【くろうにん】の書(完結) (へたペン)
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第一章「旅立ち編」
プロローグ


pixivから思い出したかのように移動。
せっかくですので高校時代の黒歴史を晒していきたいと思います。
黒歴史を晒していく勇気もとい無謀で滑稽な物語をどうぞご堪能して下さい。


 大きな岩をひたすら運ぶ夢を見た。

 老人に指定された場所へ岩を運び、戻るとまた岩が復活していて同じ頼みをされる。

 俺はそれを断ることが出来ずただただ岩を運び続ける夢だ。

 

 永遠とそれが続き心身ともに疲労困憊になったところで覚めたのが16歳の誕生日の朝である。

 

 変な悪夢を見たものの、天気も良く今日もすがすがしい朝を迎えられるに違いない。

 どこまでも続く青空の中、二度寝するにはもったいないと思うのは健康な証である。

 鳥のさえずりが俺を祝福してくれているようにも感じる良い誕生日のスタートだと気を取り直しておこう。

 俺はベッドから体を起こし、母さんに朝食を作ってもらい気分よく朝の散歩にでも出掛けるつもりだった。

 

「今日はとても大切な日。アルスが王様に旅立ちの許しをいただく日でしょ?」

 

 

 

 母さんの言葉に前言撤回。

 今日は最悪のスタートだ。

 

 

 

 俺の親父であるオルテガはここ『アリアハン』の勇者で、魔王『バラモス』を倒しに出かけたけどなぜか火山で行方不明になったらしい。

 

 

 そこで息子の俺の出番って訳だ。

 

 

 当時幼かった俺を旅に出しては不味いと倫理的道徳的な判断を王がしてくれたおかげで、俺はのんびりと過ごせていた訳だが、そういえば16歳になったら旅に出そうとか何とか母さんと笑いながら話していた気がする。

 

 こんな事なら普通の家に生まれて『アリアハン』に来る旅人に「ここは『アリアハン』城下町です」と言い続ける人生の方がずっと気が楽だ。

 ごめん、やっぱりそれ退屈だわ。

 

 

 じいちゃんに助けを求めようとアイコンタクトを送ってみたけど「お前の父親オルテガはりっぱな勇者じゃった。このじいの息子じゃ!」なんてくだりから始まる親父の武勇伝を自分のことみたいに自慢し始めた。

 

 

 そして俺は母さんに強引に連れられて王に頭を下げて要らない旅立ちの許可をもらった訳だが、王に自分の強さを数値化してもらうと性格が【くろうにん】になっていた。

 きっとこの苦労は朝の夢から始まったに違いない。

 

 

 

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉ~。どうせなら【セクシーギャル】になりたかったっ!」

「あんたギャルって女だから」

 ボケをすると期待通り後ろから即座に突込みが返ってきてくれた。

 

「それとその格好で騒いでるとどう見てもただの不審者なんだけどねぇー、自称勇者君」

「そう言うお前は顔なじみで城の科学者の娘のヒンヌーじゃないか」

 笑顔で挨拶を返すと無言でグーパンチされた。

 

 

 この胸をえらく気にしてる奴はアリシア。

 俺の幼馴染で、このように冗談をパンチで返す良き友人だ。

 

 

「先に勇者扱いしたのはお前だろっ。それにこの格好だって親父が旅立った格好で俺に選択の余地は無かった! こちとらマントが邪魔で歩きにくいんでぃ!」

「はぃはぃごめんなさいねぇー」

 全然謝る気の無い人をからかうような返事は今日も変わらずである。

 

 

「まあ、それはともかくとして誕生日おめでとう」

「ありがとよ。普通に誕生日を祝ってくれるのはお前らだけだ」

 

 

 他の街の奴らは祝勇者誕生だ。

 なんだか泣けてくる。

 

 

 後二人幼馴染で教会の孤児ティナと道具屋の一人娘ニーナがいるが、まだ姿をみせないということは誕生パーティーの準備でもしてるのだろう。

 そういう良い奴らだ。

 

 

「はぁ……このハーレム状態も今日でおさらばか」

「そうそう。だから最後の晩餐は派手に盛り上がろう」

「人事だと思って」

「だって人事だもん」

 本当に嬉しそうにものを言ってくれる。

 

「で、ルイーダの店で一緒に旅をしてくれる人は見つかったわけ?」

「それがな。旅の最中もハーレムにしたくて女性を募集してみたわけさ」

「あー、もうあんたの性格【むっつりスケベ】でよくない?」

「まあ聞けって」

 話の本題はここからだ。

 

「考えたら当たり前だったんだけど鎖国状態のこの国に旅人なんているかっつうの。妥協して普通に戦える人を探してみたけど誰もいないって訳さ」

 いるのはどう見ても戦士から転職したと思われる筋肉質な遊び人3人だけで、関わるとひどい目に合いそうだったから目が合わないように逃げ出して今に至るわけだ。

 

 

「苦労してるわね、あんたも」

「まあ【くろうにん】だしな」

 

 

 これは一人で旅立って一人でバラモス倒して帰ってこいってことだろうか。

 なんていうか親父と同じ結末になりそうで嫌だな。

 

「そっか……じゃあちょっと待ってて。みんな呼んでくるから♪」

 俺が落ち込んでいる中、嬉しそうにアリシアが道具屋の方に駆け込んでいった。

 

 待ち時間が暇だったのでオカリナを奏でるとしよう。

 誰かがハーモニカは青臭くて哀愁漂っていてダメだというからオカリナだ。

 

「オカリナなら楽しい曲だってCユニットの上下左右で簡単にできてしまうのだ!」

 

 どこかの森で流れそうな曲を吹いて吹いて吹きまくる。

 馬が来そうな曲も吹いて吹いて吹きまくる。

 子守唄も吹いて吹いて吹きまくる。

 

「何涙流しながしてんのよ、あんたは」

 戻ってきたアリシアに早速突っ込まれた。

 いつの間にかポロリと目から汗が出ていたらしい。

 

「やっぱり子守唄はダメだな。この曲調はダメなんだ。汗がとまらねぇ」

「あんたはも~何やってんだか」

 アリシアが呆れたように溜息をついた。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん!」

 道具屋の方からニーナがいつも通り元気に叫びながら走ってきた。

 

 

「お誕生日おめでとう。いやーお誕生日に勇者になるなんてさすがアルス君だね。有名になったらサインとか頂戴。そうすればそのサインを売って私はもうハッピーハッピー! あ、そうそうこれお誕生日プレゼントだから受け取ってね!」

 

「相変わらず元気な奴だな。お前一人の元気を集めれば魔人を倒せそうだぞ」

「やだなぁやだなぁ。私の元気集めればそりゃあもう邪悪龍も一撃だって♪」

 

 それは恐ろしいくらい元気だ。

 ニーナからのプレゼントを見てみるとそれは『くじけぬ心』だった。

 俺はもう『くろうにん』なんですけど。

 

「アルス。お誕生日おめでとう。またアルスの方が1個年上だね」

 そんな元気の塊の後ろでティナが嬉しそうに笑っている。

 

「えっとね、アルスはお昼まだだよね?」

「それどころか朝も抜きだ」

 起きたらすぐに城に連行されたからまだ何も口にしていない。

 今も俺の腹が物干しそうにギュルギュルと悲鳴を上げている。

 

「本当だ。アルス君のお腹が「ぐごごごご、誰だ我が眠りを妨げる者は」って言ってるよ。7ターン以内にアルス君のお腹を満たすことができるのか~!」

「ニーナ、それはどこの隠しボスよ」

 アリシアが軽く苦笑して突っ込みを入れる。

 まあここまではいつも通りの馴染みある会話だ。

 ただ一つだけいつもと違うところがある。

 

 

「で、お前らのその格好はなんのコスプレだよ」

 変な格好をしている俺が言うのもなんだが彼女達はかなり変な格好をしている。

 

「まずニーナ。その格好は何だ」

「何って商人に決まってるじゃん。私道具屋の娘だよ。魔法使いや戦士や僧侶なんて似合わないって」

 まあニーナの格好はまだマシな方だ。

 

「ティナ、その格好は何だ」

「僧侶だよ」

 笑顔で答えてくれた。

 確かにティナは教会で育ったから問題ないと言えば問題ないが。

 

「お前回復魔法できたか?」

「できないよ」

 

 当然のように笑顔で答えてくれる。

 【ホイミ】の使えない僧侶なんて誰も望まないと思うのは俺だけじゃないよな、うん。

 俺って普通だよな。

 

「……最後にアリシアは魔法使いのコスプレだが」

「コスプレじゃない。これでもちゃんと【メラ】くらいなら使えるんだから」

 らしい。

 でも問題はそこじゃない。

 

「だとしてもその衣装はヒンヌーに似合わないからやめておけ」

「だから貧乳って言うな!」

「ぐふ」

 また殴り飛ばされた。

 いい一撃だ、正直武道家のほうが向いてると思う。

 

 

 ティナが「大丈夫!?」と慌てて駆け寄ってくるけど【ホイミ】はこないので自分でかけておくとしよう。

 

 

「まったく、せっかく人が心配してついて行ってあげようかって思ったのに……ことあるごとに貧乳貧乳って……このセクハラ男!」

「いや俺は一友人としてのアドバイスをだな。だから親しみをこめてヒンヌーという言葉に……」

「どっちも同じよっ」

 また拳が俺の顔にめり込んだ。

 

「アリシアちゃん落ち着いて」

「ティナはこいつに甘すぎるのよ」

「そんなことよりご飯食べようよ。私のお腹は既に15ターン経ってるから倒しても威張れないし戦利品ももらえないぞー。ぶーぶー」

 幼馴染3人と旅ができるのは気楽で良いけどなんていうか先が思いやられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書1―――アルスの日記―――

 誕生日に魔王狩りに借り出されて幼馴染3人に捕まった。

 と言うわけで、これが俺の旅立ちの1ページ目だ。

 

 武道家向きの魔法使いアリシア。

 【ホイミ】の使えない自称僧侶のティナ。

 ただの道具屋の娘ニーナ。

 

 俺ってばなんて苦労人なんだ。

 だけど魔王を倒した後、伝説になったらそれっぽく書かれているんだろうな。

 なんだかやるせねー。

 

 

 




このようにメタとネタが多い作品ですが、少しでも楽しんで下さる方がいれば幸いです。


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第一話「苦労人」

苦労人の冒険が幕を開けます。


 自分で言うのもなんだが俺はかなり強い方だ。

 

 幼い頃から母親や街の人、兵士に半強制的に鍛え上げられて『アリアハン』の住民にできて俺に出来ないことはないといってもいい。

 

 後の伝説になる(魔王を倒せればの話だが)冒険の書だって俺一人で書き上げられるくらいだ。

 ただ神父の【ザオリク】をマスター出来なかったのが唯一の心残りである。

 

 

 そんな完璧超人の俺だが今ただの『スライム』軍団に苦戦している訳だ。

 いやいや、勘違いをしないでほしい。

 別に『スライム』がいくら出てこようと勇者があまり使わない魔法【ギラ】で一掃できるし、殴ってもほぼ無傷で完封できる自信はある。

 

 

「アルス~助けて~」

 ティナは何もできずにぽかぽか『スライム』に殴られて泣きながら助けを求めている。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! 見た見た今の見た!? 私の攻撃“改心の一撃”でたよ。すごいねー。私ってもしかして才能ある? ねぇアルス君ってば~」

 

 ニーナは攻撃や防御、回避をするたびに手を止めて話しかけてくる。

 いいから真面目に戦ってほしい。

 

 とりあえず『スライム』からティナを救出。

 残りのスライムを俺は【ギラ】で……。

 

 

 

 

「【メラ】」

 

 

 

 アリシアのその掛け声と共に俺の頭に火がついた。

 これで今日3度目の【メラ】の誤射だ。

 

 本人いわくまだ飛ぶ方向をコントロールできないらしいが、俺と地面にしか攻撃が飛ばないのはどうかと思う。

 

 とりあえず俺は手の掛かる幼馴染達に大苦戦をしていた。

 正直一人で旅立った親父の気持ちが少し分かった気がする。

 

 

「あ、アルスごめん! ティナ『薬草』を用意して!」

「アルス死んだらダメ!」

 

 

 ティナが俺のアフロになった頭に『薬草』をさしていく。

 【ホイミ】くらい覚えろよ自称僧侶。

 

 ちなみに死んだらダメと言うのは大げさな話しじゃない。

 『アリアハン』から旅立った最初の一歩の『スライム』戦で俺は不意打ちの【メラ】によって棺おけになった。

 

 この出来事は今日の終わりにしっかりと冒険の書に書き込む予定だ。

 

「あはははははっ。アルス君の頭が破裂した爆弾焼きみたいになってるよ。『薬草』のトッピングがまたなんともおいしそうだね」

「俺の【メラ】でニーナもアフロにしてやるぞ」

「そうしたら今度はクリームでトッピングしてイチゴまで乗せてあげるね」

 

 あははーとニーナは笑っているが多分こいつのことだ。

 本気でやるだろう。

 ステータスを確認すると性格が【おちょうしもの】になっているから間違いなくする。

 

 

「くそ、一人よりも辛い旅になるなんて思わなかったぞ」

「だから謝ってるじゃないのよ。私だって物に魔法撃った事無かったんだから」

「なら撃つな。まともになるまで頼むから撃たないでくれ」

 これ以上は俺の毛髪のライフが0になる。

 

「魔法使いに魔法なしで戦えと」

「大丈夫、お前なら武道家ばりの活躍をしてくれるはずだ。その『ひのきの棒』を敵の返り血で赤く染め上げてくれ」

「それほめられてる気がしないんですけど」

 俺的にはほめていたつもりなんだが、気に障ったのか声が少し刺々しい。

 

「アルスもアリシアちゃんも喧嘩しないの。あと少しで『レーベ』に着くから皆で頑張ろうよ。ね?」

 そういう空気になるとティナが笑顔で場をなだめてくれる。

 これで【ホイミ】さえ使えれば完璧なんだけどな。

 

 

「レーベだレーベだ『レーベ』が見えてきたよ。夜を照らす人里の明かりがまぶしいね。これでようやく美味しいご飯にありつけるね」

 

 ニーナの言うとおり今は夜だ。

 俺一人なら最低でも夕方にはたどり着いていたはずなのに。

 下手に『アリアハン』に置いていくとこっそり後をついて来そうだったから連れてきたけど、まさかここまで足を引っ張られるとは思いもしなかった。

 

 

 一人旅の時の経験値が恋しい。

 

 

 まあ連れてきてしまったのは仕方が無いからとりあえず宿の確保だ。

 休める時に休むのが旅の定石だしな。

 

「金掛かるけど全員一人部屋でいいよな?」

「お金掛かるなら皆一緒が良いな。それにみんな一緒だとおしゃべり盛り上がるよ」

 さすが商人の娘なだけあってお金にはうるさい。

 いやお金以外もうるさいから一緒の部屋だと眠らせてくれそうに無い。

 

「魔王と戦う前にニーナ以外過労死することになるぞ」

「アルスそれは言いすぎだよ」

 ティナが苦笑しながらフォローを入れてくれるがそれだととても説得力が無い。

 

「でも個人部屋だとアルスに襲われたらひとたまりも無いわね。やっぱり皆一緒の方が安心かも……」

 なにげにアリシアはひどいことを言ってくれる。

 

「俺はけだものか」

「いやだって【むっつりスケベ】だし」

「まだそのネタを引きずってたのかお前は」

 【くろうにん】とは本当に疲れる。

 

 

 だけどアリシアは俺が嫌いと言うわけではないのか4人部屋にしようと言い出した。

 皆も同意してくれたからなんだかんだで信頼はされているらしい。

 

 

 初めての旅はよほどつかれたのだろう。

 元気に見えたニーナも疲れているらしくぐっすりと寝ていてうるさくも無い。

 だから皆もぐっすりだ。

 

 だけど幼馴染で見慣れているとはいえ可愛い3人に囲まれている俺は寝れない。

 当然寝れる訳が無い。

 と言うわけで気晴らしに宿の外でギターを弾きに行った。

 

 音楽と言うものは人の心を和ませる。

 正直言おう。

 俺の袋の中は武器防具以外全て楽器だ。

 

 

 

 

 

「音楽最高ッッッッ!」

「うるさくて寝られないじゃない!」

 アリシアに上から物を投げられた。

 

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

 

 気付いたら教会だった。

 どうやらアリシアが寝ぼけて窓から投げた物が偶然俺の『銅の剣』で脳天にぷすりと刺さっている死体になっていたらしい。

 

「ごめんなさい……その……こんなつもりじゃなかったんだけど」

 俺も冒険初日で二度も死ぬなんて思いもしなかった。

 アリシアの顔が青ざめていて泣いていたけど問答無用で怒っておく。

 

 とりあえずこれでチャラだ。

 

「アルスごめんね。ごめんね。私が【ホイミ】使えないから……ごめんなさい!」

 ティナも泣いて謝っているが【ホイミ】を覚えていたとしても即死した俺は治せないだろ。

 だからティナはなにも悪くない。

 

「あ、そうそう。アルス君のギターだけど冒険に必要なさそうだったし二回の蘇生代として売っちゃったけどいいよね?」

「お前が一番謝れ!」

 

 買い戻したかったけど当然お金が足りない。

 しょうがないからティナに『ブロンズナイフ』を買い、アリシアには『稽古着』を買い与えた。

 

「私魔法使いなんだけど」

「俺を二度も殺した罰だ。それ着てしばらく接近戦主体で戦うこと」

 さすがにそれを言うと何も言い返せない様子だ。

 

「ねぇねぇアルス君私のは?」

「お前は自重しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書2―――アルスの日記―――

 アリシアに二度殺されてニーナに俺の魂のギターを売り飛ばされた。

 それでも二人を『アリアハン』に帰さない俺ってもしかしてお人よしだろうか。

 いや残ったティナと二人きりで冒険するのが息苦しいだけか。

 さすがに女の子と二人きりで冒険するのは会話の間が持ちそうに無い。

 というか恥ずかしいだろボケ!

 とりあえず今回敵はモンスターだけでない事が分かったから、次から気をつけるとしよう。

 




第一話にして仲間に2度キルされる勇者がいるらしい。
重要アイテムが使えるよう勇者の教養に楽器の取り扱いはありだと思います。


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第二話「盗賊の鍵」

勇者は盗賊の鍵と魔法の玉を手に入れた。


「あー、冒険二日目だがいきなり問題発生だ」

 

 とりあえず船の無い俺達は旅の扉で世界中を回って『バラモス城』になんとかたどり着かないといけないわけだが、鎖国体制のこの国はこともあろうことか『旅の扉』のある『いざないの洞窟』の入り口を塞いでいるのだ。

 と言うわけで今作戦会議をしている。

 

「あんたのお父さんはどうやって大陸を渡ったわけ?」

 アリシアの質問はもっともだが、海を泳いで渡ったなんて言える訳も無い。

 

 なんて言ったって先ほど「泳いで渡ればいいじゃない。私って頭いい」と飛び出したニーナが浜辺に棺おけになって打ち上げられていた。

 親父がこの馬鹿と同類とみとめたくない。

 

 

 という訳で船で行ったことに決定。

 うん、親父は船を持っていた。

 

 

「壁壊しても良いなら私のお父さんが研究中の『魔法の玉』を使えばいいんだけど」

「なんだ、解決策あるじゃん」

「研究に熱中すると鍵閉めて引きこもるのよ。ちなみに今その引きこもり中」

 

 手間のかかる父親を持つと大変だわと愚痴っている。

 その気持ち俺も分かるぞ。うん。

 

「ニーナちゃん復活! いや~まさか海にあんな凶暴なモンスターがいるなんて思いもし無かったよ。アルス君も沖に泳ぐ時は注意しないとね」

「ただいま。えっと……話は進んだ?」

 ニーナを復活させに行ったティナが帰ってきた。

 

 しばらく棺おけにしていればいいものをティナが「そんなの可愛そうだよ」と棺おけを教会まで引きずっていったのだ。

 ティナは良い子すぎて涙が出てくる。

 これで【ホイミ】が使えれば最高なのだが。

 

「とりあえずアリシアの親父しだいだな。『魔法の玉』ってアイテム貰おうにも鍵掛けて引きこもってるらしいからな。何か鍵開ける道具があればいいんだが……」

 

 【アバカム】やキーピック技術はさすがに『アリアハン』で習わせてもらえなかった。

 独自で覚えるのも時間が掛かるしどうしたものか。

 

「鍵開けるアイテムなら『ナジミの塔』にいるおじいちゃんが『盗賊の鍵』を持ってるって商人の間じゃ有名だよ?」

 意外にもニーナがまともな意見を出していた。

 

「お前……まともな台詞言えたんだな」

「失礼な。商人たるもの情報が命だからねー。アルス君私のこと見直した? 見直した?」

「ああ、株が0から1Gに増えた」

「わー、それって0Gの時買った人大もうけだね。このまま株値を上げて億万長者だー!」

 

 多分すぐ下がるからもし本当に株でもそれはないだろう。

 という訳で『岬の洞窟』経由で『ナジミの塔』に向かった。

 

「やはり俺のにらんだとおりアリシアが打撃に加われば楽だな」

「だからその言い方複雑なんですけどねぇ」

 苦笑しつつもアリシアの『ひのきの棒』はどんどん赤く染まっていく。

 

 なんだか自分で指示しておいてなんだがかなり怖い。

 

 そして塔にたどり着いた時、奴が出てきた。

 知る人ぞ知る不意打ちの悪魔『さそりばち』の大群だ。

 こいつは素早いし何よりも攻撃力が割りと高い。

 俺ならまだしも村人に毛が生えた程度の彼女達にとってその攻撃はまさに致命傷。

 

「なるべく後ろにいろよ。隙を見て【ギラ】で一掃する」

 本来それは魔法使いの仕事だがどこに飛ぶか分からない魔法なんて危険すぎる。

 だがら本来打撃要員であるはずの俺の役目になる訳だ。

 

 

 【くろうにん】は辛い。

 

 

「あ、大丈夫大丈夫。アルス君の盾にハチミツ塗っておいたから多分アルス君の方にしか行かないよ」

「ニーナ後でお仕置きな」

 

 いつの間にか俺は『さそりばち』の大群に囲まれていた。

 ついでに『フロッガー』や『じんめんちょう』も蜜の香りに引かれて集まって来ている。

 

 

 【くろうにん】は【MP】少ないんだからやめてほしい。

 

 

 俺が襲われている隙にニーナ達が老人から『盗賊の鍵』を回収。

 アリシアが苦戦している俺に「今助けるから!」なんて言って俺の見よう見まねで【ギラ】を唱えようとして暴発。

 棺おけにはならなかったもののアリシアは重症?(黒こげになって泣いている)だったので、とりあえず屋上まで逃げて【ルーラ】で『アリアハン』まで逃げ帰った。

 

 屋上の老人が心配だったが、まあずっとあそこに暮らしていたんだ。

 多分大丈夫だろう。

 大丈夫だよな?

 きっと無事でいることを祈っておこう。

 

 さて問題のアリシアの父親の研究室を『盗賊の鍵』で開けてみると怪しい研究をしているへんな親父がいた。

 

「お父さん世界救うから『魔法の玉』頂戴」

 

 アリシアはずいぶん直球な要求をしているが、いくら娘の言葉だからといってそんな城の研究室で作った怪しげな物体を民間人に渡すとは思えない。

 ここは俺の方から『勇者権限』を発動させて問答無用に『魔法の玉』を貰うのが一番だと思う。

 

「ああ、いいよ」

 

 でも俺の予想とは裏腹に簡単に返事を返してしまった。

 そういえば『アリアハン』の宿に『魔法の玉』で吹き飛んだ男が一人横たわっていた気がする。

 

 それもこの「いいよ」が生んだ惨事だろう。

 この親子は人を巻き込むのが得意なようだ。

 

「まだ試作品だけどプラスとマイナスのエネルギーをスパークさせて大きな力を生み出す爆弾だから気をつけて使うんだよ」

 よく分からないからスペシューム光線と考えておこう。

 恐ろしい威力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書3――――アルスの日記――――

 今日は塔で『盗賊の鍵』を取りアリシアの親父から『魔法の玉』通称スペシューム弾頭弾を手に入れた。

 せっかくの『盗賊の鍵』なので民家をあさろうと思ったがティナがいる限り「そんなことしたらダメだよ」と止められるのがオチか。

 とりあえずニーナの罰ゲームは今日一日スクール水着と浮き輪着用ですごせと言ったら三人に白い目で見られた。

 

 いや、だって商人といったらこの格好だろ。

 

 その格好で自重したのか売った筈の俺のギターを買い戻してきた。

 どこから金を稼いできたのかはしらないけどさすがは商人といったところか。

 ボロボロだけど俺の大切なギター。

 早速宿から離れたところで引いてたらアリシアが聞きに来たのには驚いた。

 上手いと言ってくれるのは嬉しいが正直照れる。

 その後ティナが来てわりとまったりしてたのにニーナまで来た。

 相変わらず騒がしい奴だ。

 




魔法の玉の入手先がレーベのおじいちゃんから、アリアハン城の赤扉にいる『魔法の玉』の情報をくれる人に変更されています。
それと塔のお爺ちゃんは勇者に鍵を渡す夢は見てもモンスターが押し寄せる夢は見なかったようです、なーむ(生きております)

そして勇者オルテガは重要アイテム全てを飛ばし、ゾーマ様のところまで泳いで渡った偉大な勇者です。
覆面とパンツだけなのは結界のある荒海を渡る代償だったのでしょう。(FCより
オルテガさんの身体能力おそるべしっ!


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「外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.1ニーナ」

いつも騒がしいニーナ視点の話です。


 流石に最近はしゃぎ過ぎたせいかアルス君がそっけない。

 やっぱりちょっとギターを売ったのはやり過ぎちゃったかな。

 

 でも本当にアルス君を生き返らせるのにお金足りなかったし、しかたなかったと言えばしかたなかったんだけど、アルス君の悲しい顔を見たら罪悪感が【ピオリム】つきでやってきた。

 

 元気が出るように盾にハチミツ塗ったりしてみたけど、スクール水着と浮き輪装備なんて私を恥ずかしさで殺すつもりなのかなアルス君は!

 

 

「そういえばあのギターは私がアルス君と出会った時にはあったものだからずいぶんと古いものだよね」

 で、結局私は気になったことはすぐ口に出しちゃうのが私の悪い癖だね。

 『レーベ』の宿でアルス君が少し席をはずした瞬間に私の口のチャックは開いちゃったりした。

 

「そういえば私の時ももうあったわね。ティナ、あんたが一番早くアルスに出会ってるけど何かしらない?」

「えっと……言っていいのかな……」

 

 ティナちゃんが苦笑してるからあまり良い話ではない。

 もしかしたら本当に大切なもので、私が傷つくと思って言わないのかも……。

 あー私ってばやっちゃった~。

 どうしてこうやることなすこと裏目に出ちゃうかな私は。

 私はただみんなと笑っていたいだけなのに。

 

「ニーナちゃん?」

「あ、私用事思い出したから『アリアハン』に一度帰るね。アルス君が来たら私抜きで旅立ったらダメだよって伝えておいてね」

 

 それに気付いたらこんな所でのんびりなんてしていられない。

 あのギターを買い戻さなくっちゃ。

 いてもたってもいられなくなった私は急いでギターを売った店に向かった。

 

 値段は800G。

 さすがに皆の財布から買ったら意味が無い。

 かといって一人でモンスターとまともにやり合っても私の力だと時間が掛かりすぎる。

 

 確かこの近くの森に『マダラグモ』が巣食っているって商人の間で噂されていたっけ。

 一個分の“マダラクモの巣”の材料の売値が26Gとして31個で806G。

 マダラクモは他の生物を襲わないって聞くしこれなら簡単に稼げるかもしれない。

 

「なんだ楽勝じゃん」

 後はギターが売れちゃう前にお金を稼ぐだけ。

 モンスターが出てもここら辺の敵なら逃げる分には時間は掛からない。

 

 GOGO私、がんばれ私、さびしさなんかに負けないぞー。

 ごめんやっぱり無理。

 一人と暗いのはどうも苦手でダメだね私は。

 

 それでも森の中不気味な蜘蛛の巣と眠っているマダラグモまでたどり着いた。

 ここまで来たらあと少しだから頑張らないとね。

 

「とりあえず蜘蛛の巣を持ち帰れば良いんだから、ナイフで切れば大丈夫だよね」

 『ブロンズナイフ』でさくっといこう♪

 

「あれ?」

 ナイフで蜘蛛の糸が切れない。

 それどころかナイフが蜘蛛の糸の粘着力で絡め取られてしまった。

 それがまるで起動スイッチだったかのように『マダラグモ』が起きてこっちに迫ってきた。

 

 『マダラグモ』は他の生物は襲わない。

 自分の巣に掛かった獲物しか食べない。

 

「あれ、あれ?」

 

 今私はどうなっている。

 落ち着け私。

 蜘蛛の糸に引っかかったのは幸いなことにナイフだけ。

 慌てて引っ張ったりしなかったから私の身体に糸はついていない。

 だからナイフさえ放せば大丈夫っ。

 

 

 というか蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い!

 

 

 慌てて私はナイフを話すと同時にマダラグモは口から糸を吐き出して『ブロンズナイフ』を絡めとりバリバリと音を立てて捕食する。

 

 銅がまるでおせんべいみたいだ。

 その時マダラグモと目が合ったけど糸に掛かったものにしか興味が無いのかまたもとの位置に戻って眠り始めた。

 

「あはははは……怖くて腰抜かしちゃった。いや~どうりでこの辺りはモンスターも出ないと思ったらこんなに怖いんだ『マダラグモ』。うん、無理。絶対に26Gの仕事じゃないよね」

 

 口はいつもどおり動くけどまだ怖くて腰が抜けたままだ。

 それでもアルス君の悲しい顔が私の頭から離れない。

 本人は普通に振舞ってたつもりだろうけど、本人も悲しいってことに気付いていないかもしれないけど、何年も一緒だったから私には分かる。

 きっと私よりも付き合いの長いティナちゃんとアリシアちゃんも気付いてる。

 

「何やってるんだろ、私」

 

 アルス君にはずっと笑っていてもらいたい。

 冗談交じりに私を怒ってもらいたい。

 悲しい顔なんてしてもらいたくない。

 だってアルス君がいなかったらきっと私はこんなに私らしくなかったから。

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人は一人では生きていけないから。手を取り合って前に進むんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギターを弾きながらそう詠っていたっけ。

 それまで私はいつも一人だった。

 お父さんもお母さんも仕事で忙しくて構ってくれなくって、遠慮しがちな私には友達すらいなくて、どうやって付き合えば良いのかも分からなくて、人の居ないところではティナちゃんやアリシアちゃんよりも泣いてたっけ。

 

 それでギターを弾いてたアルス君が勝手に窓から上がりこんできたのは今でも覚えてる。

 

「手を取り合うんだから飯をくれ。修行サボって飯抜きなんだ」

 

 本当に馬鹿らしい一言だ。

 でもこの言葉が私を変えてくれた。

 馬鹿らしくて初めて笑えた気がした。

 うじうじしていた私がなぜかすごく馬鹿らしいって気付けた。

 

§

 

 

「だからこんな事で私は負けない。絶対にギターを買いなおしてアルス君に笑ってもらうんだから」

 

 この糸を手に入れるには時間が掛かりそうだからマダラグモを倒さないと採取は無理。

 でも糸の上でマダラグモと戦ったら糸に絡まって捕食されるだけ。

 糸に触れたモノは先に糸を口から吐き出して完全に動きを封じてから捕食する。

 

「なら釣ればいい」

 

 適当な木の枝に丈夫そうな蔓をしっかりと結びつけて先端に取れやすいようにテープで餌の1Gをつけて特製釣竿の完成。

 

「後はこれをそーっと蜘蛛の巣に……」

 

 1Gが蜘蛛の糸に触れると同時に予想通りマダラグモが起きて糸を1Gに向けて吐き出した。

 ここで力いっぱい引いて1Gを分離。

 空中に浮いた蔓にマダラグモが吐き出した糸が絡めつく。

 素手からめとられた状態でいくら引いてもさらに糸が絡みつく泥沼でも、空中でマダラグモが吐き出した糸だけのときなら引けるはず。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 蔓を思いっきり引っ張って気の棒に巻きつけていく。

 それと一緒に吐き出されたいとも巻きつけていく。

 なんだか蜘蛛の糸を巻きつけると綿雨みたいでおいしそう。

 このままマダラグモを巣から下ろして糸出せるだけ出させたら後は逃げるだけ♪

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 蜘蛛の糸がピーンと伸びて巻きつかなくなった。

 重くて動かない。

 考えてみれば銅も食べてしまうマダラグモに力で敵う筈が無かった。

 

 

 

「あれれ?」

 

 

 

 調子に乗って巻きすぎたせいで私の手に巻き取った糸が数本くっついている。

 

 少しでもついたらちょっとやそっとじゃ離れないのに木の棒と私の手がくっついてて、木の棒はマダラグモの口から出ている糸を巻き取っていて。

 

 

 

「あれれれれ?」

 

 

 

 ここでマダラグモに引っ張られたら、私、どうなっちゃうんだろ。

 

 

 

 思考が、うまく、はたらかない。

 調子に乗るとやることなすこと全て裏目に出るのに知ってたのに私はまたやっちゃった。

 

 

 

 マダラグモの口が動いた。

 

 

 

 せめて痛くないように死にたいなんて思ったけど、生きたまま食われるんだからきっと痛いんだろうな。

 私の死体だれかみつけてくれるのかな。

 それよりも私の体、残るの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の中に生き返れるから無茶しても大丈夫なんて考えがあったのかもしれない。

 身体と心臓や脳の破損箇所が50%以上残っていれば生き返れる。

「お願い、食べないで…」

 マダラグモが人の言葉が分かる別けない。

 

 

 それでもマダラグモは糸を噛み切った。

「あれれれれれれ?」

 

 

 これは後になって知ったことだけどマダラグモは自分の巣に引っかかって動けないものしか捕食しないのは自分の身の安全を確保するためで、とても臆病な生き物らしい。

 だけどこの時の私はそんなこともちろん知らない。

 

「あ、ありがとう……。それと騒がせてごめんね。この糸はもらっていくから。これで大切なものを取り返してくるから。いつか恩返しさせてね」

 だからマダラグモに感謝して笑顔を作って道具屋に急いだ。

 

 

 

「こりゃ驚いた。お嬢ちゃんこりゃ本物のマダラグモの糸じゃねえか」

「本物?」

「出回ってるのはマダラグモの糸の粘着力の恐ろしさを発想として作った粘着剤だ。お嬢ちゃんよく取ってこれたな」

 もう道具屋のおじさんの言葉に私は言葉を失った。

 やっぱり私が生きているのは奇跡に近いらしい。

 まあ8000Gで売れたからいっか。

 

「それでおじさん。私が前に売っちゃったギターのこってるよね。ボロボロだったし」

「あー、それでこんな大それたことをしたのか。すまないな。大切なものと知っていれば商品にせずにとっておいたのだが」

 

 今日一番のショックな出来事だった。

 どうやらギターは少し前に売れてしまったらしい。

 これだとアルス君が笑ってくれない。

 私は、嫌われ者だ。

 

 宿には帰れなくって、久々に誰もいないところで泣いた。

 

 アルス君は優しいから許してくれるかもしれない。

 きっといつも通り。

 でも心のそこではどうか分からないし、アルス君の優しさに甘えているようで嫌だ。

 何だか、昔の自分に戻ってしまった気がした。

 はしゃいでいたのが全て馬鹿馬鹿しくて、迷惑をかけた私の行動が情けなくて、泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

ギターの音がした。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……」

 聞き覚えのある音。

 聞き覚えのある曲。

 聞き覚えのある声。

 

 彼が、どこかで詠っている。

 

 聞き間違えようが無い音を頼りに、聞き間違えようが無い声を頼りに私はいつの間にか走っていた。

 

 涙も止まっていた。

 何も考えていなかった。

 

 町外れの草原でアルス君がギターを弾いていて、それをティナちゃんとアリシアちゃんが聴いている。

 

「ニーナちゃんおかえり」

 一番初めに私に気付いたのはティナちゃんだった。

 どうしよう。

 どんな顔してアルス君に顔合わせれば良いかな。

 

 初めの言葉は「買いなおしたんだ。やっぱりアルス君はギター上手だね」かな。

 でもなんかいつもの私はこんなこと言わない気がする。私はなんて言ったっけ。

 皆にどう挨拶してたっけ。

 分からない分からない分からない分からない。

 

 

「ニーナも来たのか。まったく、睡眠妨害にならないようにここで引いてるのにこれって俺は死に損か?」

 

 アルス君はいつものアルス君なのに私が私を思い出せない。

 声が出ない。

 何か言わないと、何か言わないと!

 

「ニーナが買いなおしてくれたんだって? どうせなら新品買ってくれればよかったのにな。」

「え……」

 

 私は買えなかった。

 アルス君が自分の楽器を間違えるはず無いからあれはアルス君のギターだ。

 じゃあ誰が買った?

 

 多分ティナちゃんのいつものおせっかいかアリシアちゃんの仕業だと思う。

 2人に沢山心配かけちゃったみたい。

 

 泣きそうになった。

 嬉しくて泣きそうになった。

 うじうじしてたのが馬鹿らしくて泣きそうになった。

 一人で抱え込んでいた私が馬鹿だった。

 

 初めから友達に相談すればよかったんだ。

 人は一人で生きていけないってアルス君詠ってたのに気付けなかった。

 私達は友達なんだ。

 

 でも泣かない。

 皆の友達の私は泣き虫じゃないから。

 皆と一緒だと強い子だから。

 

 

「だだいまー。いやぁーアルス君にはそのボロッちいギターが一番に合うと思って。もう感動で涙ボロボロだった? 渡された時泣いて「ああ、私はネロになんてひどい事をしてしまったんだ~」って膝を突いたりなんかしちゃったりした?」

 

「誰がするか。つーかボロっちいギターがお似合いで悪うございましたね」

 怒っているけど冗談交じりでもあるいつものアルス君だ。

 私も私だ。

 

 ティナちゃんかアリシアちゃん。

 もしくは両方かな。

 心の中だけど「ありがとう」って言わせてね。

 

「たく、それとお前はいつまでそんな格好してるんだ。風邪引くぞ」

 アルス君が自分のマントを私にかぶせてくれた。とても暖かい。暖かいけど、こんな格好?

 

「あれれ?」

 なぜかスクール水着を着ている。

 そういえば罰ゲームで昼からずっとこの格好だったねー。

 この格好でずっと街や外を出歩いて立って事は目撃者多数というわけで。

 

「あわわわわわわ。これは生涯で一番の屈辱ですヨ。お嫁にいけなくなって独身OL35歳家事は得意なのに寂しい人になったらアルス君の責任として慰謝料を請求してやるぞー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書3―――アルスの日記―――

 今日は塔で『盗賊の鍵』を取りアリシアの親父から『魔法の玉』通称スペシューム弾頭弾を手に入れた。

 せっかくの『盗賊の鍵』なので民家をあさろうと思ったがティナがいる限り「そんなことしたらダメだよ」と止められるのがオチか。

 とりあえずニーナの罰ゲームは今日一日スクール水着と浮き輪着用ですごせと言ったら三人に白い目で見られた。

 

 いや、だって商人といったらこの格好だろ。

 

 その格好で自重したのか売った筈の俺のギターを買い戻してきた。

 どこから金を稼いできたのかはしらないけどさすがは商人といったところか。

 ボロボロだけど俺の大切なギター。

 早速宿から離れたところで引いてたらアリシアが聞きに来たのには驚いた。

 上手いと言ってくれるのは嬉しいが正直照れる。

 その後ティナが来てわりとまったりしてたのにニーナまで来た。

 相変わらず騒がしい奴だ。

 称号【むっつりスケベ】を手に入れた。

 

 

 




ニーナはこんな子でした、という話でした。
なお最後の一文はニーナが書き足した模様。
ドラクエ本編では登場しないマダラグモの設定は『ロトの紋章』から持ってきております。

次回も同じ日、アリシア視点でのお話です。


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「外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.2アリシア」

【いじっぱり】な魔法使いアリシアのお話。


「そういえばあのギターは私がアルス君と出会った時にはあったものだからずいぶんと古いものだよね」

 

 ニーナがアルスの奴がいなくなった隙をついてそんな話題を出してきた。

 正直私はあのギターについて何も知らない。

 

「そういえば私の時ももうあったわね。ティナ、あんたが一番早くアルスに出会ってるけど何かしらない?」

 そういう時はティナ頼みだ。

 私よりもアルスと付き合い長いしアルスの好きなものから嫌いなものまで何でも知っている。

 

「えっと……言っていいのかな……」

 ティナが苦笑してるからあまり良い話ではない。

 もしかしたら大切なもので、アルスの復活代を作ってしまった私が傷つくと思って言わないのかも。

 

 その時はアルスを殺してたことの罪悪感に【バイキルト】つきで襲われてたからそこまで頭が回らなかったなんて、うかつだったわ。

 

「ニーナちゃん?」

「あ、私用事思い出したから『アリアハン』に一度帰るね。アルス君が来たら私抜きで旅立ったらダメだよって伝えておいてね」

 

 ティナに顔色を伺われていたニーナが慌てて宿を飛び出していった。

 多分私と同じ事を考えてギターの値段を確認しにいったんだと思う。

 

 きっとニーナが何とかしてくれる。

 何だかんだであの子は強いからきっとモンスターを退治してお金を稼いでギターなんてすぐに買い戻すだろう。

 

 それで良いのか私。

 もともとは私が悪くてお金足りないから仕方なくニーナがギターに手をかけたのよね。

 それで1人で悪役を買ってでてくれたのにほっておくなんて友達としてダメだろ私。

 

「あー、ティナ。私も用事思い出したからアルスに会ったら置いて行ったら地獄の果てまでも追いかけてサーチアンドデストロイするって言っておいてね」

 とにかく私もG稼ぎを手伝わないと。

 でもニーナと一緒にモンスターを倒してかせいでも稼げる額は同じ。

 なら別行動して後でお金を稼いでから合流すれば良いわね。

 あの子は友達や友情って言葉に弱いから大はしゃぎしてくれるかも。

 

 

 とにかくモンスターを『ひのきの棒』で殴って殴って殴りまくってG稼ぎ開始。

 先にニーナが稼ぎきってギター買っちゃったら……まあそれもよしとするか。

 目標はギター800Gの半分400Gだ。

 

「『スライム』撃破! 『おおありくい』撃破!」

 本当にアルスの言ったとおり私は打撃が向いているらしい。

 でも、それでも私は魔法使いになりたかった。

 

「ふぅ……ようやく100G超えた」

 思ったより時間が掛かった。

 避けて攻撃だと時間が掛かるし体力も続かない。

 やっぱり魔法で一撃必殺した方がいいかもしれない。

 

「でも前のギラなんて私自身が燃えたからなー」

 流石に一人でそれをやったら命に関わる。

 でも練習しないとうまくならないしまたアルスに当ててしまうかもしれない。

 アルスならまだ良いけどティナやニーナに当たったら一撃で棺おけよね。

 

「やっぱり魔法か」

 とりあえず適当に正面にいる『スライム』に【メラ】を放ってみた。

 私の後ろ後方に飛んでいた『おおがらす』に当たった。

 

「……ここまでひどかったとはビックリね」

 これだとアルスに撃つなと言われるわけね。

 いままでティナとニーナに当たらなかったのが奇跡だわ。

 

 どうも私は魔法を作るイメージ力はあっても飛ばすイメージがうまくできないみたいだ。

 ゼロ距離なら飛ばさなくて良いから当たられるけど、それだと私もダメージを食らっちゃうし。

 アルスにアドバイスをもらうのは……なんか嫌。

 

 そもそもアルスは勇者で接近戦主体の職業なんだから。

 それはつまりトロルに数学を教えてもらうのと同じじゃない。

 そんなの絶対に嫌。

 

「まだ【MP】もあるしお金だってまだまだためないと。よし、気合入れていこう」

 息を整えるために軽く深呼吸。

 うん、落ち着いた。

 とりあえず適当なモンスターを探して練習台にしないとね。

 

「あ、ちょうど良いところにモンスターが」

 見た感じ『フロッガー』だ。

 あの程度のモンスター一体ならいざという時は『ひのきの棒』でいける筈だ。

 

 

 というか魔法より木の棒の方が頼りになる魔法使いもどうかと思うな。

 頑張れ私。

 

 

 近づいてみると『フロッガー』と少し違うモンスターだった。

 色は毒々しい赤紫。

 そしてこの大陸のモンスター達もその異様な『フロッガー』に似たモンスターに近付こうとしない。

 

 

「ロマリア方面に生息してる筈の『ポイズントード』じゃないっ」

 『フロッガー』よりも1ランク上のモンスターだ。

 

 毒攻撃を持っているしこのあたりのモンスターよりも基本能力が高い。

 私が勝てる相手ではなかった。

 逃げられる相手でもなかった。

 

 『ポイズントード』が私の存在に気付く。

 手持ちに『毒けし草』は無いからかすっただけでも毒で致命傷。

 魔法で遠距離攻撃をして持久戦に持ち込めば低レベルの魔法使い一人でも何とかなる相手かもしれない。

 

「【メラ】」

 とにかく数撃つしかない。

 私は【MP】なら割と高いほうだ。

 【メラ】だって後20発近くは撃てる筈。

 

 でも一発目は予想通りなのが悔しいくらいに見当はずれなところに飛んで行って、『ポイズントード』の長く伸びる舌はまっすぐ私に伸びてきた。

 例えこの攻撃力が0ダメージだったとしてもこんな攻撃を受けたくなんか無い。

 

「【メラ】」

 後ろに下がりながらの【メラ】はまた見当外れのところに飛んでいって舌は私の腕をかすめて軽い切り傷を作った。

 

 気持ち悪いのは多分感触だけじゃなくって、毒にかかったんだと思う。

 動くたびに苦しい。

 長期戦は不味い。

 回避しているだけでお陀仏だ。

 

 ゼロ距離でギラをやれば倒せるかもしれないけど倒せなかったら私はやられるし、倒せたとしてもギラは自分まで巻き込んで街まで帰る体力が残らない。

 

 

 だから『ひのきの棒』をがむしゃらに振り回した。

 気付いたら振り回していた。

 私をからかうように『ポイズントード』は攻撃を避ける。

 

 

「くぁっ」

 苦しくて膝を突いてしまう。

 こんなピンチも切り抜けられなければ役に立てない。

 アルスがピンチになった時助けてあげられない。

 アルスにお守りをされ続ける旅なんて嫌だ。

 アルスを補助するために魔法使いになったんだ。

 

 あいつは私を救ってくれた。

 だから借りを返すんだ。

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この街で有名なの俺俺。有名なりたきゃ俺俺倒せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいつは何か変な事を口ずさみながらギターを弾いていた。

 その時の私はとても嫌な奴で、誰も信じられなかった。

 嫌な奴だったからいじめられた。

 嫌な奴だったから仕返しをした。

 やられたらやり返して、やられたらやり返しての連鎖で、ついに私は誰の相手もされなくなった。

 

 私の顔を見たら同い年の子は逃げ出す。

 でも、あいつのその言葉で私はただ誰かに構ってもらいたかっただけだった事をようやく思い出した。

 お父さんは仕事ばかり。

 お母さんはいない。

 ぱっとしない私はいつも一人で、構ってほしくって、悪戯をしたのが始まりだった。

 

 そして初めて出会ったあいつと喧嘩をした。

 そして私は負けた。

 負けたからもう誰も構ってくれないと思った。

 いや、勝ってももう誰も構ってくれないことは分かっていた。

 私は不器用なんだ。

 

 

「はいこれでお前は俺の子分な」

 

 

 そんな不器用な私に手を差し伸べてくれたのがあいつだ。

 泣き出してしまった私を私以上の不器用で慰めてくれた。

 綺麗なギターの音色を聞かせてくれた。

 

 接近戦ではあいつに勝てない。

 だから魔法じゃないとダメなんだ。

 あいつが接近戦に集中できるように私が援護するんだ。

 

§

 

 

 毒で一瞬意識が飛んでいた。

 走馬灯というのか、一瞬の出来事だったけど昔のことをたくさん見た気がした。

 『ポイズントード』が私にトドメを刺す気なのか大きく地を蹴って私に突撃してくる。

 

「ふざけないで」

 腕の傷がジクジク痛い。

 

「痛くない」

 

 毒が身体中に回っている。

 でも一人ぼっちだったあの頃に比べたらこんなの苦しくない。

 私はあの頃の私じゃない。

 魔法使いだ。

 魔法で倒す。

 

「こんなの全然苦しくない」

 

 『ひのきの棒』を捨てる。

 『ポイズントード』が迫る。

 

「【ギラ】」

 

 魔法のイメージを作り出すのは得意だ。

 飛ばすイメージは下手だ。

 ならイメージせずに直接飛ばせば良い。

 出した【ギラ】を掴むと熱い。

 

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

 思いっきり私は【ギラ】を投げつけた。

 炎の柱が『ポイズントード』を包み燃え上がる。

 

 手が痛い。

 毒が苦しい。

 でも勝てた。

 勝つことができた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 私は力尽きて大の字になっていた。

 もう毒で動けない。

 情けない。

 きっとあいつは来てくれるけど迷惑をかけてしまう。

 

 それにもう日は落ちているから、ニーナがギターを買っている頃だ。

 私の外出は無駄な苦労って事か。

 自分の情けなさにもう笑うしかなかった。

 

 

「え……」

 私の近くに『毒けし草』が落ちていた。

 『ポイズントード』が落としたものにしては焦げていない。

 多分誰かの落し物だと思う。

 

 とにかくついている。

 私はその『毒けし草』で毒を中和して、ふらついた足取りで『レーベ』に向かった。

 

 

 

 

「どこほっつき歩いてたんだ。この不良娘」

 街の手前でアルスがギターを弾いていた。

「どこだっていいでしょ」

 疲れていたからちょうど良い。

 アルスの隣に腰をかける。

 当然のことながらあいつはボロボロの私を見ても【ホイミ】一つかけてくれないし心配してもくれない。

 でも何かあったのかとも聞かないので気が楽だ。

 

 あいつはただ、自分のギターを嬉しそうに弾いている。

 

「相変わらず上手いわね」

「褒めても何もでないぞ。そもそもお前はうるさいの一言で俺を殺しただろ」

「あれは……悪かったって言ったじゃない」

 別に怒っている様子も無かったから私も普通に返す。

 

「あ、アルスこんなところに居た。探したんだよ」

 ティナが街の方から走ってきた。

「なんだお前まで来たのか。この勢いだとニーナまで来そうだな。俺は静かにギターを弾く時間も無いのか」

 こう言っているけどなんだかんだで私達に構ってくれている。

 私達の……友達だ。

 

「アルス今日はお疲れ様」

「何のことだよ」

「秘密♪」

 ティナが嬉しそうに笑っている。

 

 街でアルスと何かあったのかもしれない。

 ちょっと気になる。

 

「ニーナちゃんおかえり」

 ティナの言葉に私はニーナがいる事にようやく気付いた。

 

 これで皆そろった訳だけどまたティナに先越された。

 いつも誰かが来たの最初に気付くのティナなんだから。

 たまには私に台詞をよこせーなんてね。

 

「ニーナも来たのか。まったく、睡眠妨害にならないようにここで引いてるのにこれって俺は死に損か?」

 アルスは痛いところをついてくる。そんなに私をいじめて楽しいか。

「ニーナが買いなおしてくれたんだって? どうせなら新品買ってくれればよかったのにな」

 やっぱりニーナはすごい。

 私が『ポイズントード』に苦戦している間にもう800Gかせいだみたいだ。

 

「だだいまー。いやぁーアルス君にはそのボロッちいギターが一番に合うと思って。もう感動で涙ボロボロだった? 渡された時泣いて「ああ、私はネロになんてひどい事をしてしまったんだ~」って膝を突いたりなんかしちゃったりした?」

「誰がするか。つーかボロっちいギターがお似合いで悪うございましたね」

 でもアルスはそのギターが一番に合うってのは私も同感だ。

 

 だってアルスの会った時にはじめて聞いた楽器なんだから。

 

「たく、それとお前はいつまでそんな格好してるんだ。風邪引くぞ」

 アルス君が自分のマントをニーナにかぶせてあげた。

 疲れていて気付かなかったけどニーナの格好がスクール水着だ。

 爆笑しそうになったけどここは頑張ったニーナに免じてこらえておこう。

「あれれ?」

 ニーナも夢中だったのか今気付いたらしい。

 

「あわわわわわわ。これは生涯で一番の屈辱ですヨ。お嫁にいけなくなって独身OL35歳家事は得意なのに寂しい人になったらアルス君の責任として慰謝料を請求してやるぞー」

 

 こんな話題で今日は宿に戻って消灯だ。

 アルスはぐっすり寝ている。

 その間にニーナがアルスの持ち物に何か書いていたから覗き見してみると日記みたいだ。

 

「今日の仕返し~。にっしっしっし」

 ニーナはやけにご機嫌だ。

「ダメだよ。人の日記を勝手に見たら」

「ほらほら、ティナちゃんとアリシアちゃんにも書かせてあげるから」

 ……明日のアルスの反応が楽しみね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書3―アルスの日記―

 今日は塔で『盗賊の鍵』を取りアリシアの親父から『魔法の玉』通称スペシューム弾頭弾を手に入れた。

 せっかくの『盗賊の鍵』なので民家をあさろうと思ったがティナがいる限り「そんなことしたらダメだよ」と止められるのがオチか。

 とりあえずニーナの罰ゲームは今日一日スクール水着と浮き輪着用ですごせと言ったら三人に白い目で見られた。

 

 いや、だって商人といったらこの格好だろ。

 

 その格好で自重したのか売った筈の俺のギターを買い戻してきた。

 どこから金を稼いできたのかはしらないけどさすがは商人といったところか。

 ボロボロだけど俺の大切なギター。

 早速宿から離れたところで引いてたらアリシアが聞きに来たのには驚いた。

 上手いと言ってくれるのは嬉しいが正直照れる。

 その後ティナが来てわりとまったりしてたのにニーナまで来た。

 相変わらず騒がしい奴だ。

 称号「むっつりスケベ」を手に入れた。

アルス「よし、これで魔王もいちころだぜ」

 

 今日も一日お疲れ様。明日もよろしくね。

                     ティナより

 

 

 




やんちゃ盛りな幼い勇者の黒歴史ギター突撃がここでも火を噴いています。
そしてニーナが買い直した訳でもアリシアが買い直した訳でもないギターを買ったのは?
次回同じ日のティナ話です。


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「外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.3ティナ」

地味なティナのお話。


 お父さんとお母さんは立派だった。

 勇者オルテガの不在を狙って攻めて来たバラモス軍と戦った。

 そして最強攻撃魔法を失敗してバラモス軍と共に消滅。

 もう10年も昔のことだ。

 

 

§

 

 

「そういえばあのギターは私がアルス君と出会った時にはあったものだからずいぶんと古いものだよね」

 ニーナちゃんが突然そんな話題を出してきた。

 

「そういえば私の時ももうあったわね。ティナ、あんたが一番早くアルスに出会ってるけど何かしらない?」

「えっと……言っていいのかな……」

 

 あのギターはオルテガさんが残してくれた物とか神々から授かった神具とか街の人は色々噂しているけどそんな凄い物じゃない。

 

「ニーナちゃん?」

 ニーナちゃんの様子がおかしい。どうしたのかな。

「あ、私用事思い出したからアリアハンに一度帰るね。アルス君が来たら私抜きで旅立ったらダメだよって伝えておいてね」

 そう言うとニーナちゃんは宿を飛び出していった。

 家に忘れ物でもしてきたのかな。

 

「あー、ティナ。私も用事思い出したからアルスに会ったら置いて行ったら地獄の果てまでも追いかけてサーチアンドデストロイするって言っておいてね」

 それに続いてアリシアちゃんまで忘れ物を取りに行ってしまった。

 私も忘れ物が無いか今の内にチェックしておこっかな。

 私が荷物を整理してるとアルスが戻ってきた。

 

「あ、そうそう。お前ら夜は俺が特訓つけてやるから今の内に休んどけ……って、他の二人は?」

「アリシアちゃんとニーナちゃんなら忘れ物を取りに行ったよ。だから待っててだって」

「……うむぅ、せっかく戦闘訓練つけてやろうと思ったのに。ほんじゃあ俺は適当に街でもふらつこうかねえ」

 笑ってるけど、どこか真剣な顔をしてる。

 

 多分アリシアちゃんとニーナちゃんのことだと思う。

 私は気付けなかったけど二人が危ないことをするのかもしれない。

 

「すぐもどってこれるかな?」

「んー、どうだろうな。夜には帰れると思うぞ」

 夜は長いと思うけど、私が行っても役に立てそうにないからお留守番かな。

 

「いってらっしゃい。気をつけて行ってきてね」

「……いや、街をふらつくだけだって」

 

 いくらいっても認めないのがアルスらしい。

 でもなるべく速く帰ってきてほしいかな。

 私は一人だと寂しくてダメだから。

 昔のことをすぐに思い出しちゃうから。

 すぐに泣いちゃうからダメ。

 

§

 

 

 昔の私はもっと酷かった。

 もう泣きすぎて涙も出なくて、全てがどうでもよくなってた気がする。

 教会から一歩も出なかった。

 でも外からアルスがへたなギターを引きながら入ってきて神父さんにこういった。

 

 

 

 

 

「G稼ぎしたいからザオリク覚えさせてくれ」

 

 

 

 

 

 私は泣いた。

 いい加減な理由だったから泣いた。

 人の命はお金じゃない。

 助からない命だってあるのにって。

 

 今でも最悪な出会い方だったと思う。

 その日からずっとアルスは教会の前でギターを弾くようになった。

 

 たまにおひねりをもらっていた。

 興味が無かったから私は今まで通りだった。

 

 雨の日も弾き続けていた。

 どうしてそんなにお金がほしいのか不思議だった。

 

 ちょっとずつギターもマシになっていって、神父さんに怒られても続けて、おひねりの量も増えてた。

 

 

 ある日、アルスが私の部屋にやってきた。

 興味が無かった。

 

 

 

 

「いつも同じ服着てるからやる」

 

 

 

 

 今なら可愛いと思える服だったけど興味が無かった。

 服なんてどれも同じだと思っていた。

 

 

 またアルスは毎日ギターを弾き続けた。

 たまに私の部屋に来ては何かをプレゼントしてくる。

 

 興味が無かった。

 それが私という人間だった。

 ある雨の日ギターの音がしなかった。

 ようやく飽きたのかと窓から下を覗き込むと……倒れていた。

 

§

 

 

「っ」

 

 いつの間にか昔を思い出して私は泣きそうになってた。

 それでどうしようもなく怖くなる。

 お父さんやお母さんのようにアルスや、みんなが消えてしまうんじゃないかって怖くなる。

 

 皆は大丈夫か、怪我なんてしてないだろうか。

 一度考え出すとどんどん沈んでいく。

 

「―――――――」

 街のほうが騒がしい。

「誰かが街の入り口に倒れてたらしいぞ!」

 倒れていた。誰が?

 無我夢中で宿を飛び出していた。

 

「みんな……アルスっ……」

 人ごみを掻き分けて現場に向かう。

 倒れていたのは…知らない武道家の男の人だった。

 アルスが回復魔法をかけてあげている。

 

「『ポイズントード』が……やつらが追ってくる……」

「もう倒したから安心しろ」

 

 どんなモンスターかは分からないけどアルスが既に倒しているらしい。

 アルスは無事だ。

 でも涙が止まらない。

 まともに立っていることすらできない。

 

「なんだ、ちょっと留守にしただけでそれか」

 アルスが私に気付いて声をかけてくれている。

「あ……え……ぁ……」

 

 大丈夫だからすら言えないくらい私の顔は涙でぐしょぐしょになってて、またアルスに心配かけちゃうって思ってもどうしようもなくって、私はアルスの胸でいつものように泣いてた。

 

「大丈夫、皆どこにもいかないって」

「……ごめんなさい……私……」

「いつものことだろ」

 私が不安で泣いてしまうのはいつものことだけど、迷惑をかけてしまっている。

 街の人達は何事かと見てる。

 

「これでよし」

 武道家さんの回復を終えて私を泣き止ませるとアルスはふぅと息をついた。

 本当にアルスは強い。

 心も、身体も。

 

「ありがとうございます旅のお方」

「気にすんな。とりあえず勇者アルスの知名度を上げてさえしてくれれば充分だ」

 笑いながら冗談を言う。

 

 昔から変わらない。

 だから私は心配だ。

 いつか無理や無茶がたたって身体や心に跳ね返ってきてしまう。

 私が頑張らないといけないはずなのに、私は泣く事しかできない。

 あの時だって、無理がたたったんだから。

 私が無理させちゃったんだから。

 

 

§

 

 

 聴こえないギターの音に窓から下を覗きこむとアルスが倒れていた。

 神父さんの話では勇者に必要な特訓の後に毎回ここに来てギターを弾いていたらしい。

 その日は神父さんに言われたから看病をしていた。

 興味は少ししかなかった。

 

 次の日、神父さんに連れられてお父さんとお母さんのお墓に行った。

 お花が一杯飾ってあったのは城の人達が添えてくれたものだと初めは思った。

 

「アルス君が毎日花を飾っているんだよ」

 

 だから神父さんのその言葉が信じられなかった。

 教会に来る前から毎日ここに花を添えていたらしい。

 お小遣いでは足りなくなったから教会に来てお金を稼ごうとした。

 

 何でそんなことをするのか分からない。

 私のお父さんとお母さんとアルスは面識がない。

 

「アルス君のお父さん、オルテガ氏が留守の間に起こった出来事だったんだ」

 勇者は皆を守るものなのに守れなかった。

 だから花を添えるらしい。

 

 意味が分からない。

 アルスには関係ない。

 アルスのお父さんも世界を救うために旅立ったのだから仕方なかった。

 

「アルス君はそういう子なんだよ。どうしようもないくらい優しすぎるんだ」

 そしてたまに窓から見える私の姿を見てプレゼントまでしだした。

 

 訓練でボロボロなのにお金を稼いで、私に似合いそうなものを勝手に選んで、私にくれた。

 

 私はまた泣いていた。

 教会に戻ってアルスに謝り続けていた。

 アルスが死んじゃったら私のせいだ。私が悪い。みんな私が悪い。

 

 

 

 

 

「プレゼントくれてありがとう、だろ」

 

 

 

 

 そんな人だった。

 

§

 

 

「なんだよ、また泣くのか」

 また泣きそうだったのかアルスが私の頭を優しくなでていた。

 だから私はなるべく泣かないように努力しようと思う。

 なるべく笑顔で居ようと思う。

 まだ役に立てないからせめて……。

 

「アルスはまだお出かけする予定あるかな?」

「ん。まあ結構まわりたい店あるからなー」

「私は大丈夫だから」

 だから笑顔で言おう。

「いってらっしゃい」と「おかえり」を。

 

 私ができることはただそれだけだ。

 それだけでも皆は喜んでくれる。

 アルスは無理をするからちゃんと休める場所を作ってあげよう。

 それが私のできる事だと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書3―破り捨てられていたページ―

 今日は塔で『盗賊の鍵』を取りアリシアの親父から『魔法の玉』通称スペシューム弾頭弾を手に入れた。

 せっかくの『盗賊の鍵』なので民家をあさろうと思ったがティナがいる限り「そんなことしたらダメだよ」と止められるのがオチか。

 

 しかしニーナの元気が無い。

 罰ゲームは今日一日スクール水着と浮き輪着用ですごせと言っても反応が薄かった。

 まだギターのことを気にしているようだ。

 

 まあ何はともあれ塔でじいさんを救出。

 わしをおとりに使うなって怒られた。怒るならニーナにしてくれ。

 

 【ルーラ】で『レーベ』に戻ってとりあえずギターを購入。

 宿に戻ってみるとニーナとアリシアがいない。

 おそらくギター代を稼ぎに行ったのだろう。手の掛かる奴らめ。

 

 村の入り口に倒れていた武道家の情報によると『ポイズントード』がこの辺りに出たらしい。

 ニーナの事だから手軽に稼ごうと馬鹿なことを考えてマダラグモのところに行った筈だ。

 アリシアはラックがないから『ポイズントード』に出会うかもしれない。

『毒けし草』と『ブロンズナイフ』でも買っておくか。

 

 予想通りで困った。俺の身体は一つなんだから勘弁してくれ。

 今日ほど【ルーラ】に感謝した日はない。

 ティナの笑顔が天子に見えた。

 ティナは何だか気付いているみたいだったけど口は堅いほうだから安心だ。

 とりあえず今日の出来事はみんなの頑張りにしたいと思う。

 

 伝説とは常にそれっぽいものに変えられていくものだ。

 この位の冒険の書の修正は許されるだろう。

 

 

 




ティナの話のようで、ひねくれもののアルスの話でした。
【くろうにん】の苦労はまだまだ続くようです。


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第六話「特訓」

羽休め回で飛ばしても大丈夫な回。
もう少しやりようがあったんじゃないかな過去の自分よ。


 どういう訳か朝起きたら俺の性格が【むっつりスケベ】になっていた。

 冒険の書を見たら「ティナより」と書いてあったから叱っておく。

 

 まあそれはおいておいて今日はタイトルどおり特訓だ。

「今はまだザコしか出ないから良いけどその内ドラゴンとか魔王とか神様とかと戦うことになるかもしれん」

「いや、神様には喧嘩売りたくないんだけど。というか売る気なの?」

 うむ、いつもの呆れながらの突込みがきた。

 元気な証拠である。

 

「そういうアリシア、【メラ】を俺に撃ってみろ」

「いいの?」

「問題ない」

 

 俺がそう言うとアリシアは遠慮なく【メラ】を作って手で掴んで俺に投げつけた。

 遠慮ないのはとてもいいことだ。

 

「はい失格」

 当たると痛いからとりあえず銅の剣で弾いておく。

「なんでよ。ちゃんとまっすぐ飛んだじゃない」

「手、痛かったろ。とりあえず薬草ぬっとけ」

 俺がそう言うとアリシアはごまかすように苦笑した。

 

 多くの魔法撃たなければならない魔法使いが魔法を撃つたびにダメージを受けたんじゃ話しにならない。

 

「とりあえずこんくらいコントロールできるようになれ」

 【メラ】を動かして「ヒンヌー」と空中で文字を書いてみた。

「あんたねぇ……」

 アリシアは拳を震わせている。

 

「魔法なら撃ってきても良いぞ。ただし自分も傷つく方法は全て弾く。まあ後は自主練しとけー」

 へたに俺からアドバイスすると嫌な顔するだけだからこんなもんだろう。

 

「はい、次にニーナ」

「はいはーい。今日も絶好調だからもうメタル系倒した時のようにバシバシパワーアップしてアルス君なしでも魔王倒せるくらいに大変身だー」

 

「とりあえず魔物図鑑でも読んで敵の特性でも勉強してろ」

「はわっ。私は勉強ですか。もっとこう俺に一発でも攻撃を当てたらとっておきをくれてやるとか言って奥義の伝授とかないのかな」

「その有り余るパワーを生かす知識を身につけろ」

 ニーナはまあ戦闘能力はそこそこだけど知識が浅い。

 もっと敵のことを知っておくべきだ。

 マダラグモとか。

 

「えっと……私は何をすればいいのかな?」

「当然【ホイミ】。まずは発音練習から」

「発音は関係ないと思うけどなぁ」

「魔法を甘く見るな。ホイミ(音↑)でもホイミ(音↓)でも呪文はできん!」

 まあ実際はできるけど。

 

 魔法はイメージ力大事だし、ティナは素質あると思う。

 出来ると思い込めば案外楽に使えるようになるかもしれない。

 

「【メラ】」

 アリシアはもっと慎重にゆっくり移動する魔法のイメージから始めれば良いものを。

 とりあえず外したから反撃でまた「ヒンヌー」の文字を書く。

 

「ほいみ~」

 ティナも恥ずかしいのか顔を赤めながらも頑張って発音練習している。

 うん、関心関心。

 とにかく今日掛けても良いから皆の能力を戦えるレベルまで上げたいところだ。

 ゆっくり成長を見守ることにしよう。

 

 

 そう思った俺が甘かった。

 スパルタメニューにしておけばよかったと少し後悔する。

 

 まさか半日掛けて何の進展も無いとは思いもしなかった。

 ティナなら【ホイミ】くらい一時間でいけると思ったのだが……。

 ティナのステータスを確認してみる。

「ん」

 嫌な予感がする。

「まさか」

 

 

 

 

【MP】0/0

 

 

 

 

 商人のニーナ以下ってのはどうかと思う。

「アリシアも進歩なしか」

 速さと威力は上がってる気がするけどコントロールは変わりなし。

 ニーナにいたっては勉強を放棄して進歩しないアリシアを茶化して遊んでいる。

「スパルタ開始だな」

 

 

 

☆ただいまスパルタモード☆

アルス「さあ憎き魔物にとどめを刺すのだ!」

ティナ「そんなかわいそうな事できないよ!」

アルス「やれ、やるのだ! そして経験値に変えるのだ! アリシアよなんだその魔法は。そんな魔法で大魔王アルス様に勝てると思っておるのか!」

ニーナ「わー。アルス君悪役全開だね。アリシアちゃん人類の敵を倒さなければこの世界が闇に飲み込まれて人類が宇宙に移民するようになって新人類の戦争が幕を開けちゃうよ」

アリシア「あーもう! うるさいうるさいうるさい!」

アルス「ニーナよそんな剣筋では我は倒せぬぞ。ティナよまだスライムも倒せぬのか! アリシアよどこを狙っておる!」

ティナ「うぅ、こんなアルスは嫌~」

アルス「うははははははっ。はらわたをブチマケロ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書4―アルスの日記―

 さすが我が家に伝わるスパルタ特訓、効果覿面だった。

 ティナのレベルは何とか上がってMPが奇跡的に増えた。

 アリシアはまあ、命中率は無いもののまっすぐは飛ばせる。

 ニーナは俺のネタをぐいぐい吸い取ってくれた。

 でも丸一日疲れでみんな動けなくなったのは誤算だった。

 

 さすがに女の子に丸一日特訓させたのは悪かったか。少し反省。

 まあみんな強くなったし、全滅という最悪な事態は起きない筈だ。

 次はロマリア目指して頑張るとしよう。

 

 




開幕ティナのとばっちり。
魔王討伐に人生を掛けられたアルスは強いです。
使える魔法から最低レベルを考察するのも面白いかもしれません。
なお、燃費は悪いもののメラを二重に合わせてメラミなど使用できない呪文も体の負荷を考えなければ使用できる模様。
どこの『ドラクエモンスターズ+』の竜王様な魔法のコントロールで俺つええな筈なのに仲間からの不意打ちで防御抜かれて棺桶になる不思議である。


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第七話「目指せロマリア」

低レベル時のトラウマ、まほうつかいがいきなり襲い掛かって来た。


 『いざないの洞窟』に『魔法の玉』を投げ込んだら中ですごい爆発がしてじいさんが出てきた。

 

 人がいるかいないか確認してから小一時間説教された。

 ここまでくれば見当がつくだろうが当然投げたのはニーナだ。

 ついでに怒られたのは俺一人だ。

 

 皆は俺が怒られている間にお弁当タイムなんて……アルスが来るまで待ってあげようと言ってくれるのはティナだけだ。

 

「お前ら後で覚えてろよ」

「よるなケダモノ」

 

 説教も終わったから輪に加わろうとしたら笑顔でアリシアにそう言われた。

 まだスパルタ特訓を根に持っているらしい。

 俺はただ模擬戦をやっただけだぞ。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。やっぱりティナちゃんのお弁当最高だね。もうほっぺがとろけてそれが独立して『スライム』になりそうだよ」

「ニーナのほっぺはモンスター製造工場なの?」

 

 それでもアリシアはいつもと変わらず突っ込みを入れている。

 この分ならすぐに機嫌も戻るだろう。

 とりあえずアリシアの横に腰を下ろして俺も休憩タイムに入った。

 

「ちょ、ちょっとくっつきすぎっ」

 

 殴られた。

 そこまで機嫌が悪くないと思った俺の読みは甘かったようだ。

 う~む、やはり女の子とは複雑な生き物だ。

 

「アルス。お茶いる?」

 ティナは相変わらず気が利いていていい。

 これで【ホイミ】が使えれば本当に完璧だよな。

 麦茶が冷たくて美味い。

 

 

 さて、そろそろロマリアに向けて出発だ。

 壊した壁を抜けて洞窟内部に侵入。

 この辺りならまだ俺一人でも充分攻略できるダンジョンだからアリシアの誤射が少なくなった今、やられることは無い。

 

「うむ、快適だ」

 仲間の攻撃で死なないのってこんなに嬉しいことなんて始めて知った。

「あんた、今すごく失礼なこと思ったでしょ」

「いや、ただみんな強くなったな、っと思っただけだ」

「そ、そう。まあ私って結構覚えるの速いからね」

 アリシアのご機嫌が戻ったようだ。覚えるのが速いならもっと魔法の命中率を上げてほしい。

 

「わ、今の見た見た見た? 紙一重で交わしてぶすって! なんだかモノを何でも殺せる殺人貴みたいでカッコよかったよね。これはもうナイフを極めるしかないかー」

 メガネかけて落ち着け。

 

 まあ“アルミラージ”や『蠍蜂』や『人面蝶』相手なら騒ぎながらも難なく倒せるレベルだからいいものの、ここには奴らが出るんだからあまり騒がないでほしい。

 正直俺がここで一番怖いのはやつらに不意打ちを食らうことだ。

 

「って、出ちゃったよ」

 通路を曲がると“魔法使い”の群れが俺達に手を向けていた。

 完全な不意打ちでまだみんな戦闘体勢に入ってない中やつらは【メラ】を連発してくる。

 

 『皮の盾』が【メラ】3発を防いだあたりで吹き飛んで残り2発は俺に直撃。

 マジいてぇ。

 そこでようやくみんなが敵襲に気付いてくれた。

 

 だけど敵は5体。

 なんだかいつもより1体多い気がするが、【すばやさ】はアリシアの方が上だから、【ギラ】で牽制しつつニーナと俺が切り込んでティナが“薬草”で手当てしてくれれば完璧だ。

 

「アルスが……アルスがっ」

 突然の出来事にティナは混乱しておどおどしている。

 やっぱりティナは実戦にはまだ早かったか。

 

「わー、皮の盾が粉々に。これは直撃を受けたら爆発して「クリリンのことかー」になってこの星が崩壊する中ラストバトルが勃発っ。この星はどうなってしまうんだー」

 

 騒ぎながらももニーナは既に相手に切り込みに行っている。

 俺のスパルタ特訓で身体の方が先に反応するようになってくれて助かった。

 

「ティナはアルスを盾にしててっ」

 アリシアは指示が非人道的だけどマニュアルどおりに動いて【ギラ】を放っててくれている。

 流石に命中精度は悪いがこの狭い洞窟なら仲間に当たらなければ敵グループに当たってくれる。

 

 ニーナが切り込む前に【メラ】第2射がきた。

 これで敵『魔法使い』達の【MP】は0。

 こいつを防いでしまえば問題ない。

 

「っ」

 

 5発の内2発は剣で弾けた。

 1発はアリシアの方に向かい2発は直撃。

 一発ならアリシアは大丈夫だ。

 あいつの連射制度と弾速は当てにできる。

 

「【メラ】」

 ほら相殺してくれた。

 

 その間にニーナが俺の脇をすり抜けて魔法使い1体にトドメ。

 そのまま全員やれる……と思った。

 

「あれれ?」

 

 ニーナの情けない声に目を向けると『魔法使い』達は撤退していた。

 その後ろにはさらに5体の『魔法使い』が【メラ】を構えている。

 

 火縄銃の三段射ちかよ。

 

「くそっ」

 次は耐え切れるか分からないが、やるだけやってみるさ。

 【メラ】が放たれる前に1体を切り伏せる。

 2体目は……間に合わないか。

 4発の“メラ”の狙いは完全に俺。

 俺さえ落とせば勝てると思ったんだろう。

 モンスターのくせに良い判断だ。

 

 3発なら避けられそうだけど、避けたら後ろのニーナに当たるから弾くしかないか。

 1発目は直撃。

 幸先悪いなまったく。

 

「アルス君っ!」

 これはニーナの叫び声だな。

 相変わらずうるさい奴だ。

 2発目も直撃。やべ、カッコわる。

 

「アルスっ!」

 これはアリシアの声だな。

 お前に心配されるってどんだけよ俺。次は弾かないとやばいよな。

 ついでに魔法使いを1体減らしたいところだ。

 

 

 

 ……手が動かない。

 

 

 

 3発目。

 よく持ちこたえたな俺。

 平均10ダメージとして70くらいか。さすが【くろうにん】体力あるな、俺。

 

 流石にこれ以上は無理だ。

 またティナが泣くだろうな。

 そういえば真っ先に泣き叫ぶはずのティナの声が聞こえない。

 ショックのあまり声も出ないのか。

 あるいは俺の聴覚がダメになったのか。

 

 やばい、次も直撃コースだ。

 アリシアもこのくらいの命中率あればいいのにな。

 

 でも今回は誰も悪くない。

 皆仕事をした。

 ティナも仕事をこなしていたとしても前線にいる俺に後方にいるティナが薬草を使うことは出来ない。

 

 

 

だから

      誰も悪くない。

 ああ、意識が

                              ゆっくりと

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

 回復した。

 

「――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 泣いているのか、ティナの声だ。

 意識が覚醒する。

 

「【ホイミ】」

 そう言っていた。

 焼け石に水って感じの回復量。

 

「【ホイミ】っ」

 でも何度も何度も祈りながら、泣きながらもまっすぐ俺を見て叫んだたった一回の回復魔法。

 

「【ホイミ】っ!」

 掛かったのは一回だけだ。

 ティナの【MP】は5なんだから撃てるのは一発限り。

 

 だから無駄にしない。

 一回で充分だ。

 アリシアは間抜けなことに気付いていないがニーナは気付いて動いてくれている。

 

 俺は4発目の【メラ】を剣で弾き、5発目をかわす。後ろにはもうニーナはいない。

 俺が1体、2体と続けて倒してニーナが3体目を倒す。

 やばい、無理しすぎて膝ついた。

 最後の1体が俺の目の前にいて掌を向けている。

 

「【ギラ】」

 俺の前に炎が走った。

 すれすれで一瞬アリシアに殺されると思ったが【ギラ】は『魔法使い』だけを射抜いた。

 

「集中すればいけるじゃんか……」

 身体中が痛いがティナが覚醒してくれたのは大きい。

 このままのテンションをたもつために【リレミト】は使わず『薬草』付けで『ロマリア』を目指すことにした。

 

「アルス君の薬草付けは『ロマリア』で美味しくいただこー」

 せいぜいニーナに頭をかじりつかれて死なないように気をつけよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書5―――アルスの日記―――

☆みんなのにっき☆

 今日はみんな頑張ったけどアルスは頑張りすぎだよ。

 私アルスが死んじゃうんじゃないかって心配で無我夢中で叫んだら【ホイミ】を使えてたから良かったけどあまり無理しないでね。

(←その後泣き出したティナちゃんを慰める方が大変そうだったけどね(笑))

 

 ロマリアについたらアルスが倒れた。倒れるんなら棺おけになってくれた方が時間掛からなくって良かったんだけどね。

(←そういうアリシアちゃんもティナちゃんと同じくらい取り乱して大変でしたヨ(笑))

 

 最後は私の感想文。こういうのって何書いたらいいのかまようねー。毎日日記をつけてたアルス君に関心関心。とりあえず今日はアルス君起きそうに無いから私達で日記つけたけどどうだったかな。二人には秘密で私のコメントつきだから分かりやすかったよね。え、日記でも騒がしいって?

 私から元気取ったら何にも残りませんヨ(笑)

 まあこれはみんなが言ってる事だけどこれからも無理せず頑張ってね♪

性格「【くろうにん】」をたたえよう~

 

 




ようやく全員が頑張ることでダンジョンを突破した話。
火縄銃という単語が出てくるのはドラクエで大砲という火器が船に搭載されていることから出していたと思いますが、スペシューム弾頭弾などの単語を使う小説なので細かいことは気にしない。
この辺りを手直ししていきたいところではありますが、今は黒歴史ほぼそのままの文章でお楽しみいただけたら幸いです。


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エピローグ

基本エピローグは短めとなっております。



 夜起きたらまた俺の冒険の書を勝手に書かれていた。

 まったく、こいつらは冒険の書を何だと思っているんだ。

 

 

 疲れてぐっすり寝ているみたいだから怒るのは明日にしておこう。

 

 

 とりあえず中途半端な時間に目を覚ましたからギターしかないな。

 皆を起こさないようにこっそりと宿を抜け出してギターで曲を奏でる。

 でも最近このギターばかりひいきしてるから、そろそろ他の楽器もつかってやらんとな。

 

 俺の初代おんぼろギターは雨の日に弾きすぎたせいかもうダメになってしまった。

 こいつはそれを気にしたティナに買ってもらった二代目ギターだ。

 本人はたいしたものじゃないと思ってるんだろうが、俺にとってはようやくティナが心を開いてくれた証って感じがしてよかった。

 

 だからティナが頑張ってくれた今日くらいはこの楽器だけを弾いてやろう。

 わ、自分で思ってなんだけど今のくさい台詞だな。

 もうすぐ旅立ってからの6日目が終わる。

 

 性格を書き換えられても結局直ぐに【くろうにん】に戻ってしまうのはもう運命だと受け入れるしかないだろうか。

 【むっつりスケベ】よりはマシだけどこれからも苦労するだろうなと溜息が出てしまう。

 

 

 それでも自分で引くギターの音色に頬が自然と緩む。

 仲間の成長が嬉しいのか、それとも幼馴染とこうして冒険できているのが嬉しいのか。

 魔王を倒して世界を救わなければならない無理難題を押し付けられたんだから、これくらいの余韻は許してもらいたい。

 きっとこれからも苦労は続くのだから、今くらい気を緩めてもバチは当たらない筈だ。

 

 とりあえず明日はボロボロになった俺の装備を買い換えてロマリア王に挨拶をしにいこう。

 明日もまた忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書5―――アルスの日記―――

☆みんなのにっき☆

 今日はみんな頑張ったけどアルスは頑張りすぎだよ。

 私アルスが死んじゃうんじゃないかって心配で無我夢中で叫んだら【ホイミ】を使えてたから良かったけどあまり無理しないでね。

(←その後泣き出したティナちゃんを慰める方が大変そうだったけどね(笑))

 

 ロマリアについたらアルスが倒れた。倒れるんなら棺おけになってくれた方が時間掛からなくって良かったんだけどね。

(←そういうアリシアちゃんもティナちゃんと同じくらい取り乱して大変でしたヨ(笑))

 

 最後は私の感想文。こういうのって何か居たら良いのかまようねー。毎日日記をつけてたアルス君に関心関心。とりあえず今日はアルス君起きそうに無いから私達で日記つけたけどどうだったかな。二人には秘密で私のコメントつきだから分かりやすかったよね。え、日記でも騒がしいって?

 私から元気取ったら何にも残りませんヨ(笑)

 まあこれはみんなが言ってる事だけどこれからも無理せず頑張ってね♪

性格「“苦労人”」をたたえよう~

 お前らこれは交換日記じゃないぞ#

 

 

第一章「旅立ち編」完

 

 




そんなこんなで駆け足投稿ですが1章は投稿完了しました。
残り9章は閲覧者数や評価で投稿ペースを考えようかなと思っております。
駄文な黒歴史ですがどうか楽しんで下さる方がいれば幸いです。


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第二章「ロマリア編」
プロローグ


ロマリアにて新たな仲間登場。


 ロマリア王に挨拶しに行くといきなり王冠を取り戻してくれなんて頼まれた。

 勇者の知名度を上げるのにもってこいだけど、自称勇者の男に王冠まかせていいもんかねぇ……いや、マジで。

 

 そこの辺りの事は考えているみたいで王国の騎士一人同行してくるらしい。

 

「ロマリア王国騎士団長のマリアだ」

 

 女戦士だったのは驚きだ。

 始めはハーレムパーティーで行こうなんて馬鹿なことを言っていたけど、これ以上増えてもしょうがない。

 

 いや、可愛くないとか美人じゃないとかそういうんじゃない。

 マリアさんは戦士にしておくのはもったいないくらい綺麗だ。

 長く綺麗な髪に整った顔立ちで美人でありながら気品を感じさせるカッコ良さがある。

 アネゴって言葉がよく似合いそうな人だ。

 

 ただ胸がアリシアといい勝負なのが少し残念か。

 

「どこを見ているんだ、君は」

「胸」

 

 つい答えてしまった。

 後ろからアリシアにかかと落としされた。

 ロマリア王の前ではしたない奴め。

 

 

「まったく君という男は姿だけではなく中身までオルテガ殿にそっくりだな」

 マリアさんはからかうようにそう笑っていた。

 

 どうやら俺は泳いで大陸を渡った馬鹿親父と同類らしい。

 かなりショックだ。

 

 親父と何かあったのか俺だけ名前ではなく隊長と呼べと言ってきた。

 ロマリア騎士団の隊長らしい。

 若いのに隊長とはこれは即戦力……というかこのメンバーだと主力だ。

 

 

 

 え、メンバー超えるって?

