発明少女にとりちゃん (N-SUGAR)
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第一作 ヒッチハッカー

初投稿です。よろしくお願いします。


第一作 ヒッチハッカー

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

椛「何かつくったんですか?」

 

にとり「おっと椛か。…どうしよっかなー。教えようか教えまいか…」

 

椛「いえ、別にそこまで興味があるわけでもないので教えたくないのなら別に…」

 

にとり「これはね、ヒッチハッカーといってね」

 

椛「ああ、結局話すんですね」

 

にとり「一言で言ってしまうと他人の乗り物を奪ってしまう機械なんだ」

 

椛「また物騒なものを…。あんまり犯罪的なものは私哨戒天狗として没収しますって前に言いましたよね?」

 

にとり「待って違う!こいつはそんなに名前ほど物騒なものじゃあないんだ!」

 

椛「では具体的にはどんなものなんです?」

 

にとり「うん。まずここに一台の自転車があるよね」

 

椛「はぁ…。たまに山の麓とかに流れ着いてますけどそれ、自転車というのですか」

 

にとり「そう。こいつは外の世界の人間の乗り物なんだけど、私はよくこいつを回収してバラして色々とリサイクルしているのさ。サイクルだけに」

 

椛「は?」

 

にとり「いや、うん。なんでもない」

 

椛「はぁ…。よくわかりませんが…。それでその自転車と今回の発明品にどんな関係が?」

 

にとり「そうそう、それで私は自転車を回収するわけなんだけど、その自転車によく鍵がかかってるんだよ。…どうせバラすから別にいいんだけどさー。一々鍵を外す手間が惜しくってね。このヒッチハッカーをつくったってわけなんだよ」

 

椛「なるほど。それで、そのヒッチハッカーをどうするんです?」

 

にとり「こいつをここの鍵穴のところに固定してスイッチを入れると、自動で任意の鍵穴に作り替えることができるんだよ。つまり自分の持ってる適当な鍵で開けられるようになるってわけ」

 

椛「へぇ、それはすごいですね」

 

にとり「だろう?他にも色々な機能があってね。割りと自信作なんだ」

 

椛「と、言うからには自転車以外の鍵も開けられるんですよね?」

 

にとり「モチのロンさ!なんなら鍵穴式でなくたっていいしね!自動車でも列車でも飛行機でも何でもござれさ!」

 

椛「家の鍵とかはどうです?」

 

にとり「へ?」

 

椛「自動車だの列車だのはよくわかりませんが、つまるところそれらは乗り物なのでしょう?では乗り物以外の、例えば家とか、倉庫とか、箱とかの鍵はどうなのでしょうか。開けられますか?」

 

にとり「えー…と。あー。まぁ…可能、かな」

 

椛「じゃあそれってもうただの鍵穴付け替え機ですよね」

 

にとり「そうなるね」

 

椛「ヒッチハッカーとか名前に乗り物専用臭出してるけど別にそんなことはないわけで」

 

にとり「そうだね」

 

椛「乗り物を奪う程度なら、別段私達天狗には困ることもないのでどうでもいいかなと思いましたけど、大抵の鍵を開けられる――作り替えることができるとなると、話は違ってきますね」

 

にとり「そうだよね。私もそう思う」

 

椛「その発明品は残念ですが山の違法危険物取り締まりの対象に当たります」

 

にとり「そう、なの、かなー…」

 

椛「没収です」

 

にとり「そんな御無体な!」

 

椛「駄目ならその場で破棄してもらうことになりますが。それでよろしいので?」

 

にとり「よろしくない!」

 

椛「それでは預からせて頂きます。大丈夫。私はこれを担当の大天狗様に提出するだけですので、多分無いとは思いますがこの発明品の安全性が確認されればすぐに返却されますし、駄目でも一々許可をとれば安全な使用に限っては許されることもありますから」

 

にとり「手間を惜しむために作ったのに使うのに一々手間がかかったら意味がないでしょうが!全然大丈夫じゃないよ!」

 

椛「私に言われても困ります。そういう仕事ですし、そういう制度ですので」

 

にとり「お役所仕事め!」

 

椛「お役所ですので。私も別に好きでこんなことやってるわけじゃありません」

 

にとり「知ってるよ!でも八つ当たりはしたい!」

 

椛「そうですか。じゃあもう私は行きますね。にとりさん。その胸に抱えた発明品をさっさと寄越しやがってください」

 

にとり「ああ!私のベイビー!」

 

椛「気持ち悪い言い方は止めてください。まるで私が悪者みたいじゃないですか」

 

にとり「私にとっては悪者だよね!?」

 

 

第一作 ヒッチハッカー 没収処分。

にとり印

 

 

 

 




感想、誤字脱字の指摘、こうすれば読みやすいなどありましたらよろしくお願いします。


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第二作 ペレストロ烏賊

第二作 ペレストロ烏賊

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

霊夢「朝っぱらからうるさいわね…。わざわざうちまで来て何の用よ」

 

にとり「フフフ…。これはすごい発明だからつい誰かに自慢したくなっちゃてね!博麗神社なら参拝客以外はいろんな奴が来るしちょうどいいかなって思ってさ」

 

霊夢「一言多いわよあんた。参拝客だって来るっつーの」

 

にとり「へぇ、私は見たことないけどね」

 

霊夢「あんた神社の祭りに参加してたじゃない。あれの客は全員参拝客扱いよ。うちにお金を落としてくからね」

 

にとり「霊夢さんこそ一言多いよ。お祭りに行くモチベーションが下がっちゃったじゃないか」

 

霊夢「別に来なくてもいいわよ。妖怪の客が少ないほうが人間の客が増えるってもんだわ」

 

にとり「あーそうかい。じゃあ意地でも行くことにするわ。…ってそうじゃない!お祭りと参拝客の話は今どうでもいいんだよ!」

 

霊夢「新しい発明品の話でしょ。どうせその背中に背負ってるうねうねしてるやつがそうなんでしょ?話すならさっさとしなさいよね」

 

にとり「まあそうだね。これぞ私の新発明!ペレストロ烏賊だ!」

 

霊夢「キモい触手よね」

 

にとり「ひどいなぁ。まぁ外の世界の烏賊って生き物をモデルに作ってるから触手で合ってるっちゃ合ってるんだけど…。正しくはアームだよ霊夢さん。ほら、前にも見せたじゃん。のびーるアームとか」

 

霊夢「そんなもん忘れたわよ」

 

にとり「そっかー。少し前まではちゃんと想起してくれてた気がするんだけどそっかー。忘れちゃったかー」

 

霊夢「それで?そのアームがなんだってゆーのよ」

 

にとり「そう。この十本のアームには外のAIとかいう最新技術が搭載されていて、なんとほぼ全自動で動くことができるんだ!」

 

霊夢「ちょっと待ちなさい。なんであんたが外の世界の最新技術とやらを把握してるのよ」

 

にとり「へっへっへー。そこは河童の企業秘密ですよ」

 

霊夢「オカルトボール騒動のどさくさに紛れて持って帰ってきたとかじゃなく?」

 

にとり「うわ。いきなりほぼ正解を出された。…知ってたの?」

 

霊夢「いや。勘」

 

にとり「あ、そう…。相変わらず勘の鋭いことで…」

 

霊夢「まあいいわ。その件が原因ならある程度解決済みだし…。何より今更だしね」

 

にとり「お目こぼし感謝するよ霊夢さん。それで説明の続きだけど、こいつはまずスイッチを押すと全自動でどんなものでも分解することができるんだ。どんな精密なものでもね」

 

霊夢「ふーん」

 

にとり「そしてこいつの一番凄いところ!なんとこいつは、一度バラしたものなら材料さえ揃っていれば何度でも作り直すことができるのさ!完全記憶ってやつだね!バラしたものの設計図も引けるし、何より今まで記憶したものから応用してより改善された全く新しい発明品まで作ってくれるんだ!」

 

霊夢「へーすごいわねー」

 

にとり「なんだよー。興味なさそうな口調だなー」

 

霊夢「だって実際興味ないもの。…ていうかそもそも他人の武勇伝とか自慢話くらい興味ないものもないわよね。自分が関係してれば多少興味持てるんだけど…。なんでかしらね?」

 

にとり「知らないよ!まったく自慢のし甲斐のないやつだなー」

 

霊夢「いや、でも何となくすごいってことくらいは分かるわよ。だってそれって今まであんた達が一生懸命時間をかけてやっていたことが全部自動でできるってことだもんね」

 

にとり「そうだろ?これぞまさに革新的な新発明…。否、革命的な新発明さ!」

 

霊夢「そうね。だってそれさえあればもうあんた等いらないもんね」

 

にとり「へ?」

 

霊夢「だってあんた等のやってたことを全自動でやってくれるんでしょ?あんた等要らないじゃない。もう」

 

にとり「あー…。霊夢。ちょっと今からこれをバラすから手伝ってくれない?」

 

霊夢「何、またバラして作り直すの?」

 

にとり「いや。これはもう二度と作り直さない」

 

 

第二作 ペレストロ烏賊 廃棄処分。

にとり印

 



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第三作 ナーシザーズ

第三作 ナーシザーズ

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

魔理沙「お、なんだ?またなんか面白いもんでも作ったのか?」

 

にとり「うん。この前人間に化けて里の金物屋に買い物に行ったんだけどさー」

 

魔理沙「おう…。いきなりだな。…ていうかお前この前も鈴奈庵に印刷依頼出してたけど結構人里で好き勝手やってるよな…」

 

にとり「まあまあ、そんなの今更だよ!別に悪さしているわけじゃないんだし気にしない気にしない!」

 

魔理沙「いや、私は別にいいんだけどな?でも霊夢が知ったら何て言うか…」

 

にとり「それこそ今更だよ!河童は人間の盟友!これでファイナルアンサーさ!霊夢だって見逃してくれる!」

 

魔理沙「いや、さすがにそこまでの実績はないだろうがよ…。まあバレてないんならそれでいいさ。私の気にするこっちゃねー。…で?その金物屋で何かあったのか?」

 

にとり「うん。金物屋のおっちゃんがね。最近売り上げが良くないって嘆いてたんだよね。こんなに頻繁に買いに来てくれるのは私くらいだって。まあその原因はおっちゃんの腕が良いから物持ちして客がそこまで頻繁に商品を買い換える必要を感じてないからなんだけどさ」

 

魔理沙「ああ、確かにあの金物屋の商品は物持ちがすこぶる良い。私の持ってるナイフや包丁もあそこのものだし、アリスの奴も裁縫用の針はあそこか唐傘お化けかどちらかにひとつだとまで言ってたからな。…それはともかく私はなんでお前がそんな頻繁に金物屋へ足繁く通っているのかが気になって仕方ないんだが…」

 

にとり「気にしない気にしない。…でさー、私はお得意様だからね。金物屋が潰れても困るし、何か手伝えることはないかなって思ってさ」

 

魔理沙「…そりゃ殊勝な心掛けだな。それで?何を思い付いたんだ?」

 

にとり「新商品を考えてみた。それがこれ、ナーシザーズさ!」

 

魔理沙「ハサミか。…綺麗な装飾だな。水仙模様(ナーシサス)か。…まぁハサミは日常的に使うし需要はあるんじゃないか?それをなんで私の所に持ってきたのかは謎だが…」

 

にとり「魔理沙は一応魔道具店やってるし、客商売という視点で参考にできるからさ。まあとりあえず手に取って見てくれよ」

 

魔理沙「一応は甚だ余計だが、そういうことなら確かに納得だぜ。むしろこーりんを頼らず私の所に来たことを誉めてやっても良いくらいだ」

 

にとり「そこは適材適所だね。今回の場合は魔理沙の方が適任なのさ。なにしろこのハサミを最終的に使うことになるのは人間なんだから」

 

魔理沙「あー…。そりゃそうか。…だけどそこまで精確なデータを欲するってことは、やっぱりそのハサミにゃなんかあるってことでいいのか?」

 

にとり「まあねー。ささ!手に取ってみてよ!」

 

魔理沙「甚だ怪しいことこの上無いが…。まあ良い。で?私はこれで何をすればいいんだ?とりあえず何か切ってみるか?」

 

にとり「そこだよ!」

 

魔理沙「は?え…どこ?」

 

にとり「ハサミに限らずだけど、刃物を持った時って、何はなくとも何かを切ってみたくならない?」

 

魔理沙「うーん…まあ、刃物の用途なんてそれしかないんだし、そりゃそうかもな」

 

にとり「そのハサミの模様には、『何かを切ってみたくなる衝動』を最大限に高める効果があるんだよ!つまりそのハサミを見てると、別段何はなくとも何かを切りたくて切りたくてたまらなくなってくるのさ!」

 

魔理沙「なんだその危ないハサミは!?」

 

にとり「危ない?刃物なんだから危ないのは当たり前じゃん。でもこれを店頭に並べておけば売り上げは確実に伸びると思うんだよ」

 

魔理沙「いやだから危ないって!その衝動とやらに溺れて刃物で人を傷付ける奴が出たらどうすんだよ!」

 

にとり「は?…そんな怖い奴がいるのか?」

 

魔理沙「いや…お前にそんな「ピュアな奴」みたいなことを言われても困るんだが…。人間の中にはそういう奴もいるんだよ」

 

にとり「そうなの?怖っ!…でも人間には理性があるだろ?いくら衝動を高めるとは言っても『人が人を切らないようにする理性』は『人がものを切らないようにする理性』よりもずっと高いと思うんだけど」

 

魔理沙「それがそうとは限らないのが人間なんだよ。ただのナイフでだって理性が衝動に負ける奴もいるんだ。人はそれぞれ、十人十色なんだよ。良い意味でも、悪い意味でも」

 

にとり「ひえー。だったらめっちゃ危ないじゃんこのハサミ」

 

魔理沙「だからそう言ってるだろうが。ほら、さっさとそれは持って帰れ。人間にそれの使用は向いてない」

 

にとり「なぁ、一つ聞きたいんだけど」

 

魔理沙「なんだ?」

 

にとり「魔理沙はこれを見て持ったとき、その…そういう衝動を持ったりしたのか?目の前のヒトを切ってみたくなる衝動…」

 

魔理沙「………はっ!有り得ねーよ!(さとり)妖怪に確認されたって堂々と断言できるぜ。私はそんな衝動なんてこれっぽちも持ってないってな!」

 

にとり「そ、そうだよね!ゆーて魔理沙なんてそんなに危ない性格してないもんね!」

 

魔理沙「そーそー。私は超常識人だからな!」

 

にとり「なんかごめんね!変なこと訊いちゃって!」

 

魔理沙「気にすんな。データ収集は大事だからな」

 

にとり「うん。でもまあ金物屋のおっちゃんへの手助けはなんか別に考えるとするよ。じゃね!」

 

魔理沙「…おいおい、用が済んだら直帰かよ」

 

魔理沙「まあ良いか。……全くおっちょこちょいな奴だよあいつは…」

 

魔理沙「…大体あの状況で感じるわけないだろうがよ」

 

魔理沙「目の前の()()を切ってみたくなる衝動なんてさ…」

 

 

第三作 ナーシザーズ 企画倒れ。

にとり印

 

 

 

 

 



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第四作 ミーンズアイ

第四作 ミーンズアイ

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

文「おや?にとりさん。また何か新しいものを作られたのですか?」

 

にとり「おっと、誰かと思えばブン屋じゃないか。うん。そうだよ。新発明がやっと完成したのさ。今回のやつは雛にも協力してもらった力作だよ!」

 

文「厄神と協力して作成したんですか?ますます興味深いですね。ちょっと取材させてもらってもよろしいですか?」

 

にとり「最初っからメモの準備をしておいてよく言うよ。まあ良いさ。変な脚色はつけるなよ?今回の発明品はこれ!その名もミーンズアイさ!」

 

文「どれどれ…。一見すると普通の眼鏡のように見えますね。…おや、つるに何やらボタンが付いてますね。ミーンズアイ…。ミーンズ…。意味…。ではなく複数形ですからこの場合は、さしずめ財力眼とでも言ったところですかね」

 

にとり「おお、流石の洞察力だね文さん。大正解だよ。日本語に訳すのなら、これはまさしく財力眼だ」

 

文「それは一体どの様なものなのですか?」

 

にとり「一言で言ってしまうと、これは人の財力を測ることができるんだ。この眼鏡をかけて他人を視ると、そいつの『金運』を読み取ってレンズに財力を数値化したものを映し出すことができるのさ」

 

文「財力の数値化ですか?」

 

にとり「そう。それもこの場合は今その人がどれだけお金を持っているかじゃなく、潜在的な金運を数値化したものだから、例えばその時はお金を持っていない人でも数値が高ければ近々大金が転がり込んできたりするし、その時お金をたくさん持っている人でも数値が低ければすぐに散財することになる」

 

文「なんと。それはすごい!成る程そのミーンズアイというものは、人の金銭的な厄を映し出すというわけなのですね。量産化に成功すれば、経済的取引では欠かせない道具になりそうです」

 

にとり「そうなんだよ。酒の席で酔っぱらってその場の勢いで企画して作ったものなんだけど、後からよくよく考えてみたらこれって結構凄い発明品なんだよね。…まあ作るのに一々雛に頼らなくっちゃいけないから量産化の目処は全然立たないんだけどさ」

 

文「いえいえ、それでも十分に素晴らしい発明ですよ。…ちなみにそれで私を測るとどんな感じになりますかね」

 

にとり「ちょっと待ってね。文さんの財力は………大体数値にして180くらいかな」

 

文「………数だけ聞いてもよくわかりませんね。180という数値は、大体どれくらいのもんなんです?」

 

にとり「そうだね。大体数値が100もあれば、日々の生活に最低限困らない程度の財力はあるね。…逆に数値が50を下回ると、こいつちょっとやべーんじゃねーの?ってかんじになる。1000を越えれば立派な大金持ちの仲間入りさ!」

 

文「では私の財力は、…まあ普通と言ったところですかね」

 

にとり「そうなるね。ちなみに私の財力は210だよ。まあまあでしょ?」

 

文「なるほどなるほど。よくわかりました。…それではちなみに、あちらの方で山菜採集に夢中になっている巫女の財力はどのくらいでしょうかね」

 

にとり「あの赤いのの財力かい?どれどれ………。なんだ。たったの5か。…ゴミだね」

 

文「ふむ。そのミーンズアイの能力は、なかなか精確なようですね。これは良い記事になりそうです。」

 

にとり「でしょでしょ?なかなかの自信作さ。…まあこれ実は最初の方かなり酔った状態で作り始めてるから一回慎重に分解して構造を書き留めなきゃいけないんだけどね」

 

文「あやや。確か酒の席の勢いで作り始めたのでしたっけ?」

 

にとり「そうそう。そもそも元はと言えば椛のやつが天狗の仕事は給料が――」

 

霊夢「そんなことより、誰の財力がゴミですって?」

 

にとり「うげえっ!?」

 

文「あやや、霊夢さん。聞いてらしたんですか」

 

霊夢「全く何がミーンズアイよ!下らないったらありゃしない。こんなもの!」

 

にとり「わ!ちょっとなにするんだよ!…………あー!壊した!なんてことしてくれるんだよ!まだ設計図も引いてないのに!」

 

霊夢「ふん!こんなもので私の未来が推し量られて堪るもんですか!運命ってのはね。自分の手で掴み取るもんなのよ!」

 

文「そんな毒草掴み取ってる手で言われても説得力皆無ですよ」

 

霊夢「え!?嘘!…これニリンソウじゃないの!?」

 

にとり「トリカブトだよそれは!霊夢さんよくそんなんで今まで生きてこれたね!……ってそうじゃない!壊したミーンズアイの弁償してよ!」

 

霊夢「うっさい!そんなもんツケておきなさい!あとで返す!」

 

