方式のスナイパーライフル、SR-25。

そのネイビー・シールズ採用のカスタムが施された、通称MK-11は、ハンターが戦場に居た頃から命を預けていた相棒だ。

月明かりを受けて鈍く黒光りする愛銃を握りしめながら、ハンターは写真から目を離す。

”最期の仕事”を完遂させる為に、自分はこれから――のだ。

 

 

 

そして、生涯を地獄で生き抜いてきた男、ティモシーハンターは”覚悟”を決める。

 

 

 

憎き男が刻んだ、自分を苦しめる呪縛から解き放たれる為に、彼は窓に背を向け――。

 

 

 

 

 

『オラァアッ!!!』

 

ドゴォォオッ!!

 

 

 

 

 

突如、”不可視の力”に殴り飛ばされ、背中から机に激突した。

 

「――ごぉはッ!?」

 

まるで、大リーガーの豪速球を腹に受けたかの様な重く、鈍い衝撃だと、彼は思った。

そして背中越しに感じる、激突した机の固い感触と、その机にめり込む自分の体。

一体、何が起こった?

唐突過ぎる衝撃を受けて腹の中身がシェイクされる不快感。

 

 

そして、全身に奔る激痛に目がチカチカする中、彼は確かに見た――。

 

 

 

「挨拶は刺激的に、そして唐突に、の方が良いよなぁ?ン~?……あんなにイカした挨拶カマしてくれやがったんだからよぉ」

 

 

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛……

 

 

 

この狭い部屋の中で、息苦しい程の”スゴ味”を発しながら――。

 

 

 

何時の間にか自分の部屋に入り、闇夜に紛れていた少年の目に――気高くも美しい、”ダイヤモンドの様な輝き”を。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ランプの明かり一つしかない薄暗がりの部屋の中。

無防備な腹部に『スタープラチナ』の一撃を受けたハンターは腰を下ろしながらも、侵入者である俺に鋭い視線を向けている。

どうやら俺の挨拶、気に入ってくれたみてーだな。結構だぜ。

静寂が支配するこの部屋の中でハンターの荒い呼吸を聞きながら、俺は奴を注意深く観察する。

 

「ハァ、ハァ……何故、ぐっ……ここが……」

 

「ん?こーいう場合の定番は、『お前は誰だッ!?』じゃねぇか?」

 

「ぐ、げほっ……そんな言葉は必要……ない……俺の前に立つなら……ハァ、ハァ……敵、だからな……ッ!!」

 

「……なるほど。そりゃそうか」

 

俺と同じく注意深く俺の動きを鋭い視線で観察するハンターの言葉に納得してしまう。

元が付くとはいえさすがは軍人。

相手が正体不明の子供でも、注意は怠らずって訳だ。

例え強く無くとも、こっちを舐めて油断しまくってた月村祐二よりも厄介かもな。

 

「まぁさっきの質問の答えだが……教える必要は無いだろ?……俺達は敵なんだから」

 

「…………違いないな」

 

俺の言葉に流暢な日本語で答えながら、ハンターはベットに投げ出されたライフルにチラリと視線を送る。

当然、それに気付いた俺は油断する事無く、奴を見据えて直ぐに動ける体勢をとる。

俺の意識が伝わったのか、傍に浮かぶスタープラチナも半身の状態で構えている。

 

数十分前、ビルの傍で狙撃犯の素顔を確認した俺は、次にハンターを探す事に決定していた。

 

何故なら『隠者の紫(ハーミット・パープル)』の念写で探したハンターのアジトが、割と近くだったからである。

狙撃犯の事も大事だが、近場に居るのなら先にハンターを倒した方が効率的だろ。

昼間を避けて夜に動いたのは、誰かに目撃される可能性を減らす為。

その狙いも当たったお陰で、俺は心置きなくこうして姿を晒せるって訳だ。

そして写真に映し出されたこのビルのこの部屋を探し当て、銃を持っていたハンターに先制攻撃を仕掛け、今に至る。

 

「……ハァ……ハァ」

 

と、ここまでの過程を思い返す俺の目の前で、ハンターは衝突した机からゆっくりと後ろ側に動いていた。

その動きはカタツムリの様にノロく、息も絶え絶えなハンターがもう派手に動けない事の現れでもある。

 

「オイ。妙な真似はするんじゃあないぜ……それ以上動いたら、さっきの倍を即座に叩き込む」

 

「ッ……」

 

「断っておくけどよぉ。俺は暴力大好きって訳じゃあねーんだ……でも、アンタが妙な動きをしたら止める為に、殴るしかねーんだよ」

 

だから動くな、と言葉にしつつ、ハンターを見つめる。

身体に残るダメージが、俺の言葉が偽りじゃないというリアリティを持たせたんだろう。

ハンターは苦しげに息を吐きながらも、体の動きを止めた。

正直な所、手加減したとはいえスタープラチナでブン殴られて意識を保っていられるとは思わなかった。

普通なら気絶するぐらいの威力で叩きこんだんだが――。

 

「ク、クク……クハハ」

 

「……何笑ってやがる?何かおかしいか?」

 

この緊迫した状況にはそぐわない、ハンターの楽しげな笑み。

俺は眉間に皺を寄せながら問いかけるが、ハンターそんな俺をニヤリと笑って見つめるだけ。

……まさか頭がイカれちまったのか?……いや、この笑い方は……違う……何かが違う。

諦めの自棄になった笑みでも、自嘲する笑みでもない。

そういった、負の感情の笑いとは決定的に違う。

 

 

 

そう、これは――。

 

 

 

「クク……どうやってここを嗅ぎ付けたかは知らないが……少し、遅かったな」

 

 

 

自分の勝利を確信した笑みだ。

 

 

 

「そりゃどういう意――」

 

 

 

ドォンッ!!!

 

 

 

奴に言葉の意味を問い掛ける寸前、不意に聞こえた刹那の銃声。

その銃声の発生源はこの部屋では無く、この部屋の唯一のベランダの向こうからで――。

 

ズドォッ!!

 

「っ――」

 

銃弾は――”ハンターの眉間を食い破り”、俺へと迫って来ていた。

 

「――なッ!?」

 

『オオォラァッ!!』

 

突然過ぎる攻撃に身体は硬直するが、スタープラチナの方は何とか動いてくれた。

これもプレシアさんと戦って得た、戦いの経験のお陰だろう。

硬直して動けない俺の体に迫る弾丸を見据え――。

 

ギュルウゥンッ!!

 

そのライフル弾を指で掴み、スタープラチナは攻撃から守ってくれたのだ。

そうして自分の体が生命の危機から脱した瞬間、俺はハッとなって正常な意識を取り戻す。

 

――目の前で頭部を打ち抜かれ、無残な死体となったハンターの姿。

 

普段の俺なら動揺して何も出来なかっただろう――だが、今は違う。

米花町に来た時に、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使って自分に掛けた暗示。

どんな状況でも冷静に行動できる様に死体を見ても平常心を失わなくなった俺は、直ぐに自分の使うべき能力を選ぶ。

撃たれてから、まだ凡そ”3~4秒しか経ってない”――まだ、間に合うッ!!

 

「『マンダム』ッ!!」

 

ほぼ叫び声で呼び出した俺の言葉に反応して、肩に覆い被さるタコのような姿をしたスタンドが現れる。

名は『マンダム』、スティール・ボール・ランにおいて、リンゴォ・ロードアゲインという人物が使っていたスタンドだ。

俺はマンダムの名を呼ぶとほぼ同時に触っていた”腕時計の秒針ツマミを戻し”、自分の中の能力発現のための精神的スイッチ(きっかけ)を入れる。

 

 

 

キュルル――カチッ。

 

 

 

秒針を戻すと”スイッチ”が発動、マンダムは能力を発現し――。

 

 

 

「クク……どうやってここを嗅ぎ付けたかは知らないが……少し、遅かっ――え?」

 

 

 

――今の出来事は全て、”6秒前に巻き戻る”。

 

 

 

目の前で呆然とする”ティモシー・ハンター”の言葉を聞かず、俺は直ぐに動いた。

自分の身体を射線の外にズラしつつ、再び弾丸が発射される前に――。

 

『オーーラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!

 

「ぐばがあぁぁッ!!?」

 

スタープラチナのラッシュで、ハンターをベランダから影になっているベット側に殴り飛ばす。

その直ぐ後に窓の向こうから通過する一発の弾丸。

しかしそこには既に獲物はおらず、スタンドであるスタープラチナを只の弾丸が捉える事も無い。

目標を見失った弾丸はベランダの窓を破り、部屋の壁に弾痕を刻むだけの結果となった。

 

「……~~~ッ!!フゥ……ッ!!タマげた……あんなの有りかよ……ッ!?まさか仲間を撃つとは……ッ!!」

 

一瞬でハンターが死んだ衝撃的な出来事だったが、それも何とか片付いて、俺は大きく息を吐く。

まさかこの場所で狙撃されて、しかもハンターの額越しに弾丸が襲ってくるなんて予想できる訳が無いっての。

天国への扉(ヘブンズ・ドアー)の効力のお陰でそこまでパニックになってはいないが、それでも予想外に過ぎる。

マンダムの能力が無かったらと思うとゾッとするぜ。

 

――マンダムの能力は、簡単に言うなら”6秒間だけ時間を巻き戻す”という能力だ。

 

しかも時間を巻き戻すという事はそれ即ち、射程距離内における全ての物体の状態も元に戻るという事。

肉体や物体の状態・動作も発動した6秒前の状態に戻り、限定的だがさっきの様な死者を蘇生させるなんて荒業も使える。

だが、記憶だけは巻き戻されずに6秒前に飛んでもそのまま残っている。

その特性を応用すれば、原作でリンゴォがした様に、果樹園なんかの目印が無ければ迷う様な場所を永遠に彷徨わせる事も可能だ。

本当はベルツリーでも使えれば良かったんだが、アリサの手伝いとすずか達を守るのに意識がいってて、藤波が死んでから6秒以上経っちまってたからなぁ。

っと、過去の事を振り返るのは後回しだ。

俺は殴り飛ばしたハンターの側に駆け寄り、壁にめり込んだハンターがしっかり気絶している事を確認。

いくら軍人とはいえ、さすがにスタープラチナのラッシュは堪えたらしい。

しかし、このハンターって野郎……まるで自分が撃たれる事が分かってた様な口ぶりだったが……。

 

ブォンッ!!ブオォオンッ!!

 

「あの音は……まさか――」

 

その時、外から聞こえてきたバイクの音を聞いて、俺は直ぐ様スタープラチナの超視力で外を見る。

この部屋のベランダから真っ直ぐの直線距離。

凡そ150メートル程の距離に浮かぶ作業用台船であるフロート船の傍の陸地に、それは居た。

 

ブォンブォンッ!!ギュアァアアアアァッ!!――コオオオオォォォォォォ……ッ。

 

しかしその場に止まっていたのも少しの事。

この部屋を外から狙撃したハンターの仲間は、バイクの甲高くも小気味良いサウンドを響かせて逃走を開始していた。

 

「くそっ。まさかこの部屋を狙ってる奴が居たとは……何でこんな都合良く、俺を狙えたんだ?」

 

俺はここまで誰にも正体を悟られずに行動してきたつもりだ。

証拠をなるべく残さず、俺に繋がらない様に。

だが、今の狙撃は明らかに外に待機していた別の仲間がこの部屋を狙っていた。

しかも逃走用のバイクまで準備した段取りの良さ。

どう考えても俺が来るのを予期していたとしか思えねえんだが――。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

っと。今はそんな事を考えてる場合じゃねえな。

急いで奴の後を追って、倒しておかねえと。

ハンターの呻き声が聞こえて意識を切り換えた俺は、直ぐにハンターに駆け寄る。

 

「万が一、死なれちゃ困るからな……こいつの傷を治せ。『クレイジーダイヤモンド』」

 

ズギュウンッ!!

 

俺の呼びかけに応じて現れたクレイジーダイヤモンドが倒れたハンターに手を触れると、ハンターの傷が見る間に塞がっていく。

そのお陰か、気絶しているハンターの呼吸も安定してきた。

 

「そんで、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)。蘭さん達と同じ様に、”朝の8時まで何をしても何があっても起きない”と……これで良し」

 

傷を治したは良いが逃げられました、なんてオチじゃ洒落になんねえよ。

とりあえず朝8時まではこの部屋に身柄を確保できたのでOK。

俺は廊下に隠してあったスケボーを持ってベランダから飛び降り、スタンドの足で衝撃を和らげながら地面に降り立つ。

その際、割れたガラスはクレイジーダイヤモンドで治しておくのも忘れない。

これであの部屋は外から見ても異常は無い様に見えるだろう。

俺はスケボーを使ってもう一人の犯人がバイクで逃げた場所に向かい、手から紫の茨を生やす。

 

「逃がしゃしねえぞ――隠者の紫(ハーミット・パープル)ッ!!」

 

バシバシバシッ!!

 

地面に触れる俺の手から伸びた隠者の紫(ハーミット・パープル)が、砂を掻き集めて奴の居所を地面に念写していく。

 

奴は間違い無く、俺の顔を見てる筈だ。

ここで逃がしたら、俺が圧倒的に不利になっちまう。

 

「スナイパー相手に顔晒したまんまなんて、冗談じゃ無え。俺の平穏が遠のいちまうぜ」

 

人の考えが及ばない超常現象を起こすスタンド能力だが、全てのスタンド能力に共通する『弱点』というものがある。

それは偏に『スタンド使いはスタンド程強くない』という弱点に他ならない。

俺だって例に漏れず、24時間常に気を張って襲撃に備えるなんてタフな精神は持ちあわせて無え。

だからこそ、正体を知られた可能性がある今、絶対に奴を逃がす訳には行かねえんだ。

 

バシバシバシッ!!

 

隠者の紫(ハーミット・パープル)の描いた砂の地図上。

縦横無尽に奔る道を、犯人は車間を縫う様にして駆け抜けていく。

しかし、今も奴が走っているルートから、目的地を逆算する事は可能だ。

それに俺が何時まで経っても追ってこないからか、速度を目立たない様に落としてやがる。

このままのルートでこの程度しか離れてねえなら――どうにでも出来る。

俺はスケボーを抱えたまま走り、目の前の隅田川に飛び込む。

勿論、阿笠ハカセご自慢の機能である水上モードを起動したスケボーを先に着水させ、その上に乗り込んでアクセルを踏み込む。

後部ロケットの部分から吹き出した風がスケボーを進ませ、LEDフラッシュライトが行く先を照らす。

中々にリスキーなバランス感覚だが、一度慣れちまえば問題ねえぜ。

 

「さあて、奴はどこだぁ?」

 

河を猛スピードで爆走しながら、隠者の紫(ハーミット・パープル)で念写した奴の位置を思い出しつつ、周辺の橋を見渡す。

逃走する速度を上げる為か、犯人のバイクはマフラーが変えてあった。

あの独特な音ならそう聞き間違える事も無えが――。

 

コォォォォォォ……ッ。

 

「ん?」

 

と、目の前の橋の向こう側から微かに聞こえてきた音に耳を澄ませる。

音は段々と上がり、こちらに向かってきていた。

 

「……この甲高く耳に残るエキゾースト……追い着いたみてーだなぁ……ッ!!」

 

間違いない。奴のバイクの音だ。

標的に追い着いた俺はニヤリと笑みを浮かべつつ、スケボーを急旋回。

最大スピードで、対岸の岸へと向かう。

やがて、奴のバイクが橋の向こう側から現れ、水上の俺を追い抜いて橋の終わり際まで向かう。

そんな中俺はスピードを緩めずに橋の向こう側、つまり犯人の逃走経路を睨み――。

 

「飛ばせッ!!『ゲブ神』ッ!!」

 

ザパァアアアアッ!!

 

水を操るスタンド、ゲブ神の手の形をしたスタンド像にスケボーの真下の水面を持ち上げさせ、大ジャンプを敢行する。

そのまま橋の柵を飛び越えて、奴のバイクの真後ろにローラーを出して着地。

ここでやっと犯人は俺の事を視認した。

ヘルメットと目出し帽の所為でその顔は見えねえが……驚いてるってのは丸分かりだぜ。

 

「ッ!?ッ!!」

 

「逃がすかよぉッ!!待ちやがれッ!!」

 

俺の姿を認識した犯人は即座にバイクを加速させて俺を引き離しにかかる。

当然それを見逃す筈も無く、俺もスケボーを思いっ切り加速させ始めた。

体感的には多分85kmは出てるだろう。

 

「ッ!!」クオォオオオオオオッ!!

 

「ぐぅ……くそ……ッ!?やっぱノーヘルでこの速度はキツイか……ッ!?」

 

しかし向こうは腐ってもバイク。

更にフルフェイスヘルメットで顔を完全防備している犯人は風の抵抗なぞお構い無しに速度を上げていく。

一方で俺は顔を何も防御してねーからかなり息苦しいし、目を開けるのでやっとだ。

コレ以上はさすがに飛ばせねぇぞ。

 

「ちっ。完全防備だからってガンガン飛ばすんじゃねぇよ……ッ!!」

 

聞こえないとは分かっていても、悪態を吐かずにはいられない。

そうやって数十キロの差が如実に現れ、犯人のバイクはドンドンと離れていく。

このままじゃ何時かは振り切られてゲームオーバーだ。

いや、それか持久戦にでもなったら、スケボーの充電が先に尽きてしまう。

従ってこの脇道の無いストレートで引き離されたら終わりって事になる。

 

 

クソッタレ。これ以上はもう――なんて言うと思ったか?

 

 

 

「今夜の俺はしつこいぜ……脂ギットギトのとんこつラーメンよりなぁ――『ウェザー・リポート』ッ!!!」

 

ゴロゴロゴロゴロ……。

 

さっき以上に口元を吊り上げた笑みを浮かべて、俺はウェザー・リポートを喚び出す。

俺の目の前に突如現れたウェザー・リポートはゴロゴロと雷音を撒き散らしながら、目の前の空間に向かって拳を振るう。

すると、その拳を中心として”雲が唸りながら俺の周りに浮かんで”強風が受け流されていく。

さっきまで感じていた息苦しさを解消され、俺はポケットに手を突っ込んでミン○ィアHurdのケースから中身を2粒出した。

それをそのままポイと口に放り込み、ガリガリと噛み砕く。

 

「――~~~~ッ!?……かぁ……辛え……ッ!?」

 

ケースのロゴに使われている炎の如く、俺の口の中を燃やし尽くさんばかりの辛味。

その舌に奔る痛みに若干涙目になりながらも、俺は前を睨む事を止めない。

 

「こんな辛え眠気覚ましを飲む羽目になるたぁ……この怒り、あの野郎に叩き込んでやる」

 

距離にして凡そ50メートルは離れてしまった犯人の後ろ姿を睨みながら、アクセルを更に踏み込む。

そうする事でスケボーは俺の限界を超えた速度を出す――が、俺はさっきまでの様に苦しむ事は無かった。

そのままスケボーは加速を続け、遂に体感時速90kmをマーク。

さっきまで離れていた犯人の直ぐ側に到達した。

 

「ッ!?」

 

「YO!YO!YO!逃がさねぇっつたろぉがぁッ!!」

 

ミラー越しに俺の姿を確認した犯人は一度振り返って更にバイクを加速させるが、俺はそれに引き離されずに追い縋る。

風の抵抗を感じている犯人と違って、俺は殆ど風の力を感じていない。

ウェザー・リポートで周囲の空気の層を操り、『風圧のプロテクター』を作って風を鋭角の形で外向きに流しているからだ。

解りやすく形にするなら、俺の前方からソフトクリームのコーンの形をした空気のバリアがあるって感じだな。

奴のバイクよりも風の抵抗を受けなくなったお陰で、距離がグングンと縮んでいく。

 

「~~~ッ……ッ!!」

 

ドンドンドンッ!!

 

暫くそうやってケツに張り付いていると、どれだけ飛ばしても俺が離れないと思ったらしく銃を取り出す犯人。

尤も、右手の人差し指は俺が抉り取ってるので、左手で構えているんだがな。

それを間髪入れずに連続で発射する犯人。

 

ギュオォオオオンッ!!

 

しかし、発射された弾丸は俺の目の前に浮かぶ雲の層に阻まれ、俺から離れる様に見当違いの方向に向かってしまう。

 

「ッ!?」

 

「ハッ!!ン~な豆鉄砲が効くかぁッ!!貧弱貧弱ぅッ!!!」

 

弾丸が風のプロテクターに阻まれて不規則な弾道で逸れた事に驚愕する犯人を見ながら、俺は何時にも増して小馬鹿にした様な台詞を吐く。

俺やアリサ達の楽しい夏休みを台無しにした犯人を良い様にあしらう楽しさが、俺を何時もよりハイテンションにしちまってるんだ。

これは氷村達をボコボコにした時の高揚した感覚とも似ている。

すると、俺の笑みとさっきから起こる不可思議な状況に恐怖を覚えたのか、犯人は俺を振り切ろうと無理にバイクを横に倒す。

下手すると転けるかもしれねえってのに、犯人はバイクを起こさず無理な速度で横に見えた港のコンテナ置き場に逃げようとしている。

あぁ、分かるぜ?どんな人間でも見えないってのは怖えよなぁ。

そうまでして俺から逃げようとする哀れな犯人を――逃すつもりはこれっぽっちも無いがね。

大体、2メートルぽっちなんて少し離れたぐらいで”コイツ”の『射程距離』から逃げられると思ってんのか?

 

「そこんとこ、”お前”はどう思うよ?」

 

『フム、正ニ犬モ食ワネェ”クソオチ”ッテヤツジャナイデショーカ?』

 

「くくっ。違い無え」

 

俺の側に浮かぶ、俺よりちょっとだけ背が高いくらいの小さなスタンド。

”ソイツ”は俺の隣で空中に胡座をかきながら座りつつ、問いかけに答える。

衣服と呼べる物は腰巻きのみ。

顔を正中線に沿って配置されたランプの様な突起がデザインされたシンプルなヴィジョン。

 

 

 

――そして、”成長した己を示す腰巻きの『3』という数字”が唯一にして一番のアクセントになっている。

 

 

 

嘗て”杜王町での戦いの中で危機を乗り越える度に成長を遂げた”スタンド使い、『広瀬康一』のスタンド。

 

 

 

『所デ、定明サマ。ソロソロアノクソッタレナバイク野郎。”止メチマッテ”モ良イデショーカ?』

 

「あぁ、良いぜ――カマしてやれッ!!『エコーズ・ACT3』ッ!!!」

 

『OK!!MASTER!!LET'S KILL DA HO!! BEEETCH!!』

 

口汚さでは『スパイス・ガール』にも並ぶパワー型スタンド、『エコーズ・ACT3』だ。

ACT3は俺の命令に従い、口汚い罵りを犯人にぶつけながら”構え”を取る。

両方の手のひらをビシッと伸ばした貫手のまま、右手を顔より少し上に。

そのまま左手を突き出した構え。

その構えから右手を真っ直ぐに伸ばした左手の手の平と合わせ、水平に寝かせる。

更にその手を180度捻じり、対象に向かって照準を合わせ――。

 

『――必殺ッ!!『エコーズ・3FREEZE』!!!』

 

ドババババババババババッ!!!

