魔法科高校の半端者 (エアリエル)
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入学編 Ⅰ

 冬から春へと季節が変わり、新たな一年の始まりを告げる四月。

 雲一つ無い青空と満開に咲き誇る桜に包まれる中、一人の少年がベンチに座り紙媒体の本を読んでいた。

 色素の抜けた灰色の髪に風で散った桜の花びらが乗っているが、少年はその事に気づくことはなく、それほどまでに読書へと没頭している。

 電子書籍が主となった現代で紙媒体を使うものは少なく、余程のコレクターぐらいなもの。その上、少年の顔立ちは整っており、読書をする姿はさながら一枚の絵になるようだ。その為、ベンチに座っている少年の前を通る同じ制服を着た先輩であろう少女達は声をかけるか迷い、少し思案するもどこか声をかけてはならないと感じ、そのまま立ち去っていく。

 そんな状態が少しばかり続く中、少年は急に読んでいたページに栞を挟むと本を閉じる。

 耳を澄まし、僅かに聞こえるのは自分へと近づく規則正しい足音。そんな事ができる人物をこの場では少年は一人しか知らなかった。

 

「久しぶりと言うべきか、遼」

「そうでも無い気がするけど。まあ、久しぶり達也」

 

 付き合いの長い友人、司波達也と挨拶を交わした少年、矢重坂遼(やえさかりょう)は彼に自分の隣へと座るよう促し、達也は遼の隣へと腰を下ろした。

 

「以外と来るのが早いんだな。まだ式典まで時間はあるだろ?」

「深雪が新入生答辞を務める関係上、その打ち合わせがあるんだよ。その付き添いだ」

「あー、そういうこと。流石は深雪、入試で一位をとるなんて凄いな」

「ああ、自分の事のように嬉しいよ」

 

 そう言って達也は無表情を崩して微笑む。

 彼の妹である深雪は誰もが認めるであろう美しさを持つが、達也は兄弟であるものの至って特徴のない平凡な容姿だ。別段、容姿が整っていない訳では無いが、常に無表情であることが彼をパッとさせない。

 だからといって、もっと表情を豊かにしろと言うのは彼にとっては酷なものだが。

 

「後で、おめでとうって言わないとな」

「そうしてくれ。深雪もきっと喜ぶ」

 

 深雪の実力を知っているだけに、遼は新入生総代となったことにあまり驚くことはない。だが、それと喜ぶのは別だ。自分にとって最も付き合いの長い友人が入試成績一位というのはやはり嬉しいものがある。

 それから、二人は最近の近況について少しばかり話していたが、突然遼が表情を僅かに歪めた。

 二人の前を通っていった数人の女子生徒の背中に視線を向ける遼の表情からは呆れと怒りが見える。遼がそんな表情を浮かべる理由はいくつかあったが、最たるものは彼女達が口にした言葉だ。

 

『あの子、ウィードじゃない?』

『こんなに早くから……補欠なのに張り切っちゃって』

『所詮、スペアなのにね』

 

 遼と達也は今日、同じ国立魔法大学付属第一高校に入学するが、二人は対等ではなかった。それを表すように、遼のブレザーの左胸にある八枚花弁が達也のブレザーには存在しない。その意匠から遼達、一科生はブルーム。達也達は花の咲かないウィード等と言う蔑称で呼ばれてしまう。この目に見える明確な差が本人達に優越感と劣等感を感じさせてしまっていた。

 遼からすれば、学校の定める評価基準等はその生徒を必ずしも正しく評価できているものではない。自分達の定める基準以外の部分に目を向けず、目に見えない……いや、見ようとしないというのはあまりにも馬鹿馬鹿しかった。

 だが、悲しくもここは魔法科高校。全ての評価は魔法力で判断されてしまう。その考えがまかり通る以上、生徒達の中に優劣による差別意識が芽生えるのは何らおかしくは無いことだ。

 

「はぁ……目に見えるものでしか判断できないってのも考えもんだな、ほんと。これ、深雪が聞いたらあいつら氷像に変わるんじゃないか?」

「冗談でも笑えないな」

「いや、冗談ってわけでもないけど」

 

 冗談。と、達也は言っていたが遼は冗談で言ったわけではない。あの、兄思い(それ以上だが)の深雪が聞けば怒り狂う……普段のおしとやかで淑女のような装いからは考えられないが、充分にあり得そうな話だ。

 

「答辞、楽しみだな」

「そうだな」

 

 その会話を最後に、それ以降二人の間には会話はなかった。二人の間に沈黙が流れるも、気心が知れている二人の間に気まずさはない。時間を潰す為、互いに紙媒体、携帯情報端末で読書をしていたが、二人の読書は長くは続かなかった。

 

「新入生ですね? もうすぐ入学式の始まる時間ですよ」

 

 本へと落としていた視線を上げた先に遼達が目にしたのは、左胸に花弁が存在する制服に身を包んだ品のある小柄な美少女。だが、二人の目を引いたのは彼女の容姿ではなくその手につけられたブレスレット型のCADだ。

 CADは魔法師にとって魔法を早く行使するために必要なものではあるが、魔法科高校では原則として生徒会や風紀委員等の組織に所属している生徒しか常に持つことはできず、通常はCADを預けて置かなければならなかった。

 つまり、目の前にいる女子生徒がそのどれかの組織に属していること明白。誰も入学初日からそんな人に目をつけられたくはないだろう。その上、遼は目の前の女子生徒の素性を知っているだけにすみやかにこの場から離れようと考えていた。平穏な高校生活を送るなら極力関係は持ちたくない相手だからだ。

 だが、そんな考えも空しく女子生徒は二人へ微笑む。

 

「私は第一高校の生徒会長を務めている七草真由美です。ななくさと、書いて七草と読みます。貴方達の名前は?」

「自分は、司波達也です」

矢重坂遼(やえさかりょう)です」

「司波……えっ?! あなたがあの司波くん?」

「先輩が言うあのというのが誰を指すのかは解りませんが、恐らくはそうかと」

「今、先生方の間では噂になっているのよ。入学試験、七教科平均、九十六点。その上、平均点が七十点に満たない魔法理論と魔法工学で満点。前代未聞の高得点だって」

「満点って……凄いな。俺には真似できない」

 

 真由美の言葉に遼は驚愕と称賛がない交ぜになった表情で隣の達也へと視線を向ける。本来ならもっと驚く所なのだが、達也の優秀さを知っている遼には達也ならあり得るという先入観があった。

 一方で、真由美と遼から称賛の眼差しを向けられる達也はその称賛を素直に受け止めてはいなかったが。

 

「ペーパーテストの成績です。実技の成績が良くなくては意味が無いですから」

「そんなこと無いわよ。少なくとも、そんな凄い点数、私には真似できないわ」

「会長の言うとおりだ。謙遜しないで少しくらい喜んでも良いんじゃないか? てか、この話で深雪と口論になったろ?」

 

 恐らく(ほぼ確実に)、敬愛する兄の入試成績に関する情報を入手したであろう妹が、新入生総代について口論(深雪が一方的に)となるのは容易に想像できた。

達也のことだから上手く宥めたのだろうが。

 

「はぁ……お前は何でもお見通しなんだな」

「まっ、付き合いは長いからな」

 

