Fate/Observe (えんびー鉛筆)
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導入

この話は、最初はマスター兄貴と鯖藤丸君で書こうと思っていたものを肉付けし肉付けし限界を留めなくなったところを、数ヶ月熟成させたのちミンチにした感じになってます。最早別物です。まだ料理にはなってません。
所々にその名残がある仕上がりとなっています。よろしくお願いします。

聖杯戦争のルールがかなり弄られていますが、一応筋は通るように設定したつもりです。もし全てが明かされたのに「これ明らかに勘違いしてるよね」となりましたらご指摘お願いします。


 思考の何処かで、自分が床に倒れることを理解していた。

 部屋は眩い光と濃密な魔力に包まれ、それを何故か吹き始めた風がかき回している。

 ばちんと視界が何度も瞬いて、身体中が焼きごてを押されたかのように燃えていた。神経が焼ける、焼き切れる。

 ……それでも自分は、成功させた。あんなにも出来損ないだった自分が。

 一度の失敗もなく。

 

 また目の前で火花が散った。

 起き上がる。上体を起こし、ゆっくりと足を地につけた。まだ立ち上がることは出来そうもない。

 ……吐き気が酷い。口をおおう。

 渦巻く魔力の中心は、用意された魔法陣だ。

 まともに機能しない視界。どうにか目を凝らす。

 吹き荒れた魔力が人の形を取り始めた。

 

「問おう」

 凛、と声が響く。

「貴方が、オレのマスターか」

 好感の持てる青年の声だった。平凡な声だった。

 平凡という事は脅威に感じないという事。流石に無害な相手に不快感を覚えるほど捻くれている人は例から除外していいだろう。

 きっと微塵も不快感を感じさせない、何か術をかけられているのではと考えてしまう位に平凡な声だった。

 ……これが、英霊? この、平凡な青年が?

 

「そうだ。お前が私のサーヴァントか?」

 混乱する頭で問いかける。

 青年は一拍おいて頷いた。そして首を傾げ、微笑む。

 

「クラスはシールダー。真名ギャラハッド、宜しく頼むよ。マスター」

 背丈程の十字架を模したような盾を片手で支え、彼は「唯一聖杯を手にしたと名高い騎士」の名を口にした。

 

 

 

 ……そこで一度、記憶は途切れる。

 

 恥ずかしい話だが、自分は出来損ないである。

一工程(シングルアクション)の魔術の行使にも支障が出るような、致命的な設計ミスがある。

 生まれ持った才能全てが、そのせいで無為と化した訳だ。

 いくらサーヴァントの召喚が魔力を消費するとはいえ、気絶なんて。

 

 やっと意識が回復した時には、体にブランケットが掛けられておりすぐ近くにシールダーが座っていた。

 勝手に自分の鞄を漁ったのか、このサーヴァント……まあ良い。特に盗られて困るものもないし。

 

「起きた? マスター」

「……」

「突然倒れるからびっくりしたよ。体調でも悪いの?」

 薄く笑みを浮かべ、サーヴァントは柔らかい声を降らせる。

「いや」

 そう呟くのが精一杯だった。

「そっか。……色々と聞きたいことがあるから、この状態のまま質問するね」

 シールダーは勝手に話を進めて行く。

と、言うよりシールダーなんてクラスは初耳だ。時折召喚されるイレギュラークラスの類なんだろうか。

 

「この聖杯戦争は二十一人で行われるって認識で合ってる?」

二十一人……そんなに多かっただろうか。二十はなかったと思う。

 話すのも億劫なので黙っていると、シールダーはそれを肯定と解釈したのか次を話す。

「令呪は一人一画で、聖杯を求めて殺しあう」

 だよね? と念押しされる。黙っておいた。確かにサーヴァントを律したり強化するための令呪は、先ほど確認した時には一画だった気がする……ような。

 

「オッケー、何となく分かったけど……マスターはまだ動けそうにない? 作戦会議しようか。結界は補強したほうがいいよね?」

 相変わらずシールダーは返事を聞かない待たない。

 辛うじて絞り出せた声は

「任せる」

 のみ。

 何だってこんなに話しかけて来るんだこのシールダーは。面倒この上ない。

 睨みつけても気にせず、サーヴァントは盾をゆっくり持ち上げ。

「……これでよしっと」

 どん、と自分を覆い隠すように立てた。日光が遮られて視界は薄暗くなる。

 