 

その拳法の様な構えを維持したまま飛び上がり、”犯人のバイクの前輪”にラッシュを叩き込む。

そして、最後のラッシュが叩き込まれたと同時に――。

 

ズズンッ!!!!!

 

「ッ!!?」

 

犯人の乗ったバイクの前輪が中程まで地面にめり込み、急制動を掛けてしまう。

これがACT3の能力。

『3FREEZE』という、ACT3が殴った物を『重く』してしまう能力だ。

その重さは本体と対象の距離で変わり、本体が対象に近づけば近づくほど、対象に掛かる重みは増すという凶悪さを持つ。

今回はその能力で犯人のバイクのフロントホイールを重くして、地面にめり込ませたって訳だな。

いきなり働きかけた慣性の法則により、犯人はまたがっていたバイクから放り出され空高く飛び上がって……あ。

 

ドボーーーンッ!!

 

豪快な水飛沫と音を立てて海へと投げ出されてしまった。

飛び上がった犯人を追っかけていた俺は直ぐに犯人の落ちた付近の堤防に止まる。

 

「やれやれ。まさか水の中に落ちるとは……」

 

『スイマセン、定明サマ。野郎ノブッ飛ブ先ヲ考エテマセンデシタ。S・H・I・T』

 

「いや。地面に叩き付けられてミートソースになんなくて良かったぜ」

 

『ソレモソーデスネ。汚エモンブチ撒ケラレタラ、ソージノオバチャンモ堪ンナイデショーカラ』

 

水柱の立った海面を見ながらACT3と会話を続ける俺。

こんな事してたらまた犯人に泳いで逃げられるかも……なんて心配はご無用。

今は夜で、しかも監視カメラも無い場所なのは確認済み。

 

バッシャァアアアアンッ!!

 

「なら別に、ゲブ神で釣り上げても問題は無え」

 

「うわぁああああああああッ!!?」

 

『ナルホド。ゴ尤モデス』

 

ドシャアッ!!

 

「ぐはッ!?」

 

再び海面から出てきた水柱と、その水に押し飛ばされてコンテナ置き場に落ちる犯人を見ながら呑気な事を言う俺とACT3。

2メートル程の高さから落ちて変な悲鳴を挙げる犯人を正面に捉えて、俺は犯人と距離を詰める。

既にACT3は解除して、この場で対面しているのは実質俺と犯人だけだ。

俺はゴホゴホと咳き込む犯人を見下ろしていた。

 

「ゴ、ゴホッ!!ゴホッ!!うぅ……ッ……」

 

月明かりが雲で隠れて暗くなる中、両手をポケットに突っ込んで立つ俺と、四つん這いで俺を見上げる目出し帽を被った犯人。

どうやらヘルメットは海の中で脱いだらしいな。

辺りには遠くで走る車の音しか聞こえない、静かな空間。

その中で、俺は自分から犯人に話しかけた。

 

「こんな状況でも喋らねえのは凄えけど――もうアンタが誰かは知ってるぜ?」

 

「なッ!?」

 

「あぁ、先に断っとくけどハンターがバラしたんじゃねえからな?奴は何も言わなかったよ」

 

シュピンッ!!スパッ!!

 

「ッ!?」

 

「まぁ……初めまして。だな?」

 

俺は『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』で犯人の目出し帽を斬り、最後のヴェールを暴く。

突然顔を隠すマスクが切れて驚く犯人だが顔を隠す前に、雲がずれて差し込んだ月明かりの元に、今まで見えなかった”男”の顔が顕になる。

丸坊主の黒髪に、右の眉毛辺りを横断する小さな裂傷の傷痕。

暗い殺意を孕んだ灰色の鋭い瞳で俺を見つめる双眸に、歯を食い縛った怒りの表情の顔という出で立ち。

俺はその殺意を真っ向から浴びながら、真剣な目で”奴”を睨む。

 

「ケビン・吉野さん、よ」

 

「……」

 

名前を言い当てた俺に対して、依然変わらない殺意を叩きつける吉野。

まぁ、この状況でにこやかに応対されたらそれこそ異常な訳だが。

俺を睨む吉野の視線を受けながら、俺は調べあげたこの男のプロフィールを思い出す。

 

ケビン・吉野。

 

元海兵隊2等軍曹で、現在は32歳。

右眉の端に傷がある日系アメリカ人の男性で、現在は東京・福生で米軍払い下げ品のミリタリーショップを経営している。

かつて中東の戦闘でハンターに何度も命を救われたことがあり、彼を「ティム」と呼んで慕っている程に仲が良い。

警視庁のパソコンに保管されている『ベルツリータワー狙撃事件に於ける、ティモシーハンターが頼る可能性のある人物』のリストに載っていた人物。

吉野の顔をムーディ・ブルースのリプレイで見てから警視庁のパソコンにハッキングを掛けて知った事だがな。

事情聴取には横柄な態度で応じるも、ハンター犯人説については納得してない様子だったそうだ。

民間人に対する発砲もでっちあげだと怒りに燃えた様子で語っていたらしい。

まぁ、ハンターに対する恩はかなり感じてんだろう。

何度も自分の命を救ってくれた恩人の復讐の手伝い……積極的に協力したのは間違い無い。

どっちみち、この吉野って男がハンターに手を貸した理由なんてどーでも良いがな。

 

「……何故だ……」

 

「あ?」

 

「何故、お前は……”俺達”の復讐を邪魔しやがる……ッ!!」

 

と、吉野の人物像を思い返していた俺の耳に、その本人が発する殺意に満ちた声が飛び込んできた。

訝しい顔でそれを見る俺と、憎々しげに俺を睨む吉野。

しかし”俺達”の、とはどういう意味だろうか?

 

「お、お前が不思議な力を使う事は分かった……ハァ、ハァ……恐らく……HGS患者なんだろう?それもPケース級に強力な……多分、昨日俺の指を吹き飛ばしたのも……だが、何故邪魔をする……ッ!!俺達が誰を殺そうと、お前には関係な――」

 

ズドンッ!!

 

「うげあッ!?」

 

何やらグチャグチャ言い出した吉野の地面に着いた右手を、俺は力の限り踏んづける。

ボキボキとポッキーの様な音を立てて簡単に圧し折れる吉野の指。

痛みに呻く吉野を見下ろしながら、俺は無表情で言葉を紡いだ。

 

「アホ言ってんじゃねえ……確かに、テメェ等が復讐の為に誰かを殺そーとすんのは否定しねーぜ?」

 

「あ、あぁがぁ……ッ!?ぐっ、う、うぅ……な、なんだと……ッ!?」

 

「その事に関しては本当に、奴等とアンタ等の問題なんだろうなっつってんだ……俺だって、ハンターのおっさんみてーに、自分の家族を誰かの悪意で失って、ソイツが裁きも受けずにノウノウと生きてたなら……俺が裁くだろうさ」

 

吉野に話しながら思い浮かぶのは、あのクソDQNネームのオリ主の言葉だ。

テメーのハーレムという都合の為に俺の命を狙い、俺の家族すらも殺し、穢すと言い放った。

自分の私利私欲の為に父ちゃんを殺し、母ちゃんを犯すと……言いやがった。

その時に胸の中を駆け巡った気持ちを、俺は忘れない。

あの、ドロドロとしたコールタールの様な……しかし炎の如く容易く俺の心に燃え広がる、暗い闇を思わせる様な”漆黒”に染まりかけた感覚。

それと似ていて、でも決定的に違う別の感覚が、今のハンターや吉野が抱える思いなんだろう。

 

「そ……それが分かっていてッ!!何で俺達の邪魔をすると聞いてるんだぁッ!!」

 

俺自身の生きる根幹の思いを吐露すれば、吉野は手を抑えたまま俺を見上げ、血を吐き出さんばかりの勢いで怒鳴り散らす。

まるで、この世の中の全てを呪わんばかりの憎しみに染まった形相。

少なくとも、俺の目にはそう見えた。

 

「お前の言った通り、ティムは家族を失った……いや、奪われたんだッ!!奥さんは連日のしつこい取材でノイローゼになり、精神安定剤の過剰摂取で心乱になっちまったッ!!妹は婚約を破棄されて自殺ッ!!そして――ティムはウォルツとマーフィーに何もかも奪われたッ!!地位も名誉も財産も家族もッ!!……ティムは自分の功績が霞む事を恐れたウォルツに無実の罪で訴えられ、俺達が再調査を依頼したら、今度は戦場でマーフィーに命じてティムを殺そうとしやがったんだぞッ!!」

 

「……」

 

「証拠だってあるぜッ!?ティムは何とか一命を取り留めたけど、それで除隊。ウォルツ達の思い通りになったが、俺がティムに撃ち込まれた弾丸とマーフィーの銃を照合したらピッタリ一致したんだからなッ!!その銃弾と銃も何時の間にか揉み消されちまったけどよぉッ!!」

 

そう言って吉野は顔を下ろし、無事な右手の拳をギュウッと握り締める。

……どうやら、残りのターゲット候補の奴等も近年稀に見る程にクソヤローだったらしいな。

殺されて当然の輩で……ドが付く程に許し難い。

少なくとも、他人の人生を滅茶苦茶に狂わせる様なクソッタレって事だ。

だが、そうなると疑問が残る。

 

「じゃあ、何でテメーはそんだけ尊敬してるハンターを撃ちやがった?少なくとも、あの狙撃は――最初からハンターを狙って撃った様にしか思えねえ」

 

そう、さっきのアパートで俺諸共ハンターが撃たれた事がどうにもおかしい。

あれだけ即座に俺と一緒にハンターを撃てたのは、”俺が来たから”ではなく、”俺が射線上に居たから”だと感じた。

 

「何故尊敬する恩人を撃ち殺そうとしたのか?俺にはそこがどうにも引っ掛かって離れねぇ。まるで歯にこびりついたクラッカーの歯糞みてーに、ムカつく違和感だ……そーいうのはよぉ、スッキリさせときてぇのさ」

 

「……」

 

「言え。何であんな事をしたのか……アンタは本当に、ハンターを尊敬しているのかを、な」

 

黙りは許さない、と視線で脅しながら、俺は吉野に言葉を叩きつける。

俺が態々コイツと話してるのは、その奇妙な謎をスッキリハッキリさせておきてぇからだ。

そうじゃなきゃ、とっくに叩きのめしてる。

吉野は俺の言葉と視線をジッと受けていたが、再びあの怒りと殺意に染まった目で俺を睨む。

 

「…………尊敬しているさ……撃ったのは……その、尊敬するティムに頼まれたからだ……俺を……殺してくれって」

 

「なに?」

 

絞り出す様な掠れ声で紡がれた言葉に、俺は聞き返してしまう。

今、コイツは何て言った?……頼まれただと?それもハンター自身に?

 

「ティムは、戦場で受けたマーフィーの銃弾を、手術で摘出できて一命を取り留めた……でも、全てが取り除かれたんじゃ無かったのさ……銃弾の破片が、ティムの脳幹の近くに残っちまってたんだよ」

 

「……脳幹」

 

「そうだ……その破片が視神経や他の神経を圧迫して、ティムは普段から猛烈な頭痛に苦しんでいた……一番強い鎮痛剤を、まるでドリトスを齧るみたいにガリガリ食ってたけど……それでも、頭痛は収まらなかった……あいつらの所為で……ッ!!」

 

怒りに震える吉野を見ながら、俺は今回の事件で一番の衝撃を受けた。

脳という人間の一番デリケートな部分に金属の破片が残り、休む間も無く圧迫される苦しみ。

それがどれ程辛い事かなんて、俺には想像も出来ない。

確か、ハンターがその銃弾を受けたのが8年前……つまりハンターは、8年間もそうやって苦しみ続けてきたって訳か。

ひでぇ話だぜ……ハンターの狂わされた人生ってヤツには、同情しちまうよ――。

 

「――俺はティムに戦場で何度も命を救われ……ティムの為なら、誰であろうと殺す(・・・・・・・・)って誓ったんだ」

 

「……あ?」

 

「シールズに居た時から、あの人は仲間を助ける事に命を張ってきた……そんな本物の英雄が――何でこんな理不尽な目に遭わなきゃいけねぇんだよ……ッ!!」

 

「……」

 

「騙され、家族を滅茶苦茶にされて……生きてる限り苦しみから逃れられないなんて……そんなの許せる訳がねぇだろう……ッ!!……奴等に思い知らせてやるんだ……ッ!!ティムが味わった苦しみをッ!!あいつ等にも、家族を失う苦しみがどういう事かってのを、味わわせてやるッ!!ウォルツも、奴の娘も妻も皆殺しだッ!!」

 

ここで俺は吉野の様子が変わっていくのを、ジッと見つめていた。

ハンターが味わった苦悩を呟きながら、吉野は地面に突いていた膝を挙げて半立ちになっていく。

そしてその目に宿るドロドロとした殺意は微塵も消える事は無く――。

 

 

 

俺はそんなケビン・吉野を――我ながら、能面の様な表情で見ていたと思う。

 

 

 

「やっと、ティムに恩を返せる時が来たんだ……ッ!!――邪魔するんじゃねぇえええええええええッ!!!」

 

 

 

突如、吉野は俺に向かって叫んだかと思うと、背中に回していた右手にハンドガンを握り――俺に照準を合わせる。

人差し指は俺が吹き飛ばしてしまったので、引き金にかかっている指は中指になる。

そんな不安定な状態であっても……吉野は障害となる俺を殺すべく、引き金を引いていく。

その行動を2つの眼でしっかりと見つめつつ、俺は心の中で大きな溜息を吐いていた。

 

 

――ホント。

 

 

 

「うぉぉおおぉぉおぉぁあああああぁぁあああぁああッ!!死ねぇえぇえええッ!!」

 

 

 

ダダダダダダダダダッ!!

 

 

 

――ままならねぇよな。

 

 

 

「『キング・クリムゾン』」

 

吉野の拳銃はハンドガンだったが、どうやらフルオート機能が付いていたらしい。

鋭く、近距離で発射された複数の弾丸。

その弾丸の数々を、俺は『躱す事もせず棒立ちで迎え、”無傷”でその場に立ち続ける』だけ。

弾丸は一発として俺に当たらず”背後に飛んで行く”。

それが、この世に残った”結果”だ。

 

「――な、に?」

 

「……時間を0,5秒だけフッ飛ばした。その時間内のこの世のものは全て消し飛び、残るのは0,5秒後の『結果』だけだ。弾丸が全て外れるという『結果』だけが残る。途中は全て消し飛んだんだ」

 

「じ、時間、だと?…………そ、そんな……馬鹿な……」

 

全ての弾丸を撃ち尽くし、しかし掠りもしなかった結果に慄く無防備な吉野。

弾丸を再装填する事もせず、吉野は後ずさりして俺から距離を取ろうとするのみ。

……普通ならスタンドの能力をペラペラ他人に喋る、なんてのはNGだが……相手が常識人なら、混乱を誘うことも出来る。

そんな絶好の機会に畳み掛ける事も無く、俺はゆっくりとした速度で歩いて距離を詰めつつ、静かに口を開いた。

 

「あんたの気持ちは良く分かったぜ、吉野さんよ……そんな辛い目に遭ってきたハンターには同情するし、あんたが怒るのは正当な理由だ」

 

「あっ……う……」

 

「――けどよぉ」

 

吉野の抱く怒りと殺意の理由を『正しい』と断じる……が、”やってる事は正しくねぇ”。

奴に投げかけた言葉の直ぐ後に、俺は真剣な顔で奴を鋭く睨む。

 

「何の関係もねえ罪の無い人達を、相手の家族だからって理由だけで殺そうとした時点で――あんたも奴等と同じだよ」

 

「なっ――」

 

俺の言葉を聞いて、吉野は理解出来ないという顔をした。

だがなぁ、寧ろ俺の方が理解できねえよ。

ハンターを地獄に突き落とした奴等に復讐するってのは、まだ良い。

だが、奴等の家族だからって理由だけで何もしてねー人達も巻き込む。

それは、絶対に許しちゃいけねー事だ。

少なくとも、俺はそう思う。

そんな理由で無関係の人間を巻き込んで、自分の復讐という都合を制限無く他者に強要し続ける。

挙句の果てには自分達の行いが正しいと信じ、他者の事を考えてない。

 

 

 

最初の頃は、もしかしたら純粋に奴等が許せなかっただけかもしれない。

 

 

 

だが、何処かで吉野の目的はズレた。

 

 

 

自分の恩人を地獄に落とした奴等を何をしてでも殺す。

 

 

 

――誰を巻き込もうが関係なく、その家族も纏めて殺すという最悪のシナリオに。

 

 

 

そして、その目的のために、偶然巻き込まれたデビットさんは死に掛けた。

吉野とも、ハンターとも、そしてその復讐相手とも何の関係の無いアリサが……永遠に父親を失う所だったんだぞ。

集団の中に居るターゲットを狙って二次災害が起きる事なんてまるで考えちゃいねえんだろう。

善意からの行動や何らかのきっかけ(使命感、被害意識、怨讐など)があろうとも、それによって発生する周りへの影響を顧みない人間性。

それは、反社会的でありながら、どうしようもない輝きを放つ”漆黒の意志”を感じさせない――”ゲロ以下の匂い”がプンプンする邪悪さだ。

どれだけ『誰かの為に』なんて綺麗事を抜かしながらも、隠すことの出来ない醜悪なオーラ。

 

 

 

以上の全部引っ括めて、コイツは――どうしようもなく『吐き気を催す邪悪』で――。

 

 

 

「あんたは”堕ちちまった”のさ……自分の為に他の人間を顧みない――只の『ゲス野郎』の心に」

 

 

 

俺の『敵』だ。

 

 

 

「――う――ううぅぉおおおおおおおッ!!?」

 

自分を奮い立たせんが為の獣の様な雄叫びをあげ、吉野は銃を投げ捨てる。

或いは、自分が殺そうとしてた連中と同じだと言われて、違うと言いたいのかも知れない。

だが、その真意は俺に伝わる事は無く奴も伝えようとは思ってないだろう。

だから、銃を投げ捨ててコンバットナイフを構えながら俺に迫る吉野相手に……容赦はしねぇッ!!

 

 

 

俺は自分に迫る吉野を真っ直ぐに見つめ――星の痣に手を伸ばし、そこから浮き上がった”シャボン玉”を指先に挟む。

 

 

 

「――『ソフト&ウェット』」

 

 

 

フワフワ――パチィイイン。

 

そして、そのシャボン玉を生み出したスタンドの名を叫びながら、吉野に向かってシャボンを軽く投擲。

俺の左肩と同じ星のマークを内包したシャボン玉はフワフワと飛んで吉野に当たり、軽い音を立てて弾けた。

 

「うぉああああああああッ!!」

 

しかしそのシャボン玉が当たっても、吉野にこれといった変化は見られず、奴は雄叫びを上げて俄然突っ込んでくる。

……まぁ、外見的に変わる事は無えだろうな。

俺はこちらを殺す為の凶器を振り上げる吉野の姿をまるで他人事の様に眺める。

 

何故こんな無防備かと言えば、俺の攻撃はもう”決まってる”からだ。

 

だから俺はナイフを振り上げた吉野が目前に居ても、堂々としている。

そして、俺の体にナイフを突き立てようと吉野が一歩を踏み出し――。

 

ツルンッ

 

「――は?」

 

ドサッ

 

そのまま回転して地面に背中を打つ瞬間を目にしようと、これといって驚く事は無い。

 

「…………ッ!?」

 

まるで何が起こったのか理解出来ないって顔で固まる吉野だが、直ぐにハッと意識を戻して立ち上がろうとする。

さすがに元が付くとは言っても軍人だな。

……まぁ、例え相手が凄腕の軍人だろーと一度術中に嵌めちまえば――。

 

ツルンッ

 

「なッ!?ど、どうなってる……ッ!?」

 

もう抜け出す事は出来ねーよ。

 

「く、くそ……ッ!?――なんで、”立てねえんだ”……ッ!?」

 

手を地面について体を起こそうとして、何故か”地面についた手が滑って、起き上がる事が出来ない”事に、吉野は今までに無い焦りを浮かべる。

俺はそんな吉野の奇行を見下ろしながら、自らの隣にスタンド――ソフト&ウェットを喚び出す。

体の中央に碇のマークが描かれた人型のスタンドソフト&ウェットは、近距離パワー型に分類されるスタンドだ。

その能力は『星型の痣から飛び出した「しゃぼん玉」が触れて割れることで「何か」を一時的に奪う』という、一風変わった能力である。

奪えるものは「光」「水」「音」「摩擦」「毛」など多岐に渡り、奪う量は調節が可能。

また奪った対象をしゃぼん玉に封じて別の場所に移動させることも可能で、その場合はしゃぼん玉が割れた場所に奪ったモノが出現する。

 

今、俺が奪ったものはシンプルにして無くてはならないモノ、それは――。

 

「今、お前の体から”摩擦”を奪った」

 

「……は?……な、にを……言ってる?……ま、摩擦……?」

 

「摩擦だよ、摩擦……まぁ、簡単に言うとよぉ……今のお前の体は摩擦ゼロって訳」

 

『オラッ!!』

 

ドゴォッ!!

 

「ぼっ――」

 

何が何だかといった表情で怯える吉野に言葉を掛けながら、ソフト&ウェットに吉野の側頭部を殴らせる。

すると吉野の体はまるで扇風機のファンの如く、クルクルと回り始めた。

しかも普通なら抵抗で直ぐに止まる筈なのに、吉野の身体は全然スピードを落とさない。

面白いぐらいにクルクルと回る吉野に向かって、ソフト&ウェットは拳を下から繰り出し、アッパーを叩き込む。

 

ゴスッ!!

