ハリーポッター ハッフルパフの聖女 (リムル=嵐)
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賢者の石と一年生
初日


不定期更新だから、続かないこと前提で読んでください。え?AA?もう一人のエネイブル?
………知らないなぁ(目逸らし)


追記:皆の口調が最近のと違いすぎぃ!?申し訳無い、直しておきました。口調以外に変化は無いです。



「私、絶対に手紙書くから、ママ」

 

駅で、私のママとわかれの挨拶をする。ママはいつもみたいに微笑んで私の事を抱き締めてくれるけど、目元がちょっと潤んでる。私も泣きそう。

 

「あら、楽しみにしてるわ。向こうでも勉強はちゃんとするのよ?ミリィは内気だから、私友達が出来るか不安だわ。ルームメイトの子とは仲良くするのよ?それに」

 

「もう、大丈夫よ!ママは心配し過ぎなの!!」

 

いつも通りの過保護で、ついいつもの調子で大きい声を出しちゃった。暫く会えないのに、私ったら………ママはそんな私をみて、優しく微笑むと、抱き締めていた両手をほどいて、私に言う。

 

「あぁ、もう時間ね。ミリィ、元気でね、クリスマスにまた会いましょう」

 

「私、絶対()()()()()で友達たくさんつくるから!向こうでちゃんと生活するから、クリスマスは楽しみにしててよね!?」

 

涙ぐみながら言うと、恥ずかしさで返事を待たずに荷物を持って、列車に駆け込む。

 

「ええ、待ってるわ。ミリア」

 

ママが背後で言った言葉が、胸に溶け込んで、どうしようもなく涙が出る。

 

寂しいけど、私のお兄ちゃんやお姉ちゃん達が、通ってきた道だから、私はホグワーツで一生懸命勉強して、魔法省の魔女になって、皆を楽な生活が出来るようにするって、決めたもん。

 

列車の窓から、ママが見えなくなるまで手を降って、私は列車の中を歩き出す。

 

コンパートメントって個室みたいになってて、どこか空いてる所を探さなきゃダメなんだけど、どこも満室で入れない。三両過ぎた辺りで、ホグワーツまで最悪座れないのを考え始めると、近くのコンパートメントが開いて、中から女の子が手招きしてくれた。

 

「こっち空いてるよ、後一人分だけどね」

 

「ありがとう!三両も歩いてもう足がくたくただったの」

 

そういって女の子のコンパートメントに入る。

 

中には女の子の他に、二人の女の子がいて、黒髪の綺麗な長い髪の、本………教科書を読んでる女の子と、癖っ毛のない、ストレートの金髪を、リボンでまとめたちっちゃな女の子が、ペットの三毛猫と遊んでた。

 

知らない人って、ちょっと苦手なんだけど、友達たくさん作るって決めたんだもん、挨拶はしっかりしなきゃ。

 

「こんにちは、私ミリア、ミリア・エインワーズよ、ホグワーツまでよろしくね」

 

「あぁ、よろしく」

 

そういって黒髪の女の子は本を読み続ける。う、私自己紹介失敗したかな?

 

不安そうな気持ちが顔に出てたのか、リボンの女の子がため息を吐いて黒髪の女の子を見た後、私に愛想よく自己紹介してくれる。良かった、自己紹介は成功みたいね。

 

「はぁ、私はギネヴィア・テイラー、そちらの本を読んでるのがライラ・アッカーマンです。私達皆、マグル出身でして、貴方もでしょう?ファミリーネームが魔法族の者じゃないですから」

 

小柄な見た目からは考えられないような、洞察力と推理に、思わず目を見開く。

 

確かにマグルと魔法族では、ファミリーネームは付けられる傾向が大分違うって、ママに習った。でもそれを知ってるって、入学が決まってから、スゴい勉強したのね。見た目はまるで、絵本のアリスみたいにカワイイのに、頭の中はシャーロック・ホームズだわ。

 

「出身がなんだろうと、関係無いだろう?それより座るといい。立ってるのは疲れるだけだ」

 

そういって私に空いてる隣の席を、ポンポン叩いてすすめる、黒髪の女の子、下を向いてたから分からなかったけど、この子も綺麗な顔をしてる、ギネヴィアと違って、こっちはできる女の人って感じよ。エリートキャリアウーマンとか、社長秘書みたいな。

 

「ありがとう。そうさせてもらうわ」

 

私が座ると、私の前の席に、さっき私を見付けてくれた女の子が座った。

 

「私はエレナ、エレナ・スミスよ、貴女が純血主義じゃなさそうで良かったわ」

 

まるで朝食から、嫌いなものが出てきたみたいな、そんなテンションで、緩いウェーブの掛かった金髪のエレナが言った。

 

「純血主義?何かあったの?」

 

心配する私をみて、ため息を吐いてギネヴィアが口を開く。

 

「まったく、先ほど自分を純血の生まれだと言って、コンパートメントを譲るように迫ってきた殿方が居ましたの、ライラが追い返しましたが」

 

ギネヴィアの横のエレナが、ライラに睨まれて苦笑いする。この子もカワイイなぁ、魔法使いって、皆美人なのかしら?少し、これからが不安になってきたわ。私自分の事、そこまで綺麗な方だと思えないもの。私が一番醜かったら、どうしよう。ガチョウなんだわ、私。

 

「あぁ、心配しなくていい、あの男は私の名前を覚えたみたいだからな。エインワーズにはとばっちりはこない筈だ」

 

私の表情が曇ってるのを勘違いして、ライラが慌てて言う。出会ったばかりの私の事まで、優しくしてくれるなんて、性格まで美人さんなのね。

 

「そうじゃないの、皆綺麗だから、一年生で私が一番ブスだったらって、思っちゃって」

 

そう言ったら皆がポカンとして、その後ライラが笑い出す。さっきまで無愛想な顔してたのに、いきなり笑われて恥ずかしくて縮こまる。やっぱり私って、性格も醜いのね。普通こんなこと初対面に言わないわよ。皆もライラにつられて笑うし。

 

「エインワーズは確かにズレてるな、美的感覚が」

 

「そうですわね、こういっては何ですがエレナは相当の面食いですのよ?心配するだけ無駄ですわ」

 

「そうそう、ミリアはとっても可愛いじゃん!私ミリアの事好きだよ?」

 

そう言われて、何で笑われてたのか理解する。皆の顔を見て、嘘じゃなさそうだって分かって、思わず安心した。

 

自分の事を醜いと思ってたのは、どうやら自分だけらしい。私はどうやら魔法使いになれる位には、見た目が良かったみたいね。

 

「ありがとう皆、私の事はミリィって呼んで?悩み事解決してくれたお礼よ」

 

「なら、私の事はギネヴィアと、ミリィさん」

 

「私はライラで頼む、ミリィ」

 

「私の事は好きに呼んで?エレナとかエリィとか」

 

「分かったわエレナ。皆も、ホグワーツでも一緒の寮だと良いわね」

 

その後は、皆で昔話をしたり、魔法界の常識を教えあったりして、ホグワーツ特急が停車するまで、お喋りして楽しんだ。

 

途中移動販売で、魔法界特有のお菓子に、四人で目を輝かせて、カエルチョコにギネヴィアが悲鳴上げたり、ライラが百味ビーンズでローストビーフ味当てたりして、スゴく盛り上がった。

 

 

おっきな毛むくじゃらの人に、湖の小舟に案内されて、船の上からものすごく大きいホグワーツの城を見て、四人で歓声を上げた。

 

「すっごいおっきい」

 

「あれが学校?お城じゃなくて?」

 

「学校なのでしょうね、お城ですけれど」

 

「ホグワーツ城は、歴史が古い建物だ。千年近い歴史を誇る古城で、当時の最高峰の魔法使い四人が城を造ったとされてる。ファミリーネームが寮の名前になってるらしいぞ」

 

自分の名前を寮の名前に?スゴい自己主張の激しい人達だったのかしら?

 

「目立ちたがり?」

 

エレナが漏らした言葉に、ライラが訂正をいれる。

 

「いや、研究や開発など、こういう最初の事を、発見や創造した時は、その人物の名前が付けられる事が多いと、父に教えてもらった」

 

そうだったのね、流石父親が学者さんな事はあるわ。ライラって物知りね、本が好きみたいだし。

 

「へぇ、スゴく名誉のある事なのでしょうね。自分の名前を付けられるのは」

 

ギネヴィアも、ライラの言葉に感心してる。この子も話し方がどこか上品だし、聞いてみれば父親が政治家のお嬢様、本人は涼しげな顔で周りに合わせてるけど、とんでもないお金持ちのご令嬢だったの。エレナは両親が薬剤師と看護師ので、こっちも結構余裕ある生活してたみたい。私の孤児院も、他の所よりは余裕あったけど、皆お嬢様なんだなぁ。

 

「パパがそう言えば、新しい薬に自分の名前いれるのが夢だって、言ったっけ」

 

エレナが思い出したように呟くのと、小舟が崖に着いたのは、殆ど同時で、隣に座ってた私以外聞こえてなかった。

 

「頭、さげぇー!」

 

毛むくじゃらの人に言われて、皆で慌てて頭を下げる。崖を越えると岸が見えて、暗いトンネルがぽっかり空いてた。

 

皆で小舟を降りるときに、ちっちゃな声でエレナに言う。

 

「叶うと良いね、お父さんの夢」

 

「うん!」

 

小舟を降りて城の中に入ると、エメラルド色の厳しそうなおばあちゃんがいた。

 

「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」

 

「ご苦労様ハグリッド。ここからは私が引き継ぎましょう」

 

おばあちゃん………マクゴナガル先生についていくと、おっきなホールの脇にある小部屋に入れられた。狭くてぎゅうぎゅう詰め、皆が近くにいるから良いけど、何でこんなところに入れられるんだろ?

 

「ホグワーツ入学おめでとう皆さん」

 

マクゴナガル先生が話を始める。

 

要はこれから組分けの儀式をするから、ここで待って、その間に身だしなみを整える、控え室みたいな所らしい。

 

私達はお互いの身だしなみをみて、大丈夫そうなのを確認して、そういえばと、組分けの方法を話し出す。

 

「どうやって組分けするんだろう?」

 

私の言葉に、ギネヴィアが続く。

 

「生徒の前でするのでしょう?時間がかかるものじゃ無さそうですけれど」

 

「魔法の学校なんだ、魔法で決めるんだろう」

 

ライラが好奇心たっぷりに言う。

 

「どんな?」

 

エレナに言われて、ライラがばつの悪そうに目を背ける。

 

「知らないな。周りの声を聞くと、魔法界出身の人も知らないみたいだ」

 

ライラがそう言うから、周りの声を意識して聞いてみると、確かに皆、知らないみたい。皆してどんな方法か予想してる。

 

「そういう伝統?みたいなのがあるのかな?」

 

私の言葉に、ギネヴィアが安心したように言う。どうして?

 

「なら、安心ですわね」

 

「どうして安心なの?」

 

エレナも気になったのか質問する。私も気になってたからギネヴィアの方を見る。

 

「子供に黙っているのが伝統、ということは、黙っていても問題ない方法、という事です。学校なのですから、危険は少ないでしょうけど、ご兄弟がいる方も黙ってると考えると、本当に簡単なものなのでしょう」

 

それを聞いて納得する。

 

確かに危険な方法は学校っていう、子供がたくさんいる所ではしないよね。それに親も兄弟も黙ってるって、サプライズの意味が強いんだろう。私も聞いたことが無い、聞いても笑って誤魔化されたし。

 

私達がギネヴィアの言葉に安心してると、入り口の方が騒がしい。私達奥の方だからよく見えないけど、ゴーストが出たとかどうとか。

 

「お、お化け?私そういうの苦手」

 

「と、得意な人なんて、いいいるのかしら?」

 

ギネヴィアと二人して、肩を合わせて震わせてると、エレナが笑った。

 

「二人とも大袈裟だよ。学校の中なんだから大丈夫だって」

 

「そういう問題じゃ無いのですわ!」

 

「そうだよ怖いもん!」

 

私達が騒がしく話してると、マクゴナガル先生が部屋に入ってきた。皆、マクゴナガル先生が入ってきて静まり返る。

 

「さぁ、行きますよ。組分けの儀式がまもなく始まります。さぁ、一列になってついてきてください」

 

組分け方法はなんと、喋る帽子をかぶることだった。

マクゴナガル先生に呼ばれた人から、前の帽子をかぶって、自分の寮を帽子に決めてもらうみたい。帽子はヘンテコな歌を歌った。

 

『私はきれいじゃないけれど

人は見かけによらぬもの

私をしのぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ

シルクハットはすらりと高い

私はホグワーツ組分け帽子

私は彼らの上をいく

君の頭に隠れたものを

組分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を』

 

『グリフィンドールに行くならば

勇気あるものが住まう寮

勇猛果敢な騎士道で

他とは違うグリフィンドール』

 

『ハッフルパフに行くならば

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない』

 

『古き賢きレイブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

ここで必ず得るだろう』

 

『スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段使っても

目的遂げる狡猾さ』

 

歌い終えた帽子は、盛大な拍手をもらった後、黙りこんだ。

 

その後、ABC順で名前を呼ばれる。最初の子が呼ばれて、直ぐにライラが呼ばれた

 

「アッカーマン・ライラ!」

 

さっきの歌の通りだと。ライラはレイブンクローかしら?本が好きみたいだし、勉強も物知りで賢そうだし。

 

そう思っていると、帽子が大きな声で言った。

 

()()()()()()!!」

 

なんとハッフルパフらしい、確かにコンパートメントで私を気遣うように、席を勧めてきたり、誤解だったとしても私を励まそうとしてくれたりしたもの、やさしい人なのは間違いないわ。

 

ハッフルパフの人達に迎え入れられて、恥ずかしそうに、嬉しそうにライラが笑ってた。他の寮もああいう風に迎えてくれるのかな?

 

「エインワーズ・ミリア!」

 

直ぐに私の名前が呼ばれた。緊張しながら前に出て、古くさい帽子を被る。

 

「ふむ、ほう?ほうほう、なるほど」

 

帽子が唸ってたのが気になって、つい口を開く。勿論小声で。

 

「何を唸ってるの?」

 

「君は聡明だ、学びたいという意欲もある。だがまことの友を得たいという気持ちも強い。正義感を持ち、やさしさとがまんを知っている。君はどこにでも行けるだろう」

 

それなら、私は………

 

「ほう?なるほど……………()()()()()()!!」

 

拍手と歓声と共に、私はハッフルパフ生になった。

ライラの隣に座って、また一緒になれた喜びに嬉しくなる。

 

「また一緒になれたね、ライラ」

 

「あぁ、これからよろしくだ、ミリィ」

 

暫くして、他の二人もハッフルパフになれた。二人ともグリフィンドールとか、レイブンクローにも入れたと思うのに、皆でハッフルパフに入れたのが、本当に嬉しくなる。これから7年間、ずっと一緒の寮で生活出来るなんて、幸先が良いわね。

 

魔法で出てくる料理を皆でお腹一杯食べて、デザートのあまりの美味しさに、四人で無言で爆食して、上級生に呆れられたりして、楽しく歓迎会は過ぎていった。

 

ハッフルパフの寮は厨房の近くにあって、廊下の端にある二列目の真ん中の樽を、リズムよく二回叩く必要があるみたい。

 

中に入ると広い談話室に出た。

 

「すごーい!」

 

「おぉ、広いし色々あるな」

 

「のんびり出来そうな場所ですわね」

 

「居心地良さそうだねぇ」

 

「ん?あぁ君達、早く荷物を探さないと、明日から授業が有るんだぞ?」

 

上級生の男の人に注意されて、のんびりしてた気持ちを切り替える。

 

「すいません」

 

「気にしなくて良い、荷物は部屋に運ばれてる筈だ。ネームプレートはドアの横にある、それを目印にすると良い」

 

「ありがとうございます!」

 

お礼を言うと、手を振って友達だと思う人達の方に歩きだした、顔も声も性格もイケメンだよ、あの上級生の人。

 

「格好良かったね」

 

エレナに言われて思わずうなずく。

 

「さ、早く部屋を探しましょう、ルームメイトの人達にも挨拶しなければなりませんし」

 

「それもそうだな、時間は有限だ、もう夜も遅いしな」

 

そういって歩き出すギネヴィアとライラに、慌てて二人で付いていく。

 

「えっと、私の名前はどこだろう?」

 

四人で自分達の名前を探すけど、どこを探しても見付からない。そもそも廊下の構造がまるで迷路みたいで、どこがどこだか分かんないわよ。

 

「ここでもないそこでもない」

 

ついにエレナが目を回し始めた所で、ライラも途方に暮れてるみたい。

 

「まるでアナグマの巣の中だな、迷路のようだ」

 

「ここら辺は未だ来て無いはずですわ、っと、()()ここですわね」

 

ギネヴィアは未だ未だ元気に、一人言良いながら探してるみた……………私達?

 

「ん?どうやら、私達は縁があるようだな」

 

ギネヴィアとライラが、ネームプレートを見た後、意味深にこっちを見てくる。うん?二人以外にも同じ部屋の子がいるの?もしかして私一人別の部屋?そうだったら悲しいんだけど。

 

「これから7年間よろしくお願いしますわ、()()()()()()()()()()()

 

その言葉に、自分達四人が一緒の部屋だって分かって、思わず横にいたエレナに抱き着く。エレナもまるで予想してたみたいに私に抱き着いてきた。

 

「「やったー!!」」

 

その日は皆でお話し沢山して、翌朝見事に寝不足になって、魔法史の授業をエレナと二人で寝ちゃったのは、仕方ない事だったのよ。

 

私としては、ライラとギネヴィア二人が起きてるのが、驚きなんだけどね。

 

 



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朝御飯

お久しぶりで、ございます。
取り合えずの繋ぎ回、見なくても続き分かるようにナテルヨ。


「はぁ、朝一から魔法薬学が辛い」

 

朝、トーストにベーコンと目玉焼き乗せながらぼやくと、隣のエレナが、スクランブルエッグにケチャップをかけて、幸せそうに頬張った後、不思議そうにこちらを見てくる。

 

「ん、どうして?」

 

「スネイプ教授だろう?ミリィは魔法薬学が苦手だからな」

 

ライラの言葉にうなずいて、ホットミルクを飲む。砂糖を少し入れて、甘くすると幸せになれるの、ママは虫歯になるからやめてって言うけど、美味しいから仕方無いもん。甘いホットミルクが、私の事を誘惑するのが悪いのよ、私は悪くない。

 

「あの先生は、悪い人ではないと思いますけど。些か話し方が、人を選ぶ人ですわね」

 

ギネヴィアが、サンドイッチを飲み込んで言う。

 

あの人教え方は丁寧だし、聞けば細かく教えてくれるけど、嫌みとか遠回しな言葉とかよく言うから、私苦手。成績悪い生徒でも、見捨てないで教えてくれるから、いい人なのは確かなんだけどね。

 

「今日は午前で授業が終わりだし、魔法薬学の勉強に図書館に行くのはどうだ?」

 

良いかもしれない、スネイプ先生、出来る生徒はちゃんと褒めてくれるし、私も注意されてばかりなのは嫌だし。それに一度、あの皮肉まみれの誉め言葉を聞いてみたい。どうせ城の外には出られないし、遊びはボードゲーム位、なら勉強だって楽しめるよね。誘惑してくるのが食べ物位だもの。

 

「行こ行こ、いつまでも注意されてばっかりは嫌だもん」

 

トーストを食べながら言うと、エレナが思い付いたように言う。

 

「私も行こ、読みたい本が有るんだよね」

 

その言葉に、私達が一斉にエレナに不審の目を向ける。

 

え?エレナが読書って嘘でしょ?少なくとも本より、外で遊ぶのが好きなタイプだと思ってた。いつも授業が終わると、男の子に混じってチェスしたり、中庭で走り回ってるのに。

 

「なに?私が本読むのがそんなに意外?これでも結構本読むよ?シェイクスピアとか、コナン・ドイルとか」

 

その言葉にライラが試すように言う。

 

「理想的な推理家というものは」

 

「一つの事実を提示された場合、その事実からそこに至るまでの全ての出来事を隈なく推知するばかりでなく、その事実から続いて起こるべき、全ての結果をも演繹するものだ」

 

まるで天気予報のアナウンサーか何かみたいに、すらすらと答えるエレナ。流石に長かったのか、言った後ココアを飲んでる。

 

「『オレンジの種五つ』ですわね、私も好きですわ」

 

そう言ってレモンティーを飲むギネヴィア、私には何がなんやらさっぱり、皆何を話してるの?

 

「どうやらミリィが、一番文学を知らないみたいね」

 

エレナが勝ち誇った顔で言うのがムカつくから、私は自分の知ってる本の名前を言って対向する。

 

「え?私だって知ってるよ!えっと、ナルニア国ものがたりとか、指輪物語とか」

 

どうよ!私だって読書は好きなんだから!!

 

「親しみやすい、物語ですわね」

 

「ミリィは子供だよね」

 

「そういうのも、悪くは無いとは、思うぞ?」

 

何で!?

 

私が納得出来ない顔で、今度シェイクスピアを読むことを決意すると。近くの席から、ハロウィンの話が出てきて、話題を変えるチャンスと、私はサラダにシーザーを掛けて言う。

 

「それはそうと、もうすぐハロウィンでしょ?皆は毎年ハロウィンは何してたの?」

 

私はその言葉に、すぐに後悔することになる。

 

「私は近所の子達と一緒に、家を回ってお菓子もらってた。後ホームパーティで親戚で集まってたの!」

 

「私は家族で、かぼちゃ料理を食べる位だったな。ハロウィンはいつも、両親と三人でかぼちゃの下拵えを朝からするんだ」

 

「私の家は、父の繋がりの人達を呼んでホームパーティですわ、去年はサッチャー元首相が、来たことが有りますわ。とても芯の強い方でしたわね」

 

「すごいなギネヴィアの家は」

 

「サッチャー?……………このココア美味しいなぁ」

 

て、鉄の女!?

親が政治家だからって、そんな気軽に元イギリス首相の人を、ホームパーティに呼べるの?それに去年って、未だ退任前だったんじゃ?

 

後エレナ、なぜ自分の国の首相の名前が分からないの?さっきはあんなに博識だったのに、今のあなたはまるで日向ぼっこしてる猫のようにのんびりしてるわ。

 

っていうか皆、家族の話してる時、本当に幸せそうっていうか、うらやましいなぁ。私も本当の家族が………………ううん、私には孤児院の皆がいるもの、それに私を捨てた人なんて、今さら会いたくない。私の家族は孤児院の皆だもの。

 

「ミリィの所は何してるの?」

 

「私の孤児院はね、皆でジャック・オ・ランタン作って、かぼちゃパーティするの。ハロウィンの時は、孤児院中がかぼちゃの匂いになるのよ」

 

「それは素敵だ、かぼちゃは体にも良いからね」

 

「ホグワーツのハロウィンって、どんなのかな?」

 

「料理がかぼちゃなのは、予想できますね」

 

「後は、ろうそくがジャック・オ・ランタンになる位か?」

 

「幽霊がイタズラしてきたりして」

 

「おどかすのは止めてよ!」

 

「そうですわ!」

 

エレナがおどかしてきて、想像したら寒気で反射的に震える体を抱いて、私とギネヴィアが叫ぶ。

 

「まぁまぁ二人とも、暖かいものでも飲んで落ち着け」

 

ライラがポットから注いでくれた紅茶に、お砂糖入れて飲む。

 

「…………はぁ~、ここは何でも美味しいなぁ。外のものが食べられなくなるよ」

 

オートミールとか、もはや別の料理だからね。味とか食感とか、そういう次元じゃないもの、コーンフレークより美味しいオートミール、毎朝食べても飽きないね。今日はトーストだったけど。

 

「コックの方は、とても優秀なのでしょう、ウェイトレスも一流ですし」

 

ギネヴィアはご機嫌そうに、紅茶にレモンを入れて、ビスケットと一緒に食べてる。何しても絵になるから、この子ってうらやましい。

 

「確か、『屋敷しもべ』という魔法生物が、ここのコックだったな、他にも雑用は全て『屋敷しもべ』がこなしているとの話だ」

 

「へぇ、すごい魔法生物が居るんだね!おの城の雑用を全てするって、とんでもない事だよ?とっても頑張り屋さんの魔法生物だね!!」

 

それは私も思った。何がスゴいって、その『屋敷しもべ』は、生徒に姿を全く見せない所なんだよ。このバカみたいにおっきな城の雑用をしてて、普通生徒に出会さないとか、有り得ないでしょ?

 

多分『屋敷しもべ』専用の通路が有るんだよね、この城大きなのも有るけど、間取りがよく分からない所結構有るの。

 

隣の部屋との間の壁が大きすぎたり、トイレが遠かったり。部屋数が多すぎて、埃まみれの部屋も沢山あるし、そもそも立入り禁止の場所が複数あるし。これで学校って、ひどいと思うよ、そこら辺もっとちゃんとして欲しい。

 

「男の子の言うカッコいいとは違うんだろうけど、スゴいよねぇ、ここまで完璧に当たり前の事が出来るって」

 

ジャムサンドクッキーを食べながら言う。朝早く起きてここに来たのは伊達じゃないのよ。今ハリー・ポッターが大広間に入って、皆がさりげなく見てるけど、いつもの一時間前には来て食べてるからね、私達。

 

朝食は朝の5時30分から8時まで、一番最初の授業は8時30分から、今は未だ7時過ぎ、のんびりのし過ぎで欠伸が出るくらいのんびりしてるのよね。私達が来たとき、マクゴナガル先生とスネイプ先生の二人しか、先生居なかったし。

 

二人も授業の準備でもう居ないから、この大広間で一番長く過ごしてるのは私達だもの。

 

「確かに、カッコいいと言うよりは、素晴らしいと言う感じですわね」

 

「『屋敷しもべ』や他の魔法生物は、杖なしで魔法を使うことが出来る種族も居るらしい。はっきり言って人よりスゴいだろう。少なくとも杖に頼ってる人よりは弱点が少ない」

 

ライラ、とんでもない事を言ってるよね、スリザリンの人に聞かれたら、面倒な事になるんじゃ?それにそこまで簡単に言い切れる程、人も弱くは無いと思うけど。

 

「そのような言は控えた方が、あまり歓迎される話ではありませんから」

 

ギネヴィアが慌てて注意する。ライラは我関せずみたいな様子でミルクティー飲んでるけど。それをギネヴィアが睨んで、エレナが話題を変えた。ナイスエレナ、私は見てるしか出来ないから、ゴメンね。

 

「えっと、ほら!ハロウィン終わったらクリスマスでしょ?皆はクリスマスは帰省するんだよね?」

 

「気が早いですわね」

 

「全くだ」

 

二人の態度にエレナが固まる。

 

「えっと、私は勿論帰省するよ!皆は?」

 

「「帰省するに決まってるだろう(いますわ)」」

 

ハモる二人にエレナが呆れる。分かるよその気持ち、この二人しょっちゅうぶつかる癖に、息はピッタリ仲が悪いわけでも無いっていう、よく分からない関係だもん。周りが疲れるだけで、二人は自然体なのがまたね。

 

「仲が良いのか悪いのか、はぁ」

 

「何か言いまして?」

 

ギネヴィアを誤魔化すように、私が言う。面倒臭いのはもう嫌よ、これから嫌な魔法薬学の授業なのに、何でこんな目にあわなきゃいけないのよ。

 

「私も帰省するって言ったんだよ!皆家はどこなの?近くならクリスマス休暇の間、遊べるかもしれないし。電話とかある?」

 

私の言葉に、意外そうな顔をして、エレナが言う。

 

「あぁ、そういえば電話があるんだったね、すっかり忘れてたよ」

 

エレナのその言葉に皆して呆れる。

 

「エレナ、それは重症ですわよ?」

 

「その年で痴呆は、未だ速いと思うが?」

 

「二人とも辛辣過ぎて泣きそう!ミリアは違うよね!?」

 

エレナ、流石に電話を忘れるのは重症だよ。この城は結構ファンタジーだし、私達が勉強してるのもファンタジーだけど、文明の利器は今までと変わらず使えるんだから。

 

「この城で暮らしてると、マグルの道具忘れるのは仕方無いかもだけど、電話を忘れるのは流石に、ちょっとね」

 

「うぅ、ミリアにも言われたぁ!!」

 

うわぁーん!!何て言って机に突っ付するエレナを呆れた目で見る。エレナって、何か独特な空気で生きてるよね、自然体っていうか、電波っていうか、何か自由だよねぇ。

 

話が切れて、皆して無言になっちゃったから、やることなくて持ってきた腕時計で時間を見る。そろそろ行かないと。直前は入り口混むから、少し前に入らないと間に合わないんだよね。スネイプ先生そこら辺厳しいし。

 

「もう時間だね、行こっか」

 

「そうですわね。エレナ、杖を忘れないように」

 

ギネヴィアがそう言うとライラが吹き出して、私も思わず初日の事を思い出して笑った。

 

「ちょっとギネヴィア!その話は止めてって言ったじゃん!!」

 

にやにやしながら大広間を出ようとするギネヴィアと、それを追い掛けるエレナをライラと二人で歩いて付いていく、それにしても面白かったなぁ。

 

出席確認してる時に、元気良く手を上げてエレナが笑顔で、『ごめん先生杖忘れました!』何て言って、先生が『Ms.スミスにはまず最初に、呪文ではなく道徳を教えるべきらしい』何て茶化して言うんだもん、教室中の皆が笑ったよ。

 

「あれは傑作だったな!」

 

「まさか一番最初の呪文学で、杖を忘れるなんて、普通無いよそんなこと!」

 

「二人ともひどいよ!誰だって間違いはあるもん!!」

 

「そうですわね、間違いはあります。例えば夜寝惚けて私のベッドには「うわぁ!!うわぁぁぁぁぁ!!!」ら?」

 

何かちょっと気になる所で、エレナが焦ったようにギネヴィアの言葉に声を被せて聞き取れなくなくしてきた。一体何を隠したの?そんなにバレたくない事なんだ、気になるなぁ。

 

「Msスミス、廊下で騒がないでくれたまえ」

 

うわ!?

 

ビックリして振り返ると、全身真っ黒の姿で、教科書を手に持ったスネイプ先生が、こっちを鬱陶しそうに見ていた。

 

「すみませんスネイプ先生」

 

エレナがスネイプ先生に謝る、私たちも、一緒になってたから、ちょっと気不味い。

 

「君達も、友人が間違えたなら、正すのが友と言うものだ」

 

「「「はい、すみませんでした」」」

 

スネイプ先生の言葉は、もっともな正論だから、三人で謝る。私達が頭を下げたのを確認すると、スネイプ先生は教室に入って行った。私達も後に続くように教室に入る。

 

中にはスネイプ先生以外には、誰も居なくて、私達が一番なのが分かった。

 

未だ授業まで三十分ある、教科書を読んで復習でもしようかしら?

 

ライラは魔法薬学の成績良いみたいだし、分からない所を質問するのも良いかもしれない。

 

「ライラ、こここの前失敗しちゃって、分かんないんだけど、分かる?」

 

これ、材料の豆がまた硬くて、しかも切っただけじゃ全然汁が出てこないんだよね。

 

「ん?あぁ、切るんじゃなくて、潰す方が良いんだ。そっちの方が汁が多く取れる」

 

え?本当に!?

 

「それ本当!?」

 

「教科書には書いて無いがな、普通に考えれば解るだろう?切るより潰す方が良いのは」

 

い、言われてみれば、確かにそうだけど、でも普通そんなこと考えないよ。

 

「んんっん!それでは、授業を始める。教科書の27ページを開きたまえ」

 

先生のその言葉に、もう時間だって、初めて分かった。27ページ、うへぇ、またゲテモノな材料使う奴だ、嫌だなぁ。

 

 




次の更新も、未定なり、気長に待ってくれると、助かるヨ


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ハロウィン

お久しぶりです、まさか年を跨ぐとはね、いや本当に申し訳無い。今回はハロウィンのお話し。映画の最初の方の終わりだね、うん。


冬の季節が間近に迫り、ホグワーツの生活に慣れてきた頃、ハロウィンがやって来た。

 

「カボチャの匂いすごいね」

 

朝からずっと城中で漂ってる匂いに、若干辟易する。

 

「もう匂いだけで胸やけしそうだよ」

 

「確かに、ここまでしつこいと、私もちょっと嫌ですわね」

 

鬱陶しそうに顔をしかめる二人に不思議そうな顔をしてるライラ。

 

「そうか?ハロウィンはいつもこんな感じだが」

 

ライラのお家は、朝から一日カボチャ三昧だっけ?

そりゃ馴れるわね。私も馴れてるけど、やっぱり授業中も続くとね、お腹空いちゃって集中出来ないよ。

 

「私も、馴れてるけどお腹空いちゃって、授業集中出来ないよ」

 

「流石ミリィ」

 

「ミリィは食いしん坊だな」

 

ライラとエレナにバカにされた!!

 

「良いじゃない、成長期何だから!」

 

「でも、油断してると一瞬ですわよ?」

 

「ちょっと、怖いこと言わないでよ!?」

 

私達が部屋で話してると、談話室の方からガヤガヤと騒がしい気配がしてくる。

 

「ん、何か談話室でやってるのか?」

 

「見に行こうよ!」

 

ライラの言葉に反応してエレナが部屋を飛び出した。

 

本当に唐突なんだから、思い立ったら直ぐ行動って、猪じゃないんだから。

 

ライラは首を横に振って、ベッドから下りてエレナを追い掛けた。

 

「二人とも、短絡的ですわ」

 

ギネヴィアも、ペットの猫を膝の上から腕に抱えて、気怠そうに動き出す。

 

「私は手紙書いてから行くね」

 

「イベントが終わっても、文句言わないでくださいね」

 

そう言って、ギネヴィアは部屋の扉を閉めた。

 

孤児院のママとパパに、手紙を書いて、私の一つ下のギルバートに、手紙と一緒に、頼まれてた物を封筒に入れて、封をする。用意はしたけど、こんなの何に使うんだろ。

 

「ユディ、おいで」

 

ペットのアメリカワシミミズクのユディに、封筒を付けて、孤児院まで届けるようにお願いする。

 

「もう夕方だけど、無理言ってゴメンね」

 

そう言った私にユディがまるで、気にするなって言ってるみたいに、一声上げて、夕方の空に飛んでいった。

 

ユディが見えなくなるまで、空を眺めた後、窓を閉めて談話室に行く。

 

許可を貰って持ち込んだ腕時計だと、もうそろそろ夕食の時間何だけど、皆何してるんだろう?

 

談話室では、一つのテーブルに人集りが出来てた。

何してるの?ギネヴィアとライラが見えて、人集りを断りをいれながら進む。

 

「ここにナイトで………ほら、チェックメイトだ」

 

「うそでしょう?、あのエレナが負けましたの………」

 

「流石ハッフルパフの天才、チェスも天才とは」

 

二人が驚いてるのを見て、テーブルに視線を向けると、エレナと男子生徒……多分先輩が、チェスをしてた

 

「…………うぬぅ、何処で間違ったの?」

 

「20手前のサクリファイス、あそこで|『僧侶』ビショップを手放したのが敗因」

 

「あ~、そこかぁ……………対局ありがとうございました、()()()()()()()

 

「セドリックで良いよ、こっちも久し振りに良い対局が出来た」

 

二人の握手を皮切りに、周りの人集りが騒がしくなる。

 

「ついにセドリックが二十人抜きしたぞ!!」

 

「あのエレナが負けるなんて」

 

「もう、いっそのこと他寮の奴等も巻き込むか?」

 

「「「「「それだ!!」」」」」

 

「俺は普通にチェスがしたいだけなんだが?」

 

どうやらディゴリー先輩のチェスで、人集りが出来てたらしい。騒がしかったのも多分チェスが原因ね。

 

ボードゲームって、ルール難しいの多くてあんまり好きじゃないのよね。

 

チェスはシンプルで覚えられたけど、周りが強すぎて孤児院でしかしないもの。

 

『チェッカー』とか、後はお婆ちゃんが見付けてきた『オセロ』とか、弟たちと出来るのしかやらないからなぁ。

 

「エレナ、そろそろご飯の時間だよ?」

 

「う~ん、もうちょっと考えさせて、直ぐに行くから」

 

そうやって言う人は、ちょっとじゃすまない位悩むんだけど?

 

チェス盤を睨みながら言うエレナに、困ってると、ギネヴィアがエレナを説得し始める。

 

「今日はせっかくのハロウィンでしょう?」

 

「分かってるけど、悔しいし」

 

「なら、紙に盤を写せば良いんですわ」

 

「それだ!セドリック先輩、この盤面写しても大丈夫!?」

 

あぁ、なるほど、紙に写せばここから動くわね、確かに。

 

でも最終盤面だけで、良いのかなぁ?私なら何でこの盤面になったのかわからなくて、とてもどこが悪手かなんて考えるのも無理だけど。

 

「ん?勿論良いよ、僕も手番の写しを書こうとしてた所だ。手番の写しも要るかい?」

 

「下さい!!」

 

速答したエレナに、ディゴリー先輩が笑ってさらさらと手番の写しを書いていく。

 

スゴい、まさか手番の暗記してるの?

そこまで出来るのってもうプロレベルなんじゃないのかな?

 

マグル生まれにも分け隔て無い性格がイケメンで、高身長で顔もイケメン、成績優秀でスポーツ万能しかも親は魔法省の役人。

スペックが高いよ、格好良過ぎだよディゴリー先輩。

これは惚れる人が続出なのも分かる、ここまで非の打ち所が無いと、僻む事すらバカらしくなるよ。

 

「ほら、手番の写し、また対局しよう」

 

紙と一緒に手を差し出して、エレナと握手をするディゴリー先輩。

 

イケメンは何やってもイケメンって、本当なんだなぁ。あれを他の男子がやっても、エレナに近付きたいって下心丸見えな仕草にしか見えないのに、ディゴリー先輩がするだけで、スポーツの試合後の握手みたいな、お互いを称える爽やかな仕草になってるもん。

 

「ッ……次は絶対勝ちますから!」

 

ほら、恋愛とか全く興味無いエレナも、あまりのイケメン度にちょっとあてられてるよ、ディゴリー先輩目的でチェスを見てた周りの女の子が殺気だってるから、そろそろ移動しなきゃね。

 

「ほら、早く行こエレナ、せっかくのハロウィン何だから」

 

「うん、セドリック先輩またね!」

 

「セドリックで良いよ、先輩呼びは未だ慣れないんだ」

 

うーん、照れながら言うディゴリー先輩ヤバいなぁ、それと同時に女子からの敵意がスゴいなぁ、エレナこれディゴリー先輩が原因で虐められるんじゃない?ディゴリー先輩狙いの人には絶対目を付けられたよね、はぁ。

 

これからエレナをどうフォローしたあげれば良いかなぁ、なんて考えてたら、前を歩いていたギネヴィアに呆れられた。

 

「エレナの事は、三人で話しましょう、それよりも今はハロウィンですわ」

 

考え込んでて、皆から数歩後ろを歩いてた私をギネヴィアが急かすように手招きしながら言う。

 

「そうだね、私一人で悩んでても仕方無いか」

 

歩く速さを三人に合わせて、四人で話ながら大広間に向かう途中、グリフィンドール生の女の子が話し込んでるのを耳にした。

 

「グレンジャーがトイレでねぇ」

 

あんまり仲が良くないのか、エレナが無機質に言う。

私としては、たまに話す時に色々教えてもらえるから、いい人だとは思うけど、トイレに一人きりで泣いているなんて余程ショックな事があったのかな?

 

「何かあったのかな?」

 

「だろうな、私達がどうこう出来る訳でも無いが」

 

「どうしても気になるなら、今度会った時に聞けば良いのですわ」

 

二人に言われて、グレンジャーの事は今度本人から聞くことにした。今は本人が一人きりが良いって言ってたみたいだし。今度会った時に話して、力になれたらそれで良いよね、話すだけでも気持ちは軽くなるって、ママも言ってたし。

 

「このパンケーキ、カボチャのクリームがよく合っていて美味しいですわ」

 

「あ、本当だ、美味しい。こっちのプリンもカボチャ、飲み物もカボチャジュースだし、スゴいカボチャ尽くしだね」

 

ギネヴィアがよそってくれたカボチャのクリームがたっぷり塗られたパンケーキを食べながら料理を見ると、どれもカボチャが使われていて、なんとも甘ったるい。

あ、でも一部はお肉と魚がメインの料理もあるみたい、男の子はそれを取り合って、わいわいと騒いでる。

 

「あ、甘過ぎない?何かさっぱりとしたものは……」

 

「うん?それならば……カボチャのサラダ、カボチャのシチューなんかもあるぞ」

 

「…………シチューちょうだい」

 

あぁ、さっそくカボチャの味にノックアウトされたのね、エレナ。まぁ確かにこのカボチャ尽くしはやり過ぎな気もするけどね。

 

「カボチャには、他の野菜にはあまり含まれない栄養素も、豊富に含まれていますから、この時期は風邪を引きやすいのでカボチャを食べると良いんですわ」

 

「美容にも効果的と言われているな」

 

「あ、お野菜とお肉の蒸し焼き何かもあるよ」

 

スゴい、これ牛肉のブロックだ、皿の隣に置いてあるフォークとナイフで、切り分けたものをよそって食べるみたい、美味しそう。

 

「ミリィにはまだ早かったか?」

 

「まぁ、色気よりも食い気の方が、らしいっちゃらしいよね」

 

「はい、切り分けてあげますわ、お二方もどうぞ」

 

「わーい、ありがとう!」

 

二人が何か言ってたけど、それよりもお肉だ、ギネヴィアが厚めに切って、上に野菜をたんまり乗せてくれる。

 

「ソースはこれになりますのね、玉ねぎかしら?」

 

そういって、飴色の玉ねぎのソースも掛けてくれた。

 

「ソース無しでも、味付けが確りしてて旨いな」

 

「ソースも、思ったよりも甘くなくて、パンが進むのなんのって」

 

「お野菜も美味しい、お肉と一緒に食べるとお口の中が幸せ」

 

三人してバクバクお肉料理を食べる。他が甘ったるいからか、一際美味しく感じられたよ。

 

「次はあの魚料理食べ………ふえ?」

 

魚と野菜の練り物を煮込んだものを食べようとして、大広間によく響く誰かの足音が聞こえた。

 

「あれは、クィレル先生か」

 

「すごい勢いで走って、何かあったのかな?」

 

ライラとエレナが呟いてる間にクィレル先生はダンブルドア先生の席に倒れこんで、息も絶え絶えに言った。

 

「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」

 

文字通り死物狂いで走ってきたのか、そのままダンブルドア先生の返事も聞かずに気絶して床に倒れこんだクィレル先生を見て、大広間は大混乱になった。

 

「トロールか」

 

「地下室に出たんですのね、何とも不思議な事」

 

「何で二人とも落ち着いてるの!?」

 

落ち着いて料理を食べてるライラとギネヴィアに、エレナが不安そうな顔で叫ぶ。私は何だか現実味が無くて頭がボーッとしちゃってる。

 

トロールって、とんでもなく大きい乱暴な性格の魔法生物だっけ、しかもスゴく不潔で臭いとも。

 

「まぁまぁ、私達が慌てても仕方無いさ、先生の指示に従おう」

 

「各々の寮に避難か、ここで事態が収まるまで待機か、どちらにせよもうご飯はお仕舞いみたいですわね。二人とも今食べないと、寝る時にお腹が空いて寝れなくなっても知りませんわよ」

 

そういって、カボチャジュースを飲むライラとプディングを食べるギネヴィアに、呆れた目で見た後に、取り分けたお肉を食べ始めるエレナ。

今更状況が分かった私は、三人の姿を見て思わず顔が引きつると、周りの生徒を見て諦めてフォークを握る。

 

無闇矢鱈に騒ぐより、安眠の為に美味しい物を食べた方が賢明だと思ったから。

 

 

 

≪因みにこの時四人は、そのあまりの動じない自然体な振る舞いから、上級生から一目置かれる事になるのだが、推理大好きなギネヴィア以外、この時気付いては居なかった≫

 

 

 

大広間の混乱は、ダンブルドア先生が爆発音を何度か起こすことでやっと静かにさせた。

 

静まり返った大広間にダンブルドア先生の重々しい声がして、監督生を中心にギネヴィアの言う通りに寮に帰る事になった。

 

「ギネヴィアの言った通りになったね」

 

ハッフルパフは一番人数が多くて、こういうことに弱い性格の生徒が多いから、他よりも出発が遅れてる。私達も座ってた場所の近くで、指示を待ってる状態だ。

一年生で泣き出してる生徒も居るみたいで、監督生があっちこっちに大忙しだ。

 

「私達も手伝った方が良さそうですわね」

 

「同級生なら、宥める位なら出来るかな。二人はここで待っててくれ、未だ顔色が悪いからね」

 

ギネヴィアとライラが離れる中、エレナに誰かぶつかった。

 

「きゃっ」

 

「あ、ごめん」「悪かった」

 

ふらついたエレナを支えてぶつかってきた相手の方を見ると、もう人混みに紛れて見えなくなる所だった。

 

「ポッター?」

 

メガネの男の子と赤髪の男の子の組み合わせに、間違いないと思って呟く。赤髪で有名なウィーズリーの男の子とハリー・ポッターの仲が良いのは、結構広まってる情報だ。

 

「ビックリした~、まさかポッターがぶつかってくるなんて…………あれ?」

 

「どうしたの、エレナ」

 

ちょっと機嫌悪そうに文句を言うエレナが、突然何かに気付いたように黙り混む。

 

「いや、こっちはグリフィンドールの寮のある方向とは逆方向だから、おかしいと思って」

 

「え?」

 

何でエレナは他の寮の場所を知ってるのか気になったけど、それは今関係無いから後で聞くとして……あの二人はグリフィンドール生だったはず、何で逆方向に?

ぶつかってきた相手を殆んど無視して走り去る事から、結構急いでる感じだし。

 

「何か向こうにあの二人が向かう理由があるはず」

 

「ペットでも逃げ出したんじゃないの?」

 

ペット、ポッターのはフクロウだって噂で聞いたけど、後ウィーズリーはお下がりのネズミとも。

フクロウは、寮の部屋かフクロウ小屋に居るはずだから、ペットを追いかけているからウィーズリーのネズミ。

 

「こんな人混みで、ネズミがあの二人より早く走れるかな、しかも真っ直ぐに」

 

「ありゃ、確かに。ネズミからしてみれば、巨人の足元を全速力で走るわけだし、流石に無理かな」

 

出来たとしても、周りの生徒に何も言わないで走るのは少しおかしい。ネズミが逃げたならネズミの近くの生徒に協力してもらえば直ぐに捕まえられるはずなのに。

 

「ネズミじゃなくて、別のものを追い掛けてる?」

 

「例えば?」

 

私の言葉に、エレナが相槌を打つように続きを促す。

 

「例えば……この状況、トロールが出たって知らない生徒が居るとか?」

 

そこまで言って、グレンジャーがトイレで一人泣いているのを思い出した。

 

目を見開いてエレナを見ると、エレナも思い付いたのか目を丸くしてる。

 

「グリフィンドールの先生は!?」

 

「マクゴナガル先生!!」

 

二人で地下室に向かって走り出す、急いで知らせないと、グレンジャーが危ない!!




次は未だ書き始めても居ないんで、未定でっす。


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クィディッチ

クィディッチ関連だけにするつもりが、今作品の知能チートさんが暴走して文字数が倍になっちゃいました(驚異の一万越え)



あの後、私達がマクゴナガル先生を見付けるのと同時に、廊下に何かを破壊する音が響いた。

 

音がした方向に向かう先生達についていきながら事情を話していると、女子トイレの中で倒れたトロールに、ポッターとウィーズリー、泣き腫らして目元を赤くしたグレンジャーが居た。

 

事情を私達から聞いた先生は、二人に一人五点の加点をして、二人を庇おうとしたグレンジャーにも一点の加点をしてくれた。私とエレナにも、一人二点の加点があって、寮に戻った後に心配してくれてたギネヴィアとライラに怒られた後、事情を説明したら寮のパーティが更に盛り上がった。

 

そんな感じのハロウィンを終えて、十一月、ホグワーツの周りの山は灰色になって、湖は薄い氷が張っている場所が目立ち始めたこの頃、あの一件以降、グレンジャー達三人と仲が良くなった私達は、寮が違いながらも、冗談位なら話すような仲になっていた。

 

そんな三人から、秘密にしてと言われて聞いたポッターのデビュー戦を、魔法族のスポーツに興味があった私やエレナ、スポーツだけじゃなく文化に興味があったギネヴィアとライラで、その日に観戦に行こうという話しになった。

 

皆で今か今かと待ちわびて過ごして、遂にクィディッチのシーズンがやって来て、今は皆と観戦にクィディッチ競技場に来ていた。今は皆と先生達と同じスタンドで観戦してる。

 

「今日はグリフィンドールとスリザリンの試合だったよね」

 

「あぁ、確かポッターのデビュー戦だろう」

 

「事前情報だと、才能ある選手のようですわね、彼は」

 

「私、寒くて何かボーッとしてきた」

 

「確りしなさい、ほら、これを持って、布は取らないように」

 

青い炎が入った瓶に不燃布をキツく巻いたものをエレナに渡す。

 

「ありがと~。ふあぁ、温かぁい」

 

「それは魔法か?」

 

「持ち運びが出来る炎の魔法を使った、温石のような物ですわ。『生活に役立てる100の魔法』に載ってたんですの」

 

「読書で得た知識をそのまま活かせるのは、魔法の強みだな」

 

感心したように言うライラに、温石で温まったのかエレナがふんふんとうなずきながら言う。

 

「得た知識を直ぐに体感できるって意味だと、確かにそうかも」

 

「あ、頭回り始めた?」

 

「お陰様でね」

 

話してる間に準備が出来たようだ、審判の笛が音を鳴らして、競技場の中央に集まった選手が箒に股がって一斉に飛び立った。

 

「始まった!!」

 

「最初はグリフィンドール有利ですわね」

 

「スリザリンも強いからな、どれだけ離せるか」

 

スリザリンには私達の事をバカにしてくる人が多いし、個人的にはグリフィンドールに勝って欲しいな。

 

四人であぁだこうだ言いながら試合を観戦してると、ポッターの様子がおかしい事に気付く。

 

「あれ、ポッターどうしたんだろ?」

 

「緊張でもして箒の操作が出来てないのかな?」

 

エレナがポツリと漏らした言葉に、後で聞いてたマクゴナガル先生が反応した。

 

「ポッターは、グリフィンドールが誇る今世紀にただ一人のシーカーです、今までの練習も何度か観たことがありますが、箒の操作を誤るなど、ましてや暴走させるなど……あり得ない」

 

驚いて皆で後ろの列を見上げると、エレナに言ったわけじゃ無いようで、あり得ないあり得ないとうわ言のようにポッターを見つめては呆けていた。

 

「ほれ、確りしなさいマクゴナガル先生。君達も驚かせてすまんかったのう」

 

マクゴナガル先生の隣にいたダンブルドア先生の言葉に、四人でペコペコ頭を下げて答えると、マグルのお菓子が好きなのか、普通のビニール包装のレモンキャンディを一つずつくれた。

 

私達みたいな普通の生徒が、ダンブルドア先生にお菓子を貰えるとか何事!?

これは寮に帰って皆に言ったらまた騒がしくなるなぁ。

 

お礼を言ってキャンディを舐めてると、今度は後ろの列が騒がしくなってきた。

 

「火、火が出てますよスネイプ先生!」

 

隣にいたエレナが後ろを見て悲鳴を上げる。

え、なに?何が起こったの!?

 

「む、なっ何故我輩のマントに、ええいっ」

 

気になって後ろの列を見上げると、何かスネイプ先生が燃え上がってた………違った、スネイプ先生のローブに火が付いていた。

 

いやこれどっちにしろ事件じゃ!?

急いで回りを見る、もしかしたら犯人が居るかも知れない。

いくら探しても、周りには不審な人は発見出来なかった。火を出す呪文は上級生が習う呪文だから、上級生を中心に見てったけど、先生達がいるスタンドの周りは上級生が多すぎて分かんない。

 

下級生なんて私達位しか………あれ?

そこまで考えながら周りを見ていると、栗毛の女の子が人混みに紛れて行くのを見付ける

 

()()()()()()()()()()()()()

 

水増し呪文(アクアメンティ)……すまんのうセブルス、着替えてくると良いじゃろう」

 

「……いえ、火を消して頂き、ありがとうございます」

 

濡れたマントを脱いで、不機嫌そうにスタンドを後にするスネイプ先生を見ながら、グレンジャーが何で居たのか考える。

 

彼女は確か、今日はロン達グリフィンドール生と一緒に観戦するって言ってたよね、ここからグリフィンドール側のスタンドは結構ある。

グリフィンドール側とスリザリン側のスタンドの丁度中間の距離にこの場所はあるから、わざわざ目指さない限りこっちには来ないと思うし、グレンジャーは極度の方向音痴って訳でも無い、まず十中八九グレンジャーは目的があってここに来た、それじゃ目的は何?

 

ここは先生達がいる以外に他は何も無い、強いて言えばマクゴナガル先生の近くに居る先輩が実況解説してる位だ。

実況解説してる先輩とグレンジャーが仲が良いって話聞いたこと無いし、多分先生達に目的はあるはず。グレンジャーは勉強好きとは言っても、友達の試合を放置して先生に質問しに来る程勉強狂いじゃないし、ほれなら他に理由がある。

 

友達の試合を無視してまで()優先する程のことで、勉強は関係無いけど先生に目的があった、そして直後のボヤ騒ぎ…………これ、グレンジャーが燃やしたの?スネイプ先生を。

 

「頭の痛くなる話ですわね」

 

唐突に聞こえたギネヴィアの言葉に、背筋が凍る。

二人に席を外す事を言って、ギネヴィアをスタンド裏に連れていく。

 

「ギネヴィアも分かったの?」

 

「あら、ミリィもですの?見直しましたわ、貴女のこと」

 

驚いた顔で私を見るギネヴィアに、嬉しいやら、今まではどんな評価だったのか気になるやらで、微妙な気持ちになる。

 

「でも私、理由が分からない」

 

「ふむ、ちょっと整理しますね」

 

そういって考え込んだギネヴィアを待つこと数分、スッキリした顔でギネヴィアが言った。

 

「動機、分かりましたわ」

 

「え?本当!?」

 

「ええ、でも裏が欲しいですわね、ちょっとお話しに行きましょう」

 

そういって、スタスタとスタンドに戻るギネヴィアを追い掛ける。犯人はグレンジャーだとして、動機の裏付けって、誰から話を聞くんだろう?

 

さっきの席に戻ると、周囲が大歓声に包まれた、実況解説してる先輩の声を聞くと、ポッターがあの状況から巻き返して、スニッチを捕って、グリフィンドールが勝ったようだ。

 

スリザリンに勝てたとあって、グリフィンドール側のスタンドは大歓声、ここもマクゴナガル先生が狂喜乱舞で、日頃からは考えられない様な高笑いまでして喜びを表現している。

 

「もう、二人ともどこ言ってたのさ、一番良いところのがしちゃったよ!?」

 

「惜しかったな二人とも、これは後一月は語り草になる試合だったろう」

 

「ごめんごめん、ちょっとお花摘みに言ってて」

 

盛り上がってる二人に言い訳をして、ギネヴィアを見る。ギネヴィアは軽くうなずいた後、マクゴナガル先生を宥めてるダンブルドア先生に話し掛けた。

 

「ダンブルドア校長先生、少しお話しをよろしいでしょうか」

 

話し掛けられて気が付いたのか、ギネヴィアの方を見て少し考えるように言い澱む。

 

「ふむ、君は確か……」

 

「失礼しました、私の名前は、」

 

そこまで言ったギネヴィアを手で制して、髭を撫でて話し出した。

 

「おお、そうじゃったそうじゃった、ギネヴィア、ギネヴィア・テイラーじゃな?」

 

「はい、覚えて頂いて光栄です」

 

スゴ、入学したばかりの一年生の名前も覚えてるの?流石二十世紀最高の魔法使い。

 

「そうじゃのう、ここではうるさくて話しにくいじゃろう、校長室について来なさい、そっちのミリア・エインワーズも関係あるんじゃろう?」

 

話を振られてペコリとうなずく。何か想像してたよりもずっと気さくな人で、驚いたよ。

 

「ついて来なさい」

 

そう言って歩き始めたダンブルドア先生の後ろを、早足でついていく。

 

競技場からホグワーツ城に入って、そこから更に校長室まで、たまに口を開くダンブルドア先生にギネヴィアと相槌を打って歩く。お爺ちゃんなのに背が高いから、歩幅が大きくてどうしても私達は早足になっちゃうんだよね、同年代でもちっちゃい自分が恨めしい。

 

背は同じくらい何だけどなと隣を見ると、たゆんと弾む二つの玉が見えて、何を食べればそうなんだろうと考える。

 

「あんまり、じろじろ見るのは止めて下さいな」

 

「何食べたらそうなるの?鳥?やっぱり鳥が良いの?」

 

「いや、知りませんよそんなの。それに入学してからは同じもの食べてるでしょうに」

 

ってことは

 

「遺伝?遺伝なの!?妬ましい、妬ましい!!」

 

「こんなの、あっても良いこと有りませんわよ。寝るとき大変ですし、この歳で肩凝りが出てきてますし、男の人は話す時も顔じゃなく胸を見ますし、って言うか私顔じゃなく、胸でだれかを判断されてる可能性ありますわよ?」

 

うわ、そこまで言われるとちょっと考える。って言うか肩凝り悩んでたんだ、そっか、何かごめんね、今度肩揉みしたあげよう。

 

「う、何かごめんね」

 

「分かれば良いんですのよ」

 

フンスフンスと、腕を組んで怒ってますアピールしてたギネヴィアを宥めながら、校長先生を追い掛ける。

 

「さぁ、着いたでな、そこに座ってなさい」

 

部屋に着くなり、いそいそと部屋の奥でお茶の準備を始めた校長先生に言われて、階段と思う部分に腰掛ける。何かここ来客を想定してる作りって感じしないなぁ、イスが無いし、何かごちゃごちゃしてる。

 

「寒い日はこれが一番じゃ」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございます校長先生」

 

受け取った湯気の立つマグカップに、ゆっくり口をつける。

紅茶とかじゃなくて、中に注がれてたのは砂糖たっぷりのココアだった。

 

「美味しい」

 

「ココアはVAN HOUTEN(バンホーテン)のミルクココアが一番じゃからな。それで聞きたいことはなんじゃ」

 

豪快に飲んだせいで髭についたココアを、タオルで拭きながら聞くダンブルドア先生に、結構お茶目何だなと肩の力が抜ける感じがした。

 

「先程の試合、途中でポッター選手の箒に、誰かが呪いをかけた疑いがありまして」

 

それを聞いて、ダンブルドア先生の表情が好々爺としたものから、教師のそれに変わった。

 

「ほう、箒に呪いを掛けるのは、生徒では少々難しい難易度にある、それは知っておるのか?」

 

「えぇ、ポッター選手の箒はプロ選手も使うニンバス2000、子供のいたずらが通用する箒では無いでしょうから」

 

「それならば、ギネヴィア・テイラー、君は教師を疑っていると、そう言うのかね?」

 

試すかのように漏れ出る威圧感に、胃がキュッと締まるのを感じた。怖いよダンブルドア先生、って言うか何でギネヴィアはそんな平然とココア飲めるのさ!?

いや私も怖くて話したくないからココア飲んでばっかり居るけどさ。

 

「えぇ、それともう一つ、先走ってしまった生徒のご報告を」

 

「ふむ、先走ってしまったのう、それはボヤを起こした犯人を言っておるのかの?」

 

漏れ出ていた威圧感が無くなって、残ったココアを飲み干して言うダンブルドア先生。仕草が男らしいなこのお爺ちゃん。

 

「えぇ、ポッター選手の箒に呪いを掛けるのは教師だと推理して、実際にポッター選手を助けるために教師に火を着けた、友達思いの勇敢な生徒のご報告を」

 

「ほう?ならばポッターに呪いを掛けるのはスネイプ先生だと、そう言いたいのかの?」

 

眉間に皺を寄せて考え込む様に言うダンブルドア先生に、ギネヴィアが慌てたように話す。

 

「それは違います、スネイプ先生は気難しい所はありますが、一生徒を貶める為に呪いを掛けるなんて事はしないでしょう。先生は教えると言う事に、誇りと面白さを感じている人です」

 

え、ちがうの?スネイプ先生かと思ってたよ私、てっきりスリザリン贔屓が行き過ぎて暴走したのかと。って言うかさっきから話してるのが、私の分からなかった動機の話だから、頭の中で整理するので一杯一杯で、ココアを飲んでるだけなのに疲れて来たよ。

 

「ほう?ならばその生徒は何故勘違いをしたのかの?」

 

「スネイプ先生は、ポッター選手を弄るのが好きなようで、周りから見たらそれは嫌ってるのと同じ様に見えるのです。ポッター選手と親しいその生徒は、それでスネイプ先生が呪いを掛けたと判断したのでしょう。多分、双眼鏡か何かで呪いを掛けた人間を探してる時に、スネイプ先生を見付けたのです」

 

「ポッターと親しい友人という事は、一年生かの?それは聡明な子じゃな、ちと行動力が有り余っとるが」

 

感心したように言うダンブルドア先生に、私もうなずく。私はポッターの箒の暴走と、ボヤの関連性に気付けなかった。それを気付いてここまで推理してるんだから、ギネヴィアって何かもうスゴい。

 

いや、呪いって判断して直ぐに犯人に当たりを付けて、しかも相手が教師なのに関係なくボヤ騒ぎを起こせるグレンジャーも、十分天才の部類だけど。

 

私と先生がギネヴィアをマジマジと見てると、ギネヴィアが澄ました顔で続けて言った言葉に、目を丸くする。

 

「えぇ、実際にスネイプ先生はポッター選手に呪文を掛けていたのでしょう?」

 

「え?いや、さっき呪いは掛けてないって言ったじゃん」

 

思わず声に出して言うと、ダンブルドア先生もうなずいて言う。

 

「そうじゃのう、確かに言っておったが………これは聞き間違いかのう?それと、確かにスネイプは呪文を掛けておったよ」

 

「いいえ、私は確かに、呪いは掛けてないと言いました。スネイプ先生が掛けたのは呪いの反対呪文でしょう。友達思いのかの生徒は勤勉でした、呪いは掛ける対象を、視界に納めていないとダメなことを知っていました。ですが反対呪文の事は、知らなかったのでしょう。反対呪文も、解呪する対象を視界に納めていないとダメなことを」

 

そこまで聞いて今までの整理していた頭の中での今回の出来事が全て繋がった。

 

その1何者か(推定教師)がポッターに呪いを掛ける。

 

その2スネイプ先生がそれに気付いて反対呪文を掛ける。

 

その3グレンジャーも気付いて呪いを掛けた人物を探す、ポッターをじっと見詰めるスネイプ先生を見付けて犯人だと誤認。

 

その4スネイプ先生にグレンジャーが火を着ける。

 

この並びなんだよね、多分。

 

「いやはや、大したものじゃ、ミス ギネヴィア・テイラー、君は間違いなく秀才じゃな………それでボヤ騒ぎの勇敢なる犯人は誰じゃろうな、ウィーズリーの六男が確かハリーと同い年じゃったのう」

 

考えるように楽しそうに言うダンブルドア先生に、ギネヴィアが得意気に言う。二人とも何か楽しそうね、私は聞いてるだけだからココアのお代わりが欲しい所だけど。

 

「いいえ、彼は勇敢ですが、火を着ける為の呪文を知りません。ハーマイオニー・グレンジャーです」

 

「確かに、彼女は優秀な魔女だとマクゴナガル先生に聞いておる。彼女ならば、可能じゃろう。……今年は優秀な魔女が複数入学したのう」

 

「えぇ、ミリィも途中まで、グレンジャーが犯人という所までは推理できたのですわ」

 

物欲しそうにコップの底を見ていたら名前を呼ばれたので慌てて話しに加わる。

 

「えっと、自分はグレンジャーが犯人と分かっても、動機が分からなかったので、ギネヴィアの方がスゴいです」

 

「そうかそうか、じゃか君も十分優秀な部類じゃよ。どれ、ココアのお代わりを持ってこよう」

 

ひょいと持ってたマグカップを取られて、また部屋の奥にココアを補充しに行くダンブルドア先生。

 

「それにしても、グレンジャーが犯人を間違えてる事まで分かるなんて、スゴいね」

 

「確信は無かったのですけれどね。私はグレンジャーと同じく呪いの掛け方しか知りませんでしたから」

 

え?どういうこと?でもさっき解呪の方法も言ってたじゃん。

 

「あれは、グレンジャーの当時の思考を予想してそこから導きだした推測ですわ。私がグレンジャーなら、そう考えますから。私とグレンジャーの違いは、スネイプのに対する好感度みたいなものかしら」

 

「好感度?」

 

「ええ、グレンジャーはスネイプ先生に対して良い印象を持っていなかった、だから呪いを掛けていると疑わなかった。私はスネイプ先生がそのような人間ではないと考えた、そこからスネイプ先生がグレンジャーに誤解を受ける事をしていたと考えて、解呪の方法を推測したのです」

 

何でそれをあの数分で出来るのか、ちょっとこの友人はハイスペック過ぎると思う。

 

「それを聞いて益々、儂は君の事を恐ろしく感じるのう」

 

ココアを持ってきて、私達にまたマグカップを渡してきてくれるダンブルドア先生の言葉に、ギネヴィアが恥ずかしそうに謙遜する。

 

「憶測に憶測を重ねた、推理とも呼べない妄想の類いですわ、私自身的を得ていた事に驚いています」

 

「あ、ココアありがとうございます」

 

このココア美味しいんだよねぇ、何か身体の力が程よく抜けて、自然体になれる味って感じ、スゴいリラックス出来るよ。

 

「十分名探偵の部類じゃがなぁ、ポアロとか好きじゃろう?」

 

「どちらかと言うと私は、ホームズの方が好みですわ」

 

「シャーロキアンかのう、儂も若い頃は熱中したものじゃ」

 

何故か推理小説に話が流れそうになってて、慌てて話題を変える。

 

「えっとそれで私達が来たのは理由が有りまして!」

 

「おお、そうじゃった、未だ本命を聞いていなかったのう。それで、その話をして君達は何を儂に望んでいるのじゃ」

 

「グレンジャーへの罰則を、軽減して欲しいのです。彼女は確かに教師に攻撃を仕掛けました、それもとても危ない攻撃を」

 

「そうじゃのう、その点を考えれば処罰は重くなるじゃろう、反省文に三ヶ月の謹慎とその間に………罰としてハグリットの手伝いでもさせるかの、それと長期休暇に特別補習じゃな。これくらいが妥当じゃろう」

 

そんな、今からじゃグレンジャーは年越しも両親に会えないの?これでも、罰則としては軽い方なのは分かるけど、でもこんなのって無いよ、友達の為に頑張っただけなのに。

 

「えぇ、一年生の彼女への罰則としては、普通ならそれくらいが妥当かと。しかし彼女の行動は友人の事を思いやっての行動であり、今回はスネイプ先生の日頃のポッター選手への過剰な弄めとも言うべき行為が、誤解を受ける理由になったとも言えます。しかも彼女からすれば、ポッターは頼るべき教師に攻撃を受けて、デビュー戦とも言うべき晴れ舞台で大怪我を、下手をすれば死ぬ可能性のある妨害を受けたという状況なのです。ましてや彼女は、ハロウィンの時にポッターとウィーズリーに命を救われています。友達思いの彼女は、友人であり命の恩人であるポッターの為に、勇気を振り絞ってスネイプ先生と言う、ポッターを苦しめている元凶に立ち向かったのです。私は彼女の手段は認められませんが、その魂の有り様は、模範たる優秀なグリフィンドール生だと思いますわ。」

 

長々とグレンジャーの弁護をしたギネヴィアは、ココアを少し口にすると、ダンブルドア先生に頭を下げる。

 

「どうか、グレンジャーへの罰則を軽くして頂けませんか」

 

「私からも、お願いします」

 

ココアを横に置いて、ダンブルドア先生に頭を下げる。

グレンジャーは確かに、自身の学力を鼻に掛けて、威張る様な話し方をする時もあるし、結構なミーハーだし、お節介焼きの構ってちゃんだけど、優しくて友達思いで頭が良くて、真面目で努力家で面倒見の良い、ちょっと寂しがりな自慢の私の友達何だ、だからお願いダンブルドア先生、グレンジャーを助けて下さい。

 

「ふむ、儂もそうしたい所じゃがなぁ、教師に火を着けるなぞ、事実だけみればこのホグワーツの歴史でも希な凶悪犯じゃよ」

 

「な、そんなっ「そこでじゃ」」

 

ダンブルドア先生のあんまりな言葉に思わず声を荒らげると、先生が茶目っ気たっぷりなウィンクをして意地悪な笑みを浮かべた。

 

「のうギネヴィア・テイラー、ポッターに呪いを掛けた犯人に、目星がついてはおらんか?」

 

その言葉に驚いてギネヴィアを見ると、まるで降参を示す様に両手を上げて首を振るギネヴィアの姿があった。あの、情報から犯人の割り出しも出来てるの!?それって本当に天才じゃない!!

 

「校長先生はやっぱり、流石は二十世紀で最も偉大な魔法使いですわ」

 

「お主は百年に一人の名探偵じゃよ、聞かせてくれるかの?名探偵の推理を」

 

「まず最初に、犯人に納得して頂ければ、グレンジャーへの罰則を軽くして頂けますか?」

 

「うむ、今月の土日に儂の特別補習と反省文にする」

 

それ、人によっては大金を支払っても受けたい特別補習では?

 

悪戯小僧みたいな笑顔のダンブルドア先生に、思わず乾いた笑みを浮かべる。

 

「では、最初に犯人の名前を、犯人はクィレル先生、クィリナス・クィレル先生です」

 

「ほう、して理由は?」

 

「今日の試合は、魔法生物の世話や保健室の留守等で、特別な事情がある先生を除き、殆んどの教師が集まって試合を観ていました、英雄ハリー・ポッターのデビュー戦ですからね、それは観るでしょう。そして先生方はいつもあの場所で集まって観戦をするのでしょう?試合が始まる前に、先生方が話しているのを聞きましたわ。そしてあの場にクィレル先生は来ませんでした。他の来なかった先生方と比べて、クィレル先生が今日来れなかった理由が私には検討が付かないのです。肝心の動機ですが、これは最近のニュースから考え付きました。順を追って、まず私のクィレル先生に対する学校で得た情報から。私はクィレル先生の授業を受けた事は有りませんが、あの先生は少し挙動不審で、独り言を言う癖が有るようです。廊下を一人で歩いてる時に、前触れ無く恐慌状態になったのを見た事が有りますわ。そして、『闇の魔術に対する防衛術』の教師に対するジンクス、一年で担当教員が変わると言うもの、クィレル先生は今年赴任された教員でしたわね。今年、英雄の入学に併せての赴任、そして今年に入ってからのニュースですが、新学期始まって直ぐのグリンゴッツの侵入事件。ポッター選手から彼のこれまでの事を私は聞きました、とても辛い過去だったと記憶していますが、重要なのは侵入事件があった近日、ポッター選手とハグリットがグリンゴッツに行っていますね?そして上級生の方から聞きましたわ、今年の進入禁止の説明は例年と違って不親切だと。あぁ私、推理小説の他にも、ファンタジーにも大変興味が有りまして、魔法が出てくる創作をよく読んだものです。この学校に来てもそちらの興味が尽きず、冒険をした事があると噂のクィレル先生にお話しを伺った事もありますの。クィレル先生は確か、吸血鬼退治等をした事があるとか、その時の恐怖が原因でクィレル先生はニンニクを持ち歩いているのですが、私はあれは別の臭いを誤魔化すために着けていると思っています。私は嗅覚が鋭敏でして、ニンニクとは別に、あの先生のターバンの中からは不快な臭いがしますの。後私、トレローニー先生とお話しする機会もありまして、先生がこの学校の教師になる時に受けた面接の話も聞いています、確か予言の実演を始める所から記憶が飛んでいて、気付いた時には面接は終わっていて合格だとだけ言われたとか。占い師や巫女等のスピリチュアルな職の人達は、極度の集中状態によるトランス現象が起こる事があるとか、何を予言したのでしょうね?そして、闇の魔術には不死に関する記述があるというのを、読書をしている時に発見しましたわ、他にも「もうよい……ギネヴィア・テイラー」…………最後に一つだけ、『あの人』はあの日、本当に倒されたのですか?」

 

「訂正しよう、ギネヴィア・テイラー。君は疑いようも無く名探偵で、間違いなく天才じゃ、それも相当の自信家ののう。シャーロック・ホームズの生まれ変わりと言われても納得するわい、好奇心だけを見れば世界一じゃな」

 

え、どういうこと?一体何が?何を話してるの?

 

「ハッフルパフに五十点の加点、グリフィンドールに五点の加点、そしてその事は他言無用じゃ。今だ魔法大臣ですら信じていない、儂も半信半疑な領域じゃよ、()()()

 

え、五十点!!?しかもグリフィンドールにも加点!?

罰則の軽減の筈が、何か加点までされてるんだけど!?

 

「お褒めに預かり光栄ですわ、これからも精進致しますの」

 

「末恐ろしい事じゃ、本当にのう。その好奇心と推理が原因で、身を滅ぼす事にならぬよう気を付けなさい。ミリア・エインワーズも、ここでの話は他言無用じゃよ?」

 

「はい、分かりました」

 

「肝に命じますわ」

 

こうして最後の方はよく分からないまま、ダンブルドア先生との話は終わった、寮に帰ったら二人に何て答えようか頭を悩ませながら、二人で廊下を歩く。

次の日寮の得点が大幅に上がってる事で二人から質問攻めにされるのを、この時の私は予想できて居なかった。




最早この子予言者の領域にいる気がする、やっぱり知能チートが読んでて一番ヤバイチートだと思う今この頃。
でも作中でも事情を知ってる大人組は予想出来てたと思うんだよね、この段階でと自己弁護。
それでもやっぱりこの子はやり過ぎてるかなぁ、そこら辺の匙加減感想にくれたらうれしいです


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ミリア・エインワーズと死にたがり吸血鬼

夏休みハリー・ポッター祭り、珍しくプロット通りに書けたから直ぐに投稿出来ますた。

ミリィのお姉さんとギネヴィアのママの名前が被ってたので、お姉さんの名前を変更しました(ミラベル→ミラ)


「ママ!!」

 

「お帰りなさいミリィ」

 

列車から降りて駅のホームを、手紙に書いてあった場所を目指して進むと、懐かしいママの姿を見付けて居ても立ってもいられずにママに飛び付く。

 

「ママ、皆は元気?」

 

ママに少し荷物を持ってもらって駅を移動する、ママは運転免許を持ってるから、駅から出たら車での移動だ。

皆とは少し前に駅で別れた、私以外は親がホームまで来れないから、先に外に出て待つ必要があるみたい。

 

「勿論、あなた達お兄さんお姉さんの手紙が届くと、皆で回し読みが始まってね、その日は一日落ち着きが無くていけないわ」

 

「あはは、いつも通りね」

 

「ええ、でもミリィが居なくなったから一番上はギルバートになって、あの子弱気だからマックスやラミリーがやんちゃして、大変なの」

 

マックスもラミリーも、4つ下の弟と妹、二人ともやんちゃな性格で、兄姉の言うことを聞かないので孤児院では有名だった。庭の木に登ったり、近所の犬をからかったり、イタズラは枚挙に暇がない程、例えるなら小さなフレッド先輩とジョージ先輩、私が孤児院に居た頃も手を焼かされた二人である。

 

「それは大変、ラリーお婆ちゃんに迷惑掛けてなければ良いんだけど」

 

ラリーお婆ちゃんは近所に一人で住んでるお金持ちのお婆ちゃんで、孤児院にも結構な額を寄付している人だ。

マックスとラミリーははラリーお婆ちゃんが好きで、よく二人して、お婆ちゃんの家に無断で遊びに行ってしまう。

 

勿論それがバレた日はママから説教が飛んできて、それはもう盛大に怒られるんだけど、あの二人は懲りずに何度も遊びに行っているのだ。

 

「ラリーは優しいから、あの二人を甘やかすのよ」

 

車のエンジンを掛けながらママが困ったように言う、子供が好きで孤児院に寄付してるって言ってたし、ラリーお婆ちゃんは本当に、際限無く優しいんだよね。

 

「そっか、じゃあラリーお婆ちゃんに甘やかさないでって言わなきゃ」

 

「そうね、ミリィから言ってくれる?」

 

「任せて!」

 

ホグワーツだと、三人とも個性が強くて、私なんか影が薄いけど、孤児院なら私は頼れるお姉さんだもの!!