 ……いいんだよ、指揮しきれれば。

 

 

 

 とりあえずまずは武器防具だ。

 俺用に『鎖帷子』と『青銅の盾』、ニーナに『鉄の前掛け』。

 とりあえず前衛の防御を上げておく。

 どうせ後衛に行く攻撃は全部俺に行くことになるんだから。

 

 マリアさん……いや、隊長って呼ばないとダメなんだっけ。

 さすが隊長というだけあって装備が『鋼の剣』と『マジカルスカート』と豪華だ。

 『マジカルスカート』にいたってはロングコートに改良されていて下には普段着。

 ついでに長ズボン。

 女戦士にあるまじき露出度の低さだ。

 手袋もしているので露出しているのは首から上だけではないか。

 多分露出が低いのは女ではなく自分は騎士だというこだわりだろう。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。盗賊ガンダダって人は『シャンパーニの塔』をアジトにしてるんだって」

 さすが商人の娘でニーナは情報を仕入れるのが上手い。

 きっと買い物ついでに色々ききまわったのだろう。

 

「長旅になるかもしれないから食料品確保しておいたよ」

 ティナも気がきいている。

 さらに朝に昼食べる弁当をこしらえていたみたいだから、冒険しながらまったりできそうだ。

 

 アリシアの姿が見えないけどまあ一応女の子だ。

 街で見て回りたいものは一杯あるだろう。

 集合時間までまってやるか。

 と、噂をすればなんとやらか。

 

「ごめん皆。待った?」

 走ってきたのかアリシアは息を切らしていた。

 もっとゆっくりしていてもいいのにな。

 

「うむ、なかなか良いチームだ」

 隊長は手際のよさをほめているのかご機嫌そうに笑っている。

 効率よく事が進むのが好きな人なのだろうか。

 まあ一緒に旅をすれば隊長がどんな性格なのかすぐに分かるだろう。

 という訳で今日は『ロマリア』から『カザーブ』まで行くのが目標だ。

 

 

「『軍隊ガニ』は【ギラ】で牽制、『アニマルゾンビ』と『ポイズントード』は優先的に倒すように。【ボミオス】と毒はうざい!」

 

 アリシアが【ギラ】は使えても【ヒャド】が使えない問題児だが戦闘は順調だ。

 俺から皆への指示も間に合ってるし、新戦力隊長の戦闘力は攻撃力だけなら俺以上。

 攻撃の見切りも上手いし攻撃も回避も無駄がない。

 

 ただ遅いのが難点だ。

 いや、突進力と反射神経はあるのだがスタミナ配分がしっかりしている分無理な動きをしない。

 ゆえに攻撃する間合いに入るまでに時間がかかる。

 

「私という人間がどういうものか少しは分かったかな、少年」

 さらに彼女を分析しているつもりが逆に分析されているような気がする。

 戦闘中にたまに振り返っては俺をからかうように笑ってくる。

 

 掴みにくい人だ。

 

 まあこれだけならミステリアスファイターとして優遇していたさ。

「姉御姉御~。私のハンバーグ上げますヨ」

 ニーナがなついてるのは、まあ分からなくもない。どんな奴にもなつく奴だ。

「マリアさん、お茶いかがですか?」

 ティナも誰にでも優しい。いつものことだ。

「マリアさん。今の戦いだけど私の立ち回り方どうだったかな?」

 アリシアまで既に飼いならされて、ビニールシートのお弁当タイムで俺が端に追いやられているのは何故だ。

 

 たまにティナが気を使ってお茶をくれたり話しかけてくれたりしてくれるだけで、俺は黙々と弁当を食べているだけだ。

 弾んでいる話は皆向こう。

 隊長がそんな寂しげな俺を見て「ふっ」と皆には気付かれない程度に不適に笑った。

 

 

 まさかあいつは、俺の花の楽園(苦労の方が多いが)を乗っ取る気なのか!?

 

 

 このままだと俺はいずれルイーダの店に追いやられてしまうかもしれない。

 そして新聞で勇者一向魔王『バラモス』を倒すなんて記事を見ながら膝を突くかもしれない。

 とにかく今の内に考察を冒険の書にまとめておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書6―――アルスの日記―――

 戦闘能力は高め。

 俺より劣る筋肉を踏み込みと体の捻りで完全にカバーしている。

 スタミナ配分のためか間合いに入るまでの移動は遅めで間合いに入った瞬間に神業的な剣技を披露してくれる。

 性格は【おとこまさり】とステータスには出ているがそれと同時に“きれもの”のふしあり。

 掴みにくくまだ何も分かっていない。

 

 親父のことを知っているらしいがそれも不明。

 髪はロングで割りと俺好み。

 胸はアリシア並み。

 身長は割りと高め。

 皆と打ち解けてくれるのは嬉しいが、俺の居場所を奪って楽しんでいるふしあり。

 というか絶対楽しんでる。

 だが憶測だけで物事を判断するのはあまりよくない。

 彼女、マリアについての考察はまだこんなものだ。

 休憩も終わったしここらで止めにしておこう。

 

 




ドラクエの女戦士にあるまじきロングコートの女騎士登場。
皆のアネゴポジションですが、まだまだアルスの【くろうにん】は続きます。


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第一話「頑張る皆への贈り物」

今回は序盤買い物あるあるネタ。


 夕暮れ前に『カサーブ』につけたのは隊長の活躍が大きい。

 おかげで俺も敵の的になる事は少なかったし、大ダメージはまさかここまできて来るとは思わなかったアリシアの誤射1発だけだ。

 とりあえずいつも通り宿を先に確保。

 

「皆でお泊り会というのも悪くないな。それとも何か、少年は私と一緒の部屋では不満か?」

 という訳で部屋をどうするか聞く前に隊長に先手を打たれた。

 本当に全てを見透かされている気がする。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。伝説の武道家すごいんだよ! もう素手でモンスターをばったばったなぎ倒していって3分間で『軍隊ガニ』12匹と『暴れザル』を落としたんだって!」

 きっと超強気になってボーナスステップで稼いだのだろう。

 

「なんでも『かめはめ波』っていう魔法を唱えるとすごいらしいよ」

 どこの宇宙人だそれは。

 

 まあそれはそれでおいておいてだ。

 一応店を見回ってみたら『鱗の盾』が売っていた。『青銅の盾』を買うのを早まったか。

 『青銅の盾』を皆のお下がりにしようにもアリシアは実は持てても「持てる訳ないでしょ」と言うだろうし、ティナは僧侶で装備可能な筈だけど重たくて移動中で倒れそうだ。

 

 ニーナにお下がりをやるか。

 いや、ここは『鱗の盾』は軽いからニーナとティナに買って俺はしばらく『青銅の盾』で頑張るか。

 

 アリシアが「私には何もないの?」と愚痴をこぼしそうだから『ウサギの尻尾』というキーホルダーを買っておいた。

 安物だけど買わないよりはマシだろう。

 

「え……いいの?」

 意外にも控えめだった。

 

 そういえばここに来る途中【ギラ】の直撃を受けたんだったな、俺。

 もう当たるのに慣れていたせいかその場で怒るだけですっかり忘れていた。

 

「べ、別に嬉しくなんかないけどもらっておくわ。せっかく買ったもの粗末にするのも悪いしね」

「そんなに喜んでもらえると照れるな」

「よ、よ、よ、喜んでないわよっ」

 ティナとニーナはああいう物が良かったのかうらやましそうに見ているがアリシアはあまり嬉しくなかったらしい。

 怒鳴られてしまった。

 

 とりあえず物欲しそうな二人の期待に答えようと『鱗の盾』を渡したら肩を落とされた。

 さすがに女の子にこれはマズかったか。

 

「少年、お姉さんには何もないのか?」

「隊長は武器防具ここのよりいいのもってるからなぁ。とりあえず『キラービー』怖いから『満月草』でも」

「気持ちは嬉しいが私もウサちゃんの方が良かったぞ」

 隊長は「はっはっは」と笑いながら冗談を言って『満月草』を自分の道具袋に入れた。

 どこまでが本気なんだこの人は。

 

 とにかく今日は『ジャンパーニの塔』に備えてゆっくり休憩だ。

 だけど最近アリシアが夜出かけているのが心配だ。

 危険なことはしていなかったので好きにさているが、朝に弱いくせによく頑張るものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書6―――アルスの日記―――

 戦闘能力は高め。

 俺より劣る筋肉を踏み込みと体の捻りで完全にカバーしている。

 スタミナ配分のためか間合いに入るまでの移動は遅めで間合いに入った瞬間に神業的な剣技を疲労してくれる。

 性格は“おとこまさり”とステータスには出ているがそれと同時に“きれもの”のふしあり。

 掴みにくくまだ何も分かっていない。

 

 親父のことを知っているらしいがそれも不明。

 髪はロングで割りと俺好み。

 胸はアリシア並み。

 身長は割りと高め。

 皆と打ち解けてくれるのは嬉しいが、俺の居場所を奪って楽しんでいるふしあり。というか絶対楽しんでる。

 だが憶測だけで物事を判断するのはあまりよくない。

 彼女、マリアについての考察はまだこんなものだ。休憩も終わったしここらでやめにしておこう。

 

 『カサーブ』に到着してますます隊長が分からなくなった。

 完全にこちらを見透かしている。

 一見友好的に見えてもそういう奴ほど中盤で寝返ってカテジナさんになりそうで怖い。

 客観的でなく個人的に見れば悪い人には思えないから良いか。

追伸:良い子は早く寝よう。

 

 




アリシアは『うさぎのしっぽ』をそうびした。
アリシアは【しあわせもの】になった。


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第二話「意外なところの強敵」

今度は道中あるあるなキラービー先生のご登場。


 『銅の剣』だとさすがに『さまよう鎧』にあまりダメージ与えられないなと考えながら戦っていたら『キラービー』に刺されていた。

 

 ああ、もちもん麻痺したとも。

 【くろうにん】だしそんな気はしていた。

 

「おやおや、少年はそんなところでおねんねかな」

 隊長が俺の顔を覗き込んでにやにや笑っている。

 ちなみに『満月草』を持っているのは俺と隊長だけだ。

 

 

 ティナは持たせない方が速く【キアリク】を覚えてくれると思って持たせてない。

 だから断じて渡し忘れたなんてことはないぞ、断じてな。

 

 

「ほうそうか。少年は私の手厚い介護がほしいか。ほらほしいと言え。お姉さんは素直な子が好きだぞ」

 だから唯一俺を回復できる隊長がここぞとばかりに俺をからかってくる。

 

 動けないと思ってコンチクショウ。

 頭なでるな。俺の頭を膝に乗せるな。嬉しいじゃないかコンチクショウ。

 

「はっはっは。そう照れるな。今『満月草』をやるからな。ほらあーんだ。あーん」

 

 俺の口に『満月草』が近付く。が、すぐにその手が止まる。

 こいつはまだ俺のことをからかうつもりか。

 

「すまない少年。少々からかうのに夢中になりすぎたようだ」

 『キラービー』の針がプスリと隊長を刺していた。

 こいつ、俺を治す前に麻痺しやがった。

 

「あんたら真面目に戦いなさいよっ。私まだ【ヒャド】使えないんだからっ!」

 アリシアが『さまよう鎧』をひきつけているから場が持っているが、アリシアと極端に相性が悪い。

 こっちは当たったら一撃、相手にはダメージを与えられないではそう長くはもたない。

 

「こないで~」

 ティナは『キラービー』に追いかけられて逃げ回っている。

 

「あははははー。アルス君姉御とラブラブだねー」

 ちなみにニーナは最初に麻痺して動けなくなった。

 つまり前衛全滅という最悪の状況だ。

 

 目の前……隊長の手に『満月草』があるのに届かないもどかしさ。

 

「少年よ。少しは動けるか?」

「……少し身体を捻ることと口くらいなら動くぞ」

 でもそれじゃあ『満月草』を使うことはできない。

「それで充分だ。幸いなことにお前の頭は私の膝の上。『満月草』は私の手の中だ。はっていけない距離ではなかろう」

「それはつまり隊長の身体を這って行く訳であって、ずいぶんと恥ずかしい行為だと思うのだがな」

「言うな……私だって今回の事は不覚だった」

 こんな筈ではなかったと隊長が苦悩していた。

 顔を反らし頬を僅かに染める隊長という素敵なシチュエーションだが、いざやるとなると男の俺も恥ずかしいものだ。

 

 

 

 やらなければ全滅だ。

 それだけは避けなければならない。

 とりあえず必死で身体を動かしてみる。

 

 

 

「んっ――――ぁ――――――」

 

 

 

 何か表現しにくい甘い声が出た。

 これは色々と不味い。

 今日の冒険の書は伏字が多くなりそうだ。

 勢いあまって押し倒す形になってしまった。

 

「少年、そこは胸だ」

「ないから気にするな」

「後で覚えてろ」

 

 色々と考えないように努力しよう。

 

「わー。これはもう心臓の鼓動が止まらないね。もうエロエロですね。アルス君は大胆にも顔をうずくめて――――――――――」

 

 モンスターよ、頼むから実況するニーナにトドメを刺してくれ。

 

「いちゃつくんならよそでやってよっ! あーもう! いらいらする!」

 

 アリシアの怒りが頂点に達してきたのか『さまよう鎧』のボディーが『ひのきの棒』でベコベコへこんできた。

 見なかったことにしておこう。

 

「こないで~」

 ティナはまだ追いかけられている。

 時間稼ぎにはなっているものの、冒険者の戦闘と呼べる光景とは程遠い。

 

 

 ようやく『満月草』を口でくわえることが出来た。

 すぐに隊長にも使って反撃開始。

 俺が憎き『キラービー』を殲滅して『さまよう鎧』を隊長が一刀両断した。

 そんな何とか全滅を避ける為に頑張った俺にアリシアが一言声をかけてくれる。

 

 

「変態」

 

 

 ちょっとアリシアには刺激の強すぎる光景になっていたみたいだ。

 だけど怒るなら隊長も怒ってほしい。

 もともと隊長の悪ふざけのせいだろ。

 

 その日は団結して盗賊を退治できそうな雰囲気ではなかったからそのまま『カサーブ』に帰還。

 その日アリシアは口を聞いてくれなかったし俺の部屋は一人部屋になった。

 まあ一人部屋の方が気を遣わずにすむから楽といえば楽なんだけど。

 

 久々に自由のみになった俺は一人孤独にヴァイオリンを弾きながらやはり宿から出て行くアリシアを窓越しから横目で見送ってこの日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書7―アルスの日記―

 塔に向かおうとしたら『キラービー』にしてやられた。

 それにしても隊長の身体は戦士というわりには服ごしの感触でも分かるくらい、とても柔らかかった。父さん、俺は一つ大人に近付いた気がするよ。しかし隊長もミスをするってことはやはり俺と同じ人間ということか。可愛いところを見れた気がする。

 いや、もしかするとこれすらも計画通りで俺と仲間達の絆を引き裂いて俺の花の楽園(苦労しかないが)を乗っ取るつもりなのだろうか。

 まあ久々の一人部屋だ。しばらくヴァイオリンにお世話になるとしよう。

 

 




麻痺攻撃をエロいと思ってしまうのは私だけではない筈(おい


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支えてあげたい彼方の為にNo.1アリシア

毎日夜遅くまで魔法の練習をするアリシアの話。


 許せなかった。

 新しく加わったマリアさんは強い。

 

 私が魔法ではなく打撃を選んでいたら、マリアさんみたいにアルスと肩を並べて戦えたかもしれないと考えるが、すぐにその考えを自分で否定する。

 無理だ。アルスには打撃で勝てない。

 

 それに私はいままでアルスと一緒に戦ってきたのに、マリアさんは影ながらアルスをサポートして息がぴったり合っている。

 あんなに息をぴったり合わせることなんて私には出来ない。

 やっぱり私には魔法しかない。

 だから私は夜特訓をするしかなかった。

 

 才能がないから努力で補うしかない。

 アルスが可愛いキーホルダーをくれたからきっと頑張れる。

 そう思っていたのに私では無理だった。

 

「何も出来なかった」

 

 今日の戦いは皆ピンチになっていた。

 私が皆を補助しきれなかった。

 火力で押し切る魔法使いが敵を倒せなかった。

 情けない。

 

 『ロマリア』で買った魔法の教科書を見ながら頑張っても、地面に置いたビンに【メラ】が当たるのは10発中3発だ。

 この命中率を何とかしないと新しい魔法を覚えてもみんなに当ててしまうかもしれない。

 

「このっ」

 

 何回撃っても当たらない。

 『いざないの洞窟』みたいにうまくいかない。

 いや、あれは偶然だったのかもしれない。

 ただ運がよくってアルスに当たらなかっただけなのかもしれない。

 

「当たってよ」

 

 マリアさんが嫌いな訳ではない。

 むしろ会ったばかりのアルスをあそこまでサポートできて、からかうこともできて、色々な意味で私の憧れだ。

 

「当たりなさいよ!」

 

 皆だってそうだ。

 少しでもアルスの役に立ちたくて、それができてカッコいいマリアさんを慕ってる。

 

 ニーナはこの大陸でも戦えている。

 ティナは【ホイミ】がある。

 私は命中率のない【メラ】と【ギラ】だけで、効かない敵には何もできない。

 

 

 アルスにむかついた訳じゃない。

 マリアさんに嫉妬したわけでもない。

 一番許せないのは私の無力さ。

 

「うぅ……なんで……」

 何もかもがうまくいかない。

 私の性格と同じで魔法もまっすぐ飛んでくれない。

 

 

 

 いつの間にか膝をついていた。

 

 

 

「アリシアちゃん、少し休憩にしよ」

 ティナがいつのまにか居た。

 情けない姿を見られてしまった。

 

 もしも来たら意地を張って追っ払おうかと思っていたのに、笑顔が、温かすぎて、泣いていた。

 

 私に優しくしないで。

 惨めな私なんか放っておいて。

 私なんか居てもいなくても同じだ。

 私の居ない4人パーティーでも今と変わらずに戦っていける。

 

「私もね。役に立てなくって。ほら、【ホイミ】しかできないのに【MP】ないし。それにキアラクだって使えないし」

 魔法の名前すら間違っている。

 でも私と同じ気持ちだと、思う。

 

「だから一緒に頑張ろうね」

 差し入れで持ってきてくれたココアが温かかった。

 

 

 泣き虫なティナの胸で泣いちゃったから、多分これから私は、泣いたらダメだと思う。

 何倍にもして返さないとダメだから、ティナが泣いちゃった時私も泣いていたらダメだから。

 だから私は皆が居る限りもう泣かない。

 そう決めた。

 

「あー。二人だけでココアなんてずるいー。ココアは私の大好物でもうそれはそれはココアと言ったら私むしろ私がココアな訳で、私にもよこせー」

 不意に後ろからニーナに抱きつかれた勢いで私とティナは一緒に倒れた。

 

 ニーナにも心配されていたらしい。

 いや、それどころかニーナも何かの特訓していたのか服が泥だらけだった。

 

「ああ、これねー。アルス君に秘密で『鉄の槍』買ったんだ。いいでしょいいでしょー。これでもー後はブラッティースクライドーとかニーベルンヴァレスティーンとか必殺技編み出せば完璧ですヨ」

 

 皆気持ちは同じだ。

 強くなりたい。

 アルスの力になりたい。

 悔しいけど私達が友達になれたきっかけはアルスだ。

 あいつがいなかったら私は……きっと一人だった。

 

 今日も夜空は綺麗で、倒れたままの私達は川の字で寝そべっていて、それを眺めている。

 

「あれ……」

 宿の方からヴァイオリンが聞こえてきた。初めに気づいたのは珍しく私だ。

 いや、私が最初に気付かなければいけない音色だ。

 アルスのギターがどういう思い出の品なのかは知らないけど、ヴァイオリンは知っている。

 

 確か恥ずかしいのを我慢して、アルスと出会った年のアルスの誕生日にプレゼントしたものだ。

 別の部屋にしたから私達が宿を抜け出した事に気付いていない筈だから、ただの偶然だと思うけど、プレゼントした時のあの気持ちが、勇気が少しだけ湧いてきた気がした。

 

 私は皆ともう少しだけ頑張っても、いいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書7―アルスの日記―

 

 塔に向かおうとしたら『キラービー』にしてやられた。

 それにしても隊長の身体は戦士というわりには服ごしの感触でも分かるくらい、とても柔らかかった。父さん、俺は一つ大人に近付いた気がするよ。しかし隊長もミスをするってことはやはり俺と同じ人間ということか。可愛いところを見れた気がする。

 いや、もしかするとこれすらも計画通りで俺と仲間達の絆を引き裂いて俺の花の楽園(苦労しかないが)を乗っ取るつもりなのだろうか。

 まあ久々の一人部屋だ。しばらくヴァイオリンにお世話になるとしよう。

 

 ちょっと私達も見るんだから少しは内容をつつしんでよね#

ちゃららら~アルスの性格が【いのちしらず】になった♪

 また勝手に見てごめんね               ティナより

 

 




中々上手くいかず、それでも頑張り続けるアリシア。
皆ゆっくりですが大切な人の為に強くなっていくことでしょう。


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第四話「カンダタ」

塔の攻略はカットしてのカンダタ戦。


 朝起きたら性格が【命知らず】になっていた。

 またティナよりと書かれていたから叱っておいた。

 

 しかし皆眠そうだ。

 皆一体いつまで外で騒いでいたのだろうか。

 ちなみに俺はあの後ぐっすり寝たから絶好調だ。

 

 『シャンパーニの塔』に無事たどり着き、難なく盗賊のリーダーカンダタを追い詰める。

 うむ、絶好調だ。

 

 

「さあ王冠を返してもらおうか」

「貴様のものでもあるまい」

「なら勇者らしくいただいていくっ!」

 

 

 俺がそう叫ぶと皆に白い目で見られた。

 いや、テンション的に言いたくなるだろ今の台詞返されたら。

 

 とにかく、さっさと王冠取り返しておくとしよう。

 俺が大いなる一歩を踏み込むと見事に落とし穴にはまった。

 

 それに続いてカンダタとその子分達が降りてくる。

 多分落とし穴にはまったのが俺だけだったからこっちに逃げた方が安全だと思ったのだろう。

 それを追って皆も降りてくる。

 

「ちくしょう。しつこい野郎だぜ」

 逃げ切れないと判断したのかカンダタ達は勝負を仕掛けてきた。

 カンダタとカンダタの子分が四人。

 数は同じだ。

 

 だが厄介なことに三角に取り囲まれた状態での戦闘。

 俺がカンダタを押さえてる隙に一人ずつ何とか倒してもらおう。

 

 カンダタは思った以上に強い。

 正直【スクルト】が欲しい。

 『青銅の盾』と『鎖帷子』、ティナの【ホイミ】のおかげで何とかもっているが長期戦は不利だ。

 

「【ギラ】」

 アリシアのギラの命中率が上がっているが、このフォーメーションだと一人にしか攻撃できないのが痛い。

 

 ニーナがいつ買ったのか『鉄の槍』を振り回して牽制してくれているおかげで、何とか俺の方には子分はこない。

 まあ隊長が二人をひきつけてくれているのが一番大きいか。

 そろそろ集中攻撃で一人ずつ倒してもらいたい。

 

 女の子に手をあげるのが嫌なのかカンダタ一味は俺を狙ってくるようになってきている。

 お前ら攻撃力高すぎだ。

 

 3発目のホイミでティナは打ち止め。

 それとほぼ同時にカンダタの子分一人が戦闘不能になった。

 

 これで数は同じだが、俺もそろそろ戦闘不能だ。

 薬草だと回復が間に合いそうにない。

 

 

「アルス!」

 

 

 アリシアが何かする気だ。

 声を掛けた、ということはあまり自身がない魔法だろう。

 「何がきても避けてみせる」という気持ちをこめて頷いておく。

 

 

「【イオ】」

 

 

 魔力のこもった小さな球体が4つほど手のひらから放たれ、それが小さな爆発を起こした。

 俺はそれを上に飛び上がり回避してかすかな爆風は盾で防ぐ。

 カンダタはまだ立っているが子分達はもう戦う力は残っていない。

 

「カンダタ」

 俺の声にカンダタは俺を見上げた。

 

 天井に足をつける。

 爆発で一瞬周りが見えなくなった今がチャンスだった。

 でも俺は声をかけた。

 居場所を知らせた。

 これが俺の放てる最後の攻撃だけど知らせた。

 ただの盗賊とは違う強い力を持ったこの男に敬意を込めて。

 

「あんたは強かった」

 

 足のばねで思いっきり天井を蹴る。

 それに対してカンダタは笑っていた。

 反撃ではなく回避という選択肢を選べば勝敗が変わるかもしれない。

 それでもカンダタは斧をしっかりと握り締める。

 

 

 

 

 

「―――――――――今回は――――――――」

 

 

 

 

 

 攻撃が交差する。

 俺の『青銅の盾』はカンダタの斧を弾き飛ばし、それでも勢いは止まらない。

 止めて引き分けなんかにしたくない。

 俺が強いと認めた男だ。

 ここで決着をつける。

 きっとこいつと同じ村に生まれていれば、いい友になれただろう。

 

 

 

 

 

「――――――俺の勝ちだ――――――」

 

 

 

 

 

――――――願わくばこの男と次は一対一の決闘を

 

盾はカンダタの身体を突き飛ばし

カンダタの身体は吹き飛んだ先にある柱をへし折る事でようやく停止した―――――

 

 

 

 カンダタは子分の為に命乞いをした。

 恥をしのんで頭を下げている。

 俺と同じで仲間の為ならなんだってする男だ。

 俺だってそうする。

 それが分かるのはきっと武器を合わせて戦った者同士と、敗北者の仲間達だけだ。

 でも、それだけで充分だ。

 

 王冠は取り戻したんだ。

 なによりもこの男の命が惜しい。

 俺はカンダタを許した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書8―アルスの日記―

 今日はカンダタと勝負をして王冠を取り戻した。

 カンダタは俺の出会った男の中で誰よりも強く、誇りを持った男だ。盗賊にしておくのは惜しい人材だろう。

 それにしてもアリシアが早くも【イオ】を覚えていたのは驚きだ。あれのおかげで今回は助かったし、ティナの【ホイミ】が3回に増えていたのも助かった。

 ニーナも地味に槍捌きが上手くてみんな頑張っているようだ。関心関心。

 ロマリアに戻ると王冠を取り戻したお礼は王様になれることだった。せめてアイテムかGにしてもらいたかったところだ。俺はぶっちゃけ王様よりも王様ゲームの方が興味あるしやりたい。

 

 




カンタダさんがただの盗賊ではなく、漢らしい盗賊に改変されております。
今後のカンタダさんの武勇をご期待ください?
そして毎度「ティナより」の一文で叱られるティナ。
ティナではなく他の二人が散々なことを言っているのに気付きながらも、ついティナに意地悪をしたくなるアルスだったりします。
ちなみに叱られる方のティナも満更でもなかったり(ゲフンゲフン


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第五話「到着ノアニール」

ノアニールまでの道中、夜になると奴が出る。



 王冠を取り戻した後、隊長とは『ロマリア』で別れる筈だった。

 

「はっはっは。そんな嬉しそうな顔をしてくれると照れるじゃないか」

 

 ちなみに俺は嬉しそうな顔はしていない。

 「面白そうだからついて行こうではないか」と隊長が言い出した時から俺の口は開いたままふさがらないでいるのに、どこをどう解釈すれば嬉しそうに見えるんだ。

 

 確かに隊長は戦力になるけど扱いが難しすぎる。

 というか『ロマリア』の仕事はいいのか。

 

「そう連れないことを言うな。身体を重ねあった仲ではないか」

「待て待て待て待て。確かにそうだが誤解を招くような言い方はやめてくれ。はいニーナはほほ赤めて妄想口走らない。ティナはあたふたしない。アリシア殴るな!」

 

 また苦労が増えた。

 まさかと思ってステータスを見てみると【くろうにん】に戻っていた。

 どうあってもこれは舞い戻ってくるらしい。

 

 諦めて5人で『ノアニール』を目指すことにしたけど、のんびりしすぎた。

 もう日が暮れて夜だ。

 夜はあいつが出るから嫌いなんだよ……って、ほら出た。

 

 『こうもり男』4匹だ。

 こいつは攻守が高いくせに【マホトーン】を唱えてくる厄介な敵だ。

 俺の『銅の剣』じゃあ一発で倒せない。

 

「アリシア!」

「【ギラ】!」

 

 だからやられる前にやれだ。

 アリシアの【ギラ】が『こうもり男』を飲み込む……筈だったが、避けられた。

 

「ごめんっ」

 いや、アリシアは悪くない。

 今のは直撃コースだった。

 数々の冒険者と戦ってこいつら場慣れしている。

 

 当然のように一体が【マホトーン】をアリシアに掛ける。

 だが逆に言うと隙だらけの奴が1体できた。

 俺が飛び上がり『銅の剣』で空中からソイツを叩き落とし、ニーナがトドメを刺す。

 

 残り3体。

 

 回復役を潰しにかかったのか1体がティナに急降下してきたが、なんとか『鱗の盾』で防いでくれた。

 買ってやっておいてなんだが防いでくれるとは思わなかった。

 弾かれた『こうもり男』は隊長の間合いに入ったから一刀両断、当然お陀仏だ。

 

 残り2体。

 

 どうやら今までの行動はフェイクだったようだ。

 本当の狙いは防御力のないアリシアを確実に仕留める事。

 アリシアは魔法使いで打たれ弱い上に今までまともな防具を買い与えてすらいない。

 

 だから狙われて当然だ。

 当然だからこそ対処しやすいというものだ。

 

 あらかじめ来る場所が分かっているならそこを守れば良い。

 俺はアリシアの前まで後退して『青銅の盾』で『こうもり男』の攻撃を二発とも防ぐ。

 その隙にニーナと隊長が仕留めてくれた。

 

「うむ、良い手並みだった。見事な盾っぷりだったぞ」

 隊長がポンポンと俺の肩を叩く。

 

 盾になるのは前衛の仕事だからいいのだが、隊長やニーナもたまには壁になってくれ。

 このままだと俺の体力がもたん。

 

「まったく……あのくらい私一人でも耐え切れたんだから余計なことしないでよね。怪我なんかしてないわよね?」

 アリシアは辛口だ。

 たまには素直にお礼を言ってもらいたいものだ。

 

 まあ無事『ノアニール』についたからよしとしよう。

 しかしいくら夜だからって皆眠っているのはどうかと思う。

 というよりも、明らかに異常である。

 

 試しに外で寝ている女の子を軽くゆすってみたが全く起きる様子はない。

 

「アルス君が女の子にいたずらしようとしているー。ついに欲求不満が爆発してなりふり構わず女の子を襲う変体仮面スパイダーマになってしまったのかー」

「アルス……その……えっと……そういうの良くないと思うし、それにえっと……とにかくダメ~!」

「変態」

 

 それにしたって幼馴染達のこの反応は無いと思う。

 とりあえず唯一起きていた村長に話を聞いてみると、エルフと駆け落ちした男がいてエルフの女王が怒ったらしい。

 

「美少女エルフと駆け落ちとはなんてうらやましい男だ」

 

 みんなに引かれた。

 いや、だってエルフって男のロマンじゃないか?

 

 勝手に宿屋を使うのもなんだし今日は村長の家で泊まらせてもらった。

 俺は何の嫌がらせか外でテントだ。

 それもテントから一歩でも出たらアリシアに魔法で撃ち抜かれるらしい。

 試しに出てみたら本当に【ギラ】を窓から飛ばしてきた。

 最近命中率が上がって来てシャレにならないから勘弁してもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書9―アルスの日記―

 隊長がついてきたせいで戦力は上がったがからかわれる時間が二乗になり『ノアニール』についたのは夜だった。

 だが『こうもり男』を苦戦せずに倒せたのは大きい。最近は皆頑張り過ぎてて俺の影が薄くなってきた。というか盾にしかなってなくないか、俺は。

 最近俺の株が下がってきている気がする。人気投票を考えるとここらで活躍しなければ非常に不味い。

 もう少し俺もスタミナ配分を考えず突撃した方がいいのだろうか。悩ましいところだ。

 とりあえず、明日はエルフに会いに行くから気合を入れていこう。

 

 




人気投票どころか感想も評価もないのだよアルス君(血反吐
ただし構成的にはアルスのことを「なんだこいつ」と思い始める頃合だろうと読んで当時はこのメタ発言を冒険の書に入れていた気がします。


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第六話「目覚めの粉」

エルフとはロマンの塊である。


 エルフの隠れ里をついに見つけてやった。

 ホビットも残念ながら混ざっているがエルフ、エルフ、エルフとエルフ尽くし。

 

「君に送る指輪がほしいんだ」

「帰れ人間」

 

 どうやら人間を毛嫌いしているみたいでにらまれた。

 後ろからの目線もいたい気がするが……気のせいということで勘弁してほしい。

 とにかく人間に売る物は一つもないようだ。

 

「僕悪いスライムじゃないよー」

「帰ってください」

「僕ですよ僕。ホイミンです!」

「ホイミンって誰!?」

 

 もう少し粘ればアイテムくらい売ってくれる交友関係になれたかもしれないのにアリシアに止められた。

 

 まあ本題に入ってエルフの女王に事情を聞いてみたら、エルフが人間に攫われて『夢見るルビー』も盗まれてしまったらしい。

 それは怒るわけだ。

 さっそく逃げ込んだ可能性の一番高い『ノアニールの洞窟』に殴りこみに行ってみた。

 

「なんだかアルス君がエルフよりに行動してるねー。次はアルス君が現行犯逮捕されて公開処刑だー。さらば麦わらー俺死んだわーそう叫んだ瞬間に落雷がー!」

「大丈夫よニーナ。縄もってきたから」

 ニーナとアリシアの中では俺がこの後エルフを攫って行くのは確定のようだ。

 ティナも苦笑を「あはははは…」と笑ってごまかしているという事はそう思ってるのだろう。

 

 

 どうせ隊長が追い討ちで俺をからかってくるんだろうと思っていたのに、そこで話題が途切れた。

 

 

「隊長、具合でも悪いのか?」

「いや、ただ美しい友情を堪能していただけだ。それとも少年は私にからかってほしいのか? マゾっ気のある奴だ」

 隊長がいつものように笑った。

 

 今のは美しい友情だっただろうか。

 

 回復ポイントがあることをいい事に戦闘中アリシアが【ヒャド】の練習をし始めた。

 敵に割と当たるけど俺にも割りと当たるのはわざとだろうか。

 わざとだろうな。絶対わざとだ。そう思っていたら突然【ヒャド】で自爆した。

 やっぱりただのノーコンか。

 

「不器用な奴め」

「放っておいてよっ」

 

 奥に進むと宝箱があった。

 中には靴と遺書と『夢見るルビー』が入っている。

 叶わぬ恋ならばいっそ彼と共に命を絶とう。

 そんな感じの内容だった。

 

 俺がもっと早くこの大陸に訪れることができていれば二人を助けられただろうか。

 少しへこむ。

 とりあえず靴と手紙のことは伏せておいて『夢見るルビー』があった事だけを皆に知らせておいた。

 隊長は多分『夢見るルビー』だけがここにあった意味を理解しているだろう。

 

 

 エルフの女王に宝箱ごと渡すと彼女は涙を流した。

 多分、エルフと人間は交わってはいけないという掟を押し付けた自分が悔しいのだろう。

 

 もうこんな悲劇が繰り返されないことを祈る。

 

 『ノアニール』の眠りの呪いは解いてくれるらしい。

 今日は『ノアニール』で一泊してからゆっくりこれからの事を考えていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書10―アルスの日記―

 今日はエルフの里を見つけた。

 洞窟には残念ながら駆け落ちした二人はいなかったが『夢見るルビー』は置いていったようだ。

 エルフの女王に『夢見るルビー』を返すと『ノアニール』の人々の呪いを解いてくれた。話せば分かる人だ。結婚しようと言ったら断られたのが残念だ。

 とりあえず俺の『鋼の剣』とアリシアの『身かわしの服』は購入しておこう。

 『ノアニール』を救ったということで村の人がパーティーを開いてくれた。これでまた一歩我が野望に近付いた。

しかし音楽がいまいち乗り悪かったので俺が指導しておいた。これで次ぎ来た旅人は感動に胸を躍らせて不思議な踊りを踊りだすことだろう。

 それと冒険の書に落書きするのやめい。

 




エルフのイベントについては、心中したか心中した振りをして二人幸せにどこかでひっそりと生きていくか当時迷った覚えがあります。
ですが人魚やエルフとの恋に厳しいドラクエ、ここはやはり心中にしようとこのような形となりました。


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支えてあげたい彼方の為にNo.2ティナ

何もできないと思っているけど、皆の日向であるティナのお話。


 せっかく『ノアニール』の皆が起きたのにアルスの元気がない。

 困ったことも一人で抱え込むのはアルスの悪い癖だと思うな。

 

 どうやったら元気でるかアリシアちゃんとニーナちゃんに相談しようと思ったけど、二人とも模擬戦で特訓中みたいだから後で相談しよう。

 

「マリアさんちょっと良いですか?」

 まずは町外れで夕焼けを眺めているマリアさんに相談してみることにした。

「ああ、ちょっと待っててくれ。すぐすむ」

 マリアさんはビタミン剤を飲んでる最中だったみたいだ。

 いつもどおり5粒ほどを水で流し込んでいる。

 

「ふぅ。それでお姉さんに恋の相談かな?」

「ち、ちがいます!」

 マリアさんは私とアルスをよくからかう。

 もしかしたらニーナちゃんやアリシアちゃんもからかわれているかもしれない。

 あれ、今思えばこれって恋の相談なのかな。

 どうなんだろ。やっぱりそうなっちゃうのかな?

 

「顔を赤くして可愛い奴め」

 

 マリアさんが優しく笑いながら私の頭をなでてくれる。

 ちょっと恥ずかしいけど、アルスと同じで優しい気持ちがたくさん詰まっている。

 そんな気がした。

 

「アルスのことだな。少年の元気がないとお姉さんもからかいがいがなくって困ってたところだ」

 マリアさんは「退屈だ」と最後に付け足しながらからかうように笑う。

「そっとしてもらう事を望んでいるようだから私は何もしない。それが私のやり方だ。ティナはティナらしいやり方をすれば良い。それだけだ」

 

 私らしいやり方……あったかな。

 料理が得意だからご飯を作ってあげればいいのかな。

 

「笑顔でそばにいてやれ。みんなが笑っていれば……あいつは、あの親子は幸せなんだ」

 日がほとんど落ちてきたからなのか、マリアさんが一瞬だけ悲しそうな顔をしているように見えた。

 

「ほらほら、まずはみんなで食事だ。特訓している二人を切り上げさせてみんなで食べるぞ。なんと言っても呪いを解いた勇者一行様の歓迎パーティーだからな」

 『ノアニール』の皆がお礼としてパーティーを開いてくれる予定になっている。

 

 このままだとアリシアちゃんとニーナちゃんがパーティーに特訓した後の汚れた格好で出ることになって、それはちょっと恥ずかしい思いをさせて可哀相だと思う。

 今ならまだシャワーを浴びる時間もあるからみんなで一緒にお風呂に入ろう。

 

 アリシアちゃんとニーナちゃんは特訓に夢中でパーティーのことを忘れていたみたいで大慌てだった。

 

 お洋服を用意してあげよう。

 

 パーティーでアルスは元気に振舞ってパーティーを着飾る音楽団体に乱入してヴァイオリンを弾き始めた。

 見てるこっちが恥ずかしいよ。

 でも村のみんなには高評だったみたいで「アルス」コールが続いていた。

 

 お料理は私のより美味しい。

 やっぱりまだ本格的な味には勝てないみたい。

 

「へぇ、アリシアちゃんって言うんだ。やっぱり勇者さんと同じでアリアハン出身?」

「え、えぇ。そうなる……かな」

 アリシアちゃんは団体に慣れてないからちょっと居心地が悪そう。

 私もちょっと苦手だけどにぎやかなのは好き。

 

「姉御姉御あ~ね~ご。アルス君ばっかり目立ってずるいと思いませんか。ここは一つ私達がさらにあの場をジャックするべきだと思いますヨ」

「ふむ。それもそうだな。よし、私が活路を開く。ニーナは自慢の歌声を存分に披露してくれたまえ」

「了解しました。もうみんな聴き入って口から泡耳から脳みそが出るようなハングリーボイスでみんなのハートをゲットだぜぇしてきますヨ!」

 

 ニーナちゃんとマリアさんはとても居心地がよさそうだった。

 

「ここは俺のステージだ! やらせはせん、やらせはせんぞー!」

「ふはははは! この私を止めてみろ勇者よ!」

 マリアさんが『ひのきの棒』で襲い掛かっている。

 それをアルスはヴァイオリンからオカリナに持ち替えて、片手で簡単な曲を吹きながら同じく『ひのきの棒』でマリアさんと対峙した。

 その曲に合わせてニーナが歌いだす。

 

 『ノアニール』の皆の歓声の大きさがまた上がった。

 

「ほらほらアリシアちゃんもティナちゃんも歌おー! もう皆の目線がすごいよ!」

 その言葉に私とアリシアちゃんは前に出ていかなくちゃいけない雰囲気になってきた。

 

「ちょっとニーナ何勝手なことっ。ティナも何とか言って」

 アリシアちゃんの顔は真っ赤だ。

 でもいつものように嫌そうではない。

 私も恥ずかしいけど、アルスが「せっかくだから楽しめ」という目で私をみていた。

 

「アリシアちゃん行こう」

「ちょっと、それ本気!?」

 

 アリシアちゃんの手を引いてステージに上がる。

 『ノアニール』の皆の歓声が一段と強くなった。

 恥ずかしい。

 きっと私の顔はアリシアちゃん以上に真っ赤になってるかな。

 でもニーナちゃんもマリアさんも楽しそうだったから、村のみんなも楽しそうだったから、私も歌った。

 

 アリシアちゃんも観念して歌いだす。

 とても恥ずかしくって、それでも楽しくって、アリシアちゃんと一緒に笑ってた。

 気付いたときは周りが見えなくって、いつものみんなではしゃいでるだけになって、アルスは笑っていた。

 

 

 大はしゃぎして村の人がみんな寝静まった後にアルスは勝手に宿の屋根に上ってヴァイオリンを弾いていた。

 最近ヴァイオリンを弾くことが多いのはアリシアちゃんが頑張ってるからかな。

 私はそっとアルスの隣に腰を下ろした。

 

「うるさかったか?」

「うんん、大丈夫だよ」

 

 うるさくなんてない。

 ただそばで聴きたかった。

 

「元気になってよかった」

「分かってるんなら空気を読め」

 

 そういうのはよく分からない。

 アルスがこう言う時は「言わない方がカッコいい」事のようだ。

 やっぱりよく分からない。

 

 ヴァイオリンの音は止まらない。

 

「あんたらねぇ、夜こんな所に上って風邪引いても知らないわよ?」

 アリシアちゃんも屋根に上ってきてアルスの隣に腰を下ろした。

「そんなくっつくとヴァイオリン弾きにくいだろ」

「寒くないようにしてあげてるんだから文句言わない」

「さいですか」

 アルスは苦笑いしてるけどヴァイオリンの音色は変わらない。

 

「ニーナクロスチョーップ!」

「ぐわっ!」

 

 いきなりニーナちゃんがアルス君に突撃してきてみんなで落ちそうになって音は止まる。

 

「パーティーを全滅させる気か!?」

「だってだって。私をのけものにしてみんなで楽しいことしてるんだもん。私にもアルス君を突き落とす手伝いさせてー。保険金の取り分は一番少なくって良いから」

「ニーナ、あんたのおふざけたまに本当に死にそうになるからシャレにならないんですけど」

 

 一度だけアリアハンのアルスの家の屋根で同じことがあってアリシアちゃんが棺おけになった事があったからトラウマになってるみたい。

 アリシアちゃんの顔色が悪い。

 

「ごめんごめん。ほらこれで寒空の下も暖かいのだー」

 ニーナちゃんが腰を下ろして背中をアルスの背中にくっつける。

 

 一度止まったヴァイオリンがまた鳴り出す。

 

「くそ、弾きにくい。こらそこ押すな。俺だけ落ちるだろ」

「はっはっは。贅沢を言うなモテモテなくせして。お姉さんもまぜろ寂しいだろ」

 いつの間にかマリアさんがニーナちゃんの隣に座っていた。

「姉御やっちゃえー!」

「こらバカっ。私も落ちちゃうじゃないっ!」

「わ、わ、わ、アルスが本当に落ちちゃうっ」

「俺には安息の地はないのか」

 アルスは溜息をついてたけど、いつものアルスだった。

 

 私一人だとまだアルスの不安を和らげて上げることは出来ないけど、皆でなら出来る。

 いつか私一人でも…やっぱりみんなでアルスを支えていこう。

 アルスもきっとそれを望んでいる筈だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書10―アルスの日記―

 今日はエルフの里を見つけた。

 洞窟には残念ながら駆け落ちした二人はいなかったが『夢見るルビー』は置いていったようだ。

 エルフの女王に『夢見るルビー』を返すと『ノアニール』の人々の呪いを解いてくれた。話せば分かる人だ。結婚しようといったら断られたのが残念だ。

 とりあえず俺の『鋼の剣』とアリシアの『身かわしの服』は購入しておこう。

 『ノアニール』を救ったということで村の人がパーティーを開いてくれた。これでまた一歩我が野望に近付いたな。

 しかし音楽がいまいち乗り悪かったので俺が指導しておいた。これで次ぎ来た旅人は感動に胸を躍らせて不思議な踊りを踊りだすことだろう。

 それと冒険の書に落書きするのやめい。

 

 やめろと言われたらやるのが人というものだ。それにしても前に私の胸について書いていたな。冒険の書6だ。アリシアも激怒していたぞ。そこで私達は少し反撃をさせてもらうことにした。

 

アルスの性格が【セクシーギャル】になった。

 

 この冒険の書は割りと君に影響を及ぼすことが多い。そんなにボッキュッバーンがいいのなら自分でなるのだな。ふはははははははは!

 

 




マリアの姐御による反撃で、次回当時の作者ですら問題あり過ぎだろうと膝をついた話がやって来るっ!


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第八話「ボッキュバーン」

女勇者は強い。


 朝起きたら胸がついていて下の息子がいなかった。

 夢だろう。

 

 ぽっぺをつねってみた。痛かった。

 胸をつねってみた。柔らかかった。

 

「夢だな」

 

 とりあえず寝よう。

 きっと次に起きた時俺の息子は立派にそびえ立っている筈だ。

 

 

「少年よお姉さんが起こしに来てやったぞ」

 隊長の声だ。

 これでようやく夢も覚めるだろう。

 

「ほーら、お姉さんが布団をはいでやるぞー」

「はがんでも自分で起きれる。つうか人の尻さわるなっ。セクハラで訴えるぞ」

「はっはっは。前にお姉さんの身体を這って回られたからな。そのお返しと考え……」

 

 隊長の言葉が途中で止まった。

 俺の身体を見て表情も固まる。

 そして頭まで抱えだした。

 だがすぐににこやかな笑顔をつくってみせた。

 

「よかったな。モテすぎて血みどろの戦いを生むことはなくなったぞ。むしろ人気アップ間違いなしだ」

 

 訳の分からないことを言っている。

 いや、実際は理解しているが認めたくない。

 なぜこうなった、こんな事がありえるのか。

 もしあるとすれば冒険の書の改ざんしか理由が思いつかない。

 だがいくら冒険の書といえどこんな事が可能なのだろうか。

 

 俺は恐る恐る冒険の書を開いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書10―アルスの日記―

↓中略

 やめろと言われたらやるのが人というものだ。それにしても前に私の胸について書いていたな。冒険の書6だ。アリシアも激怒していたぞ。そこで私達は少し反撃をさせてもらうことにした。

 

アルスの性格が【セクシーギャル】になった。

 

 この冒険の書は割りと君に影響を及ぼすことが多い。そんなにボッキュッバーンがいいのなら自分でなるのだな。ふはははははははは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐ろしいものだな、若さゆえの過ちというものは。自分でやってしまったものは仕方がない。女としての第二の人生を堪能してくれたまえ」

「どうみてもあんたの文面だろ!」

「いいではないかステータス大幅アップだ。それに元に戻せばいいことだろ」

 

 こいつは人事だと思って。

 とにかく日にちが変わったら前の日の冒険の書に手を加えることは出来ない。

 ここは今日の冒険の書に男専用の性格【むっつりスケベ】か【ラッキーマン】と書くしかない。

 

 【むっつりスケベ】は何か嫌だから【ラッキーマン】にしておこう。

 

「……」

 姿が変わらない。

 ステータスを確認してみると性格が【お嬢様】になっていた。

 

「おい」

「お嬢様っぽく喋ってくれ」

「こら」

「しかし少年……いや、今は少女か。私がやっておいてなんだがうらやましいくらい胸があるな。ええい、私に少し分けろ!」

「っ。もむなっ!」

 

 俺の性別が何であってもこいつはちょっかいを出してくるらしい。

 むしろ女になったことで遠慮のないセクハラという選択肢が追加されたようだ。

 性別が変わったのにまた性格だけが【くろうにん】に戻る。

 

「ちょっとあんた達朝からうるさい!」

 アリシアが勢いよくドアを蹴飛ばして入って来た。

 

 俺と目が合う。

 アリシアの目線がそこからまっすぐ下に下りる。

 俺の山二つが谷間を作っている。

 

「……部屋を間違えたみたい」

 バタンとドアが閉められた。

 どうやら現実が受け入れられなかったようである。

 

「って、どうなってるのよそれは!」

 が、すぐ戻って来るなりアリシアは俺の胸ぐらを掴んで強引に立ち上がらせて壁にたたきつけた。

 

「あんたどういうつもり。そこまでして私のむむむむむ胸をバカにしてっ!」

「ツッコムところそこ!? まず女になってるところ突っ込めよ!」

「うるさいうるさいうるさい! どうせシリコンでしょ! シリコンくっつけただけなんでしょ!?」

 

 今度は俺の胸を強くつかむ。

 ふに。

 

 

「……部屋を間違えたみたい」

 

 

 アリシアが静かに去っていった。

 現実逃避したいのは俺のほうなのだが。

 お前仮にも魔法使いなんだから魔法の薬でも魔法でも良いからご都合主義で俺の体元に戻してから帰ってくれ。

 

「今アリシアちゃんが頭を抱えて部屋に戻ってきたけど何かあったの?」

 今度はティナが来た。

 

 俺と目が合う。

 目線が下に行く。

 俺の山二つが谷間を作っている。

 

「わ、大きい」

「お前もまず胸か! 女であることを認める前に胸か!」

「あ、えっと……どうしたの、それ?」

 

 ティナは苦笑しながらも現実を受け止めてくれた。

 さすがティナだ、頼りになる。

 

「実はアルスは元から女だったのだ。今朝起きたら胸がレベルアップしてしまったらしい」

「え、そうだったの!?」

「お前何年俺の幼馴染やってんだ。俺は男だったぞ」

 残念ながら過去形だ。

 というか隊長話をややこしくしないでくれ。

 

「胸がレベルアップ……」

 だがティナは聞いていない。

 

 自分の胸と俺の胸をみくらべる。

 ティナの胸は小さくはない。

 だが今の俺がそれを言ってもただの嫌味にしかならないだろう。

 

「……ちょっと経験値かせぎに行ってくるね」

「ちょっと待て、お前は何を倒して胸の経験値をかせぐつもりだ。つーか待て。俺が元に戻れるよう何か手伝えよ。おーい」

 ティナは行ってしまった。

 

 どうやら現実を受け止めきれずにやはり混乱してしまったらしい。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。アリシアちゃんが絶望してティナちゃんが旅立った理由教えてー」

 元気な奴が来た。

 ニーナは割りと胸が大きい。

 ニーナなら現実を受け止めて俺の助けになってくれるだろうか。

 

 俺と目があった。

 目線が下に下りた。

 

「ナイス鎖骨ですヨ」

「ちょっと待て、お前が一番ツッコミどころ多いぞ。なんで鎖骨だよ。他のところツッコめよ。親指立てんな。俺女になってるぞ。関係ないけど巨乳だぞ。声も何か変わってるぞ。つーかなんで俺はツッコまれなかった部分に自分で突っ込みを入れてるんだ!」

「あはー。私と同じくらい今日のアルス君は息続くねー。これも女の子パワーなのか。はたしてアルスの運命はいかに。男に戻れるのか。次回ドラゴンクエスト第9話「アルスは女子高生」におたのしみにーって感じだねー。もうキャピキャピではだけた胸が色っぽいですヨ」

「次回予告のネタばれで絶望させないでくれ」

 

 一体これは何の嫌がらせだ。

 ツッコミつかれて息が切れてきた。

 

「少女よ、今思いついたんだが」

 なんだかんだ言っても隊長は頼りになる。

 何か思いついたらしい。

 

「「お兄ちゃんもう我慢できない」って子供っぽくなおかつ色っぽく言えば人気がでるんじゃないか?」

「【ベギラマ】放つぞ」

「ほんの冗談だ。冒険の書についての噂なんだが、ある音楽を奏でるとなかったことになるらしいぞ」

「ある音楽? どんなんだよ」

 

 

「デレデレデレデレデンデンって感じの奴だ」

 

 

「それ悲しい音楽だよ! 聞いたらいけない音楽だよ! 何人の子供泣かす気だあんたは!」

「だが冒険の書はなかったことになるぞ?」

「初めからやる人間のみにもなれ! 全国の人にあやまれ!」

 

 あー、もう何だか疲れてきた。

 この際女でもいい気がしてきた。

 装備は女性専用防具が強いし、性格は転職できない勇者は【セクシーギャル】ありがたいし。

 

「あわ、アルス君がなんだかあきらめかけてる! 姉御姉御あ~ね~ご~! 何とかしてあげてくださいヨ」

「ほら少女。私がやってやる。ギターを貸せ」

 

 隊長は俺のギターを奪い取る。

 もう疲れたんだ。

 

「ほら123,123,123デレデレデレデレデンデン。デレデレデレデレデンデン」

 

 意識が遠のいていく。

 

「デレデレデレデレデンデン」

「デレデレデレデレデンデン」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

デレデレデレデレデンデン

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

おきのどくですが

ぼうけんのしょ10は

きえてしまいました。

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冒険の書を始める      -アルス日記―

→冒険の書を作る       ―アルス日記―

冒険の所を消す      →冒険の書10

 設定

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 




これでいて伏線だったりするホラー?回でした。


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エピローグ

冒険の書は書き換えられました。


 朝起きると性格が【むっつりスケベ】になっていた。

 とても嫌な夢を見た気がする。

 

 それと同時に、何か大切なことを忘れているような気がするのだが、それが頭にもやが掛ったように思い出すことが出来ない。

 それを思い出せないまま、ただズキリと痛む頭を抑えながらぼんやりと天井を眺める。

 

「少年よお姉さんが起こしに来てやったぞ」

 ドアが開く音と共に隊長の声が聞こえた。

 

「ほーら、お姉さんが布団をはいでやるぞー」

「はがんでも自分で起きれる。つうか人の尻さわるなっ。セクハラで訴えるぞ」

「はっはっは。前にお姉さんの身体を這って回られたからな。そのお返しと考えてくれたまえ」

 

 朝から隊長にからかわれるとは幸先の悪いスタートだ。

 

「む、ボッキュバーンになってないのか。つまらん奴だ」

「何のことだよ。つうか押し倒すな胸ぺたぺたすんな。お前は何がしたいんだっ」

「ちょっとあんた達朝からうるさい!」

 アリシアが怒鳴りながらドアを蹴飛ばして入って来た。

 お前こそ静かに入れんのか。

 

「アリシア。君もどうだ。普段のセクハラのお返しにセクハラというのは」

「まままマリアさんっ。なななななな何をっ!?」

「だからセクハラだ。少年はなかなか初心で顔を真っ赤にしてくれるから面白いぞ」

 顔を赤めるアリシアにマリアはからかうように笑った。

 

「アリシアちゃん、大きな声を出してどうしたの?」

「お、お、お? ついにアルス君がアルス君がアルス君が一線を越えてしまったのか~!?」

 そんな騒ぎを聞きつけてティナとニーナまで部屋の中に入って来た。

 そして隊長にベタベタと触られている俺の姿を見るなり、ティナは顔を赤くし、ニーナがそれを茶化すかのようにまた口を動かす。

 今日も俺の苦労は続きそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書10―アルス日記―

 今日は念願のエルフの里に行けた。俺がエルフと人間の掛け橋になろうと思ったけどナンパ失敗。おのれアリシアめ。

 『ノアニールの洞窟』を調査。マリアさんの様子が少しおかしかったけどまあ大丈夫だろう。回復ポイントでアリシアに【ヒャド】をくらった。慣れてない魔法は俺のところに来ることが多いから気をつけないとな。それとこのことはあんまり気にすんなよー。

 洞窟にあった『夢見るルビー』をエルフの女王に届けると『ノアニール』の人々の呪いを解いてくれた。話せば分かる人だ。あの二人が来世で結ばれることを祈ろう。

 とりあえず俺の『鋼の剣』とアリシアの『身かわしの服』を買っておいた。

 『ノアニール』を救ったということで村の人が歓迎パーティーをしてくれた。これで俺の知名度も上がっただろう。今後の旅で知名度の上昇は何かと便利だ。

だけど音楽がいまいち乗り悪かったから俺が指導しておいた。これで次ぎ来た旅人は感動に胸を躍らせて不思議な踊りを踊りだすはずだ。

 夜遅くにヴァイオリンを弾いていたらみんなが来た。どうやら考えが顔に出ていたのか心配をかけてしまったらしい。少し元気が出た気がする。

 性格がなぜか【むっつりスケベ】になったようだ。

第二章「ロマリア編」完

 

 




アルスなら書かないことが数多く書かれた書き換えられた冒険の書。
同じNoは読み飛ばしされやすいだろうと踏んで仕掛けていたギミックですが、閲覧者数も少ないのでネタバラシを先にするあとがきでした。


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第三章「イシス編」
プロローグ


アッサラームに向かう道中の敵は強い。
イシス編始まります。


 『アッサラーム』方面に入ってから妙に敵が強い。

 

 ニーナが『暴れザル』を調子に乗って『鉄の槍』でこつき回し、怒りを買って痛恨の一撃をくらい一撃で棺桶になった。

 久々の戦死者に一度『ロマリア』に引き返して生き返らせてもらったから『アッサラ-ム』につく前に日がくれてしまい今日は野宿でテントを張ることになった。

 

 

 俺の【トヘロス】のおかげでテントは安全地帯。

 もし敵が強引に近付いてきても俺と隊長のどちらかは気配に気付くだろう。

 

 アリシアは野宿でもテントの近くで魔法の練習をしている。

 【ヒャド】の命中率も何とか3割になってくれたから『アッサラーム』の先にある砂漠でもちゃんと戦えるはずだ。

 

 

「時に少年よ、『アッサラーム』に何か用があるのか。あそこはお姉さんのような大人が楽しむ街だぞ」

 隊長なら目的が分かっているはずだが、それでも知らないことにして俺をからかいたいらしい。

 

「『アッサラーム』を越えて『ピラミッド』まで行く。噂だとそこに『魔法の鍵』があるらしいんだ。そうすれば『ロマリア関所』を通って港町『ポルトガ』に挨拶しに行ける」

 

 とにかく今は仲間のレベルを上げつつ各大国に挨拶して回るのが目的だ。

 そしてこまっている人を助けながら行けば船などの移動手段を貸してくれるかもしれない。

 

「だが『ポルトガ』に行くだけなら私の許可でも『ロマリア関所』は開くぞ。隠さずに言ったらどうだ。俺はイシス様に会いたいんだ。宝を盗んでイシス様にお仕置きしてもらいたい。ああ、イシス様、イシス様。どうかこの『とげの鞭』で醜いブタのわたくしめをずたずたにしてください、そうなんだな。そういう趣味なんだろ?」

 

「俺は変態か」

 

 いたぶられて喜ぶ趣味は俺にない。

 ただ砂漠の王女であるイシスを一目見る……じゃなかった。

 挨拶しておくのも今後の旅の役に立つ。

 魔王戦で今までであって来た国が助けに来てくれる展開は燃えるだろ。

 

「皆、ご飯できたよー」

 ティナが夕食を作り終えたようだ。

 ティナの料理はこのメンバーの中では一番美味い。

 順位をつけるとしたら、ティナ>俺>(越えられない壁)>ニーナ>アリシアだろう。

 

 隊長は料理にどんな悪戯をするか分からないからやらせていない。

 俺はめんどくさいから料理しない。

 だからティナが料理を作っている。

 ニーナとアリシアも暇な時は簡単なことを手伝ってるようだ。

 

「はわー。やっぱりティナちゃんのお料理は最高だね。これはもう食べたらリアクションで私の体がとんでもない変化をしそうですヨ。うぅぅぅぅ~生き返るー」

「よし、次ニーナが死んだらその口にティナの料理を流し込んでやろう」

 

「アルス君ひどっ! 死ぬって皆が思っている以上に怖いし痛いし恥ずかしいしでもうそれはトラウマになっちゃうくらいなのに神父さんが棺おけ開けたら口に食べ物がつまってたら死因はなんですかって聞かれちゃって生き返った時の恥ずかしさ倍増ですヨ!」

 

 息継ぎくらいして喋れ。

 

「ねぇアルス。あんた【ベギラマ】は使えるの?」

「アリシアよ。勇者はレベル23以上で【ベギラマ】を覚えるんだ。覚えていると思うか?」

「使えないんだ。そっかそっか。うんうん」

 

 アリシアが妙に嬉しそうに笑っている。

 今まで以上誤射に気を配る必要がありそうだ。

 でも頑張って成長してるんだ。

 ここは【ベギラマ】だけに暖かく誤射を受け入れてこっぴどくしかってやろう。

 アリシアがまともな命中率になるまでもってくよ俺の体。

 

 気付けばまた性格が【くろうにん】に戻っていた。

 

「ところでティナ。何か新しい魔法は覚えたのか?」

「えっと……【キアリー】を頑張って勉強して覚えたよ」

 【ピオリム】、【マヌーサ】、【ラリホー】とか使えそうなのを飛ばして【キアリー】か。

 俺と隊長の為にも【ピオリム】は覚えて欲しかった。

「後、攻撃呪文のバキを練習してるところ。私も攻撃に参加できたら皆楽できると思うし」

 ティナはそう言って苦笑していたけど、苦笑したいのは俺だ。

 バキってどこのグラップラーだよ。

 それを言うなら【バギ】だ。

 それにただでさえ【MP】少ないんだから攻撃魔法で消費してもらったら困る。

 

 ニーナは地味に強くなってるけどたまに調子に乗って命令無視して棺おけになるし、どうしてこうこのパーティーはクセが強いんだ。

 ここらでまともに戦える武道家か賢者がほしいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書11―アルスの日記―

 ニーナがポカして今日中に『アッサラーム』にたどり着けなかった。

 そのせいで隊長にからかわれた。これはいまだになれない。いつかギャフンと言わせてやるから覚悟しとけよ。

 ティナの料理は相変わらず美味い。だけど【ピオリム】は覚えてくれよな。

 明日は『アッサラーム』で水と食料を買い込んで砂漠の様子を見て、明後日本格的に『イシス』を目指すけど砂漠は辛いから今日も早めに寝ろよ。

 というかもう冒険の書が皆に見られるの前提に書いてるな俺。俺のプライバシーはいずこに。

 プライバシーカムバック!

 

 




ベギラマを使えるかどうかで否定はしないアルス。
一人旅基準のレベルなので到達レベルをオーバーしている勇者だったりします。


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第一話「誘惑いっぱい夢いっぱい」

非ユーザーコメント許可と評価設定をし忘れていたことに今更気づく私ってほんとバカ。
今更ながら設定をいじりました。
(ただしそれでコメント等などが増えるとは言っていない)


 『バリイドドッグ』と『暴れザル』に苦戦したがニーナが自重してくれた為、無事『アッサラーム』についた。

 色々な意味で活気にあふれた賑やかな街である。

 

「なに……この街」

 アリシアの目が点になっている。

 いかがわしい店の看板が目に止まり唖然としてるのだろう。

 どうもこの手のことは苦手のようだ。

 

「はぁい、おにーさん。夜私の店によってくれたら、い・い・こ・と・してあげる。いつも同じ子達とだけじゃあつまらないでしょ?」

 

 とても良い街だ。

 

「何にやけてるのよっ」

 当然アリシアに怒られた。

 まあそれはいつものことだから一先ずおいておいて買い物だ。

 

 売っているものは『カサーブ』と『ノアニール』を合わせた感じだ。

 『鉄の鎧』があるが『鎖帷子』で充分だし『ノアニール』で『鋼の剣』と『みかわしの服』を買ったから金欠だ。

 

 ニーナの財布が『マダラグモ』の一件で一杯だが、貯金箱としてとっておこう。

 

 『毛皮のフード』でもみんなに買い与えておこうかとも思ったが、これから砂漠にいくのだ。

 防具ではないが紫外線防止のためにかぶる布でもそろえておこう。

 

 後は何がなくとも水だ。

 【ルーラ】で一人『アリアハン』に帰って井戸から水を99個袋の中に入れておく。

 下で変な親父がこっちを見上げていたが気にしないでおこう。

 

 ニーナの父親が「ニーナがいつもお世話になってます」と『キメラの翼』とニーナへの小包をくれた。

 帰りの【MP】節約になって助かる。

 

 渡す前に小包の中身を確認してみると『Hな下着』が入っていた。

 何を考えてるんだあの親父は。

 というかこの親子は。

 手紙の方は流石に手をつけずに元に戻してニーナに渡しておく。

 

「はわっ!」

 まずは届け物の中身に驚いて「あわわわわわわ。お父さんこれはちょっとやりすぎですヨ」と手紙に突っ込みを入れている。やりすぎってお前は何を頼んでいたんだ。

 

 何が入っていたと聞いてみるが「たいしたものじゃないですヨ。それはもう薬草の詰め合わせの方がいいというか日常用品といいマスか。これに触れるのはプライバシーの侵害で訴えてやるぞー」と長々とごまかしてくる。

 

 

 店に売れば一気に財布が重たくなるのに強情な奴め。

 

 

 とにかく準備は整った。

 いざ『イシス』に向けて出発だ。

 

 そう思ってると街の入口で女の子がきょろきょろと不安そうな表情で周りを見回していた。

 迷子だろうか、少し心配なので話だけでも聞いてみようかと近づいてみる。

 すると女の子が近づく俺の存在に気付き、とことこと駆け寄ってきた。

 

「あの……旅人さんですか?」

 近づいて来た金髪の女の子が不安げに眉を細めて首を僅かに傾げる。

 染めている訳ではなく、この辺りでは珍しい地毛での金髪だ。

 髪フェチでもある俺が言うからには間違いない。

 

 身長は150センチくらいと少し小さめ。

 貧相なボディーにツインテール。

 服装は『絹のローブ』と軽装、見たところ剣や杖らしきものは装備していない。

 細い体つきから冒険者には見えない。

 何か困ったことがあって冒険者への頼み事でもあるのだろうか。

 

「見ての通り俺達は冒険者だ。何か困ったことでもあったのか?」

 なるべく怖がらせないようゆっくりとそう答え、俺は女の子の次の言葉を待った。

 

「もしよろしければパーティーに参加させていただきたいのですが」

 俺達が冒険者だと知ると女の子はそう言って満面の笑みを浮かべてみせた。

 

「ナンパはお断りだ」

「は、はぅっ。違いますよー。そうではなくってですね、えっと……頼みごとがあるんです!」

「俺はナイスバディーなお姉さんの方が好きなんだ」

 

 冒険に憧れるだけの一般人の可能性が高いので適当にあしらおうとしただけなのだが、皆の目が痛い。

 うむぅ、この断り方は不味かったか。

 

「『ピラミッド』に『黄金の爪』があるって聞いたんです。それを手に入れるお手伝いしていただこうかと思ったのですが……やっぱりダメでしょうか?」

 

 『黄金の爪』はたしかその名のとおり爪武器で武道家の装備だったはずだ。

 つまりこの子は一般人ではなく武道家か。

 

「採用」

 

 武道家の【攻撃力】と【素早さ】は欲しい。

 会心の一撃も魅力的だ。

 これはもう恩を売って仲間にするしかない。

 

「はわっ!? いいんですか?」

「ああ、仲間は多い方がいいからな。ちょうどピラミッドに行く予定だったから問題ない」

 俺が態度をころりと変えたことで女の子は驚くも、余程切羽詰まっていたのか食いつきが良い。

 

 前衛が増えれば俺への攻撃回数が減る。

 女の子は求めている武器が手に入る。

 互いにハッピーハッピーだ。

 

 なのに後ろの方で「実はロリコンなんじゃあないのかなー」とか「変態」とか「このペド野郎め」とか散々言われている。

 新人に変な事吹き込むのはやめてくれ。

 

「私の名前はステラです。武道家なんかをやっていたりします。皆さんよろしくお願いしますね」

 挨拶もしっかりしてるし、可愛いから(これは隊長の意見な)皆も受け入れてくれた。

 幼馴染三人はフレンドリーにステラに接し、初めは緊張気味だったステラも人が良い三人に心を許し、直ぐに雑談で笑みを浮かべ合う良好な関係になってくれている。

 皆との相性がいいようで何よりだ。

 

 

 新たな仲間も加わったことだしさっそく砂漠に出てみることにした。

 この辺りの敵は強いがそれ以上に砂漠という環境は人間に合っていない。

 

 ニーナは始め喋っていたが口を開けるごとに喉が渇くだろうと自重させた。

 ティナとアリシアもつらそうだ。

 新人ステラもばてている。

 もっと根性をみせろよ武道家。

 

 隊長も辛いだろうが顔色は変えていない。

 ナイスポーカーフェイスだ。

 こんな状態で戦わないといけないと思うと泣けてくる。

 

「あー、もう。熱いわね。暑さを何とかできる魔法もってないの?」

 そんなのがあれば俺がまっさきに調べて覚えているぞ。

 そんなご都合主義な魔法をアリシアは魔法の参考書を必死にめくって探している。

 その間に『ミイラ男』に『地獄のハサミ』が出てきた。

 

 『地獄のハサミ』はアリシアに【ギラ】か覚えているかもしれない【ベギラマ】で対処してもらい、打撃『ミイラ男』を倒すのがいいだろう。

 

「えいやー!」

 早速素早い武道家がてってけてってけミイラ男に向かって走っていった。

「きゃっ」

 途中で砂に足を取られてこけてしまい、『ミイラ男』三体に囲まれてしまっている。

「てい!」

 近くにあった石を投げつけたみたいだけど『ミイラ男』達に届きすらしなかった。

 石はポトンと三体の『ミイラ男』達の中心にむなしく落ちる。

 

 

「はうぅぅぅぅぅ~! アルスさ~ん!」

 なんて使えない武道家だ。

 運動音痴の武道家なんてありえない。

 というかまずはステータス見ろよ俺。

 

 子供の力なんて信じるなよ俺。

 まあ俺もまだ16歳だけどさ。

 でもこれはない。

 本人もこんな筈じゃなかったと涙目で俺に助けを求めている。

 

「少年よ。このままだと幼女ステラがあの『ミイラ男』達に『あんなこと(※18)』や『こんなこと(※18)』をされてしまうぞ」

「いやいやただ棺おけにされるだけだから。それと隊長嬉しそうに言うなよ」

 

 とりあえず隊長と俺の集中攻撃で一体ずつ倒していくとして、残りの二体はニーナに支えてもらう。

 『ミイラ』男の反撃は『鱗の盾』でちゃんと防いでいる。

 長くは持たないからもう一体も集中攻撃で倒した。

 『地獄のハサミ』はアリシアとティナの方にまっすぐ向かっている。

 

 だけどまあ、大丈夫だろう。

 アリシアがぐっと右の拳を握り締めて勢いよく前に突き出す。

 

「【ベギラマ】!」

 

 予想通り【ベギラマ】が使えるようになっていた。

 努力してるみたいだ。

 みたいだけど激しい炎は『地獄のハサミ』の真横を通っていってニーナと最後の『ミイラ男』を燃やした。

 

「ごめんニーナ!」

 俺の時はあまり謝らないのにこいつは他の奴だとすぐに謝る。

 この扱いの差はなんだ。

 そんなことを思っていたら炎が消えるとニーナが棺おけになっていた。

 流石に『ミイラ男』の攻撃を耐えてる最中に40ダメージは大きかったらしい。

 

 俺と隊長以外の顔が青ざめる。

 隊長にいたっては笑っている。

 俺に当たると思ったのに意外な誤射だ。

 後のフォロー大変だぞこりゃ。

 

 呆然と立ち尽くすだけのアリシアは『地獄のハサミ』の的だ。

 だけどティナは意外にも冷静で『地獄のハサミ』の前に立ち塞がる。

 

「ビギ!」

 

 多分【バギ】を唱えるつもりで叫んだのだろう。

 おしい、最初の一文字は昨日のであってた。

 

 今日二つ目の棺おけの出来上がりだ。

 

 とにかく守備力の高い『地獄のハサミ』を俺と隊長でこつき回して時間は掛かったけど何とか倒せた。

 今日はもう『アッサラーム』に帰って反省会を開くとしよう。

 

 『アッサラーム』に戻って二人を復活させた。

 残り1000Gを切っていよいよ不味い。

 ティナは初めての死の恐怖にしばらく泣き止まないし、アリシアは誤射のショックが強くってニーナに謝り続けている。

 初めから誤射で死んだことを気にしていないニーナはすごく困っている様子だ。

 

「というかニーナ。まったく気にしてないってどんな聖人だよ」

「うむ、ニーナは僧侶か賢者が似合いそうだな」

 

 隊長と意見が重なってダーマ神殿にたどり着けたら転職させようか真面目に相談したが、結論は騒がしい僧侶や賢者よりも騒がしい商人の方が似合っているということでまとまった。

 何か【ホイミ】一発するのに3分間喋ってそうで怖いからだ。

 

 とりあえず落ち込んでるアリシアを説得。

 珍しく人前で「アリアハンに帰った方が良いのかな」なんて弱音を吐いたのには驚いた。

 思った以上に引きずりそうだ。

 

「私もニーナちゃんも大丈夫だから。ね」

 ティナがようやく泣き止んでアリシアを説得し始めた。

 とりあえず俺も「お前がいなかったら誰が俺やニーナに突っ込みを入れるんだ」と茶化そうとしたら枕を投げられた。

 

 【メラ】か【ギラ】か鉄拳を食らうつもりで言ったのに重症すぎるぞ。

 ここはティナとニーナに任せるしかないか。

 

「何だかアルスさん大変そうですね。まさに【くろうにん】って感じがします」

 ステラが俺の気にしていることを笑顔で言ってくれた。

 

「お前は武道家らしく腕立てしてろ」

 俺が腕立ての指導をしてやると「いじめです」と泣きながらもちゃんと腕立てをしてすぐにへばった。

 【力】と【素早さ】が3の武道家は伊達ではないようだ。

 【賢さ】は無駄に80くらいある。

 でも武道家だから【MP】が0で魔法も覚えていない。

 またクセのある奴だ。

 

 とりあえず今日中にスパルタ特訓で商人並の【力】と【素早さ】になってもらいたいところだ。

 

「はぅ、勘弁してください~」

 スパルタ特訓をやっていたら隊長が「面白そうだから私もまぜろ」とステラを一緒になって鍛え始めた。

 

「はっはっは。お姉さんが手取り足取り教えてあげようではないか」

「はぅぅぅぅ~。そこは違いますっ。アルスさんも頭叩かないでくださいっ~」

 何だかはたから見ていると虐めているようにしか見えないな。

 日が沈みきるとアリシアとニーナとティナが戻ってきた。

 どうやら説得は成功したようだ。

 

「もうアルス以外には絶対に当てない」

 俺には当てて良いのかよ。

 まあ何にせよアリシアが元気になってよかった。

 逆にティナとニーナがアリシアの説得に疲れてくたくただ。

 生き返ったばかりなのに二人ともお疲れさん。

 

「アルスさん私もう動けません~」

 ステラが隊長に弄ばれてへばっていた。

「ああそうか。【ホイミ】」

 これで疲労も回復しただろう。

 

「はぅ、私にまだ酷い事をするつもりですかっ」

「ふはははははは。お前を私なしでは生きられない体にしてやろう!」

 隊長はえらくステラを気に入った様子でノリノリだ。

「はぅぅぅぅぅぅぅっ~! それだけは、それだけは! どうかご慈悲を~」

「はっはっは。よいではないかよいではないかー」

 

 なんだかエロくなってきた、というか隊長が服を脱がせ始めたから止めておこう。

 でもステラはここまでされてもこのパーティーから逃げ出す気配はない。

 いや、隊長が逃がさないだけか?