 

「ぐあっ……ッ!?」

 

「……もうイッペン言うぜ……今のお前はぁ――」

 

「ッ!!?」

 

そして、俺はソフト&ウェットのアッパーで空中に浮き上がった吉野と視線を合わせ――。

 

 

 

「ツルツルだぁッ!!」

 

 

 

俺の日常に手を出してくれた事に対する、ありったけの感謝を振舞う。

 

『オラオラオラアラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!

 

一体どれだけのパンチが撃ち込まれたのか、数えるのも馬鹿らしく感じる程の怒涛のラッシュ。

その拳の嵐を一身に受ける吉野は、最早悲鳴を発する暇も無く空中でボコボコにされていく。

だが、アリサがこの場に居たならコレぐらいやってもまだ気が晴れるかどうかってトコだろうよ。

しかしまぁ、もうそろそろ4時過ぎになる。

探偵事務所まで結構あるし……まだやる事は残ってるんだ。

こいつに何時迄も構ってる訳にはいかねえか。

 

天国への扉(ヘブンズ・ドアー)ッ!!」

 

ズババァーッ!!

 

『オラオラオラアラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

まだラッシュを続けているソフト&ウェットを避ける様にして、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)が吉野の後頭部に回ってページを出現させる。

コイツをぶっ飛ばしちまう前に命令を書き込んでおこうという寸法だ。

 

1、警察に自首して今回の事件の全貌を話す。

 

2、俺のことを全て忘れる。

 

3、誰にも攻撃出来ない。

 

4、体の怪我は謎の男に叩きのめされたと嘘を言う。

 

と、以上で4つの項目を書き連ねて、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)にページを閉じさせる。

役目を終えた天国への扉(ヘブンズ・ドアー)が消え、もう何の邪魔も無くなったのを確認し――。

 

 

 

「滑って行きなッ!!」

 

『オラァーーーーーーーーーーッ!!!』

 

ドゴォオオオッ!!!

 

 

 

俺は、奴の膨れた顔に別れの言葉(一撃)を叩きつけた。

 

「ぷっ……がひぇ……ッ!?」

 

ソフト&ウェットが放った締めの右ストレートで、奴の体は地面に叩き付けられる。

近距離パワー型のスタンドにブン殴られれば、普通は何バウンドかして、そのままぶっ飛ぶだろう。

しかし今の吉野の身体はソフト&ウェットのしゃぼん玉で摩擦を奪われた状態だ。

なので、吉野の体はバウンドせずに気絶した状態のまま、道路を豪快に回転しながら滑っていく。

っていうかなんか、こんな光景をテレビで見たよーな……あぁ、思い出した。

確か氷上でやるあのカービングってスポーツのストーンが、丁度今の吉野にそっくりだ。

回って滑る吉野を見てどうでも良い事を考えていると、奴の身体はコンテナにブチ当たって、やっと止まった。

 

 

 

「……仕返ししゅーりょー……後はお上に任せるぜ」

 

 

 

ボコボコにされて気絶した吉野を一瞥し、俺はスケボーを回収してコンテナ置き場を後にする。

 

 

 

そして、俺は再びハンターの家に戻って天国への扉(ヘブンズ・ドアー)で追加の命令を書き込んでいた。

内容はケビン・吉野に書いた命令と同じで、全てを警察に自白する事。

これで今回の狙撃事件は解決するだろう。

それに追加で吉野の居場所も教えた上で警察に吉野の身柄を確保させるよーに仕向けさせる命令も書き込んでおいた。

あれだけボコボコにしちまったから、自力で警察に行けるとは思えねーしな。

ちゃんと書き漏らしが無い事を確認して、俺はハンターの顔に作ったページを閉じる。

ページを閉じて現れたのは、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)の効果で強制的に眠らせられながらも、何処か穏やかな表情を浮かべるハンターの寝顔だ。

 

「ったく、今回の事件の主犯の癖に、呑気に寝こけやがって……小学生の俺が頑張って起きてるってのによぉ」

 

寧ろ俺って全く関係無いよな?

だってのに、ここまでしなくちゃいけねえなんて……面倒くせぇ。

世の中の理不尽さに頭が下がる思いを覚えながら、俺は髪の毛をかき乱す。

そして、ハンターのブッ壊した机をクレイジーダイヤモンドで治したら――。

 

「ん?……これは……」

 

ハンターを中心に、左右を挟む形で幸せに満ちた笑顔を浮かべる二人の女性が写った写真を発見してしまった。

カメラ目線で笑顔を浮かべる若い女性と、薄く化粧を施して微笑む左手の薬指にリングをした女性。

恐らく若い女性はハンターの妹で、もう一人は奥さんだろう。

青く澄んだ空をバックに緑の綺麗な森の開けた場所で撮られたであろう、ハンターの幸せだった頃の写真。

……そして、もうハンターはこの幸せを永遠に得る事が出来ない。

 

「……ちっ」

 

俺は自分の中に湧き上がる不機嫌な感情を隠そうともせず、舌打ちを零した。

写真立てに入れられた写真を倒し、部屋を後にしようと扉に向かう。

 

ドギュウゥンッ!!

 

そして、俺は眠るハンターに背を向けたままに”あるスタンド”を呼び出し、ハンターの額に触れさせる。

前にも言ったけど、精神エネルギーのビジョンであるスタンドは物質を透過する事が可能だ。

俺のスタンドはハンターの”額を通り抜け、脳の目的の場所だけに能力を発動”した。

 

『……』

 

目的を終えたスタンドが俺の命令を終えて、無言で俺の側に立つ。

眩いばかりの”黄金の輝き”、そして”生命の象徴であるテントウ虫”のデザインが各所に施されたスタンドだ。

 

(『ゴールド・エクスペリエンス』……銃弾の破片を、傷付いた脳幹の一部として”創った”……)

 

こんな事をした所で、ハンターのコレから先は地獄なのは変わり無い。

……んな事は分かってる。

今やった行為は、俺の単なる自己満足でしかないんだからな。

心にちょっとした満足感と安心感を得て、俺はゴールドエクスペリエンスを戻し、部屋を後にする。

辺りが明るくなり始めている中、俺はスケボーを爆走させて探偵事務所へと向かう。

 

 

 

……今回の事件は考えさせられる事が沢山あったぜ。

 

 

 

ケビン・吉野とティモシーハンターの行った事は決して許しちゃいけねえ事で……でも、頭ごなしに否定は出来ない。

元々は愛する家族の敵討ちだったんだから。

俺自身同じ様な目に遭ってしまえば、アイツ等と同じ様に復讐に走っちまうだろう。

勿論、標的以外の何者も巻き込まない様にするだろうが、人を殺すという点では同じである。

 

 

 

――だから。

 

 

 

「あんた等のとった行動を許せなくても――そんな行動を取らせた奴等には、俺のスタンドで……然るべき報いを与えてやる」

 

それを止めたんならせめて、法の範囲だけでもあいつ等の仇は……俺がとってやんねえとな。

しかもハンター達が自首するのは今日の朝8時。

ハンターが逮捕されたと警察から聞いたら、”奴等”は悠々と観光を続けるか……もしかしたら直ぐに帰るかもしれねぇ。

って事は必然、タイムリミットは限られてるって訳だ。

やれやれ、まーた得にもならねえサービス残業か……今日は寝れるのか、俺?

再び襲ってきた眠気と面倒事を振り払うかのように、俺はまたミンテ○アを数粒取り出して、ガリゴリ齧るのであった。

 

 

 

……あー、くそっ。眠て――辛ぁッ!?

 

 

 

今日学んだ事。

 

 

 

二度とミンテ○アは二粒以上同時に食わねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――全てを失い、鬼となった男、ティモシー・ハンター。

 

――復讐という使命感に狂ったスナイパー、ケビン・吉野。

 

 

 

全身重度の打撲、並びに行動を制限され――。

 

 

 

 

 

  ()  ()  ()  ()

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 




はい、という訳で、異次元の狙撃手、速攻で解決してしまいました(泣)

やはり定明が本気出すと普通の人間である犯人相手じゃヌルゲー過ぎますよね(;・∀・)

しかも今回はコナン達の謎解きが無いままに終わってしまっていますwww

推理があってこその名探偵コナンですから(´;ω;`)ウッ…

やはり残り4日というタイムリミットが定明の遠慮を無くしてしまう訳です。

頑張って推理モノの良さを出さないと(小並感)


……映画第二弾、どうしようか(果てしない絶望)


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空白期~HEAVEN
天国へ行く方法があるかもしれな(ry


半年前

ディオ「随分とぉ……待たせてくれるじゃないかッ!!PIGZAMU]ゥゥウッ!!」

PIGZAM]「ひいぃ!?スイマセェン!!」

一年後

DIO「一年経って……執筆力が衰えたんじゃあないか?PIGZAM]ウゥゥウウッ!!」

PIGZAM]「アンタは一年で進化しすぎッ!?」


はい、という訳で……誠にすいませんでしたぁあああ!!(土下座)

仕事が忙しかったのがブラックに早変わり。
執筆時間ゼロというヤバすぎる状況でした(五体投地)

会社内装DIYってなんやねん……しかも俺一人て……鬼畜ぅ!!

とりあえず懺悔はここまでとして(ォィ


今回、恐らく前までと作風ガラリと変わってますが、あんまり気にしないで下さい。

それとですね、作品内に※←コレをつけた場所があるんですね、ハイ。

このマークから先は是非とも、アニメ版ジョジョの奇妙な冒険のbgm

Noble Pope を聞きながら閲覧下さい。是非とも!!(迫真)


それと残念ながら、コナン編は今話で一度終了となります。

作品内の時間的に、もう書くのは難しいと判断いたしましたので。

これからは定明の空白期にちょくちょく挟んで行こうと考えてる所存です。


では、どうぞッ!!



 

 

「もぐ、もぐ……」

 

チュンチュンと小鳥の囀る清々しい朝。

このBGMは即ち、平和という何物にも変えがたい日常の始まりだ。

晴れた空の見える窓の外が、より一層心を洗ってくれる。

 

「はい定明君。これ作ってみた松前漬なんだけど、どうかな?」

 

「あ、ありがとうございます……美味そうだ」

 

そして爽やかな一日の始まりには、その日を動く糧となる食事が必要不可欠だ。

まだ寝起きの体に活を入れ、しかし刺激が強すぎない優しい味わい。

昨今は乱れがちだが、日本人の朝食には欠かせない純白の米。

その優しい白米の味にアクセントを加える漬物は、白米と一緒に口に入れる事で価値が跳ね上がる。

元々は北海道の郷土料理の一種であった松前漬。

蘭さんが笑顔でお椀に盛ってくれたその松前漬を箸で掬い取り、ホカホカと湯気を点てる白米に優しく乗せる。

漬け汁がご飯に絡んだのを確認し、それらを一気に口へ頬張る。

 

ぷちっ、ぷちぷちっ。

 

「ン~~……」

 

数の子のプチプチと潰れる食感。

まるでししゃもの卵を噛んでいるかの様な極上の味わいを堪能して、俺は笑みを浮かべてしまう。

そしてそのまま、蘭さんお手製の味噌汁をズズッと一飲み。

昆布から滲み出たぬるりとした喉越しを、綺麗さっぱり打ち消してくれる。

 

「はぁ……たまんねぇ」

 

「定明君はホントに美味しそうに食べてくれるから、作り概があるよ」

 

「ノンノンノン。美味しそうに、じゃあないッスよ。実際に蘭さんの作る飯が美味いから食べまくってるんス。母ちゃんの飯で舌肥えてる俺が言うんだから間違いないっすよ」

 

「もうっ。あんまり褒めないでよー」

 

煽てられても困っちゃうんだからー、と恥ずかしそうに手を振りつつ、しかし満更でも無さそうな顔をする蘭さん。

しかしまぁ、実際にうめえんだから褒めるしかない訳だ。

高校生でこれだけ家事が出来るなんて、間違いなく将来は良い奥さんになるだろう。

こんな良い人に想われてる工藤新一さんはその幸運を噛み締めるべきだぜ。

自分の考えに軽く頷きながら焦げ目の無い鮭を食べて、ご馳走様と挨拶をする俺。

それに返ってくるのは笑顔の蘭さんの「お粗末さま♪」という言葉だった。

 

「うん♪定明君は何時も綺麗に食べてるね♪凄く良い事だよ」

 

「……母ちゃんがね……一粒でも残ってると、悲しそうな面するんスよ。まるで一昔前にCMに出てた、あのチワワみてーなつぶらな目で、ね」

 

「……あ、あはは……で、でも、そのお陰で定明君もお行儀良く食べれてるじゃない?……それに比べて」

 

俺の言葉に苦笑いしながらもフォローを入れてくる蘭さんだが、その目は次第に半目になり、他の空いてる席へと向かう。

そこには、空になった『二人分』の食器が乱雑に置かれたままだ。

鮭は骨に多くの身が残っており、ご飯なんて米粒がかなりくっ付いている。

まるで遅刻しそうで慌てて食べた様な惨状だが、ここに座っていた二人はそんなに忙しい予定は無い。

じゃあ何故こんな風に散らかっているかというと、本人達が急いで行動したかったからだ。

 

「お父さんとコナン君の食器、二人に洗わせようっと。定明君、お茶のお代わり要る?」

 

「お願いしゃっす。出来れば緑茶で」

 

「りょーかい♪持ってくるからテレビでも見ててね」

 

「うーっす」

 

蘭さんの決定した言葉に苦笑いしながらお茶のお代わりを頼み、俺は姿勢を変えてテレビの電源を入れる。

丁度チャンネルは天気予報が終わってニュースが始まった様で、原稿を持ちながらニュースキャスターが一礼していた。

 

あぁ、どうにもこれは――”あの一件”の事らしい。

 

 

 

『続いてのニュースです。”4日前に起こった”ベルツリータワー狙撃事件について、警察はティモシー・ハンター37歳。及びケビン吉野32歳の二名を、殺人逃亡の容疑で逮捕した事を表明しました』

 

 

 

流暢に文面を読み上げたニュースキャスターから場面が切り替わり、警察から留置場へと連行されるハンターと吉野の二人の姿が映し出される。

上着を頭から被せられ、手錠を付けられた二人が高木刑事と千葉刑事に連れられてバンに乗せられていく。

 

『昨日ハンター容疑者と吉野容疑者は朝8時頃、警察署に出頭し、「自分と相方であるケビン吉野が、藤波氏を狙撃、殺害した」と供述。更に殺害に使用したライフルや拳銃の隠し場所を延べ、警察がこれを押収した事で逮捕となったそうです』

 

ニュースキャスターの述べる言葉に従って画面が切り替わり、吉野が使っていたライフルや拳銃が映し出される。

どうやら犯行に使ってた銃器はホンの一部だったらしく、テレビにはマシンガンに爆弾、更に暗視スコープなんかも映ってやがった。

やれやれ、戦争でもおっぱじめるつもりだったのかよ。

 

「あっ、またこの事件のニュースやってるね」

 

「そうっすね。ある意味じゃ最近で一番ホットな話題ですから」

 

「あんまりこういう事件で賑わって欲しくは無いけど……はい、どうぞ」

 

「ども」

 

ふぅ、と溜息を吐きながら首を振っていた俺だが、蘭さんが持ってきてくれたお茶をお礼を言って受け取る。

冷たく心地良いお茶で喉を潤しながら、清々しい朝を迎える為に払った労力を労う。

 

 

一昨日の晩にハンターと吉野をブチのめした事で、俺の杞憂を取り払うことに成功した訳だ。

 

 

さすがに昨日一日は眠くて朝食を食べた後は蘭さんにバレない様に探偵事務所から出て公園のベンチで爆睡。

……は出来ず、結局少年探偵団純粋年齢組の夏休みの自由研究の買出しに付き合わされちまったがな。

ちなみに付き添い、というか保護者役は俺と灰原で、コナンは世良さんと急に自首した犯人の意図が理解できなかったらしく、世良さんと伯父さんと一緒に警視庁に行っていた。

協調性の無いコナンに宿題のアレコレを押し付けようと決定してる純粋年齢組。

まぁさすがにそれはコナンの自由、というか自己責任なので止める気は無かった訳だが。

 

そんなこんなで、昨日は幸運な事に事件らしい事件は発生せず、比較的穏やかに一日が終了。

 

そして今日、俺が海鳴市に帰る日を迎える事が出来た。

これで少なくとも、蘭さんと伯父さんがあの狙撃事件に巻き込まれる事は無いだろう。

俺も無事に帰れるし、蘭さん達の周囲の安全も確保。

 

正に文句なし、ヴェェリィイィナァ~イスな結果を生み出せたぜ。

 

 

 

ただ、急に自首してきた二人の犯人の謎、そして姿の見えない謎の狙撃手(俺)の捜索。

 

警察の皆さんはやる事満載だろーし、捜査協力を依頼された伯父さんも大変だろうが、そこは俺の知った事じゃない。

 

コナン?あいつは自分で事件に首突っ込んでいくからノーカンだろ。

 

 

 

現に今日も、犯人達の供述の詳しい内容を目暮警部から聞く為に急いで飯食ってた伯父さんにくっ付いて行ったぐらいだし。

そういえば昨日、例の森山夫妻も北海道から帰ってきて普通の日々に戻ったって伯父さんが言ってたっけ。

もしかしたら、いや確実にハンター達に殺される所だった人を救えたのは、やれやれ一安心ってな。

 

『更に両容疑者はこの事件の3週間前にアメリカ・シアトルにて地元新聞記者であったブライアン・ウッズさんを狙撃、殺害した事件についても供述しており、アメリカ政府から身柄引き渡しの要請も来ていることから、裁判は難航を極めるものと予想されます』

 

「……やっぱり、アメリカの事件もこの人達のした事だったんだね」

 

「ごく……えぇ……奥さんをノイローゼに追い込んだ張本人らしいっすから……」

 

お茶を飲みながら答えると、蘭さんはテレビを見ながらやりきれない顔になってしまう。

 

「人を殺すのは、いけない事だけど……あのハンターって人の事を聞いたら……何とも言えない、かな」

 

「……そうっすね」

 

そもそもの殺された理由が、身から出た錆ってヤツだ。

人一人をノイローゼに追い込んでおいて、その記事で成功して悠々自適な生活だなんて虫が良すぎるってな。

単純な話、ハンターは『やられたからやりかえした』――それだけだ。

でも、だからって自分の復讐に周りを巻き込んで良い理由なんて無え。

……それだけは、何がなんでも越えちゃいけねえラインなんだよな。

 

「ズズッ……ご馳走様ッス、蘭さん。俺はちっと部屋に戻りますね」

 

「あっ、うん。もう”荷造り”は終わったの?」

 

「勿論全部終わってますよ。切符の予約も万全。後は悠々自適に新幹線に乗って帰るだけの簡単なお仕事、ってね」

 

「……普通小学生一人で新幹線に乗るって、簡単じゃないと思うけど……まぁ、準備が出来てるならOKだね」

 

ニュースから目を離して立ち上がり、蘭さんの質問に笑顔で返す。

後一時間後くらいの新幹線で、俺はこの米花町から愛しの地元へ帰ることが出来るんだ。

もう事件の心配が減ると思うと笑顔にもなる。

ハンターの復讐を邪魔したのも、蘭さんの苦笑いだって全くこれっぽっちも気にならねえくらいだ。

 

 

 

――それにしても、よぉ。

 

 

 

『そして、ハンター容疑者のシルバースター授与を巡る交戦規定違反の嫌疑における偽装、及び捏造の容疑で当時陸軍特殊部隊大尉であったジャック・ウォルツ被告、及び元陸軍三等軍曹のビル・マーフィー被告が強制帰国しました。既にアメリカ警察の調べで、両被告の収賄、贈賄、武器密輸や麻薬製造等、次々と余罪が判明しており――』

 

 

 

清々しい、良い朝だぜ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「伯父さん。二週間、お世話になりました」

 

「なぁ~に、良いって事よ。久しぶりに甥っ子に会えて楽しかったぜ。それに、たんまり稼がせてくれたしな♪」

 

「もう。お父さんてば」

 

(小学生とパチンコ行って勝って嬉しそうにするなよなぁ、このおっちゃんは……)

 

朝食から2時間程過ぎて警視庁から帰ってきた伯父さんに乗せてもらい、俺達は駅に来ていた。

理由は勿論、これから海鳴に帰る俺の見送りだ。

今は新幹線の到着を待っていて、最後に皆に挨拶をしている最中である。

上機嫌に胸元を叩いて笑う伯父さんの姿に、蘭さんは腰に手を当てながら溜息を吐く。

コナンもその隣で呆れた表情を浮かべている。

そんな3人の様子を見ながら、俺はカバンを担いでジョセフ・ジョースターの被っていたハットの鍔を直して笑みを浮かべた。

最後の最後まで、この人達の笑顔が欠ける事が無くてホッとしたぜ。

ちなみに伯父さんとパチンコに行った経緯は、お小遣い半分カットされた伯父さんの哀愁漂う背中がアレだったんで。

 

「蘭さん、二週間、美味い飯とか洗濯とか本当にありがとうございました」

 

「あぁ、良いよそんな。また何時でも来てね?お姉さんが腕を振るっちゃうから♪」

 

最後くらいは礼儀正しく頭を下げた俺に優しい言葉を掛けてくれるが……正直、米花町はもう勘弁ッス。

だがそんな事を面と向かって言う訳にもいかないので、苦笑いで誤魔化しておく。

んで、次は少し悔しそうな顔でブスッとしてるコナンだ。

まぁそんな顔をしてる原因は分かってるので、軽くニヤリと笑いながら近付く。

 

「残念ながら、俺の鉄球の謎は解けなかったな」

 

「……くっそ~。難しいなー」

 

(久々だぜ……ここまで難解な謎は……ったく。それに鉄球どころか、コイツのマジックのネタすら解けねぇなんて……)

 

「へへっ。これで後は工藤新一さん、だっけ?その人だけだが……」

 

ギャルギャルギャル

 

そこで言葉を切って、俺はコナンの目の前で鉄球をホルスターから取り出して回転させる。

 

「こいつを直に見てねぇんじゃ……まぁ、無理だろうな」

 

(バーロー。直に何度も見てるっつの)

 

「まっ、何時か謎が解けたんなら、俺に教えてくれよ?」

 

「……何時か、絶っ対に解いて見せるからね」

 

と、コナンは挑戦の炎をメラメラと燃やした目で俺を見ながら、百円を取り出して俺に差し出す。

前回の服部さんとのやりとりは覚えていた様だ。

俺は鉄球を閉まって「サンキュ」と言ってそれを受け取る。

たかが百円、されど百円ってな。

 