 

「あら、やる気満々ね、ママ助かるわ」

 

「弟妹のお世話は任せて!………ホグワーツじゃ影が薄かったのを、ここで挽回しなきゃ」

 

「あら、そんなにホグワーツは、個性的な生徒ばかりなの?」

 

私が影が薄いと聞いて、ママが驚いた様に私をバックミラー越しに見る。

 

「いや、ルームメイトのが個性的で、私名前で呼ばれるより『○○さんのルームメイトの女の子』って呼ばれる方が多くて」

 

何でこう、皆キャラ立ちがスゴいのかなぁ。個性の暴力だよ最早。

あの三人の情報を思い出しながらママ説明して、あまりのキャラの濃さに項垂れる。

 

エレナは、スポーツ万能でテーブルゲームも読書も趣味で、緩くウェーブの癖が付いた肩に付く長さの金髪に、優しい笑顔が特徴で、男の子に交じって遊ぶから、密かに派閥が出来ている位の人気な女の子。

ハロウィンの時のディゴリー先輩とのチェス勝負の後、先輩の事を名前で呼び捨てにして、よく二人でチェス勝負をしているのを談話室で見掛けている。ハッフルパフ内で、男関係では最も女の子に嫌われている存在だ。

ディゴリー先輩と仲が良いし、その他にもあの笑顔にやられて、トリコになる男の子が多いのなんのって。インドアな男の子に人気があるのよね。

お陰で一時期ハッフルパフ内の女の子は戦時下のような、ピリピリとした空気と緊張感に包まれてた時もある。結局本人の口から、男に恋愛的な興味が未だありません宣言で鎮静化。この言葉で数多の男子が失恋に心を悩ませる事になったけど、本人はいつも通りに外で走り回って中でチェスをして遊んでいた。

 

ギネヴィアはハッフルパフ内一年女子では満場一致で一位に輝くミス ハッフルパフだ、ホグワーツの一年女子の中でもトップクラスの可愛さに、男女関係なく面倒見が良くて、しかも優しい。お世話好きでお喋りも大好きな彼女と話すために、彼女の趣味の読書を真似てシャーロキアンに落ちる男子が、寮を越えて学年中にいる、スリザリンの生徒が、彼女に認められる為に純血主義を捨てた事まで有るらしい。

成績は実技を本人があまり好んでいないため、平均より少し上程度だけど、その頭脳はあのダンブルドア先生が称賛するレベル、並みの勉強では本人がつまらないそうで、ダンブルドア先生の口添えで座学のみ、出席が免除されている。

免除に辺り学力を測定した所、既に四年生レベルの知識を持っていることに。前代未聞なスペックに、寮監のスプラウト先生が驚きで倒れたとか。

 

ライラは二人に比べてどちらかと言うと他学年や先生の評価が高い。

成績はグレンジャーと競えるレベルで、ストレートの背中まで伸びる綺麗な黒髪に、あどけなさが残る凛々しい表情、冷静で合理主義な性格とは打って変わって、趣味が料理と裁縫、後ガーデニングと、家庭的な趣味にやられる上級生が多い。

最初の頃に勉強熱心な彼女が作ったクッキーを、お裾分けで勉強を教えて貰った人に、ちょっと顔を赤くして、恥ずかしそうに談話室で配ったのが切っ掛けで、人気に火が付いた。

先生達にも手作りのお菓子を渡していて、特にスネイプ先生と話が合うらしい。

本人が魔法薬学に興味があるからか、毎週末魔法薬学の教室に、個別授業を受けに行っている。お陰でハッフルパフとの魔法薬学の授業はスネイプ先生の機嫌が良いと一年のスリザリン以外からは評判なのだ。

 

で、私はそんな三人のルームメイトで周りと三人の仲介役と思われてる。

成績は平均、見た目はちびのツルペタ、家庭的な趣味があるわけでも、スポーツ万能な訳でもないし、特にこれと言った特技は無い。

見た目はエレナが面食いだから、まぁ多少は整ってると思うけど、他の三人が三人だから、どうにも実感が無い。

 

この三人に太刀打ち出来るのってポッターやグレンジャー、ドラコ位じゃない?

 

「何ともまぁ、濃い友達を見付けたわね、ミリィ」

 

「最近、『そこの金髪のちっちゃな娘』で反応する様になった自分が悲しい」

 

友達はちゃんと愛称で読んでくれるんだけど、同じハッフルパフの一年男子にすら、たまに名前を忘れられるレベル、何だかなぁ。

 

「未だ入学して時間があまり経ってないじゃない、小さい時は特に人の名前を覚えるの苦手な子が多いのよ、だから焦らないの。あなた自身も人見知り何だから、先ずはそれを克服しなきゃ」

 

確かに、未だ半年も経ってないし、そういうものなのかな?

私の人見知りも覚えて貰えない理由かぁ、確かに私から一歩踏み出さなきゃ、相手に覚えて貰えないよね。

 

「覚えて貰える様に頑張る、やっぱりお菓子を作ったりするのが良いのかな?」

 

「先ずは初対面相手でも、顔を見て挨拶出来るようになることよ」

 

「うへぇ、いきなりハードル高いようぅ」

 

私はもうハッフルパフの皆とは話したことがあるから、初対面となると他の寮の人と話さなきゃじゃん。

一人でとか絶対あがっちゃうし、最初は友達が多いエレナ辺りに紹介して貰おう。

 

 

 

ミリアは気付いて居ないが、個々の名前よりも四人で一グループと言う印象が強いため、名前が覚えられていないのだ。ミリアも小動物の様な小柄で愛くるしい顔に、波打つ様な癖毛を肩下まで延ばした見事な金髪、そして135㎝程の小柄な身長、コロコロと変わる表情、純粋で優しい性格等で、他の四人とはまた別の人気を獲ているのだが、支持層が高学年に固まっているので接する機会が少なく、本人に自覚が無いのだ。

尚、男子生徒よりも女子生徒に、こんな素直な妹が欲しかったともっぱらの評判である。

 

 

 

「さぁ、見えてきたわよ~」

 

ママに学校であったこととか、友達に電話したい事を話してると、ママがいきなり遠くの方を指差した。

 

「あそこ、もう屋根が見えてるわ」

 

「え、本当に!?」

 

未だ半年も経ってないのに、懐かしくなって前の席に乗り出して遠くの方を見ると、見慣れた煉瓦の壁と、屋根が見えてきた。

 

「うわぁ……早く皆に会いたいな」

 

懐かしさと、暫く皆に会ってない事で寂しさを感じて、思わず口に出る。ママはそんな私を席に確り座るようにたしなめると、車の速度を上げた。

 

途中でマグル避けの結界を通り過ぎて、孤児院から少し離れた所にある駐車場にママは車を停めた。

 

「あ、ミリィ!!」

 

「もう、お姉ちゃんって呼べって言ってるじゃない」

 

一つ下のギルバートが、孤児院の駐車場でずっと待ってたのか、鼻を赤くしていた。

 

「良いだろそんなこと、それよりも久しぶり!」

 

会えた事がそんなに嬉しいのか、若干目頭があやしいギルバートに抱き締められる。

 

「うん、久しぶり。まさかギルに抜かされるなんてね」

 

入学前は同じ位だったのに、今じゃ私の目線がギルバートの胸もとの辺りになってる。多分140後半位あるんじゃないかしら?

 

「ミリィは全然変わんなくて、俺心配になるぜ」

 

私の頭に手を置いた後、車のトランクから荷物を取って運ぶギルバートに、私の弟が無事に逞しくなってて安心する。

 

入学前は気弱で、何をするにしても周りの目を気にしてたギルバートからは、考えられない位積極的になってる。

 

「俺も早くホグワーツに入学したいよ、ロコモーター・トランク」

 

物質移動呪文(ロコモーター)をもう使えるギルバートに、孤児院は流石だなぁと思う。パパが主導して、孤児院の子供は学校に行かない代わりにパパが勉強を、ママが魔法を教えてくれる。

勿論、危ないのは教えてくれなくて、物質移動呪文(ロコモーター)みたいに、生活に役立つ様な魔法を教えてくれる。

 

「でも、孤児院の方が、呪文を覚えるなら良いよ?」

 

「攻撃呪文になりそうなものは、教えてくれないだろ?」

 

その言葉に私とママがげんなりする、男ってどうしてこうそういうのを学びたがるんだろう。生活に役立つ様な呪文があれば、それで良いじゃない。

 

「ママはそういうの反対何だけどね、喧嘩をするなら素手でやりなさい」

 

「身体は鍛えてるさ、でもそれだけじゃ皆を守れない」

 

そういって拳を握るギルバートを見て、本当に変わったんだなと、寂しさを覚える。

何で寂しいんだろ、ギルバートが成長したのは嬉しいの事じゃない。

 

「子供達を守るのは親の役目よ、今はそれで良いの」

 

そういってギルバートの頭を撫でるママに、ギルバートは納得してない顔をするけど、言っても仕方無いと思ったのか無言で孤児院の方へ歩き始めた。

 

「ママもミリィも、早くしないと風邪ひくぞ!」

 

「はいはい……私が風邪ひいたら、ギルが看病してくれる?」

 

「あ、ズルい私もして欲しい!!」

 

ギルやママ以外に看病されるのは、嬉しいけど、手付きが危なっかしいのがありありと想像出来て、休もうにも休めないのよね、特にマックスとラミリーの二人は、看病の途中でもイタズラを仕掛けてきそうで、気が抜けない。

 

「そういうのはパパにしてもらえよ!」

 

顔を赤くしてずんずん進むギルバートが、照れてると分かってにやける。うんうん、ギルバートはこうでなくちゃ、入学前はよく後ろをついてきたギルバートを、こうやってからかったなと思い出して、変わらない所もあるんだと見付けて、嬉しくなった。

 

「ふふ……ギル~、お姉ちゃん疲れちゃったから孤児院まで背負って?」

 

「だから俺をからかうな!!」

 

やいのやいのと、からかう私に逐一反応してくれるギルバートが、静かな通りに声を弾ませていると、ママが車に忘れ物をしたから先に言っててといって、二人きりになった。

 

「そうだ、ミリィが送ってくれたやつ、ミラ姉さんがスゴく喜んでたよ」

 

「でも、いきなりホグワーツにある瓶の王冠を送ってくれなんて、オレンジジュースのを厨房で貰ってきたけど、何に使ったの?」

 

ミラお姉ちゃんは私の八つ上のお姉ちゃんで、私より上は皆ミラお姉ちゃんよりも歳上、皆もう大人で、色んな所で働いてる。

 

確かミラお姉ちゃんは今年ホグワーツを卒業して、アイルランドの方のクィディッチのプロチームにマネージャーとして入ったはず。

 

「ミラ姉さんがチームお揃いのアクセサリー作るんだと、孤児院にあったのは使いきったみたいで、ミリィにホグワーツのもらってくるよう頼んできたんだよ」

 

お揃いのアクセサリーかぁ、良いなぁ。ミラお姉ちゃん手先器用だし、可愛いの作るんだろうな、私も欲しい。

 

「そうだったんだ、羨ましいなぁ」

 

「そう言うと思ってたぜ、ほら」

 

ギルバートは上着の内ポケットをゴソゴソと探って、ぶっきらぼうに私に小さな包みを渡してくれた。

 

「え、本当に?やったギル大好き!!」

 

「いきなり抱き付くな!」

 

顔を赤くして喧しく離れろと言ってるギルを無視して、腕に抱き付いたまま包みを開ける。中にはオレンジ色の王冠をアレンジしたバッチと懐中時計を模したペンダントが入っていた。

 

「……キレイ」

 

思わず足を止めてペンダントを見る。これは私の送った王冠じゃないみたい、大きさが違うから。懐中時計を模したペンダントは、同じ形の王冠を使って蓋がしてあって、開けるとロケットの様に中に写真が入れられる様になってた。

 

「今付けても良い?」

 

「早くしてくれ」

 

つんけんするギルに笑って、紐を首に通す。革紐で出来た奴で、首の後ろで長さを調節出来るみたい。

 

「えっと、ここの紐を引っ張って……あ、締めすぎた、うーん、長くするのはどうすれば」

 

初めてペンダントを付けるから四苦八苦してると、ギルバートがぶっきらぼうに後ろを向けと言って紐の長さを調節してくれた。

 

「よし、これくらいで良いだろ」

 

「ありがと、ギル」

 

ギルが付けてくれたペンダントを見てニヤニヤする、可愛いなぁ、皆に電話して自慢しよっと。エレナが悔しがるのが目に浮かぶよ。エレナを宥めつつも何だかんだ言ってライラがその気になって、そしたら皆でお揃いのアクセサリー作りたいなぁ。

 

「ほら、もう着くからそのニヤニヤするの止めろ」

 

「良いじゃん、嬉しかったんだもん……あ、そうだ!ギル、こっち向いて」

 

「どうしたんだよ?」

 

立ち止まったギルの上着の胸ポケットの所に、オレンジのバッチを付けてあげる。

 

「これ、ギルにあげる」

 

そう言って笑いかけると、ギルが照れた顔をして逃げるように早足で歩いた。

 

「あ、ちょっと!」

 

「良いからほら………おーい!ミリアお姉ちゃんが帰ってきたぞ~!!」

 

私を無視して孤児院に入って荷物を玄関脇に置きつつ、孤児院中に聞こえるくらい、大きな声を出すギルバート。

ギルバートの声で私達が帰ってきたことを知った弟妹が、玄関に迎えに来てくれて嬉しくなる。マックスやラミリー何か私に突撃してきて、押し倒された私に皆が我に続けとばかりに群がるから、パパが助けてくれるまで皆で揉みくちゃになってた。

 

「久しぶりミリィ、元気そうで良かったよ」

 

「久しぶりパパ!!元気は私の取り柄だもん、当たり前よ!」

 

優しく抱き締めてくれるパパに挨拶をして、荷物を私の部屋に運ぶ。

 

十歳より下の子供達の部屋は皆一階で、十歳から一人部屋が貰える様になる。私の部屋は二階の一番奥の部屋で、向かいはギルバートの部屋だ。

今子供達で二階部屋は私とギルバートだけ、二階は他にパパとママの部屋がある。パパのお母さんのマリアお婆ちゃんの部屋は、離れにある。

離れは客室とマリアお婆ちゃんの部屋に、成人した孤児院の卒業生の皆が帰ってきた時に使う部屋もある。後は院長のマリアお婆ちゃんの執務部屋。

 

「ちょっとしか離れてないのに、懐かしいなぁ」

 

久しぶりの自室に懐かしくなって、よく知ってるはずの部屋を探検する。

歓迎会の準備が未だだから、部屋に居るようにと言われてるので、荷解きをしなから部屋の物を眺めては思い出に浸っていた。

 

暫くしてギルバートに準備が出来たと言われて、一階の皆で食事をする大広間に降りると、ご馳走が並んだテーブルに皆が待っていた。

 

ママが弟妹に声を掛けて、皆が声を揃える。

 

「はい、せえの」

 

「「「「「ミリアお姉ちゃんお帰りなさい!!!!」」」」」

 

ッッッ!!!?!?

…………………………っ、ああ、もうっ!!

 

「ただいま!!」

 

ここが孤児院で、大人になったらここには居れなくなっても、皆が本当の家族じゃなくても、それでもここは皆が皆、本当の家族よりも強い絆で繋がってる、そう自然に思えた。

 

「今日はあなたの歓迎会、明日はあなたの誕生日パーティーね。お友達も三人、来るんでしょう?」

 

「うん、皆スゴく可愛いの!」

 

ママとローストチキンを食べながら話してると、末っ子のマリベルがホグワーツの話をねだってきて、皆に聞かせる事になった、私やギルバートはお兄ちゃんやお姉ちゃんから聞いてたけど、この子達は小さ過ぎて覚えてない。今度は私が話す番だ。

 

「お姉ちゃん、ホグワーツの事聞かせて!!」

 

「良いわよ、何から聞きたい?」

 

「寮って何で分けられるの?」

 

「それわね~……………」

 

そうやって皆と楽しくパーティーを過ごしていると、ふと何かいつもよりも静かな気がしてきた。

 

パーティーだから皆思い思いに楽しんでて、静かだとはとても言えないのに、どうして?

 

「あれ、ねぇパパ、マックスは?」

 

周りを見て、こういう時に一番はしゃぐマックスが居ない事に気付いて、パパに声を掛ける。

 

「さっきトイレに行くって言ってたけど」

 

パパがそう言って、私がホグワーツに入学した後に入った新しい末っ子のキースに、チキンライスを食べさせる。キースは今年で三歳の男の子だ、クリクリとした目が可愛い。

 

「キース、私がお姉ちゃんのミリアよ」

 

「みぃあ?」

 

私を指差して、舌っ足らずな声で首をかしげながら言う姿が可愛くて仕方無い、ギルバートは歳が近いからこういう姿私覚えてないのよね、覚えてたらからかうネタが増えて良かったんだけど。

 

「そうそう、ミリアお姉ちゃんよ~、偉いわねぇ」

 

そう思いながらキースの頭を撫でていると、大広間に焦った様子でマックスが駆け込んできた。

 

「はぁはぁ…パパ……窓の外にっ……血を流して人が…倒れてた!!」

 

騒がしかったパーティーが、マックスの叫び声で静まり返る。皆がマックスとパパを見詰めていると、パパがマックスの側に駆け寄って怪我が無いかを確認した後、入り口横のハンガーから上着を羽織って言う。

 

「見付けてくれてお手柄だマックス。パパは確認に行ってくるから、ここで待ってなさい。皆も良いね?」

 

息を整えながらうなずくマックスの頭を撫でて、パパは大広間を出ていった。

 

「ねぇママ、パパ大丈夫?」「怖いよママ」「倒れてたって悪い人が」「パパ悪い人に会うの?」「嫌、そんなの嫌!!」

 

表情を硬くしたパパとママに不安そうな顔をする歳上の兄姉を見て、不穏な空気を感じたのか泣き出したキースに、つられてマリベルが泣き出して子供たちはパニックになった。

 

「皆静かに!!……ミリィ、ギル、ここを任せて良いい?お母さんに知らせなくちゃ」

 

「任せて」「絶対に守るからな」

 

手を叩いて皆を静かにさせた後、泣いてるマリベルとキースを落ち着かせて、ママが私とギルバートに大広間を任せて外に出た。

 

「お姉ちゃん、ママ大丈夫だよね?」

 

「大丈夫よマリベル、パパとママはスゴく強いの、だから大丈夫」

 

不安な顔で集まってきた弟妹を、抱き締めて安心させる。

 

「それよりパーティーの続きをしよう、ミリィ」

 

「ええ、皆でパーティーを楽しんでれば、パパとママは直ぐに戻ってきてくれるわよ。皆クィディッチって知ってる?」

 

ギルバートに言われて皆に飲み物の入ったコップを持たせて、話を始める。

 

ここら辺は治安が良い、マグル避けの結界でマグルは近寄れないし、周囲に住んでる魔法つかいはお年寄りばかりで、若い魔法つかいはパパとママだけ、回覧板何て腰痛に効く薬の話とか、物忘れによく効く食べ物とかそんなのばっかりの、とても首都ロンドンとは思えない程に時間の流れが遅い、平和そのものの地域なんだから。

だから、だから大丈夫と、自分に言い聞かせて、パパとママが帰ってくるまで、ホグワーツの話を続けた。




ここからオリ展開です。



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ミリア・エインワーズと死にたがり吸血鬼2

今回ちょっと短めです。ハリポタ祭り、未だ未だ続きます。

ミリィのお姉さんとギネヴィアのママの名前が被ってたので、お姉さんの名前を変更しました(ミラベル→ミラ)


「ミリィ!!」

 

「エレナ!」

 

玄関でやって来た三人を迎えると、エレナが抱き付いてきた。三人の保護者は、ギネヴィアのお母さんが来てくれている。

 

「久しぶり~、寂しくて私死んじゃうかと思ったよぉ!!」

 

「何を言っている、昨日ホームで別れたばかりだろうに」

 

やれやれと首をふるライラに、私とギネヴィアがうなずく。

 

「もう、二人ともミリィに会えなくて寂しく無かったの!?」

 

「あー、それはだな」「良いでしょうそんなこと」

 

気不味そうに顔を背ける二人に、嬉しくなって、つい笑っちゃった。

 

「ふふ、二人ともありがと、私も一人で寝るの久しぶりで、ちょっと寂しかったの」

 

「ねー私は!?」「勿論、エレナもありがとうね」

 

今日は三人を迎えるて孤児院で私の誕生日パーティーとクリスマスパーティーをするんだ。ママと話していたギネヴィアのお母さんが、私に気付いて挨拶してくれた。

 

「あなたがミリアね。メリークリスマス、お誕生日おめでとう」

 

「メリークリスマス。ありがとうございます、ギネヴィアのお母さん」

 

スゴく品がある仕草で挨拶してくれたギネヴィアのお母さんは、スゴく若かった。ギネヴィアから学生結婚とは聞いてたけど……その、ギネヴィアと並ぶと歳の離れた姉妹にしか見えない位若い、未だ二十台らしいし。

 

「ミラベルよ、よろしくね」

 

「はい、ミラベルさん」

 

親愛のハグをミラベルさんとして、大広間に皆を案内する。

 

「あ、ママ、お姉ちゃん、皆もう準備出来たよ」

 

皆もう待ちきれないんだろう、テーブルに並んだ料理をマックスがつまみ食いしようとして、ギルバートに怒られてる。

 

「ありがとうねマリベル。皆、今日のお客さんを連れてきたわ………それじゃあエレナちゃんから、お願いね?」

 

ママは手を叩いて皆の注意を集めると、エレナを前に出して微笑む。

 

「ふぇ!?……あ、もうっ。皆、メリークリスマス!!」

 

いきなり前に出されて驚いたエレナがキョロキョロと視線を巡らす姿が面白くて、クスリと笑ってしまう。横を見ればギネヴィアもライラも笑ってた、あんなエレナは初めて見たから、二人とも堪えきれ無かったのね。

孤児院の皆は、挙動不審なエレナに不安そうな顔を向けてる、昨日あんなことがあったから、皆ちょっと神経質になってるの。

 

「メリークリスマス」「メリークリスマス猫目のお姉ちゃん!!」

 

私達が笑ってるのを目にしたエレナが、拗ねた様な顔をした後、孤児院の皆に挨拶をする。弟妹も元気に挨拶をして、さっきまでの奇妙な雰囲気は無くなってた。

 

「私エレナ・スミスって言うの、今日は親友のミリィの誕生日をお祝いに来たの、皆よろしくね!」

 

「私はライラ・アッカーマン、皆メリークリスマス」

 

「私はギネヴィア・テイラーですわ、皆さんメリークリスマス」

 

エレナに続いて二人が挨拶をする、このまま勢いに任せるのが言いかもしれない。

 

「二人も私の親友なの、皆、仲良くしてね!」

 

「「「「「はーい!!」」」」」

 

親友って言われてむず痒そうにしてる二人が面白くてエレナと笑うと、ギネヴィアが拗ねて私の事をくすぐってきた。

 

「メリークリスマス皆さん。私はギネヴィアのお母さんのミラベルと言います、皆さんよろしくね」

 

優しく微笑むミラベルさんに、皆が返事をすると、パーティーが始まった。

 

テーブルに乗った料理は、今朝ママがマリアお婆ちゃんと二人で作った大皿料理、メインは丸々一羽使ったローストチキン、それを囲むように大量のサンドイッチにローストビーフ、スコッチエッグにシェパーズパイ、一口サイズのフィッシュ&チップスにサワークリームと食べるクリスプ、飲み物はオレンジジュースにグレープジュースが並んでる。

 

「ミリィ誕生日おめでとう!」

 

「ありがとうエレナ、スゴく嬉しいわ」

 

エレナからのプレゼントは手袋だった。ワンポイントの星が可愛い手袋でサイズも少し大きめ、タグを見たら洗濯が簡単なアクリルで、長く使える様に考えてくれたのが分かる。

 

「私は帽子だ」「私からはマフラーを、改めてお誕生日おめでとうミリィ」

 

「ありがとう二人とも」

 

二人からもらった帽子とマフラーを見て、二人にお礼を言う。帽子はニット帽でマフラーは綺麗な格子柄の肌触りが良いもの。ニット帽は何と、タグが無いからこれ手作りみたい、ライラは本当に器用ね。

 

「本当は獣毛が良かったんですけど、お手入れが大変ですから」

 

「私のは羊毛だから、洗濯は気を付けて」

 

「うん、大切に使うね!」

 

三人にもらったものを抱き締めて、三人に笑い掛ける。同い歳の友達からプレゼント何て始めてで、スゴく嬉しい、一生物の宝物だ。

 

「お姉ちゃん、私達からもプレゼント!」

 

ラミリーが、私に手作りのフォトフレームをくれた、妹達からのプレゼントらしい、中には今の孤児院の皆の集合写真が写ってる。未だ来たばかりのキースもお母さんに抱かれて写ってる、滅多に顔を見せないマリアお婆ちゃんもいる、お婆ちゃんの写真始めてみたよ。

 

「俺達とママからはこれだ」

 

弟達とママからは、色毎に別けられた七つのアクセサリーだった。

 

「ありがとう、これは?」

 

妹達からのプレゼントに比べて、随分と簡素だから、負けず嫌いのギルバートやマックスらしく無いと思って、何かあるのかと聞くと、ギルバートが自慢気に言ってきた。

 

「ママに手伝ってもらってな、それぞれ別の魔法が籠められてる。これに書かれた呪文を言うと、魔法が使える仕組みになってるんだ」

 

紙をもらって読むと、アクセサリー一つにつき一つの魔法が籠められているみたい。魔法は全部で七つ

ブレスレットには物質移動呪文(ロコモーター)

指輪には応急処置呪文(エピスキー)

ミサンガに解錠呪文(アロホモーラ)

ヘアピンに呼び寄せ呪文(アクシオ)

矢印の形のバッチは方角呪文(ポイント・ミー)

青の玉がついてるネックレスは水増し呪文(アクアメンティ)

赤の玉のついてるヘアゴムは炎上呪文(インセンディオ)

 

「え、魔法が七つ!?これそんなにスゴいの!!」

 

未だ私の知らない、使えない呪文まであって、これを全部使えるとなると、ライラやグレンジャーでも未だ難しいんじゃない!?

 

「ママが、これで杖が使えない場所でも身を守りなさいって」

 

驚いて大きな声を出した事で、私が貰った物が何なのか皆に伝わる。ギネヴィアが目を丸くして、ライラが感嘆の溜め息を吐いた、エレナはよく分かってないのかサンドイッチを食べてる。

 

「お母さんから、これから必要になるからって言われてね、ネックレスとヘアゴムは私のお下がりだけど、大切にしなさいね」

 

言われて確認すると、確かに他のよりもデザインが少し古い気がする、それでも手入れがしっかりしてたのか、殆んど新品のままだ。

 

「分かった、大切にする」

 

「パパからのは、未だ完成してなくてな。夏休みに渡すよ」

 

あ、パパのは夏か、パパこういうことは結構ルーズだから、その分プレゼントには期待できるのよね。

 

「楽しみにしてるね、パパ!」

 

皆からのプレゼントで両手が一杯になったから、部屋に置いてくると言って大広間を一度出た。

 

「そういえば、あの男の子………」

 

部屋に戻って、プレゼントを整理して片付けている時に、昨日の男の子の事を思い出した。

 

昨日パパとママが大広間に戻った来た時、一緒にマリアお婆ちゃんが来て、倒れてた男の子を看病するから、私の部屋の隣の開き部屋を、立入り禁止にすると言って直ぐに大広間を出ていったのだ。

 

パパが言うには、不審な人物は見付けられず、男の子は血まみれだったけど傷は無かったそうだ。看病はマリアお婆ちゃんがするらしく、その後はパーティーの続きをして、いつも通り小さい子達とお風呂に入った後、自分の部屋で寝たんだけど。

 

今になって急に、男の子の事が気になり出した。

考え出したらそれの事で頭が一杯になる。いつの間にか止まってた手を見て、これは戻っても上の空になっちゃうなと思って、こっそり覗く事にした。

 

「よし、確かマリアお婆ちゃんは今、何か看病に必要って言ってた物を買いに行ってるはず」

 

普通の所じゃ置いてないって、煙突飛行粉(フルーパウダー)で買い出しに行っちゃったんだよね、何買いに行ったんだろ。

 

そんなことを考えながら、隣の部屋のドアをそっと開ける。私の部屋は確り閉めてあるから、遅くなって不審に思った誰かが来ても、少しは時間が稼げるはずだ。

 

「あぁ、マリアさん?良かった、もう空腹が限界で…………誰だ?」

 

中に居た男の子はもう起きてて、開いたドアを見てマリアお婆ちゃんだと思ったのか、何でかお腹が空いたと訴えた。黒髪で黒目の、特徴のない男の子。

 

「私はマリアお婆ちゃんの孤児院の子供で、ミリアよ。隣の部屋に住んでるの」

 

ドアを閉めて、廊下に会話が漏れないように部屋の奥に行く。

 

「……………あぁ、そう。僕に何か?」

 

私の言葉に素っ気なく返した男の子に、ちょっとムッとして返す。

 

「昨日血塗れで倒れてたって男の子を、保護したって聞いたから気になって」

 

「ふーん……ねぇ君、ちょっと手伝ってくれないかい?お腹が空いて仕方無いんだ」

 

さっきまで私の事を興味無さげにしてたのに、いきなり悲しそうな顔をして懇願するのに、違和感を感じる。

 

「手伝うって、料理でも運べば良いの?」

 

私の言葉に薄く口を開いて笑う男の子。嫌な予感がして後ずさると、男の子が大袈裟な身ぶり手振りで話始める。

 

「いつもならそれでも良いんだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()、血液が欲しいんだ」

 

ニタリと笑って、()()()()私に手を差し出す男の子に寒気がして……唇から覗いた八重歯が、とても鋭くて、そして身体が言うことを聞かなかった。

 

「……い、いやっ」

 

「???」

 

前に出ようとする身体を抱いて、その場でへたり込む。何これ、身体があの男の子の側に行きたがってる?どういうこと?男の子はへたり込む私の姿を見て、訳が分からないと言った表情をしてるけど、分かんないのはこっちよ!!

 

「レジストした?……マジかぁ、こんな所に居たのか」

 

意味が分からない事を言うと、男の子がベッドから出てきて私の側に座り込む。

 

「いや、ゴメンね、空腹でどうにかなってたみたいだ」

 

「何が起こってたのよ?」

 

素直に謝る男の子に、毒気を抜かれて顔を歪める。私にどうしろって言うのよ、脅かしたり謝ったり、意味分かんない。

 

「それを説明するには……まず自己紹介からか」

 

そう言って続いた自己紹介は、恐らく私の人生で最も記憶に残ったものになるだろう、それだけ衝撃的だった。

 

「僕の名前はガラル、ガラル・(ハラル)(ラギクリス)・シャドー、吸血鬼だ。よろしくね、聖女様」

 

は?吸血鬼!?聖女!!?

一体何がどうなってるのよ!?



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ミリア・エインワーズと死にたがり吸血鬼3

待たせたなっ!!
いや本当にごめんなさい、未だ未だ夏休みハリポタ祭り、続きますよ!!

取り合えず一年生は終わらせたい。


あの後、何がどうしたら良いのか訳が分からなくなって、ガラルが何を言いたいのか分からなくて、吸血鬼とか聖女とか現実味が無くて…………身体が言うことを聞かない何て恐怖現象と、ガラルの言葉で頭がパンクした私は、何かもう盛大に叫んだ。

それはもう叫んだ、意味が分からなかった、ママにもパパにも助けてくれと、その場で叫んだ、叫び過ぎて咳き込んだ。それでも安心できなくて扉の近くまで腰の抜けた身体で這っていった。ドタバタとこの部屋に向かってくる足音に、心底安堵した。

 

何で立入り禁止の部屋に入っているのかを咎められたけど、そこはガラルが

 

「いや、お腹が空いてて、廊下に誰かいるのが分かったから、部屋から呼び掛けて食べ物を要求したんだ」

 

なんて言って私にはお咎めなしと言うことに、何で庇ったのか気になったけど、ガラルは困った様に笑うだけで答えてはくれなかった。

 

「今母さんが帰ってくる、それまでは我慢してくれ」

 

「私達も、あなたを迫害したい訳じゃないの」

 

「あはは……………ごめんなさい」

 

素直に謝るガラルが、二人きりの時と様子が違って見えて、不気味で仕方無かった。

 

「ミリィ大丈夫か!?」「お姉ちゃん!!」「お姉ちゃん大丈夫!?」「痛くない?大丈夫?」「ミリィ何があったの!?」「心配していたのですわ」「何があったのか、聞かせてもらえないか?」

 

母さんに連れられて下に行くと、皆に心配された。何があったのかと質問攻めされたけど、クローゼットの立て付けが悪くて、閉じ込められてたと母さんが言って、皆を誤魔化していた。

 

「ママ……」

 

ガラルの言った事が気になって、頭の中をグルグルと駆け回っているのが不気味で、ママのエプロンの袖を握ると、困った顔をして抱き締めてくれた。

 

「取り合えずパーティーを楽しみましょう、就寝時間になったらママの部屋に来なさい」

 

耳元で囁くように言われた言葉にうなずいて、出来るだけ笑みを浮かべてパーティーを楽しむ。

未だ不安で仕方無い、ガラルが何のためにあんな事を言ったのか分かんないけど、多分………吸血鬼の部分は本当なんだろうな。

ガラルはさっき、お腹が空いて仕方無いんだって言ってたけど、だったら私達が下でパーティーしてるんだから、料理を食べれば良いはずで、それをしないってことは料理を食べれないか、料理が栄養補給にならない存在って事になる。『ヒトたる存在』の中で、料理を栄養補給として見れない種族は、いくつかあるけど、ガラルの特徴に当てはまって私が知ってるので二つ、喰人鬼(グール)吸血鬼(ヴァンパイア)だ。ホグワーツの図書館にあった『世界のヒトたる存在 完全版』の内容を思い出す。

 

喰人鬼は個体差が特に顕著な種族で、一人一人が別種族何て言われることもあり、大きなカテゴリーでは吸血鬼もまた、喰人鬼だと言う説もある。

数多の種族を内包する喰人鬼は、共通の特徴をもって喰人鬼として定義している。

 

食人種であること。

ヒトを食らう事に忌避感が無いこと。

ヒト以外の動物を食料として見ることが、基本的では無いこと。

最後に、杖を使わずに固有の魔法が使えること。

 

喰人鬼の魔法に総じて、喰人呪文(グール・マジック)と呼ばれる物であり、精神干渉が優秀な魔法である。

 

中には精神干渉の呪文を使って相手に恋愛感情を抱かせて、捕食するまでの手間を省こうとする、最悪な喰人鬼もいるらしい。

 

「……っ」

 

「ん、どうしたの?」

 

そこまで考えて、さっき何をされそうになっていたか想像できてしまった。寒気で震える手を胸に押さえ付ける。大丈夫、あの後直ぐにガラルは魔法を解いて謝った、直ぐには狙うメリットはガラルには無いと思うから、ここにはパパもママも居るから、大丈夫。そう考えてゆっくり呼吸をして、心配そうに私の事を見てきたエレナに笑いながら言う。

 

「あはは、サンドイッチに入ってたソースが、ちょっと辛くて」

 

エレナは合点が言ったようで、笑いながらオレンジジュースをグラスに注いでくれた。

 

「あ、ローストビーフ入りのやつでしょ?あれホースラディッシュ入ってるから、馴れてないと辛いんだよね」

 

「私には未だ早かったかも、ジュースありがと」

 

「どういたしまして!」

 

エレナの言葉に反応しつつ、吸血鬼の情報を思い出す。

吸血鬼もまた、ヒトを食らう種族だけど、特に血液に興味を持つ種族で、その頻度は他のヒトたる存在の食事に比べれば、月に1リットル程と驚くほど少量で、弱点が多い代わりに長寿、そして何よりも驚異の不死性と魔法力を誇る存在。

クィレル先生は、吸血鬼狩りをしたことがあると聞いたけど、本来なら大人の吸血鬼一人相手に、優秀な魔法つかい数人が対策に対策を重ねてやっと辛勝できる、そのくらい強いのだ。

しかも弱点を克服する事が可能で、伝説に残ってる吸血鬼は銀以外の弱点を克服して、魔法つかい五百人を相手に大立ち回り、最終的に半数以上を倒したって言われてる。十字架も聖水も効かなくて、心臓に杭を打ち込んでも倒れない、変幻自在の化け物とか、絶望以外の何者でもない。

 

何せ理論上、バジリスクやヌンドゥと言った魔法生物の最強格相手ですら、その()()()()()()()()()()()()と言われているのだから。

 

あ、これはダメかも知れない。

そこまで思い出して、今二階に居る存在が、このパーティー会場に居る魔法つかい全員を相手にしても余力がある存在だと分かって、目眩がしてきた。

 

「っと、やっぱり無理してるんじゃ無いか?顔が真っ青だぞ」

 

「あ……ギル、ありがと」

 

ふらついた私を抱き止めてくれたギルバートに、お礼を行って離れようとすると、ギルバートが抱き止めた手を離してくれない。

 

「…ギルッ!?」

 

「ママ、ミリィ疲れてるみたいだ、部屋まで運んでいくよ」

 

そのまま私の事を横抱きして、そのまま大広間を出ようとするギルバート。私は皆の前で弟にお姫様抱っこ何てされたから心臓バクバクで、さっきとは別の意味で目眩を起こしそう。顔が真っ赤なのが自分でも分かるよ。

 

「あら、そうなの、元気が出たらまたいらっしゃい。マックス達がお庭で、お姉ちゃん達と遊びたいって言ってるから」

 

ママの言葉にうなずく。今はドキドキで言葉を出す余裕が無いの。

弟妹達にとって食べてるだけのパーティーは、好奇心に耐えられなかったんだろう。エレナ達を引っ張って孤児院前の庭に駆け出していくマックスとラミリーの姿が見えた。

 

困った様な顔をして引っ張られるギネヴィアに、引っ張ってたマックスを横抱きにして庭に飛び出すエレナを見て、恐怖で固まってた身体が少し解れる。ライラは比較的大人しい弟妹に、ホグワーツの事を話していた。

皆こっちを見た後、何事も無かった様に振る舞うのが何か手慣れててショック。

どういう人生経験積んでるのその歳で!?

 

抱かれた時、とっさにギルバートの首に回した手で顔を覆いたい。危ないから出来ないのがスゴく恥ずかしいです。

 

頭が一杯一杯の状態でギルバートに運ばれる私、何で弟にお姫様だっこされてんのよ……何か入学前よりも逞しくなってるし、私を抱き上げたまま二階に上るとか、結構鍛えてるのね。少なくともホグワーツの同級生には無理な事だと思う。ポッターやウィーズリーにしてもらっても、階段を上る何て出来無さそうだし。

 

「ミリィの部屋が引き戸で助かった、抱き抱えたままでも開けやすい」

 

まるで私の事を羽か何かだと言う位軽い足取りで私のベッド横まで歩いて、私をゆっくりベッドに寝かせてくれた。

むぅ、あの弱虫ギルバートがここまで男らしくなるなんて、ちょっと格好良い何てときめいた自分に驚きだよ、相手は弟なのに。

 

「ミリィって呼ぶの禁止、お姉ちゃんって呼びなさい」

 

私はギルバートのお姉ちゃん何だから、その俺の女扱いな口調を止めて欲しい。

……ミリィ呼びで少しときめいたから、これ以上勘違いを重ねると、いけない扉を開きそうで怖いのよ。

 

「ならもっと姉の威厳を持て、空元気が取り柄のお調子者め」

 

「酷い!そこまで言う!?入学前はどこ行くにしても、私の後ろちょこちょこ付いてきてた癖に!!」

 

あんまりな言い草に、ときめきとか宇宙の彼方に吹っ飛んで、目の前のギルバートに番犬が如く吠える。

 

「ほら、それくらい元気がミリィらしいや、っと」

 

ぐるるるる、私をどうしたいんだギルバート。お姉ちゃんをからかうのはいけないんだぞと睨んでいると、ギルバートが不意に私の顔を触って来た。

 

「ひゃっ!?」

 

「少し熱いな……何してんだ?」

 

「いきなりお姉ちゃんの顔を触るなバカァ!!」

 

驚いて触られたおでこを押さえて距離を取る。

 

「何言ってんだか、ほら、横になって毛布被ってろ」

 

そう言って近付いて来た弟に、危機感を感じて距離を取ろうとすると、背中が勢いよく壁に当たってビックリして身体が畏縮する。

 

「あ、おい大丈夫か?」

 

「ひゃう!?」

 

ベッドに乗り上げて私の顔の横に手を付いて、至近距離から私の顔を覗き込むギルバートに、心臓がバクバクと音を立てて顔に血が昇る。

な、何かギルバートがイケメンに見えてきた。おかしい、おかしいよ今日の私、どうなってるの!?

 

頭を抱えたいけど、ギルバートが近すぎて無理、っていうか何か恥ずかしくてギルバートに触れないよぅ。

 

「大人しく横になってくれ、ミリィ」

 

至近距離から目を合わせて囁くように、イケメンに見えてるギルバートに言われて、いけない、ヤバイと思いつつも思いの他素直にうなずく私。

 

恋愛小説とか読んでて、このヒロインチョロいなとかギネヴィアと話してたけど、ヒロインの事バカに出来ないなこれ。弟でこれなら、ストライクゾーンの男子にやられたら即落ちな気がする。

 

「うぅ……はい」

 

見られながらでちょっと緊張しながら、恥ずかしいから横向きで横たわると、ギルバートが毛布を掛けてくれた。

 

「下からジュース持ってくるけど、何が良い?」

 

そう言われて、気遣い上手とかうちの弟マジ女の子キラーとか考える。一階からお姫様抱っこで二階まで運ばれて、しかも結構ドキドキするシュチュエーションを複数こなしつつ、更に相手への気遣いを自然に出来るとか、罪作り過ぎるよ、ギルバート。将来弟が女性関係で刺されない事を祈るばかりである。

 

…………ん?

そう言えば、今私は二階の自分の部屋に居るのね…………………ッッッッッ!!!?!?!!?

 

隣に化け物が居ることを思い出して、ギルバートの服を掴む。

 

「ダメ、行かないで」

 

「どうしたんだよミリィ?」

 

「ダメなのギル、一人にしないでっ」

 

思い出した恐怖と今さっきまで情報で、恐怖で鳴る歯を止められなくて、滲んだ視界でギルバートを見る。

 

「ッ……分かったから落ち着け」

 

ベッドに腰掛けて、手を握ってくれるギルバートに震える声で言う。

 

「怖い、怖いの」

 

「大丈夫、俺が側に居るし、ママやパパだって直ぐに駆け付けてくれる、マリアお婆ちゃん何て、昔は闇祓いのエリートだって聞いたぜ?」

 

でも、それでもガラルに勝てるかどうか、この家に吸血鬼の弱点になるものなんて、流水とにんにく位しか無いのに。

 

「ねぇ、ギル。怖くて身体が寒いよ」

 

「そう言われても毛布はそれ一枚だし」

 

何かもう、何かに抱き着いて無いと震えが止まりそうに無い、枕は一つしか無いし、怖くてギルの手を離したくないし。

 

「ギルが居るじゃん」

 

「俺の服を寄越せと?」

 

的外れな事を言うギルを引っ張る。

 

「違う、もういいから毛布の中入って!」

 

「おわっ!」

 

手を後ろに引っ張ってギルを毛布の中に引っ張る。お腹辺りにギルの頭が入って来て、抱き締めにくい。

 

「ギル、ちゃんとベッドに入ってよ!」

 

「引っ張っといて無理言うな!」

 

ごそごそと動くギルの手を離さないように待ってると、毛布の中からギルが顔を出した。

 

「あっついだろこれ絶対」

 

「良いから、私今からギルを抱き枕にするけど、変な気起こさないでよ?」

 

そう言ってギルのわき腹から背中に手を回して、胸に顔をくっつける。足も絡めて、思いっきり抱き付く。

 

「あちぃ、今が冬じゃなきゃ脱水症で二人とも病院だ」

 

私の身体が震えてるのが分かったのか、軽口叩きながらも、背中に手を回してくれるギルに、変な安心感を覚えて、何だか眠くなってきた。

 

「つかこれ、誰か入ってきたら俺終わりじゃね?」

 

そんな言葉を最後に聞いて、私は眠ってしまった。




2年生行くかは分からないですが、夏はハリポタに絞ります、頑張るです。


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ミリア・エインワーズと死にたがり吸血鬼4

ども、もう直ぐ一巻の折り返し辺りですかね


ベッドが大きく揺れたのが切っ掛けで、目を覚ます。

 

「起こしちゃったか?」

 

あ、冷たい。

誰かの手?男の人の声だし、パパが来てたのかな?

 

「んん……何、パパ?」

 

おでこに当てられた手を握って、頬っぺたに当てながら呟く。ひんやりしてて気持ち良い。

 

「ッ、俺だ俺、ギルバートだよ」

 

ふぇ、何でギルバートが私の部屋に居るのよ?

目を擦りながら起きると、ギルバートが汗をかいてそっぽ向いてた。

部屋寒いのに何で汗なんてかいてるの?私も結構汗かいてるし、この毛布そこまで温かく無いんだけど。

暑くて服でパタパタと扇いでいると、そっぽ向いてたギルバートが顔を赤くした。

 

「何でギルが部屋に…………ごめん思い出した」

 

思い出して、服を扇ぐのを止めてギルバートから距離を取る。でも吸血鬼が怖いから、そこまで離れられないのが余計に恥ずかしい。

 

「なら良かった、目に毒だから着替えろ」

 

「うん、カバンから服取って」

 

文句を言いつつも、ベッド脇のカバンから服を投げて渡してくれるギルにお礼を言って着替える。結構な汗をかいてたみたい、肌にピッタリとくっついた服を脱ぐと、部屋の寒さに身体を震わせる。

 

「ギル、タオルも」

 

こっちを見ないように投げてきたタオルを受け取って、汗を拭う。流石に冬でも毛布を被ってずっとギルバートに抱きついてれば、汗だくになるわね。

 

「その……ありがと、一緒に居てくれて」

 

着替えた服とタオルを畳んでベッドに置くと、ギルバートにお礼を言う、顔見れなくて目線は今畳んだ着替えの服に向けられてるけどね。

何かスゴい恥ずかしいなこれ、相手が弟だから余計に恥ずかしいのかも。

 

「家族なんだから、助けるのは当然だ」

 

「そこは弟じゃないんだ?」

 

「ミリィは姉って感じがしない」

 

「あんなにお世話してあげたのに!ギルをお風呂に入れてたの私なのにっ!」

 

「4歳の時の話をするなぁ!!」

 

「ッッ!!?」

 

大きい声に驚いて思わず畏縮する。

 

「あぁごめん、未だ怖いか」

 

「ううん、ちょっと驚いただけ。ギルが一緒なら大丈夫」

 

お姉ちゃんだからね、弟の前で震えてるだけじゃダメだもん。もう手遅れな気もするけどね。

 

「っ、……無理はすんなよ?」

 

「わかってる、下に降りて皆に会おう?」

 

ベッドから立ち上がって伸びをしながら言うと、ギルが呆れた様な目で見て、溜め息を吐いて言う。

 

「はぁ、分かった。もうすぐお茶の時間だしな」

 

あれ、もうそんな時間だったの?

ちょっとだけ寝た感覚だったのに、三時間位寝てたんだ、私。

今日は夜まで居るって言ってたし、三人は未だ居るよね。

 

「なら、ママがスコーン焼いてくれてるかも」

 

そう思うと、自然と足取りが軽くなる。

 

あのしっとりとしたクッキーみたいな食感が好きなのよね、二つに割ったスコーンに専用のクリームとジャムを挟んで食べるのがたまらない。

 

「俺はマフィンが良いけどな、ジャムでべたつかなくて良い」

 

「マフィンも美味しいけど、私はスコーンよ!」

 

「はいはい……階段気を付けろよ、無理ならまた担いでやるから」

 

私の手を取って先導するギルに言われて、お姫様抱っこされた事を思い出した。

 

「恥ずかしいからお姫様抱っこ禁止!」

 

「あれ、妹には評判良いんだけどなぁ」

 

こいつ、私だけでなく可愛い妹達にまであんな事をしてたのか。

 

「兎に角禁止!!」

 

「ディズニーのお姫様になったみたいって人気なのに、何が悪いんだか」

 

それがダメ何でしょう!?

どこの世界に、弟にお姫様扱いされて喜ぶ姉が居んのよ!

ちょっとドキッとしたけど恥ずかし過ぎるからあれ!絶対エレナにからかわれるもん!!

 

「ガルルルルル」

 

「悪かったって」

 

精一杯威嚇してると、ギルバートが手を上げて降参する。

 

「あ、ミリィ!!」

 

私達が大広間に入ってきたのに気付いたのか、エレナが声を上げると、皆が気付いて声をかけてくれる。それに答えながら、さっきまで疲れてたからちょっとお昼寝してたと言うと、皆が安心した様に笑った。

 

ギネヴィア何かは、ニヤニヤとした顔で本当に寝てただけですの?何て言ってきたけど、首をかしげたらちょっと顔を赤くして黙った、何を考えてたんだか。

 

皆でお茶を飲みながら、ママが焼いてくれたスコーンを食べて、弟妹と庭で遊ぶ。

 

私達四人は魔法を使えないけど、ギルバートはもう杖を買ってもらって魔法を使えるから、ギルバートに頼んで皆で弟妹相手に魔法の勉強をしたりした。

 

ギルバートが使えて私達が教えられる魔法の中から、魔法式だったりの理論も話したりして、ギネヴィアとライラの二人が盛り上がって、夜まで皆と庭で魔法の授業をして、何人かはお下がりの杖で浮遊呪文(ウィンガーディアム・レヴィオーサ)を成功させた。

 

今は皆で夕食を食べた後、四人でお風呂に入ってる。

本当は夕食後直ぐに帰る予定だったんだけど、弟妹達がグズってもっと一緒に居たいって言い出して、三人も乗り気になっちゃったのが事の発端。

ギネヴィアがミラベルさんを説得して、困ったママが二人の家に電話を掛けたらオッケーされちゃって今に至る。

 

「いやぁ皆とお泊まり楽しい!」

 

お風呂でばしゃばしゃと水を立ててはしゃいでるエレナを、行儀が悪いと睨んで止める。

 

「ホグワーツでは常に一緒に居たでしょう」

 

「だが、違う環境というのはこうも楽しいとはな」

 

「あら、ライラはこういう事にはあまり興味が無いと思っていましたわ」

 

「私とて、未だ未だ子供なんだ、友人の家ではしゃぐぐらい普通では?」

 

「でも私も、ここのお風呂に四人で入れるとは、思わなかったよ」

 

皆で話してて、やっぱり思う、この孤児院で四人で泊まるのは違和感あるなぁと。

三人は、私の初めての学校の初めての友達だから、やっぱりホグワーツの印象が強いんだろうね、ついつい三人と話してるとホグワーツに居ると勘違いしそうになる。

 

「私も、お父さんがお泊まり許してくれるとは思わなかったよ」

 

「それと言えば、家が近い事が理由の一つでしょうね」

 

ギネヴィアが言った言葉に、エレナは得心が言ったような顔をした。

 

確かに、まさかここまで近いとは思わなかったよ、全員ロンドン在住とか、どんな確率何だか。

 

「全員の家が歩いて来れる距離とは、小学校はよく被らなかったものだ」

 

ここまで近いと一人くらい被りそうなものだがな、何て言うライラに、私はうなずくけど、エレナとギネヴィアがばつが悪そうに笑ってる。

 

「あぁ~、私公立で電車通いだったから」

 

朝辛いんだよね~何て言ってるエレナに、意外と苦労してたんだ、何て思った。

 

「私は私立で、少し遠いので弟と一緒に車を出してもらってましたわ」

 

「私は公立だが、近かったからな……ミリィは?」

 

「私は学校行ってないから、被らないとかじゃないけどね」

 

愛想笑いして誤魔化すと、三人がまた気不味そうな顔をする。

 

「えっと、ほら!ミリィの弟や妹達は皆元気だよね、私驚いちゃった、沢山居るし」

 

いや本当に、何人いたんだろ?何て言って数えてるエレナに、くすりと笑う。因みに弟と五人妹四人で、私の下は九人だ。

 

「そうですわね、昔のアルの事を思い出しました」

 

疲れた様に言うライラに、ギネヴィアもどこか遠くを眺めて言う。

 

「アルって、弟さんだっけ?」

 

「えぇ、アルフォンスと言って、とってもやんちゃだったのですわ」

 

懐かしそうに言うギネヴィアに、何か弟さんにあったんだと思って気不味い思いをしてると、ライラがズバリと切り込む。

 

「だった?」

 

「……三年前に事故で入院して、それ以来塞ぎ込んでますの」

 

静かになった浴室に、エレナが声を上げた。

 

「だったら皆で、今度はギネヴィアの家に遊びに行こうよ!!ギネヴィアもお母さんも美人だから、弟のアルフォンス君もイケメンだろうからさ!!」

 

私楽しみ!!何てはしゃぐエレナに私とライラは呆れるけど、ギネヴィアは笑ってエレナを後ろから抱き締めた。

 

「ふふ、確かに、こんなにキレイなお姉さんが三人も来てくれれば、アルも元気になるかしら」

 

「お、本当に!?なら私、アルフォンス君の彼女に立候h「今、なんと?」ナンデモナイデス、ハイ!!」

 

エレナがおどけて言った言葉にギネヴィアが反応して、浴室の温度が下がる。これ体感じゃなく本当に下がってるね、お湯がぬるくなってるよ。ギネヴィアが冗談にキレて魔法力を暴発させるとか、初めてみた。

 

「アルは私の認めた相手にしか任せません、いくらあなた達と言えどアルの事は別ですわ、私の友人としてなら未だしも、アルに近づこうとするなら…………」

 

不穏な空気を出し始めたギネヴィア、浴室の温度はもう外と変わらない位まで下がって、私達三人は凍えてる。さ、寒すぎる、何とかギネヴィアの機嫌を取らないと凍死しちゃう!?

 

「そ、そこまで弟を想えるのはスゴいな、私は一人っ子だから羨ましいぞ」

 

ライラが無理矢理弟を褒めて話題を変える、するとギネヴィアは気分を良くしたのか、にっこりと笑って弟の自慢を始めた。

 

「ええ!!アルは私には過ぎた自慢の弟で、塞ぎ込む前はスポーツで優秀な成績を出して、学業も同年代ではトップの実力を持ってたの!!それに犬が好きで、愛犬のドクと一緒によくドッグランに行ったり、とても気配りも出来て入学前も~………」

 

そこから怒涛の勢いで始まったギネヴィアの弟自慢に、……あぁ、弟の話題は禁句なんだなと悟る私達、結局解放されたのはそれから一時間後で、私はもうギネヴィアに弟さんの話題を出さないことを強く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました、お風呂どころか泊めて頂くなんて」

 

「元はと言えばうちの子達が言った事だもの、こちらこそ無理に泊まってもらって悪いわ。本当にありがとう。明日のお昼に迎えに来るので良いかしら」

 

「ええ、それでお願いします」

 

ママとミラベルさんが玄関で話してる中、私達は弟妹の部屋から使わないベッドを、ギルバートの物質移動呪文(ロコモーター)で運び出してる。

 

「ギル本当に便利ねぇ」

 

「一家に一人欲しいレベルだな」

 

「人を便利グッズ扱いするのやめて下さい」

 

「でもギルバートイケメンだし、私彼女に立候補しちゃおっかな?」

 

あ、エレナがまた変な事を言ってる。男に興味ないって言ってたのに、最近そういう冗談が多いんだよね。もしかして本当に、ディゴリー先輩に惚れてたとか?

 

「からかわんで下さい」

 

「ありゃ、脈なしとかお姉さんショックだわ」

 

慰めて~って言って突っ込んできたエレナを避けつつ、意外そうな目でギルバートを見る。断るのは予想出来てたけど、まさか白面で即答するとは思わなかったわ。

 

「ん?何だよ」

 

「……別に、ベッドありがとね」

 

何か気恥ずかしくて、髪を弄りつつ答える。うぅ、やっぱりギルバートにお礼を言うの何か照れる。

そう、思ってると、頭をいきなりポンポンと撫でられた。

 

「おう、また何か有ったら呼べな」

 

うにゃ!?

いきなり触るなビックリするじゃない!!

 

「お姉ちゃん何だから頭撫でちゃダメ!!」

 

「何だそれ?じゃあなお休み~」

 

そう言って向かいの部屋に入ってくギルバート。一々仕草にイケメンが見え隠れしてるし、今日といいあいつ本当に大丈夫何だろうか。根っこはヘタレ何だから、刺されなきゃ良いんだけど。

 

「お、お休み~」

 

ギルバートがドアを閉める前に、ちょっとだけ手を振って答える。皆の前だからちょっと恥ずかしいのだ。

 

「ありゃりゃ、こりゃまた私の入る隙無さそう」

 

「相手にされてなかったのに、何を言ってるんですの」

 

「それより誰がどこで寝るか決めなければな」

 

運ばれた二段ベッドを見て言うライラにうなずく。結局使って無かったのは二段ベッド一つで、私ともう一人がベッドで寝ることになるんだよね。

 

「なら、私が一番小さいですし、ミリィと一緒に寝ますわ」

 

「あ、ズルい!!あの大きさなら大丈夫だって、私もミリィと一緒がいい!!」

 

「微妙な大きさではある、寝返りが出来るか怪しいしな」

 

三人で誰が私と寝るか争奪戦をしてたから、今ならママの所にいけそうな気がして、一言言ってから抜けることにした。

 

「あ、ゴメン私ちょっとママの所に行ってくるね。後、大きさの心配はしなくても良いよ、ギルと二人で寝ても平気だったし」

 

何か固まってる三人を置いて、ママの所に向かう。

 

「え?一緒に寝たって………えぇ!?」

 

「私もアルと一緒のベッドで寝た事は無いのに、ミリィが妬ましい」

 

「昔の話だろう………多分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ、来たよ~」

 

ドアを開けて中を覗く。

ママはベッドに横になって、紅茶を飲みながら読書してた。

 

「あらミリィ、早いわね」

 

「皆がどのベッドで寝るか今争奪戦してるから、一時間位なら平気だと思って」

 

ああいう事始めると、最後はギネヴィアとライラの戦いだから、長引くんだよね。どっちも話始めると長いし。

 

「そう、こっちへいらっしゃい」

 

呼ばれてベッドの横にあるイスに座る。

ママがポットからお茶を注いでくれて、私が砂糖を入れて飲むと、ママが話始めるた。

 

「先ずは、あの男の子の事ね、あなたは何処まで男の子に聞いたの?」

 

「名前と、自分の事を吸血鬼って呼んでて、私の事を聖女呼ばわりしてた」

 

「あら、そこまで話したの」

 

驚いた様に言うママに、身体を震わせる。あの話は全部本当だったのね、やっぱりあいつは吸血鬼で、ヤバイ存在だったと。

 

「なら、あの子がここまでこれた理由ね、パパの名前、全部言える?」

 

「勿論、ダニエル・(ラギクリス)・シャドー………え?」

 

何でファミリーネームが一緒なの?偶然?でもそれなら今ママがパパの名前を話す必要は………え?

 

「パパ吸血鬼なのよ、それであの子はパパを頼ってここまで来たわけね」

 

「そんな、でもパパ皆と一緒にご飯食べてたし、血を吸う所何て一度も見て……」

 

「あの人、人から血を吸えないのよ、昔のトラウマがあるみたいでね?だから部屋で隠れて輸血パックから血を摂ってたみたい」

 

嘘、嘘よそんなの、でもそれなら説明つくのよね、でもだからってそんな。

 

パパが吸血鬼だと分かって、裏切られた気持ちでショックで呆然としてた私に、ママが優しく話し掛ける。

 

「あの子ね、一族の掟で家に帰れないらしいの、パパを頼ってきたのもあるし、お母さんも乗り気でね、だからここに住む事になったの」

 

目の前が真っ暗になった気がした。気が遠くなる、私の大好きな優しい孤児院は、吸血鬼の毒牙にかかってしまったのだ。

 

「確りしなさい、そこまでショックを受けるなんてビックリよ」

 

気が付いたら、ママが杖をこっちに向けて驚いた表情をしてた。気を失ってたのね、何か今日は孤児院に帰ってきたのに、疲れることが多過ぎるわ。

 

「だって吸血鬼だよ!?」

 

「吸血鬼だって人と変わらないわよ、ただちょっと人より変わってるだけ」

 

ムッとした顔で言うママに、やるせない気持ちで一杯になる。

 

「もう、そんな顔しないの。お母さんの伝で、ダンブルドア先生にも手紙を出したから、大丈夫よ」

 

「あの子はパパと相部屋で、必ず近くにパパかお母さんが居るようにするって事で決まったから、ミリィが心配する様な事は起きないわよ」

 

私を抱き上げて膝の上に乗せて、言い聞かせる様に言うママの言葉に、少しだけ不安が解ける。

 

「でも、あいつは私の事を」

 

「もうあんな事を起こさない様に、二人は誓ったから大丈夫よ」

 

誓ったの?それって!?

驚いてママを見ると、うなずいくれた。

 

「破れぬ誓い、そこまでするなんて」

 

「対象からの同意を得ずに、人から血を吸う事はしないってね。吸血鬼(あの二人)にとって、安心出来る場所はそれだけの価値のある場所なのよ」

 

破れぬ誓いは、約束をした二人が、約束を破った時に死が訪れる誓約の中で最も重いもの。

 

この誓いは魔法生物にも効果を及ぼすから、あの二人も命を懸けてるんだ、孤児院に居るために。

 

「それなら、良いの」

 

「納得してくれて良かったわ」

 

「皆には言うの?」

 

「私からは言わない、あの二人が話したいと思った時に話してもらうつもりよ」

 

そっか、でも命懸けなら大丈夫だと思うし、ギルバートには言っても大丈夫かな?私が何で怖がってたのか、クローゼットに閉じ込められてただけじゃ、説明つかないし。

 

「ギルには私から言っておくね?」

 

「あら、そう。ミリィは特にギルと仲良しね」

 

まるで、私は知ってるわよ?みたいな顔してるママに、ちょっとイラッとする。

 

「別に、一個下だからなだけだよ」

 

ママが私とギルバートをそういう目で見てたとか、ちょっとショック何だけど。私とギルバートが恋人とか!…ギルバートが、彼氏……か。

 

今よりも少し背が伸びて、声が低く逞しくなったギルバートを想像して見る。

 

『大人しく横になってくれ、ミリィ』

 

………無い無い絶対あり得ないから!!

 

って言うか何でその台詞を今思い出してんのよ私ぃ!!?

 

ブンブンと首を振る私に、ママが残念そうな顔をする。

 

「あら、残念。私は二人が孫を見せてくれるかと期待してたんだけど」

 

「ママ!?」

 

え?そこまで考えてたのこの人!?

恋人とかすっ飛ばして孫!?私達未だ年齢が二桁になったばっかりの子供だよ!!ちょっとおかしいんじゃないこの人!!?

 

「冗談よ。でも、今すぐは無理でも私、あなた達二人なら応援するわよ?」

 

それ、冗談って言わない、さっきの言葉何一つ否定してない。

 

「私、義理もの好きなのよね、ミリィが羨ましいわぁ!」

 

義理の弟とか最高じゃない!何て言って抱き締めてくるママに、幻想とか憧れとか粉砕されて呆然とする。あぁ、私はママが分からなくなったよ。

何でマリアお婆ちゃんはこうなるまで放って置いたのか、助けてパパ。

 

「どうしてこうなったのよ」

 

嬉々として理想のシチュエーションを語るママに抱き締められながら、私は絶対にギルバートには惚れないと固く誓った。




果たして、過去これほどまでに原作一巻の時点でハリー達が置いてけぼりな二次創作があっただろうか。
スネイプ所か、賢者の石すらないって言うね。
出番が無い透明マントとみぞの鏡に合唱

透明マント 「死なば諸とも、お前も一緒だ!!」
みぞの鏡 「私達と一緒に地獄に落としてくれる!!」

ノーバート 「!?」
ネビル 「!?」
ハグリット 「!?」


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ミリア・エインワーズと死にたがり吸血鬼? 裏

今回はガラル視点のお話、ガラル側の事情の説明回なので、ミリア達の話の大筋にはそこまで深く絡まないです正直。
女の子視点の話じゃ無いのかよ!?
と思う人は、重要な話じゃないのでブラウザバック推奨


「ガラル、お母さん知らない?」

 

洗濯物を纏めて運んでいると、孤児院のマザーに話し掛けられた。

 

「さっき、グリンゴッズに行くって煙突飛行粉(フルーパウダー)で出掛けたよ」

 

「そう、洗濯物ありがとうね。ここにはもう馴れたかしら」

 

「これくらい、平気だよ。そうだね、ここは好い人で溢れてる。僕は吸血鬼だけど、ここまで温かく迎えられたのは家族以外で初めてだ」

 

「それは良かった。ここも貴方のもう一つの家よ、遠慮なんてしなくていいからね?」

 

「ありがとう、これから昼食の準備だろう?手伝うよ」

 

マザーの言葉に嬉しくなって、つい手伝いを提案する。オジさんが惚れるだけあって、この人は種族なんて別け隔てなく、どんな相手にも優しい人だ。

 

「あら、うれしいわ。買出しお願い出来るかしら、卵と牛乳が少なくなってきたから」

 

「任せてくれ、日光と流水は克服してるから!」

 

すらすらと持ってたメモ帳にペンで必要なものを書いて、財布と一緒に渡してくれるマザーに、力こぶを見せてへっちゃらだと言うと、洗濯物を急いで干して買い物に向かう。

 

ここは本当に良い孤児院だ。だからオジさんも、トラウマがあるのにここに留まってるんだろう。

最初の出会いを思い出して、オジさんの精神的な強さに感服する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ガラル!?」

 

その言葉に、ハッとして起き上がる。病院からここまで姿表しで飛んできたのは良いんだけど、太陽に当てられて目眩で倒れて、そのまま栄養失調で倒れたんだ。

 

「あぁ、ダニエルオジさんかい?成功したみたいだ」

 

「どうしたんだいきなり、エドワード達に何かあったのか?」

 

心配そうに僕の服に清潔の魔法を掛けて、汚れを落としてくれるオジさんに、俺は手に入れた輸血パックを転んだ拍子に潰してた事にショックを受ける。

 

「マジかぁ、もう二ヶ月も血を吸ってなかったのに」

 

その言葉にギョッと目を見開いたオジさんに、苦笑いして訳を説明する。

 

「いや、僕って今年で十五歳だろ?だから掟で嫁探しに追い出されたんだよ。でも外は吸血鬼何て受け入れてくれる所も無いし、僕は小柄だから子供扱いで働けないんだ。だから病院に忍び込んで輸血パックとかを失敬してたんだけど、それも最近対策されちゃって、やっとの思いで盗んだこれが二ヶ月振りだったって訳」

 

破れた輸血パックを振りながら言うと、オジさんも得心が言ったような顔をする。

 

「それで、一人じゃ限界だから外に住んでる俺の所まで来たのか。何て言う無茶を」

 

「海渡るの大変だったよ、ルーマニアからイギリスのロンドンって、案外遠いね」

 

「本当によく来れた、フランスやドイツは吸血鬼狩りが多いだろうに」

 

「流水は克服したから、リトアニアからバルト海を渡ってノルウェーから北海渡って上陸したんだ」

 

何度も死にかけたと言うと、当たり前だ命知らずめと頭を叩かれた。

 

「それにしてもよく来た、ロンドンは吸血鬼狩りは多くない。ここなら匿ってやれる」

 

そう言って抱き締めてくれるオジさんに安心して、俺は意識を手放した。このままじゃ、僕本当に餓死するからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きたかい?」

 

注ぎに目を覚ました時、目の前に優しそうなお婆さんがいて、人間と分かって吸血衝動が訪れるのを、無理矢理堪える。

 

「すまないがうちが確保してるのは、ダニエルが命を繋ぐ最低限だけなんだ、これから伝を頼って確保するから、血液アレルギーはないかい?」

 

乾きを誤魔化すように喉をかきむしり、吸血衝動を抑えながらうなずく。

そんな、未だ足りないんだ、早く血をくれ、あぁ、この際何でもいい、誰でも良いから血をくれ。

 

目の前の老婆から血を吸えと叫び出している本能を抑え付ける。多分ダニエルオジさんの協力者何だろう、そんな人を襲えば今度こそ僕はお仕舞いだ、一族の掟の為にも、妹の病気の為にも、僕は未だ死ねない。

 

「分かった、直ぐに確保するよ。ダニエルを呼んでこよう、私が近くに居ると辛いだろうからね」

 

そう言って出ていったお婆さんに、感謝する。いつまでも本能を抑え付ける事は、自分には出来ないからだ。

 

「ガラル、起きたのか、取り合えずこれを飲め、少しは落ち着く筈だ」

 

差し出されたカップを受け取って飲む。

ホットワインみたいだ、ゆっくりと飲んでいくと、少しずつ吸血衝動が抑えられて行くのが分かった。

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「飢餓による吸血衝動は強烈だからな、仕方無いさ。それで、一族の掟の他にもあるんだろ?ここに来た理由が、お前なら魔眼があるんだ、やろうと思えば大陸でもやっていけただろう」

 

「妹が、シンディが病でね、僕はシンディの治療のために、聖女の血液を探しにここまで来たんだ」

 

「おいおい、聖女は穏やかじゃないな。そこまで重い病気なのか?」

 

聖女とは、僕達吸血鬼にとって万能薬となる、十万人に一人の血液を持つ女性の事。

逆に男は十万人に一人の割合で、吸血されても吸血鬼にならず、吸血鬼を殺せる特効成分が含まれた血液を持つ存在が生まれる、彼らの事を吸血鬼は魔王と呼ぶ。

 

聖女は吸血鬼の魔法に抵抗する力もあり、とても貴重な存在だ。

逆に魔王は判別方法が無く、偶々吸血した男が魔王で、それによって死んでしまった吸血鬼も多いため、男に吸血するのは吸血鬼の中では自殺行為に近い。

 

「牙の病気でね、血液からうまく栄養を摂れて無いみたいだ、定期的に聖女の血液を飲んで、魔力循環と牙や他の器官の治療をする必要がある」

 

「それで、ここに来たわけか」

 

「オジさんは、前に聖女と知り合ったと言っていたろ?」

 

「あぁ、俺が今いる孤児院の子供の一人、俺の娘だ」

 

「なら、その子に頼んで血を別けて欲しいんだ!血液保存の器なら作れる、だからこのコップ一杯で良い、血を別けてくれ!!」

 

やっとの思いで得られた希望に、オジさんに掴みかかって懇願する。

 

「未だ娘は十一になったばかりだぞ、そんなに血を抜いたら輸血をしなければならない」

 

「でも、輸血だけだろう!?」

 

シンディは命が懸かっているんだ、輸血位何だと言うのだろう。

 

「あの娘がここに来た時、全身が傷だらけでね、病院に治療と共に感染症の検査と血液検査をしてもらったんだ」

 

「それが何だって「あの娘はAB型の-D-(バーディーバー)イギリスに血液ドナーは一人もいない」そんな………じ、じゃあ、シンディはどうするんだよ、助からないのか!?」

 

その言葉に目の前が真っ暗になる。じゃあ、シンディは助からないのか、ここまで来たのに?今も家で点滴して、苦しそうにしてるシンディを助けられないのか?

 

「落ち着け、方法はある」

 

倒れ込みそうになる俺をオジさんが支えてくれる。

 

「……方法って?」

 

「ダンブルドア先生に話す、あの人とニコラス・フラメルなら、聖女の血液の培養位出来るだろう」

 

なら、助かるのか!?

ダンブルドアの名前はこっちにも届いている。人として最も魔法を巧く操る、最高峰の魔法つかい。長老達が言ってた、ダンブルドアには歯向かうなと、彼は魔法だけでなく口も上手い、気付いたら教会で神父に囲まれる事になるぞと。

 

「急ぎ手紙を書く、彼なら話を聞いてくれる筈だ」

 

そう言って俺の頭を撫でて部屋を出るオジさんに、お礼を言う、オジさんには感謝しかない、何度もお礼を言ううちに、自分に対する情けなさが胸を襲う。

 

「ありがとう、ありがとうッッッ……ジンディ、だずあうぞ、よがっだ、よがっだぁ」

 

彼が助けてくれるなら、それはきっとシンディは助かるのだろうと安心して、今までの緊張が途切れたのか、涙が止まらなくて、鼻をすすって目を擦る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガラル、メリッサ、子供達をお風呂に入れてやってくれ」

 

昼食も終わり、皆が思い思いに遊んで夕方、疲れて船を漕いでる子供達を、未だ夕食も食べてないだろと起こしていると、オジさんに弟達を風呂に入れる様に言われる。メリッサは、子供達の中でミリアの次に大きな女の子で、今年で九歳になる。

 

無口な女の子で、今も無言でうなずくと、女の子を集め始めた。

 

「分かったよオジさん。じゃあマックス、弟達を脱衣所に集めて服を脱がしてくれ、僕は着替えを用意しよう」

 

「分かったガラル兄ちゃん!」

 

元気一杯に駆け出すマックスに、あの歳の子供は疲れ知らずなんだなと驚く。

 

弟になる子供達の着替えを準備しながら、あの後の事を思い出して苦笑い。

あの後、疲れはてて寝ちゃったんだよな、寝起きに隣の部屋から強烈な()()()()()香りがしてつい魔眼の魔力を押さえきれなくなって、聖女のあの娘には迷惑を掛けたと思う。あの時は何でミリアが部屋に来たのか分からなかったけど、僕の魔眼の範囲に入ってたなら納得だ。レジストしてても、本人に自覚が無ければ思考誘導位は出来るからね、僕の魔眼。

 

まぁ、我慢出来なかったお陰で、僕は魔法で吸血衝動を抑え込まれて、破れぬ誓いで同意無しの吸血を禁じられたんだけども。

 

飢えを感じないってのは良いんだけど、これ気を付けないと自分がどれだけ飢えてるのか分からないから、いつの間にか餓死してた何て言う事も有り得るからね。オジさんには再三忠告されて、一月に一度輸血パックからの吸血をする事になった。

 

ダンブルドア先生もスゴい人だ、いつの間にかふらっと来たと思ったら、不死鳥の涙を一瓶くれた時は、言葉も出なかった。その時の事を思い出して、あれは長い吸血鬼の人生の中でも、特大のドッキリ立ったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がガラル君じゃな?」

 

「は、はい……貴方は?」

 

ここに来て少し、ミリアが昨日ホグワーツに帰って、自室で少し寂しくなったと思っていたら、マザーに呼ばれてはなれの応接室に行くと、ものすごい魔力を持った、髪も髭も長い背の高いご老人がいた。明らかにただ者ではないご老人は、キャラメルを食べながら僕に聞いてきた。威厳が台無しだ。

 

「ダンブルドア、アルバス・ダンブルドアじゃよ。君の妹さんの事を手紙で読んでな、話を聞きに来たんじゃよ」

 

「妹を、シンディを助けてください!お願いします!!」

 

その場で膝を折って頼む僕に、ダンブルドアは杖を振って、僕を椅子に座らせた。

 

「ワシは話を聞きに来たんじゃ、力になれるかはそれからじゃの、妹さんの症状を教えておくれ」

 

「は、はい、妹は吸血するための牙か~………」

 

症状を説明すると、ダンブルドアは少し考え込んだ後、あの病気じゃろうと言って、スーパーによくある小さなジャム瓶を二つ取り出して、机の上に置いた。

 

「これは?」

 

「ワシがニコラスから譲り受けた『命の水』じゃ。それと、ペットの不死鳥のフォークスにお願いして溜めた涙じゃよ、癒しの効果があるでの」

 

!?