にとり「それは絶対に後になっても返ってこないやつだ!」

 

 

第四作 ミーンズアイ 制作不能。

にとり印



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第五作 シルエッタースコープ

第五作 シルエッタースコープ

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

レミリア「アンタ、よく我が家に来ては毎度毎度廃品回収してるから何をしているのかと思えばガラクタでガラクタ作ってたの?」

 

にとり「ガラクタとは失礼な!そういうのはよくものを見て言いなよ!」

 

レミリア「ガラクタじゃなかったら何だって言うのよ。どうせ大したものでもないんでしょう?」

 

にとり「言ったな?それじゃあ紹介するけど、今回作ったのはこいつ、シルエッタースコープというものさ」

 

レミリア「シルエッター?何、採寸でもしようって言うの?」

 

にとり「主な用途はそれだね。このスコープを覗いて対象を視ると、見たもののいろんな角度からの大きさを測定することができるのさ」

 

レミリア「へえ、…まあ測量には便利そうね。私は別にやらないけど」

 

にとり「そしてなにより名前の通り、人のスリーサイズやらなんやらも測ることができる。しかも服の上からでもね!」

 

レミリア「ふーん、じゃあためしにあそこで昼寝している門番のスリーサイズでも見てみましょうか。…………おお!なかなか精確に測れてるじゃない!……心なし前に自己申告されたのより色々数値がでかい気がするけど…」

 

にとり「その場合間違っているのは自己申告の方さ!…まあその当時はそれで正しかったのかもしれないけど少なくとも今はその数値の方が正しいはずだよ!なにしろテストはもう万全にしてあるからね!たとえコートの上からだって正確な数字を叩き出せると保証するよ!」

 

レミリア「へえ!面白いじゃない。…じゃあ例えば見栄を張ってる奴の嘘もこいつを使えばすぐに分かっちゃうってことね?」

 

にとり「そういうことだね!欠点は人によってはそれを覗くことで逆に劣等感に苛まれることもあるってことくらいかな」

 

レミリア「確かにそういう奴もいるかもしれないけど私は大丈夫よ。見た目なんか問題じゃないってちゃんと分かってるから」

 

にとり「見た目なんか問題じゃないってちゃんと分かってる奴はそれ使って他人のスリーサイズを覗こうとは思わないだろうけどねー」

 

レミリア「アンタ…。意外とズバズバものを言うわね…。私が温和な性格じゃなかったら今ごろどうなってたか分からないわよ?」

 

にとり「見栄張らないで素直に「そういうのは色々諦めてるから大丈夫」って言えば良いのに」

 

レミリア「オーケー分かった。アンタは後で心行くまでフランと遊ばせてあげるわ。…逃げられないよう地下室で」

 

にとり「ごめんなさい調子こきましたすみません!もう二度と失礼なことは言いませんどうか許してください麗しのレミリアお嬢様!」

 

レミリア「素直でよろしい。…まあそれはそれとしてこのスコープはなかなか面白いし、せっかくだから他のみんなもこれで見てみましょうか。そろそろ咲夜が紅茶を運んでくるはずだし先ずは………ってあれ?スコープは何処にいったのかしら?」

 

にとり「えっ!?まさかなくなったの!?せっかく作ったのに!?………っていうか、さっきまでそこにあったものがなんで急になくなったりするんだよ!」

 

咲夜「お嬢様。紅茶をお持ちしました」

 

レミリア「あらありがと。…まあ色々見れなくなっちゃったのは残念だけど、紅魔館じゃあさっきまでそこにあったものが急になくなるなんてことはわりと日常茶飯事だから気にしちゃ駄目よ?」

 

にとり「どういうことだよ!?」

 

 

第五作 シルエッタースコープ 紛失。

にとり印




裏話その1
執筆者:射命丸文

酒の席で酔っぱらってその場の勢いでミーンズアイを作った河城にとり氏。その酔った勢いのまま部品のレンズを大量購入してしまい酔いが覚めたあと多少後悔したようだが、まあミーンズアイを購入したレンズ分作って売れば元は取れるかと思い気にせず作ることにした。が、設計図をろくに引くこともないまま博麗霊夢にミーンズアイをぶち壊されてしまう。

とはいえそうは言ってもさすがに自分で作ったものなんだから壊れた破片からでもある程度構造くらい分かるだろうとたかをくくっていたにとり氏。しかしその皮算用は脆くも崩れさってしまった。酔っ払ったまま作った部分が意味不明なくらい構造がめちゃくちゃだったからだ。どこをどうすれば元の形になるのか、どこをどうすればこの部品から元の効果を得られるのか全く理解できなかったのだ。

この時にとり氏は、「酔っ払った時の思考ってのはホントに人知を越えるよね…。わけわかんね」と、自身の心境を語っている。

その後ミーンズアイの修理を諦めたにとり氏は、一旦気を取り直そうと研究室から自宅に戻り酒蔵を開け、そこに残された大量のレンズの在庫の前に再び頭を抱えることになる。

後日、なんとか手持ちのレンズを使い切れないものか頭を悩ませたにとり氏は、ボケットに入れたレンズを弄びつつ日課である廃品回収へと紅魔館に赴く。そこで新たな着想を得たにとり氏は、果敢にも新たな発明の試作品を即興で作り上げることに成功する。が、今度はその試作品を紛失。結局レンズの使い道をまとめることは出来なかったのだった。にとり氏の今後の活躍は果たして期待できるのだろうか。大量のレンズの行方は果たしてどうなるのか。記者は今後とも取材を続けていく方針である。

文々。新聞第三面記事候補より抜粋。 没。
文々。新聞社印


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第六作 快眠マフラー

第六作 快眠マフラー

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

美鈴「おや、どうなされたんですか?」

 

にとり「さっきはせっかく作ったものが急になくなって悔しい思いをしたから帰りがけにまた一つ発明品を考えてみた」

 

美鈴「はあ、何かをなくされたんですか?」

 

にとり「ああ、新発明をちょっとねー」

 

美鈴「まあ、紅魔館ではわりとよくあることです。気にしたら負けですよ」

 

にとり「それさっきここの主にも似たようなこと言われたよ…」

 

美鈴「でもまた新しく作られたのでしょう?」

 

にとり「さっきとは別のものをね!」

 

美鈴「まあまあ、そう声を荒らげず…。紹介してくださいよ。何をお作りになられたんです?」

 

にとり「ふむ。…まあ良いか。確かに過ぎたことを一々気にしてても始まらないし。…うん!いいよ!教えてあげる!今回作ったのはこれ!安眠グッズ、快眠マフラーだ!」

 

美鈴「ほほう。詳しくお願いします」

 

にとり「やけっぱちになって寝たいとき、…もとい夜に寝苦しくって変に寝付けないことってあるじゃん」

 

美鈴「にとりさん、やけっぱちになって寝たかったんですか…」

 

にとり「そっちはいいよ。拾わなくて。寝苦しいとき!これ、あるでしょ?」

 

美鈴「ありますね。私なんか夜になかなか寝付けなくって、ついつい昼寝ばかりしてしまいます。」

 

にとり「…昼寝が先か夜寝付けないのが先かは深く考えると泥沼に嵌まりそうだからスルーさせてもらうけど、そんなときにおすすめなのが、この快眠マフラーさ」

 

美鈴「マフラーなのですからそれは恐らく首に巻き付けて使う道具なのでしょうが、…具体的にはどんな効果があるのでしょうか」

 

にとり「このマフラーを首に巻き付けると、全身から睡眠に必要の無い余計な力を抜いて、極限までリラックスした状態にしてくれるんだよ。自然とまぶたが重くなってすぐに寝付けること間違いなし!」

 

美鈴「余計な力を抜く…。確かに、寝ようと思えば思うほど変に力んでしまいますものね」

 

にとり「その上こいつはマフラーだからね。勿論消音機能もつけてある。周りがどんなに煩くたって静かに眠れるさ」

 

美鈴「それは素晴らしいことですが、…マフラーに消音機能なんてありましたっけ?」

 

にとり「私もよくわかんないんだけどさ、外の世界の本にマフラーは消音装置だって書いてあったんだ。外の人間は首に巻くものに消音機能までつけるのかと、読んだときは驚くと共にその発想の豊かさに感心したもんだよ」

 

美鈴「なるほど、最初はよくわかりませんでしたがそこまで聞いてしまうと、確かに一周回って凄いように感じてきますね」

 

にとり「なんなら今からこれ、試してみるかい?たった今試作品が出来たばかりだから全然対人テストが出来てないんだけど」

 

美鈴「いえ、今は仕事中…。ですけど…、まあ、ちょっとくらいなら」

 

にとり「いいね!ノリの良い奴は大好きだよ!」

 

美鈴「ここに…こうやって着ければいいんですか?」

 

にとり「そうそう。………あ!でも立ったままそれやると…」

 

美鈴「うひゃあ!?」

 

にとり「あーあー。このマフラーは全身の力を抜くから立ったまま着けると足の力が抜けてすっ転んじゃうんだよ。…ちょっと忠告が遅かったかな?ごめんね?」

 

美鈴「…………………」

 

にとり「あれ?美鈴?どうしたのさ黙りこんで…。って、私の声聞こえないんだっけ…。…ははーん、分かったぞ?もしかしてもう寝ちゃったんだな?仕方ないなー。テストは初めてだったけどまさかこんなに効き目がバツグンだなんてね。…まあいいや。どうせ聞いてないだろうけど、それはもう美鈴にあげるよ。じゃ、私は帰るからね!ばいびー」

 

美鈴 「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………っ!!」

 

 

第六作 快眠マフラー 経過観察。

にとり印




後日談
報告者:犬走椛

●月●日。玄武の沢在住の河童、河城にとり(以下この人物を甲とする)が快眠マフラー(以下この装置を乙とする)なる衣服を発明する。

甲が乙を実験と称して当該報告者の首に被せたところ、全身の随意筋の弛緩が確認され呼吸以外の一切の行動が不能となる事態が発生した。

更に聴力の一時的な消失も見受けられ、また眼瞼周辺の筋肉弛緩により千里眼持ちである当該報告者以外の者は視力の機能不全に陥る可能性も指摘される。

これ等の現象は甲によって乙が首から取り外されるまで続き、逆に言えば乙が行動可能な他人の手によって取り外されない限り、乙の使用者は自力での取り外しが不可能であるという結論に達した。

また甲は前日に別の発明品を博麗の巫女に破壊されたことからそれ以降の発明品をやけに頑丈に作っており、当該報告者による太刀での破壊は不可能であった。従って当該報告者は乙を山の危険物取り締まり法令第四条の一に該当するとして、破壊困難オブジェクト管理マニュアルに基づく適切な管理が望まれると天魔様に上奏する次第である。

追補
また、甲は同日、乙の試作品を紅魔館の門番にも使用している旨を供述している。当該報告者はこれを山の危険物取り締まり法令第四条の三。危険物の収容に関する項目に違反しているとして甲と共に乙の回収に向かった。


妖怪の山哨戒報告書第一〇〇〇三九号より抜粋。採用。
犬走印


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第七作 ゴーストスピーカー

第七作 ゴーストスピーカー

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

「なにができたのー?」

 

にとり「んー、なんと言うべきかなー。こいつはゴーストスピーカーと言ってねー。まだ何にも実験とかしてないから本当にちゃんと機能するかどうか分かんないんだけども、理論上はこいつを使えば通常姿が見えず声の聞こえない何者かとの会話が可能になるはずなんだ」

 

「ふーん。なんでそんなもの作ったの?」

 

にとり「いやあ、なんとなくだよなんとなく!決してこの前博麗神社でやってた百物語を聞いてから姿の見えない奴が怖くなったとかそういうことではなく!」

 

「あー。幻想郷って結構そういう奴いるもんねー」

 

にとり「そ…そう!幻想郷では今各勢力間の接触が急激に多くなってるからね!何だったら外や月の連中まで来る始末。つまり時代はグローバルなのさ!今までは接触が無かった連中との接触も時間の問題なってきた今!求められているのは、普段言葉の通じない者達との会話なんだよ!」

 

「あはは!怖かったよねー。私も聞いてたよ。阿求さんの百物語!」

 

にとり「いやだから!違うって言ってるだろ!私は世間の需要に応えたんだよ!」

 

「あはは!あなた面白いわね!…それにしても、よくそんなもの作ろうと思って作れたわね」

 

にとり「ああ、これね。いやだからまだこれがちゃんと機能しているのかは全然分かんないんだけど、発想の着眼点は前にちらっとだけ見た古明地こいしとかいう妖怪なんだよねー」

 

「へえ!そうなのそうなの!?」

 

にとり「うん。あいつは『無意識を操る程度の能力』ってのを持って他人から自分を認識させないようにすることができたわけだけど、詰まるところその無意識ってのが全ての大元なんじゃないかと私は思ったわけなんだよ」

 

「ほうほう!というと?」

 

にとり「認識できない妖怪やらなんやらって連中は、詰まるところ私達の五感の外側にいるわけだ。これを言い換えると、五感が私達の意識できる範囲ということになって、その外側は無意識の領域ということになる」

 

 

「えっと、…つまり、…どういうこと?」

 

にとり「例えば人間には、可聴域や可視領域という概念がある。聞こえる音と聞こえない音、見えるものと見えないものは生物学的にも物理学的にもちゃんと定義されているわけだ。だからこそ、聞こえないはずの音が聞こえる奴や見えないはずのものが見える奴ってのは、科学的に説明すればそういった五感の感覚領域が通常よりも広かったりずれていたりする奴のことを言う。私から言わせてもらえば霊感だの第六感だのってのは、こうした感覚領域の話の延長線上にすぎない」

 

「つまり、私が皆から見えないのはただ単に私の姿が皆のカシリョウイキってのにいないからってこと?」

 

にとり「声が聞こえなければ皆の可聴域にいない。もしくは一時的に他人の感覚領域を狭めている。つまりそういうことさ」

 

「それで、その機械はそのカンカクリョウイキって言うのを広げる機械なの?」

 

にとり「正確には可聴域だけを全範囲に行き届かせる機械、さ。ただ全範囲に行き届かせるだけだと音が煩くて聞こえたもんじゃないから、全音域の中から『声』に分類される音だけを選択して可聴域にアジャストするっていう方法をとってる。そしてこうやってヘッドホンの部分を耳に当てることで音を聞いて、マイクの部分でその音域に自分の声をアジャストして会話するってわけさ」

 

「ほえー。すっごーい!」

 

にとり「そうでもないさ。古明地こいしがいなかったら、私はこのマシンを開発しようとする気にさえならなかっただろうし」

 

「うぇっ!?どうしてどうして?」

 

にとり「感覚領域の限界ってのは何も生物だけにあるもんじゃない。機械にだって拾える音や光の限界はある。だから今までは『本当に見えない連中』って奴はその外側にいるんだとばかり思っていたから、こんなマシン作ってみようって発想がまずなかったんだ」

 

「その考えがどうして変わったの?」

 

にとり「聞けば、古明地こいしの能力。…私に言わせれば『自身の姿、または他人の感覚領域を変える程度の能力』が発現した理由は、自分の『心』が無くなったからだって言うじゃないか。だったらそれとおんなじことが機械に出来ないはずがないじゃないか!ってその時私は思ったんだよ。…つまり古明地こいしは、私に可能性という卵をくれたんだ」

 

「おおー。なんだかかっこいいね!」

 

にとり「はは、この言葉がかっこよくなるのは、作ったこのマシンの効果が本物だって分かったその時さ」

 

「うん!かっこいいよあなた!」

 

にとり「そう誉められると満更でもないね。………あれ?そういや私、今なにしてたんだっけ…」

 

「いやー!良いもの見つけちゃったなー!私の無意識を完全に克服するにはまだまだ全然だけど、これがあればどんな状態でも少なくともお姉ちゃんと会話位は出来るってことだもんねー。これ、私がもらってっても良いよね!」

 

にとり「ああ、いいよ。…んん?今私なに言って…」

 

「やったー!じゃあこれはもらってくねー!言っとくけど返さないからねー!またねー!」

 

にとり「………あれあれあれ!?私こんなところで何やってたんだ!?…うわ!いま20時かよ!?嘘だろ!?朝起きてからの記憶が全然無い!えっ、怖い!どうなってんだよ!?なんかの病気か!?」

 

 

第七作ゴーストスピーカー

お姉ちゃんにあげるね♡

古明地印

 

 

 

 

 

 

 



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第八作 センシェアビリティ

第八作 センシェアビリティ

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

さとり「やりましたね!」

 

椛「おーい。にとりさーん……って、うわっ!にとりさんが地底の(さとり)妖怪と一緒に!?………嫌な予感しかしない!」

 

にとり「嫌な予感とは失礼な。こちとらいたって真面目に研究作業をしてるっていうのに」

 

さとり「そうですよ。特に反社会的活動をしているわけでもないのに「最悪殺すしか…」なんて冗談でも思わないでください。失礼しちゃうわ」

 

椛「いや…。でもあなた達…。発明…、しちゃってるわけなんでしょう?」

 

にとり「そんなヒトの発明をまるで犯罪犯したみたいに言わないでよ」

 

椛「発明も時には犯罪ですよ…。にとりさんのなんかは特に」

 

にとり「そ…それは単に偶々最近椛に見せた発明品が危険だったってだけだろう!?私は普通に役に立つ道具だってちゃんと作ってるよ!」

 

椛「ほーう?私、つい数日前にあなたの発明品が原因で死にかけてるわけですけれど、それでもあなたの研究を警戒する必要はないと、そう言いたいのですね?」

 

にとり「し…死にかけてるは大袈裟だろう!?単に動けなくなっただけじゃないか!」

 

椛「あのあと山の危険物管理委員会から正式に第三種危険物認定受けておいてまだ言いますか!」

 

にとり「だ…、第三種認定だろ!?第一種とか第二種じゃないんだからまだまだ大丈夫さ!」

 

椛「更に悪いものと比べないでください!第三種って言ったらあなた、大天狗様の羽団扇と同レベルの危険物ですよ!?私みたいな下っ端じゃ一生触らせてもらえないレベル!」

 

にとり「う、…うーん。そうやって比べられると、我ながら結構凄いものを作ってしまったんだなあって、少し嬉しいような」

 

椛「自分で意図した結果でもないくせに威張らないでください!」

 

にとり「甘いな椛。発明とは時として偶然から生まれるもんさ」

 

椛「茶化さないでください!」

 

さとり「まあまあ、落ち着きなさい白狼天狗さん。その快眠マフラー?とやらは確かに危険な発明品だったみたいですけど、今出来たのはちょっとした玩具みたいなものですから」

 

椛「…いや、その前にですね。何がどうなったらにとりさんと貴女が一緒になって発明品を作るなんてことになるんですか…」

 

にとり「ああ、それね。私もよくわかんないんだけどさー。なんでもさとりさんの妹のこいしちゃんってのが私になんか迷惑をかけたらしいんだよね。私に全然そんな覚えは無いんだけどさ。無意識の間に?とかなんとか。…で、さとりさんがそのお詫びとお礼?とか言ってウチに凄く高そうなお酒をいっぱい持ってきたんだ」

 

椛「はあ…。なんだかすごく曖昧な説明ですが、…で、その後どうなったんです?」

 

にとり「その後、私としては身に覚えの無い迷惑のお詫びとやらで高いお酒を独り占めするのもなんだか座りが悪かったもんだから近所から河童達を呼んで、さとりさんとそのペットだっていう妖怪達と一緒になって宴会したんだよ。…で、そこで意気投合して盛り上がって、そしてその場の勢いで」

 

椛「揃って発明を始めたと?」

 

にとり「そうなるね」

 

椛「にとりさん。あなたその場の勢いが多すぎませんかね!?」

 

にとり「いやあ、でも大事だよ?その場の…ではないけど勢いってやつは」

 

