BanG Dream!〜夢を打ち抜く彼女達の日常〜 (凛句りんく)
しおりを挟む

日常シリーズ
Roseliaの日常①ー1




とある日の練習後、

あこの提案によりNeo Fantasy Online(通釈 NFO)を再びプレイする事になったRoselia。

燐子を中心にして順調にダンジョンを攻略していたが……

(全四話)







 

 

 

 

「きゃああああああああ!!!!」

 

「り、リサさーーーーん!!!!」

 

 

体中を覆うローブを着た少女が、紅蓮の業火により焼かれていく。

 

 

「グオォォアアアーーーーーーーー!!!!」

 

 

その炎を生み出しているのは巨大な黒竜だ。

 

皮膚は漆黒の竜鱗、人なんぞ容易く裂断する禍々しい竜爪、この世の全てを砕く鋭牙、視た者の魂を射抜く青緑の瞳、そして頭部には神々しい双角が付いている。

 

 

「どうしよう……このままじゃ全滅しちゃう……っ!!」

 

 

黒魔術師である白金燐子の周りには横たわっている死体が3体あった

 

 

「どうしよう……。もう残るは私だけだ(/ _ ; )」

 

 

凍てつく眼光を灯した黒竜が四足のうちの後ろ二脚を軸に立ち、前足を浮かし、鉄鋼のような腹部に大きな溜めを始める。

 

 

「あれはさっきと同じ咆哮(ブレス)の前触れ! だめ、今の私じゃ防げる技がない(T . T)」

 

 

その場から動けない燐子に向け、慈悲も容赦も持ち合わせていない黒竜は先ほどと同じ業火を口から勢いよく放出する。

 

それは万物を焼き尽くす代物で、目の前の少女などいとも簡単に滅ぼす攻撃だった。

 

 

「いま死んじゃったらクリア報酬が手に入らないよ……。だ、だれか、だれか助けて!!」

 

 

 

しかし、その声は黒竜の咆哮でかき消され――

 

 

――少女は灼熱の炎に包まれた。

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

事の発端はRoseliaの練習が終わった後に発した、宇田川あこの一言から始まった。

 

 

「はぁ~~やっと終わった~~~!!!今日も疲れたよぉぉぉ。りんりん!!早く帰ってゲームしよ!!今日は新イベントが始まる日だったよね?」

 

「そうだね、あこちゃん。たしか、今回手に入る限定のレアアイテムがとても強いらしいから、難易度が高いってうわさだよ」

 

「そうなの!? 楽しみ~~!!!」

 

 

()()は白金燐子こと「りんりん」にその情報を聞くと、先ほどまでの練習で疲れた顔が嘘のように晴れた。

 

その()()元気の変わりように見かねたのか、Roseliaの風紀委員こと「氷川紗夜」が、()()に辛辣な言葉を突き付ける。

 

 

「宇田川さん、そんな元気がまだ残っているなら、練習にもっと力を入れたらどうですか」

 

「ヴっ!! そ、それとこれは別腹というか……」

 

 

あこは正論を言われ、言葉に詰まるが、

 

 

「まあまあ、いじめるのはそこまでにしときなよ、紗夜」

 

「い、今井さん、別に私はいじめてなどいません!! 私はRoseliaのためを思って――」

 

「はいはい、分かったって。Roseliaのために息抜きとして必要な遊びもあるの」

 

 

少し()()が可哀想だと思ったリサが紗夜を止めにいった。

 

そしてリサが味方に付いたことで調子に乗った()()が、今ならイケると思ったのか滅多に言わないゲームのお誘いをする。

 

 

「そうです!!なんなら、また皆んなで一緒にゲームしませんか?? あこ、あれ結構楽しかったんです!」

 

「はあ……息抜きだとしても、そんな時間ありません。まったく、湊さんもそう思うでしょう??」

 

「そうね。また息抜きとしてゲームも悪くないわ」

 

「ほら、湊さんもこう言っているでしょう?? だからゲームをしましょう……え??」

 

 

味方だと思っていた友希那のまさかの返答に、紗夜は驚きを隠せなかった。

 

 

「わーーい!!やったーーー!!! りんりん、また皆んなでゲームして遊べるよ!!」

 

「よかったね、あこちゃん。ずっと皆んなでまたゲームがしたいって言ってたもんね」

 

「うん!!すっごい嬉しい!!よーし、あこ頑張っちゃうよ!!」

 

 

今の()()はまるで遊園地に行く前の子供のようだ。

 

 

「湊さん!!いいんですか!?!?」

「ゆ、友希那、本当にいいの??」

 

「なによ、リサまで。私がゲームするのそんなに珍しいかしら。別に初めてじゃないでしょう」

 

「そういう意味で驚いたわけじゃないんだけどな……」

 

「不本意ですけど、湊さんが許可するなら仕方ないわね……」

 

 

紗夜はしぶしぶといった様子だ。

 

 

「湊さん、変わりましたね」

 

「そうかしら? あなたに言われたくないわ」

 

「そこの二人ともお互い様ってことでしょ~。(でも友希那の言うとおり、紗夜も本当に変わったなぁ……いい意味だけどね。以前なら怒ったはずなのに。)」

 

 

 

Roseliaの皆んなが納得したのを確認した燐子は話を進め始めた。

 

 

「では……以前ゲームした場所に集合……ということにしませんか?」

 

「そうだね~、皆んな分かりやすいだろうし」

 

「そうね、それなら私も大丈夫よ」

 

「ええ、私も賛成です」

 

「なら明日の13時に集合にしましょう! うぅ~、楽しみ~!!」

 

 

こうして、Roselia一同はオンラインゲームを()()()()息抜きとしてすることとなった。

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

「はい、皆さん無事にログインできましたね(^○^)」

 

 

燐子がRoseliaパーティ全員がログインしているのか確認を取った。彼女は普段こそ物静かな性格なのだが、ゲームの中では実に頼りがいのあるプレイヤーへと変貌するのだ。

 

 

このゲームの名前は「Neo Fantasy Online」

 

通称「NFO」と呼ばれている。オンラインゲームであり、いわゆるMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)だ。

 

MMORPGを簡単に説明すると「常に存在している仮想のゲーム世界に、大人数が同時に参加してプレイする。つまり、もう一つの世界に行って皆んなと一緒に遊べる。」という感じだ。

 

この「NFO」は敵(モンスター等)を倒してレベルを上げるだけでなく、農業や料理も楽しめるため自由度の高いゲームとなっている。

 

Roseliaがいるのはゲームを始めると最初に訪れる「旅立ちの村」だ。

 

 

「うんうん、この姿を見るの久しぶりだな~」

 

 

自分のアバターをまじまじと見ながらリサはつぶやいた。

 

ちなみに、それぞれの職業(クラス)は前回と変わらず。リサは回復担当のヒーラーだ。

 

 

「え、ええ……久しぶりね」

 

 

紗夜は敵の攻撃から味方を守るタンク。

 

 

「?? 紗夜どうしたの」

 

 

目的もなくフラフラっと歩きながら友希那は顔をかしげた。友希那は歌うことで様々な効果を付与する吟遊詩人である。

 

 

「ああ!!友希那さんどこ行くんですか!そっちは逆方向ですよー!!」

 

 

あこは死霊術を使うネクロマンサー。

 

 

「友希那さんは相変わらずゲームが苦手みたいですね(>_<;)」

 

 

燐子は魔法を扱うのに特化したウィザードである。

 

Roseliaパーティは攻守バランスが良い感じのクラスの集まりとなっている。もちろん偶然ではなく、燐子が陰ながら調整した結果だ。

 

 

「そういえば、今日はどこに行くの?」

 

「今日は前回と同じような洞窟ではなく、とある神殿に行きます(*´-`)」

 

「へぇ~。なにかお祈りでもするかんじ?」

 

「違いますよー!中は洞窟の時みたいにダンジョンになっているので、モンスターを倒しながら奥まで進みます。そしたら、えーと……」

 

「最奥に今回のイベント限定アイテムが手に入る仕組みになってます。ですが今から行おうとしたクエストは、条件としてゲームを初めてまもない新規プレイヤーがパーティにいることが条件になってまして……。なので皆さんに協力してもらったというわけです٩( 'ω' )و」

 

 

あこが言葉に詰まったので燐子がスラスラっと完璧に答える。

 

「ちなみに、さっきあこちゃんが言ってた難しいクエスト、とは別のクエストに行くので安心した下さい(^ ^)」

 

『りんりんの言う通りです!!』と、まるで自分が言ったかのようにあこはリサに返答した。

 

 

「燐子って、本当にここではよく話すわね。驚くばかりだわ」

 

 

その友希那の言葉に紗夜も同意している。

 

 

「ええ。普段からこうだったら、色んな意見を聞けて良い成長が出来ると思うのですが……」

 

 

必要なことは隠さずに言っているので、今の燐子に不満があるわけではない。しかし話してくれることに越したことはないと紗夜は思っていた。

 

 

「まあまあ、いずれ燐子も話すようになるよ!それまで待ってあげなよ」

 

「確かにそうですね。無理を言っても仕方ないです。とりあえずオペラ神殿に向かいましょう」

 

 

自分も日菜と今日から仲良くなれっと突然言われても困る。それと同じようなものかと紗夜は納得した。

 

燐子とゲームについて興奮しながら語っていたあこも紗夜の意見が聞こえたらしく、神殿に向かう準備を始めた。

 

「はい、びゅーんと行きましょーう!!」

 

「ここからそんな遠くないので、皆さんで歩いて行けます。準備完了したら出発進行です」

 

 

あれ、私、紗夜さんに神殿の名前を教えたかなっと燐子は思ったが……

 

たぶん、あこが教えたのだろう、と自己解決する。

 

 

 

アイテムショップや装備屋に向かい、主に燐子が回復アイテムなどの準備を揃え、Roselia一同はオペラ神殿へ向かった。

 

 

 

 

このエリア移動間は安全圏内となっており、モンスターに襲われることはない。そのため、進行中も楽しい会話が弾む。

 

特にリサは楽しそうだ。彼女が話題を振り、それに誰かが答える。この流れがRoseliaの中では定番だった。

 

 

「ねえねえ紗夜、気になる男子とかいないのー?」

 

 

普通なら盛り上がるであろう、実に女子高校生らしい質問なのだが、

 

 

「いません。そんなことに時間を割いている暇はないですから」

 

 

紗夜は迷いなく首を横に振る。

 

 

「あはは、紗夜らしいねー」

 

それでもリサは楽しいのか、笑顔が絶えない。しかし次のあこの一言でこの笑顔が凍りつくことになる。

 

紗夜の冷たい返答で会話は終わったかと思われたが、あこと燐子が以前に見かけた光景を思い出したことによる一言がきっかけだった。

 

 

「そういえば、友希那さん。この前、一緒に歩いていた男性って誰ですかー? 結構なイケメンだったと思うんですけど」

 

「あこちゃんと出かけた時に偶然見かけて……。彼氏さんなのかなってo(≧▽≦)o」

 

 

あこの衝撃の一言によりリサは心臓が凍る。

 

 

「ゆ、友希那~。それって本当かな~?? 何かの冗談だよね~。あはは~」

 

「今井さん、動揺が隠しきれてませんよ」

 

 

しかし友希那は冷静だった。

 

 

「あぁ。たぶんあのことね、あの人は知らない人よ」

 

 

友希那は何の面白味もないと言うが……。

 

 

「なんだ、彼氏じゃないんだ、良かった……とはならないよ!?」

 

「な、なによ」

 

「知らない人にはついていったらダメでしょ!!」

 

 

リサは子をしつけるように怒った。友希那に近づく男はリサの敵なのだ。

 

『リサ姉、友希那さんのお母さんみたい』と、あこはやれやれと笑う。燐子と紗夜も同じ感情だ。

 

 

「違うわ、リサ。いきなり食事に誘われたけど断ったのよ。そしたら勝手に付いてきただけ。しばらくしたら消えていったわ」

 

「友希那さん、それってナンパですよ(゚∀゚) 凄いな……」

 

「友希那さん綺麗だもんね〜」

 

 

友希那は誰が見ても美人と言う美貌の持ち主である。ナンパの一つや二つはあっても可笑しくないのだが、態度が氷より冷たいのでナンパ男は直ぐに諦める、というより諦めるしかない。今回もその例の一つだ。

 

 

「ふーん、そっか。 あ、燐子、あとでその男の特徴を教えてね」

 

「リサさん……め、目が怖いです……∑(゚Д゚)」

 

 

そんなことを話していると、一同は今回の目的地であるオペラ神殿に到着した。

 

 

 

 

 









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Roseliaの日常①-2

 

 

 

「では、先ほど言った隊列でダンジョン攻略するので、しっかり付いてきて下さい(*´-`)」

 

「「はーい」」

 

 

オペラ神殿に入る前に、燐子は大方の攻略作戦を全員に伝えた。彼女は前日から作戦を練って準備をしていたのである。

 

燐子が伝え、理解したら返事をする。真面目な作戦会議なはずなのに、しかし傍からみたら、この光景はどこか小学校の生徒と先生という図にしか見えない。

 

 

作戦内容は簡単だ。

 

基本的に1列隊形で進んでいく。

 

あこが列の先頭で、現れた敵の先制攻撃を担当する。

 

2番目には燐子を配置し、倒しきれない敵や逃した敵のトドメを刺す。

 

その後ろ、3番目のリサは回復担当。

 

後方残りの2人は基本的に待機だ。後方からの敵に対処する役割を担っている。それと、友希那が逸れないように紗夜が見守ることだ。

 

「よーし、ドーンと進んでバーンとやっつけちゃうよー!!」

 

「頼んだよー、あこ!」

 

「あこちゃん、いつも通りサポートは任せて(^_^)v」

 

 

前3人は意気揚々として楽しそうだ。

 

 

「私は何をしたらいいのかしら?」

友希那は何もしないという自分の役割を完全に理解していなかったので、紗夜が説明をした。

 

 

「私たちはどうやら後方で待機するらしいです。白金さん達に何かあった時にはサポートしてあげましょう」

 

「そう、わかったわ。普段と違って皆んなに任せっきりで申し訳ないけれど」

 

 

不満はあるが何とか友希那が納得したので、一同は神殿の奥へと進むことを始めた。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

「白金さん、そういえば質問があるのですが、このダンジョンに出てくるモンスターは強くないのですか? 初心者の湊さんや今井さん、私はすぐにやられてしまうのでは……」

 

 

現在Roseliaは、入り口から少し進んだ地点で歩いている。

 

序盤は一本道の洞窟で、横幅は約10メートルと割と広い。床には灰色の大理石で出来た通路があり、それをただ真っ直ぐ進む。

 

そして等間隔で壁に松明が設置されており、洞窟内は明るくなっているため、初心者でも迷うことなく進める仕組みだ。

 

よって、紗夜たち後衛組はモンスターに狙われることが少ないので多少安全なのだが……念のためにと紗夜が燐子に問いかけたのだ。

 

 

「いえ、今回は初心者がパーティにいる前提で行うクエストですので。私とあこちゃんで対処できるはずです\(^o^)/」

 

「なるほど……わかりました。そういうことでしたらお二人にお任せします」

 

 

心なしか、紗夜は少し残念そうな顔をしていた。

 

 

「ねえりんりん、紗夜さん、何かしたいのかな? ちょっと弱い敵がきたら私たちがサポートに回ってみようよ」

 

「そうだね、あこちゃん。 みんなで協力して倒すほうが楽しいもんね(^ ^)」

 

 

でも、と燐子が何かを思いだす。

 

 

「ダンジョン内にはいくつかトラップがあって、やっかいのもあります。 そのトラップから強いモンスターがポップ……出現する場合もあるので気をつけましょう(*´ω`*)」

 

「おーけー、燐子! 友希那、絶対に勝手なことはしないでよ!」

 

「この壁の赤いスイッチ何かしら――」

 

……ポチッ

 

「――え? リサ、何か言った??」

 

「「さっそくトラップ発動させちゃったーー!?」」

 

 

友希那が壁に付いていた明らかに怪しい赤い凸……スイッチを押した瞬間に、燐子の5メートルほど前方の床から2体の人型トカゲが出現した。右手は鉄の片手剣を持ち構えている。

 

 

「体が緑色ってことは……リザードマン!?」

 

「あわわ、ちょっと強めのモンスターだね。紗夜さん達では危ないかも……。りんりん、頑張ろう!」

 

「うん、あこちゃん!」

 

 

予想外の事態となったが、ベテラン組は予定していた戦闘態勢へと準備し始め、燐子が事前に考えていた戦闘隊形の一つを指示する。

 

 

「リサさんは私とあこちゃんがダメージを受けた時に回復魔法(ヒール)をお願いします。友希那さんは歌唱スキルを。紗夜さんは後列に飛んできた攻撃を盾でリサさんと友希那さんを守ってください( ̄^ ̄)ゞ」

 

「はーい、任せといて!」

 

「この前、教えてもらったボタンを押せばいいのよね、分かったわ」

 

「必ず守ってみせますので、後ろを気にせず攻撃に徹してください」

 

 

すると、友希那の歌唱スキルによりRoselia全体に攻防上昇のバフが付与され、それを起にあこが魔術の詠唱を始めた。

 

 

「いくよー!! 闇の炎がドーン!!!」

 

 

あこの周辺に複数の青白い炎球がゆらゆらっと現れ、それをリザードマンに容赦なく放つ。

 

正確には炎ではなく人魂なのだが、あこにはどちらでも良かった。

 

 

「キシャァァァァァァァァ!!!」

 

 

勢いよく放たれた炎球はリザードマンに直撃して、深刻なダメージを負わせた。

 

しかし、もう一体のリザードマンがあこの詠唱のタイミングを狙って前方に飛び出し、彼女に剣を突き刺そうとする。

 

 

「させない!! 氷の岩塊(アイス・ストーン)!!!」

 

 

即座に燐子が人と同じくらいの大きさの氷塊を生成し、あこに攻撃をしようとしていたリザードマンに解き放つ。

 

不意を突かれたリザードマンは成す術なく攻撃を喰らい弾き飛ばされ、その勢いのまま壁に衝突した。

 

 

「ありがとう、りんりん!」

 

「うん、とりあえずトドメをさしちゃおっか(`ω´ )」

 

 

見事な連携でモンスターを撃退したあこたちは、先ほどと同じ攻撃で残りのHPを削る。すると二体のリザードマンは白く発光し、その後ガラスのように砕けて虹色の粒子へと変換された。

 

 

「ふう、なんとか乗り切れたね!」

 

「そうだね、誰もダメージを負うことなく倒せたのは良かったかな♪

(´ε` )」

 

「さすがだね~、私は何もしなくて良かったよ!」

 

「いえいえ、リサさんがいるから安心して戦闘が出来ます!」

 

 

そして燐子は後ろを確認しようと振り返り、紗夜達に声をかける。

 

 

「友希那さん、紗夜さん、後ろは大丈夫でし――危ないっ!!」

 

 

後方にはタンクの紗夜がいるが、初心者であるため完全には気を抜かないようにしよう、と燐子は考えていた。しかし、さっそく調子良くモンスターを倒せたので気を抜いてしまっていた。

 

そのせいか、友希那の背後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気が付けなかった。

 

 

「え? なにかしら??」

 

 

友希那は背後のモンスターに気が付いていない。絶好のチャンスを得たリザードマンはこれを逃すわけがなく、剣を友希那に振り下ろす。

 

 

 

――だが

 

 

「友希那さんは私が守ります!!!」

 

 

パリーン!!という衝撃音とともにリザードマンは剣を弾かれる。何事かと疑った目線の先には、毅然と盾を構えた少女がいた。

 

「紗夜さんナイスです!!

