けものフレンズ 〜ふぉーるあうと!〜 (ガイガーカウンター)
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プロローグ

今俺はジャパリパークにいる。

 

ジャパリパークっていうのはなんでも動物を女にしちまう物質があるらしくて、それをウリに経営する動物園みたいなもんらしい。

 

ところが火山の噴火でセルリウムっていうヤバいやつが出てきたらしくて、さらに大量のセルリアンっていうのが発生してんだと。

 

そのセルリアンってやつがとんでもない厄介者で、アレが兵器を食うとそれに擬態して戦うことができる。

さらにその食った兵器の情報は連中同士で共有出来るらしく、大量の戦車が突っ込んできたりとか、爆撃機が他の国を爆撃しに行ったりとメチャクチャなことをしてやがる。

 

そこで我らがアメリカがこの騒ぎを鎮めるために動き出したってわけだ。

 

俺たちはアメリカの軍隊。

最新鋭の超テクノロジーの兵器を身につけた、最強の部隊さ。

戦車の主砲を食らってもピンピンできるパワーアーマーに、ありとあらゆるものを溶かすプラズマライフル。こいつがあればどこに行ったって勝てる。

それに、俺たちにはこいつもいる。

 

「よお、気分はどうだ?」

 

俺は隣にいるこいつのウロコをコンコンと叩いて話しかけた。が、返事は相変わらず無し。

 

こいつの名前はデスクロー。

アメリカの生体実験で生み出された最強のとんでも野郎さ。

こいつのウロコはただの銃弾じゃ弾き返すほど硬くて、爪は戦車の装甲を簡単に引き裂いちまうくらい鋭いとんでもねぇ野郎だ。

 

今回こいつは俺たちの部隊に配属された。

研究機関はテストがしたいらしく、戦闘データも集めたいんだそうだ。

 

「……、お前って変なヤツだよな?その気になればいつでも逃げ出せるのにどうして逃げない。」

 

「隊長、そいつは頭につけられてる洗脳装置があるから大人しくしてるんであって、もしそれが壊れたり外れたりしたら途端に凶暴になって目についたヤツから引き裂いていくらしいですぜ。」

 

「な、なんだそれは、ヤバいじゃねぇか。」

 

「まぁでも強いのは確かですし、このまま使ってもいいでしょう。」

 

「おいおい、大丈夫かよ。」

 

俺はこいつの頭を見てみる。そこには確かに金属製の変なやつが取り付けられていた。

 

「………ま、これから一緒に戦うんだ。仲良くしようぜ?」

 

「隊長、そんなやつとお喋りしてる暇があったらこいつらのやる気を上げてくださいよ、ビビってますぜ。」

 

見れば確かにいつもと違い、静かに俯いている隊員達の姿がそこにあった。

 

「おいおい、まさか今更こんなところでビビってるわけじゃねぇよな?」

 

返事はない。

 

「チッ、分かったよ、これが終わったら俺の奢りだ。うまい酒をたんまり飲ませてやるよ。だから元気出しやがれ!」

 

「お!さっすが隊長!話が分かりますね!」

 

なんだ、いきなり元気になりやがったぞこいつら…、まさか。

 

「お前ら騙しやがったな!」

 

「そんな事ないですよ、さっきまでもう死ぬかと思ってました。」

 

「嘘つけ!こんな早く元気になるかよ!」

 

「まぁまぁ、奢ってくださいよ。男に二言はないですぜ?」

 

「こんのぉ…!クソッ!勝手にしやがれ!」

 

「やった!また隊長の奢りで酒が飲めるぞ!イヤッホー!」

 

「はぁ…、人なんかよりお前の方がよっぽど信用できるぞ。」

 

俺は目の前にいる相変わらずただジッとしているデスクローを見てそうボヤいた。



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第1話 さばんなちほーに嵐吹く!

(なんだ…、かなり暑いぞ、一体何がどうなってる。)

 

私はすぐに立ち上がるとすぐに周囲を見回した。

………敵は近くにいなさそうだ。

 

(とりあえず、水が飲みたい。)

 

本能のままに足を進めると偶然にも大きな湖に辿り着いた。

 

(よし、これで喉を潤せる。)

 

すぐに湖に頭を突っ込んでがぶ飲みする。

口の中に水が大量に入り込んできてとても心地いい。

このままずっとしていたかったが、息が出来ないので大人しく頭を水の中から出した。

 

(美味い水だ。)

 

私は濡れた顔を拭こうとして腕を動かすと奇妙なことに気づく。

こんなに私は器用だったか?

 

自分の手を見るとそこにあるはずの私の自慢の爪が無くなっていた。

 

「……なっ、そ、そんなバカな!?」

 

何が、何が起きている!私の爪は一体どこに行ったんだ!?

自分の体を手でボディチェックをするように探ってみたが、どこにもなかった。いや、そもそも手以外にあるはずがない!

 

「クソッ!どこだ!どこにあるんだ!」

 

私が辺りを見回しているとある事に気がつく。さっき私が湖に頭を突っ込んでいたが、まさかその時に爪が取れたのでは…。

 

「っ!」

 

すぐに湖を探そうと思い水面に顔を向ける。

そこには自分の顔ではなく、女の顔があった。

 

「………!?」

 

まさか水中に敵か!

急いでその場をバックステップで離れる。爪のない今の状態では攻撃が出来ず、防御しか出来なくなる。それに一瞬で、更に痛みも感じさせずに私の爪を奪ったヤツだ。とんでもない強さに違いない!

 

「チクショウめ!さっきからなにがどうなってる!?」

 

かなり走って先ほどの湖を離れた。

太陽が真上にあって炎々とこの地と私の体を焼き尽くす。

すぐに木の陰に隠れた。

 

「なんでだ、なんでこんなに暑いんだ?」

 

私は炎の中に居たとしても暑さは感じなかった。

こんなに耐えられないぐらい暑いなんて思った事など生まれてこの方一度もない。

一体なにが起きてるんだ…?まるで私がすごく弱くなったような。

 

ここでまたもやある事に気がついた。

なぜか私は人間の体をしていて、なぜか私は人間の言葉を使っているのだ。

 

「は、はは…(これはきっと悪い夢だ。大丈夫、起きればまた敵と楽しい戦いができる。)」

 

そんな事を思いながら私は木に向かって倒れこんだ。

 

しばらくぼーっとして流れる雲を見つめることにした。

思い出すのは……いや、なにも思い出せなかった。

まあ、どうでもいいや、それより早く戦いたい。

 

戦いたいなぁ…

 

………。

 

……

 

 

……………?

 

…………遠くで音が聞こえる。草を掻き分け歩く敵の音がする。

私はすぐに立ち上がり、敵の場所へ駆けて行く。

 

「え?あ、狩りごっこか、よーし!トムソンガゼルが魅せてやる!」

 

「ククク、はっはっはははは!!!まて!私がすぐにこの爪でお前を引き裂いてやる!」

 

と言ったものの私には爪なんてものは今のところ存在しない。

しかしせっかく人間の体になったのだ。人間らしく拳でボコボコに殴って首を絞めて仕留めればいい。

 

「面白くなってきた!それじゃあ全力で走っちゃおう!」

 

「!?、なにぃ、速い!」

 

ヤツはペースを上げたのか、凄まじい速さで走って行く。

それに今の私は人の姿になったせいで足が遅い上にスタミナもない。どんどん引き離されてしまった。

 

「くっ、クソッ!逃したか…。」

 

ついに敵の姿を見失ってしまった私は次の敵を探して歩き回る事にした。

 

しかし、この体は不便すぎるぞ。

じれったさを感じながらも歩いていると、突然後ろから笑い声が聞こえた。

 

「わーい!あはははは、いひひひひ!狩りごっこだね!負けないんだからー!」

 

「なにっ!私としたことが背後を取られるなど…!」

 

慌てて走って逃げる!こんな変な笑い声をしながら追いかけて来るやつだ。狂気に侵された人間に違いない!そんなやつは大概戦場帰りだ、それも過酷な戦場からの!捕まったら何をされるかわからない!

 

生まれて初めて感じる恐怖に私は身を震わせながら必死で走った。

幸いな事にここは先ほどの湖があった場所の近くだ。

水の中から覗いていた敵がまだいるかも知れないが、まずはこいつから逃げるのが先決だ!

 

「はっ、はっ、はっ、クソッ!」

 

かつては敵を次々と引き裂いていき、恐れられていたはずの私がこんな…、屈辱だッ!

 

「き、貴様ッ!覚えてろよ!力が戻ったら必ずバラバラにしてやる!」

 

「え、えー!そんな怖いこと言わないでよ!」

 

ようやく湖が見えてきた、あと少し!

 

100m、50m、あと数歩!

 

背後をチラリと見ればそこには私に手を伸ばす女。

捕まる前に飛び込む!

私はその勢いのままジャンプすると、湖に飛び込んだ。

直前、水面に再びあの顔が映るのに気づく。

必死で水中でもがきながら、対岸の方へ泳いだ。

 

「ぶぁはっ!はぁ、はぁ、に、逃げ切った。」

 

って安心してる暇はない!すぐに湖から這い上がるとすぐに泳いで来るヤツに向かって蹴りをいれる準備をする。

見た瞬間には既にヤツは水面に映っていて、私は全力でそれに向かって蹴りを出す!

 

バシャン!と音を立てて飛び散る水。

しかし手応えは感じなかった。

 

水面にはまだあの顔が映っている!なんだこいつは!

そう思ったが、ある事に気がつく。

 

これってもしかして私の顔なんじゃないかと

 

「……………はぁ。はっ!」

 

急いで私は姿を隠した。そういえば先ほどまで追いかけられていたのだった。

しかし、幸いな事にアレは泳ぐことができなかったらしく、とぼとぼと帰っていく後ろ姿を遠くに見た。

 

「それにしても、腹が減ったな…。」

 

何を食べようか、いや、こんなに弱くて何か食べられるのだろうかと考えながら私は歩いてその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブクブク…

 

バッシャーン!

 

「だ〜れ〜?ってあら、誰も居ないわね。」



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第2話 衝突、セルリアン

まずい…本当に腹が減った。

獲物を探してはいるのだが大概捕まえれずに終わりだ。

人間のように工夫して捕まえようとも思ったがやり方を思いつけなかったためそれも出来なかった。

 

「うぅ…、このままだと本当にまずい…。」

 

前も見ずに歩いているとボニョっと奇妙な音を立て弾き返された。

 

て、敵か!?

すぐに後ろに飛び跳ねて距離を離した。

前を見るとそこには青くて4本の触手みたいなのを生やしたナニカが居た。

 

「なんだ…?コイツ。」

 

見た所全く脅威を感じない。

可愛らしい形をしている。戦場には不釣り合いだ。

動きも遅そうだ。

自分よりもデカイが…やれる!

 

「へへっ、ここで私の餌となれっ!」

 

まずはダメージを与えるため木からへし折った頑丈な木の棒を使ってやつをフルスイングでぶん殴る。

しかし、ぽにょーんと変な音を出しながら弾き返された。

 

「ちっ!ならば…!」

 

この木の棒はかなり苦労して先端を尖らせておいた。

小さく動きが早い小動物相手には役に立たなかったが、動きがトロくてデカいコイツなら…!

 

「くたばれっ!」

 

両手で、更に体の体重を使うようにして思いっきり突き刺してやった。今度はぽにょーんとは言わずどんどん突き刺さっていく!

 

「はっ!終わりだ!」

 

このまま体重をかけようと思ったが、嫌な予感がする。

咄嗟にその場を退こうとしたがいつの間にか手がヤツの体内に入り込んでいる…!

 

「な、何が起きている!?私の手が、喰われてる…?」

 

必死でそこから手を抜こうとしたが全く抜けない。それどころかどんどん体内へと吸い込まれていく…!

まずい、このままだと喰うどころか逆に喰われる!

くそッ、完全に相手を舐めていた!戦場で油断をするなと教えられてきたのに!

嫌だ…!私もアイツのように死ぬなんて嫌だ!

 

……アイツって誰だ?

 

「う、うわああああああ!!!やめろ!私を喰うなあああ!」

 

「屈んで!早く!」

 

突然聞こえてきた声に疑いながらも焦っていた私は素直にその言葉通りに動いた。

瞬間、青いヤツは後ろからきた誰かに引き裂かれ、私の腕を喰っていた場所に大きな穴を開けた。

 

「よし!」

 

誰かはそのまま私の襟を掴んで後ろへ投げた。

 

「ぐっ、だ、誰なんだ?」

 

「私はカラカルよ。あとの自己紹介はセルリアンを倒した後!」

 

カラカル…?セルリアン…?

なんだ、頭がごちゃごちゃだ。訳がわからない。

 

「っ、てあれ?石が見当たらない…、どこにあるのかしら。」

 

石?石ってなんだ。突然頭の中に声が響く。

 

『いいか、お前は闇雲にあいつらを切ってるようじゃまだまだダメだ。あいつらセルリアンには必ず弱点のコアがある。そこを探して重点的に切るんだ。』

 

必ず…ある。

じゃあどこに?

すぐに立ち上がってセルリアンの体を隅々まで探して見る。

正面にはない。……なら背後は?

 

「カラカル…だっけ?なんでもいい!多分コアはセルリアンの背後にある!」

 

「ちゃんと覚えてよ!でも、背後にあるのね?分かったわ!」

 

カラカルは突然止まった。

セルリアンはまっすぐそこに一本の触手を突き刺した。

しかし、突き刺さった場所に既にカラカルは居ない。

カラカルは地面に深くめり込んだ触手に飛び乗り、そのまま走り出す。セルリアンは残りの触手で叩き落とそうと振り回すが、それらを全てカラカルは避けていく。そして、至近距離まで近づいた瞬間大きくジャンプした。

 

カラカルはセルリアンの頭上を飛び越え、背後に着く、そして。

 

「これで、終わりよ!」

 

コアに深く爪を立てたのか、セルリアンはパッカーンと音を立て砕け散った。

 

「これでよしっと。」

 

「…………なんで」

 

「え?」

 

「なんで見ず知らずの私を助けた?怪しくて、役立たずのヤツをよく助ける気になれたな。」

 

「………。」

 

「私だったら絶対に助けない。助けても、何の価値もない奴はな。」

 

「……そう。でも私は助けるわ。」

 

「どうして?」

 

「だって、助け合うのは当たり前じゃない。」

 

カラカルはにっこりと笑ってそう言い切った。

 

「そんなのは綺麗事だ。殺るか殺られるかの世界じゃそんなのあり得ない。」

 

「殺るか殺られるかって…そんな物騒な場所じゃないわよここは。」

 

「じゃあ、なんだ?食い物は殺さないと手に入らないんだぞ?どうやって殺さずに済むのさ。」

 

「あ、もしかしてあなたまだフレンズになったばかりなのね?」

 

「…?フレンズって」

 

「はい、どーぞ!」

 

突然カラカルに何かを渡された。

 

「………これは?」

 

「ジャパリまんよ、食べてみて。」

 

「こいつは…食いもんなのか?」

 

「いいから早く!」

 

なんだかとても怪しそうだが…しかし、腹が減ってるのは事実。

大人しく食べてみた。

すると口の中がなんだかとっても変な感触に包まれて、なんだろう、これは。

 

美味い、美味いけど、なんて言ったらいいんだろう?

 

「どう?甘いでしょ。」

 

あま、い。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『おい!さっきは良くやったな!セルリアンとはいえ戦車をマジで切っちまうとはな!それに、俺が言ったようにコアを見つけ出して攻撃してたし、お前は脳筋だと思ってたけどかなり有能だ。』

 

『隊長、せっかくですしコイツに何かご褒美をやりましょうぜ』

 

『褒美?そんなもんこの戦場にあると思ってんのか?』

 

『何言ってんですか、いつも持ってるじゃないですか。」

 

『ん?……あー、あれか。ほらよ、チョコレートだ。これからも頑張ってくれよ?お前には期待してんだからな。』

 

『どうだ?甘いだろ?』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あ、あぁ…

 

「甘い、とっても、甘いよ。」

 

「えっ!ちょっ、どうして泣いてんのよ!」

 

思い出した。

これが甘いなんだ。

私は味わいながらそれを食べた。

とっても、とっても甘くて美味しかった。

 

「………落ち着いたかしら?」

 

「あ、あぁ、その…、なんていうか、…………ありがとう。」

 

「ふふっ、どういたしまして!」

 

なんだろう、顔が熱い。

まぁしかし、気にしないでおこう。

それよりも、頭の中で響いたあの声とビジョン。

あそこに映っていたのは、誰だ?

 

忘れちゃいけないような、そんなあいつは誰だったっけ?

思い、出せないな。

 

まぁいいさ。

そのうちまた思い出すだろう。



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第3話 別れ

カラカルにいろんなことを教えてもらった。

 

サンドスター、フレンズ、そしてボスと呼ばれる存在のこと。

 

驚くべきことに私が追いかけたフレンズも追いかけられたフレンズもみんな遊びだと思ってたらしい。

というのも、フレンズというのは決して私の言う殺し合いなんてしない、むしろその逆、仲良くなろうと、友達になろうとする生物なのだそうだ。

フレンズというのは元になった動物が存在し、サンドスターが当たるとフレンズになれるんだそうだ。

ちなみにカラカルはカラカルと呼ばれる猫だったそうだ。

………猫ってなんだ?まぁ、名前はそのままだ。

 

そして、更に驚くことに人間と呼ばれる存在がここには居ないそうだ。

いくら聞いてもカラカルは知らなさそうだった。

 

そして、先ほど貰ったジャパリまん?についてはボスと呼ばれる存在に出会うと貰えるそうだ。

 

必要な事は大体聞けたはずだ。

今の話を聞いて一つの目的ができた。

それはあのビジョンに映っていた奴らを探し出す事。

この近くでは居なかった上に、友達を多く持ってるらしいカラカルが知らないのだからきっと長い旅になるだろう。

それをカラカルに話すとカラカルは心配そうに話しかけてきた。

 

「た、旅に出るの?あなたが?……大丈夫?」

 

「安心しろ、私はこう見えてもフレンズになる前は強かったんだ。」

 

「………、そう。気をつけてね。ここにはまだまだセルリアンがよくいるから。」

 

「あぁ、ありがとう。それじゃあ」

 

私はさっそく探しに行くため、立ち上がった。

カラカルに背を向け足を動かす。

………本当はもっと一緒に居たいという気持ちがなかったわけじゃない。けど、あの時見たあいつらは、絶対に探し出さなきゃいけない。そんな気がしたんだ。

 

「あ、そうだ。」

 

「なにかしら?」

 

「ここに人ってやつがいるんじゃないかなって場所知らない?」

 

「うーん、知らないわ。でもあの二人なら…、図書館に行ったらいいんじゃないの?へいげんちほーって場所にあって、こっちをまっすぐ突き進めばあるはずよ。」

 

カラカルが指差した方向のかなり遠くに橋のような物が見える。

 

「よし、わかった。それじゃあ………。」

 

私は再び歩き出した。

一歩一歩歩くたびにカラカルから離れて行くのがわかる。

……けっ!なにさっきからガラでもねぇ事してんだ!しっかりしろ私!迷いを断ち切るように私は首を振るとまっすぐ走った。

 

「……あっ、そうだ。木の棒を忘れたな。ちょっと取りに行こうか。」

 

後ろを見る。

しかし、そこにはもう誰も居なかった。

 

「……ま、いっか。どうせまた木の棒なんてそこら辺から取れるし。」

 

私は再び橋に向かって歩き出した。



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第4話 夜襲

「あの子、本当に大丈夫かしら」

カラカルは夜の空に散らばる星たちと光り輝く月を眺める。

……ちょっと心配ね、追いかけるか。

そして夜のサバンナを歩き出した。


今私は橋を通ってジャングルの入り口についた。

カラカル風に言うならじゃんぐるちほーだろうか?

 

なんでもいい、とりあえず今は夜だ。

別に私は夜でも行動できるのだが流石に無休というのはこの人間の体では耐えられないようだ。全くもって不便だ。

 

とりあえず寝る事にする。そして次起きたら1日でジャングルを抜ける。たとえフレンズが敵ではないと分かってもセルリアンという敵が存在する。ジャングルなど奴らが身を隠すのに絶好な場所はさっさと抜けてしまうのが吉だろう。

 

体を横にして丸めた。

 

……………………しかし、今日は色々あったな。

 

…………………ほんとうに、疲れた。

 

……………

 

……

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィッ!!!

そんな木を吹き飛ばすような音が不意に聞こえた。

 

「っ!?」

 

咄嗟に体を起こしてそこから逃げた。

直後あの時見た触手が4本も私が居た場所を抉っていた。

 

「クソッ!てめぇらどこにでも湧きやがるな!」

 

どうせあの鈍足野郎のことだ、全力で逃げればなんとか…

後ろに走った私をぽにょんという間抜けな音と共に弾きだした。

 

「なぁっ!?後ろにもいるのか!」

 

すぐに体勢を直し、まずは周りを見る。

そこには四方に四体の触手付きセルリアンが居た。

 

「おいおい、勘弁してくれよ…。」

 

なんてこった!今の私じゃ絶対にやられる!このままだとマズイっ!

ジリジリと奴らは距離を詰めてくる。

 

「逃げ場はねぇって言いたいのか?あぁ!?」

 

必死になって怒鳴るがまるで意味を持たない。

月明かりに照らされた目を見ればそれはまるで死んだ魚のような目。

感情というやつを全く感じさせなかった。

 

体がビクビクと震えだす。なんだよ、怖いって言うのか?この私が?デスクローだぞ私は、かつてあいつらと共に戦ったデスクローなんだぞ!?

 

「く、クソッ!チクショウ!チクショウ!来るなら来いよ!かかってきやがれ!」

 

奴らは一斉に触手を構える。

 

……こんな所であっけなく終わるんだな。

 

もはやこんな悪夢は見たくない。私は目を静かに閉じた。

 

 

 

 

 

 

「そこ!しっかりしなさい!」

 

パリィン!っと大きな音がなると私の後ろのセルリアンが砕け散った。

 

「!?、だ、誰!?」

 

「私よ、カラカル。もう忘れたのかしら?」

 

「……!そんな、どうしてここに!」

 

「胸騒ぎがしてね、慌ててこっちにきたらホントにあんたが襲われてたってわけ。さ、早く逃げるわよ!」

 

とにかく、今は逃げよう!

そう思って足を動かそうとする。が、

 

「あれ?おかしい、なんでだ!?なんで足が動かない!?」

 

「っ、待ってて!」

 

カラカルがすぐに私に向かって走って来る。

見捨てられなかった事に私は希望を抱き笑顔になる。

しかし、見えた。

カラカルに向かって一斉に触手が伸びていったのが。

 

「来るなああああああ!!!」

 

時は既に遅く、カラカルはがぶりと、触手に噛み付かれた。

 

「…っ、!?!?あがっ!」

 

あの牙はあまり鋭くないらしく、血は出てないもののかなり圧迫されてるのだろう。強い痛みでカラカルは苦しんでいる!

 

「よせ!やめろ!この野郎!」

 

「ぎゃぁっ、いだい!ぎにゃぁ!?」

 

「やめろよ!それいじょうやったら!」

 

やったら?

やったら、なんだ?

今の私に何が出来る。

 

「あ、あぁ…」

 

相変わらず足が動かない。

ガクガクと震えて止まらない!

どうしていいか分からなくて涙が出る、止まらない!動かない!

神ってやつがいるならお願いだ!助けてくれ!

 

「に、げて…」

 

「え?」

 

「はやく、にげて…!」

 

………今自分が苦しんでるのに、死んでしまうかもしれないのに、それでも私を気にかけてくれるのか?

