雄を名乗る雌蜂 (巳傘ナコ)
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数多ノ中ノ一匹

砕蜂

護廷十三隊の二番隊隊長にして、隠密機動総司令官及び同第一分隊【刑軍】総括軍団長。

 

彼女を含め隊員及び率いる軍は善悪ではなく、護廷十三隊の矜持のみに従う。

障害となるモノ在らば敵だけでなく、味方であろうとも全力で排除する事を厭わない。

 

そんな彼女の家は【蜂家】という代々暗殺を担う下級貴族で、砕蜂だけでなく生まれた者は幼い頃から既に実戦に身を投じ、彼女には五人の兄と妹が一人居たが、五人の兄は全員帰らぬ人となっている。

 

その妹が産まれた時、砕蜂は当時四大貴族の一つ、天賜兵装番四楓院家の22代目にして初めての女性当主となった四楓院夜一にその実力を買われ、部下として隠密機動に入隊したため妹の顔を知らなかった。

 

この時の大出世は蜂家内を大いに騒がせ、産まれたばかりの娘に異常な程の期待を寄せた。

 

砕蜂は四歳から鍛練を始めていた。

なら今から始めれば更なる才が目覚めるかもしれない。

 

そんな獲らぬ狸の皮算用も驚く程の勝手な算段で一族は産まれたばかりの少女に鍛練と言う名の地獄を課した。

 

様々な毒物の投与に始まり、拷問訓練、体術と鬼道の鍛練、体ばかりを磨いても意味がないと三才になった頃には貴族の歴史、作法、言葉使いが追加され、五歳を越えた頃には房中術まで仕込まれた。

 

そんな地獄が優しく思えるようになったのは少女が八歳を越えた頃だ。

何をやっても姉に及ばぬ妹を家の者はなにかと砕蜂(当時は家族や使用人は本名である梢綾と呼んでいた)比べるようになったのだ。

 

「梢綾の用に立派になれ」

 

「梢綾に出来て何故お前は出来ない」

 

「梢綾は歴代随一の果報者だが、お前は歴代随一の役立たずだ」

 

しかも、少女には名前がなかった。

叱る時、悪態を吐かれる時、房中術を学ぶ為の性交の際ですら自分を指すのは「お前」、「役立たず」という単語。

一族は「梢綾を越えた時、名を授ける」と言い、少女「はい」と返したが心で、その日はきっと来ないと感じていた。

 

 

少女が十三になった日に大事件が起きた。

当時、隠密機動総司令にして【刑軍】総括軍団長さらには護廷十三隊二番隊隊長の地位にいた四楓院夜一が浦原喜助の逃走幇助の罪に課せられ地位を剥奪されたのだ。

そして彼女の地位に着いたのが砕蜂だった。

 

そこからは更に鍛練も風当たりも強くなり、彼女が十五を越えた頃には誰も期待しなくなった。

それでも長年の地獄の日々で鍛えられた力は上位の席官または副隊長クラス程になっていたため、少女は死神になるように言われた。

そして少女は蜂家の伝説となった砕蜂が窮地に追い込まれた際の影武者として死ねと命じられた。

 

この時少女は初めて家から名前をもらったのだ。

 

少女の名は【雄】と書いてピンイン

 

蜂は女王が死んでも雄は卵を産めるが生まれるは全て【雄】で巣はいずれ廃退し、滅ぶ。

故に女王が新たな次代を産み、巣が存続するために雄は戦い死んでいく。

 

蜂家で例えるなら女王は【砕蜂】、産み出す次代とは【功績】【名誉】【栄光】の事であり、それがあるかぎり蜂家は衰退せず続くと一族は信じている。

 

少女は女王と巣を守る為に死を厭わない無数の雄

 

護廷の矜持を守り戦う砕蜂を守る隊員

繁栄へと繋がる蜂家の果報者を守る一族

そんな犇めき動く、数多の雄の一匹

 

それが【(ピンイン)

 

 

 

 




久しぶりに見たらハマっちゃった・・・


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複眼潰シハ功ヲナス

 

真央霊術院に通い五年が過ぎた。

 

名を授けられて直ぐに此処に入れられたが、入学してから五年一度も家から連絡が来た事はなかった。

 

影は目立つことなかれ。

ただただ主を守り死ね。

死に際を主に見せるべからず。

 

反吐が出るような地獄に耐えた私を蝕むのは心身に刻まれた傷ではない。

洗っても洗っても落ちない油のようにまとわりつく蜂家の【教え】だ。

 

逆らおうとすると体が震える。

抗おうとすると呼吸が苦しい。

破ろうとすると心が張り裂けそうになる。

 