 

 まあ何はともあれステラもそれなりに楽しんでいるようなのでやっぱり止めるのはやめておこう。

 なによりも止めたら隊長が怖そうだ。

 

「はぅぅぅぅ~! なんでアルスさんそこで引き返してしまうのですかっ!?」

「む、止めてもらいたかったのか」

「当たり前です! はぅっ! ど、どこ触っているんですか!?」

「少年、こいつ生意気に私より胸があるぞ。私より年下のロリロリがだ」

 いや、実況されても困るし。

 

 これは等分スパルタ特訓と隊長からステラの貞操を守るので忙しくなりそうだ。

 隊長はどこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からなくて困る。

 要するに求めていた武道家は苦労しか生み出さないということだ。

 やるせねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書12―アルスの日記―

 運動音痴の武道家が仲間に加わった。

 アリシアの誤射にティナの魔法の名前の間違い。そして見た目どおりの弱さのステラ。これらが重なり今日は棺おけが二つもできた。誰の棺おけかはプライバシー保護法のため書かないでおこう。

 落ち込んだアリシアを立ち直らせるのに5時間。ティナに魔法の名前を正しく覚えさせるのに30分。ステラを鍛えるついでに隊長と共にみんなをこっぴどく鍛えておいた。

 まあニーナはとばっちり受けただけな気もするが気にしたら負けだ。

 とにかく金銭がもうやばいのでこれ以上死者を出さないように努力しよう。

 ほら、死ぬって痛いし怖いだろ。だから死ぬ気で頑張れ。死に癖なんかつけるなよな。

 

 




ステータスが低い武道家ステラが仲間に加わった。
アルスは相変わらずの【くろうにん】である。


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第二話「砂漠を越えて」

パーティーも増えて賑やかになってまいりました。


 流石アリシアだ。

 ショックを受けると不死鳥のように舞い戻ってくる。

 

 そんな訳で今日はリベンジ戦だ。

 また『ミイラ男』と『地獄のハサミ』の混合チームが出てきてまず動いたのはアリシアだ。

 誤射の原因でありティナを一撃粉砕した憎き『地獄のハサミ』を殴りつけて、

 

「【ベギラマ】!」

 

 そのまま“ベギラマ”で消し飛ばす。

 

 なるほど、ゼロ距離でやれば他に被害はないな。

 でも前にやった投げつけるのと同じように自分もダメージを食らっている。

 戦闘終わったら叱っておこう。

 

 そして、『ミイラ男』は俺が囮でニーナと隊長で一体ずつ撃破。

 前回は武道家が入ったことに浮かれすぎて囮になる前に大惨事になったけど、今回は弱いと分かっているから大丈夫。

 でも戦う気はあるみたいで今朝無理をして『カサーブ』の『鉄の爪』を買って渡したらしっかり低い攻撃力でも『ミイラ男』をちょこまかこついてくれている。

 

「はぅっ」

 

 でもやっぱり躓いてこけた。

 これで会心の一撃でもだしてくれればありがたいのだが、そう上手くいくものでもない。

 まあ何はともあれ最後の『ミイラ男』に俺がトドメを刺して戦闘は無事終了。

 被害は0ですんだけど予定通りアリシアは叱っておいた。

 

 いつものように俺と顔を合わせようとしなくなったが、後ろからの視線を感じて隊長とニーナとステラの笑いを堪える声が聞こえる。

 

 だがこの暑さだ。

 そんな雰囲気もいつまでも続かない。

 これでは『イシス』に着く前にステラとティナあたりが倒れてしまいそうだ。

 

「くそ、まるで毒の沼地を歩いているようだな」

 歩くたびに暑い日差しで体力が奪われていく。

 どうしたものか。

 

「ああ、もう! 【トラマナ】!」

 不機嫌だった筈のアリシアが突然叫んだ。

 

 そんなんで暑さをしのげたら冒険者皆【トラマナ】使って常に冷暖房完備の快適な旅を送っている。

 

「って、【トラマナ】のオーラで暑いの防げてるしっ!」

 さっきまでの暑さが嘘のように消えた。

 

「やってみるものね。まだ覚えていない魔法だったからできるとは思わなかったわ」

 アリシアの機嫌が戻り嬉しそうに笑っている。

 それを見て隊長が俺に近付いてひっそりと話しかける。

 

「少年、【トラマナ】でこんな事が出来ると聞いたことがないのだが」

「アリシアは魔法自体のイメージ力はすごいからな。多分昨日の夜参考書を見て……ダメージ床が防げるなら自然現象のダメージも防げると思い込んだんだろ」

 

 単純といえば単純だが魔法は信じなければ使えない。

 ある意味アリシアの才能だ。

 このことは黙っておこう。うん、俺にその発想はなかった。

 

 冷暖房気温調節ありのオーラを身にまとってしまえばこっちのもんだ。

 暑さを気にせず戦闘できるし、仲間が暑さで倒れることもない。

 まあモンスターの戦いはそれなりに苦戦したし、アリシアは俺に【ベギラマ】を計3回ぶち当てたが無事に『イシス』にたどり着くことが出来た。

 

 店に『鉄の盾』があって魅力的ではあったが、『青銅の盾』が地味に丈夫でまだ壊れていない。

 【守備力】たったの7の盾なのによくもつことだ。

 金欠だからもったいない病が発動してしまったではないか。

 流石に【素早さ】のない俺は装備固めないと不味いのになんてこったい。

 

 とりあえず女王イシスに軽く挨拶しにいったら、俺の活躍は商人経由で砂漠を越えてここまできていたらしい。

 

 ニーナの仕業だろう。

 とてもありがたい。

 

 それで『魔法の鍵』は情報通り『ピラミッド』に安置されているらしい。

 旅の役に立ててくれるのならもって行っても構わないそうだ。

 

 『黄金の爪』も取っても構わないようだが地下は魔法が使えないし王家の呪いがあるから全滅する覚悟はしておいてと笑っていた。

 何でこう王や女王は軽い奴らが多いんだ。

 

 女王と挨拶をすませて皆の所に戻るとニーナとティナがご機嫌だ。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! ほらほらティナちゃんに『絹のローブ』を着せてみたよ。これはもう鼻血ものだねー♪ 姉御も大喜びだよ!」

 

 どうやらニーナがティナに『絹のローブ』を買い与えたようだ。

 『絹のローブ』の上から僧侶のよく分からない前掛けを着ている。

 やべぇ、なんか知らんが僧侶いいわ。

 

「あんた感想ぐらい言ってあげなさいよ」

 アリシアが俺をからかうように脇を肘で軽くこついてくる。

 隊長は「元の装備に戻すような発言をしたら殺るぞ」といわんばかりの笑顔で俺を見ていた。

 

「えっと……似合わないかな?」

「いや、似合ってると思うぞ。【守備力】も高くなって良い感じだな」

 とりあえずこう言うしかなさそうだ。

 

 なんとか「ありがとう」と嬉しそうな笑顔を返してもらって無事に切り抜けた。

 おだて過ぎもほんの少しけなすことも許されない俺に出来る最善の選択肢だ。

 というか俺、なんでこんなに気を遣わないといけないんだ。

 

「アルスさん八方美人で大変そうですね。やっぱり女の子ばかりのパーティーだと気を遣って大変ですか?」

「苦労していることをそうポンと言うのはこの口かぁぁぁぁっー!」

「はぅっ! ひっふぁららいでくらふぁい~」

 何かむかついたから両ほほをひっぱってやったら面白い鳴き声でないた。

 

 隊長の気持ちが少し分かった気がしたけどここらで勘弁してやろう。

 さて、皆で和んだところで今日もまた出発の準備と特訓だ。

 特訓はGが危ないので外の敵を狩ることにした。

 

 『火炎ムカデ』が出てきたがアリシアは【ヒャド】を下手糞ながら使えるし、ティナが【バギ】を使えたから楽に勝ててしまった。

 

 ティナは魔法の名前正しく覚えるだけで他の低級魔法も使えるんじゃないかと疑ってしまう。

 僧侶の魔法参考書でも後で買ってやるとしよう。

 アリシアの本はあくまで魔法使い向きの参考書だからな。

 

 でもやっぱり攻撃魔法に【MP】を使われるのは痛い。

 アリシアの【ヒャド】が俺の後頭部を強打したけど【MP】がなくなって【ホイミ】が出来なくなっていた。

 自分の【ホイミ】で癒される勇者ってどうかと思う。

 

 ステラの仕上がりは上場。

 一般人並には戦ってくれる筈だ。

 何だか泣けてきた。

 

 それでもティナが律儀に昨日ドタドタしていて出来なかったステラの歓迎会を宿で開いた。

 隊長が「私の時はなかったぞ」と少しひがんでいるようだが、そこまで気にしている様子はない。

 ただティナの困っている姿を見たかっただけだろう。

 

「じゃあちょっと遅いけどマリアさんも合わせて歓迎会しよ。ステラちゃんが入ってまた賑やかになったね、アルス」

「ちょっと増えすぎてきた気がするけどな」

 

 メンバーが増えたのに戦闘が楽にならないのはなぜだろう。

 泣けてくる。

 

「このさい馬車でも手に入れて皆で快適に旅をするというのはどうでしょうか」

 これは名案といわんばかりにステラがそんなことを言い出した。

 確かに馬車があれば便利だ。

 でも高いだろ。今金欠なんだよ。でも、もしも馬車が手に入るとしたら……。

 

「その時はステラ、お前ずっと馬車いきな」

「はぅっ!? それはあまりにあんまりではないでしょうか」

 いや、だって今一番戦力になってないのステラだし。

 それでも追い出さない出て行かない俺達はそれなりに楽しんでいるのだろうか。

 う~む微妙だ。

 

 まあとにかく俺の【くろうにん】は当分変わりそうもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書13―アルスの日記―

 ようやく『イシス』についた。これもアリシアが【トラマナ】を覚えてくれたおかげだろう。これからも冷暖房完備よろしく頼むな。

 女王イシスはボッキュバーンだったけどちょっと趣味とは違ったのが残念だ。むしろ付き人の方が可愛かったような気がする。

 女王イシスに軽く挨拶すると俺の噂がこっちまできていたらしく、『魔法の鍵』と『黄金の爪』を『ピラミッド』から借りていっていいらしい。

 明日はいよいよ『ピラミッド』突入なのでここ2日の特訓の成果を見せるように。

 とりあえず地下に備えて『薬草』は99個ふくろに詰め込んでおこう。

 

 




アリシアのベギラマはグループ攻撃が火炎エフェクト、収束ゼロ距離発射が『ダイの大冒険』式の閃光なイメージで書いていた気がします。
ダイ大のベギラマが大好きな作者でした。


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第三話「ピラミッドにあるアレ」

皆のトラウマ宝箱。


 いよいよ『ピラミッド』だ。

「アルス君アルス君アルスく~ん! 宝箱があるよー。何が入ってるかな。もしかして早くも『黄金の爪』入手かなのー!?」

 ニーナがはしゃいで一階にある宝箱を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「/////////////\

 \▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽|  \

  | (●)  (●)    |  /|

 /△△√  舌  |△△△ |/  |

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   |

 ☆            ☆   |

 ☆  人食い箱が現れた  ☆  /

 ☆            ☆ /

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆/

 

 

 

 

 

 

 

「はわわわわわっ! 宝箱が噛み付いてきたっ!?」

 『人食い箱』がニーナの手をパクっと噛み付いた。

 

 こいつの攻撃力はシャレにならない。

 なのに何故だろう。

 迫力のない『人食い箱』に遭遇した気がしてならない。

 頑張って作ってみたけどダメだったよ的な雰囲気をどことなく醸し出している。

 

 きっと油断させる罠に違いない。

 とにかくこのままではメンバー全滅の恐れがある。

 隊長と俺が慌てて切り込んでニーナを助けに入った。

 

「いあや~丸呑みされるかと思いましたヨ。もうそんなことされたらべとべとで生臭くてお嫁にいけなくなって独身35歳OLの人生をおくっていたけどこの一軒がトラウマで仕事がスランプでクビになり寒空の下震える毎日だー!」

「いいから『人食い箱』にトドメ刺せよ」

 

 せっかく助けてやったのにまた齧られている。

 ティナの【ホイミ】だと回復間に合わないから、口を動かしている暇があったら必死に抵抗してトドメ刺して欲しい。

 

 ほら棺おけになった。

 

 痛いのに喋り続けるってどんな芸人魂だよ。

 続けてアリシアが不意に飛び掛られて迎撃に【ベギラマ】を放つも効かなかった。

 

 棺おけ二つ目の出来上がりだ。

 

 これはアリシアのトラウマになりそうだ。

 不幸中の幸いなのは二人とも『人食い箱』相手の割りに死体が破損しなかったことだ。

 これなら問題なく教会で生き返れるだろう。

 

 でもティナが圧倒的な強さを持つ敵を前に足がすくんで動けないでいる。

 今にも泣き出しそうだ。

 回復は望めそうにないからティナを守る為に俺と隊長とステラでティナを囲ったアローフォーメーションを取り『人食い箱』と対峙する。

 

 俺もまだまだのようで今回は普通にやられそうだった。

 何とか勝てたものの入り口付近の宝箱で全滅しかけるとは。

 戦闘が終わったとたん緊張の糸がほぐれてティナが泣き出してしまった。

 

 隊長とステラに冷やかされながらもティナを慰めてひとまず『イシス』に戻るとしよう。

 

 

§

 

 

 二人を生き返らせたらまた一文無しになった。

 せっかくここまで来る間の敵で稼いだのにおのれ『人食い箱』め。

 

 ニーナは「ごめんごめん。私宝箱見るとついつい空けたくなちゃって。私だったらもう箱の中にあらゆる疫罪が詰まった箱も全部飛び出すまで締めないねー」と相変わらず軽い奴だ。

 

 アリシアの方は「もう行きたくない」と引きこもり体勢に入っていたがとりあえずレベル差が激しくなるのは嫌だから引きずっていくことにした。

 

 さて改めて『ピラミッド』攻略だが、まっすぐ進んだら見事に落とし穴にはまった。

 初めに入った時はすみの方を歩いていたから気付かなかった。

 

 落下しながらも横目で全員の状況を確認すると、隊長が一番ダメそうなステラを素早く掴んで抱き抱えてくれていた。

 とりあえず俺も着地できそうにないティナを抱きかかえておく。

 

 流石に人一人抱えての着地は辛い。

 だけどニーナもアリシアも隊長も無事着地できている。

 みんな無事でよかった。

 

「ありがとうアルス。えっと……その……足大丈夫? 怪我しなかった?」

「ああ、少し足がしびれたけどな」

 ティナを地面に下ろしてポンポンと軽く頭をなでてやる。

 

 アリシアが「私も非力なんだけど」と何だか睨んでいる。

 いや、流石の俺でも二人の重量を支えながらあの高さから落ちたら不味いから。

 というかお前は一人で着地できたからいいだろ。

 

 しかしこの地下は女王イシスの話しによると魔法が使えない。

 早くここから出るべきか地下にある筈の『黄金の爪』を捜すべきか。

 

「少年、ここに降りる階段があるようだが……」

 隊長がなにやら隠し階段を見つけたようだ。

 相変わらずこの人は凄いな。

 何がすごいかって言うといまだにステラをお姫様抱っこして遊んでいるところだ。

 

「あの、そろそろ降ろしていただけないでしょうか」

「私は君の命の恩人なんだぞ。ほらほら報酬としてもう少しすべすべの生足を触らせてくれたまえ。はっはっは」

「はぅぅぅぅっ!?」

 よく落とし穴に落ちたのに隊長はこんなにも余裕が持てるものだ。

 

 

 まあそれは置いておいて、階段を見つけてしまったからには行かないと『黄金の爪』を求めているステラに悪いだろう。

 

 

 階段を下りて通路を進んでいくと大きな扉があった。

 どうやら鍵がかかっていて開かないらしい。

 『魔法の鍵』から先にとるべきだったか。

 

「こんなものこうしてしまえばよかろう」

 隊長が扉を蹴り破った。

 隊長がいれば鍵も【アバカム】も必要ない気がしてくるのは何故だろう。

 頼りになるのだがこの人はフリーダム過ぎる気がする。

 

 扉の奥には大きな棺があった。

「お宝お宝ー」

 そして性懲りもなくニーナがそれを空けた。

 中に『黄金の爪』が入っていたからよかったものの、また罠だったらどうするつもりなのだろうか。

 

 

「何だか不気味な爪ですね。はぅっ!? ふぁふぁら、ひっふぁららいでくらふぁい~!」

 ほしがっていた本人の問題発言にとりあえず頬を引っ張っておく。

 

 さて、これで後は敵が出る前に地上に戻り『魔法の鍵』を回収するだけなのだが、どういうわけか道を埋め尽くすほどモンスターが群がっている。

 魔法使えないのに勘弁してほしい。

 

「ティナちゃんこれ使って!」

 ニーナが『イシス』で買っていたのか、『ホーリーランス』をティナに渡した。

「後アリシアちゃんもこれ!」

 さらに自分の持っているものの他にもう一本『鉄の槍』をアリシアに渡している。

 

「おい、いつ買ったよ」

「『ノアニールの洞窟』の宝箱に入ってたー」

 どうやら俺の見ていないところで宝箱を見つけては中身を漁っていたようだ。

 

 アリシアは「私魔法使いなのに」と呟きながらもちゃんと『鉄の槍』を使いこなしている。

「重くて振り回せないよ」

 装備できる筈のそこの僧侶、お前もアリシアを少しは見習え。

 

 とにかく敵の『マミー』や『ミイラ男』を倒しながら進んでいくも、数が多すぎて少しずつしか進めていない。

 

 

「まったく、私は持久戦が得意ではないというのに」

 

 

 隊長がぼやきながらも一番敵をなぎ払ってくれている。

 やっぱり肩を並べて戦える仲間は心強い。

 でもステラだってステラなりにちょこまかと鈍足ながらも背の低さを生かして牽制してくれている。

 『黄金の爪』の威力は非力なステラでも相手にそれなりのダメージは与えられるのだ。

 

「はぅっ~! こっち来ないでください! 何で私のところにこんなにたくさんついてくるんですか!?」

 おかげで攻撃が分散してくれて最前衛の俺と隊長の負担が軽くなっている。

 そして俺と隊長からもれた敵をアリシアとニーナが倒して、結局打撃に参加できなかったティナが薬草を運用する。

 

 これでなんとか今は何とか進めているがその内スタミナが尽きてアウトだ。

 流石の隊長も疲れを見せ始めて顔色が少し悪い。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! もう倒したはずの後ろからもモンスターがわんさか出てきてるよ! これはもうピンチもピンチで大ピンチだー!」

 ニーナが引きつった笑顔でそう言った。

 やばい、いつの間にか完全に囲まれている。

 

「あんた前衛なんだからもっと頑張りなさいよ!」

 アリシアは無茶を言ってくれる。

 でもここで何とかしないと全滅してしまう。

 少し思い切った行動に出る必要がありそうだ。

 

「少し強引に突き進む! はぐれるな! はぐれたら叫べ!」

 俺は『青銅の盾』を構えてモンスターの群れに飛び込んだ。

 盾で押しながら横にずれた敵は剣でなぎ払う。

 敵の攻撃を盾で耐えて足を踏ん張りまた勢いよく前に突き進む。

 

 強引に進んでいる分進みが速いがその分俺に返ってくるダメージが大きいし、漏れた敵が多いから俺の真後ろについて来れなければ囲まれて袋叩き。

 運がよくて棺おけ。

 悪ければひき肉だ。

 

 だが遺体を回収する余裕はないし大怪我もダメ。

 動けなくなる前に地上に出て【ルーラ】しかない。

 

「隊長はサポート頼む!」

 俺が既に道を開いているから、隊長はその道を皆が通りやすいように少し広げてくれるだけでいい。

 

 それでも負担は大きいが大軍相手をするよりはマシな筈だ。

 俺が倒れても、隊長が何とかしてくれる筈だ。

 

 

「階段……地下一階に上がる階段か。あと少しだから踏ん張れ!」

 

 

 階段をうめつくしている敵をなぎ払う。

 攻撃を受け止める。

 もう少し持つと思ったが『青銅の盾』がついに使い物にならなくなった。

 腕が痛い。

 

「アルス君!」

 ニーナが後ろから『青銅の盾』を投げてくれた。

 

「『ジャンパーニの塔』の宝箱に入ってたー」

 少しはみんなの道具袋に入れたらどうなんだ、こいつは。

 だけどおかげで助かった。

 ぼこぼこにへこんで所々砕け散った『青銅の盾』を目の前の大群に投げつけて、新たな『青銅の盾』を装備する。

 

 

 よし、左腕はまだ動きそうだ。

 

 

「アルスさん、出口が見えてきました!」

 モンスターの群れをかき分けている俺には見えないが、ステラのその声で出口が近いことがわかる。

 その言葉を信じて無理をして薬草付けで進んでいくと、モンスターの群れの奥に地上の光が差し込む階段が俺にも見えて来た。

 

 

 後少しなのに、盾は生きているけど左腕が動かない。

 

 

 それを察してくれたのか隊長とニーナとアリシアの三人が前に出て道を作っている。

 もう完全に後ろを気にしない陣形でティナとステラは走って後をついてきている。

 息を切らせているが心配するほど呼吸は乱れていない。

 

 これなら外に出られる。

 皆はぐれていない。

 光がどんどん近付いていく。

 出口の道が、開く。

 

 

 

 

 

「はぅっ!?」

 

 

 

 

 

 嫌な悲鳴が聞こえてきた。

 振り向くとステラが『腐った死体』に足を掴まれている。

 ティナが助けようと槍を振り回すがうまく振れていない。

 仮にこの『腐った死体』を倒せても二人の足では間に合わない。

 囲まれる。

 

 目の前にある筈の光がとても遠く感じた。

 アリシアが、ニーナが、最悪の事態に悲鳴を上げる前に、俺は何としてでも二人を助け出そうと、

 

 

「走れ、私が何とかする」

 

 

 俺より前に隊長が階段を飛び降りていた。

 一振りで『マミー』の大群をなぎ払い、二振りで『ミイラ男』をなぎ払い、『笑い袋』を踏み台にして勢いを殺さずにステラの足を掴んでいた『腐った死体』の脳天を突き刺した。

 

 

「アルス!」

 

 

 隊長のその叫びの意味を考える。

 俺に来いと言っている?

 違う、先に行けと言っている?

 違う、この人は、隊長はもっと無茶苦茶な人だ。

 

「ニーナとアリシアは先に行け! 俺は出口で二人を受け取る!」

 俺がそう言うのと同時に隊長は身体を捻って遠心力をつけて、ティナを出口目掛けて投げ飛ばした。

 ティナが声にならない悲鳴を上げて、アリシアとニーナはその常識外れの行動に目を丸くする。

 

「ちょっ、俺もこんなに勢いあるって思わなっ」

 なんとかティナを受け止めることが出来たけど、勢いは殺されないで俺はアリシアとニーナを巻き込んで外まで吹き飛ばされた。

 

 ミスった。

 俺まで外にはじき出されたらステラを受け止めることが出来ない。

 いくら隊長でもステラを抱えたままここまで来れない筈。

 

 まだ間に合う。

 俺は慌てて戻ろうと、

 

「邪魔だ」

 

 隊長が矢のような勢いで、ステラを抱えたまま階段を駆け上がっていた。

 そして戻ろうとした俺は吹き飛んだ無数のモンスターの屍と共に外に吹き飛ばされた。

 それに続いて隊長が地上に飛び出す。

 

 

 正直、この戦闘力は化け物かと思う。

 普段どれだけスタミナを温存して戦っていたのだろうか。

 

 

 でもいつも余裕の表情をして戦っていた隊長の呼吸は異常に乱れていて、顔色がいっそう悪くなっている。

 もう限界なんてとうに超えていたのだろう。

 隊長の手からステラが滑り落ち、そのまま力なく()()()()()()()()()()()()()

 助けようと伸ばす俺の手を取る余裕すら今の隊長にはなくて、俺の手が虚しく空を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書14―アルス日記―

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人食い箱のAAは当時初めて作ったAAでお察しな出来栄え。
それでも載せるからこその黒歴史である!


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支えてあげたい彼方の為にNo.3ニーナ

ニーナは凄く良い子。


 ようやく外に出られて、みんな無事で、安心したのに……姉御が倒れて階段の下までごろげ落ちていった。

 

 私の中でアルス君や姉御はどこか無敵超人とか正義の味方とか30分で敵を必ず倒してくれるとか思っていたけど違う。

 二人とも頑張りすぎて無理する人なだけなんだよ。

 私のバカバカバカ!

 

「隊長!?」

 アルス君は多分、違う絶対に戻ろうとする。

 そうしたらアルス君を助ける為にティナちゃんとアリシアちゃんも行く。

 でも下はもうモンスターで埋め尽くされてて、姉御はその中に落ちていて……でも姉御だからまだ大丈夫。

 助けに行けばまだ間に合う。

 

 

 

「来るな」

 

 

 

 いつもの落ち着いた感じの姉御の声がした。

 アルス君に言ったのか私に言ったのか皆に言ったのか……分からない。

 

「すまないな、少年。運が良ければまた会おう」

 

 姉御が『鋼の剣』で床のタイルを砕いた。

 もともと古い建物で既に崩れているようなところもあって壊れやすい。

 タイルだけではなく地面が崩れて姉御はモンスターの群れと一緒に落ちていった。

 

 床が崩れてとても人の足では上り下り出来そうにない。

 仮に飛び降りたとしてもここには戻って来れない。

 それでもアルス君は行く。

 私も行く。

 皆だって行くに決まってる。

 

 死ぬのは怖い。

 痛いのは怖い。

 それは皆同じ。

 誰かが死んだら悲しい。

 それがもう二度と会えないならもっと悲しい。

 

 

 

 

 

 

 でも、アルス君はきっと許してはくれない。

 

 

 

 

 

 

「ニーナ! 皆を頼む!」

 予想通り私に皆を任せてきた。

 

 ティナちゃんはショックでいくら言ってもアルス君について行こうとする。

 アリシアちゃんはアルス君一人で行かせる訳がない。

 

 私はお調子者でみんなを危険にさらすこともあるしドジでピンチになることも多いけど、二人よりは多分、選択肢が多い。

 

「ごめんね」

 私は近くにいるアルス君以外の皆と『キメラの翼』を使って『イシス』に飛んだ。

「どういうつもり!?」

 『イシス』に到着した瞬間アリシアちゃんに怒られた。

 私がアルス君と姉御を見捨てたから怒ってる。

 ティナちゃんは呆然としていて、ステラちゃんは状況がうまく把握できていなくて混乱してる。

 

 

 

 

 

 

 

 私はどんな顔してるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

「仕方ないじゃない」

 

 アルス君は私に皆を頼んだ。

 あの場でこんな薄情なことできるのは私しかいなかった。

 アルス君に期待されたら断れないのを知っててアルス君は頼んできた。

 

 

 卑怯だと思う。

 

 

 私は皆と一緒に笑い合えれば良い。

 あの場で皆一緒に降りたら誰かが帰れなくなる。

 誰かがみんなの足を引っ張って、誰かが誰かを庇って、結局誰も帰れなくなるかもしれない。

 

 アルス君一人なら自分の身を確保しつつ姉御と合流できれば無事帰ってこられるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ただの言い訳だから、皆には言わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルス君なら大丈夫だよ。アルス君は強くてそれはもう1000人切り達成と敵武将攻略と拠点護衛と征圧を同時にこなせちゃうくらいの……」

「そういう問題じゃないでしょ!」

 本気で、怒鳴られた。

 別に良い。

 この先、皆一緒に笑っていられるのなら私は悪役だって構わない。

 たとえその皆の中から私がはじき出されたとしても、皆が笑っていられればそれでいい。

 

 私は充分に笑えた。

 アルス君のおかげで笑うことが出来た。

 だからほんのちょっと、ここで耐えてアルス君にいっぱい預けてある仮をほんの少しだけ返すだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから泣いちゃダメ。ダメなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリシアちゃん、行たらダメだよ。アルス君は……アルス君は、とても強くて……」

「ニーナ……あんた……」

 私は今どんな顔をしてるのだろうか。

 アリシアちゃんが怒りの矛先を私じゃなくって自分に向けて、三角帽子を地面に勢いよく叩きつけて、頭をかきむしると宿屋の方に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が悪役でいれば良いだけだったのにアリシアちゃんに悪い事をしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティナちゃんは泣き続けている。

 アルス君はすぐに泣き止ませて上げることが出来たのに私だと無理だった。

 ステラちゃんに頼んで宿屋で休ませて上げることしか出来なかった。

 

 もしもアルス君が帰ってこなかったら、間違いなく私のせいだ。

 悪役を受け入れよう。

 世界を救う筈の勇者を見捨てたんだ、どんな手を使ってでも魔王だけは倒して世界に平和を取り戻そう。

 泣き崩れるのはそれからだっていい。

 アルス君だって、立ち止まっている私なんて見たくない筈だ。

 

「泣くな私ー。そんなんじゃあ本当に涙ボクロのある35歳独身の無職になっちゃうんだぞー。そうして過去のすばらしい日々に涙してその涙が洪水を引き起こしたっ! わー逃げろー! 噂の港町『ポルトガ』が海に沈んだー! その勢いで世界各地の島々が連鎖的に沈んでいくっ!? 一体この世界はどうなってしまうんだー!?」

 

 

 

 

 

 

 私は今どんな顔をしているのだろうか。

 笑えているだろうか。

 笑顔を作れているだろうか。

 私にできること、ちゃんとやれているだろうか。

 

 

 

 

 

 

 今はただ、『イシス』の入り口でアルス君が隊長を連れて帰るのを待つことしかできない。

 でも日が暮れても帰ってこなかった。

 

 

 私のお腹がなっても帰ってこない。

 皆お腹すいてるんだから早く帰ってきて欲しい。

 ご飯は皆で食べないと美味しくないんだよ?

 

 

 とても寒くて震えが止まらなくなっても帰ってこない。

 砂漠って昼間は暑くて夜はとても冷たいから大嫌い。

 『レーベ』で羽織らせてもらったアルス君のマントは暖かかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、どんな、顔を、してるんだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニーナ……」

 アリシアちゃんがやって来た。

 ショックが大きくて出て来れないかと思ったけど、アリシアちゃんは強い。

 

 最近は怒っても泣くことがない。

 少し前のアリシアちゃんだったらアルス君が帰らなかったら泣きながら「むかえに行かないと!」なんて言って飛び出してそうなんだけどな。

 

 

 コーヒーを持ってきて私の隣に座ってくれた。

 

 

「ティナは泣き疲れて寝たみたい。ただでさえ疲れていたのにずっと泣いてたから」

 コーヒーが私に手渡される。

「ごめんね、ニーナ。頼まれたんだもんね……」

 そういう優しいこと言わないでほしいよ。

 私泣くの我慢してるんだから。

 

「もっと厳しくしてほしいですヨ。だって私アルス君を、姉御も見捨てたんだよ。薄情な奴だって、酷い奴だって……最悪だってっ」

「私は皆がいる限り泣かないって決めたから、まだ泣かない。この前ティナに泣きついちゃったから」

 

 多分『カザーブ』での夜間練習の時だと思う。

 

「だけどね。私もっと強くなって、あいつも、ニーナも、皆を守るから」

 それ以上は言わないでほしい。

 聞いたらきっと止まらなくなっちゃうから聞きたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニーナは泣いてもいいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリシアちゃんは私が泣き虫だって知っていた。

 アリシアちゃんも卑怯だ。

 そんなこと言われたら私もうダメで、涙が止まらなくって、どうしようもなくって、

 

「アルス君がっ死んじゃったら私のせいだっ。私がっ私がっ」

 

 私はアリシアちゃんの胸で小さな子どものように泣きわめいていた。

 どうしようもなかった。止まらない。

 

 私はいつも笑っている子で、こんな弱音みんなの前で一度も吐いたことないのに、皆の前で振舞っていた元気な仮面がボロボロと涙と一緒に剥がれ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今泣き顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティナちゃんよりも泣き虫かもしれない。

 だけど私は弱いからそれを隠して、自分でも元気な子だと信じて、素直に泣けるティナちゃんの方がずっと強い。

 

 

 何時間私は泣いていたのか分からないけどようやく涙は止まってくれた。

 

 

「まったく、なんで私があいつみたいに泣いてる子の世話焼いてるんだか」

 アリシアちゃんはいつものように愚痴をこぼしていたけど、いつものようにどこか嬉しそうだった。

 アルス君は鋭いようでそっちの方面はトドよりも鈍感だから、きっとアリシアちゃんが照れてるだけなんて気付いていないよね。

 とりあえず私もいつもの私に戻るとしよう。

 

「アリシアちゃんの胸小さくて泣きつく時クッションが無くて困りましたヨ」

「……あんただんだんあいつやマリアさんに似てきたわね」

 頭をゴチンってグーでゲンコツされたけど、暖かい。

 

 いつも通りティナちゃんがここでやって来た。

 どんな時でも皆は揃う。

 

「ごめんね……取り乱しちゃって……」

 ティナちゃんは不安でいっぱいいっぱいなのに私に気を遣ってくれている。

 ステラちゃんも日は浅いけどもう友達だ。

 心配して来てくれた。

 

 後はアルス君と姉御だけ。

 大丈夫、きっと来てくれる。

 これからも皆一緒に笑い合える。

 そう信じて私達は待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書14―アルス日記―

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一番つらい役を引き受けて、仮面を被って、自分が辛くても皆の為に頑張れるニーナの本音と不安を共感してもらいたくて、白紙の日記を続かせる構成にしました。
当時はニーナ押しではなかった筈なのに、今こうして読み返すとずいぶんニーナ押しな内容の話が多い気がします。
ドラクエ3の商人はオーブを手に入れる為の道具ではなく、仲間なんだという想いが当時からあったのかもしれませんね。

皆さんも商人をしっかりむかえに行ってあげましょう。


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外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.4マリア

マリアの事情を少し。


 むせ返るような血の臭いと肉の焼ける悪臭。

 幼い頃のことだ。

 私は普通の女の子だった。

 

 平和な小さな村だったけど、だからこそみんな仲良く、みんな良い人だった。

 だから魔王『バラモス』を許せなかった。

 世界の平和を脅かす怪物に従うのは嫌だ。

 

 私も当然のようにそう思っていた。

 

 『アリアハン』の勇者オルテガと合流して女子供は『ロマリア』に避難するそうだ。

 受け入れ準備も整って次の日に船が出港するその日、魔王軍が村を襲った。

 

 初めに毒の霧を撒き散らして弱いものはそこで死んだ。

 私は運よく死ななかったけど動けなくなった。

 次に動ける者を魔物達が襲いだした。

 

「『バラモス』様に逆らった罰だ。苦しむがいい!」

 

 すぐには殺さずにじわりじわりと痛めつけて一人ずつ戦える者を殺していく。

 それでもみんなは戦った。

 よく戦った。

 大切な者を守るために戦った。

 

 だから魔物もひるみ始めた。

 ほんのわずかだが希望が見えてきた。

 

 

 

 

 

 そして『バラモス』の登場で絶望に沈んだ。

 

 

 

 

 

 圧倒的だった。

 とても勝てる相手ではなかった。

 戦える者は全て殺された。

 父も、殺された。

 絶望の中涙も出なかった。

 

 目の前で母が生きたまま腸をむさぼられている中、私は叫ぶこともできなかった。

 友達が殺されていく中、私は、まだ生きている。

 いつの間にか静かになっていた。

 

 苦しい。

 辛い。

 もういいから、殺してほしい。

 

 

§

 

 

 一瞬意識が飛んで悪夢を見た。

 

 確か私は倒れたんだったな。

 毒に蝕まれた身体を酷使しすぎたか。

 どうもあいつらと一緒だと、昔の平和だったあの頃のようにはしゃいでしまう。

 

 薬が切れて苦しい。

 痛み止めだけでも飲みたいところだが、生憎体が動かない。

 敵は私の最後の一撃で近くの奴はあらかた片付いたようだが、私もそこで意識を失って地面に叩きつけられたらしい。

 

 

 頭から落ちて即死しなかったのは幸い……いや不幸と言うべきか。

 

 

 どの道動けない私は魔物にもてあそばれて殺されるか、母のように生きたまま腸を食らわれるか、即死させてもらえるかのどれかだ。

 自害しようにも舌を噛み切るだけの力すら残っていないのが悔しい。

 敵に見つからずにすめば……このまま薬を飲めずに死ぬだけだ。

 

 

 これが、絶望か。

 

 

 私の村が滅んだ時と同じだ。

 ただ死を待つだけ。

 

 まあ、これもいいか。

 どうせ私は運よく『バラモス』に見つからず、運よく一人生き残りオルテガに助けられただけだ。

 少年達が生き残っていれば成長して『バラモス』を倒してくれるだろう。

 

 

 でも、悔しい。

 

 

 オルテガに助けられて、沢山世話を焼いてもらったのに私は幼すぎて役に立つことが出来なかった。

 そしてオルテガの息子のアルスに会えたのに、何もしてやれないまま終わった。

 

 

 私は何のために生き残ったのかと初めオルテガに泣きついた。

 人は生きているだけで良い。

 生きていれば無限の可能性がある。

 誰にだって幸せになる権利はある。

 そんなようなことを言っていた。

 

 

 その言葉で私は思い出した。

 滅んだ村で私を見つけたオルテガは泣いていた。

 救われたのは私だけではなくオルテガもだった。

 たった一人だけど命を助けることができた。

 誰一人生き残っていなかったら彼も絶望の底に沈んでいただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きていて良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言っていたのだ。

 昔も、今もこの()()は。

 

 まったく敵が私のところに来ないと思ったら来てしまったらしい。

 こいつ等はもうどこまでお人よしの親子なんだ。

 他の皆の姿がないから、多分ニーナに任せたのだろう。

 酷いことをする奴だ。

 

「隊長、あんたは貴重な戦力なんだから勝手に死んでもらったら困るんですけどねぇ」

 アルスは私の無事を確認したら笑いながらそんなことを言った。

 身体中ボロボロなのに、よくもまあたどり着けたものだ。

 

 

 そんな姿でそんな笑顔をされると、まともに顔を見られないではないか。

 お前はどこのヒーローだ。

 

 

 とにかく、せっかく無茶してきてくれたのだ。

 ここは存分に甘えさせてもらおう。

 

「……ふくろに……くすり……」

 

 多分こいつのことだ、これで気付いてくれるだろう。

 予想通り私の道具袋をあさって薬を全部取り出して並べてくれる。

 

「いっぱいあるな。15種類全部1錠ずつでいいのか?」

「……私を殺す気か……ラベル07、08、12、14……1錠……」

「あいよ」

 

 アルスは右手でキャップを外して右手で薬を取り出してまとめて私の口に入れた後、右手で自分の道具袋から水を出して私に飲ませた。

 

 正直飲み込むのが辛い。

 でもせっかく左手が使えなくなくなるまで戦ってここまで来てくれたんだ。

 飲み込もう。

 それに吐き出したら死亡フラグが立ちそうで怖いしな。

 

 とにかく、後は安静にしてれば時期に動けるようにはなるだろう。

 アルスもそれまで待ってくれる。

 

 

 

 

 無言で震えている私にマントをかけるな。

 頼むから何もせずにただ待ってくれ。

 

 

 

 

 体内時計が完全に狂っていて正確な時間は分からないが5時間くらいか、ようやく私の身体は落ち着いてくれた。

 

「すまんな少年。このお礼は身体で払うべきかな?」

「なっ」

「はっはっは。冗談だ。本気にするとは本当に少年は可愛いな」

 

 手の震えはまだ止まらないし激しい運動はできないが少年をからかうことは出来るようになった。

 これで今までの仕返しが出来そうだ。

 

「たく……で、『ノアニールの洞窟』から気になってたが……どういう状態なんだ、その身体は」

 だけど真面目モードの少年はすぐに本題に入って面白くない。

 だがアルスには話しておくべきだろう。

 

「毒だ。私の身体は魔王が放った毒で蝕まれている。私の村は魔王軍に襲われて滅んだんだ。その時、私はお前の父親オルテガに助けられた」

 私がそう言うとアルスは呆然としていた。

 16歳の少年には少しキツイ話だったか。

 

「じゃあ隊長の貧乳はその毒で」

「ここでファラオと添い寝がしたいか。そうかそうか」

「すみません、冗談です」

 

 私が『鋼の剣』を向けるとアルスは土下座をした。

 こいつは空気が読めるのか読めないのかいったいなんなんだ。

 掴みにくい男だ。

 

「まあお仕置きは後で考えるとして真面目な話に戻すが、見ての通り薬漬けでかろうじで生きている。私がなぜこんなコートを着ているか分かるか?」

 

 毒で私の身体は蝕まれていて変色している部分もあれば、消えない傷だっていくつもある。

 それを隠すためのコートだ。

 顔の傷は治ってくれたのは女としては嬉しいが、とても女として生きていける身体ではない。

 

「そして魔王に復讐するために、少年……君を利用しようとした」

 それが私だ。

 オルテガに恩返しの意味をこめてアルスを育てようとも思ったが、どうしても復讐の気持ちの方が大きい。

 

 

 皆の敵をとりたい。

 

 

 だから仲良くするつもりはなかった。

 表面だけで笑って、からかって、好き勝手にやるつもりだったのに、こいつらの輪は居心地が良過ぎた。

 

「まあ俺はそれでもいいと思うぞ。隊長は割りと良い人だし、利用されていたとしても害はないし。俺だって何だって利用する。仲間の為ならどんな卑怯なことでも卑劣な手でも使う」

 

 確かにアルスは普段優しい苦労人だが、何だって一人で抱え込む苦労人でもある。

 そして何よりも仲間が全員生き延びる為なら、酷いことだと分かっていてもニーナに仲間のことを任せる。

 その結果どうなるか分かっていても全員無事生還できる可能性を迷いなく選び抜く。

 ある意味非情とも言えるかもしれない。

 

 だけどその反面ひどい事をしたと分かっている分、自分の心を痛めているどうしようもない【くろうにん】なんだ。

 

 

「君の言動はどこまでが本心なんだ」

「皆のいる平和な世界を作りたい。ただそれだけだ」

 その“皆のいる世界”にはおそらくアルス自身が含まれていなくっても満足なんだろう。

 

 自己犠牲の塊の親子に私は二度も助けられた。

 だから今度は私が守る。

 『バラモス』を倒すまで私の体が持つか分からないが、アルスを守る。

 それがきっと私に出来ること。

 アルスよりも強い私の役目だ。

 

 

 

 

 

 彼がみんなの盾になるというのなら私はアルスの剣となろう。

 

 

 

 

 私の体がまともに動くようになったからアルスを踏み台に崩した床を飛び越えて地上に続く階段まで戻る。

 その後アルスを引き上げて外に出たら【ルーラ】をしてもらおうと思ったが、引き上げるとアルスは気を失ってしまった。

 

 まあ地下に出てきた魔物全てを倒したんだ、よく私のところにたどりついて冗談を言ってくれたものだ。

 それにしても良い笑顔で寝ている。

 

 

「まったく、私には少し眩しすぎるぞ」

 昇る朝日はとても眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書14―アルスの日記―

 今日は『ピラミッド』を本格的に捜索した。

 宝箱が空っぽだったり『人食い箱』だったりして二人やられて教会へ。また俺の防具が遠のいていった。で、再チャレンジしたら落とし穴。噂の魔法を使えない空間だ。

 隊長が隠し階段を見つけて地下に突入。ステラの目的『黄金の爪』を手に入れた。

 呪があるとは聞いていたけどこんなにモンスターが出るとは聞いてないぞ女王イシス!

 無事帰れたと思ったらまさか隊長が倒れるとは思いもしなかったが救出に成功。やべぇ、俺ってカッコいいかも。すこし出るのに手間取って朝になってしまってみんなに心配かけてしまったようだ。ニーナみんなの世話ご苦労様。

 それと稼いだGはいいから拾ったものはみんなの道具袋に入れておけよ。それと宝箱モンスターは警戒するように!

 

 




強いけど体に欠陥を抱えて本気で戦える時間が限られているというのもロマンだと思います。
話しのモチーフは当時好きだったFateエミヤ(切嗣との出会い)とWA4ラクウェル。
それにしてもこのバラモス、アクティブである。


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第六話「勇者の休日」

息抜き回。


 昼前に起きるって俺どんだけ。

 目を覚ますともう昼で宿の飯はもうない。

 そしてステラの膝の上で目を覚ますという訳の分からない状況で目が覚めた。

 

 場所は『イシス』の広場。

 アリシアとニーナとティナが隊長相手に模擬戦をしている。

 流石隊長といったところか、『ヒノキの棒』同士の模擬戦だが二人を軽くあしらっていた。

 

「おはようございますアルスさん、気分はどうですか?」

 ステラが優しい笑みを浮かべながらで聞いてくる。

 

 

「本当に胸少しあったんだな」

 

 

 だから俺は膝から見上げた感想を笑顔で答えてあげたら「はぅっ、どこを見てるんですか!?」と慌てふためきだした。

 反撃はしてこないがこの慌てふためき様はからかっていて癖になりそうだ。

 

 とりあえず宿のかしきり時間がすぎてGないから外に俺を寝かせた、と言ったところか。

 そして暇な人が俺の枕になってくれていたと考えるべきだろう。

 うむぅ、全員分の太ももを堪能するまで寝た振りをするべきだったか。

 

「よし、みんな元気みたいだな」

 身体を起こそうとすると少し違和感があった。

 左腕にギブスがはめられている。

 

 体の傷は消えているのでティナが【ホイミ】を限界まで掛けてくれたようだが【MP】が足りなかったらしい。

 死んで教会で完全復活してもらうにもGがない。

 どうしたものか。

 

「アルスおはよう。ちょっと待っててね。今ご飯作ってあげるから」

「あ、アルス君おはよー」

 ティナとニーナ二人とも目の下にくまを作っている。

 こいつら寝てないのか。

 

「おはよう。あんた腕折るなんて中途半端な怪我したわね。死んでくれてたら教会で完全復活してもらえたのに」

 俺と同じ考えだが何か言われるとむっとくる。

 でもアリシアも目の下にくまを作っているところを見ると、相変わらず心配なのに意地を張っていると言ったところか。

 微笑ましい限りである。

 だが、よく見るとステラも目の下にくまがあった。

 

 

「お前ら黙って寝てろ」

 

 

 俺のそんな提案に対してブーたれる皆を【ラリホー】で眠らせてもう一泊宿を借りる。

 うむ、徹夜明けで疲れている奴にはよく効くな。

 

「少年、今思ったのだがこの魔法があれば眠らせている間に悪戯し放題ではないか?」

「いや、それ犯罪だから」

「死ぬまで起きない奴だっているんだ。ちょっとの悪戯なら起きないと思うのだが……どう思うよ少年」

 

 厄介な人だけが眠らなかった。

 頼むから大人しく寝ていてほしい。

 

 とりあえず皆が寝ている間に俺はプライベートな時間を送ろうと思う。

 といっても何をすればいいか思いつかない。

 片手だと本も読みにくいし食事だってしにくい。

 これでは遊びまわることもできない。

 

 【ルーラ】分の【MP】を残しておきたかったが、ここは自分の【ホイミ】で腕を治しておこう。

 左腕のみに限定してかければ数回で治る筈だ。

 

 ほら治った。俺の魔法コントロールは我ながら惚れ惚れする。

 

「なんだ治してしまうのか。そのままならお姉さんが面倒を見てあげようと思ったのだがな」

 隊長がまた俺のことをからかっている。

 いいから寝てください、お願いします。

 

「まあ私も寝るとしよう。正直君を背負ってここまできたから疲れた」

 ここでからかって「なら今度お姫様抱っこで次の街まで運んでやろう」なんて言ったら隊長のことだ。「よろしく頼む」とにやけながらからかってくるだけなので止めておこう。

 

 俺より隊長の方が口も力も上手だ。

 からかった日にはそれが倍返しされる。

 

 大人しく宿に入っていく隊長を見送ってから俺は【ルーラ】で『アリアハン』に飛んだ。

 まずは王に旅の状況を報告。

 次にティナを引き取っていた神父やアリシアとニーナの親に元気でやってると報告。

 一区切りしたら皆も連れてこよう。

 例のごとくニーナの父親からは届け物をもらった。

 

 もちろん中身を確認したさ。

 手紙と『毒牙の粉』が入っていた。

 敵に使ってくれると信じておこう。

 

「勇者さんではないですか」

 変な武道家に声をかけられた。

 どうやら『レーベ』で俺が助けた武道家らしい。

 お礼として『鎖鎌』をもらったけど、いまさらという感じがする。

 

 ふと耳に挟んだ情報だが、笑いながら俺を死地へと送り出すきっかけを作った母さんは毎晩俺の帰りを待っているらしい。

 

 

 

 

 挨拶だけはしておこう。

 

 

 

 

 

 一通り挨拶が終わったから『アッサラーム』に【ルーラ】で飛んで遊びまわることにした。

 まずは踊り子達の練習でも見てみるとしよう。

 

 なかなか良い足……ではなく踊りだ。

 いや、本当に楽しそうに踊っている。

 これはやましい目で見るのは失礼だろう。

 でも目のやり場に困る。

 

「坊やも一緒に踊ってみる?」

 お姉さん方にからかわれながら踊らされた。

 結局俺はどこでも年上にいじられるのか。

 

 日が落ち始めたが置手紙で「夜までフィーバーしてくるぜ」って書いていたから皆も心配していないだろう。

 

「もしも暇だったら坊やも一緒に食事とかどう?」

 楽屋裏で食事までおごってもらった。

 団長もなかなか良い人で旅人の俺を笑顔で向かえいれてくれる。

 

「時にアルス君、君はもしやオルテガ氏の息子ではないのかね?」

 どうやら親父はこの街にもよったらしい。

「オルテガ氏とは話の会う友人だったが、息子の付けでとチケットを買ったことが何回もあった。計360G払ってもらうよ」

 

 団長は笑顔だった。

 実はピラミッドの地下で稼いだGがたくさんあるが、おのれ親父め。

 生きていたらただじゃおかないぞ。

 

 まあ食事をおごってくれたから本番の踊りも見ていくとしよう。

 もちろんチケットは自分のGで買っておく。

 席は一番遠い席にしてもらった。

 遠くからの方が全体の踊りがよく見えていい。

 

「オルテガ氏もその席がお気に入りでね。息のぴったりあった良い踊りだと褒めてくれたよ」

 

 団長が俺の向かい側の席に座ってそっとカクテルを差し出してきた。

 俺は未成年だって。

 

「だけど踊りをほめてくれる客は少ない。皆踊り子の体が見たくて来てる連中ばかりさ。そういう街だからね、ここは」

 他の客は近くの席を取って踊り子の体を嘗め回すように見ている。

 外にピンク色の店が多いからこうなってしまうのかもしれない。

 

「レナちゃんという踊り子がいてね。ダンスがとても好きな子だった。だけど彼女はこの目線に耐えられなかった。もしも旅先でレナちゃんに会うことがあれば伝えて欲しいんだ。君はもう自由だから、好きに踊ってもいいんだよ、と」

 

 せっかくもらった酒だ。

 俺はカクテルを一気に飲み干した。

 

「つまらない話をしてしまったね。楽しんでいってくれ」

 団長はやはり笑顔だった。

 

 俺は踊りを見終えて拍手を送ると、「真剣に見てくれてありがとう」なんて悲しいことを言われる前にこっそりと劇場を抜け出した。

 

 

 さて、俺はそろそろみんなのところに帰るとしよう。

 ティナのことだからきっと宿で用意される夕食がさげられてしまっている時間なので、何か作って待ってくれている筈だ。

 あまり待たせると悪いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書15―アルスの日記―

 今日はみんな疲れているので休みの日にした。

 とりあえず『アリアハン』に戻って旅の報告とみんなの報告をしておいた。今度はちゃんと皆で行くとしよう。。

 後は俺のプライベートタイム。ひたすら遊びまわってハッスルハッスル。たまには生き抜きも必要だと実感する一日だった。

 戦利品の“鎖鎌”は有効活用するために『鋼の剣』に鎖をつけてみた。

 これで『破壊の鉄球』のように全体攻撃ができれば嬉しいのだが。

 

 

 




夫を亡くし息子を送り出すことでしか世界に希望を残せなかった母親は辛かったと思います。
毎晩家の外で主人公を待ち続ける母親の姿に何か感じた人がいたのは私だけではない筈。
無料で休める宿屋ではなく、母親に元気な姿を見せる為にアリアハンに戻ってあげましょう。


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第七話「ピラミッド攻略作戦」

ようやくピラミッドの攻略に入ります。
黄金の爪ありのピラミッドの移動しにくさは異常ッ!


 朝早くに隊長にたたき起こされて剣の稽古をつけてもらった。

 

 一対一ではまだ模擬戦で隊長に勝つことが出来ない。

 簡単に攻撃を受け流されては頭を撫でられたり、頬を指でつつかれたりと遊ばれてしまう。

 まさかここまで技量に差があるとは思いもしなかった。

 どうやら俺は小技が多すぎて決定打にかけるそうだ。

 なおかつ無駄な動きも多いとのこと。

 

 大振りをもう少し増やすべきか、いやそれだと無駄な動きが増えるだけか。

 悩ましい問題である。

 

「アルス。ちょっといい?」

 珍しく何もないのにアリシアに呼び出された。

「私に……魔法のコントロール教えなさいよ」

 まさかアリシアの方から俺に魔法について聞いてくるとは思いもしなかった。

 あの【いじっぱり】っ子がどういう心境の変化だろうか。

 

「この際もう恥を覚悟で『トロル』に魔法を教わっても良いわ」

 俺に魔法を教わるのはそこまで嫌なことだったのか。

 いくらなんでも『トロル』と同じなんてへこむぞ俺は。

 

「まあそれだけの覚悟があるなら教えてやる。隊長、朝錬はここまでで」

「そうか。すまないなアリシア。アルスを取ってしまったから少し怒ったか?」

「べ、別にそんなんじゃないわよ!」

 アリシアが隊長にからかわれているところを始めてみた。

 

 今日の朝錬も隊長から言い出したことだし、『ピラミッド』の一件で隊長は何かが吹っ切れたようだ。

 

「ほんじゃあアリシア。まずはコントロールを上げる方法だが、ゆっくり撃って思い通りに動かしてみろ」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ」

「何よそれ」

 

 アリシアはそんなの誰だってできると“メラ”を撃ってみたが、いつもより遅い程度で充分メラの速度だ。

 

「あれ?」

 本人も遅く撃つつもりでいてたので驚いている様子だ。

 遅く撃つというのはそれだけでコントロールがいるものだ。

 まずはその基本から。

 その後ゆっくりとそれを思った方向に動かしていけば良い。

 

「アルス、アリシアちゃん。宿の人がご飯用意してくれたよ」

 ティナが呼びに来てくれたから今日はここまでだ。

 とりあえず基本は教えたからアリシアなら努力して物にしてくれるだろう。

 

 とにかくまずは飯だ。

 その後に本来の目的である『ピラミッド』での『魔法の鍵』回収だ。

 俺がアレだけ頑張って倒してもまたモンスターが復活していると思うと溜息が出てくる。

 

 『ピラミッド』にいくと予想通りモンスターがわんさかいた。

 『黄金の爪』を持っているステラを置いてくれば大丈夫だっただろうか。

 まあ地上は魔法も使えるしいいレベル上げにはなりそうだ。

 

 それになにも『ピラミッド』の入り口から入る意味なんてどこにある。

 段差を上って最上階に出た方が速いだろ。

 

「【ベギラマ】!」

 

 アリシアが先手を取って【ベギラマ】で道を切り開いてくれた。

 ただしまだコントロールが上手くなくて、射線が斜めになり『ピラミッド』まで道が大きくそれてしまっている。

 

「あー、まだまだ先は長いんだからスタミナ配分を考えること」

 とりあえず俺も【ベギラマ】を撃って見本を見せてもよかったが、いざという時の【ルーラ】と【ホイミ】に【MP】は取っておきたい。

 

 早速俺の『鎖鎌』と『鋼の剣』を合わせた武器、チェーンソードと言ったところか。

 そいつを試すとしよう。

 普通に使う分には『鋼の剣』と変わりないが、こいつは投げても鎖がついているので手元に戻すことが出来る。

 

 モンスターを斬って他の奴に剣を投げつけ、引き寄せてからチェーンを振り回すと面白いようにモンスターが粉砕されていく。

 まさかこんな簡単なカスタマイズで『破壊の鉄球』もどきが出来るとは思いもしなかった。

 やべぇ、これ使いやすいわ。

 

 

「あ」

 

 

 チェーンが外れて『鋼の剣』が遠くのモンスターの群れの中に落ちていった。

 取りに行くまで『銅の剣』で我慢するか。

 こんな事ならチェーンソードをもっとこった作りで作っておけばよかった。

 

 【ベギラマ】一回と『銅の剣』を駆使して何とか『鋼の剣』は回収出来た。

 

「少年、もう鎖はつけないのか?」

 隊長が笑顔でそんなことを言ってくれた。

 いいアイディアだと思ったのだが、絶好のからかいネタになってしまったようだ。

 

 気を取り直して段差を上りながらモンスターを蹴散らし、頂上にある階段から中に入る。

 

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! 天辺に小さなメダル落ちてたよー」

 

 

 ニーナが何かメダルを拾ってきたようだが、いったいなんの役に立つアイテムなのだろうか。

 後で聞いてみよう。

 

「アルス。ここ鍵がかかってて開かないよ!」

 ティナが扉を開けようとするが『魔法の鍵』で開く扉らしい。

 当然ティナをどけて隊長に蹴り破ってもらう。

 

 更に下に下りると迷路みたいになっていて石の扉が道を塞いでいる。

 もちろんそれも隊長に叩き壊してもらった。

 

 

 【アバカム】いらずの素敵な戦士だ。

 そういえば俺達は何のためにここに来たんだっけ?

 

 

 石の扉の奥に『魔法の鍵』があった。

 そうだ、これを求めてやってきたのだ。

 これさえあれば器物破損で訴えられることはない。

 不法侵入は……考えたら負けだ。

 

「はいアリシア頼む」

「【ベギラマ】!」

 行き止まりに追い詰められている形になっていたので【ベギラマ】でなぎ払ってもらう。

 

 うむ、広範囲攻撃は便利だ。

 アリシアの後ろにいれば誤射の被害は割と少ない。

 道が少し出来たら俺と隊長がその道をさらに開いて、ニーナとステラが牽制。

 ティナが【ホイミ】をしてくれるからすごく助かる。

 ようやくパーティーらしい連携が板について来たのではないだろうか。

 

 でも正直このモンスターの数はうざい。

 ここは魔法が使えるんだから【リレミト】を使って即座に【ルーラ】で『イシス』に戻った。

 するとアリシアに「初めからそうしなさいよ!」と怒鳴られた。

 いや、俺もすっかり【リレミト】を使えることを忘れてたし。

 

 まあ何はともあれ無事に『魔法の鍵』を入手できたし、経験地とGも稼げたからよしとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書16―アルスの日記―

 強引に『ピラミッド』で『魔法の鍵』を手に入れた。

 この鍵で開かないところは隊長に蹴り破ってもらえばいいだろう。

 ニーナから聞いたのだが『小さなメダル』は『アリアハン』にいるメダルおじさんに渡すと良いものをくれるらしい。

 そういえば前に『アリアハン』によった時に井戸の中に変な親父がいたな。俺が知らないと思ったら今年から『カザーブ』から引っ越してきて井戸に住みだしたらしい。

 それと朗報としてこれからも隊長は朝錬をしてくれるそうだ。それを聞くとアリシアもその時間に起きて魔法の練習をするとのこと。

 アリシアは朝弱いくせによく頑張ることだ。

 ティナに頼んでコーヒーの差し入れでもしてもらうとしよう。

 

 




ピラミッド上部の扉からまさかのアバカム(物理)。
そしてこの辺りでのベギラマの火力は本当に頼りになります。
メラミやベギラマは覚える時期が丁度良く、覚えた時は頼りになる高火力ですよね。

ただし6でムドーに炎の爪使いまくったり、転職してメラミだけ覚えてからのメラミ連発はほどほどに?


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エピローグ

アルスのステラいじりが板について来たようです。


 『ピラミッド』でモンスターを倒しまくったからGがある。

 ここは思い切って『鉄の盾』と『鉄兜』を買って装備してみた。

 

「アルスさんが何だか強そうに見えますね」

「強そうって……それだと俺が弱いみたいじゃないか。この運動音痴の武道家が!」

「はぅっ!? ちらいまふっ! そういういふぃではなく、ふぁらにあいまふっていみれふぃて~」

 

 ステラの頬をつねるとよく分からないことを叫ぶ。

 

「アルス可哀相だよ」

「ティナよ。よく見てみろ。少年もステラも楽しそうではないか。アレはじゃれているのだ」

「はぅぅぅぅぅぅっ。ちらいまふってば~!」

 

「あははははー。何だかとっても犯罪のにおいがしますヨ。アルス君がロリコンになって見境なく幼女に手を出す毎日。これはもう自衛団に通報して何とかしてもらうしかないのかー」

 

「ニーナ、何だかそれ聞いてると本当に不安になってくるんだけど。アルス、小さい子を襲いださないでよね。何だか昔勇者の仲間だっただけで世間の風が冷たくなりそうだし」

 アリシアはもう言いたい放題言ってくれている。

 こいつは俺を何だと思っているんだ。

 これ以上ステラの頬を引っ張っていると、もっと酷い扱いになりそうだからここで止めておく。

 

「で、目的の『黄金の爪』は手に入った訳だがこれからどうするんだ?」

「え?」

 ステラが不思議そうに首をかしげた。

 こいつ、自分の目的忘れてるな。

 

「あ……お手伝いありがとうございますっ。皆さんがいなければこれを手にすることは出来なかったでしょう」

「まあそういう長い挨拶は適当でいいさ。俺達は打倒『バラモス』目指して適当に旅しているんだが、ステラも一緒に来るか?」

 

 俺がそう言うとステラはなぜか目を丸くした。

 そんな変なことを言っただろうか。

 

「いいんですか? 私運動音痴の武道家ですよ?」

 そんなことを言ってもティナやニーナやアリシアとはもう仲が良いみたいだし、隊長のお気に入りみたいだし、ここで仲間に誘わないと後で色々言われそうで嫌だ。

 

「もともと癖のあるメンバーだ。まとめて鍛えるから覚悟しとけ」

 人数多い方が模擬戦できるし作戦の幅も広がるしで、いまさら使えない武道家が一人増えたところで育てる手間は大して変わらない。

 

「せっかく出会えたんだから、もしも時間があるなら一緒に旅してもらいたいな」

「ティナさん……そうですね。私もここは居心地がいいですし、しばらくお供させていただきますね」

 少し迷っていたようだが、ティナの笑顔が決め手になったのかステラは嬉しそうに笑みを返した。

 

 次の目的地は『ポルトガ』だ。

 それまでにステラをもう少しマシな戦闘ができるようにしっかり鍛え上げるとしよう。

 

 という訳で『ロマリア関所』は明日行くことにして今日は一日元気にトレーニングだ。

 これから苦労しない為に【くろうにん】らしく苦労しながら頑張るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書17―アルスの日記―

 しばらくはステラが正式に仲間になってくれるらしい。隊長が後で「よくやった」と親指を立てていた。誘わなかったときの事を考えるとぞっとする。

 それは置いておいて俺は打撃攻撃だけでなんていうか決定打。つまり必殺技が足りないと思う。最近“ベギラマ”が使えるようになったが広範囲でも威力は斬った方が強い。

 派手でなおかつ一撃必殺を編み出したいから、これ読んでたらどんな技が強そうなのか書き込んどいてくれ。

 

・口から火を吹く。がぉぉぉぉ~!

・目からビームが出たら面白いと思うぞ

あんた私の切り札にケチつけないでよ。

・剣からビームが出たらカッコいいと思うな

・やはり一撃必殺はこう相手の首をぐさ~っとやれば良いのではないでしょうか?

 

 お前らに聞いた俺が悪かった。

第三章「イシス編完」

 

 




ハーレム4人パーティーと思いきやとんとん拍子に増えて行き、次章まだ増えます。


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第四章「ポルトガ編」
プロローグ


この章からドラクエ3に入れた異物が徐々に顔を出し始めます。
物語のスパイスだと思って生暖かい目で見てやってください。


 誰かと遊んでいる夢を見た。

 

 勇者になる為に辛いことも沢山あったけれど、アリアハンは俺の庭みたいなもので、今では大人も子供も皆友達で、国の人の名前を全員言えるし顔だって覚えている。

 筈だった。

 

 遊んでいるのは俺の親友だ。

 ティナよりも後アリシアの前に友達になった奴だ。

 

 いつも笑顔で、皆の笑顔が好きな奴で、皆の為に頑張って、誰よりも優しい奴。

 それなのに、どうしても顔を思い出すことが出来ない。

 

 

 勇者になる訓練で身も心もボロボロで荒んでいた俺に手を差し伸べてくれた筈なのに、名前も声も性別すらわからない。

 

 

 俺と顔のない誰かが輪の中心になって遊んでいる光景をただ見ているだけの夢。

 途中で顔のない誰かが傍観者の存在に気付いた。

 

「ダメだよ、私に気付いたら」

 

 そこで夢はいつも終わる。

 

 

§

 

 

「アルス、起きてる?」

 部屋をノックする音とティナの声で目を覚ます。

 どうやらお越しにきてくれたらしい。

 

「マリアさんとアリシアちゃんが待ってるよ?」

 二人と朝錬をやることになっていた。

 何だか気だるいのでもう少し寝ていたい。

 

「あと一時間……」

「それだとアリシアちゃん怒っちゃうよ。ドア開けるけどいいよね?」

 俺の返事も待たずにティナが部屋のドアを開けて中に入って来た。

 いつも優しいティナだが世話を焼くという面では問答無用なところがある。

 有無を言わずに布団を引っぺがされた。

 

 俺はシャツとトランクスだけというスタイルで一人の時は寝ている。

 ティナは「ごめんね」と顔を赤くして謝っているが、布団は返してくれないで俺が完全に放置状態だ。

 

「お前な……もう少し考えて行動してくれっ」

 夢見が悪かったこともあって少し強く言い過ぎていたのかもしれない。

 アリシアなら「怒鳴ることないじゃない。せっかく私が起こしに来てあげたのに」みたいに言い返すしニーナなら茶化してくれるがティナはそこまで器用ではない。

 

 

「……あ……ごめんね。アルスいつも疲れてるもんね……。それを考えずに私って馬鹿だよね……。本当にごめんね」

 

 

 今にも泣き出してしまいそうになっている。

 しかも考え方の方向性がまったく違うようで深刻に考えすぎている。

 頼むから泣く前に布団返すか足元に転がっているズボンを取ってくれ。

 俺はいつまでパンツ一丁でいないといけないんだ。

 

「いや、なんだ。いきなり布団なんてはいだら俺の息子がアレな状態になってるかもしれないし、そんな疲れているとかそういうのではなくなんだ。俺を一男子として頭に入れて行動して欲しい訳だ」

 俺は怒ってないとフォローを入れたつもりだったのだが、やはり泣き出してしまった。

 

「あーもう泣くな! 別に怒った訳じゃないから。起こしに来てくれたんだろ? いや~助かるよ。俺って朝に弱いから~」

 とりあえずフォローを入れながら頭を撫でてやるとティナが俺の胸に泣きついてきた。

 ティナも夢見が悪かったのか今日はなかなか泣き止んでくれない。

 

「ちょっとあんたいつまで人を待たせる気よっ」

 今度は無断で入ってくるどころかノックすらしないアリシアがドアを蹴飛ばしてきた。

 

 シャツとトランクス姿の俺にベッドの上でティナが布団を握り締めて泣きついている姿は、今は言ってきたばかりのアリシアにはいかがわしいものに見えてくる訳だ。

 

「えっと……」

 不意の出来事に弱いアリシアは一瞬戸惑いを見せている。

 でもすぐに鬼のような形相でずかずかと俺の方に向かってきた。

 

「ティナ泣いてるじゃないのよっ! あ、あ、あ、あ、あ、あんたはいくら欲求不満だからって大人しいティナにそんなことをっ!」

 

 

 そんなことってどんなことか口に出してもらおうか。

 なんて冗談を言える様子ではない。

 

 

「アリシアちゃん……違うの……悪いのは私でっ……」

「あんたはティナの優しさを踏みにじったっ。そういうこと無理矢理する奴じゃないと思ってたのに!」

「落ち着けアリシア。お前は何かを誤解している」

「弁護は閻魔様にしろー! この【むっつりスケベ】ッ!」

 

 こうして今日も【くろうにん】の朝が始まった。

 なのにまたアリシアの一言で性格が【むっつりスケベ】に変わる。

 俺の性格はどうしてこうも安定しないんだ。

 

 何とかティナの必死に説明してくれたからその場は98ダメージですんだが、続けられていたらボコボコにされるを通り越して撲殺されていた。

 恐るべしアリシアパワー。

 

 とにかく二人に正座させる。

 説教の内容は勝手に部屋に入ったことと勝手に勘違いして場をかき回したことだ。

 無論この時俺は服をきる時間もなくそのままの状態で説教していた訳であって、

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! 姉御が余りに遅いから女の子つれこんでるんじゃないかって、って、はわ! 女の子二人正座させて何だか怪しい光景になってる!? これは青臭い過ちか。過ちだね過ちだね青春だね! 姉御姉御あ~ね~ご! すごく面白い光景になってますヨ! ステラちゃんも早く早く大スクープだよ!」

 

「ニーナ、お前も場をかき回さんでくれ」

 すぐに【くろうにん】に戻る朝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書18-アルスの日記―

 忘れないうちに書いておく。

 ティナに布団を引っぺがされてアリシアにボコボコにされてニーナに皆を呼ばれた。

 お前ら後でまとめて報復攻撃するから覚悟しとけよ。

 

 




そんなこんなで『ポルトガ編』始まります。


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第一話「ロマリア関所を越えて」

星降る腕輪は勇者の切り札。
これがあるのとないのでは難易度が一気に変わりますよね。


 朝とんでもない目にあったけど、女王イシスに夜な夜な枕元まで『星降る腕輪』を取りに来て良いですかと訊ねたところ、『ピラミッド』のモンスター撃破のお礼として貸し出してくれた。

 

 ものは言ってみるものだ。

 

 予定通り『ロマリア』に【ルーラ】して『ロマリア関所』へ向かった。

 いよいよ『魔法の鍵』の出番だと胸を躍らせていたのに、隊長が「皆のお姉さんが来てやったぞ。3分間だけまってやる」なんて扉の前で笑いながら言い出したら慌てて兵士が扉を開けてきた。

 「扉だってGが掛かるんです」と泣いて土下座をしている。

 

 

 俺の手の中の行き場の失った『魔法の鍵』はどうすればいいんだ。

 

 

「どうした少年」

「いや……なんでもない……」

 ちょっと切ない。

 

 そのせいで俺の足が重かったこともあり、『ポルトガ』に着く前に日が落ちてしまって今日は久々の野宿になった。

 

 ティナが鼻歌交じりでシチューを作ってくれている。

 その間俺がアリシアとニーナとステラを相手に模擬戦だ。

 隊長は小休憩中で参加してない。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! また強くなった? 強くなったよね。というか強すぎだー!」

「はぅ!? これではまるで私達がどんくさくて攻撃が当たらないみたいじゃないですか~」

「あーもう! 避けるなっ!」

 

 『星降る腕輪』の【素早さ】2倍は素晴らしい。

 常に全力で動ける。

 今まで目で見えていても体の方が反応しきれなかった攻撃が簡単に避けられる。

 

 ただ強制的に潜在能力を高めていると思うから、調子に乗って動きすぎると反動で身体を壊してしまいそうだ。

 加速の多様は止めて置いたほうが良いかもしれない。

 

「この【ベギラマ】!」

 アリシアのコントロールは少しだけ上達したようで割りとまっすぐ飛んでくる。

 今回は完全に直撃コースで『星降る腕輪』を使わなければ避けることは出来そうにない。

 

 このまま『星降る腕輪』で避けたら俺の特訓にはならないから、ここらで新必殺技でも試しておこう。

 

「【メラ】!」

 まずは【メラ】をコントロールしてそれを『鋼の剣』に灯す。

 俺は魔法より攻撃の方が強い。

 なら攻撃に魔法を上乗せすれば普通に魔法を使うよりも強い筈だ。

 

「名づけて【火炎切り】!」

 

 おそらく通常攻撃から1.1倍ほど威力が増す程度だろうけど充分だ。

 それに【メラ系】が効きやすい敵なら1.5倍くらいの威力アップは見込める筈。

 作品の枠を超えたナイス発想だ。

 

 予想通りの威力で俺の【メラ】が灯った『鋼の剣』はアリシアの【ベギラマ】を切りばらえたが、

 

「ありゃ?」

 

 魔力と魔力がぶつかった衝撃で俺の体が吹き飛ばされた。

 思った以上にアリシアの【ベギラマ】の威力が上がっていたらしい。

 

「アルス!」

 アリシアが叫んだ。

 俺の吹き飛ばされた先にはティナがいて、シチューを作っている訳で、ぶつかったらそれがおじゃんだ。

 

 シチューだけならともかくとして、ティナにぶつかって怪我でもさせたら大変である。

 それでもティナはきっと、「私の不注意で」と自分のせいにして謝ると思う。

 俺の不注意のせいで涙ぐみながら謝るティナの姿なんて見たくない。

 

 ここは【ルーラ】で俺だけ移動して激突だけは避けるべきか、『星降る腕輪』の機動力任せで足を踏ん張るか。

 ここは『星降る腕輪』に頼るとしよう。

 

 

「ありゃりゃ?」

 

 

 空中で体を捻り体勢を立て直して足を踏ん張ると、勢いの割りに簡単に止まった。

 足にかなりの負担が掛かると思ったのに、まるで受け止めてもらったかのようにスムーズに停止する。

 

 

 

 

 怪我も負荷もなかった筈なのに、ズキリ、と頭が傷んだ。

 やっぱり何か大切なことを忘れている気がしてならない。

 

 

 

 

「アルスさん大丈夫ですか?」

「ねぇねぇ姉御姉御あ~ね~ご~。今の見た見た見た。今ねアルス君凄かったんだよ!? こうぐるんズザァーシュタッってどこの仮面ヒーローだー!」

 ステラとニーナが心配して俺に駆け寄ってくる。

 ニーナのこれは心配してるのだろうか。

 きっとしてるんだろうな、うん。

 

「あんたねぇ、避けるか防ぐかにしなさいよ。もしもティナまで巻き込んじゃったらどうするつもりよ」

「いやー、あれだ。新技が理論的に成立したから試したくなってだな」

「シチュー台無しにしてたら大怪我しててもただじゃおかなかったんだからね」

 

 それは怖い。

 こいつの中では俺<ティナのシチューのようだ。

 いや、まあティナの料理は美味いけどさ。

 せめて俺<ティナと素直に言って欲しいものだ。

 

「少年」

 俺が無理したことで隊長まで休んでいたのに腰を上げてきた。

「道具に頼っていてはいつまでも一人前の男になれないぞ。そのオモチャは私が預かろう」

 隊長が笑顔で『星降る腕輪』を取り上げた。

 それは【素早さ】が少ない【くろうにん】の支えなんだから勘弁してもらいたい。

 

 しかもちゃっかり自分にはめてるし。

 隊長にそんなものつけたら誰も逆らえないではないか。

 鬼に金棒とはこのことか。

 ちなみにステラがつけたら猫に小判といったところだ。

 

「アルスさん、今とても失礼なことを考えませんでしたか?」

「よく分かったな」

「はぅ!? そこは否定してもらいたかったです」

 ステラが少しへこんでいるが、まあすぐに立ち直るだろう。

 

「みんなー。ご飯できたよー」

 どうやらここでお楽しみの夕食タイムのようだ。

 今日も美味しくいただくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書18-アルスの日記―

 忘れないうちに書いておく。

 ティナに布団を引っぺがされてアリシアにボコボコにされてニーナに皆を呼ばれた。

 お前ら後でまとめて報復攻撃するから覚悟しとけよ。

 女王イシスに『星降る腕輪』を借りていざ『ポルトガ』へと張り切ったものの、やはり『魔法の鍵』は使わなかった。割とショックで足が重くって今日は久々の野宿をした。

 新技【火炎切り】を編み出したが魔法を相殺する時は盾で防ぐ時以上に足を踏ん張らないとダメだな。今後気をつけよう。

 今日の夕食はティナの作ったシチューで美味しかった。

 

 




作品の枠を超えての【火炎斬り】。
地味ながらMP0の時代は頼りにしていた人は多い筈。


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第二話「黒コショウを探せ」

昔流通がしっかりしていないので調味料は高価なものでした。
ただしこの小説では調味料がしっかり流通していることになっております。


 『ポルトガ』について王に船を申請したら、別に貸しても良いんじゃないと軽い返事が返ってきた。

 

 どうやら書類に目を通したりサインを書いたりと働き者の王のようだ。

 それにしても仕事の効率がよくとても手が早い。

 船の貸出料金は『アリアハン』に請求書を出し、『バラモス』討伐成功時の報酬として請求書を破棄して船をそのまま譲ってもらう方向で話はまとまった。

 

「うっ」

 だがポルトガ王の手が急に震えだして仕事の手が止まった。

 

「『黒コショウ』がきれた……誰かコショウを……わしのコショウを!」

 大臣が何かを持ってくるとそれをボリボリと食べ始めると、王の手の振るえが止まりまたまた仕事をし始める。

 

「もうすぐ王の『黒コショウ』が切れてしまう。どうか鉱山の奥地東方にある『バハラタ』で『黒コショウ』を取ってきてはくれんだろうか。ポルトガ王の使いだと言えばブツを渡してくれる筈だ。もしも取ってきてくれるのなら請求書も必要なく船を貸し出そう」

 

 

 大臣の話はとても気前の良い話だが気になることがある。

 

 

「本当に『黒コショウ』なのか?」

「世の中には知らない方がいいこともある。中身を確認せずに『黒コショウ』を持ってきてくれたまえ」

 

 どうやら船は口止め料でもあるらしい。

 深く考えないようにしよう。

 

 露店を見回っていると隊長が『鋼の鞭』をうっとりとした顔で見ている。

 見なかったことにしよう。

 そう思ったのに隊長に呼び止められた。

 

「少年は【くろうにん】で体力があるんだったな」

 聞かなかったことにしよう。

 

「待て待てほんの冗談だ」

「本気の目でいわれても説得力がないぞ」

 身の危険を感じたから“鋼の鞭”は買い与えないでおこう。

「しょうがない。このチェーンソードで我慢するか」

 隊長は自分の『鋼の剣』に鎖をつけていた。「いつ外れるか楽しみだ」とのこと。

「何の嫌がらせだよ。俺の失態を見せびらかしてそんなに楽しいのか」

「ああ、少年をからかうのは最近一番の楽しみにしている」

 今日の中で最高の笑顔を見せてくれた。

 

 いままではどこまでが本気か掴みにくい人だったが、多分これが本気なのだろう。

 人をからかうのがとても好きなようだ。

 しかもOKを出すと楽しんでそれを実行しそうなのが一番怖い。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! 見てみてみて槍に鎖つけてみたよー」

「お前もかっ」

 頼むから普通の武器を使ってくれ。

 皆して武器が飛んでいって戦えなくなったらシャレにならない。

 

 とにかくこれ以上武器に変なオプションがつく前に『ポルトガ』を出て鉱山に向かった。

 場所は大臣に教えてもらえたから迷うことは無い。

 

 

「あんたが王様の使いか。本当は友が溺れていくさまなんてみたくねぇが……国を支えるためだ。道を作るぜ」

 妙に渋いドワーフだ。「セイヤー!」の掛け声と共に拳で壁に穴を開ける。

 なんて怪力だ。

 

「少年、今のなら私も出来るぞ」

 隊長が壁を攻撃しようとしていたから止めておいた。

 『ピラミッド』の床と扉を破壊できる隊長だ。鉱山が崩れかねない。

 鉱山を抜けてしばらく歩いていくと綺麗な川が流れる小さな村にたどり着いた。

 ここが『バハラタ』のようだ。

 

 いつもは村山地に着いたら各自自由行動で俺がとった宿に後で集合するのだが、もう夕暮れ時なので店が閉まる前に分担作業だ。

 

 ティナとアリシアが宿をとってニーナとステラが黒コショウの入手。

 隊長に何やら街が騒がしいので情報を集めてもらい俺は皆の武器防具を買い揃える。

 何か事件に巻き込まれてもこのパーティー分担なら皆後で合流できるだろう。

 

 

 

 『鉄の盾』を買ったばかりなのに『魔法の盾』が売ってる。

 隊長は盾なんて要らないと言っていたからニーナとティナに買っておこう。

 後アリシア用に『理力の杖』も買っておこう。

 きっと戦士並の攻撃力が期待できそうだ。

 

 

 

 買い物を済ませて宿に戻ろうとしたら女の子がぶつかってきた。

 謝りもせず走り去って行ったからまさかと思って確認してみると財布が無い。

 盗られた感覚がまったく無かったから手慣れたプロの仕業だ。

 俺は慌てて追いかけると気づくのが早かったおかげで何とか追いつけた。

 

「捕まえたぞ、泥棒猫」

 

 髪は白い。服はボロボロの服。おそらく引き取り手がいなかった孤児だろう。

 ステラより小さな140センチくらいの女の子だ。

 モンスターがうろついている世の中だから珍しいことではない。

 ただあまりに少女の表情が無表情すぎて、手を掴んでも眉一つ動かさなかったことには驚いた。

 

 

 

「……殺すの?」

 

 

 

 静かな声で少女はそう言った。

 色々飛んですごい発想だ。

 

「いや」

「……捕まえるの?」

 まあ妥当な発想だ。

 

 村の自衛団に引き渡すのがセオリーだが少女のお腹がくーと鳴っていて、俺のこのお人よしは悪い癖だろう。

 広場にワッフル屋があったからそれを買ってあげていた。

 

 少女はその行為に相変わらず表情を変えずにただ俺の顔をじっと見ている。

 

「腹が減ったら辛いからな。今度は捕まるようなヘマすんなよ」

 本当は盗みなんてせずにちゃんと食べてもっと表情豊かになる生活を送れればいいのだが、そう簡単に生活を変えることはできない。

 簡単に変えられるのなら少女は盗みなんてしない。

 

 少女は無言のままワッフルにかじりついた。

 モグモグと止まることなくすぐに食べきると、じっと俺を見つめている。

 

「おかわりか?」

 そう聞くと首を縦に振る。

 

 でもワッフルだけというのも健康上どうかと思う。

 宿につれて行くべきだろうか。

 そんなことを考えているうちに2個目のワッフルもたいらげていた。

 

 

 

「……いい人?」

 

 

 

 どうもこの子は主語しかなくて読み取りづらい。

 

「……変態?」

「確かに見ず知らずの女の子にワッフルを買い与えるお兄さんはちょっと怪しいが変態じゃないぞ。断じてない!」

 俺がそう言うとまたじっと俺を見つめてきている。

 

 

 喋らない奴はどうも扱いが分からない。

 

 

 おせっかいかもしれないけど俺はこの少女を放っておく事ができなくて宿に連れ帰った。

 

「アルスさんお帰りなさい。『黒コショウ』は店が閉まっていて受け取れませんでした。どうやら店主の娘さんが誘拐されてしまったみたいで」

「その誘拐事件で村中騒いでいるみたいだな。ところで少年、その可愛いらしい少女はどこで誘拐してきたのだ?」

 隊長の冗談交じりの一言で皆の目が連れてきた少女に行く。

 

「あんたの仕業か誘拐犯っ!」

 当然ながら事情を放す前に先手でアリシアに殴られた。

 

「待て待て話を聞け。というか考えろ。俺達がこの村に来る前から村が騒がしかっただろ。もしもこの少女がさらわれた娘だとしても俺が助けたという選択肢はないのか」

「そうだよアリシアちゃん。アルスはそんなことする人じゃないよ」

「でもアルスさんって結構スケベですよねー」

「はわー、これはもう真相はこの子から聞くしかありませんヨ。ねぇねぇねぇねぇアルス君に何かされた?」

 ニーナが目線を少女に合わせるように腰を少しだけ低くして離しかけた。

 

 

 

 

「……ワッフル買ってくれた」

 

 

 

「はわ!? これはまさしく誘拐の手口! まさしく若さゆえの過ちだね。みとめたくないね。っていうかこれって犯罪?」

「ア ル ス……あんたはっ!」

「そうじゃなくってお腹を空かせてたからパンのヒーローのような振る舞いをしただけでだな、お前も何かフォローしてくれよ!」

 

 俺は少女に目線を送るが興味が無いのか相変わらずの無表情でただ立っている。

 あー、あれか。

 へたなおせっかいは身を滅ぼすだけってか。

 なんで俺はこうも【くろうにん】かねぇ。

 

 俺は散々アリシアにたこられて(面白半分にニーナと隊長も参加)ボロボロになっているところ、少女のお腹が鳴ってティナが「ご飯にしよう」と上手く場をまとめてくれた。

 

 皆の食卓で少女の名前などを聞いてみるが少女は食事にしか興味が無いのか食べるだけで答えてくれない。

 とりあえず隊長の部屋においておくことにした。

 

 

「すまない少年、頭をなでようとしたら逃げられてしまった」

 らしい。

 まあ今日はお腹いっぱい食べられたみたいだしよしとしよう。

 明日は攫われたコショウ屋の娘を取り戻しに盗賊のアジトに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書19―アルスの日記―

 『ポルトガ』で船を手に入れる為に『バハラタ』まで『黒コショウ』を取りにいったが、誘拐事件があり店が閉まっていた。

 『魔法の盾』を購入した帰り道に少女に財布を盗まれて、捕まえたら腹が減っているようだったので宿に案内したら皆にたこ殴りにあった。お前ら事情を聞け。

 で、隊長が悪戯をしようとして逃げられてしまったらしい。この少女も気がかりだが今は誘拐事件の解決が先決だ。速いところ『黒コショウ』を手に入れて船を貸してもらおう。

 

 




不愛想なロリっ子盗賊登場。
お巡りさんこの勇者です。


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第三話「カンタダ再び」

くろこしょうを飲むと元気になれるよ(目を反らし


 盗賊の正体に俺は正直驚いた。

 

 カンダタだ。

 誘拐なんて真似はしないと思っていたのに、なぜこんな事になっている。

 それに子分の人数が一人足りない。

 何かあったのか。

 

 

「見損なったぞカンダタ」

「何とでも言うが良い! こい小僧!」

 

 

 俺が強くなったと同様にカンダタも強くなっている筈なのに動きの切れが全然無い。

 まだ前回の方が動きが良かった。

 気迫が全く感じられない。

 

 もしも前回の気迫でこの強さだったら補助魔法なしでは辛かった筈だ。

 なのに補助魔法を無しで正面から押せてしまっている。

 

 

「へっ、強くなったな」

「あんたが弱くなっただけだ」

「……そうかもな」

 

 

 剣と斧がぶつかり合う。

 子分は隊長達が倒したから後はカンダタだけだ。

 カンダタは前回と違い負けを望んでいる。

 

 【火炎切り】が決めてになってカンダタは膝をつき、また命乞いをしている。

 

 俺が思っていたほど大物じゃなかったのか。

 仲間の為に動いていた訳じゃないのか。

 分からない。

 俺はどうすればいい。

 

 一瞬このまま剣を振り下ろそうかと迷ったけど剣が重い。

 どんな悪人でも命は大切だ。

 それにもう少しカンダタを信じてみよう。

 

 

「また許すのか少年は」

 隊長は溜息をついていたがどこか満足そうだった。

 俺の選択肢は間違ってないよな。

 カンダタが次は前のカンダタに戻っていることを祈りながら後姿を見送った。

 

 

 

 そう、俺はこれでいい。

 甘いままのお人よし勇者でいいんだよな?