 自信があるようにそう言った遼に、付き合いが長いのも考えものだなと達也は考えていたが、遼が知るよしは無い。

 達也と遼がそんなやり取りをしているの微笑みながら見ていた真由美だったが、遼の持つ本を見て驚いた。

 

「矢重坂くんは普段から紙の書籍で読書をしているんですか?」

「はい。やっぱり、読書っていったら紙じゃないとしっくり来ないんですよ……おっと、達也、もうそろそろ移動した方が良さそうだ」

 

 腕時計で時間を確認すると既に式典まで三十分を切っていた。

 

「そうだな……そろそろ時間ですので会長、失礼します」

「時間みたいなんで、失礼しますね会長」

「ええ。二人ともまたお話しましょうね」

 

 二人はそう言って真由美に背を向けると入学式の会場である講堂へと向かっていった。

 

 



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入学編 Ⅱ

 生徒会長である真由美と話し込んでいたこともあり、二人が講堂へ入った時には既に席の半数以上が埋まっていた。

 座席の指定が無い以上、どこに座るか等は個人の自由だったが、席に座っている新入生の規則性のある座り方に遼は苦笑いを浮かべる。

 

「これはまた、あからさまだなぁ」

 

 前半分の席には一科生。後ろ半分の席には二科生といった感じで、新入生は綺麗にわかれていた。強制されたわけでも無いのにここまで綺麗にわかれていると、呆れを通り越し感心してしまいそうだ。

 本来なら共に深雪の答辞を見ようと思っていたが、それはどうやら難しいようだった。

 

「それじゃ、また後で」

「ああ」

 

 こうなった以上は周囲の流れに逆らうわけにもいかず、遼は達也と別れると前半分の席へと向かっていく。あまり前には行きたくなかったが、遼は仕方ないと前半分の空いてる席へと座った。

 

(さて、どうやって時間を潰すか)

 

 式典が始まるまで読書でもしようかと考えたが、それはマナーとしてどうかと思い止める。かといって他にやることも無く、目を閉じ仮眠でもとろうとしたが、遼が目を閉じることは無かった。

 

「すいません、お隣空いてますか?」

 

 閉じかけていた目を開け、声の主の方へと振り向くとそこには二人の女子生徒が立っていた。

 

「どうぞ」

 

 特に断る理由も権利もない遼は、二人に対してそう言い、二人は遼の隣へと腰を下ろす。

 一旦は仮眠を阻まれた遼だったがどうにも眠る気が起きなかった。仕方なく、そのまま式典が始まるのを待っていると、再び隣に座った女子生徒から声をかけられる。

 

「あの……」

「ん? どうかした?」

「私、光井ほのかっていいます」

「私は北山雫」

 

 突然、二人から自己紹介を受けた遼はポカーンと呆けた表情を浮かべたが、せっかく隣の席に座ったのだ。これから同じ学校で生活していくなら知り合いは多い方が良いと二人は思ったのだろう。

 暇を持て余していた遼はちょうど良いと思い、二人との会話で時間を潰すことにした。

 

「俺は、矢重坂遼。二人ってもしかして同じ中学?」

「はい、雫とは小学校からずっと同じで幼馴染なんです!」

「幼馴染かぁ。じゃあ、北山さんと光井さんが同じクラスだと良いね」

「うん。ほのかを一人にするのは心配」

「雫っ?!」

 

 目の前で仲が良いことを伺わせる二人のやり取りに遼は微笑む。その後も、遼は二人と雑談をしながら式典までの時間を潰していった。

 そうやって時間を潰していくと、式典が始まる時間まではすぐというもの。式典が始まり、講堂には静寂が訪れる。

 やっと入学式が始まり、筒がなくプログラムが進められていく中、とうとう新入生答辞の番となった。

 多くの新入生に見守られながら壇上へと上がる達也の妹である深雪。彼女の美しさも相まって、その一挙一動は人々を魅了し、視線を釘付けにしていく。

 

(また綺麗になったんじゃないか?)

 

 深雪を見るのは数ヶ月ぶりだったが、以前よりもその美しさは洗練されているように感じる。

 少女の成長は少年が思っているよりもずっと早い。

 これから益々美しくなるだろうな、と遼が考えながら深雪の答辞が始まった。

 

 

 *

 

 

 深雪の答辞は想像していた以上に素晴らしいものだった。

 だが、その答辞の中に「皆等しく」、「一丸となって」、「魔法以外にも」、「総合的に」等の結構際どいフレーズが使われていることには驚いたが、それは敬愛する達也を思ってのものだというのは容易く理解できる。それらのフレーズを上手く建前でくるみながら違和感を感じさせない辺りは流石と言うべきか。

 入学式を終えて、達也と深雪に声をかけに行こうと考えたが、それよりも前にIDカードを受け取りに遼は、ほのかと雫と一緒に行動していた。

 

「三人同じクラスだと良いですね」

「そうだね。俺もほのかと雫と同じクラスだと心強いよ」

「私も同じクラスだと心強い」

 

 先程と比べ砕けた様子の三人。

 以外と話している内に仲が良くなり、遼はほのかと雫と互いに名前で呼び合うことになっていた。だが、仲良くなったからといって三人が同じクラスになるという可能性は余り高くはない。同じ一科生ではあるから可能性あるが、A~Dクラスのどれになるかは完全にランダムだ。

 同じになるかは分からないができれば同じだと心強いと思いながら遼はIDカードの交付を受け、クラスを確認する。

 

「俺のクラスは……Aみたいだな。お二人さんは?」

「私もAみたいです!」

「私もA」

 

 どうやら可能性の低い奇跡を引き当てたらしい。喜ぶほのかとここまで無表情だった雫の笑みに、自然と遼も笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、改めて……これからよろしく、お二人さん」

 

 

 *

 

 

 IDカードの交付を終えた後、遼はほのかと雫と別れ達也と深雪を探していた。

 二人にホームルームに行かないかと誘われたが、この後予定があると断り、新入生で溢れる人混みの中を進んでいく。

 遼としてはどちから一方を見つければ後は勝手に二人と合流できると考えていた。それは、達也が深雪を置いて帰るはずが無く、深雪も達也を置いて帰る訳が無いからだ。

 

(結構ホームルームに移動する生徒が多いから見つかるか)

 

 その読み通り、目的の相手は以外と早く見つかった。それも、二人が一緒にいるところを見つけることができたのは幸いだった……が、少々面倒な時に見つけてしまったようだ。

 

(達也のやつ、一科の先輩に物凄く睨まれてんだけど)

 

 恐らく、深雪に用があっただろう生徒会長である真由美の傍にいた男子生徒は去り際に達也の事を睨んでいた。

 真由美の傍にいた時点であの男子生徒が生徒会の関係者だろうというのは容易に想像がつく。だが、彼の新入生に対するその態度はどうなの? と遼は思ったが、ここは一旦置いておくことにする。

 

「何やってんだか」

 

 どうも、自分の友人は入学初日からトラブルに巻き込まれるのがお好きらしい。そう考えながら、遼は達也達の下へと向かっていく。

 

「初日からとんだ災難だったな」

「見てたのか?」

「一部始終をこの目でしっかりとな」

「まったく、お前は抜け目無いな」

 

