表裏ダンガンロンパ ~共通とすれ違いの物語~ (炎天水海)
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表裏ダンガンロンパ プロローグ
プロローグ 1部屋目


こんにちは、こんばんは、おはようございます。初めましての方は初めまして。そうでない方はご存知かと思われます。炎天水海(えんてんすいかい)です。
普段はpixivで執筆している身ですがハーメルンでも投稿を始めました。基本的にpixivで処理するマンなので投稿はpixivよりも遅れるのですが、ぜひよろしくお願いしますm(_ _)m


注意

 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作作品となってます。

 本編とは異なる設定が多々あります。

 あと主の文才はない。

 

 それでも平気という方は次のページへどうぞお進み下さい。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『プロローグ ようこそ、入居者様』

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 「おっきい……」

 私の名前は直樹空(なおきそら)。今日からこの学園に通うことになった。その名も私立希望ヶ峰学園。入学し卒業した人はその後の人生を保証される政府公認の学園。各分野において超一流なら学園がスカウトしてくれる。新入生の募集なんてものはなく学園がスカウトした人のみが通うことを許されている。

 とんでもないね。そんな私もこの学園にスカウトされたのだけれど。

 

 私は昔から家族と旅行することが多かった。それは両親の仕事の都合が大半だった。母は海外のレストラン店長、父はハンドキャリーでどちらも海外と関係している。母は海外で仕事しているから別居中だけど父と会いに行くと嬉しそうな顔で出迎えてくれる。その瞬間は私にとって最高の楽しみだった。

 あと海外に行くといろんな発見があって好奇心をくすぐられる。特に言語。小さい頃日本語と英語しか知らなかった私はヨーロッパへ行ったときに正直驚いた。ドイツ、イタリア、フランス、スペイン他たくさん。違う言語がいろんなところで飛び交っていて不思議だった。別の言語同士で口喧嘩しているのに通じ合っているところをみたときは思わず感嘆としてしまったのを今でも覚えている。

 そんなことがあってかそれとも両親が海外と関わる仕事をしていたからか言語に興味を持って勉強した。行ったことのない場所で遣われている言語もそこへ行ったときに困らないようにと必死にやった。まだ完璧とは言えないけどいつの日か私は身につけた言語を扱う仕事に就きたい、と思うようになった。そのときに目についた翻訳家の文字。これだと思った。私は外国人でもわかるように看板、掲示板、映画、あとマンガや小説もたくさん訳した。私の訳したものはとても評判がよくて海外からも依頼が来たこともあった。

 こんな暮らしが続いたある日、一通の手紙が届いた。

 『あなたを“超高校級の翻訳家”として希望ヶ峰学園にスカウトします。』

 “超高校級の翻訳家”、私に与えられた肩書きだ。正直、希望ヶ峰学園は聞いたことあったけれど全然気にしたことがなかったから驚いた。こんなところに入れるだなんて誇らしく思った。家族どころか親戚や近所の人と一緒に祝ったくらいだ。

 

 

 さあ学園の入口へ一歩踏み出そう。私の新たな学園生活の始まり。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 あ       れ

 

 

       目       の

 

   前              が

 

 

      暗     く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________________

 _____________

 _________

 ______

 ____

 __

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

  ……………

 

 「う、うーん……」

 気がついたら変なところにいた。確かちょっと目眩に似た感覚に襲われて……?ダメだ。状況がのみ込めない。少なくともここが学園ではないことはすぐにわかった。あと芝生で寝てたの私?

 「気がつきましたか?」

 すぐ横を見れば燕尾服を着こなした男子の姿があった。

 「え、う、うん。」

 理解の追い付いてない頭でなんとか返事をする。

 周りを見渡すと他にも人がいた。私合わせてざっと16人。座っている人、転がっている人、柱に寄りかかっている人、などなど。

 「ここはどこなの?」

 「いえわたくしにも分からないのでございます。ここにいる皆さま全員。」

 「希望ヶ峰学園に入ろうとしたら視界が真っ暗、気も失って気がついたらなーんか希望ヶ峰とは別のここにいた感じだよ。」

 柱によりかかっているエプロンスカートの女子は緩い調子で言った。私は立ち上がり頭をブルブル振って、頬をパチンっと叩いて目を覚ます。

 確かにその通りだった。ここには高さはそこまでだが通常の学校よりは大きな建物とその隣にある見た感じ普通の平屋の建物がある。だが希望ヶ峰はもっと施設が充実しているし外は本来壁で覆われていない。これだけでもここが希望ヶ峰でない簡単な証明は出来てしまった。

 「まあ今分かるのは全員超高校級の才能を持つ人間でおそらく誘拐されてここにいるということだな。他にも探したが人も手掛かりもない。ははっ、証拠不十分過ぎて全員今のところ無罪。」

 赤いスーツの男子は自嘲気味に笑って、困ったという顔をしながら頭を掻く。…無罪?

 「ねえどうするの?じっとしてるのイライラするからイヤなんだけど。」

 セーラー服の子が腕組みしながら足を揺らす。

 「そうですね。自己紹介とかですか?」

 「多分俺たちは希望ヶ峰の同級生だろうね。それなら自己紹介したほうがいいと思うよ。」

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 「へいへいへい!ならミーからやらせてもらうよ!」

 手を挙げたのはサングラスを着けた男子だ。

 「なんかすごい元気だね。」

 「そりゃもちろん。ミーはダグラス・レッドフォード。超高校級のディーラーさ!」

 

 “超高校級のディーラー”ダグラス・レッドフォード

 

 「ディーラー?カジノとかの?」

 「イエス!でもミーはそこらにいる卑怯者とは全然違う。正々堂々真剣勝負がモットーのディーラー!金稼ぎのためだけにゲームをするのは気に食わないからさ!」

 ベストに黒い蝶ネクタイのダグラス。確かにディーラーらしいがサングラスがどうも気になる。

 「えっと…そのサングラスは?」

 「これ?サイバースモークっていうサングラスさ。ひとの目見て話すの苦手でさ。」

 よくあるパターンか。

 「ネクスト!誰が言う?いないなら指名するよ。」

 みんな特にはという顔をして頷いた。

 「ならユーに聞こう!What your name?」

 指名されたのはエプロンスカートの子だ。(そしてさすが外国人。英語の発音いい。)

 「ん?あたいか。」

 彼女は指名されたと同時に柱から身を離した。

 「あたいは矢崎紫陽花だよ。」

 

 “超高校級の酪農家”矢崎 紫陽花(やざき あじさい)

 

 「実家が酪農やってて手伝っていたらなーんか肩書きもらっちゃったってやつだよ。」

 軽く袖を捲りもう一度柱に寄りかかる。

 「まあよろしく。ほら次どうぞ。」

 矢崎もダグラスと同じように木の棒を持つ男子に指名した。

 緑のジャケットで、首から下げてる翡翠の勾玉が目立つ。棒はズボンのベルトループにさしているらしい。

 「……はぁ面倒くさい。杖術家の橘実琴だ。」

 

 “超高校級の杖術家”(たちばな) 実琴(みこと)

 

 ため息つきながら棒を抜いて丁度みんなには当たらない範囲でぐるりと振り回す。

 「杖術?」

 「聞いたことないもしくは馴染みがないだろうな。捕手術とか護身術として昔使われていたんだよ。覚えとけ。」

 杖術ってみたことも聞いたこともなかったな。杖術家よりも剣士に近い気もする。

 「へえそうなんだ。あ、私鷹山麻美子。探偵だよ!」

 

 “超高校級の探偵”鷹山(たかやま) 麻美子(まみこ)

 

 「はっ、頭悪そうだな。」

 「ひどいな。これでもこーんだけ解決しているんだよ?」

 手をめいいっぱい広げる。けどどれだけ?

 「あんな捜索からこんな事件までなんでもオッケー!」

 「抽象的な説明じゃどれを指してるのかわかりませんよ。」

 超高校級と呼ばれるくらいだから殺人事件とかまで関わっているのかなと想像はつくけど。

 鷹山は探偵らしい茶色いコート。帽子も被っているからイメージがわきやすい。

 「君は?」

 「わ、私?」

 鷹山は私に迫ってくる。近い近い近い!

 「ほ、翻訳家の直樹空です。」

 

 “超高校級の翻訳家”直樹空(なおきそら)

 

 不意討ちで緊張しながら言った。ナニコノショウカイノシカタ。

 「え!どこからどこまで分かる!?」

 「距離が近くてしゃべりずらいよ鷹山さん!?あとどこからどこまでじゃどんな意味か分からない!!」

 「あ、ごめんごめん。」

 悪びれずそういう彼女にむうっとするけど、なんかみんなして笑顔でこっちを見ている。和んでるのかな?

 「はあ。私は基本何でも読み書きできるかな?まだ勉強中のやつもあるけど少なくともアジアとヨーロッパの言葉は全部会話もできるよ。」

 「つまりミーが日本語話せなくてもミス直樹がいれば訳せるってことか!」

 「そうでございますね。それではわたくしもそろそろ。」

 燕尾服をピシッと整えキレイなお辞儀をする。

 「恐らく皆様のご想像通りでございます。わたくしは超高校級の執事、近衛陣と申します。」

 

 “超高校級の執事”近衛 陣(このえ じん)

 

 敬語で丁寧な口振りで話終えたと同時に右目のモノクル(片眼鏡)を直す。

 「堅い。緩くいけばいいでしょ?」

 「いえ、それは出来ません。わたくしはお仕えしているお嬢様との約束を果たすまではそのようなことはしません。出来ないのです。」

 「ふうん。そうなんだ。ついでだから私も言うわ。雀士の渡良部美南。よろしく。」

 

 “超高校級の雀士”渡良部(わたらべ) 美南(みなみ)

 

 ホントについでとばかりにセーラー服の渡良部は言った。

 「WHAT!?ミスわたなべ、麻雀できるのかい!?」

 「わ・た・ら・べ!!」

 「そ、sorryミス渡良部。」

 確かに呼びづらい名前ではある。私も一瞬間違いかけたから。「な」じゃなくて「ら」なんだもの。

 「こう見えてドラがたくさんくるドラ使い。そうじゃなくても字牌くるし勝負する上で問題ない。」

 「わたくしも打てますよ。もっとも、渡良部殿()には劣りますがね。」

 渡良部は当然というどや顔をする。相当自信があるようだ。……ん?

 「殿ぉ!?」

 「え、待って待って?」

 「こここ近衛くんなんで“様”じゃなくて“殿”?」

 「ああそのことでございますか。実はわたくし執事家系ではあるのですが、何分武士家系でもあるゆえ殿付けが義務付けられておりまして。」

 ナニソレドユコト。

 「なのであなた様や皆様などとはお呼びさせていただくことはございますが、名前に関しては殿をつけさせていただきます。ご了承下さいませ。」

 エガオデイワレテモコマリマス。一気に近衛のことがわからなくなってしまった瞬間だった。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 「えっと……じゃあ俺も言おうか。」

 重い腰(?)を上げて作業服の彼は立ち上がる。

 「俺は宮原匠。超高校級の大工だよ。」

 

 “超高校級の大工”宮原(みやはら) (たくみ)

 

 「……ホントに高校生?」

 「あのね、高校生じゃなかったらここにいないでしょ?れっきとした高校生だよ。」

 疑うのも無理はないかもしれない。大人っぽい顔立ちにちょいちょいあごひげが生えているから。なんというか…お父さん?そんな雰囲気がある。

 「ほら次々やっていこう。」

 「私?私は超高校級の藍染め職人、阪本莉桜。」

 

 “超高校級の藍染め職人”阪本(さかもと) 莉桜(りお)

 

 「よろしく。」

 愛想はあまりなさそう。藍染め職人というだけあって藍色の服で統一している。

 「阪本ちゃん…と。ごめんね、物覚え悪いからあたい。」

 「気にしない。」

 「ハイハイはーい!次あたし!超高校級の数学者!江上和枝でーす!」

 

 “超高校級の数学者”江上 和枝(えがみ かずえ)

 

 元気よくあいさつする江上は素早い動きでみんなと握手する。もちろん私にも。

 「よろしくね!!」

 「よろしく。」

 「ほらほらそこの糸目ショタも!」

 「ショタは余計だ、全く。」

 うん、まあ見えなくはないけどズバッて言うね。

 「私は超高校級の医者。巡間治虫。」

 

 “超高校級の医者”巡間(はざま) 治虫(おさむ)

 

 一見チャラそうに見える外見だが白衣を着ていてとても大人っぽい口調だ。……なのに身長が低い上に童顔だから一瞬ショタといいそうになるのもわかる。あ、でも江上も白衣着てるや。

 「君たち、くれぐれも私をショタだなんて呼ばないように。」

 「ノープロブレム!気にしない気にしない。見た目なんて正直おまけみたいなものでしょ!」

 「それこそひどくない?」

 「あはは…」

 苦笑いしかできない。まあ他の判別方法といえば糸目だからね。けど見た目と性格がなんともミスマッチである。

 「差別はよろしくない。場合によっては訴えられるから面倒なんだよ。」

 「さっきからなんでそう法らしきものが混じっているの?」

 「弁護士だからだ。」

 あれ弁護士って高校生なれたっけ?あ、それなら他の才能もそうか。

 「名前は国門政治。」

 

 “超高校級の弁護士”国門 政治(くにかど まさはる)

 

 国門もまたスーツをぴっちり着こなしている。襟についている弁護士バッジが日の光りでキラリと光っている。

 「法に関することなら指摘することあるから。そこのところよろしく。」

 ああさっきの無罪とかはそういうことか。

 「あと話していないのは?」

 「ひ、ふ、み、よ、4人だね。」

 矢崎は数え方が古い。

 「ならうちが。」

 頭をお団子にしている女子がふわりと手を挙げた。

 「超高校級の茶道部としてスカウトされた金室ひよりです。」

 

 “超高校級の茶道部”金室(かなむろ) ひより

 

 「よろしくお願いします。」

 近衛とはまた違う丁寧な口調だ。ピンクの長い前掛けには梅と胡蝶蘭が描かれている。

 「よし、次はそこのハゲ!」

 ハゲといわれた人は盛大にずっこける。

 「まだ髪あるわい!こりゃ坊主じゃ!」

 「しゃべり方がじじ臭いね。」

 なんか彼の才能見た目だとよくわからない。

 「黙れい、わしは体育会系じゃ。超高校級のバレー部、灰垣遊助じゃ!」

 

 “超高校級のバレー部”灰垣 遊助(はいがき ゆうすけ)

 

 うん、見えない。シャツに羽織を着ていてそれに袈裟を前で結んでいる。捲られたジャージのズボンが体育会系であることを証明する唯一の救いのようにも感じられる。

 「なんと。」

 「ミスター灰垣はそっちか!」

 「てっきり文系だと思った。」

 「うーむ、あながち間違ってはおらんが。わしの実家寺というか別院じゃし。」

 「ハゲなのがよくわかったわ。」

 「ハゲとらんわボケ!坊主と言わんか坊主と。」

 これ私絶対どこかでハゲって言っちゃいそうかも。坊主頭なのに。

 「はい、最後いやだからいうよ!超高校級の貿易商の湊川鈴音!」

 

 “超高校級の貿易商”湊川(みなとがわ) 鈴音(すずね)

 

 海賊を思わせる青い服でいかにもな感じだ。

 「ほら最後!」

 「………」

 「おい言わないのか。もうお前だけだぞ。」

 「………」

 芝生で寝ている彼は、いや起きてはいるけれど、紹介する見込みがない。

 「せめて君の名前だけでも。」

 「……玉柏だ。」

 

 “超高校級の???”玉柏(たまがし) 朱鷺(とき)

 

 「才能は…知らなくていい。」

 「ええーなにそれ。」

 無地の茶色いTシャツにメガネ。あとは左手に包帯がグルグル巻かれている。

 「話すつもりはない。知りたければ頑張って知れ。」

 才能について何も言う気がないっぽい。

 

 

 

 

 ピーンポンパンポーン…

 

 

 

 

 「チャイムか?」

 「ええ、間違いないわ。」

 「なーんか音変だね。」

 

 若干音程がおかしなチャイムが鳴り響く。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

       それが私たちを取り巻く

 

 

       事件の始まりだと知らず

 

 

 

 

 

 



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プロローグ 2部屋目

 注意

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。

 本編とは異なる設定が多々あります。

 あと主の文才は期待しないでください。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 『メェーーー!!!!』

 

 「うるさい!」

 おっきな音が私たちの耳を襲う。全員耳を塞いで口々に叫ぶ。

 「なーんかヤギっぽいね。」

 唯一冷静なのが意外なことに矢崎である。

 『オマエラ、希望ヶ峰マンションへようこそォ!』

 付近のスピーカーからどこかビブラートの効いた声が聞こえてくる。マイクの調子が悪いのか少々もどかしく感じる。

 『これからァ、ここの入居会を行うであーる。マンションⅠ棟の隣の小さな建物ォ、集会室へ集まるであーる!』

 ブツッ…と音を立てて消え失せる。先程までの雰囲気は一転して重苦しくなった。

 「なんじゃあれ。学園の入学式か何か?」

 「だとしても変だよね。入学式って素直に言えばいいのに。」

 「それにどうして学園じゃなくてマンションなんだ?わざわざこんな凝った建物に俺たちを連れていくメリットがない。」ウズウズ

 「宮原くん、若干楽しそうに建物眺めてない?」

 意味不明なアナウンス。それは私たちを呼ぶ悪魔の囁きのよう。

 「……行くぞ。」

 「はぁ!?」

 玉柏が軽々と起き上がり歩き始めた。

 「待って、ここがどこかわからないのにあんなアナウンスに」

 「だからこそだ。」

 私の言葉を遮って彼は振り返り私たちを睨み付ける。

 「わからないなら調べる。だが調べるにしても情報が必要だ。ここで立ち止まって先に進まなかったら時間の無駄。何の解決法にもならない。お前たちが行かないなら俺1人だけでも行かせてもらう。」

 そういってまた歩き出した。

 「なら行くしかないか。」

 「Yes」

 「そうでございますね。」

 玉柏の発言で渡良部をはじめダグラス、近衛とみんな次々と動き始める。私もそのあとを着いていった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 集会室に着いた。見た目とは裏腹にかなり広い。講堂というべきかそれとも体育館というべきかそんな感じの内装だ。

 「おかしいな…」

 ボソッと呟くように玉柏は言った。

 「どうしたの?」

 「俺はここの真ん前で倒れていたんだ。ここの鍵が開いているかどうかその時確認したが開かなかった。」

 「単純に考えて入居会の準備だと思わなかったの?」

 「いやない。」

 玉柏は即答した。

 「物音一つ聞こえなかった。ひと1人の気配すら感じない状態でな。前日に準備されていたなら話は別だ。が、嫌な予感がするな。」

 今の話が本当ならばそれは不自然だ。たとえ前日に準備されていたにしても1人は見張りやら最終確認のためにいるだろう。

 そういえば入居会があると言ってはいたがみんなが座るためのパイプイス程度は用意されていてもおかしくないのにそれはどこにも見当たらない。正直、首と腰がいたい。イスに座りたい。それかふかふかのベッドにダイブしたい。あんな芝生の上で転がっていたからかちょっと寝違えたみたいなのだ。

 いやそんなことはもうこの際どうでもいい。

 「だ、大丈夫だよ!」

 みんなを元気付けようと鷹山は声を張った。その声は少し震えている。

 「鷹山さん。」

 「不安もみんなで乗り越えれば怖くないっていうでしょ?私も不安だけど希望を持っていこうよ。」

 「うん。そうだね。」

 不安なのは私だけではない。みんなそうなのだ。私は鷹山とにっこり笑い合いステージを見やった。

 「あまり待たされるのは好きじゃないんだけど。」

 渡良部は足を揺らす。どうやら短気のようだ。せっかちな言動が少し目立つ。

 

 キィィィイイン!!!

 

 「またか!」

 不意討ちで今度はハウリングが起こる。

 『ただいまよりィー、希望ヶ峰マンション入居会を始めるであーる!』

 あのとき聞いた声が響き渡る。

 次の瞬間。

 

  ブシュゥゥゥゥゥゥウ………

 

 集会室に煙が勢いよく入る。

 「な、なにっ!?」

 「前が見えないよ!」

 煙が私たちを包み前方周囲がわからなくなる。無意識に口元を塞ぐが幸いにも避難訓練で使われるような無害の煙のようで甘い匂いがした。

 ようやく煙が壁にいき周囲を確認することが出来たが足元とステージの煙は未だに残っている。どんな演出だ。

 『希望ヶ峰マンション、総合管理人のモノリュウ様よりお話があるであーる!』

 その言葉が聞こえた途端、集会室の電気がパッと消える。私たちはさらに混乱してしまう。

 暗い空間になれたころ、ギラリと赤く光るものがステージの奥に見えた。すかさず青い光がステージを映す。眩しくてしっかり瞼をあげられない。

 はっきりと見えるころにはみんなで驚愕の声を上げた。

 「り、龍!?」

 ステージには大きな龍がいた。しかし普通の龍とは違い左目が赤い邪悪な目。今にも私たちをとって喰らおうとするかのような邪悪な目だ。

 『…よくぞ参ったな、希望ヶ峰マンションへ。余はモノリュウ。ここの総合管理人。』

 「しゃべった!?」

 『貴様らには、このマンションで生活してもらう。これからずっと。一生。』

 

 ◆◆◆◆◆

 

 は?一体どういうことだ?

 「一生!?ユーは何を言っているんだ!!」

 ダグラスがすかさず抗議する。

 『詳しい話はモノヤギから説明されるだろう。余はとても忙しい身だ。総合管理人と言えども余はいないことが多い。ゆえにこれからは代理人であるモノヤギに任せる。分からぬことがあるならモノヤギに尋ねよ。ただし余が現れたならば権限は余に戻る。これは揺るぎないこと。では余はこれにて失礼致そう。』

 話が終わる同時にステージの光が消える。室内の電気が着いた頃にはモノリュウは消えていた。

 『待たせたなァ!』

 別に誰も待ってないむしろ帰れ。

 またまたあの声が響くとステージの床から白と黒の物体が飛び出してきた。それは綺麗に着地、蹄がコツンと響いた。

 「何あれ。」

 阪本は顔をしかめてそれを睨む。

 それ、ヤギなのだが2本足で立っておりヤギの右半分は白の可愛らしい雰囲気が出ているが左半分は黒の邪悪な雰囲気でモノリュウと同じく邪悪な赤い目をしている。

 「なっはっはっはァ。」

 「お前…どこの人形ヤギだ?」

 「ワレは人形ではないのであーる!ワレはモノヤギ。この希望ヶ峰マンションの総合管理人代理にして希望ヶ峰学園の学園長なのであーる!!!」

 「しつけのなってないヤギだね。牧場帰ったらどうだい?」

 「しィつれいなァ!!」

 いやそんなことはどうでもいい。希望ヶ峰マンションの総合管理人代理?百歩、いや一万歩譲ってまだ分かる(としよう)。希望ヶ峰学園の学園長?さすがにこれは意味不明だ。

 私たちはただ唖然するしかなかった。モノリュウがしゃべったおかげ(?)で私たちは非科学的なものがしゃべることに関しては不思議と簡単に受け入れられた。しかしそれが異様なのに気づくのも早かった。

 「さてオマエラはおそらくさっきのモノリュウ様が言っていたァ、一生ここで生活することに関して少なからず疑問を持っているであろう。」

 「そりゃ…ね。」

 「なァっはっはァ!そうであろうそうであろう!しかァし残念ながらここでオマエラが住むことは必須条件なのであーる。なんだってェオマエラは希望ヶ峰学園の生徒なんであーるからなァ!」

 意味がわからない。希望ヶ峰の生徒だからなんだと言うんだ。

 「そのようなこと、わたくしたちは一切存じ上げておりません。」

 近衛がモノクルを直し手を顔のところまで挙げ抗議した。

 「勉強、部活動、学園行事。これらが必須だと仰るのであらば理解できます。それが学生であるわたくしたちの義務であり仕事でもあるのですから。まあ部活動に関してはそうとも限らないかもしれませんが。」

 一つ二つ三つと指を立てながら言う。

 「しかしながらあなた様が先ほど仰ったことは理解に苦しみます。」

 手を下ろして腕を組んだ。

 「それに、です。移動中ダグラス殿と渡良部殿と確認したことなのですが。どうやらわたくしどもから通信手段、金銭他、普段身に付けている物品のほとんどがない。せいぜいあるのはわたくしどもの才能に合ったものだけです。それに学園へ足を踏み入れた時までわたくしどもは制服でした。ところがそれすら才能と近いものになっています。」

 「嘘!?」

 私たちはそれを受けて次々に確認し始める。あれ、そういえば私パーカーは翻訳するときしか着ていない。…まさにその通りだった。

 「えっ待ってそれって…」

 「まるで私たちを監禁(・・)してるみたいだな。」

 「そうなのです。そのことについてどのようにお考えなのでしょうか?」

 するとモノヤギはニヤリと笑う。

 「なっはっはァ、さすが超高校級の執事ィ。その鋭い洞察力をぜひ活かしてもらいたいであーるなァ!」

 「何が言いたいのです?」

 「そうであーるなァ。順を追って説明するであーる。最近、人と直接関わることが少ない子どもが増えてきているであろう?それは今のネットワーク社会がオマエラをそうさせているのであーる。そんなわけで少人数でもいいから人と関わる機会をつくろうとここ希望ヶ峰マンションが作られたのであーる。そしてェ!」

 蹄を私たちに向けてこちらを見る。

 「そこでオマエラは選ばれたァ。超高校級ならばよい結果を出してくれると信じてェ。」

 「なんじゃと?」

 「すゥなァわァちィ!オマエラはいわば実験台としてこのマンションに住んでもらっているのであーる!」

 「簡潔にまとめると『交流する機会を増やすための実験で俺たちが集められた』ってことか?」

 「そういうことであーる!」

 「わけが分からない…うちらが一生ここに住む理由にもなってない。」

 「なーにふざけているんだい?」

 「ふざけてなんていないのであーる。本気でなければ言うわけないィ!ちなみにオマエラはァ、ここで基本みんなで協力して生活する、いわゆる共同生活ゥ。を、してくれればそれでいいのであーる。実験のために成果を出してくれればそれでいいィ。ここのルールを破ってでもォ、ここから出たいという風に思うのであればそれでも構わないのであーる。たァだしィ!!」

 モノヤギはステージから下りて集会室中央を堂々と歩く。

 「ここから出たければある条件を満たさなければ出られないのであーる。」

 「それは?」

 「ヒヒヒヒヒィ。」

 モノヤギは不気味に笑った。そして一呼吸おき

 「殺人(・・)…であーる!!」

 宣言した。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 空気が急激に冷えて重くなる。静かにかつ絶望的に。周りの煙が私たちをいっそう煽る。私たちを疑心暗鬼の世界へと引き摺ろうとしている。

 「なにそれ。意味わかんない。」

 「同感。」

 重苦しい空気の中、声を発したのはのは湊川と金室だった。

 「殺人ってどういうことです?」

 「そのままの意味であーるよォ?撲殺、毒殺、刺殺、絞殺、銃殺、圧殺、斬殺。その他いろいろォ!殺し方はたっくさんあーる!出たければ殺しあってほしいであーる!普通に出ようたってェ周りには大きな大きな壁もあーる。出られるわけもないィ!なーはっはっはっはァ!!」

 高らかにモノヤギは笑ってみせた。

 「そんなこと認められるものか!!」

 「ここはワレの、モノリュウ様のいわゆる独裁政治ィ。どこの誰にも手出しさせないであーる!」

 そういってステージへ戻る。

 「ではせいぜい頑張るであーる!」

 モノヤギが煙の中へと消えていった、まさにその時、

 「メェー!!?」

 バシンっという音とともにモノヤギが地面と平行にステージの反対側へと吹き飛ばされた。吹き飛ばされた勢いで周りの煙は一気に霧散。思わず私はステージ側に視線を移す。そこには飛ばしましたと言わんばかりに杖を振りかぶったままの橘がいた。

 「た、橘くん!?」

 「………あいつの言うことなんか聞かなくていいだろ。ぶっ壊れれば支配する奴はいない。殺し合いなんてやらなくていい。」

 杖をしまい鋭い目付きでモノヤギを眺め放った。少しみんなで安堵する。しかしそれも束の間だった。

 

 バゴォォン!!

 

 モノヤギが爆発したのだ。

 「え?」

 訳がわからない。私はただただ呆然と突っ立っていることしか出来なかった。

 「どんな構造してるんだあれ。」

 「そこ?いや確かにそうだけどふざけてるでしょ!」

 爆発したことで真っ黒焦げ状態の壁と床。みんな焦った。モノヤギのいた場所に大きな穴が空いてしまっている。

 「全くなァにをするであーるかァ!!」

 「っ!?」

 その大穴からモノヤギが現れた。爆発したはずなのに。

 「いい忘れたであーるがァ、学園長のワレにそのような攻撃は校則違反なのであーる!今回だけは警告で許すがなァ。しかァし!これからもしも校則に違反したらただじゃ済まないであーる!」

 「…………チッ、わかったよ………」

 橘も身の危険を感じてか渋々承諾した。ホント露骨に嫌そうな顔をしながら。

 「じゃ、今度こそォ!」

 モノヤギは大穴に入るとそれ以降現れなかった。

 「もう訳わからない。頭痛くなってきた……」

 「大丈夫…じゃなさそうだな。取り敢えずみんな、ここから移動しようか。」

 「どこに移動するんじゃ。」

 「ここに来るときマンションⅠ棟の中を少し覗いて出入口のところに地図があったのを見つけたんだよ。そこに行けば何かここの構造ぐらいわかると思ってね。というか地図もう覚えたしマンション内を軽く案内しておくよ。」

 「さすがは大工さん。」

 「そうでもないけどね。」

 「なら行こうか。」

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 これから私たちはどうなるのだろうか

 

 

 このマンションに閉じ込められ

 

 

 コロシアイを強いられた

 

 

 16人の運命は

 

 

 どうなるのだろうか

 

 

 それを知ることが出来るのは

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

    そう遠くない未来のことかもしれない

 

 

 

 

 

 



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登場人物
生徒一覧


 希望ヶ峰マンション入居者及び生徒一覧

 

 

超高校級の翻訳家 直樹空

 

超高校級の杖術家 橘実琴

 

超高校級の大工 宮原匠

 

超高校級の貿易商 湊川鈴音

 

超高校級のバレー部 灰垣遊助

 

超高校級の探偵 鷹山麻美子

 

超高校級の執事 近衛陣

 

超高校級の藍染め職人 阪本莉桜

 

超高校級の数学者 江上和枝

 

超高校級のディーラー ダグラス・レッドフォード

 

超高校級の茶道部 金室ひより

 

超高校級の医者 巡間治虫

 

超高校級の弁護士 国門政治

 

超高校級の酪農家 矢崎紫陽花

 

超高校級の雀士 渡良部美南

 

超高校級の??? 玉柏朱鷺

 

 

*****

 

 直樹 空 (なおき そら)

 超高校級の翻訳家

 

 身長:163cm 体重:50kg 胸囲:81cm

 血液型:A 誕生日:6月1日

 好きなもの:旅行

 嫌いなもの:ボケの連鎖

 

 主人公。家庭の事情で海外旅行をするうちに言語に興味を持ち始めて様々なところで翻訳活動をしている女子。翻訳家なのでまだ全部喋れるわけではないが読み書きはできる。リスニングもできる。

 誰でも気兼ねなく話せどんな人に対しても恐れないコミュニケーション力の高さを持つ。ツッコミ気質でそれを放棄するとカタコトになる。

 水色のパーカーに黒の薄いカーディガンを着ている。

 

*****

 

 橘 実琴 (たちばな みこと)

 超高校級の杖術家

 

 身長:183cm 体重:70kg 胸囲:90cm

 血液型:AB 誕生日:11月3日

 好きなもの:森林、楽器

 嫌いなもの:人混み

 

 強盗を捕まえるために使った杖で超高校級入りした男子。その動きは誰もが釘付けにされるほどかなり早い。いつも眉間にシワを寄せている。相手の名前をまともに呼ばずいつも才能で呼んでいる。

 人には厳しく、自分には更に厳しい厳格な性格で時には誰かを見捨てることを厭わない冷徹さを持っている。人との馴れ合いを好まない一匹狼。

 服装は緑ジャケットに青のジーンズ。翡翠の勾玉を首からさげている。棒という名の杖をベルトループにさしている。

 

 

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 宮原 匠 (みやはら たくみ)

 超高校級の大工

 

 身長:176cm 体重:70kg 胸囲:83cm

 血液型:A 誕生日:7月25日

 好きなもの:百均 嫌いなもの:喧嘩

 

 父の影響で効率のいいかつ丁寧でしっかりとした建物をつくる手先が器用な大工。

 争い事を好まず常に周りを見て行動をするお父さんポジション。ただ建物や製作することになると周りが見えなくなるほど盲目になりやすい。

 白の作業服で金槌やドライバーなどを腰につけているポーチに入れている。

 

 

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 湊川 鈴音 (みなとがわ すずね)

 超高校級の貿易商

 

 身長:168cm 体重:56kg 胸囲:86cm

 血液型:A 誕生日:9月21日

 好きなもの:大海原

 嫌いなもの:ホワイトチョコレート

 

 平等な取引を行う貿易商。彼女を懇意にするお客さんは多く、たとえ値段が高かろうと平等ならいいと取引してくれる。

 有言実行でしっかりもの。誰かに依存しすぎず分け隔てなく会話をしてくれる。

 青い海賊風の服を着ていて茶色のロングブーツを履いている。

 

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 灰垣 遊助 (はいがき ゆうすけ)

 超高校級のバレー部

 

 身長:189cm 体重:83kg 胸囲:90cm

 血液型:O 誕生日:2月17日

 好きなもの:放物線、お経

 嫌いなもの:ハゲ呼ばわり

 

 彼がいれば相手に一点も取らせることはないと言われるほど強いバレー部のエース。センターにいることが多い。実家が寺(別院)のためお経を唱えることがある。宗派は浄土真宗。

 考え方やしゃべり方が爺くさい。面倒見がよくいつも誰かかれかの側にいることが多い。早口になることも少なくなくその時の滑舌はとてもいい。

 シャツに羽織を着ていて袈裟を巻いている。

 

 

*****

 

 鷹山 麻美子 (たかやま まみこ)

 超高校級の探偵

 

 身長:154cm 体重:46kg 胸囲:75cm

 血液型:O 誕生日:1月9日

 好きなもの:ドラマ 嫌いなもの:譜面

 

 ペット捜索から殺人事件の解決まで幅広く対応する探偵。自分から捜査し自分で解決することができる。手掛かりはどんな些細なことであろうとも必ず手に入れる。

 みんなのために探索するのが好き。抽象的で大雑把な説明をするため理解されないことが多々存在する。

 探偵らしいコートと帽子を身につけておりポケットにはメモ帳を備えている。

 

*****

 

 近衛 陣(このえ じん)

 超高校級の執事

 

 身長:169cm 体重:63kg 胸囲:80cm

 血液型:B 誕生日:2月14日

 好きなもの:紅茶

 嫌いなもの:胡座

 

 由緒正しき執事家系。ただし武士家系でもあるため人を呼ぶときに様でなく殿がつく。仕えているお嬢様ととある約束をしているらしい。

 敬語で話す好青年。笑顔でいることが多く常に誰かのために行動するのが生き甲斐。

 黒の燕尾服で縞模様のネクタイを締めている。右目のモノクルはおしゃれ。

 

 

*****

 

 阪本 莉桜 (さかもと りお)

 超高校級の藍染め職人

 

 身長:159cm 体重:56kg 胸囲:84cm

 血液型:AB 誕生日:12月31日

 好きなもの:評論文

 嫌いなもの:スカート、化学合成着色料

 

 心を込めて美しい藍をつくる若き女職人。その腕は世界にまで通用し手拭いはもちろん洋服やハンカチ、ストールなどさまざまなものを藍色に染める。

 初対面は愛想がないがそれはどんな人か分からないからそんな態度を取るだけで実際はもっと友好的で世話好き。

 藍染めの洋服でスカートは作業する上で邪魔という理由で常に長ズボンを履いている。

 

 

*****

 

 江上 和枝 (えがみ かずえ)

 超高校級の数学者

 

 身長:164cm 体重:54kg 胸囲:83cm

 血液型:B 誕生日:5月22日

 好きなもの:円周率 嫌いなもの:直感

 

 論理的思考で問題の解きやすさを追求し続ける数学者。「計算は素早く正確に間違えないやり方で」がモットー。

 少々お調子者だが努力することを怠らない勉強家。応用が利く考え方を豊富に持ち目先のことだけに囚われない。

 黄緑のTシャツに女性用白衣。Tシャツには三角定規とコンパスが描かれている。

 

 

*****

 

 ダグラス・レッドフォード

 超高校級のディーラー

 

 身長:173cm 体重:59kg 胸囲:78cm

 血液型:A 誕生日:11月25日

 好きなもの:ポストカード

 嫌いなもの:イカサマ、視線

 

 カジノ界では彼を知らない者はいないほど有名なディーラー。正々堂々と勝負するのがモットーでイカサマする客は即ブラックリスト入りさせるほど辛辣。イギリス生まれアメリカ、日本育ちのイギリス人。

 好奇心旺盛で特にゲームに関してはどのジャンルも怖いもの知らず。ムードメーカーで人と楽しいことをするのが好き。サングラスを外すことを極端に嫌う。

 服装は黒いベストにスラックス。サイバースモークというサングラスで目は隠れている。黒の蝶タイを付けている。

 

 

*****

 

 金室 ひより (かなむろ ひより)

 超高校級の茶道部

 

 身長:166cm 体重:49kg 胸囲:86cm

 血液型:O 誕生日:9月10日

 好きなもの:鹿威し 嫌いなもの:噴水

 

 日本の和を極めんとする茶道家。日本文化を好むため西洋文化などには若干抵抗がある。

 丁寧なですます口調で温厚。どこか和ませる雰囲気があり彼女の前では大抵の人は頭が上がらない。物事をハッキリと言うことも少なくない。

 頭にシニヨンキャップ(お団子)を被っている。服のピンクの前掛け部分に梅と胡蝶蘭が描かれている。

 

 

*****

 

 巡間 治虫 (はざま おさむ)

 超高校級の医者

 

 身長:148cm 体重:53kg 胸囲:73cm

 血液型:不明 誕生日:3月1日

 好きなもの:笑顔 嫌いなもの:テロ

 

 様々な患者を難病から救った医者。患者のためならばどこへでも行く。

 傷ついた人を助けることを望む優しい性格。どうすれば病から人を助けられるかを研究している。しかし見た目が糸目の童顔で低身長のためバカにされることも少なくない。外見とは裏腹に大人びている。

 服装は白衣に白のスラックス。

 

 

*****

 

 国門 政治 (くにかど まさはる)

 超高校級の弁護士

 

 身長:179cm 体重:78kg 胸囲:86cm

 血液型:A 誕生日:1月14日

 好きなもの:カレンダー

 嫌いなもの:贋作

 

 小さい頃、推理の全く出来てない裁判に乱入し真犯人を暴き出した弁護士。どんな事件でも犯人に繋がる証拠を見つけ出し必ず真実にたどり着かせる。

 基本的に自分を低く見ているがこれは自分が法廷以外で役立てる場所がないと感じているから。

 赤いスーツで黒のYシャツ。左の襟に弁護士バッジをつけている。

 

 

*****

 

 矢崎 紫陽花 (やざき あじさい)

 超高校級の酪農家

 

 身長:171cm 体重:49kg 胸囲:90cm

 血液型:O 誕生日:4月28日

 好きなもの:鹿 嫌いなもの:カエル

 

 実家の手伝いをしていたらいつの間にか超高校級入りしていた。本人はあまり気にしていない。

 いつものんびりでマイペース。そんな緩い性格をしているがある意味力仕事のためか力はそれなりに強い。

 服装はオレンジのエプロンスカート。作業するときは頭に三角巾をつける。

 

 

*****

 

 渡良部 美南 (わたらべ みなみ)

 超高校級の雀士

 

 身長:164cm 体重:55kg 胸囲:75cm

 血液型:A 誕生日:8月5日

 好きなもの:ボードゲーム

 嫌いなもの:地図

 

 対局においてドラは絶対にくるという雀士の中のドラ使い。相手を麻雀の牌や役の名前で呼ぶ癖がある。

 短気でどんな対局も最後には必ず勝つと豪語するほどの自信家。戦況を見極めどのタイミングで一手を打つかまでも素早く考えられる頭脳派でもある。

 服装はセーラー服で水色のスカート。

 

 

*****

 

 玉柏 朱鷺 (たまがし とき)

 超高校級の???

 

 身長:186cm 体重:76kg 胸囲:85cm

 血液型:O 誕生日:10月16日

 好きなもの:高い所、昼寝

 嫌いなもの:金平糖

 

 記憶を失った謎の男子。本人は心当たりがあるらしいが教える気はないらしい。

 どんな状況でも冷静に判断することができ落ち着いた態度をとる。彼の笑顔はどこか闇を抱えた雰囲気が醸し出されている。

 メガネをかけており茶色い無地のTシャツに黒のスラックスを着ている。左手には包帯が巻かれている。

 

 

 

 

*****

 

 

渡良部がつけたみんなのあだ名

 

 

直樹空 トン(東)

橘実琴 チュン(中)

宮原匠 ソウズ(索子)

湊川鈴音 シャー(西)

灰垣遊助 ロン

鷹山麻美子 ハク(白)

近衛陣 リーチ

阪本莉桜 ナン(南)

江上和枝 ハツ(發)

ダグラス・レッドフォード ドラ

金室ひより イッパツ(一発)

巡間治虫 ホンイツ(混一色)

国門政治 イッツー(一気通貫)

矢崎紫陽花 ペー(北)

玉柏朱鷺 ツモ

 

 

 



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第一章 盾の悲劇と矛の罪
第一章(非)日常編 確認の1部屋目


 注意

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。

 本編とは異なる設定が多々あります。

 あと主の文才は期待しないでください。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。

 

 

 

*****

 

 モノリュウのお告げ

 

 

 知っておるか?

 

 『矛盾』という言葉の答えは

 

 一つではないということを

 

 矛で盾を突く

 

 『突く』に明確な定義がない限り

 

 『矛盾』とは成り立たぬモノなのだ

 

 では『矛盾』の妥当な解釈は?

 

 『無敵の盾が無敵の矛をはねかえす』

 

 ……だろうな

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一章「盾の悲劇と矛の罪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 入居会が終わり集会室を出ると夕暮れ。私たちはすぐに隣のⅠ棟を訪れた。宮原の言う通り出入口に地図があった。

 「ここは5階建てだ。男子トイレと女子トイレはそれぞれの階にあるから省くぞ。1階には食堂、その奥厨房、購買、そしてここ玄関ホール。こことは違う外への扉が食堂にあるみたいだね。あと厨房にトラッシュルームもある。」

 「ほうほう。」

 「2階は小さな休憩スペース、いわゆるロビーみたいなのね。他にはランドリー、倉庫A、医務室。3階は女子5人の寄宿スペースと倉庫B。4階は男女3人ずつ計6人の寄宿スペース。5階は男子5人の寄宿スペースと倉庫Cだ。」

 「階段は右上辺りにあるみたいですね。」

 「その横にエレベーターもあるな。」

 「これマンションというかアパートじゃないか?」

 「知らないわよ。」

 ただし世の中には四階建てでマンションと呼ぶものも存在したりする。

 「さてこれから見てまわるか?」

 「いやその前にお腹すいたよ。」

 矢崎に言われたと同時に誰かのグウという腹の音が聞こえた。……私じゃないよ。

 「では食堂へ参りましょう。腹が減っては戦は出来ぬともいいますし。」

 「戦しないけどね。」

 

 

 *****

 

 

 暖簾をくぐった先の食堂は広々としていた。大きな長テーブルとあとは数ヶ所に丸いテーブルが置いてある。

 「ひっろ!」

 「奥に台所があるっぽいな。」

 「とりあえずみんなで座りましょ。」

 長テーブルのところにみんな腰かける。近衛は奥の厨房に食材を確認したのちすぐに戻ってきた。

 「食材は豊富に取り揃えてあるようでございました。食事に関して困ることは特にないみたいです。」

 「ほお。」

 「今からでも何かお作り致しましょう。ご要望がございましたら是非おっしゃって下さい。」

 「さすが執事ですね。和食をお願いしてもいいですか。」

 「あ、私も私も!」

 「あたいは洋食を。」

 「洋食please!」

 「僕は麺で頼むよ。」

 みんなそれぞれの要望を聞きかしこまりましたと言って近衛は調理場へ向かった。

 「陣がいない間でも話し合えることは話しておこうか。」

 宮原は手を叩いて自身に視線を向けさせた。

 「さっきも言ったとおり、このマンションは5階建てだ。そしてこの閉鎖空間の中で壁こそあるけど外にも出られる。今日はもう夜だし外と中の探索を明日にでもしたいんだけれど平気かな。」

 「それでいいよ。反対する理由なんてないし。」

 「あたしも同じかなー。止まっててもなにも起きないし。暇だし。」

 「私もだ。」

 「決まりだね。」

 話をしているうちに近衛が食事を持ってやってきた。そういえばこれ夕食なんだよね。

 手を合わせていただきますをしみんな料理を食べる。ちなみに私は和食。うん、おいしい。さすが執事である。

 「お口に合いましたでしょうか?」

 「合う合う!すごいおいしい!」

 「…うまいな。」

 「ありがとうございます。」

 昼を食べていなかったせいかみんな揃っておかわりをして長い夕食が続く。別の意味でただ一人を除いて。

 「……」

 「灰垣くん。食べるの遅くない?」

 「……」

 灰垣も和食なのだが一口食べるごとに箸をおいて料理の味を噛みしめている。何回噛んでるんだろう?

 「……ふう。」

 「灰垣はいつも時間をかけて食事を取るのか?」

 「いやいつもそういうわけじゃない。ただ昼間のことがどうにも頭に残るんで落ち着こうと思っただけじゃ。」

 「それにしても食べる速度遅くない?」

 「遅いのは分かっておる。なんせ一口で100回噛んどるからな。」

 「多い!よく噛んだほうがいいっていうけど多い!」

 「仕方がないじゃろ。それともなにか、お経読んだほうがよかったか?」

 「ゼンシャデオネガイシマス。」

 灰垣も灰垣でワケワカラン。長い夕食がさらに長く感じる瞬間だった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 食事も終わって今日はもう自由にしようということで私は自室に行くことにした。確認したかったしね。部屋は女子から出席番号順になっているようで私は三階の305号室。三階にいるのは他に江上と金室と阪本と鷹山の4人だ。

 部屋に入るとまあそれなりに広い。シングルサイズのシンプルなベッドや大きなテレビ、その横のスピーカー、机と椅子、シャワールーム、その他諸々。一人暮らしをする必要最低限の物がある。ただ監視カメラがあるのがなんともいただけない。

 机に何かないかなと思い近づいてみるとそこには黒いスマートフォンのような物が置いてある。手に取ってみるとまあうんスマホみたい。そう思ったらパサッと何かが落ちた気がして床をみるとメモ紙があった。

 「『直樹空専用の電子生徒手帳です。常に手元で保管願います。希望ヶ峰学園学園長モノヤギ。』……」

 手に取って読んでみたがなるほどそういうことかと納得する。ていうかあのヤギ字キレイなんだけど。達筆なんですけど。自分の字の汚さに嘆くよ。

 電源を着けてみると『直樹空』の文字と時間が表示される。今は夜の9時。早いなあ。このまま部屋で入り浸ってもいいが食事を済ませたすぐなので体にはよくないなと。

 「……よし。」

 私はまずシャワーを浴びてから最近はまりのヨガをすることにした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ピンポンパンポーン!

 

 『夜時間になったであーる!オマエラァ、いい夢見て明日からのコロシアイに備えるであーる!!』

 

 突如テレビがついてアナウンスが鳴る。待って。夜時間ってなに?思わず電子生徒手帳を見てみると規則の欄に普通に(・・・)書いてある。あ、もしかして私これ見るの遅すぎなのかな。

 

 

 

 

 

   〈希望ヶ峰マンションの規則〉

 

 No.1 生徒及び入居者はこのマンションで共同生活をしてもらいます。期限はありません。

 

 No.2 夜10時から朝07時までを夜時間とします。立ち入り禁止区域があるのでご注意下さい。

 

 No.3 マンション内での就寝については各自個室で取って下さい。他の施設での故意の就寝は他の入居者の迷惑になるので禁止します。

 

 No.4 マンション総合管理人ことモノリュウや総合管理人代理・希望ヶ峰学園学園長ことモノヤギへの暴力行為を禁じます。監視カメラの破壊を禁じます。

 

 No.5 施設の探索は自由です。特に制限は課せられません。

 

 No.6 仲間を殺したクロは“卒業”となります。ただし自分がクロであることを他の生徒に知られてはいけません。

 

 ※なお、規則は順次増えていく場合があります。定期的に規則を確認することをオススメします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なるほど。モノリュウってどうやって攻撃するんだろうと思わず二度見したけれどいっか。

 さあ明日からは探索だ。このマンションを調べられるだけ調べよう。そしてここから出る手段を見つけよう。コロシアイが始まる前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 2日目

 

 ピンポンパンポーン!

 

 『おはようございますなのであーる!今日も張り切っていくであーるよォ!』

 

 目覚めはモノヤギのアナウンス。これがえっと、あれ、あれあれ……そう目覚まし時計だ。正直これが目覚まし時計だとは思いたくないけれど目を覚ますにはちょうどいいから許そう。いつも起きるの7時だし。

 私は軽く背伸びして食堂へ行くことにした。

 

 

 ***

 

 

 あ、もう誰か人いる。ダグラスだ。彼は髪の毛を結んでいる最中だった。

 「ミス直樹、good morning!」

 「おはようダグラスくん。早いね。」

 「そりゃそうさ。ほら『早起きは三文の徳』って言うだろ?たった3つの徳でもないよりましだとミーは思ってるのさ。ちなみに仕事があるとき以外は毎朝5時には起きるから。というか起きちゃうんだけどね。」

 規則正しい生活してる。

 「寝るときも大抵は9時から10時の間だし。部屋に戻ってすぐ寝ちゃったよ。」

 えらいというか緊張感抜けているというか。彼は出されたコーヒーを一口飲むとにがっ!っと言ってコーヒーにミルクと砂糖を入れた。そりゃコーヒーだもの。

 「あれ、ダグラスくんだけ?」

 「NoNo,ミスター近衛がキッチンにいるよ。モノヤギと交渉したみたいでさ。6時から食堂開けてもらえることになったらしい。ま、そんなことも知らずにミーは朝の散歩していたんだけどさ。」

 あのヤギ話通じるんだ。昨日のイメージと全然違うんだけど。なんなのあれ。

 「ああそれからミスター橘もいたけどユーと入れ違いになったみたいだね。」

 「え?」

 「なんでも人との関わりが好きじゃないみたいでミーが話しかけても返事はなしさ。食事も早くに済ませちゃった。」

 橘、協調性ない。もっと交流しないとそれこそ初対面の私たちと馴染めないのに。いや馴染もうとしていないのか。けどそれなら昨日のは一体…?

 とまあダグラスと世間話をしていたらぞろぞろとみんながやって来た。もちろん橘はいない。近衛が朝食を持ってきて食事が始まる。

 「いただきます。」

 手を合わせて私は昨日と同じ和食を食べる。

 「そういえばあなたたち知ってる?」

 なにか思い出したかのように切り出したのは阪本だった。

 「なにを?」

 「私たちみんなの個室。完全防音なの。」

 それは知らなかった。

 「昨日矢崎さんと試したの。というか自然とそうなった感じ。」

 「そうだね。あたいが訪ねたときなーんか廊下の声が個室に届いていなかったみたいなんだよね。それで。」

 「確信したわけか。なるほどね。一つ探索する手間が省けたな。」

 防音となると個室でコロシアイが起きても誰も気づかないってことか。最悪のケースが自分の脳裏を過る。ダメダメ、今は食事中だ。そんなこと考えておいしいご飯を不味くしてしまうのは近衛にもみんなにも失礼だ。ポジティブに考えよう。

 「阪本くん、昨日よりずいぶん砕けたみたいだが。」

 「それは初対面だと誰がどんな人かわからないからその態度とっただけ。最初愛想ないとか思ったでしょ。」

 はい思いましたすみません。

 「よくあることだから気にしないでね。本当なら私からみんなに話しかけるところけど、矢崎さんに先越されたよ。」

 「おかげで防音のことに気づいたから結果オーライじゃないかな。」

 「他に何か報告あるかな?」

 全員首を降る。

 「よし、なら今日からこのマンションの探索だ!楽しみだなあ。」ワクワク

 「この状況で一番楽しめてるの宮原くんだよね。」

 みんなして大きく頷いた。だって大工だもの。仕方がない。

 

 

 *****

 

 

 そういうわけでみんなで探索開始だ。私は集会室を調べたかったから外の方へ出た。

 「ん?君は直樹だな。」

 「そうだよ国門くん。」

 外には国門がいた。少し離れたところには金室と玉柏もいる。

 「ここには噴水ぐらいしか見当たらない。これといった発見もない。でも中央より若干遠いのが気になるな。」

 「うわぁ絶対宮原くんが気にし…」

 「いやいっちばん最初に言ってたぞ。」

 「もう探索してるじゃん!!?」

 「君が起きる前に言っていたんだ。僕も気になってそれ言ったら『気づかないほうがおかしい!!』って一蹴された。」

 「ドレダケスキナンデスカ?」

 「おーいカタコトだぞ~?」

 はっと気づいたらやれやれと国門に苦笑いされた。

 「全く。壁の方は金室が調べてるからそっちからも話を聞けばわかる。僕が役に立つのは法廷だけだからな。」

 「弁護士だから?」

 「ああ。ま、ここで僕の才能が発揮されるとは思いたくないけど。」

 「変なこと言わないでよ。」

 「現にもう才能発揮している人いるから。」

 確かに否定できない。(近衛、橘、宮原)

 国門はどうやらあまり自分を前に出すことはしないようだ。法廷だけでしか役にたてないと自分を低くみている。でも昨日の口振りからして頭も良さそうだしあまり自分を低く見すぎるのもどうかなと思った。

 

 

  

 *****

 

 

 

 そのまま私は金室のいるところまで行った。壁に手をあてて何か確かめているようだ。

 「何しているの金室さん。」

 「あら直樹さん。いえたいしたことではないですよ。壁があるのでその奥には何があるのかと気になっただけです。」

 そうこのマンションは大きな壁で覆われている。木々も生えているが壁のほうが高くとても木登りしてから越えられるとも思えない。

 「壁の奥…は外の世界じゃないかな。」

 「いえ多分それは違うと思います。昨日モノヤギが言っていたではありませんか。『マンションⅠ棟』って。試しに壁を叩いてみましたが、鈍い音はしてても少々薄いようなのです。Ⅰ棟があるということは他にもⅡ棟や別の棟があるのかと思いまして。」

 私も壁を叩いてみたら金室の言う通り薄い。もし外の世界がこの壁の奥ならあまりにも無用心過ぎる。何か、そう爆弾なんかでも簡単に壊せそうな感じなのだ。

 「壁についてモノヤギに聞いたところ、壊したら“おしおき”があるそうです。」

 「おしおき?」

 「詳しいことは言われてません。外に出るにはコロシアイをすることが条件なのでそれ以外での脱出は認めないということだと思います。ですが昨日、橘くんが吹き飛ばしたモノヤギが爆発しましたよね。あの爆発は直接当たればきっと……死ぬレベルでした。」

 「つまり…」

 「おしおきは校則を破った者をみんなに見せしめとして殺す。ということです。恐らく。」

 絶句した。金室も淡々と言っているように見えるが顔色はよくない。最後のほうが少し歯切れが悪かったのは気のせいではだろう。

 そう昨日の爆発が警告でなければ橘は間違いなく“死んでいた”のだ。考えれば考えるほど、私は自分が死ぬのが怖くなった。もちろん死ぬのは怖い。だが病気や老衰で安らかに眠るのと殺されて死ぬのとでは大きな差がある。

 「壁の向こうに何があるのかまだはっきりわかりません。ですが信じてますよ。時間が掛かろうともうちらがここから出られることを。」

 穏やかに微笑みまた壁を調べる。金室ははっきりとものを言うタイプかもしれない。戸惑い…はあったけど言いづらいことでもはっきりと言った。コロシアイを強いられた私たち16人は常に緊迫状態なのだから緊張していても仕方がない。

 でも私も信じている。金室と同じようにみんなでここから出られることを。

 「あとついでですがうち噴水嫌いなんです。」

 「え?」

 「日本にあんな激しくて華やか過ぎる人工的な芸術はいりません。もっと落ち着いた優しい自然の芸術がいいんです。そう例えば鹿威しなんかが素敵ですね。」

 あ、これあれだ。完全に日本大好きっ子だ。

  

 

 

 *****

 

 

 

 話が長くなりそうだったからすたすたそこから離れ、今度はマンション横の集会室を探索することにした。玉柏が入るのをみたあと私は中に入る。昨日最初に入ったときと同じ光景だった。……え?

 「元に戻ってる?嘘?昨日の爆発痕は!?」

 「っ…少し静かにしな。耳に響く。」

 「ごめん。」

 「……」

 爆発のあった箇所に手をあててみる。触り心地は他のところと同じだ。嘘のように消えていた。

 「たった1日でこんなきれいになるのかな。」

 「普通に考えて無理だな。仕事が早すぎる………」

 玉柏はその場に座り込み床を撫でてはその箇所を眺め、壁も同様の動作を繰り返す。

 ふと私は彼に疑問を抱く。彼の才能について。

 「ねえ、あのとき才能教えてくれなかったよね。何か教えられない事情でもあるの?」

 「事情ね……」

 ポツリと呟いて私をチラリと見る。

 「あ、いや、無理に言わなくてもいいからね。」

 私を見る瞳は睨み付けているようにもうかがえたが昨日みたいに鋭くはなかった。すぐに顔を戻して立ち上がる。

 「正直な話をすれば俺は記憶を少し失っているらしい。」

 「らしい?」 

 「才能が思い出せないのはわかった。だが他にも何か忘れている感じもする。それがなんなのかすら俺は忘れてしまった。」

 「忘れていることを忘れているってこと?」

 「ああ。だが才能はなんとなく検討がつく。今のお前たちには分かるわけないけどな。」

 不意に彼が含みのある笑みを浮かべてゾクッとした。どこか闇を抱えたそんな笑みだった。

 「さて他にも探してみるか。」

 反転してステージに向かう彼の後ろ姿を私はじっくりと眺めるしかできなかった。

 あのあとその辺を探索したけれど特にこれといっためぼしいものはなく集会室を後にした。

 玉柏は記憶喪失。それでも彼はどんなときでも冷静だ。まだまだ彼については分からない。謎のまま。いつか取り戻すかもしれない記憶を私はゆっくりと待とうと思った。

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

            to be continue…



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第一章(非)日常編 報告の2部屋目

 注意

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。

 本編とは異なる設定が多々あります。

 あと主の文才は期待しないでください。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。

 

 補足

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。

 例:直樹→直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。

 

 *****

 

 探索を終えて昼食を取るためみんな食堂へと集まる。さすがにこのときは橘はいたが一人で丸テーブルを独占している。近衛が先に来ていたため料理はすぐに並べられた。

 食堂に着くなり宮原がテーブルに突っ伏す。

 「宮原くんは大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ。多分。あそこ行った後にあの場所とかあんな場所とか回ってたし。」

 「いやわからんわい。」

 要するに宮原はみんなが探索していたところ一人で全部回ったということだ。すごいけど無理しす…

 「めっっっっちゃ最高だな!!」

 「うわっびっくりした!?」

 前言撤回。疲れたんじゃなくて感動してたんかい。

 「ゴホン。今回の進行は私がしよう。行儀は悪いが効率重視するから食べながらでも聞いて発言してほしい。これからマンションの探索結果を言ってもらう。」

 呆れた巡間が一つ咳払いをし進行をすることに。

 「厨房は昨日お話した通りでございます。それとモノヤギがマンション内の食材は自動的に補充されると仰っていました。」

 近衛から発言していく。ていうか近衛もモノヤギに会ったんかい。

 「そうなの?じゃあ食べても食べても減らないんだ。」

 「だからといって何でもかんでも食べることはしないでもらいたい。」

 「えへへ。」

 えへへじゃないわ。料理見ながら言うなし。

 「売店はコンビニに置いてあるものとか並んでた。あとモノヤギマシーン?みたいなのがあった。」

 「モノヤギマシーン??」

 なにそれイミフ。

 「私もよくわからない。けど見た目ガチャガチャだしガチャガチャなんじゃないかなって勝手に思ってる。」

 渡良部はセーラー服のスカーフを撫でながら言った。

 「食堂も昨日と同じだったよ。同じところなーんかいも見ても結果は変わらなかったね。」

 相変わらず矢崎はのんびりと話す。

 「一階はこれぐらいか?」

 「だね。」

 「はい!じゃあ次はあたし!」

 手を挙げたのは江上だ。

 「あたしは湊川さんと二階倉庫に行ったよ!」

 「そこには保存可能な食品が置いてあったわ。缶詰めとかカップ麺とかそういう類いよ。」

 「ふむ。」

 「ランドリーは普通のランドリーだったよ。夜の10時から朝の9時までは使用禁止だけれど。まあ洗濯するなら別に関係ないんじゃないかな。」

 続けて阪本も発言する。

 「医務室はわしと巡間で見たんじゃが鍵が掛かっておったから中には入れんかった。」

 灰垣は巡間と医務室を見たらしい。

 「なんで医務室だけ?」

 「わからない。」

 「休憩スペースはちょっとカフェっぽかったよ。部屋じゃないからチラッと見たとは思うけど曲線のカウンターに丸イス。棚もあってそこにはコーヒーとか紅茶とかいろいろ入ってて。あ!小さなコンロもあったな。それから水道も通っていたしどんか構造してるのか気になってね?あと」

 「長い!!」

 みんなが一斉に突っ込んだ。宮原の話ってこんなに長いんだ。下手に建物の話すると一日中捕まりそう。彼はごめんごめんと軽く受け流し話を続けた。

 「二階はこれくらいにして三階の倉庫のこと話すよ。実琴と見たけど武器庫だったよ。あと工具セットもあった。武器は刀とか銃とか槍とかスタンガンとか仕込み靴とかいろいろ。」

 「橘くんと?」

 そうだよと言って橘の方を見るも彼はフンッとそっぽを向いた。

 「冷たいね。」

 「はん、めんどくさいことには首突っ込みたくないからな。それと大工、てめえはもう少し自重しろ。俺はうるせぇのが大っ嫌いなんだよ。」

 「さ、才能で呼ぶか普通!?」

 どれだけ人と関わるのが嫌いなのだろうか。ゴホンと本日二度目の咳払いをして巡間は話を進める。

 「四階は特に何もないからあとは五階の倉庫だな。」

 「イエス!!」

 元気いいなこの外国人。

 「ミス鷹山と探索したよ。そこはパーティーグッズがたくさんあった!」

 「あんなものからこんなものまで勢揃い!」

 「なんか変な意味に聞こえそうだからその表現は控えてね?」

 「ねえ、パーティーグッズあるって言ったよね。」

 「イエス。言ったね。」

 「じゃあさ!」

 「うお危ない!?」

 渡良部が使っているフォークをダグラスに向ける。

 「雀卓置いてた!!?」

 その場のほぼ全員が盛大にずっこけた。そっちかいと。

 「うん?ああ置いてたよ?」

 そして置いてあるんかい!

 「よし!ドラ!リーチと三人で麻雀するよ!!」

 「いやちょっと待たんか!」

 本当に待たんか。なんだその呼び方は。

 「何よ?」

 「何よじゃないわ!なんじゃその呼び方は!ダグラスはまだ分かるとしてもじゃ、3人ほど呼び方にインパクトありすぎなんじゃよ!!」

 否定しない、否定できない、否定したくもない。(橘、近衛、渡良部)

 「いいじゃん別に。」

 「いや誰に対して呼んでるのかわからないんだと思うよ。」

 えぇといってスカーフをいじる。

 「一回しか言わないから。江上はハツ、金室はイッパツ、国門はイッツー(一気通貫)、近衛はリーチ、阪本はナン、鷹山はハク、橘はチュン、玉柏はツモ、ダグラスはドラ、直樹はトン、湊川はシャー、宮原はソウズ、巡間はホンイツ、灰垣はロン、矢崎はペー。いいね?」

 「いいねと言われても…」

 名前覚えているならわざわざそんな呼び方しなくてもいいような…呼び方人それぞれ違うけどこれは異例だ。

 「ほら。話逸れたけどこれで建物は全部言ったでしょ?外の話も聞かせてよ。」

 すっかり忘れてた。

 「僕は噴水辺りを見た。まあこれといった手がかりなし。強いて言うなら噴水とマンションの距離がわりとあるってことかな。」

 「うちは壁を見ましたが同じく手がかりとなるようなものはありませんでした。」

 国門と金室はさっきの状況を言った。

 「あとは集会室だけだな。」

 「集会室もそこの二人と同じだ。けど不思議なことが一つあったな。」

 「それは何なの?」

 「私も行ったからそれに答えるよ。その前に昨日の爆発覚えてる?」

 みんなもちろんと返事をする。

 「そこの爆発した場所の壁と床。どっちも元通りになっていたんだ。」

 「元通りに?」

 「ああそうだ。おかしくないか?たった一日で焦げ痕も穴も元通り。」

 「それは本当か。」

 「隠す必要がないだろ。それにどのみちあそこはまた行きそうな予感がする。俺の勘だけどな。」

 服でメガネのレンズの汚れを落としながら答える。

 「あとの報告はないな?」

 「あ、わたくしから1つ確認しておきたいことがございます。よろしいでしょうか?」

 「なんだ?」

 「まず今日モノヤギと会った方々は挙手を。」

 手を挙げたのは金室と矢崎と宮原だ。

 「モノヤギがどうかしたの?」

 「いえたいしたことではないのであまり気にしなくてもよろしいのですが…モノヤギを見られたときに何か驚きませんでしたか?」

 すると三人はああといってすごく納得している。なんのことだ。

 「え?なになに何なの!?」

 鷹山は興味津々だ。

 「実は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノヤギがわたくしたちのコスプレ(・・・・)をしていたのでございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んんんんんんん??????

 「え、待ってもう一度確認していい?」

 「モノヤギが?コスプレ??」

 「はい。」

 「そうですよ。」

 「あれはね。」

 「モノヤギがコスプレしてるだなんてだーれが思う?」

 「誰も思わないよ!!」

 マッタクドユコトデスカ。

 「はっ」

 鼻で笑った橘が立ち上がり食堂を出る直前、最後の爆弾を投下する。

 「モノヤギならぬ『レイヤーギ』か。」

 みんなが盛大に吹き出した。ちょっと待って橘のセンスが……センスが……

 とまあこんな感じで探索の報告は終わる。私たちはそのまま食事を続けた。…思い出し笑いしながら。

 

 *****

 

 「近衛(リーチ)、それロン!リーチ、一盃口(イーペーコー)、ドラ四!12000!」

 「跳満でございますか。お見事。」

 「ミス渡良部強いな!」

 「省士だから。強くないと意味ないでしょ。」

 昼食を終えた私たちは片付けをしたのちそれぞれ自由に過ごすことになった。そして食堂に残った近衛、ダグラス、渡良部は五階から雀卓をとってきて麻雀をやっている。それを私は紅茶を飲みながらただ眺めている。麻雀は試合を見たことはあるから少しルールはわかるけど経験ないから。というか三人で麻雀できることがびっくり。

 「点数一気にとられたね。」

 「ええ。しかしだからといって諦めてはいけないのです。いつどのようなタイミングで挽回するかで勝敗は大きく左右するのでございます。」

 「麻雀は最初にきた牌を素早く整理してそこからどう切っていくかがカギ。捨て牌をみて相手の形を予想したり、うまくテンパイに持ち込むために鳴ったり、わざとドラを切ったり。」

 「麻雀って奥深いんだ。」

 「当たり前でしょ。麻雀だから。」

 三人はまた牌を崩して次の局へとうつった。それにしても…

 「渡良部さん。ドラ4つってえげつないね。」

 「ドラ使いを舐めないで。」

 自信に満ち溢れた笑みを私に向け、彼女はまた雀卓に向き直った。

 そのとき、

 「ねえねえ四人とも何してるの!」

 入り口から楽しそうな雰囲気を感じ取ったのか鷹山が顔を出した。

 「おお!ミス鷹山!今麻雀やっているんだけどユーもやるかい?」

 「ごめん。あれ知らないから出来ないよ。」

 大方ルールだろう。

 「では今回は鷹山殿は直樹殿とわたくしたちの対局をご覧下さい。少しでも感覚は掴めるかもしれませんよ。」

 「じゃあそうしようかな。」

 私と同じテーブルに着いて三人の対局を見る。

 「直樹さん。ちょっとちょっと。」

 小声で話しかけられる。私も小声で返す。

 「どうしたの?」

 「わたし実は麻雀できるんだよね。」

 え?とは言わず表情だけで答える。きっと間抜け面をしている。

 「わたしは探偵だよ?前に裏組織へ潜入捜査もしたことあるからわかるんだよね。」

 何件も事件を解決してきた彼女のことだ。潜入捜査という言葉が出ても不思議じゃない。むしろ今の彼女は探偵としてとても輝いてみえる。ただ仕事のことを安易に人に教えていいのか否か…

 「代わりになぜかトランプとかテレビゲームとかメジャーなゲーム知らないけどね。」

 困ったように笑いかけてきてこっちも思わずクスッと笑った。

 さらに聞いたところ、鷹山がこっちにきたのは四人がどういう人かを見極めるためだそうだ。でもみんなクセが強いからわからなくなることはないかもねってメモをとりながら話していた。他の人もあとから同じことをするようだ。

 この閉鎖空間で探偵がいるのは非常に心強い。彼女の力が発揮されるのはこれからだろう。

 そして渡良部はこの局でダグラスの点数を大幅に落として、オーラスでリーチからのドラ10ツモ上がりを決めてフィニッシュとなった。この省士のドラ率が高すぎる。そしてえげつない。男子二人は手を挙げて降参していた。

 

 *****

 

 ずっと座っているのが疲れてきて動こうと思い私は食堂を離れた。と同時に売店からトッテンカントッテンカンという音が。なんとなく予想はつくけど…

 「…………よし。」

 宮原なんだよね。

 「何してるの?」

 「ん?空か。いやぁボードを作ろうと思ってね。」

 「ボード?」

 「倉庫の物品の数をこれに書いておこうと思ってね。コロシアイが起きたとき、物品の数が変わっていたら証拠の1つにでもなるかとね。」

 この大工はすごい。起きるかもしれない事態を想定した上で行動できる。この方法は有効だろう。

 「麻美子も言ってたでしょ、怖いのはみんな同じだって。それなら少しでも恐怖を緩和できる手段を見つけようと思って。」

 「宮原くんはえらいね。」

 「えらいなんてとんでもない。出来ることは少しでもやらないといけないっていう個人的な義務感だから。それに止められるうちに止めなきゃね。」

 お父さんポジションかな?

 「いいんじゃない、それでも。私は宮原くんがやってることは正しいと思うよ。」

 「はは、ありがとう。さてあとは倉庫に飾るだけだな。」

 穏やかに笑って彼は移動した。……ていうか部屋が防音だからここで作業するのって迷惑じゃないかなとあとから思った。

 

 *****

 

 二階に上がって医務室前に行ってみる。ドアノブに手をかけて開け閉めしてみても扉が動く様子はない。

 「そこは何しても開かないよ。」

 「湊川さんに…阪本さん。」

 「ん。」

 横から二人が出てきた。灰垣の言っていたことの確認を先に済ませたようだ。

 「ホントなんでここだけ開かないのよ。」

 「さあね。でも巡間くんいるから怪我してもなんとかしてくれるはずじゃない?」

 「怪我する人いる?」

 「武器庫あるしコロシアイにも捲き込まれてるから。」

 ああそうか。武器庫とコロシアイ生活に捲き込まれているということすっかり忘れてた。ダメじゃん。

 「誰も殺し合わなければいいのに。」

 「そうだね。」

 やっぱり昨日よりも阪本砕けてるな。

 「そういえば昨日阪本さんのところに矢崎さんは何しに行ったの?」

 「忘れ物を届けてくれた。忘れ物というか落とし物かな。」

 そういって阪本がポケットからそれを取り出す。ピン止めだ。

 「緩くなっていたからそろそろ新しいの買おうと思っていたのにこの始末。はあぁ、早めに買っておけばよかった。」

 あ、その気持ちわかる。

 「売店は見たの?」

 「宮原くんが作業中に探してくれたけどピンとくるものがなくて。」

 はい今ピンとくるピンがないってうまいこと言ったなと思った人は後で自分で自分を殴ろうか。

 「わかる、そういうのあるよね。」

 「でしょ?だから困ってるの。まあ今は我慢するよ。それじゃまた後で。」

 こうして二人と別れた。

 今こうして阪本と話してみると意外にも友好的で話しやすかった。そばにいた湊川もしっかりしていたしここにいるのはいい人ばかりだ。

 ただ例外は橘だろうなぁと思いながら誰かにぶつかった。その人はまさに橘であった。

 「…チッ、危ねぇよ翻訳家。よそ見してんじゃねえ。邪魔だ。」

 乱暴に吐き捨てて彼は階段を降りていった。

 「協調性ない………」

 ボソッと呟いて私は彼の背中を眺めていた。

 

 *****

 

 あのあとマンション内をふらふらしていたけどやっぱり変化は特に見られず他の人もそうだったみたいで、結局今日という1日は終わった。

 

 *****

 

 3日目

 

 いつものアナウンスにいつもの朝食。たった3日しか経っていないのに違和感は仕事をしてくれない。これが当たり前みたいになっている。実におかしなことだ。

 しかし違和感が仕事をしない日に限ってさらにおかしな出来事が起きるものだと相場は決まっている。

 

 *****

 

 

 

 ピンポンパンポーン…

 

 

 

 *****

 

 

 ほらやっぱり。

 この不穏なチャイムが私たちを襲う。

 

 

 



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第一章(非)日常編 動機の3部屋目

 注意

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。

 本編とは異なる設定が多々あります。

 あと主の文才は期待しないでください。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。

 

 補足

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。

 例:直樹→直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。

 

 

 *****

 

 『ああァ、マイクテストォ。』

 レイヤーギ、間違えたモノヤギのアナウンスだ。今度は一体なんだ。

 『オマエラァ!直ちに集会室に集まるであーる!!特別にィ、超重要情報を与えてやるであーる!!来ないヤツにはァ、とびっきりのおしおきが待っているであーるからなァ!!』

 

 ブツリ…

 

 ああなんというデジャブだろうか。不穏な悪魔の囁きが私たちに。しかし行かなければ死ぬ。脅迫された私たちに行かないという選択肢はないのであった。

 

 *****

 

 全員が集会室に集まる。そして全員が集まったと同時にレイヤーギ、間違えたモノヤギが現れた。服装は…マントか。

 「ヒッヒッヒィ、全員集まったであーるなァ。」

 「私たちに何の用よ。」

 「オマエラがなァんにも起こしてくれないからァ、ワレはオマエラにプレゼントをやろうと思ったのであーる!」

 3日で何か起こせって結構無理あると思うんだけど。

 「どうせろくでもないものなんだろ。」

 「ろくでもない…ねェ。確かにそうかもしれないであーるがァ、この中身を見ても同じことが言えるであーるかなァ??」

 マントから謎の封筒が顔を出す。そしてそれを私たちに配り始めた。

 「何なんだこの封筒は?」

 「ヒッヒッヒィ。それは開けてからのお・た・の・し・み、であーる!!」

 「おもてなしみたいに言うんじゃないわ。」

 ネタが古い。配られた封筒の中身を開けてみるとそこには一枚の写真があった。恐る恐るその写真を取り出して見る。

 

 そこには、

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 私と男子とのツーショット写真があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 不思議だ。なんでこんな写真があるのか。ここの男子でない、見覚えのない男子。私と二人のツーショット。

 青いスーツを着て帽子を被って、まるで車掌とか船長とかそんな感じの格好をした男子。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 ズキンッ……

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 直後、私を襲った頭痛。とてもズキズキしてくる。なに?なんなの?これは一体??意識が飛ぶ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ         れ

 

 

           私      

     は

               何   

 

         を

 

  な       

            に

 

                   か    

      を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な………にか………を………??

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??????????

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 *****

 

 

 

 なんだろう

 

 たしか

 

 写真を

 

 

 

 *

 

 

 

 あれ

 

 あそこにいるのは?

 

 私?

 

 と

 

 写真の男子?

 

 楽しそう

 

 

 

 *

 

 

 

 ………………

 

 

 

 *

 

 

 

 え?

 

 いま

 

 キミはなんて?

 

 なんて言ったの??

 

 

 

 *****

 

         遠くに

 

        離れていく

 

       手を伸ばしても

 

         届かない

 

      離してはいけないのに

 

         どんどん

 

        離れていく

 

         視界も

 

        ぼやけてきた

 

         まるで

 

 *****

 

 

 

 

 

 

        走馬灯?

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 *****

 

 

 バアアアァァァァン!!!!

 

 

 *****

 

 刹那、集会室内に叩きつけるような音が響いた。同時に目覚めるように頭痛と幻から解放された。あんな音が出せるの、そんなことできるのは彼しかいない。

 

 

 

 

 「くそったれがぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

 

 いつも眉間にシワを寄せている橘がさらに寄せていつ抜いたかわからぬ杖で地面を叩いたのだ。左手にはモノヤギから配られた写真がグシャグシャに握られている。

 「た、橘くん!?」

 「てめぇ、ふざけるのも大概にしやがれ!!」

 「なァーッはッはッはァ!!!愉快愉快ィ、じィつゥにィ愉快ィ!!その顔が見たかったのであーーーーる!!!」

 モノヤギは私たちの顔を見てとてもご満悦の様子だ。すごくうざい。

 「一つ確認してよいですか。」

 金室が写真を見つめながら問う。

 「あなたの目的は一体、何なのですか……?」

 「ヒッヒッヒィ…今さら、であーるなァ…」

 ニヤリと不気味に笑い足で地面を蹴ると電気が消える。二度目にもなるとみんな冷静だ。

 

 

 そしてモノヤギは左目をギロリと赤く光らせて言った。

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 「絶望………であーーーる!!」

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 「ふっっっざけんじゃねえぇぇぇ!!!」

 

 電気が点いた瞬間、橘の怒声が轟く。彼の怒りはとどまることを知らず、今にもモノヤギに襲いかかろうとする。

 「やめなよ!!」

 それを湊川が止めに行く。だが女である彼女が止められるわけもない。返り討ちに遭うのは目に見えている。ところが橘は湊川が立ち塞がったのを見た途端その場で止まり彼女を睨み付けた。動かず、冷たい殺気を放ちながら。

 「…ッ…モノヤギを攻撃したところであなたは死ぬだけよ!?」

 「うるせぇ貿易商!てめえに俺の何が分かるってんだ!?ああ!?ヤツは…ヤツはなあ!!?」

 怯みながらも湊川は必死に橘を説得するも、彼も彼なりの言い分があり両者一歩も譲らない。

 「ヒッヒッヒィ…ではワレはこれでおさらばするであーる。別にィここで殺しあってくれてもォ全然問題ないのであーるからなァ!!」

 「あ、ちょっと待ちなさい!!!」

 「待たないであーるよォ??」

 モノヤギは一触即発状態の私たちをおいてこの場から去ってしまった。

 「確かにあなたの言うことはわからないけど!だからって死ぬような真似をしなくてもいいじゃない!?」

 「黙れ!!何も知らねぇてめえら全員に、俺の気持ちなんざ分かるわけもねえだろうが!!?」

 「はいはいはい!二人ともそこまで!!」

 二人の口論を見て宮原が手を叩きながら間に割って入る。

 「邪魔すんじゃねえ大工!」

 「あのさぁ…」

 呆れたように頭を掻いて二人にバシンッ!と平手打ちをかました。スッゴいいい音したんだけど。

 「ッ!?」

 「いったい…」

 「実琴だけにやるのは気が引けたから鈴音にもやらせてもらったよ。そこは平等にね。いいかい。」

 至極真面目な顔で彼は一呼吸おいて話し始めた。

 「実琴、お前が言いたいことも分かる。こいつを見せられて自分の中で焦りが芽生えている。ここにいる全員がきっと同じだ。だけどもしもコロシアイなんかしたらモノヤギの思う壺だ!」

 「関係ねぇ!俺はなあ、一刻も早くアイツを………アイツを………!!!」

 「なら尚更だよ。実琴の言うアイツが誰なのかは追及しないけどその人に会いたい、助けたい、守りたい、その他いろんな感情がその人に対してあるならコロシアイをするって考えは止めようね?きっとコロシアイでここから出てその人に会っても、その人どころか誰一人としてお前を認めてくれはしない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)から。」

 「…………フンッ…」

 宮原の言うこと、至極正論だ。

 「それと鈴音。止めてくれたこと、感謝してるよ。ありがとう。でも今回の場合は口出ししたらダメだ。どこでその人の逆鱗に触れるか分からないよ。まあ一回目じゃ分かるわけないけどね。」

 「ごめん。」

 橘と湊川の謝罪の態度の差が激しい。

 「わかればいいよ。俺は喧嘩が大嫌いなんだ。拳と拳でわかり合うみたいな話あるけど、いまいち傷つける意味が分からなくて。だからあんまり争い事とか起こさないで欲しいんだよ。」

 気のせいではないだろう。ふと、彼の目がとても哀しく見えた。

 「ふう、それじゃあ解散しようか。みんなこれのせいで顔色が悪いよ。今日はもうゆっくりした方がいい。」

 「そうだね。お世辞にもいい雰囲気とは言えないし。」

 コロシアイが本格的に始まろうとしている。この事実は覆せない。けど防ぐことはできる。今の私たちに出来ることはただコロシアイが起きないことを祈るだけ。写真をポケットにしまう。

 

 朝からこの提示はみんなを苦しめたらしく、昼食は各々で取ることになった。食事中の会話は聞こえなかった。

 

 *****

 

 昼食を終えたあと私は部屋のベッドに飛び込んだ。さっきしまった写真を取り出しもう一度だけ写真を見つめる。

 …やっぱり何か違和感がある。なんでこんな写真があるのだろう。顔に写真を乗せて考えてみるけど浮かばない。思い出せない。もどかしい。胸の奥がチクチクする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

  

 コンコンコン!

 

 

 

 

 突然私の部屋をノックする音が聞こえてハッとなる。写真をポケットにしまってそこまで行って開く。

 「やあ空。」

 「え宮原くん!?」

 宮原だった。

 「そこまでびっくりしないでよ。まあ見た感じだと平気そうだけど…」

 実際平気ではない。

 「まあ無理しないでね?」

 そういって彼は私の頭を撫でようとした。

 

 *****

 

 「!?」

 「おっと!」

 しかし私はそれを反射的に防いだ。

 「ご、ごめん!」

 「ああ大丈夫大丈夫。嫌だった?」

 「いやそういうわけじゃないんだけど体が勝手に…」

 

 

 

 「何やってるの?」

 不意に近くで阪本の声が聞こえた。

 「えっとこれは…」

 「いや別に。俺がみんなのところに行って顔色うかがってるだけだから。」

 そうだったのか。

 「それにしても今直樹さんのこと撫でようとして逃げられてたじゃない。」

 待て阪本はどこからみてたんだ。

 「莉桜そこまで見てたの?」

 「はあ宮原くん、あなたはどこのお父さん(・・・・)なの?」

 「ブフッ!」

 ちょっと私が今まで思っていたことここで阪本に言われた。思わず吹き出してしまった。ヤバい腹筋痛い…

 「え、ちょっと空!?り、莉桜!俺高校生だからね?お父さんじゃないからね!?」

 「前からみんな宮原くんがお父さんっぽい思ってたと思うけど?」

 はい思ってました。笑い止まらない。

 「やめてくれ!何で俺そんなお父さんっぽいっていつも言われるんだ!?」

 「見た目と雰囲気と性格じゃない?」

 「全部友達に言われてるやつや!」

 まさかの関西弁。でもエセかな?そろそろ笑いが落ち着いてきた。

 「友達にまで言われてたら手遅れでしょ。」

 「…………ん?あれ…」

 宮原が頭を抱える。何があった。

 「宮原くん?」

 「ねえ空、莉桜。差し支えがなければでいいけど二人の写真見せてもらってもいいかな。何か分かるかもしれない。」

 「ワタシは…あまり見せたくない。」

 「うんわかったよ。」

 「私は別にいいよ。これ。さっきから違和感あって悩んでいたから。」

 「ありがとう。これは俺の写真だ。一応見ておいて。」

 写真を受け取って阪本と見てみるとそれには宮原とお茶を飲みながら談笑しているであろう着物の男性が写っていた。隈がはっきりとわかり宮原よりも髭を生やしている。とてもおじさんの用な容姿をしている。

 「おじさんみたい。」

 「言っておくと、そいつれっきとした高校生だからね。」

 まじかい。見えない。

 「そっちは何かわかったの。」

 「ああ。見覚えがある。名前までは覚えてないけど…前向きなやつだったかな。」

 「そこまでわかるだけでもすごいよ。私なんにもわからない。」

 「ワタシもわからない。けどどうしてこんなに記憶にすれ違いがあるの?」

 そうそれが一番のネック。私たち三人だけでもわかるわからないがはっきりとしている。この写真一体どうなっているのだろう。もしかして橘がキレたのも…

 「何が関係しているかわからない。今はまだ情報が少ないし様子見だね。」

 「そうね。じゃあワタシは部屋に戻る。二階で灰垣くんがお茶出してくれてるから飲みに行ったら?」

 「俺は物品チェックしてくる。温かい飲み物で心落ち着かせておいで。」

 「だからそれがお父さんっぽいって言われるんだって。」

 

 *****

 

 阪本と宮原に言われた通りに私は二階にお茶を飲みに行った。カウンターで灰垣がお茶を出していて矢崎と江上もその場にいる。

 「三人ともここにいたんだ。」

 「あんなの見せられて落ち着いていられんかったからな。お茶の一つでも飲もうと思っていたんじゃがいつの間にかこんなんになっとったわ。」

 「落ち着くにはお茶が一番なーんてね。」

 「そうそう!」

 ……少しは盛り上がっているようだ。

 「お前さんも飲むか?」

 「あ、お願い。」

 灰垣が手際よくお茶を作っている。私は席に着…

 

 コロコロコロ…

 

 あれ、何か蹴った。探してみたら服(?)のボタンが落ちてる。自分のカーディガンのかと思ったが違った。

 「ねえこのボタン誰の?確認してみて。」

 「わしのはボタンがないから違うぞ。さっき阪本も来たがあやつのものでもないな。」

 「あたいのでもないねぇ。」

 「えっあたしのだ!いつ取れたんだろう。ええぇ直すの面倒!!」

 江上のボタンのようだ。

 「ごめんねーありがとう!」

 「大丈夫だよ。」

 ボタンを渡してやっと席につく。矢崎と江上を見ると矢崎は相変わらずだけど江上のほうが浮かない顔をしていた。

 「はあぁ。」

 「大きいため息だね。」

 「それはそうでしょ?こんな写真見せられて出たくなる人いたら同情しちゃいそうなんだもん。」

 「へえ。あたいは別に平気だよ。でも頭の片隅でなーんか引っ掛かるんだよ。」

 あ、私と同じ現象だ。強く出たいとは思えない。けど気になる。引っ掛かる。

 「ほれ。」

 「ありがとう。」

 出されたお茶は温かい。

 「悩むなら悩めばいいんじゃ。存分に。それを一人で溜めるのは愚か者がすることじゃ。自分を苦しめる前に、人に少しでも悩みを伝えるんじゃな。わしはいくらでも聞くぞ。」

 そういえば彼の実家は寺(別院)だったっけ。お坊さんが相手の悩みを聞くという話は聞いたことがあるが本当なんだ。でも灰垣ってバレー部だよね。

 「もちろん無理強いはせん。ただわしが勝手にそうするだけなんじゃから。」

 「そういう心羨ましいよぉ。」

 「あたいは何だかんだそういうの合っても動物に聞かせていたからね。人に言いづらいことを伝える。人間の思ってることって動物は不思議とわかるものなんだよ。」

 「すごいなお前さん。」

 「動物がすごいんだよ。あたいは別になーんにもしてないんだよ。」

 超高校級入りしているんだから全員十分すごいよね?

 「直樹さんは?」

 「私は…どうしてるだろう。その時々で相談相手変わるから。」

 「じゃろうな。なに焦る必要はないわい。少しずつ出られるように努めるんじゃ。」

 その後、四人でとりとめもないことを話して夕方頃、その場を離れた。出されたお茶は終始温かいままであった。

 

 *****

 

 夕飯も全員が集まることはなかった。でも昼とは違って多少まとまってはいた。…といっても最大五人だけど。近衛、ダグラス、渡良部、金室、鷹山だ。彼らが話している姿を私は別の席で眺める。

 「ダグラス殿も渡良部殿も落ち着きましたか?」

 「Umm,sosoっといったところかな。100%じゃあないさ。」

 「私も同じよ。」

 「でも近衛くんもあまりあれはよくないよね。」

 「ええまあ。どうにかしたいのは山々なのですが…」

 「わかりますよ。うちも同じです。」

 やはりみんな似たような悩みを抱えているようだ。同じような悩みを共有し合うのはいいことだ。しかし今改めて思えばこんな写真一枚だけでコロシアイに直結するのだろうか。要素としては薄いように感じる。

 「直樹くん。相席いいか?」

 考え事してたらすぐ横から巡間の声がした。断る理由もないのでそのまま通すと一礼してから席に着いた。

 「やはりみんなまずまずと言ったところか。しかしこれだけで事件が起きるものかどうか…」

 「あ、今思ってたそれ。」

 「そうか。まあ忘れたいと思うなら世間話でもするか。」

 「おい、そこいいか。」

 またまた横から声がした。今度は玉柏だ。巡間と同じく通す。他の人と比べて顔色の変化はうかがえない。

 ていうか料理少なっ!

 「こんなのにいちいち悩む必要ないだろ。」

 「絶賛悩み中の人の目の前でそれ言うの?」

 「知るか。俺はそれよりも自分の才能の手掛かりを探したいんだ。…が」

 ポケットに手を入れて何かを取り出す。写真だ。取り出してニヤリと笑いまたポケットに戻すと私たちに向き直る。

 「重要なヒントは得られた。それだけでもいい収穫だ。俺の予想が間違っていない証明になる。」

 「とか言ってまだ私たちに教えないんでしょ?」

 「当たり前だ。どうせいつかわかることを今教える意味なんてさらさらないな。」

 彼は本当に記憶を失っているのだろうか。ここまで来ると怪しく感じる。

 「そうだ、お前ら確認なんだが写真には二人写っていたか?」

 ん?どうしてそれを聞くのかな?いや確かに二人だけど。

 「二人だけど?」

 「二人だな。」

 「……お前らもか…悪い邪魔したな。抜ける。」

 「はやいな。もう少しゆっくり食べればいいだろう。あと副菜をだな…」

 「悪いが、お前らと違って俺にはやることがあるからそんな暇はないな。じゃあな。」

 巡間の説明を遮り彼は洗い物を済ませて食堂を去った。それに続いて橘も一人食堂を去って行くのも見えた。

 「…あの二人謎多いよね」

 「全くだな」

 

 *****

 

 夕食を終わり私は食堂に残って食後のコーヒーを飲む。食堂にはまたあの三人が残っていた。そして今回は金室もいた。ダグラスがトランプを5枚配ると近衛、渡良部、金室はそれを受け取り熟考する。ポーカーをやっているようだ。

 「二枚交換をお願いいたします。」

 「私は三枚。」

 「うちは二枚で。」

 カードを交換し、ディーラーも交換。………全部交換したよおい。

 「どうする?bet?fold?」

 「「「bet」」」

 「Wow同時!じゃあカードopen!!」

 カードが表になる。近衛と渡良部はスリーカード、金室はストレートだ。

 「じゃあミーのカードもopen!!」パッ

 「!!?」

 ダグラスの役は………ろ、ロイヤルストレートフラッシュ!??どんな強運!?

 「ねえダグラス(ドラ)これちゃんと混ぜた?」

 「ミーはイカサマをしないディーラーさ。そんな疑わないで欲しいね。なんなら全員にカードを切ってもらってもokさ。」

 まあ取り敢えずダグラスが強すぎるポーカーを眺めていた。この続きが気になるが、コーヒーはなくなっていたし夜風にでも当たりたい気分であったためそうそうに食堂を出た。

 

 

 

 

 その後、渡良部の驚きの声が聞こえて来たのは言うまでもない。

 

 

 *****

 

 外の噴水の前へ行く。噴水の音がどこか悲しくきこえて、まるでこのコロシアイの状況を嘆いているかのようだった。

 「機械的に流れてていいのかな…」

 「ダメだよ」

 ビクッとなった。鷹山だ。

 「運命に逆らえないみたいなことを言う人いるけど運命なんていくらでも変えられるよ。わたしはそう言う人たっくさん見てきた。受動的に過ごす生活に、わたし意味なんて感じないよ。」

 うわお。たった一言呟いただけでここまで考えられるのか。前の日にみた顔とはまるで違う。今の顔はまさに探偵の顔。キリッとしていてそして頼りがいのある。いつものこそあど言葉は全然。

 「世界はいつも謎や事件で溢れている。だから出たい。けどそれは絶対に正しくない。だって探偵であるわたしが殺人なんて起こしたら大変だから。」

 「…さすが。でもそうだよね。」

 「いつも生きていた当たり前の生活が当たり前じゃなくなるのって実はかなり恐ろしいんだ。わたしはいろんなところを転々としていたから場所の変化には強いけど、他のみんながそうとは限らないし。」

 そうだ。私も旅行していた時期が多いから環境変化にはそれなりに強い方だと思っている。だけれど江上は?灰垣は?阪本は?橘は?他のみんなは?もしかすると心の中では出たくて出たくて仕方がないのかもしれない。

 「みんながみんな強くない。弱くたっていい。けど弱いまま変わろうとしないのはダメ。弱い自分をどう強くするかを考えればいいんだ。きっと……いや何でもない。」

 最後のところすごい気になる。しかし詮索しなくてもいいだろう。探しすぎても彼女を困らせるだけだ。

 「じゃあわたし戻るね!お休み!」

 「うんお休み。」

 鷹山に小さく手を振って別れ、私は噴水をもう一度眺める。

 

 *****

 

 ザアァ……

 

 *****

 

 流れても

 

 絶対に

 

 コロシアイという運命に

 

 流されるものか

 

 *****

 

 

 

 ゾクッ…

 

 

 

 *****

 

 

 突然私は寒気に襲われた

 

 後ろを振り返ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マントを身に纏い鳥の嘴のような仮面を着けた謎の人間が噴水の先端、頂点と呼ぶべきだろうか。その人はそこに片足で立っていた。

 

 

 *****

 

 誰だこの人。仮面の目の部分は見えないように工夫されているからわからない。口元だって嘴のような部分でうまく見えない。その人は私をじっと見つめている(らしい)。私もその人の目(というか顔)から離さずに互いに見ていた。

 

 まるで決戦が行われる夜の如く

 

 しばらく、いやほんの数秒かもしれない。その人は後ろへ飛んで着地し木々がある方へと隠れていった。不思議に思ってその人が行った木々をしらみ潰しに探す。

 ところが誰かがいた形跡が全く見当たらない。誰かがいたこと自体が嘘のように。

 私には何がなんだかわからない。考えるのもメンドウニナッテキタ。

 部屋に戻ってシャワー浴びて寝よう。このことはもう忘れよう。

 

 *****

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「平気か………」

 

 

 *****

 

 

 

 

            to be continue…

 



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第一章(非)日常編 始まりの4部屋目

 注意

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。

 本編とは異なる設定が多々あります。

 あと主の文才は期待しないでください。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。

 

 補足

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。

 例:直樹→直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。

 

 

 *****

 

 4日目

 

 夢を見た。このマンションで閉じ込められてコロシアイをさせているとは思えないほど、あまりにも楽観的な夢。

 誰かはわからない昨日の写真の彼と私が一緒に野原を歩いている。何をしゃべっていたのか覚えていない。ただ穏やかに楽しそうに二人は話すだけ。

 こんな夢を見るなんてどうしてなのだろうか。考えてもわかるわけがない。

 おかげで目覚めはとてもよかった。でもなんか腑に落ちない。コロシアイが起きるかもしれないにも関わらず明るい夢を見てどれだけ気が抜けているんだろう。気引き締めなきゃ。

 シャワーを浴びて、着替えて、ストレッチして部屋を出る。食堂にちゃんと人はいるのだろうか…

 

 *****

 

 食堂に行くと珍しくダグラスではなく宮原がいる。腕を組んで背もたれに寄りかかって下を向いているから一瞬寝ているのではと疑いたくなる。だが校則で許されていないからその線はすでにない。ということは考え事かな?

 「宮原くん?」

 「……」

 あ、集中しているっぽい。このままにしておいたほうが…

 「ん?呼んだ?」

 「何その時差反応!?」

 前もそんなことあったような。まいっか。

 「いやそこで考え事でもしてるのかなって。」

 「まあそんなところだよ。今は…7時18分、わっ一時間経ったんだ。はやいな。」

 「6時くらいに起きたってこと?」

 「うん。俺どっちかというと朝型だから朝なら頭働くかなってね。で、一つ思いついたんだよね。これはみんなが集まってから話すよ。」

 宮原のアイデア、一体なんなのだろうか。気になるところだがまあ彼も集まってからと言っていることだし待とう。

 そういえば今気づいたけど宮原以外誰もここにいないような。料理の音は一切聞こえてこない。

 いやいやまさか。

 「ねえ宮原くん。近衛くんとダグラスくん知らない?」

 「二人は外にいるよ。陣は昨日のうちに仕込みを終えたらしいから朝の用意は彼が戻ってきてからでも平気だよ。」

 安心した。いつもいる人がいなくなると不安になる。よかった。そのあと宮原の言う通り近衛とダグラスが戻ってきてそれに続くようにみんながやって来て食事が始まる。橘は端にいるがまだ出る様子はない。

 「ねえみんな。ちょっと俺から提案があるんだけどいいかな?」

 宮原が声をかけみんなの視線が彼に移る。

 「提案?なんだ?」

 「昨日モノヤギからもらったこの写真に対してみんなそれぞれいろんなおもいがあると思う。だからきっとコロシアイが起きるって思う人もそんなことないって思う人いるんじゃないかな?」

 「そうだな。」

 「で、提案の中身になるけど、『夜時間以降の外出を禁止したい』んだよ。」

 「はい?」

 夜時間以降の外出禁止…なるほどそういうことか。

 「考えなくてもわかるでしょ。夜になる度にコロシアイという恐怖に怯える、おちおちゆっくり寝ていられない。なら俺たちの中でこういうルールを作っておいたほうが安心じゃないかな?」

 犯行が夜に起こるとも限らない。だがもし犯人が狙うならば夜だろう。この時間、何が起きるか一番わからないのだ。

 「俺たちの中でのルールだからモノヤギの作った校則と違って強制力はない。これはみんなの協力がなければ達成できないんだ。我が儘だけどコロシアイを起こさないためにも出来る限り協力してくれるかな?」

 「なるほど。僕たちの行動を制限することでコロシアイを防ぐ足掛かりをつくるわけか。いいんじゃないか?」

 最初に肯定したのは国門だ。

 「あたいも賛成だね。」

 「そうだな。」

 「賛成。」

 それに続くようにみんなが次々と宮原の提案を受け入れていく。二人を除いて。

 「俺は適当にやらせてもらう。夜ほど行動しやすい時間はないんだ。」

 「んな面倒くせぇルールなくてもいいだろうが。好きにすりゃいい。勝手に行動させてもらう。」

 謎組め。二人同時に否定すると互いをにらみ合う。こいつと一緒が気に食わないと。

 「そんな否定しなくても」

 「いやいいんだよ。さっきも言ったでしょ、俺の我が儘なんだ。」

 我が儘…とは何か違う気もする。

 「守ってくれる人がいるだけでも嬉しいよ。話はそれだけ。」

 笑顔で言う彼の裏は読めない。少なくとも私たちを陥れようなんて考えはないと思う。

 彼はみんなのことをよくみてるからお父さんみたいな立ち回りになる。本人は否定しているけど、こういう大人の包容力はあると落ち着ける。巡間も大人みたいな雰囲気だが、貫禄の違いは言うまでもないだろう。

 

 このあと特にこれといったことは起こらずに朝食は終わった。まあこのあとも何事もないのだろう。

 

 *****

 

 

 

 

 

 これが直樹の最初のフラグ建築であった

 

 

 

 

 

 *****

 

 ちょっと売店で本あるかな。そう思って寄ってみる。英語の本とかを読みたい気分だから。あ、国門がいる。まあこのマンションにあの人数、どこにいても誰かと会いそうだからいても不思議じゃない。彼は雑誌コーナーにいた。……美術雑誌?

 「意外。国門くんそういうの好きなの?」

 「ああ。まあどっちかといえばカレンダー目当てだけど。……え、いつからここにいた?」

 「気づいてなかったんかい!!」

 「悪い悪い。」

 「で、カレンダー好きなの?」

 「そりゃな。いつどの日に何があるのか見てるだけでもワクワクする。わかるだろ?日本のカレンダーと海外のカレンダーが実は全然違っているの。」

 すっごいわかる。国によっては一年が365日じゃなくて364日だったりする。

 「しかも宗教的に考えても僕たちの知らない行事がある。おもしろいだろ?」

 「確かにおもしろい。日常だと考えないよね。宗教とか特に。」

 しかしクリスマスは本来キリスト教の行事。

 「案外、灰垣くんと話合うんじゃない?」

 「合うぞ。キリストの誕生をお祝いするクリスマスあるだろ?あれ時期は違うが浄土真宗だと『花まつり』っていう行事らしい。正式には潅仏会って名前。こっちはお釈迦様の誕生をお祝いするんだと。」

 あ、聞いたことある。浄土真宗だとプレゼントはクリスマスじゃなくて花まつりに渡すのが普通らしい。まあ日本はクリスマスにプレゼント渡しているところ多いけど。

 「………カレンダー目当てって言ってたけど何をみてるの。」

 「出版社によって何が発売されるとか公開されるとか違うからそれの見分け。カレンダーのことなら誰にも負けないぞ。」

 「争う人いるの?」

 「いない」

 「おい」

 「いいだろ、僕自身が満足しているなら。」

 「まあそうだけど…」

 「でも足りないんだよ…あと100ぐらい欲しい」

 「多すぎだよ!!?」

 

 *****

 

 とりあえず一言

 

 疲れたッッ!!!

 

 あの後似たようなやり取りをずっと繰り返してたよ。どうツッコミ入れればいいのかわからなくなったよ!国門ってしれっとボケに走るんかい!ってなったよ!!ツッコミ追い付かないよ!!!立ちが悪いよ!!!!どうしてこうなった!!!??

 

 「奇行に走ってんじゃねぇよ翻訳家。」

 「知るか!!こちとらツッコミ切れないボケに一生懸命ツッコミ入れてる最中なんだよ!!」

 「うるせぇ!!こっちこそ知るかてめぇのんな事情!!!」

 バシンッ!!!

 はっ!自分のキャラが血迷った!あと痛い。左肩に杖クリーンヒット。

 「翻訳家、てめぇもう少し周り見やがれ。さっきから何だよ、無言で腕ブンブン振り回すわ頭で着地するブリッジするわ!!挙げ句の果てにはディーラーに向かって本投げつけて気絶させるわで!!あぶねぇだろうが!!」

 「えっ………」

 ちょっと待て。思い出そう。確か私は国門とのやり取りを終えて英語本を取って2階に上がったはずだ。そこで……どうした、どうしたんだ私!?朝食後は何も飲食してない。唐突にツッコミたい衝動に駆られて………あっ…そこから覚えてない…けど橘のおかげでわかったことは、『周りに人がいたにも関わらず動きだけでツッコミ表現をするという奇行に走っていた』ことと『ダグラスを持ってた本で気絶させた』こと。

 よく周りみたらゲームトリオ(近衛、ダグラス、渡良部)と阪本と鷹山いるし。私は何を思ってたんだ。顔が一気に沸騰して赤くなるのを感じた。

 

 ………

 

 「ごめん…」

 「謝る相手ちげぇだろうが馬鹿野郎。」

 「そうだね……」

 「ハンッ、あとのことは知らねぇ……クソねみぃんだよこっちは…」

 あくびしながら上に行く橘。いや、もう、うん、いろいろ申し訳ない…

 「直樹?大丈夫?」

 「阪本さん更に砕けたね…じゃなくて、いや、うん…」

 「割りと怖かったよ。橘も言ってたけど危なっかしくて。」

 「ダグラスくんにあれをあそこに当ててたよ。」

 「額だから。それ変な意味に聞こえるから。」

 「ツッコミホウキシテイイデスカ…」

 「しなさい(汗)」

 「恥ずか死ぬ…」

 いや本当に恥ずか死ぬ。

 「……近衛くん。」

 「直樹殿。如何なされましたか?」

 「ダグラスくんは平気?」

 「ダグラス(ドラ)は平気。額若干赤いけど…」

 「……………昼ご飯部屋に持ってきてもらってもイイデスカ…」

 「かしこまりました。」

 「(汗)」

 「みんなに合わせる顔がない…」

 片手で顔を覆って私は部屋に戻った。

 

 *****

 

 部屋に入ってとりあえずベッドにダイブ。悶えます、悶えます、悶えるんです。ゴロゴロしながら悶えます。枕抱きしめながら悶えます。手足バタバタさせて悶えます。

 何事もない朝!?あったっけねそんなこと!!スッゴい恥ずかしかった!私こんなに周り見えなくなるタイプだったっけ!?忘れた!そんなことどうでもいい!いやぁあ恥ずかしい、スッゴい恥ずかしい!

 

 ……寝るか

 

 そんなわけで私はシエスタに入ることに。でもシエスタって…いいや自分に突っ込むのもやめよ…

 

 *****

 

 んんんーー!!!

 よく寝た。時間を確認するとちょうど15分経った頃。シエスタにはちょうどいい時間だ。多少スッキリした。

 

 コンコンコン

 

 扉をノックする音が聞こえる。ベッドから出て扉を開けると渡良部がいた。その手には昼食が。

 「直樹(トン)、大丈夫?」

 「うん、まあ平気。」

 「そう。じゃ入るよ。」

 「え、あ、うん。………ファッ!?」

 流されるままに会話してたら普通に渡良部が部屋に入ってきた。よそ見してたらもう部屋の真ん中にいるし。

 「料理届けにきてくれただけじゃないの?」

 「バカ。私もお昼まだなの。てか今12時になったばかりだし。もう少ししたら近衛(リーチ)が私の分ここに運んでくるから。」

 あっはい。ツッコミどころ多いけど放っておこう。

 「ふふっ。」

 突然笑われたなんでやねん。

 「なんで笑ったの?」

 「いやぁ?だってあのときのあんたの姿を思い出すと笑えてきて。」

 「嫌味か。」

 「あんた誰かかれかのボケ混じると性格変わるでしょ。『知るか!』なんて普段言わないじゃん。」

 「う、確かに…」

 「言葉の遣い方に関してはあんたのが上だからどうこう言わないけど。今思うと傑作。」

 ケラケラ笑う彼女。反論できない…

 話しているとまたコンコンコンと扉のノックが聞こえる。誰かはわかっていたが近衛だ。渡良部の料理を受けとると彼は、食器は部屋の前に、と言ってそのまま戻っていった。渡良部の料理を彼女の前に置いて食事開始。

 「さぁてと、じゃあ話そうか!」

 「何を?」

 「共通項まとめ。あんた、見せなくていいから昨日の写真について教えて。」

 渡良部は何を考えているのだろうか。

 「写真には二人写っていて、そのうちの一人は私だった。その写真を見た直後に激しい頭痛に襲われて幻覚を見た。ってところかな。」

 「それくらいで大丈夫。やっぱりそうか…」

 「?」

 「ダグラス(ドラ)近衛(リーチ)からも聞いたけど、そうしたら二人ともあんたと同じ回答してた。」

 「つまりこの写真はその人に何らかの作用があるってこと?」

 「さあね。私は頭脳派だけど鷹山(ハク)と違って探偵みたいな推理なんて出来ないし。でも」

 食事中の手を止めて私に指差す。…自分で頭脳派言うんかい。

 「間違いなく『記憶』は関係している。」

 私の写真に写っていた見覚えのない男子のことを宮原が知っているように。玉柏が心当たりのある写真であったと言ったように。彼女の言う通り記憶は少なからず関係している。

 「問題はそれが私たちをコロシアイに引き込む要因になるかどうか。」

 「昨日の写真が動機として出されているから、コロシアイが起きる可能性はゼロじゃないんだよね。」

 「現時点で誰か変わってる様子もないし、『今は』まだ大丈夫かもね。」

 今は(・・)か…今わざと強調した。まあわかる、言いたいこと。

 「ごちそうさま。じゃ先に戻る。食器部屋の前にっていうのは聞いてるしょ?」

 「渡良部さんのやつ受け取ったときにね。」

 「ならオッケー。んじゃ、頑張ってよ。『東のツッコミ女王』」

 自分の食器を持って彼女は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 

 東のツッコミ女王ってなんやねん……

 

 

 *****

 

 朝からもうドッと疲れが溜まってる。昼食を部屋の前に置いてそのまま自分は部屋でゴーロゴーロダーラダーラしてる。体に悪いとわかりつつも。ヨガやってようかな…いや今そんな気分じゃない。動くことすらダルいんだ…けど適度に動かないと…あ、外いけばいいか。散歩がてら昼寝できる。モノヤギは自室以外の施設内の就寝を校則で禁止しているから外は多分大丈夫のはず。

 

 よし

 

 *****

 

 昼寝前提かよというツッコミは置いといて外へ。出ると玉柏が芝生の上で寝ている。外は安全圏だったことに安堵するとともに初日と同じ場所で寝ている彼に思わず口角が上がる。起こさぬようにと隣に座って空を眺める。壁に囲まれているにも関わらず空だけはハッキリと私たちの目に見える。不思議だ。

 

 ああこんなにも綺麗な空なのに、私たちの置かれている現実は何でこんなにも曇っているのだろうか。

 

 私はそのまま芝生の上に転がり眠りにつく。どうしても変えられない現実にどうすればいいかを頭の片隅で考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 ***

 

 

 目覚めると夕焼けが目に飛び込んでくる。もう夕方なのか。今さらながら今日私寝てばかりじゃん。ん?あれなんだろうこのタオル。いつの間にか私にかかっていた。

 「いつまで寝てんだ。」

 「あ…」

 上から声がしてきた。隣で寝ていた玉柏が起き上がって声をかけてきたのだ。

 「気づいたらお前横にいるってどういうことだよ。びっくりするだろ。女ならもう少し警戒しな。」

 「…ありがとう。もしかしてこのタオルも?」

 「俺のただのお節介。お前風邪でも引いてみろ。巡間がいて治療はできるだろうとは思う。けど医務室は夜時間にしか開いてない。」

 「待って。今なんて言った?」

 「ああそうか知らないか。昨日の夜に探索したんだ。で、医務室にも手をかけてみたら開いていたってわけだ。」

 医務室は夜時間に開いている…

 「その事実知っているのは…」

 「俺だけだ。人に言うのはお前が初めてだな。誰かに言うなよ。情報漏洩だけでもコロシアイに干渉しかねない。」

 つまり現時点での医務室の件は二人だけの秘密ということか。玉柏はきっとみんなのことを信用していないわけではないのだろう。だが知られれば知られるほど医務室の中の状況によっては…ということ。

 「わかった。誰にも言わないよ。」

 「助かる。さて、そろそろ飯だな。お前昼間いなかっただろ?顔出しとけよ。」

 「……ハイ」

 うん、いい加減みんなに顔出そ……

 

 *****

 

 「直樹さーん!」

 食堂に入ったと同時に江上に声をかけられる。もちろん拒むわけにはいかないので料理をもらってから彼女のもとへ行く。

 「もう心配したよ。私情でって何があったの!」

 「…ワタシガアバレタダケデス…」

 「暴れてそうなるの!?」

 はいそうなります。

 「いいんだけどね…周りみえなくなるのはよくあることだし。一つのことに集中しちゃうのも分かるよ。でも考え方はたくさん必要だよ?」

 「どういうこと?」

 「ええっと、数学の世界だと応用の利く考え方は必要なの。式変形で難しい問題も簡単に見えちゃうやつもあるし、公式使えばきれいに済んじゃうやつもある。けど敢えて別のことをしてみるのも面白いんだ。それこそ図形なんてベクトルとか図形知識とか、高校レベルならだいたい4つの答えの導き方がある。一応言うけど中学校の図形知識で高校の問題解けるからね?」

 「うっそ…」

 数学苦手だし文系には縁のない世界だ…

 「まあ何が言いたいかっていうと目先のことだけに囚われて他のところ疎かにしたらダメだよってこと。あと有名な数学者『デカルト』は昔こんなことを言ったよ。『困難は分割せよ』ってね。」

 「一人でなんでもかんでも抱えるなってこと?」

 「今のあたしたちの状況から考えれば、難しい課題が多いから少しずつでも解ける糸口を見つけようってこと。もちろんコロシアイ以外のやり方でね。」

 数学者である彼女なりの考え方。

 「数学的には図形を分割するとかそんな感じの意味合いになるけど。」

 数学的であってもどんな考え方でも江上の言う通りだ。

 「だからと言って昨日の写真についてはどうも言えない。あたしなりの考え方でこの状況を越えるよ!!」

 明るく元気に言う江上。食堂のライトがうまい具合に当たってスポットライト浴びているように見える。それだけ今の彼女は輝いて見えた。

 

 *****

 

 あれから何人かの人に心配されたりとかして部屋に戻った。そのやり取りも疲れた。今日は自分から地雷に踏み込んでしまい猛反省したよ。

 昼寝とかしてたから今日ほぼ何も出来てない。明日こそしっかりやろう。

 

 *****

 

 

 

 

 

 しかし、悲劇は突然だった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 5日目

 

 ピンポンパンポーン!!

 

 ああいつものアナウンスか。でもなんか早いような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『なァーっはっはっはァ!!死体が発見されたであーる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『一定の捜査時間の後ォ、学級裁判を開くであーる!!』

 

 

 

 あれ?いつものアナウンスは?うそ?死体?どういうこと!?

 私は部屋を飛び出した。

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 エレベーターなんて使わなくていい。階段で降りよう。どこで起きたかわからないけど食堂ならみんな集まる場所だしそこに行けば!一階に着く手前で渡良部の姿が見えた。…でもいつもの強気な彼女はいなかった。膝を地面について誰かにすがっているようだった。

 一階に着けば渡良部の他にも近衛とダグラスの姿があった。渡良部は近衛に支えられていた。ダグラスはエレベーターを見つめたまま放心状態だ。

 「どうしたの!?」

 「な、直樹殿…クッ……」

 「え?」

 「…覚悟してエレベーターの中をご覧ください。」

 苦い顔する彼は私にそう促す。なにが起きたなんてもうわかってる。怖い。見るのが怖い。心臓がバクバクみんなに聞こえるかもしれないくらいなっている。手が震える。でも、勇気を出してエレベーターのボタンを押してみた。

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 扉が開く

 

 その瞬間漂う血の匂い

 

 真っ白に染まっていたのに

 

 真っ赤に染まって

 

 自分の血も奪われたように

 

 そこにはおびただしい量の血液が

 

 あの笑顔は何処へ?

 

 あの勇気は何処へ?

 

 何も考えられない

 

 前向きなあなたは

 

 何処へ?

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 いやあぁぁぁあああああ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 思わず私は叫んでいた

 

 絶望が始まった

 

 近衛も

 

 ダグラスも

 

 渡良部も

 

 信じられない顔で

 

 それを見つめるしかない

 

 それしかできない

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “超高校級の探偵”鷹山麻美子は槍で貫かれて絶命していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 「クックックックックッ………」

 

 

 

 

 

 

 「ヒィッヒッヒッヒッヒィ……」

 

 

 

 

 

 

 「始まったな…」

 

 

 

 

 

 

 「始まったであーるなァ…」

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

    絶望による「本当の茶番」が

 

 

 *****

 

 

 next

 第一章 非日常編 盾の悲劇と矛の罪

 

 

 

           to be continue…

 



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第一章 非日常編 捜す5部屋目

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 ウソ? あんなに元気に話していた彼女とこんな形でお別れだなんて……信じたくない……私は訳もわからず地面に膝をついて鷹山を眺めるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 他のみんなも危ないとはいえ緊急事態。階段を飛び降りながら急いでやって来た。

 「どうして……あなたが…」

 金室が静かに呟いて

 「うっ……」

 血の匂いに気分を悪くする阪本に

 「こんなことが起こるだなんて…」

 矢崎とともに阪本を支え悔しいそうに言う宮原。

 「くそったれがぁ…」

 橘は吐き捨てるように呟き背を向ける。

 「誰がこんなことを?」

 巡間は問うた。それに答えたのは

 「ワレが答えるのであーる!」

 モノヤギだ。服装は…嫌みか。探偵服。鷹山が着ていた服。つくづくこいつはレイヤーギになりやがって。

 「モノヤギ、これは一体どういうこと。」

 「どうもこうもォ、コロシアイが起こったということであーるよォ?そしてェ、その犯人はオマエラの中にいるのであーる。」

 私たちの中に……鷹山を殺した犯人が?

 「ここでオマエラに説明しなければならないことがあーるのでェ、よく聞くであーる!」

 

 *****

 

 「さっきも言った通りィ、犯人はオマエラの中にいるゥ。その犯人、クロをオマエラに探しだしてもらうであーる! というわけでェ、規則を追加したのであーる。オマエラはすぐに電子生徒手帳の規則を読むであーる。質問はそれからァ!!」

 私たちはすぐに電子生徒手帳を開いた。

 

 

 〈希望ヶ峰マンション規則〉

 

 No.8 生徒内で殺人が起こった場合、一定の捜査時間を設けます。その後生徒全員参加が義務付けられる学級裁判が行われます。

 

 No.9 学級裁判で正しいクロを指摘した場合、クロだけが処刑されます。

 

 No.10 学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合、クロだけが卒業となり、残りの生徒は全員処刑されます。

 

 

 今回追加された内容はこの3つらしい。他には何も変わっていないようだ。それよりも気になるのは

 「学級裁判?」

 謎の4文字。『学級裁判』

 「ヒッヒッヒィ。学級裁判とはァ、殺したクロを見つける裁判のことであーる!」

 「クロを見つける?」

 「だいたいはここに書いてある通りであーる。捜査時間を設けているであーるからァ、次のアナウンスまでに捜査をして欲しいのであーる! そォれェとォ!!」

 モノヤギがポケットから何かを取り出す。

 「ドドンッとなァ! ザ・モノヤギファイルであーる!」

 「ああん??」

 「ここにはァ、被害者の情報が書かれているのであーる。捜査も素人なのにィ、何一つ情報を得られないのはおもしろくないであーるからなァ。裁判の証拠として充分役立てて欲しいであーる!」

 チラリと中を覗く。そこには死因や死亡時刻、現場状況などについて書かれていた。

 「なるほど。あとは自分たちで手掛かりを捜せと」

 「そうであーる。ではァ!頑張って捜査して

ェ、クロを見つけてみろであーる!!」

 モノヤギは説明を終えて去っていった。

 「このファイル…信用出来るの?」

 「ざっと確認したが恐らく嘘は書いてない。医者として私が鷹山くんの検死をしよう。それと矢崎くん、生物学に長けている君に手伝ってもらいたい。さすがに女子の検死はいろいろと……」

 「了解。大丈夫だよ」

 「ねぇ、ホントにワタシたちの中に犯人がいるの……」

 「……信じたくはないけど」

 「いる、ということじゃろうな……」

 一気に私たちの中に沈黙が起きる。その沈黙は無論、「疑いの沈黙」だろう。鷹山を殺した犯人がこの中にいる。

 

       『疑心暗鬼』

 

 今の状況に相応しい言葉だ。不安、恐怖、疑い、みんなは誰にどんな感情を抱いているのだろうか。それは本人のみ知ること。しかしただ一人だけ違う恐れ(・・)があることもわかっている。

 

 

     ああ疑わなければならない

 

      嘘だと言って欲しい

 

    だんだん血の気が引いていく

 

 

 *****

 

 

 「余計な考えは捨てな」

 

 

 *****

 

 ふと玉柏の太く鈍い声に私は私たちはハッと我に返った。彼は少し苛立っていた。

 「うじうじうじうじうだうだうだうだしていて何になる。今俺たちがすることぐらいわかるだろ。死んでしまった鷹山のために、ここにあるであろうありったけの証拠を見つけだして裁判で犯人暴いてやる。そして仇とってやる。それがアイツへの弔いなんじゃないのか」

 ああそうだ。複雑ではあるものの実際は単純なことに気付かない私たちはただのバカだ。

 鷹山のために、みんなのために、私たちは探さねばならない。ならここで今突っ立っている時間なんて全くない。

 私は自分の頬をバシッと叩いて玉柏の言った通り目を覚ます(覚まそうとしているのほうが正しいのかもしれないが)

 「じゃあ私たちは探索でいいかな?」

 「馬鹿野郎」

 「ちょっと橘くん」

 すると橘はエレベーター前で杖を抜き仁王立ちする。

 「もしも医者と酪農家、どっちかが犯人なら確実な証拠は得られねぇだろうが。俺の目が黒いうちはてめぇらに変な行動はさせねぇ。いいな?」

 「見張り役か。いいだろう。むしろその方が安心できる。互いにな」

 「よし、それじゃあ捜査開始!!」

 

 *****

 

 

      **********

         捜査開始

      **********

 

 

 橘は見張り、巡間と矢崎が検死、他のみんなが捜査することになった。

 まずはモノヤギファイルを見てみる。

 

 

 モノヤギファイル

 

 被害者:超高校級の探偵「鷹山麻美子」

 死体発見現場:マンションⅠ棟のエレベーター内

 死亡時刻:23:30頃

 死因:腹部に槍が刺さったことによる出血性ショック死

 補足

 ・左手の人差し指に血豆ができている

 ・腹部に丸い傷穴が二つある

 

 なるほど。モノヤギファイルというのは本当に事件解決への手掛かりの一つなのか。なんか解せない。

 さて、私は第一発見者であろう渡良部に声をかける。なんで渡良部かって?勘だよ。それ以外の異論は受け付けない。キリッ( ・`д・´)

 「渡良部さん」

 「……なに?」

 やはり元気はない。それもそうだ。

 「あのとき、鷹山さんを見たときの状況を教えてもらえる?」

 「……今日、朝からダグラス(ドラ)近衛(リーチ)で麻雀をする約束をしていた。けどうっかり雀卓を四階の倉庫から持ってくるのを忘れてて。だからエレベーターを使って取りに行こうとしたの。そしたら…」

 「事切れた鷹山さんがいたんだ…」

 静かに頷いて現場を見つめる。

 「扉を開けてびっくりした。叫んだ。それをダグラス(ドラ)が聞いたみたいで、近衛(リーチ)を呼んで一緒にここにきてくれた。ダグラス(ドラ)がエレベーターを開けて二人も驚いて。その時、あのアナウンスが鳴った。一気に怖くなって側に近衛(リーチ)がいたからすがった。だって思うわけないでしょ」

 「コロシアイが起きるなんて、ね…」

 しかも今回の被害者の鷹山は探偵だ。私の予想だとクロは『コロシアイにおいて探偵は厄介だから早めに殺しておく』みたいな感じで鷹山を狙ったのだろう。そうだ。動機が渡された日の夜、鷹山は私に探偵としての意義を語った。偽り無き彼女のプライド。

 「私そろそろ探索してくる。あんたもそうしなよ」

 「鷹山さんのために……ね」

 

 *****

 

 私は二階に上がる。昨日玉柏が言っていた医務室について気になったからだ。夜時間にしか開かないそこの扉は開いているのか。ドアノブに手を掛けてあける。スッと開く。

 「開いてる…」

 

 ピンポンパンポーン…

 

 え、待って捜査おしまい?早くない?

 『あァ…言い忘れていたことがあるであーる!捜査時間はァ、オマエラが分かる部屋全てを開放しているであーる!まあァ、役に立つかはオマエラ次第であーるがなァ。では引き続きィ、捜査を続けるであーる!!』

 

 ブチッ…

 

 ………………

 

 そういうことは最初のうちに言っておけよ

 

 ゲッフン!!さてと、気を取り直して。医務室が開いているということは何かしら事件と関係しているということだろうか。医務室はベッド二つに机とイスが一つずつ、医学系の本が複数存在していた。初めて入るものだから何かあったのかどうかの比較が全くできないのが痛い。こういうときに玉柏がいれば楽なのだが。

 「どうした」

 「うわぉちょうどいいタイミングで来たね」

 「ん? まあいい。ここの探索はまかせな。カウンターに灰垣がいるからそいつにも話聞いときな」

 「わかった」

 一つ返事をすると彼は私の背中を優しく叩いた。

 「辛ければ支えてやる。見捨てたりなんかしない。やってやるぞ」

 

 

 ***

 

 

 玉柏に促されてカウンターに向かえば確かに灰垣がそこにいた。

 「何か見つかった?」

 「いや、ここにはなさそうじゃ」

 「そっか…」

 そんな簡単には見つからないか。

 「ああじゃが夜中に玉柏とあったぞ」

 「え?」

 「ちょうどトイレから出たタイミングで会ったんじゃ。わしが入ろうとしたときにちょうど向こうが入っておったからな。わしもあやつも五階におるし。じゃから玉柏には犯行は無理じゃろうな」

 「どれくらいの時間?」

 「23:25前後じゃったな」

 これは、なるほど。

 

 

 ***

 

 

 ランドリーにも行ってみるとそこには江上が一つ一つの台の中身を確認していた。

 「どう? そっちは」

 「あ、直樹さん。これ見てよ」

 彼女が見せてきたのは雑巾二枚。一枚は血に濡れており、もう一枚は血は着いているものの一枚目よりはきれいだ。

 「ほかにも探してるけどそれぐらいかなって感じ。湊川さんもチラッとこっち来たからこのこと知ってるよ。今は上の階に行ってる」

 「了解。さて私ももっと探そうかな」

 雑巾二枚。しかも両方ともに血が着いている。これは重要だ。

 

 *****

 

 三階へ上がる。倉庫が気になっていってみるとまあ大体予想通りで宮原がいた。

 「おかしい……作っておいて正解だったな…」

 「何が?」

 「前に俺ボード作ったの覚えてる?」

 ああ、売店のときの。

 「覚えてるよ」

 「あのとき俺はボードに倉庫の中に入っている物品を全部数えてそれをまとめた。個数は初日で覚えたけどね。でもどうも槍の個数が合わない」

 「槍?」

 「そう。槍は三本あったんだけど二本になっててね」

 なるほど。モノヤギファイルを見る限り槍が凶器の可能性は高いだろう。

 「あと実はなくなったのは槍だけじゃないんだ」

 「ん?」

 「ナイフホルダーっていうやつが無くなっているんだ」

 「ナイフホルダー? 刃物を入れるやつ?」

 「そうそうそれそれ。それが一つあったんだけど今見たらなくなってて」

 「どれくらいの大きさ?」

 「俺のポーチを一回り小さくしたくらいの大きさだよ。それと腰全体じゃなくて磁石でズボンとかスカートとかに挟めるタイプなんだ」

 「ナニソレオカシイ」

 「びっくりだよね。でもこれをつけた人は傷つかないし何よりも目立たないんだ。しかも、しかもだよ? 食堂の一番小さい包丁も入るんだ」

 「ねえどこからつっこめばいいのかわからないんだけど」

 「俺に言わないで」

 ツッコミせずにはいられない。それが私なんだ()

 けど槍だけならともかく、ナイフホルダー(?)がないっていうのも確かに疑問だ。

 

 

 ***

 

 

 廊下に湊川が彷徨いている。床を隅々まで調べているようだ。

 「ねえ直樹さん。床に何か着いている形跡とか見つけた?」

 床には一切着目してなかったです。けど

 「いや特に目立つようなものは見なかったかな?」

 「うーんそっかぁ」

 ?

 「どうして?」

 「江上さんから雑巾見せてもらったのよ。だから一様でも床に血とか着いてないかなって思ったのよ」

 「なるほど。……って私さっきからなるほどしか言ってないな」

 「なにを自問自答してるの?」

 

 

 ***

 

 

 湊川とのやり取りを終えた。さあ三階は鷹山の部屋がある階でもある。鷹山の部屋に行くとダグラスがそこで捜査をしていた。……よし

 「やあミス直樹」

 「すみませんでした!!!!!!」

 「What!?!?!?」

 謝らずにはいられなかった。そういえば昨日夕食にも出ていなかったから謝るタイミングなかったんだよ。

 「昨日の……あれです……」

 「あ、ああそれかい? 平気だよ平気。びっくりしたけどさ」

 「いや本当にすみませんでした!!」

 「そこまで必死に言われるとミーも混乱するからさ!! 捜査しよう!?」

 はい、します、スミマセンデシタ。

 「何か見つけた?」

 「Umm,目立つのはこれかな?」

 そう言って私に見せてくれたのは……帽子? しかも本来掛からない場所にある。帽子をとってみると…………釘!?

 「なんでやねんッッ!!!!!!!!」

 「ユーなら絶対そういうと思った」

 「どうしてこうなった」

 「さあ┐('~`;)┌」

 「けどこれ……意図的に刺したっぽい……?」

 「釘を刺したあとに別の物で固定するって発想はなかったのかな?」

 「……でも証拠になるにはなるよね」

 「だね」

 

 

 ***

 

 

 ダグラスは玄関で捜査していたから私はその奥の机とか置いてあるほうに向かった。依然整然と片付けられたきれいな部屋。ここで何かが起こったとは思えない。しかし隅々まで捜査しなければ証拠が集まらない。

 ふと、机になにか挟まっているのが見えた。引き出しを開けてみるとそこには売店から取った(?)問題集と常に鷹山が持ち歩いているノート、(違うメモ帳か。いやこの際どっちでもいい。字数同じだし)が入っていた。ペラペラめくってみると問題やら計算やら単語やらの解答が書いてある。

 …………ところどころ間違ってるやん。歴史とか想像上のとか美しいとか破壊とか!! 綴り全部間違ってるやん!! そりゃね!? 難しいけどね!? 世紀とか数とかかわいいとかはまだ簡単だし答えられるのはわかるよ!? けど欄外の熟語まで間違えるのはめちゃくちゃいただけないから!!

 「……ミス直樹、昨日と同じ現象起きてるよ。またミーにそれとか投げないでね?」

 ………………

 「スミマセンデシタ……」

 私は本日二度目の土下座をするのであった、まる。こうして私は鷹山の部屋をあとにした。

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結局……見られちゃったしさ」

 

 *****

 

 次は四階だ。しかし四階ほど面白味のない階はない(失礼)。まあ確認程度はするけど。四階は阪本がいた。先ほどから湊川と同じようにうろうろしている。

 「やっぱり面白味ないな……」

 同じこと思ってるし。

 「ここに何かあった?」

 「直樹……いや特に何も。多分ここの階は事件を起こすにも起こしにくいんじゃないかな」

 なにもないからね……寄宿スペース以外……

 「昨日事件の前後で何かあった?」

 「事件の前後? …………ああっと……宮原の部屋で湊川と作業してた……かなぁ……」

 「待ってなんで目を反らす」

 「だって21時から00時までやってたんだよ」

 「なっが!! てか宮原くん自分の提案どうした!?」

 「それはみんなで驚いた」

 「なにしてたんだ一体!?!?」

 マジデナニシテタンデスカ

 ま、まあ証言は入手したからいいか……

 

 *****

 

 ダメだ。捜査だけでツッコミのオンパレード。これ私裁判まで持つかな? 大丈夫かな?

 「おい、大丈夫か。顔色悪いぞ?」

 「国門くん……いや多分……そっちは逆に生き生きしてるね……」

 「当たり前だ!! 裁判だぞ!? 僕の大好きな場所だ!!」

 つっこむ気力ェ……

 「あ、そうだ直樹」

 ポケットに手を入れ、突然真剣な顔で私に話す。

 「どうしたの?」

 「本当は今じゃなくてもいいんだけどちょうどいいから言わせて欲しい」

 待ってスッゴいトーン低くなってる。どんだけ深刻な話するつもりなんだ。

 「……………………僕は法廷に入ると、いつもの僕を保てない(・・・・・・・・・・)

 

     ……………………………

 

 「はい?」

 「僕にとって法廷はある種の見せ場。そして自分が裁判を重ねていくと同時に自分が自分でなくなっていった。いつもの弱く見える僕が法廷では上から目線の……言っちゃえばウザイやつになるんだ」

 お、おう?

 「そうなると弁護士やらそんなの関係がなくなっていくんだよ。元々弁護士として希望ヶ峰学園に来れたのは別の僕が出てくる前に突き止めた事件がきっかけだったんだから」

 何があったんだ。

 「自制することはできなくはない。けどそれは裁判を重ねるごとにできなくなっている。今回も自制はする。自制できなくなったら……そのときは頼む」

 とんでもない依頼された気がするんだけど。でも彼が言うことが本当なら……それはそれでまずい。

 「……わかった」

 「頼む」

 一つ返事をして私は国門と別れた。

 

 *****

 

 うん、次は五階だ。と思ったら金室がこちらに向かってきた。

 「あら直樹さん。ここには何もないですよ」

 「何もないの?」

 「はい。倉庫も見たんですが、特に何かがあった様子もありませんでした。強いて言うなら雀卓が目の前にあるということでしょうか」

 平常運転だったんだなあのトリオ。

 一応軽く捜査したが本当に何もなかった。

 

 

 ***

 

 

 一階に戻り、食堂にも行ってみようと思った。行けば近衛が厨房で何かを探している様子だった。

 「何か探し物?」

 「ええ。……直樹殿、包丁の行方をご存知でしょうか?」

 「包丁?」

 「この厨房にある一番小さな包丁でございます。小さいとはいえ人を殺せる程度の殺傷力はございます……しかしそれが昨日まではあったのでございますが……」

 つまり朝にはなかったのか?

 「昨日っていつまで食堂にいたの?」

 「朝の準備は夜時間になる三十分前に済ましておりましたのでその頃でございましょうか」

 ……なんか物騒な展開になってきたぞ。

 「あ、そうだ。純粋に気になったんだけど今朝麻雀やる予定だったみたいだね。それっていつ決めたの?」

 「それでしたら、昨日ダグラス殿が目覚めた九時頃に彼の部屋で」

 「私はもう一回土下座したほうがいいかもしれない」

 「落ち着いて」

 

 *****

 

 そろそろ検死を終えた頃だろうと思い、食堂から離れて三人がいるエレベーターに向かう。橘は依然とそこから動かずじっと検死をしている矢崎と巡間を鬼の形相で見張っている。二人はこれにずっと耐えてるのかすごいな。

 「検死のほうはどう?」

 「嗚呼、モノヤギファイルの情報は正しいようだ。本当に確認したいならファイルを見ながらでいいからちょっとこっちを見てみてほしい。」

 ……確かに血の臭いが充満したここで気分を悪くしそうだ。でもそれだけで逃げるのは恥な気がした。調べられるなら、調べる。

 「いいんだな? ならまず鷹山くんが刺された腹部に着目してほしいんだが、ファイル通り二箇所槍で刺されたのだと思われる。」

 「一回刃物の可能性も考えたんだけど、なーんかこの傷だとそんなこと無理そうだなって結論になったんだよね」

 矢崎も付け足すように言う。

 「あと左の人差し指になーんかアオタンが出来ているんだよね」

 「おそらく事件前にできたものだと思われるが……まあファイルを振り返えるならこれぐらいだろう」

 アオタンが人差し指にピンポイントでできるのかな?

 「次に個人的に気になったものがある。まずは左手側にあるこれ」

 「……『(エクスクラメーション)』?」

 「鷹山ちゃんが遺したダイイングメッセージじゃかいかなって思ってるよ」

 ダイイングメッセージ。鷹山が死の間際に書いた私たちに向けてのメッセージか……

 「それとこれだ」

 「釘?」

 あれ、釘といえば鷹山の部屋に一本刺さってなかったっけ?

 「二本の釘が置いてあったの?」

 「そうだ。これだけで決めるのは申し訳ないのだが、可能性として宮原くんが怪しいな」

 「それは、ないと思う」

 「あくまで可能性だ。まだ確定ではないよ」

 するとズカズカと割り込んでくる一人の影が。

 「橘くん?」

 すると彼はあろうことか鷹山に刺さった槍を優しく(?)引っこ抜いた。

 「な、何をする!?」

 「……翻訳家、こいつを持ってみな」

 「ふぇ!?」

 持ってみろと言われ絶対重いだろとか思いつつも言われるがままに持ってみた。……あれ思ったより軽い。

 「軽……い……?」

 「そういうことだ。てめぇ忘れてねぇか。俺はこのマンションの探索で大工と武器庫に行ったんだよ。そのとき一通りの武器持ってんだ。んでこいつは軽いっつうことを知ったんだよ」

 そういえば最初に言っていたことだ。

 「殺傷能力が高い上に軽い。つまりこいつは男であろうが女であろうが扱い易い代物なんだよ」

 「私もいいか」

 巡間も矢崎もこれを持つが感想は私と同じだった。犯行は誰にでも可能だったのか。

 

 *****

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン

 

 

 

 

 *****

 

 チャイムが鳴る。つまり

 

 

 『ヒィッヒッヒッヒッヒィ……そろそろ捜査で充ゥゥゥゥ分な証拠は手に入れたであろう?? これからァ!! 学級裁判を行うであーる!! オマエラァ!! 外の噴水の前に集まるであーーーる!!!!』

 

 

 捜査時間が終わった。今私たちの持つ証拠が鷹山さんを殺した犯人を示すのに充分なのだろうか。いやそんなことで悩むな。

 「チッ、きたか」

 「いよいよなんだな」

 「そうだね」

 三人は素早くこの場から去っていった。私は……鷹山の目の前で一度手を合わせる。

 

 私たちが必ず、あなたを殺した犯人を見つけて見せる。だからどうか……優しく見守っていて

 

 手を合わせてその場から立ち去ろうと思ったら灰垣もこちらにやって来た。すると数珠を取り出して彼もまた手を合わせた。顔を上げた彼は苦悶の表情を浮かべていた。

 「鷹山よ、頼むぞ」

 ただ一言、それだけ彼女に述べて彼は外へ出ていった。そのあとを追うように私もみんなと外へ出た。

 

 そういえばエレベーターの奥の壁じゃなくて横壁にあんなに血着くのか?

