ルドラサウムはランス君がお気に入りのようです (ヌヌハラ・レタス)
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LP7年 9月前半

(ネタばれを回避するため)あらすじ

クルックーさんの影響を強くうけてしまったルドラサウムは、ランスにとってもご執心。
ヌヌハラ・キャベツと負けず劣らず、その後もランスの物語を追いかけ、そして、ランスが没するそのとき、ルドラサウムは。

「もっと強くなったランスが……あのころにいたらどうなるんだろうなぁ……くすくす……無双みたいなぁ……」

まだ、ランスの冒険が終わるには早すぎるようです。

――


LP7年 9月3日――(ランス)

巨大戦艦内部――

 

「あぁ?」

 

昨日は、俺様の100歳の誕生日で……ちょっとばかりはしゃぎすぎたか。

ベッドで寝たつもりだったが、ここは……

 

「どこだ? いや、見覚えがあるぞ。たしか……あの虫……ホルスのやつらの戦艦の中か?」

「お帰りなさい、四人とも。五か月ぶりね」

 

「おお、この可愛い子供は……ベゼルアイか! がはははは! 久しぶりだな。何年ぶりだ?」

「ランス君、まだ寝ぼけているのね」

 

寝ぼけてるだと? まぁ、この年だし……いや、なんだ?

俺様の身体。若返ってるぞ。どういうことだ。

 

「はぁ、ビックリしましたね、ランス様」

「――」

 

どくん、と心臓は跳ねた。

シィル。シィルじゃないか!

 

「がはははは!!!! なんだシィルか!!」

「わっ! ランス様、髪がぐちゃぐちゃになっちゃいます」

 

シィルが生きているぞ。とすると、ここは、夢の中なのか。

夢の中までちゃんとついてくるとは、やっとシィルもわかるようになってきたな。

おっと、いかんいかん。シィルは、俺様とずっと一緒であたりまえなのだ。はしゃぐのもおかしいぞ。がはははは。

 

しかし、目の前のシィルは、いろいろあって……一番強く記憶されているときの若い姿だな。いや、俺様もそうか。

これは、JAPANで香ちゃんに会ったころ、俺様が魔王のころ、魔物界との大戦のころ……。

 

「……っ」

「ランス様? どうしましたか?」

 

これは本当に夢なのか。

それとも、俺様は“あのとき”に戻ってきたってことか?

 

「戻ってきた、か。はぁ……心当たりがありすぎるぞ。クルックー、クエルプラン、セラクロラス……それから、ミラクルあたりも何するかわからんし」

「ランス君、大丈夫? あなたコールドスリープ装置で五か月も寝てたのよ。覚えてる?」

 

 

 

 

ベゼルアイ(幼)の説明を受け、今の俺様がどういった自体にあるのかわかった。

やはり、俺様は若返って、再びこの時間、この場所に帰ってきたようだ。

 

すべてなつかしいあの頃……というには、あまりにも苦いぞ。

二度と“あんな”格好悪いころなど思い出したくないのだが、リーザス、ヘルマン、ゼス……どこでも歴史の本を手に取れば載っている人類史になってしまった。

俺様にとっては、バードのクズにシィルを暗殺され、魔王の血に負け、はぁ……。

 

(――いや待てよ。“今回はまだ”そうなってないってことか)

 

「いててっ。おい、急に手に力がはいりすぎだ! どうした急に?」

「カオスか。うるさい。ちょっとだまっていろ」

 

思わず手に力が入ってしまった。いや、この力の漲り方は――。

 

「ふん、試してやるか」

 

 

 

 

LP7年 9月3日――(サテラ)

巨大戦艦内部――

 

(なんだ? どうしたというのだ)

 

サテラは、コールドスリープ装置から目を覚ましてから、あの男――。

そう、ランスから目が離せなくなっていた。やけにランスが大きく見えるのだ。

 

もともとランスは、見どころがあってこのサテラの使徒にしてもいいと思っていたのだが、今のランスは、まるで魔王を前にしたような威圧感があった。

 

それから、ランスは、コールドスリープ装置から異形の化け物ジャハルッカスを蘇らせた。なんのつもりかはわからない。呆れもしたが、それ以上に……言葉にできないくらい驚いた。

 

「ぐ、ぐぉ……こ、殺殺っ……っ…………」

 

「ふん。こんなものか」

「!! ジャハルッカスがあっけなく……ヌヌヌ」

 

一刀。ただの一撃のもと、ランスは、異形の化け物を殺してみせたのだ。

まぁ、ジャハルッカスは、サテラでも勝てる程度の相手だった。だが、人間では辛い相手になるだろうし、サテラでも一撃とはいかない。

 

しかし、ランスは渾身の一撃でもなんでもない、ただひとつの攻撃で打ち倒した。

ホルスの連中も、他の人間も声がでないようだった。

 

 

一拍を置いて、シィルと、女忍者(かなみ)が、ランスに駆け寄った。

ランスは、ひどく慣れた動きで二人をやさしく抱き寄せ、それから甘いキスをした。

思いがけないランスの振る舞いに、ふたりとも顔を真っ赤にしていた。忍者のほうなんかは、なぜか感極まって泣いていた。ふん、ちょろい女だ。

 

たしかに、サテラから見ても、今のランスはかっこいい。だから、ちょっとイラっとした。

ランスの胸に顔を埋めている女忍者の緩みきった顔が、なんかむかつく。

がははは、と笑う姿は、やっぱりランスだ。でも、今のランスは……なんなのだ。

 

サテラ達の驚きを他所に、ランスは、告げる。

 

「がはははは!! 最強の英雄である俺様を呼んだのだ! まだまだ冒険だーー!!」

 

 




――

ランス レベル1000
身長:体重 183cm/80kg(背が伸びた)

技能レベル
剣戦闘Lv3(自称5)
性技Lv2
冒険Lv2
???(その他にも?)

魔王を継承したがクエルプランに吸収させることで魔王の血から逃れることに成功した世界のランス。
しかし、その後も魔王の血に負けたことは、苦い記憶となっており、
自戒の念から魔王ランスのレベル800を超える1000に到達していた。
魔王になった影響から、後遺症のようなものが残っているようだが……?

※当設定は、ランスシリーズ特有のゆらぐ仕様です。気分により、変化するのであしからず。


どうせ執筆が続かない私に代わって、ランスのおもろい二次書いてください。
ランスが終わってしもて、ワシは、さびしゅーてさびしゅーて。


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LP7年 9月後半 準備(1)

巨大戦艦を出たランス一行を迎えたのは、世界最大の宗教集団であるAL教の騎士と、その法王たるクルックーであった。

それをランスは落ち着いた様子で迎え入れる。

 

膨大な数の魔軍侵攻により、人類滅亡の危機にあることを告げるクルックー。

無表情ながら珍しく緊張した様子のクルックーだったが、ランスは、やはりクルックーをやさしく抱き寄せた。一流の紳士、いや男の振る舞いであった。

 

「がははは! 大丈夫だ。全部、俺様に任せろ」

 

ランス達は、早うし車に乗って、長い距離を強行軍で突破し、自由都市にあるランス城へと急ぐ。

 

クルックーは、魔軍侵攻の詳細をランスにまだ話してはいなかった。

しかし、最短で自由都市に帰るための道中指揮は、なんとランスが取っていた。

ランスがどうしてそこまで意を汲んでくれたのか、クルックーは聞かなかった。なんとなく、ランスなら自分の想像のななめ上をいくことがあると思ったからだ。

 

さて、ランスの指揮は単純明瞭だった。早うし車が、もっとも速く走れる道を最速で進めていた。

未だ道の整備に遅れるヘルマンにおいては、ただ道を選ぶだけで敵と出会う危険性は跳ね上がった。実際、ヘルマン領土を侵略せんとする魔物将軍と3度も交戦になった。

しかし、いずれも時間をとったとはいえない。すべて、ランスが一撃のもとに殺してしまったからだ。

 

魔軍の侵攻は恐ろしい速度であったが、このランスの鮮やかな逆襲によって、侵攻は一時的に麻痺してしまい、半月以上は軍の再編に追われることとなった。

(この事実を後に知ったシーラの心情が、どんなであったかは想像に難くない)

のちに、このランスの功績は、少なくとも数万のヘルマン人を救っていたことがわかっている。

 

この時点においては、AL教の騎士テンプルナイトらは、世界の危機に際して、北の果てまでやってきた法王の行動に、不安がなかったわけではない。

だが、法王のこの行動が必要であったことを完全に理解することができたと言える。

 

この男こそが、“魔軍との戦いを決める人類の英雄”だと。

 

 

 

 

 

LP7年 9月後半――

City ランス城――

 

各国の代表は、(ランスが戻る以前に)ランス城に集まっていた。

機転を利かせたランスが、巨大戦艦から戻る道中、ヘルマンのフレイヤ率いる闇の翼との連絡をかなみに取らせていた。そこからコンピューターを使って、ランス城における各国合同の首脳会議の実施を募ったのだった。

 

コンピューターは、謎の多いテクノロジーであるが、その有用性から、ゼスをはじめとして自由都市、リーザス、最後にヘルマンにおいても僅かながら研究が進められていたのだった。

この後もコンピューターは、大戦において、情報の伝達という重要な役割を担うことになるが、その先駆けとなる通信は、ランスの一通の電文から始まったとされている。

 

ランスの先見の明に、各国の代表は(苦笑を伴った)さまざまな感情を抱いたが、先の時代を知る今のランスからすると、情報のやり取りを思念魔法で伝言したり、早うしを利用する時代の感覚をまだ取り戻せていなかったともいえる。今回は、功を奏したかたちであった。

(ただし、カラーの森にコンピューターは無かったため、カラー種は今回も欠席)

 

代表者による会議の場に参加していたのは、もちろんリーザス、ゼス、ヘルマン、自由都市、JAPANの主たる人物たちだ。その他にもランス城が小さく見えるほどに、諸国の大物の政治家、王、貴族が所狭しと集まった。

場には重々しい空気が立ち込めていた。肝心の会議が、うまく進んでいないためである。

 

「い、いい加減にしなさいよ! その話だと、リーザス以外は滅亡よ!」

「そんなの知らなーい。リアとリーザスは生き残れるもーん!」

 

リーザスのリアとゼスのマジックの意見が合わない。

(リアは、故あって挑発を繰り返していたのだが、マジックは全力でリアの挑発と討論していた)

 

自由都市は各都市ごとのリーダーになるため、意見の統一がさらに難しい。様子を伺っている。

JAPANの香姫とヘルマンのシーラは、なんとか大陸の各国と協調したいのだが、その一歩目が難しい。まだ、無傷でこの会議に挑むことができたJAPANはまだしも、ヘルマンはもっとも魔軍の侵攻が内部まで進んでいたため、現在の立ち位置も難しくなっていたのだ。

 

(どうすれば、この会議をよい方向に向かわせることができるのでしょうか)

 

シーラの補佐で会議に望んでいたクリームは、懸命に、魔軍との大戦に挑む道筋を見出さんとしていた。

大統領は歴の浅さから政治的な手腕において未熟な面が少なくない。それをクリームは、補佐しなくてはならないのだが、どう考えてもリアを、マジックを納得させる方法が思いつかない。

 

それぞれの国には、それぞれの歴史があり、そして今の地位があった。

例えば、リーザスは、ゼスとヘルマンに対して、並では済ませられない大きな“貸し”をしている。それを「今返せ」と言うこともできるのだ。

クリームは、このような事態に際したからこそ、改めて人類の団結の難しさを噛みしめていたが、それは、同じ立場であるアールコート、ウルザも同じ思いを感じていた。(リーザスは、ランスの希望あってアールコートがリーザス代表の軍師として赴いていた)

