鋼鉄の少女達は世界にどう接する? (弓風)
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終焉の戦い エピソード

この小説を選んでいただきありがとうございます。
この話はエピソードですので、艦隊これくしょんは次の話をお読みください。
鋼鉄の咆哮をプレイしていたら小説を書きたくなったので書いた所存です。
至らない場所もございますが、よろしくお願いいたします。
ではお楽しみください。


 極寒の空気が無自覚で漂うその場所で、一発の火焔と轟音が大気を震わす。

 海面に浮遊する氷や波を押し退け、海上を進む巨大な鋼鉄の城。

 鋼鉄の城とは何か、名前位なら誰でも聞いた事のあるだろう───”戦艦“と。

 そしてここは地球の最も北に位置する巨大な氷の海域、北極海。

 辺りを濃霧で視界が悪く、極夜ともあって奇妙な光景を映し出していた。

 しかし何故だろうか?

 普段の静かな北極海の代わりに、無数の砲声や多数の悲鳴が木霊した。

 戦艦が巨大な三連装の砲塔を自身の敵に向け、砲弾を何度も何度も放つ。

 更に戦艦の後方に位置する友軍のイージス艦が、増速し戦艦を追い抜かしながら搭載するミサイルを雨あられのように連続発射する。

 飛翔する砲弾とミサイルが二隻の敵へと命中するが、被弾時に網のようなシールドが現れ無力化された。

 二隻の敵とはファンブルヴィンテルと呼ばれる。

 名は大いなる冬を意味し、形状はとても艦とも言い難い代物だった。

 鋭く尖った台形のような船体を、アメンボに似た中央部で左右に繋げ、紫とどす黒い赤色で形成された外見は狂気そのものだった。

 

 

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 戦艦の艦橋内では全員が忙しく、流れ続ける情報を捌きつつ報告及び指示を行っていた。

 

シュルツ 「───現在の本艦の状況を知らせッ!!」

 

 苦渋の表情をする将校の服を纏ったこの男性の名は、ライナルト・シュルツ。

 ウィルキア海軍学校を主席で卒業した、若きウィルキア近衛海軍のエリート将校。

 今はウィルキア解放軍の少佐であり、本人が乗艦する戦艦雨風の艦長に任命されていた。

 戦艦雨風───それは日本とウィルキア王国が共同で建造した新型の大型戦艦だ。

 戦いの最中において何度も改修を続けられ、戦艦の最終進化型と言っても差し支えない艦であった。

 しかし雨風に乗艦するシュルツの顔色は良くない。

 そして乗組員達の報告を聞き、更に顕著に表れた。

 

水兵1 「現在第五、第七、第八ブロックにて浸水が発生中!隔壁を下ろしていますが、現在の速力では海水の抵抗でそう長くは持ちません!」

水兵2 「第三、第四主砲使用不可!兵装弾薬、残弾残り一割を切りました!」

水兵3 「敵弾により第十、第十一、第十二核融合炉及び第四タービンにて異常発生。緊急停止を実行します。出力低下により、速力53.5ktから38ktに減速。」

水兵4 「護衛艦神弓に直撃弾!速力が低下しています。恐らく機関に何かしらのダメージが入ったものだと思われます!」

 

 現在雨風ともう一隻の神弓と呼ばれる艦は、高性能な電子機器と機動力を持つ汎用型護衛艦。

 二隻共に人類の持つ全ての技術を投入して建造、強化された艦であったが、戦闘は拮抗またはやや劣勢であった。

 何せ相手はあのフィンブルヴィンテル。

 超常兵器、通称超兵器と呼ばれる圧倒的な戦闘力を誇る兵器の一種。

 深深度潜航が可能な大型潜水戦艦、戦艦並み大きさを持つ大型航空機、氷山の船体で出来た巨大航空母艦。

 二つの船体を横に繋げた双胴戦艦など、たった一つの存在で一つの国の軍を捻り潰せる存在であり、国の戦略を容易に変化させる事の可能な兵器。

 そしてフィンブルヴィンテルは、数ある超兵器群のモデルになったマスターシップ(究極超兵器)と呼ばれており、禍々しく巨大な船体、レーザー等の凄まじい火力、70ktの速力を誇る常識では絶対に計れない艦であった。

 だがフィンブルヴィンテルの相手は、既に何隻もの超兵器を海の底に案内した雨風、神弓の二隻。

 しかし数々の超兵器を倒してきた雨風と神弓だが、超兵器の親玉であり、最強の艦であるマスターシップを相手に苦戦を強いられている。

 とは言え、フィンブルヴィンテル側も二隻の攻撃によって深いダメージを負っており、何かしら大きなダメージを与えられたら勝敗を決する状態でもあった。

 まぁ、それは二隻も似たような状態だが───

 

シュルツ「ナギ少尉、フィンブルヴィンテルの状態を知りたい。」

ナギ「はい。現在、フィンブルヴィンテル各所の損傷から火災を確認しております。と、同時にいくつかの兵装が使用不能に陥っていますが、まだ戦闘力を失ってはいません。」

 

 このような会話をしている間にも、雨風が自慢の61cm砲が黒煙を立ち昇らせ、神弓は多数のミサイルを発射、白線を描きながら目標に対して一直線に突撃する。

 一方のフィンブルヴィンテルは無機質に、残った火力を二隻へ集中させる。

 現在戦闘が拮抗しているのは雨風と神弓自身の性能もあるが、やはり数的有利が大きな要因になっていた。

 だが逆に言えば、片方でも脱落すればたちまち戦況が悪化するのが目に見えている。

 もしこの戦いに負ければ、もうこの世界にフィンブルヴィンテルを止める艦は存在しない。

 ここで、何射目か分からない神弓の放つ大量のミサイルがフィンブルヴィンテルの防御重力場に命中し、大半が無力化される。

 しかし一部のミサイルが防御重力場を強引に食い破り、内部で爆発、船体へダメージを与える。

 

水兵2「フィンブルヴィンテルに神弓のミサイル複数命中!防御重力場を貫通してダメージが入りました!」

 

 そのような朗報が聞こえて喜ぶ暇も無く、フィンブルヴィンテルの一ヶ所が小さくピカッと光った。

 雨風の艦橋から光を認識した途端、艦首付近から凄まじい破断音と衝撃が襲いかかり、船体が軋むような音が響き渡る。

 振動が収まり、シュルツが大慌てで艦橋の窓から艦首付近を見下ろすと、第一砲塔に大きな異変が見られた。

 轟音を発生させていたはずの大きな砲身が力無く下を向き、防楯に空いた穴から煙が漏れる。

 

水兵2「フィンブルヴィンテルの電磁加速砲、レールガンです!本艦の防御重力場を貫通し、第一砲塔に直撃弾!第一砲塔大破!」

水兵1 「今の衝撃で船体に亀裂が!クソッ、駄目です!浸水が止まりません!!」

シュルツ「ダメージコントロール!各所隔壁閉鎖、第一砲塔弾薬庫に注水!こちらもお返ししてやれ───!!」

 

 雨風の艦首付近に搭載する砲塔型レールガンが大きく右旋回し、レールの先をフィンブルヴィンテルに合わせる。

 そして、二本のレールの間にバチバチとスパークが発生した途端───

 レールガン独特の発射音を発しながら、目が痛くなる程の閃光を瞬間的に放出した。

 それと同時にレールで加速し飛び出した砲弾は、炸薬を含まないレールガン専用の重金属単体で構成された純徹甲弾。

 重金属の大質量と7000m/sの速度で桁違いの運動エネルギーを保持した純徹甲弾が、フィンブルヴィンテルの側面に食い破ろうと襲い掛かる

 しかし強力な防御重力場と分厚い装甲に阻まれ、空の彼方へ跳弾する。

 たとえ戦艦の装甲であろうと紙のように貫く純徹甲弾だが、フィンブルヴィンテルの防御重力場と装甲相手では貫通は容易ではない。

 更にレールガンは加速時に発生する摩擦によって大量の熱を発するので、連射が不可能。

 本来それを補う予定の主砲だったが、先ほどの攻撃で二基が大破したところに、更に一基破損してしまった。

 雨風の61cm三連装砲を五基十五門の火力は、今の状態では実質半減以下になっている。

 

水兵4 「神弓から通信。「我、ミサイル残弾ナシ。魚雷戦ヲ仕掛ケル、援護ヲ要請ス。」の事!神弓は最大船速でフィンブルヴィンテルに突撃中!」

シュルツ 「よし、ならこちらも接近して注意を向けさせろ!使える兵装は全部使用してでも神弓を守りきれ!相手は手負いだ!恐らくこの魚雷で勝負が決まる。機関、両舷一杯!!」

 

 艦首をフィンブルヴィンテルに向け、残った機関の出力を上昇させる。

 本来の出力こそ出ないものの、複数の核融合で熱せられた超高温高圧の蒸気がタービンに吹き付けられ、目まぐるしく高速回転し、耳が痛くなるほどの甲高い音を鳴らしながら雨風が急接近する。

 しかし接近すれば、無論フィンブルヴィンテルの攻撃密度も増加していく。

 レーザーに砲弾、当たったら敵の存在を決して許さない反物質砲。

 あるもの全てを使いこちらを沈めようと攻撃してくる。

 そしてフィンブルヴィンテルの高出力対艦レーザーが雨風の艦橋に直撃した。

 

水兵4  「うわぁ!!」

 

 レーザーの命中した窓の目の前の座席にいた水兵4は驚愕の声を上げ、危うく椅子から転げ落ちそうになる。

 しかし雨風の装備する電磁防壁に遮断され、レーザーが明後日の方向に跳ね返される。

 

水兵7  「主砲装填完了!」

シュルツ  「怯むな!主砲一斉射、撃てぇぇぇ!!」

水兵6  「第四十八射、一斉射撃ち方!!」

 

 だが雨風側もただでやられる訳つもりはない。

 シュルツの声に鼓舞するように、残存する六門の61cm砲から砲声が轟き、艦内に衝撃が伝わる。

 残った数少ない弾薬を使い尽くす規模で迎撃を行い、反撃していく。

 レーザーは電磁防壁で減衰又は跳ね返す。

 砲弾は防御重力場で威力を低下させ、装甲で弾き海面へ叩き落とす。

 反物質砲は荷電粒子砲と各種砲を使い、弾自体を消滅させる。

 が───全ての攻撃を迎撃出来るほどフィンブルヴィンテルは甘くない。

 迎撃もしくは防御しきれなかった攻撃が雨風の船体を焼き切り、破壊される毎に雨風全体に軋みや装甲の砕ける音がまるで悲鳴のように聞こえる。

 しかしその際あって、派手な攻撃はフィンブルヴィンテルの注意を引くという目標を見事に達成した。

 雨風が注意を引いている間、神弓が高速でフィンブルヴィンテルの側面へ廻る。

 そして神弓の側面に搭載していた魚雷発射管がフィンブルヴィンテルに予測針路方向に動き、圧縮空気によって発射管から魚雷が二本飛び出す。

 

水兵4 「神弓の魚雷発射を確認。このコースは・・・直撃コースです!」

 

 放たれた魚雷は、親の敵と言わんばかりに水中を走っていく。

 その魚雷に気づいたフィンブルヴィンテルが魚雷を回避しようと転舵を開始したが、ダメージで動きが鈍くなった事や至近距離だった事などが組み合さって避ける事が出来ず───

 フィンブルヴィンテル側面に光とキノコのような巨大な水柱が立つ。

 光から少し間を置いて、炸裂時の衝撃や爆音が轟く。

 

ナギ 「フィンブルヴィンテルに魚雷命中二!攻撃が止み・・・・・あっ、沈み始めましたッ!」

シュルツ 「皆、よくやったぁ!!」

水兵達 「うぉぉぉーよっしゃー!やったぜぇぇぇぇ!」

 

 艦橋にいる全員が歓声を上げた。

 いや艦橋だけではない、艦各所から歓声が聞こえる。

 神弓の方もきっと同じ事になっているだろう。

 

ナギ 「ついにやりましたね!」

シュルツ 「あぁそうだ。やっと・・・これで、世界が平和になる。」

ナギ 「ここまで戦った甲斐がありましたね!」

 

 雨風、神弓の乗員が勝利と喜びに歓喜しており、涙を流す者や胴上げを行っている者もいる。

 それもそうだ。

 これによって今後は超兵器が二度と暴れたりしないのだから。

 皆の待ち望む平和という時代が、この世界に遂にやって来たのだから。

 

水兵5 「ついに、やれたか。これで妻にまた会え───んっ?」

 

 水兵5の視界の端に写ったレーダーが妙な反応を捉えた。

 気になってレーダーをよく見てみると、フィンデルヴィンテルからの大量のエネルギー放出を観測していた。

 

水兵5 「なっ!フィンブルヴィンテルから高エネルギー反応を観測!」

シュルツ 「何?いったいどうなっている!?」

 

 瞬時に艦橋内全体へ緊張が走る。

 近くの窓からシュルツがフィンブルヴィンテルの姿を確認した。

 フィンブルヴィンテルは、壊れた武装やら船体から黒煙を吹きゆっくり沈んでいる。

 しかしそれよりも早く黒の何かによって少しずつ覆われて行く。

 

シュルツ 「──あれは一体・・・・・?」

ナギ 「観測班からの報告により現象が判明しました。あれは、フィンブルヴィンテルの超兵器機関が自壊を起こしています!」

シュルツ 「なんだと!?急速離脱急げ総員対衝撃姿勢!爆発に巻き込まれるぞ!」

水兵3 「神弓、離脱開始しま──!」

 

 フィンブルヴィンテルが黒い何かに完全に覆われると、視界を全てを覆い尽くす程の光を放射し四分五裂に爆発する。 

 その爆発は近くにいた雨風、神弓をも巻き込み、防御重力場によって軽減されていたのにも関わらず、これまでの直撃弾と比較にならない規模の衝撃が襲いかかる。

 艦の乗組員は皆、衝撃で壁や床に天井へおもいっきり叩きつけられた。

 

 

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??? 「艦長・・・艦長・・・起きてください。」

 

 シュルツの耳に自身を呼ぶ声を聞こえ、シュルツがそっと目を開ける。

 視線の目の前に居たのは、心配そうにシュルツを見つめるナギだった。

 

シュルツ 「ん?あぁナギ少尉か、痛っ!」

ナギ 「艦長、大丈夫ですか?」

シュルツ 「私の事は後だ。艦は?」

 

 シュルツが艦の状況を知りたいと思った時、今居る艦橋へ続く階段から足音が近づいてくる。

 階段から現れたのは、紙を持った水兵だった。

 水兵はシュルツの姿を見つけたら、一目散にシュルツの傍に走り紙に書かれた被害報告を読み上げる。

 

水兵9 「艦長、被害報告です。フィンブルヴィンテルの爆発により、各種の核融合炉にダメージが入りました。現在は緊急停止装置が機能して停止していますので、機関の爆発などは無いかと。しかしそれ以上に各ブロックから浸水が始まっており、浸水を押さえるのは不可能です。その為、長くは持たないと思われます。神弓の方でも同じような状態が起きている模様です。」

 

 水兵9が悔しそうな表情を滲ませて報告をする。

 被害報告の内容を理解したシュルツはため息をつき、諦めた顔をなって命令した。

 

シュルツ 「そうか。救難信号を発信後、直ちに総員退艦。急げ、一人でも生存者を増やすのだ。」

水兵9 「了解しました。」

 

 水兵9は報告を終えるとすぐに退艦作業へ向かった。

 そしてシュルツは壁に手を当て立ち上がる。

 

シュルツ 「さて私たちも退艦するか。一年か、随分といろいろありすぎて長かったのやら短かったのやら。」

 

 ふとこの艦に乗り始めての航海を思い浮かべる。

 その隣でナギが残念そうに口に出す。

 

ナギ 「艦長。せめてこの子を母国に帰らせてあげたかったです。」

シュルツ 「あぁ、でもしかたないさ。むしろあの爆発で浮いているだけ奇跡だろう。だが、やはり愛艦を失うのは心苦しいものだな。」

 

 話しながらシュルツが爆発の時に破損した箇所に座り、ごそごそと何かをしている。

 こんな行動に疑問を持ったナギがシュルツに聞く。

 

ナギ 「艦長?何をやってるんですか?」

シュルツ 「なに、ただパーツの一つ二つを取っているだけだよ。せめて、この艦の一部を持っておきたくてな。」

ナギ 「フフッ、艦長は思いの外ロマンティストなんですね。」

シュルツ 「そうかもしれないな。さて、話はこの位にして、退艦するぞ。」

 

 二人は生き残った兵を全員退艦させた後、救命ボートに乗って艦から急いで離れる。

 二艦はシュルツ達が距離を取るまで妙な位沈まず、沈没に巻き込まれない安全圏に離れた直後、急激に沈み始めた。

 これは偶然艦の浸水に間一髪巻き込まれずに済んだのか、それとも二艦が救命ボートが離れるまで意思があるように耐えててくれたのか。

 それは誰も分からない。

 

シュルツ「ありがとう、安らかに眠ってくれ。全員、雨風、神弓に敬礼。」

 

 シュルツの合図と共に生き残った全員が二隻の武勲艦に敬礼をする。

 別れを告げた艦はあっという間に姿を海中に没した。

 

 

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報告書

 北極海にて戦艦雨風、護衛艦神弓はフィンブルヴィンテルとの戦闘により、フィンブルヴィンテルの撃沈に成功。

 しかし超兵器機関の自壊により、両艦に回復不可能なダメージを受け、総員退艦を発令。

 総員退艦発令後、三十七分で沈没を確認。

 雨風、神弓、北極海の海に沈む。



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艦隊これくしょん
1:艦隊これくしょんにようこそ。


ここから艦隊これくしょんの世界になります。いろんな小説を参考したので似たような場面がございますが、そこはご了承ください。それではお楽しみください。


 これを読んでいる読者様は鎮守府という施設をご存知だろうか?

 もしわからない方がいるかもしれないので簡単に説明すると、海軍艦艇の出撃や補給を行う施設である。

 そしてここは神奈川の横須賀市に位置する横須賀鎮守府。

 海軍病院や巨大な横須賀海軍工廠などを備えた首都防衛の要であり、最終防衛線でもある。

 その横須賀鎮守府の付近には偶然それなりに大きな岩礁が存在した。

 岩礁のゴツゴツした岩は波が当たる毎に水飛沫が飛び上がり、海面に落ちれば海に溶け込も同化する。

 更に岩の表面に苔や藻が自生して大変滑り易く、誤って落ちれば海に飛び込む羽目になるだろう。

 そんな危険と言われるような場所に二人の少女の姿があった。

 白っぽい長髪を揺らし、細長い手足を器用に使って滑る岩を軽々と楽しそうに越えていく少女。

 そして少女をもう一人が岩を乗り越える事に苦労しながら追い掛けていた。

 なんとか追従しようと手足を目一杯動かすが運動は不得意のようで、透明感のある青髪や白いセーラー服に幾つかの汚れが付着していた。

 青髪の少女は次の岩を越える為にジャンプして手を伸ばすがギリギリ届かず危うく海に落ちそうになる。

 そんな風に後ろで苦労していたら、先を行く白髪の少女が岩の上でクルッと器用に振り向き不満げな表情で叫ぶ。

 

島風 「五月雨おっそーーーい!!」

五月雨 「島風ちゃん。ここはやっぱり危ないってぇ、怪我しちゃうよ。」

島風 「島風は何処でも一番速いから大丈夫!!」

五月雨 「それは答えになってないよー!」

 

 ここに来る原因となった島風に速さで勝負しよって言われ断れなかった事に五月雨は後悔を覚えた。

 しかし結局の所、気弱な五月雨は元気な島風相手に断れず強引に流されるがオチだろう。

 やがてピョンピョンとウサギのように岩の上を跳ねる島風の姿がどんどん離れ、五月雨も島風を一人にさせる事と何かあった時危険なので一生懸命追い掛ける。

 

島風 「おうっ!」

五月雨 「どうしたの島風ちゃん!」

 

 島風の驚く声に何か起きたと思った五月雨は、途中でまた海に落ちそうになりながらも急いで島風の元へ向かう。

 

五月雨 「島風ちゃん大丈夫!」

 

 怪我でもしたんじゃないかと心配する五月雨は特に傷の見当たらない島風に安堵する。

 しかし島風は五月雨に顔を向けないで立ったまま壁の方を興味深そうに見つめる。

 島風の視線の先が気になった五月雨も同じ方向に振り向く。

 

五月雨 「これって、洞窟?」

 

 五月雨が見たものは岩礁に隠れた高さ2m位の洞窟の入り口だった。

 二人は洞窟の奥を覗き見るが、日光の届く入り口付近なともかく奥側は暗黒と言ってよい暗さだった。

 圧倒的な不気味さに五月雨が顔を青く染める中、逆に島風は冒険に行く前のようにキラキラした目をしていた。

 

島風 「この洞窟凄い楽しそう!ねぇ五月雨も一緒に行こっ!」

五月雨 「えっ!?島風ちゃん私は・・・あっちょっと!」

 

 行きたくなさそうな五月雨の手を島風が引っ張り、無理矢理洞窟に引きずり込まれる。

 洞窟内は暗く波が中まで入り込んでいる為、高い湿度が嫌な雰囲気をかもしだす。

 風の風切り音が鳴る毎に五月雨は怯えて島風の手を強く握る。

 一方島風は相変わらず楽しそうに歩を進める。

 やがてもう数m先すら確認出来ない明るさの所まで行った時、一際広そうな空間に出た。

 

五月雨 「なんだろうここ?」

島風 「むむむ、よく見えない。・・・?」

 

 そこでまた島風が何かを凝視する。

 島風の行動に気が付いてしまった五月雨は内心嫌々ながらも、興味という感情により確認しない訳に行かなかった。

 暗闇に覆い尽くされ視界不良の中、岩や石とは違う角張った金属質の物体だけが僅かに浮かび見える。

 二人にはその金属質なものに見覚えがあった。

 戦艦等が持つ砲塔に類似しており、この発見に対する二人の反応は綺麗に対称だった。

 島風はきっと新しい仲間がここに居ると喜び、五月雨はもしかしたら敵である深海棲艦じゃないかと。

 

五月雨 「逃げようよ島風ちゃん!もしかしたら深海棲艦かもしれないよ。」

島風 「何言ってるの?こんな所に居るのが深海棲艦な訳無いじゃん。絶対新しい仲間だよ!」

五月雨 「いや確かにそうかも知れないけど・・・とにかく提督に伝えないと。」

島風 「そっか、歓迎会もしないといけないもんね!じゃあ早く行こう!」

五月雨 「そうじゃなくて、あっ置いてかないで島風ちゃん!待ってよー!」

 

 洞窟の入り口へ笑顔で駆け出した島風に、五月雨はまっ暗闇に一人置いて行かれると思った五月雨は恐怖に歪んだ表情で島風の後を追う。

 

 

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 僅かに数十mで海が存在する位置で日本国旗を屋上に旗めかせる三階建てのレンガ造り建物があった。

 長い間潮風に晒され随分年季の入ったこの建物の一室に将校の服を身に纏い、黒い長髪の女性が椅子に疲れたように座る。

 そっと息を吐き、気分が落ち着いた女性は傍に立っていた女の子に視線を向ける。

 視線を感じた女の子は頭に目立つハチマキを揺らし女性に顔を合わせる。

 

瑞鳳 「提督。お疲れ様。」

提督 「はぁ、やっと少しのんびりできるかしら。」

瑞鳳 「つかの間の休みだと思うけどねぇ。」

提督 「ええ、瑞鳳の言う通り。まだインド洋も深海棲艦に制圧されているし。」

 

 瑞鳳の言う提督は鎮守府の最高責任者であり、艦隊を指揮する司令官でもある。

 そして提督が言葉にした深海棲艦という存在は、2012年に突如として北太平洋で確認された未知の存在だった。

 姿形は人型に類似しているものも居れば、かけ離れているものもいる。

 しかし共通する点は海上を航行中の船を無差別に攻撃するという行動原理である。

 当時米国が深海棲艦に対して原子力空母を含んだ第七艦隊と第三艦隊所属部隊を全て合流させた太平洋艦隊を向かわせた。

 しかし深海棲艦には有効打はあまり入らず、最強の艦隊と謳われた第七艦隊は全滅。第三艦隊も戦力の三割を失う大惨事が発生した。

 最強の米海軍が敗れた事実は、世界を駆け巡り恐怖に陥れた。

 後に深海棲艦の攻撃で世界中のシーレーン(海上輸送)が破壊され各国、特に島国は徐々に衰退していくと思われた。

 だが突然人類の予想を遥かに超えた奇跡が起きた。

 その奇跡はまず最初に日本で認められた。

 使われなくなった旧横須賀に忽然と妖精と呼ばれる二頭身の小人が現れ、それとほぼ同時期に今後艦娘と呼ばれる少女達が五人も現れたのであった。

 艦娘の攻撃は現代兵器の通じにくい深海棲艦に効率的な打撃を与え、撃沈も可能だった。

 既に輸入に頼れない日本はすがる思いですぐさま五人の艦娘を鎮守府と呼ばれる組織に組み込み、深海棲艦に対抗していく。

 近海から南西諸島、南アジアへと次々海域を解放していった。

 深海棲艦と艦娘とはこのような存在であり、この横須賀鎮守府は一番最初かつ反抗のキッカケとなった場所でもあった。

 さて話を少し戻そう。

 提督と瑞鳳が互いに会話を続けていると、いきなりノック一つ無しで執務室のドアが開かれ島風が突入してきた。

 

島風 「どうもー提督!」

五月雨 「もー、ちゃんとノックしなきゃ駄目だよぉ!あっ失礼します!」

 

 意気揚々と入ってきた島風と違い五月雨は遅れて執務室に足を踏み入れたが、何故かカーペットの上で一瞬転けそうになる。

 一応寸でで持ちこたえ顔を赤く染めつつゆっくり入室してきた。

 

提督 「あら、五月雨ちゃんに島風ちゃん。どうしたの?」

 

 五月雨と島風が心配そうにそして面白いに岩礁の洞窟や砲塔らしき影を見た事を話すと、提督が怪訝な顔になって隣の瑞鳳に命令を出す。

 

提督 「瑞鳳、第一艦隊と第二艦隊を準備させておいて。」

瑞鳳 「分かりました。「「提督から通達。第一艦隊および第二艦隊へ。ただ今から三〇分後に出撃準備を終え、一二〇〇に桟橋で集合せよ。」」

 

 瑞鳳がタンスの上にある固定電話から放送で指令を鎮守府全体に通達する。

 

提督 「島風、出撃準備よ。行ってらっしゃい。」

島風 「おうっ!」

 

 島風は軽く敬礼して大きく返事をしたら、颯爽と執務室を飛び出す。

 

提督「瑞鳳、この事どう思う?」

 

 提督の問いに瑞鳳は軽く上を向いて考え言った。

 

瑞鳳 「うーん、もしかしたら暗いから見間違いかも知れないかな。もし砲塔が本物なら多分艦娘じゃない?五月雨ちゃん、どんな感じだった?」

五月雨 「それが、暗くてよく見えなかったのですね。一応砲塔はかなり大きかったように見えました。深海棲艦じゃないといいんですが・・・・・」

提督 「大きな砲塔なら戦艦クラスは確定する。35.6か41かな?もし深海棲艦ならタ級かレ級ね。まぁどちらにせよ、調べないといけないわね。」

 

 三〇分後に海に面する桟橋に提督が足を運ぶと、既に大人数の艦娘が戦闘準備を整え何時でも行動可能な状態で待機していた。

 

長門 「おっ提督か。いきなり出撃準備をさせてるとはどうしたんだ?」

 

 最初に提督に気がついた長門が声を出し、声に反応して周りの艦娘達が提督に視線を移す。

 提督は岩礁付近の洞窟内に何か居る可能性があると簡潔に皆に伝える。

 その報告に艦娘それぞれが違う反応をする。

 

長門 「なるほど。確かにそれは備えて損はない。」

提督 「万が一だけど鬼級や姫級の可能性もあるから一応ね。」

 

 事情を説明した提督に秋月が近づき話し掛ける。

 

秋月 「でも指令、艦娘だったらどんな艦でしょうか?」

提督 「うーんやっぱり頼れる子なら嬉しいわね。さて行きましょうか。じゃあ島風ちゃん、案内頼むわよ。」

島風 「この島風に任せて!!」

 

 艦娘と一緒に提督は備え付けのモーターボートで岩礁へ航行する。

 艦隊は岩礁に当たらないよう大廻で接近し、やがて岩で死角になっていた入り口を確認した。

 

川内 「あーあれかな?」

大和 「提督、誰を送り込みます?」

 

 入り口の近くに艦隊が陣取り、提督は少し考え何かあった時にすぐ逃げれる速力がある水雷戦隊を選択する。

 

提督「川内の水雷戦隊に入って貰いましょう。他の皆は周囲の警戒を頼むわ。川内、何かあったら連絡を入れつつすぐに逃げなさい。」

川内 「大丈夫。引き際はわきまえてるって!」

 

 そう返事をすると、川内の率いる水雷戦隊が洞窟へ侵入して行った。

 洞窟内は先程と変わらない暗さで、近くにいる同じ艦隊の艦娘すら目を凝らながら進む。

 この状況ほあまり宜しくない。

 艦娘同士の視認が難しい程暗いともし奇襲を受けでもしたれ確実に被害が出る、

 

川内 「んー、暗くてよく見えないなぁ。」

神通 「姉さん、探照灯点けませんか?」

川内 「そうだね。よし、全艦探照灯照射!うわっ眩しいッ!」

 

 探照灯を点けたお陰で洞窟の中が即座に明るくなった反面、光に慣れてない夜目と光量のせい凄まじく目が眩む。

 川内は慌てて点ける探照灯を一つに制限しようやくまともに周囲の確認が可能に。

 こうして一歩一歩先前進した先に提督の話で聞いていた大きな空間に出た。

 パッと見で体育館と同等の近くのドーム型の空間を上下左右に照らし上げ、最後に奥を照らした時艦隊に動揺が走った。

 

 

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 一方その間外にいた提督達は川内からの連絡を待っていた。

 

提督 「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。」

武蔵  「提督よ。それはどちらも困る結果になるだろう。」

提督  「あー確かに言われみればそうね。」

大和 「提督、川内から通信です。そちらに繋ぎます。」

 

 提督はすぐ通信を繋げると無線機越しに川内の慌てた声が聞こえてくる。

 

提督 「川内、聞こえる?」

川内 「「提督!それより大変なんだ!急がないとヤバいよ!」」

提督 「川内、一旦落ち着いて。何があったの?」

 

 提督は川内が何かによってかなり焦っているを感じて、冷静にさせる為に敢えてゆっくりと言う。

 するも川内も我に返ったのか大きく深呼吸をしている音が聞こえ、その後の川内に焦りの雰囲気はなくなった。

 しかし代わりに説明しにくく言い淀む口調に変化した。

 

川内 「「それでえーと、今私達の居る場所に艦娘が居たんだけど傷とかで酷い状態。早く対処しないとマズイかも。」」

提督 「ならすぐに洞窟内から救出して。医務室を開けるよう言っておくから。」

川内 「「それが・・・私達も今すぐ助けたいんだけど、危険そうで触れられないんだよ。」」

提督 「危険そうって・・・いや良いわ。私がそっちに行くから。大和と武蔵も付いてきて。」

大和・武蔵「了解。」

 

 提督は大和と武蔵を連れて洞窟を進み、広い空間で川内達と合流する。

 神通の照らす探照灯がゴツゴツした石質な壁を照らし出し、大きな一軒家が余裕で収まる程の空間が露になっていた。

 

提督 「川内。怪我をした子は?」

川内 「神通、奥を・・・」

 

 川内が苦い顔をして神通に照らすように指示する。

 提督が不意にそれを認識しないように照らさずにいた暗い箇所に探照灯を向ける。

 

提督・大和・武蔵 「───ッ!?」

 

 三人はその光景に唖然しあまりの酷さに身体が硬直する。

 光で露になったのは全身血塗れで壁に張り付けられた二人の艦娘だった。

 二人が着ていた服はあまりの破れる具合はボロ切れと同義で服としての役割を担ってはいなかった。

 それに顔から足指まで血により真っ赤に染められ、むしろ赤くない場所の方が少ない。

 全身に至る打撲傷や切り傷、火傷には思わず吐き気を覚える。

 形を保っている事が逆に恐怖を生み増幅させる。

 体がバラバラになっていた方がまだ良かったと正直思え、悲惨という言葉が既に似合わない領域まで進んでしまっていた。

 そんな二人に更に追い討ちを掛けるのが、二人を固定する謎の青色の鎖の存在。

 

大和 「───ひ、酷い・・・・」

 

 あまりの光景に大和は目を背けたくても背けない。

 ただひたすら記憶に光景を焼きつけられる。

 そしてまともな思考が出来る精神が最初に返ったのは提督だった。

 

提督 「・・・この鎖は何かしら?」

 

 提督は少女達を助ける際、一番の障害にねる青い鎖に注目した。

 数十秒考えてから鎖に触れようと手を伸ばす提督に、再起動した武蔵が即座に制止させる。

 

武蔵 「提督、危ないぞ!」

提督 「少し触るくらい多分大丈夫だって。」

武蔵 「しかし、何があるかわからないぞ!」

提督 「確かに触らないという選択もあるけど、この子達を助けれないわ。」

武蔵 「うっ!まぁ、確かにそうだが・・・」

提督 「私の勘だけど大丈夫よ、きっと。」

武蔵 「あぁわかった。提督がそう言うのであれば。」

 

 周りが最大限警戒して見守る中、提督の指先が鎖に触れる。

 すると鎖は提督が触れた途端、パキンと砕け破片一つすらも残らずに消滅する。

 鎖の支えが無くなり二人の艦娘が倒れそうになるのを慌てて近くにいた駆逐艦達が急いで抱える。

 

秋月 「くっ!すごく重いです!」

照月 「大和さん、武蔵さん!交代してください!」

 

 二人が苦痛な表情で抱き抱え、照月が悲鳴に似た声で叫ぶ。

 

大和 「あ、はい!」

武蔵 「重っ!?なんだこの艤装は!!」

 

 武蔵が片方の艦娘の艤装の重さに驚愕する中、もう一人の艦娘を川内達が軽々支える。

 

提督 「大和、武蔵、二人でその子を頼むわ!こっちの子は川内と神通が、急いで運んで!」

 

「雨風」「神弓」が鎮守府に着任しました。




 もしかしたら一部を修正したりするかも知れませんが、基本的な流れは変わりません。
 追加·海や島の名前を現実の物に変更しました。理由については、どれが何かよく分からなくなる現実が発生したしましたのが理由です。


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2:はじめましてこんにちは。

この先も制作が終了してるので順次出します。感想などお聞かせ願えたらなと思います。では、お楽しみください。


 旧日本海軍時代の横須賀鎮守府には、最大規模の工廠の旧横須賀海軍工廠があった。

 旧横須賀海軍工廠は、太平洋戦争(大東亜戦争)で日本が敗戦した後、深海棲艦が現れる前は横須賀海軍施設と名を変えたが、今は艦娘の艤装の整備をする事になっているので、艦娘を配慮し再び横須賀海軍工廠に戻った。

 しかし横須賀海軍工廠は巨大な施設なので、主に民間輸送船の造船をメインとしつつ、一部を艦娘が使っている状態だった。

 そして艦娘側の工廠の入り口に、キリッとした佇まいの艦娘がいた。

 

大淀「明石!直してほしい艤装が二つあるのだけど、いい?」

 

 眼鏡の位置を直しながら、大淀は大きな声でそう言った。

 大淀の叫ぶ先では、機械を弄って綺麗だったはずの髪に油汚れを付着させ作業している明石が、作業中断して大淀に近づく。

 

明石「あっ大淀。それで直して欲しいって、誰の艤装ですか?」

大淀「こちらになるのですが····」

 

 大淀がそう言いつつ後ろに振り返ったとした時、大淀の後方から川内の声が聞こえてくる。

 

川内「これ、ここでいいの?」

明石「えっなんですかその艤装!見たことないですよっ!」

 

 川内と神通が持ち上げている巡洋艦位の艤装を見ると、明石は目を輝かせて興奮したように叫ぶ。

 その光景を見る大淀は、いつも珍しい装備を見て興奮する明石の持病が発動したと、呆れて放置している中、もう一つの艤装を運ぶ大和達がいないことに気づく。

 

大淀「あら?川内、もう一つあると聞いてましたが?」

川内 「んっ。」

 

 川内がある方向に指を指す。

 大淀が指の指す方向では───

 

大和「武蔵、斜めってる斜めってるって!」

武蔵「ふんぬぉら!」

 

 大和型二隻が艤装の重量に潰れそうになるが、気合と根性で運んでいる凄まじい光景ができていた。

 そんな光景を見ている全員が思わず苦笑いをする。

 

明石「あの····一体誰のですか。と言うか、あんな艤装ありましたっけ?」

大淀「····私に聞かないでください。」

 

 支えるだけでも辛そうな雰囲気を出しながら、四人の傍まで何とか迫る。

 声の届く距離まで近づき、武蔵が置き場所を聞いてきた。

 

武蔵「なぁ、明石··どこ··置いたら···いいか?」

明石「えっあ、えーと···あそこに。」

 

 明石に指定された場所に着き、慎重に急いて巨大な艤装を置く。

 艤装を置き終わると、大和は座り込み、武蔵は床に大の字で倒れ込んだ。

 遠くから見ても、二人が消耗してるがわかるくらい疲れていた。

 

大和「はぁ···はぁ···重たすぎ、です····」

武蔵「まさか、この私がへばるとはっ!」

 

 工廠の奥で作業中の夕張が、何事かと慌てながらよって来る。

 そこで二人の姿を見た途端、また工廠の奥へ駆け出し、手に持ったペットボトル入りの水を持って来る。

 二人は夕張に礼を言って水を飲み始め、すぐに中身を空にする。

 

武蔵「ぷはぁー···生き返った!すまんな、夕張。」

夕張「いえいえ。それよりこの艤装どうしたんですか?」

川内「あっ、それは私が話すよ。」

 

 その言葉に川内が洞窟であった事を説明する。  

 明石と夕張がこの艤装の持ち主が重体だった事に心配しているようだが、その内心で装備の好奇心が漏れ出ている。

 

明石 「なるほど、その子達は医務室に入ってるなら安心ね。それに····この艤装に興味が湧きまくりよ!」

夕張「フフッこれは調べがいがありますね!」

明石「その通りよ!技術者としての心が踊るわ!!」

 

 二人が謎のフィーバータイムに入っている時、大淀が一旦二人を落ち着かせる。

 

大淀「ほら、少し落ち着きなさい。ちなみにだけど、この艤装を軽く見て、二人がどう思うか簡単でいいから教えてくれない?」

 

 明石と夕張はお互いに視線を見合わせる。

 

明石 「···えーと、夕張はそっちの大きな艤装の方を見てくれる?私はこっちを見るから。」

夕張 「はい、わかりました。」

 

 明石が巡洋艦程の艤装、夕張が巨大な艤装を五分程見渡し、それぞれ感想を話し始める。

 

明石「まず損傷の方だけど、この巡洋艦位の艤装は凹みから見て、何か大きな圧力が潰されたみたい。装備の方は砲がたった一門だけで、他には四角い蓋が沢山ついてる位かしらね。あと装甲が凄く薄いわ、駆逐艦の子と比べても半分···位かしら、相当薄いわよこれ。元はどういった艦なんだろう?夕張、そっちは?」

 

 明石の説明が終わり、明石が横で話を聞いていた夕張に問う。

 夕張がそこに居る艦娘達に、手で艤装を近くで見るように催促して説明する。

 

夕張「はい。まずこれだけの大きさなら単純に大和さん達以上の艤装なんですよ。その時点で色々ツッコミ所満載なんですが····えっと、この主砲を見て何か思わないですか?」

 

 夕張は一基の破損し大破した主砲塔の触れる。

 

川内「何って、主砲が五基あるね。」

夕張「いや、勿論そうよ。でも、この主砲単体を見て欲しいなぁ。」

大和「あら?その一基だけ砲塔の防盾に大きな穴が空いてますね。」

夕張「え?あっ本当だ。」

 

 大和の見る主砲は、砲塔正面の防盾に砲弾で貫かれた穴が空いていた。

 夕張は大和に言われて穴をじっくり観察する

 どうやら夕張は、大和が言うまでそれに気がつかなかったようだ。

 

神通 「あっ!」

 

 その時、神通が声を上げる。

 

神通「これ···さっきまでは艤装の大きさしか見てなかったのですが、これって大和さんや武蔵さんの46cm砲より大きくないですか?」

明石「えっ?」

 

 神通の説明に疑問を持って、明石が工廠の棚に置かれた装備関係の資料を取りに行き、資料をペラペラと捲る。

 

明石 「確か、うちの鎮守府が扱ってる最大の砲が51cm連装砲だったはずだけど····確かに、どう見てもそれ以上よね。」

武蔵 「むっ?そう言えばそうだな。」

 

 大和達が使う51cm連装砲を整備したことのある明石が記憶と比べるが、明らかに一回り大きな砲に見える。

 

大淀「ちょっと待ってて下さい。今から計算しますから。」

 

 大淀は慌てた様子で電卓をカタカタと打ち込む。

 ちょっとして計算が終わると、驚愕で目を見開く。

 大淀が恐る恐る計算で表れたサイズを口にする。

 

大淀 「計算によると、恐らく───60cmクラスの砲かと·····」

 

 計算で弾き出した数字に、周りが唖然とする。

 何故なら、世界最大の戦艦である大和型は46cm砲であり、計画で終わった改大和型ですら51cm砲が限度であった。

 なので60cm以上の砲を搭載する艦は、計画すら存在しないはず。

 

大淀「この60cm砲ですが、砲身を見る限り従来の45口径ではなく、より貫通力を高めた75口径だと思われます。」

 

 もはや驚きを通り越して混乱の領域である。

 簡単に言うと、口径が大きければ砲自体が小さくても火力や貫通力が高くなる。

 例として、46cm45口径砲と41cm50口径砲では性能に大差はなく、甲乙つけがたい····らしい。

 

武蔵「ふむ、つまりこの艤装の持ち主はこれだけ火力が必要で。一方の敵側は、この分厚い砲塔正面の防盾を貫通できると言うのか。」

神通「そこまでの事は、姫級や鬼級でも不可能だと思うのですが?」

 

 無論この世界には、強力な力を持った敵が存在する。

 その区分として鬼や姫といった字を使う。

 しかしこれ程の力に対抗するとしても、この装備は過剰戦力と言わざる終えない。

 

明石「その通りね。はぁ···いったいどんな敵と戦ったのやら·····」

 

 そう漏らし、明石は空を見上げた。

 

 

 

 

 

 横須賀鎮守府の医務室で、体中包帯まみれでミイラ一歩手前の青い髪をした少女が、ベッドで横になっていた。

 少女は小さく唸った後、ゆっくり瞼を開く。

 

雨風「んっ···ここは···?」

 

 まず最初に雨風の視界にあったのは、真っ白いコンクリートに覆われた天井だった。

 雨風は全く状況を理解出来ず、周りキョロキョロと見回す。

 

雨風「あれ?私、沈んだ··はず···痛っ!」

 

 雨風は体を動かそうとするが、包帯の巻かれる内側の鋭い傷から痛みが表れる。

 しかしそんな事は後回しとばかりに動こうとするが、動けば動くほど傷がキリキリと悲鳴を上げ、力が入らない。

 そこで何か支える物がないか、もう一度周りを確認する。

 すると、ベッドからすぐ近くに杖が複数個置いてあるみたいなので、それを使ってドアに向かって移動中に、自身が寝ていたベッドから死角で見えなかったベッドに、また別の少女が寝てる事に気づいた。

 その時何故かわからないが、雨風は初めて見る少女に親近感を感じ、疑問に思った雨風がその少女の傍に歩く。

 少女の寝ているベッドの傍に来た雨風は、少女を観察する。

 その少女は、雨風と同じように包帯だらけになっていた。

 その少女を見ていると、雨風の頭の中でふと、ある名前が浮かんだ。

 

雨風「───神弓?····あれ?私、何でこの名前が出たの?·····わからない。」

 

 雨風は僅かに悩んだが、考えても分からなかったので、大人しく諦める。

 それより、取り敢えず神弓だと思われる少女を起こしてみた。

 

雨風「ねぇ、神弓。起きて····」

 

 雨風が揺さぶると、神弓がゆっくり目を開ける。

 

神弓「あれ、貴方は···雨風?私沈んだんじゃ?んっ、私ってどうなってるの?」

雨風「わからない。考えても意味ないから、動く。」

 

 雨風は再び取りに行った杖を神弓に手渡す。

 神弓側は一体何の事やら不明と混乱しつつも、杖を受け取る。

 そして神弓が激痛に身を襲われながら立ち上がったら、近くのドアから外に出ようとドアノブを握った瞬間、神弓が何かを見つけて立ち止まる。

 

神弓「雨風、あれ見て。」

 

 雨風は立ち止まって、神弓の見る方向に顔を動かす。

 そこには全身鏡が立て掛けてあった。

 二人は鏡の前に立って姿を見る。

 雨風は小柄で、青髪のマッシュレイヤーに手足や腰が細くて、軽く力を入れると折れそうな感じの少女の姿をしていた。

 一方の神弓は、雨風より更に低い身長に、銀髪の腰まで伸びる長髪と目が左右で色違っていて赤色と青色であった。

 二人のとも小柄で幼さが残るので、とても可愛い外見をしていた。

 包帯まみれになっていなければの話だが。

 

神弓「うーん。私達は何でこの姿なのかは分からないね。まいっか。」

雨風「そう···早く出よ。」

 

 雨風はドアノブに手を掛け、音が出ないように慎重に開くが、ドアの奥を覗いた瞬間、偶然外にいた三人と目が合った。

 

陸奥「あら?」 

瑞鳳「えっ?」

長門「んっ?」

 

 高い身長に長髪と短髪の同じ服を着た女性に、ポーニーテールにハチマキをつけた少女が外に立って喋っていた。

 

神弓「どっどうも·····」

雨風「····こんにちは。」 

 

 医務室から出て来た二人の様子に、三人は驚きの視線を向け、話し始める。

 

長門「えっとだな··その、体は大丈夫か?」

神弓「大丈夫です。これ位の傷、日常茶飯事ですから。」

雨風「いつもの事。」

瑞鳳「いつもって·····」

 

 瑞鳳は不安そうな視線を向けるが、すぐにやることを思い出したようだ。

 

瑞鳳 「わっ私、提督を呼んで来ます!二人は中で待ってて下さい。」

 

 と言って瑞鳳は廊下を駆け出していった。

 

陸奥「さぁ~、中で待っていましょうねぇ。」

 

 陸奥は瑞鳳を見届けると、二人の肩を持って押してくる。

 

神弓「はぁ、分かりました。」

 

 またもや医務室に戻ってベットに座る。

 そのタイミングで、各自が自己紹介を始めた。

 

長門「二人とも、自己紹介をしておこう。私は長門だ。そして妹の陸奥だ。」

陸奥「よろしくねぇ~。」 

 

 長門はきっちりしている印象を受けて、陸奥は陽気な感じを醸し出していた。

 

雨風「雨風···です。」

神弓「神弓と申します。」

長門「雨風に神弓、よろしく。しっかし二人とも、髪がかなり焦げてしまっているな。今度、入渠で綺麗にしてもらうといい。」

陸奥「あらあら、神弓ちゃんって目の色が左右違うのね。フフッ二人とも小さくて可愛いわね。」

 

 嬉しそうに陸奥が二人に抱きつく。

 その時神弓の位置的に、陸奥の立派な胸部装甲に顔が埋まり、息しずらそうに呻く

 

神弓「う、苦しい···」

長門「陸奥、ほどほどにしておけ。」

 

 長門が呆れつつ言うが、長門の目の奥には少し羨ましい気持ちが混じり混んでいた。

 陸奥はその気持ちに気付きつつも、陸奥は全く悪びれた様子を見せずに解放する。 

 

神弓 「ゲホッゲホッ───」

 

 神弓が酸欠で咳き込んでいる中、雨風は長門を見つめ、自身の疑問を言った。

 

雨風「長門、ここ···どこ?」

長門「あぁここか。ここは鎮守府だ、もっと正確に言えば横須賀鎮守府だな。各地にある鎮守府の一つだ。」

神弓「あの、長門さん。なんで私達、人になってるのですか?」 

 

 神弓がそう口にした瞬間、長門と陸奥が笑い声を上げる。

 

長門「───いやぁ悪い。皆最初は全く同じ事を聞くからなついな、無論私も同じだったが。それで説明すると。」

 

 長門の伝える内容は、艦娘は昔沈んだ艦の転生のようなもの。

 何故艦娘が人の姿になっているのか不明だが、元の艦の影響は残っているらしい。

 例えば戦艦なら巨大な砲が積めて、空母なら艦載機が積めたりなど。

 ちなみに艦娘の大半は鎮守府のドックという施設から生まれるが、たまに深海棲艦との戦闘の後に見つかることがある。

 その点で言えば、雨風達は少し異例だろう。

 などと説明していると、医務室のドア開き、そこから軍服を着た綺麗な女性と瑞鳳が出てきた。

 女性は雨風達に視線を移し、ベッド近くの椅子に座る。

 

提督「こんにちは。まず自己紹介からしましょう。私はこの横須賀鎮守府の一番上かな。あと残念ながら本名を職業柄言えないから、私の事は提督や指令とか自由に呼んでちょうだい。」

瑞鳳「私は秘書艦の軽空母、瑞鳳です。よろしくね!」

 

 相手が鎮守府のトップと言うことで、雨風達は少しかしこまった挨拶をする。

 

雨風「ウィルキア王国所属、雨風です。」

神弓「同じくウィルキア王国所属、護衛艦神弓です。」

 

 二人がそう伝えたら、提督は頭を傾げた。

 

提督「ウィルキア?ウィルキア·····そのウィルキアって国はどこにあるの?」

雨風「シベリア東部のウラジオストックから、カムチャツカ半島の東側の沿岸にある小さな王国。」

 

 その説明を受けた提督は更に疑問を浮かべた。

 

提督「うん?確かそこの辺りはロシア領だったよね?」

神弓「あの·····ロシアってなんですか?」

 

 今度は逆に神弓がロシアという聞き慣れない国について質問した。

 

提督「ソ連が崩壊した後の国よ。んーとなると、貴方達の生まれた時期は?」

雨風 「昭和十四年四月。」

神弓「私は少し後の昭和十四年五月です。」

提督「あら?···わかったわ。」

 

 その他いくつかの質問を行った後、取り敢えず今日は医務室で待機して、入渠は明日に行う事が決まった。

 提督や長門達が退室して二人だけが医務室に残る。

 神弓は自身のベッドに寝転がりながら、不安を口にする。

 

神弓「雨風、これからどうしようかな?」

雨風「どうしようもない、ただ···流れに付いていくだけ。」

神弓 「····そうだね。ところで超兵器の事は今後どうしよう?もしここに現れたら───」

雨風 「·····」

 

 雨風の表情が僅かながら険しくなる。

 雨風と神弓は、超兵器については提督達に言っていなかった。 

 雨風達は一つの大きな不安を抱えていた。

 それは、私達がここに来たのならば、敵である超兵器が出現するのではないか、と。

 しかし、超兵器は一隻で複数の艦隊と渡り合える最強の兵器。

 その目で被害の甚大さ、その戦闘能力を見ない限り、まず信じて貰えないだろう。

 例え話したとしても、それは雨風達が不審がられ怪しまれる恐れがあり、簡単には話せない内容でもあった。

 

雨風「どちらにせよ───海の底に沈めるだけ····」

 

 雨風の瞳の奥には、闘志が宿っている。

 

神弓「そっかぁ。もし出会ったら、私達が相手をしてあげる!」

 

 その夜、今後想定される状況を話し合い、対策を行った。

 

 

 

 

 

 

 新たに出会った艦娘と顔を合わせ、その状況や内容を上に一通り報告した提督は、椅子に座り大きなため息をつく。

 

提督「しかし、久しぶりに休めると思ったらこんな事になるとは思わないわよ。」

 

 若干嫌味を含みつつ、提督はそう漏らした。

 そんな提督を、秘書艦の瑞鳳はまぁまぁと窘める。

 

瑞鳳「それは仕方ない事ですよ。それより提督、二人の処遇はどうなるのかな?」

提督「うーん。上に報告したっちゃから完璧に分からないけど、悪いようにはされない···はずだよ。」

瑞鳳「ならいいですが····あっ、そう言えば明石さんの報告書を読みましたか?」

 

 瑞鳳が思い出したように提督に尋ねる。

 

提督「明石達もまだ殆どの装備が不明であまり分からないとしか書いていない書類の事?唯一判明しているのは61cm砲·····どう考えても規格外のそれを積んでいる位。そんな大層な物を搭載したのは、それが必要な状態だったから。ほんと、何を相手に戦ったのかしら·····」



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3:鎮守府の不思議技術

 鎮守府に所属している艦娘は、深海棲艦という敵を相手に戦い、少しづつ海域を取り返して来た。

 しかしその過程で、艦娘は怪我や艤装の損傷などの被害が発生する。

 なので鎮守府には損傷を修復可能な施設があり、艤装を修理なら工廠を使用する

 なら艦娘の怪我は何処で治すかって言われると。

 それは陸奥に連れられて雨風達の居るドックと呼ばれる施設。

 だだしドックと言っても、外装内装共に見た目は銭湯に近い。

 強いて違う点を上げるなら、天井にモノレールのようなレールが曳いてある位だろう。

 現在はちょうど昼時で、他の艦娘は任務や休暇を満喫中。

 三人を除いて誰もいなかった。

 他の艦娘と会えないのを残念に思うか、良かったと思うかは本人次第だが、今回はある意味幸いな事になった。 

 何せ、神弓の悲鳴がドック中に響きまわっているんだから。

 

神弓「───傷にっ、傷に沁みるぅぅぅー!!」

 

 それはそうだ。

 傷のない場所の方が少ない今の状態で、液体に触れようものなら傷にダイレクトに沁みる。

 それを全身で入浴、しかもお湯である、痛くない訳かない。

 そして悲鳴を上げる神弓の隣で、雨風は何も声を発しないで入浴していた。

 しかし心なにか、雨風からは体温上昇に汗とは別に脂汗を流す。

 

陸奥「バケツを使ってるから、ちょっとだけ頑張ってね。すぐに痛みが引くわよ。」 

 

 陸奥はいつも通りの余裕のある笑顔を見せてくる。

 ちなみにバケツとは高速修復剤の名称で、これの入ったお風呂で艦娘が入浴すると、傷や破損が即座に完治する代物である。 

 なお効果は一回分のみ、一度使用されたバケツは効力を失う。

  しかし成分が原因なのか分からないが人間に使うと死ぬ···らしい。

 つまり試した人がいるという事、まぁ確かに気になるのは理解できる。

 お風呂に入ってから一分程度経ち、全身の傷が目に見えて治っていく。

 

雨風「凄い···!」

神弓「うわぁ、痛みが薄れてるっ!」 

 

 二人は自身の予想以上の効力に驚く。

 神弓は、ちょっと気になり傷のあった箇所を指で押す。

 肌は元から傷がなかったかように弾力で神弓の指を押し返す。

 

陸奥 「今回はバケツを使ったけど、バケツ無しでも問題なく治るわよ。その代わり結構時間が掛かるけど。」

神弓 「えっと、陸奥さん。なんでこんなに綺麗に治るんですか?」

 

 当然と思える疑問に陸奥は───

 

陸奥 「それは知らないのよねぇ。」

神弓 「えっ?」

 

 神弓は口を開けっ放しにして、呆気を取られた表情をする。

 

神弓 「あのぉ、原理の知らない物を使うのは危険では?」

陸奥 「そうね····正確には言えば、使い方はわかるけど原理を知らないのが正しいわ。そこは妖精さんの領分なのよ。」

神弓 「妖精さん?」

陸奥 「簡単に言ったら、私達に力を貸してくれる小人かしら。」

 

 神弓と聞き耳を立ててた雨風は、陸奥の言う妖精を森の妖精(フェアリー)の様なものを思い浮べる。

 

神弓 「ならこのドックも妖精さんが作ったんです?」

陸奥 「そうらしいわよ。私は見てないから詳しくは分からないけど。」

 

 二人が話していると、ドックの通風口から「きゃああ!?提督ぅ!!」と叫び声が聞こえてきた。

 

陸奥「あら、この声···瑞鳳かしら?工廠の方ね。」 

雨風「····見に行こう。」 

神弓「傷も治ったし、気になるから行ってみましょう。」

 

 ドックを出て工廠に向かい、そこで三人が見たのは、提督が工廠の中で椅子に座って真っ白に燃え尽きていた。

 そして提督を秘書艦である瑞鳳が一生懸命揺さぶったりして、復活させようと努力している。

 一方工廠にいた明石と夕張がそれを半笑いで見ている。

 

陸奥「あらあら、どうしたの?」

明石「あっ陸奥さん。それがですね、そこにいる二人の修理資材の量を見て、提督が燃え尽きてしまってですね······」

陸奥 「あぁ、納得したわ。」

 

 陸奥が納得した顔になって頷く。

 一方その原因を作った本人達については、神弓は申し訳なさそうに謝り、雨風は何処かから取り出した線香を提督の足元に置いて、手を合わせてお辞儀していた···南無阿弥陀仏と。

 

 

 

 

瑞鳳 「提督、もう大丈夫?」

提督「いやぁ予想はしていたけど、ここまでの量だと精神に来るものがあるよ。それにしてもこれだけの資材、二人は艦の頃はどうやって補給とかしたの?」

 

 すっかり色が戻った提督は純粋な疑問を投げ掛けた。

 

雨風「艦の頃の補給は各国から支援して貰ってた。」

提督「えっ!それ凄いじゃん、羨ましい。」

 

 と、提督が羨ましいそうに見てくる。

 

雨風「代償に····今の私達の祖国はない。」

提督「うっ!ごめんなさいね·····」

 

 雨風が祖国の事を口にすると、すぐに羨ましいそうな視線を止めた。

 この場合、むしろやらかしたと思っている事だろう。

 そこでこの空気を変える為、すぐに別の話を出す。

 

提督 「あ、そうだ。二人には昼から他の子達と一緒に演習に出てもらうけど、いい?」

雨風「問題はない。でも、艤装が修理されていないと無理。」

明石·夕張「フフッ、それはご安心くださーい!」

神弓 「ふぇっ!」

 

 明石が突然ハイテンションになって大きな声を出した。

 あまりの変わり具合に神弓が驚きの声を上げる。

 

明石 「勿論夕張と一緒に修理して完全に直ったわよ!」

 

 明石が夕張とハイタッチする。

 その言葉に神弓は不安を口にする。

 

神弓「あの、私の艤装は精密機械ばっかりなんですが、誤差とか大丈夫ですか?」

明石「無論大丈夫よ。ここなら資材さえあれば何故か完全に修理出来るのよ。」

 

 明石が自信満々に自分の胸を叩く。

 何故かという単語が不安を煽るが、ドックと同じなんだろうと思っておこうと神弓は考えた。

 

雨風「···不思議技術。」

夕張「こっちから見たら、貴方達が不思議技術だって。」

 

 うーん·····どっちも不思議技術だな!!