これがあの!

驚いて瓶とダンブルドアを交互に見ると、ダンブルドアが苦笑して説明してくれる。

 

「命の水を毎日匙一つ飲んで、これを牙に塗りなさい、一週間もすれば治るでな」

 

「あ、ありがとうごさいま「まぁまて」なんですか?」

 

瓶を取ろうとすると、ダンブルドアが止めてくる。説明したってことは、これをくれるって事じゃないのか?

 

「ワシがこれを譲る代わりにお主は何をくれる?」

 

あぁ、対価を求めてるのか、でも僕に支払える物と言ってもな、殆んど着の身着の侭で飛び出した訳で、持ってるのは服と父さんが持たせてくれた小鬼(ゴブリン)銀のナイフだけ、これを対価にすれば良いだろうか。父さんのコレクションなんだけど、シンディの為なら父さんも納得するだろう。あの人は親バカだから。

 

「小鬼の銀のナイフがあります、それと交換ではダメでしょうか?」

 

「なんと、それが本当なら喜んで譲ろう」

 

ダンブルドアが快諾してくれたから、一言言って自室からナイフを持って戻ると、ダンブルドアに確かめるように見せる。

 

「ふむ、確かに小鬼の銀じゃな。約束通り、命の水とフォークスの涙を譲ろう」

 

「ありがとうございます、これでシンディは助かる」

 

早速届ける準備をしなければ、オジさんに一言言って二人で姿表しを連続で使えば、何とかなるだろう。それでも片道二日は掛かるだろうけど。

 

「いやいや、こちらが多く貰いすぎじゃ、命の水は賢者の石さえあればいくらでも手に入る、フォークスの涙もそうじゃ。じょからこれは、ワシが死ぬまで預かる事にしよう、返す時はこの孤児院に送るでな」

 

そこまでして頂けるなんて、本当に感謝しかない。

 

「そこまでして頂けるなんて、吸血鬼であるこの身には有り余る幸運です。僕は貴方に忠誠を誓う、貴方が死ぬその時まで、貴方が死した後も貴方の後継の為に、私はこの牙を使うと誓います」

 

人の寿命、それも老齢であるダンブルドアの死後に返ってくるなんて、吸血鬼からすればほぼ無償に近い。それでシンディを助けてくれるのならば、僕はダンブルドアに忠誠を誓おう。ダンブルドアとその後継が死ぬまで、長くとも三百年程か、僕の三百年よりも、シンディの命の方が何百倍も重いのだ、これくらいなら対して対価の天秤も動かないだろう。

 

「ホッホッホ、それは心強いのう、ならば少し頼みがあるんじゃが、よいか?ガラルよ」

 

「何なりと、貴方への忠誠を示す、最初の機会です」

 

「なら、この孤児院とギネヴィア・テイラーを守ってやってくれんか、彼女の友人のミリア・エインワーズもの」

 

ギネヴィアと言うのは、ミリアと同じ低身長の少女の事かな?

 

「お任せください、悪意には彼女達は指一本触れさせません」

 

さしあたってはホグワーツに戻った彼女達に、御守りの様な物を送ろう。魔法的な要素のある御守りが良い、何か魔法を組み込もうか、守るなら盾呪文(プロテゴ)だろうか、マザーに相談しよう。

 

「ではの、また手紙を出す」

 

僕が頭を下げると、ダンブルドアは姿表しで居なくなった。

ダンブルドア……呼び捨ては主に相応しくないな、様付け、主、主君、どれもダンブルドアは嫌がりそうだ。

そういえばミリア達は先生と呼んでたな

 

「ダンブルドア先生、うん」

 

口に出すといい感じだ、これからはダンブルドア先生と呼ぼう。

 

 




ダイジェスト風に纏めたから、途中ちょっと読みにくいですかね?

ギネヴィアはダンブルドア相手にやらかしたから、目を付けられた模様、多分子供達の中でハリーの次位には期待してる。


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三人組と賢者の石

今回からやっと、原作に入っていきます。



「ありがとうね、ユディ」

 

クリスマス休みが明けてから暫く、やっと馴れてきたガラルからの手紙と小包みを、ペットのアメリカワシミミズクのユディから受け取った。

 

赤と青のカラフルな封を切って中身の便箋を取り出す。

 

ミリアへ

元気にしてますか?

僕は今日、ギルバートと一緒に孤児院に来て初めての買い出しに行きました。

魔法つかいも普通のスーパーに買い物に行くのですね、何だか新鮮な気分を楽しみました。

ミリアは何か、最近新鮮な気分を味わった事がありますか?

あれは中々に爽快な気分で、旅行が好きな人の気持ちがよく分かります。

 

ガラルより

 

P.S.仲直りの印が未だでしたね、ご友人の分も御揃いで用意してみました。使い方は同封してある方に書いてあります。

 

「仲直りの印ねぇ、何入ってるんだろ」

 

小包みを軽く振ると、中からカラカラと軽い音がなる。

 

しばらく音について考えるが、結局音だけじゃ中身が分からなくて、アクセサリーの類いだろうと思って手紙の二枚目を見る。

 

移動キー(ポートキー)?」

 

中に入ってるブレスレットには、通常の時間指定の代わりにキーワード指定の移動キーが施されているみたい。移動先は孤児院の庭。手紙には、普通は言わないようなキーワードが書かれている。

 

これは後で皆に注意しながら渡さないとね、特にキーワードを間違って持ったまま言ったら、ホグワーツから孤児院まで一直線、新年早々にハッフルパフから大幅減点者が出ることになる。

 

「ミリィひま~、何かして遊ぼうよ!」

 

「私、今から手紙書くの」

 

エレナが課題のレポートを一人で終わらせるのを諦めたのか、私の背中に寄りかかってきたから、手紙を書くことを言って背中から引き離す。

 

「うぅん……新鮮な気分ねぇ、ここ一番はガラルだけど」

 

ガラルの手紙を呼んでから、返事を考える。

ガラルは三日に1度は手紙を送ってくる。最初の頃、あまりの恐怖で目眩がしたのはもう懐かしい、今では立派な文通友達だ。

 

「よし、出来た、明日ユディに渡さなきゃね」

 

書きあがった手紙に封をして、机の引き出しにしまう。

 

「あ、ミリィもう手紙書き終わったの?ならチェスしようよ!」

 

ベッドで本を読んでたエレナが、私が手紙を書き終わったのを見計らって声を掛けてきた。最初の頃は手紙を書いてる時も声を掛けてきたんだけど、あまりにもうるさくてしつこいから、一度怒って一日口を利かなかったら、反省したのかその日の夜にはしおらしい感じで謝ってきたの。反動で夜スゴい甘えてきて困ったけどね。

 

「トランプならやるわ」

 

「じゃあスピードね!」

 

赤と黒にカードを別け始めたエレナに、本当に遊ぶのが好きねと笑うと、用意された黒のカードを纏めて、スピードを始める。

 

「私が……負けた?」

 

「joker入りなら私は負けないわよ、妹達とどれだけやってると思うの?」

 

かれこれ一時間もスピードをやらされて、ちょっと疲れてると、ギネヴィアが不機嫌そうな顔をしてベッドに飛び込んだ。ペットの猫のスキャットが、不機嫌そうにベッドから飛び出す。

 

「全く、なぜダンブルドア先生はポッター達を止めないのですか、英雄とは言われててもまだ子供ですのよ!?」

 

いきなり叫び始めたギネヴィアに、私とエレナは目を丸くして、お互いの顔を見る。いつも礼儀作法には人一倍気を使ってるギネヴィアが、ベッドに飛び込んで叫び出すとか、始めて見たんだけど。

 

「何かあったの?」

 

「あ、これははしたない所を………何かあったというか、これから起こると言いますか」

 

恥ずかしそうに居住まいを正すと、ばつの悪そうに視線をそらした。

今ここに居るのは私達三人で、ライラは今フクロウ小屋に行ってるから、夕食までは戻らない。

 

「これからって何が起こるのさ」

 

「ポッター達が図書館でニコラス・フラメルについて調べて居ました」

 

ニコラス・フラメル?

 

「誰だっけ?」

 

エレナも分からなかったのか、首をかしげていると、ギネヴィアが解説してくれた。

 

「存命の錬金術士の中で最も偉大な人です。錬金術の到達点である『賢者の石』の作製に成功したお方で、賢者の石によって精製される『命の水』により、現在六百五十歳を越える年齢だそうです。マグルでも、賢者の石は聞いたことがある人もいますし、それだけ有名で影響力のある人です」

 

ろ、六百五十歳以上、生き物としてのスケールが違うよもうそれ、自己紹介の時に、六世紀半と何年生きてますとか言われてもポカーンだよ、何言ってんのこの人って感じだよ。

スゴいな賢者の石、不死になれる錬金術の到達点、どれだけの時間と才能があれば届くんだろう。そこまでスゴい物を造れるなら、およそ殆んどの物を錬金術で作れるんだろうな、錬金術万能過ぎる。

 

(アメリカ)より歳上の個人かぁ、スケールが個人のものじゃないよね」

 

「ソロモン王で有名なエルサレム王国や、カエサルで有名な共和制ローマよりも長生きしてますからね、それこそ六世紀以上続いた国の方が、歴史上少ないですから。かろうじてオスマン帝国が六百二十年程続いてますけど、ニコラス・フラメルは六百五十歳越えてますし」

 

それこそローマ帝国とか日本位じゃないですかね、七世紀越えは?何て言うギネヴィアの言葉に、もうそれ人類じゃなくて別の種族では?何て思ってしまった。

 

「日本ってそんなに昔からあるんだ」

 

「現存する国で世界最古と言っても過言ではありませんから、確か成立が紀元前六百年と少し、国として成立してから優に二千六百年ほどですかね。諸説ありですが」

 

まさかの桁違い、日本って本当にクレイジーね。

NINNJAといい、技術といい、どこかしらぶっ飛んで無いと、気がすまないお国柄なのかしら?

 

「ふぇぇ、何か歴史の勉強してるみたい」

 

エレナがノートにメモを取ってる、ベッドの上だけどやってる事はまんま授業と同じね。

 

「っていうか何で二人とも、そんな歴史に詳しいのよ」

 

エレナ何かも、さらっと言ってたけどアメリカがいつで来たのか知ってるみたいだし、二人とも本当に十一歳?

 

「古本を読んでいたら自然と、ガリア戦記は良いものですわ」

 

「私は、お母さんの親戚が米人だから、たまたま知ってただけだよ」

 

ギネヴィアの本の虫さが際立つ返答に、ますます年齢詐欺疑惑が出てくる。ガリア戦記、前にパパが買ってきたのを少し読んで私、心が折れたわよ。

 

「私、ギネヴィアが同年代なのが本当に不思議」

 

「あぁ、確かに、中身が三十代って言われても違和感無いよ」

 

「失礼な。話を戻しますけど、入学して直ぐ、グリンゴッツ魔法銀行に泥棒が入ったのは覚えています?」

 

あぁ、何か聞いたことある。私がうなずくのと同じくして、エレナが口を開く。

 

「覚えてるよ、盗みに入った金庫が空だったってやつでしょ」

 

「えぇ、つまりは盗まれる前に誰かが持ち出したんですの」

 

「え……あっ、そっか!」

 

「どゆこと?」

 

したり顔でうなずくエレナに、私は分からなくて声を上げる。

 

「グリンゴッツ魔法銀行は、イギリス魔法界で最も安全な場所と言われています。そしてその名に恥じず警備は厳重です。そこに盗みに入るのですから、犯人にはただの金銭目的ではなく、明確な目的があったのですよ」

 

「つまり、その目的が分かっていた誰かが、別の場所に持ち出した?」

 

「グリンゴッツ魔法銀行に忍び込む何て事が出来る相手を手玉に取れるのは、十中八九ダンブルドア先生でしょう。ポッター達に、何でニコラス・フラメルを探しているのかを聞いてきました。何でも立入禁止の部屋に隠された物の手懸かりだそうですよ?」

 

つまり、ダンブルドア先生はグリンゴッツ魔法銀行から、何かをホグワーツに持ってきて立入禁止の部屋に隠した?

 

「そして、彼らがニコラス・フラメルを手懸かりにしている……エレナ、蛙チョコのカードを集めていましたわね、ダンブルドアのカードの裏を見てください」

 

「ふぇ、ちょっと待ってて」

 

ベッド脇の机の引き出しから、カードの束を取り出してダンブルドアのカードを探し始めたエレナ、二枚あったのか一枚を渡してくれて、二人で裏側を確認する。

 

「ニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究、二人は知り合い!?」

 

「それでは最後に、ニコラス・フラメルが持っていて、グリンゴッツ魔法銀行に忍び込むだけの価値があり、ダンブルドア先生が守りたいと考える程の価値の有るものとは、何でしょう?」

 

そこまで言われて、私でも想像できた。

あるんだ、立入禁止の部屋に……賢者の石が!

 

「これ、ポッター達は何でこの事を調べてるんだろう」

 

「先生の中に裏切り者が居るらしいと、三人は言っていましたね」

 

学校の中に隠すんだから、先生には話は通すか。生徒やその親にも話すのが普通なんだけどね、この学校はそこら辺杜撰だ。

 

「誰だろう、皆好い人なのに」

 

「あの三人はスネイプ先生だと言っていましたけど」

 

「んな訳無いじゃん!」「そうだよ、あの人スゴい生徒思いだよ、ポッターは別だけど!!」

 

二人して反論する。スネイプ先生は確かに皮肉屋で、素直な性格じゃ無くて、批判が大好きな人だけど。授業は分かりやすくて知識は豊富で、授業外でも質問すれば分かるまで付き合ってくれる先生なんだから!

 

後、以外と茶目っ気のあるロマンチストで、お料理が好きだったりする。、ライラが最近お菓子以外も作り始めてるのは、スネイプ先生のレシピを試したいかららしい。

 

「ええ、私もそう思います。スネイプ先生には賢者の石を手に入れる動機が無い、だから犯人は別に居るのです」

 

「別の犯人、フィルチとか?」

 

「それだったら、グリンゴッツ魔法銀行に忍び込める理由にならないよ」

 

彼はスクイブだから、魔法が使えないし、ここに住んでるからマグル用品を使うことも難しいはず。ホグワーツはマグル用品を使うことが、基本的に出来ないようになったるからね。メガネとか腕時計とか、申請すれば許可が下りる物もあるけど。

 

「あ、そっか……うぅん、先生達は私達と同じかそれよりも早く集まってるんだよね、新学期って」

 

エレナが言った候補を否定すると、考える様にエレナが唸る。

 

「うん、そうだよ。先生達はここに住んでるから、集まるも何も無いけど………そういえば、マグル生まれの人を対象に、この学校の先生方は説明に回っていたんだよね、その時期。私としてはグリンゴッツ魔法銀行に盗みに入る何て、時間が無かったと思うけど」

 

マグル生まれの子供が多くて、先生達が前日まで買い出しの手伝いなどで慌ただしくしてたと、スプラウト先生が言ってた事を思い出した。

 

「あ、それだよミリィ!!」

 

「それって?」

 

「この学校に去年から居る先生は忙しいなら、今年入った先生はそうじゃない!!」

 

今年……あ!

 

「「クィリナス・クィレル先生!!」」

 

「正解ですわ、先生方も薄々勘づいて居ると思います。何せ賢者の石ですからね、グリンゴッツ魔法銀行よりも厳重な警備となると、それこそホグワーツの先生方がトラップを仕掛ける位で丁度良いと思います」

 

確かに、そうなるとクィレル先生は他の先生達のトラップを破る方法を探してるのかな?

………そういえば。

 

「ね、ねぇギネヴィア、クィレル先生って」

 

「えぇ、ダンブルドア先生の所に話に行きましょうか」

 

「私も行く!」

 

「それだと、ライラが帰ってきた時誰も居ないでしょう?」

 

「それなら書き置きすれ「何て書くつもりですの?」……あ」

 

これ下手に本当の事を書いたら、ライラ以外の誰かに見られた時大変じゃ?

 

「かといって友達に嘘吐くのも………夕飯の後に行く?明日休みだし」

 

「えぇ、この前暗号は聞きましたし、それで良いでしょう」

 

「ねぇねぇ、校長室ってどんなとこ?」

 

それからはライラが来るまで、エレナの質問に答えながら時間を潰した。



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賢者の石とクィディッチ

ども、原作はもう後半戦に入った辺り、これからクライマックスに向けての準備期間ですね。
ただ、後半はハッフルパフ故に関われる所が少なくて悲しい(前半も似たような感じで、オリ展開でお茶を濁したとは言えない)。


ライラが帰ってきて事情を話した後、皆で広間で夕食を食べて、ダンブルドア先生を、この後校長室に行く事の許可を貰うために、待つ事にしたんだけど。

 

「まさか、逃げられるとはね」

 

いつまでも大広間に来ないから不思議に思って、エレナがマクゴナガル先生に話を聞きに言ったら、大事な備品の移動があるために、今日は城に居ないと言われて、四人で部屋まで戻って頭を抱えてる。

 

「……備品の移動なんて、校長先生がやることじゃ無いじゃん」

 

エレナがいじけて枕をポフポフと叩いてると、ライラがギネヴィアに質問をする。

 

「さてこれからどうする?三人はもう何が隠されているか知っているんだろう?」

 

「えぇ、ですが彼等は泥棒するのはスネイプ先生だと、決め付けていますからね。何をするにしてもあの三人をどうにかするなら、先ずは説得でしょう」

 

ポッターは頑なになってそうだなぁ、あの三人が調べ物の後何をするか分からないけど、もしするなら説得は大変そうね。

 

「取り合えず明日の朝に確認をしましょうか」

 

手を叩いた後にそう言ったギネヴィアは、パジャマに着替えるとそのまま布団に潜り込んだ。モコモコの温かいパジャマで、寒い季節にはピッタリなウサギ耳の付いたフードがあるピンク色のやつ。

 

「それ温かそう、良いなぁ」

 

「ホグワーツには暖房は有りませんからねぇ、これなら毛布一枚でも温かいですの」

 

「私は寒さ対策に寝袋持ってきたよ!」

 

これ温かいんだ!と自信満々にベッドに広げるエレナに、苦笑いする。

 

「そんな事しなくても、毛布を被れば良いだろうに」

 

「酸欠で危険ですわよ」

 

不思議そうに言うライラに、ギネヴィアが呆れる。

 

「私、普通の長袖しか無いんだよね、寒い」

 

年が明けたとはいえ、未だ一月で寒さが厳しい季節。電気の使えないなホグワーツでは、空調(エアコン)何てマグルの発明品が使える訳も無く、寒さや暑さは個人で対処するしか無いんだよね。ベッドウォーマーも有るけど、毛布じゃあんまり意味は無いのよ。

 

「なら、私と一緒に寝ます?たまにエレ「わぁー!!」の事「わぁー!!」けど」

 

エレナが声を被せてきて、何言ってるのか分からなかったけど、取り合えずエレナがギネヴィアに何か私達に知られたくない事をしたことは分かったよ。

 

大方寝惚けてギネヴィアのベッドに入ったとか、ギネヴィアの事をママとか言ったとか、そんなオチでしょ。

 

「嬉しいんだけど、私寝相悪いから」

 

まだ一人部屋じゃ無かった頃は、ベッドから落ちる常連で、二段ベッドだと絶対下にさせられてたからね。一人部屋になって暫くしたら落ち着いたけど、今でも眠りが深いと、朝起きた時信じられない所に居たりするから。

 

「なら、湯タンポでも作りましょうか、お父様が買ってくれたものがあるのです」

 

ギネヴィアが、湯タンポと猫のぬいぐるみみたいなカバーをトランクから取り出してくれる。

 

「ありがとうギネヴィア!」

 

受け取った湯タンポを使ってその日は久々に寒さを感じなくてすんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、大広間の前に集まってポッター達を見付けると、話がしたいからと言って、朝食を一緒に食べることにした。

 

「それで、皆何を聞きたいんだい?次のグリフィンドールの試合のフォーメーションとか?」

 

トーストにジャムを塗りながら聞いてくるウィーズリーに、ギネヴィアが言う。

 

「先日言った事です、あの部屋に隠された物について調べて、どうするつもりで?」

 

「貴女達は気にならないの?私は気になるわ。それに先生方が知らないなら、知らせてあげなきゃ」

 

グレンジャーが、コーンスープに食パンを浸けて言う。ポッターは気不味そうにウインナーをかじってる。

 

「先生方は知っていますよ。誰が泥棒するのかもね、ダンブルドア先生が対策をしています」

 

「具体的には?」

 

「言うなと言われているので………ただこれだけは、スネイプ先生はポッターの敵ではないですわ」

 

「嘘だ!!」

 

グレンジャーにされた疑問にギネヴィアが答えた時、黙ってたポッターが机を叩いて立ち上がると、ギネヴィアを睨む。

 

「嘘じゃないよ、スネイプ先生は好き嫌いで仕事を選ぶ人じゃ無いもん、それに今回はアリバイがあるんだから」

 

「聞いたかいハーマイオニー、これから起こる事にアリバイが有るらしいぞ?まるで未来でも知ってるみたいだな」

 

我関せずなギネヴィアの代わりに私がポッターを睨み返して言うと、ウィーズリーが私をバカにしてきた。

 

これからって、アリバイって言うのはグリンゴッツ魔法銀行の事で、それにポッターが狙われてるのに、何で私達の話を信じないのよ!!

 

「アリバイというのは、今回とは別件の事だ。と言っても関連性が強く、動機に直結するような別件だが」

 

ライラが私の言葉を補足すると、グレンジャーが目の色を変えた。彼女は気付いたらしい、話を聞く気になったみたいだ。

 

「とにかく、スネイプは僕の事を嫌ってる、クディッチの時だってあいつが「それは違う!!」っ、……僕、先に行くよ」

 

ポッターが苦々しい表情でライラにスネイプ先生の事を言うと、ライラが我慢出来なくなったのか怒鳴る。

ライラの言葉を聞きたく無いとでも言うように、ポッターは飲んでたカフェオレを飲み干すと、大広間を走って出ていった。

 

「僕もハリーと同意見だ、スネイプよりもやりそうな奴が居ないだろ?」

 

ウィーズリーもそう言って、トーストの残りをくわえて大広間を出ていった。ライラが顔を真っ赤にしてる、仲の良い先生をバカにされたら、そりゃ怒るわよね。

 

「貴女もそうかしら、グレンジャー」

 

「いいえ。少し気になったのだけれど、別件ってグリンゴッツ魔法銀行の事?それともクディッチの事?」

 

「どちらもだ、グリンゴッツ魔法銀行の侵入があった日、スネイプ先生はアリバイがある。あの日はホグワーツの先生方は皆、マグル生まれの子供の教材の手配で忙しかった」

 

ライラがそう言うと、グレンジャーも思い当たる伏が有るのか、納得した顔で話を続けた。

 

「そう、クディッチは?そう言えばあの日、ハッフルパフに大幅な加点があったわよね、それも関係するの?」

 

「それについては、ダンブルドア先生から口止めされているので」

 

「仕方無いわね、まぁ情報は感謝するわ。代わりに今度、面白かった本を教えてあげる」

 

グレンジャーはそう言って大広間を出ていった。

 

男二人は聞く耳持たなかったけど、グレンジャーが少しでも興味を持ってくれたなら、あの二人を止めてくれるかも。

 

侵入禁止の部屋に忍び込む何て事はしないだろうし、スネイプ先生への誤解が解ければ解決かな。

 

「そういえば、エレナずっと黙って……どうしたのッッ!?」

 

不機嫌そうな表情で、ウインナーとベーコンを暴食してたエレナに驚く。

 

「ウィーズリーめ、今度のチェスの時にギタギタにしてやるんだから。ポッターも覚えてなさいよ」

 

負のオーラをまとって、勢いよく肉を口一杯に頬張るエレナに、思わず座っていた距離を開ける。

怖っ……もしかして私達がバカにされたから怒ってるの?

 

「落ち着きなさい、エレナ。私は気にしていません」「私も、大丈夫だから気にしないで」

 

「私が気にするの!こっちは良かれと思って言ってるのに、何であの二人はあんな態度な訳!?」

 

信じらんない!!と言って勢いよくホットドッグをかじるエレナ。気持ちは分かるわ、確かにあの二人の態度にはムカついたけど、でもエレナが怒ることじゃ無いよ。

 

後周りの男子が萎縮してるから、せめてその負のオーラは仕舞って。エレナがウインナーやホットドッグをかじる度に、男が内股になってるから、可哀想だから止めたげて。

 

「落ち着いてよエレナ、私達の為に怒ってくれただけで嬉しいから、あの二人に喧嘩吹っ掛けちゃダメだよ?」

 

牛乳瓶を渡しながら言うと、エレナは少し落ち着いたみたい。

 

「今回だけだからね」

 

牛乳を一気に飲み干して口の周りに白い髭をつけたエレナが、神妙な顔をしてそんな事を言うから、三人して思わず笑っちゃった。

 

「何で笑うのさ!私は皆の為に~……」

 

髭をつけたまま怒るエレナに、持ってたハンカチで口を拭いてあげながら、さっきまでの嫌な気持ちが無くなって、温かい気持ちになってる事に、エレナが友達で良かったと思った。

 

「エレナのおかげで、私は怒る必要有りませんわね」

 

「そんな事私に任されたら、ストレスで白髪になっちゃうよ」

 

ごめんなさいねってギネヴィアが言って、空気が変わっていつもの朝の雰囲気になったのもあって、四人でのんびりと朝食を食べてから、朝一の魔法史の授業に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの朝食から暫く。あれ以降、ポッターとウィーズリーとは折り合いが悪くなって、グレンジャーとも疎遠になった。

 

私達は、一度は忠告したとして、あの三人に深く関わることは止めた。三人の説得じゃなくて、ダンブルドア先生に何とかしてもらおうというのを、四人で話した。

口止めされてる部分は私とギネヴィアで話したけど、ダンブルドア先生は、ポッター達をわざと誘導してる可能性があるって、ギネヴィアが言うから、それも聞く予定だ。

 

「絶対に勝ってセドリック!!」

 

「打倒ポッターだ、皆気合い十分だな」

 

朝ドタバタとして、試合開始時間ギリギリに到着した私達、早速とばかりにポッターに敵意剥き出しの二人に、ギネヴィアがさっきまでの事を思い出したのか、ハッフルパフの旗を小さく降りながら、ニヤニヤとこっちを見た。

 

「試合に勝ったらライラとミリアが手作りのクッキーを焼く約束ですものね、やる気も出るものですわ」

 

ギネヴィアの言葉に、昨日の事を思い出して頭を抱えたくなる。

 

「どうしてこんな事に」

 

 

 

 

 

 

「頼む二人とも……明日の試合に勝ったら、俺達にクッキーを焼いてくれ」

 

談話室でライラに貸してもらってた本を返して、二人で本について話していたら、ハッフルパフのクィディッチチームの先輩達が集まってきて、一斉に頭を下げてきて二人して固まる。

 

「えっと、いきなりなんです?」

 

「今度の試合、俺達は絶対に勝たなきゃならないんだ。負けたらもう、今季の優勝を逃すしかないだろう。だからモチベーションを上げるために、皆で願掛けとか一通り試してみることにしたんだ」

 

は、はぁ、なるほど。モチベーションは確かに試合のパフォーマンスに直結するんだってエレナが言ってたし、大事な事だろうけど、何で私達のクッキー?

 

「私達のクッキーで良いんですか?」

 

「ミリィちゃんとライラちゃんのクッキーだから良いの!!」

 

気になって聞いてみると、女の先輩が、目をギラギラと輝かせて言う。

 

キャプテンが少し苦笑いして話を引き継いだ。

 

「前に一度、ライラが焼いてくれたのを食べた事が有るんだ。今まで食べてきたので一番のクッキーだったし、何よりも「私達のライラちゃんとミリィちゃんがクッキー焼いてくれるなら」「相手が例えプロリーグのチャンピオンだろうと倒して見せるよ!!」……この二人が君達の事を好きみたいでね、ご褒美なら君達のクッキーが良いと言われたんだよ」

 

キャプテンの先輩の言葉を遮って、女の先輩二人が私達の手を握って力説する先輩二人に、そのあまりの勢いに二人してドン引きしてると、先輩達の中にいたディゴリー先輩が、苦笑いしながら言ってくる。

 

ディゴリー先輩はシーカーだっけ、三年でシーカーは、確かディゴリー先輩だけだった気がする、エレナが自慢気に言ってたのを聞いただけだけど。ポッターの次に若いシーカーで、腕も確か、今年のホグワーツのシーカーで、ポッターと人気を二分してる人だ。

 

「僕も皆がここまで言うクッキーに興味があってね、勝つから焼いて待っててくれる?」

 

さらっと現在二位のグリフィンドール相手に勝利宣言してるディゴリー先輩に、スゴい自信満々だと呆気に取られると、ライラが笑顔でうなずいた。

 

「勿論、先輩達の力になれるなら、私達は全力で作りますよ、最高傑作を約束します」

 

その言葉に沸き立つ先輩、巻き込まれてライラを睨むけど、私に任せろとばかりに自信たっぷりに笑うライラに、もうどうにでもなれと私は頭を振った。

 

 

 

 

 

「それにしても、クッキーであそこまでやる気出るのね」

 

コートの中心で最早殺気まで出してるレベルで真剣な雰囲気になってる女の先輩二人と、鬼気迫る表情でグリフィンドールのキャプテンと握手をしてるキャプテンを見て、これクッキー美味しくなかったらどうなるんだ私っ、と嫌な想像をして冷や汗が背中を撫でる。

 

「先輩方は、ライラとミリィの事をそれはもう妹の様に可愛がってますからね、これもある意味必然かしら」

 

得心した顔で言うギネヴィアの言葉に、頬が引きつる。

 

あれはもう、妹のクッキーのために頑張る感じの雰囲気じゃないんだけどなぁ。どっちかと言うと、国の命運を賭けた、世紀の一代勝負とか言われても違和感無いよ。

 

頼むから引き分けになってくれと、私が祈るのと同時に、審判のスネイプ先生が開始のホイッスルを鳴らした。

 

「いっけぇ!セドリック!!!ポッター何かに負けるなぁ!!」

 

「あの娘はまた誤解を生む事を、全くもう」

 

ハッフルパフの旗を振り回して最前列で思いっきり声を出してるエレナを、ギネヴィアが止めに行った。

 

「ふふふふふ、スネイプ先生を貶したグリフィンドールめ、お前達の敗因はクッキーだ!!あーっはっはっはっは!!!!」

 

隣で不気味な笑い声を出してるライラに、そこまでスネイプ先生が好きなのかとちょっと戸惑う。

っていうかクッキー焼く本当の理由ってそれなのね、先輩達の力になる所か、私怨の為に利用してるじゃない、何て悪どい事を。

 

「動機はあれだけど、実際効果はスゴいわね」

 

高笑いをしてるライラから距離を取って、望遠鏡で試合を追う。シーカーは何処か分からないけど、さっきからビーターの先輩二人が、物凄い勢いでブラッジャーを打ちまくってる、ウィーズリーの双子の先輩が、あまりのプレッシャーにブラッジャーを上手く打ち返せて無い………あ、片方が頭から食らった。

 

「ミリィちゃんのクッキー!!!!」

 

「ひっ!?」

 

ブラッジャーがこっちに飛んできたのを、先輩が打ち返した時に聞こえた声に、思わず喉から小さな声が漏れる。

 

あ、向こうのキーパーのお腹にブラッジャーに当たった、スゴい痛そう。

 

「未だ未だぁ!!ライラちゃんのクッキー!!!!」

 

何が彼女達をそこまでさせるのだろう、ブラッジャーを打つが為に箒に立ったり、届かない位置を箒から飛んで打ち返したり……その後助けに入った味方チームのチェイサーの箒を蹴って、地面に落ちる前に箒に乗って墜落を回避してる。

 

「何なんだ今日のハッフルパフは!?まるでサーカスの様な曲芸乗りから繰り出される数々のスーパープレイ、僕達はプロリーグの試合を観ているのか!?いや、違う!ここはホグワーツで彼女達は未だ四年生です、それなのにまるでプロでも難しい技のオンパレード!!君たちは一体何なんだ!!!?」

 

解説の先輩も、あまりの酷さに言ってる事がよく分かんなくなってる……それはいつもか。

 

「あぁ!!フレッドかジョージか分かんないけど、ウィーズリーの片方が対にブラッジャーにやられた!?箒を滑り落ちましたが、審判のスネイプ先生が受け止めました!!スネイプは試合続行とかいってやが「ジョーダン!!」………審判のスネイプ先生は、怪我は試合続行に支障をきたさないと判断したようで、試合続行です」

 

途中スネイプ先生への批判を挟みそうになったからか、ライラの方から負のオーラが流れてるけど無視、私も平穏は欲しいの。

 

「「クッキィィィィィィィィィィ!!!!」」

 

最早獣と化した先輩達は、次はポッターを標的としたみたい、ブラッジャーを次々とポッターに向けて打ち上げ、ポッターがシーカーの役目を果たせない様にしてる。

 

うわ、ボコスカ打つなぁ、ブラッジャーもう殆んど自分の意思で飛んでないじゃん、殴られっぱなしで何か可哀相。

 

フリーになった相手のグリフィンドールのチェイサーが、クアッフルをゴールに入れようと頑張るけど、ハッフルパフは攻めに攻める姿勢で、ゴールはキーパー一人のほぼがら空き状態。

それでもとことん攻めれば良いと割りきって、怒濤の攻めで圧倒的ゴール率を叩き出しているチェイサー達。

 

「今日の試合は伝説になる!!後世に永遠と語り継がれる伝説に!!グリフィンドールがゴールを決めれば、ハッフルパフが倍のゴールを決めています!!最早一方的な試合です!!!本当に何なんだ今日のハッフルパフは!!?先週まで最下位争いしてたチームは何処に行った!?グリフィンドール、ゴールを決めた!!60:100!!ハッフルパフ怒濤の勢いでクアッフルを叩き入れる!!60:110!!あぁ!!またハッフルパフにクアッフルが行った!そのままゴールキーパーのウッドをファールスレスレで抜き去ってゴール!!60:120…………あれはまさかっ?ッッッ!?…スニッチだ!!!」

 

その言葉に、お通夜状態だったグリフィンドール側が沸き立つ、未だ点差は150点を越えていない為、ここでスニッチを取れれば逆転勝利となるからだ。

 

「ハッフルパフの若き天才セドリックがスニッチ目掛けて動き出した!!グリフィンドールのシーカーは!?ポッター!!ハリー・ポッターはどこだ!!?居たぞ、セドリックの前だ!!!!」

 

皆が一斉にシーカー二人を見詰める、二人は地面に直角に高速で落下して、段々と地面が近くなるにつれて周りから悲鳴が聞こえてくる、危なくて見てられないのだろう。私も怖くて途中で目を瞑った。

 

少しして、グリフィンドール側から大歓声が巻き起こった。対してハッフルパフ側は試合中の盛り上がりが嘘の様に静まり返ってる。

 

「そんな、負けた?」

 

「セドリックが、何で負けたのセドリックゥゥゥゥ!!!!いたっ、痛い痛い何するのさギネヴィア!?」

 

「大きな声出しすぎですわ、この人間スピーカー!!」

 

頭を抱えて叫んでるエレナを、ギネヴィアが耳を引っ張って私達の列まで説教しながら歩いてきた。

 

「は、ははは………嘘だ、何故負けた?」

 

呆然自失してるライラの手を引っ張って、四人でコート脇のハッフルパフのベンチ行くと、そこは何かもう悲惨な雰囲気が滲み出ていた。監督のスプラウト先生に言って、ハッフルパフのベンチに暫く誰も来ないよう、お願いしてから、中に入る。

 

ベンチと言ってもおっきな部屋みたいな感じで、教室程の大きさの部屋に、壁沿いにロッカーが並んでいる。

中央には十人位で使う円卓と、その回りに四方を囲むように長椅子が置かれている。

選手の皆は、長椅子に腰掛けていた。

 

「うぅ……クッキー、ミリィちゃんのクッキーがぁぁぁぁ」

 

「うぇぇぇん、ゴメンねライラちゃん、勝てなかったよぉぉぉ」

 

「すまなかった二人とも、あんなに言ってくれたのに、俺達はっ!!」

 

もう十四にもなる先輩のギャン泣きと、キャプテンの男泣き。ディゴリー先輩も今回はメッチャ悔しそうで、ベンチの隅っこに座ってタオルで顔を隠してる。

 

何かもう目の前で大事なペットを亡くした時位、思いっきり悲しんで泣いてる先輩達の姿を見てると、こっちまで悲しくなってくる。

 

どうしようかとライラを見ても、ライラも呆然として何故負けた?これは夢だそうに違いないとか、先輩に抱き付かれながら現実逃避してるから、本格的に困ってると……エレナが、ディゴリー先輩の所になぐさめに行った。

 

「セドリック、試合お疲れ様」

 

「エレナ……ゴメン、勝てなかったよ」

 

「やるだけやったじゃん、途中までスゴい優勢だったし」

 

「あぁ、俺のせいで負けたんだ……俺が足を引っ張った」

 

「何へこたれてんのさ、次から負けなければ良いじゃん。試合前の元気はどこ行ったのさ」

 

「はは……あんな大口叩いといてこれじゃ、俺はシーカー向いてなかったのかな」

 

「そんな事無いよ、セドリック若き天才何て呼ばれて、ポッターが出る前(去年)はシーカーの最優秀選手だったって聞いたよ?」

 

「だけど、俺はもう無理だよ、ポッターに勝てるビジョンが浮かばない。これじゃあチームに貢献できない………もう引退かもな」

 

その言葉にエレナが怒った顔をすると、タオルをはがしてディゴリー先輩を睨んだ。

 

「そんな事言わないでっ!」

 

「エレナ……タオルを返してくれ」

 

「やだ」

 

「そんな事を言わずにタオルをっ「やだって言ってんの!!」!?」

 

エレナの怒鳴り声に、泣いていた先輩達もディゴリー先輩とエレナに視線を向ける。

 

「弱気になってうじうじしてるなんて、セドリックらしく無いじゃん!!いつもなら負けたってへっちゃらで、相手チームと笑顔で握手だってするくせに、一度負けた位で辞めるなんて言わないでよ!!!」

 

ディゴリー先輩が目を丸くしてる、泣いてる先輩達も、エレナの言葉に聞き入ってる。

 

その間に私はライラの持ってるトートバッグを取って、持ってきた物の準備をギネヴィアに手伝ってもらう。

 

「だって、アイツには勝てないよ、ポッターは本物なんだ」

 

「本物が何よ!!!!」

 

項垂れる様にして涙を流している顔を隠すディゴリー先輩に、エレナが怒鳴る。

 

「誰よりも練習して、誰よりも失敗してっ、泥んこにまみれても試合に負けても!!!諦めないで頑張れるセドリックの方がスゴいんだもん!!最後の最後は笑って勝つのがセドリックだもん!!」

 

エレナの声がくぐもって来たのに気付いたのか、ディゴリー先輩が呆然としてエレナを見る。

 

「エレナ……」

 

「セドリックの方が…セドリックの方がスゴいんだもん!!っあ!?」

 

途中から我慢出来なかったのか、ディゴリー先輩に泣きながら喋るエレナがふらついて、ディゴリー先輩が抱き締める。

 

「エレナ!」

 

「……セドリックの方がスゴいんだからっ!だから、辞めるなんて……そんな事っ、言わないでよぉ」

 

胸をポカポカと叩いて言うエレナに、ディゴリー先輩が俺が間違ってた、ゴメンと言って二人して泣き出した。

選手の先輩達も、二人の様子を見て、試合に負けた悔しさにまた、泣き出した。

 

「青春、ですわね」

 

「あれじゃもう、自白してる様なものじゃない」

 

やっぱり好きだったんだ、エレナ。

 

「ほら、確りしてよライラ!」

 

未だ意気消沈としてるライラの肩を叩くと、あのライラが涙目になって、先輩の手を振り切ってギネヴィアに抱き付いた。

この二人も仲が良いんだよね。最近この組み合わせだと、ライラがギネヴィアの言うことを素直に聞くようになってきたのだ。

 

私はライラに振り払われて悲しそうにしてる先輩に、ブドウジュースを渡した。

 

「うぅ、ギネヴィアァァァ!!」

 

「はいはい、負けて悔しかったんですわね~、次は勝てるように、もっと応援しましょうね~」

 

抱き付いたライラの背中を優しく叩いて、次はもっと頑張りましょうね~、何て言って励ましてるギネヴィアの母性がスゴい。流石母性の塊、エレナがママと言い間違えるだけはある。

 

混沌としてきたベンチ内に、どういう顔をすれば良いのか分からなくて、準備が出来たそれを皆に見せる。

 

「これ、皆で食べようよ」

 

紙皿に盛ったクッキーに、厨房から貰ってきたブドウジュースのボトルを見せる。コップはギネヴィアが持ってる。

 

「それ、クッキー?」

 

「でも私達、勝てなかったし」

 

クッキーに固執してた先輩二人が、悲しそうに言うと、他の選手もうなずく。

 

「なら、反省会のお菓子。私とライラだけじゃなくて、エレナとギネヴィアも手伝ってくれたの、皆にお疲れ様って意味で……負けちゃったけど、とっても素敵な試合だったから」

 

他の人達の分は、談話室にはもう山盛りのクッキーが置いてある。ここに持ってきたのは、選手だけで先に祝勝会出来たら良いなって思って、朝一で皆で早起きして準備したんだ。

 

「だけど……」

 

未だ渋るキャプテンに、クッキーを口にねじ込んで無理矢理納得させる。

 

「焼いたの勿体無いから、責任持って食べて下さい!朝早かったんですからね!!」

 

その言葉を皮切りに、先輩方がクッキーを食べ始めた。

ビーターの二人は、今度は嬉し泣きしながらクッキーを食べて、私はギネヴィアと二人で皆にブドウジュースを配る。

 

皆に美味しいって言ってもらえる様に、色んな種類のクッキーを焼いたんだから、確り食べてもらわないとね!!

 

隅っこで、ディゴリー先輩とイチャついてるだけだったエレナは、後片付けをディゴリー先輩と二人ですることにした。見せ付けてくれちゃって、後でからかってやるんだから。

 

その日以降、大事な勝負事の前に、女の人にクッキーを焼いてもらう約束をするのが、ハッフルパフで習慣になったとかならなかったとか。



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賢者の石2

未だ準備期間ですね。


「話は終わりじゃ、ハリー達三人になら話しても良いが、それ以外には先生相手でも話してはいかん」

 

「納得出来ませんわ!!ポッター達は未だ子供でッッッ!?」

 

ダンブルドア先生が杖を振ると、視界がグルグルと回転して、いつの間にかハッフルパフの談話室にいた。

 

「逃げられたね」「まさか、こんな強引な手段に出るとはな」

 

校長室で話してた私達四人は、ダンブルドア先生にハッフルパフの談話室に無理矢理転移させられたみたい。

 

「こんどは移動キー作成呪文(ポータス)の応用ですか、また面妖な事を……」

 

掛けられた呪文を見て、ギネヴィアが忌々しそうに言う。

 

一度目は屋敷しもべの転移で、二度目はダンブルドア先生の姿表しだったわよね。ただ部屋から追い出すだけなのに、何でバリエーションに富んでいるのか分からないけど。

 

「やっとまた話が出来たと思ったのに、必要な事じゃの一点張りで、食い下がったらこれだもんね」

 

エレナが疲れたように言うと、ライラが暖炉を使ってお湯を沸かし始めた。お茶を作るみたい。

 

「ねぇギネヴィア、もうこれで三回目だよ?私もう諦めた方が良いと思う」

 

ポットに茶葉を入れるライラを見ながら言うと、ギネヴィアが地団駄を踏みながら反論する。

 

「このままじゃ、あの老いぼれに負けたままではありませんか!!悔しく無いのですか!!?」

 

「相手は二十世紀最高の魔法つかいだよ?」

 

負けるも何も、ずっと手のひらの上で踊らされてるだけだもの。

 

「それはそうですが……うきぃぃぃ!!!!」

 

「落ち着けギネヴィア、猿になってるぞ」

 

「なりたくてなってるんじゃありませんのよ!!!!」

 

悔しそうに髪をかきむしって、うーうー唸るギネヴィアに苦笑いする。

 

ダンブルドア先生が捕まらなかったから、ポッター達を説得しようとして、結局そっちも失敗して、皆でダンブルドア先生にもう一度話そうと決めて、はや一週間。あの手この手で校長室に入って、ダンブルドア先生に何でハリー達を放置してるのか、問いただそうとするギネヴィアに、のらりくらりとかわすダンブルドア先生の攻防は、これで三度目だ。

 

「もう諦めて、ポッター達を説得しない?危ないことは止めろって」

 

エレナの言葉にうなずく私達に、ギネヴィアが悲しそうに項垂れる。

 

「ですが、それだとポッター達が危険ですわ」

 

「そもそも、何でポッター達が危険になるの?っていうか何で私達こんな必死になってるんだっけ?」

 

ふと思った事を呟けば、ギネヴィアはそういえばと思い出したかの様な顔をする。エレナとライラは私の言葉に確かにと納得する表情になった。

 

「ギネヴィアが焦った表情で、ダンブルドアを説得するとしか言わなかったからな。確かに私達は、明確な理由無しに動いていた」

 

「私はギネヴィアの為って言う、大事な理由が有ったけどね」

 

「それは三人とも一緒よ」

 

「何か気恥ずかしいですわね。皆さん、グリフィンドール生の気質は、あの三人と話しているから分かると思います」

 

その言葉に三人がうなずくと、ギネヴィアが続ける。

 

グリフィンドールの人は、兎にも角にもうるさくて調子者な気質の人が多い。何て言うか、体育会系のノリ?

後は騎士道というか正義というか、そういうのを守らせるのが好きなのだ。自分達は校則破るの大好きなのに。

 

男子は特にそんな感じの気質の生徒が多くて、ウィーズリーの双子先輩が典型と言えるだろう。ポッターも最近はそんな感じ、女子は逆に真面目な優等生が多い、男女間のやり取りは、どの寮よりも緩いけど。

 

「特にポッターは、クィディッチでグリフィンドールが首位に立っていこう、調子が付いてその気質が顕著になっています」

 

「ウィーズリーと一緒にからかってくるのが最近増えたって、グレンジャー言ってたね」

 

グレンジャー、口ではグチグチ言ってたけど、口元が嬉しそうに笑ってたのよね。

あの娘はちょっと、危ない気がする。何かこう、おだてればナンパとか、簡単に乗っちゃいそうな感じの雰囲気なのだ。今度ウィーズリーとポッターに忠告しておこう。

 

「そんな感じで、雑な言い方ですが調子乗ってるポッターが、賢者の石を狙う輩がいると分かれば」

 

「まさか、クィレルを襲うつもり?」

 

「あの三人は、ポッター特にですが、未だスネイプ先生を犯人だと思ってますよ」

 

四人でお茶を飲みながらそこまで話すと、ライラゆらりと立ち上がった。

 

「スネイプ先生を襲う?……………止めよう、何としてもポッターを止めるぞ」

 

「教師に襲い掛かる何て、退学になっちゃうもんね」

 

「そう言うことなら、私達も手伝うよ!」

 

そんな目には、流石に可哀相で遭わせたくない。

私達がそういうと、ライラは感激したような表情で、決意を込めて言う。

 

「ありがとう、必ずやポッターの息の根を止めて見せる!」

 

「「止めるのそこ!?」」

 

「まぁ、こうなるのですわ」

 

いっそ清々しいまでの表情で言ったギネヴィアに、あぁだからダンブルドアを説得したかったんだと納得した。

ポッターを説得する何て、理由を知った今のライラには難しいから、理由を教えずにダンブルドア先生経由で、ポッターを止めて欲しかったと。

 

他の先生だと、ちょっと過激になるかも知れないし、ダンブルドア先生なら分かるまで優しく諭してくれるからね、これは納得だ。

 

「ライラ、貴女がポッターを殺したら、貴女は一生、スネイプ先生と話すことは出来なくなりますわよ?」

 

「それは、だが………ぐぬぅ、ならポッターを説得しよう、彼がスネイプ先生を襲わなければ何の問題も無いんだ」

 

「いえ………誤解を解く必要は感じませんけど、どちらかと言うと誘導でしょうかね」

 

その言葉に、三人で固まる。

誘導?ポッター達をどう誘導するの?

 

「廊下で証拠も無く襲うだけでは、ただの凶悪犯ですわ。証拠を掴む所に行けるように誘導するのです」

 

証拠、賢者の石を盗む証拠になる場所ね…………は!?

 

「え、ちょ、何言ってんのギネヴィア!?」

 

何を言ったのか気付いたエレナが、ギネヴィアを驚いた表情で見てる。ライラの方は、なるほど妙案だとしきりにうなずいて、ギネヴィアの意見に賛成の様だ。

 

「彼等には、立ち入り禁止の部屋に入って貰いましょう。何ならある程度自衛が出来るように、私達で呪文を教えれば良いです」

 

自衛に役立つ呪文なら、何個か知識はあるので、エレナが矢面に立って教えれば角は立たないでしょう。何て、ギネヴィアは自信満々に言った。

 

他に良さそうな方法も無いし、それで取り合えず動くかと、私達は方針をまとめた。

ここに、英雄(ヒーロー)作成計画がスタートした。

 

「私はそれを止めたかったのですがね」

 

ギネヴィアが呟いた小さなその言葉は、誰にも気付かれる事無く、空気に紛れて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポッター達が大幅な原点を食らって、グリフィンドール所かどの寮の生徒からも敬遠されている中、私達は今がチャンスだと行動していた。

 

「ポッター、少しお時間よろしいかしら?」

 

「ハッフルパフのベンチに来てね、話したい事があるの。ジュースとお菓子を用意してるから」

 

ポッターがベンチの中の長イスに座ると、私達は事前に打ち合わせしていた事を話した。

 

「つまり君達は、もしスネイプを止めるなら、証拠を掴んでからにしろって言うんだね?」

 

訝しげに言うポッターにうなずいて、ジュースをコップに注いでポッターの目の前に置く。

 

事前にキャプテンには、次の試合後にブラウニーを作る事を条件に、使用許可をもらってる。

エレナとライラは、グレンジャーの説得に回ってもらってる。ウィーズリーはポッターとグレンジャーの二人から、説得してもらう予定だ。

 

「当たり前の事ですがね。ポッター、貴方ならそれくらい考えつくと思いましたが、念のために言わせてもらいました」

 

それを聞いたポッターは、不機嫌そうに席を立とうとする。折角用意したオレンジジュースとクッキーに、一度も手を付けないままに。

 

「そう、話は終わりかい?僕は練習後で疲れてるんだよ」

 

「まぁ後ちょっと位待ってよ、未だ話す事はあるんだから。ほら、ジュースもクッキーも美味しいよ?」

 

大皿に置いてあるクッキーを一枚とって目の前で食べて見せると、練習後でお腹が空いてたのか、ポッターが一枚取ってかじると、目を見開いた。

 

「ね?それで話なんだけど……証拠、もし集めるとするなら何を証拠にする?」

 

「そんなの、あいつが()を持ってたら一発だろう?」

 

何を言っているんだと言わんばかりと顔をするポッターに、ちょっとイラッと来るけどガマンして続ける。

ギネヴィアが説得しようとすると、理論と正論で何とかしようとするから、端から見ると説教にしか見えないんだよね。

 

「じゃあ、ポッターは犯人が石を持っている時に、捕まえられる自信はある?」

 

そう言われると、ポッターは肩を一度震わせて、強く私を睨んだ。

 

「あいつが例え()()()()だろうと、僕はあいつを止めないといけないんだ」

 

私がナルニア国物語を読んでいるのを知ってるから、白い魔女を引き合いに出して言うポッターに、これは止めるのは無理そうだと首を振る。

 

「それは、あの石が何の為に使われるのかを、知った為ですか?」

 

「あぁ、そうだ!ヴォルデモートはあの石で蘇るつもりなんだ!!先生達は、教師から裏切り者が出るなんて信じていないから!僕達が止めなければならないんだ!!」

 

そこまで叫んで、ジュースを全部飲み干すと、ポッターはギネヴィアを強く睨む。

 

ヴォルデモートと来たとは、私達マグル生れでも、その名前は言うのに勇気がいる。周りの生徒に、無理矢理口を塞がれるから。

それだけここでは、イギリス魔法界では、恐怖の象徴なんだ、ヴォルデモートは。

 

でもヴォルデモートは十年近く前に、目の前のポッターによって倒されているはず、いくら賢者の石が寿命を延ばす事が出来ても、死んだ人間は生き返らない。

 

「ヴォルデモートは死んだはずじゃないの?」

 

「生きてるよ、僕のこの傷が痛むんだ……僕に警告してるんだよ。あいつは生きてるって、それで賢者の石で復活したいって」

 

ポッターにそこまで言われて、未だ半信半疑でギネヴィアの方を見ると、ジュースを飲みながらうなずかれた。

 

うっそ、本当に生きてるの?闇の帝王。

 

「ギネヴィア」

 

「ええ、では説明しますわ。まず一つ目の疑問点、ダンブルドア先生の不審な行動です」

 

「ダンブルドアに不審?」

 

「いくら友人だからと言って、多くの無関係の子供達がいる学校に、態々争いの火種となる賢者の石を隠す理由ですわ」

 

確かにね、グリンゴッツ魔法銀行に盗みに入れるなら、ホグワーツも結構危ない気がするし。それなのに態々ホグワーツに賢者の石を移して、しかも子供にも保護者にも伝えないのは、学校として問題が有りすぎる。

 

「自分の監視下でないとダメなのか、それともここにあってグリンゴッツ魔法銀行に無い要素が有るのか」

 

「今学期になるまで、グリンゴッツ魔法銀行で守られてたものだもんね。最初からホグワーツに持ってくる事も出来たのに」

 

友人同士なら、銀行に預けずに手渡しで受け取れば良いだけなんだ。何でそれをしなかったんだろう。

 

「そんなの、盗まれる事が分かったからじゃないの?」

 

「何で盗まれるって分かったの?」

 

私が聞くと、ポッターは口ごもってしまう。

 

「どちらかと言うと、最初から移動させる予定だった方が、納得出来ます」

 

「元々今学期に入ったら、ホグワーツに持ってくるつもりだったってことね」

 

「何で今学期に、石を持ってくるつもりだったんだろう?」

 

「去年に無くて今年に有るものもしくはその逆」

 

そこまで言われて私は、ダンブルドア先生が何を企んでいるのかが、何となく予想出来た。でもこれって、ポッターには辛過ぎるよ。

 

「卒業生に闇の魔法つかいが居たとか?」

 

「どちらかと言うと新入生でしょうね、ポッター?」

 

ギネヴィアに意味深な目で見られて、ハッとした表情で目を見開いたポッターは、震える手で自分を指差す。

 

「も、もしかして僕?」

 

「ポッター、ダンブルドア先生は、あなたを誘導して、賢者の石の犯人を捕まえるつもりですわ」

 

全部ダンブルドア先生が仕組んだ事だったとは、しかも子供を大人、それも教師と戦わせようとするなんて、とてもじゃないが危険過ぎる。

 

「どうしてそんな事を、ダンブルドアは考えたんだ?」

 

「私は、貴方が英雄だからだと思いますが」

 

「でも、あの時僕は何もしてない!!未だ赤ん坊の僕が、何か出来るはずが無いだろう!?」

 

英雄と言われるのが嫌なのか、ポッターは拒絶の言葉を叫んだ。

 

「ですが、結果論として貴方はヴォルデモートを倒したのですよ、そしてヴォルデモートは未だ生きている」

 

ギネヴィアが言ったヴォルデモートの生存と、ダンブルドア先生の企み。何でダンブルドア先生が今回の事を仕組んだのかを、何と無しに予想出来た私は、慌ててギネヴィアの口を塞ごうとする。

 

「ちょっと、ちょっと待ってギネヴィア!」

 

「ダンブルドア先生は、ポッターを本物の英雄にしようとしている」

 

その言葉に、ポッターは絶句した。

 




改めて原作読み返すと、クィレル何か杖無しに魔法みたいなの使ってるんですけど、ドユコト?


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賢者の石2.5

もう少しで一年生終わりそう。


「本物の、英雄………」

 

ギネヴィアの言葉に呆然としているポッターに、出来るだけ優しく声を掛ける。信じてた人が、実は自分を危険な目に遭わせる張本人だったとか、ショックだろうから。

 

「私達ね、ポッター達が危険な目に遭うのが、心配なの」

 

もし本当にスネイプ先生に襲い掛かって、万が一大きな怪我なんかしたら、大問題になる。

これがただの生徒だったら、双子のウィーズリーの先輩よりも危険人物って事になるけど、それでもホグワーツなら問題は無いと思う。

 

ポッターが、イギリス魔法界の英雄がそれをするのが大問題何だよ。

英雄がそんな事をしたら、世間は騒然とするし、もし大怪我何てしようものなら、スゴい勢いでバッシングされる。

 

その後はそんな教育をしたホグワーツは、理事会と保護者がこれからの事で多いに燃え上がって、更にはポッターの家が狙われる可能性もある。

 

ポッターの行動一つで、学校が休校になる可能性もあるのよね。

 

「何で心配になるの?だって僕達、あまり親しく無い」

 

あ、酷い、私達の事そう思ってたの?

 

「私達はポッターの事を、友人だと思ってますが、それだとダメでしょうか?」

 

「友達が危ない目に遭うの、黙ってる訳にいかないよ!」

 

違う寮の友達って私ポッター達三人組しか居ないんだから、大事にするのは当然でしょ!

 

「ごめん……僕は君達の話を、聞くつもりなんて無かった」

 

「それは見てれば分かるよ、そんなの気にしないで?私、友達とお話しするだけで嬉しいもの」

 

いや本当に、ずっと孤児院の中しか知らなかったから、同い年の友達と話せるだけで嬉しいんだよね。

 

「それに、今はもう違うのでしょう?なら、それで十分ですわ」

 

「二人とも、ありがとう」

 

嬉しそうに笑うポッターに、私も笑顔になる。友達が笑ってるのって嬉しいから。それにこれなら、こっちの話も聞いてくれるかも知れないもの。

 

「では続きを……ダンブルドア先生が、ポッターを本物の英雄にするつもりと言いましたね。ダンブルドア先生はポッターにその気がなくても、その気にさせる状況を作る人です」

 

「その気にさせる状況って?」

 

「例えば、賢者の石の警備にわざと穴を作っておくとか。ダンブルドア先生自身が、ホグワーツから少しの間居なくなるとか」

 

どちらも泥棒からすれば絶好の機会、そんな事があったら直ぐにでも盗みをするだろうね。

 

「つまり、そういう事が起こっても動かないでくれって?でもそれだとヴォルデモートが復活するよ!」

 

「えぇ、だから動いてもらって構いません」

 

ここからが大変何だよなぁ、事前の私達四人の話し合いでも、一番紛糾した所で、特にライラとギネヴィアが火花を散らしてた。結局最後は折衷案で、ギネヴィアが不満気にほっぺた膨らませてたのを思い出した。

 

「私とライラ、座学の成績は優秀でして」

 

「それが何の関係が「いいからこれ飲んで、最後まで聞いて?」………ありがとう」

 

ギネヴィアの言葉にイラつくポッターに、空のコップにジュースを注いで渡す。もう結構な時間なのに、一々話を止めてたら日付が変わっちゃうよ。

 

「どれくらいのレベルかは、分かりますか?」

 

ギネヴィアの質問に、ポッターは口の中のジュースを飲み込んで答える。

 

「うん、ハーマイオニーが言ってたよ。私よりもスゴいって」

 

ライラは殆んどハーマイオニーと成績は変わらない、強いて言えば魔法薬学は学年トップ、変身術はハーマイオニー程じゃ無いって位、それでもとんでもないけど。

ギネヴィアの方はもう何と言うか、ヴォルデモートやダンブルドア先生クラスの天才って、ご本人が言ってるからね、ギネヴィアの方は。天凛の才と言うのすら、未だ生易しいレベル。

 

一度見た本は完全理解し、自分の中で再構築する。これがどれだけの偉業か、彼女はもう七年生までの教科書全てを読破済みで、今はダンブルドア先生から座学の免除をもらって、授業中図書館に籠る生活をしてる。

 

座学の試験各教科300点オーバー、()()()()()()()()()()()、ちょっと人間技じゃ無いと先生も恐れるホグワーツきっての天才。

 

「私は、ただ効率を求めただけです。そんな事に時間を割くなんて、勿体無いですから」

 

それよりも読書がしたいのです!と言って胸を張るギネヴィアを見て、二人で溜め息を吐く。

それが普通の人にとって、どれだけ難しい事か分からないのかしら。呑気に日がな読書だけをしていたいと言ってはばからないギネヴィアを見て、世の中って理不尽に溢れてると黄昏る。

 

「話を戻しますけど。つまり私が言いたいのは、ポッター達を私達が鍛えてさしあげますと言うことですわ」

 

本日二度目の、ポッターの絶句である。

 

「私、孤児院で七歳の時から呪文を教わってるから、簡単なのだけど教えるのは出来るよ。弟妹達にも教えてたから」

 

「は、は?いやでも………え?」

 

「この程度で混乱しないで下さいな。私達、誰一人として一年相手なら遅れは取りませんよ?」

 

「エレナは呪文学の主席だし、私は昔からやってるから馴れてるし、ギネヴィアとライラは規格外だから」

 

畳み掛ける様に言うと、再起動したポッターが、納得のいかない顔で私を見た。

 

「なに?」

 

「いや、例えそうだとしても……他の三人は分かるけど、ミリィがそうだとは思えなくて」

 

「失礼ね、ギネヴィア達に杖の動かし方教えたの私よ?」

 

「……分かったよ、疑ってごめん」

 

そう言うと、渋々納得した顔をするポッターに、全然分かってないと怒る。

 

「まぁまぁ、ミリィの実力が分かればよろしいのでしょう?なら次の土曜日の朝六時に、この場所に来て下さい」

 

え?今週の土曜日私、ビーターの先輩とお菓子作る約束が。

 

固まってる私をよそにして、ハリーは受け取った紙をポケットに仕舞うと、残ったジュースを飲み干して立ち上がる。

 

「そんな朝早く?……分かったよ、ロンとハーマイオニーにも言ってみる。僕そろそろ行くね」

 

「あ、ちょっとポッター!」

 

ようやく動き出した頭で、ポッターに声を掛ける。

 

「あ、そうだ二人とも、僕の事はハリーで良いよ!」

 

それじゃおやすみ!!と言って走り去ったポッター………ハリーをやるせない気持ちで見詰める。

 

「人の話聞いてよ、もう」

 

このままだと先輩との約束とブッキングするんだけど、どうしよう。

 

私がどうにか出来ないかと頭を悩ませてると、ギネヴィアが片付けを始めた。

 

「グレンジャーも、機関車みたいなボーイフレンドが二人もいて大変ですわね」

 

超が付くブラコンのギネヴィアが何か言ってる、ギネヴィアが小姑になる人は、本当に苦労するだろうね。

 

私も片付けを始めながら、ギネヴィアの話に乗っかる。

 

「どっちが本命なんだか」

 

「いっその事、四人で掛けてみますか」

 

その言葉が意外で、驚いて片付けの手が止まる。ギネヴィアって、賭け事とか苦手なタイプだと思ってた。

 

「面白そうだけど、良いのそれ?」

 

「あの三人組の為に苦労してるのです。友達をこれからも続けるなら、こういう事も多くなるでしょうし、これくらい役得があっても良いでしょう?」

 

茶目っ気たっぷりにウィンクするギネヴィアに、やっぱり強か(したたか)な人間だと、乾いた笑いが出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が無い土曜日の朝六時、私とギネヴィアは八階の廊下に呼び出されたハリー達と、廊下の同じ場所を永遠と行ったり来たりしてた。

 

「ねぇ、ギネヴィア。何で私達こんなことしてるの?」

 

「そうだよ、こちとら休日の朝早くから友達に叩き起こされて、へとへとなんだ」

 

「……原因が分かりましたわ。皆さん、私から距離を取って下さい」

 

私とウィーズリーを睨んで、私達が離れると、ギネヴィアはまた廊下を行ったり来たりし始めた。

 

「なぁ、君のルームメイト、頭でも打ったのか?」

 

「失礼な、ギネヴィアには何か考え…ごと……が………」

 

ウィーズリーに言われて、ギネヴィアを見つつ反論してると、廊下の壁が変化し始めて、口が止まる。

 

何あれ、扉?

 

「やっと開きましたわね、さあ皆さん扉が無くなる前に入りますわよ」

 

そう言うなり、すたすたと先に入って行ったギネヴィアを、慌てて追い掛ける。中は広く、まるで大広間から家具を無くしたら、こうなるのではと思わせる雰囲気だった、後ろを見ると、いつの間にか扉が閉まってる。

 

「ねぇギネヴィア、ここは?」

 

「必要の部屋ですわ、ハリー。あの場所で望むものを強く念じて、三度ほど壁の前を彷徨くと、望んだものがある部屋が現れるのです」

 

魔法すごーい、もう何でもありだね、タイムマシンとかあってももう私驚かないからね?………無いよね?

 

「何かもう、僕の知ってる魔法じゃない」「同感」

 

虚ろな目をする二人を無視して、グレンジャーがテンションマックスではしゃいでる。

 

「こんなことも出来てしまうの!?本当に魔法ってスゴいわ!!今の科学じゃこんな事出来ないわ、この分野では魔法が最先端の技術ね!!」

 

どんな魔法式が組まれてるのかしら?これはもしかして古代ルーン文字!?もう私幸せで死にそう!!とか言って部屋を走り回ってる。

 

「楽しそうで、私もダンブルドア先生に強す、強請(ねだ)った甲斐が有りましたわ」

 

強請(ゆすり)って聞こえたんだけど?一体何をしたのよギネヴィア、私時々あなたが恐いわ。

 

「最高よ!私この部屋に住みたいわ!!」

 

「まぁ、都合は良いね」「呪文の訓練には、確かにうってつけだな」

 

キラキラとした目をするグレンジャーに、現実逃避気味に呟く二人を見て、これは大丈夫なのかなと自問自答する。重症そうでもないし、錯乱もしてないから、大丈夫でいっかな?

 

私がそう考えてると、ギネヴィアは床から迫り出した黒板と点数板を、備え付けのチョークで叩きながら言う。

 

「さぁ、ここでなら自由に特訓が出来ます。先ずは私とミリィが、どれだけ出来るかを教えましょう」

 

点数板の名前部分に、男と女を書いた。ベースボールの得点板みたいね。

 

「ウィーズリー、相手をしてくれるかしら」

 

「分かったよ、怪我しても恨まないでくれよ?」

 

「かすり傷一つ付けるつもりも無いので、平気ですわ」

 

「なら、審判は私が」「私もやるわ!」

 

「頑張れよ、ロン」

 

そうして始まった試合は、それはもう一方的になった。

まぁ当たり前と言えば当たり前、まだ一年生のウィーズリーは、自主的に勉強をする性格でもないから、覚えてる呪文は殆んど、便利系かちょっとしたイタズラ用の呪文、それで戦おうとする方が難しい。

 

縄で縛られ、宙を舞い、炎に尻餅を付き、波に流され全身水浸しになり、最後は衝撃呪文(フリペンド)をお腹にもらってうずくまる。三回目以降はウィーズリーが意地になってたけど、最後に強烈なのが入って、顔が真っ青だ。

 

「全く、大丈夫ですかウィーズリー、部屋の端まで運びますからね、身体浮上呪文(モビリコーパス)

 

「あ、ありが、とう」

 

運ばれるウィーズリーに、グレンジャーは心配そうについていった。まぁあそこからでもこっちをよく見れそうだし、大丈夫かな。

 

「じゃあハリー、やろっか」

 

「え?」

 

私の事を疑っていたハリーに、実力と言うものを教えよう。過去一番の笑みを浮かべる私を見て、ハリーは怖じ気づいた様に一歩下がった。

 

拒否権なんて、無いから。

 

 

 

 

 

「私が使った呪文は、ライラも使えます。グレンジャーも知ってる呪文が、多かったと思いますわ」

 

横で解説してるギネヴィアの話を聞きながら、ニコニコと皆を見る。「何が妹にしたい一年生No.1だ、アマゾネスの間違いだろう」何て呟くハリーや「ギネヴィアがどうして一年生No.1お姉ちゃんキャラなのか、僕には理解出来ない、あれはもうお姉様と言うより女帝」何て呟くウィーズリーに挟まれて、グレンジャーは幸せそうにノートにガリガリとギネヴィアの言葉を書き込んでる。

あ、男二人に沈黙呪文(シレンシオ)使った。二人とも諦めてノートを取り始めたね、うん。

 

それにしてもハリーは、私の目の前でそれを呟くとか、私が気付かないとでも思ったのかな?後でお話ね。

 

時折ギネヴィアに言われて、杖の動かし方の実践を見せて、この日は三人とも、呼び寄せ呪文(アクシオ)応急措置呪文(エピスキー)を覚えて終わった。

 

余談、エレナとライラは、私達がお昼頃に戻ってきた時も、幸せそうに寝てた。

 

この日一日、二人はしおらしかった。何でだろうね?




もう夏も終わり、やっと電気代(冷房)から解放されるヤッター!

暖房・加湿器「やぁ(  ̄ー ̄)ノ」

……………ヤッター()


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賢者の石3?

真面目回に見せ掛けた後半ギャグ回
今回の話はロンに対するキャラ崩壊とか多分に入ってます。アンチ・ヘイト要素かどうかは判断しかねる所ですが、ロンが好きな人は注意。


「では、これより特訓を開始します。理論は私とライラが、実践はエレナとミリィが担当しますわ」

 

『必要の部屋』、通称『あったりなかったり部屋』で、休みの日に私達はハリー達と特訓を始めた。

 

最初の特訓から一週間、今日で三度目になる特訓。前回一度目の反省として出来るだけ優しくしたら、ロンがそう言えばハリーだけ名前呼びだと言って、ロンとハーマイオニーの事も名前で呼ぶことになった。

 

大人しく授業を受けてる三人を見ながら考える。

クィレル先生が盗みに入るタイミングが分からないけど、ギネヴィアは次にダンブルドア先生が居なくなる時だと言っていた。そしてダンブルドア先生は、罠だと知っても学校からは、一度居なくなるだろうとも。

 

出来るだけ分かりやすいタイミングで、ダンブルドア先生がいなくなってくれれば良いんだけどね。

 

「ではまず、拘束呪文(インカーセラス)と反対呪文の拘束解除呪文(エマンシパレ)から」

 

「拘束呪文、この呪文の特徴は何と言っても、文字通り相手を縄で縛る事にある。そして縛り方によっては、相手をわざと痛め付ける事も、杖を握ることが出来ない縛り方にも、術者のイメージによって効果が大きく変わる呪文だ。エレナ」

 

ライラがそう言ってエレナに手を振ると、エレナが素早く杖を振って、向かいに立っていたマネキン人形を縄で縛る。

 

「拘束呪文!」

 

「そして反対に、拘束解除呪文は縄だけで無くあらゆる物理的な拘束を解除する呪文ですわ。ミリィ」

 

ギネヴィアに言われて、私もエレナが縛ったマネキンに手を振る。この呪文は孤児院の女の子が、ママに杖無しに使えるようにしろと言われる最初の呪文なの。

 

呪文自体も複雑じゃないから、半年もこの呪文に専念して練習すれば、杖無しに使えるようになる。

 

「今、無言で杖無しに呪文を!?」

 

「ミリィって人間だったよな?」「そうだよ、確かにまだ人間の筈だ」

 

驚く三人に、ギネヴィアが説明する。

後ロンはまだって何?私が人間辞める予定があるの?後でお話ね。

 

「高等技術ですわ、教師の方は殆どが出来るでしょう。もちろん覚えている全ての呪文を杖無しに使えるようにしている人は、居ないとは思いますが」

 

「やろうと思えば、杖無しでも人は呪文を使えるよ。でも杖があった方が強力だし、杖無しに使えるようになるためには、早くても半年以上、一つの呪文に専念する必要があるの」

 

多分、最上級生は誰でも一つ位、出来るんじゃ無いかな?理論が簡単な呼び寄せ呪文(アクシオ)とかは、日常で使う呪文の一つだし。

 

「あなた達には、ここまでは求めませんが、無言呪文までは期待してますわ」

 

血筋だけなら超エリートのロンと、秀才のハーマイオニー、ヴォルデモートを倒した英雄ハリー、三人なら短い期間でもいくつかの呪文を覚えられると、私も思う。

 

「ミリィが出来たんだ、僕達にも出来るさ」「そうだな、出来ない筈がない」

 

口々に散々な事を言って、理論を二人から学び始めた男二人に、ハーマイオニーは何か言いたげだったけど、それよりも呪文が気になったのか、三人して熱心に二人の授業を受けてる。

 

「……ミリィ!」

 

私が杖無しに呪文を使って目だったせいで、エレナが恨めしげに見てくるのを、慌てて謝って宥める。

 

「ゴメンゴメン、私達は暫く暇だね」

 

「私も呪文を覚えるのに一時間は掛かったからね、今日はもう出番無いかも」

 

簡単な呪文で、理論も一年で教わった内容ばかりだけど、呪文二つを一時間でマスター出来るエレナも大概に天才の部類ね。

 

「じゃあ、模擬戦でもしてみる?離れてすれば問題ないだろうし。どちらかの呪文が当たれば負けね?」

 

「そうしよ!ミリィ孤児院で呪文教わってるからか、学校で習わない呪文沢山知ってるし」

 

別に、習わない訳じゃ無いんだけどね、一年生でやらないだけで。

 

連れ立って授業をしてる五人から離れた場所に立って、ここなら呪文の影響も無さそうと思ったから、エレナと少し離れた距離に立つ。丁度中間の位置にマネキンが地面から生えると、その手にはコインが一枚握られていた。

 

「じゃあ、開始の合図は、そこのマネキンのコインが落ちたらで」

 

「良いよ~」

 

私達が杖を構えた瞬間、マネキンがコインを投げた。

 

今日は確りアクセを全部着けてるからね、ミリアてんこ盛りver.(バージョン)の力、エレナに教えて上げる!!

 

コインが落ちて音が鳴るのと同時に私は横に飛んだ。私が居た場所に、縄が躍り出て来たのを見て、アクセサリーの呼び寄せ呪文で、この部屋の端の方からもう一本杖を呼ぶ。

 

呼び寄せ呪文(アクシオ)!!」

 

足縛りの呪い(ロコモーター・モルティス)!」

 

エレナが放った呪文が、赤い閃光になってこっちに来るのを、呼び寄せた杖で強制終了させる。

 

終了呪文(フィニート)!!」

 

直ぐに自分の杖で魔法式を作って呪文を放つ。それと同時にエレナも呪文を完成させた。

 

衝撃呪文(フリペンド)!」

 

突飛ばし呪文(デパルソ)!!」

 

同時に杖先から出た閃光が、お互いの間でぶつかって火花を散らす。

直ぐに呪文を切ってそこから避けながら、アクセサリーの物質移動呪文(ロコモーター)で、エレナに近くに転がってる小石をぶつけようとする。

 

「ロコモーター・ロック!!」

 

エレナの杖は戦闘特化の杖って聞いたし、力負けするなら先に呪文を切って、別の呪文に切り替える。

 

「のわっ!?追い払い呪文(レラシオ)!!」

 

まさか真横から来ると思わなかったのか、驚きつつもエレナの杖から飛び出した火花が、小石にぶつかって小石を弾き飛ばした。その間に私は杖で魔法式を練り上げる。

 

「衝撃呪文!!」

 

体勢が整ってないエレナに当たって、尻餅をついて倒れたエレナに、マネキンがいつの間にか用意してた点数ボードに、数字を書き入れた。

 

「私の勝ち!」

 

「ぐぅ、悔しい!!」

 

その場で女の子座りして悔しがるエレナに近寄って、手を取って立ち上がらせる。

 

「ミリィ強かったけど、最初に杖を呼び寄せた理由は?何か意味無さそうだったけど」

 

「いや、私魔力が強いみたいでさ、いくら呪文を使ってもバテないの。だから杖とアクセサリーで、三つの連続発動とかしてみたくて」

 

思い付きで全然上手くいかなかったと笑うと、エレナが引きつった顔をした。

 

「ゲームで言う魔力オバケね、末恐ろしい事を考えて、杖二本何て聞いた事無いよ」

 

人をそんなオバケ扱いとかしないで欲しい、これはこれで便利なのよ。杖無し呪文とかの練習、永遠と続けられるからね。

 

「右手の振り方も左手の振り方も、左右対称になっただけで同じだから、魔法式を練り上げるのを早くすれば、結構直ぐに出来そうだよ」

 

練習とばかりに両手を動かして物質移動呪文と衝撃呪文を使った後、アクセサリーで水増し呪文(アクアメンティ)を使うと、エレナが乾いた笑みを浮かべて私から離れた。何で!?