 

 *****

 

 外にみんなが噴水の前に集まった。

 「で、これからどうなるんだ?」

 「ここに集まったところで噴水しかないのにね」

 「だな。まさかここで裁判やるのか?」

 「それはないと思う」

 ここで裁判やるとかどこの青空教室だよ。と思っていたら突然

 

 ザァァァァ…………

 

 噴水の水がピタリと止まり、徐々に水が噴水から消えていく。どうなってるのこれ。

 「すっごい!! 噴水の下部分、水を吸収するあれだ!!」

 「誰か宮原を止めとくれ」

 そういうところで興奮できるのすごいと思うけど今なるなバカ。

 

 ピンポンパ ブチッ……

 

 『オマエラァ!! 噴水型エレベーターに乗るであーる!!』

 

 ブチッ……

 

 「チャイムは最後まで鳴らそうよ!! ていうかエレベーターが噴水ってどゆこと!?!? エレベーターに乗ったらこれ下に下がるの!? 何なの!? ここの設備どこもかしこもどうなってんの!?」

 「落ち着きやがれ翻訳家!! あとてめぇが乗るだけなんだよ」

 「行動はやっ!!」

 ツッコミの衝動に駆られたけどまあ日常茶飯事ですし。私も噴水に乗った。

 すると

 

 ガタンッ……

 

 ゆっくりと噴水が下へと動き始めた

 

 

 ねえ本当にこれドウナッテンノ……

 

 *****

 

 ガタンッ……という音とともに下に下がる。エレベーターのように下がり続ける。

 「直樹」

 後ろから玉柏に声を掛けられる。するとちょっと来いと手招きされエレベーター(噴水)の隅に向かう。なにと問うと人差し指を口に当てながら小声で彼は話した。

 「よく聞け。医務室に重要なヒントを見つけた」

 「どういうの?」

 「輸血パックだ。ゴミ箱に捨てられていた使用済みでな。しかもそれが二袋。袋の上の部分が全開だった」

 「使用済みで全開……? 犯人は医務室が開いていることを」

 「知っていたんだろうな。俺たち以外に夜時間に開く医務室の存在を」

 私たち以外に……

 「ふっ、湿気た面するなよ。見つけてやればいいだけの話なんだから」

 「……そう……だね……」

 「そっちは?」

 「鷹山さんのノート。まあメモ帳だけど」

 「貸せ」

 彼に言われて渡すとほうほうと面白がって私に一言礼をして返した。

 「なるほどな」

 話が終わって私はエレベーター……噴水の中央を眺める。空を眺めるように。この先何が起きるか全くわからない……わけではないが、下がるエレベーターに自分の気持ちまで下がっていく気がして。

 

 ガタンッ…………

 

 ゴォン…………

 

 長く動いていたエレベーターが止まった。それと同時に半円型の扉が開き光が射し込む。裁判場だ。扉の位置は私と玉柏がいる真っ正面。ぞろぞろとみんながエレベーターから降りて裁判場に入っていく。

 私はというとまだ足を踏み込む勇気が出なくて、一歩歩いただけでこれから起こることに対しての恐怖が隠せない。

 

 *****

 

 

 

 

 

     私たちの中に犯人がいる

 

        信じたくない

 

        何度も思う

 

       みんなを信じたい

 

     けど信じることができない

 

       一体どうすれば

 

       矛盾した感情が

 

       頭の中で交差する

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 トスッ……

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 「直樹」

 背中を優しく叩かれたと同時に声を掛けられる。その声の主は言わずもがなだが。振り向くと彼は優しく微笑んだ。闇などない、透き通ったような笑みで。

 

 

 「恐れるな。守ってやる。背中はまかせろ。これから世話になるんだからな。そうだろ?」

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「相棒(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 あい……ぼう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 その言葉を聞いた途端私はほんの一瞬だけフラッシュバックした。

 

 

 なぜか相棒という言葉に既視感を覚えた。そしてそれは玉柏も同じだということも。私の身近に相棒と呼べる人がいたというのだろうか? 無論、その答えを知る術はない。あるとすればせいぜい写真だけ。それだけで知れる情報は少ない。

 

 

 

 

 *****

 

 けれど

 

 私は何を悩んでいたのか

 

 悩んだら何も手につかないではないか

 

 悩むな

 

 今はこっちに集中だ

 

 私の周りには味方がちゃんといるのだから

 

 私の手元にある『コトダマ』は

 

 ちゃんと犯人に繋がるはずなんだと

 

 信じろ

 

 根拠があるかなんて考えるな

 

 『コトダマ』を

 

 訳し

 

 真実を見つけ出す

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 「了解、相棒(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

   クスリと微笑み返して右拳をつき出す

   彼はその意図に左拳で応えてくれた

 

 

 

 

 *****

 

 私たちはみんなのあとを遅れて追って裁判場に足を踏み入れた

 

 *****

 

 次回

 表裏ダンガンロンパ 第一章 非日常編 疑う6部屋目

 

 

 



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第一章 非日常編 疑う6部屋目

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 また裁判については非常にガバガバです。ごり押しな推理が入っていると思われます。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 学級裁判編におきましては基本会話文中心となります。ご注意ください。

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 裁判場に入るとそこの中央には円形に並べられた席が。その数十六席。

 周りには赤いカーテンで塞がれているであろう四つの部屋(?)とモニター、そのモニターの下に現在進行形でモノヤギが座っている席。法廷で例えるなら裁判長の席だろうか。そして私たちがここまで来るために使った噴水型エレベーター、そこへの扉。

 天井にシャンデリアもあるため一見おしゃれともとれる空間が「コロシアイ」の舞台の一つであるゆえ、逆に悪趣味だと思わせている。

 「よォうこそォ、希望ヶ峰マンションの裁判場へェ!!」

 「ほう~!? こんなのが裁判場だと? ふざけるんじゃないぜ。法廷を侮辱するな!!」

 「国門くん……?」

 一体どうしたと言うのだろう。突然国門が声をあげる。いつの間にか口調まで変わっていた。

 ……そういえばさっき彼は言った。自分が法廷では普段の自分を保てなくなると。まさか彼のいうそれはこういうことなのだろうか? だとしたらこれは本当に『まずい』し『厄介だ』と言える。

 「なんであーるかァ? ワレが裁判場だと言ったらァ、ここは裁判場なのであーる!! 自分の事情を押し付けるなんてやめて欲しいであーる!!」

 「へっモノヤギ、あんたが言えたことじゃねぇぜ」

 確かに普通の裁判場とは全く違う。法廷のプロである国門が怒るのも無理はないのかも知れない。

 「うるさいであーる!! いいからァさっさと自分の席に着くであーる!!」

 「その前に、でございます」

 近衛が一つの「異常」に反応したか。

 「あれは一体何なのでございますか?」

 あれ、とは裁判席の一つに立てられたもの。鷹山の席であろうところに鷹山の顔写真があるのだ。それだけならまあまだ何となく理解できるものの、その顔写真の上に赤いバツ印が描かれているのである。まるで遺影だ。

 「短い期間であったとはいえェ、仲間外れはないであろう? だからこういう形で参加させているのであーる!!」

 「参加、ねぇ……」

 それは死んでしまった彼女への冒涜か。とはいえそんなこといってもモノヤギはきっと嘲笑うだけ、みんなそれをわかっているから(多分)誰も悪趣味であると抗議をしない。

 どうのこうのしてても仕方がないので私たちは言われた通りに席に着いた。

 これから始まるのだ。

 「ヒィッヒッヒッヒッヒィ……そォれではァ!! 今から学級裁判のルールを説明するであーる!! 殺人を犯した『クロ』をォ、オマエラ全員でよォく議論するのであーる。そしてェ手元にあるボタンで『クロ』だと思った人に投票ォ。過半数を得たモノが『クロ』となるゥ。もォしもォ、正しく『クロ』を指摘できたならばァ、『クロ』だけがおしおきィ。間違った『クロ』を指摘した場合ィ、『クロ』以外の全員がおしおきされるであーる!!」

 私は辺りを見渡す。隣には橘と金室。渡良部の真後ろにモノヤギの席がある。

 隣の二人の表情を窺えば橘は相変わらずで、金室は緊張によって顔が強張っている。

 疑心暗鬼のこの学級裁判。私たちは見つけなければならない。たとえ数日しか過ごしていなくても、仲間であることには変わりない。殺されてしまった仲間のためにその人を殺した仲間を逝かせるのは正直嫌だ。でもそうは言っていられない異常で非情な現実。

 そしてもう一人彼の様子を窺うとやるぞと言わんばかりに視線を送られた。私はそれに軽く頷いた。

 「それではァ!! 議論ン、あ開始ィ!!」

 

 

  命懸けの学級裁判が今、幕を開ける

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

     ***********

       学級裁判 開廷

     ***********

 

 

 

 

 

 

 金室「議論しろと言われましても」

 灰垣「何から話すべきかわからんな」

 モノヤギはすでに眠ってしまっている。てか寝るのはやっ!? 丸投げにもほどがありすぎる。

 近衛「では現場の状況から見ていきましょうか」

 ああ君のような人がいてくれて助かるよ。彼に言われて国門がファイルを取り出して読み上げる。

 国門「被害者は超高校級の探偵、鷹山麻美子。槍で刺されたことによる出血性ショック死」

 阪本「死亡推定時刻は23時半ごろ。みんなが寝る瀬戸際ね」

 付け足すように阪本が言う。

 巡間「矢崎くんと検死をしたがこのファイルに間違いはなかった」

 橘「信用していいってことかよ……チッ」

 舌打ちしたくなる気持ちも橘だけが思っているわけではない(かもしれない)。一番信用したくない「モノ」の情報を信じざるを得ないのだから。

 巡間「しかし彼女もツラかったろうに」

 金室「というと?」

 巡間「…………鷹山くんが一番私たちのことを案じていた。私たちのために小さな手掛かりでも見つけようと努力していた。自らの行いがこんな形で突き落とされるだなんて誰が思う。しかも…………背中まで貫かれていたんだ……」

 遠慮がちに述べる彼の言葉は嘘ではない。

 橘「……無駄だとわかっていても、出られるかわからねぇって知っていても、探偵としての責任はアイツにとってかなり大事だったってことだな……」

 湊川「そうね……」

 巡間「……はぁ……すまない話を少しそらしてしまった」

 阪本「いいよ平気」

 渡良部「ねえ、一応聞くけどこの『出血性ショック死』? ってどんなの?」

 巡間「簡単にいえば急激な出血によるショック死だ。検死の結果、鷹山くんの血液がかなり減っていたことから彼女はおそらく刺されてから10分の間しか生きていられなかっただろう」

 江上「そうなると犯人は23:20頃に鷹山さんを襲ったんだね。……エレベーター内で閉じ込められてしかも槍が刺さった状態で立ち上がるとか無理だもんね……」

 近衛「ですが彼女が苦しんだのは事実でございましょう」

 そうだ。刺されて10分しか生きられていなかったにしても、結局のところその間苦しんでいたのだ。

 国門「前置きはそれぐらいにしておこうぜ。早速だが何か気になったことはあったか??」

 湊川「じゃあまず凶器についていい?」

 ダグラス「凶器は槍だろ? 議論する必要あるのかい?」

 湊川「いや一応他の可能性ないかなって。」

 近衛「そういえば、食堂の包丁が一本無くなっておりました。それが凶器の可能性もございます」

 たしかに包丁が凶器かもしれない。でも今回に限ってはそれはあり得ない。それを証明する

 

 直樹「その訳は間違いだ!!」

 

 

 *****

 

 近衛「おや、違うのでございますか?」

 直樹「凶器は槍で間違いないよ。よくモノヤギファイルを見てみて欲しいんだけど、鷹山さんの遺体には丸い傷口しか見つかってないんだ。とても包丁でつく傷じゃない」

 巡間「補足すると彼女は二回刺されたみたいだ。しかしそれはどちらも同じ傷だった」

 渡良部「つまり包丁は凶器にはならないんだ」

 近衛「なるほど。理解いたしました」

 国門「おいおい、それじゃあ包丁はどこにあるんだぜ?」

 江上「んー誰か包丁見た人いる?」

 その質問にみんなは首を振る。誰も見ていないようだ

 玉柏「なるほど。現時点じゃ包丁の在りかを推理できないわけか。聞くがお前にはできるのか国門」

 国門「フフッ確かに今のままでは推理できないな。わかったぜ」

 両手を挙げて降参するポーズを取るも彼の顔には不気味な笑みしかない。

 宮原「あ、そうだ。今回の事件の……あの……第一発見者? って誰なのかな?」

 渡良部「私」

 渡良部がゆっくりと片手を挙げて返事する。

 宮原「あ、美南なの? 聞きたいんだけどエレベーターって何階に止まってた?」

 渡良部「止まっていた階? …………たしか『五階』だったかも……」

 金室「では犯人は五階にいる五人の男子の中にいるのですか?」

 直樹「いやいやいや!! それは軽率だよ!?」

 一つ一つしっかりとやらなければ犯人を誤って選択してしまう。誤った答えでみんなお陀仏なんて真っ平ごめんだ。

 直樹「モノヤギ!! 確認したいんだけど『エレベーターは常に動いている』の!?」

 モノヤギ「クカァーー」

 「「「「起きろ!!!!!!」」」」

 モノヤギ「バッ!? な、なんであーるかァ??」

 直樹「話聞かんか(学園長)(かっこ学園長)!! はぁ、だからエレベーターは常に動いているのかって話……」

 モノヤギ「かっこってなんであーるかァ!? でェ、そんな簡単な質問の答えはァ、イエスであーる!! エレベーターはァ、常に動いているゥ!」

 直樹「ハイソウイウコトデエレベーターハツネニウゴイテイルヨーーー」

 宮原「も、戻ってこーい!!」

 ツッコミどころか裁判も放棄したい。でもそれは出来ない。いや当たり前だけど。

 矢崎「とりあえず誰でも犯行はできたんだね」

 直樹「そういうこと」

 ダグラス「そうそう、エレベーターといえばなんだけどさ。あの釘? ってなんなんだい?」

 渡良部「釘といえば……宮原(ソウズ)?」

 巡間「私も犯人は宮原くんなのではないかと気になっていたんだが……どうなんだ?」

 宮原「違う!! 俺は犯人じゃない!! 釘は確かに昨日麻美子にあげたけど!!」

 国門「ほう……だが今怪しいのはお前だぜ宮原」

 ……確かに意味ありげに釘がエレベーター内で転がっていたら宮原を疑うだろう。しかし宮原は確実に犯人ではない。なぜなら『あの人』の証言が三人もの人を無実にするのだから。

 直樹「ちょっと待った!! 宮原くんは犯人じゃないよ!!」

 国門「なんだと?」

 直樹「阪本さん!!」

 阪本「昨日の夜、21:00から00:00までワタシは湊川と一緒に五階の宮原の部屋で少し裁縫をしてた」

 国門「おい待て昨日夜時間の外出禁止しようとしたやつがやることか?」

 宮原「たまたまだ!! ていうか三人して22:00までとか言っていながら、いつの間にか00:00になってたんだよ!! 自分でもびっくりだ!!」

 湊川「何もしゃべらずに黙々と作業してたのよ。三人分の水持ってきて、宮原くんの部屋に行って。ほら宮原くんって大工だから手先器用かなって思ったのよ」

 何もしゃべらなかったの!? 逆にすごい。

 阪本「頼んだら時間設けられて、まあ時間掛けない気でいたら……どうも」

 宮原「こうも」

 湊川「この様よ!!」

 灰垣「お前さんたち仲いいか!!」

 突然ト○イさん混ぜるな危険。

 江上「……あの一応、一応だよ? 三人はなんで裁縫やってたの?」

 ……まあ内容によっては裁判に大きく影響するし。あのときはややあってうやむやにされて聞けなかったし。

 阪本「湊川と売店行ってモノヤギマシーン回してみたの。それで布が出てきたの。藍色の」

 直樹「藍色の?」

 阪本「これ重要」

 阪本にとってはそうかもだけど藍色が重要なわけあるか。目光らせながら言うなし。というか今の今までモノヤギマシーンの存在忘れてたわ。

 阪本「結構な長さだったから布巾とかスカーフとか何か作れないかなって思ったの」

 湊川「それで宮原くんにも手伝ってもらったら丁寧だしはやく終わるんじゃないかってなったのよ。まあ時間掛かっちゃったけど」

 職人肌め。

 湊川「あと私の服の肩の部分が若干切れてたから直しておきたかったのもあるのよ」

 江上といい湊川といいなんでボタンやらなんやらとれるの。

 巡間「嗚呼、ええっとかなり脱線した気がするが、要するに犯行が起きた時間よりも前からずっと宮原くんは阪本くんと湊川くんと一緒にいたということだな?」

 阪本「そういうこと」

 国門「だがよぉ、お前たち三人が『共犯』っていう可能性もあるぜ?」

 矢崎「そういえばモノヤギ、その共犯についてなーんかあるのかな?」

 モノヤギ『共犯ンン??? ヒッヒッヒィ。卒業できるのはァ、実行犯であるクロだけであーる!! 共犯のメリットなんてェ一つもないィ』

 国門「ふーん。つまり三人には犯行が不可能なわけか」

 これで三人のシロが一気に確定した。まだまだ裁判は始まったばかりだ。

 

 *****

 

 ダグラス「Ah……じゃあ釘ってさ。誰が置いたの? 犯人?」

 金室「まあそう考えるのが妥当ですね」

 国門「宮原の犯人の可能性がない以上考えられるのは、『宮原が犯人だ』と誤解させるためだろうぜ」

 灰垣「さっき言っとったが、宮原が渡したってことは、つまり元々宮原のだったんじゃろ?」

 宮原「ま、まあそうだな」

 橘「はっきりしやがれ。つかてめぇはまだ翻訳家どもにしっかり伝えてねぇんだろうが」

 宮原が伝えていないこととはなんだ。それと『ども』って何で複数形?

 宮原「ははっそうだったね。大半の人は知っている話だけど、空、陣、美南、ダグラス、朱鷺は知らない話だから言うよ。昨日から昼に食堂で俺は麻美子に三本の釘をあげたんだ」

 渡良部「え知らないんだけど」

 もちろんだ。なぜなら……

 阪本「直樹がツッコミで潰れたから知らないだけ。それに伴ってゲーム好きなアナタたち三人も知らないの」

 はい私がやらかしたからです←

 直樹「ソノセツハスミマセンデシタ……」

 思い出すだけで恥ずかしくなってくる

 玉柏「断っておくが、俺はみんなが来る前に昼済ませて外で昼寝してたから知らないだけだ。そこの四人とは違う」

 直樹「ウィッス」

 

 ……………………

 

 直樹「じゃなくて!!」

 渡良部「いやそうだけど」

 宮原「話戻すよ」

 はいお願いします流して戻してください。

 宮原「使い方は教えてもらえなかった、いやわからなかったのほうが正しいかな。こそあどばっかりで何を言っているかわからなくて。あと釘を上げたときに私物の金槌も貸してあげたよ」

 こういうときに限って鷹山のこそあどは厄介だ。

 灰垣「私物の金槌じゃと?」

 宮原「ほら、一番最初に陣が言ってたでしょ。自分たちの『才能に合ったものだけ』持っているって。俺はそれに当たるのが金槌とか釘とかドライバーとか、そんな大工に必要な物品だったんだ」

 玉柏「その金槌は返してもらったのか?」

 宮原「もちろん」

 しかしここでそれを遮る一人の人物がいた。 

 国門「あのよぉ、今さらっと流れたが現場に釘は『二本』しかなかったぜ?」

 宮原「…………は?」

 国門「見てみりゃわかるだろうぜ」

 ……言われてみれば確かに現場に釘は二本だけだった。宮原も他のみんなもそれを確認しどういうことだと口々に。

 矢崎「あたいが巡間くんと検死したときも釘はあの二本しかなかったよ」

 巡間「そうだな。服のポケットにも電子生徒手帳以外なにも入ってなかった」

 渡良部「矢崎(ぺー)が調べたんだよね?」

 巡間「もちろん」

 しかし私は知っているはずだ。もう一本の存在を。でもこれは言わせるべきだろう。私がこんなにも裁判を引っ張ってしまっては(無論犯人ではないが)逆に怪しまれてしまうから。だって私はみんなのリーダーではない。みんなとは対等だと思っているから。

 江上「えぇじゃあ釘はどこにあるの? 鷹山さんの服のポケットになかったんでしょ? あとほかにあるのって鷹山さんの部屋くらいじゃない?」

 ダグラス「おっとそれに賛成するよミス江上!! 釘は確かに、ミス鷹山の部屋にあった!!」

 

 

 

 *****

 

 

 

 江上「ダグラスくんが見つけたの?」

 ダグラス「Yes!! ミス直樹も知ってるけどここは」

 直樹「君から話して」

 ダグラス「Ok.」

 彼は私にニヤリと笑いかけて語る。

 ダグラス「やっぱり被害者の部屋って見ておいても損はないかなって思ったのさ。案の定正解だったんだけど。で、ミス鷹山の部屋の玄関あるだろ? そこの壁になんと釘が刺さっていたのさ」

 宮原「か、壁に!? なんで!?」

 ダグラス「まあまあ最後まで聞いて。釘は全部刺さっていたんじゃなくて半分のところまで刺さっていたのさ。そして出っ張った釘にはミス鷹山の『帽子が掛かっていた』のさ」

 宮原「へ!?」

 この状況で一番驚いているのは言うまでもなく宮原なのだが、まあ釘が壁に刺さっているっておかしい。みんなも苦笑いとかして反応に困っている。

 ていうか釘を壁に刺すって割りと校則スレスレだよねこれ。鷹山さんの勇気というか度胸というかなんというか、もう何か感服ものだ。

 渡良部「なんで壁に刺してるの……」

 近衛「……わたくしの憶測で失礼致しますが、玄関に釘を刺しておくことによって外出時に帽子を忘れないようにするためではないかと思われます」

 橘「しゃべっているときでも訳わかんねぇのにここでも訳わかんねぇことするのかあの探偵は……」

 湊川「けどこれで鷹山さんの左人差し指のアオタンも説明つくよ。自分で釘を刺している最中に金槌でぶつけちゃったのかも知れないわ」

 灰垣「その可能性が濃厚じゃな」

 少しずつでも犯人への手掛かりが見えてくる。証拠の『コトダマ』の意味が『訳されて』いく。

 ダグラス「それとミス鷹山の靴、スッゴいきれいに仕舞われていたよ。汚れなにもついてなかった!! 着いていても外の土程度だった!!」

 へえそうなのか。汚れもそんな程度なんだ……

 玉柏「おい、それ本当か?」

 ダグラス「Why? 嘘を付いてどうするのさ?」

 国門「…………っ!?!? おい巡間!! 鷹山の様子はどうだったのか言え!!」

 国門が焦ってる? ……いや待てよ。確かによく考えればおかしい。

 巡間「あ、ああ。ごほん。発見当時、鷹山くんの胸に槍が刺されていた。他にも帽子や靴を身に着けてい……な……かっ……た……??」

 矢崎「んーそういうことかい……」

 灰垣「…………っかぁ~……」

 徐々にみんなも理解し始めたようだ。そうこれは誰も言わなかった当たり前だと思い込んでいたとある『前提』が誤っていたのである。

 阪本「ごめん、頭悪いからわからない……」

 渡良部「わからなくもないよ阪本(ナン)。私も今さっきわかったし」

 近衛「玉柏殿と国門殿が気付いてくださらなかったら……わたくしたちもきっと気付いてなかったでしょう」

 阪本「いや藍染めばっかりやっていたらそっち方面しか知識無いの。はい、つまりどういうこと!?」

 頭悪いって本当みたいだ。

 直樹「つまり今回の犯行現場は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     “エレベーターではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 学級裁判、中断!!

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      大丈夫だよ直樹さん

 

    犯人への手掛かりはあるからね

 

       さあ訳してみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        事件の全貌を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 表裏ダンガンロンパ 第一章 非日常編 揺さぶる7部屋目

 

 

 

 



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第一章 非日常編 揺さぶる7部屋目

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 また裁判については非常にガバガバです。ごり押しな推理が入っていると思われます。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 裁判は特に会話文が多く読みづらいかもしれません。ご了承ください。

 

 

 *****

 

 

 

 

 学級裁判 再開

 

 

 

 

 *****

 

 今回の事件現場はエレベーター。誰もがそう思っていた。しかしそうではなかった。

 阪本「え、エレベーターで見つかったのに?」

 阪本の疑問ももっともだ。だが今まで忘れていた証拠によって現場が違うことも証明できる。そもそも『現場がおかしい』のだから。私はあのときさらっと流したけれど、よくよく考えたら重要な証拠じゃないか。

 直樹「いいや現場はエレベーターじゃないよ。今回の発見現場、とても不自然な箇所があるんだ。なんだと思う?」

 阪本「えっいやそんなこと言われても……」

 巡間「……鷹山くんの血か」

 阪本「血?」

 直樹「よく見てみて。鷹山さんのまわりの血、背中に全然血がついていないんだ」

 阪本「あ、ホントだ。…………でもそれっておかしくない?」

 直樹「そうそれが正しい反応だよ」

 玉柏「今回鷹山は背中まで貫かれている、なら……槍が真っ正面から刺さったら血は確実に背中に飛び散る。だがもしエレベーターが現場なら奥の壁に血がついていないことの説明がつかない」

 そして何よりも不自然なのが……

 橘「横壁にたくさん着いた血もおかしくねぇか。返り血で多少着いてんならわかるが、ベッタリ着いてんのは不自然にも程がある」

 そう横壁に本来鷹山から出たとは想像もつかないくらいの量の血液が両方ともにベッタリと着いているのだ。そしてそこから生まれる疑問点。私は先ほど「彼」から情報をもらった。しかしそれはこの裁判に混乱を招く可能性があるということも知っている。

 金室「ですがそんなたくさんの血液は一体どこから?」

 巡間「鷹山くんの血液から取り出したなんてことはないだろう」

 国門「医務室は開いてないから輸血パックなんざ取り出せねぇぜ。ならどうなんだぜ?」

 私は彼を見てみる。彼は僅かに首を横に(・・)振った。まかせろということか。

 玉柏「……はぁ、悪いな。それは違うぞ、国門」

 ため息一つ。彼は国門の発言に反論した。

 

 *****

 

 国門「なに? 何が違うっていうんだぜ?」

 玉柏「お前たち、これ……なんだと思う?」

 そういって彼が取り出したのは……輸血パック。一番最初に彼が私にエレベーターで見せてくれたブツだ。袋の上から全開にされたやつ。

 国門「…………は?」

 巡間「なっ!?」

 江上「えっ!?」

 ダグラス「What!?」

 湊川「ちょ、ちょちょちょ、ちょっっっと待って!?!?」

 みんな口々に焦り、驚き、絶句している。それもそのはず。だって普通出されるはずのないものが今まさに証拠として提示されているのだから。

 国門「おい!! これは一体どういうことだぜ!? 九分九厘医務室から持ってきたんだろ!? だが医務室は閉まっている!! そんなことできるわけねぇぜ!! なぜお前はそんなものを持っている!?」

 玉柏「医務室はッ!! ……夜時間の間だけ開いていたんだよ」

 国門「はぁ!? 玉柏お前ッ、その事実いつ知った!? ここにいるやつら全員知らねぇぜ!?」

 玉柏「一昨日だ」

 ……私にはわかる。今彼は

 灰垣「一昨日じゃと? 動機が渡された日の夜か?」

 近衛「そういうことになりますね。では玉柏殿、なぜその日医務室が開いている事実を存じたのでございますか?」

 私を守ろうとしている。医務室が開いているという事実を知っているのは恐らく私と玉柏だけ。私は玉柏が犯人でないことを『ある人』の証言で知っている。

 しかし私はどうだ? 疑われるに決まっている。アリバイがあるのかどうかと言われたらその証拠を私は提示できない。

 玉柏「俺は動機をもらって一つ違和感を覚えた。そのヒントが医務室にあるんじゃないかと踏んだんだ。もちろん医務室が開いていないのはわかっていた。だが俺たちは夜時間には試していなかったんだよ。開いているかどうか。だから夜時間に行ってみたらその通り」

 矢崎「開いていたんだね」

 玉柏はそれをわかっている。だから今こうして証言しているのだということも。

 阪本「……でも、もし医務室が開いているっていう事実を玉柏しか知らなかったらアナタが犯人になるんじゃない? それにエレベーターが五階に止まっていたし」

 ……ここだ

 直樹「それは違うよ!!」

 

 *****

 

 玉柏の無実は証明できる。

 直樹「玉柏くんは犯人じゃない。灰垣くん、あなたは知っているよね」

 灰垣「……そうじゃな。玉柏は昨日の夜23:25にわしとトイレの入り口で会っておる。向こうがすでに入っていた状態じゃぞ」

 金室「なるほど。死亡推定時刻が23:30頃ですから、これでは玉柏くんは犯行に及ぶことができませんね」

 中途半端といえば中途半端だが、この時間が玉柏の無実を証明できるのである。

 国門「いや、玉柏が犯人じゃないことはだいぶ前からわかってたぜ」

 宮原「え?」

 え、マジ?

 国門「犯人は鷹山の持つ『釘』の存在を知っていた人物。そうなると釘の存在を知らなかった直樹、近衛、ダグラス、渡良部、玉柏は犯人から除外される。そして阪本のさっきの証言から宮原、阪本、湊川も犯人ではないという無実が証明できる。この時点で犯人は半分以下にまで絞られていたんだぜ。そして今の証言から灰垣も玉柏のアリバイから考えれば犯人じゃない」

 ……その考えはなかった。そうだ。確かに釘の存在を知らなければエレベーターに釘を置くことなんて考えつかない。もうずっと前から玉柏は犯人ではなかった、犯人ではないという証拠がすでにあがっていたのだ。

 ……もしも玉柏がそれをわかった上で私を守ろうとしたならばきっとそれは彼なりの優しさなのか、それともからかっているのか。どちらにしろ守ってくれたことにはかわりない。

 橘「現時点で犯人の可能性があんのが、俺、弁護士、茶道部、数学者、医者、酪農家の六人か」

 阪本「ごめん……なんかこんがらがってきた……」

 江上「というかエレベーターが犯行現場じゃないなら結局どこが犯行現場なのかな?」

 すっかり吹っ飛んでたその話題。エレベーターが犯行現場じゃない。ならどこか。

 落ち着いて振り返れ。ちゃんと、証拠はあるはずだ。

 

 

 

 …………

 

 

 

 いやどう考えてもあそこしかないだろう。

 直樹「鷹山さんの部屋じゃないかな」

 渡良部「根拠は?」

 直樹「ランドリーに血の着いた雑巾があったんだ。きっとそれで拭き取られたんだと思う」

 橘「床に着いた血をきれいに拭き取り犯行現場を予測させねぇためのな。ま、靴やら帽子やらもきれいなままでいじりもしなけりゃ、探偵の部屋あたりが現場って思うだろ。靴下だけで外出るやつなんざいねぇだろうし、雑巾で拭き取れるようなもんでもねぇし」

 ……だんだん真相に近づいてきている。だが

 橘「つーか、犯人誰だってんだ。今の今まで犯人にあたるような証言全部否定されてんだろうが!!」

 隣で大声で怒鳴るな。でも橘の言う通りなのもまた事実。

 矢崎「犯人にあたる証拠ね……」

 近衛「他に何かございましたか?」

 阪本「ワタシはお手上げ……」

 湊川「ごめん私も」

 次々と白旗があげられていく。

 ダグラス「誰かあるのかい。他に犯人を示すような証拠がさ……」

 ……あるにはある。だがこれが本当に犯人を指し示すのかどうかはわからない。

 直樹「……ダイイングメッセージがあるよ」

 渡良部「ダイイングメッセージ?」

 直樹「ほら鷹山さんの左手側見ると『!』が書かれているんだよ」

 金室「しかし、『!』だと本当に犯人に繋がるかわかりませんよ?」

 私と同じこと考えてる。

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぶっ!!」

 緊張感の走る裁判中、突如彼が吹き出し

 「あっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!」

 大声で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 直樹「不謹慎!!」

 玉柏「はっはっはっ、いや、悪い悪い。ちょっとおかしくて」

 何がおかしい。

 玉柏「こんなの誰がわかるんだよってくらい鷹山はちょっと凝った意味を『!』に込めたんだ。探偵らしいかもしれないけどな」

 ちょっと言ってる意味わからない。

 玉柏「しかもな? 直樹、これはお前が一番解読できるんだよ。ここにいる誰よりもな」

 ちょっと言ってる意味わからない(二度目)

 玉柏「直樹!!」

 直樹「?」

 彼はニヤリと笑い左手で私を、指す。

 玉柏「今から言う意味をお前らしく(・・・・・)訳してみろ!!」

 わ、私らしく!? ドユコト!?

 玉柏「ダイイングメッセージから今回の犯人を想像しな。見方を変えてみな!! こいつはただの『!』じゃないんだ」

 こ、これを私らしく訳せ!? なに!? 翻訳すればいいの!? というか翻訳以外思いつかないよ!?

 玉柏「焦るな。見方を変えるだけでも犯人はわかるんだからな。それでもわからなくなるようなら……鷹山の『あれ』があるだろ?」

 見方を変えるだけで? この『!』が犯人を指し示す? 無理がある。しかし彼は理解できた。何かがあるのは確かなのだろう。

 

 

 

     一から、考えてみようか

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 『!』は犯人を示す。しかしこのままでは読み取れない。なら見方を変えよう。この『!』の見方は一体なんだ? 私は見方を変えろと言われても『!』を反転させて『i』にするしか方法がない。むしろそれ以外なにがあるというのか。『i』が犯人に繋がる? まさか。そんなことでわかるなら苦労はしない

 

 

 …………玉柏の言った『あれ』がヒント。あるとするならばおそらく『これ』しかない。けど……

 いや待てよ。この中身に確かにある。犯人を示す証拠。私はガッツリ、ここについて『つっこんだ』ではないか。しかしこれは……ああ玉柏が笑ったのはそういうことか。いくつもの糸がほどけていく。確かにこれは普通気づかない。おい待てあんたはどうやって気づいたんだ玉柏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「わかったよ。犯人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 湊川「ホント!?」

 宮原「この『!』でわかったのか?」

 この『!』はただの『!』じゃない。

 玉柏「そうか。なら当ててみな。この中の誰が犯人なのかを!!」

 直樹「今回の事件の犯人は」

 ちゃんと犯人を指し示す。はぁっと深呼吸。私はその人の名を呼ぶ。

 …………でも信じたくない。だってあなたはあのとき言ったよね。みんなで出るって。

 直樹「きみだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        そうでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        「江上さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 江上「………………えっ、えっ、えっ? ええ!?」

 巡間「え、江上くんが!?」

 矢崎「今回の……犯人?」

 江上「ちょ、ちょっと!! 変な冗談やめてよ!? あたしが? 犯人!? そんなわけない!!」

 犯人指定されたら誰でも焦る。それは百も承知だ。しかし

 直樹「冗談じゃないよ。今回の犯人はあなたしかいない」

 冗談なんて言ってる余裕? そんなものあるわけない。

 江上「……ッだったら証明してみてよ!! 数学者のこのあたしに!! 全部!! あなたの推理を!!」

 直樹「このダイイングメッセージには鷹山さんなりに犯人に繋がるたくさんの意味を込めたんだ。それを今から証明する」

 だから私は挑む。さあ『翻訳』開始だ。

 

 *****

 

 直樹「まず始めに江上さん、このダイイングメッセージを逆さにしてみてよ」

 江上「……『i』になるよ」

 直樹「数学者のあなたにとってこの『i』はとても馴染み深いと思うんだけど」

 宮原「数学的に考えると……虚数の『i』か!!」

 直樹「そう。虚数」

 江上「それが、あたしが犯人だって理由になるの?」

 私は首を横に振る。

 直樹「いや流石にそれだけじゃまだ江上さんを犯人と呼ぶには不足してる」

 ただそれだけの理由ならこじつけに近いからだ。いやすでにこの推理が出てきた時点でとんでもないけど。

 直樹「この『i』は鷹山さんのとある『勘違い』から生まれた衝撃の真実がある。けど、ここから先、とっても複雑だから、ちゃんと着いてきてね」

 苦笑いしかできないくらいにね。

 直樹「まず、虚数である『i』を私は英語訳してみた。ダグラスくん虚数は英語でなんて言うかわかるよね?」

 ダグラス「Sure. 虚数は『imaginary number』さ」

 私の推理が正しければ、彼女はここを勘違いしたに違いない。

 直樹「numberはもちろん数を表している。ならimaginaryは?」

 矢崎「普通に考えたら虚じゃないかい?」

 直樹「そう、虚。そして正確には違うけどもう一つ意味があるんだ」

 

 

 想像上の、架空の、空想の、仮想的な

 

 

 imaginaryの主な意味はこれらだ

 ここから犯人に結びつける意味は……

 

 

 

 これしかない!!

 

 

 

 直樹「『想像上の』だよ」

 阪本「そ、想像上の?」

 巡間「それが鷹山くんの勘違いに一体何の関係が?」

 直樹「鷹山さんは虚数の本当の『単語を知らなかった』んだ」

 国門「どういうことだぜ?」

 直樹「鷹山さんは『imaginary number』を『image number』と勘違いしたんだ。でも彼女は自分の勘違いを利用したんだ」

 近衛「しかしながら、それはわたくしたちが勘違いを利用した意図に気づくかどうかを理解するのは困難では?」

 直樹「それが彼女が『!』と残した狙いの一つだよ」

 湊川「え?」

 直樹「部屋からエレベーターに移された鷹山さんは犯人がエレベーターで偽装工作している間に犯人を私たちに伝えるためのメッセージを考えていたんだ。でもそれまで生きていられるかわからない。死へのリミットが刻々と近づいて来ていたんだから」

 江上「……」

 直樹「そして彼女は虚数である『i』を遺した。けどさっき言った通り彼女は勘違いしたんだ。彼女はそれに最期の最期に気づいたんだと思う」

 私はバアァン!! と席を叩いて前のめりになる。だって

 直樹「だからこそこの『()』が成り立つ意味を作り上げたんだ」

 彼女はわかってたんだ。敢えて『アレ』にした理由もこれで説明ができる。

 直樹「みんなに質問なんだけど、どうして鷹山さんは『i』を初めから私たちにわかるように『i』にしないで『!』にしたんだと思う?」

 金室「うちは普通に間違えて『!』にしたのかと」

 渡良部「私も金室(イッパツ)と同じように考えてたんだけど。なに、直樹(トン)鷹山(ハク)がわざと『!』にしたって言うの?」

 そうだと言うようにコクりと頷いた。

 灰垣「じゃが、なぜ『!』と書いたんじゃ? 敢えて逆にする意味はないんじゃないか?」

 直樹「いいや逆だよ。敢えて逆にすることで彼女は自分の勘違いをうまく利用したんだ」

 ふと玉柏の視線を感じた。彼はゆっくり頷き私もそれに応えて話を続ける。

 直樹「鷹山さんは『imaginary number』を『image number』と勘違いした。勘違いを利用したとき彼女が犯人を伝えるために『!』にしたなら何が起きると思う?」

 橘「…………っ!!??」

 ダグラス「……What!?!?」

 気づいた人がいるようだ。そうこの勘違いは今回の事件を『訳す』ための重要な情報。

 

 *****

 

 直樹「二人ともどういう風にした?」

 橘「……『image』の綴りを逆から読んだ」

 ダグラス「Me too.」

 そう逆さ読み。

 阪本「それが一体なにと…………え、うそでしょ!?」

 巡間「……まさに探偵の中の探偵だな。鷹山くんは」

 阪本は思わず席を叩き、巡間も他のみんなも冷や汗を流す。そして何より江上の顔が段々とひきつってきているのもわかる。

 直樹「江上さん。『image』を逆から読んだらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「image」→「egami」→「えがみ」→「江上」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国門「これは……」

 直樹「彼女は『image』を逆さから読むと『江上』になることをここにいるときに気づいたんだ」

 江上「ッッ!?!?」

 江上はそれを聞いた途端、目を見開いた。うそと言わんばかりに。

 江上「……っでも、こんなことであたしが犯人だなんて……!! それになんで鷹山さんは虚数を『image number』って勘違いしたって風に考えられるの!?」

 直樹「『image』は!! 『想像する』っていう動詞の意味を持っているんだ」

 国門「はっそういうことか!! 鷹山は『image』と『imaginary』が頭の中で混ざったんだ!!」

 湊川「『想像する』と『想像上の』の二つの意味が混ざったことで、虚数を『想像上の数』じゃなくて『想像する数』に間違えてしまったのね」

 玉柏「それともう一つの根拠として鷹山の部屋の引き出しからノートが見つかったんだってな直樹」

 急に振るなバカ。まあ取り出して説明するけど

 直樹「これには計算、漢字、英単語、歴史、ほかにもたくさんの問題演習の答えが書かれていたんだ……綴りどこもかしこも間違ってたけどね!!」(ごめん鷹山さん)

 玉柏「ンッンン!!」

 咳払いされました続けます。

 直樹「っでぇ!! この中にあるんだ。『想像上の』と『数』の綴りを答える問題が。そして『想像上の』の解答欄にはっきり書いているんだ。『image』って。『number』はあっていたけど。それで彼女は思い出して欄外に書いたんだ。『そういえば虚数はimage numberだったよね!』って感じで。間違えてるけどね!! けど欄外には虚数以外にも『bar』と『tender』を解答するやつがあったから欄外に『bartender』って書いてるし。あってるけどね!! なんで!! まあそんなことが何問か続いていて欄外にもさっきの二つのみたいなのがあったんだ」

 近衛「あの…………まさかとは存じますが、それも鷹山殿が『!』を遺した狙いでございますか?」

 直樹「そういうことだよ。きっと鷹山さんは引き出しの中のこのノートを見られることがないって踏んだんだ。…………捜査で私たちが見つけてくれることを信じて、自分の勘違いを利用して『i』を『!』にしたんだ」

 阪本「ちょ、ちょっと待って!! 今の言い方、まるで鷹山がこの『学級裁判が起きること』をわかっていたみたいじゃない!?」

 玉柏「そうじゃないな。ただでこのマンションから出してくれるとは思わなかったんだよ。人を殺して出るだけなら簡単だ。でもわざわざモノヤギが、モノリュウが、俺たちにコロシアイのための動機を渡しているんだ。そこから犯人捜しみたいなことをするんじゃないかって悟ったんだろうな。鷹山みたいな探偵ならここまで、いやそれ以上のことを考えたんだろう」

 ……そこまで考えられる玉柏も充分すごいけど。てかダイイングメッセージについてまとめよう。そうじゃないと私まで混乱してくる

 直樹「簡単にまとめるよ。鷹山さんは犯人である江上さんを指すために虚数である『i』を遺した。実際は『imaginary number』なのに彼女は『image number』って勘違いしていてそれに最期の最期に気づいた。でも部屋にある自身のノートに自分が勘違いした証拠が書いてあったからそれを証拠に利用した。こういうところかな」

 鷹山のヒント、とんでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 江上「そんなの全部!! 全部全部ウソに決まってる!!」

 今までの流れを聞いた江上は叫ぶ。

 江上「あたしは認めない!! そんなちんけな証明で、あたしが犯人だなんてバカバカしいにもほどがある!!」

 直樹「……」

 これが最後の勝負だ。江上さん。

 江上「そもそも!! あんな槍、持てるわけないでしょ!? 鷹山さんを訪ねてすぐに刺すなんて、重さで時間がかかる上に刺せたとしても彼女が倒れるほどの出血にはならない!!」

 直樹「いや。槍は誰でも持てたよ……橘くん」

 橘「数学者、槍は誰でも持てる軽さだ。女子でも持てるぐらいな」

 江上「グッ……」

 彼女は唸る。

 江上「……っでも!! たった十分でエレベーターに鷹山さんを運んで血を撒くなんて……!!」

 玉柏「この輸血パックはすべて上から全部切り取られている。血撒くぐらいで時間は掛からないな」

 江上「……っなら……」

 金室「……鷹山さんの部屋とエレベーターとの距離はそこまでありませんよ。それを三階にいるうちらがよくわかっているはずです」

 江上「……ッッ!!」

 だんだんと彼女は反論できなくなっている。それでも

 国門「まだ足掻くのか? 江上」

 江上「あたしは……あたしは犯人じゃない!! 他に何かあるっていうの!!?? あたしが犯人って証拠!! あるの!?」

 彼女は足掻き続ける。生きるために。証拠は残り一つだけ。これで最後にする。

 

 *****

 

 直樹「……江上さん。知ってる? 武器庫でなくなったのは槍だけじゃないんだよ」

 江上「……………………えっ」

 直樹「武器庫には宮原くんが管理しているボードがあるのはわかるよね? 捜査のとき彼は槍以外にもナイフホルダーもなくなっているっていったんだ」

 宮原「磁石で止めることができるタイプのやつなんだ」

 江上「そ、それが一体何の関係が……」

 

 

 ……もう言い逃れはできないよ

 

 江上さん、あなたがどんな想いで殺人に臨んだのかはわからない

 

 けどもう終わりにしよう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「『包丁』、どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 江上「ッッ!?!?!?!?!?!?!?」

 直樹「食堂は夜時間には開いていない。昨日近衛くんは九時半にはすでに今日の朝の準備を終えていたから食堂からいなくなっていたんだ。それまで包丁はあったって言っていたけど朝にはなかった。一番小さくて、けど殺傷能力は十二分にある包丁。つまりあなたは近衛くんがいなくなった後の三十分間に持ち出したんだ。そして武器庫からもホルダーを持ち出してあなたはその後犯行を行った。そして今!! あなたは包丁を持っている!! そうじゃない!?」

 江上「……そんなわけ……!!」

 直樹「ならあなたのことを隅々まで調べても問題ないよね!?」

 江上「はいっ!?」

 我ながら今とんでもない発言した気がする、けど気にするな。気にしたら負けだ( ・`д・´)

 間の抜けた声をあげた江上を女子陣が全員で抑えにかかる。男子たちは全員目を背けている。当たり前か。抵抗しようにもさすがに6vs1では江上の抵抗も虚しく。

 

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 江上のスカートからホルダーが。そのホルダーから包丁が見つかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが見つかったと同時に彼女は青ざめ頭を下げた。彼女の、江上の敗北宣言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 モノリュウ文書

 事件の真相ファイルその1

 

 犯人は前から医務室が夜時間のみ開いていることを知っていた。事件当日、近衛が食堂からいなくなった九時半以降に犯人は包丁を持ち出し、さらに武器庫から槍と包丁をいれるナイフホルダーを持っていった。

 

 犯人は少し用心深かった。夜時間以降の外出を禁止にされたがそれは任意。もしかすると出てくる人がいるかもしれない。だからちょっと余裕を持たせて23:20頃を狙った。そして犯行直前に医務室から輸血パックを持っていった。

 

 23:20、犯人が鷹山を訪ねて彼女が扉を開けたと同時に持っていた槍で一刺し。鷹山は突然刺されて痛みにどうすることもできずそのまま倒れた。犯人は槍を引き抜いて倒れた彼女をエレベーターまで運び、輸血パックを全開にしてエレベーターの横壁両方に血を撒いた。エレベーター内での作業を終えた犯人は再度槍を彼女に刺してエレベーターの階設定を五階にしてその場から立ち去った。でも犯人は気づかなかった。鷹山がダイイングメッセージを遺していたことに。さらにそのダイイングメッセージの意味すら予測できなかった。

 

 犯人がその場から立ち去った後、医務室に使った輸血パックの袋をゴミ箱に捨てた。そして一枚の雑巾を濡らし鷹山を運んだときに着いた三階廊下の血を残さず拭き取って乾いた雑巾でさらに拭いた。鷹山の部屋も同様にして犯人はそのまま部屋へ。

 

 そして今日、鷹山の死体が発見された。犯人はホルダーにナイフをしまってスカートの内側に身につけ隠し、ランドリーへ行って血に濡れた雑巾がそこであたかも見つかったように装った

 

 *****

 

 

 

 

 学級裁判、閉廷

 

 

 

 

 *****

 

 次回

 表裏ダンガンロンパ 第一章 非日常編 通じず8部屋目

 

 

 



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第一章 非日常編 通じず8部屋目

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 *****

 

 「ヒィッヒッヒッヒィ…………結論が出たみたいであーるなァ……」

 モノヤギが口を開く。これから裁判の終わりをむかえることになるのだ。

 「ならァ!! オマエラァ!! 手元のボタンを押してェ、犯人だと思う人物に投票するであーる!! 全員投票するであーるよォ!!」

 私は恐る恐る江上の顔がある画面を押して投票。だって私は忘れていない。この先彼女に待つものが一体何なのかを……

 

 「あ全員ン、投票が終わったみたいであーるなァ。それではァ!! 今回の事件の犯人は合っているのかァ、それとも間違っているのかァ……ルーレットォスタァーーートォォオ!!!!」

 モニターに映し出されたルーレットがぐるぐると回る。

 そしてルーレットが江上のところで止まると画面が光出した。

 

 *****

 

 「なァはっはっはっはァ!! だァいせェいかァァァいィィィ!!!! 今回ィ超高校級の探偵ィ、鷹山麻美子を殺害したのはァ、超高校級の数学者ァ、江上和枝なのであったァ!! なァはっはっはっはァ!!」

 高笑いするモノヤギ。どこからか聞こえてくる拍手の音。非常に不愉快だ。

 「う、うそでしょ?」

 「………」

 「み、ミス江上。ゆ、ユーは一体なにを……なにを!!」

 江上はしゃべらない、ルーレットを眺めているだけで。

 「江上くん……」

 「なんで……こんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なん……で?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バアァンと席を拳で叩いた彼女は苦い顔をして私たちをキッと睨み付ける。

 「なんで? なんでって言った今!? 逆にあたしが聞きたいよ!!」

 「え、江上……」

 「なんでみんなして、写真もらって!! 動機をもらって!! そんなただただ疑問だけしか浮かばないの!? 疑問だけで普通に過ごせるの!?」

 疑問だけ……?

 「緊張感が無さすぎるよみんな……なんでそんな楽観的に捉えられるの? どうして『たかがこんな写真一枚で出る人なんていない』なんて考えられたの!? 『要素が足りない』なんて思えたの!?!?」

 ……確かに……そう思っていた……そう思ってしまっていた……

 「あたしの写真は!! 小さい頃の写真だった……小さい頃、友だちの男子と一緒にいたときの写真だった……そのとき、あたしは彼ととても大切な約束をした……そこまでを思い出した……なのに、なのにそれを!! あたしは忘れちゃったの!! 絶対に忘れちゃダメなとってもとっても大切な約束を!!」

 彼女のセリフに熱が籠り始める。

 「あちなみにィ、江上の写真はこんな感じィ!!」

 モノヤギがそういうとモニターに江上の写真が映し出された。それには確かに彼女ともう一人男子が写っていた。……なんだ、この既視感は。見たことあるような面影……

 「大切な約束を忘れてしまうあたしは最低だよ。もちろん、コロシアイに乗っかって鷹山さんを殺したことも最低だよ。それぐらい判ってる。……けど、一生この記憶がないまま、思い出せないままなのが怖くて怖くて仕方がなかった……だから、あたしは……!! 推理が得意なあの子を殺した!! バカっぽくてアホっぽいけど、彼女が『超高校級の探偵』としてここに来ることができるキャリアを持っているなら、彼女はあたしの犯行を暴く可能性が極めて高かった!! あたしも……ただでここから出られると思ってなかったんだよ……」

 私の読み通り、江上は探偵である鷹山が厄介だから殺したようだ。

 彼女は席から離れ後ろのカーテンで隠れているであろう部屋の前に行き立ち、振り向いた。

 「でもそんなことはなかった。あたしの犯行は意図も容易く見破られた。それは単に私の計画が巧くいかなかっただけじゃなくて、みんなが鷹山さんのために推理して犯人であるあたしの犯行を暴こうと必死だったから。鷹山さんがみんなを助けるためにあのダイイングメッセージを遺したから。人殺しをしたのはあたし!! 責められるべきはもちろんあたし!! でも!! わかって!? この気持ちを!! わからないわけないでしょ!?」

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 『はあぁ』

 『大きいため息だね』

 『それはそうでしょ? こんな写真見せられて出たくなる人いたら同情しちゃいそうなんだもん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 …………考えが……甘かった……甘すぎた。そうだ。私たちはこの写真に対してほぼ何も感じなかった。橘と江上以外……橘は動機を渡された直後に、江上は動機を渡された日の午後に『出たくなる人がいたら同情する』とまで言った。なのに私たちときたらこんな……

 「どうせ……あたしはもう死ぬんだ……約束なんて……思い出せないまま……死んでいくんだ……」

 彼女は無気力な声でそういった。私たちのせいで彼女は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふざけんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾクッと全身を寒気が襲い振り向くと動機のときと同じぐらい恐ろしい形相で彼、橘は呟いていた。

 「ふざけんな、ふざけんなふざけんなふっっざけんな!!!!!」

 ずかずかと江上に向かって怒鳴り散らし杖を抜いた。

 

 「!!??」

 

 一瞬だった。音が出たかどうかすらわからなかった。目にも止まらぬ早業でただ江上を杖で攻撃したことしかわからなかった。江上も訳もわからないという顔をして呆然としていた。

 「よせ!橘くん!」

 巡間がすぐに我に返ったのか橘の杖を右手で押さえようとするが目測を誤ったのかそれは空を切る。だがすかさず左手を出して杖を押さえることに成功する。

 「なぜ江上くんを攻撃する?!」

 「……るっせぇ」

 巡間の質問に聞く耳を持たない。橘はギッと巡間を睨み付ける。巡間の表情はこちらからではわからないがきっとあのときの湊川と同じ表情だろう。

 「邪魔だどけ!!」

 橘は杖をうまく回転させて巡間の手から離し彼を祓うようにその場から引き離した。その影響で巡間は後ろに転ぶ。近くにいた国門と灰垣が彼の傍に近寄り支える形となった。

 「……なんであたしを攻撃するの? どうせこれから」

 「ふざけんなつってんだよ!!!!! 人の命を……ッ自分の命を! てめぇはなんだと思ってんだ!!!??」

 彼の口からそんな言葉が出るとは。しかしそれはこっちのセリフでもある。橘は二度死にかけている。

 「あんたに何の関係が……」

 「大有りだド阿呆がッッッ!!!!!!」

 ん? 待てよ

 「……あんたは覚えていなかったんだな? だったら思い出させてやるよ!!」

 彼は杖をしまって左手で江上の肩を掴む。そして

 

 

 

 トンッ…………………………

 

 

 

 いつもの彼とは思えないほど優しく、彼女の右肩を押した。彼女は押されてそのまま少しだけ後退する。

 けれど思い出させるとは一体……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 「うそ…………でしょ…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 江上の顔色がどんどん悪くなり青ざめていく。恐怖に、怯えている。

 「えっ…………え? …………なん……で……? うそ……だよ……ね…………? …………う゛あ゛ッッッ!?!?」

 顔をしかめて頭を抱え、唸り声をあげる。後退しながら、まるで幻覚を見ているかのように暴れ始め

 

 

 

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 大声で叫んだ。わけがわからない。あの二人の間に一体……

 「ッ!! かず……う゛ぁ!!??」

 

 ドンッ!!!!

 

 宮原が声を掛けようとしたと同時に突然、後ろで鈍い音がしたかと思うと

 「あ゛っ……うぁあ゛……!!??」

 彼も席で頭を抱えていた。

 「宮原くん!?」

 「み、宮原!? 大丈夫!?」

 「っっはぁあ゛……あ゛っ……!!」

 苦悶の表情でいる。近くにいた金室と阪本に心配され阪本に背中を優しく撫でられる。それでも彼の身に起きていることがわからない。

 「ヒィッヒッヒッヒィ……着々と、であーるなァ……!!」

 「なに?」

 今の意味深発言は一体なんだ? 着々と?

 「なんでもないであーる!! っでもォ、そろそろワレもお楽しみに入りたいのであーる!!」

 おたのしみ? まさか……

 「おしおきか!?」

 「ごメェとうゥ!! オマエラの話なんかァ、ワレは別にどォーでもいいんであァーーるからなァ……まァ、一種の猶予だと思うであーる!!」

 おしおき……ってことはつまり…… 

 「も、モノヤギ。おしおきって確か……」

 「校則を見ていないであーるかァ? おしおきはもちろん『処刑』であーる!!!!」

 「いやっ…………いやぁっ…………!!」

 今もなお頭を抱えて暴れ叫ぶ。大粒の涙をいくつも溢しながら……

 「まだ……まだ死にたく……死にたくないッッ!! ……誰か……誰か……誰か助けてぇっ!!……いやっ…………いやだぁっ……!! こんな…………とこ……ろで…………まだ…………死にたく……ないよぉ……!!」

 「抗っても無駄であーるよォ……??? ではではァ、モノリュウ様ァ!!」

 モノヤギがモノリュウを呼ぶとモニターが砂嵐となり、やがてモノリュウが映像で現れる。

 『クックックッ……今、権限余にあり……これより、超高校級の数学者、江上和枝のために……特別なおしおきを用意させてもらった……ククク、クククククククッッ!! さあ始めようではないか』

 低く、江上を嘲笑うように、絶望的に、モノリュウは告げる。

 「いやっ、いやぁぁっ!!」

 『おしおきタイム……』

 「スタァーーートォ!!!!」

 モノリュウとモノヤギの宣言により、鉄のアームが江上の後ろの部屋から現れ、彼女の腰を捕らえる。

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      助けて………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       実琴ぉ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掠れた声で、彼女は()に向かって呟いた。そして勢いよく彼女は部屋の奥へと連れていかれた。()はずっと、拳を握りしめ俯いたままだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 GAME OVER

 エガミさんがクロに決まりました

 オシオキを開始します

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 『ハエ叩き』

 “超高校級の数学者”江上和枝 処刑執行

 

 

 腰をアームで掴まれて部屋の奥へと引っ張られる

 

 引っ張られていると彼女は自身が浮いていることに気がついた

 

 そしてブーンとハエの音が上から聴こえてくる

 

 彼女はハエに吊られている

 

 下を向くとそこには部屋に複数のマスが描かれた座標のようなものが

 

 なんだと困惑していると、ハエがブーンと動き始めた

 

 ブンブンブンブン飛び続けていると

 

 

 

 バシンッ!!!!

 

 

 

 モノヤギがハエ叩きをハエ目掛けて振り下ろした

 

 ハエは江上を吊しながらマスを辿って飛び回る

 

 それをモノヤギが狙って振り下ろす

 

 時々振り下ろされたハエ叩きが江上の体にあたる

 

 すると彼女は痛みを訴える

 

 ハエ叩きの外側に複数の針がついているのだ

 

 

 

 ブーンブーンブーン

 

 

 

 ハエはいろんなマスを通り

 

 ずっと、ずっと飛び逃げ続け

 

 

 

 バシンッバシンッバシンッ!!!!

 

 

 

 モノヤギが何度も何度もハエ叩きを振り下ろす

 

 同様にハエ叩きが何度も何度も江上をかすっていき

 

 針が彼女を襲い、だんだんと全身に痛みが走る

 

 ハエが飛び回る影響で気分も悪くなり

 

 時折吐き気を訴えて

 

 傷も出来ていき体力も削られていく

 

 するとハエの飛ぶ速度が急に落ちた

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシンッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブチッ…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノヤギはチャンスを逃さなかった

 

 ハエの飛ぶ速度が落ちたと同時に

 

 江上もろとも潰してしまった

 

 地面のマスには

 

 原点を表すかのように

 

 赤い点ができていた

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 「なァーーーはっはっはっはっはっはァァ!!!! あとォってもエキサイティングゥ!!!! 」

 『クックックックックッ……これぞ絶望による本当の茶番劇……人の最期よ……クックックッ愉快愉快……ククククククク……』

 大きな声で江上の死を嘲笑い、低く渋い声で絶望的に嗤う、二匹の人ならざるもの。

 「な、何なんだ……これは……」

 「ウソ……いや……」

 「No way……恐ろしいよ……」

 全員、江上の死を、見つめていた。こんなにも、残酷な死が、あるのか? 彼女が、まるで、そこらにいる、虫の如く、殺されて、堪えられる、わけが、ない。

 「さァてとォ、オマエラのォ、絶望的な顔も見れたであーるからァ、今日はこれぐらいにしておいてやるであーる」

 『だがこれで本当に理解したであろう。余が、モノヤギがこの世界において絶対的な権力を握っていることを……では余は失礼する。あとは頼んだぞ、モノヤギ』

 モノリュウはそう告げてモニターから消えた。

 「ではァワレもこれでおさらばであーる!! 適当に裁判場から出るであーるよォ」

 モノヤギもそそくさとこの場から立ち去っていった。

 「冗談じゃ、ない……はぁ、はぁ……」

 「大丈夫?」

 「うん、なんとかね……ありがとう二人とも……」

 宮原は先ほどから異常を訴えていたがようやく落ち着いてきたようだ。

 

 コツコツ……

 

 一人、エレベーターに向かう人がいる。

 「たちば……」

 「うるせぇ!!!!」

 声を掛けようとしても彼は怒鳴り私たちを黙らせた。彼はそのままエレベーターに行って戻っていってしまった。

 「ど、どうする?」

 「……出ましょう。ここにいては気が滅入るだけでございますから……」

 近衛の言うことに私たちは賛成する。しかし

 「俺は少しここにいる」

 玉柏だけは残ろうとした。でも私はなぜか一人にしてはいけない気がした。

 「待って私も残る」

 「いいのかい?」

 「うん……」

 「……勝手にしな」

 みんなはその後エレベーターに乗ってマンションへと戻っていった。

 

 *****

 

 

 「ねえ」

 「なんだ」

 「苦しく……ないの?」

 「苦しい?」

 「っ、だってあんなの見せられたら……」

 「苦しいと思ってるのはどっちだ……?」

 彼は悲しそうな顔で私の頬に手を伸ばす。私は今気がついた。自分が大粒の涙を流していることに……

 「無理すんなよ。仲間を失ってツラいの……お前だけじゃないんだ。裁判であんなことを言ってもそれは表だけだ。いや表だけでいい。そめて裏では優しくあってやれ……いいな?」

 「……ウッ……うん…………ごめん胸貸して……」

 「ご自由に……」

 私は玉柏の胸を借りてひたすら泣いた。泣き叫んだ。

 

 もうこんなことは起こしたくない。起こして欲しくない。私は考えが甘かった。それが江上を殺人の道へと引きずりこんでしまったのだから。

 同じ過ちを犯さない。私はそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひっそりとした空間。そこに一つ、また一つ降るもの。やむことを知らぬそれはずっと降り続ける。ずっと……ずっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うわああああああああああ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降るなか

 

 遠吠えが聞こえる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 “サファイアの勾玉”を手に入れた

 黒い紐が通った勾玉。どこか優しい温もりを感じる

 

 *****

 

 

 

 

 

 第一章「盾の悲劇と矛の罪」

 

 終

 

 

 

 

 *****

 

 

 

            next→第二章

 

 



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第二章 『せんじょう』あるも『せんし』なし、『せんし』あるも『せんじょう』なし
第二章(非)日常編 穴空きの1部屋目


こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海です。
二章です。でもまあ地味な章です。絶望濃度は高くないかと思われます。それでも最後までお付き合いいただきたく思います。


2018.9/2
一部文章追加しました。


 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 

 

 ~幕間~

 

 

 

 ある人は「もどかしい」です

 

 ある人は「従って」います

 

 ある人は「見て」います

 

 ある人は「見られたく」ありません

 

 ある人は「守って」いました

 

 ある人は「忘れて」います

 

 ある人は「苛立って」います

 

 ある人は「引っかかって」います

 

 ある人は「たえて」いました

 

 ある人は「保って」います

 

 ある人は「潜んで」います

 

 ある人は「強がって」います

 

 ある人は「縛られて」います

 

 ある人は「できなくなって」います

 

 ある人は「恐れて」います

 

 ある人は「不安」です

 

 

 

 

 

 誰がどれに当てはまるか?

 

 それは彼らのみ知ること

 

 そしてこれが正しいとは限らない

 

 と、いうことも

 

 お忘れなきを

 

 

 

 

 *****

 

 

 モノリュウのお告げ

 

 

 

 最近よく耳にするが

 

 将来人間の職業が減るそうじゃないか

 

 なぜか?

 

 科学技術が発達したからだろう

 

 しかしだ

 

 働きたくても働けぬモノが出る

 

 そのとき彼らはどうなるのだろうな

 

 人間の職業の有無は

 

 どうなるのだろうな?

 

 余にとっては他人事にしか過ぎんが

 

 

 

 *****

 

 

 第二章「『せんじょう』あるも『せんし』なし、『せんし』あるも『せんじょう』なし」

 

 

 *****

 

 あの日、戻ったあとは昼過ぎであった。冷めた朝食を温め直して昼食にし、そこからはみんな一人で過ごした。あんなことが起きて、仲間が目の前で死んで、自分たちは一人で考える時間が必要だった。

 江上はどうしても出たかった。コロシアイがよくない罪であることもしっかり理解していた。だが、コロシアイへの道へと引き込んだのは誰か? 私たちだ。私たちが写真一つなんてことないという風に思ったが故に、彼女の感情は爆発してしまったのだ。鷹山を、殺させてしまった。もしかすると私たちのせいではないと思う人もいるだろう。だが私にそんなことを思う筋合いはない。みんなで出ることを誓ったのならば最後までその責任は背負わなければならないのだから。

 ベッドの上で、何度も、何度も、あのときと同じ光景を思い浮かべる……

 

 

 

 

 

 

 

 

       無情で残酷な死よ

 

 なぜお前は私たちの前に立ちはだかるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ眠い

 

 もう寝てもいいだろうか

 

 まだ……

 

 はやいのに……

 

 体がだんだん重くなって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の記憶はこうして途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 6日目

 

 アナウンスが聴こえない。時計の針は……七時半を指していた。……どれだけ寝ていたのだろうか……夜何も食べていない。それなのにこの時間……遅すぎる……けど気分がまだ優れない。汗をかいて目覚めが悪く気だるい。体が妙に重い。また寝そうだ。だがそれはみんなに迷惑をかけるだろう。……ならシャワーでも浴びるか。少し遅れてもまあ平気な言い訳にはなる。サッとシャワーを浴び体を拭いて着替える。

 ……なぜだろう。スッキリさせたつもりなのにそうならないのは。ああそうか「つもり」になっているだけか……暗い気分になるのはどうやら収まらないらしい。皮肉だ。

 

 

 ***

 

 

 食堂に行くとテーブルいっぱいに料理が並んでいた。そして湊川が至極眠そうにうとうとしており今にも寝そうだ。

 「湊川さん? 湊川さーん??」

 「…………」

 仕方ない。自分の眠気覚ましも兼ねて……はぁ

 

 「起きろやおらぁ!!!!!!」

 

 「ッッふぇ!? えっ!? な、なに!? なに!?!?」

 「あ、起きた」

 「『あ、起きた』、じゃないわよ!! びっくりしたぁもう!!」

 湊川の反応が面白い件について(やめい)。

 「全く……でも二番目が直樹さんなんだね」

 「え? 二番目?」

 そういえば確かにダグラスや近衛がこの場にいない。

 「前みたいに近衛くんが用意したんじゃないのかな?」

 「前みたいって言われても知らないけどね、でもざっと周り確認してみてもどこにもいなかったよ……けどそれならなんでここに料理がおいてあるのか……疑問じゃない?」

 言われてみればそうだ。今の発言からして湊川は料理を作った人じゃない。今来たばかりの私ももちろんのこと。……なら誰だ? 誰が作ったんだ?

 そんな疑問を抱いていたら、ダグラスがやってきた。髪を乱しとても眠そうである。

 「ふわぁ……」

 大きくあくびをしてとてもみっともない姿だ。

 「おはよう」

 「ん、good morning……」

 全然good morningのテンションじゃない。

 「……いつもならこんな遅くなることはないんだけどさ……眠りが深かった、いや深すぎたのほうが正しいかもね……」

 遅くなるて。でも確かにダグラスは基本5時には起きると言っていたから、彼にとってはとても遅いのだろう。

 そのうちみんながぞろぞろとやってきたがやはり橘は来ていない。そしてみんなして眠そうである。

 「……眠い」

 「そうね……体も重いし……」

 みんな……同じのようだ。

 「あれ、三人足りない……?」

 「……何を寝惚けている。橘はわかる。けどほかはもう……」

 玉柏はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

        穴空きの席

 

 

 

 

 

 

      そう今まさにここは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        穴空きの食堂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       穴空きのマンション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かに食事が始まる。空気は、重い。

 「ねえ、みんな」

 沈黙は渡良部によって破られた。

 「どうした?」

 「……みんなはどう思ってる? 昨日の、江上(ハツ)の動機」

 ハツ……江上のことか。

 「どうってそんな……」

 「いきなり答えられないなんてことはないと思うけど」

 声のトーンが下げられた。当たり前だと言うように。

 「まさか昨日考えてなかったなんて言わないでしょ? 考えてなかったらそれは鷹山(ハク)江上(ハツ)に対する侮辱」

 「渡良部さんそれはい、言い過ぎじゃあ……」

 「こんなの言い過ぎに含むほうがどうかしてる。いい?」

 食事の手を止めて彼女は腕を組み背もたれによしかかる。

 「今回の事件、もちろん江上(ハツ)が悪い。でもだからって非があの子だけにあるなんてことはまずない。私たちは出る手掛かりを見つけようとしていたけれど、それは江上(ハツ)にとってはまるで綺麗事のようにしか聴こえていなかった、見えていなかったんでしょ。だって彼女の言う通り、私たちは『緊張感が無さすぎ』た。疑問だけで済ませていた。周りのみんな、つまり私たちのそんな様子が許せなかった。だから手を出したんでしょ。鷹山(ハク)を殺したんでしょ。今までの流れ……否定する人いる?」

 誰も、渡良部の言い分に反論する者はいない。反論できない。

 「美南は俺たちの態度がよくないって言っているのかな?」

 「要約すれば宮原(ソウズ)の言う通り。自分たちのせいでこんなことになるだなんて誰も思わない。けど事実起きちゃったんだから。本気で、私たちが、ここから、出たいと、望むなら、まず、出たいって、意志を、強く、持たなきゃいけない。もちろん、殺人以外でね」

 一言一言区切って強調する。はっきりと私たちに解らせるために。

 「あんな目の前で、遺体を見たくなかった……コロシアイに捲き込まれたくなかった。でも、そんな弱気なことなんて言ってられない!! 目の前にある現実を受け止めなきゃいけない!! だから立ち向かわなきゃいけない!! ツラくても、私たちが出来ることは、今はもういない二人のために、ここから一刻も早く出ること!!」

 そこまで考えていたんだ。いつも強気で自信家な彼女の弱いところ。目の前に突如現れた死体を最初に見た。コロシアイが始まったことをいち早く認識した人。それがどれだけ彼女の胸に頭に焼きついたことだろうか。

 「渡良部殿、ご無理をなさらないでください」

 隣の近衛が渡良部にハンカチを渡す。彼女はいつの間にか涙を流していたから。

 「……ごめん」

 ただ一言そう呟いてハンカチを受け取り彼女は自分の涙を拭いた。仲間を想っているからこそ流れる涙、そう感じた。でもこの涙は彼女だから流せるものなのかもしれないとも思った。一番最初にコロシアイが始まったことを認識したから。

 

 *****

 

 少し空気が変わり長いような食事が終わる。誰が作ったのか結局分からずじまいだった。しかしとても優しい味だった。食事が終わったにも関わらず気だるさが抜けないのか全員食堂に残っていた。

 「元気がないであーるなァ? ここまで元気ないのはおかしくないであーるかァ??」

 突然現れたモノヤギ。昨日、江上を処刑したモノだ。元気がない? なにを当たり前なことを。

 「誰のせいだと……?」

 「ヒィッヒッヒィ、まあそんなことはどぉーでもいいんであーるがなァ。今回はオマエラにお知らせがあるのであーる!! ……が、なんで一人いないんであーるかァ?」

 「橘くんはいつもいないよ。いつも……一人……」

 「メェー? まあいいであーる。オマエラァ!! おめでとうゥであーる!! 学級裁判を乗り越えたオマエラにィ、ご褒美があるのであーる!!」

 ご褒美? こいつのご褒美をまともにご褒美だと思えないのは私だけだろうか?

 「なんなの、そのご褒美って」

 「ここはマンションン。すなわちィ!! 他の棟があってもおかしくはないィ」

 「あっ」

 ここは希望ヶ峰マンションⅠ棟……てことはまさか

 「希望ヶ峰マンションⅡ棟(・・)を開放したのであーる!! ぜひ確認して欲しいであーる!! あァそれに伴ってェ、電子生徒手帳にマップと通話機能を追加したであーる。使い方はァそこに書いてある通りであーるからなァ」

 モノヤギはそういうとこの場から去っていった。以前金室が言っていたことが本当になるとは……って待て、通話機能てどゆことよ。伴って意味わからんわ。

 「どうする? モノヤギの言うⅡ棟に行くのか?」

 行かなければ話が進まないことはわかっている。が、進めば進むほど危険な道へ踏み込むことになることも忘れられない。

 「……俺は行く」

 先陣を切ったのは玉柏だ。

 「俺は記憶がない。現段階でも思い出せては……いやこれは完全に俺のやば勘だな。まあそれが正しいのかどうかも確かめなければならないし、何より才能も気になる。この先にその手掛かりがあるはずだと俺は淡い期待をしている。そういうことだ」

 一応、記憶がないんだっけ。でも玉柏は昨日の裁判を見ている限り、頭がとてもいい。その頭脳を生かした才能なのだろうか? 勝手な想像だが。

 「なら言ってみようか。立ち止まり過ぎるのもよくないからね」

 矢崎がのんびりと立ち上がり、みんなはどうするのかを尋ねた。

 「……行くっきゃないでしょ。二人にまかせきりなのは私としてもイヤだから」

 「僕もだ。まだここの真実を掴みきれていない以上探索は必要不可欠なことだし」

 そうだというようのみんなが同意していく。私も同じだ。だからこの波に乗る。

 「まあ……ミスター宮原はモノヤギからⅡ棟の存在聞いた途端飛び出して行ったけどさ」

 「行動早すぎか!!」

 

 

 マ ジ で い な か っ た

 

 

 早 す ぎ る

 

 

 *****

 

 

 こんな調子で大丈夫かって?

 

 

 大丈夫だ、問題だ

 

 

 ゲッフンッッ!! さて、食堂もといⅠ棟から出てみると、その右側の空間が広がっていた。そしてそこに大きな建物が。これがマンションのⅡ棟か。Ⅱ棟前にある地図を見てみた。どうやらここは『芸術棟』らしい。うん、そこなんで動けるところじゃないんだろう。そんなツッコミは心の中だけに留めとこ。

 「はあぁ、建物最っ高……!!」

 テンション高いなこのお父さん。Ⅰ棟出たときにはⅡ棟前にいたのに早速ダッシュで建物の中入ってったぞ。待っていたのか? いや待ってる意味ないやん。

 「地図によると……トイレとかは全階にあるから省くとして、一階は玄関と美術室1と2とその準備室、そしてお風呂もあるな。二階は物理室、化学室、生物室、植物庭園。三階は薬学室とカフェ。四階は女子の寄宿スペースで五階が男子の寄宿スペース。といったところか」

 「しっかしデカイ柱があるんじゃなあ。三階以外」

 「三階は大きな柱がなくて小さな柱ばかりなんだね」

 「解放感を出すためじゃない?」

 考え方人それぞれである。どのみち宮原が探索してくれていると思うので簡単な話は彼から聞こう。というか『芸術棟』って言ってるけどなんかすごい理系っぽいような棟な気がする。まあ風呂もあるしいいか。

 「じゃあ……探索する?」

 「しますか」

 みんなそれぞれ探索を開始した。

 

 *****

 

 さて私はどこから探索するか。上から下へ行く感じでいいか。それなら五階からだ。男子の寄宿スペースだけどまあ一応。

 ……って早速ダッシュして先にⅡ棟に入っていった宮原発見。

 「さっすがだなぁ!!」

 なにがだよ。

 「いやⅠ棟とあまり変わらないよね?」

 「そんなの入ってみなきゃわからないだろ!?」

 「いや私男子の寄宿スペース入れないわ」

 「え、女子でも入れるよね?」

 「いや確かに阪本さんと湊川さん入れていたけども」

 「ならいける」

 「いやどういう理屈だよ!!」

 ツッコミのおかげでさらに目覚めるわ。まあいいとして、結局宮原が自分の部屋に一人で入っていったわけで。ちなみに、鍵は電子生徒手帳が代わりらしい。

 ……ん? なんだこの地図は。五階の見取り図なのはわかるがなにやらランプが点灯している。ちょうど宮原が入った部屋の箇所だ。ガチャッと扉が開く音が聞こえてまたガチャッと扉が閉められるとランプは消えた。

 「どうだった?」

 「ああ、シャワールームがなかったよ。きっとここにお風呂が完備されているからだと思う。それ以外はまあ多少模様替えされている程度でⅠ棟とあまり変わらなかったかな。まあそれでもいいけどね!! レイアウトが変わると目の錯覚で部屋が広く見えたり狭く見えたりするし!! あっ!! あと色彩心理学とかも利用するとなるとさらに効果的で……」

 「長いわッッ!!」

 まーたあのときと同じ現象起きた。このお父さんのマシンガントーク長いわ。

 「ごめんごめん。まあそれはいいんだけど何か変わったことあった?」

 「それなら、ここの見取り図あるでしょ? これがついていたんだ」

 「……このライトがついていた? いつ?」

 「宮原くんがへやに入ったとき」

 ほうというように彼は腕を組み、左右交互にちょっと体を揺らす。

 「ここの寄宿スペース、もしかしなくても部屋に誰がいるかわかるパターン?」

 「そうだね……」

 プライバシーとは一体なんだろか? いやここにいる時点でそんなこと関係なかったわ。

 そういえば宮原といえば一つ気になることがあった。

 「ねえ宮原くん。昨日大丈夫だった?」

 「昨日?」

 「ほら、裁判終わったあとになんかすごい頭抱えていたから」

 裁判終了後、江上が頭を抱えて悶えた直後に彼も同じ現象に見舞われていたのだ。隣の阪本と金室には特に心配されていた。

 「ああそれね……」

 少し戸惑った様子で彼は周りを見渡し誰かいないかを確認し始めた。

 「?」

 「空はさ、俺が相手を呼ぶときにみんなの『名前』で呼んでるのはわかるよね?」

 「まあ確かにそういわれてみれば」

 みんなのことを名前で呼んでいる。

 「それで昨日……頭を抱えて叫んだ江上(・・)の名前を呼ぼうとしたんだけど……呼べなかったんだよ、なぜか」

 あれ?

 「今でも若干頭が痛い。江上(・・)の名前を呼ぼうとすると頭が痛む。まるでそうしちゃいけないって俺に訴えているようにね。自分のことなのによくわからない。そして」

 私に、指を指す。

 「直樹(・・)、この現象はお前に対してでも起きている(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 ………………

 

 

 んうぇぇぇぇええええ!?!?!?

 

 

 「でも今までお前を名前で呼べているしまだ今は平気。昨日みたいに激しい頭痛が起きるようなことにはなっていない。でも間違いなくはっきりとしているのは俺は江上(・・)だけ名前では呼べないということ。これは俺たちの記憶に何らかの影響があるんじゃないかなって踏んでる。もしそうなら、昨日のモノヤギが言っていた『着々と』の意味と繋がる可能性があるから」

 記憶……江上を名前で呼べない宮原。一体なぜ? なんとなく昨日の橘の行動から……いやでもまだよくわからない。

 「ああなんで空も江上(・・)と同じ現象なのかっていうとね」

 ちょっとだけニヤリとわらい耳元で囁いた

 「昨日のあれで思い出したんだ。空に……………………」

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 ッッ!?!?!?!?!?!?!?!?

 

 

 

 

 

 

 「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 「嘘じゃないからね。お前の記憶を取り戻していけばさらにわかると思うよ」

 

 

 

 とととととととととととととんでもななななななないことををををををききき聞いたたたたたた

 

 

 

 こんな調子で大丈夫かって?

 

 大丈夫だ。大問題だ

 

 

 

 よし私落ち着け。深呼吸だ。

 「……ふぅ…………えぇ……嘘でしょ……これって……」

 「まあ複雑な気持ちになるのはわかるから。下の階で何か飲んできたら?」

 「じょ、女子の寄宿スペース見てから行く……」

 「あはは……」

 困った笑みを浮かべて宮原はさらに探索を進めた。私はというと彼から聞いた衝撃的真実に頭を抱えてそれを脳内で無限ループさせていた。下降りろよ。

 

 *****

 

 こんな調子で大丈夫かって?

 

 大丈夫だ。大大大問題だ

 

 ゲッフンッゲッフンッッ!! ええ複雑な感情を抱きつつ四階に来た。そこでは矢崎がのんびりしながら探索していた。

 「矢崎さん、何か見つけた?」

 「ん~? そうだね。直樹ちゃん、電子生徒手帳の地図を開いてくれるかい」

 言われるがままに電子生徒手帳の地図を開く。

 「今からあたいが部屋に入るからよーく見てるんだよ」

 矢崎は扉を開け自分の部屋に入る。すると地図に点が現れた。ちょうど矢崎の部屋である。四階にある地図も確認したが同じくライトが点灯している。部屋から矢崎が出てくると手帳の地図の点は消え、四階の地図のライトも消えた。

 「どうだった?」

 「矢崎さんが入った部屋のところに点が出ていたよ」

 「そうだね。つまりⅡ棟の寄宿スペースは誰か部屋に入ったら点が着くってことなんだよね」

 電子生徒手帳でも確認できるのか。さっきの宮原とのやり取りを話すと矢崎は納得したように大きく頷く。

 「なるほどね。だからこれになーんかライトがあるんだ。きっと宮原くんの考察は正しいと思うよ」

 確かにこれは確定させていい内容だろう。

 「まあ一応宮原くんと確認しておくかな」

 「そのほうが確実だからね」

 

 ***

 

 よし、これで一段落もしてないわ。だからカフェ行く。薬学室もあるのだが落ち着きたいから先にカフェだ。中に入るとこれは広いと言うしかない。まじで広い。解放感が半端ない。カフェには国門がカフェにある雑誌を読んでいた。そしてなんと朝からいなかった橘もいた。彼もコーヒーかなんか飲みながら資料を読んでいる。私が入ったのに気づいたのか国門が声を掛けてきた。

 「コーヒーでも飲みにきたのか?」

 「まあそんな感じ。頭の中で整理仕切れていないことがいろいろあって……」

 「なるほど。そうだ、昨日は悪かった。あんな風になってしまって」

 裁判のあれか。

 「いいよ気にしてない。確かにヤバいとは思ったけど……」

 「だよなぁ……」

 自分でもわかっているのに直すことができない。今後国門が生き残っている状態で裁判が進めばどうなるか。自衛できるとは言っていたものの心配である。

 「……またカレンダー?」

 「それはさっきみた」

 見たんかい。

 「でも俺が今みてるのはこっち」

 そういって彼が手に持っていた雑誌を見せてきた。希望ヶ峰学園の雑誌のようだ。写真付きで卒業生や今入学している生徒などが写っている。また最新の雑誌には私たちも写っていた。なんか、ちょっとこそばゆい。

 「……おかしいと思わないか?」

 「え?」

 待て、この雑誌のどこがおかしいのだ。

 「いや雑誌は別におかしくはないんだ。おかしいのは僕たちの記憶のほう」

 「どういうこと?」

 「……この件はあとで話す。みんなの前でのほうが話がはやい」

 ……彼の言うおかしな点とは一体なんなのだろうか?

 

 ***

 

 コーヒーを淹れて飲む。ふぅ、落ち着く。

 さて一応一か八かみたいな感じはあるが橘からも何か情報が得られるだろうか。

 「橘くん?」

 「…………」

 反応なし。そうとう資料を読み込んでいるようだ。

 「……ディーラー?」

 「え?」

 ボソリと呟かれたダグラスの才能。思わず反応していた。

 「おい、翻訳家。てめぇはこいつが誰に見えんだ?」

 私の存在には気づいていたみたいだ。私に目の前の席に座るよう促してから彼は読んでいた資料を見せてくれた。

 そこには確かにダグラスとおぼしき雰囲気の長髪の男子がカードを切っていた。

 「ダグラス……くん?」

 「てめぇもそう思う……か」

 「仮に彼がダグラスと仮定すると今とはちょっと違うね」

 「髪の毛を一本でまとめている上、蝶タイじゃなくてネクタイ。そしてサングラスを掛けてねぇ」

 私たちの知るダグラスはサングラスを掛けている。頑なにその下を見せようとしない。なのにこの資料ではそのサングラスを掛けていない。しかも、しかも……

 「『オッドアイ(・・・・・)』……」

 「ざっとこいつを見りゃ、こんときはまだ見せられたんだろ。でなきゃサングラスを外している理由がわからねぇ」

 「サービス、にしては……何か違うし……」

 うーん、ダグラスに関する謎が増えた。元々サングラスの影響もありミステリアスな彼だがそれを含めても、だ。

 「……………………は?」

 「え?」

 「てめぇちょっと黙ってろ」

 なんだどうした何があった。資料をバッと取り上げ彼自身しか見えない状態になる。嗚呼自分の頭の中ではてなが浮かんでいるなぁ。

 

 バアアンッッッッ!!!!

 

 橘が資料を叩きつけ驚いた表情で目を見開いた。とはいえ顰めっ面は相変わらずなのだが。

 「……おい……生きてんのか……? やつは……生きてんのか??」

 やつって誰だ。

 「……いや、確かに……いや……なんでだ……なんでこうも思い出せねぇんだ!?!? くそったれがァァア!!!!」

 うん。

 「うるっさいわぁ!! ここはカフェでしょうが!! ちゃんと周り考えんかぁぁあ!!」

 私は近くにあった分厚い資料を持って橘の頭目掛けて振り下ろす。

 

 

 ゴッ!!!!

 

 

 ドスッ!!!!

 

 

 「グオッ!?!?」

 「ガッッ!?!?」

 ちょ、右脇痛い……杖ェェエ……そしてどうやら橘も頭を押さえている。

 ええ何が起こったかと言いますと……私が橘に向かって資料を振り下ろしたと同時に橘も素早く杖を抜いて私の脇目掛けて当てたというわけで。

 

 

 結論:クッソ痛いです

 

 

 「君たちバカなのか? 正論言ってるはずなのに直樹も橘とやってること変わってないぞ?」

 一部始終を見ていたらしい国門に一言めちゃくちゃ冷静に呆れられながらそう言われた。すまねぇ、すまねぇ……

 

 いろいろあってカフェの探索は終わったが、これは休めてないな。最初しか休めてないまる

 今さらだけど橘とまともに話したのは今回が初めてかもしれない。

 

 

 *****

 

 

 

 

 

           to be continue……

 

 

 



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第二章(非)日常編 乱れる2部屋目

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 *****

 

 とんでもないバカをやらかしたけどまあいいよ。脇腹擦りながら次探索しよう次。薬学室行こう。

 扉を開ければたくさんの薬品が並ぶ戸棚が複数目に留まる。そしてこの部屋には巡間がいた。医者だからか難しそうな本を読んでいたようだ。私が入ったと同時に彼は読んでいた本に栞を挟めて声を掛けてくる。

 「直樹くんじゃないか」

 「うん。さっきまで何を読んでいたの?」

 「これか? これは薬学書だ。薬剤師ほど詳しくはないがなかなか面白くてつい見いっていた」

 「きっとその系統の人にしかわからないような感じだよねそれ」

 「まあそうだ。でも正しく取り扱わないといけないから私としてはこれは重宝する」

 さすが医者、真面目に患者のことを考えている。

 「どこまで読んでいたの?」

 「ああ……ちょっと物騒なところを……」

 おい待て薬学書に物騒なこと書いてるの。

 「昔実際に起きた毒物に関する事件があるんだ。例えばトリカブトとフグの毒を使った事件とか、ヒ素を料理に盛って身内、親戚、近所の人などたくさんの人を手に掛けた事件とか、犯人だけ砂糖が取れるような状態に工夫された毒殺事件とか、幼いながら薬に興味を持った少年が身内を殺害したとか……いろいろな毒物に関する事件が載っている」

 「うわぁ毒殺事件結構多い……」

 「どれも悪質な事件だ。ここにある薬品も」

 そういうと彼は棚を開けて二種類のビンを取り出す。片方は液体で片方は粉のようだ。

 「この粉は『カンタレラ』。この液体は『ヒ素』」

 「うわっさっき言ってた身内とかいろんな人を殺害したやつ!?」

 「恐ろしい毒だ。本当に。でもヒ素だって立派な薬の材料の一つになる。それにヒジキとかの海産物あるだろう? あれにも有機ヒ素として含まれている。まあ毒性はないんだがな」

 「ほあぁ……」

 うん、私にはやっぱり理系向いてない。さっっっっぱりわからない。 

 「無理して覚える必要はないからな? でも本当にこの本は使えるな。勉強になる」

 「勉強熱心だね」

 「人を救える可能性が高い職についた者の因果ということだ。私は一切『苦』だと思ったことはないよ」

 さすがは医者。今までにたくさんの命を救ってきただけはある。小さな大物とはこのことだろうか。

 

 

 

 

 なぜだろう

 

 

 

 彼の動きがどことなくぎこちなく感じてしまうのは

 

 

 

 ***

 

 三階の探索を終えた。二階へいざ参らん。こんなノリでいかないとちょっと自分が保てない気がした。おかしい? いつものことだよ気にしちゃダメ。

 化学室に行ってみるか。そんなわけで化学室へ。やはり薬学室とはまた違ったたくさんの薬品が並べられている。ボンベとかもあるのか。

 ん? 化学室の中に小さな部屋発見。ここの部屋はなんだろうか? ドアノブに手をかけて開けてみる……

 

 

 !?!?!?

 

 

 「ゲホッゲホッ!?!?!? た、タバコくさっ!?!?」

 ちょちょちょちょちょ!?!? なんで!? なんでタバコ!? タバコなんてここにあるの!?

 扉を開けた瞬間に鼻につくタバコの臭い。私はタバコの臭いそこまで得意じゃないからすぐに口元を押さえた。すると……

 「……面倒なことを……」

 ものすごく呆れてながら電子生徒手帳片手にタバコを吸う玉柏の姿があった……呆れたいのこっちだよ、面倒言うてこっちも面倒だよ……

 「なんでタバコ吸ってるの……」

 「いいだろ。常に持ってても厨房だと近衛いるから吸うにも吸いづらいし、未成年のお前らの前でも吸うのは気の毒だし……」

 「……へ? 玉柏くんもしかして」

 「二十歳だな」

 

 

 

 

 

 

      …………………………

 

 

 

 

 

 

       今日の午前だけで

 

 

 

       いろんなことが

 

 

 

         同時に

 

 

 

 

        起きすぎて

 

 

 

 

 

  >>>全く頭がついていってない<<<

 

 

 

 

 

 「二十歳? え? 大人の階段に片足突っ込んでいるってこと???」

 「そうだ。酒も飲めるぞ。久しぶりに芋焼酎とか飲みたいな」

 「未成年の前でんな話するんかい!!」

 「乗ってきたのお前だろ」

 「そうだけど」

 「ここの探索は済んでるし、他の奴らも二階の探索は済ませてる。風呂辺りにでも行ったらどうだ? どうせ今日からみんな入るんだろ」

 「まあ……確かに……」

 「下見ぐらいしておきな。ああ安心しな。俺は裸に興味ないから覗きなんてしない」

 「女子の前でそんなこと言わない!!」

 「だって俺狼よりも鷲の方がいい」

 「誰もこの人を動物に例えたらとか好みの話してないから!!!! ていうかタバコ吸うのやめろぉぉ!!!!!!」

 なんか今日もう持たない気がしてきた

 

 *****

 

 

 こんな調子で大丈夫かって?

 

 大丈夫だ。大大大大大大問題だツッコミ疲れた

 

 

 廊下出たら確かにダグラス、灰垣、金室が廊下を出るのが見えた。つまりはそういうことか

 玉柏の言う通り一階に降りて風呂場の方へ。渡良部と近衛がいるようだが何やら様子がおかしい

 

 |д゚)チラッ

 

 「これは……」

 「いや間違いないよね? 間違いないよね?」

 「間違いないと存じますが、これは、あの」

 「執事ってそういうところ見慣れていると思ってたんだけど?」

 「渡良部殿、わたくし高校生でございますよ? そんな不順行為に興味は抱くことはこざいません」

 「それはそれで問題じゃない?」

 「いえ今はまだよろしいのでございます!!」

 

 うん

 

 「何の話だよ!!!!????」

 「直樹(トン)!?!?」

 「な、直樹殿!? い、いかがなさいましたか?」

 「いや玉柏くんに言われてこっちの探索しようと思ったよ!? 思ったけど!? 二人して何の話してるの!? なに!? 見た感じ更衣室は分かれているみたいだからそれはいいとしても、お風呂が混浴みたいなそんな感じなの!?!?」

 「………………」

 「………………」

 えっ何で二人して黙るの? え? まさか?

 「……ドンピシャ???」

 「はい……」

 「そうだけど……」

 「せめて嘘であって欲しかったよ!! 確かにそれは近衛くんちょっと問題あるけど!!」

 「なにゆえ!? いえ良いのです!! お嬢様とのお約束もございますし……」

 そういえば近衛はあまり自分のことを語らない

 「……えっと、差し支えなければ近衛くんのお嬢様ってどんな人なのか教えてくれる?」

 「お嬢様でごさいますか?」

 「あ、それは私も気になる。近衛(リーチ)の仕えている人のこと少し知りたい」

 女子二人からの視線を受けて、近衛は少々後退りをしたが逃げ場のない状況のためか彼はモノクルをクイッと上げて話した

 「わたくしの仕えているお嬢様は、とてもやんちゃで、しかし大変世話好きで、何時もわたくしたち執事やメイドのお手伝いをしたいと仰ってくれる……そんな方でございます。その姿はとても可愛げがありいつもお屋敷ではわたくしたちを和ませてくれる存在でございました」

 「へえ、今そのお嬢様は」

 「……生きておりますよ」

 「ホント!?」

 「いえ、確信があるわけではございません。ですが……信じたいのでごさいます。そうでなければ……わたくしは……約束を果たせず……死んでしまいます……伝えたいことを……伝えたい。あの方に……この気持ちは一体、何なのでございましょうか?」

 ふいに彼の顔が暗くなる。彼の言う『約束』とは一体何なのだろうか?

 「おっと、そろそろお昼ではございませんか。先に失礼いたします。すぐにお昼の用意を致しますので」

 電子生徒手帳を取り出して時間を確認した彼はそう言うと足早にお風呂を出ていった。

 「あ、直樹殿」

 廊下からひょっこり顔を出してふいに名前を呼ばれた。

 「ご無理はなさらないでくださいね?」

 「え? う、うん」

 突然どうしたのだろうか? まあいいか。私と渡良部は顔を見合わせてゆっくり戻ることにした。ん? 渡良部の目に不安感が宿っている気が……

 「なんだろう……私のこの胸が締まる感じ……?」

 「渡良部さん?」

 

 *****

 

 「そういえば渡良部さんっていつからゲーム好きなの?」

 「小さい頃から。親がギャンブル大好きだったから。ていうか親二人ともギャンブル依存症」

 「ギャンブル依存症!?」

 うわお……渡良部さん大変だったんじゃ

 「この話、話すとすごく長くなるから今日はお預け。いい?」

 「うん、とりあえず渡良部さん大変だったんだろうなぁって思っておく」

 「そうして」

 

 プルルルル!!!!

 

 突如、私の生徒手帳が鳴る。そういえば朝にモノヤギが通話機能を入れたって言っていたからまさか……? 電話に出てみる

 「はい、直樹です」

 「ブフッ!!!!」

 なんか吹かれた

 『な、直樹さん!? 今すぐ来れる!?』

 「み、湊川さん? どうしたのそんなに慌t」

 『ダグラスくんと橘くんの二人が喧嘩してるのよ!!』

 「なんで私に連絡した!? ていうか今みんなそこにいるの!? どこ!?」

 『食堂よ!! 近衛くんから聞いたけど、渡良部さんと一緒なんでしょ!? あとあなたたち二人だけだから早く来て!!』

 「え!? わ、わかった!!」

 

 

 

 ブツッ……ツーツーツー……

 

 

 

      まずい状況になった

 

 

 

 「渡良部さん、今すぐ食堂にダッシュ」

 「ダッsy……」

 「Ready Go!!」

 「え、ちょ、はやっ!?!?」

 「余所見なんてできるかぁ!!!!」

 「あんた変なスイッチ入ってるせいでおかしくなってない!?!?」

 それは多分朝からです

 

 *****

 

 通話機能便利かよ

 

 裏口から食堂に入る。その方が早いから。はいそこ、今まで私たちが裏口の存在を忘れてたなんて言わないの

 「はぁ、ごめんっ遅れた!!」

 「ちょっと、はやい、待ってよ、ゼエ……ゼェ……」

 「直樹さん!!」

 入ったら湊川の言うとおりの状況で……橘がダグラスの胸ぐらを掴んで問い詰めている。付近に宮原が倒れていて阪本が側にいる感じだ。

 「宮原大丈夫?」

 「あ、ああ、大丈夫。ありがとう莉桜」

 宮原はお腹(具体的に言えば鳩尾辺りだろうか)を抑えているようで恐らく橘に攻撃されたのだろう。

 「てめぇ!! 知ってんだろうが!!」

 「だからそれは一体何なのさ!? 何をミーが知っているのさ!?」

 何かをダグラスから聞き出そうとしている? けれど何を問い詰めているかがさっぱりだ。

 「しらばっくれんじゃねぇ!! わかってるはずだろうが!! 『森の恐怖』の事件を!!!!」

 『森の恐怖』? 突如橘の口から出された謎の事件。

 「っ!? ヴッ……!?!?」

 しかしそれはダグラスも知っているようだ。事件の名前を聴いた途端に驚いた様子で顔を歪ませている。

 「ユー……は……知って……いるのかい? あの……事件を……?」

 「ったりめぇだ!! そこにやつに、やつがいたはずなんだよ!!」

 「頭が痛い!! 叫ばないで!! そして誰なのさやつって!?」

 「『F.T』だ!! わりぃがイニシャルだけしか思い出せてねぇ!! だがやつが『森の恐怖』に間違いなく関与してんだよ!!」

 『F.T』……人であることは間違いなさそうだが誰だ。しかし、思い出せていない、とはどういうことだろうか。

 「二人とも、やめてくれますか。こんなところで大きくみんなを騒がせているなら、少しくらいうちたちに何かしらの情報共有して欲しいです」

 言われて橘は渋りながらダグラスを突き飛ばすように離した。ドカッと食堂の椅子に座りカフェで持ってきたであろう資料を広げる。

 「これは?」

 「『森の恐怖』についての資料。そしてディーラー、あんたの素顔も載っている」

 「!? うそ!? ま、まさかミーの……」

 「知ってる。てめぇのサングラスの下が一体どうなってんのかな」

 あれ『森の恐怖』の資料かよ。字全っ然読んでなかった。

 「そろそろ見せたらどうだ? てめぇが目を隠す理由は前に聴いた。が、この資料見たらどうもそうじゃねぇ気がしてならねぇんだよ」

 「やめて」

 「お辞めください、橘殿」

 渡良部と近衛が口を開く。橘は二人を静かに睨み付ける

 「ダグラス(ドラ)をそんなに責めないで。責められることは何もしてないし、何よりその事件は多分だけどダグラス(ドラ)の傷にもなっているから」

 「ダグラス殿はわたくしたちに何か悪いことでもしましたでしょうか? いえそんなことはございません。彼のサングラスの下については渡良部殿と共に存じておりますが無理に晒す必要もないと存じます」

 「よそのくだらねぇご託はいらねぇ!! やめろや。じゃねぇと本気でてめぇはここで生きられねぇ。アホ抜かす暇あんならさっさと見せろよ」

 冷たい殺気が私たちを襲う。

 「…………」

 ダグラスは渡良部と近衛に守られつつも橘の話にも耳を傾け悩む。腕を押さえ何かに怯えるような素振りをみせる

 「……いいさ」

 彼は悩んだ末にみせる選択を選んだ

 「ダグラス殿!?」

 「今ミスター橘に言われるまで全くなかった『森の恐怖』の記憶が甦ったよ。サングラスはとる。けどすぐに掛けさせてもらう。説明はそのあとさ」

 そういうがはやいか彼はサングラスを外した。目を瞑ったままの彼の素顔が現れる。そして

 

 

 眼が開かれる

 

 

 ***

 

 

 

 整った顔立ち

 

 

 

 どこかに傷があるわけでもなく

 

 

 

 純粋にかっこいいと思えるそんな素顔

 

 

 

 サングラスによって隠された目は

 

 

 

 綺麗な目であった

 

 

 

 思わず見いってしまいそうになる

 

 

 

 右目は黄色、左目は青

 

 

 

 

 

 オッドアイ

 

 

 

 

 

 

 

 「オッド……アイ?」

 「正式には虹彩異色症。日本では金目銀目とも呼ばれているやつさ」

 ダグラスは本当にすぐにサングラスを掛けてしまった

 「さて、説明だね。『森の恐怖』はとある森のお屋敷で起きた大量殺人事件のことさ。そしてミーはそこの屋敷で行われたゲーム大会でディーラーを務めていた」

 大量殺人事件……

 「……その頃ミーはこの目を隠していなかった。誰かに疎まれることもあったけど、別にただ目の色が違うだけで差別する理由なんてないって思っていたから、特に気にしなかったのさ」

 「But ……この事件はミーを、いやそこの参加者全員を脅かすものになってミーはサングラス(これ)をつけることになった」

 「……どういうことです?」

 ダグラスはその場で胡座をかいて語る 

 

 *****

 

 始めからもう一回説明するよ

 あの日、ミーはお屋敷のオーナーに仕事を依頼された。それは『森にある私のお屋敷でパーティーがあるからそこのゲーム大会でディーラーをやれ』っていうものだった。フリーのディーラーだから依頼があればそこに行ったり、一定期間カジノで働いたりなんてこともあったから、特に何も気にせずその仕事を承諾したのさ。

 当日、ディーラーに必要な道具一式を持ってお屋敷に行った。何の変哲もない普通のお屋敷だった。大人から子どもまでいた。そしてパーティーは始まった。最初は普通に盛り上がっていたよ? 誰も変な動きをしていなかったし怪しくもなかった。

 始まってから三時間くらい経ったころだったかな。突然、お屋敷が停電した。悲劇の始まりだった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 『な、なんだ!?』

 『て、停電か!?』

 『落ち着いてください!! 今ブレーカーを上げるよう言っていますのでその場で待機を!! 机付近にいる方はそこにあるライトをつけてくださいませ!!』

 小さなライトがついた…………そのときだった

 

 

 

 ドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 突如響くマシンガンの音

 

 

 

 

 

 パリンパリン!!!!

 

       グシャッグシャッ!!!!

 

             ドーンドーンドーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 同時に落ちたり割れたりする道具やガラス

 

 

 『キャアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 一人の女性が叫んだ

 

 

 

 

 

 バァンッ!!!!

 

 

 

 

 

 その声は銃声とともに掻き消され

 

 

 

 

 

 ドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 バァンバァンバァンバァンッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 鳴りやむことのないテロに

 

 全員どうすることも出来なかった

 

 机の下に隠れたり、カウンターや死者を盾代わりにしていたり、それぞれだった

 

 敵の姿は一切見えない

 

 けど誰かがこちらに向かってくる様子はなくて

 

 ミーはカウンターを盾にその場を凌ごうとして

 

 

 

 

 バァアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 『ウワァァァァァァァアア!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 刹那、ミーの目の前……いや反対側だったけど……

 

 一人の男の子が片目(・・)を撃たれた

 

 驚くことしか出来なくて

 

 彼はなんとか身を隠したけど痛みで悶絶する声が何度か聴こえた

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 不気味に銃声が止んだ

 

 

 

 

 コツッコツッコツッ……

 

 

 

 

 複数の足音がだんだんだんだん

 

 こちらに向かってくる

 

 足音の主がオーナーに向かってこう言った

 

 

 『バイアイはどこだ?』

 

 

 ミーはその言葉を聴いてゾッとした

 

 もしかしてミーを狙うために

 

 やつらはここに来たんじゃないかって

 

 

 『バイアイ』……つまり『オッドアイ』

 

 

 『そいつがいれば金儲けできる』

 

 

 『どこだ? そいつはここにいるはずだ』

 

 

 『どこにもいないわけがない』

 

 

 『はやくしろ。さもなくば貴様の命はない』

 

 

 目的は金儲け、よくある話だけれど

 

 ここまでひどい惨状にするとまでは

 

 生き残ることができた人全員

 

 当時誰一人として思ってなかった

 

 オーナーは頑なに

 

 

 『そんな人はいない』

 

 

 と抵抗した

 

 

 『教えないか』

 

 

 ミーを守ろうとしたのか

 

 それとも他にいた

 

 ミーと同じ人を守ろうとしたのか

 

 どちらかなんてわからない

 

 少なくともそんなことを

 

 考えている余裕はなかったから

 

 

 

 

 スチャッ……

 

 

 

 

 

 『終わりだ』

 

 

 オーナーに告げられた残酷な死

 

 ミーは怯えることしかできなかった

 

 何もできなかった

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 バアァァァァァン……!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 二つの銃声が響いた

 

 それからミーの意識は途切れた

 

 目が覚めたときには

 

 病院のベッドで寝ていた

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『森の恐怖』について語られ食堂は一気に静まり返った。そんな事件があっただなんて

 「あれから人前で目を出すのが怖くなった。またそのときと同じことが起きるんじゃないかって……人の視線も苦手になってさ」

 震える声。それは事件に関わった彼だからこそ分かる恐怖。森の屋敷で起きたテロ。まさに『森の恐怖』なのであった。

 「皮肉な話さ。突如『戦場』になったところには『戦士』なんていなくて。例え『戦士』がいてその人が死んだ、つまり『戦死』だね。『戦死』したとしても、それを洗ってくれる『洗浄』場はどこにもないんだからさ……」

 言い方がうまいというかなんというか。でもそれは紛れもない事実だったに違いない。

 「話はわかったけど、それが何で橘と関係しているの? それに『F.T』って? 『森の恐怖』と何の関係があるの? さっき関与しているって言ってたけど」

 阪本の疑問は最もだった。

 「……やつはそれを終結させた。平たく言えばディーラー、てめぇとその関係者を助けた人間だ」

 「…………What?」

 「……ッチいちいちいちいちムカつくなてめぇ!!」

 ガタッと椅子を飛ばしながら立ち上がりダグラスの胸ぐらをふたたび掴む。

 「今の話聞く限りじゃ本当にやつのことを覚えていないみてぇなのは認める。けどな!! 俺たちを守ったやつ(・・・・・・・・・)を忘れるってのは許さねぇぞ!!?」

 ……はい?

 「えっ、待ってよ。それどういうことなの?」

 「私たちを守った……?」

 反応に困る私たちに逆に橘も驚きの顔を見せた。

 「……は? ……てめぇら、本気で言ってんのか? 『F.T』は俺たちを守ったやつなんだぞ? なんでてめぇらはそんなことも忘れているんだよ!!? 思い出せていねぇんだよ!!? 同じ『超高校級』の才能を持った仲間だろうが!!!?」

 仲……間……?

 「それになぁ!! 俺たちは希望ヶ峰に…………アッ……希望……ヶ……峰に…………アッアア……グアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 手を離し、橘は雄叫びを上げて床に倒れ伏す。雄叫びは食堂全体に轟き全員耳をふさいだ。頭に響く。

 「全く橘はしゃべりすぎであーる」

 「……ッツモノヤギィィイイイ!!!!?!!!!?」

 恨むように睨み付け恨むように名を呼ぶ。

 「そこまでしゃべられたらァ、ワレもおもしろくないのであーる。記憶も、感情も、世界も、ここではワレが管理しているのをォ、オマエラは忘れているのであーる」

 「っざっけんな!!!!!! てめぇのせいで……てめぇのせいでっ……!!」

 「ワレのせいにするであーるかァ?」

 コツコツと蹄の音を響かせて橘の前に立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オマエが殺したも同然なのに(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 くそったれが

 

 地獄に突き落とされたような絶望感

 

 てめぇに俺の何がわかる

 

 てめぇは俺の○○をすでに

 

 殺している(・・・・・)くせしやがって

 

 てめぇのその面が腹が立つ

 

 てめぇが余計なことさえしなければ

 

 俺は

 

 あいつを……

 

 おい

 

 なんで

 

 何も出ない

 

 なんで

 

 声が出ない

 

 なんで

 

 何も伝えらねぇんだ

 

 頭がいてぇ

 

 何も伝えらねぇ自分に腹が立つ

 

 わざわざ朝一から

 

 誰もいない朝から調べたってのに

 

 ちくしょうがぁ……!!

 

 

 *****

 

 「ヒィッヒッヒッヒッヒィ……愉快愉快ィ!! ではワレは失礼するであーる」

 モノヤギの言っていることは事実に近い。なぜなら、あのとき江上を突き放したから。

 ……でも何か意図があったとしたら? あのとき橘はなんと言ったか? 江上を押した、あの瞬間、彼はなんと言ったか?

 

 

 

  『だったら思い出させてやるよ!!』

 

 

 

 まさか橘は私たちの知らない情報をたくさん持っている? それなら、今モノヤギによって……どう表現すべきか……制限? 抑制? どちらでもいい。どちらにせよ、そういうことで口に出すことを抑えつけられたのなら説明がいく。

 「くそったれがぁ……」

 悪態をつくのも無理はない。しかしそれでも彼のやっていることは少し強引過ぎる気もしている。

 「はあ……ちょっとだけ……僕たちの記憶に関することが疑問として浮かんだ気がする」

 溜め息つきながら首に手を当て国門は私たちに近づいた。

 「なーんなんだい? それは」

 「説明するよ」

 

 *****

 

 「まずこの資料を眺めて欲しい」

 カフェで取ってきたであろう資料がテーブルに広げられる。

 「これは……」

 「これ、希望ヶ峰学園の雑誌?」

 「そう。で、これを見たあとに君たちはなにか不思議に思わないか?」

 不思議に思う箇所……さっきも彼はいっていたが私たちの記憶がおかしいと言っていた。しかし全くわからない……

 「国門(イッツー)の言いたいことわかったかも……」

 「本当か!?」

 「多分だから、そこ注意。でも私の想定する中だと、不思議なのは雑誌じゃない。不思議なのは私たちの記憶のほう」

 「やっぱりそう思うか」

 「うん」

 「ワタシもわかったかも……」

 渡良部と阪本は何かに勘づいたようだ。国門と同じ意見で。

 「ねえ、希望ヶ峰学園に入学するって決まったらみんなどうする?」

 「そりゃあ希望ヶ峰学園について調べるじゃろ」

 「ええ。下調べなしに来るのは不安もありますから」

 確かにそうだ。私も調べて希望ヶ峰に入学したから。別に何も不思議ではないはずだ

 「そう、今の灰垣(ロン)金室(イッパツ)の反応が普通。けど、ここからが本題」

 「もし下調べしたなら希望ヶ峰学園のことだから超高校級の才能を持った人の名前を載せているから誰が入学するのか把握できると思う。じゃあ最初にここで出会ったときに、みんなはどう感じたの?」

 最初に会ったとき……確か……

 「『こんな人がいるのか』みたいな感じだったかな。『見た目からは想像もつかない』とか……」

 「『この人こんな才能持っているんだ』とかも考えたかも」

 「……それが、どういうことかわからないか?」

 どういうこと……か……? …………待てよ……

 「なんで下調べしたはずなのに、何で相手のこと何も知らなかったんだ? あれ、見たよね? あれ……待って……見たっけ……???」

 「確かに……特徴的な人なら『あなたがあの才能の人ね』みたいになってもおかしくないわ」

 「けどそれが自己紹介時点でなかった。誰も不思議に思わず自然と受け流されていたんだ」

 「まさか俺たちの記憶のほとんどが失われているってこと? 家族とか過去とかの記憶の一部を残して?」

 「少なくとも僕はそう考えている。現に今ダグラスの言った事件、僕は知っていてもおかしくないはず。にも関わらず覚えていない。今聞いて初めてあったかもしれないっていう程度になった」

 確かに三人のような疑問点に納得がいく。では一体なぜモノヤギは私たちの記憶を消したのかにも疑問かいくが、コロシアイさせるために余計な記憶を消したと考えれば不思議ではないかも知れない。

 「ではもう一つ気になる点とは?」

 「え?」

 「いえ、先ほど国門殿は『まず』と切り出しておられましたので、まだ何か話すことがあるのかと存じまして」

 わお、よく人の話を聴いているなぁ。思考が追い付かないや。

 「言ったな。で、もう一つ気になることは……これも記憶についてだ」

 「どういう感じじゃ?」

 「橘、君はなぜ江上の肩を押して思い出させることができたんだ?」

 「…………」

 「それだけじゃない、宮原。君も同じでなぜ江上が名を呼ぼうとしていた。けど呼べなかった。なんでだ?」

 「確かにそれは考えたよ」

 「それと今のダグラスも同じ……そうだろ?」

 「Yes. 」

 「また全員に共通して……モノヤギからコロシアイの動機としてもらった一枚の写真。これは僕たちの記憶を取り戻した要因になっている。そして記憶が戻る際にほぼ必ず起きるのが頭痛。頭痛が起きることによって記憶を取り戻すことができる、それは誰かの行動や発言が元になっておきている」

 「でもなーんでそうなるのかな?」

 「可能性としては、記憶を少しずつ取り戻させることで、僕たちの外に出たい欲求を膨らませてコロシアイを起こそうとしているというところだと。確証はない」

 「十中八九そうだろ。コロシアイ生活の中だからこそその理由が成り立つ」

 「でも一応いっておくと、必ずしも頭痛で引き戻されるとは限らない。今までたまたま頭痛になづた直後に記憶を取り戻しただけかも知れないから。そして僕の中で今最悪のケースが脳裏を過っている」

 「…………というと?」

 「今の僕たちが僕たちでないこと。今の僕たちの姿が本来の僕たちの姿でないこと」

 自分が自分でない。それはつまり……つまり……あれ、どういうことだ?

 「謎はまだまだあるってことかぁ……」

 二つの不思議な点、疑問点。これらは一体これから、どう私たちの行動に作用していくのか。

 ああ頭の中がごちゃごちゃしている。考えるのが面倒になってきた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ……

 

 

 

 

 おか……しいな…………

 

 

 

 

 

 体……熱いや…………

 

 

 

 

 

 …………目眩もする……

 

 

 

 

 

 

 …………視界が……

 

 

 

 

 

 

 ……………ぼやけ…………て…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 朝の時点ですでにみんなの調子は悪そうだったが、特にあいつは二階で会ったときから、そうとう疲れたような雰囲気があった。タバコのにおいに刺激されたのか、あるいはその前からなのか、理由はわからないが。今の今まで無理して笑顔を作っていたような気がした。無意識なら余計にたちが悪いが。

 いつも誰かのボケにすぐさま反応してキレのあるツッコミを入れて、それは俺たちにとってもある意味平和の象徴といってもいいくらいだった。まあコロシアイは起きてしまっているが。けどそれでもだ。俺たちにとっては大事な存在だ。仲間として。

 そいつが今、一瞬ふらついた気がした。立ち眩みかと思った。が、よく見れば少し顔が赤い。今にも倒れそうだ。

 体が勝手に動いていた。俺はとっさにその人のところまで行った。そしてあいつは案の定倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドサッ……

 

 「おっと!?」

 「な、直樹さん!?」

 「直樹!?」

 突然倒れた直樹を俺は間一髪で抱き抱える。

 「はぁ……はぁ……はぁ……」

 息が荒い……手をデコに当てれば熱がある。汗もダラダラかいている。ホントにバカなことを。まあ俺たちが無理させすぎたのかもしれないから責めるのも違うな。

 「熱あるな。ったく無理するな。今日はゆっくり休め。あとはまかせな」

 「ご、ごめん……」

 「謝るな。むしろこっちこそ無茶させすぎた」

 「じ、自分で歩く…………」

 「バカ言うな。また倒れられても困る。運んでやるから大人しくしてな」

 まあ状態が状態だからお姫様抱っこになるのは許して欲しいが。

 「巡間、医務室に連れて行くぞ」

 「ああ。私も直樹くんの容態をしっかり確認しておきたいから」

 「わたくしは直樹殿のために別で昼食を用意致しましょう」

 「玉柏(ツモ)、あとで呼んで。私もそっち行く」

 「了解」

 個室以外の故意の就寝を禁止しているこのマンションで今ここで直樹に寝られたら困る。負担を掛けないようにかつ、なるべく急いで医務室に運ぶことに。

 

 *****

 

 

 ピピピピ!!!! ピピピピ!!!!

 

 

 「はい……」

 「ん……」

 「……はぁ……はぁ…………」

 「熱計り終えたんだからもう起き上がらなくていい。寝ときな。…………巡間、どうだ?」

 「37度4分……ふむ、ここでの生活がストレスとなっていたのだろう。熱は高いが少し休めば大丈夫、けど今日は安静だ」

 「そうか。それならよかった」

 「ホント……ごめん……」

 「だから謝るなって」

 医務室で直樹を寝かせ、濡れたタオルをデコに当ててやる。やはり今までのストレスが溜まっていたか。……昨日は鷹山と江上の死に直面している。体調がうまくコントロールできなくなっても不思議じゃないか

 「玉柏くん、少し待っていてくれないか。一応薬学室のほうからいい風邪薬取ってくる。なにかあったら電話してほしい」

 「了解。行ってこい」

 いなくなるのを眺めてから再び直樹のほうに向き直る。

 「具合は?」

 「さっきよりは少し……でもちょっと暑いかな……」

 「脇下にタオル挟めるか?」

 「お願い……」

 「んじゃ失礼、ちょっとだけ腕挙げろ」

 タオルを挟めてまた布団をかけてやる。気持ちよさそうにまぶたを閉じ、ゆっくりと息をする。今までの直樹とは多い違いだな。

 「気持ちいい……」

 「そうか、よかった。しばらくはここにいるから、何かあったら言えな?」

 「うん、ありがとう……」

 テンションに大きく差があるから、ちょっと調子狂うな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      『いつもありがとう』

 

  『無理して倒れられるのは勘弁だぞ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !?!?!?!?

 「ど、どうしたの?」

 「えいや、なんでもない……」

 なんだ、今のは……フラッシュバックか? 仮面で顔の一部を隠したあいつらは何者だ? 俺はどこにいた? どこに?

 「……そっちも、無理しちゃダメだから……ね?」

 病人に言われると重みが……けど事実、無理し過ぎで倒れるのは俺からも願い下げだ。早く俺の記憶を取り戻したい、取り戻さなければならない。検討は付いている。部屋にあった「アレ」。間違いなく俺の才能に関わる重要なブツ…………ん?

 いやもう考えるのはやめにしよう。ちょっと本取るか……

 「……どこいくの?」

 「ん? いや、ここの本を取るだけだぞ?」

 「そっか……」

 「もしかしていなくなると思ったのか?」

 「……そう……かもしれない……自分でもわからないや……」

 

 *****

 

 

 

 『自分でもわからない』

 

 

 

 『けど、貴方にいなくなられたら困る』

 

 

 

 『ボクたちにとって大切な存在だから』

 

 

 

 *****

 

 ……っ……またか。また……けど、なんというか……

 「そろそろ眠気がキツいや……」

 直樹は似てるのかなと、見た目は明らかに違うが俺の隠された記憶にいるあいつと……

 「なら寝とけよ。まだいるから。ここでの就寝は禁止されてないって校則に更新されているし、安心して寝な、な?」

 「うん、ありがと……おやすみ……」

 「おやすみ」

 

 

 いつもありがとう。お前が元気であるだけで、俺たちは救われるから。俺自身は救われている気になっているだけかもしれないが。どうか明日は元気でいてくれ。

 

 *****

 

 スースーと寝息を立てながら直樹は眠りにつき、俺は医務室の本を読み漁る。そこで『森の恐怖』についての文献を見つけた。

 ……ダグラスが言っていた断片的な内容が載っていた。生存者97人、うちの軽傷11人、重傷86人、死者564人、か。結構な人数いたんだな……計661人。誰一人無事では済まなかったのか……

 他にも『幸福万歳』を謳う死神のような殺人鬼や謎の三人組の文献も載っている。随分と物騒な記事。

 幸福を謳う者は多種多様な殺し方をしている連続殺人鬼。現場には必ず『幸福万歳』という文字が残されるためその殺人鬼は『地獄の幸福者』と呼ばれている。

 謎の三人組は仮面とマントで身を包み夜の街を駆ける者たちらしい。らしいというのは記事の内容が少なすぎるから。

 

 

 

 ガチャッ

 

 

 「遅くなった」

 「直樹(トン)~起きてる~?」

 「シー、今寝てるんだ。少し静かに」

 巡間が戻り渡良部が直樹用の昼食を持ってきた。でも渡良部、病人いるから大きな声を出すなよ。

 「おっとごめん」

 「失礼。薬はここに置いておく。食後に飲むように言ってもらえるか? 私はまた少し薬学室へ行く用事があるから」

 「わかった。渡良部も直樹の食事運びありがとう」

 「当然のこと。ていうかそろそろあんたも自由にしたら? 交代するよ」

 「そうだな。んじゃあとは任せることにする。起きたらお前と交代したって言っておいてくれな」

 「了解」

 本を本棚にしまい巡間と医務室を出る。それから別れて外に行く。

 

 

 噴水近くのベンチに座りポケットからタバコとライターを取り出して火を着ける。吸って吐き出して、煙に巻かれながらぼんやり空を見上げる。

 

 

 

 ああ高いところに行きたい

 

 

 屋上からの眺めは最高だろうな

 

 

 夜ならもっと最高だろうな

 

 

 まだ昼間だっての

 

 

 アホなことを考えるな

 

 

 ……………………

 

 

 駆けたい

 

 

 風に吹かれながら

 

 

 ……………………

 

 

 なぜ駆けたいなんて思った?

 

 

 無意識だった

 

 

 俺の才能…………

 

 

 …………まさか……

 

 

 俺の検討通りか……?

 

 

 こいつを見ることを俺の頭が拒んでいるのも

 

 

 俺の才能が隠されているからなのか?

 

 

 だとしたらいつ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    この包帯を解くことができる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          to be continue……

 

 

 



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第二章(非)日常編 そのとき2.5部屋目

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 今回は2.5部屋目、三人称視点からお送りいたします

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 お!! 久しぶりだな!! 空!!

 

 

 ななな、今回の旅行どうだった!?

 

 

 へぇいいなぁ~俺は外国語からっきしだから

 

 

 いつかお前と一緒に行きたいよ

 

 

 海外じゃなくても

 

 

 お前と一緒に

 

 

 この線路を一緒に通って行きたいんだ

 

 

 

 ***

 

 

 

 なんて幸せな夢なのだろうか

 

 幸せが続けばいいのに

 

 

 *****

 

 1

 

 ……………………

 

 

 「……ん…………んん…………?」

 「あ、起きた?」

 目を覚ますとそこには渡良部がいた。

 「わた……らべさん……?」

 「今何時……?」

 「そう。今は13時15分前後。私がここに来たのが5分だから、あんたが寝てから10分くらいしか経ってない。あとちょっと交代で玉柏(ツモ)は外にいる」

 「そ、そうなんだ……」

 「食欲は? ご飯食べられる?」

 「うん。まあ大丈夫」

 「ならよかった。ほら」

 「ありがとう」

 昼食を受け取り、ゆっくりと食事をする。ししやはりまだ食欲は完全とは呼べない。直樹は渡良部に背中を撫でられながらゆっくりと箸を進めた。

 「まだまだじゃん……無理して全部食べる必要ないからね?」

 「はは、ありがとう。でも出されたものってちゃんと食べなきゃって思っちゃうから」

 「はあぁ、あんたそういうところホント頑固……とにかく、お腹いっぱいだと思ったらすぐに食事やめて、薬飲んで」

 「……今回はそうする。ごめん」

 またゆっくりと箸を進めてどれくらい経ったか。時計を見れば45分、30分ほどかけて直樹は食事を済ませた。薬を飲み、また横になる。渡良部はそんな様子の彼女に呆れながら少々笑みがこぼれる。すると何かを思い出したかのように彼女は立ち上がり医務室内の棚を見始める。何かがないという様子で彼女は戻り直樹に話しかける。

 「ねえ、寝ながらでいいから聞いてくれる?」

 「?」

 「さっき巡間(ホンイツ)からちょっと聞いたことなんだけど、私たち、きっと盛られたよ」

 「盛ら……れた……?」

 盛られたとは一体どういうことか? 少し体を起こして話をよく聞く。

 「私、あんたが今寝てた時間が10分くらいって言ったよね? ……ちょっと早くない?」

 「確かに……倒れて眠かったけど……今は眠気そこまでないし……」

 「で、ここからが本題なんだけど。これなんだと思う?」

 そういって渡良部が取り出したのは一つの瓶だ。中には粉末のようなものが入っている。なんとなくだが量が少ないようにも思える。

 「これは?」

 「睡眠薬」

 即答。

 「す、睡眠薬? これを盛られたの?」

 「そう。これは近衛(リーチ)が食堂にいるときに見つけてきてくれたもの。使った形跡があるの。そして……昨日私たちがお昼から寝てしまった原因」

 「待って、渡良部さんも昼から眠くなってそのまま今日になったの?」

 「…………みんなそうみたい。思い出して、朝のみんなの様子を」

 直樹は記憶を辿る。そして湊川が眠そうに食堂の椅子に腰かけダグラスもいつもよりずいぶん遅くまで寝ていたと語っていたのを思い出す。

 「みんな……眠そうだった」

 「なら話は早い。これを盛った正体は大方検討ついてるから」

 「盛った人の正体、」

 それはあのとき食堂にいなかった人物。「やつ」しかいない。

 「橘くん?」

 「(チュン)以外に可能性が見当たらない。巡間(ホンイツ)は料理音痴だから厨房にはよっぽどのことがない限り近づかないってさっき言ってたし、今日遅めに起きてきたから」

 「料理音痴なんだ……じゃなくて。でもなんかそれだけじゃない気が……」

 思い出せと言わんばかりに直樹は眉間を触り考える。渡良部も頭を働かせ彼女がどこのことを示しているのか考える。

 「あ、わかった!! 昨日の裁判だ!!」

 手をポンと叩き直樹は改めて渡良部の方を向く。

 「裁判?」

 「正確には裁判終了後。橘くんは私たちよりも先にあの裁判場から立ち去っているんだよ」

 「でもあの短時間で料理に睡眠薬(これ)を盛るのはいくらなんでも」

 「エレベーターから裁判までの移動時間って結構長いよ。短時間っていうほどでもない。それに橘くんは杖術家、運動系の才能。素早く動くことはできたと思う」

 「そっか……けどこれで確証は得られた。(チュン)がこれを盛ったってことで」

 「でも不思議なことがあるよね。どうして橘くんは私たちを睡眠薬で眠らせる必要があったのか」

 「それ。自分の姿を見られたくなかったからなのか、それとももっと別の何かがあったからなのか……深く詮索はしないけど、玉柏(ツモ)並みに謎が多いから」

 どこからか取り出したあめ玉を頬張って彼女は立ち上がりンーと背伸びをする。深く息を吐いてまた座り時間を確認する。現在、14時10分。

 「そろそろ行く。食器片付けておくから。今日はもう寝て。明日からまた探索するよ。東のツッコミ女王さんがいないとこっちも調子狂うから」

 「東のツッコミ女王って前から思っていたけどなんやねん……」

 「気にしない。じゃあね。お休み」

 「うん、おやすみ」

 

 ***

 

 一人となった彼女はちょっとだけベッドから出て立ち上がり背伸びする。体が鈍っているかもしれないから。しかしぐぐっと背を伸ばすと立ちくらみがした。そのままベッドに体を預ける。ぼうっとして天井を眺める。ライトが眩しくて手で顔を覆い隠し目を塞ぐ。またぼうっとしてどこか心傷に浸るように。しばらくそうした後、布団に潜り瞼を閉じた。

 

 

 

 

 なぜか何かが足りない気がした

 

 

 

 何だ? 何が足りない?

 

 

 

 

 直樹はまだ熱で鈍った頭で考える。しかし答えは見当たらない。わからない。もどかしさでもぞもぞする。そんなことをしていたら眠くないはずなのに、いつの間にか寝ていた。

 

 ***

 

 

 

        涙を流しながら

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 2

 

 ジャァーっという水の流れる音が小さいながら聴こえる。渡良部は食器を厨房にいる人の元へと届けた。

 「近衛(リーチ)、これ食器ね」

 「ありがとうございます、渡良部殿。全部完食されたのでございますか?」

 「そ、全く頑固なんだから……」

 「直樹殿はいつもわたくしたちのために動いてくださいましたから。昨日は……ええ……朝あなたがおっしゃってくださった通りでございますね」

 「江上(ハツ)のこと、ちゃんと考えなきゃいけない。だからこそ」

 そこから先は言わなかった。わかりきっていることを何度も繰り返したくなかったからだ。

 「さて、どうする? このあとゲームでもする?」

 「いいですね。では仕込みが終わり次第、Ⅱ棟のカフェで麻雀やトランプでも」

 「おっけ。じゃあ先行ってる」

 厨房をあとにした彼女を見送ると今まで隠れていた人が顔を出す。

 「何も、隠れなくてもよろしいでしょうに」

 「いいのさ。それに話があるって呼んだのはユーだろ?」

 「ええ……まあ……」

 「ユーが誰かに悩みを打ち明けること、そんなになかったんじゃないかい? ユーはバトラー、執事。常に自分よりもお嬢様に気を使ってばかりいたんだろう?」

 「そう……でございます」

 少しニヤリと笑いまた真面目になって進める。

 「ミーに相談ってことは、いつもミス渡良部と三人でgameをやっているから。それだけ仲がいいからってこと。でもミスター近衛は二人だけでの話を求めた。それはどれだけこの短期間で仲がよくなったミス渡良部にすら言えない悩みだって言うのかい?」

 いつもの彼とは思えないほど的を射た推理。またもう一人の彼もわざとらしくビクリっと体を震わせて目を背けた。

 「…………But、ユーのことだ。きっとコロシアイのことじゃないことを相談したいんだろ?」

 「…………」

 「ミスター近衛。少しくらい頼りにしたっていいんだよ。ミーだって完璧じゃない。けれど一人の友人としてミーはユーの力になりたい」

 この短い間でも、自身を友達と言ってくれたことがどれだけ嬉しいか

 「では、お言葉に甘えまして。紅茶でも一杯飲みながらよろしいでしょうか。渡良部殿を待たせぬよう、なるべく手短に済ませますので」

 「Sure」

 近衛はモノクルを直してダグラスに向き直り笑顔で答えた。

 

 

      少年二人の秘密のお話

 

      それはまた別の機会に

 

 

 *****

 

 3

 

 ところ変わって美術室。そこではある独特の香りが三人の鼻をくすぐった。

 「これがあの?」

 「そ。こうやって……混ぜていって……色を出していく……」

 「超高校級の藍染め職人と言われるだけあるね。作業がとても丁寧だ」

 「それ宮原が言う?」

 美術室の一角に釜があり、さらに藍もあるとなれば彼女が動かないわけがない。まるで狙ったかのように準備が整えられていたのだ。

 「でも藍染めってこういうキットとかでできるのね」

 「まあね。けど一から作ったほうがワタシとしてはいいかなって」

 「職人だからこそのこだわりがあるのね」

 宮原、湊川が阪本の作る藍染めを眺め感嘆する。丁寧に心を込めて作りあげることをモットーとする阪本はこの閉鎖空間におかれていてもその心を忘れない。

 「こうしている時間ってとても好きなの。コロシアイの中でも何かに没頭できることがあると、少しの間平和に思える」

 「そうか……なら今度また、三人で何か作る?」

 「ん、いいね。やろ」

 「売店でいろいろ見ておくか。ああ!! そうだ!! みんなにお揃いのものを作ってみるのはどうかな?」

 「最高ね。少しでも団結できるものを作りましょ」

 「決まり」

 適当なタイミングで阪本は染め物を完成させて、あとは乾かすだけになった。

 「そういえば、莉桜は藍染めするときは手袋を履く方なんだね」

 「はく?」

 「あ、ごめん。つけるのほうがよかったかな? 俺北の出身だから若干そういうのがあって」

 「方言ね。わかるわ」

 「確かにワタシは手袋つけるよ。汚れる職業だもの。藍って落としづらいの。落とすのに何日かかるかな。3日くらいは手が藍色になってたっけ。でもそんな状態で食事するっていうのはなんか……失礼というか」

 「そういうことね~」

 「さて、莉桜も作業終えたしこれからどうする? カフェでもいくか?」

 「そうね。ちょっと喉渇いちゃったし何か飲みましょ」

 仲のよい三人はそのままカフェへ。

 

 

 *****

 

 

 4

 

 「悩んでも仕方がないか」

 ポツリと呟く。何がかはわからぬ玉柏の包帯。自身で取ることができないそれは彼にとって非常に悩ましいものであった。これが記憶に関係しているのは察しはついているものの、それがどこまでなのかがはっきりしていない。才能も自身の勘が当たっている保障なんてどこにもないのだから。

 火を消して、ここに来てから煙草とライターとともに入っていた小さな灰袋にごみを捨てる。ごろんとベンチに寝転んで、彼は電子生徒手帳を取り出した。

 

 

 

 〈希望ヶ峰マンション規則〉

 

 No.3 マンション内での(以下略)

 追記:医務室に関しては個室と同等の扱いとします

 

 No.11 電子生徒手帳の貸し借りは禁止です

 

 

 

 

 追加された規則はこの二つ。玉柏は規則の最後に書いてある「定期的に規則を確認することをオススメ」というところを見てから毎朝確認していた。あのとき彼が直樹を医務室に運ぶという判断もここから来ていた。しかし、もし医務室での就寝が可能でなければ彼女は今頃この世にいない。だからどこかほっとしたような気持ちになった。

 

 

 

 『『玉柏』』

 ベンチに寝転んでいる彼に声をかける人ひとり。玉柏は体を起こして煙草を取り出して咥える。

 「なんだ」

 淡白に答えその人をにらむ。

 『『別に、あなたの様子が知りたかった』』

 「なんでだ?」

 『『その情報はあげなくてもいいことだ。だから話さない』』

 「よくわからないやつだな」

 『『わからなくて結構。だっていずれわかるだろうから』』

 「………………お前、何者だ」

 『『おやおや、あなたの知っている通りの人間だよ』』

 「それにしても、だな」

 『『フクク、まぁまた世話になるけど』』

 「俺はごめんだ。お前みたいなやつは気に食わない」

 『『どう思うかは自由。じゃあこれで。また会おう』』

 「一生会いたくはない」

 『『また会うというのに強情なやつめ』』

 淡々と短い会話が終わった。やつは立ち去り玉柏は咥えていた煙草に火を着けた。煙はさらに謎を掻き立てた。

 

 ***

 

 

 

 

 ??????

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 「『心を何に例えよう、鷹のようなこの心。心を何に例えよう、空を舞うような悲しさを』…………」

 

 

 

 ***

 

 

        どこからか

 

 

      寂しい歌声が聴こえる

 

 

 

 

 

 ***

 

 5

 

 「おや」

 ジャズ音楽が流れるカフェに着いたダグラスと近衛。そこには渡良部だけでなく、宮原、阪本、湊川の三人もいたのだ。どうやら軽く麻雀のルールを説明していたらしい。

 「あ、遅かったじゃん」

 「すみません。少し世間話をしていたもので」

 「ふーん? まあいいよ。ちょうど湊川(シャー)たちに教えてたところだから」

 牌や棒を見つめ、へえっと思いそれを手に取った。

 「だいたいだけどルールわかったよ。すごいね……」

 「なんとなくだけど……やってみたほうがわかるかも」

 「じゃ、やろっか!! 近衛(リーチ)ダグラス(ドラ)、どっち入る?」

 ちらりと近衛がダグラスを見ると彼は小さくニヤリと笑った。

 「ミスター近衛、先入っていいよ。ミーはあとで入るからさ」

 「ではわたくしから入らせていただきます」

 「じゃあ俺入ろっかな。流れ掴みたい」

 「ワタシも」

 「湊川(シャー)はそれでいい?」

 「大丈夫よ。ダグラスくんと待ってるわ」

 「よし!! ならスタート!!」

 近衛、渡良部、宮原、阪本の四人はそれぞれ席について麻雀を始めた。ダグラスと湊川はそれを一歩下がったところで眺める。

 

 ***

 

 トントントンと場に牌が流される。手際よく牌を流す近衛と渡良部、悩みつつこれかなと感覚で流す宮原と阪本。どちらも際どい戦いをしている。

 「これいけるかな……」

 阪本がポツリと呟き流れる牌。誰かが鳴ることもなくそれはアンパイとして流された。数週しラスト5牌のところでまた彼女は声をあげた。

 「あツモ……かな?」

 不安げに広げて見ると宮原はよくわかっていなかったが渡良部と近衛は目を丸くした。

 「これは……」

 「……ダブル役満……32000よ……四暗刻単騎待ち……リーチもドラも親でもないから……親の近衛(リーチ)は10800、私と宮原(ソウズ)は10600……いきなり飛ばされた……」

 流された牌を見ると、特になにか変わった様子はなかった。一応という感じでみんなの手牌をみれば所々危険な牌も流されていたことに気づく。飲み込みが悪いとは一体何なのか。と疑問を持つが、次のゲームでなんとなく別の予想が脳裏をよぎる。それなら納得がいったから。

 「……阪本(ナン)って先生とかの話聞いて終わってない?」

 「え?」

 「裁判のとき、自分は頭悪いみたいなこと言っていたから。けどもしかすると友達とかから教えてもらったほうが飲み込みはやいかも知れないよ」

 「そうなのかな……? 自覚してない」

 「ま、私も頭脳派とは言ってもそれはゲームとして置き換えているだけで、実際はそんな頭よくないよ?」

 「そうなのか?」

 「そ。置き換え方法にしたのは中学二年くらいから。その先の成績はよかったはず」

 「はずって……」

 「失礼致します宮原殿。ロンでございます」

 ばっと広げられた彼の手。きれいに1~9まで並べられた索子。白牌。そして二つの萬子一目瞭然だった。

 「一気通貫、白で5200でございますね」

 「ああこれは違ったのか、んー難しいな」

 「宮原(ソウズ)は少し残り牌を考えてみるといいんじゃない?」

 「なるほど……」

 ちょっとずつ渡良部が教えながらゲームは進む。

 

 一方その頃、観戦している二人は

 

 

 ***

 

 「やっぱり難しいのね」

 「そりゃね。あれをいつも三人でやっているけどミス渡良部の強さは半端じゃないのさ。ミーも長い間ディーラーをやっているからそれなりに自信あったけど専門のプロとは全然違うのさ」

 なるほどと言うようにまたプレイしている四人を見つめていれば、阪本が四暗刻で点数を一気に上げた。

 「ひゅー」

 「さ、32000!? いきなりとったわね……」

 「まああそこで取れても、そこから先ちゃんと点数取れなかったら意味ないさ」

 「経験則ってやつ?」

 「Umm,それだけじゃないさ。経験がなくても、他のgameも似たような感じだと思っているよ。ある意味『運』も必要なわけだからね」

 ほら今だってというが湊川は初心者なわけで言われてもあまりピンと来ない。

 ゲームを見ているうちに、湊川は不意にダグラスの素顔をもう一度見たいと思った。なぜこのタイミングなのか。よくわからない。けど、イタズラ心とは違うけれど、何かみたい。そんな気持ちになった。彼女は彼の目の前に立ってスッとサングラスを外した。

 「!?!? ちょちょっと!?」

 突然の出来事に驚いて目を思い切り見開いた。その一瞬、今まで暗かった視界が再び明るくなった。見せたくないというように目を瞑るが、湊川は一向に退くことはなくダグラスをずっと見ている。

 「やっぱりよね」

 「な、何が!? あとそんなに見ないで……さ、サングラス返して……」

 サングラスをなくした彼はいつもより弱い。

 「視線が苦手なのも最初からわかってるわよ。でもね、少なくとも私はあなたがサングラス掛けていなくても素敵だと思うの。あなた自身があなたらしくなれるのならそれでいいの」

 「み、ミス湊川?」

 「私は……私たちはあなたの存在を否定しないわよ。あなたがたとえオッドアイでも、それはあなたであることの象徴だしこれを掛けているのも同じ。私ならこの服とかね。つまり」

 同時にサングラスを彼に少し掛けるように顔に持っていく。それに気づいたのか或いは全部掛けられたと思ったのか、彼は目を開いた。

 「あなたはあなたらしく堂々としていればいいのよ。それがダグラスくんのディーラーとしてお客さんにできる最高のおもてなしなんじゃないのかしら?」

 ふいに見せられたとびきりの笑顔。ドキッとダグラスは肩を震わせ自身の感情を悟られないように顔を背けてサングラスをしっかり掛けた。そしてあのとき(・・・・)のことを思い浮かべて自然と笑いが込み上げてきた。

 

 

 

      ああそういうことかと

 

 

 

 そう思うとどこか微笑ましくて、自身の情けなさがバカバカしく見えた。

 「ミス湊川」

 「ん? 何かし……」

 全てを言い終わる前に動きを止めた。こういうときの彼の言い訳はもはや決まり文句。顔を赤くした彼女に向かって彼もとびきりの笑顔で言った。

 「ミーはイギリス人だからさ。スキンシップだよ」

 

 *****

 

 6

 

 ここは植物庭園。矢崎がふらっと散歩している。気にいった花を見つけてはしゃがんでじっと見つめ立ち上がっての繰り返し。こういうのんびりと過ごす時間はさせて彼女にとっては至福だった。

 「矢崎くんじゃないか」

 「おお、本当じゃ」

 ちょうど巡間と灰垣が庭園にやって来た。二人ともどうやら外でバッタリしたらしい。

 「やあ、二人もなーんか植物を見にきたのかい?」

 「そういうところじゃ。ついでに、わしはここにまだ入っておらんかったからな」

 「私はここで何か使えない薬草とかあればと思って薬学室で確認してからここに来たところだ」

 「なるほどね~ここは見るだけでも楽しいと思うよ。あ、あとそこ」

 彼女の指さす先には「danger」と書かれた貼り紙と黒と黄色の紐で囲まれた空間。そこにも植物があるがどうみても普通の植物にしか見えない。

 「そこ毒を持つ植物がいるところ。だから下手に近づかないほうがいいよ~」

 「一応そこはしっかりしとるんか。わかった」

 「すまないね矢崎くん」

 「いいんだよ気にしなくて。じゃああたいは先に」

 何事もない会話。普通に交わされるいつもの日常。ああそれがいつまでも続くことを、誰もが望んでいるというのにどうしてなのだろうか?