今のうちに…氷柱の雨(アイス・レイン)(`・ω・´)」

 

燐子が遠距離魔法を発動。この魔法は敵の上空に氷柱を生成して攻撃するものだ。

 

今の燐子は列の先頭に位置している、対してリザードマンは最後尾。先ほどの氷の岩塊(アイス・ストーン)だと味方が壁になり攻撃が難しいため、遠距離魔法を発動したのだ。

 

しかし、この魔法は威力が弱いために一撃で仕留めることはできない。

 

 

「紗夜さん、トドメをお願いします!」

 

「宇田川さん、言われずともそうします、よっ!!」

 

 

凜子の魔法でひるんで無防備になった目の前の敵に、紗夜は手持ちの剣で鋭い一太刀を浴びせる。

 

 

「ガァァァァァァア!!!!」

 

先ほど消えたリザードマンと同様、雄叫び声の後に光の粒子へと変わる。

 

 

「な、なんかさ、叫びがやけにリアルじゃない? そういうもんなの、ゲームって」

 

「そう? 私は気にならないけれど。それよりも」

 

 

友希那は自分を守ってくれた紗夜のほうを向く。

 

 

「ありがとう、紗夜。 助かったわ」

 

「いえ、みなさんを守るのが私の役目ですので」

 

 

当たり前の行動だと紗夜は言う。しかしあこと燐子は共に驚いていた。

 

 

「いやいや、凄いですよ、紗夜さん! あの防御時のパリーンって音はジャストガードっていう技で、本当にピッタシ攻撃に合わせてガードしないと出来ないんです! それをした後すぐに剣でトドメさして……完璧に上級者の動きでした!」

 

「あこちゃんのいうとおりです。とっても驚きました……。どこかで練習したんですか(゚∀゚)??」

 

 

ベテラン二人に称賛された紗夜は、気まずそうな顔をした後に答える。

 

 

「まあ、多少は慣れておかないと、いつかするときに、みなさんに迷惑になると思ったので、す、少しだけ練習しました」

 

「そうなんだ、さすが紗夜!」

 

「すっごくゲームの才能ありますよ!」

 

「そこまでRoseliaのことを考えてくれたのね」

 

 

あこと燐子だけでなく、リサと友希那も紗夜に感心していた。

 

しかし燐子は少し疑問が浮かぶ。

 

 

「(うーん、それにしても、さっきからなんか紗夜さんが怪しいような。 最近よく聞くあの噂と関係が……?)」

 

「りんりん、早く奥に進もうよ!」

 

「あ、うん、そうだね。いま考えても仕方ないか( ´Д`)」

 

 

燐子は何かが頭の中で引っかかっていたが、考えるのを後にして今の攻略に集中することにした。

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

その後、Roseliaパーティは危なげなくモンスターを倒し、トラップを避け、洞窟奥地へと進んだ。

 

既に一本道は終わっており、今は幾つもの分かれ道がある広々とした空間になっている。

 

 

「だいぶ奥まで進みましたね……そろそろ『宝箱』があってもいいはずだけどな(ー ー;)」

 

 

燐子が辺りを見渡しながら言った。彼女が聞いた情報によればゴールはもうすぐなはずだ。

 

そこでリサが目を見開いて驚いた顔をする。

 

 

「へー、その宝箱に限定アイテムってのが入ってるんだ。てっきり何か強いモンスターとか倒すかと思ったよー」

 

「いえ、前回と同様、今回も強いボスとかを倒すことはないので安心してください!」

 

 

あこはかなり楽しそうにスキップしている。たくさんモンスターに攻撃して活躍しているので上機嫌なのだ。

 

すると、後列で特にすることがないので、探索に夢中になっていた友希那が何かを見つける。

 

 

「ねえ、あれは何かしら?」

 

 

友希那の目線の先には揺ら揺らと赤く怪しげに光る金色の箱が。しっかり施錠されてあるその箱は、直径約100メートルはあるかなり大きめなドーム型大部屋の真ん中に存在していた。

 

 

「あれは……今回探している宝箱なのでは」

 

「ちょ、紗夜さん、待ってくださいよー!」

 

 

さっそく紗夜が先陣を切り、大部屋へズカズカ進んでいく。それにあこが続き、残りのメンバーも大部屋へと入ってゆく。

 

 

 

中はとても静かで、壁に等間隔で設置されてある松明だけが部屋内の明かりを灯していた。

 

 

 

コツ、コツ、と足音だけが聞こえる世界。しかしそれはリサの緊張した声で壊れる。

 

 

 

「あのさ〜、それにしてもやけに大きな部屋だよね~。たった一つしか宝箱はないのに」

 

「そうですね……すこし嫌な感じがします。宝箱一つに大きな部屋、トラップにしては大きすぎるしボス部屋だとしても肝心のボスがいない……というか今回はボスは倒さなくていいとアナウンスがありましたし(-.-;)」

 

 

燐子があれこれ考えているうちに、先頭の紗夜が宝箱の位置へと到着する。

 

 

「勿体ぶっても仕方ないので、さっそく開けますね」

 

 

紗夜が宝箱を開けようと手を触れた。

 

 

 

 

しかし、それは何も反応を示さなかった。不思議に思ったあこが首をかしげる。

 

「紗夜さん、どうしたんです?」

 

「いえ、私は開けようとしているのですが、なにやらリストが表示されていて……とりあえず私を選択しま――!?」

 

すると突然、宝箱に触れていた紗夜が青い光に包まれる。そしてその光が収まった時、

 

 

 

紗夜は姿()()()()()()()

 

 

 

 








戦闘描写が難しい…っ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Roseliaの日常①-3









 

 

 

 紗夜が光と共に()()()

 

 

 

 

 

 その現象と同時に、大きな岩が擦れるような音がして大部屋の天井にも変化が起きる。

 

 

 

 

 「え、紗夜さん!? どこ行っちゃったんですか!?」

 

 「紗夜がいなくなったわ。まったく、私は今回ちゃんとして消えなかったのに」

 

 「あのね友希那、普通はゲーム中にログアウトはしないんだよ」

 

 「さっきの青い光は転移アイテムを使った時のエフェクトと似ているような。 そして天井が……開いていく??」

 

 

 なおも地響きを起こしながら大きな音とともに天井が開き続け、完全に開ききった後には初めから天井が無かったかのような部屋に変わっていた。

 

 

 「んー! 気持ちいい風だね!」

 

 

 リサの視界には曇り一つない綺麗な青空が広がり、心地よい光が大部屋へと照らしていた。そして透き通る風がRoseliaメンバーの髪をなびかせていく。

 

 

 「それにしても、ちょっと風が強くない?」

 

 「確かに、だんだんと強くなってきてるかな」

 

 

 友希那とリサは、少し強いが気持ちいい風だと感じている。

 

 しかし、あこと燐子には思い出したくない嫌な心当たりがあった。

 

 

 「ねえりんりん、まさかだと思うけど、、そんなわけないよね……?」

 

 「私もそう思いたいけど、遠くから翼の羽ばたく音が聞こえるんだ

 ……小鳥だといいなー(^ω^)」

 

 

 初めは微かに聞こえていた羽音だったが、次第に重く鈍い大きな音へと変わっていく。

 

 

 

 「なにかが近づいて来てるのかしら」

 

 

 

 「けっこうおっきい気がするねー」

 

 

 

 事態を察していない二人だったが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「グオォォアアアーーーーーーーー!!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 耳の張り裂けそうな獣の鳴き声と共に、先ほど天井が開いた上空から姿を現した()()()()()を見て、自身の愚かさに気が付く。

 

 

 「「なにあれぇぇぇぇーーーーーーーーーー!?!?」」

 

 

 リサが腰を抜かすほど驚き、

 

 

 「「やっぱドラゴンだぁぁぁああああいいやあああああ!!!」」

 

 燐子とあこは悲鳴を上げていた。

 

 

 「そしてあの光をまるで通さない黒い身体に、頭の歪な禍々しい双角は

 ……《邪竜》ファブニール!?」

 

 「それってめちゃくちゃ強いドラゴンじゃん!! りんりん、公式はクエストのボスを倒さなくていいって言ってたよね!!!」

 

 

 あこはこの状況に怒りを隠せないが、そんなことファブニールはお構いなしにあこ達と同じ地に降り立つ、宝箱を下敷きにして。

 

 

 「やばいじゃん、どうするの!?」

 

 

 リサが落ち着きなくあわあわと辺りを歩き回り、何か解決策を見つけようとする。

 

 

 「大変なことになったわね、紗夜は帰ってこないし。どこに行ったのかしら」

 

 

 友希那はやれやれと首を振って、いまだに消失した紗夜に呆れていた。

 

 

 「紗夜さんは転移らしきエフェクトで消えた……ボスを倒さなくていいクエストに強力なモンスター……もしかしてっ!!」

 

 

 少し落ち着いて冷静になり、しばらく考えていた燐子が何かを閃いた。

 

 それに気が付いたあこが、先制攻撃を仕掛けるための詠唱をやめ、期待の眼差しで問いかける。

 

 

 「りんりん、何か分かったの!?」

 

 「たぶんだけど、行動する順序を間違えたんだと思う(ー ー;)」

 

 「順序?? どういうことかしら」

 

 「はい、私たちは先に宝箱に触れて、後からドラゴンと遭遇しました。でも本来は先にドラゴンに遭遇してから、宝箱を発見する予定だったんです。そう仮定すれば紗夜さんが消えた理由も納得がいきます( ´Д`)」

 

 

 ここまでヒントが出たところで、あこにも真相が理解できた。

 

 

 「あー! 紗夜さんは転移したんだ、ドラゴンから逃げるために!!」

 

 「うん、あれはドラゴンから避難するための転移装置なんだよ。たぶん転移した先のエリアに報酬が入った本当の宝箱があると思う(^ ^)」

 

 「あはは〜、なるほどね~、早とちりしちゃった紗夜だけが先に転移装置ってやつで消えちゃったわけか」

 

 「じゃさっそく宝箱に近づいて転移しましょ!!」

 

 

 しかし、あこが解決策を見つけたことで元気が出たのも束の間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜなら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あこ、いま話していた宝箱あれよね。どうやって下に潜り込むの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――先ほど降臨したドラゴンの懐に、宝箱が鎮座していたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「……」」」

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 「右爪の振り下ろし!! あこちゃん左方向へ回避!」

 

 

 眼前の黒竜が、右前足の先に付いた四つの鉤爪を小さな死霊術師(ネクロマンサー)へ振り下ろす。

 

 

 「おっけーりんりん!」

 

 

 少女は華麗に左側へステップし、難なく回避する。

 

 

 「リサさんヒールをあこちゃんにお願いします!」

 

 

 黒竜が攻撃を外した隙に、後方に避難していたリサが前線に向かい回復魔術(ヒール)をあこへ唱え始めた。

 

 

 「よーし……やあぁぁぁ!!」

 

 「おお! ありがとうリサ姉!」

 

 

 淡い緑光があこを包み傷を癒していく。

 

 そして、燐子は反撃を行うべく攻撃魔法の準備へ。

 

 

 

 現在の戦闘隊形は後衛2人(友希那、リサ)に前衛が1人(あこ)、その中間に指揮官として燐子がいる。主にあこが攻撃を繰り出し、ダメージを受けると後退、またはリサが隙を見て前線まで上がりヒールを。その間は凜子が遠距離魔法で牽制をする。友希那は燐子に指示された歌をひたすら歌唱する。

 

 非常に理にかなった隊形で、これも予め燐子が考えていたものだ。

 

 

 「友希那さん、『戦場の花嫁~烈火~』の歌唱です(`・ω・´)」

 

 

 燐子は吟遊詩人の友希那へ、魔法威力バフが付与される歌を歌うように指示を行い、

 

 

 「ええ、任せて……ラララ――」

 

 

 続いて自身は、持ちうる中でも最も強力な魔法の詠唱を始める。

 

 

 

 「うん……いけるっ!!

 

 

 

 『氷神の大嵐(ボレアース・スノーストーム)』!!! 」

 

 

 

 燐子が詠唱が唱え終わると同時に、黒竜の辺りの大気が別世界のように白く凍えだす。やがて空中にいくつもの尖った蒼銀の氷刃が生成されていき、それが万遍なく漂った瞬間、遠くにいる友希那でさえよろけてしまうような凄まじい竜巻が氷刃を巻き込みながら黒竜を襲う。

 

 そして時間が経てば経つほど、荒れ狂う竜巻に含まれる氷刃が竜燐を切り刻む、恐ろしい魔法になっている。

 

 さらに友希那の歌唱によるバフでさらに磨きがかかった燐子の魔法は、対象を瀕死にする……はずだったが。

 

 

 

 「グルアアアァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 しかし今、戦っているのは竜種の中でも最上級クラスの強さを誇る邪竜ファブニール。その強靭な竜燐は大して損害が見当たらなかった。

 

 

 「ええええ!! りんりんのあの魔法でも効いてないの!?」

 

 「あんな凄そうなのでダメなら、どうしようもないよね~」

 

 

 回復が終わり、燐子の元へ集まったあこ達が残念な結果に落胆する。

 

 

 「燐子、どうする??」

 

 「えーと、えーと、そうですね、ちょっと考えさせください(_ _)」

 

 

 最初は誰かを囮役にし黒竜をおびき寄せ、その間に他のメンバーが宝箱から転移。という作戦を考えたのだが、それだと最後の一人が犠牲になる。さらには挑発の役割を持つタンクの紗夜がいないため難しいということで却下。

 

 ならいっそのこと倒してしまおうと最終的に考え付いて実行した結果……今の状況になってしまった。

 

 

 「どうしよう……(-_-)」

 

 「りんりん、もうこのクエスト諦めたほうがいいかもしれないね」

 

 

 もう逃げようと、あこが諦めかけたその時、リサと友希那は黒竜の異変に気が付く。

 

 

 「あー、ていうか、さっきからドラゴンさん何もしてこないけど、どうしたの?」

 

 「息を吸って何か溜めているように見えるわね」

 

 

 燐子は自身の失態を自覚する。あまりに考え事に集中したせいで黒竜の動向から意識が離れていたと。

 

 

 「えっ、それってまさか……っ!」

 

 

 そして竜が息をため込んだ後にする行動は、ゲーマーなら誰しも理解していた。

 

 

 「りんりん危ない!!」

 

 

 すぐに身体を動かせなかった燐子にあこが体当たりする。

 

 

 その瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの咆哮と同時に、先ほどまで燐子がいた場所は黒竜の口から放たれた豪炎で埋め付くされていた。

 

 

 「きゃっ……あ、あ、あこちゃーーーん!!!!」

 

 

 

 黒竜の咆哮(ブレス)が収まる。急いで燐子が、豪炎に焼かれた跡地に倒れているあこを確認する。しかし、もうあこが動くことはなかった。

 

 

 「他に生き残った人は……っ!」

 

 「危なかった~、もう少し横にいたらやられてたよ~」

 

 

 偶然にもなんとか助かったリサは、辺りをキョロキョロと見渡す。

 

 

 「ところで友希那は……って死んじゃってる!?」

 

 あこと同じく突っ伏せたまま動かない友希那。どうやら逃げ切れなかったようだ。

 

 

 「ねえ燐子、友希那やあこはもう生き返らないの??」

 

 「そうですね、蘇生魔法が使えるほどリサさんはレベルが高くないですし――」

 

 「蘇生魔法って……これかな?」

 

 

 「えいっ」というリサのかけ声に反応し、深緑色の淡い光が友希那を包む。凜子は驚いて思わず声が出てしまった。

 

 

 「ええ!?」

 

 「実はさ、ここに来るまでにレベルが結構上がってさー。なんか色々覚えたんだよねー」

 

 

 燐子は希望の光を見つけ、これなら何とか粘れば勝てそうっと思い、黒竜に目を向けた。

 

 

 「よし、ならリサさんはそのまま魔法を続けてください! 私は時間稼ぎをするので(`・ω・´)」

 

 

 そういって燐子は黒竜に牽制の魔法を放ちながら、時間稼ぎのため黒竜の攻撃を縦横無尽に避けて動き回る。

 

 なぜならリサの蘇生魔法は、プレイヤーを生き返らせるという強力な魔法だが、発動まで時間がかかるのが問題だからだ。

 

 燐子は竜種の攻撃パターンはある程度なら知っていた。故に黒竜の鉤爪の振り下ろしも、尻尾による範囲攻撃も、双角で地面を抉って岩を放り投げる技も、まともに当たることなく躱すことが出来た。

 

 しかし燐子に攻撃を躱され続けて学んだのか、黒竜は攻撃パターンを変更する。今までは片脚しか攻撃をしてこなかったのだが、両前足を中に浮かし始めた。

 

 「このままいけば蘇生も完了するけど……なんだろう……何をするつもり(ー ー;)」

 

 

 その直後、黒竜はそのまま両脚に全体重を乗せて地面を叩き、フロア全体に大きな地震を引き起こした。それは燐子や後ろで蘇生していたリサにも影響がおよび、リサはその効果で魔法が強制中断された。

 

  さらに、最悪な状態悪化(デバフ)があることを燐子は知る。

 

 

 「これ、スタン付与だ……(*_*)」

 

 「え、なになに、何も動けないんだけど!」

 

 

 そしてこの状況を黒竜が見逃すわけがなく、黒竜は四足のうちの後ろ二脚を軸に立ち、前足を浮かし、鉄鋼のような腹部に大きな溜めを始めた。虎視眈々と、先ほどあこ達を亡き者にした厄災を放出する準備を始めたのだ。

 

 「ああ、リサさんの方を向いてる、逃げてくださーい!!」

 

 「ええええ、どうやってーーー!!!」

 

 

 必死に燐子が叫ぶも虚しく、黒竜は破滅の咆哮(ブレス)を放出した。

 

 「きゃああああああああ!!!!」

 

 「り、リサさーーーーん!!!!」

 

 

 

 

 

 体中を覆うローブを着た少女が紅蓮の業火により焼かれていく。

 

 

 「グオォォアアアーーーーーーーー!!!!」

 

 

 黒竜は勝利の雄叫びを上げて、次なる標的に頭を向ける

 

 

 「どうしよう……このままじゃ全滅しちゃう……っ!! もう残るは私だけだ(/ _ ; )」

 

 

 凍てつく眼光を灯した黒竜が、続けて先ほどと同じ体制になり口内に溜めを始めた。

 

 

 「あれはさっきと同じ咆哮(ブレス)の前触れ! だめ、今の私は動けない(T . T)」

 

 

 先ほどのスタンからまだ回復していない燐子に向け、慈悲も容赦も持ち合わせていない黒竜は、先ほどと同じ豪炎を口から勢いよく放出する。

 

 それは万物を焼き尽くす代物で、目の前の少女などいとも簡単に滅ぼす攻撃だった。

 

 

 「いま死んじゃったらクリア報酬が手に入らないよ……。だ、だれか、だれか助けて!!」

 

 

 しかし、その声は黒竜の咆哮でかき消され、

 

 

 

 

 

 虚しくも少女は灼熱の炎に包まれる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――はずだったのだが、いつまで経っても燐子のHPが減らない。

 

 

 

 

 不思議に思った燐子は、恐る恐る顔を上げる。

 

 

 すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前には、盾を構えた少女(紗夜)が立っていた。

 

 

 

 

 「しっかりしなさい、白金さん!!!」

 

 

 

 

 







颯爽と現れる救済者ってカッコいいですよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Roseliaの日常①-4











 

 

 

 

 

 目の前には、盾を構えた少女(紗夜)が立っていた。

 

 

 

 「しっかりしなさい、白金さん!!!」

 

 

 

 「さ、紗夜さん!?∑(゚Д゚)」

 

 

 「転移したはずの紗夜が何故ここに?」 と驚きを隠せない燐子に、紗夜が理由を問われる前に次の指示をする。

 

 「早く起き上がって今井さんを蘇生させなさい!」

 

 「で、でも私は蘇生魔法を使えないんで

  ……(ー ー;)」

 

 すると、紗夜が絹で出来た小包を燐子に渡す。

 

 「あの、これは(・・?)」

 

 「転移先で手に入れたドロップアイテムです。おそらく本クエストの報酬だと思います」

 

 

 燐子が中身を確認すると、主に旅で消費しそうな数々のアイテムが入っており、その中には死亡したキャラを蘇生させるアイテムまで入っていた。

 

 

 「これって、凄い激レアの回復アイテムじゃないですか∑(゚Д゚)

これがあればリサさんを蘇生できる……っ!!」

 

 

 さっそく燐子は倒れたリサにアイテムを使用する。リサを生き返らせれば他のみんなも復活させる事が出来るからだ。

 

 

 「そういうことです。なので、白金さんは今井さんの蘇生に専念して下さい」 

 

 

 そういうと、紗夜は迷いなく黒竜の方へ走っていった。

 

 それに対して黒竜は迎え撃つべく、鉤爪で斬り裂こうと左前足を構える。

 

 当然、紗夜は初心者で、黒竜どころか竜種にも会った事があるわけなく、攻撃を簡単に防げるわけがないと燐子は思っていた。

 

 

 「危ないです紗夜さん!! いったん戻って!」

 

 

 燐子の声が届いてないのか、それとも紗夜が聞く気がないのか、真相は分からないが紗夜の足が止まることない。

 

 

 

 そしてそのまま近づいてくる少女に、黒竜が鉤爪を振り下ろし紗夜を引き裂く——

 

 

 

 「はああぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 

 

 

 

 ——ことはなかった。パリーンッという衝撃音と共に黒竜は攻撃を弾かれたからだ。

 

 

 「じゃ…ジャストガード(゚∀゚)」

 

 

 

 ここで説明を一つ。完全防御(通称"ジャストガード")とは、敵の攻撃を、自身の装備品(盾や剣)や魔法(魔法壁など)等で、ダメージ判定が起きる寸前(敵によるが約0.1秒〜0.5秒前)に防ぐ技だ。