「で、マスター。方針は?」

 深海を思わせる青い瞳が自分を、真正面から見つめている。

 ……まさか、これで? 盾を立てただけで結界になるっていうのか。

 いや、なってるから恐ろしいのだけど。影法師とは言え英霊に祭り上げられたそのひとの影。

 現代の尺で測ってはいけないということか。

 

 

ーーーーー

 

 

 頭痛がする。最悪だ、キャスターは毒付いた。

 自らを召喚したマスターは余りに異質で、存在を認めがたくて、その上戦いを勝ち抜ける気がしない。

 少しかさついた黒髪に、これまでで乱れたのか緩い着物。額にはサークレット。肩に掛けた鞄は使い古されたのか傷だらけだ。

 

「……なまえ、きゃすた……?」

「キャスターだ」

 座り込んだままの彼女は覚束ない発音で自分を見上げる。何度か瞬きをしたのち、彼女はゆっくりと口を開く。

 

「つかれたから、おぶって」

「……」

 両手が救いを求めて伸ばされる。何の疑いもなく、自分は助けてもらえると信じている。

 数秒。手を取られない彼女の顔が薄く曇る。

 

 逡巡の後──数秒だとしても戦場を駆けた男からすれば十分過ぎる時間と言えるだろう──キャスターは慣れた手つきで緩んだ帯を締め直すと彼女を抱き上げた。

 彼女の見た目にそぐわない軽さだった。まるで中身が空っぽのような。振ればカラカラと音がしそうだ。

 

「わあ、たかい」

 あどけない笑みを浮かべた彼のマスターは、きゃすたーもみて、と言わんばかりにキャスターが纏う外套を引っ張る。

 開ける視界。

 顔も外套で隠していたキャスターは、突然目に飛び込んできた日光に八つ当たり気味に舌打ちした。

「これでは報酬は望めそうにないな、加えて覚悟も何もない──反吐が出る」

 

 

ーーーーー

 

 

「アナタ凄いね! アナタと居ればワタシ、マホウ使い放題ね!」

 がくん、と派手に少女の頭が揺れる。目の前に立っていた白衣の女性に肩を掴まれ、前後に揺すられ。

 少女の髪は前後に揺さぶられたせいで乱れていたが、彼女にとってはそれより何十倍も大事な事がたった今起こった。

 

「は、はい……って、えっ」

 

 少女の疑問が口をつく前に、女性は一歩引いてくるりと回る。話しかけるタイミングを失った少女は、曖昧に指を組んだ。

 そんな艶やかな肢体の少女の周りを跳ね回わる女性の姿は、随分と異質だった。

 羽織った白衣は前を閉じていないのに暴れはしない。白衣の襟にも届かない茶髪には、所々に金色が混じっていた。

 両肩に掛けられた、胸の辺りで交差するベルトに固定された無数の試験管が悲鳴をあげる。少し乱暴に動けば全てが割れてしまいそうなほど、試験管の間隔は狭い。

 その上、中に見える液体はどう見ても毒物ばかり。

 正に毒々しい色だったり、全く交わらない二色が詰められていたり、少しずつ色が変わっていったり、気体が渦巻いていたり。

 

「アナタ、名前は? ワタシはね、ワタシはねえ!」

「あ、あの……」

 困惑する少女を置いてけぼりにして、跳び回る白衣の女性は満面の笑みで続きを吐く。

「ふふ、忘れちゃった! だからアナタが名乗って!」

 そしてまた彼女はくるりと踵を軸にして回った。溢れんばかりな歓喜のはけ口であるステップはとまらない。ついでにジャンプも。

 

 そんな自分より年上であろう同性を見て、異例の事態に少女は戸惑うばかりだった。

 

 

ーーーーー

 

 

「うわ、小っさ」

「開口一番それとは随分なマスターだな」

 召喚陣の中央に降り立った少年を見て、赤髪の少女は呻き声を上げた。

 

「小さいのは本当の事じゃん、私そんな趣味は無いつもりだったんだけど。英雄っていうからてっきり、もっとガタイの」

「……クラスはアーチャーか……」

「聞いてる?」

「ん? ああ聞いてる聞いてる」

 わざとらしく耳をふさぎながら、青い髪の少年の姿をしたサーヴァントは面倒そうに目を細めて返す。

 それに少女は溜息をつき、少年は苛々と腕を組んで不遜な態度をとるマスターを見上げる。

 