「おっ居た居た」

 

「定明さーん!!」

 

「ん?」

 

と、コナンとのやりとりを終えた俺の耳に自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、そっちに目を向ける。

すると、ゾロゾロと今日までに会った面子の世良さん、園子さん、阿笠ハカセ。

更に少年探偵団純粋年齢組と灰原の姿を発見した。

 

「あらら。随分と大所帯になっちまったか」

 

「いいじゃないか、見送りは賑やかな方が、さ」

 

苦笑いしてしまった俺の頭をグリグリと撫でながら、世良さんは邪気を感じさせない笑顔でそう言う。

っつうかあんまグシャグシャすんなっての。

 

「定明さん、もう帰っちゃうんだ……」

 

「寂しくなりますね」

 

「もっとこっちにいりゃあ良いじゃねーか」

 

しきりに俺の頭を撫で回す世良さんから逃げようとする俺と逃がすまいとする世良さんのプチ攻防の中、吉田と円谷、小嶋達がそんな事を言い出す。

三人の顔は本当に残念そうで……そんな風に思われてんのは悪い気はしねぇな。

 

「まっ、俺にも向こうの生活あるからな。こっちもお前等のお陰で中々楽しかったぜ?」

 

面倒くせー事も多々あったが、というのは言わないでおく。

実際結構楽しい事はあったからな。

俺の台詞を聞いた3人は目を輝かせ、吉田は「また来てね」と言ってくる。

……気持ちは嬉しいが、事件はなぁ……。

そして吉田の言葉にどう返そうかと考えていたら、3人はおもむろにポケットに手を入れ――。

 

「「「少年探偵団の一員としてッ!!待ってる(から!!)(ぞ!!)(ます!!)」」」

 

「……何時か、そんな未来がありゃあな」

 

こいつ等まだ諦めてなかったんかい。

しかも事件に出会う確立どーのこーのじゃなくて、事件に向かうスタンスじゃねぇか。

 

「あらあら。一気に目の鮮度が落ちてるじゃない」

 

「やかましい。落としたくて落としちゃいねえよ」

 

「あ、あはは……あ、あいつらも悪気は無いんだよ?……多分」

 

「そこはキチッと断言して欲しかったぜ……」

 

灰原の言葉を借りるなら、水揚げされて時間の経った魚の目をしながら、俺は溜息を吐く。

そんな俺に苦笑いしながらフォローになっていないフォローを入れるコナンと、どこか面白がっている灰原。

俺達の視界の向こうで例の自由研究について議論している3人の後ろから、園子さんが出てきた。

 

「まーアタシはあんまり絡んで無かったけど、元気でね少年。後、バッグ取り返してくれてサンキュー♪」

 

「……そんな事もありましたねぇ」

 

たった2週間ほど前の事の筈……なのに、中身が濃すぎて遠い記憶にすら感じさせられる。

もう夏休みの思い出って言われたらこの町での出来事ばっか出てきちまうよ。

まぁ最初からそんなに話す事は無かったのか、園子さんは「じゃ、元気でやんなよー」とさっぱりした挨拶と共に蘭さんの方へ。

次に声を掛けてきたのは、ある意味で素敵なプレゼントをくれた阿笠ハカセだ。

 

「定明君。また何時でも遊びに来とくれい。もしそのスケボーに故障があったら、ワシが完璧に直すからのう」

 

「あー、そん時はお願いします。それと改めて、こんなグレートにカッピョイイもんくれて、本当にありがとうございます」

 

「にょっほほほほほっ!!なんのなんのじゃ!!」

 

自分の発明品を褒められて嬉しいのか、ハカセはそのでっぷりした腹を揺らして笑う。

母ちゃんの送ってくれてた俺の衣類は母ちゃんと父ちゃんが帰ってくる今日の3時頃に合わせて既に送ってある。

今、俺が持ってるのは携帯に財布や携帯充電器なんかを詰めたバッグ、それとハカセからもらったスケボーだけだ。

気楽な行き帰りで良かったぜ。

そんな感じで最後に皆と挨拶を交わし、ホームに入ってきた新幹線に乗り込んで入り口で振り返る。

 

 

プルルルルル。

 

 

『まもなく、列車が発車致します』

 

 

どうやらそろそろ、時間らしい。

 

 

「定明君、元気でね。あんまりダラダラしちゃ駄目だよ?お父さんみたいになっちゃうから」

 

「蘭ちゃーん?お父さんここなんだけどー?軽く傷付いちゃうぞー?」

 

「良い、次に会う時も変わらないでね?」

 

「あー……まぁ、了解っす」

 

伯父さんの声もなんのその、蘭さんはかなりマジな声音で俺に注意してくる。

実の娘に無視された伯父さんは軽く肩を落としながらも、苦笑しながら俺に視線を向けていた。

伯父さん、中々にタフな根性っす。

 

「やれやれだぜ……雪絵と結城君にもよろしく言っといてくれ。また会いに行くからよ」

 

「うっす。ありがとうございました」

 

「おう」

 

「定明兄ちゃん、元気でねー」

 

「あぁ、コナンもな。あんまし事件に首突っ込んで、蘭さんと伯父さん心配させんじゃねーぞ」

 

「う、うん。ばいばーい」

 

俺の言葉に苦笑いするコナンだが、多分効果ねーだろーな、あんまり。

他の皆からもさよならの言葉を貰ってから窓を閉め、新幹線が動き出して景色が流れていく。

そして遂に、ホームで手を振っていた皆の姿が見えなくなり、米花町の景色だけが窓に映る。

 

 

……これで終わったって事だな……うん……。

 

 

「――~~~~~ッ……フウゥ……ッ!!」

 

 

新幹線の速度が乗り始め、既に俺は危険区域から出掛かっている。

それを認識し、俺は深く息を吐いて満面の笑みでガッツポーズを取った。

二人席の指定席を取ったから横には誰も居ないが、通路挟んで隣の席のおっさんが首を傾げて俺を見ていた。

だがそんな事、ちっとも気になんねぇ。

コナンと伯父さんが揃ってる時点でもしかしたら事件に巻き込まれるかと思ったが……全く、やれやれだ。

しかしまぁ、どうやら幸運の女神様はちょっとだけ機嫌が良かったらしい。

二日連続で何の事件にも巻き込まれずに入れるとは……心の底から”グラッツェ”と言って贈りたい気分だ。

 

それに母ちゃん達も出張先で何のトラブルも無かったみたいでホッとしたぜ。

 

席を少しだけリクライニングさせてバックからコーラとペンを取り出す。

まぁ所謂、祝杯ってヤツだ。

この俺、城戸定明の”帰還祝い”ってヤツよ。

 

「よっと」

 

プシューッ

 

缶の底にボールペンで穴を開けてっと。

んで、ベキッベコッという音を鳴らしながら缶からペンを引き抜き、穴に口をつける。

後はそのまま――。

 

カチッ。

 

ゴボゴボゴボォッ!!

 

「んぐッ!!んぐッ!!んぐっ……ッ!!」

 

一気に流れ出てくるコーラを飲み干すッ!!

 

「……ゲブゥ」グシャッ!!

 

そして大きなゲップをしながら缶を握り潰した。

……くぅ~ッ!!美味え……ッ!!最高の一杯だぜ……ッ!!

大声でこの喜びを表現してぇ所だが、列車の中なのでそれは自重。

後はこのままゆっくりと新幹線の旅を楽しみつつ、海鳴に帰るだけだ。

アリサ達からも昨日ハンター達逮捕のニュース速報が出て直ぐに連絡が来て、今日帰る事も伝えてある。

今日からは、殺人事件なんて無い平穏な日々が、また始まるんだ。

 

「っと、その前に……英気を養っておきますか」

 

俺はいそいそとバックからヘッドフォンとプレーヤーを取り出し、再生を開始。

シートのリクライニングを更に倒して、完全に寝る体制に入る。

耳元から聞こえてくるマドンナの美声に心を癒されつつ、瞼を閉じた。

まだ一昨日の眠気が少し残ってるし、ゆっくりと寝るとしますか。

 

「明日はリサリサと買い物だし……疲れ……とっとかねぇと……な……スー」

 

 

 

 

 

誘われる眠気に身を委ね、俺はゆっくりと夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――誰かが言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――様。――が現れました。――如何いたしましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――平和とは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――愚問だな――よ。――私の期待に応えてくれよ?」

 

「――ハッ。必ずやこの――が、貴方様へ――献上してみせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、ならば――行くがよい――新たなる地……その『海鳴』とやらへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――次の戦いまでの準備期間である――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ん~~~~……ッ!!!……帰って来れたぜ……ッ!!海鳴にぃ……ッ!!」

 

新幹線に揺られる事、数時間。

俺はあの魔都米花町から帰還し、遂に愛しの地元へと帰ってきた。

この田舎と都会が融合した町並み、新鮮な空気。

俺の大好きな地元の匂い……全てが最高だ。

 

「さぁ~て……久しぶりに家でのんびり映画でも見るとすっかねぇ」

 

何を見るか?「drドリトル」も良いし「仮面の冥土GUY」も捨てがたい。

スーパーの薄っぺらいクリスピー生地のピザにアップルテイザーのセットがありゃあ最高だ。

 

「熱々のチーズとサラミ、バジルペーストのジェノベーゼ……たまんねぇな」

 

「私としては、小エビと玉葱の乗ったガンベリをお勧めするけど、どうかしら?」

 

「おぉ。それも美味そう、だ?……って」

 

「フフッ、だーれだ♪」

 

と、俺の独り言に自分の意見を混ぜる声と、俺の視界を覆い隠す柔らかい手。

背後から聞こえる声には、楽しいという感情が乗せられていて良く弾んでいる。

 

「この落ち着いた声は……リサリサだろ?」

 

「あら、バレちゃった?」

 

俺の回答にちょっと驚いた声で答えると手が離れて、俺の視界が拓ける。

振り返ると俺の答え通り、手を口元にやって微笑むリサリサの姿があった。

チュニック丈のチェックシャツに黒のショートパンツを合わせたコーディネートが良く似合っている。

 

「声を弾ませて、アリサっぽくしてみたんだけど似てなかったかしら?」

 

「いや、似てたぜ?でも最初にちょっと笑ったので分かったんだよ」

 

「??笑ったから?」

 

訳が分からない、といった感じのリサリサに、俺は肩を竦めて少し笑う。

 

「アリサがふふっなんて上品に笑う時は、上機嫌どころか逆にプッツンしかけてる時ぐらいだろ。それ以外はもっと快活に且つ自信満々に笑うのがアイツだろ」

 

暗に普段は上品に微笑むアリサなんて想像出来ないって言ってる様なモンだ。

勿論聡明なリサリサにこの言葉が分からない筈も無く呆れた表情を浮かべる。

 

「ジョジョったら……ひどいわよ、それ」

 

「まぁ他にも色々あるがとりあえず……何で駅に居るんだ、リサリサ?」

 

あまり続けるとよろしくない会話(俺の精神的に)なので切り上げ、かねてからの疑問を口にして話を逸らす。

確かリサリサとの約束は明日の筈だった。

だから俺も今日は家でゆっくりしようと思っていたんだしな。

と、俺の質問を聞いたリサリサは俺がやったように肩を竦めながら口を開く。

 

「私はおつかいの帰りよ。院長先生が足を捻って捻挫しちゃったから、代わりに郵便局まで荷物を出しに行って来たの」

 

ここで会ったのは偶然よ、と微笑を浮かべながらリサリサは答える。

なるほどな。確かにリサリサもこの町に住んでるんだから、バッタリ会う事もあるか。

 

 

 

そう自己完結しつつ、リサリサにこれからどうするのかを質問し――。

 

 

 

――こっち――です。

 

 

 

「ッ!?」

 

「?ジョジョ?どうしたの?」

 

突如、頭に響いた声を聞いて反射的に振り返ってしまう。

いきなり反対方向を向いた俺に、リサリサの不思議そうな声が聞こえてくる。

どうやらリサリサには今の声は聞こえなかったらしい……だが。

 

 

 

――こちらへ――来るのです。

 

 

 

「幻聴って訳でも……無さそうだな」

 

「??」

 

「いや、何でもねえ」

 

首を傾げるリサリサに笑いながら答え、担いでいたスケボーを地面に下ろす。

……帰ってきて早々だが、確認しねぇ訳にもいかねえか。

 

「……リサリサ、少し急用を思い出した。悪いがまたな」

 

「え?あっ、ジョジョッ!?」

 

「明日の約束は覚えてるからよッ!!また連絡するッ!!」

 

「ちょっと待っ――」

 

ギャギャギャギャギャギャッ!!

 

急に走り出した俺にリサリサが声を掛けるが、俺は走りながら答える。

俺はスケボーの速度を上げて、自分の勘に従って道を走っていく。

……頭の中に聞こえる声に従って走るだぁ?普段の俺なら絶対にしねー行動だぜ。

そんな不穏なモンは無視するのが、この俺のセオリーなんだが――。

 

「ここで行かねーと、更に不穏な目に遭っちまう気がするんだよなぁ……勘、だけどよぉ」

 

虫の知らせ、とでも言うんだろーか?

それが俺の頭の中で猛烈に鳴り響いてんだ。

だからこそ、行かなきゃならねぇ。

 

「寧ろ徒労で終わって欲しい所だぜ」

 

自分の勘が外れている事を祈りながら、俺は声の”導く方向”へと進む。

だが、そこまで遠くでは無かったらしい。

 

――ここ、ですーーここに来るのです。

 

「ッ!!」

 

キキィーーッ!!

 

頭の中に響く”ナニカ”の声に止められたと同時、スケボーを止めて降りる。

 

「……ここか」

 

再びスケボーを担ぎ直し、俺は廃墟となった小さな元雑貨ビルを見上げる。

小さな三階建てのこのビルは駅から徒歩10分程の場所にある、つい最近取り壊しが決まったビルだ。

既に表の入り口や周辺には工事用の簡易鉄柵が置かれ、立ち入り禁止の注意書きがなされている。

どうやら謎の声の”誰かさん”は、俺にこのビルの中に来て欲しいらしいな。

俺の見上げるビル全体が、何か異様な雰囲気に包まれている。

間違い無く、ここにはヤバいナニカがあるんだろう。

 

 

……やれやれ、やっと米花町から帰ってこれたと思ったのに、今度は地元で厄介事かよ。

 

 

「勘弁して欲しいぜ、全く……だが、放置すんのはもっと不味い、か」

 

 

逃げ出すのは簡単だが、逃げ出した後にもっと大変になるくらいなら、今やっといた方がまだマシだ。

俺はスケボーを『エニグマ』のファイルに保存し、両手をフリーにする。

例え何があっても直ぐに対応出来るスタイル。

それを保っておかねぇと、この先はヤバい様に思えたからだ。

 

ジジィィイ……

 

立ち入り禁止と書かれた鉄柵を『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで切り開き、中へ進入する。

もう少し横にズレれば鉄柵の隙間から入れたけど、面倒くせぇ。

その奥のビルの入り口は、どうやら誰かに壊されたらしく、鍵の回りがグチャグチャになっていやがる。

大方、中高生くらいのヤンキーがここに侵入して遊んでたんだろう。

ヤレヤレと首を振りながら、ビルの中を進む。

 

「さてさて……まずはあの声の”ナニカ”がここにどう関係するのか、探さねぇと――」

 

いけねぇな、と呟こうとした俺だったが――それは叶わなかった。

 

 

 

何故なら――。

 

 

 

「……ん?……おい坊や。こんな所で何してやがる?」

 

 

 

――そこには”先客”が居たからだ。

 

 

 

――しかも、只の先客じゃあない――そう。

 

 

 

「――な」

 

 

 

俺が言葉を失うのには、充分過ぎる『男』が居たからである。

 

 

 

「……どうした?質問に答えて欲しいんだが?」

 

 

 

口を半開きにした俺に訝しげな視線を向けながら言葉を募らせる――身長190センチ越えの『大男』が。

服装は今時珍しい学ランに学帽姿。

しかしその学ランの裾が異常に長く、端から見ればまるでコートにしか見えない。

昔の番長スタイル……所謂、『長ラン』の前を全開にした出で立ち。

鎖やプリンスのバッジが付けられた、見るからに『不良』なスタイル全開の男。

更に学帽の後ろ半分は、まるで髪の毛と一体になった様なボサボサとした『奇妙なスタイル』をバッチリと着こなしていた。

その『彼』の視線が怪訝なモノを見ている。

 

「……す、すいません。すごく背が高かったんで、驚いちまって……えっと……ちょっと、気になる事があって」

 

彼の視線を受けながら、俺はカラカラに乾いた喉を必死に動かして言葉を搾り出す。

俺の言葉を聞いて大丈夫だと判断したのか、目の前の『学生』は視線を普通に戻した。

 

 

 

だが、俺は内心で混乱しっぱなしだ。

 

 

 

それこそ道端で『死んだ過去の偉人』と出会う様な確立の出来事。

つまり『絶対に有り得ない筈の出会い』ってヤツを体験してしまってるからである。

 

 

 

――何で、こんな場所に、いや、この海鳴に――。

 

 

 

「……ほぉ?こんな廃墟で気になる事、だと?……そりゃ一体何だ?是非とも聞きてぇな。ン?」

 

 

 

――何で居るんだよッ!?

 

 

 

 

 

   

    

     

      

       

        

         

          

         

        

       

      

       

        

         

         

       

     

   

 

 

 

 

 

最強の『スタンド使い』――。

 

 

 

 

 

 

――『空条承太郎』さんがッ!?

 

 

 

 

 

 

バァ~~~ンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

今、正に目の前で奇妙な出来事に遭遇している俺に対して何が気になるのかを質問されるという奇妙な出来事。

本当にどうなってるんだよ……一体何が起きてるってんだ?

頭に次から次へと疑問が湧き上がるが、それを表情に出す事をしない様に努力する。

 

 

 

これ以上パニクッて事態がややこしくなったらもう手に負えな――。

 

 

 

「――ムッ!!そこに居るのは誰だッ!!出てきなッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 

と、承太郎さんが俺から視線を外して振り返ると、鋭い声で怒鳴る。

その声でハッと混乱していた意識を戻した俺の耳に――。

 

コツーン。コツーン。

 

人が歩く音が聞こえてきた。

どうやら承太郎さんの感じた気配は正しかったらしく、奥の方から一人、またも『男』が出てきた。

 

 

しかも――。

 

 

「ヒヒッ。やっぱ鋭いなぁ~、承太郎」

 

「……テメーは……」

 

「……マジかよ」

 

 

またもや俺が良く知る男――まるで”西部劇”の時代から出てきた様な”ガンマン”の服装。

そして咥えタバコに軽薄な笑みを貼り付けた、一人の男。

男――奴は”奇妙な形の銃”――『皇帝(エンペラー)』をクルクルとガンスピンさせながら歩いてくる。

 

 

 

「奇襲は失敗しちまったが……まっ、構うこたぁねぇか」

 

「……ホル・ホース」

 

 

 

人生哲学、『一番よりNO,2』の『スタンド使い』――『ホル・ホース』は、不敵な笑みで俺と承太郎さんの前に立った。

 

 

 

……二重(ダブル)ショック……幽霊なんかに会うよりも、もっと奇怪な遭遇……マジにどうなってんだよ。

何でこの世界に『ジョジョ世界』の人達が居るんだ……神様に説明してもらいてぇぜ。

俺の混乱を他所に、ニヤニヤ笑うホル・ホースと威圧感が倍増した承太郎さんの間で、空気が唸りを上げる。

ッ、ヤバいッ。この状況……のんびり現実逃避で構えてる訳にはいかねえぞ。

間違い無く今、リアルにヤバい状況なんだから……。

 

「良い度胸してるじゃあねーか?あぁ?遠距離で戦うテメーが、態々俺の射程内に近付いてくるとはよぉ」

 

「……ヒヒッ」

 

承太郎さんの凄味に臆する様子も無く、ホル・ホースはニヤけた顔を止めない。

その様は確固たる”自信”からの余裕って感じだ。

 

「……舐めてんのか。それとも奇襲が失敗して自棄っぱちになったか?」

 

「いやいや。舐めてなんかいねぇぜ、承太郎……寧ろこの状況に怯えてブルっちまいそうさ、このホル・ホースは」

 

怒気を隠そうともしない承太郎さんの言葉とメンチに、ホル・ホースは心にも無い言葉を紡ぐ。

……ここまで清々しい嘘ってのも中々ねえよなぁ。

この俺ですら分かる程に分かりやすい挑発行為、承太郎さんが気付いてない筈がない。

だがそんな状況でも俺への配慮を忘れていないらしく、承太郎さんは俺を背中に隠す様に移動する。

 

 

ここで俺に逃げろと言わないのは――。

 

 

「へへっ。そうだよなぁ?”お荷物”があっちゃあ、迂闊な行動は取れねぇわなぁ」

 

「……」

 

奴が既に発動させて何時でも撃てる様に持ってるスタンド――『皇帝(エンペラー)』を警戒しての事だろう。

皇帝(エンペラー)』は銃から弾丸まで全てスタンドで構成されている。

だからスタンドに対してもダメージが与えられるし、銃弾を自由自在に曲げる事が出来るスタンドだ。

もし、俺を逃がした時、承太郎さんのスタンド『星の白金(スタープラチナ)』のラッシュで弾丸を弾こうとしたとしよう。

万が一、『星の白金(スタープラチナ)』の防御を擦り抜けたら……それを考えて承太郎さんは動けないんだ。

仮にスタープラチナ・ザ・ワールドで時を止めても、俺をこのビルから出すには5秒じゃ遠すぎる。

そのくらいの位置まで踏み込んじまったからな。

 

「まぁ、例えお荷物が無くとも、お前さんのスタープラチナ。とても近付きたくねぇスタンドだ」

 

「あ?」

 

「おいおい、そう怖い顔すんなって。こりゃマジに言ってんだぜ?」

 

と、承太郎さんの訝しむ声にホル・ホースは手を振りながら答える。

その言葉は真面目に承太郎さんに対する警戒心があるが……それでも、表情に自信が表れていた。

ってか、どういう事だ?何でホル・ホースはこんなにも自信に満ち溢れてる?

 

 

コイツは一人(・・)じゃそれ程脅威じゃねぇが、誰かとコンビを組んで初めて――ってまさかッ!?