 

しかし、そもそもの話では、今回の大戦は、魔軍に致命的ともいえる先手を取られた状態にある。

それでいて、各国首脳をこれだけ早期タイミングで集結することができたのだ。これ自体が奇跡的なことなのだ。

だからこそ、今回の会議にかける思いは誰しもが大きく、人類の未来と存亡に関わる、それこそ一生に一度以上の大事であると理解していたのだが……誰もが口を噤んでいた。

 

多くの者は、わかり始めていた。

人類をまとめあげることができる者など、やはり存在していないと。

 

そして、一部の者は、最初からわかっていたのだ。

こんな会議などどうということもない。“彼”がすべてを決めるということを。

 

その人物は、10月前半にCityのランス城に帰途する予定とされていたが、実際は、それ以上の速さで9月後半に戻れる連絡が入っていた。

 

(……ランス兄様、早く戻ってきてください。)

 

JAPANの代表、香姫の心の声は、果たして届いたのか。

時代は、少しばかりはやい風雲急を告げる。

 




補足:
時期が半月ほど早まったため、アールコートは現時点では無事です。
もちろん、ランスが指名したのは、そういう意味を含みます。


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LP7年 9月後半 準備(2)

LP7年 9月後半――

City ランス城――(ランス)

 

「お、揃っているな。がはははは!! 俺様の到着だ!!」

 

「あーーー、ダーーリン!!」

「あ、ちょっとランス!」

「ランス様」

 

ここまでの会議でまったく意見がかみ合っていないらしいリア、マジック、シーラの喜色の声が重なって聞こえた。その証拠に、香ちゃんとコパンドン他が、苦笑している。

 

おー。香ちゃんは、まだちっちゃいなぁ。飯食べてるのか不安になるぞ。

あとで、成長具合を見てやらねばなるまい!

 

 

おお、そうだ。今回の俺様は、一番の年長者であり、大人でもあるのだ。

この大戦とは関係なく、俺様の女を幸せに導かねばなるまい。うむ。

 

(年々丸くなったとか言われてムカっとするのだが)俺様は、好きな女が悲しい顔をしているのが嫌なのだ。改めて言ったりはせんが、シィルの件で、吹っ切れたところがある。

もちろん、前だって幸せにしてやった自信はあるのだが、若いゆえに傷つけてしまったこと、後悔もあったのだ。

 

今の俺様は、世界一の実体験と時間をかけて、男女についてもよくよく学んだ人間だろう。

エロテクのほうもそこらの“ガキ”には負けないくらいには、覚えがある。ぐふふ。

 

そうだ。俺様も子供を持つ良さもちょっとくらいは、わかったのだ。

この大戦が終わったあとには、もっとたくさんの子供の顔が見れるように“仕込んで”おくか。これは、楽しみが増えたぞ! この戦い、絶対負けられんな。

 

「リア、マジック、シーラ。……ふっふっふ。実にグッドーだ!!」

 

リア、マジック、シーラ。

そうだ。俺様が、魔王から人間に戻ったころ、こいつらは30歳を過ぎていたはずだが、本当にいつまでたっても若い見た目のままだった。実際、いくつまでムラムラきて抱いたのか、わからん。

子供もポコポコできるしで、こいつらのせいで、俺様のハーレムは、30歳までというルールがどんどん緩和されてしまったのだ。

 

特にシーラは、無自覚に色っぽかったといえる。

胸が大きくなってるし、いろいろ“溜めこんでる”せいか水鉄砲みたいに母乳がよく出たなぁ。しかも、俺様に従順で、体の相性も抜群だったから、毎回事後のベッドがビチョビチョになって、翌朝シーラを赤らめさせるのが面白いのだ。

 

俺様と一緒にいるだけで、ずっと機嫌がよく、思わずめでたくなる愛らしさがある。

大統領をなかなか引退できずにいたが、後ができたあとは、俺様とずっと一緒に暮らした。細いくせに体が丈夫で、晩年、体を崩しがちだったシィルをよく支えてくれたのもシーラだ。

 

うむ。俺様にもっとメロメロにしてやろう。

 

 

◇(クリーム)

 

 

――このときほど、クリームは自身の頭の硬さを実感したことはない。

 

「よし、面倒だから結論から言うぞ。俺様が人類の代表をしてやる。全員ついてこい!」

 

ランスのあまりにもバカげた言葉を聞いた時、頭の中で、その話をにべもなく拒絶し、はぁ、と、ひとつため息をついた。話の中身を想像する以前に、唾棄すべき冗談だといわんばかりに一蹴してしまったのだ。

 

――しかし、なにかがおかしいわ。

 

我が愛する祖国、ヘルマンの大統領たるシーラ様のかわいらしいお尻に……わんわんの尻尾が幻視している。それもブンブンと振っているのが見える。

 

「はい。我がヘルマン共和国は、ランス様のお言葉に賛同します」

 

あああぁぁーー!!!! そうだった。この御方は、そういう御方だった。

 

本気で頭を抱えた。そうしているうちに、JAPANが、自由都市が、ゼスが、あのリーザスまでもが、最後にはおまけとばかりにAL教の法王までもが、ランスの意見に賛同。

 

ランスのたった一言で、即決してしまった。

ほんの一分前までは、不可能かと思われた人類総軍の結成が、こうもあっさりと。

 

「なんてことなの……」

 

ズレた眼鏡の位置を元に戻す。……と、自分と同じ立場で事態を見守っていただろう、ゼスのウルザとリーザスのアールコートに目をやって――心底驚いた。

 

二人共、お腹をかかえて面白そうに笑っていたのだ。

 

ああ、今度は、直感があった。

この人達は、“こうなることが想像できていた側”の人達だと。

 

むろん、この二人が会議にランスが現れるまで、全力で会議をまとめることに努めていたことに疑いは無い。しかし、今はっきりと軍師として見渡せている視野の狭さを思い知ったのだ。

 

そうだ。ランスが代表になる案は、なんら問題がないのだ。

問題どころか、魔軍の侵攻によって最も苦しい立場にあるヘルマンにとっては、最善の一手ではないか。ランスと友好関係のある国、つまり、ゼス、リーザス、自由都市、JAPAN。すべての国から支援を要請することだって叶う。なんなら、AL教からだって協力が得られる。

 

(なぜ私は、ランスの言葉を咀嚼する前に一蹴してしまったのでしょう)

 

彼がヘルマンを崩壊から救った英雄であることは疑いないし、冒険者としての腕前は一流だと理解している。

いえ、一流どころか、ヘルマンの女傑ミネバ、かつての人類最強トーマさえもがランスに破れている。彼の腕前が一流“程度”なら、武人にとって一流の壁は絶壁になることだろう。

(ヘルマンは、リーザスとの国交がちょっぴり改善されたことで、双方の視点から歴史の要所でなにがあったのか、整理が進んでいる最中である。特にリーザス女王からの意向もあり、あいまいになっていたランスの武勲が紐解かれつつあった)

 

 

また、ランスの大きな戦の流れを追う能力は、悔しいが絶賛せざるを得ない。

ヘルマンを崩壊から救うことができたのは、本当に奇跡としかいいようがない。後からステッセル・ロマノフの暗躍を整理してみると、一手遅れただけで滅亡へと向かう難解なパズルを美しいまでに解いている。(これを英雄の資質と認めてしまうと、軍師として情けないという気持ちもあるのだが)

 

ゼスのカミーラダークについて調べたときも同様だった。信頼する師透琳様から聞いたJAPANと言う独特の文化を持つ国においての話を聞いても、やはり評価は著しい。

 

この大事において、これほど己の未熟を痛感することになろうとは。

 

(私は……)

 

私は、リーザス、ゼスの参謀軍師と比べて、ランスという男を本当によく知っているのだろうか。視線の先のランスとシーラ様は、楽しそうに笑っていた。

 

 




未来設定については、各位さまざまな思いがあると思いますが、多少はね?

僕はシーラちゃんがだいすきです。あてなもだいすきなのれす。
贔屓していくスタイル。

(細かいところ語ってなさすぎるから、ええようにするんやで)


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LP7年 9月後半 準備(3)

LP7年 9月後半――

City ランス城――(ランス)

 

がはははは。今回も俺様が人類代表総督だー。俺様、いっちばーん!

 

「シィル、シーラ。喉が乾いたぞ。二人でキンキンに熱いお茶と、ゴウゴウに冷たいお茶をもってこい」

「「はい。ランス様」」

 

俺様のそばにいるシィルとシーラが楽しく元気そうだと気分がいい。

あとは、クエルプランもいれば……そうだ。あいつが俺様をこの時代に“呼んだ”なら、そろそろ現れてもいいものなのだが。それとも、今は地底深くで仕事をしてるのか? 謎だ。

 

「ランス。それで、これからどないする気や?」

 

コパンドンか。……うん? 髪が長いな。

気のせいか……俺様が魔王やってたころよりも、おばちゃんに見え……。

 

「ランス?」

「ん? あぁ、そうだな。ウルザちゃん、アールコートちゃん、あと、クリームちゃん! 地図をもってこい。俺様が天才の策を授けてやる!」

「は、はい! おじ様!!」

 

アールコートちゃんが、あわてながら軍議用の地図を俺様の前に広げた。

急いで戻ったつもりだったが見事なまでにヘルマン、リーザス、ゼス、自由都市は、真っ赤にマーキングされているな。それから、各国それぞれに2~3個の駒が置かれているが、これは魔人どもだな。

 

「なるほど。真っ赤だな。どこから手をつけたらいいのか、わからんというところか」

「……各国それぞれに救援を求める声があり、どれもが至急を要します」

「ふん。愚か者どもめ」

 

クリームちゃんか。さっそく天才である俺様の考えに探りを入れてきたか。

若いころの俺様なら、クリームちゃんの真面目な話が嫌で「がははは! 可愛い子がいるところを救いに行くのだー!」と一言入れて、ため息をひとつもらうところだが、そうはいかんぞ。

確かに、真面目な空気は嫌いなのだが、魔王やってた頃は俺様を含めてもっと酷かった。なので、こういう空気も慣れてしまったのだ。

 

そのうえ、クリームちゃんは、頭が固いから、なんでも真に受けてしまうからな。

言って損をするなら、言わんのだ。がははは。今の俺様なら、空気も読めてしまうのだ。

 

「よし。決めたぞ」

 

 

 

 

ランスの打ち立てた(9月後半)作戦は、「カラーの森 救出作戦」であった。

これは、ランスの事情を知るものであれば、ランスを人類の代表にした時点で、代替条件や必須条件のようなものになっていたともいえる。軍師でいえば、クリームは困った顔をしたが、事情を知るウルザ、アールコートがうまくフォローしていた。

 

「ゼスにいる魔人メディウサは、あやしい魔法を使う上に……危ないからな。呪術に強いパステルもだが、状態異常を回復できるカラーは、絶対に役に立つぞ」

 

いくつになっても、こういうところでいらぬ言い繕いをするのがランスであった。

もちろん、メディウサにそのような特徴は“現在のところ”確認されていない。

ランスのわかりやすい嘘に、マジックはもちろん、ランスと関係を持ったことがある女性は、みんな温かい気持ちを抱いた。

 

(ランス様、やっぱりリセットちゃんが心配なのですね)

 

なんとなく目を合わせて、クスリとこっそり笑みをこぼすランスの奴隷がふたり。

ランスが言葉の中に隠した心がわかるからこそ、すっかりのぼせているようだった。

 