 成功すると金属を叩いたような高い効果音が鳴り、反対に失敗すると通常のガード判定も起きずにダメージを受けてしまう。

成功した時のメリットとして

①防御力が最大値まで跳ね上がる&あらゆる弱体効果を無効化

②敵対象に一時的なスタン付与

③特定の武器による恩恵ボーナス(HP回復または状態異常回復など)

これらの効果が付与される。

 例外はあるが殆どの敵に通用するため、かなり強力なプレイヤースキルだ。

 

 

 

 勿論、強い敵になればなるほどタイミングが難しくなる。

 

 

 しかし、今回の邪竜ファブニールは難易度が高い方なので、NFO熟練者でも失敗するリスクを避け安全に通常防御に徹する人が多い。

 

 だが、紗夜は迷わずにジャストガードを狙いにいったので、燐子は挑戦したことと成功したことの両方に驚いていた。

 

 

 「お、動けるようになった! ありがとう燐子!!」

 

 

 紗夜が黒竜と奮闘しているうちに、さっそく燐子が取り掛かっていたリサの蘇生に成功する。

 

 

 「いやー、ずっとゴーストモード(死亡したプレイヤーが、生存者には不可視の幽霊状態となること)ってやつで紗夜を見てたけど……頼もしすぎない??」

 

 「はい……私も何が何やら。 とりあえず、紗夜さんがタゲ取っている内に友希那さんとあこちゃんを蘇生してあげましょう。 私はリサさんを守りながら遠くから魔法で牽制するので」

 

 

 こうして、紗夜が黒竜の攻撃を防ぎ、燐子が遠距離魔法でサポート、リサが蘇生に専念するという体制が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 しばらく戦闘が続き……

 

 

 

 

 

 

 なんと、紗夜が黒竜の攻撃を()()()()()()()()()()()に成功した頃、リサは友希那とあこの蘇生を終えた。よってRoseliaパーティは万全の態勢へ戻る。

 

 

 「紗夜さーん!! 無事に蘇生できましたー! もう下がっても大丈夫ですよー!」

 

 「正直、気づいたら幽霊になって、なにが起きたか分からなかったわ」

 

 

 あこが前線でひたすら黒竜の攻撃を防いでいる紗夜に、手を振って後退の合図をした。

 

 紗夜が来たのは予想外の出来事で、タンクとしての役割も十分すぎるほどこなしている。

 

 しかし、黒竜はそれでも勝てないと思ってしまう強さだった。離れて攻撃しようにも咆哮が飛んでくるため安全に戦闘をすることは出来ず、そもそも燐子の最上級魔法もダメージを少量しか与えられない。

 

 そして一向に宝箱の上から動こうとしないため、囮作戦も難しい。

 

 故にあこと燐子は撤退する判断をしたのだが、

 

 

 「いえ、ここで倒して前に進みましょう」

 

 

 紗夜は首を振って納得しなかった。

 

 

 「『Roseliaは頂点を目指す』

 

   湊さん、そうでしょう?」

 

 「え、ええ、そうだわ」

 

 「でしたらこんな竜ごときに負けてなんて要られません!!  私たちなら前に進めます!!!」

 

 

 なおも紗夜は語る。こんなところで止まっている場合では無いと。 

 

 Roseliaなら幾多もの壁を壊していくんだと。

 

 

 「ちょ、紗夜、落ち着いて」

 

 「そうですよー、倒す手段があるなら別ですけど……」

 

 「倒す方法ならあります」

 

 「「ええ!?」」

 

 

 あこと燐子は目を丸くして驚く。いったい何処にそんな方法があるのか。

 

 すると、紗夜は笑みを浮かべて答える、

 

 

「まず、黒竜の壁役は私がします。ある程度の攻撃ならジャストガードで防げますし、ブレスも私のスキルでヘイトを上げるので今井さんや湊さんに危険はありません。なのでお二人は回復と歌唱を常にしてもらえれば問題ないはずです。そして白金さんと宇田川さんには、ただひたすらに魔法や魔術でダメージを与えて下さい。こうすれば誰も死ぬことは無いですし、安全に黒竜を倒せます」

 

 

 作戦をドヤ顔で紗夜は語った。確かに理に適った作戦だが、考えるべき要素が2つほど抜けていることに燐子は気づく。

 

 「でも紗夜さん、もし紗夜さんがガードに失敗したらどうするんですか?」

 

 「大丈夫です、絶対にミスしません」

 

 「そ、それにダメージも私とあこちゃんの攻撃では全然通らなくて倒せないはずです(ー ー;)」

 

 「全然通らないのは分かります。しかし、()()()()()()()()()()()()でしょう??」

 

 さも当然のように紗夜は答えた。少しでも与え続ければいつかは倒せるだろうと。そこに紗夜のミスや討伐時間は考えられていないが。

 

 「では、もう質問は無いですね。

 

  それでは行きますよ!!!

 

 昨晩、何百回も映像を見て勉強したことを無駄にはさせません!!!

 

  私たちRoseliaの力を見せつけてやるのです!!! 」

 

 「ええ、Roseliaは頂点を目指すバンド。負けてられないわ」

 

 「何だか分からないけど頑張るよー!!」

 

 「皆んなヤル気じゃーん!!わーん!!りんりーん!! いったい何回攻撃したら終わるのかなー!!!」

 

 「もう、考えたら負けな気がするよ……( ̄ー ̄ ) 」

 

 

 こうして、Roseliaの地道で無謀な黒竜討伐作戦が行われた。

 

 

 

 

 

 

 そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 討伐開始から約2時間と30分が経った頃……

 

 

 

 

 

 

 

 友希那が57回歌い、

 

 

 

 

 

 

 リサは83回のヒール、

 

 

 

 

 

 

 あこが93回も炎を放ち、

 

 

 

 

 

 燐子が124回の氷魔法を唱え、

 

 

 

 

 

 

 紗夜が2()3()4()()()()()()()()()()()()()()()時、

 

 

 

 

 

 

 

 とうとう黒竜は地にひれ伏し、目から光を失った。

 

 

 

 

 

 この時、Roseliaメンバーは揃って同じ感想を浮かべる。

 

 

 

 (((( もう、しばらくゲームは辞めようかな ))))

 

 

 

 

 しかし、ただ1人、紗夜だけは静かにガッツポーズをしていた。

 

 

 

 「……っよし」

 

 

 

 

 

 

 

 

--ログアウト後---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「紗夜さーーん!!! なんであんなに強くなってるんですかー!?」

 

 「そうですよ!! 私もビックリしたんですよ!!?? 」

 

 

 黒竜を倒し、宝箱から転移して報酬を受け取った後、もう遊ぶ気にならず自然とログアウトする空気になり、みな徐々にゲームから離脱していった。

 

 そしてしばらく休憩した後、お店の前に集合する流れになり今に至る。

 

 

 「た、たまたま上手く出来ただけです」

 

 「「たまたまであんなにガード成功しないでしょう!?」」

 

 

 あこと燐子はゲーム中の出来事が未だに信じられず、落ち着きを取り戻せない様子だ。

 

 それに対し紗夜は動揺を隠せず、目を合わせないで前髪をイジりながら話す。

 

 心なしか耳も赤い。

 

 

 「まぁまぁ、燐子達も落ち着いて。紗夜は私たちのために必死に勉強してくれたんでしょ?」

 

 「そ、そんなこと――」

 

 「紗夜、今更隠しても仕方ないわ」

 

 「うぅ、は、はい……」

 

 

 

こうして、紗夜は洗いざらいに今日までの経緯を話した。

 

 

 

 初めは燐子達の足を引っ張りたくないから軽く実況動画を観はじめたこと、徐々にハマって実際にプレイしていたこと、上手くガード出来ると周りのプレイヤーから讃えられ嬉しかったこと、ゲームのしすぎで寝不足になってたことなどなど。ひと昔の紗夜からしたら考えられないことだらけだった。

 

 

 「まさか紗夜さんが……」

 

 「び、びっくりですね……」

 

 

 まさにゲーム沼に浸かる定番の流れだった。それを1番ゲームからイメージが遠い人物の話しているので、燐子達はなおさら驚いている。

 

 

 「あはは、私は紗夜の意外な一面が知れて嬉しいかも」

 

 「Roseliaだけではなくゲームでも頂点を目指していたのね」

 

 「ち、違います!! いや違わないですけど!  ほ、本当に初めは軽くプレイするだけだったんですよ?  でもだんだん楽しくなってしまって……その分ギターの練習も増やしていたのですが」

 

 「なるほどね〜、だから最近は目にクマが出来てたのね」

 

 「しっかりギターの練習もするのが紗夜らしいわね」

 

 

 そこで燐子が頭に引っかかっていた何かを思い出す。

 

 

 「あ、そっか。 全てを防ぐ少女(フルガードガール)って紗夜さんだったんですね!」

 

 「ふ、フルガー、なに??」

 

 「あー! 最近NFO内で話題になっていた人だね!! たしか……HPがイエローゾーンに入ったのを見たことがないっていう噂の」

 

「やめてください恥ずかしいですから!!」

 

 

 この二つ名の由来は名前の通りである。

 

 あまりに紗夜がジャストガードを決めるので、それに感嘆した周りのNFOプレイヤーが紗夜に名付けたものだ。

 

 紗夜が自らの名を名乗らない(Roseliaのみんなにバレたくないため)ので周りも自然とそう呼んでいると、いつのまにかNFO内に広まっていた。

 

 

 「あれは周りが勝手に呼んでいた名前で、私は関係ありません」

 

 

 「またまたー、そんなこと言ってから。本当は嬉しかったんじゃないの??」

 

 「い、今井さん怒りますよ!?」

 

 

 リサがニヤニヤしながら紗夜をイジる。普段は怒られたりする側なので、滅多にない機会を目一杯楽しんでいた。

 

 

 「はぁ、まったく……。まぁ何はともあれ、無事にクリアできて良かったです」

 

 「そうですね。ほんとによかったです」

 

 「うんうん、クリア報酬も手に入ったし、めーっちゃ楽しかった!!」

 

 「そうだね、私も楽しかったよー! またみんなでしたいね!」

 

 「ええ、たまには悪くないわね」

 

 最後にはトラブルが起きてしまったが、みんなゲームを楽しむことが出来たようだ。

 

 

 「けれど、ゲームはほどほどにね、紗夜」

 

 「湊さん、さすがに私も、夜更かししてゲームする危険性を学びましたから大丈夫です」

 

 

 そこはさすがと言うべきか。犯した失敗は修正を行い、しっかり自分のペースは守る。ギターでも日常生活でも真面目な紗夜らしい改善だ。

 

 

 「えー、楽しみだったのに、フルガードガールさんが活躍するの」

 

 「い、今井さん!?」

 

 「またお願いしますね、フルガードガールさん」

 

 「出会うのを楽しみにしてます!! 全てを守る少女さんに!」

 

 

 「くっ…!!

 

も、もう二度としません!!!!!!」

 

 

 

 ここから3日間ほど、紗夜は友希那としか口を開かなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 ロゼリア第一章完結


次はハロハピの日常を書きたい……

近いうちに書きたいとは思っています…

よろしければ評価お願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Poppin'Partyの日常①-1

 とある平日の話。

 先日に行われたテストの返却をされた香澄は、数学の点数が悪かったと落ち込む。

 どうしても上手くいかず、誰かに教えてもらわないといけないと思い、身近で頭が良い人を頼る事にした。

 そして放課後。チャイムが鳴ると同時に、香澄は教室を飛び出した。
 
 (全2話で完結)





 

 

 

 

 

「有咲ぁ〜!!数学おしえてぇぇぇ!!」

 

 

 時刻は夕日が差し込む放課後。

 

 帰ってテスト勉強でもするか、そう思って立ち上がった有咲の元に、隣のクラスから駆け出した香澄が飛びついた。

 

 

「ちょ、なんだよいきなり!やめろぉぉ!!」

 

 

 有咲が鬱蒼しそうに言う。

 

 

「香澄、数学のテストが悪かったんだって」

 

「それでね、香澄ちゃん、どうしても出来ないって、ずっと落ち込んでて」

 

 

 同じく隣のクラスから遅れて来た()()()()が、今の香澄の心境を伝えた。

 

 さらに後から続いて沙綾が来て、二人の言葉に付け足す。

 

 

「香澄、有咲に教えてもらわないと絶対に出来ないって言いだしてね」

 

「なんで私なんだよ、他にも頭が良い人なんていくらでもいるだろ?」

 

「有咲じゃないと無理だよぉぉぉ」

 

 

 そう言う香澄は今にも泣きそうだった。

 

 

「はぁ……ったく、仕方ねぇな〜」

 

「そう、嬉しそうに呟く有咲であった」

 

「なっ!べ、別に嬉しくねえ!!」

 

 

 恥ずかしいのか、顔を赤らめながら有咲が()()に叫んだ。

 

 

「はいはい、有咲が嬉しいのは分かったから。それで、どうしようか?皆んなで勉強する??」

 

 

 ニヤニヤしながら沙綾が次の提案をした。普段なら何も言わずこのまま楽しく見るのだが、今はテスト期間だ。勉強をしないといけないし、誰かが話を切り出さないと展開が進まないと思ったのだろう。

 

 

「だから別に嬉し——」

 

「うん!ここで勉強しよ!!じゃないと私、家に帰っても絶対に寝ちゃうもん!!」

 

 

 そう香澄が自信げに宣言する。

 

 

「あのね香澄ちゃん、そこは自信もったらいけないと思うな……」

 

「それが香澄だからね。仕方ないよ」

 

 

 苦笑いしながら言う()()()()が答えた。

 

 

 

 こうしてpoppin’party一同は勉強を始めることになった。

 

 

 

 

 

「で、香澄は具体的に何が分からないんだ??」

 

 

 香澄の分からない所が分からないと、教える側も何を教えたらいいのか分からないしな、と有咲は考えながら質問した。

 

 

「え〜とねぇ……xとかyとか見てると頭がグルグルして何も考えれなくなっちゃうの」

 

「おま、そこからかよ……はぁ」

 

 

 真剣に考えた自分がバカだったと思う有咲であった。

 

 

「それじゃあ、どの計算式も出来ないのが納得いくね」

 

「あはは……香澄ちゃんらしいね」

 

「おたえ、りみ、そこは納得しちゃダメだよ……」

 

 

 私も人のこと言えないけど、と沙綾は思う。

 

 

「ん〜、じゃあ記号を見てダメになるなら、その記号を何かに置き換えたらどうだ??やってることは変わんないはずだし」

 

 

 香澄の発言に、しばらく頭を悩まされていた有咲が提案した。

 

 

「「「えぇ!?」」」

 

 

 有咲、これを解決しようと真剣に考えたんだ。と三人は心の中だけでは驚きを隠せず、声に出してしまった。

 

 

「置き換える……?例えばどうするの??」

 

「そうだな……例えばxとかを香澄の好きな物に置き換えるんだよ。星とかさ、いろいろあんだろ?」

 

「ならドキドキ!!」

 

「なんでだよ!!そこは物にしろよ!!!好きな『物』って言ったろ!?」

 

 

 即答して答えた香澄に、有咲がツッコんだ。

 

 

「おもしろーい。2人とも、漫才してるみたい」

 

「おたえちゃん、有咲ちゃんは真剣に教えてるんだよ……」

 

「あっはっは!本当に2人は見てて飽きないよねぇ」

 

「のんびり見てないで、お前ら三人も少しは考えてくれよ!!」

 

 

 完全に蚊帳の外の気分だった三人に有咲が助けを求めた。

 

 

 

 

「なら有咲が言った通り星にする!」

 

 

 しばらく悩んだ香澄がそう答えた。

 

 そこから考えてどうするんだよ、と有咲は他にもいろいろ思ったが話を次に進めることする。

 

「よし、決めたな。なら超簡単な問題から出すぞ。そうだなぁ……。(x+5)²の展開式は何だ??このxを星に置き換えて解いてみ」

 

 

 さすがの香澄でも、これくらいの問題なら解けるだろうと有咲は思った。

 

 しばらくして、有咲に問題を出されて悩んでいた香澄が答える。

 

 

「え〜と、xを星に置き換えるから……(星+5)²!!分かった!!分かったよ有咲!!やっぱり有咲は凄い!!」

 

「ちげーよ!!!置き換えただけじゃねえか!そうじゃねぇ!!!」

 

 

 もうこれ無理なんじゃね??と有咲は諦めかけていた。

 

 

「香澄、そこから星を使って解いていこう」

 

「香澄ちゃん、一緒に頑張ろう」

 

 

 この一部始終を見て、有咲だけでは大変だと思った()()()()が手助けをした。そして2人と同じ事を思った沙綾も、2人に続いてアドバイスを言った。

 

 

「香澄、そこはa²+2ab+b²の公式を当てはめるといいよ。そうしたら上手く展開が出来ると思うな」

 

 

 そうして香澄が、また考え始めて答えた。

 

 

 

 









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Poppin'Partyの日常①-2








 

 

 

そうして、しばらく考えていた香澄が答えた。

 

 

「ならxの代わりに星を使うから……星²+10星……星²かぁ。ねぇおたえ、星²って何個くらい星があるのかな??キラキラドキドキするくらいあるかな!!」

 

「私も分かんないけど、すっごい沢山ありそう。なんか神秘的な気がする」

 

 

 物の見事に2人は問題の話から脱線していった。

 

 

「そうだな、星に置き換えさせた私が悪かったよ……」

 

 

 額に手を当てながら、有咲は遠い目をして呟いた。

 

 すかさず沙綾がフォローする。

 

 

「わ、私は有咲の提案は良かったと思うな!!香澄も惜しいところまで解いてたし!……ただ、星だと、ね」

 

 

 そこで何かを思い付いたのか、りみが皆んなに提案をする。

 

 

「あのね皆んな、星だと香澄ちゃんが色々と別のこと考えちゃうんだよね。な、なら代わりにチョココロネに、置き換えたらどうかな??」

 

 

 それって星と例え方があまり変わらないのでは、っと有咲は思うが、せっかくの()()の提案なので受け入れる事にした。

 

「だったらチョココロネ²!!なにか進化したチョココロネみたいだね」

 

「うん、頭の良いチョココロネな気がする」

 

 

 もはや香澄と()()は式を解く気はないらしい。

 

 

「私もね、考えてたんだ。チョココロネ²てなんだろうって。チョココロネがいっぱいなのかな?何か美味しくなったのかな?って。どっちにしてもね、私は嬉しいな」

 

 

 りみにとってチョココロネとは、真剣に考えるべき大切な存在だというのが分かる言葉であった。

 

 

「それってもう数学とは別の問題じゃないか……」

 

 

 そう静かに有咲は呟いた。

 

 しかし()()は、自分も何かに例えたいと思ったらしく。

 

 

「なら、オッちゃん(うさぎ)に例えてみようよ」

 

 

 たえの一言で、もう初めの目的から離れた会話になっていった。

 

 

「オッちゃんかぁ……。オッちゃん²って何か面白い!!」

 

「オッちゃんがいっぱいいるのかな??」

 

「オッちゃんなら沢山いても嬉しいな」

 

 香澄と()()()()は勉強を忘れて会話を楽しんでいた。

 

 

「ねぇおたえ、1/2オッちゃんだったらどうなるの??」

 

「それはね、香澄。1/2だからオッちゃんが半分だよ」

 

 

また別の疑問を持った香澄がさらに問う。

 

 

「オッちゃんが半分ってことは、小ちゃいオッちゃんなの?」

 

「んーん、違うよ。オッちゃんを頭から半分にし

 

「おたえやめろおぉぉ!!!」

「おたえやめてぇぇぇ!!!」

 

 

 これ以上は絶対にヤバイと感じた有咲と沙綾は()()の話を遮った。

 

 

「な、なら、有咲は何に例えたりするの!?分かりやすい例があるなら香澄も解きやすいかなぁって、あはは」

 

 

 このままでは例え話の話題で盛り上がって一日が終わってしまう、そう思った沙綾は、この話を始めた有咲に勉強を進めるための話を振った。

 

 

「わ、私?そうだな……。盆栽とかかな」

 

 

 有咲は身近で例える物がこれくらいしか思い付かなかった。

 

 

「なら盆栽²だね!盆栽をたくさんにしたり、半分にしたりするのかな!」

 

「だめだ香澄、盆栽は粗末に扱えない」

 

 

 なにせ有咲は、毎日欠かさず手入れや水やりをするほど盆栽を大切にしているからだ。

 

 

「トネガワ2号はだめ?」

 

「だめだ」

 

「ならシナノもイシカリも?」

 

「だめだって言ってんだろ!?」

 