 

 

俺はハッとして辺りを見渡す。

そして想像した通りの光景に、顔から血の気が引いてしまう。

このビルの”窓ガラス”が――無くなっている。

まだ、取り壊しの工事が始まってすらいないのに――。

 

「機械以上の精密な動きとパワーを持つスタープラチナに、俺が正面から挑むなんて愚行――」

 

そして、このフロア一面に……既に、ガラスの破片がバラ撒かれているッ!!

しかも”鏡”までッ!!

工事中のビルだから別におかしいとは思ってなかったけど……つまりこれは――ッ!!

 

 

 

「俺一人じゃ出来ねぇぜ」

 

 

 

既に”罠の中”って事かよ――ッ!!!

 

「ッ!?まさか――」

 

そして、ホル・ホースの言葉に気付いた承太郎さんだが……。

先に地面を見た俺は気付いてしまった。

承太郎さんの無防備な背中から襲い掛かろうとする、包帯まみれの”スタンド”――『吊られた男(ハングドマン)』の姿に。

既に『吊られた男(ハングドマン)』は手首から唯一の武器である隠しナイフを取り出している。

そのまま承太郎さんの背後に落ちていた窓ガラスの中から、ナイフを振り下ろしーー。

そこからの俺の行動はもう、反射的と言う他に無かった。

 

「『ウェザー・リポート』ォッ!!」

 

ドバォオッ!!

 

「ッ!!これはッ!?」

 

「何ぃいいい~ッ!?」

 

『ヌゥッ!?』

 

スタンド使い達の前で……スタンドを使っちまったんだ。

だが、後悔した所でもう遅え。

二人の驚愕の視線を浴びながら、ウェザー・リポートの能力を発動。

 

ゴォウッ!!

 

風圧を巻き起こして、俺と承太郎さんの周囲にあったガラス片を吹き飛ばす。

これで、『吊られた男(ハングドマン)』の奇襲はとりあえず凌げた。

 

「この風圧……ッ!!自然のモノじゃねぇ……ッ!!それにあの雲はッ!!」

 

「小僧ッ!!テメーもスタンド使いだったの――」

 

「『星の白金(スタープラチナ)』ッ!!!」

 

『オラァッ!!』

 

ドゴォオッ!!

 

「ごへぇえッ!?」

 

と、ホル・ホースは俺に『皇帝(エンペラー)』を構えるが、弾丸が発射される事は無かった。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴバァッ!!!

 

「ぎゃぶっばぁッ!!?」

 

その前に本家本元である承太郎さんの『星の白金(スタープラチナ)』のラッシュに殴り飛ばされて吹っ飛んだのだから。

いくらスタンド使いとはいえ、人形のヴィジョンは持っていないホル・ホースに『星の白金(スタープラチナ)』の攻撃を防ぐ術はない。

そんな攻撃を生身で受けてしまったのだから、奴が壁に叩きつけられるのは道理でしかない。

 

バゴンッ!!

 

「あばが、が……」

 

『スタープラチナ』のパワーで叩きつけられたホル・ホースは呻き声をあげるも、起き上がってこなかった。

余程今の一撃が効いたんだろう。

とりあえずこれで、ホル・ホースは片付いたな。

 

「……やれやれだ……しかし俺を助けてくれたって事は、味方と考えさせてもらうぜ」

 

「そのつもりでお願いします。それより、まだもう一人残って……ッ!?」

 

俺の反射的な行動がプラスに働いてくれたらしく、承太郎さんに「何者だッ!!」と警戒されずに済んだ。

……だが、こっちの危機はまだ終わってねぇッ!!

もう既にーー。

 

キラッ

キラッ

 

「ッ!?野郎、光の反射で移動を繰り返してるッ!!こっちに狙いをつけさせねえつもりかよ……ッ!!」

 

「……やれやれ。話には聞いていたが、ちと面倒なスタンドだな。オマケに、J・ガイルの野郎まで”蘇ってる”とは……」

 

「……蘇ってる?」

 

帽子の鍔を直しながら呟かれた承太郎さんの台詞を、思わずオウム返ししてしまう。

ちょっと待て、待ってくれ。

『蘇る』って……ンなの有りなのかよ?

確かにさっきのホル・ホースと承太郎さんの会話はまるで『一度出会ってる』事を前提とした会話だった。

だが、だがよぉ……ッ!!

ジョジョの原作で、J・ガイルは死亡してそれで終わりだった筈だッ!!

それがどうしてこんな……いや、そもそもこの海鳴の町にこの人達が居る事こそ問題だぜ……ッ!!

 

「詳しい話は後だ。それより坊主。テメーも嫌なら素直に逃げたって構わねぇんだぜ?本気で戦るのか?」

 

「……少なくともこの状況で嫌って言えんのは、とんでもねーマヌケだけっすよね?」

 

「まぁな。理解が早くて助かるぜ」

 

背中合わせの状態で、俺は承太郎さんと視線を交えずしていた会話を終える。

何せ嫌っつっても完全に巻き込まれちまった後なんだから。

例えここから俺だけ逃走したとしても、こいつ等は必ず俺を殺しにくる筈だ。

そうなったら、俺の周りが危険にさらされちまう。

しかも、J・ガイルは女を辱めて殺す様な奴だ。

そんな奴に狙われてんのに――オメオメと帰る事は出来ない。

それは母ちゃんを危険に晒す、バカの極みとも言える行為だからだなぁ。

 

だからッ!!今ッ!!ここでッ!!

 

「面倒くせぇけどよぉ……きっちりケリつけなくっちゃあな……や〜れやれだぜ」

 

「……(コイツ……口ではあんな事言っているが、既に戦う覚悟を決めてやがる……見た所8、9歳とかそれぐらいの歳の様だが……どんな修羅場を経験したらその歳でそんな目が出来るんだか……やれやれ、奇妙な小僧だぜ)」

 

 

……とはいえ。

 

「こんだけ『ガラス』やら『鏡』やらブチまけられてるとなると……さて、どうすっか」

 

もう一回『ウェザー・リポート』で今度はビルから全部出すか?いや、それだと本体を探す時に背後から狙われる危険が増えるだけか。

吊られた男(ハングドマン)』の正体は光の反射を利用して動く『光のスタンド』だ。

だから鏡だけじゃなく、水やガラス、果てには人間の瞳にすら移動できる。

移動した先の物体に映っているのは光の像であって、外から攻撃しても倒す事は出来ない。

唯一の攻撃出来るチャンスは――。

 

「俺の仲間が言っていた。あのスタンドを攻撃出来るのは、映る物から映る物へ移動している時だけだと」

 

俺たちの周りに散らばる鏡やガラスの間を行ったり来たりしている光を注意深く観察しながら、承太郎さんはポツリと呟く。

仲間ってのは恐らくポルナレフさんか花京院さんの事だろう。

 

「映る物に入ったあのスタンドは一種の無敵状態だ。攻撃しても鏡やガラスを割るだけに終わる」

 

「だから跳躍中に、ってのは分かります……けど……」

 

会話を続けながらも、俺たちは周囲への観察を決して止めない。

今の俺と承太郎さんの周りにはガラスや鏡は1つも無い状態だ。

床に落ちた鏡やガラスに自分の体を映さなけりゃ、『吊られた男(ハングドマン)』は俺達を攻撃出来ない。

しかも反射で移動出来るのは同じ平面のガラスとかだから、何処に移動しても無駄なのだ。

俺たちを攻撃するには、壁とかにガラスを立てかけたりしなきゃいけなかったんだが、壁には映る物は何も無い。

天井も照明器具は既に外されていて、石膏ボードだけの状態だから上から襲う事も無理。

それが分かっているから、奴は大量の映る物の中を飛び回っているんだろう。

原理はどうあれ『吊られた男(ハングドマン)』は光の速さで動けるのだから、捉える事は至難の技だ。

 

 

そんな芸当が可能なのは、軌道が分かっていれば光すら切れる『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』か――。

 

 

「大丈夫だ。奴の移動は――俺のスタンドなら捉える事が出来る」

 

 

光速を超えて時を止められる『星の白金(スタープラチナ)』ぐらいだろう。

俺も『星の白金(スタープラチナ)』を扱えるけど……さすがに本人の前で大っぴらに使っちゃあ余計な混乱を招いちまうからな。

結論から言えば、野郎のスタンドをブチのめす事は可能だって事だ。

 

 

 

さて……後はこっちからどう仕掛けるかが問題――。

 

 

 

「――ジョジョ?何をしてるの?」

 

「「ッ!!?」」

 

 

 

突如、ビルの入り口の方から聞こえた――”俺にとって馴染み深い”声。

ソプラノを思わせる優しい声に弾かれて視線を向け――――見てしまった。

 

「こんな取り壊し予定のビルの、しかもガラスだらけの中で……それにその人は?誰なの?」

 

「リ――ッ!!?」

 

  

   

    

     

      

       

        

         

          

         

        

       

 

床に散らばった――光を反射しているガラスを”跨いで立っている”、リサリサ――アリサ・ローウェルの姿を。

 

 

 

「リサリサァアアアアアアッ!!逃げろぉおおおおッ!!?」

 

 

 

俺は恥も外聞も無く、大声を上げて手を伸ばし――。

 

 

 

スパァアアンッ!!

 

 

 

「――――――ぁ――――ぇ」

 

 

 

リサリサノカオガ、ハンブンニ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉおおおおおおおおおおおおおあああああああああああッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

慟哭。

 

 

承太郎が定明の雄叫びを聞いて感じたのはそれだ。

目の前で、大切な誰かが傷つけられた、あらゆる感情。

恐怖、不安、悲しみ――絶望。

その全てが籠められた絶叫が、承太郎の心を貫く。

あの時、時を止めて駆け出していれば――少女の呼んだ”名”に驚かなければ。

承太郎の心に過る、後悔の念。

 

 

 

そして――。

 

 

 

『ヒッヘヘェ……後数年もすりゃあ食べ頃だったのになぁ……惜しい事をしちまったぜ。デェッヘヘヘヘヘヘヘ』

 

 

「――――野郎ぉ……ッ!!!」

 

 

 

何処かに隠れ潜んでいるJ・ガイルに対する、耐え難き怒りッ!!

 

 

 

こんなゲス野郎は、生かしておけないッ!!

 

 

 

いや、生かしておいてはならないッ!!そう思っていたッ!!

 

 

 

幼く弱い子供を、まるで菓子の包み紙を捨てるが如く殺す行為。

それは承太郎に流れる血――『ジョースターの血』が、煮えくり返る行為だ。

まるで泉のごとく湧き上がる憤怒の情念に従い、承太郎は――ジョジョは”敵を倒す為”に、一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

「――どせ」

 

 

 

 

 

――――しかしッ!!

 

 

 

 

 

「――”時を巻き戻せ”ぇええええええッ!!!『マンダム』ゥウウウッ!!!」

 

 

 

 

 

ギュルアァアアンッ!!!

 

 

 

 

 

少女の命は、ここで散るべきでは無いッ!!いや――散らせないッ!!

 

 

 

 

 

この場に居る”もう一人”のジョジョが、そうはさせじと、己が精神力を振り絞ったッ!!

 

 

 

 

 

時をキッカリ”6秒だけ”巻き戻すスタンド、『マンダム』。

定明は本来のスタンド使いであるリンゴォ・ロードアゲインのしていた精神的きっかけである時計のスイッチを弄らず、自らの精神力のみで能力を発現した。

このスタンドの恐ろしい所は、『どんな現象であろうとも、6秒前に戻してしまう』事である。

 

 

 

例えそれが――。

 

 

 

ルルルゥ――カチッ

 

 

 

 

 

「ジョジョ?何をして――――――え?」

 

「――――――な」

 

 

 

 

 

例えそれが、死の運命であってもッ!!

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

無我夢中だった。

目の前の崩れるリサリサの体が、信じられなくて。

左寄りに全身を半分に裂かれた事実を、認めたくなくて。

――リサリサを助けたくて。

 

 

必死に叫び、腹の底から振り絞ったスタンドパワーが、『マンダム』を時計無しで動かした。

 

 

あの惨劇からきっかり6秒前に戻り、惚けた表情を浮かべるリサリサ。

さっきまでの全ての傷が戻っても――まだ終わりじゃねぇ。

まだあのままじゃ、リサリサを助けれてねえ。

 

 

『な、なにぃ?お、俺は確かに今――』

 

 

――もう。

 

 

 

「――『世界(ザ・ワールド)』ォッ!!!」

 

 

ズギュゥンッ!!

 

 

「なッ!?」

 

 

四の五のと――。

 

 

「止まれぃッ!!時よぉッ!!」

 

 

「――馬鹿な――『世界(ザ・ワールド)』だとッ!!?」

 

 

後の事考えてる場合じゃねぇッ!!!

 

 

すぐ側から聞こえる、承太郎さんの驚愕に満ちた声。

それも仕方ねえ事だろう。

死闘の末に倒した筈だった宿敵のスタンドが、こんな小さなガキに宿ってるんだから。

 

 

ブウゥゥウン――カチッカチッ

 

 

世界(ザ・ワールド)』が腕を広げたと同時、世界がモノクロに染まりこの世の全ての時間が止まる――いや。

 

 

「……」

 

 

止まった時の世界で俺に厳しい視線を向けている承太郎さん以外は、か。

だがそれも、全部後回しだ。

 

 

「俺も後で説明しますッ!!」

 

 

『ムゥンッ!!』

 

 

ズガンッ!!

 

 

世界(ザ・ワールド)』の馬鹿げた脚力にモノを言わせ、ジェット噴射の如く飛び出す。

 

 

3秒経過――。

 

 

そのままノンストップでリサリサの側に着地して彼女の体を抱き抱える。

返す刀で再び元の場所へ『世界(ザ・ワールド)』が地を抉って飛翔していく。

 

 

――7秒経過。

 

 

ガガガガッ!!

 

 

「……9秒経過……時は動き出す」

 

 

そして未だ険しい表情の承太郎さんの傍に戻ると同時、限界が訪れた。

ギュオォオオン――という形容し難い音と共に世界は色を取り戻し――。

世界(ザ・ワールド)』が破壊した床の瓦礫が四方八方に飛び散る。

 

 

『ぬおぉおッ!?な、何だこりゃぁあ〜〜ッ!!?』

 

 

「……ッ……たまげたぜ……まさかもう一度、そのスタンドを見る事になるとはな……もう無えと思っていたが……」

 

 

J・ガイルの情けない悲鳴。

承太郎さんの驚きと疲労に満ちた言葉。

砕け散る瓦礫の音。

 

 

そんな事、全てがどうでもいい。

 

 

「――ぁ」

 

 

「……ッ……」

 

 

「ジ、ジョジョ?わ、私どうして……」

 

 

「……リサ……アリサァ……ッ!!」

 

 

ただ、目の前のアリサが無事という事実だけが――何よりも。

 

 

俺にとっては”救い”だった。

 

 

唇が震えて、情けない声を出しているのは自覚してる。

けど、その震えが止めらんねえ。

自分の意思じゃどうにもなんねえから――。

 

 

「えっ、ぁ……ぁ、あの、ジョジョ……は、恥ずかしいわ……」

 

 

「……無事で……良かった……ッ!!」

 

 

俺は力一杯、アリサを抱きしめて震えを誤魔化した。

背後から感じる承太郎さんの視線なんて、気にもせずに。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

(しかし、やれやれ……今度の使い手は……もう倒す事は無えかもな)

 

 

 

承太郎は、目の前で地面に膝を付きながら少女を抱きしめ、その小さな背中を奮わせる少年に対しての警戒心を解いた。

勿論、承太郎の頭の中には尽きない疑問が残り、いや回り続けている。

 

何故この少年がスタンドを使えるのか?

 

何故『世界(ザ・ワールド)』というスタンドを理解しているのか?

 

そして、何故――”複数のスタンド”を使えるのか?

 

そういった疑問は尽きなかったが、それでも承太郎は彼が”敵になる事は無い”――そう確信している。

何故、そう確信したのか?

 

――それは、少年の『目』を見たからだッ!!

 

止まった時の中で、必死な表情で少女の元へ向かう少年の目にッ!!

 

少女の無事に安堵し、笑顔を浮かべる彼の瞳にッ!!

 

気高くも美しいダイヤモンドを思わせる輝きをッ!!

 

そして何よりも、承太郎自身の直感が感じ取ったのだ。

目の前の彼は決して、吐き気のする悪などではないと。

弱者を利用し、踏みつける様な外道には思えない。

彼の少女を気遣う心は、人を騙す様な――外面だけの偽物では無い――と。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『く、くそぉっ!!(こうなったら、今度はあの小僧から仕留めてやるッ!!)』

 

一方で、『吊られた男(ハングドマン)』の本体であるJ・ガイルは定明達より一つ上の階で拳を握り怒りを燃やしていた。

何故か少女を殺害した筈の結果が覆され、同時に自分の傍から連れ去られたJ・ガイルは標的を定明に変更する。

定明の正体不明の能力に恐れを抱いたゆえである。

 

(幸い今の衝撃で、鏡の”破片”があの小僧の直ぐ後ろにあるからなぁ。そこに反射して忍び寄り、あの小僧と承太郎をブッ殺すッ!!)

 

J・ガイルは知る由も無かったが、『世界(ザ・ワールド)』が巻き上げた瓦礫の破片。

その瓦礫によって定明の背中の直ぐ傍に、ギリギリ定明達が映る角度の場所に鏡の破片が飛んできていたのである。

だが定明に近すぎた所為か、二人が気付いてる様子はない。

 

(ヒエッヘへ……それに何だか知らねぇが、元に戻った事には”感謝”した方が良いかもなぁ~……さっきは勢い余って殺っちまったが……)

 

吊られた男(ハングドマン)』を反射する方向に狙いを定めながら、J・ガイルはスタンドの視界を通してアリサを見る。

幼さの残る、しかし人形の様に美しい顔立ち。

まだ女として色づく前の未成熟な、誰も穢す事を許されない清らかな肢体。

知らず知らずの内に、J・ガイルの口の端から唾液が垂れ、無意識に喉を鳴らして唾を飲み込む。

 

(ごくっ……じゅる……ケヘ……偶には、そういうのもアリかもなぁ(・・・・・・・・・・・・)~~)

 

力及ばず無力な少女を、力づくで辱める。

泣きじゃくる顔を想像するだけでJ・ガイルの心がとても踊った。

下種な妄想を頭に思い浮かべ、J・ガイルは涎を舌で拭いながら、定明の足元の鏡に目標を定める。

 

後は反射して、殺すだけだ。

 

(位置は掴んだぜッ!!さっきは驚いたが二度目はねぇッ!!)

 

ニヤける表情を抑える事も無く、己がスタンドを操り、忍び寄る。

己の勝利まで、あと少しだ。

 

 

 

(今度はお前が半分こになる番だぜぇぇええええへへへへッ!!)

 

 

 

キラッ

 

 

 

(死ねぇッ!!)

 

 

 

そして、『吊られた男(ハングドマン)』が光の速度で定明の足元の鏡へ映り込み――。

 

 

 

ドシュバッ!!!

 

 

 

(――……え?)

 

己のスタンドが斬られた(・・・・)と、自らの体に奔る傷――否、綺麗に開けていく裂傷。

そして――傷口から噴き出した血で認識した。

 

ブシュオオオオオォッ!!!

 

『い――ぎゃぁあああああああああああッ!!?ば、馬鹿なッ!?なぁぜぇえぇええ~~ッ!?』

 

スタンドを通して相手側にも聞こえているであろう自分の声。

肩から腹にかけて斜めに奔る傷口を抑えてのたうち回りながら、J・ガイルは叫ぶ。

何時?どこで?どうやってダメージを負わされた?

否、自分のスタンドは光のスタンドであり、鏡の中に居る時に攻撃されても攻撃は届かない。

 

『何故俺がぁああああびえぇええッ!?ど、どこでッ!?だぁあ~~れがぁああ~~ッ!!誰がぉぉぉお俺のスタンドををぉぉおおおおッ!!』

 

体に奔る激痛に悶えなはら、J・ガイルは己のスタンドの視覚を共有させる。

鏡の中から見える、驚愕の表情を浮かべる承太郎。

定明に抱きかかえられながら『吊られた男(ハングドマン)』の映る鏡を見て目を見開くリサリサの姿。

 

 

 

――そして――銀に輝く騎士甲冑を身に纏い、レイピアを立てて構える――スタンドの姿を見た。

 

 

 

『ひッ!!?ば、馬鹿なぁああああッ!!?そ、それは――その(・・)スタンドはぁあああッ!!?』

 

J・ガイルは忘れる事の無い恐怖の出来事に体を震わせ、彼のスタンドに刻まれた痛みを思い出す。

馬鹿な、ありえない、そんな筈は――。

このビルには居ない筈の、ここより離れた場所で他の仲間から襲撃を受けて足止めされている筈の――。

 

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン

 

『奴のッJ・P・ポルナレフの――銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』ゥッ!!?

 

自らが思い描かなかった事態に遭遇して恐怖に怯えるJ・ガイル。

そんな彼に見せ付けるかの様に、件のスタンドはレイピアを頭上で高速で回転させ続ける。

 

『ひ、ひうぇぇええッ!!?な、何で奴のスタンドがここにぃい~~~ッ!?』

 

「――足りなかったんだろ?」

 

居る筈の無い、自分に死を刻んだ男のスタンド。

その光景に錯乱するJ・ガイルに向けて、ポツリと呟かれた言葉。

それは他でもない、リサリサを抱きしめて震えていた定明だ。

吊られた男(ハングドマン)』の映るガラスからは、定明の背中しか見えない。

しかしその背中は――震えてなどいなかった。

 

「あれだけされても、テメェにゃ反省も、後悔も微塵たりと無かったから――リサリサを狙ったんだよな?」

 

床に膝を付いていた定明は、リサリサをお姫様抱っこしたままに立ち上がり、ゆっくりと振り返る。

定明の言葉はまるで、J・ガイルの今を再確認しているかの言葉に聞こえる――。

 

しかしッ!!それは『間違い』だッ!!

 

定明の言葉はそう――J・ガイルの『罪』を述べているのであるッ!!

 

「だったらよぉ……もう二度と、戻ってこれねぇ様に――もう一度ッ!!!」

 

振り返り、足元のガラスに目を向けた定明。

何時もの気だるさ、面倒くさいという感情を表していた定明の目は――その全てがッ!!純粋にッ!!

 

 

 

「この俺が貴様を絶望の淵へッ!!」

 

ビシィイッ!!!