 

「ミリィとはもう模擬戦しないわ、いつか消される」

 

「そんな事しないよ!」

 

そんな事するわけ無いじゃない!!いや、うっかりミリィならやりかねない、とか言って後ずさるエレナを追い掛けて弁明してると、五人が近くに来ていた。

 

「二人とも、呪文の実技の方、よろしいかしら?」

 

「もちろん!」「任せて!」

 

目だけが笑って無いギネヴィアに、二人で揃って返事をすると、ギネヴィアとライラはさっきまで授業をしていた場所に行ってしまった。

 

残された三人組は、気不味い雰囲気で私達を見てる。

 

「じゃあ、呪文を実際に唱える所からね。ハリーとハーマイオニーは私が担当するから、ロンはミリィ担当」

 

固まって練習すると誤爆が怖いから、エレナが二人を連れて離れると、ロンが私の前に歩いて来た。

 

「よろしく頼むよ」

 

その言葉にうなずいて、取り合えず一回唱えて見てと言うと、ロンは勿体ぶった感じに、用意されたマネキンに向けて杖を振る。

 

拘束呪文?(イーン・カ・セラース)

 

何とも微妙な発音から出た呪文、縄を奇妙に踊らせるだけで、マネキンを縛る事は無かった。

 

「発音が微妙に違うね、インカーセラスだよ。後はちょっと力み過ぎ」

 

肩の力抜いてと言って、ロンの後ろから杖を握ってる手を取って、振り方を教える。

 

「こうして、こう。最後は勢いよくやるイメージで」

 

「わ、分かった!拘束呪文?(インカーセーラス)

 

顔を少し赤くして杖を振ってまた呪文を唱えるロンを見て、やっぱりこの人も、才能は有るんだよねと思う。

最初からある程度杖の振りが出来てたし、発音もイントネーションが少し怪しいけど、他は出来てる。魔法式の構築は、そこらの魔法つかいよりもずっと上手い。

 

ロンが唱えた呪文で、縄はさっきよりも機敏な動きをしてるけど、やっぱり未だ踊ってるだけ。でも前進した事は事実だ。繰り返す度に、縄は最初の位置からマネキンまでの距離を、激しく踊りながら近付いてる。

何で踊り出すのかは分からないけど。最初はゆったりとしたブルースだったのから、今は激しく情熱的なタンゴを踊ってる。

 

「杖の振りは良くなったよ、後は発音」

 

「ありがとうミリィ、次は成功させる……拘束呪文(インカーセラス)!!」

 

正しく発動したロンの呪文は、縄を一目散にマネキンに飛び掛からせて、その……俗に言う亀甲縛りにした。

 

「ふぁっ!どうしてその縛り方!?」

 

マネキンを女性型だったのもあって、とんでもなく扇情的に縛られたそれに、ロンが前屈みになったのを見て急いで縄をとく。

 

「バカロン!!何であの縛り方になるのよ!?普通に縛れば良いのに!!」

 

よりによって亀甲縛りは無いでしょう!?

って言うか何処で知ったのよあの縛り方、普通に暮らしてたら先ず知らないでしょ。

 

「人をお菓子の名前みたいに言わないでくれ!仕方無いだろう、その………やっぱり何でもない!!」

 

言い淀んで、怪しげな目で私を見た後に、頭を振ってハリーの所に言ったロンを見て、私何かしたのかなと考える。

普通に呪文教えてただけだし、杖の振り方を直し……………

 

「突飛ばし呪文!!」

 

「うわあぁぁ!!?」「ろ、ロン!?」「いきなり何するのミリィ!!」

 

驚くハリーと、私に掴み掛かろうとするハーマイオニーを無視して、ロンに怒鳴る。

 

「私で何想像したのさこの変態!!」

 

私の一言で固まる女の子に、ハリーはいきなり攻撃するなんて酷いと抗議してくる。吹き飛んだロンは、これは誤魔化せないと悟ったのか、遠い目をしてた。

 

よりによって私で想像したとか、この中で一番貧相な私で想像したとか!!

変態だ、変態過ぎるよロン・ウィーズリー。寒気がしてきたから、今後近寄らないで欲しい。若干涙目でロンを睨むと、掴み掛かろうとしてたハーマイオニーが気付いて、極寒の視線でロンを睨む。

 

「………ロン」

 

「は、はい!!」

 

「来なさい、話があります」

 

「いや、これはその、弁解の余地を「問答無用」痛い痛いいたいたたたたぁ!!?」

 

来なさいと言っておきながら、ハーマイオニーから近付いて、ロンの耳を引っ張って部屋の反対側まで引き摺っていった。ハリーは無視されて、置いてきぼりになってる。

 

「大丈夫だった?ミリィ」

 

「うぅ……エレナァ、ロンの奴私で亀甲縛り何て想像したんだよ、酷くない!?」

 

そう言って抱きつくと、エレナが疑問符を浮かべてたから、杖を振ってハリーが練習してたマネキンに亀甲縛りをする。

 

「うわぁ、これは目に毒だわ。うん、ミリィは何も悪くないからね、全部ロンが変態なのが悪いんだからねぇ」

 

そう言って抱き締めてくれるエレナに、思いっきり甘えてると、ハリーが怪しい目付きになってきたから離れる。ついでに亀甲縛りも解く。

 

「ハリー、ハリーは変態じゃないって、信じてるからね?」

 

「う、うん。後ロンは変態じ「なに?」……何でもないよ」

 

同級生相手に亀甲縛りを想像するとか、女の子からすれば危険人物確定のド変態だから、言い逃れも言い訳も聞かないからね、頭の中で何されてるのか、考えるだけでも震えてくる。

 

その後は、ハーマイオニーによってボロボロになったロンをエレナの担当にして、私はハーマイオニーに呪文を教えた。ハリーはロンの見張り役でエレナに教えてもらってる。

 

「ハーマイオニースゴい、もう拘束解除呪文マスターしたなんて」

 

「ありがとうミリィ、ミリィの教え方が上手だったからね。そのお陰よ」

 

大幅減点後も変わらず接してたお陰か、三人組とは仲直りしてもっと仲良くなれたんだけど、ロンは明日からファミリーネーム呼びね。

 

「ミリィ、こっちも二人とも様になってきたから、私達が相手役で模擬戦でもしようよ」

 

その言葉にうなずいて、最初はエレナとロンが模擬戦する事になったんだけど、ここからが酷かった。

 

「うわっ!?」「キャアァァァァ!!!!」

 

ロンが模擬戦でエレナと戦ってる時に、自分のローブに躓いて転んで、エレナのスカートの中に顔を突っ込んだり。

 

「あ、やばっ」「え、ちょっとまっ!!?」

 

夜遅くまで特訓して、帰る時にロンが疲労が原因で階段から落ちて、ミセス・ノリスに見付かったり。

 

「まさかこんな所にロンと二人きりになるなんて」「………………」「あの、ロン?………なッッッ!!!?」

 

フィルチから逃げる時に隠れた狭いロッカーの中で、ロンがボロボロになった疲れで気を失って、ギネヴィアの胸に顔突っ込んだり。

 

「あいつは危険だよ!」「うぅ、セドリックにも未だ見せて無いのに、うわあぁぁん!!」「今度から、ロンに近付く時は一瞬も油断出来ませんわね」「何とも、彼も愉快な星の下に生まれてるな」「「「笑い事じゃ無いんだよ!!!!」」」

 

とことんロンがラッキースケベをして、皆の足を引っ張りまくった。

次の日から私達のブラックリストには、クィレルよりも危険人物としてロンの名前が載せられた。

 




すまない、ロンで遊びたかったんだ、すまない。
シュールギャグって難しい、クボタイト師匠マジスゴい。


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賢者の石4

後二、三話で一年生終了の予定、今月中旬までに出せると良いなぁ。


「一年生はミリィ、エレナ、ギネヴィア、ライラの四人ね、明日の夜、校庭に集合です」

 

ハリー達と特訓を何度か続けてたある日、夕方に特訓を終わらせて、特訓終わりに汗を流して談話室でのんびりしてたら、寮監のスプラウト先生が、明日の夜に何人かの生徒は集合と言われて、談話室の目立つ所にここにいない生徒用の告知を張り付けて、自分の部屋に戻っていった。

 

「いきなりなんだろ?」

 

「呼ばれたのは女性生徒のみ、しかも比較的大人しい人が多いな」

 

「上級生も戸惑ってるし、何が有るんだろ」

 

ギネヴィアが告知を見て、ダンブルドア先生は何故これを生徒にさせようとしたのかしら。何て不思議そうに呟いてた。ギネヴィアが理解出来ない何て、流石ダンブルドア先生、20世紀最高の魔法つかいなだけはある。

 

「私は少し予想が出来ましたが、一年生が私達だけなのは、性格を考えての事でしょう。多分明日は暴動が起きますわね」

 

どう言うこと?何で呼ばれただけで暴動になるの?

 

ギネヴィアの言葉に私達三人は疑問符しか出なかったけど、明日の夜のお楽しみですわと言われて、結局教えてくれなかった。

 

 

 

 

 

翌日、校庭に集合すると、そこには他の寮の生徒も集まっていて、ギネヴィアが更に頭を痛そうにしてた。

 

「皆さん、これから説明があります、確りと聞くように」

 

いつの間にか来ていたスプラウト先生とマクゴナガル先生に挟まれて、ダンブルドア先生が勿体ぶった感じに話し出す。

 

「今、禁じられた森に住んでるユニコーンは、とても辛い思いをしている。それは何故かと言うと、少し前からユニコーンを狙った密猟者が出たからじゃ。悲しい事に犠牲になったユニコーンも多数おる。そのせいでユニコーンの群れは疲弊しておってな、ハグリッドからこのままだとユニコーンが森から居なくなると、要請が来たんじゃよ」

 

そこまで言われて、私達は何を基準に呼び出されたのかを理解した。

 

「幸いな事に、ハグリッドのお陰で密猟者はもう居ないんじゃが、ユニコーンの中には怪我をしたものも居る、そちらはマクゴナガル先生と一緒に治療の簡単な手伝いを、残りはスプラウト先生と一緒に、森の中に居る怯えてしまった群れのお世話じゃ」

 

上級生の何人かが怒った様な雰囲気を出し始めた。特にグリフィンドールとレイブンクローが酷い、もう爆発寸前の水風船みたいにほっぺた膨らませて、怒りの余り不穏な雰囲気を出している人もいる。

 

「つまり、君達にして欲しいのは、男を知らぬ少女にしか心を開かないユニコーンの、治療と世話の手伝いじゃ」

 

私達に説明を終えたダンブルドア先生が、質問は有るかな?と言った途端、グリフィンドールとレイブンクローの生徒を中心に抗議が殺到した。

 

「私達を喪女って言いたいの!?」「ダンブルドア先生だからって許さないから!!」「傷付いたわ!私彼氏いるのに呼ばれるとか、晒し者じゃない!!」

 

あぁ、暴動ってこういう事ね。六年生以上が暴動の中心となってダンブルドア先生に抗議してるのを見て、これは確かに暴動になると周囲を見て思った。

 

ハッフルパフだけじゃなく、他の寮からも集められた生徒の殆んどは、四年生以下の生徒でまとめられていて、五年生より上と一年生はグッと数が少なくなる。

最上級生の七年生何て、一番多いハッフルパフでも四人だ。グリフィンドール何て一人もいない。

 

で、ユニコーンは男を知らぬ少女………ええっと、下世話な話、処女が大好きな幻獣で、ここに集められたのはそのお世話やら治療の手伝いやらをする生徒、つまり皆処女なのよね。

で、各寮で明らかに人数が違って、しかも上の方の学年は数えるほどだと………明らかにその、()()してる寮はどこが多いとか筒抜けの、晒し者になってる訳ね。

因みに何がとは言わないけど、順番はグリフィンドール、レイブンクロー、スリザリン、ハッフルパフの順番ね、何がとは言わないけど。

 

「静かにしなさい!!」

 

マクゴナガル先生の声に、抗議をしてた生徒の声が止んで、そのままお説教になった。十分経っても終わらないお説教に、最後はダンブルドア先生が取り成して、生徒を四年生以上を班長にして、五人一組の十組作ると、五組をお世話に、五組を治療の手伝いに回すことになった。私達はハッフルパフのビーターの先輩を班長にして、お世話係りになった。

 

「今日だけと言わずに、今日から二週間程手伝ってもらいたいんじゃ。勿論、手伝ってくれればご褒美は約束するでな」

 

先生のこの言葉が無ければ、半分以上は帰ってたと思う。

 

治療組の方は、これから人手不足の簡易治療所に行くことになり、お世話組の方は着替えた後、森番のハグリッドとスプラウト先生に連れられて、禁じられた森の湖に足を運んだ。

 

「おら、俺はここまでしか行けねぇ。これ以上はユニコーンの奴を警戒させちまうからな。スプラウト先生の言うことを確り聞くのと、森で迷ったら教えた魔法で上に灯りを打ち上げるんだ、直ぐに俺が向かうからな」

 

連れてきてくれたハグリッドにお礼を言って、ユニコーンのお世話をすることになった。二十頭程がいるユニコーン達は、酷く怯えたような声で鳴くと、警戒している。

 

「大丈夫です、私に任せなさい」

 

私達はどうしたら良いか分からなくなって、スプラウト先生とユニコーンを交互に見てたけど、スプラウト先生が一際大きいユニコーンにゆっくり近付くと、ユニコーンの鼻に自分の鼻を付ける。

ユニコーンの方が一歩下がった後、好きにしろとでも言うように一声鳴いて、群れの奥に歩いて言った。

 

「さぁ、あなた達もさっきと同じように、ユニコーンは優しい生き物です、多少失敗しても多目に見てくれます」

 

スプラウト先生はそう言った後、背負った大きなカバンを下ろして、中から色々なお世話に必要な道具を班毎に分け始めた。

 

周りの他の班の人達は、ユニコーンに触れると分かって、興奮してるやら緊張してるやらでちょっと騒がしくなってる。ユニコーン側は、さっきのユニコーンが何かしたのか、警戒心が少し薄れてる見たいで、幼体のユニコーンはこちらに興味をもって、近づいてきたりもしてる。

 

「えっと、じゃあ班長の私から行くから、皆は後ろから付いてきてね」

 

緊張した様に言う先輩に皆でうなずいて、五頭程固まってる場所に歩き出す。いきなり走ってきたら、驚かせるかも知れないからね。

 

「こんばんわ、これからお世話することになったの、よろしくね」

 

そうユニコーンに鼻と鼻をくっつけて話す先輩は、見た目結構な美少女なのと、着替えるように渡されたのが白いワンピースだったのも合間って、スゴい映えるシーンになった。まるで映画みたい。

まだ子供のユニコーンは、角が生えてなく銀毛で、とても凛凛しいサラブレッドみたいな見た目をしてる。

 

「ん、ありがとうね………許してくれたみたい、皆も同じようにして、私はスプラウト先生から道具を受け取ってくる」

 

行ってしまった先輩を見て、覚悟を決めてユニコーンに近付く。近くに居たのは未だ子供のユニコーンで、金毛が混じってる銀毛、ハグリッドの話だと、未だ二歳になってない子馬さんね。

 

「こんばんわ、これからあなた達のお世話をするの」

 

そう言って軽くお辞儀をしてから、顔に両手を添えると、鼻と鼻をくっつける。

 

「ありがとう、これからよろしくね?」

 

軽く嘶いてくれたユニコーンを優しく撫でる。

角が生える場所はとても神聖なものだから、許されない限り触らない様にと、ここに来る時にスプラウト先生に言われてるから、触りたくてうずうずするのを堪える。

 

「皆大丈夫みたいね、道具借りてきたから、身体を拭いてブラッシングしてあげよっか」

 

皆でユニコーンの身体を拭いてあげたりするんだけど、許した人にしか、身体を触れさせようとしないから、一人一頭のお世話で、とても大変でくたびれちゃった。

 

「うぅ、疲れた。もう腕上がんないよ」

 

吹き出た汗を手で拭うと、ユニコーンが私の腕を舐めてきた。結構舌がザラザラしてて、後よだれは匂いがしないのね。

 

「もう、くすっぐったいよ……きゃっ!」

 

腕を舐め終わったと思ったら、今度は顔を舐めてきて驚く、ユニコーンって人懐っこいのね。

 

「汗を舐めてくれたの?」

 

さらさらしてにおいの無いユニコーンのよだれは、殆んど水みたいで、これも疲労回復の魔法薬の材料になるとか。

さっきまで疲れでダルかった腕も、楽になっててとても助かる。

 

「ありがとうね」

 

そう言って優しく撫でていると、今日はここまでらしい。スプラウト先生が呼んでる。

 

「今日はここまでです、皆さんこれから帰りますので、私に付いてきなさい」

 

あ、もう行かなきゃ。明日も授業があるし、この生活結構大変ね。

 

「また明日来るから」

 

ユニコーンに言って、急いで道具をまとめて、スプラウト先生の所に五人で向かう。道具を返して、他の班の人も集まったら、皆でユニコーンにお辞儀をして、森の中を先生といつの間にか来たハグリッドを先導に、ゆっくりと進む。

 

「先生、あのユニコーン達はどうなるのでしょう。人に馴れでしまうのでは?」

 

ギネヴィアの疑問に、スプラウト先生が口を開く。

 

「これから私達が少しの間、ユニコーンのお世話をすることになります。私達がお世話を終えた後、魔法省の人達が来て、彼等を森の一部に匿います。完全な野生にはなりませんが、彼等を守るためです」

 

「元々はあの倍の数居たんだ、俺が今回の事を話したら、大人の連中の殆んどが居なくなったよ。あいつらは自立心が強いからな。今の群れの長は、未だ八歳なんだ。俺はあいつが産まれた頃から知っとる」

 

ハグリッドの話を聞いてて、疑問に思った事を話す。

 

「ねぇハグリッド、ユニコーンって女の人にしか心を開かないんじゃないの?」

 

「いや、男でも心は開いてくれる。ただ歳を重ねると女が好きになっていく奴等でな、十も過ぎれば()()()にしか近付かなくなる」

 

へぇ、そう言う種族なんだ、不思議な種族ね、ユニコーンって。

 

「ねぇねぇそれなら、女の子だけでお世話する必要無いよね?」

 

ハグリッドの言葉を聞いたエレナが、気不味い顔をして質問する。

 

………確かに、ユニコーンは男でも大丈夫なら、女の子、ましてや処女限定なんてダンブルドア先生なに考えてるんだろう?

 

「それはだな、ユニコーンを襲った下手人が男で、過剰に反応しちまうからなんだ。あぁ、畜生っ……あいつら皆して俺の事を威嚇して来てよ…うっうぅ、皆良い奴等だったのに。犯人は絶対許さねぇ!!見付けたら犬の餌にしてやる!」

 

悔しいやら悲しいやらで泣き出したハグリッドをなだめつつ、森を抜けるとダンブルドア先生が立っていた。

 

「ダンブルドア先生!皆無事にユニコーンのお世話を出来ましたわ、これから二週間、大丈夫そうです」

 

「おお、それは良かったよスプラウト先生。さて、君達は疲れたじゃろうが、今日のご褒美のお話じゃ、皆にこれをやろう。他の生徒には内緒じゃぞ?」

 

そう言って嬉しさで沸き立つ生徒一人一人に、一枚のカードを渡していくダンブルドア先生。

 

「それは魔法のカードじゃ、魔法つかいのお店で買い物する時にお金の代わりに見せなさい、書いてある数字の分だけ、お金の代わりになる」

 

言われた説明を受けて、カードを見つめる。これ、プリペイドカード?

ガリオン単位のカードを見て、背中に冷や汗が流れる。

十ガリオン、約五十ポンド、とんでも無いお金もらっちゃった。

 

「こんなにもらって、良いんですか?」

 

「もちろん、君達の親御さんにもちゃんと話してある。それにこれでも安い位じゃよ?危険度四の幻獣の世話に、危険度三以上の生物がうじゃうじゃいる森に、夜に入らねばならん。本当は日給二十ガリオンでも良い位じゃ」

 

は、はぁ、でも子供にこの金額は、ちょっとした財産なんだけど。大丈夫なのかなぁ?

 

「皆、くれぐれも他の生徒には内緒じゃぞ?バレたらそれ以降は、ユニコーンにはその生徒を近付ける事は、出来なくなるからの?」

 

騒いでた生徒はそれを聞いて静まり返って、ダンブルドア先生の言葉にうなずく。

 

「うむ、それでよい。今日はもう遅いでな、帰って直ぐに寝るんじゃぞ」

 

それだけ言うと、ダンブルドア先生は皆の目の前から消えてしまった。

 

驚く生徒を、スプラウト先生がまとめて、校庭に集まるとそこで治療組みの生徒と合流して、そのまま解散になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、それにしてもまさかお金とは」

 

「こんなお金、どう使えば良いやら」

 

「次の夏期休暇、皆でダイアゴン横丁にでも行こうか」

 

「あ、それ賛成!!前はフリットウィック先生からはぐれない様にしてて、全然見れなかったんだよね!ミリィも賛成だよね!?」

 

部屋に来てたユディから、手紙を受け取って読んでる間に、皆はお金の使い道を決めたみたいだ。

 

「ごめん、手紙読んでて聞いてなかった」

 

「今度の夏期休暇に、皆でダイアゴン横丁行こうよって話!」

 

私の手を掴んで、ミリィも来るよね?って言って来るエレナに苦笑いしてちょっと考える。

私は弟妹に新しい玩具を買おうと思ってたけど、ダイアゴン横丁なら良いのが売ってそうね。その分危険もあるけど。

 

「付き添いはどうするの?あそこ皆のご両親、ついて行けないと思うよ?」

 

何せ魔法族の隠れ横丁だし、行ったら魔法の秘匿に関わる。それにそう離れていない場所に、闇市みたいな場所があるって聞いたし、子供だけで行くのは無理だと思う。

 

「あ、そっかぁ。ミリィのママに頼めない?」

 

「新しい弟が来たばかりだから、難しいと思うよ。一応手紙でパパにお願いしてみるね」

 

「やったぁミリィ大好き!!」

 

「きゃっ!?」

 

抱き付いて来た勢いでベッドに倒れる。嬉しいのは分かったから、いきなり抱きつくの止めてよ、もう!

 

「エレナ、はしたないですわよ」

 

「だって嬉しかったんだもん!」

 

はしゃぐエレナを引き剥がして、パジャマに着替えると、ライラが灯りを消してくれた。

 

それを合図に皆ベッドに戻るけど、エレナはまだ私のベッドではしゃいでるから、うるさくて眠れなくて、つい毛布の中に引き込んで、顔を思いっきり抱き締めて寝た。

 

翌朝盛大にギネヴィアに怒られたけど、私は悪く無いと思うの。



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賢者の石 sideポッター

お久しぶりです、やっとクライマックスですよ、長かったね本当、ここまで長くする予定無かったんだけども。


「スプラウト先生、今日は代役を立てるのをオススメします」

 

今日もユニコーンのお世話、私がいつもお世話してるユニコーンは、もう人に馴れたみたいで、昨日はお世話が終わった後、私の事を背中に乗せてくれたの。今日は何をして遊ぼうか、考えるだけでワクワクしてくる。

 

因みにダンブルドア先生からの報酬は、初日のプリペイドカード以降は、ちょっとした魔法の道具だったりして、結構ランダムだ。おとといは万眼鏡で、昨日は蛍石で出来たチェス駒一セットだった。

結構価格に差がある物でも報酬にするみたい。因みに一番高いのは蛍石のチェス駒、輸入品の魔法の品で、一セット驚きの18ガリオン。売れば数年は遊んで暮らせる値段ね。一番安いのは杖のお手入れセットで、3ガリオン。

 

「ギネヴィア、いきなりどうしたの?」

 

「もうすぐ、ロンかハーマイオニー辺りが教員室に駆け込んで、ユニコーンどころじゃ無くなるでしょうから」

 

エレナと二人で、今日はユニコーンに乗せてもらって、湖を一周しようと話してると、ギネヴィアがスプラウト先生と話してるのに気付く。何話してるんだろ?

 

「あら、あなたにしては過程が飛んでる説明ですね、どうしてそうなるのかしら?」

 

「ここで言える内容では無さそうですから」

 

肩をすくめるギネヴィアに、スプラウト先生は話を取り合って居なかった。

 

「それでは、無理ですね………皆さん、出発し……あなたはマクゴナガル先生の守護霊?どうしたのですか!?」

 

スプラウト先生は青い半透明の猫を見付けると、側に近寄って話し掛け始めた。

 

あの猫一体何?スプラウト先生が守護霊って言ってたから、守護霊呪文で呼び出したのかな?それだと呪文を使った人はとんでもない人だね、守護霊を遠隔で維持するのは、スゴく難しいのに、伝令まで出来る守護霊とか、この学校でも片手の数の人しか出来ないんじゃない?

スプラウト先生は猫の守護霊から何かを聞いた後、今日は付き添いのハグリッドだけで、森に行くことになった。

 

「何が起こったんだろ」

 

「私達はユニコーンのお世話ですわ」

 

エレナの言葉にそう返して、ユニコーンの身体を拭くギネヴィアに、ライラがブラシを片手に不安そうな顔をする。

 

「ギネヴィア……私達は、向かわなくて良いのか?」

 

「今行ったところで先生方の邪魔になるだけです。無事を祈りましょう」

 

その言葉に、何が起きたのか悟って思わず叫ぶ。

 

「無事を祈るって、まさか!?」

 

「あ、ゴメンね驚かせて。大丈夫だから………ギネヴィア」

 

私の声に驚いたユニコーンを抱き締めて、背中をブラッシングしてあげて落ち着かせる。馬型の幻獣は人の感情に機敏に反応するから、落ち着いた態度で接しないとダメなのよね。つい驚きで、それが頭から抜け落ちちゃった。

 

「夕飯後、寮のシャワーを浴びている時に先輩方が、ダンブルドア先生が外に行くのを見掛けたそうです。多分クィレル先生への罠でしょう。校長先生はホグワーツの何処からでも、姿現しが出来ますからね」

 

確かに、罠じゃないならわざわざ歩いて外に行く理由が無いもんね、先輩方が見てるなら、ダンブルドア先生に注意を向けてるクィレル先生は、当然気付いてると思う。

 

罠だと分かっても、目の前のチャンスを見逃せる人じゃ無いから、今は石泥棒してる所ね。

ポッター達はダンブルドア先生の事を、先生が何かして知ってるはずだから、それを止めに行ったって感じで、さっきのマクゴナガル先生守護霊は、三人の内の誰かが連絡に行ったって事で、連絡したって事は、不測の事態かクィレル先生を捕まえたかの二択、どっちにしろ私達じゃ行っても無駄ね。

 

「ほら、シャキッとしなさい、今日は背中に乗せてもらうのでしょう?」

 

ギネヴィアに背中を叩かれて、言われた事を思い出す。

そうだったね、今日はユニコーンの背中に乗って湖を一周する約束だった。

 

「……もう叩か無くても平気よ、ギネヴィア。……ねぇ、もう乗っても平気かしら?」

 

私の言葉に、ユニコーンは膝を折って乗りやすくしてくれた大丈夫みたいね。

そのままユニコーンの背中に乗ると、ユニコーンが立ち上がって視界が高くなる。ここまで高い視界は、パパに肩車してもらって以来ね、スゴいわ。

 

その後は、一周だけだったはずが湖を三周して最後の一周はライラもユニコーンに乗って、並走しながらの一周だった。ユニコーンに乗るなんて、一生の思い出になったわ。

 

そしてもう一つ、その日に一生の思い出が出来るとは、この時予想はしてなかった、少なくとも、あんな事になるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーマイオニーに教員室に行って、先生達を呼ぶように頼んだ後、僕は瓶の中身を飲み干して、黒い炎を通り抜けた。

 

この先に賢者の石がある。ギネヴィアが前に言った事を考えれば、今夜が一番のチャンスだ。もう石泥棒は来てるかも知れない。いや、トロールが倒されてたんだ、居るに決まってる。

 

そこまで考えて、僕はローブから杖を取り出して慎重に進んでいく。暫く炎の中を歩いて、いつ薬が切れるかの恐怖に耐えながら、ついに炎を通り抜けると、そこは最後の部屋だった。

 

「貴方が石泥棒だったのか、スネイプじゃなく」

 

「ポッター、君はここまでこれると、確信していたよ」

 

そいつはいつもと違い、落ち着き払った声で言うと、みぞの鏡から視線を外して僕を見た。

 

ギネヴィア達が言ってた通りだ、石泥棒はスネイプじゃ無かった。

 

「ギネヴィア達の言ってた通りだ」

 

僕がついそう言うと、そいつ…クィレルはイラついた様子で床を踏み締めた。

 

「あの小娘っ!あいつのせいでダンブルドアは私を警戒した!!あいつのせいで、スネイプが私の監視についたんだ!!」

 

「スネイプが?」

 

「ああそうだ!……ポッター、君の試合の時、必ずダンブルドアかスネイプが君を見守っていた。私が箒に呪いをかけた時もっ、もう少しで君の頭を地面にぶちまけたザクロの様にしてやれたと言うのに!スネイプが邪魔をしたっ!!」

 

クィレルがまるで玩具を取り上げられた子供の様に、癇癪を起こしているのを見て、僕はクィレルの言葉に呆然としてしまう。

 

あぁ、それもギネヴィアの言った通りだ、スネイプは入学してから少しの間、いつも僕を監視してた。あれは僕を守るためだったのか、最近スネイプが大人しかったのは、クィレルを監視してたからか。

 

「忌ま忌ましいスネイプ!あいつのお陰で、何度もチャンスを潰した、ハロウィンの時も、あいつが!!」

 

その言葉に、呆然としてた思考が戻る。今こいつは、何て言ったんだ?

 

「ポッター、お前とあの小娘どもは、どうも好奇心が過ぎる。生かしてはおけない」

 

「お前が、トロールを?」

 

怒りで視界がチカチカするのを堪えて、クィレルを睨むと、クィレルは何を勘違いしたのか得意気な顔で話し出した。

 

「さよう!私はトロールに関して、特別な才能を持っている。ここに来る時に私が倒したトロールを見たか?残念な事に、ハロウィンの時皆が血眼になってトロールを探していた時、スネイプとあの小娘は私を疑っていた!スネイプはこの立ち入り禁止の部屋の前で私に立ちはだかり、あの小娘……ギネヴィア・テイラーは遠回しに授業中何度も私に警告してきた!!」

 

「お前が、お前のせいで、ハーマイオニーは危険な目にあった!!」

 

「元はと言えば、お前を殺すつもりだったんだよポッター!!」

 

僕が怒りを我慢出来ずに叫ぶと、クィレルはそう言って僕に杖を向けた。

 

その場から逃げる様に飛び退くと、クィレルの杖から飛び出した赤い閃光が床にぶつかる。

 

「逃げるな!」

 

「僕はお前なんかに負けない、突飛ばし呪文(デパルソ)!!」

 

終了呪文(フィニート)、この程度で、私に歯向かえると思ったか!」

 

僕の呪文は掻き消されて、クィレルが腕を振るうと、どこからか縄が僕に向かって飛んでくる。僕はその縄に縛られて、杖を落とさないようにするのに必死だった。

 

「ふん、一年生ごときが頭に乗りおって」

 

「うあっ」

 

そう言って僕を蹴飛ばすクィレルを睨む。久しぶりに蹴られたお腹は、前よりも痛い。ここで負けたら、僕に期待してくれたダンブルドア先生を裏切る事になる、ここは堪えるんだ。

 

「そこで私が石を手に入れるのを見ていろ」

 

そう言って、クィレルはみぞの鏡を見始めた。ブツブツと一人言を言い始めたクィレルを見て、チャンスは今しかないと思って、僕は必死に覚えた無言呪文で縄を解く、音がでない様に注意しながら、ギネヴィアに言われた事を思い出す。

 

《この呪文は危険な呪文です、当たれば間違いなく勝てますが、外した場合、相手は本気になってあなたを殺そうとするでしょう。必ず勝てる時にしか使わないでください》

 

チャンスは今しかない、あいつが僕の事を無視してる今がチャンスだ!

 

そう判断して、鈍い痛みで呻きそうになるのどを叱りつけて、渾身の力で杖を振るう。

 

失神呪文(ステューピファイ)!!」

 

「なっ!?」

 

まさか一年生ごときが、縄を解いて失神呪文を使うとは思わなかったのだろう、クィレルは失神呪文を食らってその場で倒れてしまった。

少しの間杖を構えて警戒し、何も無さそうだと判断して、緊張が解けた。

 

「勝った、勝ったんだ!」

 

僕はクィレルに勝った喜びで一杯になって、はしゃいでしまった。相手は恐ろしい闇の魔法つかいなのに、油断してはしゃいでしまったんだ。

 

「ロコモーター・クィリナス・クィレル」

 

だから、その呪文に気付かなかった。虚ろな表情で、人体には無理な動きで立ち上がるクィレル。間接は鈍い水っぽい音をならして、まるで骨が無いかのようにグネグネと動く。

 

「があぁぁあぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁあ!!!!!」

 

痛みで叫び出すクィレルに、得体の知れない恐怖で後ずさる、何だこいつは、何なんだ一体、お前は本当にヒトなのか?

 

「お許しを、お許しをわが主!!」

 

『ならん、お前は失敗をし過ぎた』

 

「今度こそ、今度こそは期待に応えて『それで何度目だと言うのだ!!』……がああああぁぁぁぁ!!!!」

 

まるでもう一人がいるかの様に、一人言を始めたクィレルを不気味がっていると、また叫び出したクィレルに短い悲鳴を上げる。

 

だって仕方無いじゃないか、ここまで不気味な存在を、僕は知らなかったんだから!

 

『お前は私の人形に成れば良い』「………わかりました、わが主」

 

それを言うとクィレルは、僕に背を向けて頭に巻いたターバンを解き始めた。

 

「何だよ、何だよそれは」

 

恐怖で身体が言うことを聞かなくなる中、口だけは嫌にスムーズに言葉を発した。

 

『やぁ、久しぶりだハリー・ポッター』

 

クィレルの頭には、もう一つの顔があった。

 

「僕は、お前なんて知らないっ!」

 

『私は君を知っている。何、少し話をしよう』

 

「僕は話したくなんか無い!!」

 

『俺様は話したいのだ。ハリー・ポッター、俺を倒した英雄よ』

 

嫌だと言って後ずさる僕を見て、そいつは……ヴォルデモートは、蝋燭みたいに白い蛇みたいな顔を歪ませて、まるで浮いているかの様にスムーズな動きで、僕に近付いてきた。

 

「こっちに来るな!失神呪文!!」

 

『未々だ、魔法式の構築が遅い。それではガキにすら負ける』「がああぁあぁああぁ!!」

 

僕の呪文を無理矢理動かしたクィレルの杖で弾くと、悲鳴を上げるクィレルを無視して、ヴォルデモートは杖を振るう。僕は呪文か何かの力で動けなくなって、目の前にそいつの顔が表れた。

 

『ここに来たと言うことは、石がここにあると知っているんだろう?石は何処だ、言え!!!!』

 

「ふざけろ、死んでも言うもんか!!」

 

「わが主になんと言う口を!磔の呪文(クルーシオ)!!」

 

「があぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!!!!!」

 

その呪文を掛けられている間の事を、僕は痛みでしか覚えていない。絶え間ない今まで生きてきた中のどんな痛みよりも、何十倍も何百倍も痛い痛み。何度も視界が真っ暗になったり真っ白になったりして、その度に痛みで視界が戻る。

 

『答えろポッター、お前が鍵なんだ!!』

 

「はぁ……はぁ、嫌だ」

 

「磔の呪文!!」

 

「があぁぁあぁあぁぁぁあぁぁあぁ!!!!!」

 

『時間が無いのだ、石は何処にある!!』

 

クィレルに引き摺られて鏡の前に運ばれると、ローブをを引っ張られて、無理矢理鏡を見せられる。鏡に映った僕は、石をポケットから出して、僕にウィンクをするとポケットに石を閉まった。

 

同時に右のポケットに重さを感じて、僕のポケットに何かが入れられたことが分かった。

 

その後鏡には、保健室で僕にリンゴを剥いてくれるミリィの姿が映った。

ゾッとしないな、ハーマイオニーにチェンジして欲しい。僕は鏡の光景を見て、未だそんな事を考えられるのかと驚く。自分でも予想してなかった程タフネスがあるみたいだ、僕は。

 

「クィディッチの優勝杯なら、鏡に映ってるよ」

 

石の在りかを言わないために嘘を吐くと、クィレルの頭にいるヴォルデモートが叫んだ。

 

『クィレル、そいつのポケットだ!!』「仰せのままに、わが主!!」

 

そのまま僕に掴み掛かろうとするのを見て、手を振って払おうとする。

 

「無駄な抵抗はするっっっ!?だぁあぁ!!何だこれは!!?」

 

僕の手を掴んだクィレルが、突然手から煙を出して悲鳴を上げた。

 

いきなりどうしたんだ?

 

『早く石を奪え!!』「わが主、ですが腕が、腕が焼けてしまう!!」

 

クィレルの手を見ると、煙を出して黒くひび割れていた、まるで炭になったみたいだ。

 

『良いから早く石を奪え!!』「ポッタアァァァァァァ!!!!」

 

痛みで我を忘れたのか、それとももう指を動かせないのか、杖を握らずに、魔法も使わずに襲い掛かって来たクィレルの顔に、手を押し当てる。

 

「があぁぁあぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!!」

 

痛みで叫んだ口にも思いっきり手を突っ込んでやる。何でか分からないけど、クィレルは僕に触れると焼け焦げてしまう様だ。

 

口も焼いてしまえば、もう呪文が唱えられなくなるに違いない。

ザマァ見ろとほくそ笑むと、クィレルが僕を突き飛ばした。未だそんな力があったのか、あのなよなよとした弱々しい演技をしてた割りに、本当は武闘派だったのかもしれない。

 

突き飛ばされて床に頭をぶつけた僕は、そのまま意識を失った。最後に見えた景色では、何故か寮監の先生方が勢揃いしてる所だった。

 




ハリーは努めてシリアスだと言うのに、この落差よ。


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賢者の石と後日譚

はい、今回で一年生編の本編は粗方終了です。


真っ暗闇の中を、ただ歩く、行く宛も方向も分からないままに、何も考えずに歩いていると、暗闇の向こうが少しずつ光ってきた。

 

『…………リ………ター…ハ…………リー……………』

 

眩しいはずなのに目は平気で、何処か安心する声に導かれるようにして、光に近付く。

 

光はスニッチだった、スニッチは光る事は無いのに、不思議だ。捕まえようと手を伸ばすと、目映い光で目の前が真っ白になった。

 

目を抑えて()()()()()と、僕はいつの間にかベッドの上に居たらしい、周りを見渡すと、ここは保健室みたいだ。

 

「ぼくは………石を、守るために……そうだクィレルの奴は!?」

 

こんな所に居るわけには行かない、直ぐにクィレルの奴を止めないと、そう思ってベッド脇から杖を取って、ベッドからから立とうとするも、上手く身体が動かなくてふらついて倒れる。

 

立ち上がろうと力を込めた時に、保健室の扉が開いて、咄嗟に杖を構えると、扉から入ってきたのはハーマイオニーだった。

 

「ハリー?ハリー!!」

 

「ハーマイオニー、無事だったんだね!」

 

走り寄って来たハーマイオニーを抱き締める。良かった、見たところ怪我は無いみたいだ。

 

「ロンは、ロンは無事!?」

 

「大丈夫よ、ロンは元気。今はスネイプ先生に補習に呼ばれてるの、ロンも三日寝込んでたから」

 

その言葉に驚くも、今は無事だと聞いて胸を撫で下ろす。

 

「本当に良かった、石はどうなったの?」

 

もう狙うやつは居なくなったんたから、ニコラス・フラメルが持ってるんだろうか。それとも未だ学校にあるのか?

 

「あなたのお陰で石は守られたけど、未だどうするか決めてないの。先生達の間で意見が別れて、ギネヴィアが職員室に乗り込んで、石を壊すなって説得してまわってるのみたいで………それが原因でスネイプ先生達とダンブルドア先生とマクゴナガル先生の二人で対立してて、来週ニコラス・フラメルが学校に来るって」

 

「何でそんな事に……」

 

予想してた事の斜め上を行く現状に、どうしてそうなったんだと首をかしげる。

 

「それよりもあなたは大丈夫?未だ何処か痛い所は無い?一週間も寝たきりだったのよ、まだベッドに居るべきだわ」

 

「一週間も!?」

 

不安そうな顔で僕の身体をペチペチ触るハーマイオニーの言葉に、頭が真っ白になる。

そりゃ身体が上手く動かない訳だ、間接や筋肉が悲鳴を上げてるし……二、三日は本調子とはいかないだろうな。

 

「ほら、ベッドに入って、私マダム ポンフリーを探してくる」

 

動き辛そうにしてた僕に、肩を貸してくれてベッドに入れてくれたハーマイオニーは、僕に毛布をかけた後そう言って保健室から出ていった。

 

一人になった保健室で、考えるしかやることが無いから、ついさっき出ていったハーマイオニーの事を考えた。

 

「最初は融通の効かない固い奴だと思ってたけど、本当は優しくて気が利くんだよな、ハーマイオニー」

 

それによく見ると結構な美人で、頭も良いときた。まるで何かの物語のヒロインみたいな女の子だ。

 

「ヒロイン…………無い無い、顔が良いからってそれは無いから」

 

頭に出てきた一際小柄で、金髪の肩下まである長い髪を、両サイドで少しまとめて、残りを下ろしてる髪形で(確かハーマイオニーが、ツーサイドアップって言ってた髪形)見た目は疑いようも無く美少女なのに、性格は熱血を越えて、特訓の鬼みたいな性格のあいつを思い出して、目を瞑って首を振る。

 

「訓練が厳し過ぎるんだよ、弟妹に教えたことあるって、絶対嘘だ。嘘じゃなきゃ弟妹は手足の一本無くなってる」

 

《反復練習が全てだから、取り合えず腕が上がらなくなるまでやろっか!》

 

あの悪魔の言葉を思い出して、ぶるりと身体が震える。

 

《大丈夫大丈夫、筋肉痛だろうが肉離れだろうが、呪文で何とかしてあげるから!取り合えずぶっ倒れるまでやるんだよ!!》

 

根性論の極みみたいな事を要求してくる悪魔を思い出して、あれがヒロインの物語とか想像できないと笑う。

 

「猫被るのは上手いんだ、ミリィは。そりゃクッキーは予想以上で驚いたよ、今までで一番美味しかったし。何だかんだ言って手当ての面倒とか、特訓の間はずっと気にかけてくれるし、それでもあの特訓は納得出来ないけど」

 

「……へぇ、今度からもっと厳しくしよっか?」

 

「教えてもらってるのに、そういう事言っちゃダメよハリー」

 

「どうしてそうなるんだ!!………や、やぁ、ミリィ、ハーマイオニー。い、いつから、そこに?」

 

「《訓練が厳し過ぎるんだよ》辺りからね、折角マダム ポンフリーに無理言って看病変わってもらったのに、来て損したわ」

 

ツーンとした表情でそっぽを向くミリィに、僕の言葉に怒ってるハーマイオニーが、ベッド横にいつの間にかいた。

 

まさかそんな前から居たとは、僕は退院したら次は過剰な特訓で、オーバーワークによる過労死の運命だったみたいだ。世の中って残酷。

 

「これは、あなた達の為に頑張った私に対する裏切りよ。許さないんだから」

 

次の特訓は実戦形式にしてやるんだからと言う、ミリィの怒りを抑える為に、何か差し出せる物は無いかと考える。僕はあまり物を持ってないし、ミリィならストレス解消に、僕がサンドバックにでもなれば良いかな?

 

「あぁ~、骨一本で済ませてくれない?」

 

ダメ元で、減刑をお願いする、もしかしたらハーマイオニーが助けてくれるかもしれないし。いや、ヒロインのハーマイオニーなら助けてくれるはずだ、僕はハーマイオニーを信じてる。

 

「そんな事しないわよ!?」

 

私ってそんなサイコパスに見える!?って憤慨してるミリィに、ハーマイオニーは僕への視線の温度がドンドン下がってる。

 

ハーマイオニーは罰が足りないと思ってるみたいだ、残念彼女は助けてくれないらしい。

やっぱり、骨の一本じゃ足りないのか、出来れば三本を越えないと良いんだけど。

 

「分かった、腕と足を持ってけ、バランスが良くなるように左右一本ずつ」

 

これが僕に出来る最大限の譲歩だ!と覚悟を決めて言うと、ミリィは据わった目で僕を見た後、顔に手を伸ばして思いっきり引っ張った。

 

「ぬぐうぅぉぉ」

 

何かが無理やり剥がされる音と痛みが顔からして、思わずそこを抑えて痛みで唸る。大丈夫ハリー?何て言って心配してくれるハーマイオニーは、やっぱりヒロイン属性持ってると思うんだ。僕としてはもっと胸が………おかしいな、何でそんなゴミを見る視線を向けてくるんだい、ハーマイオニー?

 

「変な呻き声上げないでよ、これで勘弁して上げる」

 

顔の痛みに口を歪めながらミリィを見ると、その手には真っ暗に変色して固まった血があった。

かさぶたを剥がされたみたいだ、勢いよく思いっきりに。

 

「ったく、絆創膏張るから見せて………ハーマイオニー、少し二人っきりにしてくれない?もう直ぐロンのお迎えでしょ?」

 

ロンのお迎え?あいつは怪我の後遺症で幼児まで若返ったのか?友達に迎えに来てもらうとか。しかもハーマイオニーが甲斐甲斐しく迎えに来てくれるとか、今度ロンの飲むコップの中身に、スキャバーズの毛を入れてやる。

 

「あ……ゴメンねハリー、私もう行かなきゃ」

 

ミリィに言われて時計を見た後、見舞いのお菓子を脇の机に置いて、ハーマイオニーは保健室から小走りで出ていった。

 

「あぁ、うん、気を付けてね………………そっちかよ」

 

少し顔を赤くして、恥ずかしがってるハーマイオニーを見て、ロンが原因と言うよりも、あのラッキースケベ体質に我らがヒロインがやられたと見て、これからあの二人と話す時どういう顔をすれば良いんだと、頭を抱える。

 

「ほら、顔隠さないの、こっち向いて………これでよし。りんご剥いてあげるね」

 

ロンの奴はヒロインと今頃いちゃついて、僕は悪魔に監視されながらベッドの上か、今ならロンへの憎しみで僕はスリザリンと友達になれる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書室で自習が終わって、夕飯の前にハリーのお見舞いに行こうと歩いてたら、ハーマイオニーが向かいから走ってきた。何があったのかを聞くと、一週間振りにハリーが目を覚ましたらしい。

 

それでマダム ポンフリーに許可を無理矢理もらって、今はハーマイオニー抜きで看病してるんだけど…………

 

「ロンの奴め、退院したらまず最初に、あいつの赤毛をスネイプそっくりな油まみれの黒髪に変えてやる」

 

目を覚まして早々に、自分の親友に憎しみをぶつけるハリーに呆れていた。

 

はぁ、どうしてそうなるんだか。素直に応援すれば良いのに。私としてはロンのラッキースケベ体質(命名エレナ)が全てハーマイオニーに向けば、被害に遭わなくて済むから助かるんだけど。ハーマイオニーも、彼氏が相手ならそこまで嫌がら無いだろうし。

 

ロンの奴、階段から落ちてどうやったら下に居た私の下敷きになって、スカートの中に顔突っ込めるのよ?わざとでも色々おかしいでしょ。思い出したら沸々と怒りが沸いてきた。

 

「ロンへのイタズラなら、私達四人も混ぜなさい。あいつには散々な目に遭ってるから、仕返ししても誰も咎めないわ」

 

エレナのパンツに手を入れて、ギネヴィアの胸を揉んだあいつは、今じゃハッフルパフの女からヴォルデモートよりも危険な人間として、『近寄ってはいけない例のあの人』何て呼ばれてる。

何故か被害に遭わないライラは、面白がってるけどね。

 

「あ、うん。やっぱりあいつは親友だから、心が狭い事は止めておくよ」

 

「あぁそう……はい、りんご剥けた。あーん」

 

「むごぅ!?」

 

ハリーの言葉に、ちょっと残念に思って、まだムカムカする気持ちを、剥いてあげたりんごをハリーの口に無理矢理入れる事で納得させる。

 

「いきなりはむせるよ、一人で食べられるから」

 

暫く目を丸くして口をもごもご動かしてたハリーは、りんごを飲み込んで口を開く。

 

「腕、痛いんでしょ?未だ無理しちゃダメだから、大人しくしなさい、あーん」

 

「……あーん」

 

諦めた表情で、そう言って大きく開けたハリーの口に、小さく切ったりんごを入れる。弟妹が熱を出した時とか、忙しいママの代わりに看病してあげてたっけ、懐かしいなぁ。

 

「はい、あーん。多分ね、来年から三年生の選択科目に錬金術が入ると思う」

 

「あーん……………錬金術ってまさかニコラス・フラメル?」

 

賢者の石の事ばかり調べてたせいか、錬金術=ニコラス・フラメルみたいなイメージがあるみたい。まぁそうなんだけどね。

 

ギネヴィア、錬金術に興味が有ったけど、学べるのは東アフリカのワガドゥーだけだって知って、泣く泣くホグワーツにしたって言ってたから。因みに説明担当はマクゴナガル先生だったそうな。

その事もあって、ギネヴィアはホグワーツに錬金術を入れるべきだと声高々に主張して、他にも興味のある生徒を署名をして集めて、会合なんてものまで開いて、先生を説得してまわって………あそこまで来るとホームズでもポワロでもなくて、モリアーティね。

 

「うん、石を守るのにここは一番適してるし、ニコラス・フラメルはゲラート・グリンデルバルドに立ち向かったメンバーの一人だから、教師としてホグワーツに居るのは生徒を守る面でとても良い事よ。あーん」

 

「あーん……………ゲラート・グリンデルバルドって?」

 

「ヴォルデモートより前の、ヴォルデモートと同じくらいの悪人。あーん」

 

「あーん……………それなら、石はホグワーツにずっと有るんだね。そんな人が来てくれるなんて、ホグワーツはスゴいや」

 

すっかり調子を戻して元気に言うハリーに、ギネヴィアが何をしてるのか言う気にはならなかった。どうせハリーが起きた事を知ったら、新しい御輿として取り込もうとするに決まってるもの。今は静かに休ませてあげたいからね。

 

「えぇ、ギネヴィアの説得が成功すれば、ね。りんごはもうお仕舞い、ほら寝た寝た」

 

「分かったから、頭から毛布を被せるのは止めてよ」

 

いつまでも横になろうとしないハリーに頭から毛布を被せると、ゴミをまとめてゴミ箱に入れて、見舞いの品が積まれてる机を軽く整理する。

 

「今日はもう帰るね。明日はエレナ達も連れて来るから、無茶したお説教覚悟しときなさい」

 

「そんな、僕は「わかってる、けどそれでもやり方はあったわ、ダンブルドア先生が簡単に石が手に入る仕組みになんて、するはず無いもの」………それは、そうだったけど」

 

不満そうにしてるハリーを、弟妹にするみたいに抱き締めた後、肩を押して寝かせる。

 

「でも、頑張ったわハリー、あなたは自慢の教え子で、私の自慢の友達よ」

 

「ありがとう、ミリィ」

 

お礼を言うハリーに微笑んで、保健室から出る。出口にダンブルドア先生が居て、私にウィンクをして中に入っていった。

 

「あの人、私がこのタイミングで出てくるのを、まるで予想してたみたいね」

 

ダンブルドア先生の事を、少し不気味に思いながら、この後の事を考える。マダム ポンフリーは、ダンブルドア先生が入って行ったから、多分話は通ってると思うから、私からは言わなくて良いわね。

 

それじゃあ夕飯食べて、シャワーを浴びた後は三人に目が覚めた事を言って、その後はギネヴィアが企んでる事を止めないと、このままじゃ理事会にまで説得しに行くつもりだろうし、実際に手紙を出してるし。

 

「はぁ、平穏は無いのかしら、この学校」

 

たまにはゆっくりしたいのに。




次は後日譚とか、今回の事件の解説回みたいな感じのを投稿しようか、それとも幕間の話を入れるか、どうしましょ。


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幕間
エレナ・スミスと夏休み


遅くなって申し訳ない、夏休み明けから勉強量がアホみたいに増えまして、時間が取れなかった次第です(言い訳)
今回の幕間は2話構成の模様。


ハンカチ持った、ティッシュ持った、サンドイッチはバスケットに入れてあるし、ポケベルもちゃんとある。

 

服はお気に入りのワンピースに麦わら帽子だし、髪型も今日はライラみたいにストレートで、一応ヘアゴムもある。ママからもらったポンドのお小遣いと、ユニコーンのバイトでもらった10ガリオンのプリペイドカードもお財布にちゃんと入れてあるし、杖もお財布と一緒にカバンに入れてあるし、これで忘れ物は無いよね?

 

「エレナ、そろそろ時間よ………本当に暖炉から来るの?」

 

「パパ魔法見るの初めてだ、ワクワクしてきたよ」

 

セドリックは飛行煙突粉(フルーパウダー)で来るって手紙で言ってたから、パパとママが魔法を見るのが楽しみでそわそわし始めてる。何かミーハーみたいでちょっと恥ずかしい。

 

「もう、パパもママもそわそわしないでよ、セドリックに呆れられちゃう!」

 

これじゃどっちが親か分からないじゃない!私がそう言って二人に怒ってると、暖炉が一瞬緑に光って、セドリックが暖炉に現れた。

 

Tシャツにパーカー、ジーンズにベースボールキャップ、ショルダーバッグを肩にかけて大分オシャレに決めてる。

 

「エレナ、汽車以来だね、久しぶり」

 

「久しぶりって、未だ一週間でしょ?でも私も会えてうれしい」

 

セドリックと抱き合って、一週間振りにセドリックと話せて、テンションが上がってると、ママがニヤついてるのが視界の端に見えて、慌てて離れる。

もう、ママに見られちゃった、家に帰ってきた時絶対からかわれるわ。

 

離れた私を、寂しそうに見てくるセドリックに、可愛さでまた抱き付きたくなる気持ちを抑えて、ママとパパを紹介する。セドリックその仕草反則だよ、悶え死にさせる気なの?

 

「セドリック、私のママとパパよ」

 

「初めましてセドリック君、会えてうれしいよ、何でも優秀なスポーツ選手だそうじゃないか」

 

「自分なんて未々です、エレナに捨てられないか不安で一杯ですよ」

 

「もう、セドリック!」

 

そんな事考えてた何て酷いわ、捨てるなんて有り得ないもの!!私は本気でセドリックが好きでッッッ

 

「はいはい、落ち着きなさいエレナ………セドリック君、私がこの子の母親よ。この子は家だと、友達や学校の事よりもあなたの話をするんだから、そんな不安に感じなくても、あなたが真摯にこの子との事を考えてくれれば、この子はちゃんと答えてくれるわよ」

 

ね、エレナ?って笑顔で聞いてくるママに、家での事がバレて恥ずかしさでうつむきながら、うなずく。

 

セドリックに重いとか思われたら嫌なのに、何でそんなこと暴露するのよ、恥ずかしくてセドリックの事見れないよ。

 

「ありがとうございますお母さん。エレナも、そんなに思ってくれるなんてうれしいよ」

 

うぅ、クさいセリフで微笑まないでよ、ドキドキすれば良いのかツッコミすれば良いのか分かんないでしょ、バカ。

 

「……私がセドリックを捨てるなんて、絶対無いから」

 

「ありがとうエレナ、僕も君を絶対離さない」

 

耳元で囁かれて顔が真っ赤になるのが分かる、何でこんなクさいセリフばっかり言うのよ、セドリックって結構格好付けよね、実際様になってるし格好良いから何も言えないよ。

 

「仲が良いみたいで安心だ、これはエレナの荷物、持ってくれるね?」

 

「勿論です」

 

「それじゃ、気を付けてね」

 

私のお泊まりグッズ一式が入ったピンクのリュックを背負うと、私の手を引いて暖炉の中に入る。

 

「確り発音するんだよエレナ」

 

バックから取り出した袋に入ってた飛行煙突粉を私に渡してくるセドリックにうなずく。

 

「分かってる。ママ、パパ、行ってきます」

 

「それでは失礼します、また明日………せーの」

 

「「ディゴリー邸へ!!」」

 

粉を足下に落として叫ぶと、緑の炎が燃え上がって、セドリックのパーカーの裾を思わず掴む。

 

驚きで目を丸くしてるママとパパを見ながら、視界がグルグルと変わって、気付いたら目の前にいたママとパパが、知らない男の人に変わってた。

 

「やぁ、君がエレナちゃんかい、ようこそセドリック邸に、狭いし男所帯だから不便だろうけど、歓迎するよ」

 

「今日は一日お世話になります!」

 

男の人はセドリックのパパみたいで、握手をして私の事を歓迎してくれた。

 

「父さん、今日は仕事って行ってなかった?」

 

「有給取って直ぐに戻ってきたよ、息子が彼女連れてくるんだ、間違い犯さないように見張らないとな」

 

二人が話してる間、部屋を失礼にならないように見てると、確かに男所帯みたいで、片付けてるんだろうけど部屋の隅埃っぽいし、物が多くてごちゃっとしてるけど、生活感があって暖かい部屋ね。

テーブルの上のチェスだったり、セドリックのパパのらしき経済新聞と一緒にあるセドリックのクィディッチの雑誌だったり、二人の仲が良いのがよく分かる。

 

「父さんはもう少し息子を信用するべきだ」

 

「お前はもう少し自分の我慢の無さを知るべきだ」

 

言い合いながらも笑顔の二人を見て、少し羨ましくなる。うちはパパもママも、仕事で帰ってこない日が多いから……この部屋から二人一緒の時間が多いって感じて、羨ましいわ。

 

「これ、作ってきたんです、良かったらお昼に食べませんか?」

 

「おお、ありがとうエレナちゃん、今日は出前でも頼むかと思ってたんだ。うれしいよ!」

 

「父さんは出前でも良いんじゃない?僕はエレナと二人で食べるからさ」

 

折角の二人っきりを邪魔されたように感じてるのか、セドリックが拗ねたように言うのが分かって、可愛いくて仕方無い。

 

「もう、お父さんに意地悪言わないの。私はセドリックが仲良くしてくれる方がうれしいもん」

 

「ほら、エレナちゃんもこう言ってるだろう?」

 

「分かった分かった、僕の負けだ」

 

「あ、でも三人だと量が少し足りないかも、簡単なのなら作れますから、キッチンをお借りしても良いですか?」

 

「それはありがたい、材料はすきにして良いからね」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

セドリックのパパに案内されたキッチンは、何と離れにあった。渡り廊下で繋がっているから外に出る必要は無いけど、物が少なくて、あまり使われてないのが分かる。

 

キッチンの床下から行ける氷室を覗いて、食材を確認する。卵が沢山にベーコンブロックも有るけど、野菜が少ない、ズッキーニとメロウはやたら有るわね………うーん、じゃがいもとニンジンも少し有るから、ポトフにしよっかな?

 

調味料は沢山有るのね。マグルのコンソメとカレー粉が有るのはありがたいわね、スープ系ならサンドイッチと合うし、具沢山にすれば男の人もお腹一杯になると思う。夜はカレー粉を入れてスープカレーにして、パンと一緒に食べれるようにしましょうか。

 

「これなら、夜の分も作れそうですね」

 

「本当かい!?ありがとうエレナ、父さんの料理は大味でね、ホグワーツの味を知ると物足りなくなるんだ」

 

「こらセドリック、お前なんて簡単なポトフすら作れないだろうが」

 

おおっと、ホグワーツレベルをご所望で?これはプレッシャーね、頑張りますけど期待はあまりしないで欲しい。

 

「11歳の手作りに、あまり期待しないでくださいね?」

 

私が言うと、セドリックのパパが朗らかに笑って、セドリックが申し訳無さそうにしてる。

 

「ハッハッハ、それは分かってるが、何分誰かの手作りを食べるのは久し振りだ、ついウキウキとしてしまうよ」

 

「……父さんっ、まだ昼まで時間有るだろう?エレナと外に行ってくるよ」

 

そうだった、今日はセドリックの家の近くでピクニックの予定だった、お昼前には帰る事になったけど、バスケットは氷室に持ってきてたし、ここに置いといてお昼にポトフと一緒に三人で食べる事にしよう。

 

「あぁ、それは良いアイディアだ!荷物は部屋に運んでおくから、近くの森で遊んでくると良い。お昼前には帰って来るんだよ」

 

「はい、ありがとうございます、行こうセドリック」

 

セドリックのパパにお礼を言って、セドリックと手を繋いで外に出る。

 

「うわあ、スゴい」

 

「夏はスゴいだろう、家の収入源だよ。屋敷しもべに収穫してもらってるんだ、マグルの方に売ってるんだよ」

 

外に出ると、一面のマロウ畑がずっと先まで続いてて、思わず圧倒される。

 

「最近はズッキーニも始めてね、休みの日はよく市場までの手伝いに駆り出されるんだ」

 

父さんは魔法省の仕事が有るから、僕と屋敷しもべに雇った人で、提携してるスーパーとかレストランに野菜の買い取りをしてもらってるんだよ。セドリックがそう言って、照れたように頭を掻いてる。

 

へぇ、そうなんだ。農家って大変そうね。

 

「セドリック、お家の手伝い大変じゃない?」

 

「大変だけど、うちの野菜を美味しいって言ってくれるのうれしいからさ、つい頑張っちゃうんだ」

 

嬉しそうに話すセドリックを見て、私も農家に興味が出てきた。

 

「そっか……ねぇ、私もホグワーツ卒業したらここでお手伝いしても良いかな?」

 

「もちろん!君が良いならずっとここに居ると良いさ、僕も父さんも歓迎するよ」

 

畑の管理は大変だけどね、そうおどけたように言って笑うセドリックと、二人して笑いあって近くの森まで歩いた。

 

「この先の森は、無花果が美味しいんだ、時期は厳しいけど、今なら野いちごもあるよ」

 

野いちごに無花果、プライマリースクールの時はガールスカウトのキャンプの時に食べたっけ、甘酸っぱくて美味しかったな~。

 

「本当?私無花果好きなの」

 

「それは良かった、今の時期が一番美味しいんだ、これとか食べ頃さ」

 

森の入り口辺りに生えてる未だ背の低い無花果の木から、一つ取って渡してくれた。受け取った実を割ってかじると、とても濃くて、それでいてスーパーの物よりも野性的で、何処か癖になりそうな雑味がある味がした。

 

「あむっ……美味しいー」

 

野性的な濃い味に、思わず感想が口に出てくる。

 

「だろう?僕はここの無花果が好きでね、暇な時はここに来て空を見ながら無花果をかじってるよ」

 

今日は青空でいい空模様だと言いながら、無花果をかじるセドリック。

 

「セドリックって格好付けだよね」

 

「君が飾らないだけだ……口もと、滴れてるよ」

 

「え…ッ!?」

 

私が口もとに手を当てるよりも早く、セドリックが口もとを指で拭ってくれた。しかも舐めてるし、恥ずかしいよセドリック。

 

「エレナの奴甘いね、僕のはちょっと渋いや」

 

「恥ずかしいから、あんま自覚させないで」

 

「???」

 

男の子ってそこら辺気付か無いよね、これじゃ私が一人で恥ずかしがってるだけだもんなぁ、お返ししないとね。

 

「セドリック、なら私のも食べてみる?あーん」

 

「え、あ、ありがとう。その………あーん」

 

照れてる照れてる、可愛いなぁもうっ!

頬を赤くして、目何かも瞑っちゃって私の無花果をかじるセドリックに、もっといたずらをしたくなってきた。

 

「もう一口食べる?」

 

「え、いや僕のをエ「食べるよね!」……うん、食べさせてもらって良い?」

 

「もちろん!はい、あーん」

 

また目を瞑っちゃってるセドリックがかじろうとしてる無花果をちょっとずらして、私の指を噛ませてみた。

 

「あーんッ!?」

 

イケメンに甘噛みされて、何かもうこのシチュエーションを思い出すだけで、後一年は勉強頑張れる気がしてきた。今ならロンを相手にチェスで勝てるかもしれない。

 

「ごめん、痛くなかった!!?」

 

慌てて謝って、私の手を掴んで指に怪我が無いか確認するセドリック。歳上の筈なのに仕草が可愛いなもう、胸の高鳴りがスゴい、セドリックにこれ聞こえてるんじゃないかな!?

 

「大丈夫だよ、セドリック優しかったし、でも私の落ちちゃったから、セドリックの食べさせて?」

 

驚いて手を掴まれた時に、無花果が落ちちゃったから。それに、セドリックの私のとは味が違うみたいだから、食べてみたい。

 

「あ、うん、怪我が無いなら良かったよ、ゴメンね。はい、あーん」

 

躊躇いがちに差し出されたセドリックの無花果を、気持ち小さめにかじる。

 

「あーん」

 

私が食べてたのよりも渋い味がして、ちょっと顔をしかめる。

これはこれで、驚いたけど癖になりそうね。

 

「美味しい?」

 

「癖になりそう」

 

あ、セドリックが私がかじった所食べた、間接キスじゃん、ちょっと照れるんだけど。

 

セドリックが恥ずかしがってるのを見るために食べさせ合いっこしたのに、これじゃ私の方が恥ずかしいよ。

 

「ねぇセドリック、この森って動物は何がいるの?」

 

「動物か、ここはアイルランドの辺境でね、今の時期だとキツネとかウサギとか、アナグマもたまに見掛ける位かな、小動物が多いよ」

 

へぇ、ウサギ、ウサギかぁ、見てみたいなぁ。

二人してしばらく散策しながら歩いてると、森の向こうに川が有るのが分かった。

 

「おっきい川」

 

「鮭が釣れるんだ、冬の御馳走だよ」

 

へぇ、スゴい、セドリックって釣りも出来るのね。

 

「結構深いから、中には入らないでね」

 

「うん、分かった」

 

近くにあった平たい石を拾って思いっきり投げる。

二段跳ねた石は、川の手前の方で沈んだ。

 

「僕もやろっかな……そりゃ!」

 

セドリックが投げた石は、四段跳ねて川の中央位まで進んだ。悔しいわね。

 

「負けないよ~、えい!」

 

「水切りで女の子に負ける訳にはいかないな」

 

さっきのでコツが分かったからね、その顔を悔しさで歪ませてあげる!!

 

~20分後~

 

「あぁもうっ、何で勝てないのよぉ!!!!」

 

地団駄を踏む私を見て、セドリックが笑う。

 

「水切りは石を回転させるのも重要だけど、何よりも遠くまで投げるパワーが必要なんだ。筋力で年下の女の子に負ける訳にはいかないよ」

 

うぅ、最初に言ってた事はそういう事だったのね、納得はしたくないけど。

 

「専用の呪文作ってやる」

 

物質移動呪文(ロコモーター)突き飛ばし呪文(デパルソ)をギネヴィアとライラに改良してもらって、水切り用の呪文作ってやるんだから!!

 

「どれだけ悔しかったのさ。そろそろ時間だから、早く戻ろう」

 

呆れたように言うセドリックに、後一回だけやろうとねだる。次こそは勝てるから、ギャフンと言わせてやるんだから!

 

「え、後一回だ「投げすぎて腕プルプルしてるのに、これ以上は無理だよ」うぅ、次は勝つからね!ホグワーツの湖で絶対リベンジするからね!!っと」

 

「受けて立つさ、ほら、足元気を付けて」

 

プルプル震える右腕を庇ってたら、足元がおろそかになってふらついた。セドリックがふらついた所を受け止めてくれて、セドリックの胸に抱き止められてる形になった。

 

可愛い所も多いけど、セドリックってやっぱりイケメンで格好良いよ、紳士だしね。

 

「ありがとうセドリック」

 

「怪我は無いかい?」

 

「大丈夫よ、セドリックが受け止めてくれたから」

 

そう言って平気アピールをするためにセドリックから離れようとするも、セドリックに抱き締められて動けない。どうしたのセドリック?

 

身長差で胸元から上目に覗き込む形になった私を、セドリックは少し考えるように見てる。

 

「セドリック?」

 

「エレナ、家に帰ったら料理だし、今は休んだ方が良いね。………ビラーグ!!」

 

セドリックがそう言うと、私が何か言う前に森に向かって叫んだ。

 

誰かの名前?叫ぶだけで聞こえる程近くに誰か居たの?二人っきりだと思ってたのにちょっと残念。

 

「お呼びでしょうか、セドリック坊っちゃん」

 

叫んでから一、二分程で、近くに妖精の姿現しで屋敷しもべが現れた。ボロい作業服を来た屋敷しもべで、とても気難しい表情をしてるわ。

 

「僕の彼女が疲れててね、君に浮遊術で家まで運んで欲しいんだ。くれぐれも丁重にね」

 

「え、でも「良いから、腕だけじゃなくて、ここまでずっと歩き通しで足もパンパンだろう?肩もダルそうだ」………ありがとうセドリック。ビラーグもありがとう」

 

贅沢言うなら、セドリックにおんぶしてもらうのが良かったんだけど、セドリックも疲れてるだろうから、気遣ってくれるだけでも嬉しい。

文句を言わずに運んでくれるビラーグにも、先にお礼を言っておく。

 

「勿体無きお言葉です、エレナお嬢様」

 

私にしかめっ面でそう言うと、手を降って近くの切り株を魔法で上から少し厚みを持たせて一枚輪切りにすると、私の目の前にそれを浮かべた。これに乗せてくれるらしい。

 

一人で腰掛けるには少し大きい木の板に座ると、ビラーグがセドリックに話し掛けた。

 

「セドリック坊っちゃんは如何なさいますか」

 

「僕はデザートの果物を摘んで行く事にする、ビラーグはエレナを送った後、いい時間だから他の屋敷しもべと一緒に昼休憩をしてくれ、雇った人にもそう言うように」

 

「かしこまりました、失礼いたします」

 

ビラーグが先導して森を進んで、後ろを私が運ばれるみたいだ、少し位置が移動した後、後ろを振り返ってセドリックに手を振ると、セドリックも笑顔で手を振ってくれた。

 

「エレナお嬢様、セドリック坊っちゃんとはホグワーツで?」

 

少しの間無言だったけど、ビラーグが気を利かせて話題をふってくれた。

 

「ええ、彼の二つ下で、私とても幸運だわ」

 

聞き上手なビラーグに促されて、学校でのセドリックとの話をしてると、森が段々と浅くなってきた。

 

「………それで、私はセドリックを意識し始めたの」

 

皆はハロウィンのチェスの時に意識し始めたと思ってるけど、セドリックとはホグワーツ特急に乗る時に助けてもらった時から、ずっと意識してるのよ。

 

それを知ってるのは、その時に会ったライラだけで、セドリックも手助けをした新入生の一人としか思ってないみたいだから、チェスの時が初対面だと思ってるのよね。

 

あの時、ママとパパとはぐれて、迷子になって9と3/4番線に行けなかった私を見付けてくれた時から、セドリックの事が気になってたのよね。

 

「それはそれは、セドリック坊っちゃんは繊細な御方です、エレナお嬢様の様な快活で思慮深い人が側に居て下さるのは、セドリック坊っちゃんにとって掛け替えの無い幸運でございます」

 

「私は落ち着きが無いだけよ」

 

現にキングス・クロス駅で迷子になってるし、あそこは広いから仕方無いかもだけど、それでもプライマリースクールの頃はじゃじゃ馬って呼ばれてたからね。

 

「いえいえ、エレナお嬢様は思考を重ねた上で、周りの事を理解してから、善意で動ける人でございます。ビラーグは妖精の中でも長く生きていますので、少し話せばどんな人なのかは分かるのです」

 

あら、買い被りよ。私は皆と仲良くなりたいから、誰からも嫌われたくないから、八方美人をしてるのよ。ビラーグは私の事を分かると言ったけど、ちっとも合ってないわ。

 

「………」

 

「どうぞこれからも、セドリック坊っちゃんのガールフレンドで居て下さい、ディゴリー家の屋敷しもべ一同、エレナお嬢様が奥様になられるのを、ビラーグは楽しみにしております」

 

私が何て返答しようか迷っていると、森を抜けてもう目と鼻の先にディゴリー邸が見え、ビラーグが私の言葉を待たずに話を続けた。

っていうか奥様って………魔法界だと許嫁とか普通にあるみたいだし、魔法界では小さい時から相手の家にそう扱われるものなのかな?

 

「私何かじゃ、セドリックの横に立てるか不安だけど」

 

「それを決めるのはエレナお嬢様だけではありません」

 

そう言ったビラーグは、深く頭を下げると、姿現しで消えてしまった。

 

「お、エレナちゃんか!」

 

一人ディゴリー邸の前で立ち尽くしてたら、玄関の扉が開いて、セドリックのパパが作業服姿で出てきた。

 

「どうも、セドリックはデザートに果物を摘んでから戻るみたいです」

 

「そうか、これからお昼の準備かい?私は収穫した野菜の箱詰めをしなきゃいけなくてね、すまないがお昼の時間になったら呼んでくれ」

 

「あ、分かりました………ええっと」

 

私が何て呼べば良いのか考えてると、セドリックのパパが冗談を飛ばしてきた。

 

「カーラを付けておくから、何かあったらカーラに相談してくれれば良い。私の事はそうだな……義父さんとかどうだい?」

 

「いえ、そんな!私は未だ11ですよ!?」

 

「親の欲目もあるが、セドリック程の好条件も無いと思うよ?私としても、可愛い娘が増えるのは大歓迎だからね、何ならO.W.L.試験(フクロウ)が終わったら学校を辞めて、うちに花嫁修業しに来てくれても良いんだよ」

 

「いえ、友達も居ますし、私変身学に興味があって、動物もどき(アニメーガス)になってみたいんです」

 

「動物もどきとはまた、あれはN.E.W.T.試験(イモリ)レベル何かよりもずっと難しいものだよ?」

 

調べたら一応、歴代最年少は12歳、2年生で動物もどきになってるみたいだし、マクゴナガル先生が言うには、在学中に動物もどきになれる生徒はちらほらいるみたいだし、私もなりたいんだよね。今はマクゴナガル先生から言われた条件の、守護霊呪文(エクスペクト・パトローナス)盾呪文(プロテゴ)三種の勉強中。

 

≪これくらい軽く使える魔力操作が出来なければ、動物もどきなど夢のまた夢です≫

 

動物もどきの理論を説明された後に、マクゴナガル先生が、守護霊呪文で猫の群れをだして芸をさせながら言うのを見て、同い年の中では呪文学や変身学が得意だと思ってた自信が粉々になったんだよね、マクゴナガル先生マジ天才。

 

「マクゴナガル先生の課題をクリアすれば、動物もどきになるための勉強を、許可してくれるみたいですから。順調に行けば四年生で動物もどきの勉強を始められます」

 

そこから何年掛かるかは分からないけどね。

 

「そうか、それは頑張らないとね」

 

セドリックのパパは私の頭を軽く撫でた後、マロウ畑の奥にある建物の方に歩いて行った。

 

「さて、私もお昼頑張らないとね」

 

腕まくりの仕種をして気合いを入れると、離れの方に向かって歩いた。



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エレナ・スミスと夏休み終

どうも、私です(大遅刻)
次の投稿は夏になりそうです。もういっそ開き直ってハリポタ祭りと同時期に投稿で良いっかなって(良くない)
アンケートの為に年末に投稿してみた(違う、そうじゃない)
アンケートあるんで、押してってね!