 

神弓「そうなのかな。それより、艤装着けていいですか?」

明石「良いわよ。何か違和感があったら言ってね。」

 

 二人はそれぞれ修理された艤装を取り付ける。

 神弓の艤装は、四角い箱型に大きなアンテナとHマークの甲板と多数のハッチが付いている。

 その他、単装砲とCIWSやRAM等の対空兵器が搭載して、全体的に角ついた形をしている。

 まぁ、CIWSやRAMの存在は艦娘達は知らないから、何の装備だろうと考えているに違いない。

 あと左右の腰と太もも辺りに連装魚雷発射菅を付けている。

 ちなみに蓋付きの箱はミサイルVLSであった。

 一方雨風の艤装は、扶桑型と大和型を足して二で割った形をしており、三連装砲塔が五基と縦にコの字のような砲が一基、砲身が若干変な中くらい連装砲が四基搭載している。

 それでいて、神弓の付けていた単装砲と対空兵器やレンズの付いた兵器も積んでいて、VLSも搭載していた。

 そのせいか、雨風の艤装は明らかに体格に似合わない大きさになっている。

 

夕張「·····私が言うのもどうかと思うけど、雨風の体格に合ってないように見えるのだけど?」

瑞鳳「まぁ··まぁでも、本人が扱えればいいんじゃないのかなぁ?」

 

 二人を見る夕張の感想に瑞鳳が答える。

 艤装を取り付け終わると、提督が指示を出す。

 

提督「陸奥と夕張、悪いのだけど二人を航行の練習をさせてあげて、あんまり広くないから速度出せないけど。ついでに、明石は昼からの演習の機材用意を頼むわよ。」

 

 指示を出し終え、提督と瑞鳳が工厰を出ていく。

 提督もいなくなったので、とりあえず雨風が歩き出そうとすると、足元に何かが引っ付いているみたいな違和感を覚える。

 なんだろうと下を見ると、雨風と同じ服を着た10cm程の二頭身の小人が、いつの間に沢山集まっていた。

 その小人は雨風以外にも、神弓の足元にも集まる。

 

雨風「何···小人?」

明石「あー、その子達は妖精さんって言ってね。私達にとって大事な子よ。試しにしゃがんでみて。」

 

 二人は明石の言う通りにしゃがむ。

 すると妖精さん達が二人の体をよじ登り、艤装の隙間にどんどん入って行く。

 

神弓「明らかに容量以上に入ってるように見えるのですが·····」

明石「そこは気にしたら駄目よ。」

 

 妖精さんが全員入り終わると、雨風と神弓は陸奥と夕張に連れられ桟橋に向かう。

 向かう途中に何人かの艦娘を物珍しそうに見てくる。

 しかし、そんなことを気にせず歩き続け桟橋に着くと、航行の練習を始めたが───

 

雨風「キャッ!」

 

 文字通り慣れてないのでスッ転び水面に倒れる。

 

陸奥「あらー、ほら頑張って。」

夕張「うーんあの規模の艤装を着けて転けると、なかなかの迫力がありますね。」

雨風「むぅ···」

 

 倒れている雨風がふと前を見ると、今度は神弓がバランスを崩して盛大に水面にヘッドスライディング。

 

神弓「···もうっ!!夕張さーん、コツとかないんですかー!」

 

 と、先人様にコツを聞くが───

 

夕張「勘を鍛えるのが一番早いね。」

神弓「それアドバイスになってないですよ~。」

 

 夕張のアドバイスになってないアドバイスを貰いながらも頑張って練習すると、二時間位でそこそこ自由に扱えるようになった。

 

陸奥「よしよし、これだけ出来ればもう充分よ。」

夕張「二人は慣れるの早いですね。」

 

 と二人を褒めてくれる。

 

陸奥「でも早く慣れる子は三十分くらいで出来ちゃうから。」

神弓「何をどうやったら、そんなに早く出来るのか分からないです。」

 

 その後、夕張と陸奥が用事で離れた間も練習したお陰で、そこそこの回避行動も行えるほどの技術を手に入れた。

 

雨風「はぁ···疲れた。」

 

 流石疲れたのか、二人は桟橋に座って休憩する。

 

神弓「んっ?」

 

 雨風と神弓が演習まで桟橋で休んでいたら、誰がやって来た。

 神弓は目を凝らして見ると、それは明石と知らない女性だった。

 

明石「二人とも、なかなか習得するの早かったらしいね。」

神弓「ありがとうございます。ところで明石さん、後ろの方は?」

 

 明石の後ろにおぼんを持った優しそうな雰囲気の女性がついてきていた。

 

明石「こちらは鳳翔さんよ。」

鳳翔「こんにちは、鳳翔です。」

 

 鳳翔と言う女性は、丁寧で上品な雰囲気を纏わらせ、心から安心できる微笑みを浮かべて挨拶する。

 

鳳翔 「お二人とも、しばらく何も食べてない様子だったので、簡単な物ですが···どうぞ。」

 

 鳳翔はお握りやお茶の乗ったトレイを雨風達の前に置いた。

 お握りの米はテカテカに光り、とても美味しそうだ。

 

雨風「ありがとう。」 

神弓 「ありがとうございます。」

 

 二人は鳳翔の作ったお握りを幸せそうに食べている。 

 お握りは見た目通りに美味しく、すぐに無くなってしまう。

 その事を二人は少し残念に思いながら、皆と談笑をする。

 

神弓「へぇ~、鳳翔さんって初めての空母だったんですか!」

明石「そうそう、だから今の空母のお母さんでもあるのよ。」

鳳翔「明石さん、そんな大層な事ではありません。それにもう、私は性能的に退役してる身ですから。」

明石「そんな自信の無い事言ってはいけませんよ!それに鳳翔さんの作った料理はすごく美味しいのですから!」

 

 謙遜する鳳翔に更に明石がもっと自信を持つよう伝える。

 一方神弓は明石に賛同する。

 

神弓「そうですね。すごく美味しいのです。」

鳳翔「ふふ、それは嬉しい限りです。夜にはお店を開いてるので是非来てください。」

雨風「絶対に行く。」

神弓「私も私も!」

鳳翔「ありがとう。」

 

 鳳翔はすごく嬉しそうな笑みを浮かべた。

 その時、明石が時計を見るとスッと立ち上がる。

 

明石「あ、そろそろ開始の時間だから行くね。二人はここで待ってて、すぐに一緒に行く子達が来るから。」

雨風 神弓「了解。」

 

 

 

 

 

 執務室に帰った提督は、机にスピーカー付きの無線機置き、この後の展開を考えにやけた。

 

提督「さてさてどう出るかな。ねぇ、瑞鳳はどう思う?」

 

 瑞鳳は少し考えた後。

 

瑞鳳「私は···予測出来ないです。」

提督「でしょうね。これが吉と出るか凶と出るか、神のみぞ知る···かな。」



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4:鋼鉄の少女の性能が明るみに

至る小説からいくつか参考させていただきました。参考にした作家様には感謝を示したいと思います。では、お楽しみください。


 空から日光が降り注ぎ、ちょっと暑いかなと思っている時、磯の香りと共に海から涼しい海風が吹き付け、心地よい温度を保つ。

 そんな桟橋で、雨風と神弓は合流予定の艦娘を待っていた。

 すると、神弓が何かに気づいて視線を向ける。

 

神弓「あれじゃない?」

雨風「···みたい。」

 

 二人の見る先には、水上を航行する四人の艦娘がおり、近づいて来る。

 二人は桟橋から降りて水面に着地する···着地?着水?

 そしてお互い正面に立ち、大淀から会話を始める。

 

大淀「貴方達が雨風さんと神弓さんですね。私、軽巡洋艦の大淀と申します。」

霧島「金剛型巡洋戦艦四番艦の霧島です。お二人のデータ、しっかり取らせていただきます。」

瑞鶴「翔鶴型航空母艦、二番艦の瑞鶴よ。今日はよろしくね。」

神通「軽巡洋艦、神通です。よろしくお願いします。」

 

 霧島は眼鏡を付け、上に巫女服風の服に藍色のミニスカートを履いており、Xの形をしたアームの先に四つの連装砲が搭載している艤装である。

 瑞鶴は黒髪ツインテールに、ミニ袴になった巫女服、肩と背中に長い板と矢筒を付けて手に弓を持っていた。

 神通は、ロングの茶髪と後頭部にリボンを付け、セーラー服の腰の辺りに魚雷発射管を付けている。

 

雨風「私は雨風型戦艦、雨風。よろしく。」

神弓「神弓型護衛艦一番艦の神弓です。今日一日お願いします。」

 

 雨風、神弓が挨拶を終え、大淀は全員の人数を数える。

 そして全員居ると確認を終えて、命令を発した。

 

大淀「では、全艦揃ったようなので沖に出ましょうか。全艦、前進半速。」

神弓「え、前進半速?」

 

 その命令に神弓は僅に困惑する。

 

瑞鶴「どうかした?」

神弓「いえ、何でもありません!」

 

 神弓はそう返事をする時、チラッと雨風に視線を向ける。

 雨風は特に変わった様子は見せない。

 神弓は雨風の様子を見て、多分問題ないと判断して出発する。

 そして沖へ向かっている途中、神通が最初にある事に気づく。

 それは雨風と神弓が周囲に比べ、かなり頻繁に速度調整をしていると。

 

神通 (まぁ艦娘になったばかりだから、しかないですね。)

 

 神通は同じく艦娘になったばかりの頃に、全く同じ出来事を経験していた為、よくある事だと考えた。

 しばらくして他の艦娘も次々気づくが、皆同じように気にしなかった。

 外洋に出てから、大淀はまた別の命令を与える。

 

大淀「それでは皆さん、しばらくは雨風さんの速度に合わせて走りましょう。」 

雨風「私?大丈夫?」

瑞鶴「大丈夫よ少々、気にしないで。」

 

 余裕を持った表情を瑞鶴はする。

 大きな艤装から戦艦とは分かっていたので、規模から見ても20kt弱、速くても金剛型巡洋戦艦の30ktには及ばないと予測していた。

 しかし、それは間違いだったと気付かされる事になった。

 

雨風「わかった···辛くなったら、言って。───第一戦速。」 

 

 最初は皆が雨風の言葉を冗談と受け取っていたが、雨風が速度を上げたら、皆の表情が変わる。

 周囲は雨風の予想以上の加速に慌てて追いかけるが、第一戦速で17.8kt。

 そこからさらに増速する第二戦速で35.7kt、これで霧島と瑞鶴が脱落して、大淀と神通が最大戦速で走っていた。

 雨風はさらに自身の最高である53.5ktで走る。

 

雨風「風···気持ちいい。」

神弓「そうだね。でも、私はもっと出せるけど。」

雨風「それは、神弓が速すぎるだけ·····」

 

 すると、かなり後ろから大淀の叫びが聞こえた。

 

大淀「あの!ちょっと待ってくださいッ!!」

 

 雨風と神弓は、ここで他の艦娘がいなくなったのに初めて気づき、後ろを振り返る。

 そこには、遠くで息切れしている大淀達の姿が。

 二人は傍まで移動する。

 

雨風「だから、言ったのに····」

瑞鶴「速、すぎ··るわよ!!」

 

 瑞鶴は、さっきの余裕は何処へ吹き飛び、疲れ果てた。

 

霧島「一体そんな速度を出せるって···どんな機関を積んでいるのですか?」

雨風「核融合炉Ⅳ。」

 

 霧島の質問に対して核融合炉という答えが帰ってくる。

 それを聞いた霧島は?を浮かべる。

 

霧島「雨風さん。その、核融合炉Ⅳ····でしたっけ?初めて聞いた名ですね。どんな構造をしてるのですか?」

 

 雨風は少しだけ考えると、一部だけを抜擢した説明をする。

 

雨風「海水を燃料にして動く機関を改良した最新型。」

 

 霧島が目を見開いて驚愕し、今までの疲れたを忘れたように雨風に近づいていく。

 

霧島「えっ!海水を燃料に!それって雨風さんにとって、周りに燃料があると?」

雨風「そう。」

 

 霧島だけではなく、周りにいる艦娘も驚いて雨風を凝視する。

 

瑞鶴「··· あんた、ほんとどんな艦なの···?」

 

 瑞鶴が驚きと呆れた組み合わせた顔をして話した。

 

雨風 「戦艦····?」

瑞鶴 「いや、違う。そうじゃなくて。」

 

 霧島が雨風と瑞鶴の間に割り込んで、雨風に質問する。

 

霧島「あの、雨風さん。海水を燃料にするためにどんなやり方をしているのですか?」

雨風「プロセスは凄い複雑、だから貴方達では理解は難しい···運用は出来ない。」

霧島「そっ、そうですか。」

 

 霧島は明らかに落胆した様子を見せる。

 霧島が落胆した理由はシンプルで、鎮守府にとって燃料を含む資源は貴重な物だ。

 海水を燃料代わりに出来た場合、移動だけ限れば核融合炉が壊れない限りほぼ永久的に移動が可能。

 更に燃料の輸送をスペースを他の資源に切り替えれる。

 霧島が落胆している時、大淀は別の事が気になった。

 

大淀 「雨風さん。核融合炉の出力は一基でどの程度です?」

 

 ここで雨風は考える素振りを見せる。

 それはここで機関の性能を話していいかと悩む。

 しかし最終的には話そうと決めた。

 話そうとした理由は、まずこの世界では実現不可能と判断した為である。

 もしかしたら妖精さんによって作られる可能性はあるが、見た感じ艦娘の装備がかなり旧式ばかりであり、核融合炉が作れる程の技術力がないと思ったからだ。

 

雨風 「最新型の核融合炉Ⅳの出力は32000。」

大淀 「なっ!32000ですか!?」

 

 大淀達の使うロ号艦本式缶(ボイラー)の出力は、およそ12000~15000の出力で雨風の搭載している核融合炉の半分以下の出力しかない(実際に合ってるかはお任せします。)

 

瑞鶴 「え!そんなものを何基積んでいるのよ!」

雨風 「核融合炉十二基とタービン٤型四基。およそ合わせて100万馬力。」

 

 周りの艦娘達はその数字に戦慄した。

 ────まるで鳩が豆鉄砲を食らったように····

 雨風の言った数字は文字通り桁違いだった。

 本来であれば、一艦が持って良い出力ではない。

 その時、大淀がハッと我に帰り、神弓の方を向く。

 

大淀「えっと、神弓さんは?」

 

 恐れながら大淀は側にいる神弓に聞く。

 

神弓「私ですか?私は同じ核融合炉Ⅳ三基で二基の小型タービン٤型で161,280馬力です。」

瑞鶴「なんで貴方は貴方で大和型並みの出力があるのよ!」

霧島「なるほど、戦艦並みの出力に軽い船体ですから、道理であの加速性能と速度性能があるわけですね。」

 

 もはや一周回って吹っ切れるレベルに達したお陰で冷静になった瑞鶴は神弓にツッコミ、霧島は分析を始めていた。

 一方その頃、横須賀鎮守府の執務室では、無線機片手に頭を抱える提督の姿が。

 

武蔵「提督。これは···どういう事だ?」

提督「私に聞かないでよ武蔵····取り敢えずこう言ってるけど、普通に信じれないよね。」

 

 と、提督達は部屋で、大淀·霧島と秘匿無線を繋いで話を盗み聞きをしていた。

 ちなみに執務室には、大和や武蔵に長門や陸奥、赤城加賀と秘書艦の瑞鳳などが居る。

 

加賀「嘘の可能性はないのかしら?」

長門「加賀、諦めろ。実際にその性能を見せているからな。」

加賀 「そうだったわね。私達は見ていないけど。」

提督「それじゃあ次に、兵装を聞いてくれる?」

 

 提督はマイクで霧島へ伝える。

 無線機のスピーカー越しに会話が流れる。

 

霧島「あのぉー、それだけの機関を積んでいるなら、兵装もきっと凄いと思うのですが?」

雨風「私はいろんな最新型が乗ってる艦、色々ある。主砲や対空パルスレーザー、ミサイルなどがある。 」

 

 レーザーやミサイルなど聞き慣れない単語が出てくる。

 

武蔵「なっ、なぁ提督よ···いくつか理解出来ない物もあるのだが····」

 

 武蔵は単語について困惑する。

 それは他の艦娘もそうだった。

 彼女達には全く持って聞き覚えのない兵器であったらだ。

 

提督「皆が知りたいのはミサイルとレーザーよね?」

武蔵「あぁそうだ。そのミサイルとレーザーとやらはなんだ?」

 

 大和や赤城達も武蔵と同じような疑問を思い浮かべていた。

 その疑問に対して提督が簡単に説明してくれた。

 

提督「いい?まずミサイルって言うのは長射程の誘導式噴進弾に近い。それでレーザーって言うのは工業加工とか使われるもので、わかりやすく言うとすごく強い光の事はなんだけど、レーザーって光の速さで飛ぶから避けれないのよ。でもそれには高い出力が必要だし、曇や霧が掛かると威力がかなり減衰するけど、多分雨風は問題ないわよ。雨風の桁違いの出力はそれを補うためじゃない?」

長門「ふむ?それはつまり航空機はほぼ無効になるって事か?」

提督 「多分そうじゃないかしら。」

 

 提督の説明に長門の疑問を、概ね予想通りの返答が帰ってきた。

 

赤城「えっ?その性能なら、私たち空母の出番は───」

提督「え?いやいや大丈夫だって安心してっ!!だから泣きそうならないでお願いだからっ!!」

 

 ここで、自分達の存在価値を無くなりそうになって、泣きそうなった空母組を慌てて慰めることに····

 

赤城「本当ですか?」

提督「本当、本当だから!」 

赤城「なら良かったです。」

提督「はぁ良かった。えっと次に、神弓の方を聞いてちょうだい。」

 

 提督が疲れた声で大淀に伝える。

 

大淀「なら、神弓さんはどういったい兵装を搭載しているのですか?」

神弓「えっと私は、127mm速射砲と艦空潜特四種類のミサイルに魚雷、あとは雨風の付ける対空兵装くらいかな?数少ないけど。」

大淀「どう見てもそれだけで充分だと思うのですが····」

 

 大淀が神弓の言葉を否定している中、提督は神弓の兵装について考えていた。

 

提督「うーん、神弓は駆逐艦にミサイルをつけたみたいだね。」

大和「提督、そのミサイルが問題なんですが。」

提督「うぐっ!·····その通りね。」

陸奥 「海に空に海中、それでいて遠近どちらとも対応··ね。軽巡や駆逐艦達が聞いたら羨ましいがるのじゃないかしら。」

長門 「まさに万能艦だな。」

提督 「さて、そろそろ次に行ってくれる?」

 

 

 

 

大淀「それでは皆さん行きますよ。」

神弓「あっちょっと待って下さい。大淀さんと霧島さん。」

 

 神弓が手を上げ、二人の傍まで近づく。

 

大淀「どうかしました?」

神弓「提督に伝えて欲しいのですが、盗み聞きもほどほどでお願いします。」

 

 周りに艦娘は首を傾げていたが、大淀と霧島は神弓の言葉に苦笑いをしている。

 

 

 

 

提督「うっわぁ、バレてらー。」

加賀「流石にバレるのは想定してなかったわね。」

提督「まったく、その通りよね。しかしなんで気づいたのかしらね?」

 

 提督の言葉に返答できる人はここにはいなかった。



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5:鋼鉄の艦娘達の射撃演習

 艦隊が海域を航行中、神弓が訝しげな顔をすると、ちょうど隣にいた瑞鶴に話しかける。

 

神弓「あのぉー、瑞鶴さん。さっきからレー···じゃなくて、電探に反応があるのですが····」

瑞鶴「えっどこから?」

神弓「えっと。一時の方向、距離20(海里)。」

瑞鶴「ねぇ大淀、どう思う?」

 

 瑞鶴が旗艦大淀に問い、大淀は顎に手を当て思考する。

 20海里をkmに直すと、約37km。

 37km先の反応が敵だった場合、もうしばらくしたら敵戦艦の主砲の射程内に入る。

 もし艦隊が発見されていた場合、空から砲弾が飛んで来るだろう。

 大淀は少し考えた後、反応について詳しく質問する。

 

大淀「神弓さん、どんな反応ですか?」

神弓「はい。巡洋艦クラス二、あと···なんだろう?駆逐艦級クラスじゃないし、駆逐艦より小さい反応が十です。」

 

 その報告を聞いて、大淀はある艦隊が思い浮かんだ。

 

大淀「おそらくその編成の艦隊は、合流予定の標的を輸送している艦隊だと思います。しかし一応念の為、偵察を出します。」

 

 大淀はカタパルトから一機の水上機を射出する。

 射出した水上機は、大きなエンジン音を出しながら艦隊を離れていく。

 

雨風「零式水上偵察機、懐かしい·····」

 

 飛んで行った水上機を見ながら呟いた。

 その時隣にいた神通が、雨風の呟きが気になり質問する。

 

神通 「雨風さんって、零式水偵を搭載していたのですか?」

雨風 「艦の頃····今は無い。」

神通 「なら今は何を載せてるのですか?」

雨風 「何も無い。カタパルトも無い。」

神通 「あら、そうなんですか?」

 

 神通は意外そうにする。 

 長距離の索敵において、航空機による偵察が一番早く遠くまで可能だ。

 場合によっては、砲撃戦の弾着観測にも有効だからだ。

 

神通 「戦艦でカタパルトを搭載してないのは珍しいですね。何でですか?」

雨風 「要らなくなったから。」

神通 「?」

 

 一方その頃、神弓は瑞鶴に若干苛立ちの入った声で叱られていた。

 

瑞鶴 「神弓、いい?何かあったら、ちゃんと一つ一つ早く報告しなさいよ!」

神弓 「すいません。てっきり皆さん気付いているものと思って、雨風も反応しなかったので·····」

瑞鶴 「····なんでそこで雨風が出てくるのよ?」

神弓 「雨風、気付いてたよね?」

 

 神弓は振り返って雨風に視線を移し、雨風は二人の方に頭を動かし、コクリと頷く。

 雨風の反応に、瑞鶴がさっきまでの苛立ちはなんだったのかと思えるほど、呆れた声で話す。

 

瑞鶴 「はぁ···なんであんたも報告しないよ。」

雨風 「反応は十二だけ···その程度なら問題ない。」

瑞鶴 「そういう問題じゃないでしょう!」

霧島 「まぁまぁ、いったん落ち着いて下さい。それで、偵察はどうなりましたか?」

 

 ヒートアップしている瑞鶴を止めながら、偵察の結果を聞く。

 

大淀 「ちょっと待って下さい。───来ました。川内と由良の輸送艦隊です。」

瑞鶴 「なら、安心ね。」

 

 反応が味方であった事に艦隊全体の雰囲気が緩くなる。

 そこでふと、霧島があることに気づく。

 

霧島 「そういえば····今気が付いたんですが、お二人はどうやって川内の艦隊を発見したんです?」

雨風 「電探。私は150km、神弓は500km。」

 

 霧島は無意識に首を傾げてしまう。

 

霧島 「500···?本当ですか?」

 

 500という桁違いの数値に思わず聞き返してしまう。

 そんな中、神通だけが納得したように首を縦に振っていた。

 

神通 「なるほど。だから先程、水上機を積んでいないと言った訳ですね。」

 

 霧島の持つ電探は、精々35kmの探知範囲しか持たない。

 しかし半径500kmとは、偵察機に比べるとどうしても見劣りしてしまうが、偵察機は目視で捜索するので見落とす可能性が出てくる上、夜間には飛ばす事は出来ない。

 それに比べ、電探はよっぽど低空にいない限り、発見率がかなり高い特徴がある。

 そして何よりも、偵察機より電波の方が圧倒的に速いので、すぐに状況を把握することが出来る。

 攻撃を把握するのが早ければ早い程、防衛に割ける準備時間も長い。

 

瑞鶴 「···規格外ね、貴方達。」

神通「本当にお二人の事には慣れて来ました。···というか慣れてはいけないのですが。」

雨風「もう、合流する。」

 

 そんなこんなしている間にも、合流地点に近づく。

 合流地点には、二隻の艦娘がロープで繋がった標的を持って待機していた。

 艦隊が合流し、川内と由良が挨拶してくる。

 

川内「こんにちは、初めて会ったよね!川内型軽巡洋艦の川内だよ、夜戦なら任せてね!」 

由良「長良型軽巡、四番艦の由良です。どうぞよろしくお願いたします。」 

雨風「雨風、よろしく。」

神弓「神弓と言います。今日一日お願いします。」

 

 自己紹介を終えると、大淀が雨風達に対して演習の説明を始める。

 

大淀「今回は射撃演習のみ行います。お二人には川内達が引っ張る標的を狙って撃って下さい。」

神弓「了解です!」

雨風「わかった。」

大淀「では川内さん。標的を動かしてください。」

川内「ラジャッ!それじゃあ見せて貰うよ!」

 

 川内が標的を引っ張って離れていく。

 

雨風 「ねぇ大淀、神弓と少し話していい?」

大淀 「別に構いませんよ。」

 

 大淀からOKを貰い、雨風が神弓を引っ張って艦隊から離れる。

 そしてある程度離れてから、声が聞こえないように小声て話しかける。

 

神弓 「どうしたの?」

雨風 「武装、全部使って。」

神弓 「えっ!いいの?」

 

 神弓は目を見開いて驚く。

 それは、相手に手の内をすべて晒す事を意味するからだ。

 

雨風 「もし動かなかったら、まずいから。」

 

 雨風は手の内を晒すリスク負ってでも、この世界で感覚を掴んだ方がいいと判断した。

 もし装備に慣れてなかったり、使えない装備が出てくると、まともな戦闘は難しいと思ったからだ。

 それに噂に聞く深海悽艦の強さが分からないので、万全な状態にしておきたいのもある。

 

神弓 「うーん。まぁ、雨風がそう言うなら····そうしようかな?」

 

 神弓も考えたが、面倒になって思考放棄した。

 

大淀 「そろそろいいですか?」

 

 話をしていると大淀に呼ばれたので、ここでは使える物は使うというスタンスで行くことになった。

 

川内「準備出来たよー!」

 

 ちょうど戻った時に、川内かは準備完了の報告が届いた。

 ここで大淀から演習での注意を受ける。

 

大淀「いいですか?間違っても、川内さんには当てないで下さいよ。」

雨風「大丈夫。」

神弓「問題ないです。」

 

 二人からの了承を受けて、雨風から開始する。

 目標は五つの標的。

 

雨風「ねぇ大淀、対艦兵装?」

大淀「勿論そうですよ····?」

 

 雨風はコクリと頭を動かすと走りだした。

 雨風が走り出す時、神通だけが妙な視線を向けていた。

 

雨風「《目標、A·B·C·D·Eに設定》《目標A、一番砲塔から三番砲塔、照準》《目標B、四番砲塔から五番砲塔、照準》《各諸元計測開始〈空気抵抗〉〈風向き〉〈温度〉〈湿度〉〈気圧〉───計算完了》《〈偏差、仰角合わせ〉───完了》一番から三番、撃って。」

 

 雨風の艤装から巨大な火焔が噴出した。

 至近で落雷が落ちたような大音響が轟くと同時に、発射時の衝撃波で水面が抉り取られたように凹む。

 三基九門の61cm砲弾は、目標Aに向かって飛翔する。

 着弾の瞬間、目標Aとその周辺を覆い隠す程の巨大な水柱が立ち上がる。

 

川内「うわぁぁー!」

 

 ───川内の悲鳴が聞こえた気がするが、おそらく気のせいだろう。

 Aからは命中判定の煙が出てる為····というか衝撃波やその他諸々で粉々に砕かれているため、雨風は目標Bを狙い撃つ。

 

雨風「四番と五番、撃って。」

 

 再び巨大な火焔が噴出する。

 青い柱がBを囲み、崩れる。

 Bの姿が露わになった時、煙を吹き出す。

 目標A.Bに命中を確認後、目標Cを攻撃する。

 

雨風「《目標A·Bに命中確認》《目標Cに対し、レールガンを使用》《照準完了》───撃って。」

 

 レールガンのレールがCに向く。

 レールからバチバチと放電し、一際大きい光が放たれると───

 ギュオン!!

 甲高い音が聞こえた瞬間にはCから煙が出始めていた。

 

雨風「《目標D.Eに荷電粒子砲を使用》《一·二番、目標D》《三·四番、目標Eに照準》───撃って。」

 

 中サイズの連装砲の砲口から謎の光弾が放たれた。

 荷電粒子砲四基八門の発射した光弾は半々に別れる。

 光弾は榴弾砲を思わせるような曲射で飛んでいき、標的に当たると砲とは違う爆発を起こした。

 

雨風「《全目標の喪失を確認》───終わった。」

 

 雨風の狙った標的は悲惨な状態になっていた。

 二つは粉々、一つは支える柱が折れ、二つは消滅····消滅ってなんだよ。

 雨風は演習が終わって艦隊に戻る。

 そこには、ほぼ全員が口を半開きしてポカーンとしていた。

 その光景に雨風が訝しげにしていると、神弓が話し掛けてくる。

 

神弓「どうしたの?いつもより弾がバラけているんじゃない?」

雨風「···それは、始めてだった··から。でも、神弓は大丈夫。当たる。」   

神弓「ふふっ当たり前だって、私から精度を無くしたら何も残らないよ。私の射撃、見せてあげる!」

 

 神弓は踊り出すかも知れない程、上機嫌で跳ねる。

 そこで視界に顔色を悪くした由良の姿が見えた。

 

神弓 「あれ?由良さん。顔色悪いけど、大丈夫ですか?」

由良「あ···えぇ、大丈夫よ···それじゃあ、行って来る···わ。」 

 

 明らかに体調が悪そうな由良が標的を引っ張って行く。

 

大淀「あー···霧島、川内回収して来て。」

霧島「わかったわ·····」

 

 それを見ながら、大淀は水面に倒れている川内を霧島に引っ張って来るように命令する。

 なお、川内は少し離れていたといっても、規格外の破壊力を持つ61cm砲弾の強烈な衝撃波によって、軽く吹き飛び、目を回して水面に倒れていた。

 そんな状態の川内を、霧島が艦隊側まで引っ張って来る。

 そして由良が指定位置に着くと、神弓の演習が始まった。

 

神弓「神弓、行きます!」

 

 神弓がいきなり最大戦速で走り出す。

 艤装のVLSのハッチが開き、ミサイルが大量の煙を吐きながら垂直に二発打ち上げられる。

 

霧島「あれがミサイルですか!」

瑞鶴「見てっ!向きを変えてる!」

 

 艦隊の方では、雨風のお陰で観察できる余裕ができてた。

 垂直に打ち上げられたミサイルは、ほぼ直角に曲がると、二個の標的に向かい進路をとる。

 その間、神弓はミサイル発射後に標的に更に近づいて、127mm速射砲を標的に撃ち込んだ。

 発射された砲弾は寸分も狂わず標的の中央に命中。

 127mm速射砲には、雨風の61cm砲や荷電粒子砲などの火力は無いが、その代わり精度と発射速度に特化している。

 発射速度は分間二十発、三秒に一発のペースで発射でき、目標が軽装甲であれば砲弾で蜂の巣にすることも可能。

 この時二つの標的を破壊するなど、127mm速射砲にとってすれば十秒以下で可能だ。

 最後に残った標的には、魚雷をお見舞いして破壊する。 

 神弓は流れるような動作で標的を破壊していく。

 

大淀「ミサイルも凄いですが、あの主砲の精度と発射速度が異常です。」 

 

 その光景を観察している大淀が疑問を漏らす。

 

瑞鶴「むしろ異常じゃない所ってある?」

神通「やっぱり···見間違えじゃなかったのですね。」

瑞鶴「んっ?神通何か言った?」

神通「いえ···なんでもありません。」

瑞鶴「そう?ならいいけど。」

川内「あ、由良達お帰りー。」

 

 演習を終えた神弓と由良が戻ってくる。

 一方川内が神弓の演習中に復活したようだ····早くね?

 

由良「移動役がこんなにも疲れるのは始めてです···」

 

 由良はパッと見るだけで疲労しているのがわかる。

 その一方川内は、まだまだ余裕があるように見える。

 

川内「あはは、本当にそうだよね!」 

大淀「それでは鎮守府に戻りましょう。」 

 

 演習も終了したので、艦隊は鎮守府に向け移動を開始する。

 戻る途中に瑞鶴が何気なく気になった事を質問する。

 

瑞鶴「ねぇ二人とも、やっぱり貴方達って速度調整が苦手なの?」

雨風「特にそんな事ない。」

瑞鶴「そんな訳ないでしょ?だって頻繁に速度調整してるし。」

雨風「機関の構造上しかたない。」

瑞鶴「つまり?」

雨風「私達はギア式変速機を使ってるから。説明は·····神弓、任せた。」

 

 説明をまるごと振られた神弓は、やれやれと言った様子で説明し始める。

 

神弓「はいはいわかりましたよ。まず、大淀さん達の使う機関はボイラーの出力で速度調整を行いますが、私達は機関の都合上それが難しいです。その為代わりに変速機で調整できるギア式が採用されています。」

 

 なるほどと、周りが思う中瑞鶴だけが理解出来てない様子だ。

 

瑞鶴「つまりどういう事なのよ。」

神弓「車で例えると、アクセル踏みっぱで変速機だけで速度調整している状態って事です。」

瑞鶴 「うーん?····なるほど、納得したわ。」

 

 ちなみに雨風と神弓は最大戦速(Max)、第二戦速(三分の二)、第一戦速(三分の一)、停止、後退の六種の速度調整しか出来ない。

 

瑞鶴 「不便ね。」

 

 瑞鶴から同情するような視線が向けられる。

 

神弓 「その代わり壊れにくいですけどね。」

瑞鶴 「あれ?それって艦隊行動とか難しいよね。」

神弓 「確かにその通りです。でも、私達に問題ありません。」

瑞鶴 「どうして?」

 

 神弓の言う内容にいまいち分からないと思っていると、次の神弓の言葉に呆気を取られた。

 

神弓 「雨風も私も、少なくとも艦隊行動を殆ど行っていません。」

瑞鶴 「えっ!艦隊行動をやってないって、あり得ないでしょ!」

 

 瑞鶴だけではなく、他の艦娘も似た感じに驚きの様子を見せる。

 

神弓 「それはですね····あっ鎮守府が見えて来ましたよ!大淀さん、どこに行ったらいいですか?」

大淀 「あーえっと、付いてきて下さい。」

神弓 「はい!」

 

 神弓に聞こうとしたが、もうまもなく鎮守府に着くために話を中断せざる終えなかった。



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6:二人のこの先。

 以前製作した部分はここまでなので更新速度が低下しますが、よろしくお願いします。ではお楽しみ下さい。


雨風「暇······」

神弓「そうだね······」

 

 二人は射撃演習を終えた後、鎮守府に戻って来たはいいが、やる事が無いので待ちぼうけになっていた。

 

雨風 「これからどうする?」

神弓 「うーん。休もうにも休憩場所を知らないし···」

雨風 「···神弓、瑞鳳が来てる。」

 

 雨風の見る場所から、瑞鳳が駆け足でこっちに向かって来ていた。

 

瑞鳳「雨風さん、神弓さん。」

雨風「瑞鳳、どうした?」

瑞鳳「提督が、甘い物でも食べてきたらって言ってたの。だから····どう?」

 

 瑞鳳はそういうと、懐から券を取り出す。

 二人は断る理由も無いので了承する。

 二人は瑞鳳に着いて行き、看板に食堂と呼ばれる場所に到着した。

 中に入ると、数十人が一度に入れる位大きな食堂であり、机や椅子が所狭しに置いていた。

 瑞鳳は食堂のカウンターとおぼしき場所にいた人に、券を渡していた。

 

瑞鳳「間宮さん。甘味処の券と初の券が二枚、お願いします。」

間宮「はい、わかりました。初の券は····あそこにいる二人の分ですね。」

瑞鳳「はい、そうです。二人ともー!ちょっと来てぇー!」

 

 ここで周りを見ていた二人が、瑞鳳に呼ばれやってくる。

 

瑞鳳 「この人が間宮さんって言うの。」

雨風「雨風です。」

神弓「私は神弓と言います。」

間宮「雨風さんと神弓さん、間宮です。これからよろしくお願いしますね。それでは準備してきますので。」

 

 間宮は挨拶をして、カウンターの裏に歩いて行った。

 

瑞鳳 「それじゃあ席はー、あそこに座ろう!」

 

 指を指した端のテーブル席に座る。

 座ってから料理が来るまで、今日の演習事などの他愛の無い話をしていると、瑞鳳がある事を思い出したようで、内容を伝える。

 

瑞鳳「そうだ!二人とも、妖精さん呼んでくれる?」

神弓「えっ?どうやって呼ぶんですか?」

瑞鳳「頭で念じて呼んだら来るよ。」

 

 瑞鳳にそう言われたので二人が頭の中で集合と念じる。

 これで本当に来るの?と思っていたら、数分程でポツポツと妖精さん達が本当に集まって来た。

 ちょうど妖精さんが集まりきった所で、間宮がお盆に乗っけてやって来る。

 アイスと熱めのお茶を瑞鳳達や妖精さんの所に置いていく。

 置き終わった時、カウンターの方からジリリリと音が鳴り響く。

 

間宮「何かしら?あっ召し上がって下さい。」

 

 間宮はすぐに音の鳴る方に走り去った。

 あまり気にせずに、出されたアイスを食べる。

 すると、食べた全員がすごく幸せそうな空気が流れる。

 表情の乏しい雨風も、心なしか笑顔になっているように感じる。

 

神弓「癒されますね。」

雨風「美味しい····!」

瑞鳳「でしょう!間宮さんの作る甘い物は凄く美味しいからね!」

 

 甘いアイスによって皆が上機嫌になり、ほのぼのする空気が流れる。

 ふと神弓がアイスを食べている時に、妖精さんの様子を見ようと視線を向けたら、何故か妖精さん達が慌てたように動いていた。

 

 

 

 

妖精さんの世界

「甘い物っていいよね。」「あー美味しかった!」「やっぱそうだよね~、あっ·····!」「うわーっ!?砲術妖精に熱いお茶がぁー!!」「ちょ、熱い熱い!?助けて!!」「熱盛!!」「すいません。熱盛と出てしまいました。」

 

 

 

 

 

 机の上で慌ただしく動く妖精さんを前に、神弓は困惑する。

 

神弓「···何やってるんだろう、妖精さん達?」

瑞鳳「でも、賑やかなのは良い事ですよ!」

雨風「にぎ··やか····?」

 

 忙しなく動いている妖精さんを観察していた時、再び間宮が近づいて来た。

 

間宮「提督から執務室に来てほしいと連絡がありました。」

瑞鳳「ん、私だけ?」

 

 間宮は首を横に振る。

 

間宮「いえ、皆さんです。」 

神弓「何の用事でしょう?」

雨風「知らない。」

 

 アイスを食べ終わってすぐに提督室に向かった。

 妖精さんは···まぁ、放置で大丈夫···か?

 

 

 

 

瑞鳳「失礼します。」

 

 瑞鳳がドアを開け、中に入る。

 それに続いて雨風、神弓も入った。

 執務室内には、提督以外にも長門や陸奥、あと見た事のない複数の艦娘が整列している。

 

提督「いらっしゃい~。」

 

 提督は椅子に座った状態で笑みを浮かべる。

 

雨風「何の用?」

提督「まず用事を言う前に、始めて会った子は自己紹介をしてもらうよ。雨風と神弓が最初にお願い。」

 

 提督にそう言われたので、始めて見る艦娘に向かって自己紹介をして、次に相手の自己紹介が始まった。

 

赤城「航空母艦、赤城です。よろしくお願いしますね。」

加賀「航空母艦、加賀です。貴方達が雨風と神弓?中々に腕が良いと聞いているわ。」

大和「大和型戦艦、一番艦の大和です。」

武蔵「大和型戦艦二番艦、武蔵だ。よろしくな!」

 

 長門、陸奥は既に会っていたので、それ以外の艦娘が己紹介が終わったタイミングで、提督が呼び出した内容を話し始めた。

 

提督「よし、全員終わったね。それで呼び出した理由なんだけど、二人には主なメンバーに顔を合わせて欲しかったのと、明日に艦隊同士の演習をする事を伝えるためだったのよ。明日だけど二人とも大丈夫?」

雨風「別に構わない。」

神弓「大丈夫です。」

提督「なら良かった。それじゃあ雨風、神弓以外は一旦退室してくれるかな?」

瑞鳳「はい。」

 

 雨風と神弓を除く艦娘が、提督室を出て行く。

 扉がパタンと閉じると、部屋の雰囲気がガラリと変化した。

 

提督「二人は今後どうするの?」

 

 提督が真剣な面持ちで見てくる。

 その目には鋭い眼光を持っているように感じる。

 

雨風「可能ならここにいたい。でも、そっち次第·····」 

 

 雨風は、鋭い眼光を受けても動じず話す。

 

提督「こちらとしては、貴方達のような強力な戦力が手には入るのは嬉しい事なんだけど、本当にここにいるの?」

雨風「いる。ただし条件付き。」

提督「·····条件は?」

 

 提督が条件を聞いてくる。

 雨風は手で五を表す。

 

雨風「全部で五つ。一つ目、作戦とかで私達を敢えて殺すような事をしない事。二つ目、私と神弓を離れて配置をしない事、常に一緒。三つ目、もし別の鎮守府に配置変えになる時には私達に許可を得る事。四つ目、艦の頃の記憶はあまり詮索しないでほしい。」

 

 提督は難しい顔をして悩む。

 

提督「一つ目と四つ目は理解出来るけど、二つ目と三つ目の根拠は?」

雨風 「二つ目は、私達はイレギュラー····だから、お互いに状態を把握したい。もし何かあったらここの艦娘だと対応出来ないかも。三つ目、私達の戦闘力が本来の艦娘も比べ高い。無理やり最前線に送られ沈められるかもしれない。それに、貴方はそんなことをしないと私達は信頼している。」

 

 提督はいまだに難しい顔をしているが、信頼していると聞いて、少しだけ表情が柔らかくなった。

 

提督「それは嬉しいわね。わかった、上に掛け合ってみるわ。難しいけど、私が何とかしましょう。それで、最後の一つは何かしら?」

雨風 「最後に───私達はあくまで同盟関係·····」

 

 緩んでいた提督の表情が戻り、またもや重苦しい空気が流れる。

 

提督 「それは···何故かしら?」

雨風 「この世界に存在しなくても、私達の祖国はウィルキア。それ以上でも···以下でもない。」

 

 それを聞いた提督は、目を瞑り眉間に皺を寄せながら思考する。

 しばらく経ってゆっくり目を開け、今まで以上に真剣な雰囲気をさせながら二人を見た。

 

提督「わかった、もう一度確認するわ。本当に約束守ったら、私達と一緒に戦ってくれる?」

雨風「本当····我がウィルキア王国の名に懸けて、行動で示す。」

 

 雨風は提督に対して敬礼をした。

 神弓の雨風に随行して敬礼する。

 それを見た提督は、ため息をつきながら立ち上がると、

 

提督「改めてましてよろしくお願いします。ウィルキア王国所属、戦艦雨風。護衛艦神弓。」

 

 そういうとお互いに握手する。

 今まで凄まじい緊張感を纏っていた部屋から緊張感が抜け、いつもの提督室に戻った。

 二人との話し合いが終わったら、提督は外で待っている艦娘達を呼ぶ。

 

提督 「よーし!あれの準備するわよっ!!」

長門「了解した。」

神弓 「あれの準備って?」

 

 ガッツポーズをしている提督にあれの内容を聞くと、にやけながら内容を教えてくれた。

 

提督 「宴、パーティーの準備よ!」

神弓 「今日は何かの特別な日ですか?」

 

 神弓は気になったので聞くが───

 

提督 「何言ってるのよ主役ぅ!」

神弓 「はいっ?」

 

 神弓は、提督の言ってる意味がわからない様子でポカーンとしている。

 ポカーンとしている神弓に、もっと詳しく説明してくれる。

 

提督 「私の所は新しく仲間が増えると歓迎会をするのよ。新しい仲間と言ったら貴方達じゃない!」

 

 提督は雨風と神弓を見ながら説明していると、長門が話し掛けてくる。

 

長門 「ここはこれが恒例だからな。それで提督、人手が足りないから手伝ってもらうが、話し合いで疲れてないのか?」

提督「別に構わないわよ。それに明日は艦隊の演習だから、今日の内に全員に紹介したいし。」

 

 疲れなんざありませんとばかりに張りきる提督。

 そんな提督を見て、長門は心配する必要が無いと判断した。

 

長門「よし、なら急ぐとしよう。」

神弓 「私達も手伝いますよ。」

 

 神弓は自分も準備を手伝うと名乗りを上げるが、長門に止められた。

 

長門 「主役は後で出番が山程あるぞ、だから安心しろ。」

提督「待っている間は···そうね、二人を部屋に案内させたいんだけどぉ───大和、行ってくれる?」

大和「承りしました。では私についてきて下さい。」

 

 大和、雨風、神弓は提督室を後にする。

 それから建物を横をいくつも通りすぎ、しばらく歩くと寮のような建物に入って行く。

 廊下を移動中に、誰かの声が聞こえる。

 

?「どうも大和さん、彼女達が噂の艦娘ですか?」

 

 後ろから声が聞こえたので後ろを向くと、パシャっと、音とフラッシュが光った。

 フラッシュの光で反射的に目を閉じて、ゆっくり瞼を上げると、そこにはセーラー服にポニーテールの子がカメラを構えていた。

 

青葉 「貴方達が噂の艦娘ですね?ども、恐縮です、青葉ですぅ!一言お願いします!」

雨風 「····?」

神弓 「え、えっ!?」

 

 雨風は首を傾げ、神弓はいきなりのことで軽くパニックに陥る。

 

大和 「困らせたら行けませんよ。それに質問は今夜の歓迎会に行いますから。」

 

 大和が青葉を叱る。

 

青葉 「なら、名前だけでも教えてくれませんか?」

 

 しかしここで引き下がらないのが青葉クオリティーなのか、せめて名前だけでも聞こうとする。

 

雨風 「雨風。」

神弓 「えっと、神弓です。」

青葉 「なるほど、雨風さんと神弓さんですね。では、次は歓迎会の時に!」

 

 青葉は手に持ったメモに名前を書いた後、急いで離れる。

 二人に対し、申し訳なさそうに大和が謝罪をする。

 

大和 「すいません。元からあんな子なんです。」

神弓 「いえいえ、気にしてませんから。」

雨風 「問題ない。」

大和 「それでは案内を続けますね。」

 

 大和が案内した部屋は、二人が過ごすには十分な広さがあった。

 机やクローゼットの他、二段ベッドが置いてある。

 

神弓 「ここが私達の部屋かぁ。」

雨風 「思っていたより広い。」

大和 「何かあったら私に言って下さい。それでは準備が出来次第呼びますので、それまでゆっくりして下さい。」

 

 大和は部屋を退出する。

 大和が退出した後、雨風は下段のベッドに横になる。

 

神弓 「雨風はベッドは下にするの?」

雨風 「上がるの···面倒だから。」

 

 雨風は文字通り面倒くさそうな声で答える。

 

神弓 「雨風らしいね。でも歓迎会をしてくれるのは驚きだよね。」

雨風 「多分、艦の頃の進水式のようなもの···かな?」

神弓 「確かにそうかもね。どちらにせよこれから頑張らないと!」

 

 そんな様子の神弓を見ながら雨風はボソッと呟いた。

 

雨風 「····空回りしないといいけど────」

神弓 「あーまーかーぜぇー!全部聞こえてるからねぇ·····!」



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7:歓迎会

お待たせしました。この小説では基本的第三者視点でお送りしています。心の中はあまり描写しません。なので、艦娘達の心の中を想像して見てください。ではどうぞ。


 雨風と神弓が部屋で話していると、大和が準備が終わり迎えに来て、現在は会場に移動中である。

 移動中の間、神弓は大和と喋りつつ、雨風はボーっと付いて行った。

 

神弓 「大和さん。他に艦娘は何人いるのですか?」

大和 「そうね····八十人位かしら。」

 

 神弓は思っていたより多くの艦娘がいることに、軽く驚く。

 

神弓 「ほぇー、やっぱりここの鎮守府は凄いんですね。」

大和 「ふふっ···それは提督のおかげですし、いい子達ばっかりですから。」

 

 神弓の言葉を嬉しそうな笑顔を見せて答える。

 などと喋りながら歩いていると、体育館のような建物が見えてくる。

 そしてその建物の裏口から中に入り、廊下に出る。

 そこには提督と瑞鳳が話し合っており、瑞鳳がこっちに気がつく。

 

瑞鳳 「あっ提督、来ましたよ!」

提督 「おっと、主役のご登場だね。大和、ご苦労様。」

大和 「ありがとうございます。」

 

 大和に感謝の言葉を投げ掛けた後に、神弓が提督に話しかける。

 

神弓 「あの、提督。」

提督 「どうしたの?」

神弓 「えっと···歓迎会、ありがとうございます。」

提督 「そんなに気にしないで、ここの伝統みたいなものだから。」

 

 提督は今後の予定を話し始めた。

 

提督 「それで今後の予定だけど、まず二人には、ステージに上がったら挨拶をよろしく。挨拶の後は質問タイムを取った後は自由に動いてもらって構わない。あと質問の答えはそっちに任せたわよ。」

雨風 「わかった。」

 

 予定について聞き終わった時、近くで待っていたであろう大淀がこっちに近付いてきた。

 

大淀 「提督、出番です。」

提督 「よしよし、では行きましょう!」

 

 主役二人は提督達に連れられ、廊下の先にあるドアを開け、ステージの外からは見えない部分の場所に移動する。

 ステージの外からは、多数の人物が談笑している声が聞こえる。

 声の量からして、結構な人数がいるようだ。

 

提督 「ほれ、ちょっと外から見えないように覗いてみて。」

 

 提督に言われた通り、隠れながら隙間から外を見る。

 そこには複数のテーブル(椅子はない)に料理が乗っかっており、その周りにたくさん艦娘が見える。

 中には長門や赤城、川内や神通の姿も見ることができる。

 

神弓 「うわぁ···あんな大勢の前で話すなんて····ひゃっ!」

 

 怯えている神弓の肩に手を置かれ、ビクッと体が震え驚く。

 

提督 「ほらほら緊張しないの、雨風だって緊張して───」

 

 提督は雨風の方を向く。

 なんとそこには、全く変化のない雨風の姿が───

 

大和 「···るように見えませんが?」

雨風 「(コクリ)」

 

 大和の言葉に呼応するよう首を動かす。

 

提督 「うーん?随分胆力があるのかしら?」

瑞鳳 「こらっ、提督。もうすぐ始まるから考え込まないの。」

 

 いつもの癖でつい深く考えそうになる提督を止める。

 

提督 「んーまいっか。それじゃあ行ってくるね。」

 

 提督はマイクを手に持って、ステージへ向かう。

 ステージに上がり、全体に聞こえるようにマイクのスイッチをオンにして声を出す。

 

提督 「はいはーい、全員注目!」

 

 提督が声を上げると、先ほどまで聞こえていた話し声がピタッと止み、艦娘の視線がステージ上に集まる。

 

提督 「今日は準備を手伝ってくれてありがとう。そして今日は大きなニュースがあります。知ってる人も居るかも知れないけど、なんと!新しい仲間が増えることになりました!」

皆 「おぉー!!」「イエーイ!!」「待ってましたぁ!!」

 

 提督のニュースに皆がそれぞれ歓声を上げ、いろいろな反応を示していた。

 新しい仲間が入る事にわくわくする者、どんな艦娘が入るか考える者、仲良くなりたいと思う者、などなど。

 

提督 「それではご登場してもらいましょう。どうぞ!」

 

 提督の合図に雨風と神弓がステージへ上り、二人に好奇心の視線が大量に向けられていた。

 

提督 「それでは挨拶をよろしく!」

 

 提督は二人にマイクを手渡す。

 

雨風 「雨風型戦艦、雨風。よろしく。」

神弓 「神弓型護衛艦の神弓です。よ、よろしくお願いします!!」

 

 挨拶を終了した時、体育館全体に及ぶ拍手が響いた。

 拍手が鳴り終わったら、提督が質問タイムを始めた。

 

提督 「それでは恒例の質問タイムの時間よ!さぁ、誰が最初の質問の栄光を取るのかしら!!」

 

 提督が質問タイムを開始した途端、即座に全員が手を上げた。

 手を挙げた中でランダムに決める。

 

提督 「それじゃあ···そこ!おめでとう栄光ゲットね。」

? 「やったぁ!」

 

 提督の指差す方向には黒いセーラー服に黒髪、瞳が黄色の少女がガッツポーズを決めていた。

 

三日月 「私は睦月型十番艦の三日月です。質問は、神弓さんの艦種の護衛艦ってどんな艦なんですか?」

神弓 「えっ私っ!?」

 

 いきなり質問が回ってちょっと焦る神弓。

 何とか焦りながらも質問に答えるため、急いで頭を動かす。

 

神弓 「え、えーと·····護衛艦とは、シーレーン(海上輸送)や領海の安全を確保する艦です。護衛艦は数種類がありまして···私はちょっと異例ですが、分類上は汎用型護衛艦になります。」

三日月 「それは駆逐艦や軽巡洋艦みたいなものですか?」

神弓 「まぁ、そんな感じですね。」

三日月 「ありがとうございます。」

 

 三日月は深く礼をする。

 それを見て二人は真面目で礼儀正しい子なんだなと思う。

 三日月の質問が終わって、すぐにまた手が沢山挙がる。

 

提督 「ほい次は、一番速かったそこ!」

? 「やった嬉しいな。」

 

 今度は青いツインテールに赤城達に似た緑色の和服を着て、そして何より服越しにわかる大きな胸が目立つ。

 

蒼龍 「航空母艦、蒼龍です。二人は仲が良さそうに見えたのですが、お知り合いなんですか?」

雨風 「一緒に戦った、戦友。」

神弓 「間違ってないけど、一緒に戦ったって言っても少しだけですけどね。」

蒼龍 「そうなんですか。私は二人に期待してるので、頑張ってください!」

 

 次はピンクのツインテールに青葉と同じ服(青葉は短パン、こっちはスカート)の子が選ばれた。

 

衣笠 「はーい!衣笠さんの出番よ!私の質問は二人の性格を教えてちょうだい。」

雨風 「それは···互いに相手の事を言えばいい?」

衣笠 「そうそう!」

 

 二人はお互いに顔を見合わせて、少し考える。

 

雨風 「んっ神弓は····真面目で丁寧、純粋?」

神弓 「そうなの?えっと、雨風は常に冷静かな。面倒くさがり屋だし、表情薄いから少し誤解されやすいかな?」

衣笠 「ありがとう。これは面白そうな子が入ったわね。」

 

 衣笠はすごい楽しみにしている顔をしていた。

 

提督 「次で最後ね。最後は····貴方ね。」

 

 提督が選んだ最後の子は、ピンクのショートヘアで何故かセラフクの格好している。

 

ゴーヤ 「私は伊五十八、ゴーヤって読んで欲しい。ゴーヤは装備を知りたいでち。」

 

 その質問には、他の艦娘の興味があったのだろう。

 期待する視線が若干強くなった気がする。

 

雨風 「明日の演習まで秘密。」

ゴーヤ 「あちゃー、それは残念でち。でも楽しみにして待ってるね。」

 

 ゴーヤ以外にも落胆している艦娘が見えるが、提督は気にせず進める。

 

提督 「それでは質問タイムは終了。後は個人で聞いてね。これからは騒いで飲んで楽しんでいってね!ただし、明日は演習だからはめを外し過ぎないようにね。」

皆 「はーい!」

 

 質問タイムも終わり、全員が騒いでいた。

 お酒を飲んだり、談笑したり、何故かすごく料理を食べまくっていたり、その頃雨風達は長門達と一緒にいた。

 

長門 「なぁ雨風と神弓は酒って飲めるか?」

 

 長門がそんな事を聞いてくる。

 

雨風 「飲んだ事ない。」

陸奥 「ねぇ長門、二人は来たばっかなのよ。飲んだこと無いに決まっているじゃない。」

長門 「むっ、そういえばそうだったな。」

 

 そう言えばそうだっなと、長門は完全に忘れていたようだ。

 案外長門は天然なのかも知れない。

 

陸奥 「そもそも貴方、お酒飲めないのに誘ってどうするの?」

長門 「な、何を言ってる!私だってバーで飲んだり話したりするぞ!」

陸奥 「そうね、確かにバーによく飲みに行くわね。アルコール入ってない物ばっかりだけど。」

大和 「あー私、少しだけ取って来ますね。」

武蔵 「大和、私も行くぞ。」

 

 二人が来たのは最近であった為、飲んだ事がないのは当たり前だった。

 そこで大和と武蔵がお酒を取りに行った。

 

? 「ちょっと、長門。」

長門 「うんっ?あぁ、伊勢と日向か。」

 

 長門が呼ばれ方向には、二人共に共通の服を着たポニーテールの女性とおかっぱの女性が居た。

 伊勢と日向と言うらしい。

 

伊勢 「こんにちは雨風、神弓。私は伊勢型一番艦の伊勢。これからよろしくね。」

雨風 「よろしく。」

神弓 「よろしくお願いします。」

伊勢 「ほら日向、挨拶しなきゃ!」

 

 伊勢は素早く日向の後ろに回り、日向よ背中を押す。

 そんな伊勢に日向は呆れた様子をする。

 

日向 「伊勢、それくらい分かってる。伊勢型戦艦二番艦、日向。一応覚えておいて。」

神弓 「よろしくお願いします。····ところで伊勢さんと日向さんとか、服と雰囲気が似てる人達が周囲に沢山いるのですが、なんですか?」

 

 神弓の疑問に伊勢が答える。

 

伊勢 「それはね。私と日向は同型艦だから、同型艦同士の時は服とかも一緒なことが多いのよ。だから服とかが似てる子は大抵同型艦ね。例えば~···そこ。」

 

 伊勢の指差す方向には、仲良くお喋りしている四人の少女が居た。

 

伊勢 「あそこにいるのが、第六駆逐隊の子達でね。左から紺色の髪をした子が暁、白髪の子が響、茶髪の子が雷、同じ茶髪だけど髪をまとめているのが電。見てて違いはあるけど服は近いでしょ。」

神弓 「そうですね。」

 

 伊勢の言う通りで、細かい違いはあれど服は殆ど一緒である。

 

伊勢 「あの子達は特Ⅲ型駆逐艦、暁型駆逐艦の姉妹艦。だから服が似てるのよ。」

神弓 「なるほど。」

 

 神弓が納得していると、日向にある疑問が浮かんだ。

 

日向 「なぁ、神弓。」

神弓 「はい?」

日向 「なんで神弓と雨風の服が一緒なんだ?」

 

 周りの視線が二人に向く。

 言われて気がつくその疑問。

 確かに日向の疑問はその通りであった。

 同型艦が似た服を着るなら、何故型の違う神弓と雨風は同じ服を着ているのか?