「え〜、有咲のケチ〜」

 

 

 断固として首を縦に振らない有咲に、香澄は残念そうに言った。

 

 

「それにしても、香澄は有咲の盆栽に詳しいんだね〜」

 

 

 沙彩は少し不思議に思ったため、香澄に聞いてみた。

 

 基本的に有咲は盆栽の話をあまりしないし、自分達も盆栽には興味が無いので知ることが無かったからだ。

 

 

「それはね〜、この前、有咲の家で2人でお泊まり会したんだ!!」

 

 

 満面の笑みで、とても嬉しそうに香澄は言った。

 

 

「それでね、有咲とお話しを沢山してね!!盆栽の事とか、ポピパの事とか、学校の事とか!!」

 

 

 よほど有咲とのお泊まり会が楽しかったのか、香澄は口が止まらなかった。

 

 

「香澄ちゃん、良かったね」

 

「香澄、とても楽しそう。今度は私も誘ってよ」

 

 

 ()()()()は、楽しそうな香澄を見ていると自分達まで嬉しくなった。

 

 

「へぇ〜、良かったね、香澄。有咲も、ね??」

 

 

 そう意味深な笑みを浮かべて沙綾は有咲を見ながら言った。

 

 

「べ、別に嬉しくなんかねぇ!!仕方なくだな、香澄が言うから」

 

 

 そう有咲が目を逸らしながら言うが。

 

 

「えぇ〜。有咲、楽しくなかったの??そっか……ごめんね」

 

 そう言う香澄は、先ほどの楽しそうな顔が嘘のように今はとても悲しそうだった。

 

 

「い、いや、ちが、そのだな、う、嬉しかったよ私も……」

 

「だよね〜!!だって、有咲はね、私が寝る前に『私な、香澄やポピパの皆んなのお陰で毎日が楽しいんだ。今までは退屈で仕方がなかったのに……。ありがとう香澄。私を外の世界に連れて行ってくれて』って言ってくれたんだもん!私めちゃくちゃ嬉しかったんだから!!」

 

「ちょま、起きてたのかよ!!てか言うなよ!!!」

 

 

 かなり恥ずかしい事を言ってしまった香澄を有咲が止めるも時は既に遅し。そして有咲は言ったこと自体は()()()()()()()()事に気が付いた。

 

 

「あ、違うぞ、これは香澄が勝手に言い出してだな」

 

 

 必死に反論するも意味は無かった。香澄が嬉しかった事や楽しかった事を正直に言うことを皆んなは知っていたからだ。そしてなにより、あんな笑みを浮かべて話していた香澄が嘘を付いているはずがないと、誰が見ても一目瞭然だった。

 

 

「有咲ちゃん、そんな事を思ってくれたんだ……ありがとう」

 

「有咲、私も有咲のお陰で毎日が楽しいよ、ありがと」

 

「私も有咲に感謝しているよ。ありがとうね」

 

 

 ここぞと言わんばかりに三人が有咲に感謝を述べた。別に嘘は付いていないし、普段は滅多に素直にならない有咲が気持ちを伝えた(香澄によって強制的だが)ので自分も伝えようと思ったのだろう。

 

そして、皆んなに素直な気持ちを言ったり、または自分の事を褒められたり感謝されたりする事に免疫がまったく無い有咲は、既に沸点を超えていた。

 

 

「うぅ〜!!あーー!!!もう絶対に勉強なんて教えてやんねぇ!!!!もう嫌!!帰る!!!」

 

 

「あー!!ごめんって有咲ぁ!!許してぇ!!!数学の続き教えてよぉ!!」

 

 

 教室の扉を開けて出て行こうとした有咲に、香澄がしがみつきながら言った。顔が真っ赤な有咲が意地でも帰ろうと香澄を引きずり、香澄は有咲に帰られたら困るので必死に抵抗をする。そして、()()()()と沙綾は、その光景を見て楽しそうに笑う。

 

 その5人の声は、下校時間になるまで静まることは無かった。

 

 

 

 

 Poppin'Partyの楽しい日常のうち、とあるテスト返しの日に起きたであろう、1つの出来事である。

 

 

 

 

 





 ポピパ第一章完結

 次はまだ未定ですが、Afterglowの話でも近いうちに書きたいなと。
 その時にまた読んでくれたら幸いです。

 良ければ評価お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aftergrlowの日常①ー1

 


 とある休日の話。

 羽丘女子学園の学生である青葉モカは、ふらっと寄った商店街で大好きな山吹ベーカリーのパンを買って上機嫌だった。

 しかし、家に帰る途中で蘭が知らない男と一緒に歩く姿を目撃してしまう。

 なにか事件の香りがする。そう感じたモカは蘭の尾行を開始することに……

 
 
 (全話3完結)

 



 

 

 

 

 

 

 「ありがとうございましたー!! また来てね、モカ」

 

 

元気な店員さん『山吹沙彩』がいるパン屋『山吹ベーカリー』から出てきたのは、誰が見ても上機嫌だと分かる緩い顔をした銀髪の少女だった。

 

 

「ふっふっふー、モカちゃんは今、最高に気分が良いのでーす」

 

 

大好きなパンを買えて嬉しそうなその少女――青葉モカはスキップしたくなる気分で山吹ベーカリーを出た。

 

 

「えー、どれから食べようかなー。これかなー、それともこっちかなー、うーん……決めた! これにし……ん?」

 

 

店から出て見つけたのは、髪に赤いメッシュを入れた特徴的な少女だ。そんな人、ここらでは1人しか思いつかない。そう、彼女はモカの幼馴染であり、同じガールズバンドのメンバー「美竹 蘭」その人だった。

 

彼女はギターを背負ったいつも通りの格好なのだが……いつも通りではない所もあった。

 

 

「隣に…男の人がいる……だれだー??」

 

 

 蘭とは昔からの付き合いだ。故に彼女に関係する男の人達――ましては一緒に出かけるような男の人なら、モカだとある程度知っているはずなのだが、

 

 

 「あの人は……モカちゃんの知らない人だー!!」

 

 

 モカは非常にマイペースであり、並大抵の事では驚かない。しかし今の目の前の状況は、その並大抵の事ではなかった。

 

 

 「蘭が、モカちゃんの知らない男の人と一緒に歩いている。それだけでも衝撃なのにー。今日は学校もバンド練習も休日でー、ここは街中だよねー。これは……世間で言う『デート』ってやつなのでは……!?」

 

 

 この出来事は大事件とみたモカは、蘭以外のバンドメンバー、つまりAfterglowのみんなを緊急収集することに。

 

 

「これは、事件の匂いがする。 なんてね〜」

 

 

 

 

 モカが蘭にバレないよ~うにパンを食べながら尾行していると、先ほど呼びかけたメンバーが思いのほか早く集結した。

 

 

 「ちょっとモカ!! 蘭が白馬の王子様みたいなイケメンの男の人と街中でラブラブデートしているって本当!?」

 

 

 興奮を隠しきれないでいるのは、ピンク色のゆるふわミディアムショートの持ち主だ。今日は二つに髪を纏めたツインテールにしており、先ほどまで友達と出かけていたのか、オシャレな恰好をしている。

 

 彼女の名前は上原ひまり。モカと同じクラスであり、Afterglowのベース担当である。

 

 

 「あはは……モカちゃんはそこまで言って無かったと思うな。(それに、デートっていうのも勘違いだと思うけど……念のため確認しなきゃだもんね!)」

 

 

 そのひまりを(なだ)めているのは、バンドメンバーから「つぐ」と呼ばれる人物だ。

 

 彼女の名前は羽沢つぐみ。黒髪のショートヘアーで、バンドの中で最も常識のある普通の女の子。故に努力家で前向きであり、少しのことではめげない性格だ。その前向きさはメンバーの心の支えなのだが……今回ばかりは前向きではなかった。

 

 

「いやぁ~蘭もとうとう男を作る気になったのか! 私も負けてらんないね!!」

 

 

 そうやって燃えているのは、女性にしては高身長でありスラっとしたスタイルの赤色ロングヘアーの女の子だ。赤いといっても真紅の赤ではなく、どちらかと言えば黒に近い赤だ。

 

 彼女は宇田川巴。他人を悪く言ったり、恨んだりしないさっぱりした性格。姉御肌であり、実際にお姉ちゃんである。よって、Afterglowのまとめ役だ。

 

 

 「ほほー、みんな早かったねー。せっかくの休みなのに用事なかったのー?」

 

 「私は友達と遊ぶ予定だったけど、その子が急な用事ができて遊べなくなちゃったの~。それで途方に暮れてたらモカから緊急収集が来て、しかも内容にびっくりしちゃった!! まさか蘭が、ねぇ」

 

 「私はお店の手伝いをしてたんだけど、ちょうどお昼休憩もらってたから、すぐ駆けつけて来たの!」

 

 「アタシも同じような感じで、商店街の人たちの手伝いをしていたんだけど、区切りよく終わりそうだったからさ、早くこれたんだ」

 

 

 それぞれ、ここに来るまでの経緯を言っていった。都合よくみんな時間が空いていたようだ。

 

 

 「それで、肝心の蘭はどこなんだ??」

 

 

 巴が辺り見渡しても、蘭の姿はどこにもなかったからだ。

 

 

 「そう慌てなさんなトモちーん。もうすぐ出てくるはず……。ほらー、きたきた」

 

 

 みんなが話している間に、探し人であった蘭と、モカの言っていたその謎の男性が音楽ショップから出てきた所だった。

 

 「ほ、本当に男の人と一緒に蘭ちゃんがいる……」

 

 「モカの言ってたことって本当だったんだね……」

 

 「むむー、つぐにひーちゃんも、モカちゃんのこと疑ってたのー。悲しいなー……」

 

 「そりゃ誰だって疑うさ、あんなこと言われたら。ひまりならまだしも、蘭はさすがに信じられないって」

 

 「もー! 巴!! それってどういうこと!?」

 

 

なにせ他人には猫よりも人見知りな蘭である。蘭が受け入れたことも驚きだが、男性のほうもよく蘭のぶっきらぼうに付き合おうと思ったものだ。

そして膨れているひまりをスルーして、巴は蘭達を見て言った。

 

 

 「それにしても男のほうは身長が高いなー。180cmくらいあるんじゃないか?」

 

 「私も思ったな。確かに、スタイルがいい男性だねー」

 

 

 その男性は隣に並ぶ蘭よりも頭2つ分は違っていた。

 

 

 「きゃ~!! 身長差カップルってやつ?? いいな~!」

 

 「ま、まだカップルって決まったわけじゃ――」

 

 「ああー、らんー。モカちゃんという女を差し置いて、あんな男のところに行くなんてー。ぐすん」

 

 「もー、モカちゃんまで!」

 

 「いいじゃんいいじゃん、そう考えたほうが面白そうだろ」

 

 「はぁ……。蘭ちゃん、ごめんね」

 

 

 真面目なつぐみはみんなを正そうとしたが、この盛り上がった状況ではさすがに無理だった。心なしか少しだけ楽しそうなのは、彼女も女の子だからだろうか。

 

 

 「まぁ冗談はおいといて、彼氏はさすがに違うだろ。そんなの蘭が隠すとは思え……ない…し…よな?」

 

 「巴ちゃん、最後まで自信もとうよ」

 

 

 巴はだんだん信じれなくなったのか、声が細くなっていった。そういうつぐみも蘭が隠さず言うという自信がなかったのだが。

 

 

 「モカー、蘭達は見つけた時から一緒だったのー?」

 

 「うーん、モカちゃんが蘭を見つけた時にはー。既に一緒だったかなー」

 

 「ということは、途中で二人が出会ったパターンかも!!」

 

 

 なんだか嬉しそうにひまりは言う。

 

 

 「それってー、どんな風にー?」

 

 「えーっとね、例えば……」

 

 

 

 

 

 

―――以下ひまり氏の発言を再現―――

 

 

 

 

 

 

 

 あたしの名前は美竹蘭。羽岳女子学園に通う女子高校生だ。

 

 今日はあたしのバンド「Afterglow」の練習は休みだけど、いまから一人で猛特訓して次の練習でみんなを驚かせてやるんだ。

 

 

 「いっけね、CiRCLEの予約時間に遅れる。遅刻遅刻~ 」

 

 

 食べる時間がもったいない、と思ったあたしは朝ごはんの魚を咥えて急いで家を出て走った。

 

 ……すると曲がり角の先に男性が、

 

 

 「ふぁ、ふぁうな――!!(あ、危な――!!)」

 

 

 

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aftergrlowの日常①ー2








 

 

 

 

 

―――以下ひまり氏の発言を再現―――

 

 

 

 あたしの名前は美竹蘭。羽岳女子学園に通う女子高校生だ。

 

 今日はあたしのバンド「Afterglow」の練習は休みだけど、いまから一人で猛特訓して次の練習でみんなを驚かせてやるんだ。

 

 

 「いっけね、CiRCLEの予約時間に遅れる。遅刻遅刻~」

 

 

 食べる時間がもったいない、と思ったあたしは朝ごはんの魚を咥えて急いで家を出て走った。

 

 ……すると曲がり角の先に男性が、

 

 

 「ふぁ、ふぁうな――!!(あ、危な――!!)」

 

 

 気づいた時には時既に遅し。

 

 勢いよく『ドンッ!!』とその男性とぶつかってしまった。

 

 

 「いったぁ。すみません、だ、大丈夫ですか……??」

 

 

 見上げた視線の先にいたのは、高身長でイケメンであり爽やかな男性だった。

 

 

 「すまない(キラーン)大丈夫かな、可愛らしいお嬢さん。僕は大丈夫だよ。怪我はないかい?? そんな美しい体に傷がつくなんて、神様が許しても僕は自分を許せないよ……」

 

 「あ、はい。大丈夫です。」

 

 「おお!!それは良かった! ……しかし、謝るだけでは僕の気がすまないようだ。こんな可愛らしいお嬢さんにぶつかってしまったからね(キラーン)」

 

 「は、はぁ……」

 

 「そこでだ、これから僕と楽しいデートをしないか?? もちろん、お金のことは気にしないでいいさ! 欲しい物なんでも買ってあげるとも。これは君への謝罪の意味もあるからね(キラーン)」

 

 「わーい、ありがとうございまーす。練習は明日からしよーう。」

 

  「「あははははははははは」」

 

 

 二人は楽しそうに笑いながら街中へと歩いて行った。

 

 

 

 

―――現実に帰還―――

 

 

 

 

 「んなわけないだろ!!! ただのナンパじゃんか!!」

 

 「えー、おかしいなー、ちゃんと恋の出会いを想像したつもりなんだけどなー」

 

 

 巴の勢いあるツッコミに、ひまりは少々不満げだ。

 

 

 「ねぇひまりちゃん、なんで蘭ちゃんはパンじゃなくて魚を咥えているの??」

 

 「うーん、だって蘭の家は華道の家だし……朝ごはんは和食かなって」

 

 「それで魚を咥える事は普通の女子高校生はしないと思うな……。」

 

 

 その様子は、完全に日曜のお茶の間アニメの猫であった。

 

 

 「さすがひーちゃん、少女マンガ風の展開がすきだねー」

 

 「もー!! モカまで私をバカにして―!! 私なりにいろいろ考えたんだからー!!」

 

 「「「いろいろ考えすぎ」」」

 

 

 三人の息はぴったしだ。

 

 

 「むー、ならみんなはどうやって蘭が男の人と出会ったと思うの??」

 

 先ほどから反論され続けたひまりが頬を膨らませて拗ねる。ひまりからしたら、これが真実であり、蘭の身に起きたかもしれない出会いだったらしい。

 

 すると巴が語りだした。

 

 「んー、アタシはこうだと思うな!」

 

 

 

 

―――以下巴氏の発言を再現―――

 

 

 

 

 やあ、みんな。

 

 私の名前は美竹蘭。女子高校生であり、ガールズバンドAfterglowのギター&ボーカルだ。

 

 今日は一人で自主練をするつもりだったんだけど……。

 

 

 「おい、そこの女、ちょっと面かせや。大丈夫、なーんにも抵抗しなけりゃ痛い目にはあわねえよ、ひゃっはっはっはっは!!」

 

 

 今はガラの悪いチンピラに絡まれている。道の邪魔だったので退くようにお願いしたんだけど無駄のようだ。

 

 

 「ぁあん? なに黙ってんだよ!! やんのかおら!!!」

 

 「はぁ……なに騒いでんの? うるさい。」

 

 「こ、このアマぁぁぁぁ!!」

 

 

 しかたない、さっさと済ませて練習しよう。そう思ってチンピラと向かい合ったその時――

 

 

 「そこの君!! 可愛い女の子になにしてるんだ!!」

 

 

 颯爽(さっそう)と現れたのは背の高くガタイの良い男だった。

 

 

 「あ? なんだお前。やんのかおい」

 

 「……仕方がないですね。口で利かないのなら実力行使にでるしかないですが、今は2対1ですよ。おとなしくここで引くのが良いと思いますが??」

 

 

 男は脅しをかけて穏便に解決しようとした。しかしチンピラはニヤっと笑いだす。

 

 

 「誰が、2対1だって?? なあ!! おまえら!!!」

 

 

 すると、いつのまにかチンピラの周りには10人くらいの仲間が集まっていた。

 

 

 「く……ッ!! 貴方は逃げるんだ!! ここは僕に任せていけ!!」

 

 

 その男はあたしを庇ってそんなこと言う。けれど、

 

 

 「なに勝手に話を進めてんの。あたしが逃げるんじゃなくて、あんたが逃げるんでしょ。」

 

 「なにをいって……ッ!? その赤いメッシュと背中のギターは……ま、まさか羽丘女子学園の『レッドデーモン』ですか!?」

 

 「だったら何?? どうすんの。」

 

 「ふふふ。いや、つい嬉しくて笑ってしまいました。まさかあの有名な方と共闘できるなんて!!」

 

 「……。足手まといにならないでよね」

 

 「ええ、貴方こそね!!」

 

 

 こうして、二人の共闘バトルが始まった――。

 

 

 

 

―――現実に強制帰還―――

 

 

 

 

 「ちょっとストップストップ!!! 長すぎだよ!! しかもバトルって何!?」

 

 

 このまま続くと長くなると感じたひまりが、巴の愉快な脳内再生を止める。

 

 

 「なんだよ~! ここから熱~いバトル展開があって感動の友情物語があってだな!!」

 

 「巴ちゃん、もう蘭ちゃんの真実を考えより、妄想する方が楽しくなってるよ……」

 

 「トモちんは熱くなると止まらないからねー」

 

 「いいじゃんか、こんな話があってもよー」

 

 

 そんな楽しい妄想話を進めていると、蘭達がこちらを振りむき、さらにモカ達へ向かってきた。

 

 

 「あ、やばい、皆んな隠れろ!!」

 

 「あーあー、トモちんが大きな声を出すからだよー」

 

 「いいから! 早くモカも隠れて!!」

 

 「蘭ちゃん達にバレちゃったのかな」

 

 

 急いで4人は蘭達に見つからないように物陰に隠れ、息を潜める。

 

 

 「ちょとー、狭いー、狭いってばー」

 

 「巴、も、もうちょっとそっち行けるでしょっ」

 

 「ひまり押すなって! なんか柔らかいものが…」

 

 「みんな静かにしてってば!」

 

 

 しばらくして、何とかバレずに蘭達は4人を通り過ぎた。

 

 そして4人はまた、蘭達の尾行を開始するべく隠れながら移動する。

 

 しかし、ここでつぐみが先ほど気づいた違和感を思い出す。

 

 

 「ねぇねぇ、さっき男の人をチラって見たから気づいたんだけど……」

 

 「うん、私も気づいた。あの男の人、外人さんだったね!」

 

 「なるほどなぁ、だから背が高かったのか。」

 

 

 例の男の人は目が青く鼻が高かった。それは日本人離れした姿見であり、外国人であると、つぐみとひまりは気づいたのだ。

 

 

 「あー。モカちゃん分かっちゃったー。蘭達に何が起きたのかー」

 

 「え? モカ本当?? 教えて!!」

 

 「ふっふっふー、おそらく蘭達にはこんな事があったのでーす」

 

 

 

 

―――以下モカ氏の発言を再現―――

 

 

 

 

 ハロー。わたしの名前はラン・ミタケ。

 

 普通の女子高校生だけど、今は訳あってアメリカで1人旅をしている。

 

 持ち物はギター1つだ。これでどこまでいけるのか、わたしの実力はどんなものなのか、それを知りたいから。

 

 幸いにもこの地域には、良い音楽を奏でるとチップを貰える文化があるので食っていけそうだ。

 

 

 「さてと、今日はここら辺で歌おうかな」

 

 

 さっそく歌い始めようと思い、路上ライブをする準備をしていると……

 

 