どうして、そんなに優しくしてくれるんだ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『知ってるか?神に祈っても助けてくれはしないんだぜ。……でも俺たちは違う。俺たちは神のように圧倒的な力を持ってねぇ、でもな、神ほど誰かが高みにいるわけじゃねぇ。俺たちは仲間さ。同じ地を歩き、同じように戦って、共に勝利を分かち合える。目の前に苦しんでる仲間が居たら助けるし、苦しんでたら助けられるんだ。たとえその途中にどんな困難があってもな。………実はこれに気づいたのはついさっきなんだ。お前のおかげさ。お前が単身で敵陣に乗り込んでまで俺たちを助けようとしたからようやく分かったんだ。ありがとよ。そして、……こいつのことは、気にするな。』

 

男はそっと、並んだ靴にライフルを立てた。

 

ライフルの上にヘルメットが被せられる。

助けられなかった。自分は強い。誰にも負けないほど。

 

でも…助けられなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

嫌だ!また助けられないなんて絶対にお断りだ!

 

カラカルは…カラカルは唯一の友達なんだ!

失いたくない。絶対に!

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

足はもう動く。時間はもうない!走れ!走れ!

 

カラカルの元へと辿り着く、私はそのまま爪を…

 

えぇい!爪がないからなんだ!こんなの無理矢理にでもこじ開けてやる!

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ダメよ…、にげて!」

 

「嫌だ!もう失いたくないんだ!誰も!誰一人!」

 

ひらけ!ひらけ!ひけらええええええええええ!

 

突然体に力が入る、今まで消えていたはずの爪がいつの間にか生えている!これなら…いける!

 

「オラァああああ!!!」

 

セルリアンどもの鬱陶しい触手を全て引き裂く。

解放されたカラカルはその場に倒れこんでしまった。

 

「ぅ、うぅ…」

 

「待っててカラカル、すぐに片付けて助けるから!」

 

時間はもうかけてられない。

 

一瞬だ。

この程度、一瞬で片付けてやる。

 

セルリアンは一箇所に集まってまたも一斉に触手を伸ばして来る。

 

「はっ、馬鹿め!その程度で勝てると思うな!」

 

避けるのも良いが直進した方が早い。

爪を伸ばし、真正面から斬り伏せる!

そしてそのまま奴らの正面に走り!

 

「邪魔だ。消えろ!」

 

そのまま横に薙ぎ払った。

伸びた爪は正面からでもセルリアンのコアに届き、あっけなく粉々にしてやった。

 

どうしてこんなに伸びるのかと疑問はあるがとにかく今はカラカルだ!

 

「大丈夫!?カラカル!」

 

「………」

 

「そんな、まさか…しっかりして!カラカル!カラカル!嫌だ、そんなの嫌だよ!」

 

「………ふふっ、あっははははは!」

 

「……え?」

 

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。この通りピンピンしてるわ!」

 

そう言ってカラカルはシュッと立ち上がりその場でジャンプ、一回転して着地して見せた。

 

「よ、かった…」

 

「ちょっ、大丈夫!?しっかりして!」

 

「大丈夫、ちょっと眠くなっただけ…」

 

「……そういえばさっき野生解放使ってたものね。おやすみなさい。………ありがとう。」

 

あぁ、ねむい。

 

ねよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「とは言っても、後もう少し助けてくれるのが遅かったら骨がヤバかったわね。……本当にありがとう。」

先ほどの騒ぎが無かったかのような夜の静寂の中
カラカルは自分の膝の上で眠るフレンズの頭を撫でていた。


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第5話 コンパニオン

なんだ、なんかやたらと眩しいな。

目を少し開けるとすぐに太陽の光が差し込んできた。

 

朝、か………。

 

!、カラカルは大丈夫か!?

すぐに起き上がって周囲を見回すと近くにカラカルは居なかった。

 

「どこに、行ったんだろう…」

 

そういえば、昨日の夜、カラカルは元気にジャンプしていた記憶がある。もしかして怪我はなくてそのまま自分の住処へと帰ったのだろうか。

 

……いや、ここまで助けてくれたんだ。

これ以上贅沢は言えない。

 

あれ?そういえば昨日まで生えていたはずの爪がまた無くなっている。一体何がどうなってるんだ?

それに、あの時思い出した事はなんだろう。

誰が死んだのかもわからない。あの時誰が私を慰めたのかもわからない。……つくづく阿呆だな私は。

きっとあれは大切な仲間だろうに、誰かわからないなんて最低だ。

 

「……腹減った。」

 

「それならジャパリまんはいかが?」

 

「!、カラカル!大丈夫か!?」

 

「昨日も言ったけどこの通りピンピンしてるわよ。」

 

カラカルが笑顔でそう言った。

……守り切れたんだ、本当に良かった。

 

「あの爪無くなったのね。」

 

「そうだな、これからの旅には是非とも欲しいものだったんだが…まぁ、仕方ない。」

 

「ふっふーん、出せる方法教えてあげよっか?」

 

「だ、出せるのか!?」

 

「出せるわよ。でも、それを教えて欲しかったらある事をしてもらうわ。」

 

「そ、それは…?」

 

「うーん、先に名前を教えてくれる?ていうか、まだちゃんとした自己紹介してないわよね。」

 

「あ、そういえば。」

 

自己紹介か…、なんて言えばいいだろう。

 

……これだ!

 

「私の名前はデスクローだ。趣味は誰かと戦って切り刻む事。最近あった嬉しい事は…」

 

「ちょっと待って、その自己紹介は今後一切しないこと!」

 

「そ、そうは言ってもこれ以外に思いつくものがないんだ。」

 

今まで戦ってるか戦ってるか戦ってるかの生活だったしな。

 

「うーん、あんたってほんとフレンズになる前は何やってたのかしら…。」

 

「知りたいのはこっちだ。」

 

「とにかくその自己紹介はダメ、他のを考えて。」

 

えー、他の趣味なんて…あっ。

 

「私の名前はデスクロー、趣味はジャパリまんを食うことだ。」

 

「よし、これなら他のフレンズに会っても大丈夫ね。」

 

「それじゃあ次はカラカルだな。」

 

「ネコ目ネコ科カラカル属、カラカルよ。よろしくね。」

 

「ね、ネコ目?ネコ科?なんだそれ。」

 

「わからないわ。でも博士と助手に聞いたらこう言われたのよ。」

 

「そうなのか…、とまぁ自己紹介も済んだし、早速教え…!」

 

「はいはいストーップ。まだこっちの条件を出してないでしょ。」

 

「むぅ、早く!早く!」

 

「簡単な話よ。………私をデスクローの旅に、って、デスクローって呼びにくいわね。」

 

「早く教えてくれ!爪を出したいんだ!」

 

「そんなに爪が欲しいのね…。うーん、そうだ!」

 

「私をクロー、つまりあなたの旅に連れて行ってくれないかしら?」

 

「そんなのおやすいごよ…え!?」

 

「なによ、イヤだったかしら?」

 

「いやいやいや、イヤじゃないけど、………いいの?」

 

「なにが?」

 

「だって私は…、その、自分で言うのはなんだけど強くて凶暴なんだ。とてもフレンズと呼ばれるような奴じゃないのは分かってるはずだ。そんな奴に着いて行ったら、……アンタ嫌われるぞ。」

 

「…別に構わないわ。それに、そもそもそんなことで嫌われたりしないわよ。」

 

「そ、そうか…?」

 

「そうよ。クローが思ってる以上にみんな優しいのよ。だから安心しなさい。」

 

………そっか、みんなカラカルみたいに優しいのか…。

 

なんだか自分がとっても卑しい存在に思えてきた。

 

「…分かった。着いてきてくれ。」

 

「お安い御用よ♪」

 

「……随分と嬉しそうに見える。」

 

「え、ウソほんと?お、おほん!それじゃあ早速爪の出し方を教えるわよ。」

 

「やった!ついに戦えるんだな!」

 

「………間違ってもフレンズに使っちゃダメよ?」

 

「当たり前だ!セルリアンの馬鹿どもにしか使わないから安心して教えてくれ!」

 

「ほんとに大丈夫かしら…、まぁ、出し方は簡単よ。昨日の夜のことは覚えてるかしら?」

 

「昨日の夜…?」

 

そういえば、爪が生えてきたあの時、なんだか感情が高ぶっていて、体にやたらと力が入ってたな…。

それも、あの力はたぶん自分がフレンズになる前の頃を超えている。

 

「覚えてる。」

 

「それのことを私たちは野生解放って呼ぶのよ。」

 

「野生…解放…?」

 

「そう、それをするとスタミナっていうか、すごく疲れる代わりにすごく強くなれるのよ。」

 

「なんかえらく大雑把だな。」

 

「仕方ないじゃない。分かってることが少ないんだから。」

 

「特徴としては目が光ったり、体からキラキラしたものが出てきたりするわね。例えばこんな風に。」

 

そうすると途端にカラカルの瞳が光りだす。

色は薄い青色だ。

そして、体のあちこちからキラキラした靄のようなものが出てきた。

 

「どうかしら?野生解放。」

 

「すごく参考になった、ありがとう。」

 

「それは良かったわ。さて、じゃあ。」

 

カラカルが瞬きした次の瞬間には既に光は消えていた。

靄のようなものも消えて無くなっていた。

 

「一応サンドスターに似てるのよねさっきのキラキラ。」

 

カラカルが指を指す。

それを追って見てみるとそこには大きな山があった。

大きな結晶みたいな物が山頂にへばりついてる。

 

それにしても、見れば見る程デカイ山だ。

……なんだろう、アレを見ていると何か思い出せそうな気がしてきた。あそこに何か手がかりがあるかもしれない。

 

「決めた。まずはあの山を登る。」

 

「それなら博士たちの許可が必要よ、そして博士たちは図書館にいるから結局図書館に行くことになるわね。」

 

「許可?そんなもん要らないだろ。誰がなにをしようと知ったことか。」

 

「そんな性格だったらフレンズと仲良く出来ないわよ。」

 

「むっ、うーん、分かったよ許可を取りに行くよ。」

 

「それじゃあ行きましょうかって結局爪の出し方を教えて無いわね。」

 

「アレだろ?その野生解放ってのを自由に使いこなせるようになれば私は爪を出せるんだろ?」

 

「あら、分かったのね。恐らくそうよ。でもおかしいわね、普通のフレンズなら元の動物の力を最初から使えるのにクローは野生解放しなきゃダメなんてね。」

 

「それもそうだな。ま、気にしても仕方ない!これからは毎日修行だ!」

 

「………ところで、クローってなんだ?」

 

「デスクローじゃ呼びにくいしクローの方が可愛げがあるからクローよ。」

 

「……まあ別に構わないけど。」

 

私たち二人はジャングルの中へと入っていった。



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第6話 突撃!じゃんぐるちほー

「ここはさっさと抜けようと思う。」

 

ジャングルの中は思ったよりも歩きやすかった。

というかちゃんと整備されてるようだ。

周りからホロロロロロ、ホロロロロロや、キュリリキュリリリリリなどの変な鳴き声が大量に聞こえてくる。

 

「え?どうしてなの?」

 

「ジャングルの中にはセルリアンが隠れる場所がいっぱいだろ?だからこういうのはさっさと抜けるべきなんだ。」

 

「……別に大丈夫だと思うけど。」

 

「とにかく、私はここに居たくない!」

 

私はここをさっさと出たいんだ。

足を走らせて突っ込んで行く。

 

「ちょっ!ちょっと待って!」

 

「ほら!早くついて来い!」

 

止めに入ろうとするカラカルの方を向いて呼ぶ。

 

「そうじゃなくて…、ま、前ーーー!」

 

「へ?」

 

まさかまた!

勢いよくぶつかったがポヨンやボヨヨーンなどの音は出ず、そのまま弾き飛ばされた。

体勢を立て直しながら前を見るとそこにはかなりデカいフレンズが居た!いや、体はデカくなくて私たちと同じくらいなんだが、なんていうか、存在感がデカい!

 

「なんだこいつ!?」

 

「あら、ごめんなさいね、踊ってたらぶつかっちゃったわ。私はインドゾウ、よろしくね。」

 

「あ、あぁ、よろしく。」

 

「クロー!自己紹介!」

 

あぁ、そういえば。

 

「えーっと、私の名前はクロー、趣味はジャパリまんを食うことだ。アンタの場合は…踊ること?」

 

「初めましてクロー!そうよ、私は踊るのが大好きなの。」

 

「久しぶりね、インドゾウ。」

 

「あら、カラカルも居たんだ、珍しいねー。」

 

「クローが旅をするって言うから付いて来たのよ。」

 

「そうなんだー、それじゃあ旅が上手くいくように私が踊るわ。」

 

と言うと、インドゾウはその場で踊り出した。

………確かに綺麗だったけど

 

「音楽がないと地味」

 

「!?」

 

げっ、しまった!つい声に出しちまったか!

 

「ご、ごめん!踊りはとても素晴らしい物なんだけど音楽が欲しいかなーって…。」

 

「あら、音楽ならちゃんとあるわ。」

 

「え?」

 

「ほら、耳を澄まして、聴こえるでしょ?ジャングルの至る所から聞こえてくる鳥の声が…。」

 

何を言ってるんだこいつは、でも、……試してみるか。

目を閉じて耳を働かせる。

「なんだかゴチャゴチャした音だな。」

 

「もっと集中して、もっと、もーーっと。」

 

………そんなこと言ったって何も変わりはしない。

そもそもこの変な声が音楽になるわけ

 

「ダメよ、何か考えちゃダメ。ただ何も考えないで、聴くのよ。」

 

……………………

 

……………………

 

……………………

 

……………あっ、

 

音が別れた。

あれらの音がゴチャゴチャに聞こえてた時は何も分からなかった。

でも、今ならわかる。全部違う音だ。

 

ホロロロロ、ピーピーピピピピピピー

 

キューイ、キューイ、ピョーピョー

 

聴けば聴くほど他にもどんどん音があるって事が分かっていく!

 

『ジャングルはさっさと抜けるぞ、ほら来い。』

 

『そんな!せっかく来たんですしもっと楽しみましょうよ!』

 

『楽しむってお前、何馬鹿なことを』

 

『ほら聞いてみてくださいよ、お前らも!いっぱい聴こえるでしょ?これ一つ一つ全てに鳥が居るんだぜ、命があるんですぜ?とっても素晴らしい事じゃないですか。』

 

『あぁ、確かに、聞けば聞くほど…どうでもいい。さっさと行くぞ。』

 

『あっ!隊長!待ってくださいよ隊長!』

 

一つ一つに、命がある…。

今まで仲間以外の命なんてどうでもいいものだと思っていた。

でも、今ならこれら一つ一つに価値があるって分かる。

 

「………大丈夫かしら?」

 

「おかしいわね。私は音楽に気づいて欲しかったんだけどなんだか悟っちゃってるみたい。」

 

「はっ!わ、私は何を…。」

 

「ジャパリまん食べる?」

 

「………そうする。」

 

「さて、集中してない今でも音楽は聞こえるかしら?」

 

………大丈夫だ、ちゃんと聞こえてる。

 

「聞こえるぞ。」

 

「それなら改めて見て、私の踊りを。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ばいばーい!」

 

「凄かったわね!あの踊り!私も改めてすごさが分かったわ!」

 

「そうだな!まさかこんなに素晴らしいものだと思わなかった。」

 

私が心を打たれるなんて、今まで戦いを求め続けていた私が命の素晴らしさに気づく事ができるなんて…。

 

「………ふふっ、じゃんぐるちほーも悪くないでしょ?」

 

「……あぁ、悪くない。」

 

別に、急がなくてもいいか。

敵が来ても薙ぎ倒せばいいだけだしな!



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第7話 一突きで殺す者

じゃんぐるちほーを歩いて15分、いろんなフレンズと出会った。

 

「あら?オセロットが寝てるわね。」

 

「あれか?あのフレンズはオセロットって呼ぶのか。」

 

「そうよ。あの子も私と同じネコ科。」

 

「ふーん。……起こしてやろう!」

 

「やめなさい。」

 

「ダメか…、あ、あそこにも誰か居るぞ。おーい!アンタ誰ー?」

 

「ん?私はアクシスジカだよ。」

 

「へー、なにやってんだ?」

 

「ここの土、舐めると体に良いんだって、塩がなんとかって。」

 

「ふーん、それ、美味い?」

 

「うーん、たまに美味い場所があるんだが、不味いところばかりだな。でもこれで健康になれるってんならそれに越したことはない!お前らもどう?」

 

「せめて美味い場所だけを食える方法を見つけてから誘ってくれ。私は健康とかどうでも良いからな。」

 

「そんな事言ってると、病気になって死んじゃうぞ〜?」

 

「はっはっはっ!安心しろ!この私は病気になんて一度もかかった事がないからな!」

 

「うーん、だよねー。私もなった事がないんだ。塩を舐めるのやめようかな…。」

 

「………いや、でも健康はいい事だと思うぞ?フレンズになってからは人間の病気にかかったりするかも知れないしな。」

 

「にんげん?よくわかんないけど、でもお前がそう言うなら舐めることにするよ!美味いところだけを舐めれるようになったらお前らにも教えてやるよ!」

 

「お、それは期待だ!じゃあまたな!」

 

「おう!」

 

「……随分とフレンドリーになったわね。」

 

「へへっ、なんだか楽しくなってきたからな!」

 

「あ、そろそろあの橋に出る頃ね。」

 

「橋?じゃんぐるちほーにも橋があるのか?」

 

「あるにはあるけど…さばんなちほーの橋みたいにすごいやつじゃないわよ?」

 

「ふーん、ま、進んでみようか!」

 

そして私たちは獣道を歩いていると木製の大きな橋に辿り着いた。

 

「あれがこのじゃんぐるちほー唯一の橋、アンイン橋よ。」

 

「へー、これが…。」

 

早速橋に足を踏み入れてみるとギィィ…っと気味の悪い音を立てた。

 

「おいおい、大丈夫か?これ。」

 

「たぶん大丈夫じゃないでしょうけど私たちじゃどうしようもできないわね。」

 

「うーん、本当に?」

 

ちょっと橋の根元に行ってなんとか出来ないか試してみる…。が、

 

『INTが足りてねぇ、出直してきな。』

 

そんな声が頭の中に響いた。

なんだそれ?でもまぁなにも思いつかないから従っとくか。

 

「どうだった?」

 

「ダメだった。」

 

「それは困ったわね。」

 

「「うーーーん。」」

 

この橋…どうにかしないと誰も通れなくなるよな、それはマズイだろ。

 

「ん?そこでなにやってるんだい?」

 

「え?アンタ誰だ?」

 

「あら、ジャガーじゃない!久しぶりね。」

 

「あっカラカル、今ぐらいは昼寝してるんじゃなかったっけ?」

 

「ふっふーん、今の私は旅をしてるのよ!紹介するわ、私の相方のクローよ!」

 

「えーっと、うん、クローだ。本当の名前はデスクローだけど気にしなくていい。」

 

「デス、クロー?聞いたことないなぁ。あ、それよりその橋を渡るなら気をつけてー。今にも壊れそうなんだよー。」

 

「ありがとう、ジャガー。それにしても私たちに出来ることはないかしら…?」

 

「うーん、たぶん誰にもどうしようも出来ないぞ…。一応壊れたら壊れたで木の板を持ってみんなを川の向こう側に渡そうと思ってるんだ。」

 

「そういえば泳げるんだっけ。」

 

「そうそう、だからここは私に任せて二人は先に行って。」

 

ジャガーは笑顔でこっちに手を振った。

 

「……よし、ここは言葉に甘えて。」

 

「分かったわ。それじゃあ…。」

 

「またねー!」

 

私たちは今にも壊れそうな橋を渡った。

 

「……フレンズってのは本当に優しいんだな。どうしてあんなに他人のために動けるんだ?」

 

「あら、それはあんたもでしょ?」

 

「え?」

 

「なんとかしようとしてたじゃない。」

 

「でも、私は結局なにも出来なかったぞ?」

 

「その気持ちだけで十分よ。」

 

カラカルが微笑んでこちらを見つめてくる。

 

よくわからないが、コレでいいのならまぁ…そのまま行くか。

 

「あ、雨ね。」

 

「ホントだ。」

 

初めはポツポツと降るだけだった雨がどんどん力をつけていっていつの間にかザーッと大きな音を立てていた。空は暗雲が立ち込め、ゴロゴロと雷の音まで聞こえてきた。

 

「こ、これはマズくないか?」

 

「えぇ、ジャガーが危ないわ!すぐに戻りましょう!」

 

「分かった!」

 

私たちは急いでさっきまで来た道を引き返した。

 

「おーい!ジャガー!無事かー!?おーい!」

 

「あ、あそこにいる!」

 

カラカルが指をさした方向にはジャガーが居た。橋の柱を掴んでいた。支えているのだろうか。

 

「大丈夫かーっ!今助けるぞ!」

 

「っ!いや!こっちのことはいいから!そっちこそ早くここから離れて!」

 

「そんなこと出来るか!このままだと溺れるぞ!」

 

見れば見るほど川の水はどんどん溢れて行く。ジャガーも後少ししたら頭全てが水に浸かるだろう。

 

「あ、あれは!ジャガー!急いでそこから離れて!」

 

川の上流の方から木が流れ込んで来た!

このままだと橋に直撃する!ジャガーも無事では済まないだろう。

 

「待ってろー!今行くぞー!」

 

私はすぐに橋を渡ってジャガーの場所まで行こうとする、が

グシャァ!そんな音を立てて私の足は橋を踏み抜いた。

 

「うわっ!」

 

ドシャ!っと大きな音を立てて私は転んだ。クソっ!ダサすぎるぞおい!今ここで転んでる場合じゃない!

急いで立とうとするが立てない。足元を見てみると深く橋に突き刺さっていて、抜こうにもなかなか抜けない!

 

「クソっ!クソっ!抜けろ!抜けろよこの!」

 

「クロー!私がジャガーを助けるからあんたは足を引き抜いて逃げて!」

 

カラカルが私のそばを走り抜けてジャガーの元へたどり着く。

 

「さぁ!掴んで!」

 

「ぶぁはっ!だ、ダメだ!この橋が壊れたらみんなが!」

 

「もし壊れなかったとしてもあなたが居なくなったらみんなもっと悲しむでしょ!ほら早く!」

 

ジャガーはその話を聞いて観念したのか、手をカラカルの方へ伸ばす。カラカルはすぐにその手を取り、引っ張り始めた。

ジャガーは引き上げられると何かに気がついた様子でこっちに向かって叫ぶ。

 

「まずい!もうすぐそこまで来てる!」

 

「クロー!しっかり!」

 

「くっ…こんのぉ!外れろ!」

 

ダメだ、橋が雨に濡れてメチャクチャ滑る!それどころか川の激流に負け始めたのかぐらりぐらりと揺れ始めた!

 

「チクショウ!チクショウ!私はなにも出来ないどころか足まで引っ張るのか!」

 

そばに来たカラカルが急いで私の体をつかみ、引き上げようとするがカラカルも体勢を崩してしまった。

 

「きゃっ!くっ…」

 

ドテンと転んだカラカルはもう一度助けようとしたのかその場で立ち上がろうとするが、上手く立てずにいた。

木はもうそこまで迫って来てる…!

 

「カラカル、私はもうダメだ、早く逃げて!」

 

「何言ってんのよ!見捨てて逃げれるわけないでしょ!」

 

「そんなこと言ってる場合か!もうすぐ木が直撃する、そんな時にここにいたら間違いなく死ぬぞ!」

 

「それはあんたも同じでしょ!だから助けるわよ!あんたがなんと言ったってね!」

 

ダメだ、このままだとカラカルは…!

そうだ!

 

「ジャガー!カラカルと一緒に逃げてくれ!」

 

「!?、何言って…」

 

「頼む!自分のやったヘマで他人を、大切な人を巻き込みたくはない!」

 

「クロー…」

 

「初めての友達なんだ!私を助けてくれた…、初めての!だから頼む!早くここから…」

 

「これはちょっと厳しいなー?でも、やるか。」

 

ジャガーは全く想像もつかない行動をした。それは野生解放。

一息でこっちに来たジャガーは私の開けた穴をこじ開ける!

そのまま足が抜けた私とカラカルを掴んで岸の方へと放り投げた。

カラカルは綺麗に着地できたが私はそのまま地面へと激突した。

 

「ぐべぇっ!」

 

かなり痛い、が、ジャガーはどうなった?