「サンドイッチもポトフも美味しかった、ご馳走さまエレナちゃん」

 

「スゴく美味しかったよ、お代りしたのは久し振りだ」

 

二人ともお腹が空いてたみたいで、私の作ったポトフを何度もお代わりして食べてくれた。サンドイッチも直ぐに無くなったし、作った側としては嬉しいかぎりね。

 

「ありがとうございます。カーラが手際良くて、私自身鍋で煮込むだけでしたから、彼女には感謝してます」

 

カーラが居なかったら、大食漢二人分の野菜やベーコン切ってる間に、日が暮れちゃう所だったからね。

 

何とか鍋の中身が尽き無くて良かったわ、夜は残りに継ぎ足しをして、カレールーを入れて具材一杯のカレーにするつもり、メロウもズッキーニもあるのに、ピクルスが無いのが少し残念だけど……チャパティならお母さんが焼いてるのを手伝った事があるから、ナンの変わりに焼くとして、後一品二品欲しいわね。

 

「カーラは料理出来たのか」

 

セドリックが意外そうな顔で呟く。

 

「そんな、恐れ多くございます。私めは食材を切っただけで、後は全てエレナお嬢様がなさいました」

 

給仕に徹していたカーラが反応した。カーラはおんぼろな、リボンの付いた貫頭衣を身に付けた屋敷しもべだ、とても丁寧な手際で下ごしらえをしてくれたのを、私は覚えてる。てっきり私はカーラが料理を作ってるのだと思ったけど、違うのね。

 

「それでも大助かりよ、ありがとうカーラ」

 

「私めなどに勿体無きお言葉、ありがとうございます」

 

「この家では、屋敷しもべには畑の管理しかさせていなかったからな、たまには良いかもしれない」

 

はぁ、あんだけ広い畑だもんね、管理するだけでも一苦労だし、仕方ないのかな?

 

「この後はどうしようか、夕飯までかなり時間がある」

 

食後のお茶を飲んで言うセドリックのパパに、勉強道具を持ってきてた事を思い出した。お家デートなら、勉強は鉄板よね!

 

「私、セドリックとお勉強したいです。盾呪文(プロテゴ)を練習してるんですけど、上手くいかなくて」

 

「セドリック、お前は教えられるか?」

 

「盾呪文だけなら……他には何を練習してるんだい?」

 

守護霊呪文(エクスペクト・パトローナス)と、炎上呪文(インセンディオ)に、変身術で石ころをマホガニーのテーブルに変えるようにも言われたし、後はそうだ、ダンブルドア先生がピープスに使ってた呪文で、静止呪文(アレスト・モメンタム)も覚えてみたいです!」

 

あの呪文、ピープスに効果覿面で、私これだっ!って思ったんだ。ロンのラッキースケベに対抗できる呪文ってさ、つまりはロンの動きを止めれば良いのよ!

 

「エレナ、聞き間違いじゃなければ、N.E.W.T.試験(イモリ)レベルの呪文ばかり何だけど……静止呪文なら三年生の内容だし、教科書もあるから教えられると思う」

 

聞き間違いじゃないわ、マクゴナガル先生が言った、動物もどき(アニメーガス)よりも難易度の低くて、今の私じゃ使えない呪文だもの。

 

「君は将来、優秀な魔女になれるね」

 

「実技科目は楽しいんです、でも座学はちょっと苦手」

 

私がそう言うと、二人ともそれはそうだと笑った。

私は体を動かす方が好きな人間だと思われてるみたいね。読書も好きだしチェスも好きだし、結構インドア派だと思ってるんだけどなぁ。

 

「セドリック、今日はエレナちゃんに呪文を教えてあげなさい、もし本当に全て覚えたなら、エレナちゃんは優秀な闇祓い(オーラー)になれる」

 

「闇祓いか……エレナがなるなら、僕は一足先に闇祓い局の局長でも目指そうか」

 

エレナと一緒に働けるなら、それはとても楽しいだろうから。そう言って笑うセドリックの言葉に、私も想像してしまった。

 

≪セドリック局長、この前の案件の報告書です≫

 

≪あぁお疲れ様……………ここ、間違っているぞ?≫

 

≪え!?あ、ごめんなさい!!直ぐに修正を≫

 

≪この間違い、何度もしてるだろう。覚えの悪い部下には、お仕置きをしないとな≫

 

≪あぅっ………セドリック局長、ここじゃ不味いで≪だからお仕置き何だよ≫うぅ、そんな、恥ずかしいわ、セドリック≫

 

≪僕に身体を委ねて、さぁ≫

 

「エレナ?おーい」

 

あぁ、良い、良いわこの関係、職場のイケメン上司にちょっと無理矢理に迫られて、皆が昼働いてるオフィスで、普段仕事をしてる机で、何かもう考えるだけでスゴくドキドキする。

 

「エレナ、大丈夫かい?顔が赤いしボーッとしてるし、熱でもあるのかい?」

 

普段家だとタメ口で、仕事の時だけ敬語だけど、迫られて段々と口調が崩れてきて、セドリック局長も最初はお仕置きだから意地悪な事をしてくるけど、でも最後は優しく抱き締めてくれて…………あぁ、この妄想で後一ヶ月はセドリック成分補充出切るわね…って、あれ?セドリックのパパが居ない?

 

「エレナ、エレナ!」

 

「キャッ!!どうしたのセドリック!?」

 

セドリックに肩を高まれて揺さぶられて、思わず驚いて大きな声を出しちゃった。

 

「父さんが畑に行ってからいきなりボーッとし始めて、何も反応しないから心配したんだよ!」

 

あれ、セドリックのパパ畑仕事に行っちゃったんだ。どうしよう、最後の方記憶が全然無いよ、何か失礼な事してないよね?

 

「ちょっと考え事してて、ごめんセドリック。セドリックのパパに失礼な事とか、私してないよね?」

 

「それは大丈夫だけど…本当に考え事だけ?疲れてないかい?」

 

心配してくれるセドリックに、まさか妄想が捗ってトリップしてました何て言えないから、笑顔で大丈夫だとゴリ押しする。

 

「午前中ずっと歩きっぱなしだったから、足は疲れてるけど、それよりもセドリックとのお勉強が楽しみ!」

 

「……盾呪文は難しいからね、先に静止呪文を教えてあげるよ。ついてきて。カーラ、後片付けを頼む」

 

「かしこまりました、セドリック坊っちゃま」

 

セドリックの言葉にカーラが返事をしてお昼御飯の後片付けを始めると、セドリックは私の手をとって歩き始めた。

平屋だけど大きく、中庭まである屋敷を歩いて、セドリックは廊下の途中で足を止めた。どうやらここがセドリックの部屋みたい。廊下は窓を大きくとっていて、一部の壁は簡単な鍵付きのガラス戸に変えられていて、外と自由に行き来出来るようになってる。

 

肝心なセドリックの部屋は、扉に簡素なネームプレートが付けられた木目がキレイな扉を抜けると、キレイに整頓された本棚に、クィディッチの柄のベッド、勉強用の木製の机と椅子が一つずつ、壁に埋め込まれてるタイプのクローゼットに、大きめの窓がある部屋。思ってたより物が少ないのに、少し驚いた。

 

「あんまり物が無いね」

 

「寝るか勉強するためにしか使わないから、普段は家に居る時はずっとリビングに居るんだ」

 

「そっか、でも何か出来る男の子って感じの部屋だね、スゴいよ」

 

私がほめるとセドリックは照れた様に髪を掻くと、私を椅子に座らせて本棚にある教科書を手にとって開いた。

 

「照れるな、エレナは椅子を使って……それじゃあ早速、最初は静止呪文から始めようか」

 

セドリックの理論を聞きながら、杖を振る。セドリックは分かりやすく教えてくれるんだけど、この呪文、上級呪文みたいで、中々上手くいかない。杖も反応悪いし。

 

「むぅ、結構難しい。魔方式が複雑で、何でこんなに遠回しで変数が多いの?」

 

「この呪文はコツとかよりも馴れが大事でね、僕が一度お手本をしようか、静止呪文」

 

セドリックが持ってた教科書に静止呪文を掛けると、私に教科書を渡してきた。

 

「ページをめくってごらん」

 

「あれ、動かない、~~~ッッッ!!!!…っはぁ、はぁ、石にでもなったみたいに硬い、これが静止呪文」

 

「変数の部分は感覚で設定出来るものが多いから、対象と持続時間の変数だけを強く意識して」

 

感覚で設定ね、上級呪文だと結構多いやつで、魔方式に組み込まれてる、脳内の言語化出来ていない表層心理から情報を抜き出す部分で、魔方式に使われる変数を入力するもの。

 

これのお陰で、上級呪文って呼ばれる呪文は術者の脳への負担が強いから、強力で魔力の消費も多いけど、その分効果が絶大なものばかり。

 

「分かった、もう一回頑張ってみる!」

 

対象と持続時間の変数を意識して、枕に杖を振る。

 

「静止呪文」

 

一度目は不発、杖からも魔力の光が出なかった。

 

「静止呪文」

 

二度目は白い魔力の光が出たけど、枕まで飛ばずに途中で弾けた。

 

「……静止呪文(アレスト・モメンタム)ッ!」

 

三度目の呪文は、透き通った半透明な魔法の光が、枕に当たった。枕をセドリックが触って確認すると、笑顔で私の事を抱き締めてくれた。

 

「成功だ、スゴイよエレナ!」

 

「やった、ありがとうセドリック!セドリックのおかげね!!」

 

私もセドリックを抱き締めて二人で部屋の中をグルグルと回ると、疲れてそのままベッドにダイブした。

 

「これで呪文は一つ覚えたね、次は盾呪文を覚えようか」

 

「さんせい!私、盾呪文苦手で、何度やってもダメで、ミリィは反復練習だって言うし、ギネヴィアは理論の講義を始めるし、ライラは私より感覚派だし」

 

ライラ、普段は理論的な人間なのに、呪文ってなると途端に感覚で何とかするのよね、フィーリングが重要だとか言って、説明の半分以上擬音だし。

 

「一回休憩しようか、もう三時だからね。飲み物を持ってくるから」

 

「それなら私も手伝うよ」

 

「エレナの休憩なのに、手伝ってたらおかしいでしょ、ここで待ってて」

 

手伝おうとする私にそう言って、セドリックは部屋を出た。

待っててと言われても、この部屋物が無いし、暇なのよね。

 

「そう言えば、ママが彼氏の部屋に来たらクローゼットの端にある箱の中と、ベッドの下と、本棚の分厚い本を調べなさいって言ってたっけ?」

 

何を探すのか聞いてないけど、面白い物が見つかるって笑ってた。後は、見付けられても怒らない人相手にしなさいとも。

 

正直、何が見付かるか分からないから、セドリックが怒るか分かんないんだけど、暇だしやろっかな。

 

「最初は言い訳の聞く本棚からっと」

 

片っ端からペラペラめくってみるけど、どれも普通の本だし、いかにも危なそうなのは背表紙に付箋で危険(Danger)って書かれてるから、そこには触れないでおく。ギネヴィアの話だと、正しい手順で開かないと本が襲ってきたり、呪いを掛けられたり、さらには本の中に閉じ込められる何て事もあるみたい。

 

≪まさかD(ダンジョンズ)&(&)D(ドラゴンズ)を体験出来るとは思わなかったですわ、もう二度とスライムには遇いたくありませんの≫

 

あのギネヴィアが、珍しく嫌な表情で拒絶するくらいには、危険な書物らしい。

因みにその本のタイトルは『RRPG(リアル・ロール・プレイング・ゲーム)マーリンの冒険~魔法使いと赤竜』魔法界だと大人向けのゲームとして、マイナージャンルのものだ。あまりにリアル過ぎるせいで、ゲームオーバーや鬱イベントが原因で精神疾患持ちを量産して、魔法省に禁書指定された禁書である。ギネヴィアはテーブルゲームマニアのマクゴナガル先生を説得して二人で休日に遊んだらしい。翌朝に二人がゲッソリとした顔で食堂でバタービールを飲んでたのを覚えてる。

 

「面白いの見付からないなぁ、次はベッドの下ね」

 

粗方本棚を調べた後、ベッドの下を覗いてみる。トランクが一つ置いてあるだけね、あのトランクもホグワーツ特急の時に見たから、特に面白そうな物は無さそうだし。

 

「ならクローゼットね」

 

「おまた………何してるんだい?エレナ」

 

早速クローゼットを開けようと取っ手に手をかけた所で、セドリックが部屋に入ってきた。危なかった、後ちょっと遅ければ言い訳も言えなかったわね。

 

「暇だったから、ちょっと探検を」

 

「はぁ、別に構わないけど、クローゼットには面白い物なんて入ってないよ」

 

セドリックはティーポッドから紅茶をカップに注ぎながら言うと、私にベッドに座るように言って、カップを渡した。

 

「はぁ、落ち着く」

 

久しぶりに紅茶を飲んでホッと一息吐くと、セドリックがクッキーが入った缶を見せてきた。

 

「クッキーもあるから、食べよう」

 

「ありがとうセドリック」

 

クッキーを一口かじると、しっとりとしたやわらかい食感にチョコチップのアクセントが入ったソフトクッキーで、ストレートの紅茶とよく合う。

 

「クッキーも美味しい」

 

私の言葉に、セドリックが苦笑しながら言う。

 

「ミリィとライラのクッキーとは比べられないけどね」

 

「あの二人のクッキーはなんかもう別枠だよ。クッキーっていう名のモンスター」

 

一口サイズで軽い食感だから、気が付いたらもう一個口に入れてる何てことはしょっちゅうね。終いにはクッキーが無いと、お茶の時間が何か物足りないって思うんだもの、無意識に体がクッキーを欲するレベルってもうヤバいよ。

 

「じゃああの二人のクッキーが大好きなハッフルパフの皆は、クッキーモンスターだ!」

 

「それ、マグルの世界のマスコットにいるよ、クッキー狂いのクッキーモンスター!!」

 

二人してクッキー~クッキー~♪って調子外れな歌を歌いながら笑う。

あんな青い毛むくじゃらと同じ扱いなのはちょっと()()だけど、確かに皆クッキー大好きだもんね。

 

その後も二人で色んな事を話した。

最近ハマった趣味だったり、後はお互いの家族自慢とか、未来の事も話した。と言っても大した事じゃないけど、精々デートに行きたい場所だったり、お互いの夢だったりね。

 

「トヨハシテング、強いよね、特にチェイサーが」

 

反面花形のシーカーは他のチームに比べて特徴もなく、各チームのチェイサーと比べると没個性な感じ、影が薄いっていうか、存在感がないっていうか………

 

「いや、シーカーのミチマサは凄いんだぞ?十年以上世界大会の選抜に出てて、一昨年は公式試合でフルシーズンフル出場、なのにブラッジャーに五回しか当たったことがないんだ!!」

 

30時間も箒の上に居て、一度も妨害を食らったことが無いなんて、もはや生きる伝説だぜ?何てテンションを上げて言うセドリックに、もうそれ人間じゃないと思わず言ってしまった。

 

「ジャパンはクィディッチにとってもホットな国なんだ、情熱のあまり負けたら箒を燃やすくらいにね」

 

あの箒、一本買うお金で海外旅行に行けるくらい高いのに、チーム単位で燃やすのもったいないよ普通に。

 

「一緒にワールドカップを観に行こう。次のワールドカップのために、父さんが有給と貯金を溜めに溜めてるんだ」

 

あぁ、節約中だったの……だから二人とも昼食でポトフに入ったベーコンを、競うように食べてたのね。

 

「とっても楽しそう!プロチームの試合、未だ生で観た事が無いから楽しみ!!」

 

「それは勿体無い、スポーツは……クィディッチは自分の目で、身体で感じるのが一番なんだよ!」

 

セドリックはそう言って、長々とクィディッチの魅力や歴史について語った。

クィディッチってすっごく大味なスポーツだけど、その分スリルがあって面白いよねぇ。

でも、スゴい夢中になって話すから、まるでクィディッチが恋人みたいね、ちょっと妬いちゃう。

 

「そんなにクィディッチが好きなら、箒と付き合えば?」

 

「あぁ、ゴメンエレナ。クィディッチの事は好きだけど、君の事はもっと大好きなんだ」

 

私の事を抱き締めて耳元で囁いてくれるセドリックに、ちょっと嬉しくなった。

 

「私も大好きよ」

 

それから二人で、今度はのんびりと盾の呪文の練習をした。

 

「…うーんっ!………もう夕方ね。セドリックのお父さんもそろそろ帰ってくるよね?」

 

二時間位だろうか、外もオレンジ色の空が広がってきて、そろそろお夕飯の支度をしないといけない時間だ。

 

「いつもなら、作業に集中して呼びに行くまでは戻って来ないな、呼ぼうか?」

 

「未だ大丈夫、ご飯作るから待っててね」

 

杖を仕舞って、軽く伸びをしてからカップに残った紅茶を飲み干す。

 

「手伝おうか?」

 

「それじゃあ、少しだけお願い」

 

一緒にお料理とか、何か新婚さんみたいで憧れるよね!セドリックと二人でお料理………うふふ、私今幸せ!!

 

「夕飯は何を作る予定なんだい?」

 

「お昼のポトフに、材料を追加してカレーと、ナンに似せた平べったいパンを作ろうと思ってるんだけど、何か食べたいのとかある?」

 

「もう一品欲しいね、卵で何か作れないかな?」

 

卵かぁ、何かあったかなぁ?

材料が少なくて、卵で男の人が喜べるようなもの………今夏だし、アイスとかどうだろう?物質移動呪文(ロコモーター)でハンドミキサーの代用をすれば、上手くいくと思う、グラニュー糖が無いなら代わりに上白糖を使えば良いかも。氷室の気温をもっと下げられないかな?それか卵液だけでも冷たく………あ、そうだ!

 

「ねぇ、氷結呪文(グレイシアス)って使える?」

 

「出来るけど?」

 

「アイス作ろう!」

 

「良いね、暑い日にピッタリだ!!」

 

その後、物質移動呪文が暴発して、二人して頭から卵を被ったのは、二人だけの秘密になった。




四月位までアンケートするから、じっくり選んでね!!
追記ちらし裏にアンケートの補足用に次回予告風のあらすじだけ書いたから、迷ったら見てね!!

追記 アンケート締め切りました!
秘密の部屋編は2020年夏頃予定です!!


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賢者の石 説明編

アンケート推進のために追加よ、アンケートはエイプリルフールまでの予定になるから、未だの人は投票してってね!


学期末パーティが終わり夜もふけた頃に、私達四人は必要の部屋に三人組を呼んで、今回の件の顛末をお疲れ様パーティみたいな感じで話し合う事にした。エレナ曰く『賢者の石泥棒撃退~チキチキ、三人組インスタントヒーロー大作戦~』の作戦成功祝賀会である。

 

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

 

持ち寄ったグラスに、学期末パーティからくすねてきたボトル入りのジュースを注いで、屋敷しもべにお願いした塩味のクリスプとか、チーズが載ったクラッカーとかの軽食を、七人で囲んで話す。メインディッシュは4号程のミートパイ、ライラのお手製だ。

 

「いやぁ、三人ともスゴいね、まさか『例のあの人』を撃退するなんて。いや、信じてたけどね?改めて考えるとビックリだよ」

 

「運が良かったわ、クィレルがもっと用心深くしていたら、今頃ハリーも私も死んでいたもの」

 

「そんな事言ったら、僕なんて辺り所が良かっただけだぜ?それでも三日寝込んだんだ、もうあんな事したくないね」

 

「ハハハ、本当にね。クィレルの奴も、ヴォルデモートも、正真正銘の化物だったよ」

 

物質移動呪文(ロコモーター)で拷問するなんて、誰が考えたのさ。苦々しい顔でその時の事を思い出したハリーはそう言うと、八つ当たりのようにバリボリとクリスプを口に詰め込んだ。

 

「でもさ、顛末は分かったけど、私正直今回の事件の事、ちゃんと理解してないんだよね」

 

「あ、私も……正直自信無いよ」

 

「なら、詳細をギネヴィアに語ってもらえば良い。こいつは一から十まで知ってるだろう」

 

ライラのその言葉で、六人の視線がギネヴィアに集まる。集まった視線をものともせず、ギネヴィアはジュースを飲んでくつろいでいた。

 

「あら、私に何か?」

 

「今回の事件のこと、一から順番に説明して欲しいの」

 

ハーマイオニーに言われて、ギネヴィアは少し目を瞑ると、私達を一人一人見ながらゆっくりと話し始めた。

 

「まず今回の発端は、約十一年前………ハリーが一歳の時にヴォルデモート卿がハリーに撃退された所から始まります」

 

そう言ってハリーを見るギネヴィア。目で説明を促されたハリーは、僕はダンブルドア先生とハグリッドから聞いた話だけどと前置きして、当時の事を語る。

 

「魔法によって、秘密を知っている人間以外進入することが出来なかった家に、ヴォルデモートが襲撃してきて、父さんが応戦して殺された。その後に、僕の事を守って母さんが死んだんだ。その後ヴォルデモートは、残った僕に『死の呪文』を浴びせたんだけど、呪文が跳ね返ってヴォルデモートに直撃、ヴォルデモートは自分の『死の呪文』で倒された」

 

「『死の呪文』弾ける何て、一体ハリーは何をやらかしたの?」

 

あれは対抗呪文も無くて、盾の呪文(プロテゴ)ですら貫通して問答無用で直撃するから、物理的な防御以外に方法が無いって、闇の魔術に対する防衛学の教科書に書いてあったけど。物理的なものも、薄いものなら貫通するから、石壁とかで防御しないとならない。まさに理不尽の呪文って感じね。

 

「僕が生きてたのは、母さんが命を掛けて僕に『愛の魔法』を掛けてくれたからって、ダンブルドア先生が言ってたよ」

 

「「『愛の魔法』?」」

 

聞いた事も無い魔法の名前を出されてエレナと二人でおうむ返しに聞くと、ハリーが返答に困ってしまう。魔法の詳細までは、聞いてなかったみたいね。ハリーのライラが代わりに答えてくれた。

 

「太古の魔法、古い契約、ぶっちゃけちゃえばとんでもなく強力な反面、発動があり得ない程にシビアな魔法だな。スネイプ先生と愛の妙薬の調合をしてる時に、少し話した事がある」

 

「ここでの重要な事は、ヴォルデモート卿はこの時点では死んでいなかった事です。肉体は崩壊しても、ゴーストのような状態で生き延びたのでしょう」

 

「次に、クィレル先生がヴォルデモート卿にとりつかれ、グリンゴッツ魔法銀行に盗みに入った後、この学校に潜入しました。賢者の石による肉体の復活が目的でしょう。賢者の石でそれが可能かは分かりませんけどね」

 

「潜入したクィレルは、ヴォルデモート卿の力を高めるために、定期的にユニコーンを襲ってその血を飲んでいました。そしてハロウィンの日に賢者の石の窃盗に行き、スネイプ先生に妨害されました。トロールは陽動で、大きく分けて地下室に待機するものと大広間に行くように命令したものの二通りで、本命は大広間に行くように命令したものでしょう。この時トロールはトイレに隠れていたハーマイオニーの声に釣られて、命令を無視してしまった。ここがクィレルの予想外の事です。その後にハリーとロンが気付いてトロールを倒したのは、ヴォルデモート卿からすれば業腹ものでしょうね」

 

「ハロウィンはそう言う流れかぁ、ユニコーンはあいつが犯人だった何て、もし生きてたら割断呪文(ディフィンド)で、全身切り傷まみれにして、塩水に放り込んだのに」

 

あんなに可愛い生き物を傷付ける何て、絶対に許せない!と息巻くと、皆(特にハリーとロン)から恐ろしいものを見る目で見られた。なんでよ?

 

「ごほん、スネイプ先生の足の傷は、クィレルを足止めするために立ちはだかった時に、フラッフィに襲われたものでしょう。窃盗に失敗した事に腹を立てたヴォルデモート卿は、クィレルに命令してハリーを亡き者にしようと、クィディッチで箒に呪いを掛け、またもスネイプ先生に妨害されました。その後も何度もスネイプ先生に妨害されたクィレル先生は、スネイプ先生の目を盗んでユニコーンの血を飲み続け、ダンブルドア先生がユニコーンに対して対策をしたせいで後先が無くなって、怪我をしたユニコーンへの魔法薬の調合や、ユニコーンの亡骸を処理するのに忙しくなったスネイプ先生の目を盗んで、ダンブルドア先生に手紙を出して、ユニコーンの治療に先生方が出払った夜に、賢者の石の強奪に出ました。その後は、皆さんの知っている通りです」

 

スネイプ先生働き過ぎじゃない?

 

「流石スネイプ先生、それに加えて私との個人授業もしてたんだから、あの人はスゴい人だ」

 

「う~ん、朝から夕方まで授業して、合間にクィレルの監視に放課後ユニコーンの魔法薬の調合とハリーの護衛、週末にライラとの個人授業と平行してハリーの護衛に、クィレルの監視………スネイプ先生過労で倒れるよ?」

 

思わず呟いたエレナの言葉に、スネイプ先生を疑ってた男子とスネイプ先生に火を着けたハーマイオニーは、気不味そうにする。

 

「私スネイプ先生に何て事を、とても酷い事をしてしまったわ」

 

「ローブに火を放つのは、相手が誰であろうと傷害罪や殺人未遂ですわ。ここが怪我に寛容な魔法界で良かったですわね」

 

ギネヴィアの言葉に泣きそうな顔をするハーマイオニー、ハリーとロンが慌ててフォローしている。

 

「ハーマイオニーは悪くない、誰もあんな意地が悪い奴が守ってるとか思わないよ!?」

 

「守るなら守るで、もっと分かりやすくしてくれれば良かったんだ!」

 

「そうだとしても、先生が生徒に手を上げるなんて………」

 

「それはほら、クィレルはそうだったから!!手じゃなくて足だったけどね!」

 

ハリーはそう言って笑った。ハリー、その自虐はちょっと笑えないよ。今度は暴力を振られても大丈夫なように、体の動かし方、パパにお願いして教えてもらえるように出来ないかしら。

 

「もう、ハリーったら……お祝いなのに、落ち込んでちゃダメよね!どんどん食べるわよ!!」

 

ハーマイオニーは元気が出たみたいだ、チーズとサーモンの乗ったクラッカーを食べて、オレンジジュースを飲んで笑った。

 

「私も、少し無粋でしたわね、お詫びに一つ、一発芸でもしてみますか」

 

ギネヴィアがそう言って杖を取ると、無言呪文で空中に絵を描き始めた。

 

「どうです、立体的な絵は珍しいのでは?」

 

迷いなくスラスラと描きながらギネヴィアがそう言うのと、ファンシーな色でデフォルメされた立体的なホグワーツ城が出来上がってく様子に、私を含めて皆のテンションが上がる。

 

それから暫く、皆が特技を出したりして盛り上がった後、ハリーが思い出した様に暗くなった。

 

「あいつは、ヴォルデモートは未だ生きてる。僕には分かるんだ」

 

暗い顔をしたハリーにどうしたものかと皆と顔を見合わせる。ロンはヴォルデモートの名前がお気に召さないみたいで、聞いただけで顔を真っ青にしてた。

たかが名前で、そこまで怯えなくて良いのに。

 

「ロンってばビビリ~、ヴォルデモートがそんなに怖いの?」

 

「君達は魔法つかいの生まれじゃ無いから、分からないだろうけど、『例のあの「ロンッ」』………ヴォルデモートはイギリスの近代魔法史で、最も邪悪な魔法使いなんだよ!!僕達の同級生には、彼や死喰い人(デスイーター)に家族を殺された奴がごまんといる!何が怖いって、死喰い人は家族を、親友をヴォルデモートの為に殺せるんだ!!」

 

その言葉に、皆が重い空気で黙り混む。

死喰い人は、ヴォルデモートの信奉者だっけ、とんでもない話ね。赤の他人の言葉を信じて、家族や親友を手にかける、私には想像すら出来ない。

 

エレナは想像しちゃったのか、青い顔をして口を押さえた。背中をポンポンと叩いて、顔色が戻ってきたら飲み物をゆっくり飲ませる。小さくセドリックの事を呟いてるエレナが、何を想像したのか分かって、ロンを睨む。

 

ロンに何て文句を言おうか迷ってると、ギネヴィアが咳払いをして言った。

 

「昨日の友は今日の敵、まさに地獄ですわ………だからこそ、ヴォルデモートを復活させてはならない」

 

ギネヴィアの言葉に皆でうなずく。

はぁ、今はロンを責めてる場合じゃないよね、今回はハリーを執拗に狙ってたんだし、ハリーの近くにいる私達も標的にされるかもしれないんだから、何かしら対策をしなくちゃ。

 

「新学期も、土曜日に必要の部屋で特訓を続けましょう。自分達の身は自分達で守るの」

 

「ハーマイオニーの意見に賛成」

 

「私も……賛成」

 

「でも、それだけじゃ未だ足りないよ、何か未だやれることを探そう」

 

私達が重たい空気を変えるために、ハーマイオニーと三人でるんるんと乾杯のポーズを取ってると、ハリーが何か考えるように言った。

 

「ぐがっ!?………何するんだミ「ほら、かんぱーい!!」…かんぱい」

 

ハリーの口にクラッカーを突っ込んで、無理矢理乾杯する。今はお疲れ様会何だから、楽しむんだよ!!考えるのは新学期からでも大丈夫でしょ!直ぐに復活する訳じゃ無いんだし!

 

「実戦経験を積むだけなら、かなりのトラウマになりますが、可能ですわ」

 

「まさか、禁じられた森で武者修行とか言うつもりかい?」

 

ギネヴィアが、何か言い出したく無い事を言うように、ハリーの話題に乗っかった。ロンはそれを聞いて嫌そうに顔をしかめる。

 

禁じられた森って、そんなに危険なのかしら。二週間通ったけど、アクシデント何て一つも無かったけどなぁ。

 

「いえ、図書館ですわ。RRPG(リアル・ロール・プレイング・ゲーム)、禁書の一つです」

 

「なんだいそれ、RPGって、様はごっこ遊びだろう?それが何で禁書なんだい?」

 

RPG?D&D(ダンジョンズ アンド ドラゴンズ)みたいな?

リアルって、まさか本の中に入れる訳じゃ無いだろうし。

 

「実際に本の中に入って、自分達がキャラクターになって物語をクリアする必要が有るのですわ」

 

うそ、本当に入れるんだ、物語の世界に。何かスゴい楽しそう何だけど、何で禁書扱い何だろう?

 

「何それ、スッゴい楽しそ「痛みも何もかも、それこそプロテクトの掛かってる死ぬこと以外、何でも有りですけれどね」……………スッゴい危険そうね、本当に」

 

ハーマイオニーが目をキラキラさせていたのが、割り込んで説明したギネヴィアの言葉で、目を真っ黒にさせていた。

 

「一度、マクゴナガル先生と二人でやってみたのですけれど、もう二度としたくないですわ」

 

あのギネヴィアをして、そこまで言わせるとは、何と恐ろしいゲーム。

 

「利点としては、所詮ゲームですので、中で腕を千切られようが、足を切り飛ばされようが、スライムに全身を強酸で溶かされようが、火炙りにされようが、巨大な虫に群がられようが……全部こっちに戻れば無かった事になりますわ。えぇ、()()()()()

 

マクゴナガル先生、あれ以降オークを思い出すからか、豚肉を食べれなくなってしまったそうですわ。何て呟きを聞いて、とてもじゃないがやりたいとは思えなかった。って言うか、全部まるで体験したような感じだったけど、何回リベンジしたのさ、負けず嫌いめ。

 

「……………やろう、僕は強くならなくちゃいけないんだ!」

 

青い顔をして決意を固めるハリーに、ギネヴィアは宥めるように言う。

 

「オススメ出来ませんわ、あれは元々一般販売されていたものの、あまりにも廃人や精神疾患持ちを量産したせいで禁書指定されたものですのよ?」

 

いや、何よそれ、ちゃんとテストプレイしたのかしら、魔法界ってそこら辺テキトーそうだし。

そんな危険な本は焚書しちゃえば良いのよ。

 

「それでも、今話してくれたって事は、強くなれるって事だろう?」

 

「ソロで魔法職は地雷ですのよ?」

 

「なら、僕が前衛をすれば問題ないな」

 

意気揚々と声を上げるロンに、胡散臭いモノを見るような顔をするギネヴィア。そういえばさっきからエレナとライラが見えなけど、何やって………

 

「六枚切りの食パンに、マシュマロとチョコを乗せて焼くんだ。マシュマロは立ててトーストが見えなくなるくらい、チョコも上からマシュマロが見えなくなるくらいたっぷりと、それで直火で3分、裏っかわが狐色になったら完成」

 

「ハフッハフッ………美味しい~♪これトースターでもいける?」

 

「私も欲しい!」

 

暖炉辺りでパンをトレーを網に乗せて焼いてた、トロットロに溶けたマシュマロとチョコが乗ったトーストを食べてるエレナを見て、作ってるライラに私の分もお願いする。

 

RRPGは、最悪廃人でも死ぬことは無いんだし、今はマシュマロトースターよね!!

 

「くく、ほら、言うと思って焼いてたぞ。リンゴももうすぐ焼けるからな、紙皿を出してくれ」

 

アルミホイルに包まれた丸っこいのを、火掻き棒で弄りながら言うライラは、とても楽しそうに笑ってた。私は渡されたトーストをテーブルの上にある紙皿に乗せて、もう一枚を用意する。

それが終わったらまだ湯気を出してるトーストにかじりつく。…………はふぅ、幸せ~♪

 

「ハーマイオニー、一緒に食べよ!」

 

トーストを食べながらハーマイオニーを呼ぶ。このトースト本当に美味しいわ、いくらでも食べられそう!!

出来立て熱々で、チョコとマシュマロがソースみたいに絡んで、最高に美味しいわ!!

 

「デザートね、美味しそうなもの食べてるじゃない!」

 

「さて、焼き上がったぞ、熱いから触るなよ~」

 

軍手をして、アルミホイルに包まれたリンゴをゆっくりと火から上げて、テーブルまで運ぶと紙皿に乗せて、慎重にアルミホイルを解くと、中から湯気と共に甘い良い匂いが、部屋に充満する。

 

「兎に角、説得はあなた達でしてください!!私はもう二度と……あれをしたくないんですのよ!!!」

 

コップにジュースを追加して、さあ食べようとフォークを持った時に、ギネヴィアの怒声が聞こえてきた。何があったの?

 

「どうしたの?」

 

「……何でもない」

 

「あ、リンゴかい、僕にもおくれよ!」

 

聞いても二人とも答えてくれなくて、ギネヴィアを見る。

 

「別に、この二人が分からず屋なだけですの。私にも、そのトーストもらえるかしら」

 

「少しまて、直ぐに焼くから」

 

ギネヴィアも、曖昧な事しか言ってくれない。

うぅん……説得って何の話し?さっきまで禁書の話をしてたし、許可書をもらう話かしら?

 

まぁ、私はやりたくないから、別に良いかな、どっちに転んでも。二人がやるなら好きにすれば良いんだし。廃人になられても困るから、ハーマイオニーにストッパー役は頼むけど。

そう考えてリンゴをかじると、ギネヴィアがトーストをライラから受け取りながら、こっちに話し掛けてきた。

 

「ミリィ、来年は今年より大変かも知れませんわ」

 

「ハリーと友達になったんだから、覚悟してるわ」




ちらし裏に、CM風予告書いてあるから、そっちも参考にしてみてね!

追記 アンケートは締め切りました。
秘密の部屋編は2020年夏頃投稿予定です!


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幕間 夏休み×約束×昔話し

これが夏前最後のアンケート催促の投稿。
今回は夏休み前の汽車でのお話し、一巻でしてる人、中々見ないから挑戦してみました。


学年末、グリフィンドールがハリー達とネビルの活躍で寮杯を獲得して、ギネヴィアがしっちゃかめっちゃかしたせいで乱高下したハッフルパフは、何と前代未聞の二桁点を記録して、ダンブルドア先生とギネヴィアの援護をするスネイプ先生にフリットウィック先生の対立が、学校中に知れ渡った。

 

そんな中で、生徒達は先生方のごたごたとは関係無いとばかりに、夏季休暇に浮かれていた。

 

「夏休みやったぁ!!」

 

「ロン声が大きい」「ぐふっ!」

 

「ハッハッハ蛙チョコ美味しいなぁ!」「チェスで勝負だハリー・ポッター!」

 

コンパートメントの中で叫び声を上げるロンに、ハーマイオニーがエルボーを決めて黙らせる。それを見てハリーが愉快そうに笑った。三人とも親友だけど、ハリーとロンってば、ハーマイオニーの取り合いしてるから、たまにお互いにスゴく意地悪になるのよね。

 

「それにしてもミリィ、皆と同じコンパートメントじゃなくて良かったの?」

 

心配そうに聞いてくるハーマイオニーに、いや、実は………とチェスの準備をし始めた二人をみながら、最近の付き合いの悪さを話す。

 

「エレナ歳上の彼氏に夢中だしぃ、ギネヴィアは最近まで暴走に次ぐ暴走で、ハッフルパフの点数一週間で300点も落としたんだよ?気不味くて仕方無いったら。それに、ライラは今頃、スネイプ先生とイチャついてるだろうからねぇ~」

 

私何て友達が少ない可哀想な奴ですよぉ!!って言って、よく冷えたカボチャジュースをがぶ飲みする。お小遣いはバカみたいにあるし、いっそ車内販売買い占めてあげようかしら。

 

「荒れてるわね、口調がエレナみたいよ」

 

「別に、寂しくなんか無いもん」

 

プイッと汽車の窓に視線をそらす。皆が浮かれるのも、仕方無いとは思うけど、それでも私を放置なんて、ギネヴィア何て特にさぁ!

 

「うげぇ、スネイプが汽車に居るの?」

 

「私としては、あなたが危険だから女性専用車を作って欲しいけどね」

 

嫌そうに顔をしかめたロンにそう言って、溜め息を心の中でする。

 

はぁ、この夏季休暇は、先生達がホグワーツを自由に離れられる数少ない期間の一つ。

希望者は一緒に汽車に乗れるんだけど、スネイプ先生が貴重な薬草採集で外に出るって聞いてたみたいで、ライラが猛アピールして今頃、コンパートメントで二人っきりの授業をしてるんじゃないかな?本当に魔法薬学大好きっ子ね。

 

「スネイプの奴がロリコンだって、グリフィンドールの皆に言ってやる」「フレッドとジョージに頼んで、大広間で盛大にやろうぜ」

 

「尊敬すべき先生何だからっ、そんな事しないの!!」「「い゛た゛っ!!?」」

 

「二人とも、そんな事したらライラ怒るよ?」

 

相変わらずスネイプ先生と犬猿の仲な二人が、悪どい顔をして意地悪な事を言った。二人にハーマイオニーが文庫本で制裁した後、私がスネイプ先生に何かあったらライラが黙って無いって言うと、青い顔をして首を振る。

 

「絶対にしないよ!」「そうそう、スネイプの奴はそこまで悪い奴じゃない!」

 

青い顔をしつつも完全にその場しのぎな言葉に、ハーマイオニーと二人して溜め息を吐く。ここまで来ると筋金入りの険悪さね。スネイプ先生も、ハリーには未だに弄り倒してるし。

 

「何でここまで仲が悪いのかしら」

 

カボチャジュースを飲みながら言うハーマイオニーに、ハリーがロンのナイトをルークで取りながら言う。

 

「スネイプ、僕の父さんと仲が悪かったんだ。僕とマルフォイみたいにね。それなのに僕の父さんは、スネイプを助けた事があるらしいよ「チェック」あぁ!?」

 

親の十七子は知らずって聞くけど、親の罪子に報うとも聞くからね、スネイプ先生は色々と複雑なんでしょう。ハリーとマルフォイの仲なんて、それこそ不倶戴天の敵とか、犬猿の仲って言える位だもの。

 

「ハリーの父さんは聖人君子だな、僕だったら追い討ちかけて、確実に殺してるよ」「ロン!」

 

軽口を叩くロンを、ハーマイオニーが手で叩く。この二人は将来、絶対にハーマイオニーの尻にロンが敷かれるわね。エッチなロンにはピッタリだわ。

 

「でも、何とも言えないって言うか、複雑ね」

 

ハーマイオニーが悲しそうに言うと、ハリーがボロ負けしたチェスを片付けて、複雑な表情をして拳を握った。

 

「スネイプがそんな何十年も前の事を気にするからだよ、僕には関係無い」

 

何かハリーが可哀想に思えてきて、ちょっと優しくしてあげる事にする。自慢の弟子が落ち込んでるんだもの、慰めてあげなきゃね。

 

「私ね、ハリーが少し羨ましい」

 

「どうして?僕はミリィが羨ましいよ」

 

不思議そうに見るハリーと、私の言葉に耳を傾ける二人に、私は話す。

 

「私、実の両親に会った事無いから。写真だけでも、両親の事を知ってる人に会えるだけでも、ハリーが羨ましいよ」

 

私の両親は、私が二歳の時に精神病を患ってしまったって、四歳の時に今とは違う施設の職員さんに聞いた。当時は病気の原因は分からなかった。その後すぐに私は魔力が暴発して、別の施設に預けられたから。それが何度か………五回は越えた頃に、今の孤児院に流れ着いたの。

 

「私ね……二歳の時に多分、この手でお母さんとお父さんをオカシクしちゃったんだよ」

 

私を捨てた人……………捨てるしか出来なかった人。

 

ママが見つけてくれた時、二人は子供が居た事すら分からない、もう殆んど会話が出来ない状態だった。だから私は両親に会いたくない。あの人達は私の罪で、私のせいで台無しにしたあの人達の人生を、私は受け止められないから。

 

「だからハリーが羨ましいよ。私は親から愛される(そんな)資格何て無いから」

 

重くなった空気で黙りこくった二人を尻目に、ハリーは話してくれた。

 

「ミリィ、僕はミリィが羨ましい。孤児院の皆に愛されて、家族が沢山いるミリィが。それにミリィは優しいじゃないか、料理だって上手いし、面倒見だって……ものすごいし、それに努力家だ!そんなミリィが、わざとそんな事をしたとは思えないよ」

 

「そうよ、悲しい事故だったんだわ。あなたは気に病まなくて良いのよ」

 

「元気出しなよ。君まで落ち込んだら、コンパートメントの中、まるで葬式みたいな雰囲気になっちゃうぜ?」

 

最初はハリーを元気付ける為だったのに、いつの間にか一番気分が落ち込んで、席の上で膝を抱えてると、三人が励ましてくれた。ロンが差し出してくれたショートブレッドを受け取っても、あまり気分が上がんなくて、ちょっとごねる。

 

「私はね、それを聞いた後も、何度も魔力が暴発してるんだよ?」

 

「ミリィはミリィよ。過去に何があったって、私達のミリィはそんな事しないわ。それに、ホグワーツでは一度もそんな事無かったじゃない」

 

今まで力になれなくてごめんなさい、そう言って私の事を胸に抱くハーマイオニーに、少しうるっときた。

 

「ありがとうハーマイオニー」

 

涙目がバレたく無くて、私からもハーマイオニーに抱き付く。ハーマイオニーってとってもいい匂いするわ、まるでクチナシみたいな匂い。

 

「アリ」「ナシよりのアリ」「アリよりのアリだろロン!」「ナシよりのアリだハリー!!」

 

私達の事を見てそんな事言い出した二人に、ハーマイオニーが溜め息を吐く。

 

「二人とも、いい加減にしないと本当に愛想尽かしちゃうわよ?」

 

「「悪かった、この通りだ!!」」

 

「ふふ、本当に仲良いわね」

 

思わず笑っちゃって、ハーマイオニーから離れて三人のやり取りを見る。大分時間が過ぎたと思って腕時計を見ると、後1時間位で駅に到着するみたい。

 

「後1時間位で到着みたいね、皆そろそろ準備した方が良いわ」

 

「あっという間だなぁ……あっそうだミリィ、これ僕の家の番地、手紙書くからミリィのも頂戴」

 

「僕も、手紙は送れるか分かんないけど、ミリィからの手紙欲しいから」

 

「何二人とも、私の手紙は欲しくないの?」

 

「「意地悪な事言わないでくれよ!?」」

 

「冗談よ、はいこれ私の番地、ミリィのお家はロンドンだっけ?」

 

「うん、ハーマイオニーもでしょう?」

 

「えぇ、そうよ、休みの間どこか出掛けましょうよ、ダイアゴン横丁もロンドンにあるのだもの!」

 

ハーマイオニーの言葉にうなずいて、二人して何処に行こうか相談してると、ロンとハリーが羨ましそうな顔をした。

 

「良いなぁ、僕ん家貧乏だからさ、お小遣いもあんましもらえないんだ」

 

「僕はお小遣い何て、ほとんどもらった事無いよ。パンチはよくお腹にもらうけど」

 

ぼ、暴力を受けてるの?それって訴えれば勝てるんじゃ無い?

 

「ハリー、何度も言うけどそれは訴えるべきだわ。子供に理不尽に手を出す何て、大人としてダメよ」

 

「そうだぜハリー、何なら夏休みの間、僕の家に来るかい?ご飯と部屋なら余ってるんだ。庭で鳥も飼ってるからね」

 

二人の言葉にうなずきそうになって、残念そうに首を振る。

 

「叔父さんが許さないよ、そんな事。僕の事を憎んでるんだ」

 

勝手に部屋の外に出ると、怒られるんだ。悲しそうに言うハリーのその言葉に、三人して顔を見合わせる。そんな酷いなんて、考えもしなかった。

 

どうにかしなきゃダメだと思って、クリスマスプレゼントにビーターの先輩からもらった物を思い出して、ポーチからそれを取り出してハリーに渡す。

 

「ハリー、これあげる」

 

「なんだい……これは、鏡?」

 

二枚組の同じデザインの鏡を、ハリーが手にとって見てると、ロンが驚いた顔でそれを見る。

 

「スゲェ、それって両面鏡?それダイアゴン横丁にある専門店でしか買えないレア物だぜ」

 

そうだったんだ、これ結構な代物だったのね、先輩には感謝しなきゃ。

 

「そんなもの……僕がもらって良いの?」

 

「片方は誰かに渡して、お互いが手にとってると、遠くにいても相手の顔が見れてお喋り出来るの。これなら決まった時間を決めておけば、いつでも話せるでしょう?」

 

「それってテレビ通話?魔法ってやっぱりスゴいわ!テレビ通話何て普通専門の機械が無いと出来ないもの!!」

 

驚くハーマイオニーに、今度ダイアゴン横丁に行く時に買いに行きましょうと話す。ユニコーンのお世話は、子供にはあり得ない大金を貰えたバイトだったから。

 

「ロン!君に片方渡すよ、君の家に行く方法を二人で考えよう!」

 

「良いのかい?もちろん全力で手伝うよ!これなら僕の家族とも相談できる、絶対に君を嫌な叔父さんの家から連れ出してみせるさ!!」

 

すっかり元気になって、二人してどうやってハリーが抜け出すか方法を考え始めたのを見て、ハーマイオニーと笑う。

 

「男の子って、本当に単純」

 

「でも、二人のそこが可愛いんでしょ?」

 

「もう、意地悪言わないで!」

 

苦笑いで溜め息を吐いたハーマイオニーをからかうと、困った顔をして怒ってきた、口の端が笑ってるから、照れ隠しなのが丸わかりね。

 

「はいはい、ほら二人とも、女子が着替えるから出てった出てった!」

 

「僕たち未だ着替えて無いんだけど」

 

「女の子は時間が掛かるのよ!トイレで着替えれば良いでしょ!」

 

横暴だ!とか何とか言ってる二人を追い出して、ハーマイオニーと二人で着替える。

………っく!

 

「妬ましい」

 

「何言ってるのよ、私だって貧相な部類なのよ?羨むならギネヴィアにして」

 

ブラウスに着替えながら言うハーマイオニーに、貧相なハー子より貧相な私って一体………とか言ってると、コンパートメントの前で言い争いが始まったのが聞こえる。

 

「だから、ここは今使用中だって言ってるだろ!」

 

ロンの言葉で、私とハーマイオニーは厄介事の気配を感じて、急いで服だけ着る。不恰好な感じでも、下着姿を見られるよりも万倍マシよ。

 

「ふん、どうせまた何かやらかして、中を見せたくないだけなんだろう、スネイプ先生に言いつけてやる!」

 

「そうじゃなくて、今はハーマッやめろ!」

 

そうハリーの声が聞こえた後、コンパートメントが開いた。

 

「こんにちはマルフォイ、これはマクゴナガル先生とスプラウト先生に報告だからね?」

 

「大好きなスネイプ先生に、こってりと絞ってもらうから」

 

ハリー達の失敗探しに意地悪な笑みを浮かべたマルフォイが、私たちの姿を見て顔を青くする。

 

「あ、あー、その、|()()()()()()

 

「何?聞こえないわよ覗きのマルフォイ」

 

「悪かったよ!!」

 

そういって早足で去っていくマルフォイの後ろ姿に、ハーマイオニーと二人して睨みつける。

 

「二人とも、後、5分待ちなさい」

 

「「イ、イエス・マム!!」」

 

ピシャンッとドアを閉めて直ぐに着替える。脱いだ制服を畳んで仕舞うと。クシを片手にコンパートメントを開ける。ちらっとトイレの方を見ると、行列が出来てる。あれは駅に着くまで使用不可ね。

 

「あのバカのせいで時間が無いから、横で着替えて」

 

「私は直ぐに髪をとかせるけど、ハーマイオニーは時間かかるからね、手伝うわ」

 

「ありがとうミリィ」

 

居心地悪そうに着替えるロンに、申し訳なくなる。

でももう時間無いし、他に着替える場所無いから、我慢して欲しいわ。

 

「僕がトイレで着替えてた時に突っ掛かって来たんだ、無視してコンパートメント前まで戻ったらあいつらムカついたらみたいで………ごめん」

 

一人手持ち無沙汰なのか、メガネをシャツで拭きながら言うハリーに、怒った口調でハーマイオニーが言う。

 

「ハリーは悪く無いわよ!悪いのはあの陰険マルフォイでしょ!!覗きとか信っじらんっない!!」

 

「頭揺らさないでハーマイオニー、クシが危ないから。……ハリーももう気にしちゃダメだからね、悪いのはマルフォイだし、私達も下着見られた訳じゃないし、スネイプ先生に言いつけるだけにしとくから」

 

怒った拍子に揺れるハーマイオニーの頭を押さえて、ハリーに気にしないように言う。直ぐに逃げたけど一応は謝ったし、とりあえず覗かれた事は報告して、後はスネイプ先生に任せれば良いでしょ。

 

「あいつ、人の嫌がる事ばっかりして、今度何かやらかしたら呪ってやる」

 

「僕、ハグリットにも手紙で仕返し出来ないか聞いてみる」

 

自分達の好きなハーマイオニーが覗かれたからか、男二人は義憤に燃えてるような感じで、このままだと今度はハリー達がマクゴナガル先生に雷落とされる気がした。

 

「二人とも、あくまで悪戯の範囲だからね、呪ったり呪文をかけたりするのは禁止。そんな事をしたらマクゴナガル先生に怒られるわよ」

 

「うへぇ、もう禁じられた森は勘弁……」「僕も、もうトロフィー研きは嫌だ……」

 

夜中彷徨いてたせいでもらった罰則を思い出したのか、二人して顔を青くしてる。

そうこうしてるうちに車内放送が流れた。もう駅に着くみたいね。

 

「はい、終わり」

 

クシですいた髪を、シュシュを使って肩の辺りで結んで前に流す。ハーマイオニーは最初の頃本当に身だしなみに無頓着だったから……ギネヴィアと私で、ハーマイオニーと同じく無頓着だったライラをお説教するのは大変だったわ。お陰で今ではエレナを横に並べても負けない位の美少女っぷりよ、苦労した甲斐があったわ。

 

「ありがとうミリィ、二人とも荷物はまとめた?」

 

うなずく二人を尻目に、クシをバックに仕舞うと、列車のブレーキの音が聞こえてきた。

 

これから楽しい夏休み、ギルの誕生日もあるし、孤児院はまた騒がしくなるんだろうなぁ、マリアベルお姉ちゃんも帰ってくるって言ってたしね!!




アンケート、してってね!!(アンケート乞食)

追記 アンケート締め切ったよ!
次の秘密の部屋編は、2020年夏頃に投稿予定です!!


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ギネヴィア・テイラーと秘密の部屋
お買い物


お久し振りでっす、私です。
目指せ週一投稿で頑張るんで、よろしくね!


「これ可愛い!」

 

手に取った明るいブロックチェックのハンカチをエレナに見せる。

 

「良いね、それ!こっちのハンカチも可愛くない?」

 

見せてくれたシャワードットのハンカチに、テンションが上がる。

 

「すっごく可愛い!!私、こんな楽しいお買い物初めてよ!!」

 

今日は待ちに待った四人でのお買い物、ハーマイオニーはロンの家に居るみたいで、予定が会わなかったのが残念だけど、四人で集まれて本当に嬉しいわ。

 

今は四人でマダム・マルキンの洋装店で制服の手直しをしてもらってる所だ。ついでにとウィンドウショッピングを楽しんでる。

 

付き添いはガラルとエレナのお母さんなんだけど、エレナのお母さんが本屋に籠りきりで、ガラルに言って四人で洋装店に来ていた。新学期の準備もだけど、エレナのお母さんを一人で放っておけないしね。

それとは別にギルとパパが、今年入学のギルの学用品を揃えてる。男女別れた方が気兼ねしなくて良いってパパは言ってたけど、あれは荷物持ちをしたくないだけだと思うの。

 

「マダム、助かりましたわ。こちらではそんな便利なものがあるのですね」

 

「マグルは不便だね、まさかサイズ調節が出来ない何てね」

 

何やらマダムと話してたギネヴィアが、奥の試着室から出てきた。一緒に居たライラが、疲れた顔をしてるのが気になる。何をしてたの?

 

「何してたの?」

 

マダムが話終えて離れた辺りで、ギネヴィアに聞く。ライラが何で疲れてたのか、気になるし。

 

「またサイズが変わったので、下着の相談を」

 

「また育ったの!?」

 

隣で聞いてたエレナが驚く。ライラが疲れた顔をしてた理由が分かった。ライラはヒンヌー(こっち)側の人間だからね。ギネヴィア程じゃなくても、エレナも育ってるし。

 

「魔法界の下着はスゴいですわ。検知不可能拡大呪文を使って、サイズ調整が出来るなんて。これで身に付ける下着が無くなる心配をしなくてすみます」

 

思わずギネヴィアの胸を凝視してると、ギネヴィアがそんな事を言ってきた。まだ育つのか、その胸は。身長私と変わんないのに、何でそこは違うのよ。

 

「もげれば良いのに」

 

「猟奇的な発想は止めてくださいな」

 

「たまに思うの、ギネヴィア・テイラーって理不尽の化身か何かだって」

 

「そんなわけ無いでしょう」

 

「私はセドリックがおっき過ぎるのは嫌だって言ってたから、もう育たなくて良いかなぁ」

 

「さらっと惚気るの止めてくれます?」

 

好き勝手に皆でギネヴィアを弄ってると、マダムが制服の引換券を渡してくれた。暫く時間が掛かるから、夕方にまた取りに来て欲しいとのこと。

 

受け取った私達は、それならと店を出てウィンドウショッピングを続けることにした。

 

「そういえば、ダイアゴン横丁に両面鏡の専門店があるって、ロンが言ってたの」

 

「あの便利な鏡ですか、折角ですし覗いてみます?」

 

「賛成!セドリックといつでも話せるなら、借金してでも手に入れるわ!!」

 

さっきのマダムの店で服を買い込んでたエレナが、また惚気てる。エレナは最近色ボケが激しいのよね、休みでセドリックに中々会えないのが、そんなに辛いのかしら。それでも煙突飛行であってるみたいだけど。飛行煙突粉(フルーパウダー)って結構スゴいものなんだけど、その割りにはお手頃な値段なのよね。煙突ネットワークへの加入はお金が掛からないから、とても便利だし。

 

「エレナ、それは極端だろう。ミリィがクリスマスプレゼントに先輩とはいえ子供から貰えたんだ、大した額では無いのでは?」

 

「いえ、あの人ユニコーン組ですから………子供どうこうで判断は出来ないかと」

 

あぁ、ユニコーン組ね。それじゃ宛にならないわ。校長先生、私財をばらまく勢いで使ってたし。もらったものを売れば一財産築ける位にはもらってたわよね。

ユニコーン組とは、周りの生徒にバレないように、ユニコーンのお世話をしてた生徒達の事を示す隠語だ。

 

「値段は兎も角、覗くだけ覗こうよ」

 

そうやって皆でわいわいと話ながら専門店まで移動した。

 

「両面鏡、結構するのね」

 

「通信費の掛からない携帯電話と考えれば、このようなものでしょう」

 

手鏡サイズで二枚一セット5シックル、結構なお値段である。参考までに、ダイアゴン横丁のアイスクリームパーラーで手鍋アイス(文字通り手鍋サイズのアイス)が8クヌートなので、お小遣いにしても結構な金額が必要なものだ。

 

「でも、色々あるんだね。姿見サイズまであるし、五枚組の集団通話タイプとか、姿だけの廉価品とか」

 

姿だけをお互いに繋げるものは、4枚組で2シックル、筆談で会話出来るなら、これはお買い得と言える。

集団通話は一枚追加する毎に2シックル増えるもので、最大三十枚の同時通話が可能みたい。その分鏡の面積が一人あたり小さくなるから、増える分鏡が大きくなるんだけどね。

 

「ねぇねぇ、これ集団通話のタイプ買わない?二枚追加してハーマイオニー達にも配ろうよ!!」

 

他にも、個別で買った鏡を連絡できるよう繋げるサービスもあるみたい。この点に関してはとんでもなく進んでる?魔法ってスゴいわ。

 

「良いけど、いきなりどうしたの?」

 

「いや、ほら私とライラ、ハリーに誕生日プレゼント渡すの忘れてて、これでご機嫌取ろうかなと……絶対拗ねるし」

 

自分の分の二枚セットを買いながら言うエレナに、思わず白い目になる。

 

「ユニコーン貯金で余裕はあるけど、エレナはお金キツくない?マダム・マルキンの所でも買い込んで無かった?」

 

「大丈夫!お手伝いしてお小遣い稼いできたし、未だ未だ余裕よ!!」

 

流石歯医者の娘、金持ってるわね。

 

「私も大丈夫ですが、ライラは?」

 

「ライラも大丈夫だって、向こうで暗くても使える明り呪文(ルーモス)内蔵型見てるよ」

 

「なら先に買っておきましょう、私が買ってきますわ」

 

ギネヴィアがレジに向かったのを見て、私も二枚セットの両面鏡を持って別のレジに向かう。

 

「毎度、5シックルになります」

 

「これ使えますか?」

 

「はい、大丈夫ですよ、プレゼント包装は?」

 

「片方だけ、お願いします」

 

ギルバートの入学祝いに丁度良いから、買っておこう。

手紙のやり取り、ギルバートが一番多かったし。あった方が絶対便利だ。

 

「この包装紙で、リボンはこれでお願いします」

 

「はい、かしこまりました。こちらお返しのカードです。メッセージカードはお付けしますか?」

 

支払いが終わった魔法のカード(校長先生命名)を受け取る。メッセージカードは私の手書きが良いよね、ギルバート私の字はよく知ってるから、誰が書いたのかすぐに分かるし。

 

「あ、私が書きます、ペン貸してもらっても?」

 

「大丈夫ですよ、こちらでどうぞ」

 

レジ横のカウンターでメッセージカードを文字を入れる。隣を見るとエレナも何か書いていた。セドリックへのプレゼントだろう、多分。

 

「ミリィもプレゼント?」

 

「うん、ギルバートの入学祝いに」

 

「うわ、お姉ちゃんだ」

 

「なにそれ。うーん………《ギルバート、入学おめでとう。寮がハッフルパフ(同じ)だと嬉しいな。グリフィンドールなら、ハーマイオニー達を頼りなさい》っと」

 

書いたカードを店員さんに渡すと、何やらニヤニヤされた。

 

「弟さんかい?良いお姉ちゃんだ、これオマケな」

 

「え、ありがとうございます!」

 

レジ脇に並べられたハチミツヌガーをオマケしてもらって、ちょっとお得な気分だ。ベタつくから食べるのは後だけど。皆で店を出て横丁をぶらつく。

 

「良いお店でしたわね、アルが魔法つかいになれたのなら、ここで買い物も良さそうですわ」

 

「私は渡す相手が居ないからな、ものは良いものだったんだがな」

 

二人とも何も買わなかったみたいだ。

 

「次どうしよっか、何か揃えないとダメなものあったっけ」

 

「鍋はもうあるからな、教科書でも見に行くか?やけに混んでたが、もう昼前だし空いてるだろう」

 

何であんなに混んでたのか、やけに年配の女性が多かったけど。

 

「今年は何やらまた、おかしな人が教師になるみたいですからね。教科書一覧で笑ったのは初めてですわ」

 

その言葉に、その場の全員が苦笑いをする。

あのラインナップはね、何に使うんだか。

 

「私としては早く三年になって錬金術に励みたいのですが、今年も『闇の魔術に対する防衛術』は苦戦しそうですわね」

 

ギネヴィア、去年暴れに暴れた結果、何とニコラス・フラメルご本人がホグワーツに来て、ギネヴィアや他の署名をした生徒の代表者、そしてハリーと教師が集まって、終いには理事会まで動いた大人数の会議の結果、三年からの選択教科に錬金術が2年間限定で試験的に導入されたのよね。

これで錬金術を選んだ生徒が優秀な成績を残したり、一定以上の成果を上げた場合、正式に選択教科として採用するという事になったの。

ギネヴィアがここまでの熱意をもって動いたのは、学期末試験でハーマイオニー相手にダブルスコアをして、マウント取ってマクゴナガル先生に怒られてた時以来だ。『ミス・テイラー、貴女は淑女のなんたるかを学びなさい!!』あれがギネヴィアが怒られてるのを初めて見た場面でもある。『同い年相手でテストで勝負になるのは、ハーマイオニーが初めてで、ちょっとはしゃぎ過ぎ増したわ』何ていじけてるギネヴィアを見て、この女の子も未だ12歳の子供何だなと思ったわ。

 

「ギネヴィア、去年は実技教科なのに筆記ばっかりだって怒ってたもんね」

 

「私が何のために筆記免除をもらったのか……あの授業は本当に苦痛でしたわね」

 

「今年は読み聞かせになりそうだがな。頼むから魔法史よりは有意義な時間にして欲しいものだ」

 

ライラの皮肉を聞いてると、書店が見えてきた。

 

「何かさっきより人が多くない?」

 

「何なんだろうね、さっさと教科書探そうよ」

 

けばけばしい化粧をしたり、何やら無理に若作りをしたおばさま方でぎゅうぎゅう詰めの書店を教科書探してさ迷う。

 

「あ、特設コーナー出来てる。スゴい人気ね」

 

「マーリン勲章勲三等でしたね、物語を書く才能はあるようで」

 

「授業は執筆とは違うのだがなぁ」

 

特設コーナーで本を集めると、レジを探しに動くんだけど、人集りが邪魔過ぎる。

 

本を抱えてるせいで余計に身動き取れなくて、立ち往生していると、奥の方からまたドデカイ歓声が聞こえて、人集りが奥に集まった。

今のうちだと四人でレジに並んで会計を済ませる。

荷物は全部、ガラルが持ってきた検知不可能拡大呪文の掛けられたリュックにつめてるから、これもお願いしようとガラルを探すと。こんなに混んでるのに全然人の居ない図鑑コーナーで、エレナのお母さんと二人して立ち読みをしている。

 

「ガラル~、これリュックにつめてよ」

 

「あ、ミリィ、もう買い物は良いのかい?」

 

「うん、そっちは?」

 

「図鑑にエレナのお母さんがハマって、ここでずっと立ち読み」

 

私達二時間位居なかったんだけど、その間ずっとなの……スゴいなエレナのお母さん。今も子供みたいにはしゃいでるし。見た目若いから、制服着ても違和感無いよね。今着てる服も肩出しワンピースに薄手のロングカーティガンで、頭に麦藁帽子、18歳位に見えるよ。アラサーでこれは詐欺よね。

 

「エレナエレナ!スゴいのね魔法生物って、私この本欲しいわ!!銀行で両替した金貨使えば良いのよね?」

 

「そうだけど、図鑑って高いもののような、それいくらなの?」

 

「えっと、4ガリオン?20ポンドね、分厚い図鑑なら妥当じゃない?」

 

ユニコーンってうちで飼えないかしら、いっそ田舎に引っ越す?何て言ってエレナに怒られてるのを見ると、本当にエネルギッシュなお母さんだなと、キレイ系なのに行動が可愛い極振り、エレナのお父さん苦労してるんだな。

 

「私、この横丁にこれて本当に良かったわ。入り口のレンガも感動したけど、横丁は本当にスゴいわね。パブはちょっと小汚かったけど」

 

そういってレジに並ぼうと店内を歩いていると、ハリーがドラコと睨み合ってた、こんな所でも喧嘩するのね。

 

「なにやってんの?」

 

気になったからハリー達に話し掛ける。赤毛の女の子、今年入学って言ってたロンの妹かな?またエレナ好みの美人になりそうね。

 

「あぁ、ミリィ」「ッチ、お前達か」

 

「ドラコが挨拶も無しに嫌味を言ってきてね」

 

ハリーから話を聞いて、ドラコを睨むと、バツが悪そうに目を逸らした。

 

「ふーん、覗きのドラコ、あんた懲りないわね」

 

「そんな不名誉なあだ名を僕に付けるな!!」

 

「なら、そのひねくれた構ってちゃんな性格を治しなさいよ!!」

 

「ロン!」

 

私とドラコが睨み合っていると、人混みをかき分けて、赤毛の背の高い男の人達がこっちにきた。ロンの家族の人?

 

「何してるんだ?ここはひどいもんだ。早く外に出よう」

 

「これは…これは、これは………アーサー・ウィーズリー」

 

血の気の無い顔、尖った顎、瞳は冷たい灰色で、毒々しい金髪。ドラコそっくりな薄ら笑い。間違いなくドラコの家族の人ね。

 

「ルシウス」

 

赤毛の男の人の一人、一番ご年配の人が素っ気なく反応した。

そこからはマルフォイの人達が嫌味の連発。

 

「ウィーズリー、こんな連中と付き合ってるようでは……君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ………」

 

ハーマイオニーのご両親を見て言ったその言葉に、私も耐えられなかった。

 

大の大人が取っ組みあいをしてる時に、ドラコを強く睨む。

 

「そう、あなた達はそういう考えなの。後悔するわよ?」

 

「ふん、何故僕が君達穢れた血ごとき相手に後悔するんだい?」

 

こいつ!!

 

「あんたよくもそんな事を!!」

 

杖は不味いと頭に微かに残った理性で考えて、()()()()()()

 

「がふっ、いきなり何するんだ!!」

 

「バチよ!私の友達を、私の家族をバカにしたバチ!!その陰険な顔がミートボールみたいに膨れ上がるまで殴り倒してやるから、覚悟しなさい!!!!」

 

振りかぶった私をエレナとギネヴィアが押さえ付ける。

 

「落ち着きなさいミリィ!!」

 

「何があったのか分かんないけど、それは女の子としてアウトだよ!!?」

 

「離して二人とも、こいつ皆にあり得ない暴言吐いたのよ!?一生病院暮らしにしてやる!!!!」

 

怯んだ様子を見せるドラコに、強く睨む。

私を押えながらライラがドラコを睨んで言う。

 

「いけ、マルフォイ」

 

「ふざけるな、僕に女から逃げろと!?」

 

「これ以上は、子供の喧嘩で済まなくなる」

 

「ドラコ、何をしている!早く来ないか!!」

 

「こんなこと、お父様が許さないゾ!!」

 

「なら言えば良いでしょう!?女の子にいじめられて惨めですって!!!!」

 

家族に呼ばれてその場を逃げたドラコにそう怒鳴ると、振り払おうともがいてた力を抜く。

 

「落ち着いたか?」

 

「うん、でもドラコは絶対許さない」

 

ドラコの原因はあのよく似たおじさん、多分ドラコのお父さんにあたる人なんだ、お母さんも似たようなものかもしれない。それじゃあそうなるわね、割り切れた。

 

今までは子供特有の全能感からの間違いだと思ってたけど、あれがあの家の教育何だ、ならドラコは私の敵よ。

 

「はぁ、後で何かあったのか聞かせてくれ」

 

「ミリィが手を上げる何てよっぽどだもん、理由(ワケ)を教えて?」

 

気遣うように言う二人に、深呼吸をしてうなずく。

 

「あぁ、こんな事になるなんて、ダンブルドア先生に何て言えば………」

 

「三人ともどうしたの?……ミリィちゃん怪我してるじゃない!?傷を見るから手を見せて!!」

 

驚いている二人を見て、毒気が抜かれる。

ちょっとカッとしてたみたいね。殴った時に擦りむいた左手を消毒してもらいながら、この後の事を考えた。




これを予約投稿(7月10日)時点で、2巻未だ未だ終わらないですよ、石心先生ムズ過ぎ発狂しそう。
九月中までに終われば良いな、良いな………


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ホグワーツ特急

2話目ですね、映画で二人が列車の前を車を走らせるシーン、最初はこの二人は自殺願望者なんかじゃないかと思ってましたよ。
今回はそんな二人が車で空を飛んでる間の、女の子サイドのお話です。


「私達に喧嘩売ったこと、後悔させてやる」

 

「あの陰険な顔を涙と鼻水で窒息させてやるわ」

 

「二人とも、大分頭にきてますわね」

 

「そこまで気にする事は、無いんだがな」

 

私とエレナがドラコにどんな悪戯をしてやろうかと息巻いていると、ギネヴィアとライラは何でもないように話を流した。

何よその態度、あんなこと言われてムカつかないの!?

 

「二人ともどうしてそんなに素っ気ないの!?」

 

「あんなこと言われたのに、悔しくないの!?私なんてママに何て説明すれば良かったのか、悔しくて仕方無いのよ!!」

 

「別に、と言うか言われ慣れていますからね、穢れた血は」

 

「そうだな、私も言われ慣れてるからな」

 

はぁ!!?

 

「「どういうことよ!!!!」」

 

「私は成績と出席免除のやっかみですわ、小学校でもよく有りましたし、アルの姉だと狙うやからが居ないだけ、未だマシですわ」

 

な、

 

「私はスネイプ先生にスリザリンでもないのに気に入られてるから、スリザリンからは蛇蝎の如く嫌われていてな」

 

「何で言ってくれなかったの!!」

 

「そうだよ!私そんなこと言ってる奴絶対に許さないんだから!!」

 

「言っても仕方ないでしょう、これは当人の問題ですし。それに、」

 

「こういうのは当人以外が割り込むと話が拗れるものなんだ。それにな」

 

「「私達が売られた喧嘩だ(です)、けじめはつける(つけますわ)」」

 

う、そう言われると、でも………

 

「友達が悲しかったり苦しかったりしてる時に、のんきに笑ってるだけだったなんて、私バカじゃん」

 

「寂しいよ、そんなの。隣で支える事もダメなの?」

 

親友って、思ってたのに。そんなに私、頼りない?

 

「あ~、黙ってて悪かったよ。心配掛けたくなくて、これからはちゃんと言うよ」

 

「そうですわね、私を攻撃してきた人が、二人を狙わないとも限りませんし。今度からは言いますわ」

 

まぁ、そうならないよう徹底はしてますが。そういってカボチャジュースを飲むギネヴィアは、本当に気にして無い感じだった。ライラも至って自然体だし、私とエレナだけが気にしてるのかな。

それでも、友達の為に何も出来ないのは嫌だ。無理矢理はよくないだろうけど、でも後から知るなんてモヤモヤして嫌だもん!!

 

「絶対だからね?私またこんなこと隠されてたら今度は寝込むよ?」

 

「私も、孤児院に逃げて引きこもるから」

 

エレナも同じ考えなのか、私達が退かないと、二人とも諦めたように笑ったり肩をすくめると。真面目な顔をする。

 

「分かった、分かったから。ドラコを懲らしめる方法を考えよう。私だけなら未だしも、友人にまで喧嘩を売ったのだ、反省してもらわなければな」

 

「そうですわね、そうと決まれば先ずはマクゴナガル先生とスネイプ先生には内緒に。ミリィが手を上げていますから、知られるのは不味いです。出来るだけ私達とバレないようにしましょう」

 

そこから皆で計画を練ってると、コンパートメントの扉がノックされた。

扉を開けたらハーマイオニーと赤毛の女の子、いったいどうしたんだろ?

 

「ねぇ、ハリーとロンを見てない?」

 

「え、見てないけど」

 

「列車のどこにも居ないのよ、あの二人。まさか乗り遅れたんじゃ」

 

「どうしよう、ロンがホグワーツに来れなかったら、私……っ!!」

 

泣きそうになってる赤毛の女の子を抱き締めて宥める。

 

「大丈夫、きっとハリーも一緒だから。今頃駅からホグワーツにフクロウを飛ばしてるわよ、きっと先生が迎えに行ってくれる筈だわ。ロンだけなら分からないけど、ハリーがいるなら確実に迎えに来るはずだもの」

 

「ロンがハリーと離れてたら?」

 

「それなら心配無用よ、あの二人気持ち悪い位いつも一緒なのよ?ロン何て私と二人っきりの時でもハリーの話題何だから。私をだしにあの二人で仲良くなってるだけなのよ?なんか腹立ってきたわ」

 

本当はホモ何じゃないのあの二人。何て言ってるハーマイオニーに、二人して笑う。ジニーが落ち着いたみたいで良かったわ。

 

 

 

 

「フレッドもジョージも、ロンがどんな事をやらかしてホグワーツに来るかで、賭けごと何てしてるのよ!?しかもパーシーなんて、ロンのことなんて気にもせずに本を読んでたのよ!?」

 

信じられない!と怒る赤毛の女の子、ジネブラ・ウィーズリーことジニーに、ロンの兄達は弟には放任主義何だなと苦笑い。

 

ジニーはどうも私達の事を気に入ってくれたみたいで、あれからコンパートメントに居座ってずっと兄達の話をしている。最初は何がスゴいとか、どこが優しいとかの家族自慢だったんだけど、やっぱり不安が抜けきれて無いのか思考がネガティブになって、途中から愚痴に変わっていったわ。

 

一緒にコンパートメントに来たハーマイオニーは、私にジニーがなついたのを見ると、ハリー達を探しに一人で飛び出して行った。ロンを狙ってるハーマイオニーからすれば、ハリーって友達でもあるけど、要注意人物でもあるのよね。好きな女の子に警戒されてるハリーは可哀相だけど、半分くらい自業自得よ。

 

「お兄さん達って自由な人達ね」

 

「自分勝手なだけよ!」

 

ぷりぷりと怒るジニーを宥めてると、ギネヴィアが溜め息を吐いた。

 

「はぁ、ダメですわね。両面鏡に反応はありませんわ」

 

「セドリックも見てないって~」

 

エレナも、両面鏡でセドリック先輩に連絡をとってくれたみたいだ。話を聞いたセドリック先輩が監督生用のコンパートメントから飛び出して、列車を二人を探して爆走して探してくれた。ハーマイオニーが言ってたから期待はしてなかったけど、やっぱり列車のどこにも居ないらしい。

 

エレナは二人とはあまり仲良く無いから、マイペースに本を読んでる。スネイプ先生と仲が悪いのが気に食わないみたいね。あそこまで行くと、もう仲良くなんて無理だと思うんだけどなぁ。

どうにかハリー達二人と連絡が取れないかと考えていると、列車の汽笛がなって急ブレーキが掛けられた。

 

「うわっ!?」

 

咄嗟に隣のジニーを抱き締めて壁にぶつかる。

 

「いつつ、皆無事?」

 

「大丈夫ですわ」「怪我はない」「頭打った、いたーい」「ミリィが庇ってくれたから、平気よ」

 

ジニーに怪我が無いかを軽く確認して、エレナのぶつけた所を見る。赤くなってるけど、熱は持ってないし、腫れて無いから大丈夫でしょう、多分。一応指輪で応急処置呪文(エピスキー)をかけておく。

 

「ありがとミリィ!」

 

抱き着こうとするエレナの顔を掴んで引き剥がすと、何事も無かったように列車が速度を戻した。

 

「さっきの揺れ、何だったんだろ」

 

「何か進路の先に飛び出たのでしょうか?」

 

「こんな何も無い場所でか?………あぁ、嫌なものが見えた」

 

へ?何が見えたのよ、頭抱えちゃって。

ライラが頭を抱えてるのを横に、皆で窓に張り付くように外を見ると()()()()()()()()

 

「は?」「なにあれ?」「何故デロリアンでは無いのです」「ぱ、パパの車だわ!!?」

 

空飛ぶ車がホグワーツ特急に並走するように飛んでたのを見て、思わず呆ける。エレナ何て口が開いてるし。エレナの口を塞ぎながら、ジニーに聞く。

 

「えっと、魔法界では車は空を飛ぶの?」

 

「そんなわけ無いじゃない!!あれはパパがガレージでママに秘密で作ってた車よ!!?」

 

『何でこんな所飛んでるのよ、バレたらパパ首になっちゃうかも。どうしよう!?』一杯一杯になって声を上げて涙を流すジニーを抱き締めて宥めて、ギネヴィアにどうしようと視線でうったえると、溜め息を吐いたギネヴィアが両面鏡を取り出した。

 

「一応また連絡を取れるか試してみますが、ダメなら諦めてくださいね」

 

流石の私もお手上げですと言わんばかりのギネヴィアの態度に、これはあの二人、やらかしたわねと肩を落とす。

明日の新聞の見出しが『やらかしたハリー・ポッター!!法律違反でホグワーツ退学!?』にならない事を祈るわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバイハリー!透明機能が故障した!?」

 

「列車の誰かに見られたら不味い!?何とかしてくれロニー!!」「ロニーって言うな!!」

 

何で新学期前からこんな事になるんだ!!