 やや疲れたように達也はそう言うが、その声音に非難の色は無い。それは、互いの立場を理解しているからであり、それ以前にあの状況で遼に出せる助け船は無いからだ。

 突然現れた遼に、達也の近くにいた二人の女子生徒は怪訝そうな表情を浮かべるが、深雪は対照的に笑みを浮かべていた。

 

「お久し振りです、遼さん!」

「久し振りってほどでも無いけど……久し振り深雪。新入生総代本当に立派だったよ」

「いえ、そんな……ありがとうございます……」

 

 遼からの賛辞に照れるように深雪は笑みを浮かべた。その笑みは、ここまで淑女として振る舞っていたものとは違い、それは年相応の少女を思わせるものだ。

 そんな深雪と遼のやり取りに怪訝そうな表情を浮かべていた茶髪の女子生徒が不思議に思ったのか達也に声をかけた。

 

「ねえ、司波くん。あの人って何者?」

「あいつは、俺と深雪の古い友人だよ」

「そうなんだ……ちょっ、司波くん声が大きいって!」

 

 小さい声で達也に聞いたエリカだったが、答えた達也の声は遼に聞こえる大きさだった為、二人の会話を聞いた遼が会話に混ざるのは自然な流れだ。

 

「俺は達也の説明にあった二人の古い友人、矢重坂遼。よろしくお二人さん」

 

 笑みを浮かべながら自己紹介をする遼に、エリカは勝手に遼の事を達也に聞いた手前バツを悪そうにしていた。

 

「あたしは千葉エリカ。まっ、よろしくね矢重坂くん」

「私、柴田美月っていいます。こちらこそよろしくお願いします」

 

 先程とまでは怪訝そうな表情を浮かべていた二人だったが、達也の説明と深雪の反応があり、遼の印象は悪くは無いようだ。

 正直なところ、一科生ということもあり、遼はエリカと美月にあまり良い印象を持たれないのでは無いかと考えていた。だが、達也たちの友人ということもあり、どうやらその考えは杞憂に終わったようだ。

 

「今から皆さんでお茶をしに行くのですが、遼さんも御一緒しませんか?」

「他の皆が構わないなら御一緒させてもらおうかな」

 

 そう言って遼は、エリカと美月の方へ視線を向ける。

 

「別にあたしは構わないわよ。それに、矢重坂くんは一科生だからって二科生を見下してないし」

「私も大丈夫です」

 

 二人の好意的なその言葉に遼は笑みを浮かべた。

 

「それじゃ、御一緒させてもらうよ」

「では、行きましょうか」

 

 深雪の言葉を合図に五人はエリカの案内の元、彼女がチェックしたケーキ屋へと向った。

 

 

 *

 

 

 すっかり日が暮れた頃。遼は自宅のあるマンションへと帰ってきていた。独り暮らしをしていることもあり、部屋には遼以外に誰もいない。

 思っていたよりも、女子三人組の会話が盛り上がり、自宅に帰るのが遅くなったが遼の表情には僅かに疲れが見えるものの、そこには充足感があった。

 一息つけるために遼はコーヒーを用意し、ソファーへと腰を腰をかける。

 

「エレメンツにナンバーズ……それも、十師族か」

 

 既に出会った者、これから出会うであろう者達。有力な者達の名前と顔は既に把握していたが、それでも実際にあってみるとまた違った印象を受ける。これからの学校生活に胸を膨らませる以上に、遼には考えていた事があった。

 それは、達也と深雪の二人が平穏に学校生活を送ることができるだろうか? ということだ。

 第一高校には思っている以上に曲者が多い。自分もその曲者の中に入るだろうが、遼はその事は棚上げにしながら考えた。

 

「無理だな」

 

 この先、何かが起きたとしてあの二人ならその渦中に必ずいるだろう。せいぜい、自分はそれを特等席で見学するくらいだ。それが、自分に課せられた役割……ではあったが、遼としては二人と共に穏やで平穏な学校生活を送りたいとも考えていた。

 

「まっ、結局のところ巻き込まれたら仕方ないよな?」

 

 その言葉はどこか自分に言い聞かせるようなもの。目立ちたくは無いが、それでも巻き込まれたのなら仕方がない。

 これから起きるであろう出来事にできることならあの二人が巻き込まれ過ぎない事を遼は願うのだった。

 

 



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入学編 Ⅲ

 入学二日目の朝。

 遼はいつもより早く起きると手早く身支度を済ませ、制服の姿でマンションを後にしていた。始業まではまだ充分に余裕があるが、遼がこんなに早く家を出たのには別に理由があったからだ。

 遼が向かった目的地は家から三十分程の距離にあり、緩やかな長い坂道の先にある。普通に歩けば時間がかかるが、そこを遼は魔法を駆使しながら疾走していく。

 使用している魔法は自身の加速力を上昇させるシンプルな加速魔法と、地面を蹴る強さによって空中に飛び上がらないよう上向きへの移動を抑える魔法の二つ。

 トレーニングが目的なら一定の速度を維持しながら走るために減速の魔法も同時に使うが、生憎と遼はトレーニングの為に走っているわけでは無い。

 できる限り早く目的地へと着くことを考えての魔法の行使。五分ほど走り抜けたところで遼は坂を登り終えた。

 

「結構……距離あるんだな……」

 

 だが、最近少しトレーニングをサボり気味だった為か、登り終えた遼の息は上がりその顔には疲れが見えた。

 こんなことならあの二人のトレーニングを見習って日頃からサボらずにやっておくべきだったか、と若干後悔しながら遼は視線の先にある寺へと歩みを進める。そうやって山門をくぐり抜け境内へと足を踏み入れ……咄嗟に遼は上半身を後ろへと傾け、遼の上半身があった場所に蹴りが放たれた。

 

「俺は達也と違ってトレーニングを受けに来たってわけじゃないですけど。八雲さん」

「そう言いながら、僕の蹴りを簡単に避けるなんて。やるね、遼くん」

 

 そう言ってニヤニヤと笑みを浮かべる僧侶、九重八雲に遼は苦笑いを浮かべながら周囲を見渡し、いるであろう達也と深雪を見つける。どうやら、朝の稽古は既に終わったらしく達也たちは休憩しているようだった。

 

「朝から鍛練なんて良くやるな。俺なんかまだ眠いんだけど」

「その状態で師匠の蹴りを避けれる方が凄いと思うが」

 

 未だ眠気が抜けないのか、欠伸をしながら近づいてくる遼の自分を棚上げにした言葉に達也は呆れたように返した。

 

「おはよう深雪」

「おはようございます遼さん。こうして朝の稽古に顔を出すなんて珍しいですね」

「入学したわけだし、たまには顔を出そうと思ってね」

 

 深雪の言うとおり、遼は滅多に朝の稽古に顔を出すことはない。

 以前に何度か二人に連れられ参加したが、「俺じゃ、相手になりそうにない」といって参加するのを止めた。本人曰く、自分には性に合わないらしいが、それでも加減していたとはいえ八雲の蹴りを避けている時点でその体術の高さが伺える。

 

「そうですか……でしたら、久し振りにお兄様と手合わせをしてみてはどうですか?」

「俺が? いやいや、相手にならないって! てか、二人とも俺が接近戦得意じゃ無いの知ってーーっ?!」

 