私はすぐに橋の方を見るとジャガーはその場で突っ込んでくる木に向かって止まっていた。

 

「ジャガー!早くそこから逃げなさい!」

 

ジャガーは聞く耳を持たず、遂に木が橋に激突しようとするその時、ジャガーはジャンプをして木に突っ込んでいった。

 

そして、そのまま木に腕を振り下ろし、木を粉砕した。

 

「す、すごい…。」

 

それだけでは終わらず、砕いた木をさらに粉々に砕く!

自分が砕いた木の上をピョンピョンと跳ねてまた次の大きな木の欠片を砕いていく…!

 

そしてアンイン橋に着地すると、最後に残った木の欠片を粉砕した。

 

「よしっ!これで…!」

 

しかし、最後の欠片を壊したということは足場が無くなったということ、ジャガーはそのまま川へと落ちていく!

 

「まずい!」

 

私が動く前にカラカルが動く。

カラカルは大ジャンプをするとジャガーの元へたどり着き、そのまま掴んでアンイン橋に着地した。

 

「大丈夫?」

 

「ありがとう!助かったよー!」

 

……結局私は役立たずか。

そんな事を考えた瞬間、橋から嫌な音が響きだす。

見ればどんどん傾いていっている…!

 

「カラカル!ジャガー!」

 

二人とも急いで逃げようとするがぐらつく足場のせいで上手く走れない。

このままだとまずい!

思い出せ!あの時の感覚を!野生解放をするんだ!

 

「ぅ、うおおおおおおおお!」

 

体に力が入り、あの爪が姿を表す。

 

私はすぐに足に力を込め、走り出す!

 

そして、橋に足を踏み入れると足がまた橋を踏み抜く、そんなものは気にしない、どんどん足を早くして橋を粉砕しながら走る!

 

そして通りすぎる二人を掴み、そのまま対岸へと突っ込んだ。

 

大量の土砂が宙を舞う。

立ち上がった私は掴んでいた二人を離した。

 

「けほっけほっ!」

 

「うひゃあー、クローはこんなに凄いんだな!」

 

…………………………

 

……眠いな、眠いがその前にやらなきゃいけないことがある。

 

私は爪を研ぐ。

 

獲物を殺すために。

 

「っ!、どうしたんだ、クロー?」

 

「クロー…?大丈夫?」

 

「大丈夫?そうだな、ねむいけど、お前らを切り刻むには困らない。」

 

爪をヤツラに向けて薙ぎ払う。

しかし、躱されてしまった。

 

「ど、どうしたんだ!クロー!いきなり何をするんだ!」

 

「餌がギャーギャー喚くな。消えろ。」

 

今度は縦に振り下ろす。

が、これもかわされてしまった。

 

「クロー!どうしちゃったのよ!」

 

?、コイツって、なんだっけ?

なんでもいいやとにかくたべたい

 

「グオォオオオオオオオ!!!!!」

 

「一体何が起きてるの!?姿が変わって…!」

 

「ーーーー!すぐにクローから離れるんだ!」

 

「そんな事言っーーーほっとけーーわよ!」

 

「今のーーーにちかーーーーダメーはやー!」

 

なんだ?どんどんあいつらの言葉が分からなくなる。

 

視界もどんどんくらくなっていく気がする。

 

しこうもだんだんにぶってるような

 

…………………………

 

「いまはーーにげーーーカラカル!」

 

から……かる……?

 

…………

 

…………

 

あれ?私、なにやってんだ?

 

突然眠気が押し寄せてくる。抗うことはできず、そのまま飲み込まれた。




デスクローは元の姿に戻っていくとドサリと崩れ落ちた。

「クロー!しっかりして!」

カラカルはすぐにデスクローの元へと駆け寄ると、体を揺らして反応を確かめようとする。

「それにしても、今の姿って…」

「………ツノが生えていたわね。」

デスクローは目を開けなかったが寝息を立てていたのでカラカルは安心していた。

「……橋、壊れちゃったなー。」

そう言って残念そうにするジャガーの眼の前には激流に完全に飲まれ、バラバラに砕け散ったアンイン橋があった。


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第8話 記憶のかけら

『へへっ!お前ってヤツはほんと最高だぜ!お前は俺たちをいつも助けてくれるヒーローさ!お前は俺の誇りだ!』

『隊長ほんとにそいつがお気に入りですね、ま、確かに賢いやつではありますけどそれもこれも全部洗脳装置のおか………』

『こいつは賢いなんてもんじゃねぇよ、俺たちのことを仲間だと認めてるんだ。きっとこれには洗脳装置とか関係ねぇはずだぜ。』

『た、隊長!すぐにそいつから離れてください!』

『おいおい、なに言って、おい。その銃を今すぐ降ろせ、命令だ。』

『ダメです隊長!そいつの洗脳装置、壊れてやがる!』

男はゆっくりとこちらを見る。
男はしばらくあんぐりと口を開けていたが、やがてそれは笑顔になった。

『恐らくさっきの戦闘でやられちまったんだ、早く別の装置を…!』

『はっ、はははははは!サイコーだよお前は!本当にな。』

『そんな事言ってる場合ですか!早く離れて…』

『おい、冷静になれよほら深呼吸だ。』

『いやだから』

『良いから深呼吸だ早くしろ。』

『……スーッ、ハーッ、これで良いですか?』

『おうよ、よく考えろよ。始めこいつが来た時洗脳装置が無かったらなにをするって言ってた?』

『手当たり次第に周りのやつを引き裂くって…』

『そうさ、どうだ?俺たちは今上半身と下半身が泣き別れしてるか?してないだろ。つまりはそういう事だ。』

『しかし…!』

『それに!あとひとつ言っておくことがある。』

男はすぐに銃を取り上げるとその場で帽子を被った男を一回転させ地面に叩きつけた。

『二度と!……仲間を裏切るようなマネはするな。』

『ぅ、ぐぅ…わかりましたよ。』

『分かったか?じゃあほら、立て。』

男は手を差し伸べて立ち上がらせると帽子を頭に乗せた。

『ありがとうございます。』

男は何度か頷くと、そのまま何処かへ行った。
代わりに帽子を被った男がこちらへ近づいて来た。

『……そのよ、悪かったな。』

帽子を被った男はこちらへ手を差し出す。

何度か同じ光景を見たことがある。
人は手を差し伸ばされるとそのまま掴んで上下に振る。
私もその手を、ほんの少しの力で、手を切らないように爪をできる限り当たらないようにして掴んで、上下に振った。

『……驚いな、まさかこんな…。へへっ、よろしくな。』

帽子を被った男は笑顔になってバンバン私の体を叩き、そのまま何処かへ行った。














「ぅん…うぅ、」

 

なんかやたらと鳥が鳴いている。

あぁ…そういえば昨日はじゃんぐるちほーに来たんだったか…。

それでカラカルと一緒に橋を渡って、それから…

 

瞬間私の体はプルプルと震えだす。

認めたくない現実に打ちのめされる。

記憶に間違いがないか必死で探すがそんなものは見当たらない。

 

私は………カラカルを、ジャガーを…殺そうとしたのか?

 

すぐに起き上がって周りを見た。

すると目の前にカラカルとジャガーが座って話をしているのが見えた。

 

「あら、随分と遅かったわね?お寝坊さん。」

 

「ジャパリまんでも食べる?」

 

「……………いや、とても、そんなことは出来ない。」

 

「だって私は、お前達を、殺そうとしたんだ!……今更仲良くなんて、出来るはずないだろ?」

 

「………クロー、よく聞いて、あなたは何も悪くないわ。」

 

「そうそう、むしろその逆さ、橋を守ろうとしてくれて私たちを助けてくれたじゃん。」

 

「でも、その後私は…」

 

「クロー、別にあんなこと気にしなくていいわよ。それにしても良かったわ、何ともなさそうで。」

 

「え?」

 

「なんかもうすごかったわよ?頭からツノが生えてきてたわ。」

 

「つ、ツノ?」

 

「そう、それで動物みたいにグルルルって唸ってて…もう戻ってこない気がしたの」

 

…………。

 

「クロー、約束して……、絶対に居なくなったりしないで。」

 

「ゆるして…くれるのか?」

 

「あなたが約束を守ってくれるなら」

 

カラカルは静かにそう答えた。

 

「さ、湿っぽい話はここまでにして、旅を続けましょ?」

 

「そうそう、さっき向こうに連れていけそうな木の板があったんだ、それで送っていくよ。」

 

「ほんと?ありがとう。」

 

「……クロー、私はクローの友達だ。友達はね、許しあえる存在なんだ、だからもう気にしなくて良いよ!」

 

果たして本当に私は許されて良いのだろうか。

でも、カラカルもジャガーも、私を信じてくれている。

あの時の男達のように、私を仲間だと信じてる。

その信頼には、応えなきゃいけない。

 

この足も、爪も、尻尾もウロコも、何もかも全部。

守るために使う。

誰かを切るためじゃない、守るために!

 

「あぁ、ありがとう!」

 

「よしっ!それじゃさっそく向こうまで送ってくよ!」

 

私たちは今はすっかり穏やかになった川のそばに近づくと、ジャガーはちょっと待っててと言うと川に飛び込んだ。

そしてそのまま橋の一部だったものを持つと、こちらへ泳いできた。

 

「はい、どーぞ。乗って乗ってー!」

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「へーきへーき!まっかせてー!」

 

頼れるジャガーの言葉に従い橋に乗ると、ジャガーは泳ぎ始めた。

 

「すごいわね、私たちが乗ってても泳げるなんて…。」

 

「泳ぎと力には自信があるからねー!さすがに昨日のような川は無理だけど」

 

ジャガーは足をバタバタ動かして木の板を動かしていた。

 

『おい!早く船を持ってこい!』

 

「……船?」

 

「え?なにそのふねって」

 

「分からないけど、これは船っていう乗り物な気がする。」

 

「へー、分からんけど船っていい響きだね!気に入ったよ!っと、着いたよー!」

 

そんな話をしているといつの間にか対岸に辿り着いていたようだ。

 

「ありがとう、ジャガー!助かったわ。」

 

「ありがとな!」

 

「また乗りたくなったら声をかけてねー!それじゃあ、気をつけてなー!」

 

「おう!またなー!」

 

私たちは歩き始めた。

後ろからはいつまでもジャガーが手を振っていた。

 

「結局、橋は何ともできなかったけどジャガーを助けれて良かったわね。……助けられもしたけど。」

 

「そうだな、よーっし、この先はどんなやつらがいるんだろう。楽しみだなー!」

 

この時私たちはまだ知らなかった。

この先には灼熱の大地、砂漠が待ち受けている事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ふーっ、さて、ちょっとこのまま見回りしてみるかな。」

「おーい!そこでなにやってるのー?」

「川を渡りたいフレンズを渡してるんだ、この船で!」

「たのしそー!私も乗せて乗せてー!」

「いいよー!」

さて、それじゃあ泳ぐかな!


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第9話 さばくちほー、オアシスにご案内。

ヒュー……

 

そんな風が吹いている。

空には飽きる事なく光り続ける太陽。

下には凄まじい熱を持った砂の海。

隣にはヘトヘトになったカラカルがいた。

 

「あ、暑い…、さばんなちほーとは比べ物にならないわね。」

 

「そうだな、足に付いてるのが靴って気づかなきゃ今頃踊るように死んでただろう…。」

 

「ファインプレーよ、クロー。」

 

少し前、じゃんぐるちほーからさばくちほーに移動するときに足に凄まじい熱さを感じて死ぬかと思った。

どうやって渡ろうかと考えてると、あの男の声が頭に響いて、それのおかげでこれが靴だとわかったのだ。

 

………どうして気づいた瞬間熱くなくなったのかは知らないが。

 

そして今さばくちほーを歩いてるわけだが…、困ったことに目印になりそうな物など何もなく、周りを見渡せば砂だけが目に映り、げんなりするだけだった。

 

「カラカル、生きて帰れるかな?」

 

「………分からないわ。」

 

あぁ…水が欲しい、喉がカラカラだ、どこかに湖は…。

 

ん?あれは…。

 

「カラカル!あれって湖じゃないか!?」

 

「え?……ホントだ!良くやったわね!」

 

二人揃って全力で走り、湖を目指す!

 

……

 

「カラカル!走ってるのに全然近づいてる気がしないぞ!」

 

「私もそう思ってたわ!けどこのまま何もしなくても死ぬわ!」

 

「そっか!それじゃあ走るか!」

 

「ええ!」

 

ははははは、のどかわいた。

水がのみたーい。

 

「ねむねむ…ん?そんなところで何やってるのー?」

 

「湖を探してるのよ。あなたは?」

 

「フタコブラクダだよー、よろしくねー。…そっちにオアシスは無かったと思うよー。」

 

「オア、シス…?」

 

『ヒャッハー!新鮮な水だ!』

 

『そのままオアシスに突っ込んでみろ、このオアシスを赤く染めることになるぞ。』

 

『ちょっ…冗談じゃないですかやだなぁ…。』

 

「オアシスってなにかしら?」

 

「オアシスっていうのは私たちの言う湖の事だ。」

 

「あら、クロー知ってたの?」

 

「いや、またあの男の声が聞こえて来たんだ。」

 

「ふーん、あ、そう言えば私の名前はカラカルよ。普段はさばんなちほーで暮らしてるんだけど今は旅に出ててここは初めてなのよ。……オアシスの場所知ってる?」

 

「知ってるよー、案内するから付いて来てー。」

 

「ありがとう!ほんと助かったわ。」

 

フタコブラクダが歩き出した。

 

「私の名はクローって言うんだ、元の名前はデスクロー!よろしくな!」

 

「よろしくー。…ねむねむ。」

 

「そういえば私たちがさっき見たオアシスはなんだったのかしら…。」

 

「それは多分偽物だと思うよー。もし気づかなかったら一生走ってたかもねー。」

 

「こ、怖い!怖い!」

 

このさばくちほーはそんなに恐ろしい場所だったのか…。

いつもセルリアンに警戒して身を引き締めてるのだが、先ほどの話を聞いてさらに緊張した。

 

「あ、あれだよー。せっかくだからのんでいこー。」

 

「やったわクロー!ついに水が飲める!」

 

「死なずに済んで本当に良かったな!カラカル!」

 

二人で喜びを分かち合い、笑顔で走り出した!

今度はいくら走っても近づけないなんてことは無く、あっという間にたどり着いた!

私は思いっきりオアシスの水面に顔を近づけた。

カラカルも勢いよく顔を近づけたものの丁寧に水を飲み始めた。

さすがに飲んでる横で頭を突っ込むのは良くないと思うので、カラカルとは離れた場所に行って、思いっきり顔を突っ込んだ!

 

顔が冷たい水に洗われる。

とても心地いい。

私は口を思いっきり開けて、口一杯に水を入れて、飲んだ。何度も、何度も。

息が続かなくなったので、私は頭をオアシスから出した。

 

「ぷっはぁ!うまい!さすがここまで喉カラカラで来たことはある!最高だ!」

 

カラカルの方を見ると、カラカルは驚いた表情をしていた。なんだと思い視線の先を見るとそこにはフタコブラクダが居た。

水をどんどんどんどん飲んでいく。……大丈夫かあれ。

 

遂に水を飲み終えたフタコブラクダは、そのままねむねむと言いながら眠ってしまった。

 

「なんて言うか…」

 

「色々とすごい奴だな。」

 

私たちは口を開けて、フタコブラクダを見つめていた。



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第10話 さばくちほー、第一村人?発見!

私たちはオアシスの近くに生えていた木に背中を預け、二人で喋っていた。

 

「驚きだな、こんな場所に住むフレンズがいるなんて!」

 

「そうね、私もこの辺りには来たことがないわ。」

 

「そうなのか?カラカルは全部行ったことがあると思ったんだけど」

 

「私が来たことがあるちほーはさばんな、じゃんぐる、へいげんぐらいかしら。」

 

「へー、意外と少ないんだな。」

 

「そうね、図書館に行くときにできるだけ早く行けるように、寄り道はしなかったわ。」

 

「あれ、それじゃあこのさばくちほーって寄り道…」

 

「いえ、ここは迂回したわ。ジャガーに教えてもらったからね。」

 

「なるほどー、ジャガー!どうして止めてくれなかったんだ!?」

 

「たぶんあなたにもっといろんなフレンズと出会って欲しかったんじゃないかしら。」

 

「え?」

 

「ジャガーはアンイン橋の近くに住んでるから出会うフレンズが多いのよ、もちろんさばくちほーのフレンズも通るらしいわ。」

 

「それで、あなたが頼れるフレンズが少ないってことに気づいて、もっとそんな友達を作って欲しいと思ったんだと思うわ。」

 

「頼れる、友達か…。」

 

そういえば私はまた忘れていたような気がする。

友達も仲間もお互い助け合うものだ。

決して自分が相手を守るだけじゃないってこと、また忘れてたなぁ…

 

「…ジャガーには感謝しないとな!」

 

「それがいいわね。とは言っても、本気でここを通れると思ったのかしらジャガーは…」

 

「さぁ、どうなんだろうな?」

 

「「ふふふふ、はははははは!」」

 

どこに笑う要素があったのか、分からなかったがなんだか笑いたい気分になった。

二人で笑ってると、なんと言うか…心があったまる気がしたんだ。

 

そんな時、オアシスをちらりと見ると、何人かのフレンズが水を飲んでるのが見えた。

 

「よしっ!それじゃあ、ジャガーの期待に応えるためにちょっくら行ってくる!」

 

「あ、私も行くわ!」

 

二人揃ってまずはウロコの模様をしてる帽子を被ったフレンズに話しかけた。

 

「やあ、私の名前はクローって言うんだ、そっちは?」

 

「センザンコウです。気軽にセンちゃんと呼んで下さい。」

 

センちゃんはそう言うと、スッと立ち上がってこちらを見て来た。

 

「よろしくね、センちゃん。私の名前はカラカルっていうのよ」

 

「よろしくお願いします、カラカル。」

 

「ところでセンちゃんはここに住んでるのか?もしそうだったら教えて欲しいことがあってさ」

 

「……実は私はここに住んではいないのです。ここには友を、探しに来ました。」

 

「友達?それってなんていう名前なの?」

 

「オオアルマジロ、かつて一緒に仕事をしていたのです。」

 

「あっ、それってもしかしたら…」

 

「!、知っているのですか?そうだとしたらぜひ教えて欲しいのですが…。」

 

「オオアルマジロならへいげんちほーに居たわよ。と言っても、けっこう昔の話だから今もいるとは限らないけど…。」

 

「それってどれくらい前なんだ?」

 

「あなたが生まれた噴火の一つ前の噴火の時よ、その時に私は生まれたの。」

 

「そうだったのか…って、噴火ってなんだ?」

 

「噴火っていうのはあの山がサンドスターをジャパリパーク中にまき散らすことです。その噴火の後は新しいフレンズが多く生まれますが、同時にセルリアンも出て来ます。」

 

「なるほどー、全然違うフレンズとセルリアンでも、生まれ方は一緒なのか…。」

 

不思議な話だな

 

「しかし、へいげんちほーに居たのですか、教えてくれて本当にありがとうございます。それでは私はさっそく向かう事にします。」

 

「え!大丈夫なの?夜になるまでここに居た方が…」

 

「それはダメです。あっちに居るヒトコブラクダが教えてくれました。恐ろしい寒さで凍え死んでしまうかも知れないそうですよ。」

 

「な、なんじゃそりゃ!」

 

こんなクソ暑いところが夜になると寒くなるだって!?冗談じゃない!

 

「こ、ここは本当に危険な場所ね…」

 

「そうだな、とりあえず誰か道案内をしてくれるフレンズは居ないだろうか…。センちゃんはもう見つけたか?」

 

「まだですね…できる限り早く見つけたいです。」

 

「あ、それじゃあ私たちもへいげんちほーに用があるから探すの手伝うわ。」

 

「ありがとうございます。それでは二手に別れて探しましょうか。私はこっちに行きます。」

 

そう言うとセンちゃんは立ち上がって左回りにオアシスを歩いて行った。

 

「よーっし!探すか!て言ってももう候補はいるんだけどな。」

 

「そうね、それじゃあ聞きましょうか。」

 

私たち二人は真っ直ぐ、フタコブラクダとヒトコブラクダの元へ歩き出した。



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第11話 砂漠の天使、スナネコ

「なぁフタコブラクダ、さっきのオアシスはありがとな!本当に助かったよ。…それで、私たちはへいげんちほーに行きたいんだけどガイドしてくれないか?」

 

「ねむねむ…お姉ちゃんに聞いて〜。」

 

「お姉ちゃんって言うと…?」

 

「私のことです〜。シニヨン一つでヒトコブラクダ〜♪よろしくねぇ!」

 

「よろしく!ところでさっきの話なんだけど…」

 

「ガイドなら任せて〜、でも暑いのが嫌だったら向こうにいるスナネコちゃんにガイドしてもらった方がいいよぉ!」

 

「あら、スナネコって聞いたことあるわね。噂でかなりかわいいって聞いてるわ。」

 

「噂っていうかホントだよぉ、スナネコちゃんはすごくかわいいよ〜でもすぐに飽きちゃうのよねぇ。」

 

「飽きる?まぁ、なんでもいいや!教えてくれてありがとな!」

 

「どういたしまして〜!」

 

「あの姉妹二人とも面白いやつだったな!」

 

「そうね、あの水を飲む速さと量といい、姉の独特な歌といい…なんか癖になるわね!」

 

「マネしてみるか?そうだな…ツメがあったらデスクロ〜♪」

 

「うーん、………サーバルより役に立ったらカラカル〜♪」

 

「なんだそりゃ、物じゃないのか?」

 

「だって私が持ってる物や力は大体誰かが使えちゃうもの。クローみたいに自分だけが持ってる物ってないわ。」

 

「何言ってるんだよ、カラカルには誰にも負けない優しさがあるじゃないか!」

 

「…そんなに優しいかしら?」

 

「優しいね、優しすぎて心配になるくらいだ。どんな時でも誰かを見捨てたりしない。助けるのを諦めない。やたら世話好き。こんなに揃ってるのはカラカルだけだろ?」

 

「……うんまぁ、当然ね!」

 

カラカルは珍しく自信を無くしていたのを取り戻したのか、元気よくさも当然であるかのようにはっきりそう言った。

 

「あれ?顔が赤いぞ?大丈夫か?」

 

「う、うるさいっ!早く行くわよ!」

 

「あるぇ?」

 

なんだろう、上手く褒めたつもりだったんだけどなぁ…失敗したか。いや、でも自信を持ってもらうっていうのは成功したから成功なのかな?

 

そういえば…サーバルって誰だろう?

 

『あはははは、いひひひひ!』

 

突如あの恐ろしい笑い声が頭に響く。

なぜ今なのかは分からないがこれのせいで身が縮こまってしまった。

 

「?、どうして止まってるの?」

 

「い、いや、ちょっとした恐怖をかんじてさ………それよりも、サーバルってどんな奴なんだ?」

 

一応聞いておこう。

 

「サーバルは私の…まぁ、ただの友達かしらね。おっちょこちょいでドジっ子で、最近はないけど昔はすぐ泣いちゃう泣き虫で、時々ピンチになったりしてね、とってもかわいいのよ!いじり甲斐があるわ!でもそんなサーバルもとっても優しいところがあるのよ?私に負けないくらいのね!」

 

やたら笑顔で喋るカラカルを見ていて思う事がある。

 

……絶対サーバルってただの友達じゃないだろ。

いたずら心が疼いてる。ちょっと突いてみよう!