 

 *****

 

 7

 

 時は進んで夜。それまで特別なにかが起きたわけではない。

 

 さて、一人女子が夜のカフェへとやってきた。そこの本棚の前に立って資料を漁る。

 

 

 「希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件」

 

 

 彼女の目に止まった一つの記事。年までは書いてなかったが、少なくともその事件が起きてから一年以上は経っているとうかがえる。森の恐怖といい希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件といい、どうしてこうも超高校級の人間がこんなにも事件に巻き込まれるのか。

 

 パサッ……

 

 読んでいた資料の一部が落ちた。彼女はそれを拾おうとしたが、いつの間にか側にいた人に拾われた。

 「何をしているんだ? 金室」

 「いえ、いろいろ資料を確認したかっただけですよ。国門くん」

 「そうか。ほらこれ」

 「ありがとうございます……ってあら?」

 資料を受け取ったと同時に目につく三人の姿。そのうちの二人は見知ったあの二人だった。さらに周りで倒れ血を流す者数名……

 炎が舞い煙が踊り血が滴る赤い赤い夜

 「国門くん、これ見てみてください。この二人」

 「? どれ……は? こいつらって……」

 「ええ。『橘くん』と『玉柏くん』です。もう一人の彼はわかりません。背を向けていますから……ですが」

 「その『希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件』に似た雰囲気がする。僕たちはそれに関係しているのか?」

 「おそらくですが。だって周りに倒れているのはうちたち(・・・・)ではありませんか」

 「これは一体……どういうことだ」

 益々増していく謎。何度も繰り返される思考の連鎖。そして

 

 

 

 「ウッ、グッ!?!?」

 「いっアッウッ……!?!?」

 二人を襲う激しい頭痛。何かに頭を貫かれたかのような。しばらくしてそれは和らいで、けれどまだ片隅で頭痛の余韻が残っていて。

 

 ******

 

 ________

 

 

 「おい!! しっかりしろ!!」

 「ダメに決まってんだろうが!! ちくしょうがぁ……」

 「あなたの目的、ボクたちをどうしようというのです」

 「私の目的? ふふっそう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実験のため(・・・・・)、だよ」

 

 

 ________

 

 ******

 

 

 消えた記憶が甦る

 

 その記憶はきっと

 

 どこかでみんなが叫んでる

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

         →to be continue……

 

 

 

 

 

 

 ※お借りした歌詞

 

 『テルーの唄』

 

 



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第二章(非)日常編 在り無しの3部屋目

こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海(えんてんすいかい)です。
ええ実はすでに二章はpixivのほうでは完結しておりまして、現在三章を絶賛執筆中の身です(ハーメルンにはよ二章投稿せいやバカ)。
ハーメルンだとpixivとは違い改ページのシステムがないのでそれを直すのにどうしても時間がかかるという。それと文字数も多いゆえに端末が重くなるなんてざらにあるものでどうしてもこちらでの投稿が遅れる状態に……申し訳ないです。
ひとまず、今月中には二章をここでも完結させますので、何卒よろしくお願いしますm(_ _)m


 

 

 

 ……は

 

 どうすればいい……

 

 

 

 *****

 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 7日目

 

 医務室で目を覚ます。昨日午後からほぼずっと寝ているから若干頭が痛い。いや昨日の夜も渡良部が持ってきてくれてともに食事をしたのだが。念のために熱をはかると36.5と平熱。昨日よりかは動けるし大丈夫だ。

 ところで今は何時だろうか。時計を確認してみる。えっと………………4時半……早い、早すぎる。仕方ないか。しかし今さらまた寝るのもなかなかにキツイ。そうだ。探索しよう。二階の物理室、生物室、植物庭園、一階の美術室には一度も行ってなかった。この時間を有効活用しよう。

 

 ***

 

 まずは二階。物理室から入ろう。小さい豆電球、それを繋ぐコード、モーター、反射装置などなど、まあそれなりにいろいろある。よく覚えていたな……文系の私は理系がからきし、物理は特に苦手だった。いつも赤点スレスレ。あーうん。よし忘れよう。特にめぼしいものがあった訳でもなかったし。

 

 

 お次は生物室。虫の標本、小さなホルマリン漬け、植物、コルク他まあこちらもそれなりのものがある。顕微鏡もあるから細胞の実験とかまあいろいろ使うのだろう。よく見たら人体模型も置かれている。でも棚に仕舞われたまま。まあ使う機会はないんだろうけど。

 

 

 植物庭園、入った瞬間どこかの花畑に行ったような錯覚に陥った。鼻につく香りがそうさせた。それだけ美しいものだった。ただひとつ気になるのがあそこの『danger』。どうやら毒草が植えられているらしい。まさかコロシアイに使えと? 冗談じゃない。そんなことする意味などない。dangerのところは放っておこう。関わったらろくなことにならない。

 

 

 これであとは美術室の探索だけ。1から見てみよう。当たり前だが絵画や彫刻などが飾られている。ただ飾られているが道具は彫刻刀や鉛筆とかで染色系はない。ということはと思って2のほうへ行くと案の定だった。こちらも1と同じだが逆に絵の具や墨汁とかの染色系はあった。

 ん? あそこにあるのは……? 近づいて見ると『触るな』と書いてあるのは一目瞭然なのだが、そこには藍色の布があった。これは阪本が藍染めをしたのかな? けどこんなところに藍染めするための道具が? と思ったけどすぐ近くのゴミ箱に捨てられているのを見て納得。でもこんなにきれいな藍染めは初めて見た。いやいつも服とかでは見るけれども、こういう風に作業工程のものを直に見られるというのはなかなか無い。

 

 

 *****

 

 さて、一通り探索は終えた。ざっと確認しているように見えるが実はこれでも結構時間は掛かっている。今は6時。彼が散歩している頃だろう。

 「お? ミス直樹じゃないか!!」

 ダグラスだ。

 「おはようダグラスくん」

 「Good morning!! ああでも、ユーはもう大丈夫なのかい?」

 「うん、平気。またストレスでああなるかもだけど」

 「それはもう勘弁だね」

 肩を震わせてちょこっと困ったように笑う。

 「さてと、じゃあ散歩する?」

 「散歩するって、確か君5時起きじゃあ……」

 「Ah……いや、何でもないさ。ちょっと落ち着かなくて」

 何があったし

 「起きたの5時半でさ。髪の毛とか整えて今から散歩ってところだったのさ」

 なるほど。

 「そういうことね。……いつも思ってるけど、散歩ってここそこまで広くないよね?」

 するとチッチッと舌打ちをして首を横に振る。

 「わかってないなぁ~何も歩くことだけが散歩じゃないさ。ここを回って気持ちをrefreshさせる。新たな発見もできるかもしれないからね」

 「そうなの?」

 「そうさ。ならぐるっと回って行こうよ」

 私はダグラスとともに散歩する。こうしてのんびり歩いてみると今まで単純に見えた世界が少し複雑に見えた気がした。それと同時に複雑な世界が私たちが生きている、存在証明とも思えた。

 歩を進めるごとに自分が本当に生きていることを理解できる。そのことを踏みしめながら一歩一歩、また一歩と進める。

 「どうだい?」

 「うん、普通に歩いているはずなのにちょっと満たされた気持ちになるね。少し気持ちが軽くなってきた」

 「ふふん、そうだろ? そして」

 彼は足元に視線をやりしゃがみこむ。そこに咲いている、一輪の花に手でそっと優しく撫でる。

 「こういう小さな発見が心を穏やかにするのさ」

 この空間にも花あるんだなぁと思いつつ、言われたことを焼き付けた。

 彼の見えぬ瞳は今どんな風になっているのだろう。トラウマになってしまったことで外されることのない奥。そこにはきっと優しい目が写されているのかなと密かに期待した。

 

 

 *****

 

 「お前さんたち何しとるんじゃ?」

 ふと近くにいたのかはたまた今来たのか、灰垣に声をかけられた。

 「ミスター灰垣じゃないか。いやただの散歩さ。ミーの日課」

 「散歩じゃったか。直樹も大丈夫なんじゃな?」

 「うん、まあね」

 「体調はしっかり整えんといかん。あんなことが起きれば……まあ倒れても無理はないじゃろうが」

 「ははは……」

 苦笑いしかできない。結局私はみんなに迷惑をかけたのだから。

 「ところで今何時?」

 「Now……おっと、もう三十分か!!」

 嘘だろはやっ

 「これからミスター近衛とミス渡良部とちょびっとトランプやる予定なのさ。また後で!!」

 タッタッタッと走ってマンション内に入って行った。灰垣と顔を見合せベンチで座るかとなりそこに行く。彼はよいしょとじじ臭く腰を下ろして深く息を吐いた。

 「お前さん」

 「なに?」

 「お前さんは自分の命と他人の命、どちらが大事だと思ってるんじゃ?」

 …………

 「へ?」

 「そのまんまじゃい。どちらの命が大切か」

 「そ、そんなの選べるわけ」

 「じゃろうな」

 わかりきった風に言われた

 「じゃが直樹、それじゃあいけないということはわかっておるのか」

 「どういうこと?」

 「わしらは危機的な状況下におかれておる。人は何かしらのきっかけで他人の命を投げて己を保護しようとする。それがもし、絶対的に決められた定めだとしたならばどちらをとる?」

 「え……」

 二択、どちらかしか選べない、その時どうするべきか、ってことなのかな? その状況に立たされている、いやさらに追い詰められてしまったとしたら、私は一体どうするのか? 悩んでもその答えは出そうにない

 「選べんか」

 「急過ぎて」

 「わしはそう言われたらこう答える」

 背もたれに背を預け空を見上げるように放った

 「両方捨てる」

 二択とはなんだよ

 「両方捨てるってそれ意味ないんじゃ」

 「違う、この状況だからこそなんじゃ。そうでないならわしは自らの命をお前さんたちに投げるわい」

 冗談に聞こえないなんとも恐ろしい発言。

 「それにわしはいつでも誰かを殺せる用意がある(・・・・・・・・・・・・・・・)

 驚いて私は彼の方を目を見開いて見つめた。いつでもということは今も(・・・)ということ?

 「何も今とは言っとらん。だがその気になればそうすることも辞さんわい」

 「ど、どうしてそんな」

 「…………わしはバレー部じゃが、その前に別院の息子じゃ。浄土真宗のわしらは特に食事の制限もしておらん。ただ日々生きていられることに感謝するのみじゃ。じゃが生にすがるだけでは人は生きているとは言わん。人は例え長生きしたとしても、生きて生き甲斐のない生活なら本当に生きたとは言えないのじゃ。生き甲斐を感じてこそ真に生きたと言うんじゃ」

 言葉一つに重みを感じる。

 「生命は量よりも質。生きている中でどれだけ自分が胸を張って生き甲斐のある人生だったといえるかが大切なんじゃ」

 「…………」

 「そういう意味でお前さんはどうじゃ?」

 「……まだ生きなきゃいけない。私はまだ生き甲斐のある人生って呼べる生活をしたのかわからない。それにやっぱりさっきの質問に対する答えは見つかりそうにないよ」

 「それもまた選択じゃ。悩むことはそれだけ『おもうことがある』ということ。悩みを持つことを恐れてはならん。いくらでも葛藤せい。それで導きが出した答えがその人の選択なんじゃから。だってわしは一度も二択だなんて言っとらんかったからな」

 思えばそうだ。誰もそんなこと一言も言っていなかった。盲点。

 灰垣との会話で自分の生き方を少し考え直すのもありかなって思った。バレー部であり別院の息子でもある彼は今もなお何かを悟っているのかもしれない。

 

 ところでバレー部ってなんだっけ

 

 *****

 

 7時になったところで食堂に行く。さっきダグラスがいった通り、ゲームトリオは(いつも料理を置いているテーブルとは別の)テーブルでトランプをやっていた。どうやらババ抜きのようだ。近衛がすでに1抜けしていて渡良部とダグラスがラストを握っている。

 「…………んんん、どっちにあるの……」

 「ふっふっふっ、さあ一体どっちかな?」

 「……こっち!! ……ああああジョーカーっ!!」

 「ミス渡良部はわかりやすいのさ」

 「そうなのでございますか?」

 渡良部はカードを誰も見えないようにシャッフルしてダグラスの前に出す。

 「どっち!?」

 渡良部の目はダグラスを睨むように見つめるがダグラスはけらけらと笑った。

 「こっちだね。finish!! 2抜けさ」

 「んえええ!?!? なんでわかったの!?」

 「なんでってそれは秘密さ。こういうのはディーラーならではの特技だったりするのさ」

 そういうとまたトランプをかき集めて手早くシャッフルするとポケットにしまいこんだ。

 「じゃあこれくらいにしておこうか。ミスター近衛、準備しよう」

 「ええ」

 「うう、私も手伝う」

 トリオ三人はそれぞれ食事の用意をする。灰垣はいつも自身が座るところに座って、私も私で席について待っている。運ばれてくる間にみんなもぞろぞろとやって来て食事が始まる。

 「今日はどうする?」

 「そうだな。また各々自由にしていればいいんじゃないか? まだ調べきれてないところがあるかも知れないしな」

 「おっと、少しわたくしからお尋ねしたいことがございます」

 控えめに手を挙げて近衛は話す。

 「本日、Ⅱ棟でお休みになられた方いらっしゃいますでしょうか?」

 その質問に宮原、阪本、湊川が手を挙げた。

 「なるほど。すみません、大したことではないのでございますが、何分寄宿スペースがⅠ棟Ⅱ棟ともにございましたから」

 確かに。なんかいろいろおかしいけれど、それでもここはマンションだ。住むという意味でそれが無くては成り立たない。

 「うちからも一つ確認を」

 今度は金室が手を挙げた。

 「昨日Ⅱ棟についていろいろ調べたと思います。それで寄宿スペースにライトが点くことを矢崎さんと宮原くんが試してくれました。ですが、玉柏くんによると電子生徒手帳ではどの部屋も誰かが部屋にいるとその部屋のライトが点灯するみたいなんです。ですよね玉柏くん」

 「そうだ。化学室にいるときにな」

 「さらにそれには履歴が残るようなのです」

 履歴が残る? なんで残す必要があるのかな

 「履歴が残るってことはいつでもそこに人の行き来した跡が残るのと同じか」

 益々モノヤギたちの意図が読めない。一応電子生徒手帳の中身確認してみよ…………ん?

 「あれ……」

 「どうしたの?」

 あ、これは、あれだ

 「電子生徒手帳医務室に置いてきた……」

 「ええ何やってるの直樹(トン)。ならこれ取りに後で行くよ」

 「ごめん」

 朝食を終えて私たちはまた医務室へ行くことになった。

 

 

 *****

 

 「あったあった!! ふう、よかった」

 「ホントよ……」

 布団の中を探ればしっかりそれはあった。盗られてなくてよかった。もっともそんなことをする人はいないと思うけど。渡良部にも心配をかけてしまった。でもそんなことより一つ気掛かりなことがある

 「そういえば何で渡良部さんは私についてきたの? 特に何かあったわけじゃないよね」

 「昨日みんなでまとめたⅡ棟の資料。あんたに見せ忘れてたしついでにと思って。ほらこれ」

 そういってⅡ棟の簡単なメモをくれた。朝にも確認したけれど、ほぼほぼ変わりない。同じだっていうことを知れただけでもいい収穫だ。

 「それと……前っていうか昨日言ってたでしょ。私の昔のことについて話そうかなって」

 両親がギャンブル依存症のやつか。

 「私の家、元々借金ばかりでそんな中でも親はギャンブルに走っていた。そして私は小学何年だったっけ。高学年ぐらいだったはずだけど、まあその時私は両親にやくざが経営する闇金融会社に連れていかれた」

 子ども連れてやくざのところに行く親がどこにいるんだ

 「で、そこでいろいろ言われたの。『お前の親は何十年掛かっても借金を返せないクズだ』って。『そろそろ返してもらわないと困る』って。そのときの私はわからなかったけれど、少なくてもあまりよくない空気になっていたことはわかった」

 借金まみれでよく育てたな

 「でもそのときやくざは何かで莫大な資金を手に入れていたから少し潤っていたらしいんだ。そして向こうから借金を帳消しにする提案を出した。もちろんただじゃなかったしそれが私を呼び出した理由だった」

 「その提案って」

 「『()に麻雀をやらせて勝つ』こと。当時からしてみれば絶望的な賭けだった」

 「いや親は子ども守ろうよ」

 「そうもいかなかったらしいの。何でも、ずっと前から私が呼び出されることは決まっていてずっとそれを先伸ばしにしてもらっていたんだって」

 守っていたけど守りきれなかったってことなんだ

 「話を戻して、今言った通り提案っていうのは完全に選択権がこっちにないやつでどうにもこうにも私が勝たないとダメだった」

 「まだ麻雀をやっていなかったときの話だよね?」

 「そ。けど試合を始めるまでわからなかった。私に雀士としての才能が宿っているなんて。結果はどうなったかだけど私が国士無双十三面待ちで上がったことでやくざの点数を全部ぶっ飛ばした、つまり勝っちゃったわけ」

 それ相当の才能だよ

 「まあそれで終われるわけない。向こうからしてみれば、麻雀のルールさえわかっていないたかだか小学生のガキに大の大人のやくざが負けるなんて恥晒しにもほどがあるもの。もう一戦することになった。でも何度も何度も繰り返してもやくざは一度も点数を私から得ることは出来なかった。遂に向こうはキレた。逆ギレだよ? まあそこのやくざの頭? で合ってるかな。その人がちょうど戻ってきて約束したことは守れって言って私の家にあった借金が帳消しになった。」

 「理解のある人だったんだ」

 「けどそれもそれでただじゃなかったけど。んじゃ、ここで問題」

 「え」

 「このあと私は(・・)どうなった?」

 渡良部がどうなったか? もしかして両親と離れたとかそんな感じ? にしても気が軽い。じゃあなんだろ……

 「普通に過ごした……っていうのじゃない?」

 「そう。答えは施設に行くことになった、でした」

 嘘だと言ってほしい事実だ。扉の前に行く彼女の後ろ姿を私は眺める。

 「仕方ないって割りきれたけど親がいなくなって清々したわけじゃないよ。それまで育ててくれた親に失礼だから。それに才能開花きっかけをくれたのはある意味親なんだし。やくざもやくざでいい人いたし。けど」

 渡良部は振り向いた。そこには

 「幸せってどんなのだろうね。幸せはどうやって手にいれるんだろうね。幸せになりたいからその一本を手にいれるためにどれだけ辛い目に遭うんだろうね。今こうしてコロシアイ生活をしているけど、これって私たちに対する何かの試練なのかな」

 まだ何も知らない、無知な少女の姿があった。

 

 

 *****

 

 医務室を後にして、今のところおそらく資料が豊富にあるⅡ棟のカフェへ行く。それらしきジャズ音楽が流れている。

 「…………」

 そこに阪本がいる。本を読んでいるようだがそれは何かの作品集のようで。

 「ん、直樹じゃん。どうしたの?」

 「どうしたのというか、阪本さんが何読んでいるのかなって」

 見た限り美術系のやつでないことはわかる。

 「これ? 評論文」

 「へ?」

 「評論文」

 「いやわかるよ!? えっでも意外」

 「よく言われる。けどこういうのってワタシからすればとても面白いよ」

 そういうと阪本は立ち上がって資料を棚から取り出し私に見せる。有名どころの彫刻や絵画などの資料。

 「今広げた作品のほとんどは評論家によって評論されてる。それは単に自分の憶測じゃなくて客観的に物事を捉えられるからこそできる。もちろんそれができる人はたくさんいる。けど伝わる伝わらないは分かれる」

 ページをめくる。度に表情がやわらかくなっていく

 「絵だって藍染めだって同じ。その人の想い描いたものをそのまま描く。難しいけど、それはどこの職についても同じ。自分の良さを伝えようとしても、相手に伝わらないかもしれない。ワタシもそう。でも問題はそんなことじゃないよ。『自分がどれだけ想いを伝えようとしているか』、これが大事なの。気持ちを込めて込めてたっくさん込めて作る」

 職人は楽じゃないのと微笑んで、また手元の評論文を読み始めた。職人魂ってそれぞれ思うことがあるんだなぁ。自分の気持ちが左右するのはあるかもしれない。翻訳中でかっこいいとか思った文章があとから読んで切ないとか普通にあるし。

 「『人は人生を描く画家』だから」

 呟かれたセリフは彼女という職人から出る有名なセリフの中の名セリフだった。

 

 

 

 

 

 

 評論文

 

 

 

 あれ

 

 

 その作者

 

 

 見覚えが…………?

 

 

 

 __

 

 

 

 カッカッカッ!!

 

 

 

 

 __

 

 着物姿一人

 

 

 __

 

 何かフラッシュバックした気がするのに何も思い出せないからいいやと投げ出す。そういえば植物庭園に藍はあるのかな? ふとした疑問を解決しに行こうすればそこには矢崎がいた。さらに私が求めていたものの目の前にいた。

 「へえ、ここにもあるんだ藍って」

 「んー? そうだね~」

 相も変わらず緩く答える。彼女らしいといえば彼女らしい。グルリと見渡しちょっとおかしなことがあるように思えたがそれに気づけない。何か、何かが違うのにそれが何かわからない。

 「あんまり気にし過ぎるのはよくないよ」

 そういうと彼女は立ち上がって別の植物のところへと向かう。後を追ってみるとそこには様々な種類の紫陽花が咲いていた。矢崎の名前と同じ『紫陽花』。

 「紫陽花の花言葉を知っているかい?

 「知らないよ。花言葉はあまり強くないんだ」

 なるほどねとゆっくり頷いて花の方に目をやる。

 「一般的に移り気とか冷淡とか辛抱強さとか、いろいろあるんだよ。まあマイナスな意味が多いのかって言われたらそうかもね。でもなーんでもそうとは限らない」

 そういうとある一色の紫陽花を指差した。白のそれに。

 「色事に花言葉が変わる植物もあるんだよ。この白い紫陽花にはどんな意味があると思う?」

 白の紫陽花に込められた意味、か。マイナスなイメージがあるかもしれない。でもそうとは限らない。それを示唆するためにそういったなら、今矢崎が示そうとしているのはきっとプラスの方。

 「それらしい人がちゃあんといるよ。二つの意味でね」

 ポロリと呟かれたヒント。二つの意味って何だろう。もしかして白い人がいるとか? いやいる。彼がいる。あっそうか。じゃあこういう意味か

 「『寛容』だね?」

 「大正解。宮原くんってそんな感じするよね。だから今そういうヒント出したんだよ」

 宮原くんみたいな人なら別の花言葉のほうが合うけどと彼女は目を瞑って困ったように笑った。なるほど。確かにあんなお父さんみたいな優しい人を寛容と呼ぶに相応しい。マイナスのイメージの花言葉がいるかと言われたらまあいらないか。

 「たとえマイナスな部分が出ても構わない。長所と短所はイコールでなーんでも結ばれているからね。弱みなくして強みなし、なーんてね」

 屋内で吹くはずのない風が吹いてるのかと思った。

 

 

 *****

 

 

 昼になったので昼食を食べる。このあとどうしようと思ったら近衛が橘と何かを話しているようで二人はそのまま厨房へ向かった。一体なんだろうと思って行ってみると

 「時間内には終わらせる。しばらくここは使わせてもらう」

 「かしこまりました。それではまた後ほど伺わせていただきます」

 なんというか、珍しい光景。しかも普段誰かと関わることのないあの橘がだ。っと思ったら彼らは厨房のまな板やらボウルやら量りやら何やらを取り出し始めた。さらにそれだけでなく砂糖やら小麦粉やら卵やらいろいろ取り出して。

 冷蔵庫からも何やら丸い生地を取り出すとそれを広げては型を取る。そして鉄板に乗せてオーブンに入れてまわし始めた。いや、まさかだけど

 「た、橘くんたちは今何しようとしてるの?」

 「……菓子作ろうとしてんだよ。文句あっか?」

 恐る恐る聞いてみたが意外や意外。まさかの菓子作りとは。

 「いやそういうわけじゃないけど、意外で」

 「フンッ、このあとそこの執事とやり合うんだ。糖分ぐれぇ欲しくなる」

 近衛も相づちを打って準備だけしてそのまま厨房から出ようとした。それを止めて彼に聞いてみる。

 「やり合う? ってどういうこと?」

 「ええ、実はわたくし昔から剣道を嗜んでおりまして、中学生の頃もほんの僅かな間ではござましたが部活動に入っておりました」

 「剣道やってたの?」

 後ろから阪本に話しかけられたかと思ったしかも国門もいるどっから沸いて出てきた。

 「意外でござましょう? 橘殿ならいい対戦相手になるのではと前々から存じてまして、その折を伝えたところ今の状況になったというわけでございます」

 なんだろう。今日いろいろみんなの意外な一面を見ることが多くてすごい、新鮮というか、なんか、感動してる。

 「橘が作っている間に近衛がその試合の準備をするのか」

 「すぐに済むことではございますが、素早く準備しておいて損などありませんよ」

 クイっとモノクルを上げてこれからのことを考えているのか少し嬉しそうに笑う。

 橘は黙々と作業を進める。量りで材料の分量を量ったり、それらを混ぜたり。とても手際がいい。

 「近衛からみて橘の動きっていうのはどうなんだ?」

 「そうですね……」

 腕を組んで少し考え橘の動きを吟味するように一つ一つの動きを見極める。

 「ふむ。やはり手際がよいです。無駄のない動きでかつ丁寧でございます」

 「やっぱりそう思うのか」

 「わたくしはプロではありませんから確実とは程遠いとは存じておりますが、それでもそのように感じられるかと」

 さすが。私からしてみればプロのようにしか見えないけれど、100%完璧かと言われたらそうとは言えないのかもしれない。

 途中近衛は準備のためにキッチンを出て、私たちはしばらくずっとそこにいた。橘に邪魔とか言われても何とか粘って最後まで見る。

 混ぜたり入れたりまた混ぜたりの繰り返し、出来上がったそれをさっきとはまた別の型に生地を流す。その時焼上がりの音がする。焼上がったものを取り出してオーブンとともに冷まし、オーブンがそれなりに冷めたところでさっき型に入れたそれを入れて焼く。あとは待つだけというように彼は背伸びしては軽く腕を回す。

 暇そうにしてると思ったら今度は計量スプーンの入った瓶と粉末コーヒーと砂糖を出してはそれをコーヒー、砂糖の順で瓶に入れて下から掬うようにして混ぜる。

 「もしかしなくても橘って甘党?」

 「あ? なんでんなもん聞くんだよ」

 「普通に甘いもの嫌いかと思ってたから」

 「………………」

 顔をしかめて橘は黙ってさっきのやつを混ぜ始めてしまった。これは触れちゃいけないやつだったのかな。

 混ぜ終わったと同時にカップにそれを入れてお湯を注ぎ煽る。熱くないのか

 「…………」

 何か考えているのかな? どこか遠い目をしてぼおっとしてる。

 「…………生クリームどっかにあったか……?」

 「いやそっちかよっ!!」

 国門と阪本は拍子抜けというようにずっこけた。

 

 ***

 

 2度目の焼き上がりの音がして橘はそれを取り出した。冷ますついでに、生クリームを手早く作ってはそれをタッパーに入れた。

 いろいろやっていた影響もあってか気づいたら

 「美味しそうな匂いするわね」

 「何? (チュン)が作ったのこれ? 全部?」

 「なんじゃなんじゃ」

 「あらシフォンケーキとクッキーではないですか」

 「Wow!!」

 「めんどくせぇ…………」

 いろんな人来た。匂いにつられたようだ。それと準備が終わったらしい近衛もやって来た。

 「紅茶でも淹れましょうか?」

 「あ欲しい」

 「うちには緑茶でお願いします」

 「かしこまりました」

 「ていうか食べて大丈夫?」

 「……ッチ、勝手にしろ。ただし、食うなら残すんじゃねぇぞ」

 近衛が用意してくれた紅茶を飲みながら、橘の作ったやつに手を伸ばし含めた。

 「おいしい……」

 うん、おいしい。ほどよい甘さと固さのクッキー、ふんわりとしたシフォンケーキ、生クリーム。近衛の淹れた紅茶とよく合う。

 「妙に中毒性あるよこれ」

 「中毒性は言い過ぎじゃないかな!?」

 「でも意外だ。君が料理上手だったなんて」

 「フンッ、お袋が寝込んでりゃ自然と俺が作ることになんだよ」

 お母さんのことかな? お袋って呼ぶんだ。

 「黙ってそのまま食ってろ。」

 「ミス金室は生クリーム使わないのかい?」

 「ええ。嫌いなんです。そのままいただくのが良いのですよ」

 「こだわりがあるってことか」

 「人それぞれにこだわりはあるものです。例えばサラダにはドレッシングをかけるかどうかとか。かける派もいればかけない派もいるでしょう?」

 言われてみれば。私は特にそこにはこだわらないかな。ドレッシングはかける時とかけない時あるし。

 「こだわらないって言い張っている人ほど実はこだわりが深いんですよ。常に自分のあり方を貫くから。まあこだわってる人でも追求しますけれど」

 意表を突かれた。こだわらないことにこだわる。ある意味優柔不断な考えと言えるのかな。

 「橘殿、一つ確認を」

 「あ?」

 「試合をするにあたり服装はどうしましょうか。まだジャージすら手に入れられておりませんので」

 一瞬その空間だけ時間が止まった。

 「…………めんどくせぇからこのままでやらせてもらう」

 「かしこまりました」

 そこなんにも決めてなかったんかいっ!!

 

 

 ***

 

 

 さて、二人は(?)集会室へと向かい試合の用意をする。その最中に橘は大きな溜め息をついた

 「見せもんじゃねぇっつの……」

 悪態をつくのも無理もない。だって

 「日本古来からの武道、しっかり見させてもらいますよ」

 「そうじゃい。隠すなんてもったいないじゃろが」

 「ミーこういうの好きなんだ。間近で見られるならみたいものなのさ」

 「ある意味ゲームだし見ておきたくて」

 「何となく気になったのよ」

 「うるせぇ!! てめぇらその菓子でも食ってろ!! んでもって黙ってやがれ!!」

 さっきおやつを食べていた金室、灰垣、ダグラス、渡良部、湊川の5人も食堂(あそこ)にいろと言われたのに、ここにきたから。

 「まあまあ、観客がいらっしゃっても特に支障などございませんよ」

 「俺はお断りだ」

 そっぽを向いて杖を構える。構えるというか右手に持っているというか。

 「彼らがいること自体にそもそもの問題があるとおっしゃいますか? まさかとは存じますがあなた様は誰かの目の前で試合をしたくないと?」

 丁寧に言っているように見えるが実際は違う。煽っている。竹刀を構えて、見定めて。

 「誰がんなこと言ったよてめぇ」

 挑発に乗るように橘は本格的に杖を両手で持ち始めた。これまずくない? 大丈夫? 近衛の口が僅かに動いたけどほんの小さな声で呟かれたと思うその言葉には私も含めて誰も気づけず橘はジリジリ近衛の方へと向かう。

 

 刹那、近衛が面を打とうと足を踏み込んで竹刀を振り下ろした、と同時に橘の杖がそれを抑えた。二人の武器が重なった音は置き去りにされ、私はそれらが重なったのを見た瞬間バアァン!! となったのに気づいた。マンガで言えばこうなんていうか二人の周りに波紋が起きてる感じ。

 「さすが、でございますね」

 「煽ってんじゃねぇよッッ!!」

 杖が竹刀をかわして互いに構え直した。

 「杖術ってのはッッ!!」

 「おっと!?」

 高速で振られた杖を竹刀で往なすが近衛のバランスが少し崩れる。さすが杖術家、早い。

 「捕手術、護身術だけじゃねぇ!! 遥か昔に刀への対抗として編み出されたもんでもあるんだ!!」

 「ふふ、案外マニュアルに従う主義なのでございますかっ!!」

 「うるせぇ!! 本来ならこんな物使わなくてもいい、使わねぇようにすべきだったんだよ!! 刀にしろ!! 銃にしろ!! 何にしろなっ!!」

 すぐに体勢を立て直して二人は更なる攻防を続けた。

 それは長く長く続き結果的に時間の関係で引き分けとなった。それなのにも関わらず、二人の息はそこまで切れてなくて、切れていてもほんの数秒だった。

 「お見事でございました。お疲れさまです」

 「ハンッ、動きはいいと言っとく。ただ無駄が多い。一瞬の隙が命取りだバカ野郎」

 あの時間でそこまで見極めるか。

 「…………なりたくて俺はなったわけじゃねぇ。阿呆みてぇに強引に振り回してぇわけじゃねぇ……」

 何だか少し震えた声で橘は言いそそくさと出ていってしまった。…………やっぱり何か隠してる。

 「しっかし橘と近衛の立ち姿見事じゃったなぁ」

 「日本武道はいいですね。形が美しいんですもの。ある種の美学、最高です」

 「竹刀っていうのがまたいい。僕はそこまで運動得意じゃないしこういうのできる人は素直に尊敬する」

 いろいろ感想等言い合ってみんなでその場を後にして食堂へ行った。

 

 *****

 

 「中学にやっていたって本当だったんだ」

 「ええ今回のでよくわかったことでござましょう」

 「あら信じてなかったの?」

 「ちょっっとそう見えなかったんだもの。近衛(リーチ)が竹刀持ってるっていうのが」

 「人は見かけによらないものよ渡良部さん」

 「それは見たかったなぁ。今度機会があったらその時に見よう」

 「また戦うかわからないけどね」

 なんというか、近衛とダグラスと渡良部の三人はわかるとして。阪本と宮原と湊川もよく一緒にいるところ見かけるなぁ。トリオ同士が会話してる。これはあれか、同盟か何かなのかな。それに心なしかダグラスと湊川の距離が縮まっている気がする

 とかまあその他今日もいろいろあったなと思いつつ、夕食を食べて片付けに入る。

 「そういえばお風呂どうする? 結局昨日あそこのお風呂誰も入ってないよね?」

 言われてみれば。私は医務室でほぼずっと寝てたけど。

 「今日は男子でいいんじゃないかしら? 直樹さんのことも考えると明日女子にしておいたほうがいいと思うわ」

 「そうだね。そこの判断はミス直樹次第だ。どうする?」

 まあまだ完全に治ったかと言われたら、と考えれば今日よりも明日のほうがいいことは確実。

 「明日でいいよ。大丈夫」

 「じゃあ決まりだね」

 「では先に失礼する」

 男子は早めに食堂を出て風呂の準備を進めて行った。

 「昨日誰も入ってないの?」

 「入ってないよ。一人だけ仲間外れなんてかわいそうじゃん」

 「ほんとごめんね、っていったぁ!?!?」

 渡良部にデコピンされた痛いなんで!?

 「玉柏(ツモ)も言ってたでしょ、『謝るな』って。あんたは少しお人好しが過ぎるの。そりゃツッコミで厳しいところもあるけど、そういうのも含めてもっと砕けていいのよ」

 …………砕けていい、か。

 「そうだね。ご……ありがとう」

 「今言いかけたでしょ」

 「ふふ、何のことかな」

 渡良部にいたずらっぽく笑ってやった。

 

 *****

 

 今日は早めにシャワーを浴びよう。そして寝よう。

 いろんな新しい発見があったなぁ。みんなのことをよく知れた1日だった。明日はどうだろう。嫌な予感がする。そろそろ、順当にいけば明日動機が出される。

 

 覚悟を胸に潜めつつ、私はベッドに体を投げた。

 

 

 *****

 

 8日目

 

 アナウンスとともに目を覚ます。あれ、もしかして今日じゃないのかな。まあそれならそれでいいや。食堂行こう食堂。

 いつもと変わらないのかな。それならそれでそのままでいて欲しい。

 

 

 「もう一週間、過ぎ経ったんだっけ……」

 

 

 

 ***

 

 

 

 食堂へ行って朝食へ。食べてる最中そういえばあまり気にも止めなかったことにふと気づく

 「巡間くんって左利き?」

 「ん? ああいや両利きだ。仕事柄忙しさに身をおいてるから両方使えたほうが便利だと思ったんだ」

 私と同じだった。なんかシンパシーを感じた

 「わかる。翻訳作業って思いの外大変だから、両手使わないと間に合わないっ!! とかざらにあるし」

 「お互い大変だな」

 「左で書いたら大惨事になるわ」

 「地獄絵図状態」

 「うわーわかるすごいわかる」

 ほらあれだよ。迷子になるんだよ。伝われこの気持ち

 「最近は左を使うように心がけてるが、やはり癖とは治りにくい。右も出てしまう」

 「慣れだもんね。他に左利きとか両利きはいるの?」

 「左使ったことないよ。あ、でも利き足は右」

 「わしは利き手が右で利き足が左じゃな。基本的に利き手と利き足は逆になるんじゃが、渡良部みたいにたまに利き手足が同じなやつもおるから」 

 それは初耳。ああでも走り高跳び思い出したらそうかも……結果は忘れた。よかったようななんか、疲れて保健室送りにされた記憶しかない

 「けど案外左利きはいないんだ」

 「へえ。左だけはいなくて両利きが二人。あとみんな右利きってことなんだ」

 「あれダグラスくんも右利き?」

 「右だよ。ずいぶん昔に左でやってたときもあったけど合わなくてさ。それ以来ずっと右なんだ」

 やっぱりそういうのって慣れなんだなぁ。

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!!!

 

 

 

 

 『なァっはっはっはァ!!!! オマエラァ!!!! 朝食が済み次第ィ、あ集会室へ集まるであーーる!!』

 

 

 

 ……………………

 

 

 フラグ回収しました。本当にありがとうございました。

 「ねえこの呼び出しって」

 「十中八九、俺たちが考えている『それ』だろうな」

 逃げ出す選択肢はもとよりないも同じ。

 「逃げるな。逃げるは一生の恥じ。行くぞ」

 玉柏のその勇気は、一体どこから出てくるのやら。怖いもの知らずというかなんというか。どこからあふれでるんだろう

 

 

 *****

 

 集会室へと足を運ぶ。相変わらず何の変哲もない。けれど、あの頃に行ったときと同じ気持ちがある。けど

 「集まったであーるなァ」

 憂鬱だ。動機が公開されるのか。ついでにレイヤーギは江上のコスプレ。嫌味かよ

 「またろくでもないものを……」

 「ろくでもないィ??? 違うであーるなァ。ろくでもないわけではないであーるがァ、それに触発されるのはオマエラであーる。まァァ、今回もコロシアイを起こしてくれるとォワレは信じているであーるからなァ!!」

 その手にはまるもんか。

 「で、何なんだ。ここにただで呼び出したわけではないんだろう?」

 「よくわかっているであーるなァ」

 ギラリと目を光らせて私たちを見下ろす。

 「集まってもらったのは他でもないィ、動機を与えるためであーる!!」

 うん知ってたそんな気はしてたよ

 「今回ィ、オマエラに与える動機はァ~、こいつらであーる!!!! ノン!! フィク!! ション!! であーる!!!!」

 ……こいつら? って思ってたらステージのスクリーンが下がる。集会室が暗くなり映像が流される。

 

 _____

 

 

 

 燃え盛る炎

 

 

 瓦礫の山々

 

 

 崩壊した建物

 

 

 赤い空

 

 

 煙たいとても煙たい

 

 

 モノクロの群衆

 

 

 倒れている人々……

 

 

 え、私たち?

 

 

 その中で

 

 

 ただ三人挑む者

 

 

 ………………見覚えがある

 

 

 その前に立ちはだかる

 

 

 謎の影

 

 

 口が動く

 

 

 刹那消える影

 

 

 倒された三人を見てそいつは嗤う

 

 

 そしてはっきり聞こえた

 

 

 聞こえたのか?

 

 

 あれ

 

 

 ま、待って

 

 

 ***

 

 

 熱い

 

 

 

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い

 

 

 

 

 ……………け………………て………

 

 

 

 

 「カハッ!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 えっ?

 

 

 何……これ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「金室さんっ!?!?」

 

 

 ***

 

 金室が突然喀血した。

 「な、何ですか、これは?」

 本人も驚いている。まさかあの映像に何か?

 「ちょっとあんた大丈夫なの!?」

 「至って健康……なはずなんですが、あれを見たら痰が詰まった感じがして……そうしたら血が……」

 ……もしかして記憶のどこかにこれを知っているのか?

 「ヒィッヒッヒッヒィ…………オマエラはァまだ思い出せないィ。その時がくるまではなァ!! あそーれーとォ!!」

 コツンっ!! っと蹄を響かせ手というか前足か、をこちらに向けた。

 「Ⅱ棟のオマエラの部屋にィ、それぞれの秘密の封筒を用意したァ。中身はランダムゥ。開けてみてからのォお楽しみなのであーる!! なあァっはっはっはっはァ!!!!」

 そういっていつもの如くさっさといなくなった。なんというか無責任にも程がある。いやそれよりも

 「何がどうなって……?」

 「呑気にしてるんじゃない!! すぐに医務室へ行くぞ!! 他にも体調悪い人はいるか!? 私が見てやるから!!」

 「え、はい……」

 混乱したままの集会所。巡間に連れられ金室は出てまた阪本もついて行った。集会所に残る人の中でただ二人、冷静な人がいる

 「おい謎野郎」

 「なんだ橘……いや、言いたいことはわかる。俺たち(・・・)があそこにいた」

 ……そう、あの三人のうち二人は橘と玉柏。

 「お前は記憶にあるのか」

 「わりぃがねぇ。もう一人のやつは見覚えがあるはずなのに思い出せやしねぇし。くそったれが」

 そんな二人に、話しかける人がいる。

 「…………ねえ二人はどういう関係なんだい? あの様子を見る限りなーんにもないわけがないのは明白だよね。けど少なくともあたいたちの味方だとは思ってる。ただ玉柏くん、キミが別の視点から関係している可能性は充分にあり得る。とはいっても才能ぐらいしか関係性を見出だせないけどね」

 玉柏は顔を歪ませ視線で訴える。

 「別にそれだけで信用しないだなんて言わないよ。気になっただけ」

 「……あんまり触れてくれるな。俺だって確証があるわけじゃない」

 「まあそうだろうね。これ以上は突っ込まないよ」

 あっさりと引いて、それを皮切りに解散することになった。

 

 

 *****

 

 …………何だろう。体の節々が痛いような……とりあえず部屋にある秘密の封筒とやらを見てようじゃないか。

 部屋に入ると、確かに机にモノヤギのいう封筒があった。これも一応動機の一つ。誰の秘密なのか。唾を飲み込んでゆっくりとそれを開いて見た……

 

 

 

 

 『渡良部美南は親を見捨てた』

 

 

 

 

 

 

           to be continue……

 

 



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第二章(非)日常編 落ちる4部屋目

どうも。こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海(えんてんすいかい)です。
死体発見編なんですがpixivで先に読んだ方からシロが意外すぎと言われました。なぜだ!? まあそれと同時にしてやった感があります。


 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 渡良部は親を見捨てた。あのとき渡良部が言っていたことと違う。でも私は渡良部が嘘をつく人だなんて思えない。この動機で殺人を起こそうとは考えられない。けれど彼女にも確認しないといけないかもしれない。

 それよりも動機になりそうなあのスクリーンに映された動画。あの映像はノンフィクションと言っていたけれど多分それは本当だと思う。嘘ならあんなリアリティーのある映像は作れないと思うし、何より……

 「……痛い」

 体の節々が痛むから。私たちはあれに捲き込まれてしまったからそうなっているのかも知れない。一体、あれは何だったんだろうか。

 さて悩むのはこれくらいにして、これからどうすべきか、適当に探索しよう。昼までまだ時間がある。Ⅱ棟か…………あ、化学室にちょっと寄っておこう。

 

 ***

 

 化学室に行ってみた。まあ中身は変わってないけれど。あの個室、玉柏がタバコを吸っていたからどうにか出来ないのかなとか思ってみる。誰もそこにはなくて、ただただ閑散としている。けど個室が臭うことはなかった。むしろ香水というかそういういい香りがする。ふと横の棚に目をやる。

 そこには

 

 

 

 『ファ○リーズ』

 

 

 

 「用意周到かよっ!!?」

 芳香剤がちょこんっとおいてあったよ。そこまで配慮してたの。うんまあ彼成人してるからなぁ。

 「なーにやってんだお前は」

 「うわぁっ!?!?」

 後ろから突然玉柏(あの声は絶対玉柏って確信があった)に話しかけられ驚いて足元にあった椅子だかなんだかいろんなものに足を引っ掛けて転びそうになる。

 「っと。悪い、大丈夫か」

 左手首を掴まれ間一髪で倒れずに済んだ。

 「だ、大丈夫。はあびっくりしたぁもう!!」

 「怒るな怒るな。つかここにあんまいるなよ。これから」

 「没収」

 煙草とライターを取り出し始めたからスッと取った。

 「!? おいやめろ!!」

 「やめろじゃないでしょ!! 体に悪いんだからやめなさい!!」

 「お前は母さんかよ!! つーかここに来て禁煙ちゃんとしてたんだぞ!?」

 「長続きしなかったら意味ないでしょうが!! はい!! また禁煙しなさい!!」

 「うるさいなぁ!! 俺はお前たちと違って年齢上なんだぞ!? つーかまだ今日一本も吸ってないんだよ吸わせろよ!!」

 「関係あるかぁっ!! 未成年多いんだからそこ弁えてよ!!」

 「ああもう埒があかねぇな!! あっ」

 「?」

 突然玉柏は何かを思い出したように目を見開いて考えごとをしている?

 「……ははっ」

 なんて思っていたら自嘲気味に笑った。

 「これだから、お前は相棒なんだな……」

 「どういうこと? 確かに裁判の前に相棒って言っていたけど」

 「ああ。所謂コンビってやつな。俺は自分でも不思議だった。なんであのときお前を相棒と呼んだのか」

 言われてみれば。でも自分はすんなりと受け止められた。確か……私に隣に誰かいて、玉柏の隣にも誰かいた…………いやまさかとは思うけど。もしそうなら宮原の言うことは本当……いや夢にまで出てくるくらいならもうこれは確信していいことだと思う。

 「玉柏くん、私前まで気付かなかったことがあって。でもそれが今確信になったかもしれないんだ」

 「…………それはなんだ?」

 「________」

 「………………________」

 「!!!! ______!!」

 「_____はは」

 「ふふっ」

 私たちは思わず笑っていた。そんなことあるんだなって。

 「お互い相棒としてやるべきことをやろ? このあとのためにも」

 「……距離感も大事にしないと今後誤解されるのも時間の問題だろうな」

 「確か今日はこっちが……だよ。多分その話に少なからずなると思う」

 「それはそれで任せる。そんじゃ」

 玉柏は右手を差し出した。私は答える。

 「これからもよろしく頼むぞ、相棒」

 「こちらこそよろしく、相棒」

 交わされた約束は固いもの。二人の約束。

 「ところで返してくれないか」

 「却下」

 

 ***

 

 医務室へ金室の様子を見に行く。阪本はすでにいなかった。

 「とりあえずこれで平気だろう」

 「すみません。迷惑をかけてしまい」

 「なんてことはない。医者として当然だ」

 金室さんは元気そうにしていてホッとした。

 「金室さんは大丈夫なんだね」

 「ああ。間違いなく動機があの原因だろう」

 「そうです。しかし不思議なことがあります」

 不思議なこと……もしかして

 「体の節々に何か異常があったりする?」

 「……直樹くん、君もなのか?」

 ここで巡間に君もと言われるとは思ってなかったよ。

 「えっ巡間くんも?」

 「ズキズキするというか、つったような感覚。ただ直接受けたような感覚でもある。あとは体が妙に熱い。熱を計っても平熱。おかしいだろう?」

 「先ほど阪本さんもいたんですが、彼女も同じそうなんですよ」

 「……もしかし」

 「もしかしてじゃない。そうだと思っている」

 まだ何もいってないって。

 「あれがノンフィクションだと言われて信じる者は少ないが、私は少なくとも事実であると思う。ほぼ毎度私たちの身に起こる記憶、身体、精神などに関系する異常が証拠だろう」

 細い目がさらに細められて眉間にシワがよる。

 「私も金室くんもまだ見てはいないが、今回あの映像とは別のもう一つの動機が特に大きな火種となるだろう。どうなるかは私にもわからない。だがなぁ」

 巡間は遠くを見るようにして椅子に深く深く座った。

 「仮に今回事件が起きたとしたら、犯人は絞られやすい気がするんだ。Ⅱ棟が少し特殊だから。いやⅡ棟で起こるとは限らないが」

 ……巡間の言う通りだ。Ⅱ棟は誰かが入ればライトが付く仕組み。Ⅱ棟で犯行は難しい気がする。

 「それゆえ恐ろしい。今こうしている中でも」

 

 

 

  絶望への歯車は動いている可能性が高い

 

 

 

 *****

 

 昼過ぎ、少し手伝おうと思って食器の皿洗いをしている。

 「ありがとうございます、直樹殿」

 「いつもやってくれてるから、たまには手伝わないと申し訳ないし」

 「わたくしも好きでこの職についておりますから。細かな作業も大掛かりな作業も好きなのでございますよ」

 嬉しそうに笑っては皿を洗う。見てると一瞬で終わっているように見えてくる。必殺仕事人かな?

 「よし、これで終わり。何人もの料理とか作るのすごいよね」

 「ふふ。執事の仕事はそれだけに留まりません。掃除もそうですし、主のサポートを担うのも我々執事の仕事でございます」

 「ああそっか。いつからやっているの?」

 「幼き頃より両親から仕込まれましたので。それから今の主であるお嬢様のところにおりますから……お屋敷には執事メイドなど含め三十人ほど暮らしておりますよ」

 「大家族かよ」

 「いつもとても賑やかなので飽きないのでございますよ。さてと……」

 棚の前へと立ちティーカップと一緒にあるものを取り出して台の上に置いた。なんて書いてるんだろう。バーベイン茶?

 「近衛くんこれは」

 「バーベイン茶でございますよ。少々苦いですが如何でしょうか?」

 「あ、飲んでみたい」

 かしこまりましたと言うと同時にお湯を沸かしてお茶の用意をする。

 「バーベイン茶は、精神的疲労からくるイライラ、不安、緊張、憂うつなどの不調や、ストレスが原因での頭痛、食欲不振、不眠など、神経性が原因である心身の不調に効くハーブティーでございます。また消化を促す作用や肝臓の働きを強化する作用もございます」

 「うわぁ今の自分に欲しい作用が」

 「他にもストレスに効くハーブティーはございますからそのときはまた」

 そんなことを話しているとお湯が沸いた。お茶を淹れてもらってそれを飲んでみる。ああ確かに少し苦いかも。どこか渋い味だけれど

 「後味がさっぱりしてるね」

 「お気づきになられましたか。バーベインは昔から万能薬として取り扱われていた植物なのでございますよ」

 「良薬は口に苦し、なんていうからね」

 「花言葉は『魔力』や『魔術』。古くから『聖なる草』などと呼ばれ、神聖な植物として神事に利用されてきたのです」

 「キリストっぽい」

 神霊的なものも感じたよ。

 「他にもいろいろ言い伝えがあるんですよ。紅茶やハーブティーの類は本当に奥深い」

 紅茶を飲んでいるときの近衛はダグラスと渡良部とゲームをしているときと同じくらい幸せそうな顔をしている気がする。それだけ好きなものなんだな

 

 

 ***

 

 お風呂の時間になった。今日は女子が使うって言ったから着替え(といっても同じ服のストックだけど)とかタオルとかまあ必要なものを持って風呂場に行く。こうしてみるとみんな結構スタイルとかいいんだな。

 「そういえば金室さんは大丈夫なの?」

 「はい。長湯だけはするなと念押しされましたけどね」

 まあそうだよね。

 髪の毛と体を洗い湯船に浸かる。ちょうどいい感じの温度。シャワーよりもずっといい

 「ふぅ……」

 「良いお湯。コロシアイの空間でなければさらによかったんだけど」

 「尤もね」

 全員が入る。ここのところ疲れが溜まっていたからこういうところでみんなで疲れを癒すのもいいな。

 「さぁて!! 女子みんなで集まるのって何気に初めてじゃない?」

 「言われてみれば」

 「いやなんとなく何だけど、今渡良部が何をしたいのかわかる」

 「さすが阪本(ナン)。ただでここに入るのは大間違い」

 「女子だけの集まり……つまり」

 「恋バナでしょ」

 出た定番中の定番。女子の秘密のトーク。そうガールズトーク

 「だって今日動機配られたって言ってしんみりするのイヤじゃん」

 「それもそうだね」

 「まずは誰から?」

 「言い出しっぺの法則でいいと思います」

 「私から? んー近衛(リーチ)かな。一緒にいて楽しいし落ち着くし」

 割りと素面で答えたな。

 「矢崎(ナン)とかはあんまりそういうの見ないけどいるの?」

 「あたいはいないよ。頓着はしない主義なんだ」

 なんとも彼女らしい。

 「湊川(シャー)は知ってるからいいや」

 「……!! ちょっと渡良部さん!! あれは忘れてよ!!?」

 お湯のせいかそれとも湊川自身の熱なのかわからないけど顔が赤くなってる。

 「湊川、抵抗するのはやめたほうがいいよ。渡良部もワタシも見える位置だったし。あの中で気づいてない人いないと思う」

 「も、もうやめてよ!! 恥ずかしいじゃない!!」

 「ヘブッ!?」

 「うわっ!?」

 バシャッ!! っと阪本と渡良部にピンポイントでお湯を弾いた。三人の間で何があったんだ。

 「私だけずるいじゃない……阪本さんはどうなのよ」

 「ワタシ…………何だろう、宮原のことは結構気になってるかも」

 「よく一緒にいますよね。息が合うというかそんな感じがしています」

 「こう細かい作業とか好きでしょ。親近感みたいなの湧くの」

 なんか納得。湊川とも一緒にいるところよく見かけるから仲いいんだなって思ってる。渡良部もダグラスと近衛のトリオみたいなのが出来上がってるし。

 「金室さんはどう?」

 「うちはまだ特に気になる人はいないです。これからそういう人が出てくるかわかりませんけど」

 偏見で申し訳ないけど、金室さんは女子の中で一番厳しいと思います。ズバッて言うこと言うし。

 「直樹さんは彼よね」

 「うんうん」

 「彼しかいないでしょ」

 うんうんと全員頷いてる。

 「え、確認のために聞くけど誰?」

 「「「「玉柏くん」」」」

 わお

 「息ピッタリで答えられたよ!! そんなに私たち一緒だっけ!?」

 「結構一緒よね」

 「裁判前後とか」

 「外でもいたし化学室にもいなかった?」

 なんでそこまで知ってるんだって思ったけどここにいる以上ある程度筒抜けだったわ。

 「二人の関係気にならない?」

 またみんなしてうんうん頷いて今度は近くまで寄ってきた。

 「で、結局のところどうなの!? 玉柏(ツモ)とは!!」

 「近い近い近い!! なにこのデジャブ!? しゃべりづらいってば!! ていうか私彼氏いる(・・・・)から!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬どころか、普通に時間が止まった気がした

 「はああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?」

 風呂場に響く驚きの声。

 「えっ……え?????」

 「待ってください」

 「これ耳疑っていいわよね???」

 「それ本当かい?」

 「嘘も何も……本当……だよ。うん、今なら確信できる。事実だよ」

 

 そしてまた時間が止まった。

 

 「ちょちょちょちょちょ!! ちょっとそれ誰なの!?!? 教えなさいよ!!」

 「いやいやいやいや!! そう簡単に教えるわけないから!! ていうかここにいないし!! どっちにしろ教えないよ!!」

 「ここにいる人みんな言ってるんだから教えなさいよ!! えぇい!!」

 「ひあっ!?」

 自分に向かってお湯が弾かれた。

 「なにを~!!」

 私もそれに乗るように渡良部に向かってお湯を弾く。その間にそろそろという風に阪本と金室は先にお風呂からあがる。湊川と矢崎はそのまま残っていつの間にかお湯掛け合戦になっていた。

 

 ***

 

 「あっつい~……」

 「バカじゃないですか」

 「あはは……」

 すっかりのぼせてしまった。そりゃあんなにはしゃいでいたらそうなるか。けどこうしたガールズトークも悪くない。他愛もない何気なく交わされる会話。どこか落ち着いた気分になる。

 「あれ阪本ちゃんは?」

 「今宮原くんを柱に移動させてます」

 なるほど宮原を移動させ、はい???

 「え?」

 「宮原くんを柱に移動させて……」

 「いやそこはわかったけども!! 宮原くんどうしたの!?!?」

 「阪本さんが体にタオル巻いた状態で出入り口のところのスペースに行ったんです。その時宮原くんがたまたまやって来て自分で自分を殴って気絶したそうで」

 「自分で自分を殴った!?!?」

 「そうですよ。というかうちそのために待ってたんでした。早く着替えてください手伝いに行きますよ」

 「そういう大事なことこそズバッて言ってよ!!」

 急いで着替え阪本のいるところへと行くと確かにそこには宮原が気絶しているようで、必死に引き摺りながら大柱に寄せている。

 「手伝うよ」

 「ありがと。やっぱ男子って重い……」

 確かに少なくとも10cm以上高いし。体重もそこそこあるんだろうな。柱に寄せて目覚めを待つ。動機の封筒らしきものがポケットから垣間見えた。

 

 ***

 

 「大丈夫?」

 「う、うう………………? !? うわわわわ!?!? っ!! いったぁ!?」

 落ち着けお父さん

 「そんな驚かなくても」

 宮原はぶつけた頭と腰を抑えて顔をあげる

 「とりあえず、大丈夫?」

 「いやうん、大丈夫。そしてほんっとごめんね…………」

 宮原が柱に寄り掛かって顔を手で覆った。なんというか、どっちに非があるのかわからない。

 「とりあえず宮原くんは何をしようとしたのか確認してもいいですか?」

 「……ああ。ほらそこの板あるのわかる?」

 指を差した方向に目をやればそこには倒された折り畳み式の板があった。これもしかしてボード?

 「あれを設置しようとして誰もいないかなって思ってこっち来たんだ。そしたら予想外にもみんながいたってわけ……」

 「それって何なの?」

 「男子か女子か、どっちか入浴中だって示すために作った特製のボード」

 流石すぎるお父さん。

 「これわざわざ作ったの? 一から?」

 「俺が好きで作っているものだし。こういう日曜大工も楽しいんだ」

 「なんというか、こういう場で言うのもおかしいかも知れないけど。宮原ありがと」

 「素直に受け取っておくよ」

 だからって自分を殴らなくてもいいような。

 「けどなんで宮原(ソウズ)は自分を殴るの。そこまでしなくても普通に目を逸らしていればよかったんじゃ」

 「そうできなかったんだよ!!」

 少しだけ怒鳴るように言ったかと思えばまた顔を覆って悶えた。心なしか顔とか耳とか赤くない?

 「できなかった?」

 「………………言わなきゃダメ?」

 「言ったほうが多分誤解云々晴れるし」

 「こんなことまさか女子に暴露することになるなんて……」

 覚悟を決めて、けど戸惑いを交えた表情で震えを抑えながら語り始める。背中に手をついてしっかりと座り直して

 「…………きだよ」

 「え、今なんて?」

 「性癖だよッッ!!!!」

 

 

 

 ………………

 

 

 

 ふぁ!?!?!?!?

 

 

 

 「せ、性癖!?」

 「え宮原くんまさか……」

 「待って!! 何想像したか知らないけど誤解だよ誤解っ!!」

 

 

 

 あっこれ女子絶対聞いちゃいけないやつだわ

 

 

 

 「莉桜がこっちにきたときにバスタオルで巻かれた状態できたでしょ……ボードを置こうとした拍子にうっかり見ちゃったんだよ……」

 あっもしかして

 「…………見た?」

 静かにコクンと頷いた。うん、ごめんホントごめん。

 「俺さ、親父がなんというか何とは言わないけどデカイの好きなんだ。それを半ば押し付けられるように見てきてて……自然とそれが定着しちゃって……おかげで見た瞬間に変な考えが脳裏を過ったんだ……それでダメだって思って自分を殴ったってわけ……」

 なんか納得しちゃいけないこと納得した。けど、けどこれは

 「ああもう公開処刑死ねるよこれ……」

 スッゴい申し訳ない。阪本も赤くなるのもそりゃ無理ないし。

 「こんなこと、あいつ知ったら絶対怒られる……半径一キロ以内の人に申し訳ない……」

 「待って」

 「半径一キロ以内の人ってどゆこと!?」

 「怖いんだってそれぐらい!! 比喩じゃないからね!? あいつっていうのは俺の親友なんだけど、ホント、怒るとめちゃくちゃ怖いんだ!! 半径一キロ以内で『軽傷で済むけど交通事故百件以上発生する』わ『子どもは恐ろしくて熱出して寝込む』わ『怒られた人は寒気と悪感と恐怖心で腰が抜けて立てない』わで!! 」

 「恐ろしすぎない!?!? 何その状態!!?」

 「ううっ考えるだけでも寒気が……」

 宮原の顔が恐怖にまみれている。そんなに怖いのか……

 「よし切腹してこよ」

 !?

 「いや早まるなぁ!!!!!!」

 このあと切腹しようとする宮原とそれを止める女子との戦い(?)が始まることになった。状況がおかしいなこれ。

 

 

 *****

 

 なんかいろいろとあったがまあよしとしよう。まだ平和ってことなんだから。……まだ、なんだよなぁ。今朝動機は出された。その動機に触発されて殺人を犯すこと、あり得ない話じゃないんだし。

 

 

 

 

 

 

 ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私毎回こんなこと考えるから倒れるんじゃ

 

 

 

 もういい

 

 

 寝よう

 

 

 その方が早い

 

 

 ***

 

 9日目

 

 朝。適当にヨガやって、目を覚ましては食堂へ。特に何かあったわけでもなし。灰垣はそこへ残って、あとのみんなは好きなところへと。

 売店また寄ろうかな。行けば国門も同じ方向へと行っていた。なんとなく何を調べるのかってわかるけども一応はね。

 「またカレンダー?」

 「もちろん。まあそれだけじゃないが」

 そういうと手持ちサイズの日常で役立つかもしれない的な感じの小ネタ本を取り出してきた。

 「少し料理のネタをと」

 「国門くん料理するの?」

 「いやいや僕はできないよ。得意じゃない。ただ昨日橘がお菓子を作っていたときにどこか手抜きさを感じたから」

 ああなんかわかる。そうする術を理解しているというか

 「ま、楽な道なんてないけど」

 弁護士の道って険しいんだっけ。

 「弁護士って相当難しくない? いくつもある法律を覚えるの」

 「語学も同じようなものだろ」

 論破された。

 「たまたま系統が俺に当てはまっただけだ。スッと体に入ってきた感じでね。電気が流れた感じ」

 「ビビッときてこれだっ!! ってなるやつ?」

 「それそれ。適性にあったんだ」

 懐かしむように国門は微笑んだ。

 「昔、推理が全くできてない裁判を見たんだ。無罪を訴える被告人の権利も尊重せず、まるでその人の運命がすでに決まっていたかのようで。僕は、不思議と聞いていた内容をすべて覚えていた。そこから思考を廻らせて犯人を暴いたんだ」

 才能ありすぎだろ。

 「結果的に被告人を犯人だと通報した人が犯人だったよ。ただこのときは完全にたまたまだった気がする。そもそも」

 ビシッと私に指を向ける

 「弁護士があそこまで大活躍できること自体珍しい。有罪判決受けた人が無罪になるってことも。それまでの過程でどれだけたくさんの証拠、事実を取り揃えなければならないか。それに」

 ポケットに手を入れて私を睨んだ。

 「あの裁判はまだ終わっていない(・・・・・・・)

 終わって……いない?

 「え、それってどういう……」

 「そのままだよ。鷹山の謎が解けていない」

 鷹山の謎?

 「君は言った。鷹山は『ただでここから出られると思っていなかった』と。それはあのメモ帳から推理したんだろ」

 「そうだけど」

 「仮に鷹山がそう思っていたとして、なぜそう考えたんだろうなぁ? メモ帳から推理するにしたって情報が少ない気もするだろうぜ」

 口調が裁判のときのになってる。正直このときの国門は苦手なことこの上ない。

 「た、確かにそうだけど」

 「少ないからこそ、そこからの俺の勝手の推理をするが。この中にこのコロシアイを起こした黒幕がいるんじゃあねぇか?」

 「黒……幕」

 いや、まさかそんなことが。けれど彼の言うことも有り得ないわけじゃない。遠隔操作なんて今のご時世あるし。

 「ここにいる以上推理できる材料は確保しておいて損はぁねぇ。あくまでも俺の推理だ。真に受ける必要はない。留めておくだけで結構だぜ」

 ……彼は、盲点を付く天才かもしれない

 

 *****

 

 少し経ってすることもないと思ってⅡ棟を回ってる。物理室に適当にいると扉が開いて湊川が入ってきた。

 「直樹さんじゃない。ここに何かあるのかしら」

 「特にないよ。ただの探索。……正直ここは頭が痛くなる場所だけど。物理ちんぷんかんぷん」

 「物理もわからないけどそっちよりも化学のほうがわからないわ」

 お互い理系科目苦手だ。

 「そういえばあまり話したことないわよね」

 「機会少なかったからね……」

 何を話そうか。

 「前々から気になってたけど、湊川さんって海賊服とかそういうの好き?」

 「ええ。結構気に入っているのよ。だってこうロマンがあるじゃない」

 「わかる。かっこいいよね」

 眼帯つけていたり義手だったり、格好そのものもかっこいい。

 「海賊といえば、無敵艦隊(アルマダ)を破ったイギリスの航海者『ドレーク』は知ってる?」

 「もちろん」

 かつての強国として恐れられたエジプトを破った有名な海賊。

 「彼の活躍は同時のイギリスからしてみればとても素晴らしかったわ。現代の教科書に載ってるくらい。けれど本来海賊は恐ろしいものなのよ。人々の脅威だった」

 アニメとかだと美化されているから実際は、だからなぁ。

 「人々からの評判はよくなくても、王女、エリザベス一世から高い信頼を得たからこそあの戦争に勝ったんだと思う。けど信頼を得るのって簡単じゃないのよね」

 信頼、か。

 「お客さんに平等に、対等に向き合うのも楽じゃないの。始めから信頼を得るだなんて甘ったれでしょ? 努力の積み重ねが必要なのよ。何事もね」

 商売が仕事の彼女にとって、信頼関係を築くのは大切なこと。それが容易でないこともわかっている。だからこそ努力しなきゃいけないんだ。

 「さぁて、そろそろ行こうかしら」

 「どこに?」

 「カフェよ。これからちょっとダグラスくんと話をするの」

 「へえそうなんだ。宮原くんとか阪本さんとかは?」

 「宮原くんはまた小物作るみたいなこと言ってたわ。そのあと何かするとも言っていてお昼は少し遅くて来ることになるかもって」

 「相変わらずだなぁおい」

 「阪本さんは美術室のほうに行ってからふらふらするって言ってた。まあ二人の行動を制限する権利なんて私はないから」

 それにしても湊川は嬉しそうにしているな。もしかしてダグラスくんと何か進展したのかな? ……なんて、聞くのも野暮だよね

 

 *****

 

 はい

 

 現在渡良部に連行されてます

 

 物理室出たあとなぜか渡良部に捕まって連行されている。なんでやねん。Ⅰ棟の渡良部の部屋へ。思えば他の人の部屋に行くの初めてかもしれない。

 「お邪魔します」

 「いいいい、硬っ苦しいから。適当にその辺に座って座って」

 とはいえ座るところもそこまであるわけでもなし、ベッドに腰をおろした。渡良部は紙コップにお茶を入れて私に出した。一口飲んで一度近くの机に置いておく。

 「……で、話って?」

 「…………昨日の夜に女子みんなで話したでしょ。誰が好きかって」

 した。渡良部から切り出した内容だった。

 「えっと、それがどうしたの?」

 いつもの渡良部とは思えないほど挙動不審。強気が弱気になっている。言おうとしては言えずを数回繰り返した。

 「落ち着いて。ゆっくり聴くから」

 

 [newpage]

 

 「胸が……苦しいの……」

 「苦しい?」

 「近衛(リーチ)っていつも優しいじゃん。それはゲームしてるときも同じなの。あのとき側に居てくれたのもハンカチをくれたのも近衛(リーチ)だった。なんかね」

 持っているコップにかかる手の力が強くなる。水面をじっと見つめて

 「こんな気持ちに一度もなったことないの。だって私は生活を追われたから親を見捨てざるを得なくなって、それからずっと監視されるように生きてきた。……牢獄じゃない。そんなの嫌なのに、ここでも同じって私はどれだけの『大罪』を犯したっていうの?」

 時々震えながら儚げに言う。

 「けどその中で……私は一つ、光を見つけた。あの優しい笑顔を見る度に嬉しいというか落ち着くというか、今までの心の鎖が緩むようなそんな気持ちになって。一昨日の(チュン)との対決もとってもかっこよくて。隣に居たいって強く思うの……ねえ……私は、……近衛(このえ)の側にいていいのかな……? あの優しさに……溺れていいのかな……? ダグラスも一緒に……三人でたくさん、ずっとずっと、遊んでいいのかな……?」

 無知な少女に課せられた罪のような束縛。渡良部が確実に知るのは少し遅いかもしれない。それを導く役割は私は持っているのか。

 

 

 

 

 ____

 

 

 ふと光る、眩しいあの笑顔

 

 ____

 

 

 

 

 

 ……なら……

 「そばにいることは、罪じゃない。居たいんだもの。心からあなたが望むなら溺れてもいいと思う」

 「直樹(トン)……」

 「私もね、なんか寂しいんだよね。ぽっかり空いた穴があるんだ……」

 何だかいつも隣にいた人が突然いなくなったみたいに

 「別に玉柏くんがその埋め合わせだなんて思ったことなんかない。彼も彼で抱えている同じ問題だから、お互い相手のために距離感を大事にするって約束したんだ。また会うそのときまで、私たちは背中を預けて立ち向かうって決めた。相棒(コンビ)としてね」

 「……それなら、あんたたちの距離感に納得がいく。そんな事情があったんだ」

 「うん」

 慰めなんていらない。埋め合わせなんていらない。ただ私たちは信頼し合っていくだけだから。

 「渡良部さん、質問を質問で返すことになるけどあなたはどうしていたい?」

 「私は……」

 目を閉じて手の力をまた少し強めて。バッと目を開けてコップをテーブルに置く。

 「みんなの……そばに居たい。一緒に居たい!! ……そっか。私は難しく考え過ぎただけなんだ」

 彼女は自身の頬をバシッと叩いてッシャアッッ!! と気合いを入れた。

 「今はまだ悩んでみる。それでこの気持ちと向き合う」

 

 *****

 

 お昼になった。渡良部と一緒に食堂へ向かう。と……なぜか座禅を食堂の隅にいる灰垣がいた。

 「意味わかんないよ!!!?」

 「む? なんだ直樹と渡良部か」

 「なんだじゃないでしょ!? なんでここで座禅なんか」

 「座禅というか瞑想じゃな。さっきまでモノヤギも居ったぞ」

 「何でレイヤーギまで!!?」

 「気まぐれじゃよ。気まぐれ。とにもかくにも、そろそろ時間じゃとおもっとったし、座って待つことにしようじゃないか」

 なーんでこんなにペース乱されるんだろう???

 灰垣の言う通りまだ全員揃っていないみたい。適当に席について待っている。ダグラスと湊川もすでに食堂にいるみたいで手伝いをしているらしい。15分、巡間が食堂に。30分に阪本が。まだ来ていないのは金室、国門、宮原、矢崎、橘、玉柏の6人か。宮原は遅くなるみたいなこと湊川が言っていたっけ。そういえば電子生徒手帳見ればⅡ棟にいる人ならわかるはず。そう思って見てみると、植物庭園に誰かいるのがわかった。まあしばらくすれば来るだろう

 

 

 

 

 プルルルル!!!!!!

 

 

 

 

 「わわわ!?」

 突然手元の電子生徒手帳が鳴った。びっくりした。けれどそんなことよりとりあえず出てみる。

 「はい」

 『翻訳家!! 今どこだ!?』

 「!?!?」

 橘の大きな声が電話にも関わらず食堂に響いた。

 「た、橘くん!? え、いや、食堂だけど」

 『!! てめぇら、そこにいるんだな!? 誰がそこにいる!?』

 「灰垣くんとか渡良部さんとか……これからご飯だし」

 『バカ野郎!! 呑気に飯食ってる場合かッッ!!』

 え、なに、どういうこと? 何が起こってるの? 湊川がこちらに来たのが見え、こちらの様子の異変に気づいて立ち止まった。 

 「な、なにが起こってるの!?」

 『一回しか言わねぇぞ、耳ほじくってよくきけ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………が死んでいる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は?」

 『詳しい話はあとだ!! 執事はそこにいんのか!? やつに握り飯作れって言っとけ!! いいか!! Ⅱ棟にさっさとこい!!』

 「え、ちょ」

 

 ブツッ…………

 

 途切れた通話。これはどういうこと? また起きたの? いや、今やるべきことは

 「渡良部さん!! 今の話聞いていた!? ダグラスくんと近衛くんに伝言お願い!! 私たちはⅡ棟に急ごう!!」

 一刻もはやく橘の言う真意を確認すること。今その場にいない人はとりあえず気にしないで、急いでⅡ棟へ向かう。

 その場にいた私、湊川、阪本、灰垣、巡間は急いでⅡ棟へ。ダグラスと渡良部は残って近衛の手伝いに回ることに。

 「お前らどうしたぁあ!!」

 奥の木の上……ではなく下から玉柏の叫びが聞こえた。何か腰擦ってる!? けど

 「おい何で腰擦ってるんだ!? 説明ついでだ。直樹くんたちは先に行っててくれ。玉柏くんには私が」

 止まる暇はないから巡間にまかせる。

 

 

 

 

 走れ

 

 

 

 走れ

 

 

 

 止まる暇なんてない

 

 

 

 

 Ⅱ棟へ入ると同時に待っていたというように橘がそこに立っていた。

 「………………来た」

 「ねえ、本当に起きたの?」

 「今からそれを証明すんだ……開けるぞ」

 そういってⅡ棟特有の大きな柱に手をついた。いやいやそこには何もないでしょ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 キイィィ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりとそこは開く。プロペラの用に。おいここ柱じゃなかったのかよ。どこのカラクリ屋敷だよ。

 中へと入る。

 

 

 ***

 

 

 

 初めてみる白い白い空間

 

 

 小さなキッチンと

 

 

 ベッドとテーブルとソファ

 

 

 そして2つの監視カメラ

 

 

 こんな部屋があったのかと思った

 

 

 と同時に私は……私たちは……

 

 

 

 

 

 

 落とされた

 

 

 

 

 

 ソファの下の

 

 

 

 小さな水面(みなも)

 

 

 

 静寂に包まれた

 

 

 

 動くことすら許されず

 

 

 

 横たわるそれは

 

 

 

 優しく微笑む

 

 

 

 まるで

 

 

 

 眠るように

 

 

 

 否、すでに

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!!!

 

 

 

 

 ……ああ

 

 

 

 また起きてしまったのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『死体が発見されたであーーるっ!! 一定の捜査時間のあとォ、学級裁判を開くであーる!! なァーっはっはっはっはァ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “超高校級の大工”宮原匠は頭に傷を作っては、永い眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼なんということだ

 

 

 

 

 『引っ掛かっている人』はもういない

 

 

 

 自らの謎から解放された

 

 

 けれど別のものに引っ掛かってしまった

 

 

 

 

 

 

 



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第二章 非日常編 降下5部屋目

おはこんばんにちは。炎天水海です。そろそろ涼しくなってもいいじゃなぁい……と思ってます。はいそんな皆さんにささやかな絶望をお届け(どういうこと)
まあ二章は地味なので大丈夫ですよ


 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 朝までの、今までの穏やかな笑顔。彼の大人らしい包容力。それが今日のたった数時間で奪われた。元気な姿をもう見られない。まさか……そんな……

 「宮原っ!!?」

 「宮原くん!?!?」

 阪本と湊川が叫ぶ。いつも彼と一緒にいることが多かったんだっけ。二人が宮原に近づこうとする

 「待てっ!!」

 それを橘が止めた。二人の肩をがっしりと掴んで後ろにやった。

 「全員一度ここから出やがれ。つーか出るぞ。話はそれからだ」

 さっさとしろと言われ、一先ずここから出た。

 

 

 

 ***

 

 

 

 しばらくして死体発見アナウンスに気付いたみんなが現場前の、大柱の前に集まった。そしてみんなに宮原の死を告げた

 「そんなっ」

 「ミスター宮原が!?」

 「……あのときは元気でいらしたのに一体なぜこんな……」

 みんなが悲しむ。彼は争いを好まないとても優しい人だった。それなのに……それなのに、死ぬのが……早すぎやしないか

 「ヒィッヒッヒッヒッヒィ……」

 不気味な笑い声が聞こえる。

 「……モノヤギ……」

 宮原の白い作業服のコスプレ……レイヤーギには着てほしくない普通の姿でいろ

 「残念無念であーるなァ。もう少し生きていればァ、更なる絶望が望めたのにィ」

 悲しむ論点が違う。ほざいていろ。

 「うるさい」

 「生意気な小娘であーるなァ。でもォすでに手遅れェ。これより、捜査を執り行うであーる!! オマエラァ!! こいつで確認するであ、あーーーる!!!!」

 それは鷹山が死んだときにも渡されたモノヤギファイルだった。

 「ではではァ」

 「待て」

 玉柏がモノヤギの言葉を遮った

 「なんであーるかァ? さっさと捜査させてやりたいんであーるがァ」

 「黙って質問に答えな。ここのアナウンス、一人だけ見てもどうやら鳴らないみたいだな? こいつの鳴る条件を教えてくれないか」

 「なァーにィ?」

 モノヤギが嫌そうに玉柏を見る。

 「確かに気になるね」

 ここで矢崎も乗っかった

 「犯人を見つける手掛かりとしても使えるし、なーによりこれからのことを考えると反応のしやすさとかも変わってくるからね」

 「…………」

 モノヤギは黙ってみんなを見渡す。私たち全員がモノヤギに注目している。

 「はあァ……仕方ないであーるなァ……教えてやるであーる。死体発見アナウンスが鳴る条件はァ、『クロ』以外の三人以上が死体を目撃したときであーる!!」

 クロ以外の三人……なるほどそれなら前回アナウンスが鳴ったときのことも納得がいく。

 「そうか。わかった。悪いな」

 「ふん、ワレは教えたくはなかったんであーるよォ。犯人のためとかそういうのじゃなくゥ、裁判の面白味が少し減るからァ。まあどんなことでもォ、多少の誤差も見逃さないであーるがなァ。というかもういいであろう? それじゃあ今度こそォ捜査ァ、あ開始ぃ!!!!」

 今度こそ捜査が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

      **********

         捜査開始

      **********

 

 

 

 

 

 

 「皆さん、体調の方を考慮し一口サイズのおにぎりを用意致しました。無理に頂いてくださいとは言いません。召し上がりたいと仰る方がいらっしゃればという気遣いだと思っていただければ結構でございます」

 橘に用意しろと言われていたものを近衛は持っていた。本当に小さな一口サイズのおにぎりだ。みんなが近衛の元へと行き素早く口に入れた。私も胃に何か入れて起きたくてそれを食べる。

 「ありがとう」

 「どういたしまして」

 あと試食会かよというツッコミが脳裏をよぎったごめん。

 「さて、私は今回も検死をしようと思う。それと玉柏くん。君は安静という意味も含めてここで見張りをしてほしい」

 「わかった。俺も極力動きたくなかったしな。ちょうどいい」

 「あたいは今回は大丈夫だね?」

 「ああ。大丈夫だ」

 検死は巡間、見張りは玉柏がすることになりみんなそれぞれ捜査をする。

 

 まずはこれを見なきゃ始まらない。

 

 

 

 

 モノヤギファイル2

 

 被害者:超高校級の大工「宮原匠」

 死体発見現場:Ⅱ棟一階中央部屋

 死亡推定時刻:12:00~12:30

 ・頭部に殴られた痕

 ・死の直前に何かを口に含んだ模様

 

 

 

 

 秘密の部屋という認識ではなくてちゃんとそういう名前なのか。

 ん? あれ? 死因は? 鷹山の事件のときは死因がしっかり書かれていたのに今回はその記載が全くない。どういうことだよレイヤーギ。でも検死はもう少し掛かるだろうし、今は別のところに行って捜査だ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 まずは第一発見者……橘くんの話を聞こう。風呂場前に彼は……タオルを持って立っていた。まさかさっきまで風呂に入ってた?

 「橘くん、もしかして……」

 「あ? 見ての通りだよ悪かったな?」

 ピリピリしながら言われる。タオルでガシガシと頭を拭いている。けどなんか、うん

 「下手かよ」

 「あ゛あ゛ん゛!?!? 黙っとけや!!!!」

 杖を抜こうとしたらしいがない。舌打ちをしてそのまま風呂場に入ろうとするのを私は止める。

 「あのときどうしてあの部屋に?」

 「…………知りたくて知りたかったわけじゃねぇよ」

 橘は少し目を反らしてポケットに手を入れた。

 「犯人があそこから出たんだろうとは思ってる。そいつはそこの扉を開けっ放しにしてやがったんだよ」

 開けっ放し!?

 「それじゃあ、橘くんはお風呂から上がったあと現場の扉を見つけてそこに入ったってこと?」

 「ああ。んでやつが死んでいたわけだ。くそったれがっ!!」

 壁を思いっきり殴り付けては悪態をつく。相変わらず彼は危なっかしい。

 「きみは犯人じゃないと思う。けどまだわからない」

 「フンッ、第一発見者が疑われるなんてことはよくあるだろが。そうなら別に構わねぇ。疑うなら、疑えや」

 「そういえばいつからお風呂に?」

 「11:30からだ。45分ぐれぇいた。そっから髪の毛乾かして今に至んだよ」

 「えっ髪の毛乾かすの時間掛かりすぎじゃ……やっぱ下手かよ」

 「うるっせぇぇなぁ!!?!?」

 橘が私に右の手刀を落とそうとする。……っと思ったら彼は自分自身の左手でそれを止めた。目が……丸くなっていた。腕を下ろして彼はその場から立ち去った。

 「………………てめぇの……には一生掛かっても触れねぇ爆弾がある。触れたら……壊れる」

 なんか恐ろしい爆弾を吐き捨てて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っあれ……なんだ……?

 

 何か今……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    怖いことなんてあったっけ……?

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 いやいやまさか。と私は自分に言い聞かせ美術室1に向かった。しかしそこには誰もいなかった上ゴミ箱にすら手掛かりは全くなし。なら2の方へと足を運ぶ。

 「あっ直樹じゃん」

 阪本とあと灰垣が捜査をしていたみたいだ。阪本のほうが藍染めの入った釜の近くの床を向いて何かを確認している?

 「何しているの?」

 「うーんやっぱりか。いやここの床、ワタシの作った藍で汚れているの」

 指を差されたところを見れば真新しい感じの

 「それでここを見て」

 そういうと彼女は釜の外側を指さした。ツゥーっと藍が流れた跡のようなものが残っている。

 「ワタシがここにいたときにやったやつかもしれないんだ。けどどこか真新しい感じがして」

 これが裁判に使えるのかどうかはわからないがひとまず覚えておいて損はないと思った。どこか寂しそうな不安そうな顔をしながら彼女は捜査を続けた。

 「ところで灰垣くんは何を?」

 「わしはずっと食堂に居った。そこから一歩も動いておらん。瞑想や電子生徒手帳を見たりしていたからな。それで今こいつの履歴を見ながらメモを作っとるところじゃ。ほれ。ただのメモじゃし書き足していくもお前さん次第じゃぞ」

 灰垣から一枚のメモを渡される。Ⅱ棟の出入り、ってことはライトが付いたときのやつか。

 

 

 

 

 Ⅱ棟出入り

 8:30~12:00 カフェ

 8:45~10:00 美術室2

 9:00~9:30 生物室

 9:00~10:55 化学室

 9:30~10:00 物理室

 9:35~12:35 植物庭園

 10:15~11:30 生物室

 10:55~11:00 美術室1

 11:00~12:15 化学室

 11:30~11:45 薬学室

 

 

 

 

 これがⅡ棟でライトが付いたところ。物理室のところは私と湊川がいたときだ。そして阪本さんは美術室2にいたってこと……なるほど。今はこれぐらいかな?

 「ありがとう。結構使えそう」

 「使えるものは大事に使うんじゃぞ」

 前に灰垣くんと話してから彼がとても僧侶にしか見えなくなってきているのどうにかしたほうがいい現象。

 

 *****

 

 次は二階だ。まず植物庭園に足を運んでみた。そこは誰も捜査していなかった。けれど灰垣のメモだとここには人がいたってこと。いろいろ見てみるが、図鑑が見つかったこと以外特にこれといったものは見つからなかった。

 仕方がないから生物室に行ってみると湊川がいた。でもなんというか部屋が少しだけ汚い。

 「これはどういう」

 「来たときからそうよ。荒らされたとまでは言わないわ。けれどここに誰かがいたと言うことよ」

 そういえばさっきもらったメモではここに二回誰かが来たって書いてあった。しかも二回目は割と長い間いたみたい。

 「おかしいわ。私ここに来たけれどこんな風になっていなかったもの」

 「湊川さんここにいたんだ」

 「9:00にね。そのあとはあなたと物理室よ」

 そのときまではここは荒れていなかったと。

 「なるほどね」

 メモが少しずつ埋まるっていく。

 「そのあとはカフェに行ったんだよね?」

 「ええそうよ。あ、途中から近衛くんも来たわ」

 あ、そうなんだ。

 「12:00には三人で食堂。そのとき木の上にいる玉柏が寝ているのを目撃したわね。そのあとなんかドサッていってたけど……」

 おい玉柏落ちたのか

 

 

 ***

 

 

 さて物理室にもって思ったけれどここライト付いたの私がいたときじゃん。私がいたとき何にもなかったよな。というわけで飛ばして化学室。

 「なーるほどね~」

 このゆるーい口調は矢崎か。

 「何がなるほど?」

 「ん? ああここはね、誰かが長時間いたんだなぁってね。化学室に備えられてるものが出たりしているから。巡間くん辺りでもいたんじゃないかい?」

 ホントだ。確かにそうかも知れない。巡間ならそういうの強そう。

 「あたいは植物庭園で図鑑片手にずぅーっといたからね。アナウンス聞いてあそこに駆けつけたよ。図鑑は置いていっちゃったしね」

 あの図鑑はそうだったのか。

 「あれは矢崎さんのだったんだ」

 「ああ違う違う。売店にあったやつだよ。そうそう図鑑取りに売店行ったら国門くんと会ったよ」

 マジか。

 「まあなーんか料理関係の雑誌見てたね。彼そういうの好きなのかって聞いたら、そうでもないって言ってたよ」

 言ってたわ。

 

 

 ***

 

 

 三階へきた瞬間、渡良部が薬学室から飛び出してきた。

 「ど、どうしたの!?」

 「と直樹(トン)、じゃん。ああもう無理っ!!」

 「なにが!? 薬学室で何が起きたの!?」

 私がそこへ入ろうとするのを渡良部が思いっきり止めた

 「ダメっ!! そこはぜっったい入ったらダメ!!」

 強い制止だった。彼女の顔色が少し悪い。

 「っ。顔色悪いよ。何があったの?」

 「あそこ、嫌な匂いがした。……異臭がしたんだ……はぁはぁ……新鮮な空気最高……」

 「異臭に影響されて別次元行ってない!?!? そんなにひどかったの!?!? 何なの!?!?」

 大丈夫そうには見えないのはわかるんだけれども。

 「でも、ただでは帰ってきてない……青酸カリの入った瓶の中身……空だった。……あそこのスプーンが一本出しっぱなし……机が水っぽくて粉まみれ……」

 青酸……カリ……? 机が水っぽい粉?

 「それと巡間(ホンイツ)に確認して。薬学室って空瓶あったかどうか。なんか、棚の瓶一ヶ所空きがあって……」

 私はさらっとしか見てないからよくわかっていないけど巡間なら聞くに適しているか。

 「わかった。とりあえず休んでて」

 「了解」

 渡良部は壁によし掛かり休む。今彼女に捜査は困難だ。けれどそれだけの成果はあったはず。

 

 *****

 

 カフェも見たが特になかったのでそのまま一階で現場の状況を聞くことに。そこは近衛がやってくれていた。

 「近衛くん、何か見つかった?」

 「ええ。まずスプーンなのでございますが、計量スプーンと普通のスプーンが二つずつございました。前者は瓶の付近に、後者はカップの付近にございました。両カップには紅茶の飲みかけがあり共に沈殿物がございました。そして蓋がしっかりと閉まった、おそらく砂糖が入った瓶でございましょう。それがございました」

 説明されながらそれらを確認していく。

 「それとこちらが宮原殿が横たわっていらっしゃったソファの反対側のほうにあったものでございます」

 手に持っていた手紙のようなものだった。

 「『明日、昼に少し話をしたい。11:50にⅡ棟前に来てほしい』……これってもしかして」

 「ええ。犯人もしくは宮原殿が書いたと思われる呼び出しの手紙でございます」

 それなりに中途半端な時間。けれどこっそりするには適したものか。変に00分、15分、30分、45分ってキリがいい数字にするよりよっぽど。

 「何を意図していたかは存じません。しかしそれだけのことが起ころうとしていたというのは事実かも知れません」

 ここに呼び出して殺害……ってことなのかな。

 「そしてそこの水溜まり、あれがお湯であることも判明致しました。やかんにはお湯がまだ微量ではありますが残っております」

 「でもこのやかん……血で汚れてない?」

 それに凹んでもいる。

 「おそらく、犯人が彼を殴ったときにやかんを使ったのだろう。その跡がやかんに残ったと考えればいいと思う」

 不意に近くの巡間に答えられた。

 「検死が終わったんだ」

 「ああ。検死の結果だが頭の傷は致命傷ではない」

 致命傷じゃない、か。

 「それでは一体何が死因だと仰るのでございますか?」

 「毒だろう。モノヤギファイルには死亡する前に何かを口にしていたと書かれている。撲殺されていない以上、彼は毒で殺された可能性が高い」

 毒……もしかしてさっき渡良部さんが薬学室で見つけたあの青酸カリが原因じゃ……あっそうだ

 「巡間くん、君は薬学室にいたことあるよね?」

 「ん? ああ。今日はほとんどを化学室で過ごしていたが」

 「薬学室に空の瓶ってあった?」

 「空の瓶……」

 少し悩むように腕を組んだ

 「ああ。いくつかあったはずだ。それがどうか?」

 「渡良部さんが確認して欲しいって言ってたんだ。自分じゃわからないからって」

 ここまででいくつか材料が揃ってきた……が、前よりも証拠が少ない気がする……

 「そうか。わかった」

 ………………あれ、宮原くんのポケットにあの封筒入れっぱなしだ。昨日の風呂のときに垣間見えたあれかな? ……一応見てみよう。私は彼のポケットから封筒を取り出してみた。そこには……

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズオォッ!!!!

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 っ!!!!!!!!?

 

 

 

 

 

 あっ待って……ダメだ……これ……って!!

 

 

 

 

 

 

 視界が歪む

 

 

 前が見えない

 

 

 彼が言ってたの

 

 

 本当だったんだ……っ!!

 

 

 ダメだ

 

 

 今、思い出したら

 

 

 ダメ……っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はそこから逃げだした

 

 ***

 

 

 「直樹殿!!?」

 「直樹くん!!」

 「…………」

 声が聞こえない。扉を蹴破りⅡ棟を出た。

 

 走って、走って、走って、走って

 

 Ⅰ棟に向かって走って

 

 「えっミス直樹?」

 目の前にダグラスがいる。けれど今はそれどころじゃなかった。

 

 

 

 怖い、…………を、…………を…………のが怖い。

 

 

 

 「落ち着くんだミス直樹っ!!!!」

 っ!!!!

 「あっ……ああ……だ、ダグラス……くん?」

 いつの間にか肩を掴まれ目の前で叫ばれていた。彼を視認してやっと落ち着いた。

 「大丈夫かいミス直樹? 随分怯えてたよ?」

 「だ、大丈夫……けど自分は見てはいけないものを見たんだ……」

 「……」

 ダグラスは何も言わずに手を離してため息をついた。

 「それはきっと何か関わることなんだろうけれど、今必要な情報じゃない。それに聞くのも野暮すぎる。だから聞かないでおくさ」

 まっすぐに言われる。正直ありがたい。

 「さてと。ミーは8:30からずっとカフェだったよ。アリバイなら……言わなくてもユーはわかってるかな」

 うん、わかってる。

 「Ⅰ棟でミスター国門とミス金室がいるから、二人に何か聞いておいた方がいいよ」

 彼はそういうとⅡ棟のほうへと歩いていった。

 

 *****

 

 Ⅰ棟に行ってみる。倉庫とかどうだろうと見ていると国門がそこにいた。

 「国門くん、どう? そっちは」

 「いーや、手掛かりなし。ここには何にもいじられた形跡はない。……いや正確にはきれいに整頓されているだけで減ったとかじゃないということ」

 近衛がやってそうなことだなぁ。

 「なるほどね。売店で矢崎さんと会った?」

 「会ってる。その前に宮原とも会ってる」

 「えっ!!?」

 「まあ大したことでもない。小物の材料だって言ってた」

 ああ湊川さんが言ってたやつのことか

 「そのあとは金室と上にいた。今そっちがその捜査してる」

 「わかった。ありがとう」

 今こうして普通に話せても、すぐにあなたは豹変をするんだよね。うまくやれるのかな。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 二階の休憩スペース。そこで国門の言っていた通り金室が捜査中だった。

 「やっぱりないですね」

 「なにがないの?」

 「砂糖ですよ。砂糖。ここにもあったものなんですが今日ここに来てからずっとなかったんです。スプーンも」

 砂糖が……ない……スプーンもない……?

 「もしかするとその二つは現場にあるかも……」

 「本当です?」

 「うん。さっき近衛くんが推定砂糖の入った瓶だって言ってたしスプーンも見つかったよ」

 ふむと彼女は目を閉じる。

 「それ、計量スプーンもですか?」

 「そうだけど」

 「……犯人は何のために計量スプーンを? 現場のほうは」

 現場について軽く説明するとさらに不可解だというように金室は頭を抱える。

 「わざわざ計量スプーンまで持っていく意味は何でしょう? なくともよいはずですが……」

 確かにそうだ。けれど今現在私たちにこの謎を解くための鍵はなさそう。

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 『捜査終ゥ了ッのアナウンスであーる!! これからァ学級裁判を行うであーる!! オマエラァ!! 外の噴水前にィ、集合するであーーーる!!!!』

 

 

 

 ブツッ…………

 

 

 

 捜査終了のアナウンスが鳴る。今回の事件、証拠が少し物足りない気がする。しかしそんなことも言っていられないのが現状で。この証拠を駆使し犯人を見つけ出さなければならない。

 「行かなければいけませんね」

 「うん……そうだね」

 

 

 *****

 

 

 噴水前に全員が揃った。玉柏が腰を擦りながら何とか歩いてきていた。

 「玉柏くん大丈夫なの」

 「いやあんまり。バランス崩したのが運の尽きだったな……」

 それただのバカだから。

 「そういえば阪本。お前さんさっきから顔色が悪いようじゃが大丈夫か?」

 「……うん。大丈夫」

 「今まで宮原くんと一緒だったから悲しくなるのも無理はないわ」

 やはり彼の死はみんなのことを大きく動かすことになってしまったのか。

 「くそっ、ここにやつがいたなら…………」

 「もう何を言っても彼は戻りはしないから……」

 「…………」

 正直なところ、彼は私にとっても良い情報提供者だった。怖いもの知らずなのかはわからない。けど自分のことよりも他の人をよく見ていた。寛大な心を持つ彼の死はかなり大きい。

 「けどやらなければならないんだ。宮原のために犯人を見つける」

 拳を握りしめて決意を固める人。

 疑心暗鬼になる人。

 不安と恐怖に震える人。

 それを支える人。

 ただまっすぐにその時を待つ人。

 

 

 みんなそれぞれ何かを思っている。

 そうしているうちに噴水の水が徐々に減り、そしてなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 混ざる6部屋目

 

 

 



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第二章 非日常編 混ざる6部屋目

 どうもおはこんばんにちは。炎天水海です。二章の裁判であります。トリックはそこまで難しくはないはずですので。ただまあその影響もあってか文字数は7部屋目合わせても少ないです。すみません。でも基本8部屋構成なのでそこはご理解いただければなと思ってます


 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 また裁判については非常にガバガバです。ごり押しな推理が入っていると思われます。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 

 

 

 噴水エレベーターに乗って裁判場へといく。玉柏はよし掛かるところがないと悪態を突きながら声をかけてきた。

 「どうだ、そっちは」

 「うん。今回の事件とても材料が少ない。だから些細な発言にも注意しないといけないと思う」

 「なるほどな……お前もしかして宮原について一つ気づいてないことあるだろ?」

 ん? 気づいてないこと……?

 「宮原の腰にあったポーチが行方不明なんだよ。遺体を思い出しな」

 宮原の遺体。そういえば確かにいつも腰に着けているそれはあの遺体になかった。

 「なかった……なかったよ。……私があれに気付いたのは昨日の夜だったけど」

 「突然飛び出してびっくりしたぞ。それが事件に関係しているかどうかは別だけどな」

 まああんまり関係ない気もするけれど。正直別の意味で関係していると思う

 「でだな直樹、俺は今回発言を抑えよう。この事件の犯人は多分、潜伏している可能性が高い」

 つまり、犯人を上手く見つけるために発言していけと。

 「了解」

 「それに、お前は全部の部屋を見ているだろうな?」

 「一応は」

 「ならそのときそのときのことも思い出しておけよ。重大な鍵になるかも知れないからな」

 玉柏はそういうとポケットに手を突っ込んで黙った。

 なんでだろう。いつも細かいところを気にしている。才能に関係しているのかな。それとも……いやそんなことを考えるのは良くない。約束を果たすために信用するんだ。彼は私たちの味方であり仲間だって。

 

 

 

 ガタンッ……

 

 

 

 ……着いた。エレベーターから降りて裁判場へと行く。

 

 どこか雰囲気が違う。いや裁判場の中身自体は変わっていないが、前回は赤が目立っていたのに対し、今回はどこか緑を帯びたシームレスな花柄模様だ。

 「ヒッヒッヒィ……よォうこそォ!!」

 ようこそもくそもないわボケ。

 「なーんか前と模様が違わないかい?」

 「なァーっはっはっはっはァ!! よォく気づいたであーる!! そうゥ、いつも同じ柄じゃあァ、あ、つまらないであろうゥ? 気分転換であーるよ気分転換ン!!!!」

 といいながら、ただの嫌味でしょうが。それに……江上と宮原の遺影が飾られている。ここの人数を残酷に告げているのと同義だ。

 裁判席について周囲を見渡す。前回と同様緊張が走る。

 「ヒィッヒッヒッヒッヒィ……二度目とはいえェ、説明は毎回するのがルールであーるからやるであーる!! 殺人を犯した『クロ』を見つけるためにィ、お前らは議論をするゥ。そしてェ手元にあるボタンで『クロ』だと思った人に投票ォ。過半数を得たモノが『クロ』となるゥ。もしもォ、正しく『クロ』を指摘出来たならばァ『クロ』だけがおしおきィ。間違った『クロ』を指摘したならばァ、あ『クロ』以外の全員がおしおきされるであーるよォ!!」

 嗚呼二度目の学級裁判。また見つけなければならない。見つけたら……犯人も死ぬし、見つけられなかったら犯人以外の私たちが死ぬ……どちらにしろ『死』というものは私たちに付きまとう。

 

 

 ねえ、何のための裁判だろう。

 

 犯人を見つけるため?

 

 殺された人の無念を晴らすため?

 

 自分自身が生きる残るため? 

 

 否、答えを今見つける暇なんてなかった。

 

 

 

 

 

 「学級裁判ン、あスタァーーートォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 二度目の天秤が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *********

       学級裁判 開廷

      *********

 

 

 

 

 

 

 

 阪本「また……なんだ……」

 灰垣「そうじゃなぁ……」

 みんなのお父さん的存在の宮原。彼の死が無情にも私たちに突き刺さる。

 国門「始めようぜ。今回の被害者は超高校級の大工、宮原匠。死亡推定時刻が『12:00~12:30』か……それに死因について書いてない」

 裁判状態の口調で国門が進めていく。死亡推定時刻、あの三十分の間に宮原が殺された……今回は随分とアバウトな時間だ。鷹山の時は『頃』だったのに対して。

 橘「チッ、書くなら書くでちゃんと書きやがれバカ野郎」

 悪態つく者。

 近衛「しかしながらこの時間いうことはわたくしたちは気づく可能性が充分あったということでございますか……」

 もっと注意していればと胸を痛める者。

 止まってはいられない。やるしかない。

 渡良部「ていうか、現状一番怪しいのって(チュン)だよね」

 阪本「確かに……」

 早速橘が疑われている。が、それだといろいろ説明つかない箇所が見えてくる。

 直樹「待って、橘くんが犯人だと厳しいんじゃないかな」

 金室「なんでです?」

 直樹「橘くんの髪の毛見てみて」

 隣の彼の頭を指差す。

 ダグラス「ん? それと何が関係しているんだい?」

 直樹「まだ若干濡れてるの。下手~な髪の毛の乾かし方してて」

 橘「黙ってろ翻訳家ぁ!!?」

 矢崎「へえ意外だね~」

 橘「触れるんじゃねぇ!! いいからさっさと進めさせろバカたれ!!」

 からかうのはここまでにしておこ。

 橘「あんとき俺は風呂に入ってたんだよ、文句あっか」

 昼から呑気というか自由過ぎるというか。けど

 橘「てめぇら女子がドタバタしてたせいでゆっくり出来なかったんだよバカたれが」

 それ知ってたんかいっ!!

 渡良部「え、昨日入ってなかっ……」

 国門「他人の風呂事情は興味ないから話進めようぜ?」

 その意見に激しく同意。まあ入っていなくてもシャワーぐらいは浴びてると思う。むしろ浴びてて

 国門「とりあえずなぁ、容疑が晴れたわけじゃあないがいつから入ってたよ?」

 橘「11:30からだ。長くゆっくり浸かりてぇ主義なんだよ」

 彼らしいというかなんというか。

 矢崎「のんびりしたいのはわかるよ。さて、容疑についてはまだ言及しないとして進めようか」

 ダグラス「というかわざわざあんなところでじゃなくても、個室とかで犯行してもよかったんじゃないのかい?」 

 いや個室でやらなかったのにはちゃんと理由がある。Ⅱ棟ならではの特徴が。

 直樹「それは違うよ。Ⅱ棟は部屋のどこかにいたらライトが付く仕組み。そこで殺人を起こすのはリスクが高いと思う」

 阪本「ライトが付くなら現場も同じじゃないの?」

 直樹「あそこはライトの反応がなかった。だよね」

 灰垣「うむ。わしはずっと食堂で電子生徒手帳(こいつ)を眺めとったからな。瞑想ついでに。宮原を見つけたあの場所にライトは一切つかなかったし、ついでに風呂場もついてなかったんじゃよ」

 風呂場もついていなかった……一番怪しまれている橘の容疑はまだ晴れそうにないのか。

 ダグラス「Umm……場所によってライトが付くか付かないかがはっきりしているってことなんだね」

 湊川「けどそもそもの話してもいいかしら? どうやってあの部屋を見つけたの?」

 巡間「そうだ。そんなチャンスあったのか?」

 金室「見つけようと思えばいつでも見つけられる気がします。もしかすると人がいるときに見つけたかもしれませんし」

 ……確かにそうだ。いや、待てよ……?

 直樹「その訳に賛成だ!!」

 ちょっと待て金室、なんだその嘘って顔は。

 金室「……割りと冗談半分で言ったつもりだったんですけど……」

 冗談半分かいっ!!

 直樹「うん。よく知れるチャンスが一度あったよ。……女子のみんななら知ってると思う。あのとき」

 阪本「あのとき……」

 湊川「あのとき……」

 金室「あのとき……」

 渡良部「あのとき……」

 矢崎「あのとき……」

 直樹「みんなしてあのときを輪唱しなくていいから!!」

 橘「で、あんときってのはどのときだよ」

 直樹「昨日の女子の風呂のとき。偶然だったけど宮原くんが来たんだよね」

 タイミングが悪すぎだったけど。

 国門「はぁっ!?!? なんでだよっ!!」

 阪本「断っておくけど、覗きじゃないからね」

 国門の顔が赤い。苦手なのかこの手の話題。

 国門「おい男子全員に継ぐぜ!! 覗きなんてしたら俺が裁いて有罪にするからな!!!?」

 灰垣「煩悩は置いてきたわい」

 うわおさすが別院の息子。

 玉柏「随分悠長にしてるみたいだな? 結局のところ、宮原はその時に知ったんだな?」

 直樹「多分ね。何度か腰に手を当てる素振り見せてたし、そのときに壁にも手をついてわかったんだと思う」

 ダグラス「けど壁に手をついて確認するって、リスク高くないかい? みんなが見ているのにさ」

 直樹「うーん多分それを低く出来たんだよ。彼は大工だから建物に人一倍詳しいし。建物の小さな違いに気づくことは簡単だったと思う」

 小さな違いか、と矢崎は腕を組んで悩む素振りを見せる。

 矢崎「んーでもそれだと、なーんか宮原くんが殺人を起こそうとしていたみたいだよね」

 ……確かに。ここの部屋については宮原しかわからないはず。

 金室「宮原くんはみんなに内緒で犯人を呼んだのでしょうか」

 これは本当だろう。

 直樹「呼んだはずだよ。宮原くんの向かいの席にこんな手紙があったんだ」

 近衛「ええ、『明日、昼に少し話をしたい。11:50にⅡ棟前に来てほしい』って書いております」

 灰垣「そのときはⅡ棟で誰かの出入りは特になかったぞ……というか中途半端じゃな時間」

 手紙を見る限りそうだ。

 渡良部「じゃあ犯人は宮原(ソウズ)に殺されると思ってやかんで殴って殺したってこと?」

 ただ今回、宮原ではなく犯人に明確な殺意があったはず。

 直樹「いやそれは違うよ。宮原くんは返り討ちになんかあってない。普通に殺されたんだ」

 湊川「普通に殺されたって?」

 巡間「検死したんだが、どうやら頭の傷は浅く致命傷にはならないものだと判明したんだ」

 金室「ではやかんによる頭の傷は宮原くんが撲殺されたと偽装するためだと言うのですね?」

 玉柏「察するにそうだろうな」

 阪本「じゃ、じゃあ宮原の死因は一体なんだったの?」

 宮原を殺したもの。現場、他のところの状況をまとめたら出てくる答え。

 これが訳だ。

 直樹「毒だよ。彼は毒で殺されたんだ」

 ダグラス「Hmm……poisonが原因。ということは中毒死ってことなんだね?」

 その毒も私は、彼女は見ているはず。そしてそれで間違いないだろう。

 渡良部「中毒死……? あっもしかして薬学室にあった青酸カリ!?」

 直樹「それで間違いないよ。他に量の減った薬品はなかったみたいだし」

 矢崎「化学室は特になーんにも変わったところなかったよ」

 化学に詳しくはないけれど、あの瓶には青酸カリと書かれていた。それが宮原の体を蝕んだに違いない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあ……」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人、深くため息をついた人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 「それだけじゃアウトラインじゃな」

 

 

 

 

 

 えっ。突然の灰垣の反論に動揺する。

 灰垣「直樹よ。お前さんの言うことが本当に正しいのか? 本当に青酸カリが消えたのか? それを証明できるだけの材料、お前さんは持っておるんじゃろうな?」

 な、何がどういうこと? いや薬学室からなくなったのはそれだけだったからそれで間違いないはずなんだ。

 直樹「だ、だって中身がなくなった瓶には青酸カリってしっかり書いてあったんだよ」

 灰垣「それに惑わされているようじゃいかんぞ。渡良部、薬学室の様子を端的にまとめてくれんか」

 ま、惑わされている……? 何にだ?

 渡良部「そこは量の減った青酸カリの入った瓶があった。あとテーブルが少し水っぽくて異臭があって、それでいてちょっと粉っぽいのがあった」

 灰垣「粉があった、ということはつまり犯人はそれを何かに移し変えた可能性もあるんじゃないのか? ならば……中身が入れ替わっていても不思議じゃなかろう。宮原の死因が毒なのはわかる。じゃが犯行時刻が曖昧ゆえに即効性である青酸カリが必ずしも宮原を蝕んだ毒だと決めつけるのは早計じゃろうがぁッ!!」

 そこから反論されるなんて思っても見なかった。けれど確かな事実。でも、今の話で青酸カリだとわかる証言が浮かんだんだ。……多分、自信はない

 

 

 

 直樹「その訳を斬ってやる!!」

 

 

 

 灰垣「ほう。反論に対抗できるものがあると言うんじゃな?」

 頷いて見せる。

 直樹「今渡良部さんは粉まみれということだけじゃない。水っぽくて異臭を放っていたとも言ったんだ」

 灰垣「それがどうしたと言うんじゃ」

 直樹「……私は化学が苦手。けれどこれが青酸カリだって示す鍵になる。多分、巡間くん辺りならわかるんじゃないかな」

 今日1日化学室にもいたみたいだし。

 巡間「ああ確かにわかるぞこの現象。『潮解』だろう?」

 湊川「ちょ、潮解???」

 ああ湊川は化学一番苦手だったっけ

 巡間「潮解は固体の物質が空気中の水を吸って自発的に水溶液になることを言う。もし青酸カリが渡良部くんが感じた異臭なら二酸化炭素と反応してシアン化水素が放出されたやつのことだと思う。アーモンド臭とも呼ばれるものだ。ただこれに関しては」

 阪本「巡間、そこまでで大丈夫だと思う」

 えああああ??? わからない。化学わからない意味がさっぱりわからない。

 国門「だが潮解は水酸化ナトリウムなどでも起こるだろ? それだけじゃあ足りないんじゃないか?」

 巡間「すまない。私は何度も薬学室に行っていたからわかるのだが、水酸化ナトリウムは化学室にあるもので薬学室にはないんだ」

 金室「では本当に彼は青酸カリを摂取した可能性が高いと」

 橘「もう1つ。犯人が青酸カリを使ったと考えられる行動があるだろうが」

 みんなが次々と証言をしてくれる。

 灰垣「なんじゃと?」

 橘「瓶の蓋が閉まってた。犯人は青酸カリが潮解することをわかっていた。つまり、その後の二次災害についても考えていたっつうわけだよ」

 灰垣「……そういうことか。わかった」

 なんとか説得に成功したみたいだ。

 個人的には、なんで青酸カリが化学室にないんだろうと思ったけれど

 ダグラス「ねえ。ならさ、この事件の犯行時刻はもしかして12:00 かその時間を少し超えた時間になるんじゃないかい?」

 渡良部「確かに……そうだね。時間が経てば経つほどあそこは危険が増すんでしょ? 犯人はそれを理解していたから瓶を閉めた」

 ということは少し恐ろしいことを考えれば下手すれば犯人までそこで死んでいたかもしれないのか。

 巡間「それだけでない。青酸カリは即効性だ。一口飲めば死に至るにはそうそう時間は掛からないはずだったろう」

 矢崎「じゃあ犯人は殺害後しばらくその場に留まっていたかもしれないね」

 可能性はあるほうがいい。みんなが頷いて納得した。

 近衛「ところで、毒はどこに盛られたのでございましょうか?」

 矢崎「現場にあった瓶じゃないかい? あれに毒が入っていたなら納得できると思うよ」

 金室「ちなみに、休憩スペースの砂糖がなくなっていたんです。スプーンも。きっとそこから犯人は砂糖を取ったのだと思います」

 ダグラス「Umm……毒が砂糖と一緒に入っていた……どうも不思議でしょうがないところがあるような……?」

 玉柏「というと?」

 ダグラス「ほら、カップに入っていた紅茶。あれの両方に沈殿物があったじゃないか。つまり両方のカップに毒入り砂糖(sugar)が入っていたことになるんじゃないかなってさ」

 あれ、本当だ。え、じゃあそれってまさか

 国門「ほお~ほお~ほぉお~~??? じゃあどうやって犯人は毒から逃れられたんだろうなぁ??? どうやって砂糖だけを取り出したんだろうなぁ???」

 これは本格的にまずい展開じゃないか。

 橘「んなもん、スティックシュガーの一つや二つ使えやいい話じゃねぇのか」

 玉柏「悪いが、ゴミ箱に何かが捨てられた形跡はない」

 国門「それと倉庫から取られたわけでもないぜ」

 ゴミ箱にもない。私も確認したけれど化学室とかにも他のところにもなかったから事実。倉庫からなくなっていたわけでもない。それは犯人が隠蔽しなくてもよかったということ。つまり

 金室「まさか砂糖はあの毒入り瓶から取り出したということでは……」

 渡良部「そんなこと無理でしょ!? 砂糖だけを取り出すなんて。それに毒が入っていても別に飲まなきゃいいだけじゃん!!」

 直樹「いや、二つのコップは両方とも紅茶を飲んだ形跡がある。だから本当に犯人はあの瓶から砂糖だけを取り出して紅茶を飲んで無事だったんだ」

 ただそれに至るまでの推理が全く思いつかない。何かないのか。犯人は一体どうやって砂糖だけを取り出したのか。

 

 

 

 …………………………………………ん?

 

 

 

 いや、待てよ……? 私は知っているかも知れない。

 直樹「……もしかするとわかったかもしれない。犯人がどうやって砂糖だけを取り出したのか」

 湊川「ほ、本当!?」

 直樹「うん。記憶を辿って必死に見つけている。けどある。あるんだ。その方法が……!!」

 思い出してきた。そうだ。見たんだ。私は『二回』別々でそれっぽいものを見ているじゃないか。

 玉柏「それじゃあ聞かせてもらうか。砂糖だけを取り出したというそのトリックをな」

 玉柏がにやりと笑った。相変わらずどこか闇がありそうだ。

 トリックがわかったかも知れないと言ったため私は全員の視線を一斉に集める。

 直樹「必要なものは空の瓶、計量スプーン二つ、砂糖、毒の四種類」

 実践してみせたほうがわかりやすいんだけど、道具はおろか、毒なんて使ったら一大事だし。

 橘「ん」

 隣でなんかコーヒー豆以外一致しているもの出してきたんですけど。

 直樹「これは……」

 橘「自分のもんだよ。貸してやる。実践したほうが説明出来んならいいだろうが」

 橘がデレた? いやいやそこは今どうでもいい。材料があるしわざわざ貸してくれたんだから無駄にするわけにはいかない。

 直樹「今から毒をコーヒー豆で例えて実践してみる。私の記憶から最大限のことをやってみる」

 翻訳開始だ

 

 

 

 

 

 そしてこの裁判は

 

 

 まだまだ終わりそうにないようだ

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 学級裁判、中断

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        研ぎ澄ませ

 

 

      犯人はそこに潜んでる

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 見定め7部屋目

 

 

 

 

 



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第二章 非日常編 見定め7部屋目

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学級裁判、再開

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリック説明のために私は橘から借りた道具を使って説明を始める。

 直樹「まず始めにスプーンを空の瓶に入れる」

 カランと軽い音が響く。

 直樹「次に砂糖を今のやつの中に入れる」

 瓶の半分程度まで入れる。

 直樹「入れたら今度は毒、今回はコーヒー豆を入れる。これで完成だよ」

 一見してみればただの二層の瓶。

 矢崎「? それが砂糖だけを取り出すトリック?」

 国門「……ああ、そうかそうか。見たことあるなぁそれ」

 阪本「ていうか見たばっかりなんじゃない?」

 そう見たばかりなんだ。

 直樹「この状態だとわからないかも知れない。けれど中身を下からスプーンで掬うようにしたらどうなると思う?」

 湊川「それは、砂糖も毒も一緒に取れるでしょ」

 灰垣「わしもそう思っとったが」

 みんなそうだろうという風に言ったり頷いたり。私は下からスプーンを掬った。

 

 

 

 

 

 

 すると……

 

 

 渡良部「えっ!?」

 金室「っ!!!?」

 近衛「なんと……」

 スプーンの上にはコーヒー豆は一粒もなく、砂糖だけが取り出された。みんなが驚き目を丸くした。

 渡良部「なに!? 何したの!?!?」

 何をしたもなにも掬っただけだよ。

 直樹「さっき見せた状態で下から掬おうとすると砂糖だけが取り出せる。下に砂糖を入れて置くことで上に入れた毒を一度だけ回避することが出来るんだ!!」

 ダグラス「だ、だけどミス直樹!! そんなトリック普通浮かばない!! 一体どうやって……」

 そう浮かばない(・・・・・)。けど所詮浮かばない(・・・・・)だけ。浮かばなくてもこのトリックを扱えるチャンスはあったんだ。

 直樹「普通は(・・・)ね。でも、巡間くんなら見覚えがあるんじゃないかな。あのときさらっと教えてくれたよね。私は覗いた程度だったけれどちゃんとその方法も文章で書かれていたし」

 巡間は一瞬どのときだと悩んだけれどすぐに思い出してくれたようだ。右手が少し踊ったが裁判席について、左手はデコに当てる。

 巡間「Ⅱ棟開放のとき、薬学室にいたときか。薬学書にあった物騒なところを読んでいたんだ」

 湊川「薬学書に物騒なこと書いてあるの???」

 私と同じツッコミしてる。

 直樹「書いてあったんだよ。みんながこのトリックを使える可能性は充分あった。それに、このトリックを使ったとき砂糖だけを取れるのは一度だけ……今やったこの一回だけなんだ」

 瓶に砂糖を入れて上から掬えばコーヒー豆が混じった。またそれを戻して今度は下から掬おうとしたけれど、またコーヒー豆が混じる。こんな風にとみんなを見る。

 金室「そんなトリックがあったのですね……これは毒殺するのも手順さえ違えなければ容易なものに……」

 直樹「あと橘くんも多分だけど無意識化でこのトリックを使っていたんだ」

 橘「は?」

 隣で睨まないで。

 直樹「お菓子作ってたでしょ。そのときに今のやり方でやっていたコーヒーと砂糖を混ぜていた」

 橘「…………そうだったか」

 間近でこれを見ていた私と国門と阪本も特にわかる。二人もそれに気づいていたみたいだし。

 玉柏「ま、この砂糖だけを取り出すトリック、犯人は毒を掬わずに済むよな。犯人が自ら行った行為だろうな」

 そしてそれを自分のやつに入れて、二回目の毒入りを宮原に出せば犯人は毒を受け取らない。

 国門「けどよぉ?」

 国門がまた口を開く。

 国門「仮にそのトリックが失敗したらどうするんだ? そんなことになったら本末転倒だぜ?」

 矢崎「例えば?」

 国門「下から掬うのに失敗して毒まで取り出したとか。誤って砂糖を瓶に入れてそれだけを取り出せなくなったとか」

 有り得なくはない話だけれど、実は些細な証拠がその可能性を低くしている。

 国門「それにある意味ハイリスクなことをしなくても良かったんじゃあねぇかぁ?」

 ハイリスクじゃなければこのトリックは成り立たない。犯人はその不安もあったはず。

 直樹「そう。これはハイリスクなトリック。自分に毒が入るかも知れないっていう恐怖と不安でいっぱいなはずだった。けれど、それをある保険をかけることで少しでも逃れようとしたんだ」

 ダグラス「保険?」

 なぜ普通のやつにしなかったのか。その謎を解く鍵がまさかここにあったなんて。

 直樹「『計量スプーン』だよ。小さじの二つの計量スプーン」

 国門「はぁ!?」

 近衛「もしや砂糖に混じったかもしれない毒を取り除く手段のために計量スプーンを用いることで、すりきりの砂糖を取ったということでございますか?」

 直樹「そう。下の砂糖の層にスプーンは埋もれているわけだからね。すりきりなら確実に砂糖を取り出せるって思ったんだよ」

 不自然にスプーンが4つあったのはそのせい。

 ダグラス「けど本当になんで」

 玉柏「裁判で解けなくさせるためなんじゃないか。トリック自体、ここをよく調べればわかる内容。だが内容がマニアックな上に見る人間は限られる。特に毒物なんて化学を取り扱うか巡間みたいな医療関係かぐらいしかいないだろ」

 渡良部「ふーん。なら巡間(ホンイツ)確実に犯人から外される(・・・・・・・・・・・)んだ」

 灰垣「え?」

 渡良部「え?」

 何か変なこと言った? みたいな反応してる。けど確かにそう考えれば巡間は違うか

 灰垣「なんで巡間は犯人から外されるんじゃ?」

 渡良部「極度の料理音痴だから」

 橘「料理音痴? それ本当なのかよ医者」

 巡間「……恥ずかしながらそうだ。私は料理が人一倍苦手……いや苦手以前の問題だ。何か料理をしようとすれば食堂厨房爆発四散なんて夢じゃないから」

 ナニソレユメニモミタクナイ。事故ってレベルじゃないよそれ。

 直樹「前聞いてた話だけど本当なんだね……確かよっぽどのことがないと厨房には行かないんだっけ」

 巡間「ああ。それに私はここに来てから一度足りとも厨房には入っていない。もっと言えばⅠ棟の休憩スペースのカウンターのところやカフェの裏(シンク側)にも入ったことがない」

 確かにその様子は私も見たことがない。

 近衛「ひとまず、これで一人の容疑は晴れたと認識して良いわけでございますね」

 あれ、待てよ

 直樹「……でも、もしかしてこのままじゃ犯人に近づく手掛かりってもうないんじゃ……」

 湊川「ええ!?」

 そうだ。今ある、わかっている証拠だけでは犯人に到底近づけやしない。

 玉柏「なら一度みんなの行動を取り上げてみたらどうだ? これなら少しでも犯人に近づけるかも知れないだろ」

 !! そうか。行動から推理すればいいんだ。ナイス玉柏。

 直樹「……それじゃあ。少しずつ、直訳していこうか」

 そのまま訳したほうが答えは出るかもしれないから。そこから推理すればいい。灰垣の証言と電子生徒手帳の時間とを合わせればなんとかいけるはずだ。

 直樹「まず朝はみんな食堂にいた。だよね」

 全員が頷いた。まあ周知の事実だけれど。確認はしておいて損はない。

 灰垣「わしは食堂に居った。ほぼ瞑想か電子生徒手帳を眺めていた。9:30から30分ほど近衛が食堂におったぞ。死亡推定時刻時点で近衛、渡良部、ダグラスが食堂に来ておったわい。それにここの三人はⅡ棟のカフェにいたと言っていたな」

 ダグラス「ミス湊川とカフェで話していたのさ。そのあとにミスター近衛と合流。Twelve o’clock には食堂さ」

 近衛「わたくしは食堂にいく前にランドリーで洗濯を済ませておりました。食堂から倉庫へ向かい、そこで賞味期限などのチェックをしておりましたところ宮原殿とお会いしましたね。少々お話を。その後はすぐにカフェへ向かいましたので」

 湊川「そうね。11:00ちょっと過ぎた頃に近衛くんが来たわ」

 証言を聞く限りこの四人に犯行はできないな。

 直樹「なるほど……私は国門と売店で話をして、そのあと物理室で湊川さんと、それから連行されて渡良部さんと話してた。あとは食堂で過ごしていたよ」

 渡良部「Ⅰ棟の個室だからね」

 国門「宮原にはお前と話し終えた少しあとに会ったぜ。布を持っていってたよ」

 布? 何に使う予定だったんだろ。まあ彼のことだし

 湊川「宮原くんは午前中部屋で何か作ろうとしていたみたいよ。多分それの材料だと思うわ」

 橘「なんでんなもん知ってんだ」

 湊川「朝食終わりにすぐ聞いたのよ。そのときにお昼に遅れるって話も聞いたわ」

 近衛「お昼の遅れについてはわたくしも存じ上げております。先ほど申し上げた倉庫でお会いしたときにでございますね」

 矢崎「あたいも売店に寄って国門くんにあったよ。植物図鑑をとって、そのあとは植物庭園にずぅーっといたよ」

 金室「うちはお茶をⅠ棟の二回で飲んでました。そうしているうちに国門くんがやってきましたね。死体発見のアナウンスがなるまで一緒でしたよ」

 国門いろんな人と会いすぎでは。

 国門「んまあ、そうだ。俺たちはお互いが犯人じゃあねぇって言える証人だぜ」

 けど犯人ではなさそう。

 橘「砂糖がそこで無くなっているのに気づいたのもそんときなのかよ」

 金室「ええ。全くありませんでした」

 阪本「ワタシは美術室2に寄ったあとはほとんど外にいた。玉柏が木の上で寝ているのを見てたよ」

 玉柏「寝ていたとは言えど、何回か外の出入りは見ていたからな? 矢崎は知らなかったが。宮原、阪本、渡良部、直樹、橘、巡間だな。それとカフェに行ってたやつら(近衛たち)も。ダグラス、橘、宮原は一回、それ以外はみんな二回ずつ見ていたな。んでその三人がⅠ棟に行ったのをみた途端に木から落ちた」

 最初から木の上で寝るなよ

 ダグラス「ミーたちもミスター玉柏が木の上にいるのは見たよ」

 湊川「というか、あのときドサッて音したのってあなたが落ちたときの音だったのね……」

 巡間「私は化学室にいた。11:00ちょっと前に一度美術室1のほうで彫刻を眺めてからまた化学室に戻ったよ」

 橘「俺は最初議論された通りだ。11:30に風呂場だ」

 これで全員の証言は聞いた。けれどこの中に犯人がいるという推理をうまくできない。どこにヒントがあるんだろう。どこにあるんだ……?

 玉柏「直樹」

 ふと玉柏に声を掛けられた。

 直樹「玉柏くん?」

 玉柏「今俺はおかしな発言をしたのに気付かなかったか?」

 ん? 玉柏くんの証言におかしなところが?

 玉柏「もう一度言おうか? いやお前ならわかるだろ」

 …………玉柏の証言を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『寝ていたとは言えど、何回か外の出入りは見ていたからな? 矢崎は知らなかったが。宮原、阪本、渡良部、直樹、橘、巡間だな。それとカフェに行ってたやつら(近衛たち)も。ダグラス、橘、宮原は一回、それ以外はみんな二回ずつ見ていたな。んでそいつらがⅠ棟に行ったのをみた途端に木から落ちた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『宮原、阪本、渡良部、直樹、橘、巡間だな。それとカフェに行ってたやつ(近衛たち)もな。ダグラス、橘、宮原は一回、それ以外はみんな二回ずつ見ていたな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ダグラス、橘、宮原は一回(・・・・・・・・・・・・)それ以外はみんな二回ずつ見ていたな(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………わかったよ。おかしなところ

 

 

 

 そして、犯人だって示すものであることも

 

 

 

 

 

 直樹「……犯人、わかったよ」

 金室「本当ですか?」

 近衛「玉柏殿は自身の証言におかしな点があるとおっしゃっておりましたが、何もおかしな点などなかったように存じますが……」

 直樹「…………信じたくないよ……」

 矢崎「? 直樹ちゃん?」

 

 

 本当に、信じたくないんだ。だってあなたはそんな人じゃないじゃん。そんなことするなんて、彼に殺意を持つだなんて思えないんだもの。

 

 

 

 

 だからお願い

 

 

 嘘だと信じた上で示させて

 

 

 ゆっくりその人の方を向いて

 

 

 もはや残酷にしか聞こえぬ宣言をする

 

 

 

 

 

 直樹「……今回の事件の犯人。阪本さん、あなたじゃない?」

 シーンと静まる裁判場。私と阪本の目と目が合う。

 阪本「…………えっ。どうしたの直樹? ワタシが犯人ってそんなわけ……」

 直樹「阪本さん。玉柏くんね、今はっきり言ったんだよ……|ダグラスくんと橘くんと宮原くん以外二回見ている《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》って」

 阪本「そ、それがどうしたって…………っ!!」

 直樹「美術室に行った後あなたは外にいたって証言した!! けど、玉柏くんが阪本さんを二回見たって言うのは仮にたまたまだったとしてもあまりにもおかしい!!」

 そう。おかしいんだ。……おかしいんだ……外にいたなら阪本さんは誰かの出入りを見ているはず。それに

 ダグラス「い、一体何が」

 直樹「阪本さんがほとんど外にいたなら、玉柏くんは何度も彼女を見ているはずなんだ。けれど二回しか見ていないってどういうことなのかな? 美術室2にいたから? いやずっとはいない。灰垣くん、美術室2のライトがついたのはいつか言ってもらっていい?」

 灰垣「そこは8:45~10:00までついておったな。それからは一度もついてない。蛇足ついでに、美術室の1のほうは巡間の言う通りじゃった。そこは五分で消えすぐに化学室のほうがついたぞ」

 その蛇足とても蛇足じゃないむしろありがたい。

 直樹「だから、あなたは実際外にいなかった。履歴にはその15分後に生物室のライトが付いていた。そのしばらく後に薬学室のライトが宮原くんと会う直前まで付いていたんだ。もしかして、これはみんなあなたが付けたものなんじゃないかな」

 阪本が片腕を抑えて震える。

 阪本「……違う。ワタシじゃ……ない……っ!! 誰かが他の誰かが……!! それに玉柏が犯人の可能性だってあるじゃん!!」

 直樹「それはないよ。まず誰かが付けた可能性、履歴から考えればⅡ棟にいる人たちはみんなそれは不可能だし、特に薬学室に関してはこのときちょうど玉柏くんが、風呂場に行こうとしている橘くんを目撃しているはずなんだ。それに12:00に玉柏くんは近衛くんたちを見たあとに木から落ちて腰を打ってる。湊川さんがそれを証言してくれたし、巡間くんも玉柏くんの容態を充分理解している。犯行に及ぶのは至難だと思うよ」

 玉柏「正直今も結構痛い」

 おい。椅子用意してやれよ

 阪本「……巡間が犯人から外れるっていうのも、理解できない。巡間は砂糖を取るだけならその場を四散させるなんてことはないはず……!!」

 巡間がもはや料理関係の場を四散させる前提になってるよ。

 巡間「12:15、私は化学室からⅡ棟から出ようとした。そしてこの時間風呂場からドライヤーの音が聞こえた」

 阪本「!!」

 橘「んだよてめぇ最初から証言しろや。そうだ。俺はその時間からドライヤーを使い始めた。結局乾き切らなかったがドライヤーを使っている間は何もできねぇんだよ。中途半端に乾いているのも何よりの証拠だろうが」

 玉柏「俺が巡間を見たのもだいたいその時間だ」

 阪本の額から冷や汗が流れる。不安と恐怖にまみれた。…………けれど、なぜかそれだけじゃない気がする。何か苦しんでいるような……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湊川「阪本さんが犯人なわけないじゃないっ!!!!」

 目の前の湊川がうつむきながら叫んだ。

 湊川「直樹さん。阪本さんは犯人なんかじゃないわ!! だって……モノヤギはあのとき言っていたじゃないっ!!」

 っ!! しまった、忘れていた。

 湊川「『死体発見アナウンスが鳴る条件はクロ以外の三人以上が死体を目撃したとき』って!! 阪本さんは……見ているじゃない!! 死んでしまった宮原くんを……!!」

 これじゃあ、ダメだ。阪本はあのとき宮原を目撃しているしそのときにアナウンスが鳴っている。犯人が別の人ってことになるじゃないか。

 橘「いやちげぇな。藍染め職人は犯人だ」

 しかしそれを橘が冷淡に反論する。

 湊川「っ!! なんでよ!! あなただって……あの場にいたじゃない!!」

 橘「居たからわかんだよバカ野郎っ!! あのとき先に入ったのは藍染め職人、そん次に貿易商、そしてバレー部だ。多少の誤差すら見逃さねぇって言ったあのレイヤーギが、あいつが大工を目撃した時点でアナウンスは鳴ってねぇとおかしいだろうがよっ!!」

 言っていた。確かに言っていた……それに

 直樹「阪本さん。言っておくけれど、橘くんが犯人なら巡間くんの証言の説明がつかないし、私はずっと『渡良部さんと一緒だった(・・・・・・・・・・)』んだよ。それに湊川さんも近衛くんとダグラスくんとずっといたんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。」

 阪本「う、うそ……」

 直樹「……ねえ阪本さん、あなたはまだ犯人じゃないって言えるの(・・・・・・・・・・・・)?」

 阪本は歯を喰いしばる。これでいけるか

 

 

 「ふふ」

 不適に笑う声一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国門「ふはははははは!!!!」

 国門が高らかに大声で笑っていた。

 渡良部「な、何がおかしいの!? 何であんたがそんな」

 国門「おかしなところだらけでねぇ? 犯人が阪本と決めるにはまだまだはえぇんだぜ」

 不気味に笑いこちらを見てきた。何かついてくる気だ。

 国門「直樹と阪本と湊川と灰垣は死体を見たときの誤差はあるにしても、だ。ほぼ同時に目撃してちゃあわかるもんもわからねぇ。意味ねぇぜ。それにお前らはまだある可能性を消している」

 ある可能性?

 国門「自殺した(・・・・)なんて線はどうよ? 今までの推理も何もかも違う。実は宮原が自らの命を絶った!! どうだ? これを覆せるような推理があるのか!? ええ!?」

 ほんっとに盲点を突くのがうまい。自殺の線。そうだ。

 宮原の死因は中毒死。毒によるもの。毒なら自分から含めれば誰にも知られずに死ぬことができる。あのトリックも手紙もフェイクにすればいいだけ。それに第一発見者である橘、彼が宮原を殴ったとしたらあの現場も納得がいく…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けどね。今自分の持っているあのコトダマを使うときがようやくきたよ。

 玉柏「直樹」

 直樹「うん」

 落ち着け。一つ深呼吸だ。

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 直樹「その訳は通じない!!!!」

 

 

 

 

 

 

 論破する。その訳は間違いだと

 

 

 

 

 

 直樹「……阪本さん。私ね、ずっと気になっていたんだ。宮原くんはいつも自分のポーチを持ち歩いていた。……けど彼の死体にはそれがなかったんだ。じゃあどこにあるのかな?」

 阪本「!!」

 今回の場合、江上のときと違って持ち歩いているってことはない。だからそれ以外。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「美術室に、釜に投げたんだよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阪本「ッッッッ!?!?!?」

 直樹「美術室は阪本さん、あなたが捜査をしていた!! そのとき美術室に投げたポーチを藍染めの釜にいれた!! そのとき釜の中のあ藍が飛び散った……そうじゃない? これなら……真新しい藍染めによる床の汚れも説明できるよ」

 国門「ぐっ……」

 国門も反論してこない。真新しいということはつまり阪本がいた時間ではそれは無理があるということ。

 矢崎「ん? けど宮原くんの死んだ時刻の間に美術室にライトはついてないよね? どうやってポーチを美術室に投げたって言えるんだい?」

 直樹「今言った通り。投げたんだよ。ライトがつく条件はその部屋に人が入ったとき。外側から投げたならライトはつかないってことなんだよ」

 阪本「…………」

 そういう意味では阪本さんも盲点をよく突いてたも思うけれど……でもこれで、終わりかな。

 湊川「……っそれでも!! 阪本さんがそんなことするなんて……私は信じたくない!! 嘘よっ、こんなの全部嘘なのよ!!」

 けど湊川が今もなお反論してくる。もう私にはコトダマなんて残っていない。このまま意表を突かれたらもうどうすることも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阪本「………………認めるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湊川「えっ……? な、何言ってるのよ……嘘、よね……? 阪本さん……うそだよね……?」

 ゆっくり阪本は首を……横に振った。

 阪本「嘘じゃない。今回の犯人はワタシしか有り得ない……」

 湊川「そんっ……な…………」

 湊川は席で膝をついて無気力となり呆然とした。

 阪本「ごめん。ごめんね…………思い出して…………らいでごめんね…………みんな……」

 何かを呟きながらただただ謝り続ける彼女の、悲しい現実を受け止めることしか私たちは出来なかった。

 玉柏「……これが真実か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノリュウ文書

 

 事件の真相ファイルその2

 

 これは前日の夜から始まったものだった。お風呂場のゴタゴタの後、宮原は犯人の部屋に小さな手紙を渡していた。それは宮原がゴタゴタで見つけたⅡ棟の秘密の部屋で話がしたいという手紙だった。犯人はこれを自分が殺されるかもしれないと感じた。

 

 

 犯人はそのときから入念な準備をしていた。彼を殺す方法を。このとき犯人は橘のコーヒーと砂糖を混ぜる仕草を思い出していた。それを使えるとも思って宮原を毒殺しようと考えた。

 

 

 翌朝、フリースペースにある砂糖の入った瓶やスプーン4本を盗み取った犯人は、朝食後美術室2で藍染めの確認をしながら犯行の流れをすべて振り返っていた。電子生徒手帳でⅡ棟のみんなの動きを確認しつつ犯人は生物室へと向かった。犯人の計画だと、すぐにトリックを仕掛けるのはリスクがあったからだ。ギリギリの時間までそこに留まり、約束の時間の少し前に犯人は薬学室に入った。

 

 

 ここで犯人はトリックの準備に取りかかった。そこにあった瓶も使って。だが犯人は青酸カリを入れるのに失敗し溢してしまった。それに犯人は気付いたはずだったが、おそらく時間が近づいてしまったのだろう。溢れてしまった青酸カリを犯人はそのままにせざるを得なくなった。使用した薬学室にあったスプーンを適当に投げてその場から離れた。

 

 

 約束の時間、犯人は手紙通り宮原と合流し秘密の部屋へと入った。お湯を沸かしている間適当に話していたりしていた。お湯が沸いて紅茶を入れるとき、犯人は自分の紅茶スプーンで砂糖のみを取った。計量スプーンを使って擦りきりにするという保険をつけて。そして宮原も砂糖を求めてきた。犯人はそのまま毒入り砂糖の入った紅茶を宮原に出したのだ。

 

 

 青酸カリは即効性の毒物。宮原はそれを飲み込んだ瞬間悶え苦しみ始めた。犯人はその様子に動揺した。自分自身が殺人を犯すということ今まさに行ったのだから。犯人は近くにあったやかんで宮原を殴った。中にあったお湯の重みで傷を深くさせたのだろう。宮原はそれで死ぬことはなかったが彼はソファに寝転んでそのまま息を引き取った。

 

 

 その様子を見た犯人はとあることに気づいてしまった。しかし後戻りは出来なかった。犯人はあの部屋がライトが付かないことをわかっていたのと他にいるみんなが降りてきて自分の行った殺人を悟られるかも知れないと感じたためその場に留まった。毒入り砂糖の瓶の蓋を閉めて二次災害を防ぎ、頃合いを見て犯人はその場から立ち去った。

 

 

 だが犯人はひどく怯えてしまった。そしてその怯えとみんなの予想外の行動パターンが計画のミスを浮かび上がらせることになってしまった。その一つがあの部屋の扉だ。犯人はそこから出るときそこを開けっ放しにしてしまった。それを風呂から上がってきた橘にすぐに気づかれるとは思わなかった。さらに予期せぬ玉柏の質問、死体発見アナウンスのタイミングについても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学級裁判、閉廷

 

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 弱震の8部屋目

 

 

 

 




どうもおはこんばんにちは。炎天水海です。
今回の犯人は意外でしたでしょうか? 二章クロ、さる方にかなり気に入っていただいた子なので『あっ』てなってました。推しがいなくなると虚無感に襲われ、さらにリアルにも影響が出る。本当大変ですね(他人事見たく言うなし)


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第二章 非日常編 弱震の8部屋目

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 至らぬ方言の表現があります。

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 *****

 

 「結論が出たみたいであーるなァ……」

 モノヤギがニッコリと不気味に笑ってこちらを見る。

 「オマエラァ!! 手元のボタンで犯人とおぼしき人をォ、投票するであーる!! 全!! 員!! 投!! 票!! であーるからなァ!!!!」

 ねえ、本当に信じたくないよ。手が震えて躊躇してしまう。

 「ほら。早くワタシに投票しないと」

 阪本はただ優しくそうみんなに呟いた。それは私たちを後押しするだけでなく、まるで無慈悲な女神の囁きのようにも感じられて。いつの間にか彼女のところを押していた。

 

 ルーレットがぐるぐると回る。

 嘘だと言いたくても、画面は阪本のところで残酷に光るだけだった。

 

 

 *****

 

 「なァはっはっはっはァ!! 連続大正解ィ!! 今回ィ、超高校級の大工ゥ、宮原匠を殺したのはァ、超高校級の藍染め職人ン、阪本莉桜なのであったァ!!」

 やっぱり……今回の犯人は阪本……

 「たァだしィ!! 満点じゃないであーる」

 「満点だと?」

 「湊川ァ……まさか自分に票を入れるなんてなァ……まあァ、別に自分自身に投票してはいけないルールなんてないんであーるがなァ……?」

 湊川が苦しそうに、手で拳を作って思い切り握りしめる。それだけ信じたくなかったんだ……

 「阪本……さん……」

 「ごめん湊川。ワタシ……」

 仲良かった二人の間になんとも言えぬ空気が漂う。否みんなも。

 「…………お前さんはいつも誰かの側にいつも寄り添っていたじゃろ。……特に、宮原と湊川と共にいる姿はよく目に焼き付いておる」

 その空気を破ったのは灰垣だった。

 「一体、二人に何が……」

 

 ***

 

 「簡単な話。ワタシは愚かだった。動機の秘密に怯えて、まんまとモノヤギの思惑(筋書き)通りに動いちゃった。もっと誰かに言えばよかったのに、相談すればよかったのに恐怖が勝ってワタシは罪を犯した。今も、昔も」

 「昔も?」

 「ヒィッヒッヒッヒッヒッヒィ……気になるであーるかァ? そんなに知りたくばァ教えてやるであーる!!」

 モノヤギはおもむろにマントから封筒を取り出し中身を開き読み上げる。秘密を読み上げられるというのに彼女はじっとしていた

 「阪本の秘密はァッ!! な、ななななァーんとォ!!!? 『遺体を藍染めの中に混入させたこと』であーーーーーーる!!!!」

 ……は? どういうことだ?