「とにかく、君じゃ戦えないでしょ。どうしたもんか……隠れ通すか……」

「これだって十分に戦えるんだが」

「はいはい、そうだね」

 あー困った最悪だ、と当てつけのように呟く少女に数分は耐えていたが、とうとう堪忍袋の尾が切れたらしい。

 これでも自分は他と遜色のない戦士だ、と喚きたくなるのを必死に飲み込んで少年は言う。

「これでもオレは貴女を守ってみせるつもりだ。それとも、これでも力不足か」

 

 何の気なしに、まるで撫でるかのゆっくりと倒木にに置かれた彼の拳──勢いは無かったし、筋肉もあるようには見えない──が、派手な音を立ててそれを粉砕した。

 いくら倒木とはいえ自分の両腕で抱えることは到底できないような太さである。

それの成れの果てが少女の頬をかすめて飛んでいく。

 

「へ」

「何ならこの廃屋を壊そうか。ここら一帯を壊そうか。やろうと思えば出来るぜ、オレ」

 固まった少女は自身のサーヴァントを見下したままだ。とはいえ、自分が如何にサーヴァントと言うものを勘違いしていたのかをこの数分で突き付けられた。

 

 しおらしくなった自らのマスターを見上げ、赤い瞳が弧を描く。

 

「サーヴァントアーチャー、召喚に応じ参上した。この身は誉れある戦いを望む。お前みたいな未熟なマスターに真名を授ける気にはならん、精々頑張ってくれよな」

 

 未熟、を強調されたその一言に一転蒼白になった彼女から、見る価値もないと言わんばかりにアーチャーは目を背けた。

 

 

ーーーーー

 

「随分とまた、普通でない聖杯戦争が始まったものだ」

 この地で最も霊脈の集う地にて、風変わりな風体の男は呆れたような声を吐いて蒼穹を見上げた。

 網のように張り巡らされた魔力の壁が空を見る視界を曇らせる。

 この地は既に、強大すぎる結界に覆われていた。それがいつからかなのか男は知らないが、彼が気が付いた時にはもう存在していた。

 恐らくこの結界の存在は自分だけが知っているのだろう。何の証拠もないが、既に彼には確信めいたものがあった。

 

 

 この男は様々な聖杯戦争を知っていたが、今回はまた新しい形の聖杯戦争と言ったところ。

 男の立場も今までとは毛色が違い、表に出す気はないながら彼も戸惑っている節があった。

 

 何故こうなったのか、と考えはするが現状を受け入れはしている。特に恨みだの怒りだのはない。

 不満がない訳ではないが、だからと言って役目を放り出しはしないとも。

 それは自身の柱を壊すことになる。自分が自分で無くなるだろう。

 

 木漏れ日が、彼の首にかかる十字架を照らす。

 それは男自身の信仰の表れと言うよりは、首輪に近い。

 人々の祈りが集約された首輪。人々の信心がそれを作り上げた。

 彼に外せる代物ではないし、そもそも首輪を外す気など彼にはさらさら無い。

 

 腰まで纏わりつく長髪は鬱陶しいが、特に今後に支障はないだろう。寧ろこのままの方が楽な気がしなくもない。

 

 それにしても。ああ、これは嫌だ。

 何もせず、誰かが訪れるのを待ち続けるだけなんて。

 なんて退屈なんだろう。……と思ったが、あの時よりは遥かにマシだと思えたので良しとする。

 

「聖杯戦争の開幕だ。……と言っても、誰も聞いてないか」

 

 そう自嘲気味に呟くとゆっくりと彼はその場に腰を下ろし、瞳を閉じた。

 

 

 

 




嬉し恥ずかしこちらでの初投稿。
FGOのcmにて出したいサーヴァントに係わりのありそうなキャラが映っていたので、下手にそのサーヴァントに言及される前に突っ走ってやろうと慌てて書き上げました。今後そのサーヴァントに何か設定が加えられたとしても私は意に介さず、僕の考えた最強のオリジナルサーヴァントとして書き上げたいと思います。出来るんだろうか。
明かされていない主従はまだいくつかあります。言うほど多くないです。

最初はゲームで作るか三ルート書くつもりでふわふわと妄想していたので、書きたい話の量が凄いことになっています。
三ルート書けるんだろうか……多分無理だろうなあ……まずは一ルート頑張ります。