 「ハーイ、レディ。ユーがラン・ミタケかな?」

 

 

 見知らぬ男が声をかけてきた。恰好からして、わたしと同じ音楽家のように見える。

 

 

 「はい……わたしがそうですが。あの、なにか用で?」

 

 

 すると男は輝いた目で話はじめた。

 

 

 「オー!! ユーがあの!! 噂は聞いているヨ。思わず立ち留まって聞き入ってしまう女神のような声。心が躍ってしまうくらい心地よい音を出すギター。熱く燃えだしそうな情熱の宿った歌詞。それらを創りだし演奏する者だっテネ」

 

 「恐縮です。ありがとうございます」

 

 「そこでだ、ミス・ミタケ。私が世界中からメンバーを集めているバンドに入ってみる気はないかネ??」

 

 「あなたが作っているバンド?」

 

 「イエス。世界レベルで通用するメンバーを集めていてネ。あとボーカルだけなんだが……。そこにユーを迎え入れたいのダヨ!!」

 

 「あたしをですか……? それはとても嬉しいですが。」

 

 

 嬉しい気持ちは本当だ。自分の力が認められて、見てもらえて嬉しい。それに、世界で通用するようなメンバーでバンドを組んで音楽が出来るのはとても楽しそうだしワクワクしてくる。けれど――。

 

 

 「ユーなら絶対に人気になれるサ!! 私も、私の集めたメンバーが世界で輝くのが見タイ!支援も――」

 

 「すみません。誘って貰えて嬉しいですが、お断りします。」

 

 「――できる限りするし専属のコーチも……ナンダッテ? 断る、なぜかね?? お金かい?」

 

 「いえ、わたしにはもう信頼できる仲間がいるからです」

 

 

 そう、今は離れ離れになっているが、わたしにはAfterglowのみんながいる。彼女らを見捨てることは絶対にできない。

 

 

 「フム……信頼できる仲間ネ。すでに先約がいたわけダ。ハッハッハ!! これは惜しい者を逃したヨ」

 

 

 男はすんなり蘭を諦めた。かなり気前の良い人柄らしい。

 

 

 「ナラバ、今度ジャパンでユーのバンドメンバーを紹介してくれないかカ?? ユーが選んだそのバンドが気になって夜も眠れそうにないヨ!!」

 

 「はい、必ず。」

 

 

 こうして、わたしは一人の音楽プロデューサーと知り合いになった。

 

 

 

 

―――現実に帰還―――

 

 

 

 

 「うぅ……ぐすん……。いい話じゃないかぁぁぁ。蘭がアタシ達を見捨てないで信じてくれてさぁぁ!!」

 

 「えぇぇ、巴、感情移入しすぎってば。蘭が私たちを選ぶのは当然でしょ!!」

 

 「ねえ、二人とも、まずは蘭ちゃんが海外にいることに疑問もとうよ!?」

 

 あまりにかけ離れた話に、つぐみは呆れていた。

 

 

 「(それに男の人が知らない外国の方で、蘭ちゃんと一緒に歩いてて、どこかに向かってる。 なんとなく蘭ちゃんの状況がわかってきたけど……。みんな楽しそうだし、言わないほうがいいのかな)」

 

 

 そんな風に苦笑いしながらつぐみが考え事をしていると。

 

 

 「我ながら良い話ができたと思うなー……あれー?? 蘭達がどっかに入っていくよー」

 

 

 モカがそう言うのでみんなが蘭達に注目すると、確かに二人は建物の中に入っていった。しかもその建物は4人が見覚えのあるもので……。

 

 

 「CiRCLEじゃんか、なんでだ。」

 

 「あの男の人も実は音楽をしていて、蘭と一緒に練習するのかな……??」

 

 「そ、そうかもしれないね!」

 

 「モカちゃん達を捨てて二人きりで練習するんだねー……かなしいよー、らんー」

 

 

 先ほどの話の続きを思い浮かべたのか、モカが悲しそうにつぶやいていたら、巴が焦ったように言い出した。

 

 

 「そ、そんなわけあるか!! 蘭がアタシ達を見捨てて二人きりで練習……ふたりきり?? なあ、これってマズイんじゃないか??」

 

 「んー、確かに男女二人きりは怪しいけど……さすがに大丈夫だと思うよ?だってCiRCLEだし、なにか音楽のこと教えてもらうんじゃないかなー」

 

 

 変な心配している巴にひまりが反論していると――

 

 

 「きゃーーーーー!!!!!」

 

 

 

 突然、女性の大きな悲鳴がCiRCLEから聞こえた。

 

 

 

 

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aftergrlowの日常①ー3





 

 

 

 

 

 

 

 

 「きゃーーーーー!!!!!」

 

 

 突然、女性の大きな悲鳴がCiRCLEから聞こえた。

 

 

 「なんだ!? もしかして蘭が危ない!? いまいくぞ!! らーーーーーん!!!!」

 

 「ええぇ!? 優しいイケメンの男の人じゃなかったの!?」

 

 「はやく!! ひまりちゃんいくよ!!! なんだかわからないけど蘭ちゃんが危ないかも!!」

 

 「モカちゃんの蘭に何かしたら許さないぞ~、まて~」

 

 

 蘭に何かあったのかも、そう思ったメンバーの動きは早かった。助けに行くと自分たちも危なくなるかもしれないのに、そんなことを(かえり)みずにCiRCLEに走っていくのは、その絆の強さ故だろう。

 

 そして真っ先に走った巴がCiRCLEの入り口へと先について、『バン!!!』と勢いよく扉を開けた。

 

 

 「助けにきたぞ!! 蘭!!!」

 

 

 そこ待っていた光景はというと――

 

 

 

 

 「な、なにしてんの、巴」

 

 

 優雅にお茶をしている蘭、例の男の人、そしてCiRCLEのオーナーのまりなだった。

 

 

 

----------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 「驚かせてごめんね~。かなり久しぶりの再会でさ、嬉しくてつい声がでちゃったよ」

 

 そうやって、まりなはモカ達に申し訳なさそうに謝罪する。

 

 どうやら勘違いだったと気が付いた4人はホっとした。

 

 「いや~、こちらこそすみません。アタシ達の勘違いでよかったです。よくよく思えば、蘭の声と少し違うなーと思いました。アタシ達、早とちりしちゃって」

 

 

 巴は何も考えすに行動したことを反省していた。あそこで冷静に考えてみれば、勘違いしなかったと。

 

 

 「じゃあ、蘭は何でその外人さんと一緒に歩いていたの??」

 

 「確かにー、その疑惑の男の正体はなにー」

 

 

 ひまりとモカだけでなく、他の二人もずっと疑問に思っていたことを蘭に聞いた。

 

 

 「あぁ。この人は日本にまだ慣れてないから道に迷ってたんだって。だからわたしに道を尋ねてきて、ちょうど行先がわたしと同じCiRCLEだったから案内していただけ」

 

 「そのとうりデース。ギターを背負ってたからCiRCLEが分かると思っテネ。声をかけたのサ」

 

 「この方は私の留学時代の友人でね。遠い地から久しぶりに会いに来てくれたんだよ」

 

 「え~~!!運命の出会いじゃなかったの~!?」

 「えーー!!友情のバトルじゃなかったのかー!?」

 「えーー、海外の音楽プロデューサーじゃなかったんだー。」

 「ですよね~」

 

 

 蘭とその男性の出会う成り行きを聞いて、4人はそれぞれ反応を示めす。つぐみだけは予想通りだったらしい。

 

 

 「あっはっは!!なにそれ!なんでわたしが運命の出会いをしたり、友情のバトルをしたり、海外のプロデューサーと知り合いになるわけ」

 

 

 当事者の蘭はとても楽しそうだ。……自分が三人の妄想の中でどんな冒険をしたかも知らずに。

 

 

 「ハハハハ!!どうやら想像と違ったようだね。ボクも残念だヨ。でも、ひとつだけ正しいカモ。ミス.マリナ、この少女達が以前に言っていたAfterglowカナ??」

 

 

 彼は愉快にまりなへ尋ねた。

 

 

 「ええ、そうよ。彼女達がAfterglow。現在()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 まりながAfterglowを紹介する。すると突然、彼女達の雰囲気が変わった。何かを感じたのだろう。先ほどまでの和気藹々(わきあいあい)とした様子は消えて、高校生とは思えない気迫を纏っていた。

 

 

 「ふむ……。気合は十分カ。ソーリー、自己紹介が遅れたね。ボクの名前は……。いや、まず先に伝えるべきはこれカナ。ボクは()()()()()()()()()()()()()()()()()()さ」

 

 「「!?」」

 

「実は彼に貴方たちAfterglowを紹介したくて呼んだの。ちょうど一緒にいてくれて良かったわ」

 

 

 驚くべき事実を彼とまりなは言った。『いつか紹介したい人がいる』と、まりなからAfterglowは聞いていたが、まさかこの人だとは。しかも海外の音楽プロデューサーだとは彼女達は少しも思わなかった。

 

 

 「モカちゃんの言ってたこと、少しだけ当たっていたね……」

 

 「いやー、まさかのモカちゃんもビックリだよー」

 

 「だな、 そんな人をアタシ達は尾行していたのか」

 

 「もー!みんな呑気に話している場合!?」

 

 「……それで、わたし達は歌えばいいんですか?」

 

 

 (らち)が明かないと思った蘭が、驚いている皆の代わりに彼へ確信を迫った。

 

 

 「フフッ。理解が早くて助かる。イエス、ボクを呼んだに相応しい者なのか、確かめさせてもらうヨ」

 

 

 こうして彼女達は演奏するためにLIVEスペースへ移った。

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 ステージ上で彼女達Afterglowは準備を進めていた。どこか重苦しい空気が流れる中、最初に声を出したのはつぐみだった。

 

 

 「よ、よかったね、みんな。楽器をCiRCLEに置いてて!! 蘭ちゃんだけ家で調整がしたいからって持って帰ってたけど、今は手元にあるし!」

 

 「ああ!! こんなチャンス、絶対に逃すわけには行かないしな!!! これで、やっと()()の後ろに追いつける……ッ」

 

 「そうだねー。Roseliaはプロデビューしちゃったもんねー、モカちゃん達も負けてらんないよー」

 

 「ねえ!! なんでみんな普通に話せるの!? 私は緊張してヤバいよー!!」

 

 

 Afterglowが先日練習したときに、また練習する日が近いという理由で楽器はCiRCLEに置いていた。しかしそのことが幸いし、急でも演奏の準備をすることが出来たのだ。そしてモカが言った通りにR()o()s()e()l()i()a()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を果たしていた。

 

 

 「みんな緊張してるけど誤魔化しているだけだって。ひまり、落ち着いて。……いつものあれ、しなくていいの?」

 

 「あ、そうだ!!!」

 

 

 この先の人生を大きく変えるかもしれない演奏とわかっているせいか、やはり誰一人も緊張していない者はいなかった。そこで蘭は皆をいつも通りにするべく、ひまりに恒例の提案をした。

 

 

 「今日はやるよみんな!!! せーっの!!! エイッエイッオー!!!……て、誰もやってないじゃん!?」

 

 ひまりの困った声と、他のメンバーの笑声がステージに響く。この何度も見かけた光景に、不思議とみんなは落ち着きを取り戻していく。

 

 しかし、この状況で笑っているのが気に障ったのか、例の彼が口を開いた。

 

 

 「言っておくが諸君。勘違いしないでほしいガ、ボクは古き友人のまりなの紹介だからと言って、安く見るつもりはないヨ。高校生としてみるつもりもナイ。大人と同じ目で見る。ボクは満足しなければ、すぐにここを出で行く。いいカネ??」

 

 

 威圧的な発言に、彼女達はまたもや(すく)んでしまった。1人を除いて。

 

 

 「大丈夫だよみんな、『いつも通り』に行こう。」

 

 

 「……うん!!」

 「おう!!」

 「おー!!」

 「おー」

 

 

 この幾度も聞いた彼女の――蘭の言葉を聞いてAfterglowは今度こそ完全に火が付いた。

 

 

 「おぉ……これくらいでは少しの牽制にもならないカ。(すばらしい絆だ。幼いころから一緒にいると聞いたが、そのパワーは測りきれそうにないネ。さてさて、あとは実力がどれほどのものか。楽しく拝見しようではないカ)」

 

 

 どうやら彼の思惑は外れたようだったが、どこか満足していた。

 

 そんなことは知らない彼女達は、しばらくの静寂後、蘭のかけ声により演奏をスタートする。

 

 

 

 

 「それでは聞いてください。

 

     わたし達Afterglowの代表作『――」

 

 

 

――この日を境に、Afterglowが日本だけでなく、世界から大人気のガールズバンドとなる道を歩むこととなるが……それはまた、どこか別のお話で。

 

 

 

 

 

 

 





アフグロ第一章完結


次はパスパレの話だ!

良ければ評価をお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Pastel*Palettesの日常①-1

 アイドルグループであるPastel*Palettesは日頃の努力が実り、初の冠番組を持つことになった。

 Pastel*Palettesのメンバーである白鷺千聖は、何としても番組を成功させたいと思い、いつもより気合を入れて準備に励む。
 
 そしてとうとう、番組収録の当日を迎えた―― 

 (全3話)









 

 

 

 

 

 

 

「さぁ始まりました!!!パスパレのパスパレによるパスパレファンのための番組――」

 

 

司会者はここで大きな溜めを入れる。その間にカメラがPastel*Palettesの各メンバーを1人ずつ映していった。

 

しばらくしてカメラマンがOKの意思を込めたアイコンタクトを司会者に送ると、彼女は大きな声で先ほどのセリフの続きを言う。

 

 

「その名も『めちゃ×2パスパレってるッ!!』スタートです!!!」

 

 

こうして、Pastel*Palettes初となる冠番組が始まった――

 

 

 

 

 

---------------------1ヵ月前-------------------------------

 

 

 

 

 

「「「えええーー!?Pastel*Palettesの冠番組が制作決定!?!?」」」

 

 

事務所に集められた私達は、会議が始まるやいきなり番組スタッフから驚くべき事実を告げられた。

 

 

「いやー、とうとうあたし達も自分の番組を持つまでに至ったかぁ」

 

そうやって感慨に浸っているのは氷川日菜(ひかわひな)

Pastel*Palettesのギター担当である。

彼女は一度見たものは、すぐに覚えて習得する、いわゆる天才少女。私もその才能が欲しい。それがあれば台本を覚える時間を――コホンッ。失礼しました。性格は明るくさっぱりしているから、元気なアイドルとして売れている……彩ちゃんの次にね。だけど感覚型の天才である故に、人の気持ちに鈍感で相手の気持ちを汲み取るのが苦手だ。この欠点の克服は今後のパスパレの成長にも影響してくるから早く治したいものね。

 

 

 

「フヘヘ、ジブン感激っす!!まさかこんなにも早く冠番組を任せてもらえるなんて!」

 

一人称を「ジブン」と表現する少女は大和麻弥(やまとまや)。Pastel*Palettesのドラム担当。

少し……いや、かなりの機械オタクだわ。なんたって『ジブン、機材に囲まれている時が一番の幸せっす。フヘへ……』っていうほどだもの。さすがの私も少し引いた。

どこから拾ってくるのか、かなりたくさんの豆知識や雑学を持っていて『困ったときは麻弥ちゃんに聞く』が最近のパスパレでは浸透してきている。なので彩ちゃんもよく頼られている。羨ましいッ!! しかし自分の可愛さに自信がないのか、公の場では恥ずかしがり屋だ。そこがファンの中では密かに人気になっているけれど。

 

 

 

「きっと、私たちのブシドーが認められた証拠なのです!」

 

高い声と「ブシドー」が口癖の特徴的な彼女は若宮(わかみや)イヴ。彼女はPastel*Palettesのキーボード担当。

日本人の父とフィンランド人の母を持つハーフで帰国子女だ。肩書きが強すぎるわ。さらに手足が長くモデル体型――実際にモデルもしている――でスタイルがよく、パッチリ大きい目に小さく可愛い顔。こんだけ持っているなら性格くらい悪いと思うだろう。しかし神はこの子に、素直で誰でも優しいという素晴らしい性格も捧げた。正直、私はこの子に正面から勝負されたら勝てる気が一切しない……彩ちゃんなら勝てるけど。同じグループで本当に良かった。

 

 

 

「ど、どどどうしよう!!! 私、まだ心の準備ができてないよぉ~!!」

 

涙目で今にも泣きそうな彼女は天使だ。あ、見間違えた、丸山彩(まるやまあや)だわ。Pastel*Palettesのボーカルを務めている。

アイドルに憧れて芸能界入りするも、あがり症でアドリブに弱く、感情が高ぶるとついつい泣いてしまう泣き虫さんだ。そして、泣いた彼女を慰めるのが私の生きがいの1つになっている。もの凄い努力家で、諦めない心を持っている素直で眩しい子なのだが、なかなか芽が出なくて大変だった。しかし、どんなに失敗してもめげずに泥臭く頑張るその姿に、メンバー全員が心を打たれた。人生をかけて彼女を絶対にトップアイドルにさせると誓ったほどだ。故に、心を鬼にして飴と鞭と鞭と鞭の日々になっている。仕方のないことよね。

 

 

 

「みんな、喜ぶ気持ちは分かるけど、浮かれてはいけないわ。その番組を成功させて継続させていかないと意味がないのよ。喜ぶのは頑張ったその後」

 

皆に厳しい意見を言い場の空気を引き締めたのは私、白鷺千聖(しらさぎちさと)。Pastel*Palettesのベース担当よ。

私は幼い頃から子役として活躍している若手女優で、性格は……過程より結果を大事にするリアリスト、といった感じだろう。子役時代から成功する期待をかけられ続けてきたからかしら。Pastel*Palettesに加入した理由も、自分に利益がありそうと思ったからで、別にアイドルになりたいわけではなかった。しかし、パスパレで過ごしていくうちに自分が少しづつ変わっていってるのは自覚している。そして重要なのが、丸山彩に惚れていることだ。これが友情なのか尊敬なのか恋なのかなんてどうでもいいわ。とにかく彼女の夢を叶えさせて幸せにすることが私の悲願だ。

――――「丸山彩ファンクラブ」の設立者兼代表役であることは親友の花音ですら知らない。

 

 

そんなこんなで各自ロケや取材など行い、慌ただしくも番組本番の本日を迎えたのだ。

 

 

 

 

 

-----------------番組に戻る------------------------

 

 

 

 

 

司会者はカメラに向かい笑顔で告げる。

 

 

「本日はこの番組の記念すべき第一回。ということで、なんと特別に!! 生放送でお届けしまーーす!! Mytubeやワクワク動画でもライブ配信してますので、みなさん、どしどしコメント追ってくださいねーー」

 

 

この司会者が言った通りに今日は生放送だ。故に失敗は出来ない。昨日、全体のリハーサルをやった時は完璧だったので、ぶっつけ本番のコーナーだけ乗り切ればなんとかなる……はずだ。みんな、頼んだわよ。

 

 

「(千聖さんの目が怖い……。私、なにかやったかしら)コホンっ。さて、Pastel*Palettesの皆さんに挨拶をしてもらいましょう!!」

 

 

司会者から話がふられた。リハーサル通り、彩ちゃんから自己紹介を始めることになっている。

 

 

「(わ、わたしの番だっ!!落ち着いて、落ち着いて、大丈夫……。)はーい!! 皆さんこんにちはー☆まんまるお山に彩りを!! Pastel*Palettesボーカル担当、丸山彩でーす!!」

 

「こんにちはー! Pastel*Palettesのギターをやってる氷川日菜だよー! 今日はとてもルンっとしていまーす!!」

 

「はいどーも! 上から読んでも下から読んでも大和麻弥!! ドラム担当っす!」

 

「みなさんこんにちわ!! Pastel*Palettesのキーボードをしています、若宮イヴです!! 今日はよろしくお願いします!!!」

 

「こんにちわ。Pastel*Palettesのベース担当の白鷺千聖です。本日はよろしくお願いします!」

 

 

よし、約束通りだわ。彩ちゃんは噛まない。日菜ちゃんはアドリブを入れない。麻弥ちゃんはフヘへ禁止。イヴちゃんはブシドー禁止。それぞれ守れているみたいね。

 

そして司会者が話を進めた。

 

 

「みなさん、ありがとうございます!! とっても可愛いです!」

 

 

モニターでもたくさんのコメントが流れている。「イヴちゃん可愛い」「日菜ちゃん今日も元気だね~」「麻弥ちゃん最高っす」「さすが安定の千聖様だなw」「彩ちゃん噛まなかった、がんばったやん」「彩は俺の嫁」などなど。彩ちゃんはみんなのよ。あとであのコメ主はファンクラブ会員に特定させよう。

 

 