 

神弓 「言われて見ればなんででしょう?雨風わかる?」

雨風 「知らない·····」

陸奥 「うーん。一応、同型艦でも似てない子もいるわけだし、そこまで不思議ではないと思うわよ。」

長門 「ふむ、確かにそうだな。それに重要なのはそこではないしな。」

伊勢 「んーー。」

 

 

 

 大和が机の上に並んだお酒を選んでいたが。

 

大和 「始めてなら度数は低い方が良いわよね?」

武蔵 「なら、どれにするか?」

 

 大和と武蔵は二人に飲ますための酒を取りに来たが、何にするか迷っていた。

 度数が高いと倒れる可能性があるし、かといって低いお酒はあまり無いし。

 そう悩んでいる時、武蔵の目にあるお酒が映った。

 

武蔵 「えーと、確かこいつが·····おっ甘酒はどうだ?」

大和 「そうね。それなら甘いから飲みやすい。武蔵、それにしましょう。」

 

 大和達は並んだお酒の中から甘酒を取り出し、コップに注いで持って行く。

 

大和 「はい、お待たせしました。」

雨風 「ありがとう。」

神弓 「いただきます。····あれ?お酒って結構呑みやすいですね?」

 

 神弓はお酒って甘い物と思っているご様子なので、大和が訂正する。

 

大和 「違いますよ。甘酒と言う種類のお酒で、甘いから飲みやすいはずですが。」

陸奥 (あら?甘酒って、用意したかしら?)

雨風 「美味しい。おかわり、欲しい。」

大和 「また取って来ますよ。」

 

 

 

 

 

提督 「えーと、ね·····何があったのかしら?」

 

 いろんなグループに顔を出して回った提督だったが、いざ主役の所へ出向いた途端、何故か神弓がダウンして倒れている。

 どうしてこうなったか、一緒にいた長門達に理由を聞いていた。

 

長門 「いやな、甘酒を飲んだらすぐに倒れてしまったのだが。」

伊勢 「神弓って、びっくりするくらいお酒に弱いのね。」

日向 「たが、何杯も飲んでいた雨風ならともかく、神弓は一杯だけだが、そんなに弱いものか?」

提督 「うーん。でも一杯の甘酒で倒れる程酔うかしら?」

陸奥 「あっ!」

 

 陸奥が何かを思いだしたように叫んだ。

 

長門 「どうした陸奥?」

陸奥 「そうね····雨風ちゃん、ちょっと甘酒いいかしら?」

 

 陸奥に言われて甘酒を渡すと、それを陸奥が少しだけ飲んだ。

 それに周りが少し驚く。

 そして見ていた伊勢はニヤニヤしながらからかう。

 

伊勢 「おーと!陸奥ってかなり大胆よね。」

陸奥 「ふふ、残念だけど違うわよ。」

 

 陸奥は次に神弓の飲んでいた甘酒を少し飲む。

 すると陸奥は何かわかったような顔をする。

 

陸奥 「なるほどね。わかったわよ。」

長門 「それでどういう事だ?陸奥。」

陸奥 「ねぇ大和、武蔵。これ二つとも甘酒じゃないわよ。」

大和⋅武蔵 「えっ!」

 

 陸奥の言葉に驚く二人。

 提督は陸奥に理由を聞く。

 

提督 「陸奥。説明してちょうだい。」

陸奥 「簡単よ。単純に甘酒じゃないって事。これは五郎八って種類のお酒で、甘酒に似ている別のお酒よ。ちゃんと確認しなかったでしょう。」

提督 「ちなみに度数は?」

陸奥 「確かー、21度だったかしら。」

武蔵 「あーしまったな。ちゃんと見ておけば····」

 

 予想以上の度数に大和と武蔵はうなだれる。

 21度は日本酒を越えて焼酎の度数である。

 そんな強いお酒を、始めて飲む人が飲んだら火を見るより明らか。

 倒れるに決まってる。

 

陸奥 「甘酒を用意した記憶がなかったら、おっかしいなぁと思ったのよ。」

提督 「ありゃりゃ、それなら倒れてもおかしくないわね。」

伊勢 「あれ?それなら雨風は?」

 

 伊勢の言葉で雨風に視線を向けると、ちょっと顔が赤いが、別になんともなさそうなである。

 念のため、提督が一応確認した。

 

提督 「雨風。フラフラしたりしない?」

雨風 「(コクリ)」

提督 「気分悪くなったりしない?」

雨風 「(コクリ)」

提督 「·····貴方耐性凄いわね。」

 

 普通の場合は、大人ですら何かしらの影響が起こるのに、むしろ大人より体の小さい雨風は倒れてもおかしくない量である。

 しかし何故か若干顔が赤いだけで、本人はぴんぴんしている。

 

長門 「これは、新しい発見があったな。」

伊勢 「これは正直驚きね!」

 

 伊勢は酒の呑める仲間が増えたと喜ぶ後目に、提督が取り敢えずの指示を出す。

 

提督 「ひとまず神弓を寝室に運びましょう。大和、貴方が運んであげて。武蔵は一応雨風についてあげてね。」

大和⋅武蔵 「了解。」

 

 

 

  

 

 雨風と神弓の寝室に到着して、大和は神弓を落とさないよう慎重に部屋の中に入る。

 

大和 「よいしょっと。」

 

 大和が神弓を抱えてベットに連れていく。

 ベッドに載せて、上から静かに布団を掛ける。

 布団を掛けた後、神弓はうなされるような声を上げる。

 

神弓 「う~ん·····」

大和 「大丈夫かしら?やってしまった私が言うのもなんなんでしょうが。」

 

 大和はベットで寝ている神弓を見る。

 そこにはちょうど窓から入ってくる月明かりに、神弓の銀髪が鏡のように反射して優しく輝く。

 その輝きは、不思議と神秘的な雰囲気を出していた。

 

大和 「····綺麗。」

 

 その光景を見て思わず大和は小さく呟く。

 大和はその時、昼間に工廠で見た艤装を付けた状態の二人を想像した。

 

大和 (私はこの子達をあまり知らない。いえ、全く知らないに等しいですね。神弓の武装、直接見た訳ではないけど、高い戦闘力を誇ると言われてた。雨風だってそう····あの体格に合わない大きさの艤装。あれはきっと艦の頃に必要で積んでいた装備だとするなら───)

 

 世界最大の戦艦と言われる大和を超えた装備。

 多数の61cm砲と謎の光弾を打ち出す副砲、いつ攻撃されたのか不明な砲を装備した艤装。

 圧倒的長射程を誇るミサイルと、高い精度と発射速度を誇る小口径砲を装備した艤装。

 これらは明らかにこの世界の物ではない技術。

 これ程の技術の塊がこの世界に来たのであれば···それは····それほどの何かが起こる前兆なのではと予想できる。

 そう予想した途端、背中に謎の悪寒が走る。 

 

大和 「───何かしら·····?嫌な予感がするわ。」

 

 大和は、神弓をもう一度を見る。

 

大和 (本当に、この子達は一体どこから来たのかしら。そして艦の頃は一体どんな戦いしてきたのかしら。)

 

 大和はまた考える。

 そしてある覚悟を決めた。

 

大和 (たとえ何があってもこの子達は仲間。私は、出来る限り手を差し出してあげなきゃ。でも、もしかしたら差し出す必要はないかもしれないけどね。)




ちなみに提督に選ばれた艦娘は、ダイスで決めました。完全なランダムでお送りしております。


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8:艦隊演習準備

長くお待たせいたしました。ではお楽しみください。


神弓 「んっ····ここは?」

 

 神弓は目が覚め、周囲を見回した。

 見覚えのあるベッドや家具に気付き、ここは自分達の部屋だと認識やっと認識した。

 

神弓 「私···いつここに帰ってきたっけ····?」

 

 昨日の事を思い出そうとするが、何故か記憶が曖昧でよく思い出せなかったが、まぁ雨風辺りに聞けばいいかなと、記憶を探るのを諦める。

 

神弓 「あれっ?そういえば、雨風は?」

 

 神弓は上から下のベットを覗き込み、そこには布団を持って猫のように丸まっている雨風が見えた。

 雨風はまだ寝ているようで、目を瞑り、小さな吐息を出している。

 

神弓 「まだ寝ている。あっ、えっと····今の時間は?」

 

 神弓は壁に立て掛けている時計に視線を移し、時計の針はちょうど六時を指していた。

 

神弓 「今六時かぁ。ここの起床時間がわからないから、早めに準備した方がよかったり?」

 

 準備をする為、ベットから降り、ふと部屋の奥の方に見覚えの無い二つの段ボールが置いてあった。

 

神弓 「昨日、段ボールなんてあったっけ?よし、開けてみよっか!」

 

 神弓が段ボールの蓋を開け、中には自分と雨風の着ている制服や、その他雑貨が入っていた。

 ちなみに雨風と神弓の制服は、提督の着ているような海軍制服のミニスカートタイプである。

 

神弓 「うんと、二つあるから。これが私の分で···これが雨風の分かな?あっ!そうだ、雨風起こさなきゃ。」

 

 神弓はベッドへ行き、雨風を起こす。

 起こされた本人は、とても眠たそうな様子で着替え、支度をする。

 着替え終わると同時に、部屋のドアをノックをされる。

 そしてドアが開かれ、廊下から瑞鳳が入って来た。

 二人が起きている事に瑞鳳はちょっと驚いた様子を見せたが、すぐにいつも通りに話しかける。

 

瑞鳳 「二人ともおはよう!」

神弓 「あっ、瑞鳳さんおはようございます。」

瑞鳳 「一応起こしに来たけど、もう着替えは終わってるの?」

神弓 「はい。」

瑞鳳 「なら他の準備はあったりする?ちょっと工廠に行かなきゃいけなくて。」

神弓 「そうですね····私は特にはないですね。雨風は?」

雨風 「ない。」

 

 工廠に向かう途中、朝早いからか、他の艦娘には一度も出会わなかった。

 そして工廠にはいつもの明石と夕張の他、提督が待機する。

 提督は三人に気づき、近づく。

 

神弓 「おはようございます。」

雨風 「(コクリ)」

提督 「おはよう。フフッ、それにしても雨風は相変わらずね。」

 

 提督は普段の雨風にある意味安心感を持つ。

 

神弓 「すいません、こんな性格なんです。」

提督 「いいのよ別に、そういう子は他にも結構居るから。それより朝の事を伝え忘れていたわね。ごめんなさい。」

神弓 「いえいえ、大丈夫ですから。」

 

 提督が謝り、それを神弓は急いで否定する。

 そんな光景を見ている雨風は、本題を聞こうとする。

 

雨風 「今日の予定は?」

提督 「ハイハイわかっているわよ。しっかし、雨風は会議とかに重宝しそうわね。冷静だし、落ち着いているから。」

雨風 「性格···仕方ない。」

提督 「別に貶している訳じゃないのよ。」

瑞鳳 「あの、提督そろそろ時間が···」

 

 またまた話の逸れやすい提督を瑞鳳が止める。

 こうして見ると、瑞鳳の役目は事務より提督を止める事の方が多いのでは?そこでようやく提督が説明を始める。

 

提督 「ま少し話が過ぎたみたいだから、ちゃんと説明するね。あと数分後に起床の音楽が鳴るからその時に起きて、その十分後に鳴る音楽までに中央の広場に集合かな。とにかく音楽が鳴ったらすぐに広場に集合って訳。神弓、雨風、覚えた?」

神弓 「了解です。」

雨風 「(コクリ)」

 

 などと話していたら、放送から音楽が流れだした。

 すると、今まで静かだった鎮守府に明かりがつき、ざわざわと騒がしくなっていく。

 

提督 「本当だったら私も今起きていたはずだったんだけどね。」

神弓 「どういう事です?」

提督 「昨日は徹夜で戦術を考えていたのよ。」

 

 提督の言葉に疑問を持った神弓が聞く。

 それを聞いた神弓が提督の顔を覗き込むように見て、確かに目の下にクマができているのに気がついた。

 

瑞鳳 「提督、頑張りすぎよぉ。」

 

 瑞鳳が心配する声を上げるが───

 

提督 「そりゃあ、凄まじい戦力になる子達が増えたなら、新たな新戦術を使いたいに決まっているじゃない!!」

 

 瑞鳳の心配を無駄と言えるほど目が輝いている提督を見て、瑞鳳は半分諦めたため息をつく。

 

瑞鳳 「はぁ·····提督がそんな性格なのは知ってるから諦めているけどね。うん、あっ!提督、集合時間!」

提督 「あっヤバッ!じゃあ行ってくるね!雨風と神弓は後の事は明石に聞いてちょうだい!」

 

 と言うと、二人は広場に走って行った。

 神弓と雨風は顔を見合わせてお互い言う。

 

神弓 「提督って忙しいね。」

雨風 「トップだから、仕方ない。」

 

 その後、明石に演習についての説明を受けた。

 演習は二時間後に行い、相手の編成は不明だが艦隊数は六に設定。

 演出開始地点にはそれぞれブイが浮いて所から開始し、勝利条件は大破及び戦闘不能の判定になる事。

 その判定は妖精さんが行い、その都度連絡が届く。

 

明石 「以上だけど····問題ない?」

雨風 「ない。」

神弓 「はい。」

明石 「えっ!」

 

 何故かすぐさま明石は驚き、意外そうな素振りを見せる。

 でも、すぐになんとも言えない様子に変わった。

 

明石 「───わかったわ。提督にはそう伝えておくから、何かあったら私に言ってよ。」

雨風 「····なら、艤装を触りたい。」

明石 「別に構わないわよ。あー、うんそこの扉の部屋にあるはず。」

 

 雨風は明石の指示した方向の扉にトコトコと、駆け足で移動する。

 何をするのかなっと、神弓も一緒に付いてく。

 部屋に入った雨風が、自身の艤装に搭載されてた中くらいの連装砲を弄っていた。

 

神弓 「何やっているの?」

雨風 「荷電粒子砲の調整。」

神弓 「なんでする必要があるの?前回の射撃演習で荷電粒子砲特有の綺麗な放物線を描いてなかった?」

 

 神弓は、前回の射撃では荷電粒子砲の弾道は基本に忠実な弾道を描いていた為、外から見る限り問題はなさそうだったからである。

 でも、雨風は首を左右に振る。

 

雨風 「神弓···違う、私の荷電粒子砲は拡散型。」

 

 神弓は納得したように大きく頷いた。

 

神弓 「あぁ、なるほどね。」

 

 ここで神弓はやっと、雨風の言う調整の意味が理解できた。

 前回の綺麗な弾道自体は確かに問題なかった。

 しかし分裂せずに標的に着弾した。

 途中で拡散し、広範囲に被害を与える光弾の調整を行っている。

 

神弓 「ところで、原因は?」

雨風 「装置の調整不足。すぐ終わる····」

 

 と言うと、雨風はほんの十分程で作業を終わらせた。

 その後、鳳翔が再び軽食を持って来てくれたので、軽食を食べてゆっくりしていると、明石が開始前の報告に来る。

 

明石 「そろそろ始まるから、艤装を着けてくれる?」

雨風 「わかった。」

 

 二人は艤装を取り付け、桟橋に向かおうとした時、明石に引き留められた。

 

明石 「一ついい忘れていたわ。ダメージ受けたらぁ、傷を負ったり服が破れたりするから、気をつけてなさいよ。」

神弓 「···んっ?····あれ?····それって、場合によっては服が脱げるって事ですか!」

 

 明石の追加の説明に、目を見開いて驚愕した神弓。

 

明石 「大丈夫よ。安心して誰もが通る道だから。」

神弓 「嫌ですよ!そんなの恥ずかしいです!」

 

 明石に神弓は顔を真っ赤に染めて訴えたが───

 

明石 「初めては皆そんなものよ。でもまぁ、何回あっても慣れないといえば慣れないわね。」

雨風 「····神弓、行くよ。」

明石 「本当に貴方は変わらないわね····」

 

 明石は苦笑いをして、二人を送り出す。

 気分の落ち込む神弓と、雨風は桟橋に向かい、そこでは夕張が待機してた。

 

夕張 「はーい!二人ともぉー、おはよー!」

神弓 「おはようございます。」

夕張「話は明石から伝わってるよね?それでブイの位置はっと───」

 

 夕張からブイの座標を教えてもらってから、海に出て移動を開始する。

 夕張の座標通りへ通りに進むと、神弓のレーダーに反応が表示された。

 

神弓 「うーん、反応的にこれかな?ねぇどうする?」

雨風 「偵察機を出す。」

神弓 「うん分かった。」

 

 神弓は艤装のヘリポートを展開した。

 そのヘリポートの中央のエレベーターが下がり、再び上昇したエレベーターの上には、平皿を重ねたような一機の円盤が登場する。

 

神弓 「ハウニブー発進!」

 

 ヘリポートから円盤が垂直に浮き上がり、即座に目にも止まらぬ速さで反応のあった方向に飛行していく。

 そして送り出してすぐ、ハウニブーから報告が上がる。

 

神弓 「ブイを確認、周辺に異常なし。進路変更の必要なし。」

 

 水上を走り、ブイの地点に到着して上空を見上げれば、そこにはハウニブーが空中で静止して警戒に当たっていた。

 神弓はハウニブーを回収すると、鎮守府に報告をする。

 

神弓 「来た。開始は五分後だって。」

 

 二人は演習に備えて最終チェックを行う。

 

神弓 「よし、異常なし。雨風は?」

雨風 「問題ない。」

 

 二人は待つ。

 一秒、また一秒·····時間が過ぎていく。

 始まる時を待つ····そして始まった。

 

 艦娘たちの常識を破壊する戦いを────




さぁ提督達はどうやって雨風達に勝つのでしょうか?雨風達には質で劣っています。どのような戦法で来るのでしょうか?勝利の女神はどちらに向くのでしょうか?戦法で勝負する提督側か、性能で勝負する雨風側か。


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鎮守府側艦娘の編成(見たい人だけ)

提督側

 

水上打撃部隊

本隊     大和 武蔵 長門  陸奥 伊勢 日向

前衛  高雄 愛宕 阿賀野 能代 島風 雪風

 

戦艦大和、武蔵を主力とした水上打撃部隊です。水上では強力な砲撃戦闘を行うことができます。航空機に対してもそこそこ戦えます。しかし資材の消費は洒落になりません。

 

 

第一空母機動部隊

本隊     赤城 加賀 飛龍 蒼龍 龍驤 祥鳳

前衛  摩耶 古鷹 秋月 照月 陽炎 不知火

 

正規空母を主力とした機動部隊です。大量の航空機を使用しますので高い攻撃力を誇ります。しかし空母自体は脆弱なので、駆逐艦などの夜戦には恐ろしく不利です。そして資材の消費は洒落になりません。

 

第二空母機動部隊

本隊     翔鶴 瑞鶴 千歳 千代田 鈴谷 熊野

前衛  鳥海 青葉 凉月 初月  黒潮 天津風

 

大型、中型の空母を主力とした機動部隊です。第一機動部隊に比べて、戦闘力は劣りますが資材の消費は少なめです。巡洋艦が多めの編成なので、昼戦、夜戦どちらもの対応でします。

 

高速打撃部隊

本隊    金剛 比叡 榛名 霧島 利根 筑摩

前衛 最上 三隅 矢矧 由良 吹雪 三日月

 

戦艦金剛型と重巡洋艦を主力とした高速打撃部隊です。素早く戦場を移動でき、昼戦や夜戦でも戦えたり、護衛などもできる高い汎用性があります。

 

水雷戦隊

本隊    川内 神通 那加 北上 大井 多摩

前衛 暁  響  雷  電  弥生 卯月

 

軽巡洋艦、駆逐艦を主力とした水雷戦隊です。機動力を重視して雷撃を叩き込む艦隊です。昼では他に劣りますが、夜戦では高い戦闘力を誇ります。潜水艦を相手にまともに戦える艦隊です。

 

潜水艦隊

本隊    伊58 伊168 伊19 伊8

 

潜水艦による艦隊です。スピード、火力では劣りますが高い隠密性があります。しかし一旦発見されると、逃げるのは難しく、沈む可能性が高くなります。しかし、その高い隠密性を使って偵察や補給線の破壊なども可能です。

 

以上になっています。

なお上に書いてある編成の中で、一部の艦娘は改装することによって、艦種が変化します。そのため、演習に参加する、今の横須賀鎮守府の艦娘の艦種を書かせていただきました。

 

戦艦 大和 武蔵 長門 陸奥

 

巡洋戦艦 金剛 比叡 榛名 霧島

 

航空戦艦 伊勢 日向

 

正規空母 赤城 加賀 飛龍 蒼龍 翔鶴 瑞鶴

 

軽空母 龍驤 祥鳳 千歳 千代田

 

重巡洋艦 高雄 愛宕 古鷹 青葉

 

防空巡洋艦 摩耶 鳥海

 

航空巡洋艦 最上 三隅 鈴谷 熊野 利根 筑摩

 

軽巡洋艦 阿賀野 能代 矢矧 由良 川内 神通 那加

 

重雷装巡洋艦 北上 大井

 

防空駆逐艦 秋月 照月 凉月 初月

 

駆逐艦 島風 雪風 陽炎 不知火 黒潮 天津風 

吹雪 三日月 暁 響 雷 電 弥生 卯月

 

潜水艦 伊58 伊168 伊19 伊8

 

 



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9:艦隊演習開始

さて、大きな戦闘が始まりました。(演習だけど...。)雨風と神弓はどのような活躍をするのでしょうか?提督達の戦法は効くのでしょうか?今から楽しみです。ともかく艦隊戦をお楽しみください。


 艦隊演習を開始し、第一航空機動部隊は洋上を航行する。

 艦隊は演習が始まって最初に偵察機を発艦させ、敵艦隊の位置、情報が来るまで待っていた。

 そして艦隊旗艦である赤城は今の時間にある事を考えていた。

 

飛龍 「赤城さん。」

赤城 「・・・・・」

飛龍 「赤城さん?」

赤城 「えっ・・・あ、どうしたの?」

 

 どうやら赤城は考えを巡らせていたせいで、横で呼んでいる飛龍に気づかなかったようだ。

 

飛龍 「どうかしたんですか?なんか、いつもの赤城さんらしくないですよ。」

 

 普段と異なる様子の赤城な飛龍が心配そうにする。

 一方赤城は、自身の考え事を表面に出さないように返答した。

 

赤城 「ごめんない。ちょっと考え事をしてて。」

飛龍 「赤城さんも考える事もあるとは思いますが、それも程々にした方がいいですよ!多少は楽にしないと体に良くないですし。」

赤城 「それもそうね。ありがとう。」

 

 自分を心配してくれる後輩が居てくれる事に赤城は嬉しさを覚える。

 すると今度は横にいた蒼龍が飛龍に話し掛けてくる。

 

蒼龍 「ねぇねぇ飛龍。今回の演習、どう思う?」

 

 蒼龍の疑問を持った質問に飛龍は少し悩んだ後、思っている答えを出した。

 

飛龍 「私は、少し変・・・だと思う。だって、こんな大規模演習なんて今までなかったし、提督はいったい何を考えてるんだろぉ?」

蒼龍 「でも、提督の事だから意味はあるんでしょうけど。なんでまではわからない。赤城さんや加賀さんは、何か知っていたりします?」

 

 蒼龍は先輩でありベテランの赤城や加賀に話を振る。

 提督からある程度の話を聞いている赤城と加賀だったが、口に出す訳にもいかず何も知らない風を装う。

 

赤城 「私は何も聞いてないわね。」

蒼龍 「そうですか・・・加賀さんは?」

 

 蒼龍は明らかに落胆しつつ今度は加賀へ視線を動かす。

 

加賀 「私も何も聞いていないわ。でもこれ程の艦隊を使った演習、相手は手強いわよ。」

 

 真剣見を帯びた加賀の言葉に対して、絶対に大丈夫だと思っている声で飛龍が、声を張り上げ拳を握り高く掲げる。

 

飛龍 「提督秘伝の戦法がありますから大丈夫ですよ!だから勝利を目指して頑張りましょう!!」

第一機動部隊皆 「おぉー!!」

 

 飛龍の声に同調して手を上げる第一機動部隊の皆を後目に、赤城は───

 

赤城 「・・・・だといいのだけど。」

 

 空を見上げ、不安の混じる赤城の小さな呟く。

 しかし廻りの艦娘達の叫びによって掻き消され、近くにいた加賀はおろか誰の耳にも届かなかった。

 

 

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 時間を少し巻き戻して、演習開始直後の雨風達は。

 

雨風 「水上レーダー、起動。」

神弓 「水上レーダー、多機能レーダー、3D捜索レーダー、イージスシステム起動。」

 

 神弓が複数搭載しているレーダーを起動すると、送信機の放った電波が目標物に反射し、反射波を受信機が捉える。

 そして受信機の捉えた反射波をデータという情報にして解析する。

 

神弓 「え~と、反応五つ。反応の大きさから確実に大型艦を含む艦隊が三つ。大型艦を含まない艦隊が一つ。あと多数の艦種のいる艦隊が一つ・・・かな?」

 

 神弓はレーダーが捕捉した艦隊の情報を更に解析し、大まかな編成を予測する。

 レーダーの優位性はここにある。

 レーダーは広範囲に散開している目標を即座にある程度捉える事が出来る。

 しかし工夫によって電波の反射面積が小さく場合や平面の多い目標が相手ではうまく機能しない事もあり、これらをステルス性という。

 しかし今回の演習前に今のところステルス性を重視した艦は見た事が無かったので、その問題は無いと判断する。

 

雨風 「艦隊は六。足りない。」

 

 再び神弓はレーダーを確認する。

 先ほどに比べて細かな反応が増えているが、反応の大きさを見るに航空機なのは判明しているので無視する。

 しかし再度確認してみても艦隊と思われる大きな反応は五つのままであった。

 

神弓 「んー、見当たらないね。」

雨風 「・・・ステルス?」

 

 確かにレーダーに映らない水上艦はステルス以外無いだろう。

 だが先に述べたように昨日の射撃演習の時に集まった艦娘を見る限り、装備自体がステルス性を無視した旧式である。

 なので神弓は雨風の言うステルスを否定する。

 

神弓 「多分無いと思う。他にステルス以外でレーダーに映らない艦っていったら。」

雨風 「───潜水艦。」

 

 雨風はレーダーに映らない艦でありつつ、昔から存在している艦を想像すると、自然と潜水艦と言う発想に行き渡った。

 レーダーは水面付近から上の目標を映し出す装置。

 水上と空中はレーダーで発見できるはず。

 となると消去法でレーダーに捕捉されない場所は海中にいる潜水艦だけとなるからだ。

 

雨風 「神弓。パッシブソナー起動後、ハウニブーとハリアーⅡ出撃。」

神弓 「了解。」

 

 二人は対潜水艦用にパッシブソナーを起動した後、神弓は艤装のヘリポートから二機の搭載機を発艦させる。

 まず一機目に独逸で鹵隠した円盤型のハウニブーが垂直に上昇し、艦隊上空で哨戒に当たる。

 次に発艦したハリアーⅡは敵艦隊を可能な限り敵艦隊を偵察をする任務に付かせた。

 従来のロールスロイス・ペガサスエンジンではない、コストパフォーマンスを全く想定しない改七型。

 ひたすら高性能だけを追求したエンジンは、甲高い音を出しながら敵艦隊に向かって飛行していった。

 順調に準備を整えつつあるその時、艦隊であるトラブルが発生する。

 

神弓 「えっ?どうなってるの!!反応がすごい増えてる!?」

 

 少し前まで問題なく稼働していたレーダーに突如反応が急増し始めた。

 神弓の見つめるモニターにはまるで雲のように反応が重なり合い、レーダー全域を覆い尽くす。

 

雨風 「・・・・」

 

 神弓は慌ててシステムの状態を把握しようとしている中、隣で周囲を警戒していた雨風はこの反応の原因に心当たりがあった。

 しかしまだ詳しい情報が無い状態で決定するのは野暮だと思い、暫く様子を見る。

 ただし念の為、偵察機に発見されないよう移動だけは行う事に。

 

 

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 長門は今上空で起こっている出来事を見つつ、隣で一緒に航行している大和に話し掛けた。

 

長門 「今頃大慌てしている頃か。」

大和 「ふふっ、これが提督の考えた秘策ですから。」

 

 と言いながらニコッと大和が笑い、長門も釣られて笑顔を見せる。

 そして長門は自分の搭載する電探を軽く触る。

 

長門 「しかしこれでは我々も電探は使えないな。」

大和 「ですが、それは雨風さん達も同じです。」

伊勢 「でも、通じるかな?提督の秘策。」

 

 二人の後ろにいた伊勢が心配そうに口を開く。

 全く新しい戦法、それはつまり想定外の奇襲になりうる反面、実行側も何処に穴があるかも分からない。

 しかし、絶対に通用すると信じている大和は落ち着いた優しい口調で言った。

 

大和 「通じますよ。きっと。」

 

 大和の言葉が聞こえ、周囲の警戒をしていた艦娘も一瞬だけ空を見上げる。

 水上機や彩雲から銀色のものが放出され、キラキラと星のように日光を反射していた。

 

 

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 雨風達は移動を開始してある程度時間が経ち、ハリアーIIから報告が届く。

 報告の内容は敵の編成とレーダーの異常についてだった。

 まずは編成について。

 戦艦を主力とした水上艦隊を二、空母を主力とした機動艦隊を二、軽巡洋艦を主力とした水雷戦隊を一。

 そしてむしろこっちが本命になってしまったレーダーの異常の原因は。

 

神弓 「チャフとは面倒だね。」

 

 ハリアーⅡの報告のよると、広範囲に大量のチャフが撒かれていたそうだ。

 チャフは大量のアルミ箔を用いてレーダーを麻痺させるものであり、空気中に漂うアルミ箔にレーダー波が反射しレーダーを誤作動させる

 たがアルミ箔が海に落ちたりアルミ箔同士の距離が開いたりすると効果を失うが、今回は撒かれた量が非常に多く、自然に効力を失うにはかなりの時間を要するだろう。

 一応、神弓には一部のチャフを無力化させる方法があるにはあるが、もったいないから出来ればやりたくないと思っていた。

 しかしこのままにレーダー使用不能状態でいる訳もいかないので、ため息を吐き準備を開始した。

 

神弓 「はぁ・・・しかたない。チャフ散布上空に座標設定。弾種、特殊弾頭。発射。」

 

 艤装の上部に取り付けられたVLSのハッチが開くと、今まで対艦ミサイルより一回りも二回りも巨大なミサイルが一発発射される。

 今度のミサイルは海面を走るのではなく、遠くの上空に向かって上昇を続け、数分後───特殊弾頭ミサイルがチャフ散布上空で炸裂した。

 その爆発は広範囲に及び、昼間だと言うのに遠くに新たな太陽が生まれたのかと勘違いするほどの強烈な光が一瞬放たれた。

 チャフはこのミサイルの爆発によって、爆発範囲内のアルミ箔は全て焼き尽くされ、範囲外は強力な爆風により粉々に吹き飛ばされた。

 それによって一部とは言え、レーダーが機能するようになった。

 

神弓 「よしよし見え・・・えっ!」

 

 神弓のレーダーには爆発した地点より奥の方に一つの大きな反応があった。

 一瞬チャフかと神弓は思ったが、現在進行形で高速でこちらに移動してきており、速力は150kt程ありそうだ。

 この速度を出せるとしたら航空機しか無いだろう。

 

神弓 「航空機が接近中、およそ二百五十機!いつ場所がバレて!雨風どうする?」

 

 神弓が驚くのも無理なかった。

 先ほどまでレーダーが使えなかったと言っても、偵察機に発見されれば発見の電報を打つ。

 その際にその電波を拾え発見されたのが分かるはずだった。

 一方の雨風は報告を聞き、決断を下した。

 

雨風 「神弓は後方。対空ミサイル、発射数・・・八十。」

神弓 「了解。弾種対空ミサイル。発射数八十、発射セル八基、十連射。発射!!」

 

 神弓は雨風から離れ過ぎない程度の距離を保ちつつ、対空ミサイルを連続発射する。

 この攻撃こそ、神弓が神弓という名の所以である。

 超長距離から一方的に照準を合わせ、絶対に外れる事のない矢が神の弓から解き放たれた。

 

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妖精さんの世界

 「初めてだね、こんな演習。」「そうだね。やる気に満ちる。」「でも、すぐ終わっちゃうね。」「相手は二隻だけだからね。」「んっ?なんか煙が向かって来てるよ?」「なんだろ・・うぁー!!」「あっ!五番機が落ちた!」「みんな離れろ離れろー!!」「八番機と十番機も落ちた!」「いやぁ付いてくるー!?ぎゃあっ!?」「逃げろぉー!」「逆に考えるんだ、落ちちゃっていいさと。グハッ。」

 

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神弓 「全弾命中を確認。現在の残存機数、百六十八機。」

雨風 「了解。全主砲、対空射撃用意。」

 

 神弓からの報告を貰った後、雨風は未だ視認出来ぬ航空隊を狙う為に、61cm三連装砲塔五基、十五門の61cm砲が大仰角をかける。

 61cm砲はその巨砲を振りかざさんとばかりに遥か先の空を向く。

 

雨風 「予測計算完了。撃って。」

 

 雨風がそう言ってから一拍置いて、鋼鉄の咆哮が周囲に轟く。

 落雷が起きたのかと思うような砲声から、僅か十八秒で第二射を発射される。

 第二射を発射した頃、はるか遠くに目標の航空隊が見えてきた。

 今のところ航空隊は、先程のミサイルによる超長距離攻撃から完全に復帰出来ていないようで、少し拡散し陣形が崩れている。

 しかしそれでもこちらを捉え真っ直ぐ飛行を継続していた。

 そんな航空隊に強烈な主砲弾による第一射が着弾する。 

 レーダーと射撃管制装置を使用する大口径対空砲撃は、航空機を破壊するには十分過ぎる破壊力を誇っていた。

 しかし第一射は少し離れて爆発した為か、一機二機程度で航空隊の被害は少ない。

 だが修正を加えた第二射は、航空隊ど真ん中で起爆した。

 炸裂した砲弾は、炸裂時の衝撃波と無数の破片を周りに弾き飛ばす。

 炸裂時の衝撃波を受けた戦闘機は、全体を押し潰され、紙くず同然に引きちぎられる。

 砲弾の破片を受けた艦攻の構成しているジュラルミンを、破片は軽々しく貫き、蜂の巣のようを呈する。

 穴だらけになった艦爆が飛行時に起こる空気抵抗に負け、黒煙を吐きながら空中分解して墜落する。

 ある機体は主翼を付け根から叩き折られ、別の機体はエンジンを粉砕されバラバラになり、他の機体は燃料タンクが燃え出し爆発炎上しながら高度を落とす。

 突然の着弾に航空隊が混乱している時、また新たな砲弾を叩き込まれる。

 一度命中すれば後の調整は比較的容易である為、航空隊に再び第三射が命中する。

 先ほどの砲撃を運良く被害を受けなかった機体も被害を受け始めた。

 雨風は第四射を放つと、主砲による対空射撃を止めた。

 今現在航空隊は10km地点を通過しており、敵編隊は既にバラバラになっている。

 これの状態では砲塔は旋回が遅く、装填が早いとはいえ所詮は大口径砲である主砲の迎撃は効率的ではなくなっていた。

 

雨風 「近接防空砲火、開始。」

 

 雨風と神弓からRAM (近接防空ミサイル)や127mm速射砲、雨風の拡散荷電粒子砲が大空を羽ばたく鉄の鳥達を駆逐する。

 白煙を吹きながら向かっているミサイルに砲弾、光弾は航空隊に進んで行くとそれぞれ炸裂が始まった。

 航空隊周辺に次々爆発が起こり、急増した爆煙で航空隊が覆い被さられる。

 だが目視で航空隊が見えなくても、電波を使用するレーダーの目からは逃れることは出来ない。

 一機の戦闘機なRAMのミサイルにより逃げる暇すらなく破壊される。

 とある艦爆は速射砲の榴弾が直撃し、ビスケットをハンマーで粉々にするかのように砕かれた。

 残り一機になり、最後まで中央にいた艦攻は運悪く分裂した光弾が命中し、分裂した光弾は当然の如く機体や魚雷貫いて誘爆、爆発四散する。

 これらの攻撃によって航空隊は壊滅した───はずだった。

 しかしその時、実は雨風達の側面から五十機程の艦攻隊が急接近していた。 

 艦隊まで残り僅か5kmという至近距離だ。

 何故こんな近くまで接近出来たのか?

 それは海面10m以下の海面すれすれを、高速で飛行していた為である。

 海面付近はレーダー波が海によって反射するので、それを自動でカットする機能が存在する。

 それによって逆に探知されずに近くまで紛れ込むことができる。

 本来であれば機体数の多い方を本隊とするのが普通であった。

 しかし提督の戦術は、あえて本隊を囮に使ったのである。

 現在接近している機体は流星や流星改といった威力の高い魚雷や八十番を装備した高速機であり、少しでも成功率を上げようと努力したのが分かるだろう。

 確かにこの作戦では艦隊にダメージを与えれる可能性は高い。

 実際にここまで航空隊の接近を許していた。

 しかしそんな流星隊を待っていたのは砲弾の暴風だった。

 

雨風 「右側面に敵機。近接防空砲火開始。」

 

 側面にいる流星隊を壊滅させるべく、先程本隊に与えた攻撃を繰り出してきた。

 これには流星隊も泡を食った様子で、各機回避行動をしながら突撃する。

 何故航空隊が発見されてしまったのかと言うと、それは上空にいるハウニブーからの報告であった。

 上空で待機していたハウニブーは奇襲対策で、敵の接近を報告する用に発艦させていた。

 もし雨風が奇襲対策にハウニブーを出すように言わなかったら、今頃雨風達は気づかずに奇襲を受けて流星隊は攻撃に成功していただろう。

 ハウニブーは周囲を監視している中、海面を走る航空隊を発見されてしまったからだ。

 だが流星隊側も艦隊に対して数を減らしながら接近に成功、艦隊まで残り2km程で残存機は十五機。

 流星に乗る妖精は行けると思った。

 だが2kmを切った途端、弾幕が急増・・・いや──爆増した。

 127mm速射砲やRAMといった物ではなく、接触信管を備えた小口径砲弾の雨霰であった。

 搭載された最後の迎撃兵装、35mmCIWSと対空パルスレーザーによるものだった。

 35mmCIWSの発射速度は毎秒八十発、対空パルスレーザーは毎秒三十発、それを二艦合わせて合計十基と八基搭載している。

 総合的な発射速度は以前の比ではない。

 一発で航空機を破壊する事が十分に可能な弾が毎秒九百六十発、毎分五万発に加え、多数のレーダーによる観測、イージスシステムの高い演算能力によって導き出された偏差射撃。

 一発一発が高い命中精度を持ち、文字通り桁外れの防空能力を誇るのだ。

 そんな統制された弾幕を前にミサイルやジェット機ならいざ知らず、ただ若干足の早いレシプロ機程度が突破出来る訳もなく───第一次攻撃隊は壊滅した。

 

雨風 「終わった。」

 

 雨風は射撃を止め、小さく呟く。

 耳をつんざく程の砲声が轟き鳴っていた海上は、今では波の音さえ聞こえる静けさが生まれていた。

 雨風達の辺りに機体の物だったであろうジュラルミンの破片がチャフよろしく海面に散らばっていた。

 

神弓 「なら、こちらからの出番だね。チャフも無くなったし──!」 

 

 航空隊を撃滅し、喜びを受けている神弓の表情が即座にすり変わる。

 

神弓 「パッシブソナーに感あり・・・」

 

 

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ゴーヤ 「こんなの予想できる訳ないでちッ!?」

 

 さっきまでの圧倒的な対空戦闘をこの目で見てしまった旗艦のゴーヤは、水中で癇癪を起こす。

 幸か不幸か、ゴーヤ以外の潜水艦娘は直接戦闘を見ていなかったからか、まだなんとか冷静であった。

 

伊19 「と、ともかく魚雷撃って逃げるのね!」

 

 その時、ピーン・・ピーン・・ピーン・・と一定のリズムの音が海中に響き渡る。

 

伊168 「何の音かしら?」

伊58 「そんなのどうでもいいよ!早く撃って逃げるでちぃ!」

 

 全員が魚雷の準備をしていると、ポチャッと何が水面に着水した。

 疑問に思った伊8が何かと水面を見上げる先には。 

 ───ピーン・・ピーン・・と先程の音を出しながら魚雷が複数向かってくる。

 

伊8 「えっ!みんな逃げて!」

伊58 「なっ!?いつの間に来たでち!」

伊168 「とにかく急いで!」

 

 潜水艦娘達は皆がバラバラの方向に逃げるが、魚雷もそれぞれ分散して潜水艦娘を追いかけて行く。

 

伊58 「いやぁぁ!何でついてくるでちぃぃぃ!?」

 

 高速で移動しても、急速潜行しても、ずっと後方から魚雷は追いかけてくる。 

 更に近づくにつれて、音の間隔が短くなり、そして──

 艦隊近くに四つの水柱が上がる。

 

神弓 「目標に命中、撃沈判定確認。で、雨風どうする?」

雨風 「戦艦隊はすぐ。神弓、空母に対艦ミサイル、特殊弾頭ミサイル発射。」

 

 神弓はミサイルを再び複数発射し、撃ち上がったミサイルはブースターによって速度を上げながら、第一次攻撃隊ように海面すれすれを、自目標に向かって飛翔する。

 

 

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蒼龍 「えっ?全滅・・・・・」

飛龍 「そ、そんなの・・・何かの間違いよ!?」

 

 蒼龍は顔を青くし、飛龍は認めたくないと否定する。

 二人以外にも周りにいた艦娘も似たような状態で、第一機動部隊の士気は最悪の一言と言える。

 なにせ他の艦隊を含んで送り出した全力の航空隊が、たった二隻に壊滅させられたのだから、そんな常識的にあり得ない事を信じれられる訳がなかった。

 

赤城 「つまり、雨風達の対空能力は私達の予想以上って事ね。」

加賀 「怯んでる時間はありません。まもなく戦艦隊が突撃します。私達はその支援をしなくてはいけません。予備機の発艦準備を。」

 

 赤城と加賀は周りに比べて、ある程度知っていた為かまだショックは少なかった。

 それに加賀の言うように戦艦隊が攻撃を開始する。

 空母隊はそれに対して、航空機による支援をしなくては行けなかった。

 落ち込んでいる時間はないのだ。

 

赤城 「そうね・・・第二次攻撃た──」

秋月 「何か───来ます!!」

 

 赤城は即座に秋月の視線の方向を見ると、こちらに向かって一発の噴進弾が超低空を高速で突っ込んで来る。

 旗艦である赤城はそれがミサイルと言う物だと直感的に判断した。

 

赤城 「対空迎撃開始!急いでっ!!」

 

 赤城の命令と共に護衛艦隊から対空砲火が始まるが、ミサイルは航空機に比べ小さく圧倒的に速い。

 想定外の高速度に弾幕は全てミサイルの後方で炸裂する。

 

摩耶 「落ちやがれぇ!!」

秋月 「お願い落ちて!」

 

 防空艦は全力で弾幕を張るが、残念ながらミサイルの速度に対応出来なかった。

 艦隊との距離が縮まった瞬間、突然ミサイルが上昇して降下する。

 ホップアップだ。

 本来は目標を正確に捉える為の行動で、上昇時と降下時に撃墜されやすいやり方だが、始めて対峙する艦娘には予想だにしない動きに照準が完全に狂ってしまった。

 あとは搭載する機銃でひたすら弾を撒いて当たる事を祈る・・・・が、そのような幸運が訪れる事もなくミサイルが輪形陣の防空網を通過して赤城に直撃する。

 

赤城 「きゃぁぁぁぁ!?」

 

 赤城に命中したミサイルからは、起爆時と比較にならない巨大な火焔が生まれ、鼓膜が破れたと錯覚する程の爆音を放ちながらを爆発し、艦隊全体にダメージを与える。

 赤城周辺にいた艦娘や装甲の薄い艦娘は即座に大破し、離れていて巡洋艦だった摩耶は幸い小破で済んだが、それ以外は中破以上の判定を受けた。

 爆発後、全員暫くの間で耳が麻痺する。

 そしてかなりの時間が経ち、聴力が回復し赤城は皆の被害を把握した。

 赤城はその被害の大きさに一生忘れないほど驚愕する。

 これらの被害を、たった一発のミサイルの攻撃で起こされたとするならそれは当たり前だろう。

 

赤城 「これでは戦闘は不可能ですね。撤退しましょう····」

飛龍 「もぉぉー!!あの兵器は何なのか、絶対問いただしてやるんだからっ!!」

 

 第一航空機動部隊が撤退を始めて数分後に、第二航空機動部隊が大量のミサイルの襲来により、空母が大破したので撤退すると報告が流れた。

 

 

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長門 「何をどうしたらこうなるんだ・・・?」

 

 長門は頭を抱えていた。

 雨風達の戦闘能力は決して甘く見ていなかった。

 ならば何故、こうも作戦が乱されるのか?

 予定では航空隊による攻撃で被害を与え、次に戦艦による攻撃と平行して第二次攻撃隊で打撃を与えるはずだった。

 それがどうだ・・第一次攻撃隊は壊滅、空母は大破し撤退。

 

武蔵 「敵の戦力が我々の予想以上だっただけ、だろ?」

大和 「しかし打撃を一切与えれないのは流石に想定外ですけどね。」

 

 当たり前のようにそう呟く武蔵は、大和の言葉に少し難しい顔をして悩む。

 

武蔵 「確かに、それに航空隊の支援を受けれないのは厳しいな。」

 

 空母は大破し撤退したので航空機は使用不能。

 しかも第一次攻撃隊には、航空巡洋艦や航空戦艦の水上機も参加していた。

 現状、水上機の予備もあまり無い状態である。

 

長門 「偵察機や観測機を爆装させる手もあるが、三百機近い航空隊を壊滅させた相手だ。無駄に浪費するだけだろう───来たぞ、対空戦闘用意!」

 

 長門はこちらに飛翔するミサイルを見て、一時的に思考を止める。

 他の艦娘もミサイルを確認すると、全艦目視で対空砲火を開始した。

 だかやはりミサイルの速度に対応できず、弾幕は後方に大きく広がる。

 そのままミサイルは艦隊に接近、命中。

 艦隊の至る所から悲鳴が上がる。

 数発のミサイル攻撃を終わったら、長門は急いで被害を聞く。

 

長門 「全員大丈夫か?被害は!」

大和 「私は大丈夫です。」

島風 「うぅー、大破しちゃったよー!」

雪風 「私も大破しました。」

伊勢 「多少食らったけど、軽微よ。」

高雄 「被弾しましたが、大丈夫です。」

 

 今回の攻撃では戦艦や重巡洋艦は被害が少なく、駆逐艦や軽巡洋艦が被害が大きかった。

 阿賀野、島風、雪風の三名が艦隊から脱落した。

 しかし被害を把握すると大和がある事に気づいた。

 

大和 「ミサイルというのは、重装甲の戦艦等には効きづらいようですね。」

 

 大和の考えに日向も頷いて同意する。

 

日向 「ふむ、そのミサイルとやらは射程と命中特化なのだろう。」

伊勢 「それじゃあ航空隊が壊滅するはずね。こんなの山ほど撃たれたら、簡単に全滅するわよ。」

 

 航空機より早く、正確に遠距離まで狙えるミサイルを大量に放たれ撃墜された攻撃隊をふと想像し、溜め息を吐きながら伊勢はそうぼやく。

 

高雄 「ですが、軽装甲の水雷戦隊にはかなり致命的な問題では?」

長門 「・・・確かにそうだな───その通りになったな。水雷戦隊壊滅だそうだ。」

 

 最早諦めか呆れか慣れたのかは分からないが、不思議と長門は水雷戦隊が壊滅した報告に驚きはしなかった。

 だがどうやら長門の隣で砲の再確認を行う陸奥は、戦艦同士による純粋な砲撃戦にならざる終えない状況に面白そうする。

 

陸奥 「まさに戦艦同士の殴り合いね。あらあら?ちょっと楽しくなっちゃったかしら。」

 

 艦隊が別の意味で士気上昇している中、艦隊の数十mの前に前触れもなく一本の水柱が立ち上がる。

 現れた水柱は長門達が今まで見てきた中でも一番大きい物だった。

 水柱が立って少し経ち、先ほどの攻撃の物だと思われる発射音が後から聞こえてきた。

 火砲の炸裂音ではない、まるで電気の放電に近い音だった。

 それにより艦隊にいる皆は意識を戦闘に集中する。

 

 

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雨風 「───外した・・・」

 

 雨風の搭載するレールガンの砲身部分である二本のレールが真っ赤に熱を帯びており、少し離れても暖かいと思うほどの放射熱を放出する。

 雨風は遠く離れた水上打撃部隊にレールガンを放ったが、距離の関係で命中しなかった。

 

神弓 「うんまぁ、この距離は命中しないよね。次の発射は?」

雨風 「連続、無理。」

 

 詳しい原理は省くが、レールガンは二本のレールを使い砲弾を加速させる。

 その速度は7000m/sを誇り、通常の火砲に比べて9倍近い差がある。

 しかし速度で生じる摩擦熱によってレールが非常に高温になり、レールを冷やすのに時間が掛かる欠点が存在する。

 

神弓 「そうなんだね。それで、別動隊はどうしようか?」

 

 二人のレーダーには二つの艦隊が反応していた。

 反応は大きいが距離があるA艦隊、反応は中位だが近くまで来ているB艦隊。

 一度A艦隊へミサイルで攻撃したが、反応にあまり変化が無い事から大型の戦艦が複数いるのだろう。

 とは言え、まだ距離があるため問題ではない。

 二人にとってむしろ近くにいるB艦隊の方が厄介であった。

 少し考えると方針は決まる。

 

雨風 「神弓は待避、私が行く。」

神弓 「了解、頑張ってね。」

 

 神弓は再び後退する。

 超長距離や索敵は神弓、それ以外は雨風と役割分担して行動する。

 雨風は砲身をB艦隊に向ける。

 

雨風 「レーダー照準、光学照準開始。撃って。」

 

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榛名 「私達で勝てるでしょうか?」

比叡 「やる気を出しなさいって、私達なら大丈夫だってっ!」

金剛 「みんな大丈夫ネー!私たちならきっと越えられマス!」

 

 金剛と比叡のポジティブ力で弱気になっている榛名を慰めつつ引っ張る。

 

比叡 「ほらっ!お姉さまもこう言ってるから!」

榛名 「・・・わかりました。榛名、全力で行きます!」

金剛 「その気デース榛名、やればデキマース!」

 

 そして覚悟決めた様子になった榛名を横目に、敵である雨風艦隊の方角から大きな黒煙を確認した。

 

霧島 「発砲煙確認!」

金剛 「みんな、回避開始ネー!」

 

 金剛の命令を受け、各自回避行動を行う。

 艦隊に雨風の第一射弾が着弾する。

 砲弾は分散しており命中弾は無かったが、着弾から予測して、この威力なら駆逐艦や軽巡洋艦は至近弾でも大破するだろう。 

 そして戦艦である金剛でも直撃すれば撃沈判定は確実だと思われた。

 だが、だからこそ戦意が上がる。

 

金剛 「ここは私達の射程内ネ!撃ちます!Fire!」

比叡 「撃ちます!当たって!」

 

 金剛型四隻が近くにいる雨風へ攻撃を開始する。

 各艦の四基搭載する35.6cm連装砲が同時に火を噴く。

 発射後、まもなく周辺に三十二発の35.6cm砲弾に着弾した。

 一方雨風は第三射を放つ。

 戦闘開始してからお互いに命中弾はない。

 たとえレーダーを使った射撃とはいえ、そこそこの距離になると照準が合っていても、砲弾自体が風など流されて命中しない。

 こればかりは若干の運が無くては当たらない。

 更に敵の重巡洋艦も砲撃を開始してきて、砲弾の投射量が増加している。

 それらに邪魔と僅かに苛立ちを覚えた雨風がレールガンを動かして電力を供給する。

 

雨風 「冷却完了。目標、金剛型戦艦機関部。照準完了。撃って。」

 

 ギュオン!と、音と同時に7000m/s、マッハ25を誇る金属の塊が打ち出される。

 レールガンを発射して雨風は神弓に通信する。

 

雨風 「駆逐艦と巡洋艦、邪魔。」

神弓 「「あーはいはい、了解したよ。対艦ミサイル発射!」」

 

 雨風は通信を終えて敵艦隊を見る。

 レールガンが命中して戦艦が一隻脱落したという判定が届いた。

 現在は依然として雨風は有利だが、急がなければもう一つの艦隊と同時に戦闘する羽目になる。

 そこで雨風は全力射撃をする事にした。

 

金剛 「oh・・・不味いですネー・・・・・」

 

 金剛は所属する艦隊の劣勢に顔色を悪くなる。

 既に比叡が機関部被弾により大破、撤退した。

 つまり相手は照準が合った、という事でもある。

 とはいえ、勝つ為には被弾が増えると思っても前進するしかない。

 

金剛 「私に続いてネー!行きますヨー!!」

 

 金剛を中心となって艦隊全体が増速する。

 その時、吹雪が雨風の後方から何か飛んでくる飛行物体に気づく。

 

吹雪 「何か近づいて来ます!」

金剛 「What!?みんなとにかくあれを落とすネッ!」

 

 艦隊は謎の飛行物体を狙うが、雨風からの砲撃で照準が狂わされ、あえなく飛行物体は吹雪や矢矧などに命中していく。

 

矢矧 「うぅ、まさか私が簡単にやられるだなんて。」

吹雪 「すいません。離脱します。」

 

 その他、三日月や由良も離脱していく。

 これで残ったのは戦艦と重巡洋艦だけである。

 金剛達に被弾して脱落する艦がいる中、敵である雨風は運良く被弾していなかった。

 そして相手の陣形の崩れを逃すほど、雨風は甘くない。

 主砲の発射速度下げ、代わりに精度を上げていく。

 今度の第四射目で遂に命中弾が出始める。

 主砲の射撃回数を減らした反面、追加のレールガンによる精密射撃を行う。

 

雨風 「レールガン、目標は先頭艦。調整完了。撃って。」

 

 ギュオン!と放たれた弾は先頭で引っ張っていた金剛の艤装を破壊すると、ほんの僅かなタイムラグの後、大きな爆炎が立ち昇る。

 着弾して数十秒経った時、空気を震わすおどろおどろしい炸裂音が轟い来た。

 レールガンの砲弾が砲塔直下の弾薬庫を砕きながら貫通した為だ。

 弾薬庫爆発によって、その周囲にいた艦娘も大きな被害を受けた様子で、レールガンによる精密射撃が終わると同時に今度は主砲による砲弾の雨だった。

 これにより高速打撃部隊は全員撃沈判定を受けた。

 

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武蔵 「とうとう我々だけになってしまったな。」

長門 「あぁ・・・そのようだな。」

 

 長門はたった今、高速打撃部隊壊滅の報を受けた。

 そして長門は悔しそうに唇を噛む。

 

長門 「これでも急いだのだが・・・」

陸奥 「仕方ないわよ。それより今は先を考えないと。」

長門 「そう、そうだな。電探の反応的にまもなく見える頃だが───」

 

 水平線ギリギリにピカッと光と僅かな黒煙が見えた。

 瞬時に砲撃だと気づいた長門達は艦隊の進路を変更する。

 そして数十秒後、艦隊の予測地点周辺に多数の水柱が沸き立つ。

 

長門 「これは、危なかった。」

 

 針路を変更しなければあの水柱の中へ居たであろう事実に、

ひとまず回避出来て長門が安心している時、大和が慌てて叫んだ。

 

大和 「第二射、来ますッ!!」

長門 「なんだとっ!?装填が早過ぎる!」

 

 長門が驚くのも無理ない。

 戦艦の砲撃は基本的に四十~五十秒程は掛かる。

 それも雨風のような大口径砲なら尚更、本来なら数分以上掛かる装填を高性能な自動装填装置によって僅か十八秒で終わらすのだ。

 だが、この距離は大和型戦艦の距離でもあった。

 

大和 「反撃の時間です!第一、第二主砲。斉射、始め!」

武蔵 「ふふ・・・遠慮はしない、撃てぇ!」

 

 日本の誇る世界最大最強と呼ばれた二隻の大和型戦艦が、敵に対して自慢の46cm砲を放つ。

 遠距離なので詳しく見えないが、砲撃は敵の周辺に着弾しなんと初弾で夾叉弾を出す。

 

大和 「夾叉しました。次は命中させます。」

長門 「我々も大和に負けていられない。撃てぇー!」

陸奥 「敵艦確認!全砲門、開け。」

 

 大和型が完成するまで、最強の戦艦ビッグ7と呼ばれた所以の41cm砲も砲撃を始める。

 武蔵が第二射を放とうした瞬間、先にレールガンが命中する。

 このレールガンの持つ炸薬の無い貫通力だけを求めた純粋な徹甲弾は、とてつもない運動エネルギーを持つつ射線上の武蔵の厚い装甲を容易く貫通し、弾薬庫を貫く。

 更に反対側の装甲をも通り抜け、後方にいた愛宕に命中する。

 

武蔵 「まだだ·・・・まだこの程度で、この武蔵は・・沈まんぞ!」

愛宕 「ちょっと、いくらなんでもやり過ぎじゃないかしら?」

 

 愛宕は中破で済み、武蔵はさすがは大和型と言うべきか、撃沈判定ではなく大破で踏み留まっていた。

 だが、戦闘にはもう参加出来ないだろう。

 その光景に長門が目を見開く。

 

長門 「なんという貫通力だ!!」

陸奥 「あらあら!これじゃあ装甲はあまり意味は無いじゃない。」

大和 「第二射、斉射、始め!」

 

 長門と陸奥が驚いている間に、大和が第二射を撃つべく咆哮を上げる。 

 大和の第二射は───命中した。

 

大和 「やった!───えっ?」

 

 大和の放った砲弾は命中した、これは事実で確実である。

 しかしガァンと大きな音と共に水色のネットのような物が敵の周りを纏うように出現し、大和の放った砲弾は運動エネルギーを失い、水面に落下。

 その光景に水上打撃部隊全員が動きが止まり放心する。

 全員が呆気を取られている間、長門は後ろ側からパチャっと何かの音が聞こえた。

 そっちに振り向くと───

 

長門 「なっ!いつの間に!」

 

 そこにはもう一人の敵がいた。

 そして水面下から魚雷が走って来ているのに気づく。

 

長門 「全員回避急げぇぇぇ!!」

 

 長門の言葉に再起動した他の艦娘がその魚雷に気づき、回避しようとするが既に遅かった。

 ドゴォォンと巨大な爆音と共に巨大な火焔が生まれる。

 するとすぐに二発目が発射され、もちろん避けれる訳もなく命中、もう一度同じ火焔が生まれる。

 そこに爆発地点周辺にいた水上打撃部隊は全員大破が確認された。

 ここに演習は終了した。




全く出番のない子達もいましたが、楽しんで頂けたら幸いです。


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武装説明

兵装

 

レールガン(電磁加速砲)

二本のレールに電気を流して強力な磁力を発生させ、高速で純徹甲弾を撃ち出す装置。

長所・高い弾速を誇るので、着弾までのタイムラグが短い。

  ・高速で通常より重い砲弾を発射できるから、貫通力が高い。

  ・砲弾をほぼ水平に撃ち出せるので、命中率が高い。

 

短所・発射の摩擦熱などで砲身が加熱する。

  ・連続発射が不可能。

  ・水平に撃ち出すので、水面の波に当たり弾道が乱れる可能性がある。

  ・発射のために高い出力がいる。

  ・砲弾は純徹甲弾で炸薬が入ってないので、重要部分を狙う必要がある。

 

61cm砲

大和の46cm砲を超える巨大砲。直撃すれば問答無用で沈み、至近弾の衝撃でも軽装甲艦は大破することがある。

長所・水平、曲射両方で撃てるので対応性が高い。

  ・対空用砲弾を使えば航空機相手でも撃墜できる。

  ・自動装填装置により高い連射性能を誇る。

 

短所・遠距離では散布界が広いので命中率はあまり高くない。

  ・至近距離まで詰められた航空機相手には、砲塔回転速度が足りず撃墜が困難。

  ・高い連射性能を誇るので、撃ち過ぎると砲弾が尽きる。

 

 

拡散荷電粒子砲

荷電粒子を高速で発射する装置。荷電粒子が一定距離飛翔すると8つに分裂する。

長所・一発一発の火力が高い、中型艦までなら大破可能。

  ・対空、対艦どちらとも使用可能。

  ・拡散するので艦相手なら複数命中する事もある。

 

短所・拡散はランダムなので精密射撃は難しい。

  ・レールガンよりかは連射能力はあるが、それでも時間がかかる。

  ・発射のために高い出力が必要。

 

 

127mm速射砲

分間20発という高い連射性能があり、精度が高く命中率が高い。

長所・対空用の防空砲なので、航空機からミサイルまで幅広く対応できる。

  ・精度が良いので艦の装備を狙える。

  ・小型艦相手に十分な火力。

  ・小型でバランスが良いのでどんな艦でも扱える。

 

短所・中大型艦相手では火力不足。

  ・弾切れに注意。

  ・性能の良いレーダーを搭載しないと本来の力を発揮できない。

 

 

特殊弾頭ミサイル・魚雷

個艦用の弾頭ではなく、艦隊全体にダメージを与えれる破壊力がある。

長所・一発命中するだけで戦況が変化する可能性がある。

  ・中型艦以下の艦には高い火力を誇り、大型艦でもそこそこの破壊力がある。

 

短所・速度は遅いので回避、迎撃される可能性がある。

  ・大和のような重装甲艦では、あまりダメージが入らないことがある。

  ・近くだと自分も巻き添えを食らう。

  ・弾が少ない。(ミサイル2 魚雷4 計6発)

 

 

対艦ミサイル

対艦用のミサイル。一万トン以下の艦を目標とする。ミサイル自体の速度も速く、迎撃が難しい。

長所・ミサイルゆえ射程が長い。

  ・一万トン以下の艦を目標としているが、大型艦でも数で攻めれば撃沈は可能。

  ・海面ギリギリを飛翔するので接近されるまで、気づかれにくい。

 

短所・チャフや妨害電波などがあると、ミサイルの命中精度が落ちる。

  ・大型艦相手は数が必要なので非効率的。

  ・弾数は多くない。(16発入り×8セル=128発)

 

 

対空ミサイル

対空用ミサイル。誘導が成功すればほぼ確実に飛行物を落とすことができる。

長所・圧倒的遠距離から航空機を落とすことができる。

  ・大型機でも一撃で落とせる破壊力がある。

 

短所・少数であればミサイルだけで全滅できるが、多数でこられるとミサイルだけでは弾数が足りない。(16発入り×8セル=128発)

  ・近くまで接近されると、発射方式の都合で迎撃が不可能。

  ・対空ミサイルだけで迎撃は難しいので、他の対空装備と併用が必須。

 

 

対潜アスロック

潜水艦撃沈用ミサイル。誘導魚雷をミサイルに積んで潜水艦の付近に落とし、あとは誘導魚雷で潜水艦を撃沈する。

長所・最終的に魚雷を命中させるので、火力は高い。

  ・魚雷が自ら目標に突っ込むので打ちっぱなしですむ。

 

短所・かなり深くまで潜られたら、魚雷が水圧で圧砕する。(というかそこまで潜られたら他でも対処できない。)

・あまり遠くまで発射できない。(10km程)

 

 

RAM

近接防空ミサイルの事。射程は10km程だが弾数も豊富で、対空では重宝する。

長所・近くが対応できない対空ミサイルの代わりになれる。

  ・そこそこの発射速度があるので迎撃に向いている。

 

短所・ミサイルにしては射程が短い。

  ・大型機に対しては火力不足。

 

 

対空パルスレーザー

射程2km程のレーザーでそこそこ貫通力があり、駆逐艦くらいなら対艦できる。艦隊防空の最終防衛の一つ。

長所・航空機をエンジンから尾翼まで貫通できる貫通力がある。

  ・レーザーなので弾速が速い。

  ・そこそこの連射能力がある。

 

短所・光学兵器特有の高いエネルギー使用量。

  ・2kmを越えると威力が低下する。

 

 

35mmCIWS

対空用35mmガトリング砲を組み込んだ近接防空システムの事。艦隊防空の最終防衛の一つ。

長所・毎秒80発の弾を撃ち出すことができため、濃密な弾幕を張ることができる。

  ・35mmという大口径により、命中した航空機は砕かれる。

 

短所・とにかく弾薬の消費がやばい。

  ・射程2kmちょいなので、これが突破されるとどうしようもない。

 

 

防御装置

 

防御重力場

雨風が大和の砲弾を受けた時に出たネットのような物。

敵の攻撃に対してエネルギーを軽減する装置。

これを装備していれば、砲弾などの攻撃を弱体化させることができる。

光学兵器には効かない。

性能は装置による。雨風80%、神弓90%

例 装甲50mmで軽減率50%なら貫通100mmの砲弾まで防げるので、実質装甲厚100mmになる。

長所・効率良く装甲を強化できる。

  ・減らした装甲だけ武装を積める。

  ・爆発や衝撃に対応している。

 

短所・あくまで軽減するだけで完全には防げない。

  ・装置自体が重い。

  ・大量のエネルギーが必要。

 

 

電磁防壁

まだ出ていないが、対光学兵器用の防御装置。

防御重力場の光学兵器バージョン。

もちろん物理兵器には効果がない。

長所・高い貫通力を誇る光学兵器を防げる唯一の装置。

  ・光学兵器を受け止めるのではなく反射させるので、使用エネルギーが少ない。

 

短所・あくまで軽減するだけで完全には防げない。

  ・装置自体が重い。

 

 

装甲

特殊な鋼板を使用しているが、基本的に大和達と変わらない。

雨風は対46cm砲装甲 神弓は8mmの鋼板で被弾=大ダメージ+一部の精密機器故障確定。

 

 

補助装置

 

レーダー・電波探知機(捜索、射撃、多機能その他など)

電波を使い、敵の位置を把握する装置。

 

ソナー・音波探信儀(アクティブ、パッシブ、機雷探知その他など)

主に音波で水中の潜水艦を見つけるための装置。

 

電波妨害装置

周囲に妨害電波を流すことによって、情報の伝達を妨害する装置。敵味方関係なく。

 

自動装填装置

文字通り自動で弾を装填してくれる装置。

 

イージスシステム

レーダーなどの情報を分析し、多方面に同時に迎撃するとができるシステム。

 

 

機関

 

ボイラー・艦本式缶

重油などを燃やして熱で水蒸気を発生させる。

 

核融合炉

海水を分離して発生した水素を使い、ヘリウムと組み合わせて反応した時の熱を使って水蒸気を発生させる。

 

タービン

ボイラーなどの水蒸気を使って羽根を回転させる機械。

 

 

艦積機

 

AV-8BJ ハリアーⅡ

最高速度1800km/h

航続距離2000km

武装 57mm航空機関砲

   500キロ爆弾

 

垂直離着陸が可能でカタパルト不要の航空機。

航空戦、艦隊攻撃両方対応できる便利な機体。

そして、誰やハリアーをこんな魔改造したのは!?