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交渉

「ねえマスター、マスター、マースーター?」

「……霊体化していてくれないか」

「え、あ、はい」

 

 親しい友ぶって絡んでくるシールダーを追いやり、私は作戦を立てることにする。

 正面切って戦うのは無理があった。

 彼のステータスは円卓の騎士を名乗る割にはとても低く、その件を咎めると「な、中身が半分ほど抜けているので」と目を逸らされた。

「戦うのも多分、他のサーヴァントには劣る、かも」と彼は付け足した。どれだけ自信がないのか。

 

 何故半分抜けているのか問いただすも口は開いてくれず。そんな反抗的なサーヴァントにやる魔力はないと言って供給を絞っているところだ。

 ……実を言うと、難癖をつけて魔力は絞るつもりだったのでいい口実が見つかって良かった。

 

 自分の頭を切り替えるため、私は長時間の歩行でずれてしまった礼装である眼鏡を掛けなおす。

 正面が無理なら待ち伏せ、罠、もしくは同盟を組んで……。

 

『あ、それ伊達眼鏡なんだね』

 マスターとサーヴァントの繋がりを通じて、シールダーが声を掛けてくる。

 そんな事に魔力の無駄遣いをするとは。いい口実が更に見つかった。

 なんて奴だ、無論無視。

 

『似合ってるよ』

「……」

『あー、もしかしてマスターはサーヴァントと交流する気無い?』

『あると思うのか?』

『あははー、ですよねー』

 サーヴァントは奴隷、聖杯を手にするための生贄。

 それに情を抱くのは馬鹿げている。裏切りさえされなければ良いから、理不尽な事さえ押し付けなければ良いだろう。

 

『……と、マスター、前方にサーヴァント反応発見! どうする? 俺そんなに体のスペックが強い訳じゃないけど、技だけなら人一倍あると思ってるよ』

『……まだ仕掛けるのは早い。戦いは潰し合いが終わってから始めた方がいい』

『成る程? そういう感じ? マスターってば理性的だネ! ふざけるのはさておき、じゃあ偵察してこようか、任せて、スキルとしては持ってないけど俺の気配遮断はEXだよ!』

 良いから黙ってくれ。とても煩い。

 

 少し眉を顰めただけなのにサーヴァントは敏く気付く。

『……嫌なら行かないよ、どうする?』

 ただ騒ぐだけではないと言う事で納得しておこう。……要求したレベルが低すぎるだろうか。

 

『いや、偵察は本当に出来るんだろうな』

『任せて! 多分俺が生きてた時でもあそこまで隠密に長けた人は居なかったね』

 そう軽口を叩きつつシールダーは離れていった。

 色々とシールダーの正体に思う所はあるが、役に立つのであればどうでもいい。

 

 無能なのであれば、最悪奴は魔力を生み出す為の道具になってもらったって構わない。

 

 ーーーーー

 

 どれだけこの時を待ったのかはよく覚えていない。

 ほんの数秒で呼び出されたような気もするし、何百年と待った気もする。

 よく分からないので楽観的に行こうと思っている。その方が気分もいい。

 

 俺ことシールダーを召喚したマスターは、どちらかと言うと地味めな人だった。

 目や髪が黒い割に、顔立ちは日本人って感じはしない。使う言葉も日本語じゃ無かった。

 大きなベレー帽を被ってるから前髪以外は見えなくて、髪がどれくらい長いのかは分からない。もしかするとすごく長いのを中に詰めている可能性もある。……蒸れそうだ。

 着ている上着は少しでも周りの景色に同化するためか緑。迷彩服を着ればよかったのにとは思う。

 そうそう、この上着はボタンがなくて、両方に穴が開いている。靴紐を使うスニーカーを想像していただきたい。あんな感じで紐を通して結ぶ、何だかんだで色んな結び方ができて楽しいかもしれない。

 今は一番上しか結んでなくて袖のあるマントみたいになってるけど。

 そしてズボンは白。何でだ。下も緑にすれば良かったのでは……。

 

「マスター、マスターは何て名前なの? どう呼べばいい?」

 召喚されてすぐの事だった。マスターは表情をピクリとも変えず「アイン。名前で呼ばれる筋合いはない、マスターと呼べ」と冷たい言葉を返してくれた。

 自分の名前が嫌いなのか、サーヴァントに呼ばれたくないのか。

 まだ数時間しかマスターと過ごしていないとはいえ、あの人がサーヴァントに対して典型的な魔術師よりな思考を持っているのはなんとなくわかっている。まだ「より」なのが救いか。