 

「ブチ込んでやるッ!!!J・ガイルッ!!!」

 

 

 

怒りに燃えているッ!!

 

 

 

『ヒエェエエエエエエエエエッ!?(こ、ここはマズイッ!!もう一度別の鏡に隠れなくては――)』

 

定明の言葉に倣ってレイピアを構える『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』を見て、J・ガイルは情けない悲鳴を漏らしてしまう。

しかし恐怖に怯えながらも、いや恐怖による生存本能の働きか。

J・ガイルは傷付いた己のスタンドを別の鏡に避難させようと企む。

確かに『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』は光すらも切り裂けるスタンドである。

だが、下のフロアの床一面には、大量の鏡があるのだ。

その中のどれに紛れるか相手に予測されなければ、斬られない自信はあった。

故に、J・ガイルは他の鏡にスタンドを移動させ、再起を図ろうと計画する。

 

 

 

――それが、取らぬ狸の皮算用でしかない事に気付けないのが、彼の”不幸”と言えるだろう。

 

 

 

ズザザザァ……。

 

『ッ!?な、なんだこりゃぁ……ッ!?』

 

突如、承太郎達の居るフロアに、何処からか大量の”砂”が現れ始める。

その砂はゆっくりと、しかし確実に”床一面を覆い隠してしまう”。

 

――そう、床の”全て”を、だ。

 

『か――かか、鏡がぁああ~~ッ!?』

 

床一面に散りばめられていたガラスの破片や鏡。

吊られた男(ハングドマン)』が反射して移動する為の”映るモノ”全てを、覆い隠した。

 

『こ、これじゃ移動が出来ねぇええッ!?な、何で砂がいきなり現れ――』

 

パラパラパラ――

 

『ハッ!!』

 

J・ガイルは突然現れた砂に驚きながらも、『吊られた男(ハングドマン)』の潜む鏡の真上から聞こえる音に反射的にそちらを見る。

先ほどまで定明の傍に居た筈の『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』が居なくなり、『別のスタンド』を従えた定明へと。

そこには、本来彼が”死んだ後”に現れたとある”動物”のスタンドの姿があった。

インディアンの様な羽飾り、タイヤの付いた後ろ足部分。

そして――石で作られた仮面の様な風貌。

 

「ッ……これは……まさか、”イギー”の……ッ!?」

 

『ガオォーーンッ!!!』

 

「……『愚者(ザ・フール)』……地面を砂で覆った……もう移動はさせねえ」

 

承太郎の言葉に応えるかの如く、”砂のスタンド”――『愚者(ザ・フール)』が咆哮をあげる。

定明は本来『愚者(ザ・フール)』にある筈の前足を地面に伸ばし、そこから範囲を広げて砂をバラ撒いたのだ。

更に定明は自分の傍に砂で椅子を作り、その上に抱えていたリサリサを優しく座らせる。

先ほどまで定明に、こういった事を絶対にしない彼に抱かれていたリサリサは、最早リンゴの様に顔を赤くしていた。

 

「リサリサ」

 

「……(ポー)」

 

「……アリサ」

 

「――ッ!?は、はいッ!?」

 

普段からもう一人のアリサと混合しない様にと名付けられていたニックネームから、本名を呼ばれる。

たったそれだけの事でリサリサは声が裏返ってしまい、更に先ほどまで夢見心地だった自分を思い返して恥ずかしさが跳ね上がっていた。

しかし緊急事態、そして先ほどの”死んだショック”の所為で驚いていると定明は考えてしまう。

それだけ定明にとってもショックだった出来事であり、物事を冷静に見れない理由にも充分であった。

 

「少し、ここに座っていてくれ……砂の上で嫌かもしれねえが……床の上よりマシだろうからよ。少なくともそこなら、汚れずにすむ」

 

「は……はい……分かり……ました」

 

普段は気だるいといった表情の、何処か抜けている顔をしている定明。

しかし言ってしまえば、こういった時の引き締めた表情は十二分にカッコいいのだ。

リサリサが思わず敬語を使ってしまう程に――両手で心臓の爆発しそうな動悸を抑えてしまう程に。

定明の真剣な表情と先ほどの情熱的な抱擁――普段は感じさせない紳士な態度。

この3つの定明らしからぬ行動は、強烈に彼女に『キいた』のだった。

彼女が頷いたのを確認した定明はリサリサを自身の背中に隠し、鏡から視界を絶つ。

それはリサリサの瞳に、『吊られた男(ハングドマン)』を移動させない為である。

 

「もうテメェには、何処にも逃げ道はねえ……輝ける明日への道も、な……」

 

定明は鏡に目線を合わせずそう言い放ち、ポケットから一枚の”コイン”を取り出す。

”顔が映る程にピカピカのコイン”を。

 

『ヒ、ヒィ――』

 

「テメエが辿れる道は――」

 

キィンッ

 

無造作に親指で弾かれ、空中へ投げ出されるコイン。

そのコインには、この場の『全員』の視線が向けられている。

リサリサも、定明も、J・ガイルも――。

 

 

 

そして――。

 

 

 

「たった一つ、だけだ」

 

 

 

この男(空条承太郎)の視線も――。

 

 

 

ポツリと呟かれた承太郎の言葉に合わせて、砂が鏡を覆い隠す。

心の底から屑な男のスタンドが潜む鏡の上に。

鏡が覆い隠された事で、能力の法則に則り、男のスタンドは移動する。

定明が空中に弾いた”コイン”へと――。

 

「「テメーの行き先は――」」

 

自らのスタンドがコインへ移動する中、J・ガイルが”最期”に見た光景は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアッ!!!」」

 

 

 

 

 

『ぎげぎゃぁああああああああああああああああッ!!?』

 

 

 

 

「――絶望の淵――そこだけだぜ……代金の心配をする必要はねえ」

 

「俺達の奢り(・・)ッスよ……片道分(・・・)だけな」

 

『二対のスタンド』が繰り出す”拳”と”剣”が無数に迫り来る光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタンド名――『キッス』

 

本体名――『アリサ・ローウェル(リサリサ)』――再起『可』能

 

 

 

 

 

 

 

スタンド名――『吊られた男(ハングドマン)』――再起不能

 

本体名――J・ガイル――死亡

 

 

 

 

 

特殊DHA――『俺達の奢りだ』

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 




はい!!今回の話から存在をやっと知った特殊タグをたっぷり使ってみました!!

読みにくい事と思いますが、少しはジョジョっぽくなったかな?

話のクォリティが下がっていなければ……良いな(願望)


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リハビリという名の妄想垂れ流し







|д゚)チラッ    ( *゚Д゚)ノ⌒゚ ポィ    ニゲルンダヨォオ!! ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人理継続保障機関・カルデア

 

 

 

 

 

 魔術だけでは見えない世界、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために成立された特務機関である。

 彼らは人類社会を見守る機関であり、有事の際はあらゆる手を尽くして人理を守り通す。

 根源へ到達する事を至上の目的とする魔術師とは異なり、彼らは人理を、歴史を継続する為に集った集団である。

 

 

 ――2015年。

 

 何の前触れもなく近未来観測レンズ、シバによって観測されていたこれから先の未来領域が消失。

 演算の結果、人類は2016年で絶滅する事が判明―――否、証明されてしまった。

 

 

 誰もが驚愕し、慌てふためるそんな中、シバは新たな異変を観測した。

 西暦2004年 日本のとある地方都市。

 ここに今まではなかった、「観測できない領域」が現れたと。

 カルデアはこれを人類絶滅の原因と仮定した。

 そしてそれを回避するために、いまだ実験段階だった第六の実験を決行する事となった。

 

 

 

 

 それは、過去への時間旅行。

 

 

 

 

 術者を霊子化させて過去に送りこみ、事象に介入する事で時空の特異点を探し出し、これを解明、あるいは破壊する禁断の儀式。

 

 

 その名を聖杯探索 ――― グランドオーダー

 

 

 これを実行するのは優秀な魔術師ではなく、数合わせとして呼ばれた素人のマスター候補生だった。

 カルデアで発生した事故で、殆どの研究員とマスター候補生を亡くしたための致し方ない処置であった。

 これには事故から生き残ったカルデアの職員達も絶望したが、素人のマスター候補生は彼らの想像を遥かに超える働きを見せた。

 原因不明の爆発事故により強制的に送り込まれた、人類滅亡の原因―――――最初の特異点を既に正常な状態へと戻している。 

 死の渦巻く本物の地獄と言っても差し支えない特異点へ突然投げ出された、一般人であるマスター候補生。

 そんな彼女が、傷つき、苦悩しながらも足掻いた末に、特異点は正常化された。

 破滅を約束されている人類にとって、それは認知できなくても英雄とも呼べる行いであっただろう。

 

 

 

 無論、ただの一般人であった彼女一人では成し得なかった。

 

 

 

 カルデアで出会った自分を”先輩”と慕う、英霊の力を宿した少女――マシュ・キリエライト。

 

 怯え、嘆きながらも自らの責務を果たそうとしたカルデア所長、オルガマリー=アニムスフィア。

 

 そして特異点で出会った過去の英雄――魔術師(キャスター)のサーヴァント、真名をクーフーリン。

 

 

 

 

 彼らの力を借り、協力し、共に歩んだ末に、彼女は特異点を正常な歴史に戻すことに成功したのだった。

 

 

 

 しかし代償は大きくカルデアを爆破した裏切り者のレフ=ライノールにより、彼女――藤丸立香はオルガマリーを目の前で失う。

 なんとか崩壊する特異点に巻き込まれずに退去する事には成功したものの、帰還した彼女を待っていたのは新たな試練の報告である。

 先ほど修復された特異点の他に、新たに七つの特異点が発見されていた。

 人類の歴史における重要なターニングポイント。

 その全ての歴史に何者かの手によって改竄が行われている。

 人類が辿った歴史の重要点が改竄され覆されるというのはつまり、人類史の土台が崩されるに等しい。

 なればこそ、シバの観測は正しく――人類には滅亡の未来しか残されていない。

 

 

 

 しかし、全ての時間軸に取り残されたカルデアは違う。

 

 

 

 崩壊直前の歴史に踏み止まったカルデアには過去への時間旅行を可能とする『レイシフト』の技術がある。

 これを行い、改竄された歴史を全て正しい形に定礎復元すれば、人類の未来は取り戻せる。

 しかしそれは同時に、只一人残されたマスター適正者の立香に茨の道を歩ませる事と同義だ。

 ともに戦ってくれるサーヴァントは、デミ・サーヴァントとして覚醒したマシュのみ。

 全人類の未来を取り戻す為に、藤丸立香は七つの特異点を全て巡り、歴史、英霊、伝説と戦わねばならない。

 

 『……自分に出来る事なら』

 

 ――そして、彼女は……藤丸立香は覚悟を決めた。

 

 ――勇気を振り絞った。

 

 怯え震え、終末の時を待つという誘惑を、彼女は振り切った。

 所長代理となったロマニ・アーキマンの問いかけに対する自信の無さそうな答え。

 『任せておけ』などという、絶対の自信など皆無。

 

 しかし、それで良かった。

 

 何故なら彼女は強力な力を持つ、他を超越した英雄ではなく。

 

 恐怖しながらも、とてもゆっくりでも……。

 

 前に少しづつ進む――『人間』なのだから。

 

 そんな立香の姿を見たからこそ、ロマニもマシュも、そして先んじてカルデアに召喚されていた過去の英霊であるレオナルド・ダヴィンチや職員達も奮起する。

 

 

 

 ――そして。

 

 

 

 聖杯戦争という過去の英霊を呼び出し従わせ、戦わせる儀式戦争を参考に作り出した召喚システム、フェイト。

 

 

 

 来る戦いに備え、藤丸立香は初めての英霊召喚に臨む。

 

 

 

 

              ―――――――――――――――

 

 

 

 

 聖晶石と呼ばれる莫大な魔力の塊である石を、魔術サークルの上に3つ放り投げる。

 これだけで、過去の英霊を召喚できるんだから不思議なもんだと立香は思いつつ光る魔術サークルをぼーっと眺めていた。

 やがて光は強力なものになっていき、真ん中の光の柱を中心に金色の輪が三つ現れる。

 

 『こ、これは……ッ!?凄い魔力反応だッ!!これはかなり強力な英霊が来てくれるかも――』

 

 ビーッ!!ビーッ!!

 

 スピーカーから聞こえる所長代理となったロマニ・アーキマンの喜ぶ声を聞き安堵した瞬間、けたたましい警報が召喚室に鳴り響く。

 すわ何事かと思う間も無く、目の前の魔術サークルの金色の輪の周りにバチバチと音を響かせながら紫電が奔る。

 

 『え、ちょ!?魔力反応が強すぎる!?ま、まだ上がるのかッ!?』

 

 ロマニの焦る声を聞きながら召喚サークルに目を向けると、眩しいくらいに光輝いていた紫電が収まり、新たに金色の輪が一つ増えた。

 その光の輪が一つに集約し、黄金に輝く美しいカードの様な物が浮かび上がる。

 果たしてカードの絵柄は、事前にロマニから見せてもらった七つのクラスカードのどれでも無かった。

 

 

 

 召喚サークルの前に立つ立香の目には、一人の男が何やらスタイリッシュなポーズで立ちつつ、男の影が盛り上がった巨人を背後に従える絵柄が映し出された。

 

 

 

 【……クラス……サモナー?】

 

 『なんだこのクラスカード!?今まで召喚された記録のどのクラスにも当て嵌らないぞ!?』 

 

 カードの下に映るクラス名を読み上げた立香と、霊基情報を見て驚愕するロマニの声が重なる。

 そして二人の言葉が終わると同時、カードは溶ける様に虚空に消え、光が人の形を型どりはじめた。

 

 

  

 「………OH MY GOD……」

 

 

 

 はっきりとした人になったとき、その呼び出されたと思わしき英霊はいきなりぼやき始める。

 

 

 「勘弁してくれよ……一回で終わりって話だったろーが…………俺の人生の平穏が期間限定過ぎんぜ」

 

 

 その英霊はおかしかった――どこか奇妙だった。

 

 着ている服は現代のそれであり、アーマーなどの防具の類は一切見につけていない。

 てっきり過去からの英霊が呼び出されると思っていた立香はその部分にかなり驚いていた。

 それどころか……その姿は余りにも予想とはかけ離れていた。

 

 【こ、子供?】

 

 立香の呟きにも反応せず、目の前の英霊――否、少年は頭を抱えて蹲っていた。

 そう、特異点で出会ったキャスターや、立香達の前に立ち塞がったシャドウサーヴァント達は、皆過去に名を馳せた英雄の現身。

 故に、彼らは皆生前の全盛期の姿で現れるのが通常であった。

 しかし、目の前の召喚された少年の姿が全盛期などとは、どうにも考えにくい。

 初めての英霊召喚故に失敗したのかと、立香は不安な気持ちに陥る。

 

 「はぁ……まぁ……しょぉ~がねぇなぁ……何時までもウジウジしてらんねーし……っと」

 

 と、一人自己完結したのか、件の少年は立ち上がり、立香へと向き直る。

 

 年の頃、小学生程であろうか?

 灰色の長いコートを羽織り、白のカッターシャツを着こんだ上半身。

 裾をルーズに仕立てた黒のスラックスに、腰には見慣れぬガンベルトとホルスター。

 襟元をだらしなく緩め、藍色のネクタイを緩く締めたVカットの隙間から見える、妖しい色気に満ちた胸元。

 

 そんな、奇妙な出で立ちの少年は後頭部を搔きながら、誰が見ても声を揃える程にだらけた目を、立香へと向ける。

 

 「えっと……おねーさんが俺のマスターって事で……良いんすかねぇ?」

 

 目の前の少年からの言葉に、立香はハッと意識を戻しながら、笑顔を浮かべる。

 高校時代から【コミュ力のモンスター】等と不名誉なアダ名を付けられた程のコミュ力を持つ立香にとって、それぐらいは造作も無かった。

 ……もっとも、件の不名誉な名前を付けてくれた男子達には友人達による制裁が加えられていたのだが。

 

 【うん。私がマスターの藤丸立香です!よろしくね!】

 

 向日葵が咲いた光景を思わせる笑顔を浮かべて手を差し出した立香に、少年はポカンとするも、直ぐにククッと低く笑った。

 その反応に首を傾げるも、それは少年が差し出した自身の手を握った事で意識が変わった。

 

 「やっぱ俺ってツイてるなぁ――”今度”のマスターも、底抜けのお人好しときた……改めて、よろしくお願いします。俺は――」

 

 

 

 そこで言葉を切り、少年はまるで洗練された彫刻を思わせる様な立ち姿を呼吸するかの如く自然にとった。

 別の控室にてロマニ達とモニターをみていたかの天才芸術家が『う、美しい……ッ!?完全な黄金比ッ!!』と、歯軋りをする程のポーズ。 

 それを意識せずにこなした少年は、堂々と立香に名乗る。

 

 

 

 ――翻った彼の藍色のネクタイに刻印された――

 

 

 

 「エクストラ・サーヴァント。サモナー……真名は城戸定明――アダ名で【JOJO】とも呼ばれてました……まっ、ゆる~くやりましょうッス」 

 

 

 

 自身の名(JOJO)を、告げて。

 

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 呼び出した当初は、呼び出した本人を含めて名前を知らないことから、これは若干はずれではないかと思っていた。

 

 デミ・サーヴァントであるマシュ・キリエライトも。

 

 事故により人手不足のカルデアを仕切っているロマニ・アーキマンも。

 

 カルデアが召喚した英霊、レオナルド・ダ・ヴィンチですらも。

 

 しかも翌々話を聞いてみれば、件のサーヴァントであるジョジョは(立香がこの名前を気に入り、そう呼んでいる為)なんと伝説を残した英霊ではないと判明。

 彼は並行世界で、まだ生きて生活している少年だと言うではないか。

 そんな少年が何故フェイトの召喚システムによって召喚されてサーヴァント等という超常の存在として現れたのか。

 彼の言葉によれば『多分、前に一度聖杯戦争に喚ばれたからっス……その時の縁が残ってたんじゃないっすかねぇ?』という衝撃的な発言が出てきた。

 なんと彼は過去に行われた聖杯戦争(調べてみると記述などに無く、並行世界の聖杯戦争だと思われる)にて、勝者になったらしい。

 その時戦った相手の英霊の話も、妄想等の類では無かった事がより信憑性を持っていた。

 特に、立香達が冬木で対峙したセイバーのアーサー王の容姿等が酷似していた事が、尚の事信じるに至る。

 

 「まぁ、信じられねぇってんなら……かなり、滅茶苦茶めんどくせぇ~っすけど……俺と戦ってみます?えーっと、キリエライトさん、でしたっけ?」

 

 「え!?わ、私、ですか!?」

 

 ジョジョの詳しい話を聞きながら、ティータイムを過ごしていた、次の日の食堂。

 そこで集まったロマニ、ダヴィンチちゃん、立香――そして、今話の矛先を向けられたマシュ。

 皆一様に驚愕の表情を浮かべる中で、ジョジョは呑気に”懐から出した”瓶コーラを呷る。

 

 「んぐ……ふぃ。まぁ、そんな身構えないで下さい。只、俺っていうサーヴァントがどんだけ戦れるモンか、戦力の把握は必要っしょ?じゃねーとマスターも指示、出しにくいだろーし」

 

 【まぁ……うん】

 

 「ふーむ。それは確かにジョジョ君の言う通りだねぇ。ぶっちゃけ私達にはもう後が無い。召喚を行う頼みの綱である聖晶石は、彼の召喚で使ったのが最後。つまりこれ以上の戦力アップは無理だ」

 

 カルデアの頭脳であるダヴィンチちゃんの言葉に、ロマニも渋い顔で頷く。

 現状、カルデアの戦力はガタガタだ。

 サポートを行う職員達ですらも深刻な人手不足。

 そんなカルデアに召喚されたのがジョジョであり、皆が不安になってしまう要素の一つである。

 

 ”あんな子供で大丈夫なのかよ……”

 

 ”折角、生き残ることが出来たのに……”

 

 そんな、絶望に塗れた言葉を漏らす職員も少なくない。

 元はカルデアの医療部門のトップであったロマニの必死のメンタルケアも追い付かず。

 自分に猜疑と怨嗟の心が向けられている事等、ジョジョはたった一日しか経っていなくても思い知らされた。

 故に、普段は「めんどくせぇ」と逃げるであろう戦いを、敢えて行うという提案をしたのだ。

 

 「めんどくせぇけど、少しでもスタッフさん達が安心できる様に、いっちょ俺の力ってヤツを見せておきますよ。それに俺も、マスターを守る盾であり、戦場で背中を預ける事になるキリエライトさんの力を知っておきてーんで」

 

 「ジョ、ジョジョさん……わ、分かりました。不肖、マシュ・キリエライト。ジョジョさんとの模擬戦、受けさせて頂きますッ!!」

 

 「GOOD……(キリエライトさんも持ってんじゃん……すげ)(ー輝きだわ、これ)

 

 「?ジョジョさん、何か仰いましたか?」

 

 「いえいえ、何でも無いっスよ……さて、と」

 

 首を傾げるマシュに手を振って答え、ジョジョは伸びをする。

 コキコキと小気味良い音を肩から鳴らしながら、ジョジョは立香に視線を向けた。

 

 「そんじゃあマスター。ロマニさんやダヴィンチさんとモニターしてて下さいっス……マスターの命、俺に預けれるかは、どーぞ見てから判断してください」

 

 【……分かった……二人とも、頑張ってねっ!!】

 

 「へいへいっと」

 

 「はいっ先輩ッ!!ジョジョさんッ!!よろしくお願いしますっ!!若輩のデミ・サーヴァントの身ではありますが、胸を貸して頂きますッ!!」

 

 「そ~固くなんねぇで下さいって。焼く前のホットケーキの生地みてーに、ゆる~くいきましょーや」

 

 「いえッ、模擬戦とはいえ戦闘。そしてジョジョさんと先輩にも私の力を見て頂く重要な場面なので、冷やした鉄の如き気概で挑む所存ですッ!!」

 

 「……」

 

 「さっ!!急いでシュミレーション室に向かいましょうッ!!時間は有限ですッ!!」

 

 フンス、と気合を入れてシュミレーション室に向かうマシュをポカンと見ていたジョジョだが、彼女が食堂から出て、深々と溜息を漏らす。

 

 「はぁ……やれやれだぜ……大人しい小動物系の人かと思ったら……まさかまさかの真面目な委員長タイプだな、ありゃ……」

 