 

つぎに、ランスは、カラーの森の救出作戦にあわせて、ゼスの対応を第一とした。

つまり、ランス率いる特別攻撃隊こと「魔人討伐隊」は、まず、カラーの森へ進軍し、その次にゼスへ向かうことになる。

 

現在のゼスの状況は、キナニ砂漠から侵攻する魔人ガルディア軍の対応が危険な状況にあるが、むしろ、ランスが危険視していたのは、マジノラインで足踏みをしている魔人メディウサであった。

 

今のところ、マジノラインで魔人メディウサの侵攻は停滞しているが、ランスの記憶では、マジノラインは不可解なことに、ある日突然、一夜にして突破されている。しかも、その後の被害は、ランスにとって実に苦々しいものでしかない。絶対に阻止しなければならないだろう。

 

地図に手をやりながら計画の流れをスラスラと説明していくランスは、いつもとはまるで違う本気の表情だ。ゼスの副王であるマジックは、その姿に心の底から感謝していた。

 

自分に子供ができたと思えば、これだけの大戦が勃発し、精神的には重たいストレスがかかっていたのだ。

(過去には結婚式をすっぽかされたこともあり、ランスに愛されていないのではないか、という漠然とした不安がなかったわけでもない)

 

ふっと気が緩まされたマジックのおでこをランスが、かるく小突いた。今度は「俺様に任せろ」といわんばかりの表情だった。

 

(ありがとう……ランス。ほんとに)

 

 

 

 

第一対応としたゼス以外の国にも、ランス自らの手で対応策の検討が進められた。

最も魔軍の侵攻が内部まで進んでいるヘルマンの対応はこうだ。

 

ひとつは、各国軍師も理解のできない不思議な対応である。それは、兵士の性別によって配属する先を変えるというものだった。男の兵士であれば魔人バボラ、女の兵士であれば魔人ケッセルリンクの対処に向かうといった具合である。

 

この意味を現在理解できるものは、ランス以外に存在しない。もちろんクリームは一時激昂したが、ランスの強硬な姿勢により、配置転換は実施されることとなる。

 

この不思議な配置転換を除けば、理詰めの作戦を得意するクリームも惚れ惚れとする的確な対応であった。

魔人を倒すことはランス以外にはできないため、ランスが魔人と戦うまでの時間稼ぎをするしかない。

つまり、魔人が出てくれば撤退して被害を抑え、魔人がいなくなれば逆襲する。兵士は、一進一退を繰り返す厳しい時間かせぎを旨とし、国民は、首都ラング・バウへの避難を進める――焦土作戦の展開であった。

 

やむを得ない選択であったが、ここまで果断にして、この命令を下せる者がいなかった。

ヘルマンは、大統領の発足からまだ時間も浅い。国民に重い負担をかける選択を大統領であるシーラではなく、人類の総統であるランスが決めたことの意味は大きい。

それは(先ほど声を荒げたばかりの)クリームが一番ランスの決断を理解、支持するところであった。

 

 

――そして、ちょうどこの時、ヘルマンから一通の電文が届いた。

 

「ヘルマン方面魔軍ニ混乱アリ。部隊再編、侵攻停滞ヲ確認ス」

 

この大戦始まって以来、初めての軍略面における勝利であった。

ランスは、過去のJAPAN統一における魔軍との戦いの経験から、魔物将軍を討伐する効果を肌でよく理解していた。

実際、今回の魔軍を動かしているのも魔物将軍であり、より狙い撃ちは効果的である。(その最たる要因は、ケイブリス派の魔人が、軍を動かす指揮能力に乏しいか、あるいは、その気が無いからであったが)

 

勝利に沸く会議室。特に、息の詰まる重たい空気が変わるのを感じたのは、神経を強張らせていたクリームであった。

これまで大した作戦も打てず、闇雲に魔軍の侵攻を阻止せんとしていた現状と比べれば、ランスのやり方は、はるかに建設的で軍略的である。そして、このやり方を各国の軍で展開する方法を考えるのがクリームら参謀、軍師の役目なのだ。

 

「わかっているな」

 

このタイミングでランスの威圧感を伴った鋭い視線は、クリームへと向けられていた。

クリームは理解する――胸の内が“ぞくっ”と痺れる思いであった。

つまり、ランスはヘルマン代表の軍師として、このあとの自分に軍師としての力量を問うているのだ。

 

今度こそ曇りのない眼でランスを捉えることができたと確信するクリーム。

これこそが、敬愛するシーラ様が見ているランスの姿なのだ。クリームの中で、ランスを見る目が確かに変わった瞬間である。

 

自然と最敬礼をとるクリーム。ランスは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

――会議室の空気が変わりつつあった。

 

リーザスと自由都市の対応は、よりスムーズに決定がなされた。

天満橋まできているJAPAN軍と急ぎ合流し、ヘルマン同様の魔物将軍を狙った攻撃に切り替える。

あとは、ヘルマンと似たり寄ったりの対応を取るが、地力がある両国には選択肢があった。

 

JAPANの軍は、ほんの数年前に魔軍との戦いを経験したばかりの歴戦の兵だ。そのうえ、援軍として、まずはじめに編入されるのは、織田、毛利、上杉の三家。

それらの名前は、アム・イスエルの起こした汚染魂に関する「導くもの」事件を解決したときに、ランスの冒険に参加していた面々などは、当然覚えがある。

援軍協力を快諾した香姫に、言葉以上の感謝の念を抱いたものは、少なくなかった。

 

真っ赤な血で染まっているかのように見えた地図には、数多くの作戦が書き込まれていった。

そうしているうちに、各国の軍師が、ひとつひとつの作戦について細かな討議を始め、気がつけば会議室は、軍の総司令部さながらの慌ただしい様相になっていく。

 

「弱っちいヘルマンとゼスは、俺様がすぐになんとかしてやらねばならん。その間は持ちこたえろ。任せるぞ」

 

ランスは自身が即座に手をうてないリーザスのリア、アールコート、そして、自由都市のコパンドン、JAPANの香姫の肩を、ひとりひとり拳で叩いた。

 

今までのランスからは、想像もできない行動だ。

驚きと共に、それを実感して、胸のうちに熱いものが広がる。

 

――これが、ランスのカリスマ。

 

この苦境に際して、これだけの男ぶりを発揮するとは、リアは体の火照りを隠せそうもなかった。今晩は、とても一人で眠ることなどできそうもないのだが、しかし、それは、シーラもマジックも同じ思いで、ランスに対して、泣いたらいいのかどうしていいのか、という熱いまなざしを送っていた。

 

今晩ランスを独占するのは、この大戦で人類が勝利するよりも難しいことを悟るリアだったが、ランスと共に早うしで巨大戦艦から戻ってきた面々の“あの”表情の意味が、心底理解できたのだった。

(なお、完全にデレデレでよだれを垂らしていた女忍者は、あとでいじめられた)

 

 




――

感想ありがとうございます。
こんな駄文でも、喜ぶ人がいたなら、やってよかったなーと報われる思いです。

18/04/05 修正
魔人メディウサの状況が、ゲームで言えばゼスのターン(最短2ターン目)になっていたのを修正。1ターン目は、マジノラインは健在なので、魔人メディウサはまだでした。

もうしわけありません。
セーブをロードしなおして、1ターン前の行動をしこみなおした感じです。
生暖かい眼で見守っていただけると助かりますー。


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LP7年 9月後半 準備(食券)

 

LP7年 9月後半――

ランス城 ――(かなみ)

 

コールドスリープ装置から目を覚ましたあとのランス、私の恋人の様子が変。えへへ。

変というか、ランスが、本気で世界一やさしくてカッコよくなってしまったとしか思えない。

 

 

――朝、目が覚める。外はまだ暗いようだ。

私は、王室の大きなキングベッドで、ランスと一緒に眠っていた。

その証拠に、私の大切なところにランスのものが、いっぱい溢れているのがわかる。肌にも髪にもベトベトについているけれど、いやではない。心が温かくなるくらい。

 

……とはいっても、今のあまーいな気持ちでベッドのまわりを確認するのは、さすがに躊躇われる。

おそらく、私のほかにも“たくさんの”女の子がホクホク顔でぐっすり眠っているだろうから。

 

それにしても、昨日のランスは……す、すごかった。ランスが、こんなにエッチうまかったなんて。

最近はやさしく抱いてくれることも増えて嬉しかったけど、その比じゃない。骨抜きにされちゃうって……こ、こんな感じなんだ。

 

「かなみか? ……起きちまったか? まだ、早いぞ。もうちょっと寝てろ」

「う、うん……」

 

今までのランスと違って、子供っぽさ……は、残るかな。でも、そう。

子供じみたワガママをあんまりしない気がする。かわりに、その。すごく……やさしい。

 

「ん~、ランスぅ~」

 

ランスの逞しい胸板に体を寄せて顔をうずめると、にゃんにゃんみたいに頭をなでてくれた。

くすぐったい。し、幸せすぎるぅ~~!! えへへ。

 

ランス城に帰ってきてから、なにやら本格的に世界が危ないことがわかったんだけど、今も全然その実感が無いなぁ。

 

世界がどんなになっていても、ランスがいればがんばれる。心の底からそう思える。

それはとっても素敵なことだと思えた――そんな人類反撃の朝。

(なお、本日のランスの代理警護は、同衾にシーラもいたため、フレイヤ・イズンが担当していた。代理は代理でいろいろと面白いものが見れて楽しめた)

 

 

 

 

◇ (リック)

 

 

その日の早朝、僕は、思いがけない幸運に恵まれた。

いつものトレーニングのために、ランス城のまわりをかるく走っていたのだが、そこにやってきたのがランス殿であった。

 

ランス殿は、「この時間に起きてしまうとは……微妙にジジイだな」とか言っておられたが、ともかく、僕の口から「(出立される前に)一度手合わせをしたかったです」と、考えなしの本音がこぼれてしまった。

すると、いつもはまるで相手にしてくれない“あの”ランス殿が今、この場で手合わせをしてくれるというのだ。

 

是が非もないことだ。

模擬刀(ランス殿は模擬刀、僕は魔法剣バイ・ロードの模擬長刀)を使うとはいえ、朝はまだ早かったためにヒーラーは、そばにいなかった。

もちろん、ランス殿に“なにか”があってはいけない。重々理解していたが、しかし、こんな僕もリーザスの武人だ。体の底から沸き上がる熱のせいだろうか、笑みを抑えきれないのも事実である。

 

そして、始まった試合は……いや、これは試合と呼べるものだったか――

 

「ウララララァーーーーッ!!」

 

加減など一切なく仕掛けた一撃−−―それは、ランス殿の剣によって、的確に長剣の腹を弾かれた。

構わずに得意の打ち合いに持ち込むべく、連撃をしかけにかかるも……

 

「お前はそれ一辺倒だな。がははは!! ほれっ」

「ウ、ぐっ……!!」

 

剣に気がいった途端、腹に強烈な足蹴りが飛んできた。……いつの間に長刀の間合いが殺されたのだ。

早朝のランニングから鎧をつけていて正解だった。そうでなければ、腹の骨を持っていかれるところだ。

今更わかっていたことだが、ランス殿の攻撃は、型にとらわれることがない。

 

「っ、ウラララァァーー!!」

 

すぐに間合いをつめ、僕から仕掛けていく。ヘルマンにおいてロレックス殿と一騎打ちしたときのように、変に距離をとってしまうと、ランス殿の「懸待一致」を崩す術がないように感じられた。