 変に罵られたりとかされないのであれば自分は気にしないし、そんなことを気にして折角のチャンスを不意にするのも嫌だ。

 

『もうすぐ着くけど、マスターはどんな情報が欲しい?』

『気が付いたこと全部に決まっているだろう』

『あ、はい、そうですね。視覚共有する?』

『……そうだな』

 そこからは念話もせず息を殺す。流石に気付かれはしないだろうけど、細心の注意を払うべきだ。

 小枝を踏むなんて愚は犯さない。当たり前だろ?

 

 目を凝らす。まず目に入ったのは、こちらに背を向けている青年。

 そしてもう一人、自信なさげに首を触る男。

 

 サーヴァントはこの近くで、物陰からお互いのマスターを見守っているのだろう。姿が見えない。

 サーヴァントはサーヴァントを知覚出来ると言うし。姿を見せないのは手札を切らせないためか、それとも……。

 

「で、僕達は君と手を組みたいと思ってる。悪い話じゃ無いだろ?」

 背を向ける青年が喋った。どうやら英語で交渉をしているらしい。

 ああ、交渉だからサーヴァントは近くに置かず、って事か。

 

「……それは……そうだ。こんな訳の分からない状況で、殺し合えなんて言われても、実感が湧かない」

 力なく頷くもう一人のマスター。これも男性。

 

「僕もそうだ! だからさ、お互いに協力して周りを倒そう。二人掛かりなら出来るさ! そういや君のサーヴァントは?」

「そ、そう、だな。貴方と会えて本当に良かった! サーヴァント? あ、ああ、ライダーだって名乗っていた」

「だろ? ライダーか、じゃあ手数が多いってわけか! 助かるね」

 背を向けている男は、どうやらある程度の知識があるらしい。ライダーは宝具を多く所有するクラスだ。

 

「そう、なのか?」

 対してもう一人の方は、巻き込まれたクチなのか首を傾げてばかりだ。

 

「そうとも! さ、僕らの仲を祝って乾杯と行こうじゃないか!」

 青年が取り出したのは黄金色にほんのり赤が差す液体のボトル。ワイン? あれは果肉でも入っているのかな、生物が入っていてでおまけに冷蔵庫とかに入れてたわけでもなく。……大丈夫なんだろうか。

 

「良いのか? わ、随分と良い酒だな……か、乾杯!」

 かちん、とグラスが鳴った。

 青年はゆっくりとそれに口をつける。

 男は自棄酒のように勢いよく煽った。不安もあったのか、あっという間にそれは無くなった。

 

「どうだ? 良いだろ、自慢の酒なんだ」

「ああ、凄く美味しい! 何処の酒なんだ?」

「自家製だよ、勿論レシピは秘密さ。所でお前のサーヴァントって真名は何なんだ?」

 青年の手の中で黄金が揺れる。

 

「え、それは……」

「まあ教えられないよな、それは良いよ。男か? 女か?」

「ん? あ、女性だけど……ど、どうして?」

 男のグラスを回収してから青年は答えた。

 

「いや、気になっただけさ。やっぱ可愛い子がいると士気も上がるし、ライダーは今遠くの方に控えてるんだよな?」

 俺も男なので否定はしない。たしかにむさ苦しいよりは、まあ。

 

「交渉するからそうしろって言ったのはそっちじゃないか」

「確認しただけだよ」

「そう、なの……か、……ぁ?」

 男の声が弱まる。それは自信がないとか、そう言った類のものではなかった。

 様子がおかしい、自信なさげに首を撫でていた(庇っていた)手がすとんと落ちた。う、腕が抜けそうな落ち方するなあ。

 

 ……切り替えろ。

 眉をひそめる。男の中で今何が起こった?

 

 目の前にいる青年への信頼?