 「い、遺体を? 藍染めの中に???」

 「ふざけないで!!? そんなこと……そんなこと阪本さんがするわけッ」

 「んーん。違うよ湊川、みんな」

 阪本が首を横に振る。まさか

 「それは事実。ワタシは昔、お父さんの『命令』で遺体を、藍染めの釜の中に入れた」

 「!?!?!?!?」

 「な、なんだって!?!?」

 衝撃的な事実が裁判場内に響き渡る。なお嘘だと言う湊川の声すらそれに呑み込まれて溶ける。

 「怖かった……怖かったんだ……」

 袖をギュッと握りしめて彼女は苦虫を噛み潰したような表情で震えながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 「おい莉桜!! こいつを始末せぇ!!」

 

 

 「っ……!? な、何をおげ言うの!? そ、そんなんしたらあかんけんな!?!?」

 

 

 「黙れぇ!! かんまん言うこと聞かんかぁ!!」

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「重圧的なお父さんにワタシは逆らうことが出来なかった。その遺体はワタシのところで働いていたパートの人で、お父さんはその人を殺した。それをワタシに押し付けて始末させようとしたの。何でもいい。何でもいいから隠せ。バレない場所に隠せって。そのときワタシは咄嗟に入れてしまった。……………………大切な、大切なとっても大切な、藍染めの中に……けれど釜の大きさが足りなくて溢れて、さらに何倍もの釜に移されて……人の皮膚と血液と内臓と……その他、おぞましいものが入った染め物が出来上がった……それはもはや藍染めと呼べなかった。腐った気持ちの悪い『雑巾』でしかなかった……」

 想像するだけでも酷い(むごい)話だ。吐き気がしてきそうなほどに。

 「今まで黙ってたけど、ワタシはちょっと……男が怖いんだ。お父さんを見ているようで……またあの束縛に虐げられるんじゃないかって。考えるだけでも震えが止まらないの……」

 「……ユーは『Androphobia』……なんだね……」

 「アンドロ……フォビア?」

 「『男性恐怖症』って意味だよ」

 「阪本くん、君は……男性に対して恐怖心を抱いていたのか……? だが今までそんな様子見せたことなかっただろう」

 言われてみれば、阪本は普通に男女関係なく横に並んでいた。さっきの通り、宮原とは特に。

 「…………昨晩からだった。男に対して恐怖心を思い出したのは」

 「……記憶の欠如か」

 こくりと頷いて彼女は続けた。

 「誤魔化しても無駄だよね……怖いの……男がとても、怖くて……怖くて怖くてッッ……」

 頭を抱え席に肘をつき下を向いては叫んで。

 「……ッッ……こんなのっ!! 知りたくなんかなかったっっ!!!! 思い出したくなんかッ……なかったのにっっ!!!! もっと……普通でいたかったっ!! 普通にみんなといたかったっ!! でも……夜に手紙をもらって……気付いちゃったんだ……恐怖にまみれて、ワタシは……錯綜した中で、そして……怖いほど冷静に思考が動いて、行動して……宮原を、殺していた……」

 

 

 

 

 _______

 

 

 宮原に秘密の部屋を見せられてワタシもびっくりした。けど……犯行をするには絶好だった。なんでこの時毒殺ってやり方が浮かんだのかすら今じゃ全く覚えてないから。

 ワタシは宮原とお湯が沸くまでの間いろいろ話していた。ここでのことを話していた……殺意? そんなの全くなかった。けれどワタシはすでに後戻りが出来なかった。

 お湯が沸いて

 『紅茶飲むって言ってたよね。入れるよ……あっ、砂糖ある?』

 『ワタシ持ってるよ』

 『よかった!! じゃあ入れてくれるかな』

 このあと、宮原は自分が殺されるだなんて思ってなかったと思う。無邪気な子供のようだった。ワタシは計量スプーンで下から掬った砂糖を一杯自分に入れて、そのあと少しかき混ぜてから上から毒が混じった砂糖を宮原の紅茶に入れた。

 『ありがとう』

 一口、彼は飲んだ。青酸カリは致死率が高くて即効性があるからすぐに彼は異常を訴えた。

 『ウッ……カハッ!!!!!!??』

 彼は飲んだものを吐きそうになっていたけれどそれを寸でのところで抑えてワタシに言ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『もしかして……誤解……させたのかな……ごめんね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『!!!!』

 なんで彼はそんなに優しくいられたのか。分からなかった。本当にわからなくなって……やかんで彼を殴った。宮原なら逃げられたはずなのに逃げなかった。

 

 

 

 ゴッ!!!!!!

 

 

 

 鈍い音がした。宮原の頭からは血が出ていた。けれどそれで死ぬことはなくて……ゆっくりと毒に蝕まれながらソファに横たわった。そして……彼は満面の笑みでワタシに向かって微笑んだ。

 『ごめんね』

 最期までワタシに謝りながら。ゆっくり、ゆっくりと彼は死んでいった。

 

 _______

 

 

 

 

 「宮原は自分が呼び出した手紙でワタシが誤解するって思わなかったんだと思う。それだけ信用してくれていたんだと思う。今となってはわからないこと」

 「そんな……」

 「ワタシは勘違いしたんだ。そして血を浴びようとした」

 「阪本は……勘違いを起こしてさらに男性恐怖症による恐怖の増大で殺人を……ということなのか?」

 「…………もう一つある。その前にワタシ不思議だった」

 不思議?

 「ワタシを呼び出したのって信用していただけなのかなって。そこから導きだしたワタシなりの答えが『みんなの秘密の封筒』。宮原がワタシの封筒を見たんじゃないかって……そう思った」

 秘密の封筒。昨日モノヤギから受け取ったあの動機か。

 

 

 

 

 ………………動機

 

 

 

 ……震えが

 

 

 

 止まらない

 

 

 

 けれど

 

 

 

 言わなくちゃ

 

 

 

 

 「……阪本さん。あなたは宮原くんが自分の動機を持っているって思ったんだよね?」

 「そうだよ。そうでな」

 「ごめん」

 私は阪本に向かって頭を下げた。

 「えっ? な、なんで直樹が頭を下げるの? 下げる理由は」

 「あるんだっ!! 私にはあなたに謝らなきゃダメなんだっ!!」

 だって宮原の持ってたあの封筒は……

 「あの封筒の中身は阪本さんの秘密のやつじゃない……私の(・・)なんだ……」

 「……なお……きの……? うそ……そんなわけっ」

 「私はっ!! 今手元に二つの封筒を持っている……一つは渡良部さんの……もう一つは私の……」

 「私の秘密持ってるのあんただったの?」

 ハイソウデスゴメンナサイ

 「これが証拠だよ……」

 私は自分の動機を阪本に渡し見せる。それを見た阪本は驚愕しポロポロと泣いた。

 「……ワタシは……最後まで……勘違いしたまんまだったんだね……ごめん……」

 宮原の優しさが生んだまさかの悲劇。こんなことになるだなんて思わない。

 「あのときあの場から逃げ出されたのは……」

 「そういうことだったんだな」

 私はゆっくり頷いた。

 「宮原がワタシのやつを持っているって……ずっと思ってた……違ったんだ……ごめん……ごめん……!!」

 こういうところで、まさか自分が絡んでくるとは思っても見なかった。申し訳ない上に罪悪感も襲う。

 

 ***

 

 「俺からもいいか阪本。お前絶対男性恐怖症とその勘違いだけの犯行じゃないだろ?」

 玉柏の言う意味がわからない。どういうこと? 阪本は一瞬身震いして隣の彼のほうをみた。

 「お前は『宮原の秘密の封筒をもらっていた』……違うか?」

 「………………半分正解。宮原の……秘密。それをみた。……はは、思えばそれからだったなぁ」

 自嘲気味に笑い、ポケットから封筒を取り出した。

 「モノヤギ。いい?」

 「好きにするであーる」

 「ん。宮原はね……過去に『仕事場の人を高いところから突き落とした』んだ」

 宮原が? 突き落とし……えっ? 衝撃が私たちを襲う。

 「宮原くんが!? あんな優しくてみんなの……お父さんみたいな存在の宮原くんが!?」

 「そう。でも宮原はきっと何かあってそうなったんだと思う」

 阪本はまるでさもそうであるように言った。

 「どうしてんなことがわかんだよ」

 「……昨日のお風呂のときだよ。女子はわかると思うけど、あんなこと言われて恥ずかしかったよ? それでも彼って他人をどこまでも信用して自分のことを犠牲にできる人なんだって思った」

 そうでなかったらあんなことしないとまた自嘲気味に、でもどこか穏やかに笑いながら言う。

 「こういうこと言うのおかしいけど、なんか宮原って可愛げあるんだよね。だからかな? さっき言ったことを合わせても、宮原は自分が望んでやってしまったことじゃないんだって思った。……今の玉柏のやつに半分正解だって答えたのは、手紙をもらって恐怖症を思い出してそれでこっちも思い出したからなんだ。でもあまり意識していなかったし、手紙と恐怖症がやっぱり大きいかな」

 そういうと彼女は私のところ来た。手をギュッと握手するように掴まれた。

 「ごめん」

 そういうと一言私に囁いては彼女は戻っていった。……………………?

 「湊川」

 今度は湊川の方へと向かうと私と同じようにしたあと抱きついて背中を優しく叩いた。

 「大丈夫、大丈夫だよ。湊川なら、みんななら乗り越えられるから」

 「っさか……もとさんっ……っ!!」

 湊川も離したくないとばかりに抱き締めて泣き喚いた。

 

 *****

 

 「そろそろ時間にしたいであーる。そんなに長い長話はァ好きじゃないのであーる。オマエラの友情を否定するつもりはないであーるがなァ……」

 モノヤギが口を開く。つまり

 「うそ……いやっ、いやよ!! 私はまだっ……あなたとはまだっ」

 阪本は湊川から離れてモノヤギの近くに行く。

 「それではそれではァ、おしおきの時間であーる!!」

 言葉を遮り、残酷で冷酷な宣言。

 「モノリュウ様ァッ!!!!」

 

 パッ

 

 『クックックッ。おしおき。今回超高校級の藍染め職人に相応しいおしおきを用意した』

 モノリュウが現れこれからお楽しみが起こるのを今か今かと待ちわびている。

 「バカだよね……ワタシの中じゃ、藍染めはいつも『愛』染めだった。けど『愛』情を注いできた『あい』染めを二度も苔にしちゃったんだもん…………」

 「それではァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやよ……いやっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「湊川、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おしおきタイムゥ!!!!」

 『スタートだ……ふふふ、ふーはっはっはっはっはっ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また、地獄でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阪本はそう言って上から降りてきた鎖に首を掴まれそのまま引っ張られていった。

 

 

 

 湊川が腕を伸ばそうとしたがそれは虚しくも空を切るだけだった

 

 

 

 ____

 

 

 GAME OVER

 サカモトさんがクロに決まりました

 オシオキを開始します

 

 

 ____

 

 『さかちゃんそめつくり』

 “超高校級の藍染め職人”阪本莉桜、処刑執行

 

 

 

 

 

 

 

 上に引っ張られた阪本は下を向くと

 

 

 

 

 

 大きな釜があることに気がついた

 

 

 

 

 

 そのまま首輪が外れて釜の中へ

 

 

 

 

 

 阪本は落とされて腰をうつ

 

 

 

 

 

 腰を擦りつつ、釜からの脱出を試みようとすると

 

 

 

 

 

 突然上から大量のお湯が降り注ぐ

 

 

 

 

 

 火傷しそうになるくらい熱い熱いお湯

 

 

 

 

 

 出ようと思って手を伸ばすも

 

 

 

 

 

 体がそれを拒んでしまう

 

 

 

 

 

 次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 ボッ!!

 

 

 

 

 

 

 釜に火が着いて茹でられる

 

 

 

 

 

 お湯がさらに熱を持って

 

 

 

 

 

 阪本は溺れながらもがく

 

 

 

 

 

 水分を含んだ服

 

 

 

 

 

 お湯を飲み込んでしまったならもう終わり

 

 

 

 

 

 だんだんと抵抗する力などなくなる

 

 

 

 

 

 モノヤギが棒状のモノを取り出すとグルグルグルグル掻き回す

 

 

 

 

 

 どれくらい経ったか

 

 

 

 

 

 モノヤギが掻き回すのをやめて一枚の布を釜の中に入れる

 

 

 

 

 

 またしばらくして布が持ち上げられるとそこには

 

 

 

 

 

 阪本印の『赤い染め物』が出来たとさ

 

 

 

 

 

 

 ____

 

 な、なんだ……これは……? 鳥肌が止まらない。

 「なァーーーーッはっはっはっはっはァァァ!!!!!!!! アドレナリンがァ全ッッッッッッ身に染み渡るんであーーーーーーる!!!!!!!!」

 こんな、こんなのって……なんでここまで残酷なんだ? たとえ殺人を犯したとはいえ、ここまですることはないじゃないか

 「あ、……ああ…………ッ!!!!」

 「湊川さん……」

 湊川はまた膝をついて、さらに手もついて震えに震えている。

 『ふっくっくっくっ……その顔ぞその顔……っ!!!! さて、更なる絶望を期待するぞ。モノヤギ。余はこれで失礼しよう』

 ブツリと途切れ、モノリュウはいなくなった。

 「? 今日は早いであーるなァ? まァ別にいいんであーるがなァ。ではではおさらばさいならァッ!!!!」

 モノヤギもそそくさと出ていって、また私たち生徒だけの空間となった。

 「……わた……しは…………」

 ふらふらした状態で湊川がその場から離れエレベーターに乗ろうとする。しかしとてもあのままにしてはおけなかった。

 「…………」

 「ダグラスくん?」

 ダグラスは湊川の元へと行き彼女を支えようとする。

 「あとは任せてほしい。一人にさせたら……彼女はいけない」

 それだけいって先に二人は出ていった。

 「湊川さん……大丈夫……じゃないか……」

 「……今は、ダグラスくんに任せるのが懸命だろう。彼なら湊川くんを支えられるだろう」

 宮原と阪本。湊川はよくあの二人といた。それが、突然こんな形で散るとは誰も思いもしなかった。

 「面倒なことになったなぁ?」

 しかし一人だけまるで空気を読まないやつが口を開いた。

 「っ……ふっざけんじゃねぇぞ!!!? てめぇっ」

 橘がキレて国門の胸ぐらをガッと掴んだ。

 「何がふざけるなだ? 事実だろ? これからその隙に漬け込んで、どんな事件があるかわかったもんじゃねぇぜ? 俺ぁな、お前ぇよりもそれをわかってんだぜ? たかだか杖を振り回すだけのお前が、実際に度重なる無数の裁判を経験したことのある俺に何が言える?」

 しかしそれに動じることもなく、国門は淡々と冷淡にいい放った。

 「お前みたいな他人を見捨てることも厭わないやつに、ふざけるなだなんて言われる筋合いn」

 そこから先は聞こえなかった。それは橘が国門の腹にストライクで蹴りをかまし吹き飛ばしたからだ。

 「た、橘殿!!? いくら腹を立てているとはいえそんなことは」

 「黙ってろっっ!!!!!!」

 橘はその場から動かなかった。荒く息をしては国門のほうを向いている。

 「やめなよ。ここは喧嘩をする場じゃないよ。喧嘩するなら他所行ったほうがいいんじゃないかい?」

 矢崎が冷静に制する。

 「……てめぇらは、どこまで分からず屋なんだよ……」

 そう吐き捨て彼はそこから離れていった。

 「国門くん大丈夫?」

 「カハッカハッ!!!! す、すっごい痛い……」

 「でしょうね。まあ自業自得です。お灸だと思えばよいのでは?」

 金室がさらりと毒を吐いて国門はお手上げと言って素直に世話されていた。

 「……でようか」

 みんながそれに同意して全員でエレベーターに乗った。

 「ねえ玉柏くん」

 行きに玉柏に話しかけられたように、私も彼に話しかける。彼は目で何かと訴えてきた。

 「……阪本さんの秘密は、誰かが持っているんだよね。結局、あれって」

 「それは俺だ」

 えっ。思うと同時にポケットからこっそり出されたそれの隙間に、確かに阪本と書いてあった。

 「君が、持ってたんだ……」

 「あの場で言ったら混乱するだけだろ。だから言わなかっただけだ。お前も……無理すんな」

 また言われた。けれど涙は出ていない。その言葉がどういう意味かはなんとなく理解できた。

 

 

 ***

 

 裁判が終わり。夕方といったところか。あんなの見せられて私たちは食事どころではなかった。あまりにも残酷過ぎて、食事は喉を通りそうになく幾人かは吐き気を催した。苦しい。苦しい。苦しい。

 今日は寝れそうにない。寒気がする。寒いのは、好きじゃない。怖い、怖い。助けて。私たちみんなを、助けて。

 

 

 

 『これ、宮原が渡すの忘れてたって言ってたもの』

 

 

 

 

 そういえば、阪本からあのとき受け取ったこの手紙はなんだろう? 開いて読んでみた。

 

 

 

 

 『空へ

 

  俺はお前の秘密を知っているだけじゃなくて、お前の彼氏のことも思い出した。

 俺がやった【間違い】を、その人だけは受け入れていることも。

 何があったかまではわからない。

 けれど俺はみんなの味方でずっとありたいから、困ったら相談して欲しい。

 俺はまだ、自分のことを思い出せそうにないから

 

              宮原より』

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ、宮原。ねえ、阪本。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人はどうしてそんなに

 

 

 

 

 

 

 

 優しくいられたのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────

 

 

 風呂場。そこで玉柏が宮原の作ったボードを男子使用中の状態にして待っていた。そして呼び出した本人がやってくる

 「お前から、呼び出すなんてな」

 「……どうしても、気にならざるを得なかったんだよ。てめぇ」

 口調よりわかるは橘。彼が玉柏を風呂場へと呼び出した。

 「んで、何のようだ? ここで俺を殺すわけでもないんだろ」

 橘は玉柏と一定の距離を保っては睨み付ける。

 「てめぇ、どうして裁判のとき『ゴミ箱に何かが捨てられた形跡がない』ってわかったんだ? 捜査のときはずっと現場に居たじゃねぇか。んなことわかるのは意味がわからねぇよ」

 玉柏は黙った。じっと睨みため息をついた。

 「さあな。別にお前に教える義理なんてないだろ。俺は俺のやり方でやるだけだ」

 「……それがてめぇの才能に関わっていると言ってもか?」

 「なに?」

 才能。玉柏は才能を忘れている。ただし、彼は自分の勘だけを信じて検討をつけていた。

 「てめぇの才能はここに書いてあった。……信用もクソもしてねぇよ。あんなやつからもらった動機なんざ信用できやしねぇ」

 「まあ、だろうな……」

 二人に不気味な空気が流れる。

 「だがこれを知った上で聞く」

 

 

 

 

 「てめぇはなにをした?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 カランっ……

 

 

 まだそのときじゃないな

 

 

 *

 

 

 苦い

 

 

 ……割れなければよかったのに

 

 

 *

 

 

 お願いするね

 

 

 あとは頼んだよ

 

 

 湊川

 

 

 *****

 

 

 

 “~友の証~あい染めのスカーフ三枚セット”を手に入れた

 

 阪本が『愛』を込めて作った『藍』染め。それぞれに模様があり、それを繋げると一つの丸が浮かび上がる。友だちに渡すと一生友情が続くとか

 

 

 

 ***

 

 第二章

 『せんじょう』あるも『せんし』なし、『せんし』あるも『せんじょう』なし

 

 

 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 next→第三章「消えた雁追う者共」

 

 

 

 




こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海です。
 遂に二章が完結しましたね。二章は地味ですからそこまで被害はないかと。ただおしおきに関してはほぼ初期から変わっておらず、さらに非常に残酷となってしまいました。ごめんよ。恨みはないんだ。あの子はとてもいい子です。ホント。
次回は魔の三章ですね。もし二章でメンタルぼろぼろにされた方いらっしゃいましたらすみませんが、三章はもっと残酷ですので。
それでは次回をお楽しみに


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第三章 消えた雁追うものども
第三章(非)日常編 道中の1部屋目


こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海です。
ついに表論は魔の三章に突入でございます。この章は作者としてもちょっと気の抜けないかつ覚悟のいる章でありまして。それでも楽しんで頂けるよう尽力しますのでよろしくお願いします。


 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 なあこいつどうする?

 

 売り飛ばすのには逸材だ

 

 よーし、待ってろよぉ

 

 これから恐怖の生活を味わえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────

 

 

 

 

 「!?!?」

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はあぁ…………ゆ、ゆめ……? な、なに、なんでこんなリアルなの?

 

 

 *****

 

 

 __________

 

 

 

 

 ある人は「もどかしい」かった

 その人は「目指して」います

 

 ある人は「従って」います

 

 ある人は「見て」います

 

 ある人は「見られたく」ありません

 

 ある人は「守って」いました

 

 ある人は「忘れて」います

 

 ある人は「苛立って」いました

 その人は「疑って」います

 

 ある人は「引っかかって」しまった

 

 ある人は「たえて」いました

 

 ある人は「保って」います

 

 ある人は「潜んで」います

 

 ある人は「強がって」います

 

 ある人は「縛られて」います

 

 ある人は「できなくなって」います

 

 ある人は「恐れて」いました

 その人は「大事に」したいです

 

 ある人は「不安」でした

 もうその心配はありません

 

 

 _________

 

 

 *****

 

 

 モノリュウのお告げ

 

 

 

 大造じいさんという人を知っているか?

 

 

 残雪という雁と

 

 

 幾度となく知恵比べを繰り広げた男

 

 

 ハヤブサとの交戦を目の当たりにし

 

 

 残雪はボロボロになろうとも

 

 

 己の威厳を貫いた

 

 

 のちに大造じいさんは残雪を

 

 

 「ガンの英雄」と称えたそうな……

 

 

 ところでその雁は今

 

 

 どこにいるのだろうなぁ?

 

 

 *****

 

 

 

 第三章「消えた雁追うものども」

 

 

 

 *****

 

 

 10日目

 

 アナウンスは聞こえない。薄気味悪い夢から醒めて息が苦しい。あの手紙を読んだあと寝落ちたんだ。

 

 

 コンコンコン!! コンコンコン!!

 

 

 扉をノックする音が忙しなく聞こえてくる。何度も何度も叩かれ、まるで自分の頭まで叩かれているような感じになって、ただでさえ気分は最悪なのにさらに、最を超えるくらいの苦しさを覚えた。でも止むことはなくて、だから私はその扉を開いた。

 「直樹(トン)!! ああよかった……焦った……」

 「わ、渡良部さん!?」

 音の主はどうやら渡良部みたいだった。額から冷や汗が流れて安堵の息を漏らす。

 「どうし」

 「どうしたも何もないってば!! あんたいつまで寝てる気してたの!? 今11:00になってるんだけど!?!?」

 は? っと間抜けな声を出した。時間確認のために手帳をみれば11:08。……もうお昼!? うそっ!?

 「みんな心配したんだからね!?」

 「ごめん」

 「全く……でも、朝はみんな行動バラバラで全員揃ってなかったし。けど今日あんたを誰も見てないっていうから焦ったじゃん……」

 なんかみんなを心配させたみたいだ。

 「ふう、とりあえず、あとは一人だけか」

 「一人? 私以外にも……」

 「湊川(シャー)がね。美術室2に籠りっぱなし。朝からそうなんだ」

 朝から湊川が……でも昨日は湊川にとってとても悲しくて苦しくて平静でなんかいられない状態だったのはよくわかる。美術室にいるのは二人のことを忘れないためなのか、あるいは忘れられないからなのか。

 「よしじゃあご飯食べようか」

 ぐうっと腹の音が聞こえてきた。はい、私のです。

 「そうだね」

 空いているお腹を満たすために軽くシャワーを浴びたあとで食堂に向かった。

 

 *****

 

 お昼なこともあって幾人かは食堂にいた。私を見るなり胸を撫で下ろす人も。

 「直樹殿、心配しましたよ。……しかし少々顔色はよろしくないのでは?」

 「ああちょっと悪夢を見ちゃって。でも前みたいなのじゃないから」

 「なるほど。ですが体調が悪いときは仰ってくださいね」

 こういうときの彼は本当に心強い。礼をして席に着きお昼を食べる。湊川とあとダグラスがいなかった。

 「ダグラスくんは?」

 「湊川くんについて行った。昨日と同じ理由でね」

 ダグラスなら安心できるか。

 「……あいつが変な方向に曲がったりでもしたら面倒だな」

 「変な方向?」

 「言葉そのまんまだっての」

 すごい意味深な台詞。というか珍しく橘がここにいることにびっくりなんだけど。

 

 

 コツコツコツ……

 

 

 外から足音が聞こえてくる。誰の足音かは想像しなくてもわかった。

 「…………遅れて、ごめん」

 そこには袋を持った湊川とダグラスがいた。

 「湊川さん……」

 「ひとまず、ミス湊川の話を聴いて欲しい」

 そう言われてシーンと静まる。

 「悲しかった。とてもつらかった。目の前で起こった、身近で起こった悲劇を私は気付くことすらできなかったんだもの」

 あの二人のそばにいたからこそ分かること。それを湊川は哀しげに語る。

 「でもそのままじゃ私はいられない。だって後ろばかりの道だけじゃ、前にある道なき道を作れないじゃない。鷹山さんのためにも、江上さんのためにも。いなくなった四人のためにみんなで進むって決めたの。だからね、前を向くことにしたの。そうじゃなきゃ示しがつかないじゃない?」

 湊川は困ったように笑って、持ってきた袋から何かを取り出した。

 「それは……」

 「藍染めか?」

 スカーフとハンカチの藍染めだ。……見覚えがある。これ間違いなく前美術室でみたやつだ。

 「そう。あの二人と三人でね話してたのよ。みんなに団結できるお揃いのものを作ってみようって協力して作ったものなの。これがあるとね……まるでそばにいなくなったみんなもいるような気がしてならないのよ……三人背中合わせで、一緒にいたはずなのに、最初から誰も見ていないようで見ているっていう幻想に騙されて。でも、今ならはっきりわかるの。ちゃんと、いたんだって。わかるのよ。これがあるからじゃなくて、いなくなってしまったからじゃなくて。ね」

 手にある藍染めを優しく胸に当てて今度は切なく笑って。

 「まだ私は止まれない。いくらのんびりな船でも、強いと豪語されたものでも、嵐に必ず敵うものじゃない。沈んだり、壊れたりする。けど……いくつもの危険な地点を乗り越えて乗り越えて、船は動いてる。動き続ける。私は、絶望の渦には呑み込まれない。絶対にみんなで生きるんだ!! こんなところで錨を下ろすなんて出来ないんだもの!!」

 彼女の決意が食堂に広がった。

 「灯台の光は簡単に消えないんだから」

 そして湊川の後ろに、微笑んでいる宮原と阪本の姿が見えた気がした。

 

 ***

 

 「はいこれ直樹さんの」

 「ありがとう」

 一通り話を聞いたあと、湊川とダグラスから藍染めを渡される。美しく綺麗な、青よりも青い藍染め。どこか優しく温かな雰囲気があった。とても心が籠った藍染めなんだなと感じる。私のはアジア大陸の地図だ。見た感じ、小さな島もしっかり描かれている。

 「すごい繊細……」

 「けどこんな簡単に模様を作れるの?」

 「それが阪本さんすごいのよね。その場で宮原くんと型作ってそれを布に挟めて模様付け。あと他には適当にあった小さい木の棒とか輪ゴムとか使ってたわ。その場の機転がよく利いてたのよ」

 すごっ。

 「私のは錨とか海を表現したやつで、ダグラスくんのはトランプの模様ね」

 「わたくしはハーブでございますね。繊細でお美しい……」

 「ちょ、ちょっと!? 阪本(ナン)この一索(イーソー)の孔雀どうやって表現したの!? 凄すぎなんだけど!?」

 「……きれいだ……」

 「バレーボールのあの波模様じゃの。よく再現されとる……」

 「私のは弾けた水だな。おもしろい」

 「あたいのは動物だね~」

 「俺のはガラスっぽいな」

 「梅に胡蝶蘭ですか。うちの服の柄……」

 「天秤。弁護士らしい模様だ」

 みんなの個性が特徴が溢れたそれ。私は大切に大事にしていこうと強く思う。

 「コロシアイが無くなればいいな」

 「じゃな」

 みんな、一人ひとり思うことがあるようだった。

 「あァ、いつまで待たせる気であーるかァ?」

 …………くたばれ。今阪本のコスプレなんてしなくていい。いやコスプレしないで

 「なーんのようだい」

 「正直邪魔でしかないからさっさっと失せてくれ」

 「ワレに対する風当たり強すぎであーる!! ワレがここに来た理由ぐらいィ、オマエラはわかっているであろう?」

 ここに来た理由?

 「このタイミングならァわかって欲しいんであーるがァ」

 「……前回にも裁判が終わった次の日に僕たちを訪ねてきた。ということは」

 モノヤギは不敵にニヤリと笑った。

 「物分かりが早くてェワレは嬉しいであーる。そうゥ、ここに来たのは他でもないィ」

 「……Ⅲ棟か?」

 「大ッ 正ッ 解ッ !! 希望ヶ峰マンションⅢ棟を開放したであーる!! その名も遊戯棟ゥ!! ぜひぜひ確認をォ!!!! 電子生徒手帳にもォマップが追加されてるであーるからなァ!!!!」

 遊戯棟か。ゲームか何かあるのかな。そういう棟なんだろう。

 「おい」

 「んん? なんであーるかァ?」

 「お前、モノリュウと本当に繋がっているのか?」

 「そうでなければおかしいであろう?」

 「いいや。お前は完全にモノリュウと連携が取れていない。事実、前回の裁判が終わった直後に言っていた。早いなと。何かあると踏んでもおかしくはない」

 刹那、玉柏の顔すれすれに一本の槍が飛んでくる。その場のほぼ全員が絶句した。しかし玉柏は全く動じなかった。メガネの奥の眼がギラリとなった気がした。

 「……教える義理などない。それを二度と口にするな」

 「へえ。反応するんだな。図星か。だが俺は一切校則に触れていない。それで俺を殺そうとしたなら、お前はモノリュウからしてみれば謀反だろうな?」

 「黙れ」

 いつもなら高く嘲笑うモノヤギがこの時ばかりは穏やかじゃなかった。笑うという感情を忘れただ睨み付けた。

 「言っておくが俺は今の槍、受け止められた。天井が微妙に開いてたのを見逃すかってな。備えなくともそれぐらいの対応は出来るんだよ。ま、外れることは位置とかから把握できたし、殺すつもりのない威嚇攻撃だってのは見てとれた」

 なにこの軍師感。

 「貴様ごときいつでも殺れる。ワレがここの管理人だ。忘れるな」

 「校則というルールを守らずして、管理人を名乗るのもどうかと思うがな?」

 「……フンッ。いいのか? 逆らうほど貴様は不利になるというのに」

 「…………」

 謎の沈黙が周囲を包む。

 「ま、いいであーる。どうせオマエの周りからは誰もいなくなる。支えてきたやつでも、その隣にいた二人も、いずれ、なァ…………?」

 意味深な発言を残しモノヤギは立ち去った。何があったんだ?

 「モノヤギ、なんか様子おかしかった」

 「間違いなく、あのヤギは秘密を持っている。これではっきりした」

 ニヒルに笑い椅子に勢いよく掛ける。玉柏、それ完全に悪役の顔だよ。

 「けどすっごいひやひやした……心臓に悪い」

 渡良部が胸を撫で下ろす。

 「はいはい。こんなのどうってことない」

 「どうってことないってことはないでしょ……どんな神経してるの……」

 呆れるくらい図太い神経してるよこいつ。

 「んでどうするんだ? どうせ行かなきゃいけないんだろうけどな」

 「それはもちろん。行きますよ」

 「……行くわ。行かなきゃ始まらない」

 なんだかんだあった昼より、ようやく開放された場所へ行くことになった。

 

 *****

 

 Ⅲ棟前についた。まあまずは地図確認。見た感じ、円柱の建物みたい。

 「えっと一階はロビーで、二階は控え室、三階はコンサートホールと控え室と楽器庫、四階はカジノとバーと小さなステージみたいなの。五階は同じくカジノと仮眠室だって」

 「なーんか複雑な構造しているねぇ」

 「ここはテレビ局かなにかなのかな!?」

 「テレビ局?」

 あれ勢いでツッコんだけどもしかしてみんな意外と知らない?

 「テロリストに占拠されないように複雑な設計になってるんだって」

 「だから階段が遠いってわけなのか」

 「らしいよ。ま、都市伝説っていう人もいるみたいだけど」

 旅行してたときたまたまテレビ局寄って見学した知識がここで役に立つとは。事実かどうかは別で。こういうとき、宮原がいればと思うと悲しくなってくる。

 「非常用の階段があるわね。一階から三階に一気にいける」

 ホントだ。二階はすっ飛ばしていけるやつみたい。ただ非常といいつつ中にある。

 Ⅲ棟の扉を開けると同時に冷たい空気が流れてくる。入ればだだっ広いロビーが、受付らしきものが、豪華でシャンデリアが目立つ。そしてグランドピアノが目にとまる。ここで演奏もできるみたいだ。ダグラスがそこまでいくと軽くピアノをジャーンと弾いた。

 「Hmm……いいね。弾きやすい」

 「音調もしっかりしてやがんのか」

 「おや意外。ミスター橘も詳しいのかい?」

 「……嗜む程度だっての。習ったこたぁねぇよ。独学」

 独学でそんなわかるのってすごいんだけど。

 「音楽は好きだ。クラシックとかは好んで聞く。ここで聞けねぇのは不愉快だっての」

 意外な趣味だ。

 

 *

 

 二階は控え室だからざっと見たけど、浴衣、スーツ、ドレス等々ありとあらゆる衣装があった。

 「美しいですね。そっちの目立ちすぎるものよりもこっちのほうが」

 「桜の浴衣か。かわいいな」

 「控え室と言うよりも衣装室みたいな感じじゃな」

 けれど、そこは嫌味も含まれた場所だった。

 「鷹山さんの服……」

 「江上、宮原、阪本、死んだ人たちの服も備わっているわけか」

 胸糞が悪い。なんて腹が立つんだ。

 「電子生徒手帳もご丁寧に……」

 「ヘックシュンッ!!」

 誰だ今のくしゃみ。

 

 *

 

 三階は控え室と楽器庫とコンサートホール。ホールは一階と同じくだだっ広い。多くの観客席。ステージもそう。何をやっても足りそうな広さだ。ステージの裏には控え室と楽器庫があるみたいだ。とはいえその二つはあくまでも裏の部屋らしく、ホールと比べると随分と狭い。ただまあ練習するにはちょうど良いだろう。

 「機材とかは控え室と楽器庫の扉の前か。出入りはまあできる位置だな」

 「リモコンもありますから照明調整は意外と容易なんですね。電池も備えてあります」

 「こっちの控え室、化粧室っぽい感じだ。着替えでなく水分補給やお色直しみたいな」

 「防音はしてあるみたいだね~」

 この三階、コンサートホールを通らないと四階には行けない仕様なのか。

 

 *

 

 四階はカジノ。その前に扉があって、左奥に階段。五階につながるやつか。カジノに入るとハイな音楽が流れ、ビリヤード卓とか麻雀卓とかルーレットとかいかにもカジノらしいものが置いてあった。それと小さなステージ、バーがある。バーは本当にお酒あるって私たち玉柏以外未成年だってば。あと少し邪魔なところに横長の棚があるなぁ。

 「うんうんうんうん、カジノっぽくていいなぁ!!」

 いやカジノだよ。

 「ダグラスくんはディーラーだものね」

 「そうさ!! 普通のやつでもいいけどさ、やっぱり『カジノ』だからこそ盛り上がるものがあるんだよね」

 ダグラスはまあ案の定大興奮している。カジノだからね。

 「ジン、マティーニ、バーボン、焼酎、XYZ……いろいろあるな」

 「君、お酒を飲むのはいいがほどほどにするんだぞ」

 「気づいてたのか」

 「今まで外で煙草の煙が立ち込めていたんだが?」

 「はいはい。善処しとくな」

 お酒見回ってる玉柏に巡間が注意をする。医者が言うとまた違って聞こえる。

 「中にも入り口のすぐ近くに五階用の階段あるんだ」

 見上げると右はカジノの延長のようで、左は仮眠室なようだ。

 「仮眠室は……防音仕様か」

 「あそこの扉は?」

 鍵が掛かっていたからそれをガチャッと開けると廊下に繋がった。そして近くに階段も見えた。

 「なるほどね。ん? これは……」

 「どうしたんだい?」

 「鍵、内側にしかないみたい」

 鍵が開いていない限り直接仮眠室にはいけないのか。

 「変わってるね~しかも五階の出入りはここしかできないみたいだよ」

 道は奥まで続いておらず、あのときの部屋みたいな感じではと疑うがそんなことはなかった。

 「……仮眠室は八人まで。校則もここの就寝は許可しているみたいだな」

 確認してみると追加次項が幾つか増えていた。個室と幾つかの場所以外の就寝禁止とか、手帳の貸し借り禁止とか、あと一人のクロが殺せるのは二人までとかみたいらしい。

 「校則、いろいろ増えているんだ」

 「そうね。あなたが倒れたときにいろいろ増えたみたいよ」

 その説はホントすみませんでした。

 そして多分(?)動きやすい四階に戻った。

 「特に変わったところはないね。さぁてここからどうするんだい?」

 「自由でいいんじゃないかな」

 「探索か。今は全員でざっと確認した程度だから」

 ここでみんなとは別行動を取ることになった。

 

 ***

 

 とはいえ何をやるとか全く決めてない。今はカジノにいるし、最初はここで探索しよっかな。で、まあ例のあの三人はいるんだけど

 「ふーむ」

 「ここの棚、ちょっと中途半端な場所に置かれているよね。その扉よりちょっと低いけど充分大きいからこう……壁に寄せようか?」

 「だね。扉横でいっか」

 そういう感じで三人は棚を持って移動させようとしている。が、意外に重さがあるようで少し持ち上げるのも大変そうだ。

 「引き摺る?」

 「いえ、床に傷がついてしまいます。ここは下から持ち上げましょう。ちょうど隙間もあることですし」

 「棚のところから持ち上げたほうが良くないかい? 下からだと随分重くなる気がするよ」

 「「「さあ!! どうする!!」」」

 すごい急に私に振られた。

 「いや何が!? 突然私に向かってさあどうする!! はおかしいでしょ!?!? そこ三人本当に仲良いね!? えっ!? でもいつの間に私たち漫才始めたの!? ていうかそのネタ随分懐かしいね!!!? 私たちいくつだっけ!?!?」

 「そりゃもちろん18……え?」

 ん? あれ?

 「18? つい最近入学……したのに? ミーは16歳で希望ヶ峰学園に招かれた気がするんだけどさ……?」

 「わ、わたくしも同じでございます!!」

 「私も」

 …………もしかして、もしかすると?

 「玉柏くんどこ!?」

 「!?」

 玉柏は今二十歳。つまり、彼なら私との年齢差がわかるはず

 「そういえば先ほど仮眠室に」

 「ありがとう!!」

 走って五階に行って仮眠室の扉を開ける。確かにそこには玉柏がいた。寝てるけどたたき起こす。

 「玉柏くん!! ちょっと起きて!! 聞きたいことあるから!!」

 「……んー? んだようるさいなぁ……」

 「ごめん!! でもいい!? 玉柏くんと私たちの年齢差っていくつ!?」

 寝惚けた風にああ……と頭をポリポリ掻いてメガネを掛けた。

 「それは、あれだろ。2年だろ」

 「2年……玉柏くん、希望ヶ峰に入ったときは!?」

 「は? 二年留年してるから18だぞ? ……嗚呼そういうことな」

 理解してくれたみたいだ。

 「私たちは16、つまり高校一年に希望ヶ峰に招かれた。けど」

 「今の話を聞く限り、よっと。俺たちは、ここに来るまでの少なくとも二年の記憶が失われているってことになるな」

 まさか年齢にすらそういうことがあるのか。玉柏が二十歳だと認知したのは自分の手元に煙草があったから。

 「はあぁあ、面倒くさいな」

 「記憶の差が生まれるのは当然だったんだ……モノヤギからの動機はその空白の二年の記憶を含んでいる可能性があるよね」

 「九分九厘そうだろうな」

 「ねえ、その中に玉柏くんの才能についても何かあるんじゃない?」

 「……明日にでもわかる」

 「?」

 「さぁってっと。一服してくるか。んじゃ」

 はぐらかしたな。玉柏は仮眠室から出てそのままどこかへと消えていった。

 

 *****

 

 そういえばどこもかしこも鍵がついているけど、鍵の管理はどうなのか気になったから一階ホールにでも行けばわかるだろうと向かう。そこで国門が受付らしきところで何かを広げて一つ一つチェックをしている。

 「何を見ているの?」

 「鍵だ、ここの」

 「どこにあったやつ?」

 「ここの裏の……ここだぜ」

 と言われたところを見てみるとそこには引き出しがある。けどそこにひとつすごく気になる金庫のようなものが

 「これは?」

 「さあね。僕にもわからない。怪しい金庫であることは一目瞭然だろうぜ」

 金庫は四桁の暗証番号。1からやるには気が遠くなる。この場合何通り? 10000とか? いや考えても無理だ、バカが露呈する。とりあえず適当にポチポチしてみよっと。

 

 ブー!! ブー!!

 

 「デスヨネー」

 「なんで1234なんだ」

 「いやなんとなく」

 「そこは0123だろ」

 「いや焦点そこじゃないと思うよ!? ツッコミどころ違うから!!」

 「だいたいあのヤギがそんな安直な番号にするわけ、ん?」

 あれ、残り二回とか出てきたなにこれ。

 「説明するであーる!!」

 説明したら私たちの視界から早急に消えて欲しい

 「その金庫にはァ、もちろん何かが入っているゥ。何度も何度も番号を打てばそのうち金庫は開くゥ。がしかァァしィ!!!! そう何度もやられたら困るゥ。だァかァらァ!! 一度に間違えられるのは三回までェ!! それを過ぎれば一時間は番号を打てないィ」

 「時間制限付き、か」

 「そのとおォりィ。ヒントはァ、まァどこかにあるんじゃないであーるかァ?」

 「ヒント雑かよ!!」

 けど金庫自体の管理はしっかり管理されてるってことなんだ。

 「そうそうォ、ここの鍵はⅢ棟外に持ち出し禁止であーるからなァ!! いやここでしか使えないから持ち出しても意味ないのであーるがァ……メリットないない」

 「アッハイ」

 テンションどうしたよヤギ。

 「この程度であーるかなァ。ではさらばァッ!!」

 今日のあのヤギのテンションについていける気がしない。

 「そういうことか。ま、鍵はしっかり管理する必要があるわけだ」

 「まあここから無くなるってことはないけどね」

 「どうかな。ここの中で行方不明にさせることは結構容易だと思うよ」

 これだけ広ければそうなるよなぁ。

 「ってこれヒントか?」

 「ヒント雑かよッッ!!!!」

 ツッコミメンドウニナッテキタ。奥にあった紙に書いてあるヒント見てみよっと。ええっと……

 

 

 

 【ヒント】

 ・あなたの数字も大事

 ・被せ加えて順序よく

 ・同じ数字は次の桁とまとめて

 ・ひとまず並べよ

 

 

 

 「なにこれ?」

 「さあ? どういう意味かさっぱり」

 けどこれが金庫を解くヒントなのか……うーん?

 

 *****

 

 何だかんだで夜になる。ゆったりと食事をしているとダグラスが早々に食堂を出ていった。そういえば夜だけどコーヒー(砂糖とかミルクの入った)飲んでたな。ということは? そんかわけで私はまたカジノへ行くことにした。

 そこはさっきまでとはちょっと、いやちょっとどころじゃない程違う雰囲気がした。台がピカピカ眩しいくらい光り、音が大音量で響いていた。

 「へい!! ミス直樹!! いらっしゃい!!」

 ここ君の店じゃない。

 「やっぱりここに居たんだ」

 「カジノが出てるならいたくなるのさ。さて、何かgameやるかい? 何だっていいよ」

 「え、いや、何あるのかというかそういうのさっぱり……」

 実際わからないわけじゃないんだけど、ほら、そこはそれ。あれだ。伝われ

 「それじゃあ無難に二人でブラックジャックでもするか!!」

 「21に揃えるやつだね」

 「Yes. それじゃ、トランプ配るからそこの台に行こうか」

 促されてそこへ。なんともトランプ専用の台って雰囲気がある。

 「それじゃ、シャッフルして配るよ」

 そういうと手際よくトランプを切っていく。

 「はい。ミーはディーラーで親を務めるからね」

 渡された二枚のトランプ。ダグラスも二枚もらっているけれど、一枚は表を向いている。どうやら9みたい。

 私は5と8か……13……微妙な数字。けれど引いて賭けようかな。

 「一枚引くよ」

 「Ok. 引いてみて?」

 山から一枚引いてみる……あっ

 「Kってたしか10扱いだっけ……」

 「だね。残念。親の勝ち!!」

 「ええ~!! うそぉ!!?」

 「ちなみに、ミーは表が9で裏が2。つまり10扱いのトランプは16枚あることになるからまあ高確率で21にできたね」

 「ちなみにその山次何あったのかな」

 「ん? えっとね……ははっ6だ。まあまあ、それでも賭けるにはいい値なんじゃないかな」

 さすがディーラー。詳しい。

 「そういえばブラックジャックってさ、このgameの意味もあるし某アニメでもあるけれど、他にも意味あるのはわかるよね?」

 「blackjack? もちろん。革製のビール用大ジョッキ、海賊旗、小型の棍棒。でしょ? 動詞でも脅迫するとか打つとかもあるよね」

 「Exactly. さすが翻訳家。話が合うね」

 「言葉は知っていて損はないもの。伊達に翻訳活動してないよ」

 「ははっ。それもそっか。さぁて、また数戦するかい? ミーは朝までいる予定だけど」

 「寝ないの!?」

 「朝に寝るんだよ。カジノって大抵夜営業だからさ、戻ったら寝ようかなって。その場で眠気が来るようなら上の仮眠室にいくさ」

 ああディーラーは昼夜逆転するんだっけ。大変そうなんだよな、そういうとこ。体調管理とか……ってダグラス普段めちゃくちゃ日常生活のサイクル良かったわ。校則には気をつけてって言っておこ。

 

 *****

 

 外に出る。肌寒い空気が私を刺激する。まっすぐ部屋に戻ることをせず、噴水の前に行ってベンチに座った。

 鷹山と真面目に話をしたのはここだったっけ。

 ここに行くと落ち着きもすれば焦ることもある。何かを考えさせられるときもある。今みたいに。噴水の流れる勢いはいつもは一定なのに、自分の気持ち一つで激しかったり穏やかだったりする。

 今は焦りだ。今日含めて、たった10日の間で四人もの命が散った。こんな閉鎖空間だからなのか。今のように外にも出られるって点があるから、それなりの自由が利く。けれど高い高い壁が閉鎖空間であることを物語る。

 おかしいよ。壁は高くそびえ立つのに、空模様ははっきりわかるんだもの。暗い夜の世界に包まれる。噴水が街灯に照らされてどこか奇妙に美しく見え、返って不気味にすら思える。

 

 

 

 ガサガサガサッ!!

 

 

 

 「だれ!?」

 反射的に叫び立ち上がる。今間違いなく誰かがここにいた。気のせいじゃない。もう一度腰をかけて周りを見る。明らかに違う音だった。木々のほうからし……

 

 

 

 バサッ……

 

 

 

 た……?

 「!?!?」

 背後から気配がして思わず私はベンチから落ちた。そこには

 

 ____

 

 

 『マントを身に纏い鳥の嘴のような仮面を着けた謎の人間が噴水の先端、頂点と呼ぶべきだろうか。その人はそこに片足で立っていた。』

 

 

 ____

 

 あのときの人だ。鷹山さんとここで話したあとで見た。そいつが目の前にいた。

 「…………誰」

 そいつは見下すのとは違う雰囲気を纏いながら私を見下ろしていた。沈黙が流れ、その間に立ち上がった。私の質問には答えなかった。

 次の瞬間、そいつは跳んだ。ベンチの背もたれを片足で蹴り飛び越え私も越えて、そのままあの噴水の上に着地した。濡れる足も気にせずに。ゆっくり、ゆっくりと右腕が現れ人差し指を立てて上を指した。するとマジックでもしたのかそいつの右手から何かが出てきた。そしてそれが投げられた。

 無数に

 「な、なに!?」

 それに気を取られているうちにあの人は消えていた。無数に落ちたそれを私は拾い上げた。

 「鳥の……羽……?」

 あれ。なんでだろう。知らないはずなのに、なぜか……初めて見た気がしない。

 

 

 ザザッザザッ

 

 

 あ、れ、今のだれ……三人……? だれか、いたような……砂嵐のようなフラッシュバックに襲われる。

 

 夜の街を駆け、空を飛ぶような三人組……三人とも、あの人のように鳥の嘴の仮面をつけていた。一体、だれなんだろう…………

 

 よくわからない葛藤を置き去りにするわけにもいかず、かといってそのままにしてもまた倒れるだけだと、私は部屋のベッドに身を投じることでそれを明日に回すことにした。

 

 ***

 

 

 

 何が正しくて、何が本当で、何が真実か

 

 不思議でならなかった

 

 それと同時に何か昨日までのことで

 

 重大なことを忘れている気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          →To be continue……

 

 



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第三章(非)日常編 謎呼び2部屋目


 どうも。こんにちは、こんばんは、おはようございます。2部屋目です。相変わらずハーメルンに投稿するのが遅いです← pixivのが圧倒的に早いのが現実()忘れないようにします。ごめんなさい。
 ところで三章なんですけど、筆の進み具合が一章二章と比べて全然違います。とても早いです。書きたかった章だからこうなるんですかね


 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 11日目

 

 

 ピンポンパンポーン!!

 

 

 『おはようであーる!! 今日もォ、あ張り切っていくであーる!!』

 

 

 目覚ましアナウンス。私思うんだ。モノヤギは元々特徴的な話し方してる。うん、わかるよそれは。けど前から気になってるんだ……

 

 

 その「あ」はなに「あ」って。溜めた感じのその「あ」。お前は歌舞伎役者か。コスプレイヤーギの次はカブキヤギか。

 センス!? 知らん!!

 

 

 ***

 

 ヨガ適当にやって食堂へ。朝だけれどダグラスはいない。昨日の夜に朝までカジノにいると言っていたからきっと今頃部屋で寝ているんだろうな。朝早くからいたのは巡間だ。

 「おはよう巡間くん」

 「おはよう」

 コーヒーを淹れてきて席につく。

 「ふぅ……」

 「君はコーヒー派か?」

 「いやどっちでもないよ。仕事で遅くまで起きてるときはコーヒー飲むけどね。カフェインは紅茶のほうが多いけど」

 「やはりコーヒーだよな。わかる」

 「朝夜に飲むのはコーヒー、昼間は紅茶みたいなところない?」

 「わかる。非常にわかる」

 お互い職業柄のせいかわかりあえるところが多いなこれ。

 「そういえば、巡間くんって医者だよね。どこが専門なのかっていうのはあるの?」

 「私の専門か? んー専門というかなんというか……医者に必要な知識はほとんど持っているから」

 「すごっ」

 「ほとんどの言語を翻訳できる君が言うか?」

 おっしゃる通りです。それ言われたら元もこもない。

 「強いて言うなら小児科側だな」

 「え、意外。なんか内科とかしてそうな感じあるけど」

 「まあそうだろう。しかし子どもで難病になる人はかなり多い。先天性もそうだが環境によっても変わる。世界にはそういう子たちがたくさんいるんだ」

 旅行してるからよくわかるけど、治安の良し悪しはかなり極端だなって感じる。そういう意味では日本って恵まれてる気もする。

 「テロや紛争の多い今、怪我人も病人も死者も非常にたくさんいる。学校に行きたくても行けない子は数えきれないほどだ。たくさん悩み考え、自分の意見をしっかり持つ。…………むしろ向こう側の方が頭がいいのではと思うよ」

 グサッて来ました。

 「確かに……勉強嫌だから学校行きたくないっていってる人は多いけど、実際学校に行けるのは恵まれたことだもんね……」

 「争わないのが一番だが……人にはその人なりの正義があり思想がある。歴史的な背景からもそれはよくわかる。誰もが宮原くんみたいな平和主義者とは言えない」

 「物事なんでも、思うようにいかないしね」

 全くだと巡間はコーヒーを飲み干した。

 「過去は過去、今は今」

 呟いては近くにあったコーヒーをカップに(ちょっと溢れそうになってたけれど)淹れてそのまま一気にまた飲み干した。

 「ふう…………熱い」

 「それはそうでしょ!!? 熱々をよく一気飲みできるね!!?」

 なんか、猫舌じゃなさそうなのは伝わった。

 

 *****

 

 ちょっぴりおかしな朝を過ごした。さて、今日はどうしようかな。やっぱりⅢ棟巡りかな。まだ全然わからないし。行っとくか。

 一階ホールの鍵が置いてあるところの番号また挑戦しようかな。

 

 

 【ヒント】

 ・あなたの数字も大事

 ・被せ加えて順序よく

 ・同じ数字は次の桁とまとめて

 ・並び方を複数挙げよ

 

 

 ……あれ。ヒントちょっと変わってる? なんか最後のところ昨日と違うような。並び方を複数挙げる? その並び方ってなんだ。けどここで時間潰しすぎるのもよくないし。そろそろ別の階に移動しよう。

 

 *

 

 で、やってきたのが二階の控え室。なんでここかって? いやぁそれはもちろん服を見に来たかったんですよなんだこのテンション。いやいやいや、このテンションなのもしっかり理由あるんだ。それにしても……

 「また男装しろなんて言われたら髪切られそうだなぁ……」

 

 ガチャっ

 

 「…………」

 「…………」

 「今の話聞いてた?」

 「聞こえるわけないじゃありませんか。何言ってるんですか?」

 デスヨネー。でも正直心臓に悪かったよ金室。彼女は私にツッコミ……というか毒? を言ったあとにすぐ和服のところへ行った。そういえば金室は茶道部だっけ。

 「ねえ金室さん。君って和服とかは着るの?」

 「当たり前ですよ。……とはいえ、普段はそこまで着ません。部活動では使います。ですけどなんか窮屈なんですよね」

 「そうなんだ。あまり和服着ないからなぁ。最後に着たのいつだったかも覚えてないや……」

 「あらそうなんです? なら今着てみては? うち着付けできますから」

 「え、ホント? あ、じゃあお願いするよ」

 急遽和服の試着をすることに。薄紫の花柄の和服。

 「えっとこれをこうして……」

 「そうですそうです。はいしっかり押さえてじっとしていてくださいね」

 「ひゃっ!? ちょ、ちょっと!! く、くすぐったいってば!! ふっ、脇腹弱いんだってぇ!!」

 「我慢してください。これ大事なんですからっ!!」

 「ぐえっ!? こ、今度は苦し」

 「あ、すみません。わざとではないですから」

 「わかった、わかったからちょっとだけ緩めて……」

 なんかくすぐったかったり苦しかったりした。意外と大変なのねこれ……でなんやかんやで

 「はい。こんな感じです」

 「おおおお。久しぶりだこの感じ!! ありがとう金室さん」

 「どういたしまして」

 なんか新鮮。…………たまには、着てもいいかな。

 「あとは髪の毛をどうにかすればいいんでしょうけど、今はやめておきますね」

 「わかった」

 「……和服は見ていても日本を思わせます。そうそう、その関連で少し。着物ってかなり昔からあるにはあるんですが縄文とか弥生の時代は実態不明らしいんですよ。弥生は『魏志倭人伝』によって推測されているだけなんです」

 「推測なの?」

 「ええ。なのではっきりしたのは古墳時代からかと。ちなみにその古墳時代当時の服装を知る貴重な資料があるんですけどなんだと思います?」

 さらりと問題振ってきたな。え、でもそんな資料あったっけ。

 「わからないや」

 「埴輪ですよ。埴輪」

 「はにーわ!?!?」

 「はい。豪族たちの墳墓から発掘されたものです」

 埴輪マジかよ。変な言い方になったわ。

 「まあいろいろ見ても、少なからず中国はとても関連深いですね。ちなみに明治以降、洋服が出回ったこともありそれと区別するために『和服』と呼ぶようになったそうです」

 「あ、だからさっき着物から切り出したんだ」

 着物って結構すごいんだな。

 「ちなみに今直樹さんが着ている和服だと茶道界隈では少し不適切です」

 「派手すぎないやつ?」

 「ですね。無地のほうが着るのには便利です。季節感のある花が入ったやつとかあればそれはそれで良いかも知れません」

 このあと、和服系についていろいろ話してた。結構面白い。

 

 

 ***

 

 和服の話聞いてたらなんということでしょう。お昼になっていたではありませんか。時間早い。昼食食べた。特になにもなし!! はい。で、外で日向ぼっこしたくなった。だから外に出て適当にごろーんと寝転んだ。

 日が温かい。このまま寝てしまおうか。そう思った。

 「なにしてるのよ?」

 「あ、湊川さん。ただの日向ぼっこだよ。寝る?」

 「寝はしないわ。けど少しくらい寝転がるのもいいわね。隣いいかしら?」

 「もちろん」

 湊川はそのまま私の隣に寝転んだ。

 「空はいいけど、海もみたいわ……」

 「そういえば湊川さんっていつもどこで仕事してるの?」

 「私はお父さんとお母さんが経営してるから、それの手伝いをしているわね。あと叔父さんも」

 「あ、家族経営なんだね」

 「そうよ。とはいっても、お父さん漁師なんだけどね。親と叔父さんが希望ヶ峰の卒業生なの」

 超高校級家族じゃん。

 「お母さん超高校級の経済学者だったのよ。それで貿易商を営んでいるの。肩書き持ってただけあってそれはもうずっと黒字だわ」

 「ってことはもしかしてお金持ち?」

 「そういうわけでもないわよ。確かにお金はあるけれど、基本的にそういうのは港に寄付してるのよ」

 「港に?」

 「船で商品が来るのよ。その船を直すのとか買うのとか大変で、私たちも大事にしてるからなら稼ぎに稼いだやつを寄付すればいいんじゃないかなってね」

 ああなるほど。

 「それに貿易商として懇意にしてるその港は赤字。お父さんは別の赤字のところで漁をしながらこっち手伝ってるから」

 「いろいろ事情があるんだね」

 「まあね。それでも私はこの仕事好きなのよね」

 私も翻訳は大変だけど好きだからなぁ。

 「ちなみに叔父さんも希望ヶ峰なんだよね?」

 「元超高校級の心理士よ。心理学もなんだかんだ重宝するのよね」

 「ああ確かに」

 「交渉するときとかも叔父さんと一緒にやってたわ。思えば叔父さんがいたから私の才能開花したのかもしれないわね」

 いろいろすごい家だ。

 

 ***

 

 湊川と話終えた。明るく振る舞っているように見えて、どこか寂しげな表情だったのは気のせいなのかな……言ったほうがよかったのかどうか

 で、日向ぼっこをやめにして、私はさっき控え室にしかいかなかったⅢ棟にもう一度寄ることにした。

 「ぶえっくしょんっ!!!!」

 「うえあ!? びっくりしたぁ!? 灰垣くん!?」

 入った瞬間響いたくしゃみに驚いた。

 「んお、直樹じゃないか。すまん、びっくりさせてしまったか」

 「いや、ノーモーションでいきなりくしゃみされたらさすがにびっくりするから」

 心臓止まるかと思ったわ。

 「でもなんでそんなくしゃみなんか」

 「寒いからじゃよ。ここⅢ棟はⅠ、Ⅱ棟と比べて寒い。冷房らしきものも見当たらんし何が理由でそうなのかさっぱりわからん」

 言われてみれば確かに、ここは随分冷えている。どこの部屋にも冷房とかはなかった。カジノに小さな換気扇がある程度だったはず。けれど換気扇でもここまで冷えるようなことはない。

 「寒いの苦手なの?」

 「苦手も苦手じゃよ。季節も冬は嫌いなんじゃい。なんでマイナス5度で平気な顔して『あ、今日暖かい!!』なんて言えるんじゃ!? わしにはわからん!!」

 「それ、『30度でまだ涼しい!!』って言ってる意味がわからないって言ってるのと同じだからね?」

 「暑さには慣れとるんじゃがな。動くし」

 「一応バレー部だもんね」

 「一応ってなんじゃ一応って」

 だってバレー部なはずが僧侶みたいな発言ばっかりで才能迷子してるんだもん。

 「運動っていうのは自分のストレスを発散させるのにも健康維持するのにもいいんじゃ。だからといってむやみやたらと行うものでもない。自分のできる範囲の力で適度に動くことは大切なんじゃ」

 「ヨガとかもそうだよね」

 「ヨガ!? そっち!? いや体にはいいと思うぞ!? いやしかし直樹がその趣味があるとは意外じゃ……」

 うん、まあ、今まで誰にも言ってなかったから。蛇足程度だけど、私は毎朝ヨガやってます。

 「趣味というかマイブーム? 最近はまってて」

 「……続けたらいいことあるぞ絶対」

 半分呆れた様子で言われているんですけど。

 

 *****

 

 なんやかんや。そろそろ夕食。食堂で適当に食事をしている。

 「そういえばなんですけど」

 金室が口を開いた。

 「皆さん、うちの電子生徒手帳知りませんか?」

 「金室(イッパツ)何なくしたの?」

 「なくした……まあそうなりますね……ですが今朝ポケットに入れたっきりどこかに出した覚えもないんですよ」

 電子生徒手帳が行方不明、か……私も前にやらかしてるからなぁ。

 「寝転がったとかは?」

 「いいえ。していません。座りはしましたけれど。少なくともお昼の時点では所持してました」

 「いつからないって気づいたんじゃ?」

 「ついさっきですよ。ここに来るちょっと前のことです。なにか……軽さを感じたのでまさかと思ってみたら」

 嘘だろ。

 「これでは時間とか校則とかの確認もできませんよ」

 「ならわたくしが今の時刻を………………おや?」

 「どうしたの?」

 「…………なぜでしょうか。ここに来たときにはしっかり所持していたはず……」

 近衛も手帳がない様子。

 「まさか……っ!!? ない!! 私のもないわ!!?」

 「なに!?」

 湊川もないといい、さすがにこれはおかしいとみんなで自分の生徒手帳を確認する。しかし誰も持っていなかった。否、私も同じだ

 「なんでんなことになんだよ……」

 一斉に何かをなくすのは異常過ぎると橘は苛立つ。

 「異常も異常。僕らは普通に過ごしていただけ。そうだろ?」

 確かに特に変わったことはしてない。普通にみんなと会話したりして探索とかしてただけ。特に変わったことはしていないはずなんだ。

 「……電子生徒手帳は一体どこにあるんだろう」

 「あれその前に一人足りな……」

 

 

 

 

 ブツン…………

 

 

 

 

 「んな!?」

 「電気が!!」

 「!?!?」

 「ちょっと!?」

 「停電か!?」

 突如、私たちを暗闇の中へと放り出された。混乱して周りがわからなくなってしまう。ガタガタという物音、バサリと服の靡く音、足音。不安を煽る。

 しばらくしてパッと明かりが戻った。特に変わった様子はなかった。なんだ今の。

 「電気の使いすぎか?」

 「いえ、すでに必要のない電気は落としておりました」

 停電の理由がわからない。

 

 

 フワッ……

 

 

 「……? なによ、これ?」

 何かが天井からふわりと落ちてきた。大量に。これって……

 「鳥の羽……かい?」

 「っ!! 見覚えがある。昨日これを見たよ!?」

 「直樹くんどういうことだ!?」

 「昨日、噴水のところで……ペストマスクの人がばらまいていったやつ……」 

 「!! 今朝見た!! これと同じ、ピンクっぽいような白っぽいような感じのやつさ」

 「私も見たよ……」

 「目障りだから全部回収したっつの……なんでまたんな目に遭わなきゃなんねぇんだよ」

 ダグラスと渡良部と橘は見た様子。橘が回収したからか他の人は見ていなかったらしい。

 「ってこいつ、俺が回収したやつと同じじゃねぇか!? おいっ!!?」

 「よくわかるねそこ!?」

 「大事にする必要ねぇだろ。だから普段使わねぇⅡ棟の自分の個室に入れたんだよ。Ⅱ棟の個室はその人の電子生徒手帳がない限りそこには入れねぇから」

 何気に入ったの一回だけだから詳しくなかったわ。そんな感じだったのか。

 『それを可能に出来たんだ』

 「可能に出来たって……一体どうやって……」

 !!!!?!?!?

 「ど、どこから声が!!?」

 「誰もおらんぞ!!」

 不意に私たちの会話へと混ざる声。どこか聞き覚えがあるはずなのに、声色が違うせいかわからない。

 「おい!! 隠れてないで出てこい!!」

 国門の声でみんなは静かになり、しばらく食堂に静寂が訪れる。

 「……聞き間違いとかはないよね」

 「まさか」

 

 

 『全く近くにいるというのに気付かないとは随分盲目なもんだな?』

 

 

 「は?」

 全員が一斉にその声のした方へと向いた。そしてあのマントにペストマスクの人が私たちの前に現れた。

 「だっ誰っこいつ!?」

 『フックックック……』

 不気味に笑うそいつの口元はやっぱり嘴部分でうまく見えない。帽子を左手で深々と被る。ちらりと羽が見えた気がした。

 「やつが誰かなんてわかりきってるだろうが」

 橘がそいつの方へと歩を進める。

 「今ここにいねぇ、誰にも明かそうとしない『それ』、信じたのは己の勘。何もわからねぇやつが遂に自分から姿を現すたぁな?」

 今ここにいない人……っまさか!!

 「そうだろが、『盗賊』野郎っ!!!!」

 『……フフフっ』

 盗賊野郎というセリフにみんながお互いを確認する。盗賊なんて人はいない。ただし、一人だけその可能性がある人物。

 『ご名答』

 帽子とマスクを外してそれらを床に落とした。そしてその顔をしっかりと認識した。それが

 

 

 「玉、柏……くん……?」

 「そう。俺がこのペストマスクの正体だ」

 玉柏……

 「待て。君は橘くんの言う盗賊なのか? ということは才能は……」

 「落ち着け。ちゃんと説明してやる」

 なんだこの大人な余裕に振り回されている気分は。玉柏は落とした帽子を拾って丁寧に挨拶をした。

 「改めて、俺は『超高校級の盗賊』玉柏朱鷺だ」

 

 

 “超高校級の盗賊” 玉柏 朱鷺(たまがし とき)

 

 

 「盗賊じゃと?」

 「ああ。俺は今までたくさんの物を盗んできた。その証拠にお前ら、ポケットの中確認してみろよ。なくしたはずのものがあるはずだ」

 そういわれてみんなで一斉に確認し始める。するとポケットにはなくなったはずの電子生徒手帳がしっかりと入っていた。

 「電子生徒手帳!!? さっきまでなかったのに」

 「お前らが停電最中に慌ててたろ。そのときに返させてもらった」

 「ちょ、ちょっと待って!!? 校則には電子生徒手帳の貸し借りは禁止って……」

 「あくまでも『貸し借り』。俺はお前らから借りたんじゃなく『盗んだ』、『奪った』となる。それにお前らは貸してない。貸し借りじゃない。俺は盗んだものを使って橘のⅡ棟の部屋に侵入し羽を取り戻しここにいる。それだけだ」

 校則を逆手にとったうまい作戦だ。確かにそれなら校則に引っ掛かることはない。ただひとり黙ってはいなさそうな人がいるけれど

 「窃盗の現行犯で逮捕されるだろ。僕が弁護士のほうでよかったな」

 「警察にあれこれ言われるよりもマシだな、と言いたいがお前もお前で口うるさいからどっこいどっこいだな」

 あれ。そういえば……

 「玉柏くん、その左の包帯は……」

 「あ? ああやっと外せたんだよ。今まで外せなくてもどかしくてな」

 「でもその……」

 玉柏の左手には黒い羽の模様があった。タトゥー

 「タトゥーシールのことな。取り外し可能だし不便してない。てかタトゥーするほどの金ないな」

 「タトゥーシールかよ!!」

 二十歳とはいえ高校生。本当にタトゥー入れてたらビビるわ。シールだったけれども。

 「けど、なんで盗賊になんか」

 「っ…………」

 その質問された瞬間玉柏はそっぽを向いて黙った。それと同時にとても傷付いた表情をした。触れてはいけない内容なのか……

 「俺は……そう生きるほかなかった。三人で………………………………それだけだ。………………それだけ……」

 「…………」

 このとき、誰ひとりとして触れなかった。聞かずともわかった。彼には仲間がいると。私はその二人を本人から少しだけ、聞いたことあるし。

 「詳しくはなかったが、ちょっと気になるなら医務室に行くといい。断片だけはある。それじゃ」

 彼は足早にその場から去ろうとした。

 

 

 

 ガタッ……

 

 「グッ……!?」

 突然玉柏は倒れた。いや膝まずいたのほうが正しい。

 「玉柏くんっ!!?」

 

 どさっ……

 

 「あ、ああ、あああ゛?」

 「なに、なにが……えっ?」

 

 どさどさどさッッ

 

 「えっ、どうなっ……て?」

 

 あれっなにこれ……?

 

 背中がゾクゾクする

 

 ぞわぞわする

 

 足が震える

 

 立ってられない

 

 がたっ……

 

 おかしい

 

 寒い

 

 寒い

 

 怖い

 

 まるで殺気

 

 ひどく凍るような殺気

 

 知らない

 

 こんなの知らない

 

 しら、ない……?

 

 あれ

 

 おかしい

 

 おかしい

 

 いやだ

 

 怖い

 

 こわい

 

 こわい

 

 

 

 

 ズキンッ……

 

 

 

 ______

 

 

 突如襲う殺気と悪寒。いつの間にかほぼ全員がその場で腰を抜かしたり倒れたりしていた。

 「な、何よ……これっ……」

 「体が……動かない……」

 「魔法でも、あるまいてっ……なんの、これ、しきぃ……!!」

 灰垣は無理やり自身の体をテーブルや椅子を使って起こした。汗はだらだらで、息も荒い。

 「ここで膝まずいてられるかっ!!」

 「そうだね……!!」

 続いて国門と矢崎、さらに無言ではあるが橘も立ち上がった。

 しばらくすると、殺気も悪寒も消えた。ただ冷えた背筋は妙に残り逆に不気味にすら思えた。

 「さっきよりも、動けるわ……何だったのよ、一体……」

 「わかりません……」

 「…………誰かの気配がしたわけでもない。それなのにおかしいだろ……」

 謎で仕方がない。恐ろしく、夜であることがさらにそう思わせた。

 

 だがまだ終わらないことを知らない。

 

 ……叫び声が聞こえるまでは

 

 

 

 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 直樹の叫び声が聞こえると同時に、彼女は暴れだした。頭を抱えふらふらになりながら叫び散らしながら。

 

 

 _____

 

 痛い

 

 痛い

 

 こわい

 

 こわい

 

 助けて

 

 ……は触らないで……!!

 

 忌々しい手で……やめてっ!!

 

 _____

 

 

 

 「直樹さんっ!!」

 「直樹っ!!」

 みんなが直樹に近づこうとする。だが

 「触るなぁっっ!!!!」

 直樹はそれを拒む。普段のあいつならそんなことはしない。けど今の殺気で狂ったか……っ。

 「やめてっ……やめてっ……っ!!」

 くそっ、面倒なことになりやがって。だが渡良部とかダグラスとか、そいつら全員に任せられるようなことじゃない。

 「落ち着け直樹っ!!」

 「いやっ!!!!」

 「っ!!」

 伸ばした手をバシンと振り払われた。結構痛いなこいつは。

 「やだっ、やだやだやだっ……思い出したくないっ!! いやっ!!!!」

 …………あの手紙の中身本当だったのかよっ!! くそっ、ダメだどうすればいい。こいつを止められなきゃ直樹を含めて全員が危険だ。

 「直樹殿っ!!」

 かといって下手に女に攻撃して傷を付けるだなんてこともしたくない。(俺が__に怒られるのもあるが。)直樹を止められる術はあるのか!? あいつの○には触れない。触ったらさらにこいつは混乱する。彼氏がどんなことして直樹を落ち着かせてきたかなんて知らない。知ってたとしてもそれを俺を思い出せない。誰よりも記憶がないからなおさら。なにかないのかっ……!!

 「あいつの顔をふさげぇえええ!!!!」

 「!?」

 顔をふさげだ!? なにいってるんだよ橘は!!

 「っ玉柏くん!! いいから早くしてっ!! 直樹さんを止めて!!」

 言われてもどうやって塞ぐんだよバカたれ!! 手で覆うのはまず不可能だし、……って残る選択肢が…………ああ、できる。できるじゃないか。

 「こわいっこわいこわいこわいっ!! いや、いやだっ!!」

 俺は未だに囚われた直樹の前へ行く。

 「直樹っ!!」

 「っっ!!!!」

 怯えた表情でまた俺の伸ばした手を振り払おうとする。けどな直樹。二度も同じそれにはまらない。振り払おうとした手を掴み

 「いやだっ、はな、せ!!」

 「いい加減落ち着けっ!!!!!!」

 俺はマントを素早く引き抜いて直樹を包むように、且つ、こいつの背中にマントがかからないようにする。

 「っっ!!!!」

 こいつが態勢を崩したところを引き寄せるように、俺に全体重がかかるように、俺は後ろに倒れた。

 「はなせっ……はなっせぇええ!!!!」

 「抵抗すんな!! 誰もお前を一人にしない。させてたまるか!! お前が生きてなきゃ俺たちの約束はどうなる!!? 互いに愛すべき人間いんだろが!! 会わなきゃいけない人いんだろが!! 生きてここからみんなで出るんだろ!? それまで守ってやる言ったはずだろっ!!!! 忘れるんじゃない!!」

 「あっ…………ああっ……!!」

 「そうだろ? 相棒(・・)…………」

 全て、事実。俺はそのまま背中を優しく叩く。ぽんぽんと。

 「信頼しろ。背中は、まかせろ」

 「…………」

 抵抗する力が徐々に失せる。小動物のように直樹はうずくまった。肩の力が抜けるのがよくわかった。

 「ふう……落ち着いたか?」

 「……はい……ごめん」

 「俺だけに謝んな。みんなにも言いな」

 ゆるゆると立ち上がりみんなのほうを向いて頭を下げた。

 「みんな……ごめん。また迷惑かけて」

 「あたいは君が大丈夫な様子で良かったから」

 「わしもお前さんにら前も何もしてやれんかったからの。お互い様じゃよ」

 みんなが直樹を許していく。俺は脱力したままその場に倒れた。はあ疲れた。

 

 あのやり方で良かったのか? 正直こいつの彼氏すごいなとしか思えない。よくこの状態を止められるな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで直樹(トン)玉柏(ツモ)にすごーーーーーーーーく聞きたいことあるんだけど……」

 「え、なに?」

 「なんだよ」

 渡良部がすごい顔でこちらに向かってきた。

 「なにじゃないでしょ!!? 何よあんたたち!! ホントにどういう関係なの!!? すごい見せ付けられてる感半端なかったんだけど!?」

 「それはもちろん」

 「相棒だけど」

 「相棒の距離感独特過ぎない!?!?」

 いやそれはどこの相棒も独特な距離感じゃないか? というか起き上がろっと。

 「抱き締めるとかなんなの!? ていうか玉柏(ツモ)玉柏(ツモ)で彼女いたの!? え!? なに!? 二人して浮気とかそんな感じじゃないよね!?!?」

 「いやこいつはただの相棒だ」

 「お互い約束があるからそれを果たすまでは背中預けてるんだよね」

 「とても信頼してるな」

 そりゃ、こいつはとても信頼できるからな。

 「でも本当はどう思ってるの? 相手のこと」

 「好きみたいな感情とかないのか?」

 「「いや好きとかなったことないし、こいつとは付き合えないよ/な」」

 「君たちさらりと互いをディスったな?」

 「え、だってね?」

 「な?」

 「何その当たり前みたいな顔」

 当たり前に決まってるだろ。

 「わたくしどもは直樹殿にお相手がすでにいらっしゃることに驚いております」

 「え、玉柏くん伝えてなかったの?」

 「あとから気づいたんだけどな? 左手に包帯してて今日まで外せなかったから、伝えようにも伝えられなかったんだよ」

 「これ夫婦漫才かよ!!」

 「違うって!!」

 ……ふふっ。全くどいつもこいつも、飽きない連中ばかりだな。

 「あ、ところで玉柏くん?」

 「なん、だっ!?」

 「昨日一服してくるってどういう意味だったのかなぁ~???」

 「ぐお!? し、絞まる絞まる!!」

 笑顔で胸ぐら掴むのやめてくれマジで絞まってる!!

 「早く言いなさい」

 「さ、裁判終わりのっ、噴水に乗ってる時、だ!!」

 「禁煙しなさいって言ってんでしょうが!!」

 「ぐおはっ!?!?」

 ちょ、待て、こいつの膝蹴り尋常じゃないくらい痛い。腹にもろに食らった。

 「やっぱ夫婦漫才じゃん」

 「だから違うって」

 なんでもかんでも夫婦漫才にしないでくれ……

 「……俺はもう戻る。頭がいてぇんだよこっちは」

 ああ、すっかり騒いでしまった。今が夜であることも忘れていた。橘が出ていったのを皮切りに、みんなも出ていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 「玉柏くん」

 「なんだ?」

 「……ありがとう」

 「はっ、なにかと思えば」

 「違う。そうじゃなくて……」

 「?」

 「触らないでくれて、ありがとう」

 「…………お前は繊細みたいだしな」

 「私は壊れ物か」

 「俺は少なくともそう思ってる」

 「おい」

 「けど、さらに混乱させるわけにはいかなかった。だからああした。ああするしかなかったんだ。多少強引ではあったけどな」

 「んーん。いいよ、あれで。本当なら胸に顔を埋めればいいんだけど。さすがに記憶取り戻した今じゃ二度もできない」

 「だろうな。俺も相手に怒られる」

 「……もう寝ようか」

 「ああ。だな。おやすみ」

 「おやすみなさい」

 

 ***

 

 

 あの忌まわしい記憶は

 

 

 二度と思い出したくない

 

 

 だから私は

 

 

 まだ、奥に仕舞い込む

 

 

 自分を抑えられる気がしないから

 

 

 ***

 

 ______

 

 

 

 カランっ…………

 

 

 運命は『50』か

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         →To be continue……

 

 

 



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第三章(非)日常編 机上の3部屋目


 どうも。炎天水海です。今回の動機は少々変わってるので、動機と呼べるかはかなり怪しいところです()
 ですがこういうのもありかなぁと。お楽しみください。


 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 12日目

 

 

 アナウンスが鳴るのと同時に目覚める。昨日のあの感覚はもう消えていた。そんな些細なことにでさえ、何か恐ろしいものを感じる。昨日はみんなにも迷惑をかけてしまったのもあるし。シャワー浴びようそうしよう。

 

 

 お湯の温かさが妙に感じられた。寒かったのに、怖かったのに。不思議で不気味な感覚がまた身体を襲った。考えるだけでもまた昨日みたいになりそうで嫌になる。早々にシャワーから出て、着替えて素早く食堂に向かった。

 

 

 ***

 

 食堂に行くと、何故か誕生日席に堂々とモノヤギが座っている。湊川が不思議そうに見てる。コスプレしてないからちょっと新鮮な感じもするんだけど、どうしてだ。

 待っていると、玉柏が私の隣に座ってきた。…………そういえば昨日からずっと気になってたことがある。

 「玉柏くん。今さらだけど服装どうしたの?」

 グラスグリーン? なんというか緑と深緑の中間的な感じのに黄色が少し混じったような……ん? いいや。まあそんな感じのシャツに茶色のカーディガンだ。

 「これか? ああいや、控え室でこれいいかなと思って着てみたら……」

 「着てみたら?」

 「自室の服全部これになってた」

 「一体何がどうなってそうなったの!? モノヤギ必殺仕事人!?」

 「いやァ結構似合ってたからァ、衣替えしてもいいであーるかなァとォ」

 「理由!!!?」

 「まあいいんだけどな。ずっとあの服だとスースーして嫌だったし」

 意外とそこ気にするのね。

 「一応マントもすぐ取り出せるところにしまってる」

 「四次元ポケットか!!」

 しばらくして全員揃って食事……なんだけど、モノヤギがいるせいですごく落ち着かない。

 「さっきからなんでここにモノヤギがいるんだよ」

 「食事終えてからの説明であーる。というかァ、わざわざ集会室に行くのも面倒であろう?」

 本末転倒なこと言うなし。

 「あ、いややっぱり集会室じゃないとダメであったァ。よし、食事終わったら集会室へ来るであーる!!」

 「いやどっちだよ!!?」

 せめて場所くらいはっきりしてよボケ過多でストレス溜まるわ倒れるわ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 で結局集会室に集まった。けど今回はどうにもモノヤギのテンションからして何か前の動機とは少し違う感じがした。

 「今回呼んだのは他でもないィ。動機の配布であーる!!」

 「……あまりにも早くないか。トントン拍子でさっさとコロシアイをさせたいという風に見てとれるが」

 「そうであーるよォ? ま、そんなことよりもなんであーるがァ、今回の動機は動機とは言いにくいとも言える動機なのであーるよォ!!」

 「動機とは言いにくい動機?」

 自分で言うなよ。どんな動機なの。

 「まずオマエラに今ァ、ある催眠みたいなものを掛けたであーる」

 「催眠!?」

 「どうやってかけたよ」

 あとそこからすでに動機とは。

 「まあまああくまでもォ『みたい』なのでェ落ち着くであーる」

 さっき(?)からキャラどうしたよ。

 「この催眠はァ、オマエラの行動を制限する役目があーる」

 「行動の制限だと……?」

 「ヒッヒッヒィ…………」

 突如集会室の明かりが消える。同時にいつの間にか降りていたスクリーンにある文字が浮かび上がった。それは

 「う、運命ダイス?」

 「ヒィッヒッヒィ。オマエラにはァ1日1~3回ィ、ランダムで『運命ダイス』が振られるのであーる」

 運命ダイス?

 「その運命ダイスは一体何なんだ?」

 「これはァそのときのオマエラの『運』を表すダイスゥ。簡単な例はァヤギが歩いていたら紙が落ちてたァとかァ、ヤギが歩いていたら転んで擦りむいたァとかであーるなァ」

 極端だけど分かりやすいなその例。ん? レイヤーギだけになのか? やかましいわ。

 「このダイスは百面ッ!! 0から99までであーる」

 「1から100じゃなくて?」

 「ここでは0からカウントであーるよォ」

 なぜ。

 「!! おい、まさかだがこの運命ダイスは私たちの生死に関わるのか!!?」

 巡間の言う通りだ。この運命ダイス、今の話を聞くと

 「それはオマエラの運次第であーる。一概にないとは言い切れないィ……まァ、日常的なことがその運命ダイスに左右されることもあるゥ。………………がしかァァァァしィィ!!!!」

 コツンッ!!!! と蹄の音が響いてただでさえ暗い中であの不気味な目がギラリとしてるのにそれがさらに光った。

 

 

 「とある番号だけはァ『絶対に死ぬ』番号であーる」

 

 

 とある番号だけ。意味深だ。

 「もちろんン、その番号は教えないであーる。ちなみにィこの運命ダイスが振られたときィオマエラの電子生徒手帳に番号が映される仕様であーる」

 どんな仕様だ。けど確認できるってことはその法則を探るにも便利だっていうことか。

 「これを解くにはァ、コロシアイが起きる且つ死体発見アナウンスが鳴るのが条件なのであーる」

 「……なるほど。運命ダイスは自分の運で左右される。つまり自分の運を信じられないやつ、また運命を終わらせたいやつはコロシアイを起こせばダイスは止まるわけか」

 「解釈はまかせるであーる。まァこれによっては新たな情報が手に入るかもしれないであーるからなァ!!」

 情報を得られる回数、これは限られてるな。

 「どう利用するかはオマエラ次第ィ。今回はこれ以上動機を出すつもりはないであーるからなァ。ではではァ!!」

 ボフンッ!! という軽い爆破音とともにモノヤギは消えた。忍者かよ。

 「動機……なのかこれは」

 「まるで、操り人形のように蹄の上で転がされている気分です」

 ヤギに手ないから蹄か。

 「運命…………」

 ぽつりと、力のない声が誰かから漏れた。

 「…………先に戻るな。お前らも、適当に戻っておけな」

 玉柏はそういって集会室から出ていった。その背中は今までの彼とは打って変わって弱々しかった。

 ……………………私は……

 

 *****

 

 足早に去っていった玉柏の後を気付かれないように追う。Ⅲ棟に入り階段を上り、そのうちにカジノについた。彼が入っていったのと同時に私もその中へと入った。そういえばここの扉は随分重い。まるで拒んでいるかのように。彼はカウンターからカクテルを取って……なんか、カクテル作り出した? レモンの皮をすいすいと切ってグラスに入れて氷もいれて……お酒? と……何かをいれて完成らしい。席につこうとして私の存在に気づいた。

 「来てたのか」

 「まあ、ね」

 「全く……気付かれないように出てったつもりだったんだけどな。お前には特に……来いよ」

 私に気付かれたくなかったんかい。玉柏の隣の席に座れば彼は葡萄ジュースを出してきた。

 「未成年にはこれがお似合いだ」

 「ワインじゃねーよ!!」

 大人の余裕め。玉柏も席についた。一口カクテルを飲めばはぁっと余韻に浸るように目を閉じた。

 「運命って言葉は、嫌いだ」

 玉柏はそう切り出した。

 「?」

 「ホーセズネックってのは運命を表すカクテル。俺たちがコロシアイをするのは運命、絶望するのは運命、仲間と離ればなれになったのも運命…………何もかも運命で片付けられて嫌気がさすんだよ」

 至極真面目に、けれどどこか寂しそうに。

 「思い出したことがある。聞くか?」

 私は何も言わずにジュースを煽ってチラリと玉柏のほうをみた。彼もまた酒を煽り、タバコに火を付け話を続けた。

 「昔の話だ。物心つく前から、俺は母さんと二人だった。貧しくてな……スラムみたいなところで育ったんだよ。金が無ければ生活はできない。俺は生きるために盗みを働いた。最初こそこっそりとだった。だけど次第にやり方はエスカレートしていった。それと比例するように俺は追われた。毎日、毎日だ」

 ふいにグラスを握る力が強くなった気がした。

 「…………ある日、母さんは殺された。盗み先の人、借金取りの連中に、瓶で拳で思い切り殴られていた……鮮明に覚えてやがる。母さんは最期にこういったよ」

 

 

 『逃げて、あんただけでもどうか生きて』

 

 

 煙を吐き出せば、苦い過去がその場を覆った。

 「俺は何もできなかったっ。俺のせいで母さんは殺されたんだ。死んだんだっ。逃げるしか、なかったっ。金も何もない。俺はそこから離れて、地域を転々としながら盗みを働いた。……この時にはすでに才能を開花してたんだろうな。…………ある時、俺は年下の二人に出会った。そいつらも盗賊でな。俺はあの二人に着いていくことにした。そして三人が仲間であるという印に羽のタトゥーシールをつけることになった。お互い、金はなかったしな。学校は援助を受けながらの通いだったよ」

 だから玉柏はあのとき……

 「なあ一つ聞いていいか?」

 「なに?」

 「…………俺から言った。信頼しろとな。お前、疑いはしないのか? 本当に信頼できるのか? まともに生きたことがないこの俺に。ましてや盗賊なんて犯罪者の端くれ才能の俺を」

 確かに。相棒とか言い出したのも玉柏だし信頼しろと言ったのも彼からだ。才能が盗賊っていうのは正直驚いた。けれど、言われたら納得いかなくもない。私は大きくため息をついた。そして大きく息を吸って

 「ばーーーーーーーーーーーーか!!!!!!!!!!!!!!!!」

 「!?!?!?」

 ばかって言ってやった。玉柏はきょとんとしていた。

 「玉柏くんのばか。ばかばかばか!! この大ばか者!! 私はね!! あんたが『相棒』なんて言ってくれなかったら、今頃自暴自棄で誰か殺してるから!!!! あんたが止めてくれなかったら、私はあのとき、あの場で誰かを殺してるから!!!!」

 本心だった。誰かが支えてくれなきゃ鷹山さんの死を、江上さんの死を受け入れられる気がしなかった。

 「お前っ」

 「あんたが盗賊だろうと犯罪者だろうとなんだろうと関係ない!! 信頼してくれてるんだもの、それに答えなくてどうするの!? だからっ私はあんたを信じてる!! 理由なんてそれで充分だから!!」

 玉柏は目を見開いた。

 「あんたが自分を信じられないっていうなら、自分の言霊が信じられないっていうなら!! 私はあんたに手を伸ばすから。それが、相棒の務めでしょ?」

 唖然とした様子で私を見つめている。私はというと勢いのままに放ったから息切れした。その勢いのままジュースを飲み干した。玉柏ははにかむように笑ってタバコを吸うとゆっくりと煙を吐き出した。この時のタバコの臭いはとても心地よかった。

 「ははっ、確かに『ばか』だな。悪いな。変なこと聞いて」

 「君がどんな人であろうと玉柏くんは玉柏くんだから。ここを出るまでの約束はそっちもしっかり守ってくれなきゃ困るし」

 「だな。もう一杯いるか?」

 うんと返事をしてコップを差し出せば、ジュースが注がれた。

 「どうでもいいこと思ったんだけど」

 「なんだ?」

 「今の私たちの背中、絶対仕事終わりのサラリーマンとOLじゃない?」

 「……昼に近い朝だけどな」

 「話す内容が朝からするやつではないよね」

 「どっちかっていうと夜にするような愚痴だな」

 この一瞬で二人してブラックなところに務めてる仕事終わりの人になった。でも、こういう風に話しているほうが気持ちがずっと楽になった。

 

 ***

 

 「ところで玉柏くんに聞きたいことがあるんだけど」

 「なんだ?」

 「随分前から予想はついてるみたいなこと言ってたよね。あれってどういうこと?」

 「あああれか。結論から言うとほぼあってたな。まず怪しいと感じたのは左手の包帯だな。この時点で普通の才能じゃないっていうのは感じた。で、包帯ってことだから怪我でもしてるのかとも思ったが特に痛みを感じなかったし、メカメカしくもなかったから義手でもないってわかった。んで、年齢は忘れていなかったみたいでな。ポケットの中にタバコ入ってたし喫煙できるっていうのもすぐに把握できた。けど仮にも高校生がそんなすんなりタバコが出るはずないだろうと。ってことは何かしら危険を伴いながら生きていた可能性があるっていうのも出てきた」

 包帯からどれだけの連想ゲームしてんだ。けど勘とかいいつつもしっかりと考えていたんだ。

 「殺人系だとしたら右利きが左手に包帯を付けているのは何かおかしいし、じゃあ取引とか盗むとかそっちかなと」

 「そして結論で盗むほうだと思ったのね」

 「泥棒だと思ってたけどな。だからほぼって言ったんだ」

 そこはプライドが許さないのか。

 「そんなところだな。……ふぅ、さて酒飲むのもこの辺にしとくか」

 酒を飲み干しタバコの火を消し玉柏は立ち上がった。私も急いでジュースを飲みきってその後ろをついていった。

 「知ってるか? バーとかの扉っていうのは意図的に重いってことを」

 「え、そうなの?」

 「昔はハイドアウトなんて呼ばれていたんだよ。お前ならこの意味はわかるだろ?」

 「ギャングの隠れ家、ね」

 「重さがあるからこそ中にいるときは外を忘れられるっていうわけなんだとッッ!?!?」

 最後のほう説明しているときに玉柏は片足を扉の下の隙間にぶつけて悶絶した。

 「いったい……」

 「大丈夫、じゃないか?」

 「一応大丈夫、だ」

 「扉の隙間って開閉しやすくさせるためだけじゃないんだっけ」

 「空気の循環のため、もあるな。まあ主は前者だが。ここ5cmほど開いてんだな……いてて、結構いいところ入った……」

 まだ悶える彼に呆れると同時にどこか安心できた。おかしくて。右手を差し出した。

 「はぁ。ほら手貸すよ」

 「……ははっ、悪いな」

 自嘲気味に笑って私の右手首を掴んでよっと立ち上がった。片足は少しだけ上げていた。

 「しばらくすればなんとかなる。もう昼近いし、食堂いくか」

 「了解」

 ……あれ? 私何気にこういう風に誰かと一緒に行動すること少な過ぎない……?

 

 ****

 

 食堂へ向かう途中のコンサートホール。入ると、近衛とダグラスと渡良部が何かを話し合っていた。

 「単にあれするのもつまらないし」

 「楽しめるには楽しめるけど、限られるよね」

 「何か良いアイデアはありませんかね……」

 なんとなくだけど、何か企画しているのかな。

 「何してるの?」

 「直樹殿と玉柏殿ではありませんか。実は」

 経緯を説明された。どうやら親睦を深められる何か企画をしたいらしく、それをなるべくⅢ棟内でやりたいそう。

 「Ⅲ棟内でできる何か、か……」

 「お前ららしくゲーム大会でも開けば良くないか?」

 「そんな単純なことじゃないのさ。それでもいいとは考えたけれど、Gameが嫌いな人苦手な人は普通にいるからさ」

 おい玉柏そっぽを向くな。

 「近衛(リーチ)は色々知ってそうだけど。執事だし何度も誰かに仕えていたんでしょ?」

 「実はわたくし、仕えた方はお一人だけでございまして」

 「一人だけなの!?」

 一人だけって近衛の言ってたあのお嬢様だけってことだよね? 嘘でしょもっと仕えたことあるのかと思ってた。

 「はい。ゲームはやってはおりましたけれど……」

 「やっていたけど?」

 「仕事をやりながらの古今東西ぐらいしか」

 まさかの古今東西

 「世界各国のフルネーム、全国の市町村、家具、動物、等々でございましょうか……頭を使いますし、もしも知らないものが出た場合勉強にもなりますので」

 その発想はなかった。

 「けど延々と言うだけ繰り返すのってさすがに……」

 「親睦深めるためのものなんだよな? それなら……」

 玉柏がアイデアを述べていく。なるほど。これはいけるかもしれない。三人も感嘆としている。

 「Good idea!! 名案じゃないか!!」

 「その手がございましたか……」

 「主催はどうせお前らなんだから、あとで話し合ってみたらどうだ?」

 「あ、玉柏(ツモ)が責任放棄した」

 とかなんとかいいつつも、主催はゲームトリオがすることになった。

 「そういえば、今昼だけど近衛くん昼食は?」

 「そのことでございましたら、金室殿と矢崎殿が行っております。たまには自分たちでと申しておりましたので」

 ずっと料理してるの近衛だからか。まかせきりは良くないと思ったのかな。

 「でもそろそろ戻ったほうがいいかも。戻ろ」

 五人で移動することになった。私は一番前にいたんだけど、ちょっと振り向いたときにどこか近衛が複雑そうな顔をしていたのが見えた。

 

 

 *****

 

 食堂に行ったら本当に金室と矢崎が準備をしてくれていた。

 「お二人ともありがとうございます」

 「いいよいいよ。料理はできるし、たまーにやらないと腕が落ちるからね」

 笑顔で答えながら料理が並べる。近衛と負けず劣らずな感じだ。

 「いただきます」

 手を合わせて二人の作った料理を食べる。素朴で優しい味が口の中で広がる。

 「おいしいわね!!」

 「優しい味じゃな。別院で食べるのと同じ味がする」

 「ありがとうございます。ご飯とお汁はうちが、他は矢崎さんがやってくれました」

 それぞれ役割分担したのか。その方が効率もいいし、楽だもんなぁ。

 「ふむ……」

 「近衛くん?」

 近衛は食べてる最中ずっと難しい顔をしていた。

 「おや、口に合わなかったかい?」

 「いえまさか、そんなことはございません。しかしながらこちらのごまドレッシング。一風変わった味だと存じました。おそらく隠し味があるのかと」

 「さすがだね。そうだよ。あたいの作ったドレッシングには隠し味があるんだ」

 どうやらドレッシングに隠し味があるらしい。私ももう一回確かめてみたけど、うん、よくわからない。

 「とてもまろやかな味で、ほんの僅かではございますが生姜も混じったような……ただそのまま入れたのではなく、加工されたあとのもののような」

 マジかよもう一回食べても全く気づけないんだけど。けどそのかわりにどこか感じたことのある舌触りがした。米?

 「なかなかいい線いってるね~なら中になーにがあるかもわかるかな?」

 「まず玉ねぎと炒りゴマとニンジン……醤油もございますね? それとお酢に油……にんにくも少々……」

 「そこまでの材料はあってるよ。そして隠し味が最後の一つ。なーんだと思う?」

 いつの間にかドレッシングの材料当てクイズになってる。そしてそこまでしっかり当てられるのかよ。

 「……発酵したものが入っている気が致します……となると候補は絞られるから……いやこれじゃない……どっちだ……」

 「近衛(リーチ)が悩みすぎて敬語忘れてるんだけど何これ新鮮」

 ここまで何かに熱中している姿をみたことないからなぁ。

 「……いや…………味噌なら主張がもう少し激しい……ということは…………甘酒とか?」

 「ふふ、その通り。隠し味は甘酒だよ」

 近衛は見事隠し味を言い当てた。なるほどあれは甘酒の米麹だったのか。

 「発酵調味料の効果で味がまろやかになるんだよね。ホントは1日おいたほうが玉ねぎの辛味が少なくなって味が馴染んでくれるんだ」

 「なるほど……玉ねぎの分量がやや少なく感じたのはそのためでございましたか」

 「そこまで見抜かれちゃってたんだね」

 「しかし」

 近衛が少しトーンを落とした。

 「……矢崎殿。これは誰かに教わったのではないでしょうか。いえ、ただのわたくしの勘でございますからそうでないならはっきりと仰って頂いて結構でございます」

 「ん? ああ教わったやつだよ。知り合いに栄養士の人がいてね。たまーに彼が隠し味とかを教えてくれるんだ」

 「お手数ではございますが、その方のお名前は」

 「…………思い出せない。ここに来てから、幾人もの人の名前を、あたいは忘れている」

 「矢崎殿も、でございますか?」

 「どういうことだい?」

 空気が一気に変わった。

 「……わたくしは、忘れてはならぬお嬢様の名を忘れてしまっております。それだけではございません。他にも、誰かいたはずの名前を、忘れてしまっている」

 衝撃的な告白が近衛の口から飛び出た。

 「!! 直樹(トン)!! あんた彼氏の名前覚えてんの!?」

 「え、それは…………」

 あれ、おかしい。忘れるはずがないのに。嘘だ。だって私たちは……

 「わた、したちは…………なんっ……で……? 覚えてない……」

 「……てめぇはどうなんだよ盗賊野郎」

 「………………」

 玉柏は答えなかった。肯定したんだと思った。

 「他の人は?」

 「私もだ……」

 「うちも同様です」

 巡間も金室も、みんながそうらしい。思えば、ここにいない誰かの名前を偉人なら聞いたことはあっても、本当に身近な人の名前は一度も聞いたことがない気がする。事実、数日前橘が言っていた『F.T』とやらもただのイニシャル。しっかり名前はあるはずなのだ。

 いたはずなのにいない。記憶はどうしてこうも理不尽なんだ。

 

 

 *****

 

 昼を過ぎた頃。Ⅱ棟のカフェで紅茶とクッキーを飲み食いしながら少し渡良部と話をしていた。

 「どうしてなんだろう…………」

 沈んだ気持ちが、悩みが私たちを囲む。

 「名前を忘れるっていうのはかなりまずい……だってここにいる人の名前しか覚えていないってことは、あのヤギがこの空間を独立させようとしているってことでしょ?」

 「独立させるにしても不自然なところは多いけど、そう考えたほうが自然……」

 「あんたの言う不自然って記憶のことについてでしょ? でもそれは前にほとんど解決してるよ」

 そう『ほとんど』解決している。数日前に国門を中心としてみんなと話したあれで。でも正直それまで。まだなにかありそうなんだ。

 「あああ!! もうやめやめ!! この話やめっ!!!! 別の話題に移そ!!」

 渡良部は無理やりこの話題を終わらせた。まあそうするだろうなぁ。

 「そういえば渡良部さん。私のことばかり言っているけど、実のところ君はどうなの?」

 「うっ」

 いつもやられっぱなしだから今回先制で。

 「どうもなにも……えっと……」

 「シャキッとしようか」

 「っ。……す、好き……だよ。近衛(リーチ)のこと」

 それが聞きたかった。

 「でも私最近、そばに居たいとかそれだけでいいのかって思い始めたの」

 「というと?」

 「なんか、アプローチみたいものをかけたい」

 ひゅうっ!! 直球だぁ。やばいにやける。

 「アプローチね……」

 「そう……どういうのがいいのかなって」

 自信家なのにこういうところすっごい乙女だよね渡良部。自分がその立場だった頃が懐かしくてにやける。落ち着こう。それは心の中に留めて。

 「近衛くんの好みとかはわかってるの?」

 「紅茶が好きって言ってた。ハーブとかも」

 「前バーベイン茶飲ませてもらったけどおいしかったよ」

 あとはシフォンケーキ食べたときのアールグレイ。

 「へえあんたそれ飲んだんだ。ダグラス(ドラ)と三人でいるとき良くいろんな紅茶飲ませてくれるけどね。そのとき近衛(リーチ)の一番好きな紅茶飲んだっけ」

 「へえ。近衛くん何好きなの?」

 「カモミールティー。ちょっとアップルティーに近い感じのやつ」

 あ、知ってる。白い花で中央の部分黄色いやつ。確かジャーマン種とローマン種があるんだっけ。とにもかくにもあれきれいだなっていつも思う。

 「でも紅茶にも淹れ方あるから……」

 温度とかそういうのですねわかります。

 「近衛くんなら何もらっても嬉しそうな顔しそうだけど」

 「そんなこと言われても、もしそうじゃなかったら怖いじゃん」

 うーんと唸り渡良部は眉間にシワを寄せている。そんなに深刻そうにしなくても。

 「あ、なら押し花とかどう?」

 「押し花?」

 「簡単に言えば本に挟める栞のこと。今じゃ栞紐とかあるからあれ栞を使う人は少なくなってるなんて話もあるけどね」

 「へえ栞か…………それいいかも。カモミールあるかな」

 「植物庭園行けばあると思うよ。あとは矢崎さんとかも花言葉は知ってるほうだし手伝ってもらうといいよ」

 「……頼んでみる。ありがと」

 紅茶を飲み干して渡良部は立ち上がった。

 「ところでさっきからにやにやしてないで」

 あ、バレてた。

 

 ***

 

 そろそろ夕方か。そんなわけで適当に外をうろうろしている。噴水近くのベンチに誰かの後ろ姿が見えた。橘だ。近くまで行ってみると、何かを読んでいる。なんか、手がいっぱい描いてあった。

 「それもしかして手話?」

 「あ゛?」

 いつもの通り不機嫌な顔された。

 「てめぇに教える義理なんざねぇだろうが」

 「いやばっちり見えてるんですが」

 言われた途端にバタンと本を閉じて端においた。いや手遅れや。足を組んで膝に肘をおき手を顎に乗せる。相変わらずのしかめっ面だ。ちょっとお隣お邪魔しまーす。

 「…………」

 「…………」

 くっそ気まずい。

 「てめぇは」

 無言の続く中で、橘が口を開いた。

 「てめぇは……なんで翻訳家になりたいと思った」

 質問内容に少し驚いた。正直それを橘から聞かれるとは全く思ってなかった。

 「母さんが仕事で海外にいて、父さんもそういうあるからよく旅行してたんだ。そのときに世界の言語に触れた。ヨーロッパは凄かったなぁ。違う言語が飛び交っても伝わることもあるんだ。そういうのが面白くて。必死になって言語を覚えたよ」

 「それがてめぇのなりたかったつう理由か」

 「まあそんなとこ」

 「……そうか」

 私を睨むその目には、今まで見ることのなかったものがあった。橘は足とか崩して差していた杖を引き抜いてそれをじっとみた。

 「世界には必ず、言葉以外でほぼ100%伝わるものがある。俺は……それをずっと追っていた」

 確信したように彼は続けた。

 「論理は裏切らない。あいつの隣で見てきたのに二度も失って自棄になって。ふざけたことだとわかっていても……届きやしねぇ。敵いやしないことも承知だった。少しはそれに近しいと思って近づこうと思ったやつでさえ死んでいった。なにも出来ない自分にくそみてぇに腹が立つ。砂を噛むみてぇな味気無さに腹が立つ……!!」

 折らんばかりに杖を強く握りしめた。と思ったら今度は杖を背中においてさっき読んでいた本を眺めた。

 「俺は…………なりたかったものをたった一度の行動でぶっ壊した。さらに自棄になって何度も何度も死ぬほど振り回した」

 本にでこをばんと当てた。けどその音はひどく情けなかった。

 「翻訳家、伝えられるものは必ず伝えろ。必ずだ。俺は……………………こうすることしか出来やしねぇから」

 いつの間にか伸びていた左手に、いや、いつの間にか右肩に置かれた左手に、私は気づかなかった。そしてトンッと、優しく押された。

 

 

 ザザッ……

 

 

 「……………………えっ?」

 

 

 ザザザッ

 

 

 押された瞬間に、私はなかったはずの過去が少しだけ見えた。そうだ、私たちは……わたし、たち、は……あれ、声が出ない……?

 「一つ答えろ。思い出したか否か」

 「……少しだけ」

 「それでいい」

 彼はそう呟いて杖を回収してこの場を去っていった。けど私はまだ……

 「橘くんっ!!!!」

 

 

 

 ______

 

 

 ひとつだけ

 

 ______

 

 

 *****

 

 少しだけ知らないものを見た夕方だった。正直夕食を食べるとき気になって仕方なかった。そういえば運命ダイスはどうなっていたのか。気になって電子生徒手帳を開けば、二回ダイスが振られていた。番号は36と59。法則的なものはあるのだろうか。

 それと橘によって少しだけ思い出された記憶。これで解決したことがある。さらに前回のスクリーンで見せられたあの赤い夜? についても、確信が持てた。あれはモノヤギの言う通りノンフィクションだって。でもそれなら私たちはどうして生きていられているのかという問題も現れた。

 進展はあった。けれど明日は上手くいくか? 運命のダイスに左右されるのはわかっている。でもいつまで振られるのだろう。

 

 

 *****

 

 13日目

 

 アナウンスの音は聞こえない。電子生徒手帳の時間を見るとすでに07:30。ついでに振られているかどうかを確かめたら51。マジかよ。これ寝てる間でも振られるのか。えっそれ恐ろしくない?

 

 

 

 ***

 

 

 

 階段をタッタッタッと降りて食堂に。あと二人いないけれどそれ以外は揃っていた。いないのは巡間と金室だった。

 「あの二人いないの珍しい」

 巡間は結構早めにくる人だし、金室も遅れるなんて滅多になかった。

 「お二人大丈夫ですよ。しっかりしている方々でございますから」

 心なしかいつもより近衛が嬉しそうに見える。渡良部の押し花作戦が成功したと見た。

 「まあそのうち来るじゃろ。1分もしないうちに少なくとも一人は」

 確信したように灰垣が言った。と同時に

 「すみません。遅れましたね」

 金室がやって来た。ほらと言う代わりに彼は目を閉じた。

 「最近どうにも落ち着かなくて。日に日に遅れていてすみません」

 「気にしなくていいよ」

 そうこうしてると巡間もやって来た。って

 「おっと私が最後だったか。すまない」

 「なんかボロボロになってない!? 髪の毛すごいことになってるんだけど!?」

 「いや、実は少しドジをしてしまって。おかげで顔も痛いし髪の毛も整えられなくて」

 しっかりしてる彼がドジをするって珍しい。

 「あ、これで全員揃った?」

 このタイミングで渡良部が口を開いた。あれのことを言うつもりだと思った。

 「どうしたんだい? なーんかみんな揃うのを待っていたような言い方だったけど」

 「いや私たち、割りと長い間一緒にここにいるじゃん。でもあんまりみんなのことを知らなさすぎるんじゃないかって」

 「言われてみれば……」

 「だから私たちは考えたの。みんなの才能以外の特技とか趣味とかを披露し合いたいなぁって」

 実際は玉柏考案なんだけども。そのご本人が主催から逃げたからなぁってチラリと見たらそっぽ向かれた。おいそっぽを向くな。

 「特技とか趣味の披露か……おもしろそうじゃな」

 「あ、これ全員強制参加だから。特に(チュン)逃げないでね」

 「はぁ!?!? ざっけんじゃねぇぞ!!? なんでんなもんに参加しなきゃなんねぇんだ!!」

 「場所はⅢ棟でやりたいんだけど大丈夫?」

 「話を聞きやがれ!!」

 「大丈夫ですよ。ですが準備とかの時間はあるんですよね?」

 「もちろん。で、急で悪いけどこれ今日の昼ご飯食べ終わったあと……大体2時とかにやりたいから準備があるなら早めに済ませておいたほうがいいと思う」

 ホントに急だよ

 「よし!! じゃあ2時にコンサートホールに集合ってことで!!」

 かくして私たちは2時から特技披露大会を始めることになる。結局橘の抗議は聞き入れてもらえなかった。なんというか、御愁傷様です……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        →to be continue…………

 

 



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第三章(非)日常編 運命は4部屋目

 

 

 ______

 

 

 あの日の声を

 

 

 ○○は忘れてはならない

 

 

 どこまでも

 

 

 血液は追ってくる

 

 ______

 

 

 

 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 

 朝食後。みんなそれぞれ何かしらの準備をしている。うーんどうしよう。さすがにあの場で拙いヨガを見せる訳にもいかないし。かといって男装は真っ平ごめんだ。どうしようかな。世界についてでもなんか才能と近くなりそうだし……あ、そうだ。私は倉庫に足を運ぶ。

 確かここに……あったあった。ガスコンロ。ガスボンベもあるかな……見っけ。あとは……お、水のボトルも発見発見。探すの楽しい。そして……っ!! やった!! あった!! お餅!! これがないと始まらない。意外と知らない人いるし。

 とりあえず全部回収してコンサートホールにおいておこうかな。で、あと必要なものは……つけるもの。ずんだとかあんことか用意しなきゃ。食堂行こうっと。

 厨房には矢崎がいた。やあと軽く挨拶を交わして互いに作業をする。

 ええっと、枝豆あるし……まずお湯を沸かそう。枝豆の天地を切って塩揉みして……汚れないかなぁ。あ見つけた。落として落として、で塩分含ませるようにもしちゃう。

 「直樹ちゃん直樹ちゃん、お湯沸いてるよ」

 「あ、ありがとう!!」

 作業に集中していて気づいてなかったや。とりあえず一通り豆の準備も出来たし。お湯に塩を入れて枝豆を煮る!! 時間はそこまでかからないし。この間にざるとか砂糖とか用意しよう。しばらくして時間が経ったから枝豆取り出してざるにあげて冷ますっと。あ、あんこも用意しなきゃだし冷ますついでにやっちゃおう。

 けどあんこって作るのに時間掛かるんだよなぁ。どうしよう。

 「どうしたんだい?」

 「ああ。あんこ作ろうと思ったんだけど時間掛かるからと思って……」

 「倉庫に瓶詰めのあんこ見なかったかい?」

 「あ、探してなかった。行ってみる」

 もう一回倉庫に行くと確かに瓶詰めされたつぶ餡があった。これであんこは困らない。戻って矢崎にあったことを伝えるとよかったよと笑顔で返された。

 さてと、まだまだ準備は終われなさそうだ。

 

 

 

 

 そして時間が過ぎていった

 

 

 

 

 お昼が過ぎ2時となる。私たちはみんなでコンサートホールに向かった。ゲームトリオは飲み物とかお菓子とかも用意してきた。一番悪態をついていた橘もしっかり来ていた。

 「なんで俺まで来なきゃいけねぇんだよ」

 「強制参加だから仕方ないよ」

 「チッ……」

 「よし、準備オッケーっと」

 「全員揃ったかい? じゃあ席に着いて!!」

 みんないることを確認してからダグラスがマイクを取った。司会は彼が務めるらしい。

 「Ladies and gentlemen!!!! ようこそ!! これから、みんなの特技披露大会を開催したいと思います!! イエーイ!!!!」

 「イエーイ!!!!」

 「わあわあ!!」

 みんなが歓声を上げる。

 「これは今朝ミス渡良部も言った通りで、一人ずつ何かしらの特技を披露するものさ!! 順番なんだけど、希望でミス矢崎が始めることにするよ。いいかい?」

 「いいぞ」

 みんなの同意を受けて、ダグラスはまた続けた。

 「OK!! じゃあミス矢崎!! よろしく!!」

 合図と共に矢崎が席を立ち上がる。そしてステージに上がって軽い準備を施すと簡易ガスバーナーを取り出した。ガスバーナー!? 横を見ると布が被せられていた。しかしそこからは甘い匂いが漂う。あ、わかったそういうことか。

 「さっきの時間厨房を借りさせてもらったよ。でね、小さいけれどこんなものを作ってみたんだ」

 開けてと言われてダグラスが布をバッと取る。そこにはブリュレがあった。

 「で、これから仕上げるんだよ。これでね」

 そういうと矢崎は手慣れた手つきでガスバーナーの火をつけてブリュレを炙り始めた。

 「お上手でございますね……」

 「いろいろ作るからね~ああこれ苦手な人いるかな? 少し甘さは控えたほうだけど」

 「悪いな。俺は甘いものは嫌いなんだ。俺の分は誰かにやってくれ」

 「わかったよ」

 そうこうしていると炙りが終わった。素人目でもとてもきれいだと思った。

 「はい、どうぞ。少し熱いから気をつけてね」

 一人一人にブリュレが渡っていく。ちなみに玉柏のは私に渡った。一口食べるとほのかで控えめな甘みが口に広がった。くどくないから食べやすい。

 「おいしい」

 「これなら……うちでも食べられますね」

 あんた苦手だったんかい。

 「あたいの披露はこれで終わりだよ。ありがとうね」

 パチパチと拍手が起こり矢崎は一礼した後席についた。

 

 

 *

 

 

 「よーしNEXT!! 誰がやる!?」

 「ではうちよろしいですか?」

 「もちろんさ!! じゃあミス金室!! よろしく!!」

 金室は袋を持ちながらステージに上がる。

 「矢崎さんのブリュレを食べながらでいいので。この中にあるのは折り紙なんですけど、単に鶴とかではありません」

 そういって取り出したのは薔薇だ。いや折り紙の薔薇。しかしかなりキメ細やかなものだ。リアルに再現されている。

 「本物みたいだ……」

 「本物に近づけましたからね。ですがこれはまだ序の口。こちらが本命ですよ」

 さらに袋から取り出した。それを見た私たちは目を疑った。

 「これって……」

 「一体につき、一枚の紙を使って作りました」

 「い、一枚だけで!?」

 それは私たち全員の折り紙人形だった。今はいない鷹山や江上、宮原、阪本もいた。

 「一枚だけでこんなこと……」

 「出来るんですよ。うちのところ少し紙を無駄遣いする人がいたので、折り紙でいろんなものを表現してみるのもいいのではというわけです。その名残で作っちゃいました」

 作っちゃいましたで作れるレベルじゃないんだけど。

 「これ、この短時間で作ったのか?」

 「……いいえ、実はここに来てから毎日夜中に作ってました。一人一人、一時間から二時間かけて。五十音順……出席番号順と言ったほうがいいですかね。その順で。ですから江上さんは一番最初に完成してました。1日だけはすぐに寝てしまったので次の日に二つ作ってて。本当は全員分作ってから渡そうと思ってたんです。ですがいつの間にか時は経ち、人は死んでいって。鹿威しの音を『聴く』余裕がなかったんです。ずっとずっと、嫌いな噴水が激しく音をたてながら流れていたんです」

 少し悲しげに優しくポツリと。

 「渡良部さんがこの企画を提案したときに、真っ先にこれを完成させないとと思いました。みんなに、渡さないといけないと思いました。なので急いで完成していなかった矢崎さんと渡良部さんの分をあの準備時間で終わらせました。少しだけ二人のやつは不恰好になってしまいましたけど」

 よくよく見ると、他のやつよりもややずれが見られた。

 「これは皆さんに差し上げます。ああふたりはどうします? また作り直すこともできますけど」

 「いい。このままで」

 「あたいも同じで」

 「……わかりました。ではどうぞ」

 みんなに手渡しされた私たちの折り紙の人形。見事にその人の特徴を捉えていた。

 「うちの発表はこれで終わりです。ありがとうございました」

 軽く一礼をして彼女は席についた。

 

 

 *****

 

 ブリュレ食べ終わった。さすがに二つはキツかったけど、甘さ控えめのおかげか完食できた。

 「さてさて、次は誰がやる?」

 「では私がやろう。早速なんだがカジノに移動してもらって構わないか?」

 「もちろんさ!! それじゃあみんな!! 移動しよう!!」

 私たちはカジノへ移動する。

 

 

 *

 

 

 カジノの重い扉を押し開けて中へと入る。巡間はその中にあるビリヤードの台に手を伸ばした。

 「私は昔ほどではないがビリヤードができる。ダグラスくん、玉をまとめてもらっていいか」

 言われてダグラスは玉を三角の型に入れて整える。カタカタカタという音をたてて。

 「最近やる機会がなかったからさっきの時間だけで腕が戻ってるとは思えないが。まあ精一杯やるよ」

 そういうと白い玉を定位置に置き左手で棒を構えた。構え方は本格的だ。ダグラスが型を外すのとほぼ同時にゆっくりと狙いを定めた。そして勢いよく打つ。コツンッ!! っという音が響いた。玉はそのまままとめられた玉に当たりそれぞれ広がっていく。玉同士弾け、縁に当たっても弾け、コツンコツンと流れる。一つの玉はポケットへと入った。

 「おお」

 「まだまだ。これからだ」

 再び構えてコンッと玉を狙い打つ。数回かすったりややミスはしていたものの、一度も白玉を落とすことなく終わった。

 「すっげぇぜ。久しぶりのレベルなのか?」

 「最後にやったのは数年前なんだ。まあでも楽しかったよ。ありがとう」

 巡間のプレイに拍手が湧いた。

 

 

 *

 

 

 「なあ、特技披露ってのは一人一つまでとかって制限あるのか?」

 「特にそういうのはないよね?」

 「ええ。好きなように行っていただいて結構でございます」

 「ならここでできることを俺はやる。でだ、俺の一つ目の特技は将棋なんだが、出来るやついるか? ダグラスより少し弱いくらいでいいんだが」

 「ダグラスくんで良くない?」

 「ディーラー相手じゃ得意なの伝わりにくいだろ」

 「あ、いや、ミー将棋よりもチェス派だから。多分将棋だとミスター玉柏に勝てないと思う」

 マジか。意外な苦手なものを発見。

 「ならわしが相手をする。昔よくやっておったからの」

 灰垣が名乗り出た。ああでもなんか、強そう。

 「よし。台頼む」

 「もう出てるわよ」

 「はやっ!?」

 確かに渡良部が用意していた。早いなおい。

 「想定してるから。どれが出てもいいように倉庫から一通り持ってきたつもり」

 エスパーか!!?

 「なら、とっとと始めるか」

 「じゃな」

 で、始まったわけなんだけど。

 

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 カチッ

 

 「お互い打つ早すぎないっ!?」

 「え、考えてる?」

 「当たり前だ」

 考えてそんな指し方よく出来るね!? 私無理だわ。

 「どの戦法できているかは大方見ておる。相振り飛車じゃろ」

 「ご名答。ま、バレてる以上変えていくけどな」

 カチッ

 「っと……仕込んでおったか」

 カチッ

 「当たり前だ。こちとら隙を見せたら」

 カチッ

 「捕まるんだからな」

 「ふん、盗賊らしい言い方をするもんじゃな」

 カチッ

 

 二人の指し音がはっきりと聞こえる。私たちは見いっていた。こういうものは大体見ているうちに飽きがきて、眠くなることが多い。けれどそんなことはなかった。二人のペースはやっぱり非常に早く本当に考えながらなのかを疑いたくなる。適当に話ながら指しているにも関わらず。

 結局、灰垣が白旗を挙げたことで将棋は終了した。

 「見事じゃった。得意というだけあるの」

 「そっちこそ。後半焦ったぞ。あんなむちゃくちゃな戦法で」

 「はっはっはっ!! 油断大敵、というじゃろう?」

 「どうやら俺は、お前との試合には勝っても、勝負に負けたみたいだな」

 「そんなことないじゃろう」

 まあ事実、あんな位置に王があったらびっくりするわな……

 「さて。つまらなかったら悪かった。一つ目は終わりだ。もう一つのほうは下でやったほうがいいし、少し休みたいからな。誰かここでやれる特技あるんなら先にやったほうがいいんじゃないか?」

 私は下でやるからいいんだよな。

 「あ、じゃあ私いい?」

 手を挙げたのは渡良部だ。渡良部のことだからきっとゲームのことかな? って思っていたら、なんか向かう場所全く違う。そう、バーカウンターだ。

 「え、なに、渡良部さんもしかして……」

 「いや飲んだことないから!! 知識として知ってるってだけ!! はい、これ!!」

 出されたのはワインのボトル。

 「これは?」

 「『グリ・ド・グリ』っていうワイン。直樹(トン)なら、この意味わかるしょ?」

 え、待って!? グリって……それって!!

 「ま、待って!? これってまさかあの灰色ブドウの灰色ワイン!?」

 「そうそう。灰色ブドウの灰色ワイン」

 「ブドウに灰色ってあるのか」

 「そうじゃなくて、藤色とか薄ピンクのブドウを灰色ブドウっていうの。特徴を表現した濃い色あいの白ワインのことを『灰色ブドウの灰色ワイン』っていうだけ」

 「別の読み方をすればヴァン・グリでしょ……しかもこれイタリア産……ええ待って生で見るの初めて感動一度お会いしたかった代物大人になったら飲も……」

 「直樹さんが有名人の握手会で感動のあまり震えているファンに見えるんだけど」

 「なにその例え!?」

 

 ※お酒は二十歳になってから

 

 いやだってこれモノヤギのセンスがすごく高いんだもん。本当に感動してる。しかもこれよくよくみたら元祖……こんなところで出会うなんて……ワイン相手(?)になんか、おそれ多く思ってるんですけど。

 なぜ私がこんなにも感動しているか、と言われればこう答える。父の仕事でそれを配達することになっていて、それを聞いた母がとても感動していて私も釣られて気になっていたからだ。

 「けど渡良部さんがこれについて詳しいのなんか意外」

 「麻雀やる前にちょっとね。あんな親だったし。でもワインって長い間、数十年とか熟成させるじゃん? けどその中で大きな地震とかそういう災害があってもおかしくなくて。それに耐えてすごい商品できるのってなんかいいなぁって思ってた。あ、それとみんな」

 「?」

 「エチケットって知ってる?」

 「確か礼儀とか作法とかの意味じゃ……」

 「待った。今ここでエチケットが出るってことはつまりワインに関係している。そしてそのエチケットの意味は『ラベル』のことでしょ?」

 さっすがと渡良部は指を鳴らした。

 「大正解。そもそもエチケットってフランス語なんだって」

 「そうなのか!?」

 「そ。どうしてそうなのかっていうと元々『荷札』の意味を持っているの。ワインの輸送のときに荷札通りに中身が入っているかどうかを荷札でチェックしていたんだって。そこからエチケット=マナーっていう構図も出来たんだとか」

 意味あってる。

 「ワインとかカクテルは、意外と歴史あるもんだからな。カフェとかにいけばそういうのあると思うぞ」

 「……久々に読んでみようかな。けど今はそれよりも気になるものあるし、そっち調べる」

 こんな感じで渡良部のも終わった。それと同時にここでは誰も何もやる人はいなかったからカジノを出ることになった。

 「つーか何であそこアルコール臭してんだよ」

 「あ、落として割ったの忘れてた……」

 「拭きなさいっ!!!!」

 後始末をしたあとに。

 

 *****

 

 三階へと戻り席につく。軋む音がいくつも聴こえる。

 「よーし!! 次は誰がやる?」

 「んじゃ、僕いいか」

 今度は国門。私たちにヘッドフォンを渡し始める。ヘッドフォン?

 「音が響くから、ヘッドフォンつけとけよ?」

 そういって取り出したのは……リボルバーだ。

 「僕の特技は射撃。これでも命中率は高いほうだぜ。入ってる弾は実弾だがもちろん人を殺すためのものじゃあない。だからこいつには満タンの8発しかない。これをすべて披露のために使いきる」

 缶をステージ端に四つ横に並べて、反対側に国門は立つ。始まる、そう思って私はヘッドフォンをつけた。

 「まず四発」

 バンッ!! っと響く銃声(ヘッドフォンをつけているからやや音量は小さく聞こえたけれど、とても響いていたことは確かだろうというちょっとした推測)。彼は右手だけで左側の缶を二個撃ち抜き、素早く左手に持ち変えてバンッ!! っと右側の缶を二個撃ち抜いた。

 「すっご……」

 的確に撃ち抜かれた缶は吹き飛んでいた。国門はそれを拾うと近衛になにかを指示した。それをかしこまりましたという礼とともに近衛は缶を持ってステージの近くいく。国門はなぜか腰にリボルバーをしまった。

 「次四発」

 すると近衛が缶を一つ放り投げた。その瞬間宙を舞う缶が撃ち抜かれた。しかも彼は低位置、正確にいえば腰から撃ったのだ。

 残りの三つの缶も投げられた。。左腰からの低位置射撃。そして残りの二つは速射。左手での速射だった。これらすべての動作が速かったにも関わらず、まるでスローモーションで見ているかのような気がした。

 国門の口からふぅとため息一つ。全八発を撃ち終わったのだ。ヘッドフォンを外す仕草をしてたから、そのタイミングで私もそれを外した。

 「なんか……意外でした……」

 「裁判以外でやれるっていったらこれしか浮かばなかったってだけだぜ。んーだけど左腰から打つの少しミスしてる。端に当たっちまったぜ」

 「それにしてもすごいじゃないかい。習いはしていたのかい?」

 「いや別に。ただ的に矢を当てるのとかは普通にできた」

 それ普通に才能や。

 「……ガンマンみたいでかっこよかったですよ」

 「けど銃なんてどこで……」

 「僕のところクレー射撃の部があってそこに時たま顔出してやらせてもらってた」

 常連客かよ。

 「まあいいじゃないか!! 素晴らしい特技だったわけだしさ!!」

 「ありがとう」

 

 

 *

 

 

 「それじゃあ次誰やるの?」

 「えっと、その前に今誰がやったかの確認をするよ。ミス矢崎、ミス金室、ミスター巡間、ミスター玉柏、ミス渡良部、ミスター国門。この六人だね。それとミスター玉柏はもう一つあるんだったっけ?」

 つまり残りは私、ダグラス、近衛、灰垣、橘、湊川、二回目玉柏ってことになるのか。

 「ではわたくしが次に行いましょう。しばしの間お待ちいただけますか? 着替えたいので」

 「もちろん!!」

 近衛は控え室に入っていった。どうやら下の階からすでに衣装はとっていたらしい。

 「近衛(リーチ)は何披露してくれるんだろうなあ」

 渡良部は心底楽しみな様子。しばらくすると控え室の扉が開いた。そこには

 「お待たせ致しました」

 「えっ!?」

 「その格好は……!!」

 着物姿の近衛が現れた。よく見ると左に刀が仕舞われている。これはまさか

 「以前剣道を嗜んでいると申したことがございました。それに関連した形で、わたくしからは抜刀を披露させていただきたく存じます」

 そういうと近衛は一度ステージに正座で座る。深く一礼をして片足をあげ構え始めた。しばらくの静寂が訪れる。

 

 

 刹那

 

 

 シュパッ!!!!

 

 

 「はっ!! いやぁあっ!!!!」

 早すぎて何も見えなかった。一瞬すぎる抜刀。掛け声を聞いてやっと認識した。抜いて素振りをしたのだと。

 「かっっこいい…………」

 渡良部は小声で胸を抑えながら呟いた。

 近衛が刀をしまうとまた同じ体勢に入る。二度目だ。今度もまたシュパッ!! っと抜刀。掛け声が響く。この抜刀はさっきよりも目視することができた。

 こんな動作をだいたい五回くらい彼は繰り返した。それらが終わると彼は深々と頭を下げた。

 「以上でございます。ありがとうございました」

 うおおっと拍手が沸き立つ。

 「かっこよかったな。すごい抜刀術じゃないか」

 「ホント!! 近衛(リーチ)とてもかっこよかった!!」

 「お褒めに預り光栄でございます」

 少し失敗してしまいましたと言っていたけれど、そんな風には見えなかった。

 「私は初めて見たが……目の前だとやはり違う」

 ああ、巡間は前に見ていなかったっけ。

 「よし、次はわしがやろう」

 「お、ミスター灰垣か!! どうぞどうぞ!!」

 灰垣はゆっくりとステージに上がる。

 「見える位置に来たほうが良いぞ」

 みんなで少し席移動してステージ近くになる。

 「わしの披露するものはこいつじゃ」

 そういって羽織の裾から一本の紐と三つのコマを取り出した。

 「昔ながらのものじゃが、こいつにわしなりのアレンジを加えて披露させてもらうぞ」

 一つのコマに紐を巻き付ける。それっ!! と投げるようにすればコマがステージで回る。さらにもう二つのコマを素早く回し、三つのコマがステージで踊る。今度は持っていた紐を回っているうちの一つのコマにくくりつけてひょいっと持ち上げ左手のひらに乗せた。

 「おお……」

 ところがそれだけに留まらなかった。片手で器用にまた回っているコマ一つを持ち上げる。今度は左の腕に乗せた。不安定にも関わらずそれはずっと回る。そして最後のコマを同じようにして持ち上げる。その瞬間紐を手放してコマを掬うようにして右手に乗せた。

 そして

 「ほっ!!」

 右手のコマが宙を舞う。その一瞬を逃さず腕にあったコマを空いた右手に移す。宙のコマが降りてくるタイミングを見計らい左手のコマをあげて受け止める。そういう行為を繰り返した。

 そう、それはまるでお手玉。ジャグリングのほうが正しいかな? 止まることのないコマはぶつかり合うこともなく、ただ灰垣の手のひらを泳ぐばかりだった。

 「絶妙すぎる……」

 そう思うのも無理はない。だって『回っているコマ』なのだから。少しでもバランスが崩れたりぶつかったりすればこれは成り立たない。ふわりと持ち上げて、そっと受け止めるその手捌き。並みでは出来ないと言える。

 「よっと。これで終わりじゃ」

 コマを一つずつしっかりと受け止めて、フィニッシュとなる。感銘を受けるほどの披露に拍手が絶えない。

 「チェーンソーとか火炎瓶とかでジャグリングしたことある人は見たことあるけど、待ってるコマでやる人初めて見た……」

 「あれは危険じゃよ。じゃがこっちのほうが安全じゃし」

 「難易度はそっちもどっこいどっこいではないか?」

 同意。けれど素晴らしい披露であったのは確かであった。

 

 

 *

 

 

 そろそろ私も披露しないと。そう思って手を挙げた。

 「次いい?」

 「ああ!! もちろんさ!!」

 席を立ってステージに上がる。用意しておいたガスコンロ、鍋、餅、包丁を取り出した。鍋に水を入れて火を着けて沸騰するのを待つ。その間に包丁で餅を切り分けておく。

 「餅?」

 「そ。私昔っからお餅大好きでね。お餅ってお米に比べて水分は少ないけどたんぱく質と炭水化物が多いんだ。けどお米とほぼ同じ栄養分が補給できる。それに茹でる!! 焼く!! いろんな食べ方ができる!! お米とはまた違うし」

 「うーん。でも割りと一緒な気もするけど」

 「考えても見てよ。ご飯にね? きな粉かける?」

 「あ、かけねぇ。餅だそれ」

 「でしょ? 醤油だってかけるにしてもバターライスとかにするとき。あとはチャーハンとして食べたりとかね。それに……ご飯にあんことか乗っけないでしょ?」

 「なんか想像したらすごい産物になりそうだな。というか甘すぎで吐くなそれ……」

 どれだけ甘いもの大嫌いなのこの人。あ、お湯沸いた。切った餅をお湯の中に入れる。

 「だからお餅って結構食べ方のバリエーションあるの。あ、固め派? 柔らかめ派?」

 「どっちでもいいですよ」

 ならちょっと固めくらいでいっか。適当に茹でて箸で突っついてみる。うん。これくらい。一つ一つ餅をつまんで皿に移す。

 「はい。みんな来て。で、食べ方なんだけど、いろいろ用意してみたよ。きな粉、醤油、あんこ、エビ、ゴマ、ずんだ、胡桃……好きなやつ選んで食べてみて」

 「結構用意してたのね」

 「あ、喉詰まりしないように気をつけてね」

 みんながステージに集まってお餅を食べる。美味しそうに食べてくれていて嬉しい。

 「エビがあるってセンスあるじゃないか直樹よぉ?」

 「エビは美味しい。わかる。あと生姜とかもあると良くない?」

 「ああ考えたけど今回やめたんだよね。今度用意しよ」

 「醤油が一番好きでございます」

 「へえ。シンプルなやつ好きなんだね。みーはこの中なら胡桃かな」

 「ゴマが控えめで旨いの」

 「あたいはこのきな粉とあんこの優しい味が好きだね」

 「もう少し甘くてもいいが……これはこれでいい。ずんだ美味しいな」

 「おい、海苔ねぇのかよ海苔」

 あ、忘れてた。確か……あった!!

 「ごめん忘れてた。はい」

 「ったく……このバリエーションなら醤油と海苔がいいんだっつの」

 「普通に海苔巻きで食べるほうが好きね」

 結構みんな好きな味バラけるなぁ。

 「玉柏くんはそのまま食べてるんだ」

 「まあな。一番は醤油だけどな。安心するというか……」

 「うんうん。ところでお餅って縄文の頃からあったらしいよ」

 「縄文!?」

 「当時の米は赤米。白米よりもお餅を作るのに適していたんだ。でもとても貴重なものだから特別な日にしか食べられなかったんだ」

 ちなみに東南アジアから伝来してる。

 「ここで問題なんだけど、平安時代になってあるものが作られた。それは何だと思う?」

 「え、そんなのあるの」

 なかったら歴史大変なことになるから。

 「鏡餅じゃろ」

 「正解!! 神聖で縁起のいい食べ物っていう意味が強まったのはこの頃」

 「当時は色んな季節の節目で食べられておったものじゃ」

 「奈良時代の書物に『的代わりに大きな餅を作って矢を射たら白い鳥になって飛んでいった。その後の水田は荒れ地に変わり果てた』みたいなことが書かれていたから、既に神聖な食べ物として考えられていたんだ」

 そしてその他適当に餅の歴史とかいろいろ語っていたら時間が過ぎて餅もなくなった。楽しかったしおいしかった。さすがお餅様々だ。

 「はい、これで終わり!! ありがとう!!」

 「よかったぞ。おもしろいもの聞けたし有意義だった」

 拍手を聞きながら私は席に戻った。そのときチラリと電子生徒手帳の運命ダイスを見てみた。しかし朝の一回だけしか振られていなかった。本当にいつなるのかわからないダイスだ。

 

 

 *****

 

 

 あとはダグラス、湊川、橘、玉柏の二回目。この四人はなにを披露してくれるのかな。

 「はい、おおとりは嫌だし、次いかせてもらうわ」

 なにこのデジャブ。

 「ダグラスくん、お願いしてたやつ準備出来てるかしら?」

 「ああ。もちろん。それじゃあ整ったら教えてよ」

 「わかったわ」

 湊川は体をほぐすように動かす。準備体操みたいなもの。そして髪の毛を一本にまとめて縛った。

 「よし準備終わったわ」

 「OK!! それじゃあMusic Start!!」

 合図とともに流れる音楽。これは……ジャズか!! 湊川はリズムに乗って踊る。楽しそうに、華麗に。でもしなやかで器用、独創的な動き。靡く髪が弧を描くように美しく、眩しい。曲が終わりに近づくとそれが一層増した気がした。最後にビシッ!! と決めて終わりとなった。

 「ふう……こんな感じよ。ありがとう!!」

 惹き付けられるダンス。見ていてとても楽しかった。湊川はそのまま席に戻ろうとする。

 「ミス湊川ー!! Please wait!!」

 それをダグラスが引き止めた。どういうことなんだろう?