リーザスの剣はJAPANの剣のように、剣先を取り合うものではないのだが、それでも、剣を合わせただけで技量の差というものは理解できてしまうものだ。

 

ランス殿の緩んだ構えから感じる不気味な位に対して、真っ向から勝負することを僕の本能が完全に嫌っている。

つまり、そういうことだ。

 

「おー、なかなかの剣圧だ。だが、長刀は最初がダメだな。立ち上がり鈍すぎる」

「っぐ、ウラァァーー!!」

 

初撃だ。それをランス殿に上手くさばかれると、正中線を得られない。そればかりか、相手の剣の鋒(きっさき)は常に僕を捉えて離さない。いつでも、僕が切れるといわんばかりだ。

 

すごい。ランス殿からすれば、小手試しもいいところじゃないか。

僕との手合わせを断り続けていたのはこういうことだったのか……! 剣の強さ、技量、そればかりか、癖のある魔法剣バイ・ロード(の模擬刀)を相手にすることに驚くほど慣れておられる。

 

それから、5度、10度と僕は、ランス殿に打ち込んでいき、そして、同じように足蹴りを食らって土の上を転がった。

 

「――はっ、はっ、はっ!! ま、参りまし、た! か、完敗ですッ!」

「がはははは! うむ。俺様の勝ちだ。久しぶりに生意気な“がきんちょ”と剣を合わせた気分だ。暇つぶしになったぞ」

 

ランス殿は、いつものように笑いながらこの場をあとにされた。

土の上に寝転がっている……と、ランス殿が立っていたところを中心にして、円を描くように僕の足跡が無数に広がっていることに気が付いた。最初からずっと同じところに居られたのか。

 

「すごい――」

 

元々、ランス殿の剣は、普通の剣士とは異なるイメージであった。

しかし、今日手合わせをしたランス殿の剣は、ランス殿の剣のイメージ、大陸の剣、JAPANの剣、すべてが合わさったような――。

ここまで一方的にボロボロにされたのは、義父(アルト・ハンブラ)との訓練以来になるか。しかし……幸運な時間だった。

 

今も笑みをこらえきれない。

 

「くっく。剣の道は、こうも奥深い――」

 

そうだ。一つ疑問が残ってしまった。

 

ランス殿は“片手で”剣を軽々扱うようなスタイルだっただろうか。

僕程度の腕では、両手を使うまでもない……ということだったのだろうか。常に、余った右手が腰のあたりに添えられていたが、あれは、いったい――。

 

 

 

 

◇ (ランス・ハーレム 王妃たち)

 

 

窓から……見てしまった。ランスが、リーザスの赤の軍の将軍リックと戦っている姿を。

いや、戦いというのか、一方的に勝っている姿を。

 

「リア。み、見ちゃった……ダーリンすごーーーい!! きゃーきゃー!!」

「ランス様、すごいですね。朝のお稽古をつけておられたのでしょうか」

「いや、すごいってもんじゃないわよアレ!? あれ、リーザスの赤い死神よね!?」

 

ランスの王室で、沸き立つ各国の王女様と大統領。

ピョンピョンと子供のように飛び跳ねるリアは、子供とはいえない豊かな胸が、すごいことになっていた。

 

彼女たちは、ランスとの熱い夜を過ごしていたあと、今朝、リックの獰猛さ溢れるあの掛け声に驚いて目を覚ましていたのだ。そこで目にしたものは、驚くべきものであり、朝から気分が昂ぶらせるものだった。

 

「ねぇ……リーザス、赤の軍の将軍で間違いないのよね……そんなに強くなかったのかしら? ゼスのカミーラダークで共闘したときは、とんでもない化け物に感じたんだけど」

「へー、でこちゃん言うわね。だったら、ゼスの将軍だれでもいいから、リックに手合わせさせてみなさい」

 

なんともいえない空気が漂う。女として、本能的なものかもしれない。

 

「うふふふふ……」

 

ごくり。誰ともなく、生唾をのみこんでしまう。

きっと、昨夜随分と可愛がられてしまったせいだろう。下腹部のあたりが、すっかりできあがってしまっている。もじもじと白いものが滴る内股をすりあわせて、にっこりと微笑み合う。

 

(ダーリンは、絶対絶対ぜーったい渡さないんだから!)

(今日はとても素敵な朝になりました。ランス様のおかげで、リア様とマジック様と仲良くなれました……!)

(ランスは、絶対スシヌのためにもゼスに来てもらうわ! わ、私だって……)

 

 

――なお、この日のランスとリックの試合に気付いていたものは少なくない。

ランス城における合同会議のために、各国から選抜された精鋭が守備隊として多数駐屯していたのだ。

 

ランスの普段のふるまいもあって、胸の内でランスを侮っていた兵はいくらか存在したのだが、この日を境にそうした考えを持つものは、ほとんどいなくなったといえる。また、この戦いぶりを見て、ランスは当然のことながら、リックの腕前を見損なうようなこともなかった。

精鋭とは、正しく人類を代表する精鋭なのだから。(逆に、これがわからない者は、大戦の中で命を落としていくことになる)

 

つけ加えると、王室の窓のそばで仲良く(妖艶な白ガウン一枚で)ランスとリックの試合を見守って笑い合う王妃、大統領らの姿に気づいたものも少数いた。

彼らは思った。この城の王様は、本当に“この世界の王様”なんだな、と。

(なお、微笑み合う女達の姿が、どのように解釈されたのかは、後世の歴史家たちに評価を委ねるとする)

 

 



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LP7年 9月後半 作戦(1)

LP7年 9月後半――

ゼス――

 

かつて、幾度となく魔人の侵略を阻み続けてた大国ゼス。

此度の大戦においては、最も多い魔人3体(魔人レッドアイ、魔人メディウサ、魔人ガルディア)との戦いが始まっていた。

 

人類の総統であるランスの命によって、当初は(一か八かの)後詰めで控えていたレベル3魔法使いのアニスは、山田千鶴子と共に、魔人ガルディアを迎え撃つ部隊に編入。

魔人ガルディアの率いる魔軍を圧倒的な火力で吹き飛ばし、侵攻を確実に遅らせる活躍を見せていた。(なお、山田千鶴子のストレスは)

 

その他にもランスの命よって、当初は魔人レッドアイと戦闘を行う義勇軍に参加していたリズナ・ランフビットは、魔人討伐隊に強制移動となった。リズナの護衛として、同じく義勇軍として参加していた旧アイスフレーム三人娘(プリマ・ホノノマン、メガデス・モロミ、セスナ・ベンビール)も魔人討伐隊に合流している。

 

後に同三名は、ランス城の守備隊騎士団に配属されることになるのだが、守備隊の隊長であるサーナキアが、過去アイスフレーム所属時にゼスで活躍した話は、ゼスの元レジスタンス仲間が加入したことで、いくらか騎士団員にも理解され、副隊長のクルーチェ・マフィンも隊長にもうひとつ好感を得たようだった。

(また、懐かしい顔ぶれに、ランスのやる気もちょっぴり高まったようだった)

 

なお、ランスの強制赤紙の影響で、魔人レッドアイ部隊との戦いは厳しいものとなったかに思えたが、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジーが援軍として編入、さらには勇猛果敢で知られる毛利三姉妹が戦線に合流したことで、なんとか戦線を持ちこたえることに成功。

(毛利三姉妹は、敵の魔法攻撃を苦手としたが、それを含めてこの戦場をとても堪能していた)

 

最後に、首都ではガンジーに代わって、代理の政務を行う副王の座にマジック・ザ・ガンジーがついたが、現在はランス率いる魔人討伐隊と共に行動をしている。戦いの動きは極めて激しく、どこも人が足りない状態であった。

 

首都に残っていたのは、新四天王チョチョマン・パブリただひとりであったが、大量に用意された甘味を食しつつ、影の主役ともいえる安定した参謀ぶりを発揮していた。その裏には、かつてはありえなかっただろう旧四天王パパイア・サーバーの支援も十二分に滲んだものだったといえる。

 

 

◇ (カラーの森)

 

 

「がははは! さっさとペンシルカウにいくぞー。久しぶりだなー。シーラは初めてか。ちゃんと俺様についてくるのだぞー」

「はい、ランス様」

「待て、ランス。サテラも行くぞ」

 

――ランスの電光石火の作戦行動が功を奏した。

魔人討伐隊がカラーの森に到着したとき、カラーの森は、まだ辛うじて平時の様相を保っていた。

 

とはいえ、外の情報に疎いカラーでも、現在の人類の状況くらいは把握している。

カラーの森の守備隊は、ランスの姿を見つけるや否や、これ幸いとばかりに、イージス・カラーに連絡を取った。

 

楽にイージスと合流することができたランスは、勝手知ったるペンシルカウへ手間なく向かうことができた。(ランスは、過去の功績からカラーに絶大な人気と信頼を勝ち得ていた。それが幸いしている)

 

 

◇ ペンシルカウ (パステル)

 

 

「がははははは! 来たぞー!」

「おとーさん! おとーさん!」

 

女王の執務室で、サクラと魔軍についての会議をしていると外が騒がしくなっていた。

まったく。今がどれだけ大切なときか、それがわかっておるのか。

 

おおきな声ではしゃいでいるのは、間違いない。妾の子リセットじゃな。

それからあの男だな。……なぜ、ここにおるのか。

キャアキャアと妾の民の黄色い声もよく聞こえる。ぐぬぬ……なぜ、あのような男が、こうも人気なのか。

 

と、執務室のドアがノックも無しに開かれた。ぐ、やはりランスだ。

 

「パステル。とっとと逃げるぞー。あと、話を早くする。聖地の洞窟にいくぞ」

「!?」

 

ぐふっ。こいつ、いきなり急所をついてきおる! だ、だからこいつ嫌いなんじゃあ。

妾は抵抗したものの(サクラもイージスも助けてくれなかった)、女王の立場上あまり強く抵抗するわけにもいかず、結局聖地にやってくると――やっぱり母上たちに怒られた。

 

「あのね。こういうときにまで、ここを守る必要はないのよ」「来るのが遅いわ」「……行くぞ」

「ひえっ、し、しかし」

 

わかっているつもりだった。でも、それは簡単なことではなかったのだ。

ペンシルカウは、妾の、カラー全員の大切な場所なのだ。それを自分の代で終わらせるのは、魔軍に踏み荒らされるのは、どれほど耐え難いことか――

 

「モダンちゃん、そのくらいにしてやってくれ。パステルもカラーの女王だぞ。それくらいわかっていたはずだ。苦しい決断だったのだろう」

 

(ヒソヒソ……ちょっと、考えすぎてやることが空回りしたってところだろ。よーく見ていろ、俺様がネジを締め直してやる)

(ヒソヒソ……あー、それはたぶんそんな感じっぽいですねぇ。娘が申し訳ないです)

 

なんで、ランスが妾の気持ちをわかったように言うのだ……!