入学当初は霊術院は正直苦痛だった。

家に居た頃の私の周りは知りもしない姉と罵倒と落胆に満ちていて、それが私のたった1つの世界だった。

 

だけど此処は違う。

 

周りは賑やかで笑い声が響き、死神になろうと切磋琢磨する学生の爽やかな汗、時に色恋。

そこには痛みはあれど苦痛は無く、愛はあれど溺れるも活かすも自由。

 

私の前で起こっている全てが幻覚なのではないかと何度疑ったことだろうか···

【私の知らない全てのモノ】を【私が押し付けられた世界】が拒絶する。

 

見ているだけで込み上げてくる目眩、吐き気、頭痛

 

こんな思いをするならばいっそ【蜂】の方が良かった

長い長い年月で種に根付いたプログラムに従う彼等に感情はなく、あるのは本能のみ。

一々感情に作用されず、ただ淡々と、ただ粛々と己の役割を果たすために生きる【蜂】が羨ましい···

 

しかし、私は人間だ。

羨んだ所で【蜂】には成れない。

望んだ所で感情を消せはしない。

求めた所で得ることは出来ない。

願った所で私の世界は変わらない。

 

ならば己を変えれば良い。

世界を変えるよりは簡単な筈だ···

こうして私は初めて【女王(あねうえ)】より【(ピンイン)】を守るための行動を開始した。

 

入学てして直ぐに手拭いで目を被った。

視界を消すだけで症状はだいぶ楽になった。

暗殺を生業とする蜂家の鍛練には視界を奪われた際の修行があり、私が受けたそれは歴代の鍛練を遥かに凌ぐ厳しさだった。

今さら視界を奪われた所で不便はない。

 

しかし、手拭いでは万が一にもズレたら困る。

だから私は一年目は手拭い、二年目は鬼道、三年目は呪術、四年目は鬼道と呪術、そして五年目は鬼道と呪術と縛術を使い完全に視界を無くした。

今の私の目は白目と黒目が逆転し、他人には見えないが虚の血を使った術が刻まれている。

この目が再び光を写すには術者本人による解呪が必要、つまり私が解呪するまで永遠に機能を失うのだ。

 

このおかげか幼い頃より鍛えられてきた霊子による空間把握に磨きがかかり、人も物も全てが霊子によって構成されたこの世界では視界を塞いでも日常生活で不便に感じる事はなかった。

 

蜂家に課せられた【(しめい)】で窮屈な生活を送っていた私の人生を大きく変える出会いがあった。

その出会いは霊術院での生活が三年目半を過ぎた頃の事である。




二話目!!
ナルト君は今週か来週中にはアップ出来るかと···


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出会イシハ蜂ニ非ズ

霊術院での生活も三年目半ばを迎えた頃、一年から六年全ての院生が浮き足立っていたが、霊術院の事を何も知らず、知らされず放り込まれた私はその理由を今日まで理解出来なかった。

 

同学年の立ち話が聞こえた。

「早く会いたいなぁ、護廷の隊長!!」

 

「緊急召集なきゃ手解きしてくれるんだって!!」

 

「しかも認められたら、その場で入隊らしいぜ!!」

 

「僕が聞いた話では三人も来て下さるとか!!」

 

どうりで騒がしいわけだ。

護廷十三隊へ入る為の学舎に憧れの隊長達が来る。

しかも鍛練してくれるばかりか、その場での入隊もあるかも知れないと聞けば私のような異端以外は胸を踊らせるのも頷ける。

 

そんな中、私はというと廊下の端を早歩きしながら鍛練所に向かう院生とは逆方向を目指した。

隊長にも立場と職務があるため当日ギリギリまでどの隊長が来るかは分からないらしい。

 

もし、二番隊の隊長が来たら・・・

姉上と顔を合わせた時、私は・・・

心がモヤモヤし、ジクジクて痛む・・・

 

いつの間にか騒がしかった校舎からすっかり院生の気配が消えていた。

 

後、少しで裏庭に着く。

 

そこを曲がれば直ぐだ。

 

着いたら深呼吸でもして落ち着こう。

 

心が乱れて居たせいか廊下を曲がった先に人が居るなんて気づかなかった。

ぶつかって初めて人が居た事に気づいた。

 

「も、申し訳ありません!!」

 

「構わぬ。」

 

静かな声だ。

心乱したせいで感知し逃すなんて・・・こんな事では死神なんて夢のまた夢だ。

二度とそんな失態はしないと霊圧を上げて空間認識を高める。

 

「・・・あれ?」

 

認識出来ない・・

流魂街に住む霊厚持たない人も認識出来たのに何で・・何でこの人から霊圧感じないの?