 

 

 

 カンダタの罪を前回許してしまったことで、今回の誘拐に繋がってしまった気がして少しへこんだ。

 

 

 コショウ屋に行くとお礼として『黒コショウ』を貰えた。

「娘の命の恩人だから忠告しておきますけど……絶対に舐めたり食べたりはしないでください。こっちが普通の『黒コショウ』ですから」

 

 俺達用に普通の『黒コショウ』も貰った。

 普通じゃない方は空けずにそのままポルトガ王に渡しておこう。

 おそらく麻薬か何かの摂取したら不味い成分が含まれているに違いない。

 

 ティナが間違えて使わないように危険物のラベルを貼って、どういうものかを説明したらティナとステラが苦笑していた。

 

「とりあえず今日は自由行動。俺はまた羽を外させてもらうぞ」

 少しだけたそがれる時間がほしいから一人になった。

 

 

 沈む夕日が俺の心と同じでとても悲しそうだ。

 ってなんだこのポエムは。

 こういう沈んでいるときこそ楽器の出番だろ、俺。

 

 ギターを弾いてみるが何だか切ない曲になってしまう。

 ヴァイオリンとオカリナも似たり寄ったりだ。

 どうも俺の音楽は気分に影響されすぎてダメだな。

 

「やれやれ、どうしたものか」

 時間を持て余した俺は楽器をしまい芝生に寝っ転がる。

 何も考えたくなくて目を閉じて、ただただ風を感じることにした。

 

 

 

 

 

 

 ガサリ、ガサリ、と芝生を踏みしめる音が近づいてくる。

 

 

 

 その物音に目を開けると昨日の少女がいた。

 また無表情で俺を見下ろしている。

 無言だが少女のお腹はくーと鳴っていた。

 どうやら昨日の一件で俺を餌場として認識したらしい。

 

「何か食うか?」

 くーと少女の代わりにお腹が答えた。

 

 携帯食を使って簡単な手料理を作ってやることにした。

 少女は俺ではなく作られていく料理をじっと見ている。

 

「俺はアルスっていうんだ。お前は?」

 聞いてみたが答えてくれないし見向きもしない。

 おせっかいで与える印象なんてこんなもんだ。

 俺はここからすぐ旅立たないといけないし、この少女は食べ物を求めているだけで俺に興味が無いからついては来ない。

 

 

 それが分かっていても悔しい。

 

 

 アリアハンという国全ての人間を友達に出来たこの俺が、こんな小娘一人の返事一つもらうことができない。

 所詮は勇者の肩書で仲良くなっただけなのだろうか、仲の良い振りをしているだけなのだろうか。

 そんなふうには思いたくなくて、嫌な考えを振り払う。

 

 勇者なんかではなく俺だから皆と仲良くなれたのだ。

 仲良くなろうと駆けまわって仲良くなったのだ。

 

 そう思うと俺のハートが久々に燃えてきた。

 絶対こいつと会話してやる。

 とりあえず今日は餌付けしながら質問攻めにしてみたけど効果はいまひとつだ。

 食事が終わったら猫のようにぴゅーっと逃げていった。

 初日なんてこんなもんだ。

 焦らない焦らない。

 

 

「アルス元気でたみたいだね」

「フラグ立てるのに落ち込んでられるか」

 相変わらずティナはへこんでいた俺の心配をしてくれていたようだ。

 

 しばらくはこの村で少女を喋らせるのが目的になった。

 アリシアがじと目で見てくるが、俺はロリコンじゃないからそこのところは間違えるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書20―アルスの日記―

 カンダタからコショウ屋の娘を救出して無事『ぶつ』を手に入れた。

 しかしカンダタはなぜ人攫いなんてしたのだろうか。きっと俺と違ってもてなかったのだろう。

 さてハーレム状態の俺な訳だけど口すらまともに聞いてくれない少女が出現した。こいつは俺のアイデンティティークラッシュだ。

 絶対に喋らせてやる。

 

 




悪人をさばかずに許す以外を選択することしかできない勇者はお人好し。
カンダタの子分が一人減っている理由などなど後々回収します。


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第四話「ポーカーフェイスキラーを取得せよ」

ロリっ子をお持ち帰りするお話。


 朝起きたら隊長に特訓をつけてもらい昼まで外のモンスター相手に金稼ぎ。

 昼から夕方までは皆の特訓に付き合って、夕方から夜にかけてポーカーフェイスキラータイムだ。

 

 とにかくあの少女は夕方から夜は広場にいる。

 その間に餌付けしながら話し掛けるのだ。

 

 初めの三日間は同じような感じだったが、俺の武勇伝(冒険の書)を語るようになってからは食事が終わっても逃げずに聞いてくれるようになった。

 

 今日で少女とコミュニケーションをとり始めて一週間。

 俺が『アリアハン』から旅立ってから1ヶ月近く経つ。

 こんな所で俺は一体何やってるんだろうと思い始めてきた。

 

 合間を見て『ポルトガ』に『黒コショウ』は届けてあるからもう船は自由に使える。

 ついでに操縦の仕方なども勉強中だ。

 

 勉強の成果もあり大体は動かせるようになってきた。

 主に俺と隊長の手の空いている方が舵を取って後は帆なり何なり手の空いている奴がやると適当だが動かせるので問題ない。

 既に船のノウハウをマスターしている隊長から教わることは多かった。

 淑女のたしなみだと笑っていたが、一人で『バラモス』を倒す為の移動手段として昔から勉強していたのかもしれない。

 

 船は部屋も多いしキッチンもあるしでティナは大喜びだ。

 食料さえちゃんと詰め込めば宿としての機能も働くだろう。

 

 

「ってな訳でここまでが俺の今日までの冒険だ」

 日も落ちてきたし今日はここまでだろう。

 いつもこの時間に俺は話を切って少女も話が終わったことを察すると一人でどこかに行ってしまう。

 それなのに今日は少女が動こうとしない。

 

 

 

 

「……楽しい?」

 

 

 

 それは冒険が楽しいかという意味だろうか。

「ああ、苦労はたくさんあるだろうけどな」

 少しも楽しくなかったらきっと世界を救う為でも、仲間を救う為でもきっと途中で挫折してしまうと思う。

 仲間と一緒に居て楽しいから俺の旅は続いているんだ。

 そう、信じている。

 

「……そう、楽しいんだ」

 相変わらず無表情なのにどこか嬉しそうにも見えた。

 それにたったこれだけの会話だが一番長く続いた会話だと思う。

 今なら教えてくれるかもしれない。

 

「改めて自己紹介しようか。俺はアルス。お前は?」

「……フィリア」

 少し間をおいたが今度はちゃんと答えてくれた。

 笑顔にさせることはできなかったが大きな進歩だと思う。

 更に今日はここまでと言って船に帰ろうとしたら俺の袖を掴んで放そうとしない。

 

 どうやらこいつ、フィリアに懐かれてしまったようだ。

 しょうがないからそのまま船に連れて行くことにした。

 

 

 

 

 

 実は親がいたらどうしよう。

 

 

 

 

 

 で、だ。帰ってきた俺に対してアリシアはこんなことを言ってくれた。

 

 

「このロリコン」

 

 

 やはりおせっかいは苦労を生むだけらしい。

 だけどフィリアを喋らすことができたのは少しだけ自分に自信を持つことができた。

 これからも苦労するだろうがおせっかいを続けていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書21~27―アルスの日記―

 一日目:みんなと特訓しながら少女に話しかけてみる。効果はいまひとのようだ。

 二日目:みんなとトレーニングした後『ポルトガ』で船を入手してから少女とコミュニケーション。まだ無視される。

 三日目:今日も変わらないがどうやら少女は夕方~夜にかけて広場に出現するようだ。

 四日目:俺の武勇伝を語ったら割りと興味があるみたいだ。一応聞いてくれた。

 五日目:修行時代も語ってみた。近付いても逃げなくなった。

 六日目:そろそろ一週間か。アリシアの目が痛い。でも俺を見かけると向こうからやってくるようになった。あと少しでフラグが立ちそうだ。

 七日目:ようやく自己紹介が成立した。名前はフィリアというらしい。ただ俺に懐き過ぎてしまったみたいで離れようとしてくれない。野良猫にあまり餌のやりすぎはよくないらしい。アリシアの目は痛いしニーナと隊長にはからかわれるし、ステラはロリコンについて解説してくるしで散々だった。

 言っておくが俺はロリコンではないぞ。

 

 




カンダタの一件で自分の在り方に迷い、結局元の鞘に戻る話。
今読み直すとシーンを区切ってでも日記にある日にちのやり取りを入れてあげたかったなと思います。
これで基本職は全員仲間になりました。


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第五話「消えた時間」

本来アサシンダガーは一定確立ですが、この作品では【ザキ】属性となっております。
HPの高いイカにはザキに限る。


 海の魔物は戦い辛い。

 

 船に乗りこんで来たら楽だけど、大体は海の中から襲ってきて打撃や炎だとどうも戦いにくい。

 小船を下ろしてそれを足場に戦っているこっちの身にもなって欲しい。

 

 でもフィリアが隊長俺と続いて三位に続く強さだ。

 とにかく素早く身をかわして、直撃コースに入っても受身を取ったりナイフで捌いたりと防御能力も高い。

 

 何よりも初期装備が『アサシンダガー』を装備していたのが大きすぎる。

 海のモンスターのほとんどがフィリアの攻撃で昇天してしまうのだ。

 

 僧侶のティナ、少しは見習って【ザキ】でも覚えてくれ。

 

 だけど正直皆よく頑張ってくれている。

 だから油断したのかもしれない。

 

「【火炎切り】!」

 『大王イカ』を切り裂いたこの一撃が俺の運命を大きく左右した。

 

 ついでに言うと、『痺れクラゲ』の大群に襲われてティナとニーナとステラが麻痺して、敵を払いのける為に【ベギラマ】を撃ったのも大きかった。

 

 ようは【MP】が尽きた訳で、ついでに言うとアリシアが『大王イカ』に捕まったのを助けに飛び出して、『大王イカ』に剣を突き立てたまま一緒に海の藻屑になったのが一番大きい。

 

 アリシアは装備が身軽な分すぐに無事船に回収されている。

 だけど俺の『イシス』で買った鉄セットはとても重い。

 頼みの綱の【ルーラ】が使えなくって慌てて鎧を脱ぎ捨てようにも外れてくれない。

 

 

 

 苦しい。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 気が付くと教会や城ではなく浜辺にいた。

 鎧は脱げたのか着ていない。

 仲間の姿も無い。

 運よく俺はどこかの浜辺に打ち上げられたのだろうか。

 

 【HP】はなぜか回復しているが、休憩時間が足りなかったようで【ルーラ】が使えない。

 

 共有の道具袋は船の中だし、もちろん俺のふくろは武器防具と楽器しか入っていない。

 

 

 

 

 

「気が付いたんだ」

 

 

 

 

 誰かの声がしたのに姿が見えない。

 

「死んだ後棺おけにつめて送り返してもよかったんだけど、水死体ってなんか嫌だったからね。ちょっと規則違反だったかな?」

 

 女の子の声だ。

 そして俺はこの声を聞いたことがある。

 ゆっくりと人型のシルエットが見え始めた。

 

 姿を消す魔法【レムオル】だろうか。

 相手の紫色のマントが風でなびいた。

 

 その姿はまるで、いや俺の服装と瓜二つだ。

 髪も俺ほどではないが癖っ毛が有り立っていて、遠くや暗いところで見ればティナ達でも見間違えるだろう。

 しっかり見れば胸の膨らみや染み一つない綺麗な顔つきから別人だと気付ける筈なのに、しっかり見てもなお鏡を見ているような錯覚に陥ってしまうのはなぜだろう。

 

 

 

 

 

「久しぶり、と言っても覚えてないか。私は教会からの指令でアルス君達の棺おけや全滅した時の処理を任されているアリスだよ」

 

 

 

 

 アリスと名乗る少女は笑ってみせた。

 ずっと仲間や俺が突然棺おけになるのが少し不思議だと思っていた。

 【棺桶の加護】とはそういうもので、精霊の加護であると教えられていたから、原理はわからなくてもそう言うものだと納得してきた。

 

 

 まさかそれが【レムオル】で姿を消した黒子が存在が行っていたとは驚きだ。

 

 

「後、冒険の書に無理が出た時の修正もしているかな。勇者と黒子の位置が逆転したことがあってアレはちょっと焦ったかな」

 

 いつのことか心当たりが無い。

 ない筈なのに、ズキリと頭に痛みが走る。

 まるで俺の脳が思い出すのを拒んでいるかのように、思い出そうとすると痛むのだ。

 

「待て、そもそも【レムオル】は魔物には丸見えの筈だ。もしも棺おけ管理で一緒についてたんなら」

「私はアルス君の影だからね。あ、影と言っても別人だよ? ただ永遠の裏方って言うか……()()()()()()()()()()()()()()()()、時にはアルス君と入れ替わってるから。【レムオル】の最上位魔法って感じかな。私は姿をみせるまで誰の記憶にも残らない。初めからいなかったことになってるの。今なら私の顔、思い出せるでしょ?」

 

 

 アリスがそう言うと頭の痛みが無くなり、失われていた記憶が戻って来る。

 ティナの後アリシアの前に友達になった少女。

 雰囲気はかなり違うが今はなぜか少女の姿を、声を賢明に思い出すことが出来る。

 名前はアリスだ。

 絶対に忘れることのないくらい仲が良かった俺の友達。

 

 これが【レムオル】の最上位魔法の効果か。

 効果を解くまで他者との関係を無かったと錯覚される魔法といったところだろうか。

 そんなとんでもない効果だとしても、俺は大切な友達のことを忘れていた。

 

「……アリス、お前はいつからそうやって存在を消していた。一体いつから自分の人生を消してきたんだ」

「あ、やっぱりアルス君は怒るか。でもね、私がいなかったらもしもの時……勇者がいなくなっちゃうから。それに誰でもこの魔法を使えるわけじゃないし」

 

 海を泳いで渡ろうとしたニーナを棺おけにつめて海岸に運んだのは多分アリスだろう。

 それに俺と入れ替わるという言葉も気になるところがある。

 

 たとえば冒険の書3。

 俺の書いた嘘記事だが、俺の記憶では『マダラグモ』のところに行って臆病な『マダラグモ』に軽く威圧をかけることで引き下がってもらった。

 そして『ポイズントード』に襲われたアリシアを見守って毒けし草をそっと置いた。

 

 この二つの事実があり【ルーラ】で時間を短縮したことになっているが、それでも時間的に無理が出てくる気がしてきた。

 

 二つの事件はほぼ同時に起こってアリシアの後すぐにニーナが帰還した。

 『マダラグモ』や『ポイズンポード』から目を放した記憶は俺には無い。

 

 

「その矛盾が私。私はアルス君がいけなかった方に行ってアルス君と同じ行動を取った。そして存在を消せばあら不思議。その消えた時間を埋め合わせるためにつじつま合わせが出てくる。そう私のこの会話すらつじつま合わせかもしれないね」

 

 

 それが本当なら何度もアリスに助けられたことになる。

 だけどこれでは勇者を生かすための生け贄と同じだ。

 

「優しいアルス君は心を痛めただろうけど、それを知っている私が何でこんなこと話したか分かる? 分かるよね。アルス君は頭も良いから」

 

 存在を消す魔法。

 それを使われたら多分、俺の記憶からこの会話は無かったことになる。

 

「大丈夫、ちゃんと【ルーラ】で送ってから消えるから。つじつま合わせも少し休んだから【MP】が回復した……なんてのはどうかな?」

 

 アリスはにっこりと笑いながらそう提案し明るく振舞っている。

 だけど悲しくない訳が無い。

 寂しくない訳が無い。

 そうでなければ消え去るのに話し掛けたりなんてしない。

 

 

 

 

 彼女はどうしようもなく寂しくて、切なくて、孤独の中を苦しんでいる。

 

 

 

 例えすぐに消えなければならなくっても、誰かと話をしたいんだ。

 俺は友達のことを忘れたくない。

 

「世界が平和になったらまた会えるから」

 

 こんな存在が認められない呪縛に縛り付けたくない。

 それなのにどうしようもなくって、目の前から少女の姿が消えて、名前すらもう出てこなくて、つじつま合わせで俺の記憶が変わっていく。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書28―アルスの日記―

 今日は『大王イカ』に不覚を取って海に落ちた。

 おかげで武器防具は捨てることになってもったいない。無事に浜辺に打ち上げられたのは運がよかったか。

 少し休んでから【ルーラ】で船に飛んだ。俺ほどの魔法コントロールが出来れば動いている船だって多少脳内座標と存在位置がずれていても飛ぶことができる。

 だけど何か大切なことを忘れている気がした。

 

 

 




【棺桶の加護】はこの作品独自のでっち上げ設定です。
勇者オリテガを失い、切羽詰まった人類がとっさ最後の手段が【棺桶の加護】。
主に死体を破損させないように力尽きた者を棺桶で保護し、もしも勇者達が全滅した場合は安全な街まで運んで蘇生させるのが役割です。

精霊が勇者オルテガを守らなかったことから、次の勇者であるアルスは精霊のみに頼らず、倫理を踏みにじるような外法手段を取った設定。
誰もが【棺桶の加護】を使える訳ではなく、適正のある者が勇者を死なせない為に自分という存在を殺して精霊の代わりを務める禁じ手でした。
そんな存在となり影ながらアルス達を見守ってくれているのが、今作最後のヒロインであるアリスでした。


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エピローグ

忘れても、記憶に残らなくても、想いだけはきっと残る。
勇者とはどんな理不尽なことも諦めず勇気ある者なのだから。


 船を手に入れたものの明確な目的がまだ無い。

 

 『ポルトガ』でまずは灯台を目指すといいと言われたけど、せっかく『バハラタ』方面に船を持ってきたんだから『ダーマ神殿』を目指すとしよう。

 

 船の航海に慣れてきたら灯台周りで『バラモス城』を確認しにいけばいい。

 

 俺は広いキッチンで料理をしながら今後の予定を立てていると、足元にちょこんとフィリアが座った。

 船にいる時はよく「何か話し聞かせて」とちょこちょこと猫のようにやってくるが、食事の方が大事なのか料理を作っている時は大人しく待ってくれている。

 

「あれ? アルス、言ってくれれば私が作ったのに」

 これから料理を作ろうと思ったティナがエプロン姿でキッチンに入って来た。

 いつもはティナにまかせっきりなのに今日はなぜか作りたい気分だ。

 そういう時もある。

 

「……ごはん……」

 

 ティナに構って手を止めたらフィリアがそう呟いた。

 お腹が空いているから速く作れと少しお怒りの様子だ。

 チンチンチンとフォークとナイフを何度も何度も合わせて鳴らしている。

 

 適当に人数分作ってティナにテーブルに並べてもらう。

 フィリアも側にいるなら少しは手伝って欲しい。

「……はやくー、はやくー……」

 もうフィリア席に座り、皆が揃うのを待ちながらチンチンチンチンとまた食器をならしている。

 

「はっはっは、フィリアは可愛いな。おっと、もちろんステラも可愛いぞ」

「はわ!? マリアさん放してくださいっ。私の席はあっちであってマリアさんの膝の上では……ひゃっ! アルスさん、笑ってないで何とかしてくださいよ~」

 隊長がステラを自分の膝の上に乗せて撫でまわして遊んでいるがこのままではいつまでたっても食事が始まらない。

 フィリアが頬を膨らませながら食器を鳴らす音が大きくして食べたいアピールをしているので、じゃれ合いを止めてしっかり席に座ってもらおう。

 

 さて皆そろったところで食卓を囲んでいただきますだ。

 

 

 

「あんた、一つ皿が多くない?」

 アリシアの言うとおり皿が一つ多い。

 空いている席に食器共々俺が用意しておいた。

 

 もちろん俺の高速おかわり用の皿だ。

 食い終わったらすぐにおかわりの出来るようにしておくのだ。

 うむ、俺って頭いい。

 ティナも俺の意図をわかってくれたのか、「アルスのご飯久しぶりだね」と微笑みながら水まで用意してくれている。

 

 今日も皆と一緒に食事が出来て平和に過ごせた。

 おかわり用の皿がアリシアかニーナかフィリア辺りに食われてしまったが、まあいいだろう。

 

 これからも皆と共に頑張っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書28―アルスの日記―

 今日は『大王イカ』に不覚を取って海に落ちた。

 おかげで武器防具は捨てることになってもったいない。無事に浜辺に打ち上げられたのは運がよかったか。

 少し休んでから【ルーラ】で船に飛んだ。俺ほどの魔法コントロールが出来れば動いている船だって多少脳内座標と存在位置がずれていても飛ぶことができる。

 今日も悲惨な一日だったけど、たまには自分で料理を作ってみるものだ。

 

第四章「ポルトガ編・完」

 

 




冒険の書の最後の一文がアルスの想いによって書き換えられました。
これでいてアルスはアリスのことを覚えていません。


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第五章「想いの欠片編」
プロローグ


ダーマ神殿に辿り着くとついついレベリングをしてしまうもの。


 『ダーマの神殿』にたどり着いた俺は転職を申し込んでみた。

 

「大魔王に転職したいんだが」

「たわけものが」

 

 当然怒られた。

 転職したあかつきには世界の半分をくれてやろうと説得してみたが、アリシアに頭を叩かれた。

 

 

 うむぅ、大魔王は最大【HP】が増えて良いと思ったのだが。

 

 

 しょうがないから誰か転職したい奴はいないか聞いてみたけど、誰も今の戦闘スタイルから変えるつもりは無いらしい。

 

「……てんしょくって、なに?」

 そもそもフィリアなんて『ダーマの神殿』がどういう所かも理解していないようだ。

 

「転職と言うのはですね、ダーマの祝福を受けることで本来持っていない能力を開花させる神聖な儀式なんですよ。今フィリアちゃんは盗賊だから魔法は使えませんが、魔法使いの祝福を受ければ魔法使いの魔法を、僧侶の祝福を受ければ僧侶の魔法が使えるようになっちゃうんですよ。凄いですよね~。もちろん転職しても努力をしなければ何も変わらないですが、人間の可能性を引き出すありがたい祝福なんです。人間を『真理』に近づけさせるとも言われており~」

 

「……ステラ、せつめいながい」

「はわ!? フィリアちゃんにもダメ出しを受けてしまいましたっ!」

 

「それよりステラ、本当に武道家にならなくていいのか?」

「アルスさん! 私は元から武道家ですよぅ~! 何でそんな意地悪なこと言うんですか!?」

 

 ステラは本当にいじっていて楽しい奴だ。

 さて、からかうのはここまでにしてこれからの転職方針だが、もしも『悟りの書』を見つけたらティナを賢者にでもなってもらうか。

 でもティナには速めに回復魔法を覚えてもらいたいから止めておいた方が良いかもしれない。

 

 

「すみません」

 だけどティナがダーマのおっさんに話しかけていた。

「僧侶に転職しようと思うんですけど」

「僧侶だな。まあ【なきむし】のティナにはちょうど良い職業といえよう」

 

 

 そういえばティナはなんちゃって僧侶だった。

 レベルは1に戻るがこれで【MP】はまともになって魔法も覚えてくれるだろう。

 

 アリシアもなんちゃって魔法使いだがこの攻撃力の高さは捨てがたい。

 このまま努力して魔法を覚えてもらおう。

 今日はティナのレベル上げもかねて遠くに見える塔でレベルでも上げることにした。

 

 

 そしてレベル上げの場、『ガルナの塔』で俺はなんと『メタルスライム』を目撃したのだ。

 普通に戦闘していれば『メタルスライム』1匹分の経験地なんてすぐに貯まるのだが、もしかしたらどこかに『メタルスライム』の住みかがあるのかもしれない。

 

 探している最中『ガルーダ』の大群が【ベギラマ】連発してきてビビったが、こちとら【ベギラマ】を食らうのはアリシアの誤射で慣れている。

 

 俺と隊長とフィリアの3人もアタッカーがいればすぐに倒せるのだ。

 誤射の少なくなったアリシアが【ベギラマ】を使えば、ニーナとステラだって残り一撃で倒してくれる。

 

 

「やべぇ、この大人数はすごいな」

 

 

 なんていうかザコには負ける気がしない。

 でも経験値が全然入らない。

 それに毎回俺が高速で指示を出さないといけないから正直疲れる。

 

「よし、俺と隊長なしで行ってみるか」

 

 フィリアはまだ俺としか馴染んでないからちょうど良い時期かもしれない。

 全滅しても俺がパーティーから抜けているからダーマ神殿に強制送還されるだろう。

 俺と隊長は今日ヒマをもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書29―アルスの日記―

 ようやくティナがなんちゃってから正式な僧侶になった。【MP】がちゃんと【賢さ】の二倍あるし魔法だって覚えてくれる。

 これで後はレベルが上がれば戦力になってくれるはずだ。というわけで今回の『ガルナの塔』は修行をかねて俺と隊長なしで潜ってもらった。

 全滅回数は一回と上々。みんな一回り強くなっていたがステラが「【ルーラ】怖かったですよぅ」と呟いていたのと、フィリアが「【ルーラ】楽しかった」と楽しんできた様子が謎だ。

 まあ『悟りの書』まで拾ってくれるとは正直驚いた。

 今日も俺が料理を作ってご馳走しておこう。

 みんなお疲れ様。

 

 




次回勇者抜きのレベリング。
何だかんだで成長して戦えるようになったのは日ごろの努力の成果でしょう。


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第一話「メタルスライムを追え」

今回はアリシアが苦労するお話です。


 アルスの変な思いつきで、私とティナとニーナとステラとフィリアだけで『ガルナの塔』に挑むことになった。

 

「ティナ、転職してからいくつくらい【LV】上がった?」

「えっと……今【LV10】みたい。何だかいっぱい魔法を使えるようになったよ」

 

 ティナはそう言って笑った。

 なんだか私もうかうかしてると呪文数でティナに負けそう。

 ここで頑張らないとね。

 

 とにかく私がリーダーだからみんなに指示出す側の人間って事だから、しっかり皆の役割を頭に入れておかなちゃ。

 

 ティナは今までどおり回復重視で強敵が出たら、【バギ】や今日覚えたらしい【ピオリム】を使ってもらおう。

 ニーナは接近で壁役をやってもらいたいけど何だか不安だな。

 ステラはいつもどおり牽制と弱った敵のトドメね。

 フィリアは強いみたいだけど、何だかアルスがいなくなったら興味なさそうにしてる。

 

 

 アルスの次にご飯を作るティナに懐いてるから、ティナに上手くフォローしてもらおう。

 

 

 この中で一番攻撃力があるのは私の魔法かな。

 最近アルスの特訓のおかげでずいぶん魔法のコントロール出来るようになったけど、誰かに誤射しないかまだ不安だな。

 

「ほらほらアリシアちゃん。考える前に行動行動。接近戦は私とステラちゃんとフィリアちゃんに任せて大きいので一掃しちゃってくださいヨ」

 

 それもそうだ。

 まずは考える前に塔の中に入ろう。

 

「あー、ちょいと待て」

 アルスが【ルーラ】でやってきた。

 ダンジョンまで移動できるなんて本当に器用な奴ね。

 やっぱり私達が心配で付いてくる気かしら。

 

「ピンチになったらこれ開け。ほんじゃあ頑張れよ」

 何か分厚い本を私に渡して【ルーラ】で帰っていった。

 ピンチの時にこんな分厚い本を読めって、いったい何を考えてんだか。

 気を取り直して塔に入ろう。

 

 塔に入るとさっそく『大くちばし』の群れが出迎えてくれた。

 確かこいつは二回攻撃するからまとめて倒すぞってアルスが言ってたっけ。

 

 私の【ベギラマ】とティナの【バギ】で勝つのは簡単だった。

 私達だけでも結構いけるじゃん。

 

 今度は『痺れアゲハ』二体と『ガルーダ』二体のグループだ。

「まずは『ガルーダ』から! ニーナとステレはそれぞれ別の奴。ティナとフィリアでアゲハ一体お願い!」

 『ガルーダ』が【ベギラマ】を打つ前に叩いて、私の【ベギラマ】で粉砕。

 『痺れアゲハ』の方もうまく一体倒せている。

 もう一体は皆で袋叩きだ。

 

 

「アリシアちゃんアリシアちゃんアリシアちゃ~ん! 『メタルスライム』だよ。てかてかだよ経験値だよ。宝箱に『銀の髪飾り』だよー」

 

 

 ニーナは相変わらず宝箱を見つけたらすぐに取りに走って行ってしまう。

 はぐれないか心配だけど、ニーナはなんだかんだでしっかりしているし大丈夫だと信じたい。

 

 『銀の髪飾り』は何だかまだ装備の古いフィリアに装備させてあげよう。

 『メタルスライム』は、

「逃がさずに追うわよ!」

 敵をセオリー通りに倒しながらも、逃げていく『メタルスライム』をひたすら追い続ける。

 

 逃げ足は速いけど出会った敵を瞬殺しながら追えば視界には捉えられる。

 このままアルスが目指していた『メタルスライム』の住みかに案内してもらおうかしら。

 

 

「アリシアさん待ってくださいよ~」

「アリシアちゃんちょっと待って」

 

 

 ニーナとフィリアはついてこれてるけど、少し運動音痴のティナとステラは辛そうだ。

 あちゃ~、皆のことも考えろよ私。

 メタルスライムは旅の扉に逃がしちゃったけど後で追えば良いか。

 疲れ気味の二人がモンスターに襲われる前に皆で合流しに戻る。

 

「もう、追いて行くなんて酷いですよ~」

「ごめんね、また迷惑かけちゃったよね。私足が遅くて……ごめんね」

 

 ステラの方はそこまで気にしている様子はないけど、ティナがうじうじモードに入っちゃった。

 

「あーもう泣かないの。『メタルスライムが旅の扉まで逃げるところは見たんだから追い詰めたも同然だって」

 

 アルスの苦労が少し分かった気がする。

 ティナはちょっとした事で自暴自棄になりすぎ。

 

「いや~、リーダーって大変そうだね。でもアリシアちゃん結構さまになってるよ」

 ニーナが「あはははは」と笑っているからきっと今の私の姿は【くろうにん】なんだろうな。

 私は【体力】よりも【賢さ】が欲しいんだけど。

 

 

 ティナをようやく慰めて旅の扉に進んだ。

 奥に進んでいくとロープが向こうの建物までビンと伸びている。

 

 後ろを振り返るとティナとステラが無理無理と言っているように首を横に振っている。

 いや、私もこんな所渡りたくないから。

 

「……あそこに、光ってるのいる」

 だけどフィリアがロープの先を指差した。

 そこにはメタルスライムの群れが走り回っている。

 倒せれば皆のレベルは上がりそうだ。

 

 

 

 

「……りゅう」

 

 

 

 

 フィリアが今度は上を指差した。

 指が刺される方を見上げると『スカイドラゴン』の群れがいた。

 まだ会ったことは無いけど強いらしい。

 というか強そう。

 

「アリシアちゃんアリシアちゃんアリシアちゃ~ん! 何か出たよ。強いのでたよ。ドラゴンだよ。しかも空を飛んでるなんて卑怯だよね。だよねだよね?」

 

 

「『スカイドラゴン』は【燃えさかる火炎】で広範囲に大ダメージを与えてくるそうですよ。飛竜族に属していて神話の中に出てくる竜の神様もこの飛竜族だったという説がありまして~」

 

 

 ステラの説明は無駄に長い。

 ようは炎を吐かれる前に倒しちゃえばいいだけじゃない。

 

「【ベギラマ】!」

 

 炎はまっすぐ飛んでくれて『スカイドラゴン』に直撃した。

 もう私絶好調だ。

 なのに煙が晴れると『スカイドラゴン』は無傷だった。

 

「【炎】や【ラリホー】は効かないですから皆さん気をつけてくださいね」

 ステラの長い説明を先に聞いておけばよかった。

 というか肝心なことは先に言ってよ。

 

 『スカイドラゴン』の大群が口をあけた。

 

 

§

 

 

「おお、勇者アリシアよ死んでしまうとは情けない」

 気が付いたら『ダーマの神殿』でアルスの顔が目の前にあった。

 どうやら全滅してしまったらしい。

 

「ちょっとあんなの出るなんて聞いてないわよ!」

「うは、生き返ってすぐに文句言うとは元気な奴だな。トカゲの一匹や二匹楽勝だろ」

「あんた三匹同時に火を噴かれてみなさいよ。絶対に死ぬから」

 一瞬のことであまり痛くなかったけど、怖かった。

 

 アルスがついてきてくれたら盾になってくれたと思うけど、そんな考えじゃダメ。

 私がアルスも守るって決めたんだ。

 

「絶対にアレを突破してメタル狩りしてやるっ」

 

 みんなをアルスのGで復活させてもらってから再度『ガルナの塔』に挑む。

 まずはピンチになったら開けと言われた本を開いてみる。

 1ページ目には5Fに出てくる『スカイドラゴン』の攻略法が書いてあった。

 【ヒャド】系と打撃で倒せない場合はティナに【ニフラム】を唱えてもらえば良いらしい。

 経験値は入らないけど面白いように効くそうだ。

 

 別のページには別のモンスターの攻略や皆の特徴を生かした作戦とかがびっしりと書かれている。

 

「あいつ冒険の書と一緒にこんな物書いてたんだ」

 まだ出会っていないモンスターも図鑑や人から仕入れた情報を元に既に作戦が用意されていた。

 私達が思っている以上にアルスは頑張っているみたいだ。

 私ももっと頑張らないと。

 このアルスの書いた攻略本を参考にして進んでまた5Fにたどり着いた。

 

「ティナ!」

「えっと……【ニフラム】!」

 本当にドラゴンがこんな簡単にやられるなんて思いもしなかった。

 これで『スカイドラゴン』はもう怖くないけど、問題はロープだけしか足場の無い向こう岸までどう渡るかよね。

 

 【ルーラ】みたいに飛んでいければ皆安全に渡ることができるのに、イメージした場所にしか飛べないからな。

 

「向こう岸をイメージして使うのはどうでしょうか?」

「それだわ。ナイスだよステラ。【ルーラ】!」

 

 私なりに頑張って向こう岸をイメージした。

 魔法のコントロールはあいつのおかげでうまくなったからきっとできる。

 

 

 

 

 

 

 皆で天井に頭をぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 一瞬あいつの顔を思い浮かべたから多分『ダーマの神殿』向かって飛んじゃったみたい。

 あーもう、私ってダメダメだ~。

 

「ねぇねぇアリシアちゃんアリシアちゃん。【ルーラ】って自由に飛べないの?」

「飛べたらこんな苦労しないわよ」

「う~ん。アリシアちゃんの最近やってる魔法をゆっくり動かすのがあるからいけると思うんだけどなー」

 魔法なんだからもっと夢を広げようよ、なんてニーナが無茶を言ってくる。

 

 でも行きたい場所に飛んでいける魔法があるんだから、自由に飛ぶだけの魔法があってもいい気がするんだけどな。

 ちょっと魔法の参考書をめくってみるけどそれっぽいのは載ってなかった。

 

 もう一回頑張って向こう岸に【ルーラ】したら正面の壁にぶつかったけど何とか渡れた。

 でも途中でステラを落としちゃったようで私は無我夢中でロープ下に飛び降りる。

 

 

 ステラが泣きながら声にならない悲鳴を上げている中、何とか【ルーラ】で落ちるステラを追い越して、地面すれすれで再び【ルーラ】で元の足場に戻ることが出来た。

 

 

 今日の収穫は『銀の髪飾り』と『悟りの書』、『メタルスライム』が3匹。

 それと【ルーラ】は少し上手くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書29―アルスの日記―

 ようやくティナがなんちゃってから正式な僧侶になった。【MP】がちゃんと【賢さ】の二倍あるし魔法だって覚えてくれる。

 これで後はレベルが上がれば戦力になってくれるはずだ。というわけで今回の『ガルナの塔』は修行をかねて俺と隊長なしで潜ってもらった。

 全滅回数は一回と上々。みんな一回り強くなっていたがステラが「【ルーラ】怖かったですよぅ」と呟いていたのとフィリアが「【ルーラ】楽しかった」と楽しんできた様子が謎だ。

 まあ『悟りの書』まで拾ってくれるとは正直驚いた。

 今日も俺が料理を作ってご馳走しておこう。

 みんなお疲れ様。

 

 何かあんたの苦労少し分かった気がしたわ。

 アルス君がいなくてアリシアちゃんが寂しがってたよ♪

 そんなこと無いから勘違いしないでよね。

 アルスお料理上手になったんだね。昨日も今日も美味しかったよ。 ティナより

 人の日記に寄せ書きというのはなかなかドキドキしますね。お料理美味しかったです。

 りょうが少なかった。

 

 




闘えるようになってもクセが強いのは相変わらず。
そしてアルスのことを考えてしまい天井に皆と頭をぶつけることになったアリシアは照れ隠しやツッコミに拳が飛ぶも可愛いく良い子です。


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第二話「ポパカマズの想い」

ルーラ登録の出来ないあの村とオルテガの兜の話。


 昨日の冒険でティナが【ベホイミ】を覚えてくれたから、今日は先に進んで『ガルナの塔』の奥にある『ムオルの村』に寄ってみた。

 

 こういう田舎にも困っている人は居る筈だ。

 地道な知名度アップは欠かせない。

 

「ああ、ポパカマズさんではないか。旅の調子はどうだ?」

 俺はこの村に寄ったことが無いのに、なぜか村人が俺を変な名前で呼んでくる。

 

「少年、変な偽名でどんないやらしい事をしてきたのかな?」

 いつもながらすぐに隊長にからかわれた。

 身に覚えが無いんだから勘弁してほしい。

 

 だけど村人全員が俺のことをポパカマズと呼んでくる。

 人望が厚い人物のようだ。

 そんなに俺と変な名前の奴とそっくりなのか。

 

「ポパカマズさん。奥さんいるのにそんなに若い子引き連れて大丈夫ですか?」

 宿をとろうとしてもこれだ。

 いや俺奥さんいないから。

 

「子供の顔は見に行きましたか?」

 いやいやいやいや、子供もいないから。

 

 

 

 

 

「というかお前ら信じてひそひそと俺の後ろで話をするなっ」

 アリシアとニーナがひそひそと後ろで何か話しており、ティナはおろおろとしている。

 首を傾げるフィリアにステラが「こ、コウノトリさんが運んでくるんですよ」と斜め上のフォローをしていた。

 隊長にいたっては「若さゆえの過ちか」なんて言っているけど、今のこの状況を全力で楽しんでいるのか珍しくもクスリと笑いを堪えきれずにいる。

 

 

 

 

 

 何だかとんでもない村に足を運んでしまった気がする。

 ここは何としてもポパカマズという人物を探し出すか正体を掴んで、これが濡れ衣だということを証明しなければならない。

 

 

「ねえねえ、お兄さんはポパカマズさんじゃないでしょ? 似てるけど少し雰囲気が違うよ」

 

 分かってくれる少年が一人居た。

 どうやら昔ポポパカマズという人が村の前で倒れていて手当てしたらしい。

 

 

「きっとポパカマズさんが言っていたアルスさんだね。これ、返すね」

 

 

 それはボロボロの兜だった。

 写真で見覚えがある。

 俺の親父が旅立った時にアリアハンの皆が作ってくれた兜だ。

 

 

「息子が来たら渡してくれって」

 

 

 もしかしたら親父は自分が旅の途中で力尽きるかもしれないと気付いていたのかもしれない。

 だからあとを継ぐことになる俺に残せる何かを誰かに託したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 色々な想いがこもった兜はとても重かった。

 会ったことは無いけど親父はきっと偉大な男だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「この村は少し違うから浦島太郎になる前に旅立ったほうが良いよ」

 よく分からないが村を出ることを勧められた。

 

 皆にポパカマズは親父だったことを伝えると誰も茶化さなくなった。

 うむぅ、ちょっと空気が重くなって失敗だったか。

 隊長ならからかってくれると思ったけど、親父の兜を知ってるから隊長すら茶化してこない。

 

 

「ねぇねぇアルス君アルス君。その兜さ、親父くさくないかなかな?」

「……めっちゃ汗臭い」

「それ洗うまで装備しない方が良いねー。もうエンガチョですヨ」

 こういう時ニーナがいてくれるととても助かる。

 

 

 村を出て最後にもう一度親父の立ち寄った村を見ようと振り返ると、そこには村は無かった。

 

 もしかしたらあの村はこことは違う次元か時間が流れていたのかもしれない。

 突拍子もない話だが、親父の顔を知る小さな子供と親父の兜、消えてしまった村を理屈で説明することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書30―アルスの日記―

 親父が立ち寄った村『ムオル』は不思議な村だ。出会った少年が「浦島太郎になる前に旅立った方が良い」と言っていたから、多分時間の流れが違うのかもしれない。

 まあ分からない事を考えても仕方が無い。どうやら俺の親父『オルテガ』は俺の為に皆の想いの詰まった『オルテガの兜』を残してくれたようだ。

 他にも残してくれた物があるかもしれないから、次はアリアハン以外での親父の知り合いを当たってみることにしよう。

 隊長の話では当初は『ロマリア軍』と共に『バラモス城』へ攻め込むつもりだったので、ロマリア王はおそらく知り合いだろう。それと『アッサラーム』の団長は親父の友達と名乗っていた。

 この二人から話を聞いて、他の親父の知り合いについての情報をもらうとしよう。

 

 




小さな子供すらオルテガのことを知っていたムオルの村の独自解釈でした。
兜を作ったアリアハンの住人の想いとオルテガの想いが、アルスを本来そこにはない村へと導いてくれた、そんな宿もルーラ登録のない村の小さくも大きな物語と考えております。
こういった『人の想い』の具現化というテーマはこの先でもまだまだ続きます。


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第三話「当時の勇者メンバーを探せ」

話しを聞いて回る羽休め回です。


 ロマリア王に聞いてみたが『ロマリア』でも親父は一人旅をしていたらしい。

 

 『オルテガの兜』のように何か託されていないか尋ねてみるも、瀕死の重傷だった幼い隊長の保護を頼まれた以外は何もないようだ。

 

 だけど親父の予定は聞いていたようである。

 まず各国を回って戦力を整えてからバラモスを倒すと俺と同じ考えだった。

 何だかこのままだと親父と同じ運命をたどりそうで怖い。

 

 それで『ロマリア』は兵を出す決心をしたが、『バラモス城』に行くのには険しい山を越えなければ行けなくて結局加勢することが出来なかった。

 

 

 俺が親父の立場だったら強い仲間と共に山を越えるか、空から行く方法を探すかだな。

 どちらも今の俺達には出来そうにないので、『バラモス城』攻略はもっと情報を集めてから考えるとしよう。

 

 

 次は『アッサラーム』だ。

「はっはっは。少年、いい店に通っていたようだな」

「ちょっとあんた、何でこんなお店知ってんのよっ」

 『アッサラーム』のステージは隊長には好評、アリシアには不評だったようだ。

 

 ニーナとステラは興味津々に踊りの練習を見ていて、ティナは店の雰囲気が目に入っていなくて「上手ですね」と拍手している。

 フィリアはまあ、いつも通り食べ物の方に目が行っていた。

 

「オルテガ氏の友人探しねぇ。そういえばルイーダって人と一緒に冒険してたな」

 灯台下暗しとはこのことか。

 まさか『アリアハン』の出発点ともいえる『ルイーダの酒場』に重要人物がいたとは。

 

 おそらく親父は泳いで海を渡って各地に【ルーラ】で飛べるようになってから、城への報告などで一度『アリアハン』に戻り、その時にルイーダを仲間にしたのだろう。

 

 

そうとわかれば今度は【ルーラ】で『アリアハン』に飛ぶ。

 

 

「ええ、途中までは一緒に冒険してたわね。魔法使いやってたんだけど弱くてね。途中で帰されちゃったわ」

 ルイーダは愚痴をこぼすように語ってくれた。

 

「確か『アリアハン』からずっと西にある『レイアムランドの祠』だったかしら。6つの『聖なるオーブ』を集めて不死鳥を復活させようって話になったわ。あ、そうそう。アルスのぼうやはこれを受け取る前にお店出て行っちゃったでしょ?」

 

 どうやら親父から俺への贈り物を受け取ったらしい。

 こんな事なら初め『ルイーダの酒場』に寄った時もっと長居すればよかったか。

 

 

 

 

 

 

「【セクシーギャル】は強いから彼女につけてやれ、だってさ。あんたの親父は本当にどうしようもない人だね」

 

 

 

 

 

 

 物は『ガーターベルト』だった。

 昨日の『オルテガの兜』を受け取った時の気持ちを返せバカ親父。

 アリシアの目線がとても痛い。

 

「……つけるか?」

「なっ、そ、そんなものつける訳ないでしょ!?」

 顔を真っ赤にして顔をそらした。

 即答で断って殴られるかと思ったのにやっぱこういうのは免疫が無いらしい。

 

「あ、私つけるつけるー。これで私もスーパー超人だね。もうステータスぐんぐん伸ばして最強キャラになるのだー!」

「恥ずかしくないのか?」

「だってズボンの下に着れば良いじゃん。私って頭良い♪」

 

 そのスパッツ穿いてるから大丈夫的な発想は無かった。

 やるなニーナよ。

 でもとても性格が【セクシーギャル】になる行動とは思えないのは気のせいだろうか。

 

「話を戻すけれど、当時のメンバーで私が居場所を知っているのは『ランシール』にいる僧侶くらいかしら。あまり役立つ情報を上げられなくてごめんなさいね」

「それだけ分かれば十分です」

「それと、たまには家に帰ってあげなね。お母さん心配してるわよ」

「いや、まあ帰れる時は」

 

 まだ母さんは夜になると家の前で俺を待っているらしい。

 今日は『アリアハン』に泊まって行く事にした。

 『オルテガの兜』の事とこれから親父の仲間を探すことを母さんに言っても笑顔は崩れない。

 俺を笑顔で死地に送り出した母親だもんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、夜遅く水を飲みに下へ降りると、母さんは『オルテガの兜』を抱きしめて泣いていた。

 初めて母さんが泣く姿を見た気がする。

 俺を勇者として送り出さなければいけない手前、弱いところは見せられなかったのだろう。

 本当は親父のことも、俺を送り出さなければならなかったことも辛かったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 余裕がある時は宿をとっていても【ルーラ】で実家に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書21―アルスの日記―

 今日は『ロマリア』と『アッサラーム』、『アリアハン』で親父の話を聞いて回った。

 どうやら親父は『レイアムランドの祠』で伝説の不死鳥『ラーミア』を復活させてそれに乗って最終戦に挑むつもりだったらしい。ルイーダさんの話によるとその方がカッコいいからだそうだ。

 親父よ、そんな理由だけで伝説の不死鳥を使わないでくれ。

 後、親父の冒険仲間の一人がアリアハンから少し西にある『ランシール』にいるようだ。

 明日会って話を聞こう。

 

 




サイモンやドワーフ(ホビットだったかも?)もオルテガの仲間なので、旅立った後に出来た仲間達がこれからも登場します。
ルイーダが仲間だったのは、アリシアと被る凡人枠が欲しかった為仲間として短いながら旅を共にした関係としました。

そして今までは母親が辛かったことをようやく知ることが出来たアルス。
年頃の男の子が自分でそのことに気付くのは難しいことだと思い、シンプルに夜な夜なこっそり一人で泣く母の姿を目撃させました。
読み直すとこの辺りももう少し膨らませて描いてあげられたらよかったなと思ってしまいます。


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第四話「地球のへそ」

この小説ではオルテガの仲間もクセが強いです。


 船で無事に『ランシール』まで辿り着いた。

 

 新しい街に入ると言うのは冒険者として心躍るものがある。

 まずは毎度おなじみの買い物からするとしよう。

 

 前溺れた時に俺の装備は海に消えたから、遠慮なく『魔法の盾』と『魔法の鎧』が買える。

 武器もお古の『銅の剣』だと心許無いから『鋼の鞭』を買っておこう。

 

 そして道具屋を見てみると道具屋の娘に『消え去り草』を勧められた。

 

 

 

 

「これがあれば気になるあの子にも悪戯できるよ」

 

 

 

 犯罪を進めないでほしい。

 まあ、それでも俺はそのフレーズで10個ほど買うんだけどな。

 

 さて次に目的の親父の友人だが勇者オルテガと冒険していたことで有名らしい。

 ここの神殿の神父を勤めているようだ。

 さっそく神殿に向かってみたが『魔法の鍵』では開かない扉だ。

 

 

「隊長」

「【アバカム】をすればいいのだな?」

 

 

 隊長が蹴りで扉を壊してくれた。

 いつ見てもいい【アバカム】ということにしておこう。

 

「お前ら『最後の鍵』くらいとって来いよ」

 神父に怒られた。

 どうやらどんな扉も開けられる鍵も親父は手に入れたが元の場所に戻したらしい。

 

「しかしまあ見れば見るほど親父そっくりだ。お前の親父は5つ『聖なるオーブ』を見つけたんだが、最後の1つがどうしても見つからなくって俺達にオーブを預けた。で、火口にどぼんって訳さ。せめて『ガイアの剣』が到着するまで待てば良いものをあいつと来たら……」

 神父は笑いながら親父のことを話していたが、最後は少し話が新規臭くなってしまったなと苦笑していた。

 

 

 

「だけど俺にはどうしてもあいつが死んだとは思えねぇ。海は泳いで渡るわバリア地帯は強行突破するわ扉蹴り破るわ海底にもぐって『最後の鍵』をとるわのむちゃくちゃな奴だったからな」

 

 

 

 ほとんど化け物だ。

 アリシアとニーナも同意権なのかひそひそと話をしている。

 

「『ブルーオーブ』はこの奥の洞窟に保管してある。坊主、お前は一人で戦う勇気はあるか?」

 

 だけど神父はいつの間にか真剣な目だった。

 

「簡単にほいほい宝渡せるかボケ。試練だよ。し・れ・ん。分かったらさっさと一人でオーブとって来いっ!」

 

 すごい柄の悪い神父だ。

 俺が一人で行こうとすると後ろから「お嬢ちゃん達はどこから来たんだ? 美味い酒があるんだが……」なんて事を言っている。

 

 親父はオーブを5つ集めて仲間に託したとか言ってたけど、後4人もこんな奴らがいると考えると溜息が出てくる。

 さっさと『地球のへそ』を攻略して、次のオーブのありかを聞いて、早いところ『聖なるオーブ』をすべて集めるとしよう。

 

 

 だけど1人というのは久々だ。

 何だか自由になった気がする。

 洞窟の中のモンスターはいまさらと言った感じの奴らが多いし気楽に行こう。

 

 

 

 

 

 と思ったけど宝箱の1つが“ミミック”だったのは正直死ぬかと思った。

 

 

 

 

 

「【ザキ】こえぇ~」

 当たったら即死って俺がいくら強くても関係ないじゃん。

 それにしてもこの洞窟は不気味なところだ。

 

「引き返したほうが良いぞ」

 

 壁の顔が喋りかけてくる。

 とりあえず無視しておこう。

 

「たまには人の話を聞いた方が良いぞ」

 

 行き止まりだった。

 なんだか無性にこの顔を殴りたいが我慢しよう。

 

 それにしてもなぜ親父は仲間を置いて、一人で危険な火山を越えようなんて考えたのだろうか。

 仲間と一緒……少なくともオーブ5つの数だけ仲間がいるなら、全員で行った方が生存率は大きく上がる。

 いや、逆に危険だから連れて行かなかったのか。

 

 

 

 

 生きて先に進める保証はどこにも無い。

 進めても生きて帰れる保障はどこにも無い。

 相手は魔王なんだ。

 そんな旅に俺は大切な仲間を連れて行けるだろうか。

 

 

 

 

 考えるのはよそう。

 考えるのはその時になってからでいい。

 最深部の『ブルーオーブ』を手に入れて俺は【リレミト】で洞窟を後にした。

 

 

「お前の勇気は確かに見せてもらった。しかしこんな可愛い子ばかりはべらせやがって、オルテガのパーティーはムサイのばかりだったぞっ!」

 神父に理不尽なヘッドロックを掛けられた。

 確かに俺以外可愛い子なのは認めるが、その分苦労も多かったのだから大目に見てもらいたい。

 

 本題である他の仲間の事を聞くと現在どこにいるかは知らないらしい。

 代わりに『アープの塔』にオーブを探す時に役立つ『山彦の笛』があると教えてくれた。

 

 

 

「あ、そうそう。ここから更に西にある『テドン』にもお前の親父の友がいたな。多分お前のことをずっと待っている。行ってやれ」

 神父の目はその時どこか悲しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書22―アルスの日記―

 親父の友人の一人は柄の悪い『ランシール』神殿の神父だった。

 悪い人ではないが親父の仲間が皆こうだと思うと溜息が出てくる。図らずともハーレムパーティーを結成で来た俺ってもしかして勝ち組って奴か。

 だけど苦労に見合うリターンがない気がするのはなぜだろう。

 まあ何にせよ『ブルーオーブ』ゲットだ。

 神父の情報でまずは『テドン』で『聖なるオーブ』を受け取ろう。

 その後『アープの塔』に行って、一番近くにある『スー』を目指すのがいいか。

 今から出れば夜には『テドン』につけそうだ。

 

 




一人で戦う理由を考えさせられる試練がガイアのへそなのではないかなあと書いた話でした。
他の話でも言えることですが、もっとキャラとのやり取りを入れて書き直したいと読み返すと思います。

自分で言うのもなんですが、キャラの原石はいいのにもったいない。
少ない日記形式な分、専用話でお楽しみください?


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第五話「テドン」

同じ夜を永遠と繰り返すテドンの物語。


 予想通り夜になってしまったが『テドン』はとても穏やかな村だった。

 

 だが親父の友はというと牢屋の中でまた『魔法の鍵』では開かない。

 なんだか隊長のせいで『魔法のカギ』が全く使われないまま役目を終えてしまった感がある。

 

「……犯罪の匂いがするから、ここは私と少年に任せて船でゆっくりしてくれ。朝には……戻る」

 隊長は皆を船に返した。

 流石に牢屋を蹴り破るとなると犯罪と認識するのか。

 そう茶化そうかと思ったが、どこか寂しげな表情していた隊長に冗談を言えなかった。

 

 皆も何か感じるものがあったのか、「ここはアルスに任せよう」とティナが先導して、皆隊長のことを心配しながらも先に船に戻って行く。

 

 

「隊長」

「ああ」

 

 

 隊長はいつも通り扉を蹴り破ってくれた。

 そんな隊長を見ても驚かずに囚人は落ち着いた声でこう言った。

 

 

 

 

 

「ずっと待っていたよ」

 

 

 

 

 

 ただ一言そう言った後、しばらくの間をおいてから『グリーンオーブ』を俺に渡した。

 

「あんた、何の罪でここに?」

「そうだな。僕は大切なものを何も守れなかった。だからここで反省してるんだ。だから別に捕まってるわけでもないし、出る気も無いよ」

 

 囚人はそう言って穏やかに笑ってみせた。

 反省部屋と言ったところだろうか。

 何にせよ目的の『グリーンオーブ』は手に入った。

 

 

「待ってくれ」

 でも帰ろうとしたら隊長に呼び止められた。

「もう少しだけ……0時までで構わない。ここにいさせてくれ」

 『テドン』に向かうことを決めた時から隊長の様子はおかしかった。

 隊長はこの囚人と知り合いなのか、今にも泣きだしそうなくらい悲しそうな顔をしている。

 

 

 

 こんな顔をされたら断れる筈が無い。

 しばらくそっとしておいてあげよう。

 

 

 

 かといって隊長一人だけ残して船や『アリアハン』に帰るのは気が引ける。

 ティナや他の皆にも隊長のことを頼まれているのだ。

 隊長が少し落ち着くまでしばらく『テドン』を散歩するとしよう。

 

 だけど『テドン』を一通り見て周っても隊長はその場から動いた様子はなく、無言のままただ牢獄を見つめている。

 事情を聞くべきなのだろうか。

 もう少し様子を見てまだ動く様子がなければ聞いてみよう。

 

 時間つぶしの意味合いもあるが、なによりも自分の気持ちを落ち着かせる為に、村の入り口でギターを弾く。

 穏やかな村に似合う穏やかな曲を自然に弾くことができた。

 

 

「こんばんは。旅人さん。良い音色ね」

 

 

 知らない女性が俺の目の前に立っていた。

 隊長によく似た綺麗な人だ。

 

「ああ、こんばんはだ」

 胸は割りと大きい。

 

「どこを見てるのかな?」

「胸」

 

 隊長に似すぎていたせいか、つい即答してしまった。

 失礼なことを言ってしまったが女性はくすくすと笑い出す。

 

「なんだかオルテガさんみたいな人ね。オルテガさんの弟?」

「いや、息子だ」

「大きい子供ね。まあオルテガさんならありかな」

「どういう意味だよ」

「早くから女の子に手を出しそうって意味よ。君も大人になればきっとカッコいいよ。うん、私が保証する」

 

 

 女性は優しく微笑み空を見上げる。

 俺もつられて見上げると綺麗な星空が広がっていた。

 

 

「旅人さんは良いな、自由に旅ができて。私ね、鳥に生まれたかった。鳥に生まれてこの空を自由に飛びまわりたかった。だからちょっと旅人って羨ましいかな」

 

 

「鳥目だと星空が見えないぞ」

「わ、くどき文句も一緒だ。それに加えて「それに鳥だったら美しい君と甘い恋ができないだろ」って付け加えたらまんまオルテガさんだ」

 親父、母さんいるのに何やってたんだあんたは。

 

「でもね、ずいぶん昔のことだし、元気付けるために言ってくれた言葉だから、多分本人は忘れてるかな」

 だってオルテガさんだもん、そう苦笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この村って『バラモスの城』に近いでしょ? だから明日、皆と『ロマリア』に避難するの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違和感があった。

 どこかで聞いた話だった。

 でも考えたくなかった。

 

「せっかくオルテガさんが来てくれるのに入れ違いになって会えないんだよね。だけど息子さんに会えたから良しとしますか」

 俺の親父がまだ『ロマリア』に居ることになっている。

 

「それじゃあ私は妹を探してるからここで失礼するね。今日はありがとう」

 女性は元気に手を振って別れの挨拶をした。

 ここは『ムオルの村』と同じで時間が狂っている。

 

 俺が思った通りここがもしも聞き覚えのある話が出て来た村だとしたら。

 

 

「ああ、私の……故郷だ」

 

 

 いつの間にか隊長が戻ってきていた。

 そして俺の表情から返す言葉を当てた。

 隊長の故郷は親父が到着する寸前に『バラモス』によって滅ぼされた。

 

 

「あの日の前夜だけが毎日繰り返されている。朝になったらまた廃墟だ」

 悲しい表情で語らないでほしい。

 

 

 

 

 

「いつからこんな事になったかは知らないが、3年前にはこうだった。もちろん村人を連れ出そうとしたさ。家族を、友達を、みんなをっ。だがここを離れた瞬間に光になって消えてしまった。分かるか。私はそこに存在しているのに守れないんだ。私は成長してしまうから夜だけ昔に戻ることもできないんだ! 私は!」

 

 

 

 

 

 いつも冷静な隊長が取り乱している。

 救えない事に苦しんでいる。

 きっと救ってもらいたいのは隊長自身の筈なのに、救われない過去の幻影に苦しんでいる。

 

 

 

 

 隊長は自分のコートの胸元を強く両手で握りしめながら泣いていた。

 

 

 

 親父は救えてないじゃないか、ここの唯一生き残った少女を。

 こんなにも苦しんでるではないか。

 これも、俺に押し付けるのか。

 

 

「救ってやるさ。一人でも多く、この村の人間を」

 マリアという少女はここに縛られている。

 それにあの囚人も縛られている。

 どちらも親父が遣り残したことだ。

 

 

 だから俺がやる。

 親父の尻拭いなんかじゃない。

 親父を超える為にやる訳でもない。

 大切な仲間の涙を拭う為にやらなくちゃいけないんだ。

 

 

 今の時間は3時過ぎ。

 朝日が昇ってこの街の時間が元に戻るまでが勝負だ。

 

 

「あの囚人……マリアの親父か?」

「っ……」

 

 

 何も答えないからそういうことだろう。

 時間を置いたら多分隊長は落ち着いて、俺と一緒にはもう二度とこの村には来ない。

 そうなったらマリアはこの村に縛られたままだ。

 あの囚人だってあのままだ。

 

 そんなの許さない。

 俺は結末なんかにはさせない。

 

 

「マリアの親父に会いに行くぞ」

「……嫌だ。どうせおせっかいを焼くつもりだろ。無駄なんだ。何もかも試した。あいつは……お父さんはこの村を救えなくって悔やんでる。成長した私を娘だなんて思わない」

「なら認めさせるだけだ」

 

 

 どうやったら救えるかなんて考えていない。

 だけどまずは二人を会わす事からだ。

 マリアの父親だけおそらくこの無限に続く平和の夜から少し外れた人物だ。

 そうでなければ村を守れなかった罪に苦しむことは無い。

 

 

 マリアの手を強引に引いて行く。

 抵抗する気力は無いらしい。

 

 

「まだ居たのかい。この村の仕組みは気付いただろ?」

「あんたを救いに来た」

 その言葉で一瞬マリアの父親の口がどもる。

 

「僕はこの村を」

「ああ、救えなかった。だけどあんたは一人だけ守れたんだよ。あんたの娘を、マリアを俺の親父が到着するまで守りきったんだ」

 俺は弱音をさえぎった。

 

 

 

「マリアは運がよかっただけだと言っていたけど、運だけで生き残れる訳がない。毒で動けなくなった娘を、父親が、母親が、そして姉が守った時間があったからこそ間に合ったんだ。あんたは途中で気付いた。この村は滅びるって気付いてしまったんだ。違うか?」

 

 

 

 言い返してこない。

 本当にこいつらはどうしようもなく親子だ。

 

 

 

「だから必死で守ったんだろ。幼い娘一人を必死で守った。俺は親ってそういうものだって信じてる。家族ってそういうものだと信じてる。仲間ってそういうもんだろ。あんた達親子は、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 

 

 ほとんどは俺の空想に過ぎない。

 でもマリアから話を聞いて、皆仲の良い村だって聞いていた。

 

 

 隊長は俺の言葉から耳をそむけて塞いでいる。

 皆の命の代わりに生きていると知って悲しんでいる。

 苦しんでいる。

 

 

 だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから認めちゃダメだろ。喜んであげなちゃダメだろ。娘が生きていたことを! あんたの罪は村を守れなかったことでも村よりも娘を選んだことでもない。認めずに、マリアを十字架に貼り付けたことだ!」

 

 

 

 

 

 

 時間が経つのが早い。まだ言い足りない。時間が足りない。

 それでも俺は言葉が足りなくっても良いから叫んでいた。

 

 

「子供の幸せを祈るのが親ってもんじゃないのかバカやろう!」

 

 

 俺はマリアに酷い事をしている自覚はある。

 身勝手なおせっかいで傷つけていることも理解している。

 だけど救いたいんだ。これは俺の、ただのわがままだ。

 

 

「本当に父親そっくりだね。子供の幸せを祈るのが親だってオルテガは僕の亡骸に『グリーンオーブ』を置いていったんだ」

 マリアの父親は穏やかに笑うと牢屋から外に出てマリアの前に立った。

 

 

 

「ごめんなさい……私……弱くて……あの時役に立てなくてっ……」

 マリアは幼い子供のように泣いている。

 ボロボロと大粒の涙をこぼし、顔をくしゃくしゃにして、何も出来なかった幼い自分を謝る。

 

 

 

「おおきく、なったね。マリア」

 

 

 

 そんなマリアを優しく抱きしめた。

 どうかこの日だけ太陽が遅く昇ってもらいたい。

 時間が無い。マリアはまだ縛られたままだ。

 

 

 

「マリアのせいじゃないさ。僕達は僕達の意思でマリアを守った。小さいマリアなら気をそらしながら亡骸で周りを囲めば目立たなかった。この村の希望を絶やしたくなかったんだ」

 

 

 

 多分マリアの父親も言いたいことは沢山あった筈だ。

 でも時間が無いから思いついたことをそのまま口に出しているだけ。

 

「色々押し付けてしまってすまないね。でも、もういいんだ」

 もう苦しまなくてもいい。そう言ってもきっとマリアは聞いてくれない。

 

 

 

 だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう幸せになってもいいんだよ。マリアはもう大人なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日がゆっくりと昇っていく。

 村が光になって消えていく。

 

 だけど消える前に村のみんなが集まって、皆して笑っていて、光になっていって…マリアの名前を呼んでいた。

 

 初めから皆気付いていたんだ。

 例え村が滅んだことに気付けなくても、マリアが成長していても、マリアはマリアだと。

 

 

 

「……大丈夫。私には仲間がいるから」

 

 

 

 光が空の彼方に消えていく中、幼い少女の泣き顔も一緒に消えていた。

 

 

 

「今、幸せだ」

 

 

 

 最後に涙を浮かべたままマリアは笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書22―アルスの日記―

 親父の友人の一人は柄の悪い『ランシール』神殿の神父だった。

 悪い人ではないが親父の仲間が皆こうだと思うと溜息が出てくる。図らずともハーレムパーティーを結成で来た俺ってもしかして勝ち組って奴か。

 だけど苦労に見合うリターンがない気がするのはなぜだろう。

 まあ何にせよ『ブルーオーブ』ゲットだ。

 神父の情報でまずは『テドン』で『聖なるオーブ』を受け取ろう。

 その後『アープの塔』に行って、一番近くにある『スー』を目指すのがいいか。

 今から出れば夜には『テドン』につけそうだ。

 

 無事『グリーンオーブ』を入手。マリアの父親は俺の親父の古い友人だったらしい。

 

マリアの考察

 人の想いは時に奇跡を呼ぶのかもしれない。この『テドン』という村がそのいい例だ。

 一夜のみ滅んだ村が復活する。それは村人全員が伝えたかったメッセージで一人の少女を救いたいと想いが奇跡を呼んだ、というのはどうだろう。

 理屈や仕組みなんて魔法にも無いのだから想いは奇跡を起こせる、この考えが単純でいい。しかし問題なのはこの奇跡は役目を終えたらどうなってしまうかだ。

 もしも仮に前立ち寄った『ムオルの村』の時間のずれが『オルテガの兜』を息子アルスに渡してくれという強い想いが引き起こしたものなら、消えてしまった理屈は元の時間軸に戻って一時的に消滅したか、そこもまた既に滅んでしまった村か。

 私はこのどちらでもなく、オルテガの生きたいという想いが作り出した別世界の入り口がこの『ムオル』ではないかと考えている。

 別の世界の村『ムオル』。突拍子もない発想だがこういう空想は好きだ。後にこれを読む者がいればそこでもまた勝手に空想してもらえると嬉しい。

 さて役目を終えた『テドン』がどうなったかは、世界が平和になった時にでも花でも持って確認しに行くとしよう。

 後アルス。私を泣かせた責任は取ってもらうからな。お前は強引で激しすぎだ。

 

 




バラモスに滅ぼされた村と聞いて予想していた方の方が多かったと思いますが、マリア回でした。

アルスの傲慢な我儘。
それは無我夢中でマリアを救おうと叫ぶ声は感情論でしかなく酷いものです。
それで救われる人もいれば、誰かを傷つけるだけの結果しか残さない言葉の諸刃の剣でしょう。
ただの子供で我儘で、けれど危険な諸刃な剣を振るう勇気がアルスにはあります。
決して完ぺきではない勇者アルスをこれからも見守って下さると幸いです。


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エピローグ

章の締め。
日記の最後にアルスとマリアのやりとりが追加されております。


 朝日が嫌いだった。

 

 みんなを消してしまう朝日が眩しすぎて嫌いだった。

 光が村を消していく。

 みんなを消していく。

 私は泣いていた。辛かった。苦しかった。

 

 

「もういいんだ」

 

 

 そんなこと言われても苦しいものは苦しい。

 どうしようもない。だって私はみんなの命で生かされていたんだ。

 大好きな人達が死んで悲しまない奴がいるか。いる訳がない。苦しくない訳がない。

 

 

 

「もう幸せになっていいんだよ。マリアはもう大人なんだから」

 

 

 

 まるで言い聞かせるようにお父さんがそう言った。

 私は大人になったんだ。

 

 でも私自身が認めたくなかった。

 この時期の私は子供だから子供のままでいようとした。

 私は迷子になって泣いてしまった子供と、同じだ。

 

 とても苦しい。苦しんでもいいそれが人間だ。苦しまない人間なんていない。

 幸せになる権利は誰にでもある。

 だけど私はみんなの代わりに生きて、みんなの過ごすはずだった幸せな時間を奪った。

 

 

 

 

 それなのにみんなが、幸せになっていいんだよって光の中で歌う。

 私の名前を呼んでくれる。

 私を認めてくれてたんだ。

 

 

 

 

「……大丈夫。私には仲間がいるから」

 幸せじゃないなんて言ったら罰当たりだ。

 こんなにも私の事を想ってくれている人がいて、側にいてくれる仲間もいて、アルスもいる。

 

 

「今、幸せだ」

 

 

 だから笑顔で見送らないといけなかったんだ。

 私はもう大丈夫だって安心させなければならない。

 強がりでもいい。

 苦しくてもかまわない。

 私は幸せになろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書22―アルスの日記―

 親父の友人の一人は柄の悪い『ランシール』神殿の神父だった。

 悪い人ではないが親父の仲間が皆こうだと思うと溜息が出てくる。図らずともハーレムパーティーを結成で来た俺ってもしかして勝ち組って奴か。

 だけど苦労に見合うリターンがない気がするのはなぜだろう。

 まあ何にせよ『ブルーオーブ』ゲットだ。

 神父の情報でまずは『テドン』で『聖なるオーブ』を受け取ろう。

 その後『アープの塔』に行って、一番近くにある『スー』を目指すのがいいか。

 今から出れば夜には『テドン』につけそうだ。

 

 無事『グリーンオーブ』を入手。マリアの父親は俺の親父の古い友人だったらしい。

 

 

マリアの考察

 人の想いは時に奇跡を呼ぶのかもしれない。この『テドン』という村がそのいい例だ。

 一夜のみ滅んだ村が復活する。それは村人全員が伝えたかったメッセージで一人の少女を救いたいと想いが奇跡を呼んだ、というのはどうだろう。

 理屈や仕組みなんて魔法にも無いのだから想いは奇跡を起こせる、この考えが単純でいい。しかし問題なのはこの奇跡は役目を終えたらどうなってしまうかだ。

 もしも仮に前立ち寄った『ムオルの村』の時間のずれが『オルテガの兜』を息子アルスに渡してくれという強い想いが引き起こしたものなら、消えてしまった理屈は元の時間軸に戻って一時的に消滅したか、そこもまた既に滅んでしまった村か。

 私はこのどちらでもなく、オルテガの生きたいという想いが作り出した別世界の入り口がこの『ムオル』ではないかと考えている。

 別の世界の村『ムオル』。突拍子もない発想だがこういう空想は好きだ。後にこれを読む者がいればそこでもまた勝手に空想してもらえると嬉しい。

 さて役目を終えた『テドン』がどうなったかは、世界が平和になった時にでも花でも持って確認しに行くとしよう。

 後アルス。私を泣かせた責任は取ってもらうからな。お前は強引で激しすぎだ。

 

 アリシアに突然殴られたと思ったら最後にこんな事書いたのか。

 嘘ではあるまい。

 というか近くにいるんだから口でやり取りしないか?

 口でというと接吻か?

 そういうこと書くとまたアリシアに殴られるだろ。というかそれが目的か!?

 ああ、存分に楽しませてもらうぞ。

 

第五章「想いの欠片編・完」

 

 




隣り合わせにうつ伏せのまま、肩と肩が触れ合うか触れ合わないかの距離で交互に文字を書く。
その光景をなぜ描写しなかった、言え昔の作者ァッ!


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第六章「仲間と絆編」
プロローグ


黒歴史が本格的に作者を悶えさせ始める第六章始まります。


 『スー』に向かう予定だったけど、せっかくだから『レイアムランドの祠』を覗いて見ることにした。

 

 氷の大陸。激しい吹雪。

 この気候で船が心配だからティナとニーナとステラは船に残しておく。

 攻撃回復牽制が一人ずつ残っていれば大丈夫だろう。

 ここはあまり長居できる場所ではないが俺にはとっておきがある。

 

 

「アリシア頼む」

「はいはい。【トラマナ】」

 

 

 【トラマナ】のオーラが寒さを防いでくれる。

 冷暖房完備の最強魔法だ。

 

 しばらく歩いていると神殿があったのでそこに入ってみる。

 どうやらここが『レイアムランド』の祠のようだ。

 

 奥に不死鳥のものと思われる巨大な卵が祭壇に置かれている。

 その周りを取り囲むように更に6つの祭壇があった。

 そこにちょうど『聖なるオーブ』をはめ込めるくぼみがある。

 

「アルス。気になることがあるんだけど」

「なんだ」

「『ラーミア』って不死鳥だよね? 卵を産むのは分わかるけど親鳥はどうなったんだろ。おいしそうだったから食べられちゃったのかな?」

 

 こいつはなんて事を考えるんだ。

 おかげでフィリアが卵を見ながら「オムレツ」なんて呟いているではないか。

 

「おそらく『ラーミア』は無限に転生する鳥なのだろう。命を落とせば同じ存在としてここの卵に戻る。もしもそれで記憶まで引き継げるのであればそれは不死と変わりはない」

 

 マリアは哲学にでもはまったのか卵を興味心身に見入っている。

 だがすぐに別のものに興味が言ったようだ。

 

「大変だ見ろアルス。可愛い亜人の双子がいるぞ」

「マジか」

 マリアが指差す方向に人ともエルフとも少し違う少女が二人立っていた。

 

「私達は」

「卵を守るもの」

 

 どうやらここの管理者のようだ。

 可愛い子達である。

 

「うわ、やっぱりロリコンだ」

「ちゃうわっ! というかお前と見かけ大差ないし胸は向こうの方が大きい!」

「胸は関係ないでしょっ。この【むっつりスケベ】!」

「はっはっは、今のはお姉さんも少しむっときたぞ」

 何かアリシアと隊長に挟まれた。

 

 だけどフィリアが助けに来てくれた。

「……アルスいじめたらダメ」

「うわ、やっぱりロリコンだ」

「もう手を出してとりこにしているようだな。ええい、うらやましい奴め」

 逆効果になってるし。

 

 自分のステータスを確認してみると性格が【ロリコン】とありえないものになっていた。

 いつもみたいに“くろうにん”に戻るよな?

 

 とりあえずアリシアの痛々しい目線と隊長の満足そうな顔に見守られながら、『ラーミア』を復活させて『バラモス城』に行こうとしていることと、自分がオルテガの息子であることを話しておいた。

 

 

 なぜか双子はオルテガの名前を聞いて少し頬を赤めた。

 親父、お前は一体ここで何をした。

 というか母さんいるのに女の子にアプローチかけ過ぎだ。

 

 

 自分のステータスを確認してみると性格が【ロリコンの父を持つ男】になっていた。

 こんな語呂がスパイダーマ的な称号はいらない。

 

 まあ挨拶はすんだしティナ達が心配だから船に戻るとしよう。

 

「というかアリシア。いつまで怒ってんだよ」

「怒ってないわよ」

 そう言ってふんと顔を背けている。

 俺だけ【トラマナ】を掛けないのは止めてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書23―アルスの日記―

 今日は『レイアムランドの祠』に挨拶をしにいった。

 どうやらここの双子にも親父はちょっかいを出していたらしい。

 そのことを船に戻ってニーナに話したら「アルス君とそっくりじゃん」なんて言われた。失礼な奴だ。

 今後の予定だが船でのんびり航海しながら『アープの塔』を目指そうと思う。

 だが残念なことにそろそろ食料を補給しないと戦う前に食料や燃料がなくなって幽霊船の出来上がりだ。

 西に航路を取って一度『アリアハン』に戻るとしよう。

 

 

 




オルテガさんがモテるのは大体アレフガルトにいるルビス様の付き人が言う台詞のせい。
記憶を失っているオルテガさん、他種族からモテるなんてうらやましい(ゲフンゲフン


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第一話「忘れられた島」

攻略情報だけをくれてルーラでいけないルザミの考察話。


 『アリアハン』に戻る途中に村が見えた。

 

 こんな小さな島に村があるなんて聞いたことがないがせっかく見つけたんだ。

 ここで補給をしよう。

 村に入ると一人の女性が声をかけてくれた。

 

 

「ここは『ルザミ』。忘れられた島ですわ。あなた方の前に旅人が訪れたのはもう何年前のことだったかしら」

 

 

 どうやら辺鄙なところにたどり着いてしまったようだ。

 だけど辺鄙なところだからこそ歓迎してくれる。

 宿はないというのでこの女性の家に泊めてくれるという。

 食料も少しなら別けてくれるそうだ。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。道具屋いったらいいもの何もなかったよ。だけどねだけどね。お店の人がいい人でただで情報教えてくれたんだ。『ガイアの剣』っていう強そうな武器はサイモンって人が持ってるんだって。なんか伝説の剣っぽくってカッコいいよね。これはもう手に入れるしかないですヨ!」

 

 確か『ガイアの剣』という単語は『ランシール』の神殿の神父も口にしていたな。

 親父はそれが届くのを待たずに火山に行って行方不明になったらしいから、俺は手に入れてから火口に行くとしよう。

 

「まあたまには静かな村でのんびりって言うのも悪くないわね」

 アリシアはこの村が気に入った様子でご機嫌だ。

 フィリアは食べるものがあればどこでもいいといった感じである。

 老人方に新鮮な海の幸でおもてなしされて餌付けされていた。

 

 ふとマリアは何をしているのかと探してみると、何やら占い師と話しをしているようだ。

 マリアも女性らしく占いが気になるのだなんて意外である。

 

「アルス、喜べ。アルスには女難の相が出ているらしいぞ」 

「人のこと勝手に占ってもらって、しかもその結果でにこやかな笑顔を浮かべないでくれ」

 どうやら俺をいじるネタが欲しかったらしい。

 ため息をつく俺を見て、マリアはくすくすと口元に指先を添えながら笑みをこぼしていた。

 

 

「アルスさん大変ですよ~」

「急にどうした」

「さっき展望台で聞いたんですが地球は丸かったって言ってたんですっ」

 

 

 今度はステラが当たり前のことを言っている。

 大航海時代が過ぎたというのに、まだこんな時代遅れのことを言う田舎ものがいたとは驚きだ。

 

「違うんです。それ自体は当たり前なこと私だって知っていますっ。ですが展望台の人はそのことを誰にも信じてもらえなくってこの島に流されたって言うんですよ。これっておかしくありませんか?」

 

「なら、ここは『ムオル』と同じなんだろ。ここと外じゃあ時間の流れが違うんだ」

 理屈は分からないがそういうことだろう。

「何でそんな簡単に納得できちゃうんですか。もっと取り乱してくれないとつまらないじゃないですかぁ~。せっかくアルスさんが驚く情報を見つけたと思ったのに~」

「ステラ、お前が俺をからかうなんて10年早い。俺はもう」

 

 でもステラがそのことに気付いてくれて助かった。

 少しゆっくりしすぎて旅に戻ったら既に魔王が世界を滅ぼしていたなっていたらシャレにならない。

 

 ここはきっと忘れられた島じゃなくって、立ち寄ったら外との時間差で外の人に忘れられてしまう島なんだ。

 だから旅人はこの村に寄らない。

 俺達はこの不思議な村『ルザミ』から離れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書24―アルスの日記―

 今日は『ムオル』と同じように時間が狂っている『ルザミ』という村にたどり着いた。

 忘れられた孤島は何もないが、何もないからこその楽園で冒険者達の足を止める。

 そして外との時間差が開いて島から出ると次の世代に時代が変わってしまっている。

 冒険者にとってこれほどの恐怖はないだろう。

 次第にこの噂は広まりいつしかその島は何もない孤島として扱われるようになった。

 だけど俺はこの島が悪意から生まれたものではないと思う。

 誰だって幸せな時間がずっと続けばいいと思ってしまうことがある。その想いのなりそこないがあの楽園のような島『ルザミ』なのではないか。

 あの島にいる限り争いごとに巻き込まれることもなく幸せな何もない毎日を送る事ができる。

 俺はこの島を大人になれない国ネバーランド『ルザミ』と呼ぶことにした。

 今日の日記は我ながらカッコいいと思う。

 なのにマリアに「良いセンスをしている」と腹を抱えて笑われてしまった。解せぬ。

 

 




天文学者が島流しにあったことと、宿がないこと、ルーラでいけないこと。
島流しをされた忘れ去れた島ではなく、『ムオル』と同じ条件がそろっているのでこのような考察となりました。
前回から隊長という呼び方からマリアに変わったことと、どこかマリアがやわらかくなっていたりします。
そしてアルスのこのポエムである。


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第二話「自然の民と王国からの使者」

渇きの壷の情報と作者の黒歴史回。


 『アープの塔』に向かっていたら少し航路がずれて大陸の東側に出てしまった。

 狭い水路を興味本位で渡っていくと先に『スー』という村に着いた。

 予定が変わってしまったが先に『スー』で情報を集めるとしよう。

 

 

「船か。懐かしいのう」

 

 

 ここの村の人とは雰囲気が違う老人が船を眺めている。

 

「わしはその昔『エジンベア』の兵士でこの村に来たんじゃが……わしだけ船に乗り遅れてのう。あれから何年経つかのう。壺は仲間の兵士がもっていってしまったんじゃよ」

 

 どうやら他国の人のようだ。

 物を略奪したというのにここの人達は世話を焼いてくれたらしい。

 

 まあ変な老人のことは置いておいてだ。

 俺が驚いたのはこいつだ。

 

 

 

 

 

「やあ、僕は喋る馬エドだよ」

 

 

 

 

 

 馬が喋りやがった。

 皆流石に引いている。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。この子喋るよ。すごいね。かっこいいね。この馬の喉一体どうなってるんだろ?」

「これは見世物小屋に売れば高くつきそうだ」

 ニーナとマリアは興味を持ったようだ。

 

 身の危険を感じたエドが教えてくれた情報によると、ここから持ち出されたのは『渇きの壺』といって西の海の浅瀬で使うものらしい。

 

 すごくアバウトな情報だ。

 

「……あるすー。馬っておいしい?」

「まあ食用に育てたのはうまいんじゃないか?」

「そうなんだ」

 フィリアがじっとエドを見つめると、『渇きの壺』は水を一時的に吸い込む壺で、浅瀬の下に『最後の鍵』があるらしい。

 

 ちゃんと口を割ったから見逃してやるとしよう。

 

 

「そういえば『銀の髪飾り』が売ってたな。フィリアはもう装備してるから5人分買っておくか」

 これは値段の割りに恐ろしい【防御力】を誇っている。

 一体こんな髪飾りのどこに【防御力】があるのだろうか。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。なんか村を作ってる人がいるんだって。0から物を作るってやっぱりいいよね。手伝ってあげてくれって村長さんが言ってるけどどうする?」

「いや、人助けはしていくつもりだけど専門知識ないからな」

 

 それに金掛かるし今は行っても邪魔になるだけだろう。

 街を出ようとすると変なおしゃれなスーツを着た男四人組が達を待っていた。

 

「マーゴッド姫、ようやく見つけましたよ」

 男の一人が誰かの名前を呼んだ。

 

 それに反応したのはステラだった。

 見つかっちゃいました、と眉を細めてたははと苦笑している。

 弱いことから旅人ではないと思っていたけどまさか姫だったとは驚きだ。

 

 

「王が心配しておられました。どうか城にお戻りください」

 

 

 ステラは眉を細めたまま「実は私、お姫様でした~」と俺達の方を振り向いて笑った。

 あまり国に帰りたそうな顔には見えない。

 

 【ルーラ】で逃げるか、それとも戦うか。

 そのどちらをとっても今まで積み上げてきた勇者の知名度は崩壊する。

 そんなことをしたら一国の姫を誘拐したことになるんだ。

 気付いたら俺はステラから顔を背けていた。

 

 

「田舎ものにしては物分りがいいな。今まで姫を護衛してくれたお礼だ」

 10000Gの大金を渡された。

 多分口止め料も入っているだろう。

 

「俺はただ仲間と一緒に旅をしていただけだ。こんな金受け取れるか」

 ステラをあっさり引き渡そうとしている俺がよく言う。

 

 ティナはいきなりの出来事に戸惑っている様子だ。

 ニーナは騒いでいるがマリアに抑えられている。

 マリアは自分を抑えようと歯を食いしばっていた。

 

 国際問題に発展しかねない状況に俺は何も出来ずにいる。

 自分が情けなくて、悔しくて、自分で自分のことを殴ってやりたい。

 

 

「これだから田舎もんは」

 男の一人が見下すように鼻で笑った。

 

 

 こんな国にステラは居たんだ。

 そして勝手に出たから連れ戻す為に使者がやって来た。

 国が嫌になって旅をし始めたのか、単なる姫のわがままで旅に出たのかは知らないけど、ステラは俺達の仲間だった。

 大切な仲間だ。

 

 

「今までありがとうございますね。もしも『エジンベア』によることがあれば、その時はマーゴッド姫として宜しくお願いします」

 まだ特別に親しくなった訳でもないけど仲間なんだ。

 

 

 

 

 

 

「待ちなさいよ!」

 耐えきれずにアリシアが叫んでいた。

 

 

 

 

 

「ステラは私の大事な友達なんだ。そんなはいそうですかって引き渡せないわよ! ステラ悲しそうにしてるじゃない!」

「アリシアさん……」

「田舎者は口を挟まないでもらおう」

 男達がいっせいに『雷の杖』をアリシアに向ける。

 

 

 

 

 

 ああ、そういうこと、するんだ。

 

 

 

 

 

「アルス落ち着け」

 マリアの言いたいことは分かる。

 今は人と人が争っている場合ではない。

 魔王を倒す旅をしているんだ。

 それにここで揉め事を起こせば昔終わったはずの戦争がまた引き起こされるかもしれない。

 

 

 そんなのわかっている。

 わかっているけど我慢の限界だ。

 

 

 

「……ステラは私の友達。マーゴッドなんて知らない」

 今まで食事以外に興味を持たなかったフィリアが、俺よりも早くに動いて『アサシンダガー』を男の一人の首に突きつけていた。

 

 同じくらいの年だからいつの間にか親しくなっていたのか、それとも皆と一緒に居て仲間意識が強くなったのか。

 とにかく、これでもう後戻りはできない。

 

「まったく、お前らは」

 それを理解してマリアも動いた。

 だけど仕方なく動いた感じではなく、その口元は緩んでいる。

 よし来たと言わんばかりにマリアの拘束から解かれたニーナも動く。

 もちろん俺も動いた。

 

 男達の『雷の杖』が一斉に火を吹いた。

 フィリアはそれを回避してアリシアは【ベギラマ】で相殺。

 マリアとニーナはそれぞれ左右に展開するよう散って回避。

 俺は炎の中を強引に突っ込み『鋼の鞭』を構えた。

 

 

 しょせん道具に頼っている奴らだ。一瞬で決める。

 倒した後のことは倒した後に考えればいい。

 

 

 

 

 

 

「アルスさんダメですっ!」

 ステラは相手を傷つけてはダメだと言ったのかと思った。

 でも違った。目の前にまた炎がある。特大の炎“メラゾーマ”だ。

 杖を使っていたことと頭に血が上っていたことで完全に相手の力量を測り損ねた。

 

 

 慌てて『魔法の盾』で防ぐが炎が俺を飲み込み俺の【HP】がごっそりと削られる。

 アリシアの【ベギラマ】とは比べ物にならない火力だ。

 

 

 

「アルス!」

 第二射が来る前にアリシアが俺の前に飛び出した。

 

「【ベギラマ】!」

 

 アリシアの得意技だけど、そんな中級魔法でどうにかなる相手ではない。

 再び放たれた【メラゾーマ】はアリシアの【ベギラマ】を飲み込んだ。

 

「【メラミ】!」

 だけど弱まった【メラゾーマ】に追加で【メラミ】を当てることで相殺してみせる。

 

 

 だが相殺するのがやっとだ。

 相手は四人いる。

 そいつら全員が【メラゾーマ】を使えたらこちらの手数が足りなくなる。

 予想通り他の三人も【メラゾーマ】を撃ち始めた。

 

 俺達の代わりに『バラモス』を倒しに行ってもらいたいところだ。

 

 隊長とニーナが前に出て【メラゾーマ】を引き受ける。

 マリアは器用にも剣で弾道を反らしやりくりし、ニーナは回避に専念することで爆炎で火傷を負いながらも真っ直ぐ相手を見据えて直撃だけは避けてくれている。

 フィリアが二人が囮になってくれている隙に一気に相手の懐に潜り込んだ。

 

 だが、その一撃は見当外れのところに振られている。

 おそらく【マヌーサ】を食らって幻を見ているのだろう。

 初めての絡め手にフィリアが目を見開き、驚きながらも【メラゾーマ】を大きく後ろに飛んで回避する。

 

 

 

 俺の身体はまだ動く。

 こうなったら俺の特大のお見舞いするしかない。

 

 

 

「言っとくが……こいつを人間に試したことはない。逃げるなら逃げろ。一応忠告はした」

 俺のすべての魔力を指先に集中させる。

 

 だけど俺は撃てなかった。

 奴ら忠告を聞くと【マホカンタ】なんて張りやがった。

 撃ったらこっちが雷に打たれて黒こげだ。

 こんな事なら忠告せず問答無用で撃っておくべきだった。

 ここまできておいて、相手が人間であることに躊躇して大技撃たなかった自分の未熟さに歯を噛みしめる。

 

 

 

 更にまだ状況がつかめずにキョトンとしているティナに向けて【メラゾーマ】を撃った。

 多分、俺が庇いに行く事を知ってて撃ったのだろう。

 そうでなければ何もしない奴に貴重な【MP】を消費したりなんかしない。

 

 

「くっ」

 

 

 奴らのもくろみどおり俺はティナを庇った。

 ダメージを抑えてくれる【魔法の盾】がありがたい。

 

 だけど奴らは容赦なく【メラゾーマ】を撃ってくる。

 人間の最大【HP】考えて撃って欲しいものだ。

 

 

「あ……るす?」

 

 

 その光景でティナがさらに取り乱す。

 平常心を保っていたら回復してくれるけど、いっぺんに色々な事が起き過ぎて今のティナは何も出来ない。

 

 

 

 

 ここまでか。

 だけど俺を倒してもマリアとニーナが今フリーだ。

 俺を助けに行くことを前程に撃っているようだがまだ甘い。

 俺は二人に「倒せ」と指の微妙な動きでサインする。

 それに気付いて二人が切り込みに行く。

 

 

 

 

「やめなさいっ!」

 だが決着がつく前にステラが叫んだ。

 涙ぐみながら叫ばれた言葉に、その場の空気が完全に止まる。

 

「『エジンベア』の王女マーゴッドの命令です。互いに直ちに戦闘行為を中止してください」

 

 

 俺達も『エジンベア』の使者も動けなかった。

 ステラは泣いている。

 ボロボロと涙を流しながら、『エジンベア』の王女として命令を下している。

 俺達が、泣かせてしまった。

 

 

「私は国に帰ります。元よりただの私のわがまま。今日までわがままに付き合っていただきありがとうございました」

 

 そんな悲しい言い方を泣きながら言わないで欲しい。

 そんなふうに庇われたら仲間なのに何もしてあげられない。

 

 

 身体から力が抜けていく。

 

 

 『エジンベア』の使者達に【ルーラ】で連れて行かれるステラを、俺達はただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書25―アルスの日記―

 ステラは『エジンベア』のマーゴッド姫だったらしい。

 今日『スー』の村まで『エジンベア』の使者4人が迎えに来た。

 彼らは高レベルの魔法使い。いや、【マヌーサ】も使ったから賢者なのかもしれない。

 戦ってでも取り戻そうとした結果ステラを泣かせてしまった。

 もちろんここで引き下がるほど俺は諦めのいい人間ではないし善人でもない。

 勇者というのはどこまでも自分勝手でわがままなのだ。

 ステラ攫いに『エジンベア』に攻めに行こうではないか。

 皆のやる気は十分だ。田舎者の恐ろしさをとくと見せてやろう!