 背後から忍び寄る気配。気がつけば近くに座っていた達也がいなくなっていたことに気付き、遼は慌てながら体を反転させ、両腕を頭上で交差した。

 骨が軋むような鋭い衝撃が両腕に響くのを感じながら、達也の繰り出した手刀を遼は防ぐ。

 

「今のは防がれないと思ったんだが」

「危ねっ! 殺す気かよ!」

「この程度じゃ死ぬとは思えないな」

「いや、防いでなかったら大怪我すんだろ!」

 

 交差している両腕に力をこめ、達也の体を押し返すと、遼は右足で達也の左脇腹目掛けて蹴りを放つ。

 だが、その蹴りは達也に当たること無く空を切る。後ろに飛び退くことで距離をとった達也に対して遼は制服のブレザーを脱ぎ捨て構えをとった。腰を低くして油断無く構えを取るがその表情には余裕はない。

 

「ああ、分かったよ。こうなったらやってやる」

 

 半ば思考を放棄し、遼は眼前の相手に集中する。

 微笑みながらこっちを見ている深雪と、興味深そうに見物する八雲の視線もあって遼は達也との稽古に興じるのだった。

 

 

 *

 

 

 朝の稽古を終え、遼たちは一度達也が制服に着替えるため彼等の自宅へ寄り、三人は通学の為に四人乗りのリニア式小型車両『キャビネット』に乗り込んでいた。

 涼しい顔で達也と深雪が乗り込む中、遼が疲れきったように背もたれに寄りかかる。

 

「これから学校だってのにあんなに本気でやる奴があるかよ……それに、なんでお前は全然疲れて無いんだよ」

 

 げっそりした顔で非難するようにそう言う遼の向かいに座っている達也の表情からは疲れが見えなかった。

 自分が来る前から八雲と稽古をしていたというのに余裕そうな表情をされると、少なくない自身の体力が無いように実感させられてしまう。

ある程度は鍛えていたはずだったが、足りなかったか。

 だが、遼のその言葉を達也は否定した。

 

「お前を相手にして疲れて無いわけ無いだろ。それに、俺はお前に有効打を一撃も当ててないんだぞ? 俺としてはまた相手をしてくれると助かるが」

「お兄様と遼さんの組み手は本当に凄かったです!」

 

 達也からはまた相手をしてくれと頼まれ、深雪から称賛された遼は困ったように苦笑いを浮かべる。

 

「そうでもないって。俺は意識をほとんど防御に割り当ててやっとお前についていけてるだけだし」

「全部防御か。お前の見立てだと俺との体術の技量の差はどれくらいなんだ?」

「達也を十だとすれば俺は良くて七ってところだな。でも、お前は攻防に半分ずつ意識を割り振ってるから俺が防御に全て集中させれば何とか相手になるって仕組みさ。まっ、反撃はほとんどできないけど」

 

 もし仮に達也が攻撃に意識をもっと割けば、遼は反撃することもできずに防戦一方となっただろう。

 だが、防御に集中している時点で遼に敗北はない。持久戦になれば怪しいが、負けなければ遼としては満足だった。

 

「意識か……」

 

 そう言って達也は少しばかり黙り込む。深雪を守るために体術を八雲から習っている達也にとって遼の言葉は自身の技量を向上させるアドバイスになったのかもしれない。

 自分が少しでも二人の役に立てれば幸いだと考えながら、遼は「着いたら起こしてくれ」と言って睡魔に身を委ねた。

 

 

 *

 

 

 入学二日目、といっても授業は無くオリエンテーションだけな今日は帰るタイミングも自由。その為、どう過ごすかは自由なのだが、クラスが同じだった深雪と共に行動していた遼は朝の稽古とは別の理由で疲れていた。

 

「まさか、俺まで敵視されるとは……」

 

 当然のように深雪から声をかけられ一緒に行動していた為、深雪とお近づきになりたい同じクラス(主に男子から)の嫉妬の視線を浴びせられたのだ。

 その上、昼には達也と昼食を共に食べたい深雪をクラスメイトが相席を狙って二科生と相席するのは相応しくない等の下らない事を言って邪魔を始めてしまう。

 その際、同じ一科ではあっても深雪達の味方である遼が遠回しにクラスメイト達へ苦言を呈したのだが、逆に遼へ矛先が向く始末だ。

 その後、達也と昼食を食べることのできなかった深雪の機嫌を何とか取り戻すために奔走していた為、肉体的疲労に加え精神的疲労が遼を襲っていた。

 

「その上、これだもんな」

 

 そして、時は放課後に移り、今まさに遼の前でクラスメイトと達也の友人達が火花を散らしていた。

 

「すいません遼さん。今日は色々と御迷惑をお掛けしてしまい……」

「いや、深雪が謝ることじゃないって。悪いのは強引すぎるクラスメイトの方だし。だろ、達也?」

「ああ、遼の言うとおりお前のせいじゃない」

 

 どこか申し訳なさそうにする深雪に達也と遼はフォローをいれるが、目の前の状況はあまり芳しくない。

 達也と帰りたい深雪をクラスメイトが引き止め、難癖をつけていたのだがその理不尽な言動に美月やエリカにレオと呼ばれる体格の良い男子生徒が切れ、互いに一歩も引かない状況となっている。

 相手のクラスメイト達の中にほのかと雫がいることに遼は若干気になったが、表情から巻き込まれただけのように見え、一先ず二人の事は置いてこの場をどう切り抜けるかを考えた(考えても無駄な気はしていたが)。

 そんな中、ヒートアップする論争で遂にクラスメイトの(名前は知らないが昼に遼を睨んだ)男子生徒が切れる。

 

「うるさい! 他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

 遂に差別用語まで口にする始末。

 無論、この言葉で美月達が切れるの言うまでもない。

 

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点でどれだけ優れているというんですかっ!」

 

 売り言葉に買い言葉。相手の挑発に乗ってしまった美月の言葉に遼はまずいことになったと思い、隣にいる達也へ目配せをした。達也も同じ事を考えていたのか、遼の目配せに頷く。

 最悪の事態……それを想像し実力行使もやむ終えないと遼は美月達を壁にスッと足音も立てず、誰にも気付かれること無く移動する。

 遼が一人、誰にも気付かれることの無い中でも口論は続き、遂にクラスメイトの男子生徒が挑発に乗ってしまった。

 

「だったら教えてやる!」

 

 怒りに身を任せ、特化型のCADを引き抜きレオへと向けようとする。攻撃力を重視した特化型ではただの怪我ではすまないだろう。

 

「お兄様!」

 

 深雪が思わず声を上げるが、達也は動くことは無い。無論、反応できなかったわけでも、諦めたわけでもなかった。

 ただ、()()必要がなかっただけだ。

 

「えっ?」

 

 男子生徒はCADを取り出したであろう右手をレオに向けるが、その手にはCADは握られていない。

そこにあるはずのCADが存在しない。男子生徒や、今まさに動こうとしていたレオやエリカが驚く中、一人の生徒が呆れたように声を発した。

 

「CADを取られるなんて魔法を使う以前の問題だろ」

「なっ?!」

 

 心底呆れたようにそう言い放った遼の右手には男子生徒のものであろう小型拳銃型のCADが握られている。

 