 

「儂の霊厚を感知出来ぬのがそんなに不思議か?」

 

「・・・はい・・・」

 

「儂が知るなかでも一、二を争う感知力じゃが、まだまだ甘い・・霊圧と霊子の扱いに長けた者にとって己のそれを消す事は容易い。」

 

「!?・・・無礼を承知で試させて下さい!」

 

「良かろう」

 

私は霊圧と霊子を使い広範囲を探知する。

それを相手の居る場所に限定して放つ。

 

「見えました!!」

 

「中々筋は良いようじゃ」

 

今、出来る全力を相手一人に向けてやっと探知できた。

探知して直ぐに頭に浮かんだのは静かな水面だった。

波一つ、凪一つ無い静かな水面

しかし、底が見えぬほど深い湖・・・いや先も見えない

それは湖と言うよりは海。

 

「も、もしかしなくても今日いらっしゃると言う隊長様でしょうか?」

 

「うむ」

 

「申し訳ありませんでした!! 私のような若輩の弱輩が、ぶつかるだけでなく霊圧をぶつけ、お許し頂いたとはいえ隊長様を探るような真似をしてしまい誠に申し訳ありません!」

 

「気にするでない・・・小童(こわっぱ)の悪戯など一々気にしていたら隊長なんぞ勤まらん」

 

「お許し下さりありがとうございます!!!」

 

「気にするなと言うた。 して童、その目はどうした・・外傷が無いのを見ると人為的な物であろう。」

 

「こ、これは・・・」

 

「院生の生活と院内の環境を知るのも隊長の務めじゃ」

 

声から怒りや哀れみは感じない。

自身が感じている威圧感はわざとではなく、隊長という立場と責任、相手と自分の力量差からくるものだろう。

なにより今まで家の者に向けられてきたモノを目の前の人からは感じない。

 

「実は・・」

 

隊長さんの計らいで裏庭へと移動し、休憩用に設置された椅子に座り、私は家名や受けてきた鍛練の内容はぼかしながら自身について話した。

隊長さんも家名などを隠す私に察したのか、私が話したくないことは追及してこなかった。

 

情報を漏らさぬ訓練も受けてきた・・筈なのに隊長さんには何故か話してしまった。

それは先程の探知で感じた隊長さんの魂?矜持?上手くは言えないけど信頼できる何かを私が感じたからだと思う。

 

話が終わるとしばらく黙る隊長さん。

同情されるだろうか?

蔑まれるだろうか?

どちらもして欲しくはない・・・

嫌と言うほどされたソレを私はもう欲しくはない。

 

「ぺいっ!!」

 

「えっ・・・いったぁぁぁ!!!!」

 

ほんの一瞬隊長さんの霊厚が膨れ上がったかと思えば次の瞬間に拳骨された!!

 

「身命を賭す、家の誇り、死神の矜持、どれもこれも主のような半人前にもならん小童が語るなど百・・いや、千年早いわたわけが!!」

 

「!?!?」

 

何故私は怒られてるのだろうか?

閉鎖された空間で育ち、未知の世界に怯え、視界封じた私には理解出来なかった。

だから再び探知を隊長さんに絞る。

先程まで静かだった海は消え、轟々と燃える大地を感じた。

 

「その程度の悩みなんぞ多少の家柄に生まれた者は当たり前のように持っておる!」

 

 

「誇りのあり方は人それぞれじゃ! 誰もが背負う責任と抱く誇りについて苦悩しておるわ!」

 

 

「立ち止まったところで何も変わらず、変えられん!

 

 故に皆、己を磨き、見つめ、改めを繰り返して進む。

 

 それは己の中の誇りを、正義を貫く為にじゃ。

 

 そしてソレは言うは易く行うは難し・・儂から見れば小童はまだまだ赤子に変わらん。

 

 今のうちからグジグジ悩む位なら、悩むのが苦しいなら、悩む暇が無くなる位に鍛練に励めっ!」

 

 

「さすれば小童が童になる頃にはおのずつと答えが出るやもしれんぞ?」

 

 

隊長さんの激は私の中にスッと入ってきた。

それは私を僻むでも、妬むでも、蔑みでもなく、私の向こうに誰かを見た言葉でも無かったからだろう。

こうして私自身を見てちゃんと叱る人は初めてだ。

 

「はい! ご教授ありがとうございます!!」

 

「小童のような素直さは貴重じゃ・・・数人ほどにその素直さを分けてやりたいものじゃ」

 

隊長さんは苦労が多いらしい。

これほどの方が一隊長、ならば総隊長はどれ程の方なのだろう!