椛「その勢いとやらで変なもの作られて苦労するのは大抵私なんですがねえ!」

 

さとり「まあ今回の発明が何か危険なものなようなら私が責任をもって持ち帰りますよ」

 

椛「いいえ、この山で作られたものの管理は原則この山で行うことになっていますので」

 

さとり「あらそう。相変わらずこの山は排他的ね。じゃあ、頑張って」

 

椛「はあ…。まったく仕方ありませんね…。で?今回は一体何を作りやがったんです?」

 

にとり「だからさー。ヒトの発明をそんな何をしでかしやがったんだみたいな感じで言うのやめてよね。今回作ったのはこれ!その名もセンシェアビリティさ!」

 

椛「せんしぇ…。何なんですかそれ?名前の意味がさっぱり分かりませんよ。…まあそれは割りといつものことですが…」

 

さとり「五感(センス)共有(シェア)能力(アビリティ)を組み合わせた造語ですよ。一言で言えば感覚共有能力付与装置です」

 

椛「うん。分かんない」

 

にとり「要するにだね、こっちの発信機をAさん。こっちの受信機をBさんにつける。で、その状態でAさんに何らかの外的刺激が加わると、その感覚がBさんにも共有されるようになるっていう装置さ。Aさんが寒いと感じればBさんも寒く感じるし、痛いと思えばBさんも痛く感じる」

 

椛「はあ…。まあ機能は分かりました。…で、結局その装置は何に使うものなんです?」

 

にとり「分かんない。何しろ酒の席で思い付いた玩具だからねえ。私達にとって重要だったのは一緒に何かを作ることであって、結果的にそれを何に使うかなんて大して考えてなかったから」

 

さとり「所謂ひとつのコミュニケーション手段ですね。一緒に何かをすることで、人間関係…もとい妖怪関係が育まれるのです」

 

椛「なんてはた迷惑なコミュニケーション!」

 

さとり「しかしなんにだって何かしらの使い道はあるものです。たとえその場の勢いに乗せられて出来たものだとはいえ、これにだって何かしらの使い道はきっとありますよ」

 

椛「その場の勢いに乗せられちゃった人に言われてもなあ…」

 

にとり「へっへっへ、試しに椛の感覚を私に共有してやる!それ!」

 

椛「いや、まあ別にいいですけどさ…。…ん?まてよ?外的刺激を…共有?」

 

にとり「う、うがあああああアアアアアアアアアアア!!目が!!目があああああああ!!」

 

椛「ああ、やっばり外からの()()()も共有しますか…。私は山の監視のために常に千里眼を発動していますから、慣れない人がいきなり視覚を共有したら情報量の多さに目がやられちゃいますよ」

 

にとり「ひ…光刺激…。すっかり忘れてたよ…それ…」

 

さとり「私、今初めて読み取れるのが相手の心の『声』だけで良かったと思いました…」

 

椛「いやでも待ってください。視覚情報が共有できるのだとすると、その装置、結構使えるかもしれません」

 

にとり「椛が珍しく私の発明を肯定してくれた…。嬉しい…けど、素直に喜べない………。うう…目が……」

 

 

第八作 センシェアビリティ 要改良。

にとり印

古明地印

 

 

 

 




オリジナル設定 山の危険物分類法。

第四種危険物:要監視対象。定期的に山の哨戒天狗による現状観察を受ける必要がある。また、持ち主の勝手な変更や物品の貸与が認められない。(例、百鬼夜行絵巻レベルの妖魔本など)

第三種危険物:要管理対象。一定以上の権限を持つ管理者の手によって保管されなければならない。特定の理由によって元の持ち主では管理出来ないもの、または破壊することが困難な危険物などが対象となる。(例、大天狗の羽団扇など)

第二種危険物:要封印対象。妖怪の山に発生次第、排斥、破壊、封印のいずれかの処分が成される(例外あり)。使い方によっては妖怪の山を壊滅させかねない危険物などが対象となる。(例、緋想の剣など)

第一種危険物:対処不可能。妖怪の山での対処が事実上不可能であり、発見され次第各セクションに通達。場合によっては妖怪の山全体に避難指示が出される。
(例、【検閲により削除】など)


山の危険物取り締まり法令より抜粋。現行。
山の危険物管理委員会印


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第九作 ヒータイツ

第九作 ヒータイツ

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

チルノ「何ができたんだ?」

 

にとり「ん?なんだ氷精か。お前には全く関係がないものだよ」

 

チルノ「なんだそれ!ちょう気になるな!」

 

にとり「え、…全く関係ないのに?」

 

チルノ「…そんなにあたいと関係ないのか?」

 

にとり「ベクトルが完全に逆向きだからね。どれくらい関係ないかというと、霊夢さんと賽銭泥棒くらい関係がない」

 

チルノ「?…そんなそもそも誰も出来ないことをやる奴がいるのか?無いものは盗めないだろ?」

 

にとり「いやだから…。それくらい私の発明とお前は関係ありませんよって喩えじゃないか。どうだ。これでもまだ興味があるか」

 

チルノ「ありまくりだな。略してありまりだ」

 

にとり「いや、なんで略したし…。…そうか。そんなに興味があるのか」

 

チルノ「あたいにまったく関係ないことなんだろ?そんなのがあったらよるもねむれないぞ!」

 

にとり「前に霊夢さんが全く逆のことを言ってたのを思い出すよ。いやあ、考え方ってのは人それぞれだねえ」

 

チルノ「霊夢の及びもつかないことを考えるあたい!…やはり天才か」

 

にとり「そういうことじゃあ無いと思うけどね。…まあいいか。それで、私の発明品を知りたいんだろう?」

 

チルノ「そうだったっけ?」

 

にとり「うおいっ!?」

 

チルノ「あたいが知りたいのはあたいと関係がないとかいうことだよ!」

 

にとり「だーからそれが今回の私の発明品だって話なんだろ!?」

 

チルノ「おお!そうだったのか!」

 

にとり「ああもう、…これだから妖精と話すのは嫌いなんだ。忘れっぽいし話がロジカルじゃないし…」

 

チルノ「さあ、ごちゃごちゃ言ってないであたいに発明品の話をケンジョーするがいい!」

 

にとり「むかっ!…いやいや落ち着け私。妖精のアホな言動くらいで一々反応していたら私の品性が疑われる。…そもそもチルノは妖精のなかじゃあこれでも比較的頭の良い方なんだ。会話も成立しないまま弾幕撃ってくるど阿呆と比べてみろ。チルノのなんと良心的なことか…。そう。チルノとはなんと会話が成立するじゃあないか!」

 

チルノ「おーい。どうした河童ー。頭でもいかれたかー?」

 

にとり「いいや大丈夫だ。馬鹿な妖精程はいかれていない」

 

チルノ「そっか!なら安心だな!天才のあたいと会話することで頭脳が底上げされたか!」

 

にとり「ああ。私の品性は今お前と会話することで格段なレベルアップを果たしているよ。…そんなことより発明品の話だろ?今回私が発明したのはこいつ。ヒータイツだ」

 

チルノ「ひーたいつ?なんだそりゃ?」

 

にとり「ヒーターなタイツ。略してヒータイツさ」

 

チルノ「タイツとはなんだ」

 

にとり「お前はそもそもタイツを知らないのか…。あー、タイツっていうのは、こんな感じの衣服のことで、主としてはズボンの一種なんだが、防寒性に優れていて丈夫なことから、全身タイツっていう頭まですっぽり覆うタイプのタイツが一部スポーツ用の衣服として採用されている。私の持っているこれはそのどちらでもなくて、上半身と下半身だけを覆うボディタイツの一種だな」

 

チルノ「なるほど完璧に理解した」

 

にとり「………そうか。じゃあ話を続けるけど、本来のタイツはあくまでも防寒用の衣服でしかないから保温効果までしか期待できない。しかし私の作ったこれには保温性だけでなく、周りから熱を集めて留めておく効果があるんだ。具体的に言うとこのタイツには、着ている人の周辺温度を着たその瞬間から大体20度から25度の間に留めておく機能がある」

 

チルノ「ふーん、なるほどな。よくわからんかったが理解した」

 

にとり「そうか…。私には今の説明のどこら辺がよく分からなかったのかがよく分からなかったよ」

 

チルノ「まあこういうのはあれだ!「ならうよりなれろ」ってやつだ!実際に着てみたほうが早い!」

 

にとり「あ!おいバカ!人の話を聞いて無かったのか!だからお前がそれを着ると……!」

 

チルノ(ジュワアアアァァァァッ!)

 

にとり「あーあーあー。完全に溶けちまいやがった…。それを着ると瞬時に周辺温度を20度台にするって言ったじゃん。氷の妖精がそんな環境で形を保ってられるわけがないだろうに…。………ま、いっか。どうせほっときゃ一回休みでリポップするだろ。………ん?なんか氷精がいなくなったせいか心無し気温が暖かくなったな…」

 

リリー「はーるでーすよー!」

 

にとり「おお、氷精が居なくなったら次は春告精がやってくる。か。―――四季の巡りを感じるねえ…」

 

 

第九作 ヒータイツ 保留。

春ですよ!

にとり印



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第十作 ミステリード 問題編

ミステリー風前後二話構成です。問題編と解決編。少し長いです。あくまでミステリー風なので読者の皆様が真相を究明するのは難しいと思います…。完璧に全ての謎を解いたら予知能力者の称号を与えてもいいかもしれません。ですが予想は十分に可能ですので暇な人は解決編までに犯人を予想してみると面白いと思います。犯人はこの話の終わりまでに登場した奴らの中にいます。
それではどうぞ。お楽しみください。


第十作 ミステリード 問題編

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

小鈴「やっとですか!」

 

文「さて、…この発明で全てが解決すれば儲けものなのだけれど…」

 

マミゾウ「河童よ。…そのタブレットフォンで、この混沌とした状況を本当に解決出来るのかの?」

 

にとり「出来るとも!私の新発明、名探偵ミステリード様の手にかかれば解けない謎など何もない!」

 

魔理沙「そりゃあいい。ならさっさとしてくれよな。いい加減私も帰りたいぜ」

 

阿求「そうですね。私も色々と忙しい身の上ですので何時までもここに拘束されているわけにもいきませんし、まずはその機械を使うことからですかね。河城にとりさん。私達はこれから何をすれば良いのでしょうか」

 

にとり「うん。まずは情報の整理からだね。今からこのタブレットに、今の現状と、今に至るまでに一体何があったのかを正確に記入しなくちゃいけない。謎を解くにはまずその謎を明確にするのと、謎を解くのに必要な最低限の情報が必要不可欠だからね!だからまずは、情報の整理も含めて今までの状況を今一度言葉にしてみよう。この鈴奈庵で今日、一体何があったのかを」

 

小鈴「…そういうことなら、まずは私からですね!―――私は今日、お父さんが貸本の回収に向かったので朝からこの鈴奈庵で店番をしていました。しばらくはお客さんも全然来なかったんですけど、お昼頃、午の刻を少し過ぎたあたりにまず、マミゾウさんが来店されたんです」

 

マミゾウ「儂は小銭稼ぎに拾った本を小鈴に売りに来たんじゃ。売った本は確か、外の大衆漫画雑誌じゃったよな?」

 

小鈴「ええ、結構厚めの本で五冊あった本の題名は全部違いましたが、全て週間少年という部分は一致していましたね。かなり最近のものでしたので高めに買い取らせて頂きました」

 

にとり「なるほどなるほど。それで?」

 

小鈴「それからしばらくマミゾウさんと雑談していると、今度は阿求がやって来たんです。…文さんと一緒に」

 

阿求「私は借りてた本を返すついでに新しい本を見に来たのよ。なんでも新しい妖魔本が入ったとかいう話を聞いたから。それで、その道中に彼女と会って、行き先が同じだって言うんで一緒に来たの」

 

文「私は妖怪の山の上司からある仕事を頼まれていたのです。まあそれは先程も話したんですけど、もう一度簡潔に説明しますと、二日前に山で管理していた危険な妖魔本がいくつか、何者かに盗まれてしまったようなのです。恥ずかしい話ですがね。だからその妖魔本がもし万が一ここ、鈴奈庵に流れて来ているようなら回収させてもらおうと思っていたわけなんですけど、まあ、それがビンゴだったということです」

 

阿求「どうやらその新しく入荷した妖魔本っていうのが、彼女の言う「危険な妖魔本」の一つだったらしいわね。…確か、『知りたがりエートのエングラム図鑑』だったかしら?」

 

文「ええと、はい。確かそんな感じの題名だったように思います。この妖魔本は百年以上前に書かれたもので、色んな妖怪の『エングラム』と呼ばれる体組織が記録されているらしいのです。このエングラムと言うのは主に生物の記憶を暗号化して保存しておく機能があるらしくて、それをいかなる方法を用いてか本に移しとったのがこの本というわけなのです。それで、その記録の中にはかなりの大物の記憶も混じっていたらしく、その大物の記憶がある日自我を持ち独り歩きして、今も色んな妖怪の記憶を移しとっている、と。因みにこの移すと言うのは写本の写ではなく移動の移を使う方の移すですから、つまり移された記憶の持ち主はその記憶を失ってしまうというわけなのです。山の方では要管理対象としてこれとあと二冊の妖魔本をある倉庫に管理していたんですけど、それらが全て盗まれてしまったんですね。情けない話です。―――そして、その一冊がどういうわけかここにあったということなのですが…」

 

にとり「なるほどなるほど。だが、その妖魔本が再び無くなってしまった、と。今はそれが問題になっているわけだ」

 

文「私としては何らかの理由で妖魔本をここに置いていった犯人が私の手によって回収されるのを恐れて再び妖魔本を隠したのだと思っているのですが…」

 

にとり「まあ、そこら辺の推測は追々やっていくとしてだ。たしか、最初に妖魔本が倉庫から盗まれたとき、その犯行に私の発明品が使われたんだっけ?」

 

文「ええ。危険物を保管していた倉庫には、にとりさんの発明品であるヒッチハッカーという装置が使われた痕跡がありました」

 

魔理沙「この前お前が没収されたとか言って愚痴ってたやつか?」

 

にとり「そうそう。でもあれ、そのあと返ってきたんだよ。第四種危険物認定ってのをされてね。椛が口利きしてくれて要監視ってだけで良くなったんだ」

 

文「まあそれも盗まれてしまったうえに犯罪の手段として使われてしまった今となってはまず間違いなく第三種に格上げでしょうがね」

 

にとり「ううん、やっぱりそうだよね。…便利だったんだけどなあ…。あれ」

 

文「犯行後に椛から指摘されて盗まれたことに漸く気づくような杜撰な管理をしているからそんなことになるのよ」

 

にとり「はあい。反省してまーす」

 

阿求「話が少しそれすぎじゃありません?話を元に戻しましょう。私と文さんがここに来てそれからのことですが――」

 

マミゾウ「それは儂から話すのが都合良かろう。その二人がここに来たとき、儂は偶然にも、小鈴との雑談の流れで例の妖魔本とやらを見せて貰っていたのじゃ」

 

小鈴「あの妖魔本は、昨日私の知らない間にここにおいてあったのを見つけたもので、あまりにも怪しかったのでマミゾウさんに相談にのってもらうことにしたんです。まあ、好奇心に負けて少しだけ読んじゃったんですけどね」

 

マミゾウ「儂が見た限り――ああ、読んではいないぞ?あくまで見た限りじゃが、ありゃあ相当なもんじゃな。妖魔本とは言うが、あれは妖気と言うよりはむしろ霊力を放っておった。…博麗の巫女の力とほぼ同じものを感じたぞい…。儂のような妖怪があれを開くのはちときつい。これは儂の想像じゃが、百年以上も前に作られたと言うあれの制作にはもしかすると、博麗の巫女も関わっておったんじゃないか?」

 

文「ええ。その通りですよ。私も詳しくは聞いていないのですが、担当の大天狗がそこだけは厳重に注意を促していました。あれの制作にはメインの著者でこそ無いものの、先々代の博麗の巫女が関わっていたそうです。ですので対妖怪の危険性は一級レベルだと。妖怪は絶対に開いてはいけない一品だそうです」

 

小鈴「へえー。やっぱりあの本はかなり危険なものだったんですか。私は人間だったから読んでも大丈夫だったんですね」

 

マミゾウ「ちゅーか、そこまで危険な本をちょっとした装置一つで盗まれるとか、山の危険物管理はどんだけゆるゆるなんじゃ」

 

文「あまり舐めないで頂きたいですね。もちろん管理は厳重に行っておりましたとも。第三種危険物管理塔。あの倉庫の警備は当然ヒッチハッカーひとつで盗めるほど安易なものではありません。ええ。私も一度あそこに侵入しようとして失敗しているので間違いありませんとも」

 

マミゾウ「いや、お主。何をやっとるんじゃ…」

 

文「記事を書くのに必要だったんですよ!それもこれもにとりさんが椛と紅魔館の門番を殺しかけたとかいう危険物に快眠マフラーとかふざけた名前付けてるのがいけないんです!あのままじゃあ記事が緊張感に欠けるんですよ!」

 

にとり「私のせいかよ!?…いや、私のせいではないな!あくまで文さんが勝手に記事にしようとして失敗してるだけだもんな!あと、殺しかけてねーよ!動けなくなっただけだよ!」

 

阿求「また話がずれてきてる…」

 

文「ああ、そうでした…。とにかく!あそこの警備はかなり厳重でした。私が本気を出せば突破できないことはありませんが、しかしそうすると確実に私がやったということはバレてしまうでしょうね。マミゾウさん。たとえ貴女でもバレないようにあそこに侵入するのは不可能ですよ。なにしろあそこには厳重な施錠と共に、椛クラスの白狼天狗のツーマンセルが十組と、更に上位の烏天狗が五人、常時見張りに就いていますからね」

 

マミゾウ「じゃが、実際には侵入が果たされ、危険な妖魔本が三冊も盗まれておる、と」

 

文「それを言われると確かにそうなのですが、しかし私の言う不可能というのは、何も工夫を凝らさなかった場合のことです」

 

マミゾウ「と、言うと?」

 

文「そうですね。例えば私の場合ですと、ヒッチハッカーを持って挑めばかなり成功率が上がりますが、それだけではちょっと弱い。何か隠密系の道具を一つ持てば完璧ですね。にとりさんの光学迷彩スーツがあればまず、バレずに侵入可能でしょう」

 

にとり「光学迷彩スーツ?でもあれって結構バレるもんだよ?」

 

文「貴女がすぐバレるのは動く時に揺れを隠しきれていないのと、妖気が少し漏れているからです。私は妖気の扱いは完璧ですし、風を操る能力がありますから、どれだけ速く動いたところで揺れを外に漏らす心配もありません」

 

にとり「へえ、良いこと聞いた。私の姿くらましが完璧になる日も近いね」

 

文「おっと、これは余計なことを言ってしまいましたかね」

 

マミゾウ「白々しいのぉ…。そうやってわざと余計なことを方々に吹き込んで、マッチポンプ式に記事の種を増やす魂胆じゃろうて」

 

文「あやや、疑いますねぇ…。まあ、ノーコメントと言うことにしておきますか」

 

魔理沙「ああもう!変な陰謀をここで巡らすなよ!余計に話がややこしくなるだろうが!」

 

文「そういった準備さえすれば魔理沙さん。貴女にも犯行は可能なのですよ?」

 

魔理沙「ああ!?ここで私を疑うのかよ!?」

 

文「疑うもなにも、貴女は最初から筆頭容疑者の一人ですよ。職業盗賊でしょうに。貴女は」

 

魔理沙「魔法使いだよ!!本業は!!」

 

文「では訂正して、副業盗賊ですよね?貴女は」

 

魔理沙「そこは否定しない!ただこれだけは言わせてもらおう。私は他人のものを盗んでるわけじゃない!借りてるだけだぜ!死ぬまでな!」

 