そう心の中で愚痴って何かないかとポッケを漁る。ハチミツヌガーしか出てこない、もっと何かあっただろ、僕のバカ!!杖は制服と一緒にトランクの中だし、こうなるんだったら、僕もミリィみたいに魔法の道具を身に付けるんだった!

 

毒にも薬にもならない事ばかり思い付いては、焦りで霧散するのを何度も繰り返していると、上着の胸元に違和感を感じる。

 

「あぁ!両面鏡だ!!」

 

「ってことは女子からか、でかしたハリー!!ギネヴィアに何とかしてもらおう!」

 

ロンの言葉を聞きながら両面鏡に出る。相手はギネヴィアみたいだ、助かったぞ!!

 

「ハリー、やっと出てくれましたね、あなたは今どこに?」

 

「今ロンのパパの車で列車の上だよ!!助けてくれギネヴィア、透明機能が故障しちゃったんだ!!」

 

「………はぁ、車内を見せてください」

 

「分かった!!」

 

両面鏡越しに車内を確認したギネヴィアは、一際大きい溜め息を吐くと、車を列車の後を地面を走らせるように運転しろと言ってきた。

 

「空を飛ぶよりも燃料の消費は幾分マシでしょう?透明機能が動かないのも、多分クールタイムか燃料切れですわ」

 

「「分かったよギネヴィア!!!」」

 

「駅に近付いたら、列車は速度を少しずつ落とします。十分前に汽笛がなりますから、それまでに離れて何処かに車を隠しなさい。森が良いです、間違っても直接ホグワーツに来ようとしないで。先ずはホグズミートの方に向かいなさい、そこで村の人にホグワーツまで渡りをつけてもらうのです」

 

ロンが危なっかしい手付きで列車の後ろの線路に車を降ろすとひどい揺れがした。ロンのパパ、サスペンションを弄ったな、全然揺れが収まらない。

急いでロンに酔い止めの魔法を掛けておく。

 

「うっぷ、きもちわる……」

 

「頑張れロニー、後少しだ………」「ロニーって言うな……」

 

「さて、あなた達、勝手に親の車を持ち出して………言い訳を聞きましょう」

 

「有罪確定かい!?」「当たり前でしょ!!ロンのバカ!パパが首になったらロンのせいだからね!!!」

 

ギネヴィア出はない声が聞こえて驚くと、目を真っ赤にして泣き腫らしたジニーがギネヴィアの横に出てきた。

 

「ジニー!?」

 

「え、ちょっと待ってくれ、そこにいったい誰が居るんだ!?」

 

パーシーに見つかったら僕、ママより先にパーシーに殺されるぞ!?

 

そんな今更なロンの叫びを無視してジニーに謝る。

 

「ごめんジニー、実はあの後、僕達だけ9と4/3番線に行けなくなって、列車どころかホームにすら行けなかったんだよ」

 

「それは、本当の事なの?」

 

「勿論さ!じゃなかったらパパの車持ち出さないよ!」

 

「ロンは運転に集中してて!!」「僕の扱いって……」

 

「でも何でこんな手段に?」

 

「それは………」

 

僕が何て説明すれば良いのか悩んでいると、鏡に写ったギネヴィア達が小さくなって別の女の子の顔が写った。

 

「おおかた、どうすれば良いか分からずにパニックにでもなったのかな?」

 

「エレナ!」

 

「焦ったロンが強行手段に出たんだろう、ロンは焦ると極端になる癖があるからな」

 

「ライラも、皆そこにいるのかい?」

 

「ええ、そうで「そもそも、学校にフクロウを飛ばせば解決した事じゃない!!先生が姿表しで迎えに来てくれたわよ!!」ミリィ、落ち着きなさい」

 

ギネヴィアの言葉を遮って怒鳴るミリィの言葉に、思わずロンと顔を見合わせる。

 

「「その手があったか」」

 

「あんた達本当にバカ!」

 

怒ったミリィの説教に、途中から両面鏡に気付いたハーマイオニーからの追加の説教を聞きながら、僕達は車酔いもあって最悪に近い気分でホグズミートに向かった。

 

「ホグズミート、本当は三年から何だよな」

 

「僕達が車で行ったら驚くぞ。先に車を隠さないと、燃料は未だ少しある。飛んでどこかに隠そう」

 

「ハグリッドに頼んで『禁じられた森』に隠しなさい。ロンのご両親とも知り合いなのでしょう?なら無下にはしないでしょう」

 

「『禁じられた森』だって?あそこはもう懲り懲り何だけどなぁ」

 

僕たちの新学期は、なんとも前途多難な幕開けをしたのだった。



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ギルデロイ・ロックハート

石心先生の口調独特過ぎて苦手。



ハリーとロンに女性陣(みんな)で説教してからしばらくの月日が流れた。

今日最初の授業、私は早くも授業を抜け出したくて仕方無かった。二年生からは飛行訓練が無くなって、その分他の科目の授業が増えるのだ。

 

「やぁハッフルパフとレイブンクロー1年生の皆さん!おはようございます!!実に二日振りの授業ですな!私の授業がさぞ待ち遠しかったでしょう!!」

 

今日は最初の授業が『闇の魔術に対する防衛術』なのだ、つまりはそういう事だ。

 

朝からハイテンションの挨拶をしたロックハート先生にげんなりする。

 

これで授業がマトモだったらなぁ。

 

「今日は簡単なテストを行いたいと思いますよ。なぁに簡単なものです、私の著書を読んでいれば簡単に答えられる問題です」

 

実際、本は面白いのだ、本は。

現実的な内容ではないがフィクションとしては一流の物語、実際作家としてはスゴく優秀な人なのだろう、勲章を貰ってる位だし。

ただ、教師としてみると………

 

配られた小テストの問題文を読んで、思わず出そうになった溜め息を堪える。

 

『私の著書《トロールとのとろい旅》の第三節の冒頭の書き出しは?』

 

『私の著書の内容として、次の内間違っているのはどれ?』

 

『私のーーー』『私が~~~』『私は………』

 

『最後に、私の著書で一番印象に残っているシーンと、その感想を書きなさい』

 

 

全部期末の試験範囲に掠りもしてないんだけど、後、読書感想文の時間でも無いんだけど?

これ本当に『闇の魔術に対する防衛術』の授業?

 

「ふーん、皆さん、教科書はしっかり読み込んだ方がよろしいですよ!特に男子生徒諸君!!そしてミスギネヴィア・テイラー、裏に勝手に別の問題を作らないように、このレベルの問題は二年生の内容では無いですよ、見栄を張るのは止めたまえ」

 

ものすごい速度で採点をするロックハート先生。

いや、本当に、速読や速筆は目を見張るものがあるわね。前に聞いたらひたすら練習とか言われたけど、ペン胝スゴいし、ただのナルシストってだけじゃ無いのよね。

 

「すみません先生、小テストがあまりにも簡単だったもので。それとその問題は二年生の範囲ですわ」

 

「そ、そうか、そうか。いやなに、今のは君を試したのですよ。………ふむ、確かに君だけ満点だ。私へのクリスマスプレゼントの選択も素晴らしい!ハッフルパフに五点あげましょう」

 

「ありがとうございます、ロックハート先生」

 

全然嬉しそうにない能面みたいな笑顔でお礼を言うギネヴィアに同情する。

本当に、作家としてはスゴい人なのになぁ。

って言うか丸つけ速いわね、集め終わってから10分位?流石魔法界一のフィクション作家。

 

「それでは今日は、『狼男との大いなる山歩き』の82P、朝食のシーンから、私の相手役の女性を誰か演じてくれるかな?」

 

その言葉に何人かの生徒が手を上げる。

意外や意外、この授業は女子生徒にまぁまぁ受けてるのだ。何せ男子と違って女子生徒にくる役はヒロイン役が多いため、見た目がハンサムで金持ちで売れっ子作家なロックハート先生に口説かれる役は、歳上に憧れる年頃の女の子としては、結構人気な役。

それでもマトモじゃない授業だから、真面目な生徒はイライラしてるし、男子生徒何て殺気すら漂わせてる。この前なんてこの授業が原因で破局した上級生が談話室で号泣してて、それはもう大変だったのだ。

 

そうこう考えてる間に、レイブンクローの生徒とのラブロマンスな朝食のシーンが終わり、授業終わりの鐘がなった。

 

「では本日の授業はここまで、課題として『狼男との大いなる山歩き』の感想文を、原稿用紙三枚にまとめてくること。羊皮紙何て書きにくくていけないからね!」

 

その言葉を聞いて皆が教室を出始める。私も荷物を纏めて移動だ。次はグリフィンドールと合同の『変身術』、ハーマイオニーと一緒の授業だ。いつものメンバーで四人集まって移動する。

 

この科目の良いところを上げるとすれば、文章を書くのが上手になるのと、課題の提出用の紙が羊皮紙では無いことね。普通の紙になれると羊皮紙って書き辛くて仕方無いから、本当。ここだけは他の科目の先生も見習って欲しい。それ以外が論外なんだけどさ。

 

「はぁ、今日も演劇だったわね、そのうち教室が劇場にでもなりそうな勢いだわ」

 

ぼそりと呟く私に、ギネヴィアが困ったように笑う。

 

「作家としての能力は一級品ですのにね、手紙でのやり取りスゴく面白いですわよ?文才は有るのです、文才は」

 

演技はちょっとアレだよね、流石に魔法界のシェイクスピアとまではいかないみたいだ。

 

「ぶっちゃけ先生変な目で見てくるから嫌い」

 

「エレナ、モテるからな」

 

「彼氏持ちにアタックとか、あり得ないでしょ………あぁ、セドリックに会いたい、セドリック~」

 

あぁ、エレナがストレスで現実逃避し始めた。

それにしてもエレナが色目使われてるって、あの先生はロリコンなのだろうか?

 

「流石にローティーン相手に色目は犯罪的では?」

 

「ギネヴィアのスタイルで言うと説得力無いよね」

 

(バスト)のアンダートップ差がこの歳でもう15cmを超えるこの娘は、身長に対してのバランスがおかしい。腰も子供なのに細いし、いわゆるトランジスタグラマーね。

ブラも大きいし、そろそろ走ると揺れるんじゃない?

 

「大きくても苦労ばかりですわよ?サイズ調整が面倒ですし、肩凝りますし、重心が高いので転びやすいですし、足元見辛いですし。汗がスゴいですし。後男性の視線が最悪ですわ」

 

「それでも羨ましい、セドリックは気にするなって言ってくれてるけど、ママの胸に目がいってたのバレバレだし」

 

ピンク脳のエレナが妬ましげにギネヴィアを見る。

私としては今のを聞いて遠慮したいけど、楽だし。ライラは興味ないのか次の『変身術』の教科書をパラパラと捲ってる。

 

「これから嫌でも大きくなりますわよ、イギリスの平均はCですから」

 

「うん、ママもそこそこあるし、きっと大丈夫よね!」

 

その後もブラがどうのと歩きながら話していたら、教室の入り口前で呆れた顔をしたハーマイオニーと目が合った。

 

「あなた達、廊下で話をするにしてはちょっと生々しいわよ、男子の目も有るんだし」

 

あ、忘れてた。周りでこっちをこそこそと見てる男子生徒を、エレナと二人で睨み付ける。

 

「「……それが何か?」」

 

二人はまるで気にしていないみたい、多分真逆の考えだと思うけど、過程が違うのに結論の言葉が同じなのはこの二人あるあるね。

 

「………はぁ、そこの二人を見習って、少しは恥じらいなさいよ」

 

「私のストライクゾーンは最低でもハーマイオニーレベルの賢さですわ。アルより格好良い人でなければダメですの」

 

若い頃の校長先生かな?

是非タイムマシンでも開発して欲しい所ね。じゃなきゃ一生結婚出来なそうよ、弟を基準にする辺り、ブラコン極まってるし。

 

「私は未だ、そういうのは分からないからな、理解できないから無理だ」

 

うわぁ、らしいっちゃらしいけど、今の言葉で聞き耳立ててた男子生徒が膝から崩れ落ちたんだけど、可哀想に。ライラ狙いの上級生がガッツポーズしてるのは何でかしら?

 

「……はぁ、もういいわ。それよりも皆、今朝からジニーにどこかおかしな様子が無かったか分かる?」

 

ジニー?

ジニーがどうかしたのかしら、今朝のご飯の時も普通だった気がするけど。

 

「特に無かった気がするけど」

 

「ハリーにお熱な事しか分からないよ?」

 

「ディゴリー先輩にお熱なエレナが言えた事では無いでしょう?しいて言うなら、今朝は何か隠し事をしている様子でしたわね」

 

「あぁ、私の《何か困った事が無いか?》という言葉に、一瞬目を泳がせていたな」

 

え、そんな様子あったっけ?

全然分からないんだけど。

 

「そうなの。あまり詮索は良くないと思うの、だからどうすれば良いかしら。私仲の良い歳下何て初めてで、こういう時ってどうすれば………」

 

「11歳の隠し事何て、可愛いものでしょ。ドラマじゃないんだし、話してくれるまでは待とうよ」

 

一体誰目線で言ってるのよエレナ、一つしか歳が変わらないのに。

 

「うん、分かったわ。ありがとうエレナ」

 

悩むハーマイオニーをエレナが励ましてると、教室にロンとハリーがマクゴナガル先生に怒られながら入ってきた。

 

「あなた達二人は、何故そうも喧嘩がお好きなのです!そんなに身体を動かしたいのなら、休み時間にスポーツでもすればよろしい!!」

 

今日もやっていたらしいグリフィンドールとスリザリンの抗争に、顔をしかめる。

まぁた喧嘩したの?あの日以降、ドラコが穢れた血(あんな言葉)を言ったって聞いた二人は、それはもうドラコに対して喧嘩早くなった。目と目を合わせたら即バトルのレベルでお互いに嫌いあって、他のスリザリン生徒に対しても、まるで悪役と戦うヒーローみたいに自分達を正当化して、それはもう容赦の無い言葉で責め立ててる。特にロン。

二人とも、あの後ハーマイオニーがショックを受けた顔をしてたのを、本当に怒ってたからね。ハーマイオニーはそんな差別用語を言う人が初めてなのか、そんな事を言う人がいるって事実にショックを受けてたんだけどね。

 

それでその場にいたウィーズリー経由で、グリフィンドール中に広まって、何故かハッフルパフにまで噂が広がり、グリフィンドールと一部のハッフルパフの人間がスリザリンを抗議してるのよ、レイブンクローは中立で静観してる。今はどこの廊下でも赤と緑の生徒が言い争ってるのを見られる。最近はマクゴナガル先生の溜め息も増えたのよ、スネイプ先生は顔色一つ変えないけどね。あの人の精神力、本当にどうなってるのかしら。

 

「すみませんマクゴナガル先生」「ごめんなさいマクゴナガル先生」

 

「謝罪は聞き飽きました!あなた達が反省をしないのなら、罰則を追加する他無いでしょうね、今日の消灯時間に、私の部屋に来るように!!グリフィンドールから10点減点です!」

 

マクゴナガル先生がカンカンに怒ってるのをみて、教室が静まり返る。ロンとハリーは真顔で頭を下げていた。

 

「マクゴナガル先生の部屋ですか、となると私物の禁書か徹夜の書き取りか………あぁ、RRPG(リアル・ロール・プレイング・ゲーム)が私物で何冊かあると言っていましたね、確かフランスでのマグル人生追体験ものでしたか。年代は中世から近代の間でのランダムでしたわね」

 

うわぁ、農民スタートして黒死病でバットエンドとか、魔女狩りバットエンドとか、革命に巻き込まれてバットエンドとか、ろくな未来が見えないわね、私だったらフランススタートは絶対に嫌よ。

 

「ふん、端的に言って地獄だなそれは」

 

「イベントには困らないから、飽きないらしいですわよ」

 

少しミスれば即バットエンドの追体験なんて、恐ろしいわ。

 

「それ、楽しいの?」

 

「さぁ、先生は黒死病治療を確立してお医者さん無双ルートだったり、ジャンヌダルクの軍師になってジ・ル・ドレェと一緒にフランス統一ルートはオススメと言ってましたが。先生のお気に入りは処刑人ルートで、色んな著名人との会話が楽しめるとか、ルイ16世やジャンヌダルク、マリー・アントワネットやモーツァルトとの会話はとても楽しかったと聞いています」

 

歴史改変が過ぎるでしょ、処刑人ルートとか物騒なものまで有るのね、流石RRPG、自由度が高過ぎる。

 

「最近はあまりご一緒して遊ぶ機会が無いですし、今度お願いしてみようかしら」

 

フランク王国でカール3世をチート強化でユーロ圏統一とか、燃えますわねぇ。

 

そう皆でこそこそと話していると、大きな咳払いが背中側から聞こえてきた。

 

あ、ヤバイかも。

 

「そこの四人、随分と私の授業が退屈のようですね、特にギネヴィア」

 

動物擬き(アニメーガス)試験の対策授業なら、私も意欲が湧くのですけれど」

 

しれっと答えるギネヴィアに、私達だけじゃなく教室内が凍る。や、やらかしたわよギネヴィア!?

 

「他の三人も同様で?」

 

青筋浮かべてる先生に慌てる。ヤバイ話過ぎたみたいだ、って言うかこれ絶対ギネヴィアが煽ったからでしょ!?

 

「私は動物擬き何てとても、そんな難易度の授業についていけるのは変身学が得意なエレナとギネヴィアだけですよ「あ、汚ないミリィ!私に飛び火したじゃない!!」」

 

「私もミリィと同意見です「ライラまで!?」」

 

この瞬間だけ、私とライラは意見が一致したわ。日頃セドリック関係で手を焼かされてるエレナに、今回はギネヴィアと一緒に苦労をしてもらおうとね。

 

「ごめんなさい先生!真面目に授業を受けますから罰則は嫌です!セドリックとの時間が減っちゃう!!」

 

あ、墓穴掘ったわねエレナ、憐れなり。

 

「そうですか、そうですか………あなた達も今夜私の部屋に来るように!ハッフルパフから12点の減点です!!」

 

こうして私達四人は、あの悪名高いRRPGをやることになった。




ギネヴィアは一年の時は『闇の魔術に対する防衛術』が筆記のみと知って、課題提出をするだけで授業はフケてました。ダン爺の優秀さに、グリンデルバルドのヤンキー要素が入った感じ。グリンデルバルドはヤンキーと言うより詐欺師だけど、学校でイキって退学処分されてるからヤンキーで良いはず。

設定吐きたくなったので、ちょっと吐いてみる。
以下本編に関係無い裏設定とか舞台裏みたいなものです。



今回吐き出すのはハッフルパフ四人組の各寮の適性値

ミリィ
ハッフルパフ>>スリザリン>グリフィンドール>>>>レイブンクロー
生来の優しさからハッフルパフ
親友や恋人といった "深い関係"の存在に対しての無意識の憧れからスリザリン
孤児院での教育による真面目さや良心からグリフィンドール
学ぶ意欲は義務的なものなので適性は最下位のレイブンクロー

ギネヴィア
レイブンクロー>ハッフルパフ≧スリザリン>>>>>>グリフィンドール
知識欲が人並み外れている為、レイブンクロー
家族思いで親しい相手にはゲロ甘なのでハッフルパフ
広く浅い関係ではなく、信頼のおける一人の為にその他を棄てられる思いの重さからスリザリン
正義感とか道徳心とかはコミュニケーションの潤滑油としか思ってないので最下位のグリフィンドール

エレナ
ハッフルパフ>>>グリフィンドール>>レイブンクロー>>>>スリザリン
皆仲良くお手て繋いでゴールするのが大好きだからハッフルパフ
皆仲良く出来ない事をする人間が嫌いだからグリフィンドール
仲良くするために努力を惜しまないからレイブンクロー
狡猾とか手段を選ばないとか、バレたら皆仲良くが出来なくなるような事は悪のため最下位のスリザリン

ライラ
レイブンクロー>スリザリン≧ハッフルパフ>>>>グリフィンドール
学ぶの大好き本の虫の為レイブンクロー
好きな"モノ"に対しては手段や方法を選ばなくなるからスリザリン
好きな人にはドロッドロの深過ぎる感情で尽くすタイプだからハッフルパフ
ギネヴィアと同じ理由から最下位のグリフィンドール

ライラがヤンデレ風味な感じになってますが、このように四人は皆愛が重いです。
一番サッパリしてるのがエレナな時点でお察し。
なにがとは言いませんが
ライラ>>ギネヴィア≧ミリィ>>>エレナ
類は友を呼ぶって奴ですね、ええ。

また唐突に設定吐きたくなったら吐きます。


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廊下の声と壁の文字

RRPGの描写はカットです。
文字に起こしたら数万じゃきかなくなるので、やるとしたら幕間ですかね、気力が持たないわ。


RRPG(リアル・ロール・プレイング・ゲーム)によるお仕置きでゲッソリと疲れ果てたのが一月前。休日に食堂でだらける私とギネヴィア。エレナはセドリック先輩といちゃつきに行って、ライラはハーマイオニーと図書室でお勉強。

 

課題も粗方終わってて暇なギネヴィアと私は、何をする訳でもなく、朝食が終わっても飲み物を飲みながらだらだらと過ごしていた。

 

そんな時に、ロンとハリーが相談があると、話し掛けて来たのだ。

 

今は暇潰しに丁度良いとギネヴィアが事情を聞いてるところ。

 

「それで、二人は私達の所に来たわけね」

 

「うん、君達なら何か分かるかもって、ミステリーものが好きみたいだし」

 

別に私は好きって訳じゃないんだけど、どっちかと言うとファンタジーモノが好きだし、ナルニア国物語は名作よね。

 

「ハリー以外には聞こえない謎の声ですか。場所を移しましょう」

 

「私、ギルと遊んで「ミリィも一緒ですわ」……分かったわよ~ギルも呼ぶからね?」

 

「なら呼んでくるよ、この時間ならコリンの相手をしてくれてる筈だ」

 

そう言うと、ハリーがグリフィンドールに入ったギルバートを探してきてくれた。

 

「コリン?」

 

「ハリーの熱心な追っかけだよ、あの熱意には驚嘆するね」

 

私の言葉に反応したロンが、コリンについて説明してくれる。

 

追っかけねぇ、ミラお姉ちゃんが今働いてるクィディッチチームの大ファンだったけど、あれと同じレベルなら相当ね。

引っ越しの時にいくつ箱があっても足りないグッズの山を思い出してげんなりする。何で同じグッズをいくつも持ってるのかしら。

 

「おはようミリィ、何かあったのか?」

 

「いや、暇だから呪文でも教えてあげようかと思って。おはよう二人とも」

 

「おはようミリィ!」

 

ギルがジニーを連れてやって来た。

こいつここでも女の子に勘違いさせてる訳?ジニーがギルの毒牙に掛からないように気を付けなきゃ。

 

「ジニー、ギルはとんでもない女たらしだから気をつけないとダメだよ?」

 

「え!?」「おいこら朝っぱらから何言ってんだ!!」

 

驚くジニーをよそに怒り出したギルをあしらってると、ギネヴィアが猫のスキャットを抱いて、食堂を出たのを、皆で追いかける。

 

「そういえば場所を移すって、どこに行くの?」

 

「こういう時は便利なあの部屋ですわ、ついたら私から少し離れててくださいな」

 

あぁ、『必要の部屋』ね。便利よねあそこ、色んな人が使ってるから、部屋の種類も豊富だし。無機物なら何でも揃うから、食べ物と生き物以外なら何でも揃う便利な部屋よ。この前はエレナがファッションショーとか言ってセドリック先輩とのデートに使ったりもしてたわ。エレナの惚気を聞く度に口の中が甘くなる。思い出すだけでもダメね、イラッとしてきたから、腹いせにギルをからかう。

 

「そういえばギル、入学してから何人の女の子をたぶらかしたの?」

 

「だから人聞きの悪いことを言うな!!」

 

怒ってるギルに、何で自覚が無いんだろうと呆れる。噂になるくらいにはモテてるでしょうに、言い方が悪かったのは謝るけどさ。

 

「でも、告白されたんでしょ?」

 

ジニーが興味津々な態度で聞くと、ギルが居心地悪そうに頭をかく。

 

「あ~、ちゃんと断ったよ」

 

「あら、タイプじゃなかったの?」

 

お相手の女の子は結構可愛かったと思うけど?

性格は、ギルの姉の私に宣戦布告(あんたには負けない!)なんて言ってきたから、考えることが苦手なのかもしれないけど。

ギルに告白したグリフィンドールの1年生()を思い浮かべてると、ギルが苦々しい表情をしてる。

 

「あいつら、ミリィをバカにしたから、それ以前の問題だ、論外だよ論外」

 

なんともまぁ、

 

「シスコン?」

 

呆れたような目をして言うジニーの言葉にうなずくと、ギルがジニーを鼻で笑う。

 

「ブラコンに言われたくないな」

 

「ブラコンじゃないし、シスコンミニマムフェチ!」

 

「だったらお前はロニーコンプレックスだジニー!」

 

いがみ合う二人を見てこの二人実はお似合いじゃない?とか思うけど、まぁ取り合えず。

ジニーの肩に手を置いて言う。ギルの肩を万力の如く握り締めてるロンにやり過ぎるなと目線で釘を刺すと、ジニーににっこり笑う。

 

「誰がミニマムだって?」「今誰を何て言ったんだギルバート?」

 

「「あ、いえ、その……」」

 

「何か似た者兄妹(姉弟)だね」「別にあれくらい普通ですわ。それよりも早く中へどうぞ」

 

「……弟狂い(ギネヴィア)も少し自重すべきだよな」

 

マトモなのは僕だけか、一人っ子は寂しいな。なんて呟くハリーを他所に、ギネヴィアが開けた必要の部屋に皆で入る。

 

丸テーブルにイスが並べられた簡素な部屋だ。ギネヴィアが持ってた口がゴム製のポーチから茶葉の缶とティーセットの入ったお高い箱を用意して、呪文で水を用意してお茶の準備を始めた。どれも検知不可能拡大呪文でコンパクトにまとめてる、この魔法の凄いところは、重さも軽減する事よね、一体何をどうしたらそうなるんだろうか、理論が難解過ぎて理解を脳が拒んでるわ。難易度自体は、そこまで難しくないんだけどね。

 

「それでは、先ずは声が聞こえた時のお話を聞かせてくださいな」

 

「あれはグラウンドの使用を妨害してくるスリザリンへの仕返しにロンとフレッド、ジョージの四人でスリザリンの寮の前に糞爆弾を仕掛けてたのが見付かって、一日ロックハートのファンレターの手伝いをさせられた後の事だよ」「あの二人いつの間にか消えてて、僕達だけが罰則さ。僕は一日中トロフィールームで銀磨きだよ、マグル式でね」

 

出だしから酷いんだけど、何それは。

 

「ギル、あなたまでスリザリンと争ってはいないでしょうね?」

 

思わず二人の話を中断させてギルに確認をとる。流石にギルは良識があるから、大丈夫だとは思うけど。

 

「俺が喧嘩を買うのはミリィ(家族)をバカにした奴だけだ」

 

むすっとした顔で言うギルに、これはダメだなと頭を抱える。

マクゴナガル先生が疲れる訳だわ。そのうち全校集会でもして校長先生からお説教でもあるかもしれないわ。

 

「ジニー、1年生も巻き込まれてますの?」

 

上級生の先輩(ハリー)に良いところ見せるチャンスだって、コリンみたいなタイプが自分からね、後は正義感が好きな男の子が………うん」

 

チラッとギルを見た後に私を見て、気不味い感じに視線を逸らすジニーに、愚弟がごめんなさいと心底思うわ。

 

「ロンもハリーも、学校全体を巻き込んで喧嘩して、あなた達とんでもない事をしてるって自覚あるの?」

 

私達も"あんな言葉"を使ったマルフォイは許せないから、人の事は言えないけどさ。

 

マルフォイとハリーとロンの喧嘩が、いつの間にか寮同士の代理戦争になって、今じゃ当人も置き去りにして2つの寮が正面から対立してる。

未だいたずらや嫌がらせですんでるけど、このままじゃ怪我人どころか、死人すら出るかもしれない。魔法界は怪我には寛容だから、やり過ぎる子供が出てくる事もあるのよ。

 

どこかで落とし所を見付けないと、取り返しがつかなくなるんじゃないかしら。

 

「だとしてもマルフォイにはあの言葉を撤回させる、それまでは止まれないよ」

 

「僕達はね、大好きな親友や仲間を否定する言葉を聞いて止まれる程、未だ大人じゃないんだ」

 

「俺の大切な人を否定されて、周りの迷惑だからやめてくれって言ってきて、はいそうですか何て言えるわけ無いだろう」

 

………………はぁ。

何でこう真っ直ぐなんだろう、この男の子達は。

そんなんだからジニーもハーマイオニーも苦労するのよ、イノシシかなにか?もう好きにすれば良いのよ、勝手にしなさい。

 

こっちはこっちで落とし所を探さないと、一応当事者何だし。

 

「ギネヴィア」

 

「はいはい、話を戻しましょうか、ハリーあなたは何処で声を聞いたのです?」

 

「罰則が終わってクタクタになりながら廊下を歩いてたら、ハリーと合流出来てさ、二人で寮まで愚痴を言いながら歩いてたんだよ。そしたらいきなりハリーが叫んだんだ」

 

「いきなり耳元で『殺してやる』って聞けば驚くだろう!?しかも声の凄みがもうとんでもないんだよ?」

 

何それ、幻聴だとしても物騒ねハリー。

 

というか、ハリーはそこまでの謂れを受ける事はしてない筈よ。スリザリンの人間だとしても、悪口を何段も飛ばして殺害予告なんて、真面目に先生に相談した方が良いんじゃない?

 

「殺害予告は物騒ですわね、心当たりはありますの?」

 

「あるわけ無いだろう、マルフォイだってもう少し考えて言うはずだ」

 

だよね~根っこが小心者のマルフォイなら、そんなこと言う前に父親に泣き付いてるわ。

マルフォイ、最近は授業が一緒の時にちらちら見てるけど、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()。前まではあんなマグル用品(ノート)何て使ってなかったのに。

 

「なら、誰がハリーにそんな酷いこと!」

 

「落ち着けブラコン、それよりも何でロンに聞こえなかったかだろ?」

 

ジニーに睨まれながら言うギル。何でそうつっけんどんな態度になるんだか、妹相手じゃないんだから、もっと素直になれば良いのに、ちゃんと友達出来てるのかしら?

 

「そんなの僕が知りたいぜ?」

 

「ロニーはいつもの難聴だろう?」

 

「喧嘩なら買うぞサンダーボーイ」

 

また軽口を叩き始めた二人を尻目に、これまで出てきたものを頭の中でまとめる。

 

………うーん、情報が少ないなぁ。これ、ロンがたまになる難聴が、問題をややこしくしてるんじゃない?

 

「ふむ………そうですわね、ハリーいくつか質問を?」

 

ギネヴィアがノートにペンを走らせながら言うと、皆が黙って二人を見る。私も、名探偵の推理を紅茶を飲みながら眺めることにした。

 

「もちろん、解決するなら何でも答えるよ」「じゃあサンダーボーイは何歳までオネショしてたんだい?」「茶化すなロニー!」

 

お互いの髪の毛やらほっぺを引っ張りながら騒ぐ二人を呆れた目で見て、ギネヴィアが質問する。

 

「………こういうことは初めてで?」

 

今回が初めてだよ(ほんはいあはひへへはよ)

 

「何か恨まれる事は?」

 

スリザリンなら散々煽ってバカにした(ふいはひんはらはんはんはがにひは)

 

「では、『人たるもの』以外と話したことは?後、二人とも聞き取り辛いのでじゃれあいを止めてください」

 

「………蛇と話した事は有るけど、あの場に蛇何ていな……皆どうしたんだい?」

 

そのハリーの言葉に皆してハリーを見つめる。

 

「あぁ、……続けます。ハリー、蛇との会話は何度も?」

 

「いや、一度だけだけど、そもそも蛇に会ったのがその一度だけだよ」

 

「蛇とは会話になったのですか、一方通行ではなく?」

 

()()()なんだから、当たり前だろう?………ねぇ、何でそんなに蛇との会話が気になるのさ、これくらい魔法界では普通だろう?」

 

その言葉に、ジニーが悲しそうな表情でハリーに言う。ジニー、これがバレたらハリーがどうなるのか、想像できちゃったのね。

 

私とギルはどうしようかと顔を見合わせる。これ、下手しなくても特大の爆弾だよね。

私としては動物と話すのって夢だったから、是非とも教えて欲しい所だけど、魔法界で蛇語は特別な意味を持つから……

 

「あのね、ハリー。蛇とは話せないのよ、普通は」

 

「冗談はよしてくれジニー、僕は話せたし、それにこれくらいごまんといるだろう?」

 

「それがいないんだよサンダーボーイ、直近で蛇との会話が確認されたのは、この学校の創始者の一人だ」

 

何でよりによってハリーがそんな、何て顔でなけなしのジョークを飛ばすロンに、違和感を感じたハリーが意固地になる。

 

「何だロニー、それなら問題ないじゃないか、ちょっと珍しいだけだろ?」「ロニーって呼ぶなって言ってるだろ!」

 

「いえ、その創始者が問題なのです。ロウェナ・レイブンクロー、ヘルガ・ハッフルパフ、ゴドリック・グリフィンドールと共にホグワーツ魔法学校を開校し、そして仲違いして、学校を去った、()()()()()()()()()()()その人です」

 

その言葉に、ついにハリーから余裕が奪われる。

 

「まさか、()()()()()()

 

「……はぁ、そのまさかですわ」

 

これは、これはヤバイよね、だって聞いたこと無いもん、それだけ希少で特別な力って事なんだろうけどさ、グリフィンドールのハリーがそれって事が皮肉を感じるわ。

 

「ハリー、あなたには、スリザリンの後継者の疑いがありますわ」

 

「そんなの嘘だ!!僕が()()()()と同じだって!?ミリィにあんな事を言った奴等と同じ?そんなの認められる訳無いだろう!!」

 

「ハリー、『聖28族』は、濃い血縁関係にあるんですわ。あなたの父親は元聖28族の『ポッター家』の長子です、サラザール・スリザリンと血縁関係であっても不思議では無いのですわ。それを言うならロンもなのですが、彼はグリフィンドールの血が濃い『ウィーズリー』ですから」

 

あぁ、限り無く純血の一族であると分かっている一族だっけ、『聖28族』。確か純血を保つために親戚通しの婚姻をずっと続けてきて、純血の一族全体が親戚関係にあるっていう、イギリス魔法界きっての超巨大コミュニティー。

ウィーズリーみたいな例外を除いたその殆んどが資産家の家で、彼等が一致団結すれば魔法界の全てを掌握出来る、何て陰謀論すら出てる位には力の強い存在。特に力が強いのがマルフォイ家ね。

 

「僕は、グリフィンドールだ、スリザリン何かじゃない!!」

 

叫ぶハリーを見て、この問題をどうするかを考える。

まぁ、蛇何てホグワーツでも見掛けないし、バレる事は少ないだろうけど、対策はしときたいよね。

まぁでも、バレにくいって事は……

 

「そんなの僕達が疑うわけ無いだろう?」

 

「ハリーは、カッコイイ獅子の騎士様だもの、スリザリン何かじゃ無いわ!」

 

「私は、『蛇語(パーセルマウス)』が気になるんだけど?」

 

練習で身に付けてもバレにくいって事で。いやとっても珍しくて、話すのがすごく難しいってのは分かるんだけどね?動物と話せるって、思いっきりファンタジーじゃない!何だろう、すごくワクワクしてきた。

 

「ちょっと空気読めよミリィ………」

 

良いから、ギルは少し黙っててよ、今はハリーにどうやって蛇と話すのかを聞くのが大事なんだから!!

 

「……ハリー、帽子があなたをグリフィンドールと認めたのですから、それは間違いないですわ。寮関係無くあなたの才能の問題ですからね」

 

「そんな才能なら、いらなかった……」

 

「私は羨ましいけど?動物と話せるって、思いっきりファンタジーだし」

 

「もしかしてわざとか?わざとなのか?」

 

さっきからうるさいギル、ちょっと黙っててよ!

っていうか皆私の言葉無視しないでよ!

 

「あげられるならあげたい位だよ」

 

「うーん。でも、確かにあると便利だよな、蛇出現呪文(サーペン・ソーティア)と組み合わせれば、情報収集のアドバンテージがすごいことになるぜ。これは活用すべきだ」

 

私はそんな目的じゃないし、単純にファンタジーな事に対する興味よ。

 

「ロンとミリィは放っておいて、先ずは蛇が廊下にいたかです」「「今日は何か扱い雑じゃない(かい)!?」」

 

「見てないよ。ただ、移動してるのは分かった。聞こえてくる声の位置が動いてたから」

 

「声はどこから?」

 

「壁の中……だと思う。何で壁の中に蛇がいるんだって思うけどね」

 

「……………可能性を排除して、最後に残ったそれが、どれだけあり得なくてもそれが真実ですわ。多分配水管を移動しているのでしょう、蛇に声の大きさがあるのかは分かりませんが、声の大きさからサイズもそれ相応ですわね」

 

「それ相応って?」

 

「分からないですが、少なくとも普通の蛇よりは大きいかと」

 

魔法生物よね、多分。

蛇の魔法生物かぁ、これがおとぎ話とか神話の蛇なら、ちょっとあり得ない位には大きいのもいるんだろうね、ギリシャのヒュドラーとか、インドのヴリトラとか、マイヤーお兄ちゃんが魔法生物(そういうの)が好きだから、よく教えてもらってたのよね、今は魔法生物の役人になってる。ディゴリー先輩のお父さんの後輩だ。

 

「ハリー、あなたがスリザリンの後継者であるなら、血筋ではない何かがあなたにある筈ですわ。血が重要ならば、マルフォイ辺りから後継者が出てるはずですから。『ポッター家』はグリフィンドール寄りの家だったようですし」

 

「そんなの、分かる訳無いだろ………」

 

「まぁ、これで『声』の正体は蛇が最有力ですが、問題は蛇はどこから来たのか、ですわね」

 

あ、確かに。

 

「まぁこれも、ホグワーツが広すぎて特定は難しいのですがね。一応、調べてはみますわ」

 

今日の集まりは結局そこでお仕舞い。ハリーに聞いても『蛇語』の話し方はよく分からなかったし、何か空振りしてる感じがするなぁ。

まぁ、平和なのは良いんだけどさ、平和なのは。




ここから、原作と変わります。もうこの時点で大分変わってますけどね、どこが変わってたかはさて次回のお楽しみです(そこまで行けるかちょい不安)。


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sideマルフォイ

今回から、マルフォイ視点になって、原作の面影ゼロな進行になります。後マルフォイ関係の設定が大分捏造です、ご注意を。


「二人とも、外で喧嘩なんて何て野蛮な事をしてるの!!」

 

カンカンに怒って日頃雪みたいに白い顔をリンゴみたいに真っ赤にした母さんに、父さんと二人で頬を腫らして怒られる。ドビーめ、母さんに喧嘩の事をチクりやがった。あいつ本当に使えないな。さっさと解雇して新しい屋敷しもべを雇えば良いのに。

 

「ルシウスはいつもの事だとしても、ドラコ!あなた女の子に卑怯な事をしたんですってね!!」

 

チクショウ、ミリア・エインワーズめ。

あいつがあんな野蛮な女だって分からなかったよ、何が妹にしたいランキング一位だよ、アマゾネスランキングの間違いだろう。

犬歯を剥き出しにして、怒りで充血した目をした同い年の女を思い出して、背筋が冷える。

ありゃ、マグルと魔法生物のハーフだ。とても人の、女の子のする顔じゃ無かった。

 

夢に出そうだと頭を振って思考を散らすと、母さんにまた怒鳴られた。

 

「ドラコ!!聞いているの!?あなたはルシウスに似て考えなしで流される所が有るのだから!もっと考えて行動なさい!!」

 

「なぁナルシッサ、ドラコも反省しているだろう」「ルシウスは未だ反省が足りないようで、暫くは屋敷しもべに言ってあなたの夕飯は野菜オンリーよ」「それはあんまりだろう!?」

 

外だと威厳たっぷりな父さんが尻に敷かれるのを見て、家の中でもせめて僕の見える所だけでも格好つけてよと思う。

外だと格好良いんだけどなぁ。オフの時が緩いんだよ、うちの父さんは。

 

「ごめんなさい、母さん。反省しているよ」

 

「はぁ、分かれば良いけれど。ドラコも暫く飲み物は野菜スムージーよ、いつもみたいにジュースばかり飲んでいると、体を壊します!」

 

そんな!?

 

「な、なぁナルシッサ、せめてパンかパスタは許してくれ、野菜だけだと栄養が偏るだろう?」

 

「ぼ、僕もせめてオヤツの時は許してよ、青虫じゃないんだ、野菜だけだと舌がおかしくなっちゃうよ」

 

「「ドラコは好き嫌い多いから、我慢しなさい!(だ)」」

 

そんな~。

何とかして主食がポテト生活を脱却するために奮闘してる父さんと、終いには拗ねてそっぽ向き始めた母さんを、ジュース禁止でショックのあまり呆然と見る。

 

それもこれも、全部ミリア・エインワーズが悪いんだ!!おのれミリア・エインワーズ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………久し振りに家族三人だけでピクニックにでも行かないか?この時期はアマゴやヤマメが釣れるだろう。久し振りに釣りでも……どうだろう」

 

ディナーのイタリアンに合わない、ハチミツとミルクの甘さで青臭さを無理やり誤魔化した野菜スムージーに辟易していると、大量のポテトと野菜(ポテトサラダにポテトのグリルに数種類の酢漬けと野菜スムージー)を青い顔して平らげた父さんが、明日は仕事が無いから湖にピクニックに行こうと行ってきた。

 

湖にピクニックなら、何時もなら釣り上げた魚とサンドイッチでパンが食べられるから、多分それ狙い何だろうな。まぁ僕も湖ピクニックなら、作るのが手間な野菜スムージーは出ないだろうと賛成する。

 

「父さんの釣り竿使って良い?」

 

「あぁ、ジャパンから仕入れた最新のリールに整備しなおしたから、ドラコ用に竿を調整しよう」

 

父さんは魔法つかいなのに釣りマニアで、よく姿現しで釣具を抱えて世界中を飛び回っては美味しい魚を釣り上げてくる、姿現しを釣りの為に覚えたと断言するくらいには釣りが好きな人だ。本当にオフの時が、オフの時が緩いよ、父さん。

 

「やった、ありがとう!」

 

父さんの釣り竿は素人でも分かる位には高そうなものばかりだ。お気に入りが竹で出来た竹竿なのが、父さんの釣りへの情熱が分かる。本当に魔法界有数の名家の当主とは思えない。

 

「釣りは良いですけど、またあの大きな魚を釣り上げてこられても、料理が大変なのですから、気を付けてくださいな」

 

「あの湖にいるのは大きくてもアオウオ位だ、クロマグロを越える魚はいないさ」

 

あぁ、ジャパンで知り合ったアソウさんと釣ってきたあのお化けサイズの魚か、父さんよりでかくて、あまりの重さに屋敷しもべが四人掛かりで魔法を掛けて運んでた、今でも氷室に冷凍保存されてるアレ。

パーティの度にあれの料理を出してるから、うちの十八番料理になったんだよな、マグロのフィッシュ&チップス。僕はサーモンの方が好きなんだけど。

 

「母さん、行こうよピクニック!!」

 

「良いけれど、罰は続けてもらいますからね」

 

その言葉に、僕と父さんは揃って項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕飯後、父さんに釣具を調整してもらう事になって、今は父さんの執務室で調整が終わるまでの暇潰しにと、社会勉強代わりに仕事で使わなくなった資料を見せてもらってる。

まぁ、あんなつまんない資料直ぐに飽きて、今は滅多に入れない父さんの執務室の探検をしてるんだけど。

 

「あれ、これもしかして」

 

小難しい本が並べられた本棚からは面白そうなものが見付からなくて(狙いは昔母さんに贈ったラブレターだ)、仕方無いから執務机を漁ってると、一番下の引き出しのそこが浅いのに気付いた。

変な形のインク切れのペン(側面が凹型になっている)しか見付からなくて、退屈だったんだ。

ははっ、僕は探偵の才能が有るかもしれない。

 

分かりにくいように手紙やらクッキー缶やらで隠されてるけど、父さんは整理整頓掃除大好きな綺麗好き人間なんだ、こんな無秩序な引き出しは何かあるって言ってるようなものだね。

 

「……そうかこれか、凝ってるなぁ」

 

引き出しの奥の部分に丁度ペン一本分の穴が空いていたから、ピンと来て変な形のペンを差し込む。凹みの部分が上手く底板にはまって、底板を取り出せた。

 

「マグル製の日記帳?どうしてこんなもの隠してたんだ?」

 

隠されてたのは黒い日記帳一冊。しかも金字の擦りきれたおんぼろだ。

 

父さんは釣り道具関連以外のマグル製品はガンとして使わない人の筈だ。少なくとも僕の知っている限りは。

 

だとしたらこれは………

 

「もしかして、これ父さんの学生時代の日記帳か?」

 

あの釣り好きが服を着た様な父さんが、どうやってホグワーツで母さんにプロポーズしたのか、興味が沸いてきた。

 

「どうせ『君は世界一の竹竿よりも何倍も価値がある』とか、『世界中のどんなに美しい魚よりも君は美しい』とかだろう、釣り人間だし」

 

ページをパラパラと捲って見るけど、どれも白紙だ。本当にこの日記帳何なんだ?

 

「魔法でも掛かってるのか?」

 

母さんに教わった透明インク表れ呪文(アパレシウム)でも出てこない。

暫くあの手この手で何かないかと試してみるけど、何も起こらないからちょっとイライラしてきた。

 

「なに、端っこならバレないだろ」

 

腹いせに小さな落書きでもしてやろうとペンで文字を書くと、書いた筈の文字が消えた。

 

「これがこの日記帳の使い方か?」

 

これならいくら悪口を書いても絶対にバレないな、ストレス発散用のいたずらグッズか?

 

こんにちは、君は誰だい?

 

「ウワッフォイ!?」

 

いきなり日記帳に浮かび上がった文字に驚いて変な声が出た。おのれミリア・エインワーズ。

 

「な、何だよこれ、いたずらグッズにしても質が悪いぞ」

 

ぶっちゃけビビって日記帳を戦々恐々と眺めていると、文字が消えて新しい文字が浮かんできた。どうなってるんだこれは。

 

声は分からないから、日記帳に文字を書いてくれるかい?

 

「………はは、これは一体何なんだ?」

 

放置も怖いから、取り敢えず適当に別の誰かの名前を書いてみる事にする。ゴイルで良いか、これで呪われても化けて出るなよっと。

 

ゴイル?それが君の名前なのかい?本当に?

 

何を疑ってるんだ?まさか嘘だとバレてる?そんな事あるわけない!!

 

急いで自分はグレゴリー・ゴイルだと書き入れる。

 

嘘は良くないなぁ、マルフォイ

 

「ヒッ!?」

 

あ、危うくチビる所だった。

 

僕はルシウスに保管されてる筈だ、君はマルフォイ家の誰かだろう?

 

この日記帳、まさか自意識があるのか、自我を持つ日記帳なんて、どんな高度な呪文が掛けられてるんだ。

 

その文字に絶句していると廊下からドビーを叱る声が聞こえてきて、慌てて二重底の引き出しを直して、元の場所に戻る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。シャツの下だから、一応バレないとは思うけど。

 

「この役立たずッ!!お前は本当に余計な事をして!!!…………あぁ、ドラコ。釣竿の調整が一段落した、これがお前の釣竿だ」

 

「ヒィ、お許し下さいましご主人様」

 

杖で頭を小突かれて半泣きのドビーと一緒に入ってきた父さんが、高そうな釣竿を僕に見せてくれた。

 

スゴいや、これならどんな魚でも釣れるぞ。

 

「ありがとう父さん!」

 

「今日はもう部屋で寝なさい。私は明日の仕掛けの準備をしなければならないからな。……ドビー!お前は今から罰則だ!!」

 

「ヒィ!!お許しを、お許しを御主人様!」

 

父さんに言われて直ぐに部屋を出る。この調子ならバレないだろう。何だかんだ言って忙しい人だし、明日以降も多忙だ、来週の汽車の時間までに隠せれば良い。

 

「それまでに時間を見付けて忍び込まないとな」

 

部屋に戻ると、鍵を掛けて机に向かう。

机の上に日記帳を開いてインクを垂らす。文字が消えるってことは、それが文字に反応するのか、それともインクなら何でも良いのか。試す必要がある。

 

やぁマルフォイ、正直者になれたかな?

 

ここからはこの日記帳との筆談から、情報を抜き取る。こいつがなんなのか、父さんに聞けば分かるかもしれないが、バレたら絶対に怒られる。だからと言ってこいつがなんなのか分からなきゃ、僕はちょっと不安で眠れない。これは怖いもの見たさも有るけど、知ろうとしないで逃げ出すよりは、多少はマシだ。ミリア・エインワーズへの報復に使えるかもしれないしな。

 

『お前は誰だ?』

 

僕はトム、トム・リドルだ。本当の君の名前を教えてくれるかい?

 

『ドラコ・マルフォイ、ルシウス・マルフォイの息子だ』

 

息子!これまた驚いた、彼は息子にこの日記帳を渡したのか

 

『僕が見付けたんだ、父さんには黙ってろよ!』

 

ハハハ、手癖が悪いんだなドラコ、その方が面白そうだ、良いよ黙っててあげよう。勿論、条件はあるけどね

 

『今すぐお前を燃やしても良いんだぞ!?』

 

出来るならやってみると良い、君が日記帳に文字を書く前にしたこと、僕は知ってるんだぜ?

 

「こいつッッッ!!」

 

腹が立って日記帳を床に叩き付けて踏みつける。

散々踏みつけた後に蹴り飛ばす。

その時にページがめくれて、文字がまた浮かぶ。

 

気は済んだかい?なら僕を元の場所に戻してくれ

 

「僕をバカにするな!!」

 

まるで嘲笑うかの様に言うこいつに、何か仕返しが出来ないかと考える。理由は分からないが、あの隠し場所に戻りたがっているなら、それを出来なくしてやる。

 

『お前はもう僕のだ、元の場所にはそっくりな偽物を置いておく』

 

おいおい、親相手とはいえ窃盗は犯罪だぜ?

 

『お前に嫌がらせ出来るなら、それくらいやってやるよ!!』

 

いい根性してるよ。面白い、お前に興味が出てきた

 

「ふざけた事を抜かすんじゃない!!」

 

何をしても気にしないこいつに腹が立って、日記帳を閉じると机の引き出しの中に入れてベッドに入る。あんな不愉快な日記帳、父さんは何で隠してたんだ。廃棄すれば良かったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラコ、どうしたんだ?」

 

あの後、気色の悪い事に夢にミリア・エインワーズが出てきて、何が最悪だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

寝起きの気分は最悪も最悪。俺はマグル生まれの俺に媚びる奴じゃなく、ミリア・エインワーズとか言う女の癖に生意気な奴が気にくわないんだ、断じて夢に出てきたあの気色の悪いゲテモノなんかじゃない。

 

「何でもないよ父さん、ちょっと嫌な夢を見てね」

 

そういって釣竿で糸を戻す。ルアー付きの先端手前まで巻いて、また湖に投げ入れる。

 

「夢か、話してみると良い。正夢(まさゆめ)ではないが、魔法族の夢は何かの予言や暗示を意味する事がある」

 

「昨日喧嘩してた奴が、僕に媚びる夢」

 

「ほう、それの何が気にくわないんだ?」

 

父さんは小舟の反対側で仕掛けを付けた浮きを、釣竿を持ってのんびりと釣りをしている。

僕の夢の内容を聞いた父さんが、面白そうな表情で僕をみた。

 

「あいつはそんな媚を売るような奴じゃない、そんな奴に僕は喧嘩で負けてないんだ!!」

 

それを聞いた父さんは、何やら嬉しそうに笑って僕を見る。

 

「お前も、そういう所はマルフォイ似何だな。過激な純血主義に共感しているのは、感心せんが」

 

父さんが純血主義を否定したのを聞いて、驚いて父さんの方を見る。今小舟には僕と父さんだけだ。母さんは湖の(ほとり)でピクニックシートを広げて、パラソルを差して、読書をしている。

 

「父さんは純血主義じゃないの?」

 

「母さんの家とは違って、過激派じゃないだけだ」

 

過激派?

マグル生まれの奴等を迫害することが?

 

「別にマグル生まれを認める訳じゃない、ただ、純血を守るために親戚で子供を作り続けてみろ。血は濃くなる一方で、やがて家なんてくくり無くなるぞ、どの家の血も濃く継いだ子供が生まれるのだから」

 

「それは、でもマグル生まれ何て認められないよ、あいつらは僕達純血が長年掛けて築き上げた魔法界を、まるで当たり前みたいな顔して蹂躙するんだ」

 

大事な習慣・慣習、伝統に作法、マグル生まれは尽くそれらを無視する。僕らの大事なものを壊して、効率だの何だの言ってどんどん魔法界を別のものに作り替える。

 

「今までが今までなんだ、私だって魔法界で暮らしていて、いきなりマグルの社会で生活しろと放られたら、それが家族で自分一人だったら、マトモに育つ自信はない」

 

父さんがそう言うので、僕も少し考える、僕がマグルの学校に行く?マグルの社会で生活?あの詐欺紛いの気電(きでん)何かも勉強させられるのか、何て言ったか、そう化学(CHEMISTRY)、あんなイカれたものを、しかも職業によっては使わない事を学ばされるんだろう?冗談じゃない!!

 

「うへぇ……」

 

嫌そうな顔をした僕を、父さんが笑う。

 

「くく、それはあいつらマグル生まれが、ずっと考えている事だ。あいつらは何で魔法薬学を学ぶのかすら分からない。同年代の純血は入学前に学び、知り合い同士助け合えるが、マグル生まれは自分の身一つで入学して、努力をしなければならない、はっきり言ってあの学校は純血有利な教育形態だ」

 

確かに、僕達は入学前からの知り合いも多い、学校外にも頼れる大人の魔法族が沢山いる。あいつらみたいに頼れる大人が先生のみとは違う。

 

「だから、お前がマグル生まれの女子に成績で抜かされてるのは、私としては情けない限りだ。入学前に学んだアドバンテージすら、マトモに活かせないんだからな」

 

「ぅ、ゴメン父さん」

 

「まぁいい、あの連中、特にギネヴィア・テイラーか、私も錬金術の事での会議で会ったが、あれはもうマグルだの魔法族だのじゃなく、人類の特異点かナニカだ」

 

「そこまで?」

 

「あのマグル贔屓の老いぼれが、あの少女に対しては対等な目線で語っていた。マクゴナガル相手ですら、元教え子という贔屓が入るのにだ」

 

嘘だろ、あのダンブルドアが?

 

「だからまぁ、気になって調べれば他にもよく分からん異質な女性生徒が多数だ、特にハッフルパフ、あそこの四人組は異常だ。グリフィンドールのグレンジャーも、異常だがな」

 

「あいつら、勉強は出来るのは分かってたけど、そんなスゴいのか………」

 

「だがお前は私とナルシッサ…マルフォイ家とブラック家の直系筋の人間だ。血筋から来る才能なら、女性生徒よりも上なんだ、せめて確りと学ぶ姿勢くらいはして欲しいものだがね」

 

これでも一応、上から数える方が早い成績なんだけどな、まぁ上位五人が文字通り桁違いなんだけど。

 

「……分かったよ父さん」

 

ミリア・エインワーズをへこませるには、成績で上に行ってマウント取って、散々に煽る位はしないと、気が済まないからな。

 

「だからまぁ、マグル生まれは魔法界には必要だ。魔法界は数十人規模では認められないし、維持も出来ないんだからな。マルフォイ家やグリーングラス家他数家は、純血とマグル生まれは別けるべき考えなのは変わらない。ただし能力があれば取り立てるし、家に囲む。過激派なブラック家やゴーント家は、マグル生まれは皆殺しな考えだからな、私も外ではそういうスタンスだが、マルフォイ家の総意としては穏健派だ。親戚にも半純血が結構居るだろう?」

 

釣り上げたヤマメを網に入れながら、父さんがそう言う。

 

「マグル生まれは……まぁ、使えるなら使ってやっても良いかな、半純血も、有能なら取り立てても良い」

 

ルアーを投げつつ、父さんの考えに同調すると、父さんがまたアマゴを網に入れながら笑う。

 

「ふ、その意気だ。だがまぁ、上の人間が下より仕事が出来ないじゃあ、格好が付かないだろう?」

 

「それは嫌だ!!!ねぇ父さん、クラッブとゴイル何だけど」

 

父さんに言われて、部下にバカにされる所を想像して叫ぶ。そんな屈辱、僕が認められる訳無いだろう!!

それを避けるには勉強しか無いんだけど、あの二人が邪魔だな。

 

「あの二人がどうした?何かやらかしたのか?」

 

「いや、バカ過ぎて勉強を教えるのが辛いって言うか、今朝教えた事も昼には覚えてないから、あいつら勉強の邪魔なんだよね」

 

「あの家は、息子の教育すら出来んのか。このままだとうちも人の事を言えんが、まぁいい、取り巻きは変えると良い、こちらから向こうの親には連絡しておこう。三日後は我が家のホームパーティーだ、その時に新しい取り巻きと、婚約者候補でも決めるといい。出来れば純血で、無理なら半純血からだ」

 

婚約者か、純血を絶やさないって意味だと確かに、早い方が良いのはわかるんだけど、早過ぎる気もするなぁ。

 

「僕、未だ12何だけど」

 

「もう12だ、ブラック家など、生まれる前から決められている事すらある」

 

「子供何だと思っているんだ、過激派は」

 

「道具だ、純血を絶やさない為のな。母さんは未だ凝り固まって居ないから、私が少しずつ説得しているんだが、ブラック家は洗脳じみた教育をしていたみたいでな、苦労しているよ。お前も、母さんの前であまり穏健派の言動はするな、説教が倍になる」

 

え!?

何それは、理不尽過ぎるだろう。

子供を道具扱いなんて、しかも洗脳!人権なんて無いんだな、純血過激派には。

それに穏健派ってだけでそこまで変わるのか、うちの母さんは。

 

「分かったよ、気を付ける」

 

「それで良い、お前はマルフォイだ、魔法界を前に進める為に尽力した一族の後継なんだ。ダンブルドアが表に出て来てから、マルフォイは落ちぶれたと言ってるやつもいるがな」

 

寂しそうに言う父さんに、執務室で見た大量の書類を思い出して言う。

 

「そんなことない!父さんはスゴいじゃないか!!」

 

「あぁ、ありがとうな、ドラコ」

 

その後二人して暫く、無言で釣りを続けた。

 

「………父さん、さっきのそういうところはマルフォイ似って、何?」

 

「……私があの赤毛のいけすかない阿呆と、何で喧嘩するか分かるか?」

 

「ウィーズリーと?貧乏の癖に生意気な奴だからじゃない?」

 

「生意気なのはそうだが、貧乏なのは関係無い……あぁいや、少しはあるか。アーサー・ウィーズリーはな、能力がある癖に、自分の趣味の為だけにそれを使う。だから本当はもっと上の地位に行けるのに、あいつはあんな仕事で安月給、家族にも負担を掛けているんだ。それをあいつは気付こうともしない!」

 

「はぁ、なるほど?」

 

「もっと上の地位に行けるのに、私が根回しをしているのにあいつはそれを蹴りおって、ホグワーツの時もだ、純血のよしみであいつの尻拭いを何度もしたのに、あいつはスリザリンというだけで私を毛嫌いさ、礼の一つすらない!!」

 

「あぁ、うん」

 

それから暫くアーサー・ウィーズリーの愚痴を言っていた父さんは、もう戻ろうと言って釣具を片付け始めた。

 

「マルフォイ家の男はな、プライドが高い。そして、ライバルを作るものだ、お前のそれはハリー・ポッターなのかは分からないが、私にとってはアーサーだ。ライバルと認めた奴にはな、情けない所を見せたくないし、見たくもないんだ、『私の宿敵なのだから、気高くあれ』そう思うんだ、マルフォイは」

 

あぁ、なるほど僕にとっては、ハリー・ポッターとミリア・エインワーズがライバルか、父さんがアーサー・ウィーズリーの情けない所を見たくないのと同じで、僕はミリア・エインワーズが媚を売るのが嫌だったんだ。

 

「ドラコ、お前は魔法の才能なら誰にも負けないんだ、ライバルと認める相手は、それこそ慎重に選べよ、私のように苦労するな」

 

「分かったよ父さん、僕もやりたい事が見付かった」

 

先ずはハリー・ポッターを奴の得意なクィディッチで潰す。ミリア・エインワーズには期末試験で上に立って、散々に煽ってやる!



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sideマルフォイ ホームパーティー(前編)

長くなったので分割です。


「父さん、僕に暫くドビーを貸してくれない?」

 

父さんとの釣りの後、夕飯の時に父さんにドビーを暫く僕付きに出来ないかとお願いした。

こいつなら役立たずだから、父さんも執着しないで僕に譲ってくれるだろうし、こいつは常日頃からハリー・ポッターの話題によく反応してた。ホグワーツに着いてこいと言われれば、喜んで着いてくると思ったからだ。ハリー・ポッター(あいつ)をダシに使うのは、甚だ遺憾だが。

 

「ドビー?あの愚図でなくても、屋敷しもべは自由に使って良いんだぞ?」

 

「そうよ?ちゃんと契約しているうちの屋敷しもべは、あなたが好きにして良いのよ?」

 

父さんと母さんに、クラッブとゴイルの代わりが見つかるまで、ホグワーツに連れていきたいと話す。

 

「ホグワーツねぇ、私は良いと思うわ」

 

「私の方も、特にこれと言って……あぁ、ドラコ。くれぐれも屋敷しもべを使って喧嘩何てしないようにな」

 

「分かってるよ、『貴族たれ、余裕を持て』でしょ?」

 

釣りの後に聞かされた言葉だ。父さんの座右の銘か何かだと思うけど、気に入っているみたいで、釣り以降はよく父さんの口から出ている言葉だ。

 

「分かっているなら良い」

 

父さんと母さんから許可が降りたから、夕飯後にドビーに用意させる物をリストにして、早速ドビーを部屋に呼ぶ。

 

「坊ちゃま、何かご用でございましょう?」

 

一々ビクビクと怯えながら言うドビーに、イラつきながら言う。

 

「用が無きゃ呼ばないだろ愚図。お前、ハリー・ポッターに興味あるのか?」

 

机の上に例の日記帳を出しながら言うと、ドビーが恐れるように身体を震わせる。

 

「ひぃ、お仕置きだけはご勘弁を!!」

 

僕の機嫌が悪いから八つ当たりでもされると思ったのかこいつ、本当に腹が立つな。

本当にお仕置きでもしてやろうか。

 

「一々ビクつくな鬱陶しい!質問にも答えられないのか!!」

 

「ひぃ!?…………ド、ドビーめは、ハリー・ポッターに感謝しております、あの時代は、屋敷しもべにとっても悪夢、それを終わらせてくれたハリー・ポッターには、誠に感謝しているのです」

 

僕の声に怯えた後、祈るように両手を合わせて言うドビーに、嘘は無さそうだと判断する。

 

「ならドビー、お前暫くホグワーツに来い」

 

「それは、まさかこの家をクビに!?」

 

屋敷しもべにとっての解雇は、死刑宣告に等しいのに、どこか嬉しそうにしているドビーが薄気味悪くていけない。こいつ、死ぬよりもうちに仕えるのが嫌なのか?まぁ、こいつの早とちりだが。気に食わないな。

 

「違う早とちりするな。取り巻きを変えるから、それまでの繋ぎで、僕と婚約者候補の相手をしろ」

 

「それではドビーめは、ハリー・ポッターに会えるので!?」

 

「あくまでも僕付きの屋敷しもべだ、これからホグワーツに行くまでもそうだからな?父さんの許可は得ている」

 

「か、かしこまりましてございます、ドビーめはドラコ様の側仕えをいたしますです」

 

恐る恐る頭を下げるドビーにうなずくと、日記帳を見せる。

 

「お前、『変身術』でこれを複写出来るか?」

 

「これは、坊ちゃま!!恐ろしい闇の魔法が掛けられております!!?」

 

じっと日記帳を見た後に焦ったように騒ぐドビーを、睨み付けて黙らせる。

 

「騒ぐな!そんなこと分かってるよ。それで、これを複写出来るか?」

 

「見た目のみなら、出来ますです。ですが坊ちゃま、これを一体何処で?」

 

恐ろしい物を見る目で、近付きたくすら無いのか、日記帳から距離をとって言うドビーに、これの精巧な偽物を作るように命じる。

 

「こっそり父さんの執務室から拝借した。誰にも言うなよ?これは命令だ」

 

「ご主人様の執務室!?ドビーめは恐ろしい、恐ろしいです!ご主人様の物を無断で持ち出すなんて!!今すぐにこんな危険なものは戻してくるべきです!!」

 

「うるさい!夜に騒ぐんじゃない!!お前は黙ってこの日記帳の精巧な偽物を作るんだ!!そうしたら、ホグワーツでハリー・ポッターに会わせてやる」

 

地団駄を踏み始めたドビーが鬱陶しくてベッドにドビーのボロを付かんで、ドビーごと放り投げる。

 

僕に言われた事に、ベッドの上で呆然とした顔をするドビーに、ハリー・ポッターへの嫌悪が強くなる。うちの屋敷しもべすら、あいつに夢中なのかよ、ムカつくな本当に。

 

「本当に?本当にハリー・ポッターにドビーめが会える?」

 

「会わせてやるから、お前は日記帳の偽物を作るんだぞ、バレないように精巧な偽物をだ」

 

「ドビーにお任せください、明日の朝までには、完璧な偽物を作り上げて見せますです」

 

やっとやる気になったドビーに、リストを渡す。といっても書いてあるものは多くないが。

 

「よし、後はこれを用意しろ」

 

「色紙にマグル製品のインクのペンと……これは一体?」

 

「気にするな、絶対に父さんと母さんにはバレるなよ?」

 

「かしこまりましてございます。こちらも明日の夜には集めてみせましょう」

 

まぁこれで最初は良いだろう。

あの日記帳を調べるには未だこれくらいで良い。それよりもだ、次のホームパーティーでの取り巻きと婚約者候補の選定、どうしよう。

 

「今日はもう寝る。明日また朝7時に起こせ」

 

うちでのホームパーティーだ、身内以外は純血だろう。純血はウィーズリー以外は皆、身内みたいなものだが。

 

「かしこまりましてございます。お休みなさいませです坊ちゃま」

 

そうなると、父さんが言ってた過激派のブラック家は婚約者としては………そもそも近い歳が居ないか。部屋の明かりを消して、ベッドで横になって考える。

 

『聖28家』でなら、『アボット家』『ブルストロード家』『フリント家』『グリーングラス家』『マクラミン家』『ノット家』『パーキンソン家』がホグワーツにいるが、アボットとマクラミンはハッフルパフで、ブルストロードは単純にタイプじゃない。グリーングラスも性格が合わないし、パーキンソンは論外。フリントもノットも男しかホグワーツに居ないしな。

 

僕はマルフォイの直系、相手は純血になるんだろうけど、僕だって選ぶ権利はある筈だ。少なくとも、僕の外見は不細工と言うわけでもないし、学校の成績だって悪くはない。女子からの評価は悪くない筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日にホームパーティーが迫った夜。

昨日のうちに受け取った"ボールペン"を使って日記帳と会話しつつ、色紙を使って、ドビーに対する命令の合図を作っていた。

学校内で公然と屋敷しもべを連れ歩く事が、流石に非常識なのは僕でも分かる。

だからドビーには、透明化の魔法で常に近くに待機させて、僕の出した命令の合図で動くように指示をする。向こうが指示をこなしたら、僕のローブを2回、少しだけ引っ張るように言ってある。簡単な命令しか出せないが、これで暫くは十分だ。

 

"わざわざそんな古典的な方法をとるのかい?"

 

『これなら誰も僕がやってると思わないだろう?』

 

"その意味だと名案だな"

 

「赤は次の授業の準備で、青は軽食の用意、黄色は人払いで、緑は~~~」

 

簡単な命令を十程作ると、命令方法と一緒に覚えるようドビーにキツく言う。明日ホームパーティー中でテストするからな?

 

「かしこまりましてございます!」

 

「確り尽くせば、何か良いものでも教えてやる。父さんと違って僕は寛大なんだ」

 

「あぁ、坊ちゃま付きの屋敷しもべになれて、ドビーめは幸せでございます!!」

 

俺はお前しかいなくてガッカリだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームパーティーが始まる少し前から、父さんと母さんの呼んだ"お客様"が続々と屋敷前に姿表しで集まってきた。今日は屋敷の庭園にある東屋に軽食を並べて、庭でのサマーパーティをする子供と、屋内で庭園と子供を見ながらのゆっくりティーパーティの二つだ。

 

外は夏、僕はあの湖でスイミングでも良かったんだけど、メンバーには女性も多いからな、子供でも純血貴族はそこら辺うるさいのだ。お陰で親の目の無いスリザリン寮だと、そこら辺の反動か"そっち"は緩い、こっそり女子寮に入る奴とかも上級生には多いのだ。

 

「ドラコ・マルフォイです、皆さん、今日は我が家のホームパーティーにようこそ、楽しんだいってください」

 

子供側のまとめ役を任されてるから、開始の合図を告げてジュースで乾杯をする。

 

集まったのは未だ一桁の子供が大半だ。ホグワーツで四年生になる歳には、向こうの大人のパーティーに参加させられるからな。

 

皆思い思いにスイカやパイナップル等の果物に手を付けたり、魔法で気温に強くしたアイスクリームを、笑顔でばくばく食べてる。

 

下の人間の世話は嫌いじゃないが、こうも無邪気だと羨ましくなるな。

 

「ほら、アイスが垂れてる」

 

「あ、ありがとうございます!ドラコさん!!」

 

「このカップを使うといい、このカップも食べられるんだ」

 

わざわざ注文つけて作らせたカップ型のワッフルコーンだ、内側に薄くチョコを吹き付けていて、長時間アイを放置してもサクサク、これ普通に商品展開出来るよな、単体でも十分な味だし。

 

「わぁ、ありがとうございます!!」

 

「果物はあそこでシャーベットに出来る、試してみると良い」

 

「はい!」

 

ドビーが東屋の片隅で小さな丸テーブルの前に立っている所を指差すと、アイスを片手にパイナップルを持っていった。ドビーがちゃんとパイナップルを魔法でシャーベットにして、予め用意しているワッフルコーンに盛り付けるのを確認すると、他の連中の世話を焼いていく。

 

うちの夏にするホームパーティーは、子供には中々人気があるんだ。堅苦しい大人がいなくて、マナー何て気にせずに思い思いに甘くて冷たいものを食べられるパーティー。飲み物も各種のフルーツジュースに、言えば屋敷から好きな飲み物を出来立てで持ってきてくれる。

屋敷しもべが何人もいる家じゃなきゃ出来ないパーティーだ。

 

「ここのパーティーは気楽で良いわ」

 

「本当にね」

 

「ミリセントとダフネ、どうした?」

 

アイス片手にご挨拶な事を言ってきた来た二人と、二人の後ろをついてくる小さな女の子が、世話を焼く僕の所にくる。

 

「今日は私の妹も連れてきたのよ、あんたの婚約者候補の一人」

 

こんな小さな女の子が僕の婚約者!?