 

「隊長殿!」

 

「なんじゃ」

 

「私に鍛練をつけてくださいませんか!!」

 

「儂がか?」

 

「はい!」

 

「しょーがないのぉ」

 

隊長格にマンツーマンで師事してもらえるなんて!

 

「ありがとうございます!!」

 

 

この時の私は周囲と違い護廷について何も知らなかったのだ。

だから今話し、師事を仰いだ相手が総隊長だなんて微塵も思わなかったのだ。




やっぱり、山じぃの戦闘はカッケェェ!!


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苛烈デ気高キ焔トノ鍛練

 

届かない!届かない!届かない!!

 

ただ立って居るだけなのに!

一歩も動いては居ないのに!

 

隊長さんの薄布一枚程度の霊厚の壁が破れない!

 

「院生にしてはやりおる・・・じゃがまだまだ赤子の児戯の域を出とらん。」

 

凄い!凄い!凄すぎる!!

隊長さんは本当に強い!

 

初めての感覚だ。

こんなに胸の中が熱くなるなんて私は病気なのだろうか・・・

 

暗殺者にとって今の状況は絶望以外のなにものでもないはず・・・

 

手も足も出ないのに・・隊長さんを動かすことすら出来てないのに・・鼓動が高鳴る!

 

何か手はないか

 

何処かに隙はないか

 

学んだ術で通じるモノはないか

 

ひたすらに頭を動かす。

全力で隊長さんを観察する。

 

ダメだ・・・一分の隙もない。

勝てない試合をするのは馬鹿のする事と教わってきた。

【今】の私を知られたら叱られ、叩かれ、軽蔑される。

私は姉上のような才が無いのは嫌と言うほど聞かされた。

所詮、私は姉上を守る盾・・・数多の一匹・・それでも今だけは数多の中の【雄】じゃなく、たった一人の【雄】として!!

 

「隊長さんに言われた通り、答えを出すには私はまだまだ足らない」

 

「うむ」

 

「だから、今からは無謀で無策で馬鹿みたいに唯々行きます!!」

 

「それをある者は無謀、ある者は大馬鹿、ある者は死にたがりと言い、先程までの小童なら儂も其奴等と同じことを言おう。」

 

「・・・」

 

「が、小童の目に宿るモノを見た今はあえてこう言おう・・・持てる全てをぶつけて来るがよい【童】!」

 

「はい!!!」

 

隊長さんは少しばかり霊圧を上げてくれた。

おかげで探知に霊圧を割かなくても居場所がわかる!

なら、まずは全身の力を抜いて深呼吸・・・子供っぽいとか暗殺者とか今はどうでも良い!

全力で霊圧練り上げ、それを纏ってからの体当たりっ!!

 

「力の練りが甘いっ!!」

 

「ぎゃふっ!?」

 

 

猪の如く突っ込んだ私の額をバッチーーン!!と襲った強烈な痛み・・・その正体はデコピン。

しかも、隊長さんは霊圧を指で弾いただけ・・・それなのに私の全力で纏った霊圧の鎧を容易く貫き、私は十メートルほど吹っ飛ばされた。

 

「なら次はこれです!」

 

隊長さんの目の前まで移動し、両拳に霊圧を集める。

そして打つ!撃つ!打って、撃って、打ちまくる!

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「粗暴、無骨、未熟・・・ただその意気やよし!!」

 

隊長さんは少ししか霊圧を出してない。

なのに、岩を殴ってるようだ・・・けど今は止められない!止まれない!止めたくない!止まりたくない!

 

「まだまだぁぁぁ!!」

 

「今はただ打ち、ただ挑み、ただ知れ。 

 

 己の力量を、己の未熟さを・・・これは死合でも実戦でもない。

 

 死合や実戦では決して学べぬ、学ばせて貰えん。

 

 故に今知るのじゃ。

 

 己の未熟さを、己の力量を、弱さと強さを。

 

 それを知ることで人は初めて強くなる!」

 

腕が軋む

 

霊圧が綻ぶ

 

呼吸が苦しい

 

なのに!

 

心が昂る!

 

胸が高鳴る!

 

体力も、霊圧も、全てが落ちていくのに私の中の【ナニカ】はどんどん強くなる!

 

「はぁはぁ・・・これが、これが今の私の全力だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

パキィィィン!!!