 

「随分と饒舌だな?ホントはただの友達じゃないんだろ?」

 

「なっ!た、ただの友達よ!何言ってるのよ!決して親友とかじゃなくて…!強いて言っても生まれた時から一緒にいるぐらいの関係よ!」

 

「ふーん、へー?」

 

「なにニヤニヤしてるのよ!」

 

たまにはこういうカラカルも悪くないな。

 

それにしてもカラカル並の優しさか…きっとあの時追いかけてきた女ではないだろう。安心だ。もしサーバルがあの女だったとしても、フレンズだからきっと仲良くなれるだろう。

今度会ったら友達になってみたいな。

今思えばあの時逃げられたトムソンガゼル?っていうやつともなれるなら友達になりたいなぁ…。

 

「…旅が終わったら紹介してくれよな?」

 

「任せなさい!」

 

それでみんなと友達になって、みんなで一緒に遊んだならば……それはきっと楽しいんだろうなぁ…。

 

それにしても随分と考えが穏やかになった気がする。前までもっと戦いたいって思ってたのにな。これも全部、カラカルに会ったおかげだろうか。本当に、感謝してもしきれないな。

 

さて、私たちがスナネコの近くに着くとそこにはセンちゃんが居た。どうやら話してる途中のようだ。

っと、センちゃんが私たちに気づいたようで、こちらに指をさしている。

 

「お?あなたたちが案内して欲しい残りの二人ですかぁ?」

 

センちゃんの方を見るとコクリと頷く。

どうやら先に話をつけてくれたそうだ。

 

「たぶんそうだ!私の名前はデスクロー、クローって呼んでくれ。よろしくな!」

 

「私の名前はカラカルよ。よろしくね!」

 

「スナネコです。よろしくお願いします。」

 

そしてスナネコはこちらを見ると、……止まってジッとこちらを見ている。な、なんだ?

 

「うわー、すごい毛皮ですね、全部ウロコがついてます!」

 

スナネコはすぐにこちらに近づくと、私のウロコをコンコンと叩き始めた。

 

「へへっ、自慢のウロコだ!こいつがあればどんな攻撃だってヘッチャラさ!」

 

「はい。」

 

「……えっ!?」

 

なんかいきなり興味無くしてないか!?というか今度はカラカルの方を見てる!

 

「お、おいおい!もっと注目しなくていいのか?」

 

「はい、ウロコならセンちゃんにいっぱい見せてもらいましから。」

 

センちゃんの方を向くとセンちゃんは話し始めた。

 

「どうやら彼女はすぐに何かに興味を持ちますがすぐに飽きてしまうようで…。」

 

「な、なるほど…。」

 

なんかショックだ…。自慢のウロコだったのにな。

 

「カラカルの噂は聞いてます。とっても高くジャンプが出来るとか」

 

「えぇ、そうよ!見ていくかしら?」

 

カラカルが私だったらそんな簡単に飽きられたりしないとでも言いたげな顔をしてこちらを見てきた。

 

「ホントですか!?見たいです!」

 

「よーし、じゃあいくわよ!それっ!」

 

カラカルは近くに生えていた木にジャンプして一回転。

綺麗に木のてっぺんに立った。

 

「ふっふーん!この程度、私にとっては簡単だわ!」

 

「そうですか。」

 

ガーンッ、そんな音が聞こえそうなぐらいカラカルはガクリと頭を下げると、そっとこちらへ降りてきた。

 

「くっ…!あの娘、なかなか手強いわね。」

 

「だな、爪でも見せてみようか。」

 

とは言ってもそんな簡単に野生解放は出来ないし、またアレが起きないとも言い切れないのでやらないが。

 

「そういえば以前タイリクオオカミという方が私をモデルにした主人公の漫画を描きたいと言ってきましたが、それなら飽きないかもしれません。」

 

「漫画?なんだそれ?よくわからんがそれならスナネコを…」

 

「あ、そういえば私は持ってないので見せることすら出来ませんでした。」

 

ドテッ!って音を出して私はコケた。

 

フレンズっていうのは本当に個性豊かで、一緒にいると楽しいヤツらだな。

私は青空を見上げながらそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 




「……そんなところで寝てて熱くないの?クロー。」

「熱っ!あちちちちぃぃぃぃ!」

「うわっ、なんかすごい飛び跳ねてる〜!」

「どうやら興味を引き寄せれたようですね。」

「こ、こんな引き寄せ方は嬉しくねぇよ!あちちちち!」


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第12話 思い出した遊び

「ふぅ、さっきは酷い目にあった!」

 

「あれはあんたが悪いでしょ。」

 

カラカルは呆れた顔でそう言った。

そうさ!私が悪い!けど!けど!

 

「うぅ…まだヒリヒリするなぁ。」

 

「オアシスに飛び込んだら多少マシになるのでは?」

 

「いや、それはダメだろ。それにもうだいぶ離れてるし…」

 

「スナネコ、あなたの家まであとどれくらいかしら?」

 

「そうですね、もうすぐしたらつきますよ。」

 

私たちは何にもない、いや、砂があったか。

私たちはただ砂の上を歩いていた。

 

「ん?そういえばセンちゃんはこれが靴って分かってるのか?」

 

「何がですか?……あぁ、それは靴というのですね。私は道中見つけたこの変なやつを足につけてここまで来ました。が、今となっては必要なさそうですね。」

 

センちゃんは足からそれを取るとポイっと投げ捨てた。

 

ん?今のは見覚えが…

 

「ちょ!ちょっと今のはなんだ!どこに投げた!?」

 

「靴はもうあるのに欲しいのですか?それならあっちに…どうやら砂に隠れてしまったようです。」

 

「あー!なんてことを!」

 

あれはたぶん男たちが履いていた軍靴という靴だ!

なにか記憶を思い出す手がかりになると思ったのに…残念だ。

 

「な、なにか悪いことをしましたか?」

 

「いや、何でもないよ。大丈夫さ…」

 

はーっ、まぁいい、とにかく今はスナネコの家に行く事に集中しよう。

 

「アレです。あの穴がボクんちです。そしてボクんちの中にまた穴があるのでそこからたぶんへいげんちほーに行けます。」

 

「へー、……たぶん?」

 

「はい。あそこには行ったことがないので。」

 

「「「……………」」」

 

果たして私たちはへいげんちほーに辿り着けるのだろうか…物凄く不安になってきたぞ。

 

そして程なくしてスナネコの家の中へと入って行く。

中は地面は砂、壁は石であった。

 

「今から掘り返すので少し待ってください。」

 

そう言うとさっそくスナネコは穴を掘り始めた。

どんどん猛スピードで掘っていき、穴が見えてくる。

そして掘られた砂から出てきた物を私は見逃さなかった。

すぐに拾ってみるとそれは変な筒のようなものであった。

 

「なんだこれ?」

 

『ん?興味あんのか?…へへっ、こいつはヌカ・コーラって言ってな美味いぞ、飲むか?』

 

「ヌカ、コーラ…これはヌカ・コーラって言うらしい。」

 

「へー、何に使うものなのかしら?」

 

「これはたぶん、こうやって飲む飲み物だ。」

 

あの男がやっていたのと同じように蓋を開けてみる。中には黒色の液体が入っていた。

 

「……本当に飲めるの?」

 

「私はやめておいた方がいいと思います。」

 

「どうだろうな?まぁ、大丈夫だろ。」

 

私はそのまま口をつけ一気にヌカ・コーラをグイッと傾けた。

二人はあっ、という顔をして見守っている。

スナネコは相変わらず鼻歌を歌いながら砂を掘ってくれている。

 

そして、流れ込んだ液体の味なのだが…。

 

美味い!しゅわーっと口が溶けていくような感触があるが、それもなんか美味い!

こんな美味いものを独り占めなんて良くないので二人にも勧める。

 

「えっ!えーっとー、……分かったわよ。」

 

カラカルが先にヌカ・コーラを手にした。

カラカルは匂いを嗅ぎ始める。くんくん、くんくん、何度も繰り返してようやく意を決したのか、私と同じようにゴクリと飲んだ。

 

「……!、ぷはぁ!美味しいわね、これ。」

 

「だろ!」

 

「えぇ、なんか癖になるわ。」

 

カラカルがもう一度飲もうとするが、思い直してセンちゃんに渡した。

 

「はい、どーぞ。美味しいわよ?」

 

「……………本当ですか?」

 

「本当よ!」

 

「くっ、私の有鱗目の名は伊達ではありません!こ、行動でもって証明してみせます!」

 

「あ、スナネコの分も残してあげてね。」

 

たぶんその有鱗目っていうのは関係ないと思うけど…

そうこうしてる内にセンちゃんはゴクリと飲んだ。

目を閉じて体は震えていたが、すぐに目を見開いて驚きの表情を浮かべた。

 

「お、美味しい…!」

 

「でしょ?」

 

「穴を掘り終えました。…それ、なんですかぁ?」

 

スナネコが穴を掘り終えたそうだ。そして、すぐにこちらへ近づいてきた。

 

「ヌカ・コーラだ、美味いぞ?」

 

「ホントですかぁ?」

 

そう言いつつもスナネコはすぐにヌカ・コーラを受け取って、匂いを嗅ぎ始めた。カラカルほど入念ではなく、ちょっと嗅ぐとすぐに飲み始めた。

 

「ゴクッ、ゴクッ…、ぷはぁ!おいしーい!」

 

「へへ!だろ?それじゃあもっと…」

 

あっ、後ちょっとしかない。

 

「「「「……………」」」」

 

真ん中に置かれたヌカ・コーラを四人のフレンズが囲っている。

皆が互いを見張るかのように見つめていた。

 

なにか、どうにかする方法はないかな

 

『しかしタダでやるのももったいねぇな…。そうだデスクロー!Rock-Scissors-Paperで俺に勝ったらくれてやるよ!』

 

『おいおい、デスクローはPaperしか出せねぇんじゃねぇのか?』

 

『こいつは賢いから教えたらすぐ覚えるさ。よく見てろよ?』

 

『まずは手を出せ。そうそう、それで、これがRockそんでこれがScissors、最後にPaperだ。この三つで戦う。RockはScissorsに勝つ。ScissorsはPaperに勝つ。そんでPaperはRockに勝つんだ。手本を見せてやる。おいーーー、やるぞ。』

 

『仕方ねぇな、いくぞ。』

 

『Rock,Scissors,Paper,1・2・3!!』

 

『っと、まぁこんな感じだ。俺はScissorsでこいつはPaperだから俺の勝ちだ。いけるな?それじゃあいくぞ』

 

『Rock…Scissors…Paper…one,two,three!』

 

そうだ、これだ!

私はさっそくみんなにこれのやり方を教えた。

みんなも気に入ったようでさっそくやる事になった。

ヌカ・コーラを賭けて。

 

「「「「ろっく!しざー!ぺーぱー!わんつーすりー!」」」」

 

「おっ?これはボクの勝ちですね。」

 

「いや、私も勝ってるわ。」

 

「私も勝ってます。」

 

……………………。

 

「そ、そんなに気を落とさなくても私が勝ったら少し分けてあげるわよ。

 

「いや、いいんだ。それより勝者を決めよう!」

 

「そうね、それじゃあいくわよ!」

 

「「「ろっく!しざー!ぺーぱー!わんつーすりー!」」」

 

「やった…!私の勝ちです!」

 

センちゃんが笑顔になる。

最終的な勝者はセンちゃんになったようだ。

センちゃんはさっそくヌカ・コーラを飲み、気持ちよさそうにぷはぁと、息を吐いた。

 

この後もこの遊びが面白かったので何度もやったのだが私が勝てたのは一度だけだった……。

他の遊びをやりたかったけど何も思い出せなかったから出来なかった。

 

「悔しい!今度は絶対負けないからな!覚えとけ!」

 

スナネコの家に私たちの笑い声が響いた。



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※ストーリーには全く関係ないよ! 祝、アプリ版復活!かもー?

「ねぇねぇクロー!今日の夜に凄いことがあったそうよ!」

 

「ん?何があったんだ?」

 

「なんでもフェスティバルをやるんだとか!」

 

「フェスティバルか、よくわからんがそれはとっても良いことなんだろうな!」

 

「えぇ!きっとそうよ!」

 

「それじゃあ私たちもなんかお祝い事しようか!」

 

「そうね!私たちでもフェスティバルをやりましょう!」

 

「それじゃあさばんなちほー、じゃんぐるちほー、さばくちほー、へいげんちほー、あーもうめんどくさい!このジャパリパーク中にいるみんなで祝おう!」

 

そしてデスクローとカラカルは片っ端からみんなを一瞬で集めた!

 

「みんな!今日はお祝い事、フェスティバルをやろうと…」

 

「待つのです。それを言うのは我々の仕事、お前は引っ込んでろなのです。」

 

「おほんっ、今日は非常にめでたい日です。なので料理をありったけ作って祝うのです!さぁはやく!かばん!」

 

「ふ、ふぇー!?今からですかぁ!?」

 

「早くするのです!0時になるまでもう時間がないのです!(残り4分)」

 

「が、頑張ります!」

 

「私も手伝うよかばんちゃん!」

 

「よーし!クロー!私たちにもできることをするわよ!」

 

「それはなんだ?」

 

「戦いをして場を盛り上げるのよ!」

 

「それなら私が相手になろう!」

 

「ヘラジカ?よーっし!そう言うことなら戦おうか!」

 

「うむ!ゆくぞ!」

 

カキン!カキン!

 

「あっ!料理ができました!」

 

「よし!それではさっさとそれを全員に運ぶのです!」

 

「運んだよ!」

 

「それじゃあ…あぁ!乾杯する用の飲み物を用意してないのです!」

 

「博士!もう時間がありません!(1分もない。)」

 

「………ダメですね。今日中は諦めましょう(ここで0時を迎える。)」

 

「なぁなぁ、カラカル。私たちはさばくちほーを旅してたような…」

 

「え?そうだったかしら?」

 

「「うーん」」

 

「サーバルちゃん、なんかおかしくないかな?」

 

「言われてみればそうかも…うーん、博士!何か知らない?」

 

「わからないのです。まぁなんでもいいからさっさとフェスティバルをするですよ!」

 

「それもそうだね!細かいことはみんな気にしないで今日はみんなで遊んじゃおう!」

 

「わーい!ジャガー!このごはんとっても美味しいぞー!」

 

「そうだな、流石かばん!魔法みたい!」

 

「えへへ、それほどでも〜。」

 

「久しぶりねサーバル!」

 

「カラカル!久しぶり〜!」

 

「元気にしてたかしら?…いや、ドジしてたんでしょ。」

 

「もー!カラカルはいっつもそう言う!」

 

「「あはははははは!!」」

 

「アンタがかばんっていう子なんだろ?」

 

「はい!あなたはクローさん、でしたよね?」

 

「そうだ!お互い人を探す同士、よろしくな!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「うむ、みんなもっと楽しめー!」

 

「ヘラジカ〜、ちょっと腕相撲しよー!」

 

「よーし、ライオン、今度は負けないぞ!」

 

「ここに居ましたか、探しましたよ。」

 

「せ、センちゃん!?久しぶり!」

 

「よし!お前らそろそろ席につけです!いっせーのーでで祝いの言葉を言うのですよ?いっせーのーで!」

 

【フェスティバルおめでと〜!!!!!】















「んむぅ…ん?ここは、スナネコの家?さっきのは全部夢だったのか?」

「あら、起きたのね。随分と幸せそうな顔をしていたわよ。」

「そうか、いや、みんなでフェスティバルをしてる夢を見てたんだ。とっても楽しかったぞ!」

「ふーん、……その夢、ほんとに起きたらいいわね。」

「…………あぁ、きっと起きるさ!」


祝!アプリ版復活!かもー?



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第13話 たずねけもの、そして一時の別れ

一通り遊んでついにへいげんちほーに行くことにした。

私たちはスナネコの掘ってくれた穴からよくわからない場所に出た。

 

なんだろうこれは…地面が砂ではなく、硬い何かで出来ている。石?

 

「ふわぁ〜…眠くなってきました。ボクは寝ることにします。」

 

「あら、そうなの。またね、楽しかったわ!」

 

「えぇ、私も良い思い出を作れました。」

 

「また遊ぼうな!スナネコ!」

 

「はい、さよ…ふぁぁ…」

 

「ほらほら、もういいから寝なさい。」

 

「はい…」

 

そう言ってスナネコは目をこすりながら、家の方へ歩いて行った。

 

「それにしても、私も眠くなってきたわ…。」

 

「なんだ?ネコ科っつうのはみんなすぐ眠くなるのか?」

 

「夜行性なのよ…ちゃんと昼の間は寝ておきたいわ。」

 

「夜行性だったのか…悪かったな、無理させてたみたいで。」

 

「気にしないで、単純に私が昼寝を愛してるのもあるから。」

 

昼寝を愛する…そんなに気持ちの良いことなのだろうか。

 

「そろそろ進みましょう。夜になる前にここを出なければなりません。」

 

「ここまで来たらもう大丈夫じゃないか?」

 

「あの危険な場所ですよ?油断してたらどんな目に遭うか分かったものじゃありません。」

 

確かに、それもそうだ。

 

「そうだな、よしっ!行くかー!……どっちに?」

 

「こっちに行ってみましょう。」

 

私たちは薄暗いこの道を歩いて行く。

喋ればあたりに自分たちの声が響き、とても不気味だ。

いつの間にか無言で周りを常に警戒しながら進んでいた。

 

「………………?、あそこに誰かいませんか?」

 

センちゃんがそう言って前の方を指さす。

私はすぐに暗闇を凝視するが、何も見えない。

 

「うーん、何も見えん。」

 

「とりあえず進んでみましょうか。」

 

カラカルが先頭で私たちは歩いて行くが、特に何も見えてこなかった。

 

「ふぅ…たぶん気のせいだな!」

 

「すみません、……確かに何か見えた気がしたのですが。」

 

「そこまで言うならほんとに何かいたのかもしれないわね、気をつけて進むわよ!」

 

だな、とでも適当に返事して私はこの道の脇にあった四角い枠の前に立った。

 

『デスクロー、これは扉だ。おいこっちを見やがれ、どこを見てる。ほらこうやって開けるんだ。いいな?やってみろ。………そうだ。よく出来てるじゃないか、拠点内ではこうやって移動するように、間違ってもさっきみたいにドアを蹴り飛ばすなよ?いいな!」

 

これはドアというもので、確かこうやって開けるはず…

中には何があるだろう、分からないがヌカ・コーラがあったらなぁ…

ガチャリと音を立て私はドアを開ける。

さっそく中に入ろうとすると目の前に誰かが居た!

 

「ぎゃあああああああああああああああ!?!?!?」

 

「う、うわあああああああああああああ!!!!!!出たぞおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

なんだこいつ!

すぐに後ろに飛んで距離を取る!

って思ったが、あれどう見てもフレンズ…だよな?

 

「どうしたの!?クロー!」

 

「セルリアンですか?それならすぐに…」

 

臨戦態勢に入ったしまった二人、すぐに止めないと…!

 

「ち、違う違う。セルリアンかと思ったけどフレンズだったよ。ほら、あそこに隠れてるだろ?たぶんセンちゃんが見たっていうのもあいつさ。」

 

「な、なんだお前ら!?どうしてこれの開け方を知ってる!」

 

「どうしてって言われてもなぁ…思い出したからだ!」

 

「思い出した…?誰から聞いたんだ。」

 

「え?……私の仲間だったやつらにさ!」

 

「へー、まぁいい。とにかくここから早くどっかに行け!シッシッ!」

 

「そんなこと言わずに自己紹介しましょうよ?ね!私はカラカルよ。よろしくね!」

 

「センザンコウのセンちゃんです。よろしくお願いします。」

 

「私はデスクローのクローだ!よろしくな!」

 

「ツチノコだ……。」

 

「すっごい無愛想ね。」

 

「けっ、…それよりお前!今デスクローって言ったな?」

 

「そうだが、何か知ってるか?」

 

「ああ、詳しくは知らんがこの前拾った本に書いてあったはずだ。」

 

俺についての情報があるのか、だったら!

 

「頼む!その本を私にも見せてくれないか!?」

 

「おわぁ!?いきなり叫ぶなああ!」

 

「わ、悪い。で、教えてくれるか?」

 

「む、むぅ……いいだろう!ついてこい!」

 

「おぉ!ありがとな!」

 

「良かったわね、クロー。」

 

「………私はこのまま進みたいと思います。」

 

「そっか、友達に会いたいもんね。」

 

「はい、機会があれば、また会いましょう。……楽しかったです。」

 

「ええ、こっちも楽しかったわ!また会いましょう!」

 

「またな!センちゃん!友達に会えたらいいな!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

私たちとセンちゃんが離れていく。

また一歩一歩、それが分かっていく。

けどもう止まりはしない。

私には分かるから、また会えるって。

 

「……見つかるといいな、友達。」

 

「そうね。」

 

私たち二人は、ツチノコの後を付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














暗闇に足音が響く。
ジッとりとした雰囲気の中、軽やかな音が響く。

「……また会いましょう、クロー、カラカル。」

彼女もまた歩いていく、かつて別れた友に会うために。

いつしか、彼女の目の前には光がふわっと溢れていた。


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第14話 蘇った記憶の断片

「それでさ、その本にはどんなことが書いてあったんだ?」

 

目の前を歩くツチノコに聞いてみた。

とりあえず事前の情報は聞いておいたほうが良さそうだ。

私は文字が読めるかどうか分からんからな。

 

「恐らくあれは日記だと思う。読める人物名と思われるものはサーバル、ガイドさん、デスクロー、そしてカラカルだった。」

 

「私の名前が…?」

 

「ああ、他にもいるがな。それで内容についてだが…あれは恐らく“例の異変”についての物だ。」

 

「“例の異変”?なんだそれ」

 

「……おい、デスクロー。お前、フレンズが好きか?」

 

「何をいきなり…まぁ、好きさ。」

 

あれ、なんだろう、顔が熱くなってきた。

 

「だったら見るな。きっとお前が見たら酷いショックを受けるだろうからな。」

 

そう言うと突然ツチノコは踵を返して帰ろうとし始めた!な、なんでだ!?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!約束が違うぞ!」

 

「オレも“例の異変”について少しでも分かることがあるならお前に見せてやってもいいと思ってた。だが…オレは誰かが傷つく顔を見てまで何かを知りたいとは思わない。」

 

「……そんなに酷い内容なのか?」

 

「ああ、……あの日記を書いたやつは恐らく深い悲しみと絶望を味わったやつだ。たとえお前じゃなかったとしても、純粋な心を持つフレンズは見るべきじゃない。」

 

ツチノコはまっすぐこちらの目を見てそう言った。

 

……………………

 

それでも私は…

 

「それでも、私は見たい。自分が何者なのか、自分の記憶にいるあいつらを、もっと思い出したいんだ。」

 

「後悔するぞ?」

 

「頼む。」

 

「………カラカルって言ったな?お前はここに残ってろ。」

 

「え、そういうわけには…」

 

「私からも頼む、カラカル。」

 

「………胸騒ぎがするのよ。あんたがあの時みたいにおかしくなっちゃう気がして…、絶対あんたのままで戻ってくるならここで待つわ。」

 

「…わかった、ありがとう。」

 

私は再びツチノコの案内を受けた。今度はカラカル無しで、だ。

 

一体どんなことが書いてあるのだろう。

書いたやつはどれほどの苦しみを背負ったのだろう。

 

…それはもしかして、私が関係してるんじゃないか?