 

 

ハウニブー

最高速度2800km/h

航続距離1800km

武装 対空パルスレーザー

   荷電粒子砲

 

とにかく立体に動く円盤、その動きは間違いなくUFO。

突如急上昇したり、90度で曲がったり、停止したり、とにかく起動が読めない航空機で、たとえ神弓でも撃墜は難しい。




他に知りたいものがありましたら、お教えください。


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10:不穏な雑音

修正に時間が掛かり申し訳ないです。かなり時間が開きましたが小説は続けるつもりです。では、どうぞ!


提督 「んー、やっと終わったー!」

 

 横須賀鎮守府の執務室の中で、数日連続休み無しで机の上の書類と格闘していた提督が、遂に書類仕事の完了に大きな喜びを味わう。

 それもそのはず、提督の手元の机には厚さ数cmはあると思われる紙束が大量に置いてあった。

 

瑞鳳 「お疲れ様です、提督。お茶をどうぞ。」

 

 秘書艦の瑞鳳が労いの言葉と共に温かいお茶を差し出す。

 用意されたお茶を提督は一口飲んでゆっくり息を吐く。

 

提督 「はぁ、今までで一番疲れた気がするわよ。ふぅー、あとは送るだけね。」

 

 そう答えつつ提督はさっきまで処理していた書類を封筒に入れて提出の用意をし始める。

 

瑞鳳 「これで二人の処遇は決定ですね!」

 

 安心とも嬉しさとも取れる明るい顔になった瑞鳳が提督へそう話す。

 すると提督側も似た心境だったようで、小さく笑顔を浮かべる。

 

提督 「その為にここまで頑張ったんだから、運が良かったとも言えるけど。まぁとにかく処遇も決まったし、瑞鳳にかけていた負担も減らせるってものよ。」

 

 提督はここ最近の通常業務の殆ど全てを瑞鳳に委任させていた。

 しかしこれは決して提督がサボっているわけではなく、雨風や神弓の処遇に関する報告や根回しをしていた為である。

 雨風達が発見された当初、上層部は新たな事例で艦娘を発見できる可能性があるといった認識しかなかった。

 しかしその認識は射撃演習の報告により完全に崩れ去った。

 当初報告を信用していなかった上層部が秘密裏に艦娘の証言を集めた結果、事実だと判明した。

 報告を受けた二日後に緊急会議が開かれ、横須賀鎮守府提督を召集した。

 緊急会議では上層部の他、各地の提督、更に海軍元帥までもが出席する事態に。

 会議が開始し資料が配られたが、基本的に資料の内容が常軌を逸していた内容を前に半信半疑の者が多数を占めていた。

 中には本来とは違う発見の仕方により「深海悽艦のスパイではないのか?」と言った疑いが上がる事態へ。

 そこに(横須賀)提督が雨風からの条件を報告すると、更にその疑いが強くなり、「何か起こる前に解体し無力化すべき!」といった声が現れ、それを指示する意見が増えてきた。

 解体賛成派の一部を除く大半が「部活である艦娘が、上官の我々に条件をつけるなど、言語道断!」と、プライドを刺激された者が大半だったのは秘密である。

 とはいえ、現状の流れだと解体される可能性がかなり高かった。

 しかしここで、(横須賀)提督が一転攻勢の切り札を取り出す。

 それは会議前日に横須賀鎮守府で行われた艦隊演習の映像である。

 そこには各鎮守府の中でも、ラバウル基地やトラック泊地と共に高い戦闘力を誇る横須賀鎮守府所属の艦娘達が瞬く間に壊滅させられる映像が映し出されていた。

 この映像を見た上層部や他の鎮守府提督は、即座に顔を真っ青に染める。

 映像が終わり、「やはりこのような危険な存在は解体すべき!!」と解体賛成派が名乗り出たが、先ほどに比べ賛同者は明らかに少なかった。

 確かにこの艦娘は危険な存在であるが、(上手く扱えれば深海悽艦との戦いが有利になるのでは?)などの思惑が浮かんでいた為だ。

 だがそれでもひたすらに解体を押す者達に元帥が「例えばの話だ。その艦娘が解体を拒否し攻撃をしてきた場合、果たして我々は止めれる者はいるのか?」と、発言したら、解体賛成派は萎縮してしまう。

 確かに元帥の言う通りだった。

 最強クラスの鎮守府でも歯が立たないなら、たとえ他の鎮守府と連携したとしても勝負になるか怪しい。

 それどころか撃沈に成功したとしても甚大な被害を受け、今後の深海悽艦との戦いが不利になるだろう。

 それでも「燃料弾薬の供給を絶ってしまえば、戦闘力を失わせることが出来る!」等、解体賛成派はなんとか反論するが、(横須賀)提督が、海水を燃料にする機関や弾薬を使わない光学兵器の存在を説明すると、即座に口を閉じた。

 その後の会議では、元帥が「共に戦う意志は持っているのか?」と(横須賀)提督に問い、戦う意志がある事を確認し、会議は雨風の条件を承認する流れとなった。

 そして会議中、(トラック)提督からこの艦娘をこちらに欲しいと要請があった。

 トラック泊地はその地形上、強力な深海悽艦を相手に戦う事も多く、強力な戦力は喉から手が出る程欲している。

 たが、(横須賀)提督は二人に関して他の鎮守府より比較的扱い慣れており、雨風達自身がそこの提督を信用している事もあってか、今後の事情次第としてお流れになった。

 会議終了後、提督の元にはその書類が山のように送り届けられ、それがたった今処理が終わった所である。

 

瑞鳳 「もうお疲れのようですから、少しお休みになられたらどうです?」

 

 瑞鳳が働き詰めの提督に休みを取るよう提案する。

 暫く徹夜をしていた提督の目の下にクマが出来上がっており、若干窶れて疲労の色が濃いかった

 こんな状態の提督は瑞鳳の提案に頷き、報告だけ聞いて休む事にした。

 

提督 「そうね、ちょっと休ませてもらいましょう。その前に報告だけ聞こうかな。」

瑞鳳 「了解しました。」

 

 自分の机から瑞鳳は手元の資料を漁り、ここ最近あった出来事を報告する。

 

瑞鳳 「良いお知らせと悪いお知らせ、どっちから行きます?」

提督 「良い方から。」

 

 提督は迷わず即効で断言した。

 そんな提督に、瑞鳳は少し納得のいかない表情をする。

 

瑞鳳 「そこは悪い方からじゃないの?別に良いけど。報告です。リンガ泊地、ブルネイ泊地、タウイタウイ泊地の共同作戦により、スリランカ島及び周辺海域の深海悽艦の撃破に成功。その海域の制空権、制海権の奪取に成功しました。攻略艦隊はマダガスカル沖には進行せず、各泊地に向かい帰路に着きました。近々、マダガスカル沖の制海権を奪取する為、対策会議が開かれる予定になっています。」

提督 「よしよし。これでまた一つ、海を取り返したわね。」

 

 提督はいつもに比べて上機嫌になってる。

 たとえ他の鎮守府の成果だとしても、海を取り戻せるのが嬉しいようだ。

 

瑞鳳 「他には雨風さん達の事ですが、彼女らが現れてから近海の深海悽艦の数がびっくりする位激減しています。」

提督 「あぁ・・・まぁ、ねぇ?」

 

 表情が一変し提督が思わず苦笑いを表に出してしまう。

 そりゃそうだ。

 あんな性能の艦が辺りを彷徨いていたら、深海悽艦もいなくなると。

 最近一度だけ暗闇に紛れて近海に戦艦を含んだ十隻の艦隊が侵入してきたが、偶然当日哨戒担当だった神弓のレーダーに引っ掛かり、雨風の主砲で海の藻屑と化した。

 その光景を見ていた随伴艦の皆は、思わず敵の深海悽艦に同情してしまった・・・と言ってしまうほど圧倒的な戦力差で捩じ伏せてしまった。

 演習の時の経験があれば、深海悽艦がどうなったかは想像に容易くない。

 

提督 「それで悪い報告は?」

瑞鳳 「悪い報告ですが。現在、到着予定分の資源が届いていません。」

提督 「えっ?確か予定だと、昨日の段階で輸送船が到着して、積み荷の入れ替えが終わり次第随時出港だったはずだけど。」

 

 予め決められたスケジュールを記憶していた提督が瑞鳳へ投げ掛けると、瑞鳳は言い難そうに口を開く。

 

瑞鳳 「それが・・・最近になって輸送船団が消息不明になるケースが増えています。中には護衛のいる輸送船団も含まれています。」

提督 「それはおかしいわね。救難信号は?」

 

 提督の顔が怪訝な表情へ変化し瑞鳳に質問する。

 そして瑞鳳も困ったように返答した。

 

瑞鳳 「今現在確認出来ていません。」

提督 「どう言う事かしら?」

 

 輸送船団が消息不明になるケースはそんな珍しいものではない。

 たが、救難信号を確認出来ていないのは不自然だ。

 輸送船には必ず通信機が搭載されているから、襲撃があれば何かしらの信号が中継局を経由し、鎮守府に届く。

 一隻や二隻なら通信機の故障もありうるが、艦娘が護衛に付く場合は最低でも合計六隻以上はいる訳で、奇襲を受けたとしても次の攻撃が開始されるまでに僅かながらの時間で通信ができるはずだ。

 

提督 「上層部の方はなんて?」

瑞鳳 「原因究明の為に、艦隊を調査に向かわせろとお達しが届いています。これに対し、本日1430に調査艦隊を出撃させる予定です。」

提督 「編成は?」

瑞鳳 「伊勢を旗艦にして、青葉、由良、陽炎、天津風を予定しています。報告は以上です。」

提督 「まぁ分かったわ。とりあえずこれらを考えるのは後にしましょう。そうね。そろそろお昼時だから、今まで頑張ってくれた分、今日は私の奢りでお昼行きましょうか。」

瑞鳳 「えっ!良いんですか?」

 

 瑞鳳は目を輝かせる。

 提督は瑞鳳を見て、クスッと笑う。

 

提督 「フフっ好きなの食べて良いから、行きましょう。」



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11:旋風のノイズ

 鎮守府の食堂で神弓は雨風と一緒に椅子に座り、ようやく食事が出来ると神弓は喜んだ。

 

神弓 「やったー!やっとご飯だ!」

 

 雨風と神弓のいつものコンビは、座学が予定よりかなり伸びて三時ギリギリ前と、遅めの昼食を味わっていた。

 そこに食堂の入り口から、提督と連れられたであろう瑞鳳が入ってくる。

 

提督 「もうぉー、なんであんなに長話をするのよ····」

神弓 「あっ、提督!」

 

 神弓が声を出すと提督が二人を見つけ、カウンターで注文した後、同じテーブルに座った。

 

提督 「あら、随分遅い昼食ね。何かあったの?」

雨風 「座学が長引いた。提督は?」

提督 「本当はこんな遅くなるはずじゃなかったのよ。食堂に行こうとしたら、上から連絡が来てね。気がついたらこんな時間よ。」

 

 提督は心底嫌みたらしく喋った。

 

雨風 「そう···それで、私たちの処遇は決まった?」

 

 雨風が口にした途端、隣で嬉しいそうに食事をしていた神弓の身体が即座に強張る。

 それを見た提督は、神弓を安心させるような声で話す。

 

提督 「大丈夫、ちゃんと条件を飲ませたから。」

 

 自信満々に伝える提督を見て、神弓は力尽きたように椅子にもたれ掛かる。

 

神弓 「良かったー!」

雨風 「ありがとう·····提督。」

提督 「別に良いって事よ。内容はまた後日話すから、この話はまた今度ね。それじゃあ他の話をしましょう。そうね···二人はここ最近はどう?」

 

 話を切り替えて二人に質問して、雨風が最初に答えた。

 

雨風 「····神弓が座学で死にかけてた。」

神弓 「───ちょ、ちょっと雨風ッ!!言わないでって言ったじゃんっ!!」

瑞鳳 「へぇー、どんな?」

 

 神弓が慌てて声を荒げたが、瑞鳳が興味を持ってしまい、聞き返される。

 

提督 「私も気になるな~。」

 

 同じく興味津々でニヤニヤ顔の提督も便乗して、雨風は神弓の制止を聞かず言う。

 

雨風 「座学の間、ずっと頭から煙が出ていた。終わりの方は机に死んだみたいに張り付いていた。」

神弓 「うー、仕方ないじゃないですか!私、漢字とかの暗記苦手なんですよ!」

提督 「フフっなるほどね。」

瑞鳳 「うーん····それは、頑張って貰うしかないよね···?あ、漢字と言えば、二人はどうしてその名前になったの?」

 

 そこにいた皆が、んっ?って顔をした。

 意味が理解出来てない周囲の、瑞鳳が慌てて説明する。

 

瑞鳳 「えーと、ほら!私の瑞鳳って名前は、おめでたいって意味があるから。」

神弓 「あーそういう事ですか。」

 

 神弓が納得したようで手を叩く。

 

神弓 「私はミサイルを積んでいますよね。ミサイルは絶対に外さない神の矢と呼ばれているので、神の矢を打ち出す弓、神弓となったらしいです。」

 

 神弓は満面の笑みで得意げに話す。

 

提督 「へぇ、そうなのね。雨風は?」

雨風 「私は···雨のように砲弾を降らし、大量の風切り音だけが周りに響く、から···そうなってる。」

瑞鳳 「言葉の意味で決める訳ではなく、行動の方で決める感じですか───あれっ?」

 

 などと話していると、妖精さんが机の傍に集まり、途中で落下したり転げ落ちたりしながらも、数人が机の上へ登ってくる。

 そして妖精さんの腕には、メモ帳サイズの紙とペンを持っていた。

 

瑞鳳 「この服装は、お二人の妖精さんですよね?」

 

 その妖精さん達は紙を置き、せっせと何かを書き始めた。

 その光景に皆は首を傾げ、顔を見合わせる。

 

提督 「何を書いているのかしら?」

神弓 「私達の妖精さんなら、私達に関する事でしょうか?」

 

 書き始めて数分が経過して、ようやく完成したようで、妖精さんが見えるように紙を広げた。

 

雨風⋅神弓 「·····────ッ!?」

 

 その絵を見て意味を理解した神弓は、思わず息を飲み、心臓の鼓動が加速的に早まる。

 あの普段からあまり表情の変わらない雨風ですら、目に見えるほど驚愕の色を見せていた。

 ガタンッ!と大きな音を立て、二人は急いで妖精さんを連れて駆け出し、食堂から立ち去る。

 

提督 「ちょっ!ちょっと待ちなさい!」

 

 突然の事で一瞬呆けてしまったが、すぐに冷静を取り戻した提督が二人の後を追う。

 

瑞鳳 「ふぇっ!?ど、どうしたの!」

 

 瑞鳳は提督を追おうか悩んだが、雨風と神弓が突然走り出した原因だと思われる絵に好奇心が刺激され、視線を絵に移す。

 妖精さんの書いたその絵には、一隻の艦が描かれていた。

 主砲と思われる三連装砲四基、副砲の連装砲が四基、更に魚雷までもがついており、形は全体的に曲線でスマート、特にV字型の煙突が目立つ戦艦である。

 一方雨風と神弓は、工廠に向かって全力で駆ける。

 その二人は、周りから見ても即座に分かるくらい焦っていた。

 外から見れば、二人が慌てるくらいの事が起きてる!と思うだろう。

 

神弓 (しまった!時間が経ったせいで、無意識の内にいるかも知れないが、いない···と、なってしまった!)

雨風 (現代を超越したオーバーテクノロジー、悪夢の再来、人の···過ちの···結晶。)

神弓 (超常兵器級、別名···超兵器!)

雨風 (V字型煙突···船体の形は──あの超兵器は···)

 

 そして二人はある艦の名前を同時に口にする。

 

雨風⋅神弓 「超高速巡洋戦艦───ヴィルベルヴィント!」



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12:旋風よ──いざ、尋常に

 超兵器が出現した可能性がある、その可能性だけでも雨風達を容易に動かす要因へなり得た。

 食堂から飛び出した後、工廠で装備を揃え桟橋へ向かう。

 本来工廠から装備を受け取る際に提督からの申請が必要だが、明石は二人の慌て具合から懲罰覚悟で用意してくれた。

 明石には感謝せざる終えない。

 二人は桟橋に着いて海面に飛び降り、最大船速で走り出そうとした時。

 

提督 「待ちなさい!!」

 

 後方から駆ける提督の叫びを二人に届く。 

 ここで提督に状況を説明した方が良いのは二人共理解していたが、今は一刻を争う。

 

雨風 「行って。」

神弓 「えっ?わ、わかった。」

 

 神弓は沖に向かって水飛沫を上げつつ、自身の持てる最大の速度で走っていく。

 一方雨風は提督へ声が届く距離まで近付いてから───

 

雨風 「罰は後で受ける。」

 

 そう言って神弓と同じ方向に移動を始める。

 提督は息を切らしながら沖に出ていった二人を少しだけ見つめていたが、自分がやるべき事を思い出す。

 提督は懐から携帯を取り出し鎮守府の放送へ繋ぐ。

 

提督 「ただいまから緊急指令を発令!第一艦隊は出撃待機、第二、第三、第五艦隊緊急出撃!その他の艦隊は命令あるまで待機せよ!」

 

 提督の放送が流れた途端、鎮守府全体が慌ただしく動き始めた。

 

提督 「一体、何が起こったの?」

 

 あの二人が切羽詰まされる状況に陥った理由が分からなかった。

 そして提督の疑問を答えてくれる人はここに居らず、提督は急いで提督室に戻る。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

伊勢 「一体何なのよあの敵!?」

 

 訳が分からないとばかりに言葉を吐き出しながら、伊勢は砲弾を撃つ。

 伊勢の放った35.6cm砲弾が目標である敵を大きく外れて海面へ着弾する。

 伊勢達、調査艦隊が戦っている相手はたった一隻の戦艦。

 その戦艦は全体的に白色をメインとしつつ、キリッとした顔や佇まいはどこかクールな印象を受ける。

 

伊勢 「鎮守府へ連絡はついた?」

由良 「通信機のノイズが酷くて駄目です!こんな時にっ!」

 

 通常であれば伊勢達の編成は戦艦一、巡洋艦二、駆逐二と、艦隊としては少ないとはいえ戦艦一隻と相手とするなら十分な戦力だった。

 だがそれは通常の艦艇だったらの話だ。

 この敵は凄まじい速力で接近してきたかと思うと、いきなり艦隊に対して砲撃してきた。

 突然の奇襲を受けた艦隊だったが、普段から深海棲艦との戦いで経験を積んでいたお蔭で態勢を整え反撃を行えた。

 しかし反撃の用意を整えたとしても、実質的な反撃はほぼ不可能と言える。

 その原因は敵の速力だ。

 最初にその速力を見た時、艦隊にいた全員が目を疑った。

 そんな速力を持った艦は今までで二隻しか知らないからだ。

 敵の推定速力は80kt以上。

 この速力は神弓には及ばないものの、戦艦としては並外れた速力を持つ雨風より30kt以上の優速を得ていた。

 80kt以上の目標など伊勢達は狙った事がある筈がない。

 それゆえ、敵に砲弾を命中させるのは実質不可能だった。

 更に鎮守府に救援信号を送ろうにも、謎のノイズが発生しており妨害される。

 これのよって艦隊は孤立して、単独で戦闘せざる負えない。

 

伊勢 「でも、唯一ラッキーなのは敵の砲が小さい事ね。」

 

 前衛に立つ伊勢が砲撃しながら隣の青葉に言う。

 

青葉 「これで砲まで大きかったら私達今頃海の底にいますよ。まぁ、今でも私には十分致命弾になる砲弾ですけど。」

天津風 「不吉な事言わないでッ!!」

 

 敵の装備する砲は伊勢が装備している35.6cm砲より小さい28cm砲。

 しかし砲は長砲身化されており、近距離なら伊勢の対35.6cm砲装甲を貫く貫通力を有している。

 とはいえ威力自体は28cm砲のままなので、弾受けの伊勢がまだ何とか持ちこたえている状態に楽観視は出来ない。

 口径が小さい分装填が早く、敵は三連装の砲塔を四基搭載しているので、砲弾の総投射量はかなりのものだ。

 今は運良く多少の被弾で済んでいるが、このまま攻撃を受け続ければいずれ、一部の砲弾がバイタルパートを撃ち抜いて致命的な被害を受けるだろう。

 そうならない為に反撃しようにも本艦隊だけでは厳しい、応援を呼ぼうにも通信機が使えない、逃げようにも速力の関係で不可能。

 まさに八方塞がり、皆が本気で死を覚悟した。

 

伊勢 「何の音・・・?」

 

 伊勢達から見て後方から、ゴォォォォ!という炎が噴き出すような音が耳に届く。

 

天津風 「───あれっ!!」

 

 天津風の見る方から大量の白煙で線を描きつつ四発のミサイルが低空を飛翔する。

 ミサイルは轟音を出しながら伊勢達の横を通りすぎて、自動で敵に照準を合わせ、突撃を開始。

 敵はミサイルの存在に気が付き、伊勢達への砲撃を止め対空機銃や側面の両用砲で弾幕を張る。

 ミサイルは敵が迎撃を始めた刹那、そのまま突撃するミサイルとホップアップするミサイルに別れ、対空砲火の撹乱する。

 対空砲火によってそのまま突撃したミサイルは撃墜された。

 しかしホップアップしたミサイルにまでは迎撃が間に合わず、命中して火の手が上がる。

 

由良 「あのミサイル・・・神弓さんの!」

陽炎 「後方から神弓さんが接近してます!」

 

 待ちに待った援軍、しかも頼りにしかならない神弓の登場に艦隊の全員が笑顔を浮かべる。

 その時、神弓から通信が届く。

 

神弓 「「こちら神弓です。この戦い、代わりに受けさせて頂きます。」」

 

 そう発言した神弓は敵であるヴィルベルヴィントに突撃する。

 

神弓 「ふぅ、ギリギリ間に合いましたね。」

 

 神弓は艦隊が無事だった事に心の中で安堵する。

 艦隊の横を通り過ぎる瞬間、神弓は一瞬だけ全員の装備に視線を動かした。

 多数の砲弾を受けた伊勢は砲塔などに凹みや傷も多く、かなりギリギリの状態であった。

 万が一伊勢が沈んだ場合、ヴィルベルヴィントの砲撃に耐えれる装甲を持つ艦娘はここに居なかった。

 もう少し到着が遅れていたら全滅のあり得た状況であり、超兵器とは艦隊全滅程度なら容易に起こせる程の戦闘力を持っている。

 神弓はキッチリと気持ちを引き締めて、ヴィルベルヴィントに攻撃を開始した。

 

神弓 「対艦ミサイル、発射セル五基二連射十発。目標、ヴィルベルヴイント。発射!」

 

 神弓の艤装から大量の白煙と共にミサイルが発射され、ヴィルベルヴィントに攻撃する。

 それに対しヴィルベルヴィントは弾幕を張りつつ主砲で神弓に砲撃を行う。

 神弓の周りにはヴィルベルヴィントの第一射を速力で回避して、逆に手持ちの速射砲で反撃とばかり叩き込む。

 反撃の速射砲から撃ちだされた砲弾が放物線を描きながらヴィルベルヴィントへ命中し、更にミサイルも複数直撃する。

 神弓優勢かと思われたこの戦い、実はむしろ劣勢だ。

 

神弓 「やっぱり駄目かぁ~。」

 

 被弾したヴィルベルヴィントの艤装の被害は少し凹んだり焼かれたりするだけで、大きな被害は出ていない。

 ヴィルベルヴィントは超高速巡洋戦艦の分類で、基本は巡洋戦艦と同じく他の戦艦と比べれば装甲は薄く被害を受けやすい。

 だが、装甲の薄い巡洋戦艦と言えど戦艦。

 駆逐艦や巡洋艦よりは十分な装甲は備えている。

 一方の神弓については127mm速射砲は駆逐艦サイズ、ミサイルも巡洋艦クラスを想定されている為、戦艦のヴィルベルヴィントの装甲を貫く事は厳しい。

 神弓は小型多方面同時戦闘には強いが、単体大型相手の戦闘には向かないのだ。

 一応、特殊弾頭を積んだ魚雷やミサイルを使えばダメージを与えられるだろうが、リスクも大きくこの状況では迎撃される可能性も高い。

 

神弓 「私だけでは厳しいから、雨風の協力が必要だけど・・・」

 

 神弓だけで倒すのが難しいなら、代わりに雨風がヴィルベルヴィントを攻撃すればいい。

 雨風は61cm砲に拡散荷電粒子砲の火力の前にヴィルベルヴィントの装甲はあって無いようなものだ。

 

神弓 「問題はあの速力をどうにかしないと。でも、どうすれば。」

 

 神弓はヴィルベルヴィントの砲撃を避けながら考える。

 間違いなく雨風はヴィルベルヴィントの装甲を貫ける───だがそれは、雨風の射程にヴィルベルヴィントが入っていたらの話だ。

 速力ではヴィルベルヴィントの方が上なので、逃げに入ったら追随できるのは神弓だけである。

 勿論それでは意味がない。

 雨風の射程内にヴィルベルヴィントを捉える為、あの速力をどうにかしないといけなかった。

 幸い、ヴィルベルヴィントの速力を低下させる方法は知っている。

 ヴィルベルヴィントの特徴的なV字型煙突を破壊すれば、排気能力が低下して速度を維持できない。

 しかしどうやって煙突を破壊するか?

 先ほど言った通り神弓の火力は低く、煙突を破壊するだけでも一苦労だ。

 

神弓 「おっと!」

 

 神弓の付近に砲弾が着弾して水飛沫がかかる。

 元々ヴィルベルヴィント自身の高速度に対応した射撃装置だ。

 速度のある神弓相手でも比較的早く対応可能、ヴィルベルヴィントは徐々に精度を上げて、このままだと被弾するのも時間の問題だろう。

 ヴィルベルヴィントと神弓は、反航戦でお互いに回避運動をしながら砲撃し合い、艦同士の格闘戦の様相を呈する。

 その時、ヴィルベルヴィントの攻撃が神弓へ一直線に向かい───

 

神弓 「くぅっ!?」

 

 ついに神弓が被弾してしまう。

 今回被弾したのはヴィルベルヴィントの小口径両用砲で、砲弾は神弓の装備する防御重力場によって貫通は防げたが、それよりも大きな問題が起きた。

 

神弓 「機雷感知システム、デジタルビジョン、赤外線捜索追尾装置。良かったぁ、レーダーや火器管制装置は無事。」

 

 神弓の搭載する複数の装置が破損した物が重要な装置じゃなく一安心する。

 これが神弓の弱点、被弾時の脆さだ。

 神弓は超長距離からの攻撃や索敵を可能とする装置は全て共通して、繊細で脆い。

 僅かな衝撃でも装置が壊れる可能性がかなり高いと言っていいだろう。

 その為、神弓は速力で被弾しない事を前提に造られているので装甲もかなり薄い。

 具体的言うと一般的な駆逐艦より薄い。

 防御重力場による非貫通でこの被害だ。

 もし貫通しようものなら、全ての装置が破損してもおかしくない。

 急いでヴィルベルヴィントの速力を下げないと、再び神弓が被弾し重要な装置が使用出来なくなれば、戦いは一気に劣勢に傾く。

 どうやって煙突を破壊するか一生懸命考える神弓だったが、それは予想外の方法で達成された。

 

伊勢 「この距離なら外さないよ!」

 

 伊勢の声と共に主砲の砲撃音が響き渡り、ヴィルベルヴィントの煙突付近が大爆発を起こす。

 

神弓 「えっ!」

 

 一瞬何が起きたか把握出来なかった神弓は、全体の位置関係を再確認して納得する。

 ヴィルベルヴィントと神弓はお互いに集中して戦闘していた、それは伊勢達の存在を忘れるほどに。

 ヴィルベルヴィントの至近距離に伊勢がいる事にお互いに気が付かず、伊勢は好機と判断。

 至近距離まで接近したヴィルベルヴィントに対し主砲を放った。

 伊勢の35.6cm砲弾はヴィルベルヴィントの煙突に直撃して、内部で炸裂した砲弾が煙突を粉微塵に砕く。

 そのせいで、ヴィルベルヴィントの速力は目に見えて低下する。

 ヴィルベルヴィントは煙突が破壊された事に慌てふためく中、更にヴィルベルヴィント周辺に巨大な水柱が立ち上った。

 皆が何事か!と周りを見渡し、その原因である雨風が視界に入る。

 速力低下、雨風が加わった事により一て優勢になった。

 ヴィルベルヴィントは自慢の速力を失い、至るところから砲弾やらミサイルやら光弾が降り注ぐ。

 そんな状態に晒されたヴィルベルヴィントは、加速度的に被害を拡大していく。

 砲塔は穴だらけになり、対空機銃群は吹き飛ばされ、白だった服や艤装はもはや焦げにより黒に変わっていた。

 それでも戦意を失わず、ヴィルベルヴィントは最後の足掻きとばかりに雨風に突撃していく。

 しかしレールガンによって機関部を貫かれ完全に機動力を失う。

 雨風の目前で停止したヴィルベルヴィントの眼光に合わせて、雨風は砲身を動かす。

 砲身が真っ正面に向いたその時、ヴィルベルヴィントに今までの鋭い眼光は無く、大きく目を見開く。

 それの目はまるで───別の存在だった時を思い出した時のように。

 

雨風 「撃って。」

 

 けたたましい轟音と共にヴィルベルヴィントは巨体な火焔に包まれる。

 音が消え、火焔の姿がなくなったには既にヴィルベルヴィントの姿は完全に喪失していた。

 雨風はゆっくり顔を空に上げ、何処と無く虚しそうに目を閉じる。

 

雨風  「さようならヴィルベルヴィント。いや、ワールウィンド・・・・・」

 

 かつての敵であり、一時期の仲間だった超兵器と別れを告げ、今ここに、世界で始めて超兵器を撃沈した日として歴史に残った。



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13:嵐の後の嵐

 軍令部の建物内で、雨風達の処遇について話し合った会議室に再び人が集められていた。

 会議がまだ始まっていないからか静けさは無く、そこら中から話し声が聞こえてくる。

 

(ショートランド)提督 「ようやく泊地に戻れたと思ったら、最悪だぜ。まさかのとんぼ返りだ。」

(ブイン)提督 「連続で緊急会議なんて珍しいですね?」

 

 会議室で席が隣り合わせの二人の提督は仲良さそうに喋り合う。

 彼らの管轄するブイン基地とショートランド泊地は近く──というよりは目の前なので、作戦行動も共同でやる事が多く関係も親密だったからだ。

 

(ショートランド)提督 「俺の予想だと、例の艦娘が何かの起こしたと思うがな。」

(ブイン)提督 「例の・・・あの艦娘ですか?」

(ショートランド)提督 「そうだ。少々の事なら連絡で済むからな。脱走でもしやがったか?」

(ブイン)提督 「聞いてみてからじゃないと断言は難しいと思いますよ。もしくは深海悽艦の新型でも現れたのでしょうか?」

 

 各地提督達が会話をしている最中、会議室の大きくドアが開かれる。

 ドアの開閉音に気かついた各地提督達が視線を向けると、ドアの奥から海軍上層部と海軍元帥が現れた。

 その姿を見た各地提督達は口を閉じ、立ち上がって元帥閣下達へ敬礼する。

 元帥閣下が椅子に着席し、周りの提督もそれに習って椅子に座る。

 そして皆が着席するのを確認した元帥閣下はまず謝罪から入った。

 

元帥閣下 「まずは皆にとんぼ返りさせた事を謝らないといけないな、すまなかった。それで今回再び皆に集まって貰ったのは新たな敵を発見したからだ。」

 

 申し訳なさそう謝罪し本題を口にすると、集まった提督の内一人が手を挙げて質問する。

 

(呉)提督 「元帥閣下。それは新種の深海悽艦が発見された、もしくは新たな泊地が見つかったという事ですか?」

元帥閣下 「残念だがそれは違う。」

 

 (呉)提督の質問に元帥は違うと否定した。

 質問内容を元帥閣下が否定した事により提督達は困惑する。

 

(呉)提督 「それでしたら・・・一体何が発見されたのですか?」

 

 提督が全員を集められるレベルの会議の内容に新種の深海悽艦でも新たな泊地でもないなら、一体なんだ?と。

 提督達の疑問に元帥閣下がハッキリと答えた。

 

元帥閣下 「今回見つかったのは新たな敵ではなく───新たな敵勢力だ。」

 

 元帥閣下の申した言葉の意味を理解した提督達には動揺が生まれる。

 

元帥閣下 「ちなみにこの敵勢力は、今のところ一隻しか確認されていない。」

 

 追加とばかり現れた一隻のみと言う単語が提督達をより混乱へ導き、お互いに顔を見合わす。

 今度は別の提督が手を挙げた。

 

(舞鶴)提督 「元帥閣下。深海悽艦の分類ではなく、たったの一隻で新たな敵勢力になる理由とその勢力についてお教え下さい。」

元帥閣下 「君の言う事はもっともだ。まずはこの資料を見てもらいたい。」

 

 元帥閣下の近くで待機していた秘書が資料を配り、各地提督達が目を通す。

 配られた資料を読んだ者の様子は様々。

 目を見開いて驚く者、資料の内容について考える者、一言一句逃さないよう慎重に読む者等々。

 たが、複数の様子を見せる提督達に共通して言える事があった。

 

(パラオ)提督 「この資料を読む限り、近海に敵勢力がどうやって侵入し、それでいて我が軍の艦娘に攻撃を仕掛けられる事になった理由は何でしょうか?」

 

 (パラオ)提督が言った事が他の皆に共通していた事であった。

 夜なら攻勢を見逃す可能性があるが、今回の事件は敵を発見しやすい昼、それも哨戒の多い首都圏の付近の横須賀鎮守府担当の近海にどうやって敵が侵入してきたか。

 

元帥閣下 「儂の知っとる情報は、昨日の1530頃に横須賀鎮守府付近の近海へ謎の敵が一隻が侵入し、横須賀鎮守府所属の艦隊へ突然攻撃を開始したらしい。幸いにも増援にきた艦娘によって撃沈でき、大事には至らなかったようだが・・・」

(パラオ)提督 「敵はたった一隻で攻撃を仕掛けて来たとの事ですが、これは明らかに無謀な攻撃でしょう。そして侵入してきた敵の情報がこの資料には記載されていません。一体どんな艦が侵入してきたんですか?」

 

 渡された資料にはピンポイントで敵の性能に関した情報が明らかに削除されていた。

 

元帥 閣下 「その敵について説明しようと思う。しかし儂より断然知っとる者がおる。」

(リンガ)提督 「えっ、元帥閣下よりもですか!」

 

 あの海軍トップの元帥閣下より情報を知っている者がいることに驚く。

 

元帥閣下 「では、その者達を呼ぶとしよう。入ってきてくれ。」

 

 元帥閣下が叫ぶとドアが開かれる。

 そこ居た人達を見て、各地提督達は予想外の人物に驚愕する。

 居たのは(横須賀)提督とその人物達だ。

 (横須賀)提督達は一礼して会議室に入ってくる。

 (横須賀)提督は空いている椅子の座り、その者達はモニターのある所へ行き自己紹介を始めた。

 

雨風 「雨風型戦艦一番艦・・・雨風。」

神弓 「初めまして。神弓型護衛艦、一番艦の神弓です。」

 

 そこの会議室にいる者は皆が知っているであろう艦娘が目の前に現れた事に元帥閣下と(横須賀)提督以外の全員が驚愕と疑問に覆われた表情を露にさせ、この二人を呼んだ理由を元帥閣下が答える。

 

元帥閣下 「二人をこの会議に呼び出した理由は、今回の敵を撃沈した本人達であると共に、唯一この敵を詳しく知っている艦娘だからだ。」

(トラック)提督 「元帥閣下、それについて詳しく説明をっ!」

元帥 「まぁそう慌てるな。それは二人から聞くと良い。説明してやってくれんか?」

 

 ます神弓が頷き、説明を始めた。

 

神弓 「皆さんは私達がこの世界の艦ではないと薄々気が付いていると思います。今回現れた敵艦は私達が艦の頃に戦闘を行ったとある一隻です。詳しく性能はこちらになります。」

 

 神弓は壁に取り付けられたモニターを操作して、その艦を表示させる。

 モニターに映し出されたのは二人の妖精さんが更に詳細に描いたヴィルベルヴィントの絵だ。

 

(舞鶴)提督 「なんだあの艦は!」

(トラック)提督 「初めて見る艦だな。随分とスタイリッシュな形をしているが。」

(ラバウル)提督 「どう考えても、我々の艦とは根本的に何かが違う・・・」

 

 他にもその艦を見た提督達からは色々な呟きが漏れ出す。

 

神弓 「この艦は、超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィントと言います。分類では超兵器となっています。」

元帥閣下 「ヴィルベルヴィント、か───確かドイツ語でつむじ風、旋風の意味があったか。」

 

 艦の名前に元帥閣下が小さく呟く。

 神弓は続いてヴィルベルヴィントの性能を伝える。

 

神弓 「ヴィルベルヴィントの主武装は、主砲の28cm55口径三連装砲、副砲として12.7cm連装高角砲、その他20mm機銃や魚雷を搭載。装甲は対31cm砲に装甲を持っています。」

 

 ここで提督の中から一人、質問をする為手が挙がった。

 

神弓 「はい、どうぞ。」

(トラック)提督 「神弓、だったな。この艦の性能を聞く限り、金剛型より性能が低く感じる、むしろ劣化型だ。この性能では近海に来るまでに発見できる時間もあり、充分発見も出来ていた思うが?」

神弓 「確かに今話した性能だけ見るのであれば、精々ポケット戦艦程度でしょう。しかし違います。」

 

 神弓は(トラック)提督の質問を否定する。

 

神弓 「ヴィルベルヴィントの最大の長所は速力です。」

(トラック)提督 「速力?」

神弓 「私はこの世界のヴィルベルヴィントとは戦いましたが、艦の頃に戦ったのは雨風です。これに関して言えば、そちらの方が詳しいはずです。」

(トラック)提督 「それは本当か?それで雨風、どうなんだ?」

雨風 「本当。最大速力は85kt。」

(トラック)提督 「はっ85kt!?」

 

 戦艦と言う大型艦が80kt以上出せる事に、周囲がどよめき始めた。

 戦艦以前に80ktもの速度を発揮可能な艦は存在しない。

 全員が微妙な艦だと言う認識が一瞬にして吹き飛ばされる。

 

雨風 「私達の世界の話。ヴィルベルヴィントの速力圧倒され、米海軍太平洋艦隊三個艦隊が壊滅した。」

 

 雨風の口から予想以上の大きな被害を聞いて、元帥閣下は思った事を口にする。

 

元帥閣下 「今回の事件は、たったこれだけの被害で済んで運が良かったのか。」

 

 雨風が元帥閣下に視線を動かし頷く。

 

雨風 「ヴィルベルヴィントは他の超兵器より楽な方。」

(舞鶴)提督 「おい待ってくれ!まだあんなのが他にもいるのか?」

 

 (舞鶴)提督が冗談じゃないとばかり声を荒げる。

 

元帥閣下 「焦るのも分かるが、一旦落ち着いたらどうだ(舞鶴)提督?」

 

 焦りにも似た感情を持ってる(舞鶴)提督を元帥が諭す。

 

(舞鶴)提督 「はっはい!申しわけありません・・・」

 

 元帥に言われてハッと我に戻った(舞鶴)提督は元帥閣下へ謝罪する。

 

元帥 「分かればよろしい。それで雨風、さっきの質問はどうなんだ?」

雨風 「他にも超兵器は存在する。可能性は、ある。」

元帥 「そうか・・・・」

 

 会議室に重苦しい雰囲気が流れる途中で、一人手を挙げる者がいた。

 

元帥 「むっ?(呉)提督、どうした?」

(呉)提督 「先ほどから超兵器という単語が出てきてますが、超兵器と通常兵器の違いについて説明を受けないと思うのですが?」

(岩国)提督 「そういえば、そうだな。」

(単冠湾)提督 「確かに、(呉)提督の言う通りですな。」

 

 そこら中で(呉)提督や(岩国)提督に賛同する声が聞こえてくる。

 ヴィルベルヴィントの性能や被害について意識が向いていた為、根本的な前提に気づかなかった。

 そこで再び神弓へ視線が集まる。

 

神弓 「超兵器とは超常兵器の略称で、超兵器と通常兵器の違いは簡単です。超兵器機関を搭載しているか?搭載していないか?の違いだけです。」

(呉)提督 「超兵器機関?」

 

 全く聞き慣れない単語が出てきて疑問の声が上がる。

 

神弓 「雨風、説明して。」

雨風 「技術士官エルネスティーネ・ブラウン大尉の研究で、超兵器機関の製造時期や製造法は不明。たった一つの部品になったとしても動き続ける機関。」

 

 会議室にいるほぼ全員が超兵器機関の説明を信じられなかった。

 何せ常識以前に科学の前提が狂っている。

 機関は複数の部品から構成され、何れか一つでも破損すれば機能性に影響が及ぶ。

 部品そのものが生き物と言われた方がまだ納得出来るだろう。

 

元帥閣下 「そんな機関を、一体どうやって手に入れたんだ?」

雨風 「火山付近で掘り起こす。埋没してる機関も常に動き続けてる。」

元帥 閣下 「ふむ。超兵器機関の元は古代の遺物、レリックに近いのか。」

(ブイン)提督 「雨風、貴重な超兵器機関を掘り起こしてまでわざわざ搭載するメリットはなんだ?」

雨風「凄く重い。でも出力が遥かに桁違い。」

(ブイン)提督 「なるほど。確かに、それなら搭載する可能性は出てくるな。」

 

 高性能で高出力の機関は何処であろうと問答無用で大歓迎だ。

 それが例え高重量だとしても、限界はあるものの搭載する船体を合わせれば済む話ある。

 高い出力を持っているなら大和の設計で問題視された機関出力不足による速力低下が起こらず、それどころか速力を上げて尚有り余る出力を光学兵器に転用したり、シールドのような物を動かす事ができ、まさに最強の艦を造る心臓に変化するだろう。

 

(リンガ)提督 「次に私から質問なんだが、君たちは今まで一体何隻の超兵器を沈め───」

 

 その時、会議室のドアが乱暴に開かれ、一人の兵が紙を持って突入した。

 

(パラオ)提督「今は会議中だぞ!!」

水兵 「申し訳ございません!すぐにお耳に入れて貰わなければいけない報告が、幌筵泊地から来ましたので。」

(幌筵)提督 「幌筵泊地から・・・?一体何があった!」

 

 幌筵泊地を自身で担当している(幌筵)提督は、思わず聞き返す。

 

水兵 「はい。先ほど、幌筵泊地から北方海域に深海悽艦の大艦隊が発見されたと報告が上がっています。」

元帥 「深海悽艦の大艦隊、だと?戦力は?」

 

 その兵の口から全員が驚愕せざる圧倒的か規模の戦力を報告した。

 

水兵 「今現在確認された中だけでも・・・五百隻以上。更に鬼級姫級を十隻以上含む、今までに観測された事のない大艦隊です!」



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14:布石

 横須賀鎮守府の普段あまり使われない講堂には、全体に配置された椅子に艦娘がずらりと並んで座り、待機する光景が写っていた。

 そこにいる艦娘は主力艦隊の面々の他、いつもの中規模作戦では呼ばれない遠征組の艦娘達ですら召集が掛かっていた。

 そしてどの艦娘も表情は硬く、真剣みを帯びている。

 そんな雰囲気の中提督がステージ上へ現れる。

 

提督 「今から北方方面漸減邀撃作戦について説明を始める。皆もある程度の事情は知っていると思うけど、今は一刻の猶予もないから手早く説明させてもらうよ。この作戦目標は深海悽艦の進行を食い止め、可能ならば撤退させる事。」

 

 提督はステージに配置された戦況図に指示棒を当て、続けて説明する。

 

提督 「今現在の情報だと、北方方面に現れた深海悽艦の大群は北方海域の制海権を奪取した後、キスカ島、コマンドルスキー島に陸悽の深海悽艦を複数上陸させ要塞化を図っている。恐らくこの島の要塞化を完全に終えた次は、西へ進み、幌筵泊地から単冠湾泊地を占拠しようとする。我々はこれらの泊地の占領を防がなければならない。」

 

 そして画面が入れ替わり、航空偵察により撮影された写真か映し出され、ほぼ全員の艦娘が息を飲んだ。

 深海悽艦の数は観測当初より増大していた。

 

提督「今のところ確認されている敵戦力について。深海悽艦の中核を為す鬼級姫級の種類と数は、装甲空母鬼三隻、北方悽姫一隻、空母悽鬼一隻、飛行場姫一隻、戦艦悽姫二隻、離島悽鬼一隻、空母水鬼一隻、戦艦水鬼一隻、それに加えて新たに発見され命名された港湾水鬼が一隻、計十二隻。無論、今後更に発見される可能性もある。」

 

 提督の口から発せられた鬼級姫級の数に艦娘達の動揺が広がり大きくなる。

 今まで複数の鬼級姫級を撃沈してきたが、それはあくまでも一度に現れた数が一隻や二隻、一番多く凄まじい戦いになった時でさえ四隻ほどであったからだ。

 それが今回の攻撃ではその三倍の十二隻となると、もはや驚愕するしかなかった。

 

提督 「今伝えた鬼級姫級以外にも、通常の深海悽艦の数は推定五百隻以上と報告を受けている。この深海悽艦群を撃破、撤退させるべく。我々は各地共同の漸減邀撃作戦を実施する予定であり、この作戦でどのように行動するかというと。」

 

 提督は戦況図の北方方面に三本の線を引く。

 一本目は幌筵泊地とキスカ島との間。

 二本目は幌筵泊地近海。

 三本目は幌筵泊地と単冠湾泊地の間。

 

提督 「まず全体の大きな流れとして、この三本の線の位置で防衛線を築く。一本目が第一防衛線、二本目が第二防衛線、三本目が最終防衛線になる予定であり、この中で第一防衛線は我々の主力艦隊が到着するまでの時間稼ぎ程度しかならないと予想され為、実質第二防衛線をメインにせざる負えない。もしも第二防衛線が突破された場合は幌筵泊地を放棄、最終防衛線に撤退するように。現地での細かい指示は戦況によってその都度連絡する。ここまでで質問は?」

天龍 「提督、一ついいか?」

 

 鎮守府の古株である天龍が声を上げ、提督へ堂々と質問した。

 

提督 「何かしら?」

天龍 「もしもの話だ。この作戦が失敗して、最終防衛線が突破されたどうなるんだ?」

提督 「深海悽艦に北海道及び東北周辺海域が占領されて、ここが最前線になるわね。」

 

 提督の言葉に更に周囲の艦娘の顔が強ばり、緊張感が強くなる。

 もし最前線が横須賀付近まで近付いた場合、首都は爆撃にさらされ、日本海側の大陸との連絡手段も失う事になる。

 

提督 「他にいるかしら?」

赤城 「提督、私から一つ質問があります。」

 

 今度は赤城が手を挙げ、真剣な眼差しで発言した。

 

赤城 「正直に仰って貰いたいのですが、この作戦が実施された場合、勝率はどのくらいでしょう?」

提督 「大量の轟沈などの多大な被害を出して、一割ないって所でしょうね。」

 

 提督は苦い顔をして返答する。

 

赤城 「そう、ですか。」

 

 赤城以外にも若干落胆した様子がわかる。

 他の艦娘もほぼ勝てないだろうと予想していたが、もしかしたらと思う望みすらないと再度理解した。

 しかしその時、提督が薄く笑う。

 

提督 「ていうのは、前の戦力だったらの話ね。」

赤城 「前の戦力・・・?提督、どういう事ですか?」

 

 急に明るくなった提督の口調に俯いていた赤城が顔を上げる。

 

提督 「前の私達の戦力だったら正直防衛は不可能に近い。でも、今は心強い切り札がいるからね。」

赤城 「心強い切り札・・・?あっ!!」

 

 赤城は何かを思い出す。

 その赤城を見て提督はニヤっと笑う。

 

提督 「他の子も思い出したんじゃない?艦娘版の鬼級姫級が!」

皆 「「「あっ!」」」

 

 そこら中から納得した声が聞こえて来たと思ったら、二人の艦娘に全員の視線が集中する。

 

提督 「雨風と神弓、この二人はこの作戦の切り札、そして根幹。皆もしっかり理解していると思うけど二人は桁外れの戦闘力を誇る。ねぇ二人とも、この数相手ならどこまでいける?」

 

 ステージ上から提督は雨風と神弓に問う。

 

雨風 「百。いや、二百なら。」

 

 提督の問いに雨風は普段と変わらず淡々と返す。

 

神弓 「え、えっと・・・戦艦以上なら厳しいですが、中小型艦だけに絞って相手にするなら百隻は沈めます。」

 

 神弓は周りの視線の若干オドオドしながらも答える。

 本来であればこんな発言は無茶だと思うだろうが、この周りはそれが一切感じれなかった。

 理由の一つして、実際に演習でその力を見せていたから。

 二人の望んだ回答に提督は声を張り上げて言った。

 

提督 「その心意気よし!今回の作戦を行うに当たって初めて使用される戦術として、指揮艦隊を複数編成する事になっている。指揮艦隊とは連合艦隊の延長で複数の艦隊の指揮権を委任する艦隊。強いて言うなら鎮守府の艦隊縮小版みたいな物かな。第一から第三まで編成する予定よ。ちなみに指揮艦隊はその性質上、索敵範囲の広い空母をメインで編成することになっているけど、私は別の艦を選ぶつもりよ。では艦隊を公表する。」

 

 紙を取り出した提督は編成を言い始める。

 

提督 「今回私達の第二指揮艦隊の編成は旗艦神弓、護衛として雨風。」

神弓 「ふぇっ!」

 

 神弓はまさか呼ばれるとは思っておらず、突拍子の無い声を出す。

 

神弓 「何で私なんですかっ!」

 

 神弓が驚いている傍で大淀がスッと立ち上がる。

 

大淀 「提督、私は指揮艦隊の旗艦に神弓さんが務めるのは反対です。彼女は艦隊指揮を経験した事はありませんし、でしたら神弓を随伴艦として採用すべきでは?旗艦でしたら、赤城さんや加賀さんを旗艦に選択するべきであり、神弓さんが情報を集め、旗艦に伝えるだけでも十分かと思われます。」

 

 大淀から反対の意見を持ち上げる。

 他の艦娘は大淀の意見に頷いたりして賛成している者もいた。

 大淀の反対意見に提督が神弓を旗艦に採用した理由を述べる。

 

提督 「私が神弓を選択した理由はいくつかあるわ。まず、神弓の電探の探知範囲が今回の戦闘規模的に十分な広さを持つ事、それにリアルタイムで敵の位置を知れるのはかなり大きいわよ。そして次にみんなは知らないかもしれないけど、神弓の装甲は駆逐艦の子達より薄いという事が二つ。」

 

 周りの艦娘からあんな戦いをする艦の装甲が薄いと全く思っておらず、驚きの声が漏れている。

 でも提督の公開した事実に納得する艦娘もいた。

 

提督 「だから神弓は機動力に特化している。その気になれば敵偵察機の航路から逃れる事もできるでしょう。でももし他の艦娘がいたら?強力な長所の速力を台無しにする事が考えられるわ。むしろ邪魔になる可能性の方が高いわよ。最後に大淀の懸念している指揮能力は大丈夫よ。逆に相手の方が多い戦いについては私達より二人の方が知っているはずだから。」

大淀 「・・・わかりました。提督がそこまで言うのであれば。」

 

 自信満々に言う提督に大淀は完全には納得してないが、提督を信用して引き下がる。

 

提督 「他にも質問はない?今から指揮艦隊の指揮下に入る編成は後で伝えるわ。それと装備については戦艦と重巡は全艦三式弾を搭載する事。」

戦艦・重巡 「「「了解!」」」

 

 金剛や長門、摩耶や利根などが大きな声を出して、その声には戦いに敗ける気が一切ないという思いが伝わる。

 

提督 「空母は爆撃機や攻撃機の代わりに戦闘機を限界まで搭載して、制空権奪取に勤しんで戦艦隊を可能な限り守ってあげて。」

空母組 「「「わかりました。」」」

 