 

「や、やったぁ・・・」

 

最後の一撃

それは全力の一割も出してはいないだろうが隊長さんの霊圧の壁を砕いた。

 

「良くやった・・・此処まで諦めなんだ小童に儂からの褒美じゃ。」

 

隊長さんの拳が私の顔に当たる。

霊圧を纏ってすら居ない拳・・家で振るわれてきたモノより、もっとずっと痛い・・・そして凄く暖かい・・

 

林へと吹き飛ぶ体

意識を手放しそう・・

 

「・・・た、隊長さん?」

 

「ようやったぞ、小童・・」

 

林直前で勢いが止まった。

辛うじて手放さなかった意識も、もう限界だ。

最後に感じたのは木に当たる直前で私の体を受け止めてくれた隊長さんの霊圧だった。

 

 

 




ナルト君は後、半週程延びそうです・・・
スマホ水没でデータぶっ飛んだ・・・


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焔トノ約束

 

「んんっ・・・」

 

「どうやら目を覚ましたようじゃな」

 

「た、隊長!?」

 

あれからどれ程時間がたったか分からない。

それが長かろうが、短かかろうが私が寝ている間、隊長さんはずっと此処に居て、膝枕をしてくれていた。

 

この暖かい感じは初めて・・・いや、二度目だ。

遥か昔にも似た暖かさを感じたことが・・・あぁ、大爺様の手だ。

 

「すまぬが、そろそろ時間のようじゃ・・」

 

「す、すいません!!」

 

「よいよい、儂も久しぶりに骨のある院生に会えた。」

 

よっこらせ、そんな台詞と共に立ち上がる隊長さん。

私の為に直々に稽古をつけてくれた隊長さんに何かお礼しなくては!!

 

「た、隊長さん!!」

 

「なんじゃ?」

 

「今日は私のような院生にご教授ありがとうございます!!」

 

「うむ。」

 

私のような【雄蜂】に骨があるなんて誉め言葉をくれた隊長さんに出来る恩返し・・・他人から見れば、それは単純で安直な考えかも知れないけれど、【死神】になること。

それが私の恩返し!

 

「私、絶対護廷に入ります! 次に隊長さんに会うとき入隊式になるようがんばります!」

 

「そうか・・・では童に儂から課題を出そう。」

 

「か、課題ですか?」

 

「そうじゃ。 文武に励み、心身を鍛え、院の間に始解を覚え、次に会うときには儂の指弾きに額を当ててみよ。」

 

「はい!!」

 

「斬魄刀は四年になれば各自配られ、実習として現世にも行くようになる。」

 

「し、知らなかった・・・」

 

「はぁ・・しっかり講義を聞かんか馬鹿者が!!」

 

 

「す、すいません!!」

 

「もし、課題を全て達成出来たならば儂の隊へ配属しよう。」

 

「・・・・・・・・・・・配属?」

 

「名が入隊者名簿で届くのを楽しみにしておるぞ【(ピンイン)】」

 

私は隊長さんの微かな霊圧が遠ざかり、ついに感じられなくなってもその場を離れる事は出来なかった。

更にあれからどれ程時間が経ったのか、青かった空は茜色に変わっていた。

それほどの時が流れてから私は言わずにはいられなかった一言を叫んだ。

 

「頑張ります!!!!!!」

 

隊長さんに呼ばれた【名前】は今まで誰に呼ばれたより嬉しかった。

その夜、会ったこともない受け取り手に初めて手紙を書いた。

 

 

【まだ見ぬ女王蜂(ねえさま)

 

隊長さんとの出会いは私をほんの少し変えてくれました。

もし会えたなら、もし話せたなら、私は貴女と女王蜂(ねえさま)としてではなく姉様(ねえさま)として話したいと思えるようになったかもしれません。

 

そう思えるようになったのは永い長い雄蜂(ピンイン)の生活を容易く焼き払うほどに気高い焔に会えたからだと思います。

 

これから私は雄蜂(ピンイン)ではなく隊長さんが読んでくれた(ピンイン)として生きて行けるよう頑張ります!】

 

送り先も分からないソレは決意を示す為の物。

誰に見せるでも、送るでもないソレを私は小さな小箱に終い、枕元に置いた。

 

明日からは今まで異常に頑張らなくちゃ!!!

 

 




久しぶりに帰ってこれました!