 

 




やりたいことはわかるものの、もう少しキャラとキャラの絡みをやって、女の子同士でいちゃこらさせてからやるべき回だと今では思います。

それでも今リメイクしてもステラという偽名でマーゴッド姫がパーティーに加わり、渇きの壷を奪ったスーという地で迎えが来るという構成で行く筈です。
文章の手直しとキャラクターの追加したいエピソードは多いものの、やっぱり話の流れは同じなることでしょう。
私の脳って進歩ないッ!


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第三話「エジンベア攻略戦」

お姫様を攫いに行く勇者の話。


 俺の計画はこうだ。

 『消え去り草』を使って城に侵入する。うん、とてもシンプルだ。

 

「あんた…こんな物いつ買ったわけ?」

「『ランシール』で気になる子の悪戯にどうぞってすすめられた」

 つい正直に答えてしまった。

 

「はわっ。それじゃあそれじゃあ今までお風呂とかおトイレとか寝顔とかももうバッチリ見られてたんだ。これはもうアルス君にお嫁にもらってもらうしかありませんヨ」

 

「いや、まだ実行していないんだが」

「実行してないって……やっぱりあんたはそういうことするつもりだった訳!?」

「アリシアちゃん落ち着いて。アルスはそんなことしないよ。……多分」

「……あるす~。お腹すいた」

 

 皆いつもの調子に戻っている。

 これなら今回の作戦は無事成功しそうだ。

 

「うむ、せっかくアルスのためにダンボールを用意したのだが無駄になってしまったか」

 マリアがなぜかダンボールを片手に溜息をついている。

 お前はそれで俺に何をしろというのだ。

 とにかく、『消え去り草』で潜入開始だ。

 

 

「ん、何の音だ?」

 足音に反応して門の兵士が動き出す。

「気のせいか……」

 何も見当たらなかった為か戻っていく。

 すると再びコンコンコンと物を叩く音がした。

 多分ニーナが調子に乗って遊んでいるのだろう。

 

「ん、何の音だ?」

 音の方に兵士が歩いて行く。

 普段通りなのは緊張するよりはいいことだが、だからって遊ぶなよ。

 

 

「うっ」

 

 

 なんか兵士が倒れた。

 威力からしてマリアの仕業か。

 倒したらこっちの存在がばれるだろ。

 

 そろそろ『消え去り草』の効果が切れる。

 俺が買ったのは10個。

 その内6個は人数分で消えたから残り4個。

 ティナ、ニーナ、アリシア、フィリアに持たせている。

 だから俺とマリアは『消え去り草』無しでステラの所まで辿り着かなくてはならない。

 

「……通気口か」

 ここから上に上がれそうだ。

 しばらくはここに潜むとしよう。

 

 

「おい、どうした!?」

「くっ、何者かに攻撃を受けた。敵は不明。至急応援を頼む」

 

 

 何だかわらわらと兵士が徘徊するようになった。

 これだと動き回れない。

 ここはこのまま通気口を渡って別の場所に出よう。

 

 通気口を渡っていくと下から声が聞こえてきた。

「言え……マーゴッド姫はどこだ?」

 一瞬マリアが兵士を脅している声だと思ったのだが、男の声だった。

 下を覗き込んでみると『骸骨戦士』が兵士を脅している。

 

 どうやら俺達以外にも侵入者がいたようだ。

 

「貴様のような奴に……言えるか」

 結構一般兵士も根性があるようで口を割る様子はない。

 とにかくこのままだと兵士の命が不味い。

 

 

「【ラリホー】」

 

 

 とりあえず『骸骨剣士』を上から眠らせておいた。

 突然『骸骨剣士』が眠りだして兵士は誰が助けてくれたのか周りを見回している。

 これは『エジンベア』に恩を売るチャンスだ。

 

「こちらコードネーム:ペパカマド。モンスターがこの城を狙っているとの情報があり任務できた」

 

 とっさに偽名を使ったら変な名前を言ってしまった。

 『ムオル』での親父もきっとこんな感じに適当に名乗ってしまったのだろう。

 少し反省。

 

「た、助かります」

「直ちに王と他の者に伝えよ。それと俺の他に数名エージェントが極秘に潜入している。こちらに攻撃の意志はない。注意されたし」

 

 まあこんなもんだろう。

 兵士は仲間を呼んで『骸骨戦士』の骨をパーツごとにバラバラにして縛った。

 そして魔物が潜入したことと他国のエージェントがそれを退治しに来たことを説明してくれている。

 

 

「さっき見かけた田舎者の格好をした僧侶がそうだったのか。こんにちはと挨拶してきたから何かと思ったぞ」

 

 

 潜入しているという自覚はないのか、ティナよ。

 まあこれでもしも見つかっても大丈夫だな。

 

 

 あの賢者もどき4人に見つかったら襲われるかもしれないけど、その時はその時だ。

 モンスターはなぜかステラを狙っていた。

 急いだ方がよさそうだ。

 

 

 通気口を渡って更に奥に進んでいく。

 

 

「何だか姫様元気ないわね。外で何かあったのかしら?」

「素敵な殿方に出会えたのに無理矢理つれて帰らされたみたいですわよ」

「あらまあ。でも外はモンスターがいて危険ですし無事でよかったですわ」

 下は厨房のようだ。

 料理を作っているおばさま方が話している。

 それにしても素敵な殿方に出会えたって下手なお世辞だな。

 まあそんくらいに話を盛り上げないと楽しくなかったと思われるのか。

 

「じゃあこれ、最上階の姫様の寝室にお願いしますわ」

 いい情報を聞けた。

 ここは引き返して階段を上っていった方がいいだろう。

 初め入った入り口まで戻って兵士がこっちを向いていないことを確認してから降りる。

 

「ん、何の音だ?」

 兵士が足音に反応したけどもう壁に隠れて視界から逃れている。

 気付かれないように匍匐前進で移動しながら階段を上って行く。

 上の階は……王の間か。

 のほほんとした王が玉座に構えている。

 

 

 

 不意に後ろから足音が聞こえて来た。

 

 

 

「姫様に食事ですかな?」

「ええ、姫様に元気を出していただこうかと」

 

 

 しまった。

 通気口の移動は時間が掛かるからもう食事は届け終わっていたかと思ったのに、まだだったようだ。

 

 前に出れば王や兵士に見つかるタイミングだし、後ろに下がれば奥方と兵士に見つかる。

 

「それでは届けてまいります」

 奥方が近付いてくる。

 もうダメか…そう思ったらやってきたのは厨房にいたおばさま方と同じ服を着たアリシアだった。

 

 アリシアが何やってんのよ、と目で睨んできたからミスったと苦笑を返す。

 

「あ、そうそう。姫様に伝言をお願いしよう」

 下の兵士の足音が近付いてくる。

 幸いなことにこの国の人のスカートは地面に引きずるほど長い。

 隠れさせてもらうことにしよう。

 

 

 

「っ」

 

 

 

「どうしたんだ、顔赤いが」

「い、いえ……別に」

 アリシアの足が震えている。

 いや、まあこうするしかなかっただろう。

 

「若いんだからあまり無理すんなよ。階級気にしてんのは一部の上位階級の奴らだけなんだからさ。それで伝言なんだが、モンスターがうろついているようなので部屋を出ないようにと」

「わ。分かりました」

「本当に大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫ですっ。失礼します!」

 

 アリシアがゆっくり階段を上がっていくからそれに合わせて進んでいく。

 かなり歩幅が大きい。

 急ぎたいのは分かるがそんなに急ぐと合わせ辛い。

 

 だが何とか着いて行く事が出来た。

 ドアが開く音と風の音。

 どうやら外に出たらしい。

 

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あんたはっ」

 アリシアの顔が真っ赤だった。

 

 

「安心しろ、俺も思った以上に恥ずかしかった」

「何をどう安心すればいいのかしらねぇ」

「大丈夫、白は似合ってるぞ」

 つい調子に乗りすぎて爆発音がした。

 

 初めはアリシアに【ベギラマ】を放たれたのかと思ったけど、上の階の壁が吹き飛んでいる。

 そして誰かが落ちてちた。

 反射的にその身体を受け止める。

 

「うぅ……」

 

 昨日の賢者モドキの一人だ。

 受け止めるんじゃなかったと思ってしまった俺は悪くない、筈。

 

「奴ら……魔法が……騒ぎでマーゴッド姫と……変わる……」

 何か呟いているがステラが危ないことだけは分かった。

 それなのに行く手を阻むように『エビルマージ』の群れが空から【ルーラ】で奇襲してくる。

 

 図鑑でしか見たことがないが厄介な魔法使いタイプのモンスターだ。

 おそらく【マホトーン】で似非賢者はやられたのだろう。

 

「アリシアこいつらは任せた。【バギ】系以外あまり効果がないから『理力の杖』で行け」

「分かった。さっきのは後回しにしてあげる。その代わりにステラを守れなかったら承知しないから」

「無理はすんなよ」

「あんたこそね」

 

 アリシアなら大丈夫。

 城の兵士だってモンスターと戦っている分には加勢してくれるし、他の仲間だって騒ぎに気付いた筈だ。

 だからアリシアに振り向かずに先ほど壁にあいた穴を見る。

 

 大丈夫、魔法のコントロールは得意だ。

 【ルーラ】の座標を空中に細かく設定して飛んで穴に突っ込んだ。

 たったアレだけの距離で【MP12】も消費したぞ。

 やっぱり自由に飛ぶのはまだ無理か。

 

 

 中の状態は瀕死の似非賢者3人にボロボロのステラ。

 『ガメゴンロード』が4匹。

 こいつら【マホカンタ】で魔法跳ね返されたのか。

 これだから机の上から物事を見る連中は見たこともないものに後れを取る。

 

 

「アルスさん……ですか?」

「よう、昨日ぶり」

 

 

 ステラが呆然としていた。

 どうしてここにという顔をしている。

 

「攫いに来てやったぞ」

 やっかいな『ガメゴンロード』は【ラリホー】で眠らせたいけど、初めから【マホカンタ】が掛かってる。

 ついでに【スクルト】済みのようだ。

 

 

「【スクルト】と【マホカンタ】が掛かった最悪の状態だ。貴様では勝てない」

 仲間と再会してせっかくテンション上がっているのに、似非賢者達が分かっている情報で水をさしてきた。

 

 

 

「笑わせてくれる。モンスターに襲われている姫を助けるんだぞ」

 鼻で笑ってやった。昨日の戦闘より分かりやすくってスッキリしてる。

 

 

 

 

 

 炎を吹く?

 【スクルト】で既に【守備力】が上がっている?

 【マホカンタ】で魔法が跳ね返される?

 ついでに武器が『鋼の鞭』で得意武器じゃない?

 本当に笑わせてくれる。

 

 

 

 

 

「最高の間違いだろ」

 マンガだったら最高の見せ場だ。

 

 

「この最高の舞台でステラを守れば誰も文句は言わない。言わせない。ステラが自分から家に帰りたいと本心で言うまで連れまわしてやる。昨日のあれは本心だったか」

「え……」

「泣きながら帰りたいって言ったのは、泣くほど帰りたかったからか?」

 

 

 『ガメゴンロード』が火を噴いた。

 それを『魔法の盾』で防ぐ。

 

 

「そこまで一緒にいたくなかったか?」

「そんなわけ…そんなわけないじゃないですか!」

 当たり前だ。知っていたことだ。だけど本人の口から聞きたかった。

「なら仲間だ」

 

 

 鞭で炎をさばく。

 負ける気はしない。

 

 

「ほら、さっさと爪つけて戦え」

「あ……はい!」

 

 だけど一人では戦わない。

 もうステラは守るべき姫ではない。

 共に戦う仲間だ。

 

 こいつはまだ弱いけどいつも一生懸命戦ってくれていた。

 皆と楽しそうに笑っていた。

 いじめてやってもどこか嬉しそうだった。

 

 【ベホイミ】でステラの傷を回復してやる。

 鞭で『ガメゴンロード』達の足を取ってその隙にステラが攻撃する。

 

「アルスさんこのモンスター難すぎますよ~」

「会心の一撃が出るまで殴れ。いつかは倒せる」

「はぅ!? なんだかもうそれは作戦とは言えませんねぇ」

 

 なんだかんだやっているうちに1匹撃破した。

 

「武道家なんだろ。会心の一撃ぐらい出せ」

「そんな事言われましても、こうすれば会心の一撃になるっていう決まりごとはありませんし」

「喋ってる暇があったら殴る!」

「はぅっ!? 今の鞭明らかに私を狙ってましたよね!?」

 

 2匹撃破してステラが疲れ始めていたからまた【ベホイミ】を掛ける。

 3匹目は俺の鞭が仕留める。

 

「はいラスト。最後くらい武道家の意地見せて会心の一撃出せよ」

「鞭構えて何だか脅迫じみてませんか!? はぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

 ステラが攻撃しに行ったら豪快にこけて『黄金の爪』がすっぽ抜けた。

 それがプスリと『ガメゴンロード』に突き刺さる。

 それが会心の一撃になったのか最後の1匹が倒れた。

 

「お前は遊び人か」

「武道家です!」

 

 とてもそうには見えない。

 まあ倒せたからよしとしよう。

 

 アリシアの助っ人に向かおうと壁にあいた穴から下を覗き込んでみると既に戦闘は終わっていた。

 

 どうやら皆駆けつけてアリシアが俺の作った攻略本を元に指示を出したらしい。

 うむ、頼れる奴だ。

 まあ当然のことながらこの後王の間に呼ばれた。

 

 

「うむ、わしは心が広いから田舎者とて偏見はない。城に潜入するなんて面白いことも…いやいや、大それたことも多めに見よう」

 

 

 王は「潜入って面白そうだな」なんて呟いている。

 

「娘も国も救ってもらったこともあるし娘は一緒に旅を続けたいと言っていたが、まあいいんじゃない? だけどたまに顔見せに帰ってきてくれると父さん嬉しいな」

 

 だからどこの王も軽すぎだ。

 似非賢者達が頭を抱えている。

 多分こんな王の娘だ。

 ステラは面白そうだったという理由で一人旅を始めたのだろう。

 

「王様。魔物がこんなものをもっていたんですが」

 アリシアが変な壺を王に見せた。

 おそらく『スー』から持ち出した『渇きの壺』だろう。

 どうやらモンスター達の狙いはこれとステラだったようだ。

 

 ステラを狙ったのはまあ国落としの一環だろう。

 『渇きの壺』は俺達に手に入れて欲しくなかったから、か?

 何の為に狙ったのかがいまいちわからない。

 

「ああ、それか。使い方分からんからもっててもいいんじゃない?」

 昔『スー』から奪ったものをそう簡単に渡すなよ。

 まあこれでスーから見て西の浅瀬に行けば『最後の鍵』が手に入る。

 

 ステラがまた戻ってきた。

 すべて解決で旅に戻るとしよう。

 船に戻るとアリシアが俺の肩にポンと手を置いてにこやかに笑っていた。

 

 

「このド変態!」

 

 

 アリシアに殴られた。さらに蹴られた。

 まだスカートに潜ったことを根に持っていたらしい。

 

 性格が【ロリコンの父を持つド変態で苦労人の男】と意味不明に長いものになっている。

 【くろうにん】が混ざっているから何だか戻ってくれない気がしてきた。

 これってステータスどう上がって行くんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書26―アルスの日記―

 宣言どおりステラを攫ってきた。

 というのは冗談でモンスターに襲われていた『エジンベア』を救ったら、軽い性格の王が簡単に許可をくれた。ついでに『渇きの壺』もゲットだ。

 似非賢者の無様な姿を見れて俺は大変満足している。え、勇者っぽくないって?

 そのあたりは気にしたら負けだと思う。

 しかしアリシアにこっ酷くやられたものだ。久々に仲間の攻撃で棺おけになるかと思ったぞ。アレはどうしようもない状況だったんだから許せ。

 とりあえず壺を手に入れたから明日は浅瀬で鍵を手に入れるとしよう。

 

 




何だかんだで各国攻略に力を入れるバラモス様でした。


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外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.5ステラ

ステラ視点です。


 賢者さん達に城に連れ帰られてまた退屈な毎日が戻ってきました。

 

 でも、あのままアルスさんたちの優しさに甘えていたらきっと迷惑をかけてしまいますよね。

 

 

 我侭は城を抜け出したあの時だけで充分です。

 

 

 退屈にしているとなぜかモンスターが部屋に入ってきました。

「お姫様ってやっぱりこういうポジションなんでしょうか?」

 アルスさんの変わりに賢者さん達が駆けつけてくれた。

 

 おじい様方に守られてもあまり嬉しくはないんですけどって苦笑していたら、予想外なことに賢者さん達がすぐにやられてしまいました。

 私をアルスさんから引き離したんだからもっとしっかりして欲しいです。

 

 武器はアルスさんのところに置いてきてしまっているし、そもそも私は弱いから一人では勝てませんね。

 

 

「はぅっ!」

 

 

 

 抵抗してみたけどやっぱり勝てませんでした。

 体のあちこちが痛い。

 アルスさんがいれば、守ってくれたでしょうか?

 

 

§

 

 

 私は外の世界にあこがれていました。

 モンスターがいるということもありますが、一国の姫君として粗相がないようにと賢者さん達に外に出してもらえなくて退屈です。

 

 でも思い切って貨物船の積荷に隠れてみたら簡単に大陸を渡れてしまえて驚きでした。

 おかげで助かりましたがもっと検査を厳しくした方がいい気がします。

 

 外の世界はとても広くて色々な人が自由に働いたり冒険したりしていて、私は感動しました。

 ですがいざモンスターと戦ってみたら相手が強過ぎたのかとても戦えません。

 

 

 私って運動音痴でしょうか?

 

 

 落ち込んでいるところに現れたのがアルスさんでした。

 女の子に囲まれていてスケベそうな人だから、声を掛けたら簡単にモンスターを倒すのを手伝ってくれそうに見えました。

 

「あの、旅人さんですか? もしよろしければパーティーに参加させていただきたいのですが」

 

 冒険が楽しみだったからちゃんと笑えていたと思います。

 

「ナンパお断りだ」

 

 でも返された言葉はそれでした。

 いきなり一緒に冒険してくださいと言うのはやはり変だったみたいです。

 

「は、はぅっ。違いますよー。そうではなくってですね、えっと……頼みごとがあるんです」

「俺はナイスバディーなお姉さんの方が好きなんだ」

 

 やっぱりスケベな人みたいですが趣味が違ったようです。

 私だって大人になればきっと良い女性になれると思うのに失礼な人です。

 

 だけど彼と連れの彼女らのやり取りはとても楽しそうで、あの輪に加えてもらえたらきっとすごく楽しそうなんだろうな。

 

 

「『ピラミッド』に『黄金の爪』があるって聞いたんです。それを手に入れるお手伝いしていただこうかと思ったのですが……やっぱりダメでしょうか?」

 

 

 だから、諦める前にまともな理由をつけてみました。

 するとアルスさんは少しだけ考えて「採用」と当然のように答えてくれました。

 

 望んでいたことだけどまさか連れて行ってくれるなんてビックリです。

 

 でもここで一つだけ問題があります。

 賢者さん達は田舎者の名前は4文字以下と言っていました。

 私のマーゴッドという名前は5文字で田舎者ではありません。

 とても困りました。

 

 

 私は自分の名前を捨てるという意味を込めて、「捨てる」という単語から一文だけ字変えたステラという名前を名乗りました。

 

 

 この名前は結構お気に入りなんですよ。

 『黄金の爪』を手に入れた後私の目的はなくなってしまいました。

 せっかく皆さんと楽しく冒険できたのに少し残念です。

 

 でもアルスさんはそんな私の表情を読み取ってくれたのか冒険に誘ってくれました。

 この時からかもしれません。

 アルスさんがカッコいいなって思い始めたのは。

 

 

§

 

 

「よう、昨日ぶり」

 やっぱりアルスさんはカッコよかった。

 

 昨日『エジンベア』の賢者さん達に酷い目に合ったのに来てくれた。

 

 

「攫いに来てやったぞ」

 

 

 白馬の王子様が悪者からお姫様を救う物語はよくあるけど、勇者が姫を攫うお話しなんて読んだことがない。

 

 

 

 

 

 

 私が外で初めに声を掛けた人がこの人で本当によかった。

 

 

 

 

 

 白馬なんて似合わない田舎者で、【くろうにん】だし少しスケベで意地悪な時もあるけど、アルスさんと、皆さんともっと旅を続けたい。

 お父様に無理を言って、アルスさん達と旅を続けてもいいよう許可を頂きました。

 

 私はもう少しだけステラという少女でいようと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書26―アルスの日記―

 宣言どおりステラをさらってきた。

 というのは冗談でモンスターに襲われていた“エジンベア”を救ったら軽い性格の王が簡単に許可をくれた。ついでに“渇きの壺”もゲットだ。

 似非賢者の無様な姿を見れて俺は大変満足している。え、勇者っぽくないって?

 そのあたりは気にしたら負けだと思う。

 しかしアリシアにこっぴどくやられたものだ。久々に仲間の攻撃で棺おけになるかと思ったぞ。アレはどうしようもない状況だったんだから許せ。

 とりあえず壺を手に入れたから明日は浅瀬で鍵を手に入れるとしよう。

 

 アリシアさんにセクハラをして、恐れ多くもお姫様を攫うなんて、とんでもない女たらしの田舎者さんですね、アルスさんは。

 いつ手籠めにされてしまうかおっかなびっくりですが、これからもご一緒させていただきます。

 皆さん、これからもよろしくお願いしますね。

ステラより

 

 




ロマンチストな運動音痴のお姫様。
当時アリーナとは違った味のお姫様を表現したくて、このようなキャラクターにした覚えがあります。


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第五話「最後の鍵争奪戦」

黒歴史ばかり文章量が多いのはきっと遅れてやって来た中二病のせい(血反吐


 浅瀬を探すのに時間が掛かった。

 馬の西の浅瀬といっていたが北と言った方が分かりやすい位置に浅瀬はあった。

 

 後であの馬さばくか。

 

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。なんだか壺がすごい勢いで水を吸ってるよ。これってずっとここにおいてたら海がひやがっちゃうのかな。かな?」

「さすがにそれはないだろ」

 

 ちょっと不安になってきたが浅瀬から祠が見える程度で止まってくれた。

 それでもすごい量だ。

 海水を元に戻す時小さな島が津波に飲み込まれないか心配だな。

 

「……海の幸……」

 フィリアがピチピチはねている『マーマン』をじっとみている。

 

 

 こいつはこんなものまで食う気か。

 聞かなかったことにして祠に入ろう。

 

 

 薄暗い祠には冒険者のものか無数の屍が転がっていた。奥の方に宝箱を抱いた屍がいる。

 

「ここは『浅瀬の壺』を使わなければ通れません。おそらくこの遺骨はそれ以外の方法で鍵を入手しようとしたか、海水が元に戻るまでの間に脱出できなかったのでしょう。その怨念がたたりとなって語りかけているのです。ほら耳を澄ませば~」

「うぅ、ステラ。私そういうのって苦手なんだけど」

 

 モンスターとか平気なくせにアリシアがそんなことを言っている。

 そういえば幽霊とかはダメとか言ってたな。

 俺には幽霊と『ミイラ男』の違いがよく分からんぞ。

 まあ屍ばかりというのは気味悪いけどさ。

 

「オルテガの子よ」

 どこからか声がしてアリシアが声にならない悲鳴を上げて俺にしがみつく。

 

「今の……何かな?」

 ティナも怖がって俺に引っ付いて周りを見回してみるが、もちろん俺達以外にいるのは屍達だけだ。

 

 

 女の子と密着出来て嬉しいが、二人にしがみつかられると歩きにくくてしょうがない。

 

 

「もしかしてもしかしたらあれかな。あれかな。寒くて薄暗い海底に閉じ込められていた怨念が渦巻いててもうここから二度と出られなくて屍の仲間入りだー。どうなる勇者アルス! 次回勇者アルス死すをお楽しみに」

「ちょっとニーナやめてよそういうの。本当に私そういうのダメなんだから!」

 

 アリシア、ツッコむところはそこか。

 次回予告で俺が既に死亡確定なのはどうでもいいのか。

 というかタイトルでネタばれだけはやめてくれ。

 

「もしそうなったらアリシアか私が勇者だな。それはそれで面白そうな冒険になりそうだ」

 確かにこの二人ならリーダーはこなせるけど楽しそうにそんな事いわないでくれ、マリア。

 冗談だと分かっていてもへこむぞ。

 

 

「……だっこ~……」

 それでフィリアはフィリアでこの2人にしがみつかれている光景が面白そうに見えたのか、後ろから背中に飛び乗って抱きついてきた。

 

 重いぞお前ら。

 

「オルテガの子よ。これをそなたに授けよう。『ネクロゴンド』の山奥に『ギアガの大穴』ありき。すべての災いはその大穴よりいづるものなり」

 

 動けない俺をよそに屍が持つ宝箱が勝手に開いた。

 

「マリア」

「なんだモテモテ勇者君」

「ご機嫌そうにこっち見てないで鍵を取ってくれ」

「アルスはか弱い私に屍が持っている宝を取りに行けと言うのか?」

 どこがか弱いんだ。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。これでズボン脱がしたら何だか私達がアルス君を襲っているみたいな構図が出来上がるね。ねぇねぇねぇねぇずらしていい? いいよね。むしろとらなちゃダメだよねー」

「なぜそうなる!」

 ニーナが俺のズボンのベルトを外し始めている。

 

「アルスさんとても幸せそうですねぇ」

「ステラお前後で覚えとけよ」

「はぅ!? 私はただアルスさんの様子を述べただけですよぅ。なんで私だけ睨むんですかぁ!?」

 屍が折角重要な情報をくれているのに緊張感がまったくない。

 

 とにかく忘れる前に【緑のボタン】で覚えておこう。

 

 

 

「『エジンベア』では不覚を取ったがその最後の鍵は渡さんぞ!」

 

 

 

 変なメッセージが記録されてしまった。

 入り口の方に『骸骨剣士』が立っている。

 『エジンベア』であんなモンスターと出会っただろうか。

 

「さあ、覚悟するがいい!」

 『骸骨剣士』が一歩足を踏み出す。

 

 すると突然燃えた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ! 熱いっ! 俺のハートが熱い! おのれ聖域に隠れるとは卑怯だぞ!」

 どうやらこの祠にはモンスターが入って来れないようだ。

 

 アリシアがそんな『骸骨剣士』をじと目で見て、

「【メラミ】」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 燃やした。

 

「おい、さっきの喋る屍とどう違うよ」

「だってモンスターは倒せるじゃない」

 すごく単純な理由だった。

 

「でもお化けはビデオを見ただけで一週間後には死んじゃうんだよ。どうにもならないじゃないっ!」

 アリシアが何かを思い出して震えている。

 

 確かそんな内容の小説があった気がするな。

 昔俺がアリシアに貸してやった記憶がある。

 って、もしかしてアリシアが幽霊怖がっているのは俺のせいなのか?

 

「熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ! 骨のずいまで焼き尽されるっ!」

 『骸骨剣士』が炎を消そうと転げまわっている。

 これ以上変なのが来る前に『最後の鍵』を手に入れて船に戻りたい。

 

 

 

 

「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 それなのに変な男が飛び蹴りで『骸骨剣士』を吹き飛ばして入って来た。

 あわれ『骸骨剣士』の頭は衝撃で外の方に飛ばされていく。

 

「その『最後の鍵』は大海賊アクアブルー団所属このアッシュがいただいていく!」

 拳に見たこともないナックルをつけた男。

 

 武道家というよりは盗賊と言ったところか。

 年は俺と同じくらいの白髪の男アッシュは俺に拳を構えた。

 

「って、なんだこのハーレムはっ! 貴様聖域でなに女の子とイチャイチャしてやがる! というか何でベルトついてないんだ貴様は!?」

 

「うはっ!? ニーナお前本当に取るなよ!」

「あはー。ついつい調子にのっちゃった。はいベルト」

 

 ベルトを渡されるがまだティナとアリシアとフィリアにしがみつかれていて、自分では付けられない。

 

「ええい、お前らいい加減にしろ!」

 3人を振りほどいて戦闘態勢を取る。

 

「ごめんね。でも私暗いのは苦手で……迷惑かけちゃってごめんね」

「うじうじするなっ」

「あんたティナを泣かせるなっ!」

「お前は怖がるかいつも通りなのかはっきりしろ」

「……あるすに捨てられた~……」

「捨ててないし勘違いされるようなこと言わないでくれ」

 

 アッシュという男は呆然と立ち尽くしている。

 が、すぐに首をぶんぶん横に振った。

 

「多くの可愛い女の子をたぶらかし、挙句の果て無碍に扱って捨てた女を食い物にする悪党め! 正義の鉄拳を受けてみるがいい!」

 

 なんだかすごい勘違いをされているみたいだ。

 俺のステータスを確認してみると性格が【ロリコンの父を持つド変態で苦労人の女を食い物にする男】という無駄に長くて意味不明なものになっていた。

 

 もうこれは誕生日にニーナからもらった『くじけぬ心』を装備して普通の【くろうにん】に戻るしかないか。

 

 

「行くぞ悪党!」

 こういう熱血は何を言っても無駄だ。

 とりあえず倒しておこう。

 

 

 『鋼の鞭』を構えるが既に俺の視界からアッシュは消えていた。

 早い。何よりもフットワークがいい。

 左右に揺さぶりをかけて目で追わせておいてしゃがんでアッパー。

 だけど反射的に後ろに下がることが出来たからアッシュの拳は俺のほほにかすり、軽い切り傷を作るだけすんだ。

 

 

 

 こいつ、ぽっと出のくせして普通に強い。

 

 

 

「えっと……助けなくていいのかな?」

 ティナが加勢しようか迷っているようだが、カンダタと一対一で戦いたいと言っていた俺に誰も加勢しようとしてくれない。

 「男と男の戦いは熱いですヨ」とか「むさくるしいですねぇ~」とか笑いながら観戦している。

 

 

「やるな悪党!」

「誰が悪党だ!」

「そのような武器を使っている奴は悪党に決まっている!」

「俺だって剣使いたいんだぞ!」

 

 

 海に沈んでしまった『鋼の剣』が恋しい。

 こうなったらやけだ。

 『鋼の鞭』をしまって俺も拳で挑むことにした。

 ただし魔法は使うがな。

 

 

「【イオラ】!」

 俺は【イオラ】の爆発で牽制して隙をついて殴り飛ばそうと考えていた。

「そんなの効くかよっ!」

 だが、アッシュは【イオラ】で無数に出現した爆発する球体をすべて拳で打ち落としながら向かってくる。

 無茶苦茶する奴だ。

 

「こいつはお返しだ! 【ベギラマ】!」

 【イオラ】を拳で突破してきて奴は拳を振り上げた。

 拳が炎で燃えている。

 射程はほぼゼロだが俺の【火炎切り】と同じ魔法を上乗せした攻撃だ。

 突き出された拳を『魔法の盾』で防ぐが衝撃を支えきれずに俺は吹き飛ばされていた。

 

「くそっ」

「まだまだだぜっ!」

 

 それだけでアッシュの攻撃は止まらない。

 奴は更に自分の足元を【イオ】で爆発させて、脚力と爆風で矢のように俺を追いかけてきた。

 

 どうやら魔法を自分の格闘に上乗せして戦う戦闘スタイルのようだ。

 このままでは体勢の崩れているところに更に追い討ちを食らってしまう。

 

「【ルーラ】!」

 座標を真上に設定して強制的に体勢を立て直して、アッシュの攻撃をぎりぎりかわし蹴り飛ばしてやった。

 

「へっ、そうでなくっちゃ面白くないぜっ!」

 折角時間稼ぎに蹴り飛ばしたというのに、地面に手をついてそれを軸に身体を捻り体勢を立て直して、また【イオ】で突進してきた。

 これだから熱血は嫌いだ。

 

「くそ、【火炎切り】!」

 

 『銅の剣』を取り出して【火炎切り】で迎え撃つが、奴の【ベギラマ】のこもった拳と衝突してお互いに吹き飛ばされた。

 

 

 互いに空中で姿勢を戻して着地して一息つく。

 

 

「海賊にするのはもったいないくらいに強いな」

「お前だって悪党にしとくのはもったいないぜ」

 

 

 初めのカンダタ戦を思い出す。

 久しぶりに熱くなってきた。

 どうやら俺も意外に熱血らしい。

 

 

「俺の切り札を使う。あんたなら多分平気だろ」

「正面から受けきってやるぜ」

 言ってくれる。

 攻めの手を止めて本気でこいつは正面から攻撃を受けるつもりのようだ。

 これで俺が撃たなかったら逆に失礼だろう。

 

 

「【ライデイン】!」

 

 

 魔力の稲妻をアッシュに向けて振り下ろした。

 こいつは俺の単体最強魔法だ。

 それをアッシュは嬉しそうに見上げ、そして拳を振りかぶった。

 

「うをぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 【マホキテェェェェェェェェ】ッ!!」

 

 上に勢いよく突き出された拳は【ライデイン】とぶつかった。

 衝撃で稲妻が少しそれる。

 

 【マホキテ】は見たことはないが、相手の攻撃魔法の【MP】をそのまま自分の【MP】にする魔法だと聞いたことがある。

 だがダメージを防ぐ魔法ではない。

 

 

「効いたぜお前の魔法。一発でたまりきるなんてすげぇ威力だ!」

 

 

 確かにダメージはあるし服はこげて肌には少し火傷のあともある。

 それでもこいつは笑っていた。

 こいつはただの熱血ではない。熱血バカだ。

 

「今度は俺の番だな。死ぬんじゃねえぞっ」

 

 ここまできて冗談やハッタリを言う男ではない。

 シャレにならない威力の技を使う気だろう。

 

「【メラ】&【ヒャド】」

 右手に【メラ】左手に【ヒャド】を構える。

 そしてどこかの勇者王のように手を合わせた。

 でも原理は分かっている。

 『魔法の玉』と同じでプラスとマイナスの力を合わせてスパークさせるつもりだ。

 

 さすがにアレを食らったら俺もただで済みそうにない。

 

「【バギマ】!」

 

 2つ同時魔法でも驚いたのに3つ目も使ってきやがった。

 しかもこれは俺の動きを封じるために使われたものでダメージは少ないものの、拳から放たれ続けている風が俺の動きを完全に封じる。

 

 逃げることはできない。

 防ぐか、迎え撃つか。

 流石にマリアとアリシアは俺の身に危険を感じて動き出したが、間に合わない。

 

 

「合体魔法【メヒャド】……いくぜええええええ――――――――」

「鍵一つ取るのにいつまで時間掛かってるのかなー」

 放たれる直前に誰かがアッシュの頭を殴った。

 

 その攻撃でアッシュの攻撃は止まって風も消える。

 

「っぁ!? マナてめぇー!」

「はいはい文句なら後にしようね。鍵は私が確保してるから撤退よ」

 

 止めてくれたのはアッシュと同じくらいの年の少女。

 同じような服装だから同じアクアブルーという海賊の一味だろう。

 いつ取ったのか彼女の手には『最後の鍵』が握られていた。

 

「マリア!」

「心得た」

 

 マリアが鍵を取り返そうと走った。

 しかしマリアが少女を捕らえる前にアッシュと少女が消えてしまう。

 【レムオル】……いや、【リレミト】だな。

 まんまと取り逃がしてしまった訳だ。

 

「すまない、仲間の存在に気付けなかったとは」

 マリアが取り逃がしてしまったのなら仕方がない。

 それに『最後の鍵』がなくても今まで何とかなってきたし大丈夫だろう。

 

 

「2つ同時に魔法か。そういうのもありなんだ」

 アリシアはなるほどと関心している。

 また誤射の危険性が出てきたな。

 俺も2つ同時に別々の魔法なんてまだできないんだから勘弁してもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書27―アルスの日記―

 『浅瀬の洞窟』に『最後の鍵』を取りに行ったら新たなライバルが現れた。

「こいつ……俺の技を吸収した!?」

 新たなライバルのアッシュは何と相手の魔法を吸収して必殺技を放てるのだ。【ヘル&ヘブン】に敗れたアルスは『最後の鍵』を奪われてしまった。

 どうするアルス。負けるなアルス。世界はお前にかかっているのだぞ!

 次回、C†C銀河金色英雄伝勇者王アルスSEED

第28話「きらめけ俺のサンライトイエロー・エクセリオンモード」にチェンジGO!

 

 寄せ書きだけでは飽き足らずに本文まで書くな。後設定盛り過ぎだ#

 

 




アッシュとマナは海賊のアジトへ行く理由づけと、本来完結後に書く筈だった外伝主人公の先行登場でした。
完結もしてなかったのに当時の私という奴はなんて無茶を。
アッシュはインファイターな賢者枠であり、『ロトの紋章』の合体魔法を使います。
『ダイの大冒険』の【メドローア】はメインで使う予定だったので、【メヒャド】と安易な合体魔法にしたのに、『バトルロードⅡ』で登場されてしまうとまさかの先駆けとなりました。

当時しっかり投稿していればちょっとした自慢になっていたかもしれませんね。


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第六話「笛は吹くもの」

ようやくやまびこの笛を手に入れる話。


 何だか時間が掛かったが『山彦の笛』を探しに『アープの塔』に向かった。

 

 とりあえずニーナは冒険の書を勝手に書いたから今日は船で反省文を書かせておく。

 

 さてアープの塔の攻略だが『ビッグホーン』の『甘い息』が正直うざい。

 1匹なら瞬殺できるのだが、こいつは大群で出てくる。

 

 アリシアの【ベギラマ】と皆の打撃で手っ取り早く倒すか、眠らされる前に【ラリホー】で逆に眠らせるのが手っ取り早い。

 

 

「私に任せて!」

 アリシアが張り切っている。

 嫌な予感がするから皆を少し下がらせておいたら案の定【ベギラマ】と【メラミ】を同時に使用しようとして自爆した。

 

 ティナの【ラリホー】で『ビックホーン』を眠らせて、俺が【ベホイミ】でアリシアを回復してやる。

 

 

 アリシアが久々に落ち込んでしまった。

 フォローをするこっちの身にもなってくれ。

 

 

「二兎を追うものは一兎を得ずということわざがありましてですね。二匹いるウサギを両方捕まえようと追いかけたら要領が悪くて結局どちらのウサギも捕まえられずに逃げられてしまう、というお話しです」

 

 ステラの笑顔のことわざでアリシアがさらに沈んだ。

 アレでいてアリシアは結構傷つきやすいんだから勘弁してくれ。

 

「ここら辺の敵は弱いんだ。もっと肩の力を抜け」

「……ぬけ~……」

 

 マリアはフィリアを肩車して歩いている。

 お前らは肩の地から抜きすぎだ。

 

 しばらくモンスターを倒しながら塔を上っていくと、ロープが向こう岸まで続いている部屋に出た。

 別にこんなのどうって事ないのだが、アリシアとティナとステラが【ルーラ】を推薦してきた。

 わざわざ渡れるところに【MP】なんて使うのはもったいない。

 

「……前は遊べなかった……」

 フィリアはもうロープの上を歩いている。

 

「あする~。早くいこー」

「おう、俺はこっちのロープから行くから競走な」

「お~」

 

 階段の近くにある2つのロープは同じ足場に繋がっていたから競走してみた。

 最初に比べてフィリアはずいぶん自分からものを言うようになってきた。

 嬉しい限りだ。

 

 だけど今まで何にも興味を持たなかったのにいきなり何かに興味を持つようになった反動か、よく俺の部屋に忍び込んできては悪戯したり、朝目覚めたら隣で寝てたり、風呂も一緒に入ろうとしたりするのは止めてもらいたい。

 

 一応俺も男だ。

 いくら射程範囲に入っていない少女が相手とはいえ心臓に悪い。

 

「よし、お姉さんが手を引いてあげよう。さあステラ。あっちの隅のほうに行こうか」

「何だかとても手相が心配なので遠慮しておきます」

 少し息を荒くして嬉しそうに手をにぎにぎしているマリアにステラは苦笑していた。

 

 まあ俺とフィリアとマリアで綱の先を調べてみたが『山彦の笛』らしきものは見当たらない。

 そういえば3階の中央に宝箱があった気がする。

 2階下まで飛び降りないといけないのか。

 これって結構痛くないか?

 

「よしアルス。行って【ルーラ】で戻ってこい」

「いやいや、こういうのは戦士の役目だろ」

「女性には優しくするものだぞ」

 俺より接近戦得意なくせにこういう時ばかり女性だということを表に出す。

 マリアのことだ、きっと飛び降りる俺の姿を見たいか突き落として遊びたいのだろう。

 

「ええい、男ならさっさと行け」

 ほら突き落とされた。

 しかも位置少しずれてるし。

 さらに下に落ちたくないので【ルーラ】で無理矢理位置を調整して、なんとか宝箱にたどり着いた。

 

 

 中には『山彦の笛』と、

「親父の……手紙?」

 親父からの手紙が入っていた。

 内容はこうだ。

 

 

 息子へ。息子以外だったら黙って物を宝箱に戻せ。

 元気にしてるか。

 これをお前が読んでいるという事は俺はもうこの世にいないか、大魔王やってるかのどっちかだろう。

 『ダーマの神殿』でなりたかった職業だったからな。

 ある意味俺の夢だ。

 

 

「やべぇ、『ダーマ』でネタかぶってたのかよ」

 

 

 さて、俺は『聖なるオーブ』を5つ集めたんだが、最後の一個がどうしても見つからなくて“ラーミア”は諦めた。

 そもそも俺は鳥よりも竜に乗って空を飛びたいしな。

 『聖なるオーブ』は俺の信頼できる友に預けて笛はここにおいておく。

 いや俺笛吹けねえし。

 とりあえずお前は吹けるようにルイーダの伝言で音楽も習わせてるから大丈夫か。

 

 

「そのための音楽の勉強だったのか。俺はてっきりモテる為の修行かとおもっていたぞ」

 

 

 さて、お前が俺と同じようにならないように俺の強さをここに記しておこう。

 

 

【HP510】       【MP460】

【力255】       【素早さ180】

【体力255】      【賢さ230】

【運80】        【LV84】

 

 

 魔法は一通り覚えておいた。

 俺を超えるいきおいで頑張れ。

 

 

「いや無理だから。お前高いステータスカンストしてるから」

 

 

 なんだ絶望したか。

 まあ俺の偉大さに比べればお前なんてミジンコと同じよ。

 

 

「会ったことも無い息子にそこまで言うかお前は」

 

 

 だがお前は俺じゃない。

 俺とは違うお前のやり方で行け。

 俺にはないお前の力で勝ち進め。

 ミジンコにはミジンコのよさってもんがある。

 

 

「親父……なぐさめるかけなすかどっちかにしろ」

 

 

 手紙はここで終わりだ。

 『山彦の笛』を吹いてみると笛の音色はとても綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書28―アルスの日記―

 昨日ニーナが勝手に日記をつけたからニーナには船で反省文を書いてもらうことにした。

 今日は『アープの塔』まで『山彦の笛』を取りに行ったが、アリシアがアッシュという男の真似をして久々に誤爆した。落ち込んでいるアリシアにステラが余計な一言を言ったので二人とも反省文を書いてもらおう。

 

 




オルテガは強い(確信)
滅茶苦茶な親父でも残してきた息子の為に手紙を残させました。
他の人が読むことは一切考えないの猪突猛進な男がこの作品のオルテガです。


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エピローグ

黒歴史が詰まりに詰まった章でしたが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。


 夜、船のデッキで『山彦の笛』を吹いているとアリシアがやって来た。

 

「風邪引くわよ?」

「吹雪の酷い中【トラマナ】を俺だけ掛けなかった奴の台詞ではないな」

「あんたいつまで根に持ってんのよ、それ」

 

 アリシアが軽く溜息をついた。

 

「ねぇ、あんたもうオカリナ持ってたわよね?」

「なんだ、オカリナに興味を持ったのか」

「綺麗な音色だからね」

 

 それは同感だ。

 

「で、お前オカリナなんか吹けるのか?」

「だから教えなさいって言ってるのよっ。せっかく笛が2つもあるんだからっ」

 

 それもそうか。少し機嫌を損ねて顔をそらされてしまった。

 扱いが難しい奴だ。

 

「うーむ、もともともっているオカリナはニーナがくれた奴だからな」

「それ初耳なんだけど」

「いや、だって言ってないし」

 

 それを言ったらヴァイオリンをアリシアからもらった事も言ってない。

 

「『山彦の笛』でいいか?」

「ええ、『オーブ』を探す時吹かないとダメだからいい練習になってちょうどいいわ」

 

 アリシアは『山彦の笛』をご機嫌そうに受け取った。

 まずは持ち方から教える。

 

「こう?」

「違う違う。指はこう。それだと吹きにくいだろ」

 

 初めは不器用だったがさすが努力家で真面目に話を聞くアリシアだ。

 ちゃんと教えれば少しずつ覚えてくれる。

 

「あんたこんな難しいの簡単に吹いてたんだ」

「慣れればアリシアもすぐ出来る。とりあえず指はそれでいいからまずは適当に音を出してみろ」

「……うん」

 

 恐る恐るアリシアが『山彦の笛』に口を近づける。

 

「……これってさっきまであんたが吹いてたのよね?」

「そうだがそれがどうかしたのか?」

「そんなバッチイ物吹けるか!」

「ぐふっ!?」

 

 アリシアが顔を真っ赤にして俺に『山彦の笛』を投げつけた。

 間接キスを気にするってお前は小学生か。

 でもアリシアらしい反応と言えばアリシアらしい反応だ。

 

 いつまでも仲間とこうやってはしゃいでいられれば、いいのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書28―アルスの日記―

 昨日ニーナが勝手に日記をつけたからニーナには船で反省文を書いてもらうことにした。

 今日は“アープの塔”まで“山彦の笛”を取りに行ったがアリシアがアッシュという男のまねをして久々に誤爆した。落ち込んでいるアリシアにステラが余計な一言を言ったので二人とも反省文を書いてもらおう。

 

 昨日の海賊に『最後の鍵』を奪われてそのままというのは癪だ。私の提案だが海賊の情報を『ルイーダの酒場』で集めてみてはどうだ?

 それは私も賛成ね。なんだかやられたままってのも悔しいし、今度は私も一緒に戦ってあげるから感謝しなさいよね。

 今日は私だけのけ者で寂しかったですヨ。およおよToT

 折角書いた反省文を二回も破り捨てないでください。いくら私でも泣いちゃいますよ?

 ちょっとステラちゃんに厳しいんじゃないかな。        ティナより

 反省文は私と遊びながら書いた。明日はあるすのごはんが食べたい。ティナのはおいしいけど少しすくない。

第六章「仲間と絆編・完」

 

 




仲間との絆が深まると同時に、会ったことのない父へとわだかまりもほんの少しだけ無くなった章でした。


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第七章「少女の想い編」
プロローグ


情報集めと息抜きをする話。


 マリアの言うとおり一度『アリアハン』に戻って、『ルイーダ』に海賊アクアブルーについて聞いてみた。

 

「あー、思い出した。確かそこの船長ともあんたの親父さんは仲良かったわね。『誘いの洞窟』から真っ直ぐ東に船をこぐと大きな大陸にたどり着くから、そこの森の中に彼らのアジトがあった筈よ」

 

 本当に親父は顔が広い奴だ。

 まさか海賊の船長と仲が良かったらしい。

 

 なんでも一週間不眠で喧嘩して友情が芽生えたとかなんとか。

 これは話せばわりと簡単に『最後の鍵』を貸してくれて、しかも『聖なるオーブ』まで持っているかも知れない。

 まさに一石二鳥だ。

 

 

「ところでアリシアちゃんはさっきからピーヒャラピーチャラ何をやってるの?」

「ああ、オカリナに興味を持ったみたいで練習中だ。すごい音だろ?」

「何よ、まだ始めて初日だし……大体まずは適当に吹けって言ったのあんたじゃないっ」

 

 

 まあそうなんだけど、それにしても音がこうも酷くなるとは。

 思ったとおり指よりも笛の吹き方を教えた方がいいな。

 

「とりあえずあれだ、トゥートゥートゥーって感じで次吹いてみろ」

 少し教えたら多少マシになった。

 それを見てニーナが目を輝かせている。

 とても嫌な予感がするのは気のせいではないだろう。

 

「アリシアちゃん良いな良いな良いなー。私も私も私も何か音楽やりたいやりたいやりたい。もうアルス君に手取り足取り教えてもらって、ああコーチそこは。いいではないか。やめてコーチ。君は教えてもらう立場なんだぞ、わははははははー。みたいな展開になって夜な夜なヒグラシが鳴く夏の終わりに鉈を振り下ろしたいですヨ」

 

「お前はそんな血みどろの展開を望んでいるのか」

 バラバラ死体は生き返れそうにないから勘弁してもらいたい。

「まあ別に音楽やるのは構わんが……何やりたいんだよ?」

「カスタネットっ!」

「……まあ騒がしいお前にはちょうど良いか。昔使ってたのなら俺の部屋にあるぞ」

 他にも色々あるからこのさい俺の部屋に皆入れるか。

 

 

「ほう、ここがアルスの部屋か」

 マリアがズカズカと部屋に入るとベッドの下や枕の下、さらに本棚や机の裏を突然調べだした。

「つまらん奴め。お前それでも男か」

「簡単に見つかるところには隠さないって」

 マリアは『エッチな本』を発掘して俺をからかうつもりだったのだろうが、完璧無敵の俺はそんな単純なところには隠さない。

 

「それにしてもすごい楽器の量ね」

「アルスは音楽好きだから。あ、これ懐かしいね。アルスが初め使ってたギターだよ」

 ティナが俺の初代壊れたギターを発掘した。

 

 俺自身残っているとは思わなかった。

 何だか部屋中を発掘したら後で食べようとして忘れ去られたカビパンが出てきそうで怖い。

 

「私が求めるカスタネット発見! って、なんか棒にカチャカチャがついてて、中心の持つところっぽい変なのに鈴みたいなのがついてる!? ねぇねぇねぇねぇこれはどうやって遊ぶものなの。あれかなあれかな、男の子のエッチな道具かな?」

「どこからそういう発想が出てくる。これは鈴を鳴らしながら手首のスナップでカスタネットの部分を当てて音を鳴らすんだ。表と裏で叩いたときの音が違うし指でこう押さえておけば鈴だけ鳴らせる。まあ珍しい楽器で名前は忘れたけど結構いい運動にはなるぞ」

 

 ニーナの目の前でやってみせるとすごく目を輝かせていた。

 

「やらせてやらせて何だか踊ってるみたいでカチャカチャ音もすごいし鈴鳴るしで楽しそう!」

 騒がしいニーナにはぴったりだな。

 

「私も何かいただいてもよろしいでしょうか?」

「ステラはこれが似合いそうだな」

 トライアングルを渡しておく。

「はぅ!? 何だかすごく地味なんですけど」

「いや、だってお前姫って割には地味じゃん」

 ステラが膝を突いたようだが気にしないでおこう。

 

「くそ、二段底になっていて仕掛けもあったから期待したのにこれすらダミーとは。まさか私がここまで手玉に取られるとはな」

 マリアはとても悔しそうだ。

 というかまだ『エッチな本』を探していたのかこの人は。

 

「マリアはギターでもやってみるか? 二代目ギターがまだあるんだけど」

 ティナに買ってもらう前に自分で買った物がまだ余っている。

 マリアの高めの身長とこの性格はギターがとても似合う気がする。

 

「ん、お姉さんもやるのか」

「嫌ならいいけど」

「嫌ではないが、お姉さんは君の隠した『エッチな本』を探す方が楽しいのだが」

「いや、その話題を出す度に何かニーナとステラがその辺あさりだして、アリシアの目線が痛くなるから止めてくれ」

 

 とりあえずギターを渡しておく。

 するとマリアはギターの絃を調節し始め、調節し終わると綺麗な音色でギターを弾き始めた。

 曲は適当にその場で考えて弾いている節があるがそれが逆にすごいと思う。

 

「何でもできるんだな」

「まあな。人前に出ても恥ずかしくないようにと、オルテガが色々いらんおせっかいを焼いて講師を付けてくれたからな。私はお前以上に何でもこなせる自身があるぞ」

 マリアが勝ち誇ったように笑ってみせた。

 

 

 別に悔しくなんてないやい!

 

 

「……あるす~。私もほしい……」

「ああ、お前は何がいいんだ?」

「これ~」

 フィリアがもってきたのはマラカスだった。

 まさかこんな物まで持っていたとは昔の俺、恐るべし。

 

「そうか……あそこの可能性があるな」

 ギターを弾いていたマリアの手が突然止まった。

「すまんがお手洗いに行ってくる。トイレを借りるぞ」

 やけににやけている。

 

 流石マリアだ。

 この部屋にはないと判断したのだろう。

 だけどいくらマリアでもそう簡単に見つけることは不可能なはずだ。

 

「アルス。私は何を使えばいいのかな?」

「あー、ティナは声いいから歌ってくれればいいさ。俺はギターも笛も使われているからヴァイオリンだな」

 ヴァイオリンを取り出すと妙にアリシアがご機嫌だ。

 

 そういえばヴァイオリンを弾いている時は高確率でアリシアは聞きに来たり、窓から俺を見下ろしていたりしてたな。

 

 昔プレゼントこれを選んだのはヴァイオリンの音色が好きで聴きたかったところか。

 

「はっはっは。なかなか良いところに隠していたな」

 目星をつけていたのかただ葉っぱを掛けているだけなのか、マリアがすぐに戻ってきた。

 耳元で「なかなか良い趣味ではないか」と呟いてきたのが怖い。

 

「そうそう、お前の祖父の部屋にあった本棚から楽譜をもってきたが使うか?」

 マリアは今日一番の笑みを浮かべた。

「え、遠慮しときます」

 

 木を隠すなら何とやら。

 じいちゃんの本棚に隠さずにしまっていたのに少し色物すぎたか。

 じいちゃんの『Hな本』と俺の『Hな本』では趣味の方向性が違うから、きっとそこでばれたのだろう。

 しっかりと見覚えのあるカバーのついた本をピンポイントで持ってきている。

 

 

 頼むからそれを船に持ち込んでネタにしないでくれよな。

 

 

 俺はにやけるマリアに内心怯えながらも笑顔を装い、皆にそれぞれ楽器の基本を教えた。

 それにしてもマリアだけは敵に回したくないとしみじみ思わされる一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書29―アルスの日記―

 『ルイーダの酒場』で聞いた情報だが海賊アクアブルーの船長と親父は仲が良かったらしい。アジトの場所はまっすぐ東に船を進めた先の森の中にあるそうだ。

 たまには生き抜きも必要だから皆に楽器の使い方を少し教えた。いつかみんなで演奏してみたいものだ。

 




アルスだって男の子だもの、『Hな本』の一つや二つ持っています。


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第一話「海賊の親子」

一話から飛ばしていくスタイル。
相変わらずのクオリティーですがお付き合いしていただけると幸いです。


 情報どおりに船を進ませて大陸にたどり着いた。

 深い森の中にアジトがあるなんて探しにくいから勘弁してほしい。

 

「しかし海賊のアジトがある中船を放置しておくのは危険だな。誰か残していった方が良いのではないか?」

 確かにマリアの言うとおりだ。

 ここは戦力を同じくらいに振り分けた方がいいかもしれない。

 

 俺、ステラ、フィリア。

 マリア、ティナ、ニーナ、アリシア。

 

 これが妥当……いや、俺の方が少し戦力きついがアジトに忍び込むのにうるさいニーナやとろいティナを連れて行くわけにはいかない。

 なによりティナは俺を除けば唯一回復が使えるから片方に残しておく必要がある。

 

 戦力バランス的にマリアは俺と一緒だと偏りすぎる。

 でもステラを連れて行くのは何かドジしそうで怖いな。

 船側の魔法攻撃がなくなるけどステラをアリシアと交換するか。

 この配分なら何があっても乗り越えていけるだろう。

 

 船はマリア達に任せて海賊のアジトに行くことにした。

 

「ところであの拳が出てきたらどうする? 今度は私も戦おうか?」

「ああ、アッシュって奴のことか。まあその場の空気でやってくれ。一応マリアからチェーンソード貸してもらってるし今度は大丈夫だろ」

 正確に言うとマリアに『鋼の鞭』を取られてチェーンソードを押し付けられた。

 

 でもずいぶん『鋼の剣』をカスタマイズしたものだ。

 ただ鎖を簡単に付けた訳ではなく柄そのものが『鋼の剣』の原型を留めていない別物になっている。

 おそらく鎖を振り回しても取れないようにしてくれたのだろう。

 

 しばらく歩いていると意外にも簡単にアジトにたどり着けた。

 

「アリシア、『山彦の笛』」

「あ、うん」

 

 アリシアは『山彦の笛』を取り出して一生懸命吹いた。

 笛からは変な音色が流れてきてその音色が山彦のように返ってくる。

 

「おお、やっぱり『聖なるオーブ』もあるのか」

「何だか色々とショックが大きかったんだけど……」

「その内うまくなるから気にするな」

 

 さすがに自分の下手な演奏が返ってくるのは堪えたのか、アリシアが溜息をついて肩を落としていた。

 

 当然ながら今の音で海賊達がアジトから出てきた。

 見つからないように行く筈が、少し笛を吹くタイミングを早まったか。

 

 

 

 

「ちーっす。オルテガの息子アルスだけと船長さんいるか?」

 

 

 

 

 とりあえずどうどうと挨拶してみる。

 オルテガの名は伊達ではないのか海賊達が騒いでいる。

 

「あの化け物の息子だと!?」

「自分の腕を自分でくっつけたあの」

「取立てか、取立てに来たのか!?」

 

 なんだが親父が人間扱いされていない気がする。

 親父、あんたはここで何をしたんだ。

 

 

「ついに来たか。オルテガは俺のソウルブラザーだ。歓迎するぜボウズ」

 

 

 そんな騒がしい中、黒いコートに黒いハット。

 左目に眼球といういかにもって感じの銀髪の男が出てきた。

 マリアのようにどうどうとしていて隙がまったくない。

 

 親父と一週間戦い続けた男だ。

 間違いなく俺が今まで出会ってきた何よりも強い。

 そんな偉大な男が出てきた瞬間に突然フィリアが殺気だった。

 

 

 

 

 

 

「フィリア……お前、どうして……」

 

 

 

 

 

 海賊の船長もフィリアを目にして呆然となった。

 隙のなかった男に一瞬だけ隙ができる。

 それをフィリアは逃さない。

 

「待てフィリア!」

「どいて。そいつ殺せない」

 

 気付けて良かった。

 フィリアを押さえつけることが出来た。

 海賊達が船長の前に飛び出してアリシアは混乱しながらも俺を庇うように前に出る。

 

「お前ら下がれ」

「しかし船長っ」

「いいから下がれ」

 

 また出てきた時の落ち着きを取り戻しているがフィリアはまだ殺気だっている。

 

 

「自己紹介がまだだったなボウズ。俺は大海賊アクアブルーの船長カーチス。お前の連れの父親だ」

 連れ、とはフィリアのことだろう。

 

「お前のせいで母さんは死んだ。お前のせいだ」

「フィリア落ち着きなさいって。ちょっとフィリアを船に送ってくるから後お願い」

 やっぱりステラでなくアリシアを連れてきて正解だった。

 突然の出来事にも慣れてきたのかアリシアは俺が指示を出す前に動いてくれた。

 正直ありがたい。

 

「すまない」

「別にあんたのせいじゃないしあんたの為にする訳でもないから」

「ああ、ありがとう」

 

 アリシアは少し照れて顔を逸らした。

 だけどすぐに状況はあまりよくないと思い出し、海賊達に軽く頭を下げてからフィリアを連れて行く。

 

「いい仲間を持ったな」

「ああ、フィリアも俺の自慢の仲間だ」

 

 初めてフィリアに会った時彼女はすべてに対して無関心だった。

 関わっていくうちに実は甘えん坊であることが分かった。

 それなのにカーチスを見た瞬間殺意を発した。

 

「いくら親父の友人だからって返答しだいで俺はあんたを許さない」

「なかなかいい目だ。度胸もいい。自分と相手の力量の差を分かっていながらその目が出来るとは…さすがソウルブラザーの息子だな。ついて来い」

 

 立ち話でするような話しではない、と言いたいのかカーチスは俺を建物の中に案内して自分の部屋に招きいれた。

 

「お前ら誰も入れるなよ」

 

 海賊達にそう言って扉を閉ざした。

 完全防音設備の整った部屋…断末魔も外に漏らさないだろう。

 何か間違いが起きても中を覗くまでは何もなかったことになっている、そういう部屋だ。

 

 

「俺も“オルテガ”と同じでな、家族を故郷において旅立った。もちろんソウルブラザーのように世界を救うとかそんな大それた理由じゃねぇ。ただ病気で苦しむ妻を助けるのに金が必要だった。それが俺の海賊人生の始まりだ」

 

 

 大それた理由ではないと言っているが守りたいという想いは同じだ。

 だけどそれだけではフィリアがあそこまで殺気立つ理由にならない。

 

 

「金のためならどんなこともやった。そして何かを守りたい奴、ただ金がほしい奴、ひたすら強さを求める奴が集まった。笑っちまう。一人で始めたことがいつの間にか大海賊の誕生って訳だ。だが俺は目立ちすぎちまった。極悪人の妻だ極悪人の娘だとののしられて気付いた時には家は壊されていて誰もいなかった。愛する家族を守るために始めたことなのにその付けがすべて愛する家族に返ってきたわけだ。これが笑わずにいられるか?」

 

 

 それがフィリアの父を憎む理由。

 そしてすべてから興味を無くした理由か。

 他の方法で金を稼いでいればこんな事にはならなかったかもしれない。

 だけどこの男は、カーチスという男は不器用だったのだろう。

 

 

「村の奴らを皆殺しにしてやろうかと思った時、あいつが、お前の親父が俺の前に立ちふさがりやがった。そして「男は構わんが女を殺すのは許さん」なんてバカなことをぬかしやがる。正直むかついたぜ。俺は最愛の家族を失ったばかりだってのにそんなこと抜かすあいつが許せなかった」

 

 

 それが一週間不眠不休で戦った理由。

 

「だけどあいつは自分から悪役になることで俺を救ってくれた。村のバカなやつらに罪の意識を植え付けて、俺が村を守る形を勝手に作りやがった大バカ野郎だ。村人全員に家族の大切さを教えやがった。信じられねぇ奴だよ。あいつは……」

 

 やっぱり親父は偉大な男だ。

 まだ見たこともない親父の背中がすごく遠くに感じる。

 

 だけど親父はまた遣り残したことがある。

 『テドン』とマリアの問題と同じだ。

 もしかしたら親父はわざと問題を残して俺を成長させようとしているのか。

 いや、それは流石に考えすぎか。

 

 

「家族のために金を稼いでたなんて言い訳にしかならない。俺も苦しんでいたなんて言い訳にすらならない。俺は、あいつが…フィリアが生きていることにすら気付いてあげられなかった最低の親だ。いっそのこと悪役を演じきった方がフィリアのためかもな。俺が原因で妻を死なせてフィリアに辛い生活をさせてしまったのは事実だ」

 

 

 それはフィリアを俺に任せる、ということだろうか。

 そして悪役を演じて母の敵として殺される気なのだろうか。

 

 

「一つ聞く……海賊になる前は幸せだったか?」

「ああ……後悔している。だがもうどうしようもない。フィリアはお前らに任せる。人並みの幸せを与えてやってくれ」

 その言葉で俺の何かが吹っ切れた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけるな。親は子を守るべきだ。そんなの他人に子育てを押し付けているだけだ。それに本当に娘の事を心配しているのなら自分の手で守るべきだ。一人で巣立って行けるまで見守ってあげるべきだ。綺麗事を言っている? ああ、言っているとも。綺麗事の何が悪い。夢を見て何が悪い。家族の幸せを願って何が悪い。あんたを一生俺に頭が上がらないようにしてやるから覚悟しろっ」

 

 

 

 

 

 

 

 多分、俺は親父に言いたいことを言っているだけかもしれない。

 俺は親父とキャッチボールをするどころか、親父の顔を若い頃の写真でしか知らない。

 でもフィリアはちゃんと親との思い出を持っている。

 もっているからこそあんなにも裏切られたと思って殺気立っているのだと思う。

 

 そこに幸せな記憶が少しでもあるのなら、それを元通りにしてあげたい。

 これはまだ子供の、親父というものを知らない俺のわがままだ。

 

 

「その強引なところはそっくりだな。まあ期待せずに待つとしよう。ほらよ、『最後の鍵』と『レッドオーブ』だ。アッシュの奴がすまなかったな。ボウズに『最後の鍵』を渡す為に取りに行かせたつもりがボウズから盗ってくるとは思わなかったぞ」

 

 

 このタイミングでアイテムを渡すということは本当に期待していないのだろう。

 船に戻るといつも通りの空気だった。

 フィリアは落ち着きを取り戻しているし、マリアは俺とアリシアがいない間に何かしでかしたのかご機嫌でニーナとステラは俺の顔を見るなり顔を真っ赤にして逃げていく。

 ティナは真っ赤な顔をしていてあたふたしているが逃げる様子はない。

 

「どうだった?」

「まあ目的の物は手に入れたがしばらくここで待機だ」

「そう……まあいつものことだから良いんだけどさ」

 アリシアは「本当に【くろうにん】ね」と呟きながら自分の部屋に戻っていく。

 

 

 『くじけぬ心』を外してみると元の【くろうにん】に性格が戻っていた。

 

 

 夜、フィリアに部屋に呼び出された。

 俺の部屋に来ることは多かったが呼ばれたのは初めてだ。

 

「あるすはここー」

 ベッドに座らされた。

「私はここー」

 

 その俺の膝にフィリアは座る。

 男女の関係というよりは幼い娘が父親に甘えるそれだ。

 きっとカーチスとはこんな感じだったのだろう。

 

「私はあるすがいればそれでいい」

 

 俺が思っていることを感じ取ったのか、初めからそれを言うつもりで俺を呼んだのかは分からないけどフィリアはそう言い切った。

 

 俺を自分の親の代わりにしようとしている。

 きっとこれを受け入れても苦にはならない。

 でも俺は本当の父親でもないし、本当の父親はフィリアの事を大切に思ってくれている。

 

 

 

 

 

 

 カーチスが最悪な親ならきっと、こんな事を言わずに、フィリアの親になることを選んでいたんだろうな、俺は。

 

 

 

 

 

「親父のところに帰れ」

 フィリアは俺がそんなことを言うとは思わなかったのか呆然としていた。

 フィリアの中では俺は【やさしいひと】だったのだろうが、俺は自分に正直なだけだ。

 もちろん部屋から追い出されて鍵まで閉められた。

 

 

 

 

 

 

「……あるすなんて嫌いだっ」

 

 

 

 

 

 

 ドア越しからそんな震えた声が聞こえてガタンと大きな音が聞こえた。

 多分ドアに何かを投げつけたのだろう。

 だけど俺はここで何日も引きこもりを説得する気はない。

 『最後の鍵』でドアの鍵を強制的に開ける。

 

 

「……信じてたのに」

「俺の何を信じてたんだ。俺はフィリアの親父じゃないし、フィリアの親父は俺の親父と違ってすぐそばにいる」

「……あるすのお父さんはカッコいいからそう言えるんだ」

 

 フィリアは泣いていた。

 マリアに続けて俺はフィリアまで泣かせるとは極悪人だな。

 

 だから物を投げつけられても避けたり弾いたりはしない。

 投げられて当然だからだ。

 

「なら自分の父親の何を信じられない?」

「あいつのせいで……お母さんは死んだ」

「不器用だっただけだ。それはフィリアが一番良く知ってる筈だ」

 

 フィリアが押し黙る。

 言い返せないから多分頭では分かってるのだろう。

 時より「いじわるなあるすはキライだ」と呟く。

 

 

「別に親父の罪を許せなんて言わない。理由はどうあれカーチスは悪い事をした。そして取り返しのつかない事態になった。許さなくても、憎むな。怒るなら好きだから怒れ」

 

 

 相変わらず口が下手だ。自分で何を言っているか分からない。

 でもフィリアは俺に父親の姿を重ねて求めてきた節があった。

 だからそう、きっと本当は嫌ってなんかいない。

 ただ色々ありすぎて、好きだったことを押し込めて、憎しみだけが残った。

 

 

「……言ってること……よく分からない」

「なら質問を変える。俺のことは嫌いか?」

 

 

 また少し押し黙ってとても小さな声で「キライ」と答える。

 

 

「なら俺なんかもう二度と会いたくないか? 信じたのに裏切られたもんな。俺はフィリアにひどいことをしている自覚はある」

「……いつものアルスは好き」

「それと同じだ。嫌なことをされたら誰だって怒る。相手が怒ったことで自分の罪の重さに気付ける。好きな相手だからこそ怒る時がある。好きな相手だからこそ許してはいけない時がある。でも、その感情は憎しみじゃない」

 

 

 何度かアリシアに殺された俺が言うんだ。多分そう思う。

 

 

「好きって気持ちは簡単に消えない。好きだったから裏切られた時辛いんだ。人を許して罪を許さず。俺はこの言葉が好きだ。カーチスが犯した罪は許さなくてもいい。むしろ責めてやれ。だけどカーチス自身を嫌いにならないでくれ。殺したいなんて悲しいこと、簡単に言わないでほしいんだ」

 

 

 俺が言っていることはとても難しいことだ。

 それでもフィリアなら出来ると信じている。信じたい。

 

 

「あるすは卑怯だ。あるすがわたしをいじめてるのに…わたしがあるすをいじめてるみたいになってる」

 

 

 いつの間にか俺は泣いていたらしい。

 何で泣いているのかよく分からない。

 ただ俺はわがままを言っているだけなのに、なんで俺は泣いているんだ。

 

 

 

 フィリアが自分の父親と仲良くしないから?

 違う。

 フィリアがこれをきっかけに俺との縁を切るかもしれないから?

 違う。

 

 

 俺は散々御託を並べておいて結局は、フィリアに人殺しをさせたくないだけだった。

 一度も見たことがない満面の笑みが見たいだけだった。

 人を憎んでいる時に本当の笑顔なんて作れない。

 人を殺したらきっと、もう二度と笑ってくれない。

 そんな気がしたんだ。

 

 

 なんて子供じみた理由だ。

 

 

「俺はフィリアに笑っていてもらいたいんだ。だから過去を引きずるのを止めてもらいたかった。多分、それだけなんだ」

「……あるす……」

 

 フィリアが俺をかがませて首の後ろに腕を回してぎゅっと抱きしめてくれた。

 

「……泣いたとき、お母さんがよくこうしてくれた。……お父さんも……たまに……」

 

 

 これだとフィリアよりも俺の方が子供みたいだ。

 みんなが最終的に笑っている世界を作れるのなら子供だってかまわないじゃないか。

 

 

 かっこ悪くても良い。無様でも構わない。笑わない女の子を笑わせてあげたい。

 

 

 だけど俺は無力で、目の前にいる女の子一人笑わせることが出来ないのが悔しい。

 

 

「……わたしもあるすに笑っててほしい。ティナやステラやマリアにニーナにアリシアにも笑ってもらいたい。だから、けじめ…つけてくるね。わたしの笑えない原因を消してくる」

 

 止めるまもなくフィリアが窓から外に飛び出して『キメラの翼』を使う。

 慌てて追いかけようとするがアジトの風景が思い出せない。

 

「なんで……こうなるんだよっ」

 

 上手くいかないのが人生だって分かっていた。

 今日の俺は……いや、最近の俺はどうかしている。

 何をそんなに焦っているんだ。

 これじゃあ……どんどん親父の背中が遠のいていくだけだ。

 

 

 【ルーラ】の座標を視覚情報から設定して飛んでいく。

 勢いよく『海賊のアジト』に突っ込んでカーチスの部屋に駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 本当に、俺は、何をこんなにも焦っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そこには娘を抱きしめる父親と父親に泣きつく娘の姿があるだけだ。

 何も無理に説得しなくても、俺は今までどおりきっかけを作ってやればよかっただけだ。

 

 今までだって仲間を信じて遠くから見守ってきた。

 大変そうだったら影から手を貸してあげるだけだった筈だ。

 

 俺が直接手を貸す時は『ピラミッド』の時のようなどうしようもない時だけだっただろ。

 

 多分、親父を超えなければならないという気持ちが見当違いの場所に道を伸ばしてたのかもしれない。

 ちゃんと親父は手紙で書いていたではないか。

 

 

 

 お前のやり方でやれ、と。

 

 

 

 今回はフィリアを救すくうつもりで動いていたのに、逆に俺がフィリアに救われたようだ。

 

 だけど俺を救うという目的がきっかけでこの親子は仲直りする事が出来た。

 だからきっと、きっかけを作るのが俺の力。

 俺の役目はきっかけを作ってサポートする。

 ただそれだけだ。

 

 

 親子水入らずのところに水をさすのは悪い。

 今日はもう船に戻って寝るとしよう。

 

 

 

冒険の書30―アルスの日記―

 今日は『海賊のアジト』でフィリアの父親カーチスに会った。まさかフィリアの父親が俺の親父の友で海賊の船長だとは驚きだ。

 最近急ぎすぎてから回りが多かったのは自重するとして『最後の鍵』と『レッドオーブ』は無事入手。熱血男のアッシュとも出くわさなかったから万々歳だ。

 それと本を持ち込んで皆に見せたマリア、後で覚えてろよ。

 

 




女海賊にしなかった理由は、病弱な妻の為に海賊になってしまった男とその娘を書きたかったからです。
後にフィリアがここの頭になるものの、自分のキャラクターを立たせる為に大本の性別を変えてしまう暴挙を行なってしまった私の未熟っぷりと来たら(吐血

この作品に置いてフィリアというキャラクターが出来上がってしまった以上、ここもまた今書いても同じような設定で書き進めることになるでしょう。


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外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.6フィリア

少し重いフィリアのお話。


 わたしたちは仲のいい家族だった。

 

 お母さんは病気で運動できなかったけどお人形遊びやトランプで遊んでくれる。

 お父さんは元気だから外で遊んでくれる。

 2人とも優しくて大好きだ。

 

 お父さんが仕事で帰ってくる時間が日に日に遅くなってきた。

 怪我して帰ってくることもある。とても心配。

 それでもお父さんはわたしとお母さんのために毎日時間をつくってくれた。

 

 

 お母さんの容体が悪化した。

 お父さんはお医者さんとお話をしている。

 お金が足りないらしい。

 

 

 

「絶対に母さんを助けてやる。だからいい子で待ってるんだよ」

 

 

 

 お父さんが帰らなくなった。

 お金は毎日のように送られてくる。

 そうしたらお医者さんがご飯も作ってくれるようになった。

 お金の管理をしてくれるらしい。

 

 

 

 

 お母さんの容体は変わらない。

 

 

 

 

 そんな生活が1年近く続いた時だった。

 外で遊んでいたらお医者さんと村長がお話しをしていた。

 

「実はあそこの父親が海賊をやってるんですよ。なんとアクアブルーの船長。優しい人だと思って無償で家族の面倒を見てあげていたのに……」

 

 よく分からないことを話している。

 でもお父さんが海賊というのはなんだかカッコよくてよかった。

 

 お父さんのことをお母さんに教えてあげようと思ったら、お母さんは苦しそうに咳き込んでいた。

 

 いつもと様子が違う。

 なのにお医者さんは来ない。

 

 冷たいタオルやお水を用意することしか出来ない。

 お医者さんを呼ぼうと思ったけどその間にお母さんがもっとひどい容体になってしまうかもしれない。

 

 お父さんがいればきっと何とかしてくれる。

 

「お父さん……」

 そういえばお金は毎朝ポストにお父さんの手紙と一緒に入っていた。

 ポストにお父さん宛の手紙を入れておけば毎朝届けている人がお父さんに持っていってくれるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

おかあさんがたいへんなの。

たすけて。

 

 

 

 

 

 

 封筒に大きな字で「おとうさんへ」と書いて家のポストに入れてお母さんのそばに戻る。

 

 

「……逃げなさい。あのお医者さん……お金を自分のためにつかってるの。私はもうダメだって気付いたから……きっと……」

 

 

 よく分からない。

 お母さんと一緒じゃないとどこにも行きたくない。

 

 夜、村の人達が押し寄せてきた。

 何か外からひどい事を言って怒鳴っている。怖い。

 

 

 

 

 

 お母さんは……目を開けない。

 

 

 

 

 どこから火が出たのか分からないけど家が火事になった。

 お母さんは動かない。

 外に出してあげないと熱いから一生懸命運ぼうとしたけど、重くて私だけでは運べない。

 

 窓から外の人達に泣いてお願いしたけど聞こえていないのか誰も動いてくれない。

 

 

 

 

 

 私はいい子にしてた。

 お母さんと一緒にいままで頑張ってきた。

 なのにお父さんは帰ってこない。

 お母さんを助けるって言ったのに帰ってこない。

 私が泣いているのに帰ってこない。

 

 

 

 

「……いい子にしてるから……」

 

 

 

 

 帰ってきてほしい。守ってほしい。

 お母さんを助けてほしい。私を抱きしめてほしい。怖い人をやっつけてほしい。

 

 炎の中、人影が見えた。

 

 お医者さんだ。なぜか剣を持っている。こっちに来る。剣を振り上げる。

 

 

 

 

 

「いい金のなる木だったがカーチスの賞金の方がおいしくなった。悪く思わないでくれよ」

 

 

 

 

 何を言っているのかよく分からないけど、お医者さんは笑っていた。

 その顔が口の裂けた悪魔にしか見えなかった。

 

 火が熱い。お母さんを連れ出さないと。怖い。お父さん助けて。悪魔。火が熱い。お母さん。怖い悪魔。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっ。

 

 喉が、渇いた。

 お父さんは助けに来てくれない。

 お母さんは動かない。

 思い出の詰まった家は燃えている。

 

 

 

 

 

「――――――――」

 

 

 

 

 

 目の前にいるのは人ではない、悪魔だ。

 頭が真っ白になる。

 

 

 

 

 気付いた時、わたしの手には見覚えのない赤い液体がこびりついたナイフが握られていて、見覚えのない草原で月を見上げていた。

 

 それからの私は、当てもなくさまよって、物を盗んで、怖い大人たちから逃げて、生きることに必死だった。

 誰も助けてくれないから自分の力で生きていくしかなかった。

 

 

§

 

 

「捕まえたぞ、泥棒猫」

 初めてつかまった。怖い。悪魔が剣を振り上げる光景が頭から離れない。

「……殺すの?」

 それがあるすとの出会い。

 

 あるすは必要以上にわたしに構ってくれた。

 笑ってくれる。悪魔とは違う。お父さんとも違う。

 あるすがあの場にいたらきっと助けてくれた。

 

 あるすと一緒にいると楽しい。

 あるすの友達も楽しい。

 

 ステラはよく遊んでくれる。

 ティナのご飯はおいしい。

 マリアは抱きしめてくれる。

 ニーナはあるすに悪戯するのを手伝ってくれる。

 アリシアはお風呂上りによく髪をとかしてくれて世話をやいてくれる。

 

 

 

 

 

 

 楽しかったのにあいつがいた。

 

 

 

 

 

 こいつのせいでお母さんは死んだ。家を燃やされた。苦しい8年間があった。

 

「どいて。そいつ殺せない」

 

 あるすに邪魔された。

 アリシアに船につれて帰られた。

 

「昔あいつと何があったかは知らないけど、私やアルスを悲しませることはしないでよね、お願いだから」

 

 アリシアがポンポンとわたしの頭をなでてくれる。

 2人を悲しませるならやめよう。

 それにあいつと関わるよりもみんなと一緒にいた方が楽しい。

 

 でもすごく気になる。

 わたしはそれほどお父さんを恨んでいたらしい。

 昔あれだけ大好きだったのに今はこんな気持ちしかわかないのは少し悲しい気がする。

 

 

 

 

 

 あいつのことはどうでもいい。

 

 

 

 

 あるすが心配してるみたいだからあるすと一緒に遊ぼう。

 部屋に呼んで話をしよう。

 冒険の書の武勇伝は聞かされているけど、冒険する前のあるすの楽しい話はまだ聞いてない。

 あるすの話は楽しいから好きだ。

 

 

 

 

 

「親父のところに帰れ」

 

 

 

 

 

 今日のことで嫌われたのかもしれない。

 あるすが冷たい。

 楽しい話じゃない。裏切られた。あるすもお父さんと同じだ。あの悪魔と同じだ。

 最後は必ず裏切る。

 

 わたしはあるすを追い出して、鍵を閉めて、悔しくて、置時計を投げた。

 ドアにぶつかって壊れる。

 

 壊れるのなんて簡単だ。

 でも直すのは難しい。

 

 話も聞かずに追い出したから本当に嫌われたかもしれない。

 でもあるすが悪いんだ。

 一緒にいたいのにあんなこと言ったあるすが悪い。

 

 だけどあるすは鍵を使って入って来た。

 今は会いたくない。

 会ってもわたしはきっとひどいことしか言えないし、あるすはもっとひどい事を言ってくるにきまってる。

 

 

「……信じてたのに」

「俺の何を信じてたんだ。俺はフィリアの親父じゃないし、フィリアの親父は俺の親父と違ってすぐそばにいる」

「……あるすのお父さんはカッコいいからそう言えるんだ」

 

 

 あるすのお父さんは何でも出来た。

 たくさんの人を助けた。

 あいつとは違う。

 

 

「なら自分の父親の何を信じられない?」

「あいつのせいで…お母さんは死んだ」

 

 

 そばにいてくれたら守ってくれた。

 悪いことしなければあんなことにならなかった。

 わたしはちゃんといい子にしていた。

 

 

「不器用だっただけだ。それはフィリアが一番良く知ってるはずだ」

 

 

 お金と手紙は毎日来た。

 会いに来ればいいのに一度も戻ってこなかった。

 これは不器用だったからだろうか。

 分からない。

 

 

「いじわるなあるすはキライだ」

「別に親父の罪を許せなんて言わない。理由はどうあれカーチスは悪い事をした。そして取り返しのつかない事態になった。許さなくても、憎むな。怒るなら好きだから怒れ」

「……言ってること……よく分からない」

 

 少し矛盾してる。

 

「なら質問を変える。俺のことは嫌いか?」

 好きだ。でも今のあるすは意地悪で大キライだ。

 

「なら俺なんかもう二度と会いたくないか? 信じたのに裏切られたもんな。俺はフィリアにひどいことをしている自覚はある」

「……いつものアルスは好き」

「それと同じだ。嫌なことをされたら誰だって怒る。相手が怒ったことで自分の罪の重さに気付ける。好きな相手だからこそ怒る時がある。好きな相手だからこそ許してはいけない時がある。でも、その感情は憎しみじゃない」

 

 わたしは今、怒ったり悲しんだりしているけど……あるすを憎んでいない。

 そういうことを言っているのかもしれない。

 

「好きって気持ちは簡単に消えない。好きだったから裏切られた時辛いんだ。人を許して罪を許さず。俺はこの言葉が好きだ。カーチスが犯した罪は許さなくても良い。むしろ責めてやれ。だけどカーチス自身を嫌いにならないでくれ。殺したいなんて悲しいこと、簡単に言わないでほしいんだ」

 

 

 

 

 あるすは泣いていた。

 わたしが泣かせたのだろうか。

 

 

 

 

「あるすは卑怯だ。あるすがわたしをいじめてるのに…わたしがあるすをいじめてるみたいになってる」

 

 わたしはあるすをキライじゃない。

 キライだったら涙を見て胸が痛くならない。

 ならわたしはお父さんがキライだろうか。お父さんを見たとき胸が痛かった。

 

 本当にそれは憎しみ?