にとり「そうか。じゃあ私の光学迷彩スーツも死ぬまで借りてるつもりなのか?」

 

魔理沙「うぇ!?」

 

文「え、…にとりさん。今とんでもないこと仰いませんでした?」

 

にとり「はっはっは!バレてないとでも思っていたか魔理沙め!確かに光学迷彩スーツは在庫が大量にあるから知らない間に一つくらい無くなったところで気付きゃあしないだろうが私だって馬鹿じゃない。大事な発明品を仕舞っておく場所には監視カメラの一つくらい付けておくさ!」

 

魔理沙「なっ!何だよその監視カメラってのは!」

 

にとり「泥棒に教える筋合いはない!大事なのはお前の犯行の一部始終がこちらにバレバレだという事実のみだ!」

 

魔理沙「バレてたんだったら何で私に文句言ってこなかったんだよ」

 

にとり「さっき言ったでしょ。在庫がいっぱいあるって。使い道がないくらいにさ。一つくらい無くなったってどうでもいいし、むしろ不要在庫になるくらいだったら魔理沙に使ってもらった方が道具も本望ってもんでしょ。だから言ってくれれば普通にあげたのに」

 

魔理沙「…じゃあなんで今更そんなこと言うんだよ。あれ盗んだの大分前だぞ。あ、ちがった。借りたの、な」

 

にとり「粘るねぇ。いや、せっかくの機会だから、ウチのセキュリティもザルじゃあないんだぞって教えておこうと思ってね。光学迷彩スーツはいいけど、あそこにはちゃんと盗まれたくない発明品もあるからね。ヒッチハッカーとか。あれ、行政から再生産止められてるから在庫が一つしかなかったんだよねー」

 

文「ちょ…、少し待ってくださいにとりさん。カメラを所有している私にはその監視カメラの役割が大体想像出来るのですが、それがあればヒッチハッカーを盗んだ犯人も特定出来るのではないですか!?」

 

にとり「ああ、それね。結論から言うと、それは無理だったんだ。あれの保管場所も勿論監視カメラの監視領域に入ってたんだけど、これが何故か本気で何も映ってなかったんだ」

 

文「…だとすればやはり魔理沙さんが光学迷彩スーツを着て…」

 

にとり「確かにその可能性は考えられる。なにしろ魔理沙はヒッチハッカーが盗まれたと思われる期間中にウチにきてるからね。ほら、文さんもちらっと来てたでしょ。河童たちと地霊殿組で宴会開いた日」

 

文「ああ、あの時ですか。確かにいましたね。ではやはり…」

 

魔理沙「おい!」

 

にとり「でも、魔理沙に犯行は不可能なんだよ」

 

文「なっ!どう言うことです?これだけ状況証拠が揃っているのに」

 

にとり「まずさっきも言った通り、ウチのセキュリティはザルじゃない。そして私は光学迷彩スーツの開発者だ。文さんなら私の言いたいこと、判るでしょ?」

 

文「誰よりも貴女が監視装置に光学迷彩スーツ対策を行っていない訳がない…と、そういうことですか…」

 

にとり「まさしくその通り、さ。ウチの監視カメラにはサーモセンサーが取り付けられている。例え光学迷彩スーツを着たってあれは使用者の体温までは隠せない。サーモセンサーってのはその体温を監視するための装置だ。故に、魔理沙では私の監視に気付かれないままヒッチハッカーを盗むのは無理だ」

 

文「うーむ、…事の真相に近付けたと思ったんですがねぇ…」

 

にとり「まあまあ、元気出しなよ。事の真相は全て、このミステリードが解いてくれるさ」

 

マミゾウ「今更じゃが…。そのミステリードとかいうのはまだ出来たばかりの試作品なんじゃろう?そこまで信用できるものなのかの?」

 

にとり「あったりまえじゃん!なにしろ私の発明品だよ?…しかもこいつは、今や語るのも忌々しいペレストロ烏賊からAIを受け継いでいるんだ。情報の分解、整理、再構築はお手のものさ」

 

マミゾウ「ぺれすとろいか?なんじゃい。革命でもしたのかい」

 

にとり「ああ、あれは確かに凄まじい産業革命を起こす可能性を秘めていた…。ソビエトどころか河童という種の存続すら危ぶまれるレベルで…。うん、これ以上は話したくないな…」

 

マミゾウ「なんじゃ、すごく気になる言い方じゃな」

 

文「ええ。新聞記者を前にしてその言いようは生殺しもいいところですね」

 

にとり「そんなに知りたいなら。私の他にも知ってる奴がいるよ。そいつに聞きなさい。私がいなくなった後に」

 

文「はあ、…それならそうさせていただきますが…」

 

にとり「あと文さん。聞いた話を記事にしたら私は文さんを嫌いになるよ」

 

文「うえ、…それこそ生殺しもいいところですね。…あー、分かりましたよ。聞くだけに留めておきますよ」

 

小鈴「あのー、私、あんまり話に付いて行けてないんですけど。今ってどこらへんまで話してましたっけ」

 

阿求「私と文さんがここに来たとこまでよ。…つまり話はまったくと言っていいほど進んでないわ」

 

文「う…、すみません。話の脱線が多くって…」

 

マミゾウ「確か、お主達が来てすぐに一瞬口論になりかけたんじゃったかの?」

 

文「ええ、そうですね。貴女が盗んでここに持ってきたものだと思いましたので」

 

マミゾウ「悪びれんのう。まあそこはいいわい。誤解は解けたことじゃしの」

 

文「解けたのではなく保留になったんですよ。貴女も事件当日妖怪の山にいたことは確認されてるんですから。容疑者にならないわけがありません。…それで、その口論が一段落ついた辺りで、にとりさん達がやって来たんですよね」

 

魔理沙「ああ、そうだったな。私達が入ってきたとき、お前ら若干険悪な雰囲気だったもんな」

 

にとり「私は前々から作ってたミステリードの参考になりそうな本を探しに来たんだけど、その途中でばったり会ってね。そのまま一緒に来たんだ」

 

魔理沙「私はアガサクリスQの新作が出たってんでそいつを借りに来たんだ。最近外れの本ばかり引くが、あのシリーズは確実に面白いしな。真っ直ぐ来たわけじゃなくて、一度博麗神社に寄ってからここに来てる。新作の話を聞いたのもそこでだな。霊夢のやつが今度こそ解答編までに謎を解いてやるってイキってたんだ。なら私が先に解いて答えを教えてやろうと思ってな」

 

にとり「さすが魔理沙。何ともえげつないことを考える」

 

魔理沙「尊敬してくれていいぜ。なんなら師匠と呼んでくれてもな」

 

にとり「そこに痺れもしないし憧れもしないよ」

 

魔理沙「そうか。いやしかし、推理小説を借りに来て、まさか本物のミステリーに遭遇することになるとは流石の私も予想外だったぜ」

 

阿求「あら、なんだったらこの謎も、推理小説のように解いて行ってくれて構わないのですよ?」

 

魔理沙「そうしたいのは山々だし、実際少しは考えてもみたが謎は解けそうにないな。その上あんまり興味も沸かないんだよなー」

 

文「それは、貴女が犯人だからなんじゃないんですか?答えを知っているから、興味もない」

 

魔理沙「違う。その盗まれたっつー本に興味が無いからだ。『知りたがりエイトのエングラム図鑑』とか言ったか?さっきパラッと見てみたが、本の危険性のわりに中身は幻想郷縁起に書いてあったようなことばかりだったぞ。なんならあっちの方が内容が整理されていて読み易いくらいだ」

 

阿求「あら、それは嬉しいですね。私の、或いは先代達の妖怪に関する考察やまとめが正確だという事の証明になりますから」

 

文「おや、小鈴ちゃんならともかく魔理沙さんがあれの中身を読めたのですか?てっきりあれの中身は暗号化されているとばかり思っていたのですが…」

 

魔理沙「いや?普通に読めたぜ?…まあ暗号化された組織とやらを記録時に自動で翻訳するってんなら、確かに生はかじゃない技術が詰まっているんだろうが、それも話を聞く限りじゃ魔法じゃなくて霊術の一種っぽいしな。ちょっとした参考にはなるが興味が沸くって程でも無いぜ。…しかも、謎を解いても本が私の物にならないってんだから、本気で興味が沸かない」

 

にとり「どちらにしろ最低だね。もう魔理沙が犯人ってことでいい気がしてきたよ」

 

魔理沙「おいおい滅多なことは言うもんじゃないぜにとり。やったことを責められるんなら甘んじて受け入れるのも吝かじゃないが、やってもないことで責められるのは道理に合わない」

 

にとり「まあね。…さて、今の話でやっとここにいる全員。つまりは『知りたがりエイトのエングラム図鑑』窃盗事件の容疑者が揃ったわけだけど、ここにいる面子以外で誰か容疑者になりそうな奴っている?」

 

阿求「そうですね…。八雲紫なんてどうです?彼女ならここで起こった事件に限らず、全ての犯行が可能なように思えます」

 

文「それはありませんね。彼女には動機がありませんし、何よりアリバイがありますから」

 

魔理沙「アリバイ?」

 

文「彼女は今冬眠中です。つい先日に春告精が来たばかりですし、あと数日は寝ていると思いますよ」

 

魔理沙「あー、成る程な。そう言えばそうだったぜ。…因みに動機がないってのはどういうことだ?」

 

文「彼女は賢人の一人ですから、妖怪の山でもある程度権力を持っていますので、普通に申請すれば本を借りることができます。自分で読めもしない本を妖怪の山と敵対する危険を犯してまで盗むとは思えません」

 

魔理沙「そうやって自分が疑われない為のカモフラージュかもしれないぜ?確か、本は後二冊盗まれてるんだろ?」

 

文「ええ、『アカシックレコードの未完写本』と、『可能性空間移動論入門』の二冊ですが、二冊のどちらも、八雲紫が盗む様なことは絶対にありえません」

 

魔理沙「ほー?どうしてそう言い切れる」

 

文「まず『アカシックレコードの未完写本』ですが、こちらは大昔ある妖怪が、まあぶっちゃけ八雲紫ですが、彼女が是非曲直庁で管理されているアカシックレコードという本を写本しようとして失敗したとされる作品です。より正確に言えば、写本自体は可能でしたが、する前に当時のヤマザナドゥに止められた作品です」

 

魔理沙「その本は一体どう危険なんだ?アカシックレコードとやらは写せなかったんだろう?」

 

文「アカシックレコードがどうと言うよりは、それを写すために作られた本の性質がヤバいのです。あの本は周囲十メートル以内にある書簡の内容を写し取る性質が有りまして、詰まるところどれだけ厳重に保管されたデータでも、その本がそばに有るだけで内容が盗みとられてしまうのです」

 

魔理沙「そりゃすげえじゃねーか!私はむしろその本の方が欲しかったぜ!」

 

文「こういう奴がいるから、厳重に管理されていたわけです。まあ、保管当時ではあの本はほぼ白紙だったらしいので犯人にその価値が判るとは思えませんが…」

 

にとり「成る程ね。制作者がそもそも八雲紫なら、わざわざ盗みに入る必要もないってことか。欲しかったらまた作ればいいんだもんね」

 

文「そういうことです。ついでに最後の一冊ですが、実はこれが今回盗まれた本の中でも一番ヤバい代物なのです。と言うより、一番緊急性が高い代物と言うべきですが…」

 

にとり「どういうことさ?」

 

文「『可能性空間移動論入門』。我々はこのような本をトラップブックと呼んでいます」

 

魔理沙「トラップブック?」

 

文「そうです。一言で言ってしまうと、異変の種なのですよ。あの本は」

 

にとり「どういうことだい?私は可能性空間移動なんて言葉、寡聞にして聞いたこともないけど」

 

文「その通り。可能性空間移動などという概念はこの世界には存在しません。架空の概念どころか、異世界の概念とさえ呼べるものです。―――しかし『可能性空間移動論入門』は、読者を通してその概念をこの世界に伝え、適応させてしまうのです。そうなるとどうなるか。にとりさんなら判るでしょう?」

 

にとり「可能性空間移動という言葉から考えるに、異世界からの来訪者が来る可能性が出てくるということかい?」

 

文「可能性どころか確実性が出てくるのです。異世界からの来訪者などと言うと一見異界からの来訪者と同一視されがちですが、規模が全く違います。可能性空間移動なんてその最たるもので、最悪同一人物と出会うなんてことになりかねません」

 

魔理沙「ドッペルゲンガーかよ。そりゃあ確かにヤバいかもな。ドッペルゲンガーに会えば殺し合いになるって話だしな」

 

マミゾウ「可能性世界の自分…。要するに分岐世界の自分か。まるで()()()()じゃの」

 

文「その本の作者。岡崎夢美教授と表紙には記載されていましたが、彼女の狙いその物が、本をポータルポイントとした異世界への侵入なのです。もしそれがなされてしまったならば、きっとろくなことにはなりません」

 

阿求「少し待ってください。本を開けば概念が適応され異世界を繋ぐ入口になるという話でしたが、だとすれば貴女、なぜそこまでその本の内容を知っているんですか?」

 

文「鋭いですねぇ。流石は稗田家の人間と言ったところですか」

 

阿求「いえ、普通の疑問だと思いますが…」

 

マミゾウ「いやいや、流石。()()()をしておるだけのことはある。まるでアガサクリスQの小説のような、見事な着眼点じゃわい」

 

阿求「貴女は私をからかっているだけでしょう…。やめてください」

 

マミゾウ「ふぉっふぉっふぉ。儂ぁ妖怪じゃからな。ついついいたずら心が働いてしまうんじゃ。稗田の書記なら、それこそよく知っておるじゃろうに」

 

阿求「はぁ…。それで?結局どうなんですか?」

 

文「その本を最初に見つけたのが香霖堂の店主だった。これで答えになりますかね?」

 

阿求「成る程。読まないままその本の使用用途だけが、店主の能力によって判明したということですか」

 

文「はい。その通りです。その時偶然私も現場に居合わせましてね。危険なので回収させていただき、山の方で管理することになったのです。あと、香霖堂の店主によれば異世界へのポータルポイントが本の形になっているのは―――」

 

阿求「異世界の選別の為でしょうね。恐らく何百何千と同じ本をランダムにいろんな可能性世界に飛ばして、その本を開いて内容を理解できるような知的生物がいる世界を絞っているのでしょう」

 

文「あやや、当てますねぇ。本当に探偵のようです。今回の事件の犯人も、同じように当てられないものでしょうか」

 

阿求「幾つか候補はあるけれど、絞り込みが厳しいと言ったところですね。断定が出来ない以上、お役には立てないでしょう」

 

文「残念ですねぇ…。まあ、とりあえずは判っていただけたと思いますが、『可能性空間移動論入門』は幻想郷にとって異変の種にしかならないし、博麗大結界にすら影響を及ぼしかねない代物です。そんなものをあの八雲紫がわざわざ盗むとは思えません」

 

魔理沙「まあ、そうかもな。それでもあいつは何を考えているか分からんとこがあるが、冬眠中ってのがとどめだったな」

 

にとり「いや、それよりも誰が盗んだにしろ、そんなものがよく知りもしない馬の骨の手元にあるのって結構やばくないか?」

 

文「確かに、緊急性が高いことは間違いありません。しかしあれに関しては、万が一に備えて封印が施されています。かなり強力な封印で、そう簡単には解けない仕様になっています。これに関しては以前私が直接確認していますので間違いありません」

 

にとり「でも、犯人は私のヒッチハッカーを所有しているんだろう?封印の種類によっては余裕で解かれてしまうよ?」

 

魔理沙「は?お前のあれってそんな使い方もできるのかよ」

 

文「…一瞬ヒヤリとしましたが、多分大丈夫だと思います。あの封印はそもそも解除する予定がないので鍵とかは設定されてませんから」

 

にとり「そっか。それならひとまず安心だね」

 

阿求「…しかし、八雲紫が無いとなると…。あと容疑者になりそうなのは、壁抜けの邪仙くらいでしょうか」

 

文「それもどうですかね。八雲紫にも言えることですが、そういう壁抜け系の能力者の場合、そもそもにとりさん家からわざわざヒッチハッカーを盗んで使用する必要も無いですから」

 

にとり「スキマ妖怪にも壁抜け仙人にも言えることだけど、その程度のステルス性ではうちの監視体制は崩せないよ。盗めはしても隠せはしない。必ず何らかの形で粗が出るさ。―――盗んだときの手が映るとかね」

 

文「そもそもあの人達の性格上、全体の計画はともかく一つ一つの細かい所業を一々隠すようなことはしないと思うんですよね。賢者のプライドとでも言いますか、こういう小物臭い犯行は、やっぱり魔理沙さんやマミゾウさんのイメージと言いますか」

 

マミゾウ「おい。どういうことじゃそれ。まるで儂が小物のような言いぐさじゃあないか」

 

魔理沙「いやどうだろうな。私はともかく、お前が小物臭いってのは、意外と的を射てるんじゃないか?この前も華仙の手玉に取られたっつー話だし」

 

マミゾウ「なら魔理沙はそれ以上の小物じゃな。儂の百鬼夜行絵巻などのように目当ての妖魔本をスマートに手に入れる手腕も無いんじゃし…。ネクロノミコンの写本とやらは、結局死ぬまでは借りられなかったんじゃろう?」

 

魔理沙「なんだと!」

 

小鈴「ちょっとマミゾウさん!本の窃盗を煽るような発言は止めてください!」

 

マミゾウ「おっとっと、これはすまなんだ。そこの二人の発言についついかちんと来てしまっての」

 

魔理沙「ちぇっ、性悪狸め。いつか一泡ふかせてやるからな」

 

マミゾウ「ふぉっふぉっふぉ、いつでもかかってくるがいい。返り討ちにしてやろう。楽しみにしとるぞい」

 

阿求「はいはい、罵り合いはそこまでにしてください。なんの生産性もない。大体話もいよいよ佳境だって言うのにそんなんじゃ、何時までたっても話が終わりませんよ」

 

文「そうでしたね。全員が揃ってからすぐに事件は起きましたからね」

 

にとり「そうだねー。私達が来て、例の妖魔本を見せてもらいながらてんでんばらばらに雑談してたらいつの間にか無くなってたんだもんね」

 

魔理沙「それから一時間も犯人探しでこうやって拘束されてたわけだ。…勘弁して欲しいぜ」

 

文「問題は、簡単なボディチェックを全員に行っても誰も本を持っていなかったということですよね。つまり、如何なる方法を用いてか犯人は本を我々の目から隠し通すことに成功している…」

 

にとり「まあ、そういう手段を持っている奴ならこの場に何人かいるけどね。私や魔理沙は光学迷彩スーツを被せれば良いし狸は化かせば良いし、妖魔本を隠すのにこの場ほど都合のいい場所はないからね」

 

文「他の妖魔本の妖気で紛れてしまいますからね。例えそれが霊気であろうと…」

 

にとり「…さて、大体の情報が出揃ったところで、改めて解くべき謎を整理してみようか」

 

阿求「あら、もういいんですか?」

 

にとり「うん。これだけあればミステリード様なら多分きっと解いてくれるさ。情報の入力が終わったから、あとは解くべき謎を検索するだけさ。タブレット端末だけにね」

 

マミゾウ「検索って…。いんたーねっとか何かか…」

 

にとり「幻想郷に電波は届かない。インターネットが使えれば、確かにもっといろいろ捗るんだけどねぇ」

 

マミゾウ「まあこんな原風景溢れる場所にWi-Fiが飛んでたら、それはそれで興醒めじゃがのう…」

 

にとり「そこら辺の機敏は私には判らないなぁ。便利に越したことはないと思うんだけどね。…まぁ私達の存在を脅かさない範囲ならだけど…。

さて!今回私達の前に立ちはだかった事件は大きく分けて三つだ。

一、河城邸ヒッチハッカー盗難事件。監視カメラに映らずヒッチハッカーを盗んだ犯人のトリックとは一体!?