 「? 何かしらダグラスくん?」

 「いやぁ、まさか被るなんてミーも思ってなかったのさ。だから……いいかな? 鈴音」

 「っ!! ……ええ、もちろんよ!!」

 ダグラスが手を差し出せば湊川が笑顔で応じて手を重ねる。なんだろう。この二人に温かいというかそんな感じの空気が漂ってる気がする。

 「ミスター近衛!! いいかい!?」

 「いつでも構いませんよ!! それでは」

 スタートという合図とともにまた音楽が流れる。今度流れている曲は……ん? もしかしてサルサダンス? 二人のダンスのキレがとても良い。相性が良い。ステージのライトが眩しく二人を照らしている。

 「きゃっ!!」

 そのとき湊川が一瞬躓き倒れそうなった。

 「おっと、大丈夫かい?」

 だがダグラスがそれを抱えるようにしかしリズムを乱さぬように受け止めた。

 「え、ええ。大丈夫よ」

 彼女の顔がほんのり赤い気がする。なんか見せつけられている感あるぞおい。

 何事もなかったかのようにダンスを続けた。動きすべて、何もかも目で追っていた。うわっと叫びたくなるくらい素晴らしいのだから仕方ない。ワンステップワンステップがビシッとしていて清々しい。最後は流れるように綺麗に決まった。

 「Thank you!!」

 「ありがとう!!」

 ドッと沸き立つ拍手。

 「とても素晴らしいものを見せてもらいました」

 「二人のコンビネーションが引き立ってたな」

 この二人、美男美女っていっても過言じゃないくらい顔いいからそれだけでも引き立つ美しさだよなぁと。

 「お見事でございましたよ。お二人とも」

 「楽しかったわ。ありがとう」

 「へへっ!! こっちこそ、突然だったのにありがとう」

 ダグラスは司会だから湊川がステージを降りる。そのときダグラスが近衛に近づいて何か耳打ちをしていた。近衛はくすりと優しく微笑んでいた。

 

 

 *

 

 

 「さぁてさてさて、あとはミスター玉柏とミスター橘の二人!! どうする?」

 「そんじゃ、俺もう一回出る。それでいいか」

 「勝手にしろ」

 手で指示をしながら玉柏はステージに降りる。その間にダグラスが指示されたものを用意していた。

 「ダグラス、三番頼む」

 「OK」

 「そんじゃ、着替えてくる」

 玉柏のことだから何かしらとんでもないもの出しそう。控え室にいって着替えてくる彼を待つ。近衛と比べると意外と長い時間の着替えだ。そう思っているとガチャリと音がする。控え室が開いた……ってうぇえええ!?!?

 「えっ、えっと、あの、その、その格好は……!?」

 「中国衣装だ。また見ればわかるだろ。このくらい」

 「変面、衣装……」

 こう、ここにいる超高校級たちの特技っていろいろすごいと思うんだけど。絶対このあとの橘も見せつけるんでしょ知ってる。

 「Music Start!!」

 壮大な音楽が流れ始める。ああこれは中国だとすぐにでもわかる。中国語がはっきりとよく聞こえて私的には気持ちがいい。

 扇子を巧みに動かし、見る人を魅了する動き。リズミカルに舞う姿がなんとも。キレがあってとても見やすい。ビシッ、ビシッとして格好がいい。

 ぐるりと右腕を一瞬で顔を通りすぎれば面が変わる。私たちを指さしまたこれなら変わりますよというふうに示しながらステージ上を動き回る。左手首のスナップを利かせて扇子を動かす。顔のほうに閉じたまま持っていったと思ったと同時に素早く扇子が閉じ開いて面が変わっていた。見せ方がうまい。変わる度にうおっとなり拍手が沸く。

 似たようなことを繰り返していると、私たちが座っている席に近づいてきた。手を伸ばすような動作をすると一瞬で自分の手で顔を覆い面を変える。目の前で起こっているはずなのに全く読めない。今度は私のところに近づいて手を伸ばしてきた。私も手を伸ばしてみると握手するように握られた。その時だった。ふと持ち上げられる感覚に襲われた。しかしそれはすぐに失せる。代わりに……目の前で、本当の本当に目の前で、面が変わったことに気が付かなかった。飛び上がりたくなるくらいびっくりしたけど、声が全く出なかった。

 ついに残り半面だけになった。フェイントをかけて変えるか変えないかを試してるみたいなことをしている。じれったい。あ、変え……変え変えないんかい!! ってなってる。伝われこの気持ち。そして最後の面をバッと外して、そのタイミングで音楽も終わり玉柏は頭に被っていた帽子を取って礼をした。

 「もう、とにかく凄かったの一言に尽きる」

 「ええ語彙力が消えてしまうくらいに」

 釘付けだったよまったく。

 「楽しんでくれたならなりよりだよ」

 

 

 *

 

 

 「最後になったね」

 「チッ、はえぇだろ……」

 まあ、確かに長いようで早かったからなぁ。

 「…………なんにも考えてねぇよ」

 考えてないんかい。

 「点字やら手話やらなんざてめぇら興味のくそもねぇだろうし。かといってもう被らせるのも癪だし。いやあん中に特技らしいもんはねぇけどよ」

 そこは考えてるのか。

 「別に趣味でもいいんだよ? 何でもいいだ」

 「…………おいディーラー、そこのドラムどけろ」

 ダグラスは言われた通りにドラムを退かせした。

 「ドラムって?」

 「延長コードのことだよ。正確にいえば電工ドラム」

 「へえ、あれドラムっていうんだ」

 そんなやり取りをしていると椅子を用意した橘がギターを持って杖を床に置きどかっと座った。

 「………………上手いも下手も、気にすんじゃねぇぞ……」

 私たちにそういうと深呼吸をして肩の力を落とした。

 「…………~♪」

 ギターを弾きながら歌い始める。どこか切ない歌だ。低く渋い声がホールに響き、包み、染み込んでいく。今までの披露での興奮とはまた少し違ったものを覚えた。とても感情がこもってる気がした。いや、本来ならこんなことは思うわけない。けれど今までの彼の様子を振り返ってもそう思うしかなかった。

 気持ちが違っていた。私はただただ鳥肌を立てるばかりだった。忘れていたことがじわりと思い出されるような、感動的な。

 「~~~♪」

 胸の中から込み上げてくるような何かが襲ってきた。何かがわからなくてもどかしい。けれど……

 「~♪」

 聞いたことのある優しい響きであることを、私はこの時点で思い出していた。

 歌が終わる。静かに身にしみる音色の余韻を、ホールが包んだ。

 「……ふう…………これでいいだろうが」

 拍手を忘れるほどに沈黙していた。はっと気づいて拍手をしようとした。しようと、したんだ。

 「これで終わりだろ。さっさと」

 「いや、え、橘くん?」

 「あ? んだよ」

 「それはこっちのセリフだよ!! 何で君は……君は泣いてるの(・・・・・)?」

 「…………は? ……??? は……???」

 橘は心底驚いていた。目を見開き下を向いて両手を自分の前にやって、そこでようやく自分が泣いていたことに気がついた。

 「な、なん、で……なんでだ!!? お、おおお、おれ、お、れ、おれは、俺は……なんで、ないて……泣けないはずだろ……!? なんでっ!!?」

 混乱しながら叫んでも、拭っても、溢れる涙は止まることを知らない。歯止めがきかなくなるような。むしろ勢いは増すばかりであった。途切れなく泣く。そして受け入れたように彼は杖を持って出口へと向かっていっていた。すぐに気づいて私は叫んでいた。

 「橘くん!!」

 出入口のところで彼はぴたりと止まった。いつもなら冷たくあしらっていたけれど、今日はなんだか、全てが違っていた。

 「………………………………やっとっ……………………」

 ボソッと溢した少し裏返った掠れた言葉を聞き逃さなかった。そのまま橘はコンサートホールを出ていった。

 

 

 

 *

 

 

 

 橘はいなくなってしまったが、それでも終わりの挨拶はしないととダグラスは譲らなかった。

 「今日は強制的ではあったけどありがとう!! Thank you!!」

 「こっちこそ、楽しい企画をありがとう」

 ダグラスは笑顔でグッと親指をたてた。彼らしい眩しい笑顔。

 「それじゃあ解散!! お疲れ様!!」

 とは言いつつも、私たちはそのまま食堂へと向かった。電子生徒手帳の時間はすでに、6時になっていたのだから。

 

 

 *****

 

 疲れた。食事は少し軽めだった。ブリュレとかお餅とか食べたしね。お風呂から上がったがどうしよ。時間まだあるし、けれど何かをやる気は起きない。

 コンコンコン。扉を叩く音が聞こえた。誰だろうと少し警戒しつつも開けると金室がいた。正直彼女が来るとは思ってなかった。

 「どうも、直樹さん」

 「金室さん。どうしたの?」

 「とりあえず中に入れてもらってもいいですか」

 なんだろうと思いつつも中に入れるとベッドにうつ伏せになるように言われた。

 「金室さん?」

 「少しじっとしていなさい」

 「えっ? っっ!?!? い、いだだだだ!?!?!?」

 「はぁ、やっぱり。ほらこことかすごく凝ってるじゃないですか!!」

 「ギャアアア!?」

 何をされているかって? マッサージされてます。肩と脇と腰。すごく痛い。マジで痛い。

 「い、いいいつからっららっ!?」

 「この間あなたに着付けしたじゃないですか。そのときに姿勢が少し悪かったので」

 「そうだったの!? いぃだだだ!!!!」

 「ええ。なので一度整えたほうがいいと思ったんです。折り紙に使っていた時間が余ったのでちょうど良い機会ですし押し掛けようかと」

 ホントタイミング。

 「それとその叫び方どうにかなりませんか。さっきから力抜けそうなんですけど」

 「いや、だっってぇええ!! 痛いから、本当に痛いからっ!! だぁあ!? だだだ!!!!」

 「ふっ、あはははははははは!!!! ちょっと直樹さん、あなたはどこまでおもしろいんですか!!」

 「ええぇ?」

 「ずっと笑い堪えるの必死だったんですよ。あなたはいつもおもしろい。一緒にいて飽きない人です」

 金室の力が弱まったのを感じて少し顔をそっちに向ける。

 「うちは思ったことを正直に言うせいで、誰かと馴染むってことが少なかったんです。ただお茶を淹れ一息つく時間が至福で」

 「金室さん……」

 「なのであのようにみんなと話せるのがとても、とても嬉しいんです。すべてを受け入れてくれるような、あの空間が」

 金室が少し私の背中にかける力を強めた。けど痛いというよりも気持ちがいい感じの力加減。

 「もちろんみんなで出てやりますよ。あのヤギの言う運命に流されるわけにはいかないんですから」

 「うん、そうだね」

 このあとさらに力が強まってまた痛みに悶え叫んだ。だんだんと気持ち良くなって、お風呂上がりで血行が良くなっていたというのもあってかうとうとしていた。

 金室に終わりましたよと言われて少しだけ起きて彼女を見送った。でも心地良さがまだ残っていたおかげで私はそのままベッドに入って眠りについた。

 

 

 *****

 

 14日目

 

 

 『おはようございますであるの巻ィ~!! 張り切って過ごすであーる!!』

 

 

 

 アナウンスと共に目を覚ます。……うん、覚ましたんだけども……アナウンス雑かよ!!? しかも巻ってなんだ巻って!! 物語の一節か!!!!

 夜は良かったのに変な目覚めだ。シャワー浴びてから食堂に行こう。

 嗚呼……………………なんだか寒い…………冷たい……って冷たっ!!? え、冷水で体洗ってた何私修行僧かよ!! すぐさまお湯に変えた。

 このあとドタバタしちゃってかなり遅れた。けど体は昨日よりも軽くなっていた。

 

 

 [newpage]

 

 遅れて食堂に着いた。しかしそこには近衛以外誰も見当たらず、いつもよりも寂しかった。

 「おはようございます。直樹殿」

 「おはよう。今近衛くん一人?」

 「……ええ。そうでございます。おそらく昨日の疲れが皆様出たのではないかと存じます……ですが……いつもより随分遅い……」

 「遅い?」

 「ダグラス殿でございますよ。ダグラス殿は規則正しくいらっしゃいますし、昨日部屋で寝ると仰っておりました。ですので普段ならもうすでにここにいらっしゃるはずなのでございますが……まだこちらには顔を出しておりません。部屋や外にいるのではとも考えたのでございますが様子を伺っても全く気配がなく……」

 「カジノにいるんじゃないの?」

 「そう存じております。しかしながら妙に胸騒ぎがして……彼にはいろいろ相談に乗って頂いていてとてもお世話になっております。そのこともありますから……」

 彼は顎に手を添えて悩んでいた。話している間もずっとモノクルを何度もいじっていた。

 「探してみる? 朝食準備は?」

 「そちらはもう済んでおりますよ。あとは盛り付けだけです」

 「……不安なら今行ったほうがいいと思う。私は、私の中で最大の不安は現時点で調べる術はないんだもの」

 「…………そう、ですよね。ええわかりました。探しましょう」

 私たちは食堂を出てダグラスを探しに行くことになった。

 

 

 ***

 

 

 非常階段を使って時間を短縮する。三階ホールに入ろうとドアノブに手を掛けた。

 

 ガチャガチャガチャ

 

 「あ」

 ああ鍵が掛かってた。まあ誰かここに入ったあとなら別に不思議じゃないか。

 「仕方ありませんから、ロビーにある鍵を取りに向かいましょう」

 「なら私行くよ」

 「よ、良いのでございますか? ではお言葉に甘えましてお願い致します」

 任された。さっきと同じ道のりで一階に降りて鍵を取ろうとした。……はずだった……

 「……えっ?」

 そこには鍵はなかった。いや、正確にはなかったわけじゃなく二階の控え室の鍵はあった。ただ三階と四階の鍵がなく、さらに金庫が開かれておりその中身は空っぽだった。

 「ど、どういうこと!?」

 叫んだ。思わず。

 「なーにがあったんだい?」

 その声を聞き付けたのか矢崎がこちらにやって来た。曰く散歩だそう。

 「や、矢崎さん。実は」

 矢崎に経緯を説明する。彼女らしからぬ難しい顔をしていた。

 「上に行こうか。状況をすぐにでも確認しておかないといけないからね」

 頷いてまた非常階段で一気に三階へ。近衛に鍵がないことを言った。

 「そ、それは本当でございますか? だとしたら……どうやって開ければ……」

 「近衛くん、君はピッキングなーんて出来たりするのかい?」

 「ピッキング……期待はなさらないでくださいね。昔少々習ったことはございますが」

 習ったことあるのかよ。

 「しかしながらその道具がなければどうすることもできません」

 「あるよ。これ。ガチャガチャでね」

 いつも忘れるガチャの存在感

 「!! これなら……ええ、やれます」

 そういうと鍵穴を覗いて中の様子を窺いつつ、ピンセットを差し込んでカチャカチャと器用に動かす。

 「誰かいる~!!? あっいた……ってえ、何やってるのよ……?」

 突然そういってきたのは湊川だ。

 「湊川ちゃん。見ての通りだよ」

 「見ての通りって……食堂誰もいないしⅡ棟も一つしかライトついてないからそこに人は固まらないと思って、かといって控え室には朝から行く理由もないから非常階段使ってこっち来たのだけれど……ていうか、ここピッキングなんて出来たのね……てっきりピッキング対策張ってるんじゃないかなって思ってたわ……」

 言われてみれば易々と鍵開けられたらたまったものじゃないな。

 「!! 開きました!!」

 若干嬉しそうなんだけど近衛は子犬か。

 「じゃあ四階行こうか」

 「ちょ、ちょっと待ってよ。何があったの?」

 「ダグラスくんがいないの。今日はカジノにいないはずだから既に食堂にいるはずなのに、いないから。もしかしてって」

 「そんな……!! 私も着いていくわ!!」

 湊川も着いていくことになった。ごめん、こんな状況下で思うことじゃないと思うけど心のツッコミさせて。何このRPG感!?

 

 

 

 ***

 

 

 

 コンサートホールを抜けてカジノへ行く。だんだんだんだん、おかしくなりそうなくらいに心臓がバクバクとなってきていた。

 「………………えっ」

 近衛が扉に手を掛けて開けようとすると全く開かない。ドアノブのやつから察すると……

 「また鍵が掛かっているのかい?」

 「え、ええ。五階はどうでしょう……」

 「私がいく」

 走って五階の扉に手を掛ける。しかし

 

 

 ガチャガチャガチャ……

 

 

 「開かない……」

 こちらも鍵が掛かっているみたいだ。降りてそれを報告する。

 「じゃあどうすれば良いのよ!?」

 「…………致し方ありません。先ほどと同じくなるべく速やかに致しますがまた多少お時間を」

 近衛がそういうと鍵穴を覗いてはまたピッキングセットを使ってカチャカチャと動かし慎重にかつ素早くピッキングをする。

 

 

 がちゃ

 

 

 扉の開く音が聞こえた。

 「これで扉は開くはずでございますよ」

 そういってまたドアノブに手を掛けて開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が

 「っ!! ど、どういうことでしょうか……?」

 押しても、引いても、横にしても開かない。

 「貸して!! ……っ、鍵は空いているわ……でも何で!? 何で開けられないのよ!!?」

 湊川もやってみたが開かないようで。…………まさか……

 「ちょっと退けて!!」

 二人を退かしてドア下隙間を覗いてみる……その奥は全く見えない。何かが扉の前にあるってこと!?

 「……扉の前に何かある……それのせいでここは開かないんだと思う……」

 「そんなことが……!!」

 「いえ、まだやれます。三人は下がってください」

 そういうと今度は燕尾服を脱ぎ捨て扉から距離を取り、そして

 「チェーストォ!!!!」

 それに向かってタックルをする。ドォーンという音とともに扉は開く。

 「なに!? 何の音!? チェスト!? 近衛(リーチ)もしかして鹿児島県民!?」

 「九州出身ではございますが違います」

 それと同時に渡良部がやってきた。ってツッコミそこかよ!! 確かに思ったけれども!! でも九州出身かい!!

 「渡良部さん!!」

 「ダグラス(ドラ)近衛(リーチ)もみんな食堂にいないからどうしたのかって心配だったじゃん!! ダグラス(ドラ)はカジノに行くからそこかと思って、なら二階いらないからすっ飛ばしてきたよ!!?」

 やっぱりみんな同じ理由で来て、同じ理由で非常階段使うか。とりあえず近衛のおかげでカジノの中へ入ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそこは

 「な、なによ、これ」

 まさに惨状と呼ぶべき場所だった。

 目の前には扉を塞いでいたであろう棚が倒れていて、ボロボロに成り果て、道がないような状態だ。棚も同じで。そして床は床でベタベタと酒やジュースが零れたあとみたいになっていた。

 ……ふと私はカウンターをみた。そこも棚が倒れているが不自然にも出入りできる方の棚は妙に浮いているように見えた。まさかっ

 「な、直樹殿!!」

 走った。そこに向かって。障害物競争をしているかのように障害物を掻い潜りそこまで行くと……『あの人』の足らしき、いや足だがはっきり誰かはまだ断定出来ないけれど、とにかく足が見えた。あの棚はその人の足で微妙に浮いていたのだ。棚が倒れた影響を受けてかアルコールの匂いが嫌でも鼻について曲がりそうだ。足元もべちゃべちゃベタベタぐちゃぐちゃで。けれど

 「うそっ……ッッ、うらぁあああ!!!!」

 何も考えてられない。体が勝手に動いていた。ただ目の前の状況に耐えきれなくて倒れた棚を持ち上げてそこにいる人をよく見えるようにしたかった。本来重いはずであろう棚はとても軽くて意図も容易く持ち上げられた。バリンっっ!! という瓶の割れる音がいくつか聞こえて体がちょっとすくんだ。もう1つのカウンターによって完全に倒れなかった棚をこちらも簡単に持ち上げた。

 

 

 そして、やっと確信を持ってその人を認めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乱れたこの空間

 

 

 きれいだったはずのカウンターは

 

 

 倒れた台や瓶によってぐちゃぐちゃに

 

 

 アルコール

 

 

 ジュース

 

 

 タバコ

 

 

 いろんな匂いが混じるなか

 

 

 ほんの微かに漂う血液の匂い

 

 

 カウンター裏に

 

 

 棚によって隠れた

 

 

 一人の影

 

 

 棚を持ち上げたその下で…………

 

 

 *

 

 

 “超高校級のディーラー”ダグラス・レッドフォードがビンの中身をひたすら浴びては喉と頭から血を流して死んでいた。

 

 

 *

 

 ぐしゃりぐしゃりと障害物を乗り越えて湊川と矢崎の二人が先にこちらへと来た。そして

 「あ、ああ……!!」

 「……さすがに冗談、キツいよ……これ」

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!

 

 

 

 

 

 『死体が発見されたであーる!! 一定の捜査時間の後ォ、学 級 裁 判 !! を開くであーる!!』

 

 

 

 

 

 

 アナウンスが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに渡良部たちも死んでしまったダグラスを視認した。

 「どうしてこんな……」

 「嫌だ……嫌だっ……!!」

 「ダグラス、どの……っ」

 渡良部と湊川が嘆く。近衛も苦虫を噛み潰したような表情だ。その場にいるみんな誰もがそうだった。

 「おい!! 一体何があったんだ!!?」

 しばらくすると遅れて巡間がカジノへとやってきた。

 「巡間くん……見ての、通り……」

 「なに!? ……っ!! ダグラスくん……」

 巡間もまた同じだった。ここで一体何があったんだろう……こんなにも無残なのは……

 

 

 

 プルルルル!!!!

 

 

 

 今度は誰かの電子生徒手帳が鳴った。私のではない。

 「……!? わ、私の!? 誰!?」

 渡良部のだ。

 「……はい?」

 電話に出て、カジノの空気が一気に静かに、元々冷たい部屋がさらに冷たく感じられた。

 「………………は? な、なにいって……」

 額から汗が床にまで流れ落ちていく。通話を終えた渡良部は手帳を握りしめて顔を下にする。そして覚悟したように髪を靡かせながら前をバッと見て

 「……っ直樹(なおき)!! ついてきて!!!!」

 普段ならあだ名で呼ぶところを苗字で私を呼んだ。余裕がない声。荒れている床をものともせずに私の手を引っ張ってカジノから出た。危ない。

 「わ、私も行くべきか」

 「あんたはここで先に検死してっっ!!!!!!」

 渡良部は巡間のことを突き放すように怒鳴り付けた。

 「今すぐ行くよ」

 「ど、どこに?」

 「いいから着いてきて……」

 手を離した彼女は振り向きもせずにただ前に走った。その背中を追う。階段を降りホールを抜け、また階段を降りる。……二階に繋がる階段を。

 二階に行くと控え室の扉の横で__が壁によしかかって顔を片手で覆っていた。そしてその周りには血液が。

 「あんたの言った通りきた。でも何でそんな」

 「…………_______」

 そいつはゆるゆると立ち上がって扉を開けた。入れと言われて入ってみた……

 

 

 そこには

 

 

 

 

 

 

 冷たい空気に包まれながら

 

 

 ふと左側を見つめた

 

 

 ずっと押さえつけてても

 

 

 それは止まらずに

 

 

 染め上げていた

 

 

 だが海はほぼ吸い上げられていた

 

 

 床にあるのは

 

 

 わずかな血液と

 

 

 涙と

 

 

 部屋へと続く痕だけで

 

 

 その痕の先には………………

 

 

 

 

 

 

 “超高校級の弁護士”国門政治の目の前で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “超高校級の杖術家”橘実琴が腹部から流れた血液をジャケットで抑えながら幸せそうに息絶えていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   何があったのかはわからないけど

 

 

 

      私たちは最初で最後の

 

 

 

     橘の笑顔を見たのであった

 

 

 

 

 

 

 

        カラン…………

 

 

 

     運命のダイスによる傷が

 

 

 

      私たちを抉っていく

 

 

 

 

 

 

 

 





 どうも、こんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海です。今回はいかがでしたでしょうか。三章の死体発見ということもあり、覚悟していらした方もいると思います。ですがこんな展開もありかなと。みんなの別の姿も楽しんでいただけたなら嬉しいです。
 では次回捜査をお楽しみに。


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第三章 非日常編 分かれ道5部屋目


 どうもこんにちは、こんばんは、おはようございます。炎天水海です。
 今回の被害者たちのうち、片方は予想出来ていた方が多く、もう一人は「?????」ってなっている方がいらっしゃったようで。基本的に嘘はついていないつもりですが、まあなにが起こるかわからないですね。
 分かれ道5部屋目です。発想力、大事ですからね。ちなみに裁判自体は書き終えています。やはり、今まで以上にしんどみが高いです。地味な二章とは比べ物にならない。書いててしんどくなってました。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 「翻訳家っ!!」

 

 「!!」

 

 「俺は……てめぇらの、仲間でいられてるか……?」

 

 「……………………当たり前だよ……」

 

 「……っ……わりぃ。変なこと聞いた……」

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!

 

 

 

 

 

 『死体が発見されたであーる!! 一定の捜査時間の後ォ、学 級 裁 判 !! を開くであーる!! ヒヒヒ、ヒィァッハッハッハッハッハァ!!!!!!!!』

 

 

 

 自分が仲間であることをずっと気にしていたであろう君がどうして

 

 

 殺されているの?

 

 

 

 *****

 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 「ど、どうして……!?」

 「どうしても何もないっ!!」

 国門が怒鳴る。その顔からは怒りが滲み出ていた。

 「お前ぇら、…………なんで二階に来なかったっ!!!? 早ければ……こいつを、助けられたかもしれねぇのに!?」

 「そんなこと言ったってねあんた!? ダグラス(ドラ)が朝からいなくて心配になって、みんなカジノにいるかもって非常階段使って……っ」

 「……まさか運命ダイスか? それが言い訳か!? ふざけるな!! だから言ったんだぞ!! 僕らの隙をついて殺るかもしれないやつが現れるってな!!」

 「そこまでだ」

 ふと聞こえる声に私たちは振り向いた。玉柏だ

 「そんな不毛な争いしてる暇なんてないだろ。他とは違ってここの二階の廊下は狭いし人が集まれば捜査困難なのもわかるだろ。貴重な捜査の時間を無駄にするな」

 「くっそ……どういうことなんだよ……」

 

 

 

 ピンポンパンポーン

 

 

 

 『あァ、オマエラァ!! 一度Ⅲ棟コンサートホール内に集まるであーる!!』

 

 

 

 ブツン

 

 

 

 突然アナウンスが鳴ったかと思えばコンサートホールに集まれとの指示。一体何をする気なんだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 コンサートホールに全員が集まる。全員にダグラスと橘の死を告げると、驚き絶句される。そうだろうなとは思ったけど。特に……橘に関しては。しばらくするとモノヤギやって来た。ダグラスのコスプレである。湊川がそれから目を逸らしていた。

 「揃ってるであーるなァ? では早速説明するであーる!! まずゥ、今回二人の被害者が出てしまったであーるなァ? それについて少し補足するであーる」

 「補足ですか?」

 「今オマエラの電子生徒手帳にィ簡単な表を送ったであーるからそれをよく見てみるであーる」

 よくわからないけどとりあえず見てみる。

 

 

 

 

 

 一番最初に発見された被害者をA、二番目に発見された被害者をBと仮定する

 

 

 ・もしAがB(BがA)に殺され、そのB(A)が別のクロCに殺された場合Cがおしおき

 

 ・AもBもクロのCに殺害されたらCがおしおき

 

 ・AをクロCが、BをクロDがそれぞれ殺害した場合、CとD二人ともおしおき

 

 ・A (B)が二人のクロCとDに同時に殺害された場合、CとDのうち提案もしくは教唆したほうをクロとしておしおき。そしてB(A)がCとDに同時に殺害されたらこちらも提案もしくは教唆したほうがクロ。

 もしB(A)を別のクロEが殺害したらEもおしおきされるし、CとDのどちらか単独で殺害したら殺害したほうがおしおきされる。

 

 

 

 

 随分と複雑だ。けど確かに二人犯人がいるかもしれないんだ……

 「おい、前お前ぇは実行犯がクロとしておしおきされるって言ったぜ? この最後の項目はどうして教唆したら犯人になる? 罪が多くなるからという理由か?」

 「わかってるなら聞かなくてもよかったであーるよォ。今国門が説明した通りの理由であーる」

 罪が多くなるから二人で一人を同時に殺害した場合おしおきされるのは教唆犯なのか……

 「補足はそれぐらいであーる。裁判までに校則に追加しておくであーるからなァ!! そしてこれが今回のモノヤギファイルっ!! 二人被害者がいるからァ二人分あるであーるよォ!! では解散ッ!! 捜査をするであーる!!」

 そういってモノヤギが姿を消した残された私たちはどうするかを決めることに。

 「あの、一つ前提として考えていただかなければならないことがございます」

 近衛がゆっくりと手を挙げる。なんのことだろう。

 「この事件は……二重の密室殺人でございます。コンサートホールに入るとき三階の鍵がかかっており、さらにカジノの鍵もかかっておりました。しかも鍵は未だ行方不明のままでございます……こんなこと出来るわけがないと存じておりましたが、今起きてしまった。これを踏まえた上で少し考えながら捜査していただければ裁判中少しだけ楽になるのではないかと。無理に考えろと言うつもりは到底ございませんので何卒ご協力を……」

 頭を深く下げて私たちに願い出た。二重の密室殺人。そうだこの事件はとても難解なものになる。この密室……犯人はどうやって作りあげたのか……考えなきゃ。少しでも

 「頭をあげるんじゃ近衛。わかっておる。皆で協力して事件を解決に導かねばならん」

 「そうですね。難しい裁判かもしれませんが頑張って乗り越えなければいけませんから」

 「ありがとうございます」

 礼をして、そしてこれからについて話すことになった。

 「私はさっき湊川くんとダグラスくんの検死をしていたからこのまま続けよう」

 「犯人を見つけなきゃいけないもの……ダグラスくんのためにも」

 「あたいは橘くんを見るかい?」

 「いや俺がいく。矢崎は普通に捜査を頼む。国門お前も捜査してくれ」

 「そのつもりだぜ。というか少し落ち着きてぇんだ」

 国門の眉間には今まで以上に皺が寄っている気がした。

 「とりあえずここでのさばっても仕方ないじゃろうて。捜査開始じゃ」

 

 

 ***

 

 

 

      **********

         捜査開始

      **********

 

 

 

 

 「あとからそっち行くよ」

 「わかった。検死終わったら俺もついていくことにしよう」

 さてとまずはファイル確認っと。

 

 

 モノヤギファイル3-1

 

 被害者:超高校級のディーラー「ダグラス・レッドフォード」

 死体発見現場:Ⅲ棟四階カジノ内

 死亡推定時刻:夜中

 死因:頭部を殴られたことによる脳挫滅。即死

 補足:喉に切られた痕あり

 

 

 

 

 脳挫滅? 脳挫傷となんの違いがあるんだろう。それに……夜中って……えっと次に橘くんのファイル……

 

 

 

 モノヤギファイル3-2

 

 被害者:超高校級の杖術家「橘実琴」

 死体発見現場:Ⅲ棟ニ階控え室

 死亡時刻:さっき

 死因:腹部を刺されたことによる大量出血

 補足:刺された場所がやや右より

 

 

 

 

 は? さっき? さっき死んだの? っ国門くんのいう助けられたかもしれないはこのことだったんだ。けどなにこの曖昧な時間。今回の事件は完全に夜中に起きた事件なのか?

 とりあえずざっと見たし、コンサートホールにいるからここから探索しようっと。灰垣が残って捜査していた。

 「直樹よ、ドラムってあんなところにあったか?」

 「え? どこ?」

 「あそこじゃよあそこ」

 灰垣が指差すところは四階に側の扉付近。ホントだ。しかも2つもある。

 「コードもだいぶ乱れておるな。なんのために……ん? あそこに何か見えるぞ……?」

 チラリと席のほうを見た灰垣がなにかを見つけたようだ。

 「目良いね!? なに見つけたの?」

 「行ってみないとわからん」

 そういって見つけたというもののところへといくとそこには真っ二つに折られた棒があった。これってまさか

 「これ巡間くんがビリヤードで使っていたやつだよね?」

 「はぁ……しかしなぜここにおいてあるんじゃ? カジノではなく。巡間がこんなことをするとも思えんし」

 折られた棒……ドラム……んー? なんだろう……

 

 

 ***

 

 

 コンサートホール内の控え室に入ればいろんなものが並べられていた。けどあんまり変わりなさそう……ていうかあんまり見てなかったけど、トンカチとか鋸とかこういうのおいてあるんだなぁ。すぐに道具をどうにかできるようにするためなのかな。ガムテープもおいてるし。きっとそうなんだろう。あれ、なんか、昨日使った包丁とかガスバーナーとかいろいろ足りないような……? 楽器庫も見てみるか……ひえっごちゃごちゃしててわからない。でもめぼしいものは特になさそう。

 

 

 ***

 

 

 コンサートホールを後にして、まずは……二階行こう。玉柏くんが検死をしてくれている。ていうか検死できたのか。

 「玉柏くん、そっちはどう?」

 「ああ。ファイルの情報と一致したな。大量出血……ジャケットを見てみればこんなにも血がついていた」

 そういってそれを少し見せられた。うっとなって少し後退る。

 「見慣れないもんだよな。そりゃ。そうそう、そこに杖あるんだがな、なんでか片方の先端部分しか血ついてないんだ。あと左手には血が一切ついてない」

 「杖……初めて持ったけど意外と重さあるんだ」

 「軽すぎず重すぎずってところだな。しっかし……」

 玉柏の目が少し悲しみに溢れていた。彼はずっと見つめていた。

 「…………この、大バカ野郎が」

 そういってゆっくりと立ち上がった。

 「さてここはもう良いだろう。他探索するか」

 「……うん」

 返事をしたものの何でか素直な気持ちでは思えなかった。橘の死によって、私たちの中にあった緊張感がどこか行ってはいけない方向へと向かっているようで。

 「あでも待って。一応ここの捜査する」

 「わかった」

 といってもなにか変わったことがあるわけでもなさそうなんだよな。……うーん? あれこれって宮原くんのポーチじゃ……中を覗けば釘とかペンチとかドライバーとかいろいろ入ってた。けどなんか金槌見当たらない? 周りを探しても見付からないから誰か使ったままにして戻してないとか? それとも……

 

 

 ***

 

 

 三階をまた通って四階へと向かう。カジノに入るとやっぱりその惨状は凄まじいものだった。

 「これは……ひどくないか……争ったんだなこれは」

 「うん、そうみたい。瓶とかの中身が出てるし割れてるし……」

 「台までこんな倒れてるって……馬鹿力かこれは」

 「さあ……?」

 ひとまず立ち往生するわけにもいかないからその場から離れ

 

 コツッ

 

 ようとしてなんか蹴った。

 「どうした?」

 「何か蹴ったみたいで……あった」

 それは正方形の木だった。少しだけ凸凹しているみたい。

 「台か何かの欠片かな?」

 「さあな。でも欠片にして随分デカイな」

 「そうなんだよね……ってあれ、あそこにもある」

 「? ん、そっちにも2つ」

 4つ? なぜ? とりあえずカーディガンに一つ仕舞っておこう。何かのヒントになるかもしれない。

 検死のほうどうなってるかを確認するために向かうと湊川と渡良部が棚を押さえて巡間が検死をしていた。

 「二人掛りで押さえてるの?」

 「瓶とか台とかのものがごちゃごちゃしちゃったせいで棚が倒れちゃうのよ」

 「一人じゃキツそうだったから渡良部くんを呼んだんだ。悪いな上の捜査してたのに」

 「いいよ別に。ダグラス(ドラ)が死んでツラいのは湊川(シャー)あんただけじゃない。わかってるしょ」

 「うん」

 「そっか。……って玉柏くん?」

 ふと玉柏のほうを見てみると……血の気の引いた顔があった。

 「え、ちょっと!?」

 「っすまん、吐き気が……」

 玉柏!? 止める間もなく玉柏は即座にその場を離れて四階を出た。

 「どうしたんだ一体……」

 「………………たぶん……」

 その先を言おうとして私は口をつぐむ。玉柏にとってあの死体は……きっとトラウマなんだ。言わないほうがいい。

 「ううん、それよりも検死はどう?」

 「ああ。特に目立ったものは見当たらなかった。首には切り傷。ただ左手にこれがあった。あとで三階に行くとき確認してきてくれるか」

 渡されたのは三階札のついた鍵だった。そういえば鍵に札ついてるんだっけ。

 「三階の鍵か……」

 「それとここの鍵もカジノの中央辺りに転がってた。本当にこれは完全密室事件だよ……」

 しかも二重ときたもんだ……

 「そうだ。巡間くん。モノヤギファイルにあったこの脳挫滅って? 脳挫傷と何の違いがあるの?」

 「脳挫滅は別名『頭蓋骨陥没骨折』。頭蓋骨の一部または大部分が粉砕されている。延髄、小脳など、深い部分まで脳が破壊されていることがほとんどなんだ。まず……助からない」

 「そんなっ……」

 「固い鈍器で頭部を殴られて今回は引き起こされたようだ。これは頭部への強力な物理的衝撃引き金となって起こる致命的な重傷なんだ。鈍器になるものはここにたくさんある……未開封の瓶とか……」

 目を逸らしたくなるほど恐ろしい。そんなことが起きたんだって直視するのがつらくなってしまう。

 「……サングラスは?」

 「湊川くんが持ってるよ」

 「少しひびが入っちゃってたけど……忘れたくないから……」

 「そっか……」

 湊川の顔が相当深刻で大丈夫なんて到底思えないし言えもしない。

 「っいった!!」

 「え、渡良部さんどうしたの!?」

 「ごめん、ここ押さえて……右目にゴミ入った……」

 渡良部と交代し棚を支える。意外と重量があるのを改めて知る。右目を擦り痛いといいながら左目で私たちの様子を見る。

 「こら、あまり目を擦ったらダメだ。目のいろんな構造物が影響を受けるし、他にもデメリットばかりなんだぞ」

 「そうなの!? 知らなかったわ……それなら眼帯とか……」

 「眼帯は眼球の保護または湿布をするためのものだから役に立つのか……? 覚えてないな……とりあえず水は近くにないから……瞬きを繰り返しなさい。そのまま涙の洗浄機能で異物を流すんだ」

 「ご、ごめん」

 巡間の指示に従い渡良部は目を瞬きし始める。

 「あと眼帯のことなんだが、なぜか眼帯は医務室にないんだよ」

 医務室なのに道具が揃ってないのか。これ如何に。

 「よし。あと変わるから。あ、上の捜査途中だからいい?」

 「わかったよ」

 なんかいろいろ不安なまま、私は五階のほうへと行ってみることにした。

 

 

 ***

 

 

 五階はそこまで荒れていなかった。そして……五階の扉前に棚があった。でも棚なんて置いてもここは内側から押して開けるやつなのになんで棚を……あれ鍵開いてる。しかもドアノブのすぐ下にトランプが箱ごと何個も積まれていた。もしかして……できるかも? 密室。

 でもそれ以外の特にヒントはなさそう。

 と次の瞬間キイィっと目の前で扉を開ける音が聞こえた。金室がやってきたのだ。ちょっとびっくりした。

 「あ、金室さん」

 「どうですかそちらは」

 今までのことを少し話すと金室がそうですかとうつむいた。

 「実は……昨日の夜中にダグラスくんに会いました」

 「本当?」

 「ええ。部屋を出て一階に行こうして。ただ他愛のない話をしていただけですし。まさかあのあと殺されていたなんて思いませんでした……」

 夜中に会ったのに、朝にはいない空しさ。これが本当に……

 「下にいる方にも少し話してきますね」

 金室と別れる。私は巡間に頼まれたことを試しにいくことにした。

 

 

 ***

 

 三階へ降りて鍵を確認してみた。……鍵の形はしっかり合った。これは間違いなく三階の鍵。どうやって……

 「はぁ……はぁ……」

 すぐ近くで呼吸を整える声が聞こえた。まさか

 「玉柏くん……大丈夫……?」

 「はぁ……はぁ……だ、大丈夫だ……悪い……」

 そんなこと言って本当は大丈夫じゃないくせに。私は背中を擦ってみる。抵抗することはなく、少し呼吸が落ち着いてきた気がした。

 「ほんと、悪いな」

 「今さら何言ってるの。そんなのお互い様でしょ」

 「……ダグラスの殺されかた、見たんだろ?」

 「うん……」

 「ダグラスの死に方な……俺の母さんとほとんど同じだったんだよ……見てられなくてな……」

 私は何も言えなかった。ただ語られることについて相槌を打つしかなかった。触れたら絶対に悲しませることになるから。

 「……そろそろ、本当に捜査しないと……」

 「無理すんな!!」

 「!?」

 「いつも言われてるから言い返しただけ」

 驚いたと目を見開かれてポカーンとしてるのに心の中で笑ってやった。やれやれとはにかみながら笑った彼は立ち上がる。

 「やるか。相棒」

 「もちろんだよ。相棒」

 

 次の瞬間

 

 「退けてくれ!!」

 猛ダッシュで国門が走ってきた。何々なにがあったの!? 私たちに見向きもしないで通りすぎる。

 「なんだあれ?」

 「……ランニング?」

 「ボケんな」

 ボケたかった。

 

 

 ***

 

 

 一階まで降りるまでに現状を玉柏にいろいろ説明する。眉間にシワを寄せて考え込む。

 「もし争ったなら抵抗したはずだよね?」

 「……抵抗できなかったかもしれないけどな。ダグラスは見た感じ筋肉があるほうではないみたいだしな」

 この盗賊の目どうなってるの。そうこうしているうちに一階について矢崎を見つけた。

 「そっちはどう?」

 「んー今のところ収穫はないね。けどここの金庫見てごらん」

 促されて見てみる。けど何も変わった様子はなさそうだけれど。

 「少し……歪だな」

 「直樹ちゃん、金庫の中触ってみて」

 恐る恐る触ってみると……ほんとだ。なんかぼこってしてる。

 「金庫って元からそんな感じなのかな?」

 「どうだろうね。けど普通はこうならないんじゃないかなぁ」

 不思議なことが増えるばかりだ。

 

 

 ***

 

 

 他に捜査する場所あるかなぁと考えてまた四階へ上がる。とその扉の前に近衛を見つけた。何か悩んでいるようにも見えるけど……

 「近衛くんどうしたの?」

 「直樹殿、玉柏殿。いえ……あの扉を塞いでいた棚をどこかで見たような気がいたしまして……どこだったのかなぁと……」

 「思い出せー思い出さないと脳細胞死ぬぞー」

 「変なこと仰らないでください!!」

 全くだよ私でさえ記憶曖昧なところ多いのに。

 「わたくし、昨日は特に何か特別なことをしたわけでもございませんでしたし……」

 「そっか……」

 「少し思い出すのに時間をかけてようと存じます。ちなみに非常階段の捜査を行っておりましたが、特に変わった様子はございませんでしたよ」

 「了解」

 

 

 ***

 

 

 ここで一度玉柏と別れた。三階、四階内の捜査をしたいらしい。四階について一人で大丈夫かと聞いたらダグラスに近づかないようにすればなんとかって言われた。不安だけど、信じてみることにした。

 さてどうしよう。他に捜査するべき場所はあるのかどうか……あ、国門くんと話してない。見つけなk

 「疲れた……」

 「いたよ目の前に」

 「はいぃ……?」

 国門発見。さっきからずっと走り回っていたらしくそのせいで息が随分と上がっている。

 「何Ⅲ棟中を走り回っていたの?」

 「ランニング」

 「うそつけ」

 「いや、ぶっちゃけ……頭スッキリさせたかったから……間違っちゃあねぇ……本命は……すこし、建物について気になることがあったから、なんだぜ……それを解決しないと、ってな……はぁ……」

 今この状態で聞くのは野暮だから座らせ呼吸落ち着くまで待つことに。落ち着いたころに尋ねることに。 

 「ねえ、どうしてあのとき二階に行ったの? それに……『どうなってる』ってどういう……」

 「…………ふう……長くなるから」

 頷いて隣に座った。

 「食堂には、誰もいなかった。変だと思ってⅡ棟を見たら……なぜか、宮原の個室が光ってたんだ……不思議だった。だって電子生徒手帳がないと開かないやつだから。それでⅢ棟の二階ならあるんじゃねぇかって……な……そして向かったら……床に血があった。そしてそれが控え室にあるってことに気づいた。入ったら……橘がいたんだよ。血を流したそいつが」

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 「おい、これは一体どういうことなんだよ!?」

 

 「見りゃ……わかるだろ……俺はこれから…………死ぬんだ……」

 

 「バカかお前は!?」

 

 「バカで結構だっ!!!!」

 

 「っ……なぜ刺された……」

 

 「……へへっ、愚問だぞそいつぁ……単純な話だ。俺は見回りしてたんだ。んで、刺された。そしてもうひとりも……きっと殺された。誰かまではわからねぇけどよ」

 

 「…………どうして」

 

 「そういう『運命』だっただけ……ゴハッ!! グフッ!?」

 

 「お、おい!!」

 

 「……」

 

 「……っ?」

 

 「グゥッ……何も言わなくていい。頼む。俺を……俺たちを殺した犯人を……てめぇらで、暴いてくれ……やつは………………ずっと苦しんでやがるから」

 

 「言っている意味が理解できねぇぜ……」

 

 「ははは……いいんだよ、それで……」

 

 「ていうか巡間を呼んだほうが」

 

 「バカ言え……もう助かる状態でもねぇんだ。このまま自然にまかせて……俺は死ぬ」

 

 「……自分で言ったことを忘れたか」

 

 「さぁ……な………………1、3、6、5、1、5、6、1、3、5、6……覚えろ……」

 

 「? なんだ……その数字は……」

 

 「……ほん、やくかに……これを……伝えろ……裁判で……とうぞくが……りかいしてくれグハッグハッ!!!!?」

 

 「!! しっかりしろよたちば」

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!

 

 

 

 『死体が発見されたであーる!! 一定の捜査時間の後ォ、学 級 裁 判 !! を開くであーる!!』

 

 

 

 「おい……うそだろ……」

 

 「やっぱり、ころされ……ちまったのか………………まもれなかったな…………嗚呼…………もっと……生きてたかった……なぁ……」

 

 「おまっ」

 

 「……かずえの……ために……つぐないの……ために…………きぼうのために……いきて…………たかったなぁ……?」

 

 「っ!! それは一体っ……!!」

 

 「じゃあな? ぜんぶ……たくすから……弁護士(くにかど)。………………犯人は……やつ……だ………………」

 

 「……っ!! ………………たち、ばな……、 橘? おい!? 橘!!? 橘っ!!!!」

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 「そんな……ことが…………」

 「右肩を押してそのまま崩れるように死んでいった。僕はしばらく放心するしかなかった。だから今でもよくわかっちゃいねぇんだ」

 「それにその……番号? よくわからないんだけど……」

 「僕も同じだ。けど玉柏なら何かヒントを知っているかもしれねぇんだぜ。ってことはなにかしらの希望があるってこと」

 信じてみるしかないとポケットに手を入れる。何か……まさぐっているようにも見えた。

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン!!!!

 

 

 

 

 『そろそろォ……捜査を終了にするであーる!! オマエラァ!! 噴水前に一度集まるであーる!!』

 

 

 

 

 ブツッ……

 

 

 

 来ちゃった……

 「始まるわけか」

 「ねえ、ずっと気になってるんだけど。最近ずっと口調裁判時ばかりじゃない?」

 「…………裁判を重ねるごとに、そうなってるんだぜ。そろそろ……本格的にヤバい」

 制御が利かなくなるってことなのか。

 「ああ余計なことついでだけどよ、密室事件は一応得意なほうだぜ」

 「ほんと!?」

 「あくまでも『一応』って話だ。今はまだ情報が足りない。それに……密室意外にも気になることは山ほどあるし」

 「…………証拠はある。これをどう暴いていくか……」

 「詰め込みすぎるのもよくないぜ。柔軟にやらなきゃ固定視点は危険だぜ」

 「……行こう」

 私たちはそのまま外へと向かう。その道中、灰垣が念珠を持っているのを見つけた。……きっと祈ってるんだって。

 

 *****

 

 外へ出るとなんかから解放された気分になった。そうか。今までずっとアルコールやらの匂いがきつかったのか。あの一瞬で慣れたの私? いろいろダメじゃん。でも……正直捜査前に着替えたい気持ちはある。四階べちゃべちゃだったし……靴の換えは一応二足あるから今履いてる分含めて計三足。ここにいる限りヘビロテ確定なんだけど三足で足りない気が……いやその前にみんなで出られればいいのか。

 「おい直樹」

 「あ、玉柏くん」

 玉柏の顔色は……いまいち。やっぱり無理して近づいたんだな。けどそれを悟られないようにしてる風にも見えた。

 「首尾は?」

 「まあまあ?」

 「そうか……っと!? なんだこれ?」

 玉柏がなにかを踏んだらしい。それはガムテープだ。ぐしゃぐしゃの。

 「なんでこんなのが外に?」

 「犯人が始末し忘れたんだろうな。間抜け……とは言えないんだよな……このトリックは。解くのに時間が必要なんだから」

 ダグラスと橘。二人の被害者を出したⅢ棟の二重密室殺人事件。これを……私たちは解決できるのか?

 

 そして私はこのとき、なにか、深い、深い、恐ろしいものを感じた気がした。

 

 

 

 

 

 次回

 変幻6部屋目

 

 

 

 

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 ある人は「もどかしい」かった

 その人は「目指して」います

 

 ある人は「従って」います

 

 ある人は「見て」いました

 その人は「溶け込もう」としています

 

 ある人は「見られたく」ありません

 

 ある人は「守って」いました

 

 ある人は「忘れて」いました

 そして「抱えて」います

 

 ある人は「苛立って」いました

 その人は「疑って」いました

 

 ある人は「引っかかって」しまった

 

 ある人は「たえて」いました

 

 ある人は「保って」います

 

 ある人は「潜んで」います

 

 ある人は「強がって」います

 

 ある人は「縛られて」います

 

 ある人は「できなくなって」いました

 もはや「侵されて」きています

 

 ある人は「恐れて」いました

 その人は「大事に」したかった

 それはそれは変わらぬ「想い」で

 

 ある人は「不安」でした

 もうその心配はありません

 

 

 _________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある○の○は○○が○○です

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三章 非日常編 変幻6部屋目


 どうも、炎天水海です。pixivには先日裁判まで投稿終えました。こちらも明日には7部屋目を投稿する予定です。
 推理するのも困難な三章裁判。彼らはどんな訳をするのでしょうか?


 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 *****

 

 噴水(という名のエレベーター)前に全員が揃った。全員が揃ったのでそろそろ水が消えてもいい頃だというのに一向に水が引かない。

 「え、どういうこと?」

 「さあわからない。……いっそ点呼取るか。出席番号順に。最初の人数16人、それから今日までの間で6人減っている。10人いるはずだな。よし、金室」

 「はい」

 「国門」

 「おう」

 「近衛」

 「おります」

 「俺もいる。直樹」

 「はい」

 「灰垣」

 「うむ」

 「巡間」

 「ああ」

 「湊川」

 「いるわ」

 「矢崎」

 「はい」

 「渡良部」

 「ん。10人ちゃんといるけど」

 じゃあ何で噴水の水引かないんだ。そう思っていたらモノヤギが姿を現した。

 「全員揃っているであーるなァ?」

 「揃ってるけど、なんでエレベーターにならないのよ」

 「…………はあァ……」

 モノヤギは露骨に大きなため息をついて私たちに蹄を向ける。

 「オマエラァ!! 全員、Ⅰ棟の個室でシャワー浴びてこいィッ!!!!」

 ………………おん?

 「しゃ、シャワー?」

 「オマエラのその格好見てられるかァ!! 特にカジノに入った人ッ!! 服がベタベタした状態で裁判なんて気持ち悪いであろうッ!!?」

 うんさっき思ったばっかりだ。

 「というわけで全員30分以内にシャワー浴びて着替えてくるであーる。裁判はそれからするであーる」

 なんだろう。すごく、なんだろう。語彙力が溶けてる。モノヤギってこんな感じだっけ?

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 とか思いながらシャワーちゃちゃっと浴びた。服も替えて……ん? あれ、なんか、服変わってる? けど他に服はなさそうだ。ひとまず着替えよう。……他の人もこうなってるのかな。玉柏はないだろうけど。

 

 ぽとっ

 

 あ、カーディガンに鷹山のノート入れてたんだった。遺品……とはあまり表現はしたくないけれど、いなくなってしまった人たちのものを持っているとその人がそこにいるみたいに思えてくるから実は常に持っている。今回も持っていこう。

 

 

 ……………………

 

 

 この裁判が終わったら、__の__を彼に添えてあげよう。

 

 

 ***

 

 

 戻ってきた。すると先に来ていた灰垣と金室の二人の服装が変わっていた。

 「玉柏くんは変わってないんだね」

 「まあ案の定というところだな。お前はなんか、パーカーだったせいか少し涼しく見えるな?」

 「靴下まで肌色のタイツに変わっちゃってるんだよ……足晒すの恥ずかしいんだけど……」

 狭い間隔の紺と白のボーダーTシャツにいつものカーディガン。青のスカートだ。

 「灰垣くんはガッツリジャージになったんだ」

 「じゃな。カジノ行ったわけでもないのになんでだか。しかも正直この色はわしに似合わん」

 灰垣は赤のジャージ。確かになんか合わない。

 「動きづらいです……」

 「あれ? 金室さんその和服ってあのときの?」

 「はい。気づいたら部屋にありました」

 金室は桜の和服だ。しかも靴もサンダルに変わっている。

 「窮屈……」

 窮屈過ぎるのが好きでない彼女のことだから解せないのか。

 「あら? 三人とも変わってるのね」

 「変わってる人は変わってるし、変わってない人は変わってないね」

 それから他にも来た人たちの服は変わっていなかった。

 「なぜ?」

 「わからん…………いや……わしにはわかる」

 「え?」

 「なんでもない。それよりも水が引いてきたぞ」

 噴水の水が徐々になくなり、やっと乗ることができた。

 

 

 ***

 

 

 ガタンっと下に向かうエレベーター。ここの人数が随分と減ってしまった。六人されど六人。有限な命。それが儚く、虚しく、残酷に、冷酷に散るさまは、吐き出しそうなくらいの毒のよう。慣れるわけにはいかない。けどなぜか私は…………人の散るその光景を何度も何度も、絶え間なく見たことがある気がした。それは最近になって思い出した記憶。教えられた記憶。やや怪しいけれど……信用できるって。

 押されたところに手をおいてみたら、優しい余韻が染み付いて離れないらしいことに気づく。

 …………ねえ、何を思っていたんだろう。何を感じていたんだろう。何を見ていたんだろう。何を……?

 

 悩んでいると浮遊感に襲われた。エレベーターが止まった。こつこつ裁判場へ向かう足音が聞こえる。私も降りなきゃ。

 「直樹」

 先に裁判場へ行った玉柏に声をかけられた。

 「……ガムテープについて少し調べた。んでな、こいつそこまで長さがなかった。まあカウンターと扉の距離がなかなかあるし、密室の手掛かりになるかと思ったんだけどな」

 「現時点ではまだ不明瞭な点が多い……けどヒントにはなるよね」

 「ああ。前回よりも発言していくし、俺自身の経験則からも語らせてもらう。いいな」

 「情報があるに越したことはないよ」

 うん、よし、早くエレベーターから降りよう。みんなを待たせてる。

 

 ***

 

 裁判所へと踏み入れる。前回と同じく背景がまた変わっていた。トランプのダイヤ、クローバー、スペード、ハートの模様と杖を持ったジョーカー。他にもどこか宝石のようなキラキラしたものが多い。

 「随分と目障りな装飾だな」

 「ヒィッヒッヒッヒッヒィ……イメージってやつであーるよイメージィ」

 「お前前回似たようなこと言わなかったか?」

 ここまでくると柄は毎回変わるんだろうってわかる。トランプ柄はダグラスを、宝石はきっと橘なんだろう。彼はいつも翡翠の勾玉を身につけていた。

 そして遺影もあるってことはすぐにわかる。阪本、ダグラス、橘。三人のそれが。

 ……エレベーターと同じく、やっぱり人の少なさがよくわかる。私の隣の人は、もういない。

 「……説明、するのでございますか?」

 「もちろんであーる!!殺人を犯した『クロ』をこの議論で見つけ出しィ、手元のボタンで『クロ』だと思った人に投票するゥ。過半数を得たモノが『クロ』となるゥ。正しい『クロ』を指摘出来たならばァ『クロ』だけがおしおきされェ、間違った『クロ』を指摘したならばァ、『クロ』以外の全員がおしおきィ!!」

 三度目か……乗り気になんてなれないのは当たり前で。

 

 

 

 みんなのムードメーカーで明るく振る舞い、特に湊川を支えていたダグラス。

 

 群れることを嫌い一人でいることが多く、けれど何だかんだで協力してくれた橘。

 

 夜中に起きた連続殺人事件。

 

 しかもダグラスは二重の密室の中で。

 

 今まで以上に困難な裁判になる……

 

 …………裁判席の隣、橘がいたんだっけ。

 

 今までそこには凄まじい緊張が走っていたのをよく覚えている。

 

 それがないことに寂しさが込み上げる。

 

 「それではァ!!」

 

 見つけなければならない。

 

 「学級議論ン、かァーーーーいしィ!!!!」

 

 二人を殺した犯人を

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

      *********

       学級裁判 開廷

      *********

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「……はあ……」

 金室「言いたいことは、わかりますよ」

 そう。今回の事件、正直衝撃なところが多すぎる。信じたくないことが多い。しかも……解こうにも解くのが困難な完全密室。

 国門「……始める。けどまず、今回の事件の大前提を言わせてほしいんだ」

 いつもなら法廷、裁判という言葉に心踊らせ楽しむのに今回はそういうことがなかった。

 巡間「大前提、とは何なんだ?」

 国門「……今回の事件は二人殺害されている。これはいいと思う。つまり犯人は二人いることも考えられるってことだ」

 灰垣「二人、か」

 国門「……と言いたいところなんだが実はこの事件の場合、犯人が一人の可能性が極めて高いんだぜ」

 渡良部「え、なんで?」

 国門「橘がこんなことを言って死んでいった。『犯人はやつだ』って。断定した言い方から考えて一人の可能性がある。モノヤギファイルとか死体状況から考えて犯人はダグラス殺害後に橘を襲ったのだろうぜ」

 犯人はやつだ…………か。さっき聞いてはいたけどそこ気になるんだよな……

 直樹「それと、今回の事件って少なくとも事故はないよね」

 事故が起きたなら二人の死体状況の説明がつかないから。

 国門「事故死がないのは賛成だぜ。死体状況だけじゃなくて、密室も意味不明になる」

 近衛「……密室は二つもありました。それはわたくしから皆さまに伝えた通りでございます」

 三階のコンサートホールの密室と四階五階のカジノの密室。しかも三階四階の鍵はカジノ内にあってどうやって三階の鍵を閉めたのか全くわからない。

 矢崎「けど、現状推理が楽なのはダグラスくんのほうかもね」

 湊川「そう、よね……」

 湊川の顔がいつになく暗い。宮原と阪本。仲のよかった二人が死んでそれを支えてくれたダグラスまで死んでしまったんだ。誰よりもツラいに違いない。

 渡良部「ダグラス(ドラ)が見つかった現場ってかなり荒らされていたよね。これってダグラス(ドラ)と犯人が争ったってことになるの?」

 直樹「それは間違いないと思うよ。あんな荒れ方はそう簡単に出来たものじゃないし」

 玉柏「経験則。もし『ダグラスだけ』がやったことなら荒れ方がもっと激しい。誰かと争ったと見せかけるために台をあれ以上に壊していたはずだな」

 巡間「つまり今回の現場は自然な荒れだということか?」

 玉柏「自然というのは少し違うが、まあ普通に争った形だってことだな」

 盗賊として生きてきたからそういう理論が立つんだろうな。

 金室「ですが、何も争わずその場から逃げてしまえばよかったのではないですか?」

 玉柏「逃げられるかって。そんなの出来やしない。犯人から狙われたから、逃げるよりも凌ぐほうを取ったんだろうな。けど荒れ具合から察すると、詰め将棋に負けたってところなんだろうな」

 ダグラスにとっちゃ皮肉なことだろうなと頭を掻く。

 金室「犯人から狙われたとなぜ思うんです? ダグラスくんから犯人を襲った可能性は?」

 玉柏「有り得ないな。ダグラスは電子生徒手帳と手に握られたコンサートホールの鍵しか持ってなかった上に、盗まれた形跡やなにかを所持していた形跡などは一切なかった。それに言ったら悪いがそんなに筋肉もない。犯人を襲うならロープとかナイフとか相手を殺すそれらしいものを持ってるだろ」

 灰垣「その場しのぎという選択もあるじゃろ」

 玉柏「その場しのぎならすでに犯人のほうが死んでるほうが濃厚だろ。台とかをぶつけるのもあるが、ビリヤードのあの棒でも喉に刺されば死に至る」

 昔太鼓のバチで喉に刺さって死んだなんてこともあったらしいからなぁ。

 玉柏「今誰一人怪我について申告してないなら、犯人がダグラスを襲った可能性があるってことだろ」

 みんなの反論を玉柏は的確な推理で論破していく。

 直樹「……仮にだけど、もし怪我をしているって言ったらその人が真っ先に疑われるよね」

 玉柏「今回に限ってな。怪我をしたらその人には犯行が不可能っていう固定的な心理を植え付けるが、あの現場だとむしろ怪我してるほうが怪しまれやすい」

 あの荒れ具合ならそうだよな。

 

 

 

 矢崎「あたいさ、思ってたことあるんだけとどいいかい?」

 国門「思ってたことだと?」

 矢崎「妙~にこの事件現場がダグラスくんや橘くんが言っていたあれに近いなぁってね」

 ダグラスや橘がいっていたあれ……? もしかして

 直樹「『森の恐怖』のこと?」

 矢崎「そうだよ。少なからずそれに近しいみたいだよね」

 確かに、違うとは言い切れない現場。

 湊川「……犯人は、森の恐怖と似たような現場に仕向けたのかも知れないわね……」

 灰垣「仕向けた?」

 湊川「ダグラスくんは森の恐怖のことを恐れていたわ。トラウマレベルで。前に個人的に聞いた話なのだけれど……そのとき現場だったカジノはⅢ棟のカジノとそっくりだそうよ。だからもしこの事件に密室と銃火器の類いが扱われていたらほぼ森の恐怖と同じになるのよ……けれどあの状況に追い込むようなことがあったのかなって……森の恐怖の事件自体はカフェでいくらでも見れたわ」

 近衛「犯人はそれを利用したかも知れない、と……」

 玉柏「言ってしまえば、ダグラスが被害者になれば森の恐怖の見立てとして扱える上に争いさえすればそれと誤認させることも可能だったわけだな。計画的であれば余計にそうだが、運命ダイスがある限り突発的犯行とも考えられるし。まだ断定はできないけどな」

 直樹「瓶も、台も、何もかも。あそこは凶器に成りうるものはたくさんあったしね」

 けど、それよりももっと。今回の事件のネックが解決しなければ意味がない。

 灰垣「じゃがその前にあの密室が解決しなければ何の意味もないじゃろ。見立てとか云々よりも」

 あんな密室、一体どうやって犯人は作りあげたのか。でも一応出来なくはないことがあったはず。

 直樹「5階から作ったんじゃない?」

 金室「5階から、ですか?」

 これなら多分筋は通るはず。

 直樹「うん。5階って鍵が掛かっていたと思っていたんだけど、実は開いていたんだよね」

 巡間「開いていたのになぜ鍵が掛かっていると感じたんだ?」

 直樹「扉の前にあった棚だよ。あれちょっと変わってたんだ」

 近衛「変わっていた……とは?」

 直樹「棚にドアノブの開閉を阻害する小さな木があったんだよ。あれを使えばドアが開いていても閉まっているって誤認できる」

 巡間「しかし、棚が目の前にあればそんなことはできないと思うが」

 直樹「あの扉って外側から『引く』タイプ、内側から『押す』タイプなんだ。だから手順としては……」

 

 

 ダグラス殺害→棚などでダグラスの姿を見えにくくする→四階の入り口を棚で完全に塞ぐ→鍵をダグラスの手に持たせたり置いたりする→五階扉前にドアノブよりも低い横長の棚を置く→トランプをいくつもドアノブの下におく→内側から大丈夫かを確認する→場所を確認してトランプを取り、扉を全開にしてからさっきトランプを置いたところに置き直して扉を閉める→外側から開けようとしてもトランプが阻害して引っ掛かる

 

 

 直樹「こういう手順になると思うんだ。三階の密室はまだ解けないけど、少なくとも四階五階はこんな感じにすれば大丈夫だと思う」

 矢崎「確かに……筋は通っているね。これなら密室も作れる」

 玉柏「まあそこ解けても三階どうなるんだって話だけどな。四階はそれでもいいと思うぞ」

 とりあえず四階はこれで解決……

 

 

 

 渡良部「ああ……直樹(トン)?」

 そのとき渡良部に声を掛けられた。

 直樹「どうしたの渡良部さん?」

 渡良部「あの、さ。すっごい言いにくいんだけど……五階の鍵『閉まってた』からね?」

 …………は?

 渡良部「実はあれ調べようとした途中で巡間に手伝って欲しいことがあるって呼ばれちゃってそのままにしてて……あんたがそこ調べたのそのとき……」

 う、嘘でしょ!? そんなことになってたのか。ということは

 湊川「振り出しに戻っちゃったわね……」

 二回やった裁判で一度もこうなったことはないが、議論している以上すれ違いが起こるのも仕方がない。けどちょっと予想外だった。

 国門「しゃーねぇぜ。それもまた裁判ってぇもんだ。まだまだ解決すべきところは残っている」

 なんか今までずっと振り回されてきたからそういうこと言われるの釈然としない。

 巡間「私からもすまなかった。誤解を生むことをさせてしまって」

 巡間も頭を下げる。しかしこればかりは仕方ない。

 近衛「では一度四階の密室をおいておきまして、三階の密室を紐解いていくというのはいかがでしょうか」

 玉柏「確かにそうだな。一つのことに留まるのは良くない」

 三階密室……けど三階の密室は四階よりもちょっと厄介事を抱えている。

 金室「三階密室を紐解くはいえ、あそこはどう説明するんですか。だってカジノ内に鍵があったではありませんか」

 そう鍵だ。鍵は二階、三階、四階の三種。そのうちの2つがなくなった。しかもその2つとも四階にありながら三階の鍵が閉まっていた。こんな密室がほどけるのだろうか。

 渡良部「鍵が四階にある以上、三階の密室をどう作りあげたのか気になる」

 ピッキング……とかは多分違う。あれは開けるものだ。閉めるものではない。…………薄いとは思う。けど……一か八か賭けてみるのもありだ。

 直樹「ただの推測……だけど。もしかしてマスターキー的なものがあったりするのかなって思ってる」

 灰垣「マスターキーじゃと?」

 巡間「仮にあったとしてもどこにあるのかわからないだろう」

 わからない。けど、ただ一ヶ所だけ可能性があるとすれば……

 直樹「……金庫の中とか」

 湊川「そういえばそこの中身が見つけた時にはもう無くなってたって言ってたわね」

 考えられるのってそれぐらいなんだよな。

 玉柏「マスターキーが金庫の中に入っていた、と仮定したとしても実際そのマスターキーがどこにあるかもわからないからな。見つかった鍵は2つだけ。しかもそれはさっきの通り」

 巡間「そもそもⅢ棟の鍵は持ち出し禁止と紙に書いていただろう。マスターキーはその例外なのか? それとも同じく持ち出し禁止なのか?」

 近衛「…………モノヤギ、そこは一体どういう扱いなのでございましょうか?」

 モノヤギ「メェー? うむゥ、教えても教えなくてもワレとしては面白いのであーるがァ……ヒッヒッヒィ、今回は特別サービスであーる!! オマエラ『シロ』のためにィヒントを与えてやるであーる!!」

 近衛グッジョブ。いい誘導だ。

 モノヤギ「あの金庫の中身にはァ、『Ⅲ棟のマスターキー』が入っていたのであーる。Ⅲ棟のであーるからァそこ以外では使えないであーる。そォれェとォ!! 鍵の扱いについてはァ書いた通りィⅢ棟の鍵である限りィ、外への持ち出しは禁止であーる!!」

 なるほど。つまりマスターキーは3つの鍵同様あのⅢ棟内にあるわけなのか。……ますます謎だ。本当に

 モノヤギ「一応であーるがァ、このヒントを教えないとォクロが有利になってしまうと判断したからであーるからなァ? 本当にサービスであーる。次はないと思ったほうがいいィ……」

 そんなになのか。モノヤギが言うということは本当なんだろう。

 灰垣「Ⅲ棟から持ち出し禁止……じゃあ鍵はどこにいったんじゃろうな」

 玉柏「……モノヤギ、持ち出し禁止ということは……マスターキーもあのⅢ棟内にあるってことだろ?」

 モノヤギ「当たり前であーる!! 持ち出していたらァすでに罰しているであーる!!」

 湊川「…………それ一つ気になるんだけど、校則として? それともモノヤギ個人として?」

 モノヤギ「え、校則としてに決まってあっ……」

 次の瞬間、国門がニヤリと笑う。これは、うん、スイッチが入ったな。

 国門「おやおやおやおやぁ~????? 校則にはそんな記述『全くない』んだがこりゃあ一体どうなってるんだぜえ~????? ええ? 天下の『レイヤーギ様』がぁ? 『校則に記述ミスをする』だなんてぇそぉんなことあるわけねぇよなぁ~?????」

 めっっちゃくちゃねちっこい煽る言い方したぞこいつ。正直腹立つ。しかも『ご丁寧に校則一覧を見せながら』言った。

 モノヤギ「ぐぬぬぬぬぬぬゥ………………」

 国門「ほらほらそこのところはっきりしてくれよぉ~『レ・イ・ヤ・ー・ギ』?」

 さすがのモノヤギもこれには怒り顔。顔? うんそういうことにしよう。

 モノヤギ「うるさいうるさいうるさァーーーーい!!!!!!!! さっきから黙っていればァ……!! だいたいその『レイヤーギ』っていうのはいったい何なんであーるかァ!!!!」

 全員「「「「お前が私/俺/僕たちのコスプレするからだろっ!!!!」」」」

 全員で一斉にモノヤギ間違えたレイヤーギにツッコミした。そしてこれの命名者が橘なんだよなぁという。

 レイヤーギ「なんかワレの名前もいつの間にかレイヤーギになってるしィ……胸くそ悪いであーる」

 直樹「メタいわ!!」

 レイヤーギ「だがこれはワレの完全なミスゥ……何も言えないであーる。しかァーしィ!! どちらにしろォ!? Ⅲ棟の鍵は持ち出しされてないっ!! 故にっ!! 次は許さないであーる!!」

 国門「ていうか、Ⅲ棟内でしか使わないものなら校則にするんじゃなくて棟内ルールにしておけばいいのになぁ?」

 はい論破。国門の正論にモノヤギ間違えたレイヤーギガチ凹み。さすがにやり過ぎたか。まあ……

 国門「ふうちょっとすっきりした」

 湊川「ええ」

 巡間「同感だ」

 矢崎「これこそ議論の場だね」

 玉柏「日頃の恨みだ受け取れ泥棒」

 渡良部「盗賊のあんたが言うこと?」

 金室「そこですか」

 近衛「まあまあ良いではありませんか」

 灰垣「じゃな」

 全員なんかまだすっきりしちゃいけないのにすっきりした状況になってる。

 直樹「とりあえず……議論しよっか」

 

 *****

 

 レイヤーギが不貞腐れているのに目もくれず、とりあえず議論再開。

 湊川「どこまで進んでいたかしら」

 近衛「Ⅲ棟の鍵の話でございましたね。金庫の中にマスターキーが。しかし二階の鍵はまだしも、三階と四階の鍵が四階の中にあり、さらにマスターキーが行方不明……これでよろしいでしょうか?」

 灰垣「多分それであってるじゃろ」

 渡良部「けどどこを探しても、鍵は見つからなかった。どこにあるのかすらわからないじゃん」

 そう。隅々まで探した。受付も、ピアノの中も、金庫も、二階も、三階も、四階も、五階も、あらゆる可能性を挙げた。でもそれは全て無駄に終わった。鍵のありかは不明。レイヤーギの言うような状況なのかさっぱりで。

 灰垣「……もうこうなったらアリバイ判断しかないんじゃないか?」

 巡間「確か最後にダグラスくんと出会ったのは……金室くん、君だったか」

 金室「…………はい。うちはあのとき夜中に目が覚めて、喉が渇いていたので食堂へ向かおうとしたんです。そのときダグラスくんと偶然会いました。それで夜時間に開いてないことを伝えられて仕方なくそのまま部屋に戻りました。ダグラスくんは少しカジノの掃除をしてから寝ないと寝られなかったらしくて部屋から出たそうです。特に怪しい動きをしていたわけでもなく、いつも通りの様子でした」

 夜中に金室とダグラスは出会ったけれど、何もなかった。……でも金室の発言、妙に引っ掛かるところがある。

 直樹「金室さん、倉庫に行くとかの判断はなかったの?」

 金室は隣でえ? という顔をした。

 金室「倉庫? そんなところに飲料水なんてありました?」

 その発言にみんなが衝撃を受けた。嘘をついている様子もなく、純粋に問うていた。

 金室「えっ? 別におかしなことは言ってませんよ。湊川さん、あなたは一回目の裁判で『三人分の水を持ってきた』ってと言いました。しかしそれ以外のことを言いませんでした。しかもあなたは江上さんと倉庫へ探索していたではありませんか」

 湊川「……金室さん。それ以前の話なのよ。あなたは今の今まで倉庫に行ったことがないの?」

 それを聞いた途端金室は黙った。ただ少し冷たい空気を添えてしかしほんのわずか後ずさり、はいと答えた。

 金室「………………地雷があるので嫌なんです。いえ、わかりませんよ。行ってませんから。けれどあると思っているものがあるので」

 矢崎「あたいたちが料理作っていたときはあたいが倉庫に行っていたんだ」

 金室「ですのでうちは倉庫に行くこと自体ないんです」

 きっぱりと言ってしまった。

 

 

 「役無しすなわち点あらず!!!!」

 

 

 ……だがここで渡良部の反論だ。

 渡良部「明らかに不自然じゃない?」

 金室「なぜ?」

 渡良部「あんたの地雷については言及する必要はない。多分今の話じゃ倉庫に行ったことないってことも本当だと思う。あんたは結局飲み物を取らなかったんでしょ? でもⅠ棟の一階フリースペースのところに行けばよかったんじゃないの?」

 金室「……そこまで」

 渡良部「そこまで頭が回らなかった? あんた何で移動したの?」

 金室「……階段です」

 渡良部「階段なら気付けるんじゃないの? 確かに死角で見づらいかもしれないけど、エレベーターよりもはっきりするしわかるでしょ」

 直樹「待って、寝惚けていたとかそういうのはないの?」

 金室「お言葉ですが、その時は冴えてました」

 少し助け船を上げたつもりだったけれど完全に余計だった。私の言葉を斬る。

 渡良部「なら」

 金室「ですが冴えていたとはいえど、気づく気づかないにそれは関係ありません」

 渡良部「そう? 夜時間にあそこ水出るのに」

 え、そうなの。知らなかった。

 金室「なぜわかるのです?」

 渡良部「私がよく起きるから。今日は疲れていた影響か朝まで寝てたけど、いつもなら夜中に一度目が覚める。……だらっだらの汗かいて。だからいつも気持ち悪くて水飲みにいくの」

 金室と渡良部の口論が止まらない。しかし渡良部は持ち前のプレッシャー強さなのかはわからないが金室を攻めていく。

 渡良部「金室(イッパツ)、夜中にダグラス(ドラ)に会っておいて、あんたの発言全てが苦し紛れの言い訳にしか聞こえないっ!!」

 でも何か引っ掛かる。正直金室が犯人っていうのは思わないわけではないけど、何か、どこか、その訳が、動名詞と現在分詞のとてもわかりずらい判別のように見えてくる。これは私の中で金室が犯人じゃないって思ってるからなのかもしれない。

 どこだ、なにか、些細なことでいい。金室は犯人と言えない証拠……いや証拠らしい証拠はあるのか否か……

 金室は何も言わない。言えないのかもしれない。思えばアリバイなんて今回みんなないのと等しいくらいなんだ。前回のことを考えると、私、渡良部、国門、湊川、矢崎は犯人から外されるんだと思う。ということは金室は犯人の可能性が否めない。本当にまずい。私は彼女を助けられるコトダマを持っている気がしない。玉柏も眉間に皺を寄せたまま黙っている。彼もいい証拠を持ち合わせていない。

 謎がはっきりしないまま犯人確定ほど危険なものはない。どうすれば……どうすればいい……!!?

 

 

 

 

 

 「その天秤は釣り合わねぇぜ!!!!」

 

 

 

 

 瞬間、一人の叫び声で私は顔を上げた。

 金室「国……門くん?」

 渡良部「何よ。金室(イッパツ)が犯人だとしか考えられないじゃん。どうしてそんな」

 国門「いいやちげぇぜ!! もし金室が犯人なら、その場で殺したほうが好都合だ!!」

 渡良部「は!?」

 え、なに、どういうこと? 心なしか国門の額から汗が流れていた。

 国門「近衛!!」

 近衛「はい?」

 国門「ここには台車的なものはあんのかだぜ!?」

 近衛「それなら……倉庫にございますよ」

 国門「あんがとよ!! でだ、金室が犯人ならその場で殺害して、台車で運んで、密室作ればいい。だがわざわざそんな手間隙をかけたのなら誰とも会ってないって言った方が説得力あるぜ。そうでなくとも、今の証言は間違いなく金室の話が苦し紛れの言い訳ではない、真実だって俺は思う!!」

 なにか、理解したのかわからないけど。その顔は焦りだけでなく……宣戦布告をする人のようにも感じられた。

 国門「だから今渡良部と金室の言い争いは無駄でしかねぇ!! この事件金室は犯人なんかじゃない!! いや……」

 

 *

 

 俺は知ってるはずなんだ。橘の遺言の意味を。そしてそれは今までさらりと受け流されて誰も気づくことが出来なかったってことも。俺の右肩を押して力尽きたあの男が一体なにを見てきたのか、今なら手に取るようにわかる。

 

 国門「もっと言うぜ。今回の事件の犯人は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「男しか有り得ねぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学級裁判、中断

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         思い出せ

 

 

       語らずの男の全てを

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 見えずの膨張7部屋目

 

 

 

 



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第三章 非日常編 見えずの膨張7部屋目 A

 すっかり忘れてました(おい)
 今回の7部屋目に関してはpixiv推奨回で、携帯から打ってるために遅くなるっていう()
 一応こちらはAとなっており、Bもありますが内容はほとんど変わりません。
 さてこの三章クロは……皮肉まみれだと思います。


 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 学級裁判、再開

 

 

 

 

 *****

 

 国門からの衝撃的な一言。犯人は男しかあり得ない? 一体どういう……

 矢崎「どうしてそんな結論が出るんだい? いくらなーんでも」

 国門「いいや。これは事実だ。だがここで言ったとしても意味はない。犯人の口から質問されなきゃ意味ねぇんだぜ」

 今こうして言ったことが犯人にもバレてるわけなんですがそれは。

 国門「それよりも、今はアリバイなんかよりも密室について話してぇんだぜ。ほんの些細なことでもいい。密室を解く鍵は必ずどこかにあるはずなんだ」

 それは確かにそうだ。けれどそれがわかれば……いや、待てよ……?

 直樹「近衛くん!!」

 近衛「わわわ、わたくしでございますか?」

 直樹「近衛くん、君たしか捜査のときあの扉を塞いでいた棚に見覚えのあるって言ってたよね? あれどういうこと?」

 数回の瞬き。きょとんとするとうーんと悩み腕を組んだ。

 近衛「Ⅲ棟が開放されましたとき。ほら、直樹殿もいらっしゃったときでございますよ。ダグラス殿と渡良部殿と棚を移動したあのとき」

 あれか。

 近衛「あれは結局扉の横に設置致しました。ですがその棚は足が四つでございましたので……現場の棚は直接床についておりました。そのため違うと存じた次第なのでございます」

 持ち上げるとかなんとか言ってたからか。けど扉下の隙間を見ても部屋の様子は全く見えなかった。あの棚は完全に床についていた。

 玉柏「なあ、その棚はもしかしてその時の棚だったりしないのか?」

 渡良部「ちょ今の話聞いて」

 玉柏「話を最後まで聞けって。そうじゃなくてな。四つ足の棚なんだろ? その足は切り落とすことができるんじゃないのか? さて、ここまで言えば誰かさんは気づくんだろうな」

 遠回しに振ってきたぞおい。四つ足を切り落とすことができた。でもその切り落としたといえる証拠はどこに? ……あっ

 直樹「それもしかしてこの木のこと言ってる?」

 私は持っていた四角の木をみんなに見せた。

 巡間「これが棚の足だと言うのか? そんなわけ……」

 直樹「多分なんだけどね」

 国門「………………いいや、多分じゃねぇな。確実にそれは棚から切り落とされた足だ」

 灰垣「ほう? なぜそう言えるんじゃ」

 国門「よーく見てみりゃあわかるぜ」

 そういえばこの木一つだけ引っ掛かっていたことがあった。……ああそういうことか。

 直樹「言われてみれば……国門くんの言う通りだ。近衛くんこれよく見てみて」

 投げたら危ないから矢崎に近衛へ回すように言った。そのとき矢崎も何かに気づいたみたいだった。

 直樹「この木をよく見てみると少し荒くない?」

 近衛はモノクルを動かしてふむと木を見つめ指でその部分をなぞった。

 近衛「この一辺……とはやや違いますがとりあえずここ凸凹しておりますね」

 直樹「そう。結構しっかりしてる木だから手でやるのはかなり力が必要だし……何かしらの道具を使って飛ばしたとかそんな感じなんじゃないかな」

 切り落とすとはまたニュアンスは違うけれど、そう思うのが自然かもしれない。

 国門「それじゃあこの他に何か気になることはなかったか?」

 灰垣「そういえばじゃが……」

 今度は灰垣が何かを言いたげだ。

 国門「なんだ?」

 灰垣「コンサートホールで捜査しておったが、ドラム2つが倒れておったの。犯人が使ったかもダグラスか橘が使ったかも知らないがな」

 湊川「それってどこにあったの?」

 灰垣「コンサートホール四階側の扉付近じゃな。それとコードが少し乱れていた気もした。あああとじゃがビリヤードの棒が折れた状態で見つかったわい」

 巡間「さっきから思うんだが、あの棒の名前はキューだ」

 あの棒そういう名前なのか知らなかった。

 直樹「そういえば二階の宮原くんのポーチの金槌もなくなってなかったかな?」

 矢崎「もしかしてあれ宮原くんのだったのかい。直樹ちゃんたちが捜査したあとに見つけたんだけどね。それ一階のピアノの中になーんか入ってたよ。あとは……血まみれの包丁も」

 ピアノの中!? いや、確かに証拠隠滅するには丁度いい場所かもしれないけどそうじゃない。

 国門「…………他には?」

 玉柏「ぐしゃぐしゃのガムテープ。こいつが外に落ちてたな」

 国門「なるほどだぜ。こんなものか?」

 国門の問いに対し私たちは黙る。密室を解く鍵はこれぐらいか。

 金室「これで密室が解けるんですか?」

 玉柏「ああ。これならだいたいはいけるんだと思うな」

 巡間「一つ気になるのだが、犯人は棚の足を切るとき鋸とは使わなかったのか?」

 直樹「ちゃんと鋸を使ったはずだと思うよ。三階の控え室に鋸とか入ってたんだ。四階で使ったあとにでも元に戻したんじゃないかな」

 

 

 棚の四本足、乱れたドラムのコード、マスターキー、ビリヤードのキュー、金槌、血まみれの包丁、ぐしゃぐしゃのガムテープ、鋸、消えた鍵。

 

 

 犯人はどうやって密室を作ったか。まず五階は多分私の考えた通り。けど手順が違ったのだろう。

 五階の扉を閉め鍵をかけ、棚をおいてドアノブに引っ掛かるようにトランプを置く。こうすれば簡単にできる。

 次に四階。図としては鍵の閉まった四階の扉の内側に棚が置いてある。そして二本の鍵が四階内にある。

 そして三階。三階は単に鍵を閉めただけ。

 

 あれ、なんでだろう。わざわざ『あれ』があるのにこんなことする必要があるのか。

 

 

 直樹「ねえ、みんな。密室について一つ気になることない?」

 金室「気になることですか?」

 灰垣「別にないじゃろ。どうやって作ったか以外に何かあるのか?」

 渡良部「ていうか、わざわざマスターキーあるなら『あんな密室作る必要なくない?』 とっとと始末してしまえばそれで」

 直樹「その訳に賛成だ!!」

 渡良部「へっ!?」

 渡良部は驚いて目を見開いた。けどそうなんだ。

 直樹「マスターキーがあるなら、『凝った密室を作る必要はない』。五階の鍵を閉めて三階四階の鍵をカジノ内に放って、持っているマスターキーを使って三階まで鍵を閉めればそれで完了。あとはマスターキーを始末するだけ。たったそれだけの『単純な作業』なのに、あんなことをする理由があるなら?」

 玉柏「『二重の密室を強調するため』……とかだな」

 直樹「そう。けどそれでもわざわざ面倒なことをしなくてもよかったはず。だって鍵を閉めて始末すればいいんだから」

 しかし犯人はそうしなかった。大掛かりな密室を作る必要があった。理由が必ず存在する、はず。例えば……

 直樹「例えば……マスターキーが四階にあったとかね」

 近衛「それって……まさかっなくなったのは

マスターキーではなく『三階の鍵』だと仰るのでございますか!? 札はついておりましたよ?」

 直樹「マスターキーに札を付けられるなら付け替えは簡単だし誤魔化せるよ。それによく考えてみてよ。私たちは今この裁判でモノヤギから言われるまでマスターキーの存在を知らなかった。マスターキーの存在が浮かび上がったけれど、なくなったのはマスターキーだと私たちが思い込んでいるとしたら?」

 灰垣「……あの密室は強調ではなく、『鍵の行方を錯覚させるため』ということになるのか」

 直樹「多分ね。そして犯人はここで重大なミスを犯した」

 巡間「ミスだと?」

 そう。ほんの些細なことだけどすごく大きなあの存在を……したから。

 国門「金庫か」

 直樹「それ。だって私があのとき見た金庫の中身は『空っぽ』だったんだから」

 矢崎「空っぽだとどーんな問題があるんだい?」

 玉柏「そこには何かがありましたっていう証拠になるからだな。わざわざ四桁の数字を入れなきゃ開けられない金庫だ。何か入っているのは当然だろうが。ここにおいて問題なのは中身の『重要度』。もし金庫の中身がちっぽけな、例えば将棋の駒だとしたら?」

 矢崎「ああ取らないね」

 玉柏「だろ? でももしそれが極端な例でいうと『校則違反一回免除券』とか『外に出られますよ券』とかなら取るだろ?」

 すっごい極端だけど確かに取るはそれ。

 玉柏「金庫の中身がマスターキーだった。それも二階三階四階と同じ形状の。そうでなきゃ札は付け替えられないしな。そしてそれを犯人は取った。つまり中身が重要だったことになる。けどそのあと犯人は中身に何か入れておけばよかったな。そうすれば少なからず誤魔化しが利いただろうに」

 きっと犯人は余裕がなかったんだろうな。けれどなぜ犯人は二人も殺す必要があったんだろう。

 渡良部「知った風に言うけどマスターキーかどうかはわからないでしょ」

 玉柏「俺はあくまでも勘で動くんでな。それにマスターキーを見なくてもⅢ棟の鍵なら同じ形状してるのが多いし、多分ここもそうなってたんだと思う」

 渡良部「そういうもん?」

 玉柏「そういうもんだな」

 確証はないけれど……私もそうだと思ってるし。

 

 直樹「さて、そろそろ密室について解こうと思うんだけど…………これは私にはできない」

 渡良部「はぁ!?」

 金室「な、何をいっているんですか!!」

 まあ驚かれても無理ないけど……正直私の頭でこれを解ける気がしない。

 直樹「だからね。専門家たちに任せようと思うんだ」

 巡間「専門家……たち?」

 私はくすりと笑った。そして私は二人を見た。

 直樹「頼んだよ、玉柏くん、国門くん」

 名指しされた二人は一瞬こちらを見て。そして二人はニヤリと笑った。

 玉柏「おーけー相棒」

 国門「任されたぜ」

 二人なら、この密室を解ける。私はそう確信しているんだ。私は常に持ち歩いている鷹山のノートの何も書いてない一番後ろを開いてメモの用意をする。今さらながら前回もこういう風にまとめておけばよかったのかもしれないと少し後悔した。

 玉柏がタバコを出して火を着けた。二人が地獄から現れたかのような挑んだ表情を浮かべていた。吐き出された煙が始まりの合図だった。

 

 

 ていうか、ここ禁煙じゃないのかよ。レイヤーギなんか言いなさい

 

 

 

 

*****

 

 ※ここでは玉柏sideをお送りします。国門sideは次話をご覧ください

 

 

 相棒に任されたからにはやらないとな。さてと、どこから手をつけてやろうか。

 玉柏「大前提として、直樹の言った五階トリックは確実。これはもういじる必要はない」

 国門「同感だ。あれで充分。問題は四階密室を作り出したかだが……まず鍵に関しての話をするか」

 玉柏「だな」

 鍵について今までの話でわかることは……

 玉柏「ダグラスの左手には三階の札のついた鍵、これはマスターキーだろうと思われるんだな。それと四階の鍵はだいたいカジノ内中央あたり」

 湊川「四階の鍵は確実に四階内なのよね?」

 玉柏「そうじゃないと三階の鍵閉められないからな。で今その四階の鍵出たけどな、それはドアの下から投げ込まれたんだろうと思う」

 矢崎「根拠は?」

 玉柏「あの扉、5cmくらい下に隙間があるんだよ」

 国門「普通の扉はそんな隙間ねぇのにおっかしい構造してんねぇ? けど鍵閉めたあとに下から鍵を入れれば密室は容易だろうぜ」

 まあ確かに普通の扉は1cm2cm程度だからな。けどこの動作以外に犯人は棚を扉の前におき、さらに足まで切り落とすという暴挙にも近いことをした。

 国門「ここで鍵については一度置くぜ。まだ話すことがあるが、実際問題なのは鍵よりも棚。扉が外側から『押す』タイプだから一体どうやったらあんなのが作れるのかって話だぜ」

 ……さすが弁護士。裁判の流れを組み立てるのがうまいと言ったところか。これは、捕まったときが恐ろしいな。

 玉柏「棚の中身はなし。つまり動かすのは一人でできなくはない状態にはしていたことになる」

 近衛「わたくしどもが動かしたときは三人がかりでございましたが、個人的意見を申し上げますと一人で動かす場合は棚そのものがやや重いという理由がございますので少しずつずらすような動かし方になるのではと存じます」

 一人だとずらす感じか。ということは持ち上げるのはきついのか。

 直樹「それって下からこう……引っ張るのもきつい感じ?」

 近衛「滑車を用いることで多少なりとも楽にすることは可能だとは存じますが、そんなものどこにも……」

 いや、あったな。

 玉柏「それじゃあ盗めねぇぞ!! 近衛、ちゃんとあっただろ。ドラムってやつがな」

 近衛「あ、それでございましたか!?」

 本気で忘れてたのかよ。どうもこいつは少し天然混じりなのが困りもんだな。

 玉柏「楽に動かせたかどうかは別だけどな。あれは滑車じゃなくてあくまで延長コード」

 湊川「けどどうやって引っ張るのよ。力がない人は犯人から外れるのかしら?」

 向こうのほうからチッチッチッという音が聞こえる。国門が首を横に振りながら。

 国門「そんなんで裁けねぇぜ!! 確かに力がいる作業かもしれねぇがドラムが巻き上げることのできる延長コードであること、棚の中身が空であること、これらを考えれば時間がかかっても力のないやつでもできるぜ」

 まあ、そうだろうな。犯行時間は死亡推定時刻からすると夜中だろう。

 国門「それとあくまで憶測だが、そうするために試したのかもしれねぇぜ。無理だとわかったら無闇やたらとやるよりも、犯人が扉にギリギリ出入りできる範囲のところに四つ足を切り落とした棚をおいておけばそれだけでも充分だ。鍵は斜めから入れる感じにすればいい」

 玉柏「犯人が男しか有り得ない……国門は確かにそう言った。正直な話俺、灰垣、近衛、巡間、国門の中で力のないやつなんているようには思えないしな」

 渡良部「ストップ。国門(イッツー)は第一発見者。直樹(トン)のあとに私が見つけてアナウンスが鳴ってるから国門(イッツー)は犯人じゃないんじゃない?」

 つまり四人の中に犯人がいるってわけなのか。まあ今はそこに重点を置くときじゃない。一人だけ随分と『あれ』なのが気になりはするがな。そこは相棒さんにお任せだ。

 直樹「結局のところドラムのコードを使って下から引っ張った……ってことでいいんだよね?」

 玉柏「ああ。おそらくな。扉を開けた状態にして、ドラムのコードを取り出す。しっかりと四つ足のうちの一本に結びつけてから扉を閉めて引っ張る。こんな感じだろうな」

 灰垣「む? 待て待て。ドラムは二個使ったはずじゃ」

 国門「あ、すっかり抜けてた。ドラム二個使わないと棚の位置おかしくなっちまうぜ」

 俺も忘れてたなそれ。

 金室「少しまとめましょうか。その方が進めやすいでしょうし」

 直樹「それじゃあ少しまとめたものをざっと読み上げていくよ」

 直樹がこれまでのことをノートにまとめてくれていた。それを読み上げていく。

 

 

 ・四階内にある鍵はダグラスの手にはマスターキー、中央辺りにあったのが四階の鍵

 ・現時点で三階鍵行方不明

 ・四階の鍵は扉下から投げ込まれた

 ・棚の中身は空

 ・ドラム2つのコード使って棚を扉の前においた

 

 

 直樹「こんな感じ?」

 玉柏「だな。サンキュ」

 ここまで来ると密室がどうやって作り出されたのかがよくわかってくるな。まだ使われていない気掛かりはキューとか金槌とかか。まあこれくらいなら…………ああ。解ける。ほどけていく。村雨のように晴れて、日が見えてくるような……

 玉柏「フックックック……おもしれぇな」

 笑ってやった。これから解く謎に対して。

 玉柏「ドラムのコードを棚の足2つに結びつける。これは扉側の2足だろうな」

 金室「カジノ側ではコードを戻すことができませんからね」

 玉柏「それとなんだが、あの後ろ足は密室を作るとき扉を閉める前に鋸を使ってギリギリまで切っておいたんだと思うな」

 国門「そして扉を閉めて鍵をかけ、棚を扉に引き寄せて鍵を下から投げ込み、金槌で足を吹き飛ばした……ってところか。この時、一度二階へ寄って宮原の金槌をとったことになるぜ」

 矢崎「んー金槌の持ち手の長さで足を吹き飛ばせるなーんてとても思えないけど」

 玉柏「そのためのキューだ。ガムテープでがっちり固定してやればあとは下から通すだけだ」

 矢崎「そういうことかい」

 勢いをつければ確実に外せる。

 巡間「だが前足はどうなるんだ? これは鋸で落とすにも困難だろう」

 玉柏「いいや、そんなことはない。あの足の長さはどれくらいか誰かわかるか?」

 誰でもいい。目測でもいい。

 湊川「見せて……多分……4cmくらいだと思うわ」

 よし、これでいい。幸いみんなに回して見せてくれたからいい感じに確認が取れた。

 玉柏「ありがと。ということは犯人は完全に棚で封じた扉の下から鋸で切ったってことになるな」

 国門「これも少しだけ余すように切ったんだろ? んで金槌で吹っ飛ばした。そうでなきゃ四つの足がうまいこと中に入ってくれねぇもんな」

 狂いはないはずだ。

 国門「まあ吹っ飛ばしたとはいえ、後ろ側の足ほど飛びはしなかったみてぇだぜ。扉側二つの足は棚に近い位置にあったわけだし」

 灰垣「…………これで、四階の密室は完成したのか」

 玉柏「ああ。そして四階で使った鋸、キュー、ドラムを三階のコンサートホールに戻すとしくは始末。キューについた金槌はガムテープを引きちぎってな。三階の鍵を閉めて包丁を持ち出し、一階まで降りる……そして包丁と金槌をピアノの中に入れた。んでⅢ棟出たときに金槌を固定していたガムテープが落ちた……」

 これで、完全密室の出来上がりだ。あとの問題は三階の鍵のありかだがな。

 近衛「しかしながら三階の鍵はどこへ」

 ……ん? そういえばこいつらは気づいてないのか? なくなってたら普通気づくはずなのに……そうかそういうことか!!

 玉柏「なあお前ら。直樹が言っていた金庫のミスあるだろ。犯人はそこでもうひとつ重大なミスを犯していたんだ」

 直樹「重大なミス?」

 玉柏「直樹、コンサートホールでなくなったのはさっき挙げられたやつだけじゃなかったんだよ。お前それには気づいているんだろ? 犯人は心の中でほくそ笑んでいるかもしれないが、これがとても重要なカギとなる。鍵がなくなった理由もすべて片がつくことになるんだ!!」

 あとは直樹に考えさせればいい。こいつは……しっかり推理できるんだから。考えさせれば答えを導くことができる。そう、信じてる。相棒だから。

 直樹「もしかして……もしかしてだけど……溶かした? ガスバーナーで……」

 さすがだな。

 玉柏「ああそうだ。ガスバーナーでドロドロに溶かしたんだ。そしてそれを……金庫の中に入れた」

 湊川「ええええ!?!?」

 巡間「が、ガスバーナーでそんなことできるわけ」

 矢崎「いいやできるね。あそこのガスバーナーは新品のを使ったし、そこまでながーい時間使ったわけじゃないから時間かかっても溶かすぐらいは容易いと思うよ。目を保護したほうがいいんだけど、そーんなものどこにも見当たらなかったし、あったとしてもダグラスくんのサングラスくらい。けどそれは四階内にあったまんまだったのを湊川ちゃんから聞いた。つまりそういう身の危険を顧みてなかったんだね」

 へえこれはおもしろいことを聞いた。

 直樹「金庫の中の凸凹は鍵が溶けてできたもの。そう考えられるね」

 灰垣「じゃが……一晩で固まるのか?」

 国門「固まるには固まるぜ。だがⅢ棟の特徴を考えればすぐに固まっただろうぜ」

 Ⅲ棟の特徴といえばあれだな。

 直樹「それは寒いってことだよね。Ⅲ棟が」

 湊川「そういえばあそこ随分寒かったわ……」

 国門「理由はわからねぇけどあの寒さが及ぼした影響はまだある」

 巡間「……死体か。ダグラスくんの死亡推定時刻が夜中となっている。非常に曖昧だが、今の話を聞けば納得だ」

 …………そろそろ潮時だな。

 玉柏「さてと。ここぐらいが密室の影響だろ。あとは相棒に任せるな」

 急に投げるなって顔されたが気にしてやらん。あとはどう犯人を追い詰めるかなんだ……!!

 

 

 *****

 

 ※視点が直樹に戻ります

 

 

 二人に任せてよかった。これで二重の完全密室の謎を解くことができた。スゴイフクザツデモウアタマイタインダケド

 灰垣「ふむ……ではなぜ橘はⅢ棟へ行ったのじゃ?」

 橘がⅢ棟へ行く理由……多分これかもしれない。

 直樹「見回りじゃないかな」

 渡良部「あいつが見回り?」

 国門「橘は橘なりの信念があったんだぜ。夜に殺人が起こったら困るからって理由でⅡ棟とⅢ棟を見回りしてたんだと。だがⅢ棟に入った直後刺された。俺があいつの口から聞いた話だぜ」

 ふーんと渡良部はスカーフを撫でる。興味なしかい。

 湊川「ところでさっきさらっと流れたけど、包丁って血まみれだったのよね?」

 矢崎「そうだよ。その状態でピアノの中に入っていたんだ」

 湊川「……それってつまり、橘くんはそのときに犯人に殺されたってことになるのよね?」

 あ、確かに。

 金室「納得いきませんね……」

 直樹「というと?」

 金室「だってあの橘くんですよ? 彼が真っ正面から包丁を深々と受けるなんて思えないじゃないですか」

 ……正直嫌な予感がするんだけれど、ここでこの可能性を潰すこともできない……私は拳を強く握った。

 直樹「まさかの話。橘くんは引き当ててしまったんじゃないかな……」

 近衛「引き当てたとは……まさか」

 直樹「運命ダイスの『絶対に死ぬ番号』。これを」

 渡良部「う、運命ダイス……」

 近衛「しかしそれを確認することが今できましょうか? 橘殿の電子生徒手帳は今何処にも……」

 玉柏「お求めの品はこちらか?」

 通販か。

 金室「いつそれを」

 玉柏「捜査終了時に一回橘のところによって奪ってきただけだ。貸し借りじゃないだろ」

 まーたこの盗賊理屈つけて盗んだよ。

 玉柏「今日の振られた番号見てみるぞ。………………『00』」

 ゼロ……ゼロ……? え、まさかそれが絶対に死ぬ番号?

 近衛「…………最悪だ」

 突然、明らかに違うトーンの近衛が呟いた。

 近衛「ゼロ、つまり何もない。橘殿の運命が導いたのは……『フィアスコ』だと言うつもりで?」

 …………大失敗?

 モノヤギ「ヒッヒッヒィ……運命に左右されて見放されるなんてェ、ここ世界で生きる価値のないやつだったというわけであーるよォ? ポジティブにも……ネガティブにも左右されるなんてなァ? 実に滑稽であろう?」

 近衛「バカにするじゃないっ!!!!」

 渡良部「近衛(このえ)!!!!」

 近衛の声が荒くなるのを渡良部があだ名で呼ばないことで制止させる。

 渡良部「落ち着いて。今のモノヤギの発言でふぃあなんちゃらが影響して、その番号が00であることもわかった。だからダメ。モノヤギに歯向かうのはあいつの思うツボだよ」

 近衛「渡良部殿……」

 制止をおとなしく受け入れ、それでもモノヤギを睨む視線は後ろからでも鋭くなっているだろう。

 ちなみに『フィアスコ』は野心的な企てが滑稽な結果で終わるものを指している。この意味から沿うと橘は別に何も企てたようには思えない。モノヤギがそういう風に仕組んだのかもしれないけど。

 近衛「お見苦しい姿を晒して申し訳ありませんでした。それと少し気になる点がございましてそのご指摘をさせていただきたく存じます」

 謝罪とともに気になる点があるという。どこのことだろう。

 近衛「絶対に死ぬ番号……とモノヤギは仰いました。しかしこれは即死というわけではない、という認識でよろしいのでございますね?」

 国門「それは間違いないぜ」

 即答かよ。

 国門「橘は…………夜中に刺された。ダグラスを殺したあとの工作後に……包丁を持った犯人にっ!! だがあの男は!! それで死ななかった。俺が橘の死を目の前で見たんだ、嘘なんかじゃねえ!!」

 国門が何か焦っているように見えるのは気のせいかな。冷や汗が流れているように見える。

 近衛「その確認が取れただけでも嬉しい限

りでございます」

 金室「あと、もうひとつ気になることいいですか? 橘くんって……結構背高いですよね。たとえ絶対死ぬ番号を引き当てたとしても、なぜ防がなかったんでしょうか?」

 直樹「確かにそれは一理あるね……」

 うーん。何でだろう。…………彼は警戒心が高いから身長とかで見えなかったなんてことは多分ないだろうし。防げなかった? 運命ダイスで? その可能性がある。けどそこよりも気になるのが深々と刺さった包丁。これが引っ掛かる。犯人は橘が来ることを知っていた……それなら構えることができる。けどあの狭い二階廊下……いや狭いからこそ逃れられないのか。ん? 狭い? そういえば……

 直樹「ごめん、ちょっと考えてるときに別の解決することが出ちゃった」

 いいですよと言われて話を続けた。

 直樹「二階ってさ、なんか、廊下少し狭くない?」

 巡間「確かに狭いが……」

 直樹「Ⅲ棟は円柱型のテレビ局のような構造をした建物でⅠ棟Ⅱ棟に比べたら断然広い。ここまではいいと思うけど……少し思い出して欲しい。三階のコンサートホールってすごく広く感じない?」

 湊川「そうね。確かに広いわ」

 直樹「そして四階のカジノ、五階の仮眠室も広い」

 渡良部「広いね。まあ五階は階段あるから少しだけ狭く感じるけど、それでも全然大丈夫だし」

 五階の狭さは仕方ない。けど

 直樹「二階ってさ、控え室広いのに廊下狭いんだよね」

 灰垣「ふむ……確かに今の今まであまり気に止めてなかったがそうじゃな」

 直樹「その理由が確かにある。なんだと思う?」

 で、ここまで言うと建物を隅々まで探していた人が反応するんだよね。

 国門「『非常階段』、こいつのことを言ってんだろ?」

 直樹「そう。非常階段」

 近衛「非常階段には特に異常はございませんでしたが」

 巡間「それが一体どうしたというんだ?」

 国門「非常階段は建物『内』にある。それは一階から三階へと行ける。そう、二階をすっ飛ばすことができるやつ……建物外をぐるっと見渡して見たんだけどよ、なんてこった!! なーんの変哲もねぇときたよ!!」

 玉柏「口調なんとかしろ騒々しい」

 全くだ。

 国門「外側が本当に何もなくて非常階段が確実に中にあると把握したわけだぜ。だがよぉ、それはつまり必然的に『二階が狭くなる』ってことを示していたわけなんだ。そりゃそうだろ? ぐるりとなっている階段で狭くなるってぇのはよぉ」

 非常階段は二階の動きを狭めることにも繋がる。あまり情報は少ないけれど、ここで解決させたかったんだ。

 あとなーんか引っ掛かる発言をしていた人がいるんだけど、その人さっきからずっと自分を守るような発言をしている。もしかすると……

 直樹「今のことを踏まえてさっきの金室さんの質問に答えるんだけど、多分橘くんは……防がなかったんじゃなくて『防げなかった』んじゃないかな」

 矢崎「防げなかった?」

 直樹「あそこの廊下は橘くんが杖を振り回すにはギリギリで大きく振り回そうとすると壁に引っ掛かるんだ。でもそれだけじゃない。そしてこれが犯人を示すかもしれない。だって……君はずっと保身的になってるから」

 今回の連続殺人事件の犯人……それは

 直樹「そうでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「巡間くん。君しかいない」

 巡間「……私だと?」

 私は頷いた。

 巡間「なんともバカバカしいことを言う。私が保身的だと? そんなもの全員同じだろう」

 直樹「いいや違う。巡間くんは上がった話題にまるで触れてほしくないような発言が目立っていたよ」

 巡間「そんなので私が犯人だと決めつける気なのか?」

 巡間が至って冷静に発言していく。自分が犯人でないと強く出ているみたいだ。

 直樹「一旦話を戻すよ。巡間くんなら襲えた理由について。それは圧倒的な身長差だ」

 玉柏「橘の身長は俺の身長よりも若干低い位だな。まあ180はいってるだろうな」

 金室「ですが、巡間くんの身長は……確か鷹山さんのより低かった記憶です。……150もないのでは?」

 巡間「………………ああ。私の背丈は150もない。だがそんなことどうだって」

 どうだっていいってことはない。大切なことだ。

 直樹「その訳を覆す!! 橘くんの腹部には深々と刺された傷が残っていたんだ。これは完全に不意討ちで橘くんを襲ったことになる。つまり犯人は凶器の包丁をしっかりと構えたはずなんだ」

 国門「そうするとどうだ? 身長の低いお前ぇなら高身長の橘を視界から外れるように低姿勢で刺すことができるんじゃあねぇか?」

 巡間「身長が低いから……低姿勢で刺せるか……本当に……」

 呆れながら首を横に振る。

 巡間「なんともおかしな推理をしてくれる。いいか、Ⅲ棟の構造を理解しているだろう? あれは円柱型の建物。つまり迫ってくる様子は必ずわかるんだ。仮に私が橘くんを狙っていたにしても、彼が気づかないわけがない。身長云々よりもそこが説明出来なければ納得出来ないぞ?」

 っ、ちょっと痛いところをついてきた。確かにそうだ。角から襲えば隙を狙えて簡単に刺せるかもしれない。けどたとえあそこが狭い廊下でも運命ダイスが振られていたとしても、橘なら対抗できたはずなんだ。

 そしてここで声をあげたのは……玉柏だった。

 玉柏「確かにお前の言う通りだ。建物の影響もあり対応はできたはず。だがな、身長? 建物? そんなじゃない。もっと身近で確実に橘を襲ったと証明できるものがある」

 身近で、証明できるもの……?

 巡間「……なんだというんだそれは」

 玉柏「わからないのか?」

 ダンっと席を叩く音が響く。メガネをくいっと上げてニヒルに笑う。うん、あんたのその笑い方慣れないな。

 玉柏「杖だよ、杖。橘のずっと持っていた杖だ」

 湊川「杖? 杖が何の証拠になるの?」

 玉柏「杖のことを思い出してくれ。あれはな……杖の『片方の先端以外何にもついてなかった』んだよ」

 そういえば……血は回りについてなかったっけ……!!

 直樹「そうか!! わかったよ!! もし橘くんが杖を構えたりしたら返り血がつくんだ!! 橘くんの杖は常に左側のベルトループにある……そしてモノヤギファイルの補足を見ても刺されたのは右側……これは杖を構えたら絶対に血がつくよ」

 渡良部「杖の先端について血は……移動するときに使って、下に落ちた自分の血についたわけなんだ。控え室に移動してずっと……ジャケットで止血してたの? バカじゃん……」

 これで少しは動揺するかと思った。けど、巡間は至って冷静に私たちを見るだけだった。

 巡間「やれやれ……それだけか。あのな、君たちのこの議論の前提は橘くん殺害だけでなく、ダグラスくんも含むものとなっているのだろう。しかしだ、君たちからしてみたら橘くんのは解決できたにしてもダグラスくんについては何も解決なんてしていないことがわかるか? 今回殺害された二人とは私と20cm以上もの身長差があるだろう。そして君たちは言った。『ダグラスくんと犯人は争った』と。争った? 私が? こんなにも体格差があるというのにか? 到底できるわけがない。私が負けるのは目に見えているだろう」

 そうだけど……そうだけど……そういう細かいところに気づけるのか……

 国門「いや、争ったし事実勝っているぜ。なんでカジノに行ったかは知らねぇが、そこにはたっっっっくさんの凶器があった!! 瓶!! キュー!! 椅子!! 台!! その他諸々!! 投げさえすれば……いい脅しだぜ」

 巡間「…………」

 国門「それによぉ、投げられたら当然足場なんてぇのは不安定になる。いつ倒れたっておかしかねぇよ。んな状況下で先に倒れたのがダグラスだったら納得もんだろ? そこを狙って瓶を振り下ろして殺害。そして保険として首に傷をつけて血を流させる。簡単な話だぜ」

 巡間はじっと国門を睨み付ける。腕を組んでまたやれやれとため息をつく。

 巡間「そんなもの……私でなくとも出来るだろう……なぜ私と限定した言い方をするんだ。私は何も知らないし犯人ではない。しかも私はなぜカジノに行った? 行く意味ないだろう」

 矢崎「ビリヤードとかしたかったんじゃないかい? 特技披露のときとても楽しそうにやってたからね」

 巡間「っ……それにしてもだ、私はやってないとしか言えない」

 かなり呆れている。けど……少し前に不自然な発言が一ヶ所あった。

 直樹「え、じゃあなんで紙に書いてるってわかったの?」

 巡間「……は?」

 揺れた。

 直樹「巡間くん、なんでⅢ棟の鍵の扱いについて『紙に書いてある』って言ったの? あれってモノヤギから知らされているはずだよ」

 巡間「そ、そんなこと言った覚えな」

 渡良部「自分の発言に責任持ったら? 私も人のこと言えたものじゃないけど。あんた間違いなく言ってたよ」

 明らかな動揺を見せ始めた。これは追い詰められるかも。けど……なぜだろう……この事件……嫌に背筋が凍るような真相があるような……

 直樹「なぜ巡間くんが紙に書いてあるって言ったのか、それは難しい話じゃない。……君は『マスターキーの在りかを知っていた』。そうでしょ? そして金庫の中に説明書として紙があった」

 巡間「な、何を根拠に……!! それにあれは金庫に入っていて暗証番号を入れなければ意味ないだろう!!?」

 金室「そういえばその暗証番号……一体なんだったのでしょうか……?」

 私もそれはわからない。けど君ならわかるはずだと思う。私はそっちに目配せした。

 玉柏「暗証番号なんて簡単だ。あれはただ『出席番号』を入れればいい」

 近衛「出席番号を、でございますか?」

 玉柏「ヒントを思い出してみな」

 

 【ヒント】

 ・あなたの数字も大事

 ・被せ加えて順序よく

 ・同じ数字は次の桁とまとめて

 ・並び方を複数挙げよ

 

 玉柏「まず『並び方を複数挙げよ』ってところなんだがな……これだけだと身長、体重、胸囲、他いろんな並び方が現れてくる。ただこれだとわからない。でここで大事になるのが『あなたの数字も大事』……これはつまり自分自身にも番号があるってことだろ。自分にある数字……これは『出席番号』だと想定できる。俺たちは生徒だ。必ずそれがあるだろ。んで、意味ありげな『被せ加えて順序よく』だがな……なにも足し算引き算やれってことじゃない。これにはある人たちが隠されている。それは被害者と加害者だ。これは多分鷹山、江上、宮原、阪本の四人のことを指していたんだろうな。ということはこいつらの出席番号を死んだ順番から並べればいい」

 説明なっが。わかるけど、長い。

 矢崎「けどそれって無理じゃないかい? 出席番号を当てはめると」

 

 1 江上

 2 金室

 3 国門

 4 近衛

 5 阪本

 6 鷹山

 7 ダグラス

 8 橘

 9 玉柏

 10 直樹

 11 灰垣

 12 巡間

 13 湊川

 14 宮原

 15 矢崎

 16 渡良部

 

 矢崎「こうなるよね。6、1、14、5の4つだけど……あの金庫って四桁だよね? どーうやって開けるんだい?」

 玉柏「そのための『同じ数字は次の桁とまとめて』だ。61145で同じ数字なのは1。つまりこれをまとめてしまえばいい。足し算を知ろなんて一言も書かれていない。ここは素直に1で括ればいいだけだ。そうすれば」

 近衛「6145の金庫の暗証番号が浮かび上がるわけでございますか」

 巡間「ぐ……」

 もう、さすが盗賊。こんなのわからないよ。けど明らかに巡間の動揺を誘えた。

 

 ***

 

 巡間「そ、そんなもの……私でなくとも解けるだろう!! そもそも身長で私を犯人と決めるのも軽率ではないのか。しかもだ、さっき国門くんは犯人は男だけと言っただと? 意味がわからないだろう!!?」

 国門「残念。悪いが些細なことが男だけの犯人だと証明してくれるんだぜ」

 巡間「なんだと?」

 国門「ところで全員に聞くが橘はどういう風に人を呼んでいた?」

 橘のみんなへの呼び方……才能呼びだ

 灰垣「才能呼びが多いじゃろう。それがどうした?」

 国門「問題はそっちじゃねぇぜ。橘が遠回しに人を言うとき、遣い分けてたんだよ」

 玉柏「遣い分け…………あ、してたな」

 してた!? え、いつ……

 国門「『やつ』と『あいつ』……橘は男女で遣い分けてやがったんだぜ!!」

 男女で、遣い分け……? まさか……

 国門「男には『やつ』、女には『あいつ』、モノヤギモノリュウ以外しっかり区別されていやがった!! 思い出してみろよ!! 最初に動機をもらったときとか……」

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 『関係ねぇ!! 俺はなぁ、一刻も早くあいつを……あいつを……!!』

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 国門「今だからわかるが、これは多分江上のことを指してるはずだぜ。他にも」

 

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 『ったりめぇだ!! そこにやつが、やつがいたはずなんだよ!!』

 

 

 ______

 

 

 

 

 国門「これはダグラスと揉み合いのとき、このときのやつはF.T。きっとこいつぁ男だぜ。さらにだ。これはあとから聞いた話だが、橘がお前ぇらに宮原の死を伝えたときのこと」

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 『詳しい話はあとだ!! 執事はそこにいんのか!? やつに握り飯作れって言っとけ!! いいか!! Ⅱ棟にさっさとこい!!』

 

 

 

 ______

 

 

 

 

 そういえば……明らかに違う……近衛のことをやつって言ってた。それだけじゃない。あのとき、橘と会話したときもあいつとやつが混ざっていた……まさかそんなことがあったなんて思いもしてなかった。

 国門「橘はあのとき俺にこう言った!! 『犯人はやつだ』と!! 今の法則を考えりゃあ犯人は男に限定される!!」

 巡間「そんなもの信じられるものか!! 橘くんのハッタリではないのか!?」

 国門「あいつはハッタリなんざ言わねぇぜ。そういう人間だ。なんだかんだであいつは俺たちに一度足りとも嘘をついたことがない」

 ……口が悪くてけど曲がったことが嫌いで不器用で私たちに協力してくれた。……彼の目に何が映っていたのか、何を見ていたのかはとても気になるところだけれど。

 巡間「ち、違う。私じゃない!! それなら、灰垣くんや玉柏くん、近衛くんだって犯人候補だろう!!?」

 灰垣「すまんが、わしの容疑は簡単に晴れるぞ。こいつで」

 巡間「っな!!」

 灰垣がジャージのポケットから取り出したのは……宮原の電子生徒手帳だ。それ持ってたのあんたかい!!

 灰垣「昨日は宮原の個室で寝ておった。電子生徒手帳を確認してもらえば23:00から今日の事件発覚のアナウンスがなるまでの間、わしがそこにいたと証明できる」

 咄嗟に電子生徒手帳で履歴を確認してみると確かに宮原の部屋が使用されたことを示していた。

 巡間「な、なぜそんなもの……いつから!!」

 灰垣「いつから? Ⅲ棟解放されてからずっとじゃ。貸し借りじゃないからセーフじゃろ?」

 モノヤギ「セーフであーる。そもそも貸し借りで一セットであーるからァ、貸すと借りるの契約が成立していなければァ校則違反ではないのであーる」

 灰垣「少し頭を捻っただけじゃ。もし夜中に事件が起きたときに自分の個室でないところを使えば確実に犯人から除外される。それもⅡ棟でな」

 自らアリバイを成立させるアイデアを思い付き、それが成功した。いろいろ伏線多いぞ今回。

 近衛「わたくしにアリバイなどございませんが……しかしこの手袋を見ていただければよろしいかと……」

 近衛はつけた手袋を取って見せる。手には傷一つなく、また手袋も汚れがなかった。……ただ彼の爪は私たちよりも小さく見えた。

 近衛「実はわたくしの手袋は替えがございません。これしかないのでございます」

 巡間「そんなもの仕舞ってやればいいだろう!!?」

 近衛「そうともいかないのでございますよ。今わたくしは手を見せましたが……正直自分の手にはコンプレックスしかございません。それを手袋をつけることで隠しております。これを外してわざわざ見せて殺したなどとなりうるでございましょうか? それに橘殿ならまだしも、ダグラス殿はこの事実を知っていらした。なのにダグラス殿は殺害された。わたくしが殺した理由があれならただのド阿呆でございますよ」

 話している間に手袋をまたつけて淡々と述べた。近衛自分の手にコンプレックスあったのか。けど一理ある。あとは……玉柏の証明だけだ。

 巡間「……っなら玉柏くんはなんだと言うんだ!?」

 玉柏「アリバイか……ああ昨日の夜直樹の部屋に邪魔したな」

 !? な、何嘘言ってるの……!?

 玉柏「ちょっと渡したいものがあってな。夜とはいえ重要なもんだったしそれを届けに行ったんだよ。そうだろ?」

 ハッタリ噛ましてきたぞおい。ていうか同意を求めるんかいっ!!

 直樹「そ、そうだね」

 金室「差し支えなければ何を渡しに?」

 玉柏「鷹山のノート覚えてるか。あれしばらく借りててな」

 ハッタリにとんでもないハッタリ噛ましてんるじゃない。ていうかそれ盗んだってことじゃん!!? なんでやねん!? いつも入れてるカーディガンに手を自然に見えるように入れたらあったよノート。でも盗んだんだなおい。

 矢崎「なーにも夜でなくてもよかったんじゃないかい?」

 玉柏「確かに昼間に渡したほうが確実だがな、夜に渡せばアリバイできる可能性が増えるんでな」

 ハッタリ盗賊が何を言うか。

 玉柏「あとそのまま泊まった」

 自分で自分の首絞めにかかるのやめろーーーい!!!?

 国門「は? え、ちょ、なぜ?」

 国門めっちゃ困惑してるじゃんッッ!!!! 少し口調迷子になっちゃってるじゃんッッ!!!!

 直樹「嗚呼……夜までにらめっこしてらしくて届けたときにそのまま寝落ちたんだよ……」

 モウナルヨウニナーレ。

 玉柏「んなわけだ。ご本人様公認のアリバイだろ?」

 ムリヤリスギルソレハアリバイジャナイ。ココロナシカニヤッテワラッテルヨコノカクシンハン。

 湊川「……ってことは犯人は巡間くんしかないってことになるわね?」

 巡間「…………それだけか?」

 さっきまで動揺していた巡間が、否動揺はしているが、一言放つ。

 巡間「それだけか? 本当に? まだまだごり押しの域だろう?」

 正論だ。確かにこれだけじゃまだまだごり押し、押し付けの域。

 国門「んじゃそのごり押しとやらを真実にしてやろうぜ。直樹。俺一度お前に番号渡したろ」

 直樹「え、うん。確かにもらったけど」

 国門「それと玉柏、お前橘に何か言われたのかだぜ? お前ぇに振ればわかるって言われたことなんだが」

 玉柏「ああ。そういうことか。直樹、お前いつも鷹山のノート持ってるだろ? それ今あるか」

 直樹「持ってるけど」

 玉柏「読んでる最中に橘に少し貸してたんだ。何したかは知らんがな。それ見てみな。橘からのヒントがきっとそこにある」

 どういうことだろう。私はカーディガンから取り出して中身をまた一度確認する。見る度に間違いに目が止まり苦笑したくなる。そんな中、後半ページに見覚えのないものがある。

 

 

 ・・  ①④

 ・・  ②⑤

 ・・  ③⑥

 

 

 ●・ ●・ ●● ●● ・●

 ・・ ●・ ・・ ●・ ●・

 ・・ ・・ ・・ ・・ ・・

 

 あ  い  う  え  お

 

 

 五十音、濁点半濁点のものもすべてが含まれた6つの点。これは……まさか

 直樹「てん、じ?」

 玉柏「へえなるほどな。あいつ、何かに使えるかも知れねぇもんを書きたいって言ってたしな。はあ……不器用なやつだよ全く」

 巡間「そ、それが一体何だという!!?」

 玉柏「こいつには一緒に番号も書かれていてな? で国門曰く橘から番号を教えてもらったんだとよ」

 巡間「バカな……そんなもの」

 玉柏がやってみなきゃわからないだろという顔で私にやれと目配せしてきた。

 直樹「…………了解、相棒」

 私はもらった番号を当てはめながらどこに何が浮かび上がるかを確認していく。番号は「13651561356」。これ数字による法則じゃなくて点字のことだったんだ……えっと……これをこうすると……こうなるのかな?

 

 136    5156   1356

 ●・  ・・ ●・  ●・

 ・・  ・● ・●  ・●

 ●●  ・・ ・●  ●●

 

 でこれに当てはまるのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「は、ざ、ま。……巡間くん?」

 巡間「なっ!!?」

 巡間は驚き絶句する。

 国門「はっはっはっ!! 被害者からのダイイングメッセージ!! まぁさかこんなところとは思いもしなかったぜ。そりゃ興味誰も引かれるわけねぇなぁ!!」

 国門が高く笑う。特技披露大会のときに言っていた。手話とか点字でもいいけど誰も興味引かないだろうと。けど純粋な疑問で、何で橘って点字を知っていたんだろう。

 巡間「ぐっ、ぐぐぐ……」

 矢崎「このダイイングメッセージ……江上ちゃんのときよりも確実性高いね。だってそうじゃないと、あーんな正確に点字の五十音なーんて言えないからね」

 

 

 

 「どうやら診察が必要なようだなっ!!!!」

 

 

 

 表情を歪ませ蒼白しながらも、巡間は反論する。最後……なのかもしれない。けどどうしよう。……コトダマが、足りない。額から汗が流れるのがよくわかった。

 巡間「何がダイイングメッセージだ!! 国門くんが私に『罪を擦り付けるため』に、隠してきたものかも知れないだろう!! それになぜ私が彼らを、『二人を殺害する』のだ!? 理由が、『動機がない』だろう!!? わざわざこんな大掛かりな仕掛けを、しかもあんな『二重の密室』を!? 『咄嗟に出来るようなものではない』!! これは明らかに『計画的な犯行』だろう!!? 私はそんな計画なんてしていないし、そもそも殺人なんてしない!! 君たちは、私が犯人だという確たる決定的な証拠を持っているのか!? 『ダイイングメッセージ』ではない!! 『証言』でもない!! 『凶器』、『時間』、凶器とはまた違う『道具』、エトセトラ!! 私を犯人だと示す『決定的な証拠』があるのか!!!?」

 撒き散らされた反論、私に持たされたはずの刀が迷う。決定的な証拠。確かにない。無さそうに見える。じゃあなんだ? 咄嗟に行われた犯行? 不可能というわけではない。運命ダイスがあるから。でもそれはあまりあてにすることができない。だって『運』なんだから。なら他に何がある? 巡間を犯人だと認めさせる証拠……なにか、何か…………

 巡間「は、ははは、ない、だろう……? あるわけないんだ……見つかってないんだ……あるわけない……見つかるはずない……もう、『あけられることはない』んだ……ははっ、ははは」

 感情なんて籠られてない乾いた、いや、乾ききったような笑顔。何かに怯え、何かを恐れているような……なぜだ……なにか、なにかが引っ掛かる

 

 

 

 ……あけられる?

 

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 突如、私の脳裏に最悪の可能性が過った

 

 

 一気に駆け上がる寒気

 

 

 鳥肌が止まることを知らない

 

 

 私は反射で体を押さえた

 

 

 そういえば……あんなことがあった

 

 

 少なくとも、二回は見てきた

 

 

 そして、聞いたんだ……

 

 

 『彼らの口から』

 

 

 思い出してきた

 

 

 今まで私が見てきた巡間の行動が

 

 

 何もかも、浮かび上がってくる

 

 

 そしてそれを____ない理由も理解できる

 

 

 コトダマ……入手

 

 

 残酷で

 

 

 狂気的で

 

 

 皮肉まみれな

 

 

 この裁判に

 

 

 終止符を

 

 

 

 

 

 

 

 

   「その表現を正しく翻訳する(切る)!!」

 

 

 

 

 

 

 【コトダマ】

 

 ○○を○たれた○の○

 

 ○○室にない○○

 

 

 ***

 

 直樹「ねえ……巡間くん……目を開けてよ」

 巡間「……………………は?」

 直樹「そのまんまだよ。目を開けて。それだけ。それだけで君は犯人かどうかが決まる」

 巡間「な、何を言って……私はこれが普通なんだ!! これ以上目は開かない!!」

 直樹「………………隠さないで。もう、隠さないで……」

 思いついてしまった推測、私は、これが真実だとしか思えなかった。紡ごうとするたびに胸が苦しくなってしまう。嫌だ。本当なら私だってこんなこと知りたくもなかった。けど、『一致しちゃった』んだ……っ!! 前を向いていられなくて、私は顔を伏せる形で……続ける

 直樹「一回目の裁判、君は橘くんの杖を止めるために右手を出して止められずに、左手で止めた。Ⅱ棟開放後の薬学室でどこかぎこちない動きを感じた。……あと自分で言ったよね、両利きで左に慣れようとしてるけど右が出ちゃうって………っ二回目の裁判、薬学書の話題が出たとき、右手で席に触れようとしたとき一瞬踊ってつかなかった。………………最近なんて、コーヒー淹れるとき溢しそうになったっけね……ビリヤードも…………そのとき何回かかすってミスしたっけ…………橘くんの遺体も……すごく、右脇腹に寄ってたみたいなんだよ………………」

 近衛「そ、それが一体どのような……」

 落ち着け、深呼吸をしろ、ねえ……うそだと言いたいのに嘘じゃない、はずなんだ………………

 

 

 直樹「………………巡間くん、君はさ……『右目がない』んでしょ?」

 渡良部「はいっ!?」

 湊川「え」

 灰垣「なにっ!?」

 国門「はあぁ!?」

 矢崎「なんでっ」

 近衛「そんなまさかっ!?」

 金室「う、うそですよね?」

 玉柏「うそ……だろ……っ」

 誰一人として予測できず声をあげる。でも、今までの行動から考えられるのは……

 巡間「や、やめろ……な、なぜっ」

 直樹「そう思うしかないんだ!! そうとしか考えられないんだ!!」

 自分の視界が歪み始めた。私は我を忘れそのまま吐き出すしかなかった。

 直樹「君は!! 何かの事情で……例えば目にゴミが入ったとか……そういうので瞬きして、ない右目をダグラスくんに見られたからダグラスくんを殺すしかなかった!! そして、密室を作って護身として包丁を持って二階を通ってⅢ棟から出ようとした!! そのときに誰かがいることに気づいて構えて……そのまま勢いで刺したっ!! そのまま一階へ降りてピアノの中に入れてもう一つ持ち出していた簡易ガスバーナーで鍵を溶かして出ていった!! そしてこの時……ガムテープが外に落ちていたことに気づかなかった……そのまま部屋に戻って寝て、早起きして誰かがどちらかの死体を発見するのを伺った!! そして私たちと合流した……!!」

 脳が責めたくない、責めたくないと言っている。それなのに吐き出す言葉は逆のことを差す。そんな矛盾を抱えても、自分の意思じゃ止められそうになかった。

 巡間「っだからこれは計画的な」

 直樹「運命ダイスがある限り!! 咄嗟に密室を作れる可能性だってあるんだっ!!!!」

 巡間「…………っ、違う、違う!! 私じゃ、ないっ!!」

 右目を押さえながら必死に違うと抗議する彼を見ていられなかった。これで、最後にさせて……

 直樹「巡間くんはっ……『森の恐怖』で右目を撃たれた男の子……そうなんじゃないの……?」

 巡間「ひっ……」

 直樹「ダグラスくんの言っていた男の子のこと覚えてるよね? これ、言い方から考えて完全に子どもなんだ。……ダグラスくんの目にはその子がそれくらいに見えた。巡間くん、今の君の身長は150も言ってないんだよね? ってことはいつなのかまで具体的にはわからないけど、当時は今の身長よりも……もっと、低かったんじゃないの?」

 巡間「や、やめ……」

 直樹「隠そうと思っても隠せない……なぜなら『医務室には眼帯がない』から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もうやめてくれぇええッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 巡間が裁判場内を反響させるほどの大声で叫んだ。私は涙を拭いてしっかりと、彼を見つめ直した。

 巡間「もうっ……やめてくれ……もう……いやなんだ……」

 彼の左目からボロボロ流れる涙。ゆっくりと開かれた初めてみたその瞳。童顔の巡間らしく幼い子どもを見ているようだった。

 巡間「わた、しが……わたし、は…………ま……た……」

 ゆっくりと右目から手を離すとそこには

 

 

 巡間「またっ…………撃たれてしまったのか……っ」

 

 

 

 

 

 右目の眼球がない、ただ顔の内側の筋肉や血管が見えている、怯えた少年がいただけであった……

 

 

 *****

 

 

 モノリュウ文書

 

 

 事件の真相ファイルその3

 

 

 この事件は運命ダイスによって左右された、突発的な連続殺人事件である。ダグラスはカジノの掃除をしないと寝られず、夜中に起きてⅢ棟へ向かう。このときたまたま起きてきた金室と出会っていた。

 

 

 一方犯人もまた、たまたまビリヤードをするためにカジノへ行っていた。そこにダグラスがカジノにやってきた。特に気にもしなかったがここで犯人にアクシデントが起きてしまう。目にゴミが入ってしまったのだ。さらに左目を擦っているとき反射で右目を開いてしまい、それをダグラスに見られてしまった。犯人はひどく怯えてダグラスを攻撃し始めた。台を使って逃げ道をなくし、その場にあるものを何度も投げつける。ダグラスはその場から逃げることが出来ずずっと犯人からの攻撃を避けるのに精一杯でついに追い込まれてしまう。不運なことに足元が不安定であったためにダグラスは転んでしまい、そして頭を瓶で殴られ即死してしまった。犯人はダグラスの首を切り血液を流させ、そして棚を倒して現場そのものをぐしゃぐしゃにして、そして密室を思い付く。

 

 

 まず五階の仮眠室に移動した犯人はその場にあったドアノブよりも低い横長の棚を扉の前に置いた。そして手ごろなトランプをいくつもドアノブの下におき内側から大丈夫かを確認。場所を確認してトランプを取り、扉を全開にしてからさっきトランプを置いたところに置き直して扉を閉める。こうして外側から開けようとしてもトランプが阻害して引っ掛かるようにした。

 

 

 次に四階の密室。これを作るために道具を色々と持ち出した。二階からは宮原のポーチから金槌を、三階からはドラム2つと鋸とガムテープを、そして三階四階の鍵、金庫の中から取り出したマスターキーを。以前近衛たちが四階扉横に置いた棚の中身を出して扉前に引きずるように移動させる。そしてドラムのコードを扉側に向いている棚の足に縛って外側から引っ張れるようにした。後ろ側の足は鋸でギリギリまで切る。そしてカジノ内にあったビリヤードのキューを持ち出す。次の三の札が付いた三階鍵から札を取ってマスターキーにそれをつけた。それをダグラスの左手に握らせた。そして密室本格的に完成させにかかることになる。

 

 

 犯人が通れるほどの隙間が出来るように棚をギリギリのところまで扉に近づけて四階から出る。鍵を閉める前にドラムのコードを引っ張ったり巻いたりして扉に棚を近づけさせる。近づけたら扉が開かないことを確認してからコードを外し鍵を掛け、扉下から四階の鍵を投げ入れた。次にビリヤードのキューに金槌をガムテープでガッチリと取れないように固定する。これを扉下に入れて切り込みを入れた足目掛けて思い切り振って足を落とした。両足落としたあとに、鋸で手前の足をまた同じようにギリギリまで切る。そして後ろ足と同じ手順を踏む。最後に落とした足で金槌が挟まるが、そこまで取るのに時間はかからない。

 

 

 一つ目の密室を完成させた犯人は三階へと降りて使ったドラムや鋸やガムテープを元に戻した。ここで犯人は簡易ガスバーナーと包丁を持ち出す。三階の鍵を閉めて、二階へ降りる。ところがここでもアクシデントが起きてしまう。

 

 

 そんなことを知るよしもない橘はコロシアイが起きないように見回りをしていて、ちょうどⅡ棟の見回りを終えていた。Ⅲ棟へと入り一階の見回りを終えて二階へと上がったときだった。犯人が誰かが近づいてくるのを察知してしまった。そこで犯人は持っていた刃物を構えて足音のあるほうへと走りそして橘の腹部を捉えた。このとき橘には運命ダイスが振られていたこと、さらに二階の廊下が狭いというところから杖で攻撃することが出来ずそのまま膝をついてしまい、犯人は逃走。橘は杖を使って控え室へと入りジャケットを脱いでずっと止血することになる。

 

 

 逃走した犯人はピアノの中に金槌と血まみれの包丁を入れた。そして金庫の中に鍵を入れて簡易ガスバーナーで溶かす。金庫は完全耐熱でどんな高い温度になっても溶けることがなかったからそのまま鍵を溶かすことができた。そして犯人はガスバーナーを回収。そのままⅢ棟出た。このとき犯人はミスをしていた。ガムテープの始末をせずに出ていってしまいさらにそれが外に落ちてしまったのだ。

 

 

 一方橘はずっと生きていた。朝までずっと止血をしていた。朝になってそろそろ力尽きようというころに国門に見つかる。橘は国門に教え、そして犯人はやつだと遺しそのまま息を引き取ったのである。

 

 

 *****

 

 

 学級裁判、閉廷

 

 

 *****

 

 

 次回

 なく8部屋目

 

 

 



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第三章 非日常編 見えずの膨張7部屋目 B

 こちらBです。Aとは内容はほとんど変わりません。どちらを読んでもお楽しみ頂けるかなぁと。
 Aにも書いた通り、皮肉まみれです。真実って時に残酷ですよね。


注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 学級裁判、再開

 

 

 

 

 *****

 

 国門からの衝撃的な一言。犯人は男しかあり得ない? 一体どういう……

 矢崎「どうしてそんな結論が出るんだい? いくらなーんでも」

 国門「いいや。これは事実だ。だがここで言ったとしても意味はない。犯人の口から質問されなきゃ意味ねぇんだぜ」

 今こうして言ったことが犯人にもバレてるわけなんですがそれは。

 国門「それよりも、今はアリバイなんかよりも密室について話してぇんだぜ。ほんの些細なことでもいい。密室を解く鍵は必ずどこかにあるはずなんだ」

 それは確かにそうだ。けれどそれがわかれば……いや、待てよ……?