 先ほどの戦艦や重巡に比べて声は小さいが、冷静で静かに闘士を燃やす。

 

提督 「軽巡と駆逐艦は魚雷を搭載。一部の艦隊所属の艦娘は対空装備を装備させるから。」

軽巡・駆逐 「「「はいっ!」」」

 

 駆逐艦達は体格に似合わないが、頼っても大丈夫と思えるようなやる気を出していた。

 軽巡は基本的空母と一緒だが、一部の艦娘は戦える事に喜びを感じている者もいる。

 

提督 「雨風。貴方は名目上護衛となっているだけで、その火力と装甲を味方の支援や遊撃に当てて欲しい。具体的にどこに攻撃するかは神弓の指示を受けてちょうだい。とにかく全力で戦場をかき乱しなさい!」

雨風 「了解。」

 

 雨風は普段と変わらない表情だが、何故か戦いの勝敗に揺るぎはないと安心できる雰囲気を出していた。

 

提督 「最後に神弓。この戦いは貴方の働きに掛かっているわ。期待しているわよ。」

神弓 「は、はい!私に任せてください!」

 

 神弓は不安を抱えながらでもこの戦いを勝利に導くべく、覚悟を決める。

 

提督 「今から一時間後に幌筵泊地に向け出発する!各員はそれまでに準備を終えるように。諸君、幸運を祈る。」

 

 提督は艦娘達に向かって敬礼する。

 こうして、北方方面漸減邀撃作戦の賽は投げられた。



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15:北方方面漸減邀撃作戦

飛龍 「「こちら第五艦隊。もう直ぐ日没だから撤退するね!」」

神弓 「第五艦隊の撤退を確認しました。泊地で補給してきて下さい。」

 

 神弓は第五艦隊から撤退の報告を受けた後、別の艦隊に通信を繋ぐ。

 

神弓 「こちら第二指揮艦隊。第一、第二艦隊、撤退してください。」

伊勢 「「第二艦隊、撤退するよー。」」

大和 「「こちら第一艦隊!戦艦悽姫を二隻含む艦隊からの追撃を受けています!陸奥が大破しており、直ちに撤退が不可能です!雨風さんの支援を要請します!」」

 

 慌ただしい大和の通信と共に大量の砲撃音が無線機越しから聞こえてくる。

 神弓は大和の要請を即座に承認した。

 

神弓 「了解、雨風を向かわせます。それまで耐えて下さい!」

 

 第一艦隊の危機へ神弓が雨風に向け急いで連絡し命令を伝える。

 

神弓 「第一艦隊が姫級の艦隊から追撃を受けているから、撤退の支援に向かって!」

雨風 「「了解・・・現在の戦闘を中止、支援に向かう。」」

 

 神弓はレーダーで雨風が第一艦隊の支援に向かった事を確認してから今度は前線に移動中の第三艦隊に警告を送る。

 

神弓 「こちら第二指揮艦隊。まもなく第三艦隊と敵艦隊が五分後接敵します。注意してください。」

金剛 「「OK!皆さん、気をつけて行きますヨー!」」

神弓 「第七艦隊に指令。針路を0-4-0から0-4-6に変更してください。」

神通 「「第七艦隊旗艦神通、了解。針路を0-4-6に変更します。」」

 

 第七艦隊に針路変更の命令を送っていると、第三艦隊から戦闘開始の通達が送られてきた。

 

金剛 「「敵と接敵したネー。撃ちます!Fire~!」」

神弓 「第三艦隊へ。何か異常があればすぐに報告してください。」

金剛 「「わかったデース!」」

 

 その時、今度は雨風から報告が届く。

 

雨風 「「第一艦隊を確認。支援を開始。」」

神弓 「神弓、了解。第一艦隊に報告!雨風が到着を確認、撤退の支援を開始します。」

大和 「「第一艦隊、雨風からの支援を確認。現海域から撤退します!」」

 

 第一艦隊の撤退支援が到着した事で、ひとまず安心した神弓は艤装のモニターで時間を確認する。

 

神弓 「ふぅ、これでもう大丈夫。第三指揮艦隊到着まで・・・あと半日。」

 

 神弓の第二指揮艦隊の置かれた状況は、鎮守府から幌筵泊地に二日かけて航行し、到着して戦闘を行っている途中だ。

 幌筵泊地に到着した際、第二指揮艦隊到着までの時間稼ぎでしかなかったはずの第一防衛線であったが、現場の第一指揮艦隊の奮闘の結果、予想より長い期間防衛線を維持する事ができ、第二指揮艦隊に第一防衛線をそのままバトンタッチする事が出来た。

 しかし防衛線を維持した代償として、第一指揮艦隊に所属していた艦娘の殆どが大破の被害を受けて意識不明の重体となっており。

 装備や傷はバケツで何とかなるが、艦娘の精神に関しては手の施しようがなく、第二指揮艦隊は第三指揮艦隊の到着までの期間、防衛線の維持を全て受けざる終えなかった。

 とは言え、第二指揮艦隊が防衛に入ってから深海悽艦に対して多数の損害を与えることに成功している。

 深海悽艦に多数の被害を与えられた理由は、神弓のレーダー情報を使用した的確な指示による戦術的優位からの戦闘、横須賀鎮守府の艦娘達の高い練度、雨風の強力な殲滅力など挙げれた。

 そして数々の功績の中でも鬼級姫級の撃沈に成功したのは特に大きいものだ。

 空母悽鬼は先日の夜戦で北上大井の魚雷で撃沈。

 装甲空母鬼の一隻は長門が仕留め、もう一隻の装甲空母鬼は雨風が砲撃で捻り潰した。

 その他、一般の深海悽艦を合計百隻近く沈める事に成功し深海悽艦の攻撃速度は低下した。

 しかし攻撃速度が低下したと言っても、まだまだ予断を許さない状態である。

 その為、ここ二日間雨風と神弓は補給も睡眠も一切取らず戦闘を続ける。

 疲れた身体に鞭を打ちながらそれぞれ行動を起こす。

 第三指揮艦隊の到着まで残り半日、この夜に日の光が射し込む頃に到着する予定である。

 

雨風 「「敵の排除を完了。」」

神弓 「敵勢力の排除を確認。雨風、今度は第三艦隊と戦闘中の敵艦隊側面から砲撃支援してあげて。」

雨風 「「了解。」」

 

 その後、第七艦隊の戦闘開始の報告を受けたり、第三艦隊の戦闘が終了し第三艦隊と雨風が合流した後、別の敵艦隊を撃破しに向かったりと色々指示を出している時、神弓に見慣れない周波数の通信を受ける。

 

神弓 「はい。第二指揮艦隊、旗艦神弓です。」

天城 「「こちら第三指揮艦隊旗艦の天城です。ご到着が遅れましたがこの後の戦闘は私達にお任せ下さい。」」

神弓 「わ、分かりました!第二指揮艦隊、撤退を開始します。」

 

 神弓は全ての艦隊に撤退の報告を送る。

 

神弓 「第二指揮艦隊は、第三指揮艦隊の到着を確認した。ただいまから全艦隊撤退を開始する。雨風は各艦隊の撤退を援護する為・・・陽動で敵の注意を向けて下さい。」

金剛 「「第三艦隊了解したネー!」」

神通 「「第七艦隊、まもなく戦闘が終了します。戦闘終了後、即座に全艦現海域から撤退します。」」

ゴーヤ 「「第八艦隊わかったでち。偵察を中止して泊地に向かうの!」」

雨風 「「雨風、了解。」」

 

 各々の艦隊が撤退をする為、神弓は行動を起こす。

 撤退する際に背後から敵の攻撃、特に空襲を受けないよう神弓が雨風に向かう偵察機以外を全て対空ミサイルで海面に叩き落とす。

 雨風の方向に向かう敵偵察機を破壊しなかったのは、雨風には他の艦隊が撤退するまでの陽動を受けさせる必要があり、敢えて敵偵察機に発見される事で空襲が雨風だけ向かう可能性が高くなる。

 そして予想通り雨風が敵偵察機に発見され、多数の敵攻撃隊が発艦、攻撃を行う。

 その数は合計二百八機、単艦としてはかなりオーバーな戦力だが、これは前回の空襲で雨風が百機の敵攻撃隊相手に生き残った事が理由だろう。

 

神弓 「対空ミサイル。発射セル八、八連射、六十二発。残弾全部撃ちきって!」

 

 神弓は雨風を援護する為、残った対空ミサイルを全て発射する。

 白い煙を吐き出した対空ミサイルは、敵攻撃隊に確実に全弾命中した。

 これで神弓にできる事はもう無かった。

 勿論神弓も雨風が負けるとは考えていないが、艤装も破損し弾薬も少ない状態では絶対とは言えなかった。

 神弓は一番大切な相方が無事だど信じて祈るだけであった。

 

 

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雨風 「「対空戦闘終了。」」

 

 雨風からの通信が届いたのは、戦闘の連絡が入ってから数十分後だった。

 

神弓 「他の艦隊は全て撤退を終えたから、急いで!」

 

 神弓は雨風が無事だった事に内心凄く安心して喜ぶ。

 こうして、雨風と神弓の第二指揮艦隊及び所属全艦隊は第三指揮艦隊に防衛を託すことが出来た。



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16:北方方面漸減邀撃作戦2

投稿が遅くなりました。リアルの方がたて込んでいて────リアルはたて込んでいましたが、サボっていました!すいません!( >Д<;)
 これからは二週間に一度どっちか投稿しますので許してください。( ;∀;)


 北方方面漸減邀撃作戦が発動して一週間が経った今も未だに戦闘は終了していなかった。

 現在は第一、第二、第三指揮艦隊がローテーションで防衛線の維持に努めていたが、人類側の戦況はあまり好ましいものではないのである。

 初戦で大打撃を受けた第一指揮艦隊が復帰し、第一防衛線を防衛していた時、深海悽艦は多数の鬼級姫級で防衛線に対し多方面同時攻撃を行った。

 多方面からの強力な部隊の進撃に第一指揮艦隊の戦力では到底防ぎ切れるものではない。

 そこで最高の戦力である第二指揮艦隊を増援に回した。

 第二指揮艦隊の準備時間を稼ぐ為に、第一指揮艦隊は第一防衛線を破棄しつつ遅延戦闘を繰り返す。

 第一指揮艦隊は第二防衛線まで後退し、第二指揮艦隊と共に深海悽艦を迎え撃つ。

 そして結果から言うなら防衛は成功した。

 しかしこの攻勢で戦況は悪化の一途を辿っている。

 第一防衛線を破棄し距離的余裕の無い第二防衛線で防衛せざる終えなくなった上、第一指揮艦隊はもとより第二指揮艦隊にも被害が発生し手持ちの戦力はあまり多くはない。

 しかも予想外の現象が起こっている。

 深海悽艦の攻撃頻度が低下しない事だ。

 開戦初期で第二指揮艦隊によって百を超える艦に加え、他の艦隊が撃滅した数がおよそ七十、防衛戦では合計で推定百五十隻以上の深海悽艦を撃破した。

 無論この数字には鬼級姫級も含まれている。

 当初、深海悽艦の数はおよそ五百隻程だと考えられていた。

 この数を信じるなら過半数の艦を撃破した事になり、この状態では今まで通りの連続攻勢を行えるはずが無い。

 初期に観測した深海悽艦の数は全体のほんの一握りだったと言う認識が、大本営だけでなく現場の艦娘も感じていた。

 このままだといずれ深海悽艦の攻勢を耐えれないのでは?っといった考えを持っていた者もいる。

 しかしある時、その懸念については一切考える必要が無くなった。

 別の大問題と引き換えに────

 

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 ここ最近は連続で深海悽艦との戦いをしている艦娘達であるが、そんな艦娘達は唯一食堂などの施設内だけでも気を張らずにゆっくりする事ができた。

 無論、緊急事態などが起きた時は例外になるが。

 現在はまもなく防衛線を交代する予定の第二指揮艦隊の面々が食事を行っており、その中には一航戦の赤城、加賀と二航戦の飛龍、蒼龍が同じテーブルに座って話していた。

 

飛龍 「いやぁ、しかしあれよねぇ~。この前の防衛戦は本当に大変だったよ。」

蒼龍 「そうよそうよ。落としても、落としても次々増えていくのだから!」

 

 防衛戦での飛龍の話に蒼龍も賛同する。

 

飛龍 「戦っている時、何機居るの!って思ったもんねぇ。」

赤城 「まぁでも、最終的には勝利したのですから良いじゃないの。」

加賀 「確かに戦術的に見れば勝利ですが、戦略的に見れば敗北ですよ。」

 

 楽観的な物事を言った赤城に対し、敢えて口にしなかった言葉をストレートに言い放った加賀に三人の表情が曇る。

 最初から加賀の言っている意味に気が付いていた赤城は、ため息をつく。

 

赤城 「いずれは守りだけでなく、攻めにも回らないといけないわね。」

蒼龍 「随分と分の悪い賭けですよねぇー。」

 

 赤城の言った通り、このまま防衛に回ったとしてもいずれは突破される危険性がある。

 つまり何処かでこちらから攻勢を行い、敵に大打撃を与えないといけない。

 しかし攻勢をした場合、敵の反撃で手痛い被害を受けた暁には即刻防衛線が崩壊し、日本は深海悽艦に対する力が大きく減少するだろう。

 

加賀 「どちらにしても負ける訳にはいかないわ。そして少しでも勝率をあげる為にあの二人の協力は必要不可欠よ。」

蒼龍 「うーん、その通りですね。実際に指示も的確でしたし、それに・・・まるでこういった戦いを普段からしているみたいに。」

飛龍 「んぅー?確かに言われてみれば。艦の頃、どんな戦いをしたのかな?」

 

 艦だった頃の経験や知識は艦娘になっても大きな要素を持ってた。

 例えば赤城ならミッドウェー海戦の経験から常に慢心しないように行動し、飛龍は最後に残った空母だった事から攻撃的な戦法を好んだりするなど。

 空母四人がこのように会話していると、隣から声を掛けられた。

 

? 「その話、私達の入っていい?」

 

 四人が声のする方向に顔を動かし、そこにはおぼんを持った明石と霧島がいた。

 

赤城 「別に構いませんよ。どうぞ座って下さい。」

 

 明石と霧島は近くから椅子を持ってきて腰掛ける。

 そしていざ続きを言おうとした飛龍は何故か口を開いたまま静止した。

 

飛龍 「そしてえーと、あれ?何の話だっけ?」

蒼龍 「えぇ・・・飛龍、もう忘れちゃったの?」

 

 さっきまで話していた内容を既に忘れたと言う相方に、蒼龍は微妙な表情をする。

 

飛龍 「えへへ!」

 

 照れる様子を見せる飛龍に呆れ顔になりながら蒼龍は言葉を続けた。

 

蒼龍 「雨風、神弓の二人の事でしょ。それで二人は艦の頃、どんな戦いをしたかについて。」

 

 蒼龍から伝えられてようやく思い出した飛龍はテーブルの皆に自分の意見を答えた。

 

飛龍 「そうだったそうだった!えっとね、そこで思ったの事なんだけど、強力な装備をつけているなら相手も同じような装備をつけてたと思うの、どうだと思う?」

明石 「んー確かにその通りなんだけどぉ・・・多分相手全てがそうとは限らないと思うわよ。」

 

 最初に口をしたのは明石であった。

 飛龍の予想に明石は半分賛成で半分否定的な印象を与える。

 その曖昧な言い方に疑問を持った赤城が明石に内容を問う。

 

赤城 「明石、どういう事かしら?」

明石 「それがなんですが、試しにあの二人が搭載している装備を答えてみてください。」

 

 それぞれが視線を上に向け、咄嗟に思い浮かべた装備を挙げる。

 

赤城 「遠くから攻撃できるミサイルって兵装でしょう。」

加賀 「大和型を超える巨大な火砲があるわね。」

飛龍 「艦載機を寄せ付けない程の弾幕を放てる対空砲よね?」

蒼龍 「広範囲まで索敵できる電探が複数あります。」

霧島 「海水を燃料にする高出力な核融合炉です・・・あっ成る程、そういう意味ですか!」

 

 皆が各種装備を挙げて行ってから霧島が明石の言いたい意味に気づく。

 

飛龍 「えっ!霧島わかったの?」

霧島 「はい。先程仰った装備などは私達の目線から観ても異常なほど技術力が詰め込まれており、かなり精度の高い部品で造られているはずです。そのような高性能な装備を大量に生産出来ると思いますか?」

 

 霧島の説明に全員が意味を理解して納得する。

 

加賀 「・・・とてもじゃないけど、無理ね。」

明石 「私達で例えると、大和型戦艦を大量生産するようなものだからねぇ~。」

 

 明石はお手上げといった様子を見せた。

 まぁ当たり前である。

 あの大和型は大日本帝国がとんでもない量の国家予算を費やして建造したもの。

 大量生産なんて困難であり、雨風達にも同じように適用されると明石は考えていた。

 霧島の説明を聞いて、今度は蒼龍が首を傾げる。

 

蒼龍 「つまり、あの二人は元々圧倒的な戦闘力を持った艦として建造されたってなるの?」

明石 「うーん。それもなんか違う気がするのよねー・・・」

赤城 「何かそう思う理由でもあるの?」

明石 「彼女達の艤装はこう、ね・・・・あべこべって言えばいいのかなぁ?」

 

 明石は自身が感じていた感覚を何とか言葉へ捻り出す。

 

赤城 「あべこべ?」

明石 「基本的には最新型の設計なんだけど、明らかに旧式の箇所もあるのよ。一応、蒼龍の話したコンセプトは自体は間違っていないと思うの。だから私は二人は何回か大きな改装を受けているのかなって、本人達に聞いてみないとわからないけどね。」

霧島 「私も蒼龍さんの言ったコンセプトは合っていると思います。あの二人、初めての射撃演習で艦隊行動をあまりした事がないと仰っていましたから。」

 

 霧島も蒼龍の意見に賛同してそれぞれがどうなのかなと思考していると、飛龍がおもむろに立ち上がる。

 

飛龍 「よし!こうなったら、直接本人に聞いてみてよう!」

 

 飛龍は大きくガッツポーズをしながらそう叫ぶ。

 

蒼龍 「飛龍!流石にそれはまずいって!」

加賀 「あの二人なら聞いても別に構わないと思うわよきっと。」

霧島 「そうですね。でも飛龍さん。もしも相手が嫌がったらやめて下さいね。」

飛龍 「そこら辺わかってるって、引き際位わきまえていますよ。それに蒼龍もいるから大丈夫。」

蒼龍 「えぇー!何で私もぉーッ!!」

 

 飛龍の突然の巻き込みに蒼龍は驚きの表情を上げる。

 そんな蒼龍を尻目に、当たり前だよね?と言いたげな飛龍。

 

飛龍 「なんたって同じ二航戦でしょ。それに蒼龍も気にならない?あの二人の過去。」

蒼龍 「ま、まぁそれはぁ・・・うん。」

 

 飛龍の問いに、蒼龍はよそ見をしてモジモジしながら認める。

 余談ながらあの二人についてのこういった考察は他の艦娘もよく行っていた。

 それは防衛作戦が開始されてから更に増えた。

 現状では娯楽等はほとんど無い為、こう言った話をするのが僅かな娯楽の一つとなっていたからだ。

 何故二人かと言われれば、なんであんなに強いか?あの装備は何か?等、分からないからこそ考えるのが楽しいからだ。

 そして話の盛り上がった時、食堂内に放送が流れる。

 

神弓 「「第二指揮艦隊所属の全艦娘に伝達。まもなく出撃時間になります。各自、出撃の用意を。」」

赤城 「あらあら、お話はまた今度になりましたか。」

 

 赤城はそう言って巨大な皿が乗ったお盆を持って移動しようとする。

 そして赤城に追従するように他の艦娘もテキパキと片付けを行い、出撃準備を開始した。

 

明石 「皆さん頑張って来てください。」

赤城 「えぇ、もちろん。」

 

 赤城達は食堂を抜け、工廠に向かって歩き始めた。



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17:幸運な不幸

 現状のキスカ島は現在深海悽艦の泊地・・・いや、もはや基地や要塞と言っていい。

 島には離島悽鬼、港湾水鬼が上陸し、その周辺を空母水鬼や戦艦水鬼を含む艦隊が警備している。

 この防御は鉄壁であり、並みの艦隊では近づく事すら困難であろう。

 もし近付こうものなら大量の航空機からの攻撃を受け、それを突破したとしても戦艦水鬼の艦隊と戦闘する羽目になる。

 しかもキスカ島には強力な深海悽艦だけではなく、ヲ級やタ級と言った主力艦艇、ホ級やイ級である中小型艦艇が勢揃いしている。

 その数はキスカ島周辺の海域を深海悽艦だけで覆い尽くす程であった。

 もし戦闘になった場合、この全ての艦が戦闘に参加する可能性があり、たとえ勝利したとしてもお互いに凄まじい被害が出るだろう。

 それほど恐ろしい数なのだ。

 ────ここで少し話を変えよう。

 現在キスカ島周辺は深夜であり、辺りは真っ暗闇で波の音が辺りに木霊する。

 しかし暗闇で響き渡る音の発生源であるその波ですら視認する事の難しい暗闇。

 唯一の光源は、深海悽艦の目から放たれる怪しい眼光くらいなもののであった。

 では一つ、疑問が生まれる。

 なぜ───キスカ島が明るいのだろうか?

 明るいだけでない、そこら中の至る場所から大量の爆発音が響く。

 もしこの基地が危機に陥っているとしたら、一体何人が信じるだろうか?

 

 

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離島悽鬼 「急イデ!左舷カラ、攻ナサイ!」

 

 離島悽鬼は慌てて配下の艦隊に命令を出す。

 普段や艦娘との戦闘中でも余裕を浮かべるその顔には、何一つ余裕はない。

 いや、むしろ恐怖が写っていた。

 指示を出された水雷戦隊が目標の側面に回り込もうとした時、敵の歪な砲搭が向いたかと思った時には既に大量の白煙が吹き出し、水雷戦隊へ一本の白煙が伸びていく。

 そしてほんの一瞬後、水雷戦隊の中心で凄まじい火焔が膨張し桁違いの熱量は水雷戦隊を蒸発させて消滅した。

 それとほぼ同時に鼓膜を痛めつける程の爆発音がキス島全体に轟き、更に巨体な火焔によって周囲が一瞬照らし出される。

 

離島悽鬼 「一体・・・何ナノ、アレハ?」

 

 離島悽鬼の瞳には、目標である敵の姿が若干だが視認出来た。

 敵はたったの一隻。

 だが、艤装の大きさは姫級や鬼級にも負けていない。

 その敵は離島悽鬼の方を見ると、薄気味悪い笑顔を見せる。

 離島悽鬼は体全体に謎の悪寒が走る。

 そして離島悽鬼はその瞬間ハッキリ分かった。

 あれは艦娘でも、深海悽艦でもない・・・と

 

 

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 辺りは何もない大海原の中、旗艦神通を先頭にして単縦陣で第七艦隊は航行する。

 

神弓 「「こちら第二指揮艦隊。第七艦隊指令、敵艦をやり過ごします。針路、0-3-1から0-3-5に変針。」」

神通 「了解。針路0-3-5に変針します。皆さん、付いてきて下さい。」

 

 神通がそう言って指示通りに針路を変え、神通から離れないよう川内、多摩が続き、駆逐艦達がその後ろを追いかける。

 

電 「ふぅー、寒いのです。」

 

 最後尾の電は本当に寒いようで、少し体を丸めて手を擦り合わせたりして温まろうとする。

 

卯月 「うーちゃんも寒いっぴょん!早くこたつでぬくぬくしたいぴょーん!」

暁 「ふっふぅーん!この程度で根を上げるなんて、レディの片隅にも置けないわね。」

響 「暁。足ガタガタ言っているし、声も震えているよ?」

暁 「そ、そんなの平気だし!ハクション───ッ!!」

雷 「はいはい、暁は風邪ひかないようにね・・・」

 

 当たり前だが北方海域は高緯度に位置する為、朝早いのも相まって周辺はかなり寒い。

 

多摩 「駆逐艦達は賑やかだにゃー。」

川内 「いいねぇ、見てて面白いし!ねっそう思うでしょ神通。」

 

 多摩は穏やかな表情で駆逐艦達を見つめ、川内はニヤニヤと笑いながら神通に声を掛ける。

 

神通 「えっ!あっそうですね姉さん。」

 

 川内に呼ばれてハッとなった神通が返事する。

 これに川内は不審に感じた。

 

川内 「んーどうしたの?考え事?」

神通 「え、えぇ・・・何か変な予感がして・・・・・」

 

 何か心配そうに神通が言う。

 

多摩 「でも、ここまで順調じゃいかにゃ?」

 

 神通の台詞に多摩がよくわからないと言った風に答えた。

 

神通 「いえ、むしろここまで順調だからですよ。」

多摩 「良くわからないにゃー。」

神通 「正確に言えば、接敵が明らかに少なすぎます。」

川内 「んっ?えーと、今日の針路変更は二回だっけ。」

 

 川内が記憶している中で、前回のローテーションの時はざっと十回程以上の変更をしている。

 片道だけって考えてみても明らかに少ない。

 

川内 「確かに言われてみればそうだね。」

多摩 「そういえば、さっきの通信も単艦だったにゃあ。」

 

 普通は電探からの情報だけであれば、大体ここら辺に艦がいるかもしれない程度しか分からない。

 しかし神弓の電探は艦の場所どころか、反応の大きさで艦種まで把握可能だ。

 

神通 「つまり艦隊があまり居なくて、はぐれ艦ばかりなのだと思うのですけど。」

川内 「それは統制が取れてない?ひょっとして囮か罠かな?」

多摩 「神弓は気づいているかにゃぁ?」

神通 「神弓さんの事です、既に気づいているとは思いますよ。」

 

 

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神弓 「───むーむむぅ、やっぱりおかしい。」

 

 神弓はレーダーを見つつ首をひねりながら怪訝な顔で悩む。

 レーダーには細かい反応があるがこれは単艦であり、艦隊として動いているのは感知範囲で精々二個艦隊程しかない。

 それにこの二個艦隊も統制が取れておらずバラバラに行動しているように感じられる。

 

神弓 「罠?いや、でもこれは・・・」

 

 先程からずっと観察している間も法則は見えず、やはり艦隊や単艦でそれぞれ判断して行動しているように見える上、明らかに絶対数が少ない。

 神弓は指揮系統が崩れてるのかと思ったが、あれだけの戦力でそれは考えづらい。

 それに今の情報量だと深海悽艦の意図がほとんど読めないのは確実。

 

神弓 「とにかく情報を集めないと。」

 

 神弓は各艦隊に偵察機を発艦させ、周囲の情報収集を命令し、神弓自身もハリアーⅡをキスカ島に送り込み、コマンドルスキー島には後方に待機している航空母艦からの偵察機に任せる。

 それと同時に全体の陣形を変更した。

 雨風を先頭に第一、第二艦隊を展開し、神弓を中央として第三艦隊、第六艦隊を左右に配置。

 そして後方に第四、第五、第七艦隊を就かせ、第八艦隊は泊地連絡の為一番後方に用意する。

 艦隊の展開を終えると、敵泊地の向け前進を開始した。

 前進を開始して一時間程度経った頃も、未だに敵の総数はあまり変わらなかった。

 一方各偵察機からの報告が少しづつ集まって来た。

 しかし敵泊地偵察報告の内容は全て不可解なものだった。

 敵両泊地に深海悽艦の存在が認められなかったのだ。

 この報告を聞いた時には、神弓も大きな口を開けて唖然した。

 あれだけ大量に居た深海悽艦の殆どが居なくなったと言うのだ。

 ひとまず情報を集め終わると敵泊地を調べる為、罠を警戒しながら確実に前進する。

 あの後の結論から言えば、泊地にはあれだけ居た筈の深海悽艦は一艦も居なかった。

 それはキスカ島、コマンドルスキー島両方ともだった。

 これによって深海悽艦の進撃が止み、北方方面の防衛戦は勝利したと言えるだろう。

 しかし戦闘終了後すぐに調査隊が編成された。

 それは何故か?

 コマンドルスキー島はすっかりもぬけの殻で、理由は不明だが撤退したの確実だった。

 しかし一方キスカ島の方が重大な問題であった。

 何故ならば、キスカ島では恐ろしい数の深海悽艦の残骸が発見されたからだ。



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18:新たな影

 作戦が終了して少しの間だけだが、艦娘達には一時的な休暇が与えられた。

 今まで常に張っていた緊張が解れ、他人と会話する者、どんちゃん騒ぎをする者、ゆっくり体を休める者など、それぞれが休暇を満喫していた。

 ───表向きは休暇。

 しかしそれはある思惑を隠しているだけで、裏では全く別の出来事が進んでいた。

 

 

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 執務室には椅子に座っている(幌筵)提督と、部屋の中央で綺麗な姿勢で立っている秘書艦の古鷹の姿があった。

 

(幌筵)提督 「うーん・・・突如撤退した深海悽艦、か。」

 

 (幌筵)提督は手に持った報告書を見ながらそう言う。

 

古鷹 「一応コマンドルスキー島の方の深海悽艦は撤退したと思われますが、キスカ島の方に至っては・・・」

(幌筵)提督 「大丈夫だ、分かっている───壊滅、だろ?」

 

 報告書を見る前から知っていたと言わんばかりに(幌筵)提督は答える。

 二人はお互いに難しい顔をしている中、古鷹が口を開き続けた。

 

古鷹 「その通りです。キス島に停泊していたであろう深海悽艦は、発見された残骸の数から推定して最低でも六百隻以上と思われます。」

(幌筵)提督 「たがそれは水面に出ている残骸から算出された数だろう?沈んだものも含めると、四桁は下らないだろうな。」

 

 (幌筵)提督は報告書から目を離して古鷹に向き直り、そしてこの事態の問題点について話し始める。

 

(幌筵)提督 「しかし問題は一体、誰が、どうやって、深海悽艦にこれ程の被害を与えたのか?だ。」

 

 その問いに古鷹は顎に手を触れて思考して考えた。

 

古鷹 「残骸の中には戦艦や空母などの主力艦艇も含まれています。ですから、どうやったかは私では見当もつきません。」

(幌筵)提督 「だろうな。それにこれ程の規模になると、我々の全戦力を持ってしても一度では不可能だな。そこでちょっと古鷹に聞きたいのだが、当時あの二人はどうしてた?」

 

 古鷹の目を(幌筵)提督が鋭く見つめる。

 

古鷹 「当時は出撃を除けば、この泊地にずっと居たそうです。他の艦娘の目撃もありますし、工廠から艤装が出された形跡もありませんから、おそらく白かと。」

 

 最初に雨風と神弓が疑われるのは仕方ない。

 何せ通常艦艇だけでは到底なし得ない状況であるからだ。

 

(幌筵)提督 「ふむ、わかった。とりあえず一旦下がってくれ。」

古鷹 「わかりました。ですが提督、あまり抱え込まないでくださいね。失礼しました。」

 

 ドアの前で一礼して、古鷹が退出する。

 古鷹が退出した後、(幌筵)提督は手に持っていた報告書を机に置き、また何か考えるように視線を上に向ける。

 

(幌筵)提督 「この件があの二人が原因でないとすると、一体なんだ?時系列を見るに僅か一夜で起こっている。とてもじゃないが我々の艦隊ではどうやっても不可能。それも航空機が使えない深夜、もし一方的に攻撃出来ると考えても一夜ではあの数は無理だが。」

 

 (幌筵)提督は少しの間思考し続けると、少し前に初めて知ったある単語が思い浮かんだ。

 ───超兵器。

 前の会議で報告された新たな勢力であり、唯一確認された艦は、単艦で複数の艦隊を相手できる圧倒的な性能を持った艦らしいと報告された。

 前の会議で80ktの速度には度肝を抜かれたばっかりだった。

 あの二人以外で、深海悽艦を壊滅させるのが可能な艦はそれしか考えられなかった。

 しかし決定的な証拠が存在しない今、あくまでも予想でしかない。

 なんとか証拠がないかと(幌筵)提督が精一杯頭を働かせている中、執務室のドアがコンコンと叩かれた。

 その音を聞いて、一旦思考を停止させた。

 

(幌筵)提督 「入れ。」

 

 (幌筵)提督がそう叫ぶと、ドアが開いて先ほど出ていった古鷹が入って来た。

 

(幌筵)提督 「古鷹じゃないか。どうした?」

古鷹 「えっと、ちょっと見せたい物が見つかりまして。」

(幌筵)提督 「見せたい物?」

古鷹 「これなんだけど・・・」

 

 そう言って古鷹は、手に持っていた封筒を提督の机に置く。

 

(幌筵)提督 「これは?」

 

 封筒を受け取った(幌筵)提督は、封筒の封を破りひっくり返して中身を取り出す。

 封筒から流れ落ちるように写真が何枚か出てきた。

 そして封筒から出てきた写真に写っているものを何気なく見る。

 すると突然、(幌筵)提督の顔が険しくなる。

 (幌筵)提督は一通り写真を見終わってから、真剣な視線を古鷹に戻す。

 

(幌筵)提督 「すまないが、今すぐ雨風と神弓をここに呼んでくれ。」



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19:写真が捉えし艦

古鷹 「ごめんなさい、急に呼び出して。」

神弓 「いえいえ別に大丈夫ですよ。それより急に呼び出しが掛かるなんて、なんでしょう?」

 

 雨風と神弓は仮部屋で休んでいる時、いきなり古鷹に呼び出された。

 ドアの前に居た古鷹が言うには、急ぎで(幌筵)提督が呼んでいるとの事で今は三人で執務室に向かっている最中だ。

 

古鷹 「さぁ、私にはわからないですね。」

神弓 「ふーむ。」

雨風 「・・・・・」

 

 古鷹と神弓が一緒に考えながら歩いている間、雨風は呼び出された理由が概ね予想出来ていた。

 キスカ島の内容で、情報提供もしくは自分達の拘束だと。

 執務室の前に到着し、古鷹が一呼吸置いて部屋のドアを叩く。

 

(幌筵)提督 「入ってくれ。」

古鷹 「失礼します。」

 

 中から声が聞こえ、古鷹、雨風、神弓の順番で執務室に入っていく。

 執務室の中では、(幌筵)提督が奥の椅子に座って待っていた。

 三人が集まったのを確認してから、(幌筵)提督が口を開く。

 

(幌筵)提督 「古鷹、呼び出しありがとう。下がってくれ。」

古鷹 「はい。では失礼しました。」

 

 古鷹がドアを開けて退出する。

 こうして三人だけになった時、(幌筵)提督がこっちに来いと手招きした。

 二人はその手招きに従って近づく。

 

(幌筵)提督 「いきなり呼び出して悪かったな。それで君達を呼び出した事についてだが、君達はキス島の出来事を知っているな。」

 

 出来事を知っているも何も、調査隊に含まれていた二人は当たり前のように頷く。

 そして予め(幌筵)提督は念を押してから話す。

 

(幌筵)提督 「先に言っておくが、君達を疑っている訳ではないと言うことだけ分かってくれ。それで、だ。今回の件の原因は何だと思うか聞かせて欲しい。周りの意見ではなく、自分の意見を言ってもらいたい。」

 

 (幌筵)提督の問いに二人は目だけを動かし、お互いの視線を合わせる。

 考えが同じだと察し、まずは雨風が話し始めた。

 

雨風 「こんな事を起こせるのは、超兵器だけ。」

(幌筵)提督 「・・・やはりそうか。」

 

 既にそうだろうと考えていた(幌筵)提督が深く椅子に座り直す。

 

神弓 「でも、どの超兵器かはわかりません。一部の武装や船体の型だけでもわかれば絞れるのですが・・・」

(幌筵)提督 「それはこいつが役に立つだろう。」

 

 (幌筵)提督が机の引き出しから何枚かの写真を取り出した。

 雨風が(幌筵)提督の取り出した写真を適当に一枚取り、神弓が横から覗き込む。

 そして写っているものに二人は驚愕する。

 真っ暗の夜に撮られた写真であり、所々に爆発のような光が写っている。

 無数の爆発が作り出した光の映し出されるように多数の深海悽艦の影と、あと一つ、四角い砲身付きの砲塔を兼ね備えた一隻の艦がいた。

 

(幌筵)提督 「これらの写真は第一指揮艦隊所属第四艦隊の伊14が撮った写真だ。伊14は、深海悽艦の泊地に偵察を行っていた際に大量の爆発音を聞こえ、写真を取ったのち即座に撤退した。」

 

 (幌筵)提督が経緯を説明し始め、異変に気が付いた第二指揮艦隊の出撃前夜とも伝えられた。

 

(幌筵)提督 「恐らくキスカ島を襲撃したのはこの艦だと思うが。それで二人はこの艦に見覚えはあるか?」

神弓 「こんな装備を搭載した超兵器とは出会った事はありませんから、うーん・・・」

 

 特に思い当たりのない神弓は首を曲げ、唸る。

 そんな神弓を後目に雨風が小さく呟いた。

 

雨風 「デュアルクレイター。」

 

 部屋の窓越し聞こえる環境音にすら消されそうな呟きを(幌筵)提督は決して聞き逃さなかった。

 (幌筵)提督は雨風に聞き返す。

 

(幌筵)提督 「んっ?今なんて?」

 

 聞き返された雨風は少し悩んだ後、顔を上げる。

 

雨風 「(幌筵)提督、巨大な爆発を受けた残骸は?」

(幌筵)提督 「あぁ、確か外から強い爆風を受けた残骸がな。」

雨風 「───多分、デュアルクレイター。」

(幌筵)提督 「デュアルクレイター、一体どんな艦だ?」

雨風 「超巨大双胴強襲揚陸艦、デュアルクレイター。60cm噴進砲、38.1cm砲を兼ね備え、多数の小型艦や航空機を搭載した強襲揚陸艦。」

(幌筵)提督 「この写っている艦はそいつで間違いないか?」

 

 (幌筵)提督は写真を手に取り、雨風に再確認する。

 

雨風 「大口径噴進砲を搭載している超兵器は、デュアルクレイターだけ。」

(幌筵)提督 「なるほど。だとしたらこの件の犯人は判明した。しかし別の問題が生まれるな。そいつがキス島を撃滅してからどこに行ったかだが?」

 

 (幌筵)提督の話にある考えが浮かんだ神弓が言った。

 

神弓 「私の予想ですけど、撃沈されたのでは?」

(幌筵)提督 「なんだと?」

 

 神弓の言葉に(幌筵)提督は思わず呆気を取られる。

 無敵とも思える圧倒的な戦闘能力を持つ超兵器がされる意味に。

 

神弓 「いくら超兵器と言えど、兵器という範疇からは逃れる事は出来ません。艦であるなら浸水すれば沈みますし、航空機であれば翼が折れたら墜落します。ですので、既に深海悽艦によって撃沈されたと思われます。」

(幌筵)提督 「撃沈されたという根拠はあるのか?」

神弓 「はい。確かにキスカ島は壊滅しましたが、コマンドルスキー島は手付かずです。強襲揚陸艦という艦種が近くに位置するコマンドルスキー島を無視するとは考えにくいです。」

 

 神弓は自分の考えを(幌筵)提督に伝える。

 (幌筵)提督は視線を反らし、神弓の話を数ある可能性に当て嵌め考える。

 そして数分の時間が経ち、二人へ視線を戻した。

 

(幌筵)提督 「もしも君たちがデュアルクレイターと同じ状況になったら、敵を殲滅する前提で生きて帰れる可能性はどの程度だ?」

 

 (幌筵)提督の出した条件をまとめると、全方位を最低数百隻の敵艦に囲まれつつ、敵を撃破して帰還する事だ。

 提督という海の戦いに精通した幹部の口から出される条件ではない。

 たとえどんな素人が聞いても無茶だとわかりそうな条件だが、超兵器。

 そして超兵器と戦える二人だから成り立つ条件でもあった。

 

神弓 「うーん。逃げるなら可能ですが、殲滅するとなると、私は運が良くて一割以下くらいです。ですが、弾薬などの問題で全ての殲滅は不可能です。ねぇ雨風はどう?」

雨風 「二割あればいい方」

(幌筵)提督 「やはり低いな。」

 

 元から予想していたように(幌筵)提督は小声で言う。

 とは言え、低いと言ってもそれは例外であり間違っても普通は帰って来れない。

 もしただの戦艦などで生きて帰って来た場合、運よく何万発の敵の砲弾が当たらず帰って来れるという頭一つ抜けた幸運が必要である。

 

(幌筵)提督 「つまり、キスカ島がデュアルクレイターによって壊滅した後、コマンドルスキー島に向かう途中に撃沈された。確かに深海悽艦側も防衛で大損害を受けて撤退したとするなら、流れを考えてもおかしくはない。」

 

 いろんな情報や考えによって、一つの仮説が浮かび上がる。

 

(幌筵)提督「しかし撃沈した証拠無いからな、一応まだ生存していると推定して動こう。もしも超兵器と出会ったら君達が頼りだ。頑張って欲しい。」

雨風・神弓 「了解。」



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20:水の中の槍

 福島県の近海で数十名の艦娘が水面を滑って移動している、中、セーラー服を来た一人の艦娘がまるで踊っているかように、一定のリズムで回ったり飛んだりしていた。

 

舞風 「フンッフフンッ!」

五十鈴 「あら、随分とご機嫌じゃない?」

 

 舞風に五十鈴が面白いそうに聞く。

 すると五十鈴の方へ舞風がクルッと振り返り、元気一杯の声で答えた。

 

舞風 「当たり前だよぉ!もうちょっとで泊地にいるみんなと会えるんだよ!テンション上がらない訳ないじゃん!」

 

 と、舞風は喋りながらもリズムに沿って踊る。

 そんな舞風に少し呆れながら近くの天津風は言う。

 

天津風 「と言っても、貴方の泊地までまだまだ先よ。それに一度は私達の鎮守府に寄るって事、忘れてない?」

 

 今は北方方面の作戦が終了し、作戦に動員された艦娘達が各地に帰投する途中だ。

 帰投の際、今回動員された艦娘の人数がかなり多かった為、最初に距離が圧倒的に離れている東南アジア方面の泊地・基地所属の艦娘で構成された第三指揮艦隊の艦娘達と、第二指揮艦隊の半分である第一艦隊・第二艦隊・第六艦隊が帰路に着いていた。

 この二個艦隊は陣形を維持しつつも大規模作戦が完了した後の為か、結構ほのぼのした雰囲気を纏う。

 それに普段遠くて会えない姉妹や知り合いと話せる絶好の機会でもあり、至るところで話し声が聞こえてくる。

 

長門 「ああ、そう言えば足柄。お前、夜戦で大活躍だと聞いたぞ?」

足柄 「私、足柄いるんだもん!当たり前よ!」

 

 足柄はニカッと笑い、誇らしげに話す一方陸奥は若干悔しそうに肩を落とす。

 

陸奥 「あーあ、私は大破しちゃったから。ちょっと悔しいなぁ~。」

足柄 「何言っているの。作戦が成功したから結果オーライよ!でも、私に任せればこの程度活躍は余裕ね。」

那智 「だが、どちらにせよ。これでしばらく戦況は安泰だな。」

足柄 「えぇ、私達の防衛線も突破されなかったし、深海悽艦に大量の被害を出させたからね。やっぱり深海悽艦が撤退したのも、私達のお蔭かしら!」

 

 少し遠くで聞こえる足柄の言葉に、艦隊中央に位置する神弓が一瞬ビクッと反応する。

 実は北方方面漸減遊撃作戦について、幾つか欺瞞情報と情報統制が行われていた。

 艦娘達にこう伝えられている。

 深海悽艦は我々の防衛力によって壊滅的な被害を受け、これ以上の戦闘は不可能と判断して撤退した、と。

 一応この話自体も作戦成功の要因の一つであり、あながち間違ってはいない。

 しかしそれはあくまでも決定的ではない。

 確かに防衛戦力で深海悽艦の被害こそあったものの、深海悽艦は被害で喪失した艦の補充に十分な予備艦を保有していた。

 そして神弓は深海悽艦が撤退した本当の理由を知っている。

 ───超兵器。

 この超兵器の存在を知っているのは、原則として各地の幹部クラス以上、雨風・神弓の二人。

 一部例外としてヴィルベルヴィントに遭遇した調査艦隊、伊勢・青葉・由良・陽炎・天津風の五隻のみだった。

 超兵器はあの長門や赤城でさえ知りえない話であった。

 

五十鈴 「ところでさっきから気になってたのだけど、あの子誰なの?」

 

 五十鈴は前方にいる神弓に指を差す。

 すると神弓の知らない事を意外に思った矢作が簡単に説明してくれた。

 

矢矧 「あら、五十鈴ちゃん知らないの?私達第二指揮艦隊旗艦の、護衛艦神弓ちゃんよ。」

五十鈴 「あの子が指揮艦隊旗艦?・・・とてもそう思えないわね。」

 

 艦隊旗艦の割には五十鈴から見た装備は貧弱で、気弱な雰囲気に目を細める。

 怪訝的な様子をする五十鈴へ矢作が個人的な印象を話す。

 

矢矧 「そんなことは無いわ。あー見えて指揮能力はトップクラス。たまに慌てちゃうけど、真面目でしっかりした子よ。」

五十鈴 「ふーん・・・」

 

 しっかり者の矢矧がそう言うならそうなのだろうと一応納得した五十鈴は、一旦神弓から上に視線を反らす。

 少し空を見上げ何かを考える素振りをした後、再び矢矧の方に顔を合わせる。

 

五十鈴 「私の記憶の中だと、神弓って名前の艦は知らないわ。いつ建造されたの?」

 

 当たり前の疑問を抱く五十鈴の疑問に答えたのは、矢作の前で聞き耳を立てていた天津風だった。

 

天津風 「それが分からないの。」

五十鈴 「えっ?」

 

 まさかそんな発言をされるとは想定していなかった五十鈴は思わず呆気を取られる。

 

五十鈴 「分からないって、どういう意味?」

矢作 「そのまんまで、全くわからないのよ。何せ誰一人艦の頃、実際にその姿を見た人がいないの。だから、異世界から来た艦って話が上がっている程よ。」

五十鈴 「異世界からの艦って・・・そんな訳無いじゃないの。」

 

 天津風から異世界の艦などと言われて五十鈴は若干混乱し、五十鈴の姿に矢作は自身の考えている内容を伝える。

 

矢矧 「ですよね。私は天津風ちゃんのように、何かのプロトタイプという考えをしています。はっちゃんに聞いたのですが、独逸には長距離攻撃用のVⅠロケットという物もあるそうですよ。」

 

 矢作の考えに五十鈴が質問をして、逆に五十鈴から持論をその場で考え矢作に言ったりとしている中。

 

天津風 「果たしてあれは、プロトタイプという範疇に収まるのかしら?」

 

 訝しげに小さくボソッと天津風は呟いた。

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

神弓 「うぅ~・・・視線が凄く痛い。」

 

 後ろからじっくりと見られている視線が、チクチクと背中に突き刺さる。

 注目される事に全然慣れていない神弓にとって、こう言った視線は頭痛の種だった。

 かと言って、目立たないようにするって言うのも難しい話・・というか既に遅すぎる。

 ここで神弓は少しでも気を紛らわせるために、普段から一緒にいるはずの雨風の事を思い浮かべた。

 普段は離れる事の少ない二人だったが、可能性はこそ低いものの万が一超兵器に遭遇した場合を考え第一陣に神弓、第二陣に雨風と別れている。

 無論神弓も超兵器を警戒するのは十分理解して分かるし、備えるの分かる。

 だが、いつも一緒にいる雨風が居ないのが寂しいと感じる。

 ほんの少しの間だけだとしても寂しいものは寂しいのだ。

 

神弓 「はぁ~。んっ?パッシブソナーに感あり?これは───高速推進音!?」

 

 魚雷の接近に気が付いた神弓が即座に周りに聞こえるように大声で叫ぶ。

 

神弓 「九時の方向、魚雷接近。数八!」

 

 神弓の叫びとも共にほのぼのした空気が即座に吹き飛び、戦闘の緊張感に包まれる。

 周りの艦娘達は、神弓の報告した九時の方向の海面を食い入るように見渡し魚雷の航跡を見つけようと躍起になっているが、全く見えない。

 通常であれば魚雷が発する気泡で比較的発見しやすいはずであった。

 しかし見つからないものは仕方がないので、魚雷を回避しようとする反面、ここである問題が存在した。

 艦隊は等速で航行しており、更に九時の方向から来ているから魚雷の命中しやすい側面を晒している命中しやすい条件が揃っている。

 しかも舵の効きが早い駆逐艦や巡洋艦は回避出来るかもしれないが、舵の効きが悪く初動が遅い大型艦は魚雷の回避が難しい。

 軽く絶望的な状況の中、各自が出来る事を行う。

 

朝潮 「こちらも推進音が聴こえました!」

五十鈴 「私も聴こえるようになったわ。とにかく各自回避運────」

神弓 「皆さん!私の指示に従って下さい!!」

 

 いきなりこんなことを言い出した神弓に、五十鈴が困惑して反論した。

 

五十鈴 「アンタ、一体何を考え───」

神弓 「とにかく指示に従って下さい!!」

五十鈴 「わっ、わかったわ・・・・・」

 

 神弓は先程の弱気からは想像も出来ない剣幕を放つ。

 そして神弓はパッシブソナーから手に入れた情報を解析して、魚雷に関する情報を集める。

 パッシブソナーによって可能な限り魚雷の正確な速力・方向・深度・大きさを把握し、システムに計算させ指示させま。

 

神弓 「長門さんと陸奥さんは増速3kt!伊勢さんは減速5kt!天城さんと嵐さんは減速7kt、転舵面舵二十!」

 

 指示された艦娘は神弓指示通りに行動し、その他の艦娘は現状を維持する。

 

朝潮 「推進音、どんどん近づいて来ます!距離、250・・・200・・・150・・・100・・」

 

 朝潮の伝える数値が減る毎に、艦隊全体へ重圧ともいえる緊張感が増す。

 

朝潮 「80・・・50・・30───来ます!」

 

 そして八本の魚雷が艦隊に命中した。



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21:水面下の怪物

 新年明けましておめでとうございます。
 皆様はどういった一日をお過ごしでしょうか?
 私は小説の続きを書いている所です。
 去年から小説を投稿して、無事年を迎える事が出来ました。
 今年は投稿ペースを上げたいと思っております。
 これからもよろしくお願いいたします。
 
 


 そして八本の魚雷が艦隊に命中した。

 

舞風 「・・・・・あれ?」

 

 魚雷が迫って来る恐怖から目を閉じていた舞風だったが、一向に被雷音が聞こえてこない。

 舞風は恐る恐る目を開けると、同じく周りの艦娘も困惑して周囲を振り返ったりしていた。

 

矢矧 「何が、どうなってるの・・・・・?」

 

 矢矧の呟きに、朝潮が再び聴音器を確認して現状況を報告した。

 

朝潮 「高速推進音、離れていきます。これは・・・魚雷回避成功です!」

舞風 「うそっ!?」

伊勢 「流石ぁ!」

 

 魚雷は艦隊に確実に命中した。

 しかしそれは艦隊に命中しただけであって、個別の艦娘に命中した訳ではない。

 魚雷は艦隊の隙間を縫うようにすり抜け通過した。

 その事実に第二指揮艦隊の面々には驚きもあったが、神弓ならやってくれると言う納得もしていた。

 一方、神弓をあまり能力を知らない第三指揮艦隊全員は、魚雷の進路を全て予測して完璧に回避するなど非常識だと驚愕して神弓を見つめる。

 

五十鈴 「───はっ!そうだわ。今は私のやるべき事をやらないと。みんな!魚雷が来たという事は、私達対潜部隊のお出ましよ!」

 

 第三指揮艦隊の中で一番早く五十鈴が再起動を果たし、周りの仲間へ声を張り上げる。

 五十鈴の行動によって周りの仲間も我に帰り、五十鈴の率いる対潜部隊を引き連れ、潜水艦を撃破する為艦隊から離脱した。

 

神弓 「皆さん、周囲警戒を怠らないようにしてください!私は対潜部隊の援護に付きます。また魚雷が接近したら随時報告しますので!」

 

 神弓も全体に伝えて、対潜部隊と同じように離脱する。

 対潜部隊は神弓が到着する頃には既に散開し、各自潜水艦の捜索を行う。

 神弓もパッシブソナーを使い、潜水艦の位置を特定しようとする。

 しかしソナーに目立った反応は無い。

 神弓はパッシブソナーの反応を見るに、きっと何処かで息を潜めているのだろうと考えていた。

 そこで波や海洋生物によって起こる雑音を更に細かく取り除いき、再びパッシブソナーで潜水艦を探す。

 しかしここでまた、遠くの方から魚雷の高速推進音が聴こえて来る。

 すると神弓はこの事に驚愕して呆気を取られる。

 

神弓 「嘘ッ!?発射管の注水音が聞こえなかった!」

 

 五十鈴達とは圧倒的に性能の違うソナーを持っている神弓が、水中で目立つ魚雷発射管の注水音が一切聴こえなかった事に少し動揺する。

 たが一旦落ち着いて、魚雷の位置情報を把握する。

 撃たれた魚雷は三本。

 全て艦隊から距離も離れており、闇雲に放った。

 もしくはかなりの遠距離から発射したかのどっちかであろう。

 どちらにせよ、この魚雷は気にする必要はなさそうと判断する。

 むしろこの魚雷は、潜水艦の場所を突き止める有力な手掛かりになる。

 神弓の艤装の側面からアームが飛び出て、電子辞書サイズのスクリーンが現れる。

 現れたスクリーンへソナーが把握した雷速や散布界を打ち込み、発射地点を割り出す。

 システムが計算を終え、スクリーンに推定発射地点を表示した瞬間───

 

五十鈴 「・・・何かしら?」

 

 神弓のパッシブソナー及び五十鈴達の持っている九三式水中聴音機がある音を捉える。

 カーン・・カーン・・カーン────

 水中で高音波が一定のリズムで海に響き渡る。

 五十鈴達は一度も聞いた事も無いような音で、お互いに視線を合わせたりしているが、神弓には昔から聞き馴染んだ音だった。

 音の正体は、アクティブソナーが発する捜索用のピンガー音。

 神弓が気が付いた途端、無意識の内にピンガーの発信源の特定をしていた。

 そうしてシステムから発信源を特定する。

 

神弓 「えっ!?」

 

 ピンガーの発信源は捕捉していた三本の魚雷からだった。

 魚雷は神弓より左前方に居た五十鈴達へ進路を変える。

 そして神弓が急いで魚雷の未来位置を予想しようとした時、スクリーンが一瞬乱れる。

 普段であれば稀に起こる事と無視をしていただろう。

 しかし今回の乱れに神弓はなんとも言えない不安が過った。

 今は魚雷も迫っているので、目にも止まらない速さでスクリーンを打ち込み、システム内部を捜索する。

 

神弓 「あった!」

 

 スクリーンが乱れた原因を知って、神弓は思わず悔しがる。

 

神弓 「しまった。いくら微弱とは言え、私が見逃すなんて・・・・」



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22:恐れ知らずのサブマリン

 いると知ってしまった神弓は微かに動揺する。

 しかし何とか冷静に今やるべき事に優先順位を付ける。

 

神弓 「えぇっと・・一旦落ち着いて、まず私がやるべき事。今は魚雷の対応が優先!」

 

 現在の魚雷の進路は五十鈴達に向いており、距離を考えるに通常魚雷なら回避も可能だろうが、この魚雷はアクティブソナー搭載の誘導魚雷。

 このままだと回避出来ずに被雷するのが目に見えている。

 火力の魚雷が軽装甲の五十鈴達に命中すれば、大損害を被るの必至。

 しかし回避出来ないなら、回避しない方法で対応すればいいと言う事も神弓は理解していた。

 

神弓 「対潜部隊の皆さん!最大船速、針路を北西に取って下さい!」

 

 対潜部隊に通信で即座に指示を送る。

 

五十鈴 「「えっ何!?北西?分かった、指示に従うわ!」」

 

 本来対潜部隊の指揮系統は異なるが、先程の魚雷回避を経験してた五十鈴達は、きっとこの指示にも何か意図があると考え指示に応じた。

 対潜部隊が北西に移動し始めたので、魚雷の艦隊に追従して進路を変える。

 ソナーからの情報を頼りに魚雷の予測進路を測定、そして───

 

神弓 「すぐにベッドフォンを外して下さい!」

 

 神弓はそう言って、127mm速射砲から三発連射する。

 三発の砲弾はそれぞれの別の仰角で撃ち出した為、着弾距離が僅かに変わって水面に着弾する。

 着弾した127mm砲弾は水中を進み、海面付近を走る魚雷に付近で爆発。

 三本の巨大な水柱が立ち昇り、全魚雷な起爆を確認する。。

 そして予め対潜部隊にヘッドフォンを外させたのは、水中聴音機は僅かな音を聴く為に水中の音を増幅する機器の為、魚雷は爆雷の爆発音で耳を痛めてしまう可能性があったからだ。

 

神弓 「対潜部隊の皆さん、直ちに本隊と合流して全速力で離脱してください!」

五十鈴 「「何を言っているの?一緒にやった方がいいんじゃないの?」」

 

 五十鈴は共同で撃退するよう提案する。

 実際提案した内容は正しい。

 隻数は多い方が潜水艦を発見しやすく、また撃沈への追い込みも簡単になる。

 しかし神弓はその提案を即座に切り捨てた。

 何故ならその戦法は通常の潜水艦であればの話だからだ。

 

神弓 「駄目です。この敵は───今の貴方達では手に負えません!」

五十鈴 「「それほどの敵なの?」」

神弓 「はい。」

 

 無線の通話に少し間が生まれ、数秒後五十鈴がゆっくり口を開く。

 

五十鈴 「・・・・わかった。そっちがそんなに言うのは、それ程の敵ってわけよね。了解、今回は従っておくわね。」

神弓 「ありがとうございます!」

五十鈴 「ただし、絶対に生きて帰って来なさいよ!」

 

 最後にそう言い残して五十鈴との通信が切れる。

 神弓は撤退し始めた対潜部隊を見つめ、充分離れたと判断してからスクリーンに視線を落とす。

 神弓のレーダーには、本隊に全力で向かっている対潜部隊が映し出されていた。

 

神弓 「アクティブソナー起動。」

 

 神弓も先程の魚雷が使用していたアクティブソナーを起動する。

 アクティブソナーはパッシブソナーに比べて音を聴くのではなく、音波を発して反射音を捉える機器であるので標的を発見しやすい。

 しかし音波を発する性質上、敵にも位置が必発見されやすい問題があるが、今回は問題なかった。

 アクティブソナーの探知結果がスクリーンに映し出される。

 

神弓 「えっ、なんでッ!?」

 

 スクリーンには、何も敵らしきものは何も表示されていなかった。

 パッシブソナーどころか、敵を発見しやすいアクティブソナーですら敵を見つけられない。

 

神弓 「いや、何かトリックがあるはず。」

 

 神弓は素早くスクリーンを操作して調べていると、今度は右舷側を通り抜けようとせる八本の魚雷が探知される。

 魚雷は神弓ではなく本隊へ真っ直ぐ突き進む。

 それも再び進路を変える誘導魚雷だ。

 神弓はすぐに魚雷と本隊の間に滑り込んで、127mm速射砲と各35mmCIWSが砲口を海面に合わせる。

 