「いくら優秀だとしても、CADを取られてちゃ世話無いな」

「同じ一科生であるお前が二科生の肩を持つのか!」

「いや、肩を持つ持たない以前の話じゃないか? ただのクラスメイトと、付き合いの長い友人。天秤にかけるまでもない」

「くっ……!」

 

 至極真っ当な理由を叩きつけられ、男子生徒は反論ができない。それ以前に、CADを取られたという時点で男子生徒は遼に敗北していたのだ。

 誰もが予想だにしていなかった状況にこの場が沈黙に包まれるが、それは思わぬ人物によって破れた。

 

「騒ぎがあったって聞いたのだけれど、これはどういう状況かしら」

 

 沈黙を破ったのは生徒会長である七草真由美。状況を把握するべく彼女は達也たちへと視線を向け、ある一点で止まる。

 

「矢重坂くん。それはどういうこと?」

 

 右手に持つ特化型CAD。それは遼のものでは無いが、この場で真由美がその事を知るはずもなく、一人だけCADを持っているのはあまりにも怪しすぎた。

 真由美の隣に立つ女子生徒、風紀委員長である渡辺摩利もその視線を鋭くして遼を見ている。

 

「もしかして、俺が疑われてる?」

 

 巻き込まれるとは思っていたが、まさか自分が容疑者となるとは予想しているはずもない。

 まさかのとばっちりに遼は今日何度目かの溜め息を着いた。

 



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入学編 Ⅳ

 生徒会長と風紀委員長の二人という大物の登場に多くの者が凍りつく中、元凶扱いされた遼は達也へと視線で助けを求める。この状況では、遼がいくら弁明しても信じてもらえそうに無かった。

 そんな遼の視線に気づいたのか、達也が真由美と摩利の前へと歩み出る。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

「悪ふざけ?」

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為にと思って見せてもらっていたんです。その後、あそこに立っている矢重坂遼がCADを見てみたいと言って借り受けていたのですが、どうやらそれが誤解を生んでしまいました」

「本当なのね矢重坂くん?」

 

 真意を問うように真由美は遼へと問いかけた。

 

「はい。達也の言っている通りです。これ、見せてくれてありがとな」

「ああ……」

 

 先程のやり取りが嘘のように森崎という男子生徒へ遼はCADを返却する。森崎も、この状況では達也の話に乗るしかない。

 どこかぎこちないそのやり取りに疑問を抱いた摩利は口を挟もうとしたが、それは隣にいた真由美に止められた。

 

「二人がこう言っているのだし、もういいじゃない、摩利? それに、()()をつかったわけじゃ無いんだから」

 

 真由美のその言葉に少し思案する摩利だったが、すぐに肩の力を抜くと全員に聞こえる声で審判を下した。

 

「会長がこう仰られる以上、今回は不問としますが、魔法の不正使用、及びそう疑われるような行動は慎むように」

 

 そう言って摩利が立ち去っていく中、真由美は立ち去る直前、達也と遼へ「貸し一つ」と言いたげな笑みを浮かべていた。

 

 

 *

 

 

 その後、去り際にCADを遼に取られた男子生徒が何やら捨て台詞を残していったが、それ以上のトラブルは無く、深雪は胸を撫で下ろしていた。

 そんな深雪の姿に大事にならずに済んだと遼が一安心していると、エリカとレオの二人が詰めかけて来る。

 

「ちょっと、遼くんいつの間に移動してたの?」

「お前、さっきのどうやったんだ?!」

「いや、そんな大したものでも無いんだけど。それに、俺が動かなくても千葉さんが止めてたでしょ?」

「ふーん、分かるんだ……まあ、そうね。危なくCADを持ってない手を叩き落とすところだったわよ」

 

 そう言ってエリカは伸縮警棒を取り出すと体を動かし足りないのか、軽くその場で何回か振っていた。

 

「それで、さっきのは一体なんだったの?」

 

 逃がさないと言わんばかりにエリカは追求してくる。どうやら、話を逸らそうと試みたが失敗したようだ。

 

「分かったよ。とりあえず帰りながら説明するから」

 

 仕方ないか、と考えながら達也たちにもそろそろ移動するよう話し、帰ろうとしたがその先に見知った顔を見つけた。

 

「こんなところで何してるんだ二人とも?」

 

 一応、気になってほのかと雫に声をかけたが、当のほのかはどこか頬を赤く染めている。

 何か嫌な予感がし、遼はどうにかその予感を回避しようと試みるもそれは的中した。

 

「遼さん、実はその……駅までご一緒してもよろしいですか!」

「……えっ?」

 

 予想だにしていなかったほのかの言葉に遼の表情が固まり、なんとも言えない雰囲気が遼達を襲った。

 

 

 *

 

 

 ほのかと雫を含めた帰り道。遼は案の定、さっきの話題についての説明をエリカにさせられていた。

 無論、他の面々もその説明を待っている様子。特にほのかが目を輝かせているが、そんな彼女の様子に遼はやや困惑気味だ。

 

「それで、さっきのはどうやってやったの?」

「さっきのはちょっとした歩法と魔法を応用した技で……皆は縮地法って聞いたことはあるだろ?」

「聞いたことはあるけど、まさかできるの?」

「いや、それは無理だって。まあ、限りなく似せることはできるけど」

「なんだ、できないんだ。ちょっと、期待してたんだけど」

 

 私の期待を返せと言わんばかりに非難の声を上げるエリカ。

 だが、他の面々は限りなく似せることはできるということに驚き、思わずツッコミを入れそうになった。

 

「達也は知ってるだろ?」

「ああ。何回か見せられたからな」

「もしかして、達也くんもできるの?」

「残念だけど俺にはできないよ」

「まあ、達也の場合はやらなくて正解だと思うけどな……」

 

 もし仮に、突然達也が深雪の視界から消えたりすれば……そこから先は考えたくはない。下手をすれば、周囲一帯が凍りつくだろう。

 

「それで、話しは続くわけなんだけど。俺のは魔法で電磁波を利用して光を屈折させることで、周囲の景色に溶け込んでいるんだよ」

「周囲の景色に溶け込む?」

「そっ。だから実際にはそこにいるし良く目を凝らせば違和感に気付く。けど、あの状況だとエリカや美月たちに注意が向いてたから、誰も気づかずに急に現れたように見えたってわけ」

「なるほど……凄いのね」

 

 遼の説明に納得しながら、エリカたちはその技術を称賛する。

 達也と深雪は以前に、この原理を遼から聞かされていたが、この場は友人が称賛されていることを喜んでいた。特に、ほのかからは尊敬の眼差しで見られている。

 だが、そんな周囲の反応とは裏腹に遼の内心は穏やかではない。

 

(多分、会長には一部始終を見られてたな)

 

『射撃姫』の異名を持つ生徒会長である真由美なら、遠くから一連の出来事を見る事は造作もないだろう。

 去り際に残した「貸し一つ」というのも、全てを知っていた上で見逃したと繋げれば納得がいく。

 恐らく、達也もこの事には気付いているとは思うが、今の自分たちにできる事は何もない以上、気にしても仕方がなかった。

 一人気難しい事を考えていたせいか。ふと、遼が視線を感じると隣を歩いていたほのかが心配そうにこちらを見ていた。

 