 直樹「近衛くん!!」

 近衛「わわわ、わたくしでございますか?」

 直樹「近衛くん、君たしか捜査のときあの扉を塞いでいた棚に見覚えのあるって言ってたよね? あれどういうこと?」

 数回の瞬き。きょとんとするとうーんと悩み腕を組んだ。

 近衛「Ⅲ棟が開放されましたとき。ほら、直樹殿もいらっしゃったときでございますよ。ダグラス殿と渡良部殿と棚を移動したあのとき」

 あれか。

 近衛「あれは結局扉の横に設置致しました。ですがその棚は足が四つでございましたので……現場の棚は直接床についておりました。そのため違うと存じた次第なのでございます」

 持ち上げるとかなんとか言ってたからか。けど扉下の隙間を見ても部屋の様子は全く見えなかった。あの棚は完全に床についていた。

 玉柏「なあ、その棚はもしかしてその時の棚だったりしないのか?」

 渡良部「ちょ今の話聞いて」

 玉柏「話を最後まで聞けって。そうじゃなくてな。四つ足の棚なんだろ? その足は切り落とすことができるんじゃないのか? さて、ここまで言えば誰かさんは気づくんだろうな」

 遠回しに振ってきたぞおい。四つ足を切り落とすことができた。でもその切り落としたといえる証拠はどこに? ……あっ

 直樹「それもしかしてこの木のこと言ってる?」

 私は持っていた四角の木をみんなに見せた。

 巡間「これが棚の足だと言うのか? そんなわけ……」

 直樹「多分なんだけどね」

 国門「………………いいや、多分じゃねぇな。確実にそれは棚から切り落とされた足だ」

 灰垣「ほう? なぜそう言えるんじゃ」

 国門「よーく見てみりゃあわかるぜ」

 そういえばこの木一つだけ引っ掛かっていたことがあった。……ああそういうことか。

 直樹「言われてみれば……国門くんの言う通りだ。近衛くんこれよく見てみて」

 投げたら危ないから矢崎に近衛へ回すように言った。そのとき矢崎も何かに気づいたみたいだった。

 直樹「この木をよく見てみると少し荒くない?」

 近衛はモノクルを動かしてふむと木を見つめ指でその部分をなぞった。

 近衛「この一辺……とはやや違いますがとりあえずここ凸凹しておりますね」

 直樹「そう。結構しっかりしてる木だから手でやるのはかなり力が必要だし……何かしらの道具を使って飛ばしたとかそんな感じなんじゃないかな」

 切り落とすとはまたニュアンスは違うけれど、そう思うのが自然かもしれない。

 国門「それじゃあこの他に何か気になることはなかったか?」

 灰垣「そういえばじゃが……」

 今度は灰垣が何かを言いたげだ。

 国門「なんだ?」

 灰垣「コンサートホールで捜査しておったが、ドラム2つが倒れておったの。犯人が使ったかもダグラスか橘が使ったかも知らないがな」

 湊川「それってどこにあったの?」

 灰垣「コンサートホール四階側の扉付近じゃな。それとコードが少し乱れていた気もした。あああとじゃがビリヤードの棒が折れた状態で見つかったわい」

 巡間「さっきから思うんだが、あの棒の名前はキューだ」

 あの棒そういう名前なのか知らなかった。

 直樹「そういえば二階の宮原くんのポーチの金槌もなくなってなかったかな?」

 矢崎「もしかしてあれ宮原くんのだったのかい。直樹ちゃんたちが捜査したあとに見つけたんだけどね。それ一階のピアノの中になーんか入ってたよ。あとは……血まみれの包丁も」

 ピアノの中!? いや、確かに証拠隠滅するには丁度いい場所かもしれないけどそうじゃない。

 国門「…………他には?」

 玉柏「ぐしゃぐしゃのガムテープ。こいつが外に落ちてたな」

 国門「なるほどだぜ。こんなものか?」

 国門の問いに対し私たちは黙る。密室を解く鍵はこれぐらいか。

 金室「これで密室が解けるんですか?」

 玉柏「ああ。これならだいたいはいけるんだと思うな」

 巡間「一つ気になるのだが、犯人は棚の足を切るとき鋸とは使わなかったのか?」

 直樹「ちゃんと鋸を使ったはずだと思うよ。三階の控え室に鋸とか入ってたんだ。四階で使ったあとにでも元に戻したんじゃないかな」

 

 

 棚の四本足、乱れたドラムのコード、マスターキー、ビリヤードのキュー、金槌、血まみれの包丁、ぐしゃぐしゃのガムテープ、鋸、消えた鍵。

 

 

 犯人はどうやって密室を作ったか。まず五階は多分私の考えた通り。けど手順が違ったのだろう。

 五階の扉を閉め鍵をかけ、棚をおいてドアノブに引っ掛かるようにトランプを置く。こうすれば簡単にできる。

 次に四階。図としては鍵の閉まった四階の扉の内側に棚が置いてある。そして二本の鍵が四階内にある。

 そして三階。三階は単に鍵を閉めただけ。

 

 あれ、なんでだろう。わざわざ『あれ』があるのにこんなことする必要があるのか。

 

 

 直樹「ねえ、みんな。密室について一つ気になることない?」

 金室「気になることですか?」

 灰垣「別にないじゃろ。どうやって作ったか以外に何かあるのか?」

 渡良部「ていうか、わざわざマスターキーあるなら『あんな密室作る必要なくない?』 とっとと始末してしまえばそれで」

 直樹「その訳に賛成だ!!」

 渡良部「へっ!?」

 渡良部は驚いて目を見開いた。けどそうなんだ。

 直樹「マスターキーがあるなら、『凝った密室を作る必要はない』。五階の鍵を閉めて三階四階の鍵をカジノ内に放って、持っているマスターキーを使って三階まで鍵を閉めればそれで完了。あとはマスターキーを始末するだけ。たったそれだけの『単純な作業』なのに、あんなことをする理由があるなら?」

 玉柏「『二重の密室を強調するため』……とかだな」

 直樹「そう。けどそれでもわざわざ面倒なことをしなくてもよかったはず。だって鍵を閉めて始末すればいいんだから」

 しかし犯人はそうしなかった。大掛かりな密室を作る必要があった。理由が必ず存在する、はず。例えば……

 直樹「例えば……マスターキーが四階にあったとかね」

 近衛「それって……まさかっなくなったのは

マスターキーではなく『三階の鍵』だと仰るのでございますか!? 札はついておりましたよ?」

 直樹「マスターキーに札を付けられるなら付け替えは簡単だし誤魔化せるよ。それによく考えてみてよ。私たちは今この裁判でモノヤギから言われるまでマスターキーの存在を知らなかった。マスターキーの存在が浮かび上がったけれど、なくなったのはマスターキーだと私たちが思い込んでいるとしたら?」

 灰垣「……あの密室は強調ではなく、『鍵の行方を錯覚させるため』ということになるのか」

 直樹「多分ね。そして犯人はここで重大なミスを犯した」

 巡間「ミスだと?」

 そう。ほんの些細なことだけどすごく大きなあの存在を……したから。

 国門「金庫か」

 直樹「それ。だって私があのとき見た金庫の中身は『空っぽ』だったんだから」

 矢崎「空っぽだとどーんな問題があるんだい?」

 玉柏「そこには何かがありましたっていう証拠になるからだな。わざわざ四桁の数字を入れなきゃ開けられない金庫だ。何か入っているのは当然だろうが。ここにおいて問題なのは中身の『重要度』。もし金庫の中身がちっぽけな、例えば将棋の駒だとしたら?」

 矢崎「ああ取らないね」

 玉柏「だろ? でももしそれが極端な例でいうと『校則違反一回免除券』とか『外に出られますよ券』とかなら取るだろ?」

 すっごい極端だけど確かに取るはそれ。

 玉柏「金庫の中身がマスターキーだった。それも二階三階四階と同じ形状の。そうでなきゃ札は付け替えられないしな。そしてそれを犯人は取った。つまり中身が重要だったことになる。けどそのあと犯人は中身に何か入れておけばよかったな。そうすれば少なからず誤魔化しが利いただろうに」

 きっと犯人は余裕がなかったんだろうな。けれどなぜ犯人は二人も殺す必要があったんだろう。

 渡良部「知った風に言うけどマスターキーかどうかはわからないでしょ」

 玉柏「俺はあくまでも勘で動くんでな。それにマスターキーを見なくてもⅢ棟の鍵なら同じ形状してるのが多いし、多分ここもそうなってたんだと思う」

 渡良部「そういうもん?」

 玉柏「そういうもんだな」

 確証はないけれど……私もそうだと思ってるし。

 

 直樹「さて、そろそろ密室について解こうと思うんだけど…………これは私にはできない」

 渡良部「はぁ!?」

 金室「な、何をいっているんですか!!」

 まあ驚かれても無理ないけど……正直私の頭でこれを解ける気がしない。

 直樹「だからね。専門家たちに任せようと思うんだ」

 巡間「専門家……たち?」

 私はくすりと笑った。そして私は二人を見た。

 直樹「頼んだよ、玉柏くん、国門くん」

 名指しされた二人は一瞬こちらを見て。そして二人はニヤリと笑った。

 玉柏「おーけー相棒」

 国門「任されたぜ」

 二人なら、この密室を解ける。私はそう確信しているんだ。私は常に持ち歩いている鷹山のノートの何も書いてない一番後ろを開いてメモの用意をする。今さらながら前回もこういう風にまとめておけばよかったのかもしれないと少し後悔した。

 玉柏がタバコを出して火を着けた。二人が地獄から現れたかのような挑んだ表情を浮かべていた。吐き出された煙が始まりの合図だった。

 

 

 ていうか、ここ禁煙じゃないのかよ。レイヤーギなんか言いなさい

 

 

 

 

*****

 

 ※ここでは国門sideをお送りします。玉柏sideは前話をご覧ください

 

 

  まさか僕を頼ってくるたぁなぁ。しかしまあ頼まれたからにはやるのが弁護士としての流儀ってぇもんだぜ。密室トリック自体、一応得意分野だし。

 玉柏「大前提として、直樹の言った五階トリックは確実。これはもういじる必要はない」

 国門「同感だ。あれで充分。問題は四階密室を作り出したかだが……まず鍵に関しての話をするか」

 玉柏「だな」

 鍵といえばあれだな。

 玉柏「ダグラスの左手には三階の札のついた鍵、これはマスターキーだろうと思われるんだな。それと四階の鍵はだいたいカジノ内中央あたり」

 先に言われた。まあいい。

 湊川「四階の鍵は確実に四階内なのよね?」

 玉柏「そうじゃないと三階の鍵閉められないからな。で今その四階の鍵出たけどな、それはドアの下から投げ込まれたんだろうと思う」

 矢崎「根拠は?」

 玉柏「あの扉、5cmくらい下に隙間があるんだよ」

 捜査してても思ったけどどんな構造してやがるんだあのⅢ棟ってやつはよ。

 国門「普通の扉はそんな隙間ねぇのにおっかしい構造してんねぇ? けど鍵閉めたあとに下から鍵を入れれば密室は容易だろうぜ」

 とは言うものの……鍵の話題振ったが実際鍵よりも問題点あるからそっち片付けなきゃいけねぇ。

 国門「ここで鍵については一度置くぜ。まだ話すことがあるが、実際問題なのは鍵よりも棚。扉が外側から『押す』タイプだから一体どうやったらあんなのが作れるのかって話だぜ」

 玉柏の肩がすくんだ気がした。何企んでやがる?

 玉柏「棚の中身はなし。つまり動かすのは一人でできなくはない状態にはしていたことになる」

 近衛「わたくしどもが動かしたときは三人がかりでございましたが、個人的意見を申し上げますと一人で動かす場合は棚そのものがやや重いという理由がございますので少しずつずらすような動かし方になるのではと存じます」

 一人だとずらす感じになると。持ち上げるのはちときついか。

 直樹「それって下からこう……引っ張るのもきつい感じ?」

 近衛「滑車を用いることで多少なりとも楽にすることは可能だとは存じますが、そんなものどこにも……」

 玉柏「それじゃあ盗めねぇぞ!!」

 ここで玉柏の論破か。まあ上等だろうよ。

 玉柏「近衛、ちゃんとあっただろ。ドラムってやつがな」

 近衛「あ、それでございましたか!?」

 本気で忘れてたのか。こいつ少し天然すぎやしねぇかねぇ。

 玉柏「楽に動かせたかどうかは別だけどな。あれは滑車じゃなくてあくまで延長コード」

 湊川「けどどうやって引っ張るのよ。力がない人は犯人から外れるのかしら?」

 甘い、甘いねぇ。そんなんじゃあ甘いっ!!

 国門「チッチッチッ。そんなんで裁けねぇぜ!! 確かに力がいる作業かもしれねぇがドラムが巻き上げることのできる延長コードであること、棚の中身が空であること、これらを考えれば時間がかかっても力のないやつでもできるぜ」

 犯行時間は死亡推定時刻から夜中にやったことは明白。やるには絶好のチャンスってわけだ。

 国門「それとあくまで憶測だが、そうするために試したのかもしれねぇぜ。無理だとわかったら無闇やたらとやるよりも、犯人が扉にギリギリ出入りできる範囲のところに四つ足を切り落とした棚をおいておけばそれだけでも充分だ。鍵は斜めから入れる感じにすればいい」

 玉柏「犯人が男しか有り得ない……国門は確かにそう言った。正直な話俺、灰垣、近衛、巡間、国門の中で力のないやつなんているようには思えないしな」

 渡良部「ストップ。国門(イッツー)は第一発見者。直樹(トン)のあとに私が見つけてアナウンスが鳴ってるから国門(イッツー)は犯人じゃないんじゃない?」

 俺のアリバイを解いてくれたか。実際犯人じゃあねぇしよ。さて四人の中に犯人がいるってわけなのはわかるが、まあ今はそこに重点を置くときじゃない。ふふふ、『犯人』だけ随分と『あれ』なのが気になりはする。言うのはもう少し泳がせてからでもかまわねぇし。

 直樹「結局のところドラムのコードを使って下から引っ張った……ってことでいいんだよね?」

 玉柏「ああ。おそらくな。扉を開けた状態にして、ドラムのコードを取り出す。しっかりと四つ足のうちの一本に結びつけてから扉を閉めて引っ張る。こんな感じだろうな」

 灰垣「む? 待て待て。ドラムは二個使ったはずじゃ」

 あ。

 国門「あ、すっかり抜けてた。ドラム二個使わないと棚の位置おかしくなっちまうぜ」

 金室「少しまとめましょうか。その方が進めやすいでしょうし」

 直樹「それじゃあ少しまとめたものをざっと読み上げていくよ」

 直樹がこれまでのことをノートにまとめていたのか。それを読み上げていく。

 

 

 ・四階内にある鍵はダグラスの手にはマスターキー、中央辺りにあったのが四階の鍵

 ・現時点で三階鍵行方不明

 ・四階の鍵は扉下から投げ込まれた

 ・棚の中身は空

 ・ドラム2つのコード使って棚を扉の前においた

 

 

 直樹「こんな感じ?」

 玉柏「だな。サンキュ」

 もうここまで来れば密室の謎は大詰めだぜ。まだ使われていない気掛かりはキューとか金槌とかか。ふふふふふふふふ、いいぜいいぜ。おもしろい。とっととこの裁判を終わらせてやらねぇと。

 ………………でなきゃ、報われないから。

 玉柏「フックックック……おもしれぇな」

 不敵に笑う玉柏の目には俺と同じ目が映ってた。

 玉柏「ドラムのコードを棚の足2つに結びつける。これは扉側の2足だろうな」

 金室「カジノ側ではコードを戻すことができませんからね」

 玉柏「それとなんだが、あの後ろ足は密室を作るとき扉を閉める前に鋸を使ってギリギリまで切っておいたんだと思うな」

 国門「そして扉を閉めて鍵をかけ、棚を扉に引き寄せて鍵を下から投げ込み、金槌で足を吹き飛ばした……ってところか。この時、一度二階へ寄って宮原の金槌をとったことになるぜ」

 矢崎「んー金槌の持ち手の長さで足を吹き飛ばせるなーんてとても思えないけど」

 玉柏「そのためのキューだ。ガムテープでがっちり固定してやればあとは下から通すだけだ」

 矢崎「そういうことかい」

 まあ勢いをつければ確実に外せるだろう。

 巡間「だが前足はどうなるんだ? これは鋸で落とすにも困難だろう」

 玉柏「いいや、そんなことはない。あの足の長さはどれくらいか誰かわかるか?」

 さすがに俺にはそれは無理だぜな。

 湊川「見せて……多分……4cmくらいだと思うわ」

 湊川わかるのか。……商品取り扱いで慣れてるのか、それともあの二人と一緒にいる時間が長かったからなのか。

 玉柏「ありがと。ということは犯人は完全に棚で封じた扉の下から鋸で切ったってことになるな」

 国門「これも少しだけ余すように切ったんだろ? んで金槌で吹っ飛ばした。そうでなきゃ四つの足がうまいこと中に入ってくれねぇもんな」

 みんなの頷きを見て話を続けた。

 国門「まあ吹っ飛ばしたとはいえ、後ろ側の足ほど飛びはしなかったみてぇだぜ。扉側二つの足は棚に近い位置にあったわけだし」

 灰垣「…………これで、四階の密室は完成したのか」

 玉柏「ああ。そして四階で使った鋸、キュー、ドラムを三階のコンサートホールに戻すとしくは始末。キューについた金槌はガムテープを引きちぎってな。三階の鍵を閉めて包丁を持ち出し、一階まで降りる……そして包丁と金槌をピアノの中に入れた。んでⅢ棟出たときに金槌を固定していたガムテープが落ちた……」

 よし、完全密室の出来上がりだ。あとの問題は三階の鍵のありか。

 近衛「しかしながら三階の鍵はどこへ」

 正直そこが謎だ。っと、玉柏が何かに気づいたみたいだ。

 玉柏「なあお前ら。直樹が言っていた金庫のミスあるだろ。犯人はそこでもうひとつ重大なミスを犯していたんだ」

 直樹「重大なミス?」

 玉柏「直樹、コンサートホールでなくなったのはさっき挙げられたやつだけじゃなかったんだよ。そしてそれを誰も気づいていない。犯人は心の中でほくそ笑んでいるに違いないが、これがとても重要なカギとなる。鍵がなくなった理由もすべて片がつくことになるんだ!!」

 直樹に任せたな。だがこいつは相当直樹を信用している。推理できるのか否か……

 直樹「もしかして……もしかしてだけど……溶かした? ガスバーナーで……」

 玉柏「ああそうだ」

 が、ガスバーナーだと!? ……嗚呼そういうことか。理解した。

 玉柏「ガスバーナーでドロドロに溶かしたんだ。そしてそれを……金庫の中に入れた」

 湊川「ええええ!?!?」

 巡間「が、ガスバーナーでそんなことできるわけ」

 矢崎「いいやできるね。あそこのガスバーナーは新品のを使ったし、そこまでながーい時間使ったわけじゃないから時間かかっても溶かすぐらいは容易いと思うよ。目を保護したほうがいいんだけど、そーんなものどこにも見当たらなかったし、あったとしてもダグラスくんのサングラスくらい。けどそれは四階内にあったまんまだったのを湊川ちゃんから聞いた。つまりそういう身の危険を顧みてなかったんだね」

 おっとこれはおもしろいことを。

 直樹「金庫の中の凸凹は鍵が溶けてできたもの。そう考えられるね」

 灰垣「じゃが……一晩で固まるのか?」

 国門「固まるには固まるぜ。だがⅢ棟の特徴を考えればすぐに固まっただろうぜ」

 Ⅲ棟の特徴といえばあれだ。あれしかねぇ

 直樹「それは寒いってことだよね。Ⅲ棟が」

 湊川「そういえばあそこ随分寒かったわ……」

 国門「理由はわからねぇけどあの寒さが及ぼした影響はまだある」

 巡間「……死体か。ダグラスくんの死亡推定時刻が夜中となっている。非常に曖昧だが、今の話を聞けば納得だ」

 玉柏「さてと。ここぐらいが密室の影響だろ。あとは相棒に任せるな」

 急に投げるなって顔してるぞ直樹。……ま、こいつが信頼してんならあとは任せても大丈夫だな。

 

 

 

 

 *****

 

 ※視点が直樹に戻ります

 

 

 二人に任せてよかった。これで二重の完全密室の謎を解くことができた。スゴイフクザツデモウアタマイタインダケド

 灰垣「ふむ……ではなぜ橘はⅢ棟へ行ったのじゃ?」

 橘がⅢ棟へ行く理由……多分これかもしれない。

 直樹「見回りじゃないかな」

 渡良部「あいつが見回り?」

 国門「橘は橘なりの信念があったんだぜ。夜に殺人が起こったら困るからって理由でⅡ棟とⅢ棟を見回りしてたんだと。だがⅢ棟に入った直後刺された。俺があいつの口から聞いた話だぜ」

 ふーんと渡良部はスカーフを撫でる。興味なしかい。

 湊川「ところでさっきさらっと流れたけど、包丁って血まみれだったのよね?」

 矢崎「そうだよ。その状態でピアノの中に入っていたんだ」

 湊川「……それってつまり、橘くんはそのときに犯人に殺されたってことになるのよね?」

 あ、確かに。

 金室「納得いきませんね……」

 直樹「というと?」

 金室「だってあの橘くんですよ? 彼が真っ正面から包丁を深々と受けるなんて思えないじゃないですか」

 ……正直嫌な予感がするんだけれど、ここでこの可能性を潰すこともできない……私は拳を強く握った。

 直樹「まさかの話。橘くんは引き当ててしまったんじゃないかな……」

 近衛「引き当てたとは……まさか」

 直樹「運命ダイスの『絶対に死ぬ番号』。これを」

 渡良部「う、運命ダイス……」

 近衛「しかしそれを確認することが今できましょうか? 橘殿の電子生徒手帳は今何処にも……」

 玉柏「お求めの品はこちらか?」

 通販か。

 金室「いつそれを」

 玉柏「捜査終了時に一回橘のところによって奪ってきただけだ。貸し借りじゃないだろ」

 まーたこの盗賊理屈つけて盗んだよ。

 玉柏「今日の振られた番号見てみるぞ。………………『00』」

 ゼロ……ゼロ……? え、まさかそれが絶対に死ぬ番号?

 近衛「…………最悪だ」

 突然、明らかに違うトーンの近衛が呟いた。

 近衛「ゼロ、つまり何もない。橘殿の運命が導いたのは……『フィアスコ』だと言うつもりで?」

 …………大失敗?

 モノヤギ「ヒッヒッヒィ……運命に左右されて見放されるなんてェ、ここ世界で生きる価値のないやつだったというわけであーるよォ? ポジティブにも……ネガティブにも左右されるなんてなァ? 実に滑稽であろう?」

 近衛「バカにするじゃないっ!!!!」

 渡良部「近衛(このえ)!!!!」

 近衛の声が荒くなるのを渡良部があだ名で呼ばないことで制止させる。

 渡良部「落ち着いて。今のモノヤギの発言でふぃあなんちゃらが影響して、その番号が00であることもわかった。だからダメ。モノヤギに歯向かうのはあいつの思うツボだよ」

 近衛「渡良部殿……」

 制止をおとなしく受け入れ、それでもモノヤギを睨む視線は後ろからでも鋭くなっているだろう。

 ちなみに『フィアスコ』は野心的な企てが滑稽な結果で終わるものを指している。この意味から沿うと橘は別に何も企てたようには思えない。モノヤギがそういう風に仕組んだのかもしれないけど。

 近衛「お見苦しい姿を晒して申し訳ありませんでした。それと少し気になる点がございましてそのご指摘をさせていただきたく存じます」

 謝罪とともに気になる点があるという。どこのことだろう。

 近衛「絶対に死ぬ番号……とモノヤギは仰いました。しかしこれは即死というわけではない、という認識でよろしいのでございますね?」

 国門「それは間違いないぜ」

 即答かよ。

 国門「橘は…………夜中に刺された。ダグラスを殺したあとの工作後に……包丁を持った犯人にっ!! だがあの男は!! それで死ななかった。俺が橘の死を目の前で見たんだ、嘘なんかじゃねえ!!」

 国門が何か焦っているように見えるのは気のせいかな。冷や汗が流れているように見える。

 近衛「その確認が取れただけでも嬉しい限

りでございます」

 金室「あと、もうひとつ気になることいいですか? 橘くんって……結構背高いですよね。たとえ絶対死ぬ番号を引き当てたとしても、なぜ防がなかったんでしょうか?」

 直樹「確かにそれは一理あるね……」

 うーん。何でだろう。…………彼は警戒心が高いから身長とかで見えなかったなんてことは多分ないだろうし。防げなかった? 運命ダイスで? その可能性がある。けどそこよりも気になるのが深々と刺さった包丁。これが引っ掛かる。犯人は橘が来ることを知っていた……それなら構えることができる。けどあの狭い二階廊下……いや狭いからこそ逃れられないのか。ん? 狭い? そういえば……

 直樹「ごめん、ちょっと考えてるときに別の解決することが出ちゃった」

 いいですよと言われて話を続けた。

 直樹「二階ってさ、なんか、廊下少し狭くない?」

 巡間「確かに狭いが……」

 直樹「Ⅲ棟は円柱型のテレビ局のような構造をした建物でⅠ棟Ⅱ棟に比べたら断然広い。ここまではいいと思うけど……少し思い出して欲しい。三階のコンサートホールってすごく広く感じない?」

 湊川「そうね。確かに広いわ」

 直樹「そして四階のカジノ、五階の仮眠室も広い」

 渡良部「広いね。まあ五階は階段あるから少しだけ狭く感じるけど、それでも全然大丈夫だし」

 五階の狭さは仕方ない。けど

 直樹「二階ってさ、控え室広いのに廊下狭いんだよね」

 灰垣「ふむ……確かに今の今まであまり気に止めてなかったがそうじゃな」

 直樹「その理由が確かにある。なんだと思う?」

 で、ここまで言うと建物を隅々まで探していた人が反応するんだよね。

 国門「『非常階段』、こいつのことを言ってんだろ?」

 直樹「そう。非常階段」

 近衛「非常階段には特に異常はございませんでしたが」

 巡間「それが一体どうしたというんだ?」

 国門「非常階段は建物『内』にある。それは一階から三階へと行ける。そう、二階をすっ飛ばすことができるやつ……建物外をぐるっと見渡して見たんだけどよ、なんてこった!! なーんの変哲もねぇときたよ!!」

 玉柏「口調なんとかしろ騒々しい」

 全くだ。

 国門「外側が本当に何もなくて非常階段が確実に中にあると把握したわけだぜ。だがよぉ、それはつまり必然的に『二階が狭くなる』ってことを示していたわけなんだ。そりゃそうだろ? ぐるりとなっている階段で狭くなるってぇのはよぉ」

 非常階段は二階の動きを狭めることにも繋がる。あまり情報は少ないけれど、ここで解決させたかったんだ。

 あとなーんか引っ掛かる発言をしていた人がいるんだけど、その人さっきからずっと自分を守るような発言をしている。もしかすると……

 直樹「今のことを踏まえてさっきの金室さんの質問に答えるんだけど、多分橘くんは……防がなかったんじゃなくて『防げなかった』んじゃないかな」

 矢崎「防げなかった?」

 直樹「あそこの廊下は橘くんが杖を振り回すにはギリギリで大きく振り回そうとすると壁に引っ掛かるんだ。でもそれだけじゃない。そしてこれが犯人を示すかもしれない。だって……君はずっと保身的になってるから」

 今回の連続殺人事件の犯人……それは

 直樹「そうでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「巡間くん。君しかいない」

 巡間「……私だと?」

 私は頷いた。

 巡間「なんともバカバカしいことを言う。私が保身的だと? そんなもの全員同じだろう」

 直樹「いいや違う。巡間くんは上がった話題にまるで触れてほしくないような発言が目立っていたよ」

 巡間「そんなので私が犯人だと決めつける気なのか?」

 巡間が至って冷静に発言していく。自分が犯人でないと強く出ているみたいだ。

 直樹「一旦話を戻すよ。巡間くんなら襲えた理由について。それは圧倒的な身長差だ」

 玉柏「橘の身長は俺の身長よりも若干低い位だな。まあ180はいってるだろうな」

 金室「ですが、巡間くんの身長は……確か鷹山さんのより低かった記憶です。……150もないのでは?」

 巡間「………………ああ。私の背丈は150もない。だがそんなことどうだって」

 どうだっていいってことはない。大切なことだ。

 直樹「その訳を覆す!! 橘くんの腹部には深々と刺された傷が残っていたんだ。これは完全に不意討ちで橘くんを襲ったことになる。つまり犯人は凶器の包丁をしっかりと構えたはずなんだ」

 国門「そうするとどうだ? 身長の低いお前ぇなら高身長の橘を視界から外れるように低姿勢で刺すことができるんじゃあねぇか?」

 巡間「身長が低いから……低姿勢で刺せるか……本当に……」

 呆れながら首を横に振る。

 巡間「なんともおかしな推理をしてくれる。いいか、Ⅲ棟の構造を理解しているだろう? あれは円柱型の建物。つまり迫ってくる様子は必ずわかるんだ。仮に私が橘くんを狙っていたにしても、彼が気づかないわけがない。身長云々よりもそこが説明出来なければ納得出来ないぞ?」

 っ、ちょっと痛いところをついてきた。確かにそうだ。角から襲えば隙を狙えて簡単に刺せるかもしれない。けどたとえあそこが狭い廊下でも運命ダイスが振られていたとしても、橘なら対抗できたはずなんだ。

 そしてここで声をあげたのは……玉柏だった。

 玉柏「確かにお前の言う通りだ。建物の影響もあり対応はできたはず。だがな、身長? 建物? そんなじゃない。もっと身近で確実に橘を襲ったと証明できるものがある」

 身近で、証明できるもの……?

 巡間「……なんだというんだそれは」

 玉柏「わからないのか?」

 ダンっと席を叩く音が響く。メガネをくいっと上げてニヒルに笑う。うん、あんたのその笑い方慣れないな。

 玉柏「杖だよ、杖。橘のずっと持っていた杖だ」

 湊川「杖? 杖が何の証拠になるの?」

 玉柏「杖のことを思い出してくれ。あれはな……杖の『片方の先端以外何にもついてなかった』んだよ」

 そういえば……血は回りについてなかったっけ……!!

 直樹「そうか!! わかったよ!! もし橘くんが杖を構えたりしたら返り血がつくんだ!! 橘くんの杖は常に左側のベルトループにある……そしてモノヤギファイルの補足を見ても刺されたのは右側……これは杖を構えたら絶対に血がつくよ」

 渡良部「杖の先端について血は……移動するときに使って、下に落ちた自分の血についたわけなんだ。控え室に移動してずっと……ジャケットで止血してたの? バカじゃん……」

 これで少しは動揺するかと思った。けど、巡間は至って冷静に私たちを見るだけだった。

 巡間「やれやれ……それだけか。あのな、君たちのこの議論の前提は橘くん殺害だけでなく、ダグラスくんも含むものとなっているのだろう。しかしだ、君たちからしてみたら橘くんのは解決できたにしてもダグラスくんについては何も解決なんてしていないことがわかるか? 今回殺害された二人とは私と20cm以上もの身長差があるだろう。そして君たちは言った。『ダグラスくんと犯人は争った』と。争った? 私が? こんなにも体格差があるというのにか? 到底できるわけがない。私が負けるのは目に見えているだろう」

 そうだけど……そうだけど……そういう細かいところに気づけるのか……

 国門「いや、争ったし事実勝っているぜ。なんでカジノに行ったかは知らねぇが、そこにはたっっっっくさんの凶器があった!! 瓶!! キュー!! 椅子!! 台!! その他諸々!! 投げさえすれば……いい脅しだぜ」

 巡間「…………」

 国門「それによぉ、投げられたら当然足場なんてぇのは不安定になる。いつ倒れたっておかしかねぇよ。んな状況下で先に倒れたのがダグラスだったら納得もんだろ? そこを狙って瓶を振り下ろして殺害。そして保険として首に傷をつけて血を流させる。簡単な話だぜ」

 巡間はじっと国門を睨み付ける。腕を組んでまたやれやれとため息をつく。

 巡間「そんなもの……私でなくとも出来るだろう……なぜ私と限定した言い方をするんだ。私は何も知らないし犯人ではない。しかも私はなぜカジノに行った? 行く意味ないだろう」

 矢崎「ビリヤードとかしたかったんじゃないかい? 特技披露のときとても楽しそうにやってたからね」

 巡間「っ……それにしてもだ、私はやってないとしか言えない」

 かなり呆れている。けど……少し前に不自然な発言が一ヶ所あった。

 直樹「え、じゃあなんで紙に書いてるってわかったの?」

 巡間「……は?」

 揺れた。

 直樹「巡間くん、なんでⅢ棟の鍵の扱いについて『紙に書いてある』って言ったの? あれってモノヤギから知らされているはずだよ」

 巡間「そ、そんなこと言った覚えな」

 渡良部「自分の発言に責任持ったら? 私も人のこと言えたものじゃないけど。あんた間違いなく言ってたよ」

 明らかな動揺を見せ始めた。これは追い詰められるかも。けど……なぜだろう……この事件……嫌に背筋が凍るような真相があるような……

 直樹「なぜ巡間くんが紙に書いてあるって言ったのか、それは難しい話じゃない。……君は『マスターキーの在りかを知っていた』。そうでしょ? そして金庫の中に説明書として紙があった」

 巡間「な、何を根拠に……!! それにあれは金庫に入っていて暗証番号を入れなければ意味ないだろう!!?」

 金室「そういえばその暗証番号……一体なんだったのでしょうか……?」

 私もそれはわからない。けど君ならわかるはずだと思う。私はそっちに目配せした。

 玉柏「暗証番号なんて簡単だ。あれはただ『出席番号』を入れればいい」

 近衛「出席番号を、でございますか?」

 玉柏「ヒントを思い出してみな」

 

 【ヒント】

 ・あなたの数字も大事

 ・被せ加えて順序よく

 ・同じ数字は次の桁とまとめて

 ・並び方を複数挙げよ

 

 玉柏「まず『並び方を複数挙げよ』ってところなんだがな……これだけだと身長、体重、胸囲、他いろんな並び方が現れてくる。ただこれだとわからない。でここで大事になるのが『あなたの数字も大事』……これはつまり自分自身にも番号があるってことだろ。自分にある数字……これは『出席番号』だと想定できる。俺たちは生徒だ。必ずそれがあるだろ。んで、意味ありげな『被せ加えて順序よく』だがな……なにも足し算引き算やれってことじゃない。これにはある人たちが隠されている。それは被害者と加害者だ。これは多分鷹山、江上、宮原、阪本の四人のことを指していたんだろうな。ということはこいつらの出席番号を死んだ順番から並べればいい」

 説明なっが。わかるけど、長い。

 矢崎「けどそれって無理じゃないかい? 出席番号を当てはめると」

 

 1 江上

 2 金室

 3 国門

 4 近衛

 5 阪本

 6 鷹山

 7 ダグラス

 8 橘

 9 玉柏

 10 直樹

 11 灰垣

 12 巡間

 13 湊川

 14 宮原

 15 矢崎

 16 渡良部

 

 矢崎「こうなるよね。6、1、14、5の4つだけど……あの金庫って四桁だよね? どーうやって開けるんだい?」

 玉柏「そのための『同じ数字は次の桁とまとめて』だ。61145で同じ数字なのは1。つまりこれをまとめてしまえばいい。足し算を知ろなんて一言も書かれていない。ここは素直に1で括ればいいだけだ。そうすれば」

 近衛「6145の金庫の暗証番号が浮かび上がるわけでございますか」

 巡間「ぐ……」

 もう、さすが盗賊。こんなのわからないよ。けど明らかに巡間の動揺を誘えた。

 

 ***

 

 巡間「そ、そんなもの……私でなくとも解けるだろう!! そもそも身長で私を犯人と決めるのも軽率ではないのか。しかもだ、さっき国門くんは犯人は男だけと言っただと? 意味がわからないだろう!!?」

 国門「残念。悪いが些細なことが男だけの犯人だと証明してくれるんだぜ」

 巡間「なんだと?」

 国門「ところで全員に聞くが橘はどういう風に人を呼んでいた?」

 橘のみんなへの呼び方……才能呼びだ

 灰垣「才能呼びが多いじゃろう。それがどうした?」

 国門「問題はそっちじゃねぇぜ。橘が遠回しに人を言うとき、遣い分けてたんだよ」

 玉柏「遣い分け…………あ、してたな」

 してた!? え、いつ……

 国門「『やつ』と『あいつ』……橘は男女で遣い分けてやがったんだぜ!!」

 男女で、遣い分け……? まさか……

 国門「男には『やつ』、女には『あいつ』、モノヤギモノリュウ以外しっかり区別されていやがった!! 思い出してみろよ!! 最初に動機をもらったときとか……」

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 『関係ねぇ!! 俺はなぁ、一刻も早くあいつを……あいつを……!!』

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 国門「今だからわかるが、これは多分江上のことを指してるはずだぜ。他にも」

 

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 『ったりめぇだ!! そこにやつが、やつがいたはずなんだよ!!』

 

 

 ______

 

 

 

 

 国門「これはダグラスと揉み合いのとき、このときのやつはF.T。きっとこいつぁ男だぜ。さらにだ。これはあとから聞いた話だが、橘がお前ぇらに宮原の死を伝えたときのこと」

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 『詳しい話はあとだ!! 執事はそこにいんのか!? やつに握り飯作れって言っとけ!! いいか!! Ⅱ棟にさっさとこい!!』

 

 

 

 ______

 

 

 

 

 そういえば……明らかに違う……近衛のことをやつって言ってた。それだけじゃない。あのとき、橘と会話したときもあいつとやつが混ざっていた……まさかそんなことがあったなんて思いもしてなかった。

 国門「橘はあのとき俺にこう言った!! 『犯人はやつだ』と!! 今の法則を考えりゃあ犯人は男に限定される!!」

 巡間「そんなもの信じられるものか!! 橘くんのハッタリではないのか!?」

 国門「あいつはハッタリなんざ言わねぇぜ。そういう人間だ。なんだかんだであいつは俺たちに一度足りとも嘘をついたことがない」

 ……口が悪くてけど曲がったことが嫌いで不器用で私たちに協力してくれた。……彼の目に何が映っていたのか、何を見ていたのかはとても気になるところだけれど。

 巡間「ち、違う。私じゃない!! それなら、灰垣くんや玉柏くん、近衛くんだって犯人候補だろう!!?」

 灰垣「すまんが、わしの容疑は簡単に晴れるぞ。こいつで」

 巡間「っな!!」

 灰垣がジャージのポケットから取り出したのは……宮原の電子生徒手帳だ。それ持ってたのあんたかい!!

 灰垣「昨日は宮原の個室で寝ておった。電子生徒手帳を確認してもらえば23:00から今日の事件発覚のアナウンスがなるまでの間、わしがそこにいたと証明できる」

 咄嗟に電子生徒手帳で履歴を確認してみると確かに宮原の部屋が使用されたことを示していた。

 巡間「な、なぜそんなもの……いつから!!」

 灰垣「いつから? Ⅲ棟解放されてからずっとじゃ。貸し借りじゃないからセーフじゃろ?」

 モノヤギ「セーフであーる。そもそも貸し借りで一セットであーるからァ、貸すと借りるの契約が成立していなければァ校則違反ではないのであーる」

 灰垣「少し頭を捻っただけじゃ。もし夜中に事件が起きたときに自分の個室でないところを使えば確実に犯人から除外される。それもⅡ棟でな」

 自らアリバイを成立させるアイデアを思い付き、それが成功した。いろいろ伏線多いぞ今回。

 近衛「わたくしにアリバイなどございませんが……しかしこの手袋を見ていただければよろしいかと……」

 近衛はつけた手袋を取って見せる。手には傷一つなく、また手袋も汚れがなかった。……ただ彼の爪は私たちよりも小さく見えた。

 近衛「実はわたくしの手袋は替えがございません。これしかないのでございます」

 巡間「そんなもの仕舞ってやればいいだろう!!?」

 近衛「そうともいかないのでございますよ。今わたくしは手を見せましたが……正直自分の手にはコンプレックスしかございません。それを手袋をつけることで隠しております。これを外してわざわざ見せて殺したなどとなりうるでございましょうか? それに橘殿ならまだしも、ダグラス殿はこの事実を知っていらした。なのにダグラス殿は殺害された。わたくしが殺した理由があれならただのド阿呆でございますよ」

 話している間に手袋をまたつけて淡々と述べた。近衛自分の手にコンプレックスあったのか。けど一理ある。あとは……玉柏の証明だけだ。

 巡間「……っなら玉柏くんはなんだと言うんだ!?」

 玉柏「アリバイか……ああ昨日の夜直樹の部屋に邪魔したな」

 !? な、何嘘言ってるの……!?

 玉柏「ちょっと渡したいものがあってな。夜とはいえ重要なもんだったしそれを届けに行ったんだよ。そうだろ?」

 ハッタリ噛ましてきたぞおい。ていうか同意を求めるんかいっ!!

 直樹「そ、そうだね」

 金室「差し支えなければ何を渡しに?」

 玉柏「鷹山のノート覚えてるか。あれしばらく借りててな」

 ハッタリにとんでもないハッタリ噛ましてんるじゃない。ていうかそれ盗んだってことじゃん!!? なんでやねん!? いつも入れてるカーディガンに手を自然に見えるように入れたらあったよノート。でも盗んだんだなおい。

 矢崎「なーにも夜でなくてもよかったんじゃないかい?」

 玉柏「確かに昼間に渡したほうが確実だがな、夜に渡せばアリバイできる可能性が増えるんでな」

 ハッタリ盗賊が何を言うか。

 玉柏「あとそのまま泊まった」

 自分で自分の首絞めにかかるのやめろーーーい!!!?

 国門「は? え、ちょ、なぜ?」

 国門めっちゃ困惑してるじゃんッッ!!!! 少し口調迷子になっちゃってるじゃんッッ!!!!

 直樹「嗚呼……夜までにらめっこしてらしくて届けたときにそのまま寝落ちたんだよ……」

 モウナルヨウニナーレ。

 玉柏「んなわけだ。ご本人様公認のアリバイだろ?」

 ムリヤリスギルソレハアリバイジャナイ。ココロナシカニヤッテワラッテルヨコノカクシンハン。

 湊川「……ってことは犯人は巡間くんしかないってことになるわね?」

 巡間「…………それだけか?」

 さっきまで動揺していた巡間が、否動揺はしているが、一言放つ。

 巡間「それだけか? 本当に? まだまだごり押しの域だろう?」

 正論だ。確かにこれだけじゃまだまだごり押し、押し付けの域。

 国門「んじゃそのごり押しとやらを真実にしてやろうぜ。直樹。俺一度お前に番号渡したろ」

 直樹「え、うん。確かにもらったけど」

 国門「それと玉柏、お前橘に何か言われたのかだぜ? お前ぇに振ればわかるって言われたことなんだが」

 玉柏「ああ。そういうことか。直樹、お前いつも鷹山のノート持ってるだろ? それ今あるか」

 直樹「持ってるけど」

 玉柏「読んでる最中に橘に少し貸してたんだ。何したかは知らんがな。それ見てみな。橘からのヒントがきっとそこにある」

 どういうことだろう。私はカーディガンから取り出して中身をまた一度確認する。見る度に間違いに目が止まり苦笑したくなる。そんな中、後半ページに見覚えのないものがある。

 

 

 ・・  ①④

 ・・  ②⑤

 ・・  ③⑥

 

 

 ●・ ●・ ●● ●● ・●

 ・・ ●・ ・・ ●・ ●・

 ・・ ・・ ・・ ・・ ・・

 

 あ  い  う  え  お

 

 

 五十音、濁点半濁点のものもすべてが含まれた6つの点。これは……まさか

 直樹「てん、じ?」

 玉柏「へえなるほどな。あいつ、何かに使えるかも知れねぇもんを書きたいって言ってたしな。はあ……不器用なやつだよ全く」

 巡間「そ、それが一体何だという!!?」

 玉柏「こいつには一緒に番号も書かれていてな? で国門曰く橘から番号を教えてもらったんだとよ」

 巡間「バカな……そんなもの」

 玉柏がやってみなきゃわからないだろという顔で私にやれと目配せしてきた。

 直樹「…………了解、相棒」

 私はもらった番号を当てはめながらどこに何が浮かび上がるかを確認していく。番号は「13651561356」。これ数字による法則じゃなくて点字のことだったんだ……えっと……これをこうすると……こうなるのかな?

 

 136    5156   1356

 ●・  ・・ ●・  ●・

 ・・  ・● ・●  ・●

 ●●  ・・ ・●  ●●

 

 でこれに当てはまるのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「は、ざ、ま。……巡間くん?」

 巡間「なっ!!?」

 巡間は驚き絶句する。

 国門「はっはっはっ!! 被害者からのダイイングメッセージ!! まぁさかこんなところとは思いもしなかったぜ。そりゃ興味誰も引かれるわけねぇなぁ!!」

 国門が高く笑う。特技披露大会のときに言っていた。手話とか点字でもいいけど誰も興味引かないだろうと。けど純粋な疑問で、何で橘って点字を知っていたんだろう。

 巡間「ぐっ、ぐぐぐ……」

 矢崎「このダイイングメッセージ……江上ちゃんのときよりも確実性高いね。だってそうじゃないと、あーんな正確に点字の五十音なーんて言えないからね」

 

 

 

 「どうやら診察が必要なようだなっ!!!!」

 

 

 

 表情を歪ませ蒼白しながらも、巡間は反論する。最後……なのかもしれない。けどどうしよう。……コトダマが、足りない。額から汗が流れるのがよくわかった。

 巡間「何がダイイングメッセージだ!! 国門くんが私に『罪を擦り付けるため』に、隠してきたものかも知れないだろう!! それになぜ私が彼らを、『二人を殺害する』のだ!? 理由が、『動機がない』だろう!!? わざわざこんな大掛かりな仕掛けを、しかもあんな『二重の密室』を!? 『咄嗟に出来るようなものではない』!! これは明らかに『計画的な犯行』だろう!!? 私はそんな計画なんてしていないし、そもそも殺人なんてしない!! 君たちは、私が犯人だという確たる決定的な証拠を持っているのか!? 『ダイイングメッセージ』ではない!! 『証言』でもない!! 『凶器』、『時間』、凶器とはまた違う『道具』、エトセトラ!! 私を犯人だと示す『決定的な証拠』があるのか!!!?」

 撒き散らされた反論、私に持たされたはずの刀が迷う。決定的な証拠。確かにない。無さそうに見える。じゃあなんだ? 咄嗟に行われた犯行? 不可能というわけではない。運命ダイスがあるから。でもそれはあまりあてにすることができない。だって『運』なんだから。なら他に何がある? 巡間を犯人だと認めさせる証拠……なにか、何か…………

 巡間「は、ははは、ない、だろう……? あるわけないんだ……見つかってないんだ……あるわけない……見つかるはずない……もう、『あけられることはない』んだ……ははっ、ははは」

 感情なんて籠られてない乾いた、いや、乾ききったような笑顔。何かに怯え、何かを恐れているような……なぜだ……なにか、なにかが引っ掛かる

 

 

 

 ……あけられる?

 

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 突如、私の脳裏に最悪の可能性が過った

 

 

 一気に駆け上がる寒気

 

 

 鳥肌が止まることを知らない

 

 

 私は反射で体を押さえた

 

 

 そういえば……あんなことがあった

 

 

 少なくとも、二回は見てきた

 

 

 そして、聞いたんだ……

 

 

 『彼らの口から』

 

 

 思い出してきた

 

 

 今まで私が見てきた巡間の行動が

 

 

 何もかも、浮かび上がってくる

 

 

 そしてそれを____ない理由も理解できる

 

 

 コトダマ……入手

 

 

 残酷で

 

 

 狂気的で

 

 

 皮肉まみれな

 

 

 この裁判に

 

 

 終止符を

 

 

 

 

 

 

 

 

   「その表現を正しく翻訳する(切る)!!」

 

 

 

 

 

 

 【コトダマ】

 

 ○○を○たれた○の○

 

 ○○室にない○○

 

 

 ***

 

 直樹「ねえ……巡間くん……目を開けてよ」

 巡間「……………………は?」

 直樹「そのまんまだよ。目を開けて。それだけ。それだけで君は犯人かどうかが決まる」

 巡間「な、何を言って……私はこれが普通なんだ!! これ以上目は開かない!!」

 直樹「………………隠さないで。もう、隠さないで……」

 思いついてしまった推測、私は、これが真実だとしか思えなかった。紡ごうとするたびに胸が苦しくなってしまう。嫌だ。本当なら私だってこんなこと知りたくもなかった。けど、『一致しちゃった』んだ……っ!! 前を向いていられなくて、私は顔を伏せる形で……続ける

 直樹「一回目の裁判、君は橘くんの杖を止めるために右手を出して止められずに、左手で止めた。Ⅱ棟開放後の薬学室でどこかぎこちない動きを感じた。……あと自分で言ったよね、両利きで左に慣れようとしてるけど右が出ちゃうって………っ二回目の裁判、薬学書の話題が出たとき、右手で席に触れようとしたとき一瞬踊ってつかなかった。………………最近なんて、コーヒー淹れるとき溢しそうになったっけね……ビリヤードも…………そのとき何回かかすってミスしたっけ…………橘くんの遺体も……すごく、右脇腹に寄ってたみたいなんだよ………………」

 近衛「そ、それが一体どのような……」

 落ち着け、深呼吸をしろ、ねえ……うそだと言いたいのに嘘じゃない、はずなんだ………………

 

 

 直樹「………………巡間くん、君はさ……『右目がない』んでしょ?」

 渡良部「はいっ!?」

 湊川「え」

 灰垣「なにっ!?」

 国門「はあぁ!?」

 矢崎「なんでっ」

 近衛「そんなまさかっ!?」

 金室「う、うそですよね?」

 玉柏「うそ……だろ……っ」

 誰一人として予測できず声をあげる。でも、今までの行動から考えられるのは……

 巡間「や、やめろ……な、なぜっ」

 直樹「そう思うしかないんだ!! そうとしか考えられないんだ!!」

 自分の視界が歪み始めた。私は我を忘れそのまま吐き出すしかなかった。

 直樹「君は!! 何かの事情で……例えば目にゴミが入ったとか……そういうので瞬きして、ない右目をダグラスくんに見られたからダグラスくんを殺すしかなかった!! そして、密室を作って護身として包丁を持って二階を通ってⅢ棟から出ようとした!! そのときに誰かがいることに気づいて構えて……そのまま勢いで刺したっ!! そのまま一階へ降りてピアノの中に入れてもう一つ持ち出していた簡易ガスバーナーで鍵を溶かして出ていった!! そしてこの時……ガムテープが外に落ちていたことに気づかなかった……そのまま部屋に戻って寝て、早起きして誰かがどちらかの死体を発見するのを伺った!! そして私たちと合流した……!!」

 脳が責めたくない、責めたくないと言っている。それなのに吐き出す言葉は逆のことを差す。そんな矛盾を抱えても、自分の意思じゃ止められそうになかった。

 巡間「っだからこれは計画的な」

 直樹「運命ダイスがある限り!! 咄嗟に密室を作れる可能性だってあるんだっ!!!!」

 巡間「…………っ、違う、違う!! 私じゃ、ないっ!!」

 右目を押さえながら必死に違うと抗議する彼を見ていられなかった。これで、最後にさせて……

 直樹「巡間くんはっ……『森の恐怖』で右目を撃たれた男の子……そうなんじゃないの……?」

 巡間「ひっ……」

 直樹「ダグラスくんの言っていた男の子のこと覚えてるよね? これ、言い方から考えて完全に子どもなんだ。……ダグラスくんの目にはその子がそれくらいに見えた。巡間くん、今の君の身長は150も言ってないんだよね? ってことはいつなのかまで具体的にはわからないけど、当時は今の身長よりも……もっと、低かったんじゃないの?」

 巡間「や、やめ……」

 直樹「隠そうと思っても隠せない……なぜなら『医務室には眼帯がない』から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もうやめてくれぇええッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 巡間が裁判場内を反響させるほどの大声で叫んだ。私は涙を拭いてしっかりと、彼を見つめ直した。

 巡間「もうっ……やめてくれ……もう……いやなんだ……」

 彼の左目からボロボロ流れる涙。ゆっくりと開かれた初めてみたその瞳。童顔の巡間らしく幼い子どもを見ているようだった。

 巡間「わた、しが……わたし、は…………ま……た……」

 ゆっくりと右目から手を離すとそこには

 

 

 巡間「またっ…………撃たれてしまったのか……っ」

 

 

 

 

 

 右目の眼球がない、ただ顔の内側の筋肉や血管が見えている、怯えた少年がいただけであった……

 

 

 *****

 

 

 モノリュウ文書

 

 

 事件の真相ファイルその3

 

 

 この事件は運命ダイスによって左右された、突発的な連続殺人事件である。ダグラスはカジノの掃除をしないと寝られず、夜中に起きてⅢ棟へ向かう。このときたまたま起きてきた金室と出会っていた。

 

 

 一方犯人もまた、たまたまビリヤードをするためにカジノへ行っていた。そこにダグラスがカジノにやってきた。特に気にもしなかったがここで犯人にアクシデントが起きてしまう。目にゴミが入ってしまったのだ。さらに左目を擦っているとき反射で右目を開いてしまい、それをダグラスに見られてしまった。犯人はひどく怯えてダグラスを攻撃し始めた。台を使って逃げ道をなくし、その場にあるものを何度も投げつける。ダグラスはその場から逃げることが出来ずずっと犯人からの攻撃を避けるのに精一杯でついに追い込まれてしまう。不運なことに足元が不安定であったためにダグラスは転んでしまい、そして頭を瓶で殴られ即死してしまった。犯人はダグラスの首を切り血液を流させ、そして棚を倒して現場そのものをぐしゃぐしゃにして、そして密室を思い付く。

 

 

 まず五階の仮眠室に移動した犯人はその場にあったドアノブよりも低い横長の棚を扉の前に置いた。そして手ごろなトランプをいくつもドアノブの下におき内側から大丈夫かを確認。場所を確認してトランプを取り、扉を全開にしてからさっきトランプを置いたところに置き直して扉を閉める。こうして外側から開けようとしてもトランプが阻害して引っ掛かるようにした。

 

 

 次に四階の密室。これを作るために道具を色々と持ち出した。二階からは宮原のポーチから金槌を、三階からはドラム2つと鋸とガムテープを、そして三階四階の鍵、金庫の中から取り出したマスターキーを。以前近衛たちが四階扉横に置いた棚の中身を出して扉前に引きずるように移動させる。そしてドラムのコードを扉側に向いている棚の足に縛って外側から引っ張れるようにした。後ろ側の足は鋸でギリギリまで切る。そしてカジノ内にあったビリヤードのキューを持ち出す。次の三の札が付いた三階鍵から札を取ってマスターキーにそれをつけた。それをダグラスの左手に握らせた。そして密室本格的に完成させにかかることになる。

 

 

 犯人が通れるほどの隙間が出来るように棚をギリギリのところまで扉に近づけて四階から出る。鍵を閉める前にドラムのコードを引っ張ったり巻いたりして扉に棚を近づけさせる。近づけたら扉が開かないことを確認してからコードを外し鍵を掛け、扉下から四階の鍵を投げ入れた。次にビリヤードのキューに金槌をガムテープでガッチリと取れないように固定する。これを扉下に入れて切り込みを入れた足目掛けて思い切り振って足を落とした。両足落としたあとに、鋸で手前の足をまた同じようにギリギリまで切る。そして後ろ足と同じ手順を踏む。最後に落とした足で金槌が挟まるが、そこまで取るのに時間はかからない。

 

 

 一つ目の密室を完成させた犯人は三階へと降りて使ったドラムや鋸やガムテープを元に戻した。ここで犯人は簡易ガスバーナーと包丁を持ち出す。三階の鍵を閉めて、二階へ降りる。ところがここでもアクシデントが起きてしまう。

 

 

 そんなことを知るよしもない橘はコロシアイが起きないように見回りをしていて、ちょうどⅡ棟の見回りを終えていた。Ⅲ棟へと入り一階の見回りを終えて二階へと上がったときだった。犯人が誰かが近づいてくるのを察知してしまった。そこで犯人は持っていた刃物を構えて足音のあるほうへと走りそして橘の腹部を捉えた。このとき橘には運命ダイスが振られていたこと、さらに二階の廊下が狭いというところから杖で攻撃することが出来ずそのまま膝をついてしまい、犯人は逃走。橘は杖を使って控え室へと入りジャケットを脱いでずっと止血することになる。

 

 

 逃走した犯人はピアノの中に金槌と血まみれの包丁を入れた。そして金庫の中に鍵を入れて簡易ガスバーナーで溶かす。金庫は完全耐熱でどんな高い温度になっても溶けることがなかったからそのまま鍵を溶かすことができた。そして犯人はガスバーナーを回収。そのままⅢ棟出た。このとき犯人はミスをしていた。ガムテープの始末をせずに出ていってしまいさらにそれが外に落ちてしまったのだ。

 

 

 一方橘はずっと生きていた。朝までずっと止血をしていた。朝になってそろそろ力尽きようというころに国門に見つかる。橘は国門に教え、そして犯人はやつだと遺しそのまま息を引き取ったのである。

 

 

 *****

 

 

 学級裁判、閉廷

 

 

 *****

 

 

 次回

 なく8部屋目

 

 

 



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第三章 非日常編 なく8部屋目

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 支離滅裂な発言が目立ちます。

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 *****

 

 

 

 「!!!?」

 絶句した。予想していたとはいえ、やはり目の前でみると恐ろしく感じてしまう。

 左目はしっかりあった。私たちと同じ目。しかし右目は? 本来あるべき眼球は? そこに見えるのは右目すらなく、顔の奥の血管や筋肉が覗けるおぞましいものだった。

 「ヒッヒッヒィ……もういいであーるなァ? オマエラァ!! 手元のボタンでクロを投票するであーる!!」

 誰も動けなかった。巡間は膝まずき、呻き、嘆き、真っ青に。

 「んんんんン??? どうしたであーるかァ??? はやく投票しないとォ、罰するであーるよォ?????」

 一向に動かぬ私たちを見かねてモノヤギが煽ってきた。我に返ったらもう残り時間がわずかで。不安等の手の動きがぎこちない。急げ急げと手を動かす。その思惑とは裏腹に硬直する身体。残り私だけの投票だというのに、その私で時間を大分とっている。………………意を、決するしかなかった。それは投票終了一秒前だった。

 

 

 回る、回る。視界の先で回る。嬉しくなんてない。面白くも、喜びも、何もかも……巡間を抉り出すメスがギラリと光輝いているのを、ただ眺めていた。

 

 

 

 

 「3問連続ゥ大正解ィ!! 今回超高校級のディーラーァ、ダグラス・レッドフォードとォ!! 超高校級の杖術家ァ、橘実琴を殺したのはァ、超高校級の医者ァ、巡間治虫であーる!!」

 「あ……ああ…………」

 彼は今もなお口をハクハクさせる。いつもの大人びた彼とは全く違う。

 「……わた、しは……」

 うわ言のようにポツリポツリと意味のない言葉は連ねて、少年が怖がる。 

 「嘘じゃろ…おま」

 「私は、あの日……ダグラスくんが言っていた通りの、あの森の屋敷にいた……」

 灰垣のセリフを遮るように巡間は話す。ゆるゆると立ち上がりながら目を離さず私たちのほうを向いて。

 「オーナーに、私の医者としての腕を見込まれての依頼だ……ただそのときはまだ未熟で…………お手伝いとしての役割が多かったが……体調が悪くなった人たちを看病するように伝えられていたんだ……」

 話を聞いているだけで寒気がする。

 「突然の停電っ!!? 鳴り響く銃声っ!!? 私はあんな状況下でも!! 仕事を真っ当しようとしたッッ!! あそこから……飛び出した……」

 

 

 

 

 

 ___________

 

 

 な、なにが起きているんだ!?

 

 

 バァン!!

 

 

 じゅ、銃声だと!?

 

 

 くそっ誰がどんな状態なのかわからないだろう!?

 

 

 どこだ。助けを呼ぶ声は……!!

 

 

 私を呼ぶ声は……!!

 

 

 っ!! 今どこかで……?

 

 

 このテロリストが……!!

 

 

 ………………いけるか!?

 

 

 よし、隙をみて……!!

 

 

 

 

 

 バァアアアン!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 『ウワァァァァァァアア!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 痛い!! 痛い!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

 

 

 

 

 

 苦しい、助けてくれ

 

 

 皮肉だ

 

 

 医者を志す者が

 

 

 こんなことになるなんて

 

 

 あ、アアアア……

 

 

 ウ、ガアア!!!?

 

 

 ィガガガガァァア!!!?

 

 

 たすけ……て……くれ

 

 

 __________

 

 

 

 

 

 「眼に、顔に、脳に焼き付く痛み。耳から離れることない破裂音!! トラウマは、癒えないっ。私の心をずっと、ずっと………………ずっとずっとずっとずっとずっとずっっっっっっっっっっっと!!!!!!!! 貪り続けるんだよッッッッッッ!!!!!!!! もちろんこの目を隠すことも考えたんだ!! けれど!!? それをして主に子どもを診る自分に彼らから “どうして右目は塞がっているの?” と聞かれるのが怖かった。義眼にする手はなかった。なぜなら私は義眼が大っ嫌いだから!! ないものを支える義手も、義足も、義指も、義鼻も、義耳も、何かも!!? サイボーグの類いなんて大っっっっ嫌いなんだよっ!!」

 感情的に、嵐のように、叫び狂う。

 「目が覚めたらそこは病院で……包帯が右顔を覆っていた……数日後にそれが外れたとき、指が………………右目を貫いたんだ……………………生きていることの喜びなんかよりも……私は……私がこんなにも惨めで情けない人間だと思い知らされたんだ…………」

 ダグラスと同じ場に居たにも関わらず、彼とはまた違う体験談の生々しさに自分の血の気が引いてくのがよくわかった。

 「目から流れた血液が、まるで今まで救うことの出来なかった子たちが『どうして』と問いただしてくるようで……毎晩……毎晩毎晩語りかけてくるっ!! 『助けて』って!! 『お兄ちゃん助けて』って!!!! それが私の重荷となってかさばり……仕事に集中出来なかった……助けたいのに……思い出すたびに這いずってくるんだ!! 体中から大量の血液を流して、原型があるかもわからないのに尚ももがく姿が!!!! だから……しばらく自分を取り戻すために休養した……精神を鍛え直した…………だがそれも……結局は無力で憐れな男に与えられた『一時的な試練』でしかなかったんだ……」

 現実をすべて受け入れられずに逃避しようとしていた。そして巡間は……今回の事件のことを語る。

 

 

 

 ______

 

 

 本当に直樹くんたちの推理通りだ。久しぶりのビリヤードが楽しくてたまらなくて、三階と四階の鍵を持って夜にカジノへ行ったんだ。…………実はこのとき、マスターキーも持っていた。金室くんの言っていた出席番号でもしかしてと思ったんだ。それで入れてみれば見事に開いた。ついでにって感じだったんだ。

 コツンという玉と玉のぶつかる音がとても心地よかった。途中ダグラスくんが入ってきた。掃除のためって言っていた。気にせずやってていいと言われて、お言葉に甘えることにした。

 掃除を終えたダグラスくんが出ようとしたのを私は止めた。せっかくだからダグラスくんとビリヤードをしてみたかったんだ。競った。どちらが多くの玉をポケットへと落とせるかを。二人でやるほうが、一人よりも楽しかった。

 もう少しで終わる。あと2、3回だと。そう思っていた。

 『いたっ』

 私の左目にゴミが入った。目を擦った。だが目を擦ってはいけないことを思い出した。擦ったらダメだ。そう思い瞬きをした。…………そして見られた。右目を、開いてしまった。

 『み、ミスター巡間? その…………右目、どうしたんだい…………?』

 問われた瞬間、何もかも終わったと思った。本人に悪気がないのは……わかっていたはずだった。それなのに……止められなかった。悟ってしまった私はその場にあった玉を……投げた。

 『!! ミスター巡間!?』

 『…………見たな……?』

 今となってはバカらしい。同じ『森の恐怖(事件)』の被害者なのに。殺そうとするだなんて。すぐに退路を塞ぎ、ダグラスくんを攻めた。武器には困らなかった。向こうが反撃してくると思っていたのに、彼は一切私を攻撃することなく、ただただ逃げていた。一方的な、暴力……

 『お、落ち着いてくれ!!』

 『…………』

 多分、私は恐ろしくひどい顔をしていたんだろう。サングラス越しでも、彼の怯えた顔がよくわかった。

 ついに私はダグラスくんを追い詰めてしまった。カウンターへと。そのタイミングで……

 『うわっ!!?』

 彼は転んで完全な隙を見せた。近くの棚にあった瓶を手に取った。中身が入っていて、とても重量感があった。それをそのまま……振り下ろした。

 『!!!!』

 『っ』

 

 

 ゴッッッッ!!!!!!!!   バリンッッッッ!!!!!!!!

 

 

 …………当たりどころが悪かった。倒れた彼の脈はなかった。すでにこの世から去ったあとで。即死。しかも脳挫滅を起こしたことも理解できた…………おかしな話、本当に矛盾したことを言うようだが、頭蓋骨骨折は非常に稀なケースで、瓶が先に割れる場合が少なくないんだ。むしろ割れた瓶が鋭利な刃物として頭部に負わせる裂傷となり傷口からの出血によって引き起こされるものが致命傷になることが多い。だからこんなこと起こるなんて予測出来なかった。

 話を戻そう。私は彼を殺害してしまった。やってしまったんだ。どうしようかと思ったそのとき…………密室を作り出そう、そう思った。棚を倒してダグラスくんを見えなくさせ、あとはみんなの推理通り。

 

 

 だがそれで終われなかった。去る途中に誰かが来たのを感じて、持ち出してた包丁を構え…………そのまま刺した。影は……橘くんだった。あの驚いた顔が忘れられない。

 『_______?』

 『?』

 あることを問われたが私には理解出来なかった。気が動転していたのもあったからそのまま私は逃げた。…………逃げたのに……

 

 

 

 

 

 『言えば……支えるくらいのことはしたのに』

 

 

 

 

 

 胸が締め付けられた。後悔と罪悪感に苛まれた。知らないフリをして逃げた。始末するものを始末して、鍵も溶かした。金庫が耐熱性であったことも紙に書いてたから。ガスバーナーは……Ⅰ棟の自室に持ち帰った。これが、これまでの経緯だ。

 

 ______

 

 

 

 

 「動機なんてどうせただの口封じ。私のエゴで殺ったこと。私の身勝手なエゴで…………バカだろう? 皮肉だろう? とんだ茶番のような悲劇だろう?」

 ひどく、悲しそうに、私たちを見つめる少年の顔。小さな幼子のように純粋な瞳。

 ……私は、なんてことをしたんだ……なんて、ことを……

 「……それじゃあ問おうじゃないか。巡間よ。お前さん、なぜサイボーグの類いが嫌いなんじゃ?」

 「………………テロが嫌いだから、サイボーグが嫌い。それだけだ」

 「さっぱりわからん。説明を求む」

 彼の顔がさらに悲しげに曇り孤独であるように思えた。

 「……人は、病に侵される。人は、老いる。人は、苦しむ。人は、死ぬ」

 「それがどうした」

 「人は有限な生き物だ。いや人だけではないが……しかし、それゆえ醜い……自ら正しいという思想理論を世間に打ち立て人々に同意を求め、そして異なる思想で争い、戦争に身を投じる。なぜ人は自ら壊そうとする? なぜ滅んでもいいと願う? なぜ死して尚も英雄に成りたがろうとする? それにすがろうとする? 歴史に名を刻むため? 自分のことを正義だと思わせるため?」

 「……」

 「バカバカしすぎるだろう? 命を……大事にしてほしい。戦争なんかに、テロなんかに、壊してほしくない。欠けさせる意味などないのに……私には、欠損が無力な痕にしか見えない。醜さの象徴に見えるんだ。それと同時に…………機械に支配されそうなんだ。侵食され溺れすべてをそれにされそうな悪夢。…………私はすでに、抜け出せない迷路の中にいる人間だ。医者なんて到底言えない………………」

 嗚呼

 「支配などいらない!!」

 そうか

 「束縛などいらない!!」

 彼は

 「争わずに」

 ずっと

 「手を、繋げばいいのに……」

 独りぼっちだったのか

 「私のこんなないものねだりなんて」

 独りでいつも戦う少年兵

 「くそ食らえだろう……?」

 彼も彼で、結局、ないものにすがっていた。

 「私が一番ここから出たいなんて」

 解放されたくて仕方なくて

 「烏滸がましくて……」

 生きていたくて。

 「……なぜ俺の特技披露で、お前ぇは銃に抵抗を示さなかった?」

 「……それは克服したんだよ。止まれないから。あの様子じゃ、ダグラスくんもだいぶ銃を見慣れたみたいだった。実際はわからないが」

 「そうか……けど悪いことしたし」

 「気にすることではない。どうせ事を大きくしたのは紛れもない私なんだ……」

 「………………」

 掛ける言葉が見当たらない。私は彼に言うセリフがあるはずなのに、すべてが皮肉でしかなくて、何も言い出せない。

 「私からも……いいかしら……抉るようで申し訳ないのだけれど。子どもたちが、地雷かなにかで足をなくす人もいれば……先天性のものもあるわ……その人たちが義足とか使うことに対しても……同じ?」

 「そうだ。可哀想だろう? こんな私をぜひ嗤ってくれ……ははっ……ははは……」

 自身を『可哀想』と言う。それは完全に皮肉じみていて慰めにもならない。だからそう言うのか。

 「………………」

 「人らしく、人が持つそのものの能力が…………私は好きなんだ。がんや感染症などの病に伏しそれを手術で良くするのは構わない。だが完全に体を作り替えるのは嫌い。そういうこと」

 「たとえ、生きるためでも?」

 「生きるためでも、だ」

 だんだんと彼の声は冷静になっていく。しかしその静けさの中に潜んだ冷淡さが徐々に浮き彫りになっていった。

 「…………正直随分、身勝手じゃと感じるの。否定してる風にも聞こえるが」

 「勝手に解釈すればいい。どうせ人間はエゴイズムの塊なんだ。わがままでわがままでわがままで仕方がない生き物なんだ。だから繰り返すようだが言わせてもらおう」

 一度深呼吸して巡間が大きく口を開いた。

 「私は出たい!! 出たかった!! 出たかったんだ!! ここにいる誰よりも!! 出たかったんだよぉ!! 救いたい!! 人を救いたい!! もうこの際なんでもいい!! 助けられるなら何だっていい!! 手術でもサイボーグでも何でもやってやるよ!! 外にいる人が今どれだけ苦しんでるか!! そう思えばここから一刻もはやく、江上くんの動機なんかよりももっと真っ当な理由で、出たかったんだ!!」

 「真っ当……?」

 「もしかすると、それで私は殺人を起こしたのかもしれない!! そういう運命だったのかもしれない!! 逆らえぬ……運命に……」

 「…………かもしれないじゃない。そうだったんだろ」

 「……嗚呼。間違いない……」

 叫ばれた本音。嵐が過ぎ去ろうとする。けれど過ぎ去らない。

 「巡間くん……」

 「なんだ」

 

 バチンっ!!!!

 

 「っ!!」

 「……………………っ」

 湊川が巡間の頬を叩いた。巡間は何があったかわからないといった様子で叩かれた頬に手をおいた。

 「あなたがどう動こうと、私は誰かを束縛する権利なんてものないわ……けどっ、あなたの言うことがさっきからめちゃくちゃなのよ!! 医者がそんなこと言わないでよ!? そんなこと言ったら、今生きてる私たちが惨めにしか見えなくなるじゃない!? 目的がなくたって、希望が見えなくたって、体が動かなくなったって、失ったって、生きてるのよっ!! みんな、懸命に!! ぼろぼろで、腐ってて、水が泥まみれで汚れてても関係ないのよ!! あなたは前を見ようとしてなんかない!! ただ、後ろだけしか見てないのっ!! そんな状態でここから出たってっ、何も、変わらないっ!! そんな状態で、ある限りっ、何も変わりはしないのよっ!!!!」

 「……っ」

 心の内が漏れていく。ゆっくりと、切ない人の嘆きが、嗚咽が。

 「ひどい話じゃないっ!! こんなのっ……!! 酷すぎるじゃないっ!!!!」

 「……うちからも……湊川さんよりもはっきりと言わせてもらいます。救いたいのを理由に人を殺すのは、もってのほかではないのではないんですか。最低行為ではないんですか? 二人の犠牲を出してまで出たかったんですか? 最大多数の最大幸福なんて笑わせてくれますよ。この薄情者」

 金室からも毒を吐かれる。けれどその牙は弱くも見えた。

 「…………どうせ私は薄情者だ」

 テロを嫌い、サイボーグを嫌い、『見られる』のを嫌い、救いたいというエゴの元の犯行。口封じなんてただ偶然にも『運命』によって導かれた動機であって、実際はただただエゴを連ねていた。毒牙が向こうとも、彼は必死で生きて、それを受け入れる。

 「はあぁあっ!!」

 重苦しい空気の中、一人大袈裟にため息をついた。

 「そんな薄情者によ、一つ良いこと教えてやろうか?」

 「……なんだ」

 「お前ぇさっき事件のときのこと話してくれたろ。何で橘は『支えることくらいしたのに』、なーんてこと言ったんだぜ?」

 「知らない。というか彼は」

 「言っただろ。橘は嘘はつかない。最初から気づいてたんじゃねぇのかよぉ? 橘は。お前ぇが右目がないってぇのに」

 「……は?」

 「一つ質問するぜ。橘を殺したとき、目は閉じてたのか?」

 「…………それは、そうだが……」

 「ほらおかしい。それなら何であんな言葉を橘が吐けるんだぜ? 答えは至極単純で明快」

 一度ためる言葉を。瞬きしてから真っ直ぐ巡間を見た。

 「橘はお前ぇのことを心配していた。そして記憶を取り戻していた」

 「は? うそ、だろ……? なぜっ、なぜだ!? 私は」

 「裁判のことを考え推理すりゃあ、お前ぇは常日頃から眼帯つけてたんだろ? それなら記憶のないところにそれがあった。つまり、俺たちは全員お前ぇのエゴを知った上でずっと関わってきていたんだぜ」

 「そんなのっ、知らない!! そんな記憶どこ……にもっ………………」

 私だってそんな記憶知らない。わからない。いや……忘れているんだ。

 「忘れてるからだぜ。それはよ。俺だって忘れてた。だから、『受け継いだ』んだぜ」

 受け継いだ? どういうことだ。

 「だって、わた、しは…………? えっ…………あれ……? どう、して……? ハガッ!!?」

 巡間が頭を、右目を抑える。これはまさか

 「イッ…………ガッ……アアア……!!!! ……ハァアアッ……!!!!?」

 「はざm」

 「よせ、そのままにしてやれ」

 声を掛けようとする矢崎を玉柏が止める。

 「あ、ああ……っ…………が……ギギ……あ……」

 また蒼くなり伏せられる。

 「なん、で……私は…………殺してっ、しまったんだ…………? なんで…………なんで……………………!!? わた、しは、一体……だれ……?」

 顔を上げて首を振る。声を出そうとして、何も出てこない。

 「もう一度問うぜ。お前は今、思い出したか否かを」

 「……おも、い、だ、した……そんなっ……そんなぁ……」

 そのまま崩れ落ちて叫ぶ。もはや意味のない言葉を連ねるだけになってしまった。

 

 私は、声を何も掛けられない自分が、ひどく情けなくて仕方なかった。 

 

 *

 

 「そろそろいいであーるかァ?」

 「ひっ……」

 「わかっていたことであろう? これからオマエはァおしおきされる運命なのであーるよォ?」

 運命運命、そういえば解決すると同じことが繰り返される。退屈しきったような顔に微笑みを浮かべながら。

 「いやだっ、やめ、ってくれっ……!!」

 「もがこうとも無駄であーる!! ワレらのメインデイッシュをォ、最後させてやっているんであーるからなァ!!!! さてさてェ、モノリュウ様ァッ!!!!」

 パッとモニターに現れる。闇が残酷さを物語ろうとする。

 『クックックックックッ……今までよりも、生きがいいクロであることよ。これより超高校級の医者に最もふさわしいおしおきを用意した……』

 人をバカにした薄笑い。

 「や、やだ……やだっ」

 救いを求める届くはずもない懇願の声。

 「諦めるであーる。オマエは救われないィ。いやァ救われたとしてもそれはワレらの望む絶望としてかもであーるかもなァ?」

 「…………そんなものに救われるのはごめんだ!!」

 しかし、ずっと青いまま言う言葉の説得力は薄い。

 「死にたくないっ……死にたくないっ……!!」

 顔は既に諦めているのに、矛盾した感情の歯車が止まらない。頭を抱え、目を抑え、狂ったように、脚に力が入らない様子でいる。

 「っ!! 死ぬなら……せめて……っ!! せめて……っ!!」

 『おしおきタイム…………』

 「最期に……!!!!」

 そして何かを思い出したかのように私たちに向かって

 「君たちッ!!!!」

 「スタァーーーートォオオオ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「刺客の七には気を付けろぉッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意味深なことを叫んで、巡間はそのまま穴の空いた床へと吸い込まれるように落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 GAME OVER

 

 ハザマくんがクロに決まりました

 オシオキを開始します

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人ぽつんと立ち尽くす

 

 

 

 真っ暗闇の中

 

 

 

 よくよく見るとそこは

 

 

 

 真っ暗闇の森の中

 

 

 

 

 

 『Labyrinth・Of・The・Forest・Of・The・Never-Ending・Death』

 “超高校級の医者”巡間治虫、処刑執行

 

 

 

 

 

 少年は辺りを見渡す

 

 

 

 何もない

 

 

 

 何も見あたらない

 

 

 

 少し歩を進めると

 

 

 懐中電灯に照らされた看板が

 

 

 

 『逃げろ』

 

 

 

 次の瞬間、不気味な音楽が流れる

 

 

 

 それは徐々に増していく

 

 

 振り向けばそこには

 

 

 色白のニヤリ顔

 

 

 真っ赤な歯

 

 

 見開かれた眼

 

 

 懐中電灯を取って必死に逃げる

 

 

 徐々に音楽が薄れ撒いたかと安堵

 

 

 だがそれは束の間

 

 

 今度は眼のないぐにゃりとした化け物が

 

 

 襲ってくる

 

 

 しかもそれは逃げた先に

 

 

 だが気にせず逃げる

 

 

 逃げる逃げる逃げる

 

 

 しかしまたも現るのは四足歩行の化け物

 

 

 三体の化け物に追われ

 

 

 そして逃げ続け

 

 

 吐き出しそうなくらいの光景

 

 

 次の瞬間、聞こえた

 

 

 

 

 『たすけて』

 

 

 

 

 反射的に反応し振り替える

 

 

 そこには誰もいなかった

 

 

 いや周りに追うものがいない

 

 

 一気に襲う安心感

 

 

 そして

 

 

 懐中電灯が消える

 

 

 電源をいれようとしても

 

 

 そのボタンにあたるものは見当たらず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   『どうして助けてくれなかったの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、地面から下から目の前に

 

 

 あの顔が現れる

 

 

 後ろへ下がろうとした瞬間

 

 

 がっしりと掴まれた

 

 

 ぐにゃりとした化け物と

 

 

 四足歩行の化け物に

 

 

 四肢を掴まれ

 

 

 顔は見えないがもう一体の化け物が

 

 

 首に噛みついて

 

 

 その三体が彼を動けなくさせていた

 

 

 もがこうとしても全く動かぬ体

 

 

 首に走る激痛

 

 

 迫るニヤリ顔

 

 

 叫ぶ、叫ぶ

 

 

 叫んでも、届かない

 

 

 嘆いても届かない

 

 

 大きく開かれたニヤリ顔の口

  

 

 ぬちゃりと

 

 

 血液と唾液が糸を引く

 

 

 開かれたその中には

 

 

 大量の眼球が

 

 

 いや

 

 

 潰された眼球があった

 

 

 喰われると悟るよりも真っ先に

 

 

 全身が完全に凍り付いた

 

 

 『絶望』

 

 

 そう感じざるを得ない

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

 グジャリ……グシャリ……

 

 

 

 

 

 

 

 ……喰われた

 

 

 ぼとりと

 

 

 彼のもう片眼が落とされる

 

 

 ………………

 

 

 鳥が群がる

 

 

 バサバサバサッッ!!!!

 

 

 ……………………

 

 

 嗚呼結局そこには

 

 

 悲痛な血液の淀みのみが遺された

 

 

 

 *****

 

 「エーーーークストリィーーーームゥッッッッ!!!!!!!!!! 染み渡るアドレナリンン!!!! 最ッ高にハイであーる!!!!」

 『嗚呼なんと素晴らしい……』

 すば、らしい……? こんなのが……? ……すばらしい? 狂ってるんじゃないの? いや……狂ってるんだ。

 ……ダメだ……吐き気がする…………気持ち悪い……エグい。エグすぎる。全員が見ていられないとスクリーンから目を反らす。

 『なぜ、背ける? 貴様らが下した結論で、彼は死んだのだ。前を見なければ始まらないのだろう? 後ろばかりじゃダメなのだろう? ほら…………前、見てみろ。無惨な凄惨な最期、見てあげろ』

 「黙れグズが!!」

 『クックックッ、お断りだ』

 モノリュウの台詞のすべて私にのし掛かる。私は、どうすればよかったの……?

 『余のために、せいぜい抗え。人間共よ』

 「っ……なぜ、なぜわたくしたちを絶望させる必要がございましょうか!!?」

 『なぜ? 何故と? クックッ、愚問過ぎて嗤えることを。貴様らは【超高校級】であろう? 未来の希望だろう? それが増えすぎなのだ。減らして何が悪い』

 「ふざけないで!!」

 最初の頃に、モノヤギに説明されたこととは全く違った。本来の目的……かはまだはっきりとはわからないけれど、その中の一つが今現れた。

 『経済と同じだろう? 景気が良くなりすぎればそれを抑える。それと同じだ』

 「同じにしないで……!!」

 『全く比喩も通じぬのか。しかし、まあ…………』

 モノリュウが不気味に黙った。周囲を見渡す目が動く。

 『…………裏切ってくれたものだ』

 「は? 何のこといってるのあんた」

 『いやいや? こちらの話よ。さて、久しぶりに生徒との会話もできたことだ。余はこれにて失礼する。あとは頼むぞモノヤギ』

 「アイアイサーであーる!!」

 ブツンッと映像が消え真っ黒な画面が私たちを映す。

 「どうせ黒幕もエゴの塊なんだろうぜ。弁護の余地なんかねぇぜ」

 冷たく吐き捨て国門はポケットに手を入れた。なにかをまさぐるように。

 「おい国門」

 そんなことをしていたせいかモノヤギが声を掛けてきた。

 「……? なんだぜ」

 「ちょっとこっちに来るであーる」

 「…………罠か?」

 「違うであーる。とにかく来いィ」

 渋々モノヤギの元へと歩く彼。するとモノヤギが何かを押し付ける。

 「?」

 「受け取れ。早く」

 前に聞いた低いトーンで告げる。国門は不思議そうにそれを受け取った。

 「さてェ、ワレもこれでおさらばするであーる!!」

 何事もなかったようにモノヤギはその場から離れていった。

 「………………俺は……僕は一体、何者なんだぜ……?」

 素直な彼の自問が裁判場を覆った。今ある自分が自分でないように。

 ああダメだ。ここに留まると気が滅入る。私は何も告げずそのまま裁判場を出ていった。止める声が聞こえたかもしれない。けれど私の視界は誰も映すことはなかった。 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 部屋へと戻った。もう、やる気が起きない。なにもしたくない。

 

 私は責めすぎた。ただの私の推測だけで、彼の心を踏みにじり、傷付けて、追い詰めて、知ってはいけないことを知りすぎた。知る運命だったのかもしれない。けれど、こんなのあんまりだ。あんまりで仕方がない。謝って許されるようなことじゃない。結局私は投票してから最後まで彼に、それどころか何もしゃべることが出来なかったのだから。

 私はこんなので良いのか? 私は今まで何を目的としていた? 彼と会うためか? 玉柏との約束のため? 他人のことを気にもせずに自分と玉柏だけが助かろうとする道を歩もうとしているのではないのか? そう思う度に苦しくなっていく。もうやだ。いやだ。今日はもう、いや、明日もここからは出られそうにない。寝よう。

 

 コンコンコン!!

 

 そう思った瞬間、扉をノックする音が聞こえた。出るような気力は私に残ってなかった。………………けれど、不思議と自分の体は動き出した。変わろうと思っているのか、はたまたそうでないのか、自分の体でありながらわからない。

 「………………だれ……?」

 「……今すぐ来れるか」

 そこにいたのは珍しくも国門だった。第一声に展開早っとかは思った。ツッコミする気はなんにも起きないけれど。

 「…………………………」

 「無理か?」

 調子が裁判時のはずなのに、それならいつも最低とも思えるくらい酷いのに、なぜか優しかった。

 「……俺たちは今、知らなきゃいけないことがある。だから……来い。俺の部屋に。みんな集まってるから」

 「…………」

 コクンと頷いて、ゆっくり、歩を、進めていった。国門はそんな私に歩幅を合わせてくれた。エレベーターを使って上がり、国門の部屋へと、行く。

 どうやら私が最後なのか。全員がそこに集まっていた。

 「………………」

 ぽんっと、何も言わずに玉柏が私の背中を優しく叩いた。ああ、いつもの彼の手だ。何を言ってるのかがすぐわかる。

 「国門くん、なぜうちらを呼びだしたんです?」

 「ちょっとこいつをみんなに聞かせなきゃいけねぇ用があってねぇ?」

 そういってポケットから取り出したのは小さな四角の物体。見てすぐわかる、ボイスレコーダーだ。

 「ボイス、レコーダー?」

 「橘の死に際にもらった代物だ。こん中に橘の知るほとんどがあるってよ。全員に聞かせなきゃ意味ねぇと思っただけだぜ」

 そういうと国門は机にレコーダーを置く。私たちは適当に椅子やベッドの上に座ったり、壁に寄りかかったり、立ったりして、聴く準備を整える。私はベッドの上で聴いていた。全員聴く体制になったところで国門が再生した。

 

 

 

 

 

 

 ジジジジジ………………

 

 

 ガタッ、ガタガタガタッ!!

 

 

 『あーあー? 入ってんのかこいつ?』

 その声は間違いなく橘だった。けれど、彼にしては口調が非常に柔らかい。

 『入ってなかったらやり直すだけだからいいか…………よし、よっ、てめぇら。誰かなんかは言わねぇでもわかんだろ』

 わかる。わかるけど、誰。

 『誰かわかんなくなるくらい誰だってなってるだろうがんなこと知ったこたねぇ。俺は喋るだけ』

 「これ、ホントに橘くん……?」

 「随分テンションが……」

 『俺がこれを残した経緯なんざ後で話しても充分。だから話さなきゃいけねぇことをまず言う』

 ギシっと恐らく椅子であろうものが軋む音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 俺たちの記憶は、消えている。そしてそれは、真実と嘘を混在させて俺たちに上書き……に近い形で思い出させている。また消えてはいなくても、漏れないように口封じをする対策までされてやがる。これは記憶に限らねぇけど、結局は圧がかかってんだ。どういうことかって思ってるだろうが、俺からしてみればそれは事実だ。まず真実について話しておく。

 

 俺たちは希望ヶ峰学園に招かれた生徒であり、同じクラスの同級生。二年もの間一緒に過ごしていた。そして『希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件』によって捲き込まれた被害者だ。いや正確に言えば、偶々国外から戻ってくる最中だったから捲き込まれずに済んだんだ。一応俺たちは未来機関に保護され絶望を止めるために日々を過ごしていた。そん中で、希望ヶ峰学園内で起きたとあるクラスのコロシアイを知った。残酷で無慈悲なコロシアイを俺たちは見てきていた。そしてここで学級裁判があることを認知した。

 ………………ここまで言えば、勘のいいやつなら誰がそれを『マンション内(ここ)で』知っていたか、覚えていたかわかんだろ? あいつらが覚えていなかったにしても、思い出すことぐらいできる。探偵と数学者、その二人だ。そうでなきゃ探偵があそこまで周到なメモを残すわけもねぇし、数学者の最後の言葉も意味深だろうがよ。ただまあ……肝心なところを思い出してなかったのはショックだったけれど……

 前回の動機の映像はノンフィクション。俺たちはあの事件に捲き込まれた。全員体が痛かったりしたんだろうがよ。それはその時の被害の差だ。茶道部が一番重症を負ったからあんな目に遭ったわけだ。この事件は『希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件』のあとのことだ。どうして被害にあったのかは俺も思い出せてねぇのが腹立つことだがよ。けどそれが原因で俺たちはここにいてコロシアイを強いられている。

 それと映像と一緒にもらった秘密の手紙の中身、大工のは事実だ。だが藍染め職人の言った通り、そいつは訳ありだったらしいけどよ。森の恐怖については言うまでもなく真実。被害者の中にディーラーと医者がいたはずだ。医者のほうにはぜってぇ触れるんじゃねぇぞ。何があっても。俺の口からも言わねぇ。

 

 

 …………お次は嘘についてだ。まずは藍染め職人から話す。あいつは……男性恐怖症でも何でもねぇ。ただ父親がかんなりスパルタで俺たちの中でも有名だった。だからあいつ自身若干男に対する苦手意識はあった。だが父親も藍染め職人も……って二人とも藍染め職人じゃねぇか……いやもうその二人はっ!! 藍染めに何か入れたっつう事実は全くねぇんだよ!! それと弁護士!! てめぇはそんな人格者じゃねぇ!! んな性格じゃねぇ!! だが今それがてめぇに侵食してきてやがる。このままじゃ、いろいろ危険だ。

 あとこいつは知ってるかどうかわかんねぇけど、医務室だったかに『地獄の幸福者』って記事あんだが、そいつも嘘。いや正確に言やぁ昔の出来事だしすでにくたばった野郎…………つまり犯人はこの世にゃいねぇってことだ。

 それとこいつは定かじゃねぇけど、盗賊野郎の才能がどうにも引っ掛かって仕方ねぇ。嘘か真実かまだはっきりわからねぇんだ

 

 俺たちは共通した意識や記憶を持ちながら、それが交わらないところ……完全に平行線でないにしてもすれ違ってやがるんだよ

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 

 「これって……」

 一時停止した国門がボソッと呟いた。

 「ええ……私たちは同級生同士でコロシアイをしていたってことになるわね……」

 「それに嘘と真実が混在して曖昧化された記憶がうちらをより混乱させていると……?」

 そして阪本はその嘘に惑わされてしまい、犯行に及んだ……そういうことになる。

 「平行……線」

 私はそれに食いついた。なぜか、既視感があったから。

 「けどなんでそんな重要なことを伝えなかったんじゃ」

 「わかりません……国門殿、続きをよろしいでしょうか?」

 「おう……僕は……偽物の人格に取られそう……か……」

 国門はまた再生ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 次の話題にいく。まずなんで俺がこんなことをレコーダー(こいつ)を使ってしゃべってんのかって話だろ? それは……俺の感情と一部の記憶を発言によって共有することが封じられていたからだ。俺は今まで、ずっと、心の底から、本心でものをてめぇらに伝えられなかった。………………だから、『さっき』泣けたときは本当に嬉しかったんだよ。やっとてめぇらに心が開けたって思った。許された気がしてよ。喜怒哀楽の怒しか表に出なくて、悲しくてもそれらすべて腹立たしいと変換されて、どんなにツラくても何も打ち解けられなくて苦しくて。

 捜査でこそ共有できた記憶が、俺しか思い出せていない記憶を誰にも共有が出来ねぇっていうのにも腹が立った。虚しくて虚しくて砂噛んでるみてぇで。

 これは俺だけに起きたことじゃねぇ。内容は違えど、本来出来たはずのことが出来くなってるやつがいんだろ。それがさっき言った弁護士のことだったり、あと知ってるか知らねぇが探偵だってこそあどばかりだがあそこまではしつこかねぇんだ。大工もそうだったか。

 ただし、必ずしも『負』だけじゃねぇ。『正』もある。こいつも多分人によると思ってるけど。大工は写真を見ることで記憶を思い出す量が他とは違うし、ディーラーだって一単語出すだけで意外と情報が膨らむ。俺の場合は……肩を押すことで他人の記憶を思い出させることができる。常日頃からやっていたことだったからなのか知らねぇけど。

 んでこいつはあくまでも俺の予想だ。俺たちの中に『最大の負を持っている人』がいるなら、それは逆に『最大の正を持っている人』でもあるんじゃねぇかって。必ずプラマイゼロってわけじゃねぇと思ってるが、一人だけに全負担をかけるよりも、全員に分担させてなるべくそうなるようにすんだろ。

 俺がここまで記憶を戻してることに疑問を抱いても別にいいが、確かに記憶は戻りはしているし思い出させることも出来ないわけじゃねぇ。だが俺は人前で口にすることを許されてない上、感情が封じられたから言えなかった。これもこいつで録ってる理由だ。俺としては俺が最大負とは思わねぇし最大正とも思ってねぇ。

 

 ********

 

 

 

 

 

 

 

 またここまでの流れで国門が一時停止をした。

 「宮原くん……阪本さん……」

 「けど確かに橘の言う通りだな。もしそうなら俺の記憶についても納得がいく。気がかりなのは才能が引っ掛かるっていうのがわからないな」

 私たちには負と正、どちらも備わっているってこと? …………私は最大負でも最大正でもない。正はピンと来ないけど、負ならきっと…………いや思い出すのも気持ちが悪い。

 「……続けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 んじゃ次いくぞ。……俺と、数学者の過去の話、そして愚かな俺の今までを。どうでもいいなら飛ばしてくれても構わねぇよ

 

 

 

 

 

 

 ________

 

 

 餓鬼の頃の話だ。俺は西のほうで生まれ育った。幼なじみと一緒に。そいつが数学者、江上和枝だ。ずっと昔から居たもんだから互いに仲良かったし大好きだった。はは、思い出せば、餓鬼ん頃からあいつ数学得意だったんだなぁ。

 平和に暮らしていたんだ。けれどそれも束の間だった。小学生卒業直後の話。俺は親父の急死でさらにお袋の体が生まれつき良くなくて、親父の死の後に精神をやらかしてしまった。お袋を病院に入院させるにも、俺の住んでたところじゃ数が足りないし、少しだけ技術も足りなかった。仕事もろくに出来やしなかったし、それなら都会で俺が働きながら生活を支えるほうがいいかも知れないって思った。

 それは必然的に数学者との別れを意味していた。正直離れたくもなかった。だけど当時の俺の家庭環境じゃそうせざるを得なかった。親戚から金を借りて、家も賃貸にして俺はお袋と電車で故郷を離れることになった。

 電車に乗ろうとする、まさにそのときだ。こいつをもらったのは。離れていても一緒だからって和枝からくれたもの。嬉しかったなぁ…………そして俺からも昔っからあげたかったものを渡したんだ。大きさは小せぇし種類は違ったけど形は同じもんを渡した。お互いの『目の色』と同じものを。俺たちは離ればなれになった。けどこいつに込めた想いが届いているって信じ続けた。

 

 …………そして和枝は数学者として、俺はたまたま使った杖で希望ヶ峰学園に入学することになった。それで最初あたりの話に戻るが俺たち全員は少なくとも二年は一緒に過ごしていた。和枝との関係は周知の事実だった。会ったときは嬉しくて泣いたぐらいだったし。

 けど、俺たちはさっきの通りコロシアイに捲き込まれた。記憶を消されほぼ初対面に近い形で接することになりやがった。それで過ごすうちに……悲劇が起こった。俺の記憶がほとんど全て思い出されてしまったこと。写真を受け取った瞬間浮かぶ昔の頃の記憶。みんなとの学園生活。そして和枝との関係を。言いたくても言えないもどかしさに腹が立ってつい自棄になってあのヤギを…………いやあのモノを破壊したくなった。

 だが悲劇は俺にさらに強くのし掛かった。それが和枝が鷹山を殺したこと、俺の記憶を完全に思い出してくれなかったこと。しかも俺に会って確かめたいっていう動機で。目の前にいたのに気づいてもらえなかったのにショックを受けた。それと同時に俺は思い出させないといけないって思った。……体が自然に動いた。好きだから、モノに殺されることを恐れた。今でもなおよみがえる笑顔が俺を支配してきた。けれど感情を封じられた俺に直接ものを言うことは出来ない上、杖で攻撃したって俺にあいつを殺すことなんて出来やしなかった。だから……少しでも記憶を思い出してほしいと肩を押した。これならあいつは気づいてくれるって信じたんだ。……結果はてめぇらが見た通りだ。

 俺の助けを求める声に反応したかった。手を伸ばしたかった。なのに俺は最後の最後まで俺はあいつにっ……和枝に何もっ、何も出来なかったっ!! ツラくてツラくて仕方がなかったっ!!!! 何を思ったか俺はてめぇらの飯に睡眠薬を入れて……そして部屋に戻ってしきりに泣き叫んだっ……泣いたって何も変わらない!! 泣いたってそれはただ逃げてるだけにしかならないって!! わかってるのにっ!! 泣いて、泣いて泣いて泣いて!! ずっと泣いてッッ!! モノに俺が殺したって言われたときも悔しくてっ!!!!

 

 裁判終わりに次の場所が解放されることを、俺は知っていた。その光景を俺たちはここに来る前に見ていたから……先にそこへと向かい、カフェに行き着いた。そこで見たのが直樹も見たあの森の恐怖の事件だった。そしてさらに記憶を思い出して……ダグラスに当たって……

 それに森の恐怖を終息させた『F.T』の存在をダグラスは知っていた。……はずだった。そいつは失われた記憶になっていた。それに腹が立ったが……モノに制御されたんだ……

 『F.T』についてもう少し触れりゃあ、やつは俺たちがここに来る原因となった事件において最後まで戦ったやつだ。俺も玉柏も最後まで残ったものの、結局こうしてマンション(こんなところ)に入れられちまったが。敵の顔も覚えてねぇし。少し脱線したかも知れねぇが重要な情報だ。

 んでよ……あのあと記憶について話しただろ。あれについては俺も確かにって思った。だってその通りだったから。国門の言った今の自分が自分でないってところもまさにそうだった。直樹が倒れたのは予想外で、何か出来たらよかったが信用されているかもわからねぇのにそんなこと出来なかった。

 ……近衛と一対一は楽しかったなぁ。声掛けてくれて嬉しかったし、何よりあんなに体を動かせて一時の幸福すら覚えた。幾人かで食った菓子も旨かった。あれも嬉しかったんだぞ? 甘党か聞かれたときとか風呂あとに髪の毛のこと指摘されたときは若干こそばゆかったが。

 ………………次の日だったか。宮原が死んだのを目撃したのは。やつには色々聞かなきゃいけねぇことがたくさんあったのに……なにも言えずに呆気なく。すぐさまみんなを呼ばなきゃならねぇって。………………殺したのが阪本だったのにも驚いた。男の苦手なあいつが一番になついたのが宮原だったから。

 秘密を渡されたときに俺が受け取ったのは玉柏のだった。才能のことが書かれていてなぜかおかしいと感じた。嘘か真実か、今の俺にはわからねぇ。

 

 ……ここではこんなにも共通してるところがあったり、すれ違うものが多い。そのすれ違いこそコロシアイを生む要因。それが俺たちを殺し合わせているってわけで……

 今の動機の運命ダイスだかがよくわからねぇし、『刺客の七には気を付けろ』なんて置き手紙まで部屋にあるわで。けどこの中に確実にそいつがいるのは事実……だと思う。曖昧なのは俺の記憶の中にそんなやついなかったからだ。もしかしたら次の事件はそいつが起こすかもしれねぇから気を付けろよ。

 

 ………………多分、話したいことはほとんど話したと思う。

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 ********

 

 静かに停止ボタンが押された。

 「…………なぜじゃ」

 「そんな過去……あったんだ……」

 「私たちのこと、こんなに気にしてたの……? あんな態度取ってたのに……?」

 「……こんなの……あんまりでしょう。橘くん……」

 長々と綴られた橘の過去と今までが、それまで謎だったところを解きながらさらなる謎を生み出す。けれどそれよりも橘の心境が浮き彫りになったことで、いっそう辛さを増させた。

 「……ばかやろう……っ」

 「…………皮肉だよ……本当に」

 みんなの声が震える。直樹は未だに声が出せないでいた。

 「刺客の七には気を付けろ、ですか……巡間くんも言ってましたね」

 「けどこの感じだと、刺客の七はまーだ生存しているかもしれないね」

 「厄介なのには変わりないということじゃな……」

 そして刺客の七とか言う人物への謎も膨らんだ。

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 最後に、今の俺の思ってることを言う。

 

 

 

        泣けよ…………

 

 

 

 なんで泣かない? なんで強がる? なんでそんなに自分を追い詰めるような真似をする?矛盾してるのは百も承知。だけど俺はてめぇらとは違う。てめぇらみてぇにいつでも泣いたり笑ったりすることが出来やしねぇ。けどてめぇら感情ちゃんと出せんだろがっ!!? だからこそ言う。なぜ泣かない!!!?

 特に湊川っ!! てめぇは阪本の死以来ずっっと無理しすぎだろうが!!? あんな見え見えの強がり笑顔なんてやめろよっ!! やめてくれっ!! もっと、心の底から……っ思ってること言ってくれよっ!!? 思ってること全部っぶちまけちまえよッッ!!!! 虚しいって!! ツラいって!! 苦しいって!! 悲しいってっ!! 言ってくれよっ!!? 名指ししてない他のやつらもおんなじだ!!!! 死んでツラいのは一人だけじゃねぇんだっ、みんな、みんなみんな同じように、ツラくてツラくて仕方がねぇんだ!! そうじゃなくとも、どこかで悲しい気持ちがあるんだよぉっ!!

 おれなんかっ……っ一人じゃなきゃ、っこんなの吐き出せないからっ……っ、だからっ……だからっ!! お願いだからぁ!! てめぇらの心の声をっ!! 胸の奥底の本心をっ!! 聴かせてくれよ!! ちゃんとっ、支えてくれるひとっ、いるっ、からぁ……っ……たのむ、からぁ…………みんなっ、やさしくて、っ、いいやつら、ばかり、だからっ…………なぁっ!!!!

 

 ********

 

 

 

 

 

 

 泣きの涙で彼の全てが吐き出される。彼の泣きじゃくる声が、レコーダー内部で反響し部屋を包む。

 「うわああああああああっっ!!!!!!」

 立ちながら聴いていた湊川が泣き崩れる。何かがぶつりと切れた気がした。

 「ツラいっツラいのっ……悲しくて悲しくて仕方がないのよっ!! 友達がっ、人を、殺したって事実はっ、変わらないけど、っ、それでも!! 目の前であんな風にされて!! ツラくないわけないじゃないっ!! 泣きたいって、思ってもっ、強くならなきゃって……っそればっかりで!! けどそれは……間違ってたっ……ウッ、うあっ、……ただっ、ただただ、現実からっ目を反らしてただけだったっ!!!! そばに、ダグラスくんがいて、大丈夫だって、思っちゃって……浮かれてっ……!! 隣にいる人すら!! 失うってことを、知っていたはずなのに!! わかってたつもりだったのにぃ!! 結局、いなくなってからっグスッ、後悔ばかりしてるっ……ウウッ、ごめ、んなさいっ……ごめんっ……」

 声の限り泣き叫ぶ湊川に触発されるように、直樹の隣で座っていた渡良部も顔を覆いながら泣き、その近くで立っていた近衛も静かに涙を流していた。

 「ぁっ、ダグ、ラスっ……」

 「ダグラス、どのっ……」

 渡良部が近衛の裾を引っ張るとそれに答えるように近衛がツラさを共有しながら、彼女を抱き締め背中を優しく撫でる。渡良部の嗚咽がだんだんと増していく。

 「…………っ」

 泣きはしなかったものの矢崎は悲しく目を赤くし、柱に寄りかかっていた灰垣も悔しそうに唇を曲げていた。

 「あほかよ……」

 レコーダーの近くで座っていた国門も、そんな悪態をついたところで正直な涙腺の緩みは簡単に治まらず。金室もハンカチで零れた涙を拭う。

 「あっ、アアアアッ、っ、ウエアッ、ああっ……」

 直樹も泣いた。今までのこと全て吐き出すように。嘆き悲しみ、もう届かぬ謝罪が掠れる。

 「…………悪い……やらなきゃいけないことを、っやってくる……」

 玉柏が逃げるようにその場から離れた。彼の声も同様であった。誰も止めることはなかった。止める余裕すらなかったのだ。

 一度ついた火が消えない。それぞれ海底に沈むような孤独感を抱いていて、胸の中がぽっかりと空いてしまった喪失感に襲われていて。海底に火は着かないというのに。今まで失った全員の存在が幾度となく頭の中を過り、それぞれの喜怒哀楽が支配してくる。切ない思いが込み上げてきてさらに海底で溺れた。

 しばらくして、レコーダー内で泣いていた声が少しだけ冷静さを取り戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 っ、見苦しくてごめんっ、ごめんなぁ……? こんな男がみっともなく泣いてて……どうせ飛ばしてんだろうけどよ……っ、てめぇら全員っ、いい仲間だから、だから……これからもよろしく頼むな……? 生きてる間に……誰かがこれに気づいてくれることを、祈る。俺は……っ、絶対死なねぇから……

 

 ********

 

 

 

 

 

 

 死なない、なんて、今となっては嘘になってしまった。けれどそんなことどうでもよかった。ただただ、心傷に浸っていたかったから。レコーダーの録音が切れても、みんなの泣き声は止められなかった。

 

 

 *

 

 ______

 

 

 コツ、コツ、コツ…………

 

 

 先に後にした玉柏がいつ盗んだかもわからぬ、いや、すでにあのとき盗んでいたやつの手帳を取り戻しⅡ棟で使い部屋へと入った。

 

 

 「…………おおばかやろうがぁ……」

 

 

 彼はそう呟いて、雨を誤魔化すように一本煽った。

 

 

 ______

 

 

 

 

 *

 

 散々泣きじゃくって、みんながその場で寝てしまった。校則に違反することはないがやや事案ものである。

 そんな中、紙を読みながら歩を進める人がいた。

 

 

 【橘は江上と恋仲である】

 

 

 これを初めて読んだときどうにかなってしまいそうなくらい混乱した。秘密とは幅が広い。そういえば、あれは不器用なやつなりの愛情表現だったなぁと、思い出す。

 ……そんなことよりとそれをポケットにしまい、ある者はやつの息絶えたところへと向かった。そこにはすでに遺体はなかった。が、ヒントのありかを求めてそこを探る。…………ここだけ、なにかが違う。直感で思った。ある者はそこの周辺を探す。嗚呼あった。見つけたと、そこを開いた。

 

 

 ゴオオォォ…………

 

 

 開くとその寒さに凍りそうになる。防寒具を身に纏うことはせず、閉まらないように棚一つで押さえつけた。…………Ⅲ棟の寒さはこれが原因か。するとあるものに目がいった。ある者はそこに向かいゆっくりと取り出して中を見た。

 

 

 …………………………

 

 

 「どういう、ことだ……?」

 

 

 目を見開いて目の前の謎に疑問符を浮かべる。おかしい。明らかにおかしすぎる。

 

 

 

 ……刹那

 

 ゴッ!!

 

 ドサッ……

 

 

 

 ある者は突然の衝撃に倒れ気絶した。

 

 

 …………

 

 

 「…………『刺客の七』には気を付けろ……ってね……」

 

 

 カランっ………………

 

 

 「世界に必ず、誰にも見えない『七の世界』が潜んでいるのだから」

 

 

 

 

 運命の骰はまだ

 

 

 転がり始めたばかりだった

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

     「すべてわたしのせい」

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 “赤い包帯”を手に入れた

 

 

 とある人物が片眼を撃たれた巡間のために気休めとして止血用として巻いた包帯。血液はすでに乾燥しているが、その血液量はおぞましい程のものであったと窺える

 

 

 

 ***

 

 

 

 第三章

 消えた雁追うものども

 

 

 

 終

 

 

 

 ***

 

 

 next→第四章「転がる骰にゃ影潜む」

 

 

 

 





 ついに表論も三章を完結しました。いやほんとに思いの外残酷に描くことになってしまった。これがあの子たちの運命かと。「可哀想」ってスッゴい皮肉だと思います。
 次回は一旦区切りということで番外編を挟むつもりです。それまでまたしばらくお待ちください。


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第四章 転がる骰にゃ影潜む
第四章(非)日常編 鶴亀1部屋目


 番外編挟もうと思って全然書けなかったです。すみません()
 そんなわけで表論は四章へと進んでいきます。そろそろ表論の根幹も見えてきそう? 秘密や記憶を明かせてない子もまだまだいるのでこのあとどうなっていくかお楽しみくださいませ。


 では鶴亀1部屋目。長生きしたくば『ツルツル』飲まずによく『カメカメ』




 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 突然視点が変わることがあります。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 ある人は「もどかしい」かった

 その人は「目指して」います

 

 ある人は「従って」います

 

 ある人は「見て」いました

 その人は「溶け込もう」としています

 

 ある人は「見られたく」ありませんでした

 その人は「隠して」いたのでした

 

 ある人は「守って」いました

 

 ある人は「忘れて」いました

 そして「抱えて」います

 

 ある人は「苛立って」いました

 その人は「疑って」いました

 その人は「弱かった」のでした

 

 ある人は「引っかかって」しまった

 

 ある人は「たえて」いました

 

 ある人は「保って」います

 

 ある人は「潜んで」います

 その人は「動き出そうと」しています

 

 ある人は「強がって」います

 だんだん「脆くなろうと」しています

 

 ある人は「縛られて」います

 

 ある人は「できなくなって」いました

 もはや「侵されて」きています

 

 ある人は「恐れて」いました

 その人は「大事に」したかった

 それはそれは変わらぬ「想い」で

 

 ある人は「不安」でした

 もうその心配はありません

 

 

 _________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***とある場所にて***

 

 

 

 ビリリリリリリリリリリッッッッッッ!!!!!!!!

 

 「ぐああああああっっ!!!!」

 

 ドサッ……

 

 「よくも……裏切ってくれたなぁ……?」

 

 「ぐっ……くそっ……」

 

 「もちろん貴様に言っても意味のないことなのはわかっている」

 

 「な、ならなぜ」

 

 「なぜ? それを見張るのが貴様だろう」

 

 「ぐ…………」

 

 「引き続き頼むぞ」

 

 「……くそ……」

 

 「すべてを裏切った」

 

 「………………っくそぉおおおおおおお!!」

 

 「『裏切り者よ』……フフフ……ふははははっ!!!!」

 

 

 ***

 

 

 

 お願いだ

 

 

 生きてて

 

 

 あなたが生きててくれなきゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       “__を壊せない”

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 モノリュウのお告げ

 

 

 

 サイコロ

 

 

 定義上それは

 

 

 六面ダイスのことを指すようだ

 

 

 四面や八面、十二面あろうとも

 

 

 『サイコロ』は六面

 

 

 ダイスと言えば幅は広がる

 

 

 ところでダイスは

 

 

 英語表記だと『dice』

 

 

 これは複数形なのだが

 

 

 原形に戻すと

 

 

 『die』だと知っているか?

 

 

 『死』と同じなのだ

 

 

 おもしろいだろう?

 

 

 この1単語から

 

 

 複数の意味をもたらされるというのは

 

 

 何故か?

 

 

 それはきっと

 

 

 余らの世界の影に潜んでいるのが

 

 

 理解し難い世界の理が

 

 

 存在するからかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第四章「転がる骰にゃ影潜む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 15日目

 

 目が覚めるとそこは橘の部屋だった。そうだ、俺はここで酒を一本……まあ缶だが……を煽ってそのまま寝落ちた。柄にもなく泣いていたってな。やるせなさに背中が重くなる。しっかし少し頭痛いな。たった一本で二日酔いしたか? まあ別にいっか。そうだ、直樹のところから盗ってきたこいつら置き忘れてたな。っと……

 

 ……………………

 

 

 「せめて、そっちで幸せになってくれ」

 俺は一度自室へ行って着替え、Ⅲ棟に手帳を置き、食堂に向かった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 食堂に行ってみたが誰もいない。どういうことだ。厨房に寄ってみたがまあそっちも。昨日あんなに泣いてたからか。あいつらちゃんと寝てるのか……? 冷蔵庫の中を覗いてみたが特に作りおきしたような雰囲気はない。全くしょうがないやつらだな。作ってやるか。シンプルに和食でいいよな。

 気配を感じる。誰かがこっちに向かってきているのか。

 「おはようございます」

 「ん、おはよう。金室か」

 「ええ。近衛くんが今みんな起こしてますし、もう少ししたら来ますよ。あれ、国門くんはいないんですか?」

 「国門? 見てないぞ?」

 「トイレにでも行ったのですかね。いえ、部屋にいなかったのでもしかして先に行ったのかと」

 あいつのことだから、あまりそこは気にしなくても大丈夫だろうがな。

 「ほう……ま、そのうち来るだろ。それよりそこの味噌汁注ぐの手伝ってくれるか」

 「ええ」

 返事をしたが金室はそのまま手に汁をちょっとだけ垂らして舐めた。

 「……個人的にほんの少しだけ味噌欲しいです」

 「……すまん」

 査定してきたよ。全く。

 「ですが……」

 今度はなんだ。

 「なぜでしょう……この味……まるで誰かに手を差し伸べるような」

 「どんな味だよ。手を差し伸べるような味って……」

 「わかりません。そう思ったのですから」

 正直なところは褒めたいんだが、どうも苦手だな。

 そんな適当なことを話していたらみんながぞろぞろ起きてやって来た。昨日服を変えられた三人は元の服に着替えていた。って直樹のその髪の毛なんだ。山姥か。

 「すみません、朝食まかせてしまって」

 「気にすんな。昨日のこともある。無理させすぎても仕方ないからな。たまにはやらせてくれな」

 「ありがとうございます、玉柏殿」

 あのとき以外、こいつばかり食事担当になってもらってるからな。負担を少しでも減らしてやらないと。

 「……お前さんの目はあれじゃな。まるで子どもを見てるみたいじゃな」

 「子どもを見てるみたい? バカ言え。犯罪者が何で」

 「あ、でもわかるかも」

 直樹まで!?

 「あまり干渉しないけど、近所で優しく見守る人みたいで。それと手とか優しいんだよね。なんか、触れ慣れている感じがする」

 話題があったから良かったが、これ唐突だったら語弊が生まれそうだな

 「触れ慣れてるって……そりゃ、盗賊だから盗む物丁寧に扱うだろ」

 「んーそれとは違うんだ。けど説明できない」

 「はあ……?」

 思わずため息が出てしまう。呆れる。この手に何の意味もないだろう。包帯だって三人の仲間の証を刻んでいる。盗まなければ生きていけなかった俺の手が、そんなに優しいのか。直樹は繊細だからかなり気を使ってはいるのは確かなんだがな。

 「そういえば国門くんはまだなの? 遅くない?」

 「…………遅すぎじゃないか? 今は……8時か」

 誰もが思っている。遅いと。昨日は国門の部屋で全てを聞いた。そのあとのことは俺は知らない。だが聞いた限り全員が部屋で寝落ちてしまったんだろうな。

 「うち探して来ます」

 「えっ、けど」

 「このまま来ないで死んでたなんて洒落にもならないので」 

 頑として譲ろうとしないその瞳にどこか誰かと似たようなものを感じた。思わず俺は笑った。 

 「行ってこい」 

 一言そういったらそのまま走って食堂を出ていった。 

 「いいの?」

 「どうせ生きてるだろ。あいつ、しぶといところあるからな」 

 正直な話、敵には回したくない相手だ。しばらくしたところに金室が国門と戻ってきた。ただし国門は金室の肩を掴みふらふらとしているようだった。

 「国門くん!!」

 「よせ……頭に響いてしゃあねぇんだぜ……」

 頭に響いてる? 

 「ふらふらしながらⅢ棟から歩いてきたそうです。全く阿呆ですか」

 「うるせぇぜ」

 「とにかく詳しい話はあとだ。動けないことはないんだな?」

 「ああなんとかな。飯は食うぜ」

 悪態はつくが飯はしっかりと食べる。全く。 

 「それで、どうして支えられていたの?」

 「……殴られた。昨日の夜に部屋から出て……Ⅲ棟に行ったらよ……背後からいきなり殴られたんだぜ……目が覚めたら仮眠室にいてよ、そこから戻ろうとして金室と」

 「そもそもなんでⅢ棟に…………」

 「………………」

 そのとき国門は黙った。 

 「……忘れた。なぜそこにいったのかを」

 「忘れたって……」

 「記憶喪失にしては随分じゃな」

 「仕方ないだろ。頭を思い切り殴られたんだから」

 「そのとき何か見たとかもかい?」

 「……そういえば、サイコロが投げられたような音が聞こえたような……?」

 サイコロ、俺たちを取り巻いたもの。実際はダイスなのだが。

 「まさか刺客の七なんてことはないですよね?」

 「わからねぇ。だがもしサイコロが関係しているならこれは明らかに刺客の仕業だと思うんだぜ」

 「根拠は?」

 「サイコロには見えねぇ七が潜んでいる。見ればわかるがサイコロの上下を足せば必ず七になる。見えないはずの七がよ」

 「まさしく『死角』ってわけかい」

 「だろうぜ。刺客は死角の世界からやって来たやつってことになる」 

 誰にも見えない死角の世界からやってきた『刺客の七』。本当にそうなのか? と俺は思った。

 「僕らはまだ知らないのかもしれない。ここにいる人が全てでない。第三者が潜んでいる可能性も考えておかなきゃならねぇぜ」 

 なるほど、第三者か。確かに捨てられない選択だ。 

 「とりあえずご飯食べなさい」

 「あ、はい」 

 でお前は金室に注意されるのかよ。

 

 

 ***

 

 

 飯食ってしばらく全員がその場で留まった。誰かがなにかを言いたそうにして吃り、また誰かが言おうとして吃る。その繰り返し。さっきまでの会話が嘘のように途絶えた。

 「なんか……話す気も失せちゃったわね」

 「…………ここも、広くなっちゃったなぁ……」

 かつて七人が座っていたところを眺める。虚しく閑散としたその場所を。

 

 

 

    ……………………………………………………

 

 

 

 「………………ホント……静か、だね」

 ……嗚呼、全くだ。だってもう……ここにいるのは九人になってしまったのだから。

 「ああああもうやってられません!!」

 拳で机を叩いて大きな怒鳴り声をあげ立ち上がる人一人。金室だ。

 「皆さん、少しばかり執着が過ぎませんか」

 「執……着……?」

 「少しお話をいいでしょうか」

 ドカッと座り直し腕を組んだ。金室らしくない。

 「確かにうちらは誰かにすがって執着します。人は誰かの支えなしでは生きられない。たとえ一人暮らしをしている者であっても、誰かの助けは必ずあります。しかし頼り過ぎるのは自己を失う危険な行為だと思います。自分を保たなければ、死にますよ」

 言葉に重みを乗せながら真剣に俺たちを見ながら語る。

 「なので皆さん、一度ここから出るという概念を忘れたほうがいいと思います」

 「はぁ!?」

 「ちょっと!!」

 「焦らないでください。何も絶対とは言わん。少し視点を変える。それだけのことです。出ることに執着すればそちらにばかり目がいき他をおざなりにしがち。ならば出るという気持ちを抑えて、ここに居ると真の意味で自覚すれば別の視点が増えるのではないでしょうか?」

 「例えば?」

 「例えば……そうですね……」

 金室は少し悩む素振りを見せる。

 「裏切り者、そんな存在がいてもおかしくないかと」

 その言葉に一気に空気が冷えた。俺も思わず顔をしかめた。

 「現に今『刺客の七』なる存在が現れています。それは、その人にとって何か不都合や策があると見るのが妥当では? もしくは刺客の七と裏切り者は同一の存在とか」

 ……確かに、刺客の七が裏切り者と考えてもおかしくはない。本当に裏切り者がいるかどうかは別だがな。

 「まああくまでも提案程度ですし、強制力はありませんから。ただ少し視点を変えてみるのもいいかなというだけです」

 「でもだからって」

 「いや、僕は賛成だ。確かに有り得なくはねぇ推理。これだけコロシアイがうまく進んでるんだ。何かあっても不思議じゃねぇぜ。さっきの第三者のほうもだが、それこそここにいるかもしれない裏切り者の存在も否めない」

 目的を分割すれば多少なりともマシか。それなら俺も乗るか。他はまだ悩んでいるみたいだな。

 「この話は本当に念頭に置く程度で構いませんので。以上です」

 やや早口だったのは、気のせいじゃないだろう。焦ってるんだってよく判る。

 「んじゃ、僕からも一ついいか」

 国門は少し回りを見渡すと話始めた。

 「僕の中にいる『人格』がもう8割の段階まできている」

 「8割?」

 「それってつまり、国門くんの制御がもう行き届きにくいところまで来ちゃってるってこと!?」

 直樹が噛みつくように尋ねると静かに国門は頷いた。

 「今2割をうまく使って本来の自分を保ってる。いや保ててもないか……だけどもし次の裁判を乗り越えたなら、僕は……人格をそいつに取られる」

 思わず唾を飲み込んだ。

 「前回の裁判で阪本を弁護士として多少なりとも弁護しようとした……がまあ迷惑かけてただろ。それにあのあとの発言で僕はひどいことも言った。今さらだけど、この場を借りて謝らせてもらう。悪かった」

 国門は頭を下げて謝った。

 「これはお前に対する謝罪なんじゃないか? 湊川」

 「えっ?」

 こいつは知らない。ダグラスと先にあそこから立ち去っていたから。矢崎がかいつまんでそのことを湊川に伝えれば、そんなことがと驚いていた。だがすぐにあいつは微笑んだ。

 「んーん。いいわよ。気にしてないわ。私は……阪本さんたちの想いを背負う義務がある。すごく気負う感じだけど、ダグラスくんがいなくなって、橘くんの言葉で目が覚めたわ。自分に素直になってみようって思えたから」

 懐かしむように湊川は微笑んだ。そいつの目は前よりも、迷いが晴れている気がした。

 「それが懸命だ。悪い。話を戻すと今回の裁判……今日起きてみたら後半辺りがうまく思い出せないんだ」

 「さっき殴られたからその影響……いや、にしても変だよね……」

 「……もし、これが僕の人格の仕業だとしたら? 徐々に薄れる記憶がその人格に奪われているとしたら? 自分が自分でなくなっていくんだよ。僕はこれから何をしでかすか、自分のことでありながら自分でわかっていない。それに最近、この人格が本当に自分の中に存在していたかも怪しく思えてきた。けどそれよりも怖いのは橘の言っていたことが本当だと思っていたことの一部が嘘だったとしたら。これは僕に限らず、みんなそう」

 ……まさか、あいつの言っていた俺の才能に関することって嘘かもしれないってことなのか? だとしたら本当に俺は何者だ?

 正直今俺はこの『盗賊』だって認識が定着している。

 「記憶のすれ違い、人間関係の交差、嘘と真実が混ざり合うこの空間そのものも謎に思えてくる」

 「言われてみればそうじゃな。現にわしらはマンションに来る前からの同級生。さらに言うならば、江上と橘、直樹とそのお相手さん、玉柏のそのお仲間さん。昔からの知り合い関係がいたにも関わらず、記憶の欠如で悲劇は起きた。しかも振り返ればわしらの記憶は操作されているらしいじゃないか」

 「……もうわかんない。異世界にでもいるみたいじゃん……二次元じゃないのに」

 不覚にも、渡良部のその一言ですぐにゲーム好きの三人組を怪しんでしまった。確証はない。いくら俺がほとんど勘で動くとは言え、さすがにこれはこじつけにも程がある。

 「仮に異世界だとしたらいろいろ納得いくところも増える。でも現実はそんな甘くはないだろ」

 「そもそもどのようにして異世界にという問題もございます」

 ああもうやたらとこんがらがることばかりだ。二次元? 異世界? そんなの知らない。昼寝したい。

 「やめだやめだ!! 話題が多すぎる!! 今わからないことをさらにわからなくさせると脳がパンクするだろ!! この考察はもう少しあとにしような!!」

 無理やり話を終わらせた。面倒臭い。あんだけの話題をどうしろと言うんだ。

 しばらくの間、沈黙が訪れる。ちょっと言い過ぎたか。こいつらには申し訳なく思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「興味深いであーるなァ?」

 「黙れい」

 「このコスプレヤギ」

 「イヤミヤギ」

 「金でも食っとけ」

 「食べないであーる!!」

 「えっ、硬貨食べれないの……!!?」

 「余計食べないであーる!!」 

 なんだよしんみりしたと思ったらモノヤギに対するこいつらの妙な団結力は。橘のコスプレをしたモノヤギがため息をついた。 

 「いやそんなことよりィ……ワレはお知らせのためにここにいるであーる」

 「どうせⅣ棟のことだろ」

 「ピンポンピンポーンンン!!!! Ⅳ棟解放のォお知らせであーる!! 別名運動棟!! 体を動かしてストレス発散するといいであーる!!」 

 キャッチフレーズがそうくるとは思ってないな。 

 「ではではァワレはこれで失礼す」

 「待て」

 その場を去ろうとするモノヤギを国門が止める。 

 「……何であーるかァ?」

 「お前、あれはどういう風の吹き回しだ。なぜ僕に昨日」

 「何も言うな。言わなくていい。これはワレの……いや、やめておこうか」

 時折気になる。こいつの本心が。ヤギごときに心があるのかという問題だが。少なくとも俺たちに何かを隠しているのはわかる。前みたいに。 

 「資料室がⅣ棟にあーる。そこで調べればァ、何か見つかるかもであーるなァ」

 「……モノヤギからそう言われるとなんか怪しいねえ」

 「………………これで、本当に良いのであーるか……?」

 その後ろ姿はどこか、が宿っているようにも見えた。そのままモノヤギは立ち去っていった。

 「何なんじゃ一体」

 「さあ……」

 俺たちに謎を残すモノヤギ。不思議とその背中が大きく見えた。

 「…………」

 「あの……」

 恐る恐る、湊川が手を挙げた。

 「どうした」

 「少し、あやふやになっちゃったし……けどはっきりさせたいから……いいかしら」

 全員の視線がそいつに向いた。湊川は胸に手を当て息を吐いた。こうして話すのは二回目か。

 「背負って前に進むだけじゃ甘かった」

 その発言に少し肩が震えた。

 「本当に背負うって何なのかしら。前に進むって何なのかしら。私はそれが曖昧だった。いえ、足りなかった。橘くんの遺した音声を聞いてやっと。私は昔から少し気負うことばかりしてたの。上手くいかないことを背負いすぎて、本当の自分を見失って。どれが本当の私でどれが嘘の私かわからなくなっていた。大丈夫なんて言って、本当は一番大丈夫じゃないみたいなのザラだったのよ」

 胸に当てた手が服をギュッと握りしめていた。

 「私は弱い。きっと誰よりも。現実から目を背けるばかりで、前に進むなんていって全然進んでなかった。あの話を聞いてブツリって何かが音を立てて切れた。多分昔からの呪縛から解放されたのかなぁなんて。……思うことは言わないと伝わらない。大切なことを伝える前に死ぬなんて嫌。だから少しでもみんなに共有できることは共有していきたい。迷惑かけるかもしれないけど、そのときは迷惑かけ返して? お互いに理解し合うことも、ここから出るために必要なことだと思うから」

 ちょっと無邪気に、けれど元からあるこいつのお姉さんのような優しい優しい笑顔がとても美しく見えた。

 「そうして、みんなは前に進む。希望を持って生きたいわ」

 言葉いろいろおかしくてごめんねと、湊川は謝った。

 「気にすんな。伝わってる。迷惑かけろ。それに俺たちは応えるし、俺たちもお前に迷惑をかける。前に進むためのプロセス。みんなでしっかり歩めるようにしないとな」

 肩を少し叩いて言ってやったら泣き出した。え、待って何で

 「あ!! 玉柏が泣かせたぞ!!」

 「おいやめろ国門っ!!」

 「いいのよ。……ちょっと、嬉しかっただけだから」

 ……みんな気づいている。そしてダグラスもきっとそれに惚れたんだろう。

 湊川の笑顔は人を虜にする美しさがあるんだってな

 

 

 

 * * * * * * * * * *

 

 

 

 いろいろあったけど、みんなでⅣ棟に。結構な高さを誇ってる気がしなくもない。 

 「トイレは全階にあるからいいとして。一階はロビー。二階はプールとその更衣室。三階は体育館。四階はトレーニングルーム。五階は休憩所と資料室と放送室。そして別館の寄宿舎」

 「別館は完全平屋か。見た感じ高さはⅣ棟一階と変わらんみたいじゃな」

 「換気のための窓もちゃんとあるし……いつもよりは開放的みたいね」 

 プールが二階にあるっていうのがなんか不思議。とりあえずみんなで中へ入ることにした。

 

 

 ***

 

 

 一階はまあ案の定という感じ。どうやら別館と中では繋がっていないみたい。

 いろんなスポーツ選手のマネキンや肖像画、写真が並んでいる。野球、サッカー、バスケ、バレー、ゴルフ、弓道、空手、柔道、などそれぞれたくさんある。 

 「こんなところでここまで心が踊ったのは初めてかもしれんな」

 「度々思うけど、灰垣(ロン)がバレー部なのすごく忘れる」

 「なぜじゃ」 

 いやそうなるでしょ。

 「む? おお久しぶりに見たぞ」

 「え、誰々?」 

 灰垣はとあるバレー部の写真に指を指した。髪を靡かせながらスパイクを打つ横顔の男子の写真だ。横顔だけでも相当格好いい男子に見える。

 「希望ヶ峰は中学時代からこやつの様子を見ておったのか? 確かに有名じゃけど」

 「どういう人?」

 「そりゃああれじゃよ。突如彗星の如く現れたバレー界のスターじゃ。思い出したのはつい最近じゃがな。久しぶりに見られた」

 「会ったことあるの?」

 「残念ながらない。彗星の如く現れたが彗星の如くすぐに姿を消したからの。機会はあったんじゃがなぁ」 

 少し嬉しそうな顔をしていた。それだけバレーに思い入れがあるんだ。

 

 

 ***

 

 

 二階へと行くとすぐにプールと書かれた部屋があった。入ってみると扇風機とかベンチとかロッカーとかも見えた。そして赤と青の扉。きっと更衣室なんだろう。 

 「みんなしてェプールの探索であーるかァ?」

 「……何の用だ」

 突然背後からモノヤギの声が聞こえた。

 「いや少し説明しておかないといけないであーるからなァ? 監視カメラ以外の機能を一時的に停止させたであーるからァちょっと聞くであーる」

 そういうと男子更衣室の方に手をのば……せなくてジャンプしてドアノブを引いた。木製の棚、その中一つ一つに藺草の篭が入っている。

 「女子更衣室もこんな感じであーる。注意して欲しいのがァ、ここに入るためにはァオマエラの持つ電車生徒手帳が必要なのであーる。扉の隣にある黒いやつにかざせばァ鍵が開くであーる」

 「Ⅱ棟の個室と同じってことかい?」

 「そのとォーり!! でェ、更衣室には一回の掲示につき一人だけ入れるであーる!!」

 「一人だけ?」

 「間違って男子が女子のォ、女子が男子のに入ったら困るであろう?」 

 そんな状況あるのか? 

 「ちなみに更衣室からオマエラが今いるところに出るときもォ、更衣室からプールゥ、プールから更衣室も同じであーる。今の3つは電子生徒手帳の掲示はしなくてもいいであーるがなァ」

 ちょっとだけ面倒くさい仕組みだ。 

 「そォれェとォ!! ここの更衣室はァ、入ってる人数がわかる仕組みであーる!! 人の形のモノが入ったと認識されれば更衣室内のセンサーが働くであーる」

 「普通に人でいいよね?」

 「あとォどちらの扉が開いたかもわかるであーる。そして人数計算されるのは両方の扉がしまったときであーる。というかァ片方が開けば片方は開けられないのであーる!!」

 「めんどっ!?」

 「今回だけは特別で見せているであーる。とりあえず中入るであーる」 

 先導されているっていうことが癪に触る。進むことにはしたけれど。

 中はとても解放感に溢れていた。シャワーとかビーチバントとかビーチボールとかいろいろ。ただプール内の水は何故か抜かれていた……というか抜かれている最中だった。ザアアアアアアっと勢いよく流れる音が聞こえる。

 「これは一体どういうことでございますか?」

 「プール内の掃除をォ定期的にやっていたであーるよォ。それがたまたま今日被っただけであーる」

 「タイミングわるっ!?」

 「午前中に水抜き……午後の二時から二時間くらいかけて掃除をやっているであーる」 

 そんなに時間食うもんなの!? 

 「丁寧掃除したほうがいいであろう? 気遣いであーる」

 「あんたから気遣いされるの物凄く違和感あるし複雑なんだけど」

 「それとォここはプールの動力室でェ」

 「スルーすんなよ!!」 

 動力室ってどういうことだ。

 「ここで波を作ったりィ、渦を作ったりすることができるであーる!!」

 「楽しそうなのになんか不穏だねぇ?」

 「まあこんなところであーるかなァ。ほらァさっさと探索戻るであーる!! さっき話したところはァ校則に反映しておくであーるからなァ!!」 

 無理やりプールから追い出されて二階廊下へ。

 「最初からよ、校則で説明できねぇんかねぇ?」

 その場にいる全員頷いて、三階へ昇ることにした。

 「あ、プールのサウナ開いてるであーるがァ入るであーるかァ?」

 「「「入らねぇよ!!」」」

 全員のツッコミが轟いた。

 

 

 ***

 

 

 で、三階。体育館だ。普通に学校にある感じの空間で、器具庫とかも備えられている。灰垣が器具庫に入るとバレーボールを手に取ってやってきた。彼はバレーをするときにサーブする線の上に立つ。

 「やっぱり気になるの?」

 「当たり前じゃ。ふむ空気は程よいの……どれ……せいやっ!!」 

 テンポよくボールを上げバシンッッ!!!! とサーブを打てばバンッッ!!!! っと壁に勢いよくぶつかり跳ね返る音が体育館内を反響させる。思わず感嘆してしまうほど。 

 「おお……」

 「やれやれ、少し肩が痛む。二週間以上まともに運動出来てないから鈍っておるの」

 「うわぁさすがスポーツマン……」

 「その格好でよくできるな」

 「あとでまたここにきて打ち込みするわい。その時はさすがにジャージに着替える」

 鈍ってる、って言える辺り本当にバレー好きなんだなぁ。やっと彼の才能らしい才能を見た気がする。だって 

 「これで僧侶じゃない証明できたね」

 「やかましいわい!!」

 言動も格好も僧侶臭すぎるから。

 

 

 ***

 

 

 四階はトレーニングルームというわけで。ランニングマシーンやらサンドバッグやらスピンバイクやら、肉体を鍛える道具がいくつも置いてある。それと自動販売機もあってお茶やスポーツドリンクを飲むこともできる。お金の類いはなしで押すだけだから『自動販売機』というよりも『自動提供機』か? 

 「アブドミナルにステアクライマー、ショルダープレスにレッグプレス……うむ。大量じゃな」

 「どれがどれ!!?」

 「わからんでもいいんじゃぞ」

 けらけらと笑って先を急ぐかと灰垣はそのまま五階へ行った。

 「玉柏くんはこれわかる?」

 「一応はな」 

 マジかよ。

 「使った記憶はないな。いやもしかすると使ってたかもしれない。覚えてない」

 「懐かしいものばかりでございますね……わたくしの通っていた学校にもこういったものは見受けられましたので」

 「近衛くんは剣道やってたんだもんね」

 「本当に一時だけだったのでございますがね。それに多少機器の知識を知るだけ故、あまり使ったことはございません」

 「仕えてるところにはあるの?」

 「一応」

 あるの!?

 

 

 ***

 

 

 五階に上がるとすぐに休憩所が見えた。テーブルと椅子が規則正しく並んでいて、お茶を入れるスペースもある。

 奥のほうへ行くと資料室と放送室の扉が目につく。先に放送室を覗くと、全員入るのには少しばかり狭いと感じた。それと扉がもう一つあった。スタジオらしい。スタンドとかレコードとかもある。 

 「スタジオのほうはやっぱり広いわね。あ、こんなところにマカロニあるじゃない」

 「え、パスタのやつ?」

 「そっちじゃないわよ」 

 こんなところにパスタあったら驚くわ。 

 「正式にはコネクタなんだけどね。コードとコードの接続のためのものよ。オスコード・メスコードとか」

 「オスメス? 見分け方あるのか?」

 「ええーと……出っ張っているのがオスで凹んでいるのがメスよ」

 あっなんか察しちゃいけないこと察した気がする。

 「Ⅲ棟よりかは機材は少ないのかの?」

 「そんなことはないよ。放送するのに結構な機材必要らしいし。まあここは多くないみたいだけど」

 「詳しいんだ」

 「にわかだけどね」 

 テレビ局内軽くみただけだから。

 放送室を出て資料室へ。その名の通り、銀の棚にたくさんの資料が並べられている。多分カフェにある資料よりも詳しいのかもしれない。 

 「ここ、探索する必要あるな」

 「まだ知らないことがあるかもしれないしね」

 「いつにするか」

 「明日でいいんじゃないか?」

 「ならそうするか」

 会話を終えたところで玉柏が煙草を取り出して吸おうとする。わざとらしい咳払いが近くで聞こえた。

 「煙草はそっちの喫煙所でお願いしますよ」 

 金室が注意しながら指差すところにご丁寧に『喫煙所』と書かれた場所があった。 

 「全く……」

 悪態つくんじゃねえよ!! そして吸いに行くんかい!!