神弓 「各CIWS、オールウェポンズフリー。自動迎撃モード。」

 

 艤装に搭載する毎分数千発のガトリング砲から火が吹き出す。

 水中では弾の威力が急激に落ちると言えど、35mmの大口径砲弾は水を叩き、水中を潜って行く。

 そして発射した一部が魚雷に命中し、魚雷の外壁を貫き内部で炸薬が爆発、魚雷を破壊する。

 全魚雷の破壊を確認し、その発射地点を予測しようとしたら連続で別の魚雷群が走って来る。

 その後神弓達は何度も魚雷群の雷撃を受け、発射地点の予測をシステムに丸投げしたり、ハリアーⅡを発艦させて対応しているが、依然敵の位置はわからない。

 敵を探そうにもソナーに反応は無い、魚雷群から予測しようにも各魚雷を別々の速度、更にランダムに加速減速を何故か行うせいで難しい。

 ここで神弓は考え方を変えた。

 理由は不明だが、敵は神弓を狙わず本隊を狙っている。

 更にソナーに補足されないトリックが判明した。

 変温層、通称サーマルレイヤーと言うものだ。

 サーマルレイヤーは水中で温度差が生まれ、音波が反射してそれ一定深度に届きづらくなる性質からソナーの効果が下がる現象だ。

 そんな状態でアクティブソナーを鳴らしていたら、自分の位置を暴露するだけなので停止させ、僅かに分かった敵の予測位置と本隊を狙いやすい位置を組み合わせて敵の針路を計測する。

 

神弓 「ASROCⅢ四セル四発、発射。」

 

 神弓から四本のミサイルが垂直発射される。

 ミサイルは空中でブースターが分離し魚雷が現れる。

 空中に投げ出された魚雷の先端からパラシュートを開いて、ゆっくりと降下する。

 そして水面に着水した途端スクリューが動き出し、あらかじめ設定されていた地点に到着した瞬間、魚雷が自動で爆発を起こす。

 これで水中の一定範囲をASROCで一掃する。

 だが特にこうと言った成果は無かった。

 本来、面制圧は神弓の本業ではない。

 あくまである一点を精密に狙う点攻撃を得意としているので、広範囲殲滅兵装は少ない。

 ASROC二射目も激しく水中を掻き乱すだけで特に反応無し。

 

神弓 「お願い、当たって!」

 

 神弓はそう願いながら第三射を発射する。

 ASROCは他のミサイルと違い搭載数が少なく、弾数もあまり多くない。

 もしASROCを撃ちきったら、神弓に水中を攻撃する方法は無い。

 神弓は必死の思いで当たるように祈る。

 ASROCが水面に着水そして起爆、再び四本の水柱が打ち上がった。

 ───その時だった。

 魚雷の爆発音に紛れた別の音をソナーが観測する。

 ゴボゴボと言う泡の音とミシミシと金属の悲鳴だ。

 

神弓 「これは───水中圧壊音!」

 

 それと同時に、水中でバラストタンクから大量の排水音も聴こえてくる。

 

神弓 「敵艦、緊急浮上!皆さん気をつけて下さい!」

 

 敵艦が浮上すると本隊に警告を送っている時、水面からある艦が飛び出す。

 

摩耶 「なんだよ・・ありゃ・・・」

 

 本隊の後方側に配置された摩耶があり得ないものを見たように呟く。

 その艦は青を基調とした水着を身につけ、水色の瞳を向けてくる。

 一般的な潜水艦ではあり得ない戦艦クラスの艤装を装備し、艦首や垂直発射型の無数の魚雷発射口が配置されていた。

 そして一番目立つ何故搭載されていると思われるであろう、異彩を放つ二基の38.1cm連装砲。

 神弓は知っている、その艦を───

 

神弓 「遂に来た・・・超巨大潜水戦艦ドレッドノート級一番艦。ドレットノート!」

 

 超兵器の一つであるドレッドノートは、潜水艦でありながら38.1cm連装砲を装備し対水上戦闘も可能な超兵器である。

 ドレッドノートはその38.1cm砲を本隊と神弓にそれぞれ一基づつ砲搭が仰角を上げながら旋回する。

 そして砲口から黒煙が噴き出した。

 

神弓 「敵艦発砲!」

 

 神弓の周囲に二つの水柱が立ち上り、残り二発の砲弾は神弓を越え、撤退中の本隊の筑摩に命中した。

 

筑摩 「痛っ・・・こんな姿、誰にも見せられません。」

 

 砲弾が命中した筑摩は服が破れ、腰に付けていた砲搭が粉砕される。

 そんな筑摩の姿に神弓が急いで攻撃を行おうとした瞬間、通信が入る。

 

ハリアー妖精 「「アロー。こちらスカイドミネーション02。現在高度5000、速度450kt、方位83。レーダーコンタクト(目標をレーダーで捉えた)、指示を乞う。」」

 

 上空を飛行するハリアーⅡから指示の要請が届く。

 神弓はハリアーⅡをレーダーで確認、ドレッドノートの攻撃を避けながら返答する。

 

神弓 「こちらアロー。武器の使用を許可する。攻撃を開始せよ。」

ハリアー妖精 「「アロー。もう一度言ってくれ。」」

 

 命令に間違いないかハリアー妖精は反復して要請する。

 

神弓 「こちらアロー。繰り返す、攻撃を開始せよ。」

ハリアー妖精 「「アロー。こちらスカイドミネーション02。ウィルコ(了解、実行する)。」」

 

 攻撃指示を受けたハリアーⅡが左に大きく旋回してドレッドノートの上空へ飛行する。

 

ハリアー妖精 「「こちらスカイドミネーション02。エンゲージ(交戦)、アタック(突撃)!」」

 

 ドレッドノート真上に差し掛かった時、機体を180度ロールしたまま逆落としを行う。

 エンジン出力を0%にして、エアブレーキを掛けながら急降下する。

 

ハリアー妖精 「「UGB(無誘導爆弾)投下。」」

 

 連絡と共にハリアーⅡのパイロンから二発の1500lb、つまり680kg爆弾を投下。

 爆弾を投下したハリアーⅡは機首を引き上げ、水平飛行に移る。

 投下された二発の1500lb爆弾は真っ直ぐドレッドノートに落下していき、甲板上にて強烈な爆発を起こす。

 

ハリアー妖精 「「アロー。こちらスカイドミネーション02。UGBの命中を確認。」」

神弓 「こちらアロー。確認した。引き続き攻撃を続けよ。」

ハリアー妖精 「「こちらスカイドミネーション02。ラジャー(了解)。」」

 

 ハリアーとの通信終え、神弓はドレッドノートを状況を確認した。

 ドレッドノートは先程の爆撃で黒煙を吹き、装甲に穴が開く。

 いくら超兵器と言えど、元の基本設計は潜水艦である。

 装甲自体恐ろしいほど硬い訳ではない。

 神弓は127mm砲の照準を合わせ、砲撃を開始する。

 潜水艦でも127mmでは有効的なダメージを与えるのは難しいが、装甲の薄い弱点を狙えば問題はない。

 そこで神弓はドレッドノートの垂直発射型魚雷発射口を覆うハッチを狙う。

 そこは開閉させる為に他より装甲が薄く、魚雷も搭載されているので誘爆も誘える。

 神弓の撃ち出した弾が何度も狙い通りにハッチに命中する。

 すると、攻撃に鬱陶しさを持ったドレッドノートが主砲で神弓に発砲する。

 しかし神弓は砲弾を回避して砲撃を継続。

 続いて、ドレッドノートは発射口から誘導魚雷を投射するが───

 

神弓 「CIWS、自動迎撃モード」

 

 以前と同じようにCIWSが動きだし、各魚雷に照準を合わせ、迎撃。

 魚雷は無残にも神弓に到達する前に全て起爆する。

 そしてドレッドノートは新たな魚雷を放とうもする瞬間、ドレッドノートの周囲に多数の砲弾が着弾した。

 

長門 「第二射、撃てぇ!」

 

 長門の合図と同時に本隊に所属する戦艦から炎が現れる。

 本隊から浮上したドレッドノートに対して、砲撃を開始された。

 

愛宕 「私達も魚雷発射よ~いっ♪」

 

 単縦陣を描きながら魚雷を装備した艦全員が発射管を水面に向ける。

 

五十鈴 「魚雷発射って、巻き込むんじゃないの?」

矢作 「大丈夫よ。神弓ならそれくらい避けてくれるわ。」

五十鈴 「それもそうね。」

 

 五十鈴の懸念は矢作の言葉で全て解決した。

 そしてドレッドノートの予測針路を想定し、愛宕が合図する。

 

愛宕 「みんなー、発射ぁ~♪」

 

 本隊から大中の魚雷が膨大な量発射される。

 その数、百本以上。

 ドレッドノートへ放射状に広がった魚雷の壁が、水面下から素早く迫る。

 神弓はギリギリ魚雷と魚雷の隙間を自慢の機動力と高性能ソナーですり抜けるが、ドレッドノートはソナーで探知出来たとしても元は巨大な艦であった事が響き機動力や旋回性能は高くない。

 概ね予想通りドレッドノートに四本の雷撃を受ける。

 全体から見れば被雷数はかなり少ないが、命中を重視した事やお互いの距離が遠いなどを加味すれば十分な成果と言えるだろう。

 しかもたった四本の魚雷とはいえ、一撃の威力が通常より強力な酸素魚雷。

 容赦なくドレッドノートの装甲を水面下から爆発の圧力で破壊していく。

 魚雷の被害で浸水が進み、速力が低下したドレッドノートに復帰させる時間は与えられない。

 続いて戦艦隊からの砲弾の雨が降らさせる。

 その中で武蔵の投射した46cm砲弾は、ドレッドノートの前部砲搭付近の垂直発射型魚雷発射口に直撃。装甲を突き破って内部で炸裂。

 内部に積載していた魚雷が爆発し、更に砲搭弾薬庫の装甲が耐えきれず火が回り、砲弾や装薬に引火。

 巨大な爆発で内部から艤装が引き裂かれ、砲搭が天高く弾け飛ぶ。

 そしてドレッドノートの全身が大きな炎に包まれる。

 ドレッドノートはその後一分ほど炎上が続き、火が弱まり姿が見え始める。

 全身の皮膚が焼けて爛れ、青かった水着は黒く焼け焦げ、艤装も前部砲搭が無くなり円柱状の基部が丸見えになっていた。

 

大和 「これでもまだ沈まないのッ!?」

 

 しかし流石超兵器と言うべきだろう。

 確かに至るところが破壊され弾薬庫が爆発したが、まだ沈んではいない。

 ドレッドノートは冷たく恨みに溢れた眼を向け、水中に潜航する。

 

神弓 「───えっ?!まだそんな状態で潜航出来るの!?」

 

 神弓自身もあまりに予想外の出来事に驚愕せざる終えない。

 潜航し始めたドレッドノートを逃さないように慌てて照準をつけるが、照準を合わせた途端に水面に消えていく。

 逃した!と神弓がそう思った瞬間だった───

 

ハリアー妖精 「「UGB投下。」」

 

 水中に消えたドレッドノートへ、ハリアーⅡが追いかけるように急降下しながら残った二発の爆弾をパイロンから切り離す。

 爆弾は重力に引かれて着水、そして今までと違う規模の水柱が噴き上がる。

 ボンッと音が鳴り、水面に大量の浮遊物が浮かび上がってくる。

 浮かび上がった残骸を見つめて、神弓はドレッドノートをソナーで捜索を行う。

 

神弓 「海面に浮遊物を確認。パッシブソナーに異常なし。アクティブソナーで確認する、ピンガー打て。」

 

 アクティブソナーからピンガーが打たれる。

 ソナーには人口構造物が少しづつ沈んでいき、かなり震度が深くなった時に二つに分かれ一緒に沈んで行くのがハッキリと確認できた。

 

神弓 「恐らく、敵の撃沈に成功したと思われます!」

伊勢 「「やったぁ!!やったよ日向ー!!」」

日向 「「あぁ、わかってる。」」

 

 伊勢の叫びを皮切りに、無線が喜びの大合掌。

 無線は歓喜で埋め尽くされ、遠くに居る本隊から無線無しで神弓の耳に届く。

 

ハリアー妖精 「「アロー。こちらスカイドミネーション02。エネミーデストロイ(敵を撃破)、指示を乞う。」」

神弓 「こちらアロー。スカイドミネーション02。帰投せよ。」

ハリアー妖精 「「こちらスカイドミネーション02。ラジャー(了解)。」」



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23:艦娘強化演習

 北方方面に駆り出されていた艦娘達が帰投を開始したその当日。

 普段は行動が遅過ぎて現地の提督達の苛立ちを大量生産する大本営が、突如慌ただしく動きだすという波乱が起きていた。

 その原因は言わずもながら、超兵器であるドレッドノートの出現である。

 しかも超兵器が現れただけでなく、不特定多数の艦娘がその存在を知った為、情報統制を掛けて安心していた大本営はパニックを起こしていた。

 超兵器の存在は最高機密であり、今まで少数の者しか知らなかったので情報統制で対応可能だったが、今回は数十名の艦娘が目撃され、とてもじゃないが人の口に戸は立てられない状態だ。

 一応無理矢理独房に全員叩き込む荒業もあると言えばあるが、各地から強い反感を買う上、防衛の根幹に大きな穴が生まれる。

 この為、大本営は完全に吹っ切れて情報の公開を迫った。

 これからも超兵器の襲撃が増える可能性を考えると、何も知らない艦娘が正面から立ち向かい、確実に轟沈するという最悪の事態が予想される。

 損得を考え、出した結論だ。

 情報公開の方法は、重巡洋艦青葉の配布している新聞を利用した。

 この理由は大本営の発行する資料では編集に時間が取られ、即応性に欠ける。

 それに対して青葉の新聞はすぐに艦娘の手元届き、ある程度の量の情報を渡しやすいと考えられた。

 実際に各地に青葉の新聞が大量に刷られ、配布されたのは命令が届いて二日後だった。

 なお青葉は自身の新聞にドきついネタを仕込んだり、誇張して載せたりする傾向があったが、流石の青葉も大本営直々の新聞にそんな真似はしなかった。

 そもそもした瞬間、即座に行方不明になるのは確実だろう。

 そして艦娘達が各地に帰投している中、一部数名の艦娘はこの横須賀鎮守府に残り、大淀から施設の案内を受けていた。

 

睦月 「わぁっ!すごい大きいにゃー!」

 

 全鎮守府中最高の規模と設備を誇る横鎮の工廠を前に、睦月は目を輝かせる。

 睦月のその後ろに居る扶桑や山城、如月も似た感想を抱く。

 

扶桑 「明石や夕張が普段から拠点にしている工房よ。根本的な規模が違うわ。」

山城 「えぇ、その通りです。姉さま。」

如月 「如月の所にも普段から居てくれたらいいのにぃ。」

 

 如月が施設に対して羨望の眼差しを向けた。

 各地の工房の殆どを妖精さんが運営しており、一部例外として明石と夕張だけが工廠で作業を行える。

 無論妖精さんだけでも機能十分なのだが、やはり二人がいるだけで良い開発や簡単な修理などが行える点等がある。

 そして横鎮にその二人が集まっているのは、それぞれ分散して配置するよりまとめた方が良い物ができると大本営が判断したからだ。

 とはいえ、場合によってはその場所に特定の艦娘が必要になる場面もある訳で、艦娘は所属先以外に支援という名目で配属になる事が多々ある

 北方方面漸減邀撃作戦時に、幌筵泊地で明石が配備されて居たのもそれであった。

 

 ドゴォーン、ドゴォーン────

 

 山城は耳に届いた砲声の鳴った方向を見渡す。

 

山城 「ところで、さっきから鳴っているこの砲声って何なの?」

 

 先程から案内を受けている間、度々聞こえてくる雷が落ちたような強い砲声。

 案内役の大淀が少し考えて次の行動を決めた。

 

大淀 「そうですねぇ。でしたら、そちらから先に説明させて頂きましょう。」

 

 大淀達は工廠を後にし海辺に向かって歩いていく。

 大淀が案内した場所は、海が遠くまで見渡せる堤防であった。

 

大淀 「只今三つの演習が同時に行われています。その一つがあちらです。」

 

 四人が大淀が指差した位置には、秋月型の秋月、照月と一緒に神弓が話しており、更に奥に赤城が立って待機している。

 

如月 「何をやってるのかしら?」

大淀 「あれは防空演習ですね。あっ始まりますよ。」

 

 秋月から照月と神弓が離れ、赤城が九七艦攻や九九艦爆などの艦載機を十機発艦させ、艦載機は空中で編隊を組み、秋月の方向に一直線に突撃する。

 一方秋月は、長10cm連装高角砲で防空砲火を開始する。

 長10cm連装高角砲は四秒毎に火を噴き、編隊の前後、上下左右で炸裂し黒煙が沸き出した。

 高角砲弾は絶え間なく爆発を起こし、至近距離で飛び散った破片が機体の水平尾翼を叩き折る。

 その他、エンジンや主翼に被弾した機体は、編隊から脱落したり爆弾を投棄して離脱。

 しかし全体から見れば編隊の損害は軽微であり、残った機体が秋月の上空を通りすぎ、演習が終了する。

 

扶桑 「撃墜一に撃破二。あの防空演習なら良い成績じゃないのかしら。」

 

 この手の演習は、撃墜はおろか一機撃破すら難しい。

 その点を見れば、防空駆逐艦である秋月型の防空能力は高いと評価される。

 しかしそれは通常の演習だったらの話だ。

 秋月の演習が終わって神弓が合流。

 二人が少し会話をしてから演習が再び行われる。

 赤城が先程の減った分の補充機を発艦。

 編隊の不足を埋め、前回と同じように飛行する。

 秋月はまたもや長10cm連装高角砲を撃つ。

 だがその防空砲火は明らかに以前とは違った。

 高角砲弾の爆発が目に見えて編隊へ集中する。

 主翼付近に爆発が起こった九七艦攻は主翼をもぎ取られ、更に他の九九艦爆の一機の真下で砲弾が爆発して、吊り下げていた爆弾に引火し吹き飛ぶ。

 そして黒煙を噴き、バランスを崩した機は回転しなから墜落していく。

 最終的に撃墜二、撃墜五と、先程に比べ二倍以上の成果を叩き出した。

 同じ秋月でこんな短時間なのに、これほどの差が生まれた事に四人は驚愕する。

 

扶桑 「これは、何があったの?」

睦月 「わぁーすごーい!まるで魔法みたい!大淀さんどうなってるの!」

 

 呆気を取られる扶桑を尻目に、理由に興味津々の睦月が大淀に質問し大淀が答えた。

 

大淀 「はい。今回神弓さんして貰っているのは、計器の誤差修正です。」

山城 「誤差の、修正?それだけであんなに変わるものなの?」

大淀 「はい。それも私達が今までして来たレベルではありません。神弓さんの防空能力の根幹は複数の電探と、イージスシステムと言われる高性能な高射装置で弾道を予想しているそうです。性能は、飛行する艦載機を初弾で撃墜が可能です。」

山城 「えっ!初弾で撃墜っ?!」

 

 山城はあり得ないといった顔をする。

 常識では、対空砲火は敵機の予測先に弾幕を張り進路を妨害するもので、撃墜など運が良い時くらいだろう。

 それを撃墜はおろか初弾で仕留めるなど、不可能だと思っていた。

 

大淀 「更に電探も飛翔する砲弾を追尾でき、イージスシステムと合わさる事で、その砲や砲身の癖、機械の誤差もほぼ完璧にわかるそうです。」

 

 大淀の説明を他の皆は、何も言わないで呆けて聞く。

 その様子に、同じような反応を経験をした大淀は内心同情する。

 

如月 「───新聞に書いてあった話って、本当なのね・・・」

大淀 「では、次に行きますよ。」

 

 全員はそのまま堤防を進み、ずっと鳴り響いていた砲声の正体が見えてくる。

 海上には長門、陸奥、大和、武蔵が単縦陣で砲撃しながら航行していた。

 その砲口は、ここからギリギリ見える距離を移動する雨風に全門照準されている。

 

武蔵 「よし!装填完了だ。」

長門 「うむ、撃てぇ!!」

 

 長門の合図と共に46cm砲、41cm砲がそれぞれ火を噴く。

 砲撃後には、耳に砲撃音の余韻が強く残る。

 

扶桑 「本当に迫力のある砲撃。世界最大の戦艦とビッグ7なだけあるわ。」

 

 放たれた砲弾は雨風の真上から着弾、一つの閃光が瞬く。

 ただしその閃光は演習弾のそれとは違った。

 

山城 「待って、あの光って実弾じゃないのっ!実弾を使うなんて危険よ!」

大淀 「それは私も思ってる事なんですが、本人が実弾を使用してと要請があったもので。」

扶桑 「大丈夫よ、山城。相手はあの噂の戦艦なんでしょう。」

大淀 「雨風さんの防御力は桁外れに秀でています。じゃないと絶対許可なんて出しません。」

山城 「そもそもなんで実弾を使うのよ。演習弾じゃ駄目なの?」

大淀 「いくら実弾に近い演習弾と言え、実弾とは僅かに違います。雨風はそれを嫌がったと考えられますね。あっ、勿論雨風さんには演習弾ですよ。」

山城 「じゃないと私達が沈むわよ・・・・・」

 

 呆れて物言いする気も無くした山城はため息を吐く。

 一方大淀は、この演習で雨風に僅かとはいえ被害が出る為、提督が修理資材で頭を抱えていた事実は秘密にした。

 そんな所に後ろから呼び掛けられ声がする。

 

金剛 「Hey!何してるデース?」

如月 「あら~、その声は金剛さん───って、どうしたんですか~!?」

 

 後ろから話しかけられ、最初に振り向いた如月が大きな声を出す。

 如月の声を聞いて他の艦娘も後ろを振り向くと、皆が如月と同様に驚愕する。

 そこには金剛四姉妹が全員が揃っていたが、四人全員の服の隙間から痣が大量に見え、とても痛々しい状態になっていた。

 驚かれる反応をされた金剛は自身の痣を見て、答え難そうに言う。

 

金剛 「あーこれデスカァ・・・今長門達がやってる演習の傷ネ。」

睦月 「痛くないのかにゃー?」

比叡 「問題ないです!ほらこの通りっ!」

 

 すると比叡が隣にいた榛名の二の腕を思いっきり強く握る。

 

榛名 「は、はい。榛名は、だ・・大丈夫、です───」

 

 榛名は顔中から脂汗を垂らし、明らかに痛みに堪えた歪んだ笑顔を向けた。

 そして大きな溜め息を付いた霧島が比叡に対して拳を握る。

 

霧島 「比叡姉さま、榛名が痛がっていますので離してください。でないと、私が比叡姉さまの腕を叩きますよ。」

比叡 「ひぇー!それは勘弁してぇぇぇ!」

 

 霧島の言葉に比叡が慌てて榛名から離れ、榛名はほっと一安心する。

 よく分からない行動をする妹三人から視線を逸らした金剛は、全身の痣の理由を説明しようとした。

 

金剛 「それがデスネー、これは───」

 

 ちょうど金剛が説明しようとした時、金剛姉妹は海側を向いていた為、視界の端に砲弾の着弾が目に入る。

 砲弾は雨風の僅か後方に越えていき、全て外れた。

 その瞬間、金剛姉妹全員が同時に、「あっ」と言いたげな顔になる。

 

睦月 「どうしたの───」

 

 急な変化に疑問に思った睦月が質問しようと声を出した途端、長門の強烈な叫びに覆い尽くされる。

 

長門 「うぉぉぉぉ!!全員回避急げぇぇぇぇ!!」

 

 長門、陸奥、大和、武蔵がそれぞれ急いで各自に回避行動を取り始めた。

 

金剛 「Oh・・・ドンマイですネー。」

 

 僅かに恐怖を含んだ金剛を後目に、雨風から自身を覆い尽くす程の巨大な黒煙が生まれる。

 黒煙は砲弾を発砲した時に現れる、つまり───

 

長門 「来るぞぉぉぉ!」

 

 長門が大声を上げた刹那、扶桑達の今まで見た事のない規模の水柱に艦隊が埋め尽くされ、水柱の中から陸奥の悲鳴が上がる。

 

陸奥 「痛ったぁぁぁぁい───ッ!!」

 

 数秒して立ち上った水柱が晴れると、右の横腹を手で押さえ中腰になる陸奥が現れた。

 

陸奥 「あ・・・相変わらず、私は運がないわねぇ。」

 

 陸奥は自身の運のなさを恨めしそう愚痴る中、長門は陸奥に同情の視線送りながら雨風に照準を合わせる。

 

長門 「悪いが陸奥。私はあれを食らいたくないから撃たせて貰うぞ。」

陸奥 「あっあらぁ?一人だけ生き残ろうなんて、ちょっと卑怯じゃない?」

長門 「これについては卑怯と言われても構わない!私はあれを絶対に受けたくないのだ!撃てぇぇ!!」

 

 長門の指示と同時に砲声が轟く。

 陸奥も中腰になりながらも何とか発砲する。

 前回の着弾が遠弾だった事から、僅かに主砲の仰角を下げて発砲した弾は雨風より手前に着水し、またもや全弾外れた。

 外れたとなると、雨風から再び砲弾の雨が降らされ、再び艦隊は阿鼻叫喚。

 

山城 「うわぁ、悲惨ね。」

大淀 「扶桑さんと山城さんには、こちらの演習を受けていただきますので、ご理解の事よろしくお願いします。」

扶桑·山城 「不幸だわ・・・・」

 

 大淀から聞いた死刑判決に扶桑姉妹は全身から負のオーラを漂わせる。

 そしてこの負のオーラが割りと重い雰囲気に変化した為、そこにいる全員がネガティブモードに突入した扶桑姉妹を何とか数分掛けて落ち着かせ、案内を続けた。

 

大淀 「最後はこちらです。」

 

 大淀が案内した最後の演習場では、高度3000m付近を三十機ほどの一般的な編隊が一つ飛行しており、その編隊は彗星や流星、戦闘機には紫電改二、零戦五二型とそれなりに豪華な編成だった。

 そしてその編隊を海上から見つめる、二航戦と瑞鳳がいる。

 

大淀 「瑞鳳さーん!」

 

 大淀が海上にいる瑞鳳を呼び立てると、大淀の呼ぶ声に気づいて瑞鳳が傍まで移動する。

 

瑞鳳 「大淀さんこんにちは。あっ、確か後ろにいるのは例の訓練を受ける人達ですよね?」

大淀 「えぇそうですね。」

 

 瑞鳳と大淀が話している時、扶桑がある事が気になって瑞鳳に話し掛ける。

 

扶桑 「貴方は確か、ここの秘書艦でしたよね?秘書艦が訓練に参加するなんて珍しいですね。」

瑞鳳 「えっと。それが、貴重な艦載機は私だけしか貸してあげれないと言われて。」

扶桑 「貴重な艦載機?あの試作烈風とかでしょうか?」

瑞鳳 「それは───あっちょ、待っててください!」

 

 突然瑞鳳は慌てて言い淀み、ポケットから良くわからない命令文が羅列した紙を取り出し、しどろもどろになりながら通信を繋ぐ。

 

瑞鳳 「は、はいっ!えっと・・・こちらオィスピス!武器の使用を許可します!・・・・・えっそうです、攻撃を始めて下さい!・・・・はい、繰り返します。攻撃を始めて下さい!」

 

 瑞鳳があたふたして通信している横で、周りの艦娘は瑞鳳の口にしている単語が理解出来ず、全員が顔を合わせる。

 そして通信が終わったみたいで、安心感から瑞鳳が一息ついて上空の編隊に見つめた。

 

金剛 「瑞鳳、ちょっとイイネ?さっきのcommunication([通信)はなんデース?」

瑞鳳 「すいません、少し後でいいですか?多分そろそろのはずだけど・・・」

 

 瑞鳳が金剛に返答しつつ並行して、編隊の周囲に視線を動かし続け何かを探している。

 そんな挙動の瑞鳳を見て、疑問に思った全員は同じように上空へ視線を走らせ、比叡が何かを見つけて声を上げた。

 

比叡 「んっ?あ、あれ!」

 

 比叡は見つけたものに指を向け、周りも比叡の指差す場所を見つめる。

 編隊の遥か高高度から、円錐形の雲を纏った何かが急降下しており、編隊へ一直線に進み、編隊と交差した瞬間───編隊中央の流星が突如爆発した。

 更に爆発した流星の付近の機体はバランスを崩したり、一番近くにいた別の流星は主翼が折れ墜落する。

 下から見ていた瑞鳳達は編隊に何が起こったか分からず混乱している中、前触れもなけ空気が破裂したような大音響が轟く。

 その頃、何かは水面近くまで降りたのち急上昇に転じていた。

 

 

 

 

 

 右下を向けば小さく見える蒼色の森や、ねずみ色の首都。

 左下を見れば、遥か先まで見える青い水平線。

 そして上を見上げれば、未知なる領域の大天空を写し出すダークブルー。

 幻想的な景色を自由に楽しめるそんな場所に存在するのは、一機のハリアーⅡ。

 だが残念な事に、この美しい景色もハリアーⅡに搭乗するハリアー妖精にとっては既に見慣れたもので、特に興味を示さない。

 そしてそのハリアーⅡは一味違う迷彩をしていた。

 尾翼全体が真っ赤に塗られ、それは彼女がエースだと物語っていた。

 ハリアー妖精はコックピットのディスプレイに表示されている赤い点を見つめ、通信を繋ぐ。

 

ハリアー妖精 「オィスピス。こちらスカイドミネーション02。現在高度8000、速度450kt、方位354を飛行中。レーダーコンタクト(目標をレーダーで捉えた)、指示を乞う。」

瑞鳳 「「は、はいっ!えっと・・・こちらオィスピス!武器の使用を許可します!・・・・」」

 

 今回の指揮艦である瑞鳳から武器の使用許可が出たが、その後の指示がないので、ハリアー妖精から再び指示を聞く。

 

ハリアー妖精 「オィスピス。こちらスカイドミネーション02。それは攻撃をしろと言う事か?」

瑞鳳 「「えっそうです、攻撃を始めて下さい!」」

ハリアー妖精 「オィスピス。もう一度言ってくれ。」

瑞鳳 「「はい、繰り返します。攻撃を始めて下さい!」」

ハリアー妖精 「ウィルコ(了解、実行する)。」

 

 ハリアーⅡは針路を修正して敵編隊のちょうど上空に飛行にする。

 

ハリアー妖精 「スカイドミネーション02。エンゲージ(交戦)。」

 

 そして敵編隊と上から見てすれ違う瞬間、ハリアー妖精は操縦桿を左に倒し、天と地が反転したら操縦桿を引く。

 機体が下向きに動き、降下し始める。

 以前ドレッドノートに攻撃した時と似ているが、今回はエンジンスロットルを落とさず急降下を行う。

 ジェットエンジンの推進力と重力によって機体は加速し続け、あっという間に音速を超えて機体の周辺に雲のようなものを纏う。

 そして編隊に対して後ろ上方から、文字通り音より速く接近。

 照準器に豆より小さいのサイズの流星が写った時には、既に機関砲発射ボタンを押していた。

 

 ズドンッ!!

 

 たった一発撃っただけで強烈な衝撃が機体を襲い、機体が大きく振られるが、ハリアー妖精は難なく操縦し敵編隊の隙間から下方に突き抜ける。

 そしてハリアーⅡの砲弾を受けた流星は、真っ二つに砕かれ爆発する。

 さらに音速を超えた事で、ハリアーⅡが纏っていた衝撃波が周りの機体のバランスを崩し、一番近くにいた別の流星の主翼が衝撃波に耐えきれず折れて墜落する。

 ハリアーⅡに搭載されているのは、コックピットの前方に設置された一門の57mm機関砲。

 零戦系列の強力な20mm機関砲や、震電の対重爆撃機用の30mm機関砲とは違う。

 元は対戦車用の砲弾を発射する57mm砲、それも連続発射の可能な機関砲型。

 この57mm機関砲の威力は、榴弾ではB29のような四発重爆撃機を粉々に引き裂いて撃墜でき、普段は装填してないが、徹甲弾を用いれば重戦車の天板や巡洋艦の装甲程度、容易に貫通できる。

 そんな凶悪な代物を、単発機に当てた結果は火を見るより明らかであろう。

 敵編隊の前下方に突き抜けたハリアーⅡの目の前には、水面が急激に迫っていた。

 だがハリアー妖精は慌てる事なく操縦桿を思いっきり引き、機首を引き上げる。

 機首が急激に持ち上がり、機体やハリアー妖精に桁外れのGが掛かるが、ハリアー妖精はとっくに手慣れたように操縦を続け、最終的に機首が水平より上になったのは水面から僅か高度87mだった。

 その後機首は上がり続けて、急上昇を開始。

 今度はそのまま操縦桿を引き続け、大きなループを描き、再び降下、敵編隊を攻撃する。

 編隊は何が起きたかは分からず混乱していたが、二度目の攻撃で敵からの攻撃だと気付く。

 

零戦五二妖精1 「一瞬だけ見えたよー!機種はハリアーⅡ、尾翼が赤!」

零戦五二妖精6 「みんなー、散開ぃー!」

 

 護衛戦闘機隊がハリアーⅡから攻撃隊を守る為、散開して対応するが───

 

紫電改二妖精2 「速すぎて追いつけないよ~!」

零戦五二妖精4 「紫電改二で追いつけないのに、零戦で追いつける訳ないじゃん!」

零戦五二妖精5 「あーあ·・・・どんどん攻撃隊が墜ちていく。」

 

 零式艦上戦闘機五二型の最高速度が約560km/h、紫電改の派生である紫電改二の最高速度ですら約660km/hしか出ない。

 それに対してジェットエンジンを搭載、魔改造されたAV-8BJハリアーⅡは最高で1800km/h程と、とてもじゃないが勝負にならない。

 一撃離脱戦法を取られ、一方的に攻撃隊の数が減っていく。

 もちろん攻撃隊も只でやられる訳にはいかないので、後部機銃で応戦しようとするものの、まずハリアーⅡを狙う前に視認するのが厳しい。

 もし見つけたとしても、認識した時には既に上方もしくは下方に突き抜けられている。

 そうこうしている間に攻撃隊はどんどん撃墜され、全滅してしまった。 

 

ハリアー妖精 「オィスピス。こちらスカイドミネーション02。フェイズⅡに移行する。」

瑞鳳 「・・・・・」

ハリアー妖精 「オィスピス?こちらスカイドミネーション02。聞こえているか?」

瑞鳳 「あっ、ちゃんと聞こえています!了解です!」

 

 瑞鳳からの返答も帰ってきて、ハリアー妖精はエンジンスロットルを下げエアブレーキを展開する。

 フェイズⅡとはこの演習に限り、敵攻撃隊を全滅させたら戦闘機隊とドックファイトを行うものだ。

 その際、ハリアーⅡは時速600km以上出していけないという制限が掛かる。

 じゃないと戦いにならないからだ。

 そしてこのハリアーⅡ、実は空戦においてある弱点が存在する。

 それはハリアーⅡの持つ立派な57mm機関砲だ。

 強烈な反動でバランスを崩しやすかったり、発射速度が異常に遅かったりするが、何より総弾数が大口径故に四十発しかない。

 そのせいで、ハリアーⅡの継戦能力はあまり高くないのだ。

 今敵で残っているのは零戦五二型四機、紫電改二が五機。

 残り弾数は二十四発。

 一般的な妖精であれば難しいだろうが、ハリアー妖精にしてみれば十分可能な範囲。

 速度を600km/h以下にしたら、後方からエンジンを全速で二機の紫電改二が迫ってくる。

 速度が弱まったお陰で、レシプロ機でも十分追い付く速度になったからだ。

 ハリアー妖精は冷静に機体を操作し敵機との距離がある程度縮まると、90度の垂直上昇を始め、二機の紫電改二は機関砲を発砲しながらハリアーⅡに追従する。

 しかし紫電改二の弾は、ロールによる捻りを加えたハリアーIIには掠りもせず空を切り命中しなかった。

 それに上昇開始直後は紫電改二の方が速かったが、昇るにつれてハリアーⅡの上昇力に負けていく。

 ハリアーⅡは最高速度こそ制限されたが、上昇力はそのままなので、時速600kmを維持したまま急上昇が可能だ。

 それでは出力で負けている紫電改二に勝ち目はない。

 二機の紫電改二は速度を失い、失速する。

 それを確認したハリアー妖精は、急旋回で紫電改二の後方を捉え、機関砲をそれぞれ一発ずつ撃ち込み撃墜した。

 そして二機撃墜はした途端、先ほど撃墜した紫電改二の仇とばかりに零戦が突っ込んで来る。

 零戦を相手にハリアーⅡは速度を落とし、お互いに並行に飛行しつつ蛇行しながら急旋回をして、敵を前に出させるシザーズと言うマニューバを繰り出すが、零戦は前に出るどころかハリアーⅡの後方に少しづつ陣取っていく。

 いくらハリアーⅡとはいえ、戦闘状態ではジェット機故に旋回性能や耐失速能力はレシプロ機には勝てない。

 更に相手はレシプロ単発機の中で、旋回性能や軽量化等で最強の格闘戦性能を誇る零式艦上戦闘機。

 この戦いが不利だと即座に悟ったハリアー妖精は、シザーズを止め、零戦がハリアーⅡの真後ろに付いて照準を合わせた瞬間を狙い、機首を上げてクルンと高度を変えないまま一回転、零戦の後方を取る。

 一方零戦に乗っている妖精は、突如ハリアーⅡが視界から消えたように見え、慌てて周りを見渡し捜索する。

 しかし零戦の後方から初速837m/sの57mm榴弾が宅配される。

 零戦の背後を取ったこの技だが、クルビットという高等技術である。  

 クルビットはコブラの派生技の一つで、水平飛行中に進行方向と高度を変えずに機体姿勢を急激にピッチアップして、後方に一回転させ水平姿勢に戻る機動を言う。

 しかしクルビットはおろか一回転させないコブラでさえ、推力偏向ノズルか耐失速能力の高い一部の機体しか出来ない。

 そんな技をどうやってハリアーⅡが行ったかと言われると、垂直離着陸用のノズルの推力とタイミングを調整して行ったのだ。

 これはたとえ、数々のベテランや世界中のエースでも不可能だろう。

 何故ハリアー妖精がそれを出来るかと言われるなら、神弓が艦だった頃、最初の出港から搭乗していた三人のパイロットが居た。

 そのパイロット達は何度も機種変更をする際、慣熟訓練をする暇もなく一発本番で戦場に向かい、その状態で戦場は常に圧倒的数的不利の空戦が巻き起こる。

 戦力差が二倍程度なら運がいい。

 場合によっては数十~数百倍もの敵機と同時に交戦をせざる終えず。

 極めつけは、超兵器や護衛艦隊からの空を覆い尽くす程の濃密な対空砲火を突破して、攻撃を行う離れ業をする事も。

 それによってあまりに過酷な戦場で戦死者が生まれた中、ただ一人生き残り、ファンブルヴィンテルの最後の戦いに参加した唯一のパイロット。

 それが今のハリアー妖精である。

 ハリアー妖精は戦場で数々の功績を残し、敵からは「奴を現れたら、俺たちはもう二度と朝日を見る事は無いだろう」と漏らすベテランの戦闘機パイロットや、「赤い尾翼のハリアーⅡを見かけたら、この空母は無駄にでかい棺。艦載機は射的の的だな」と言う海軍上官まで現れる始末。

 世界中から最強のパイロットとして名を馳せたが、その周囲では撃墜しパイロットの命を奪い差っていく様から、いつの日かタナトスと呼ばれるようになり、敵からは忌避されるようになった。

 余談だが、ハリアーⅡの尾翼の赤い塗装は今まで死んでいったパイロット達を表している。

 敵が一機墜ちる毎に一滴の赤色のペンキを垂らす。

 それが今では水平尾翼や垂直尾翼の全体、周辺が赤で染まっている。

 それはハリアー妖精が撃墜して流された血であり、散らされた命でもある。

 その後の演習も、零戦や紫電改二が果敢に仕掛けるが、様々なマニューバを駆使し撃墜していく。

 

瑞鳳達 「・・・・・」

 

 瑞鳳達は何も言葉を発さず、空の様子に釘付けになっていた。

 数的有利のはずの護衛戦闘機隊が、確実に一機づつ撃墜されていく光景にただただ呆然するしかない。

 コブラをしながら離着陸用ノズルを全力噴射、強引に速度を落として紫電改二の後ろ取る。

 クルビットで回転し、後ろを向いて零戦と真正面になった瞬間、機関砲は発射。零戦は正面から57mmの榴弾を受け、エンジンもろとも機体が粉砕した。

 離着陸用のノズルを使い、異次元的な動きをするハリアーⅡの動きに、唯一変わらないものがあるとするなら・・・それは敵との戦い方がどこも完璧で、それでいて手慣れている事。

 そして一発撃つ毎に確実に撃墜が生まれる事だけだろう。

 この空戦はもはや戦いではない、抵抗する暇も与えられず、力無い者がひたすら喰われる───ただの蹂躙だ。



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24:師匠になった神弓

 変更点として、海域や地名を実際のものに変更しました。理由は途中でどれがなんなのかこんがらがってよくわからなくなった為です。


 太陽は丁度真上に位置し天候は良好、波は穏やかで絶好の演習日和。

 その日、横須賀鎮守府の近海で秋月は防空演習を行っていた。

 水面に立った秋月は空を見据え、秋月型自慢の長10cm連装高角砲も同じように仰角を上げる。

 長10cm高角砲の向く方向には、橙色の塗装が施された九七艦攻や九九艦爆等の艦載機が、十機の編隊を組み飛行していた。

 

秋月 「撃ち方始め!」

 

 秋月の号令と共に長10cm連装高角砲が火を噴く。

 編隊周辺には複数の爆発が現れ、一帯に破片を撒き散らす。

 長10cm高角砲弾が断続的な炸裂を起こし、その中の一発が編隊中央部に位置する九九艦爆の左後方で起爆。

 炸裂した砲弾の破片や衝撃波で、九九艦爆の水平尾翼をもぎ取られる。

 水平尾翼を失った九九艦爆は懸命に操縦を行うが、その頑張りは報われず水面に姿を消した。

 一機が墜落した間も、防空防火は止まらず続ける。

 今度は九七艦攻の斜め上方から破片を受け、エンジンから黒煙を出しながら編隊から脱落する。

 

秋月 「弾幕が薄い・・・です!もっと行きますっ!!」

 

 秋月は悔しそうな表情でなんとか撃墜しようと防空防火を継続するが、その後主翼に被弾して離脱した一機を除いて、秋月の頭上を通過する。

 防空演習の結果に秋月は肩を落とし落胆する。

 

秋月 「これでは駄目ですね。あっ神弓さん!」

 

 落ち込んでいる秋月の側に、離れて見ていた教官役の神弓が近づく。

 

秋月 「神弓さん。今の演習、秋月のどこが駄目だったのでしょうか?」

神弓 「えーとですね。まず秋月さんの砲弾は狙いは正確であっても、起爆に一定のズレが出ています。これは力量の問題ではなく、高射装置の誤差だと思います。なので、私の言う通りに修正してみて下さい。」

秋月 「分かりました!」

 

 秋月は神弓の説明、解決法を真剣に聞き、言われた通りに高射装置の誤差を修正する。

 

神弓 「それで大丈夫だと思いますよ。」

 

 誤差修正の完了を見計らって、遠くに居る赤城に標的機の発艦を要請すると、赤城は神弓の指示に従って矢筒から矢を取り出し、弓を大きく引いてから離す。

 放たれた矢は標的機に変化して急上昇して、上空で旋回待機している編隊と合流した後、先ほどと同じ様に秋月に突撃を開始した。

 

秋月 「それでは、始めます!!」

 

 長10cm連装高角砲の砲声と同時に再び防空演習が開始された。

 秋月の撃ち出した砲弾が炸裂し始めた途端、九七艦攻の主翼が叩き折られ、急激に高度を落とす。

 おまけとばかりに、被弾し墜落した九七艦攻の隣に位置する九九艦爆から砲弾の直撃を受け巨大な炎が上がり、爆散し消滅する。

 他の機体も比較的分散していた防空放火が集中して着弾する為、発射数は変化しないが濃密な弾幕を張る。

 また一機が砲弾の破片を食らい、墜落には至らないが編隊飛行が不可能と判断し、黒煙を噴きながら離脱する。

 飛行が可能な機体は編隊を維持したまま秋月の上空を通り過ぎるが、編隊に無傷の機体はおらず、どの機体もどこかしら被害を受けていた。

 防空砲火を止めた秋月は、前と逆に喜びや嬉しさに沸き立ってガッツポーズを極めたりする。

 演習が終了して、観察していた神弓と秋月の妹である照月が傍に来た瞬間、秋月が神弓の手を持って歓声の声を上げた。

 

秋月 「神弓さんのおかげでこんなに変わるなんて!秋月、尊敬しちゃいますっ!!」

神弓 「えっ!えっとぉ、どういたしまして?」

照月 「こらこら秋月姉、神弓さん困ってるじゃん。」

秋月 「ハッ!?し、失礼しましたぁ!」

 

 照月の注意で秋月が我に帰り、急いで離れ謝罪する。

 秋月の急な変化に少し困惑しつつも、神弓は一呼吸置いて話す。

 

神弓 「取り敢えず成果が出て良かったです。今後は誤差の修正だけではなく、対空射撃の計算式を変更しましょう。ですが、私のイージスシステムと秋月さん達の高射装置は根本的に違いますので、どこまで通じるか分かりませんが。」

 

 申し訳なさそうに神弓が今後の説明をしていると、唐突に照月が手を上げて言い出した。

 

照月 「照月、神弓さんの射撃見てみたい!」

秋月 「あ、秋月も見てみたいです!」

 

 照月の提案に秋月も同意する。

 いきなり射撃が見たいと言われ、神弓は困惑する。

 

神弓 「私のですか?まぁ見たいって事なら、やりましょうか。」

秋月・照月 「やったぁ!!」

 

 神弓が防空演習の開始地点に立ち、遠くから秋月と照月の二人がワクワクしながら事の成り行きを見守る。

 赤城から標的機が発艦、編成を終え次第突撃を開始。

 

神弓 「不明目標探知、敵と識別。対空戦闘よーい・・・計算完了、主砲発砲。」

 

 神弓が一門の127mm速射砲で攻撃を行う。

 神弓の初弾は、最前列を飛行していた九九艦爆の真正面で炸裂。

 目の前で炸裂した砲弾は、九九艦爆の搭載する金星エンジンを砕きながら四分五裂に引き裂く。

 二発目、三発目もそれぞれ別の機体に直撃、空中で全て破片へ変化する。

 神弓の127mm速射砲が火を噴く度、一機づつ確実に編隊から喪失していく。

 そこに従来の弾幕という概念はない。

 複数のレーダーから得た情報を、高性能コンピュータによって高度に計算され、導き出された計算式のお蔭で無駄弾は殆ど無い。

 その姿はさながら狙撃手のようであった。

 

神弓 「目標喪失、対空戦闘終了。ふぅ。」

 

 神弓が一息ついていると、演習を見ていた秋月が全速力で突っ込んで両手を握り目をキラキラさせる。

 

秋月 「全機撃墜なんて凄いです神弓さん!!いえ、師匠!!」

神弓 「し、師匠?!いや、秋月さんの方が先に着任していますよね?」

秋月 「そんな些細な事は放置していいですから、それにそんな凄い方は師匠と呼ぶしかありません!!」

神弓 「あの、だから神弓って呼んで頂ければ───」

秋月 「あの設定で全機撃墜した方が、秋月にお教え頂くのに名前でお呼びするなんてとんでもな───痛いっ!?」

 

 照月が秋月の背後から強めで頭上にチョップを食らわす。

 チョップの直撃を受けた秋月はしゃがみ、痛そうに頭を押さえる。

 

照月 「神弓さんごめんねー。秋月姉は熱が入るといつもこうだからぁ。」

神弓 「は、はぁ~。」

 

 変わりまくる状況に混乱して、神弓は少し困る。

 

秋月 「それでこの後どうします師匠。」

照月 「秋月姉、まだ言うの?」

神弓 「もう師匠で構いませんから、演習の続きをしましょう。」

 

 この話については、もはや思考停止して神弓は諦める事にした。

 

 

 

 

 

神弓 「う~ん、やっと終わった~!なんか今日は色々有りすぎて疲れたぁ。」

 

 日が水面に隠れ始めたので防空演習を終え、神弓は工廠に艤装を預けてから自分の部屋にある戦艦寮に戻った。

 少し疲れ気味で寮の部屋に繋がるロビーに差し掛かったら、変なものを見つける。

 

神弓 「・・・何あれ?」

 

 神弓は見つからない様、入り口から顔だけ出して中を覗く。

 神弓の見る先には、ロビーのソファーに全身湿布まみれで座っている長門の姿と、何故か長門の膝の上にちょこんと雨風が乗っかり、しかも長門は雨風の頭を撫でながら大層幸せな笑顔を浮かべている状況だ。

 よく分からないその光景に神弓は頭の上に?を浮かべる。

 

神弓 「どういう事なの?」

陸奥 「あらっ?そんな所でロビーを覗いてどうしたのかしら?」

 

 神弓が悩んでいると言った顔をして、それの観察中に後ろから同じく大量の湿布を張った陸奥から呼び掛けられた。

 

神弓 「あ、陸奥さん。えーとあれですよ。」

陸奥 「何かしら?あらあら♪」

 

 同じくロビーを覗いた陸奥がニヤッと微笑む。

 何か知ってそうな陸奥の様子に神弓が聞く。

 

神弓 「何か知ってるんですか?」

 

 神弓の質問内容に、陸奥は小声で面白そうに答える。

 

陸奥 「長門って、あまり知られていないけど駆逐艦とかの小さい子が好きなのよ。あっ変な意味じゃないわよ、愛らしいって意味でね。でも、駆逐艦の子に頼む訳にはいかないじゃない。だから駆逐艦の子と近い体格の雨風に頼んだって所かしら。それに同じ戦艦だから頼み易かったたろうし♪」

神弓 「あーなるほど。」

陸奥 「暫くこのままにしておきましょう。」

 

 こうして神弓はロビーを通り抜け自室に帰るのを諦める。

 かといって他にやる事もないので、神弓は陸奥の演習の報告について行く事にした。

 

陸奥 「入るわよ。」

 

 執務室のドアをノックして中に入る。

 中では提督と瑞鳳がいつもと変わらず書類仕事に勤しんでいた。

 提督が机の上に置かれた書類から目を離し、正面の陸奥の姿にニヤッと笑う。

 

提督 「おっ、いらっしゃい。その姿、結構やられて来たみたいかな?」

陸奥 「下手な被弾より痛いのよ、これ。」

 

 陸奥は自身の傷を見渡しながらそう言う。

 

提督 「それはご苦労様。他の皆は?」

陸奥 「大和と武蔵は伸びちゃっまし、長門は事情があって来れないから、私が来たって訳。」

 

 すると陸奥の言葉に提督は納得しつつ笑い声を出す。

 

提督 「ハハッ流石雨風だねぇ。あの子だけじゃないの?演習で大和と武蔵をそこまで追い込める子はね。」

陸奥 「提督も人の事言えないのじゃないかしら?」

 

 反撃とばかりに陸奥は山のように置かれた書類を指差す。

 一方提督は陸奥から視線を反らし、苦笑いを浮かべる。

 

陸奥 「それにしても随分とあるじゃない?今度は大規模な作戦かしら?」

 

 普段に比べ明らかに多い書類の量から陸奥は近々大規模作戦がある事を予想し、提督もその通りだと肯定する。

 

提督 「一応まだ正規にじゃないけど、近々マダガスカル攻略作戦が始まる見通しだね。それと平行して欧州連絡路の構築も行うよ。」

神弓 「欧州連絡路って、ここから欧州はかなり距離ありますよね?どうやるんです?」

提督 「マダガスカル島から北上した所にスコトラ島と言う島があるの。そこ占領して、日本、フィリピン、シンガポール、スリカンカ島、ソコトラ島、紅海、地中海を結ぶ欧州戦略ラインを構築する。」

陸奥 「ふぅーん、面白そうね。」

 

 来る大作戦に向けて心踊る陸奥。

 陸奥を表情を見て、提督の顔も悪どくなる。

 

提督 「えぇ、これから大忙しになるわよ。」



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25:雨風の休日

 (゜ロ゜)大変遅くなりましたぁー!  
 こんな何ヵ月も放置してしまって本当に申し訳ないです。(_ _)  
 相変わらず安定しない不定期ですが宜しくお願いします。( ・ω・)


 横須賀鎮守府の戦艦尞の一部屋で、雨風はベッドの中でムクッと眠そうに起き上がる。

 腕を上げ体を伸ばしたらベッドから出て、欠伸しつつ制服を着用する。

 雨風は服を着替えながら窓の外を見渡す。

 外は既に太陽が昇り、日光がコンクリートの地面を明るく照らしていた。

 これはどう考えても、六時の集合時間をとっくに過ぎているだろう。

 しかし雨風は何一つ慌てず、ゆっくりと準備を続けた。

 それもそのはず。

 雨風が一切慌てない理由は、今日は雨風にとって実質始めての休暇だからだ。

 北方方面作戦後の休暇はコマンドスキー島、キスカ島の調査で潰れ、帰路に着いた時にはドレッドノートの事後処理や、強化演習の教官役でそれも丸ごと無くなってしまった。

 更に残念な事に、超兵器はいつ何処に現れるか分からない。

 海軍としては、少しでも艦娘の練度を上げて超兵器に対抗したい思惑もあり、休暇は中々用意出来なかった。

 そこで提督や瑞鳳が強化演習のスケジュール調整で精一杯何とか捻り出した一日を、休暇として用意した。

 なお相方の神弓はと言うと、先程も言った通り現状は戦力強化が最優先。

 しかし演習は雨風か神弓が居ないと行えないので、運悪く神弓の休暇はまた後日へ。

 一通り準備を終えた雨風は部屋を後にし、朝食を取る為に食堂へと向かう。

 今時間帯の食堂はいつもの騒がしさが全く無いどころか、そもそも訓練や任務で食事をしている人が誰も居ない。

 まぁ、静かな空間は雨風にとって逆に有難い事だったりする。

 

間宮 「あら、おはようございます雨風さん。」

雨風 「おはよう。」

 

 カウンターの奥で食器を洗っている間宮が、足音で雨風に気付き挨拶をして来たので、雨風の挨拶を返す。

 

間宮 「朝食を用意しますね。」

 

 カウンターで間宮から料理を受け取り端の席で食事していると、出入口から四人の駆逐艦達が食堂に入って来る。

 雨風が食事をしながらその四人に視線を向ける。

 食堂に入ってきたのは暁、響、雷、電の第六駆逐隊だ。

 その四人は一目散にカウンターへ歩き、間宮に聞いた。

 

暁 「間宮さん!まだジュース残ってる?」

間宮 「まだ残っていますよ。」

暁 「残ってて良かったわ!じゃあジュース四人分ください!」

間宮 「えぇ、分かりました。」

 

 間宮がジュースを用意している間、四人は楽しそうに固まってお喋りをしている。

 その時雷が視線の右端に写った人影が気になり、そちらの方向を見渡して、食事中の雨風を発見して声を出した。

 

雷 「雨風さんだわっ!」

 

 雷は雨風へ真っ先に駆け出し手の届く傍まで近づいた途端、しゃかんで頭を低くする。

 

雷 「雨風さん、頭撫でてぇ~!」

電 「あっ、雷だけなんてズルイのです!電もして貰いたいのです!!」

 

 電も雷に負けじと急いで移動し、同じく雨風に撫でて欲しいとせがむ。

 食事中だった雨風は箸を置き、両手で同時に雷と電の頭を優しく触った。

 二人は心底嬉しそうに頭を揺らし、幸福感に包まれる。

 一方カウンター付近に残っていた暁と響が、両手にジュースの入ったコップを持って来る。

 

響 「後で私も撫でてくれるかい?」

暁 「フンッ!頭を撫でる貰えるだけで喜ぶなんて、雷と電は子供ね。」

響 「それだったら、私が暁の分まで触って貰おうかな?」

暁 「えっちょ響!それは駄目よ!!」

 

 暁は慌てて響の発言を拒否し、頬を膨らませて睨みつけた。

 響と暁の一連の流れに雨風は軽く狼狽する。

 

雨風 「えっと、ちゃんと順番でする。」

 

 雨風の周りで微笑えましく騒ぐ第六駆逐隊を遠くから見守る間宮は、自然と無意識に笑顔が浮かぶ。

 

間宮 「いつも人気ですね、雨風さんは。」

 

 間宮は小さく聞こえない音量で呟く。

 雨風がここまで人気なのには理由がある。

 それは強さへの憧れも含まれるがそれだけではない、ただ単純に体格が小柄、それだけだ。

 雨風は無数の成果を挙げている、しかしそれは他の戦艦や空母、巡洋艦も一緒である。

 だが比較的幼い駆逐艦達はそんな人物に憧れを抱く事はあっても、天龍等の例外を除いてあまり自ら近づかない。

 軽巡洋艦は水雷戦隊のリーダーや教官をよく務める為、駆逐艦達は厳しい訓練が原因で恐れを抱く者が多い。

 一方戦艦や空母は、純粋に体格や容姿の違いで駆逐艦達からは話し掛けづらい。

 纏う雰囲気や緊張感がかなり違うだけあって、話し掛けて迷惑にならないか?勇気が出ないといった事が足枷になっている。

 無論駆逐艦達も優しい人物だとは分かっているのだが、どうしても後ろめたくなってしまう。

 そんな状況で、戦艦でありながら体格が小さく容姿の近い雨風は、駆逐艦達から見ても比較的声を掛けやすく、表情が乏しいのも逆に地雷を踏み抜く恐怖が薄れる方向に働いた。

 それに駆逐艦は同型艦が多く、一人仲良くなれば後はねずみ算に増えていく。

 雨風の場合、戦艦や重巡洋艦の方が苦手意識を持つ事になるだろう。

 まぁそれも、射撃訓練がほぼ全ての要因だったりするが。

 

響 「ところで聞くけど、今の時間に食堂に居るという事は、もしかして今日は休暇かい?」

雨風 「そう。」

 

 雨風は相変わらず両手で雷と電を撫でながら響の質問に頷き答えた。

 雨風の言葉を聞いて、撫でられていた雷が何かを思いつき顔を上げる。

 

雷 「そうだわ!雨風さんも連れて行きましょう!」

電 「はわわ、それは良い考えなのですっ!」

 

 提案を出した雷に同調して電も賛成し、響と暁も追加で賛同した。

 しかし雨風にとっては何の事やら不明な会話に困惑する。

 

雨風 「行くって、何処?」

暁 「そんなのお買い物に決まっているじゃない。この位レディの常識よ。」

響 「それで、どうするだい?」

 

 今日は特に雨風には予定も無く、別段拒否する理由もないので買い物に行く事に決定した。

 まぁ決める以前に、来ると期待してキラキラと目を輝せる四人を前に、雨風に行かない選択は用意されていなかった。

 雨風が食事を終えて直ぐ、雷と電に手を捕まれ引っ張られながら第六駆逐隊の部屋に連れて行かれた。

 

暁 「この位でどうかしら?」

雷 「うん、これで良いと思うわ!」

 

 二人が意気揚々と見る先には、シンプルな白のワンピースを身に纏った雨風がそこに居た。

 

雷 「サイズが合うか気になったけど、意外と何とかなるわね!」

 

 雨風は自分の状態を確認して、張り切る二人に一言伝える。

 

雨風 「いつもの服じゃ、駄目?」

暁 「当たり前よ!レディとして、身だしなみはちゃんとしないと!」

 

 制服から私服に着替えながら持論話す暁。

 そして全員が着替え終わり、外出届を出す為に受付の大淀の元へ移動する。

 雷が受付口の窓を軽く叩き、音に気付いた大淀が窓を開け顔を出す。

 

大淀 「第六駆逐隊の皆様と、雨風さんも一緒に外出ですか?」

雨風 「そう。」 

大淀 「では申請をしておきますね。あと雨風さんにはこれを渡しておきます。」

 

 書類を書く大淀から手渡されたのは、二枚のカード。

 一枚は横須賀鎮守府の艦娘を証明する証明証で、次が支払い用のカードであった、何かを購入した際にこれで会計を行う。

 最初は艦だった艦娘と言えど、今は基本的な兵士と一緒。

 プライベートの充実が直接士気に関わるので、ある程度の金額が各自支給されている。

 

大淀 「申請は終わらせました。五時までには帰って来て下さいね。」

 

 門限までに帰って来る事と伝えて、大淀は手を振って五人を見送る。

 鎮守府の正門を抜け、いざ外に出たワクワクして声を張り上げた。

 

暁 「よーし、お買い物へ───いざ、抜錨よっ!」

響·雷·電 「おぉーー!!」

雨風 「お、おー・・・?」

 

 暁の言葉を皮切りに三人が声と一緒に片手を挙げ、雨風も若干翻弄されつつも高く手を伸ばし、雨風初の外出が始まった。

 鎮守府から出てからまだ街中を十分程度しか歩いてない中、雨風の視界に写る始めての景色は新鮮な感覚であった。

 大きなビルが立ち並び、多数の車が道路を走り、色とりどりに並ぶ無数の看板等々。

 雨風はコンビニやスーパーとかのお店の説明を受けたり、それ以外にもどんな建物か、どんなお店かを一つ一つ第六駆逐隊の面々も楽しそうに話してくれる。

 今まで雨風の知っている建物の大半は軍事施設であり、その殆どが攻撃対象だ。

 しかし目の前に広がる街とは、民間の建物やいろんな物に溢れた世界だと、雨風は初めてそう認識した。

 街中を散策中にある一軒のコンビニが、雨風の視界に入る。

 

雨風 「あの店、何?」

 

 雨風の指差したのは、途中で幾つか通り過ぎた○ーソンと教わったコンビニだった。

 しかしそのコンビニは他のと違い、看板に明らかに見覚えのある二頭身のキャラクターが描かれていた。

 

響 「あれは私達が経営するコンビニだね。正確に言うなら、市民と艦娘の交流を狙ったものだよ。」

電 「わざわさ電達の為にお店を用意してくれたのです!電も時々手伝いに行くのです!」

雷 「丁度良いわ、ちょっと寄ってみない?」

暁 「雷の言う通りね。行きましょ!」

 

 五人は意気揚々とコンビニに入ろうと近づいた時───

 

響 「あっ・・・逃げるよ。」

 

 響が何かを察し、一言言ってから障害物の裏に隠れコンビニを覗き見る。

 暁達はいきなり逃げる響に訳が分からず、取り敢えず響を追いかけて話を聞く。

 

雷 「響、どうしたのよ?」

響 「コンビニの中を見て。」

雷 「中?」

 

 響以外全員がコンビニの店内を捜索し、響の逃げる理由になりそうなものを探す。

 

雷 「あぁ、納得したわ。赤城さんよ。」

 

 雷が赤城の名前を出した瞬間、暁と電があちゃーと察した顔をする。

 五人の中で雨風一人だけ理解出来ずに質問し、雷が答えた。

 

雨風 「赤城が、何?」

雷 「えーと、それはねぇ・・・見てたら分かるわ。」

 

 困った感じの雷にそう言われ、雨風はコンビニに視線を移動させた。

 コンビニの中に居る赤城は店内を軽く確認し終えたら、ガムを一つ手に取りレジへ行く。

 そしてレジにガムを置き、懐から一万円札を取り出し宣言するかのようにハッキリ言い切った。

 

赤城 「お釣りは全部一円玉(アルミニウム)で!」

 

 その瞬間、赤城のレジ係をした鹿島の笑顔が凍りつき、赤城に指差し声を張り上げる。

 

鹿島 「憲兵さんこいつです!!」

 

 鹿島が名前を出した刹那、赤城の後ろに一人の人物が現れた。

 その者は草色をした制服と帽子を身に纏い、顔を隠す頭巾には憲兵の二文字が書かれている。

 そして赤城に対して、オジキをしてアイサツをした。

 

ケンペイ 「ドーモ、アカギ=サン。ケンペイです。」

 

 アカギはゆっくり後ろを振り返り、同じくアイサツをする。

 

赤城 「ドーモ、ケンペイ=サン。アカギです。」

 

 初めて見た者にはこの光景は異質に感じるだろう。

 しかしアイサツを疎かにはしてはイケナイ、古事記にもそう書かれている。

 カシマに呼び出されたケンペイは、アカギに目線を合わせため息をつく。

 

ケンペイ 「またキサマか。何回事を起こす気だ?」 

アカギ 「ボーキサイトを手にいれる為なら何度でします。それに、前のワタシとは違いますよ。」

ケンペイ 「そうか。アカギ=サン、キサマを貨幣損傷等取締法違反でタイホする!」

 

 ケンペイは一度目を瞑り見開いて赤城に向かってセンゲンした。

 

アカギ 「戦いは、先制攻撃が勝敗を決めます!イヤァアアア!!」

 

 先手でアカギが全力の強烈な蹴りをケンペイに放ち、ケンペイはそのシュンカン後方の棚に蹴り飛ばされ、棚を越えて壁にめり込む。

 更に衝撃を受けた壁が崩落し、天井のコンクリートに埋もれ押し潰される。

 セイキクウボという巨大な軍用の大型戦闘艦だったアカギの攻撃は、破滅的な威力を誇る。

 アワレ、憲兵はナムサン・・・・・

 ───その時だった!