「どうかしたんですか、遼さん?」

「いや、結局魔法を使ってたわけだから、会長たちを誤魔化せて良かったなって」

 

 実際は誤魔化せて無いが、それをほのか達に教える必要はない。教えたところで、皆の不安を煽るだけだ。

 ほのかの心配を払拭し、何やら別の話題で盛り上がっていた達也たちの中に遼も混ざっていく。

 

「今度は何の話をしてるんだ?」

「お兄様が私のCADを調整してくださっているという話を今していたところです」

「CADの調整か……俺もやって貰おうかな」

「悪いが頼まれてもやらないからな」

「いや、いくらなんでも即答しなくたっていいだろ。何? お前は深雪専用のエンジニアでも目指してるの?」

「そんな、私専用だなんて……言い過ぎですよ遼さん」

 

 否定の言葉を言いつつも何故か遼の言葉に深雪が頬を赤らめ、照れ始めたところで達也は慌てて否定した。

 

「そういうつもりで言ったんじゃない。お前の使う魔法は少し特殊だから俺の手には負えないだけだ」

「分かってるって。ちょっと冗談で言っただけだからさ」

 

 少しからかうだけのつもりだったが、深雪の反応でこの場の空気が変な方向へと向き始めた為、遼は慌てて誤解を解き始めた。

 

「遼さんも、深雪さんも充分凄いけど、達也さんも凄いんだね……うちの学校に一般人って少ないのかな?」

「魔法科高校に一般人はいないと思う」

 

 そんな、ほのかの呟きに返した雫のツッコミが変な方向へと向かっていた空気を元に戻した。

 

 

 *

 

 

 友人たちとの賑やかな時間から数時間後。自宅へと帰っていた遼は小型の仮想型ディスプレイ端末で、ある人物と連絡を取っていた。

 

「すいません。連絡が遅くなってしまって」

 

 ディスプレイ上に写るのは細身の老人。既に齢八十は越えているだろうが、その姿からは実年齢程の老いは感じられない。

 

「いや、気にしなくて良い。入学したばかりでは連絡をするのも大変だろう」

「お心遣い感謝します」

 

 老人の気遣いに遼は頭を下げ感謝の意を示す。自身にとって恩人であるこの老人を前にした遼の態度は普段と違い、その所作の一つ一つに老人への尊敬が見られる。

 

「それで、彼等の様子はどうかね?」

「特にこれといった変わりはありません。今のところは何事もなく学校生活を送っています」

 

 実際のところは十師族である七草に目をつけられたかもしれないが、真由美個人に目をつけられただけの可能性もあるため、ここではあえて報告は避けた。

 

「では、君の方はどうかね」

「私、ですか?」

 

 予想だにしていなかった問い掛け。

 だが、老人の問い掛けが堅苦しいものを要求している訳ではないことはその表情を見ればわかる。

 

「まだ、慣れてはいませんが……とても楽しく感じています。あの二人といると退屈しませんから」

 

 毎日がトラブル続きでも、それは平穏な世界でのものだ。そこに、命のやり取りは無く、気を張り巡らせる必要もない。

 数年以上前の自分を取り巻く環境と比べれば、天と地の差があるほどだ。

 だが、それでも拭い切れないものはある。

 

「ですが、自分のような何にもなれない『半端者』がいて良いのか……とは、常に考えています」

「まだ、消えることはないか?」

「はい」

「そうか……だが、魔法には無数の可能性がある。君のいう『()()』も、言い換えれば大きな力だ。それを、忘れることのないように」

「肝に命じて置きます、九島閣下」

 

 その言葉を最後に二人の通信は終了する。

 普段は感じない緊張感から解放され、ほっと息をつきながら、遼は先程の言葉を思い出していた。

 

「大きな力、か」

 

 噛み締めるようにそう呟きながら遼は、やはりあの方は凄いな、と改めて実感した。

 



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入学編 Ⅴ

 校門でのトラブルが起きた翌日の放課後。

 達也と深雪に同行して生徒会室へ向かっていた遼が呆れたように溜め息をついた。

 

「はぁ……なんで達也が風紀委員になることになってんだよ」

「俺に聞くな」

 

 達也は自分には関係無いと言わんばかりに答えたが、今回ばかりはそうも言えない。

 どうも、昼休みに達也と深雪は生徒会室で昼食を取ったらしいのだが、深雪の生徒会入りの話から達也の風紀委員入りに話が発展したらしい。

 遼も深雪から生徒会室で昼食を食べないかと誘われたが、昨日の件もある。

 これ以上、悪目立ちしたくなかった遼は断ったが、放課後に遼を連れてくるよう深雪が真由美に言われていた為、渋々二人に同行していた。

 

「それで、何でまた俺も呼ばれたんだ?」

「何か七草家の機嫌でも損ねるような事をしたんじゃないか?」

「いや、その例え全然笑えないから。七草に目をつけられるとか報告案件なんですけど」

 

 監視する立場が監視されては意味がない。

 遼にとって、それは最優先で解決しなければならない案件だ。

 

「冗談だ。恐らく、昼の話から見て七草に目をつけられた、というよりは生徒会長に目をつけられたと言うべきだな」

「いや、どのみち最悪なんですけど」

「そう気を落とさないで下さい遼さん。きっと何か理由があっての事なんですから」

「そうだと良いんだけど」

 

 きっとそうであって欲しいと、遼が僅かに希望を抱く中、目的である生徒会室へはすぐに着いた。

 

「登録済みなんだな」

「……」

 

 遼の言葉を無視して達也は自身のIDカードで認証し、ロックを解除をすると三人は中へと入る。

 だが、遼が足を踏み入れた際に感じたのは達也への明確な敵意。どうやら、推薦されたとはいっても全員から歓迎されているわけでも無いようだ。

 

「来たみたいだな」

「いらっしゃい、深雪さん、達也くん。それに、遼くんも良く来てくれたわね」

 

 気軽に手を挙げている摩利に、知らぬ間に名前呼びになっている真由美のことはこの際置いておき、遼は真由美たちへ一礼した。

 

「早速だけど、あーちゃん、お願いね」

「……ハイ」

 

 小動物、のように感じられる女子生徒に促され深雪は壁際の端末へ誘導される。

 

「それじゃあ、あたしらも移動するとしようか」

 

 昨日の剣幕はどこに行ったのかと言わんばかりの摩利の変わりように一体何があったのかと遼が困惑するなか、先程から達也へ敵意を向けていた男子生徒が声を上げた。

 

「私は……司波達也の風紀委員就任には反対です」

「反対か……それは何でだ服部刑部少丞範蔵副会長」

「フルネームで呼ばないで下さい! いや、そんな事よりも私は二科生を風紀委員に任命する事には賛成できません」

「それは、彼の能力では風紀委員は務まらないということか?」

「はい。実力に劣る二科生では風紀委員として職務を全うするなど不可能です」

 

 服部と呼ばれた生徒はどうしても達也が風紀委員になることが気に入らないのか、次々とその理由を並べていく。

 だが、その理由は最もなものでもある……が、達也の実力を知る遼からすればただの難癖にしか聞こえなかった。

 

「確かに実力という面で見ればそう考えるのも無理は無いが、実力にも色々ある。だが、達也くんには展開中の起動式を読み取り、発動する魔法を予測する目と頭脳がある……これについては昼休みに実演してもらったからな」