 

進んで行くたびに不安は積もる。しかしそんな時はカラカルとの楽しい思い出を思い出して、なんとか気を取り直した。

 

そして……

 

「ついたぞ、入れ。」

 

そこは廊下だった。右側には大きな穴が空いていて、その辺りには……確かコンピューターと言われたものが転がっている。机もひっくり返っていて、とても荒らされていた。

 

そしてツチノコは左側のドアを開けると私に先に入るよう促してきた。

 

私がドアの先に入ると、そこには整理された部屋があった。

 

「ここはオレの保管室だ。珍しいものは大体ここに集めてる。もちろん日記もな…。」

 

ツチノコは私に椅子に座れと言うとそのまま近くに置いてあった棚から一冊の本を持ってきた。

 

その本の表紙はハートなどが書いてあって、とても今の雰囲気には似合わなかった。

 

「ところで、文字は読めるのか?」

 

「試してみないと分からない。もしかしたら読めるように教えられていたのかもしれないし、戦いに文字はいらないって教えられてないかもしれない。」

 

「ま、読めないほうがいいさ。……ページをめくってみろ。」

 

私は目の前の机に置かれた日記帳をペラリと一枚めくった。

よく分からないうねうねしたものがある。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

『君かね?人間と共存出来ている唯一のデスクローというのは?』

 

『君の評価は君の隊長からよく聞いているよ。素晴らしい頭脳を持っているとね、さらには洗脳装置が無くても人間に協力するほど友好的だとか…。』

 

『更には言葉を理解している節もあるんだって?本当に君が戦闘用に造られた存在かどうか疑うよ。』

 

『さて、本題に入ろう。』

 

『私としては君のその頭脳をただただ戦闘のみに使うのは非常にもったい無いと思う。そこでだ、テストも兼ねて君に言語が分かる装置を作ってみた。その机に置かれてるのがそうだ。』

 

『……おい博士、ほんとにそれ大丈夫なのか?』

 

『いや全く、下手すれば死ぬ。」

 

『おい!なんて事させようとしてるんだ!今すぐやめ…』

 

『私は君に聞いてるんじゃない!今私の目の前にいる彼女に聞いているんだ!……いいか?これをつければ英語、現場の日本語、そして敵国である中国の言語を強制的に脳に理解させることが出来る。』

 

『人間であればまだ可能だが脳が小さい他の動物では間違いなく死ぬ。しかし君だけは別だ。』

 

『以前君の脳を調べさせてもらったよ。非常に発達している。人に近づくと言われているフレンズ化もしていないのにだ。』

 

『君ならば、可能かもしれない。もしこれが成功すれば君はもっと彼らに貢献できるだろう。』

 

『さて、わかるように言うぞ?死んでもいいからこの男の役に立ちたいなら冠れ。』

 

『……私は君に期待しているんだ。正直な話そこらへんの兵士より君の方がずっと役に立つ。もし言葉をもっと知り、複雑な命令も実行できるようになったなら君は正に無敵となるだろう。』

 

『中国に有効な打撃を与えたり情報を抜き取ったりしたならば君の仲間の全員が勲章を受け取り、合衆国に銅像が建てられるだろう。』

 

『これはチャンスだ。』

 

『博士、どうしてそこまでこいつにこだわるんですか?』

 

『分かっているだろう?こいつは今の状況で最も欲しい理想の兵士だからだよ。」

 

『あの山が噴火してサンドスターを撒き散らしたせいで核技術を使った物は全て停止。今では我々は何世代も前の装備でここにいる。死傷者は一気に増加。そこで上はこれ以上無駄に人を失いたくないとゴネた。そこで注目されたのがこのデスクローさ。』

 

『こいつはパワーアーマーには劣るがそれでも圧倒的な防御力と何もかも切り裂く爪を持っている。核技術を使っていないのにだ。』

 

『こいつに人間並みの頭脳をつけたら正に無敵の兵士の出来上がりって訳だ。』

 

『……そいつは建前だろ?』

 

『ご名答。流石だな?そうさ、こんなのは建前に過ぎない。私は気になるのだよ、デスクローの可能性が。』

 

『もしこれが成功したら我々はそのデータを元にデスクローの品種改良を行う。コストも低い、核を必要としない最強の兵士を量産するのさ。素晴らしいだろう?』

 

『こいつらがどこまで行けるのか見てみたい。だからこの計画に乗った。』

 

『……おい、こんな事はよせ。お前が死ぬんだぞ?俺はお前を失いたくはない。』

 

『……おや?どうやら冠るみたいだ、面白い。そこまで私の話を理解できていたのならきっと成功するだろう。』

 

『よし、では起動するぞ?……よく見ておけ、君の隊員が、これから合衆国に未来を与える兵士となるのだ。』

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

思い出した。これで、この日記も読めるはずだ。

 

ページを見てみるとこれが変なうねうねではなく、文字に見えた。日本語だ。

 

私はさっそく読み始めた。

 

 

 

 











〜サーバルの日記〜













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第15話 それでも好きで居てくれる人

遠くの方で足音が聞こえてくる。

終わったのか、そう思うと早く会いたくてうずうずする。

そして、ついにその姿を現した。

 

「……………………」

 

ツチノコだった。

 

「ツチノコ、クローは?」

 

「……………………」

 

ツチノコはただ黙って近づいてきた。

そしてその後ろにはクローがいた。……ひどく俯いた状態で。

 

「クロー!?どうしたのよ!」

 

「……言い訳はしない、オレは、お前の友達を壊しちまった。…………すまん。」

 

「壊したって…!?ねぇクロー!どうしたのよ!」

 

私が近づこうとするとクローは怯える目をして光の届かない方へ逃げようとした。

今ここで逃したら…胸騒ぎがして慌てて無理やり腕を掴んで止めた。

 

「クロー、どうしたのよ?」

 

「はなして…」

 

消え入りそうな声、この耳が無ければ聞き取れなかったぐらい小さな声。普段のクローからは想像もつかなかった。

本当に何があったの?

 

「イヤよ。」

 

「離してよ。」

 

「離さない。」

 

「離せ!」

 

途端に見えた。

薄暗いこの場所で綺麗な、しかし不気味な黄色い光が。

クローはいつの間にか出していたその爪で、私に向けて爪を振り下ろそうとする。

 

………………。

 

「なんで、なんでこうまでして離そうとしない?私はお前を切り捨てようとしてるんだぞ?この爪が見えないのか?」

 

「見えるわ。ハッキリとね。」

 

本当は体が震えそうだ。

でも抑えられる。だって、クローはきっとそんな事しないから。

 

「じゃあ、なんで…!」

 

「今更何言ってんのよ?………こんな事された程度で、私があんたから逃げるんだったら今頃ここまで来てないでさばんなちほーでゆっくり昼寝でもしてるわよ。」

 

「カラ、カル」

 

「それとも、私はその程度の存在って思われてたワケ?……私はあんたを信じてるから今もこうして突っ立ってられるのに。」

 

こうでも言っておけば折れるでしょう?

 

「カラカル、ごめん、ごめん…!」

 

「泣いちゃって、まったくあんたらしくないわね。……ゆっくりでいいから教えて、何があったの?」

 

目からどんどん涙が溢れていく、顔はとってもくしゃくしゃ、まるでサーバルみたいね。

 

しばらく頭を撫でて、少し冷えてきたこの場所から守るように抱きついてあっためる。

するとクローは少しずつ口を開き始めた。

 

「……私は、……あの男たちと一緒にこのパークを……壊したんだ。」

 

「壊した?」

 

「あぁ、っ、サンドスターで、私たちの武器や防具は全部動かなくなってて、いっぱい人が死んだから…、見えない敵に対応できて死なないようにするために森を焼いたんだ!」

 

「みんなの、住処を奪った!空からは飛行機がどんどん爆弾を落として地形が変わるまで爆撃した!」

 

「もう、パークなんて呼べる状態じゃなかった。破壊し尽くした大地にはもう木や川なんてなかった。きっと多くの動物達の命が失われた…。」

 

「遂に山頂に辿り着くと、四神というフレンズと、………セーバルと呼ばれていたサーバルに良く似たフレンズが犠牲になって、セルリウムは封印されたよ…」

 

「フレンズたちは怒ると思ってた、けどそれはしなかった。むしろ感謝をしてた。こんなことをした私たちに。」

 

「でも私たちは素直に喜べなかったんだ。知っていたんだ。私たちが帰路につく途中彼女たちは膝をついて倒れて泣いてたから…。」

 

「あの緑の髪をした人は、ガイドさんって呼ばれてた人は、サンドスターがすぐに直してくれると言ってたけど、その前にアレが始まったんだ。」

 

「それは私たちが合衆国に戻ろうとしていた時だ。突然連絡が入って来たんだ。なんだと聞いたら……核が落とされたって。」

 

「中国は、最後の攻撃に出たんだ。世界中にミサイルが落ちて、そしてそれはこのパークにも…っ!!うげぇっ!げほっげほっ!!」

 

クローは突然私から離れて吐いた。何度も何度も、

 

「ちょっとクロー!?しっかりして!大丈夫?」

 

「みんな…みんな死んだ!一瞬で炎に包まれて全て灰になったんだ!!!私は、私は…あの後も少しだけ生きていた。周りには焦げた肉の匂い、誰かもわからない真っ黒に焦げた体っ…ぐぅっ、」

 

「ついさっきまで!ついさっきまで生きてたやつが一瞬で消し飛んだんだ!!!チクショウ!チクショウ!命はこんな簡単に失われていいものかよ!?」

 

「うっ、うぅ…こんなの、私が言えたことじゃないんだ…。あの場所で、フレンズの笑顔を曇らせた私が言えることじゃないんだ…。」

 

「………どうだ?ここまで聞いたら、私のことなんて」

 

「やめてよ、そんなこと言うの。」

 

私はすぐにクローに抱きついた。小さく震えてまるで産まれたての子猫みたいだった。

 

……あの日を思い出す。母から産まれたあの日を、あの時、私はクローと同じように震えていた。そんな時母は私を毛づくろいしてくれた。ただそれだけだった、言葉も交わしてないけど、それで十分だった。

 

私はクローから流れる涙を舐める。何回も何回も。

 

「カラカル?なにを…」

 

「毛づくろいよ、落ち着くでしょ?」

 

「カラカル…」

 

涙の跡がなくなった後はそのまま壁際に連れて行って寝かせてあげる、そして頭を撫で続けた。

いつの間にかクローはすぅすぅと規則正しい寝息を立てて眠っていた。

 

「ん……私も眠くなってきたわね…」

 

「見張りはオレに任せてくれ、こうなった責任はオレにもあるからな。」

 

「ほんと?ありがとう。でも気にしなくていいわよ。クローが自分でやってこうなったんだから。」

 

「いや、そう言うわけには…」

 

もう聞こえなーい。

久々にゆっくり寝ましょう…。

 



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第16話 悪夢、そして添い寝

………ここはどこだ?
周りは真っ黒で何にも見えない。声を出しても消えていくだけだった。
そういえば私はトンネルの中に入ったのだったな、という事はここは…
その時、私の脳裏に映像が浮かぶ。
決して消せない戦争が生み出した深き傷の。

「あ、うわああああああ!?」

気づけばそこは炎の中だった。
地面は真っ黒になり、そこにあったはずの建物が無い。
何も無い。人の影も、太陽の光も、何もかも。

天には粉塵が舞い、ここには私の身を焦がす炎の光しかなかった。

「………………」

体に熱はない。
炎を熱いとは思わない。
体も動かない。いや、動かせないと言った方が正しいか?

……私の左足、右足の感覚がない。
何があったかはわからない。
見たくはない。見たらそこに何があるのかは既にわかっていたから。

「私の声が、聞こえますか…?」

声がした方に頭を向けようとして、やめた。
そっちに向ければ足の状態も見えてしまうから。

「聞こえているようですね、良かった。……一つ頼みがあります。貴方にこれを探して欲しいのです。」

その声の主は私の頭のすぐ近くまで来ていて、私の目の前に何かをぶら下げた。
それは錆びた銀色の輪っか、その中にガラス。そしてそのガラスには六つの光があった。

「これは本来あの方が持つべきもの。しかし……あの人はもう。っ、これがあれば、これさえあればまだなんとかなるはずです。セルリウムを犠牲無くして封印し、そしてこの世界を破滅から守る…!」

「外から来たあなたにこんな事を頼むのは最低な事だと分かっております。 しかし、もうこれしか方法が…、お願いします。強制はしません。これは願いです。」

「どうか、どうかこれを使って…………………」

「……………助けて、」

ドサリと、誰かが崩れ落ちる音がした。

後に声や足音が聞こえることはもう無く、パチパチと燃え盛る炎の音しか聞こえなかった。
私はただただ、この身を焼かれ続けた。






その時私は思った。

もし、もしこんな事が起きない世界だったら、いつまでも仲間と戦いのない世界を生き、この地を焼くような事が無ければ

戦争なんて、起こらなければいいのに…。

私の意識はそこで消えた。








誰かの声が聞こえる。

聞けばとても落ち着く声、頼りになる声、これは…

 

「か、ラカル…」

 

「目が覚めたのね、大丈夫?けっこううなされてたようだけど…。」

 

………………

 

「ごめん、全然無理。」

 

気がつけば涙は溢れていた。

まさかあの恐ろしい物をまた見るとは思っていなかった。

 

蘇る死への恐怖、脳が壊れてしまいそうな痛み、炎の中だというのに凍りつくような寒さ、誰一人としてそこで生きていた者が居ないという恐ろしさ。

 

怖い、どうしようもなく怖い。

息を吸うのが難しい、口はがくがくと音を立てる。

 

そんな時、暖かな感触を感じる。

おぼろげな視界の向こうに映るのはカラカルの姿。

 

「ほんと、世話が焼けるわね、あんたは。」

 

優しい声が聞こえてくる。

頭に手が置かれ、ゆっくりとそれは動き出す。

頭の痛みは引いた。

 

それでもまだ、震えは止まらない。

 

「……安心して、私は、私はここにいるから。」

 

全身に温もりを感じる。

抱きしめられる。

カラカルの心臓が動く音が聞こえる…。

 

恐怖、悪寒、孤独

全てが消えた。

 

震えは止まった。

 

……………………。

 

「もう大丈夫そうね。」

 

「ぁ、……」

 

「ほら、甘えてないで早く立ちなさい。いつものあんたはどこへ行ったのよ。」

 

それもそうか

 

立ち上がろうとすると、ある事が閃いた。

 

「………えいっ」

 

「え?」

 

ドサリ、音を立ててその場にカラカルを巻き込んで倒れた。

 

「これは…、どういうつもり?」

 

「すごく心地良かったからさ、その……、もう少しこのままで居てくれないか?」

 

顔が火がついたように熱くなる。喉がカラカラだ。

しばらくしていると、カラカルは不思議そうな顔を微笑みへと変えて

 

「まったく、ほんとうに甘えん坊さんね。もう十分寝たけどもうちょっと付き合ってあげるわ。」

 

カラカルが抱きついてきた。

今度は私からも抱きつく。

すぐそばにカラカルの顔がある。息をする音も耳元に。

更に顔は熱くなったが、しかし、安心できた。

 

私はもう一度眠りにつこうとする。

 

また悪夢を見たらどうしよう。

 

また痛みを感じたらどうしよう。

 

不安は重くのしかかるがカラカルがすぐそばにいる事でそれはすぐに消え去った。

 

……………そういえば、

 

あの女の声はなんだったんだろう…?

 

あの時見せられた物はなんだろう……?

 

助けてって言われても、どうすれば……?

 

 

 

 

でも、やらなきゃいけない。

誰かが助けを求めてるなら、助けなきゃいけない。

これは決して強制されて思ってるわけではない。

フレンズだから助けなきゃとかじゃない。

 

私の……、クローの意思だ。

 

 

自分の存在が強くなった気がする。

もう二度とあの悪夢を見ないような気がする。

 

やけに聞こえるようになった風の音をぼんやりと聞き

 

少し遠くなった気がするカラカルの温もりを感じて

 

 

 

意識を手放した。

 

 

 







「…………お前らまた寝るのか」

木の箱に腰を下ろしたツチノコは呆れたように首を振ると、そのままぼんやりと見張りを続けた。


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第17話 気を取り直して、レッツゴー!

さて、もう十分寝たし、精神状態も完璧だ!

 

「ふっかーーーつ!!!」

 

勢いよく叫ぶとカラカルは耳を押さえてこちらを睨む。

 

「ちょっと!いきなり叫ばないでよ!」

 

「あ、ごめん。」

 

「………本当にもう大丈夫なのか?」

 

「お、居たのか。」

 

「ずっと居たわこのヤロォォオォォ!!!」

 

ツチノコに少し冗談を言うとツチノコは怒った様子で大きな声でそう言った。

カラカルは物凄く不機嫌な様子で私を見ている。

 

「冗談だよ、冗談。」

 

「ったく。心配した身にもなれよな!」

 

「………本当はまだ罪ってやつを感じるんだ。」

 

カラカルとツチノコはやっぱりとでも言いたそうな顔で話を聞く姿勢を見せた。

 

「でも、だから私は償わなきゃいけない。誰かを傷つけた分、誰かを助ける。そう決めたんだ。」

 

本当のところ、理由はこれだけじゃない。

私にもフレンズのような精神があるのか…誰かが困っていたところを見たら助けられずには居られないと思っていた。

 

「それに、いつまでもへこたれてちゃ人なんて見つけられねぇしな!」

 

「……それについてなんだが。」

 

ツチノコが真剣な顔つきになり話し出す。

 

「お前の見ていた日記、アレにはまだ続きがあるんだ。」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、もう見せないが、恐らく“例の異変”の元凶を倒した後の話だ。」

 

「ということは!!」

 

「まだ何処かで生きてるかもな。」

 

「!、ありがとうツチノコ、その情報は嬉しい!」

 

「とは言っても、あまり期待はするな。本を見る限りかなり古くなっていた。今もまだ生きてるとは…」

 

「へへ、それで構わねぇさ、希望があるってだけで私は前に進める。」

 

「……そうか、まぁ、達者でな!」

 

「おうよ!あ、ツチノコ!こんなやつ見つけたら置いといてくれ!」

 

「ん?なんだそれ」

 

「知りたいか?仕方ねぇな…これの名はヌカ・コーラだ!めちゃくちゃ美味い飲み物さ!」

 

「ふーん、ま、気が向いたら置いといてやるよ。」

 

「おー!頼むぞー!じゃあな!」

 

「ありがとう、ツチノコ。おかげでぐっすり眠れたわ。」

 

「ふん!さっさと行け!」

 

「またなー!」

 

私とカラカルは歩き出す。が、カラカルが思い出したように立ち止まってツチノコに尋ねた。

 

「へいげんちほーってこっちであってる?」

 

「ん?………あってるぞー!」

 

「そう、ありがとう!」

 

カラカルはそう言うと手を振りながら振り返り、また歩き出した。

 

「センちゃんは友達を見つけたかな?」

 

「見つけてるでしょ、私達が寝てて一日は経ってる気がするから。」

 

い、一日もあそこで過ごしていたのか…

 

「……あのトンネルが安全で良かった。」

 

「トンネル…?ああ、さっきの場所ね。」

 

「そういえばカラカル、私を見て何か気づくことはないか?」

 

わくわく

 

「え?気づくところ?」

 

「そうそう、分かるだろ?」

 

そう言うとカラカルは私の姿を注意深く見てくる。

 

「………………」

 

「な?分かっただろ?」

 

「ごめんなさい、分からないわ。」

 

「………はぁ」

 

カラカルに気づいてもらえなかった…、ショックだ。

 

「そ、そこまで!?え、えーっと、……あ、毛皮のウロコがいつもより目立ってるような」

 

「そう!それだカラカル!気づいてくれるって信じてたよ!」

 

「あ、あははは…楽勝よ!」

 

良かった。カラカルに気づいてもらえなかったらどうしようかと…

 

…………あれ?なんで私はカラカルに気づいて欲しかったんだ?

 

気づいてもらえた時すごく嬉しかったが、なんで?

 

………………………?

 

「どうしたの?クロー。」

 

「いや、なんでもない。」

 

よく分からないが、まぁいいか。

 

「それはそうと大分明るくなってきたな、……ん?あれは」

 

「出口ね!行きましょう!」

 

私たちは走って行く。

光はどんとん眩しくなって、暗闇に慣れた目を強く刺激する。

そして…

 

「おー!青空だ!遂に出たんだ!」

 

「すーっ、変わってない良い空気ね」

 

出るとそこは青空、白い雲

足元には緑の生い茂った草、ここが…

 

「ようこそ、ここがへいげんちほーよ。」

 

ニコリと笑ってカラカルはそう言った。

 

そして、ここに来た私たちを歓迎するかのように心地よいそよ風がふわりと吹いた。



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第18話 大きな大きな湖に

「うーん、へいげんちほーに着いたのは良いけど、どこへ行けば良いのかわからんな。」

 

「そうね、私もこっちから来たのは初めてだからよくわからないわ。でも見て、けものみちが出来てるわ。この先に行けば何かあるかも」

 

「おぉ、ホントだ。よし!立ち止まってても仕方ないからこっちに進もう!」

 

それから私達は会話を挟みながら、明るく暖かい太陽の元を歩いていた。

そして十分くらい経った時、遠くにとても大きな湖を見た。

 

「カラカル!あれを!」

 

「ええ、とっても大きな湖ね。さばんなちほーとさばくちほーを合わせても敵わないかも」

 

「だな、あそこにもフレンズが居るかも、見に行ってみよう!」

 

「図書館の場所を知ってるかも知れないし、そろそろ水が飲みたいし、ちょうど良いわね!」

 

二人で少し早めに歩いてそれは大きな湖に着いた。

湖の中にはまた地面が見える。

 

「本当に大きいな…、とりあえず水をちょっと」

 

「あ、もしかしてカラカルさんですか?お久しぶりです!」

 

「フリシアン!久しぶりね、元気にしてたかしら?」

 

「もちろんです。…そこの方は?」

 

「あ、私の名前はクローだ。よろしくな!カラカルと二人で旅をしてたんだ。ちょっと前まで三人だったんだけど…」

 

「そうなのですか?」

 

「あ、そうそう、クローみたいに毛皮にウロコが着いたフレンズ見なかったかしら?」

 

「ん〜、この辺りでは見てないですね〜。」

 

「あら、どうやって探しましょうか…。」

 

「あ!そういえばもし喉が乾いてるんでしたら牛乳はどうですか?」

 

「ぎゅう…にゅう…?」

 

「ホント!?ありがとう!ちょうど喉が乾いてたのよ!」

 

「そうなんですか、はい、ど〜ぞ。」

 

フリシアンは微笑みながら透明な筒を取り出してそれをカラカルに渡した。

筒の中には白い液体が入ってあった。

それを受け取るとカラカルは美味しそうにそれを飲み始めた。

 

……ん?

 

「そういえばフリシアン、それの使い方を知っているのか?」

 

「はい、知ってますよ。博士に教えてもらったんです!……その代わり牛乳を毎日届けに来いと言われちゃいましたが。」

 

あははと笑うフリシアン。

博士…そんなに賢いのか。

 

…………もしかして、博士っていうのは人なんじゃないか?