しかも、正鵠を射てきておるのが、また腹立たしいわ。

 

「はー、ランスさん。パステルの気持ちがわかるのですね」

「ふふん。当たり前だ。リセットは、俺様とパステルの子だぞ」

「えへへー」

 

うれしそうなニコニコ顔で、妾とランスを見つめるリセット。ぐっ……。

いくつかランスに憎まれ口をくれてやろうとしたところで――ランスが、急に妾の耳元に顔をよせて、一言つぶやいた。

 

「パステル。もう少し俺様を頼れ。俺様もお前を頼る。貸し借り無しだ」

 

……は? 一瞬、ランスの言っている言葉の意味が理解できなかった。

この男が妾を頼る? 冗談を言う空気でもないし、そんな表情でもない。どういうつもりじゃ。

妾も歴代女王の前だ。(やけに信頼されとる)ランスの言葉を軽々と流すわけにもいかぬ。

 

「貴様……本気で言っておるのか?」

 

妾に対して、それ以上の言葉はなく目で訴えてくるランス。

……はっ。そうか、他の者の手前、口にすることができないというわけじゃな。

 

「……ふん。そうならそうと……」

「おかーさん、おとーさんと仲良し?」

「う、うるさいリセット! そういうことは言わんでよい!」

「がはははは!」

 

――ふっふっふ。おっと、口元が緩まぬようにせんといかんな。

しかし……なるほどのう。ふむ。

 

人間にしては、なかなか堂に入った立派な立ち振る舞いである……が、実はそうだったのじゃな。

そうじゃろう。そうじゃろう。

 

今回の戦いは、必ず過去最大に激しいものとなるだろう。

ランスのやつは人類の代表なんぞをやっておるようじゃが、やはりまだまだ力不足といえよう。

だが、妾(村長)ともなれば、ランスの労を察することも、援することもできよう。

ようやくわかってきたようじゃな。妾の――“偉大”さが。

 

「ごほん。パステル、ちなみに、俺様はペンシルカウから完全撤退する気はないぞ。今は一時の“転進”にすぎん! 必ず取り戻すぞー! がはははは!!」

「!! (なるほど、その手があったわ!)よ、よくわかってるようじゃな。なら、妾は魔人をすべて蹴散らしたのち、再びこの地に戻ってこよう! あっはっはー」

 

(ひそひそ……おかーさんと、おとーさん、仲良しだねー)

(ひそひそ……ねっ。さっきの素敵でしたね。恋愛小説みたいで私キュンときちゃいました。年ですねー)

 

 

――こうして、カラーの森からの撤退作戦は、驚くほどわずかな時間のうちに達成することができた。

撤収作戦における犠牲者は、まったくの“ゼロ”。

のちに、「奇跡の撤退」と呼ばれる伝説的な撤収作戦であった。

 

カラー達のペンシルカウ放棄をまったく知ることができなかった魔人レッドアイが率いる魔軍は、ゼスの攻撃の手を止め、誰もいないペンシルカウを求めて、この後、無駄に時間を浪費することになる。

 

人間とカラーという難しい関係をものともせず、類まれなる指揮をとったランスとパステル。

この実話は、あとにドン・ドエススキーの手で小説化されることとなり、(特にカラーの間では)国民的、歴史的大ベストセラーとなる。

種族間を超えるような難しい恋愛を夢見る者にとっては、聖書的な希望となり、ランスとパステルの関係は、羨望の眼差しで見られるのであった。(ヌーク77にとっては、正しく聖書になった)

 

また、なんやかんやで、機嫌をよくした(難しそうで単純な)パステルはランスとの関係を回復させていくことになる。(実のところ、性格的に一致するところが多く、もちろん、リセットの存在も大きかった)

 

 

◇ (ランス)

 

 

がはははは! 今回は楽にカラーの森から脱出することができたぞ。

まぁ、今の俺様にかかればレッド・アイのヤツが出てきても問題ないのだが。

 

……いやいや、待て待て。ロナちゃんを助けねばならんのではないか。

たしか、昔はレッドアイのやつに捕まっていたってビスケッタさんに聞いた覚えがあるぞ。そうだ、だから俺様のメイドにしたとき、痩せたにゃんにゃんみたいな体をしていたじゃないか。

 

むむ。なにか罠を仕掛けておくか……くそ、やはり今回の魔人どもとの戦いは、同時にやらなくてはならんことが多すぎるぞ。

パーフェクトな俺様でも、いや、真・パーフェクトな俺様にしかできん難易度だ。

うむ。絶対に助けるのだ。

 

「えっ!? 本当ですか! は、はい! ……ランス様、大変です!」

「どうしたシィル。……何があった。落ち着いて報告するのだ」

 

急ぎの魔法電話を受けたシィルからだった。

シィルとシーラには、魔法電話を携帯させて、俺様の秘書(電話番)に据えていたのだ。各国からの定時連絡を徹底させることで、いつどこにいても俺様の女のピンチを知ることができるのだ。(もちろん、頭が賢く見えるから、眼鏡を装備させた)

 

「は、はい! マジノラインで異常が発生したようです。詳細はわかりませんが……あ、まだ、なんとかなっているみたいです。でも、あまり長くは持たないと」

「えっ!? ほ、ほんとなの!? ウルザからの報告、それ!?」

 

顔を真っ青にするマジック。……どういうことだ。今はまだ9月後半だぞ。

前回の俺様が最初にマジノラインが突破された報告を受けたのは10月より後だったはずだぞ。少なくとも10月前半は、マジノラインは突破されていなかったはずだ。

 

「ランス様……どうしましょう」

「ふんっ、決まっている! さっそく魔人討伐隊の出番が来たぞ! がはははは!! シィル、俺様に続け―!!」

 

 




※9月後半 準備(3)を修正しております。

私が、ゲームの1ターン目の状況を勘違いしていたため(魔人メディウサの悪行はまだだった)修正しました。
物書レベル0の私の力量ゆえです。申し訳ありませぬ。
今後もありそうなのを含めて、ご容赦いただきたく。



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LP7年 9月後半 作戦(食券1)

◇ (サテラ)

 

 

サテラ達は、異変が発生したらしいマジノラインへと向かっていた。

現在の魔人討伐隊は、ランスが選抜した魔人討伐隊(選抜組)と帰還組にふたつにわけられている。

 

帰還組は、たくさんのカラーを引き連れて、そのまま人間たちの拠点CITY(ランス城)へと向かった。(カラーは、パステル、イージス以外の全員が帰還組。リセットは嫌がったが、パステルとランスが絶対に譲らず、サクラとアカシロ、ご先祖一同に任せて帰還組とした)

 

もちろん、サテラは討伐組だ。ふっふっふ。

まぁ、サテラからすれば、人類は魔軍にやられてもいいのだが……サテラにも気に入っている人間がちょっとだけいるのだ。だから、いや、どちらにしてもケイブリス派の連中なんかに好きにさせるのは気に入らない。

 

「ぐごー、んー……、ぐごごー」

(ランス……サテラのそばでよく無警戒に眠るな、コイツ)

 

なんとなく、戦いに備えて眠っているランスの髪を指で梳いてしまった。

巨大戦艦からランス達と一緒に早うし車で移動している最中にも、こんな時間を過ごしていたな。

 

あのときは、調子づいたケイブリス派の魔物将軍どもを何度も相手にする間に、ホーネット様がケイブリスに敗北したことをサテラも理解せざるを得なかった。

でも、慌てて魔人領に飛び立とうとするサテラを落ち着かせてくれたのが、ランスだった。

 

あのとき、サテラが魔人領へ向かっていても、魔王城にたどり着けずに間抜けな姿を晒したか、この作戦に参加できず、サテラは落ち込んだはずだ。だから、ランスにはちょっとだけ感謝している。

 

(……んふふ、それもだが)

 

巨大戦艦でのジャハルッカスとの戦いのときに感じた、ランスの圧倒的な“気”。

魔人のサテラならわかる。

 

やはり、あれは単なる人間が持つのとは全然違う。魔人がまとうものでも無い……サテラが知る限りでは、真に選ばれた強者のみが得る特別なオーラだ。

 

だから、サテラは早うし車の中で、こっそりランスに聞いたのだ。

あのときの力の秘密について。

 

「ふーむ。サテラは誤魔化せんか。みんなには内緒だぞ――」

 

――ランスは、それからサテラにある“約束”をしてくれた。

ま、まさかランスがサテラのために、こんな壮大な準備をしていただなんて。確かに、今のランスなら十分にありえることだ。サテラも大賛成だった。

 

惜しむべくは、感動のあまりボロボロ泣いてしまってランスに対するサテラのメンツがちょっと落ちてしまったかもしれない。サテラは、あのリーザスのへっぽこ忍者のように、ちょろい女ではないのだが。

 

(ふふふふ)

 

今思い返しても、いや、あんまり思い出しすぎると下着が危ない。今は、作戦中で予備があまりないのだ。

まぁ、ランスは、サテラの特別になってくれるのだ。なら、サテラも、その気持ちにこたえてあげないといけないだろう。他のランスの女たちには悪いが、これはそういうことなのだ。

 

やさしいランスのことだ、ちょっとくらいは女達と遊んでやることもあるだろう。そうだな、サテラもシィルくらいは、そばに置いてやってもいい。

でも、魔人であるサテラと、人間の女では、まさしく存在が違うのだ。つまり、ランスの一番はサテラということだ。

 

(んふふふ! サテラとランスが一番。んふふ)

 

 

――昔から感情的で暴走しやすいとされていた魔人サテラは、今も完全に熱暴走していた。

しかし、しっかりと手綱をにぎる男がいたおかげで、このあと、魔人サテラはこの激動の戦乱の中、魔人としての確かな活躍を歴史に残す。

 

常に最前線で戦う人類総統ランスの姿は、このあと各国の有名な画家の手で無数の絵画が描かれることになるが、絵画の多くには、ランスと肩を並べて戦う勇ましいも美しい魔人サテラの姿があった。

描かれた魔人サテラの姿は、初恋をかなえた乙女の表情をしている――というのが常でもあった。

 

 

 

 

◇ (マジック・ザ・ガンジー)

 

 

「がはははは! うむ……うむ。それでいいぞ。あと、ウルザちゃんは、もっと俺様を褒めていいのだぞ」

「……」

 

ランスは、魔法電話ごしに信頼する新四天王の一人、軍師ウルザと連絡を取っていた。

いろいろと積もる話もあるようで、こんなときだというのに……話が盛り上がっているようだ。

 

「ふん、ウルザちゃんは極端だからな。無茶するなっていっても無茶をするだろ。……ガハハハハ!! それは、口だけのウソだな。俺様はわかるぞ。0か100かみたいな子供だからなぁ。なに年上だ? ……ガハハハ!!」

(……むっ)

 

四天王の中で、もっとも荒事に経験をもつウルザ。

今回の大戦が始まる以前から、かなり長い時間魔人対策について、私も一緒に過ごしてきたつもりだ。

 

信頼もしているし、されているという気持ちもある。

でも、ランスとウルザの距離って……。ちょっと……今更だけど、すごくない?

 

ランスと電話で話をしている今のウルザの声色。なにこれ、こんなだったの?

おそらく無自覚だろうけど、いつものウルザらしくない。ゼスの新四天王にして軍師様のウルザのはずが、“あんなにも”地のウルザが色濃くなっちゃってるじゃない!

 

ウルザは、ランスと一線引いているつもりなんでしょうけど……誰よりも心の内輪にランスを入れているのが、ビビってわかる。伊達にランスの赤ちゃん、産んでません。

 

(ずるいわよ。ランス)

 

新体制のゼスになってから、ウルザとは、けっこう仲良く仕事を一緒にやってきたつもりだったけど……でも、二人がアイスフレームという組織で過ごした時間は……。

ウルザにとって、私とランスのどっちが心の深いところにつながっているのか。

それがわかっちゃうくらいには、差を感じてしまった……かな。

 

(まさか、自分の夫に……寝取られる気分を味わされるなんて……いや、でも、まだまだこれからなのかも……)

 

マジノライン崩壊の危機のただなか、不謹慎な思いはあれど、いろいろと女の勘がビンビンしている。

あぶない。今のランスは別の意味でいろいろと危ない。何がどうとかじゃない。やたらとランスが大きくみえる。魅力の溢れかたがズルい。

 

(ウルザは、私の手前なんとか……でも、今のランスだと……もしも、そうなっちゃうと、スシヌに腹違いの妹か弟かぁ……あー、頭痛くなりそう)

 

この大戦、もしも人類が勝利することができたなら、私のライバルはいったい何人になっているのだろうか。

寒さを感じるには、まだ少し早い季節だというのに……身震いがした。

 

 

 

 

◇ (????)