 

 摩利のその説明を聞き、遼が達也へと視線を向ければ達也は深雪へと視線を向ける。

 

(深雪が言ったのか……)

 

 深雪としては兄である達也の能力を認めてもらうために言ったのだろうが、それを聞いて風紀委員長である摩利が放って置くわけがない。

 深雪の気持ちも分からないでは無いが、自己評価の低い達也からすれば風紀委員入りは望むものではないだろう。

 だが、それでも服部は食い下がる。

 

「……私はそれでも司波達也の風紀委員就任に反対です。どうかご再考下さい、会長」

 

 どうしても達也が風紀委員になることを阻む服部。

 そんな状況に深雪が苛立ちを募らせる中、遼はその怒りが爆発する前に手を打つことした。

 

「だったら、模擬戦をしたら良いんじゃないですか? 服部副会長」

 

 風紀委員という職務に必要とされる実力ならこれ以上に適切なものは無い。

 この提案に、困惑する者、笑みを浮かべる者、敵対心を燃やす者、勝利を信じて疑わない者……溜め息を溢す者。

 この場にいた面々が様々な反応を見せるなか、溜め息を溢したのが達也だったのは言うまでなかった。

 

 

 *

 

 

「それで、俺に何の用ですか? 七草生徒会長」

 

 達也と服部の模擬戦が行われる事となった後。遼はその模擬戦を見届ける事はせず、生徒会室に残っていた。

 初めから分かりきっている勝負を見るつもりは遼にはない。その為、見学を断って帰ろうとしたのだがそれは遼をこの場に呼んだ真由美によって阻まれた。

 

「そう、警戒しなくても良いんじゃないかしら? こんな美少女と二人っきりになったら普通は喜ぶものよ?」

「会長が普通の立場なら俺も喜びますよ。ですが、特に相手が七草なら尚更です」

「そう、それは残念ね……じゃあ、本題に移ろうかしら」

 

 さっきまでの小悪魔的な笑みが真由美から消える。そこにあるのは、七草……十師族に名を連ねる者として風格。

 それに伴って部屋の空気も少しばかり張り詰めたものとなる。

 

「九島家との繋がりがあるのは本当なの?」

「俺が九島家と繋がっている? まさか、そんな事があるわけ無いじゃないですか。俺はただの一般人ですよ? そんな機会ありませんよ」

「それは、これを見ても言えるのかしら?」

 

 そう言って真由美から渡される写真。

 それは、いつの日かに社交界のパーティーで取られた写真だ。そこには、ドレスを身に纏った真由美が写っており、普通ならその美しい姿に目を奪われるだろう。

 その後ろに、九島烈と遼の姿が写っていなければ。

 

「人違い……で、済むわけ無いか」

 

  写真だけならいくらでも言い訳ができる。

 だが、この写真を見せた上で遼がどう反応するのかを真由美が見定めているなら、下手な言い訳は自分の首を締めてしまう。

 それなら、自分からある程度の情報を提示するのが得策だった。

 

「会長の言う通り、俺には確かに九島家との繋がりがありますが、それは会長……七草家が警戒するようものでは無いですよ」

「じゃあ、ここに入学した事に深い理由は無いのね?」

「はい。俺は九島閣下に『次の世代を担う魔法師としてしっかりと学んで来るように』と言われてここに入学したんですから」

 

 その言葉に嘘は無いが真実を全て話した訳でもない。

 だが、今ここで必要なのは七草にとって不利益があるかないか、それだけだ。

 遼の言葉に少し納得したのか、張り詰めていた空気が霧散した。

 

「そう……じゃあ、この話はここまでにしましょうか」

「良いんですか? 他にも聞きたい事があるなら答えますけど」

「じゃあ、このパーティーに参加していた理由は答えてくれる?」

「それは、九島閣下の護衛ですよ。俺の魔法や、能力はそういった事に向いてるんで」

「それなら、声をかけてくれても良いんじゃない?」

 

 そう言って真由美は上目遣いで遼を見つめる。

 無論、当時の遼に真由美との面識は無いためそれは不可能だが、真由美もそれは分かっていて言っていた。つまり、遼は真由美にからかわれているわけだ。

 だが、からかわれてばかりでは遼も面白くない。

 普通なら照れて視線を反らすところを、遼は反らさずじっと見つめ返していた。

 互いに見つめ合う中、先に視線を反らしたのは真由美だ。

 

「見つめ返すのは反則じゃない?」

「だったらしないで下さいよ」

 

 そう言って、遼は真由美に帰る旨を告げると生徒会室の出口に向かっていく。

 

「あっ、まだ話は終わってないんだけど」

「今度は何ですか?」

 

 また面倒事かと思いながら遼は振り向く。

 そんな遼に真由美は小悪魔的な笑み……この場では悪魔と言った方が正しいか。

 

「生徒会に入らない?」

「……はい?」

 

 真由美のその言葉を理解するのに遼は少しばかり時間を労すのだった。



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入学編 Ⅵ

 魔法大学付属第一高校には数多くの部活動が存在する。

 その上、活動にかなり熱を入れている部活動も多いため、新入生への勧誘に必死になるのは無理もないことだ。

 例年通り、この新入生勧誘期間に各部間でトラブルが起きる事が予想され、風紀委員……その助っ人として数人の生徒会役員が取り締まりに参加している。

 その助っ人として派遣された生徒会役員である遼は、風紀委員である達也と共に巡回していた。

 

「聞いてた通りの騒ぎようだな」

「同感だ」

 

 目の前の光景に思わず愚痴を溢す二人。

 二人の前では今まさに熱烈な新入生への歓迎が行われていた……が、それは二人の予想を遥かに越えていた。

 いくら「バカ騒ぎ」と言っても所詮は高校の部活動への勧誘だ。多少、騒ぎが起きても滅多に取り締まることはない、と考えていたが、二人はその考えを改める。

 これなら、取り締まりが必要になるのも仕方がないだろう。

 

「通りで生徒会が助っ人になるわけだ」

 

 十人を越える人垣の中に埋もれている新入生の姿。その光景に、遼は思わず苦笑いを浮かべる。

 

「それで、何でお前が生徒会に入ることになったんだ?」

 

 生徒会からの助っ人として当然のように巡回に参加する遼に達也がその理由を問い掛ける。

 結局のところ、遼は真由美からの誘いを受けて生徒会に入っていた。

 

「ちょっと七草に目をつけられた」

「まさか、本当だったのか?」

「何か、会長が出席してたパーティーに俺も閣下の護衛で参加しててさ。写真に写ってたんだよ」

「それは災難だったな。それで、俺たちについては何か聞かれたか?」

 

 七草……十師族の情報網は油断ならない。

 いくら、情報が秘匿されている為、気付かれないと言っても達也は警戒してしまう。

 だが、達也の警戒するような視線に、遼は首を横に振った。

 

「聞かれてないよ。どうも、俺と九島との関係に目がいったみたいだな。だから、俺を生徒会に入れて、目の届くところで見張っておきたいんじゃないか?」

 

 監視されるというのはあまり気が進まないが、生徒会であるメリットが無いわけでもなかった。特に、CADの所持を認められるのは魅力的だ。

 