二、第三種危険物管理塔妖魔本強奪事件。ヒッチハッカーが用いられたことはわかるが、厳重な警備をくぐり抜けた手法などは一切がわからないまま一級危険物の妖魔本を三冊も盗まれた厄介な事件!

三、鈴奈庵妖魔本失踪事件。前の事件で盗まれた本の一つ、『知りたがりエイトのエングラム図鑑』をやっと見つけたと思ったらまたなくなった!本を隠した犯人とその行方とは!?

まあ、ざっとこんなところだよね」

 

阿求「そのまんまミステリー小説にできそうなくらい綺麗に纏めましたね」

 

にとり「これくらい纏めないと検索してもわやくちゃになっちゃうからねー。…はい。入力完了!あとはこの検索ボタンを押して、―――それではみなさんご一緒に。

せーの、

ついにできたぞ!」

 

 

第十作 ミステリード 問題編

完成。

にとり印



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第十作 ミステリード 解決編

解答編です。


第十作 ミステリード 解決編

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

魔理沙「はいはい。決め台詞は判ったから。さっさと解決でもなんでもやってくれ」

 

にとり「うへぇ、ノリ悪いなーお前ら。そこはみんな一緒に唱和してくれるとこだろー」

 

阿求「そんな明るいイベントじゃないでしょう。これ」

 

にとり「ちぇ。分かったよ。じゃあちょっと待ってな。今検索結果を読むから」

 

文「その検索結果とやらは、どのように表示されるのですか?」

 

にとり「基本的には箇条書きだね。入力した情報を元に疑問点から順に判明した一番可能性の高い事実をあげ連ねていくんだ」

 

文「ほうほう。それで、具体的にはどの様な仕組みでその装置は―――」

 

魔理沙「おいおいやめろやめろ。こんな状況で取材始めんなよ」

 

文「あやや、失礼しました。ついいつもの癖で」

 

にとり「ふんふん、…ほうほう。…なるほどなるほど。……………………………はい!大体判ったよ!」

 

小鈴「ほんとですか!」

 

にとり「うん。…じゃあまずは、手っ取り早く、この鈴奈庵で『知りたがりエイトのエングラム図鑑』を隠した犯人から言っていこうか」

 

阿求「どうぞ。遠慮なく」

 

にとり「ああ、うん。それじゃあ遠慮なく。――て言うか、犯人はあんただよ。稗田阿求」

 

阿求「………………………そうですか」

 

魔理沙「はあ!?まじか!?私はてっきり………」

 

にとり「二ツ岩マミゾウか、あるいは()()()()()()のどちらかだと思っていた?」

 

魔理沙「げっ…」

 

文「…どういうことです?説明してください。にとりさん」

 

にとり「まず、この一連の事件の謎を解くには、事件捜査にありがちな物凄く基礎的な固定観念を取り外すことから始めないといけない」

 

小鈴「固定観念?」

 

にとり「そう。ごくごく基本的な因果の誤りだ。――三件の事件が起こる。その三件には関連性があり繋がっている。()()()()()()()()()()()()()()()()。この考え方は厳密には間違っている。つまり、三つの事件はあくまでも三つの別々の事件として考えることから始めないといけないんだ」

 

文「…なるほど。事件の概要が大体見えてきました。それでは、犯人は事件ごとに違う可能性があるということなのですね?では時系列を追って聞いてみることにしましょうか。一つめの事件。河城邸ヒッチハッカー盗難事件の犯人は、では誰なのです?」

 

にとり「一つ目の事件の実行犯は古明地こいしだ。但し確証は無いもののその犯行を唆したのが魔理沙であるという可能性は高い」

 

マミゾウ「ほうほう。なるほどのう。して、その根拠は?」

 

にとり「まず一つ目に、私に気付かれないまま監視を完全にくぐり抜ける為に採れる手段は三つしかない。ひとつ。遠隔から狙いのものだけを瞬間移動させる。ふたつ。カメラに偽の映像を映させる。みっつ。そもそも侵入されたことを物理的に認識させない手段を持つ。これだけだ。

まず前提条件として、私から発明品を盗むってことを実行しようと思うには、犯人は私のことをある程度知っていなきゃならない。ヒッチハッカーを狙い打ちにできるやつならなおさらだな。詰まる所、最初からお宝狙いではなく発明品狙いの奴だ。こんな奴はまず知り合いしかいない。てゆーかそもそも、妖怪の山は常に侵入者を見張っているから、ヒッチハッカーが盗まれたあの期間中に山にいた奴らは、山の連中と地霊殿組と、それから魔理沙くらいのものだと断言できる。つまり私のことを知っている奴がほとんどだ。て言うかほとんどが知り合いだ。

その中で、私が上げた三つの条件に一致する奴と言えば?」

 

文「古明地こいしくらいのものですね。条件の三に見事に当てはまります。…と言うか、あの時あの場にはこいしさんもいたんですか…。気がつきませんでした」

 

にとり「あいつの場合はそれが普通さ。かくいう私も気付いていなかったしね。…いや、その時は気付いていたけど後になって忘れたのかもしれないね。よく考えてみればそもそもあの宴会は、古明地こいしが私に迷惑をかけたお詫びってのから始まってるんだよ。本人がいない方がおかしい」

 

文「そうでした。確かにそういう話でしたね」

 

にとり「酒の席ではみんな気持ちがおおらかになって、そして大胆になる。魔理沙が古明地こいしを見つけてなんか面白そうなもんでもパクって来いとか言って唆した可能性は十分にある。いくら古明地こいしが無意識だとは言ってもさすがに理由もなく人のものを、それも保管されているものを無断で盗ろうとする可能性は低いからね。私から盗ったっていう発明品も、さとりさんの話では形ばかりとはいえ許可はとってたらしいし。何かしら外部からの切っ掛けがあったはずさ」

 

魔理沙「…そりゃあ、あくまでも可能性の話だろう?」

 

にとり「まあね。じゃあ根拠をだそう。魔理沙お前、さっきの会話中に私のヒッチハッカーが封印も破れるって話を聞いてこう言ったな?「は?お前のあれってそんな使い方もできるのかよ」って。おかしいよなぁ。魔理沙は確か、ヒッチハッカーのことは会話上でしか知らないはずだよなぁ。この言い方だと、まるで実物を見たことも使ったこともあって、その上で封印解除に使おうとまでは思い至らなかったかのような物言いに聞こえるんだが…」

 

魔理沙「い…いや、そりゃ言葉のあやってもんだろ…。今まで話に聞いてたものなんだから、そういう言い方になることだってあるさ」

 

にとり「後もう一つ。お前さあ、いくらなんでもちらっと見ただけで図鑑の内容と幻想郷縁起の内容がほとんど同じとわかるなんて、さすがに速読が速すぎるだろう。細かな違いや見落としがあるかも知れないじゃないか。見切りをつけて興味を失うのが、いつもの魔理沙に比べて早すぎる。これはどう考えても不自然以外の何者でもないだろう」

 

魔理沙「そ、そういうときだってあるわ!こじつけじゃねーか全部!」

 

にとり「粘るねぇ。ま、いいさ。話を続けよう。第一の事件を解くには、第二の事件に触れる必要があるんだ。――続いて、第二の事件」

 

文「第三種危険物管理棟妖魔本強奪事件ですね」

 

にとり「そう。結論から先に言うと、こいつの犯人も、魔理沙とこいしの二人組だ」

 

文「そこもですか」

 

にとり「そうだね。これも根拠がいくつか有るんだけど、一口で説明するのはむずかしい。ここら辺はかなり事情が込み入ってるからね。まず注目するべきは、文さんが『アカシックレコードの未完写本』の説明を聞いたときに魔理沙の発した台詞。「そりゃすげえじゃねーか!私はむしろその本の方が欲しかったぜ!」…あの時は聞き流したけど、改めて聞くとこれ、どう聞こえる?」

 

文「そうですね。その台詞ですと、まるですでに一度本を手にする機会があって、何らかの理由でその機能を確認しないまま本を手放したように聞こえます」

 

魔理沙「えっと、私、そんなこと言ったっけか?」

 

阿求「言いましたよ。間違いありません」

 

にとり「まずこの台詞で、魔理沙に疑いの目が向けられる。と言うか、第一の事件の犯人が古明地こいし以外にあり得ない現状、それを唆そうって奴も魔理沙くらいしか思い当たらないんだけど、じゃあ次は検証だ。魔理沙は光学迷彩スーツを所持している。更に犯行にはヒッチハッカーが使われている。しかしこれだけじゃあ、魔理沙に犯行は難しい」

 

阿求「それは、にとりさんと同様の理由からですね?魔理沙さんでは光学迷彩スーツだけでは警備員から姿を隠しきれない…」

 

にとり「そう。姿は隠せても移動するときの微細な振動までは隠せない。但しこれに関しても、共犯として古明地こいしがいるんだったら話は別だ」

 

文「魔理沙さん自体を隠すのは難しそうですが、最初から目に見えないものから警備の意識を逸らすことくらいなら、確かに古明地こいしの能力ならば簡単そうですね」

 

にとり「そう。ヒッチハッカー。光学迷彩スーツ。『無意識を操る程度の能力』。これら三つが合わされば、魔理沙でも十分にこの犯行は可能になるわけだ」

 

魔理沙「待て。待て待て待て!それならそれと同じことがにとりと文とマミゾウの三人にも言えるはずだろう!?お前ら犯行当時のアリバイ無いだろうが」

 

にとり「私には動機がないよ。わざわざ自分でヒッチハッカーを第三種危険物扱いさせるような愚行を誰が起こすか。そんなに妖魔本には興味がないし、そもそも私が第三種危険物管理棟に入るんだったら妖魔本より快眠マフラーの方を盗むっての。あれは私のものだからな」

 

文「私の場合も盗むのなら快眠マフラーですかね。記事に必要でしたから。そもそも、私の場合は最近事件になった快眠マフラーならともかく妖魔本を盗んだとしてもそんなの記事にできないじゃないですか。さすがの私もそこまでのマッチポンプはしませんよ」

 

にとり「当時のアリバイの無い容疑者の中で妖魔本コレクターはお前だけなんだよ。魔理沙。

あと文さん。快眠マフラーの一件は事件じゃない。事故だ」

 

文「二人も行動不能にしておいてよく言いますね。まあその話は後でいいです。後で、じっくりとインタビューしましょうね」

 

マミゾウ「あー、儂の場合はそもそも、第二の事件のアリバイは無くとも第一の事件においてアリバイがあるのじゃが」

 

にとり「ほら、もう容疑者は魔理沙一人だ」

 

魔理沙「ぐぬぬ…。だが、第二の事件の時にこいしが山にいたって証拠が果たしてあるのか?」

 

にとり「証拠は確かに無いな。だが根拠ならある」

 

阿求「………なるほど。そういうことですか」

 

にとり「おや、何か気づいたようだね。どうぞ。遠慮なく言ってみな?」

 

阿求「ええ…。小鈴。あなた言ったわよね。『知りたがりエイトのエングラム図鑑』は昨日、知らない内にここにあったって」

 

小鈴「え…ええ。本当に気付いたらそこにあって、さすがに気持ち悪くなって今日マミゾウさんに相談したのよ。…阿求に知らせたのもそうだけど…」

 

阿求「疑問だったのは、犯人が盗んだ妖魔本を何故わざわざ鈴奈庵に置こうと思ったのか。しかもよりによって『アカシックレコードの未完写本』ではなく『知りたがりエイトのエングラム図鑑』の方を」

 

小鈴「えっと、どういうこと?」

 

阿求「いいこと?小鈴。『アカシックレコードの未完写本』は本から情報を盗む本。『知りたがりエイトのエングラム図鑑』は妖怪から記憶を盗む本なの。前者の方はここに置く意味があるわ。ここには情報を盗める本がいっぱいあるから。特に妖魔本が大量にあるというのはこの私をして魅力的であるとすら言えるでしょう。でも後者の場合はその限りではない。確かにここには妖怪もやって来るけど。ここに置くくらいだったら魔法の森辺りにでも捨て置いた方がよっぽど収穫が望めるわ。私だったらこっそり博麗神社の隅っこの方にでも置いておくかしらね。あそこは妖怪がいっぱい来るし、本の放つ霊力も周りの気配に紛れて目立たないから」

 

小鈴「うわあ、それはちょっと引くわ…。…え?でも、じゃあなんで『知りたがりエイトのエングラム図鑑』はここにおいてあったの?」

 

阿求「考えられる可能性はいくつかあるけれど、なかでもこの状況で一番高い可能性は、まず本人にその本を悪用する気が無く、手に入れたはいいがその本が自分や周りの人にとって何となく危険だと理解していて、そこら辺に捨てようにもそれはそれで人の迷惑になってしまうから、使い道に困った末に偶然通りかかった本がそこにあっても不自然ではない場所に捨てていったという可能性よ」

 

小鈴「本がそこにあっても不自然じゃない場所って…。まぁ確かにそうなんだけどさ」

 

文「成る程判りましたよ。つまり魔理沙さんは、こいしさんと妖魔本を盗んだ後、その妖魔本を山分けにしたというわけですね?」

 

にとり「盗んだ当時の状況から考えて、見たことある内容の本。見た目白紙の本。厳重に封印された本の三種類があったとして、魔理沙が一体どれから手放すかを考えると…」

 

阿求「見たことある内容の本でしょうね。白紙の本は、まだ何か秘密が有るんじゃないかと勘繰りたくなりますし」

 

文「しかしこいしさんはその本を持っている内にどこかでその本の危険性に気が付いてしまったと。…まぁ、あの子の場合は、すべてを無意識のうちにやったという可能性もありますが…」

 

にとり「私はむしろその可能性の方が高いと思うよ。無意識のセルフ危機察知。…まぁ、どちらにせよあんなもの地霊殿に持って帰ったって百害あって一利無しだもんねー」

 

小鈴「『無意識を操る程度の能力』かー。誰も認識できないんじゃあ、確かにいつの間にかそこにあっても気づけないよねー」

 

文「私達天狗としては、そのまま返してくれたら尚良かったんですがね。というか、そここそが有るべき場所でしょう」

 

にとり「いつの間にか盗まれて更なる厳戒態勢の中いつの間にか戻ってきたんじゃあ、流石に容疑者が絞り込まれちゃうでしょ。共犯である魔理沙に迷惑がかかるとでも思ったんじゃないの?無意識に」

 

文「始末に困ります。良い子なんだか悪い子なんだか」

 

にとり「無邪気な子で良いんじゃないかな。要は付き合い方次第さ」

 

文「成る程。では今回の場合悪い子は魔理ちゃんだったということですね」

 

魔理沙「おい!なんだよその呼び方!」

 

文「では、霧雨魔理沙被告と呼んだ方がいいですか?山の方で正式に裁判にかけても良いんですよ?この場合外部の者が山の危険物を盗んでいるので判決は死刑だと思いますが」

 

魔理沙「あー、…魔理ちゃんちょっとポンポン痛くなってきたかも。いや、でもワンチャン証拠不十分で…」

 

にとり「でも家にあるだろ?『可能性空間移動論入門』」

 

魔理沙「オイオイオイ。死ぬわ私」

 

文「素直に返却してくれれば私の方で不問に伏してあげますよ。魔理ちゃん」

 

魔理沙「わーいありがとうあやおねーちゃん。ってか。…人生が辛いぜ」

 

文「これに懲りたら限度というものを弁えることですね。………ん?『可能性空間移動論入門』……だけ?『アカシックレコードの未完写本』の方はどうしました?」

 

魔理沙「ああ、それなら――」

 

にとり「ここにあるよ」

 

文「そうなのですか!?」

 

魔理沙「へぇ、ここにあんのかよ。それははじめて知ったぜ」

 

文「どういうことです!」

 

にとり「さっき言ったでしょ。魔理沙は一度『アカシックレコードの未完写本』を手にして既に手放している様な発言をしているって」

 

文「そう言われればそうでした。…では、『アカシックレコードの未完写本』もこいしさんが?」

 

にとり「いいや違う。『アカシックレコードの未完写本』は、魔理沙が目撃者の口を封じる為の賄賂として手放したんだ」

 

文「目撃者、ですって!?」

 

にとり「そう。どのタイミングでかは分からないが、魔理沙とこいしの犯行は目撃されていた。…恐らく、犯行が終わって、戦果を確認しようとしたときじゃないかな。その時ちょうど山にいた()()()()()()()という人物が、それを目撃して魔理沙に脅しをかけた。恐らく、天狗にばらされたくなければ儂にも分け前を寄越せとか、そんなことを言ってね」

 

文「そ、そこでマミゾウさんが出てきますか!」

 

マミゾウ「ほーう。ばれてしもうたか。…まぁ魔理沙が自白した時点ですぐにばれるとは思っておったがまさか既に判っておったとは…。参考までに、儂は一体何処でボロを出したのか聞いてもよいかの?」

 

にとり「まず、さっき言った魔理沙の発言がヒント一。次に魔理沙とあんたのいがみ合いがヒント二さ。魔理沙があんた相手に突っかかる理由が他に思い当たらないし、あんた自身言ってただろ?魔理沙は自分と違って目当ての妖魔本をスマートに手にいれる手腕もないって。これ、ネクロノミコンの写本のことじゃなくて、『アカシックレコードの未完写本』のことを言ってたんでしょ?魔理沙は目当ての本も見分けられない阿呆だって」

 

マミゾウ「ばれたか」

 

魔理沙「あーそれ聞いたらまた腹立ってきたなー。どつきまわしたろうかな。ほんとにな」

 

マミゾウ「魔理ちゃんは黙っとれ。今話が佳境に入ろうとしとるんじゃ」

 

魔理沙「お前に魔理ちゃん呼びを許した覚えはねぇぞコラ!喧嘩売ってんのか!」

 

文「それはつまり、私だけの魔理ちゃんということですか?これはきていますかね。きていて私だけのですかね」

 

魔理沙「ちっがああああああう!!そうじゃない!!」

 

にとり「魔理沙、そういう発言は今墓穴しか掘らないから止めとけ」

 

魔理沙「それは今身をもって体感している。畜生、どーしてばれちまうかなー」

 

マミゾウ「お主、全然全く反省しておらんの…。まぁいい。それで?河童よ。いや、にとりよ。お主、一体何処までわかっておる?」

 

にとり「そりゃあ、全てさ。ミステリードに死角はないからね。お前は、今日何しにここに来ていたと言っていた?」

 

マミゾウ「そりゃあ、外から流れ着いた漫画雑誌を売りに来た。じゃろ?」

 

にとり「そう。そう言っていた。だけど本当の目的は、それじゃない」

 

マミゾウ「じゃあなんじゃ」

 

にとり「小鈴ちゃんはさっきこう言っていた。「五冊あった本の題名は全部違いましたが、全て週刊少年という部分は一致していましたね」と。ここがまずおかしい。私がこのタブレット端末を拾って改造したのも結構最近でね。そこにはネットを介さない辞書アプリなんかも入ってたりしたんだが、それを見る限り、2018年現在において、週刊少年という名称を冠する漫画雑誌は、日本に四種類しか無いはずなんだよ。ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオンだったかな?それは最近拾ったものなんだろう?残り一冊、外の世界に存在しない漫画雑誌が混じってるんだけど。それ、何?」

 

マミゾウ「なんだと思ったんじゃ?まぁ、今更じゃが」

 

にとり「確かに今更だ。答えは一つしかないもんな。それは、『アカシックレコードの未完写本』を変化させたものだ。目的は鈴奈庵の妖魔本を全てコピーすること。そうだろ?」

 

マミゾウ「お見事!よくぞ見破ったもんじゃ!」

 