 

 

(……あのランスが、人類の総統だって……? 何を言っているんだ?)

 

今日も僕はいつもの酒場ですこしばかり酒を楽しんでいたら、そんな馬鹿げたホラ話を耳にした。

 

「ど、どういうことですか? 僕にも……ヒック……ちょっと教えて、ください」

「あ? 息、酒くさっ! アンタも毎日そんなになるまで飲んでちゃダメだって、はやく帰んな……あっ、腕掴まれると、痛いって」

 

この酒場のアイドル、アタゴ・マカットさんだ。

ちょっと千鳥足になっていた僕は、彼女の腕をすこし乱暴につかんでしまったようだ。義手の調子がわるいらしい。

そういえば、アタゴさんは、ランスにいつもひどいことをされているとも聞く。

なので、彼女から詳しい話を聞くことにした。

 

「あぁ、ランスね。ひどい男よ、そうね。もう(そんなアンタもひどい常連ナンバー2よ)」

「同感です(よかった。彼女は、正常な女のかただ)」

 

現在、人類が魔軍に攻められていて、危険な状態になっていることは僕も知っている。

しかも、そんな状況であるにも関わらず、リーザス、ゼス、ヘルマンなんかの国がいがみ合っているせいで、魔軍は破竹の勢いで領土を広げていたはずだ。

僕としては、魔軍にもっと頑張ってもらってから、一旗揚げたいところなので、都合がいい。

 

そうなのだ。僕は、冒険者としての力量は一流なのだが、功績に欠けていたかもしれない。

若いころは功績よりも、やるべきことがあるという気がしていた。しかし、世の中の女は、見る目がないことがわかってきた。だから、わかりやすい功績が必要だったのだ。

 

功績さえ手に入れれば、今は相手にされていないアームズさんだって僕を見るだろう。

僕のもとを去ったマチルダだって、いや、あの子にはもう未練が無いのだが……そうだ、シィルさんだって。

 

「いや、それはランスが解決したらしいわ。まぁ、アイツだしねぇ」

「は?」

 

話を聞いてみると、ランスは本当に人類の総統になっているらしい……ありえないことだ。

すでに何体もの魔物将軍を倒して人類に貢献している? 次は、ゼス方面の大作戦に向かったらしいと?

 

「……」

「いた、痛いって……! もう、腕離してよ(コイツ、ちょっと怖い……)」

 

アタゴさんは、ちょっと気をぬいた隙に僕の義手をふりほどいて逃げてしまった。ひどい人だ。せっかくランスの悪口で気があっていたのに。もっと話をしたいところだったなぁ。

しかし、ランスが――。

 

「いけない……このままでは、ヒック、……ゼス、ゼスか……そうだ、フフ、フフフフ……」

 

 

――こうして、マカット酒場からひとりのあやしい常連客が姿を消した。

なお、あやしい常連客からツケの支払いがなされることは無かった。

 

アタゴは、店から変な客がひとり消えたことをひとしきり喜んでから、酒場の周りに塩を撒いた。

CITYにとっては、万々歳であるのだが……しかし、何ともいえない不安に襲われることになる。

 

(これ、ランスに言うべき? ……でも、ただのキチガイの酔っ払いってだけかもしれないし)

 

いいようのない不安を抱えたまま、魔人討伐隊のランスの帰還を待つことになるアタゴ。

残念かつ無自覚なことなのだが、アタゴにとって、もっとも強くて信頼できる気の知れた異性とは、ランスの他なかったのである。

 

 




誤字脱字のご報告ありがとうございます。とても助かりました。
下記6名様のおかげで、今のクオリティが保てている次第ですー。

クオーレっと さま
ヤルキナシ さま
blackfenix さま
ハメるん さま
ふぐすき さま
とんぱ さま


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LP7年 9月後半 作戦(2)

◇ マジノラインの機能故障 (???)

 

 

40年以上もの間、人間と魔物の領土を二分にしていたマジノライン(魔路埜要塞)。

 

複数の塔が連携して周囲に電撃を放ち、魔物たちを焼き払う、電撃塔。

巨石を連続して魔物たちが固まっているところに投げつける、投石機アンゴルモア。

白色破壊光線相当の強力な魔法を放つ、破壊光線砲。などなど。

 

マジノラインの攻略は、どのようにしても面倒極まるものになるはずであった。

しかし、そのマジノラインは、突如として、夜でも眩いほどの輝きを放つ電撃塔の連携が鈍らせる。より顕著であったのは破壊光線砲のほうだ。なんと完全に機能を停止してしまったのである。

 

困惑する魔人メディウサと、その使徒のアレフガルド。

人間たちが勝手に潰れる展開は、カミーラダークのときと同じである。罠であれば図太く、そうでないなら呆れるしかない展開だ。変な話になるが、警戒心を抱いて当然であった。

 

魔物将軍らは、自分たちを誘い込んでから一気に殲滅する人間たちの罠だと上申した。

カミーラダーク時は、再起動したマジノラインの迎撃システムによって、大きな被害をうけた苦い経験から、まだ数年の年月しか経ていないのだ。痛みからの上申であった。

 

しかし、魔物将軍の進言の一方で、マジノラインのエネルギー源たるマナバッテリーが、人間のテロによって機能を停止している、というバカみたいな情報も入ってきた。(マナバッテリーの存在は、カミーラダーク以前は秘匿されていたが、ゼスが新体制になって以降、公のものとしている)

なんにせよ、このときは両軍共に、混乱を極めていた。

 

――その後の展開は次のとおり。

ゼスは、新四天王チョチョマン・パブリの指示で、即座に人類総統たるランスの意思確認がなされ、現在は総統自らがマジノラインの対処に急行している。

 

対してマジノライン方面の魔軍指揮・魔人メディウサは、総攻撃の指示を出すか出すまいか、半日以上決定を保留していた。たまたま、やる気がでない気分だったからだ。

事態の流れによっては、もっと楽に攻略できるのではないか(なんなら勝手に自滅してくれ)、という怠惰な性格からくる保留でもあった。

 

結果、人類総統のランスは、マジノラインのもとへと急行でき、魔人メディウサは、総攻撃を仕掛ける最大の好機をふいにしてしまったのだった。

 

 

 

 

◇ マジノライン (マジック)

 

 

 

「今回の作戦は――これだーー!!」

 

今回のゼスの危機にランスの採った作戦は、精鋭軍による夜間の“浸透突破”だった。

なんと、大胆にも敵陣をかい潜って魔人メディウサを直接討ちとってしまうという、奇襲作戦というわけ。

 

精鋭部隊(ランス、イージス、パステル、クルックー、サテラ、リズナ、かなみ)と、マジノラインからの後方支援部隊(シィル、マジック)をランスが選抜。敵との交戦を避け、魔人に接近。そして、ささっと討伐する。

 

なるほど、難易度に目をつむれば単純明快な作戦ね。冒険者らしい発想とも思う。

ああ、前回のカミーラダークと似たような感じかも。あのときは、親父も作戦に参加していたけど……今回はおもりは居ない、と。上等よ。

 

といって、気持ちを奮い立たせてみたものの……ランス以外の発案だったなら絶対に採用されないだろうな。うん。

 

「あーもう! やるっていったら聞かないんだから! 失敗したら許さないからね!」

「がははははは! わかっているなら、キリキリ働け」

 

マジノラインに到着すると、魔物の領土は、もう目と鼻の先。

地の利があるマジノラインからは見下ろす形で、魔人メディウサの駐屯地が見える。

圧倒的な敵の物量を目の当たりにすると、冷たい手で心臓を握られる気持ち悪さを覚えたけど、胸の内でランスの名前を呼べば不思議と悪寒が和らいだ。

 

(……そういえば、私って前の時もマジノラインで困ったとき、ランスの名前を呼んでた気がするな。ランス、スシヌ……私、頑張るからね)

 

――ちなみに、そのときは、マジックとの関係を諦めきれずにがんばっていたゼスが誇る四将軍がひとり、光の魔法団体長アレックス・ヴァルスが彼女のそばにいた。(そして、重たい精神ダメージを負った)今回は、マジックの補佐にはシィルがつくことになっている。

 

「がんばりましょうね、マジックさん」

「ええ。よろしくね」

 

私たちは、魔法電話をつかって攻撃部隊の後方支援を担当することになった。

それで、なぜかランス達が討伐に成功した後は、魔法テレビの現地中継の準備も必要らしい。なんにしても大急ぎで手配を進めないといけない。

 

マジノライン方面を守備するゼス部隊と合流。

そこで、マジノラインの異常の原因も把握した。どうやら、マナバッテリーの一部に異常が発生していたようだ。どうやら、末端の配線に軽微な……とはいえ、修復に数日を要するくらいの損傷があるようだった。

 

(なにこれ? ……中途半端すぎるわ……なんなのよ、これ)

 

薄気味悪い。

なんで、マナバッテリーにダメージを与えることに成功しておきながら、魔軍は即座に侵攻を開始してこないの。こんな損傷、時間との勝負になる“一時的な”異常にすぎないはずなのに。

 

「はい、ランス様……マナバッテリーの守備隊の人に犠牲があったみたいです、はい。えっと、ファイヤーレーザーのような魔法で胸のあたりを撃たれて……はい。亡くなられていま……え? は、はい! わかりました。マジックさん、ランス様が――」

「え? どうしたの」

 

このときすでにランスは、マジノラインに残る私たちと別れて、魔物の領土へと出発していた。

電話ごしに聞くランスの声は、たっぷりの自信の裏側に、わずかな緊張と……怒りを感じた。おそらく、シィルさんもわかったと思う。

 

電話の内容にも驚いた。

ただでさえ少数の奇襲部隊から、かなみさんとAL教法王(クルックー)を、こっちに寄こすというのだ。

 

かなみさん……忍者を下げる?

今は一刻も早く浸透突破の奇襲作戦を成し遂げ、魔人メディウサを打ち取る作戦の途中のはずなのに。

 

(いったいランスには、何が見えてるっていうのよ……?)