 それとも好きだから許せなかっただけ?

 分からない。

 

「俺はフィリアに笑っていてもらいたいんだ。だから過去を引きずるのを止めてもらいたかった。多分、それだけなんだ」

「……あるす」

 

 

 あるすは弱い。

 わたしなんかよりずっと弱い。

 それだけのことで苦しんで泣いてるんだ。

 泣き止んでくれるように抱きしめてあげる。

 

 

「……泣いたとき、お母さんがよくこうしてくれた。……お父さんも……たまに……」

 お父さんが大好きだった。

 だけど今の自分の気持ちが分からない。

 

 

「……わたしもあるすに笑っててほしい。ティナやステラやマリアにニーナにアリシアにも笑ってもらいたい。だから、けじめ……つけてくるね。わたしの笑えない原因を消してくる」

 

 

 もしもこの気持ちが憎しみだったら……多分わたしはあるすが追いかけてくる前にあいつを殺して姿をくらませていると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 もしも好きだったら……どうなるか分からない。

 

 

 

 

 

 

 『キメラの翼』で飛んでいく。

 来ることが分かっていたのかあいつはアジトの入り口に立っていた。

 何も喋らないまま部屋に案内される。

 

 

「俺を殺しに来たか」

 

 

 分からない。

 でも『アサシンダガー』を無意識のうちに手に持っている。

 

 

 

 お母さんを殺した原因。わたしが苦しんだ原因。悪魔を家に招きいれた原因。

 胸が苦しい。わたしはこいつに何を求めている。何を求めていた。

 

 

 

「……なんでっ」

 わたしは自分の衝動に任せて勢いよく地を蹴った。

 感情に任せて叫んだ。わたしはなにを叫んでいる。どんな気持ちで叫んでいる。

 自分でもよく分からない。わたしはナイフを構えている。あいつは抵抗しようともしていない。

 

 

 

 

 

 

「――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 頭が真っ白になる。

 ナイフが床に転がっている。

 お父さんが抵抗してたら、きっと、また月を見上げていたんだろうな。

 

「……なんでっなんで助けてくれなかったのっ!?」

 

 わたしはそう言っていた。

 原因なんて関係なかった。

 お父さんが家族のために必死だったのは分かっていた。

 私が一番許せなかったのは助けに来てくれなかったことだった。

 

「いい子で待ってた……お母さん助かるって信じてた。とても怖い中震える中でお父さんが来てくれるって信じてたのにっ」

 

 わたしはお父さんの胸で泣いていた。

 あるすの言うとおりキライにはなってなかったんだ。

 

「必死で生きた。お父さんがいつか迎えに来てくれるって信じてた。辛い生活の中助けに来てくれるって信じてたのに、来てくれなかったっ!」

 

 

 だから許せなかった。

 憎しみだと勘違いした。

 こんなにも好きだったのに。

 こんなにも信じていたのに。

 

「すまない」

 わたしの求めているのはそんな言葉じゃない。

 

 

「今度こそ、守ってやる。何があっても守ってやる。お前を生涯守り通す男が現れるまで守ってやるっ。だから、その日が来るまで俺をどうか許さないでくれ」

 

 

 本当にお父さんは不器用だ。

 もちろんお父さんの罪は許さない。

 許す気はない。

 その日が来るまで償ってもらう。

 空白の8年間を埋めてもらう。

 

 

 

 

 

 わたしはお父さんのことがこんなにも好きだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書30―アルスの日記―

 今日は『海賊のアジト』でフィリアの父親カーチスに会った。まさかフィリアの父親が俺の親父の友で海賊の船長だとは驚きだ。

 最近急ぎすぎてから回りが多かったのは自重するとして『最後の鍵』と『レッドオーブ』は無事入手。熱血男のアッシュとも出くわさなかったから万々歳だ。

 それと本を持ち込んで皆に見せたマリア、後で覚えてろよ。

 

 あるすやみんなへ。

 しばらくお父さんのお世話をするからここに残る。

 いつか『ルイーダ』のところでまた会おうね。

 

 

 




フィリアのキャラを考えた時、この場面が最初に浮かんだのでお頭の性別が男になりました。


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この青空に約束を‐No.1フィリア

有名なゲームタイトル。
最終的にアレフガルトの青空を取り戻すこともあり、このサブタイトルが各キャラクターとの小さな約束となります。


 フィリアが海賊のところに残ることになった。

 

 ステラとマリアが非常に別れを惜しんでいるようだ、本当の親の元で暮らすのはいいことだ。

 それにもう二度と会えない訳でもないしフィリアもこの場所に慣れてきたら『ルイーダの酒場』に顔を出すそうだ。

 

 

 わざわざ冒険に参加しなくても遊びに行くと言ったのだが、「冒険は楽しいって言ってた」と指摘されてしまった。

 

 

 という訳でお別れパーティーではない。

 親子が再開したことを祝ってお祝いパーティーを海賊達と開くことになった訳だ。

 

「お前はあの時の悪党!? さては決着つけにきやがったな!」

 騒がしいのが出てきた。

 そういえばアッシュはここの団員だったな。

 熱い勘違いは止めてもらいたい。

 

「だからこいつが俺の探していたアルスだって言ってるだろクソガキが!」

「っぁ」

 カーチスのかかと落としがアッシュの脳天に決まった。

 他の海賊達の話によるといつもこんな感じらしい。

 

「で、ボウズ。一つ聞きたいことがあるんだが」

 カーチスが肩を組むように俺の首に片腕を回す。

「俺の娘に手だしてねぇだろうな。出してたらコンクリート詰めにしてオリビア海に沈めるぞオラ」

 この人が言うとなんかシャレにならない。

 

「あの歳に手を出したら犯罪だろ」

「だがボウズと2つしか離れてねぇぞ」

 そういえばそうだ。

 

 親父が死ぬ前にフィリアは一人になったんだから、物心ついている歳プラス親父が死んだのが8年前だからそこまで歳が離れてないのか。

 背が小さいもんだからもっと年下かと思っていた。

 

「お前、それなら守備範囲内とか思ったろ。え、思ったろ。家の可愛いフィリアにやましい気持ち抱いたんだろ、このやろうっ」

「め、めっそうもないっ」

 本当に親父の仲間は柄の悪いのばかりだ。

 

「アルス君アルス君アルス君っ。このジュースおいしいね。なんだかもう心がハッピーになるジュースだねぇ。アルス君も飲んじゃえ飲んじゃえー」

「それはジュースじゃないぞ」

「えー。いいじゃんいいじゃん。アリシアちゃんだってアリシアちゃんだってたくさん飲んでもうダウンしてるんだから」

 

 いや、アリシアの場合は本当にジュースだと思って一気飲みしただけだから。

 ティナがうちわを仰いであげているところがなんとも言えない。

 

「今度からフィリアもここに住むんだから酒以外も置いとけよ」

「まあ細かいこと気にすんな。お前だって飲んでるだろ」

「俺はいいんだよ。勇者だから」

 

 ビールを一気に飲み干す。

 酒場で情報を集めで飲み比べをしなければならなくなった時の為に『ルイーダの酒場』で酒を毎日のように飲まされていたから問題ない。

 

 

 あの時はあまり美味く感じなかったけど今はちゃんとおいしく感じる。

 

 

「アルスさ~ん。何だか体が熱いですよぉ~」

 ふらふら~っとステラが俺のところにやってきた。

 ステラは一口目で酒だと気付いて飲もうとしなかった筈だがどうしたのだろうか。

 

「大変だアルス。無理矢理飲ませてみたら顔の赤いステラがシャレにならないくらいエロく見えるぞ。これで手を出さない方が逆に失礼とは思わないか?」

 

 マリアの仕業のようだ。

 そんな事思わないししないから。

 とりあえずマリアとティナとニーナは普通に飲んで悪酔いもしてない。

 

 アリシアとステラはダメか。

 これは航海中にみんなで飲み会はできそうにないな。

 一人だけならからかえるが二人だとさすがに面倒見切れない。

 

「って、俺の足にしがみついて寝るなっ」

「うぅ~、アルスさんの意地悪~。私のことさらったんだからちゃんと責任とってくださいよ~」

「ええい、うらやましいぞアルス。そのポジション私と代われ。今すぐ代われ」

 ツッコミ役のアリシアがつぶれているのは辛い。

 

 

「カレー」

 

 

 フィリアが戻ってきてカレーの入った鍋を大きなテーブルに置いた。

 パーティーの主役の癖に「今日は私が作る」と言い出した。

 料理なんて出来るか心配だったけどティナが「毎日教えてあげてたから大丈夫だよ」と言っていたから心配ないだろう。

 

 海賊達も美味い美味い言って食べている。

 俺もステラがいて動けないからティナによそいでもらって食べてみると美味い。

 だけど辛い。だから美味い。ステラとティナは少し辛い辛さだろう。

 

「……あるすは辛いのが好きー」

「いつもはティナがいるから少し控えめにしてるけどな。美味いぞ」

 そう返すとフィリアはどこか嬉しそうだった。

 

「おっとスプーンが折れちまった」

 

 カーチスの持っていた鉄製のスプーンが握力で砕け散った。

 たったこれだけのことで脅すなよ。

 

「……あ、ステラずるい」

 

 ステラが俺の足にしがみついて寝ているのを見るとフィリアが俺の膝の上に座った。

 今度は「おっと地面が割れちまった」とカーチスの座っている椅子を中心に床にヒビが入る。

 

「お前父親いるんだからカーチスのところ行け」

「……お父さんごつごつしすぎてすわり心地が悪い」

 

 カーチスが一瞬灰になった。

 その後黄金のオーラを放って「おっとハイパーモードになっちまったぜ」なんて言って引きつった笑顔を見せてくれた。

 

 目が「お前後で殺す」と言っている。「これは俺に非はないだろ」とアイコンタクトを返すと「問答無用」とアイコンタクトが返ってきた。

 俺の勝手な予想だけど合ってると思う。

 

 しかし、さすが海賊と言ったところか騒いでいる時の生命力は凄まじい。

 なんだかこのパーティーの目的をすっかり忘れて自分達でもりあがっている。

 これは夜まで続きそうだ。

 ニーナとマリアは元気がいいのでもう海賊達となじんでいる。

 

「さあ第一回ニーナ主催の飲み比べ選手権。はたして最後まで立っていられるのは誰なのか。勝者にはなんとなんとなんとー! この“エッチな下着”を勇者一行の誰かを指定して着せられちゃうんですヨ。もう燃えるね萌えるね。気になるあの子の真っ赤な顔、必死に隠そうとする姿。これを求めないと男じゃないよね。ないよねないよね!」

「気前がいいなニーナ。無論私が優勝させてもらうが君達も頑張るのだな。ふはははは!」

 

 というか勝手にそんなこと決めて……どうなっても知らんぞ。

 でもバカ騒ぎは好きだ。

 この企画がばれる前にアリシアとステラを船に運んでティナに面倒を見てもらう事にした。

 

 

「……あるす」

 船から戻ろうとするとフィリアがついてきていた。

「お前パーティーの主役だろ」

「すぐもどるから平気」

 らしい。フィリアがクスリと笑ってみせた。

「ようやく笑ってくれたな」

「……うん。少しすっきりしたから。だからきっと、次に会う時も笑っていられる」

 

 

 それは約束。

 青空の下で交わした小さな約束。

 

 

「だから今度会った時はまたあるすの冒険を初めから聞かせて。今度はちゃんと笑えるかから。楽しい時は笑えるから。……()()()の……おかげだから」

 無表情で何も興味がなかった少女との始めての約束を俺は澄み渡る青空に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書31―アルスの日記―

 フィリアが父親と再会した記念にパーティーを開いたがアリシアとステラがアルコールにやぶれたから船まで運んでティナに面倒を見てもらう事にした。

 マリアとニーナは相変わらず騒がしいところでは最強のコンビだ。勝手に一位の人は『Hな下着』を俺達の中の誰かに着せられると飲み比べ大会を開くとは良くやる。

 ちなみに勝ったのはマリアで見世物になったのは俺だ。なぜこうなる。

 




物語の都合上の離脱よなりますが、もちろん後々合流します。


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第四話「ジパングに散る」

黄金の国ジパングでヤマタノオロチに挑むアルスの運命は如何に。
アニメ『遊戯王DM』のアンズばりのネタバレなタイトルコールな気がします。


 カーチスの話しでは『ジパング』という小さな島国に、卑弥呼という親父と冒険した女王がいるらしい。

 

 船をつけ『ジパング』に向かってみるととても原始的な村だ。

 卑弥呼に挨拶しに行くと『オーブ』は持ってなかったし、親父のことも知らないらしい。

 

 

 だけど『山彦の笛』はちゃんと反応している。

 嘘をつかれている、ということだろうか。

 

 

「これは事件のにおいがするね。なんかここには『ヤマタノオロチ』っていう化け物がいて怒りを静めるために女の子を生け贄にしてるみたいだよ。私可愛いから生け贄にされて食べられちゃうかなー。ねぇねぇねぇねぇアルス君はどう思う?」

 

「まあ何にせよ生け贄というのは響き悪いな」

 

 さっそく『ヤマタノオロチ』を倒しにいくとしよう。

 倒したら『卑弥呼』からオーブをお礼としてもらえるかもしれない。

 

 

 『ジパングの洞窟』は溶岩地帯で危険だが、例のごとく暖冷房完備の究極魔法【トラマナ】があるから助かる。

 

 

「でたな勇者!」

 また『骸骨剣士』がいた。

 口ぶりから同じ個体であろう『骸骨剣士』が岩場の上から俺達を見下ろしている。

 

「俺はエリートだった。バラモス様より強い兵士を授かった。だが貴様らのせいでこんな島国に飛ばされたんだ……許しはせん。許しはせんぞ!」

 

 モンスターも色々苦労しているらしい。

 だが負けてやるつもりはもちろんない。

 見たところ相手は一匹で楽勝だ。

 

 

「アルス避けて!」

 

 

 アリシアの声がした。

 その声で何とか衝撃を盾で防ぐことが出来たがダメージは割りとある。

 相手を見てみると、周りの岩に隠れていた『溶岩魔人』だった。

 それも一匹だけではななく、十匹はいる。

 

 さらにその後ろに厄介なことに『鬼面道士』の大群が構えていた。

 あいつは【メタパニ】を使う厄介な奴だ。

 

 

「アルス君アルス君アルスく~ん。アルス君の『危ない水着』姿はなかなか可愛かったよ。もうねぇもうねぇ下手に女の子の服も一緒に着せてアレンジしたからエロエロですヨ」

 

 

 さっそく【メタパニ】でニーナが混乱した。

 頼むから喋らずに普通に殴ってくれ。

 逃げ回りながらあの光景を語らないでくれ。

 むかつくことに軽くこつこうとしてもひょいひょい避けてくる。

 

 

 【ライデイン】をぶつけてもいいよな。いいよな?

 

 

「アルス……どこ? みんなどこ? 私……一人? また……一人? アルス……お願いだから行かないでっ」

 

 

 ティナも【メタパニ】にかかって錯乱している。

 こついて戻そうにも『溶岩魔人』が多すぎて近づけない。

 

 

「アルスのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 アリシアは近くの『溶岩魔人』や岩を拳で砕き始めた。

 これも【メタパニ】だろうか。だよな。なんだか近付きたくない。

 

 

「アルスさんダメです! その…私まだ心の準備がっ」

「お前はどんな混乱の仕方だっ!」

「はぅ!? あれ…アルスさん?」

 

 

 勢いでこついたらステラは元に戻った。

 でも【メタパニ】で見たものと今のギャップが激しかったのか、状況がうまくつかめずに首をかしげている。

 もう一回頭をはたいておこう。

 

「はぅぅぅぅっ!? なんどもぽかぽか頭を叩かないでくださいっ。これ以上身長が縮んだらどうするんですかっ」

 お、元に戻った。

 

 さて残るはマリアだが……さすがに混乱しなかったのか『鋼の鞭』で敵だけを攻撃している。

 ここは俺とマリア、ついでにステラで手早く敵を倒してから皆を元に戻すとしよう。

 

 

 

 

 

「ほらアルス。もう一度言ってみろ。私の胸が……なんだって?」

 

 

 

 

 

 マリアも混乱していた。

 しかも何だかアリシアより怖い。

 謝ろう。とりあえず混乱がとけたら謝ろう。

 そして今後二度とマリアの胸についての話題は出さないようにしよう。

 

 

「おっとすまん。片方潰してしまったか。だがもう片方が残っていれば問題あるまい」

 

 

 何を潰した。混乱してみている光景でお前は何を潰したんだ。

 というか嬉しそうに笑わないでくれ。

 

「アルスさんの日ごろの行いの行く末をあらわす光景ですね」

 ステラがとても楽しそうにそう言ってくれた。

 もっと強く叩いておけばよかったか。

 

「今だ『溶岩魔人』! 足場を崩して勇者を亡き者にするのだ!」

 どうやら【メタパニ】は俺の注意をそらすためのものだったらしい。

 『溶岩魔人』が壁や地面を攻撃し始めて天井や地面が崩れ始めた。

 

 こういう無差別攻撃をされると誰に当たるか分からなくて困る。

 

「しっかり俺について来い!」

 落盤をチェーンソードで砕きながら、『溶岩魔人』を切り裂きながら、まずは動く気配のないティナの頬を叩いて正気に戻す。

 ニーナは【メラ】をぶつけて目を覚まさせる。

 アリシアの所に向かおうとしたら、マリアがアリシアを溝打ちで気絶させて抱えていた。

 

 

「アリシアは確保した。アルス【リレミト】だ」

 

 

 マリア、あんたはどこまでが本音だったんだ。

 いや今は【リレミト】で脱出する方が先か。

 だけど不安が残る。本当にこれで全員なのか。

 あー、あかん。頭が混乱してきた。【メタパニ】が脳に浸透する~。

 

 

 

 

 

 

「おっぱい帝国ばんざーい」

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

 気付いたら『アリアハン』の教会だった。

 どうやら俺が混乱したからマリアが元に戻そうと攻撃したところ、その攻撃で俺は死んでしまったらしい。

 

 痛みを感じた記憶が無いからおそらく即死級の全力攻撃だろう。

 

「のんびりしている場合ではないぞ。君が棺おけになっている間に地面が崩れてステラが落ちてしまった。アリシアとティナはカンダタと共にステラを捜索中だ」

 どうやら俺が死んでいる間に大変なことになっていたらしい。

 でもカンダタがいてくれて助かった。

 カンダタがいなかったら俺を復活させに戻る余裕なんてなかっただろう。

 

「って、カンダタ!?」

「ああ、君の大好きなカンダタおじさんだ」

 

 




まさかのジパングでカンダタ。
しばらく冒険の書はお休みで、次回カンダタ回となります。


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第五話「激闘の果てに残るもの」

勇者になりたかった男の物語。


 俺がこの孤島を訪れたのは偶然だった。

 

 『ヤマタノオロチ』という化け物が暴れているらしいので、いっちょ倒そうと思ったら正攻法では勝てなくて掛け替えのない友を失った。

 

 女を囮にたらふく酒を飲ませて酔ったところを叩くしかないだろう。

 女を食う化け物なんてこれでいちころだ。

 だが心に傷を持った『ジパング』の民は当然ながら囮を引き受けてくれない。

 次ぎに寄った街か村で囮を頼むとしよう。

 

 

 『バハラタ』で女の子に声をかけたら悲鳴を上げられた。

 何かと面倒だから気絶させて洞窟まで運んでおく。

 ゆっくり話をすれば理解してくれるだろう。

 そうしたら話す前に女の彼氏がやってきた。

 勇ましいが話をややこしくしないでもらいたい。

 

 

 そしてアルスって奴がやってきた。

 前回と引き続きこんな形で出会うとは本当に嫌になる。

 言い訳なんて見苦しいからその場のテンションで戦った。

 

 

 結果、精神的にも肉体的にも疲労していた俺は惨敗した。

 

 

 またもみっともない姿をみせてしまった。

 さすがに今回はアルスにも失望されたか。

 やはり魔王退治の冒険で人の家のものをあさるもんじゃないな。

 

 

 

 

 必死に『ヤマタノオロチ』を倒す方法を考えて、準備を整えて、『ヤマタノオロチ』の犠牲者がこれ以上増える前に『ジパングの洞窟』に戻ることにした。

 上手くいかない人生だったが仲間の弔い合戦くらい成功させたいものである。

 

§

 

 

「ステラちゃんが落ちた! アルス君アルス君アルスく~ん! 死んでる場合じゃないってば! 姉御も殴ってる場合じゃありませんヨ!」

「む、しまった。私としたことが少々【メタパニ】にやられていたようだ」

 洞窟に着くと棺おけ一つと勇者一行の姿があった。

 

 アルスの奴と前回増えていた女の子の姿が無い。

 おそらく落ちたのがその女の子だろう。

 

「アルスが……アルスが……」

「はいはいティナはアルスが死んだくらいで泣かないの。それよりも早くステラを拾ってあげないと。死体回収できなかったらシャレにならないわよ!?」

 

 アルスが棺おけになっているということは、【棺おけの加護】を受けているのだろう。

 噂で聞いたことがあったがまさか本当にそんなシステムがあるとは驚きだ。

 

 

 これも勇者として選ばれた人間の特権といったところか。

 他にも王の許可で人の家のものを勝手に持ち出しても構わないらしい。

 俺達は装備集めに人の家のタンスをあさったら盗賊になったぞ、おい。

 

 

「ああもう! 大変な時にモンスターがうっとうしい! 【ヒャダルコ】!」

 魔法使いが『溶岩魔人』を【ヒャダルコ】で薙ぎ払っていく。

 だがその後ろの『鬼面道士』の補助に苦戦しているようだ。

 

 向こうから見れば『溶岩魔人』が邪魔で『鬼面道士』を攻撃できずにいるが、俺のいる位置はちょうど『鬼面道士』グループの真後ろだ。

 ここは手を貸してやることにしよう。

 

「ずいぶん楽しいことやってるじゃねぇか」

「新手かっ!? 撤退するぞ。一人仕留めたから上出来だ!」

 敵の司令塔か、『骸骨剣士』が合図するとモンスター達は引いていく。

 状況が悪くなると判断してすぐ撤退とはなかなかいい指揮官だ。

 

 

 お礼でも言いに来たのか女騎士が近付いてくる。

 

 

「ちょうどいいところに来た。私はアルスを復活させに戻らなければならんのだ。悪いが私が戻るまで仲間の救出を手伝ってくれ」

 面倒なことを押し付けて、返事も待たずに女騎士は棺おけを引きずりながら出口に向かって行いく。

 

 少女三人の目線が俺に向けられている。

 手伝わなければ目覚めが悪くなりそうだ。

 

 泣いている僧侶がティナ、喋り続けている商人がニーナ、目つきの悪い魔法使いがアリシアというらしい。

 

「とにかく、だ。そっちは打撃魔法攻撃回復がそろっているから、そのままのパーティーで俺は一人で下に降りる。二手に分かれたほうが人探しははかどるだろ」

 正直女子供守りながら戦えるほど器用ではない。

 

「そうね。一緒に行動して後ろから攻撃でもされたらたまったもんじゃないわ」

「あははははー。アリシアちゃんがそれを言いますか。もうアルス君にギラ耐性をつけるくらい撃ったのにねー」

「うるさいわね! わざとじゃないわよ!」

 アルスも苦労しているようだ。

 

「こっちはティナちゃんを泣き止ませたら下に降りるからカンダタおじさんは先行ってて下さいヨ」

「おじ……まあいい。ステラってのは前回いた金髪の武道家だな?」

「そうそうそうそう。おじさん記憶力いいね。もう無事ステラちゃんを助け出したあかつきにはなんとなんとなんとなんと可愛い子の『エッチな水着』写真集をプレゼントしてあげるから溶岩の中でシンクロする勢いで頑張ってねー」

「いらんし俺に死ねと言うのか」

 

 実は少しほしい。

 いや、勘違いをしないでくれ。俺はロリコンではない。

 だが『危ない水着』を着ている女性を一目見たいと思うのは男として当然だ。

 だから俺はロリコンではない。

 

 

 とにかく下に降りよう。

 

 

「はぅっ!?」

 何かを踏んづけた。

 金髪の女の子のようだ。

 

「おう悪い」

「悪いと思うのならどいてくださいっ!」

 

 それもそうだ。

 どいてやると座ったまま涙目で俺を見上げている。

 やばい、可愛い。

 

「あれ……アルスさんじゃ……あれ?」

 どうやら俺を一瞬アルスと見間違えたようだ。

 それにしてもまさかこんなにも簡単に見つけられて、しかも無事だとは思いもしなかった。

 

「人攫いさんですか?」

「まあ間違ってはないな。女剣士に頼まれた。上で他の奴らが待ってるぞ」

 後はあいつらが降りてくるのをまつだけ、と簡単にはいかないようだ。

 

 『ヤマタノオロチ』の咆哮が奥の方から響いてくる。

 

「何!? 今の音!?」

 上から魔法使いの声がした。

 

「『ヤマタノオロチ』だ。【リレミト】が使えるなら降りてきてくれ。お前らの仲間は無事だ」

「あー、まだティナが動けそうにないから【リレミト】は無理ね。こうも暗いと【ルーラ】の座標もつかみにくいし……今度は【リレミト】練習しようかしら」

「ならアルスが来るまでそこで待機していろ。俺はこいつを連れて階段でそっちに向かう」

 

「ステラに怪我させたら承知しないからね」

「無茶言うなクソガキが」

 

 喋っていられる余裕はもうない。

 

「人攫いさん。何か奥の方で今光りましたよ?」

「ああ、『ヤマタノオロチ』の仕業だろ。岩陰に隠れねぇと黒こげになるぞ」

 予想通り炎がまっすぐ向かってきた。

 まだ相手の姿もろくに確認していないというのによくやるものだ。

 

「カンダタの親分!」

 『ヤマタノオロチ』を倒すための下ごしらえをしてくれていた子分のデイビットの声がした。

 岩陰だけだと不安が残ると思っていたところいいタイミングだ。

 

「【フバーハ】!」

 

 デイビットが防壁を張ってくれている間に俺はステラの手を引いて走った。

 炎は【フバーハ】に当たると威力が弱まり俺に届く前に消える。

 遠くにいる分にはこれで何とかなるが、近付かれたら炎は確実に【フバーハ】を突破して届くだろう。

 

 近付かれる前に準備が整っている生け贄の祭壇に急ぐ。

 

「親分。待ってました」

「他の二人はどうした?」

 グフタスとマイケルの姿が見当たらない。

 確か準備は三人で進めるように指示していた筈だ。

 

「……マイケルは奴に……グフタスは準備をするために囮を買ってでてそのまま……」

「そうか……」

 

 『ヤマタノオロチ』が活発に活動していない昼間なら安全かと思っていたが考えが甘かった。

 また若い奴が俺より先に逝きやがった。

 自分の無力さに腹が立つ。

 

「ですが準備は整いました。見てください! 『レーベ』から取り寄せた『魔法の玉』にアルコールの強い酒! とっておきの火薬! これで皆の弔い合戦といきましょう!」

 

 『魔法の玉』のトラップは完成している。

 後は囮が必要だ。

 女子供なら相手も油断するかもしれないが、俺やデイビットだと見かけたら誘き出す前に炎を吐かれてしまうだろう。

 さてどうしたものか。

 

「人攫いさん! 足音がどんどん近付いてますよ!?」

 時間がない。

 今出来ることをやるだけやってみるとしよう。

 

「お前囮になれ」

「はぅ!? そそそそそそれはあのドラゴンの餌になれといっているのでしょうか!?」

「なに、祭壇から一歩も動かなければおそらく平気だ。炎はかれたらデイビットが多分盾になってくれるだろうよ」

「おそらくや多分なんて曖昧な言葉で説得しないでください!」

「ほら『ヤマタノオロチ』のお出ましだ。いいか、危険だからそこを一歩も動くなよ」

 

 とにかく後は神頼みだ。

 俺は隠れながら俺の仕事場に向かう。

 『ヤマタノオロチ』が洞窟の壁をえぐりながら咆哮をあげて生け贄の祭壇にやってくる。

 

「はぅぅぅぅぅぅぅっ!? 私なんて食べてもおいしくないですよ!?」

 

 ステラもさすがは勇者の仲間と言ったところか、震えているがその場を動こうとはしない。

 それに『ヤマタノオロチ』も俺達の姿を確認していなかったから、ステラのことを生け贄に差し出された少女だと思い込み炎で焼こうとはしていない。

 ゆっくりとステラに近付いて行っている。

 

 そして予定の場所に到着した。

 

「こっちだ蛇野郎」

 そこで俺は姿を現すと当然『ヤマタノオロチ』の5つの頭が俺をにらみつけて口を大きく開いた。

 

 予定通りの炎。

 後はこの炎を避けるだけだが、ちと無理があるか。

 

「【バシルーラ】!」

 

 デイビットが【バシルーラ】で俺をステラのところまで飛ばしてくれた。

 相変わらずいい仕事をしてくれる奴だ。

 『ヤマタノオロチ』の炎は地面を薙ぎ払う。

 

 だが、俺達の細工のせいでそれだけではすまない。

 地面にばら撒いておいた酒が燃えて炎の柱が地面を走る。

 目標は『ヤマタノオロチ』の真下に埋めてある“魔法の玉”と、天井に仕掛けてある『魔法の玉』の起爆装置である火薬。

 

 まず下の『魔法の玉』を爆発させてダメージを怯んだところに、上の階を崩して『ヤマタノオロチ』を生き埋めにする作戦だ。

 いくらこの巨体でも『魔法の玉』と上の断層に潰されては無事ではすまない筈だ。

 

 予定通り『魔法の玉』は爆発。

 『ヤマタノオロチ』は生き埋め。

 仲間三人という大きな犠牲を払ったんだ。

 上手く行くにきまっている。

 

 長いようで短い沈黙の中……潰された『ヤマタノオロチ』に動きはなかった。

 

「……おつかれさん。いい囮ぶりだったぞ。もうトラップも何もないから動いても構わん」

「はぅ……そうしたいのは山々なんですけど腰が~」

 どうやら『ヤマタノオロチ』を前にしても動かなかったのではなく、動けなかったらしい。

 まあ年端も行かない女の子だ。こんなもんだろう。

 

 

「親分ふせてくだせえ!」

 

 

 デイビットの叫び声に慌ててステラを庇うように地面に伏せ、『ヤマタノオロチ』の姿を確認する。

 

 かすかに土がうごく。

 冗談は止めて欲しいところだ。

 『ヤマタノオロチ』は山済みになっている土を【火炎の息】で吹き飛ばした。

 ダメージを受けているようだがまだピンピンしている。

 こいつは本当の化け物だ。

 

「【フバーハ】!」

 

 デイビットが俺達に【フバーハ】の防壁を張るのと同時に『ヤマタノオロチ』が再び【火炎の息】を吐いてくる。

 俺とデイビットが盾になったおかげで動くことの出来ないステラまで炎は届かなかったが、その分のダメージが【フバーハ】を張っていても辛い。

 

「人攫いさん!」

「気にすんな。そこで大人しくしてろよ!」

 ダメージは与えている。

 同じ手が通用するとも思えないし、接近されて無事に逃げ切れる相手でもない。

 ここで倒すしかない。

 

 俺は『バトルアックス』でオロチの頭を叩き潰そうと大きく斧を振り上げた。

 尻尾で攻撃してきたが攻撃を止めている余裕はない。

 

「【バギマ】!」

 

 デイビットが牽制に風の刃で『ヤマタノオロチ』の動きを一瞬だけ止めた。

 その隙に斧を振り下ろして『ヤマタノオロチ』の迫り来る尾を弾き飛ばす。

 

 

 流石に斬れないか。

 

 

「親方今です!」

 今度は【ルカニ】で防御力まで下げてくれた。

 これなら行ける筈だ。

 『バトルアックス』の会心の一撃で尾を切り裂いた。

 

 『ヤマタノオロチ』の咆哮が洞窟中に響き渡る。

 

 だが頭は俺の方をむいていた。

 いっせいに【火炎の息】を吐かれた。

 ステラは俺のパーティーとみなされなかったのか今回は俺とデイビットに完全に的を絞っている。

 

 炎ばかり吐くんじゃない、このやろう。

 

 【フバーハ】が掛かっているとはいえ、二連続も直撃はまずかった。

 デイビットの【ベホイミ】じゃ回復は間に合わない。

 【ベホマ】を使い始めた。

 【MP】少ないくせによくやる。

 

 だが補助がうざくなったのか、『ヤマタノオロチ』はデイビットを狙いだした。

 俺はデイビットを守りながら戦わなければならない。

 

「す、助太刀します!」

 

 それを見かねてステラが動き出した。

 爪系の武器で『ヤマタノオロチ』を攻撃しているようだが、あまり効いている様子はない。

 だが、いい牽制にはなる。

 『ヤマタノオロチ』の頭一つがステラに向いてくれた。

 

「親方っ。俺はいいから奴を倒しにいってくだせえ!」

「……死ぬなよ」

「この甲冑は伊達じゃありません!」

 再び俺は攻撃しに行く。

 

 苦戦しているが補助はデイビットがしてくれるし、ステラが『ヤマタノオロチ』の攻撃を分散してくれているおかげで頭を一つ潰すことができた。

 

 これで【火炎の息】は四発までしか同時に撃てない。

 だが、それと同時にデイビットから回復魔法が来なくなった。

 どうやら【MP】が切れたようだ。

 

 【火炎の息】が俺達をなぎ払った。

 まだ、皆生きている。

 だが、見るからにか弱そうなステラは虫の息だ。

 

 やはり下がらせておけば……いや、ステラがいなければ首一つも持っていけなかっただろう。

 

 『ヤマタノオロチ』は二発目を撃つつもりだ。

 俺はまだ耐えられるが……デイビットとステラは殺される。

 無意識の内に庇いに出て四発の【火炎の息】をまともに食らった。

 

 

 

 情けないことに、俺は、俺達は、ここで終わりか。

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 グフタスの声がした。

 

 『魔法の玉』で吹き飛ばした天井の大穴から飛び降りて、『ヤマタノオロチ』の頭に剣を突き刺す。

 囮を買ってでて帰ってこなかったと聞いていたが生きていたようだ。

 正直嬉しいが、出てきてほしくなかった。

 

「グフタスっ! なぜ戻ってきた!?」

「おかしら。あんたは身寄りのない俺を拾ってくれた。ありがとな」

 

 三つの頭がグフタスをにらみつけて口をあけた。

 グフタスは笑っている。

 

「手癖が悪くって一個拝借させてもらってな。吹き飛べ」

 手には『魔法の玉』が握られていた。

 炎で爆発してグスタフが剣を突き刺していた頭が消し飛んだ。

 グフタスの姿は無い。

 

 

 

 

 ただ「おかしらを頼んだぜ」と最後に聞こえた気がした。

 

 

 

 

「オロチ!」

 もう体力も【MP】も残っていないデイビットが『ヤマタノオロチ』に向かって走っていた。

 

 もうやめてくれ。逃げてくれ。俺なんて置いて逃げてくれ。

 必死に叫ぼうとしても声はもうでない。

 

 『ヤマタノオロチ』が声に反応して【火炎の息】を吐き出した。

 が、見当違いのところに吐いている。

 炎の行き先はデイビットの甲冑だけが立っていた。

 炎で甲冑がくずれる。

 

 

 

「親分。俺らのこと、忘れないでください。命を張って頑張ったバカのこと忘れないでください。どうかお元気で」

 

 

 

 デイビットが『ヤマタノオロチ』の頭に指を突き刺した。

 

「親方が買ってくれた鎧……伊達じゃないですね」

 笑わないでくれ。笑うのなら皆そろって笑ってくれ。頼むから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――メガンテ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が『ヤマタノオロチ』の頭をまた一つ吹き飛ばした。

 さらに祭壇の部屋の壁も吹き飛ばして溶岩地帯が見えている。

 溶岩地帯に住む魔物でも身体がこれだけ損傷していたらただではすまない筈だ。

 

 

「運がよけりゃ……黄泉の国で杯をかわそうや」

 

 

 このチャンスを物にしてみせる。

 こんな悲しみを繰り返さない為にも、ここで『ヤマタノオロチ』を倒す。

 体に鞭を打って立ち上がる。

 『ヤマタノオロチ』が怯んでいる隙に俺は全ての力をこめて斧を振り下ろした。

 

「っ」

 

 よりによってその一撃を外した。

 避けられたわけではない。

 目がかすんで俺が攻撃を外したんだ。

 情けない。命を掛けて作ってもらったチャンスを俺は無駄にしてしまった。

 

 身体から一気に力が抜ける。

 

「くそっ」

 立ち上がれない。

 もう身体がいうことを聞いてくれない。

 『ヤマタノオロチ』が迫ってくる。

 

 

「【ベギラマ】!」

 炎が『ヤマタノオロチ』にぶつかって弾かれた。

 アリシアが上に開いた穴から降りてきた。

 

「まったく、来るなと言ったのに」

「あんた一人じゃステラを守れるか心配だったのよ。アルスほどあんたを信頼してないんだから」

「そいつは結構。簡単に人を信じたって裏切られるのが落ちだ」

 

 どいつもこいつも俺より先に逝きやがる。

 『ヤマタノオロチ』が再び炎を吐き出そうと口を開いている。

 盾になることももう出来ないってのか。

 

 すると鎖が『ヤマタノオロチ』の口に巻きついて、行き場をなくした【火炎の息】は口で爆発した。

 

 鎖の先端には『鉄の槍』がくっついている。

 

「ニーナちゃん参上! もうヒーロー的な参上で自分でも惚れ惚れしちゃうね!」

 

 ニーナがティナを背負って降りてきた。

 ティナはステラに【ベホイミ】を掛けた後、俺にも【ベホイミ】を掛けてくれる。

 

「大丈夫ですか?」

 

 少し震えたティナの声。

 無理してきたのか。

 本当にどいつもこいつも勇者パーティーしてやがる。

 

 

 俺だけが……無様じゃないか。

 仲間も救えずに、『ヤマタノオロチ』も倒すことが出来ずに助けられてばかりだ。

 だからもう誰も死なせない。

 犠牲になった仲間の為にも絶対に負けない。

 

 

「次来るぞ。各自散開。【火炎の息】の直撃だけは避けろ」

 まずは全員を散らせる。

 

「あんたが仕切るなっ」

 散開しつつアリシアが文句を言いながらも【イオラ】で攻撃するが、これも効いている様子はない。

 

「何よこの化け物はっ!?」

「炎や爆発に体性がある。やるなら【ヒャド】系にしろ」

「アルスみたいに言わないでよっ。もっと優しく言えない訳!?」

「文句を言う前に【ヒャド】をしろ!」

 

 【火炎の息】が来た。

 だが頭はたったの二つ。

 その内の一つはニーナが持っている鎖が抑えてくれている。

 威力が激減している炎を『バトルアックス』で薙ぎ払う。

 

 炎の威力が落ちた今、通常攻撃主体に来るはずだ。

 俺はニーナに指示を……。

 

「ニーナっ! 鎖を離して!」

 

 アリシアの掛け声にニーナが鎖を離す。

 離すとほぼ同時に『ヤマタノオロチ』が首を大きく振るいだした。

 あのままだったらニーナの身体は引っ張られて勢いよく壁にぶつかっていただろう。

 いい判断だ。

 

「ティナ、【ピオリム】!」

 

 さらにアリシアは不発に終わった攻撃の間にこっちの素早さを上げておく。

 

「ステラ、足を取るから援護お願い!」

 

 その言葉にステラが動いた。

 【ヒャダルコ】で少し足止めしている間にステラが爪で指を狙う。

 その攻撃で『ヤマタノオロチ』が怯んだ。

 

 

 もっと俺がしっかりしていれば、デイビット、グフタス、マイケル、ケヴィン、お前らを死なすことなく、戦えていたんだろうな。

 ふがいない俺を許してくれ。

 

 

「【カンダタ】、練習中の魔法だけど補助するから突っ込んでっ」

 身体に力がみなぎってくる。

 これは【バイキルト】か。

 こいつらはまだ成長する。未来がある。

 もう少しこいつらの成長を見届けたかったものだ。

 

 

 俺は大きく地を蹴った。

 『ヤマタノオロチ』が【火炎の息】を吐くがもう俺は止まらない。

 左腕を盾にして強引に突破する。

 

 

「突っ込めとは言ったけど炎にまで突っ込んでどうすんのよっ」

 

 

 いや、これでいい。

 『ヤマタノオロチ』は分が悪いと判断して逃げ出そうとしている。

 休まれて頭が元に戻ったら、こいつらでも犠牲が出てしまうかもしれない。

 

 俺は『ヤマタノオロチ』の身体を一閃して溶岩まで吹き飛ばした。

 だが、頭の一つが俺の肩に食いつく。

 やはりいたちの最後っ屁をしてきたか。

 

 だけど『ヤマタノオロチ』は倒せた。

 

 俺の身体は、『ヤマタノオロチ』と共に、溶岩に投げ出される。

 

 

 俺は、最後の最後で勇者になれただろうか?

 

 




この作品におけるカンダタは、勇者でも【くろうにん】でもないアルスを意識して作られたキャラクターです。
何の加護も奇跡も起こらず、女の子に囲まれることもなく、大切なものを何一つ守れなかった男。
違う火山ですが、オルテガと同じで火山での行方不明でアレフガルト行きを果たします。


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第六話「無理の代償」

ようやくヤマタノオロチとの決着。


 マリアを連れて【ルーラ】で『ジパング』に戻った。

 

 洞窟には向かわない。

 俺にはやらなければならないことが残っている。

 親父の友、卑弥呼がいる館にもぐりこむ。

 

 そこには旅の泉と傷ついた卑弥呼が倒れていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。

 栄養補給に見張りの男を食らっている。

 

「アルス」

「ああ、こいつがオロチだ」

 

 カーチスの情報では卑弥呼が『聖なるオーブ』を持っていて、親父の仲間だったらしい。

 なのに親父のこともオーブのことも知らないと言った。

 親父を知り合いは皆オルテガを尊敬していた。

 それを否定するということはまず別人の線が高い。

 

 女王が交代したという線もあるが村人に聞いたところここ十年交代したことはないそうだ。

 そして『エジンベア』を襲撃したモンスターはステラに成り代わろうとしていたらしい。

 警戒はしておいて正解だった。

 

 ただ唯一の失態はこいつを皆のところに行く前に正体を暴いて退治できなかったことだ。

 みんな無事だといいんだが、まあ大丈夫だろう。

 

「ふふふふふ……ここで見たことを他言しないと誓うのなら見逃して」

「そんなこと聞いてない。本物の卑弥呼をどうした」

 

 チェーンソードを構える。

 聞かなくたって分かることだが希望を捨てたくなかった。

 

 

「ああ、あの女か。最後まで抵抗してな。面白かったぞ? 勝てないと分かっていながら挑んでくる。あのカンダタという男もそうだ。人間とはバカな生き物よのう。だがこの人の皮はお気に入りじゃ。アレから女を食らうのが無性に楽しゅうて楽しゅうて」

 

 

「もういい。黙れ。そして胸に十字を切り奪った命に命乞いをしながら死んでいけ」

 マリアが俺の言おうとしてたことを言ってくれた。

 偽者の卑弥呼は目の前で竜の姿に変わっていく。

 

 『ヒドラ』タイプの癖に頭が三つしかない。

 アリシア達がずいぶん暴れてくれたようだ。

 三つの口が【火炎の息】を吐いて建物に火がつく。

 

 その騒ぎに館の見張りが次々に集まってきた。

 

「ちょうどいいところに来た。我の糧となることを光栄に思うがよい」

 

 俺達を無視して駆けつけてきた兵士を食らい始めた。

 一人食らうごとに頭が一つ増えていく。

 

「貴様っ」

 

 チェーンソードを投げつけるが硬い皮膚に弾かれた。

 炎系は効きそうにない。

 だがこれ以上身勝手に命を奪われてたまるか。

 多少のダメージは一人食えば治るといわんばかりに、俺を無視して館を吹き飛ばして外に飛び出していった。

 

 

「マリア、村の人の非難を頼む」

「一人で戦うつもりか?」

「持久戦になる」

 

 

 これ以上犠牲が出る前に『ヤマタノオロチ』を追う。

 外に出ると首が八つに増えていた。

 

 マリアは俺よりも早く『ヤマタノオロチ』の前に回りこむ。

 そういえば『星降る腕輪』を俺から取り上げていたんだったな。

 

 

 『ヤマタノオロチ』の足元に沢山の死体がある。

 食い千切られ無残に散らばった血と肉の残骸。

 その側で「お母さん」と6歳くらいの少年が泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様に分かるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリアが地を蹴り矢のように飛んで行き、『鋼の鞭』ですれ違い際に『ヤマタノオロチ』を()()()()()

 

 

 

「親を失った子の気持ちが魔物の貴様に分かるか?」

 

 

 

 更に矢のように飛んで切り裂く。

 

 

 

 

「村を失う子の気持ちが分かるか?」

 

 

 

 

 繰り返し矢のように移動して、『ヤマタノオロチ』を中心とした五芒星の角度から斬り裂き続ける。

 『ヤマタノオロチ』はほぼ同時に五箇所から受ける攻撃スピードについていけてない。

 これが『星降る腕輪』でスタミナ配分を考えずに動いているマリアの力か。

 

 

 

 

 

「チリ一つ残さず消し飛べ……究極剣技【アルテマソード】!」

 

 

 

 

 

 最後に闘気を込めた一撃が五芒星の中心で爆発を起こした。

 滅茶苦茶な攻撃力だ。

 

 地面は抉れて『ヤマタノオロチ』の巨体が空高く吹き飛ばす。

 

「アルス!」

「【ライデイン】!」

 上に上がってしまえば全力で放てる。

 

 【ライデイン】を『ヤマタノオロチ』に向けて連発する。

 確実にダメージを与えている。

 だがまったく気にしている様子もなく、【火炎の息】を【ライデイン】を食らいながらも上から吐いてくる。

 

「っ」

 

 『魔法の盾』で防ぐがダメージがデカイ。

 『ドラゴンシールド』か『フバーハ』が欲しいところだ。

 マリアの無事を確認してしようと辺りを見回すが、地上にマリアの姿はない。

 なら、上か。

 

 

 

「食らって回復するつもりなのだろうが、そんなこと易々させると思うか?」

 

 

 

 いつの間にかマリアは『ヤマタノオロチ』の真上まで飛び上がって鞭で地面に叩き落とす。

 

 そして再び五芒星に切り刻んでいく。

 

 このままなら身動きさせずに倒すことが出来るかもしれない。

 だが今までこの技を使わなかったのはなぜか。

 普通の身体ならまだ負担は少なかっただろう。

 だけどマリアの身体は毒でもうボロボロだ。

 どこまでひどい状態なのかは聞いていないが本来戦える身体ではない筈だ。

 

 

「やめろマリア!」

「まだ行ける。止めるな」

 

 

 地面に血で滲んだ五芒星が出来ている。

 『星降る腕輪』で全力で動き続けられる身体になっているせいか、それとも身体が悲鳴をあげていることに気付いていながら続けているのか、おそらくマリアのことだ。

 後者だろう。

 

 再び爆発が『ヤマタノオロチ』を上に打ち上げる。

 

 

 

「……後一発くらいはいけると思ったのだがな」

 

 

 

 マリアは追撃をしない。

 いや、できない。

 咳き込んで嘔吐している。

 無理しすぎだ。

 

 再び空中で【火炎の息】を吹き出す。

 マリアは嘔吐しながらもそれを回避した。

 

 

「無茶しすぎた罰に今日の飯マリアが作れよ」

 

 

 ずっとマリアの下に走っていたがようやく合流できた。

 今度は俺がマリアから『星降る腕輪』を没収だな。

 

 

「そうか。それは張り切って作らねばな」

「変なもん作るなよ」

「失礼な。私は何でもこなせると言っているではないか」

 

 

 気休め程度に【ベホイミ】を掛けるがマリアの顔色は悪いままだ。

 だけどまだ戦う気満々な分性質が悪い。

 せいぜい無理させないように上手く立ち回るとしよう。

 

 二発目の【火炎の息】を盾で防いだ辺りで『ヤマタノオロチ』が地面に落ちてくる。

 周りに人はもういない。

 

 

 

「おのれ人間っ! こうなればもう手段はえらばぬ。この島ごと飲み込み貴様らを滅してくれる!」

 

 

 

 『ヤマタノオロチ』の体が地面に同化していく。

 流石に島一つの質量を吸収されたら勝てそうもない。

 どんどん大地の力を吸収して周りの植物を枯らしながら回復していく。

 

 

 

 

 

「後一発……【アルテマソード】を放つ。トドメは刺せそうか?」

「まあチャージ時間は掛かるがいける。後、船掃除を追加な」

「それは困ったな」

 

 

 

 

 

 マリアは笑ってから一息呼吸を整え、再び矢のように『ヤマタノオロチ』に飛び込んで行った。

 悔しいが今はマリアに頼るしかない。

 マリアが時間を稼いでいる間にチャージを開始するとしよう。

 

「【ライデイン】」

 

 回復し続けている『ヤマタノオロチ』にやっても焼け石に水だ。

 空に掲げた剣に【ライデイン】を落とす。

 【火炎切り】と同じ要領だが流石に慣れてない魔法は制御が難しい。

 

「このくらい……」

 

 きっとこの先この技に世話になる。

 だからここで成功させてものにする。

 

 剣に落とした瞬間電撃が逆流した。

 体の内からバラバラに吹き飛びそうだ。

 マリアが【アルテマソード】の最後の一撃で『ヤマタノオロチ』を打ち上げた。

 

 

 体が熱い。成功したのか失敗したのか分からない。ただ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――チャージは完了した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが最後のチャンスだ。決めろ」

 マリアはそう言って膝をついている。

 しばらくは無理がたたって動けないだろう。

 

「まかせろ」

 

 【ルーラ】で体制を崩して打ち上げられた『ヤマタノオロチ』の真上まで飛ぶ。

 炎を吐こうと口を開いているが遅い。

 

 

 

「貫け……【稲妻切り】!」

 

 

 

 【デイン】の力が宿った剣を振り下ろし、雷の刃でヤマタノオロチの体を二つに割った。

 『ヤマタノオロチ』の体は回復が間に合わずに崩壊していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――せめて貴様だけでも道連れに―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊する“ヤマタノオロチ”の身体が膨らんだ。

 こいつ、吸い取ったエネルギーを爆発させるつもりか。

 蛇というのは執念深くて嫌いだ。

 

 【ルーラ】は……間に合いそうにないか。

 俺の死体が残ればいいが後は神頼みだろう。

 

 

 

 

 

 

「アルス!」

 アリシアの声がした。

 アリシアがまっすぐ俺に向かって飛んできている。

 

 

 

 そして『ヤマタノオロチ』が爆発した。

 

 

 

 爆風で俺の身体が吹き飛ぶがアリシアが抱えてくれたおかげで直撃は避けられたようだ。

 

 

「バカかお前っ。一歩間違えば一緒にお陀仏のタイミングだったぞ!?」

「バカって何よ!? 人が折角助けてあげたっていうのに!」

 

 

 アリシアは泣いていた。

 取り乱していないところを見ると仲間内は無事のようだ。

 多分、カンダタの死についてだろう。

 

 

「……ごめんアルス。カンダタは……助けてあげられなかった」

「アリシアのせいじゃない。とりあえず助けてくれてありがとな」

 

 人の死というものをまじかで見たんだ。

 ショックは大きくて不安もあっただろう。

 アリシアの頭を優しく撫でてやる。

 

 

「撫でるな……私はそんな子供じゃないっ」

「そういうのはこういう状況で胸の感触を与えるくらいのスタイルになってから言え」

 

 

 そこで俺の記憶は少し飛んだ。

 バカをやっている分にはアリシアもみんなも元気でいてくれる。

 それでいい。

 

 

 今回の被害はあまりに大きかった。

 だから少しでも明るく振舞おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書32―アルスの日記―

 今日は『ジパング』にいる卑弥呼に会いに行ったが、既に『ヤマタノオロチ』に入れ替われていた。カンダタに罪のない村人。被害は大きかったが『ヤマタノオロチ』を倒して『パープルオーブ』は手に入った。早く平和な世の中を作らないとな。

 今日の夕飯は無理しました賞でマリアに作らせたら悔しいぐらい豪華だった。

 

 




ヤマタノオロチの設定ベースは『ロトの紋章』からだと思われます。(同化や超再生を読み返して自分で「ふぁ!?」っとなる作者)
そしてマリアの切り札アルテマソード。
『ドラクエ7』仕様なので攻撃力が上回っていればはぐれメタルさんも一刀両断できます。(当時リメイク前なので単純に闘気による攻撃力で一刀両断する剣技として見ています)
破壊神を破壊した男ばりの攻撃力とマリアはまさに決戦兵器です。

アルスの技が稲妻斬りなせいで新技なのに全てにおいて負けているというジレンマ。
当時はもう一段回上の雷神斬りもないので仕方がありません。
『ダイの大冒険』のライデインストラッシュをしたかったのですが、今までアバンスラッシュのような剣技を行ってこなかった為、無難な稲妻斬りにした覚えがあります。
今思えばどうせ後にギガスラッシュを使うのだから、ライデインスラッシュでよかった気がしますね(白目


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この青空に約束を-No.2ステラ

骨抜きにされてしまっているお姫様の小さな約束。


「少しの間『エジンベア』に帰ろうかと思うんです」

「あいつにセクハラされたの!?」

 

 アリシアさんは相変わらずアルスさんに厳しい。

 アルスさんがアリシアさんに締め上げられていた。

 ちょっとこの光景がしばらく見られなくなるのは残念だと思う。

 

 

「ちょっと力不足を感じまして……このままだとあまり役に立てないんじゃないかって思い始めたんです」

 

 

 『黄金の爪』があれば私でも戦えると思った。

 非力だから武器で補おうと『黄金の爪』をアルスさんと冒険する理由にした。

 

 

 でも実際は何も出来なかった。

 人攫いさんのお友達を守れなかったし、人攫いさんも守れなかった。

 やっぱり私自身が強くならなければダメ。

 

 

「いや、役に立つステラはステラじゃないだろ」

「はぅ!? そこまで酷く言うことないじゃないでしょうか!?」

「私も言いすぎだと思うな」

「だが役に立たないからこそのマスコットであろう」

 

 

 マリアさんが私を抱きかかえて頭を撫でてくる。

 真面目に話しているのにアルスさんもマリアさんも酷い。

 

 

「でもさでもさ、それならアルス君に特訓つけてもらえばいいんじゃないかな? ほらほら毎週好例のスパルタ特訓」

 

 

 ニーナさんの言うとおりアルスさんに出来れば教わりたいし一緒に居たい。

 でも多分私はアルスさんにどこかで甘えてしまう。

 だから私は強くなれない。

 

 

「賢人達に賢者になる修行をつけてもらおうかと思うんです。それで賢者になってから武道家になれば魔法も使える最強キャラの誕生です」

 

 

 だから一度アルスさんの側を離れないと。

 アルスさんは「私が帰りたくなるまで」連れまわしてくれると言ったから「帰りたい」と言った今止めようとはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 だけど少しは「行かないでくれ」とか言ってくれると嬉しかった。

 

 

 

 

 

 出発は今日の昼『キメラの翼』で。

 最後にアルスさんと二人でお話しがしたいから、朝早くに甲板に出たのに全然来てくれる様子はなくて潮風が鼻につーんとくる。

 

 

「アルスさんのバカ」

「誰がバカだって?」

「はぅ!?」

 

 

 不意に頬をつねられた。

 こんな酷いことするのはアルスさんだけだ。

 私がアルスさんの文句を言うまで隠れていたとしか思えないタイミングだ。

 

 

「たく、頑張って強くなって戻って来いよ」

 

 

 でもその一言で許してしまう私はもうアルスさんに骨抜きにされているみたいだ。

 戻ってくるのを待ってくれているって分かっただけでこんなにも嬉しい。

 だから「さよなら」は言わない。

 

 

「はい。またお互い元気な姿で会いましょうね」

 

 

 それは約束。

 青空の下で交わした小さな約束。

 強くなればまた会えると思えばきっと私は頑張れる。

 私はそうこの青空に誓って甘えてきた『黄金の爪』をアルスさんに返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書33―アルスの日記―

 今日はステラが『エジンベア』に帰っていった。戦力になるために魔法を覚えるつもりらしい。ステラが悩んで決めたことだから暖かく見送ろう。

 ニーナはニーナで『ヤマタノオロチ』戦で何かを悟ったのか街づくりを手伝うと言い出した。みんなに説明する俺の身にもなってくれ。

 そんな訳であっという間にメンバーが4人になってしまった。早くみんな戻ってきてもらいたいところだ。

 

 




ジパングで人の死を目の前にしたステラはアルスの為にも強くなろうと決意しました。
この一人ずつパーティーを抜けて、その後また合流する流れは、商人のニーナだけパーティーから外れるのは可哀想だなと思った作者のニーナ贔屓かもしれませんね。


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エピローグ

最後の締めは日記にあった通りニーナです。


「という訳で私はしばらく街つくってるから後で拾いに来てね」

「どういう訳だよ」

 

 ステラが『エジンベア』に帰ってすぐにニーナが変な話題を出していた。

 そういえば『スー』で街作りをしている男がいると聞いたことがあるようなないような。

 とにかくステラよりも突然すぎて驚きだ。

 

「いやー、戦いって結構孤児とか身寄りのない人が出るみたいなんですヨ。ほらフィリアちゃんもお父さんに会えたから良かったけどそうだったんでしょ?」

「まあそうだが」

「だからそういう行き場のなくなった人がただいまって帰ってこられる場所が必要だと思うんだよね。人探しをするにも拠点が必要だと思うし。何よりも一人って悲しいじゃん」

 

 

 ニーナなりに色々考えているらしい。

 笑顔で送り出したいところだけどニーナはどこかでポカすることがあるから心配だ。

 

 

「心配しなくっても浮気なんてしないよ」

「俺がいつお前と付き合った。いつ惚れた」

「あははははー。もうノリが悪いなアルス君は。もうそこは「俺が先に浮気するから大丈夫だ」ってとんでも発言をしてほしかったですヨ」

 

 こいつはそんな別れの挨拶を望んでいるのか。

 

「で、アリシアとティナには挨拶しに行かないのか?」

「あはー。アルス君はやっぱり鋭いなー。別れの挨拶なんてしたら引き止められて決心が鈍っちゃうよ」

 

 

 『アリアハン』で幼い頃からずっと友達だったんだ。

 きっとそうなる。

 俺だって結構ショックが大きかったんだ。

 ティナなんて「行かないで」と泣き出すに決まっている。

 

 

 つい先ほども「絶対また会おうね」と泣きついて、ステラを困らせたばかりだからな。

 

 

「まあお前は一応俺のチームの優秀なアタッカーだもんな。あの辺のモンスター相手なら心配ないか。行って来いよ。俺は「何で止めなかったのよ」ってアリシアに殴られとくから」

「そこまで分かってるのに引き受けてもらっちゃって悪いね。この埋め合わせはニーナちゃん特性の豪華な手料理で簡便を!」

「どんな拷問だそれは」

 

 

 ニーナの料理は正直あれだ。

 腹が痛くなる。

 

「ほらさっさと行け。アリシアかティナに見つかったら面倒だろ」

「うん。それじゃあアルス君またねー」

 

 いつもと代わらず騒がしくいつもの調子で『キメラの翼』を使って、ニーナが『スー』の方向に飛んでいった。

 

 やりたい事が見つけたんだ。

 俺に止める権利はもともとない。

 

 

 

 

 

 

 

 ただ潮風が目にしみる。

 

 

 

 

 

 

 

 ステラの時もそれなりに我慢した。

 さっきまでは我慢できていたのに潮風で目が痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書33―アルスの日記―

 今日はステラが『エジンベア』に帰っていった。戦力になるために魔法を覚えるつもりらしい。ステラが悩んで決めたことだから暖かく見送ろう。

 ニーナはニーナで『ヤマタノオロチ』戦で何かを悟ったのか街づくりを手伝うと言い出した。みんなに説明する俺の身にもなってくれ。

 そんな訳であっという間にメンバーが4人になってしまった。早くみんな戻ってきてもらいたいところだ。

 ちゃんと見送れたんだからへこまないの。

 元気な方がアルスらしいよ。                 ティナより

 落ち込んでいるならお姉さんが胸を貸してやろう。思いっきり泣くがいい。

 何で俺が慰められてんだよ。

 

第七章「少女の想い編」完

 

 




少女達の想いが大きく出て、なんだかんだで仲間が一時的にでもいなくなることをアルスが寂しがる章でした。


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第八章「オリビア海域編」
プロローグ


マリアとデートする話?


 マリアが熱を出して倒れた。

 

 多分『ヤマタノオロチ』戦で無理をし過ぎたせいだろう。

 一度『ロマリア』にいるマリアのお抱えの医者に見てもらうことにしよう。

 

 

「世界を守るという使命は分かるが……これ以上身体を無理に酷使しすぎると彼女……死ぬぞ?」

 

 

 マリアの医師バーンズがそう忠告してきた。

 俺だってマリアに無理をさせたい訳ではない。

 いつもどおり力を温存して戦っていてもマリアは充分強い。

 

 

「アルスは信じやすいんだから脅さないでくれ。軽い風邪だ」

 

 

 マリアはまだ強がっている。

 これ以上無理をされる前に『ロマリア』に留まってもらうべきかもしれない。

 

「マリア」

「分かった。アリシアもティナも外だ。正直に話す」

 俺が残れと言う事が分かったのかやれやれとマリアは溜息をついた。

 

 

 

 

「安静にして三年。戦ったら二年。無理をし続ければ半年。それが今の私の身体だ。治療法は今のところない。もしかしたら魔王を倒せば私の身体を蝕んでいる毒の瘴気が抜けるかもしれないと学会で議論されているが、まあ無理だろう。今出来ることは『世界樹の葉』と『毒けし草』のエキスを調合した薬と、解熱剤と、鎮静剤などを服用して少しでも寿命を延ばす、ただそれだけだ」

 平然とマリアはそう言ってみせた。

 

 

 

 

「まあそんなに落ち込むな。こんな身体でも子作りは出来るんだぞ。目隠しをしていれば傷だらけで毒に蝕まれた体も気にはなるまい。って、そこはツッコミを入れるところだぞ」

 

 笑えない冗談だ。

 

「ふむ、アルスには少し刺激が強すぎたか。まあ何、もう少し長く生きられると思うから心配するな。それに短いが今は充実した毎日を過ごせている」

「それはこれからもついて来るってことか?」

「ああ、そのつもりだ。まあアルスが私の力が必要なくなるくらい心身ともに強くなれば大人しくするつもりではいるがな。それまでは好き勝手させてもらうぞ」

 

 マリアより強いかと聞かれれば首を横に降るしかないが俺は十分強い。

 新しい技だって手に入れた。

 でも心はどうだろう。

 多分、弱いままだ。

 

「やれやれ、バーンズ。外出許可をくれ」

「今日のところは『ロマリア』で大人しくしていろ小娘が」

「別に出るわけじゃない。こいつとデートして来るだけだ」

 

 

 今なんて言った?

 

 

「なんだ嬉しくて声も出ないか。そこまで喜ばれると誘ったお姉さんの方も大変嬉しいぞ」

「ちょっと待て。なぜそうなる」

「一人で寝ているのは退屈でしょうがない。どうせ寝ているのも起きているのも同じだ。付き合え」

 

 本当に何を考えているのかつかみにくい人だ。

 マリアと一緒に病室を出るとティナとアリシアが待っていてくれた。

 多分会話は聞こえていないと思う。

 

「マリアさんもう起きていて大丈夫なの?」

「ああ。風邪薬を飲んだら治った。それに今朝はティナにお粥を作ってもらったからな。元気百倍だ」

 

 マリアが心配そうな顔をしているティナを安心させようとポンポンとティナの頭を撫でる。

 なんだか皆して俺のこの撫で方を真似しているのは気のせいだろうか。

 

「本当に平気なの?」

 だけどアリシアの方は薄々マリアの体のことを感付いているのかもしれない。

 最近の雑魚モンスターとの戦闘では、マリアに最近練習している【バイキルト】や【スクルト】を掛けて補助することが多くなった。

 

「大丈夫だ。アリシアはカンダタの一件から気を配りすぎだ。そんな張り詰めているとこの先アリシアが倒れるぞ。それに今日は大人しくアルスとデートしてるさ。せっかくアルスが誘ってくれたのだからな」

「いや、誘ったのあんただろ」

「デートってあんた。マリアさん体調悪いのに何考えてるのよ!」

「いや、だから俺じゃないし」

 

 流石はマリアだ。

 アリシアの矛先を瞬時に自分から俺に移し替えやがった。

 体のことは伏せておきたいらしい。

 ここは後々面倒だがマリアを連れて逃げるとしよう。

 

「ちょっとなんで逃げるのよ!?」

「お前が言っても聞かないからだろ!」

「ふむ、お姫様抱っこか。抱っこされるのも悪くはないな。このまま城下町を一周してくれたまえ」

「マリアは調子に乗りすぎだ!」

 

 とにかくアリシアを振り切って外に飛び出してから【ルーラ】で『ロマリア』の入り口まで飛ぶ。

 まさかアリシアも【ルーラ】で飛んでおきながら、まだ『ロマリア』に居るとは思うまい。

 

 マリアをゆっくりと地面に下ろす。

「なんだもうお姫様抱っこは終わりか」

「街中でそんな恥ずかしいことし続けられるか」

「それは残念だ」

 マリアはいつものようにからかうよう笑った。

 

「さて、まずはまったりとお茶でもしようか。この街は私の庭のようなものだ。美味い喫茶店を知っているぞ」

 

 俺が『アリアハン』の住人すべてと友達となったように、マリアは『ロマリア』の人達全ての友達なのか、すれ違う人は皆マリアに笑顔で挨拶している。

 

 挨拶を交わしながら大通りを通り、とある喫茶店のドアをくぐる。

 

「あらあら、また違う子つれてるのね」

「ああ。前私に声を掛けた男は半日も持たずに根をあげて逃げて行った」

「だめよマリアちゃん。ちゃんとむしりとった後に捨てないと」

 

 喫茶店のマスターとの会話は聞かなかったことにしておこう。

 

「さてアルス。少し真面目な話をしていいか?」

「ん、ああ。まあからかわれるよりはそっちの方がいいかな」

 注文してないのにすぐに紅茶のポットが届いた。

 ブルーベリーの心地よい香りがする。

 マリアがそれでお行儀よく紅茶を入れてくれたので口につけると……マリアが美味い店というのも納得の味だった。

 

 

「アルスは誰が好みなんだ? やはりよく言い合っているアリシアが本命か?」

 

 

 唐突な話題すぎて紅茶を吹き出しそうになってむせ返った。

 真面目な話だと思って心の準備を指定多分たちが悪い。

 

 

「どこが真面目な話だ」

「失礼な。私は真面目だぞ? 気になる子がいるならお姉さんが女の子を口説き落とすテクニックを叩き込んでやるぞ。まあもっとも皆脈ありだと思っていいから「好きだ」の一言で落とせそうだがな」

「じゃあマリアが好きだ」

「そうかそうかお姉さんもアルスのことが好きだぞ。それで本命は誰なんだ?」

 

 やはりはぐらかすのは無理か。

 仲間としては皆好きだけど、異性として好きかと聞かれるとどうだろう。

 

「まあみんな可愛いとは思うけど、魔王退治の旅をしてるんだから恋とかしている余裕なんてないだろ」

「勇者も人間だ。普通に恋をしてもいい。それに誰を選んでもみんな祝福してくれるだろう。だからアルスだって誰か一人を愛してもいいんだ」

「そんなこと言うためのデートか?」

「まさか。勇者という響きに何か遠慮してそうだったから教えてやっただけだ」

 

 たまにマリアは人の心が読めるのかと思ってしまうほどズバリとモノを言ってくる。

 そんなに俺は分かりやすいだろうか。

 

「私はアルス達に出会うまではいつ死んでもいいと思っていた。だが今は死ぬのはとても怖い。それ以上に短い時間しか残されていないのに無駄に時間を過ごすことが怖い。私は、私がこの世界に生きていた証を残したいんだ」

「マリア……」

 

 

 

 

 

「とでも言ったら私を連れて行くか?」

 

 

 

 

 またからかわれたようだ。

 本当にヒマだから俺をからかいたいだけなのかもしれない。

 

「まあ悔しかったらアルス。強くなれ。私の力が必要ないくらいに、私を守れるように強くなれ。それまでは私はお前の剣であり続けよう」

 マリアはそう言って優しい笑みを見せる。

 

 それからは適当に『ロマリア』を連れまわされて、悔しいが本当にデートっぽかった。

 そして「そろそろ戻らないとアリシアがやきもちを焼くな」とからかわれて夕方には船に戻る。

 

 

「マリアさんあいつに変なことされなかった!?」

「いや、どうやら奴は立たないらしい」

「えっ」

「こらそこ、変なデマ流すな」

 

 今週も苦労が耐えない週になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書34―アルスの日記―

 今日はマリアが倒れたから一度ロ『マリア』に戻った。

 で、つれまわされた。紅茶の美味い店に案内されたから今度は皆で行くとしよう。

 さてこれからの予定だが『ロマリア関所』から『旅の扉』で『サマンオサ』に行って王に挨拶をしにいこうと思う。

 まだ挨拶を済ませていない国は『サマンオサ』だけだからな。

 

 




自分に好意を抱いているという自覚を使命があるからと置き去りにするアルス。
勇者であるようにと育てられたゆえ、感情が欠落していると言っても過言ではない程の押さえつけられた感情。
そんなアルスの本心が徐々に出て来る章だったと思います。


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第一話「忘れたくない想い」

二話に分けてもよかった長さですが、サマンオサに行く話です。


「ここは『オリビアの岬』。嵐で死んだ恋人を思いオリビアは身を投げました。しかし死に切れぬのか通りゆく船を呼び戻すそうです」

 

 『サマンオサ』に行く『旅の扉』の中間ポイントにある有名な幽霊スポット、『オリビアの岬』に寄ってみた。

 

 別に素通りしてもいいのだが、どうも『旅の扉』は一瞬で移動できて便利だが、あの揺れる感じが苦手だ。

 正直連続で使用すると酔う。

 だから観光スポットで一休みしている訳だ。

 

「もし恋人エリックとの思い出の品でもささげれば……。オリビアの魂も点に召されましょうに。うわさではエリックの乗った船もまた幽霊船として海を彷徨っているそうな」

 

 この語り手もよく喋るものだ。

 まあアリシアとティナが本気で怖がっているから半分面白がって話しているのだろう。

 

 

 ステラがいたら同じように語ってくれただろうに残念だ。

 

 

「それにしても幽霊船か。やっぱり海のことは海の専門家に聞いた方がいいよな」

「ほう、では久々にフィリアの顔を見に行くのだな?」

「ああ。だけど折角こっちに来たんだ。先にサマンオサ王に挨拶しに行くさ。優しく正義感のある王様だって噂だから多分力になってくれる筈だ」

 

 

 そろそろよいも醒めたからまた『旅の扉』で移動するとしよう。

 アリシアもティナもここに長居したくないようだしな。

 

 

 

 『旅の扉』でワープして少し歩くとすぐに『サマンサオ』にたどり着いた。

 だが妙に空気が重い。

 どうやら教会で葬儀が行われているらしい。

 

「これはマリアにティナの面倒を見てもらった方がいいな」

 ティナは人の死に敏感すぎる。

 またティナが両親のことを思い出して泣き出す前にマリアと一緒に宿でもとってもらおう。

 何か事件かもしれないから一応アリシアと一緒に教会に向かうとしよう。

 

 

 

 

「王様の悪口を言っただけで死刑だなんてあんまりですよ!」

 

 

 

 

 仏のブレナンの妻が泣いていた。

 神父は無言だった。

 葬儀に出席している人達の口も重かった。

 

「……優しい王様じゃあなかったの。って、アルス。どこいくのよ!?」

「アリシアはもしもの時の為に何があっても動くな。何かあった時はマリアに相談してから動け」

 

 俺はアリシアに道具袋を渡してから棺おけのところに向かった。

 処刑された人間の蘇生は法律で禁止されている。

 だからなんだ。

 悪口を言っただけで処刑なんて酷すぎる。

 

 もっといい国だと聞いていた。

 力を貸してくれるかもしれないって俺は期待してたんだ。

 

 

「【ザオラル】」

 

 

 復活魔法を掛けるが復活しない。

 仏を見ると首をはねられた死体だ。

 これが【ザオリク】だったとしても復活できるかどうかは怪しい。

 

 

「【ザオラル】」

 

 

 復活しない。

 神父が俺を止めに入るが俺はお構いなしに【ザオラル】を唱えた。

 アリシアも俺を止めに入ろうとするが俺の「動くな」という目線に気付いて歯を食いしばって留まってくれる。

 

 

「【ザオラル】」

 

 

 首が繋がった。

 損傷が酷くなければ身体の一部が離れていてもくっつくらしい。

 なかなかのホラーだ。

 

 衰弱しきって意識はないが呼吸はしている。

 死刑されてからそれほど時間が経ってなかったのだろう。

 運がよかった。

 

 兵士達が騒ぎを聞きつけて駆けつけてくる。

 まだ兵士との距離はあるから会話する時間くらいはあるな。

 

「生き返らなかったことにして葬儀を続けろ。王の変貌の理由を暴いて一週間以内に政治を元に戻す。それまで死んだことにしてかくまってくれ」

 

 小声で神父にそう言うと神父は無言で頷いてくれた。

 やはりここはいい国だったんだ。

 

 俺は無抵抗で兵士に連れて行かれる。

 兵士達もあまりいい顔はしていない。

 やはり王自身のみに何かが起こったのだろう。

 おそらく『ジパング』と同じ常態か。

 

 

 

 

「そなたが法を破り罪人を生き返らせようとした悪党か。うむ、いかにも悪人面をしておるな」

 

 

 

 

 サマンオサ王が玉座から縄で縛られた俺を見下ろす。

 見た感じは人間だ。

 だが『ヤマタノオロチ』もそうだった。

 ここで縄を【ギラ】で燃やして偽サマンオサ王”倒すのは簡単だが、おそらく正体を見せずにわざと負けるだろう。

 何か相手の正体を見破るアイテムが必要だ。

 

 

「この者を牢獄に入れておけ。明日公開処刑にしてくれよう。ふはははははは!」

 

 

 俺は武器防具を奪われて牢屋に叩き込まれた。

 『オルテガの兜』は袋に入れてアリシアに渡してあるからまあよしとしよう。

 

 さてこれからだが期限は明日の朝か。

 まあ少し待ってれば誰かが助けてくれるだろう。

 それまではのんびりと昼寝でもするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何簡単に捕まってるのかな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かの声がした。

 勝手に牢屋の鍵が開いて扉まで開く。

 

 

「そっちこそいない事になってるんじゃないのか?」

「なってる筈なのになんで覚えてるかな、君って人は」

 

 

 見知らぬ少女が俺の前に姿を現した。

 おそらく【レムオル】で姿を消していたのだろう。

 

「むやみに姿を現すからだ。その魔法一度存在を確認されると効果が薄れるんじゃないのか?」

 目の前の少女が誰だかも思い出してきた。

 いつの間にか居なくなっていた幼馴染アリスだ。

 ずっと俺の後ろをくっついて棺おけの面倒を見てくれていたとはご苦労なことだ。

 

「あー、だから戦闘には参加するなって注意されてたんだ。なるほどなるほど。存在がばれて私までやられて全滅なんてなったらシャレにならないしね」

「そんな事よりもアリス。お前どこまで俺のプライバシーに踏み込んだ」

「えっと…まあなるべく自重はしたよ。うん。したした。あははははー」

 アリスは頬を赤めているのをごまかすように笑った。

 

 風呂場とかもついて来てたりしたのだろうか。

 それとも――――考えるのはよそう。うん、これは健全な物語だ。

 

 

「アリス、お前後でしばく」

「そんな事言っても私は存在しているようで存在してないから」

「次は忘れん。覚悟しろよ」

「何だか不安になってきたなー」

 

 

 俺自身あまり意識してなかったが前回は誰か知り合いが【棺おけの加護】をしているという記憶が少しだけ残っていた節がある。

 なぜか俺が料理を作るとき皿を余分に置いてしまうのはその為だろう。

 なら今度はもう少し懸命に覚えているはずだ。

 

 

「お前を布団の中で泣かせて隣で気だるくタバコをふかしてやるから覚悟しとけよ」

「うわー、私って存在消えてるから周りを気にせずにやりたい放題されちゃう?」

「いっそそうなる前にこのままパーティーに加わったらどうだ?」

「そうしたいけどまだ敵に存在がばれてないからね。もうしばらく棺おけの加護であり続けようかな」

 

 

 アリスはそう言って笑って見せた。

 でも目には涙が浮かんでいる。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? おかしいな……止まんないや。ごめん、全然泣くタイミングじゃないのに」

 

 

 

 

 

 

 

 アリスは今まで孤独過ぎた。

 だから多分こんなにもバカらしい会話が出来て嬉しいのに、また消えなければいけないことが悲しくて泣いている。

 

 普通の女の子として生活していい筈だ。

 俺が皆を守って、誰も死なせないようにすればいい筈だ。

 だけど俺はそこまで強くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ、俺は、アリスを普通の女の子に戻すだけの力はないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今は泣いていい。俺はアリスを……解放してやることがまだ出来ない。胸を貸してやることくらいしか出来ないから今は思う存分泣いてくれ」

 泣いているアリスを胸に引き寄せて抱きしめた。

 抵抗しようとはしない。

 

 

 

 

「やめてよ……消えたく……なくなっちゃうじゃない」

 

 

 

 勇者だって人を愛していい。

 マリアにそう言われた時誰かを異性として好きになれなかったのは勇者の重荷を背負ってるからだと俺も思っていた。

 

 

 でも違う。

 違ったんだ。

 

 

§

 

 

パン焼いたんだけど食べる?