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刀トノ邂逅 名ヲ群蜂皇

 

あれからの半年間、私は修練に明け暮れた。

 

隊長さんとの約束を胸に、持てる時間全てを修練に費やした。

 

家で強制されていた時より、修練が楽しかった。

 

 

そうして明け暮れた、この半年間で私は色々と学び直させられた。

 

最初の1週間は食事に睡眠、全ての時間を修練に費やして体を壊した。

どうやら無茶をすれば、修練のみを続ければ強くなる訳では無いらしい。

回復後は1日のリズムを作って励むことにした。

もちろん食事、睡眠、勉学と全てを自分なりにバランス良く盛り込んだ。

結果、修練への集中力や心構え的なモノは上がり、成果も出やすくなった。

 

他人との同調や関わりを積極的に行った。

視力を封じた私が感じる世界は霊子の造形に近い。

他人に関わることで【ソレ】は鮮明になり、よりリアルに近いモノへとなった。

さらに、霊圧の微妙な変化で人の感情を読めるようになったばかりか前より感知力は上がった。

まぁ、まだ出会った時の隊長さんを認識出来るほどではないのだけれど・・・

 

そして遂に斬魄刀を手にする日が来た。

講師の話によれば私を含めた院生に配られたのは【浅打】と言うらしい。

この【浅打】に問い掛けるなり、自身を写すなり、戦うなりなんなりすれば自分自身の斬魄刀に変わるらしい?

 

今まで色々学ばされた幼少期と率先して学ぶ現在の知識を合わせれば私は馬鹿ではないと思うが、講師の説明はどうもフンワリしていて、死神になる事を目的としてなかった私には理解が難しい・・・が、その配られた夜に私はあっさりと斬魄刀と邂逅を果たした。

 

 

〜深層世界〜

 

 

【主が妾の新たな器か?】

 

 

真っ暗な空間で目を覚ました私の前には様々な紋様施された黄色と黒の着物を纏った女性?らしき人がいた。

 

 

【妾の巣になるか、妾の一兵になるか、主はどちらを選ぶ?】

 

 

急な質問だ・・・

これ以上望まない形で兵にはなりたくない。

同時に誰かを何らかの形、手段で切り捨てたくはない。

そんな思いを胸に解答に悩む私に彼女は再び口を開いた。

 

 

【主が妾の下になる事には悩まぬのだな・・・】

 

 

はっ!

言われてみればどっち選んでも私に自由がない!!

まぁ、不自由はなれてるから構わないけど、隊長さんとの約束果たすまではどっちも選べないなぁ・・・

 

 

【アヤツが言うとおりの変わり者よのぉ、主は・・】

 

 

『アヤツ』?

誰のことか分かりませんがどちらも《まだ》選べません!

まだ学びたいこと、やりたいこと、やらなきゃいけないことが山程出来たんだもん!

 

 

【ソレの為に妾の力を振るえなくなろうともか?】

 

 

振るえなくなろうともです!

 

 

【主となら未来永劫続くであったろう、妾の宿命を変えられるかもしれないわね・・】

 

 

は、はぁ・・

 

 

【妾と『アヤツ』の判断が過ちであったと思わせないでちょうだい・・妾の名は《軍蜂〔皇〕》・・軍を成すのも、妾を〔皇〕に成すのも全ては主次第・・】

 

 

軍蜂〔皇〕・・軍さん・・ハッチさん・・しっくり来ない・・

あっ!!皇さん!皇さんが良い!

これからよろしくお願いします〔皇さん〕!

 

 

【まこと、まっこと変わり者じゃな、主は・・】

 

 

~~深層心理終了~~

 

 

んんっ・・もう朝・・

アレは夢だったのかなぁ・・

 

んっ?あれ?あれあれ?

私の斬魄刀こんなに短かったかなぁ?

なんか鍔の形も少し違うようなぁ・・

今度、先生に聞いてみよ・・

 

 

 

 



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現状ボツ話 蜂ハ嘆キ 王ハ笑ウ 

あれからの半年間、私は隊長さんとの約束を胸に、持てる時間全てを修練に費やした。

 

家で強制されていた時より、楽しく感じる修練で私は色々と学び直させられた。

 

最初の1週間は院での勉強時間以外の全てを修練に費やして体を壊した。

 

どうやら無茶をすれば、修練のみを続ければ強くなる訳では無いらしい。

 

回復後は1日のリズムを作って励むことにした。

 

もちろん食事、睡眠、勉学と全てを自分なりにバランス良く盛り込んだ。

 

結果、修練への集中力や心構え的なモノは上がり、成果も出やすくなった。

 

 

他人との同調や関わりを積極的に行った。

 

視力を封じた私が感じる世界は霊子の造形に近い。

 

他人に関わることで【ソレ】は鮮明になり、よりリアルに近いモノへとなった。

 

さらに、霊圧の微妙な変化で人の感情を読めるようになったばかりか前より感知力は上がった。

 