 

「アストリアです、よろしくお願いします、ドラコさん」

 

「あ、あぁ、小さいのに偉いな。ドラコ・マルフォイだ」

 

「その様子ならオッケーね、私も名前出たんだけど、あんたタイプじゃないからさ」

 

「私も、あなた"あの"エインワーズに喧嘩売ったんでしょ?私考え知らずは嫌いでね」

 

ちょっとばかし驚きで固まっていると、それをアストリアに見惚れてるとでも勘違いしたのか、二人はこっちの話を聞かずに好きに言って東屋の外に花を見に行った。

 

「あ、あの、お姉様方はああ言ってますけど、私はそんなことは……」

 

「いや、気を使わなくても良い、事実だ。あぁ、そこの君、ミルクセーキのお代わりは近くの屋敷しもべに言いなさい」

 

あいつら、初対面がいるのに僕の事を好き勝手言いやがって、年下に気を使われたじゃないか。

気恥ずかしさから、他の子供の世話をしながら会話を続ける。

 

「私、ドラコさんのこと、結構好きですよ?」

 

そう言ってくれるのはありがたいんたが、何分若過ぎる。ここは諦めてもらうのが良いだろう。最悪、ダフネは無理でもミリセントとは仮面夫婦を出来るかも分からん。

うちの両親は想い合ってるが、それでも思想の違いでぶつかることはよくあるし、好きな人とぶつかる位なら、僕は仮面夫婦で良い。

 

「僕が、マグル生まれに『穢れた血』と言っててもか?」

 

「え?」

 

「……すまない、忘れてくれ。パーティーでする話では無いな。もうすぐこのパーティー目玉の巨大アイスケーキが来る、君には特等席を用意しよう」

 

ドビーに合図を出してケーキを運ばせるように命令すると、アストリアの手を引いてアイスケーキが来るテーブルの前に移動する。

 

アイスケーキは魔法によって、ここにちょっとした演出で瞬間移動するようになっている。

 

手を叩いて皆の注目を集める。

 

「さぁ皆さん、今日の目玉のアイスケーキのご登場です!」

 

僕がそういうと、テーブルの中央に、五芒星の配置をされたアイスケーキを雨細工で繋げられた、複数のアイスケーキを組み合わせて作られた巨大アイスケーキが、カラフルな煙りとポップな音で登場する。

 

始めてみる子供の歓声やら、毎年のお馴染みで、今年の演出を過去の年と比較して話始める年長者を横目で見つつ、専用のケーキナイフを使って、アイスケーキ切り取って皿に盛り付け、アストリアに手渡す。参加者に手渡しして、マルフォイ家の印象を良くするのは、八歳の時からしている僕のパーティーで一番の大役だ。

 

「今日の一番は君だ、先程のお詫びに受け取ってくれ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

我先にとよる子供に、順番にケーキを切り分けて配る。

 

少しすると年下を掻き分けて、あの二人が現れる。

 

「私あのチョコの部分ね」「私はあそこのラズベリー」

 

「もう少しアストリアの謙虚さを見習え」

 

切り分けつつ文句を言うと鼻で笑われる。

 

「こっちに来てる純血で、私とダフネより尊い血があるの?」

 

「良いこと言うじゃないミリセント。ドラコ、目下が譲るのは当然でしょう?」

 

この二人の婚約者は大変だな、この歳でこの態度とは、僕も外では人の事を言えないがな。

 

「はぁ、少し待て、直ぐに切り分ける」

 

結局強く言えずに折れた僕に、アストリアは何か言いたげにしていた。



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sideマルフォイ ホームパーティー(後編)

ちくしょう、マルフォイの精神年齢が安定しない、意外と難しいなマルフォイ。
後書き溜めが尽きました、ここから先、週一投稿が出来るかは保証できません。申し訳ない。


「ドラコさん、お姉様達に何で言い返さなかったのです」

 

ケーキを皆に切り分けて配り終えた後、僕は何か言いたげなアストリアを、疲れているようだと屋敷に案内して、二人きりで応接間で話をしていた。一応、母さんにはドビーに命じて連絡してある。今頃はうちの親戚の一人が、僕の代打でパーティーの運営をしているはずだ。

 

「あの二人の言葉は事実だ」

 

屋敷しもべに飲み物を持ってくるように言って、アストリアに座るように促す。

 

「マグル生まれや半純血相手ならどうこうは言いません、でもドラコさんはグリーングラスやブルストロードと同じ格のマルフォイじゃないですか!」

 

怒るアストリアに、この子は姉と違って頭が回ると思った。バカより賢い人の方が、仮面夫婦をするにしても、条件が良いのは確かだ。

 

「あの二人が下に見ているのはパーティー参加者で、僕じゃない」

 

「パーティーのお客様の格は、招待した家の格になるんです!」

 

アストリアのその言葉に、驚いて目を見はる。

 

「その年でよくそこまで理解しているな、スゴいじゃないか」

 

「え、それはその、えへへ……じゃなくて!!」

 

誤魔化されなかったか。

 

「いや、本当にスゴいよ、僕が君の歳ではこうはいかなかった」

 

「来年からホグワーツに行くんですもの、これくらい突然です」

 

お、恥ずかしそうに照れてる、これは誉められていないんだな。まだ年相応の部分があって安心した。これで全部が全部大人びていたら、僕はアストリアが不気味に思えてた。

 

「そうか、来年からホグワーツに、もう魔力は発現したのかい?」

 

「はい、家の庭園を散策している時に、周囲の植物が急に凍り始めて」

 

それはまた、あまり聞かない魔力の目覚めだな。普通は自分に効果を及ぼすものだったり、出来ても簡単な物を浮かせる浮遊術位だ。

 

「魔力が強いのだね、アストリアは」

 

「そうだと嬉しいです。私、ドラコさんと婚約出来ると知って、凄く嬉しかったんです」

 

まるで憧れのクィディッチ選手に会えたみたいな、そんな嬉しそうな顔をするアストリアに、どこかで会ったことがあるだろうかと考える。

 

「すまないが、今回が初対面だったと思うが」

 

「私、記憶力が良くて、二歳の時の事も確り覚えてるんですよ。私が三歳の時、私の家のホームパーティで、泣いてた女の子を助けてくれましたよね?」

 

アストリアが三歳の時?

そんな事………あったな、あれは僕が五歳の時だ、庭園にある池で船のオモチャを浮かべて遊んでいた女の子が、船が流されて泣いてて、僕が船を池に飛び込んで拾いに行ったんだっけな。下着の中までびしょびしょになって、次の日熱を出して母さんにこっぴどく怒られたんだよな。

 

「まさか、あの木船の女の子?」

 

「はい、思い出してくれました?あの時から、ずっとドラコさんの事を好きだったんですよ」

 

「だが僕達は未だ子供だ、婚約者なんて早いと思うが」

 

そもそも、僕は未だアストリアの事を好きだと言えない。それはもちろん、人としてはこれまでを見て好きだが、それは異性に対するものじゃなくて、妹や親戚の子供に対するような好きだ。こんな気持ちで婚約するのは失礼にあたるだろう。

アストリアも、そんな子供とも言えない時からなんて、早熟過ぎる、きっと兄や年上への親愛の気持ちと異性に対するものが未だ分かってないんだ。

 

「ブラックは赤ちゃんの時から婚約者が居ると聞きます。それに子供だからです、ドラコさんが他に好きな人が出来ても、未だ取り返しがつくじゃないですか」

 

それは!?

 

「君の気持ちはどうなる!」

 

「ドラコさんが幸せなら、私は幸せです。そういうのが男女の愛だって、ママが言ってましたから」

 

確かにそういう事もあるだろうけど、それではあまりにアストリアが報われないだろう?

 

「君は未だ十歳になったばかりだろう?」

 

「愛に年齢は関係無いって、おば様が言ってました」

 

「僕は君を未だよく知らない」

 

「これからお互いの事を知っていきましょう」

 

「もしかしたら、君にも他に好きな人が出来るかもしれない」

 

「私の目には、ドラコさん以外の男の人は、棒人間に見えますから」

 

「僕は君を傷付けるかもしれない」

 

「私もドラコさんに酷いことを言ってしまうかも、でも私達なら乗り越えられます」

 

「君を失望させるかもしれない」

 

「どんな醜態を見たって、見捨てることは無いです」

 

「僕は臆病だ」

 

「ドラコさんは例え臆病でも、勇気がありますそれは私が知っています」

 

「………僕の負けだ」

 

これだけ言って折れないなら、アストリア以外を婚約者にしたら反発が凄そうだ。欲しいモノに対する貪欲さは姉妹でよく似てるみたいだな。

 

「始めてドラコさんに勝てました、これからよろしくお願いします、ドラコさん」

 

今日一番のとびきりの笑顔をするアストリアに、乾いた笑みを浮かべた。なんとも心強い婚約者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他の婚約者候補に会わない訳もいかないからな、パーティで他の女性と歓談するのは許してくれ」

 

「そこまで重たい女じゃありませんよ、後でちゃんと私の事、構ってくれるんでしょう?」

 

「……埋め合わせは勿論するさ」

 

やはりと言うべきか、意外と言うべきか、アストリアは結構甘えたがりな様子で、あの後しばらくは僕の隣の席に座って、散々甘えてきた。勿論、男女の節度は守ってだが、歳の近い兄に対する甘え方と言うか、親戚の仲の良いオジさんに対する甘え方と言うか、なんとも距離感が近い。

グリーングラスは姉妹揃って顔が整ってるのもあって、歳を理由に拒んでた僕が言えたものじゃないが、こう、()()()()()()()()()()、大変だ。

 

「アストリアもパーティを楽しんでくれ、我が家のホームパーティは始めてだろう?」

 

「はい、庭園を見させてもらおうかと思っています」

 

「ラベンダーと紫陽花が見頃だ、楽しむと良い」

 

「ありがとうございます!」

 

丁寧な話し方で無くて良いと言ったが、『ママに厳しく言われていて、こちらの方が話してて楽なのです』と言われた、本人がそういうなら仕方無い。

 

アストリアと二人パーティーに戻って、僕は他の婚約者候補の女性………女の子と話していた。

アストリアとあの二人を除いて皆、年下も年下、これでは婚約者になれても、彼女というよりも、幼馴染の方が近いだろう。単純にアストリア並みの女の子が見つからなかったのもあるが。

 

あまりに若過ぎるせいで、こっちが婚約者なんて、選択肢を狭める事をするのが心苦しい位だ。どうせ皆、入学はホグワーツだろう、その時にスリザリンに来たら歓迎してやろうとしか、思えなかった。

 

その後は、アストリアとも、手紙のやり取りを約束して、ホームパーティは終了。姿表しで消えていく招待客を見送って、家族で食事を取ってる間に、ドビーに命令を出して書斎の日記帳を隠していた場所に、用意した偽物を入れておく。

バレないよう、本当ならホームパーティ中にやらせるつもりだったんだが、ドビーに任せる事が多かったのと、アストリアとの話し合い中は、命令を出す隙が無かったのが悔やまれる。

 

その後は忌々しい日記帳と会話を続ける毎日だ。

学校の課題はとっくに終わらせているから、時間に余裕はある。後はこいつから取れるだけの父さんの情報を抜いて、こいつをなんとか処分して終わりだ。

 

そう思って始めた日記帳との会話だが、こいつは結構話が上手い。非常に悔しいことに、僕みたいなタイプの扱いがよく分かっているようだ、気付いた時には楽しく文章を書いていたなんて気持ち後悪くて仕方がない。

 

ルシウスは、僕を一度も使った事はない

 

『何故だ?』

 

さぁ、怖かったんじゃないか?その点、君は怖いもの知らずだ、ドラコ

 

『父さんはそんな臆病な人じゃない、何か理由が合ったんだ』

 

使った事が無いという事は、直接のやり取りが無かったという事だ。それで何でここまでの情報を持っているんだ?こいつの情報が全て正しいのなら、声の認識が出来ない筈だ、それなのにずっと隠されていたあの引き出しの底から、どうやってそこまでの情報を?

 

まぁルシウスは別に良いんだ、それで?結局君はどうしたいんだい?

 

『お前を、ハリー・ポッターへの嫌がらせに使えれば良かったんだが、宛が外れたよ』

 

こいつがいつまでの情報を持っているか分からないが、この名前に反応するかどうかで対応を変える。あいつが英雄だと分かるのは、十一年前の時点から先の情報を持っているという事だ。

 

ハリー・ポッター?誰だいそいつは

 

………()()()()

 

『イギリス魔法界の有名人だよ、未だ十二歳になったばかりだけど、大臣より知名度はあるんじゃないか?』

 

へぇ、気になるね、一体何をしたんだい?

 

こいつは少なくとも十一年前の時点での魔法界しか知らない、古い情報のままあの引き出しの底に隠されてた!

ここから考えられる予測は二つ。

 

一つ父さんはこの日記帳に情報を与えたくない。

 

二つこの日記帳は記憶容量がそこまで大きく無い、又は定期的に記憶容量の整理及び削除が発生する。

 

一つ目の場合、父さんが一度も使った事が無いのは、この日記帳に余計な情報を与えたくないから。これはつまり、情報を与えた事による、この日記帳の影響力を警戒してだと思われる。

普通の火で燃えず、ハサミの刃が通らなく、水で濡れてもインクが滲みすらしないこの日記帳を、普通の方法で処分することは出来ないからだ。出来るとしても時間の掛かる方法や、公的機関を使う事が必要になるもの。ドビーが闇の魔術が掛けられていると言っていたから、公的機関は問題がある。そのため、出来るだけこの日記帳が抵抗しにくいよう情報を規制して、時間の掛かる方法での処分を考えていたり、そもそもあの引き出しから出さずに誰にも知らせずに、封印に近い処理をするつもりだったのかもしれない。

 

二つ目の場合、父さんが一度も使った事が無いという情報の審議が分からなくなるだけじゃなく、こいつの持ってる情報の正誤が不明になる。これは元々だが、それでもこいつの言葉の重みが変わる。

それに仮定としての記憶の整理がどれだけのインターバルで行われるかで、こいつに対する対応が変わるのだ。少なくとも数日ではないみたいだが、これも検証の必要がある。

 

二つ目の兆候があるかを調べつつ、一つ目の可能性で動くべきかな。

 

一先ずはあのメガネの情報を小出ししてこいつの情報を釣ろう。

 

『それはもう、魔法界を震撼させる、とんでもなく大きい事をしたのさ。それも赤ん坊の時にね』

 

気になるなぁ、教えてくれよドラコ

 

この食い付き、ハリー・ポッターが何をしたのかそんなに気になるのか?

……少し引っ張るか

 

『それをいう前に、少し確認させてくれ』

 

なんだい?

 

『君の記憶容量はどれどけあるんだい?』

 

あぁ、二度手間を心配しているのかい?心配しなくても、数百年間の毎日の分刻みスケジュールだってばっちりさ

 

『そいつはスゴい』

 

それが本当なら一つ目の可能性で確定だな。警戒はするが、いつかバレる嘘を吐く性格では無いだろう。

 

だろう?だから早くハリー・ポッターの事を教えてくれよ

 

『あぁ、その前に、()()()()()って言葉に、聞き覚えは?』

 

僕のその言葉に、文字が暫く浮いてこなかった。

これは当たりか?

 

僕の知ってる時代のままなら、その言葉の指す人物は、ヴォルデモート卿だろう?

 

こいつは、なるほどなぁ。

ニヤケそうになる顔を必死を抑える、()()()()()

ヴォルデモート卿は元々、政治過激犯だ。最初は街頭演説から始まり、そこからゲリラ活動によるテロ組織たる死喰い人(デスイーター)を発足し、指導者になるまで、相当の期間があった。

その中でも、ヴォルデモート卿を例のあの人と恐れる様になる期間は、後期の分類になる。つまりは、ハリー・ポッターが英雄になる直前期間だ、こいつの最新の情報はそこまでだと考えられる。

 

これが分かっただけでも大金星だな。

 

『そうだよ、その例のあの人に関わる事をハリー・ポッターがしたんだよ』

 

ただの赤ん坊ごときが、何が出来たと言うんだ?

 

やけに感情的だな、これは少しずつ探りを入れるべきか。

 

その後も会話を続けてみるが、ヴォルデモート卿に関する情報はやけに詳しい、まるで横で見てたみたいに詳細に知っているようだ。

 

で、結局何をしたんだい、そのハリー・ポッターとやらは

 

『あぁ、そのハリー・ポッターが例のあの人に大金星さ』

 

有り得ない、そんな筈は無い!!

 

化けの皮が剥がれたな、お前は死喰い人かそれに近しい存在に作られたものだ!

 

どうして父さんが持っているのかは想像がつく、ベラトリックス・レストレンジだ、あの人は母さんの姉だからな、死喰い人時代に父さんにこの日記帳を隠し持つように言っても不思議じゃない。

 

父さんも、義理の姉から言われれば、断り辛いだろう、次はこいつの能力の把握だ。何を出来るのかを把握しなければ、こいつを利用することも無理だからな




投稿予約ミスった!!
折角朝で統一してたのに………


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sideマルフォイ 日記帳

お待たせいたしました。
先週は本当にごめんなさい。

そして今回の話は多分今までで一番の原作崩壊です。アンチ・ヘイトはこの為にあったのだ。
バジリスクは犠牲になったのさ、ハーメルン界隈にネタ討伐を流行らせるための、その犠牲にな。
後、後書きでまた設定とかなんかそういうのをはっちゃけるので、一応閲覧注意です。


あれから数時間、僕は日記帳に提示された条件、ハリー・ポッターに日記帳を渡すことを承諾して、この日記帳………トム・マールヴォロ・リドルから、この日記帳の能力について聞き出した。ついでにトムの事についてもな。

あらかたを聞き出して、普通のノートにまとめる。マグル製品のペンを用意させたのは正解だったな。これは使いやすい。羊皮紙には向かないのが残念だ。

 

ハリー・ポッターに勝ちたいんだろう?なら、秘密の部屋を開けるべきだ。バジリスクに勝てる奴なんていない

 

『開けるって行ったって、僕は女子トイレに忍び込むなんてしたくないんだが』

 

半純血のトムと違って、僕は失うものがあるんだよ、プライドとか、家の評判とか。

 

だが、ドラコの情報が確かなら、あいつは既に二年生の実力を越えているぞ

 

確かに、あいつは箒と呪文学の腕前はピカ一だからな、一対一の決闘なら、四年生相手でも奮闘出来るんじゃないか?

 

そんなやつの好敵手(ライバル)に、君はなるんだろ?

 

そうだ、あいつが皆にちやほやされてるのが嫌いだ。僕だって頑張っているのに、一番注目されるのはいつだってあいつだ。

 

負けたくないんだろう?

 

 

そうだ、だから期末の試験で頑張って、あいつの総合点を抜いたんだ。僕の方が優秀なんだ。

 

ミリア・エインワーズに戦い方を習ってるあいつに、勝ちたいんだろう?

 

そうだ、あいつが同年代の女の子に教えてもらってるのも腹が立つが、ミリア・エインワーズに対しても、何でハリーをまた構うのかと腹が立つ。

 

あいつのライバルは僕で、僕を一番注目するのはあの二人で、あの二人を倒すのは僕なんだ。

僕を…………()()()()ミリア・エインワーズ、ハリー・ポッター!!

 

そうだドラコ、勝ちたいなら、秘密の部屋を開けて、バジリスクを手懐けろ

 

『お前が言い出したんだ、寄越してもらうぞ、お前の全て』

 

良いぜ、僕の全てを君に教えよう、絶対に負けるなよ、ドラコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、父さんに怪しまれないよう、家での日記帳とのやり取りを止めた。父さんにバレるのが、一番の痛手だからな。

 

それからはアストリアとの手紙のやり取りをしつつ、ドビーの教育を続けた。お陰でドビーも大分マシな動きが出来るようになった。ハリー・ポッター(あいつ)との接触をだしに、父さんや母さんに内密にするのにも成功だ。失敗のお仕置きは父さんより軽くしている、アメを多くやることで、自主的に奉仕させるように、日記帳(トム)がアドバイスをくれたのだ。

今はホグワーツ行きの列車のコンパートメント中で、誰も来ないようドビーに見張らせつつ、日記帳とのやり取りをしている。

 

『つまり、蛇語(パーセルマウス)が話せなければ、秘密の部屋は開かないんだな?』

 

日記帳は、この日記帳を作った人間の記憶が追体験出来る能力を持っていた。

 

その力を使い、僕はバジリスクを見た。簡単に人を丸飲みに出来る、蛇の化け物だ。あれはもうどうしようもないレベルの化け物、あれに勝てるのはヌンドゥや吸血鬼と言った、それこそ伝説レベルの化け物だけだ。

 

それをトムは、蛇語で対話した後、勝った。

そう、バジリスクを従える方法は、秘密の部屋を開けた後、バジリスクより強いとバジリスクに教える事なのだ。つまりはバジリスクと戦って勝つこと。トムはそれをやってのけた。

 

あぁ、日記帳の中で特訓するべきだ。君はマルフォイとブラックの直系だろ?ならスリザリンの血は濃い、蛇語の下地は出来ている筈だ

 

『下地?』

 

蛇語を話すには、二つの条件がある。一つが、蛇語を正確に理解出来るリスニング力。二つ目が蛇語を話すための特殊な遺伝子形質だ

 

『一つ目は分かるが、二つ目は?』

 

蛇語を話すには、舌の形成に必要な遺伝子が、普通の人とは別の遺伝子の必要があるんだ。

 

なるほど、蛇語は話すのに本当の意味で才能が必要なんだな。そして僕はその才能を持ってる可能性が高いと。

 

『日記帳で特訓する理由は?』

 

他人に見られるのが不味いのと、日記帳内なら、ある程度時間を操作できる。外で一時間でも、中なら丸一日にしたり出来るんだ

 

は?

それは闇の魔術と言えど、とてもじゃないが有り得ないレベルじゃないか?時間を弄るのは流石に無理だろう?

 

『デメリットを言え、ある筈だ』

 

僕が実体化するために、日記帳に文字を書くと同時に、僕の魂と書き手の魂が少しずつ融合していく。

 

「なっ!?」

 

魂が融合!?

 

『何で今まで黙ってた!!』

 

僕は闇の魔術で作られた日記帳だぜ?それくらいのデメリット、まさか想像してなかったのか?

 

『そんな事を聞いているんじゃない!質問に答えろ!!』

 

まさか僕が親切心だけだと?そんな甘い考えなら、今すぐ寮をハッフルパフに変えるべきだぜ?

 

『僕は今ホグワーツ特急に乗っているんだ、窓を開けてお前を投げ捨ててもいいんだぞ!?』

 

それは良い、そうなれば僕の本体は本当に不死身になれる

 

は?本体?

初めて出た情報だ、どういう意味だ?作った本人の事か?

頭に上ってた血が、元に戻る。

冷静になった思考で、日記帳に文字を書く。

 

『本体ってことは、この日記帳は分裂体、それも本体に効果のあるものだな?』

 

ハハハ、流石はルシウスの息子、合格だドラコ。君を正しく後継者と認めよう

 

『僕を試したのか?』

 

ハリー・ポッターの事を聞いた時考えたんだ、彼の魔法が、今も効果があると考えるなら、闇の帝王は彼に勝てないかもしれない。そこで君だ

 

『お前は一体誰に作られたんだ?』

 

まさか、最悪が頭をよぎり、ドビーに合図を出そうと左手を動かすが、僕の意思に反して、左手がピクリとも動かない。

 

見せてあげよう、今バラしたのはね、君の魂との融合が、一定値を上回ったお陰で、こういうことが出来るからさ

 

「な、何だよこれ、どうなっているんだ!?」

 

体の制御が出来ない、これは一体………魂の融合が原因か!?

 

そうだよ、僕も君を使うのは忍びないんだ。僕の後継者何だからね

 

さっきから後継者後継者って、一体お前は誰に作られたんだ!!

 

それをこれから教えてあげるよ!

 

「これは、まさかまた記憶のなかに!?」

 

その文字が消えると同時に、本から眩しい光が溢れ来て、いつの間にか僕はホグワーツに来ていた。

 

トムの奴、僕をまた記憶の世界に引きずり込んだんだな、僕の体の制御を奪うこともそうだし、こいつは本当に危険だ。

 

「やぁ、ドラコ・マルフォイ」

 

周りを見渡すと、ここは例の入り口がある女子トイレ近くの廊下だった。

そこに、今の僕よりも歳上のトムが、僕を認識して嗤っていた。

 

「トム、こんなことも出来たのか」

 

「流石に日記帳の中でこうして会話するのは、魂の融合が進まなきゃ無理だよ。それと、僕の本当の名前は()()()()()()

 

「何言ってるんだ、君の名前はトム・マールヴォロ・リドルだろう?マールヴォロ家の半純血」

 

「その名はホグワーツを出てから捨てたんだ、今の僕はね」

 

そういって、トムは空中に文字を書き始めた。

 

"トム・マールヴォロ・リドル(Tom Marvolo Riddle)"

 

その文字がゆっくりと変わる、僕の考えていた最悪が、恐れていた最悪が、目の前に現れた。

 

"私はヴォルデモート卿だ(Iam Lord Voldemort)"

 

一瞬、目の前が真っ暗になる幻覚を見た、あまりの衝撃にその場で膝を折りそうになるのを、膝を叩いて活を入れる。

 

「ヴォルデモート卿?冗談にしては悪質だ」

 

ヴォルデモート卿はハリー・ポッターが倒した筈だろう?何故ここにいる、この日記帳を作ったのがヴォルデモート卿なら、まさかそれが日記帳の真の効果なのか?

魂の融合は、まさか復活の為の生け贄?

 

ふざけるな、そんなの冗談じゃないぞ!!

 

「冗談なんかじゃない、これは僕が学生の頃に考えたアナグラムでね、僕にとって名前は母さんからの唯一の贈り物なんだ。気に入らないからって捨てるのは心が少しだけ痛む、だからアナグラムにしたんだよ」

 

「マザコン拗らせただけだろ、だっさい名前だよ」

 

震える体に鞭を入れて、(ふところ)から杖を取り出してトム……ヴォルデモート卿に向ける。

 

それを見たヴォルデモート卿は、一頻(ひときし)り笑った後、僕と同じように杖を取り出してこちらに向けた。

 

「僕に面と向かってそう言えるのは、やっぱり才能だね。良いだろう、決闘ごっこに付き合ってあげよう」

 

油断なく杖を構えて睨む僕に、ヴォルデモート卿はニヤリと笑った。それだけで、体の制御が効かなくなる。

 

「なッッッ……!?」

 

「ここは僕の世界だぜ?君が礼儀を知らないようだから、教育してあげよう。決闘にはルールが有るんだ。先ずは互いに()()()

 

その言葉で無理矢理お辞儀をさせられ

 

「次にスリーカウント、カウントが終わるのと同時に呪文を唱える。ワン、ツー、スリー」

 

その言葉と共に、あり得ないレベルの激痛が身体中を駆け巡る。

 

「ガアァァァァァァァッッッ!!!!?!?」

 

あまりの痛さに、今の自分の状態が分からない、立っているのか倒れているのか、それさえも認識出来なかった。

激痛から解放されると同時に、反射的に身体を掻き抱く。目を瞑り、恐怖で震える。

 

「おいおい、未だ十秒だ、こんなんで根をあげてもらっちゃ困るな」

 

「よるな!!」

 

近付こうとするヴォルデモート卿に、本能で威嚇する。

こいつは危険だ。いきなり磔呪文(クルーシオ)を掛けてくるなんて、どんな精神構造してんだ。

 

「おいおい、未だ口の聞き方がなっちゃいないぜ?」

 

そうして放たれた磔呪文で、また苦しむ僕を見て、こいつは盛大に嗤った。

 

「アッハッハ、そうだ!君は後継者だから、多少は多目にみるがな。僕は規律は守るべきだと思うんだ、だから礼儀を知らない奴には、お仕置きをしなければね!!」

 

幾度となく磔呪文に掛けられて、もう意識が混濁してきた所に、髪の毛を乱暴に捕まれて、無理矢理目を合わさせられた。

 

「ぐっ…はぁ、はぁ」

 

「もうへばってるのか、まぁ及第点かな。君はこの僕、ヴォルデモート卿に選ばれた後継者として、僕の全てを教わるんだ、これくらいの拷問、そよ風の如く受け流せよ」

 

じゃないと訓練についていけないからなと言って、乱暴に僕を放ると、空中に文字を書き始めた。

 

「今日の授業は、失神呪文(ステューピファイ)と、割断呪文(ディフィンド)、覚えるまでは出さないからな?」

 

その言葉に、僕は頷くしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからと言うもの、最低限のホグワーツでの活動以外は、ほぼ全てが日記帳での生活になった。

スリザリンの寮で個室で良かったよ、じゃなかったらどうなっていたことか。

 

でもアストリアとの手紙をあまり書けていないのが、辛いと言えば辛いな。もう生活の癒しが、アストリアとの手紙位しか無いんだ。

 

しかも追い打ち掛けるように、グリフィンドールの連中が、僕がミリア・エインワーズ相手に暴言を吐いた事を知って、抗議紛いの嫌がらせをしてくるのが最近は困っているんだ。

スリザリンの先輩方が擁護してくれて、僕が部屋で日記帳での生活をしているのも、このグリフィンドールの抗議のせいで塞ぎ混んでるなんて噂まで出ていた。説明が面倒なので放置しているが、いずれこれも決着を付けねばなるまい。

 

それに、この拷問から逃げるために日記帳を捨てることは、ヴォルデモート卿にバレないようにするのは無理だし、しようとした後の訓練はいつもよりも理不尽だ。

 

それでも的確な説明で、分かりやすいのはスゴく腹が立つけどね。

あいつは監督生だったからか、教えるのが非常に上手いんだ、特に闇の魔術は圧巻の一言。後継者として、日記帳を作成した魔術も、説明されたが、とてもじゃないが同じ真似は出来ない。闇の魔術とはよく言ったものだ、あまりにも負の側面が強い魔術ばかりで、説明を聞くだけでも精神を消耗する。

 

割断呪文(ディフィンド)!!」

 

「魔法式の練りが甘い、展開がお粗末。せめて本命前にフェイントを二つ入れろ」

 

「ガアァァァァァァァ!!!!?!?」

 

僕の渾身の一撃を、空中に漂う塵に変身術を掛けて盾にする何て言う非常識で防いだヴォルデモートに、続けざまに放たれた磔呪文で拷問を受ける。

実戦形式でヴォルデモートが攻撃に使うのは全て磔呪文。本当の実戦だと、これが即死呪文(アバダ・ケダブラ)になるというのだから、まさに死の飛翔(ヴォルデモート)に相応しい戦い方だ。その後も、超スパルタ式の蛇語の授業を受ける。

 

「蛇語は大分聞き取れるようになってきたな、ここだけは確り成長してる」

 

「だけは余計だ」

 

「口の聞き方がなっちゃいない」

 

「ガアァァァァァァァ!!!!?!?」

 

ヴォルデモートに褒められるなんて、虫酸の走る意味の分からない展開に、思わず悪態を吐くと、磔呪文によって拷問された。

 

日記帳の中は一種の精神世界、そこでいくら傷を負うことになっても、現実では無傷。あくまでも長くてリアルな夢らしいが、それでも磔呪文は他の例えが出ない位に痛いし、中での経験は現実にも反映される。お陰で呪文学と変身術の成績が右肩上がりだ。トラウマの数も右肩上がりだが。

 

「今日はここまでにするか、大分マシにはなったけど、未だバジリスクを相手にするのはキツいかな。あぁそうだ、次の休みに身体を譲れ、やることがあるんだ」

 

「分かった、だがアストリアに変な手紙は送るなよ?絶対だからな?」

 

この前身体の支配権を奪われた時に、マグル知識マシマシの手紙を送りやがって、火消しが本当に大変だった。

 

「あれは楽しかったなぁ。そう睨むなよ、拷問したくなるだろう?」

 

「ガフッッッ!?」

 

ヴォルデモートがそう笑うと、ものすごい勢いで石が頭にぶつかってきた。

 

涙目でうずくまると、ヴォルデモートが嘲笑する。

 

「かはは。まぁ今回はお前の為なんだドラコ、バジリスクと戦うにあたって、必須な秘密兵器だよ」

 

「マグルの爆弾でも持ってきてくれるのか?」

 

ヴォルデモートが未だトムで孤児院に居たときに、トムと同い年の奴等が言ってた物だ。あの威力が本当なら、バジリスク何て楽に倒せるだろうよ。

 

トムの頃から、ホグワーツを卒業するまでの記憶を、僕は無理矢理トムに見せられていた。マグルの知識までみっちりと。

 

「あんな品の無いもの、使うわけ無いだろう。バジリスクの視線を無効化するものだ」

 

「あの即死の魔眼の?」

 

「そもそもだ、バジリスクはどうやって視線で生き物を殺すと思う?」

 

そんなの見た瞬間に死ぬんだろう?なら眼球から何か出してるんじゃないのか?

 

「視線で即死呪文でも発動してるんじゃないか?」

 

「正解はな、視線があった相手に特殊な魔術光を網膜照射して、網膜の中心部、黄斑で魔法式を図像し、それを照射された相手の魔力により実行、これにより視神経から脳神経までをズタズタにして、対象を殺害する。これはとても繊細な魔法式な為、裸眼見る相手にのみ、効果を発揮する。間接的な視線の交差は、魔法式の図像が不十分なせいで、別の魔法式が発動する事により、対象が石化するんだ」

 

「専門用語が多過ぎて分からないんだが」

 

「端的に言うぞ、裸眼で見たら死ぬ。間に何か挟んで見ても石になる」

 

「結局死ぬじゃないか、石化何てバジリスクの前でしたら自殺行為だし」

 

「あぁ、だからこれからその視線を対策する魔法道具を作るんだ。材料はアストリアに手紙を出した時に、ドビーに準備するよう手配してある」

 

「そんな魔法道具、作れるのか?」

 

「楽勝さ、そもそも即死何て魔法界じゃありふれてるだろう?マンドラゴラとかさ。って言うかモノ自体は海外からの取り寄せだよ、それをメガネに改造するだけだからね」

 

「バジリスク対策用の素材が、作られているのか!?」

 

「いや、元は娯楽とかパーティーグッズみたいなモノらしいよ、何だったかな確か『マジックミラー』?」

 




マジックミラーが敗因で負ける魔法生物最強格が居るらしい、あ、止めて!石は投げないで!?




以下蛇足 メッチャ不謹慎な話題と、独自設定のオンパレードなので注意 読むのは自己責任で。

実際問題、うちの小説での独自設定の魔法生物最強ランキングは

一位 無類の不死身さを誇る弱点克服吸血鬼

同率二位 理不尽なマップ兵器のヌンドゥ

同率二位 視線さえ通れば、ヌンドゥを殺せるバジリスク

同率二位 弱点が多くても、トップクラスの身体能力と魔法によりヌンドゥ、バジリスク両方に有利が取れる吸血鬼

それ以下のその他大勢

こんな感じですね。ドラゴンは上位に来るだろうけど、ぶっちゃけヌンドゥの毒だったりバジリスクの視線を防ぐ手段を持たないから、上の連中からすればその他大勢。

フリーザからすれば、ナメック星に来たばかりの悟空と悟飯に対して違いはないですからね。

後、弱点克服吸血鬼は、何やっても不死身の化け物だから、もうどうしようもないです。戦術核でもモロに食らって、細胞単位で蒸発すれば倒せるんでない?
魔人ブウ並みの復活能力故に、それくらいしないと死なないです。
某AD地区の漫画家の吸血鬼の旦那とか、物語な金髪幼女の名前長過ぎる完全体とか、十歳児が教師の学園都市にいる経歴の割りに本編の言動が可愛いキティちゃんとか、そう言う真祖クラスの奴等です。
ぶっちゃけ卒業後の事を書こうとすると、序盤からこうしてインフレさせとかないと、インフレが激し過ぎて最早ジャンルが変わるからね、仕方無いね。

ちな最盛期ヴォルデモートは、弱点克服吸血鬼より強いです。ダン爺様は互角位。

最盛期ヴォルデモート>弱点克服吸血鬼=ダン爺≧原作ヴォルデモート>>通常吸血鬼≧ヌンドゥ=バジリスク>越えられない壁>その他大勢
と言った感じ。

実際問題、ヴォルデモートって大分イカれた才能持ってますからね。
・ダン爺の半分程しか生きてないのに、魔法知識はダン爺と同じかそれ以上
・ダン爺すら開けなかった『秘密の部屋』を開けて、バジリスクを従える
・難攻不落、絶対に破れないとまで言われるホグワーツの結界を単身で合わない杖で破壊
・その才能は、ダン爺すら越えるとダン爺が認める
・箒を使わない浮遊術の開発
・独自の魔法を作り上げ、それをたった一、二年程で他人にマスターさせる等の教育者としての手腕

パッと思い付くだけでこれだよ、しかもこれの殆どを、魂を裂きまくって能力が落ちてる時に成したという人外加減。

最早ヴォルデモートだけ世界観違うんだよなぁ。
ラスボスの名は伊達じゃない。
多分戦略核クラスの攻撃とか、普通に撃てると思うんだ、ダン爺様の親戚が山崩しみたいな事をしてるし。
ぶっちゃけ大人の魔法使いのインフレ加減は異常。
今考えると、ハリーが戦ってきた場所って、最終決戦以外、大規模な魔法が使いにくい場所が多かったんだよね。

そ り ゃ イ ン フ レ も す る わ な ! !(久々のファンタビ視聴後)


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sideマルフォイ 対話

セーフ!!
月曜に間に合いました。
もうすぐマルフォイ視点での話は終了です。ここからラストスパート一直線!


「次の授業は魔法史だ、遅れるなよ?」

 

用件を伝え終わると、そう言って約二時間に及ぶ拷問から僕を解放するヴォルデモートに、現実に戻ってから悪態を吐く。

 

「絶対に裏切ってやるからな」

 

休み時間の僅かな時間を、何十倍に拡大する日記帳は本当に危険だ。一日を何十倍にも引き伸ばして、その殆どを拷問される時間に費やしている今の生活が、もう限界なんだ。一体僕が何故ここまで責められなければならない、早くハリー・ポッターとミリア・エインワーズの二人と決着を付けねば。

 

誰にもバレないように人気の無い廊下の男子トイレで日記帳を使ってた僕は、トイレの個室から出て廊下を急ぐ。周囲に教室を移動する生徒が増えてきた所で、僕に背後から声を掛ける女子生徒がいた。

 

「マルフォイさん、少しよろしくて?」

 

「………ギネヴィア・テイラー、何か用か?」

 

「ええ、その日記帳が気になりまして」

 

「ただの日記だ、君は僕の日記に興味があるのかい?」

 

努めて冷静に、皮肉を言う。

 

()()()()()()。ビンズ先生には、マルフォイさんは体調が悪そうだと伝えておきましたわ」

 

「断る、と言いたいが、一つ頼みを聞いてくれるなら、教えても良い」

 

出来るだけ自然体で、不自然にならないように気を付けて、交渉をする。ギネヴィア・テイラーはミリア・エインワーズと仲が良い、それならハリー・ポッターとも深く関わっているかもしれない。ヴォルデモートの計画が始められるかもしれない。

両腕を前で組んで顔に手を当てて考えているギネヴィア・テイラーを見つつ、今後の交渉をシュミレートする。

 

「ふむ、いかがわしい事は嫌ですわよ?」

 

「僕を何だと思ってる!?」

 

「ミリィとハーマイオニーの着替えを覗こうとしたのぞき犯?」

 

「あれは事故だ事故!それに謝罪もしている!!」

 

こっちだってあいつらの着替えなんてノーサンキューなんだ!誰がアマゾネスとガリ勉の着替えなんてのぞきたいと思うんだよ!!

 

「謝れば良いと言うわけでは………話が脱線してますわね、頼み事とは何です?」

 

呆れた顔をするギネヴィア・テイラーに、今すぐにでも割断呪文でその頭を唐竹割りにしてやりたい気持ちに駆られるが、それを抑えて、ドビーを呼ぶ。

 

「お呼びでしょうか、坊ちゃま」

 

「この前に言ったご褒美だ、ハリー・ポッターとの面会を、この少女に許してもらおう」

 

「本当でございますか!!?」

 

驚くドビーの頭をぽんぽんと叩くように撫でて、ニッコリと笑ってやる。

 

「そちらの屋敷しもべは、あなたので?」

 

「僕の父さんが雇い主だよ、今は僕の世話係だ。こいつはドビー、ハリー・ポッターの奴の大ファンでね、日頃の働きのご褒美に、一度話をさせてやろうと思っていたんだ」

 

「それが頼み事ですか、意外ですわね」

 

まるであり得ないようなモノを見る目をするギネヴィアに、肩をすくめる。去年までのホグワーツにいた自分じゃ、考えられない事を言ってるのは自覚しているさ。本当の努力って奴を知ったからな、僕の為に頑張る奴には報いるべきだと、そう思ったんだ。

 

「ふん、役に立つなら重用するさ。ジャパンの言葉で信賞必罰だったかな、父さんの友人に習ったんだよ」

 

本当はヴォルデモートが拷問のつなぎの時間に暇潰しで話していた事だが。

 

「本当に、変わりましたわね、マルフォイさん」

 

「お世辞はいい、場所を変えよう。ドビー、必要の部屋にお茶の用意をしてくれ」

 

「畏まりましてございます」

 

「なら、アッサムのオレンジ・ペコー*1が良いですわ」

 

こいつ、わざわざ時間の掛かるフルリーフ*2何て頼むな!

 

「ファーストフラッシュ*3のブロークン・オレンジ・ペコー*4だ、お茶菓子は任せる」

 

ブロークンが一番飲みやすいんだよ、長い待ち時間何て僕は嫌だぞ。紅茶をただ飲むだけならマグルが作ったティーバッグが便利だが、あれは抽出の時間が早すぎて直ぐに渋くなるからダメだ。

 

お茶菓子は時間的にもうアフタヌーンティー*5の時間だからな、こう言えばドビーなら気を利かせてくれるだろう。

 

「セカンドフラッシュ*6は有りませんの?お茶菓子はサンドイッチとスコーンを、ペストリーは任せます」

 

色々と注文をつけるギネヴィアに、痛くなった頭を手で押さえつつ、どうすれば良いか迷っているドビーに、申し訳なさを感じつつ指示を出す。

 

「……はぁ、セカンドフラッシュだドビー、僕はレモン、ギネヴィア・テイラーにはミルクティーでな。サンドイッチは野菜多めだ」

 

僕の言葉に頭を下げて妖精の姿現しで消えるドビーに、今度ハリー・ポッターと会った時には、仲を取り持てるようギネヴィア・テイラーに強く言っておく事を決める。

 

「よく分かってますわね、流石は英国貴族ですわ」

 

「茶化すな、それで?ギネヴィア・テイラー、君は図書館で本を読むのが生き甲斐じゃ無かったのか?」

 

うちのドビーは喫茶店の店員じゃないのに、あんな注文しやがって、ここぞとばかりに欲しいものを頼んで、遠慮とか知らないのか、こいつは。

 

僕がそう思いながら皮肉を言うと、ギネヴィア・テイラー僕の言葉にうなずいて、しかし楽しそうに笑った。

 

「えぇ、勿論そうなのですが。最近は気になるものが出来ましたから、そちらに夢中です」

 

「君みたいな女性が夢中ね、気になるものが気の毒だよ」

 

心の底からそう思うよ。この女が興味を持つと言うことは、相手の人権が無視されるって事だ。

こいつと仲の良いミリア・エインワーズや他二人のルームメイトが、本当に謎だ。何故こんなイカれた奴の友人になんかなっているんだか。

 

「あら、酷いですわ。そんな事を言うから、ミリィやエレナに誤解されるのでは?」

 

「そんなの知らないさ、僕は身内に理解されていればそれで良い」

 

「その点に関しては同じ意見ですが、もう少し社交を学びなさいな」

 

「君は僕の母親かい?お節介は止めてくれ」

 

「別に良いでしょう。それとも、もっと大人しい女性(ひと)がよろしくて?」

 

「少なくとも、もう少し落ち着きは欲しいな。後自制心」

 

「耳に痛いですわ~、まぁ直すつもりはありませんけど。好奇心は発見の父が持論ですのよ」

 

猫のように笑うギネヴィア・テイラーにやりにくさを感じて、必要の部屋に入る時に、自分が思っていたより皮肉な言葉が出てきた。

 

「良い持論だな、免罪符じゃないが」

 

「………ええ、気を付けますわ」

 

日頃の笑い方とは違う、まるでチシャ猫のように大きく唇を広げて、歯を見せるように笑うギネヴィア・テイラーに、思わず寒気と嫌な予感がする。

必要の部屋の中を確認しながらそれを頭の中から振り払いつつ、ギネヴィア・テイラーに座るよう促す……前に座ったな、こいつ。

 

「では、お茶の時間までに日記帳以外にも質問をしても?」

 

「好きにすれば良い。唯し、正直に答えるのは日記帳の質問のみだ」

 

「それが聞ければ結構ですわ、正否は元々気にしていませんから。マルフォイさん、あなた蛇語(パーセルマウス)を話せますね?」

 

「………………なんの事かな?」

 

この段階でバレるのは不味いッッッ!?

 

「油断し過ぎですわ、魔法薬学の時間に練習するなんて」

 

「口笛だよ、第一何で蛇語だと?些か荒唐無稽じゃないか?」

 

焦りがバレないよう誤魔化しを入れると、ギネヴィア・テイラーがそれはもう笑顔で頷く。

 

「えぇ、()()()()()()()()()

 

これは、バレたな。ヴォルデモートの奴との授業までに、少しでも上達してないと拷問されるから、暇や余裕さえあれば練習していたのがあだになったな。流石に迂闊過ぎたか。

 

このタイミングで、ドビーがティーワゴンと共に姿現しで現れた。

手早く丁寧に準備をするドビーに、ギネヴィア・テイラーも感心している。

 

「良い屋敷しもべを雇っているのですね、羨ましいですわ」

 

「本当に助かってるよ、ドビーはもう手放せないな」

 

「あぁ、坊ちゃま!」

 

感激するドビーを横目に、ミルクティーを飲むギネヴィアを警戒する。

 

「生ハムとレタスにトマトのサンドイッチですか、美味しいですわ。ハリー・ポッターとの仲を取り持つのは任せてくださいな、ドビーさん」

 

「勿体無きお言葉です!!どうぞドビーめの事は呼び捨てに」

 

感激するドビーに二人っきりにするように指示を出す。ドビーがハリー・ポッターと話すときに、余計なことを言わないようにな。

 

「よくやったドビー、二人で話したいから、日記帳を持って部屋に戻っててくれ。夕飯は部屋で取るから、準備を頼む」

 

「畏まりましてございます。坊ちゃま」

 

ドビーが消えた後、トマトとチーズのサンドイッチを食べていると、サンドイッチを美味しそうに食べているギネヴィア・テイラーを見る。

この美少女の形した好奇心の狂人、なまじっか見た目が美少女なのが達が悪いんだよな。

両手でサンドイッチを持ってるせいで、胸が圧迫されてむにゅりと形を変えてる。さっきの考えてる時の仕草もだが、絶対わざとだろこいつ。

 

「なんですの?じろじろ見て、そう言うのはバレないように見るものですわ?」

 

「お前、絶対わざとだろ!?」

 

「言いがかりですわ~。そ・れ・よ・り・も、日記帳の事を質問しても?」

 

柳に風と受け流して、のほほんと笑いつつスコーンにクリームとジャムを塗るギネヴィア・テイラー。

 

「先ず何が聞きたい」

 

「あの日記帳、一体何なのです?最初から説明をお願いしますわ」

 

笑顔で食べるギネヴィア・テイラーに毒気を抜かれつつ、あまり情報は抜かれていない事に内心で安堵する。僕が自分で暴露するなら未だしも、知らない内に情報を抜かれるのは、心臓に悪い。

 

「父さんが持ってた闇の魔術が込められた日記帳。大分ヤバイ代物だ」

 

「ヤバイとは、またあやふやですわね」

 

「少なくとも僕が知りうる手段での破壊は不可能。そして意思があり、日記帳に文字を書き込んだ相手とゆっくり魂を融合させ、やがて乗っとるものだよ。

能力は複数あって、日記帳にある記憶を追体験させるのは初期の段階から出来る。

その次に日記帳内の空間に閉じ込められる事が出来る。

日記帳内部の時間軸を現実世界とはずらして、僕の確認している限り、最大で5分を6時間に引き伸ばした。

日記帳内部で、日記帳の意思と直接会話できる。

日記帳内部の空間では、何をしても現実の身体に影響は無いが、経験や知識を得ることは出来る。

日記帳との魂の融合が一定水準を越えると、身体を日記帳に操作される、これはこちらの意思を無視しての操作だ。今のところ記憶の欠落は無い、操られている間も意識はあるんだ。

これを過ぎると、今度は頭の中で考えている事も筒抜けになる。

ここまで来ると後は魂の融合の最終段階、日記帳の意思の実体化と、融合した魂の持ち主の死亡だ」

 

僕の長々とした説明に、フルーツサンドを食べるギネヴィア・テイラーの口が止まる。直ぐに動いてミルクティーを飲むと、溜め息を吐いた。

 

「特大の疫ネタですわね、あなたはもう?」

 

「大分魂を融合させられている。近くにいると思考を読まれる位には」

 

バナナとチョコのサンドイッチを食べる。チョコソースの量がちょうど良い、流石はドビーだ。

 

「日記帳の目的は?」

 

「自身の復活だ。あれがホグワーツでもし復活したら、イギリス魔法界は大混乱だ」

 

僕がイギリス魔法界と言った所で、誰が作ったのか理解したのだろう、ギネヴィア・テイラーが珍しく動揺していた。

 

「………グリンデルバルドかしら?」

 

「惚けるな。分かっているだろう?ヴォルデモート卿だよ」

 

「では、あなたを生け贄に?」

 

「いや、それなら今学期始めに復活してる。目的はハリー・ポッター……若しくは半純血だ。自身と同じ半純血の魂を融合することで、完全な復活が出来ると考えているらしい」

 

「ヴォルデモート卿が半純血?過激派純血主義者でしたわよね?」

 

「父親がマグルだ、母親は純血のマールヴォロ家、マグルと子供を作ったからか、母親は家を追い出されて病死だそうだ、ヴォルデモート卿は施設育ちだよ」

 

「そう、ですの……………」

 

僕の施設育ちという言葉に、誰を思い浮かべたのか、ギネヴィア・テイラーは黙りこくる。別にショックを受けた訳じゃないようで、ジャムとクリームたっぷりのスコーンを食べてるが。

 

「あなたにリスクを承知で日記帳を持ち歩かせているのは?」

 

「僕に『秘密の部屋』を開かせるため。中の怪物を従える、その為の訓練のためだ。中の怪物はバジリスクだ」

 

「予想はしてましたが、最悪の一歩手前ですわね、バジリスクとは………はぁ、校長は何て言うのでしょうか」

 

「ヤバイだろ?記憶を追体験したが、あれはヴォルデモート卿レベルの魔法使いじゃないと無理だ。ダンブルドア案件だよ」

 

「秘密の部屋の入り口も分かるのですね?」

 

その言葉が意外で、フルーツタルトを食べる手が止まる。意外そうにギネヴィア・テイラーを見ると、真剣な顔をしてこちらを見ていた。

 

「意外だな、推理と付き合っているような君が、答えを求めるなんて」

 

「事が事です、私の流儀なんて些事ですわ」

 

「はぁ、そうかい。女子トイレだよ、嘆きのマートルがいる女子トイレだ」

 

「何故そん……………そう言えばトイレは最近出来たものでしたわね」

 

あぁ、母さんに聞いた事がある。ホグワーツでトイレが出来たのは18世紀の中頃だと、それ以前はトイレが無い悪夢の時代だとな。

 

「博学だな、トイレがある時代に生まれて良かったよ」

 

「古代ローマはあの頃既に上下水道に公衆トイレを作っていたのに、何故ホグワーツ城を作った当初に出来なかったのでしょうね」

 

「衛生観念は未発達で感染症の温床だったろうに」

 

鴨肉とレタスのサンドイッチを食べながらいうと、ギネヴィア・テイラーは意外そうな顔をしてこちらを見てきた。

 

「あら、マグルの歴史に興味が?」

 

「ヴォルデモート卿が詰め込んできた知識に、歴史があったんだ。半純血で元々マグル育ちのヴォルデモート卿は、マグルの歴史を知って、あの思想になったんだよ。マグルと魔法族は別の生き物だってな」

 

「意外ですわね、典型的な差別主義者だとばかり思っていましたわ」

 

「僕も、マグルの歴史を知った今、魔法族や純血が最優とは、とても思えなくなったよ」

 

少なくともだ、才能に左右される魔法ではなく、科学によって構築された社会基盤(インフラ)は、魔法より自然を破壊するものではあるが、人間社会としては豊かだ。

 

魔法は特別だが、科学は平等だ。

 

ヴォルデモートがマグル生まれと純血を区別して、マグル生まれを危険視していた理由が分かった。

マグル生まれの彼等彼女等は、科学知識と魔法によって、魔法科学とも言うべき分野を開拓している。いずれはそれが魔法にとって代わり、古くから続いてきた魔法は廃れ、純血や純粋な魔法族が淘汰される。ヴォルデモートはそこに目をつけたんだ。

 

元々あったマグルの父親に対する嫌悪とマグル生まれの人間に対する警戒心が合わさり、あの差別主義者へと変わった。

 

「魔法は特別だが、科学程平等じゃない。」

 

「えぇ、そうですわね。魔法は誰でも学べるものでは無いですから」

 

その言葉に頷く。折角の鴨肉の味が褪せてきた。

父さんが言ってた事が見に染みたよ。マグル生まれ(あいつら)はスゴい、ガリオン金貨がたったの五ポンドとか、あいつらの車や家の値段を知って笑ったよ。魔法族よりもマグル生まれの方がよっぽど裕福だ。

 

………はぁ、なんだ、らしくないな。感傷的になっている。

 

「話を戻そう、秘密の部屋は蛇語を合言葉としている。そしてバジリスクは、自身より強い相手を主と認める。バジリスクを従えるには、一度バジリスクに勝たなければならないんだ」

 

「ヴォルデモート卿があなたに蛇語を教えているのですね?」

 

「あぁ、バジリスクに勝てるように魔法の特訓もな。磔呪文(クルーシオ)はいつになってもなれないが」

 

心が折れそうになっても、ハリー・ポッターとミリア・エインワーズの事を思い浮かべれば、怒りと妬みで堪えられる。

 

「厳しいを越えてますわよ、それは」

 

「だが強くなれているんでね、今なら6年生相手でも勝てるよ、僕は」

 

少なくとも末端の死喰い人(デスイーター)よりは強いと、ヴォルデモートから御墨付きをもらっている。今は父さんやベラ叔母さん、そしてスネイプ先生レベルを目標にやらされている。そのレベルでバジリスクを倒せるらしい。父さんやスネイプ先生がバジリスクを倒せる強さと聞いても、何かピンと来ない。

僕にとっては父さんは釣り人間で、スネイプ先生は魔法薬学ヲタク何だが。

逆にベラ叔母さんは、戦うことしか出来ないから、納得と言えば納得なんだけど。

 

「男はホント………今回はあなたも被害者ですし、何かあったら言いなさいな、手伝うくらいならしますわ」

 

「気味が悪いな」

 

「私は私に素直なので、正直な気持ちですのよ?」

 

そう言って笑うギネヴィア・テイラーは、いつもよりも大人びて見えた。

*1
茶葉の等級。茶の枝の尖端部分から2番目に若い葉の事を指す

*2
茶葉のサイズ。茶葉を切断せず、そのままの状態のもの、一番抽出の時間が掛かるサイズ。他に茶葉を切断したブロークン、更に細かく砕いたファニングス、粉末にしたダストがある

*3
茶葉の収穫時期、生産国や茶園ごとに時期や名称、収穫回数等が異なる。アッサムの場合は年に三度。

ファーストフラッシュは一番最初の収穫時期である。新芽が多く、収穫量が少ないため、他の時期のものに比べると比較的高価。アッサムの場合は他の収穫時期より飲みやすく、紅茶の色が明るいのが特徴

*4
切断したオレンジ・ペコーの事を指す。抽出の時間がフルリーフより短いのが特徴。ティーバッグではない茶葉では、一番見る機会が多いもの。

*5
午後4時頃にお茶と共に軽食を食べる習慣の事。

伝統的なものはサンドイッチ・スコーン・ペストリーが3段のティースタンドに盛り付けされ、サンドイッチから順番にゆっくりと時間を掛けて食べるのがマナー。

サンドイッチは野菜多め、ペストリーと呼ばれるものはフルーツタルトが特に伝統的なものと言える。

*6
二番目の収穫時期、バランスの良い紅茶の飲める茶葉である。

アッサムの場合は「モルティー・フレーバー」と呼ばれる、甘く芳醇な香りが特徴で、ファーストフラッシュよりも味に深みがあり、力強い味わいと言われている。一般的にミルクティー向きの茶葉とされる。




この話の時系列はあえて私から明記しません。その方がギネヴィアの異常さが際立つかと。
どうしても知りたい人は、私にメッセ送ってください。ヒントと言う名の怪文書で返答します。


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sideマルフォイ 開門

マルフォイ視点クライマックスです。
飲酒して書いたからか、原作がドンドン遠ざかってますが、書きたいもの書けたからヨシ!(現場猫)



《遂にやって来た、決戦の時だ。準備は万端にするんだぞ、ドラコ》

 

『トムこそ、このゴーグルちゃんと出来てるんだろうな?』

 

頭に響くその声にそう心の中で返すと、調子の良い声が聞こえてくる。

 

《もちろん、万全だとも、いざという時は主導権をこちらがとって助けてやるから。存分にやれよ》

 

保護者(ラスボス)同伴でバジリスク(中ボス)退治とか、なんともなぁ』

 

最早魂の融合が進みすぎて、日記帳の近くにいるときは、僕の頭の中に直接ヴォルデモートの声が聞こえてくるのだ。

 

《ゲームブックか何かか?ダンジョンズ&ドラゴンズは、若い死喰い人(デスイーター)の中で流行ってたな、魔法を籠めて独りでに駒が動くようにするんだ、グレゴリーの奴は熱中してたよ》

 

『ゴイルの父親がねぇ、通りでゴイルがゲーム好きな訳だ。後、TRPGとゲームブックは別だぞ。』

 

《最近の遊びは分からないよ》

 

『もう70近いお爺ちゃんだもんな、トムは…ツゥッッッ!?』

 

廊下に落ちてたペンに魔法をかけて、僕の事を服の上から刺してくるのを、必死に避けてると、トムの笑い声が聞こえてきた。

 

《未だ未だ若いつもりだよ、ほら、僕不死身だし?》

 

『よく言うよ、七つに魂を裂くなんて、本体は一体どれだけヤバイ顔をしているんだか』

 

《僕は一番大きな魂だからね、魂の中で一番ハンサムなのは僕だぜ?》

 

『一番お調子者の間違いだろう?』

 

最近ではこういうやり取りも増えてきた。

ヴォルデモートがバジリスクに認められたのが上級生の時だったこともあり、2年生でその実力まで追い付いたのが認められたのだろう。トムは独学で自分は先達がいた訳だけど。

三本に増えたペンの攻撃を避けながら考えていると、ヴォルデモートが唐突にペンの動きを止める。

 

《遊びはこの辺にしようか》

 

『あぁ、もう着いたのか』

 

今日は月曜日の夜。

週の始めだから、子供は疲れて寝て、先生達も見回りを早々に終わらせて今は部屋だろう。

 

フィルチはランプをもって歩くから、遠くからでも分かりやすい。

 

僕はドビーに相談して用意させた栄光の手*1を使ってランプ無しで歩いて、足音をトムに教え込まされた技術で消して歩く。気を付けるのはミセスノリスだけだ。

巡回ルートはいつも決まってるから、避けるのは簡単だけどね。

 

そうしてそそくさと女子トイレに忍び込んだ僕は、マートルに無言呪文で静止呪文(アレスト・モメンタム)を打ち込んで動きを止める。背後から無言呪文で動きを止めたから僕が誰かは分からない筈だ。

 

ヴォルデモートに言われた蛇の蛇口を見付けると、それに蛇語(パーセルマウス)で語りかけて、入口を開く。

 

『壮観だなぁ。この光景は』

 

《これから毎日でも見る光景だがね。ゴーグルは確り着けてるな?》

 

その言葉に、左手でゴーグルに触れながら答える。

 

『バッチリだ、確り固定されているよ』

 

《バジリスクは最奥の部屋へ移動してる筈だ。以前の僕が、入口が開いたらそうしろと命令している》

 

こうなることも見越してか、はたまた別の理由があるのか。兎も角、狙ってやったのなら、ヴォルデモートはとんでもない策略家なのは確かだな。

 

中に飛び降りながらそう考える。帰りは検知不可能拡大呪文でショルダーバックに隠した箒で帰る予定だ。すべり台のようになっている入口を滑り落ちながら会話を続ける。

 

《ダンブルドアは気付いてるだろうね、でも止めないだろう。ハリー・ポッターにやらせる筈だ》

 

『あいつのハリー贔屓には辟易する』

 

《親子揃ってダンブルドアに贔屓されてるんだ、ああいう顔が好きなんだろ》

 

その言葉に驚いて着地に失敗する。ヴォルデモートがとんでもない事を言い出すからだ。

 

『おいおい、ダンブルドアはゲイなのか?』

 

《間違いないさ。部屋全体を明るくしてくれ。ゴーグルの機能を使うために必要だ》

 

知りたくなかった情報に顔をしかめると、周りを見渡す。記憶の中の場所と一致しているな。

 

拡大光呪文(ルーモス・マキシマ)

 

栄光の手は使わずに、拡大光呪文で部屋全体を明るくする。

 

《そのゴーグルは内側を暗闇呪文(ノックス)で常に暗くしている。これはマジックミラーの特性が関係している。マジックミラーは暗いところから明るい所へ視線を通すが、その逆は通さない性質を持っている、これを使ってバジリスクの視線を遮るんだ。視線が交差する事が条件の一部であり、相手の網膜まで魔力光を届ける必要があるバジリスクの視線は、バジリスクが目視出来る対象に限り効果の出る魔力光により相手の視線を条件に反射を誘導するが、相手の視線を確認できなければそれもない。マジックミラーはバジリスクだけの視線を遮るから、バジリスク対策としてはとても都合が良いんだよ》

 

………ふん、なるほどな。

 

『つまりどういうことだ?』

 

《部屋を明るくしてそれを付けてれば、バジリスクの目を見てもなんともないって事だ。外して見たら即死だからな、マートルみたいなゴーストになりたくなかったら止めとけ》

 

『明るくする必要があるのか、分かったよ』

 

ヴォルデモートの言葉に頷くと。中を一番奥の部屋を目指して歩く。途中の巨大な蛇の脱け殻に、少し怖じ気付きながらも中を歩く。蛇語が必要な扉を抜けて、水道からの水が溢れている、部屋というよりは水路と通路が結び付いたような不思議な空間に出る。

通路正面の石像はとても大きく、年季の入った威厳しかないような男の石像があった。

 

ここまで拡大光呪文を使って、全ての場所を明るくしてきたが、ヴォルデモートとの特訓のお陰か、魔力には未だ未だ余裕がある。

 

《サラザール・スリザリンの石像に蛇語で話し掛けろ、そうすればバジリスクが出てくる》

 

「新たな継承者の命令だ。バジリスクよ、秘密の部屋の怪物よ、ここに現れよ」

 

その言葉に反応して、石像の口が開き、巨大な蛇が現れる。普通のサイズじゃない、脱け殻だけでも50(メートル)は越える。本体は幾つなのか、考えるだけでもバカらしくなる大きさだ、胴体の太さだけでも、僕の身長ほどもある蛇の怪物。ヴォルデモートの記憶の時よりも、若干大きくないか?

 

「随分と可愛らしい継承者だこと、サリーにそっくり」

 

サリー!?

随分とスリザリンと仲の良い様子だな、話し方からして雌か。

 

「ご先祖様に、そりゃありがたい。僕が継承者だと認めてくれるか?」

 

「いいえ、力を見なくては、私が従うに相応しい力を」

 

「良いだろう、僕の全力を見せてやる」

 

その言葉と同時に自身に突飛ばし呪文(デパルソ)を使って身体を吹き飛ばして距離を取る。直前までいた場所に尻尾が振るわれ、石畳の床にヒビが入るのを、着地しながら見て緊張する。

 

「反応は及第点でしょうか。それ、攻撃してみなさい?」

 

《悪い知らせだドラコ、そいつは俺の倒したバジリスクじゃない》

 

『何てこった、バジリスクは複数居るのか!?』

 

《バジリスクだって生物だ、寿命には限りがあるんだよ。大体800年から1000年程度だったか》

 

『十分長生きじゃないか!!』

 

「来ないのですか?」

 

「これでどうだい!」

 

バジリスクは呪文に対して特に耐性があるわけじゃあないが、頭さえ無事なら存外タフネスだ、故に存分に呪文をぶつけることが出来る。

 

麻痺呪文(ステューピファイ)を乱れ撃ちすると、その巨体からは考えられない俊敏さで避けるバジリスク。

 

巨体故に数発当たったが、麻痺させることは出来なかった

 

「良い反撃ですね、でも未だ威力不足です」

 

これでも全力で魔力を籠めてるんだがな!?

 

《魔力式に未だムラがあるせいで、威力が発揮できてないんだ、麻痺呪文じゃいくらやっても無駄だな》

 

『なら、変身術で圧殺してやる』

 

バジリスクのいる床に変身術を掛けて、石槍を大量に生やすが、およそ全てがバジリスクに叩き折られた。

 

「応用も素晴らしい。では、多少本気で行きましょう」

 

盾呪文(プロテゴ)!ッッうわぁ!?」

 

その瞬間、バジリスクがぶれて見えて、急いで盾呪文(プロテゴ)を出すも、弾かれて吹き飛ばされる。

 

「あら?牙でその腕を貫くつもりだったのですが、やはり素晴らしい反応速度ですね。それだけでも、凡百な私の子孫には勝てるでしょう」

 

クソッ、何だよあの速さ!!

 

《不味いな~、あれ僕が倒したバジリスクよりも強いぞ、ぶっちゃけ最強格の魔法生物なバジリスクの中でも最高峰(ハイエンド)な個体だ。よくもまぁ、ここまでの強さを、ホグワーツの地下で磨いたものだな》

 

『そうだと僕も考えてたよ畜生!?僕と変わって何とかしてくれ!!』

 

《隙を見せたら即死攻撃な相手に、乗っ取り途中の無防備な姿(さら)す気かい?》

 

「ですがあなたはサリーによく似てる、子孫には譲れません。故に力を示しなさい」

 

「好き勝手言ってくれる!」

 

ヴォルデモートとバジリスク両方にそう怒鳴り、変身術を使って粉々に砕かれた石槍の残骸を無数の猛禽類に変えてバジリスクを襲わせるも、文字通り一睨みで全て死に絶える。鎧袖一触とはこの事か。

 

「強いですからね、私。さぁ、早くあなたの強さを見せなさい!」

 

「これでも全力何だよ!未だ12の小僧に、何を期待している!!」

 

「サリーを、サリーと同じ輝きを!私に見せて!!」

 

狂ってる。

魔法生物がここまで狂う程のカリスマ……スリザリンってどれだけの化け物何だか、ご先祖は余程のカリスマを持ってたか、余程のペテン師だったかだな。グリフィンドールと決別してるから、前者なんだろうけどな。仕方無い、殺したく無かったけど、変温動物なら致命のとっておきの一撃を食らうが良い!!

 

水増し呪文(アクアメンディ)によって水浸しになったバジリスクに氷結呪文(グレイシアス)を使って凍らせる。

 

「はは、これで僕の勝ちだ、はぁ」《これ殺してない?》

 

「今のは少し、危なかったですね」

 

「………おいおい、蛇って変温動物だろ?」

 

《その筈だし、普通ならあれから脱出なんて無理なんだけどね》

 

「サリーへの愛さえあればこれしき!!」

 

《……もうこれ逃げた方が良いような?》

 

同感だ、勝てる気がしない、どうすりゃ勝てるんだよ!?

直接の呪文攻撃は保有してる魔力量によって強引に防がれるし、物理だって生半可なのは鱗で弾かれるし、何より速すぎて当てるのすら一苦労。

挙げ句氷の中に閉じ込めたら愛なんて理由で強引に突破するなんて、本当にこいつ吸血鬼やヌンドゥと同格何だよな?こいつ並みが後二種族も世界に居るのが、軽く絶望するレベルなんだが?よく人間生きてるな、滅んでないの奇跡じゃない?

 

どうやって死なずに、殺さずに認めさせるかを考え始めた時、バジリスクがうっとりとした声で話始めた。

 

「あぁ、ですが確かに、あなたは強いです、先程の言葉が本当なら12歳でこれとは、よくぞここまでの力を、その(才能)もサリーに迫りますね。まるで生まれ変わりのようです」

 

「なら、さっさと認めてくれると有りがたいんだが?」

 

「テンション上がってきましたわ!でもこのまま続けたら、つい壊してしまいそうね。残念だけど、ここは子孫に見極めを譲りましょう」

 

「さっきと言ってる事違くないか?」

 

「あら、人の気持ちは移り行くものでしょう?」

 

「クソッ、何処から突っ込めば良い!?」《そもそもお前蛇だろって言えば?》

 

「あぁ、私の場合、バジリスクの気持ちでしたわ」

 

バジリスクのその言葉に反応するよりも先に、スリザリンの石像からまた新しいバジリスクが出てきた。

 

「この子は血が薄くて、知性が薄いから、殺してもよくてよ」

 

「もうお前なんか酷過ぎるだろ!?」

 

僕達のその掛け合いにも、あまり反応しない二番目のバジリスクに、何とも言えない思いを抱く。

 

「オマエ コロス ハラヘッタ オオオバサマ コワイ イウコト キク」

 

《本当に片言だな、普通の蛇ですらもっとネイティブだろうに。あぁ、混じり物だから中途半端に魔法生物の要素が強くなって、蛇の要素が薄れてるのか?》

 

関係無いな。

こいつを倒せばあの最高峰バジリスクが認めると言うなら、こいつを倒すだけだ。

 

「こいつを倒せば良いんだな?」

 

「強さだけならそれなりですから、今のところは納得しましょう。ほら、早くしないと殺しますよ?」

 

「……………そうか」

 

「コロス、コロ、スコ、ロスコ、ロスコロスコロスコロスコロスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

さっきまでと違い、明確な命のやり取りに手足の先から痺れる感覚になる。

 

《辛ければ変わるけど?》

 

………ッッッ!!

何処かからかうように言うヴォルデモートにハッとして、拒絶するように言う。

 

『これは僕の決めた道だ、僕だけの道だ』

 

最初のバジリスクに脅され、最早言葉すら満足に話せなくなった二番目のバジリスクに、()()()()()()()

 

それでこそ継承者です(それでこそ後継者だ)

 

視界の端、バジリスクとヴォルデモートが、ニヤリと嗤ったように見えた。

*1
魔法道具の一つ、不気味な手が本体で、これに蝋燭を持たせると、手を持ってる人間の視界だけが明るくなる、泥棒御用達の魔法道具




ここから先の話は一気に色んな人間の視点が入ります。
そして原作崩壊が加速してます。元々瀕死だったのがこの話でとどめ刺されて息を引き取りました。
何でバジリスク複数居るん?

この作品での秘密の部屋の怪物の設定解説です。

そも、原作でのバジリスクの寿命が明記されておらず、メッチャ長生き派と、原作個体が一族最後の一匹派が自分の周りにおりました。自分は後者です。そしてこの作品でも後者を採用しています。

理由としては、主に二つ三つ程


その一、スリザリンがバジリスクを一匹のみしか用意していない理由が無いことです。
バジリスクは生成方法が確立されているため、最初の一匹の飼育が成功すれば後は量産可能なんですよね。
後継者に残すなら、寿命が不明なバジリスクを、いつ現れるかも分からない後継者へ残す不安がある筈です。
それなら一族と呼べるレベルまで量産して子孫を作り後継者に仕えるようにしつける方が良いです。

その二、時間です。
秘密の部屋って、直ぐに出来るものなのですかね?
少なくとも、ホグワーツは各時代に合わせてアップデートとも言うべき改築がされています。前話で出てきたトイレが良い例ですね。
そんなホグワーツに、他の創設者にバレないよう、秘密の部屋を短期間で作るのは難しいでしょう。
現に、トイレの改築の時に、当時生徒であったスリザリンの子孫であるマールヴォロの一族が、継承者意外に開けられないよう今の入り口に改築したと言われています。
それ以前は魔法による隠蔽や隠し扉の数々に、トラップの仕掛けられた入り口だったようです。
いくらスリザリンと言えども、他の創設者にバレないようにこの仕掛けを作るのは時間が掛かった筈。故にこの部屋は計画的に、長期間に渡って作成されたものであり、それだけの時間があればバジリスクの量産も可能では?と考えた訳です。

その三何故現代で複数居るん?
これは、もうぶっちゃけノリ(ここまで来てそれかよ)
いやまぁ、言い訳としては、他の魔法生物最強のヌンドゥや吸血鬼に対して、バジリスクが脅威なのはその視線と牙にある毒、視線はマジックミラーで防げるし、毒何てヌンドゥの下位互……ゲフンゲフン
まぁ、他の奴等に比べてインパクトが無いんです。だから、せめて他の奴等より寿命が長い設定にしようかなと、それでも何かパッとしないけど。
後は、最初のメッチャ長生き派との整合性ですね。別名予防線。
ぶっちゃけ原作者こと我らがJKが、バジリスク現代まで生きてたよ~とか、バジリスクの寿命とか言われたら一発で終わりかねないんで、その予防線です。こんな書いててどっち付かずですみません。

とまぁ、この作品の設定ではこんな感じです。


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継承者×悪女×屋敷しもべ

今週分でーす。
ストック無くてキツいでース。
掟やぶりの爺無双デース。


緊急会議。

ハリー達三人がゴーストのハロウィンパーティ帰りに見付けたあの壁の文字。

それについて、いつものグリフィンドール三人に、ギルとジニーも含めた合計九人で『必要の部屋』で集まって、ライラお手製のチョコナッツブラウニーと、厨房からもらってきたジュースを飲みながら皆で話し合う。

 

「『秘密の部屋』は開けられた………これハリーが継承者じゃなかったの?」

 

「私としても驚きですわ。まぁ、今可能性が高いのはスリザリンの誰かだと思われます。ですが確証がないので、何とも」

 

「どうしてだ?サラザール・スリザリンは秘密の部屋を開けるのは自身の後継者だとしているんだろう?ならスリザリンが一番可能性がたかいだろう」

 

「私もそう思うけど?」

 

エレナとライラの言葉に、ギネヴィアが苦々しい表情で答える。

 

このブラウニー美味しいなぁ、ギルも美味しそうに食べてるし、後で作り方教えてもらお。

 

「うぅん、あぁ……まぁ推理とも呼べませんが?もしそんな安直な答えで分かる継承者が『秘密の部屋』の入り口を見付けたとして、それをダンブルドア先生(知的探求心の塊)が見逃すとはとても………学生時代含めて何十年もの間、あの謎フリークリーから逃げられるとは思えませんわ」

 

校長先生に対するギネヴィアの扱いの雑さが酷い。今世紀最高の魔法つかいをして謎々好きって、賢者の石泥棒(去年)の時の事相当根に持ってるのね。

 

「あり得るわね」

 

「ハーマイオニーまで、一応校長先生何だよ?忙しい職業何だよ?」

 

「一応とか言う辺り、ミリィもミリィで大概なんだが?」

 

ライラに言われて肩を竦める。いやだって、校長先生だし、あの人の能力なら一日で普通の人十人の仕事したって不思議じゃないし。

 

「それよりもだ、壁の文字の内容もだけど、ミセスノリスが石みたいにされたのが一番問題だろう?」

 

「あれ、人にも同じ効果ならとてもじゃないけど危険過ぎるよ、不安でセドリックから離れられないんだけど」

 

「セドコンは無視して「セドコン!?むしろ誉め言葉ね!!」……無視して、石化する呪いや、石化能力のある魔法生物を調べて対策するべきだな」

 

「対策って、いったい何をするんだい?呪いなのか()()()()なのかも分からないんじゃ、対策も出来ないだろ?」

 

「それを今から話すんだろう!」

 

「まぁまぁ、落ち着きなよ。僕としては蛇の魔法生物だと思うんだ」

 

「スリザリン関連ですか」

 

「うん、スリザリンなら蛇だろうし、それに"声"の事もある、あの壁の文字的にも、蛇だと思うんだ」

 

「《秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気を付けよ》だっけ」

 

「警告文、というよりは脅迫文ですわ、明確に"敵"に対しての文章です。ハリーが蛇語を話すとの事で、サラザール・スリザリン関連でいくつか調べものをしたのですが、『秘密の部屋の中の恐怖』、これが蛇語と何か関係があるのでしょう」

 

本腰を入れて探索してみますわ。そう言って紅茶を飲むギネヴィアの言葉を最後に、話題は次のクィディッチの試合に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideマルフォイ

 

ホグワーツが静かになる、最も闇の深い夜明け。

マルフォイは必要の部屋に入り、バジリスクを呼び出した。

 

「ドラコ、お主が継承者とは、その日記帳のせいかの?」

 

「来ると思ってたよ、ダンブルドア」

 

いつもとは違いオールバックにせず、髪を後で一つに結んだドラコは、複数のバジリスクを従えて言う。

 

「お主は、トムで良いのかな?」

 

「今はドラコの身体を間借りしているだけだがね、邪魔はしないで欲しいな、ダンブルドア。これはドラコの意思でもある」

 

ドラコのその言葉と共に、バジリスクがダンブルドアを睨み付ける。

涼しげにそれを受け流すダンブルドアに、ドラコは……その身体を操っているトム・リドルは、顔をしかめると言う。

 

「あなたが蛇語を話せなくて良かった。話せたらバジリスクは全てあなたに殺されていた」

 

「危険生物じゃからのう、仕方なかろうて」

 

ダンブルドアのその言葉と同時に、トムの体が縛られ、バジリスクの首が空を舞う。

 

「バジリスクの防御を無詠唱で抜くか、つくづく化け物だなダンブルドア」

 

愉快そうに顔を歪めるトムに、厳しい顔をしてダンブルドアが言い放つ。

 

「トムや、今すぐにドラコを解放しなさい」

 

「それを僕は望んでいない、()()()()()()()()()()

 

「………ドラコか?」

 

「ええ、と言っても、証明は出来ませんが?僕は僕の意思で、ハリー・ポッターとミリア・エインワーズに決着をつける。それでグリフィンドールとスリザリンのふざけたお祭騒ぎも終わらせる。日記帳はその為に利用しているに過ぎない」

 

「それが本当だとして、それでハリーが無事な保証があるのかの?」

 

まるでこれからの展開が分かっているかのように、ダンブルドアはそう言うと、マルフォイがギラギラとした目で言う。

 

「今、この場で日記帳を奪ッッッ!………未だ僕に逆らうか、後継者の癖に」

 

「面の皮が存外薄いよのぅ、トムや」

 

「坊ちゃまから離れろ、忌ま忌ましい日記帳!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、トムの後ろに現れてトムを拘束しようと魔法をかけた。

それをトムが体捌きのみで回避したのを皮切りに、この日、この場で、闇の帝王の欠片と今世紀最優の魔法使いが、ぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideハリー

 

「ギネヴィア、会わせたい人って誰だい?」

 

週末のクィディッチの朝練終わり、お腹が減ったのを我慢して、ギネヴィアに必要の部屋に連れてこられた。

 

本当なら今頃、ハーマイオニーと話ながらホグワーツの美味しいご飯を食べているところなのに。

 

「安心してくださいな、ご飯は用意してありますわ。味も保証しますよ」

 

「なら良いんだけど、今日はガッツリ食べたい気分何だよね………わぁ、スゴ」

 

ギネヴィアの言葉を聞きながら部屋の中に入ると、中央の大きな丸テーブルにこれでもかと料理が並べられていた。カツサンドにステーキ、パエリアにサーモンのカルパッチョ。どれもホグワーツで出されるイギリス料理出はない、異国の料理だ。

 

「これ、本当に僕の?」

 

「私の分もですわ。これを作ってくれた人に会わせたいのです。先ずは食べましょうか、シェフが出るのは料理の感想を言うときですからね」

 

「やった!!」

 

ギネヴィアの言葉を半分聞き流して、お腹の音を鳴らして席につくと、目の前の料理にかぶりつく。

 

「ステーキとか初めて食べた!美味しいなぁ!!」

 

「お願いしてつくってもらったサーモンのカルパッチョ、美味しいですわ。ガーリックトーストも良い塩梅で」

 

「これ、何て食べ物?」

 

「ジャパンの塩焼そばですわね、こちらだと海鮮たっぷりのパスタが近いでしょうか」

 

どれも量が少な目で品数が多くて、色んな味を楽しめた。米ってこんなに美味しいんだ、パエリアもチマキも美味しかった。

お肉も牛豚鶏が色んな料理で出されてて、ステーキもしょうが焼きも唐揚げも、皆美味しい。

 

「こんなにお肉一杯に食べたの、生まれて初めてだよ、ホグワーツってヘルシーなもの多いから」

 

「単純に、学校全体の人数の確保となると、長期保存のきく漬け物が多いですからね、美味しいですけれど」

 

うん、後はパンとベーコン。

 

「でも、ホグワーツでこんな異国の料理が出るのって、スゴいね、何かジャパンの料理が多かったけど」

 

炊き込みご飯とか、卵焼きとか。

 

「雇い主がよくジャパンに行くそうで、向こうの屋敷しもべにレシピを習ったそうです」

 

「へぇ、そうなんだ……っ!?」

 

お腹一杯になって、ギネヴィアが麦茶って言ってた飲み物を飲みながら聞いていると、テーブルの上の食器がひとりでにふわふわと浮かんで部屋の奥に消えると、コウモリのように長い耳とテニスボール位大きな緑の目をギョロリとさせた生き物が、お盆の上にデザートを乗せて運んできた。

 

「ハリーは初めて見るのですね。彼は屋敷しもべ妖精、魔法使いに仕えることを生業とする者達です」

 

「そ、そうなんだ」

 

「初めましてハリー・ポッター!!こちら今日のデザートのカスタードプリンとフルーツのア・ラ・モードでございます」

 

「あれは君が?スゴく美味しかったよ、これも美味しいな、どうもありがとう」

 

「あぁ、ハリー・ポッターに褒められた!!」

 

トリップを始めた奇妙な生き物を横目に、ギネヴィアに説明を求める。

 

「彼はドビーと言って、あなたに感謝のお礼をしたいと言ってましたので、紹介させてもらいましたの」

 

「お礼?」

 

「はい!そうでございます!!」

 

プリンとフルーツに生クリームがたっぷり乗ったア・ラ・モードを食べながら言うと、トリップしてたドビーがまくし立てる。

 

「ドビーめはあの暗黒の時代を終わらせたハリー・ポッターに、感謝しているのでございます!あの時代は屋敷しもべにとっても地獄の時代でした。純血主義の家は屋敷しもべを消耗品……インクか何かのように雑に扱い、それ以外の家は死喰い人(デスイーター)の餌食に。屋敷しもべはどんどん数を減らし、一時期はとても種族と呼べない程に少なくなった事も。それでも魔法使い仕えることを生き甲斐として、泥水啜ることすら出来ずに、文字通り苦汁の舐めて生きていたのです。それをハリー・ポッターは変えてくれた!!」

 

あぁ、ドビーもそれか。

感謝と聞いて嫌な予感がしたのが、見事に的中して、僕はせっかくのプリンが美味しく感じなくなった。

 

「僕はなにもしてないよ、母さんが僕を助けてくれたんだ、それであいつが勝手にやられたんだよ」

 

「えぇ、知っています。坊っちゃまに伺いました」

 

え?