 

「なぁ、カラカル。もしかして博士っていうのはフレンズじゃなくて人なんじゃないか?」

 

「え?全然違うと思うわよ?だって頭に羽がついてたし、飛んでたし、人っていうのはそんなこと出来ないんでしょ?」

 

「そうか…、うーん、フレンズの割には賢いような…」

 

いや、ツチノコもかなり知識があったし、なにもおかしくないか。

 

「悪い、気にしないでくれ。」

 

「……はい!」

 

私の手元に筒を差し出される。

 

「?、くれるのか?」

 

「はい!頭がスッキリしますよ?」

 

「そうなのか?それじゃあ、さっそく…」

 

ビンを受け取ってそのまま口元へ持っていく。

そして、ヌカ・コーラを飲んだ時と同じように一気にゴクリと飲んだ。

 

「……甘い!」

 

甘い、とっても甘く、そしてとてもいい匂いだ。

飲み込み、喉を通る度にゴクリと力強い音がなる。

美味しくてずっとそれを飲んでいたら…、気がつけばビンは空になっていた。

 

「ふふっ、気に入ってくれましたか?」

 

「ああ!最高だ!ヌカ・コーラ並みに美味いものがあるとは思わなかった!」

 

「ヌカ・コーラ?はなんのことか分かりませんけど喜んでもらえたなら嬉しいです!」

 

「ヌカ・コーラっていうのはね、シュワシュワする飲み物なのよ。牛乳とは全然違うけどとっても美味しいわよ」

 

「シュワシュワ…なんだか凄そうです。」

 

「そうだ!お礼に今度見つけたら渡しに行くよ!きっと気にいると思う!」

 

「わぁ〜、ありがとうございます!」

 

「ふふ、あ、そうだ。フリシアン、ここから図書館にはどこに進めばいいのか教えてくれる?」

 

「はい、えーっと、このまま道を辿って行けば図書館に行けるはずです。」

 

「ありがとう!それじゃあまた…」

 

「あっ!ちょっと待ってください!」

 

フリシアンが慌てた様子で私たちを止めてこう言った。

 

「このまま真っ直ぐ行けば確かに図書館に着きます。ただ、ちょっと危険でもあるんです。」

 

「「危険?」」

 

「はい。あの先にはヘラジカとライオンの二人のフレンズが居て、その人達がフレンズをまとめてるんです。」

 

「ええ、確かにそうね。…でもなにが危険なの?ライオンは前に会った時優しかったわよ?」

 

「それは合戦の時期ではなかったからなんです。」

 

合戦、戦いか…………

 

「なんだってフレンズ同士で争うんだ?」

 

「詳しい事はわかりません。ですが今はちょうど合戦の時期なのです。もしこの道を通るなら……、気をつけてくださいね。」

 

「……ああ、分かった。ありがとな!」

 

「はい!いつでもまた来てくださいね〜!」

 

それだけ話すと私たちは手を振り合いながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 




「なぁカラカル。さっきの話どう思う?」

「……合戦なんてものをやってるとは知らなかったわ。でも、なんのために争うのかしら。」

「「うーーーん。」」

「私にはとてもフレンズがそんな事するとは思えない。」

「私もそう思うわ。やる理由もないし。」

そこまで言うとカラカルはハッとした顔になり次の言葉を発した。

「あ、分かったかも。」

「ん?なにがだ?」

「きっと合戦っていうのは遊びなのよ!」

「………あぁ〜」

納得したようにクローは何度も頷いた。

「それならなんの心配もいらないな!」

「そうね!このまま真っ直ぐ行くとしましょう!」

二人はいつもの調子で歩き始めた。


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第19話 困ったら占い

「カラカルー、道を歩いても草原しかないぞー。」

 

「そうね、でも確実に前に進んでるから続けましょう。」

 

へいげんちほー歩き続けて30分。

木がいっぱい植わってたりして興味を持つものもあったがさっきからは何もない。いい加減飽きてきたな…

 

「あら?あれは…」

 

カラカルが何かを見つけたようだ。

カラカルと見ている場所を同じようにして見てみる。するとそこに人影が見えた。

 

「おーい!ダチョウ!私、カラカルよ!」

 

「…!、お久しぶりですねー!」

 

カラカルが手を振ってダチョウと呼びかけるとダチョウと呼ばれたフレンズは返事をして走って来た。……速い。

 

「ここでなにしてるんですか?」

 

「ちょっと旅をね、そこに居るクローと一緒に図書館まで行ってるのよ。」

 

「旅ですか…、懐かしいですね。あの時はサーバルさんと一緒に来てて、占いをしましたね。」

 

「っ!そ、その話はちょっと置いといて…」

 

「ほほーう?なんかいい話が聞けそうな…」

 

「な、なんでもないわよ!」

 

「あの時のカラカルさんはよくサーバルさんと遊んでいましてね、たまにサーバルさんがカラカルさんをからかい返したりと見ていてなかなか面白かったです。」

 

「ちょ、ちょっとー!」

 

「なるほど…カラカルはサーバルっていう親友と一緒によく遊んでいてそしてからかったりして遊んでたけど逆にからかわれたりしてた、て事?」

 

「そういう事です。」

 

「こらーっ!これ以上なにも言わないで!」

 

へへへ…カラカルをからかうのは楽しいなぁ…。

 

「あ、そうだ。占い頼んでもいい?」

 

「占い…?」

 

「私、占いが出来るんです。簡単に言えば未来を見ることが出来るんです。」

 

「な、なんだって!?」

 

なんてとんでもない能力なんだ…!未来を見ることが出来るなんて…!

 

「そうですね…お二人共何か占って欲しい事はありますか?」

 

「センちゃんっていうフレンズが居るんだけど、その子がどこに行ったか教えて欲しいのよ。」

 

「わかりました。それでは…」

 

ダチョウは卵の様な物を取り出してむむむむ…と何かをしている。

するとそれに共鳴するかの様に卵は金色に輝きだした!

 

「むむむっ!…見えましたよ。どうやらこの道をずっと進んだ先のお城に行ったようです。」

 

「お城…ライオンのところね、ありがとう!ダチョウ!」

 

「ふふっ、どういたしまして。」

 

「はいはい!次わたし!私を占ってくれ!」

 

「そうですね…なにを占って欲しいですか?」

 

「うーん、そうだなぁ…よしっ決めた!単純に私の未来を教えてくれ!」

 

「うーん、もう少し限定的にしてもらえませんか?例えば何日先、何ヶ月後、何年後という風に言ってもらえるとありがたいです。」

 

「ふむむむ、よくわからんからあんたが決めてくれ!」

 

「わかりました。ではさっそく…」

 

またもやダチョウはむむむ…と呟いて卵を光らせるそして…!

 

「むむむ…!?、………………これは」

 

「どうだ?何が見えたんだ!?」

 

未来、一体私は何をしているのだろう、楽しみだなぁ…

 

「これは…クローさんじゃない方が見えます。なんでしょうこれは…それにどうしてこんなに赤く…!?!?」

 

ダチョウはいきなり顔を真っ青にするとその場で座り込んでしまった。どうしたんだ?

 

「どうしたんだダチョウ?大丈夫か?」

 

「は、はい…。」

 

「はいって…どう見ても大丈夫じゃないわよ!」

 

カラカルが慌ててダチョウのそばに寄り添う。

ダチョウはすみませんと一言言うとカラカルの肩を借りて立ち上がった。少しふらっとしてビックリしたが、なんとか大丈夫そうだ。

 

「ビックリした…、それで、何が見えたんだ…?」

 

「………ふふっ、私が占ったのは3年後のクローさんの姿です。元気にカラカルさんと遊んでいるクローさんの姿が見えましたよ。」

 

ダチョウはそう言うとニコリと笑った。

 

……三年後、私はその時もカラカルと一緒にいるのか!

嬉しい!胸の底から熱い何かがこみ上げてくるぐらいだ!

 

「ははは…やった!やったぞおおおおお!」

 

「何をそんなに喜んでるのよ…。」

 

カラカルが呆れた風に言うがそんなの関係ねぇ!私はこの喜びを形にするぞぉぉぉ!!!

 

「あっはははははははは!!!」

 

「ホントになんでそんなに喜んでるのよ…」

 

「カラカルと一緒に居るって分かって嬉しい!それだけさ!」

 

「何を言うかと思えば…まったく。」

 

左右に顔を振って呆れた仕草をするがその表情はいつもより柔らかい。カラカルも嬉しいのかな?

 

「ほら、いつまでも喜んでないで、早くセンちゃんを探しに行くわよ。」

 

「それもそうだな!よし!センちゃんにも教えてやろう!ほら、早く行こうカラカル!」

 

私は全力で走る。

この喜びを、誰かに伝えれずには、いられない!

 

 

 

 

 





「カラカルさん、話があります。」

「クローの事ね?」

「はい。」

ダチョウは真剣な表情となってカラカルのそばに寄る。
そして耳元で話し始めた。

「クローさんの未来、3日後の未来を見たんです。そしたら、クローさんではない方が映っていました。いや、かろうじてクローさんの面影が見られましたが…」

カラカルはその時思い出した。
クローが野生解放をした時、姿が変わり正気を失ってしまうことを。

「………なにがあったの?」

「カラカルさん、3日後の未来、なにが映っていたと思います?」

カラカルはよくわからないという顔をした。

「……血塗れだったのです。」

「……………え?」

「私が見たその人はなぜか真っ赤になっていました。黒に近い、赤。それが血だと気づいた時、私は体から力が抜けて…」

思い出したせいか、ダチョウはまたふらりとする。
カラカルはすぐにダチョウの体を支えた。

「カラカルさん。3日後、3日後は必ずクローさんと一緒に行動してください。なにがあるかわかりません。しかしそれはきっと大きな災いが関係している気がします…。」

「…えぇ、分かったわ。絶対クローに、クローに傷なんてつけさせない。」

「……ふふっ、大切に思っていらっしゃるのですね?」

「まぁね、あの娘はなんだかんだで可愛がり甲斐があるから。」

「そういうことにしてあげます。」

「ちょ、どういう意味よそれ。」

「なんでもありません。さぁ、クローさんが行ってしまいますよ?」

「あ、ったくあの娘ったら次は二人で元気な姿で会いにくるわ!」

「はい、ぜひ。」

ダチョウは疲れた表情でカラカルの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

「……思い立ったが吉日です。」

ダチョウは凄まじいスピードでカラカル達とは別の方向へ走って行った。


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第20話 再戦、セルリアン

「なぁ〜カラカル、へいげんちほーってフレンズが少ないのか?」

 

「え?そんなことはないけど」

 

「じゃあさ…」

 

私はただ穏やかな風が吹くだけの草原を見て言った。

 

「なんでこんなに歩いても誰も居ないんだ?」

 

「……合戦があるからじゃないかしら?」

 

「あー、なるほど。うーん!来るタイミングを間違えたぞ!」

 

このままじゃダチョウに会っただけでへいげんちほーが終わってしまうんじゃないか?

誰でもいいから姿を見せてくれー!

 

「?、今何か音が…っ!クロー!後ろ!」

 

「っ!」

 

カラカルの悲鳴のような声、そして背後から感じた何かを瞬時に読み取り、思いっきり前へ転がる!

 

途端、後ろの方で大きな音が地に響いた。

 

「セルリアンか!?野郎!」

 

すぐに体勢を立て直して体を回転させて、ソレと対峙した。

 

「んな!?これは…!」

 

そこに居たのはセルリアン。

しかしその色は紫色で、腕もなにもなかった。

ただあの目だけが私を見つめる。

 

「カラカル、こいつは私に任せてくれないか?」

 

「なに言ってんのよ、あんたまだ力が…」

 

「いや、あのトンネルで大体思い出した時、力が少し戻った気がするんだ。それを試してみたい。」

 

無機質な目は相変わらずこちらをジトりと見つめてくる。

そして、動き出した。

 

「っ、危なくなったらすぐに助けるわよ!」

 

「任せた!」

 

私はジッと身構える。

脚の筋肉が張ち切れんばかりに力を込める。

一回、また一回とヤツは小さく飛び跳ねて近づいてくる。

 

……あの時と同じトロい動きだ。

あの時はヤツを舐めてかかってまんまと返り討ちにあった。

だが、今回はそうはいかない!

 

『あいつらセルリアンには必ず弱点のコアがある。』

 

分かってるさ隊長。

いつもなら真っ直ぐ飛び込んでいるところを堪え、先ずはコアを探す。

表面には無し、となるとあの時と同じ…?

 

「クロー、基本的に石はセルリアンの頭の上にあるわ。」

 

頭の上、見つけた!

 

「、おう、分かった。」

 

さて、あそこにどうやって攻撃するか、カラカルならあの高いジャンプであっという間に頭上をとって倒すんだろうな。

 

「クロー!危ない!」

 

「ぅお!?」

 

慌ててバックステップして回避、危なかった。どうやらヤツ気付かないうちに近づいていたみたいだ。

まったく、考えすぎるのも考えもんだな。

 

………こんなの、私のやり方には合わない!

 

バックステップして脚が再び地に着いた瞬間、私は一気にヤツに飛び込む!そして蹴りを入れる!

グニャリと音を立てて足がヤツの体内に入る。あの時と同じ、だがみすみす食われるようなマネはしねぇ!

 

「もう一発!持ってけこの野郎!!」

 

私は勢いを止める事なく、脚が入り込んだのをいい事にそれを支えに飛び蹴りする…!!

やはりその蹴りもヤツの体には通用しない。

まためり込んでしまった。だがまだ終わっちゃいない!

 

「手も持ってけ!」

 

右の手の全力の力でヤツをぶん殴る。

グニャリとまた入っていく、またか

ならば今度は左を!

 

ん…?この体勢、ヤツの上に登れるんじゃないか?

上手い事いい位置に入った脚と手を使えば、このままヤツの上によじ登れる…!ならば!

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

脚、手、体、筋肉!何もかもを使ってヤツをよじ登る!

このまま、イケる!

脚と手を引き抜く!……いや、引き抜けない!

 

「く、くそぉ!」

 

ヤツは体を震わせてまた飛び跳ね出す!

体がグラグラ揺らされて振り落とされそうだ!だが、離してたまるか!

更に脚と手をヤツの体内へ入れる、左の手も入れて振り落とされないようにする…!

どんどん飛び跳ねる勢いが大きくなる、しかし!私は離れない!

 

「クロー!その力を使って上へ!」

 

力を使って…?

……っ!そうか!この飛び跳ねる力を利用すれば!

 

「今度こそ!」

 

ヤツの体が着地し、大きく縮む、そしてその勢いを和らげる事なくまた膨らみ出し…!

ジャンプした!

そして私は一気に手と脚を引き抜こうとする!

今度は引き抜けないなんて事は無く、ズルリと抜けて大空へ高くへ放り投げられた。

ヤツの体が少し小さく見えて、そしてコアが良く見える!

 

「終わりだあああああああああ!!!」

 

私はそのまま落下に身を任せ、拳をヤツのコアに叩きつける!

ガキリと、ガラスが割れるような鈍い音が響く!そして…

 

パッカーン!

 

そんな音を立て、セルリアンは粉砕された。

やった!私は倒したんだ!遂に、遂に…

 

「ぐべっ!?」

 

ッ………!!、、!!!!

 

「ちょっ!?顔から思いっきり落ちたわよ!?大丈夫!?」

 

「ぅ、うぅぅ…」

 

あはは…しまらねぇなぁ、でも、これで確信できた。

私は強くなってる。力が以前よりかなり出るようになっていた。

前の私ならあんな事出来なかっただろう。

あと試してみたいのはウロコの硬さだが…それはまた後にしよう。

 

「ふへへ、カラカルゥ…どう、だった?」

 

「………はぁ」

 

カラカルは心配そうな顔をやめてまた呆れた顔をする。

そして

 

「上出来よ。」

 

笑顔で真っ直ぐ、私に手を差し伸べた。

……ほんと、カラカルには助けられてばかりだよ。

 

「そっか。」

 

私はその手を掴んだ。



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第21話 ネコの不思議は尽きる事なく

「なぁあんたホンマ凄いやっちゃな?さっきのセルリアン退治を見てビックリしたわ!」

 

「……えぇっと?」

 

誰だ、この人

 

「ヒョウ!どうしてここに?サバンナに居るものだと思ってたわ。」

 

「お、カラカルか!探しても全然おらんと思ったらこんなとこにおったんやな、探したでー」

 

「紹介するわ、彼女はヒョウっていうネコ科の動物よ。」

 

「よろしゅうなー!あんたの名前はなんちゅうんや?」

 

「え?、く、クローだ、よろしく…」

 

こ、この喋り方は一体なんだ…?

かなり分かりづらいぞ。

 

「面白い喋り方してるんだな?」

 

「せや、よう言われるわ、ところでカラカルはなんでへいげんちほーにおるんや?サーバル探しとったで」

 

「今はクローに着いて行って旅をしてるのよ。」

 

「へぇー、旅ね…どんな目標があるんや?」

 

「私は人っていう奴を探してるんだ。それでついでに記憶を思い出していってるって感じだ。」

 

「記憶を思い出す…?も、もしかしてあんた記憶喪失なんかーっ!?」

 

「凄い反応だな…、まぁそうだが、なにかあったのか?」

 

「いや、別になんも。」

 

……その反応のデカさはなんだ!?

 

「ちょ、調子が狂う…」

 

「ところでヒョウ、どうしてここまで?」

 

「お、そういや言うの忘れとったな。」

 

ヒョウはまばゆい笑顔を少し和らげると次の言葉を紡ぐ

 

「ここには噂の合戦ちゅうもんを見に来たんや、どんなもんか一目見たくてなー!」

 

「へぇ、そのためにわざわざここまで来たんだ。」

 

「理由はもう一つあるで、サーバルがな、カラカルどこいったー言うて寂しがっとったで?旅をするのもええけどさすがに一言言うとかな。」

 

「……そうね、あの娘には悪いことをしちゃったわね。」

 

「ま、ウチがいろいろ言うてとりあえず寂しさを紛らわしといたけど近いうちに会いに行ったりや?」

 

「ええ!もちろんよ!」

 

「……ところでなんやけどな?カラカル。」

 

「ん?どうしたの?」

 

「………クロヒョウ見てないか?」

 

「クロヒョウ?見てないわ、はぐれたの?」

 

「せやねん、ホンマどこ行ってもうたんやろか。」

 

「探すのを手伝おうか?急ぎの旅でもないしな。」

 

「お!ホンマか!?」

 

「ああ、わたしも、その、フレンズだからさ、困ってるヤツは助けたいんだ」

 

「おおおーっ!おおきに!ホンマおおきにな!クロー!」

 

「お、おおきに…?」

 

「ありがとうって意味よ、クロー。」

 

本当になんだこの喋り方は…

 

「ほな…、どないやって探そ?」

 

「うーん、そうねぇ…この道を歩いていきましょう」

 

そこには石で舗装された道があった。

気づかなかったな…

 

「わかった!そんじゃ行こか!」

 

ヒョウは先頭に立って歩き始めた。

 

「……カラカル、ネコ科って変だと思う。」

 

「え゛」

 

カラカルがガチーンと音を立てそうなぐらいぴっしり固まった。

 

「へへっ、嘘さ。フレンズはみんなそんなもんだろう?」

 

確かにヒョウは喋り方がよく分からないがそれだけだ。もっと変なフレンズなんかそこらじゅうに居るし、むしろこれは変ではなく普通なのかも知れない。いや、普通と言ってもダメだ。ここは…

 

「ほんと、個性豊かなヤツばっかりで楽しいな!」

 

「……ふふ、そう。それは良かったわ。」

 

カラカルは嬉しそうな顔でそう言った。



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第22話 逃走劇!

「うぅ、もー!どこ行ったんよヒョウ〜!」

「ウチだけやったら怖いわ…合戦ちゅうのもいつ始まるか分からんし、周り誰もおらへんし…」

「はよ見つけな…」

クロヒョウは少し顔に冷や汗をかいて、慌てて探し出そうとしたところ、声をかけてくる人物がいた。

「あら?そこで何をしているんですの?」

「え?妹探しとるんよ。ヒョウっていうんやけどなんか知らへん?」

「残念ながら知りませんわ…それにもうこの辺りにフレンズはいないと思いますわ。」

「そか…、そういやあんた名前はなんていうんや?」

「わたくしはシロサイと申しますわ!」

「し、シロサイ!?へ、ヘラジカ軍やんか!……あーえと、用事思い出したからちょっとはよ帰らせてもらうわ。ほな!」

「ちょっと待ってくださいですの!…正直貴方はそれなりに怪しいですわ。我々の拠点の近くで、この辺りをしきりに歩き続けて、人探しをしているならもっと別のところも探しますわよね?」

「(げ…、見られてたんか。ただ、不安から目逸らそう思て適当に歩いてただけやのにな…)あ、あははは。ほ、ホンマに探しとったんよ?妹を」

「どんな事情があるかは分かりませんが時間を無駄にしているようなら問題はないでしょう。すみませんがここに居てください。……少なくともここで闘いをするよりは遥かにマシだと思いますわ。」

シロサイはその目を鋭くさせると武器である槍を構え、この場で静止するよう命じた。

「(あぁあぁあぁ…!ヒョウがどっか行くからこんなけったいな事になってもうたやんか!どうしよ…)……どうしても信じてくれん?」

「………………いや、一応少し信じてはいますがコレは合戦なので仕方がないですわ。大人しくここにいてくださいまし。」

シロサイは表情を和らげ、少し笑顔を作るとその槍を下段に下げた

(そしっ!これで隙ができたで!タイミング見て一気に走ろ。)

「……そういや合戦ってなんでやっとんの?」

「それはヘラジカ様があの城を欲しているからですわ。…本当はもっと別の理由があると思いますけど…」

シロサイはクスリと口に手を当てて少し笑うとそう言った。

「別の理由…?」

「ヘラジカ様は強いフレンズと戦うのが好きなのです。ですからヘラジカ様はただ単純に、あの城に居るライオン様と戦いたいんですわ。…あくまで予想ですけれど」

「へー、……ん?あそこにあんのなんや?」

クロヒョウはシロサイの背後の空に向けて指差す。

「え?」

シロサイは何があるのか確認するため後ろを向いた。
そして…

「……堪忍してなっ!ヒョウ探さなあかんねん!」

「あ!ちょっと!待つですの!」

こうして追いかけっこは始まった。








「おーい!クロヒョーウ!でてこーい!!!」

 

「叫んでも無駄だと思うわよ?辺りに隠れられそうなところもないし、目視する方が早いわよ。」

 

「それもそっか…、はぁ、クロヒョウおらな本調子でえへんなあ」

 

「やっぱり、姉妹だとそんなもんなのか?」

 

「せやな…と言ってもホンマの姉妹とちゃうんやけどな」

 

「えぇ!?」

 

「ははっ!嘘や嘘。心配せんともクロヒョウとは同じ母ちゃんから産まれとる。」

 

「……そっか、カラカルにも居るのか?」

 

「まぁね、母親がいなきゃここには居ないから。」

 

「………そうだな。」

 

「?」

 

やっぱり、そうだよな。

みんな母親は居るもんだよな。

って事は、私にも……いるよな?

 

………私の母親ってどんなヤツだったんだろう。

 

……………本当に居るのか?

 

「クロー?どうしたの?」

 

「ホンマやどうしたんや?えらい暗なっとるで?」

 

「え…?あ、いや、なんでもない。ははっ、なんでもないさ…」

 

なんだろう、まだ思い出してないことがある気がする。

それは私の母親に関する…そんな気がする。

 

……へっ、まったく、考えるのは苦手だっていうのに、すぐこうなる。シャキッとしろ!私。

 

「よしっ!行くか!ほらほら早く行くぞ!アンタの姉が待ってるだろ?」

 

「…ホンマにいけるんか?」

 

「大丈夫だ!ほら、早く」

 

私はズンズンと足を大きく動かす。

こうしたら、余計な事は考えれずにいられる。

 

「……ーい」

 

「あれ?今の声は…」

 

カラカルが耳をピクリと動かすとある方向を見た。

そこからは…

 

「た、助けてーっ!お、追ってきてるー!」

 

「クロヒョウ!やっと見つけたで!」

 

あのフレンズがクロヒョウか…それじゃあ背後にいるのは?

 

「お待ちなサーイ!」

 

「まてぇぇぇぇい!!!」

 

かなり疲れた様子で走る白い鎧を着たフレンズとめちゃくちゃ早いスピード走ってくるヤツがいる!なんだあれは!?

 

「クロヒョウ!どこいって…うわっ!ヘラジカやんけ!なんでヘラジカ軍の大将がここにおるんやー!?」

 

「そ、そんなん知らんよー!いつの間にか来とったんやーっ!」

 

「に、逃げろ逃げろぉぉ!!」

 

見ただけで分かる!アイツには勝てない!

 

「ちょ、ちょっと待ってや!クロヒョウが…」

 

「うっ…しかし…」

 

「うおぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」

 

………

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

っ…………………!

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

「ヒィィ!!!む、無理だーっ!」

 

「そ、そんな…!」

 

クロヒョウは息を切らして必死で走ってくるがもうじきヘラジカに追いつかれそうだ…!

 

「クロー、あんたがどうするかは分かってるわよ。」

 

カラカルはウィンクをして私を見た。

 

……あぁそうさ、やることなんて一つだ!

 

「戦うぞぉぉぉ!!!!」

 

久々に!戦いたくなってきたああああああ!!!

 

「い、いきなりどおしたんや!?」

 

「クローはさっきまであまりの気迫に怯えてたけど本当は戦い好きなのよ。」

 

「そうなんか…」

 

「えぇ、でもねクローやめときなさい。」

 

よしっ!突っ込むぞ!うおおおおおおお!!!!

 

「く、クロー!?ダメよ!怪我するわよ!!」

 

なんにも聞こえん!