まぁ、まだ出会った時の隊長さんを認識出来るほどではないのだけれど・・・

 

 

そんなこんなで四年生に上がり、現世研修へと加わることになった私ですが壁どころか山にぶち当たりました…

しかも、現在鬼ごっこ中です…はい…

 

 

「フフ…グワァハッハッハッ!!やりおる!やりおる!」

 

 

自身を虚圈の王と称し、称号が霞んで見える程に巨大な霊圧をこれまた巨大な戦斧に乗せて斬擊を放ち、力を奮う髑髏の虚放ち

【バラガン】と名乗っていました。

 

 

「ま、満足したなら帰ってくださいよぉぉぉぉ!!」

 

 

 

そんな攻撃を私は全力で交わしている真っ最中。

 

院の模擬戦とは訳が違う…向こうが遊びに乗って【くれている】からこそ私は生きている…

 

だってあの巨大な霊圧で押し潰せばあっさりと勝敗決まるのに、私が判断誤らなければ紙一重で避けられる攻撃ばかりだ…

 

 

「最初は小賢しいムシケラと思ったが、わしを此処まで楽しませた貴様に褒美をくれてやろう!」

 

 

その台詞に全てが込もっている気がした…

圧倒的な力、まだ見せてない能力、数多の兵…そのどれか、または全てを投じれば今までは瞬く間に終わった一時…

 

その一時は私が初擊をかわした事で延びた…

あの髑髏の王には私が酷く面白いナニカに映ったのだろう…

 

私と【王】では全てが違う。

しかし、重ねてしまう…

誰かに会うまで苦痛でしょうがなかった人生を…

誰かに会って輝いた人生を…

 

 

次の瞬間に聞こえた地を這うような声ともたらされた現象に私は否応なく現実に引き戻された。

 

 

死の息吹(レスピラ)

 

 

私が感知したのは吐息程度の圧縮された膨大な力

 

追い付かれたら死ぬ

 

直感に従って、逃げ込んだ廃墟は【力】触れた瞬間、触れた場所から膨大な力に押し潰されていく。

さながら急に時の流れに晒され、朽ちていくかのように……

 

 

「な、なんのこれしきぃぃぃぃぃ!!」

 

 

全力で走る!

とにかく逃げる!

触れたら二の舞!

 

 

「ほれほれ!」

 

 

それでも逃げ切れず踵が触れ、新調したばかりの靴が力に蝕まれる…私は…私は!!

 

 

「私の靴ぅぅぅ!!」

 

 

脱ぎ捨てた…

しかし、力は暴力…力は無情…力は鞘に当たった……やっと手に入れ、対話もソコソコな私の相棒を私は、私はぁぁぁ!!

 

 

「私の鞘ぁぁぁ!!」

 

 

刀を抜き取り、鞘を捨てた……

これ以上捨ててたまるかぁぁぁ!!

通行許可書が当たった……

 

 

「私の通行許可書がぁぁぁぁ!!」

 

 

失くしたらいけない大事な書類…

こんな事態とはいえ、帰ったら怒られちゃうのかなぁ……

 

 

 



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個群噴統 

雄蜂我流体術

柳流舞【流】
柳流舞は雄蜂が常人とは違う手法、経緯で霊子及び霊子構造認識・把握する力を蜂家の暗殺術と試行錯誤して取り入れた数多の武術の型を合わせたオリジナル体術に活かしたモノ

【流】とは名の通り、霊子の流れ、質、量に合わせて自身に霊子を纏わせてダメージを最小で防ぎながら進む技法
現世の合気道を文献で見つけ参考にした。
雄蜂の【流】は未完成で霊圧変えられたりすると対応間に合わず弾き飛ばされたり、ダメージを最小で押さえられなかったりする。


【群蜂〔皇〕】
初っぱな卍解状態
理由有るため間違いではないです。


 

 

『ハッ! セイッ! ヤァァァァ!』

 

頭に描くは【あの日】の隊長さん

 

初撃は避けられるようになった!

 

二撃目は防げるようになった!

 

後、一歩! 後、一歩!

 

 

 

ドガァァァァァン!!!

 

 

 

『まだまだぁぁぁ!!!』

 

 

今度は初撃が当たる寸前に止まってタイミングをずらして、左に回り込む!!

 

当然隊長さんは二撃目を左に打ち込んでくる……今だっ!!

 

 

『今の私はあの頃と違います!! 柳流舞【流】!!』

 

 

隊長さんの霊圧も微かな流れも全部覚えてる!!

 

その流れに身を委ねて受け流し、距離を縮めてからのぉぉ……蹴りっ!!