 

 

 ***

 

 

 玉柏を待ってから一度Ⅳ棟を出て別館の寄宿舎へ。男子と女子とで左右が別れている。

 「ここは二手に別れるか?」

 「そうするかな。じゃああとでここに」

 「わかった」

 男子らと別れて女子の寄宿スペースへ。少し歩くと一列に部屋があった。手前から出席番号順らしい。

 「どこにする?」

 「私の部屋でもいいよ」

 「じゃあ直樹ちゃんの部屋行こうか」

 部屋は電子生徒手帳なしで普通に入れた。中はⅠ棟やⅡ棟よりも随分と広い。

 「別館としてあるからでしょうか、広いですね」

 「机とか椅子とかベッドとかがあるのは相変わらずだけど、風呂場があるんだ。大浴場のほうじゃなくてもここで入ることができるってことなんだね」

 「大浴場で思い出したけど、今日みんなでそっち行かない?」

 「いいわね。行きましょ。6時くらいに集合でいいかしら」

 割りと自然な流れで浴場行きが決定した。

 「ん? この棚は……」

 ふと普通なのにどこか忌々しさを交えた棚を見つけた。そこを開いて見ると……

 「うわっ!!?」

 「これは……」

 そこには大量の木材と少し変わった形の鉄があった。

 「なーんなんだい……」

 …………不思議と、私は身近なものだと思えた。どこかずっと傍にいたかのような錯覚に陥った。

 ふと、その棚の奥に何かが見えた気がした。興味本意で漁ってみる。そこには手枷や足枷、猿轡の入った小さな檻の模型があった。

 

 …………

 

 

 ズキンッ

 

 

 「うあ゛っ!!?!?」

 「直樹さん!?」

 

 頭が、痛い。痛い痛い痛い。

 

 「いや、だめ……っ!! あ゛あ゛あ゛っっ!!?」

 

 怖い、寒い、暗い

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 

 冷たい空気と

 

 

 一つだけの光

 

 

 檻の中で囚われた自分が映る

 

 

 猿轡

 

 

 手枷

 

 

 足枷

 

 

 ジャリンっ

 

 

 ジャラジャラジャラ…………

 

 

 重々しい音が

 

 

 耳を、体を、脳を

 

 

 まるで犯されるかのような感覚が

 

 

 私を支配する

 

 

 真っ暗

 

 

 頭をかきむしられ

 

 

 張り裂けそうで

 

 

 砕かれそうで

 

 

 逃れられない恐怖と共にのし掛かる痛み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __________

 

 

 

 「大丈夫だから!! ね? 直樹(なおき)!!」

 

 渡良部の声が聞こえる。ふと頭に何かがあるような気がした。

 

 「っ!! 頭に触るなぁ!!」

 

 頭だけはっ……ダメ……だからっ

 

 「落ち着いてください直樹さん。貴方を貶める人は今ここにいない。いるのは仲間です」

 「ゆっく~り、深呼吸してごらん?」

 背中を撫でられながら、私はゆっくり息を吸って吐き出す、その動作を繰り返す。体の力が徐々に抜けていく。頭痛も和らいだ気がした。

 「だ、大丈夫?」

 「うん、……はあ……大丈夫……」

 ダメだ。仕舞い込んでいたはずのものが未だに忘れられない。もう頃合いなのかな。

 「あんた意外と力強いんだ……」

 見ると渡良部が少し腕を振っていた。

 「も、もしかして怪我させた!? ごめん!!」

 「大丈夫だって。知らなかった私の責任もあるし」

 「ですが直樹さん。すごく頭を触られることを拒絶していたみたいですけど」

 っ…………

 「………………その話……今じゃなくていい?」

 「ええ。ですが近いうちに話せますか? 何も知らない状態であなたの地雷を踏めば危険です。あのときみたいに」

 そうだ。私はあのときみんなに迷惑をかけたんだ。……明日、明日言おう。今は落ち着けない。

 「ちょっとあたい、一人で自分の部屋に行ってみるよ」

 「一応……ですか?」

 「そうだねぇ………………手枷、足枷、猿轡……なーんかSMチックだけど、そーんな趣味嗜好が、直樹ちゃんにあるとは思えない。考えられるとしたら……」

 矢崎は部屋から出ていった。一気に体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。壁に寄りかかってまた大きく深呼吸をする。

 多分あの様子だと、矢崎は私のことについてある程度勘づいているのかな。しばらくすると険しい顔をした彼女が戻ってきた。

 「矢崎さん?」

 「……直樹ちゃんのこの棚、あたいの部屋の棚、そしてきっとみんなの部屋にもあるこの棚の中には……それぞれのトラウマ、自分自身に降りかかっている不幸を表すものが入っているよ。あたいの話はこのあとすぐにするね」

 行こうか、と彼女はそのまま足早に出ていった。私たちもそのあとをついていき、男子たちと合流。食堂で話し合いをすることになった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 「ろ、六千万!!?」

 「そう」

 昼のパスタを食べながら矢崎は別館の棚に合ったという請求書の『コピー』を片手に語る。

 「いつだったかなぁ……そこは忘れちゃったんだけど、飼っていた牛がほっとんど死んじゃっていたんだ。あまりにも唐突だったよ。ここで起きているコロシアイみたいにね」

 前の日までは元気だったのに……という現象か。

 「牛を飼うっていうのはね、楽じゃないんだよ。毎日の掃除、餌やり、搾乳、健康チェック……たーくさんのことを1日中やるんだよ」

 頬杖を付いてパスタをフォークでくるくる回す。輪廻みたいだ。

 「元々家が裕福なほうじゃないんだ。だから多少借金はしてたけど、返せないわけじゃなかった。それに借金取りも理解あるとても優しい人だったから、あまり言ったらいけないけど、その時返せなくても上を誤魔化して取り繕ってくれてた」

 カタッ……手の動きが止まる。

 「おっかしいなぁ。なーんであの一晩で牛が無惨に切り刻まれていたんだろう……なーんで撃たれていたんだろう……なーんで鳴き声も聴こえないんだろう…………無音の草原の中に硝煙が立ち込めていたのを、鮮明に……鮮明に覚えている」

 ほろりと、矢崎の目から涙が溢れた。

 「あれ以来ね……あたい、人よりも動物のほうにほとんどの情を奪われちゃって、おかげで人の死を軽く見ちゃうようになっちゃったんだ。人の死を目の当たりにしたあたいがツラそうに見えても、所詮うわべだけでね。実際なーんにも心に響いて来ない。……たとえ『超高校級』と謳われても、借金を抱える人もいれば、嘘だったけど阪本ちゃんのような過去を背負っている人もいれば、巡間くんみたいにエゴに振り回されている人もいる。それと同じように、あたいは人に対して少し冷酷なんだよ。悲しいことに」

 緩くのんびりした彼女の裏にそんなことが。

 「理解はされなくていいんだ。同情を誘いたいわけじゃないからね。意見ってさ、なーんでもその時の状況で良くも悪くも聞こえる。巡間くんのが一番の例じゃないかな。あたいは冷静に聞いて理解できていたよ」

 フォークに絡んだパスタを彼女は口に入れて飲み込んだ。

 「あくまでも彼にとっての話だけど、サイボーグを付けるってことはつまり『本来の自分を失うのと同等』ってこと。所謂ミロのヴィーナスみたいな状況を彼は求めていたんだよ。そこになーにか別の物を付け足すことで崩れる物語を彼は嫌っていた。もちろんすべてとは限らないけどね。巡間くんの言いたいことはそうだったんだと思うよ」

 そう言われると、少し納得できるかもしれない。また絡めては飲み込む。

 「あたいは他者に対しての理解が不充分過ぎる。そのせいで橘くんの話でみんなが泣いていたのにあたいは泣けなかった。そーんなのもあったから少し自分の中で掟を作った」

 「掟?」

 「……人の痛みを知ろうとすること。フリでもいいから、せめて人の近くで、何をすべきかを模索すること。今までのあたいはその掟に従っていたんだよ」

 今までそんな風には感じなかった。でも感情を知れなくなったからこそ、知ろうと努力してたんだ。もしかするとあのとき花の話をしたのもそういうことなのかもしれない。

 「一瞬の出来事だけで人はなーににでもなれるときがある。だから……またそんな一瞬を、叶うかもわからない一瞬を期待し続けているんだよ。いつまでもね」

 最後の一口を飲み込んで口元を拭く。 

 「それ、相当ツラかったんじゃないの?」

 「まあねぇ。こんなことになったんだ。受け入れる他ないよ」

 渡良部の顔はどうしてと言わんばかりに複雑そうな表情だ。渡良部も渡良部で親に見捨てられた過去がある。多分渡良部の親を見捨てたって情報は『嘘』のほうなんだろうな。

 その会話を聞き、その様子を見た灰垣が、はぁあとため息付いて頭を掻く。じじ臭く重い腰を上げて口を開いた。

 「何か、ずっとじめじめしてるのも嫌になってくるわい。お前さんら、ジャージに着替えろ」

 「は?」

 彼はにやりと笑った。

 「雑念は、動いて忘れてしまおうぞ」

 

 

 *****

 

 

 半ば強引に灰垣に体育館に連れて来られた。何をやろうとしているかは大方予想がつく。

 「よいしょっと」

 「ねえ、これって」

 「バレーじゃよバレー」

 ですよねー!! 支柱を軽々と持ち上げて差し込み高さを調節する。

 「別にバレーじゃなくてもいいんじゃが、せっかくスポーツの才能ありきのわしがおるんじゃ。やりたいしやらせたくもなるわい」

 「私そこまで得意じゃないんだけど」

 「というか、人数が足りないのでは」

 「阿呆め。人数にこだわるな。……確かに人がたくさんいた方が楽しい。しかし楽しいだけではいかん」

 「なぜ?」

 「……何でもかんでも聞くのも良くない。たまには、よっと。自分で考えたらどうじゃ」

 問答を抑えられた。

 「おい灰垣!! こっち引っ張っていいか!!」

 「おお頼む!!」

 玉柏と灰垣がネットを張り終えた。ノリノリじゃんか。

 灰垣はボールをひょいっとあげてオーバーとアンダーを交互に繰り返す。思わずそれに見とれた。ほとんど動いていない。その場で、膝のばねを使っているだけで。ボールが優しい音をたてて距離を保ちながら踊る。

 「すごいきれいな線描いてる……」

 「っと。そうか? これは基本中の基本じゃし。まあわしとてバレーやって長いわけでもないんじゃがな」

 「そうなの!?」

 え、すごい意外。身長高いしあと、なんか、雰囲気が、昔からやってそうな感じがする。

 「人数の関係で呼び出されたんじゃよ。背が高いしお前ならできると」

 「こじつけかよ」

 「で、出てみたらこれじゃ」

 どれじゃ。

 「地区どころか全国まで行ったんじゃ。さっきの写真のやつは別県じゃったし、全国の準決勝で他のところに負けてしまったからの。本当、会う機会はあったんじゃがなぁ、悔しいのお」

 「でも灰垣くんが今もバレーを続ける理由って?」

 「……親のお陰じゃな。あの大会が話題となり、バレーを楽しく思えてきていたわしはふと考えた。僧の道とバレーの道。どちらを取るかを選択せねばいけないと。しかし親は言った。『これは仏様の導きなのだ。仏様が導いてくださった道ならばそのまま進め』とな。それをわしは信じているんじゃ」

 灰垣に僧侶かよってツッコミ何回させるつもりなんだよ。

 「もちろん僧のほうもやれるならやる。僧であってもバレー部であってもいいじゃろう。僧を取得する者で立派に教師をやる者もおれば、芸人をやる者、医者、保育園などの経営、イラストレーター……副業をやる者はたくさんおる。やりたいことをやればいい。人の行く道に、夢に終わりがあってたまるものか。道は長く続く。どこまでも。決して見えぬその先へと。……っそいやっ!!!!」

 言い終えてバシンッッ!! とボールを打てば、またさっきみたいに壁にバンッッ!! とぶつかり跳ね返る。

 「威力たっか!!」

 「え、なに、この状態でバレーするつもり?」

 「手加減するに決まってるじゃろ」

 そうしてくれなきゃ困る。

 「チーム分けはいかがなさいますか?」

 「そうじゃな……正直わしは一人でも十分やれるが」

 「できるの!?」

 「お遊びで1対6なんてザラにあるわい。さて、人数的にも男女混合。奇数人じゃしわしがいるチームは四人でいいじゃろう」

 

 そしてチーム分けはこうなった。

 

 A:灰垣、近衛、湊川、渡良部

 B:玉柏、国門、矢崎、金室、直樹

 

 

 全員がそれぞれのコートにつく。サーブ権は私たちのチームに渡った。

 「いざ!! 勝負!!」

 「かかってこい」

 すでに貫禄溢れてるよ灰垣。最初のサーブは国門だ。

 「あんまり得意じゃないけどなっ!!」

 ボールはきれいに相手コートへと。

 「よしっ」

 しかしそれも束の間。灰垣が片手でひょいっとこちらに返してきた。私に向かって。っておいマジかよ!!?

 「うわっ!!?」

 オーバーで返そうとしたけどバランスが崩れて明後日の方向に飛んでいった。向こうに一点入った。

 「ご、ごめん」

 「大丈夫大丈夫。どんまい」

 「まだいける」

 みんながそう慰めてくれた。なんか嬉しい。

 今度は向こうのサーブ。湊川だ。

 「はいっ!!」

 掛け声とともに放つ。しかしギリギリのところでボールはこちらには届かずネットに引っ掛かった。

 「惜しいっ!!」

 「少し呼吸を整えてやると良いぞ」

 アドバイスをしつつ湊川のフォローをしている。

 「こっちも頑張るか」

 「いくら今回のがサーブミスとはいえ、一度はスパイクを打って点取りたいですからね」

 で、そのあとなんやかんやで試合をした。結局、

 「はっはっはっ!!」

 「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…………」

 「つっっっよ!!?」

 灰垣チームの圧勝に終わった。圧勝、と言っても、結構お互いに頑張ったと思う。いやもう疲れたわ。床にデンッと寝そべる。灰垣は高く笑った。ていうか全然疲れている様子を見せてない。

 「これぐらいではわしは果てんよ。体力は無駄にあるからのぉ」

 マジかよ……

 「なかなか、慣れない動きが多くございました……早々に筋肉痛が」

 「はやいね?」

 すごい若いなおい。

 「ウーロン茶ほしい……」

 「えっ渡良部さんそれ本気?」

 「へ?」

 「ウーロン茶は喉の油を奪ってしまうので今はあまりおすすめ致しません。他に何か飲みたいものがございましたら淹れてきますよ」

 「あっそうなんだ……近衛(リーチ)の紅茶、何でもいいからお願いしていい?」

 「もちろんでございます」

 今は……3時過ぎか。

 「ねえ女子全員に聞きたいんだけど、今お風呂入っちゃったほうがよくない?」

 「それもそうね……汗だくの状態じゃ気持ち悪いもの……」

 「お茶飲んでからぁ……」

 男子たちは個室のシャワーを使うと言って出ていった。近衛の用意したお茶を飲んだ後で、私たちは予定よりも早くにお風呂へ入ることにした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 かっぽーん

 

 なんて効果音似合うよねって話だけですはい。いや実際に女子みんなでお風呂入ってるけども。

 「温泉入ってるときみたい……」

 「いや入ってるから!!」

 「ツッコミが反響するねぇ」

 風呂場だから。

 「ここのお風呂の成分何なのかしらね」

 「肩凝りとか冷え性とかの解消効果あったら嬉しい」

 「わかるわ……実は私四肢末端型冷え性なのよ」

 「ししまっ……え? なに?」

 「四肢末端型ね。指先が特に冷えるの」

 うわあ才能的にも大変そう。いや自分もそこまで人のこと言えないわ。

 「ダグラスくんの手は温かかったのよね……」

 一瞬シーンとなった。

 「あっ」

 「さらっと惚けるなぁー!!」

 バッシャーンと湊川に向かってお湯でって私も被害こうむヘブッ!?

 「あっ」

 「あっ、じゃなーい!! 被害者増やすなぁ!!」

 「またそれではしゃいで逆上せる気ですか」

 「ゴメンナサイ」

 そうだわ前にのぼせたんだ。

 「全く。まあさらりと惚けるあたり湊川さん相当ダグラスくんのこと好きだったんですね」

 「ん、ちょっと聞き捨てならないわね。好きだったじゃないの。好きなの」

 「ふふ、そんなにムキになって。ダグラスくんも嬉しいでしょうね」

 言葉が出なくなって照れ臭そうに頭を掻いた。

 「そっちはそっちでどうなんですか。渡良部さん?」

 「えっ?」

 金室がすごい攻めてる。

 「ちょっと裁判のときのことを恨むのもよくはないのですが、せっかくの機会です。ずっと片想い拗らせていつになったら本心を本人に伝えるつも」

 「わっわっわぁああーー!!!!」

 また渡良部がお湯をバッシャーンとかけってまたkゴフェア!?

 「あっ」

 「あっ、じゃなーい!! って何回やらせる気なんだよっ!!」

 「これがホントの天丼かぁ」

 「矢崎さんすごい呑気だね!?」

 ほわわんとしてるけどその姿がよく似合うなとかも思ったよ。

 「こらこら。直樹さんにまた被害を受けさせたらダメですよ」

 金室はがっちりと渡良部の両手首を押さえてじりじりと迫る。って心なしか矢崎の目も光って見えるんだけど。

 「あの人好きなのだいぶ前からですよね。一目惚れとかその類いじゃないですか? まあ彼は眉目秀麗、性格も申し分なし、料理も運動もできる完璧とも呼べる方ですしそれはそれは好きになっても仕方ないと思いますよ」

 「あたいから押し花の作り方教えて欲しいってそういうことだったんだねぇ。彼が花好きだからって最近植物庭園で自分からどれがどれとかも学ぼうとしてるし、そう考えたらもう完全に彼の虜になってるね~」

 「べ、別に近衛(リーチ)のことそんな」

 「「誰も近衛くんのことなんて言ってないよ/ですよ」」

 ぅゎぁ金室と矢崎の言葉責めっょぉぃ。図星だよもう。渡良部は顔を真っ赤に染めて口をはくはくさせて何も言い出せない。決してお風呂のせいじゃない。金室が拘束を解くと顔を覆って悶々とし出した。

 「ふふっ橘くんも素直じゃありませんけど、渡良部さんも大概ですね!!」

 「もうやめてあげてっ!! 渡良部さんのライフはとっくにゼロよ!!」

 「みんな茶番好きかよっ!!」

 金室めちゃくちゃ清々しい笑顔してるんだけどドSかよ。

 「今直樹さんドSかよとか思いましたね?」

 「エスパー!!?」

 まともな人がいないダレカタスケテ。

 「で結局どうなんです?」

 「い、いいい、いやね?」

 すごい動揺っぷり。

 「だって、だって私なんかで釣り合うのかって考えちゃうでしょ……」

 「そうですか?」

 「自分の育ちもあるから……それに向こうは由緒正しいわけでしょ? そう考えたらなんか……うん」

 ああそうか。みんなは知らない。渡良部の過去を。

 「それに顔とかもそんな自信あるわけじゃない……近衛(リーチ)と比べたらそんな」

 「ごちゃごちゃ考えるのは良くないですよ。それにうちらよりも彼の側にいるあなたのほうが詳しい。相談してもいいですけど、結果的に伝えるのはあなたです。前に押し花を渡したんですよね? ならあとはタイミングを見て当たってみなさい。あとあなたが思ってるほどあなたの容姿は悪くありません。むしろ良いと思います。あなたは湊川さんもですが笑顔がとても輝く人なんですから。まあ恋愛なんてしたことのないうちが言うのもあまりよろしくはないとは思いますが」

 少なくともそこらの占い信じるよりも信憑性はあるでしょう、と金室はそれ以上のことを言わなかった。けど渡良部は金室のアドバイスを聞いて少し自信を取り戻したようにも見えた。

 「それも……そう、か……!! うん、そうだね。頑張ってみる!! かけてみる」

 ああいつもの、強気で自信家の彼女だ。青春っていいなぁ。

 

 

 ………………彼は今頃どうしてるんだろうなぁ。私がこんなところにいるなんて思ってもないだろうし。連絡取りたいところだけど、取ろうにも取れない。それはみんなも同じなんだけど。相棒がそばにいるけど、それでもやっぱり一番隣にいて欲しい人がいないっていうのも寂しいし。そういえば昨日の裁判のときに着た服彼の前で着たことないなぁ。フリル系もあまり着ないや。パーカーばっかりだからたまには勝負かけてもいいかな……って私いつの間にこんなところまで思い出してた?

 

 …………………………

 

 あれ? なんかみんなじっと私のほう見てるんだけどえっ何があったの?

 「どうしたの?」

 「一人言で彼氏のことべらべら喋ってベタ惚れかあああああ!!!!」

 渡良部だけじゃなくて他の三人も頷いてる。え、私の今のやつ漏れてた!? 恥ずかしいんだけど!!? 四人して手を構えてってあっ待ってこれまたか!?

 「どぉおおりゃああああ!!!!!!」

 「天丼何回繰りかえゴファッペッ!!!?」

 本日三度目。

 

 

 

   なんだこのお風呂場茶番疾走劇は

 

 

 

 

 

 ***

 

 風呂から上がった。いろいろと問い詰められたけど何とか逃げ切っ……てないわここにいる限り。またどこかで問い詰められる。もうそこは諦めよう。

 

 時間が過ぎて夕食時。特に特別なにかあったわけでもない。

 

 夕食を食べ終わったけれど、さぁってと。これからどうしようかな。まだ少し時間はある。今日はⅣ棟の別館で寝ようかな。何かとそういうの自由だよなぁ私たち。適当に別館に入ろうっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______

 

 

 刹那……

 

 

 

 バッ!!

 

 

 「っ!!?」

 

 目の前に黒いハチマキのみたいなものによって視界が奪われる。そして

 

 「いぎっ!!?」

 

 まるで蛇に絡み付かれたかのように、紐が直樹の首を絞め上げる。それをする人物のことなど頭にない。ただ背後に、頭上に(・・・)人の気配がしてそこから逃れたいという一心で、直樹は首に絡むそれを離そうとする。『ソイツ』は少しだけ、彼女の頭に触れた。

 

 「や、やめ……て……」

 

 直樹は頭の悪感に怯える。しかし怖さのが勝ってる故か弱々しく。そんな抵抗に『ソイツ』は少し眉を潜めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背筋が凍るなんて甘い

 

 

 それ以上

 

 

 体の芯から凍りそうなほどの

 

 

 人が出してるとは思えぬ

 

 

 冷たすぎる殺気

 

 

 金縛りにあったように動かぬ下半身

 

 

 この一瞬で勢いよく流れる冷や汗

 

 

 鼓動がただただ激しく

 

 

 今にも殺されそうな予感に襲われる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   直樹(・・)は一度これを経験していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、紐がほどけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        助かったのか?

 

     その安堵感が悪魔を呼んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ッッカハッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの、数秒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どさっ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は力なく倒れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどよりもさらに強い力を与えられて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ……………………

 

 

 

 

 枝は垂れても嘘をつく

 

 芝に潜んだ臆病さ

 

 重さ8とて教育上よ

 

 山の綺麗に見とれるべからず

 

 冬の寒さは

 

 冷たく静かで笑ってる

 

 1人のソナタ

 

 彼岸を見届けん

 

 

 

 そうわたしは刺客だ

 

 刺客の七だ

 

 

 

 

 

 

        あなたはまだ

 

 

    わたしの正体を知るには早すぎる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           to be continued……

 

 

 

 



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第四章(非)日常編 屋根の毒蜂2部屋目


 お久しぶりです。四章2部屋目です。四章を執筆しているとちょっと二章を書いてる気分にもなります。どういうことかというと書きにくいんですよねこれが()まあ精一杯書きます。
 それとハーメルンには特に工夫らしい工夫を施したことがないんですけど、近いうちにもう少し読みやすくしようと思います。如何せんスマホでやっているので動作が遅くなるんですよね()

 ではでは、屋根の毒蜂2部屋目。


     あなたは何を運んでそこにいる





 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。

 突然視点が変わることがあります。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 ______

 

 

 『旦那、奥方。例の小娘です。どうぞ』

 

 『さすがだ。やはり貴様らに頼んで正解だった。はてさて、どうしようか』

 

 『あらあら、今乱暴に扱うのはお止めなさいね。あとでじっくりと調教してあげませんと』

 

 『御前も御前で大概だ。しかし言ってることは最もだ』

 

 『でもいいの? あの子』

 

 『……我ら一族の宿命に抗った者…………いや、心配はない。世間に苗字だけなら我らのことは伝わっている。それに政府は我々を揉み消しているそうだ。広められても戯言だと言われるだけ。あの家もそろそろ手放すか。別荘も』

 

 『ふーん。まあいいわ』

 

 『はっはっはっ……しかし……』ガシッ

 

 『……っ!!』

 

 『ははははは!! 実に良い目をしている!! これは使えるっ!! ま、使えずとも売れば高値だろう。貴様が有能なことぐらい知っている。貴様の訳したものは我々は読んだことがあるからな』

 

 『っ……!!』

 

 『あんた、今の話聞いてないでしょうね?』

 

 『もちろんですよ。言いふらしもしません』

 

 『あら頼もしっ』

 

 

 バアァン!!!! ドサッ……

 

 

 『言いふらししないって聞いてるんじゃありませんか。全く。証拠隠滅は?』

 

 『絶対だ』

 

 『わかったわ。それじゃあ……』

 

 

 ガタン!!!!

 

 

 !?!?

 

 

 『貴様ら何をしている!!?』

 

 『女の子だ、あの女の子がいるぞ!!』

 

 『くっ、いつの間に警察が……!?』

 

 『っ!! チクショウこいつに嵌められてたか……!! 逃げるぞ!! 惜しいがそいつは不要だ!! 始末しろ!!』

 

 『オーケー。まかせな』

 

 スチャッ

 

 『…………っ!! っっ……!!!! っっっっ!!!!』

 

 

 

 『!! 空ぁあああああ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     バアァン!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?!!!!!!!!!!?!!!!!!?!!!!?!!!!!!?!!」

 

 

 

 *****

 

 振り回す手が何かに当たる。直樹はそれを掴んでがばっと起き、すがるように背に爪を立てて抱きついた。背中を優しく撫でられぽんぽんと叩かれる。過呼吸を起こす彼女の視界がグルグル回る。涙が止まらない。

 呼吸が整ったころ、ようやく誰にすがったのかがわかった。

 「落ち着いたかい?」

 「や、やざき、さん……はあ、……はあ……」

 「随分うなされていたみたいだね。大丈夫、大丈夫」

 子どもをあやすように、矢崎は直樹の背中を先ほどと同じように撫でて優しく叩く。直樹も矢崎に今度は優しく抱きついて嗚咽を漏らしながらまた呼吸を整える。本当に矢崎が人の気持ちを理解できないなんて思えないほど、彼女の手は優しかった。

 本当に落ち着いたとき、直樹は抱きつくのをやめてそれに合わせるように矢崎もあやすのをやめる。気付くとそこには全員が、別館の寄宿舎の直樹の部屋にいた。

 「はあ……よかった……生きててよかった……」

 玉柏が胸を撫で下ろす。周りのみんなも安心か崩れ落ちるものもいた。

 「み、みんな来てくれたの?」

 「そりゃそうじゃろ……見つけたのは渡良部じゃぞ。というか、ここまで運んでくれたのもそやつじゃ」

 「渡良部さん……ありがとう」

 「いいよ別に。筋肉痛で少し疲れたけど。無事ならよかった」

 渡良部の顔は少し青かった。一番不安だったのだろう。

 「直樹さん」

 ふと、金室が直樹に声をかけた。

 「?」

 「直樹さん、そろそろいいですか? 話すなら今全員がいる前のほうがいいです。こんなことがあってはもう隠せるようなものではないと思います」

 直樹の体がビクリと反応する。しかし金室の言う通りなのも事実であった。直樹はみんなに一番迷惑をかけているのはきっと自分であると思っている。あのとき然り、今回の然り。直樹は覚悟を決める必要があったのだ。

 「……そう、だね。私はみんなに伝えなきゃならない。伝えておかないといけない。私の秘密を」

 玉柏だけは少しだけ知っている。阪本に渡し見せたときに一瞬だけ見えたそれを。

 「秘密……二つ目の動機のあれ?」

 「うん。………………私の秘密は……『誘拐のトラウマで頭を触られることを極端に嫌っている』ことだよ」

 「そうだったのか!?」

 気付かない人がいるのも無理はなかった。

 「1度宮原くんに頭を触られそうになったとき、体が勝手に動いて彼の手をはらったんだ。そのときはわからなかった。けど秘密を見たときにはっきりと思い出して……夢にまで出てきた」

 直樹の体がガタガタ震える。 

 「気付いたら檻の中で手足を拘束、口を塞がれていた……目だけは塞がれてなかったけど……っ三人の男女が話してて……怖かった……ただただ怖かった!! 会話内容とイントネーションから日本人なのはわかったけど…………それどころじゃなかったっ、これから何されるかもわからない得体の知れないものがちらついてきた。多分……『死』だろうってっ、目の前に『死』が現れてきた気がして、殺されるんだって思って……けどっ動けば死ぬ……恐怖以上の恐怖が束縛して、まるで金縛りにあったみたいな感覚が支配してきた…………」

 恐怖から彼女の目から涙があふれでる。

 「すぐに場所が割れたから……警察と…………幼なじみが来た……そのときっ…………警察が着いたときに始末されそうになった……そうしたら!! 幼なじみが飛び込んできた!! 檻で怯えて動けなかった私を庇って!! 左肩に弾丸が撃ち込まれた!! 私のせいで!! 彼は腕が肩より上にあがらなくなった!! 私のせいで……私のせいでっ……!!」

 私のせいで、私のせいで。自己暗示の繰り返し。また過呼吸を起こして今度は渡良部に背を撫でられる。

 「っはぁ、はぁ…………怖かった…………怖かったよぉ…………!! あの呪いが……ぺたって……ぺたって貼り付いて離れないからぁっ!! かきむしられた悪感が……いまも……きもち……わるくて…………あたま触られると…………思い出して…………」

 

 

 蔑みの高笑い

 

 冒涜される人道

 

 人を道具のように扱う下衆さ

 

 直樹は間近だったそれらに吐き気がしていたのだ

 

 

 「だから頭を触られるのが嫌い!! どんな理由だろうと!! 男女関係なく!! 頭だけは絶対に!! まあ……髪の毛少しだけ触られるならまだ大丈夫だけど……」

 「あれ、でも玉柏くん気付いてたみたいよね? 何でそれに?」

 「阪本が動機の話したときにこいつが見せてたろ。あいつと俺の席は隣だったからな。ちらりと見えたんだ」

 湊川はああと納得して頷く。

 「髪の毛少し触られるのは平気っていっても頭触らなきゃやれること少なくない?」

 「それはそうなんだけど。単に『頭』って言っても実際は頭頂部とか側頭部あたりのことだし……」

 ん? っとわかっていない様子だったので近衛が軽く説明をした。

 「でもやっぱりツインテールとかお団子とかそういうのは出来ないんだね」

 「そもそも下ろしてたほうが落ち着くんだよね……ちゃんとあるって感じして……あのときは短髪にしてた時期だったから……」

 ぶるっとまた震え出す。苦笑いしながら。

 「あのとき丁度学園祭だったかなぁ……そう、確か彼氏と男装女装してクラスで優勝したっけ……」

 「恋人同士で!? ていうか付き合い長いのね!?」

 「え!? あ、うん!? そうだね……」

 直樹は思い出すように目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 スッと、何の痛みもなく

 

 

 相手のことが徐々に鮮明に

 

 

 完全でなくとも思い出されていく

 

 

 

 

 

 

 

 「ずっと、同じだったなぁ……保育園も、小学校も、中学校も…………高校は少し離れちゃったけど……二人希望ヶ峰にってときは…………どれだけ嬉しかったかなぁ……」

 儚げに笑う少女を見て、相棒は彼女のベッドに少し座った。

 「…………こんな状況だからこそ、隣に居て欲しい人がいないっていうのは……つらいよな」

 

 うん

 

 言葉に出さずとも彼女は彼を見ることで訴えた。玉柏も玉柏で同じだった。相棒関係の二人だからこそ今がどれだけむなしいのかも理解出来ていた。

 「頼むから無事でいて欲しい。この中の全員、俺の仲間たち、直樹のお相手さん、……そして……………………外にいる人たち全員」

 手を強く握り締めて祈るように彼は伏せた。みんな同じ気持ちを抱えているんだって理解していた。

 「絶対……出てやるからな……モノ共めが……!!」

 ギリッと歯が擦れる音が部屋に響く。全員が監視カメラを睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     だが相棒関係の二人は気付いていない

 

 

     二人が今一番危ない状態であることに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あと、あのさ。思い出してたらでいいんだけど、直樹(トン)の彼氏ってどんな人なの?」

 直樹はキョトンとする。うーんと唸り腕を組んで考え思い出す。

 「えっと確か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 『他の迷惑も考えられないなら金いらないからとっとと出ていけ!!!!!!』

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「始末書上等な人?」

 「「「始末書上等!!?!!?」」」

 

 

 全員の驚きによるツッコミが部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 「始末書上等って……上等って……ふふっ」

 「渡良部さんツボに入ったね?」

 いやまあ確かに始末書上等って言い方あれだけど。実際そうなんだよな……別に不良ではないし普通にいい人だけど。

 「とりあえずまだご飯食べてないから食べましょ?」

 ん?

 「え、今何時?」

 「朝の8時よ」

 「こわっっ!!?」

 

 

 

 

 

 (そんなわけで)16日目

 

 

 な、なんか気絶している間に日を跨いだみたい。ちょっと待って今日寝た気がしてなくてすっごい眠い助けて眠い。ツッコミして意識保ってる節ある。そんな中で移動している。

 「直樹殿、やはりまだ睡眠が充分ではないのでは?」

 「うん、スッゴい眠い」

 「食事後にでも少し横になられたほうが良いと存じます。目を閉じるだけでも脳は休まりますから」

 ほんっとこの執事有能過ぎるな。

 「詳しいんだ」

 「睡眠を取らずに五徹したメイドがおりましたゆえ……」

 「近衛(リーチ)、目が死んでる」

 メイドが五徹っていうのすごいんだけど。

 「世話をされたいという気持ちは尊重致しましたがさすがにあれはとお父様に……なのでちょっと睡眠のことを調べさせまして」

 「寝かせたんだ」

 「マニアになられました」

 「マニアになったの!?!?」

 渡良部さんがすごいツッコミしてくれてる。もしかして移った? ツッコミエンザかな。

 「食堂でコーヒーでも淹れますよ。食後に十五分ほど部屋で仮眠なさってください。眠い状態ではやりたいこともうまく出来ませんから」

 適当に話しながら歩いて食堂に着く。近衛が急いで準備をする。あ、そうだ。

 「ねえ、私の首に何か痕ついてる?」

 「それは確認済みだよ。なーんにもついてなかった」

 「ところで聞きたいんだが、どんな感じで気絶したか覚えているのかだぜ?」

 「……最初、目隠しされて……紐が首を絞めてきたんだ。けど紐はすぐにほどけて……一瞬安心した。それから思い切り首をガッて絞められて意識が……」

 「首を絞めて気絶って……もしそれで死んだら洒落じゃないでしょう」

 「いや、一つ考えられる」

 玉柏が金室の言葉を少し遮る。

 「格闘技に裸絞めってのがある。それで頸動脈を絞めれば、上手い人なら苦痛を与えないかつ十秒も掛けずに気絶させられるな」

 「うそっ」

 背中がゾワッとしてきた。そんなあっさり……

 「感触とかは覚えているか?」

 「……一瞬過ぎて、覚えてない……」

 仕方ないかと彼はすぐに手を引いた。いきなり過ぎて脳が追い付いていなかったからなぁ……覚えてたらよかった。

 「ん、近衛(リーチ)準備終わったみたいだから運んでくる」

 「わかりました」

 ……不思議なことばかり。首を絞めた人は私を殺そうとしていたかもしれない。そして私は殺されそうになっていた。周りには誰もいなかったしあのとき私を殺しても……じゃあなんでその人は私を殺さなかった? そもそも何で私は狙われたの?

 「どうしたんじゃ?」

 「あ、いや、何でもないよ」

 こんな風にはぐらかしてもどこかでバレる。朝ご飯を食べながら悩んでも答えは見つからなかった。

 

 

 *****

 

 

 淹れてもらったコーヒーを飲んで、一度自室で仮眠を取る。とりあえず何も考えないでおこう。体の力を抜いてベッドに体を委ねて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 こらこら、泣くな

 

 ……ああ怖かっただろ。ごめん

 

 俺がお前に着いて行けばよかった

 

 っておいおい

 

 自分を責めるのはやめろよ

 

 俺はお前が笑っている姿が一番好きなんだ

 

 これは名誉のそれ

 

 今回みたいなことにならないように

 

 絶対お前を守るから

 

 空

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一瞬だけ

 

 彼の眩しい笑顔が見えた気がした

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 適当に十五分経った頃に目を開けた。うん、確かにちょっとすっきりしたかも。

 くわっとあくびをして、ぐっと体を伸ばして、バシッと頬を叩く。よし。なんとか乗り越えられる。

 

 

 プルルルル!!

 

 

 電子生徒手帳が鳴った。誰だろう。

 「はい」

 『俺だ。起きてるな?』

 玉柏だった。起きてるって言ったらそうかと返された。

 『これから全員で資料室にある資料を探しに行く。この空間から出る手掛かりも、刺客の七の情報も手に入るかもしれないからな』

 「少なくともⅡ棟よりかは詳しそうだもんね。わかった」

 『今から向かうからお前もまっすぐ来い。そこで落ち合うぞ』

 「了解」

 通話を終えて少し準備をして部屋から出る。ついでにランドリーで昨日着た服とか入れておこう。

 

 

 *****

 

 

 資料室に向かった。すでにみんな資料室に集まっていた。ただ作業していたわけじゃなかった。

 「お、きた」

 「ごめん、待った?」

 「いえ。先ほどで到着致しましたよ。とりあえず今回の資料集めに関して軽く説明致します」

 でざっくり説明されて集める資料は

 

 

 ・希望ヶ峰学園に関係するもの

 ・自分たちに関係あるであろう事件ファイル

 ・森の恐怖

 ・矢崎の事件

 ・盗賊集団

 ・あれば未来機関の資料

 

 

 曰くそれらの事件も時系列さえ分かれば参考になるかもとのこと。確かに一理あるな。

 「それじゃあ、始めようか。資料集め」

 「適度に休息を取りながらやっていましょう」

 「あわよくばここの秘密も探れれば最高だな」

 「集めた資料、放送室とかに避難させとく?」

 避難て

 「重いと感じたらそうすればいい。さぁってと、いっちょ探しますかぁ」

 

 バキバキバキッッ!!

 

 玉柏が大袈裟に体をバキバキ鳴らして奥のほうへと入っていった。

 「…………」

 「ん? どうした」

 「いやすごい音したなぁって」

 「そうか? 普通くらいだと思ってたな」

 「あなた結構凝ってるんじゃないですか。前々から思ってましたけどちょっと撫で肩でもありますよね」

 「まあ」

 あ、なんか察した。またやる気か。

 「夜、部屋突撃しますよ」

 「はっ!?」

 「これでも知り合いのチビに少し教えられているんですよ」

 「それ言ってやんなよ」

 チビって……ていうかこの中じゃ私一番チビじゃん。

 「ま、覚悟を」

 「おいおいマジかよ。遠慮したいんだが」

 「お前らいいから手を動かせ」

 国門が呆れながらツッコんだ。

 

 

 ***

 

 

 とりあえず探していこう。……ん? もしかしてこれは……うん、間違いない。『希望ヶ峰音声ファイル』? でも薄いような……ってことは……やっぱり、レコードだ。そういえば放送室にレコードあったもんな。蓄音機もあるかな。まあとっておこう。どちらにしろ放送室には行く必要があるみたいだ。他にも未来機関音声ファイルも見つけた。

 「直樹殿」

 「どうしたの?」

 「これを訳すことが出来ますでしょうか?」

 近衛に渡されたのは英語の本……いや日記かな。日記も字もキレイだけどどこか古い言い回しの文章してる。少し時間はかかりそうだけどここは翻訳家の意地を見せるべきだ。明日までには訳せる。

 「やってみる」

 「ありがとうございます」

 また資料を漁ってみる。けど他に目ぼしいものは見当たらないかな。言われた資料とは関係のないものが出てくる。

 適当に時間が経った頃に、近衛がみんなに声をかける。

 「皆様。如何でございますか?」

 「いろいろ見つけたよ~」

 「こっちも」

 それぞれ何かしらは見つけたみたいだ。

 「じゃあこれどこで読むか」

 「それ何だけど、このレコードに希望ヶ峰のこと入ってるみたいだから放送室に行きたいんだけど」

 「蓄音機が必要になるのね。スタジオに入れば広いしそこで資料も広げちゃってもいいかもしれないわね」

 そんなわけでみんなで放送室のスタジオで資料を広げることになった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 集めた資料をすべて放送室に持っていく。スタジオ内にたくさんの資料が置かれる。

 まずは蓄音機があるかどうか確認しようとして近衛が早速見つけてくれた。流石だ。資料室で手に入れたいくつかのレコードをセットして音声を流す。

 

 

 

 ジジッ……

 

 

 

 ________

 

 

 『今回は急に呼び出してすまへんな。こっちもやらなあかん案件なもんで、詳しい二人に参考程度ええから少しばかり情報が欲しかったんや。答えづらい質問もあるかも知れへん。そのときの回答はせえへんでええから。無理ぃとかキツイぃとかない程度で。ほな、早速聞かせてもらうで。まずは巡間の(あん)ちゃん。兄ちゃんは森の恐怖っちゅう事件に巻き込まれたんやろ?』

 『嗚呼そうだ。おかげで私の右目はこの通りだ』

 『はあぁ……厄介なもんに巻き込まれたもんやなぁ。せやけどあんまし気にしてへんようにも見える。前は欠損に使うサイボーグ類を嫌ってたっちゅう話やが?』

 『……過去の話だ。確かに私はサイボーグ類が嫌いだった。しかし、今こうして片目を失って気づいた。どれだけ片目だけが不便なのか。今までの二つから一つへと変わった瞬間から私はバカみたいなことを繰り返していたのだと気付かされたんだ。だから私は……贖罪も込めてこのままで生きようと思ってる』

 『贖罪とはまたちゃうかも知れん気がするんやが』

 『いいや贖罪だ。不便を自ら負わなければ私は一生後悔するだろう。自分の思想が如何に非人道的で馬鹿馬鹿しくて、そんなものテロと同じなのだと』

 『カッカッカッカッカッ!! なるほどそないなこと思っとったんやなぁ。贖罪か、匠も前そないなこと言っとったなぁ……さて、そっちは今の受けてどう思ったんや?』

 『……どうって言われてもなあ。正直、そこまで強くいられるキミを羨ましく思うよ。ボクは未だ、治す立場にも関わらず過去の因果に囚われたままなんだから』

 『ああっと、掘り下げられてもええんか?』

 『とりあえず』

 『ならお言葉に甘えるで。確かトラウマやったんやろ? その状態が』

 『目の前の残虐さは瞼の裏に焼き付いたまま離れようとしないし、況してや…………は●/◆*さが▲○③<<◼.%=¥'>{`^¥|¥7』

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 ここで、レコードが砂嵐を起こした。以降、聞けなかった。

 

 「ねえ今の!!」

 「間違いなく巡間殿がいらっしゃいました」

 「…………だ……」

 玉柏が消えるような声で呟いた。

 「え? なに?」

 「……『ガン』だ……ガンだっ!!?」

 「なに、何なの? それ?」

 「……俺の、仲間の一人だ……」

 あ、三人組の残りの二人のうちの一人のことかな。

 「それって実名?」

 「いやっ、コードネームみたいなものだ……本名をまだ思い出せてなくてな……」

 盗賊だから本名言い合うの危険ってことか。

 「関西弁のほう?」

 「違う。もう一人のほうだ」

 というかこの関西弁絶対エセだ。なんでわかるかって? 親片方が関西人だからだよ察して。

 「んんんん……」

 「金室さん?」

 「いえ、……あの二人どこかで聞いたことあるような声をしてるなと……希望ヶ峰でいう後輩に……」

 「え?」

 希望ヶ峰の、後輩……?

 「そういえば今の関西弁の人、なーんか宮原くんのこと知ってる風だったね」

 「どこか親しげな雰囲気もあったぜ」

 確か宮原には親友がいるんだっけ。

 「でも宮原も金室も知っておるということは、わしらも何かしら接点があるのかの?」

 「直接関係しているかは別にしても、多分話くらい聞いたことある人の可能性はあるわね……」

 ……そういえば、阪本が評論文読んでいるときに作者の名前に見覚えがあった気がする。もしかすると私も知っている人がいるのかも?

 「次、流すか」

 

 新たなレコードをいれて流す。

 

 

 

 

 

 ジジッ……

 

 

 

 ________

 

 

 『うふふ、今度はどんなお悩みを?』

 『その口縫い付けてやりたいほどその話し方腹立つんだよくそったれ』

 『あらあらそんなことありませんわ』

 『チッ。んなこたどうでもいいんだよ。今日の日付け!!』

 『20日? ……ああなるほど』

 『あと2日だぞ!? それなのにまだ何も用意できてねぇんだよ!!』

 『それなんであたくしに相談するのかしら。あたくしが言うかも知れませんのに』

 『中学からの腐れ縁のほうが話しやすかっただけだっつの』

 『ご近所付き合い楽しくってよ』

 『うっせぇ!! そうじゃなくて、いや、その』

 『いつも通りに過ごせばいいのではなくて? それとも何かしたいの?』

 『したいっつうか……いつも通りでええんかわからんっちゅーか……』

 『ふふベタ惚れ乙ですわね』

 『あ? てめぇもてめぇでチビ助のことどうなんだよ』

 『あれは遊び道具ですわ』

 『言ってやんなよ』

 『冗談はいいとして。それならいっそ奮発してもよくはありませんか?』

 『……か、金があるなら借金』

 『借金ばかり考えるのもよくありませんわ。少しは柔軟にしませんと。体も持ちませんわ』

 『……っ……考えてみるか』

 『残り2日で頑張りなさい』

 『だああ!! もっと早くに相談しときゃよかった!!』

 『自業自得ですわ』

 『…………まあ、あんがとよ』

 『礼には及びませんわ』

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 流し終えた。……んだけど、これ何だろう。

 「なんだこれ」

 「惚気かよ」

 「けど橘くんって相談相手みたいな人いたんだ」

 一人で抱え込むイメージが強いからかな。一匹狼っぽかったし。

 「いろいろ関わっている人多いな……他のも聞くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジジッ……

 

 

 

 ________

 

 

 『はい!! これあれね』

 『ありがとうであります~さてと、これをこうしてっと』

 『相変わらずあれだよね』

 『むふふ、もっと褒めてもいいんでありますよ』

 『あれするからやめておくかなぁ』

 『釣れないですねぇ。よし、できた』

 『へえすごい!! 動いてる!!』

 『これにあれをああすればさらにクオリティーが高くなりましょう……ふふふ、夢が広がりましょうなぁ』

 『でも時間掛かるんだね』

 『そりゃあ掛かりましょうよ。何せおれが珍しく計算しながらやってるのでありますから』

 『途中計算はしようよ』

 『しなくても答えがあるんですよぉ!! ここに!!』

 『なら江上さんに頼むとか』

 『あの人ねぇ……頼みたいのは山々でありましてぇ……』

 『そっかぁ』

 『あ、おっぱい揉ませてくれるならもっと頑張りましょうか』

 『刑務所に入れられたいのかな? しかもわたし小さいし』

 『大きさは関係ありません!! ならパンツの色でも』

 『そうじゃなくて!! 一応でもこっちに協力してくれるのはいいけど真面目に……』

 『むっふっふ。お忘れでありましょうか? おれはどちらにもなれるのでありますよ。仕事のためなら偽善者だって買って出ましょう』

 『わたしの前で言うの? まあ助けてもらった恩義はあるけど』

 『じゃあパンチラさせてほし』

 『それとこれとは話違うよ!!』

 『スパって言われてしまった。でんちゃん傷付きますよぉ』

 『いやポイント違うもん……』

 『うう適度に補給したいんでありますよ』

 『禁の域越えてるよね絶対』

 『てへ』

 『あざとくもないよ……』

 『あの、でもさすがに幼女とかに手を出すとかはしませんから……』

 『常識』

 『そもそも性癖に刺さらない』

 『わたしたちここで何の話しに来たんだっけ?』

 『忘れるところでありました』

 『普通に忘れてたよね』

 『的確なツッコミありがとうであります。さて、あとはがっちゃんが持ってきてくれるはずでしょう』

 『でも今いないんじゃ』

 『そこは待つしかないでありましょう。まだ時間は残ってる。きみたちのクラスにもまだうっちゃんにしか明かしていない秘密を隠したままの人がいるのでしょ?』

 『…………』

 『ふふふ、いつ口を割るんでしょうねぇ。何となくの検討はついているでありますが、そこは本人から聞きたいでありますから』

 『それ直樹さん?』

 『む? いえいえ、あの人じゃありませんよ。というかあそこは別の意味で知ってますので。まあ試したいことはあるんですけどセコムがおりますゆえにねぇ』

 『セコム』

 『とりあえず、交渉の手段もありましょうから聞き入れねばなりませんなぁ。……時間があるとはいえ、悠長にしてたらまずい。なるべく早めに処理しないと』

 

 

 ________

 

 

 

 

 思わず息を飲んだ。私の名前が、鷹山の口から出てきた。

 「なんか……会話内容が所々エグかったんだけど……いろんな意味で……」

 それは思った。

 「な、ななな、な、なんでズバズバい、えるんだ、あいつ!? は、ははじ、ら、いとかを、わわわやわわわわ…………」

 国門がすごい動揺している。めっちゃ顔赤い。そうだこの人下ネタ苦手なんだった。なんか前よりも……滑舌が悪いというかなんというか。

 あとセコム言うな。

 「けど、いろいろ興味深いことを言っておったのも事実じゃ。鷹山とこの……でんちゃん? って男の会話がわしらにとってとても重要な鍵ではないのか?」

 「くふっ」

 「笑うな!!」

 だって灰垣がでんちゃんって言うのおかしくて笑うよ。でもでんちゃんって誰なんだろう。あとがっちゃんも。

 「現状どれが大事なのかというのもはっきりしてませんからね」

 「でも俺たち以外の人が関わってそうな感じはしなくはないな……次流すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジジッ……

 

 

 

 ________

 

 

 『こっちだったわね』

 『うん。でもここに何があるんだろ。特に絶望の人がいるようには見えないけど』

 『2クラス分の人数をわざわざ手配する必要あったかも問題だけどね』

 『しかしー!! 絶望の力は非常に大きいのですー!!』

 『メンツ……青っ……』

 『まあまあ仕方がないよ。ん、連絡きた。こちらC班。報告された現場に到着したよ。奥にE班がいるから今から合流するとこ。……はい、………………了解。E班と合流後に南へ』

 『A班から?』

 『そう。今着いたみたいだから実琴たちと合流して南に行くよ』

 『わっかりましたー!! 僕はいつでも準備は出来てますよー!!』

 『元気がいいわね』

 『俺としては前途多難』

 『でも、嫌な予感はする』

 『………………空が、赤いな……赤い、夜だ……』

 

 

 ________

 

 

 

 

 ………………今までのレコードで一番不吉な予感がした。

 「私と……阪本さんと宮原くんの声……よね。これ」

 「間違いない。けど……赤い夜って言ったね……」

 赤い夜。私たちは見覚えがあった。そう秘密と同時に出された動機の映像で。

 「あ゛あ゛っ!!?」

 突然、金室が頭を抱え始めた。

 「金室さん!?」

 「い゛……ま、また……うがっ…………」

 「!! おいまさか」

 「ケホッ……!!」

 あのときと同じ吐き出された血。たまたま資料は金室の周りになかった。

 「まっ」

 「う、はっ、はっ、はっ…………だめ……です……」

 隣にいた国門が金室の背を擦る。このときに限って巡間がいないのがとても痛く苦しい。

 「一旦横になっておくか?」

 「いえ、遠慮しておきます……」

 「ならせめて壁に寄りかかっておけ」

 すみませんと壁によって大きく息を吐いた。

 レコードは他にはなかったから今度は資料を読み漁ることにした。

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 うちは言えない

 

 この血の原因は自分にあることを

 

 言おうとすればまた倒れる

 

 赤い夜だけは本当にダメ

 

 うちは呪われていたのだから

 

 あれ(・・)を見てから

 

 **********

 

 

 

 

 

 

 

 資料を全員で漁る。

 「……ねえ、この資料見て」

 渡良部が私たちにとある資料を見せてきた。これは……

 「希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件の資料じゃないですか!?」

 「カフェで見たよりも詳しい……貸せ!!」

 金室と国門がすごい剣幕で反応してびっくりした。一瞬で金室の顔色の悪さ吹っ飛んだんだけどさっきの体調不良も吹っ飛んだ? 国門は渡良部から資料を受け取り金室とバサバサ乱暴にめくった。

 「あった!!」

 「そこであった言われても見えないしわからないから!!」

 全員でそっちに近づく。そのページは希望ヶ峰学園から脱出した六人の生徒の姿の写真。外は崩壊している状態のに学園自体は原型を留めていて不自然に見える。写真の下には六人それぞれの名前と才能が書いてあった。

 

 

 * * * * *

 

 生存者確認

 超高校級の幸運 苗木 誠

 超高校級の探偵 霧切 響子 

 超高校級のスイマー 朝日奈 葵

 超高校級の占い師 葉隠 康比呂

 超高校級の御曹司 十神 白夜

 超高校級の文学少女 腐川 冬子

 

 * * * * *

 

 

 そして彼らは少なくとも二年の時をクラスメイトたちと過ごしていて、その仲間たちとコロシアイをしていたということも記録されている……二年?

 「…………(チュン)の話だと私たちも二年は一緒だったんでしょ? てことはこの人たちと私たちは同じ学年にいたことになるけど。ここの霧切とか言う人、鷹山(ハク)と同じ探偵じゃん。同じ学年に同じ才能の人って有り得るの?」

 「ふーむ……言われてみればそうじゃな……」

 「いや、その心配はないと思うな」

 どうしてと言う前に玉柏は過去の学園の生徒名簿を取り出した。

 「同じ学年に……暗殺者が二人?」

 「それだけじゃない。餅職人とか清掃員とか、双子だって同じ学年にいたことがあるみたいだ」

 ガタッ

 「餅に反応すんな」

 「ごめん」

 「まあそう考えれば同じ才能のやつが同じ学年にいるのは別におかしいわけじゃないらしいな。ただ『幸運』に限った話、こいつらは年に1人しかいないみたいだな」

 さりげなくスルーしたけど、暗殺者スカウトされてるのどんな世界だよ。しかも二人。 

 「………………」

 「矢崎さん?」

 矢崎の顔がみるみるうちに青ざめていく。いつもの彼女とは思えない速さで玉柏から名簿を奪い取るとある一点を眺めて震えだした。

 「あ、……あっ……この、人、たちだよ……きっと……あたいの家の、牛を殺したの……」

 「どれだ」

 彼女の指さす場所はさっきの暗殺者のところだった。だけれどそれよりも気になった名があった。

 「さく、らだ?」

 「桜田……一族……有名な暗殺者一家だよ。けど暗殺者の名に相応しくないほどの知名度の高さと残虐的な犯行から……ほんの一部の人たちにしかわからないんだよ……政府からも揉み消された存在……」

 政府から揉み消された一族……ん?

 「でも、なんで矢崎さんはそれを? 一部の人にしかわからないって言っても証明するものがないと……」

 「……彼らは犯行が終わった現場に自分たちが犯人だと示す桜田の印をその場で作って残すんだよ……あたいの……あたいの現場に……には…………死んだ牛たちが並べられて…………」

 想像してしまった。鳥肌がすごくたつ。

 「倫理のくそもないな……」

 「彼らは社会倫理を冒涜するんだ……だから存在を揉み消されたのかもしれない……」

 「けど謎だぜ。暗殺者が牛を殺したところで何の意味が。動物愛護団体が喚き散らしそうだぜ」

 「原因はわかってない……けど……前に仕事に失敗したんじゃないかって言われてるよ。その腹いせに」

 八つ当たりか。

 「んんん……」

 「灰垣くん?」

 灰垣が渋い顔をする。

 「ここにその桜田の資料はほかにあるのかの?」

 「探してみるか?」

 頼むと玉柏にお願いすれば三分足らずで見つけてきた。はやいよ。灰垣がその資料を睨み付けるとまたさらに渋い顔をした。

 「桜田一族の犯行理由…………金目当てとかは……まあ有り得なさそうじゃが……本当に八つ当たりなのかの……」

 「というと?」

 「矢崎、お前さん自身の住んでる地域は?」

 「……あたいは北生まれだよ」

 「北……か……なぜじゃ……なぜ桜田は北へ?」

 「?」

 「この資料を見る限り、桜田の犯行は主に関東から四国辺りまでなんじゃ……」

 え?

 「ま、待って。それならなんでわざわざ北の方行くの?」

 「わざわざ北に行く意味はないはず。何か目的があったのかも知れん……ん? なんじゃこれ」

 今度は何なんだ。って資料を覗いてみると不思議なことが書いてあった。

 「暗殺者、桜田一族はある事件を境に消息不明?」

 「その後桜田が起こしたとされる事件は一切ないとも……この一族に一体何があったというのです?」

 「ご丁寧にある事件の箇所は消えとるし。一番右にある『i』しかわからん」

 i……ダイイングメッセージ……裁判……うっ頭が。

 「………………とりあえず桜田の話も保留だ。他になにかあるか」

 あとあるとすれば……

 「無難に近いときに起きた事件でも調べる?」

 「そうしとくか」

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 【三人組の謎の集団あらわる】

 

 ○○市○○区○○丁目において、謎の三人組が現れ、彼らによって金品などが盗まれる事件が発生。目撃者によれば犯人は全員マスクとマントを身につけておりコードネームらしきもので呼びあっていた模様。警察が現場に到着する前に犯人らは逃走。警察は犯人の捜索を急いでいる。

 今回の被害にあった場所は◆◆◆◆会社。有名な大手会社であった。社長はこの事件について非常に責任を感じているらしいが、しばらくの取材を全面的に拒否している。

 

 *

 

 【誘拐された女子中学生を保護。飛び込んだ少年が重症】

 

 先日○○駅から行方不明になっていた女子中学生が警察と犯人との交戦の末保護された。このとき女子中学生の関係者であるとされる男子中学生が警察の後を追い自ら現場へ飛び込み、女子中学生に当たるはずであったであろう犯人の銃撃が彼の左肩に命中し重症を負った。命に別状はないとのことだが、後遺症が残る可能性が高いと言う。

 なお犯人は交戦後に逃走し警察が追うも行方不明となった。警察は引き続き犯人を追う模様。

 この事件の担当警察の話で『あの少年はどこから飛び込んで来たのかわからない。またまさか少女を庇い撃たれるとは思いもしなかった。責任を感じています。しかし彼の勇気ある行動は一人の少女を救った。そこは称賛しなければならない。我々警察がすべきことを何も出来なかったことについて、被害者の少女や少年及びその関係者たちに深く深く御詫び申し上げます。少年の行動を無にしないためにも、犯人逮捕に全力を尽くしたい』と謝罪とともに気を引き締めていくと述べた。

 

 *

 

 【◆◆◆◆会社、社内の闇が明るみに。社長謝罪】

 

 先日盗賊の被害にあったとされる◆◆◆◆会社の報告書が偽装されているのではないかと疑われている。

 これが明らかになったのは盗賊による被害が起きてから数日後のことであった。身元不明のところから◆◆新聞社らに報告書が届けられ、記者が調べたところ会社側の報告書の偽装がされているのではないかという証拠が次々に明るみになったとのこと。

 社長はこのことを受けて謝罪会見を開き謝罪。『誠に申し訳ございませんでした』と深く頭を下げた。

 警察はこれからも詳しく調べていく方針である。

 

 *

 

 【社長逮捕。◆◆◆◆会社倒産の危機】

 

 ◆◆◆◆会社の報告書に偽りがあったとして警察は金融商品取引法違反で社長を逮捕した。少なくとも数千万円を騙していたとされている。

 また社長は責任を社員に押し付けていたとしてパワハラ問題によって再逮捕される可能性もあるという。現在◆◆◆◆会社は倒産寸前。批判も大きく、社会から信用が薄れているとのこと。

 警察は今後もこの会社について詳しく調べていく。

 

 *

 

 【ノンストップ議論。学者内で話題になる子ども評論家】

 

 ▽▽▽社企画の全国小・中学生作品コンクールにおいて4年連続で最優秀賞を受賞する少年の書いた文章が話題を呼んでいる。何でもこの少年の文章は的確な部分を突いた評論文で、とても子どもが書いたとは思えないほどのものであった。

 これは学者たちの中でも議論が止まらない。今までの論文を大きく覆す可能性があるかもしれないという。おもしろいことに、子どもでも読みやすく読めばたちまち引き込まれるその文章力は衰えることがなく、また少年自身の話術も高いという。まだまだ目が離せない。

 

 *

 

 【被害者:落としたあの子に罪はない】

 

 ●●●の建設最中、手伝いをしていた少年に○○歳男性が突き落とされるという事故が発生。被害者は両足を骨折する重症を負い全治にはかなりの時間がかかるという。

 突き落とした少年はかなり責任を感じており、手術費や賠償金を自分で払うと言って聞かず親の制止すら聞かないという。これに対し被害者は『私を落としたのはあの電線から流れる電気から助けようとした結果なんだ。落とした彼に罪はない。あれは仕方のない事故だったんだ。少年を誰も責めないでほしいし少年も気負わないでほしい』と主張。少年の罪を全否定した。

 

 *

 

 【チケット即完売!! 大人に負けない歌の女帝】

 

 ネットの動画投稿サイト◼◼◼◼◼において歌が上手すぎると話題を呼んだ女子中学生が開くコンサートチケットが即日完売したという。チケットは─日~─日までの一週間で販売する完全予約制なのだがそれが初日で即完売した。

 地元の人にも歌のうまさは知れ渡っており、性格も合わせて彼女を『歌の女帝』と言う人が多い。しかしその名に相応しく、あの歌に厳しいとされる▲▲▲▲▲氏でさえ大絶賛の歌声である。そのためか今回のようなコンサートのチケットはプレミア級であるという。

 

 *

 

 【大量虐殺。殺されたのは牛】

 

 ○○市の○○において、一晩で牛が大量に死んでいたという事件が発生。牛の殺され方は多種多様であり、とても酷い姿で発見されとても一晩で出来るような有り様ではないと言われている。

 警察は飼い主やその関係者らの共犯ではないかと疑っている。事情聴取によると彼らは犯行を全否定している模様。

 

 *

 

 【前代未聞。森の屋敷で大規模テロ発生】

 

 ○○○▲▲▲市にある◼◼山の森で大規模なテロが発生。全661人中、生存者97人、うち軽傷11人、重傷86人、死亡者は564人。誰一人として無事では済まなかった模様。

 このとき一部界隈による大きなパーティーが開かれていたとされていた。しかし突如現れた人物らによってパーティーは一変、血の海となった。

 現場はブレーカーが完全に落ちておりまたマシンガンや銃が転がっていたところから停電させた後無抵抗な人々に襲撃されたと考えられている。

 なお死亡者には実行犯も含まれている可能性もあり、警察は引き続き捜査をすすめている。

 

 *

 

 【盗賊集団またあらわる。今度は◇◇◇社】

 

 以前◆◆◆◆会社を襲撃した三人の盗賊があらわれ今度は◇◇◇社に侵入し約二千万円が盗まれるという事件が発生しました。犯人たちは未だに逃走を続けている模様。

 通報した目撃者によると、犯人は十分もかからないほどとても素早く侵入と脱出をしていたことから社内に詳しい人が犯人にはいたのではないかと言う。また犯人たちは一度外で待機してから行動しているという画像も撮影されており、愉快犯ともされている。

 

 *

 

 【奇妙な死? 犯人は自殺か】

 

 ◼◼◼の家で三人の男性の死体が発見された。一人は腹を切っており、他二人は銃で殺害されていた。争った痕跡はなかったものの現場自体はすでに荒れていたため、不意討ちでの犯行と見られている。しかし銃には指紋がなく自殺した男性の持ち物には手袋やハンカチなどを身につけていなかった。

 なお今回死亡が確認された三人の男性は希望ヶ峰学園を卒業した超高校級の肩書きを持つ元生徒たちであった。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 

 明るい話題、暗い話題、黒い話題、悲劇的な話題。多岐にわたる事件やニュースがこれらに載っていた。その中には私と矢崎が関わっている事件も。内容から察するに宮原と玉柏たちも。そして、森の恐怖も

 

 「…………」

 「ない……ない……」

 「何が」

 「牛のやつも、森の恐怖も、これ以上の記事がどこにもないんだよ。これだけ大きい事件ならもっと取り上げてもいいはず……それに、弁護士たるものこんな事件逃すかって。なんでだ……警察もあんまり仕事してない」

 してないわけじゃないけども。

 「それと『刺客の七』もどこにもいないよ」

 他を見てもそれらしいものはなし。刺客の七はいない。けどそれは裏を返せばこの中の誰かがそうであるだけなのかもしれない。だけでは済まないものなのはわかってる。

 「結局出る手掛かりはなかったわね」

 「まあそれは後回しでもいいです。でもうちらはおそらく赤い夜という出来事でここにきた可能性があるのかも……」

 いまいち赤い夜について調べられていないのが痛い。しかもそれらしい情報は少ない。

 「……うん、収穫はまずまずといったところか。この辺りで切り上げるか?」

 「そうだね~あ、カメラちょっと見てくるね」

 「僕はまだここにいる。すっきりしないから」

 「うちもちょっとここで安静にしてます」

 国門、金室の二人以外のみんなは戻ることに……と思ったら近衛がクスッと笑った。

 「どうしたの?」

 「いえいえ、もうお昼時になられているにも関わらずよくそこに留まる選択ができるなと存じまして」

 またクスクス笑ったと思うと、ぐう~っと誰かの大きな腹の虫が鳴いた。

 「…………昼食べようか」

 「……すまん」

 ちょっとだけ、玉柏の足が蹴られているのが横目で見えた。どんまい。

 

 

 *****

 

 

 お昼を食べたのちさっきの二人はまた資料を読みに行った。

 で今私は食堂に残ったままなんだけど、ちょっと観戦している。

 「流局。私はテンパイ」

 「わたくしも」

 「私も」

 「俺もだな」

 「点数変動なし。よし、次二本場!!」

 麻雀の。湊川は前に渡良部に教えてもらったみたいで少し出来るようになっていた。玉柏は何となくできると思ってたよはい。

 「ん、リーチ」

 玉柏が一番最初からリーチをかける。

 「上がればダブルリーチの役つき。上がらせないよ」

 「わたくしも」

 「まあ早々一発にはならないわよ」

 「どうかな。…………外れか」

 一巡では上がれなかった。何回か見てるけど、初手のリーチって判断材料少ないから推理しづらそう。

 とんとんとん。とんとんとん。次々牌が場に捨てられる。

 とんとんとん。とんとんとん。最後の手順になった。最後は湊川。

 「ロンだな」

 「え、このタイミング!!?」

 湊川が捨てた牌は8の索子。

 「ダブルリーチに一番最後のロンってことは河底撈魚。ざっと8300ってところだな」

 「ううう索子結構捨ててたから必要ないほうだと思ったわ」

 「仕方ないな」

 クスッと笑ったけど、これ三本場いくの?

 「三本場、また玉柏(ツモ)から」

 「早々ダブルリーチなんて来ないから安心しろな」

 結構確率低いしねと渡良部は苦笑いした。

 「ポン」

 近衛がすかさず渡良部の發を拾う。

 「役が出来ましたね」

 「あんたホント字牌くるね」

 「とんでもございませんよ」

 とかいいつつ出してくるのは赤ドラ萬子。

 「ポン」

 今度は渡良部がポンをする。すでに渡良部の手元に赤ドラ2つがあった。湊川と玉柏が蚊帳の外になってる。そしてまた渡良部が牌を捨てた。次の瞬間。

 「渡良部さん。それロン」

 湊川がざっと見せてきた。2つずつ揃った牌。

 「うっわ七対子(チートイツ)……出来てたの?」

 「ええ」

 みんなして運強すぎるわ。そして玉柏一回も捨てられてないんだけどどういう状況よ。

 「まあ2500点……これくらいなら巻き返せるし。負けないから」

 「さすがに雀士相手に勝てる気がしないわよ」

 「近衛(リーチ)は一回私に勝ってるよ」

 「え、そうなの?」

 「ええ」

 「あんたたち私を誰だと思ってるの」

 渡良部は自分のリーチ棒をみんなに向けた。

 「プロっていうのは必ず失敗しないわけじゃない。予測不能の『危険牌』を無意識下で打つかもしれない。そんな緊張感がいつもあるの。実際今こうして牌を打ってるけど、大会とかだと普通に時間制限があるから悩む暇なんてあんまりない。だから私はさっきみたいなミスをする」

 リーチ棒をおいて裏返しにされた牌をぐちゃぐちゃと掻き回す。

 「ミスを繰り返して繰り返して、そうして成功に近づく。プロはプロで終わらない。そのさらに高見を目指すのが私なりのプロの在り方。麻雀は運に左右もされるけど上がる形はたくさんある。点取るだけじゃなくてその牌の声を聞くことも、大切なことだと思うしね」

 牌を混ぜて適当に積み上げる。今の話を聞いてると、牌の声を聞いているからドラがよってくるのかな、なんてことを考える。

 そういえばずっと気になることがある。

 「渡良部さん。麻雀のときってよくサイコロ振るけどあれってなんなの?」

 「親決めのサイコロのこと?」

 「多分」

 「席を決めるときに(トン)を引いた人がまず仮東(カリトン)っていうの」

 「バリトンみたいだな」

 ちゃうわ。

 「でバリトン……じゃなくて仮東(カリトン)が2つのサイコロを振る」

 今のわざとだろ。

 「その和の数だけ自分を含めて反時計回りに数えて、そこで当たった人は仮親になる。で仮親もさっきと同じ手順を踏んで、そこで当たった人が親になるの」

 「へえ」

 「ここの雀卓は機械じゃないけど、もし機械ならボタン一つでサイコロ振ってくれたりもする」

 それそれで見てみたい。

 「まあこんなところ。よし、次!!」

 軽く説明されたけど少し理解できた。そこにも、ちゃんとルールがあるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと玉柏の捨てた牌が湊川、近衛、渡良部のアガリ牌で全員にロンされててとても笑った。どんまい。

 

 

 *****

 

 

 終わったあと。暇だからってカフェのカウンター席でコーヒー淹れてから少し過ごしていた。そういえばここって静かだけどなんというか、何か物足りなさを感じるんだよな。

 

 ドサッ

 

 突然聞こえた音に反応して振り向くと矢崎がいた。こっちに気づいてやあと声をかけてきたから、思わずこっちもやあと言った。手にしていたものに見覚えがあった。

 「矢崎さん、それって」

 「ん? ああこれね。植物図鑑だよ」

 「やっぱり。好きなんだね」

 「言ったでしょ。人への興味が薄いって。でも何かをしない限り無害じゃないし」

 害という考え方をするあたり、矢崎は本当に……

 「触れていいものと触れてはいけないもの。たーくさんあるからね。動物も虫も植物も、種類とかによるけど毒を持つのもいる。対して人は毒を持たないからね」

 まあ確かに直接的な毒は持ってないか。

 「あたいだって好きなものを極端に侮辱されるのは嫌だよ。確かに価値観はあるけれど」

 「ああ~それはわかるかも」

 言語って奥深いし。しばらく、沈黙が続いた。

 「…………ちょっとね。ずぅーっと前から任されていることがあるから、それもやらなきゃいけないんだけど今は少し息抜きでここにいる」

 「息抜き、ね」

 「それにしてもここはなーんか物足りないよね~花とかおいてみるかい?」

 「いいね」

 「よーし、あとでみんなに聞いてこよう~」

 ……のんびりとマイペースに過ごす彼女でも、結構考えながら生きてるんだなって思ってきた。

 

 

 ***

 

 

 夕飯時。矢崎の提案をみんなが聞き入れて紙に好きな植物の名前を入れていく。

 「ええっと、直樹ちゃんはニッコウキスゲ、灰垣くんはツタウルシ、近衛くんはカモミール、湊川ちゃんはエーデルワイス。金室ちゃんは白いウメ、国門くんはキョウチクトウ、玉柏くんはアサガオ、渡良部ちゃんはミモザアカシアだね。ちょっと毒草もあるね~」

 「あっとそれ変えたほうがいいか?」

 「まあやたら触るのはやめておいたほうがいいやつと経口毒性だからね~まあ鑑賞用だからね。一応全部の花には接触禁止ってことは頭に入れておいて。あと大きさもバラバラだからうまく飾れないのは許してほしいかなぁ」

 そして全員合意の元、矢崎は植物庭園のほうへと向かっていった。時間的にもちょうどいいから今回はこれで解散ってことになった。

 

 

 *****

 

 

 

 夕飯食べたあとに適当に過ごして部屋に入る。いろいろあったから疲れがどっときた。

 「ああああ疲れたぁぁああ!!!!」

 華麗なるベッドダイブをキメてから悶える。何にと言われてもわからないけど、とりあえずもう疲れた。

 「なんか読みたい」

 そうだ。さっき資料室で近衛から受け取ったやつ少し読もう。古い言い回しだったけどとてもキレイな字をしてたし。多分読みやすいはず。私はそれを手にとって読む…………読む……よ、………………む………………

 「…………え?」

 なに、これ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ────────

 

 ちょうど、日本の外へ行っていた

 

 世界大会へ行く人

 

 鑑賞会に招待された人

 

 研究会に参加する人

 

 仕事がある人

 

 一つ上のクラスと自分たちのクラスで

 

 それぞれ、みんなが別の理由を持っていた

 

 終わりの時期も同じだった

 

 みんな、日本に帰ってきた

 

 それなのに

 

 あの現場は何なんだろう

 

 見慣れた青空もなく

 

 見慣れた景色もなく

 

 瓦礫の山と

 

 血溜まりと

 

 武器を持つ一般人兵士たち

 

 クマみたいな変な被り物をつけて

 

 おかしなことを吐き出し続ける

 

 そして戻ってきた自分たちは知った

 

 今ここは『エノシマ』によって

 

 絶望に染められた世界なのだと

 

 たまたま無事で帰って来れたものの

 

 あと一歩でも早く

 

 あと一歩でも遅く来ていれば

 

 死んでいたかもしれないと告げられた

 

 自分は別になんとも思わなかった

 

 だけれど他の人は絶対違う

 

 自分とは違うんだ

 

 *

 

 『エノシマ』の力は強大すぎた

 

 世界をあっという間に絶望に染め上げた

 

 これじゃあ自分でも流石に捌けない

 

 未来機関に保護されて

 

 全員で絶望と対峙することにした

 

 それぞれ部隊に配属されて

 

 こなしていく

 

 自分は──に特化したところだ

 

 *

 

 ◆▽から協力してほしいと言われた

 

 何でも対抗策兼サポート用のものを

 

 作りたいらしい

 

 見た目もみたけど正直

 

 絵のセンスが無さすぎて怖かった

 

 ◣がわかりやすいものを見せてくれた

 

 敵の変な被り物を着けたやつに

 

 似ていた

 

 騙す気でないといけないのか

 

 とりあえず自分も情報を提供した

 

 *

 

 ある日、ふと見つけた

 

 それは変な被り物と似たようなものの

 

 ▲◼

 

 見たことあるようなものだった

 

 そういえば前に作っていたんだっけ

 

 確かコードは

 

 TDG-M4g4a89

 

 サポートとしてくれるとか

 

 ていうかあの人にしては珍しい物を作った

 

 計算嫌いなのに

 

 でもあの人なりの努力の結晶

 

 ムダにするのはよくないか 

 

 *

 

 とある場所で絶望がいる情報が入った

 

 どうやら相当強いらしい

 

 クラス2つ分をそこへ行かせる方針で

 

 進められたけど正直フアンだ

 

 人数で捌くなんて無理がある

 

 でも悩んでもいられないのも事実か

 

 最後まで、あの子は反対していた

 

 自分は結局部隊方針に従うことにした

 

 *

 

 こんなところでやられるなんて

 

 あの子のこと信じて上げればよかった

 

 あんな重傷を負わせた

 

 ◼●も支えてたけど

 

 無理だった

 

 これからどうなるのか

 

 ケントウもつかない

 

 気を失いそう

 

 これが誰かのためになるならいいけど

 

 誰か読めるかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 F.T

 

 

 p.s

 フォーチュンクッキーを『●▽▲○』に見せてはいけない

 不幸な結果が必ず現実のものとなる

 

 ──────────

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 なに、これ?

 

 深く考えたいけれど、眠気が襲ってきた

 

 仕方がない

 

 今日はもう寝よう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         →to be continue……

 

 



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第四章(非)日常編 傷負い鼠に3部屋目

 どうも。四章も3部屋目となります。ここまで来るのはとても長い道のりだったと思いつつ、そんな風に思うのはやいわってなる感じもします。ま、大概そんなもんです。

 では、傷負い鼠に3部屋目

 あなたはたくさんぶつけられても強くいられるか?



 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 突然視点が変わることがあります。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 17日目

 

 

 

 『おはようであーる!! 今日もはりきっていくであーる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 …………朝か。七時………………今日も聞くか。シャワーを浴びながら、鏡の前に手をつけて目を合わせる。…………鏡の中の自分は半分化け物のように見えた。普通に悩む表情をしているって思っていても、半分は化け物。

 

 『やあ。調子はどうだ?』

 「…………どうもこうも僕を貶める野郎に毎日会わなきゃ、本当の自分が保てているかわからない体になってきた」

 『ははははは!! 嬉しいな!! だけどわからないか? 俺様はもう少しで貴様を奪えるんだぜ』

 「……やめろ……反吐が出る」

 『出せばいいだろう~??? 俺様はこの空間に来るよりずっと前から貴様によって作られた【人格】……まあ今の貴様には【イマジナリーフレンド】のほうが正しいかも知れねぇけど、それだって自身がよくわかっているんだろう?』

 「…………くそが。これ以上人格を増やさせてたまるか……」

 『ヒヒヒヒヒッ、いつまでその威勢が持つかねぇ? 裁判は俺様が出ているが……あの相棒の二人は手強いねぇ~?』

 「あいつらは……絶対負けない。お前なんかに……」

 『……ははは、目に光がなくなってきたなぁ~? そろそろ貴様自身、精神を保てなくなってるんじゃあないかぁ~?』

 「……僕は……カレンダーと裁判以外では何の取り柄もない男だ。精神が磨り減ろうと……今やれることを、伝えられることを伝えなければならない」

 『無理だろうぜ。貴様の記憶のほとんどをこっちへと引き抜いている。刺客の七とやらは俺様も貴様と同時に倒れたから、正体までは知らないけどよぉ。というか…………いつまで****つもりなんだぁ? 貴様は本物の貴様じゃないのによぉ?』

 「それは!! っ………………」

 『人格者じゃないなんて、よく言ってくれたぜ杖小僧は。しかもここの空間の正体まで、すでにあいつは気づいてた』

 「!! おいそれはどういう!!」

 『おっと口が滑った。まあ今気にすれば貴様は怪しまれる。刺客の七がどうして【あそこ】を知っていたかはわからねぇけど、考えられることだとすれば…………ははははは、そいつは裏で黒幕側と繋がってるかも知れねぇぜ』

 「……っ!!」

 『さてと、貴様はどうするんだ? どうせ俺様に奪われる記憶。せいぜい足掻いて見せてくれだぜ。そして……生きて俺様に取り込まれるんだな。頑張れ、【本物】』

 「っおんまぇええええええ!!!!!!」

 『ははははははははははははははは!!!!!!!! じゃああああなあああ!!!!』

 

 ……………………半分の化け物は僕から消え戻った。どうすればいいんだ。鏡に映る僕は元通りの自分。シャワーの流れるのを感じているだけの自分。いつ暴れるかわからない【侵食者】にいつまで怯えなければいけないんだよ……!!

 

 

 

 

 

 

 

    こんなにも死にたいと思ったことはない

 

 

          いや違う

 

 

     過去に一度の大罪をまだ僕は……

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 目を覚ます。昨日はしっかり寝られなかったから、今日は『とりあえず』よく寝れた。けどこの日記の内容……気掛かりすぎる。だってあの『F.T』の日記なんだから。

 パッパとシャワー浴びて食堂に行こう。

 

 

 ***

 

 

 今日は意外とみんな早く食堂にいた。遅れたかな? でもまだいない人はいる。

 「よっ」

 「君そんなキャラだっけ玉柏くん」

 「なんとなくだよ」

 「昨日は結局どうなったの?」

 「ああ……俺の部屋に来たがそのまま寝かせた」

 「そのまま寝かせた!?」

 「Ⅲ棟の控え室だかで化粧して誤魔化してたけどな、あいつ隈がはっきりしてた。折り紙してた影響だけじゃない明らかな寝不足を感じたから寝ろって」

 あんたはお母さんか!!

 「で、俺は置き手紙書いてⅣ棟に逃げた」

 「言い方何なんですか」

 金室近くにいたのか。

 「俺は俺でやり方知ってるからいいんだよ。人前ではやらないけどな。朝にもやってるし」

 「まあ……いいでしょう」

 「ったく……」

 ため息をついて頭をポリポリと掻く。そういえば玉柏の髪めっちゃふわふわしてる気がする。

 「どうした?」

 「いや、いつも髪ふわふわしてるなって」

 「なんだそりゃ。まあ気は使ってるけど。親譲りだし」

 「あっ」

 「別に構わないけどな。顔すら覚えてない父親の譲りだから」

 そんなこと話していたら他のみんながぞろぞろやって来た。…………国門の顔色はどこか悪くみえた。

 「国門殿、どうかなさいましたか?」

 「……なんでもない。ただもう、キツい……」

 まさか人格のことなのか。そろそろそっちの方にも気を使わなきゃいけないんだ。

 「言っておくけど、人格の性格はクソだ。クソの中のクソ。お前らを犠牲にすることすら厭わない。今まで僕が制御できるようにしていたけど、今回ばかりはもうそれは出来ないと思ったほうがいい……」

 右側の顔を手でおさえながらそう言った。ぐしゃりとされた右が狂った世界が描かれていた気がした。

 「どうにかしたいのに出来ないから、自分を見失いそうになる。誰が自分でどれが自分なのか……もう何もかもがぐちゃぐちゃで…………」

 そこから先は少し聞こえなかった。……悟ってるのかもしれない。自分の死期を。歪んでる、そう思えるのに、どこか別の歪みに放られた気がする。きっと気のせいじゃない。

 「……ねえ、あんたのそれが抑えられるのはどういう状態なわけ?」

 「…………はっきりとは言えないけど、気を紛らわしてるときとか……激しい運動とかだと体と脳が追い付いてないからか影響が出ない……多分」

 多分言うなし。

 「そういえばみんなでバレーしたときはあまり出てなかったような」

 「あれは本当に出る暇すらなかったんだと思うけど……」

 「んーなら今度はプール行ってみる? どうせならいろんなところで気分転換したいわ」

 「…………」

 渡良部だけ浮かない顔してたけど話の流れに逆らえず、午後プールに行くことになった。

 「水着はあるのかい?」

 「Ⅲ棟探せばありそうですね。行ってみましょう」

 金室がさっさと行ってしばらくしてると、電子生徒手帳が矢崎から鳴った。

 「はーい」

 電話を取る矢崎がコクコク頷きながらこっちをチラチラ見ている。何話してるんだろう。

 「ねえみんな」

 「何かしら?」

 「スク水は着る?」

 「「「着ない!!!!」」」

 その話かい!!

 「全員着ないって~…………あたいも着ないよ~」

 金室着せる気だったのか。

 「とりあえずあるやつ適当にね。うん、わかった。……男子のも持ってきてくれるみたいだから適当に選んでだって」

 「わかった」

 「女子は更衣室に置いておくみたいだよ。あとで確認してだって」

 はーい、……とは答えたけどあの中にスク水入ってたら怖いな。

 

 *****

 

 午後になるまでの間にチラッとⅡ棟のカフェ寄ったら矢崎が作業に集中してた。さすがに声をかけるのが忍びなくてそのまま出てきた。

 予定何もないし、ここからの出方だってまだまだわからないし……あっ昨日の日記のこと忘れてた。プールだと濡れたら困るし夜でいいかな。

 「んー」

 「どうしたんです?」

 振り向いたら金室がいた。

 「いやこれからどうしようか悩んでて」

 「午前中はやることないですもんね」

 そうだ。せっかくだしちょっと聞いてみたいことを。

 「えっとさ、金室さんってどうして茶道をやろうとしたの?」

 「いきなりなんですか。まあ確かに気になりはするのでしょうけど」

 前触れなくしたのまずかったかな。

 「簡単に言えば実家がそうなんですよ」

 「実家?」

 「ええ。古くから茶道の家で、規律や作法などは嫌というほど叩き込まれました。それもあってなのか遺伝なのか、うちのこの毒舌もそのまま」

 毒舌家族ってなんか、いろんな意味で怖いな。

 「お茶を点てるときも厳しくされましたね。ですが終わったあとに飲むまろやかな味わいは、忘れることない絶対の味なんです」

 「絶対の味……」

 「ここに道具さえあれば見せたのですが……」

 「和室がそもそもないもんね……」

 「そうなんですよ。落ち着いて過ごせるあの空間!! 心地よい藺草の香りが気分を落ち着かせ、わび茶が確立された安土桃山の時代へと誘われるかのような静けさ……あれが堪らなくて……一度でもいいから京の都とかに行ってみたいものです」

 「え!?」

 「あら言ってませんでしたっけ? うち静岡出身ですよ」

 マッジデ

 「関西弁とかはそれなりに憧れはあるんですけど、何分エセが地雷な人は結構多いんですよ」

 ごめん普通にエセ遣ってる。

 「だからせめて一人称だけでも『うち』にしてる……なんて、笑える理由です」

 「……憧れはあってもいいと思うよ」

 「ふふ、ありがとうございます。まあ素も『うち』なんですけどね」

 素もなのかよ。

 「そういえばさっき和室の話しましたよね」

 「したね」

 「……時に直樹さん。和室に入ったことは」

 「あるよ?」

 これでも石の上とかで寝たことある人だから。

 「それなら早いですね。先程も言ったんですが、畳には藺草が使われてます。そしてあの独特の香りはリラックス効果があるんですよ。それにごろごろしやすい。椅子なんかは不要。座布団だけで十分快適」

 わかる

 「素材が素材なので冬は暖かく、夏は涼しいという多くのメリットが存在するわけなんですけど…………素材故に非常に傷みやすいんですよね……汚れを落とすのも困難でシミができるケースは多いんです」

 「ああ……」

 「おまけにダニやらカビも出やすいのでアレルギーなんてのもありますし……逆に洋室ですけど、掃除がしやすくおしゃれな雰囲気は出しやすいと思いますね」

 「部屋シンプルイズベスト派だからそこまでオシャンティーなことしてない」

 「なんですそのださい名前の紅茶は」

 「紅茶じゃない!!」

 「それはさておき、うちらの部屋もどれも洋室ですよね。大差はないと思いますけど」

 「マンション、だからかな?」

 「あなたはあの固い固い床で寝ようと思います……?」

 絶対思わない。首を横に振る。

 「スリッパとか欲しくなりますし、布団よりもベッドがいいです。なので部屋のスペースを確保しにくいかもしれないんですよ。音も響きやすく正直うるさいです。ここはその心配ありませんけど。あと埃が舞うので掃除はこまめにしないといけませんし」

 こう考えると和室にも洋室にもメリットデメリット激しいんだな……

 「うちは和室で布団派なんですけどね」

 だろうね。

 「好みは誰にでもあります。好き嫌いや感性はそれぞれ違いますしね。でも……その違いを受け入れて来なかった自分にとって、そういうものを少しでも受け入れるということは大切なんだと……時折思い知らされます。自分の思っていた現実は甘くありませんでしたから」

 彼女は近くの壁に寄りかかる。

 「どれだけすれ違ったんでしょう。どれだけ間違ったんでしょう。どれだけ人を傷付けたんでしょう……うちにはわかりません。理解も共感もできない毒を撒き散らすだけなのですから」

 突然重くなってすみません、と彼女は少しだけ悲しそうにそのまま去っていった。……言いたいこと、よくわかる。私はどこかで……そんな人を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 無自覚で傷付けてるかもしれない。お節介みたいな優しいが人を傷付ける。……自分の考えを述べればたちまち否定され、或いは別の考えで砕かれて逃げられる。意識的違いを理解しながら、意図的に否定する。否定したわけでもない言葉が、誰かを追い詰め沈めていく。合わないからの一言で絶ちきれる人がいれば、逆もまた然りなわけで。

 金室は言っていた。誰かと馴染むことが少なかった、と。そう思うと……彼女が思ってる自身の苦しみをいつまで保てるのだろう。この……余計なのかもわからない考えが支配してきた。

 でもこのあとの楽しみを壊すわけにもいかなくて、念頭において忘れないで起きたい……なんてことも思っていた。

  

 *****

 

 昼を食べ終えてしばらくしてから、全員でプールに行こうということになり、更衣室で着替える。結構いろんな水着があったからサイズ合うように決める。スク水はあったよおい金室。もちろん全員変わらず却下した。そりゃそうか。……って

 「渡良部さんなんでTシャツ着てるの」

 「いや泳ぐ気ないし……カナヅチだから」

 「あら意外ね」

 「動くのは本当ね……」

 そういえば足も遅いほうだったっけ。

 「あとこの中で『きょうい』格差あるし」

 「え、脅威なんてあったっけ」

 「そっちじゃない!!」

 項垂れてため息を吐かれた。…………あ、脅威じゃなくて『胸囲』ね。

 「ああ~そっちの」

 「はい着替え終わったら一人ずつどんどんプールに行こうねぇー!!」

 なんとなくこれ以上言及してはいけない気がした。というか結構みんなスタイルいいな……

 

 

 ***

 

 

 全員がプールに入った。あ、メガネ掛けてない玉柏と近衛何かすごく新鮮。シャワーを軽く浴びて適当に準備体操を済ませてから水の中に入る。

 「冷たっ!!」

 「思えば久しぶりだなプール入るの」

 ちなみに私はホテルとかにあるから暇潰しで入ってたりする。だからそこそこ泳げる。軽く泳いでいると矢崎が浮き輪を持って下りてきた。

 「矢崎さんは浮き輪必要なんだ」

 「あまり泳ぐ機会なかったしそもそも泳ぎは苦手だからねぇ。北はどっちかっていうと、スキーの方が出来る人多いからね」

 あそっか。

 「でもせっかくみんなで入るのになーんにもしないのは野暮だからね」

 「そっか」

 適当に話してる最中、ちらっと他の人のことを見てみる。国門と金室は適当に話してて、渡良部は足だけ浸かっている。灰垣と玉柏は競争していて、近衛とか湊川も自由に泳いでいる。え待って湊川泳ぐのうまっ!?

 「ふう!! こういうのって高いところから落ちて入るのもスリリングで楽しいのよね!!」

 「すっごい……人魚みたいに泳いでなかった?」

 「水泳習ってたからかしらね。これでもダイビングとかシュノーケリングとか経験したことあるのよ」

 「うわあダイビングは経験したことないからやってみたいなぁ」

 「ふふ、楽しいわよー?」

 なんだか楽しそう。前みたいに無理した雰囲気はないみたい。

 

 バッシャーン!!!!

 

 奥の端の方から大きな波の音が聞こえる。そっちを見てみると玉柏と灰垣が同時に顔を出していた。

 「ぷはっ!! 同着とは……なかなかやるのぉ?」

 「動けないと、盗賊はやってられないからな」

 「はっはっはっ。続けるか?」

 「もちろんだ。用意……どん!!」

 

 バッシャーン!!!!

 

 あの二人も結構楽しんでいる様子で。そうだ、私たちはコロシアイに捲き込まれているとはいえ、実際は年相応の高校生。まるで青春時代に取り残したことを回収してるみたいでおかしい。

 「渡良部殿は泳がないのでございますか?」

 「えっ、う、うん。カナヅチだし……」

 「……わたくしでよろしければ少しお手伝い致しましょうか?」

 「いいの? 近衛(リーチ)は」

 「皆でプールに来た以上、一人楽しめないというのも酷でございましょう。もちろんこうしているのがよろしい場合もございますが、あなたは一人よりも多くの方と一緒にいらっしゃったほうがよろしいのではないかと存じます。それにわたくしが渡良部殿に手を差し伸べて差し上げたいのでございますから」

 なんだこの口説いてるみたいな雰囲気は。渡良部は満更でもない様子だけど。たじろいでいるのがもどかしい。いいから手を取りなさい、と視線で合図したら素直に近衛の手を取ってプールにゆっくり入水した。

 「ひいぃぃ冷たい!!」

 …………ちょっと慣れるのには時間かかりそうだけど。

 一回あがってサウナに入ろう。熱が篭った部屋はとにかく暑い。けど汗を流すのにはちょうどいい。でも暑い。しばらくしてるとさっきまで競争してた二人がやって来た。

 「ふう、やはりサウナはよいな」

 「あっつい……」

 二人真逆のこと言ってるよ。

 「さてと少し電子生徒手帳で確認でもするか」

 「ここに来る前に取ってきてたのそれか」

 さっき取ってきたであろう電子生徒手帳を取り出して起動させる。するとん? と顔をしかめた。

 「今ここにいるのは9人じゃよな?」

 「うん」

 「サウナにいるのは3人、プール側にいるのは6人……ちゃんとおるというのに……なぜⅡ棟のライトがついているんじゃ?」

 え? Ⅱ棟は人がいればつくんじゃ? って思ってたら

 「!? なっ、急に画面が暗くなったぞ!?

つけようとしてもつかん!?」

 「は? ちょっと貸せって無理だな……校則違反になる」

 「もしかして熱暴走で壊れたんじゃ……」

 「あっ」

 なんかその可能性高そう……今までそんな話出てきてはなかったけど、一応でも電子危機だし。防水はあっても耐熱はあまり聞かない。となると………………

 「……あとでモノヤギに聞くしかないな」

 玉柏の意見に賛成。とりあえず一度サウナを出てまた一泳ぎしてきた。金室と国門が泳いでるところ見てないけど。

 「お前らは泳がないのか」

 「うちらは眺めるだけにしておきます」

 「話してるだけでいいぜ。こいつ何回も血吐いてるのに下手に動いてまた倒れるのも嫌だろ」

 気遣いなのね。というか動くために来たはずなのに二人会話だけってなんか、本末転倒?

 「…………」

 あ、玉柏がなんかあのちょっと怖い笑み浮かべてる。水の中に入ってよ。上がってた矢崎を手招きしてなんかしようとしてるみたいなのかな? その様子を眺めてるけど。

 「うわっ!? ちょ、何するんですか!?」

 「一度もプールに入らないのは反則だよね~?」

 「だよなぁ?」

 「いだだだだ!! 肩めちゃめちゃ痛い握力つっよ!!?」

 矢崎が金室をお姫様抱っこして、玉柏が国門の肩を思いっきり掴んで引っ張り出す。なんか、いやな予感する。

 「「そーい!!」」

 「イヤアアアアア!!?!?」

 「エエエエエ!!!?」

 

 

 ザッパーン!!!!

 

 

 「ヘブッ!!?」

 「わっ!!」

 「おっと」

 「キャッ!?」

 プールにダイレクトにインしたお。私たちにまで水がかかってきた。バシャンと二人が顔を出す。

 「何するんですか!?」

 「ゲホッゲホッ、ちょっと鼻に水入った……いってぇ……」

 そんな二人を投げた二人は

 「なかなか華奢な体つきしてるんだね」

 「間抜けな姿さすがだな」

 「グッドじゃないですよ!!!?」

 グッドサインしながら笑ってた。金室と国門はなんというか、お疲れ。

 「そういえば波とか渦とか作れるんじゃったな。一回やってみるか?」

 「そうね」

 わちゃわちゃしつつ、一旦プールから全員出てしまう。灰垣が動力室に行って水の調整をしている。しばらくすると、前に聞いた同じザアアアアアアっという音が支配してやがて渦を作り出した。

 「少し試してみるわ」

 湊川が水の中へ入ると、あっという間に渦に飲み込まれたようだった。しばらくすると湊川は渦の中心からひょっこり出てきた。

 「湊川さーん!! 大丈夫ー?」

 「大丈夫!! ただ上級者向けよ!! 止めてもらってくれる!?」

 まあでしょうね。灰垣に止めてと伝えて渦を止めてもらった。

 「やっぱりあれか」

 「ちょっと無理ありそうだったね」

 結局普通にプールで泳いだり水の掛け合いでもしてた。

 いろいろなことあったけど、終始騒いで時間になった。

 

 

 *****

 

 「楽しかったぁ!!」

 「人数が少ないのが痛いところだけれど、それでも楽しめたわね」

 湊川が一番楽しんでたよ。

 「遊園地とかも行きたいね~」

 「絶対楽しいやつ!! 私遊園地一回しか行ったことないけど、絶叫系はすっごく楽しかった!!」

 「ジェットコースターとかあとあの上下するやつ? あれはすっごい楽しいのわかるぜ」

 「ホント!!?」

 確かに絶叫系は楽しい。場所によっては本当の本当にスリル満天だからおもしろいったらありゃしない。めちゃくちゃ頷くだけの人になってる。

 「…………」

 「あれもしかして近衛くん、絶叫系苦手かい?」

 「っ!! な、ななな何のことでございますかね!!?」

 「苦手なんだね~」

 「……お恥ずかしい話でございますよ」

 冷やかされてちょっと顔が赤くなってる。

 「なにぶん最初に体験したものが360度回転するジェットコースター……それも幼少の頃でございましたから」

 ああ~

 「お嬢様は逆にそういうのが大好きであられまして……心臓がいくつあっても足りませんよ……思い出して寒気がして参りましたので、戻ってよろしいでしょうか」

 「ははは……戻っていいよ」

 足早に近衛が戻っていった。私たちはのんびり歩いていった。

 「今日の晩御飯なにかなぁ~」

 渡良部が不意にそう言った。ちょっとクスッと笑ったらむすっとされた。

 「ちょっと何なの!?」

 「んー? いや何でもないよ」

 「何でもないわけないでしょそれ!!」

 「だってそういうのでもないのに夫婦感あるから」

 「ふっ!!?」

 あ、真っ赤になった。余計に笑っちゃいそうになったところを背中バンバン叩かれてって痛い痛い痛い!!!!

 

 

 *****

 

 「痛いって」

 「あんたが変なこと言うからじゃん!!」

 あれを笑わずにどう反応すればいいの。

 「まあまあ、二人はとーっても仲がいいよね~」

 確かによく一緒にいる感じはしてるし、私としても渡良部とは居やすい。こういうバカをするのも楽しいし。

 食堂に着く前、少しスパイシーな臭いが鼻をつく。これはもしかして

 「カレー?」

 「カレーっぽいわね」

 うん、やっぱり。カレーだ。個人的には中辛派。

 「カレーは……甘口でなければいいかな」

 「玉柏くん甘口嫌いなんだ」

 「甘いものは嫌いだ。金平糖とかそのまま食べられる人の気が知れないな」

 砂糖しか使ってないのにそこまでか。というかカレーの甘口もって。

 「辛くないカレーのどこがカレーなんだ!? サドンデスかけて食べたくならないのか!!?」

 「そういうカレーなんだよ!! っていうかデスソースかけられるのすごいね!!?」

 「サドンデスかけたい気持ちわかるか」

 「いやぁさすがにわからないかなぁ。あたい一応辛口派だけど」

 「僕もさすがにそこまでは……」

 ええーって玉柏言うけど、そのデスソースでよくひいひい言わないな……

 「ま、ここにそれないのがなぁ。またそのまま飲みたいものだな」

 そのまま飲める代物じゃないよね!?

 

 

 ***

 

 

 いろいろとツッコミどころ満載だったけど、まあとりあえず食堂へ。近衛がまだ厨房にいるみたいだった。渡良部がその手伝いに行って、他はスプーンとかを用意する。

 しばらくすると近衛がカレーとご飯両方鍋ごと持ってきた。って片手!? しかも鍋しっかり水平!?

 「え、近衛くん重くないの?」

 「まあまあでございますが?」

 まあまあって言ってのけるの!? 鍋敷きの上に置かれた鍋2つを一つずつ両手で持ったけど、どっちも重かった。これ片手で水平って相当じゃ……

 「ああでも出来なくはなさそうだね~」

 矢崎も何言ってるの!?

 「これでも力仕事はできるからね」

 あ、酪農ってそういうのあるからか。すごいな……

 いつも通りおいしい。近衛曰くよく箱に書いてるカレーの辛さで言うと3らしい。

 「ふむ。あまり食べないから久しぶりな味じゃな」

 「あらそうなの?」

 「シチューとかハヤシライスとか……あまりそういうものを食べた記憶がない」

 なんか意外。

 「運動部系だから結構がっつくのかと」

 「食べるほうではあるんじゃが、如何せん食べるペースの問題があってな」

 そういえばよく噛んでるって言ってたから遅いほうなのか。

 「って灰垣(ロン)こぼしてる」

 「はい? ……げ、袈裟にかかってしまったんじゃな……これはあとでランドリーに行かねばならんな……」

 灰垣は近くのタオルで軽く落として残りはあとでにした。あ、そういえば

 「そうそう、昨日近衛くんに頼まれたやつだいたいの翻訳が出来たよ」

 「左様でございますか!?」

 「翻訳?」

 みんなに軽く説明しつつ、日記の内容に触れる。

 「『F.T.』の日記……?」

 「そう。ここに来るまでの過程……みたいにも取れるけど……所々読めなかったんだよね。多分人とかなんだろうけど」

 

 

 カーン……

 

 

 その音は確かにした。スプーンが手から落ちる音。金室の手からするりと落ちたそれに……ではなく、金室に目がいった。その目は、完全に動揺していた。

 「か、金室さん?」

 「………………まさか、本当に……本当に、うちの…………うちのせいで……みんな、ここ……に……?」

 「え」

 「うちが………………うちが見たから……」

 「おいかなむ」

 「ごめんなさい!!!!」

 バーン!! っとテーブルが音を立て揺れる。

 「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!!!!」

 何がなんなのかさっぱりで、呆然としてしまった。金室はただただ謝り、流れかそのまま膝から崩れ落ちていった。

 「何を謝る必要が……」

 「…………そういうことでございましたか……」

 近衛何かを察した風に言う。

 「何かあったのか」

 「……秘密の封筒を、覚えていらっしゃいますでしょうか。金室殿のやつを受け取ったのはわたくしでございます……」

 あの封筒……まだ私たちを……

 「あれに書かれていた内容はこちらでございます」

 近衛が渡良部に渡す。渡良部は見るよと一言告げながらその中身を取り出す。私は覗き込む形でそれを見た。

 

 

 

 『金室が見たお菓子のおまけにある占いはほぼ的中する』

 

 

 

 占いが的中する……? お菓子のおまけってことは飴とかクッキーとかの……?

 「まさかとは存じましたが……」

 「……つまり金室ちゃんは、フォーチュンクッキーを見たことで不幸が現実になったってことなのかい?」

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、うちがあんなの見たからこんなことに……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 「謝るのはやめろ……多分、お前の推理通りだろ。それと今のでもう1つわかったことがあるぜ」

 「それは?」

 「前回の裁判で言ってたけど、こいつが倉庫に行かなかったってことだ。地雷があるかもしれない、だなんて食料しか入ってない倉庫に対して言えることか?」

 そういえば……いくつかある倉庫のなかでそこに行ったことがないっていうのはなかなか不思議な話だとは思ってたけど……そう考えると納得がいく。確かに何が置いてあるかわからないけど、仮にあったとしたら怖くなる。しかも彼女はそれを自覚してる。なおさらだ。

 「となると日記にある反対したあの子っていうのも金室だろうぜ。良からぬ占い結果を見たせいで…………ったく、ますます『F.T.』の謎も深まる……」

 支えていた人がいたらしいけど、それもわからないんだよな……

 「謎はそれだけじゃないでしょ。このてぃーでぃーなんちゃらってやつ……作り物みたいだけど、計算嫌いが作ったってどういうこと?」

 「まるで機械みたいなコードでもあるな。サポートってことは手伝いロボットか何かか?」

 日記だけでこんなたっぷりな謎なんてお腹いっぱいなんだけど……

 「ん、落ち着いたか」

 「すみ、ませんでし、た……あのっ」

 「言わなくてもいいわよ。金室さんにそういう類いのものを見せないことぐらいみんなで出来るわ。ね?」

 「あっ、ありがとうございます……」

 毒舌家の彼女だけど……些細なところで弱いところもある。私も、そう。まだ、これからも呪縛から逃れられそうにないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オマエラァアアアアアアアア!!!!」

 

 

 はいっ!!? 突然の叫び声にひっくり返った。

 「え、も、モノヤギ?」

 「何のようだ」

 「しらばっくれるなであーる!! 特に灰垣ィ!!!!」

 「ん? わしか?」

 キョトンとして灰垣はなんのこっちゃというご様子。そんな彼にモノヤギはコツコツ音を立てながら迫る。

 「なーに電子生徒手帳壊してるであーるかァアアアアアアアア!!?!!?」

 「電子生徒手帳を壊した?」

 あ、まさかサウナの……

 「ああああああれかあ……やはり壊れてたのか……」

 「壊すなァ!! あれはァどんな爆撃にも衝撃にも水にも強いであーるがァ……熱だけはダメなのであーる!! 熱!! 重要なことであーる!!」

 最初から言いなさいや。

 「……で、どうすればいいんじゃ。別に校則違反ではあるまいて」

 「はあァ……今回は特別に新しい電子生徒手帳を用意したであーる。ただしィ!! 次壊しても知らないであーるからなァ!!!!」

 とイライラしながら新しい電子生徒手帳を渡してモノヤギは出ていった。まあ……それは怒るよね……

 「……解決したか」

 「みたいじゃな」

 ……………………

 「今日はもう、戻るか」

 

 満 場 一 致

 

 *****

 

 

 Ⅰ棟の部屋に戻ってごろんとベッドに寝転がる。ああこのまま寝ちゃいそう。最近頭を使うところが多すぎる。おちおちゆっくりしてられない。

 また倒れる予感がしてる。そんなことになりたくないな。と、目を閉じた。そのまま眠ってしまってもいいかなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し目を閉じていたら、アナウンスが鳴り響いた。時間的にも夜時間じゃないはずなんだけど。すると

 

 

 『嗚呼ァ今回はァ少しお知らせがあるからァ、アナウンスを通じて発表したいと思うのであーる!!』

 

 

 なんの知らせなんだ? 

 

 

 『これはァ、オマエラにィ残念なお知らせなのであーる。よく聞くであーる。ヒィッヒッヒッヒィ……』

 

 

 不気味に笑う声に震える。何なんだ一体。残念な知らせが残念でなかった試しはない。息を飲んでよく聞いてみる。

 

 

 『オマエラの中にィ、ずゥっと前からオマエラを騙し続けてきたァ内通者ァ及び!! 【裏切り者】がいるのであーる!!』

 

 

 裏切り者、私はすぐさまベッドから飛び起きた。金室の予想は当たっていたんだ。

 

 

 『そんなわけでェ早速公表しちゃうのであーる!! 裏切り者の正体はァ…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      『近衛陣であーる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近衛が? 裏切り者?

 「な、何? 何の冗談?? どういうこと!?」

 

 

 『もし嘘だと疑うならァ本人に聞けば分かるであーるからなァ。あとはオマエラで煮るなり焼くなりなんとかかんとかするであーる!! ではではおさらばサンバッ!!』

 

 

 ブツン……

 

 

 無慈悲に途切れるアナウンスが遠く聞こえるくらい、私は勢いよく扉を開け部屋から飛び出していた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 近衛の居場所はどこだ。上の階にいるのか。近衛の部屋の前で戸を叩く。何度も何度も叩く。けれど開く気配はしなかった。ここじゃないの?

 

 

 プルルルル!!!!

 

 

 不意に鳴る生徒手帳。それを取り出し耳に当てながら階段を駆け降りる。

 「だれ!?」

 『わしじゃ!! 今どこにおる!?』

 「今Ⅰ棟!! ここにはいないみたいだった!!」

 『わかった。さっきⅢ棟は隅々まで探したが誰もおらん!!』

 Ⅲ棟には誰もいない。あとⅡ棟とⅣ棟か。

 「私一旦外出るからね!!」

 『了解』

 

 通話を切って外に出ると幾人かそこにいた。近衛の姿はなかった。

 「近衛くんは!?」

 「居なかったよ。Ⅱ棟はすぐにわかるし、あたいはⅢ棟にいたんだけど、そこを探しても居なかった」

 灰垣も言ってたしそこは間違いないのか。

 「Ⅳ棟もいなかったぜ。女子のほうも金室が探してくれた」

 「え、Ⅰ棟にもいなかったよ」

 ドタドタ走る音が聞こえてきた。灰垣がこちらに来ていた。

 「Ⅱ棟のほう、あの部屋も風呂も探したがおらんかった」

 「……じゃあ一体どこに?」

 

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙と静寂が訪れる

 

 

 

 どこだ

 

 

 

 どこにいるんだ?

 

 

 

 焦り

 

 

 

 不安

 

 

 

 心臓が激しくいっている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば……渡良部ちゃんは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たったその一言で全員辺りを見渡す。確かにいない。渡良部が。あと玉柏も……と思ったら木の上にいた。あの姿(・・・)で。

 「玉柏くん!!」

 「………………」

 

 シュッ、何かが私たちに飛んできた。条件反射でそれを受け止める。紙? いや手紙か。投げたと思ったら玉柏は木の上を軽やかに飛んでⅠ棟へ入っていった。そんなことよりと、私は手紙の中身を読んだ。走り書きをしたようでちょっと字が汚い。

 「これは……」

 「【近衛がⅠ棟から出てない。居留守の可能性がある】…………行こう」

 私は走ってもう一度彼のいたところに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ!! ねえってばぁぁあ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上の階から叫び声が聞こえてきた。間違いなく渡良部のだ。まさか本当に居留守? 全員で階段をドタドタと駆け上がる。そこには強く何度も何度もドアをノックする渡良部と玉柏の姿があった。

 「玉柏くん!!」

 『よっ』

 「……何で……さっきも私結構叩いたはずなんだけど……」

 『入れ違いしたんだろな。あとお前灰垣と通話しながら降りたんだろ? そのときに聞こえてたらしい。渡良部は外にいたからな』

 今もなお訴える声に胸が苦しくなる。涙声が混じって余計に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キィィイ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしたとき。近衛の部屋の扉がゆっくりと開いた。近衛の顔がちらりと見えた。瞬間、渡良部がドアを強引に開いて近衛の胸にしがみついた。

 「っ!!」

 「ねえ……本当なの……? 裏切り者……近衛(このえ)なの…………?」

 廊下一帯が静かになる。言いようもないような空気がもどかしい。

 「………………」

 「っ答えてよぉっ!!!!」

 激しく叫ぶ甲高い声で耳がつんざく。近衛の胸を弱々しく叩いては叫び続ける。彼は難しそうな顔をしてそれを受け止めたまま。

 「っどうなの!? ねえ近衛(このえ)!! 答えてよ!! ねえってば!!」

 渡良部は必死になって問う。自分が好きな人が今裏切り者としてモノヤギによって告発されたのだから。何も知らない渡良部は自分の一番身近な仲間をこれ以上失いたくないんだ。

 「近衛(このえ)!!」

 「…………全て事実でございます。わたくしは内通者……もといモノヤギの『裏切り者』でございます」

 「っ!!」

 近衛の口からもあの衝撃の事実。モノヤギの言う通り彼は裏切り者だった。

 なんて酷く滑稽なのか。さっきまで仲睦まじく遊んでいた人が、それよりも前から私たちみんなに尽くしていた人が。裏切り者だったなんて。今でも信じられない。彼は渡良部の手をはらって続ける。

 「……いずれわかるとは存じておりました。しかし、わたくしは訳あってそれを皆様に申し上げることができなかったのでございます」

 「脅されでもしたのか」

 近衛は息を飲んだように見えた。私たちから目を反らして戸を閉めようとした。

 「おいお前!!」

 「()が好きでやってるわけないだろ!!」

 叫ぶ怒鳴り声。こちらを睨む近衛の目が鋭かった。

 「……好きでやるわけないだろ……やりたくなくても、やらなきゃならなかったんだよ!! 仕方がないでしょうが!! 僕に課せられてしまったことなんだ……けど、これが執事の務めなのであれば……別になんてこと……むしろ、他の人に当たらなくてよかったよ……」

 「だからって」

 「じゃあぁぁああなたがたはっ!! 僕と同じ立場にさらされてたらどうなってた!? 僕みたいに、告発されていたらどうなっていた!? こっちは孤独になるかもしれないってずっと怯えてたんだよ!!」

 ドンッと壁によりかかる音が露骨に聞こえる。同時に何か重みのあるジャラジャラとした物の音が聞こえてきた。

 「僕にまとわりついた鎖も見えてないくせして……こっちはっ!! 裏でみんなのことを話すのがしんどくてしんどくてたまらないんだよ!! 他の人がそんな様子だったら僕はもっとたえられなかっただろうね!!? っだから!!」

 そういって近衛は拳を突き出した。何か、受け取れと言う風な素振りを見せて、渡良部がそれに応えるように手のひらを添える。拳が開き何かを渡せば腕は引っ込んだ。手のひらに置かれたもの、それは近衛が常に着けていた片眼鏡(モノクル)だった。

 「今はもう、僕に、近づくな……」

 そういって、彼はドアはバタンっと閉めた。廊下はまた一気に静かになって渡良部はそのまま膝から崩れ落ちる。

 「そん……な………………」

 なんともいえない空気が漂う。

 「……孤独になろうとしたのは……自身ではないんですか……近衛くん」

 金室の毒でさえも弱かった。信頼していた人の株が暴落していく様は見ていてひどくカッコ悪かった。

 「まずいことになったんじゃないかこれは」

 「え?」

 「最悪の場合、近衛が『刺客の七』である可能性があるってことだ」

 「じゃがあの反応されたら……もう確定では」

 「そんなわけないっ!!」

 一瞬で廊下が静かになった。渡良部の嗚咽だけが取り残されて。

 「近衛(リーチ)が……近衛(このえ)が刺客なわけない!! そうじゃなかったら!! あんなっ……あんな辛そうな顔するわけがない!! ったとえ……それが本心じゃなかったとしてもっ……このえはっ、近衛(このえ)は『刺客の七』なんかじゃないッッ!!」

 いつも一緒にいたから、好きだから、信じているからこそ、渡良部は……

 「……今日はどうする。もう夜時間になりそうだがこのままじゃ……」

 『どうもこうも、追うのはよせな。今の近衛に何を言っても無駄。あいつにも頭を冷やす時間を与えなきゃならない。俺たちも少し、舞い上がりすぎた。冷静にならないといけない』

 一度整理しろ、そう言われた気がした。

 それと同時にここに来て間もない頃に鷹山が言っていたことも思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 『いつも生きていた当たり前の生活が当たり前じゃなくなるのって実はかなり恐ろしいんだ』

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今になってこんな形として突き刺さるセリフをぐるぐると反復していく。そう簡単に受け入れろなんてことも、順応しろなんてことも出来やしない。どうしても時間がなくてはならなかった。居心地の悪い空気の中、私たちは解散した。

 

 

 *****

 

 

 衝撃的な告白と近衛の本心をみせられて混乱している中で、渡良部を自分の部屋に招いた。渡良部は相当ショックを受けているのは……一目瞭然。

 「………………どうしよう……気づけたはずなのに……身近に居たからこそ……気づけた……はずなのにっ……」

 ズズッと鼻をすすりながら渡良部は嗚咽をもらす。私はどう声をかけるべきかわからなかった。

 「ねぇぇ……どうしようぉ……」

 ツラそうにしてるのを見ている……けど……そんな顔されるとこっちもやるせない気持ちになる。

 「どうしようって……っ……」

 どうすればいいのか、どうすればいいのか。考えようとするたびにその答えは余計に見つからない。

 「…………ねえ直樹(なおき)、あんたには見えた? あのとき……近衛(このえ)が泣いてたの……」

 「っ!?」

 全くわからなかった。気づかなかった。

 「苦しんでるの……近衛(このえ)はずっと苦しんでるの……!! でもそんな彼に、何かしてあげられないかなって……考えてもわからなくてっ……嫌だ……いやだ……いろんなところで殺人が起こってるの……もう、いつ私が殺されるかもわからないのに………………怖くて怖くて仕方がないよ……」

 「!!!? わ、渡良部さんっ、それって」

 「もうっ、いやだよっ……たった今死んだ人もいるのに!!」

 まさか渡良部は……コロシアイの人数把握を……? いやでもここで死んでる人は七人……それ以上の人が死んでるってこと?

 「壊れそう……自分が、壊れそうだよ………………」

 「っ……」

 弱々しい嗚咽がずっと止まらない。仕方がないんだ。私は思わず渡良部の手を取って握りしめてみた。少しでも、少しだけでもいいから、彼女の不安が取り除けたら……そんな淡い祈りをしながら。 

 「ごめん……手握ったままでいて……」

 「……わかった」

 不安なんだって。わかってる。けどそのわかってるが『つもり』になってるような自分がとても嫌になってきた。でもそんな私を見透かすように渡良部が肩に頭を置いてきた。

 直感で私は触ってはいけないと感じた。彼女が求めているのは私ではなく近衛()なのだから。

 非日常が日常だった渡良部が、なおも非日常に揉まれる状況で、彼の救いをどれだけ求めているのか。私はあれ以上のことを何も聞かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 __________________

 

 

 

 

      枝は垂れても嘘をつく

 

 

 

       芝に潜んだ臆病さ

 

 

 

       重さ8とて教育上よ

 

 

 

     山の綺麗に見とれるべからず

 

 

 

        冬の寒さは

 

 

 

      冷たく静かで笑ってる

 

 

 

        1人のソナタ

 

 

 

        彼岸を見届けん

 

 

 

       そうわたしは刺客だ

 

 

 

         刺客の七だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ………………………………

 

 

 

      ふふふふふ…………

 

 

 

      ははははは!!!!

 

 

 

       さあサイコロ

 

 

 

       何を『うつす』

 

 

 

        何を示す

 

 

 

        モノヤギも

 

 

 

    モノリュウも知らなかった!!

 

 

 

    わたしの本当のすべてを!!

 

 

 

     さあ暴いてみせろ!!

 

 

 

    この骰が再び投げられたとき!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    『刺客の七』が動き出す 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _________________

 

 

 

 

 

 

 

 

         →to be continue……

 

 

 



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第四章(非)日常編 石でいもりを4部屋目


 だいぶ遅れましたけどpixivのほうでは現在裁判前半まで出せてます。はい、ハーメルンはよく忘れる(言い訳すな)とりあえず私は生きてます



 石でいもりを4部屋目。標的は誰だ



 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 突然視点が変わることがあります。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 わかってる

 

 

 守らなきゃならない

 

 

 主人を失った自分が

 

 

 今どれだけの罪を重ねているか

 

 

 情けない

 

 

 こんなことでいいはずがない

 

 

 早く主人を

 

 

 主人を取り戻さないと

 

 

 でなければ本当に自分は

 

 

 壊されてしまうのだから

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 18日目

 

 

 アナウンスと一緒に目が覚めたら目の前に直樹がいた。えっ、もしかしてそのまま寝てた? 声を出そうとするとかすっかす。泣いたせいで水分が足りてない。

 …………未だに近衛の言葉を受け入れられてない自分がいる。本当はわかっていた。彼の気持ち。だって……………………だから。でも好きでしてるわけじゃない。だからたまに素が出る。向こうも同じ。

 淡い期待を持ちながら接していたらいつの間にか自分に迷いが生まれていた。本気になっていいのかを。

 あんなことになるなら……今になってそう思う後悔。でももしあのとき渡したのがこれじゃないとすれば……少しでも、期待を持っていいのかななんて。信じていていいのかなんて。

 別れたくない。離れたくない。一緒に居たい。わがままだけど、私は本当の普通を知らない。世間の普通のほとんどを知らない。

 でもそれより恐ろしいことは、近衛の本心を何も知らずすべてが終わること。聞くこと自体彼を抉る可能性は大いにある。でもさ……わかってるでしょ? 私の諦めは悪いって。

 ふと直樹のことを見てみると、どこか幸せそうな顔しながら寝ている。あんたって頑固だけどそういうところは子どもみたい。

 

 

 

 

 

 ねえ、あんたは知ってるかな

 

 ○○○○の●●●を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 ガバッ!!

 

 

 「わっびっくりした!?」

 「あれ、渡良部さん……!?」

 何か聞こえた気がして飛び起きたら渡良部に驚かれた。

 「……寝落ち?」

 「寝落ちだけど」

 私最近大丈夫かな大丈夫じゃないよねこれ。

 「突然起きるからびっくりしたじゃん……」

 それはごめん。…………顔色、まだちょっとだけ悪いな……

 「…………今日、近衛(このえ)来る……かな」

 「……わからない」

 無責任に来るなんて言えやしない。

 「だよね…………会ってみようかな……」

 「え?」

 まさか自分から?

 「多分、彼からすれば今一人なのって一番いけないことだと思う。それに……もう自分のこと伝えられないって考えると怖いから……どんな反応でもいいから……」

 震え混じりの台詞には恐れがあった気がした。

 「一度食堂行ってみよっか。いるかどうかはわからないけど」

 「…………うん」

 私たちはそれぞれ準備をして食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

ドーンッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 パラパラパラパラ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 アンタは知ってる

 

 

 表の世界と裏の世界を

 

 

 アンタはその裏を見てきた人だろ

 

 

 けど、裏の人も必ず表を見る

 

 

 いつかって?

 

 

 ………………大きな花が咲いたとき

 

 

 間違われて嫌気が差すより

 

 

 蔑まれて生きていくより

 

 

 何よりも惹き付けるのはそんなもの

 

 

 いつの間にか惹き付けてくれるもの

 

 

 一瞬でも心が少し晴れる気がするもの

 

 

 きっとわかるだろよ

 

 

 そんな人が現れるから

 

 

 俺はその道標でいい

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 あれ、なんで?

 

 

 今……なんか

 

 

 チクって頭の端が痛んだ気が…………

 

 

 気のせい?

 

 

 ……にしてもリアルすぎ

 

 

 私は何を忘れてるの……?

 

 

 眩しく夜に光る

 

 

 大きな大きな花に映ったのは

 

 

 確か………………近衛の好きな…………

 

 

 **********

 

 [newpage]

 

 食堂へ行ってみると灰垣がそこにいた。

 「おはよう。……なんだか少し前に似たようなことがあったな」

 「おはようっていや既視感はあったけども」

 ほぼ状況同じだよ。灰垣が椅子に座ってるか座ってないかの差しかないよ。

 「……ねえ、厨房に誰かいる?」

 「いるぞ…………もっとも、近衛ではなく金室じゃがな」

 そう……と渡良部は肩を落とす。なんとなく予想はしていたけど来てないのか。

 「昨日の今日ですぐに立ち直るのは難しい。じゃが、あやつの心の問題でもある。裏切り者とはいえ……甘い考えなどしてられんのも事実なんじゃ」

 「…………知ってるよそんなの」

 八つ当たりするように呟いて席についた。暗い表情が戻らない。

 「お前さんがどれだけ思っても無駄じゃ。ただ信じろ。信じてやれ」

 「そりゃ……ね」

 少ししんみりとした空気が漂う。それがあの臭いで消される。同時に厨房から金室が顔を出した。

 「皆さんおはようございます」

 おはようと挨拶したら、彼女は周りを見る。

 「まだ全員来ていないんですね。矢崎さんがいれば相談したいことあったんですけど」

 「呼んだかい?」

 噂をすれば矢崎がやってきた。他にもまだ来てない面子もぞろぞろと。挨拶を済ませ席につく。ただやっぱり近衛は部屋に籠っているんだろう。

 「金室ちゃんなーにかあったかい?」

 「ええ、今近衛くんがあの状態ではうちらで食事を作るのを回したほうがいいかなと思ったんです」

 「それもそうだね。ならお昼あたいがやるよ」

 「では夜はうちが。明日は逆にしていきましょう」

 どうやら食事担当の話みたいだ。確かにそのこと考えてなかった。

 「……ダメだなぁ……簡単に割りきれない……」

 「そう簡単に割り切れるものでもないですよ。特に今回は……」

 信頼の厚さゆえ、彼が裏切り者であることに未だ納得がいかない。

 

 

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 僕と同じ立場にさらされてたらどうなってた!? 僕みたいに、告発されていたらどうなっていた!?

 __________________

 

 

 …………確かにどうなっていたんだろう。

 なんだかもやもやした気分で朝食は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 晴れない心の中、外でぶらぶら散歩をする。するとザアアアアアアッとⅣ棟から音が聞こえた。もしかして今日はプールの清掃の日かな。定期的にやるとは言っていたし不思議じゃないか。ある一本の木に私は寄りかかった。

 ……近衛とは話せそうにないよね。出来れば話くらい聞きたかったけどあの突き放されかたされたら……

 「どうした」

 「!!」

 どこからか玉柏の声が聞こえてきた。辺りをキョロキョロしても見当たらない。

 「そのまま話をしたい。こちらを向かなくていい。ただ木に寄りかかりな」

 直感的に玉柏は木越しにいるとわかった。返事をしたら、また向こうから話した。

 「近衛のことどう思ってる」

 「それは……あまりよくない状態だと思ってるよ……渡良部さんも言ってた」

 「果たしてそいつがあってるか否かだな。…………悪いが、俺は逆だとも考えている」

 「逆……?」

 「もしこちらに立つ気でいながら突き放した場合、近衛はモノヤギからいろんな情報を手に入れるんだろうとな。脅されていようと、情報があるのとないのでは天地の差。意地でも持ったままだろうな」

 「そんなことできるのかな……」

 正直モノヤギが口を割るとは思えない。モノリュウの存在すら今危ういのに。

 「あいつは自分と向き合えてない。向き合えられない。苦しめている鎖がガチガチな限りな。近衛が自ら変わる努力をしないと……結局どうにもならない」

 「……ねえ君はどこまでわかってるの。ここについて」

 「そんなのわかっちゃないな。ここがどこかなんて」

 知ってそうではあるけどやっぱり知らないんだ。

 「俺からも聞いていいか」

 「どうぞ」

 「…………お前の感じた殺気、何か違いとかあったか」

 「っ……」

 殺気、そんなのどれも恐ろしいもので怖い。寒気がしてくるもの。あ、でも

 「……玉柏くんが才能を明かしたあの日みんな倒れたでしょ? あれのときも怖かったんだけど……なんか、怒ってるみたいだった」

 「怒ってる?」

 拍子抜けみたいな間抜けな声が聞こえた。

 「そう。誰かに対してとても怒ってて、けど……どこか悲しそうだった気がする。けど前のあれは違う。完全に殺気で溢れてた」

 「ずいぶんと差があるのか。……殺気で溢れていながら殺されなかったのは幸いというべきなのか考えるだけで阿呆だな…………」

 「まあね……」

 無事とはいえ全くその通り。

 「………………盗賊ってのはな、いろんなものを盗むもんだがな。…………ああいうものは盗みたくても盗めないものなんだよ。不を除き良を生む……簡単にできるもんじゃない。その人の心一つで変わるもんだからな……」

 「…………」

 「生きるための才能……俺にはこの才能なしではいられない。けど……どうも引っ掛かる。橘の言葉が」

 

 『才能に違和感がある』

 

 レコーダーに遺されていたあの台詞。仮にそれが本当だとしても、玉柏が盗賊でないのならば本当はどんな才能なんだろう。

 「例え才能があったとしてもなかったとしても、俺は模倣者ではない。そんなの盗みたくない。もしも別の才能と呼ばれても、俺はまだ賊でありたい。生きる目的も何も、まだ決めきれてない。ガンだって……あいつだって……まだ面倒見切れてないんだからな……」

 

 

        “賊でありたい”

 

 

 彼の本音なんだろう。けど賊である限り玉柏は世間に追われる。生きるための手段なのはわかるけど、それを肯定することは100%できるものではない。かといって私が否定するのもおかしい話だ。

 「自分の生き方にある程度の目処がついたところで俺は賊から外れる。いつになるかは全くわからないけどな」

 漂う煙草の煙が煽ってくる。どこか依存的なもの感じて、煙に慣れた自分もいる。

 「時間が掛かってでもやらなきゃならない」

 それは今まで賊として生きてきた意地なんだと察するのは簡単だった。

 「とかなんとか抜かしてるけどな、俺は俺で二人にしごかれてるんだよなぁ」

 と思った矢先にすごい爆弾。

 「しごかれてるの?」

 「そりゃな…………俺はマントとかマスクとかで誤魔化して入るけどな。演じるのはあんまり得意じゃなくてな」

 意外。てっきりそういうの得意そうなんだけど。

 「演じようとすると表情筋が死ぬんだよ。悪役に見えるってな」

 「いや悪役でしょ」

 「そうきっぱり言わなくてもいいだろ」

 なんか拗ねてる。思わず小さく吹いた。

 「だからよく言われる。笑うのが下手ってな」

 「最近結構表情豊かじゃない?」

 思えば最近になって表情柔らかい気がする。

 「昔はよく怖いって言われてたんだよ」

 「うんごめんそれはわかる」

 「ひどっ!?」

 少しは否定してくれとまた拗ねられた。

 「んっ、ンーー!!!!」

 「伸びてる?」

 「伸びてるッ……ふう……」

 ガサッと音がしてなんだろうと思わず振り向いたら……寝る態勢に入ってた。

 「またかよ」

 「いいだろ別に。それに最近昼寝してないんだよ」

 私も最近まともに昼寝した記憶ないや。おとといのは仮眠だし。

 「晴れた日にこうやって寝るとな、落ち着けるんだよ。んじゃ、昼まで寝てる」

 そういって即寝た。はやいわ。これ私起こすべきかどうかを悩むんだけど…………いっか。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 まだお昼には早すぎる。少し放送室で音楽でも聞こう。

 

 

 ガサガサガサッ……

 

 

 「っ!! だれっ!!」

 何かがさがさ音が聞こえる。神経を尖らせて音がした方向に行く。そこには……思わぬやつがいた。

 「なっ……なんだ直樹であーるかァ……びっくりさせるなであーる」

 モノヤギだった。

 「びっくりさせるなって……それこっちのセリフだよ!! なんでお前がここに!!」

 「そうカリカリしないで欲しいであーる。ワレにだってェやることの一つや二つあるであーる。どうせェ、監視カメラの内容はワレにはわかっているであーるからなァ」

 私のことなんて見向きもせず、モノヤギはひたすら放送室にあった資料を漁っていた。

 「…………? どうしたであーる。オマエはやることがあって来たのではないんであーるかァ?」

 「いやっ、そうだけど落ち着かないでしょ」

 「まあそこは許して欲しいであーる。これでも考えているんであーる」

 そういいながらモノヤギはCDをプレイヤーに入れて音楽をかけた。ピアノのメドレーみたいだ。

 「…………何調べてるの」

 もういっそのこと当たって砕けてやる。モノヤギの企み。

 「……オシオキの内容を考えていた……とでも言えばいいであーるかァ?」

 「っ!!」

 「冗談であーる。もうそれは終わっているであーる。ワレの目的は………………」

 冗談キツイと思ったら今度は黙った。

 「『オマエラの思考を止めないこと』。それだけであーる」

 「は?」

 思考を止めないこと? なんだそれは。

 「忠実であればあるほど、悪いことをしたはずなのにそれを悪くないと認識させられるゥ……オマエはァその自覚があるであーるかァ?」

 「いやよくわからないんだけど……」

 「仕方ないであーるかァ。突然言われてもわからないものでもあーるしなァ?」

 結局なんなんだ。

 「…………昔、完全悪として公開裁判に架けられた人がいるであーる。それをォ見に行った人がいるゥ。そいつが見た光景はァ、完全悪と謳われた人が普通の一般市民と変わらぬ姿であったァ……」

 その話どこかで聞いたことがある。

 「同胞を失ってまで、自分が見たものを伝えた女性の話。知ってるよ」

 「なら早いであーるなァ。…………自分で考えることを忘れるなよ。自分で出した決断に他人の押し付けで簡単にペケをつけるなよ。オマエには、オマエラにはまだワレラに逆らえる。その気持ち、忘れるなよ」

 「えっ。ま、待って!? モノヤギそれどういう意味!!?」

 「…………『アイツ』はワレラに逆らう力を得たァ。この世界で、この空間で。証明されたからなァ。凡庸で、陳腐な悪党ゥ……ワレはまだそれでいいんであーる」

 ではではァッ!! とモノヤギはその場からそそくさと立ち去った。なんだあの意味ありげな発言は……

 ピアノの音は何もかも不協和音にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 ゆっくり音楽を聞く気きもなれず、そのままお昼になって食事を取った。やっぱり近衛の姿はどこにもなかった。そのあと部屋に戻ってベッドに入った。……さっき玉柏も言ってたししばらくシエスタするのもいいかな。何もしないでゆっくり休む時間は欲しくなるし。

 もうすぐここにきて三週間になる。コロシアイが起きるのが早すぎて体が追い付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わかってる

 私がどんな人なのかなんて

 こんな冷静になってるなんて、おかしい

 それは狂った自分の中身なのも

 変なところで冷静で、淡白で

 きっとこの中で一番異常なのは自分なんだ

 異常の泥濘に溺れてばかりで、

 私は結局追い詰めることしかしてない

 けど治らない

 見てきた世界が違う

 そんな認識が治らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鷹山みたいにこそあどで話してばかりな人

 

 

 江上みたいに努力してるけど不安になることもある人

 

 

 宮原みたいに傷付けることを望まない平和主義の人

 

 

 阪本みたいに弱さを隠し続ける人

 

 

 ダグラスみたいにトラウマ持ちの人

 

 

 橘みたいに伝えることに不器用になる人

 

 

 巡間みたいに歪んだエゴを持つ人

 

 

 

 ………………言っている意味がわからない人もいた。けど私の中でそんなの別に『そういう人もいる』で割り切れてしまう。そういう自分も抉られたりドッキリみたいな感じ以外なら特に冷静。いや、危機感がないんだ。感じてるはずなのに焦ってない。まだいいや、まだいいやなんて、テスト前みたいな状態。

 

 

 

 

 

 潜んだ影に光が射すとは限らない

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 ごちゃごちゃした頭で寝るのは難しいとはよく言う。一回外歩くかな。今2時くらいか。とりあえずⅡ棟に入ってみよう。

 ………………なんか、変な感じが……

 

 ギィィイ……

 

 目の前の扉が開けられた。そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  拳銃を片手に持った国門の姿があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「く、国門くん!!?」

 思わず後退りして身構える。

 「……なんだお前か」

 「いやっそれっ……」

 「ああこれか? 安心しろ。これはただのBB銃だ」

 そういうと近くの空き缶に向かって引き金を引く。パンっという音と共に空き缶が飛び跳ねる。

 「びっくりさせて悪い。これから戻しに行くんだ」

 「……Ⅰ棟にあったやつ?」

 「そうそう」

 自嘲気味に笑って、どこか悲しそうにうつむく。すると部屋に戻ってソファに腰かけた。私も続いて反対側に。

 「…………昔、僕は裁判でミスを犯した」

 彼は唐突に昔話のように語り始めた。

 「一度だけ、たった一個の証拠を見落としたがために、僕は依頼人を守ることができなかった。その証拠は被告人の有罪無罪を大きく左右するものだった」

 重苦しい話なのに、なんでか国門は穏やかに語ってる。いや穏やかなんじゃなくて……

 「本当は見落としなんてしてなかった。嵌められたんだ。依頼人に、被告人に……」

 諦めてるんだ。目に光が見えない。まるで別人のよう。

 「そのときはなんでかわからなくて、判決が出た後に調べあげた。結果、びっくりするくらい計画的で周到で僕を嵌めるためだけに行われた犯行なのがわかった。当時はその界隈じゃ有名だったせいかな。厄介者だったんだよ」

 「厄介……者」

 「すべてに裏切られたのを知って僕はドン底に落とされた気分になった。真実を知るのがこんなにもおぞましく思えたのも初めてだった。誰かのためとかそんなの中途半端で、実際求められるのは真実に隠されたおべっかな『裏』だって。おせっかいなうわべ真実なんていらなかったんだって。けど……察しがついたときには既に僕は自我を保ってなかった」

 「……どういうこと?」

 「嵌めたやつらに詰められそうになった。穏やかそうな顔の裏に貼り付いた不気味な笑顔が、今も僕の頭から離れやしてくれない!!!!」

 弱ったかな、と震える声でそう呟いた。

 「心の底を……そいつに覗き込まれている感覚だった。全て見透かされて言いたいこと全部そのまんま言われた。忘れもしない……僕の頬を撫でた手の感触を。あの後何されたのは……思い出したくない記憶だ」

 少なくとも良くないってことは伝わってくる。鳥肌が立ってきた。

 「狂いそうになって、法を求めた自分が段々と消えかかってきた。法律ってなんだろう、従うべきものはなんだろうと」

 そういえば法に厳しいはずの国門があまり法に触れなくなってる気がする。もしかして…… 

 「侵食する人格がさらに自分をさ迷う。そのとき自分がどうしていたかの記憶が消えていく。人格に支配されていってるのがよくわかるよ」

 いつの間にか組まれた指先に落ち着きがない。と思ったらおもむろにポケットから何かを取り出した。よくよく見るとそれは小さな小さなカレンダー付きのメモノートだった。

 「そんなときに目に入ったんだよ。カレンダーが……普段何気なく使ってるそれが。毎日が誰かにとっての特別な日。そんな特別を……楽しみたいと思うようになった。それで現実から逃げたいとも」

 それはまるで『麻薬』みたいで、国門は小声で言った。

 「もちろん勉強でもある。けどそれに執着していたら、もはやそれらに依存してる。それらが悪いとは言わない。そうでなきゃ生きられない人がいるのも知ってる」

 わかってる。でも意見が分かれたりするってことか。

 「毎回される現実から逃れたいからカレンダーを見る。何も書いてないならどんな日かを想像すればいい。そして後から調べてどんな発見があるのかを楽しむ。拠り所になってったよ。いつの間にか。でもそう甘くなかった。だからこそ僕はこんなことになってるんだけど」

 「……日にちが今わからないけど大丈夫なの……?」

 「別に。その日その日の特別を探せばいいだけ。いいか」

 うおっ!!? 私の顔におもいっきり指をさしてきた。

 「毎日が同じだとは限らない。昨日はプールに行って遊んだ。一昨日は資料探した。それだけでもある種の『特別』ってやつなんだ。そんな些細なことでいい。語呂合わせだってドンとこい。ここまでの思い出も、みんなのおかげなんだ。侵食されるまでに……やれることをやるだけだ」

 決意を表すようにそう言う。けどやっぱり目に光がないのに不安が募る。

 いやいや、信じてあげなきゃダメだって私!!

 「国門くんがどうにかなったら私たちがなんとかする。それしかない、よね」

 「少なくとも僕の力では何もできないし、そこは任せるよ」

 二人で肩をすくめては苦笑した。

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 国門の話を終える。……こんなことなんてありなのか。多分まだわかってない。一度噴水の目の前に座ろう。目の前のザアアアッという音がよく聞こえる。

 

 

 

 

 ドンッ!!

 

 

 

 

 「わ!??」

 ビックリした!? 誰かが突進してきたのか? 首だけ振り向いてみると渡良部がそこにいた。

 「わ、渡良部さん!?」

 「……とりあえず、伝えること、伝えたから」

 その声は少しだけ震えていた。って伝えた? まさか

 「近衛くんに会ったの?」

 「……うん」

 彼女はコクンとゆっくり頷いて、顔を上げた。

 「全部、伝えた…………やっと、やっとすべてわかったんだ……」

 私はそれにどう反応するべきか悩んだ。下手に聞くのも野暮だと思ったから。けど振り向きはしないとと思って体ごと振り向いた。

 「向こうは……私のこと、嫌い(・・)だったみたい」

 「え?」

 「……そのまんま」

 待って待って待って? え? 近衛は渡良部が? 嫌い?

 「でも……別に悪い意味とかそういうのじゃなくて……それが形っていうか……」

 なんか一気に不安になってきたんだけどドユコト

 「理解できてないでしょ」

 ハイデキテナイデスゴメンナサイ

 「いや、なんか……今までまともに喧嘩とか争いとかってしたことなかったみたいで……」

 「平和かよ。ていうか近衛くんは一体何を期待してたの?」

 「……もともと不自由も疑問も何もなくて、ただそれが本当だって信じて疑わなかったんだって」

 箱入りかっ。

 「けどそのときどうしても、気になったんだって。どうして周りはあんなに争うのに、自分は恵まれすぎているんだろうって」

 恵まれすぎ、なんて言葉が出せるのは彼の生まれなのか。

 「けどお嬢様は違ったみたい。常に同じ立場でいたからむしろ背中預けてて。でも好きにまではならなかった。理由はわからないけど……でもそういうのがあったからお嬢様と約束したみたい。その内容まではさすがに教えてくれなかったけど」

 まあ、そうだろうね……

 「少し脱線した。私のこと嫌いっていうのは、……まあ変な呼び方してるからなんだけど」

 ごめんなんかわかっちゃったわそれ。

 「でも近衛(このえ)に渡した押し花は大事にしてるって。使った花がやっぱり近衛の好きなやつだったのもあって、あのとき本心で喜んでてね……」

 渡良部は嬉しそうに微笑んで話してる。それはまるで幼い少女のよう。

 「まだあんたらみたいな関係になるのは無理かもだけど、近いうちにでもそうなれたらなって言ったらさ……抱き締められて」

 大胆だなおい。

 「今はまだ自分の問題があるから後で答え言ってもいいかだって。……それが今夜とかね……なんて、期待しすぎかな!!」

 へにゃっと笑いながらちょっと泣いてる。そんな姿を見てられなくて、自分から抱きついていった。

 「な、直樹(なおき)!?」

 「…………二人は……ちゃんと一緒になる思うから……」

 仲良く過ごす姿はみんなが見てる。たとえそれが真の告白でなくとも、伝えたいものは案外伝わってるものだから。そんな保障はどこにもないけれど、失ったあとで気づいて欲しくないから。

 「……大丈夫、だよね……」

 「うん、大丈夫、大丈夫だから……」

 渡良部が小さく泣いてる。不安なんだって。それで一杯なんだって。

 無責任なセリフばかりでごめんね。でも私は心から君のことを心配してる。近衛の答えがどうなるかは気になるけれど、報われるって信じてるから。

 近くにいたってすれ違いが起きるのは、私はよく知ってる。だけどそれが解決しないまま別れれば、絶対後悔する。だから……後悔しないでね。

 

  

 

 **********

 

 

 

 あの後特に何かしたいこともなくて、Ⅱ棟に戻ってカフェで本読んだりコーヒー飲んだりして時間を潰した。そんなことして6時になる前に、少し早めに食堂に行った。そこには矢崎が先にいた。けれど他には誰もいなかった。

 「はやいね」

 「やることなくなっちゃったからねぇ。ま、もう少ししたら夕飯の時間だから先に居ようと思って」

 「……あ、夜は金室さんか」

 「そう。今まで近衛くんに任せていた分、あたいたちでうまく調節しなきゃならないからね。未だあたいは彼に会えてないし」

 ……今日近衛と会ったって話を聞いたのは渡良部だけ…………

 「下手に首を突っ込めばまたおかしなことになっちゃうから、そういうのは避けておきたいからね。ちょっと厨房で飲み物取ってくるかい?」

 「今はいいや。ありがとう」

 「わかったよ。じゃあ、あたいは取ってくるから」

 そういって厨房に矢崎が入っていった。それと同時に湊川が食堂に入ってきた。

 「あ、湊川さん」

 「はやいわね」

 このやり取りさっきもしたよ。

 「今矢崎さんが自分の飲み物取りにいってるよ」

 「ちょうどすれ違ったのね」

 湊川は私の目の前の席に座る。しばらく湊川は考えるように腕を組んだ。なんだか真剣そうに

 「……ねえ直樹さん。ちょっと気になること聞いていいかしら」

 「え、どうしたの改まって」

 唐突でなんか怖い

 「……今日ってプール清掃の日?」

 「え?」

 プールの清掃の日? 一体なんのことだ?