 

途中でクロヒョウが通り過ぎる

 

「ちょっ!?ヘラジカ相手に正面から挑むなんて無茶やて!」

 

「そんなの知らねぇなぁ!!!」

 

「お?なかなか面白いやつが出てきたなぁ!よーしっ!来いっっ!!!」

 

「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」

 

 

 

 

 






「あーあ…だから無理やて言うたのに…。」

クロヒョウが見るところにはヘラジカが居た。
そして、クローは空から落ちてきた。

「く、クロー!?大丈夫!?」

「安心しろ!軽めにしといてやった。じきに目を覚ます。」

「そ、そうなの…、はぁ、どうしてこんなに興奮したのかしら…さすがにここまで冷静さを失うことなんて今までなかったのに。」

「うーん、暴れる時ってなんかあるか…?」

「ふーむ、私はなんにも気にせずに暴れるぞ!」

「確かに、暴れたら何も気にせえへんなるから何か無理やり忘れるためにやったりするけどな。」

「っ!」

カラカルは静かに倒れたクローを見る。

「なにか…あったの?」

心配気に見つめるカラカルの目は、その時はクローに届かなかった。


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第23話 約束

「む…んぅ?ここは…」

 

「お目覚めかしら?」

 

カラカルの顔が見える。

 

「私…なにを…、あぁ、突っ込んだんだったな。それじゃあここは…」

 

「やぁやぁ!私はヘラジカだ!お前の名はなんだ?」

 

突然大きな声が聞こえてそちらを向くとそこには私が突撃しに行ったフレンズが立っていた。

 

「いたた…クローだ、よろしくな。」

 

顔がやたらと痛い、なんだ?何が起きたんだ?

 

「しかし驚いたぞ!私を相手に突進してくるなんてお前ぐらいだ!ぜひ私の元にこないか?」

 

「え…?なんのはなしを、」

 

「クロー、ここにはライオンとヘラジカが居るって言ってたわよね?」

 

「あぁ、!そうかそうか!あんたは総司令官なのか!」

 

「そう、しれいかん…?よく分からんが私は大将をやっている!」

 

「なるほどなぁ…なぁ、そっちにセンちゃんっていうフレンズは居ないか?」

 

「センちゃん…?知らんな。」

 

「そうか…どうする?カラカル。私としてはこのままヘラジカの元で戦っても面白いと思うぞ?」

 

「……さっきみたいな危ないことがまた起きるのよ?」

 

「平気平気、大丈夫だよ。」

 

「っ、…………わかったわ。」

 

「よし、じゃああんたの元で戦うよ。ただしこの合戦が終わるまでだ。」

 

「よーしっ!よくぞ来た!それでは早速歓迎だ!シロサイ!行くぞ!」

 

「分かりましたわ。」

 

ヘラジカは嬉しそうな顔をして喜ぶとそのまま後ろを向いて歩き始めた。……ん?

 

「カラカル、ヒョウたちは?」

 

「別の場所に行って観戦するんだって。」

 

「なるほど。……センちゃん、どこに行ったんだろうなぁ、友達は見つけられたかな?」

 

「………分からないわ。」

 

「……なぁカラカル!歓迎、楽しみじゃないか?向こうにどんなヤツがいるのか気になるよな?」

 

「そうね。」

 

「へへっ、ジャパリまんもいっぱいあるかな?」

 

「たぶんあるでしょ。」

 

「うんうん、楽しみだ。」

 

「………………」

 

「………カラカル?」

 

「なに?」

 

「なんか、静かだな?」

 

「そうかしら。」

 

「ああ…だってカラカルは」

 

「おーい!もう少し早くこーい!」

 

「あ、おう!」

 

カラカルの様子がなんだかおかしいがまぁ気のせいだろう。

とりあえず私はヘラジカ達に追いつくために走り出した。

 

あれ?カラカルが付いて来てないような…

 

私が後ろを振り向くとそこにはカラカルが居た。

夕焼けの方を眺めてただ突っ立って居た。

 

「カラカル…、どうしたんだ?」

 

「……なんだか、初めてじゃない気がするの。」

 

「ずっと前にも、こんなことが…」

 

そして、カラカルの目から雫が落ちた。

 

「っ!カラカル!?大丈夫か?」

 

慌てて私はカラカルの側に駆け寄る。

いつかされたように、私はカラカルの背中を撫でた。

 

「うっ、っ、なんだか、私…」

 

「カラカル……」

 

「…ぃや、もう誰も、失いたくない…」

 

「どうしたんだ?カラカル。」

 

カラカルは涙をポロポロ流し、私に抱きついて来た。

突然の事で私は後ろに転びそうになったが、寸で抑える。

 

「いかないで、クロー。ずっと側にいて。」

 

「…………」

 

驚き、カラカルがこんなに弱々しい姿を見せるなんて初めてだった。

涙を流し、行かないでと言って私にしがみついて…こんなの、初めてだ。

私は……どうしていいか分からなかった。けど、なんとなく。抱きしめた。

 

「……なんとも言えないけどさ、うん。ずっと側にいるよ。」

 

「ほんと?」

 

「ホント。」

 

「……あの娘みたいに何処にもいかない?」

 

「あぁ、任せな。」

 

「…………ぁ」

 

途端にカラカルの体が重くなる。

またもや転びそうになったがなんとかして耐えて、カラカルの様子を見た。

寝息を立てていて、どうやら寝ているようだった。

 

「……ははっ、ほんと、猫って変。」

 

起こさないようにカラカルを持ちやすい体勢に変えると、私はヘラジカの後を追った。

 

………あの娘?

誰のことだろうか…

 

うおっ、と。

やはり考え事をしていると他の事に手が回らなくなってしまう。

カラカルも落としそうになったし、なにも考えずに行くか。

 

私は少し足を早くした。



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第24話 歓迎会!と思いきや…

「ここがヘラジカの拠点かー!」

 

「凄いだろう?あの石の綺麗な台で修業をするのだ!……まぁ、やっぱりあの城の方が凄いところもあるが…」

 

「へへっ、気にすんなよ、これに勝てばあそこもアンタのもんなんだしな。」

 

「確かに!ぃよーしっ!今度こそ!勝つぞーっ!」

 

「「「「おーーーーっ!!!」」」」

 

「まけないぞーっ!」

 

「「「「おーーーーっ!!!」」」」

 

「絶対に、勝つぞーっ!!!」

 

「「「「おーーーーっ!!!」」」」

 

「し、士気が高いんだな。」

 

「うむ!皆いつも元気だ!むろん、私もだがな!」

 

ヘラジカは腰に両手を当てて自慢げにそう言った。

後ろの方に大きな光があるような気もした。

 

なるほど、通りで隊長をやれてるものだ。

 

「さ!改めて名前を教えてくれ!」

 

「よぉし、私の名前はクロー!元の動物はデスクローって言うんだが知らないか?知らないよな。うん。趣味はジャパリまんとか美味いもんを食う事だ!よろしくな!」

 

そしてパチパチと鳴り響く多くの拍手。

 

「歓迎ですぅ!」

 

「とても強そうで頼れそうですわ!」

 

「やっほやほー!今後ともよろしく!」

 

「とても心強い仲間でござる!」

 

「ジーーーーッ」

 

……なんだろう、強烈な視線を感じるような?

 

「さて、それじゃあ…、カラカルー!そろそろ起きてくれー!」

 

「すぅ…はぁ……あなたのこまったかおは………ごこくちほーの………むにゃむにゃ……」

 

困ったなぁ…これじゃあカラカルの自己紹介が…

 

「そうだ!そこのフレンズには後で自己紹介してもらうとしてまずはクロー!彼女を紹介してくれないか?」

 

「あ、なるほど。わかった!」

 

私はカラカルに少し近づいてカラカルに注目を集める。

 

「今ぐっすり寝てるのがカラカルだ、普段はこんな人前で寝たりしないんだけど今日はなんかちょっと変になっててな、かなり強いから期待しててくれ!」

 

そして先ほどのように鳴り響く拍手、一言ずつの挨拶。それと強い二つの視線。

 

「あぁ、さっきからの視線はアンタだったのか。」

 

私はその内の一つの視線の持ち主を見つけ出すことに成功した。

 

「あ、ごめんなさい。気になることがあったらつい…」

 

「なぁんだ、怒ってるのかと思ってた。聞きたいことがあればなんでも聞いてくれ」

 

「それじゃあ…」

 

「あれ?ちょっと待ってくれ。さっきまで一つだったよな…?」

 

私が周りを見回すと暗がりに一人のフレンズが居るのが見えた。

 

「あそこに居るのは?」

 

「え?…っ、敵襲ですわ!」

 

「え、えぇ!?」

 

そこにいたフレンズはすぐにそこから飛び出して逃げて行ってしまった。

 

「くっ、今のは誰でしょうか…」

 

「すぐに捜索にあたりますぅ!」

 

ヘラジカ軍は急な出来事にも混乱せず、すぐに先ほどの影を追いかけた。

 

「……どうやら、歓迎会って空気じゃなさそうだな。」

 

二人残ったこの場所で、ぽつりと呟いた。



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第25話 月夜の元でフレンズ達は…

「どうだった?」

 

「いや、なんにも見つからんかった。しかし!たとえ見られていたとしても何も困る事は無い!明日も思いっきりたたかうぞーっ!」

 

ヘラジカのその一声で少し心配気味になっていたフレンズ達は明るさを取り戻し、一緒になって腕を上げ、叫んでいた。

 

「あ、相変わらずなんだな…」

 

「ぅるさいわね…なに?」

 

カラカルはパチっと目を見開くと目をこすりながらゆっくりと身体を起こす。座ったまま何度か頭をこすり、伸びをすると、眠たげな目を開けた。

 

「………あれ?クロー、この状況はなに?」

 

「ヘラジカ軍に入ったとこまでは覚えてるか?」

 

「あ、あぁ〜!私としたことがこんな…!」

 

いそいそと立ち上がったカラカルは毛皮をパンパンと払うと、ヘラジカ達の方を向いた。

 

「えーっと、とりあえず挨拶よね…」

 

カラカルは息を深く吸って、挨拶を始めた。

 

「私、カラカルよ。ネコ科で高いジャンプや足の速さには自信があるから必要になったら頼ってちょうだい。」

 

そして拍手が巻き起こり、よろしくー!と挨拶を交わし始めるフレンズ達。

……起きたばっかりなのにすごいなぁ

 

「よしっ!それではみなでジャパリまんを食べるとしよう!」

 

ヘラジカがそう言うと、私達は台の上で円を作って、ジャパリまんを取り出した。……私はカラカルから貰ったがな。

 

「未だにボスに会ったことがないんだ。」

 

「きっといつか会えるわよ。」

 

「ほんとか〜?」

 

「よし!今回だけとはいえ、新しい仲間だ!食べるぞー!」

 

おーっ!と声が響くとみんな一斉に食べ始めた。

私もすぐに食べ、そしてすぐに平らげた。

 

「うお!凄い速さだな!」

 

「まぁな!」

 

「私も負けてられませんわ!」

 

「ちょっとちょっと!私だって負けないよー!」

 

いつの間にか食事は早食い勝負となっていた。

そして、食事の時間は終わり、作戦会議へと話は進む。

 

「明日の合戦についてだが、いつも通り突撃あるのみだ!以上!」

 

「「……え?」」

 

え?何を言っているんだ?

 

「どうした?クロー。」

 

「いや、突撃だけって、それで本当に大丈夫なのか?」

 

「そうよ、さすがに突撃だけであのライオンに勝てるとは思えないわ。それに、城までだいぶ距離があるし…」

 

「うーむ、確かにそうだがこれ以外に何かできるか…?」

 

「ふむ。」

 

確かに。

 

「クロー、まずはみんなの特徴を知るのよ。そうすれば自ずとやり方は見えてくるはずよ。」

 

カラカルはウィンクをして私を見た。

期待されてる…!よし…

 

「それじゃあ、ヘラジカは何が得意だ?」

 

「私か?突撃だ!正面きっての戦いなら誰にも負けん!」

 

「なるほど、シロサイは?」

 

「私は武器を扱ったりできますわ。こんな風に」

 

そう言うとシロサイは立ち上がり、その槍をブンブンと振り回した。

ただ振り回すだけではなく、クルクルと槍だけを回したり、上に放り投げて受け止めたり、かなり扱い慣れているようだった。

 

「なるほど、それじゃあシロサイは前線だな。次はアンタだ。まずは名前を教えてくれるか?」

 

「あ、拙者は、パンサーカメレオンと申します…気軽にカメレオンとでも…」

 

「わかった。それじゃあカメレオンは何ができる?」

 

「よくぞ聞いてくれたでござる!拙者が出来るのはこれでござる!」

 

カメレオンは手を合わせると、…!?、き、消えた!?

 

「な!カメレオンが消えたぞ!?」

 

「拙者は姿を消すことが出来るでござる。だから潜入とか…」

 

おぉ!すごいすごい!他のやつは何が出来るんだ!?

 

「じゃあ次はあんただ!教えてくれ!」

「ちょ、まだ話は…」

 

「はいはーい!私の名前はオオアルマジロだよ!守りは得意らしいけど…出来れば攻撃したい!」

 

らしい…?何か引っかかるし、この名前って…

 

「あんた、確かセンちゃんが探してた…!」

 

「!?、し、知ってるの!?」

 

オオアルマジロはひどく驚いた様子で、一歩下がる。

 

「あ、あはははは…私の話は終わり!はい次々!」

 

そして、すぐに座って私から目を逸らした。

これは…

 

後で聞くか。

 

「じゃ、じゃあ次はアンタだな。さっきも話したな?」

 

コクリと頷くフレンズ。全体的に灰色で、目付きがとても悪い。

アレだけで人を殺せそうなぐらいだ。

 

「それじゃあ、教えてくれるか?」

 

「観察が得意だよ。」

 

ほう、偵察タイプって感じだろうか。

 

「じゃあ、最後にアンタ、頼む。」

 

「名前はアフリカタテガミヤマアラシですぅ!得意なことはこの針を使って背後からの攻撃も対応できることですぅ!」

 

なるほど…とりあえず、全員の特徴は聞けたかな…

 

………………………

 

………………………

 

………………ダメだ。何も思いつかん。

どうしよう、何をすればいいんだ?カラカルは聞けばわかるって言ってたけど、あぁ、カラカル、そんな期待の眼差しで私を見ないでくれ、みんなも!

 

どうしよう……

 

はっ!わかった!わかってしまったぞ!

 

「みんな、考えがまとまった。」

 

みんなの息を飲む音がする。

そして、私は声高らかに叫ぶ!

 

「突撃は日が昇る前にするべきなんだ!そうすれば連中が寝ているところを突ける!所謂夜襲だ!これだ!これで行けば必ず勝てる!!!」

 

「「「「「おおおおお!!!」」」」」

 

「え!?」

 

ふっふっふ、聞こえるか、この万雷の拍手を!

どうだ!カラカル!?

………なんかすごい微妙そうな顔してる。

 

「ちょっと、それはダ…」

 

「よぉぉし!!流石だクロー!お前を仲間にできてよかった!よし!明日は早いから今のうちに寝るぞ!」

 

「「「「おーーーーっ!!!」」」」

 

「ちょっと!?」

 

みんなササッと暗がりの中に消えていった。

恐らく自分の寝床に行ったのだろう。

ふぅ…

 

「どうだ?カラカル」

 

「バカッ!それだけで勝てるわけないじゃない!」

 

ガーーーン、えぇ、そんな、そこまでダメ?

 

「な、なんでだ!いいじゃないか夜襲!」

 

「はぁ…私が言って欲しかったのはそんなのじゃなかったんだけど…」

 

「うぅ…そんなにダメか…」

 

はぁ…、あれ?そういえば、

 

「カラカル、カラカルはオオアルマジロの事知ってたんだよな?なんで教えてくれなかったんだ。」

 

「私から言っても面白くないでしょ?」

 

「それだけ?」

 

「それだけよ」

 

「カラカルはやっぱりおかしい。」

 

「え…やっぱりそうなのかしら…」

 

「そうさ、…へへっ、ま、変わり者どおし、いいじゃん。」

 

「むぅ…ふふっ、」

 

「ははっ、」

 

「「あははははは、はははは、」」

 

ほんと、なんで笑っちゃうのかな?

 

「それにしても、オオアルマジロのあの反応、気になるな…」

 

「そうね、何かあったのかもしれないわね。」

 

「うーん、考えても仕方がない。明日に備えて今日はもう寝よっか。」

 

「そうね。」

 

私たちは壁の角の隅っこの方に行くと、そこで座った。

 

「でも、夜行性だからそう簡単に眠れるものじゃないのよね」

 

「あ、そっか、……どうやったら眠れる?」

 

「そうね…暗くて、狭くて、周りが囲まれてて」

 

「誰かがあっためてくれたら寝やすいかしら。」

 

えっ

それって…

心臓が急に動き出したような気がする。

うるさくてカラカルに聞こえないか心配だ。どうしよう…どうしよう!

あぁ…顔まで赤くなってきやがった!

 

私は胸を片手で抑えながらカラカルの方を見てみると、トンっと、デコを押された。

 

「うっそぴょーん!騙されたかしら?そんなにメンドくさくないから安心して大丈夫よ」

 

ふっふーんと、得意げになるカラカル。

 

……………そうか、からかいやがったな!?

 

「ほんとは隠れられてさえいればどこでも寝れるわ。寒くても多少は…それにしてもどうしてそんなに赤くなってるの?」

 

カラカルは小首を傾げ、こちらを見つめてくる。

 

くぅっ、わざとだろ!絶対!

 

「お、おぉ覚えとけ!絶対にやり返してやる!」

 

「あ、怒った?ごめんごめん。」

 

「ふんっ!さぁ、さっさと寝るぞ!」

 

まったく!絶対にからかい返してやるからな!覚えとけ!

 

…………とはいえ、やはり抱きつきながら寝たかったのもあるなぁ

 

「……ねぇ、まだ起きてる?」

 

「なんだ」

 

「私、なんであの時寝てたのか分からないのよ、教えてくれないかしら?」

 

そして、私の頭に映像が浮かび上がる。

カラカルの涙。しゃくりあげるような声。私に、そばに居てと言った事。………もう見たくはない光景だ。

 

だから私は…

 

「なんにもなかったさ。眠かったんじゃないか?」

 

「それだと納得いかないのよね、あのトンネル?で長い間寝てたし…」

 

「とにかく、私は知らん。」

 

「そう…」

 

チッ、気分が悪い。

なんだってあんな事思い出さなきゃいけないんだ。

あのカラカルの姿は、とっても寂しそうで、悲しそうで、見てたらこっちも悲しくなって…!

 

あぁもう!頭から離れん!

 

「カラカル!」

 

「うひゃ!?と、突然なによ?」

 

「抱きつかせてくれ。」

 

「………また何かあったの?」

 

「ちょっとな、そのだ、…甘えてもいいか?」

 

「クロー…いつでも相談に乗るわよ?」

 

悪いな、これはカラカルに話せるような事じゃない。

 

「そん時は頼む。」

 

「………さ、おいで?」

 

振り返るとそこには手を広げて微笑んでるカラカルの姿。

 

私は遠慮なく飛び込んだ。

 

「………おやすみ、クロー。」

 

「おやすみ、カラカル。」

 

カラカルに抱きついていると、やっぱり落ち着く。

恥ずかしいけど、それ以上の安らぎが流れ込んでくる。

私は、これに病みつきになってしまったのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 






「ライオン様。奴らの様子を見てきました。」

「そうか、話せ。」

「はっ、奴らは新たな仲間を二人つけました。」

「ほう?誰と誰だ?」

「それが……」

「どうした?」

「………仲間の一人に、カラカルの姿を見たのです。」

「ほう…?カラカルが………もう一人は?」

「誰かは分かりません。しかし、あまり強そうには見えませんでした。武器を持ってませんでしたし、ウロコもありましたが薄そうで…」

「武器を持ってなくとも強いやつはいる。油断はするな。」

「はっ!失礼しました。」

「ふむ…よろしい、報告は以上だな?」

「はっ、その通りです。」

「では退がれ。」

「はっ!」

襖は開かれ、人影はその奥へ消えて、襖は再び閉じられた。

「…………ふわぁ〜〜、やっぱ疲れるぅ〜。」

ぐにゃりと体勢を崩したライオンは適当に爪とぎをしながら考える。

(しかしカラカルがヘラジカの方に…これは勝ってくれるかもね〜)

ライオンはようやく終わりの見えた合戦にご機嫌な様子であった。

月の光に満たされた部屋で、百獣の王はニヤリと微笑んだ。


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第26話 弱さ故の怒り

「………そろそろかしら」

月は既に隠れ、空は青みを帯びてきている。
夜が明けようとしていた。

「さて、ちょっと爪とぎでも、って…」

カラカルは起き上がろうとしたがクローに抱きつかれている事を思い出す。
クローはカラカルに顔を埋め、時折ギュッと力を強めたり、緩めたりを繰り返していた。

「……ほら、クロー。起きて、起きなさい。」

「……ん?」

クローは顔を上げ、とろんとした瞳でカラカルを見る。

「起きたわね、ほら、もうすぐ夜明けよ、みんなも起きてきてるし私たちも早く…」

「イヤ」

その一言でカラカルは言葉を詰まらせてしまう。

「もっと寝たい。もっと温めて」

「あぁ!ちょっと!起きないと夜襲が出来ないでしょ!」

「だって…」

「なに子供っぽい事言ってるのよ!早く起きて!さあさあ」

「むぅ…」

しぶしぶと言った様子でクローはカラカルから離れるとその場で座り、ボーッとして…

「………さっきのは忘れてくれ」

「…ふふ、簡単に忘れると思う?」

「くっ、そんなに私をからかおうとしたら後悔することになるぞ?」

「出来るもんならやってみなさい。」

「いつかその余裕を取っ払ってやる。」

クローは立ち上がった。










「皆、揃ったな?」

 

ヘラジカの側には七人の仲間達が立つ。

目は研ぎ澄まされた鋭さを持ち、今にも走り出さんとしている。

そして…

 

「征くぞ、突撃だ!!!」

 

おおおおおっ!!!叫び、走り出す。目標はライオンの城、ただ一つ!

今日は追い風、間違いなく勝利は我らの元にある!

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

大勢の仲間と共に走る、どこか懐かしい感覚がして、そしてとても楽しいものだ!

私も大きく声を出して走った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「来たか。」

 

しかし、ヘラジカ達が走る道の上には既に三人のフレンズが立っていた!

 

「随分と早いね」

 

「あぁ、連中は仲間を増やしている。だがそれはこちらも同じだ。怯まずいつも通り行くぞ。」

 

頑丈そうな太い角を持つフレンズ、オーロックスと呼ばれる彼女はチラリと隣のフレンズを見た。

そこには金色の髪を持ち、ウロコの帽子、スカートを履いたフレンズが居た。

名を、オオセンザンコウ。

 

彼女はなにも言わずに離れて行った彼女を追うためにここまで来た。

 

(なんとしてでもオルマーを見つけます…!)

 

へいげんちほーに居ると話を聞き、そして探すためにライオン軍に一時的に入ったセンザンコウ、そんな彼女を相手するのは…

 

「!?、クロー!敵がいるぞ!」

 

「ぷあああ!?お、オーロックスとアラビアオリックスでござる!」

 

「待ってくださいですの!もう一人いますわ!」

 

「構わん!突っ込め!我々はもう止まらない!一度動き出した時計の針の如く!決して止まらず、そして強大な力によって目の前を進むのだ!いくぞぉぉぉ!!!」

 

【おおおおおっ!!!!!】

 

私たちは一度崩れそうになったがそれを耐え、突撃を続ける!

決して止まらずに強引に突き進めば必ず道は拓ける!