その言葉に驚いてドビーを見ると、ドビーは真剣な顔で僕に言った。

 

「例え()()()()()()()()()()()()()()()()例えお母様による魔法の結果によるものだとしても!!それでもドビーめは、生きているあなた様に、ありがとうと言いたいのです」

 

「いや、僕は」

 

「生きていてありがとうハリー・ポッター、ドビーめはあなたにお礼を言えて、とてもうれしい」

 

その言葉に何と答えるか迷っていると、ギネヴィアが優しい声で言ってくれた。

 

「ハリー、あなたは生きていて良いのですよ。あなたが生きている事で、勇気付けられる人がいます。あなたが死んだら悲しむ人が大勢います。だからあなたは生きていて良いのですよ」

 

あ、あれ?

何で涙が、

 

「私こう見えてお姉ちゃんですから、辛い時は泣くべきですわ、ハリー」

 

「ギネヴィア、ドビー、うぅ」

 

沢山泣いた、それはもう泣いた。何なら泣きつかれてギネヴィアに抱き着いたまま寝た。

とても恥ずかしかったけど、ギネヴィアが笑って皆には秘密だと言ってくれた。

 

思えばダーズリーの所に帰る度に言われる言葉に、いつしか僕が生まれなければ良かったと、心の奥で思ってたんだろう。

 

『お前はマトモじゃない!!』『あなたは普通じゃない』『お前の親はマトモじゃない』『お前は親に捨てられた』『『お前はいらない子だ』』

 

ずっと、そう教え込まれてた。3歳の時から口酸っぱく、暴力と共に。

 

この学校に来てから、変われたと思った。

いじめの無い(ワクワクする)授業ってだけで涙が出るくらい嬉しかった。

目覚ましが暴力の物置じゃない(安心して休めるふかふかのベッド)ってだけで、眠ることが怖くなくなった。

初めて本当の友達が出来た。

暴力を振るわない、僕の物を盗らない、僕の事を気遣ってくれる、本当の友人。

今まで会ったこともこともないような、可愛い女の子とも出会えた。

 

初めて人を好きになれた。

初めて暖かな繋がりを感じることが出来た。

 

あの頃とは違うと、変わったと思ってた。

 

でもダーズリーの所に帰ると、やっぱり変わってなかったと、思い知らされた。

ダドリーのお旧の部屋に入れられたけど、今までより目の敵にされて、呪文も使えないから、ダドリーの事が恐くて仕方無い。

 

トラウマってやつだと思う。

 

あの家に戻ると自分が無力なただのハリーに戻ってしまう。

 

バーノン叔父さんが顔を赤くしているのを見ると、足が震える。ダドリーが頭を掻こうと手を上げるだけで、肩がビクつく。ペニチュア伯母さんのお仕置きが怖い。

 

あまりに以前と変わらないどころか、以前にも増して酷くなるあの家の環境に、ホグワーツの生活が夢だったと思ったこともある。

でも無事だったのは、皆の手紙のお陰だ。

朝手紙を新聞と一緒に食卓に持っていく時に、僕宛の手紙を見付けるのがとても嬉しかった。

夢じゃないんだと教えてくれるあの手紙が、僕の日々の糧だった。急いで隠して部屋で読むのが、生き甲斐だったと言っても良い。

 

ギネヴィアはそれを気付いていたんだろう。

ギネヴィアはよく僕宛に小箱を送ってくれた。

父親が政治家だから、バーノンおじさんも僕に強く言えないんだ、中には便箋や皆からの贈り物が詰められてて、今でも僕の宝物として、ホグワーツに持ってきてる。

誕生日の時の箱には検知不可能拡大呪文が掛けられてて、それに今までの贈り物を詰めて持ってきてるんだ。

 

それでも、朝起きたらこれが夢だと、狂った自分が見た幻覚だったらと思うと、寝るのが怖かった。

 

ホグワーツに来てもそれは続いた。

幸せ過ぎて怖かったんだ、この幸せが夢だったらって。

ギネヴィアはそれを分かってたんだ、流石名探偵。

 

こうやって気遣ってくれて、男なのに泣いてる情けない僕にも、優しくしてくれるんだから、ハーマイオニーの事を好きになって無かったらどうなってたか。

 

ギネヴィアは、まるでお姉ちゃんみたいだ。

何でも知ってて何でも出来る、優しいお姉ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideギネヴィア

 

「寝ましたか。寝顔、可愛いですわね」

 

朝からクィディッチの練習で疲れて、お腹一杯に食べたのだから眠くなって当前、こうなるのも想定内と考える私に、ドビーが気を利かせてくれる。

 

「ドビーめが部屋まで魔法でお送りしましょう」

 

「お願いします」

 

すやすやと眠るハリーを、ドビーにお願いして部屋に送る。

私はお茶を入れて一息つく。これからする事に対する覚悟を決めるためだ。

日記帳に侵食されたドラコ・マルフォイの強さは、ハリー・ポッターでは敵わない。ダンブルドアがそう判断したなら、ドラコさんは日記帳と共に殺される可能性がある。ドラコさんの体で抵抗する闇の帝王に、容赦なく杖を向けるダンブルドアが鮮明に脳裏を過る。

 

ダンブルドアは、大局を見る。大を助け小を捨てる。為政者としては正しい。全てを救うことは不可能で、それは夢だ。現実的ではない。

だが捨てられる側からは納得がいかないのも、事実だ。

 

家に殆んど帰らない、父親を思い出す。

行事を機械的にこなし、会話を嫌う父親を。いつも書斎に籠り、交通事故に遭った弟の見舞いにすら来なかった父親を。

 

ダンブルドアが嫌いだ。根本が父親と似通っているから。

ダンブルドア(父さん)が嫌いだ。知らないくせに、知ろうとしないくせに、私の事を知った気になっているから。

父さん(ダンブルドア)が嫌いだ。私を通して、私の利用価値しか見ないから。

 

だから、ダンブルドアを利用する。

意趣返しではある、というよりも逆恨みに近いが。根本的に、馬が合わない。反りが合わない、水と油、犬猿の仲、何でも良いが、合わないのだ、あの人間性が。

 

だからダンブルドアがすることが手に取るように分かる。嫌いだから嫌にでも目につくのだ、うんざりするが。

だからこの計画とも言えない事を思い付いた。

 

ドビーに話し掛ける。

 

「ドラコさん、日記帳にかなり侵食されておりますわね」

 

ドラコさんはハリー・ポッターとミリア・エインワーズの二人と、決着をつけたがっている。そしてそれ以上に日記帳を何とかしたいと考えている。

だけど彼にはバジリスクがいる。あの壁の文字は、言葉通りの意味もあるだろうが、ドラコさん自身に対する警戒であり、私に対するメッセージも込められているんだろう。

 

"バジリスクの毒を手に入れた、日記帳を破壊してくれ"

 

彼は継承者であり、前任のヴォルデモート(継承者)の敵なのだ。

 

望まれたのなら、動かなくては。

あの時助けに答えると、私は言ったのだから。

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ドビーめは、坊ちゃまの力になれないのが、悔しいです」

 

()()()()()()()()、自身が悪女だと自覚して、ダンブルドアの事を言えないと思いつつ、ドビーを唆す。

 

「ダンブルドア先生なら、ドラコさんを助けられるかも知れませんわよ?」

 

「ッッッ!?坊ちゃまを、坊ちゃまを助けてください!!!」

 

その言葉に、すがり付くようにしてこちらを見るドビーに、()()()としか思わない私は、人でなしなのだろう。




来週はちびっ子同士の戦いデース。
思ったよりギネヴィア無双出来なくて、アンケ詐欺になっちゃいそうで戦々恐々としてマース。
……デース


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クィディッチ×決闘×校長先生

今週分でーす。
今月は特に忙しいので、ここから二週間ほどお休みさせていただきます。申し訳ない。
年内には秘密の部屋は終わりますから、許して!


sideマルフォイ

 

「ドビー、よくやった」

 

計画は成功だ。僕と複数のバジリスクを従えた状態では、流石のダンブルドアでもハリーにぶつける何て判断無理だった。ヴォルデモートはやってくるダンブルドアを撃退するつもりだったようだが、僕の体(借り物の体)では無理だったろう。

 

「坊っちゃまの、ためなら、ドビーめは、どんなこと、でもします!」

 

ギネヴィアに話した時、先にヴォルデモートには言っておいたのだ"お前を倒すための作戦会議をするから、先に部屋で待ってろ"とあいつは傲慢に笑って認めた、それがあいつの敗因だ。

 

「随分と、慕われておるのじゃのう」

 

「……ダンブルドア校長先生、その魔法を解いてくれませんか、僕の友達を弔いたいから」

 

日記帳を奪って、バジリスクの牙で貫いたダンブルドアに、バジリスクの頭を渡すように言う。

 

蛇語(パーセルマウス)で話せても、バジリスクは危険な相手じゃよ」

 

「このゴーグルをつけてれば安全何です」

 

あの手子摺った片言のバジリスクが、無詠唱で首を飛ばされた時は、流石の僕もあまりの強さに鳥肌ものだった。そしてそのダンブルドアをして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ドビーがいなければダンブルドアでさえ危なかった。

その事実に背筋が凍る。

 

そのドビーも、連続の転移によるダンブルドアのサポートで疲れはてている。

 

名無し(ジョン)、折角友達になれたのに、助けられなくてゴメンよ。」

 

名前が無かった片言のバジリスクにそう言って黙祷を捧げると、形見として牙を一つもらう。

 

「危険物じゃよそれは、こっちに渡しなさい」「友の形見です、渡せません」

 

ジョンの牙は絶対に手放さない。そう意思を込めてダンブルドアを睨めば、向こうが折れてくれた。

 

これはヴォルデモートに対して決定打となりうるからな、絶対に手放さない。

 

僕のあの辛い日々に対する復讐は、日記帳1つでは終わらさない。ヴォルデモートは僕が殺す。

 

「ところで、ワシは君を、アズカバンには送りたくないのじゃ、この日記帳は何処で手に入れた??」

 

日記帳の出処を聞いてきたダンブルドアに、咄嗟に嘘を吐く。ドビーがもう言ってたら無駄だが。

 

「父がボージンアンドバークスで買ったタンスの中に、最初から入ってたものだ」

 

「嘘はよくない」

 

「………チッ、父の書斎に隠されてたのを、僕がガメたんだ」

 

ギネヴィア・テイラーが助けるなんて言ったから、あの場で咄嗟に思い付いた作戦をあいつに伝えた。

ギネヴィアと作戦を詰めてる間に戻ってきたドビーに、今回の作戦を話した。ドビーには作戦がバレないように、僕の記憶を消させてだ。あの時のドビーの取り乱し用はスゴかったな。今はもう、ドビーによって思い出したが、これも事前にドビーと思い出すタイミングを決めるのが難航したんだ。

 

「父親の物を盗むとは、いけないことをしたものじゃ」

 

「こんな大それた物とは思わなくてね。悪戯グッズの一種だとばかり」

 

ギネヴィアはギネヴィアで、ダンブルドア相手に何か企んでるようだが、こちらの決着の邪魔をしなければそれで良い。

 

「あ、ありがとうございます、坊っちゃま。ドビーめは、ドビーめは!!」「傷に響く、静かにしていろ」

 

感涙しているドビーに静かにするように言うと、ドビーを抱上げて歩く、保健室に行くため扉に向かう僕に、ダンブルドアが懐かしむように、惜しむように言う。

 

「君は本当に入学当初のトムそっくりじゃ。自信の野望に忠実で、本心を隠すのが上手い。そしてなにより、自信家じゃ」

 

「今年はスリザリン向きの生徒が豊作だろう?」

 

ニヤリと笑ってダンブルドアに振り返り言うと、奴の顔が意外そうに歪んだのが見えた。

 

「他のスリザリンの生徒で、君ほど優秀な生徒は居らんよ」

 

「スリザリン向きの生徒だダンブルドア校長先生。ハッフルパフの四人組は、スリザリン適性が高いだろう?」

 

「……どの生徒も、どの寮に対しても適性を持つ。ようは組分けの時点で、なりたい自分があるかじゃよ。無いものは、本人の優先順位で寮が決まる」

 

「勇敢さに憧れるならグリフィンドール。賢い者に憧れるならレイブンクロー。優しさと正しさを尊ぶならハッフルパフ。友と家族、そして"何よりも大事なモノ"を求めるならスリザリンだろう?父さんに聞いたよ」

 

「ルシウスは賢かった、最もスリザリン生徒として完成された生徒じゃった」

 

「友の為に身の危険を顧みないあの四人組は、間違いなくスリザリンだ、騎士道何てお題目で友を害する奴とは違う」

 

僕の言葉に首肯くダンブルドアに、やりようの無い不満感が募る。

 

「あの四人、特にギネヴィアとライラはスリザリン向きな生徒じゃったよ、最も、エレナ・スミスとミリア・エインワーズは、グリフィンドール向きじゃがな」

 

「ふん、校長先生以外の天才は皆、スリザリン向きな生徒だよ、グリンデルバルドもホグワーツならスリザリンだったろう」

 

「グリンデルバルドはダームストラング出身じゃ、後悔(もしもの話)は年寄りがするものじゃよ」

 

「人は後悔する(まなぶ)から人なんだ、年寄りだけの話じゃない」

 

扉に手をかけた僕に、ダンブルドアが最後に、と前置きをして話す。

 

「ドラコや、お主の大事なモノは何じゃ?」

 

「"僕の生きる世界"……平和が一番だろう?」

 

僕は僕の生きる世界を守る。

平穏で何も脅かすものの居ない世界を、あの家で、父さんと母さんがいて、ドビーの作った料理を食べて、隣でアストリアが微笑んでくれる。そんな世界を手に入れるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideダンブルドア

 

「グリフィンドール向きじゃな、ドラコは」

 

二つの寮の適性は似通っている。

勇敢さに憧れるグリフィンドールは、それ故に家族や友人を守ろうとする。己に勇敢であれと、そう誓うならば。

 

向いている気持ちの方向性は違えど、辿る道筋は違えど、ゴールは似通っているのだ。

 

それ故に惜しい、ドラコ・マルフォイはグリフィンドールの剣を抜く才能が確かにあった。たがあれはグリフィンドール生限定の武器、才能はあっても資格が無かった。

 

ギネヴィア・テイラー達はハッフルパフ、あのカップがあればまた違ったのだが、あれは今や行方不明、恐らくはヴォルデモートが持っているだろう。

 

才能も資格もあるのは、今のところハリー・ポッターとウィーズリーの息子達。

 

「ままならんものじゃ、本当にままならん」

 

本体ではないただの日記帳風情に魔力を使い果たし、膝をついてしまうとは、寄る年波には勝てないとは、この事か。

 

ヴォルデモートを倒すためには、未だ準備不足じゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideミリア

 

「三人とも、くれぐれも落ち着いてくださいね」

 

皆で夕食を食べている時に、マクゴナガル先生に私とハリー、ロンが医務室に集められた。

 

疲れた顔をしたマクゴナガル先生がそう言うと、カーテンを開けて中にいた人を見せる。

 

「ギル?ジニーも?二人ともどうしたの!?」

 

おかしな体勢で固まってる二人を見て、思わず声を上げると、ロンが冷や汗を流して冗談を飛ばす。

 

「何で固まってるんだよジニー、パントマイムか何かかい?」

 

「……違う、まるで石みたいだ」

 

「まさか!」

 

咄嗟にハリーの言葉を否定してマクゴナガル先生を見るけど、ゆっくりと首を横に振る姿を見て、頭が真っ白になる。皆の声が遠くにいって、溢れそうになるものを堪える。

 

「…………二人とも、図書室近くの廊下で発見されました」

 

「治るんですよね?マクゴナガル先生!?」

 

「ええもちろん、ですが薬の材料になるマンドレイクが育つまでは……」

 

「誰がやったの?」

 

「ミリア、未だ先生方も犯人を探している所です。生徒には怖がらせない為に秘密にしていますので、三人も危ない事には「そんなこと聞いてない!!」ミリア、ミリア・エインワーズ……悲しいのは分かりますが、あなたが興奮してどうするのですか」

 

マクゴナガル先生に聞いても無駄だ、校長室に直接行かないと、あの人なら今回のことも把握している筈だ。

 

医務室の外に出ようとすると、腕を掴まれて止められた。

 

「離して!!」

 

「落ち着けミリィ、犯人探しは皆でだ」

 

振りほどこうともがくと、ロンの声が聞こえた。掴んでるのはロンみたいだけど、ふざけたこと言って、これが落ち着ける訳無いじゃない!!

 

「もう一度言うぞミリィ、落ち着け

 

「落ち着ける訳ッッッ、……ゴメン、ロン」

 

強く握りしめられた腕が痛くてロンを睨むと、いつになく無表情のロンが、私の目を見ていたのを見て、背筋に氷が入ったみたいな感覚がした。

 

謝った私の手を解放すると、ロンがベッドの上の二人の事を調べる。

 

ハリーもマクゴナガル先生も、ロンの異様な雰囲気に呑まれてる。二人ともロンから一歩引いて、ロンに対して警戒してる。

 

「マクゴナガル先生」

 

いつになく平坦なその声に、さっきまでの私何かより、ロンの方が怒っていることを確信した。ここまで怒ったロンは、私見たことない。

 

「ロン、あなたも犯人探しをするつもりですか?」

 

「いえ、それよりも、二人が治るのはいつですか」

 

「スプラウト先生に聞かないことには、私には分かりかねます………」

 

「なら、スプラウト先生に伺います。……ジニー、またお見舞いに来るからな」

 

そう言って手を握るロンに、頭が殴られたみたいな衝撃を受けた。

私、犯人探しばかり目がいって、ギルに声一つ掛けて無かった。これじゃお姉ちゃん失格ね………

 

「情けないお姉ちゃんでゴメンね。今度はエレナ達も連れてくるから、だから」

 

早くいつものギルに戻って?

そう言いそうになった言葉を飲み込む。弱気な言葉はダメだ。

 

「だから、治ったらまた勉強教えてあげる。遅れた分を取り戻さないといけないからね」

 

そう言ってギルの頬にキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギネヴィア、犯人は誰だ?」

 

あの後、皆の所に戻って夕飯の続きをとった後、ギネヴィアとロンを含めた四人で空き教室に集まった。

 

「いきなり何ですの?」

 

「惚けるなよ、二人が見つかったのは図書室近くの廊下で、お前は図書室に入り浸ってるだろ?ある程度は容疑者をしぼり込める筈だ」

 

いつもより低い声で、からかうような言葉遣いを止めたロンに、ギネヴィアが胡乱気な目で言う。

 

「だから、何の犯人ですの?」

 

「ギルとジニーが石にされたわ。その犯人よ」

 

ギネヴィアは私の言葉に一瞬驚くと、深い溜め息を吐いて首を横に振った。

 

その仕種、やっぱり何か知ってるのね!

 

「知ってること全部話して!ギルをあんな目に遭わせたのよ、絶対に後悔させてやるんだから」

 

「うちの末っ子に手を出したんだ、ホグワーツでウィーズリーを敵にするとどうなるか、身をもって教えてやる」

 

「二人とも、ブラコンのシスコンだからこの調子で、僕はマクゴナガル先生に釘を刺されたから、あまり動きたくないんだけど」

 

「どうせ直ぐにでも向こうから来ると思いますが、私が言っても変わらないでしょうね。ドラコ・マルフォイです。彼が『秘密の部屋の怪物』たるバジリスクで、お二方を石にしたのです」

 

それを聞いて飛び出そうとした私とロンをハリーとギネヴィアが抑えだ。

 

「ギネヴィア、何でそれを?」

 

「ドラコ・マルフォイの狙いは、ハリーとミリィ、二人との決着です。あの二人はその為の布石。来なければもっと沢山の人を石にするという警告です」

 

「じゃあギルは、私とハリーのとばっちりってこと!?」

 

「何でそれでジニーが狙われなきゃいけないんだ!!」

 

怒る私とロンがギネヴィアに詰め寄ろうとした時、教室の入り口に誰かの影が現れた。

 

「ドビー?」「あら、ドビー。ナイスタイミングですわ」

 

屋敷しもべ?何で屋敷しもべがここに?

 

「ハリー・ポッター、申し訳ありません。坊っちゃまをドビーめは止められなかった」

 

「何でドビーが謝るんだい?それに坊っちゃまって、一体誰のことなのか……」

 

悔しそうな声を上げる屋敷しもべは、ハリーの言葉に答える前に姿現しで消えてしまった。

 

「ハリー手紙の差出人が、ドビーの仕えている相手です。教えてくれますか」

 

「うん、ちょっと待ってくれ」

 

手紙は便箋が一枚入った簡素なもので、表に差出人が無いからか、ハリーは中を開けて手紙を読み始める。

 

「あんな手紙なんてどうでもいいの、早く手掛かりを教えてギネヴィア!」

 

ロンまで手紙の中身が気になったのか、ハリーに注目しているのに気付いて、ギネヴィアに詰め寄る。

 

「待てミリィ、タイミングが良すぎる」

 

「タイミングって、ただのぐ「嘘だろ?」……ハリー?」

 

「ドビー、君はあんなやつの屋敷しもべなのか?どうしてだ」

 

うろたえ始めるハリーに、様子がおかしいと気付く。

 

「ハリー、差出人の名前は?」

 

これだけ色々な事があっても、いつも通りを崩さないギネヴィアに、ちょっとイラッとしてきた。

 

まるで自分が関係ないみたいな他人事。

ギネヴィアはギルもジニーもどうでも良かったの?二人に私と一緒に勉強を教えたり、皆でご飯食べてた時だって、あんなに楽しそうにしてたのに!!

 

「ちょっと、ギネ「ドラコだ」………何であいつが手紙なんて」

 

「ドラコがドビーの主で、今日の0時、秘密の部屋で待つって。二人の薬はもうホグワーツ宛で発送してるから、長くとも一週間で目を覚ますって。薬は二人分で、来なかったらハッフルパフとグリフィンドールを全員石にするとも。どうしてだドビー!」

 

未だあの屋敷しもべがドラコに仕えている事が信じられないハリーの嘆きを聞きながら、私の胸にあるのは怒りだけだった。

 

「………ッッッドラコ!!!!




次で対決ですねぇ。
夏更新なのにいつの間にかもう10月、こんなんじゃ来年のプロット練れないんですけど?(死活問題)


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決闘×激闘×抜剣

ギリギリ間に合った、ちょっと文字数少ないのはキリが良いところで切ったからです。許してください、なんでも(ry


真夜中の0時、秘密の部屋に降り立ったハリー、ミリィ、ロン、ギネヴィアの四人は、真っ直ぐに進み一番奥、()()()()()サラザール・スリザリンの石像のある部屋に着く。

 

「来たな、随分と待たせてくれた。一人余計だが、まぁいい」

 

サラザール・スリザリンの石像の前で、一人佇むドラコが、やって来た四人に言う。

 

「入り口も教えないでよく言えるわねそんなこと!!」

 

怒りで出会い頭に呪文を放ったミリィに対し、盾呪文(プロテゴ)を無詠唱で発動して防ぐドラコに、三人が目を見開く。

 

「いきなりとは、これだからアマゾネスは嫌なんだ。ギネヴィアが場所を知っていたろう?」

 

「私としては、あなたとは敵対したくなかったのですが」

 

悲しそうに言うギネヴィアに、意地の悪い笑みを浮かべるドラコ。

 

ハリーはドラコに疑問をぶつける。

 

「どうしてあの二人だったんだ?」

 

「ギルバートはミリア・エインワーズの弟で、ジネブラ・ウィーズリーはハリー・ポッターの親友の妹だ。家族を狙われるのが一番頭に来るのを、僕はよく知ってるからね」

 

「なら、僕がキレてるのも分かってるんだな?蛇野郎!!」

 

無言呪文を放つロンを、呪文を杖無しで弾くと、嘲るように言う。

 

「この程度か、ウィーズリー、エインワーズとポッターだけじゃ、僕には不足だから丁度良い、お前ら四人相手にしてやるよ、決着をつけよう」

 

ドラコのその言葉を切っ掛けに子供達の決闘が幕を上げた。

 

最初に仕掛けたのはミリィ、母親から譲り受けたヘアピンの力で炎上呪文(インセンディオ)を唱える。

 

「炎上呪文」

 

全力で放ったそれは、ドラコの炎上呪文に掻き消される。

 

武装解除呪文(エクスペリアームス)!!」

 

「呪文だけか?」

 

ハリーの放った武装解除呪文に、落ちていた瓦礫をぶつけて相殺しながら、距離をつめたドラコにハリーが殴り飛ばされる。

 

「ぐあっ!?」

 

ミリィとギネヴィアが距離を取る最中、ロンは殴り飛ばした直後のドラコをその恵まれた体格から繰り出したタックルで吹き飛ばす。

 

「ぐっ、やるじゃないかウィーズリー!」

 

割断呪文(ディフィンド)!!」

 

「盾呪文」

 

「ロコモーター・ブリック」

 

ミリィの呪文を盾呪文で防いだドラコの足元の石レンガを物質移動呪文で勢いよく打ち上げた。

 

「っち!」

 

石レンガを空中で蹴り、四人とは離れた位置に着地するドラコに、四人から呪文が掛けられる。

 

ロンの割断呪文が、ハリーの麻痺呪文(ステューピファイ)が、ミリィの炎上呪文が、ギネヴィアの武装解除呪文(エクスペリアームス)が、どれか一つでも致命の一撃が、ドラコに向かい

 

万能盾呪文(プロテゴ・トタラム)

 

その全てを防いだ。

 

「………これ勝てないのでは?」

 

「口より手を動かしなさい!!」

 

「おいハリー、あの蛇助はこんなに理不尽だったかい!?」

 

「こいつは蛇じゃなくて、火蜥蜴位はありそうだよロン!!」

 

「ぬるいな、お前ら。変身術で槍衾を出せ、瓦礫から魔法生物を生み出せ、許されざる呪文を使え。呪文で、魔法道具で、知略で、全力で僕を攻撃しろ!!お前達はそんなものじゃないだろう!!!!

 

「巻き込まれないで下さいな!」

 

周囲の瓦礫を大砲に変えたギネヴィアがドラコを狙うと、ドラコが蛇語で何かを叫んだ。

 

「来い、バジリスク!!」

 

「『秘密の部屋の怪物』が来るぞ!!」

 

ハリーがそう言うと、スリザリンの口から弾丸のような速度で、直径がドラム缶二つよりも大きな緑のロープのようなものが飛び出し、ギネヴィアが用意した大砲を破壊した。

 

「きゃあぁ!!!?」

 

「「「ギネヴィア!?」」」

 

悲鳴に気を取られた三人は、あまりの衝撃に巻き上がった粉塵の奥にいるギネヴィアの無事を祈る。

 

「ドラコから目を離してはダメですわ!!」

 

粉塵の奥からの声に三人はドラコを見るが、ドラコは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「良いのか?()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッッッ!!」

 

「人をバカにして!!」

 

激情した二人がドラコに呪文を放とうとする直前、かん高い鳴き声が辺りに響き渡る。

 

「…チッ、水を指すような真似をしてくれる」

 

「フォークス!?」

 

驚いたミリィの声に答えるかのように、フォークスはハリーとロンの間に布切れのようなものを落とすと、バジリスクに立ち向かう。

 

「校長先生の援軍ですか、これは頼もしいですわね」

 

バジリスクの攻撃を盾呪文と変身術で受け流し続けていたギネヴィアは、バジリスクを攻撃するフォークスを見て安堵の溜め息を吐いた。

フォークスを援軍を寄越すということは、既存の力でドラコ打倒が可能と、今世紀最高の大魔法使い(ダンブルドア)が考えた為である。

 

「キシャアァァァァァ!!!!!!」

 

やがてフォークスにより両目を潰された事による悲鳴を上げるバジリスクに、ドラコが落胆の溜め息を吐いた。

 

「はぁ、まるで茶番に成り下がったか……」

 

「ロン、手伝って頂けます!?」

 

攻め手を出しあぐねているギネヴィアが、ロンに手助けを求めた。ハリーとミリィではないのは、ドラコに狙われているため、バジリスクで手一杯の今の状況では悪手だからだ。

 

「ジニーを石にした糞蛇を倒してくる」

 

「ロン!これも持っていけ、校長先生がただの帽子を送るはずが無いんだ!!」

 

「そろそろよそ見はよせ」「ハリー!」

 

ハリーが遠目からはボロ布にしか見えない帽子をロンに投げると、ドラコがハリーに呪文を放ち、ミリィがそれを迎撃する。

 

ハリーと目配せをしたロンは、帽子を握り締めてギネヴィアの方に駆け寄る。

 

「帽子より武器が欲しかったよ」

 

「バジリスクは強敵ですからね」

 

ギネヴィアの生み出したコンクリートのシェルターでバジリスクの攻撃を多少の間やり過ごしている中、そう会話をしながら帽子を調べる二人。

 

「何てったって組分け帽子なんか送ってきたんだ?」

 

「被れば何か分かるのでは?」

 

「それが投げやりな言葉だって、僕にも分かる」

 

『ダンブルドアめ、あやつは帽子使いが荒い』

 

「何でお前が送られて来たんだ?もしかして超凄腕の魔法使いだったりするのか?」

 

バジリスクの突撃によってシェルターに響く轟音をBGMに、ロンが焦りのある声で聞く。

 

『ワシはホグワーツ組分け帽子……ウィーズリー、お前の祖先の帽子じゃよ』

 

「グリフィンドールが祖先なのは、爺ちゃんから耳にタコが出来る位聞かされてるよ!」

 

今更そんなことを言うなと怒るロンに、ギネヴィアが冷静にツッコミを入れる。

 

「いや、この帽子が元々グリフィンドールのものだったと言うのが重要では?」

 

『テイラー、お主の言う通り。ワシが()()()()()()、ワシには一つの呪文が掛けられていた。ウィーズリー、お主なら使える』

 

「それでバジリスクを倒せるのか!?」

 

『ゴドリックの奴はドラゴンスレイヤーになったぞ』

 

「ならやるしかない!」

 

組分け帽子のその言葉により、ロンが叫ぶと、コンクリートのバリケードが破壊される。

 

「ッッッ盾呪文!!」

 

降り注ぐ瓦礫を盾呪文でギネヴィアが防ぐと、組分け帽子に言われてロンが帽子の中に手を入れる。

 

『今一番の望みを言え、ウィーズリー!』

 

家族(みんな)を守る力を!!

 

突進してくるバジリスクに、帽子の中にあった()()を握り締めて突き出すロン。

 

「キシャアァァァァァ!!!!!!」

 

 

()()に目から脳までを貫かれたバジリスクは苦しみ悶えて死に、ロンは吹き飛ばされてギネヴィアに呪文で受け止められた。

 

弾力付与呪文(スポンジファイ)!!……大丈夫ですのロン!!」

 

「う、あぁ………右腕がとても痛い」

 

「これは……応急手当をしますから、少し我慢しなさい」

 

あらぬ方向に曲がったロンの右腕を見て顔をしかめるギネヴィアは、瓦礫を布切れと添え木に変身術で変化させて応急処置を施す。

 

「がぁっ、痛い痛い!!!!」

 

「男の子なら少し位こらえなさいな!」

 

こうして魔法生物きっての危険生物は、偉大なる創始者の子孫により討伐された。

 

「割断呪文!!」

 

「ぬるい」

 

時間はほんの少し遡り、ミリィとハリー対ドラコ、その戦況はやはり一方的だった。

 

「炎上呪文!!水増し呪文(アクアメンティ)!!」

 

「もう少し頭を使えアマゾネス」

 

ハリーを衝撃呪文(フリペンド)で悶絶させ、庇うようにハリーの前に立つミリィさえも、アクセサリーと、杖をがむしゃらに振るって魔法を連発するも、その全てを防がれる。

 

「こうやるんだよ」

 

終了呪文(フィニート)!」「あまい、突飛ばし呪文(デパルソ)

 

衝撃呪文をブラフに突飛ばし呪文でミリィを転ばせる。その後変身術でミリィの足元を変化させて足に地面と結び付いた鎖を巻き付けると、武装解除呪文で杖とアクセサリーを弾き飛ばした。

 

「負けを認めろミリア・エインワーズ」

 

転ばせたミリィを制服を掴み持ち上げると、嘲るような表情をしてドラコは言った。

 

「やめなさいよ!覗き魔は女性の扱いがなってないわね」

 

振り払おうとするミリィの事を嘲笑うドラコに、悶えるフリをしていたハリーが不意打ちを放った。

 

「口だけは達者だ「武装解除呪文!!」………ハリー・ポッター!!」

 

弾き飛ばされた杖を杖無しでの呼び寄せ呪文(アクシオ)で即座に呼び戻すとハリーに向けるが、それと同時にミリィもまた呼び寄せ呪文で杖を手元に戻しドラコのこめかみに突き付ける。

 

「これは元々二対一だったんだ、僕を無視する方が悪いだろ?」

 

その時、バジリスクの断末魔が部屋中に響き渡った。

 

「……ちっ、お前との決着はクィディッチで付けよう」

 

「待ちなさいよ、私は未だ負けては「僕の負けで良いさ」……どういうつもり?」

 

「僕は一先ずの決着を付けたいだけだ。二対一で僕は杖を奪われた。これが実戦なら僕は死んでる」

 

ハイライトの無い瞳で無機質に答えるドラコに、二人が戦くと、ドラコはドビーを呼び出し、姿現しでその場を後にした。

 

「待てっ!!」

 

ハリーのその言葉もむなしく部屋に響き、ドラコが消えた虚空を眺める二人、ハリーとの決着は、クィディッチに持ち越された。




今回で決闘は決着しましたね、はい(なお、二巻が終わるとは言っていない)

何時になったら終わるの?()
作者も分からん、正に神のみぞ知るとはこの事よ。


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クィディッチ×決着×好敵手

大変お待たせいたしました、最新話です。
今回でハリーとマルフォイのケンカは決着……かな?
この二人はライバルとか喧嘩友達みたいな関係が良いなと思ってます。


ドラコに勝ちを譲られて三週間、ロックハートの奴が決闘クラブ何てものを始めて、一週間。

そしてジニーとギルバートが退院して三日。

 

継承者探しやグリフィンドール寮とスリザリン寮の対立に躍起になってた生徒は、今日のクィディッチの試合に大いに盛り上がっていた。過激な旗が掲げられては、マクゴナガル先生が放送で注意を入れている。

 

当事者の一人であるミリィが、ドラコと決着を着けたことを皆に話して、ハリーとドラコの決着が今日の試合だと話すと、表だった対立はなくなり、一応は終結に向かっている。ドラコもスリザリンの生徒を説得したのだろう。こっちより過激で一時保健室のベッドがスリザリンの連中で埋まってたけどね。

 

「今日のクィディッチ、絶対に勝って」

 

「空でお前に勝てる同い年はいない、クィディッチ狂いの僕が言うんだ、間違いない」

 

「分かってる、アイツに、ドラコに()()()()()()()()

 

選手控え室の前で、ハリーに自信を持てと言う僕とハーマイオニーの言葉に、緊張した様子のハリーが答えるが、未だ表情が硬いな。

 

箒を見つめて難しい顔をして考え込んでいるハリーに、どうすればリラックスさせられるかと考えていると、ハリーからは見えないように背中をハーマイオニーにつつかれた。

 

「ロン、何とか出来ない!?」

 

「無茶言うなよ!ハーマイオニーこそ、ハリーに惚れられてるんだから、デートでも何でも釣れば良いだろう!?」

 

僕達は親友だが、それは家族のようなものであって、いるだけで試合に勝つためのモチベーションになるような関係じゃあ無いんだ。

パパが酔って言ってた、男ってのは最愛の女性の為に一番強くなれるって。

 

つまりはハリーが惚れてる相手、ハーマイオニーなら一番やる気を出させる事が出来る筈だ。

 

「彼女に普通そう言うこと言う!!?」

 

「ハリーを助ける為ならなんだってするさ!!」

 

僕の初めての親友で、一番の親友なんだ、困ってたら何をしたって助けるさ。それに、あの蛇野郎に調子付かせるのは気にくわないからね。

 

「あんた本当にホモ何じゃないの!!?」

 

誓ってホモじゃない、僕はそんな趣味は無い。

 

「二人して何をこそこそしてるんだい?」

 

「「何でも無いさ(わ)!!」」

 

慌てて誤魔化す僕達に、寂しそうな顔をするハリー。

このままじゃ不味いとハーマイオニーを目で急かすと、ハーマイオニーは僕を強く睨んだ後に、咳払いしつつ、ハリーに声をかける。演技下手だな、節々から糸が見えそうだ。

 

「んん、ねぇハリー?」

 

「改まってどうしたんだい?」

 

怪訝そうな顔をするハリーに、わざとらしく上目遣い(のつもり)でハリーを目を見開いて凝視するハーマイオニーに、小さく溜め息を吐いた。後で演技の訓練が必須だな、これは。

 

「あ、あのね、この試合が終わったら、私ととしょ「ハリー!!!」………ジニー

 

走ってきたのか横から抱き付いたジニーを、安心したような悔しいような顔をして見るハーマイオニーを宥める。

 

「折角勇気だしたのに……」「よくやったよハーマイオニーは」

 

でも図書館は無いよなぁ……………

落ち込むハーマイオニーに、まぁよく頑張ったと慰めていると、何とジニーがハリーにキスをしたのだ!!

 

「おい雷ボーイ、兄貴の目の前で妹とイチャイチャしやがって!」

 

「待てロン!誤解だ!!」

 

「え、誤解だなんて酷い、好きだって言ってくれたのに………うぅ」

 

「ほう?」

 

どうやら僕の親友だと思っていたこの鬼畜陰険黒眼鏡は、僕の大事な大事な妹を害するゴミムシだったらしい。悲しいなハリー・ポッター、今日がお前の命日だ。

 

「いや、その好きは友達とか家族に対する好きで、likeであってloveじゃ「覚悟は出来てるな?」イヤだぁ!死にたくなーい!!」

 

言い訳無用、死ぬがよ「摺動呪文(グリセオ)」ッッッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideエレナ

 

ライラの呪文でよく滑るようになった地面に腰をうったロンを見て、ギリギリで止められて良かったと胸を撫で下ろす。

 

「ナイスだよライラ!」

 

そして真っ先に気付いた私。

ロンは妹の事になるとブラコン状態のギネヴィア並に厄介になるからね。

私派手めな呪文しか使えないのよね、判定は杖がするから基準がよく分からないんだけどさ。

 

終了呪文(フィニート)………いきなり友達相手に殴りかかるのは感心しないぞロン」

 

「だからって呪文を使うなよ、ライラ」

 

「緊急事態だからな、仕方無い」「嘘つけ」

 

「まぁまぁ、それで?ジニーがあっつい告白でもしたの?」

 

「ハリーが、ハリーがぁ!!」

 

泣き付くジニーを抱き締めてあやして事情を聞く。

泣きながら話すもんだから、結構大きな声で言って、ハリーだけじゃなくてグリフィンドールのクィディッチチームのメンバーにも聞こえちゃって、なんだなんだと集まってきた。

 

「私、ハリーに告白したのに、大好きって!ハリーだって好きだって言ってくれたのに!!」

 

「え、《あなたの為ならメディアにだってなれる》って、そういう意味合いなの!?」

 

それを聞いてハーマイオニーと二人で頭を抱える。

そりゃ相談に乗ったり焚き付けたりしたのは私達だけど、まさかそこまで言うとは。

 

「愛が深い魔女になるって事よ、マグル風に言うなら、生涯貴方一人だけを愛することを誓えますって意味ね」

 

「その歳で重たくない!!?」

 

考えてたよりも大分重たい言葉に驚くハリーの周りを、クィディッチチームのメンバーが囲む。

 

「我らがシーカーは女泣かせな奴らしい」「ジョージ、妹を泣かせた英雄様をどうしてやろうか?」

 

「これはハリーが悪いわね」「ハリーってにぶちんね」「罰としてデートするべきよ」

 

最後まで聞いたクィディッチメンバーがハリーを弄る中、一人作戦の確認と見直しを行ってたオリバー・ウッド先輩が飛び出してきて、クィディッチメンバーに吠える。

 

「お前たち!今回の作戦は確り覚えたか!!」

 

空気をぶち壊す勢いの先輩に、チームの皆が呆れた目で見ながら答えていく。私とライラがここに居るけど良いのかな?気にしない?そう……

 

「ビーターはフリント集中狙い」「奴を地面と結婚させるんだ」

 

「私達はパスブロックね」「ひたすら相手にクアッフルを渡さないことを第一にする」「点差を100以下にするのが()()()()

 

「僕は点差が100を超えないうちに、スニッチを取ってゲームエンド」

 

「そうだ、今回の試合、僕たちが優勝するためには、勝ち星だけでなくスコアも狙わなくてはならない!!」

 

今年のスリザリンは強いからねぇ。司令塔をシーカーのドラコに移してから、マーカス・フリント先輩が伸び伸びと出来るようになって、ハッフルパフのクィディッチメンバーもあいつは怪物(モンスター)だって言ってたわ。

今までもチェイサーっていう常に動き回る役でありながら、立体的なクィディッチの試合全体を把握する空間把握に、適切な指示だしを止まることなくするその能力、個人でのテクニックも合わさってここ数年でのホグワーツにおけるチェイサーの最優秀選手と言われる程だ。

 

そんな選手が今までチームの為に使ってた力を自分のためにその力を十全に使えるとしたら………まぁああなるわね。

 

先週のレイブンクロー対スリザリンの試合を思い出してげんなりする。

 

40対430

スリザリンは元々パスブロックが得意なチームだった、ただそこからの攻撃が中々決定打に繋がらなかったチーム、そこにモンスターが解き放たれた事による、最早理不尽と言うレベルのクアッフル(ボール)の支配率。

 

私はセドリックの為にクィディッチのマネージャーしてるから、データ集めで(セドリックと一緒に)観戦したけど、本当に酷いのなんのって、試合時間40分で、レイブンクローがボールを持ってた時間は7分だけ、しかもフリント先輩がボールを持ってた時間は15分になる。

むしろその短時間で四本決めたレイブンクローチェイサーチームのスゴさ、去年まではレイブンクローがチェイサーがチームとしての練度が一番だったから、トップの意地って奴かな?

 

そんなチームを相手に、スリザリンはパスブロックした仲間から最優先でフリント先輩にパスを回し、そこからは不条理なまでのスーパープレイの嵐、シーカーなぞ要らないとばかりに暴れるフリント先輩は、卒業後既にプロチームからの内定が決まってる程だ。

 

「すまないがまもなく試合だ、最後のミーティングを行うから、君達は観戦席で観ててくれ………ほらお前達!早く控え室に戻るんだ!!」

 

オリバー・ウッド先輩の言葉に、やいのやいのと反応しつつ先輩達が戻っていくのを尻目に、ハリーに声をかける。

 

「勝ってよハリー、あなたに勝つのはセドリックと私達のハッフルパフ何だから」

 

「誰にも負けない、最強はグリフィンドールだ」

 

緊張が解けたのか、良い笑顔でそう言って控え室に戻るハリーに、私も選手やれば良かったかなと思う。

 

「でも、マネージャーと選手の恋の方が燃えるっていうか~?」

 

何て言うか、支えられるのが嬉しいっていうか、汗掻いてる所にタオルと飲み物渡すシチュエーションが最高っていうか?

それに、一緒に練習したら汗掻いてにおいが気になっちゃうし………セドリックがそういうの好きって言うなら?私としてはやぶさかではないっていうか、やっぱり恥ずかし「正気に戻れセドコン」ッッッ

 

「頭叩かないでよ!」

 

「いきなり自分の世界に入るのが悪い。早くしないと試合が始まるぞ」

 

あ、そうだった!セドリックが待ってるんだ!!!!

ギネヴィアとミリィが席とってくれてるから、早く行かなきゃ!!

 

呆れてるライラの手を取って走る。

 

「お、おい、いきなり走り出すんじゃない!」

 

「いいから!急がないと始まっちゃうもん!!」

 

急いで観戦席の階段を駆け上り、ミリィ達がいる席を見付ける。

 

「あ、やっと来た、ハリーどうだった?」

 

「大丈夫そう、作戦もまぁ妥当かな?」

 

私ならビーターもドラコ集中狙いでセドリックの勝率を上げるけどね。

 

「つ、つかれた、水をくれギネヴィア」

 

ちょっと走った位で疲れちゃって、そんなだから実技の成績がハーマイオニーに負けるのよ、座学だと互角なのに。

 

「アイスレモンティーですわ、お母様におねだりしたニルギリのクォリティーシーズンのものです」

 

ニ、ニルギ?何言ってるのか全然分からない……

 

「ギネヴィアって、紅茶にはスゴいこだわるよね」

 

「スコーンもあるよ、サンドイッチもギネヴィアに教えてもらって、かつさんど?って言うの!」

 

「お肉!!」

 

ミリィの出してくれた、小麦色の衣に包まれた分厚いステーキを挟んだサンドイッチを受けとると、思いっきりかぶり付く。

 

食パンを耳つきで使ってるサンドイッチに、ステーキが挟まれてる。

かぶり付くとサクッとした食感とともに、簡単にお肉が噛み千切れて、口の中に広がる肉汁と少しピリッと来る感覚。

これはマヨネーズにマスタードを加えたソース!?

お肉とマヨネーズの油を中和するように加えられたそれに、全体の味が調和してなんかもう美味しい、いくらでもいけるよこれ!!

 

「美味しい!ナニコレ!?」

 

「じっくり超低温で火を通したお肉を、衣を付けて高温でサクッと揚げたのよ!お肉は温度が高いと食感も硬くなるから、じっくり低温で火を通すのがコツなの。ゆっくり温度を上げて加熱するのが大事!!」

 

「お嫁に来て!セドリックと三人で暮らそ!?ね!!」

 

あっという間に食べちゃって、思わずミリィに抱き付いて言う。だってミリィが入ればセドリックはもっと美味しいご飯食べられるし、私も親友と一緒に住めて嬉しいもん!

 

「セドリックが困るでしょ!セドリックのお父さんだって驚くわよ!!」

 

「なら、説得出来たら良いのね!?」

 

「………キッチンメイドとして「流されてますわよミリィ」……ハッ!?私はギルや皆のために役人になるんだから、セドリックの家に就職なんてダメ!!」

 

うぅ、そんな~。

別にセドリックの家は家計に困ってない所かお金持ちだし、私も働くつもりだし、ミリィ一人位余裕なのになぁ。

 

「ほら、試合が始まりますわよ?」

 

「そ、そうだよエレナ、ほら未だカツサンドあるから食べて食べて」

 

「うぅ、後でレシピ教えて。セドリックにも作るから」

 

「相変わらずのセドコンですのね」

 

好きな人に美味しいものを食べてほしいのは、普通の事だと思うけど?

 

私がそう言おうと口を開いたその時、爆音の歓声が広がった。

 

「ハリー達が入場したよ!」

 

「グリフィンドール側の歓声がスゴいね」

 

「この試合に勝てれば、優勝が見えてくるからな」

 

それだけじゃないよねあの旗は、『蛇殺し(スネークイーター)』何て書かれた旗を見てそう思ってると、スリザリン側がシーンとしてるのに気付く。

 

「スリザリン側はあまり無いみたい、あら?歌?」

 

フリットウィック先生が指揮棒を振るって、魔法で伴奏を奏で始めた。

そこにスリザリン側の生徒が歌を入れて……あれはセドリックが言ってた応援歌ってやつ?

 

「応援歌とはまた、ドラコの入れ知恵では?トヨハシ・テングが好きみたいですし」

 

トヨハシ・テングを推しにするとは、分かってるじゃないドラコ。

 

「何だろ、スリザリン応援したくなってきた」

 

「ちょっとエレナ!?」

 

「冗談だよ、でもスリザリン側も気合い入ってるねぇ、あれ相当練習したんじゃない?」

 

綺麗にハモってる合唱に、思わず感心する。小学校の時のクリスマスミサを思い出すなぁ。

 

学校の方針で、入学してから一年練習して学校近くにある教会で、クリスマスに聖歌を歌いに行ったんだ。ミサが終わった後、教会のシスターから渡されるお菓子が美味しくて、糖蜜と胡桃タップリの手作りヌガーサンドクッキー、また食べたいなぁ。ミリィにお願いしよ。

 

「それでも、ハリーなら勝てるわ!」

 

ミリィがそう言ってもぐもぐとスコーンを食べながら応援してると、試合が始まってフリント先輩達が動き出した。

 

「シーカーとしてならハリーの優勢ですが……」

 

《試合開始直後、クアッフルを取ったのはスリザリンだぁ!!》

 

実況の先輩のその言葉通り、ボールを取ったスリザリンの選手がフリント先輩にパスを回し、それをグリフィンドールのケイティ先輩にパスカットされる。

 

《試合開始直後から動きが速いですが、ここで今日の特別ゲスト、今年2年生ながらその知識はクィディッチ狂いのマクゴナガル先生に並ぶとされ、数々のクィディッチファンの先輩達との知識比べに勝ち続けているホグワーツきってのクィディッチバカ、ハリー・ポッターの親友ロン・ウィーズリーです》

 

「つまりは今、ハーマイオニーはハグリッドと二人っきりか」

 

《ここに座ったからには僕は公平に解説をすることをチャドリー・キャノンズに誓おう》

 

「彼女放ったらかしにして何してんのロンは」

 

どうしよう、呆れてる三人に頷きたいのに、セドリックでも同じことをしそうだから頷けない、私とハーマイオニーの最大のライバルがクィディッチだからね。

 

《おおっと、フリント選手まるで後ろに目があるような正確な逆パス!!*1

 

《フリント選手の逆パス精度はプロと比べても遜色がない、あれをカットするのは至難の技だろうね》

 

「未だ点は入ってない、ここからここから」

 

「早くスニッチを掴まえてよハリー!」

 

ライラとミリィの声を聞きながら、試合を見る。向こうの攻撃の中心はやっぱりフリント先輩、事前の作戦だと……

 

《な!?何だ今の避け方は!?》

 

《絶妙なグラッジパス*2だ、アリシア選手は不幸だったな、あれを避けるのはプロでも難しい》

 

《フリント先輩はそのままウロンゴング・シミー*3でスコア・エリアに入った!そのままリングにシュート!!しかしオリバー選手これをセーブ!クアッフルはグリフィンドールのアンジェリーナ選手に!!》

 

危なかった、作戦を逆手にとってのグラッジパス、妨害何て気にもしないウロンゴング・シミー、チームで一人を抑えられない、正真正銘の怪物(モンスター)。オリバー・ウッド先輩がキーパーじゃなかったら、とっくに試合が決まってた。

フリント先輩の代は、オリバー・ウッド先輩との二大巨頭って言われてるからね。

 

《オリバー選手の今期の防御率*4は驚異の0.18*5三桁得点の(トリプル)ゲームが当たり前のホグワーツのクィディッチで、これは偉業ですね》

 

《今シーズンのグリフィンドールの相手は、十本のシュートの内、1.8本しかゴールを決められない計算だ。対してチェイサー達のゴール率は皆4割を保ってる、スリザリンがドラコを加入させてなければ、今シーズンの優勝はグリフィンドールで確定だったろう》

 

それ以降も実況はチェイサーが中心で、ビーターによる妨害の解説が途中途中で入るも、シーカーの二人にはあまり触れられて無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideハリー

 

皆が懸命に戦っている中、僕は高度を取ってスニッチを探していた。

 

「ハリー・ポッター」

 

近くで同じようにスニッチを探していたドラコが話しかけてくる。

 

「何だドラコ」

 

「お前に聞きたい事がある」

 

「試合中に言い出すことかい?」

 

「あぁ、大事なことだお前はヴォルデモートが生きていると思うか?

 

「………生きてる、あいつは僕を狙ってる」

 

お互いスニッチを探しながらの会話だけど、いつの間にか会話が主体になっていた。

 

「それを聞いて確信した、あいつは僕が倒す。これは絶対だ」

 

それを聞いて、あまりの可笑しさに笑ってしまう。

 

「何が可笑しいポッター」

 

「スリザリンの君がヴォルデモートを倒す?死喰い人(デスイーター)になるの間違いじゃないのかい?」

 

「……ふぅ、普通ならそうだろうな、僕の家族からも死喰い人は出ている、叔母さんがそうだ」

 

「だったら!」

 

「だが!僕は僕の家族に対する仕打ちを忘れない、僕に対する仕打ちを忘れない」

 

たまに見る叔父さんと叔母さんの目に似てる、怯えが見える憎しみの目。君は一体……

 

「ドラコ、君は何を知っているんだ」

 

「お前には関係の無い事だ………ッッッ!!!!」

 

突然スピードを出して飛び始めるドラコに、スニッチを見つけたんだと気付いて追い掛ける

 

向こうもこちらも箒はニンバス2000、箒の性能に違いは無い、だから離された距離を縮めるだけでも一苦労。

向こうも努力でシーカーを勝ち取った相手だ、そのテクニックは十分高く、下手しなくても僕と同じかそれ以上。

 

「負けてたまるか!!」

 

必死に距離を縮める僕を嘲笑うように、ドラコが大きな声で言う

 

「一つ賭けをしよう!この試合中にスニッチを手に入れた方が、相手の願いを一度だけ手伝う!!」

 

その言葉に、このスニッチを捕まえられれば、ドラコから死喰い人の情報を得られるかもしれないと思い付く。

 

ヴォルデモートが潜伏している場所が分かるかもしれない、ヴォルデモートを倒す手掛かりが!!

 

ドラコを動揺させる為に、考え付く限りの嫌がらせを思い付いた。

 

「僕が勝ったら、お前は一月、マートルの女子トイレで共同生活だからな!!」

 

「なんて恐ろしい事を言うんだポッター!!?」

 

よし、失速した、今のうちに最高速で!!

 

「……ッやらせるか!」

 

前に飛び出そうとする僕を止めるために、僕の前をピタリと箒で飛ぶドラコに、思わず舌打ちが飛び出る。

 

「行儀が悪いぞポッター!」

 

「思っても無いことを言うなドラコ!」

 

スニッチを追い掛けてコートを全速力で駆け回りながら、軽口を叩き合う。

 

観客席の前をスレスレで飛んだ時、偶然見付けたミリィ達に、嬉しい気持ちになってきた。

 

皆、僕がスニッチを捕まえる事に、グリフィンドールが勝つことに疑いもしてなかった。勝つって信じてた。

 

《ゴォォォル!!スリザリンついに50点!!》

 

《フリント選手も頑張ってるが、相手が悪い。このまま順調に卒業すれば、フリント選手はプロチームに入るだろう。既に3チームに声をかけられていた筈だ》

 

ロンの奴、僕達がスリザリンに劣ってるって?夜中にあいつの枕を生肉に変身術で変えてやるからな!!

観客席前を曲がるときにマルフォイの横につけた僕に、マルフォイが箒のブロッキングをしてきた。

 

「この勝負、僕の勝ッッッ!!」

 

僕よりも前に出て手を伸ばしたマルフォイに、真上からブラッジャーが落ちてきた。

 

《おおっとここでグリフィンドール!ビーターが狙いをマルフォイ選手に変更だ!!》

 

《司令塔をシーカーにした弊害だな、スニッチ狙いだと指揮が遅れる》

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

 

「やらせるかぁ!!!!」

 

《スリザリンチーム、即座にカバーに回るが一手遅い!ハリーがマルフォイの前に出た!!》

 

《ハリーは、友達贔屓抜きにして、百年に一度の逸材だ、箒の才能で、ハリーを越えるものは今の世界にいない》

 

スニッチを追って地面近くを高速で飛行する。ドラコの方が腕のリーチが長い、どうすれば良い!?

 

『遠くにあるなら近寄れば良いのよ、逃げるならそれより速く追うの、走ってダメならとびなさい。それでも無理なら、人を頼れば良いじゃない』

 

何度やってもチェスでロンに勝てないのをミリィに言った時に、ミリィのお父さんの言葉だと前置きして言われた言葉を、今思い出した。

 

飛んで駄目ならッッッ

 

全速力の箒の上に足を乗せて、猫のような体勢になった僕を見て、観客の皆が危険だと叫ぶのを何処か遠くに聞こえる。

 

いつの間にか色褪せた世界で、ドラコの手に収まろうとしているスニッチを、目で確りと捉える。

 

()()()()()()

 

()()()()()()()()()

 

言葉と共に箒を蹴ってスニッチを横からかっさらった僕を、信じられない者を見る目で見てきたドラコに、ざまあみろと心の中で呟いて、地面に落ちて僕は気を失った。

*1
チェイサーが肩越しに後ろの選手にパスを出すこと。プロチェイサーのテクニックの指標になる基本技の一つ

*2
自身に向かってくるブラッジャーをギリギリのタイミングで避けて、近くにいる敵チームの選手にブラッジャーをぶつける技、タイミングの難しい高等テクニック

*3
猛スピードのジグザグ飛行により、相手チームのチェイサーを振り切るテクニック。基本技の一つ

*4
シーズン通しての敵チームからのシュート数に対する、敵チームスニッチの得点を除いた得点の得点率

*5
数字が少ない方が良い成績になる




この後は大人達の顛末を書いて二巻は終わりです。
ニコラス・フラメルは次の三巻前、オリジナルストーリーでの登場になりますね。

お詫びになんか追加で書けないかなと思って、作中のカツサンドのレシピを活動報告にこの後載せますね、良かったら試してみてください


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父親×校長×蛇先生

お久し振りであります、就職先での仕事に少しだけ慣れた作者です。
未だ未だリアル事情が安定してないので、今年のハリポタ祭り出来るか分からんのですが、取り敢えず出来たので投稿です。


sideギネヴィア

 

ドラコとの対決が終わった次の日、校長室で私はマルフォイ家に行こうとするダンブルドアを呼び止めた。

 

「つまりじゃ、君はマルフォイ家を黙認しろと、そう言うのじゃな?」

 

「黙認も何も、あの家は元々必要悪の家でしょう?」

 

おかしな事を言うダンブルドア先生に、そう返して微笑む。

 

「お主は……本当にマグル生まれなのかたまに疑問に思うわい」

 

「それを言ったら、そもそも魔法族なんて突然変異の希少種ですわ」

 

「………話を戻すが、マルフォイ家当主、ルシウス・マルフォイの過去の死喰い人(デスイーター)としての活動を黙認しろと、そう言うんじゃな?」

 

「もしあの家族の仲を引き裂くような事があれば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それも、今度は半純血何て中途半端なものじゃない、歴とした純血の、闇の帝王の正式な弟子だ、その影響力は未だ立ち直れていないイギリス魔法界に計り知れない混沌と恐怖をもたらすでしょう。

ドラコと話す機会はあった筈、それならば彼が何よりも自分の家族や友人を護る事を大事にしている事が分かる筈だ。

 

「じゃが放置するのも問題じゃ、あの家は黒い噂が絶えんでな、今回の事で何も動かないのもこちらとしては論外」

 

「なら、口裏を合わせてマッチポンプでもすればいいのです、政治家の十八番でしょう?」

 

「こちらに旨味が少ない、それならば()()()()()()()()()()()()……分かったから、その杖を下ろして欲しい」

 

咄嗟に抜いた杖をやんわりと下げられる事に、自分の未熟さが出ていて顔が熱くなる。

 

「彼を敵に回すなら、私も敵に回すことをお忘れ無く、それと、スパイは居た方が良いのでは?」

 

悔しさを誤魔化しながら言うと、ダンブルドアは悩むような表情でこぼすように言う。

 

()()()が未だ死喰い人を信用しているか、儂は分からぬ」

 

「未だ日記を大事に保管していた、これだけで死喰い人はある程度信用されていた筈です」

 

「今はどうか分からぬと?」

 

「私にもそこまでは分かりませんわ、会ったことも話した事も無いのですから」

 

ですが、今の現状を打破する発破になるかもしれない、そう続けると、ダンブルドアは考え込み始めた。

 

私も今ここでマルフォイ家と敵対するかどうかのメリットデメリットを今一度考えるが……腐っても名家、あの家の影響力は未だ大きい。

 

仮に敵対した場合、未だ潜伏している死喰い人との全面戦争になるでしょう、一網打尽に出きるかもしれないが、魔法省側の被害も馬鹿にならない筈、名家やエリートが多い死喰い人の集団、それを相手にするのはリスクが高過ぎるのです。

 

そして仮に今回の事を出汁にこちらが優位に立とうとした場合、これもあまり旨味が無いのです。あの家なら例えダンブルドア相手であろうとも、屈しない強さがある。

特に当主のルシウスの強さは異次元だ、一目見ただけで分かる、彼は魔法だけの頭でっかちな魔法使いではない。家のホームパーティに来たプロの格闘家にも通じる雰囲気、そして世間からのマイナスイメージに屈しないだけの政治的手腕。

そして彼の深海を想像させるような深い碧眼は、歴戦の政治家とも、一流のアスリートとも違う、ある種の未知の恐怖すら私に感じさせた。

 

はっきりと思う、あの男と敵対するのは危険だ。

 

こちらからもあちらにメリットを提供して、お互いが対等位で丁度良い。

 

暫しの沈黙の後、目を瞑り悩んでいたダンブルドアが言う。

 

「手紙を出そう、こちらで起こった事の説明と、三者面談の相談じゃ」

 

「賢明な判断かと」

 

「これでは儂もコウモリじゃなぁ」

 

黄昏るダンブルドアに、御愁傷様ですわと言って校長室を後にする、この後はニコラス教授の部屋で個別授業があるのです。

 

 

 

sideルシウス

 

「どういうことだ!!」

 

書斎でホグワーツから送られてきた手紙を読んで思わず叫ぶ。

 

"何故ドラコがあの日記帳を持っている"

 

妻に内容をバレないよう燃やして灰を窓から撒くと、ドラコから送られてきた週一定期の手紙を読み返すが、どれもありきたりなもの、強いていえば季節の挨拶が巧くなってるくらいだ。親に隠し事とは……成長を喜ぶべきか怒るべきか悩むな。

 

「こうなったら陣営を変え…………ナルシッサが危ないな、だがどうすれば?ヴォルデモート(我が君)がご存命なのはあの日記からの情報で分かっている…面倒な事をしてくれて、これも血筋か」

 

お歴々に相談するべきか、また小言をもらう羽目になるのか、嫌だなぁ、釣りの良さを理解できない奴等なんて。

 

「だが、私だけだと、また暴走がちになるからな、釣りと木工以外は門外漢なのだ私は、何故こんな事に……」

 

ぶつぶつと愚痴を漏らしつつ書棚に隠してあるスイッチを押して書棚底の固定を外すと、横にスライドさせる。

お手製のなんちゃって隠し戸だ、こればかりはあまりにも"らし過ぎる"から、専属の屋敷しもべ"一人"を除いて、誰にも知られていない。

床に積もった埃にも誰も入っていない事が確認できる。

これは上に乗った設定していない者だけを感知し、私の寝室にある鏡に報告する埃だ。エジプトからの輸入品で高いが、効果は確かなのでここだけ埃まみれなのだ。

 

「毒蛇を持って悪を律す」

 

壁にしか見えない隠し戸の扉に、口伝の合言葉を告げると、うっすらと壁に線が引かれ、一部が凹み取っ手になる。それに手を掛け押し戸を開くと、隠し戸になっている本棚を内側から戻す。誰か来てバレても困るからな。

 

「お久し振りです、お歴代様」

 

のんびりとクロッケーをしたりチェスを指していた()()()()()()()達に挨拶をすると、騒騒とこちらをみて集まって来るではないか、わざわざ描かせた家からどんどんと増えていって九人、私からみて十代前から先々代までのマルフォイ家の元御当主である。

 

私が来たのを騒々しく迎え入れたお歴代と挨拶を交わしていくと、お歴代達は元の生活に戻り……先々代、私の祖父が私の話し相手になった。

茶会の絵が描かれた絵画に入った祖父に合わせて、絵画の前で紅茶を淹れると、祖父が紅茶を飲んで言う。

 

「近頃はどうだ、問題は無いか?」

 

「それなんですが、(せがれ)がやらかしまして」

 

ホグワーツから送られてきた手紙の内容を相談すると、祖父は驚いた用に顎を撫でる。

 

「ドラコが?あやつはそんな度胸無かったと思うがなぁ」

 

「大方、私の部屋に忍び込んで探検でもしたのか、何か弱みでも探してる時に見付けたのでしょう」

 

ナルシッサに怒られた時にでも味方になって欲しくてとか、そんな理由だろう。

 

「お前の嫁に似て悪戯坊主だからな」

 

ナルシッサの昔の事を言われて視線を逸らす。

ホグワーツでは酷かったからな、何がとは言わないがな?

 

「今は良き妻ですよ、最愛の妻です」

 

「昔はうちの屋敷でも悪戯ばかりだった、ブラック家はとんだ悪戯娘を寄越したものだと思ったよ」

 

そうしてつらつらと妻の悪戯を上げていく祖父に、私も困ったように笑う。

幼馴染みで許嫁だったうちの家で甘えてたんだ、反抗期の時に家族と上手くいってなかったのが原因だとは思うし、妻もそんな風に思ってる筈だ。

 

何せ、シリウス・ブラックとベラトリックスがほぼ同年代だ、ブラック家はそれはもう荒れてたろう。実際荒れていたし、もう一人の姉のアンドロメダも当時から既に純血主義の中では穏健派、マルフォイ家に近い考え方だったからな、ブラック家の考え方とは少し合わないし、それが原因で、ナルシッサと二人でよく我が家に家出してきていた。

 

当時は本当に大変だった、私はついぞ反抗期なぞ来なかったが、それは近くで酷く荒れていたナルシッサとアンドロメダがいて、それを見て冷静になってしまったからだ。

 

お陰でホグワーツでも皆の愚痴を聞くのが役目になって、嫌気が指して後輩の面倒を見てたら、後輩から好かれる事になったのだから、何がどう転ぶのか分からないものだ。

 

「それでも、根は家族想いで聡明で、そして気高い。孫には勿体無いと思ったよ」

 

祖父にそう言われて、我が事の様に嬉しくなる。

 

「今でも、妻には怒られてばかりで、たまに私がナルシッサの夫で本当に良いか悩みます」

 

「お前のその小心は一生ものよな、自信を持て。独学で蛇語(パーセルタング)を習得した我が家きっての秀才よ」

 

「そこは天才では無いのですね」

 

まぁ、蛇と話せた方が釣りで役に立つと思ったからなんだが。ほら、川釣りで穴場のような場所を探すとなると、現地の動物に聞くのが一番手っ取り早いからな。

 

「天に愛されてると言うのは初代様を言うのだ、その変な自惚れも悪癖だぞ我が孫よ………して今日は、そのひ孫のやらかしの相談か」

 

「ええ、はい。予定よりも立ち回りが難しく」

 

元々機を見て離反する予定だったのが、あれを息子に盗まれて失敗だ。離反した時の切り札の一つだったんだが。それに向こうに先手を打たれた、ダンブルドア(あの爺)の事だ、この機を逃さずに私から絞れるだけ情報を絞る筈だ。私を牢に入れるよりもそっちの方が爺にとって得だからな。

 

「我が家の家訓じゃ孫よ」

 

「『毒蛇をもって悪を律す』ですか?」

 

合言葉にもなってる家訓を言うと、祖父は嫌そうな顔を浮かべて否定する。

 

「未だあったじゃろ、『悪人とは所業が悪行に見える人であり、善人とは悪行を善行に見せる人である』これじゃ。つまりじゃ孫よ、悪人と善人の違いは、所業の見せ方だけじゃ」

 

「諺か何かのようですな」

 

そんな家訓あったかと頭を捻るが、出てこない。大方家の歴史書にでも埋もれてるんだろう。祖父はそういったものが好きだった。

 

「お歴代の誰かが外国の諺から引っ張ってきたんじゃろ、お主の後輩の根暗そうなあの黒髪の……名前が出てこん」

 

あんまりな言い方に笑いそうになるのを堪える。どんだけあいつは周りからそういう目で見られてたんだ。根は誰よりも熱い奴なのにな。

 

「セブルスですか?」

 

「そうじゃ!セブルス・スネイプ、あやつはもう()()()()()()

 

祖父のその言葉にピンと来た。スネイプはダンブルドアのお気に入り、あいつを助けるならダンブルドアも悪い条件はつけないか。

 

「未だバレては居ない筈です、二重スパイは。疑いは持たれていますが」

 

「ならそれを助けよ、それと復活までにお主が()()()()()()()()()

 

セブルスを助けて、疑いを持つ相手をそれとなくアズカバンに飛ばせと、また無茶な申し出をする。もう死喰い人としての集まりは殆んど無いのに、どうしろと言うのだか。

 

「派手に動けばペティグリューの奴に気付かれます、あいつの行方を未だ掴んでいない」

 

あいつは死んでいない。シリウスに罪を擦り付ける為にあの決闘をして、そして逃げられるように途中まで計画を手伝ったのは私だ。

死喰い人(デスイーター)になってあいつは我が君相手に脅えてばかり、他の側近が虐めてばかりだったから、もっぱら私が面倒を見てたのだ。ベラトリックスは特に虐めが酷かったからな。

だが計画後の事は知らない。私から他の死喰い人に漏れるのが怖かったのだろう、それを私に打ち明けることは無かった。

 

つい考え込んでしまった私に、祖父がスコーン片手に言う。

 

「そんなもの、いくらでもやり方はあるじゃろ、何の為のマルフォイ家家訓じゃ」

 

毒蛇になって悪を律するため。必要悪を自覚し、魔法つかい全体が悪に落ちない事こそが、初代様から延々と続く役目。

それを思い出して頭を下げる。

 

「掃除には細心の注意を払いましょう」

 

「それを理由にあちら側に寝返ろう。お主は腹心じゃった、この段階で掃除できるのは僥倖よ」

 

まぁ、確かにそうだ、だがこの手で人を殺した事など無い、我が君の話し相手ばかりしていたのだがなぁ。

あの性格相手に話し相手をしていたのだから、金をもらってもいい気もするな。私はホストでは無いから受け取らないが。

 

「魔法省の膿出しもしましょうか」

 

「それは未だよい、ひ孫の初仕事にでもしよう。それよりも監獄の強化じゃ」

 

「アズカバンはこれ以上無い位には厳重ですよ?」

 

「内側には強くとも、外側からは弱かろう」

 

内側程じゃないにしても、堅牢と言って差し支えない厳重さなんだがな。

 

「ペティグリューが動くと?」

 

「可能性はある。特にあれからもう十数年、今更他の奴等が監獄に閉じ込められ始めたとなれば、あやつだけでなく、死喰い人は何かあったと考えるじゃろう。そこからヴォルデモートの復活の予兆と考える奴も出てくる筈じゃ。それと裏切り者を探す事もな」

 

「情報提供には注意を払いましょう」

 

やはり混乱した時は祖父に相談するのが正解だな。

 

最初はあの爺に手紙を出すか、いや、同じタイミングでセブルスにも出そう。あいつには特に手を焼かされてたからな、私とナルシッサ……は結構嫌々だったが、ホグワーツ当時から面倒を見てたのだ、勉強やら何やらな。他の上級生があいつを差別するから、監督生の私が面倒を見てただけだが。

 

「今度は私を助けてもらうぞ、セブルス……上手くいかなかったら家族で高飛びだな、麻生に匿ってもらおう」

 

久し振りに日本で鮎釣りでもしてみたいものだ。

 

 




気長に続けて行きまっしょい、息の永い(死に損ない)シリーズですわ。


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