 

 

 昔勇者になる為のトレーニングでダウンした俺にくれた一言がそれだった。

 もちろんこれが初対面だ。

 なのにニコニコしながらパンを差し出してくる。

 

 

「私の家そこのパン屋。で、ここがいつも君の特訓してる広場。私の部屋二階にあってここがよく見えるんだ」

 

 

 それで今日は初めて仕事の手伝いをして、焼いたパンが始めて成功したから持って来たらしい。

 ちょうど小腹が好いていたから美味しく頂いておいた。

 

 

「おいしい?」

「まあまあだな」

「よかった。お腹すいたらいつでも家のパン屋に来てね」

 

 

 結局自己紹介もしないままその日はそれで別れた。

 でも、それから毎日トレーニングが終わるとパンをもってきてくれるようになった。

 

 

 たまに軽い怪我をしていることがあったけど、その時はパンを焼いている時にドジしたんだと思っていた。

 

 でも違った。

 一度パンの御礼をしに夕方彼女のパン屋に顔を出したら、いつもこの時間アリスは売れ残りのパンを配りに出ているらしい。

 

 

 

 

 

 そこで初めてアリスという名前だと知った。

 

 

 

 

 

 パンを配っている姿に興味があったから、街の人に聞き込みをしながらアリスを探してみた。

 聞き込みをしている内にアリスが最近外の出てることが分かった。

 モンスターの居る中『レーベ』までパンを配りに行っているのだろうか。

 慌てて俺は外に飛び出した。

 

 

 

 

 でもすぐにアリスは見つかった。

 

 

 

 

 アリアハンの外れの方で怪我をした『おおがらす』にパンをあげていた。

「何やってんだ?」

「あ、君かー。お腹すいてるみたいだったから、ついね」

「モンスターだぞ?」

「うん、知ってる。いつか人を襲うかもしれないのも知ってるし、いつか人に倒されちゃうかもしれない。でもお腹空いて辛いのはみんな同じだから。この子動けなくってご飯取れないから」

 

 今は大人しくパンを食べているがアリスの怪我は増えていた。

 バカだった。

 俺以上のバカだった。

 簡単なようで簡単にはできない優しさを持っている奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの時からたぶん――――――アリスのことが好きだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 守ってやりたい。

 【棺おけの加護】なんて馬鹿げたシステムの一部から開放してあげたい。

 

 

「もうすぐオーブが全部そろう。だからもう少しだけ……待ってくれ」

「急がなくていいよ。今日もまた……姿みせちゃったし。アルス君の胸借りちゃったしね」

 

 

 もうアリスは笑っていた。

 強い奴だよ、本当に。

 

「誰か近付いてるからまた消えるね」

 俺に奪われた道具袋を渡すとアリスの姿が消えて牢屋の鍵も閉まった。

 

 

 

 でも、まだアリスの名前を覚えている。

 今度は忘れない。

 忘れないようにアリシアの言葉をしっかりと胸に刻み込んだ。

 名前はもう思い出せないけど俺は好きな人がいた事を忘れない。

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

「旅人さん」

 牢屋越しから誰かが声を掛けてきた。

 この国の姫のようだ。

 牢屋の鍵を開けてくれる。

 

「本物の父を助けてください。あんなの……お父様ではありません。きっとお父様の『変化の杖』を使って悪巧みを考えている魔物です」

「何でそれを兵士に言わないんだ?」

「城の兵士に見慣れない者が増えています。それに……疑問を抱いた兵士さんは皆処刑されてしまいました……。だから気付かないフリをしてもらっています」

 

 なかなか賢い姫様だ。

 ステラもこのくらい頭が回ればいいんだけど、まあパワーアップに期待か。

 

「でも俺を出して大丈夫なのか?」

「大丈夫です。一度お父様の『変化の杖』に騙された……といいますか……本音を聞き出されてしまったといいますか。とにかく悔しくて【モシャス】をマスターしました。私が彼方に成りすましている間に事件を解決してください」

 

「おいおい、それで俺が逃げ出して帰ってこなかったらどうするんだよ」

「大丈夫です。『エジンベア』の姫からあなたのことは手紙で聞かされています」

 

 どうやら先に根回しがあったらしい。

 ステラに感謝しよう。

 

「この国を……お願いしますね」

「任せておけ」

 

 タイムリミットは明日の朝だ。

 それまでに何とかしなければ姫が俺の代わりに処刑されるのか。

 ちょっとプレッシャーあるな。

 だけど時間がないから急ぐとしよう。

 

 表口から出る訳には行かないから姫と入れ替わってから少し牢屋を調べてみると、隠し通路と本物のサマンオサ王が入れられた牢屋を見つけた。

 

 

「ちーっす。勇者アルスただいま参上」

「……おお、オルテガの子か。そなたの活躍はこの大陸にも届いておるぞ。だが今私を出したところで私が偽者の王として再び牢屋に入れられるだろう」

 

 

 姫といい王といい『サマンオサ』はよく頭が回る。

 これは何としても助け出して力になってもらいたいところだ。

 

 

「『サマンオサの洞窟』に写した相手の正体を見破る『ラーの鏡』が安置されておる。王家に伝わる『変化の杖』を悪用された時の切り札だ。それを用いて公衆の場で偽者の正体を暴いてくれ」

 

 なるほど。

 皆の見ている前で正体を暴けば万事解決って訳か。

 なかなかシンプルでいい方法だ。

 事態を悪化させないようにとサマンオサ王は牢獄に残るらしい。

 

 さらに奥に進んでいくとまた隠し通路があった。

 進んでいくと墓場の隠し階段にたどり着いた。

 ついでだから神父に挨拶しに行こう。

 

「よくぞご無事で。しかしその格好ではすぐに脱獄したことがばれてしまうでしょう」

 神父の言うとおりだが変装できるようなものは手持ちにない。

 筈だったのになぜか女物の洋服や串や化粧品が入っていた。

 ご丁寧に胸パットまで入っている。

 

 

 

 

「……後で覚えてろよ」

 

 

 

 

 きっと後ろにいる筈だから独り言のようにそう呟いておいた。

 

 髪を梳かして服を着替えてついでに化粧品を使ってみる。

 鏡を見てみるとありえないくらい女の子だったのは少しへこんだが宿に戻るとしよう。

 

 宿のドアを開けると街の人達を含めた作戦会議をマリアが開いていた。

 ドアを開ける気配にマリアはこっちを向いている。

 

「……すまん、ダメだ。我慢できない」

 マリアがぷっと声を堪えきれず噴き出して腹を抱えて笑っている。

 

 ティナとアリシアは俺だと気付いていない様子だ。

 そういえばこの二人は俺の『危ない水着』事件は見ていなかったんだったな。

 

 

「……まさか……アルス、なの? これが!?」

 マリアが笑い転げているのを見てようやくアリシアが俺だと気付いた。

 声が裏返っている。

 しかも指を指された。

 好きでこんな格好をしている訳じゃないぞ。

 

「アルス! よかった。無事だったんだね!」

 ティナが泣きついてきた。

 パットが少しずるから今はやめてくれ。

 

「ちょっとあんた! 何よその格好は!? なんでそんなに可愛いのよ!? それにその胸! そこまでして私のむむむむむ胸をバカにしてっ!」

 何かすごい今デジャブを感じた。

 アリシアが俺の胸パットを取り上げる。

 

 まあ皆いつものテンションだ。

 これならいける。

 さっそく『サマンオサの洞窟』に向かってみた。

 

 

 

 毒の沼地に囲まれたあまり空気のよくない洞窟でマリアの顔色が少し悪い。

 

 

 

「何気にするな。アルスのその格好が目の保養になってプラスマイナス0だ」

 らしい。

 

 しかしここの敵はいやらしい。

 『ゾンビマスター』が嫌がらせのように【マホトラ】をやってくる。

 そのくせ打撃をのらりくらりと回避して【ヒャダルコ】まで使ってくる『シャドー』も出てくるからタチが悪い。

 

 

「ふはははは! ここで会ったが100年目。数々の作戦失敗により一等兵まで格下げされてしまったが今日こそ貴様らを根絶やしにしてくれるわ!」

 

 

 その分『骸骨剣士』は【攻撃力】と【素早さ】が高くて二回攻撃してくるが、ウザくはない。

 とりあえず【ラリホー】でグループを眠らせて打撃で倒しておいた。

 

 

 さて、奥に進んでいくと宝箱が道なりに続いていた。

 見え透いた罠だが空けたくなるのが冒険者というもの。

 予想通り最後の宝箱は『ミミック』だった。

 

 俺は【ザキ】の直撃を受けたがなぜか道具袋に入っていた『命の石』のおかげで助かった。

 

 

 

 ここは素直に感謝しておこう。

 

 

 

「ねぇ、『ラーの鏡』ってアイテムどの宝箱にも入ってないんだけど」

 アリシアの言うとおり洞窟内をくまなく探してみたが、それらしきものは見当たらなかった。

 地下三階に毒で汚染された水の先に怪しげな祭壇があったから多分そこだろう。

 

 あいにく『ゾンビマスター』が出るから【ルーラ】で無駄に【MP】を消費したくない。

 【トラマナ】をして泳いで渡ろうにもアリシアの【MP】はもう0だ。

 

 ここは上の階から飛び降りるしかないか。

 

「いや、幸いなことに向こう岸との距離は短い」

 マリアが俺を担いだ。

 嫌な予感がする。

 

「待てまさかお前」

「ああ、お姉さんが向こう岸まで投げてやろう」

 

 マリアは笑顔を作ると俺を砲丸投げのようにぐるぐる回して勢いよく投げた。

 

「げふっ!」

 

 勢いあまって祭壇に激突した。

 

「すまん強すぎたか」

「すまんですむかっ。死ぬかと思ったぞ!」

 【HP】が100近くもっていかれた。

 技名【大雪山降ろし】とでも名づけておこう。

 

「アルス大丈夫?」

 ティナが向こう岸から声を掛けてくれた。

 本当にいい子だな、お前は。

 

 俺は『ラーの鏡』を手に入れてから近くにあった穴から飛び降りて、地下四階の階段を上がって皆と合流してから【リレミト】で脱出した。

 

 後はボス戦に備えて今日は寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書35―アルスの日記―

 『ロマリア関所』から『オリビアの岬』を通って『旅の扉』で『サマンオサ』についた。

 正直『旅の扉』はもう使いたくないところだ。

 『サマンオサ』では偽者の王が人を片っ端から処刑しているらしい。解決するためにわざと捕まってみたところ姫に助けられて本物の王も見つけた。

 『変化の杖』を見破るために『ラーの鏡』を『サマンオサの洞窟』で見つけたから後は、明日俺の身代わりになってくれた姫の処刑の時に偽者の正体を暴いて倒せば万事解決だ。

 各自明日の戦闘に備えてゆっくり眠るように。

 

 




アルスが初恋を思い出しました。
アリスは二度もアルスに姿を現してしまった為、アルスに耐性がついてしまったようです。
そんな理屈を飛ばしても、想いの力で忘れたくないと言った方がカッコいいですよね。
一人孤独にパーティーを守り続けるアリスとの恋物語は如何に。


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第二話「サマンオサの決戦」

ボストロル戦。ここでの痛恨の一撃は皆のトラウマですよね。


「これより罪人アルスの公開処刑を行う! いかにも悪人面をしよって! この国の――――」

 この台詞を言う前に『ラーの鏡』を使ってみたら『ボストロル』がこの台詞を言ってくれた。

 

 

 どう見てもお前が悪人面だ。

 俺を悪人面呼ばわりした報いを受けるがいい。

 

 

 ついでに『ラーの鏡』は【モシャス】で俺に変化してギロチン台を取り付けられた姫や、モンスターが化けた兵士達の姿も元に戻す。

 何が敵か一発で分かる状況を作ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

「王宮騎士隊は小物の撃破を! 勇者様は頭を抑えて下さい! 男の方は女子供の非難をお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 姫のその叫びで一斉に人もモンスターも動いた。

 肝が据わったいい姫さんだ。

 この際ステラのパワーアップを待たずにこの姫さんでも連れて行くか。

 俺はそんな事を思いながらギロチン台から姫を助けて『ボストロル』と対峙した。

 

「……見たな! もういい。もうやめだ! 貴様らを皆殺しにした後ゆっくり王から情報を聞き出せばいい!」

 

 『ボストロル』が迫ってくる。

 『トロル』系は打撃中心だ。

 

「アリシア! ティナ! 頼んだ!」

「しっかり盾やってなさいよね!」

「みんな頑張って!」

 

 【スクルト】と【ピオリム】で全体の能力を上げる。

 これで多少の攻撃は持つ筈だ。

 

 俺は『ボストロル』の身体をチェーンソードで切り裂こうとした。

 が、思った以上に硬い。

 

「【ルカナン】」

 ティナの援護かと思いきや、『ボストロル』が生意気にも補助魔法を使ってきた。

 更に巨大なこん棒を俺に振り下ろしてくる。

 

 『魔法の盾』で防いでみるが【守備力】が少し下がって支えきれない。

 

 

「お姉さんを忘れないでもらおうか」

 マリアが『鋼の鞭』をこん棒にまきつけて押さえつけてくれた。

 

 

「このっ」

 

 

 そこにアリシアがすかさず【メラミ】をぶつける。

 攻撃チャンスは今だ。

 出の早い【火炎切り】で俺は『ボストロル』を薙ぎ払った。

 

 

「その程度の攻撃片腹痛いわ!」

 

 

 効いているようだが体力が多いようだ。

 鞭で縛られたこん棒を強引に振るいマリアを地面に叩きつける。

 

 

「【ベホイミ】!」

 

 

 すぐにティナが回復に回ってくれたおかげで叩きつけた後に続いた第二撃目をマリアはぎりぎりのところで交わしてくれた。

 だが鞭はまだこん棒に繋がったままだ。

 ここで引き寄せられたら……。

 

 

「アルス!」

 

 

 マリアは鞭を強く引いて『ボストロル』がそれに抵抗しようとしたところで手を離した。

 空気投げの原理で『ボストロル』が横転する。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 俺は会心の一撃を放つがぎりぎりのところで避けられて、左腕一本切り落とすことしか出来なかった。

 

 こん棒による反撃で俺の身体が木の葉のように宙を舞う。

 お前攻撃力高すぎだ。

 

 更に『ボストロル』は俺を追撃しようとしていたが、アリシアが【ベギラマ】で注意を逸らしてくれた。

 

「【バギマ】!」

 

 さらにティナが【バギマ】で足をすくって、再び『ボストロル』が転倒する。

 てっきり俺が吹き飛ばされて動揺するかと思ったのだがいい判断だ。

 

 後は、

 

 

 

 

 

「マリア!」

「承知した」

 

 

 

 

 

 俺はマリアにチェーンソードの鎖を投げると、ちゃんとマリアは鎖を手に取り剣を引き寄せて装備した。

 そのまま勢いよく地を蹴り上から『ボストロル』の胸を突き刺してすぐに後ろに飛ぶ。

 

 

 

「これで最後だ!」

 

 

 

 そこに俺は落下しながらも【ライデイン】を突き刺したチェーンソードに落とした。

 今の攻撃で受身を取る暇がなくって地面に背中から落ちたが、剣を通して身体に直接電撃を食らわせたんだ。

 いくらタフな『トロル』系モンスターでもこれで仕留め切れた筈だ。

 

 

 

 だが『ボストロル』は黒焦げになりながらも立ち上がった。

 

 

 

「おろかな人間よ。なぜそうまでして歯向かう」

 トロルが左足を一歩俺に近付いた。

「『バラモス』様がこの世界を統治されればよりよい世界になる。なのになぜ歯向かう?」

 更に右足を一歩踏み出した。

 そこで『ボストロル』の右足が受けたダメージに耐えられなくて崩壊していく。

 

 それでも向かってくる。

 

 何がそこまで“ボストロル”を駆り出しているのかは分からない。でも、

「いい世界になるかどうかなんてどうでもいい。俺は仲間を守りたいだけだ。俺の知っている人達が平和に暮らせればそれでいい。だから俺は『バラモス』を倒す」

 もしも俺が望む世界があるとしたら誰も泣く必要のない平和な世界。

 だが『バラモス』は多くの悲しみを生み続けている。

 

 

 

 

「ふはははははははは! これは傑作だ! とんだ茶番ではないか!」

 

 

 

 

 笑いながら『ボストロル』の身体が崩れていく。

「いいだろう。守ってみろ。守れるものならな! ふははははははははは!」

 町中に響き渡る笑い声を残して『ボストロル』の身体は完全に崩れ去った。

 

 

 

 言われなくっても守る。

 強くなってみせるさ。

 

 

 

「アルス。お疲れ様」

 ティナが駆け寄ってきて【ベホイミ】を掛けてくれた。

 とにかくこれで『サマンオサ』に平和が戻ったので、牢屋に閉じ込められていた王を助けて一件落着だ。

 

 

「勇者様。国を救っていただきありがとうございました。この『変化の杖』はあなたに差し上げます。そもそもこんなものがあるからあんなことになったのですから。ねぇお父様?」

「うむ……まあ市民の視点で私の評価を知るにはいい道具だったが仕方があるまい。旅に役立ててくれ」

 姫の突き刺さるような視線に王は『変化の杖』を渡してくれた。

 『聖なるオーブ』でなくて残念だ。

 

 念のためにアリシアに『山彦の笛』を吹かせてみたけど山彦は返ってこなかった。

 これからはいつでも声をかければ『サマンオサ』は力になってくれるらしいのでよしとしよう。

 

 

 

「今思えばあのサイモンという男も魔物が化けて悪さをしていたのかもしれんな。『祠の牢獄』に幽閉してしまったがとんでもない事をしてしまったのかもしれない」

 

 

 

 どうやら『祠の牢獄』は『オリビア海』を抜けた先にあるそうだ。

 これでますますオリビアを成仏させないといけなくなった訳か。

 目的も決まったことだし今日はここでゆっくりしていくことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書36―アルスの日記―

 『サマンオサ』で王に化けた『ボストロル』を倒した。直撃は奇跡的に食らわなかったから何とかなったが、もしも痛恨の一撃を直撃していたらやばかったかもしれない。

 国を救った報酬として『変化の杖』を貰ったが何かに使えるだろうか。

 今日一日かけてゆっくり考えてみることにしよう。

 

 




敵には敵の戦う理由がある。
何か隠された謎を残すようなボストロル戦にしました。
ゾーマ戦後のフラグだったのですが、おそらくこのまま予定通りバラモス戦で終了するのでお披露目はなしとなります。


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第三話「勇者の休日その2」

休憩がてら皆の顔を見に行く話。


 今日は『アリアハン』に戻ってゆっくりすると皆に知らせたけど、もちろんのんびりすごすつもりはない。

 

 アリシアとティナは家でのんびりするらしいし、マリアも一度『ロマリア』に戻るらしい。

 つまり俺は自由だ。

 一日中遊びまわるとしよう。

 

 

 まずは『変化の杖』の効果を試すために『エルフの里』に向かった。

 もちろん目的は前売ってもらえなかった『祈りの指輪』を買うことだ。

 さっそく『スライム』に化けて店員のエルフの少女に話し掛ける。

 

「僕悪い『スライム』じゃないよー」

「また来たの?」

 

 エルフの少女は呆れたように溜息をついていた。

 よくスライムが買い物にでも来るのだろうか。

 

「人間に売るものはないって言った筈だけど」

「なに、なぜばれた!?」

「いや、だって中身どう考えても同じ奴だし」

 

 どうやら俺の印象が強かったらしい。

 しょうがないから正体を現しておこう。

 

「という訳で指輪売ってくれ」

「お断りです。というよりもどういう訳で売らないといけないんですか?」

「俺に一目ぼれしたんだろ?」

「してません」

 

 きっぱり言われてしまった。

 

「まあそう言わずに九個ほど売ってくれよ」

「……売ったらもうここにはきませんか?」

「まあ私欲では来ない」

 少しの間エルフの少女は考えて祈りの指輪を九個カウンターの上に置いた。

 

「お金を置いたらすぐに帰ってください。迷惑です」

「おう、ありがたく買わせてもらおう」

 

 おつりを出すのも嫌がるだろうから九個分のGをそのままカウンターにおいて、八個の『祈りの指輪』を貰っておいた。

「……一個忘れていますが」

「ああ、それはあんたにプレゼントしとく。売ってくれたお礼だ。商品棚に戻すなり捨てるなり好きにしてくれー」

 

 八個もあれば充分だ。

 無理を言って売ってもらったのだから少しくらいお礼をしなければ悪い気がするし。

 【ルーラ】で次の目的地に飛んでいく最中に声を掛けられた気がするけど気のせいだろう。

 

 

§

 

 『エジンベア』に到着したもののまだ門番が「田舎者」と通してくれない。

 どうやらアルスという男がマーゴッド姫を助けたという情報は『エジンベア』中に流れているが、ステルスミッションで俺の姿はあまり確認されていないらしい。

 

 まあ目立つのもキライだし『変化の杖』で似非賢者に化けて中に入った。

 皆して俺に頭を下げて気味が悪いからすぐに物陰で元の姿に戻っておく。

 

 人相のよさそうな兵士に聞いたところ、マーゴッド姫もといステラは城の裏の方で魔法の練習をしているらしい。

 さっそく見に行ってみるとしよう。

 

 

「こう……かな?」

 

 

 ステラが杖を振っていた。

 【メラ】らしき小さな火が灯っている。

 小さな火はゆっくりと地面に点々と置かれているビンを避けながらジグザグに移動している。

 

 魔法のコントロールをあげるトレーニングだ。

 どうやらそれなりに頑張っているようである。

 

 

 

「え……」

 

 

 

 ステラと目があった。

 その瞬間に気がそれたのか火は爆発してビンがポーンと宙を舞った。

 くるくると回りながら落下するビンはステラの頭にスコーンといい音を立てて当たる。

 

 

 すばらしいコントロールだ。

 

 

「あああアルスさん!?」

 俺のせいで失敗したってことで罰として何かめんどくさい頼みごとしてくるかもしれない。

 今日のところは様子見に来ただけだから『変化の杖』でごまかすとしよう。

 

「姫様。知り合いの男……それもこともあろうことか田舎者の姿をみただけでコントロールを乱すとはまだまだでございますな」

 

 再び似非賢者に化けておいた。

 うむ、なんだかそれっぽい台詞だ。

 

「アルスさんは田舎者じゃありません。立派な勇者です! 先日も『サマンオサ』を救ったと電報が来ていました。あまりアルスさんをバカにしないでください」

 なかなか嬉しいことを言ってくれる。

 

 ここは少しからかってから次の場所にいくとしよう。

 

「だが田舎者は田舎者だ。かつては大国であった『アリアハン』も今や落ち目の田舎の国。それに勇者なぞ盗人とどこが違う」

「アルスさんは人の物を盗ったりしません!」

「やけに田舎者の肩を持ちますな。もしやあの田舎者にっ。いけませぬ姫様。あなたは一国の姫君にございますぞ!」

「――――――――――っ」

 

 ステラが少しほほを赤めて顔をそらした。

 小声で「身分なんて」なんてとんでもないことを呟いている。

 そこは顔を赤めて否定してもらいたかったんだが。

 そうしないと「実は本物だったぜ」と正体を見せてからかえないではないか。

 

 マリアはパーティー全員が俺に骨抜きにされてるって言ってたけど、マジかもしれない。

 本人の前では出てきにくい本心を聞いてしまった気がする。

 『変化の杖』は思った以上に危険なアイテムのようだ。

 

 

「やべ、変化時間が切れる」

 

 

 杖のカラータイマーが赤く点滅し始めた。

 『変化の杖』は三分間しか変化できないらしい。

 

「ぐふ、重度のダンス酔いが! 姫様、男はちゃんと選ぶでござるよ!」

 

 とにかく変化が切れたら気まずいというか後々面倒だ。

 ここはステラに悪いが【ルーラ】で逃げさせてもらおう。

 

 

§

 

 

 次に向かう先は『スー』だ。

 そこでニーナが建てた村の位置を聞いて早速向かってみる。

 

「おお、村だ。村がある」

 小さな村だがちゃんと村として成り立っていた。

 

「あ、アルス君アルス君アルスく~ん! 久しぶりだね。10年ぶりだね。元気にしてた?」

「いや元気ではあるがまだ一ヶ月も経ってないぞ」

「あいやー、細かいことは気にしない気にしない。それよりさそれよりさ、『ヤマタノオロチ』の尻尾何かに使えないかな~って思ってたらこんなの出来たよ。もう効果もすごい【攻撃力】も凄いの凄い武器だからアルス君にぴったりだよ。名づけて『草薙の剣』!」

 

 何か変な剣をもらった。

 こんなの出来たと渡されたものなのに『鋼の剣』の二倍近く【攻撃力】がある。

 ニーナ、お前やっぱり商人か職人としてやっていった方が才能あるぞ。

 

 

「それでアルス君の方はあれからオーブどのくらいあつまった?」

「まだ一つも。ただ『サマンサオ』救って『変化の杖』貰った」

「何だか国一つ救うのは当たり前って感じだねー。こっちのほうも商人ルートでオーブを探してみるから大船に乗った気持ちでいてくださいヨ」

「泥舟の間違いだろ」

「うわ、アルス君らしい辛口だね。うんうん、やる気でてきた。これでオーブ見つけたら“ルイーダの酒場”にある裏メニュー『レッドバッファロー』おごってね。約束だよ」

「見つけられたらな」

 相変わらず騒がしい奴だが話していて楽しい。

 

 例え見つけられなかったとしても戦いが終わったらおごってやるか。

 

「ニーナ様! 木材の輸入の件なんですが」

「あー、それは近くの森から少し木をもらうからペンキを先に発注して。それと釘もきれたからよろしくー」

「ニーナ様! 大工が風邪をこじらせました!」

「あちゃー。無理しないようにって言ったのに。あの家はもうすぐ人が越してくるから私がやるね。大工さんには何か栄養のあるもの食べさせて安静にするよう言っておいて。ごめんねアルス君。仕事しなちゃ。またお話ししようね!」

 

 ニーナが手を元気よく振ってから走っていった。

 ニーナも頑張っているようだ。関心関心。

 次は海賊船について聞くついでにフィリアに会っていこう。

 

 

§

 

 

「きたな変態」

「いや、変態じゃないし」

 いきなりアッシュが出迎えてくれるとはめんどくさい。

 

「訳はしらねぇがカーチスにお前が来たら追っ払うように言われてるんだ。ここは通さないぜ」

「あの親ばかは……。まあいい、フィリアの顔も見たかったけどカーチス呼んで来い。今日は『幽霊船』について聞きに来ただけだ」

「『幽霊船』だと? あいつ知ってて俺に隠してやがったな!」

 アッシュがものすごい勢いでアジトに入っていく。

 

 中で何かが爆発した。

 ボロボロになったアッシュの首根っこを掴んでカーチスが出てくる。

 

「お前かこいつに変なこと吹き込んだのは。さてはお前俺を亡き者にして娘といちゃつく気だっただろ。え、いちゃつく気だったんだろ、こら」

「勘違いするな。俺はあんたに頼みごとがあってだな。つーかアッシュ死にそうだけどいいのか?」

「頼みごとだ? お前まさかフィリアをくれとか言うんじゃないだろうな!? けつの青くせえガキに愛しの娘を渡せるか!」

「話し聞けよ。というか興奮してそんなに振り回すからアッシュ泡ふいてるぞ」

「おっとしまった。俺としたことがつい熱くなっちまったみてぇだ」

 

 アッシュがようやく地面に下ろされた。

 流石親父と戦ったことがあるだけあって強いなこのおっさんは。

 

「で、話しってのはなんだ? いよいよ魔王城に特攻でもする気か?」

「いや、『オリビア海峡』越えたいから『幽霊船』探してるんだ。おっさんは何か知らないか?」

「あーはいはい。そういうことか。確か『船乗りの骨』ってアイテムが『幽霊船』の位置を教えてくれたな。おいマナいるか? あの骨取って来てくれ!」

 

 アジトの方に向かって叫ぶと『浅瀬の祠』でアッシュと一緒に居た少女が出てきた。

 

「あの骨なら『グリンラッド』の魔法使いに博打で負けて取られたじゃない」

「しまった、あれが『船乗りの骨』だったか。俺はてっきり焼き鳥にして食った『ヘルコンドル』の骨だと思って渡しちまったアレか」

 

 重要アイテムをそうほいほい博打で渡さないでもらいたいところだ。

 

「まあそんな訳で『船乗りの骨』手に入れてから出直してくれぃ」

「さいですか」

 まあ重要アイテムの場所は分かったからよしとしよう。

 

 

 

 

「あー、アルスだー」

 

 

 

 フィリアの声がした。

 アジトの屋根をぴょんぴょん猫のように飛び回ってそのまま俺に飛びついてきた。

 顔に抱きつかれた勢いで押し倒される。

 

「アルス元気にしてた?」

 

 むしろ今お前に殺されるかと思った。

 息苦しいからそろそろ放してほしい。

 

「やっぱボウズてめぇーは二度とここにくんな!」

 しかもおっさんに塩をまかれた。

 今の俺に非は全くないだろ、おい。

 

 なんだかんだで結局疲れがたまった休日だった。

 

 ある童話のウサギが「天気のいい日は昼寝にかぎる」と言っていたがまさにその通りだと思う。

 もう今日は家に帰ってゆっくりしよう。

 

 

§

 

 家に帰ると戦いでボロボロになっていた俺の愛用のマントが綺麗に縫い直されていた。

 母さんが縫い直してくれたらしい。

 

「今日はご馳走を作るからお友達も呼びなさいね」

 

 やっぱり家でのんびりするのが一番の休日ということか。

 母さんの料理はとても温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書37―アルスの日記―

 今日は久々に休日にした。もちろん俺の思い付きだ。休みたいときに休む。これぞまさに勇者の特権!

 みんなの様子を見に行ってみたけどニーナもステラも頑張っているようだ。それとフィリアはよく笑うようになってた。

 今日しっかり休んだ分これからも頑張っていこう。

 みんなのところに顔出すんなら私達も誘いなさいよ。

 みんな元気でよかったね。            ティナより

 指輪が八つも入っていたが全員にプロポーズをする気かな。なかなかアルスも大胆なことを考えるな。君に「八股のアルス」の称号を称えよう。

 

 




初恋を思い出したアルスはほんの少しだけ乙女心がわかって来たようです。
ただしまだまだニブチン。
【くろうにん】なのに周りの女の子達も苦労して行く事でしょう。


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第五話「幽霊船の悪霊」

幽霊戦を攻略する話。


 さっしそく『グリーンラッド』に足を運んでみると変なところに老人が住んでいた。

「わしはセクシーギャルになる魔法を開発しておるところじゃ」

 立派な魔法使いだ。

 

 『変化の杖』を渡すとあっさり『船乗りの骨』を渡してくれた。

 少し惜しい気もしたけどあんな危険な杖持っているとろくなことはないだろう。

 痛い思いをする前に渡してしまった方が得策だ。

 

 船に帰る途中で『氷河魔人』が『不思議な帽子』を落とした。

 珍しいこともあるものだ。

 

「『銀の髪飾り』よりアリシアはこっちの方が似合うだろ」

「確かにこのタイプの帽子は好きだけど……なんか目の柄がたくさんついてるんだけど」

「だから不思議なんだろ」

 

 少し不満そうだったけど装備してくれた。

 【防御力】は少ないけど消費MPを抑えてくれる優秀な帽子だから、魔法使いのアリシアにぴったりな防具だろう。

 

 

§

 

 

 その後海賊アクアブルーと合流していざ『幽霊船』狩りだ。

 『船乗りの骨』が『幽霊船』の居る方角を指してくれているから簡単に見つけることができた。

 

 

 問題はアリシアとティナは幽霊苦手ってことだ。

 

 

「もしも行きたくないんだったら俺とマリアで行くけどどうする?」

「い、いくに決まってるじゃない! これ以上二人っきりにさせたら色々……ごにょごにょ

「私も頑張ってみるね。私だってアルスの役に立ちたいし」

 二人ともついてきてくれるようだ。

 

「もてもてだな」

 マリアは茶化さないでくれ。

 

 海賊側からはアッシュとフィリアとカーチスが助っ人に来てくれるらしい。

 これならもしもアリシアとティナが怖くて戦闘不可能になっても、余裕で『幽霊船』を攻略できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「いいかボウズ。どさくさにまぎれてフィリアに振れたら……」

 

 

 

 

 

 

 

 フィリアの方から触ってくるのにそれはないと思う。

 そんな殺気だって剣を抜かれるとマジで怖いから止めてほしい。

 

 『幽霊船』に乗り込むと魂が浮いてたり、屍が転がっていたりと、いかにもそれっぽい雰囲気だった。

 

 

 アリシアとティナが俺のマントをちょこんと掴んでついてきている。

 

 

「俺はここの船長に用がある。お前らは噂のエリックという男を捜してオリビア攻略の鍵を聞き出すんだな」

 おっさんは別の用事があるようだ。

 

 いや大物を見つけたようだ。

 噂でしか聞いたことのない『大王イカ』よりも強力な『クラーゴン』が海面から顔を出している。

 

「カーチス。一人で大丈夫なのか?」

「アッシュ。てめぇーはフィリア守ってればそれでいいんだよ。特にそこのくそガキの魔の手からな」

 

 酷い言われようだ。

 だけどオッサンなら多分一人でも大丈夫だろう。

 皆を連れて階段を下りることにした。

 

 だが降りると『テンタクルス』や『腐った死体』が待ち伏せていた。

 

「へっ、こうこなくっちゃ面白みがねぇ!」

 これだから戦闘マニアは嫌いだ。

 作戦を立てる前にアッシュは【イオ】の爆発力で床を蹴り、【ベギラマ】の拳で『テンタクルス』を殴りつける。

 

「フィリア、イカは頼んだ。ティナは【ラリホー】主体で、アリシアはお得意の【ベギラマ】で敵を蹴散らせ」

 その隙に俺とマリアで『腐った死体』を蹴散らしていく。

 

 『サマンオサ』で買ったのかマリアは『ゾンビキラー』なんて持っていて面白いように『腐った死体』がやられていく。

 俺の新武器『草薙の剣』の威力も好調だ。

 フィリアは相変わらず『アサシンダガー』で敵を天昇させてくれる。

 ティナとアリシアも暗闇に怯えながらもしっかりと戦ってくれている。

 

「これでラスト!」

 

 何よりアッシュが思いのほか強い。

 ステラもこのくらい出来るようになって戻ってきてもらいたいところだけど、まあ無理だろう。

 

 

「アルス。エリック見つけた」

 

 

 フィリアが変な男をずるずると引きずって来た。

 男は「仕事サボってません。ちゃんとやってます。ああオリビアふがいない僕を許してくれ~」と泣いている。

 

 聞いても居ないのにオリビアとの甘い生活ストロベリーな展開を語ってくれている。

 これを俺に代弁しろと言うのだろうか。

 

 ティナがほほを赤くして「聞いちゃダメ!」とフィリアの耳を塞いでいる。

 アリシアは顔を真っ赤にしながらも聞き入っている。

 お前の苦手なエッチな話とこのラヴロマンスがどう違うのかぜひ聞かせてもらいたいところだ。

 

 

「だからこれをオリビアに見せてくれ」

 

 

 話し終わるとペンダントを俺に渡してきた。

 アイテム名を確認してみると『愛の思い出』となっている。

 もしかして長々と話を聞かなくってもよかったのだろうか。

 緑のボタンで覚えなくってもよかったのだろうか。

 最初からそれを渡してくれ。

 

 

 戻ろうとすると『テンタクルス』が船の壁を突き破り無数の触手で襲ってきた。

 完全な不意打ちだ。

 一番近くに居たティナに伸びた触手は切りばらうことが出来たが、アリシアまで手が回らない。

 フィリアとアッシュも自分に迫り来る触手を叩き落すので手がいっぱいだ。

 

 

 

「まかせろ」

 

 

 

 マリアがアリシアを突き飛ばしてくれたおかげでアリシアは無事だ。

 だが、マリアの足に触手が巻きつく。

 マリアはそれを剣で切り裂こうとしたがなぜか剣を床に落とした。

 

 

 

 

 

 

 利き手の右手が震えている。

 おそらく持病の毒だろう。

 

 

 

 

 

 

 いくらマリアでもこんな状態で、しかも海のモンスターに海に引きずり込まれたらひとたまりもない。

 だが今俺がマリアを助けに向かうとティナがやられる。

 

 

 

 

 

 笑わせてくれる。

 たった一人の少女も守れずに魔王が倒せるか。

 ここでどちらかを選んだらきっと俺はこれ以上前に進めない。

 強くなれない。

 

 

 

 

 

「全員その場から一歩も動くな!」

 足の数はたったの18本。

 船の右舷左舷に一体ずつ。

 『テンタクルス』の体力を【イオラ】や【ライデイン】で削りきることは出来ない。

 【稲妻切り】は威力があるけど一体のみ。

 一体ずつ倒すには早さが足りない。

 

 

 

 なら、それ以上の高火力を広範囲にやればいい。

 俺は全魔力を自分の体の中心に集める。

 【ライデイン】の細かいコントロールで剣に宿らすことが出来たんだ。

 自爆を恐れるな。俺は出来る。

 

 

 

 体全体に【ライデイン】の電撃を蓄積させる。

 何か熱いものが身体中を駆け巡る。

 まるで身体中の血液が沸騰しているような感覚と共に電気が駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ギガデイン】!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓄積させた電撃を一気に解き放った。

 それと同時に身体中から力が抜けて俺は膝を突いた。

 だけど電撃は床を焼き払いながら、仲間を避けながら、『テンタクルス』の触手を全てなぎ払い本体にまで電撃が届いて敵を吹き飛ばした。

 

 『テンタクルス』も一撃粉砕の威力とは自分で放っておいて驚きだ。

 だけど体が鉛のように重くてもう一歩も動けない。

 威力が強すぎて『幽霊船』が崩壊を始めている。

 威力は高いけど燃費が悪すぎだ。

 

 

 

「皆私に捕まって!」

 

 

 

 アリシアが叫んだ。

 今の【ギガデイン】で天井に穴が開いている。

 【ルーラ】で脱出する気だろう。

 マリアが左腕で俺を担いでアリシアの元に駆ける。

 

 

 結局助けるつもりがマリアに助けられたようだ。

 アリシアの【ルーラ】で船の真上に飛び出すと、カーチスも自分の船に戻るところのようだ。

 皆無事でよかった。

 

 

()()『幽霊船』じゃなかったか。たくとんだ骨折り損だぜ」

 別れ際にアッシュはなにやら溜息をついていた。

 独り言を言うのなら分かるように説明してもらいたいところだ。

 

 

 フィリアはまだ海賊のところにいるらしい。

 「私が行くとお父さんが泣く」とのことだ。

 まあ家族との時間を大切にするのはいいことだ。

 

 

 俺達は海賊達と別れて『オリビア海峡』に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書38―アルスの日記―

 今日は『グリーンラッド』の魔法使いから『変化の杖』と『船乗りの骨』を交換してもらい、海賊達と共に『幽霊船』に乗り込んだ。

 久々にフィリアと一緒に戦えたけどやっぱりフィリアは強くて助かる。いつでも戻ってきてくれよ。

 さてここで新技【ギガデイン】の考察だが、どうやらまだ俺のレベルが使いこなせるレベルまで達していないから【MP】消費以上の疲労感に襲われるようだ。逆に魔法コントロールだけで【ギガデイン】を使えた俺ってすごいな。

 でもこれは撃ったらしばらく動けなくなるから最後の切り札だな。

 

 




ギガデインをバラモス撃破前から不完全ながらも使えるようになったアルス。
疲労感はバオウザケルガ(ゲフンゲフン


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この青空に約束を-No.3マリア

マリアとの小さな約束。


「オリビア」

「ああエリック」

「これからはずっと一緒だ。さあ行こう!」

 約二時間ほど上空に巨大スクリーンで甘いラヴロマンスを繰り広げて、オリビアとエリックは成仏して行った。

 

 途中【ライデイン】で打ち落とそうかと思ったのに、ティナとアリシアに止められたのが少し心残りだ。

 

 

 変なのが投影された後だけど澄み渡る青空で今日の航海は快調。

 

 

「アルス」

 船の先端で一人タイタニックをしている時にマリアが声をかけてきた。

 

「なんだ、マリアもタイタニックか?」

「アルスが前なら考えてもいいぞ?」

「いや後ろはゆずれんな」

 

 俺は後ろのポジションに魂をかけているんだ。

 簡単には譲れない。

 

「そうか。まあ真面目な話に移るがしばらく『ロマリア』に帰ることにする」

「また突然だな。前回の手がしびれたのが堪えたのか?」

「いや、ただ長生きをしたくなっただけさ。せめてお前の結婚式くらいは見守りたくなってな」

 いつもの茶化す様な言葉なのに、真剣な話をしているのが何となくだがわかってしまった。

 

 

「あの【ギガデイン】は私のどの技より威力があった。そして私はアルスにまた守られた。剣の腕も私との特訓でずいぶん伸びた」

 潮風がマリアの長い髪をゆらして表情を隠している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は私を超えたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表情が見えなくてもなんとなく分かる。

 悔しがってはいない。

 泣いてもいない。

 多分マリアは満足そうに笑っているのだと思う。

 

「後はその力をものにしろ。【ギガデイン】はきっとアルスの剣になってくれる筈だ。私が教えてあげることはもう、何もない」

 

 風で揺れる中かすかに見えた口元はやっぱり嬉しそうだった。

 

「最後だ。私を安心して帰らせてくれ」

 渡されたのは『ひのきの棒』だった。

 マリアも同じ物を持っていて『星降る腕輪』も装備していない。

 

 

 真剣勝負の模擬戦だ。

 先に攻撃に当たった方が負け。

 単純なルールだ。

 

 

 合図は1Gコイン。

 マリアがそれを宙に放り投げて、それがチャリンと音を立てて床に落ちた。

 

 同時に地を蹴る。

 同時に腕を動かして俺とマリアはすれ違い際に全身全霊の一撃を互いに叩き込んだ。

 

 

 

 痛みはない。

 そして俺の手に手ごたえがあった。

 

 

 

 勝てた。

 マリアだけには勝てないと思っていた。

 手を抜いていた様子も痛みで剣筋が鈍った様子もなかった。

 

 

「もっと長くからかいながら教え続けることが出来ると思ったのだがな。急に成長して……顔つきも少しだけ大人びてきたな。好きな奴でもできたのかこの色男」

 

 

 からかうように俺の頭をくしゃくしゃとなでまわす。

 波がはねて目の前に小さな水滴が落ちる。

 波はもう甲板に落ちてきていない筈なのに雫が落ちるのが止まらない。

 

 

 

「さて、ティナとアリシアにはもう話はしてある。これでお別れだ」

 

 

 

 マリアは『キメラの翼』を取り出した。

 風で揺れる髪からはっきりと表情が見えた。

 やっぱり涙一つ見せずに笑っている。

 マリアは強い人間だから。

 

 

 

「『幽霊船』で私かティナか。片方だけを選ばずに両方選ぶのも一つの心の強さだ。全てを救うことは難しい。時に失敗することもあるだろうが……ずっとアルスらしい選択をしてくれ。それがアルスの心の強さだと信じている。だから」

 マリアの笑顔が眩しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「もしも折れそうな時は再びアルスを支える鞘になろう。そのくらいの余命は捧げてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 それは約束。

 青空の下で交わした小さな約束。

 

「元気でな、アルス」

 

 いつも見守ってくれていた人は遠くでも俺を見守ってくれる。

 『キメラの翼』の光はまるで鳥のように綺麗に羽ばたいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書39―アルスの日記―

 マリアが『ロマリア』に帰っていった。

 最初は四人で旅立ったのに今は三人。なんだか船がすごく静かに感じる。

 だけどその内みんなひょっこり顔を出してくれるだろう。出さなくっても世界の平和を取り戻した後に遊びに行けばいい。

 

 




アルスが幸せに結婚する姿を見届けるか、生涯のパートナーとしてアルスを支え続けるか。
アルスが強くなり、それでいて誰かを好きになっていると何となく悟ったマリアは見届けることを選択しました。


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エピローグ

ガイアの剣を手に入れる話。


 オリビア海峡を越えた先、『祠の牢獄』にたどり着いた。

 

 永久犯罪人を収容する場所らしい。

 不法侵入で捕まったら不味いからティナとアリシアはひとまず船に残しておこう。

 

 中に入ってみると人の気配がない。

 モンスターの気配もない。

 おそらく聖域でモンスターは入って来れない仕組みだと思うが、人が居ないというのはどういうことだろうか。

 『祠の牢獄』は不気味なほどシンと静まり返り、聞こえてくるのは俺の足音だけだった。

 

 不思議に思いつつも階段を下りていく。

 

 

 

 

 

 

「ああ、先に火山に向かったと聞いて心配していたぞ。『バラモス』の罠にはまってこんなことになっちまったが物は手に入れたんだ」

 

 

 

 

 

 階段を下り切った先の通路で魂が俺に語りかけてきた。

 多分これがサイモンという人で、俺を親父と勘違いしているのだろう。

 ついていくと屍が剣を抱えていた。

 これが『ガイアの剣』だろう。

 

 

「火口にそれを投げ入れて『ネクロゴンド』の瘴気の川を蒸発させるんだ。そうすれば歩いて『バラモス城』にいける筈。俺はもう戦えないが後は頼んだぞ」

 

 

 サイモンは死んでからもずっと親父を待ち続けていたのか。

 だけど親父は来ない。

 だから俺が言わなければならない。

 

 

「よく『ガイアの剣』を見つけてくれた。後は俺が『バラモス』を倒す。だからもう休んでくれ」

 

 

 その言葉でサイモンの魂はようやく天に昇って行った。

 

 

 墓なんて立派なものを立ててあげることは出来ないが、サイモンの亡骸に野花を添えてあげる。

 こうやって俺は親父が出来なかったことをし続けているのか、それとも親父が通った道をなぞっているだけなのか。

 どちらなのか俺には判断できない。

 

 だけど世界の平和なんて大それた理由でなく、仲間とまた笑い合うために魔王を倒す。

 俺が戦う理由はそれでいいと思う。

 また皆でバカな話をする為に『バラモス』を倒くらいの理由が俺には丁度いい。

 

 

 俺は自分の為にバラモスを倒す。

 だから親父のようにサイモンのような仲間の犠牲を絶対に出さない。

 仲間を絶対に失わせない、そう改めて心の中で誓い俺は『祠の牢獄』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書40―アルスの日記―

 『祠の牢獄』でサイモンの魂が『ガイアの剣』に導いてくれた。

 これを『ネクロゴンド』の火口に投げ込めば『バラモス城』の瘴気に汚染された川を蒸発させることが出来るそうだ。

 『聖なるオーブ』後二個で『ラーミア』を復活させることが出来るが、ここらで敵の本基地を視察しに行くのもいいかもしれない。

 

第八章「オリビア海域編」完

 

 




サイモンが敵の罠にはまったというのは確かオープニングの火山をドラマCD化した物の情報だった気がしますが、今の私でははっきりと思い出せません。
そんなこんなで毎日一章投稿もついに残り二章。
黒歴史も残りわずかとなりますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


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第九章「不死鳥編」
プロローグ


イエローオーブのトラウマ。


 『ネクロゴンド』に行く前にティナがニーナの作った村を見てみたいと言い出してきた。

 

 ティナが自分からものを言うのは珍しい。

 アリシアも乗気だしニーナの村を訪ねるとしよう。

 俺は手早く【ルーラ】で村の入り口まで飛んだ。

 

 

「これってもう村って言うか街じゃない」

「すごいねニーナちゃん。何だかにぎやかな街だよ」

 

 

 アリシアはこの光景が信じられないのか少し唖然としていて、ティナは感動で目を輝かせている。

 ちなみに俺も唖然としている方だ。

 ついこの前までは小さな村だったのに今ではにぎやかな街になっている。

 まさかここまで発展しているとは思わなかった。

 

「とりあえずあれだ。この広い街を地図なしで歩き回るのは辛いな。まずはニーナにタウンマップをもらうか」

「それもそうね。ほらティナ。買い物は後で一緒にしよ」

「あ、うん。ごめんね」

 

 ティナはフリーマーケットの洋服を見ていたようだ。

 アリシアの呼びかけで慌ててついてくる。

 とにかくニーナの居場所を適当な人に尋ねてみると大きな屋敷を建てているらしい。

 それと変な物を大金はたいて買ったと不満そうに呟いていた。

 

 街は笑顔であふれているけど一部の人は少し疲れたような顔をしている。

 その理由も知りたいからニーナの館に急いだ。

 

 

「あ、アルス君にみんなも! あれ、アネゴも別行動になったの?」

 

 

 玉座に座っていた。

 お前調子乗りすぎだ。

 でもそれなりに苦労しているのか書類に目を通しながら話しているし目の下にクマをつくっている。

 近くに居る『おしゃれなスーツ』を着た男は、ニーナが読み終わった書類をまとめて整理していた。

 

「ああ、それにしてもすごい街になったな」

「頑張ったからね。それよりさそれよりさ。なんとなんとなんとなんと『イエローオーブ』高かったけど何とか買えたよ。これで『レッドバッファロー』は確定だね!」

 

 どうやら街の人が行っていた変な物とはこれのことらしい。

 

「わ、ニーナちゃんすごい!」

「やるわねニーナ。これでオーブも後一つ。『ラーミア』復活はもうすぐね」

 ティナとアリシアは喜んでいるけど、ニーナの負担と、この街の負担は大きかった筈だ。

 

「まったく無茶して」

「大丈夫大丈夫。私は全然平気だから」

「それよりもお前みたいに疲れた顔の奴を何人か見かけたけど休ませてやらないのか?」

「あー。街の見回りをしてもらってる人達か。一応いつでも休んでいいって言ってるんだけどなかなか休暇とろうとしないんだよね」

「それを言うならお前も休めよ」

「私はほら、街の創設者だし町長だしね。私が頑張らないと皆にその分負担が~ありゃりゃ?」

 

 ニーナの手から書類が零れ落ちた。

 のど自慢大会という書類だ。

 町長とはこんな小さなことも目を通さないといけないとは大変そうだ。

 

「ニーナちゃん大丈夫?」

「アルスの言うとおりちょっと休んだ方がいいんじゃない? 倒れたらどうするのよ」

「あはははは、それもそうだね。ちょっと部屋で横になる。これオーブとタウンマップね。折角だからゆっくりしていってもらえると嬉しいかな~」

 

 『イエローオーブ』とタウンマップを俺に渡して、ニーナはふらついた足取りで奥の部屋に入っていく。

 

「後お願い」

「分かりました」

 

 『おしゃれなスーツ』を着た男が代わりに書類に目を通し始める。

 補佐役と言ったところか。

 

「仕事の邪魔ですので出て行っていただけますかな?」

 少し感じの悪い男だ。

 でも確かにここに居ても邪魔なだけなので館を後にすることにした。

 とりあえずアリシアとティナは店を見て周りたそうだったから夜に宿屋に集合。

 俺は街の人からニーナの評判を聞き回ることにした。

 

 

 評判は賛否両論。

 誰でも受け入れてくれる優しくて街の人思いのいい町長という意見と、金の為ならなんでもする非情な人間、という意見だ。

 

 

 何でも休みをくれないらしい。

 

 

 矛盾している。

 にこやかにニーナを評価している人はもちろん、やつれた顔で批判する人も嘘をついているようには見えない。

 ニーナが裏では悪い事をしてるとも考えにくい。

 あいつはいい事をするにしろ悪いことをするにしろ表裏なく行動する筈だ。

 

「どこかで情報が捻じ曲がっている?」

 

 そうとしか考えられない。

 町外れにいかがわしい店を見つけた。

 ニーナからもらったタウンマップを見ると「ちびっ子のど自慢会場」と書かれている。

 ご丁寧にニーナの実筆で「もし良かったら演奏してあげてね」と書かれている。

 

 中に入ってどういうことか聞いてみた。

 

「どういうことも何もここは初めからそういう店ですよ?」

「だけどニーナのくれた地図には……いや、書類には確かにのど自慢と書かれているが」

「そう言われましても補佐の話しでは」

 あの補佐か。

 

 おそらくニーナはずっと机の上の仕事をしていて、外のやり取りはあの補佐にまかせっきりにしてたのだろう。

 人を信じるのはいい事だけど少しは警戒しろ。

 

 

 日が暮れてきた。

 急いで館に逆走する。

 

 

「アルス大変だよ! このままだとニーナちゃんが!」

「さっき物陰でニーナを捕まえるとかなんとか……とにかく急いで!」

 

 途中でティナとアリシアと合流できた。

 あの補佐、俺の友達をはめようとした罰をしっかり受けてもらおうじゃないか。

 

 館の後ろで煙が上がっていた。

 嫌な予感がするから先にそっちに回ると補佐が何かを燃やしている。

 燃やしているのは紙のようだ。

 

「意外と早かったではないか。だがもう遅い。証拠は何も残ってはいない。俺を殺したければ殺せ。あの女に知らせたければ知らせろ。何をやっても罪は消えやしない」

 

 補佐はそう笑った。

 

「なら貴様の正体を暴いて倒せばいい」

 どうせ『エジンベア』や『サマンオサ』と同じように相手は魔物だ。

 俺は『ラーの鏡』を男に掲げた。

 だけど姿が変わらない。

 こいつは紛れもなく人間だ。

 

 それでもアリシアとティナは武器を構えた。

 友達が一生懸命頑張っていたのにそれを踏みにじったこいつが許せないんだ。

 俺も許せない。

 

「やめよう、勇者達よ。君の思っている通り私も魔王様の手先だ。だが私が居てもいなくてもいずれ暴動は起きた。全てを受け入れる街がゆえ悪人もたやすく受け入れてしまう」

 男は武器を向けられてもまったく動じていない。

 

 

「善と悪の対立は必ず起きる。私はそれを少し早めただけだ。街という波はもう私が居ても居なくてももう止まらないのだよ。わざわざ人殺しの罪をお前達まで背負うのは馬鹿げてはいないかね?」

 

 

「ふざけないで! そんな理屈こねてニーナの人生無茶苦茶にして!」

「何でこんなことするの。こんなことしたって誰も幸せになんてなれないのに……皆笑ってていい街だと思ってたのに何でっ」

 アリシアだけではなくティナまで熱くなっている。

 

 

 ここで俺まで熱くなったら取り返しのつかないことになる。

 落ち着け、俺。冷静になれ。

 

 

 遠くの方から大勢の足音が聞こえてきた。

 証拠がないから今説明したところできっと無駄だ。

 目の前の男を殺そうものならそれこそ収集がつかなくなる。

 

「君は頭がいい。だからいい条件を出そう。君が魔王様に従ってくれるのならこの場で私が真実を話しあの娘を助けてやろう。もちろん君のことだ。答えはNOだろう」

 

 悔しいくらい読まれている。

 俺は今にも攻撃しそうなアリシアとティナを抱えて【ルーラ】でいったん離脱した。

 離脱するしかなかった。

 これ以上あいつと話していると俺も手を出してしまいそうだ。

 

 

「アルスなんで!?」

「絶対にニーナは助ける。ニーナの努力を無駄にしてたまるか。努力を無駄にしない為にも……今は耐えろ。俺は耐えた。だからお前らも耐えろ」

 今晩はニーナを助ける方法を考えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書41―アルスの日記―

 ニーナの街を見に行ったのが今日でよかった。何とか事件現場と真実を知れたのは大きい。さて問題はどうやってつかまったニーナを助けるかだが……まったく方法を思いつかない。

 今回の事件はニーナがうまく動いてくれるしか解決方法はない。

 俺に出来ることはうまく誤解が解けるようにヒントを与えてあげることくらいか。

 今回はアリシアもティナも……特にアリシアは最後の瞬間まで手出ししないように。

 

 一日目:ニーナが牢獄に閉じ込められた。

本人は「いやー、私ってたまにやりすぎちゃうことあるからね。ちょっとここで何がいけなかったのか考えるから鍵開けたりしないでね」なんて笑ってたから「バカ、誰が開けてやるかよ」って返してやった。

 本当は開けてやりたい。今すぐにでも連れ出したい。無実だって言ってあげたい。でも無実だと知ったら多分ニーナはこれからきっと頑張らなくなってしまう。頑張った結果が人にはめられたなんて全てを受け入れる街を作ったニーナにとってこれほど辛いものはない。それにこれから先本当にニーナの行動で暴動が起きてしまう事だってありえる。

 だからニーナの力で乗り越えてほしい。街をまた束ねてほしい。

アルス君は『レッドバッファロー』をおごる準備をしてくれてればそれでいいよ、と俺を安心させるように最後もやっぱり笑っていた。

 ニーナは強い。だからきっと大丈夫。今はそう信じるしかなかった。

 

 二日目:街にごろつきが雇われた。

 これ以上面倒ごとが起きないように外から来るものを拒むらしい。もちろんあの男の提案だ。あいつはニーナから街を奪っただけでは飽き足らずに村の存在理由まで変えるつもりだ。前の町長の方がよかったという声もあるが休ませないのは酷すぎると状態は変わらない。

 

 三日目:いかがわしい店がちびっ子のど自慢会場に変わった。ニーナが考えた企画を平然と自分の企画だと言い張っている。

 アリシアが今にも殴りこみそうな勢いで抑えるのが大変だった。

だからお前は少し我慢しろ。

 

 四日目:早くもニーナの処刑が決まった。明日の朝に公開処刑をするらしい。

 魔王側は本当に公開処刑が好きだな。もしもの時は俺が動くからアリシアとティナは黙ってみているか船か宿で大人しくしているように。

 

 




商人が全面的に悪いのではなく、暗躍していた補佐官がいたことになりました。


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この青空に約束を-No.4ニーナ

ニーナが頑張った証と、ニーナがこれからも頑張る為の小さな約束。


 ニーナがギロチン台にしっかりと固定されている。

 

 泣いてはいないが笑ってもいない。

 周りの人達はすこしざわついている。

 

 処刑する必要があるのかという疑問を持っているが、働かせすぎで倒れた人も多くて何も言えないでいる。

 

「最後に言い残すことはないか?」

 処刑人をやっているごろつきがニーナに尋ねた。

 

 返事は、ない。

 

 もうどうしようもない。

 悪人になっても構わない。

 俺が動くしかないか。

 

 

 そう思った時ニーナはゆっくりと口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

「私って一人で走っちゃうことがあるし、それで迷惑をかけたこともたくさんあったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 とても穏やかな声だった。

 これから処刑されてるというのに恨み言でも命乞いでもない。

 

 

「でも私は楽しかった。みんなが笑ってくれるのが嬉しかった」

 

 

 昔の思い出を楽しく語っているような穏やかな顔にざわめきは強くなる。

 俺も助けに入るつもりが聞き入っている。

 処刑人のごろつきも聞き入っていた。

 

 

「でも今回はやりすぎちゃったし罰を与えられるのは当然だと思う。処刑も……まあ嫌って言えば嫌だけどありだと思うかな」

 

 

 認めている。

 本当は無罪なのに色々考えた結果間違いがあったのだろう。

 だけど処刑まで認めるなんて思わなかった。

 それも「やっちゃった」みたいに軽く苦笑を浮かべているだけだ。

 だけどすぐにニーナの顔つきが変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「でもね、公開処刑は間違ってる。こんなのを見世物にして、みんなの心に傷を作って、外からの人を拒んで、きつい罰があるって市民を脅して、そんなの全然楽しく無いじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 真剣な顔だ。

 いつの間にかざわめきすらなくなってニーナの声だけが街に響いている。

 この村にいる人はみんなニーナに受け入れられて村に住み着いた。

 村は発展して街になった。

 賑やかになった。

 皆ニーナがどんな人間か本当は分かっていた筈だ。

 

 

「私はここをみんなが笑える場所にしたかった。みんながただいまって言える場所にしたかった。それに対してみんなでお帰りって言える場所にしたかった」

 

 

 全てを受け入れて家族になれる街を作りたかった。

 行き場のない孤児。親を探している子。子を探している親。

 過去に罪を犯してしまったものもみんな幸せに暮らせる、そんな子供だましな理想郷。

 

 

「私を罰するのは構わない。でもこの街をみんなで笑い合えない街にしないで。みんなの家を壊さないで!」

 

 

 自分が死刑される寸前だというのにそれを信じて、人を信じて、自分の為ではなくこの街という家族のためにニーナは泣いている。

 

 

「ええい、早く処刑するのだ」

 

 

 街の沈黙を破ったのは例の補佐をやっていた男だった。

 焦っている。

 街という波がニーナという少女に傾きはじめて処刑中止を恐れている。

 これは致命的なミスだ。

 

「しかし」

「やらぬのならば私が代わりに処刑しよう」

 

 男はごろつきを跳ね飛ばす。

 この街はもうニーナを許している。

 このタイミングなら助けても誰も文句は言わない。

 

「【メラミ】!」

「【バギマ】!」

 

 風がギロチン台を切り刻んで炎が空中でそれを燃やした。

 アリシアもティナもよくこのタイミングまで我慢してくれた。

 

「アリシアちゃんにティナちゃん……どうして?」

「友達が危ないのに黙って見てなんかいられないわよ」

「ニーナちゃんは友達だもん。これからも立派な町長さん頑張ってね」

 

 二人が呆然とするニーナを支える。

 そして俺は補佐だった男の前に立つ。

 

「館の外にニーナの伝言をもって行っていたのはこいつだったな。村を作った大工に聞くがニーナは休みを与えなかったか?」

「あ……いえ、無理をせずに休めと……」

「他のやつに聞くがこいつが休ませずに働かせるような奴だと思うか?」

 誰も何も言わないが多分誰も思っていない。

 

 それにごろつきを雇ったり公開処刑を始めるような補佐だ。

 そしてさっきの行動。

 もう補佐の信頼はゼロだ。

 

 男も言い逃れは出来ないと悟って何も言わない。

 ニーナだけが一人訳も分からずに取り残されている。

 

 

 

 

 

「ニーナを陥れようとした罪、受けてもらうぞ」

 俺の怒りを妨げるものはもうない。俺は剣を――――――――

 

 

 

 

 

「待ってよアルス君。何だかよく分からないけどさ、そういうのってやっぱり笑えないから止めようよ」

 

 

 でもニーナが止めてきた。

 そして補佐に手を伸ばす。

 

 

「私さ、至らないところが多いけどもっと頑張るから。これからも仕事頑張ってくれないかな?」

 

 

 手を差し伸べている。

 本当にこいつはこんな奴まで受け入れるつもりなのか。

 俺以上に自分の意見を曲げないわがままな奴だ。

 

 

 補佐だった男は膝をついていた。

 そして「すまない」と繰り返し小さな声であやまり続けている。

 

 

 後でニーナから聞いた話だがあの男はカーチスと同じように人に家族を奪われて、そして魔王側についたらしい。

 おそらく人が憎かったのだろう。

 

 

 でも多分もう大丈夫だ。

 ニーナが人の可能性を少しだけ見せてくれた。

 

 

「ニーナ様すみません。色々誤解してしまって」

 街の人達が頭を下げている。

「いいのいいの。それよりさ。いつも思ってたんだけどその様っていうのは止めてもらえないかな」

 あんなことがあった後なのにニーナはそう言って笑っていた。

 きっとこの街はいい街になる。そう思った。

 

「あ、そうそう。近いうちに『レッドバッファロー』食べに行くからアルス君はお財布の紐締めておくんだよ」

 

 それはあの日青空の下で交わした小さな約束。

 

「たく、そこまで食いたいか」

「約束は約束だからね。みんなと一緒に食べたいんだ」

 笑顔の似合う少女との約束を俺はこの青空にもう一度刻み込んだ。

 皆で一緒に食べよう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書42―アルスの日記―

 処刑台にくっつけられて演説をする奴を始めてみた。本当にニーナはよく口が動くものだ。まあこれでニーナの街はしばらく安泰だろう。

 さていよいよ『ネクロゴンド』に行く訳だ。『ラーミア』復活まで残りオーブ一つだけどこのまま『バラモス』を倒してしまっても差し支えはないだろう。

 明日は張り切って『ネクロゴンド』攻略といこうか。

 

 




アルスも補佐官も穴だらけの作戦で、だからこそ町は今まで頑張って来たニーナに傾きました。
皆と笑っていたい、ただそれだけの少女の物語。
なお『レッドバッファロー』は記憶通りなら、1999年のドラマ『君といた未来の為に』のバーに登場した隠しメニューだったと思います。
時間ループ物としての完成度が高く子供の頃の私のお気に入りドラマでした。


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第二話「いつもあなたの側に」

久々のアリス回。


 【ルーラ】で火口まで飛んで『ガイアの剣』を投げ込んだら噴火した。

 

 アリシアの【トラマナ】と俺の【アストロン】がなければ即死だっただろう。

 俺は【アストロン】が解けた瞬間に【ルーラ】で『アリアハン』に逃げ帰った。

 【トラマナ】で通ろうにも一日置いておいた方が安全だろう。

 という訳で今日も休日だ。

 家でのんびりするのはもう飽きた。

 

 

「ヒマだ。付き合え」

 

 

 俺は話しかけてみたが返事は返ってこない。

 

 

「いるんだろ?」

 

 

 もう一度話しかけてきたが反応はない。

 居ないのだろうか。

 いや、居るはずだ。

 

「ほら俺の秘蔵の『Hな本』やるから」

「いらないんですけど。というかなんで話しかけてくるかな君は。実は私の姿見えてたりする?」

「いや、見えないから何度も話しかけてるんだろ。あー、名前もまた思い出した。マリスだったな」

「そんな合体技みたいな名前じゃないんですけど。中途半端な思い出し方しないでよね。私の名前はア・リ・ス」

「はい【緑のボタン】」

 

 これでもう忘れない。

 

「わ、アルス君ひど。それは私の力じゃ消せないんだけど」

「俺が見える分には問題ないだろ。それにアリスはいつも俺のこと見てんだから、この位許せ」

「見られてるって分かってるとついて行きにくいんだけど。ほら、女の子とデートとか」

 

 

 マリアに連れまわされたアレのことだろう。

 というかそういうのまでついてきてたのかこいつは。

 

 

「じゃあ今度はアリスとデートだ」

「わ、軽い。君のその考えなしの言葉はある意味必殺技だね」

「一万年と二千年前から愛してたんだ」

「八千年すぎたらなえてきそうだね」

 

 

 アリスは少し呆れたように溜息をついた。

 

 

「でも私はあまり目立ちたくないし、それに今アルス君は」

「ならアリシアかティナに化けてついて来い」

「それは二人に悪いというか……それって私じゃなくって二人を誘えばいい気がするんだけど気のせいかな?」

「気のせいだ」

 

 きっぱり言ってやった。でもなんかじと目で見られた。

 

「じゃあ姿は消したままでいい。とりあえずたまにはアリスも息抜きしろ」

「またそういうこと言う。アルス君って絶対何人もの女の子を泣かせるよ?」

「そんなに褒めないでくれ」

「褒めてないし」

 

 また溜息をつかれた。

 

「やけに溜息が多いな。やっぱり息抜きは必要だ」

「もう好きにしてよ。ただしアルス君は一人で気ままに散歩してるだけなんだから、独り言はなしだからね」

 

 アリスの姿が消えるが気配はする。

 やっぱり名前と存在を覚えているというのは大きいようだ。

 姿もちゃんと思い出せる。【緑のボタン】ナイスだ。

 

 さて、気配があるとなると触るのも容易だ。

 手でもつないでやるか。

 

 

 

 

「……スケベ」

 

 

 

 

 変なところに触ってしまったようだ。

 だけど何をしようとしていたのかは理解していたのか俺の腕を掴んでついてくる。

 

「アルスちょうどよかった」

 家を出るとアリシアが居た。

「久しぶりに『山彦の笛』の練習に付き合ってくれない?」

「いや、俺は散歩に」

 アリスにすごい握力で腕を潰されかけた。

 

「つき合わさせていただきます」

 いつもの俺なら断らないとでも言いたいのだろうか。

 しょうがないから笛の練習に付き合うとしよう。

 俺がいつもトレーニングをしていた広場に出る。

 

「お、だいぶ上手くなってるな」

「練習してるんだから当たり前じゃない」

 ちゃんとアリシアは笛を吹けている。

 さすが努力家のアリシアだ。

 

「ほんじゃあ楽譜。少し俺のヴァイオリンに合わせて合奏してみるぞ」

「え……あ、そうね」

「ゆっくりやるから大丈夫だ。出来ないところは何度でも合わせてやる」

「うん……ありがとう」

 楽譜をまじまじと見ているがたまに俺の顔色を伺っている。

 失敗しても怒りはしないんだからそんなに気にしないでもいいのにな。

 

 

 アリスが離れようとしたからとりあえず足掛けをしてみた。

 

 

 べチンと豪快に音を立ててこけたようだが、アリシアはまったく気にしている様子はない。

 存在がないって言うのはこういうことなのか。

 凄い魔法だ。

 

「うぅ…痛かったんだけど」

「あ、アリシアそこもう一回ゆっくりやるぞ」

「……アルス君のバカ」

 

 俺の背中にアリスの背中らしきものが当たる。

 独り言するなって言ったのはそっちだろ。

 それにしても声もアリシアには届いていない。

 本当に彼女は今ここには居ないことになっているようだ。

 

「アルス~アリシアちゃん~。お昼にしよう」

 ティナが演奏の音でバスケットをもってやってきた。

 ビニールシートを広げてバスケットからサンドイッチを取り出す。

 

「あ、ティナ。ありがとう。ちょうどお腹がすいてきたところなのよね」

 アリシアがビニールシートの上に上がる。

 俺もいつものように上がった。

 

 でもいつもこんなに笑って食事をしているのにアリスはいつも蚊帳の外か。

 きっと今も寂しい思いをしているだろう。

 

「なあ実は」

 

 今度は左腕を握りつぶされた。

 いや、マジで。

 すぐに【ベホマ】だと思われる魔法で治してもらったけど、確かに俺の腕は今ありえない方向にへしゃげた。

 

「どうしたのアルス?」

 ティナが不思議そうに首をかしげる。

 

「私は居ないんだから、ちゃんとそうする。ね?」

 

 穏やかに言ってるけど表情が見えない分マジ怖いから。

 というか握力だけで俺の腕はああなったのか?

 魔法だよな。どうか魔法であってください。

 

 

 

 

 

 

「それに、私のことよりも体調管理はしっかりしようね」

 

 

 

 

 

 アリスが俺から手を離して一歩後ろに下がった。

 

「アルス。顔真っ青だよ? もしかして無理してない?」

 アリシアが突然俺の額に手を当てくる。

「すごい熱じゃない! 何で断らなかったのよ!」

 そういえば『ネクロゴンド』から撤退してから妙に頭が重いと思ったら熱があったのか。

 こいつは気付かなかった。

 アリスは初めから気付いていたっぽいな。

 腕を潰したのは冷や汗を出させるためか?

 にしても少しやりすぎだぞ。

 

 それにしても最近無理ばかりで全然自分のことに気付けないなんて情けないな。

 やばい、ちょっと動けそうにない。

 

「えっと……【ベホイミ】!」

 ティナが回復魔法を掛けてくれるけど怪我や疲労とは少し違う。

 いつもなら多少楽にはなる筈だけど気付いたら手遅れだった。

 

 

 誰かに運ばれている。

 多分アリシアだ。

 気付いたら自宅でアリシアとティナが看病してくれていた。

 母さんがおかゆを作ってくれているらしい。

 

 

「アルス……大丈夫?」

 ティナが頭の濡れタオルを代えてくれる。

「あんたねぇ、ちゃんと寝てる?」

 最近色々あって寝てない気がする。

 でも夜な夜な魔法の練習や笛の練習をするアリシアに言われたくないところだ。

 

「まったく、ニーナもあんたも頑張りすぎ。寝れる時はちゃんと寝る。相談する時はちゃんと相談する。分かった?」

「いや、まあ」

「返事は?」

「はい……」

 

 何だかアリシアが少し怖い。

 迷惑を掛けてしまったか。

 いや、仲間なのに全然頼らなかったのはやっぱり不味かったんだろうな。

 

 

 それからしばらくアリシアとティナが看病をしてくれた。

 アリスの気配はしない。

 部屋にはいないのだろうか。

 

 

 0時をすぎると母さんが「今日はもう遅いから泊まって行きなさい」と隣の空き部屋を用意してくれて二人は泊まることになった。

 

「まだふらふらなんだから水分ほしかったら声掛けてよね。持って行ってあげるから」

 とのことだ。

 しかし体の調子が一向によくなる気配がない。

 明日の朝には少し楽になっていればいいのだが多分無理だろう。

 

 目を閉じたらすぐに眠れたが三時頃目が醒めてしまった。

 喉がカラカラだ。

 アリシアを呼ぶか。

 声を出そうとしたけどうまく声が出ない。あー、やばい呼ぶことも出来ないとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君って本当に鈍感だよね。そうなるまでほったらかしにしてるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 アリスが俺のすぐとなりベッドに腰掛けていた。

 水と粉薬を渡される。

 

「一人で飲めそう?」

「俺、苦いの嫌だ」

「何でそう私の前だと駄々こねるかな~。口開けて」

 

 体を優しく抱き起こされて薬と水を飲ましてもらった。

 見た目ほど苦くはない。それに体もだいぶ楽になった。

 

「すごい効き目だな。なんだこの薬」

「飲みやすいように『世界中の葉』を粉にしてみた。歩いて取りに行くの大変だったんだよ?」

 

 アリスはそう言って笑っていた。

 衣服はボロボロで擦り傷も少し作っている。

 きっと険しい山道を越えてきたのだろう。

 少し申し訳ない。

 

「はい、そこはありがとう、だよ」

 

 謝ろうとしたら口に人差し指を当てられた。

 それも、そうだよな。

 

「ありがとう、アリス」

「どういたしまして」

 

 本当に嬉しそうに笑う奴だ。

 ずっと存在を消し続けて孤独だったのにその笑顔は昔のままだ。

 やっぱり俺はまだアリスのことが好きなんだな。

 

 

「なあアリス。プレゼントがあるんだ」

「人数分買った指輪かな?」

「あ、ああ」

 

 

 やっぱり一つにしておくべきだったか。

 いや、『祈りの指輪』はあそこでしか買えそうにないし【MP】回復は貴重だから……ってそうじゃないだろ。

 

 

「ほら、消えている間もみんな同じ者をつけてれば仲間って感じがするだろ?」

 

 

 何を言っているんだ俺は。

 素直に好きって言ってしまえばいいのに。

 あー、くそ、熱のせいだ。頭がぼーっとする。

 

「そうだね」

 そう言いながらもアリスは受け取ろうとせずに左の手のひらを俺に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでアルス君はどの指にはめてくれるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして悪戯っぽく笑ってみせる。

 俺は迷わずに薬指に指輪をはめてあげる。

 

「本当に君は……バカだよ」

「バカでいい」

「私よりいい子たくさん居たよ?」

「アリスがいいんだ」

 

 好きになったものはしょうがないだろ。

 

「すぐに私の存在は消えるのに?」

「すぐに『バラモス』を倒せば問題解決だ」

「何でこんな【わがまま】で【あまえんぼう】で【くろうにん】の勇者のこと好きになちゃったんだろ、私」

 

 さりげなくアリスは俺からの返事を返してくれた。

 

「アリシアが言うには【むっつりスケベ】らしいぞ」

「もっと嫌なんですけど」

 アリスは溜息をつきながらも笑っている。

 

「なあアリス。今日の日記に好きな人が出来たって書いていいか?」

「うわー、この人浮かれちゃってるよ。そんなにはしゃぐとまた熱上がるよ?」

「む、そんなにはしゃいでるか?」

「今朝私に声をかけた段階からね」

 

 そんなにはしゃいでいただろうか。記憶にない。

 まあ日記をつけて今日はもう寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書43―アルスの日記―

 火口に『ガイアの剣』を投げ込んだらとんでもないことになった。それも含めて最近の無理がたたったのか体調がすこぶる悪い。

 アリシアとティナの看病のおかげでずいぶんと楽になった。

 明日こそは『ネクロゴンド』攻略張り切っていくとしよう。

 あ、そうそう。好きな子が出来たから“バラモス”倒したら紹介する。

 性格が【命知らず】になった。

 

 




フラグが立ちました。


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第三話「骸骨剣士の罠」

羽休め回もとい骨休め回。


 俺は『骸骨剣士』である。名前はまだない。

 

 俺は『骸骨剣士』の中でも特に優れていて、自分より強い魔物の指揮官として『エジンベア』の制圧を任された。

 力バカの『ボストロル』が国一つを乗っ取れたんだ。

 俺にも出来ると思っていた。

 

 が、結果は勇者の妨害により惨敗。

 

 名誉挽回のために『渇きの壺』だけでも奪おうと勇者を追ってみたが、変な男に邪魔されて失敗。

 ついに格下げされて『ヤマタノオロチ』が制圧した田舎の島国の護衛につかされた。

 

 

 

 だが神は俺を見捨てなかった。

 

 

 

 再び勇者が俺の前に姿を現し、【メタパニ】作戦で勇者を亡き者に出来た。

 これで俺はまた上の職場で活躍できる。

 

 

 

 

 

 

 神は死んだ。誰かがそう言った。

 

 

 

 

 

 殺したはずの勇者が復活している。

 【ザオラル】は勇者しかまだ使えないと思ったら、棺おけで死体を保護して教会まで運んだらしい。

 俺が見たのは『ヤマタノオロチ』が勇者のなんかよく分からないすごい技でトドメを刺された瞬間だった。

 

 

 俺の評価は『ジパング』防衛失敗。

 俺は元々いた『サマンオサの洞窟』に帰らされた。

 

 

「よく戻ってきたな兄弟」

「うるせぇよ。ほっとけ」

 

 

 正直ここに帰ってくるつもりなんてなかったのに、普通の『骸骨剣士』の連中が歓迎パーティーなんて開きやがった。

 

 

「聞いてくれ兄弟。俺この戦いが終わったら結婚するんだ」

 

 

 そんな死亡フラグを言われても困る。

 というかお前骨なのに結婚するのか。

 同じ骨として結婚しても楽しいことなんて何一つないと思うぞ。

 

 

 

 

 勇者が『サマンオサ』で捕まったらしい。

 おそらく勇者一行は勇者を助けようと『ラーの鏡』を手に入れにここまで来る筈だ。

 だが問題は勇者一行がおそらく【棺おけの加護】を受けていることだ。

 

 噂でしか聞いたことないが、前回死体を無事に教会まで届けているのだから間違いないだろう。

 

 

 システムはよく分からないが奴らは殺しても生き返る。

 どうすればいいんだ。

 

 

「兄弟、それなら魂を念仏で成仏させればいいじゃないか」

 

 

 なるほど。その手があったか。

 既に魂が地上になければ復活しようがないだろう。

 普通の『骸骨剣士』のクセによく考える。

 

 

「ここにこう宝箱をおいて最後に【ミミック】の不意打ちで【ザキ】だ。経典を貸せ。五分で覚えてやる」

 

 

 勇者一行が来る前に経典を丸暗記する。

 これで準備万端だ。

 だが勇者一行に【ミミック】だと悟られたら不味い。

 何かで気をそらさなくては。

 

 

「俺たちが囮になるぜ兄弟」

 

 

 戦いが終わったら結婚すると言っていたくせに囮役を買ってでてきた。

 なんて無謀な奴だ。

 だがここで勇者一行を全滅させることが出来れば魔王軍の勝利は間違いない。

 

 

 知らない女が先頭を歩いているが所詮新入りだ。

 気にすることはない。

 

 

 そう思ったが『骸骨剣士』達が簡単にやられてしまった。

 指揮能力は勇者と同等とは厄介な奴だ。

 だが、宝箱を順番に開けていって最後の一個も開けた今がチャンスだ。

 

 『ミミック』の【ザキ】が先頭にいる女に当たった。

 一人ずつ確実に成仏させてやる。

 俺は暗記した御経を唱えた。

 完璧な御経だ。

 俺はついに勇者一行を一人消滅させた満足感か何か解放された気分になってきた。

 

 

 

 暖かい。心が温まる。

 

 

 

 今思ったがアンデッドの俺が御経読んでどうするんだ。

 気づいた時にはもう遅かった。

 死亡フラグを簡単に口にする『骸骨剣士』の言葉を鵜呑みにするんじゃなかった。

 それに納得した時点で俺にも死亡フラグが立っていたとは……くそ、体が消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだよ。そんなことしたら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かの声がした気がした。

 

 

「これにこりたら仲間達と静かにここで暮らしてね」

 

 

 女の声だ。

 いつの間にか俺の体の崩壊は止まっていた。

 倒された筈の仲間達も復活している。

 勇者一行はもう『ラーの鏡』を手に入れて洞窟を出た後だろう。

 また作戦失敗か。

 でも何故だかこれでよかった気がする。

 

 

 もしも勇者一行を倒していたらあの声の主はきっと俺を助けてはくれなかった。

 他の魔物も死んだままだった。

 

 多分あの声の主が【棺おけの加護】なのだろう。

 神の一種なのか精霊の一種なのかは分からないが、魔物の俺達まで助けてくれたんだ。

 きっと偉大な方だ。

 

 

 人間は嫌いだが折角拾われた命だ。

 ここで普通の『骸骨剣士』の奴らと普通に暮らすのも悪くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書35―アルスの日記―

 『ロマリア関所』から『オリビアの岬』を通って『旅の扉』で『サマンオサ』についた。

 正直『旅の扉』はもう使いたくないところだ。

 『サマンオサ』では偽者の王が人を片っ端から処刑しているらしい。解決するためにわざと捕まってみたところ姫に助けられて本物の王も見つけた。

 『変化の杖』を見破るために『ラーの鏡』を『サマンオサの洞窟』で見つけたから後は明日俺の身代わりになってくれた姫の処刑の時に偽者の正体を暴いて倒せば万事解決だ。

 各自明日の戦闘に備えてゆっくり眠るように。

 

 付きまとっていた『骸骨剣士』は改心してくれたようだ。

 次にあったら温かく迎えてやろう。

 

 




アリスによって冒険の書に付け加えられた二文の話でした。
フラグが立ちました。


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第四話「ネクロゴンド」

ネクロゴンドを攻略するお話。


 朝起きると『ポルトガ王』から俺宛に手紙が届いていた。

 

 内容は『ポルトガ』にもモンスターが大臣に化けて潜入していたらしい。

 『ポルトガ』の方はほぼ王の単独行動によりモンスターを退けたようだ。

 正直『ポルトが王』がここまで強いとは思わなかった。

 

 で、『ランシール』にもモンスターの群れが現れたらしいので、『アリアハン』にもモンスターが現れるかもしれないとのこと。

 うむ、今までの努力のおかげでこうして他国から知らせが来てくれるのは嬉しい限りだ。

 

 だけど『アリアハン』は既に親父の留守中の襲撃の大軍隊を返り討ちにしてるし、俺は火口に『ガイアの剣』を使ったという足跡を残しているから自分の城の警備を手薄にはしない筈だ。

 このまま『ネクロゴンド』に向かっても問題ないだろう。

 

 という訳で王に一応モンスターが来るかもしれないということと、『バラモス城』の視察に行くことを報告してから船を出した。

 

 着くとまだ灰は降っていて火山性のガスも噴出している。

 【トラマナ】で突破できるだろうか。

 試しに深呼吸してみると普通の空気だ。

 なんだかアリシアの【トラマナ】は海の底でも呼吸できるような気がしてきたぞ。

 

 干上がった瘴気の川を渡っていくと洞窟が見えてきた。

 噂の『バラモス城』に続く洞窟だろう。

 

 洞窟に入ると祭壇のようなところで巨大な魔物の骨がまるで銅像のように並べられている。

 噂では過去に攻めて来た異界の魔王やら魔人やらの亡骸をここで清めているらしい。

 

 『バラモス』の出現のせいかここの聖域は嫌な空気がただよっている。

 そしてモンスターも入ってこられるようだ。

 『トロル』の群れが俺達を取り囲む。

 流石に攻撃力と体力に特化した『トロル』の大群とまともにやりあうのは辛い。

 

「道を空けろ【ニフラム】!」

 

 俺は『トロル』の大群を光の彼方に消し去った。

 それと同時に『ミニデーモン』が岩陰から飛び出してくる。数は三体。

 

「【ヒャダルコ】と【バギマ】」

「まかせて!」

「頑張ってみるね」

 

 アリシアの【ヒャダルコ】とティナの【バギマ】で攻撃を受ける前に倒して、次のモンスターが出る前に奥にある階段まで走って駆け上がった。

 

 倒すのは早いが向こうの攻撃も強い。

 油断したらこっちがやられてしまいそうだ。

 

 階段を上がり終わると『地獄の騎士』が一体待ち構えていた。

 六本の腕の攻撃を俺は上手くさばききる事が出来たが【焼け付く息】の直撃を受けてしまった。

 

 体がしびれて動かない。

 

 だがすぐにティナが【キアリク】で治してくれたおかげで、【火炎切り】で『地獄の騎士』を倒せた。

 アリシアとティナにも【焼け付く息】が当たっていたらいきなり全滅していただろう。

 

 いや、確実にここで俺達を全滅させる気か。

 『ホロゴースト』の群れの不意打ち【ザラキ】連発で俺の意識は消えた。

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

「おおアルスよ。死んでしまうとは情けない」

 王の目の前にいた。

 

 後ろに二つの棺おけがある。

 守れなかった以前にアリスに助けられたのか。

 初めての全滅って結構ショック大きいな。

 

 教会でティナとアリシアを復活させてからめげずに『ネクロゴンド』に挑む。

 

 また『ホロゴースト』が出てきたけど、ティナに【マホトーン】を使ってもらってリベンジ出来た。

 

 更に奥に進んでいくと宝箱の中に『稲妻の剣』が入っていた。

 【攻撃力】が高いいい剣だ。

 使えば【イオラ】効果があるので【MP】節約できそうだ。

 

 

 【草薙の剣】と合わせて持っておこう。

 

 

「ねぇアルス。なんか痛々しい鎧みつけたんだけど」

 アリシアが『刃の鎧』を見つけてきた。

 『魔法の鎧』より守備力が上がるようだ。

 

「まさかそれ装備するつもり?」

「ああ、呪われてなさそうだしいいだろ」

「でもなんか近付くだけで怪我しそうなんだけど」

「相手が殴ってきたら大ダメージだな。お下がりの『魔法の鎧』はティナが付けてくれ」

「うん」

 

 これでしばらく装備を変える必要はないだろう。

 っと、しまった。

 

「まだ汗臭いだろうから洗ってからでいいぞ」

「大丈夫だよ。毎日磨いてるもん」

 

 ティナはそう言って笑っていた。

 船の中で姿を見かけない時に何をやっているかと思えば皆の装備の手入れをしていてくれた訳か。

 相変わらず目立たないところで頑張る奴だ。

 

 

「あ、そうだ。アルスおめでとう」

「なんだよティナ急に」

「え? 日記に恋人が出来たって……」

 

 いや、好きな人が出来たって書いただけだぞ。

 さらにアリスに線で消されたし。

 よく塗りつぶされた文章を読む気になったものだ。

 

 

 おっと『はぐれメタル』出てきた。

 

 

「恋人って……」

 アリシアが『はぐれメタル』そっちのけで日記を取り出して見始めた。

 『はぐれメタル』はしつこく【ギラ】で攻撃してくれてたのに、後一発というところで逃げられる。

 

なんんだ……好きな子か。ねぇアルス。好きな子ってやっぱりマリアさん?」

「いや、というかなんでマリアが出てくる」

「だってよく二人っきりになってたし。いつの間にか名前で呼び合ってたし……」

 そういえばよく二人っきりになってたな。

 

「外れだ。それに読めたんなら後でちゃんと話すって書いてたの知ってるだろ」

「だって……気になるじゃない」

 らしい。

 まあアリシアも恋沙汰に興味を持つ年頃ど真ん中だもんな。

 

「そうだそうだ。俺もお前に渡す物渡しそこねてた」

「え」

「ほれ」

 

 俺は『祈りの指輪』をアリシアに渡した。

 これは使用者の【MP】を回復させるものだからちゃんと持たせてやらないとな。

 

「これって……その……」

「ティナもほれ。使うと【MP】が回復するぞ。ただし使いすぎると壊れるから注意しろよ」

 

 『祈りの指輪』を渡したらアリシアの機嫌が悪くなった。

 ティナみたいに贈り物は素直に喜んでもらいたいところだ。

 

 

 

 

 

 

「鈍感」

 

 

 

 

 

 アリスに耳元でそう呟かれた。

 

 『ネクロゴンド』の洞窟を抜けるともう日が暮れていた。

 近くに祠があるからあそこで今日は野宿するとしよう。

 祠に入ると聖域は健在で神官までいる。

 俺達はここに来るまで苦労したのにこの神官は平気な顔してここに住んでいるのだろうか。

 

「おぬし……オルテガに似ておるな。もしや噂の勇者アルスか! 私はオルテガより『シルバーオーブ』を預かりし者。オルテガが死んだなど信じられずにこの地に来たのだが……すまぬ、なんの手がかりも見つけることが出来なかった」

 オーブをもっているということは親父の仲間か。

 こんな地獄のような場所で今までずっと親父のことを探してくれていたらしい。

 親父も仲間に恵まれていたんだな。

 

 

 これで『聖なるオーブ』が全てそろった。

 親父がたどり着けなかった『ラーミア』までたどり着くことが出来たのだ。

 

 

 今日は休まれてい枯れよと神官に食事と寝床を提供してもらえた。

「時に勇者よ。『最後の鍵』は『渇きの壺』で手に入れたのかね?」

「親父みたいに潜って取れる人間なんていないだろ、普通」

「それもそうだな。少しの間『渇きの壺』を貸してはくれぬか?」

 俺にはもう必要ないものだし親父の友人なら悪用はしないだろう。

 今晩は泊めてもらえたしそのお礼で俺は『渇きの壺』を神官に渡した。

 

 

 後は明日に備えてゆっくり寝るだけだ。

 折角オーブも揃ったから山を越えるなんてバカな考えは止めて、船に戻って明日は『レイアムランドの祠』に向かおう。

 

 

 

 

 だけどなかなか寝付けない。

 

 

 