 いやどう見てもこの青年怪しいでしょ。いきなり持ちかけてきて、真名を聞こうとして、飄々と自分の意見を押し付けて。

 そもそも、こんな短期間で無意識に近いその手を下ろすだろうか。無理だ、そんなこと出来るならコミュ障とやらは生まれない。

 

 青年は明らかに様子がおかしい男性を前に一歩下がる。そりゃ警戒する、俺だって刺激しないように下がることはしなくても身構えるくらいはする。

 

 男は落とした手をもう一度顔の前まで持ち上げ、静かに無感情に呟いた。

 

「自害しろ、ライダー」

 青年のグラスの中身が全く減っていないことに、今気がついた。

 




早くも一騎脱落です。実を言うと、この作品ガッツリ活躍するサーヴァントってそんなに多くないです。作者が大人数を動かすのが苦手なので……。
あと10騎くらいは詳細も明かされず消滅するんじゃないでしょうか、行き当たりばったりなので分かりませんけど。
亀更新のこの小説をよろしくお願いします。


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DOGEZA

ちょっとはペースを上げたいなって……べ、別に暇だとかそう言うんじゃないんだからね! 本当だよ!! 宿題なんも終わってないもん!


 どう見ても令呪は光り輝いていて、明らかに魔力は解き放たれていた。何度も経験したあの魔力の暴風が吹き荒れる感覚。

 確かに自分のはあれより何倍も力の無いものだったけど、間違える訳がない。

 確かにそれは行使された。命令権として。

 自害を強要させるために最初で最後の一画は消費されてしまった。

 

 

「……!」

 反射で口を塞いでいた。

 虚ろな瞳で令呪を失った男はその場に膝をつき、ゆっくりと倒れこむ。頭を打ちはしない倒れ方だったのでそこは安心。

 それを見て癖の強い髪を苛立たしげにぐしゃぐしゃと乱した青年は、男からまた一歩離れると手に持っていたグラスの中身を一滴と溢さずボトルに戻した。

 苛立ちからグラスを地面に叩きつける訳にもいかず、乱暴に地面を蹴って砂埃を上げた青年はまた髪をかき乱す。

 

「ああ! 飲むフリでもごめんだね、こんなの。吐き気がする。……は? 口をつけた訳ないだろ、気持ち悪い」

 青年は姿を見せない自らのサーヴァント相手に喚き散らしている。

 喚きつつもボトルの蓋をしっかりと閉めた。

 

 そして彼は男を見下ろすと、一瞬複雑そうに顔を歪める。しかし瞬きの後には、その顔は飄々としていた。

「連れて帰るぞ、ライダー。ここに捨て置いても殺されるだけだからな。利用する」

 先程とはうって変わり冷たく吐くと、彼は男を起こしもせず歩き出す。

 青年のサーヴァントはライダー、男のサーヴァントもライダー。まあ、21組なのだからクラスが被るのは当たり前か。

 

 それにしてもこれは、男を運ぼうとするライダーの姿を見るチャンスなのではないだろうか。

 確かに飛び出して救いたい気持ちも少しはある、前の俺ならそうしたかもしれない。

 ただ、これは戦争で。俺は死人で、仕えるべき人がいて、叶えたい願いがある。

 今ここで飛び出しても救える訳じゃない、マスターからの信頼は地に、あの男の人はもう正気には戻らないかもしれない。

 

 言い聞かせるだとかではなく、淡々とそう考える自分は実に冷えていた。

 

 青年はブツブツと罵倒を零しながら歩いて行く。それは誰に向けての言葉なんだろう。男へか、ライダーへか、戦争に巻き込まれた運命か、自分か。

 

 とうとうライダーがあの男を抱えにここへ来ることはなかった。

 

 男が自分でゆっくりと立ち上がると、青年の後ろをしっかりとした足取りでついて行ったのだ。

 訳が分からない。もう操り人形にされてしまったとみていいだろう。

 

『シールダー、追わなくていい』

『分かった』

『戻ってこい』

 十秒程彼らを観察してから霊体化、素早く帰還する。

 

 あと少しで着くというところで、マスターから呆れたような落胆したような声が聞こえて来た。

『……最初から霊体化して見に行けば良かっただろう』

『霊体化状態で攻撃食らうとマズイので……あとあまり霊体化出来るとか実感なくて』

『……』

『あっ、これ以上絞られたら俺消えちゃう! 消えちゃうって!!』

 

 

 盾を立てて簡易的な陣地作成、ご立腹を通り越して最早「お前に何も期待してねえから!」と言わんばかりの魔力しか寄越さないマスターに明るく声をかける。

 何事も明るく元気に、ノリで何とかしてきた俺は今もノリで何とかする気でいる。俺にはノリしかなかった、今もノリで生きている。いや死んでるけど。

 

