シャノン・ラジールは山の翁 (解放軍の下っ端A)
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七星剣舞祭Cブロック2回戦
七星剣舞祭はステラ・ヴァーミリオンによりBブロックの対戦が終了してしまった為に1日に2回も試合が行われることが決定した。
選手達はそれに多少困惑したものの、すぐに気を取り直しコンディションを整えていた。
しかし、黒鉄一輝だけは違う。
彼の使う『一刀修羅』は1日に1度だけしか使えないのだ。
故に、午前に戦う貪狼学園のシャノン・ラジールに使うべきか、それとも午後に戦うことになるサラ・ブラッドリリーか倉敷蔵人の為に温存するべきか悩んでいた。
1回戦である程度の魔術を見せたサラと蔵人はともかくシャナに関する情報が少なすぎる。
シャナは1回戦で霊装すら顕現させず、一切の魔術を使用することなく体術のみで城ヶ崎白夜を圧倒してみせたのだ。未知数すぎる。
体術にしても、白夜がテレポートした場所に先回りして上段から顔面に蹴りを入れ続けるという情報しかなく、蹴りの姿勢や連繋の綺麗さからおおよその技量を推測するしかないのだ。
全くの未知数。故に黒鉄一輝は確実に勝つ為にある決断した。
『一刀羅刹』を使用してシャノンが何かしてくる前に決着をつけると。
相手が何をしてくるか分からないのであれば、何かしてくる前に倒せばいい、それだけだ。
時間が経ち、彼は選手控え室に移動するために歩きだし、ふと尿意を感じてトイレに行った。トイレに紙がない絶望。
そこで偶然にもシャノンもトイレに来ていた。
「よぉ、黒鉄。お前も小便か?」
「そうだよ。少し緊張しちゃったみたいでね。」
「ははは、俺もだ。あの諸星を倒した奴と戦うと思ったら体がブルッちまってね。」
その後も他愛もない会話をして、お互い控え室に向かう前にシャノンがこちらに振り返ってこう忠告してきた。
「死にたくなかったら『一刀修羅』だけは絶対に使うな。」
忠告の意味を聞こうと思った時には彼の姿は既に廊下の角を曲がってしまっていて見えなくなっていた。
一輝は心に不安を感じながら控え室で椅子に座る。
(『一刀羅刹』でいいはずだ。何かしてこようと一撃で倒せば問題ないはずだ。それでも、それでも……考えても無駄だ。自分の出せる最善を尽くせばいい。それで確実に勝てる。)
スタッフに名前を呼ばれ、リングに向かう。
リングに立つと、全身が歓声に包まれる。しかし、そんなものは関係ない。今はただ目の前の敵に勝つ。
審判が旗を上げ試合開始の宣言をする。
「LET’S GO AHEAD!」
その瞬間、一輝は『一刀羅刹』を発動し……
そこで一輝の記憶は途切れた。
まさしく、テレビのコードを引っこ抜いたかのように、唐突に。
あとに残るのは無明の闇と、意識が完全に闇に落ちる前に聞いた、
―――『
という残響のみであった。
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七星剣舞祭Cブロック2回戦その2
二千字なんて書けないです。
Cブロック2回戦、黒鉄一輝 対 シャノン・ラジール
1回戦で《七星剣王》を打ち破った新進気鋭のFランク騎士と、昨年度準優勝者を一方的に蹴り倒した男の勝負は誰もが予想をしなかった決着を迎えた。
一輝の開幕《一刀羅刹》という奇襲は、魔術の暴走による自爆という形で失敗。下半身が消し飛び、残った上半身はリングに落下した。
試合開始と同時に訪れた凄惨な光景に実況や審判ですら呆然とし、会場は静寂に包まれた。
そして、物音一つしない中で低く小さい音が響いた。
「《
その言葉を皮切りに客席からは悲鳴が吹き上がった。
『き、きゃああああぁぁぁーーーーーーっっっ!!!』
『嘘だろ……⁉おい!』
『な、なんということでしょう!試合開始と同時に《無冠の剣王》が自爆!か、下半身が消し飛んでいます!早く救護班を!』
この事態に、すぐさま審判は試合終了を宣言。
リングに救護班が駆けつける。
その中には破軍学園理事長・神宮寺黒乃の姿もあった。
「《
黒乃は客席の柵を飛び越え、そのままリングに降り立つ。
そして自身の霊装である白銀の拳銃を顕現させ、倒れた一輝の上半身と辺りに飛び散った血肉に向かって射撃した。
撃ち込まれた銃弾は一輝に着弾し、彼の全身を一時的に時間の経過を止める魔術で包み込む。
これにより肉体の劣化を完全に防ぐ。
これ以上ないほどに適切な処置を施し、黒乃は担架を運んでくる救護班に命じる。
「担架急げ!私の技が効いているうちにカプセルに運ぶんだ!水使いは飛び散った肉を回収しろ!」
「は、はいっ!」
瀕死の重傷……いや、黒乃がこの場にいなければ確実に死んでいたであろう傷を受け、他人の手でリングを去る一輝。
シャノン・ラジールはそれを見送り、悲鳴と喧騒が木霊するリングを立ち去る。
立ち去るシャノンの背に、いくらか罵倒する声が届くがシャノンはそれを無視して立ち去った。
「やあ」
シャノンが選手控え室に戻ると一人の少年が彼を出迎えた。
暁学園の紫乃宮天音だ。
天音はニヤニヤと笑いながらシャナに問いかける。
「今の試合、何をしたんだい?僕はあんな結果望んでなかったんだけど。」
「今のは一輝が魔術の制御をミスっただけだ。」
「いやいやいや。今の試合、僕は君に負けてほしいと思ったんだよ。僕の能力は絶対だ。僕が願ったことは必ず叶う。それなのに君が勝って、一輝君が負けるなんておかしいじゃないか。君が何かしたとしか思えない。」
天音から笑みが消え、濁った視線がシャナを貫く。
「別に。お前の能力が絶対じゃないだけだ。」
シャノンは天音の横を通り過ぎ、出口へと歩みを進める。ドアノブに手を掛けたところでシャノンは天音の方に振り向く。
「そうだ。お前に忠告しておくことがある。」
「なんだい?」
「女神に見放されないように注意しておけ。」
「……それは、」
「意味は自分で考えろ。」
シャノンが出て行った後の控え室で天音はしばらくの間、ただ茫然としていた。
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