 この周りは聖域でモンスターは近づけないから俺は冷たい夜風の中ギターを引いて少し気晴らしをすることにした。

 親父は化け物じみた武勇伝をもっていたから、もしかしたらひょっこり生きていたなんてべたな展開は少し考えていた。

 

 でも親父が火口に落ちてから十年間ずっと探していた人がいて、それでも遺品さえ見つかっていない。

 

 

「眠れないよね、やっぱり」

 アリスが俺の前に姿を現してちょこんと俺の横に座る。

 

「ただギターが弾きたかった……だけだ」

「大丈夫、私がいる限り誰も死なせない。絶対に復活させるから。それに本当にダメなときは私が守ってあげるから……アルスはもっと肩の力を抜いてていいよ」

「バカ言うな。俺は守る側。アリスは守られる側。OK?」

「まったく……わがままなんだから」

 アリスがそっと俺の肩に頭を乗せた。

 

 

 もうすぐ『バラモス』を倒しにいけるんだ。

 そうしたらもうアリスは寂しい思いをしなくてすむ。

 

 親父が出来なかったこと、やってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書44―アルスの日記―

 『ネクロゴンド』の敵は強敵で苦戦したけど祠にいる親父の知り合いから『シルバーオーブ』をもらった。神官はどうやらずっとここで親父を探してくれていたらしい。

 川を挟んだ先に壊れた建物が見えたから何かと聞いてみると『ギアガの大穴』と呼ばれている場所であそこから『バラモス』がやってきたと噂されているようだ。

 さしずめ地獄へ続く大穴といったところか。

 オーブが全部そろったから明日はいよいよ『ラーミア』復活だ。

 『バラモス城』まであと少しだから明日も気合を入れていくとしよう。

 

 




棺桶になることは多くても初の全滅を体験しました。
不安も多い中、それでもアルスは恐れずに前へ前へと進んでいきます。
フラグが立ちました。


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第五話「さらば魔王バラモス」

そしてこのタイトルである。


 なんだかすがすがしい朝だ。

 なんていうか戦ってもいないのにもう『バラモス』に勝った気分だ。

 皆を起こして早速【ルーラ】で船まで戻ろう。

 

「ありゃ?」

 

 【ルーラ】で飛んだら見えない壁に頭をぶつけた。

 『バラモス城』の淀んだ空気が邪魔しているのだろうか。

 

 いや、それなら火口に『ガイアの剣』を投げ込んだ時も【ルーラ】出来なかった筈だし、全滅した時もアリスは【ルーラ】で俺達を運んでくれた筈だ。

 

 考えられるとしたら何者かが俺達を逃がさないように結界を張ったのだろう。

 でも魔物の気配はない。

 不意打ちもないので歩いて帰るとしよう。

 

 

 『ネクロゴンドの洞窟』も魔物が出ないのは不気味だ。

 だが『ネクロゴンド』を下って出口から出るとようやく魔物が出てきた。

 

 

「アルス……団体さんがきたみたいよ?」

 魔物の群れが出てきた俺達を取り囲まむように配置されている。

 

 『バラモス城』の方からは空の飛べる魔物が次々と飛び立っていて、青空が魔物で黒く塗りつぶされている。

 

「多いけど……大丈夫だよね?」

「当たり前だろ」

 

 祠で襲ってこなかったところを見ると狙いは完全に俺達だけか。

 いよいよもって『バラモス』も久々の力押しで攻めて来たようだ。

 

 

「【イオラ】!」

「『稲妻の剣』よ敵をなぎ払え!」

 

 

 爆発で『フロストギズモ』を吹き飛ばして抜け道を作る。

 が、『ミニデーモン』の群れが上空から【メラミ】を撃ってきた。

 狙いは完全に俺だ。

 『魔法の盾』のおかげで何とか助かったがダメージは大きい。

 

「今治すから!」

 

 ティナの【ベホイミ】で体力が回復したところで、チェーンソードを振り回しまとめて『ミニデーモン』を薙ぎ払う。

 

「アリシア!」

「分かってるわよ!」

 

 怯んだところにアリシアは【ヒャダルコ】で打ち落としてくれた。

 だが、まだ敵は多い。

 地上の敵まで走ってやってきた。

 

 『トロル』と『地獄の騎士』に『ライオンヘッド』まで混ざっている。

 ここで【マホトーン】を食らったら不味い。

 アリシアとティナには【ヒャダルコ】と【バギマ】で集中的に狙ってもらおう。

 

 

 補助魔法を使う暇もないのが正直辛い。

 

 

「『稲妻の剣』!」

 接近戦主体の奴に接近されると不味いから辺りを爆発させて牽制する。

 これならいけそうだ。

 そう思った時目の前から【ザキ】が飛んできて『命の石』が砕け散った。

 

 団体の中に『ホロゴースト』が移動しながら【ザキ】を撃ってきている。

 見失う前に方をつけなければ不味い。

 

「【ライデイン】!」

 

 【ザキ】が飛んできた方向に【ライデイン】を落とす。

 周りの景色はもう魔物で埋め尽くされているんだ。

 【ホロゴースト】に当たらなくても敵には当たる。

 

 だが、その考えが甘かった。

 【ライデイン】は何かに当たると俺の方に跳ね返ってくる。

 【マホカンタ】の掛かった『ガメゴンロード』とペアなのか。やられた。

 

「アルス!」

「待っててすぐに」

「そのまま二人は攻撃! 【マホトーン】だけは避けろ!」

 

 今ティナが回復に回ったら【マホトーン】が来る。

 目の前の『地獄の騎士』の【焼け付く息】はかわせたが、『トロル』の攻撃は直撃してしまった。

 

 とりあえず【ベホマ】で失った体力を全回復して、『祈りの指輪』もひそかに使っておく。

 

「【火炎切り】!」

 

 これなら跳ね返されない。

 そこから【ライデイン】を適当なところに落として敵を粉砕する。

 その際『ライオンヘッド』の【ベギラマ】を直撃したが、【マホトーン】よりマシだ。

 

 また【ザキ】が飛んできたからそれを避けるが、今度は『地獄の騎士』の打撃をまともに受けた。

 

「【稲妻切り】!」

 

 【ライデイン】の宿った剣で周りの敵を吹き飛ばした後、すぐに『稲妻の剣』を使って近付く敵を少し後ろに下がらせる。

 

 手が足りない。

 俺は一度【ルーラ】で上がれるところまで飛び上がって敵の配置を確認した。

 地上ではモンスターの陰で見えなかったが『ガメゴンロード』が網の目のように配置されている。

 これを仕留めなければどうしようもない。

 

 居場所は全部頭の中に叩き込んだ。

 逃げられないようにこの周辺にドーム状の結界が張られているようだが、結界内から結界内に【ルーラ】をする分には支障はない筈だ。

 

「アリシア! ティナをつれて少しの間飛べ!」

 俺の言葉に反応してアリシアがティナを抱えて俺のところまで【ルーラ】で飛んだ。

 これで思いっきりやれる。

 

 俺は“ライデイン”の電撃を一点に収集させて溜めたて一気に解き放つ。

 

 

 

 

 

 

 

「吹き飛べ【ギガデイン】!」

 

 

 

 

 

 

 魔物の中心で放った電撃は次々に魔物を吹き飛ばしていく。

 『ガメゴンロード』に当たって跳ね返った電撃も『トロル』などの大型モンスターが邪魔で俺には届いていない。

 大勢で行けばいい訳ではない。

 並べたところで広範囲高火力の前では一体も百体も同じだ。

 

 まだ【LV】が足りないのか体から力が抜けていく。

 でも大半の魔物は今の電撃で倒せた。

 

 後は、

「ティナ、アルスをお願い!」

「任せて!」

 アリシアが『理力の杖』を構えて空中から甲羅を貫いて、ティナは俺に駆け寄って『ベホイミ』を掛けてくれた。

 

 『祈りの指輪』で【MP】も回復しようとしたが全然回復してくれない。

 やはり無理矢理まだ使えない魔法を使うのは反動が大きいらしい。

 

 だけど残りはアリシアだけで何とかなるだろう。

 今の【ギガデイン】の威力を見てほんの僅かに残った魔物の指揮は崩れているし、『バラモス城』からの増援も止まった。

 

 俺をここで倒すつもりだったようだけど、逆に痛手を負ったのは『バラモス』の方だ。

 ざまあみろ。

 

 

 

「きゃっ!?」

 アリシアがこっちの方に吹き飛ばされてきた。

 残りは『ガメゴンロード』数体と『ミニデーモン』くらいかと思っていたのに、まだ大型でも残っていたのか。

 大きな影が俺の目の前に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者よ。()()()()【ギガデイン】を使って動けなくなったようだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつはまるでプテラノドンのようなふざけた頭をしていた。

 緑のローブを身にまとい、赤いスカーフをしたよぼよぼのモンスター。

 

 

 だが圧倒的な威圧感を持っている。

 

 

「自己紹介が遅れたな。余は魔王“バラモス”。そなた達を滅ぼすモノだ」

 どうりで威圧感があるわけだ。

 それにやはり知略に長けている。

 こいつは俺が【ギガデイン】を撃つと動けなくなるのを知っていて、わざと撃たせてから姿を現した。

 

 アリシアとティナが俺を庇うように前に出る。

 

 

 

 

 

 

「【イオナズン】」

 

 

 

 

 

 

 だがそれを巨大な爆発が飲み込んだ。

 衝撃で俺の体も吹き飛ばされる。

 

 

「ティナ! アリシア!」

 

 

 一瞬跡形もなくバラバラにされたのではないかと背筋が凍りついた。

 それほどの威力はある攻撃だった。

 二人の安否を確認する。

 

 

 よかった。

 二人とももう虫の息だがなんとか生きている。

 

 

「さて勇者よ。貴様は二度と復活できぬよう腸を食らいつくしてやろうか。それとも跡形もないほどバラバラにしてやろうか」

 

 

 『バラモス』が俺の頭を掴んで持ち上げる。

 動けないと思って油断しすぎだ。

 俺は最後の力を振り絞って『バラモス』の左胸に『雷神の剣』を突き刺して爆発を引き起こした。

 いくら魔王といっても今の攻撃は効いた筈だ。

 

 

 

 

 

 

「……さあどちらがよいか答えよ」

 

 

 

 

 

 

 そう思ったのに『バラモス』の傷は致命傷にはならずにすぐに再生してしまった。

 自己再生するなんてなんていう生命力だ。

 

 

「アルスから手を離して」

 アリシアが立ち上がっていた。

 今にも倒れそうだった。

 圧倒的な力を前にしても怯まずにまっすぐ『バラモス』を睨みつけて【メラミ】を後頭部に当てる。

 

 

「倒れていれば死ななかったものを」

 

 

 効いていない。

 こいつは【メラ】系は効かないのか。

 アリシアに顔を向けて、次に手の平を向ける。

 

 

 さっきは【イオナズン】だった。

 こいつは上級魔法も使える。

 

 

「アリシア逃げろ!」

「【メラゾーマ】」

 このままだと直撃コースだ。

 

「このっ」

 

 『バラモス』の腕を蹴り上げて標準を少しだけ逸らせた。

 アリシアの真横に巨大な炎が落ちて火柱を上げる。

 

「くぁっ」

 

 直撃は避けたが衝撃でアリシアがまた吹き飛ばされた。

 しっかりと【ギガデイン】を習得さえ出来ていればまだ勝ち目があったかもしれない。

 動かない体じゃどうすることも出来ない。

 

 

 

「肉の塊と化すがよい」

 

 

 

 アリシアには興味がないのか『バラモス』は俺を掴んだまま【イオナズン】を放った。

 

 意識が遠のいていく。いや、体が遠のいていく?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――死なせなんかしない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よく分からない感覚だ。

 なぜか【イオナズン】を食らった筈なのに痛みは感じない。

 それに掴まれていた筈なのに遠くの方で【イオナズン】が巻き上げた砂埃が立っていて『バラモス』の影が揺らいでいる。

 

 

「まだ動けるか勇者よ」

 

 

 煙が、晴れた。

 いつも通り俺の格好をしたアリスが無傷でそこに立っている。

 どうやら食らう前に助け出されたらしい。

 例の存在に割り込むというアリスの特技か。

 

 

 助けに行こうにも体がまだ動かない。

 

 

「だが力尽きた貴様に何が出来る?」

「……みんなを守れる」

 『バラモス』の右爪をアリスは盾で弾いて剣を『バラモス』の喉元に突きつける。

 だが、『バラモス』の左手はアリスの腹部に当てられて【イオナズン】の準備は整っていた。

 

 

「『バラモス』。止めよう? 人と魔物だって共存できるよ」

「残念ながらそういう問題ではないのだよ」

 

 

 【イオナズン】が爆発する。

 だがアリスはあまりダメージを受けているようには見えない。

 俺の姿というメッキが吹き飛んで金色のドレスがふわりと宙を舞う。

 おそらく魔法体勢のついたドレスだ。

 

 切られたのか『バラモス』は喉から血を吹き出すがすぐに自己回復してしまう。

 

 

「勇者ではない、だと? そうか。貴様が【棺おけの加護】か。おびき出すつもりではいたがまさか本当に現れるとはな!」

 

 

 『バラモス』は口から【激しい炎】を吐き出した。

 アリスはそれを左手の【ベギラマ】で相殺して、右手の【ライデイン】を剣から『バラモス』に向けて放った。

 『バラモス』はそれを寸前のところで体を捻って回避する。

 その攻防が終わるとようやくアリスが地面に着地した。

 

 

 まさかアリスがここまで強いとは思わなかった。

 いや、魔法の威力自体は俺と同じだが使い方が上手い。

 

 

「あんた……アリスなの!?」

「うん。都合で記憶からも消えてたけど説明は後で」

 重症のアリシアに【ベホマ】を掛けている。

 ティナは自分で何度か【ベホイミ】を掛けていたのか、立ち上がってアリスの下に駆け寄って笑顔を作る。

 

 

「おかえり、アリスちゃん」

「ただいま」

 それにアリスも笑顔で答えた。

 

 

「アルス君が後ろの方に倒れているから連れて逃げてもらえるかな?」

 アリスがとんでもない事を言い出した。

 俺のことは構わなくていい。

 三人で『バラモス』を倒すか逃げるかしてくれ。

 

 

「アリス、あんたはどうするのよ」

「『バラモス』を抑える」

 言い終わる前に『バラモス』が【メタパニ】を唱えてから、アリスに爪を振り下ろした。

 だがアリスは【メタパニ】を受けた様子もなく剣で爪をさばく。

 

 

「存在を操る私に小細工は通用しないよ?」

「なるほど。面白い能力だ。だが仲間はそうもいくまい?」

 

 

 ティナが右腕をアリシアが左腕を掴んで自由を奪う。

 

 

 

 

 

 

 

「まとめてあの世に送ってやろう。“イオナズン”!」

 

 

 

 

 

 

 

「っ」

 アリスは二人を【イオナズン】の射程から突き飛ばして直撃を受けた。

 対魔法装備のおかげでやられてはいないがダメージは確実に食らっている。

 でも【MP】の節約かまだ回復呪文は使おうとしない。

 

「え……あ、アリスごめん!」

 アリシアは突き飛ばされたので正気に戻ったようだ。

 自分のやったことにアリシアの顔が青ざめる。

 

「気にしないの」

 アリスはそう笑ってからアリシアの目の前まで一気に地を蹴った。

 それと同時に【メラゾーマ】がアリシアに向けて放たれる。

 

 盾はもう無いのでアリスはそれを左手で受け止めようとしたが、途中で左手を引っ込めて右手を盾にし、右腕から火柱が上がった。

 

 

 腕に火がついているのをお構いなしに【ライデイン】を“バラモス”に直撃させる。

 

 

 アリシアは慌てて【ヒャダルコ】をコントロールして火を消した後、アリスの腕を低温で冷やす。

 冷やし終わる前に『バラモス』はまだ倒れているティナに【激しい炎】を吐き出した。

 

 

 完全にアリス以外を狙ってアリスを消耗させる気だ。

 アリスはアリシアを引っ張りながらティナの前に移動して【ベギラマ】で炎を相殺する。

 

 

 そうしたらまた【イオナズン】がきた。

 突き飛ばしてアリシアとティナを射程外に逃がしてまたアリスだけが直撃を受けた。

 

 

 

 

 

 完全にローテーションにはまっている。

 繰り返されていくうちにどんどんアリスの動きが鈍くなっている。

 

 

 

 

 

「アリスちゃん!」

 ティナが気を取り戻して【ベホイミ】をアリスに掛けた。

 回復役が起きたのは大きい。

 だけどアリスの傷はほんのわずかしか回復しなかった。

 

 『バラモス』の爪がアリスに迫っている。

 アリシアが【ヒャダルコ】で攻撃しているが、ダメージを無視してアリスの命を狙っている。

 

 

 見てられない。

 少し休んだからある程度なら無理できる。

 俺は『稲妻の剣』の爆風を利用してアリスの目の前に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛みを感じたのは一瞬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『バラモス』の爪が俺の腹を貫通して引き抜かれたが、アリスの【ベホマ】だと思われる魔法ですぐに俺の傷を塞いでくれる。

 だが二撃目が俺の頭を潰そうと振り下ろされていた。

 攻撃は見えているのに体が反応してくれない。

 

 

 これを食らったら、完全に兜ごと頭が潰されて復活も出来ないんだろうな。

 

 

「アリスちゃんダメ!」

 ティナが叫んだ。

 痛みは感じない。体も動かない。俺の頭が“バラモス”の爪を弾いた。

 息もしてないのに苦しくない。

 これは……【アストロン】か。

 俺とティナとアリシアの体が鋼鉄になる。

 

 アリスはそのままだ。

 補助魔法は一切掛からないということだろうか。

 

「アルス君をお願いね」

 更に鋼鉄になったアリシアを【バシルーラ】に似た魔法で空の彼方に送った。

 続いてティナも飛ばす。

 どうやら今の魔法は結界の効果は受けないようだ。

 

 いや、そんな事どうでもいい。

 アリシア、ティナと続いて俺を飛ばさない訳が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 止めろ、俺も戦う。俺はまだ戦える。ようやく体が少し動いたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「離脱ではなく飛ばすことで仲間を逃がすか。だが勇者は送らせん!」

 『バラモス』が動いた。

 アリスに向けて爪を振り下ろす。

 だが『バラモス』の動きがそこで止まった。

 周りの風景も止まっている。そんな感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――平和な世界でまた会おうね―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたら『アリアハン』の広場にいた。

「あのバカっ」

 あの結界の中でアリス自身も離脱できるのなら初めから皆で逃げていた筈だ。

 多分さっきの転送魔法は自分を転送させることは出来ないのだろう。

 今アリスは一人で戦っている。魔王と一人で戦っている。

 

「待ってアルス! その体じゃ無理よ!」

「放せ! 俺はまだ戦える!」

 

 そう思っていた。

 なのに急に腹部が痛み出す。

 血が出ている。

 アリスに回復してもらった筈だ。

 

 

 いや、アレは本当に回復だったのか。分からない。

 アリスの能力は未知数すぎる。でも俺はまだ戦えるんだ。

 

 

「その体じゃ戦えない。今の私達は……今の私じゃアリスの側に居てもアリスを苦しませるだけ。少し頭冷やして冷静に考えなさいよ!」

 

 アリシアが涙を必死にこらえて俺を睨めつけている。

 アリシアも辛いのは分かっている。

 でも俺はそんなアリシアの手を振りほどいた。

 

 

 

 

 それと同時にパチンと音を立ててはたかれた。

 

 

 

 

 

「いい加減にして」

 初めはアリシアにはたかれたのかと思った。

 でも違った。

 

 

 

 

 

 

「アリスちゃんの気持ちを無駄にしないで。万全の状態でちゃんとアリスちゃんを助けて」

 

 

 

 

 

 俺のほほをはたいたのはティナだった。

 そこで立っているのも限界だった俺は力尽きて倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書45―アルスの日記―

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フラグを回収しました。
乱立する死亡フラグの中アリスの運命は如何に。
昔からこういうことを平気でやってしまう作者でした、まる。
それにしてもこの魔王様アクティブである。


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エピローグ

ラーミア、雑に復活する。


 体がうまく動かない。

 

 やはり【ギガデイン】は体に負担が掛かり過ぎたか。

 ベッドの上で寝かされている。

 こんな所でのんびりしている暇なんてないのに。

 

「ごめんね、アルス……」

 ティナは謝ることはない。

 ただ俺が無力だっただけだ。

 守るって決めたのに守れなかった。

 好きな人すら守れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当は私が【棺おけの加護】になる筈だったの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 今、ティナは、なんて言った?

 

「でもアリスちゃんが代わってくれた。代わりに【棺おけの加護】になって寂しい思いをして……それなのに私は何もしてあげられなくって…」

 

 多分、ティナも存在を消す能力を持っていたのだろう。

 でも友達が棺おけの加護になるのをアリスが黙って見ている訳がない。

 俺だってそんな能力があったら代わってやる。

 

 

「ずっと申し訳なかった。アリスちゃんが居ないことになっているのに、私はみんなと一緒に居られて……アルス君と一緒に居られて……一緒に居られるだけで幸せなのにそれ以上の事をたまに望んでしまって……それなのに名前すら思い出せなくて、酷いよね、私……」

 

 

 ティナはいつものように泣いている。

 ずっとそんな事を気にしながらこいつは旅をして、申し訳なくって目立たないよう望まないように生活していたのか。

 

 

 やっぱり【棺おけの加護】なんて初めから必要なかったんだ。

 

 

「お願い……アリスちゃんを………助けて」

 

 

 こんなのただ悲しいだけだ。

 世界を平和にするという大儀を掲げたとしても、こんな生け贄まがいの【棺おけの加護】なんて要らないんだ。

 

 

「当たり前だ」

 まだきっと間に合う。

 

 でも今のままだと勝てない。

 おそらく『バラモス』はまた魔物を何体も並べて待ち構えるだろう。

 万全の状態じゃない俺が司令塔となるとして前衛一人、前衛支援一人、後衛一人が最低でも二セットはいる。

 

 そうしないと力を温存して『バラモス』にたどり着くことすら出来ない。

 人数が、足りない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またずいぶんシリアスな展開だねー。そんな魔王と戦っている幼馴染を助けに行く最大の見せ場に私を置いていくのは不逞野郎ですヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ、懐かしい声がした。

 ニーナだ。

 

「まったく、そんな浮かない顔をしてアルスの心はもう折れてしまったのか?」

 マリアも居る。一体どうして。

「アリシアが飛んできてアルスの大切な人が危ないって言うものでな。まだ【ギガデイン】をモノにしてなかったとは情けない奴め」

 マリアが俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「アリシアは『エジンベア』と『海賊のアジト』にも周っているみたいだ。それと手を貸してくれるかもしれない『ポルトガ』と『サマンオサ』にもな。無論我が『ロマリア』も全面的に私の独断で協力させてもらうぞ」

 マリアは笑いながらそう言っているが、きっと軍を動かすのは大変だった筈だ。

 

 

 それにアリシアも切羽詰ったこの状況でよく混乱せずに皆を呼んでくれた。

 後で無鉄砲に走ろうとした俺を止めようとしたのに怒鳴り散らしたことを謝らないとな。

 

 

「ステラとフィリアは現地で合流する。私達は【ルーラ】で『レイアムランドの祠』に行き『ラーミア』を復活させ、そこから直接『バラモス城』に飛ぶ。『レイアムランド』の景色は覚えているな?」

「ああ、【ルーラ】でちゃんと飛べる」

 

 記憶力には自身がある。

 存在の消えたアリスのこともちゃんと覚えられたんだ。

 アリスの為だったらどこへだって飛んでみせる。

 

「アルス。皆を呼んできたわよ。って、ニーナとマリアさんはもう来てるみたいね」

 息を切らしてアリシアが入って来た。

 

「すまない」

「謝るなっ。私はアリスに聞きたいことが山ほどあるし文句もたくさんあるの! 休むなら移動中。少し辛いだろうけど【ルーラ】で飛んでよ」

「ああ……そうだな。ありがとう」

「だからお礼も言わないでよ……バカ」

 

 皆がまた揃った。

 まだ希望はある。

 だからきっとアリスを助けることが出来る。

 助けて『バラモス』を倒せばアリスはもう普通の女の子だ。

 これで全てが終わる。

 

 俺は【ルーラ】で『レイアムランドの祠』に飛んで『ラーミア』を復活させた。

「世界の……いや、俺達の希望の翼になってくれ。『ラーミア』!」

 俺に答えるように『ラーミア』は美しい鳴き声を轟かせ、その巨大な翼を羽ばたかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書45―アルスの日記―

 魔王『バラモス』は強大な敵だ。だけど俺には仲間がいる。

 復活させた『ラーミア』でアリスを助けに『バラモス城』に飛んだ。

 今度はもう負けない。

 

第九章「不死鳥編」完

 




全員集結していざバラモス城へ。
次章バラモス編と打ち切り用のエンディングで終了予定です。


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第十章「バラモス編」
プロローグ


決戦前の静けさがしばらく続きます。


 不死鳥『ラーミア』の背中は心地よい。

 これで『バラモス城』に着くまでゆっくり休めるだろう。

 

 状況が状況だからニーナもマリアも静かだ。

 今のうちに眠って失った体力を回復させるのが一番だが、アリスのことが気になってなかなか眠れない。

 

 俺達の船まで【ルーラ】で飛んでもいいが、それで結界が張られていて【ルーラ】だと進入できなかったらシャレにならない。

 この移動手段が一番確実で安全だ。

 

 

 不死鳥だけあって何か加護がついているのか『ラーミア』は速度を感じさせない乗り心地だ。

 安定していて実感がわかないが『ラーミア』の移動速度は船よりもずっと早いのだ。

 すぐに『ネクロゴンド』まで辿り着ける速さだろう。

 

 

 

 

 休む時間なんて限られている。

 それがわかっていても眠れない。

 

 

 

 

 ふと横目でアリシアを見てみると、どこから取ってきたのか新しい魔道書に目を通している。

 

 ティナは皆の武器防具の手入れをしている。

 

 マリアは無駄な体力を使わないように目を閉じて瞑想していた。

 

 ニーナは道具の整理をしているようだ。

 

 皆それぞれ戦闘に備えて準備をしてくれている。

 まだ未熟だった俺の【ギガデイン】による反動は回復魔法だと回復しないんだ。

 今俺に出来ることは休むことだけだ。

 

 

 

「……【ラリホー】しとく?」

 

 

 

 ティナが『稲妻の剣』の手入れをしながら訊ねてきた。

 そうしてもらえるとありがたい。

 

「頼む」

 

 俺はティナの【ラリホー】に頼ることにした。

 ティナは整備していた道具をしまうと、俺の頭を持ち上げて自分の膝の上に乗せる。

 

「ティナ?」

「うなされないように。大丈夫、絶対に間に合うから。皆、アルスに力を貸してくれるから」

 

 髪を手串するように優しく撫でられた。

 温かい温もりに温かい言葉が心にしみて、思わず涙が出そうになるがぐっと我慢する。

 

 

 一人で戦っていたアリスはあんなにも強かったのだ。

 時間稼ぎに徹すれば持ちこたえてくれている筈である。

 ティナの言う通りアリスは絶対に助ける。

 間に合うに決まっている。

 

 

「【ラリホー】……。お休み、アルス。皆で迎えに行ってあげようね」

 

 

 ティナの【ラリホー】で、ゆっくりとまぶたが重くなっていく。

 今まで受けた中で一番優しく安らぐ【ラリホー】で俺はようやく眠りにつくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書45―アルスの日記―

 魔王『バラモス』は強大な敵だ。だけど俺には仲間がいる。

 復活させた『ラーミア』でアリスを助けに『バラモス城』に飛んだ。

 今度はもう負けない。

 

 あまり気張らずにアルスのペースで行け。行く手を阻むものは全て私が切り開いてやる。

 

 




一日一章という電撃投稿もいよいよ最終日。
一人でも楽しんでくれる人がいるならと投稿し出した黒歴史。
残り僅かを少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


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x忘れてはいけないことxNo.1アリシア

アリシアとアリスのお話。


 信じられなかった。

 何よりもアリスのことを忘れていたのが信じられなかった。

 

 何で私は友達のこと忘れてたんだ。

 例えそういう効果の魔法だったとしても忘れたらダメなことだってある。

 

 

 

 アリスは昔からアルスと仲が良かった。

 

 

 

 

 誰にでも優しい子でアルスに紹介された。

 不器用な私を見て初めは手紙でやりとりしてくれた。

 

 

 「元気にしてる」とか「家では何やってるの」といった感じの普通に話してもいいような内容から手紙は始まった。

 

 

 仲良くなってからも、ずっと広場の木下に埋めてある宝箱に手紙を入れてやり取りを続けていた。

 仲良くなったきっかけだからずっと続けていきたかった。

 それとアリスとの手紙のやり取りは自然と素直に返事を書けた。

 

 

 

 

 そしてその日はアルスの誕生日だった。

 

 

 

 

 

「ところでアリス。最近アルスとはうまくやってる?」

「私アルス君と付き合ってるわけじゃないんだけど」

「何言ってるのよ。どう見てもお似合いじゃない」

 

 そう、二人はお似合いだ。

 アルスは私やティナやニーナとも仲がいいけど、アリスに対する態度だけどこか少し違う。

 

 私でも気付けたんだ。

 鈍感なアルスならとにかくアリスがそれに気付いてない訳ない。

 

「まさか私たち気にして付き合わない……って言うんじゃないでしょうね?」

「んー、それとはちょっと違うかな。今ならアリシアもチャンスあるよ?」

「私はいいのよ私は!」

 

 第一アルスが好きなのはアリスだ。

 私はアルスのことが好き……だと思うけどアリスなら許せる。

 ティナとニーナでも許せる。

 

 

 

 みんな私の大切な友達だから祝福してあげないと、ダメなんだから。

 それにアリスは私の最高の友達だから悔しくはない。

 

 

 

「アリス、やっぱり私に向いてないんじゃない?」

 手紙で「魔法使いの才能があると思うよ」なんて言われたから、実際にアリスに教えてもらったけど【メラ】すら出せない。

 

「そんな事言わないの。アルス君が魔王退治に行くまで後三年はあるんだから、ゆっくりやろう」

 そう言ってアリスは毎晩私の特訓に付き合ってくれた。

 

 

 

 それのおかげでようやく飛ばないけど【メラ】の火の玉は出せるようになった。

 

 

 

 アリスに自慢したかったけどもう夜遅いし、その日は昼からずっと雨だったから呼ぶのは悪い気がする。

 

 手紙に書いて宝箱にしまっておこう。

 きっと明日の朝にでも読んでくれると思う。

 私は手紙を書いて傘を広げて外に飛び出した。

 

 いつも埋めている木の下を掘り返して濡れないように宝箱に傘を差して手紙をしまう。

 うん、泥もつかなくってよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう、アリシア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 宝箱を埋め終わると後ろからアリスの声がした。

 アリスも宝箱に手紙を入れに来ていたんだ。

 振り返ると傘も差さずにアリスが笑顔で立っていた。

 

 

「ちょっとアリス! 傘も差さないで風邪引いたらどうするの!?」

「それを言ったらアリシアも宝箱に傘刺してずぶ濡れだよ?」

 

 

 それもそうだった。

 でもアリスは傘すら持っていない。

 多分アリスの家はすぐ近くだから窓から私の姿を見てやってきたのだろう。

 

 

「それとごめんね。折角【メラ】覚えてくれたのに私はもうアリシアに魔法を教えてあげられないや」

 

 

 アリスは笑ってそう言っていた。

 様子がおかしい。

 

 いつも嬉しそうに笑っていたのに作り笑いにしか見えない。

 強がっているようにしか見えない。

 雨でぐしゃぐしゃに濡れた顔が泣き顔にしか見えない。

 

 

 

 

 

「私のことは忘れていいから、みんなと一緒にアルス君のことお願いね?」

 まるで遺言のようだった。

 

 

 

 

「忘れていいって……そんなことできるわけないじゃない。何かあったの?」

「うん、ちょっとね。多分次に会う時……私はもう……」

 

 後半が聞き取れなかった。

 聞きたくなかった。

 アリスがどこかに行ってしまう。

 行かせたくない。その一身でアリスを抱きしめた。

 

 

 多分このとき私は泣いていたと思う。

 

 

「私のこと嫌いになったの? 魔法全然上達しないから嫌いになったの!? 一緒に……居たくなくなったの!?」

「そんな訳ないよ。私だって……ずっとアリシアの友達でいたかった」

 

 

 いつの間にかアリスの笑顔は消えてて雨の雫じゃない本物の涙を流していた。

 初めて見た。

 アリスが泣くくらいどうしようもないことなんだ。

 

 

「この業はティナじゃ耐えられない。それにいざという時にみんなを守ることが出来ない。私はみんなが壊れていくところなんて見たくないから。みんなに笑っていてほしいから」

 

 

 アリスの体が透けていく。

 抱きしめている感触もなくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルス君をお願いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私の中からアリスは消えた。

 

 

§

 

 

 私は一番の友達のことを忘れていたんだ。

 木下を掘り起こせばアリスと過ごした思い出がたくさん埋まっていたのに、今まで気付けなかった。

 

「これって……」

 

 掘り起こした宝箱の中に古ぼけた魔道書と、最近入れられたと思われる手紙が古い手紙の山の一番上に置かれていた。

 

 日付を見ると『ネクロゴンド』に行く前の日にちになっている。

 私は手紙の封を開けて目を通してみた。

 

 

 

 

私の親友アリシアへ。

 あなたがこれを読んでいるということは私の身に何かあったみたいだね。

 でも後悔はしてない。きっと私がダメでもみんなが生きているから。唯一つ心残りなのはアルス君とティナのことかな。

 多分二人はアリシア以上にショックが大きかったと思う。だからくじけずに二人を励ましてあげて。それと『バラモス』を倒すには人数が必要だから別れた仲間を集めてから『バラモス』に挑んでほしい。

 一緒に入れておいた魔道書はティナの両親が開発して私が引き継いだ魔法が載っている。アリシアならきっとマスターできると思うよ。

 戦いが終わった後もアルス君をよろしくね。

アリスより

 

 

 

 

 こんなの認めない。

 アルスが私を選んでくれるというのなら喜んで受け入れる。

 だけどこんな譲るようなマネをして、影からみんなを守って、また居なくなってアルスに心配掛けて、私とティナにも心配掛けて消えるなんて許さない。

 

 

 言いたい文句がたくさんある。

 言いたい想いがたくさんある。

 だからアリスは絶対に助ける。

 アリスが居る中でアルスに振り向いてもらうんだ。

 

 

 まだ泣かない。

 アリスはきっと生きている。

 だから助けるためにみんなを集めるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書45―アルスの日記―

 魔王『バラモス』は強大な敵だ。だけど俺には仲間がいる。

 復活させた『ラーミア』でアリスを助けに『バラモス城』に飛んだ。

 今度はもう負けない。

 

 あまり気張らずにアルスのペースで行け。行く手を阻むものは全て私が切り開いてやる。

 

 私もアリスを助けたいんだから一人で勝手に突っ走らないこと。いいわね?

 

 




【いじっぱり】だけど、真っ直ぐな時はどこまでも真っ直ぐな、そんなアリシアでした。


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x忘れてはいけないことxNo.2ティナ

ティナとアリスのお話。


 魔法が嫌いだった。

 

 私のお父さんとお母さんは偉大な魔法使いで、危険な魔法に失敗して文字通り消滅してた。

 何もかもがどうでもよくなって、アルスが私なんかの為に無理をして辛い思いした事がある。

 

 

 

 

 だから自分自身も嫌いだ。

 

 

 

 

 それでもアルスと居るのが楽しくて、みんなと居るのが楽しくて、自然に笑えた。

 みんなは優しいって言ってくれる。

 ちょっとだけ私というものが好きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすまないと思っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 私を引き取ってくれた神父さんが頭を下げてきた。

 どうやら私は棺おけの加護という特別な力の素質をもっているらしい。

 存在を消してアルスの助けになればいい。

 

 もちろん私はアルスの為ならこの身を捧げてもいいと思っている。

 私のことを心配して毎日やって来てくれたのに、私は酷い態度をしてしまった。

 私のせいでアルスは苦しい思いをした。

 それでもアルスは私の友達で居てくれた。

 

 存在がなくなったらアルスにはもう会えない。

 みんなとも会えない。

 これは私が悪い子だった罰なんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は魔法が嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔色、悪いよ?」

 アリスちゃんに心配された。

 

 アリスちゃんは鋭いから作り笑いをしてもすぐにバレてしまう。

 だけどアリスちゃんは優しいから他の人の前では気付かない振りをしてくれる。

 

「大丈夫だから。ちょっと気分が悪いだけだよ」

 後一週間もすれば、私の存在の力を強制的に引き出すらしい。

 だから今日でみんなとはお別れだ。

 

 ずっと一緒にいたいなんて私はわがまま言えない。

 それに私が【棺おけの加護】にならないと、もしもの時アルスが死んだら助けてあげられない。

 分かってる。

 分かっているのに私は泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「消えたくないよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 望んではいけないことを望んでしまった。

「みんなともっと一緒にいたい……」

 望まなければよかった。

「みんなと一緒に笑って、お話をして、ご飯を食べて……友達でいたいよ……」

 

 

 当たり前の日常。

 友達と会える日常。

 それを望んでしまったのが私の罪。

 

 

 泣いている私にアリスちゃんは笑顔を見せてくれた。

 

 

「じゃあ、代わってあげる」

 

 

 私は悪い子だ。

 アリスちゃんに嫌なことを押し付けてしまった。

 

 

「私はティナよりも上手に力を使えるから」

 

 

 私はそれを止めようとしなかった。

 しようとしても声が出なかった。

 私はそんな泣くだけの私が何よりも嫌いだ。

 

 

 

 アリスちゃんは自分の力を見せて、自分の方が適任だと【棺おけの加護】を引き受けた。

 

 

 私の代わりに引き受けてしまった。

 

 

 アリスちゃんはとてもいい子で悪いことは何もしていない。

 それなのに私は私は!

 

 私の存在はアリスちゃんが代わってくれなかったらここに存在しない。

 だからこれ以上の事は何も望んだらいけない。

 友達と一緒に居られるだけで私は幸せだ。

 アリスちゃんは触れ合うことすら出来ないんだ。

 見ていることしか出来ないんだ。

 

 

 私にはとても耐えられない。

 でも代わってあげたい。

 それでも言い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は魔法も私も大嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスちゃんが【棺おけの加護】になるその日は午後からずっと雨だった。

 胸が苦しい。

 

 

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

 

 

 

 私は泣いていた。

 誰もいない部屋で謝っていた。

 やっぱり私がなればよかった。

 

 私なんかがいてもみんなに迷惑を掛けるだけだ。

 お父さんとお母さんが消えてしまった時の無関心な私に戻りたい。

 そうすれば何の抵抗もなく棺おけの加護という使命を受け入れて仕事を果たせた。

 

 

「ティナ、思いつめないの」

 

 

 いつの間にかアリスちゃんが私の後ろに立っていた。

 ドアを開ける音はしなかった。

 多分存在を消してやって来たんだ。

 

 アリスちゃんは雨に濡れてびしゃびしゃだ。

 慌てて私は洗面所からバスタオルを取ってきてアリスちゃんに渡してあげる。

 

「ありがとう」

「何で……」

 

 何で代わってくれたのか。

 

「【棺おけの加護】は非情にならないとダメな時もあるから。優しいティナには無理だよ」

 

 今日が終わったら存在を完全に消さないとダメなのにアリスちゃんは笑っていた。

 私は優しくない。

 ぜんぜん優しくなんてない。悪い子だ。最低の女だ。

 

 

 

 

「優しい子はね、そうやって自分ばかり責めて、押しつぶされて……」

 

 

 

 アリスが後ろから優しく抱きしめてくれる。

 雨で体はとても冷たくなっていた。

 だけど暖かい優しさが伝わってくる。

 私なんかに優しくしないでほしい。

 

 

 

 

 

「何のために生まれたのかな、って思ったことがあるんだ。私ね、捨て子だったの。お父さんもお母さんも本当の親じゃない。だけど大好き」

 

 

 

 

 

 初耳だった。

 何度もアリスちゃんの家に遊びに行ったことがあるけど仲のいい家族だった。

 

 

「それでね、恩返ししようって……最初は仕事で疲れてるお父さんに肩たたきをしてあげたの。そうしたらありがとうって言われて……なんだか心が温かかった。近所のおばあさんが道に迷ってて道案内してあげたらありがとうって言われた。やっぱり温かかった。だからね、私はありがとうって言葉が好き。本当の家族でなくてもいい。みんなにありがとうって言われたい。ただ、それだけなのかな」

 アリスは笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

「みんなの笑顔を守りたい。だから私は行くの。どこまでだって……それが私の生きる道だって思いたい」

 

 

 

 

 

 

「ならなんで私の代わりなんて……存在が消えちゃったら何も出来ないのと同じなんだよ!?」

「ティナに笑っててもらいたいから」

 

 当たり前のようにそう言った。

 ただ泣くことしかできない私なのに、アリスちゃんはそう言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それじゃあ、行って来ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の鐘が鳴った。

 振り向いて柱時計を見てみると0時だ。

 慌ててアリスちゃんを見るとそこにはもう誰もいなかった。

 

 私も少しくらいなら存在を操る力を持ってるんだ。

 忘れない。忘れたくない。

 もうアリスちゃんの顔は思い出せないけど存在だけは忘れない。

 

 だって私の代わりに消えたのに私が忘れてしまったら悲しすぎる。

 アリスちゃんが可愛そうだ。

 

 名前は思い出せない。

 だけど友達が私の代わりに消えてしまったことは覚えている。

 とても優しい子でみんなの笑顔を守りたくて消えた子がいる。

 

 私は笑わないとダメなのかな。

 消えた誰かのためにも笑っていないとダメなのかな。

 

 もう私は何も望まない。

 望んでしまって悲しい思いをするのはもうたくさん。

 みんなに優しい子でいよう。

 少しでも消えてしまったあの子に近づけるように努力しよう。

 アリスちゃんが戻ってきた時笑顔で「お帰りって」言ってあげよう。

 

 いつかきっと笑顔で会えることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書45―アルスの日記―

 魔王『バラモス』は強大な敵だ。だけど俺には仲間がいる。

 復活させた『ラーミア』でアリスを助けに『バラモス城』に飛んだ。

 今度はもう負けない。

 

 あまり気張らずにアルスのペースで行け。行く手を阻むものは全て私が切り開いてやる。

 

 私もアリスを助けたいんだから一人で勝手に突っ走らないこと。いいわね?

 

 絶対にアリスちゃんを助けようね。                  ティナより

 

 




ティナの闇は深い。
それに対してアリスはどこまでもお人好しな少女でした。
アリスのモチーフはパンの英雄ですが、このくらいなら歌詞の転用にならない、はず?


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x忘れてはいけないことxNo.3ニーナ

ニーナとアリスのお話。


 小さいころお父さんの仕事の薬草摘みについていって、誤って崖から落ちちゃったことがあるけどアリスちゃんに助けられた。

 

 もう【ルーラ】で飛んできてヒーローみたいでカッコよかった。

 アルス君も見習ってもらいたいね。

 そう思ってたら次の日アルス君の友達だって知ってビックリ仰天だー。

 

「ねぇねぇねぇねぇアリスちゃんどこかおでかけ?」

「うん。ちょっと外の見回り」

 

 アリスちゃんは朝と夕方に困っている人がいないか見回りをしているみたい。

 アルス君が知ったら止めるだろうから私とアリスちゃんの秘密だ。

 でも秘密って言いたくなっちゃうよね。

 アリシアちゃんに話そうとしたらアリスちゃんにバックドロップされた。

 

 

「秘密って言ったよね~ニーナ」

「あ、あれアリスちゃんお出かけしてたんじゃ」

 アリスちゃんは笑ってたけどとても怖かった。

「何よ秘密って。何か隠し事してる訳?」

「そうそうそうそう。実は私とアリスちゃんで夜な夜なアルス君の部屋に侵入して夜這いを~」

「しないから」

「痛い痛い痛い痛いよアリスちゃんっ! そんな事されたら私クララになってアルプスの草原じゃないと二度と立てない体になっちゃって感動の最終回はクララが飛んだーってロケット抱えて太陽まで飛ばないといけなくなっちゃうよっ!」

 

 今度はコブラツイストを掛けられた。

 普段は優しいけど少し怒ると107個の殺人技がすぐに飛んでくる。

 ツッコミレベルまで手加減してもらえなかったら本当にクララになるかも。

 

 だけど結局アリシアちゃんにも見回りしてることを話した。

 アルス君に知られなければいいらしい。

 あれ、それって私何のために技掛けられたんだろ。

 

「それにしても困った人がいないか見回りなんてアリスらしいわね。今日から私も手伝う」

「あ、それ賛成賛成大賛成! なんだか楽しそうだしアリシアちゃんの珍プレーやポロリが有ったり無かったりしてもう目が離せないね! という訳で今日はティナちゃんも混ぜてみんなでピクニックだー!」

「遊びじゃないんだけど……でも楽しそうだからいいかな」

 

 さすがアリスちゃんだ。

 少し溜息が混じってたけど笑顔で許可してくれた。

 

 さっそく道具を袋に詰め込んでいざ出発。

 ティナはお弁当を作って午後に来てくれるみたい。

 

「子供だけで外出るのって初めてだからわくわくするね。ドキドキするね。一体この先何が待ち構えているのか! うわ、危ないアリスちゃん! 足元にGのたくさん入った袋が! これは取ろうとしたら発動する魔物の罠に違いないね!」

「このふくろは『レーベ』の道具屋のふくろみたいだね。少し先に落としたのに気付いて道具屋のオジサンがふくろを探してるから届けてあげよう」

 

 そう言ってアリスちゃんはふくろを拾って『レーベ』の方に歩き出した。

 少し歩くと知らないオジサンが「ないない」言いながら草の根を別けて何かを探している。

 

「道具屋さん。落し物ですよ?」

「ん、ああ! それだよそれ! そうか、君が最近人助けをしてるっていう女の子か。ありがとう拾ってくれて」

 オジサンは笑顔でふくろを受け取るとアリスちゃんも笑顔を返す。

 

「すごいわね。どうして道具屋のふくろだって分かったの? それよりもあそこからじゃ商人の姿も見えなかったでしょ」

「『鷹の目』に似た魔法を使ったの。この大陸にはもういくつもの目を配置してあるから大体の事はどこにいても分かるよ?」

「それって結構犯罪じゃないかな。ほらほらカップルが茂みでイチャイチャしてたりするのも見えちゃうんでしょ?」

「大丈夫。情報は映像じゃなくって文章を見ているみたいに起こった出来事が分かるだけだし、要らない情報は切り捨てて忘れているから大丈夫」

 

 アリスちゃんだから信じられるけど、もしもアルス君がこの能力を持ってたらお嫁にいけなくなっちゃうね。

 

「そうだアリスちゃんアリスちゃんアリスちゃん。今アルス君が何やってるか分かるかな?」

「うん。要らない情報として切り捨ててたから覚えてないけど、今度は切り捨てないで視るね。アルス君は今……」

 

 そこでアリスちゃんの言葉が止まった。

 

「私は何も見なかった。ニーナは何も聞かなかった。うん」

「ちょっとアリス。その言い方気になるじゃない」

「アリシア……聞いたらきっと後悔すると思うよ?」

 

 アリスちゃんは声を出して笑うのを必死でこらえて目からは涙が出ている。

 

「爆笑話を黙ってるのは体に悪いぞー。もう穴を掘ってそこに秘密を叫ぶように話してくださいヨ」

「でもこれって言ってもいいのかな?」

 アリスちゃんは少し迷っていたけど観念してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイーダさんに女装させられてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 すごく見てみたい光景だった。

 勇者になるために色々なことをさせられてるって聞いたことあるけど、女装までさせるなんて思わなかった。

 アルス君結構顔立ちが綺麗だし似合いそうなところがまた見てみたい。

 

「あいつも色々大変みたいね」

 アリシアちゃんはそう言っているけど顔を少し赤めているから、本当はちょっぴり見てみたいんだろうな。

 

 

「みんな~。お弁当持ってきたよ~」

 ティナが手を振ってやってきた。

 

 

 お弁当は簡単なサンドイッチだけどティナの料理はなんだっておいしい。

 みんなで食べると楽しい。

 こんな楽しい毎日がいつまでも続けばいいと思っていた。

 

 その日の最後にアリスちゃんが私に何かを言った。思い出せない。

 いつの間にか私はアリスちゃんのことを忘れていたんだ。

 

 

 

 

 皆の帰れる場所はアリスちゃんに「ただいま」って言ってほしくて作ったのかもしれない。

 

 

 

 

 私の作った平和な街で姉御もステラちゃんもフィリアちゃんも皆皆楽しく暮らしていける理想郷が欲しかった。

 

 

「あー! あんたそれ私が目をつけてのに!」

「うるさい。大皿の料理は早い者勝ちだ」

「アルスもアリシアちゃんもまだまだあるんだから喧嘩しないで仲良く食べよう」

「あるすのお肉ゲットー」

「俺が、俺の肉が奪われただと!?」

「はっはっは、ぼやぼやしているとアルスの皿の上に何も残らないぞ?」

「マリアお前もか!?」

「はぅ~。私この食卓戦争について行けそうにないですよ~」

 

 

 こんな夢を見なかった訳ではない。

 

 

「ほらほら―――ちゃんも早くお箸取って一緒に食べよ。早くしないとティナちゃんの料理みんななくなって空腹のあまりかゆうまになって路上をさまようことになっちゃうよ?」

「いや、さまよわないし」

 

 

 顔が分からなくっても、名前が分からなくっても、幸せな光景に彼女は確かに居た。

 私が望んだ夢。

 皆一緒に幸せに暮らす夢。

 今日ははっきりと顔が確認できる。

 名前も思い出せる。

 

 このまま夢から覚めなければずっと皆と笑い合える。

 だけど――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからもみんなの笑顔でいてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中だけどアリスちゃんにそう言われた。

 夢の中で笑っていても笑えるのは私だけだ。

 実際にみんなが笑ってくれないと意味がない。

 

 

 いつの間にかアリスちゃんは消えてて、私は蚊帳の外で何も知らない。

 だけどアリスちゃんは私の友達だ。

 また本当のアリスちゃんの笑顔を見たい。

 

 

 

 

 夢ならいつでも見られるから私は目を覚ました。

 

 

 

 

 今まで忘れていたアリスちゃんのことを急に思い出したんだ。

 アリスちゃんの身に何かあったに違いない。

 私は荷物をまとめて旅立ちの準備を整えた。

 

 後はアルス君かアリシアちゃんが迎えに来るのを待つだけだ。

 希望は捨てない。

 だってまだアリスちゃんにまだ「ただいま」って言ってもらってないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書45―アルスの日記―

 魔王『バラモス』は強大な敵だ。だけど俺には仲間がいる。

 復活させた『ラーミア』でアリスを助けに『バラモス城』に飛んだ。

 今度はもう負けない。

 

 あまり気張らずにアルスのペースで行け。行く手を阻むものは全て私が切り開いてやる。

 

 私もアリスを助けたいんだから一人で勝手に突っ走らないこと。いいわね?

 

 絶対にアリスちゃんを助けようね。                  ティナより

 

 またみんなで一緒にご飯食べたり騒いだりしようね。今のうちにみんなでアリスちゃんにする罰ゲームを考えよう♪

 

 




帰って来て欲しい人がいるから自分の手で作った理想郷。
ニーナはとても強い子だと思います。


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第四話「魔王バラモス」

バラモスとの決戦。
大分戦場がごちゃごちゃとしております。


 眠ったおかげで少し体が楽になった。

 

 『バラモス城』周辺にはまだ結界が張られている。

 まだアリスは戦っているのだろうか。

 

 『ラーミア』から見下ろした戦況は既に『ポルトガ』、『ロマリア』、『エジンベア』、『サマンオサ』の船が四方から島に上陸していて、端の方には海賊船も泊まっている。

 

 『ネクロゴンドの祠』の方でステラとフィリアが手を振っていたのが見えたので、『ラーミア』をそこに下ろした。

 

「アルスさんお久しぶりです」

「アルスー。元気でろー」

「二人共相変わらずだな。とりあえず戦況報告してくれ」

「はい。『エジンベア』含めた四国が上陸して今魔王軍を押しています。とにかく勇者が来るまで気をそらすという作戦なので、上手く引いたり押したりして今のところ戦死者は奇跡的に0です」

 

 なるほど。

 加勢してくれるのは嬉しいけどもしも死者がたくさん出てたら後味悪いからな。

 うむ、『ラーミア』の飛行速度が思った以上に速くて何とか間に合ったか。

 

「お父さんはみんなと山のぼりしてる」

 フィリアはそう言って『バラモス城』の方に指を指す。

 

 周りを囲んでいた瘴気の川は神官に貸した『渇きの壺』で見事に干上がっていた。

 なるほど、進行可能にするために貸してくれなんて言っていたのか。

 しかし自分の足で『バラモス城』に行くとはオッサンも根性あるな。

 

 

「先に言っておくけど目的はアリスの救出だ。だけどアリスだけ助けたって意味がない。全員死ぬなよ」

 

 

 自分で言ってて無茶苦茶な命令だったと思う。

 ここは魔王城なんだ。

 犠牲を気にしていたら魔王なんて倒せないのは分かっている。

 だけどこんな時だからこそわがままを突き通したい。

 全員に『祈りの指輪』を持たせる。

 

「死んだらそれを取り上げるから覚悟しろよ」

「ほう、つまり最後まで立っていれば嫁にもらってくれるのだな?」

「いや、そういう意味じゃ……」

 

 マリアの言葉でなんだか皆が勝手に盛り上がっている。

 まあ士気は上がったからよしとしよう。

 

 指輪も渡せたことだし俺達は『ラーミア』で『バラモス城』に突っ込むことにした。

 『ラーミア』で飛んでいると途中で大きな穴が見える。

 

 

「『ギアガの大穴』だ。一説によるとあそこから『バラモス』がやって来たとも言われているな」

 

 

 俺の視線の先に気付いてマリアが説明してくれた。

 そういえば『浅瀬の祠』で全ての災いが出た場所だとか何とか聞いたような気がする。

 

 

 

「今は『バラモス』が来た原因よりもアリスを助けることだ。一気に『ラーミア』で突っ込むぞ!」

 『ラーミア』で急降下してモンスターが反応する前に素早く城に乗り移る。

 だが、流石『バラモス城』だ。

 どこから入ってもモンスターが待ち構えている。

 

 

 『ガメゴンロード』に『エビルマージ』がいきなり飛び掛ってくる。

「邪魔をするな!」

 俺はそれを火炎切りで払いのけ、接近戦のニーナとマリアが素早く攻撃して第一波は何とか退けた。

 だが次から次へとモンスターがやってきてきりがない。

 

 

「へっ、鳥で飛んでくるとは面白い方法考えるじゃねぇか。ここは俺たちに任せな!」

 

 

 壁が吹き飛びアッシュが敵の群れに突っ込んでいく。

 もうこいつは山を登りきったのか。

 当然ながらオッサンも外の方でモンスターを軽くあしらっている。

 

 更に城の入り口の方に海賊達が押し寄せてモンスターと激突している。

 注意がそれた。

 今なら中央突破できる。

 

「ニーナとマリアは通り道の敵を切り崩してくれ。ステラとフィリアはそのバックアップ。ティナとアリシアは後方支援を!」

 

 とにかく今は前に進むしかない。

 テラスから飛び出すとまたモンスターの群れが襲ってきた。

 『スノードラゴン』に『動く石造』と大型モンスターばかり並んでいる。

 

「ここは任せろ」

 マリアがモンスターの群れに飛び込んでいった。

「マリア!」

「安心しろ。折角もらった指輪を取り上げられたくないからな。お前は何も気にせずにお前のお姫様を助けに行け」

 

 マリアの特攻により大型モンスターの群れの一部に穴があき道は開いている。

 だけどマリアは持久戦は不向きだ。

 放っておくことはできない。

 

「【ホイミ】くらいなら出来ますから私はここでマリアさんと敵の足止めをします!」

 ステラがそう言って、マリアに吹雪を吐き出そうとしていた『スノードラゴン』の頭を蹴り飛ばして息を暴発さ、再び息をしようと開いた口に手を突っ込んでそのまま【イオ】を放ち【スノードラゴン】の頭を吹き飛ばす。

 

 

 役に立とうと本気で努力してくれたのだろう。

 見違えるほど強くなって戻ってきてくれたものだ。

 

 

 ここは二人居れば大丈夫だ。信じろ、仲間を。

 二人が作ってくれた道を駆け抜ける。

 

 また建物の中に入り回路を駆けて行くと再び『エビルマージ』の群れが立ち塞がった。

 無駄な浪費は避けたいのに魔法は【バギ】系しか通用しない厄介なヤツだ。

 

 

 ニーナとフィリアが素早く攻撃してくれたので、それに合わせてチェーンソードで敵を一掃するが、後ろから『ライオンヘッド』の群れがやって来た。

 

 

「ここはニーナちゃんにお任せ!」

 

 

 ニーナが『眠りの杖』をかざした。

 さらに『さばきの杖』で風を引き起こして相手を寄せて、チェーンランスで一気にそれを通路の奥まで吹き飛ばす。

 

 

「みんなは先に行ってね。絶体絶命のピンチになったらヒーローのように駆けつけるからその時はまたよろしくね!」

 

 

 ニーナ一人だと危険だ。

 止めようとしたらアリシアに手を引っ張られた。

 持久戦だと人間の方が不利なんだ。

 

 『バラモス』を速攻で倒して、世界各地のモンスターを浄化した方が皆無事に生き延びることは分かっている。

 

 それにニーナだって強いんだ。

 簡単にはやられはしない。

 

 

 そう、体力や魔力を浪費してない俺含めた四人が『バラモス』までたどり着いて、速攻を仕掛ければいいんだ。

 

 

 バリア地帯に囲まれた玉座には『バラモス』の姿はない。

 外か。アリシアの【トラマナ】でバリアを突破して外に出ると、また『動く石造』の群れが待ち構えていた。

 もうメンバーは四人しか居ない。

 ここは戦いながら『バラモス』を探すしかないか。

 

 

「俺は人間が嫌いだ。だけど俺達の女神が……【棺おけの加護】がピンチと聞いた」

 

 

 無数の剣筋が『動く石造』を押し倒した。

 『骸骨剣士』の群れがなぜか俺達に加勢してくれている。

 アリスの奴、思わぬ助っ人を作ってくれていたようだ。

 

「貴様ら魔物の癖に人間の味方をするのか!?」

「我ら一度は散った命。もはや『バラモス』に義理立てする理由なし! 降格の恨みここで晴らしてくれる! 行くぞ兄弟達!」

 『骸骨剣士』の群れと『動く石造』の群れが衝突する。

 

「昨日の敵は今日の友とはよく言う。ここは任せたぞ」

「笑止、我らの女神を頼んだぞ憎き勇者よ!」

 

 俺は背中を『骸骨剣士』達に任せて前に進む。

 

 奥に地下に下りる階段が見えた。

 前感じた魔王独特の威圧感が下から感じられる。

 

 だが階段の前に『エビルマージ』の群れ、空からは『スノードラゴン』の群れが待ち構えている。

 

 

「みんな先に行って」

 

 

 そこでアリシアが足を止めた。

 古ぼけた魔道書を広げて『理力の杖』を振りかざす。

 

 

 

 

 

「【ベタン】!」

 

 

 

 

 

 聞いたことのない呪文だった。

 『エビルマージ』の群れと『スノードラゴン』の群れが重力で圧し潰されていく。

 

「【メラミ】!」

 

 更に射程から外れていた『スノードラゴン』に【メラミ】をぶつけて怯ませる。

 

 

 

「アリスを助けに来たんでしょ。男ならほれた女の子くらい守りなさいよ!」

 

 

 アリシアがここで足止めしてくれなければ、『バラモス』と同時にこいつらまで相手をしなくてはならなくなる。

 

「すまない」

「だから謝るな!」

 

 俺はそんないつものアリシアを背に階段を駆け下りた。

 城全体を覆っていたまがまがしい空気が濃くなる。

 

 そして圧倒的な威圧感。

 祭壇のような場所に『バラモス』は立っていた。

 

 

「またきたか勇者よ。今度こそ腸を食らいつくしてくれよう」

「アリスはどこだ」

 

 

 アリスの姿はどこにも見当たらない。

 

 

「あの女か。ダメージが思いのほか大きかったのでな。我の魔力の糧となってもらった」

 『バラモス』が何かを投げつけてきた。

 それは俺の足元にボトと落ちる。

 

 

 

 

 誰かの左腕だった。

 少し火傷がある左腕。

 腕なんてどうでもいい。

 火傷なんてどうでもいい。

 ただその薬指には『祈りの指輪』がはまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか美味であったぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後ろでティナが膝を突いた。

 音もなく泣いている。

 

 フィリアは『アサシンダガー』を抜いて既に戦闘態勢に入っていた。

 

 俺は、俺は―――――――――――――――――――――――――――

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 怒りに任せて剣を振っていた。

 

 

 好きだった。

 守りたかった。

 

 

 ずっと棺おけの加護なんてバカなものに縛られて寂しい思いをしていた。

 これからなのに。

 アリスを幸せにしてやれると思ったのに。

 もう寂しい思いをさせないために『バラモス』を倒すと決めたのにこいつは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラモス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実にいい顔だ。憎しみに満ちたその顔だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前はもう喋るな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの女は最後の最後まで希望を捨てず未来を信じて戦っていたのに勇者とはなんとも意志の弱い生き物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダマレ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の一撃は空振りに終わった。

 かわされた。

 

 【イオナズン】が来たから『雷神の剣』で自分の体を吹き飛ばして攻撃を避け、更に自分の【イオ】で起動を変えてもう一度斬りつける。

 だが、それも避けられて打撃を受けた。

 

 

「遅い遅い遅い遅い遅いぞ勇者よ。つまらぬ奴だ。地獄の業火でその身を焼くがよい!」

 

 

 【激しい炎】が俺に迫る。だからどうした。

 『魔法の盾』で受けながら【ライデイン】を『バラモス』に落とす。

 

 少し効いているがまた打撃を直撃してしまった。

 だけど俺の鎧は『刃の鎧』だ。自分の力でダメージを受けるがいい!

 

 

 

「……落ち着いて」

「うるさい!」

 

 

 

 誰かに声を掛けられたが構っていられない。

 今度は【メラゾーマ】が来た。

 それを【火炎切り】で相殺したら衝撃で俺の体が吹き飛ぶ。

 更に【メダパニ】が来るが俺の敵は【バラモス】だけだ。そんなもの効かない。

 

 またこりずに【イオナズン】をしてきた。

 寸前のところで交わして懐にもぐりこむと、今度は【バシルーラ】で壁に叩きつけられた。

 

 さらに【イオナズン】で俺の体が宙に浮いた。

 反撃しようとしたら体が動かない。

 いつの間にかダメージを受けすぎている。

 打撃が来る。避けられない。

 

 

 

「落ち着いて」

 

 

 

 フィリアが俺の体を抱きかかえて『アサシンダガー』でバラモスの打撃をそらした。

 そしてすぐにまだ膝を突いているティナの方に飛んで、俺の『魔法の盾』を『バラモス』に向けて投げつける。

 

 

 すると【激しい炎】が盾に当たってこっちまで届かなかった。

 

 

「アルスもティナも落ち着いて。そこで少し頭を冷やしてて。憎んでも泣いても……どうにもならないから」

 フィリアが『バラモス』に突っ込んでいく。

 それを『バラモス』は鋭い爪で応戦する。

 そしてすぐに【メラゾーマ】を撃ってから牽制で【メダパニ】を撃ってくる。

 

 

 憎んでもどうにもならない……分かっているけどどうにもならない。

 だけどこのままだと全滅だ。

 俺達がここで全滅したらアリスは何のために俺達を逃がしてくれた。

 アリスは何のために今まで【棺おけの加護】なんてものになってた。

 ここにたどり着くまでに敵の足止めをしてくれた皆の行動が無駄になってしまう。

 

 

 頭が醒める。

 『バラモス』は憎い。

 でも冷静になれ。

 

 

 今フィリアが『バラモス』を抑えてくれている。

 だが攻撃を防ぐのがやっとだ。

 これ以上はもたない。

 

 

 

 

「ティナ。後悔するのは後だ。あのくそ野郎をぶっ飛ばすぞ」

「……うん」

 ティナも動ける。

 まだ不安定だけど戦える。

 

 ティナは涙を手の甲でぬぐって『バラモス』を睨みつけた。

 

「取り囲むように陣形を組むぞ! まとまると範囲攻撃の餌食だ!」

 

 まずは陣形を組む。

 そして『草薙の剣』とティナの【ルカニ】で相手の守備力を下げる。

 

 

「こしゃくなマネを」

 

 

 【イオナズン】が俺に来た。

 『魔法の盾』はさっきフィリアが使って床に転がっている。

 『草薙の剣』で防いでみたけど、やっぱり耐え切れずに『草薙の剣』は吹き飛ばされ地面に突き刺さった。

 

 

「【ベホマラー】!」

 

 

 ティナの範囲回復で少しは楽になった。

 だがそれを見て『バラモス』は【バシルーラ】をティナに放つ。

 

 何とか外れてくれた。

 

 その隙に『雷神の剣』を振り下ろしたがまた避けられた。

 『バラモス』は俺達が一回行動する間に二回は行動できる。

 

 更に動きに無駄がない。

 まず動きを封じなければ攻撃すら当てられないのか。

 でも何とかなる。動きを封じるチャンスはある。

 

 

 また【イオナズン】が来てフィリアの体が爆発で宙に浮いた。

 さらに追撃するようにフィリアに向かって勢いよく地を蹴る。

 

 

「【ピオリム】!」

 ティナの補助でこっちの速さが底上げされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はこいつを……この瞬間を待ってた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チェーンソードの鎖で『バラモス』の腕を拘束する。

 『バラモス』は魔力のチャージ時間の問題かずっと()()()()()()()()()だ。

 

 だから、この【バシルーラ】の次にくる【イオナズン】の後には魔力温存の為、確実に打撃攻撃で来るんだ。

 打撃攻撃の瞬間なら例え魔王でも一瞬の隙が出来る。

 そこを狙えばいい。

 一気に鎖を引き寄せる。

 

 

 

「この短期間で余の行動を読んだというのか!?」

「同じ行動ばかりならバカでも分かる!」

 

 

 

 そのまま『雷神の剣』で斬りつける。

 ダメージはある。

 だがこいつには自動回復がついているんだ。

 だけどこの接近した状態で魔法を使えば『バラモス』は自爆だ。

 

「フィリア!」

「いくよ」

 

 フィリアが素早く斬りつけて、『バラモス』が避けようとすれば鎖を引き寄せ『雷神の剣』の重い一撃を叩き込む。

 

 

 

「調子に乗るな!」

 

 

 

 『バラモス』は【激しい炎】を吐き出した。

 ローテーションどおりだ。

 

 

「もう二度と後悔したくないから! 泣き虫なままじゃダメだから!」

 俺の僅かなしぐさの合図を理解しティナの【フバーハ】が炎を和らげる。

 

 

「ここで『バラモス』を仕留める!」

 俺はチェーンソードを『バラモス』の胸に突き刺して『雷神の剣』で斬りつける。

 

 『バラモス』が怯んだ。

 

 その隙に後ろからフィリアが『アサシンダガー』で『バラモス』の背中を突き刺し、背中を蹴飛ばしてそこから離脱した。

 

 

 

 後はトドメだけだ。

 

 

 

 一瞬、転がっているアリスの左腕が視界に入った。

 気をそらすな。

 まだ『バラモス』は生きている。

 

 

「我は認めぬ。認めぬぞ!」

 

 

 『バラモス』の右腕が俺の左腕を掴んだ。

 更に左腕を俺の腹部に当てる。

 次に来るのは【メラゾーマ】だ。

 

 

「人と魔族の戦争は魔族の勝利に決まっておる。貴様さえ居なければ世界は余が支配できた! 貴様さえ居なければ!」

「俺は……俺達は戦争をしてるつもりはない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただみんなと幸せに暮らしたかった。

ただ、それだけなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルス!」

「アルス避けて!」

 避ける時間なんてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでアルス君はどの指にはめてくれるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎に焼かれる中でアリスの笑顔を思い出せた。

 もう見ることの出来ない笑顔だ。

 ここで燃え尽きたら向こうにいるアリスに怒鳴られるだけだよな。

 

 

 分かってる。

 分かってるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒せば、いいんだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 回復する時間なんて与えない。

 【ギガデイン】の電撃を『雷神の剣』に集中させる。

 

「ギィィィィィィィィィガ・スラァァァァァァァァァァァッッシュゥ!」

 

 激しい雷撃を剣と共に振り下ろす。

 その瞬間に体から力が抜けていく。

 『バラモス』は今ので倒せただろうか。

 

 

 

 

みんなは無事だろうか。

俺は、生きてるのだろうか。

 

 

 

 

 

 光が見える。

 光の先でアリスが笑っている。

 だけど近付こうとしても近付くことができない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルス君が帰る場所はここじゃないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それも分かってるさ。

 分かっているけど、涙が止まらない。

 気が付いた時、俺は『バラモス』の亡骸の上で子供のように泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

私の声が聞こえますね?

あなたたちは本当によく頑張りました。

さあ、お帰りなさい。あなたたちを待っている人々のところへ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書46―アルスの日記―

 気付いたら船に居た。

 どうやら『バラモス』を倒した後俺は倒れてしまったらしい。【ギガデイン】の反動は思ったほどない。使用できるレベルまで達したということだろうか。

ティナもアリシアもニーナもマリアもステラもフィリアもみんな無事だ。海賊達も誰も欠員はいない。

 これ以上ないというくらいに犠牲者は少ない。魔王が居る大陸に乗り込んで犠牲1名という魔王戦は歴史の中で俺が初らしい。

 みんなが無事だったのは素直に喜んでおこう。

 これで世界は平和になる訳だがまあ一緒に旅をした腐れ縁だ。

 落ち着いたらまた顔を出すからその時はよろしく頼むわ。

 

 




苦労し続けて来たのに、一番大切な者を守れなかった勇者。
それでも人々は世界を救った英雄だと勇者を称えます。
各国と結束し、戦死者1名で済ませた英雄として語り継がれます。
それはきっと勇者にとっては辛いことだから、今だけは安らかな眠りを。

後2話+打ち切り用の新規エンディングまでは見守ってあげましょう。


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第五話「戦いの後に」

それからのお話。


 左腕しかなかったけどアリスの墓は出来た。

 アリスの物の他に、俺の『祈りの指輪』も一緒に入れてもらった。

 

 せめて俺の気持ちだけでも向こうに届いてくれれば幸いだ。

 

 アリシアは人前では泣かなかったけど、多分一人の時にたくさん泣いている。

 ティナとニーナはずっと泣いていた。

 

 

 

 

 俺は、もう流す涙は全部流した。

 

 

 

 

 モンスターは大人しくなる様子はなくまだ人間を襲ってくるらしい。

 魔王を倒してもすぐには大人しくならないといったところか。

 当分は人助けの旅を続けることになるだろう。

 

 

 

 『アリアハン』の王に急に呼び出された。

 世界を救ったお礼をしたいそうだ。

 別に気を遣わなくてもいいのに。

 

「アルス。そなたになんと侘びをすればいいことか。父を亡くし愛する者を亡くし……本当にすまなかった」

 別に王のせいじゃない。

「こうして平和になったのだから親父もアリスも喜んでくれた筈です」

 そう信じたい。

 

「そうか……そう言ってもらえるとわしも少しは気分が楽になる……。そうじゃ、これから祝いの宴を開こう。この宴で少しは気を晴らしてくれ」

 多分アリシア達はそんな気分じゃないだろうから呼ばないで適当に参加しよう。

 魔王を倒した勇者が宴に参加しないなんて街のみんなを不安にさせるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 兵士達がファンファーレを吹いた。

 その直後だった。

 黒い稲妻が兵士達を焼き尽くす。

 

 

 

 

 

 何が、起きたのか分からない。

 だけど『バラモス』を前にした時のような威圧感が、いやそれ以上の威圧感がこの王の間を包み込む。

 

 

 

 

 

 

「わははははははっ! 喜びの一時に少し驚かせたようだな」

 

 

 

 

 

 

 声がした。

 

 

 

 

 

 

「我が名は“ゾーマ”。闇の世界を支配する者」

 

 

 

 

 

 

 不気味で恐ろしい声だ。

 姿は見えない。

 遠距離魔法で攻撃して信念波のようなもので語りかけてきたのだろうか。

 もしそうだとしたら魔力の桁が違う。

 

 

 

 

 

 

「このわしがいる限り、やがてこの世界も闇に閉ざされるであろう」

 

 

 

 

 

 

 王の真上が光った。

 俺は慌てて王を突き飛ばす。

 次の瞬間には黒い稲妻が玉座を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

「さあ苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしの喜び……命ある者すべてをわが生贄とし絶望で世界をおおいつくしてやろう」

 

 

 

 

 

 

 黒い稲妻はもう落ちてこない。

 

 

 

 

 

 

「我が名はゾーマ。闇の世界を支配する者。そなたらが我が生贄となる日を楽しみにしておるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 そして不気味な声は背筋が凍りつくような笑い声と共にゆっくりと遠ざかっていった。

 明らかにこれは宣戦布告だ。

 『バラモス』を倒した勇者である俺への宣戦布告だ。

 

 

「なんとしたことじゃ……。やっと平和が取り戻せると思ったのに……。闇の世界が来るなど皆にどうして言えよう」

 

 

 王は今の出来事で完全に生気を無くして呆然としている。

 親父とアリスが守ろうとした世界をそう簡単に闇に閉ざされてたまるか。

 

 確か『ギアガの大穴』から『バラモス』は来たんだ。

 なら今度はそこから魔王『ゾーマ』が出てくる前にこっちから倒しに行けばいい。

 

 

 

 皆には……知らせない。

 もうあんな悲しみはごめんだ。

 『ゾーマ』は俺一人で倒す。

 

 

 俺は心配させないように母さんに「困っている人を助けてくる」とだけ言ってアリスの墓に報告しに行った。

 

 

「今度こそ世界守ってくるからな」

 やることは全てやった。

 俺は『ラーミア』に乗って『ギアガの大穴』を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書47―アルスの日記―

 自称闇の世界を支配する者『ゾーマ』に宣戦布告された。

 長距離魔法に信念波と桁外れの魔力だが魔王は勇者に敗れるのはお決まりだ。

 やることはやったし今度は俺の方から『ゾーマ』の住んでいる所に攻め込もう。

 『ラーミア』で『ギアガの大穴』にGOGOGO!

 

 

 

 

 




アルスは空元気で冒険の書に筆を走らせゾーマに挑む。
人間はそんなに強くはない。けれど勇者だからやらなければならない。
何よりも失った大切な人が平和を願ったのだから。
もう誰も失いたくない想いから一人旅立ちます。


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エピローグ

それでも歩き続ける物語。


「うは、なんか崩れてるよ」

 建物らしいものがあった跡と穴を囲っていた壁が崩れている。

 

 

「友人がこの穴に落ちちまった! これはえらいこったぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 兵士から事情を聞くと彼はこの穴を監視するように命じられていて、急に地震が起きて壁ごと仲間が一人落ちてしまったらしい。

 

 穴を覗き込んでみると底がまったく見えない暗闇だ。

 その落ちた奴を助けるにも飛び降りるしかないよな。

 

 

「アルス。私達をおいてどこ行く気?」

 アリシアの声がした。

 

 振り向くとアリシアだけではなくてティナとニーナの姿まであった。

 『ラーミア』は俺が使っていたのにどうやってここまできたのだろうか。

 

「『ラーミア』で飛び立つアルスの姿見たからアリシアちゃんに相談したの。そうしたらきっとここしかないって【ルーラ】で……」

「アリシアちゃんの【ルーラ】磨きが掛かってるんだよ。『ネクロゴンドの祠』に飛んでから【ルーラ】を何回もやって山を越えてここまで来たんだから」

 

 先回りされていた訳か。

 

「あんたのことだからどうせ一人で行く気だったんでしょ」

「今度の敵は“バラモス”より強い。皆はここに……」

 

 残れと言おうとしたらアリシアに殴り飛ばされた。

 久々に殴られた気がする。

 

 

「強いならなおさら。あんたが誰も死なせたくないって思うのと同じように、私達だってそう思ってる。もう二度と大切な人を一人で戦わせなんかしない」

 

 

 アリシアは強いと思う。

 俺なんかよりずっと心が強い。

 俺は目の前で誰かが死ぬのを見たくなくて一人で旅立とうとしていた。

 

 

「すまない」

「最近あんた謝りすぎ。分かったらさっさと新しい敵倒して世界を平和にするわよ」

「ああ、そうだな。みんなでさっさと方をつけよう」

 

 

 もう誰も死なせはしない。俺が守る。

 俺は覚悟を決めて『ギアガの大穴』に飛び込んだ。

 深い闇の中を落ちていく。

 

 そして気が付くと暗い闇に包まれた世界に立っていた。

 

 船着場のようなところだ。

「なんだ。また上の世界から人がやってきたのか」

 人間が居た。

 海に釣竿をたらしている。

「上の……世界?」

「ここはアレフガルト。あんたが居る世界の下にある世界だ。お、ひいてるひいてる」

 男は釣竿を引き上げるとよく分からない魚が糸にぶら下がっていた。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 上の方からアリシアの叫び声が聞こえた。

 見上げた瞬間振ってきたアリシアに潰された。

 それに続いてニーナとティナも俺の上に振ってくる。

 

「ちょっとアルス! こんなに高いなんて聞いてないんだけど!」

「なんだか落ちてるときスーってして怖気持ちよかったですヨ。ねぇねぇねぇねぇアルス君アルス君アルスく~ん。もう一回上に上って落ちてみようよ!」

「あ、アルスごめん!」

 

 どいてくれたのはティナだけで、アリシアとニーナはまだ俺の上に乗っかっている。

 いいからお前らどけ。

 

「また元気なのが来たものだ。泊めてある船は自由に使ってくれ。まっすぐ東に行けば城が見えてくるからそこでこの世界のことを知るといい」

 奥の方に立派な船が泊まっていた。

 

「いいんですか?」

「絶望のふちに沈んだ私にはもう必要のないものだ」

 

 よく分からないが『ゾーマ』の恐怖で『アリアハン』の王と同じように生きる気力をなくしてしまっているのだろうか。

 男はまた釣りを始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書48―アルスの日記―

 『ギアガの大穴』についたらアリシア達に先回りされていた。

 みんな付いてくる気満々だから一緒に行くとしよう。

 穴から飛び降りたら変な船の停泊場についた。男を今日一日観察してみたが釣りをして食事をして寝ているだけだ。一人暮らししてるのかと思いきや子供と一緒に住んでいるようだ。なんだか外は暗いし今日はここで少し世話になるとしよう。

第十章「バラモス編」完

 

 




ここから先は最初の4人でまた旅立ち、マリアが来て、ステラとフィリアが来て、だけどアリスだけがそこにはいない物語。
大切な者を失った勇者はこれ以上失わない為に戦い、絶望に沈んだアレフガルトの希望の光となりました。
最後は上の世界と下の世界、両方の想いを募らせたミナデインで絶望を打倒すも、戦闘中【オクルーラ】で上の世界に送り返した戦闘不能になった仲間達は上の世界に、勇者だけは下の世界に取り残され、また望まない伝説が増えてしまいます。
そんな【くろうにん】の物語はここで打ち切りです。

最後に【くろうにん】が見た夢物語を笑ってやってください。
次回最終話「この青空に約束を-No.xxxアリス」


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第xxx章【くろうにん】の書
この青空に約束を-No.xxxアリス


これで最後となります。
打ち切り作品ですが、考察できる場所は考察して遊んでくださると嬉しい限りです。


 大きな岩をひたすら運ぶ夢を見た。

 森に差し込む光に当てられながら黙々と運び続けた岩は、運んで来た道に積み重なり、今では果てしない岩の道が出来上がっている。

 

 

 もう新しく出現した岩を西に動かすスペースはない。

 

 

 俺は近くに有った大樹を背に腰を下ろし一息つくことにした。

 木々の隙間から見える空は澄み渡る青空で、差し込む日の光がとても温かい。

 これからだというのに色々あって身も心も疲れた。

 少しくらい休んでもバチは当たらないだろう。

 

 

「こんなに運んでどうするのかな? 通行の邪魔になっちゃうよ?」

 

 

 休憩する俺をアリスが見下ろす。

 顔を上げ、その瞳を見つめると、いつものように「おはよう」と笑みを返してくれた。

 

「俺以外誰も通らない道だからいいだろ」

「それはそうだけど、いくら頼まれたからってこんなになるまで普通岩を押し続けるかな?」

 

 アリスは俺が頼みごとを断れなくて永遠と岩を運び続けていると勘違いしているようだ。

 いくら俺でも知らない奴の為にこれほどの岩を苦労して運んだりはしない。

 

「今度は岩を積み上げていく予定なんだ」

「あはは、その岩をよじ登っていく気なのかな。でも、そんなことをしても私に会えないよ?」

 

 それも知っている。

 いくら空を目指してもアリスに会うことは出来ないし、天国でアリスに会いに行くなんてバカな考えもない。

 

「空まで登って、神様ぶん殴ってシナリオ変えてもらう」

「わ、予想の斜めを行く飛んだ発想」

「資格があればさ、神様に挑めるらしいんだ。何度試してもアリスかマリアを失うから、腹いせに神様ぶん殴る」

 

 

 

 『ネクロゴンド』にマリアを連れて行けば『バラモス』をその場で倒せてアリスは助かるけど、マリアの体が限界を超えて蘇生すら受け付けなくなる。

 他のメンバーを連れて行っても、モンスターの群れで消耗したところで『バラモス』が来るので、結局アリスの力を借りることになり同じ結末を迎える。

 アリスと共に最初から全員で戦うと、『バラモス』は倒せても【棺桶の加護】の存在がバレて今度は『ゾーマ』にアリスを殺されてしまう。

 

 

 

 この積み上げていった岩は、そんな可能性の数々で、俺は今だ全員で笑顔を迎える未来をつかみ取れていない。

 

 

「アルス君。私のことでそんなに思いつめないで。ほ、ほら、私が居なくても可愛い子はいっぱいいるよ?」

「却下。全員揃ったハーレム以外認めない。皆俺に気があるってなら全員俺の嫁にする。勇者の子孫残すのに嫁は多いに越したことはないだろ。異論は認めない」

「うわ、最低な発想だ。あれ、でもニーナやマリアさんは普通に受け入れそうだよね。フィリアちゃんは気にしなさそうだし、ステラちゃんはアルス君と一緒に居られればと妥協しそうだし……アリシアもなんだかんだ言うけど、最終的には折れちゃいそうな気も……」

「アリスは拒否権ないしな」

「本当、何で私はこんな人好きになっちゃったんだろうね」

 

 

 アリスはたははと苦笑して、好きなことを否定できないことを誤魔化すように自分の頬を軽く人差し指でかいた。

 

 

 

 

 

「俺ってさ、我儘なんだよ。誰かが欠けてるのは嫌なんだ。皆笑っているハッピーエンドの方がいいに決まってる。アリスが居てさ、皆が居てさ、母さんの隣には親父がいてさ、どうせ苦労するならそんな未来をつかみ取りたいだろ?」

 

 

 

 

 

 それがこの果てしなく続く岩の道。

 諦めきれなかった【くろうにん】の望んだ夢は果てしなく遠い。

 

「本当にアルス君は【わがまま】で【あまえんぼう】で【くろうにん】なんだから。だけど、子供じみた夢だけど、私は嫌いじゃないな、そういうハッピーエンド。皆に笑ってもらうの、私も大好きだから」

 

 アリスがそっと俺に手を差し伸べる。

 休憩時間は終わりだ。

 俺はその手を取り立ち上がった。

 

「それじゃあ()()な、アリス」

「うん、()()ね。アルス」

 

 もうアリスの姿はどこにもない。

 けれど、夢の中だけど確かに『またね』と約束をした。

 澄み渡る青空の下で交わした小さくも大きな約束。

 

 その約束を果たす為に俺は再び岩を運び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書―アルス.ロトの日記-

  あたらしい すごろくが したい

  ちちオルテガを いきかえしたい

  エッチな ほんが よみたい

  アリスを いきかえしたい

▶うしなわれた ときを とりもどしたい

 

 




何一つ手放すことが出来ず、全てを得るまで勇者は岩を押し続ける。
記憶の受け継ぎも力の受け継ぎのなく、様々な選択肢を選んでは繰り返すことになる勇者。
そんな【わがまま】で【あまえんぼう】で【くろうにん】な勇者の冒険の書でした。

最後の選択肢はおなじみ神龍の選択肢に二択追加されたもの。
最後まで雑な文でしたが、ご愛読ありがとうございました。


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