 

「止まる気配、無いな。」

 

「あぁ、ま、いつものことだ。さっさと終わらせよう。」

 

「………っ!?あれは、オルマ!?」

 

「!?、センちゃん…!」

 

二人は想像し得なかった場所で再開し、嬉しさよりも困惑が押し寄せる。そして…

 

「!、アルマジロ!隊列を崩すな!」

 

「でも、センちゃんが…」

 

「なに!?」

 

一人が止まったことによりまた一人、一人と徐々に脱落者は増えていった。当然の話で、ここまで来るのにかなりの距離がある。

逆に今まで休まず走って来たのがおかしかったのだ。

 

「くぅっ!、残ったのは私とカラカル、ヘラジカだけか!」

 

「クロー!これ以上は無理よ!一度撤退を…」

 

「いかん!ここで撤退したところで何も変わらん!突撃だ!」

 

「ヘラジカ!無茶よ!」

 

「大丈夫だ、私たちならやれる!いくぞぉぉぉ!!!」

 

「あぁ、もう!」

 

「おっしゃああ!!突撃だあああああ!!!」

 

「クローまで一緒になって!」

 

「おい、センザンコウ。大丈夫か?」

 

「あ、はい。大丈夫です。戦えますが…」

 

センザンコウの目にはあの三人が映る。

かつて共に暮らしていたオルマー、共に旅をして友達になったカラカルとクロー。

センザンコウは戦うには精神に大きすぎる揺らぎがあった。

 

「仕方ねぇ、お前はここで休んでろ。あとは私たちでやる。」

 

「しかし…」

 

ぽんっと音を立てて頭に手を置かれたセンザンコウ。

オーロックスはニカリと笑い、前へ出た。

 

「大丈夫さ、別に本気で戦うわけじゃないしね。」

 

「…………」

 

「…ま、落ち着いたら来なよ。時には友達と戦ってみるってのもいいと思うよ。」

 

オーロックスに続き、アラビアオリックスも前へ歩き出した。

 

「おおおおおおおおおおおっ!!!」

 

「行けぇ!ヘラジカァ!!!カラカル、私たちも続くぞおおお!!!」

 

「はぁ、はぁ、ぐっ、さすがに…」

 

ヘラジカが二人のフレンズに向かって猛突進をする!

とても奴らでは防げまい!

 

そして、間も無くヘラジカは前へ吹っ飛んだ。

 

…………………え?

 

「え、ええええええ!?」

 

驚きのあまり足を止めてしまった!

しかし、何が起きた!?

 

「突進が強すぎるっていうのも考えもんだね?」

 

「こうやって足に槍を引っ掛ければすぐにこけちまうからな。」

 

目の前の頑丈そうな角をもったフレンズはクイっと槍を引っ掛けるような動作をした。

くっ…!作戦は失敗か!

 

「さ、あんたらの大将はこのザマだし、もう合戦は…」

 

「まだだ!まだ終わってない!我々は最後の一人が散るまで決して止まらない!行くぞカラカル!」

 

「私をしれっと巻き込まないでよ!」

 

まだ勝機はある!ここは攻撃をすべきだ!

 

「おい!?合戦はもう終わった…」

 

「やぁカラカル。元気かい?」

 

「ラビラビ!…何かようかしら?」

 

「おや、ツンツンしてるね。合戦はみんなピリピリするから困るよ。それで、ルルは元気かい?」

 

「ええ、毎日楽しそうに走ってるわ。」

 

「そうか…それは良かったよ。それじゃ、」

 

ブンブンと槍を振り回し、そして構えるアラビアオリックス。

その動きはとても洗練されており、歴戦の戦士を感じさせた。

 

「やるか。」

 

「はぁ…こうなった以上やるしかないか。」

 

カラカルも、手から光り輝く爪を出す。

そして、両者共に目を光らせ、激突した!

 

「あっちはもうやってるみたいだな。」

 

「そうだな、そんじゃ、やるか?」

 

「おう、黙らせなきゃ終わんねぇんだろ?」

 

目の前のフレンズは…って

 

「あー、すまん。先に名前を教えてくれるか?」

 

「ん?あぁ、俺の名前はオーロックス。覚えときな、今からお前を叩き潰すこの槍もな。」

 

随分な自信だな、いや、舐められてるのか?

どっちにしろ、ムカつく反応だ…!

 

「へっ、……怪我すんなよ?」

 

「こっちのセリフだ。」

 

私は木の棒を構え、一気に走り寄る!

 

「おらあぁぁぁ!!!」

 

パキンっ!そんな衝撃音を立てて二つの得物はぶつかり合う。

 

「ふっ!オラァッ!」

 

「………………」

 

ちっ!どんだけ殴りかかっても全部防がれちまう!このままじゃ…

 

「………あのよ、お前、降参しろ。」

 

「なにを!?」

 

「このまま続けたらお前大怪我するぞ。俺もそんな事はしたくない、やめだやめ。」

 

そして、奴は私に背を向けた。

……………

 

「おい」

 

「あ?」

 

「なんで私が大怪我するって思った?」

 

「簡単な話だ。お前は弱すぎる。その力だとセルリアンの相手もやっとだろ?」

 

「………私は、弱くない!」

 

ブチっと音がした気がする。

奴の表情は大きく変わり、それは驚愕だった。

 

「おまえ…ツノが!?」

 

「だからテメェはテメェの身を心配しやがれ。」

 

私は野生解放をした。






「ひゃあー、今回でやっと終わるかー、楽しみだなぁ」

ライオンはウキウキとヘラジカ達がこの部屋に来るのを待った。
もとよりライオンはゆっくりとのんびりしたい性格だ。
合戦のせいで他のフレンズの前では気を緩めることが出来ず、のんびり昼寝もできない今の現状に嫌気が差していた。

「ほんと、あのままじゃ絶対大きな怪我人が出そうだしー、仲が悪くなりそうだしー、嫌なことだらけだよ。あー、早く来ないかなー。」

ライオンは足をパタパタさせながら終わった後なにをするかをのんびり考えていた。


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第27話 猪突猛進

「これは…なにが起きてるんだ…?」

そこにはデスクローがいた。
目には正気の光がかろうじてあるが、ふっと風が吹けば消えるような炎を思わせるほど弱々しいものだった。
頭には無かったはずの鬼のようなツノが生え、手には幾たびもの敵を切り裂いた爪がある。
尻尾は恐ろしい大きさに、敵の骨を粉々に砕くハンマーとなり、服は全てウロコと化し、戦車の主砲すら弾く堅固なる要塞となる。
目は金色の光に輝き、見るもの全てを恐怖に陥れ、心臓を止めかねないほどの殺意を放つ。

そこに居たのは、あらゆるものを殺すためだけに生み出された悪魔だった。

「クロー!?もしかして、野生解放を…!」

そして、風が吹き始めた。







これは…

そうか、ワタシ ハ イマ デスクロー ニ…

ダメ、ダ。コノママ ノミこまれてたまるか!

 

いまの私になら、出来るはずだ。

この体を操って、野生解放を使いこなす!

 

そして、力を得て、それから、それから…

 

それから……なにをするんだっけ?

 

あ、ああ…あれ?おもい、だせないなぁ。

なんでこんなことしてるんだ?

どうしてわたしは自分のやりたいことをがまんしてるんだ?

なにかたいせつなりゆうがあるのかな?

でも、なんにもおもいだせないから、たぶんないんだろう。

 

だったら、やりたいことやっちゃおう

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「い、一体どうしたんだ…!?」

 

「ラビラビ!オーロックス!クローから離れて!」

 

カラカルは悲鳴のような叫び声をあげるが、オーロックスはその場を動こうとしなかった。

 

(まさか、あの時のクローみたいに…!)

 

恐怖で体が動かないのだと考えたカラカルはそんなオーロックスを助けるために足を踏み出そうとしたその瞬間、横から手が目の前に刺さる。

 

「っ!?なにするのよラビラビ!」

 

「君の方こそ、何をする気だい?」

 

「助けるのよ!」

 

カラカルがそう言うとアラビアオリックスはクスリと笑って言った。

 

「助けられるのは私達だよ、カラカル。ま、見ててよ、オーロックスは簡単に負けるようなやつじゃないから。それに、…ああいうヘラジカみたいなやつの相手は手馴れてる。」

 

「え…?」

 

オーロックスは微動だにしない。

槍を構えたまま全くうごない。

 

(……あれ?槍なんていつ構えてたっけ?)

 

次の瞬間、切り掛かった。それはクロー。

その長い爪を振り下ろし、目の前のオーロックスを縦に裂んと膨大なる脚力を以ってして飛び込んだ。

滑空するかのように飛んできたデスクローに対し、オーロックスはスライディングをした。

 

そして、デスクローが真上に来た瞬間にその槍を突き上げた。

いくら堅固なウロコを持っていて、痛みは感じなかったとしても、その突き上げられる浮力には逆らえない。

 

「ガァッ……!?」

 

デスクローは空中高く放り投げられ、落ちようとしている。

その大き過ぎる隙をオーロックスは見逃さず、すぐに立ち上がりデスクローを追い、地に落ちた瞬間を狙って体を一回転、そして槍を頭に振り下ろした。

凄まじい打撃音が長閑な平原に響く。

そして、場の空気は凍りついた。

 

「ちょ、ちょっと!?クロー!大丈夫!?」

 

カラカルは急いでクローのところへと駆け寄った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「うっ……ぐっ……」

 

くそ……、間抜けか私は!!!

痛っつ…なんつう事を…だが、これで頭は冷えた。

今なら、間違いなくできるはずだ。

何かに囚われない、私の野生解放が!

 

「はぁ、はぁ、」

 

「クロー!?大丈夫なの!?しっかりして!」

 

「へへへっ…私は今まで以上にしっかりしてるぜ。」

 

「何言ってんのよ!思いっきりフラフラしてるじゃない!」

 

「ククッ…ま、見てな。」

 

私は震える足をなんとか止め、無理やり立った。そして、オーロックスに近づく。

 

「オーロックス、さっきは悪かった。ごめん。」

 

「!?、な、なんで謝るんだ?合戦だろ?」

 

「え?」

 

あ、もしかしてオーロックスは私がさっきまで本気で殺そうとしてたことに気づいてないのか。

……

 

「オーロックス、もう一試合私とやってくれないか?」

 

「クロー!?ダメ、そんな事したらまた…!」

 

「大丈夫だカラカル。さっきはやらかしたが今度は大丈夫な気がする。信じてくれ。」

 

「ホントなんでしょうね…」

 

「いや、ダメだな。」

 

「え?」

 

「正直、今のお前に負ける気がしねぇ、そんな何にも考えずに突っ込んでくるようならな。」

 

「うぐ…」

 

相変わらず少し感に触るやつだな…

 

「それにお前、その体に慣れてないだろ?」

 

「……そうかもしれないな。」

 

「ああ、だからもっと経験を積んでまたこい。その時は戦ってやるよ。」

 

「……わかった。約束だ。」

 

「おう」

 

こうして私とオーロックスの戦いは呆気なく終わった。

しかし、合戦での闘いはまだ終わってない。

 

 

 

 

 

 




「オルマー、どうして何も言わずに行ってしまったのですか?理由を説明してください。」

「そ、それは……、ごめん、言えない。」

「……そう、ですか。ならば、強行手段をとらせてもらいます。」

「!?、センちゃん!?落ち着いて…」

「砕くっ!」

オオセンザンコウはオオアルマジロの前に躍り出てその尻尾を振るう、そしてオオアルマジロは…


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第28話 喧嘩

草原にまた一つ、何かを殴るような音が響いた。

 

「っ!?」

 

何があった?

私はすぐにその方向へ目を向ける。

そこには驚いた顔をしているセンちゃんと吹き飛ばされるオオアルマジロがいた。

 

「なっ!どうしたんだ!?」

 

返事はない。

その異様な空気に私たちは黙ってしまう。

そして、センちゃんはその口を少し開けた。

 

「……どうして、」

 

顔が俯いて見えない。

その声は震えていて肩はプルプルと震えている。

手はギュッと握り締められ、そして、勢い良く顔を上げて大声を出した。

 

「どうして防御をしなかったんですか!」

 

私は初めてセンちゃんが起こっていることに気づいた。

このままだとまずい。すぐに止めないと…

一歩前に踏み出して、肩に手を置かれた。

 

「よせ、あの子たちの戦いは誰も手を出しちゃダメだ。」

 

「何言ってんだ?止めなきゃマズいだろ!」

 

「クロー、キミは大切な人と大切な喧嘩をしてる時、他の誰かに割り込まれたいか?」

 

大切な人と大切な喧嘩だと?

…………

 

何が心に突っかかったのかは分からないが、私はその足を引っ込めてしまった。

 

「……そんなに、そんなに私の事が気に入らないんですか?そんなに私の事を……っ、忘れたいんですかっ!」

 

「センちゃん…?何を言って…」

 

「正直に言ってください。でなければ、もう手加減はしません。なぜ、あなたは私から離れた」

 

「……ごめんよ、やっぱり言えない。」

 

「なぜ言えないのですか」

 

「……………」

 

「…………そうですか。であれば方針は変わりません。」

 

センちゃんは身構えて、言い放った。

 

「強引にでも、口を割らせます。……覚悟してください。」

 

そして、地を蹴ってオオアルマジロに尻尾で殴りかかった。

 

「くっ…!」

 

咄嗟に腕についている防具で防御するのかと思えば、オオアルマジロは自分から飛び込んで行った。

 

「また…!」

 

センちゃんはその顔を大きく歪ませると遂にその尻尾を振り抜く。

攻撃しようとしていたオオアルマジロはその攻撃が届く事なく、ただ一方的に吹き飛ばされた。

 

「うわっ!!……ぐっ、まだまだ!」

 

しかし、先ほどとは違い今度は怯まずにセンちゃんへ突撃をかける。

予想外の展開だったのか、センちゃんは驚愕し、その体を固まらせてしまった。故に、それを回避することはできず、肩を掴まれてしまった。

 

「しまっ…!?」

 

「まだ終わってないよ!ほらほら!」

 

そのまま足を引っ掛け地面に倒そうとしたオオアルマジロだが、すぐに対応したセンちゃんによって再び吹き飛ばされた。

 

「………本当に、防御をしないで勝つつもりなんですね。私たちが二人で練習した防御を…」

 

「!、まさか、センちゃん…!違う!それは誤解だよセンちゃん!」

 

「何が誤解ですか、やはり、あなたは私が嫌いになったのですね。……どうして、どうして!!」

 

今まで激昂していたセンちゃんは、膝をつき、顔を手で押さえる。その隙間には涙の光がキラリと見えた。

 

「センちゃん!私は…」

 

「もう結構です…。どうせこれで終わりなら…」

 

センちゃんは涙を拭って顔を上げる。

その目は光っている。

野生解放だ!

 

「未練が残らないよう徹底的に潰します。」

 

「センちゃん!話を聞いてよ!私がセンちゃんを嫌いになるわけないじゃん!その、離れたのはちょっとした事情があって、とにかく嫌いになったわけじゃないってば!むしろ、好きだから離れたんだ!」

 

「出鱈目を!許しません!」

 

「本当なんだって!」

 

「問答無用!」

 

「うぅ……よし、こうなったら…!」

 

向かってくるセンちゃんにオオアルマジロは飛び込んだ。

 

「っ!?この!」

 

「てええええい!!!」

 

そして、センちゃんにそのまま抱きつくと地面に押し倒した。

 

「!、な、なにを…」

 

「これなら話ができる。さ、ちゃんと聞いてもらうよ。………秘密にしてたことも話すからさ。」

 

こうして、戦闘は中断された。



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第29話 いつもの二人。仲良しこよし

「え…、私を守りたかった、ですか」

 

とても驚いたのか、口を開けたまま目を見開くセンちゃん。

オオアルマジロは照れ臭そうに笑いながら話した。

 

「そう。あの時、大きいセルリアンに会った時私身を守ることしか出来なくて、その守りも完璧じゃなくて…戦いたかったんだ。センちゃんだけに任せたくなかったんだ。だって、…友達じゃん」

 

「オルマー…」

 

「だから正面切っての戦いなら負けないって言われてるヘラジカの元についたんだ。あ、ライオンも強いって聞いてたけど実際にヘラジカが突進してる姿を見ちゃったからさ、その迫力に飲まれて思わず付いて行っちゃったんだ。何も言わなくてゴメンね。」

 

「いえ、私も、早とちりしましたから、お互い様です。」

 

「そっか……じゃあさ、はい。」

 

オオアルマジロは立ち上がって手を差し伸べる。

その手は何時でも大切な親友を迎えられるように、しっかりと広げられていた。

 

「はい。…ありがとうございます。オルマー」

 

「いいさいいさ!……でも嬉しかったよ。」

 

「え?」

 

「だって、センちゃんがここまで私を追いかけてくれたんでしょ?私、とっても嬉しい。」

 

「!!」

 

オオアルマジロのその太陽の光の様な、力強くて、純粋な笑顔に、センちゃんは顔を逸らして、その顔を少し赤らめた。

 

ほほう……。

 

「そ、そうですか。それなら…よ、良かったです。」

 

「あれ?なんか顔が赤いよ?どうしたの?も、もしかして病気かな!?大変だよみんな!センちゃんが病気にーー」

 

「だ、黙ってください!…オルマー。その理由でここまで来たのなら、まだ帰って来る気は無いですね。」

 

「…うん、やっぱり、まだまだ強くなりたいから。」

 

「なら待ちます。だから必ず帰って来てください。良いですね?」

 

「うん!まっかせて!直ぐに強くなって会いに行くからさ!」

 

「うむ!!しっかりと鍛錬してやるからなオオアルマジロ!」

 

「へ、ヘラジカ様!?」

 

何時の間にか、復活していたヘラジカはがっしりとオオアルマジロの肩をつかみ、バンバン叩いた。

 

「あ、あはは…こんな感じで、とっても頼りになるからさ、きっと直ぐだよ!」

 

「……ええ、待ってます。オルマー。」

 

最後に握手。

ガッチリと結ばれた手と手は、離された後もまだ繋がってる様に思えた。

 

「今回も負けてしまったが、次は絶対に負けん!覚悟していろ!お前たち!!」

 

「へっ、何時でも相手になってやるよ」

 

「私たち二人に手こずってるようならダメだね。オオアルマジロ、次会うときは私たちを打ち破ってみせな。」

 

「当たり前だよ!次こそは必ず勝ってみせる!!」

 

そして、私たちは互いに手を振り合って、お互いの陣地へと帰って行った。

 

「センちゃん、この後どうするんだ?」

 

私は答えがわかっていながらも、尋ねた。

 

「自分の縄張りに帰ることにします。……ここまで本当にありがとうございます。短い間でしたけど、貴方達は大事な友達です。」

 

「へへっ、ありがとな。私も、一緒に居て楽しかったよ」

 

「そうね、砂漠の旅も、とても辛かったけど今となってはいい思い出だわ。またね、センちゃん。」

 

「はい、いずれまた会いましょう。では…」

 

そして、センちゃんも自分の住処へ歩いて行った。私たちは見えなくなるまで、手を振り続けた。

 

「良かったのか?何か言わなくて」

 

「別れの挨拶なんていらないさ、だって…」

 

オオアルマジロは今はもう姿が見えないセンちゃんが歩いて行った方を目を細めて眺め、言った。

 

「私たち、何時でも一緒だからね!!!」

 

自信にありふれた大きな声、その声はきっと、彼方にいるセンちゃんにも届いただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 









「なに!?勝ったのか!?」

「は、はぁ…なにかおかしな事でも?」

「いやだって…ゲフンゲフン。ヘラジカ軍にはカラカルが居たのだろう?この城にいる間、騒ぎは聞こえなかった。それはつまりまたお前達二人で倒したって事なのだろう?」

「そうなりますが…」

馬鹿な、カラカルが居たというのにまた何も考えずに突っ走って来たのか!?カラカルはかなり頭がいい奴だった筈だが…きっと何かあったのだろうそうに違いない。とはいえ…

「まだ続くのか…」

「「え?」」

「報告ご苦労、退がれ。」

「「は!」」

アラビアオリックス、オーロックスの二人は丁寧に襖を閉め、何処かへ行った。

「……のんびりしたいなぁ」

切実な願いは、部屋に虚しく響いた。


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第30話 終わらない戦い

「さて、と…合戦はもう終わったんだよな?それじゃあ私たちもこれで…」

 

「待て、クロー。」

 

旅の続きをしようとしたところ、ヘラジカに呼び止められてしまった。何の用だ?

 

「もしこれから先の戦い、挫けそうになったなら遠慮なく私たちを呼ぶんだぞ!いいな!」

 

「……まぁ一応頼らせてもらうよ、ありがとな!」

 

読んだところで声など届かないのだろうが

そうして私たちは手を振りあって別れた。

 

「それにしても、あんなに強く頭を殴られたのに平気なの?」

 

「え?あぁ、まぁな…」

 

「へぇー、野生解放が上手くできるようになったらパークで一番強くなれるんじゃない?」

 

「さぁ、他にも強いやつは幾らでも居るだろう…」

 

「………、なんか冷たい。」

 

「冷たい?別にそんな物があるとは思えないが…」

 

「そうじゃなくって、クローが」

 

「私が?」

 

「そう。何かあった?って、何かあったわね。」

 

…………、野生解放が何か影響を及ぼしたのか?しかし、一体何を?

わからないな。

とにかく、野生解放、もう使わない方がいいかもしれないな。

 

「まあ、その内元に戻るだろ、さぁ行こう」

 

「……………」

 

「まだ何かあるか?」

 

「いや……」

 

なら私は進む。

気になることも沢山あるしな…

 

「………あ、ねぇクロー。あそこにボスがいるわよ」

 

「そうか」

 

「素っ気ないわね…会いたがってなかったかしら?」

 

「かもな。」

 

私には、それよりも大事な用がある。

ふと、視界を上げれば空は木の葉によって隠されていた。

漏れ出た光が私の顔に射したが無視しよう。

 

「は、速いわクロー。もう少しゆっくり歩かない?」

 

「いや、だが…」

 

………少し自分を優先しすぎたな。ゆっくり歩くか。

 

「はぁ、はぁ、ホントにどうしちゃったの?いつもよりあんたらしくないわよ。」

 

「分からん、だがこの先の図書館には賢い奴が居るんだろ?そこで聞けば何か分かるだろ。」

 

「そうかも知れないけど…」

 

あぁ、なんだ、モヤモヤするな。面倒でもある。

とりあえず目の前にいる博士とやらに聞いてみよう。

 

「おい、なんだかおかしな気分なんだ、何か分からないか?」

 

「………お前、恐らくですがかいりを起こしているのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ついにここまでやってきた図書館で、私はその言葉を聞いた。

私たちの隣にはセルリアンハンターのヒグマたちが居る。

でもその顔は笑ってなかった。一体何が起きてるの?

 

「かい、り?何それ」

 

聞き慣れない言葉を聞いて、私は聞いてみた。

すると博士はこう答えた。

 

「かいりせいしょうがい。このクローというフレンズには恐らくそれが起きているのです。」

 

「非常に危険な状態なのですよ。」

 

「自分で自分をみうしなっているのです。」

 

「自分がわからなくなって居るのです。」

 

「「推測すれば」」

 

「そいつは造られた殺戮者である自分とフレンズである自分の二人がいるのです。」

 

「そ、それって…!」

 

「救いたければ」

 

「やまへいくのです。」

 

「許可なら既に出した。」

 

「救いたいだろう?いつまでも一緒にいたいだろう?山へ行けばそれは叶う。」

 

「永遠に」

「永遠に」

 

「っ、嫌!、誰!?いや、あんたは…」

 

「お前の親友も、仲間も」

 

「もう一度会いたいだろう?叶わない夢だとわかっていても…」

「しかし、叶う。あいつを、」

 

「クローを山へ連れて行けば叶うのです!」

 

「さぁ!早く行くのです!」

 

クローを、山へ?連れて行く?そうすれば、ずっと一緒に居られるの?サーバルも?■■■■も?■■■■■もみんなも!?…なら…

 

「カラカル?カラカル!」

 

「ぁ……なに?」

 

「なにって、どうしたんだよ、いきなり倒れたりして…」

 

「え…?」

 

周りを見てみればクロー達が心配そうに私を覗き込んでいた。

さっき図書館に行ったはずなのに…どうしてへいげんちほーに?

 

「なぁカラカル!大丈夫か?どこかしんどいところがあるのか?」

 

クローが心配そうに私の肩を持って揺らす。

………………。

 

「大丈夫。ごめん」

 

「………何かあったら言ってくれよ?」

 

「…分かったわ」

 

私はクローの目をまっすぐ見て約束した。

 

 

 

 

 

 










あと少し、悲願は叶う。
今度こそ


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