 まるでやる気を感じさせない表情を浮かべながら、ジョジョは食堂を後にする。

 そんな二人の様子を見ていた三人の内の一人であるロマニも、苦笑しながら立ち上がる。

 

 「う~ん。まぁ、一抹の不安もあるけど、僕達も行こうか?」

 

 「うむ。世界に名を残した我々英雄とはその成り立ちが違う並行世界の少年。私としても興味が尽きないからねぇ。勿論見学させてもらうとも」

 

 「軽いなぁ、レオナルドは。まるで野次馬根性じゃないか」

 

 「そうとも。それに、彼には芸術としての価値もあるからねぇ!!あの自然体で繰り出す黄金比の姿勢ッ!!悔しいけど嫉妬しちゃう程に美しかったんだッ!!これで興味が無いなんてあり得ないさッ!!」

 

 「まったく、これだから天才ってやつは……じゃあ、立香ちゃんも行こうか?」

 

 【了解ッ!!】

 

 

 

 

 

 そして、3人はトレーニングを行うシュミレーションルームをモニターする為に管制室に向かい――。

 

 

 

 

 

 不安渦巻くカルデア。

 頼りになるのか分からない正体不明のサーヴァント、サモナー。

 英霊の力を宿したとはいえ、全てを受け継ぐことは出来ず、元は只の人間だったマシュ。

 このたった二人の戦力から始めなければならない、世界を救う旅路。

 通常なら、不安に思うのが当たり前である。

 

 

 

 

 

 しかし、現在。七つの特異点を正常化した彼らがジョジョの召喚に再び携わったら声を揃えてこう言うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――この戦い、我々の勝利だ(勝ったッ!第三部、完ッ!!)――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――第一特異点、AD,1431―邪竜百年戦争 オルレアン。

 

 

 

 

 『GYISYAAAAAAAAA!!』

 

 「そこのお方ッ!!どうか、武器を取って戦って下さいッ!!」

 

 フランス、百年戦争の真っただ中に降り立った立香達。

 襲い掛かる疲弊したフランス兵をマシュが返り討ちにし、逃げた彼らの誤解を解いて辿り着いた城砦。

 そこで兵士に聞いた、かの世界的に有名な聖女、ジャンヌ・ダルクが蘇ったという――明らかな異変。

 まさに歴史が変わる出来事に立香達は驚きを露わにしたが、そこに、大空から招かれざる客が現る。

 客の正体はドラゴンの亜種とも言われるワイバーンだった。

 間違っても十五世紀のフランスに存在していい代物では無く、殺意の対象は人間。

 

 そして、なし崩しにその場で戦闘が開始される寸前に乱入した謎の女性。

 

 彼女の助言を合図に、ワイバーンは狙いを定めて炎を口内に蓄え始める。

 竜種の代表的な技である炎のブレスだ。

 

 「先輩ッ!!エネミーの攻撃が来ますッ!!」

 

 【うんッ!!やるよ、マシュッ!!ジョジョ君ッ!!】

 

 「了解っす。そんじゃあまぁ、折角よぉ。天気良くて心地いい温度なんで……」

 

 と、立香の言葉に答えたマシュが盾を構え、ジョジョは……何も構えず、自然体で二人の前に出る。

 上空には、今か今かと体内の殺意の塊を吐き出そうとしているワイバーンの群れ。

 遺物漂う上空を何時もの様にボーっと眺めるジョジョの周囲に――冷気を伴う空気が発生した。

 

 ビキッ――ビキビキッ

 

 凡そ聞こえる筈の無い、”氷”の固まる音が鳴り響き、ジョジョの周囲に成人男性程はあるかという、氷の杭が無数に現れた。

 その氷の杭は、主人の命令を待つ猛犬が如く、解き放たれるのを今か今かと待つ様に震えている。

 

 「出張日焼けサロンにゃご退店願うぜッ!!ホルス神ッ!!」

 

 『SYAAAAAAAAA!!』

 

 と、ジョジョの言葉に、彼の背後から現れた鈍色に輝く鳥型の頭をしたロボットの様な存在が、その6本の手から杭を射出する。

 そしてそのロボットの存在は――マスターである立香以外には見えない。

 

 ドドドドドドドッ!!

 

 『GISYAAAAAAAAAAAAAA!?』

 

 生み出された氷の杭はその巨体に見合わない速度で撃ち出され、ワイバーンを紙切れの如く貫き、絶命させる。

 そして、新たに生成された杭が撃ち出され、また新たなワイバーンがその生を終えて――ワイバーンは全て消滅した。

 

 『うわー……下手なB級映画よりも面白みに欠ける戦いだね』

 

 『この前マシュと戦った時にも思ったけど、ジョジョ君の宝具が反則的に強すぎるんだよ。こんなのチートじゃないか』

 

 『”常時展開型”の宝具に、強化系統のスキル。そしてこれまた凄まじすぎてスキルにまで昇華された”幸運”。もう全部乗せだね』

 

 「馬鹿言わねえで欲しいっスねぇ。こちとら命賭けて戦ってんだ。安全にやって何が悪いっつーんすか」

 

 「さすがに今の台詞は不謹慎です、ドクターもダヴィンチちゃんも」

 

 【まぁまぁ。二人ともお疲れっ!!】

 

 ワイバーンが全滅した所でカルデアからきた通信に答える二人と、その仲裁をしつつ労う立香。

 周囲から驚愕の視線を向けられる中で、三人の空気だけはとても澄んでいた。

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 「ねぇお願い。だれか私の頭に水をかけてちょうだい。アッハハ!!本気でおかしくなりそうなの――」

 

 「おし。”降らせて”やるッスよ」(ゴロゴロ……)

 

 ドザァアアアアアッ!!!

 

 「え?おぶぇっ!?」

 

 「えぇッ!?ジ、ジョジョさんっ!?」

 

 砦から共に同行した謎の女性――ルーラークラスのサーヴァントとして蘇ったジャンヌ・ダルク。

 彼女とは別に蘇ったと言われている、竜の魔女と呼ばれるもう一人のジャンヌダルクの行方を捜索する事になった立香達。

 そして情報を集める為に立ち寄る予定だったラ・シャリテの町が燃やされているのを発見したのが先ほどだった。

 既に住民は皆死に絶え、間に合わなかったと思うも束の間。

 こちらの存在を感知した竜の魔女のジャンヌ――ジャンヌ・オルタ達が反転して戻ってきたのだ。

 計測していたロマニの情報によると、数は五基。

 数で勝てない以上逃げるのが定石だが、意外と頑固なジャンヌが残ると固辞。

 判断に迷う立香達の元に、遂に敵が到着してしまったのだ。

 

 

 

 そして、こちらのジャンヌを嘲笑うジャンヌ・オルタに――。

 

 

 

 「おぐえっ!?あううッ!?」

 

 「どした?お望みの水だぜ?ブッかけて欲しかったんだろ?」

 

 「せ、先輩ッ!?敵のジャンヌオルタの周囲だけに、とんでもない量の”雨”が降り注いでいますッ!!」

 

 【い、痛そう……ッ!!】

 

 ジョジョは立つ事すら出来ない程の”スコール”を降らせたのだった。

 地面に這いつくばりながら悲鳴を漏らすジャンヌオルタを冷たく見下ろしながら、指を一つ鳴らす。

 たったそれだけの動作で、雨はピタリと止んだ。

 

 「お、ゔぇッ……ッ!?」

 

 「おやおや?泥だらけになって、ちったぁ女っぷりが上がったんじゃないッスか?」

 

 「――い……あ、あぁ、あのガキを殺しなさいッ!!八つ裂きにしてワイバーンの餌にするのですッ!!」

 

 四つん這いで起きたジャンヌオルタの指示に従い、バーサーク・サーヴァントが一斉に襲い掛かる。

 ジョジョはその光景を見つめて首を鳴らした。

 

 

 

 「あー、イラつくぜ。テメーの復讐にゃ無関係の人達を殺すわ子供を殺すわ、挙句の果てにゃ死を弄んでゾンビにするわ――なによりそいつ(ジャンヌオルタ)からあのクソKOOL野郎の臭いがプンプンするからよぉッ!!灰の塔(タワー・オブ・グレー)ッ!!」

 

 

 

 初めて見せる怒りの表情を浮かべたジョジョの背後から、立香は人の頭ほどもある”クワガタ”の様な生き物が現れるのを視認し――。

 

 ドジュバァッ!!!

 

 「ガッ!?」

 

 「ゔっ……!?」

 

 「――ァァッ!?」

 

 「ッ!?くっ……あ゛……ッ!!」

 

 そのクワガタが、襲い掛かった四人の――バーサーク・アサシン。バーサーク・ランサー。バーサーク・セイバー。バーサーク・ライダーの霊核とをブチ抜いた。

 

 「ひ、ひいぃぃっ!?」

 

 「ッ!?な、なんという……ッ!?」

 

 『ひいぃ!?グ、グロ過ぎるぅ!?』

 

 【す、すぷらったー……ッ!?】

 

 ブチ抜かれた舌が宙を浮き、血が滴る場面に腰を抜かすジャンヌオルタ。

 口元を抑えて慄くジャンヌ。画面の向こうで『は、吐き気が……』と喚くロマニと戦慄する立香。

 そして震えながらも敵に対して油断なく盾を構えるマシュと、戦場は騒然としてしまった。

 そんな惨状を作り出したジョジョは特に気にする事もなく、指をパチンッと小気味良く鳴らす。

 

 「ビンゴォ!!舌を引きちぎった!!――そして俺の目的は、特異点の修復だけじゃねぇ……俺の目的は――」

 

 そこで言葉を切ったジョジョの背後の壁にクワガタは移動し、舌から出る血で文字を記す。

 

 

 

 ――流暢な血文字で記された鮮烈なスペルは――

 

 

 

 「Massacre!――皆殺しだクソッタレ」

 

 

 

 revenge(復讐)に対する、明確なantithesis(反逆)を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――この旅は――

 

 

 

 

 

 「ま、まさか、この私が……ッ!?フラウロスの名を持つこの私が、こんな餓鬼に……ッ!?」 

 

 「フラウロスだかウスノロだかボウフラだか知らねえよこのクソボケ――俺の”ウィルス”で、その贅肉の塊溶かし切ってやる――パープル・ヘイズ・ディストーションッ!!」

 

 『うばしゃぁあああああああああああああっ!!』

 

 「うげぁぁぁあああああぁぁ……」

 

 「先輩ッ!!目を閉じて下さいッ!!これは閲覧禁止ですッ!!」

 

 【ナニカがグジュグジュって溶ける音が……今日はお肉食べれないかも……】 

 

 「先輩!!今日は一緒にサラダオンリーにしましょう!!エミヤさんならサラダだけでも満足させて下さる筈ですので!!」

 

 「承知した。今夜の夕食は満足いく品を約束しよう……ジョジョには後で説教せねばならんなッ」

 

 「立香よ!お主食べれない”かも”なのか!?余は絶対に食えん!!やはりあの少年、美少年だが毒を持っていたか!!手を出さず正解であったぞ過去の余!!」

 

 

 

 

 

 ――人類の滅びが――

 

 

 

 

 

 「■■■■……ッ!!■■■■■■■■■■■■…………ッ!!……」

 

 「はぁー、はぁー、はぁー……マスターも無茶言うぜ……でも、何とか……12回……ブチ殺し切ってやった……ぜ……しかし、強敵だった……初めてだ……こんなに疲れるとは……」

 

 「ヘ、ヘラクレスが……ッ!?う、嘘だ……ッ!?俺たち(ギリシャ)の最強がッ憧れが……ッ!?」

 

 「わー。ダーリン、凄いねあの子。ヘラクレスを倒し切っちゃった」

 

 「凄い、っつーかあり得ねえだろ。なんであんなぶっ飛んだ人間が現代に生きてんだ?神代っつーのはそこまで伊達じゃねぇんだけどな……」

 

 「や、やりました先輩ッ!!作戦を聞いたときは不安でしたが、ジョジョさんがヘラクレスを倒してくれましたッ!!」

 

 【負担押し付けてゴメン!!後でいっぱい甘やかしてあげるからっ!!】

 

 「先輩ッ!!ズルいですッ!!わ、私も甘やかしてほしいですッ!!平等を主張しましゅッ!!」

 

 「はぁー、はぁー……そりゃ勘弁して欲しいっす……(なんかあの人に似てきてね?)

 

 

 

 

 

 ――約束された――

 

 

 

 

 

 「はっ!!滑稽ここに極まれりだなッ!!俺達作家の悪夢が目の前で動き、優雅にコーラを飲むなんぞ悪夢でしかないッ!!ましてや一緒の空間で茶を共にするなぞ、怖気も走るというものだッ!!」

 

 【対面0.5秒掛からず罵詈雑言ッ!?】

 

 「お、落ち着いてくださいミスター・アンデルセン。ジョジョさんはまだ何も仰ってませんが……」

 

 「はっ!!落ち着けとは難しい注文をするッ!!お前は真横に爆弾があっても落ち着けるのか?物書きからすれば悪夢でしかないぞッ!!メアリー・スー(・・・・ ・・)が生きて、闊歩しているなんてなッ!!」

 

 「あん?誰だよそのメアリーなんちゃらってヤツは?俺にあんだけ生意気言えるお前がそこまで嫌がるヤツなのかよ?」

 

 「メ、メアリー・スーとは、二次創作にて使われている用語の一種です。定義は無限に存在しますが、主に「原作ファンによる二次創作の中に登場する、原作の主要キャラクターよりも格段に優秀な、作者の分身であるオリジナルキャラクター」などを指して使われます。例えば、優秀で英雄的な活躍をし、自分ひとりであらゆることをやってのけ、なんでも解決し、原作の主要キャラから慕われ、異性と恋愛関係になるようなキャラクターなどです」

 

 「なんだそりゃ?そんなヤツ居たら他のヤツ等いらねーじゃねーか」

 

 「そうともッ!!いいか?作家なんて者は現実がままならなかったからペンに走るしかなかった馬鹿者の総称だっ!!そしてそれに走るしかなかった馬鹿者達が出したくなくても、自分の欲求や投影目的で生み出してしまう、あるいはそうなってしまったキャラクターこそメアリー・スーッ!!そうなってしまった時点でもうご破算ッ!!徹夜で、或いは閃きで生まれた物語そのものがケツを拭く紙にすらならないゴミと化すッ!!物語に居てはならない、しかし作者の迷いや欲望一つで簡単に生み出されてしまう悪夢ッ!!それがメアリー・スー、俺達作家が書きたくない存在そのものだッ!!それが生きて優雅に自分の傍で茶でもしようものなら叫びたくもなるッ!!デウス・エクス・マキナと並んで最悪だッ!!」

 

 「……”前”にも言われたっスよ……あんたみてーなスゲー作家さんにね……『君みたいなメアリー・スーは不愉快だ。読者が離れていく原因だから僕に近づかないでくれるかな』ってね」

 

 「俺ならそこまで言われる前に斬ってるぞ」

 

 「その人の本のファンだったんスけどねぇ……しょーじきヘコみましたよ」

 

 「それは言われて当たり前だ。悪いが、いやそうも言いたくないが、俺達物書きにとってお前は”万能過ぎる”。そして物書きは自身の体験や記憶、想像を元に書く。故に、どんな場面でも有能に動けるお前の体験を聞いても食指がピクリともせん処か、全て丸く納めてしまうからな。創作意欲が削られてしまうのさ」

 

 「まぁ、そうは言われてもそれが俺なんで……気にせず好き勝手させてもらいますよ」

 

 「あぁそうしろ。何を言おうと所詮俺もその作家も外野。お前の体験がネタにならないだけで、お前の人生そのものには無関係だからな」

 

 

 

 

 

 ――どん詰まりの世界に――

 

 

 

 

 

 「お前ならば、私を殺せるか?」

 

 「俺の宝具なら手段を選ばなきゃ殺れますよ?」

 

 「――ほう――なら」

 

 「ただし、マスターの許可なきゃやりませんけどね。今の俺はサーヴァントなんで」

 

 【仲間内で殺し合い駄目っ!!ゼッタイ!!】

 

 「――くっ、ならば」

 

 「マスターを狙うからその流れで殺す……ってのは無しッスよ」

 

 「……むぅ」

 

 「可愛く剝れても駄目っスよ……って何ニヤついてんですか?」

 

 「……ふっ……そうか……お前にはこの年上のお姉さまが可愛く見える、と?私もまだまだ捨てたものじゃないらしいな」

 

 「……はぁ……まぁ、さっきの顔が可愛かったと思ったのは事実なんで、好きに受け取ってください」

 

 「――っ――ま……まぁ、あれだ……今回はこの辺で止めておこう」

 

 「今回じゃなく永久に止めて欲し――マスター?……何で俺を抱き上げてるんスか?」

 

 【……】

 

 「……なに頬膨らませてるんで?」

 

 【……てない】

 

 「は?」

 

 【私、ジョジョ君に可愛いって言われた事ない……】

 

 「……」

 

 【……(チラッチラッ)】

 

 「サラッと令呪出すの止めて下さいって。後、マシュさんが盾持ってアップ始めてるんで降ろしてもらえません?逃げる準備しねーと」

 

 「逃げるなんてひどいですジョジョさん。私達、先輩の初めてのサーヴァントじゃないですか。ですからお話しましょう?主に私とジョジョさんの扱いの違いとか密着度の違いとか、えぇ、えぇ。その辺りの格差はあってはいけませんよね?あぁこの盾は気にしないで下さい。先輩に迫る悪い虫を追い払う時だけ使いますので。主にこう、えいやっと潰す時に」

 

 「ますたぁ(安珍様)に甘やかしていただけると聞いて♡まずはお邪魔虫を焼いてしまいましょう」

 

 「逃げるんだよぉおおッ!!」

 

 

 

 

 

 ―――――――城戸定明(スタンド使い)が――

 

 

 

 

 

 「首を出せ」

 

 「っぶねぇ!?いきなり首狙うとか何考えてんスかこの爺ッ!?更年期障害もそこまでにしとけやッ!!」

 

 「ジジジジジョジョ殿っ!?初代様に何という事をッ!?」

 

 「……世界を救う力がありながら、己の環境に対してのみ力を振るうその所業。堕落なり。故に、喝を入れたまでの事」

 

 「はっ。大いなる力には大いなる責任がってヤツかよ?あんたとベンおじさんに言われるんじゃ、言葉の重みってヤツがちげーわな」

 

 「……己の利己、己の感情のみに、その力を振るうと?」

 

 「たりめーだ。俺は英雄じゃねぇ。のんべんだらりグータラして、良い女と恋をして、トラブルのねぇハッピーな人生を送る為に生きてる”人間”なんだよ。勝手に英雄扱いすんな」

 

 「……いまだ汝に晩鐘は鳴らず……さりとてその怠惰の極み、許し難し」

 

 「へっ、俺は『正しい』と思ったからグータラしてんだ。後悔は無い。こんな世界とはいえ、俺は自分の信じられる道を歩いていたい」

 

 「働け」

 

 「我が心と行動に一点の曇り無しッ!!全てが『正義(自堕落)』だッ!!」

 

 「さすがにそれは違うと思いますジョジョさんッ!!これはカルデアに帰還したら、エミヤさん、エレナさん、ジャンヌさんからのお説教コースかとッ!!」

 

 【その後は私とマタ・ハリとアタランテとブーディカさんがいーっぱい、ダメになるくらい甘やかしてあげるからねッ!!】

 

 「先輩ッ!!鞭と飴では効果が薄いかとッ!!後、甘やかすならぜひ私をッ!!」

 

 「……静謐よ、私にはこんな会話をしながらも初代様の斬撃の悉くを躱しているジョジョ殿に驚愕を禁じえんのだが」

 

 「そ、それは私もです、呪腕様……」

 

 

 

 

 ―――呼び出された――否、放り込まれた――

 

 

 

 

 

 「ブフッ!!フハハハハハハハハハッ!!暫し待て、待つが良いッ!!我呼吸困難不可避である故にっ、フハハハハハハッ、ゲェフッ!!」

 

 「……人の顔見て笑うの止めて欲しいっすね……」

 

 「お、王?」

 

 「せ、先輩……ギルガメッシュ王が何故か……」

 

 【ジョジョ君を見た瞬間大爆笑してらっしゃる……】

 

 「フハハハハハハッ!!こ、これはまずい!!シドゥリ、水差しを持て、これはまずい、命がまずい!よもや未来に於ける最高峰の道化を連れてくるとは、フアハハハハハハハッ!!」

 

 「道化、ねぇ……おどけて笑わせた記憶は皆無、なんすけど」

 

 「フハハハハっ!!存分におどけておるではないかッ!!平穏を求め、結局は闘争に身を投げ入れ足掻き、束の間の平穏を享受する間もなく次の厄介事に自ら飛び込むッ!!その損な性分故であろうが、何時までも手に入らぬ平穏を追い求めて藻掻く様や良しッ!!これからも励むが良いッ!!フハハハハハハハハッ!!」

 

 「……」

 

 【ドクター、ジョジョ君の目がずんどこ死んでいってる!!】

 

 『そりゃ、ねぇ。全てを見通す千里眼の持ち主にこれからも励めって言われてるのって、実質まだまだ苦労して足掻くって言われてるって事だし』

 

 「……やれやれだぜ」

 

 

 

 

 

 ――物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョジョの奇妙な冒険――第?部――聖杯探索。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――やっと――やっと、見つけたゾ……ッ!!定明君……ッ!!』

 

 「」

 

 「先輩ッ!!カルデアが月の新王(・・・・)を名乗る女性から攻撃を受けていますッ!!あちらからの要求は『ジョジョさんの契約の変更及び引き渡し』だそうですッ!!拒否すれば実力行使も辞さないとッ!!ってあぁ!?ジョジョさんが驚愕のあまり固まってます!?」

 

 【ジョジョ君は渡さないッ!!この子は私のサーヴァントだもんっ!!】

 

 「ああ!?先輩そんな、月の新王に見せつける様にジョジョさんを抱きしめたら火に油、いえダイナマイトです!!」

 

 『ぐぬぬ……ッ!!定明君を返しなさい……ッ!!彼を抱っこして良いのは私だけだ……ッ!!この胸でいっぱい癒してあげるんだ……ッ!!』

 

 【そ、そんな巨乳に挟んだら窒息しちゃうでしょ!?私くらいのが丁度良いってジョジョ君言ってたし!!】

 