「(さらに千聖さんの目が怖くなった!? なんで!?)さ、さっそく新コーナーにいきたいと思います! 名付けて「千聖の部屋」!!」

 

 

司会者が予定通りに新コーナーに進めたわね。このコーナーはゲストをお招きして私と紅茶でも飲みながら対談する和やかなものだ。ちなみに、今回は初回ということで予めゲストに誰が来るかは知らされている。

 

司会者が話を進めている間に、私はセットアップがされている別のお部屋へと移動をしていた。

 

 

 「――というのがこのコーナーの説明です。」

 

 「うんうん、千聖ちゃんが好きそうなコーナーだよねー」

 

 「そうですねー。千聖さんはカフェでお茶が好きですから」

 

 「まさにブシドーですねっ!!」

 

 「イヴちゃん、それどういう意味……」

 

 「それでは、このコーナーは私こと白鷺千聖が司会をいたします。本日のゲストは『ハロー、ハッピーワールド!』のドラム担当で、私の親友でもある松原花音(まつばら かのん)松原花音さんにお越しいただきました!!」

 

 「こ、こんにちわ!! 松原花音です……っ!」

 

 

 彼女達「ハロー、ハッピーワールド!」は、先日TVのニュースで報道され注目を集めている。様々な病院や児童施設で、子供たちや障がい者の方、病気で苦しんでいる方などに無償で演奏をし笑顔を送っているガールズバンドとして取り上げられた。彼女達の活動は世間から称賛され、ネットでも騒がれている。特に、こころちゃんの反響は良くも悪くも凄まじい……。

 

 そんなわけで、視聴率を取りたい番組としても、親友として話すのに慣れている私としても、彼女を呼ぶことはメリットがあった。

 

 

 「花音ちゃんだ」「キターーー」「8888888」「これは予想外で嬉しい!!」「だれだ??」「いま人気の子だゾ」「ハロハピでggrks」「こマ?」「ふぇぇぇの子だwww」「かわゆい」

 

 

 コメント盛り上がってるわね、やはり呼んで正解だったわ。

 

 

 「今日はよろしくね、花音」

 

 「う、うん、私、がんばるっ」

 

 「ふふ。そんなに力まなくていいのよ。さて、初めの話題ですが――」

 

 

 私は順調に進行していく。まあ、ただいつもより言葉使いを気を付けて、花音にリラックスさせ、上手に笑いを取ればいいだけだもの。そんなに難しいことではないわ。

 

 

 「とか千聖ちゃん思ってそーだよねー」

 

 「はい、おそらく。生放送で失敗できないプレッシャーもある中でミスをせず、さらに花音さんにも気を使うのは、決して簡単ではないはずなのに」

 

 「千聖さんが培ってきた現場の経験があってこその技だと思います!」

 

 「すごいな、千聖ちゃん。私だったら絶対に噛むもん。もっと頑張らなきゃっ!!」

 

そのままコーナーはミスなく進んでいき、終盤へと差し掛かった。

 

 「――それでは最後の話題に移ります。ええっと……『みんなが知らない白鷺千聖の良いところを教えてください』だそうです。花音、教えてくれるかしら?」

 

 

 これもリハーサル通りだ。花音には事前に考えてもらっているから、すんなり話せるはず。これでこのコーナーは終わりね。案外簡単に乗り切れてホっとしたわ。

 

 

 この時、千聖は気を抜いていた。無事に終わる安心感と、親しい花音との会話で緊張が解けたのか、普段の彼女なら終わるまで決して油断はしないのに。そして千聖が緩んでいるなら、当然ながら花音は――

 

 

 「うん、わかった!(最初は緊張してたけど、なんだか楽しくなってきちゃったな。千聖ちゃんの良いところか……あれは言っていいのかな、いいよね、悪いものじゃないんだし)」

 

 

――良くも悪くも緊張が解れ、千聖から言われていた『TVの私のイメージを崩さないようにお願いね』という忠告を完全に忘れていたのだ。

 

 

 

 

 






 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Pastel*Palettesの日常①-2








 

 

 

 

 

 

――千聖から言われていた『TVの私のイメージを崩さないようにお願いね』という忠告を完全に忘れていた。

 

 

 「えーと、千聖ちゃんはね、他人にも自分にも厳しくて、周りから怖がれたりされやすいんだけど、実はとても仲間想いの強い子なんだ」

 

 「えぇ、そう……え? 花音?? 」

 

 「この前も、日菜ちゃんが気づかずに目上に人に無礼を働いていたことを、文句いいながらも謝罪しに行ったし、麻弥ちゃんが美容に関心を持つにはどうしたらいいかも一緒に考えたの」

 

 「あの、花音?? 何言って――」

 

 「イヴちゃんの好きな時代劇の俳優さんと仲良くしてサインもらおうとしたり、ダンスの振り付けがみんなとは遅れてしまった彩ちゃんのために、特訓メニューを仕事の合間を縫って作ったり。本当はね、Pastel*Palettesのみんなとも、もっとカフェとかで話したいんだよ。けど、なかなか誘えないの 」

 

 「か、花音!! それは内緒って!!! ……違うわよ。そんな話した覚えないかしら」

 

 「まだまだいっぱい良い所はあるんだよ! この前――」

 

 「以上で『千聖の部屋』を終わります!!! ありがとうございました!!!!」

 

 

 ここで千聖からの中継は切れた。パスパレのメンバーは、最後に千聖の怒鳴り声が聞こえたような気がした。

 

 

 「いま、るんってきちゃった!! 千聖ちゃんに今度お礼しとかなきゃ。それにしても、誰に無礼なんてしたんだろう」

 

 「ジブンも、もっと肌とか髪とか気にします。千聖さんのためにも」

 

 「この前もらったサインの謎が解けました!! 私も千聖さんに、もう一度ハグしてお礼をします!!」

 

 「私がスタッフさんから貰った『丸山彩特別強化メニュー』は千聖さんが作ってくれてたんだ……。うぅ、ありがとう、千聖ちゃん……!!」

 

コメントでも様々な意見が流れる。

 

 「これほんと?」「親友だ言うんだから本当だろ」「まさかのツンデレ属性」「おれ今日から千聖推し」「おれは前から推しだけど」「怖い印象なくなったわw」「花音ちゃんナイスw」

 

しばらくして千聖はスタジオに戻ってきた。耳が赤いままで。

 

「ただいま、みんな。最後の方は忘れて、いいわね?」

 

 善意とはいえ失態をした花音を叱り終えてスタジオに戻ってみると、なんだか良い雰囲気だから失敗ではなかったようね……。すごく不本意だけど。花音は『ふぇぇ、ごめんなさい!! 許して千聖ちゃ~ん!!』なんて言ってたけど、あのカフェの期間限定スペシャルパフェを奢ってくれないと許してあげないんだから。

 

 

 「(千聖さんの笑みが怖い……)さ、さあ、次のコーナーは『日本の果てまで言ってP』です!! 彩ちゃん、よろしくお願いします!!」

 

 「はーい! このコーナーでは私、丸山彩が、日本の47都道府県を巡って、全国踏破を成し遂げていくものになってます。さっそく、福お……私はどこへ行ったでしょう?? VTRどうぞー!」

 

 

 このコーナーは彩ちゃんが説明してくれた通りに、彼女が様々な地に行って観光したり歌ったり宣伝したりするものだ。スタッフが選んだ場所ではなく、彼女自身が選んだところを歩くらしい。最高だわ。家では録画済みだし、何回も見直そうっと。それはそうと、行き先地をバラそうとしたことは可愛いけど後で説教ね。

 

すると、モニター画面が先日に彩が収録したVTRに切り替わった。

 

 「みなさーん、こんちにわー! まんまるお山に彩りを! 丸山彩でーす!! 今日はなんと、福岡県へとやって来ましたー!! ぱちぱちー。天気も晴れて嬉しいです。それではさっそく、探検していきまーす!」

 

 

 さっそく、彩ちゃんが街を歩きながらコメントをしていく。有名な老舗や観光スポットなど巡っていって可愛いんだけど……ちょっと心配だわ。

 

 

 「まずは……あった!! 博多と言えば『博多とんこつラーメン』ですよね!!」

 

 

 そうね、福岡県のラーメンは有名だもの。目がキラキラして可愛いし、たまには高カロリーもいいでしょう。たまには、ね。

 

 

 「さっそく入っていきますねー、ごめんくださーい」

 

 「へい! いらっしゃい!! なんにしますかい??」

 

 「じゃあ~『大盛り濃厚とんこつチャーシュー大盛りラーメン』をください!!」

 

 

 大盛りが二回も入ってる。なんてカロリーお化けなメニューなのかしら……。

 

 

 「嬢ちゃん、可愛い顔して実は大食いってか? いいねえ、そういうの好きだぜ。麺の硬さはどうすんだい??」

 

 「いろんな種類があるんですか??」

 

 「柔らかいのから順に『ばりやわ』『やわ』『ふつう』『かた』『ばりかた』『はりがね』『粉おとし』が、うちでは基本って感じだ。せっかくなら硬いのを選んでほしいが……初めてなら、ばりかたがオススメだ」

 

 「ええ~!? そんなにあるんですか! なら、ばりかたでお願いします!」

 

 

 私も種類の多さに驚きだ。話には聞いていたけど、まさか本当だとは。しかも基本ってことは店によってはまだ上があるの……?

 ここまでくると限界がどこまで硬いのか気になるわね。

 

 

 「へいお待ち!大盛り濃厚とんこつチャーシュー大盛りラーメンのばりかただ。」

 

 「は、はやいっ。そっか、茹でる時間が短いもんね。それにしても美味しそ~う! チャーシューがたくさんで溢れそうです! もう見るだけで幸せ……。いっただきまーす!」

 

 

 聞いた話によると、普通のラーメンの麺は茹でる時間が50秒~70秒に対し、ばりかたは15秒~20秒らしいわ。なかなか早い。せっかちな人が多いのかしら。それとも単にこっちの方が美味しいのか。ぜひ食べてみたいわ。

 

 

 「ぅん~! 美味しい!! スープは名前の通り濃厚で、とんこつの香りが凄い、でもそれが食欲をそそります!チャーシューもすっごく柔らかくて、噛まなくても崩れちゃいそうです。そしてメインの麺は普段より硬いですけど、ぜんぜん合います!むしろこっちのほうがいいと感じるくらいです。細麺でスルスルいけちゃうんだけど、歯ごたえがあるからしっかり噛みしめて味を堪能できますね。私、大好きになりました!!」

 

 

 あ、あの彩ちゃんがまともにレポートできてる……!? これはグルメレポーターの素質があるかも知れない。新たな才能を発見したわ。それにしても、ほんと幸せそうに食べてる。

 

 

 「ごちそうさまでした~!! 美味しかったです! 今度はパスパレのみんなと来ます!」

 

 「あいよ、またな嬢ちゃん」

 

 

 次は何を紹介していくのかしら。さすがに食べることはもうしないだろう。毎日散々と気を付けるように言っているし……。今のところは順調だから期待してしまうわね。

 

 

 「次は福岡県の北部にある、北九州市門司区の門司港レトロ――」

 

 

 あら、さっそく見栄えの良い場所を選んでる。彩ちゃんはセンスがあるかも知れない。これは心配したことを謝らないといけないかしら。

 

 

 「――の、焼きカレーを食べたいと思います!!」

 

 

 その後も、いろんな場所を巡るのだけれど必ず何かを食べる、食べる、食べる。というか食べたいがために目的地に向かっているのは気のせいじゃないはず。

 

そして5件目のレポートを終えたところで、彩ちゃんのコーナーは終わりを迎えた。

 

 

 「以上で今回は終わりでーす! 福岡は美味しい物がたくさんあって食べてばっかでした、てへ。でもでも、みんなも見て楽しかったはず!! 次回は貴方の街に行くかもー! バイバーイ!!」

 

 

 ここでVTRは終わり、再びスタジオに戻った。そのころコメントは、

 

 

 「彩ちゃん可愛い」「グルメレポーターの才能ww」「これグルメ番組?」「悲報:千聖さんお怒り」「福岡きてのか」「次は愛媛にもきてー」「ばりすいとーよ」「最強の飯テロだな」

 

 

 まずまずの反応ね。まあ彩ちゃんが担当するコーナーだもの、何しても可愛いから失敗なんてないわ。けれど……。

 

 

 「VTRは以上でーす!! みんな、どうだったー??」

 

 「彩ちゃん食べてばっかでいいなー! あたしも探検したいー!」

 

 「ジブンは福岡県にはまだ行ったことないです。今度みなさんで行きましょう!」

 

 「麻弥さん、それいいですね! 楽しい旅行になりそうです!!」

 

 「そうだね! 次はみんなとがいいね!! 千聖ちゃんはどう思――」

 

 「いいんじゃない?? 彩ちゃんもた~くさん食べてて美味しそうだったし??」

 

 「せ、せっかく遠くの地まで行ったから、少しはいいかなーて……あはは。」

 

 「少し、ね。まあいいわ」

 

 

 ここで言うのはやめておこう。番組中に色々言うのもイメージが悪いわ。

 

 

 「またまた、千聖ちゃんも素直に彩ちゃんと旅行とか行きたいんでしょー?」

 

 「そんなこと言った覚えはないわね」

 

 「つ、次のコーナーは何かな!?」

 

 

 オドオドしている彩ちゃんが、無理やり話を進める。

 

 

 「次は日菜ちゃんお願いします!」

 

 「はいはーい、あたしのコーナーは『天才てれびちゃん』だよ!」

 

 

 実に日菜ちゃんらしいコーナーの名前だ。誰が見ても彼女がメインのコーナーだとわかるだろう。

 

 

 「えーと、今回は……おっ!! 子供たちと一緒に曲をギターで演奏するよ!!るんってきた! てことで、みんなしゅうごーう!」

 

 

 このとき、私は嫌な予感がした。確かに日菜ちゃんは演奏の技術は高いのでミスをする心配はないのだが……。

 

 そんなことを考えていると、可愛らしい子供たちがスタジオに入ってきた。見た感じ、小学生や中学生が勢ぞろいしている。

 

 その後、簡単な自己紹介と流れを説明し、さっそく日菜ちゃんと子供たちのセッションが始まった。

 

 

 「じゃあまずは簡単なのから弾いていこーう」

 

 

 歌が流れだし、日菜ちゃんを筆頭に子供たちもギターを弾いていく。

 

 

 「いいねー! 楽しくなってきたよー、みんな頑張れー!」

 

 

 その姿は微笑ましいものがあった。優雅な演奏する日菜ちゃんに、それに遅れまいと一生懸命ギターを弾く子供たち。おそらく、この日のためにたくさん練習をしたのだろう。

 

そのまま序盤は順調に進み、難しい局面へと入り始める。

 

 

 「ちょっと難しいとこになったよー。大丈夫かなー?」

 

 

 順調に進んでいると思っていたが……テンポが上がった途端、1人の女の子がミスをしてしまった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Pastel*Palettesの日常①-3








 

 

 

 

 

 

 

 そのとき、一人の女の子がミスをしてしまった。

 

 そのミスが隣の子に影響しズレが生じる。こうして全体に綻びが出来てしまった。

 

 

 「ちょっとストップー! うーん、もう一回やろっか。せーのっ」

 

 

 日菜ちゃんがもう一度やり直しをするも、やはり上手くできなかった。まずいわね……。

 

しばらくして女の子が日菜ちゃんに謝る。

 

 

 「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん……。ここがどうしても出来なくて」

 

 「そっかー。どうしてだろう……。ここは…こうして…こう…そしてこう…やってごらん?」

 

 「こうして……こう……あっ……」

 

 「違う違う、こうだよ」

 

 「ぐすん、できないよー!! うぇ~ん!!」

 

 「え? え? なんで泣いちゃうの!? もう一回がんばろ!!」

 

 

 ま、まずいわ!!恐れていたことが起きてしまった!!早く慰めないと!

 

 そう思っていると、私よりも先に彩ちゃんが日菜ちゃんとその子の元へと駆け寄った。

 

 

 「大丈夫だよ、もう一度がんばろう」

 

 「無理だよ~、何回もやったもん、ぐすん」

 

 「何回失敗しても、何回も挑戦するの。努力しないとずっと出来ないよ?? いいの?」

 

 「……嫌だ。悔しいもん」

 

 「ならまた頑張ろう? 私も失敗してばっかだけど、たくさん努力してアイドルになれたの。だから大丈夫!!」

 

 「……わかった、もう一回頑張ってみる」

 

 「うん!! えらいね!」

 

 「おー! さすが彩ちゃん、ありがとう! ならさっそく始めるよー!!」

 

 その合図と共に、途中で止まっていた音楽が流れだした。

 

 

 「大丈夫だよ!! 頑張って!!」

 

 

 彩ちゃんが応援していると、それにつられて他の子も一緒に応援を始めた。

 

 

 「だいじょうぶー!」「その調子だよ!!」「がんばれー!」「できるよー!」

 

 

 そして問題のパートに入り……。

 

 

 「こうして、こうして、こう!!!」

 

 

 その子は見事に難所を成功した。

 

 

 「で、できた!! できたよ!!!」

 

 「やるじゃん!! るんってしたよ!!」

 

 「うぅ、おめでどう!!」

 

 「あはは、なんで彩ちゃんが泣くのー」

 

 「だ、だって、嬉しくって……ぐすん」

 

 「お姉ちゃんたち、ありがとう!」

 

 「どういたしましてー!」

 

 「あたしは何もしてないよー、彩ちゃんのおかげだね」

 

 「ううん、お姉ちゃんもたくさん教えてくれてありがとう!」

 

 「そっか、私もありがとうか……嬉しいな」

 

 

 なんとか上手く纏まったようね……。よかったわ、さすが彩ちゃんね。この調子で麻弥ちゃんとイブちゃんにも頑張ってもらいましょうか。

 

 

 「さあ次のコーナーは麻弥ちゃんの――――」

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------

 

 

 

 それから麻弥ちゃんとイヴちゃんのコーナーも――いろいろあったけど――無事に終わり、番組終盤に進んだ。

 

 

 「そろそろお別れの時間となりました。最後にパスパレのメンバーから一言ずつお願いします!」

 

 「みなさん最後まで見てくださりありがとうございました!! 初めてが多くて緊張しましたが、それ以上に自分がここにいれることに嬉しかったです。また目標の人へと一歩近づいたと思います。次回もよろしくお願いします!! 丸山彩でしたー!」

 

 「氷川日菜でーす! 今日は楽しかったな! たくさんるんってしました! またよろしくねー!! ばいばーい!」

 

 「はい、大和麻弥です。本日はご視聴ありがとうございました。ジブンはまだまだ不甲斐ないところが多いですが、頑張っていこうと思います!また次回もよろしくお願いします!」

 

 「若宮イヴです! 今日はとても楽しかったです! これからも、もっと皆さんを楽しませれるように精進します!!」

 

 

 最後に私の番が回ってきた。いろいろ言いたいことはあるけれど、綺麗に締めないとね。

 

 

 「白鳥千聖です。本日は最後まで私たちに付き合ってくださり、本当にありがとうございました。初めての試みが多かったので、多少の見苦しさはあったかもしれませんが、私たちなりに頑張れたと思います。次回も楽しい企画がたくさんありますので、またご視聴していただけると幸いです」

 

 「それではまた次回でお会いしましょう!!」

 

 

 こうして、私たちPastel*Palettesの初となる冠番組が幕を閉じた。

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 「ふぅ~、やっと終わったぁ~!! 緊張したよー!」

 

 

 私たちはスタジオから去って楽屋へ行き休憩をしていた。

 

 

 「彩ちゃんの旅のやつ食べてばっかでグルメ番組みたいだったねー!」

 

 「うっ。だ、だって美味しそうだったんだもん。日菜ちゃんこそ子供たちを困らせて大変だったじゃん!!」

 

 「あれは分からなかったなー。なんで泣いちゃったんだろう」

 

 「まあまあ、みなさん結果的には無事に終えたんですから良かったじゃないですか。結果オーライです!」

 

 「そうです、終わりよければ全てよしです!!」

 

 

 確かに、番組は無事に終えれた。ネットの反応も悪くなかったけれど……。

 

 

 「そうね、確かに無事に終えれて良かったわ。どっちかというと成功なんでしょうね。みんなお疲れ様」

 

 「だよね!!千聖ちゃんもそうおも――」

 

 「けど」

 

 「え?」

 

「彩ちゃん、あのコーナーはなんだったの?? グルメレポートだって誰か一言でも言ったかしら。ましては食べてばっかりで、私はいつも食事には気を付けなさいと言ってるわよね?? 少しなら許せたのに、あれはダメだわ。これからもっと厳しくされたいようね。しかもあんな遠い地まで言っておいてPastel*Palettesの宣伝ひとつもなしってどういうこと。少しはアイドルらしく歌うなり躍るなりするべきでしょう、まったく」

 

 「ひぃ、ご、ごめんなさい!!」

 

 「ち、千聖ちゃん、彩ちゃんも自分なりに頑張ったと――」

 

 「あなたもよ、日菜ちゃん。最初こそ順調でいいと思ったのに――」

 

 

 こうして、メンバー全員に千聖様のありがた~い説教が始まった。

 

 

 

 しかし、正座をさせられたメンバーの足が痺れてきた頃に、千聖はみんなへ強い想いを言い放つ。

 

 

 「私はPastel*Palettesに入るときは自分の利益になると思ったからで、別に上を目指すつもりじゃなかったわ。けど今は違う。私はPastel*Palettesが好き。こんなとこで止まっていいなんて思わない。アイドルの頂点を目指すつもりよ。妥協なんてしないし、本気で努力するわ。だからみんなもついてきて。道筋は私が作るから、貴方たちはそれをただ全力で走ればいいの。わかった??」

 

 「千聖ちゃん……そんなに私たちのことを思ってくれたんだね。うぅ、嬉しいよぉ」

 

 「ジブンも、もっと頑張るっす!!」

 

 「私もみなさんと上を目指していきたいです!」

 

 「千聖ちゃん、変わったねー。いつからそんな正直になったっけ??」

 

 「貴方に言われたくないわ、日菜ちゃん」

 

 

 さて、そろそろ次の撮影が始まるはずね。どんなことが起きても対処してみせるわ。彩ちゃんの夢のために。Pastel*Palettesのために。

 

 

 「みんな、次の撮影場所に向かうわよ。準備はいいかしら?」

 

 

 

 

 これは、いずれトップアイドルになる彼女らの、栄光の道へと駆け出したばかりの話――――

 

 

 

 

 

 






パスパレ第一章完結


次はRoseliaです
NFOの話を予定中

良ければ評価お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハロー、ハッピーワールド!の日常①ー1

 
 「弦巻こころ」の誕生日が近づいてきた。

 こころを除いたハロハピ一同は会議で話し合い、誕生日サプライズをしてこころを喜ばせようと計画する。

 徐々に準備は進み、ついに誕生日当日を迎えた。

 いまここに、弦巻こころ嬢様誕生日パーティーが開催される!!(全三章)


 

 

 

誕生日おめでとう!!!