 「いや私は、わかんないや……あ、でもそうなんじゃないかな?」

 「……理由聞いていい?」

 「清掃の日って水抜きしてたの覚えてる? あれの音が外からでも聞こえていたから」

 「…………だとしたら変なのよ」

 変? 疑問に首をかしげる。

 「今思えば余計に変に感じることがあるの……だって4時前にプールのほうちょっと見たけど清掃中って看板なかったのよ?」

 「そういえば清掃中は看板置くって言ってたけど」

 清掃中に私たちは入ることはできないし………………まさか……

 「……ねえ、一回プール寄ってみよう。そのほうがいいと思う」

 「ええ」

 私たちは一度プールに寄ることにした。どこか嫌な予感が私の脳裏によぎっていた。少し走るように向かう。

 時刻は6時を指していた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 Ⅳ棟内に入った瞬間、自分の体が強張った。感じてはいけないことを感じている気分で。カッコつけてあとから怖くなる愚か者のような感覚。けどそんなこと考える暇はないと思って走って階段を昇ろうとした。

 突然それは襲った。足が何かに引っ掛かって躓く。同時に引っ掛かったものが音を立てて倒れた。

 「うわっ!!? えっなに!?」

 「直樹さん大丈夫!?」

 倒れたものに目を向けるとそれはマネキンだった。一階はマネキンやら写真やらで特にこれといったものはなかったけど、マネキンに引っ掛かるとは思わなかった。とりあえずマネキンを立たせて二階へ。

 プールのほうは特に何の変哲もなかった。でも、妙に、誰かいると、漠然とした直感がよぎる。二人で電子生徒手帳をかざし更衣室へ、そしてプール内へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   そこには目を疑う光景が広がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理解出来なかった

 

 

 ねえ

 

 

 これなんの冗談?

 

 

 お願い

 

 

 どうして?

 

 

 どうして今そんな風になっているの?

 

 

 起きて

 

 

 ざっと水の音が聞こえる

 

 

 ねえ、……説明してよ……

 

 

 お願いだから…………

 

 

 目を……さましてよ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぴちゃぴちゃとこぼれ

 

 

 床に水面が浮かぶ

 

 

 濡れた全身が冷やされた

 

 

 だらけた体

 

 

 否、それは支えられていた

 

 

 それは濡れていた

 

 

 ずぶ濡れ道化が顔を伏せる

 

 

 その先には…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな(一瞬)で死ぬなんてこと……

 

 

 

 

 

 

 ないって……ねえ…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめっ……んなさい……っ……」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 “超高校級の執事”近衛陣が濡れた体で動かぬ“超高校級の雀士”渡良部美南を両手で抱えて呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

      枝は垂れても嘘をつく

 

 

 

       芝に潜んだ臆病さ

 

 

 

       重さ8とて教育上よ

 

 

 

     山の綺麗に見とれるべからず

 

 

 

         冬の寒さは

 

 

 

       冷たく静かで笑ってる

 

 

 

        1人のソナタ

 

 

        彼岸を見届けん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      そうわたしは刺客だ

 

 

        刺客の七だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    あなたは気付けず地に埋まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四章 非日常編 獅子の舞踏と5部屋目

 捜査編です。結構難航してた上裁判もごちゃごちゃしちゃっているのでそこは、まあ、温かい目で見てくださると嬉しいです。

 獅子の舞踏と5部屋目
 あなたは何と踊り狂うのか?


 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 あと主の文才は期待しないでください。 

 突然視点が変わることがあります。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「こ、これって……」

 「っくそ!! っくそ!!!!」

 近衛が渡良部を引き上げたのか。二人は完全にずぶ濡れだ。燕尾服は窓近くに放り投げられていた。

 声が出なかった。ショックが大きすぎる。

 

 ガチャッ

 

 「……!! 直樹ちゃん!! 湊川ちゃん!! 一体どうしたんだい!! ……って近衛くん?」

 振り向くと矢崎がやってきていた。

 「実は渡良部さんが……」

 「渡良部ちゃんが? 近衛くんちょっといいかい?」

 「え、無駄だとは思いますが……」

 矢崎が渡良部の首で脈を計る。彼女は首を横に振った。

 「そんなっ」

 「相当冷えてるけど、多分一時間以上は経ってるよ」

 残酷なことを告げられて私は膝から崩れ落ちた。近衛も未だ項垂れたままだった。

 「とりあえずみんなに連絡しておかないと行けないね。湊川ちゃん放送室でアナウンスできるかい?」

 「た、多分」

 「それと」

 矢崎が湊川に何かを耳打ちしたあと、急いでこの場を離れていく。

 「矢崎……紫陽花……なぜそんなに冷静で」

 「冷静じゃないよ。冷酷なだけ」

 矢崎が冷酷だなんて思えないんだけど……

 「言ったはずだよ。あたいは他者の死にあまり関心を抱けない…………それにしても変だね。四人も来てて死体発見アナウンスが鳴らないなんて……」

 あれ? 本当だ。アナウンスはクロ以外の三人が死体を見たときにされるはず……それがないのは一体……

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン…………

 

 

 

 

 『緊急事態発生、緊急事態発生!! 全員Ⅳ棟のプールに来て頂戴!! 繰り返すわ!! 全員Ⅳ棟のプールに来て頂戴!!!!』

 

 

 アナウンスが鳴り響く。これは湊川のアナウンスだ。これでちゃんと人が来てくれるかな。冷たい風が私たちの髪を煽る。

 しばらくしたときに2つの更衣室から湊川と灰垣が出てきた。一瞬カシャッと音がした気がした。

 「何があった!! っ!!」

 「見ての通りよ。アナウンスの仕方変えたけど何があったかはわかりやすくしたつもりよ」

 死体発見アナウンスと混じったらいけないと考えた湊川の配慮なのかな。

 「……渡良部さん…………」

 私たちは渡良部を見つめる。苦しそうなのに、とても綺麗な顔してるのは元からそうだったからなのか。苦しい世界で生きていても、そこで強く生きようとしていた君の表れなのかな……

 「もっと、早く気づいてあげられれば……私は気付けたはずなのに……」

 湊川はひどく後悔してる。気付けるチャンスがあったはずだったから。でもそれは私もそうだ。あのとき別れてからそんなに経ってないんだ。まだモノヤギファイルがないけれど、どうなんだろう。

 「くそっ……どうして……どうしてこんなっ!!」

 近衛も渡良部を抱えながら叫ぶ。

 「……つらいのはわかるが、くよくよもしてられんじゃろ」

 灰垣の言葉にみんなが振り向くと、近衛に向かって燕尾服を渡す。

 「さっさと着替えんか。そんな体じゃ風邪を引く」

 「……ありがとう、ございます……」

 服を受け取ったと同時に残りの三人もやって来た。

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン……

 

 

 

 

 

 『死体が発見されたであーる!! 死体が発見されたであーる!!』

 

 

 

 

 

 そのアナウンスは、全員が揃ったタイミングで鳴らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒッヒッヒィ、ついに出ちゃったであーるなァ?」

 渡良部のコスプレ姿で現れたモノヤギにもういい加減うんざりだ。

 「……モノヤギ、これは一体どういうことです。死体発見アナウンスはクロ以外の三人が見たら鳴るはずですよね?」

 「それなんであーるがァ……人数が減ってきている今ァ、そんなことしてたら犯人がすぐバレると思ったんであーるよォ!! だから今回は全員が来たタイミングでアナウンスを出したであーる!!」

 確かに、今ここにいるのは八人。クロ以外となると犯人が五人にまで絞られるのか……

 「なーるほどね。どーりで鳴らないわけだね」

 「しかしィ、運命ダイスはもう振られていないというのにィまだそれが動いているみたいであーるなァ? 渡良部の死は運命か必然かァ…………ヒッヒッヒィ、おもしろいことになるであーるなァ!!」

 どこもおもしろいところなんてない。特に友達……いや、親友だと思っていた人が、こんなになってるのは……正直見たくなかった……っ……

 「…………まァ、今回はワレもびっくりであったがなァ……このタイミングで、本当に動くとはァ……」

 「は?」

 「そんなことよりィ、いつものモノヤギファイルを持ってきたであーる!! 頑張って捜査するであーる!! あそうそうゥ、捜査時間中は男子更衣室も女子更衣室も行き来自由であーるからなァ!!」

 はぐらかした。けど、モノヤギがびっくりしたって一体どういうことだ……? そう思ってたらすでにモノヤギはいなかった。

 「直樹さん、これ」

 「あ、ありがとう湊川さん」

 ぼーっとしてたら湊川にモノヤギファイルを渡された。

 …………捜査開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      **********

         捜査開始

      **********

 

 

 

 

 「そういえば渡良部さんの検死、どうするのよ?」

 「だな。さすがに男がやるのは別の意味でよくない気がするしな」

 「そのことなんだけど」

 検死の話で矢崎が手を挙げる。

 「ここの検死、全部あたいに一任してくれるかい? それと見張りは立てないでほしいんだよね」

 「何でじゃ? 見張りは立てたほうが……」

 「いいぞ」

 それを答えたのは意外にも国門だった。

 「な、何を!? もし犯人だったら」

 「そんなこと考える必要もないと思うぜ。とりあえず、捜査は有限だ。さっさとやっちまおうぜ?」

 そういって国門はサウナのほうへと向かう。灰垣も同じように捜査を開始した。信用、していいのかな。でもそのほうが確実だと思う。

 「……うん。矢崎さんお願い」

 でも、まだ納得いってなさそうな人ひとり。近衛だ。彼は苦悶の表情で睨んでいたけれど……

 「…………わかった。あとはまかせた……矢崎紫陽花」

 「まかされました」

 折れたのか矢崎にすべてをまかせた。

 「ん、…………窓と渡良部ちゃんの丁度中央辺りに白髪発見」

 なんで白髪!? 金室が苦笑いしてるだけど。

 さてと、私も本格的に捜査開始しよう。とりあえずモノヤギファイル見る。

 

 

 

 

 モノヤギファイル4

 

 

 被害者:超高校級の雀士「渡良部美南」

 死体発見現場:マンションⅣ棟二階プール内

 死亡推定時刻:3時半頃

 死因:溺死

 補足

 ・争った形跡なし

 ・抵抗していた模様

 

 

 

 

 争った形跡なし? ってことはまさか、犯人に不意討ちで狙われて殺されたってこと? でもいくらなんでもただ水に入れられただけじゃない気がする。それよりも抵抗ってまさか……

 「窓、閉まってるのな」

 「いたのかよ」

 「ずっとな」

 ごめん相棒、気づかなかった。ん? これは……

 「ビート板、なんでここに積まれてるの? 多少崩れてるけど」

 「誰かがビート板に乗って窓を閉めたか……或いは出たか……」

 「さすがに出るのは無理なんじゃない?」

 「どうだろうな。175くらいあれば簡単にここに手はつくしな。っいてて……ビート板、特に凹んでる様子もないんだな」

 いててってなにそのいててって。んーでもビート板の使い道……犯人は一体なにがしたかったんだろう?

 「窓の外ってどんな感じ?」

 「そうだな……」

 玉柏は窓から顔を出してキョロキョロする。

 「どうやら下は別館みたいだな」

 「別館……あそっか」

 別館はⅣ棟一階と同じ高さなんだっけ。

 「他に窓近くに手掛かりらしい手掛かりはこれ以上なさそうだな」

 「だね。今矢崎さん検死してるし他はなんだろう……」

 「サウナとかか?」

 「ああ~」

 何か手掛かりあるかも知れない。行ってみるしかないや。

 

 

 *****

 

 

 サウナには灰垣がいた。あれさっき国門いなかったっけ? ていうか蒸し暑っ

 「また同じメンツじゃな」

 ほんとよ。

 「何か手掛かりあったか?」

 「ふむ」

 そういうと灰垣は自分の羽織の袖から何かを取り出す。四角い見に覚えのあるそれ。えっ?

 「こいつが落ちとった。国門が最初に見つけて、持ちきれんからって押し付けられたんじゃよ全く」

 オツカレサマデス

 「でもそれって電子生徒手帳だよね……」

 「ああ。一体なぜなんじゃ…………?」

 「待て、普通持ちきれないってことはないんじゃないのか?」

 「あ、確かに。もしかしていくつかあるの?」

 「その通り。八個電子生徒手帳が見つかった。正確には向こうが七つ、わしが一つ見つけたんじゃが。まあちょうど半数分じゃな。どれもつけようとしてもつかんし、もうすでに熱暴走で壊れてしまっておる」

 つまり、誰が誰のかは確認できないってことなのか。…………あっまって

 「ねえ……私たちここにとどまってたら持ってる電子生徒手帳最悪壊れるんじゃ……」

 

 

 ……………………

 

 

 「さっさと出るぞ!!」

 「じゃなっ!!」

 うん知ってた!!!!

 幸い、自分たちの電子生徒手帳は壊れていなかった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 電子生徒手帳…………関係あるとしたら更衣室くらいだよな……なら調べても損はない。異性のところに入れるとはいえ、なんか入りづらいから女子更衣室確認しよう。

 「おかしいわね……」

 「おかしいって?」

 「ええ。さっき金室さんが確認してくれたのだけれど、男子更衣室にカウントされた入った人数は17:50の一人だけ。そのあとには灰垣くんたちが来た分だから割愛するわ」

 「ちょっと待って、金室さんどうやって確認したの!?」

 「入り口から確認できるのよ」

 なるほどそれは納得だわ。

 「で、話戻すと女子更衣室だと私たちが来た分を除いてみるとね……」

 促されるまま湊川に女子更衣室の入った人のカウントを見てみると……

 

 

 

 女子更衣室

 

 09:49 1

 09:52 1

 11:22 1

 11:24 1

 15:00 1

 15:01 2

 15:02 3

 15:36 1

 

 

 

 …………犯人は午前から準備していた……? でも昼はみんないたし私午後会ってるし……しかも見た限りだいたい30分の間で犯行に及んだってことか。……でも、なんか…………

 「人…………足りなくない?」

 「そうなのよ……最初のほうにバラバラに三人が入って……それから出てきたのが一人っていうのがね…………この消えた一人は一体……」

 きっと一人は渡良部、一人は犯人。けれどもう一人が全くわからない。

 「もしかして共犯者とか……」

 「えっ、それ湊川さんすごく怪しく見えちゃうけど……」

 「わかってるわよ。きっと近衛くん以外で最後にここの前を通ったのは私。しかも見たのは4時前。怪しく見えるのも無理ないわ」

 うん、怪しいからなんか白く見えてきた。

 「でもそれならわざわざあの切り出しする意味もないのよね。今日はカジノとトレーニングルームにずっといたのよ」

 「トレーニングルーム行ってたの!?」

 え、意外。

 「カジノのほうはほら………………ダグラスくんの好きな場所だったし……」

 「…………」

 「筋肉痛だから動いたほうがいいかなって……ちょっと着替えてトレーニングマシンで走ってたのよ」

 「…………!! そ、そういう感じね。確かに筋肉痛はさらに動くと治りやすいみたいだしね」

 カジノのほうに引きずられて一瞬聞こえなかった。正直今私は太ももとさっきマネキンにぶつけた足が痛い。

 「そもそも玉柏くんとちょっとすれ違ったのよね。一人だけだったからトレーニングルームで着替えた。玉柏くんがその時間のこと証明してくれると思うわ。そうあとからトレーニングルーム入ってきてたわね……そういえばまた腰抑えてたような……」

 「またかよ」

 それぎっくり腰か何かだったら笑うよ。今日捜査で遅くなるのも無理ないや。

 「あ、そうそう。昨日くらいからⅡ棟の美術室、なぜかカツラとかなくなってたのよね」

 「カツラって……」

 まあありはしたけど必要か? 灰垣とかは使いそうだけど……いや使わないか。

 「しかもちょっと不思議なのよね……」

 カツラに不思議も何もあるの?

 「青のカツラ、白の髪染め、ネット……変装するのに充分なものがなくなっていたのよ」

 「し、白の髪染め!? え、それが一体」

 「わからないのよね……でも犯人が誰かに成りすましするなら可能なのよね……」

 ……白……ではないけど成りすますなら近衛だ…………押し付け? そういえばさっき白髪見つかったんだっけ……

 「変装というよりも、なんかコスプレみたい」

 「ここにそんな人いるとは思えないけれど、一番有り得そうな形ではあるのよね……コスプレやったことがある私が言うのもあれなんだけど」

 コスプレやったことあるの!?!?

 「髪の毛の有無に限らず、コスプレっていうのは誰でもできるものなのよ。だからハゲ……じゃなくて坊主の灰垣くん以外にも直樹さんとか私のように長い髪の毛の人でもできるのよ」

 今はっきりハゲって言ったよこの人。

 けど誰でもできるものなのか……だからレイヤーギもできるのか……謎の納得感が……じゃなーくてー!! とりあえず変装は誰でもできた、と。

 「……直樹さん、何もしゃべってないとき何か考えているのかはわからないけど、えらく一人で機敏に動くわよね」

 「ごめん」

 ごめんて。そういえば

 「湊川さん、さっき矢崎さんに何言われてたの?」

 「話反らしたわね?」

 ごめんてば!!

 「まあいいわ。チェキを取ってきてって言われたの」

 なんかすごいマニアックなもの頼んだな!? 

 「アナウンス終えて戻ったらすぐにプールの写真撮れってね。でも今はまだ写真浮かんでないわ」

 「裁判の最中にわかるかもしれないってことだね」

 「ええ。でも不思議なのが、なんでチェキにしたのかなのよね」

 普通のカメラだったらダメなのかな? ああでもビデオカメラだとちょっと大きいし、普通のデジタルカメラも水に落とせばいけないか……チェキなら本体を落として壊しても写真そのものは残るし。結論

 「……保険じゃない?」

 「ああ~」

 やっぱ納得しなするんかい!!

 

 

 *****

 

 

 一旦更衣室から出たら玉柏が湿布貼ってた。うん、嘘じゃないなこれ。

 「なんでまた?」

 「いやっ……ダンベルに気づかないで寝転がって痛い目みた……」

 「ドジかいっ!!!!」

 それはそれで拍子抜けなんだけど。

 「……さっき湊川さんから聞いたけど、今日会った?」

 「んあ? ああ会ってるな。少なくとも俺と湊川には犯行は無理だろ。俺転けてこんなだし、ついでにあいつが着替えたあとトレーニングルーム入ってる」

 そのドジもう少し直そうよ

 「心の声漏れてるぞ」

 「あっごめん」

 「全く、そうなんで何回も腰を打つんです」

 後ろから金室が呆れながらやってきた。

 「仕方ないだろ……」

 まあいいです、と金室は話を続ける。

 「今日はずっと別館の自室にいました。そのとき……なぜかわかりませんけど上から振動が起きたんですよね……」

 防音どこいった。

 「それいつ?」

 「渡良部さんが亡くなった時刻は過ぎていたと思います。ただし4時よりも前であることは覚えてます」

 ってことは犯行後に何かを別館の上でした? けど何ができるんだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 !?

 「な、なんですか!?」

 突然響く叫び声……この声は……っ!! 私は急いでタッタッタッタッと一階に降りた。

 そこには頭を抱えうずくまった国門がいた。けど……普通の悶えじゃないのは見てとれた。

 

 「ッッダメだって言ってるだろ!!? いやっ、だっ!!!! ふざけんなッッ!! いまの貴様に何ができる!? だめ、……だめ!! 出させて、くれ!! おね、がい……ッッッッ!!!! 貴様が耐えられるものか!!!! まだ癒えちゃないだろがっ!!? てめぇに指図される筋合いねぇよバカタレがぁああ!! 黙っ、て!! 違う、違う違う違う!!!!!!」

 

 なにかを訴えるように……いや自問自答? 一人で(・・・)めちゃくちゃに叫ぶ。その内容は正直わからない。内容は聞き取れるのに、一人で喚いているせいで何が何だかこんがらがる。

 「大丈夫ですか!?」

 後ろから金室が国門に近づいて背中を撫でる。

 「わ、悪い……」

 「いいから深呼吸してなさいバカ。これでおあいこです」

 叱責されながら国門は言う通りにする。

 「はっ……はっ……はっ…………はっ」

 「国門くん……」

 「もう、限界だ……あの場に立てばもう僕は戻れなくなる……だがもうそれは仕方ない……腹括るしかない……」

 大きく息を吸っては吐いて。しばらくしてから落ち着きを取り戻した国門がまた口を開いた。

 「そうだ……そこマネキンの首に紐引っ付いてるぞ」

 紐? 指差すところを見るとそれは確かにあった。そこまで長くはないけれどなんとなく1.8、9mくらいかな。玉柏が確認しにいく。その様子を見てると頑丈に結びつけられていてきっと引っ張ろうとしても簡単にはほどけなくなってる感じに見えた。

 「マネキンを利用する意味、いったいなんだろうなぁ……?」

 いやそもそもマネキン使う場面なんてあるの? 

 

 

 ていうか……刻々と、時間の流れとともに彼は侵食されていってる気が。そのセリフだけで私はすぐに理解できる。まかせれたとはいえ、どうすればいいのかはまだわからないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツコツコツ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふとこちらに向かってくる靴音がする。近衛が着替えてやってきた。

 「お待たせ─」

 「近衛く…………」

 その形相は凄まじかった。なんか、この短時間でとんでもないくらいの隈が出来てる。自分の背中がゾワッてしたのがわかった。

 「捜査してない場所は─?」

 「えっ……えっと……あっ動力室ってまだ誰も見てないよね?」

 「多分調べてないぜ。調べてこいよ」

 「……了解─」

 「あとこれ、つっこんでいいのかわからなかったんだが……すごい中途半端に返事するんだな?」

 「これが僕の素、─」

 素だ、と言っているようにとれた。常に敬語だからたまに気になりはしたけれど……あとそっちが素なんだ……玉柏はふーんと近衛をじっと見ていた。

 「一応男子更衣室も確認しておくな」

 「了解─。それでは─」

 何も最後まで言わずとも伝わる。私も一応確認のために彼について行くことにした。

 

 

 ***

 

 

 「……………………」

 「…………」

 今までのなかで一番気まずさが半端ないんだけどこれどうすればいいんだ? タスケテ。で動力室の扉開けて中を見てみた。

 「…………中は変わった様子はなし─」

 「パッと見でわかるようなもの……なさそうかな……」

 「…………」

 周囲をじっと確認して見る。でも特に何かおる様子は……

 「……た」

 「えっ?」

 「ここは動いたみたい─」

 動いたんだ? でも動かすようなことがあったのかな? ていうか

 「よく動いたってわかるね」

 「どうやらこのレバーで渦を作れるようで─。そのレバーがしっかり下まで下ろされてない。つまり─」

 そういうこと、ね。

 

 

 *****

 

 

 そろそろ検死もいい頃かなって流れでそのまま矢崎のところに向かう。あとプールサイドに金室が歩いているのが見えた。

 「矢崎さん、そっちはどう?」

 「うん……溺死で間違いないね……即死じゃないから……だいぶ苦しかったんだと思うよ……でも、やっぱり、なーんでそんなきれいな顔したままでいられたのかなぁ……ねえ、近衛くん。どうしてずぶ濡れだったか、教えてくれるかい?」

 「…………」

 近衛は言葉に詰まる。苦い顔をしながら、ゆっくり口を開いた。

 「…………っ忘れ物を取りに─。でも、そのときプールのほうも確認しておこうと─清掃の過程、僕は執事。どんなやり方をすれば綺麗になるか参考になるかと─でも入った瞬間に見つけた。プカプカと浮かんだ渡良部美南の姿を─。そこからは必死─。上を脱ぎ捨てて、飛び込んで引き上げた。………………もう、手遅れだった。気づけば直樹空と湊川鈴音が─」

 …………近衛は拳を作って苦い顔を。突然目に飛び込んだあられもない姿に怖くなったんだ。

 「あの……失礼します……」

 ふと金室の声が聞こえた。

 「どうしたんだい?」

 「お話し中すみません。網か何かありますか?」

 「網?」

 「お待ちを」

 そういって近衛は動力室の横側から網を取ってきた。ありがとうございます、そういって金室はプールの中に網を突っ込んで何か拾おうとしている。しばらく経って拾い終えたのかそれを私たちに見せてきた。

 「これ、誰かが落としたものかと思ったんですけど皆さん違いますか?」

 それは丸いビーズみたいなものだった。私はこういうの持ってないんだよなぁ……

 「いえ僕のでは─」

 「あたいは頭についてるからね~」

 うん、はっきりわかんだね。

 「他の方にも聞いておきますね」

 で、そのまま出ていった。しばらく沈黙が訪れる。

 「ねえ近衛くん。今の口調、絶対素じゃないよね?」

 「は?」

 それは突然の切り出しだった。私もびっくりしてそっちを見る。

 「ずーっとイライラしてて疲れないのかい。あたいは君から焦りしか見受けられないね」

 「黙れ」

 「でも切れてるのはみんなに対してじゃない。なーんにもできなかった自分への苛立ち。面倒だからって最後まで言うことをしない。………………はっきり言って惨めだよ。今の近衛くん」

 「黙れって言ってるでしょうが!!」

 「そんなことに黙れと言われて、簡単に引き下がれるほどあたいはできちゃいないよ」

 矢崎は一歩も引かない。

 「その怒りあたいたちじゃない別のものにぶつけるべきなんじゃないのかい? 近衛くん、前にキレたときの感情と今のキレている感情とじゃ天地の差がありすぎる。けどそれを面倒という理由で自分を見失うやり方をするのは、みんなに失礼だよ」

 「何が……一体なにがわかる!!? 人の感情に首を突っ込まないでくれませんかね!?」

 「ほーら戻った」

 「!!?」

 「焦らないほうが、ミス減るよ。君はいつも通りに過ごせたほうがいい。たとえ困難だとしても、心構えはしておいたほうがいいよ」

 「は? 矢崎紫陽花!! それは一体……」

 途端、矢崎は私たちに背を向けた。顔を合わせようとせずに。

 「この事件は……あたいも無関係じゃない。むしろ……いや、なんでも、ないよ……」

 その言葉は、明らかに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポンパンポーン…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ヒッヒッヒッ、そろそろいいであーるなァ? 捜査時間終了であーる!! オマエラァ!! 噴水前に集まるであーる!!』

 

 

 

 ブツッ……

 

 

 

 捜査終了のアナウンス。このタイミングで……もうやらなきゃいけないのか…………

 「……来ましたか」

 「…………」

 これで4回目。引き下がれない領域。冷や汗が頬を伝うのがよくわかる。

 

 

 

 ガチャ……

 

 

 

 灰垣がこちらへとやってきた。渡良部の前にしゃがみこみ手だけ合わせて祈る。この光景を見るのも何度目だろう。みんなで……渡良部を見つめる。私は胸の苦しさを訴えられてる気がして自分の手を握りしめた。

 「…………やらねばならんな」

 「うん……」

 当たり前なことを言うのも煩わしい。けれど、そうでもしないと事実が受け入れられる気がしなかった。そうとは限らないのが事実なんだけれど。

 

 

 *****

 

 

 全員が揃うと噴水の水は減る。なんか慣れた気がするこの過程。

 「なーんかなぁ」

 珍しくこういう場で矢崎の声が聞こえてくる。

 「どうした?」

 「んー……こう、ねぇ~ヒントがそこそこある割りに、斬新な気がしてね~」

 「ざん、しん…………?」

 待って矢崎の言うことが全くわからない。斬新? 何が!?

 「まあ今あたいが言うことでもないし、それにみんな知ってることだからね~話すときがくれば言うよ」

 …………さっきのセリフと何か関係あるのかな。矢崎はこの事件に関して無関係でない、なんて自分からそんなこと普通言うのかな。何か、狙ってる……?

 そうこうしてる内に噴水の水はなくなりいざ足を踏み込もうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし

 

 

 「!!?!?」

 

 突然、私は吐き気を覚えた。口を手で押さえてそれを堪える。

 「な、なんだこれ……」

 「うっ……」

 そこにあった光景。それは……『刺客の七』と書かれた紙が大量に噴水に沈められペタりと貼り付いていた様子だった。そのせいで、本来なら乾いているはずの噴水エレベーターも乾かない。

 字は殺意を持っているみたいに荒れ狂っているものばかり、たまに一到きれいな字があるのも不気味に映る。

 「いたずらにしては……限度があるのでは……」

 「もはや宣戦布告みたいなもんだろうな……刺客の七……一体なにが目的なんだ……?」

 …………そもそも、こんなことできたタイミングがあったのか疑いたくなる。少なくとも、私と渡良部があったときにはこんなものなかった。渡良部を殺したあとに? 死亡時刻と発見までの時間は長い時間あいている。でも大量の紙をどうやって……

 「なぁ……これ、なんじゃ……?」

 灰垣の指差すところをみんなで見てみると……謎の文……いや、詩みたいなものがご丁寧に書かれた紙が一枚にまとめられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******************

 

 

 

      枝は垂れても嘘をつく

 

 

       芝に潜んだ臆病さ

 

 

       重さ8とて教育上よ

 

 

     山の綺麗に見とれるべからず

 

 

        冬の寒さは

 

 

      冷たく静かで笑ってる

 

 

       1人のソナタ

 

 

       彼岸を見届けん

 

 

 

 

       わたしは刺客だ

 

 

        刺客の七だ

 

 

 

 

 

 

 

 

       汝ら常に狙うもの

 

 

 

 ******************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ね、ねえ……なに、これ……!?」

 「一種の脅迫か……? いや、でも脅迫文でこんな書き方するやつなんて見たことない……」

 「あたいたちを、狙ってる……」

 背筋がぞわぞわしてきた。それくらい怖い。なんか、最近感じたことのある寒気…………

 「き、……なおき……? 直樹!!」

 「!!」

 「大丈夫か……?」

 「あ、う、うん。一応……ありがとう」

 「さっきから声掛けても反応ないからびっくりしたぞ」

 全く聞こえてなかった……ダメだな……

 「……進まないといけないのよね」

 「こんなたくさんの紙を取ってる余裕はないし」

 よくわからないままやっと乗り込んだ。

 

 

 *****

 

 

 エレベーターが緩やかに降りていく。いつもと違うのは刺客の七と書かれた紙がペタリと貼られたままなところ。正直気持ち悪い。水が靴に染み込んできてるのが、紙が歩く度に擦れて靴の裏にくっついて邪魔してくるのが、よくわかる。

 いつもより落ち着かない。常に誰かに狙われているような感覚がする。どこからともなく。上から、下から、右から、左から、背後から目の前から。逃げ場のない檻の中に閉じ込められて、これからまるでサーカスでもするみたいで。操られた動物たちのように。火を無理やり潜らされている感じがする。

 そんな幻影のサーカスを浮かべていれば、ガコンっと音がしてエレベーターが裁判場に着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謎の人物『刺客の七』

 

 

 

 大胆に私たちに襲ってくる

 

 

 

 いったい、なにが目的なんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 もうやめよう

 

 

 ごめん

 

 

 今度立たせてやれるかな

 

 

 そっちのが得意なのに

 

 

 こっちは単なる傀儡でしかない

 

 

 戻れるように

 

 

 努力しなきゃ

  

 

 **********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

      枝は垂れても嘘をつく

 

 

       芝に潜んだ臆病さ

 

 

       重さ8とて教育上よ

 

 

     山の綺麗に見とれるべからず

 

 

         冬の寒さは

 

 

      冷たく静かで笑ってる

 

 

        1人のソナタ

 

 

        彼岸を見届けん

 

 

 

 

 

 

 

 

      そうわたしは刺客だ

 

 

        刺客の七だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  いいじゃんー!! なりたいならね!!

 

 

   え? 否定する理由ないじゃんー!!

 

 

   大丈夫大丈夫ー!! 口固いから!!

 

 

     誰にも言わないであげる!!

 

 

  もちろん約束だよ!! 絶対だよー!!

 

 

        …………………………

 

 

      だって信用できるもん

 

 

       何よりも、誰よりも

 

 

   知ってるのは、一人でいいでしょー?

 

 

      秘密は誰にも言わない

 

 

     だから!! ひ・み・つ!!

 

 

       そう言うんだよ!!

 

 

       …………………………

 

 

      でも、ちょっと寂しいや

 

 

    んーん!! なんでもないよ!!

 

 

   じゃあね!! いってらっしゃい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ちゃんと…………生きて帰ってきてよ?

 

 

 

 

 

 

        待ってるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       いつか僕以外にも

 

 

 

     明かせる人があらんことを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

        嗚呼理解者

 

 

 

      わたしの唯一の理解者

 

 

 

 

    わたしはあなたを裏切るんだ……

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 次回

 狐の正6部屋目

 

 

 

 

 



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第四章 非日常編 狐の正6部屋目

 とりあえず七部屋目はまた今度投稿します。また次は前書きは軽くだけ。後書きを少し書きます。

 狐の正6部屋目。見えないものをよく見ると?


 

 

 注意

 

これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。

本編とは異なる設定が多々あります。

あと主の文才は期待しないでください。

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。

 

 補足

渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。

 例:直樹→直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧ください。

 

 

 *****

 

 

 

 裁判場に着いた。エレベーターから降りると中華風な雰囲気の壁紙が私たちの視界に入る。モノヤギはいつものようにコスプレ。なんとなく予想はしていたけど渡良部のだ。

 「来たであーるなァ?」

 「…………」

 「近衛くん……」

 「……ご心配なく。ただ平常でないのも事実。そこはあとで」

 ご心配なく、と言っておいてその表情は全く安心できない。あの短時間で目元に隈ができていて、こわばった表情をしている。口を歪ませ冷酷な目つきで。大げさなくらい大きな足音を立てながら自身の裁判席につく。正直言ってものすごく怖い。その態度すべてに怒りが滲み出ている。

 「? 如何なさいましたか? 席にお着きにならないと裁判は始まりませんよ?」

 「え、あ、うん……」

 いつもの丁寧な敬語。いつもの口調。そのはずなのに私は近衛を見ると鳥肌が止まらなかった。自分の裁判席についてみる。ぐるっと辺りを見渡して思い出した。……近衛の席と渡良部の席は隣同士だったということに。今まさに近衛の横には昼までいたはずの渡良部の遺影が飾られていた。

 「全員ン、席に着いたであーるなァ」

 「揃ったとかんなもんどーでもいいからよお、とっとと始めちゃおうぜ? 時間の無駄だぜ」

 「そんなことわかっているであーる!!」

 ……国門の人格がすでに裁判のときのそれだ。さっきみたあの光景が頭から離れない。目を細めてニヤニヤ笑っている。ここまでくるとモノヤギが不憫に思えてきた。

 「一応でも説明は必ずするであーるからなァ!! 殺人を犯した『クロ』を議論で見つけ出しィ、議論の結果『クロ』だと思った人に投票するゥ。過半数を得たモノが『クロ』となるゥ。この時正しい『クロ』を指摘できたなら『クロ』だけがおしおきされェ、間違った『クロ』を指摘してしまった場合はァ、『クロ』以外の全員がおしおきされるであーる!!」

 うんざりしてしまうくらい聞いたよその説明。

 

 

 

 渡良部は、私にとってとても居心地のいい友達だった。玉柏とはまた違う安心感があって、悩みを相談しあうのも多分彼女が一番多かったかも知れない。それくらい一緒にいた記憶があった。呼び方とかちょっと意味わからないところ多かったけど、根はとても優しいし最初の裁判の後にみんなを後押ししたのは彼女だ。普段強気でもその中に垣間見える弱さは優しいが故なんだろう。

……けれど、もう君はここにはいない。胸が張り裂けそうになるくらいツラい。そんなこといってられないのもわかっている。けど……それでも…………苦しいよ…………

 「直樹さん。泣きたい気持ちは、わかります。でも泣くのは今ではありませんよ」

 「えっ…………」

 ここにきて今更気づいた。情けない。みんなに背を向けて一度大きな深呼吸をする。すると誰かの足音がこっちに近づいた。

 「バレバレだっての」

 なんだか呆れているような、そんな声が聞こえる。

 「自分のことだけ守ろうとして、ドツボにはまれば危険なのはわかっているだろ。近衛もあんな怒り方していてもな、目元赤いんだよ。強がりばっかでタチの悪い子供が。…………それでも、乗り越えなきゃなんない山がある」

 玉柏はそれだけいって席に戻っていった。

ふと、周りを見てみた。…………嗚呼、みんなの目はすでに限界に近いんだ。動きも気怠く見える。頭でわかっていても、内面は…………そう簡単に隠せないんだ。

腕で涙をぬぐってバチンッと頬を叩く。やろう。ツラいのはみんな同じなんだから。

 「議論ンかァーいしィ!!!!」

コングが鳴り響く。始まりの音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     **********

      学級裁判 開廷

     **********

 

 

 

 近衛「まず一つ皆様に言っておかなければならないことがございます」

 矢崎「なんだい?」

 近衛が苦しそうな表情でみんなを見る。

近衛「先ほどはご迷惑をおかけいたしました。前回のダグラス殿といい今回の渡良部殿といい……こんなにも身近にいたにも関わらず誰かによって殺されたとなると、わたくしも優しくはしていられません。だから今までよりも口が悪くなると思います。何卒ご理解のほど……」

 その目は真剣だった。怒りと悲しみと……彼の、彼なりの意思表示の目。狩人のような目。

 金室「そんなもの。許可を得るもんじゃないですよ、そういうのは……見つけますよ」

 全員が頷いて緊張感が漂う。

灰垣「さてと、そうと決まればまずは現場状況からじゃな」

 それじゃあと国門がファイルを取り出して読み上げる。

 国門「被害者は超高校級の雀士、渡良部美南。二階のプールで……浮いていたんだよな」

 近衛「ああ。燕尾服を脱いで飛び込んで引き上げましたが、手遅れで……」

 国門「それ以上言わなくていいぜ。死亡推定時刻は3時30分頃。死因は溺死か」

 矢崎「手探り状態で申し訳ないけど、あたいが検死した限り、溺死であってるよ……状況が状況だから今回も一筋縄ではいかなさそうだね」

 時間的にもみんなそれぞれ何かしらのことはしていただろうし……アリバイもあまり役に立つかもわからないな。

 湊川「そういえば争った形跡は何もないのよね? それって犯人が隙を見て渡良部さんを殺害したってことになるのかしら?」

 近衛「溺死だとそれは困難じゃないです?」

 ……となるとあり得るのは…………

 直樹「犯人は一度渡良部さんを気絶させてから殺したのかな」

 国門「可能性というかそうだろうぜ」

 灰垣「渡良部は確かカナヅチじゃったよな。自覚もしていたなら自分から進んでプールにいくこともせんじゃろうし。たとえそうでなくとも抵抗するじゃろ」

 気絶させてプールに入れる。それでも全然成り立ちはする。ただ気になるのは……

 金室「ですがいくらプールにいれて溺死させるにしても、落とされた時点で冷たい水に反応して目が覚めるのではないですか? いくらカナヅチであってもプールの縁に行けば逃れられることでしょう?」

 そう。近衛に指導されていたときのことを聞いたときに、渡良部は手で縁を掴むことくらいはできたといっていたし……結構な負けず嫌いだから簡単に溺れるだなんて思えない……いやまさか……

 直樹「ねえ、もしかしてだけどプールで渦を作って逃げ場をなくしたんじゃないかな」

 玉柏「そういえばそんなこともできたな。湊川ならわかるか?」

 湊川「え、ええ。渦に入ったことのある身としては、プールの縁にいく前にすぐ中心に行ってしまうわ。だからもしそれが正しいなら仮に渡良部さんが落とされて目覚めても脱出は困難よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 矢崎「その推理じゃ絞りだせないね~?」

 

 

 

 

 

 

 ここで予想だにしなかった人からの反論が。

 直樹「や、矢崎さん!?」

 矢崎「みーんなしてプールで殺されたことを前提で話されると困るんだよね~……」

 近衛「いや、どう考えてもプールしかこの犯行は有り得ないのでは」

 矢崎「そこが甘いんだよ」

 な、なんでだ? ってあっ!!?

 矢崎「確かに見つかったのはプール。けど現場まで一致しているとは限らないよね? 一回目の鷹山ちゃんの事件みたいにね」

 灰垣「じゃが状況からしてみれば……なぜ納得がいかんのじゃ」

 矢崎「……簡単だよ。今日はプールの清掃の日だからね」

 灰垣「はぁ!?」

 金室「えっ?」

 そうだ忘れてた!!

 矢崎「あたい見てるんだよね……プール前に置かれていた看板。今日がプールの清掃日だっていうことを物語っていたよ。それなのに渦を作ることなんて出来やしないんじゃないかい?」

 私は知っている。外でザアアァって音がしていたのを。この音は清掃か渦の音でしかだせない音だ。けど、けど違う……違うんだ…………!! 今回のは清掃じゃない……!! これはあの人に言わせるべきなんだろう。ちらりとその人のことを見てみると、すでに待ってましたと言わんばかりの顔をしていた。

 湊川「その推理を変えてみせるわ!!」

 だって彼女が一番わかっているんだから。

 矢崎「へえ、一体なーにが違うんだい?」

 湊川「矢崎さん、あなたがその看板を見たのはいつ頃の話なのかしら?」

 矢崎「少なくとも1時半は過ぎてたね」

 湊川「…………実はね、見てるのよ。4時前にプールに寄ったとき、清掃中の看板がなかったのをね」

 国門「なかったのかだぜ?」

 ええ、と湊川は頷いた。

 直樹「みんな覚えてる? モノヤギがプールの説明をした時のこと」

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 午後の二時から二時間くらいかけて掃除をやっているであーる

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 玉柏「そういえばそんなこと言ってたな。二時間となると四時までの計算か。確かにそうなると変だな」

 湊川「ここから考えられることは一つよ。犯人は渦の音と清掃中の音が同じなのをいいことにみんなに誤解を生ませたのよ!! 看板をおけば誰も入ろうとはしないから」

 ビシッと指をさして論破する。

 矢崎「ははっ、そこまで言われたら現場はプールな可能性が濃厚だね」

 矢崎は苦笑いして納得してくれた。とりあえず現場は確定したかな。

 近衛「…………ところで、今回の事件。どこか共犯者がいるような雰囲気があるなと」

 金室「共犯者、ですか?」

 国門「それは確かに思ったぜ。ていうかそうなんじゃないかって思っているぜ」

 玉柏「女子更衣室のライトを考えるとそうなるよな」

 んーでもなんか変だな……

 直樹「引っかかるなぁ。共犯したとしてもさ、どうして共犯するんだろう……共犯者にはメリットないはずだよね?」

 最初の裁判で言っていた。共犯する理由はないはず。

 玉柏「最悪なことを考えれば犯人が脅しでもして無理やり協力させたとかもありそうだけどな」

 湊川「でも理由あるなしに関わらず今はまだ気にしなくてもいい内容かもしれないわね」

 まあそれもそうか。少なくとも共犯の可能性は十分高いや。

 

 

 *****

 

 

 矢崎「じゃあ次気になることってなーんだろうね」

 近衛「気になる……といえば渡良部美南が殺されたあとどうやって犯人たちはあのプールから抜け出したんだ……?」

 灰垣「というと?」

 近衛「女子更衣室がプールから入った人数は三人。きっと犯人、共犯者、渡良部美南でしょう。気絶させているとはいえ、結局入れるのは一人ずつ。ならきっと電子生徒手帳を利用しながら更衣室に順に入ったと考えるのが順当だ。三人がプールに入った後渡良部を殺害……ここまではわかる。けど問題は」

 直樹「犯人と共犯者がどうやってプールから脱出したか、だね」

 その通りと頷いてモノクルをあげようとする。けど、今彼はそれを身に着けていないから空振りする。誤魔化すように咳払いをした。

 近衛「ごほん。プールから出るとき更衣室のライトがついたのは一度だけ。こうなるともう一人はどうなったのかがわからない。僕が入ったときには渡良部美南以外は誰もいなかったし」

 プールから出る手段……更衣室のほかにもどこかあるかな。あ、あそこならもしかすると!!

 直樹「窓とかならいけたりしない……?」

 国門「いけないこともなさそうだがすごーーーーく危険な橋だぜそれ」

 自分で言ってて思った。でもそれを証明できる人がいる。

 金室「いえ……あながち間違いではないかもしれませんよ」

 なに? と顔をしかめてこちらを見てくる。

 金室「うち今日午後はずっと別館の自室にいたんです。その時に上から何かが落ちるような振動が伝わってきたんですよ。ドンって」

 矢崎「あれ、防音はしてあるんだよね? 音も聞こえてきたのかい?」

 玉柏「防音だから振動までは対処してなかったのかもしれないな。けどそれが本当なら窓を使って一人は出ることもできるな」

 もう一人は更衣室から出れば更衣室の人数に矛盾も生じない。

 国門「ふーん。そんで窓の鍵閉めて更衣室から出るとねぇ…………まったく周到な犯人だぜ」

 灰垣「いや、犯人はまだ一つやったことがあるじゃろ」

 湊川「え、まだやったことがあるの?」

 湊川の純粋な問いに灰垣はああと答える。

 灰垣「サウナの中にあった電子生徒手帳じゃよ。みんな知っているじゃろうが電子生徒手帳は熱に非常に弱い」

 近衛「ああみんなの前で昨日モノヤギに怒られていましたね」

 灰垣「言わんでええわい。とりあえず八個あったぞ」

 おもむろに羽織の袖から複数個の電子生徒手帳が取り出される。

 金室「そ、そんなにたくさんの電子生徒手帳を? でもそれ一体どこから…………」

 いや、待ってそれまさか。あそこしか考えられない…………

 直樹「…………もしかしてそれ、今までの……死んじゃった人たちのなんじゃ」

 玉柏「九分九厘そうだろうな」

 灰垣が前にアリバイのために宮原の電子生徒手帳を使っていたのは覚えてたけど、今回は犯人に犯行に使うために使われたのか。なんだか腹が立つ。

玉柏「今回女子更衣室だけしか経由していないから、あたかも犯人を女子に見せかけといてその振りをしているに一票」

 国門「あんま賛同はしたかねぇけど同感だぜ。わざわざ電子生徒手帳を始末するってことは、要は男子にも可能性を残したってことにもなる。どのみちまだこの段階で犯人を絞り込むことはまだできそうにないぜ」

 なんかあそこ妙にバチバチしてるんだけど。リアル冷戦しなくていいよ。

 矢崎「ん? でも八個もあるのかい? 今までの人数は七人だから一人多いよね?」

 そういえば確かに……鷹山、江上、宮原、阪本、ダグラス、橘、巡間の七人だ。一人多い。

 直樹「ねえ、渡良部さんって何か身につけてた?」

 近衛「ぱっと見た限りではそんな感じしませんでしたよ」

 検死をした矢崎もうなずいている。もしかして八個目は渡良部のやつなんじゃ。

 金室「もうもったいぶらずに、普通に皆さん自分の電子生徒手帳確認すればよいのでは? そうすれば誰のが足りないのとかわかるじゃないですか」

 ごもっともです。隣から圧を感じる。みんな言われた通りポケットから電子生徒手帳を取り出して自分のものかを確認していく。

 電源をいれたら『直樹空』としっかり出てきた。隣の金室がちらりとこちらを見て確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その中で、一人だけ目を見開き電子生徒手帳を見つめる人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そ、そんなわけ…………そんなわけ…………っっ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「こ、近衛……くん……………………?」

 近衛「なぜだっ、なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだっっなぜだッッッッ!!!!?!?!?? なぜ僕のが…………っ[[rb:渡良部美南の>・・・・・・]]電子生徒手帳になっているんだッッ!?!?!?」

 えっ!?

 湊川「そ、それって……近衛くんの電子生徒手帳が始末されたってこと?」

 灰垣「…………もう、犯人は決まったようなもんじゃないか」

 え、え? こ、こんなあっさり? そんな……嘘でしょ? 近衛が渡良部を……?

 玉柏「……!! おい近衛、お前の足元何か落ちてないか?」

 近衛「は? え」

 近衛はしゃがんでそれを拾う。少し大きめの付箋みたい……? どうやら何か書いてあるみたいで、彼は何度もそれを黙読している。黙読するたび、彼の眉間にしわが寄る。何度も顔を擦り、目をこすってはそれを見返している。

 近衛「ど、どういうことだ……これ……」

 そんなに衝撃的な内容なの?

 近衛「直樹空」

 不意に名前を呼ばれる。すると矢崎を通して付箋が私に渡された。

 直樹「え」

 近衛「直樹空、これを貴方が翻訳してくれ。僕は読める。けどそれが正しい確証もなければ、今ここで疑われている僕からこの内容を言っても信じてはくれないでしょう」

 なるほど、託されたってことか。でも彼が犯人だとは思いたくないしやるしかない。翻訳家の意地もあるし。それを読んで頭の中で訳してみる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は? え、ちょっと? これどういうこと!!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「……みんな、読み上げるよ」

 

 私は一つ深呼吸をして訳を読み上げる

 

 

 

 

 

 

  我是刺客的七(私は刺客の七である )

 

 

 

  我没有共犯者(私には共犯者はいない )

 

 

 

  犯人只是我(犯人は私だけである )

 

 

 

  那么七眼睛不还出现 (さあまだ七の目は現れない )

 

 

 

 

 

 

 国門「な、なんだぜその訳は!?」

 直樹「私だって知りたいよ!! でもきちんとした漢文になっているし……」

 確認のために隣の金室にも読んでもらった。

 金室「…………外国語はあまり読めないですが漢文ならいけますね。訳に間違いはなさそうです」

うそ、と誰かが言った気がした。今回の犯人、………………みんなが忘れようとしていたのかもしれない。そんな存在。

 

 

 

         “刺客の七”

 

 

 

 湊川「共犯がいないってつまり犯人は一人だけなの……? しかも、その……刺客の七がって……」

 金室「こ、これじゃあまた振り出しじゃないですか!! 今回は前回みたいなんとは違ってそれ以外の推理なんてできるわけ…………!!」

 ……なんて周到な犯人なんだ。課題が、多すぎる。さっきの紙だけでない脅しを仕掛けてくる。こんなのどうすれば……

 玉柏「飛んだ刺客だな……死角をついてくるのがいやらしい。『しかく』だけに」

 矢崎「審議」

 灰垣「今のは何点じゃろうか」

 湊川「四点じゃないかしら」

 国門「十点満点か?」

 湊川「二百点満点よ」

 玉柏「たっかい上にかっら!! ていうか審議しなくていいだろ!!」

 近衛「真面目に裁判してくれます?」

 ここでなぜギャグをはさんだ。金室の咳払いでまた再開する。

 金室「こほん……ひとまず共犯者がいないということは、一人でいろいろ行ったことになりますよね」

 国門「たとえ共犯者がいようといなかろうと、計画的な犯行であることは目に見えているぜ。というか、現時点ではっきりしてるのそれぐらいじゃねぇか?」

 信じられない。ここまで考えてわかったことがそれくらいって……ああ頭が痛い。歯ぎしり起こして頭を抱える。

矢崎「……薄々そんな気はしていたよ」

 直樹「え?」

 そんな気はしていた……?

 矢崎「湊川ちゃん、そろそろチェキの写真出来上がっているよね?」

 湊川「え、あっそうね!! 言われるまで忘れるところだったわ……」

 ポケットから取り出された一枚の写真。

 矢崎「それよーくよくみたら異変に気付くと思うんだよね~みんなに見せてくれるかい?」

 彼女に言われた通り湊川はそれをみんなに見えるように見せる。

 えっと、近衛が渡良部を抱えて座っていて、矢崎と私がその後ろにいて……灰垣が私の後ろに行こうとしている……床はところどころ水浸しで、窓は開けっぱなし、窓の下にはビート板。ぱっと見た感じ気になることは……

 国門「お? なんかおかしくねーか?」

 金室「ええ。一か所だけ……さっきまでとは異なる箇所があるんですけど」

 直樹「……あれ!? ほんとだ!?」

 確かにさっき議論したところと少し違ったものが見えてくる。

 直樹「玉柏くん確か窓は閉まっているっていっていたよね?」

 玉柏「ああ。この目で確かに見たしお前もいただろ。というか俺がプールに入った時点ではすでに閉められてたな」

 プールに入った時点で閉められていた? けどこの写真は閉まっていない。これは一体どういうこと……? 記憶にそんな差異が生まれるの? あれ、私入ったとき窓閉まっていたっけ? 開いていたっけ? だめだ気にしていなかったから思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや……待って………………

 

 

 そもそもどうしてあの時

 

 

 あんな判断ができたんだ?

 

 

 これじゃあまるで

 

 

 ………………まさか

 

 

 君は………………………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    「ねえ、矢崎さん………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学級裁判、中断

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      巻き戻せ最大ヒント

 

 

 

      お気付きか最大誤算

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 鉄格子の兎と七部屋目

 

 

 

 

 



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第四章 非日常編 鉄格子の兎と七部屋目

 鉄格子の兎と七部屋目。一生の檻の中に閉じ込められたのは誰?


 

 注意

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。

 本編とは異なる設定が多々あります。

 あと主の文才は期待しないでください。

 

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 補足

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。

 例:直樹→直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧ください。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 学級裁判、再開

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      声をかけたその瞬間

 

 

 

 

 

 

      君は目を瞑り笑ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クスリと、矢崎は笑った。その笑みは決して嘲笑なのではなくて、どこか強気で嬉しそうで。

 直樹「矢崎さん、君ならわかるんじゃないかな」

 私は彼女に問うと、ゆっくりと目を開けた。

 矢崎「なんとなく、そこ辺りで指名されるとは思っていたよ」

 金室「そ、そうなんですか? というかどういう意味なんですか?」

 私の考えが正しければいいんだけど。

 直樹「ずっと気になっていたんだ。どうして死体の周りに誰も置かなかったのか」

 玉柏「そういえばプール周辺には人がいたが、渡良部の周りには誰もいなかったな。それを指示したのもお前だったな?」

 矢崎「そうだね~……」

 矢崎の態度は変わらない。余裕のある飄々とした素振りを見せてくるだけ。本当に、それだけ。

 矢崎「あのときははぐらかしたからキチンと話さないとね。でもあたいは 指示に従っただけ(・・・・・・・・ )。あたいは巡間くんに託されただけだよ」

 近衛「巡間治虫が……?」

 彼女は小さくうなずいた。

 矢崎「宮原くんのときの裁判が始まる直前にね、巡間くんに言われたんだよ」

 

 

 

 

 ────────────────

 

 巡間『矢崎くん。ちょっといいか』

 矢崎『うん? どうしたんだい?』

巡間『…………もしこの先、検死をしている私が殺されたり或いは殺すようなことがあったら……………………矢崎くん、君に検死をお願いしたい』

矢崎『えっ、あたいに?』

巡間『……おそらくだが、この中でそれをできるのは君だけだ。ほかの人ができるとは考えにくい。それに君はあまり左右されない人、そうだろう?』

 矢崎『……確かに左右されないかもしれないね。けど、あたいが生きている保証、殺さない確証はどこにもないのに、そんなのいいのかい』

 巡間『むしろそれくらいでいいんだ。………………頼む。それと、もしもお風呂のような場所で死体が発見、及びその時点で八人以下になったら死体の周りには誰も寄せないようにしてくれ。撮影できるなら最初のうちに』

 矢崎『………………わかったよ』

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 矢崎「撮影を最初のうちにしておいて。だなーんてね。人が多いのにする意味があるのかちょっとわからなかったけど、今ならわかるしその判断は間違ってなかったと思っているよ」

 玉柏「記憶勝負になるからか。しかもそれはシロクロつけられやすい証拠。正しいかもあやふやになるな。それなら先に撮影して現場の状態を保存したほうが賢明……」

 国門「言いたいことはよくわかったぜ。それにそれだけじゃあない」

 国門が眉間に手を当てる。

 国門「巡間は恐れたんだろうぜ。検死と見張りを立てることによって、捜査に回す人の数を減らし証拠が減るようなことになるのを。捜査時間も無限にあるわけじゃない。八人のうち二人も死体に目を向けていたら実質六人で捜査しなきゃならなくなる。そんなことをするより、すべてを検死役に託して捜査に専念したほうがいい……仮にその発言が嘘だとしても、矢崎が犯人だったとしても、犯人から撮影を求めるのは返って不利……」

 そうか。そういえば巡間は前の裁判のとき犯人だったけど……死体に関する嘘は一言もなかった。『検死』という彼にとって極めて偽装しやすい場面でさえ、真摯に向き合っていた。

 それがプライドによるものなのか、それともその必要がなかったのか。今となってはわからない。

 国門「水のある場所、現場がぐちゃぐちゃな場所なんて、現場を荒らされれば一環の終わりと思ったほうがいいんだぜ。証拠が減ったり隠蔽されやすくなっちまう」

 矢崎「まあ多分そういうことだろうなぁ~って話だよ。そこは今どうでもいい」

 どうでもいいってことはないでしょさすがに。

矢崎「一応、誓ってあたいは渡良部ちゃんを殺してないよ。まあそれだけじゃないけど」

 思わせるようなセリフを並べているのに、嘘のようにまったく感じない。むしろ本当のことしかいってないみたい。

 湊川「あの……矢崎さんってもしかして、今回の犯人わかっているの?」

 恐る恐る湊川が聞くと、矢崎はまた微笑んだ。けれど、目はギュッと閉じていた。

 矢崎「うん。知ってる……というと語弊があるからこう言い直すね。解っているよ。今回の犯人が、刺客の七が誰なのか。その正体をね」

 金室「は?」

 玉柏「おいおいおいっ!!?」

 私も言葉が出なくなった。ただ落ち着いて淡々と告げた。

 近衛「そ、それなら」

 矢崎「でもあたいは言わないよ」

 近衛の言葉を遮り、矢崎は初めて私たちをにらみつけてきた。

 矢崎「ねえ、甘ったれるのやめないかい? そんなことしてあの子が報われると思っているのかい? 今あたいが犯人を明かしたって、渡良部ちゃんはなーーーーーーんにも浮かばれない。報われだってしない。どうして渡良部ちゃんが殺されたのか、どんなトリックを使ったのか、それをはっきりさせないといけないんじゃないのかい? いつからあたいはみんなの先生になった? いつからあたいはなんッッッッッッでも教えてくれる人だと思っていた? いつからあたいにそんなバカげた期待を抱いていた!!? いつからあたいを利用して犯人を 墜落(おと )そうとしていた!!?!!? ここは命懸けの戦場なんだよ!!!!  命懸ける気でやらなきゃいけない場なんだよ!!!! 楽して終わらせるなんて絶対いやだから!!!!!!!!」

 初めて……彼女は私たちに声を荒げた。私たちにものすごい剣幕で訴えかけてきた。必死なんだ。

 確かに犯人を早く見つけられるのはきっといいことなんだろう。私たちが手っ取り早く助かる方法でもある。でもただ終わるとそこに残るのはきっと【虚しさ】なんだろう。結局何かが解決するわけでもない。だから見つけるんだ。犯人を、私たちの手で、力で。

 近衛「……ありがとう、矢崎紫陽花。目が覚めた」

 矢崎「お礼を言われるようなことはひとーつもしてないよ」

 さっきとは打って変わって微笑む彼女の姿は、とても凛々しく見えた。

 

 

 

 *****

 

 

 

 玉柏「仕方ないとはいえ、結構脱線したな」

 とりあえずどこまでいっていたっけ。あ、振り出しに戻ったところからだわ。

 湊川「うーん。それにしても犯人が一人でやった犯行だとしたら一体どうやったのかしら?」

 金室「そこなんですよね……だって更衣室とかⅡ棟って人が通らないと反応しないじゃないですか」

 国門「忍者でも魔術でも、現実で分身を作り出すなんて無理だ無理だ」

 直樹「すごい非現実的だね!!? そんなことできたら苦労なんてしなっ……」

 いや、待てよ……? あのときアレはなんて言っていた?

 直樹「…………」

 玉柏「どうした」

 直樹「いやっ……できるかもって……分身」

 国門「おいおいおい!! 冗談で言ったつもりだったのにかぁ??? ……ははは、だけど俺様はもうわかっているぜ。これが分身によるもので、その分身がどうなっているのかもなぁ!!」

 湊川「ど、どうしたのよ!?」

 すごい突然すぎる国門のキャラの変わり様が怖い。けどあの自信たっぷりでいたずらに笑う彼の目に偽りはなさそう。というかなんかその目に光が見えないような……

 金室「直樹さん? 何をぼぉーっとしているんですか?」

 直樹「!! な、なんでもないよ。それよりも」

 いけないいけない。よそ見してた。顔を横にふって気を取り直す。

 直樹「一つ考えられるんだよ。犯人が分身を使ったかもしれないものがね」

 灰垣「そ、それは何なんじゃ?」

 直樹「『マネキン』だよ」

 湊川「……え」

 ほとんどが拍子抜けみたいな顔してる。国門はやっぱりかって顔して顎を擦った。

 湊川「ま、待ってよ!! マネキンが更衣室に反応するわけ……」

 玉柏「いや、そいつはどうかな」

 矢崎「どういうことだい?」

 ちらりと私が想像していたアレと同じものをみてから口を開く。

 玉柏「Ⅳ棟が開放されたときにみんなで回ったろ。そしてプールでモノヤギの説明を受けた。このときモノヤギの言ったセリフ、覚えているか?」

 灰垣「確か『人の形をしたモノが入ったと認識されれば更衣室内のセンサーが働く』じゃったか?」

 近衛「っ!! そういうことか!!」

 何人か気づいてくれたみたいだ。

 国門「『人の形をしたモノ』……つまり人じゃなくてもそれに準ずるものならいいってわけだぜ。こう考えればマネキンが使われていた可能性は否定できない」

 金室「それどころか完全に成り立つじゃないですか!!」

 ……そしてこれは、あそこも例外じゃない。

 玉柏「これは生物室にも同じことが言えるな」

 灰垣「あれかっ!?」

 そうあれだ!!

 湊川「どれよ!?」

 近衛「……生物室といえば人体模型……」

 直樹「そう。人体模型も人の形をしたもの。電子生徒手帳持ってる人は確認してみるといいよ。きっと今も生物室のライトはついているから」

 私も一応のために確認してみる。そこには誰もいないはずの生物室にしっかりとついたライトが映し出されていた。

 矢崎「ほんとだね……」

 湊川「でも、それならなんで今まで生物室のライト付かなかったのよ?」

 一つだけ、考えられることがあるさ。とすれば。

 直樹「多分……棚にしまわれていたからだと思う」

 灰垣「棚?」

 直樹「ほら、人体模型って体の構造を調べるくらいしかあまり使わないでしょ?」

 近衛「確かに……」

 玉柏「それに棚に入っていたら監視カメラに入るかもわからない。それでカウントされていないならまあ納得はできるな」

 もしかすると、犯人はこれを利用して生物室にいると見せかけて別の場所にいた、なんてこともあり得るのか……

 モノヤギ「人の形をしたモノ……これでワレの言いたいことはわかるであろう?」

 突然モノヤギが割り込んできた。でもなんかこのヤギ気前よくない? すごく怪しく思うんだけど……でも裁判じゃ平等だって言っていたし……嘘、ではないのか

 金室「マネキンが使われたのは、おそらく本当でしょうね」

 近衛「問題はそのマネキンをどう利用したか、だ。犯人はどうやってマネキンとともにプールから脱出したのか、出るときの更衣室のカウントを一人だけにしたのか…………」

 国門「はあぁああ!! なんだぁこれはぁ??? こんな限りなく密室に近い殺人ってぇのはよぉ? この犯人は下手に俺様たちを混乱させてきやがるぜ」

 言っていることはわかるのに耳にうまく入ってこない不思議。けど……この事件、なんとなく女子が犯人なのかもしれない……けど……

 玉柏「一度証拠を整理するか」

 矢崎「そのほうがいいね。道筋辿るよりも出てきた証拠から絞り出したほうが確実そう」

 直樹「えっと、まず現場から確認する?」

 国門「初心に返りて盲点暴くってな。現場のプールの周りには水がまき散らされていたぜ」

 灰垣「プールの窓には鍵が掛かっておったな。窓下にはビート板が積まれてもいた。それとなんだか白の髪の毛もあったと言っておったのぉ」

 湊川「サウナには電子生徒手帳が八個、壊れた状態にあったのよね」

 金室「掃除はしている風に見せかけられてて実際は違う……」

 近衛「更衣室も女子のしか使われていない。そもそも僕の電子生徒手帳が壊れていて、渡良部美南の電子生徒手帳が残ったままなのも気になる。僕サウナには入っていないですし」

 玉柏「そういえばロープもあったよな。一階のマネキンの首にしっかりと結ばれていたみたいだったがな」

 矢崎「そして今回の犯人は刺客の七……わざわざ自分から明かしているのもなーんか気掛かりだよねぇ」

 ……こんなところなのかな? まだここでは出てない証拠もあるけどそれが犯人につながるのはあまり考えられないや……

 

 きっと犯人は渡良部を何らかの方法、多分気絶させたんだろうけど、そうしたあとにマネキンも持って女子更衣室からプールへ。渦を作って渡良部をその中に入れて殺害。ここまでは見える。けどここからどうしたんだ。犯人は何をしたんだ? 犯人は……何を…………

 綿密に計算されつくされてる。犯人はその影にうまく身を潜めている。そういえば矢崎はいつから犯人がわかっているんだろう。正直あの対応されたら教えてもらえる気はしないけど。

 玉柏「なあ矢崎、お前いつから犯人がわかったんだ?」

 あ、玉柏ナイス。悩んでるときに察してくれたのかな。いや、そんなことないか。

 矢崎「…………事件が起こった直後。捜査が開始する頃には犯人がわかったよ」

 湊川「そ、そんな前から!?」

 矢崎「ここ最近の行動とかを総評したら自然とその結論に至っただけだよ」

 待ってどこをどうしたらその結論に至ったのッッ!!!!!?!? だめだやっぱりわからない。

 矢崎「まあ今気にするところではないね。ほかのところからなーにか気になることあれば議論しようか」

金室「そういえば白の髪? が落ちていたんでしたっけ?」

 ああなんか落ちてたって言ってたなあ。でもここに白髪の人一人もいないもんなぁ。いたとしても銀髪の江上と近衛だし…………え、ちょっと待って。そういえば昨日美術室誰か通っていたっけ……? 少なくとも二回は。そう考えると犯人はカツラを? けど理由は? ねえ、まさか、犯人は…………

玉柏「なるほどな……そういうことか。犯人わかった」

ちらっと玉柏のほうを見たらああと頷かれる。なんとなく、犯人の影が見えてきた。

 湊川「えっホント!?」

 玉柏「さっきの金室のセリフから考えたら疑問点が浮かぶんだよ」

 でもそれが確定的なものである保証はどこにもない。

 国門「おい近衛。今回の事件の犯人わかったのか? え?」

 近衛「いちいち煽ってこないでください。というか僕に聞くか普通…………。そんなのわかるわけない」

 

 

 

 

 

国門「バーーーーーーーーカやろーーーーーーうめッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 突然国門が大声で近衛を罵倒してきた。隣の湊川がビビってるんだけど。

 国門「いつまで餓鬼ぶんだこのすっとこどっこい鈍感バカ執事のすっとこどっこいが!!!!」

 灰垣「すっとこどっこい二回も言わんでいいじゃろ」

 国門「黙れ禿げじじい!!」

 灰垣「禿げとらんわ!!」

 ふざけてんじゃねーよ!!

 国門「わかるわけないだぁ? そんなの真実から目を背けていたいやつの常套句だぜ。真実見つける気があるのかよ。ないなら今すぐ死ね」

 湊川「そ、そこまで言う必要ないじゃない!!」

 国門「いいや必要だぜ。ていうか、真実ってのは最終的に個人が決めるある種の博打打だ。それを『わからない』で済ませられてたまるかっての。スカポンタン!! 真実壊したきゃ俺様倒してみせろよ」

 なんか主旨違くない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国門「ま、そういうのも無理ないか。認めたくないのも無理ないか? お前犯人だもんな?」

 そう言って近衛を指さした。

 近衛「は? な、なにを言って………………僕は犯人なんかじゃない!! 髪の毛だってここには白髪の人なんかいないだろ!!」

 国門「確かに白髪はいないぜ。だからどうした? 白と銀なんて見分け付きにくいだろ? 銀は所詮キラキラした灰色。水の中で溺れて犯人のことを見た渡良部はさぞかし絶望しただろうぜ。そんでプールから出るときにでも髪の毛落としたんだろ。髪の毛は落ちたことに気づかないもんだし? さっきの通り、白も銀も見分けはつきにくいからな」

 確かにそうかもだけど、近衛は犯人じゃない……はず。

 近衛「そんなわけ…………そんなわけない!! 僕は殺してなんかない!!」

 国門「どうかな? 殺す動機なんて考えればいくらでも出てくる。お前が犯人なら『何度も呼び出されてしつこかったから』、とか。ありえなくはない線だぜ?」

 近衛「ふざけるな!!!! 」

 そんな反論する近衛を国門は嘲笑う。

 国門「はっ!! いたって真面目、大真面目だぜ!! ありえないの決めつけは阿呆がやることだこのすっとこどっこい!! それが裁判!! いつだって大真面目だ」

 直樹「絶対嘘だみんなしてさっきまでふざけてたでしょ」

 ツッコミいれたくて仕方なかった。

 直樹「ていうか……近衛くんが本当に犯人なわけ……」

 国門「じゃあすっとこどっこいは何していたんだ? アリバイの一つもないんだろ? ずっと部屋に引きこもってよ? やーいやーい!! ひーきこーもり!!!!」

 近衛「っち……いい加減にしろよ……腹が立つ」

 近衛の顔いつになく怖いんだけど。ついに舌打ちまでしちゃったよ。

 国門「おーおー怖いねぇー? ってそんなのどーでもいい」

 近衛「そもそも窓から出たって鍵は閉められないでしょうが……!?」

 国門「はあ~~??? そんなのまた入って来たときに鍵閉めれば済むもんだぜ。一番最初にプール入ったのお前だし。一番誤魔化しやすいポジションにいただろ。計画的な犯行であったから簡単に準備も始末もできる。絶好のチャンスだぜ」

 気迫、余裕、証拠、何もかもが段違い。国門の推理力に近衛どころかみんなが圧倒される。それくらい恐ろしいほど筋が通っている。

 灰垣「本当に……近衛が…………」

 近衛「違う!! 違う違う!!!! そんなわけ……!!」

 国門「いろいろ揃っちまっているんだぜ。逃れられるのか? それともくだらない言い訳でも遣えるか? え? 近衛が殺人を起こせる確率はとっても高い。むしろこんなの当ててくださいって言っているようなもんだぜ」

 …………どうしよう。自分が考えていた内容が塗り替えられる。どこかに矛盾があるように思えるのに、それが覆されていく。

 湊川「え…………近衛くんが? う、うそ、よね?」

 玉柏「いや……ていうかそれだと刺客の七が近衛ってことにもなるだろ。裏切り者とはいえそれは」

 金室「で、ですけど…………些か筋が通っているので……どうすればいいのか」

 近衛「そ、そんな……ち、違うって言っているだろ!? なんで、なんで信じてくれないんだよ!!!! 誰もっ、信じてくれないんだよ!!!!」

 本当に……これで決まるのか? 近衛が? 信じられない。これが真実だっていうの? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国門「ってのが理想だろ? 今回の事件の犯人さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近衛が、みんなが、大きく目を見開く。

 国門が指した先。それは私が想像していた犯人とまったく同じ人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰垣「ほう? わしが犯人じゃと言いたいんじゃな」

 国門「それしか考えられねえよ。あーあ。ちょっと楽しい煽り大会も終えたところだぜ。近衛の弁護でもしてやろうか。ま、少し議論してからやらせてもらうぜ。それに、だいたいのことは言ったぜ」

 湊川「えっ……えっ???」

 国門「わからないやつらのために言うぜ。さっきまでのは忘れろ!!」

 全部演技かよ!! カマかけかよ!!

 国門「あんなぁ……近衛の動機にあんなのがあるとでも思っているのかだぜ? 悪いがあり得ないな。モノクルを渡したのが、いや預けたのが確かな証拠だろ」

 金室「モノクルがどうしたんです? 特に関係しているとは思えませんけど」

 国門「…………あんまりそういったものの意味とかは興味ないんだけどよ、モノクルって要は片方だけの眼鏡なわけだろ? ……視野に入っていたってことなんじゃないのか? それを渡良部に渡していたってことはつまり、自分のことも視野に入れていて欲しかった。薄っすら映すだけでいい。片側だけでもいい。でも自分という存在がそこには残っているって思いたかったんじゃないのか?」

 弁護とはちょい違うかもな、と肩をすくめる。近衛は目を反らして口を開く。

 近衛「…………忘れられるのが怖かった。裏切り者だから、そんな理由で排除されることくらい目に見えていた。でも……一緒にいた時間が楽しかったのは紛れもない事実。国門政治が言ったことは十割あっている。でもその中の十割であって、実質三割足りてない」

 そういうとポケットから…………眼鏡が出てきた。

 近衛「眼鏡とモノクルの大きな違いは、一つか二つか。二つなら視野は一層広がるけど、一つだと狭い。けどなぜか狭いほうが、探求心というものは強く表れる。二つで見るのは一瞬だ。でも一つだけなら狭いから見るのに時間がかかる。……時間をかけてでも、誰かに本心を探ってほしかった。合わなくたっていい。それらを含めた、純粋な認証が…………欲しかった」

 悲しげに語る近衛の遠い目に、こっちまで悲しくなってくる。自分を受け入れてくれるほどの何かが、彼を束縛していた。裏切りというレッテルと一緒に。うわべじゃない、すべてに。すれ違っても、みんな違ってみんないいところを、ちゃんと知っていて欲しかったんだ。

 近衛「ごめんなさい。こんな長話に付き合わせてしまい。続けましょう。灰垣遊助が犯人であるという証明を」

 灰垣「ふう…………待ちくたびれたぞ。生殺し状態なんていつぶりじゃろうなぁ」

 すごく待たせていたけど、これも大事な話し合い。灰垣が犯人である証拠、完璧とまでは言えないけど……少しでもちゃんと見えているから。

 直樹「……さっきの国門くんの推理のおかげで少しわかってきたことがあるよ」

 灰垣「……よかろう。まずなぜわしが犯人だと思った?」

 訳してやる。

 直樹「まず今回の事件。犯人は近衛くんを犯人に仕立てることにしたところから始めたはずだよ」

 近衛「は?」

 直樹「灰垣くん。君前に言っていたよね? いつでも誰かを殺す準備ができているって」

 灰垣「言ったな。じゃが所詮口先だけ。それを証拠とするのは薄いんじゃないのか?」

 そうなると思った。でもこれがもし本当なら……灰垣のとんでもないシナリオが今もなお動いていたことになる。

 直樹「事件を成り立たせるために近衛くんにみんなの目がいくように仕向ける必要がある。それがあのビート板。君なら窓に手を伸ばすだけでも届くからあえて置くことで、あたかも身長の低い人がやったかのように見せることができるはずだよね」

 灰垣「ふむ、確かに可能じゃな」

 ……いやに素直に受け止めてくる。何か企んでいるのか?

 灰垣「それはあくまでも仮定。すなわちわしが窓から出たことにもつながる。じゃがな、わしはいったいどうやって窓の鍵を閉めた? わしはプールで窓に近づいておらんぞ?」

 直樹「直訳なんてさせるか!!」

 彼のあのときの立ち位置考えれば……

 直樹「みんなで渡良部さんの死体を見つけたとき……君は私たちの後ろから話しかけてきた。湊川さんが灰垣くんの前にいたよね?」

 湊川「ええ。唯一視界に入らなかったの灰垣くんだった気がするわ」

 玉柏「へえ……そうなのか」

 直樹「一点に集中している間は、ほかのに目がいかない……だからこそ灰垣くんはその心理を利用して完全に一か八かの大賭けに出た。誰も見ていないことを利用して、二つのことを糸も簡単に成し遂げてみせたはずなんだ!!」

 灰垣「はっはっはっ!! こりゃたまげたわい。不可能ではないな」

 余裕のある落ち着いたトーンで、静かに語りかける。まるで蛇みたいに絡みつくようで、なんか怖い。

近衛「ん? ちょ、ちょっとお待ちを。僕の電子生徒手帳は灰垣遊助に渡良部美南のものと交換されたってことになるのか!?」

 玉柏「状況を考えればそうなるだろうな」

 矢崎「ていうか……近衛くんの燕尾服返したの灰垣くんだもんね」

 !! そうだ。着替えてこいと言ったのも灰垣だし…………

 国門「少なくとも近衛がプールに入ったってことはつまり、渡良部の電子生徒手帳は使う理由はどこにもないってことでもあるんじゃあねぇか?」

 灰垣「あのなぁ……できたとしてもじゃ。結局更衣室の人数は誤魔化せん。それにマネキンを外から落とせば金室が聞いたという振動も起きるじゃろう? マネキンにロープをつけて落とせば……あとから紐を引っ張って回収も可能じゃろ?」

 直樹「……いいや。そんなことはできないよ」

 国門「見つかったロープはそこまで長くはないぜ。いくらお前でも、ロープの長さと別館のデカさを考えれば届かない長さなのはわかるだろ」

 使える範囲はかなり限られるから。

 近衛「…………貴方は……渡良部美南を殺してから、窓の下にビート板を置き、七人の電子生徒手帳をサウナに投げて壊した。そして首とかにロープを結び付けたマネキンを女子更衣室にいれて扉を閉め、自分は窓から脱出。別館の上から地面に降り、またプール前に行く。渡良部の電子生徒手帳を更衣室にかざし扉を開けてマネキンを回収…………清掃中の看板もその時にとってしまえばいい…………」

 灰垣「ふーん……」

 金室「思えば、あなたはサウナの捜査もしてましたね。一度入ったことがあるのなら、モノヤギから直接注意されたなら、それくらい理解はしていたはずですよね」

 直樹「灰垣くんはこの中じゃ圧倒的に背が高いし今までの一連の流れを、できないわけじゃないよね」

 灰垣「バカバカしいにもほどがあるな。背が高いだけの話か?」

 もちろん違う。私はそういうように首を横に振った。

 直樹「決定的な証拠があるよ。灰垣くんが犯人だって証拠がね……!! 金室さん!!」

 私は金室さんにポケットから それ(・・ )を取り出すように言って受け取る。

 灰垣「ほう? それが一体なんだというんじゃ? たかだかビーズが。わしを追い詰める証拠にでもなり得るとでも?」

 直樹「……もちろん。だってこれは君にとっては馴染み深いものなはずだからね」

 今回だけ感じた違和感の正体がようやくわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「これ、灰垣くんの念珠のビーズ。そうなんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰垣「………………」

 っ手応えが……ない……?

 直樹「っ、君は………………」

 灰垣「めんどくさいたとえはいらん。どうしてそれが根拠となったんじゃ?」

 

 ゾクッッ……

 

 な、なんだ? この殺気……? この威圧感……?

 直樹「……だって、君今まで殺された人たちに……念珠持って祈っていたでしょ……? なのに今回に限って念珠を持たずに手を合わせていた……いつも念珠持っていたのにないのって……不自然に思えたから」

 金室「そ、そういえば確かに……」

 宮原のときはたまたま見かけなかったけど、鷹山とダグラスと橘のときはそれぞれ念珠を持っていたのを覚えているから。

 灰垣はゆっくり目を閉じてはあぁっとため息をついた。……!! ってことはまさか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰垣「何一つ悟られておらんぞ!! コートにすら入れてないわい!!」

 

 

 

 

 っ!! こ、ここで反論……!?

 灰垣「実に、実に面白い推理じゃ。それは認めてやろう。現にわしの念珠はこの通り壊れておる」

 この通りと灰垣は自身の念珠を見せてきた。それは本当に紐とビーズがバラバラな状態。

灰垣「じゃが所詮それだけのこと。いつ壊れたかまでは明らかではない。根拠として薄い、薄すぎる。それに……この事件の犯人がわしならば、すなわちわしが必然的に『刺客の七』ということにもなろうて。わかっておるじゃろ? ほんっとうにバカバカしいことじゃ……………………なあ、【刺客の七】である証拠……もちろんあるんじゃろうなぁ? 否、あるんじゃろ? それがなくては認められん。犯人と告発したくば最低限の、それくらいの証拠を!! 根拠を!! わしに見せてみろぉぉおおお!!!!!!」

 ものすごい勢いでの反論が場内に響く。そうだ刺客の七のことすっかり忘れるところだった。でも…………どうしよう。これ以上彼を告発できる証拠が、ない。

 玉柏「…………まずいな。【刺客の七】であることを認めさせないと、そもそもが成り立たない。ご丁寧に自分から犯人だって名乗る刺客の七なのに、メモまで用意しているのに…………どこにあるんだ……刺客の七……っ!!」

 国門「少なくとも俺様の推理は正しかった。だが悪い。そこまでははっきりしてくれねぇ……」

 湊川「理にかなっているはずなのよ…………」

 金室「刺客の七の証拠……何があるっていうんですか…………今までに刺客の七である証拠があったとでも言うんですかっ!!?」

 圧倒的過ぎる犯行。でも、なぜか、刺客の七であること以外はもう認めているようにも感じる。でもそれじゃ納得してくれない。彼は、一体なにを望んでいるの?

 全員が頭を抱える。どこだ、どこにある。追い詰める証拠。探せ、探せ…………そもそもヒントがあるのかも怪しいのに。この悩みはまさか無意味なの? 引っかかってくれない。プールの中も、サウナも、窓も、証言も、写真も、何を探しても浮かびあがらない。翻訳、できない。

 灰垣「この際はっきり言わせてもらおう。【刺客の七】である証拠さえあれば、わしは認めるんじゃ!! さあどこじゃ!! 言っておくが捜査ごときで見つかるものではないからな!!」

 …………ねえ、なんでそこまで言っちゃうの? どうして認めさせようとするの? …………それなのに、どうして殻にこもったまま出てこようとしないの!!? 何が灰垣を縛りつけているの!!?!!?

 【刺客の七】…………何に、一体何に絡まって…………どうしよう、焦るたびにわからなくなってる。これじゃ思う壺…………いやっ、それすらもわからない……

 近衛「…………七……」

 

 

 

 

 

 

 

 見せてあげるよ。七の秘密

 

 

 

 

 

 

 そのとき、一人の優しい声が聞こえてきた。

 矢崎「あたいはわかっている。言うのをずーっとためらっていた。でもさあ…………結局は、お互いの責任なーんだね」

 灰垣「お前さんは、わかっておるのか?」

 矢崎「うん。そろそろ認めさせないとこれは終わらない。そもそもずっと気になっていたんだよね。刺客はわかるのに、なーんで『七』が必要なのかって」

 七……そういえばあまり気にしてなかったような……

 矢崎「でも自分から名乗ってくれた。自分が【刺客の七】であることを。【七】であることを」

 そんなときなんて……いつ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 矢崎「頭脳明晰、刺客の【ツタウルシ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近衛「!! まさかっ!!?」

 その一言を聞いた瞬間近衛は何かを察した。

 直樹「えっなんでツタウルシなんてでて、き、て…………つた、うる、し……うるし…………? ああああッッッッ!!!!?!?!?!?!?!?!?」

 遅れて気づいた!! こ、こんなの気づけるわけないじゃん!! 矢崎は、気づいてたの!?

 金室「漆って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹「漆は…………【大字】だ……正真正銘……【七】のね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉柏「だ、大、字……?」

 湊川「詐欺を防ぐためによく使われる字体……よね」

灰垣「……」

 直樹「最近じゃん!! みんなの前で読み上げられていたの!! 好きな植物について矢崎さんから出されたときっ!! 灰垣くんは『ツタウルシ』って書いていたんだ!!」

 矢崎「そのときの紙はこれね。それぞれの字で書いているし、嘘はひとーつもないよ」

 矢崎はポケットから取り出してしっかりと私たちに向けて見せる。間違いなくそこには『ツタウルシ』と書かれていた。

 直樹「ねぇ…………ずっと伝えようとしていたの……? なんで……なんで……!?」

 灰垣「……………………」

 灰垣はただ静かにそれを聞いているだけだ。そもそも刺客の七ってことすら信じられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰垣「くふっ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、彼はにやりと笑った。それはとても不気味で。なぜか背筋が凍りそう、とも思った。

 

 

 

 

 

 

 あれ? 違う、感じたことがあるんだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 ッッまさかっ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰垣「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高らかな笑い声が場内を反響させる。

 

 同時にパチパチパチパチッッッッ!!!!!! という拍手までもが響く。

 

 それはとても大袈裟で、大胆で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰垣「はあーっあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その大笑いはひどくに冷たくて、体が凍りそうで、金縛りにあったようで、体が動こうとしない。なぜか鼓動が激しい。無意識に殺気を放ち、殺されるんじゃないかって思えてきた。

 

 

 ふと、その拍手は止む。みんなの困惑の目を後目に、袖から何かを取り出す。それは…………白髪のカツラ。それを被ると…………浮かび上がる。私たちは見たことがある。

そして彼はゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   【枝】は【垂れ】ても嘘をつく

 

 

     【芝】に潜んだ臆病さ

 

 

    【重】さ【八】とて教育上よ

 

 

   【山】の綺麗に見とれるべからず

 

 

      【冬】の【寒】さは

 

 

     冷たく静かで笑ってる

 

 

       一人のソナタ

 

 

     【彼岸】を見届けん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      そう我ら【桜田】

 

 

       【桜田一族】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰垣「わしが『刺客の七』であり、暗殺一家の【桜田】の血を引く最後の人間、 桜田直弼(さくらだなおすけ )。わしの古の名じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが“あのとき”の

 

 

 バレー部の素顔だとは思わない

 

 

 いまの宣言が何よりも恐ろしく

 

 

 私たちを嘲笑うようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノリュウ文書

 

 

 事件の真相ファイルその4

 

 

 事件はⅣ棟が開放されてからすでに動き始めていた。犯人は午前中からプールに入って渦を作りしばらく放置。適当なタイミングで渦を止めた。これはみんなにプールの清掃があると思い込ませるためだった。そのために清掃中の看板もしっかり用意して。

 午後になり、犯人は一人で行動していた渡良部を襲い気絶させた。争う暇さえ与えずにあっけなくこなしてみせた。犯人は渡良部を連れてⅣ棟に向かった。彼女のポケットから電子生徒手帳を取り出して、彼女を女子更衣室に入れた後。犯人は一度Ⅳ棟の一階に降りて予め用意しておいたロープをマネキンに結び付けて持ってきた。そしてまた渡良部の電子生徒手帳を使って女子更衣室に入れて扉を閉め、犯人も同様に入っていった。更衣室は一人ずつしかも両方の扉が閉められていないと出入りができない。犯人はそれを利用して動いていた。

 犯人は入ったときと同じようにしてプールに入ったあと、すぐに動力室に向かって渦を再び作った。もちろん犯人が渡良部を殺害するのにも必要な工程だが、時間を考えたときに水を入れているのだと思わせなければならなかった。渦を作って犯人は渡良部をその中に放り込んだ。……さすがに起きたであろう。しかし渡良部はカナヅチであるという致命的な弱点があった。いきなりのことに脳が対応しきれず、そのまま渡良部は渦に飲み込まれ死んでしまった。

 渡良部の死を確認した犯人は、渦を止める前にビート板を窓の下においた。窓から出るときに身長の低い人が使ったと思わせるために。渦を止めて犯人は更衣室にロープ付きのマネキンを入れ、自身は窓から脱出を図った。窓から出たとしても、すぐ下は別館。けがの心配は端から消していたのだろう。別館に着地した犯人はさらにそこから地面に降り、もう一度Ⅳ棟に入った。マネキンの回収をするためだ。女子更衣室をとっておいた電子生徒手帳を使ってまた開いた。回収したマネキンは元の場所においてしまえばいい。けれど犯人の工作はこれだけに留まらなかった。

 犯人は大きな大きな賭けに出ていた。湊川のアナウンスで犯人はすぐにプールに駆け付けた。そしてみんなが渡良部の死体に目がいっているわずかな隙をついて窓を閉めた。そして犯人にとって嬉しい誤算があった。近衛が渡良部を引き上げる際に燕尾服が脱ぎ捨てられたのだ。燕尾服の中に電子生徒手帳があることをわかっていたのと、渡良部の電子生徒手帳を持っていたのが重なり、元から用意していた刺客の七の紙を添えて近衛のと渡良部のを交換。燕尾服を返して自然に見せかけた。そして捜査でサウナに向かい近衛の電子生徒手帳を熱暴走で破壊。こうすることで犯人は近衛を犯人に仕立てあげるように誘導したのだ。

 だが犯人ははじめから刺客の七であることに名乗りを挙げていた。あえて自分につながるような証拠を残しておくことで、近衛が犯人だというミスリードを起きないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学級裁判、閉廷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お気付きか

 

 犯人のノーテイク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回

 

 逃げ露落ちの鬼蛇8部屋目

 

 

 

 




 どうも。今回は後書きで失礼します。

 まず裁判書いてて思ったこと。


 「くっそごちゃごちゃしてんなぁ!!?」


 はい、今回刺客の七がいたのともろもろの伏線の配置位置などの確認やプロットとのにらめっこが今回一番キツかったです。というのも裁判に関してはWordを使って打ち込んだんですね。そして苦戦しました。もともとそこまで打つ速度がめちゃめちゃ早いってほどでもないんですけど、まあ改行やら空白やら変換やらがうまいこと打ち込めてなくていざ投稿で「ほあ!?」ってなってました。慣れないことするもんじゃないです()
 ぶっちゃけ一章と四章で使った体力が同じくらいです。ご存知の通り一章は私のとんでもないミスでかなりごり押したところはありました。ある意味二章が一番楽だったかもしれません。三章もごちゃごちゃしていたにはしていたんですが、ごちゃごちゃが多い分かなり気を使ってたので案外はやく済んでました。
 四章の手こずった原因は多分中途半端だったからなんだなぁと。いろいろ反省点の多い裁判になりました。
 さて、次回はおしおきなわけですが進捗はダメです()まだ時間かかりそうですが二周年に間に合うようにするので。
 ではまた8部屋目でお会いしましょう



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第四章 非日常編 逃げ露落ちの鬼蛇8部屋目


 本日は表論の二周年です。支部では数日前に投稿しましたがこっちは作者の余裕的にも今日しか無理でした←
 ですが間に合ったのでよしとします(あんたが決めんなし)
 では長い長い四章も本日で完結。次は五章。まだまだですが気長にお待ちくださいませ。



 それでは
 逃げ露落ちの鬼蛇8部屋目。縛られて縛られて、けれどそこから解放を求めてる。




 

 

 

 注意 

 

 これはダンガンロンパシリーズの二次創作となっています。 

 本編とは異なる設定が多々あります。 

 突然視点が変わることがあります。

 あと主の文才は期待しないでください。 

 

 それでも平気な方は次のページへどうぞお進みください。 

 

 補足 

 渡良部はモノヤギ以外の相手を麻雀の牌や役で呼びます。本編では度々麻雀について話すことがあるので彼女が他人を呼ぶときにはその人の名前にルビをふります。 

 例:直樹→ 直樹(トン)

 他の人が相手を呼ぶときはそのまま読んでください。 

 なおプロフィールに渡良部が相手を呼ぶときの呼び方を載せてありますのでそちらもぜひご覧下さい。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 「……?」

 

 部屋に入ろうとした途端、足元に落ちてた謎の手紙。手に取ってみる。くそ、さっきまで思い出してたばっかだっつのに。ダメだ涙で視界が……

 

 「…………は? おい、これ……」

 

 『刺客の七』には気を付けろだ……? いったいぜんたい何なんだよこれ……

 

 

 

 *****

 

 

 

 「ガハッ!!!?」

 「…………君だったのか」

 

 な、何が起きて……!? い、しゃ? なんで? まさか?

 

 「て、めぇが……刺客の七……か? グハッ」

 「? なんだそれは?」

 

 くそっ、ちげぇのか!? うっ……

 

 「ゴホッゴホッ……言えや……助けて、やれたかもしんねぇのに…………」

 「!!!!!! すまない……すまない……っっっ!!!!」

 「謝ってんじゃねぇ!!!!」

 

 医者でもねぇって、いったい誰なんだよ……くそ…………

  

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 「むふふ、おれだって無粋な真似はしたくないんですよこれでも。でもいつだって白くも黒くもなれるならそれくらいの度胸はありましょうよ」

 「ほう……?」

 「なんできみだけそんなに謎が多いのか。気になって仕方がありませんでしょう」

 「知るか。勝手に人の素性を知ろうなどと考えるのはよせ」

 「そうは言ってもですねぇ。おれにもおれなりの信念っていうのがありましょうよ。いくら答えがここにあるおれでも聞かないとわからないものくらいありましょう? 結局きみからわかった情報は『別院生まれでないこと』だけ。その前はおろか、後すら情報が不可解なほど多く見当たらんのでしょう……これは一体どういうことなのか。気にならないわけないでしょう?」

 「阿呆か。だからって直接本人に……死んでもお前さんには言うものか」

 「………………その割には、あの子とよく絡みがあるようで」

 「ほざけ。なんじゃ、変態な目で見とるなんて言わんじゃろうな?」

 「たとえ見たとしてもですねぇ、おれの性癖には刺さらないんです。ってそれはどうでもいい。本題はここからですよ。これ」

 「…………なぜお前さんが知っとる。わしのパスポートの中身など」

 「……実はおれも、関係ないわけではないんです。[[rb:タイだけは >・・・・・ ]]。だけどね、おれたちはこんなに若いうちに行くべき場所でもないんです。もう少し大人になってから。それが普通。けれど…………なんで行く必要があったんです? 旅行ではないでしょう? まさか………………予約を取りに行ったんじゃないでしょうね?」

 「………………」

 「はっきり言いましょう。きみの考えがさっぱりわからない。どうしてそんなことをする意味があるのか」

 「……ほっといてくれんか? それを知る理由はお前さんにない」

 「………………その髪の毛も?」

 「……答える義理はない。お前さんが思った通りの答えがそれ。ただそれだけじゃ。わしに問うな」

 「いやまあ大方予想はついてるんですけども………………」

 「話す価値もない。悪いがわしは出るぞ」

 「ま、待て!! まだ終わって………………行ってしまわれた…………………………灰垣ちゃん、男っていうのは簡単に抑えられる人間じゃあないでしょうよ。なぜきみは、血を絶とうとするんでしょうか…………?」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論が出た。不気味に嗤う灰垣の本性に全員が唖然とする。

 「ほれ? 結論は出た!! はやく投票するんじゃ!!」

 白くどこか青みを帯びた猫のようなふわりとした髪をかき上げる。

 「あ、あなたが……あなたが……っ!!」

 「その話をする前にさっさと投票するであーる!!」

 近衛のうだうだに耐えきれずモノヤギも私たちを急かす。そうして投票が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐるぐる回るのはルーレットのはずなのに

 

 

 私たちが回ってるみたいな錯覚が起きる

 

 

 止まったルーレット

 

 

 鳴り響くファンファーレ

 

 

 正解なのはわかるけど

 

 

 死を(いざな)うような

 

 

 悪魔の拍手が

 

 

 私たちを突き落とす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「パンパカパンパンパーンン!!!! 四問連続大正解ィ!! 今回超高校級の雀士ィ、渡良部美南を殺害したのはァ、超高校級のバレー部ゥ、灰垣遊助ェ、過去の名を!! 『桜田直弼(さくらだなおすけ)』というのであったァ!!!!」

 「灰垣遊助ぇ……!!」

 近衛の怒りが灰垣へと向けられる。けれど灰垣は全く物怖じしない。それどころか不気味に嗤っている。

 「はあぁ……全くこっちもひやひやするであーる」

 「えっ」

 「……暗殺者の桜田一族がいたことはわかっていたであーる。しかァしィ、モノリュウ様も含めてェ灰垣が桜田だったことは知らなかったことなのであーる」

 「どういうわけです。あなたがたは」

 「あのねェ……」

 モノヤギは露骨にため息をつき頭を掻く。

 「確かにオマエラの情報はほとんど知ってるであーる。でもあくまで『ほとんど(・・・・)』の範囲ィ。知らない情報だって当然あるであーる!!」

 ……まあ何もかも知られてたら怖い通り越して気持ち悪いというか……いやこいつら知ってること多いからなんかな……

 「それにィ……桜田がなぜそのようになったのかだって何もない資料ォ……今回は黙って処刑させるわけにはいかないであーる」

 モノヤギたちですらわからない桜田の真相……灰垣は肩をすくめてはクスクス笑う。

 「なんじゃ、おとなしく処刑してはくれんのか。……まっまだ罪を償うのが早すぎると言うのであればそれでも別に構わんが?」

 「……は?」

 「なあ矢崎よ。なぜわしが刺客の七だと疑った?」

 「んー実は最初に疑ったの資料集めしたときなーんだよね~」

 資料室……確かいろいろ情報を手に入れるために行ったような……

 「桜田に関する質問の仕方に違和感がね。まるで灰垣くんが桜田に関係しているように感じたんだ」

 「……ははっ、まさかそのときからとは。確かに桜田があったのに反応して思わず思ったことを問おてしまったのは事実じゃ」

 ……思い返して見れば普通桜田を見ただけで出身や犯行経緯を知ろうとするのはどこか違う。

 

 

 バンッッッッッッ!!!!!!

 

 

 突然、近衛の拳が裁判席で叩きつけられる。悲痛な表情で……怒って……

 「なぜ…………なぜ……!!!! なぜ渡良部殿を……っ彼女を殺したのですか!!? 彼女が、っ彼女が殺される意味など、なかったでしょう!?」

 「ふっくくく、はーーーっはっはっはっはっはっ!! なぜ? なぜか……前も江上が疑問に思い、その理由を述べてたのぉ?」

 嘲笑。冷淡。唇を舐めそんな言葉が放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「正直な話をしようか? わしは殺せるなら誰でもよかった(・・・・・・・)

 「………………は?」

 「誰でもよかったんじゃよ!! 殺せるのならなぁあ!!!!」

 そこには明確な殺意を持った、一人の刺客がいた。動揺することなく、常に私たちを警戒する彼の姿が。

 「だれでも…………よ、よかったの?」

 「そのとおーーり!!!!!!」

 パチパチと拍手しながらまた彼は嗤う。

 「意味がわからない……なぜ……なぜ!?」

 「たーんじゅんじゃろう??? わからんのか?」

 「…………ここから出たかったのか?」

 「正解正解だーーいせーーいかーーい!!!!」

 貼り付いた笑顔が、気持ち悪い……

 「殺すのに必要なのは、冷静さと憐れみと技量と作戦と実行力。電子生徒手帳は想定外じゃったけどもなぁ。べっつに桜田に触れる理由なんぞなかったんじゃよ。わざわざな!! でもそのほうが面白いじゃろ? 楽しいじゃろ?」

 「どこが楽しいって言うんだ!!?」

 「他人の意見など聞くまでもないわい。ただわしは出たかった。それ以外に理由なんぞいるか? 出たいという気持ちに理由を敢えてつける意味は? ないじゃろうて!!!!」

 む、むちゃくちゃだ。他のみんなは出たいって理由がはっきりしていた。阪本は事故の形に近いけれど。

 「仮に理由を聞いたところで変に同情するじゃろう? そういうの嫌いなんじゃよ。結局コロシアイという連鎖は収まらんかったんじゃから。同情しても変わらないものは変わらない。ならとっととここから出て、やりたいことやって生涯終わらせたほうがいいと思った。それだけじゃよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それは違う!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、思い切り叫んでいた。そんなの灰垣の生き方なんかじゃない。

 「……何が違う? 決めつけるのはやめてもらえんか」

 「それが君の生き方なら……君は生にすがっていることになる。もしそうだとしたら……灰垣くん……いや桜田って言ったほうがいいのかな。君はすでに死んでる」

 「えっ?」

 「…………」

 灰垣の表情が強ばる。私は気にせず続ける。

 「桜田くんの生き方にケチをつけたいわけじゃない。けれど……今の生き方が本当に生き甲斐のある人生なの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「生きて生き甲斐のない生活なら本当に生きたとは言えないのじゃ」

 

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 「生命は量より質。生きている中でどれだけ自分が胸を張って生き甲斐のある人生だったといえるかが大切なんじゃ」

 

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 灰垣が私に言った言葉を、私はそのまま聞き返す。

 「生命は量より質って言うのなら……それなら君の胸を張って生き甲斐のある人生(・・・・・・・・・・・・・・)って何?」

 「………………」

 「あたいも気になることがあるだよね。なーんで桜田を名乗ったのに、桜田がやった証明をしなかった(・・・・・・・・・・・・・・)のかなってね」

 そういえば……桜田を名乗る割には……どこか穴が……

 「よくよく考えれば、なぜさっき刺客の七の証明をするだけで犯人と認めるって…………出たいからという理由にどう繋がるんです? 結局『犯人なのに変わりない』のに」

 灰垣は……答えようとしない。けれどどこか悲しそうな顔をして……目を、閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「全く……お前さんらには敵わんなぁ……」

 灰垣は瞼を開き、ぽりぽりと頭を掻いて微笑む。

 「まず初めに、桜田と呼ばないでもらいたい。わしはもうそれと訣別した。今は灰垣じゃ。話を戻すとだな、そうじゃよ。わしは胸を張って生きたなんて言えない。むしろ後悔だらけの人生。罪まみれの人生。お前さんらとは比べ物にならないくらい葛藤してきた。じゃが答えは見つからない。ただバカを連ねただけ」

 「つ、罪まみれ? 灰垣くんに…………そんなのがあるの……?」

 「ある、あるんじゃよ。今まで隠し続けてきた罪が。モノヤギも、モノリュウも知らない」

 どういうことなんだろう、そう思ったとき。

 「待てよ。秘密の動機とやら、まだ出てねぇんじゃねぇのか? 貴様の秘密ってぇのはなんだよ」

 「……『別院生まれじゃない』。それだけじゃ」

 「見てないのによくわかったね」

 矢崎が呟いた。つまり、隠してるものがそれだけってこと…………

 「……………………罪とは」

 急にトーンを下げ、まるで諭すような声がすべてを黙らせる。

 「罪とは、償おうとも償えない一生の火傷じゃ」

 「一生の……火傷……?」

 「……少しだけ昔の話をしようか?」

 

 

 

 

 **********

 

  

 長く話すのも飽きるじゃろうから、短めに話せるよう努力はする。

 

 さっきも言ったがわしは暗殺一家の桜田として生まれた。そこでの暮らしは過酷を極めた。毎日毎日暗殺のための修行修行…………

 暗殺者になることを望まれていた。しかしわしにはその才能がなかった。体だけが丈夫だったが言ってしまえばそれだけ。それだけしかなかった。何もできないわしにただただ振るわれる無慈悲な暴力が身体を蝕んだ。

 耐えられなかった。肉体的にも精神的にも。わしは中学に上がる前に学校に相談し全国公表を教育委員会を通じて隠蔽。卒業後すぐに逃げた。小さい少年は脱兎の如く逃げた。すべてを抱え込んで、(どぶ)の中へと飛び込むように。

 数日走っただろう。2日、いや3日だったか。食べることも飲むこともせずただ走った。一心不乱に。振り向いたら捕まる。逃げ場のない鬼ごっこをしているみたいだった。疲れるなんて言ってたらダメだ。何も考えるな。考えれば考えるだけ蛇はやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狂気的な凶器を振り回しながら迫る肉親()から、【逃げろ】

 

 本当は迫ってないことを心のどこかでわかってたはずなのに、わかっていなかったみたいに走って。そして遂に辿り着いた。わしを救ってくれる場所を。……そこが別院じゃった。気づけばわしは少なくとも二県をへとへとになりながら走って越えて南下していた。別院前に着きそこにいた僧に頼んだ。どうか助けてくださいと。僧は『これは仏の導きなのだろう。よく修行に励みなさい』と言ってくれた。ここで僧とわしは義理の親子の関係でありながら師弟の関係になった。姓を変え、秘密裏に名前も変えた。それから修行に懸命に励んだのだ。桜田の動向を窺いながら、ひっそり、ひっそりと。

 

 

 ………………以前こんな話をしたのを覚えておるか? 彗星の如く現れ彗星の如く消えたバレー部のことを。まあわしのことなんじゃが。あれには理由があった。受験期が近づいていた。本来なら引退時期、しかし元々部員が少ないのもあってかすがられたんじゃ。わしは参加することになった。結果はあの通り。全国にまで行き優勝へと導いた。……このときからバレーに対して強く引かれていた。だから高校でも続けよう……そう決めた。

 

 

 しばらく過ごしてからあるニュースが目に飛び込んできた。今となってようやく理解したが『森の恐怖』のことじゃった。……すぐに誰の犯行かわかった。桜田だった。じゃがなぜあんな屋敷でやるかは疑問じゃったがな。暗殺者なのに、暗殺の仕方を誤っておったから。不思議に思っていたら以降ニュースもなくてな。忘れ去られた都市伝説になった。だがそれもすぐにわかった。

 あるとき別荘に置いてきたものがあった。それを取りに行こうと考えた。……そこは惨劇だった。ぼろぼろに成り果てた家と三人の死体。一人の手には家事についての依頼を受けていたらしく、彼らが騙されたのだと感じた。

 

 

 **********

 

 

 

 「わしは……許せんかった。己を、あの家から逃げてしまった自分を。罪をこんな形で自覚することになろうとは思わなかった」

 なぜなら、というように音を立てながら席に手をつき前のめりになる。

 「直接手を下したのは渡良部だけじゃが、この空間において事実上の死を与えたのは渡良部含む四人」

 「えっ」

 「当然じゃ。|橘に刺客の七である手紙を置いたのはわしじゃ《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》から」

 う……そ……あ、でもそうじゃなきゃ……話が通じなくなる…………

 「で、ですがあのときは運命ダイスの影響が……」

 「……その運命をもしも左右できたなら?」

 「は?」

 「偶発的に運命は大きく変わることがある。もしそれが起きたのならば? 偶然に見せかけた必然だとしたならば? わしの手紙ひとつで橘の、ダグラスの、巡間の運命が大きく変わったとしたならば? これを果たして『運命ダイスの仕業』と言えるのか?」

 ふと、何かが落ちる音がした。カランと小さな音。

 「わしのダイスの結果で、彼らの運命が狂ったとしたら……それはすべてわしが背負わねばならない『罪』じゃ。事実橘があの録音で刺客の七について触れたこと、それを恐らく耳打ちされた巡間が危機感を抱き、わしらに告げたこと……これが証拠となりうる」

 さぞ当たり前のように、淡々と続ける。

 「こんなわしじゃぞ? しかも外で、過去にわしが原因であろう出来事で死んだものは数知れん。幾人わしは殺したのか? ありとあらゆる無実の人々を死に至らしめた元凶が、今のうのうと生きているだと? こんな罪にまみれたわしが?」

 「ま、待って!!?」

 私は思わず引き留める。だって……

 「ねえ……実際殺したのって君の親……もう思ってないのかもしれないけど、親なんだよね……?」

 「何を言いたいかはわかった。要はわしが責任を負う理由はないと言いたいんじゃろう?」

 見透かされた。うん、私は灰垣が気負う必要がない気がした。

 「……確かにそうじゃな。結局犯したのは桜田。罪は親にあり子にはない……じゃがなぁ………………親の罪は自然と子に流れる。そして子はその影響で周りから迫害されるケースが非常に高い。そんなことないと言ってもバカにされるだけ。消えない。焼かれて焼かれて焼かれて、どれだけ償いをしても、もう二度と戻ることのないレッテルが【火傷】が蝕む。それならいっそ………………わしが悪人になろうと思ってな」

 ………………

 「ん? 待てどうしてそうなる?」

 「……もう死んだからじゃよ。桜田は」

 ……っ!! まさかあのときの最期(・・・)って、つまり、そういうこと……!?

 「桜田が死んだから……残ってる桜田が灰垣くんだけ…………つまり親の罪が……灰垣くんに」

 その通りとゆっくり頷いた。

 「償うためには誰しも刑を受けねばならない。しかしたとえそれが『死刑』だとして、果たしてそれで遺族は報われるのか? せいせいするのか? 否、そんなことはない。憎めば憎むだけ…………蝕まれるのじゃ。邪心に支配される。『あいつを殺してやる』、『地獄の苦痛を味あわせてやる』。じゃがひどく憎んでも結果はどうじゃ? 変わらんじゃろ」

 まるで教えを説かれているみたいに、彼の空気に私たちは呑まれている。

 「変わらないものは変わらない。不変。もう過去は変わらん。残るのは【むなしさ】、それだけじゃ」

 …………私のなかで、どこか結ばれたままの鎖が一瞬緩んだ気がした。むなしい、か…………

 「……ああそうだ。矢崎、牛の件、わしの親がすまないことをしたな……あんな残虐なことをしていたとは思わなかったんじゃ」

 「いいよ。灰垣くんは手を出してないわけだし、あたいも………………そろそろ乗り越えなきゃいけないことだからね」

 「それと直樹も」

 「えっ」

 「……………………あのときお前さんを気絶させたのはこのわし。そして、過去に誘拐したのもわしの親じゃ」

 ……薄々感づいてはいた。さっきの笑い方、雰囲気、殺気、すべてがあのとき(・・・・)と重なったから。

 「もし、私があのまま助からなかったら……今頃私は死んでたかもしれない……」

 「ああ」

 「…………灰垣くん、誘拐されたときの件は許すよ。直接関わってるわけではないし。けど…………気絶させられたときのは簡単には許せるものじゃない。あのときもすごい怖かったんだよ!!? 頭触られたあの感触は正直……気持ち悪かった…………」

 「……すまん」

 ……私は乗り越えられない。きっとこの先も自分が怖いと信じ込んでしまったものを治すのは難しいんだろうな……ごめん、灰垣。許せないのは君じゃなくて、私自身なんだ。押し付けがましいことしてごめん。こんなこと思っても直接言えない…………自分は逃げてばかりだな…… 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 「あの、いいかしら」

 そう切り出したのは湊川だった。

 「あなたは……どうして自分の数珠を壊すなんてことを…………」

 「……そのことかぁ……」

 灰垣は目を伏せる。袖から数珠を取り出し眺めて。

 「………………煩悩など捨てきれてない。誰かに怒りを抱き、恐れた。そして何より、わしは羨望を抱いていた。ここにはいない友に。秘密を共有できる、唯一無二の存在に………………あやつは弱い。じゃがそれゆえの強さを持っていた。わしはそれが羨ましかった」

 持っていた数珠の欠片を……投げた。カラカラカラン!! と床に落ち私たちのほうにも流れる。

 「そんな人の形をした、人ならざる者に!! 別院の子の名を語る資格などない!! こんっっっな憐れな凡夫に!! 僧侶のような者と言われる資格など一ミリたりともないんじゃ!!」

 

 

 ガンっ!! 

 

 

 裁判席を殴りつける。その手からじんわりと、血が流れて……

 「は、灰垣くん!?」

 「近寄るな!! どうせじきに朽ち果てる命。手当てなどいらぬ!! 施しなど受けつけぬ!!」

 キッと私たちを睨み付けて続ける。

 「かの聖人は、またその師はこう言った。『私も凡夫だ』と」

 「凡夫って…………」

 「じゃがあの方々は……立派であられた凡夫。わしごときが一緒にしてはならない……比べてはならない……許されたものではない!! すべての悪人が救われる!! そんな幻想を抱いたんだ!! わしは罪をすべて洗い流せるという幻想に!! 教えを乞うて救われた気になってッッ!!!! そんなのッッ!!!! ただの逃げでしかないッッ……なかったんじゃよッッッッ!!!!!!」

 怒鳴り声とともに転がっていた数珠の珠がぶつかる。体が震えているのがよくわかるほどに。

 「けれど」

 「?」

 その『けれど』が、ひどく震えていた気がした。

 「その唯一無二の友に、施しをしたことは、後悔……しておらん…………むしろありがとうと言いたいんじゃ、あやつに……」

 「……お前にとって大事な人なのか?」

 「………………ああ。少なからず。始めてまともに会話をしたときにあやつはわしの全てを見透かした。なんと言ったと思う?」

 いやわからんわ。

 「鬼と蛇が二体ずつ背中にまとわりついてる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、そういったんじゃよ」

 ただそれだけ、直接その人に言われたわけでもないのに、なぜか恐ろしいほどの説得力を感じる。

 「…………秘密は誰にも言わないから秘密だ。これ以上はあやつのためにも言わない。たとえ問われても言うことはない。わしの口からはな」

 何があったのかは彼と彼が施しをした人にしかわからない……一種の鎖。

 

 

 *****

 

 「じゃがわしの動機はこれだけじゃない」

 あれだけ長い長い語りも、まだ終わることはない。長話が嫌いなはずのモノヤギは………………あれ? なぜか後ろを向いたままこっちを見てない? なんで? って思ってたら

 

 

 ドンッ!!!!!!

 

 

 「元はと言えばお前さんのせいじゃ近衛ぇええっ!!!!!!」

 大きな音とともに灰垣が近衛を指さす。

 「……は?」

 「は? 『は?』じゃと!!!?!?? このおおバカ者が!!!! 人の心を散々に踏みにじりおって!! なにが『自分は関係ありません』面しとるんじゃ!!!! お前さんがどれだけ渡良部を傷付けたと思っとるんじゃ!!!!」

 「なっ!! 何を仰るか!!? そんな渡良部を殺しておいて、何が傷付けただ!!?」

 「ああああそうじゃあ!!!? わしは渡良部を殺した!! 殺したわい!!!! じゃああがなぁあああ!!!! お前さんのがよっっっっっっっっぽどたちが悪いんじゃよ!!!!!!!!!! 裏切り者だからとひよって……ゲームのやりとりも、紅茶飲んで一息つくのも、プールでの思い出も!! 何もかもぶち壊すような態度取られたらみーんな傷付くに決まっとるじゃろが!!!! ふざけてるのか!!!?!? 自覚してるみたいで無自覚しおってバカ者が!!!!」

 突如として近衛と灰垣の口喧嘩に発展。私含めてみんながおろおろとしてる。

 「最初に言ったことの訂正をしてやろうか!!? わしは近衛以外だったら誰でもよかったんじゃよ!! 殺せるならなぁ!!!?」

 「えっ?」

 「おい」

 「待て」

 「ほわっつ?」

 「だろうね」

 待って。え。近衛以外なら誰でもよかったって。それ近衛以外のところしか違くない?

 「……………………な、なぜ」

 「お前さん自身の【罪】を理解させねばならんと思った。裏切り者への、近衛への怒りがわしを動かした。そういうことじゃ。じゃが近衛を殺したところで何かになるのか?」

 「そ、それは!! 僕を殺せば裏切り者がいなくなるでしょう!?」

 その答えに灰垣は頭を抱える。困ったように、いやそれはとても呆れている様子で。そしてポツリと呟いた。

 「それが『意味ない』んじゃよ……」

 「どういうことです?」

 「殺したところで近衛が思っていたこと全て失せるじゃろ。人が死んだら、誰がその意思を告げられる? 誰一人として無理じゃろ。自分のことは自分自身が一番わかってること。他人が言ってもその他人の主観で語られたら元も子もないじゃろう? 心理学を持っていたとしてもじゃ、それが100%なわけない。裏切り者がいなくなれば、裏切り者のこと何もわからなくなる。近衛を殺すのはかなりリスクが高いと判断した。なら他の者を殺そうと思った」

 筋は通っているけれど、すごい恐ろしいことを言ってる。

 「自殺も考えたが、もし暴けなかったとき全員死んでしまう。それは避けたかった」

 また、あのカランって音が聞こえる。今度は屈みそれを手に取る。みんなを狂わしてきたサイコロ。

 「ここに立つことの、処刑台(あそこ)に立つことの意味。覚悟は出来てた。だから決行した。今日。あの時間に。誰でもよかったから渡良部が来たとき申し訳なかった。じゃが準備も済んでおったし引き返せんかった。そしてそれが……この裁判じゃよ」

 この学級裁判の意味、私たちはもしかすると本当の意味を理解せずに立っているのかな。

 「ぼ、ぼくは…………」

 「近衛。裏切り者で何されたなんか、わしは知らん。じゃが…………それもまた『導き』じゃ。『あるがまま(・・・・・)』に生きろ。それが近衛らしい生き方なんじゃないのか?」

 「…………あるが、まま……に……」

 「意味、履き違えるなよ」

 灰垣は天井を見上げ、手を伸ばし、ゆっくり拳を作った。

 「上下を足せば七になる。ぐにゃりとした世界、そこは歪みの中で光をもたらす。転がり続けるサイコロの影。わしはもう死んだ。幾度となく影に呑まれた。希望もすでになく、もしかするとわしは『絶望』と化していたかもしれない。でもいい。どうせこれからまた……死ぬからのぉ」

 なんか、寂しそうにみえるのは気のせいなのかな。さっきから話題が変わったりうつむきがちだったり…………

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 「…………さてそろそろ、始めてくれ。モノヤギよ」

 「ん? いいであーるかァ?」

 「なんじゃい、珍しい。長話嫌いが。ほら、いいからさっさとするんじゃ」

 「わかったであーる。ではではァ、モノリュウ様ァ!!!!」

 

 パッ

 

 『…………つまらんモノだな。これより超高校級のバレー部に相応しいおしおきを開始するとしよう』

 「つまらなくて結構じゃよ。わしはいつだって、死と隣合わせの人生じゃった。暗殺者から外れた生き方をしたのが幸いだったとわしは思っておる」

 『くだらんことを……』

 モノリュウのテンションの低さは肝の座った灰垣にがっかりしているからなのか。

 「灰垣殿!!」

 「……近衛よ。言っておくがわしはお前さんには謝らんからな」

 「…………」

 灰垣は私たちに背を向ける。

 「そうだ。近衛、お前さんの忘れ物は燕尾服のポケットに返したからの。………………大事に使ってやれ。もう見失うことのないようにするんじゃぞ」

 「はい!?」

 慌てた近衛がポケットをまさぐったとき、目を見開いた。泳いだ目をすぐに灰垣に向ける。

 「…………正直こんなに語るつもりはなかったんじゃがなぁ。もし、良ければわしの『あの詩』の仲間外れを見つけてみてくれ。その仲間外れがわしそのものだから」

 優しいおじいちゃんのような声が、胸に刺さってくる。

 「嗚呼もっと、もっと恨まれたまま、もっと嫌われたまま、もっと惨めで情けない、とてつもないほどのカッコ悪さで死にたかったわい」

 つかつかとおしおきの舞台があるであろう部屋に近づく。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何を仰いますか」

 そのとき近衛が一つ、声を掛けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それではァ、おしおきィ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もう既に、充分格好がついていらっしゃるほど……格好悪うお姿にあられますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『スタートだ……ふ、フククク、カァーカッカッカッカッカッカッカァ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     「ははっ、なんじゃそりゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 格好いい格好悪いへにゃりとした失笑を私たちに向けて、そのまま彼は首を捕まれ奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 GAME OVER

 ハイガキくんがクロに決まりました

 オシオキを開始します

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『仲間外れの桜の下、懐かしきに施しを』 

 “超高校級のバレー部”灰垣遊助、処刑執行 

 

 

 

 

 

 

 自分に嘘をついて生きるのは

 

 

 随分と苦しい

 

 

 ………………

 

 

 上は明るいな

 

 

 四肢は大の字になってて鎖で全く動かん

 

 

 どうなるかを待ってたら

 

 

 

 

 

 バサッ!!!!

 

 

 

 

 

 思わず目をつむった

 

 

 じゃが顔には透明なヘルメットで覆われて

 

 

 顔に直接かからない

 

 

 ああ感触でわかる

 

 

 土だ、土がわしを覆っていく

 

 

 

 

 

 バサッ、バサッ、バサッ、バサッ

 

 

 

 

 

 バサッ、バサッ、バサッ、バサッ

 

 

 

 

 

 服に入るのも、すでに慣れていた

 

 

 ……………………

 

 

 どれくらいの時間が経っただろう

 

 

 完全に土に覆われた体は

 

 

 身動きを取らせてはくれない

 

 

 さて、と

 

 

 これから何が来るのじゃろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カハッッッッ!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 な、なんじゃ!?

 

 

 

 

 

 

 グサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリグリグリグリグリグリグリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹を、抉られてる!?

 

 

 

 

 いやっ違うっガアアッッ

 

 

 

 

 手も、腕も、

 

 

 太ももも、膝も、足も、

 

 

 抉るように刺さってッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリグリグリグリグリグリグリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

 

 

 痛いっッ!!

 

 

 

 痛い痛い痛いッッ!!

 

 

 

 

 強烈な激痛が…………!!

 

 

 

 く………………そ……ッッ!!!!!!

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 あ……れ…………

 

 

 

 なんか、血の気が引いてきておるような……

 

 

 

 シューーーーーーーーーーーーーー…………

 

 

 

 嗚呼そうか……

 

 

 

 血、吸われとるのか……

 

 

 

 土がわしを覆ってる

 

 

 

 刺さってるこれの感触……

 

 

 

 木でも植えられたんじゃろう

 

 

 

 つまりはわしは養分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ははは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふははは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       嗚呼痛いッッ!!!!

 

 

 

 

 

       痛いのぉ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ふははははははははは!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛いのはわかってる

 

 

 

 でもわしは不思議に笑っていた

 

 

 

 喜びではない

 

 

 

 これはわしの足掻き

 

 

 

 苦しんだところで嘲笑われる

 

 

 

 それならいっそ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        “笑ってやる”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異常だって構わない

 

 

 でもやつらの絶望に

 

 

 負けてなんかやるものか

 

 

 そんな意思でわしは笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      わしはずっと嘘つきであった

 

 

 

      己の真実を潜めたまま恐れた

 

 

 

      教育教育と圧されて揉まれ

 

 

 

      秀麗なものなど欠片もない

 

 

 

     わしは暗殺者(桜田)にも

 

 

 

      バレー部にも、僧侶にも

 

 

 

       何にもなれない半端者

 

 

 

        芝に隠れて怯えた

 

 

 

       誰よりも臆病な半端者

 

 

 

 

 

 

  …………なあ冷静で素敵に微笑むお前さん?

 

 

 

      もしもこれからも生きるなら

 

 

 

     遠くから、ソナタを見届けよう

 

 

 

    わしはお前さんとは相容れられない

 

 

 

     じゃが……欲を言うなら

 

 

 

 

 

 

    欲を……言う……………………なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  …………なあ…………う………………、……せ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    もし、また会えた、ら……

 

 

 

 

 

 

   はな…………せる、かのぉ……

 

 

 

 

 

 

 

 

  こんどは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………こん、どは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや…………よいか………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 しって、……るのは………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、なた………………だけ、で………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……い……………………い……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑顔で目を閉じる

 

 

 苦しんだであろうはずの彼は

 

 

 ただ笑って

 

 

 その生涯を終える

 

 

 仏の如く、息を引き取った

 

 

 彼の埋まったその上で

 

 

 満開の桜が咲き誇る

 

 

 その桜はバレーボールの波を

 

 

 表すように咲いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 …………不思議と私は灰垣の生き様に見いられていた。残酷なのに、まだ怖くて体が動かないのに。痛みを堪えてあんなに笑って、儚く散る。今までの残忍さを逆にこちらが返したように見えた。

 桜田との訣別、罪の責任取り、近衛への怒り。灰垣はどれだけ考えたんだろう。長い間考えてたんだと思う。

 『…………………………つまらん』

 モニターのモノは処刑をつまらないと言った。

 『つまらない。つまらなすぎる。こんなものが絶望の糧になるものか。情けなく散れば良いものを』

 「…………オシオキ、約束は守ってるであーる。それにィその文句は言わないルールであろう」

 『誰に向かって口答えをしている!!』

 モノリュウの怒号にびっくりする。けれどモノヤギは動じなかった。

 「……モノリュウ(・・・・・)、ワレは不愉快であーる。互いに役目を果たすと約束したのに」

 『貴様』

 「それに、ワレがいないと出来ないこともあーる。ワレを壊したいのならその覚悟もあるということであーるよな?」

 『………………ふふふ、この世界での真の支配者め。だが余がいればそれは無力だ。守るもの一つ守れない無能なヤギが』

 突然バチバチバチ!!!! という稲妻が走る音がする。

 「ッッ!! グアアアアアアアア!!!!?!?」

 それはモノヤギに対して襲う。こんな仲間割れ見たことない。

 『黙っていれば望む通りにしてやる、そういったはずだ』

 「……まだ……まだヤツは生きている…………ソイツが死なない限り、まだワレは負けていない……!!」

 『くだらん足掻きはよせ。余の支配プログラムは貴様にまで及んでいるのだ。またそこの人形共を嘲笑い、蔑み、絶望に落とせば良いのだ。減らせばいいのだ。超高校級を、貴様を見捨てたやつらへの復讐も兼ねて。………………ふふふふふ、しかし受け入れたのは自分であることすら覚えてないなんて、なんて皮肉だろうなぁ?』

 「ぐ………………」

 ふと、モノヤギは私たちをちらりと見る。小さくチッと舌打ちが聞こえた。

 『貴様は、抗えぬ。従え』

 「………………了解した……」

 モノヤギ……? なんか、やっぱりいつもと様子違う気が……

 『さてと、こんなにもつまらんものを見て萎えた。去る』

 それだけ言い残してモノリュウは消えていった。

 「…………オマエラ」

 しばらくの沈黙。モノヤギが声をかけてきた。

 「……争ってるのがオマエラだけとは限らないであーる。くれぐれも、気をつけて」

 そういってモノヤギもいなくなった。一体、なにがどうなってるんだ……? モノヤギは何を考えてる? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 そんな私の個人的な葛藤をぶち壊す人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあーああ!! やっと終わったか? こっちは綺麗事は嫌ぇなんだぜ。そろそろいいか?」

 「!? き、綺麗事って何よ!!」

 「いやそれより……国門、お前……」

 「ひははははは。ようやく国門(コイツ)を俺様のモノに出来た。侵食するのに、ずいぶん時間は掛かったけどよぉお!!」

 国門なのに国門でない。前に橘が言っていた、人格の危険。さっきの裁判の途中から本当におかしくなっていたけど……これは……

 「お前……」

 「おいおいおい!! 俺様をお前と呼ぶのはよせよ。俺様は……ああそうだねぇ……『ショータン』とでも名乗っとくぜ」

 ショータン……?

 「……ショータン、なぜ国門くんを」

 「あーれぇ? まさか気付いてねぇのかだぜ? 国門(コイツ)の精神はとっくの昔に狂ってるってことよぉ!!」

 狂ってる、あ、待ってその話前にしてた……あれのことじゃ……

 「確かに誰かをバカにすることはあったけど、そんなはずは」

 「ったっくよぉ、これだから正真正銘『バ カ』は困るぜぇすかぽんたん共めが。言わせてもらうがぁーよぅ、国門(コイツ)は昔弁護を依頼された人を冤罪に掛けざるを得なくなったことがあーるんだぜぃ。人一倍正義感が強く、法律にも煩く、バカで猪突猛進。依頼人のために真実を追い求め続けた。それが? どうもこうもこの様よぉ!! 希望ヶ峰に来る前から狂ってる精神に!! 何を訴えたって意味ねぇんだよぉお!! ひひひひはははははははははははははははは!!!!!!!!!!」

 それはまるで発狂しているみたいで、けれどさもそれが普通のようで、おかしいのに認識がおかしくなったのか。

 「まあどうやったってぇ貴様らと仲良くなれる気は全くねぇがねぇ!! 俺様は俺様の役割を果たすまで。んじゃーなぁー!!!! ひはははははははははは!!!!!!!!」

 大袈裟な高笑いが裁判場にイヤに残って反響する。いなくなったはずの国門(ショータン)がまだここにいるみたい。

 「……もうどうすることもできないのでしょうか…………」

 「さあ……な……正直今までとは違う変わり方をしてるし……」

 国門をなんとかする術はないのかな……できることならしたいけど、手段がわからない。彼が侵食者に取り込まれたのなら引き出す方法があるかも知れないのに。もしそれがなかったら、私たちはどうすればいいの? ここに巡間はいない。彼なら何かわかるかも知れないと思った。でも無い物ねだりなんてできやしない。

 「……もう、逃げてたまるものですか……」

 近衛はそう呟いて……出ていった。私たちもそれに続いてエレベーターで戻る。

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻ってからご飯食べよう。そう思った。

 「…………………………」

 どこかで、私は自分の精神の疲弊を感じていた。

 みんなの動機、積み重なる課題。大切なものすら消えていく。こんな無情さをいつまで私たちは続けるのだろう。

 今までにないくらいの喪失感がする。

 喉が苦しい。

 このまま寝ちゃおうかな………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       いつまで経っても

 

 

 

    今日という日で寝られなかった

 

 

 

    変わりにずっと一点を見ていた

 

 

 

      私の瞳に写っていたのは

 

 

 

  感情なくずっと光続ける電球だけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 部屋に戻る前に休憩スペースで紅茶を淹れ自室で飲む。熱々の紅茶は簡単に喉を通ってはくれない。一度机において水面を見つめればなさけない僕の顔が映っていた。

 

 

 

 

 『いい? あなたが綺麗で素敵で好きだと思った人は3日で飽きるから。代わりに、あなたがブスで苦手で嫌いだと思った人は3日で慣れてくから。あなた絶対それ。わたしとは慣れすぎてそうは思わないとは思うけど、他の人だとしたらそう思う。絶対、100%ね』

 

 

 

 

 お嬢様、わたくしようやく気づきました。貴女様がどうしてあのようなことをおっしゃったのか。確信されたようにおっしゃられましたが、ここで過ごすうちに意味がわかりました。

 誤解のないように申しますと、別に渡良部殿がブスだとは存じておりません。ただし苦手で嫌いではありました。あのような呼び方されると普通誰も存じませんでしょう。わたくし自身も自覚はございますが、さすがにここまでではございませんよ……えっございませんよね?

 実のところ、初めは金室殿が綺麗だと存じました。可憐で優雅でとても惹かれるものがございました。しかし本当にそれに『飽きた』のでございます。不思議でなりませんでした。

 代わりに全く眼中になかった渡良部殿に目がいくようになりました。確かにダグラス殿と三人でずっと居りましたが、正直めんどくさいとしか存じることができませんでした。それがどうしでしょう。居心地が良くなっていったではございませんか。なんで? どうして? わからないことだらけでした。

 もしかするとわたくしは感情が欠けていたのかも知れません。だとしたらそれは『嫌い』でしょう。

 

 昔から仕えているお嬢様とは仲が良かったですね。貴方の要望にはいろいろ応えたつもりでおります。わたくしの背中を見ながら、肩を並べながらともに過ごす毎日を楽しんでいた。執事の仕事自体苦ではなかったから。一風変わったお嬢様でございます。

 ああそういえば花が好きでございましたね。わたくし花はあまり好みではございませんでしたが、ハーブティーは好きでしたし熱心に語る貴方は美しかった。その影響からかハーブティー以外にも誕生花程度ならわかるようになっておりました。

 あ、お嬢様と喧嘩をしたこと一度もございませんね。些細な言い合いはあっても、嫌いにはなりませんでした。些か『なれなかった』のほうが正しい気も致しますが。主従の関係ゆえに我慢しなければならないものなのかと考えたこともございました。が、いくら考えたって嫌いには至りませんでした。ただ慕って居りました。そんなことを一度お話したことがございました。その時貴女はあのセリフをおっしゃった。覚えておりますでしょうか。

 

 ………………きっと、わたくしは『嫌よ嫌よも好きのうち』、まさにそんな言葉が似合う人なのでございましょう。いえ。全く以てその通り。恋愛には傾かないと存じていたはずなのに、覆されましたよ。本当にね。わたくしは渡良部殿には飽きることはございませんでしょう。何せ『慣れて』しまいましたから。

 

 嗚呼なぜ今まで気づかなかったのでしょう。後悔しかございません。そんなことを申し上げても、わたくしはもう渡良部殿に何を伝えようとも伝えることが出来ません。なにせもう、直接お会いすることができませんから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ですが届くのであれば言いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    慕っておりましたよ、美南さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     貴女からもらった押し花も

 

 

      もう絶対離しはしない

 

 

      ありがとうございました

 

 

     今はゆっくりお休みください

 

 

  わたくし、絶対乗り越えて見せますから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      カミツレの花言葉は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       『逆境を耐える』

 

 

       『苦難の中の力』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 「うふふふふ」

 「ッチ、てめぇはいつまで笑ってられんだよ」

 「それはもちろん、生きてる限りに決まってるじゃない」

 「……………………」

 「? 何か言ったかしら」

 「……やっぱり、俺は諦めきれねぇよ」

 「…………あたくしに向けるものならやめてくださる?」

 「誰のせいだっつの。だが俺はてめぇのおかげで消えかけたものが見えたんだ……いい加減それ(・・)どうにかしろよ」

 「無理ですわね。見るだけでなく感じませんと」

 「…………」

 「同情はいりませんことよ」

 「……それでも、俺は諦めねぇかんな」

 「御勝手に」

 「………………んじゃ、先、待ってっから」

 「ええ…………お後追わせていただきますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねえねえねえ!!」

 「おや? いかがしましたかな?」

 「ここのあれどうなってるの!?」

 「ああ~これは動かすために必要な動力源でありましょう。まあいわゆる電池みたいなもよだとおもってもらえればいいでしょう~」

 「電池かぁ。でも……こことここ、電池の方に例えるならちょっと難しくない?」

 「着眼点はほめましょう。でもねぇそうするとこのあとの容量が狭くなることを考えると最悪最初からやりなおしになりかねないんですねぇ」

 「それはイヤだね」

 「でしょう?」

 「…………本当に作れるかな」

 「作れるかなではないでしょう。作るんですよ。ね? だってそのほうがワクワクするじゃないですか」

 「確かにそうだね!! あ、これ宮原くんたちから受け取ったやつ。あれとか終わったって」

 「おおおそうでしたか!! さすが、統率力高いですねぇ。なかなかそちらにはリーダーシップの高い人が多いようで」

 「まあそうだね。実際そういう人たちに助けられてる場面は多いし」

 

 

 ピロン!!

 

 

 「お? おおおお!! 終わった!! よしよし!! どれだけ時間をかけたことか…………これだから計算は嫌いなんです……し・か・し!!!!!! これでようやく心置きなく設定ができましょう!!」

 「どれどれ!! …………わあ!! すっごい!! ねえねえ!! どんな感じにするつもりなの!!!?」

 「そうでしょうねぇ~………………多少はおれたちの参考にもなる場所を置きたいんですよねぇ。でも一応コンセプトがこれで……」

 「前に言ってたあれと変わらないんだ。うーんけどそれでもいいんじゃない? 定義とはってなっちゃっても、オリジナルの、自分の世界作っちゃおうよ!!」

 「……そう、ですね!! うん、何をおれは悩んでいたんしょ。では続きやりましょう!!!!」

 「えいえいオー!!!!」

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 必要以上のことはぜってぇに言わねぇ

 

 

     隠してばかりだけど本能には忠実

 

 

 話しても笑われてはぐらかされてばかり

 

 

         多くは語らないんだよね

 

 

 だがあいつは自分で自分を殺した

 

 

        でもあの人は意思を託した

 

 

 たとえ二度と口にすることはなくとも

 

 

     たとえ二度と話してくれなくても

  

 

 俺はあいつに願うだろう

 

 

         わたしはいつも祈ってる

 

 

 独りでいるのは一緒でも

 

 

           同じ夢を見ていても

 

 

 どうか願わくは

 

 

             どうか願わくは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   【この手の意味を忘れねぇでくれ】

    【一人の舞台で食事をともに】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  【作ろうよ世界を、夢は無限卿だから】

   【越えられるって信じてる世界を】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       このとき直樹たちは

 

 

       気づいていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺の流儀はな

 

 

        出して……出してっ!!!!

 

 

 どうなってるのよ!?

 

     ひはははははははは!!!!

 

 

   生きる価値もないゴミ共が

 

 

               させるか!!

 

 

 触れた瞬間     はじめまして

 

 

         だから貴方は変だった

 

   もういいよ

 

 

 

 

 

 

 

     オマエラァァアアア!!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        “さようなら”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         正しく疑え

 

 

 

 

 

 

      目先だけに囚われるな

 

 

 

 

 

 

    そこにあるのは真実のみならず

 

 

 

 

 

 

 

      隠された裏を覗き込め

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     そうこれは“すれ違いの物語”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 “約束のヘアドネーションのコピー”を手にいれた

 

 灰垣がある人物のためにヘアドネーションで提供し与えた髪のコピー。要はただのかつら。とある人との約束は通常ではほどくことのできないほど、堅く堅く結ばれていたものだったそうな

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 「さて約束、守ってくれなきゃ困る」

 「……………………っ!!」

 

 

 

 ガッシャーン!!!!!!

 

 

 

 「っ!!? ちょ……!!」

 「そんなことをして、なにか収まるわけでもない」

 「なに?」

 「本当は渡してはいけないもの。これを渡せばすべてが壊れる。大事にしているものすら」

 「………………」

 「言いたいことはわかる。けど必要としてるのは自分だけじゃない。元は一つ。だからなおるとわかっていても……こんな形じゃ意味はない。ねえ……どうして大事?」

 「そんなの決まってる!! 誰が●●を」

 「その●●も同じ」

 「っ!?」

 「同じだから、他にはなれないそのものでなくてはならない。別のこと探すの手伝うから」

 「…………………………わかった」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        動き出すのは

 

 

        なんの歯車か

 

 

 

 *****

 

 

 第四章「転がる骰にゃ影潜む」

 

 

 終

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 next→第五章「二匹の狼が報じた一矢が抜けないまま命懸けで飲み込み撃ち込んだのは、二人の赤ずきんの摘む曼珠沙華の咲いた日に投影したあの姿」

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

 

 

 補足

 

 

 

 枝は垂れても嘘をつく

 →【枝垂れ桜】

 花言葉:優美、『ごまかし』、円熟した美人

 

 芝に潜んだ臆病さ

 →【芝桜】

 花言葉:『臆病な心』、合意、一致

 

 重さ八とて教育上よ

 →【八重桜】

 花言葉:豊かな教養、善良な『教育』、しとやか

 

 山のきれいに見とれるべからず

 →【山桜】

 花言葉:あなたに微笑む、純潔、高尚、淡白、『美麗』

 

 冬の寒さは

 冷たく静かで笑ってる

 →【冬桜】

 花言葉:『冷静』

 →【寒桜】

 花言葉:気まぐれ、あなたに『微笑む』

 

 一人のソナタ

 彼岸を見届けん

 →【彼岸桜】

 花言葉:心の平安、精神の美、『独立』

 

 

 

 仲間外れ→【芝桜】

 芝桜は桜の仲間ではない

 



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