 崩れたコンクリートの山から人影が飛び出し、それはアカギを見据えた。

 

ケンペイ 「この程度か、アカギ=サン。」

 

 そう、ケンペイだ。

 憲兵は赤城の蹴りを受け、ナムサン寸前で留まっていた───否、ケンペイは全身無傷である。

 

アカギ 「これでも駄目ですか。これならどうです、イヤーッ!」

 

 アカギは足元に転がるデンチをケンペイに向け全力投擲。

 先程の蹴りと同一で、アカギのキュー・ドーによって頭部を精密に狙らい高速で飛翔するデンチは、そこらの石ツブテとは格が違うのだ。

 

ケンペイ 「ふん!」

 

 飛んで来たデンチを、ケンペイが首を傾けて回避する。

 ケンペイが避けたデンチは、後方のコンクリート壁を粉砕。

 

赤城 「イヤー!イヤー!ザッケンナコラー!!」

 

 アカギは次々ケンペイに対し投擲する、しかしその全て回避されている。

 それもその筈、ケンペイにとって、この程度の攻撃止まっているも同義。

 投擲物が当たらねば、アカギのキュウ・ドーは意味がない。

 

ケンペイ 「そろそろ終わりにするぞ。」

 

 アカギが無意識的に瞬きをして再び視界が復活した時、壁の前に居たケンペイの姿がソウシツした。

 ───否、ケンペイは既にアカギの目の前で、自慢のリクグン·カラテの構えを取っている。

 

ケンペイ 「ハイクを詠め、アカギ=サン。イヤァァアアアッ!!」

 

 ケンペイが高速で振り上げたコブシはアカギの腹部に命中し、衝撃で垂直上昇、天井に激突。

 その後重力により落下し地面に叩きつけられる。

 アワレアカギは攻撃を受けた衝撃で口から泡を吹き失禁し気絶、下半身から液体の流れる音が響く。

 アカギを倒したケンペイは、まるでそれらは日常であるかのように無感情な目で見下ろし、アカギを肩に担ぎ上げる。

 そしていつの間にか退避していたカシマに、ケンペイはシャザイした。

 

ケンペイ 「済まない、迷惑を掛けた。」

 

 ケンペイはそう言い残し、アカギを連れて圧倒的なジャンプ力で姿を消した。

 先程まで戦いの音が轟いていたコンビニは、今はそよ風程度しか聞こえない。

 そんな中、鹿島は自分は運がないと諦めて、大破したコンビニの掃除を開始する。

 そして今の戦いを見学していた雷は、困惑しつつ述べた。

 

雷 「うーんこれは、司令官と鳳翔さんの説教四時間+コース確定じゃない。」

電 「ちゃんと反省してもらわないと困るのです!仕方ないのです!」 

暁 「暫くあのお店に行けないわね。うんと、移動しよっか。」

 

 五人はコンビニをさっさと諦め、早々と退散。

 次に向かったのは街の大通り。

 飲食店や服屋、ドラッグストアに移動販売が時々設置されており、それらの店の商品を求めて多数の人々が訪れる。

 人混みを移動中に雷が暁に対して予め釘を差す。

 

雷 「暁、今日は変な所行かないでよ。」

暁 「何言ってるの、暁はちゃんとしたレディよ。そんな事する訳───はにゃぁぁぁ!!」

響 「濁流に呑み込まれた川魚みたいに暁が人混みに流されてる。」

電 「えっ!迷子になられると困るのです!追い掛けるのです!」

雨風 「えっと・・・ギャグ?」

 

 第六駆逐隊のネタのような一連の行動に、雨風はそんな印象を受けた。

 しかし本人達は至って真面目である、言葉だけ発して放置する響を除いて。

 

電 「はぁ、やっと追い付いたのです・・・あれ?あっ、あのお店でクレープが売っているのです!」

 

 流された暁を回収したすぐ先の所に、偶然にもクレープの屋台を電が発見した。

 電からクレープという単語を聞いた第六駆逐隊は、一直線に店へ駆け出す。

 店の表に出された看板を食いつくよう覗き込み、目を輝かせる。

 看板には鮮やかなクレープの写真が並び、どれもが食欲を刺激される。

 しかし一つの表記に第六駆逐隊全員が顔を歪ませた。

 

暁 「た、高い・・・」

 

 深海悽艦との初期の戦いに比べ、それなりに海域を取り戻して余裕のある現在だが、それでも砂糖等の甘味料は貴重品。

 最近は庶民の届く金額まで落ち込んだものの、気軽に手を出せる金額ではない。

 

雷 「これは無理そうね。」

電 「うぅ、美味しそうなのです。」

 

 電が名残惜しそうに看板を注視する。

 

響 「これは仕方ないよ。次行こう。」

暁 「はぁー。」

 

 四人は肩を落としながら別の所に向け、足を動かす。

 雨風も四人と一緒に付いていく時、チラッと看板に書かれた値段を見て、軽く思考した。

 その後雨風の私服を買いに行き、雷と暁が選んだ服をひたすら着せられるという事態が発生。

 二人は互いに試着した雨風を観察し、これだと思う一品を意見を対立させながらも良い品を探し回る。

 一方雨風については、既にかなり体力と気力を消耗していた。

 何せ何度も何度も試着を繰り返し、結果的に着せ替え人形と化した雨風は気だるそうにする。

 しかも両者共に善意で行うので大変断り辛いというオマケ。

 そこに響が二人が探しに行った隙を突いて、雨風を回収しに来た。

 

響 「ほら早く、元の服着て。」

雨風 「何するの?」

響 「雨風さんが絶対気に入るお店に行くよ。」

 

 響は得意げに伝えて雨風を急かし、雨風が着替え終わって電に伝言を残してから店を後にする。

 その店から三分程度を歩き、薄暗い裏路地に入っていく。

 裏路地には人は一切おらず、そこら中に小さなゴミが散乱していた。

 

雨風 「こんな所?」

響 「いい店は表にはないものさ。聞いた話だとだいぶ古いらしいが・・・ほら、あの正面の。」

 

 雨風は響の後ろ姿から視線を前に移す。

 先を歩く響の言った通り、正面にはボロボロの古い長屋のような建物が立つ。

 とても店には見えない建物のドアを響が開け、中に入る。   

 

雨風 「凄い・・・!」

 

 雨風は店内を足を踏み入れた瞬間、珍しく目を見開き驚愕した。

 店の店内には棚が敷き詰められ、棚一段一段全てを埋めつく量のお酒が置かれていた。

 雨風は艦娘になってからまだ日が浅いので、お酒の種類はあまり詳しくないが、それでも良い物ばかりと分かる。

 

響 「実は私も初めて来たから心配だったよ。だけど結果は見ての通りだね。」

 

 ニヤっと笑う響は棚のお酒を物色し始める。

 

響 「流石裏側の店だ。霧島シリーズがこんなに、それも結構な本数。んっこれは、十四代!十四代もあるじゃないか!」

 

 響は興奮して霧島の奥に隠れていた一本のお酒を取り出し、ラベルを見つめ瞳を輝かせる。

 その時、二人の後ろからかなり年季の入った声が聞こえた。

 

??? 「おぉ・・・お客さんかい?」 

 

 二人は声のした方を向き、その人物が目に入る

 見た目は七、八十歳位のお爺さんだろうか。

 エプロンを身につけ酒屋と書かれた服を着て、二人をまるで孫を見る風な視線で見つめる。

 

店長 「すまん、びっくりさせたかのぉ。儂しゃあここの店長をしとる老いた爺や。ふむぅ?嬢ちゃん、艦娘じゃろ?」

響 「───!その通りだよ。どうやって気付いたんだい?」

 

 初めて会った人物に正体が見破られた事に興味を持った響が問う。

 

店長 「ただの女子がここを知っとる訳ないからのぉ。軽く頭を使えば分かるぞぉ、ほぉッほぉッほぉ!」

 

 店長は面白いそうに笑い声を上げ、二人の顔を観察する。

 

店長 「しかし嬢ちゃん達、中々の美形じゃの。艦娘は別嬪ばかりじゃから先が楽しみじゃな!」

 

 再び面白そうに笑った後、大きく手を広げて言った。

 

店長 「嬢ちゃん達がここに来たのは酒を買いに来たのじゃろ?ここならどんな酒でもある!スコーピオ、リニア、ピスコ、ヤシ酒、ラク、何でも!おっ、そうじゃった。ところで嬢ちゃん達は何を買いに来たんじゃ?」

響 「・・・ウォッカはあるかい?」

 

 店長の質問に、少し考えて響が答えた。

 

店長 「ウォッカ、ウォッカかのぉー。はて?こっちじゃったか?」

 

 移動した店長が棚から取り出したウォッカには、日本語ではない別の言語で書かれている。

 すると響はその言語が読めるか、一人で大興奮して喜ぶ。

 

響 「Хара шоу(素晴らしい)!!しかも本場ロシアのウォッカだね!!」

 

 ウォッカを大事に抱える響が振り返り、雨風の傍まで寄って呟いた。

 

響 「雨風さん、折角こんな凄いお店を教えたんだ。少し位良い思いをしたいんだが、どうかな?」

 

 様子を探る目線を合わせる響に、雨風は小さく頷く。

 

雨風 「わかった。」

響 「Большое спасибо!(本当に感謝するよ)。」

 

 響はニカッと笑う。

 

店長 「酒を買うと荷物で重たかろう。儂しゃあが特別に届けてやったるわ、艦娘だったら鎮守府じゃろ?艦娘の子達のお陰で商売が出来るんじゃ、ついでに安ぅしたる。」

響 「それは本当に?雨風さんの奢───運良くいい思い出来そうだから容赦なく行くよ。」

 

 悪い笑みを浮かべた響は、店長と一緒に酒を良さげな選別して楽しむ。

 およそ十数分経って酒を購入し終え、二人は店の入り口から嬉しそうに店長が見送られつつ店を後にする。

 好物であるお酒に囲まれていた響が機嫌良く、雨風に話しかける。

 

響 「これで今夜は宴確定だね。雨風さんは参加するかい?」

雨風 「当たり前・・・!」

 

 雨風は反射的に答える。

 宴に参加以前に、そもそも酒の支払いをしたのは雨風だ。

 勿論響も、それを分かって冗談を口にしている。

 

響 「フフッ冗談さ。ちゃんと感謝しているよ。さて、戻ろうか。」

雨風 「着替え、嫌。」

 

 雨風はこの後の事を考え、少し憂鬱な雰囲気を全身から出させる。

 間違いなく戻ると、また着せ替えが始まる事に忌避感を覚えるが、残念ながら戻らない訳にもいかなかった。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

雷 「色んな服が手に入って良かったわ!」

暁 「むぅ、レディの暁に似合う物はなかったわね。」

 

 不満に語った暁に、響が店の中であった出来事を何気なく指摘した。

 

響 「暁が手に取って固まってた大人の下着、あれは買わなかったのかい?」

暁 「あっあれは、ちょっと暁には早すぎるかなぁ~って・・・・・」

 

 暁は赤く顔を染めて明後日の方向に目線を反らす中、雨風は不意に横を向き発した。

 

雨風 「少し、ここで待ってて。」

 

 雨風の言葉に疑問を持った電が聞く。

 

電 「雨風さん?どうかしたのですか?」

雨風 「すぐ終わる。響、手伝って。」

響 「私?別に構わないが。」

暁 「いいけど、早く帰ってきてね。」

 

 三人を置いて、雨風と響が一緒に歩いていく。

 

響 「それで何の用事だい?」

雨風 「あれ、全員分買う。」

 

 雨風が買うと言った物を見て、響が目を丸める。

 

響 「さっきも見たけど、結構高いよ。お金大丈夫?」

雨風 「計算は得意、全員食べれる。種類は任す。」

響 「そう?なら、また甘えちゃおうかな。」

 

 などと会話をしつつ、ある店の前に着いた。

 それはさっきも見掛けたが、値段が原因で諦めたクレープ屋だった。

 雨風は外出に誘って色々教えてくれた第六駆逐隊に、お礼として何か渡す気だった。

 しかし彼女らが何が好きなのか皆目検討も付かなかった時、第六駆逐隊全員がクレープに興味を示しつつ諦めた事で、雨風はこれだと思い決めた。

 

響 「さてさて。重大な役目を投げられた訳だけど、果たしてどれがいいんだろう?下手に攻めると失敗した時に文句言われそうだし、ここは無難な物の方で行こうかな。」

 

 響がどれにするか選んでいる時に雨風が何気なく周囲を見渡すと、隣の店に飾られていた品物が目に入った。

 

雨風 「あれ、良さそう。」

響 「よし、決まった。雨風さんは?」

雨風 「私はいい。」

響 「えっ?なん・・・うん、分かったよ。」

 

 何か考えがあると察した響が店員に注文を終えて雨風が支払った後、クレープ屋の店員がクレープを作り始める。

 窓から覗けるよう作られた調理場で、響は外からクレープの作る過程を楽しむ。

 

雨風 「すぐ戻る。」

響 「了解だよ。」

 

 そう言い残して雨風は立ち去り、隣の店から数分程で帰ってくる。

 

響 「クレープはこの通り受け取った。それで新しいその袋、何が入っているんだい?」

 

 左手にクレープの入った紙袋を見せつけながら言った。

 

雨風 「お土産?みたいな物、じゃあ行こう。」

響 「この紙袋の中を見て、暁達の驚く顔が目に浮かぶよ。」

 

 クレープの入った紙袋を見て、イタズラを模索する者の顔をして楽しそうな響であった。

 二人が三人の元へ戻ったら、まず最初にプンプンに怒った暁にお出迎えされた。

 

暁 「もぉー、何処に行ってたのよ!」

雷 「まぁまぁ暁、少し落ち着いたら?」

電 「結局、何の用事だったのですか?」

響 「私を含めた皆のプレゼントさ。」

 

 響は紙袋を手渡し、電が喜んで受け取る。

 

電 「プレゼントなんて嬉しいのです!何が入っているのです?」

響 「中を開けてからのお楽しみかな。」

 

 電がワクワクしつつ袋の中身を開けて、中身を理解した途端、電の表情が明るい笑顔に変化した。

 

電 「これ!貰ってもいいのですか!!」

暁 「電、何が入ってるのよ?」

雷 「何々?雷にも見せてぇ~。」

 

 気になり袋を覗いた暁と雷が、唖然としながら響に視線を送る。

 

響 「私じゃないよ。それは雨風さんが買った物だね。」

雨風 「誘ってくれた、お礼。」

暁 「暁達へのお礼なら遠慮なく貰うわよ!どれにしよっかなぁ!」

響 「あっこれ私のだから。」

 

 響がひょいッと袋から一つのクレープを取り出す。

 

電 「電はこれにするのです!」

暁 「えーと・・うーんと、暁はこっち!」

雷 「雷は最後よ。だって、残り物には・・・なんだっけ?まぁいいよね!」

 

 各々が選んだクレープを持った四人は、雨風と視線を交わし合い、雨風が頷いたら同時に言った。

 

第六駆逐隊 「「「いっただきまーす!」」」

 

 四人はまた同時にクレープにかぶりつき、そして恍惚な表情に移り変わる。

 

電 「はわわっ・・・甘くて凄く美味しいのです!」

雷 「見てみて!クリームと、カスタード?そんな事どうでもいいわね、美味しければ何でもよしっ!」

暁 「暁のは苺とブルーベリーね。まさに一人前のレディにはぴったり!」

響 「ふむ。酒の入ったクレープ、思ったより相性は良い。」

 

 四人それぞれがクレープの美味しさや中身を、互いに交換し合う。

 そして和気あいあいとクレープを食べつつ鎮守府に帰宅し、雨風と第六駆逐隊はお互いに感謝を伝えて別れる。

 部屋に帰った雨風は、ベッドに寝っ転がりゴロゴロとゆっくりして休む。

 帰宅してから一時間位だろうか、部屋のドアがコンコンとノックされた。

 雨風はベッドからドアへ移動し、ドアをドアノブを捻ってドアを開ける。

 廊下に居たのは大淀だった。

 

雨風 「何?」

大淀 「先程、雨風さん宛の荷物が大量に来ました。確認をお願い出来ますか?」

雨風 「分かった。」

 

 雨風は大淀と一緒に受付に向かう。

 移動の途中で大淀が荷物の中身を聞く。

 

大淀 「ところで雨風さん。あれだけの量の荷物、何を買ったんですか?」

雨風 「お酒。」

 

 荷物の中身を言われて、雨風がかなりの酒飲みと知っている大淀は概ね納得した。

 

大淀川 「あぁなるほど、納得しました。」

 

 こうして受付に着いた雨風は、部屋の端で何段も山になっている多数の木箱の中身を確認する。

 すると雨風の後ろで大淀が中に入ったお酒を何気なく覗き見る。

 

大淀 「んっ?初めて見ますねこのウイスキー・・・・って、これジャックダニエルじゃないですか!」

 

 箱の表紙に書かれた英語の名前を発見し、大淀は仰天した。

 いきなり驚いた大淀に疑問を抱いた雨風が振り向く。

 

雨風 「・・・凄いの?」

大淀 「かつて世界五大ウイスキーと呼ばれたアメリカンウイスキーの一つ、ジャックダニエルですよ!今は米国とは貿易はおろか殆ど連絡も取れないので、ここにある物を入手するしかない超レア品です!それに匂いの少ない箱を使っていますね。このウイスキーを所持していた方は中々分かっています───ハッ、すいません!いきなり変な事を言ってしまって!」

 

 ジャックダニエルを発見した興奮から我に帰った大淀は、大声を慌てて謝罪する。

 一方の雨風は、ジャックダニエルの箱を取り出し表紙など確認したら、大淀に譲り渡す。

 

雨風 「欲しいなら、あげる。」

大淀 「えっ!?いいんですか?そんな貴重なお酒を・・・」

雨風 「良いよ。」

 

 雨風からの予想外のプレゼントに、大淀が歓喜に満ちた様子で感謝する。

 

大淀 「あ、ありがとうございます!普段はあまり飲まないんですが、久しぶりに楽しめそうです。それしても、他のお酒も全部貴重な品ばっかりですね。こんな立派な物がいっぱい。何処に売ってるんですか?」

雨風 「秘密。」

 

 雨風はまだ街について知識が浅いが、お酒を購入した裏路地の隠れた店は、間違いなく人が集まるのは望んでいないだろう。

 このような店は秘密にしておいた方がいいと、直感的に理解していた。

 

雨風 「そうだ、神弓は?」

大淀 「神弓さんなら、演習で夜には帰ってくると思います。それはともかく、これだけの量を何処に置きますか?」

雨風 「鳳翔のとこ。」

 

 鎮守府に帰投した雨風は、寮に帰る途中に鳳翔の元へ立ち寄り酒の保管場所と管理を頼んだ。

 鳳翔からは一部の酒を融通する事で了承を得ている。

 

大淀 「鳳翔さんなら適任ですね。了解しました、私も運ぶの手伝います。」

雨風 「大丈夫?」

大淀 「えぇ大丈夫ですよ。こんな立派な物を受け取りましたし、これくらい手伝わないといけません。それでもこの恩は返しきれませんが。」

 

 雨風と大淀は大量の木箱を鳳翔の店に搬送し、道中で鳳翔に手伝ってもらいながら全ての搬送を完了させる。

 その後食堂で食事を取り、ドックの風呂にさっぱりして、夜になってから鳳翔の経営する居酒屋に足を運ぶ。

 経営する居酒屋と言うが企業のような感じではなく、食堂とは別に鳳翔の趣味で料理等が食べられる憩いの場になっている。

 

鳳翔 「いらっしゃいませ。あら、雨風さんでしたか。」

 

 居酒屋の女将の鳳翔が雨風を出迎える。

 店内を見渡し最初に普段と違うと雨風が感じたのは客の人数だった。

 気のせいかもしれないが人数が多く感じ、普段来ない艦娘も混じっていた。

 

伊勢 「あっ、来たよ。」

 

 伊勢が気づいて声を上げたら、中の艦娘が全員雨風に視線が集中する。

 そんな中響が席を立って近づき、申し訳なさそうに発言した。

 

響 「大変申し訳ないんだけど、いつの間にかお酒の存在を嗅ぎ付けられちゃってて・・・」

雨風 「なら、皆で飲む?」

響 「いいのかい?と言っても、私が言える立場ではないけど。」

鳳翔 「では、皆さんにご用意しますが宜しいですか?」

雨風 「やって。」

 

 雨風が鳳翔に頼んだ瞬間、歓声がたちどころに上がる。

 そして鳳翔は始めてからこうなると予想していたのか、既に料理を揃えて、テキパキと各机に置いていく。

 すると雨風の後方の扉が開き、提督と瑞鳳が入店してきた。

 

瑞鳳 「こ、こんにちはー!」

提督 「ふぅ、まだ始まってないかな?何とか間に合った?」

 

 提督と瑞鳳が息を少し切らして鳳翔に聞いた。

 

鳳翔 「ちょうど終わった所ですよ。瑞鳳さんと提督、こちらです。雨風さんも。」

 

 三人は空いた席に座り、提督と瑞鳳はどんなお酒か気になって、目の前にあるお酒の瓶を取る。

 

提督 「これは、どっからこんなの手に入れてくるのよ。」

瑞鳳 「ほんと凄いですよ───!」

 

 二人は出てきたお酒の銘柄と品質に唖然する。

 

雨風 「驚いた?」

提督 「その通り最初は驚いたけど、今はただ飲みたい!それだけよ!」

 

 提督はテンションが急上昇してきたのか、店内で意気揚々と宣言した。

 

提督 「折角良い酒があるんだから、今回は特別に食事は私の奢りよぉ!」

皆 「おぉーー!!」

提督 「みんなぁー!酒は持ったかぁ!雨風に感謝してかんぱーい!」

皆 「「「かんぱーいッ!!」」」

 

 それぞれが集まり、酒を楽しみながらつまみを食べる。

 雨風が入る前にも陽気な雰囲気だった店内も、お酒の導入で更に賑やかになる。

 カウンターの中央付近には、瑞鶴が座ってカツオの刺身を食べつつ時折赤ワインを飲む。

 その瑞鶴の隣で蒼龍と会話していた飛龍が、瑞鶴に話し掛けた。

 

飛龍 「瑞鶴って、結構ワイン好きだよね?そう言えば。」

瑞鶴 「うん?私はこの風味が好きなの。だから基本的にはお酒はワインばっかりよ。」

 

 瑞鶴は赤ワインを口にしてから答える。

 

飛龍 「ふーん。じゃあ試しに日本酒とか、どう?」

 

 飛龍は手に持ったおちょこを瑞鶴に渡そうとする。

 

瑞鶴 「日本酒は得意じゃないのよねぇ。」

飛龍 「折角色んな銘柄があるんだし、またには飲んでみたら?」

瑞鶴 「・・・・・少しだけ飲んでみようかな。」

 

 ワインと日本酒を何度も視線を往復させ、瑞鶴が悩みながら漏らした声を聞いて、逃げられないよう飛龍が真っ先に鳳翔を呼んだ。

 

飛龍 「鳳翔さーん!何か飲みやすい日本酒ってある?」

鳳翔 「飲みやすい日本酒ですか?そうですねぇ、これとかどうでしょう。」

 

 鳳翔が棚の日本酒をカウンターに置いたら、別の班から注文がくる。

 

金剛 「鳳翔さん。冷奴と唐揚げが欲しいデス!比叡は他に何かイマスカー?」

比叡 「私、つくね食べたいです!」

鳳翔 「分かりました、すぐ持ってきます。」

 

 急いで台所に戻り、注文された料理を作り始める鳳翔。

 注文を受け取り、作って運ぶを慌ただしく繰り返す鳳翔は、苦痛の顔付きではなくむしろ嬉しそうに作業を行う。

 一方長机の方に視点を移すと、榛名、響、夕張の三人がお酒を片手に談笑する。

 

榛名 「響ちゃんがウォッカが好きなんて、榛名、知りませんでした。」

響 「ウォッカだけじゃなくてウイスキーも好きだよ。でも、ロシア本場のウォッカがあるなら飲むしかない。」

夕張 「にしても、四十度のウォッカをよくそんなにガブガブ飲めるよね。」

 

 ウォッカをラッパ飲みする響に対して苦笑いの夕張。

 やはり酒の席とあって、艦娘同士の普段予想しない組み合わせも確認できる。

 端の方では、大淀と矢矧が雨風の譲ったジャックダニエルを味わいつつ話し合う。

 また別の机では長門がご機嫌な様子で愉快に声を上げる。

 

長門 「ハハッ、たまには仲間と飲むのも楽しいものだな。」

陸奥 「あら、だったら長門もジュースじゃなくてこっちを飲んだら?ここに色んな種類がびっくりする位あるわよ?フフッ───」

長門 「い、いや・・それは勘弁願おう・・・・・」

 

 さっきまでの威勢は何処に行ったのやら、長門は急にしおらしくなる。

 長門のリアクションを分かって言ったイタズラに、陸奥は小悪魔のような笑みを浮かべた。

 長門と陸奥と一緒に居る雨風に、机を移動して来た響が雨風の肩に手を掛ける。

 

響 「雨風さん、ちょっと呑み比べをしないかい?」

雨風 「私と呑み比べ?」

 

 響の言葉に雨風は自分に指を指して聞き返した。

 するとその場面の近くにいた日向が響へ警告を送る。

 

日向 「響、止めておいた方いいぞ。前の歓迎会でこの私を超えられてしまってな。異常な耐性を持ってるようだぞ。」

 

 無謀にも雨風に勝負を挑もうとする響は、日向が言葉で寧ろ戦いの趣に移り変わる。

 

響 「ほぉ~、それは是非とも勝負したいね。」

雨風 「私でいいなら。」

 

 こうして雨風に飲み比べの勝負を誘った響だった。

 しかし最終的な結果は────

 

響 「うぅ、もぉムリィ~・・・グフッ。」

 

 響は片手にコップを持ったまま顔面から机に突っ伏する。

 そしてそのままの体勢で寝始めた。

 最初から勝負の行方を想像していた長門は予想通りの結果に納得していた。

 

長門 「雨風相手に飲み比べでは勝てないだろう。さて、響を部屋まで連れていくか。」

 

 長門が椅子から立ち上がろうとした時、雨風が響をおんぶする。

 

雨風 「私が、行く。」

長門 「おいおい大丈夫か?雨風もかなり飲んでるだろ?」

 

 心配する長門を隣で顔を赤くなった陸奥が雨風の足や立ち姿を観察して言った。

 

陸奥 「長門、別にいいんじゃないかしら?雨風は見た感じ大丈夫だと思うわよ。」

 

 陸奥の言う通り、響を支える雨風はお酒を大量に飲んだにも関わらず普段と変わらない様子であった。

 

長門 「う、うーむ。確かにしっかり支えているし・・・分かった。雨風、響は任せたぞ。」

 

 不安に感じた長門だったが、陸奥に諭され雨風に響を託す。

 

雨風 「了解。」

 

 雨風は一言言って店を後にする。

 響の部屋に移動する途中、時折止まって涼しい海風を浴びつつ進む。

 そして響の部屋前に着くと、響を落とさないよう気を付けながらドアを叩く。

 

暁 「はーい!えーと誰ぇ?あっ雨風さん、何か用事?」

雨風 「響。」

 

 ドアから出てきた暁に見えるよう、軽く傾けて爆睡する響の顔を見せつける。

 響の顔を見た途端、暁の表情が呆れたものへ変化した。

 

暁 「まーた飲んできたのね。雷、手伝って!」

雷 「暁、何~?あーあ、分かったわ。雨風さん、響を届けてくれてありがとう。後は預かるわ。」

 

 響を暁が脇の下から手を通して、雷が足を持って支えて部屋の中に輸送する。

 その間に電は響のベッドを整理する。

 

暁 「うーん、暫く響にはお酒禁止しない?」

雷 「どうせこっそり飲むに決まっているわ。司令官とか鳳翔さんに言った方がいいんじゃない?」

 

 輸送しながら続々と響禁酒令の構築に取り掛かる二人を尻目に、雨風は一言掛ける。

 

雨風 「じゃあ、おやすみ。」

電 「あっ、おやすみなさいなのです!」

 

 雨風は軽く手を振りながら部屋のドアを閉める。

 そして戦艦寮の自分の部屋の前まで歩き、ドアをノック。

 部屋から神弓が出てきて、即座に顔をしかめた。

 

神弓 「雨風お帰り───って、お酒臭ッ!!どれだけ飲んできたの!」

雨風 「結構、いっぱい?」

神弓 「それじゃ分からないって。うんと何だっけ、お酒の後は水だったっけ?とにかく中に入ってほら。」

 

 部屋に入りながら雨風は大きな欠伸をする。

 新しい体験と夜遅くまで飲んだ雨風は今、とにかく眠たかった。

 しかしこのままでは神弓から注意と外出の出来事を長々た聞かれるのは明白だったので、雨風は最終兵器を私服の入った紙袋から取り出した。

 

神弓 「水持ってきたよ。それにしても雨風はお酒を少しは───」

雨風 「んっ。」

 

 神弓から貰った水入りコップを雨風が受け取ってすぐ、神弓に最終兵器を差し出す。

 

神弓 「・・・何これ?」

 

 雨風が差し出したのは、掌サイズの高級そうな小さな箱だった。

 神弓はいきなり箱を差し出されて困惑しつつも、箱を受け取った。

 そして神弓が箱を受け取った瞬間、雨風は静かに一目散へベッドに向かう。

 

雨風 「寝る。」

神弓 「えっ、ちょ雨風!」

 

 雨風は何も言わせず強引に流れで押して、ベッドの入り込み目を瞑る。

 雨風の一連の行動に神弓は注意やら何やらを諦めて、手渡された箱を開ける。

 そしてその時雨風が細目で神弓の見つめ、ほんの僅かだけ薄く口角を上げた。



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26:動き始める戦略

また二ヶ月・・・・もはや何も言うまい。( ;´・ω・`)
途中からスマホを入れ換えて若干妙な点があると思われますが、ご了承下さい。


 辺りは一面真っ白な雪に覆われ、所々に高い針葉樹が立っている。

 天気自体は比較的良かったが、周囲の気温は体が凍える程低い。

 それもそのはず。

 なにせ急斜面になった崖の先を覗けば、目と鼻の先に流氷や氷山が浮かぶ北極海。

 そんな場所に、雪原迷彩を施した服で身を包む兵士が二人歩いていた。

 

兵士1 「あー、警戒ってめんどくせぇな。」

兵士2 「仕方ないだろ。深海棲艦の連中がどっから攻めて来るか分からないんだから。」

兵士1 「つってもよぉー。北極海まで深海棲艦が来ると思うか?どうせなら鹿とか猪とかが出てくりゃ、ウォッカのつまみになるんだが。」

 

 兵士1は手に持つ年期の入ったAK-74の銃口を近くの木々に向ける。

 それを見て兵士2は呆れたように口にする。

 

兵士2 「一応奴らはキスカ島当たりまで来てるらしいぞ。こっち側に来たって不思議じゃねぇ。」

 

 歩き続けた兵士達は、あと数歩で海に落ちる崖の端まで移動し北極海を見渡す。

 

兵士2 「だが、いくら任務でも風景がこうも代わり映えないと飽きる。」

 

 内心ため息をつきながら兵士達は視線を動かし続ける。

 すると、兵士1の視界にあるものが映った。

 

兵士1 「おっ?ありゃあ、なんだ?」

兵士2 「何かあったか?あれの事か。」

 

 二人が発見したのは、遠くの方の崖に見える水面に浮かぶ一枚の流氷だった。

 その流氷はゴツゴツした岩の表面に引っ掛かったのか、そこから動かない。

 しかし二人が気になった理由はそれではない。

 あの浮かぶ流氷の表面がネズミ色ぽいものに覆われているように見えるからだ。

 

兵士2 「こりゃあれだ。ここらの崖から砕けた砂利が積み重なってるんだな。」

兵士1 「こんなの初めて見たぞ。しかし遠くて見辛い、傍まで行って見ようぜ!」

兵士2 「そんな暇してるなら基地に帰って、報告して、飲むぞ。今日はシャフスキーが立派なもん手にいれたらしい。」

兵士1 「おっならそっちが最優先だ。ちょうど手持ちのウォッカが無くなった良いタイミングだ!」

 

 陽気な二人の兵士は、任務を終えて来た道を戻っていく。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

明石 「よーしよしよし!!問題なく今日も上手く行ったわ!」

 

 工廠でドライバーなどの工具を両手に持つ明石が、全身汗だくになりながら疲れた様子で床に座る。

 明石が行った事は、艤装の武器等の安全装置を起動させる作業であった。

 しかし簡単で苦労しない作業なはずだったが、今終えた神弓の艤装に関しては細心の注意を図っていた。

 

神弓 「お疲れ様です。いつもご迷惑お掛けしてすいません。」

 

 ほぼ毎日同じ事で謝罪する神弓に、半分語り掛けるみたいに明石は伝える。

 

明石 「仕方ないわよ。これの整備が出来るのは私だけだし、他の子はおろか夕張や提督すらあの実弾の中身を知ってないんだから。それにしても───」

 

 すると明石は座りっぱなしでも辛いと感じたようで、汚れた床に力無く倒れて大声で嘆いた。

 

明石 「相変わらず心臓によろしくないのよぉー!!ねぇ神弓。もし整備に失敗して爆発したら、鎮守府だけで済むかしら?」

神弓 「多分鎮守府通り越して東京都全域位まで行きますよ。最悪の場合はですが。」

 

 疑問を口にした明石に苦笑い気味で神弓が返答する。

 既に返答が想像していた明石が小さく漏らす。

 

明石 「だよねぇー・・・ん?雨風ー何してるのー!」

 

 疲れて寝っ転がる明石の視界に、機械の前で佇む雨風が入った。

 雨風が何をしているか疑問を持ち、そのままの体勢で叫ぶ。

 

雨風 「これ、何?」

 

 と、雨風が目の前の機械を指差し質問する。

 雨風の気になった物は工廠の端に配置された機械だった。

 大型トラック並みの大きさを持つ機械は、シャッター付きの車庫みたいなものを土台として、その上に溶鉱炉に近い円筒のものが合体していた。

 

陸奥 「それは開発装置よ。」

 

 いつの間にか雨風の後ろにいた陸奥が、雨風の両肩に手を掛け耳元で答える。

 

雨風 「開発装置?」

 

 陸奥に対して特に驚いた様子を見せず、雨風が陸奥の方に振り返り、聞き返す。

 すると陸奥は、雨風のリアクションが無かった事に少し残念そうな顔をしつつ話を続ける。

 

陸奥 「そうそう開発装置よ。これを簡単に言えば、私達の砲とか航空機とかの装備を作るものね。」

神弓 「へぇー!つまりこれで強い装備も手に入るという事ですか?」

 

 神弓と明石がこちらに近付き、神弓が陸奥へ質問した。 

 しかし陸奥はちょっと難しい顔をする。

 

陸奥 「うーん。それも間違ってはいないんだけどぉ。」

明石 「この装置、何分安定しないのよ。同じ量で同じ資材、そして同じ人がやってるのに中身はバラバラ。まるでルーレットをする気分よ。」

陸奥 「それに人によって中身が大きく変わるし、沢山資材を使ったからって良いものが出来るとは限らないわ。実際ほぼ運試しだからね。」

神弓 「えー・・・それって本当に機械ですか?」

 

 明石達の会話に神弓が呆れを含む声で言う。

 神弓にとって機械とは、正常に動作し高精度で安定した動きをするものと認識しており、開発装置が本当に機械なのか疑わしく観察する。

 

陸奥 「そもそもこれ、妖精さん製よ。私達は専門外。」

 

 妖精さん製の単語一つで神弓と雨風は納得する。

 

明石 「まぁいいわ。で、今日は陸奥が担当?」

陸奥 「そうよ。今日は三回で、10.10.150.150.1で行ってみましょうか。」

明石 「りょーかい。妖精さんも手伝ってー!」

 

 近くで他の艤装の整備中の妖精さんが明石の前に集まり、資材の数字を報告してそれぞれが動き出す。

 そして周りで作業している間、神弓はさっき陸奥の口にした数字を質問する。

 

神弓 「さっき言った数字は何ですか?」

陸奥 「種類別の使う資材量の事よ。燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト、開発資材の順でね。ほらあれ。」

 

 明石の操作する天井クレーンが、運搬用のアームで大きなドラム缶を持ち上げ開発装置まで輸送する。

 

陸奥 「そしてあの資材を上の方から入れるの。」

 

 熔鉱炉のような形の入り口の上にクレーンが到着し、アームが開く。

 

 ───ガランガランガシャンッ!!

 

 神弓が咄嗟に耳を押さえるほど、重い金属同士が激しく衝突する音が建物全体に響き渡らす。

 落ちたドラム缶は装置の中へ消え去り、クレーンは次の資材を運び込む為再び移動を開始する。

 耳の押えを解いて、神弓は戸惑いながら陸奥に聞く。

 

神弓 「燃料がドラム缶ごと行きましたが、大丈夫なんですか?」

陸奥 「まぁ、まぁ専用の装置だし・・・大丈夫、なんじゃないかしら?今までも壊れてなかったし。」

 

 数分後、資材搬入を終えて陸奥が機械に取り付けられたレバーを下ろす。

 すると装置が動き始め、中からハンマーで叩く感じの打撃音が聞こえたと思ったら、プシューと蒸気と共にシャッターが上がる。

 装置の中から出てきたのは一つの12cm単装砲。

 

神弓 「装備が出てきました!」

明石 「12cm単装砲、残念ながら外れ。」

 

 明石は単装砲を残念そうに取り出し、床に置く。

 

陸奥 「じゃあ二回目行くわよー!」

 

 意気揚々と二回目に突入した陸奥が引いた物は───

 

雨風 「何?これ?」

 

 現れたのは、一つの段ボールに入ったぬいぐるみのペンギンと、なんか良く分からない白いモコモコ。

 もはや装備ですらない物に雨風は呆気を取られる。

 一方陸奥はため息をつく。

 

陸奥 「大外れも良いとこ。これならまだ単装砲の方がマシね。」

明石 「あちゃー、出てきちゃったかぁ。今日は本当に駄目な日っぽいね。倉庫に入れて置くよ。」

神弓 「えっ?なんでこんな物が?」

 

 装備を製造する物なはずなのに、装備以外が完成する開発装置に対し疑問を通り越して困惑する。

 

明石 「時折出てくるの。お蔭で倉庫に溜まってきてね、百個以上あるわよ。欲しい?」

神弓 「いえ、いいです。」

明石 「やっぱりそうよねぇ。」

 

 神弓の返答を予想していた明石は装置の中からぬいぐるみを取り出す。

 いざ三回目と行く時、陸奥は何かに閃き雨風達に視線を移す。

 

陸奥 「そうだわ。代わりにやってみない?」

神弓 「えっいいんですか!あっ、でもあと一回しか出来ませんよね?」

 

 神弓は隣に立つ雨風をチラッと見る。

 それに対し雨風は小さく頷く。

 

神弓 「ではやらせて頂きます!」

 

 若干の緊張感もあるが、何が出るか内心ワクワクしている神弓がレバーを思い切り下げた。

 

神弓 「・・・・・あれ?」

 

 開発装置は動かなかった。

 神弓がちゃんとスイッチが入ってないのかと思い、二回程レバーを下げるがそれでも動かない。

 

神弓 「もしかして、壊しちゃった?」

 

 装置を壊したかもと神弓が恐れる中、代わりに雨風がレバーを下げるがやはり反応はない。

 

明石 「ちょっと待ってね。」

 

 艤装の整備場から明石が工具を持ち出し、開発装置の点検を行う。

 

明石 「んー、何処にも異常はないわね。妖精さんの方は?」

 

 別の箇所を調べていた作業服を着る妖精さん達も、皆首を横に振る。

 ひとまず点検口を閉じて、明石が陸奥に言う。

 

明石 「取り敢えず陸奥。動かしてみて。」

陸奥 「了解よ。」

 

 明石が装置から離れたのを確認して、陸奥がレバーを下ろす。

 そしたらこれまでと変わらず装置が正常に動作し始めた。

 

明石 「理由は知らないけど、どうやら二人はこの装置を使えないみたいね。」

神弓 「そんなぁ~・・・!」

 

 開発装置を使えないと分かり、神弓は落ち込む。

 

陸奥 「しょうがないとは言え残念ね。二人が回したらミサイルとか雨風の主砲が出てくると思ったのに。」

明石 「私達の電探でミサイルの誘導は出来ないし、61cm砲は発射の反動で艤装が破断しちゃうわよ。」

 

 陸奥の期待を苦笑い気味に明石が反論する。

 そんな時、鎮守府全体に放送が流れた。

 

瑞鳳 「「本日1200にて、講堂で全体作戦会議を行います。各員、遅れないよう注意してください。以上!」」

 

 内容を伝えて放送は終わる。

 

明石 「全体会議って事は、大規模作戦ね。」

神弓 「陸奥さん。多分あれじゃないですか?」

 

 神弓は前に聞いた提督の話を思い浮かべ、言う。

 

陸奥 「あれ?あぁあれね、うん恐らくだけど。」

明石 「それにしても1200って直ぐじゃないの。もう少し早く言って欲しいよねぇ。夕張、行くわよー!」

夕張 「あっ、はーい!」

 

 以前も使用した講堂に向かい、神弓は沢山並べられた椅子の一角でお手洗いに行った雨風用に左隣の席を確保してから着席。

 そこで暫し待っていると、ある人物達が右隣に腰を掛け話し掛けてきた。

 

天龍 「よお神弓。久し振りだな!」

龍田 「こんにちは~、元気にしてたかしら?」

神弓 「あっお久し振りです。天龍さんに龍田さん!」

 

 神弓はスケジュールが合わず、暫く会っていない二人に会えて笑顔を向ける。

 天龍が椅子に座り、新たな戦いに期待を抱く。

 

天龍 「かーまた大規模作戦だ。勿論出番はあるよな!俺様だって最前線で戦いぜ!!」

龍田 「しょうがないよ天龍ちゃん。それに遠征だって立派な任務よ。」

神弓 「私が言うのもどうかと思いますが、龍田さんの言う通りだと思います。結局のところ、資源がなければ私達は動けませんから。」

 

 そう言いながら神弓が軽く頭を下げたら、龍田が神弓の髪に取り付けられた物を発見する。

 

龍田 「って、あら~?神弓ちゃん。その髪飾りどうしたの?」

 

 龍田が気になったのは、神弓の左こめかみ辺りに付けられた、太陽と弓をモチーフにした小さな髪飾り。

 龍田に言われ、髪飾りを注視する天龍。

 

天龍 「ん?髪飾りか?俺は全然気づかなかったぜ。」

龍田 「駄目よ~天龍ちゃん。ちゃんと女の子の変化には気付いてあけないと。それでその綺麗な髪飾りはどうしたのかなぁ?」

 

 すると気付いて貰ったのが凄く嬉しいのか、満面の笑顔で神弓は話した。

 

神弓 「雨風からのプレゼントです!この前に貰って物で、お気に入りなんですよ!!」 

天龍 「へぇー。にしてもしっかり似合ってるじゃねえか。」

神弓 「えへへっ!」

 

 神弓を褒める天龍と対照的に、龍田は興味深そうに髪飾りを見つめる。

 そして一つの結論を導き出した。

 

龍田 「太陽と弓をモチーフにしているのかしら?雨風もいい趣味してるわねぇ♪」

天龍 「そうなのか龍田?」

 

 何かに納得した龍田に、どういう意味だと疑問に思う天龍が聞く。

 神弓の影響で機嫌の良い龍田は二人へ簡単に説明する。

 

龍田 「神話であったのよ。太陽はきっと天照大神を意識していて、そこで弓の描写があるの。天照大神は有名な神様。つまり神と弓で神弓───って、雨風は言いたかったんじゃない?そこまで考えているかは知らないけどね♪」

 

 話を面白そうに聴いた天龍が神弓の方向を向き、提案を出す。

 

天龍 「そんな事があったんだな。神弓、そんなの贈り物を送ってくれたんだ。逆に今度贈り返してやれよ。」

神弓 「はいっ!!」

 

 提案に対して、神弓はハッキリと嬉しそうに答える

 その後、三人が雨風へ贈る物について意見を交換している中、雨風がお手洗いから帰ってくる。

 

雨風 「何の話?」

天龍 「あー気にしなくても大丈夫だ。ちょっとした雑談だからよ。なぁ神弓。」

神弓 「そうですね!」

 

 疑問に思う雨風であったが、別に気にしなくていいと判断して席につく。

 

雨風 「・・・分かった。」

 

 雨風が深く聞いてこなかった事に三人は内心ホッとする。

 そして席の大半が埋まった頃、提督と瑞鳳がステージ上に現れた。

 すると講堂内は一気に静かになり、隣の艦娘の息遣いが聞こえる位に無音になる。

 全員が目線を上げたのを確認して、提督から作戦が発表された。

 

提督 「本日発表する作戦について説明する。と言っても簡単な流れだけどね。」

 

 艦娘全員が見える程の大きなスクリーンに、日本から地中海の辺りまでの広大な地図が表示される。

 

提督 「まず最初に最も重要な点を伝える───今回は二つの作戦を同時並行して行われる事。」

 

 提督のその言葉に艦娘達に小さくざわめきが生まれる。

 

提督 「一つ目は皆が薄々気がついていると思うけど、マダガスカル島の無力化もしくは撃滅。そしてこっち本命の、日本─台湾─シンガポール─スリランカ─ソコトラ島─スエズを結ぶ欧州戦略路の構築よ。」

 

 深海棲艦の泊地を撃滅しつつ地球半周という長期的な航海を平行で行う作戦に、不安感から席の至るところからヒソヒソと声が聞こえる。

 

提督 「今現在、スリランカ島付近を境界線として西を深海棲艦、東を我々が握っている状況。我々はここで一気に攻勢を掛けて、欧州と繋がりを作ろうと考えている。ここまで質問は?」

 

 提督が質問者の有無を確認すると、長門が手を上げて立ち上がる。

 

長門 「では私が行こう。そもそもだ。何故我々は作戦を同時に進めないと行けないのだ?マダガスカル島を攻略してからの方が遥かに安全だ。わざわざ戦力を分割する必要性はないのでは?」

提督 「確かに長門の言う通りね。普通ならそれで行くべきなのは分かっているのよ。以前ならそうしていたわ。でも今私達が戦う相手は深海棲艦だけじゃない。」

長門 「───超兵器か。」

 

 長門は目を細め視線を鋭くし、もう一つの相手を口にした。

 その相手の名前に提督が深く頷く。

 

提督 「そう。超兵器は恐ろしい戦闘力を誇る。それは皆も承知だと思う。だから私達は超兵器に対抗出来る対策を開始している。雨風と神弓は勿論、ドレットノートの件で他の艦娘でも致命的な被害を与えられる事を知った。それに超兵器の情報だって手に入れた。そして訓練で少しでも対応出来るようにしている。」

 

 ここで提督は一拍おいて言葉にした。

 

提督 「じゃあもし超兵器が日本の勢力圏内ではなく、欧州に出現したとしたらどうなる?」

長門 「それは・・・考えるだけでも恐ろしいな。」

 

 少し考えた長門も良い予想が一切出来なかったようで、難しい顔になる。

 長門以外にも、超兵器と交戦した艦娘全員が同じく結論に行き着く。

 

提督 「速度だけに特化したヴィルベルヴィントですらあの状態。それが更に強力なものが出た場合、雨風達は居ない、始めて観測するので対処法も分からない。最悪の場合、欧州が丸々機能不全に陥る可能性だってあるの。だから可能な限り早く対策をさせる為に動く必要がある。」 

長門 「あぁ、しっかりと理解した。」

 

 ひとまず理解した長門は席に座る。

 

提督 「次に動きについて。この前ようやく基地化が成功したスリランカ島に各地から戦力を集める。その際、欧州遠征軍とマダガスカル島攻略軍に振り分ける。基本的に欧州遠征軍は空母を主軸に、マダガスカル島攻略軍はそれ以外に振り分ける予定よ。雨風達は二人とも欧州遠征軍に振り分けるつもりね。」

高雄 「あの、提督。質問があります。」

提督 「いいよ。質問って?」

高雄 「雨風さん達を欧州遠征軍とマダガスカル島攻略軍にそれぞれ別けるべきでは?」

 

 提督は高雄の質問に苦い顔をする。

 どんな人物でも雨風達二人を分割して、それぞれに配備した方が良いのは想像がつく。

 普通の状況ならば、が。

 

提督 「あぁ・・・うん。私もそうやりたいのは山々なんだけど、欧州遠征軍には日本の代表団を含むのは分かるよね?でも代表団に実は一人とんでもない方が混ざっていて・・・・・」

高雄 「とんでもない方?」

提督 「マダガスカル島攻略軍の指揮はリンガ泊地の提督が担当。欧州遠征軍の指揮官は元師閣下なの。」

高雄 「えっ!?元師閣下ですか!!」

 

 言い難そうに発表された海軍最高のトップの名前に、高雄以外全員が唖然したり困惑していた。

 苦笑いで当時の会議の光景を思いだしながら提督は言う。

 

提督 「私達も反対したんだけどねぇ・・・妙な所で頑固なのよ。絶対に元師閣下を死なせる訳にはいかないから、仕方なく雨風達を二人とも起用したのよ。」

高雄 「なっなるほど・・・・元師閣下なら仕方ありませんね。」 

 

 海軍の最高指揮官を戦死させた場合、士気の低下、海軍の信用の低下、組織の混乱などが容易に想定される事態に、若干動揺しつつも納得した高雄は着席する。

 そして提督が次の内容を話そうとした時々、いつの間にか手を挙げていた赤城に気付き、赤城を指名した。

 

赤城 「はい。まず、マダガスカル島は航空戦力が主力でありながら欧州遠征軍に空母を振り分けた時、制空権を確保が可能か不安が残ります。場合によっては前線基地のスコトラ島が爆撃に晒されるのでは?」

提督 「それについては私も懸念していた。でも対策はあるわ。簡単に流れを説明すると、欧州遠征軍がマダガスカル島攻略軍に先んじて紅海に向け出港。すると深海棲艦は周囲の機動部隊を差し向けてくるでしょうね。それを雨風達の力を使い撃滅する。そして道中に神弓が艦隊から離脱しマダガスカル島の泊地に特殊弾頭ミサイルで泊地等にある予備機を破壊する。」

 

 普段通り流れを説明する提督の口から、特殊弾頭ミサイルの単語が現れた途端、雨風達の表情が曇る。

 

提督 「これで敵の航空戦力はかなり弱まるはず。そして空母が出撃している間のスコトラ島の防衛は陸軍航空隊が請け負ってくれるわ。」

赤城 「り、陸軍航空隊ですか!?」

 

 赤城は全くもって想定してなかった対策に驚く。

 どの国でも陸海空のトップは縄張り争いで仲が悪い。  

 それは日本の陸軍、海軍も例外ではない。

 共に根本的な戦略が異なり、面倒なプライドもある。

 そもそも陸軍に交渉する事自体、海軍内で争いだって起こる。

 そしてようやく要請を出せたとしても、あの陸軍がOKを出させるまでかなりの譲歩で苦労したのは見て取れる。

 

提督 「取り敢えず少しの間はスコトラ島も安全と言う事だけ分かって頂戴。他に質問がある?・・・・・・居ない感じかな?それじゃあ編成とか日程とかの詳しい内容はまた後日。解散!」

 

 提督と瑞鳳が姿を消し周りの艦娘達がゾロゾロと講堂を出始める中、雨風と神弓の二人は周囲に聞こえないようこそこそ話した。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

提督 「あーもーやだぁ~・・・・」

瑞鳳 「ほらほら提督。元気出して!」

 

 執務室に帰る途中の廊下で提督は項垂れる。

 

提督 「陸軍がもう少し長く基地航空隊を貸してくれたらなぁ~、こんなに急ぐ理由は無いんだけど。」

瑞鳳 「一応要請を受けてくれただけでも良かったじゃないですか。拒否されるより良いとも思いますよ。」

提督 「それもそうかぁ。・・・よし!ここから気分を入れ換えて行きましょう。あっ、そう言えばこの前の予算の詳細って部屋にあったっけ?」

瑞鳳 「それは事務室の方にあった気が、ちょっと取ってきますね。」

提督 「よろしく。」

 

 そして提督は執務室の反対にある事務室に向かう瑞鳳と別れる。

 執務室に到着し机に溜まった書類に手をつけようとした時、ドアがノックさせる。

 

提督 「あれっ?鍵開いてるからどうぞー。」

 

 ドアが開かれ入ってきたのは雨風、神弓、そして明石だった。

 

提督 「これはまた珍しい面子だね?それでどうしたの?」

雨風 「提督に相談がある。」

提督 「相談?どんな?」

雨風 「作戦の内容、一部変えた方がいい。」

 

 そう難しくない相談だと思っていた提督は、作戦と言う重要な内容に目を細め、雨風に問う。

 

提督 「具体的にはどの箇所かな?」

雨風 「特殊弾頭ミサイルのところ。」

提督 「理由を聞いてもいい?」

明石 「あっ、それについては私の方からお伝えます。」

 

 明石が雨風に代わって提督に理由を説明する。

 