にとり「それほどでもあるよ。何しろ私の発明品の力だからね」

 

文「成る程。…これがそうですか。確かに、『アカシックレコードの未完写本』で間違い無さそうです。これは、回収させてもらいますよ?マミゾウさん」

 

マミゾウ「ああ、好きにせい。ばれてしまった計画に何時までも固執するほど儂は小物では無いつもりなんでな」

 

文「ふう…。これであと所在の判らない妖魔本は『知りたがりエイトのエングラム図鑑』のみですね。…隠した犯人は、阿求さんという話でしたが…」

 

にとり「そう。第三の事件。だね。但し、より正確には阿求さんは犯行の計画者であって、実行犯じゃあない。実行犯は、別にいる」

 

魔理沙「へぇ!そりゃ一体誰だ?」

 

にとり「なに、勿体振るようなことじゃない。そいつは始めっからここにいる奴で、尚且つずぅーーーーーーーーっと、我々の会話に参加してなかった()()()のことさ。

 

おい!()()()()()()()()()!犯人はお前だろうが!」

 

 

 

 

 

霊夢「…………………んあ?何。もう話は終わったの?」

 

魔理沙「お前……。よくもまあこの状況でぐーすか寝てられるもんだよな…。しかもお前、犯人らしいじゃねーか」

 

霊夢「なんだ。結局ばれたのか。阿求。あんたも意外と大したこと無いのねえ」

 

阿求「今の今まで寝ていた人に言われたくはありません。私はほんのちょっと言葉選びを誤っただけです」

 

霊夢「だってかったるかったんだもの。犯人の判ってる推理小説くらい退屈なものってないわよね。だって犯人、私なんだもんね」

 

魔理沙「だからってずっと寝てるって、そんな犯人聞いたことねぇよ」

 

文「そうですよ。私としたことがちっともマークしていませんでした。にとりさんが帰った後にペレストロ烏賊とやらのことを聞くまで出番なんて無いものかと」

 

霊夢「ぺれ………?何それ?」

 

にとり「うおおい!?もう忘れたのかよ!いや、あれに関しては全然忘れてもらって構わないんだけどさー!なんっだかなー!釈然としないなー!」

 

霊夢「どうでもいいわよそんなの。それで?私はこれからどうすればいいわけ?「ふっ、馬鹿馬鹿しい。何か証拠でもあるのかね」とか言えばいいの?」

 

にとり「いいよそんなの。もう半分自白が取れてるもん」

 

霊夢「そ。じゃあ後処理は阿求に任せるわ。私は―――そうね。そもそもここに来た目的だった新刊小説でも読もうかしら。小鈴ちゃん。アガサクリスQの新刊ってどこにあんの?」

 

小鈴「あ、はい。それはこっちにありますが、…えっと、その、良いんでしょうか」

 

にとり「ああ、いいよいいよ。そいつに聞きたいことなんてあと一個くらいしかないしね。まずは阿求さん。あんたの番だ」

 

阿求「はい。御随意にどうぞ。ふふ、いつも何だかんだで私は謎を解く側の人間でしたから、こうして犯人側として取り調べられるのは、何だか新鮮ですね」

 

にとり「そうかい。それなら存分に今の状況を楽しんでくれ。…さて、まずは本を隠した手段の確認からだ。霊夢がスキマを繋げて鈴奈庵の外に出した。これで間違いないね?」

 

阿求「ええ。間違いありません。そもそもこの場において、あの本を瞬時に隠すことの出来る能力者は三人しかいませんでした」

 

にとり「博麗霊夢。二ツ岩マミゾウ。そして私の三人だね」

 

阿求「ええ。ですが、私があの本を隠そうと思ったときに、協力を仰げる人はこの中だとやはり霊夢さんしかいません」

 

にとり「だね。人里代表と言ってもいいあんたは、気軽に妖怪に頼み事は出来ないだろう」

 

阿求「貴女が、いえ、正確には貴女の発明品が私を怪しいと思ったきっかけは、やはり私の迂闊な発言が原因ですか」

 

にとり「…やっぱりすごいなあんたは。他の犯人達と違って、自分の掘った墓穴の位置を正確に把握してるんだからね」

 

阿求「伊達に完全記憶能力を持っているわけではありませんよ。私は」

 

にとり「記憶力といい洞察力といい、本当に探偵向きだね。そう、でもだからこそ、そんなあんたの()()()()は、とても聞き逃せるものではなかった。求聞持の力を持つ稗田の書記ともあろう人間が、『知りたがりエイトのエングラム図鑑』という()()の名前を最初に『知りたがりエートのエングラム図鑑』と言い間違えるなんてアホみたいなミスを素でするなんてとても思えなかった」

 

阿求「しかし、もしそこに何らかの意図があったとするなら―――」

 

にとり「そう。場面を考えて、尚且つあんたが犯人だと仮定するなら話は簡単だ。私はこのマシンを使い始めるときに確かにこう言った。謎を解くためにはミステリードに正確な情報を記入する必要があるって。だからあんたはその言葉を受けて、早速ミスリードを敷いたんだ。実際にそれで、直後文さんはうまく騙されたみたいだしね」

 

阿求「しかしそれから暫く経って、本を最初に盗み出した真犯人である魔理沙さんが、きっちり正しい名称を覚えていて、正しい名称を口にしてしまう」

 

にとり「そう。そこで初めて、機械に入力した情報に明確な齟齬が生じたんだ。『エート』と『エイト』で本の名称が食い違った」

 

阿求「しかしこの場の全員が一度目にした書物の名前です。一度正しい名称を言われてしまえば、あとはもう正しい方に従うのみ」

 

にとり「正しい本の名称は、『知りたがりエイトのエングラム図鑑』。これに関してはもう間違いがなくなった。…では、何故一番最初に完全記憶の持ち主が本の名称を間違えるようなことをしたのか。それが稗田阿求の敷いたミスリードだとするならば、偶然か否か、『エイト』という単語には実に聞き覚えがある。百年以上前に作られた書物だと聞かされればなおさらだ。…だってそれはまさしく御阿礼の子の転生周期と同じなんだから。それに書物の作成に当代の博麗の巫女が協力しているんだとすれば、当時その協力を仰げる立場にいた『エイト』と名乗る人物なんて、もう一人しかいない」

 

阿求「稗田阿弥。八代目サヴァンにして先代の阿礼乙女」

 

にとり「そういうこと。つまりは文字通り、あんたの前身だってわけだ。魔理沙が本の内容が幻想郷縁起とほぼ同じって言っていたのも当たり前だ。恐らく先代の阿礼乙女は、そいつを使って妖怪の情報を手に入れてたんだろうからな」

 

阿求「きっとそうなんでしょうね。当時はまだ所謂「昔の幻想郷」でしたから、今じゃあ考えられないような危険なものが大量に出回っていたし、作るのにも抵抗がなかったと聞きます。妖怪からインタビューなんて当時は難しいどころの話じゃなかったでしょうから、そんなことをするくらいだったら妖怪から直接記憶を抜いてしまった方が手っ取り早かったんでしょう」

 

にとり「それに気づいたあんたは現代を生きる稗田家の人間として、そんな黒歴史を内包した書物は是非とも回収しておきたかった。そうだろう?」

 

阿求「ええ。全くもってその通り。訂正のしようもありません。付け加えるのなら、その考えは同じく協力者の子孫である現在の博麗の巫女も同じだったってことですね」

 

にとり「時系列に行動を並べるとするなら、まず文さんと一緒に鈴奈庵に来る。妖魔本を見て自分の先代が作ったものだと気づく。私と魔理沙と霊夢さんの三人が来る。みんなが雑談している内に霊夢さんに協力を仰ぐ。そして回収するってところかな?」

 

阿求「はい。その通りですね」

 

にとり「よし!これで謎はすっかり解けた!実に清々しい気分だ!やはり私の発明品は完璧だった!」

 

文「成る程。ならば霊夢さんにする最後の質問とはこれですね?「あの妖魔本、どこやった?」」

 

にとり「イグザクトリー。…で?どこやったんだい?霊夢さん」

 

霊夢「ちょっと待って。今二件目の殺人が起こって凄く場面が盛り上がってるの」

 

文「誰が待つものですか。早くしてください。小説なら帰ってからでも読めるでしょう」

 

阿求「文さん。あの本を回収したら、上司の大天狗に私の書簡を渡してもらえませんか?本を稗田家で管理出来るよう交渉したいのです」

 

文「ええ。それくらいなら構いませんよ。なんなら私からも口利きしておきましょうか」

 

阿求「有難う御座います。そうしていただけると助かります」

 

霊夢「そんな面倒なことせんでも私が博麗の巫女として異変の素だとか言って回収しちゃえばいいのよ。実際危険なんだし。あと本なら入口出たとこのすぐ脇っちょに人払いの札を貼って置いてあるわよ」

 

文「そういうわけにもいきませんよ。妖怪の山には妖怪の山の社会秩序がありますから。……………えっと、どこにも見当たりませんが…」

 

霊夢「はあ?そんなはずは………あれー?どうしてないの?確かにここに置いたはずなのに」

 

にとり「…ねえ、文さん」

 

文「何です?」

 

にとり「確か文さんさっきこう言ってなかった?本に封じられたある大物の記憶が自我を持ち独り歩きしてるって…。その独り歩きってさあ、どの程度の規模で起こってんの?」

 

文「………さあ、そこまで詳しいことは…」

 

にとり「…じゃあ、阿求さん」

 

阿求「…何です?」

 

にとり「確か御阿礼の子っていうのは、代々求聞持の力を受け継ぐにあたって、幻想郷縁起に関わる記憶のみを受け継ぐんだよね?つまりは情報記憶を受け継いで経験記憶の方はきれいさっぱり忘れている」

 

阿求「そうですね。それがなにか…」

 

にとり「あくまでもこれは根拠のない妄想みたいなものだから全然聞き流してくれて構わないんだけど、仮にだよ?稗田阿弥の経験記憶があの本のなかに入っていたとして、それが自我を持ち独り歩きした場合、一体あの本はどういう動きをすると思う?」

 

阿求「それは、なんとも面白い妄想ですね…。そもそもあの本は妖怪の記憶を盗む本だって判って言ってます?」

 

にとり「勿論。根も葉もない空想だってのは判るんだよ?でも…、でもさ……」

 

阿求「あはは!ちょっと止めてくださいよ縁起でもない。そんなミステリードをちらちら見ながらしゃべったら、まるでそれがその完璧な機械が導きだした一番高い可能性みたいじゃないですか…。でもそうですね…。あくまでも余興としてあえて答えるなら、伝え聞いた稗田阿弥の性格から考えるに、「知識欲のまま何処までも突っ走る」が、回答になりますかね…」

 

にとり「そっか、…ははは。なんか、ごめんね。私の冗談に付き合わせちゃって」

 

阿求「いえいえ、…そんな謝るようなことではありませんよ。…ええ。ほんとに…」

 

霊夢「ちょっと意見、いいかしら?」

 

文「…どうぞ」

 

霊夢「阿求と文には悪いんだけど、あの本の回収は二人とも諦めて頂戴。あの本は、私が破壊するから」

 

阿求「………ええ。構いませんよ。お好きになさってください」

 

文「私の方からも、むしろ依頼しようかと思っていたところでした。手間が省けて助かります」

 

魔理沙「こりゃあもしかすると、異変になるかもだな!霊夢!私も手伝ってやるぜ!」

 

文「いえ。魔理沙さんはその前に盗んだもう一冊の本の回収ですよ。割りと緊急事態なのでちょっぱやで行かせて貰います」

 

魔理沙「あっ!まてこら服をつかむな文てめぇ!人里のど真ん中で翼なんか出して良いとおも、って、…うわあああああああァァァァァァ――――――――――――っ!!」

 

にとり「おお、もう消えた。流石幻想郷最速…。果たして魔理沙は無事で済むのか」

 

マミゾウ「あの速さじゃと空気抵抗とやらで凄いことになりそうじゃのう…」

 

霊夢「ちょっと、そこのボンクラ妖怪二人組。あんたらも手伝いなさい。手分けして探すわよ」

 

にとり・マミゾウ「「ボ、ボンクラって…」」

 

阿求「私達は人里の中を探します!霊夢さん達は外を探してみてください!小鈴!いくわよ!」

 

小鈴「え、えー…。私もー?」

 

阿求「当たり前よ。私は体力がないんだから。むしろあんたがメインなのよ」

 

小鈴「そんな!店番はじゃあ誰がやるのよ!」

 

阿求「鈴奈庵は本日の営業を終了致しました」

 

小鈴「あんたが勝手に決めるなー!!」

 

 

第十作 ミステリード 解決編

未解決。

にとり印

 




後日談
筆者 二ツ岩マミゾウ

⚫️月⚫️日、今日は一昨日魔理沙の奴を脅して手にいれた素晴らしい妖魔本を使って鈴奈庵の妖魔本の完全コンプを目指そうと思い立ち実行に移した。が、山から本を回収しに来た妖怪どもに本の正体がばれてしまった。結果的に本は回収されたのだが、その後に面白い異変に立ち会えたので良しとする。…まさか一冊の妖魔本からあそこまで壮大な異変に発展するとはさしもの儂も当時は想像だにもしておらんかった。
結局その異変もいつも通り、博麗の巫女と、後から合流した霧雨魔理沙によって解決を見せた。異変中、山の河童、河城にとりとともに変則的なダブルス弾幕ごっこをすることになったのだが、その時偶然決まった河城にとりとの「分福茶釜スペシャル」は、弾幕史上の歴史に残る奇跡の一発だと思う。そして、先代の阿礼乙女、稗田阿弥が何故本のなかに自分の記憶を封じ込めたのか、どうして妖怪の記憶を集めるのか、それらことの真相にたどり着いたときは、歴史の重さというものを文字通り肌で感じることができた。非常に貴重な体験だ。だから儂も、彼女を見習ってこうして今日から日記をつけようと思った次第である。


PS.それはそうと、あの『アカシックレコードの未完写本』とかいう妖魔本。魔理沙の奴が見たときは白紙だったんだか知らんが、儂が中身を見たときは他の二つの妖魔本の中身がコピーされておった。『知りたがりエイトのエングラム図鑑』の方は、まあいい。ありゃあ外から本自体に掛けられた霊力が危険なのであってコピーされたのはただの文字であるからなんの問題もない。
ただもう一冊の方、『可能性空間移動論入門』の方はあれ、どうなんだろうか…。読んで中身を理解してしまったんだが、可能性空間移動論は果たしてこの世界に適応されてしまったのか。異世界からの侵入者がやって来てしまうのか。なったらなったでまあ、なるようにしかならないのだろうが、ちょっと不安な今日この頃である。


二ツ岩マミゾウの日記より抜粋。継続中。


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第十一作 エアーファッション

第十一作 エアーファッション

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

雛「…それで?私をわざわざ呼び出してまで完成に立ち会わせたかったものって、一体何だったわけ?」

 

にとり「うん。これこそが、私の新しい発明品。エアーファッションさ!」

 

雛「これは…、何かしら。見たところ布のようだけど」

 

にとり「そ。布だよ。今回私は、今までにない素材を使用した全く新しい布を作ったのさ」

 

雛「新しい素材?」

 

にとり「素材は何かって聞かれたら、企業秘密だって答えるしかないんだけどねー。ま、どう新しいのかは持ってみれば分かるよ」

 

雛「どれどれ?………って、あら?私、今この布持ってる…わよね」

 

にとり「うん。持ってるね。見ればわかる」

 

雛「…全然持ってる感じがしないのだけど。え?なにこれ、軽いってもんじゃないわよ?」

 

にとり「そう。それこそが私の新発明。名前の意味、判っただろ?」

 

雛「なるほど。空気のように軽い布。…確かにこれで作った衣服を着れば、それはエアーファッションと呼んでもいいかもしれないわね。まあ、名前聞いただけだと着てる振りみたいに聞こえるのはどうかと思うけど…」

 

にとり「なんだ、私のネーミングセンスが不満か?」

 

雛「裸の王様をイメージしちゃうのよ。どうせエアークッション辺りから文字ったんでしょうけど、あんまり何でもかんでもダジャレみたいなネーミングするのもどうかと思うわよ?」

 

にとり「呈すねー、苦言を。いや、なら反論させてもらうけど、ネーミングなんて大体そんなもんだよ?例えば医薬品とか、特に薬の名前とかね。たまにこれ名前つけた奴絶対オヤジだろ。オヤジギャグだろこれって思うやつ結構あるよ?」

 

雛「あなた少女じゃないの。感性がオヤジと同じで良いわけ?」

 

にとり「素晴らしい発明をしたオヤジとなら、同じ感性でも悪くはない」

 

雛「そう…。まあいいわよ。あなたがそれでいいなら、好きにしなさい」

 

にとり「うん。好きにするよ。…でも、名前が裸の王様みたいってのはちょっと心外だなー。私の発明のスタンスとはほとんど真逆だっていうのに…」

 

雛「スタンスねぇ。あなた、こんな軽い布を、そういえばどうして作ろうと思ったわけ?」

 

にとり「いやー。この前永遠亭にお邪魔した時に月の羽衣の話になったんだけどさー。その時に、衣服は着ているだけで衣服圧って言うものを受けるって聞いたんだよねー」

 

雛「衣服圧?」

 

にとり「そ。衣服の重さから生じる圧力のことで、疲労の原因になるんだってさ。月ではそんなことはないとかなんとか注釈付きで永琳先生が話してくれたよ。まあ、妖怪や神様にも同じことが言えるかなんて分かんないけど、日々の疲労の積み重ねが後々大きく跳ね返ってくることもあるし、だったら私がその衣服圧をほぼゼロにした衣服の地上版を開発してやろう!って思ったわけさ」

 

雛「なるほどね。いいじゃない。モチベーションは立派だわ。で?私をここに呼んだ理由は?」

 

にとり「それはこっちに用意してある」

 

雛「それは、…私のドレス?」

 

にとり「そう。雛のいつも着ているドレスさ。それをエアーファッションで仕立てた。要するに雛を呼んだのはエアーファッションの性能検査のためさ。前々から雛の服って重っ苦しいと思ってたんだよねー」

 

雛「悪かったわね重っ苦しい女で」

 

にとり「そこまでは言ってないじゃないか。いやまあ、雛はいつも厄を纏っているから雰囲気が重苦しいのは否定出来ないけども」

 

雛「否定してよ!そこは肯定しちゃダメでしょ!?」

 

にとり「そんな重い女の雛だけども、せめて着ている服くらいは軽やかにしてみたいじゃないか」

 

雛「完全に重い女にされた!すっごく心外!」

 

にとり「今回のことから雛の得るべき教訓は、迂闊な発言はそのまま自分に返ってくることがあるということだね」

 

雛「元凶がなにをほざいてんだか…」

 

にとり「ああもう、機嫌直してよ。冗談だよぉ。厄…漏れてるケド。大丈夫?」

 

雛「大きなお世話よ。…で?私はこれを着れば良いわけ?」

 

にとり「うん?着てくれんの?」

 

雛「そのために呼んだんでしょうが。良いから貸しなさい。着てあげるから」

 

にとり「うんうん。やっぱり雛は優しいね!そういうところ、私は大好きさ!」

 

雛「今更そんな取って付けたようなお世辞言ってもどうにもなりゃしないわよ」

 

にとり「ありゃりゃ。バレたか」

 

雛「お前マジで殺すわよ?ここで、今」

 

にとり「冗談じゃない。お世辞言っただけで殺されたんじゃあ命がいくつあっても足りないよ」

 

雛「はぁ。もういいわよ。で?私はどこで着替えれば良いわけ?」

 

にとり「ん?ここじゃダメなの?」

 

雛「いい?にとり。あなたは特にこの言葉をよく覚えておきなさい。―――親しき仲にも」

 