 

 

 

 パーンという破裂音と共に、虹色のテープが弦巻こころに降り注ぐ。

 

 初めは驚きで目を見開いたまま黙っていた()()()だが、徐々に事態を把握して顔に太陽のようなキラキラした笑顔が溢れだす。

 

 

 

「わぁ、きれいだわ! みんなありがとう!!」

 

 

 

 ここは弦巻家のとある一室。いつもは『ハロー、ハッピーワールド』の会議や曲作りのための勉強会などに使用している部屋だ。

 

 今日は来月のライブに向けて作戦会議をすると()()()に嘘の情報を伝え、先にメンバーがサプライズの準備をしていた。

 

 

 

「わーい!! サプライズ成功だね!!」

 

 

 『ハロー、ハッピーワールド』ベース担当の北沢()()()は飛び跳ねながら喜んでいた。

 

 

「ああ、こころの儚い笑顔が見れて私は嬉しい」

 

 

 

「それって、儚いの使い方が違うような……」

 

 

 

「あっはは……。 何はともあれ、成功して良かった〜」

 

 

 

 その他ハロハピ一同も気を緩めていた。特に()()()はずっとそわそわしていたので、その緊張感から解放されてホッとしているようだ。

 

 美咲も、薫と()()()を如何に抑えるか必死に立ち回ったので、いろんな意味で疲れていた。

 

 

 

「みんな、あたしのためにありがとう!! 今日が私の誕生日って覚えていたのね! とーっても嬉しいわ!」

 

 

 

 こころが嬉しそうに告げる。

 

 実のところ()()()は、今日は自分の家にみんなを招待してパーティを開こうと考えていた。誕生日は何か特別なことがしたかったし、絶対に楽しいだろうし、みんな笑顔になるに違いないと。しかし先にハロハピメンバーに祝われ、本当に予想外でかなり嬉しかった。

 

 

 

「そんなの当たり前だよ、こころん!! 忘れるわけないじゃん! 何日も前からずーっと考えて準備していたんだからね!」

 

 

 

「はぐみの言う通りさ、こころの大切な記念日を忘れるわけない。今日という日を如何にして祝うかみんなで悩んだよ」

 

 

 

 何日も前から考えていたが故に、何度も()()()にバレそうになったのは言うまでもないだろう。

 

 そしてその都度、美咲と花音がなんとかして誤魔化していた。その言葉を素直に信じる()()()の、純粋な人を疑わない心に何度も感謝しつつ、あまりの素直さに少しだけ心配にもなっていた。

 

 

 

「あのね、こころちゃん、実はまだ終わりじゃないんだ」

 

 

 

 花音が微笑ましい笑みを浮かべて述べる。既に第一段階のサプライズが成功しているので嬉しさを隠しきれないし、また喜ぶ姿を想像すると不思議と笑顔になっていた。

 

 

 

「そうだよこころ、まだサプライズは続くよ。黒服の皆さん、お願いしまーすっ」

 

 

 

 美咲のドヤ顔からの合図により、後方に待機していた黒服の人たちが機敏な動きを開始した。いつのまにか人数が倍以上になっており、それぞれが自身の役割を正確かつ迅速に実行している。

 

 

 

「こころ様、どうぞこちらへ」

 

 

 

 静かに近づいた黒服集団の中の1人が()()()を別室へと移動させた。

 

 

 

 その間、時間が経つにつれ変化していくのは『部屋』全体だった。

 

 入口の扉、やけに大きい窓、よごれ一つない壁、5人ではありあまる机、イス、もともと一般の家庭にはないあろう高級な代物だが、それぞれがより豪華な代物になっていく。

 

 どこからか購入したであろう高級だと予想される絵画など、元々無かった家具やインテリアも次々と運ばれる。

 

 

 

 気がつくと、5人が始めにいた部屋の面影は無くなり、どこかの国の貴族を招いても何ら差し支えのない豪勢な一室へと変わっていた。

 

 

 

「わぁ、すごいわ! お姫様のお部屋みたいね!」

 

 

 

 部屋の改装が完了したと同時に現れたのは……

 

 

 

 ピンクを基調とした、可愛らいしドレスを着飾った()()()だった。

 

 

 

「あの……どこの国の王女様でしょうか?」

 

 

 

「み、美咲ちゃん!? しっかりして! こころちゃんだよ!」

 

 

 

「……はっ! あまりに可愛すぎて見惚れてしまってた」

 

 

 

「ん? 変なことを言うのね、美咲。でも嬉しいわ!」

 

 

 

 こころが美咲の言動に首を傾げる。しかし美咲が口に出しただけで、他の3人も美咲と同じ感情を抱いていた。それぐらい誰がみても「美しい」「可愛い」と見惚れるほどの格好である。

 

 

 

「あぁ、()()()……素晴らしいよ。儚い」

 

 

 

「うん、すっごく可愛いよ!! 本物のお姫様みたい!」

 

 

 

「みんなありがとう! 後でみんなも着るといいわ……って、あれ、この写真って」

 

 

 

 こころが豪勢に変わった部屋を眺めていると、壁一面に貼り付けてある数々の写真に目が向く。

 

 それは、ハロー、ハッピーワールドにとって、大事な大事な思い出の1枚だった。

 

 

 

「気づいてくれたかい? これは、初めてライブをしたときの写真さ」

 

 

 

「やっぱり! この日を忘れるわけないわ。こんなに楽しくって、みんなを笑顔にした日はなかなか無いもの」

 

 

 

 そして()()()が次に目を向けたのはハロハピ島で探検をしている写真である。さらには合同ライブ、病院ライブ、遊園地のパレード、普段の日常生活などの写真も辺りの壁にたくさん飾ってあることに()()()は気がつく。

 

 

 

「これって、みんなで準備したのよね? こんな沢山の写真、集めるのにとっても大変だったんじゃない?」

 

 

「ううん、こころん。これはね、薫くんが全部用意したんだよ! こころんへの誕生日プレゼントとして!」

 

 

 

 壁一面に貼り付けられたこれら複数の写真は、全て昔からずっと薫が撮りためていた思い出コレクションだった。

 

 

 

 薫は演劇の練習のために様々な思い出を振り返り、その時の感情や表情を上手くコントロールすることで自由な演技を作り出していた。

 

 

 

 そのためハロハピとの思い出もいつでも振り返れるように撮り溜めているのだ。もちろん、練習のためだけではなく、楽しいから撮っていることも多々だが。

 

 

 

「せっかくの()()()の誕生日だからね。こころが生まれてから今日までの儚い日々を祝いつつ、これまで私たちが過ごした思い出達を振り返りたいと思ったのさ」

 

 

 

 ハロハピメンバーそれぞれが()()()の誕生日プレゼントに悩んでた時、薫は贈り物を既に決めていた。

 

 それが、このハロハピの思い出の記憶を全部振り返ることが出来る光景で、こころへの贈り物だったのだ。

 

 

 

「んー! とーっても素敵!! ありがとう薫!」

 

 

 

「どういたしまして。そんなに喜んでくれたのなら、私も用意した甲斐があるものさ」

 

 

 

「ならみんなで思い出を語りましょう! わたし1人で振り返るより、みんなと話した方が絶対に楽しいわ!! さっそくだけれど、この写真の時に──」

 

 

 

 1枚1枚、楽しく振り返りながら思い出話が弾んだ。

 

 

 

 そんな中、花音が美咲に小さな声で話しかける。

 

 

 

「こころちゃん、楽しんでくれてるね。正直、何をプレゼントしたら喜んでくれるのか分からなかったけど、みんなで一生懸命かんがえて良かったぁ~」

 

 

 

 花音の安堵した顔に、美咲も顔が緩む。

 

 

 

「うん、良かった、本当に。こころって欲しいものは何でも買ってもらえる気がするからかなり悩んだよね……。でも、私たちだけにしか渡せないプレゼント、選べた気がする」

 

 

 

 実際、弦巻家は超が3つは付く金持ちなので欲しいものが何でも手に入ることは間違いは無い。そこで美咲達はプレゼントは物に限らないで考えることにした。

 

 

 

「あのね、こころん。みんなそれぞれプレゼントを用意してあるんだよ!」

 

 

 

 はぐみが満を辞して言ったので、胸を張りドヤ顔になっている。

 

 まぁはじめに伝えているのだが。

 

 

 

「ええ、言ってたわね。楽しみだわ! はぐみは何を用意してくれたのかしら?」

 

 

 

 この()()()の言葉に、さらにドヤ顔が増す。よくぞ言ってくれたと言わんばかりに。

 

 

 

「ふふーん、実はもう渡してるよ!」

 

 

 

「ええ!? いつのまに渡したの?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハロー、ハッピーワールド!の日常①ー2

 

 

「ふふーん、実はもう渡してるよ!」

 

 

 

「ええ!? いつのまに渡したの?」

 

 

 

「今着てるこころんのドレスが、私からのプレゼントなんだっ!」

 

 

 

 デデーン! と効果音が聴こえてきそうな決め台詞である。

 

 そう、まさに今()()()が着ている可愛らしいお姫様みたいなドレスは、はぐみがデザインを提案したドレスなのだ。もちろん、お金やデザイナーは黒服の方々による手配だが。

 

 

 

「あら! それは嬉しいわ!! こんなに可愛いドレスなのに、はぐみがデザインしてくれたなんて、嬉しさ2倍どころか100倍よ!! ありがとう、はぐみぃ!」

 

 

 

 そう言いながら、こころは嬉しさのあまり、はぐみに飛び込み抱きついた。

 

 

 

「そんなに喜んでくれるなら()()()も嬉しいよ!! こころん、これからもよろしくね!」

 

 

 

「ええ! こちらこそよ、()()()!」

 

 

 

 お互いに嬉しくなり、満面の笑みを浮かべながらお礼を交わす。

 

 そんな二人に、後ろに手を回した花音が近づいて声をかける。

 

 

 

「あのね、こころちゃん。わたしからのプレゼントも受け取ってもらってもいいかな……?」

 

 

 

「もちろんよ! 花音は何をプレゼントしてくれるのか楽しみだわ」

 

 

 

「そ、そんな期待してもらっても困るけど……はい! 誕生日おめでとう!」

 

 

 

 花音が両手を前に差し出して、こころにフワフワと可愛らしく包装されたプレゼントを渡す。

 

 大きさはA4サイズくらいで、特にデカイわけではない。

 

 

 

「さっそく開けていいかしら?」

 

 

 

「う、うん。ちょっと恥ずかしいけど……」

 

 

 

 こころは花音の言葉を気にせず開け出す。包装された袋の中身は……

 

 

 

「これは……本、よね。えーっと『花咲川カフェ巡り攻略本』って書いてあるわ」

 

 

 

 そのカフェ本は一般の雑誌ほどの大きさであり、わりと分厚い。

 

 もしかして今まで行ったカフェ全てを記録しているのではないかと皆が……いや美咲だけが疑った。

 

 

 

「うん、私ってカフェ巡りが趣味だから、それを活かせたらいいなって。主に千聖ちゃんと巡った店だけど……それで見つけたオススメのお店や行き方とかまとめて本にしてみたんだ」

 

 

 

「わぁ! ありがとう花音!! たっっっくさんカフェの紹介が書いてあるわね……1日で回れる気がしないわ!」

 

 

 

「いや、こころ。なにも1日で回らなくていいから」

 

 

 

 こころは本を胸の前で抱きながら難しい顔をする。

 

 それに気がついた()()()()()()へ駆け寄り、頭に疑問符を浮かべた。

 

 

 

「こころん、何をそんなに悩んでるの?」

 

 

 

「うーん、せっかく花音からプレゼントを貰って嬉しいのだけれど、私一人で回るのは少しだけつまらないわ」

 

 

 

「あー、なるほど、そういうことかい」

 

 

 

 何かに気がついた薫が、手を顔に当て、華麗にポーズを決めながら()()()に告げる。

 

 

 

「それなら、みんなで回ろうじゃないか。その方がきっと楽しいはずさ。花音から貰った本を見ながらカフェ巡りしよう」

 

 

 

 その言葉に反応して、こころと()()()がキラキラした目で元気にはしゃぎだした。

 

 

 

「それだわ薫! そんなの楽しいに決まってるわよ!」

 

 

 

「うんうん、はぐみも賛成だよ! みーくんとかのちゃん先輩も連れてカフェ巡りの旅だね!!」

 

 

 

「あ、私も強制的に参加なのね……べつに嫌なわけじゃないけど」

 

 

 

 不満ながらも、どこか嬉しげな美咲が顔を背け応える。

 

 

 

「うん、楽しみだね」

 

 

 

 花音が優しい笑顔で応えると、こころ達3人は、これからの予定や周る店を決めるため仲良く談話を始める。

 

 

 

 そんな中、そわそわしてどこか落ち着かない美咲に花音がそっと呟く。

 

 

 

「美咲ちゃん、きっと今がチャンスだよ」

 

 

 

「わ、分かってます。うん、よし、ここで行かなきゃミッシェルに怒られる……っ!」

 

 

 

「べ、べつにミッシェルは怒らないと思うけど……」

 

 

 2人でヒソヒソ会話していると、こちらを向いた()()()が何かの意を決した美咲に声をかけた。

 

 

 

「ん? どうしたの、美咲。お腹でも痛いの?」

 

 

 

「ち、違うってば! ……あの、私からの、プレゼント、まだ、渡してなかったから……。これ……」

 

 

 

 美咲は、後ろに隠していた小包を()()()へ両手を差し出し渡す。

 

 顔を赤くしながらも真っ直ぐ目を見て渡す美咲を見て、()()()も顔を赤くしてしまう。

 

 

 

「ありがとう、美咲。開けてもいいかしら?」

 

 

 

 美咲は無言で頷く。それを肯定と受け取った()()()は、優しく、そっと、中に入っているであろう何かを間違っても傷つけないように開ける。

 

 外側の包装を取りきると、シンプルな木箱が現れた。

 

 特に鍵も付いてなさそうなので、()()()は蓋を持ち上げ中身をドキドキしながら確かめる。

 

 そこには……小さいハロハピのメンバーがいた。

 

 

 

「これは……いつも美咲が作ってるお人形さんね! とーっても可愛いわ!!」

 

 

 

 初期のバンド衣装を見に纏い、それぞれ楽器を弾いたり歌を歌いながらも笑顔で楽しそうに作ってあった。もちろん、ミッシェルもいるし美咲もいる。美咲は、楽器を弾いたり歌ってはいない。ただ眺めて微笑ましく笑っている様子だ。

 

 きっとこれは、美咲がもしハロハピの演奏を外から見る機会があれば、こうやって笑うからだ。楽器を持たせることも少しは考えたが、ハロハピの演奏中はあくまでもミッシェルであり、美咲自身ではないと考えた結果だ。

 

 

 美咲から貰って嬉しくない物は無いが、想像より遥かに嬉しい贈り物に、こころは喜びを満面の笑みとキラキラした瞳で表した。

 

 

 美咲も()()()が予想より喜んでくれたので、さらに恥ずかしくなったが、それ以上に安堵が押し寄せてきてホッと一息する。

 

 

 

「私にしか作れない物で、こころが貰ってきっと嬉しいもので、お金だけじゃ買えないものって何だろうとか色々考えた時に、私には羊毛フェルトしかないなって思って……。別に皆んなと違ってセンスある高級品でも思い出の品でも得になる物でもないけどね。うん、でも、そんなに()()()が喜んでくれるなら……本当に良かった」

 

 

 

 こころの誕生日プレゼントに、かなり悩んだことが誰でも分かるくらい美咲は報われた顔をしていた。その笑顔は、自然とハロハピの皆んなにも伝染していく。

 

 

 

 しかしながら、こころは俯いていた。

 

 そして、あろうことか否定の言葉を口に出す。

 

 

 

「違う、違うわ美咲」

 

 

 

「え、もしかして気に入らなか──」

 

 

 

「そうじゃないわ、美咲。

 

 

 これは私にとって、とーっても大切なモノよ。どんな高い宝石よりも価値があって、世界一のデザイナーが手掛けたモノよりも私の好みで、これまでの全ての思い出が詰まってるわ。だって、これを見るだけで今までハロハピで過ごしてきた出来事をぜーんぶ思い出せるもの!!」

 

 

 

 こころの否定の真意は、美咲のプレゼントに対してではなく、美咲の()()()()()()()()()()()()()()()()()()対して応じたものだった。

 

 

 

「こころ……。うん、ありがとう」

 

 

 

 美咲は()()()に普段から振り回されて、時には大変なこともあり逃げ出したくなる日もあるが、何だかんだ日常と化した目まぐるしいハプニングだらけの毎日も悪くないと思い始めていた。

 

 絶対に1人では見ることの出来なかった景色を見せてくれたハロハピのみんなに感謝しているし、特に自分の殻を壊してくれた()()()には特別感謝していたので、普段の気持ちをプレゼントに込めて返せたのは嬉しかった。

 

 

 

 そんな感じに感慨に浸っていた美咲だが、こころとの会話を聞いていた()()()と薫によって現実に戻された。

 

 

 

「いいなー、こころん、はぐみもかーくんの人形ほしいーなー!」

 

 

 

「おやおや、私の儚い人形を見せておくれ」

 

 

 

「はぁ……。はいはい、今度また別の作ってあげるから待っててね〜」

 

 

 

 みんなの注目の的となるプレゼントになっていて嬉しくて思うも、いつもと変わらない会話にやれやれと首を振って呆れる。

 

 

 

 すると、静かに後ろから黒服の人が話しかけてきた。

 

 

 

「奥沢様。無事みんなプレゼントを渡し終えたところで、記念撮影をしたいのですが」

 

 

 

「うわぁ! び、びっくりした……。ま、まぁいいですけど」

 

 

 

 美咲は黒服の人のあまりの気配の無さに驚きを隠せなかった。

 

 しかし記念撮影はしたい。また新たなハロハピの記録を残したいと考えた美咲は皆に声をかける。

 

 

 

「はーい、みんなー静かにー。いまから記念撮影するよー。はい、こころはここ。はぐみはそこ。薫さん、変なポーズ取らなくていいからあそこに行って。花音さんはそのままで」

 

 

 

「「「はーい!!」」」

 

 

 

「み、美咲ちゃんがお母さんに見えてきた……」

 

 

 

 美咲の素晴らしい指揮と通称3バカ相手の手慣れ具合に花音はただ見守ることしかできなかった。

 

 

 

「よし、後はミッ……あぁ」

 