 

 

 

ズガシャァァァァン!!

 

 

 

『ッ! はぁはぁ…当然、隊長さんなら【流】の弱点も見抜くはずだよね……はぁはぁ……』

 

私が【あの日】と違う行動すれば、私の中の隊長さんもそれに合わせてくる……

 

今日でイメージの隊長さんと戦うのは六千目だけど、いまだに隊長さんが追い付かないイメージが湧かない……

 

 

………三手目以降に進めない………

 

 

蜂家の体術だけじゃ勝てなかった。

 

我流の似非体術でも勝てなかった。

 

2つの技術合わせて作った私だけの、私にしか出来ない体術は少しは通用した。

 

霊子感知高める為に組手に励み、知識をかき集め、可能なモノは全部試した。

 

それでも三撃目を突破出来ない。

 

 

私には何が足りない……

 

隊長さんを越える霊圧?

土台が違う……無い物ねだりしてもしょうがない。

 

 

場数、経験?

当然だ……隊長さんに比べれば私はまだまだ卵……産まれてすらいない卵……来期から始まる現場訓練には積極的に参加しなきゃ!

 

 

体術?

確かにイメージとは言え、隊長さんが有り得ない動きをして、攻撃をかわしたことは

落ちこぼれの私が何処まで到達できるかは分からないけど、指南書読んで、読んで、読み漁って鍛練有るのみだけど、全力どころか毛筋一本の力を出してない隊長さんに到達しきった、しきってしまった私が追い付いたところで意味がない。

 

 

死神…死神…死神の技術…死神の戦闘方法……うーーーん……あっ!!

 

私は馬鹿だ!!

 

【体術】だけで隊長さんに勝つ?

 

私が、経験、誇り、技量、霊圧、その全てでヒヨッコの私が隊長さんに?

 

傲りも良いところだ!

 

【あの日】の私が持ってる全部をぶつけても隊長さんの指弾きに額当てる事すら出来なかったんだぞ、私は!!

 

 

けど今の私は【あの日】とは違うじゃないか!!

 

次は鬼道も織り交ぜよう!

 

蜂家の暗殺術も!

 

もちろん私の似非体術も!

 

当然、集大成の我流体術も!

 

それに、私には【群蜂】が居る!

私の頼れる〔皇さん〕……せっかく会合したのに変なプライドに拘って……本当にごめんなさい!

 

 

《気づくのがまっこと遅いぞ、阿呆の雄蜂…》

 

 

先生に聞いて始解と卍解については学びました!

〔皇さん〕に言われた通り、あの事は伝えてませんが、力を振るうのに必要なイメージはずっとしてきました!

 

 

《ならば一子報いてやれ…所詮は残像…されとて阿呆が知る限りの全てを込めたモノで有るのは代わり無いであろう。》

 

 

『はい!!』

 

 

《ならば残像倒せずたも、指弾きに額当てるくらいなら今の主にも可能な筈であろう?》

 

『はい!! 隊長さん、今日で【額を当てる】なんて小さな目標は卒業です!! 明日からは隊長さんを倒す事を目標にします!! だから、院を卒業するまでお別れです!!』

 

 

 

 

 

…その意気や良し…

 

 

 

 

 

きっと幻聴……でも確かに私には喋る筈のない、イメージの隊長さんからの激が聞こえた。

 

 

 

『隊長さんのイメージさん、今日まで鍛練ありがとうございましたっ!!!』

 

 

私の勝手なイメージ…

 

私が作った隊長さんの幻影…

 

きっと目の前の隊長さんの所作だって私の心が勝手に想像しただけ……

 

 

 

……それでも嬉しかった……

 

私の、私にしか見えてない幻影の隊長さんは確かに構えてくれた。

 

霊圧も、気迫も最後に貰った拳骨の時のイメージになってくれた。

 

 

『……あ、あ、ありがとうございます……』

 

 

泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くな!泣くんじゃない!!

 

 

 

群れ成せ、飛び狂え! 撃ちて穿ちて攻め落とせ!

 

 

卍解 群蜂皇!!

 

 

 

 

 

 

この日、私は産まれて初めて心から満足した眠りと額の痛みと共に何かを達成した時の喜びを味わい、噛み締めた。

 

 

 

 




お久しぶりです!

と言っても皆様愛想尽かして読んでる方も居ないとは思いますが次話更新です!

あらすじ?前書きにも記載しましたが感想募集です!
感想は意見・アドバイス・私見・非難批評問いません!!
ただ、嫌いな場合も何処が苦手なのか等の意見添えて頂けたら幸いです…


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