にとり「―――礼儀ありって?はいはい。気を付けますよー」

 

雛「はあ、なってないわ…」

 

少女試着中…。

 

雛「――さて、こうして着替えてみたわけだけれど…」

 

にとり「うんうん。それで?着心地はどんな感じだい?」

 

雛「そうね。まず、確かに着ているときの重さは全く感じないわ。空を飛べそうなくらい軽いというのはまず間違いない。…まあこれは比喩としては甚だ不適切だけど」

 

にとり「元々飛べるもんね私達は。それでそれで?」

 

雛「問題は、軽すぎて着心地が全くないということ」

 

にとり「うん?それの何が問題なのかな?この発明の骨子は正にそこなんだけど」

 

雛「時折ふと、私は今裸なのではないかと思ってしまう時があるわ」

 

にとり「あー…。それは確かに、問題だ」

 

雛「確かにこれなら衣服圧による疲労は無いんでしょうけど、これを着て外を出歩くとなると、それはそれで疲れそうだわ」

 

にとり「肉体的疲労が無くなる代わりに新しく精神的疲労が生じるのか…。うまく行かないね。月の民は一体どうしてるんだか…」

 

雛「少なくとも私は遠慮願いたいわね。裸の王様の気分になるのは」

 

にとり「スタンスは真逆の筈なのに結果は同じになるのかよ…」

 

雛「だとするならやっぱり、あなたのネーミングセンスはそんなに悪くなかったってことなのかしらね」

 

にとり「そのお世辞は全く嬉しくないよ…」

 

 

第十一作 エアーファッション 没。

にとり印



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第十二作 リアクッション

第十二作 リアクッション

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

霊夢「また来たの?今度は何よ」

 

魔理沙「最近大抵のことでは驚かなくなってきた自信があるぞ私は。どんと来い!」

 

にとり「今回作ってきたのはこいつ。リアクッションさ!」

 

魔理沙「クッション…。要するに、座布団を作ってきたのか?」

 

にとり「そうだね座布団のようなものを作ってきたのさ。主な用途はそれでいいよ」

 

霊夢「主な用途ぉ?つまり、他にも余計な機能が付いてるってこと?」

 

にとり「確かに付いてるけど、余計な機能ではないよ。立派な機能が付いてるんだよ」

 

魔理沙「どんな」

 

にとり「このクッションはね、反発性最強のクッションなのさ。具体的に言うとこのクッションには、砲弾を跳ね返せる程度の防弾性がある」

 

霊夢「よくわからないわね。その砲弾ってのは、具体的にどのくらいの威力があるのよ」

 

にとり「え?…えーと、そうだなあ…。全速力でつっこんできたブン屋くらい?」

 

魔理沙「そりゃすげえ!」

 

にとり「だろう?つまりこのクッションは調度品としてだけでなく、弾幕ごっこにおけるカウンターアイテムとしても使える優れものということなのさ!」

 

霊夢「ふーん。なんだか便利そうね。ちょっとだけ欲しくなったわ。今のとこ座布団として以外の使い道はないけれど、いざってときにすぐ盾にできそうだもんね」

 

魔理沙「そうだな。そういう便利そうな発明品だったら、私が貰ってやるのも吝かじゃあないんだぜ」

 

にとり「おお、魔理沙はともかく、霊夢が私の発明品を誉めてくれるとは…。なんか感動してきた」

 

霊夢「大袈裟ね。別に私は便利そうなもん作ってきたんだったら普通に誉めるわよ。前に紹介されたなんとか烏賊だって普通に誉めたじゃない」

 

にとり「そういえばそうだった。ここ最近成功に比べて失敗の数が多すぎて全然覚えてなかった…」

 

魔理沙「なあ、にとり。そんなことより私はさっきの私はともかくって台詞に一言もの申したいんだが」

 

にとり「異論は認めない。泥棒と嘘つきにはもれなく人権も認めていない」

 

魔理沙「おいおい…。お前まだヒッチハッカーを没収されたことを根にもってんのか?いいじゃんか。私はあれをただ鍵を開けるというあの機械本来の用途で使用しただけだぜ?それだけで没収されるんだったら、それはもうあれがそもそもそういう品だったってだけのことだ」

 

にとり「犯罪に使用してる時点であれの本来の用途からはかけ離れてるよ!逆に言えば犯罪にさえ使用しなければあれはまだ私の手元にあったってことだ!」

 

魔理沙「あー、分かった。分かったからそんなに怒るな。確かにあれは私が悪かった。全責任が私にあるかはともかくとして、私も悪かったと思ったからせっかく盗ん………借りたものを全部返したわけだ。まあ、お前のヒッチハッカーはお前の手元には戻ってこなかったようだが。それはまあ、私からは残念だったとしか言いようがない」

 

にとり「悪かったと思ってるって、どうせ間が悪かったとかそんな感じのこと思ってるんだろ?心にもない謝罪なんて私に通用すると思うなよ?」

 

魔理沙「おお、よく分かったなにとり。お前覚妖怪になれるんじゃないか?」

 

にとり「さーん、にー、いーち」

 

魔理沙「まてまて待て待て!いきなり懐に手を突っ込んでカウントダウン始めるとか何するつもりだよ危ない奴だな!分かったよ!お詫びに今度香霖からかっぱらってきた外の式とかいうのをやるからそれで許してくれ!」

 

にとり「今更パソコンなんて貰っても………。まあ、物によっては許してやるのも吝かではない」

 

魔理沙「ようし!契約成立だな!今度お前んちまで持ってくから、それまで怒りはひとまず押さえてくれよ」

 

にとり「わかった。この話はとりあえず保留にしてあげる」

 

霊夢「どうでもいいけど、あんたらここで暴れるようなら二人とも即刻退治してやるからね」

 

魔理沙「おいおい霊夢。退治はないだろ私は人間だぜ?」

 

霊夢「問答無用。私に迷惑掛ける奴に人も妖怪もないわ」

 

にとり「流石は幻想郷で怒らせてはいけない人妖ランキング堂々の一位は迫力が違うね。私みたいにわざわざ小道具で小細工しなくても背筋が震えてくるよ…」

 

魔理沙「怒らせてはいけない人妖ランキング?そんなもんいつの間にできたんだ?」

 

にとり「昨日届いた文々。新聞に書いてあった」

 

魔理沙「なるほどな。あの天狗もいよいよネタが無くなってきたと見える」

 

霊夢「天狗(あいつ)は後でしばくわ」

 

魔理沙「おっと、早速自分で決めたランキングの一位を怒らせるとは。御愁傷様としか言いようがないぜ」

 

にとり「ちなみに魔理沙は下から数えた方が早かったよ。なめられ切ってると見ていい」

 

魔理沙「よし、霊夢。ここは私に行かせろ。あいつに真の恐怖とは何かってものをこの私が教えてやる」

 

にとり「ランキング上位でも下位でも怒られるって、割と珍しいランキングだよね」

 

霊夢「知ったこっちゃないわ。人によるでしょそんなもん。…あー、でもまあいいか。どうせあいつの新聞なんて誰も読まないし。こんなんで一々怒るのも面倒くさいし」

 

魔理沙「おいおいそりゃないぜ霊夢。霊夢がそんなんじゃ今一人だけ怒ってる私の器が小さいみたいじゃないか」

 

にとり「実際そこまででかくもないじゃないか」

 

魔理沙「なんだ、お前まで私に喧嘩売ってんのか?いつでも買ってやる……と、言いたいところだがお前には借りがあるし、広い心で許してやるとしよう」

 

にとり「取って付けたような心だね。大器にはほど遠いよ」

 

魔理沙「大器晩成というからな。まあまだ成長の余地はあると捉えておくことにするか」

 

にとり「前向きだねー。ま。その前向きさだけは、結構器が大きいと言えるかもね」

 

魔理沙「だろう?前向きだからこそ、物を盗んだときの言い訳も浮かぶ浮かぶ」

 

にとり「前言撤回。お前はただの小悪党だ」

 

魔理沙「器の大きな小悪党。いい響きだな。採用」

 

にとり「採用されちゃったよ。前向きが過ぎる。ろくに揚げ足も取れないとはね」

 

魔理沙「私の偉大さが証明された瞬間だな」

 

にとり「鋼メンタルなら証明されたかもね。まあノリが氷精とほとんど一緒だっていう残念な事実は、さすがに可哀想だから言わないでおいてあげるよ。うわ、私ってなんて優しいんだろう!」

 

魔理沙「おい、言葉に出てるぞ」

 

霊夢「ちょっと、そういう下らない漫才は宴会の席でもない限りは他所でやってくれない?素面ではとても聞くに耐えないんだけど」

 

にとり「あ、そう。じゃあ私はそろそろ帰るね。あと、このクッションは誉められて嬉しかったから霊夢にあげるよ」

 

霊夢「あらそう?ありがとう」

 

魔理沙「おいにとり。私の分は?」

 

にとり「あるわきゃない」

 

魔理沙「おい。にとりお前いくらなんでも私への当たりがきつすぎるだろう」

 

にとり「いや、単純に数の問題だよ。まだ一つしか作ってないもん」

 

魔理沙「そうなのか?紛らわしい。まだ怒ってるんじゃないかと思ったぜ」

 

にとり「別に。実のところ怒りそのものは最初からそんなにないよ。悔しさならまだあるけどね」

 

魔理沙「お前…。器でかくね?」

 

にとり「そんなの気にしたこともないよ」

 

魔理沙「でかいでかい。なあ、お前もそう思うだろ霊夢―――?」

 

霊夢「きゃああっ!!?」

 

魔理沙「…………………………………………」

 

にとり「…………………………………………」

 

魔理沙「おいにとり。リアクッションに寄り掛かろうとした霊夢が吹っ飛ばされて天井に突き刺さったぞ」

 

にとり「あー…。リアクッションは反発性最強だからね。勢いよく寄り掛かったらそりゃあ吹っ飛ばされるよ」

 

魔理沙「じゃあダメじゃん。この発明は失敗だよ」

 

にとり「ええー。でもカウンターアイテムとしてはこれくらいじゃないと…」

 

魔理沙「クッションとして機能しなけりゃこの発明は意味がないだろうが!!弾幕跳ね返すだけならそんな方法いくらでもあるわ!!」

 

霊夢「にぃーとぉーりぃーーー?」

 

にとり「やばっ!幻想郷一怒らせてはいけない人妖が怒った!!」

 

霊夢「悪・即・斬!覚悟しなさいにとり!…と、ついでに魔理沙!」

 

魔理沙「はあ!?私別に関係ねーだろうが!」

 

にとり「死なばもろとも」

 

霊夢「問答無用!!」

 

魔理沙「不幸だああああああああああっ!!」

 

 

第十二作 リアクッション 不採用。

にとり印



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第十三作 地縁草

第十三作 地縁草

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

霊夢「あんた…。そんなところで何してんのよ」

 

にとり「見てわからないかい?草を植えているのさ」

 

霊夢「人ん家の庭に勝手に草を植えないでくれない!?」

 

にとり「まあまあ落ち着いて霊夢さん。この草はね、草は草でもこの神社の過疎化を食い止めるかもしれない草なんだよ」

 

霊夢「どういうことよ?」

 

にとり「この草こそは、私が新しく品種改良した新種の植物。地縁草なのさ!」

 

霊夢「ちえんそう?」

 

にとり「そう。手っ取り早く言うと、この草は生えている場所周辺に特殊なアロマを放って人を惹き付ける効果があるのさ。詰まるところこの草には、縁結びの効果がある」

 

霊夢「新商売の予感ね!」

 

にとり「ん、…。まあ、神社をして縁結びってのは、予想外に的を射ている感はあるけれど、これはあくまでも客足を伸ばす程度に植えたものだからあんまり調子に乗らないほうが…」

 

霊夢「ふふww…。そうとなったら縁結びの社を作ってお守りも販売して…。ウハウハね!今から笑いが止まらないわwww」

 

にとり「れ…霊夢さんから草が生えてる…」

 

 

数ヶ月後…。

 

 

にとり「久しぶりに博麗神社に来てみたけど、結構繁盛してるじゃないか」

 

霊夢「あら、にとりじゃない!あの草を植えてからというもの参拝客数はうなぎ登りよ!それもこれもあんたのお陰だわ!」

 

にとり「それは何よりだよ。私も苦労して品種改良した甲斐があったってもんさ」

 

霊夢「ただ、ちょっと気になることもあってね」

 

にとり「ん?なにかな?」

 

霊夢「最近になって、神社に口うるさい仙人が寄ってきたり、外の世界の女子高生?ってのがふらふらやって来て面倒ごとを起こしたり妖精が勝手に軒下に住み着いたり貧乏神が住み着いたりしてくるんだけど、これってあの草のせいだったりするの?」

 

にとり「状況がそもそもあんまり分かんないけど、人が寄ってくるってことだったら地縁草の効果も無くはないんじゃないかな」

 

霊夢「あと、紫の式が飼い猫を探しに来たり」

 

にとり「それは多分、地縁という言葉につられてやって来たんじゃないかな」

 

魔理沙「おーい!霊夢!大変だ!変な気持ち悪い仮面を着けた男がチェーンソーを振り回して参拝客を襲っているぜ!?」

 

霊夢「何ですって!?」

 

にとり「それは多分、地縁草という言葉につられて幻想入りした新人じゃないかな」

 

霊夢「馬鹿なの!?……っとにかく!変態妖怪はさっさと退治ね!」

 

 

少女退治中…。

 

 

霊夢「ふぅ!何とかあの変態妖怪をはっ倒してついでに封印してきたわ!参拝客に手を出すとは……!許せん!」

 

にとり「妖怪…だったのかなあれは…。まあ、怪人じゃああるんだろうけど」

 

霊夢「なんだか最近変な奴が大量に来すぎてる気がするわ」

 

にとり「縁結びと一言で言っても色んな縁があるからね。結びたくない縁もまた、地縁草が呼び寄せる対象になるのさ。………でもおかしいな。私はあくまで客足を少し伸ばす程度にあれを植えたから、そんなにおかしな縁は結ばないはずなんだけど」

 

霊夢「調子に乗って少し育て過ぎたかしらね」

 

にとり「育てたって一体どれだけ……。うわ!これは流石に育て過ぎだよ!地縁草が森になっちゃってるじゃないか!」

 

霊夢「だって、放っておいたら勝手に生えてくるんだもの。私としてはかえって都合が良かったからむしろ水をやったりして積極的に育ててたけど」

 

にとり「だからってこれはやり過ぎだ!こんなにあったらいつかとんでもないものまで呼び寄せちゃうよ!」

 

霊夢「この草自体が異変の元になってたってわけね。…少し惜しいけど、剪定するのもめんどくさいし、全部伐採することにするわ」

 

にとり「うん…。まあ、霊夢さんがそう言うんなら、そうしたほうがいいさ」

 

霊夢「はあ。これで参拝客皆無の日常に逆戻りか…。また魔理沙に馬鹿にされると思うと、…まあ、割とどうでも良かったわ」

 

にとり「どうでもいいんかい。いやそれにしても、本当に両極端な場所だなあ、ここは」

 

霊夢「うるさいわね。そう思うんだったらもっとバランスのいい発明品を持ってきなさい」

 

にとり「なんか私のせいみたいに言ってくれるけど。この場合両極端なのは霊夢さんの方だと思うよ?」

 

 

第十三作 地縁草 伐採。

にとり印



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第十四作 マッチ針

第十四作 マッチ針

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

アリス「誰よあなた」

 

にとり「ひどいな!全く会ったことないって訳じゃないだろう!?何度か会ってるじゃないか!宴会の席とかでさあ!」

 

アリス「いや、そりゃ知ってるわよ。祭りとかでよく出店出してる河童でしょう?」

 

にとり「そう!その通り!河童の河城にとり!河城にとりを宜しくお願いします!」

 

アリス「うん、知ってる。ただ私は人ん家にノックもベルも無しに押し入る粗忽者が知り合いにいると思いたくないだけ」

 

にとり「それはごめん!だけどそれなら魔理沙とかどうなんだよ!あいつよくアリスの家から本借りてきたとかなんとか言ってるよ!?それって盗んだってことだろ!?あれは粗忽者じゃないのか!?」

 

アリス「魔理沙ならそこの壁に手配書が貼ってあるでしょう?」

 

にとり「ああ、知り合いじゃなくて指名手配なの。じゃあ、いいや」

 

アリス「それで?ついにできたとかなんとか言ってたけど、何の用でうちに来たわけ?」

 

にとり「ああ、そうそう。今回は裁縫が得意だっていうアリスさんに私の新しい発明を見てもらおうと思ってね」

 

アリス「発明?」

 

にとり「そう!私の今回の発明はズバリこいつ!マッチ針だ!」

 

アリス「まち針?…普通の針に見えるけど」

 

にとり「うん。まち針ではない。マッチ針さ」

 

アリス「なんなのよ。そのマッチ針っていうのは」

 

にとり「よくぞ訊いてくれた!こいつはね。名前の通り、どんなものにでもマッチする針なのさ!」

 

アリス「マッチってそういう?火でもつけるのかと思ったんだけど」

 

にとり「そんなことしたらろくに裁縫も出来ないじゃないか。こいつはね。何にでもぶっ刺せる針なのさ」

 

アリス「なんにでも?」

 

にとり「そう。なんにでも。布でも鉄でもアダマンタイトでもすいすい刺せる」

 

アリス「それは…。無駄にすごいわね」

 

にとり「無駄とかいうなよー。単純に凄いんだよ。これさえ使えば、アリスさんの人形作りの幅も広がると思わない?」

 

アリス「ん…、まあ、そうかもしれないわね」

 

にとり「だろう?じゃあ、試しにちょっと暫くの間この針を使って性能をプロの目から見て試してみてくれないかな。性能検査をクリアしたら、私はこいつを大量生産して里の金物屋に卸す予定なんだ」

 

アリス「相変わらず河童は商魂逞しいわね」

 

にとり「まあ、それほどでもあるよ」

 

アリス「ま、いいわ。この針が使えるものだったら、それが里の金物屋で手に入ると便利だしね。協力してあげましょう」

 

にとり「助かるよ!じゃあ、ここに試作品を二十本ばかし置いていくから、使いやすさとかをまとめてレポート五枚くらいで検査結果を報告しておくれよ」

 

アリス「急に仕事臭くなったわね!別に構わないけど、そんなこと言われるとこちらとしては賃金を求めたくなるわよ?」

 

にとり「マッチ針の完成品二十本でどうだ」

 

アリス「うーん…。まあ、それでいいわ」

 

にとり「契約成立だね!ノリ的にはここで契約書にサインと押印でもしてもらいたいところだけど、残念ながらそんなもんは持っていないので今回はなしだ」

 

アリス「次回以降も無くていいわよそんなもの。やる気が削がれるだけだわ」

 

にとり「あはは、じゃあ、この針はここにぶっ刺しておくからねー」

 

アリス「ちょっと、変なところに刺さないで。………って、嘘…。針が浮いてる?」

 

にとり「ふはは!浮いているんじゃない!刺さっているのさ!空中に!」

 

アリス「また…。無駄にすごいことを…」

 

にとり「無駄じゃあない!ピンクッションが要らなくなるという画期的なアイディアに基づく機能の有効活用だ!」

 

アリス「でも、おかしいわね」

 

にとり「ん?なにが?」

 

アリス「この針は今何を刺してるの?空気中に刺さっているのだとすると、空気は流体だから、針が一ヶ所に固定されるのはおかしいわよね?」

 

にとり「ああ、それはだね」

 

アリス「それは?」

 

にとり「確かにおかしいね。そんなこと考えたこともなかった。何でだろ?」

 

アリス「おい」

 