 

 

 

 

――その後、マジノラインには、かなみとクルックーが編入された。

さらには、法王の身を守るため精鋭のテンプルナイト騎士隊(バッティング・センターズの隊であった)を追加。徹底した防御態勢となった。

 

その一方で、マジノラインを抜けて、魔物の領土内に潜む魔人討伐隊は……わずか5名。

 

空は鈍重な鉛を思わせる黒い雲で覆われ、やがて、雨が降り始めた。季節外れにも雹が混じっていた。

雨音があたりに響く。

 

夜が訪れ、魔軍の前線駐屯地の明かりを残して、あたりは暗闇に包まれた。

 

(ランス……)

(ランス様……)

 

マジックとシィルは、愛する男の無事を強く祈った。

 

 




途中まで書いて公開し忘れてたのを思い出した。

うーんって感じだと思うのですが公開します。
許してわん。金色の折り紙もつかっていいよ。本作を覚えていてくれた方に感謝。

最近は、ランス小説も更新されてて、まことありがたし。安心してサボry
私も感想欄に「おもしろいのれす」って書くお仕事ができるってものですな。


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LP7年 9月後半 作戦(3)

 

LP7年 9月後半――

マジノライン 魔人討伐隊、浸透突破作戦

 

 

マジノラインを抜けたランス率いる魔人討伐隊。

 

ランスにとっても“想定外の事態”があったため、作戦の計画変更を余儀なくされていた。

 

だが、ランスはその不満を態度にすることはなかった。

むしろ、いつも以上の自信を身に纏い、並々ならぬ覇気を満ち溢れんとしていた。

 

(こういうときこそ、苛立った態度に表さない男こそが、いい男なのだ。がははは)

 

このランスの振る舞いは、“ランスからすると”年を重ねるごとに自然と身に着けていたものである。

しかしそれは、各国の女王であったり、北条早雲、真田透琳、朝倉義景のような一流の賢者、知識人、そういったランスを好む面々が、入れ替わり立ち代わり何十年もの間、大変なお節介を焼いた苦労の結晶に他ならないのだが、その苦労は十二分に報われていたといえよう。

 

(がんばれイージス。なに、失敗してもいいぞ。恋人の俺様が尻ぬぐいをしてやる。がははは)

(恋人か……まぁ、やれるだけやってみよう)

 

かなみに代わって魔人討伐隊の進軍をサポートしたのは、イージス・カラーだった。

 

マジノラインを抜けた先、魔物の領土は、森に覆われているため、カラーの森で守備隊長を務めるイージスにとっては、人間たちの国土よりも相性に恵まれる。

加えて、このときは、幸運にも闇夜の雨音が部隊の存在を薄めていた。

 

イージスは、一癖も二癖もある部隊の面々を見事、敵陣奥深くまで進めることに成功する。

なによりうまかったのは、クセの強い性格の面々に焼いた世話だろう。イージスの隠れた才能、苦労症だった。

 

(……ランス、パステル様、このあたりでどうでしょうか)

(ふっふっふ、妾の番かの?)

 

 

 

この奇襲作戦の目的は、もちろん「魔人メディウサの討伐」である。

しかし、行く手を阻む魔物の数は膨大だ。奇襲とはいえ、魔人メディウサの元にたどり着くは、決して容易なことではない。

 

――そもそも常識であればこの作戦は、通常決して採用されない作戦であっただろう。まともな軍師であれば、この作戦の成功の目算を到底説明することができないからだ。

いわば、この作戦は確率ではない“ランスだから”こそ採択がされた作戦だった。

ゼスの副王マジックがランスを信じて採りあげ、ゼスの軍師ウルザがランスに賭けた奇襲作戦なのだった。

 

並の神経では、プレッシャーでまず潰されるほどのゼスの期待。

ここからの戦いを想像すれば、ひりついた空気が隊内に漂うのも必然であったが――ランスにとっては、あの日、あのときの風のひとつに過ぎない。そう。大冒険の風だ。

 

 

(――パステル、派手に一発かましてやれ)

 

 

ランスの奇襲作戦は、精鋭隊全員を驚かせた。

敵陣の真只中で、パステルの呪いの魔法「大規模モルルンBM」をつかうというのである。

 

これは、人間であろうが魔物であろうが男であれば、殲滅することができる悪魔のような呪いである。その威力は、かつて、カラーの森を襲ったヘルマン軍を壊滅させた(生存者わずか一名)とんでもない大魔法だ。

敵との交戦をなるべく避け、魔人メディウサの元まで進軍する――ランスにとっては、このようにも解釈される好例だった。

 

(ふっふっふ。妾のすごさを、愚かな人間どもにも教えてやるわー)

 

ただし、モルルンBMの効果からランスは逃れることができない。

当初の予定では、神魔法レベル3の才能を持つクルックーに守らせるつもりだったのだが、しかし、いないものはしかたがない。ランスは、クルックーの代役にリズナ・ランフビットを抜擢した。

 

リズナも支援魔法は、前回のゼスの騒動のころから勉強を続けてきている。

ランスを支えたいという献身的な思いだけで弛まぬ努力を継続できるのが、リズナという人間だった。

 

魔法絶対防御の体質になってしまう以前から、リズナの魔法耐性は、人類最高クラスであったといえる。そのため、魔法バリアは、おそらく得意な部類の魔法のはずだが……リズナは、魔法バリアという魔法をあまり活用したことがなかった。(必要がなかったせいでもある)

 

「ランスさん、私で大丈夫でしょうか……」

「うむ。リズナちゃんも支援魔法を練習し始めて何年もたつ。信頼してるぞ」

 

ランスの言葉に勇気づけれられリズナは、魔法バリアをランスに二重、三重にかける。

リズナを抱き寄せるランス。

 

「あっ……(ドキドキしてしまいます)」

(ふん……しかたないの)

 

ほどなくパステルの大規模モルルンBMが発動する。いかにも毒々しいオーラが暗い森の中を走り抜ける。

リズナは、目を閉じて深い呼吸を繰り返した。心臓の音がうるさかった。

 

 

(いち……、に……、さん……)

 

 

数秒の沈黙。

 

リズナにとって、その時間は、とてもとても長く感じられた――のだが、突然、リズナは何者かに唇を奪われると共に、豊かな胸を揉みしだかれた。

 

「――っ!!?」

「がはははは、よくやったぞリズナちゃん! ここからは、俺様の出番だ! サテラ、突撃だーーー!!」

「まかせろランス!!」

 

この手癖の悪さ! もちろん、ランスであった。

緊張から一転、リズナは思いもよらない不意打ちのせいで、一瞬のうちに出来上がり、腰がくだけてしまった。(予想以上に“上手い”のも問題だった)

 

ランスとサテラは、競い合うようにして生き残った僅かな魔物を蹴散らしながら、魔人メディウサのもとへと雁行して駆け抜けていく。

 

(――ふん、まったく世話のやける男だ。ひとつ貸しだぞ)

 

人知れずパステルは、ランスとの約束をひとつ守った。

あとは――

 

 

 

 

◇ ランス、サテラと共に魔人メディウサを打ち取る

 

 

「がはははは!! 俺様参上、とーーー!!」

「こんな夜中に、なに……面倒ねー」

 

ランスと魔人サテラは、魔軍の混乱に乗じて、魔人メディウサのもとに迫った。

 

これほどの電撃的奇襲は、歴史上極めて稀、いや二度と再現の無いものであっただろう。

しかも、ほんの僅かな時間の間に敵陣は崩壊し、完全にその機能を麻痺させている。このときの魔人メディウサは、未だ状況の急変に気がついていないほどであった。

 

魔人メディウサは、眼をこすりながら、趣味じゃない男(ランス)との戦闘を避けるため、従者アレフガルド(♂)を呼び出した。……が、駆け付けたアレフガルドは、かなり具合の悪そうな様子であった。

 

魔人メディウサは、アレフガルドにランスを“さっさと殺すよう”命令する。

一流の執事であるアレフガルド。ぷるぷると小刻みに震えながらも、何一つ言い訳することなく、主人の命令を忠実に従いランスに迫るも――

 

「とりゃーーーー!!!!」

「(グサー)ぎゃーーーーー!!!」

 

哀れなアレフガルド。

いともあっさりランスの攻撃の直撃をうけて、死亡する。

 

技能レベル3。選ばれし者が、これだけあっさりと殺されてしまった例は、過去にフレッチャー・モーデルのような本来の実力を失った「例外」しか存在していなかった。

仮に、魔人メディウサのオーダーが、ランスを“さっさと殺す”でなければ、万能な執事の技能に解釈の余地が残っていたかもしれない。仮に、アレフガルドの戦う相手が規格外の男でなければ、まだ一矢報いることはできたかもしれない。

 

哀れなアレフガルド。

彼の最後は、わずかな可能性さえも存在していなかった。

 

「……は? アレフガルド?」

 

魔人メディウサの思考が一瞬止まった。

アレフガルドにとっては残念なことだが、それは彼を慮ったものではなかった。

想像だにしなかったくらいのクソ雑魚として散っていったアレフガルドの無残な姿に……話が違うじゃない、といった類の苛立ちの感情から生じた隙であったのだが――

 

 

もちろん、その隙は、見逃されなかった。

 

 

サテラの振るった鋭い鞭が、魔人メディウサの片腕を締め潰して捕まえる。

それと完全に同時のタイミングで、ランスが魔人メディウサの股間に生える蛇を一刀のもとに両断、地面に落ちた蛇の頭を踏み潰した。

 

ランスやサテラのような、どこか調子のよい輩は、こうした敵の間抜けな隙をつくのが大好物なのだった。

相手の虚をついた攻撃。大得意とするところである。

 

「くっ!?」

「メディウサ! サテラとランスの勝ちだ!」

「おりゃーー!! もういっちょうだーー!」

 

ランスは、長身のメディウサを床に押し倒し、両目を魔剣カオスで切り裂いた。

さらには、返す刀で美しい腹部に魔剣カオスを突きたてる。

 

(っ!? ぐ……そっ、そんな……っ……!?)

 

魔人メディウサは、このとき敗北を悟った。しかし、敗北を頭で理解しながらも火爆破の魔法を詠唱していた。

この行為は、無意識だった。魔人とは、敗北を知らない生物である。それゆえに生じた本能的な足掻きであったのだが、それは無駄な行為に終わった。

 

魔法を詠唱する魔人メディウサの腕に投げつけられた、一刀の薙刀――名刀景勝であった。

(両目を潰されたメディウサは知る由もなかったが、ランスらには、魔法バリアが付与されていた)

 

「はっ、はっ、……ま、間に合いました……!」

「(よくやった、リズナちゃん) ふん。で、お前は、まだやるか?」

「……はぁ、降参よ」

 

驚くべき速攻と決着。

こうして、魔人メディウサの討伐、奇襲作戦は、終わりを告げた。

此度の大戦、人類にとっては、一人目の魔人討伐であった。

 

 

 

 

◇ ランス (ごほうび)

 

――メディウサの討伐成功。その事実は、魔法テレビによって、即座に喧伝された。

ランスの圧倒的公開“おしおき”によってである。

 

それを、魔物たちは見た。

魔人が人間に“蹂躙”される姿を。

 

あの恐ろしい魔人メディウサは、艶かしくはだけた姿をしており、腹部には魔剣カオスが突き刺さっていた。(もちろん、もう一つ突き立てられるものもあったが)

それは、誰が勝者で、誰が敗者なのか、ひと目で理解できるものであった。

 

「がはははははー!! おしおきだー、とーー!!」

 

魔人メディウサは、大量に失った血のせいか、目元や唇を青に染めて脱力していた……が、どういうわけか、妙に色っぽく悶えており、満更でもない様子だった。

 

 

行き過ぎたサディストとは、実に妙な生き物である。

サディストである自分以上の存在を知ると、その性質が一変してしまうことがあるのだ。ゼス刑務所の所長エミ・アルフォーヌがそうであったように。

(もちろん、魔法テレビでこの放送を見たエミは、ランスの所業に下着を濡らさずにはいられなかった)

 

魔人メディウサは、絶対的強者であるはずの自分を圧倒的な力で打ちのめし、大切な自分の瞳を、体を、徹底的に蹂躙してくるランスに、強烈な性的興奮、快感を覚えていたのだった。

 

「あっ……わ、私が、嘘……でも、っ……ぁぁっ!!(ビクンビクン♡ 恍惚状態!!)」

 

 

マジノライン方面の魔軍は、人類の電撃的な反撃作戦を受け、完全に壊滅した。

過去にも魔軍は、ゼスとの交戦において、(パパイヤ・サーバーの特殊爆弾による)原因不明の大損害を被ったことがある。今回は、それを彷彿とさせる、いや、それ以上に恐ろしいなにかだった。