 

 

 順調に写真撮影の準備が終わりそうだったが、そこで美咲が悲しくも当たり前の事実に気がつく。

 

 

 

「私か……ミッシェルなんだ」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハロー、ハッピーワールド!の日常①ー3

「私か……ミッシェルなんだ」

 

 

 

 ミッシェルを写すなら美咲は写らない。しかし逆もまた然り。

 

 少しだけ悩んだが、いまさらの事実に思考する理由は無かった。

 

 

 

「黒服の方、すみません。ミッシェルを取って……呼んできてもらっても大丈夫ですか?」

 

 

 

 ハロハピには美咲ではなくミッシェルが必要なのだ。ミッシェルが居なければ音楽は、バンドは、ハロハピは成立しない。

 

 

 

「み、美咲ちゃん。いいの?」

 

 

 

「ええ、大丈夫です花音さん。私は……もう十分すぎるほど幸せを貰いました。そろそろミッシェルにも楽しんでもらいたいので」

 

 

 

「……そっか、うん。ありがとう、美咲ちゃん」

 

 

 

 ハロハピの中で唯一ミッシェルの中身を知っている……というより理解している花音は、美咲のことを気にかけずにはいられなかった。

 

 それは黒服の人も同じだったが、想像とは違う言葉を美咲は聞くことになる。

 

 

 

「あの……奥沢様。私たちからのプレゼントがまだでしたね」

 

 

 

「え、どういう──」

 

 

 

 すると、扉が開くと同時に、そこに居ないはずの、いや、居てはならないピンクの生き物がいた。

 

 

 

「や、やっほ〜、ミッシェルだよ〜。みんな楽しんでるかーい」

 

 

 

「「「ミッシェル!!!」」」

 

「「ミ、ミッシェル!?!?」」

 

 

 そう、そこにはピンクのパンダ……熊……みたいなハロハピのDJ担当ミッシェルがいたのだ。

 

 

 

「わーい!! ミッシェル、来てくれたのね!!」

 

「ミッシェルが居なくちゃやっぱ100%は楽しめないよー!」

 

「ああ……これで皆んなが揃って思い出の1ページを刻める……儚い」

 

 

 

 いつも通り、この三人はミッシェルを歓迎してテンションが上がっていた。

 

 しかし美咲と花音はしばらく頭の整理が追いつかなかった。

 

 なんとか振り絞って出た言葉は、矛盾してるが矛盾していない質問だった。

 

 

 

「ミッシェルだけど、だ、誰なんですか?」

 

 

 

 ()()()が美咲の不思議な質問に目を点にする。

 

 

 

「なにいってるの、美咲? どうみてもミッシェルじゃない」

 

 

 

「いや、うん、そうなんだけどそうじゃないの」

 

 

 

「「「???」」」

 

 

 

 3バカが理解できず頭上にハテナを浮かべるが、いたって美咲は真剣だった。

 

 

 

「いやー、なにいってるの美咲ちゃん。僕はミッシェルだよ〜」

 

 

 

 そう言いつつ、ミッシェルは美咲に近づき密かに話しかける。

 

 

 

「ったく、なんて面倒な役やらせんだよ。私だよ、私」

 

 

 

 その口調には聞き覚えがあった。そう、新学年になって前の席でいつも聴いているからだ。

 

 

 

「ま、まさか……市ヶ谷、さん!?」

 

 

 

「正解、って別に隠してたわけじゃないけとな。声だしたら1発でバレると思ったのに……ミッシェルの謎技術で声まで似て笑うんだけど」

 

 

 

「ふ、ふぇ〜〜!? まさか有咲ちゃんが……なにがどうなって」

 

 

 

 花音が混乱してきたところで、黒服の人から説明が入った。

 

 

 

「実は私共、奥沢様にいつもお世話になっているので何か感謝の気持ちを伝えたいと思い……。いつか奥沢様とミッシェルが同時に居合わせないといけない状況が来た時、その不可能な共存を可能にしようと考えました」

 

 

 

「それで、私が呼ばれたってわけ。まぁ正直、奥沢さんのミッシェルと共存できない状況には同情するし、黒服の方の相談を受けて断る理由は……ありまくりだけど、まぁなんだろ、特別な人の特別な日くらい特別に楽しんでもらいたいしな」

 

 

 

「と、特別なんかじゃ……いや、ここは素直にお礼すべきか。ありがと」

 

 

 

 既に諦めていた記念撮影に映る希望を叶えることができ、とても嬉しいのだが、どこか素直に喜べない自分もいることに面倒だと自分ながら美咲は思っていた。

 

 

 

「はぁ……わかってるって。私がミッシェルになるのは一度きりで、もう二度としねぇよ。てかこちらからお断りだわ。ミッシェルは奥沢さんのモノで私のモノではない、だろ」

 

 

 

 その美咲の複雑な気持ちすら、有咲は見通していた。

 

 

 

「あー、うん、そうです。市ヶ谷さんには敵わないや」

 

 

 

「言っとくけど、これは大きな貸しだからな。いつか利子つきでキッチリ返してもらうぞ。質屋の孫娘を甘くみないことだな」

 

 

 

 なるべく早いお返しをしないと大変なことになるな、美咲は察する。

 

 

 

 しかしそれだけで従うのは面白くないと感じたのか、ついでに有咲はニヤニヤしながら一言付け足す。

 

 

 

「あー、でも弦巻さんがー、抱っこを願ったりー、抱きついてきたらー、ミッシェルを演じる上で怪しまれないようにするからー。ま、勘弁してな」

 

 

 

「え、ちょ、なに言って──」

 

 

 

 思わぬ要求に美咲が動揺していると、2人で楽しい話でもしていると思った()()()が割り込んできた。

 

 

 

「ミッシェルー、みさきー、なにコソコソ話してるのかしら? 私も混ぜてー!」

 

 

 

 こころはいつも通り、そう、いつも通り、飛びついて抱きつこうとする。それを有咲は躊躇いなく迎えようと腕を広げるが……

 

 

 

「あー! こころ! ミッシェルは今日疲れてるから飛びつくと危ないんだよ! うん! だから今日は大人しくしておこうかー!」

 

 

 

「あら、それは大変ね。ミッシェル、大丈夫?」

 

 

 

「うん、大丈夫だよー、今日は美咲ちゃんと仲良くするんだよー」

 

 

 

 美咲にはミッシェルの中でイジワルな目で笑っている有咲が簡単に想像できた。許すまじ、市ヶ谷さん。あ、でも今日は貸しがある。前言撤回だ。許すわけにはいきませんわ、市ヶ谷様。

 

 

 

「有咲ちゃ……ミッシェル、今日はありがとうね。美咲ちゃんはあんなんだけど、きっとミッシェルが思ってるより嬉しいはずだから。もちろん、私も嬉しいし、みんなも喜んでるよ」

 

 

 

 花音がミッシェルの中にいる有咲に感謝の言葉を述べる。花音としても美咲とミッシェル問題をどうにかしたいと考えていたので、それが解決できるのは大いに喜ばしいことだと思ったいた。

 

 

 

「ミッシェル今日は来てくれてありがとー! はぐみも嬉しいよー!」

 

 

 

「あぁ、私からもお礼を言おうか、ミッシェルありがとう。儚い」

 

 

 

「ミッシェルー! 元気ないなら今日は私たちが笑顔にするわ! もう私たちは十分に笑顔をもらったから!」

 

 

 

 美咲には、普段から言われ慣れないお礼の言葉を受けとって戸惑っている有咲が想像できた。

 

 

 

「ちょ、ちょま! お、お礼なんていらね……いらないよー。やめろくださいよー」

 

 

 

「はは、変な口調だねミッシェル」

 

 

 

「く……っ! い、いいから早く記念撮影しよーかー」

 

 

 

 美咲は少しだけお返しが出来てスッキリした。

 

 

 

 そうこうしていると、黒服の人が次々と準備を進め、記念撮影に入る。

 

 

 

「では皆さん、良い笑顔でお願いします。この写真は弦巻家の家宝となり、また日本中だけでなく各国の偉い方々の元へ送られますので」

 

 

 

「なんでだよ!! 規模でかすぎだろ!」

 

 

 

「ミッシェル、落ち着いて、もう撮るよ」

 

 

 

「やっぱそうなるよね、私と美咲ちゃんも最初は戸惑ったりしたんだけど、慣れちゃって」

 

 

 

「あー、はは、もうどうにでもなっていいや」

 

 

 

「よろしいでしょうか、ではいきますよ」

 

 

 

 すると、こころがみんなに声をかける。

 

 

 

「みんな、いつもの挨拶で撮るわよ!」

 

 

 

 その言葉でハロハピのメンバーは察する。そして有咲ミッシェルも流石に理解できたようだ。

 

 

 

 

 

 写真を撮るまでの間、隣にいる()()()を見て美咲は思う。

 

 

 

 

 

 こころ、改めて誕生日おめでとう。

 

 

 

 

 

 こころに出会えて、私は世界が変わったよ。

 

 

 

 

 

 凄いよ、こころは。たくさんの人を笑顔にしてる。

 

 

 

 

 

 きっと、いつか、本当に世界中を笑顔にするんだろうなと思う。

 

 

 

 

 

 今日までいろいろあったけど、いつもありがとうね。

 

 

 

 

 

 これからも、迷惑かけるかも知れないけど、

 

 

 

 

 

 こんな私を、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ハッピー、ラッキー、スマイル、イェ──イ!」」」」」

 

 




ハロハピ1章完結

次はFate×バンドリとか考えていたり。。。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誕生日シリーズ
紗夜日菜〜誕生日編〜


BanG Dream!の「もっとガルパライフ」第74、75話を元に作った話です。自分なりに解釈して書きました。
気楽に読んでいただければ幸いです。








 

 

 

 

〜紗夜〜

 

 

 

 

私達の名前が嫌いだった。

 

 

紗夜と日菜…まるで「夜」と「太陽」

 

 

「太陽」に追われて逃げ惑いながら迎える「夜」の様で、それは私達そのものだ。

 

 

私が何をやっても、必ず日菜は追って来る。

 

 

いつだって、どこだって、私は眩しい太陽と比較され続けてきた。

 

やっと見つけた、負けないと思えた、このギターですら結局、日菜は追ってきた。

 

 

たぶん、そこに悪意は無い。

 

 

いつだって私を想っていた…だからこそ眩しくて…目を背けてしまっていた。

 

 

「夜」は必ず「太陽」に追われて迎える。

 

 

そこに例外は無い。

 

 

でも……本当に日菜は追ってくる。

 

 

私が「何をしてしまっても」追ってくるのだ。

 

 

やはり、そこに例外は無かった。

 

 

私がどんなに冷たくても…それは眩しくも心地よい太陽で…私を照らしてくれた。冷たい私を暖めようとしていた。

 

 

そう気づいたのは…いつからだろうか。

 

 

 

「おねーちゃん!一緒に帰ろ!!」

 

 

 

今日もまた、私を追いかけてくる。

 

 

でも、もうその太陽から目を背けるのは辞めた。逃げるのを辞めた。

 

 

初めから、冷たい「夜」で迎えるのではなく…昼と夜の間の…少しだけど、暖かい夕方のように迎えたい。

 

 

今はまだ、ちょっと難しいけれど。

 

 

 

「誕生日おめでとう…日菜」

 

 

 

一緒に並ぶのは難しいかも知れない。

 

 

けれどいつの日か、太陽と並べる日を。

 

 

あなたを全て受け入れる日を。

 

 

「夜」は必ず「太陽」に追われて迎える。

 

だけど…

 

 

「夜」もまた「太陽」をずっと追いかけているのだ。

 

 

 

今はそう思えるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜日菜〜

 

 

 

私達の名前が好きじゃなかった。

 

 

「ひる」と「よる」は絶対に一緒に居られない。そういうことだよね?

 

 

私がどんなに追いかけても、必ず「よる」には追いつけない。

 

 

そんなのは認めたくない。

 

 

おねーちゃんが何をしても、私は置いてかれないように追いかけた。

 

 

けれど、やはり「よる」とは一緒に居られなくて。

 

 

いつも私は置いていかれる。

 

 

最近、始めたギター。

 

 

おねーちゃんが毎日弾いていて…それは楽しそうで…一緒に弾けたらどんなに楽しいか。

 

 

そう思い、始めたギター。

 

 

でもやっぱり、私は一緒に居られない。

 

 

もう何をしても無理なのかな。

 

 

「ひる」は「よる」を追いかけるだけ。

 

 

それは変わらない。

 

 

そう…思っていたけれど。

 

 

「おねーちゃん!一緒に帰ろ!!」

 

 

やっぱり私は諦めきれない。

 

 

それに「ひる」が追いかけるのを辞めたら「よる」も来ないでしょ?

 

 

そして…

 

 

「お誕生日おめでとう…日菜」

 

 

 

少しずつだけど、追いついているのを感じてるんだ。

 

 

昼と夜の間の…夕方のように…少しだけ一緒に居れてる気がする。

 

 

だったら、いつの日か、必ず。

 

 

おねーちゃんの隣に並べる日を。

 

 

だから私は絶対に諦めたりしない。

 

 

「ひる」と「よる」は一緒に居られないかも知れない。

 

 

でも、それでも…

 

 「ひる」と「よる」は、必ず繋がっているんだって。

 

 今はそう感じるんだ!

 

 

 

 






また気が向いたら続編、というより別の女の子の話、を書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

市ヶ谷有咲~誕生日編~

有咲誕生日おめでとー!!!

てなわけで記念に短編を書きました。

バンドリ!ガールズバンドパーティにて有咲の誕生日限定会話がありまして、それを自分なりに解釈と付け加えをしたものです。

気楽に読んで貰えればm(_ _)m


 

 

 

 

 

「「有咲、誕生日おめでと~!」」

 

「うわっ!! びっくりした~、なんだよ急に!」

 

 

私はCiRCLEに皆んなとバンドの練習をする予定で訪れた。

 

しかし入店すると、いきなり私はお祝いの言葉を浴びた……デカい声で。

 

 

「えへへ~、サプライズでお祝い大成功~!!はー、やっと言えたよ~」

 

「ふふ、香澄ちゃん、早く有咲ちゃんにおめでとうって言いたくてずっとそわそわしてたもんね」

 

 

香澄が嬉しさとホッとした表情が混じった顔をして、溜まった息を吐き出した。

 

りみはそんな香澄を見て微笑んでいる。事実、りみも同じようにサプライズが成功して嬉しいのだろう。

 

きっと沙彩と()()あたりが香澄を必死に我慢させたんだろうな……。

 

 

「よかった、成功して。何回もオッちゃんに練習した甲斐があったよ」

 

「いやいや、ウサギ相手に練習って意味あんのかよ!!」

 

 

おたえもサプライズが大成功したのでドヤ顔で私を見ている。ウサギ相手とはいえ私のため()()()なりに努力してくれたのかな、たぶん。

 

「有咲、かなり驚いてたね~。サプライズして良かった~!」

 

「そりゃ、いきなりあんな大きい声で祝われたらビックリするだろ……。」

 

 

驚いた私がよほどお気に召したらしく、ニヤニヤして私に話しかけてきた。

 

あれでびっくりしない人間いるのか??

 

「さっそくですが、この後は蔵に移動してもらいます!」

 

「ええ!? いまから!?」

 

 

香澄がキラキラした目で私に命令を下した。

 

わざわざ移動するなら最初かっら蔵に呼べば良かったのでは、と思うが言わないでおこう。

 

 

「有咲の誕生日パーティのために、みんなで蔵を飾り付けしたんだ。おばあちゃんにも協力してもらって!」

 

「だから最近、蔵に行こうとするとばーちゃんに止められたのか……。」

 

 

昔よりか訪れる頻度が減ったが、なにかと蔵に用があることが多いので一人でも蔵に行くとこはある。

 

しかし最近は蔵に行こうとするとおばあちゃんが止めるのだ。内装工事をするとか理由を言われてたのだが……そういうことだったのか。

 

 

「ごちそうもいっぱい用意してあるよ。早く行こ、有咲」

 

「おお、わかったって。てか絶対おたえが早く食べたいだけだろ!」

 

「あ、有咲ちゃん、あのね、おたえちゃんは食事担当で、この日のためにいろいろ用意してたんだ。だからずっと楽しみにしてたんだって。それで早く有咲ちゃんに見せたいんだと思うな」

 

 

何か私の勘違いを正そうとして、焦った()()が説明不足だった()()()の言葉に付け足した。

 

 

「そ、そっか。それは悪かった。前もって準備って……もしかして手作りとかしたのか?」

 

「いや、主に注文とおばあちゃんだよ」

 

「してねえのかよ!!!」

 

「まあまあ、とりあえず蔵に行こうよ」

 

「うんうん、楽しみ~!!」

 

「なんで私より楽しそうなんだよ!」

 

 

とにかくみんな私のためにいろいろ準備してくれたらしい。正直、この日を私も楽しみにしてた。

 

だけどその反面、祝えてもらえるのか不安だったから何も知らない態度をして今日まで過ごしてきた。

 

でもみんな私の誕生日を覚えてくれてて、実際に祝ってもらって結構……嬉しかった。だから今日は感謝の言葉を言うと決めていた。決めていたのだ。そうだろう、私。

 

今から言うのだ!!

 

 

「あ、あのな、みんな、ちょっと待ってくれ」

 

 

俯いていた私の急な呼びかけに、みんなが立ち止まる。おそらく顔は真っ赤だろう。声は少しだけ震えていたが、同時に重みも含んでいた。

 

 

「ん?どうしたの有咲??」

 

「そうだよ、はやくご飯食べ……蔵に行こう」

 

「なにか忘れ物でもしたのかな?」

 

「……有咲」

 

 

ちょ、ちょまま、やばい。めっちゃ緊張するんだが。そんなこっち見るなよ~。どうしよう、まだ今日は終わらないし後ででいいかな。そうだよ、別に今から言わなくても蔵についてからでもいいじゃん。きっとその時なら心の準備も出来ていて言えるはず。

 

 ……よし、そうしよう! それがいい!!

 

 

「あ、ごめん、やっぱ何も――――」

 

 

私がみんなの目線に耐え切れず、話を切ろうとしたその時……何かを察した沙彩がニヤニヤしながら香澄達に話した。

 

 

「みんな、有咲が何か言いたいんだって。ちゃんと聞いてあげよ。きっと()()()()()だと思うから」

 

 

その沙彩の一言で香澄達も有咲が何を言おうとしたのか察したらしい。その証拠に、みんなニヤニヤしだした。

 

 

「ん~? 有咲なに~??」

 

「有咲が言うまで待ってるね」

 

「有咲ちゃん、頑張って!」

 

 

あ~、もう! みんなしてニヤニヤしやがって~!!

 

沙彩のやつ私のほうを見てウインクまでしてくるし。あの顔は「有咲、逃がさないよ、うふふ」って意味だな。

 

もうこうなったら言うしかねぇじゃんかよ……ったく、しかたねぇな。

 

 

「あ、あのな。みんな私のために……なんつーか…………その……いつもありがとな……」

 

い、言えた!!よし!! もう終わり早く蔵に行こう……って言いたいけど。

 

 

「有咲、照れてる~!!」

 

「可愛い、有咲」

 

「有咲ちゃん、嬉しいよ」

 

「うんうん、よく言えました」

 

「う、うるせえー!! 照れてないっつうの!!!」

 

 

みんな顔のニヤけが最高潮に達している。

 

 そんなに私がお礼いうことが嬉しいのか……。これでもずいぶんマシになってると思うんだけど、少しずつ素直になっていけるよう頑張ろ。

 

そんなことを考えていると、香澄が何か面白いことを思いついた顔をした。目もキラキラしている。そして、とてつもない笑顔。

 

 ああ……これは何度も経験をした変なことを言い出す前兆だ。

 

 

 「あ、でもよく聞こえなかったから後でもう一回言ってね、有咲!」

 

 

 予想通り香澄が変なことを言い始めた。絶対聞こえてたはずなのに。

 

 そして、香澄の提案にみんなが賛成をする。

 

 

 「そうだね、私も聞こえなかったー」

 

 「え?え?……わ、わたしも!!」

 

 「だってよ、有咲。お願い!」

 

 

 みんなして私をからかいだした。そんな簡単に言ってあげるかっつうの……まあ蔵の中で嬉しいことが起きたら少し考えてあげるけど。

 

 実際、私はみんなに何回お礼を言っても感謝しきれない。でも私はそんな素直に返事をしない。まだ難易度が高いから待ってほしい。いつか、必ず言えるようになるから。

 

 だからとりあえず、私はみんなにいつも通り言葉を返す。

 

 

 「ふ、ふざけんなーー!!!」

 

 

 

 

 

 






有咲、可愛いですよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。