にとり「そういう事象に関する研究や考察はアリスさんみたいな魔法使いや科学者の仕事でしょ?私は技術屋だから、そういうのは最低限だけ調べて、後は使えりゃいいかってスタンスなんだよねー」

 

アリス「無責任な…。そんなんだからよく発明に失敗するんじゃないの?」

 

にとり「うっ…。それは確かに否定出来ないかも…」

 

アリス「はあ、…ま、今回は私がそこら辺の役割を請け負ってあげるから、あなたは私のレポートでも参考にして次回からはしっかり原因と結果の究明をしながら発明することね」

 

にとり「はーい。参考にさせていただきまーす。それじゃあ、また一週間後くらいにまたここにくるねー」

 

アリス「はいはい。それまでに私はレポートを書き上げておけばいいのね。分かりましたよ」

 

 

一週間後。

 

 

にとり「おひさー。アリスさん!で?どうだった?」

 

アリス「………ひどい目にあったわ」

 

にとり「ひどい目?針が指に刺さっちゃったとか?」

 

アリス「まさか。あなた、私を誰だと思ってるのよ」

 

にとり「プロの人形製作師ですね。すみません。…じゃあ、何があったのさ」

 

アリス「異世界に飛ばされた」

 

にとり「は?」

 

アリス「異世界に、飛ばされたの!私が!」

 

にとり「ちょちょちょっ!待って!話についていけない!」

 

アリス「あんたが空中に刺した針だけどね。あれ空気に刺さってたんじゃなくて空間に刺さってたのよ」

 

にとり「く…空間に?」

 

アリス「そう。しかもあなたが一気に二十本も刺して空間の穴を広げたせいでとんでもない空間歪曲が生じた結果、私が異世界に転移してしまいました 、と」

 

にとり「それはなんというか…。ごめんなさい?」

 

アリス「そうね。存分に謝って頂戴。あなたのお陰で私は経験しなくていい一大スペクタルを経験するはめになったわ。まさか幻想郷より非常識なとこがあるなんてあなた、予想できる?」

 

にとり「できない」

 

アリス「新世界は絶対もう二度と行きたくないわね。前半の海を楽園と表現した人間は本当にセンスの塊だわ。あそこが楽園なら、ここはさしずめ天国ね」

 

にとり「うん。ぜんっぜん意味分かんない。ただ苦労したんだなってことだけは伝わってくる」

 

アリス「そうね。詳しいことは後でレポート5000枚くらいで提出させてもらうわ」

 

にとり「なが!」

 

アリス「………足りないかもしれないくらいよ」

 

にとり「アリスさん、その異世界にどんだけ長い間いたんだよ。一週間でそれは流石にないだろ?」

 

アリス「二年から先は日にちを数えるのを止めたわ」

 

にとり「うわ…。なんか、ごめんなさい。…えっと、じゃあ渡した試作品はどうなったの?」

 

アリス「全部あっちに置いてきた。あんな危ないもの、もう二度と作らないで」

 

にとり「あ、えっと。はい。すみません。以後気を付けます」

 

 

第十四作 マッチ針 異世界漂流。

にとり印




本編とは全く関係のない二次小説「アリス イン ワンピースランド」連載けってい!そのうち投稿します!見てね!


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第十五作 インダストボックス

第十五作 インダストボックス

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

諏訪子「おーい。にとりはいるかーい?」

 

にとり「おっと!これはこれは諏訪子の旦那。私はここにおりますとも。本日はどんなご用件で?」

 

諏訪子「そうだな。まず一つ目の用件だけど、そのおかしな口調をやめようか」

 

にとり「諏訪子さんは私の数少ない大口のちゃんとした商売相手だから、一応敬意を表しておこうと思ったんだけど」

 

諏訪子「一応の敬意なんてお呼びじゃないよ。変な口調はもっといらない」

 

にとり「そうなの?そこまで言うんだったらやめるけど、諏訪子さんは神様なんでしょ?本当に敬語を使わなくて良いの?」

 

諏訪子「いいよいいよそんなもの。神奈子の奴なんかは、どこかでまだそういう信仰に拘ってるところがあるかもしれないけど、本来神様への信仰なんてものは心の中でそっと捧げるくらいが一番効能が高いのさ」

 

にとり「へー。そんなもんなのかね」

 

諏訪子「そんなもんさ。大袈裟に奉りすぎるとろくなことがない。信仰は暴走するからね。神様もついていけない信仰なんてろくなもんじゃないよ」

 

にとり「はー。なんだか神様本人に言われると含蓄があるように聞こえるなー」

 

諏訪子「なんとも含蓄の無い感想をありがとう。それで、用件なんだけど」

 

にとり「はいはい」

 

諏訪子「うちの神社は山の天辺に建ってるよね」

 

にとり「そうだね」

 

諏訪子「で、山に建っていることの弊害と言うか、どうもここらの場所はゴミが溜まりやすい気がするんだ」

 

にとり「そうだね。人里で捨てることができない物とか、誰かが隠して捨てたいものとか、外から流れてきた物とか、所謂投棄物がこの山には結構溜まりやすいんだよね。普段は白狼天狗が掃除したり、私達河童が再利用したりしてるんだけど、守矢神社に関しては多分もうそういう見回りが来ないだろうからね」

 

諏訪子「私達の土地は私達で管理しろってことだろ?まあ、そこは私も仕方ないと思うのさ」

 

にとり「ほうほう」

 

諏訪子「さっきにとりは再利用という言葉を出したけど、再利用と言えば近頃、森の狸達が落ち葉の肥料販売を始めたそうじゃないか」

 

にとり「そうだねー。あそこは外からマミゾウ(ブレーン)がやって来てから格段に勢力が増してるよねー」

 

諏訪子「そこで考えたんだけど、私達もどうにか溜まったゴミをリサイクル出来ないかなって思ったんだよね」

 

にとり「ふむ、つまりそれは、私の新発明の出番ということだね」

 

諏訪子「新発明?」

 

にとり「そう。諏訪子さんは実に運が良い。私の今回の発明は、諏訪子さんの悩みにぴったりとフィットするものだよ。この、インダストボックスは」

 

諏訪子「インダストボックス?」

 

にとり「そう。こいつはまあ、一言で言ってしまえばゴミ箱なんだけど、勿論ただのゴミ箱なんかじゃあない」

 

諏訪子「他にも何か役割があると?」

 

にとり「そう。まずはここに何かゴミを入れる。すると、ここに画面がついてるだろう?この画面に、そのゴミから何か別のものが作れるようだったらその作れるものが表示されるんだ。そして画面に表示されている文字をタッチすると、その表示されているものをゴミから作り直してくれるというわけさ」

 

諏訪子「へえ!それはまた便利な機械だね!」

 

にとり「勿論便利だよ。何しろ私が作ったものだからね。究極のリサイクル用品を作ったと自負しているとも」

 

諏訪子「すごい自信だね。ふむ、じゃあそれを――」

 

早苗「つまりそれを使えば、ゴミから巨大ロボを作ることすら出来るということですか!?」

 

諏訪子「うわっ!早苗!?ついて来ていたのかい!?」

 

早苗「諏訪子様。駄目じゃないですか。技術屋に相談に行くのにお財布を忘れてましたよ」

 

諏訪子「え?ああ、そっか。ありがとう早苗」

 

早苗「それよりも巨大ロボですよ巨大ロボ!任せてください!偶然にもいらない鉄屑ならいっぱい持ってきたんです!」

 

にとり「どんな偶然!?…て言うか、そんなに大量のゴミを一気に入れたらダメだよ!……………あ、あーあ。ほれみたことか。壊れちゃったじゃないか。大体そんなゴミだけでロボなんか出来るわけ無いじゃん」

 

諏訪子「ちょっと!なにやってんの早苗!」

 

早苗「ご安心ください二人とも!確かに機械は壊れてしまったようですが、あまり巨大ではありませんけどロボならできましたよ!」

 

にとり「なんでそれで出来ちゃうの!?奇跡か!?」

 

 

第十五作 インダストボックス 故障。

不法投棄撃退合体ロボ ソダイ量産型 完成。

にとり印



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第十六作 モンキーポット

第十六作 モンキーポット

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

魔理沙「おーい、邪魔するぜー」

 

にとり「邪魔するんなら帰れ!」

 

魔理沙「辛辣っ!いや、言葉のあやじゃんかよ。邪魔なんて多分しないっつーの。てゆーか、私は用事を果たしに来たんだぜ?」

 

にとり「ああ、この前言ってたパソコンのこと?」

 

魔理沙「多分それだ。外の世界の式なんだろ?これ」

 

にとり「そーそー。それそれ。あー…。ちょっと型落ちしてるなーこれ」

 

魔理沙「型落ち?」

 

にとり「古いってことさ。ま、幻想郷に最新機種が流れてくることなんてそうそう無いから、最初からそこら辺は期待してなかったけどね」

 

魔理沙「なんだ。型が古いとそんなに違うもんなのか?」

 

にとり「日進月歩なんて言葉があるけど、今の外の世界の電子機器産業は正にそれさ。一年分作られた型が違うと、中身の性能も雲泥の差なんだ。こいつは三年前くらいの型番だね。とてもじゃないけど最新だなんて呼べないよ」

 

魔理沙「たった三年でもう古いだなんて呼ばれちまうのか?道理で外のものが大量に流れ着いてくるわけだぜ。外とここじゃ時間の流れが違うな。忙しなくっていけねえ」

 

にとり「そうだねえ。河童の暮らしも、百年前と今とじゃ大違いさ。昔はのんびり胡瓜でもかじって将棋指してたら1日が終わったもんだけど、今や研究、開発、また研究の毎日だからね」

 

魔理沙「幻想郷にいても、外の影響はどうしても入ってくるってことか」

 

にとり「技術革新と、その前後の暮らしかたの違いの話さ。事実、産業革命期の機械化の導入による仕事率の差が、人の暮らしの時間の流れの差に繋がっている」

 

魔理沙「うへえ。なんだかややこしい話になってきやがった。いいよそうゆうのは。私達がのんびり暮らせればそれでいいのさ。そんな技術とやらに必ずしも頼らなくったって私達は生きていけるしな」

 

にとり「究極的にはそうだね。でも、結局便利なものがあったら、それに手を伸ばしちゃうだろう?」

 

魔理沙「それは言えてるぜ。ところで、さっき何か作っていたようだけどなんか新しいもんでもできたのか?」

 

にとり「うん?ああ、そうだね。確かに、新しい発明品はできたよ。ほら。こいつさ」

 

魔理沙「おお?なんだこれ?…盆栽かなんかか?随分と気になる形の木だな」

 

にとり「まあ、外国の名前も知らない木をモデルに作っているから見覚えのない形はしているよね。こいつはその名もモンキーポットといってね。まあ、名前の通り、要するに水差しさ」

 

魔理沙「水差しだって!?この木が!?」

 

にとり「そうだよ。ほら、そこの枝が途中で切れている部分が注ぎ口になっているのさ」

 

魔理沙「はー!なんともお洒落なものを作ったもんだ」

 

にとり「ポットとは言ったが、こいつは見た目通り植物でもあってね。植物としてのこいつの性質が、ポットとしてのこいつの性質を高めてくれるのさ」

 

魔理沙「なんだって?どういうことだ?」

 

にとり「こいつはこうやって机の上に置いておけば空気中から、また地面に置いておけば地中から水分を吸いとって、中の空洞部分に綺麗な水を貯めておく性質が有るのさ。つまりこいつは、注ぎたいときに何時でも新鮮な水を注ぐことができる水差しなんだ」

 

魔理沙「おー。そりゃすげえ!一々井戸まで水を汲みにいかなくってもいいってのは手間が省けて助かる。便利なものには手を伸ばしたくなる。ぶっちゃけ欲しいぜ」

 

にとり「別にいいよ一つくらいなら。モンキーポットはそこの花壇でいっぱい栽培してるから」

 

魔理沙「おお!そんじゃま、遠慮なくもらっていくとするぜ」

 

にとり「おー。もってけもってけ。後で意見聞かせてよね。商品化の参考にするから」

 

 

数か月後…

 

 

魔理沙「おい!あれどういうことだよ!」

 

にとり「ひゅい!?なんだよいきなり!」

 

魔理沙「モンキーポットだよ!あれ、凄い勢いで成長してるんだけど!」

 

にとり「んあー?そりゃあモンキーポットは植物だもの。成長くらいするさ」

 

魔理沙「限度があるだろ!もう机の上に乗らねーぞあれ!」

 

にとり「そりゃそうだ。あれのモデルはそこら辺の草でも植え込みでも盆栽でもないもの。木だもの。でかくもなる」

 

魔理沙「…。具体的にはどれくらいでかくなるんだよ。あの木」

 

にとり「さて、何しろ外国の名前も知らない木がモデルだからねえ。ま、最終的にはみんなが集まる目印くらいにはなれる程度に大きくなるんじゃないかな?」

 

魔理沙「でかすぎだよ!もうポットじゃねーだろそれ!」

 

にとり「貯水槽として使えるかも」

 

魔理沙「一個人が持ってたら絶対もて余すだろう。それは」

 

にとり「育てていけば見たこともない花が咲くかもしれないよ?」

 

魔理沙「なんだ。花が咲くのか?あの木」

 

にとり「知らない知らない。なんせ名前も知らない不思議な木がモデルだからね」

 

魔理沙「おざなりな回答だぜ…」

 

 

第十六作 モンキーポット 成長中。

にとり印




日立グループの提供でお送りしました。(大嘘)


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第十七作 ログモジュールハウス

第十七作 ログモジュールハウス

開発責任者:河城にとり

 

にとり「ついにできたぞ!」

 

レミリア「なんにもできてないわよ!」

 

にとり「うわ!びっくりしたー!いきなりなんだよ。……あれ?確かここら辺に、紅魔館とかいう建物が建ってなかったっけ?」

 

レミリア「爆発したわよ!」

 

にとり「ええ!?そりゃまたなんで!?」

 

魔理沙「自然倒壊だよ。自然倒壊」

 

にとり「へえ、まあ紅魔館も古そうな建物だったからねえ。そういうこともあるのか」

 

レミリア「んなわきゃないでしょ!魔理沙がマスパったのよ!」

 

にとり「あー。そっかー。御愁傷様だねえ」

 

レミリア「他人事みたいに言いやがって…」

 

にとり「だって他人事だもんねえ…」

 

フラン「お姉さま。あんまり魔理沙を責めないであげて?魔理沙はただ私と遊んでくれてただけなの。悪気は無かったのよ」

 

レミリア「安心しなさいフラン。悪気があって紅魔館を壊したんだったらとっくの昔に私は魔理沙をぶち殺してるわ」

 

魔理沙「きゃー。こわーい」

 

レミリア「こわーい。じゃ、ねえ!わざとではなくともちったあ反省しろ!」

 

フラン「だってさ。魔理沙」

 

レミリア「あとね?フラン?確かに紅魔館倒壊の原因の8割方は魔理沙がマスパったせいだけど、残りの2割くらいは貴女がスタボったせいなんだからね?」

 

フラン「………てへ♡」

 

レミリア「てへ♡じゃ、ねえ!可愛く言っても許されることと許されないことがあるよ!大体私、前に言ったよねえ!?最近あんたと魔理沙の「遊び」がマジで危険になってきたからやるんだったら夜か曇りの日にでも外でやれって!」

 

魔理沙「何言ってんだ。今日は快晴だぜ?」

 

レミリア「知ってるわよ!私とフランが日傘差してんのが見えないわけ!?日取りを選べっつってんの!」

 

魔理沙「お前なー。遊びにわざわざ日取りなんて選ぶわけねーだろー?今日その日がプレイアブルデイなんだよ」

 

レミリア「じゃあ、夜にやれよ!外で!」

 

魔理沙「何言ってんだ!夜は眠いだろうが!」

 

レミリア「成長期か!」

 

小悪魔「それにしても、よくよく考えたら妹様のスターボウブレイクが全体倒壊の2割って、魔理沙さんのマスパ。威力ありすぎじゃありません?」

 

パチュリー「そう言われれば確かにそうね。魔理沙。そこらへんについて、何かコメントはある?」

 

魔理沙「ふっ…。私は日々の研鑽を忘れない女。当然マスタースパークも日々改良に改良を重ねて威力を上げているんだぜ」

 

フラン「魔理沙…。カッコイイ…」

 

レミリア「あのー。日々改良に改良を重ねたマスパを室内で撃たないでくれまくれませんかねぇ…」

 

魔理沙「しょーがねーだろー。フランだって強いんだから。本気出さねーとこっちが怪我しちまう」

 

レミリア「だからさあ!何度も言うようだけど、外でやってよ!」

 

魔理沙「今日その日が以下略。夜は以下略」

 

レミリア「ぶっころ」

 

にとり「まあまあ、レミリアさん落ち着いて」

 

レミリア「これが落ち着いてられますか!あんたが倒壊した紅魔館を今すぐ直してくれるっていうなら話は別だけど」

 

にとり「いや、流石にそれは無理だし、そういうことは土蜘蛛辺りにでも頼めばいいと思うんだけど、ただし、代わりの住まいを用意することくらいならできる!」

 

咲夜「代わりの住まい…ですか?」

 

にとり「そう!それこそが私の今回の発明品!ログモジュールハウスさ!」

 

咲夜「ログモジュールハウス……?凹凸のある木片にしか見えませんが?」

 

にとり「これだけなら確かにそうだね。でもね。こいつは立体パズルなんだ」

 

パチュリー「立体パズル?つまり、それはパズルのピースの一つってこと?」

 

にとり「その通り。こいつはこのピースを組み合わせることで、どんなものでも簡単に形作ることが出来るのさ。家具だろうが家だろうが簡単に作ることができる。まあ、木製だから火気厳禁だけどね。とりあえず、仮設住宅としては十分だろ?」

 

レミリア「パズルなんかで家を作って、ろくなものになるとは思えないんだけど?」

 

にとり「ところがどっこい。こいつは意外とちゃんとしたものになるんだ。隙間漏れなんかはしないから雨漏りもしないし、土台ごと作れるから家が簡単に倒れる心配もない。詳しくはこっちの説明書に書いてあるよ」

 

パチュリー「………。なるほどね。確かに、これなら仮設住宅としては十分かも。雨漏りなし、風で倒れる心配もないし、これ以上の爆破オチは私とレミィが許さないし、うん。大丈夫そう」

 

魔理沙「ほーう?そりゃ良かった。安心したぜ」

 

レミリア「安心したぜ…じゃあないわよ。あんたにはきっちり紅魔館壊したぶんの弁償してもらうからね。具体的には建て直し費用の8割負担!」

 

魔理沙「はっはー!んな金持ってるわけがないぜ。諦めな」

 

レミリア「金がないならあんたの家を差し押さえるまでよ」

 

魔理沙「弾幕ごっこで私に勝てたら考えてやらんこともない」

 

レミリア「上等よ!ぶっころしてやる!神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 

魔理沙「遅いぜ!『ブレイジングスター』!」

 

フラン「きゃはは!私もまぜてー!禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

にとり「あーあー。大変だこりゃ」

 

パチュリー「仕方ないわね。仮設住宅はもっと向こうに建てることにしましょう。こあ。貴方は地底に行って土蜘蛛達に紅魔館の建設工事を頼んで来てちょうだい」

 

小悪魔「わっかりましたー!」

 

パチュリー「にとりも悪いけど少し手伝ってくれる?お礼はちゃんとするから」

 

にとり「おっけー。性能検査のついででもあるしね。お値段はそれなりに相談させていただきますよ?」

 

パチュリー「そう。助かるわ。それで、他に何かすることはあるかしら?咲夜?」

 

咲夜「そうですね。では、私は門のところで寝ている美鈴を起こしてきますね」

 

咲夜以外「「え!?美鈴今の今までずっと寝てたの!?」」

 

 

第十七作 ログモジュールハウス 建設。

にとり印



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