 

魔軍の中に敗戦の衝撃、爪痕が残った。それは、決してやさしいものではない。

深夜におこった原因不明の大量死。そして、圧倒的、絶対的強者であるはずの魔人の敗北。

 

ランスが人類総統となって間もなかったこの頃、ランスが人類総統の座に就いたという情報が行き届いていない地域も少なくなかった。

そうした地域は、ランスという人物を魔人メディウサの討伐の報と共に知ることになる。

 

実際のところ、ランスという人物の存在は、この先も数ヶ月の間は、存在しない人物、ありもしない虚報として扱われていた地域もあった。あまりにも都合のよい、そして、伝説的な英雄譚を信じることができなかったのである。

 

(なお、魔人討伐に活躍したサテラとリズナは、メディウサの前に、ランスが美味しくいただきました)

 

 

 




EVO見ながら書きました。
ほんとは、4月に書いてたあらすじを書き直しただけです。ごめんわん。

ほんとは2話構成の予定と書いてあった。
すこしはメディウサとアレフガルドが粘る予定ってなってた。
ただ、今見るとおそらくそういう苦労は他作品が頑張るだろうって思ったので、さっくりと。

うちのランスは、強いがモットーでね……!
すいません、ほんとは楽しました。

なんとなく、ゼスは、桶狭間の戦いをゆるく意識しています。
今後の状況が開けますように、という願掛けから連想してましたが、今見ると謎の理由かも。

ゼスなんだし中東に倣ったイベントなかったかなぁ。
私の思うゼス(の雑なイメージ)は魔法使いの差別からの建国、それが行き過ぎての大反乱、都市にイタリアがあったりと、かなり欧州の文化が基底に浸透した中東みたいなイメージです。(魔物領土の都合、欧州はこっちに混じり合ってるのかも、と)

今作のゼスもやべー魔物将軍(カンボジアかな?)が来訪しておられたりと、やっぱり他国のあかん思想が伝来してくる悲しみの国。かわいそなのです。


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LP7年 9月後半 作戦(食券2)

◇ ランス城(変わったメイドを募集する その1)

 

ランス城のメイド集団のリーダーであるビスケッタ・ベルンズは、最近のランスの活躍ぶりからメイドの追加雇用を決定した。

 

今のランス城は、国際会議の後も、依然として人類存亡に関わる最重要拠点である。

日夜、人類の将来を大きく左右するだけの重大な作戦がいくつも練り上げられている。

特に、各国間での協力や連携が必要な作戦は、ランス城での取り決めが暗黙理とされていたといえる。もはや、各国が協調するための完全な中立地として機能していたのだ。

 

最初にランス城の賓客(新しいメイド)として白羽の矢が立てられたのは、朝倉義景の娘、雪姫であった。

雪姫は、(父の大陸出兵に同行するつもりが)留守番を言い渡されていた身……のはずだったのだが、天満橋のあたりでちょろちょろ大陸の様子を伺っているという噂を聞きつけたビスケッタが上手く取り計らった形であった。

(朝倉義景も、そのあたりは娘の気持ちをよくよく斟酌していたために、これを見て見ぬふりした)

 

「これが大陸のお城……」

 

雪姫にとっては、これがはじめての大陸、そして外国のお城であった。

JAPAN のお城の常識、曲輪や横矢といった当たり前の城郭装備が欠けているランス城は、すべてが目新しかった。

 

雪姫は JAPAN を代表する非常に美しい姫である。

ただ座っているだけでも目立ってしまう、そんな女性がまたひとりランス城に現れた。

 

「あの姫もまた、ランス殿の……おお、なんと美しいことか……」

 

ランス城に駐屯する(各国のエリートでもある)兵は、雪姫の可憐な姿に目を向けずにはいられなかったのだが、この雪姫もまた、ただ美しいだけのお姫様ではなかった。

 

彼女は、香姫と同じように、過去に JAPAN の戦場を経験している。

それどころか、 JAPAN の内戦(第四次戦国時代)の中で、浅井朝倉氏の滅亡を経験するなど並々ならぬ大変な苦労を経験している。(最終的には父の朝倉義景と織田家の部下となり、巫女の大部隊を率いる将として活躍)

 

「商売人」としてやっていけるだけの才能と、(内戦の間は)世界のヘイホーという不思議なアイテムを持たされていたこともあって、妙に兵法に長けている。そんな不思議な多才、雪姫は大陸でもその才を発揮する。

 

「お城の周りの防御ですが、これではいけないのではないかしら」

「そうなのれす。アテナも、そう思うのれす。もっと、まわりに落とし穴がいるのれす。敵を落とすのれす」

「いえ、アテナさん、落とし穴……ではなくて」

 

「ダメれす! 落とし穴がいいのれす!」

「……では、間をとって……そうですね」

 

ランス城の周囲の地形は、恵まれている。

周囲が山道となっているため、城に至る道が制限されている。自然の要害だ。雪姫の印象でも、長らく住まいとしていた朝倉家の山城の地形とよく似た印象を持っていた。

 

「使わない道は、お堀にしておきましょうか。そうね、弓と陰陽術で守りを固めるでしょうから……そうね、畝堀がよいかしら」

「わーい! 落とし穴!」

 

こうして、雪姫の発案によりランス城の周囲には、 JAPAN 流の堀(落とし穴)が作られた。

大陸の兵は、奇妙な形の落とし穴を作りたがる美しい姫を不思議に思ったが、ともかく力を貸す兵士は大勢いた。どこにいても、美しいは正義であった。

 

――後に、この畝堀によって魔軍の魔物は、地獄をみることになる。

 

 

 

 

◇リズナ(なんか上機嫌なランス)

 

あの日の夜。どういうわけか、私は、ランスさんを独占していました。

あのような決死の作戦を成功した夜。きっと盛大なハーレムになるかと思われたのだけど、意外も意外です。

 

ランスに頭をやさしくなでられる。

 

「どうしたんですか、ランスさん?」

「ん? なんでもない。仕返しは絶対にしてやるって言ったからな。今回“は”いつもより、たっぷりしてやったぞ。がはははは!!」

「???」

 

あれ? 数年前にも、このやりとりをした記憶が。うん。あった気がする。

あ、そうだ。アベルトとの決着がついたときにも言われたんだ。でも、どういう意味だったのでしょう。今日の意味は――

 

「あっ――」

 

でも、考えごとは、すぐにできなくなってしまいました。

この日のランスさんは――本当にすごかった。朝まで何度も何度も優しく蹂躙されてしまった。完全に溶かされました。

 

翌朝のベッドは、とんでもない有様で……お掃除された方には、悪いことをしてしまいました。

どれだけひどく犯されたとしても、ここまでの有様には、ならないと思います。

 

 

翌朝は、絶対に消えないこの躰の芯にある疼きのようなものが――驚くほどに満たされていました。体質が変わったわけじゃない。

 

ただただ、単純なこと。

 

ほんとうに、すごく気持ちのよい朝でした。……体も心も。

(でも、ちょっとやりすぎたせいで、あそこが擦過傷になってしまっていました)

 

 

――翌日、リズナは魔法バリアを唱えた。

 

「あれ?」

 

やけに……すこぶる調子がよかった。

 

 

 

 

◇ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー(ランスの伝言)

 

「そうか……! ランス殿がやってくれたか……!」

「はい」

 

カオル・クインシー・神楽による、ランスが魔人メディウサを討伐した旨の報告であった。

いつもの簡潔で正確な報告であるが、ガンジーの疲れていた顔に、いっぱいの喜色が染まった。

 

魔人メディウサの討伐に際しては、リズナが精鋭の奇襲部隊に配属され、しかも、作戦成功に際して目覚しい功をあげたという。

ガンジーにとってリズナは、やはり頼りになる先輩であったと言える。

(後に、作戦の子細を知ったガンジーの命により、リズナの名刀景勝は、ゼスの国宝認定にされる。ゼスを何度も救った英雄であり、可愛い娘の夫を守った刀である。むしろ、当然のことと言えた)

 

 

――“魔人”が、ただの“人間”に討伐される。

 

絶対にあり得ないことが起こったのだ。魔軍に走った混乱は、極めて大きなものであったのは間違いない。

ゼスは、ランスに続いた。魔軍が最も動揺を覚えたそのタイミングで、各地のゼス守備隊が大規模な反撃を開始した。

反撃部隊を指揮していたのはもちろん、腰に小剣を携え、巧みなボウガン捌きでも知られるゼスの名将ウルザ・プラナアイスであった。

 

反撃作戦。それは、彼女にとっての“十八番”だ。

ゼスにおいて、(この世界においても)ウルザ以上の適任者は存在しないだろう。

 

彼女はランスとの電話のやり取りの後、以心伝心とも言うべき正確な読みで、この反撃作戦を準備してみせたのだった。

部隊を見事に操り、敵部隊の最も弱い部分をすぐさま見極め、的確な指揮を採る。それは、いままでの経験すべてが、今の彼女にそうさせている。

 

「ふっふっふ……」

 

決して自分は、褒められた王ではない。ガンジーはそれを自覚する。

ああ。無能だとも。ああ。身勝手だとも。なんと言われてもいい。だが、あのときの危機を乗り越えたゼスは今、強く逞しい力を身につけていることを証明してみせた。マジックは、娘は、己などよりも遥かによい王となるだろう。ゼスの未来はなんと明るいことか……!

 

 

異変の生じていたマジノラインの異常は、(マジックの目算よりもずっと速い)メディウサの討伐の1時間20分後に回復に成功。(魔法電話によって、マジノラインを知る自由都市出身のマリア、カスミ・K・香澄らの協力があった)

 

その結果、ゼスは残る魔人(魔人レッドアイ、魔人ガルディア)を領土の内に閉じ込めることにも成功している。

加えて、ゼス領土内で瓦解した魔軍は、魔軍領土内への逃亡を図ったが、マジノラインにて、これも見事に挟み撃ちの形で撃退している。

この一連の作戦は、ランスの存在しない部隊が計画し実施したものの中で、初めての大戦果、大成功を収めたと言えるものだった。

 

「名将ウルザ・プラナアイス」の名前は、電撃的に世界を駆け巡った。

ゼスの国民は皆が、聡明なマジック、そして、彼女を讃えた。

(そして、マジックにとっては、ウルザを別の意味で脅威として認めざるを得ない結果でもあった)

 

――なお、マジックの予想はあたった。

その後、魔法電話で交わしていたウルザと英雄ランスの仲睦まじい関係性の一部が発覚、ウルザは、ゼス国民から向けられる(想像を含んだ)生暖かい視線に困らせられることとなる。(ウルザは、これは戦時中のそれも一過性のものに過ぎないだろうとタカを括っていたが、この後、ランスの行動力を改めて思い知らされることになるのであった)

 

 

 

「あと、ガンジー様には、ランスさんから言伝も直接届いています」

「おお、ランス殿から? 珍しいこともあるものだ。どういったものか?」

 

「はい。……『スシヌが悲しむ真似すると怒るぞ』だそうです」

 

 

 




EVO見ながら書きました。その残り。
まとめて更新しておきやす。

ちょっと雑だったかも。1時だよ。眠くなってきたからね。ごめんね。
ぶっちゃけ、この食券は好き勝手に今書いた。
贔屓? ひ、贔屓してないよ? ほんとほんと。

この後は……ろくすっぽ予定表がない。どうしようか。困った。
これがどういう意味か分かるかね。

やっぱり、ヘルマンかなぁ?(大統領贔屓のため)


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