「マスター、あのライダー陣営だけどどうする?」

「どうするも何もない。お前が役立たずなのは分かった、他のサーヴァント同士で潰しあって貰えばいい」

「あ、はい」

 その通りです。俺もその方が確実だと思います。何も反論はございません。はい。

 

「……だが、あの強制的に自害させた方法は気になる」

「ひえ……」

「あれはサーヴァントの能力なのか、それともあれは魔術を知らない男相手なのだから、あの癖毛のただの精神干渉という線もある。……待てよ、聖杯戦争を知っているのだから奴は……」

「奴は?」

 独り言を続けていたマスターは、わざとらしく口を一回閉じ、視線を逸らし。

「……役立たずに教えることは何もないな……」

 嘲りもなく、淡々と。事実を言うように。いや事実なんだけど。

 

「あー………」

 反論出来ないなあ……。偵察だって魔術師なら使い魔を飛ばせる。

 あれはどちらかと言うと俺を試していた訳で。はい。

 戦闘もそこまで出来ずサーヴァントの自覚もなく、出来るのは今の所簡単な陣地作成のみ。のみ。我が事ながら泣けてくる。

 唯一のアドバンテージは憎っくきアイツに規制をかけられ没シュート、いやマジで俺どう立ち回ればいいんですかねえ。

 頑張れマスター、全てはマスターの推理力に掛かってる。

 

「取り敢えず、戦況が安定するまで籠城だ。そんな簡易的なものではなくしっかりと陣地を作成して貰おう。……あ、出来ないか?」

「出来ます! やれます! やらせて下さい!」

 ニッポンの文化、DOGEZA。

 マスターは一瞬面食らったが、「お前どう考えても円卓じゃないよな」と一言零すだけで後は何も言ってくれなかった。

 

 ーーーーー

「円卓……アーサー王の騎士かな」

「む? 奴は何と言っていたのだ?」

 

「お前どう考えても円卓じゃない、とか。あと僕初めて見たよ、ドゲザ? とか言うの」

「円卓を名乗る黒髪碧眼の青年サーヴァントが土下座? 随分と面白いな! 余もその姿を見たい! 美青年なのであろう?」

 

「ん? あ、まあ。顔は整ってて綺麗だよ。アジア系の顔して……」

「うむ! 最高だな!! 彼奴らは籠城と言っていたな。ではそこから動くことはあるまい、定点カメラを置くとしよう!」

 

「カメラ」

「うむ、カメラ」

 

「……いや、まあ。強ち間違いじゃないんだけど……カメラというより」

「所で! 先程のあのライダーは!」

 

「え、あ、途中までは追い掛けたんだけど見つかったのか潰されちゃった」

「むう、勿体無い……こんなにも愛らしいのにな」

 

「ただのガラクタの寄せ集めだけど……」

「馬鹿者! それが何だと言うのだ、余が愛らしいと感じた物を愛らしいと言って何が悪い!」

 

「いや、悪いとは言ってないけど、えと」

「全く、余を狂戦士(バーサーカー)で召喚するなど勿体無い! じっっつに勿体無い!」

 

「……話について行けない僕が悪いんだろうか……」

「マスター! 他に見つけられたサーヴァントは居るのか?」

 

「え、えーと、居るよ。一杯、」

「美青年は!?」

 

「……い、いる、よ」

「うむ、うむ!」

 




どこかで見たことあるような誰かさんが出てきましたね、誰とは言いませんけど(誰とはいいせんけど)。
籠城は死亡フラグだとどこかの誰かが言っていたが、主人公補正の前にはフラグなど折られるものなのだ。多分。うん。


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夜目遠目マスターの内

ノリでやらかしてしまった。彼らがどう話に絡むのかは神のみぞ知る。
どうせ自己満で書くんだったら、自分の好きな要素は多少話が崩れそうでも入れるっきゃないよね!!