明石 「まず提督は、特殊弾頭ミサイルの特殊弾頭がどのようなものだと考えていますか?」

提督 「演習の報告書で広範囲を熱で焼き付くものって聞いたけど。」

明石 「それは私が演習用に特別に作った弾頭なんですよ。ORNDCXは知ってますか?」

提督 「ORNDCXって言ったら、新規開発された高性能爆薬じゃない。結局危なかっしくて廃棄されるって聞いたわよ?・・・・・ まさかそれを使ったんじゃないでしょうね?」

 

 危険な爆薬が無断使用したと察した提督が、明石をじっと見つめる。

 

明石 「そのー、少し拝借させて頂きました。すいません。」

 

 予想通り明石が使用した事を認め、提督は色んな意味で呆れる。

 今すぐ危険な廃棄物の件で提督かわ明石に問いただしたい所だったが、提督は本題から逸れるのでこの場では口にしなかった。

 

提督 「で、何でそれを使ったのよ。そんな威力の高いものを使わなくたって、演習用の炸薬で問題ないでしょう?」

明石 「それが、そうもいかないんです。正直実弾の方が少々凶悪で、演習用で近づけるにはあの炸薬を使うしかなくて・・・」

 

 実弾の中身について、言葉を濁す明石に提督はストレートに聞いた。

 

提督 「結局実弾の中身は何なの?」

 

 提督が中身を聞いた途端、明石が口を閉じ、三人が互いに視線を合わせて何も発しなくなる。

 そんな状態が数分経った頃、これでは埒が明かないと判断した提督が口を動かす。

 

提督 「確か特殊弾頭を装備しているのは神弓よね。中身を教えて貰えるかしら?」

 

 まさか自分自身に聞かれるとは思わなかった神弓は、慌てふためくき挙動不審に陥るが、やがて心の決心が決まったのか中身を提督に伝えた。

 

神弓 「えっと、特殊弾頭の本当の名前は───核弾頭、です。」

 

 提督はこの一瞬だけ、時の流れが完全に止まったと勘違いしてしまった。

 それほど、提督にとって全くもって想定しない最悪の回答だった。

 いったい何分経っただろうか?もしかしたら僅か数秒だったかもしれない。

 しかし提督に分からなかったし分かる気もなかった。

 そして驚愕に揺れる提督の瞳が元の光を取り戻す。

 

提督 「・・・・・冗談だったら本気で怒るよ。」

神弓 「果たして冗談で言える中身だと思いますか?」

提督 「ごめんなさい、疑って。」

神弓 「いえいえそんな事はありません。そんな物を積んでる私が悪いんですから。」

 

 神弓が自身が悪いと言うものの、装備を選んだのは彼女じゃないと提督も分かっている。

 

提督 「別に神弓は悪くないわよ。でも、そうねぇ・・・・核かぁ。」

 

 驚愕に恐怖、呆れや積まざる終えない状況への理解がぐちゃぐちゃに混ざり合い、提督の混沌の世界に引き込む。

 

提督 「少し、時間を貰うわ。」

 

 手で軽く頭を抱えながら小さく呟く。

 

明石 「こちらは特殊弾頭についての簡単な資料です。二人共、行きましょう。失礼しました。」

 

 資料を机に置いた明石に続き、雨風の順で部屋を出て最後に申し訳なさそうに神弓が部屋を後にした。

 たった一人の状態になった提督は、気だるげそうに椅子にもたれ掛かり、心の声を漏らす。

 

提督 「特殊弾頭。正直言って、特別な爆薬とかが使用されてるものかと。にしても核弾頭とは一切考えてもみなかった。」

 

 提督は明石の残した資料に目を通す。

 資料書には、長距離巡航ミサイルと魚雷に核弾頭を搭載する。

 そして不幸中の幸いにも魚雷の方はせいぜい一個艦隊に被害を与える程度の破壊力であり、いやまぁこれでも十分凶悪だが問題なのは───

 

提督 「5ktから200ktまで対応可能な可変威力型熱核弾頭。」

 

 広島型原爆が15kt程と考えると、深海悽艦の航空戦力はおろか最大威力で使用すればマダガスカル島の泊地を完全破壊尽くす事も可能だろう。

 勿論作戦で使用を考え、一国一都市を破壊する熱波を放出し、全ての生き物を数十年間以上死滅させる放射能をばら撒く覚悟あればの話だが───

 提督はストレスで重い身体を動かし、マダガスカルの地図を取り出す。

 

提督 「長距離から核を使用すれば、この上なく安全で確実にマダガスカル島の戦いは勝利は可能。私達の艦隊は殆ど損害もなく終えれる。でも、使用すればあの子達の精神面の被害も大きく、核という禁断の一手を使用した事に大半の子達が恐れを抱くはず。そもそも私がそのスイッチを押せるとするかと言われてみれば・・・・・分からない。」

 

 提督は悩んだ。

 その間でも、止まらず時間は過ぎ去っていく。

 決断出来る時間は作戦の修正を含めると、そう長くは残ってない。



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27∶欧州遠征軍

 作戦の概要が公開された数週間後、欧州遠征作戦及びマダガスカル島攻略作戦が実行に移された。

 実行の際、雨風達の遠征軍は攻略軍と共に南下しシンガポール付近のリンガ泊地で、東南アジアの各基地鎮守府から同行する艦隊と合流、スリランカ島を目指す。

 二つの作戦を平行で進める為、艦隊は目を見張る程大規模になったが、中には少し異質と言える艦───いや、陸軍の特種船丙型のあきつ丸が含まれていた。

 この特種船丙型という艦種は、簡単に言えば揚陸艦である。

 今回その揚陸艦のあきつ丸が呼び足されたのはスリランカ島に陸軍航空隊をピストン輸送する事だった。

 しかし本来であれば海軍の空母を使用すれば一回で済む輸送を陸軍は拒否した。

 理由は単純明解、陸軍が海軍を信用しないからだ。

 この陸軍と海軍の軋みは、昔も今も恐らく今後も頭を悩ませる問題であろう。

 やがて艦隊がスリカンカ島に到着し、陸軍航空隊の輸送が完了後稼働状態へ移った時、欧州遠征軍は地中海への裏口であるスエズ運河に進路を取った。

 太平洋とまでは行かなくても広大なインド洋。

 その空を、比較的低高度で一機の機体が飛行していた。

 独特の逆ガル翼に二千馬力を誇る誉二一型が唸りを上げるその機体の名は流星改。

 最高速度500km⁄s以上の高速機でありながら機動性も悪くなく、装備次第で爆撃機にも雷撃機にもなり、二挺の翼内20mm機銃はある程度の空戦も可能な汎用機である。

 流星改は翼を軽く傾け大きい円を描いて旋回し、搭乗妖精は海上を見渡し周囲を警戒する。

 しかし海上にこれといったものは見当たらず、時折進路を修正しつつも捜索続けた時、目的のものを発見した。

 浅い海面付近に沈む一つの黒い影。

 流星改はその黒い影に向かって機首を下げ、緩降下へ移る。

 降下と同時に爆弾槽が開かれ、中に搭載されたキラリと光る巨大な爆弾。八十番とも呼ばれる800kg爆弾であった。

 高度を下がり爆撃照準器に黒い影が写った時、爆弾が投下され、大きな水飛沫が上がり爆弾は海中に姿を消す。

 この爆弾は時限信管が設定されており、着水およそ三秒で時限信管が起動。

 大きな水柱が立ち上り、波が収まった海面には重油や残骸が撒き散らされた。

 その残骸等を確認した流星改は、撃沈の電報を所属艦に送った。

 

加賀 「「加賀から神弓へ伝達。五番機が敵潜水艦を撃破。」」

神弓 「こちら神弓、了解しました。にしても加賀さん凄いですね!もう三隻目ですよ!」

加賀 「「皆、優秀な子達ですから。」」

 

 加賀から内心嬉しそうな返答が帰ってくる中、神弓のパッシブソナーに魚雷発射管の注水音を捉える。

 

神弓 「二時の方向、距離95!一番近いのは・・・瑞鶴さん!三番機の直下に敵潜水艦です!」

瑞鶴 「「えっと、三番機?分かったわ!」」

 

 指示を受けた瑞鶴三番機が潜水艦を中心に右旋回して

攻撃態勢に移ってる頃、神弓は既にソナーが探知した複数の潜水艦に上空を飛ぶ空母の艦載機に指示を出していた。

 ここで一つ疑問に思うのは、何故潜水艦を捕捉した神弓自身が攻撃しないのかだろう。

 それは前にも伝えた通り対潜ミサイルであるASROCⅢの総弾数が少ない事と、他の理由としてパッシブソナーでは動かない潜水艦相手を発見するのは厳しく、アクティブソナーは位置を教えてるのと同義なので使用出来ない。

 一応欧州遠征軍はマダガスカル島攻略の囮となってはいるものの、元師閣下の乗る輸送船も含まれているとあっては行動は慎重にならざる終えない。

 それではここで一旦現状を伝えよう。

 まず神弓の所属する欧州遠征軍の規模は、神弓を旗艦とし一航戦、二航戦、五航戦を主力とした機動部隊に加え、随伴艦の主力である雨風を筆頭に、金剛、足柄と言った少しでも海外経験のある艦娘をメインに選択されている。

 そして今回は二隻の輸送船が含まれている。

 一隻は元師閣下が乗艦される輸送船、もう一隻は艦娘の補給や休息、簡単な艤装の整備が行える輸送船であった。

 あと艦隊の中に数人であるが、明らかに西洋の顔つきをした艦娘が混じっていた。

 日本には存在しない38cm連装砲を四基備え、副砲に15cm連装砲を装備するその戦艦はBismarck───かの有名な独逸の戦艦ビスマルク級戦艦一番艦だ。

 他にもいる。Z1レーベレヒト・マース、Z3マックス・シュルツ。

 それに独逸だけではない。

 イタリアの駆逐艦Maestrale級三番艦のLibeccio、リベッチオも含まれていた。

 

ビスマルク 「はぁ、潜水艦が相手なら私の出番はないわね。」

 

 ビスマルクは自慢の砲が火を吹けず、役に立たない現状に不満を抱く。

 すると近くに居たレーベがビスマルクを諭す。

 

レーベ 「いいじゃないか。日本に来てもう何年。ようやく僕達の望んだ父国の帰還だよ。」

ビスマルク 「ちゃんと分かってる。けど・・・折角の戦場よ!私だって派手に戦いたいの!」

マックス 「それなら安心していい。紅海の入り口に差し掛かれば、自然と敵と会うわ。」

 

 レーベと不満げなビスマルクの会話にマックスが入り込む。

 願った父国の帰還に心を躍らせるレーべは、ふと今までの出来事を思い浮かべる。

 

レーベ 「紅海を超えれば地中海、父国は直ぐだよ。でも、今考えるとよく日本まで来れたのが不思議な位。」

ビスマルク 「もうあんな寒いのは嫌っ!」

マックス 「北極海から回ったんだから当然よ。」

 

 今マックスが口にした通り、海外艦が日本にまで来れた理由は北極海を経由して日本まで航行したからである。

 元々欧州が強力な海軍力を誇る日本とコンタクトを取ろうと考え計画したが、紅海やインド洋は深海棲艦に占領され阻まれた結果、苦肉の策として北海から北極海のルートしかなかったのである。

 最終的に、彼女達は気合いでなんとか航海を終え日本に到着したが、直後北方海域を占領されて帰還不可能となっていた。

 日本にいる間は日本海軍に組み込まれ、東南アジアで優秀な戦力の一角を成していた。

 

ビスマルク 「雑談はこの程度にしておきましょう。にしてもあの艦娘。神弓・・だったかしら?よくもまぁこんなに連続で指示が出せるものねぇ。」

 

 ビスマルクの見る先は、忙しく入る情報を整理し指示を出し続ける神弓の姿があった。

 基本的に問題なく指示を送っていたが、時々間違えた指示を与えてしまい大慌てで修正する姿が見て取れた。

 

レーベ 「沢山レーダーを積んでるようだけど、僕は大量の情報を処理する事の方が凄いと思うな。」

マックス 「もしかしたら未来の装備はあんなのかもね。どちらにしたって、期待させて貰いましょう。」

 

 神弓に期待するマックスだったが、実際の所神弓は頭を抱えて嘆いていた。

 

神弓 「いくら敵の海域って言っても数が多すぎる!どれだけ潜水艦を潜ませているの!」

 

 神弓があまりの敵潜水艦の数に怒りながらも、自身の役目を務めようと努力する。

 

神弓「加賀七番機付近に敵潜水艦が───」

翔鶴「「神弓さん。一番機が潜水艦を発見しました!」」

金剛「「三時の方向に怪しい影を見たネー。」」

神弓「指示出しますから待って下さいっ!!」

 

 潜水艦の数は神弓が一隻に指示を出している間に、新たに複数隻発見されるループを何回も繰り返していた。

 日中の間ずっと哨戒機と協力して潜水艦狩りを続け、日が落ちて暗くなる頃には潜水艦の姿は殆ど居なくなっていた・・・はず。

 

神弓 「取り敢えず山場は越えた、のかな?はぁ・・・」

 

 常に張り続けた緊張感が緩み、身体が疲労で気だるくなるのを感じる。

 ただ戦場で完全に気を緩ませる訳にもいかず、最低限警戒は出来る程度に保つ。

 すると幸運が神弓に訪れる。

 輸送船で休んでいた雨風が、交代の時間で神弓の所に来たからだ。

 

雨風 「神弓、交代。」

 

 雨風がそう口にした途端、神弓の瞳がキラキラ光りお祈りをするようなポーズをする。

 

神弓 「ありがたやー!ずっと指示を出してたせいでもう頭が回らなくて。それじゃ後は頼んだよ。」

 

 待ちに待った休息を取ろうとハイテンションで輸送船に戻る途中、神弓はある疑問を持っていた。

 

神弓 「にしても妙だよねぇ。今まで潜水艦の配置的はこの付近を通るって知ってないと出来ない配置。しかもあの量は海域全ての潜水艦が集まっているんじゃ。」

 

 潜水艦は基本的に水中から魚雷で襲う狙撃手のようなもの。

 輸送船より遅く、浮上すれば追い付けるだろうが護衛に砲撃を浴びせられる。

 だから潜水艦の取る行動は絶対と言って良いほど待ち伏せに限る。

 しかし待ち伏せは目標がここを通る確証がなければ行い難い。

 だが今回は、明らかに艦隊の通る航路付近に集中的に配置されていた。

 つまりそれは───

 

神弓 「もしかして私達の情報が漏れている?」

 

 神弓がこう考えるのも必然だ。

 潜水艦は先ほどの通り速度か遅く、罠を張るにはその地点に移動しなければならない。

 移動に時間の掛かる潜水艦は前もって情報を獲得しておく必要性がある。

 

神弓 「誰が流したとしたら軍内部に深海棲艦の内通者がいるって事に。やるとしたら、うーん・・・やっぱり駄目だなぁ、頭が回らない。また明日にしよう、そうしよう。」



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28∶空の脅威

 それは日中の潜水艦狩りの最中に起こった。

 海中を揺さぶり、海面に立ち上る青い数本の水柱。

 数回の爆雷が起爆後、水面に潜水艦の残骸が広がる様を見渡す一人の艦娘。

 

漣 「イエーイ、神弓さん!漣が潜水艦を撃沈しましたよー!」

 

 駆逐艦漣が拳を握り、手を高く上げながら無線で神弓に報告する。

 

神弓 「漣さん。撃沈了解しました。」

漣 「おやおや?神弓さんもそんな冷静に言わず、漣の事をもっと褒めて良いんですぞ!」

神弓 「えーえっと、漣さんはそのまま頑張って下さい?」

 

 潜水艦を撃沈して有頂天になった漣の扱いに困っていた時、ある事実に神弓の表情が急変する。

 

神弓 「えっ?水上レーダーに感あり!なんで今まで探知できなか───」

 

 艦隊から目視可能な至近距離に敵艦が存在するというレーダーの反応に、焦ってその方角である右側面の海を見渡す。

 そして海上に浮かぶ深海棲艦に神弓は驚愕した。

 

神弓 「せっ潜水艦!?」

 

 水面の上にポツンと一隻だけ浮かぶ黒い影。

 長髪の垂れ下がったその影の正体は、敵の潜水カ級であった。

 サイレントキラーの名を持つ潜水艦が、敵船団の目と鼻の先に突如浮上するという決してあり得ない行動に神弓は動揺する。

 と、同時に通常では絶対しないであろう行動が強烈な不安感を引き立てる。

 

神弓 「・・・嫌な予感がする。射撃統制レーダー起動!四時の方向、主砲照準。」

 

 潜水艦を真っ先に沈める判断をした神弓は、潜水艦に気付いてない他の艦に命令を与えるタイムラグすらも勿体無いと考え、自身が砲撃準備を行う。

 潜水艦へ砲塔を動かし、砲身の仰角を上げる

 

神弓 「主砲発砲。」

 

 神弓の主砲が火を吹いた瞬間、レーダー及びシステムが潜水カ級からの電波を受信する。

 数秒後、潜水カ級に砲弾が命中。

 爆発と共に黒煙が撒き散らされた潜水艦は、自らの意思に反して海中へ没した。

 

瑞鶴 「「ちょ!ちょっと神弓、何が起きたのよ!」」

 

 艦隊右側面に展開していた瑞鶴は、艦隊中央からの砲撃&近くの炸裂音に驚き、慌てて神弓へ無線を飛ばしてくる。

 しかし砲撃した本人である神弓は返答する暇はなかった。

 潜水カ級の発した電波が何なのか解析する事に力を費やす。

 ディスプレイで電波を解析するよう指示を与えた数分後、電波の正体が判明。

 電波の正体は電信であった。

 そして中身については送信速度を優先したのか、暗号ではなく平文であり、システムが即座に解読文をディスプレイに表示する。

 表示された文に目を通した神弓は落胆する。

 

神弓 「しまったぁ・・・もう少し早く撃破出来ていれば・・・」

 

 神弓は、あと一歩が撃破が遅かったに拳を握り締め無念に感じた。

 カ級の発信した平文は被弾により途中で切れていたものの、艦隊の位置座標ははっきりと送信されてしまっていた。

 これで深海棲艦側に艦隊の正確な位置を知られた事が確定する。

 この出来事は神弓にとって、友軍の利の為に命を捨てれる者の厄介さを身を持って実感させられた内容となった。

 艦隊の位置が敵に知らされて約一時間程。

 神弓の持つレーダーが接近する敵の大編隊を二つ、それぞれ別の方向から捕捉する。

 敵編隊の速度から到着予想時間を推定し、回避可能か予測した結果。

 

神弓 「私達だけなら逃げられるけど、やっぱり輸送船が居ると無理。」

 

 元帥閣下や艦娘の補給を備えた低速の輸送船が艦隊全体の足枷となり、空襲圏外から即時に脱出が不可能と判断した。

 発覚した事実に対し、神弓は無線を全艦共通周波数へ繋ぐ。

 

神弓 「全艦に通達。九時の方向及び十一時の方向からそれぞれ敵大規模攻撃隊が接近中。到着予想時間はおよそ九〇分。総員、対空戦闘用意始め!」

 

 通達直後、二隻の輸送船から空襲警報が荒々しく鳴り響き、艦内にいた艦娘達は大急ぎで輸送船から海面に降り立つ。

 一方輸送船の乗組員は、艦首や艦尾に搭載された自衛用の機関砲に配置する。

 まず最初に神弓が指示した行動は迎撃機の出撃だった。

 一航戦や二航戦から幾つかの新型戦闘機と多数の零戦五二型が発艦。

 大きなエンジン音を轟かせながら二編隊に別れ、それぞれ九時、十一時の目標へ飛行する。

 

雨風 「神弓。」

 

 神弓の後方から、輸送船内で待機していた雨風が声を掛ける。

 すると神弓が雨風に対して指示を送る。

 

神弓 「雨風、砲撃の用意を。」

雨風 「分かった。」

 

 砲撃の意味を察した雨風は主砲の装填に入る。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 時々雲が覆い被さる空を迎撃隊は飛び、零式艦上戦闘機五二型の栄二一型は快調に唸りを上げる。

 零戦妖精はおよそ三十機程度の迎撃隊に組み込まれ、深海棲艦の攻撃隊迎撃へ向かう。

 零戦妖精は周囲の警戒をしながらも、まだ珍しい隣の機体に目を奪われる。

 この迎撃隊は基本的に零戦五二型で構成されていたが、中には零戦より一回り大きな機体も紛れていた。

 その名も試作烈風。

 紫電改二とは違う、零戦の正式な後継機である艦上戦闘機───の試作型である。

 出力のある誉ニニ型を装備し、武装は二挺の7.7mmの機銃を三式13.2mm機銃に変更し火力が向上。

 そして零戦の弱点であった急降下耐性が大きく強化された高性能機体だ。

 しかし現時点で生産数は少なく、主力を交代するのはまだ不可能だった。

 

神弓 「「第一迎撃隊に連絡。敵編隊は高度三千を飛行中。針路そのまま、高度五千まで上昇。」」

 

 神弓から行動の指示が無線機越しに届く。

 零戦の無線機は桁違いの大出力で送られる電波により、普段に比べて良好に受信される。

 指示を聞いた零戦妖精は操縦桿を引き機首を上げ、他の機体も指示された高度まで昇る。

 

神弓 「「敵編隊接触まで残り五分。一時方向下方に確認できるはずです。」」

 

 神弓が遠距離からレーダーに送られてくる位置情報を元に適切な誘導を指示する。

 この時神弓は、擬似的なAWACS(早期警戒管制機)としての役割も担っていた。

 やがて深海棲艦機の群れを発見した迎撃隊は、道中の雲を利用して降下しつつ後方から襲い掛かる。

 降下途中の雲で窓が白く染められ視界を完全に失うが、計器と経験を頼りにそのまま降下。

 雲から飛び出た時には、既に深海棲艦機が射撃しやすい距離にいた。

 

隊長機 「「突レ、突レ、突レ。」」

 

 隊長機から攻撃開始の電文が発せられ、各機がそれぞれの目標に突撃する。

 その間の敵編隊は、雲を使った奇襲により今やっと迎撃隊に気付き回避行動を起こしたが、既に遅かった。

 先頭を行く試作烈風の両翼から閃光が飛び出し、目の前の敵機が火を吹き出ながら墜落する。

 それを見た零戦妖精も負けじと敵機に照準を合わせ、翼内の20mm機銃の引き金を引く。

 撃ち出された20mm弾が数発命中し、敵機内部で炸裂。

 破片を撒き散らしながら墜落していく。

 続いて零戦妖精は、爆弾を大事そうに抱える爆撃機に目標を決める。

 上方から下方へ、下方か上方へ敵攻撃隊を通り抜ける毎に一機づつ落としていく。

 ここで零戦妖精はキャノビー越しに、敵戦闘機により友軍が撃墜されていく様を認識した。

 敵機は全種類合わせ百機を超える。

 とても迎撃隊の三十機だけでは阻止は厳しいと言えるだろう。

 空戦からどんどん離れていく敵攻撃機を前に、零戦妖精は悔しさを滲ませながら一番近くの敵機に狙いを定めた。

 

 

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神弓 「敵攻撃隊。数を減らしつつも艦隊に接近中。雨風、砲撃用意。」

 

 そう指示する神弓の前方25m先に雨風が陣取り、二人の艤装には一本のコードが繋がっていた。

 

神弓 「諸元入力完了。砲塔旋回五度、主砲仰角十四度。」

 

 神弓の言葉に呼応するように雨風の61m砲が指示された角度に合わせてゆっくり旋回する。

 

雨風 「装填完了。」

神弓 「発射五秒前、四、三、二、一、主砲発砲。」

 

 61cm砲から巨大な火焔をほとばしる。

 圧倒的な口径を持つ主砲は、発射時の衝撃で大気を大きく揺らし、距離のある護衛目標の輸送船すらも鈍く振動させた。

 従来と比較にならないの主砲の砲撃を初めて目の当たりにした艦娘や船員は、反射的に萎縮する。

 

神弓 「目標到達まで残り五四秒。」

 

 淡々と手順通りに進める神弓は、飛翔する砲弾をレーダーで監視する。

 そして砲身の先から白煙が漏れきる前に砲弾の再装填が完了した。

 

神弓 「第二射用意。主砲発砲。」

 

 再び先程と同様の爆発が発生した。

 

雨風 「主砲装填中。」

 

 現在二人が何をしているかと言われると、前の艦隊演習で行った対空砲撃である。

 だが正直な所、演習より遥かに彼方の敵攻撃隊を砲撃するのは雨風にとって困難と言えた。

 雨風は元々対空射撃が苦手である。

 攻撃を受けない前提で設計された神弓と違い、被弾を前提にされた雨風は高度な機器の破損を恐れ、比較的枯れた技術を使用しているからだ。

 しかし今、雨風は神弓と有線ケーブルにより、神弓の持つ多数のレーダーと高度なシステムの演算能力でその弱点は打ち消された。

 コードの範囲である30m以内しか使用出来ない弱点はあるが、二人の持つ強力なカードの一つであった。

 

神弓 「目標間もなく。だんちゃーく、今!」

 

 レーダーが捉えていた砲弾の反応が敵編隊の傍で喪失する。

 すると編隊の反応も少し小さく変化したとレーダーが表示する。

 

神弓 「恐らく目標付近に命中を確認。そのまま砲撃を継続。」

 

 雨風の装填完了の単語を発する事に巨大な爆煙が立ち上る。

 発射する事に派手な煙やら砲声が轟くものの、敵編隊にダメージを与えられたのは初撃のみだった。

 二発目以降は敵攻撃隊が速度と高度、針路共にばらつきが生まれ神弓の予測から大きく離れたからだ。

 いくら神弓のレーダーとシステムが高性能だとしても、終末誘導可能なミサイルと着弾まで無誘導で時間の掛かる砲弾とは勝手が異なる。

 もう何回か砲撃したのち、ほぼ同時刻に到達する予想の敵編隊に対応する為、接続を解除し雨風は十一時の方向へ友軍と共に移動を始める。

 

神弓 「全空母から直援機の発艦を始めてください。」

 

 全空母から航続距離は短い反面、高性能な紫電改二を直援として発艦させ敵攻撃隊の迎撃に当たらせた。

 直援機と敵攻撃隊が再び交戦を始め、交戦に巻き込まれなかった攻撃機が艦隊へ全速力で突撃を敢行。

 そして九時の方向の敵機に対応する為、秋月を旗艦とした艦隊が展開する。

 

秋月 「防空駆逐艦、秋月。師匠に鍛えられた腕前、発揮致します!」

 

 やる気充分の秋月は、海上から上空に写る黒い点に長10cm連装砲を意気揚々と向けた。

 

照月 「秋月姉。神弓さんが師匠って呼ばないでって言っていたじゃん・・・まぁ秋月姉だしやっぱり仕方ないよね。」

 

 訓練した成果を発揮出来ると期待する秋月と、一方隣で半分諦めを浮かべる照月。

 同じ艦隊に所属する他の艦娘が二人の光景に笑みを浮かべ、緊張感が少し弛む。

 だが直ぐに全員が真剣な様相を変化し大空を見上げる。

 

神弓 「「各艦、有効射程範囲に入り次第攻撃開始。」」

 

 神弓の指示を聞いた秋月は、砲身角度の微調整をして所属艦に合図を送った。

 

秋月 「皆さん。対空砲火開始です!」

 

 秋月自慢の長10cm連装砲が四秒毎に砲弾を発射。

 砲弾は敵機に向けて飛翔する。

 

照月 「対空砲火!長10cm砲ちゃん、ガンガン撃っちゃって!」

漣 「さぁ、めちゃくちゃ叩き落としてあげますよー!!」

レーベ 「Feuer(撃て)!」 

リベッチオ 「リベちゃんも頑張っちゃうよ!」

 

 秋月管轄の照月、漣、レーベやリベッチオを含めた他の艦娘達も対空砲火を開始する。

 水上から放たれる砲弾の数に比例して、空へ断続的に表れる黒煙もその量を増大させる。

 対空砲火は面制圧で敵機を落とす方法だが、今までの戦いに比べ今回は一定面積辺りの炸裂数が多い。

 敵が輸送船しか狙っていない挙動を見せているのもある反面、これは敵機に対して精密かつ濃密な弾幕を生成出来る様になった事を示唆している。

 一機、二機、三機と順々に撃墜し、撃墜出来ぬとも損傷を与え爆弾や魚雷を投棄させ続けた。

 しかし空とは広大で、たとえ一編隊を全てを撃破できたとても別の編隊が防空網を突破する。

 

秋月 「うぐぐぐ、やっぱり全部は流石に・・・師匠!逃した敵機をお願いします!」

神弓 「「はい。任せて下さい!」」

 

 秋月達の防空網を抜けられた後に残るのは、空母と輸送船を守る最後の砦の神弓ただ一艦。

 輸送船に近づく深海棲艦機達はたかが一艦程度と侮っていた。

 容易に対空砲火を掻い潜り、目標の輸送船に攻撃出来ると。

 しかしそれは神弓の圧倒的な性能の差を知らない不幸がもたらした考えだった。

 

神弓 「CIWS、自動迎撃モード。」

 

 上空の爆撃隊に六連装ガトリング砲から毎秒八十発の35mm砲弾が独特の発射音と一緒にバラ撒かれる。

 発射された弾はまるで一本の縄のように伸び続け、敵機を絡めとり撃墜していく。

 一方海面付近まで降下した雷撃隊は、一発一機撃墜という高精度の127mm速射砲の餌食となっていた。

 この出来事を確認した他の敵機は動揺する行動が見られ、咄嗟に攻撃目標を輸送船から周囲の護衛艦隊に変更した。

 敵機それぞれの新たな目標に向け転針し攻撃態勢に移行する。

 

神弓 「RAM発射。」

 

 護衛艦隊へ脅威度が高い目標に限り、RAMで迎撃を開始した。

 これは他の艦の被害を抑えつつ貴重な対空ミサイルの消費を抑える事の出来る方法だった。

 航空攻撃を受けておよそ一時間後、敵機が全機撤退していく。

 深海棲艦の攻撃により艦隊の被害は一部の艦娘が被弾により若干損傷する。

 しかし代わりに多数の敵機に大きな被害を与える事が出来た快挙であった。

 しかし神弓には喜ぶ暇はなかった。

 深海棲艦の機動部隊がレーダーに第一次攻撃隊が帰還する前に第二次攻撃隊を発艦させていたからだ。

 本来は第一次攻撃隊が帰還し、無事だった機体と予備機を合わせて第二次攻撃を行う。

 しかし攻撃間隔を短くする為、おそらく予備機も全ての発艦させたと神弓は想定した。

 深海棲艦側から意地でも敵を沈めやると気概を感じた神弓は、第二次攻撃隊用の防御網を突貫で構築し直す。

 

 

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 そして日が沈みかけの日没になった時、輸送船には傷一つ付いていなかった。

 艦隊は無事三度の航空攻撃を乗り越え、逆に無数の敵機を撃墜した事で敵航空戦力を大幅に減少させ壊滅に追い込む事が出来た。

 艦載機が居なければ空母はただの鉄屑同然である。

 今日の航空攻撃が終了したと判断した神弓は、全艦共通周波数で指示を届ける。

 

神弓 「総員、対空戦闘用具納め。皆さんはこれから交代で休憩を行って下さい。そして今から一日間だけ代理指揮権を雨風に委譲します。」

 

 神弓はある計画に沿って雨風に指揮権を委譲したのち、艦隊から離脱した神弓は道中の深海棲艦をレーダーで避け、最大速力で南下を続けた。

 2000kmの距離を約90ktの速力で駆け抜け、僅か半日でマダガスカル島北端の沿岸部に到着する。

 そして神弓はこの為に温存した搭載機の発艦準備へ移る。

 マダガスカル島泊地攻撃には特殊弾頭ミサイルは使用しない。

 これが提督の考えた末の結論であった。

 核を使う事が怖くなったのか?それとも核による費用対効果が薄いと考えたのか?はたまた放射線汚染を考慮したのか?

 それは提督自身しか知らない。

 

神弓 「ハリアーⅡ、ハウニブーⅢ発艦。」

 

 神弓の展開した甲板から二機が発艦、深海棲艦のマダガスカル泊地を目指す。

 二機は足並みを揃えつつ、山肌に沿う感じに低空飛行で接近する。

 何度も山を越え、最後に泊地に最も近い山を越えた先には戦艦タ級や駆逐ハ級等の三十隻位の艦達に加え、攻撃目標の装甲空母姫の姿を視認した。

 二機はそのまま装甲空母姫へ迷わず進む。

 泊地にいた深海棲艦は後方からの想定外の襲撃に大混乱となり、咄嗟に対空放火を開始。

 しかし統制されない精度の悪い攻撃は当たるはずもなく、ハリアーⅡは装甲空母姫の飛行甲板に57mm機関砲を放つ。

 対装甲用に装填されたタングステン製焼夷徹甲弾は驚異的な貫通力を誇り、装甲空母姫の甲板装甲すらも貫く。

 次に後続のハウニブーⅢも小型荷電粒子砲を発射。

 圧倒的な熱量で装甲を溶解させ穴を空ける。

 深海棲艦側も何とか対空放火で対応しようにも、一撃離脱の波状攻撃を行うハリアーⅡには射撃が追い付かず、ハウニブーⅢは上下左右前後というとんでもない機動で軌道の予測が困難であった。

 この時、残念ながら装甲空母姫側には対抗手段が存在せず一方的に狩られるだけだった。

 装甲空母姫の飛行甲板に大量の穴が空けられた頃、ハウニブーⅢの一発の荷電粒子が偶然機体燃料保管区画に命中。

 片側の飛行甲板内から燃料に引火、内部を砕き甲板を引き裂く。

 この事を理解したハリアー妖精も、残った片方の飛行甲板に左右対称の位置へ徹甲弾を撃ち抜く。

 すると先程と同様な引火爆発が発生し装甲空母姫の甲板が黒煙に包まれる。

 でもたった二機では中破辺りまで持ち込んだとしても、撃破までは不可能であった。

 だが今回の目的は装甲空母姫の無力化である。

 装甲空母姫の無力化に成功したと判断したハリアー妖精は、ハウニブーⅢと共に母艦へ帰路につく。

 北へ逃走を図る二機に対して、装甲空母姫の護衛艦達は恨めしそうな視線を送るだけしか出来なかった。

 神弓は二機を収容した後、合流地点のスコトラ島を目指す。

 夜間の間航行し続け泊地攻撃から無事帰還し、航行中にレーダーで集めた深海棲艦に関する情報を整理する。

 スコトラ島からスリランカ島に敵航空戦力壊滅等の情報を送る。

 そしてスコトラ島に通信用と帰路確保用に駐留させた輸送船一隻と随伴艦を除き、艦隊は欧州に向けアデン湾から紅海へ突入を敢行した。



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29:紅海海戦

前に投稿したのが半年前、完全にモチベーションが落ち込んでしまい遅れて申し訳ありません。
進行は凄く遅いですが、完結を目指して進撃していこうと思います。


金剛「撃ちマス!Fire~!!」

雨風「照準、撃って。」

 

 艦隊の最前衛を担当する金剛と雨風の主砲が火を噴く。

 放たれた砲弾は、紅海の入り口を防衛していた敵水雷戦隊へと着弾する。

 水雷戦隊を率いていた旗艦のリ級は61cmの火力で即座に爆散し、二番艦のヘ級には金剛の砲弾が命中する。

 そして突然旗艦を潰されたイ級などの随伴艦はパニックに陥り逃げようとするが、包囲するように両脇へ展開していた友軍の水雷戦隊が急接近して一艦残さず殲滅した。

 

神弓「正面の敵艦隊の撃破を確認、紅海への道が開きました。全艦、第一航行序列で進撃します。」

 

 神弓の指示した陣形に合わせて各艦娘が行動を開始した。

 第一航行序列は対潜を重視し被弾しづらい陣形である反面、持ち前の火力は発揮しにくい。

 比較的汎用性の高い第二航行序列も存在するが、現状のみの戦力で紅海を突破する為には可能な限り被害を少なくする必要があり、護衛の輸送船や空母を守りながらとなると必然的に第一航行序列にならざる負えなかった。

 進撃中は時折敵艦隊が攻撃を仕掛けて来る。

 しかしそれらを問題なく撃退しつつ紅海を進む中、想定外の事態が発生した。

 艦隊中央に位置する神弓が、レーダーやソナーで警戒している最中、神弓からそう遠くない距離に突如として一本の水柱が発生した。

 

神弓「な、何っ!?」

 

 水柱に唖然していた神弓は少しして我に帰る。

 

神弓「一体何処からの攻撃!」

 

 神弓は困惑した。

 神弓の居る艦隊中央には空母や輸送船がおり、この水柱はつまり護衛対象を射程内に捉えたと言う事になる。

 しかしレーダーに映る敵艦隊や敵機はまだ先、ソナーにも潜水艦の反応はなかった。

 この事実が余計神弓を混乱へと導く。

 

神弓「レーダーやソナーに映らない敵がいる?そもそもどうやって攻撃をしてきたの?・・・取り敢えずレーダーから再確認。」

 

 レーダーの記録をもう一度再生して確認する。

 水柱の上った位置を重点的に確認すると小さな反応ではあるが、何かの飛翔体が艦隊から見て九時方向から飛んでいると発見した。

 

神弓「あった!犯人はこれかぁ。でも九時方向って・・・・・」

 

 九時方向を視界に捉えた神弓は、大きく横に広がる山脈に困惑する。

 すると神弓へ二件の報告が届いた。

 

赤城「「こちら赤城。偵察に出した瑞鶴二番機から、九時の方向の山脈に光を見たと報告がありました。もしかしたら先程の水柱の原因かも知れません。」」

雨風「「雨風から報告。八時の方向から黒煙を確認。」」

 

 レーダーや二件の報告により水柱が砲撃によるもの、そして攻撃は九時の山脈からだと推定された。

 しかし誰が、何の為に、どうやって艦隊に攻撃しているか分からなかった。

 

神弓「ハリアーⅡ発艦。偵察をお願い!」

 

 すぐさま神弓がハリアーⅡを発艦させ、九時方向の山脈を捜索させるよう命令した。

 発艦したハリアーⅡは推定発射箇所付近の山脈を重点的に飛行する。

 

神弓「こちらアロー。スカイドミネーション02。何か見える?」

ハリアー妖精「「こちらスカイドミネーション02。こちらからは何も見えない。以上。」」

 

 目視偵察を行うハリアーⅡの芳しくない報告に神弓は少し落胆する。

 だがそれも一瞬だけであった。

 

ハリアー妖精「「───いや待て。この色彩に雰囲気、深海悽艦だ!それもこいつは・・・沿岸砲台型か!」」

 

 ハリアー妖精から告げられた敵は神弓の予想を越えるものだった。

 しかし同時に、陸上型の深海悽艦が居るなら砲台型があっても不思議ではなかったと納得もする。

 

神弓「沿岸砲台型が一基だけな訳が無い!他にも配置されているとするなら・・・囲まれてる?」

 

 艦隊の左右は山脈になっており、何時何処で両脇から砲撃されるか分からなかった。

 

神弓「神弓から全艦に通達!沿岸砲台型の深海悽艦が展開されています!左右の山脈の中から砲撃される可能性が高いです!」

 

 沿岸砲台型の深海悽艦の存在に艦隊全体に衝撃が走る。

 

神弓「この深海悽艦を砲台小鬼と仮命名。直ちに空母から爆撃機を発艦!捜索及び破壊を命じます。」

 

 慌ただしく空母が発艦に移ろうとした瞬間、両脇の山脈の複数箇所から砲撃が開始された。

 艦隊全体へ小口径の砲弾が連続で着弾する。

 

神弓「えーと砲撃地点はここら辺。対艦ミサイル、発射セル五基二連射十発!目標砲台小鬼。発射!」

 

 神弓のVLSから白煙を吹き出しながらミサイルが飛翔する。

 そして現在砲撃をしている全て砲台小鬼に命中した。

 しかし砲撃は一瞬収まったのみで、再び砲弾が艦隊へ投射される。

 これに対し神弓は再度ミサイルを発射。

 だが二発目でも破壊には至らず、何度も攻撃した結果、五発目にしてようやく撃破に成功する。

 反撃の際、ミサイル以外にも周囲の艦娘が砲撃を浴びせたが、海上の不安定な足場かつ小さな砲台小鬼に命中させるのは容易ではない。

 唯一金剛と雨風のみ命中に成功し、雨風はレールガンで撃破。

 しかし金剛搭載の35.6cm砲の一発だけでは被害を与えても撃破まで及ばなかった。

 この事から砲台小鬼は高い防御力を持ち、撃破する為にはかなりの命中精度と火力も必要だと判断された。

 

神弓「一基にミサイル五発。これじゃあ直ぐ弾切れになっちゃう。せめてこれに火力があれば。」

 

 神弓は自身の装備する127mm速射砲を見つめる。

 推定される防御力を考えれば最低でも20.3cm砲並みの単発威力が必要であろうと予想した。

 例え127mm速射砲を連続で着弾させようと、結局は重い一撃が無ければ撃破は厳しかった。

 しかし無い物は仕方ない。

 それに敵は砲台小鬼だけではない。

 レーダーに映る多数の敵編隊、そして敵艦隊がこちらへ前進している。

 

神弓「神弓から赤城へ通達。制空及び砲台小鬼の撃破を最優先してください。そして可能なら現場判断で艦隊攻撃を願います。制空は私も微力ながらお手伝います。」

赤城「「分かりました。」」

 

 そして次に雨風に無線を繋いだ。

 

神弓「神弓から雨風へ。砲台小鬼を発見次第レールガンで狙撃を。」

雨風「「了解。」」

 

 その後ハリアーⅡを敵編隊迎撃に向かわせる。

 

神弓「今はこれでいい。砲台小鬼が何処に潜んでいるか分からないけど、昼はまだ何とかなる。でも問題は夜。どう切り抜けよう。」

 

 僅かに時間が空いた隙間で何度も夜間の対応を考えていたが、艦隊戦や航空戦が本格化すると考える暇も無い。

 今回は雨風が派手に対空戦闘を行った為、敵艦隊も防御力の高い雨風へ向け優先的に攻撃を開始した。

 これによって他の艦娘の被害が少なく、雨風へ火力支援や援護を容易に行えた。

 しかし砲台小鬼の砲撃や、航空攻撃によって若干とは言え被害が出始めていた。

 やがて日が落ちて暗くなり、視界が悪化する。

 そして神弓の懸念は更に悪い方向で的中した。

 神弓が夜間では行動が限られる空母を輸送船に帰投させようとした時だった。

 対空用に備えて自動迎撃モードで放置していた35mmCIWSが、突然右斜めの海面に向け火を吹いたのだ。

 弾薬ベルトに撒かれた曳航弾が砲弾の行く末を露にする。

 

神弓「こっ今度は何!?」

 

 いきなりの発砲に神弓が驚いた時、雨風から通信が届く。

 

雨風「「雨風から報告。艦隊中央へ移動中の小型の深海悽艦を確認。」」

 

 雨風の報告とCIWSの発砲は関係していると判断した神弓はCIWSの発砲先を凝視し戸惑った。

 

神弓「何、あれ・・・?」

 

 ロ級の頭をした赤ん坊のような深海悽艦が三隻一組で艦隊に急接近しているのを認識する。

 水上速度は速く、両手に魚雷を二本づつ握っている事から火力及び速度面から鑑みても放置は出来なかった。

 

神弓「神弓から第二水雷戦隊へ!二時の方向から高速で小型の敵が接近中!撃破は命じます!」

神通「「二時の方向?・・・・あれね!危険ですが一時的に探照灯を使用します!皆さんあの深海悽艦を狙って下さい!」」

 

 神弓が右舷に展開していた第二水雷戦隊の見つめると、探照灯で謎の深海悽艦が浮かび上がらせていた。

 小さく足の早い深海悽艦ではあったものの、高い練度を誇る第二水雷戦隊によって三隻全てが撃沈する。

 そして夜間に探照灯を点ける事は、敵から攻撃が集中しやすい事でもあった。

 しかし不思議と第二水雷戦隊には砲撃はあまり集まらなかった。

 神弓は妙な違和感を持つが、自分の仕事を真っ当しようとレーダーやソナーに意識を向ける。

 この時神弓は気が付いて無かったが、第二水雷戦隊の点灯に追って雨風が咄嗟に主砲を使用しながら探照灯を使用し敵の目を集めていたのだった。

 

神弓「神弓から第二水雷戦隊へ。先程の深海悽艦について何か情報はありませんか?」

神通「「こちら旗艦神通。あの深海悽艦は足が速いですが、機銃で有効打が入ったように感じました。恐らく装甲は無いに等しいのかと。」」

 

 神弓の35mmCIWSでも撃沈出来た結果から神通の感じた内容は恐らく合っていると判断する。

 足が速く、魚雷を装備し小型で装甲は薄い特徴から、魚雷艇に近い特性があると神弓は考えた。

 

神弓「神弓から全艦に通達。魚雷艇の特性を持った新たな深海悽艦が現れました。この深海悽艦をPT小鬼群と仮命名。艦隊に接近するPT小鬼群が居れば小口径砲や機銃等で撃退してください!」

 

 新たな深海悽艦の登場は、艦隊へ良くない影響を発生させていた。

 種類が増える=攻撃手段の増加に繋がるからだ。

 いくら雨風が目立つように攻撃しているとは言え、全ての深海悽艦が雨風を狙う訳でない。

 特に艦隊にとってレーダーに映らない二種の深海悽艦が厄介であった。

 砲台小鬼は砲撃されるまで何処に潜んでいるか分からず、砲撃精度も高く確実に奇襲を受けてしまう。

 PT小鬼群も波に紛れて艦隊に接近し、不意の魚雷攻撃で大きな被害を出していた。

 既に輸送船からは予備の艦娘は全て出払っており、残っているのは損傷し後退した者ばかり。

 夜間無力な空母ですら目視捜索担当として運用している状態である。

 これ以上艦隊に被害が拡大すれば陣形の維持が困難になり、防衛に大きな隙が生まれる可能性があった。

 

神弓「このペースなら夜明け頃には突破出来る。この夜戦が正念場。」

 

 砲撃や雷撃が飛び交う戦場で神弓は全旗艦へ通信を繋ぐ。

 

神弓「神弓から通達。現在の被害状況を報告願います」

 

 まず最初に赤城が返答を返した。

 

赤城「「こちらは問題ありません。」」

神通「「三人小破しましたが、まだ行けます。」」

秋月「「照月が後退しましたので防空力にやや不安が残りますが、皆でカバーして対応します!」」

雨風「「戦闘可能。」」

ビスマルク「「戦艦で何でも相手行けるわよ!!」」

 

 各旗艦から回答が帰って来て、神弓は少なくとも現在展開中の艦隊は問題なく戦闘可能と判断する。

 そして次の指示を出そうとした時、秋月の驚愕と困惑の組み合わさった声が無線に走った。

 

秋月「「えっ!ちょ、ちょっと待って下さい!」」

 

 秋月の言葉に無線をオープン状態にしていた神弓を含む全旗艦が意識を向けた。

 そして数秒経って秋月が口を開き、無線越しに衝撃が走った。

 

秋月「「うん・・・間違いない。秋月から報告、雨風さんの損傷は最低でも中破に達しています!」」

 

 あの桁違いの防御力を誇る雨風が中破している事実を聞いた息を呑む。

 だが考えてみれば当たり前でもあった。

 複数のPT小鬼群からの雷撃、砲台小鬼の高精度の砲撃、連続かつ波状的な航空攻撃、複数の防衛艦隊との艦隊戦。

 いくら雨風と言えど、ダメージが蓄積し被害が拡大するのは当然なのだ。

 

秋月「「雨風さんの後退を要請します!」」

雨風「「駄目。まだ戦闘を続ける。」」

秋月「「それこそ駄目です!いくら雨風さんでも沈まない訳じゃないんですよ!!」」

 

 心配する秋月は珍しく口を荒くし雨風を叱責する。

 中破とは戦闘能力が大きく減少する規模の被害であり、中破からの轟沈は確認されていないが、絶対ではない。

 それに中破した艦娘が連続で被弾し、大破から即轟沈すると言う不幸な事故も発生していた。

 

神弓「雨風は後た───」

 

 反射的に後退を言い渡そうとした神弓は、咄嗟に理性で歯を食いしばり言葉を止めて耐える。

 

神弓「雨風に命令───戦闘を続行して下さい。」

秋月「「師匠ッ!!」」

 

 まさか戦闘を続行させると言う想定外の命令に、突飛な叫びを秋月が発する。

 そして神弓は自分の服を強く握り締め、理由を伝える。

 

神弓「「今、弾受けの雨風が居なくなれば前線は崩壊します・・・だから、現状の陣形を継続して下さい。」」

 

 神弓の選択に秋月及び他の艦からは反論は帰って来なかった。

 今のところ他の艦娘の被害が少ないのは弾受けを雨風がしてくれているからであり、前線から後退すればたちまち被害が急増するのは目に見えていた。

 秋月の報告から始まった現在の状況は、紅海で深海悽艦から勝利をもぎ取れる時間を判明させていた。

 

神弓「この戦いに勝利を掲げられるタイムリミットは、雨風が戦闘不能になるまでです。全艦最大船速!暁の水平線に勝利を刻みましょう!!」

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 神弓の言葉によって、友軍の艦隊の纏う雰囲気が更に真剣見のあるものへ変化する。

 それは前線に居る雨風も同じだった。

 すると戦闘へ集中していく意識の片隅に、僅かな眠気の存在に気がつく。

 雨風はポケットから眠気覚ましの薬を取り出し、口の中で噛み砕く。

 あまり薬に頼るべきではないのは十分承知しているが、今は四の五の言ってる場合ではない。

 そしてレールガンではなく、主砲で丘の上に立つ砲台小鬼に照準を合わせる。

 現在レールガンは連続発射時の放熱の影響により、砲身が融解し変形、使用不可となっていた。

 砲台小鬼を狙う間、隙と判断した敵戦艦隊が正面から攻撃を加えてくるが、意にも止めず測量を続けた。

 

雨風「・・・撃って。」

 

 十五発の砲弾が雨風から放たれ空中を飛翔する。

 そして十数秒後、砲台小鬼の周辺に連続で着弾。

 土煙が砲台小鬼を覆い隠し姿が見えなくなり、突如土煙の内部から巨大な爆発が立ち上る。

 

雨風「撃破を確認。」

 

 土煙の爆発が砲台小鬼によるものだと判断した雨風は、主砲を正面の戦艦隊へと移す。

 そして視界の端に艦隊の二時の方向から、九隻のPT小鬼群が岩を影にしつつ接近しているのを最初に発見する。

 雨風は35mmCIWSで殲滅しようと指向した。

 しかし何故かバレルが回転するだけで肝心の弾は発射されなかった。

 原因は連続的な戦闘による弾切れであった。

 更に運の悪い事にパルスレーザーも長時間過負荷を掛けた結果、専用の給電機器がショートしている。

 

雨風「使えない?なら。」

 

 正面の戦艦隊に向けていた主砲をPT小鬼群へ旋回させる。

 すると正面からル級の砲弾が防御重力場の脆くなっていた箇所に命中、十分な減衰が掛からず砲弾が雨風に直撃した。

 直撃した砲弾が艤装の対空兵装を砕き、左舷の荷電粒子砲を大きく破損させる。

 被弾の衝撃で少しよろけるものの、構わず雨風が二基の主砲から六発の砲弾を発射。

 61cmの桁違いの砲弾を前に至近弾とは言え、装甲の無いPT小鬼群はバラバラに砕けながら弾け飛ぶ。

 そして次に戦艦隊を相手しようとした時、ル級二隻、タ級二隻の一斉砲撃が降り注いだ。

 十数発の砲弾は大半が防御重力場によって減衰させられたが、二発の16inch砲弾だけがそのまま勢いで命中した。

 一発が第三砲塔の防盾に直撃し炸裂、左及び中央の砲身を根元から引き裂く。

 更に次弾が第四砲塔の基部に命中した結果、旋回装置が破損し旋回不可能となる。

 だが幸いな事に砲弾自体は貫通しておらず、弾薬庫引火と言う最悪な事態は免れた。

 しかし雨風の被害が広がり、使用可能兵装は数を減らす。

 現状の兵装は無傷な61cm砲塔三基、たった一門使用可能な第三砲塔、右舷の荷電粒子砲のみだった。

 そして弾数も少なくあまり長時間戦闘が困難なのも理解していた。

 命中率を上げるには陣形から脱し敵に近づくしかない、そして派手に戦闘を行えば敵の注意が集まり、その間友軍を大きく前進させられる。

 敵中で単独孤立する可能性も存在したが、このままではじり貧だと考えた雨風は出力を最大まで上昇。

 まず正面の艦隊を叩く為急速に接近する。

 道中無線が飛んできた気がしたが、戦闘に集中する為に気のせいだと切り捨てた。

 自身の予想を越える速力を出す雨風に戦艦隊は意表を突かれ、咄嗟に放った砲弾は雨風を捉えられない。

 お互いに顔を表情が分かる位接近して雨風はル級に向け主砲弾を一発発射しようとした。

 

雨風「撃って。」

 

 すると発砲されると気がついた護衛の駆逐ロ級が盾になろうとル級の前に飛び出す。

 しかし射出された61cm砲弾はロ級の体を軽々突き破り、無慈悲にも守ろうとしたル級に命中する。

 次に別の艦を狙おうとした瞬間、十時の方向から別のロ級が口から砲身を出しながら急速に雨風へ接近していた。

 だがロ級の主砲口径は5inch、至近距離からでも装甲で十分防げると雨風は判断していた。

 しかしこれは雨風の判断ミスだった。

 雨風の目の前に急接近したロ級は、口から伸びた砲身を器用に扱い鈍器を叩きつけるの如く体を捻る。

 砲身を振る想定外の攻撃に雨風は反応出来ず、左頭部を思いっきり叩きつけられた。

 一瞬意識を飛ばされそうになるが、口唇を噛み切り無理矢理意識を覚醒させる。

 疲労、痛み、頭部への打撃や出血などで意識が混同する中、雨風は第二砲塔をロ級に合わせてほぼ零距離で砲撃した。

 砲撃時の強烈な爆圧でロ級が潰されながら天高く跳ね上がる。

 そしてロ級の死に際を一切見ず、それぞれの砲塔を残ったタ級二隻、ル級へ照準し、普段ではしないであろう吐き捨てるように発砲を命じた。

 

雨風「───撃てッ!!」

 

 三基の砲塔に搭載された九門の砲身から砲弾が発射され、発生した大きな黒煙が敵艦隊の姿を消す。

 そして黒煙が晴れた頃には二隻のタ級、ル級は存在しておらず、海面には残骸が浮かぶだけであった。

 雨風は周りを見渡し敵が居ないか捜索する。

 すると雨風を中心に半円陣形で魚雷を投下しつつPT小鬼群が十八隻も迫っていた。

 夜間、頭部からの出血などで視界が良くない状況でありながら雨風は敵戦力を正確に把握する。

 まず雨風が三時の方向へ移動し、PT小鬼群も変針しながら一直線に突撃する。

 しかし雨風の移動の間にも海面下から魚雷は迫っており、包囲されつつ飽和的に放たれた魚雷を全て避ける事は困難であった。

 結果的に二発の魚雷が被雷。

 防御重力場で軽減されたとは言え、片側の舵を大きく損傷した。

 しかし操舵が鈍くなっただけ航行に支障はないと判断した雨風は戦闘を続行する。

 そしてある程度距離が縮むと、PT小鬼群から搭載する20mmや40mm機関砲が雨風へ放たれた。

 しかし被害が大きくとも戦艦、雨風には大したダメージは与えられない。

 やがて猪突猛進に進むPT小鬼群は雨風から見て縦一列に近い状態に移る。

 雨風の主砲が縦に散布界を広げつつ砲撃、PT小鬼群が61cm砲弾の着水の衝撃で吹き飛びながらバラバラに砕けた。

 PT小鬼群を撃破した後にする事を雨風は既に知っていた。

 先程のPT小鬼群の雷撃に使用された魚雷投射数がPT小鬼群の数より明らかに多かった事を。

 アクティブソナーを起動すると、案の定前方の海中に散らばった五隻の潜水艦を探知する。

 狭い場所の潜水艦は友軍艦隊的にも大きな脅威になりうる。

 潜水艦を確実に撃沈する為、少しばかり前進してASROCⅢを発射。

 VLSから五発のASROCⅢがそれぞれの敵潜水艦に狙いを合わせ空中を飛翔し、海面にブースターを切り離した魚雷がパラシュートで減速しつつ落下する。

 数秒後、五本の水柱が立ち上った。

 水柱が消え去った後、雨風の周囲はついさっきまで鳴り響いていた砲声などは無く、ただとても静かな静寂に包まれた。

 周囲を見渡しても、海中をアクティブソナーで捜索しても深海悽艦らしきものは居なかった。

 と、同時に一気に出力を上げた結果、友軍艦隊とは距離が開けてしまったらしく軽く後方を見渡しても良く見えない。

 そしてその時空が少しづつ明るくなっている事に気が付き、顔を空に向けたら視界にアンテナの先端が入り込む。

 

雨風「あっ。」

 

 雨風はわざわざ目視で敵を探す必要はない事をようやく思い出す。

 ここでふと戦いを振り替えると、後半から完全に目視で敵を探しており、レーダーと言う便利な代物の存在を使っていないと気が付く。

 そこでレーダーを確認すると、五隻の艦隊が単縦陣で目視可能な距離まで接近していると示されていた。

 これを敵残存艦隊だと考え、主砲を旋回していた雨風は接近する艦隊に視認した瞬間、一目で接近する艦隊は深海悽艦ではないと分かり砲身を最大仰角まで上げる。

 迫って来る艦隊は、装備や服装は日本ものではなかったが明らかに艦娘。

 そして作戦目標のスエズ方向から来たとなると、必然的に欧州の艦隊だろうと雨風は予想した。

 大破一歩手前の雨風に気が付いた欧州の艦隊は被害の大きなに驚きを見せる。

 だが周囲に大量に撒き散らされた深海悽艦の残骸で怪訝な表情に変化する。

 そして満身創痍の雨風へ、欧州の艦隊全員が砲口を合わせて何時でも発射可能な状態に行動する。

 

???「Ugoku na! Answer your name and affiliation!!(動くな!名前と所属を答えろ!!)」

 

 黄緑のセーラー服を着る先頭に立つ旗艦であろう艦娘から、警戒する口調で雨風に問う。

 そしてその欧州の艦隊に対し、雨風は一瞬考えてから回答する。

 

雨風「Kingdom of Wilkia, Battleship Amakaze. Now working with the Japanese Navy.(ウィルキア王国、戦艦雨風。今は日本海軍と行動中。)」

???「Japanese Navy!?(日本海軍!?)」

 

 最初にウィルキア王国の国名に頭を傾けていた様子だった相手は、最後の日本海軍と言う単語に欧州の艦隊全員が驚愕の色を見せ、動揺しつつ艦隊内で話し合っていた。

 慌てふためく艦隊を前に、右後ろから光を感じた雨風が何気なく振り向いた。

 そこには山脈の頂上から太陽が少しづつ顔を出していた。

 この瞬間、雨風は紅海の突破に成功したんだと思い、少しだけ肩の荷を下ろす。

 次に艦隊共通無線のオープン回線を開く。

 

雨風「雨風から伝達。欧州の艦隊と合流成功。以上。」

 

 簡単に一言だけ伝え、無線を切った。

 この後、言葉の意味を理解し無線内部が歓声で満ちるのにそう時間は掛からなかった。



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