 「言ってないッス」

 

 『手頃などこにでもある普通よりちょっと上程度の乳じゃ、定明君が満足出来る訳ない……私が上、君は下だッ!!』

 

 「いや、頭重かったッスけど」

 

 【……――――全面戦争だぁあッ!!】

 

 『望むところだぁあッ!!』

 

 『【定明君/ジョジョ君は、私のサーヴァントだぁあッ!!】』

 

 「あららー。モテモテだねぇジョジョ君。しかし聖杯探索を完了して直ぐこれとは、この天才をしても思わなかったよ……所でエミヤ?君はなぜそんな嬉しそうな顔をジョジョ君に?」

 

 「あぁいや、今まではそう思わなかったのだが……彼とは良い茶飲み友達になれそうだと思って、ね(女難EX)」

 

 「あぁ、先輩!?突貫してきた相手のクーフーリンさんとこちらのクーフーリンさんが両陣営のスカサハさんに刺し穿たれました!!」

 

 「ランサーが死んだッ!?」

 

 

 

 

 

 『【こーの人でなしぃッ!!】』

 

 

 

 

 

 to be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城戸 定明(ジョジョ) クラス・サモナー

 

 

 

 マテリアル レアリティ☆5

 

 

 

 キャラクター詳細

 

 

 

 見た目は普通の少年。

 しかし彼が使う能力はサーヴァント達にも見えず、触れず、認識できない。

 敵の認識できない場所から繰り出す致命の一撃は、どんなサーヴァントも倒していった。

 

 その正体は遥か彼方の並行世界より招かれた(強制)超能力者である。

 

 今現在も生きるこの少年は、今日もカルデアのマイルームでダラけた生活をコーラ片手に満喫している。

 ――かなりの頻度でマスターである立香やブーディカ、マタ・ハリといった女性陣に抱き枕兼抱っこぬいぐるみ扱いされているが、最早諦めた様子。

 

 「ぷはぁ……俺の話ぃ?切った張ったなんて無縁のなんてない日常っスけど……それでもよけりゃ、聞いていきます?って、ナチュラルに俺を抱っこしねえでくださ……もう良いッス……」

 

 尚、この少年の生活は切った張ったとは無縁どころではなく、常に世界の平和を脅かされる動乱の日々である(無慈悲)

 

 

 

 パラメーター(本体)

 

 筋力  C+        耐久  C

 

 敏捷  B+        魔力  E

 

 幸運  EX        宝具  EX

 

 

 

 プロフィール1(絆レベル1で解放)

 

 

 

 身長 155cm  体重 41kg

 

 出身 海鳴市  地域 日本 

 

 属性 中立・中庸 (善)

 

 性別 男

 

 

 

 プロフィール2(絆レベル2で解放)

 

 

 

 今も尚並行世界で生きている少年。

 己の周囲に危険が迫らない限りは、自身の能力を殆ど行使する事がない。

 精々が高い所にある物を取る時、等である。

 しかし彼の周りの環境が特殊故にか、もっぱら誘拐事件等の危険な事件に遭遇しやすい。

 その為、突発的なアクシデントに対応できる様にと、普段は行使しない能力のトレーニングは日々欠かさない。

 ■■より与えられた身体能力を強化する”太陽のエネルギー”を自己で練り上げる『波紋』の技術。

 そして自然からスケールを得る事で”無限”へと繋がる『鉄球』の技術。

 自分自身を鍛えるトレーニングを彼は日々こなしていた。

 

 「平穏にのんびりしたいのに、肝心の俺がのんびり出来ず修行って……おかしくね?」

 

 彼の疑問は、彼の性根が「目の前の困っている人を助けてしまう」という彼の性格と真逆を向いているが為。

 その為咄嗟に体が動いてしまう事が多く、彼の疑問には誰もその答えを見いだせない。

 

 最近他の世界へ迷い込む事が多く、割とこういった事態に慣れっこになってきている。

 同じ様に別世界に迷い込む事の多い魔法少女とは、苦労を分かち合える仲だと理解しあった。

 

 しかしその少女と話していると、どことなく自分の世界から良く分からないプレッシャーを感じているんだとか。

 

 

 

 プロフィール3(絆レベル3で解放)

 

 

 

 彼の正体不明の能力。

 

 その正体は並行世界の■■によって与えられた幽波紋(スタンド)という能力。

 彼はそのスタンドを操る”スタンド使い”であり、魔術とは無縁の存在である。

 スタンドとは、自身の精神エネルギーが形を作って顕れる”パワーあるヴィジョン”。

 傍に現れ立つところから、このヴィジョンを総称してスタンドと呼ばれている。

 本来、スタンド能力は”一人につき一つの能力”を持つが、彼は並行世界の■■によって、様々なスタンド能力を得た。

 その全てのスタンド能力は多岐に渡り、明確な対処法は”全ての能力に対処すること”以外に無い。

 

 更にスタンド能力は本来”スタンドが見えるのは同じスタンド使いのみで、触れられるのはスタンドだけ”というルールが存在する。

 

 この為、マスターとして明確な繋がりを持つ立香(或いは以前のマスター)にしかジョジョのスタンドは認識できず、攻撃をする事は立香すらも出来ない。

 

 故にサーヴァント達はジョジョの攻撃に対処する術を持てず、攻撃の認識すら行えず、ただ倒されるばかりであった。

 

 その後、幽霊ならスタンドが見えるといったジョジョの発言を元に霊体化する事で、ジョジョのスタンド能力を認識する事に成功。

 しかしサーヴァントは霊体では攻撃できず、逆に幽霊にすらジョジョのスタンドの攻撃は通ると判明。

 意気揚々と仕返しの為に霊体化したジャンヌ・オルタはあっさりとボコボコにされていた。

 

 その時の様子を見ていた巴御前の「ちぃとは駄目です!!ばん対象です!!」との言葉に、ジョジョは「勝てばよかろうなのだぁぁ」と返したそうな。

 

 

 

 プロフィール4(絆レベル4で解放)

 

 

 

 〇50億分の1のluckyguy

 

 ジョジョの人生に於いて約束された(報酬)幸運がスキルとして昇華したもの。

 人類の中で頂点に輝く幸運の証であり、これまでの戦いや善行に対する報酬である。

 宝くじを買えば必ず一等……ではなく、その運が最も発揮される時、彼のスタンド『へイ・ヤー』が、その時を教えて励まし、導く。

 その導きに従う事で、ジョジョの人生は幸福で満ち溢れる。

 ……例え、その幸運を得る為に戦いに身を投じる事になっても、全体で見れば幸運な出来事になっている。

 ジョジョはこの結果に首を傾げるが、全体で見れば幸運なので文句も言えない。

 その幸運へ導いた『へイ・ヤー』はそんなジョジョをケタケタと笑いながら見ている事だろう。

 

 

 

 〇波紋の呼吸

 

 太陽のエネルギーと同じバイブレーションを引き出す生命の神秘。

 傷や病気の治療にも効果を発揮する。

 極めれば水の上を走り、指一本で鉄柱にくっつく事も可能。

 人体すらも溶かす波紋を持つカーズのランクはEXであり、測定不能。

 今のジョジョの波紋の能力は日々の修行により、現役の頃のジョセフ・ジョースターに近づいている。

 

 

 

 〇鉄球の技術

 

 ツェペリ一族の回転技術と黄金長方形の軌跡の回転。

 極めれば無限に続く回転エネルギーの力を発揮し、その力は次元の壁を超える。

 ポールブレイカー発現時のジャイロはA++となる。

 

 王族護衛官のウェカピポの持つ戦闘用の鉄球の回転技術。

 

 別名『WRECKING・BALL』レッキング・ボール(壊れゆく鉄球)とも言われる。

 「衛星」と呼ばれる14個の小さな鉄球が付いており、鉄球を投球することで「衛星」がランダムに飛び散る。

 これに直撃すればもちろん重症は免れない。

 体にかすっただけでもその衝撃波によって十数秒間「左半身失調」状態に陥る。

 (全ての左半分が消えていると脳が認識するため、全ての物体の左半分が見えず、左側からの光や音や手触りが認識できない)

 

 

 

 プロフィール5(絆レベル5で解放)

 

 

 

 『傍に立つもの(スタンド)

 

 ランク:EX   種別 対人 対界 対軍 宝具

 

 常時展開型の宝具であり、ジョジョの基本能力にして真骨頂。

 無数にあるスタンド能力の中から選んだ能力に連続で攻撃させる。

 その攻撃は認識できず、対処する事は非常に難しい。

 更にスタンド能力の中には星(地球や月、太陽に果ては重力等)に影響を与えるものも存在。

 

 

 

 

 クラススキル

 

 

 

 SKILL1  対魔力:E  魔術に対する守り。無効化はできず、ダメージを軽減するに留まる。

 

 SKILL2  聖杯の魔力供給:A+ 自身に毎ターンNP獲得状態を付与。

 

 SKILL3  『D4C』 HPが0になった時、確率でガッツ&完全回復。

 

 SKILL4  『ノトーリアス B・I・G』 HPが0になった時、確率で敵全体に大ダメージを与える。

 

 

 

 保有スキル 

 

 

 

 SKILL1 50億分の1のluckyguy+『ヘイ・ヤー』

 

 自身のNPを大幅に増やす&スターを大量獲得&味方全員に回避状態を付与(2ターン)

 

 

 SKILL2 波紋の呼吸+『ザ・キュアー』

 

 指定した相手の体力を大幅に回復&状態異常を回復&クリティカル率をアップ&自身の攻撃力をアップ

 

 

 SKILL3 鉄球の技術

 

 自身の全てのカード性能をアップ&攻撃時にスタンを付与

 

 

 

 宝具

 

 

 

 傍に立つもの(スタンド) 

 

 ランク:EX 

 

 種別 対人 対界 対軍 宝具

 

 自身のBusterカード性能を大幅アップ(1ターン)

 

 <オーバーチャージで効果アップ>+敵全体に超強力な回避無視攻撃+即死効果付与+無敵貫通。

 

 

 

 カード構成 Buster Buster Arts Arts Quick

 

 

 

 

 

 戦闘開始1

 

 「はあぁ~……しょぉ~がねぇなぁ~……いっちょ、やるとしますか……めんどくせぇ」

 

 戦闘開始2

 

 「テメーはこの城戸定明が直々にブチのめす」

 

 戦闘開始3 

 

 「あんたは果たして、滅びずにいられるかな……?」

 

 

 

 スキル1

 

 「さーて……ちょっくら強気でいくか」

 

 『YO!YO!YOOOOOO!!!行ケエェ定明ッ!!オ前サンニハ、幸運ノ女神ガツイテルッ!!!』

 

 スキル2

 

 「希望とヤル気がムンムンわいてくるじゃねーか、オイッ!」

 

 『YO!YO!ッテ言エッ定明!YO!ッテよォーッ!!』

 

 「へへっ……YO!YO!YOオォォーーーッ!!」

 

 スキル3

 

 「コオォォォォォ……」

 

 『キュキュッ』

 

 スキル4

 

 「俺がする呼吸のリズムは……奇妙な波紋エネルギーを生み出すッ!!」

 

 『キュウッ!!』

 

 「そして俺のザ・キュアーはあらゆる傷・病魔を吸い取って癒すッ!!毒だろーとなんだろーとなぁッ!!」

 

 スキル5

 

 「回転は無限の力だ……無限の渦、無限の回転……黄金長方形の軌跡」

 

 スキル6

 

 「LESSON4、敬意を払えってな」

 

 

 

 コマンドカード1

 

 「はいはいっと」

 

 コマンドカード2

 

 「お任せあれッス」

 

 コマンドカード3

 

 「え~……まぁ、やるかぁ」

 

 

 

 宝具カード1

 

 「死ぬのは……俺のスタンドを見るお前の方だ」

 

 宝具カード2

 

 「テメーには、死んだことを後悔する時間をも、与えねえッ!!」

 

 宝具カード3

 

 「俺のスタンドで……然るべき報いを受けさせてやるッ!!」

 

 

 

 アタック1

 

 「宣戦布告だぜッ!!コオォ……ブッ壊す程ッ!!シュートォッ!!」

 

 アタック2

 

 「シャボン・ランチャー&シャボン・カッターッ!!食らって田舎に帰りな」

 

 アタック3

 

 「刻むぜぇッ!!波紋のビートッ!!波紋疾走(オーバードライブ)ッ!!」

 

 アタック4

 

 「撃ち殺せッ!!エアロスミスッ!!」

 

 アタック5

 

 「行けッ!!セックス・ピストルズッ!!」

 

 『『『『『『YEEEEEEEEHAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!』』』』』』

 

 アタック6

 

 「皇帝(エンペラー)ANDハングドマン(吊られた男)ッ!!」

 

 アタック7

 

 「スティッキー・フィンガーズッ!!閉じろジッパーッ!!」

 

 『アリアリアリアリアリアリアリィッ!!』

 

 アタック8

 

 「食らわせろッ!!パープル・ヘイズッ!!」

 

 『うばしゃぁあああああああああああああっ!』

 

 アタック9

 

 「直は素早いんだぜぇ……ザ・グレイトフル・デッド」

 

 アタック10

 

 「グリーン・ディッ!!カビをバラ撒けッ!!コイツ等ブッ殺すぞッ!!」

 

 アタック11

 

 「馬鹿めッ!!消化してやるよッ!!ハイプリエステス(女教皇)ッ!!」

 

 『ウシャシャシャシャシャシャシャッ!!』

 

 

 

 エクストラアタック1

 

 「焼き尽くしてやるッ!!魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)ッ!!クロス・ファイヤー・ハリケーンッ!!」

 

 『クオァアアッ!!』

 

 「チッ♪チッ♪ YES I AM !!」

 

 エクストラアタック2

 

「道を切り開く時は――星の白金(スタープラチナ)ッ!!」

 

 『オラオラオラオラオラァッ!!オラァアッ!!』 

 

 「――と、こうやるんだぜ?」

 

 エクストラアタック3

 

 「法王の緑(ハイエロファント・グリーン)ッ!!食らえッ!!半径20メートル、エメラルド・スプラッシュをッ!!」

 

 エクストラアタック4

 

 「銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)ッ!!本来のスピードをお見せしようッ!!今度の剣捌きはどぉだーッ!!」

 

 

 

 宝具1

 

 「マヌケがッ!!知るがいいッ!!世界(ザ・ワールド)の真の能力は正にッ!!世界を支配する能力だということをッ!!――世界(ザ・ワールド)ッ!!時よ止まれぇッ!!」

 

 宝具2

 

 「既に射程距離に入っているッ!!今度は逃がさないッ!!――キング・クリムゾンッ!!俺以外の全ての時間は消し飛ぶッ!!」

 

 宝具3

 

 「もうお前は、何処にも行くことは無い……特に、真実に辿り着く事は……決して……ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」

 

 宝具4

 

 「星の白金・世界(スタープラチナ・ザ・ワールド)ッ!!――ブチかますぜッ!!」

 

 『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!オラァアッ!!』

 

 「テメーは俺を、怒らせた」

 

 

 

 

 勝利1

 

 「おっし。勝てた勝てたじゃあマスター。俺はこの後、イリヤちゃん達と約束があるんで……秒で抱っこすんの止めてくれません?これ絶対ブーディカさんとかマタ・ハリさんとかに盥回しにされるヤツ――」

 

 勝利2

 

 「てめーの敗因はたった一つだぜ……たった一つの単純(シンプル)な答えだ――”テメーは俺を、怒らせた”」

 

 勝利3

 

 「アリーヴェデルチ(さよならだ)ッ!!」

 

 

 

 ダメージ1

 

 「いっつぅ!?」

 

 ダメージ2

 

 「ぐおぉ……っき、効く……ッ!?」

 

 

 

 戦闘不能1

 

 「くそっ……何か……挟める”モノ”は……あったぁッ!!」

 

 戦闘不能2

 

 「ガハッ……最後に、置き土産っだ……精々死なねえ様にな……ノトーリアス・BIG」 

 

 

 

 レベルアップ

 

 「んー……あんまり、強くなった実感はねぇッス」

 

 

 

 霊気再臨1

 

 「おぉ?服が変わるんスね……コートを脱げて、身軽になりました。ありがとうございますッス、マスター」

 

 コートを脱ぎ、ジョセフの帽子を被る。

 

 霊気再臨2

 

 「ん?こりゃ確か……あぁ、アリサに着せられたヤツか。窮屈で動きにくい――マスター、ジリジリ距離詰めんの止めましょ?手をワキワキさせんのも――」

 

 モリアーティ教授のバーテンダー服のミニ版。ネクタイは変わらず。

 

 

 

 会話

 

 

 

 「マスター。ダルいのは分かります。至極わかりますけど……行きましょうか。ここにエミヤさんから貰ったサンドイッチあるんで、向こうで食いましょう」

 

 「主従ってのは正直良く分かってねぇんスよ。俺の場合、助けたい、力になりたいと思った人がマスターになってるんで……マスター運だけは良いんスよ」

 

 「好き嫌いはありますよ、勿論人間なんでね。俺は――何の罪もねぇ人とかをテメーの都合だけで巻き込むやり方がだいっ嫌いッス……まぁ、マスターがそんな事するはずねぇんで、俺は気持ちよく力を貸せてるんスけどね」

 

 「あの魔法少女のイリヤちゃん。中々苦労人体質っつーか、巻き込まれ体質っつーか……波長が合いましてね。最近は良くおしゃべりしてま……何で頬膨らましてんすか?え?ずるい?……じゃあ、お茶します?」

 

 「はぁ……あぁ、マスター。いや、なんつうか……ブーディカさんとかマタ・ハリさんの甘やかし攻撃が……こっ恥ずかしいっつーか……だからマスターも出会って数秒で抱き上げようとしねーで下さいって、逃げますよ?」

 

 「俺にも何人か、近づきにくいサーヴァントは居ます。まずはアンデルセン先生にシェイクスピアでしょ?キングハサンは会った瞬間「働け」の一言と一緒に斬りかかってくる。キャスターのギルガメッシュ王はまだ俺の顔見る度に腹筋抑えて笑うし、アーチャーのギルガメッシュさんは宝具撃ってくるし、子ギル君も笑顔で鎖投げてくるし……あれ?……同一存在3人がアウト……?あれ?」

 

 「青髭、ジル=ドレェだきゃあ駄目だ。いくらマスター命令でも俺は許せねえし、聞く気もねぇっす。俺はヤツを無視するし、話しかけられたらスタンドで返す。こればっかりは罪を憎んで人を、とか言われても無理だ……それぐらい、ヤツのやった事を許せねーんで……カルデアに居るのを許可したのは最大限の譲歩ッス」

 

 

 

 好きなこと

 

 

 

 「んなもん決まってますよ。夏はクーラー効いた部屋で映画鑑賞して、コーラとピザをキメる。冬は炬燵を占拠して動画サイト見ながらあったかいお茶と柿ピー、蜜柑で飛ぶ。これ以上の贅沢は無いッスよ」

 

 

 

 嫌いなこと

 

 

 

 「俺の日常と平和をブッ壊す奴ですね。そんな馬鹿には振り掛けてきた火の粉をナパームにして返してやりますよ。あと青髭」

 

 

 

  聖杯について

 

 

 

 「あったら便利なんでしょーけど、それ狙ってくるヤツもわんさか沸いて出てくんでしょ?だったら要らねーかなぁ……それの所為で俺の周りが危なくなんのも嫌ですし」 

 

 

 

 イベント開催中

 

 

 

 「やれやれだぜ。何か起きてるみたいっすよ、マスター。どうやらのんびりした休日は、浮気旅行にでも行っちまったみてーです」

 

 

 

 誕生日

 

 

 

 「誕生日ぃ?それを早く言って下さいッスよ。とりあえずどうすっかな……確か、エニグマの紙の中にアリサから貰った超・特上肉と超・高級鮮魚の刺身盛り合わせがあった様な……おっ、あったあった。よし、ちょいと待ってて下さいマスター。今からエミヤさんに美味しい寿司に、肉は焼いて貰ってきますんで」

 

 

 

 絆LV1

 

 「お、マスター。お疲れ様ッス」

 

 絆LV2

 

 「マスター。頼まれてたお菓子、持ってきたッスよー。外が燃えてる所為で、柿の種とかポテチにチョコなんか全滅ですからね。いやー、エニグマの紙に保存してたモンが全部持ち込めてて良かったっす。じゃあ、楽しんで下さい」

 

 絆LV3

 

 「ちょいちょいマスター。顔に傷が……何言ってんスか。綺麗にしといたほーが良いでしょ。ほい、クレイジーダイヤモンド……はい、これでOK……あぁ、良いっスよこれぐらい大した事じゃないッスから。怪我したらナイチンゲールさんの前に、どーぞ俺ん所に。綺麗さっぱり治しますから」

 

 絆LV4

 

 「ほら、マスター。気分を落ち着けるカモミール入りのハーブティーです。隠し味も入ってるから、美味しいですよ……一人でこんなとこで膝抱えてないで、誰でも良いから相談してください。俺達はサーヴァント。マスターの為に戦い、寄り添います。誰もマスターを情けないなんて思いません……えぇ、そうッス。俺も思いません。寧ろ、俺達みてーな超常の力が無くても、常に俺達と一緒に戦場に立ってる貴女を、俺は尊敬しています……え?抱っこ?俺が”する”方ですか?……分かりました……背が足りねえのは、ご容赦下さいッス」

 

 絆LV5

 

 「あー……前のマスターとは、その……喧嘩別れ、みたいなもんス……まぁ、あの人の日常に俺みたいな異物や、家族が死んだ事をそのままにしておく訳にゃいかなかったんで……別れるのが嫌だって泣いて駄々をこねるマスターにはちょいと寝てもらって、その間に全部元通りにして、俺は退去しました……確かめる術はねーけど、まっ、大丈夫だと思いま……え?……自分の時は絶対にやるな、と?……はぁ……分かりました分かりましたよ。だからそんな泣きそうな顔しないでくださいって……って掌返し早っ、だから抱き上げんのは止め……令呪見せられちゃ、黙るしか無いじゃないッスか……(っち、白野さんの事負い目になってるしなぁ)……はぁ、やれやれだぜ」

 

 

 

 

 

 

 







 各キャラクターとの掛け合いまで書けなかったブルブル((;゚ェ゚;))ブルブル


 圧倒的……ッ圧倒的衰え……ッ!!


作者として再起不能の俺には、読者を満足させるだけの執筆力は既に無い……ッ!


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