 私は可愛かった。誰もが口にしては笑うくらい可愛かった。

 自分でも容姿に自信はあった。初めのころはさておき、別段、可愛いと言われることに抵抗はなかった。

 というか寧ろ、嬉しかった。外見でとは言え、自分は褒められ持て囃されていた。スカウトをかけられたことだってある。

 ……嬉しかった。けど、そのまま誉め言葉を享受するのも嫌で努力はした。陰で色々言われていることは知っていたから。

 

 

 

 陣の中から姿を現す男を呆然と眺めていた。

 触媒なんて持ってなかった。だからきっと、彼は自分のように中身が屈折していて面倒な奴なんだろう。

 体にぴったりとした皮の鎧、棚引く外套、整った顔に羨ましいほど長いまつ毛、泣き黒子。

 筋肉は引き締まり主張も薄く、ちょちょいっと手を加えるだけで化けそうだ。

 

 彼は膝をつき朗々と名乗りを上げ

「サーヴァ……失礼、貴女はもしや、あの、魅了殺しをかけていない、のでは?」

 ない。しかし声もいいと来た。この湧き上がる嫉妬は何だろう。

 十人中十人が美しいと答えるであろう程の美青年は、自分と出会って間もないというのに既に顔面は蒼白だ。そんな顔も普通に写真に映えるだろう。

 

「は?」

 意図は分からないが頷く。そんなものかける必要があるのだろうか。

「!!!!」

 青年ははくはくと声にならないまま口を開閉させた。一体何がこの美青年を恐怖させているのだろう。

 

「あの、」

「……失礼、今からでもしていただけますか」

 否と言ったらどんな顔をするのだろう。興味はある。

 まあ初手からそんな無駄を負う気はない。

 

「はあ」

 素直に少ない魔力をかき集め、体裁は取り繕った。

 ホっとした顔で彼は息をつく。

 

 青年は心から申し訳なさそうにしている。

 そして、まだ自分が立っていることに気が付き謝罪を口にし、いつの間にか彼は跪いていた。

「主の前で取り乱してしまい申し訳ありません。わ、が名はディルムッド・オディナ。……その、この頬にある黒子は贈り物でして、女性を……誰彼構わず魅了するという性質を持っているのです」

「……」

「主が、その。優れた魔術師で心から嬉しく、思います」

 話がなんとなく分かってきた。サーヴァントが口にした名前に心当たりはないが、それはおいおい。

 口を覆うマフラーの下で口角が吊り上がっていくのが止められない。

 

「……ということは、さぞかし女性の観察眼は潤っているんだろうな」

「はっ……? いや、それはその、……あ。……え、え?」

 そこで青年は違和感に気が付く。まともに発されていなかったマスターの声が、およそ女性の物ではないことに気が付く。

 彼は驚愕のあまり放心状態だ。

 

 

 

 そう。そのまま誉め言葉を享受するのも嫌で努力はした。陰で色々言われていることは知っていたから。

 走りこんだ。スクワットだって、腕立てだって。なんだってした。プロテインだって自棄になって飲んだ。

 悲しいかな自分は筋肉が全くついてくれなかった。それも第二次性徴が来るまでの話。

 

 ゆっくりと、だが着実に体質が変わっていった俺は。気づかずに同じペースの筋トレを続けたことにより、あっけなくゴツゴツと可愛げのない男の体になってしまったのである。

 

「可愛い」は姿を消した。当たり前だ。これが朗らかでよくドジを踏むとか弄り易い性格ならあったかもしれない。しかし俺は幼少期から無口で根暗でインドアで。勉強も何も大体は出来る可愛げのない美少年だったのだ。

 簡単に言うと授業で友達を紹介しましょう! とかでも「小っちゃくて可愛い」くらいしか、みんなに言えることはなかったのだ。

 

 

 

「褒めて貰えて嬉しいよ。プレイボーイさんにも喋らない限り()は見破られないんだね」

「その、」

「謝らないで、俺はすごく嬉しいんだ。そこで謝られたら水を差される」

「は、はっ!」

 彼は一層深く頭を下げる。……なんか調子狂うぞ。

 

 彼のクラスはセイバー。戦争において最優と謳われる。

 あまりに従者(サーヴァント)としての態度が出来上がりすぎて怪しいが、まあ俺と相性で呼ばれたような奴が。何も腹に抱えていない訳がない。

 だから今は。褒められたのもあるし不問にしておこうと思った。

 

 




夜目遠目笠の内 夜の暗がり、少し遠くから、または笠をかぶった顔の一部を見たときに女性は実際より美しく見えるものということ。

やってしまったセイバーディルと男の娘。可愛いからね仕方ない。
六月まで無理とか言っておいてやればできるじゃないか! 次もがんばれよ!!

今までの題名が酷すぎるんで方向を修正していく。え? 前のも修正しろ? もしいい題名が思いついたらやりますね。
所でステータスとかまとめたのを書いたりとかした方が良いんでしょうか。私気になります。


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