「そういうことか。お前も大変だな」

「その言葉、達也にだけは言われたくない」

 

 ある意味、達也が一番面倒事に巻き込まれているのだが、本人にその自覚はあまり無いようだ。

 

「それで、達也はこの後どうするんだ?」

「一応、エリカと見て回る約束をしてるが遼も一緒に来るか?」

「エリカね……じゃあ、俺は別で見て回るわ。二人の邪魔しちゃ悪いし」

「邪魔ってどういうーー」

 

 達也の言葉を最後まで聞くこと無く、遼は達也に背を向けながら手を振り、他の場所の巡回へと向かった。

 

 

 *

 

 

「なんでこうなったんだ……」

 

 加速魔法を使用しながら疾走する遼は思わずそう呟く。

 そんな、遼の前をスノーボードを使って疾走するのはバイアスロン部のOGと、何故か拉致されているほのかと雫。かなり強引に連れてこられたのかほのかの目は涙目であり、さっきから遼に助けを求めていた。

 あまり人が少ないところの方がトラブルが無いと踏んだのだが、どうやら宛が外れたようだ。

 

「遼さん助けて下さいっ?!」

 

 そう言って叫ぶほのかの姿に、仕方ないと遼は更に速度を上げるが、それでも中々距離が縮まらない。

 そこはOGの技量の高さに流石と言うべきか。これでは埒があかなかった。

 

(仕方ない、少し強引に行くか)

 

 だが、それで黙っている遼ではない。

 遼は一端、CADの操作を止めるとその場に立ち止まる。一見、諦めたように見える遼の姿にほのかの表情が絶望に染まっていく。

 

「よしっ! 諦めたみたいだな」

 

 後ろを振り返り、遼が立ち止まったのを確認しながらOG達は少し速度を下げる。追ってくるものがいなくなった以上は限界まで速度を上げる必要が無いからだ。

 だが、それはこの場では失策と言う他無い。

 

「誰が諦めたって?」

「なっ?!」

 

 稲妻が空を切るような音と共に、突然隣から聞こえた遼の声にOGが反応するが、それよりも早く遼がほのかを抱え、続けて雫も救出する。

 時間にして僅か数秒。

 その間に助け出した遼は二人を地面に降ろし、OGへと体を向けるとCADを構えた。

 

「生徒会なんで本来なら取り締まるんですけど、OGの方々を捕まえてもどうしようもないのでここは手を出しません。が、また今回みたいに強引に勧誘するなら見逃しませんから」

 

 そう言っていつでも魔法を使えるよう身構えるとOG達は脱兎の如く逃げていった。

 

「二人とも怪我はない?」

「私は大丈夫」

「私も大丈夫です! 助けてくれてありがとうございました!」

「いや、そこまで感謝しなくて大丈夫だから。これも、一応は仕事だし」

 

 ぐいぐいと、距離を詰めて感謝の言葉を口にするほのかに遼は後退りながら、仕事であることを強調する。

 それは、助けた事に深い意味は無いことを示していたのだが、遼のその言葉にほのかは目を輝かせると更にヒートアップしていく。

 

「遼さんって生徒会に入ってたんですね!」「い、一応ね」

「生徒会に勧誘されるなんて……本当に凄いです!」

 

 尊敬の眼差しで見つめてくるほのかに遼は苦笑いを浮かべる。

 勧誘された理由が真っ当なものでは無いため、遼は何とも返し難かった。

 

「それで、遼さんはこの後って何か予定はありますか?」

「いや、巡回するくらいだけど」

「それじゃあ、私と一緒に見て回りませんか! 巡回しながらでも良いので、是非!」

 

 やや暴走気味なほのかに、遼が傍にいた雫へと助けを求めて視線を向ける。

 

「私はバイアスロンに興味が出たから見学してく」

「さいですか」

 

 さっきのあれで興味が出るとは、雫は思っていたよりもタフらしい。

 ともあれ、雫の援護射撃もあってほのかの誘いを遼は断ることができなくなるのだった。

 

 

 *

 

 

「りょ、遼さんは剣道の経験があるんですか?」

 

 ほのかと部活動の見学を一緒に回ることとなった遼たちは、剣道部と剣道部の見学に向かう事にしたのだが、その提案にほのかが上擦った声で疑問を口にした。

 

「いや、無いよ。ただ、少し興味があってね」

 

 さっきよりは落ち着いた様子のほのかに安堵しながら、遼は答える。

 だが、遼は気付いていなかった。

 ほのかは落ち着いたのではなく、遼と二人きりという状況に緊張しているだけだということに。決して落ち着いたわけではなかった。

 

「そ、そうなんですね。私、てっきり遼さんはそういう経験があるんじゃないかって思ってました」

「そう見える?」

「はい! さっきだって凄い身のこなしだったんですよ?」

 

 さっきの救出劇がどれだけ凄かったのかを熱弁するほのか。

 そんなほのかの様子に対し、遼は対照的に頭が冷えていくのを感じていた。

 

(素人目でもやっぱりバレるのか)

 

 あまり目立ちたくは無いと思っていたが、やはり、積み上げてきた研鑽を隠すことは難しい。

 極力、目立たず円滑に行動する為にもあまり自分から動かない方が良いなと遼は考えていたが、既に生徒会に入っている時点でその考えは無駄だった。

 雑談を交えながら剣道部と剣術部の演武が行われる第二小体育館、通称「闘技場」へと二人は向かっていたが、何やら体育館の入り口から慌てて数人の生徒が走って来るのが見えた。

 

「まさか……ごめん、ほのか。先に行く」

「遼さんっ?!」

 

 ほのかには申し訳なかったが、遼は加速魔法を使うと一気に闘技場へと向かう。

 何かから逃げるように走る生徒の姿に、まさかトラブルが、と思った遼が目にしたのは剣術部員と大立ち回りをしている達也の姿だ。既に何人かは無力化したのか、数人の部員が地面に転がっている。

 

(今度は何をやったんだ?)

 

 達也一人でも問題は無いだろうが、見てしまった以上は無視できない。

 遼は闘技場に飛び込むと、達也に飛び掛かろうとしていた部員の首筋に手を当てる。すると、バチッ、という音と共にその部員は糸が切れた人形のように地面に倒れ込んだ。

 

「達也って、ほんとトラブルメーカーだな」

「遼か。悪いが手伝ってくれるか?」

「もちろん。さっさと片付けますか」

「何だお前! 関係ないやつは引っ込んでろ!」

 

 突然現れた遼は剣術部員たちからすれば部外者。遼が生徒会であることを彼等が知るはずもなく、部員たちは次々と二人へと襲い掛かる。

 だが、所詮は学生のレベル。二人の相手になるはずもなく、二人は襲い掛かる上級生を次々に無力化していく。

 

「このっ!」

 

 体術が無理と分かったのか、離れた場所にいた部員が魔法を使おうとするが、それが叶うことはない。

 

「魔法の不正使用は禁止って習ってないんですか?」

「お前、いつの間にーー」

 

 突然、真横に現れた遼は部員の首筋に触れる。その行動に部員は抵抗しようとするが、抵抗するまもなくその部員の意識は暗転していく。

 その後も二人は、諦めの悪い剣術部員を無力化していった。

 



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