ベルがサイヤ人なのは間違っているだろうか (ケツアゴ)
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プロローグ

ワンピでのサンジの過去 ラディッツの言葉 ターブルの存在 それらから思いつきました

DB系で好きな曲は三つ挙げるなら

奇跡の炎よ燃え上がれ

チャラヘッチャラ

摩訶不思議アドベンチャー 


神と神のも好き


 戦闘民族サイヤ人。その名の通り強い戦闘欲求と高い戦闘力を持ち、満月を見ることで巨大な猿に変身する能力を持った一族だ。その力で多くの星を滅ぼしたサイヤ人達の王であるベジータ王の居城に怒声が響いた。

 

「何だこの出来損ないはっ!! 戦闘力たったの五十だと!?」

 

 第一王子であり次期王のベジータはサイヤ人に相応しい高い戦闘力と戦闘欲求を持つが、第二王子のターブルは気が弱く、その内弱い星に送られることが決まっている。しかも、三番目に生まれたのは体が弱いアルビノで、気性も静か過ぎる。幼子とはいえ、今の状態からして将来的に下級戦士程度が精々だ。

 

「貴様など我が子ではない! サイヤ人の証である尻尾を切り落とし辺境の星に追放してくれるっ!!」

 

 元々自分には冷たかった父のこれまで以上の剣幕に怯えて母や兄に視線を向けるが、生粋のサイヤ人である母や長兄は同じく冷たい視線を送り、優しかった次兄は父親が怖いのか目を逸らす。

 

 

 こうしてサイヤ人第三王子は僅か一歳という年齢で遙か遠くの星に捨てられ、この半年後にサイヤ人の星、惑星ベジータは滅ぼされる事になる。後に成長した生き残りによって星を滅ぼしたフリーザは倒されるのだが、それは別の話である。

 

 

 

 

 

 

「……空から妙なモンが落ちてきたと思ったら中に子供が居るとは。坊主、名前は?」

 

「ベル……」

 

 追放され運良く生き残った第三王子ベルはとある老人に拾われ、田舎で元気良く育った。サイヤ人としては貧弱でも、この星では並外れた身体能力を持ち、そうでありながらも穏やかな性格に育ったのは育ての親の影響だろうか? 時は流れ、ベルが狩りに行っている間にモンスターに襲われ亡くなった老人からかつて聞かされていた話に憧れたベルは迷宮都市オラリオに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

「雑用係でなら雇ってやるよ」

 

「持参金もって出直して来なっ!」

 

 さて、道中の食事は木の実や獣や川魚、モンスターの卵を食べて無事オラリオにまでたどり着いたベルであったが、見た目が貧弱なモヤシなのでファミリアに入団を申し込んでも断られる。ここで本来の彼ならば絶望する所なのだろうが、気が弱くても戦闘民族サイヤ人である彼の思考は別の方向に行き着いた。

 

「よし! ダンジョンで持参金を稼ごう。取りあえず今夜の食費だけでも……」

 

 ど田舎で自給自足の生活をしつつ、悪乗りした育ての親のお爺さんが冗談で言いだした修行を熟しながら暮らして来た彼にとって世界の中心であるオラリオの物価は高すぎる。狩った獣を売って稼いだ路銀は既に食費に消え失せ、今夜の食事さえままならない。

 

 こうしてベルは神の恩恵を受けないまま本来は入ってはいけないダンジョンへと単身潜るのであった。

 

 

 

「ブモォオオオオオオッ!?」

 

 その姿を見た時、ミノタウロスは絶好の獲物だと思った。食う個所は少ないが、武器や防具も装備していない小柄な人間。本能的な敵意によって仲間と共に向かって行ったのだが、獲物の手の平に光の玉が出現したと思うと自分目掛けて飛来し、後ろの仲間を巻き込んで背後の壁まで吹き飛ばされた。

 

「よしっ! ……あっ」

 

 王子としての教育の一環で物心つく前から厳しい訓練を受けたベルは気の扱い方程度身に着けているので空を飛んだり気功波を放つ事も出来る。目立つから人前では避けろとお爺さんに言い含められているが、人目が無いからと躊躇なく使ってミノタウロスを吹き飛ばしたベルはガッツポーズをとるが、直ぐに失敗だと知った。

 

 炸裂した気弾はミノタウロスを確かに吹き飛ばした。ただし、換金対象である魔石諸共。辛うじてドロップアイテムである角が一個残ったが、まだ夕食代も稼げていない。知らない道に迷いながら動き回ったのでお腹が減って来たにも関わらず。

 

「が、頑張らなくちゃ……」

 

 ふと横を見れば先程の戦闘を見ていたのか怯えた表情のモンスターの群れ。ベルにはそれがご馳走の山に見えた。

 

 

 

 

 

「換金ですね。今回が初めてですし、何処のファミリアに所属しているのか……」

 

「あっ! 用事を思い出しましたので後で来ますっ!!」

 

 無事大量のドロップアイテムや魔石を手に入れたベルであったが、此処で根本的な問題に行き当たる。ダンジョンに入って良いのは冒険者だけであり、神の恩恵を受けていないベルが勝手に入って稼いだ魔石などは換金できないのだ。ダンジョンに入る前に出会った気の良い冒険者から聞いた話を今頃思い出したベルは荷物を担ぐと慌ててギルドから飛び去って行った。文字通り、空を飛んで……。

 

 

「ま、魔法よね……?」

 

 詠唱が聞こえなかった気もするが、そうに違いない。換金について質問されたギルド職員エイナ・チュールは唖然とした表情で小さくなっていくベルの姿を見るのであった。尚、空を飛んでいる事に気付いたベルは路地裏に隠れるまでに大勢に目撃されており、面白い事が好きな神の噂になるのをまだ知らない……。

 

 

 

 

「……うぅ。お腹減った……」

 

 グギュルルルル、とモンスターの雄叫びのような腹の音を響かせながらベルは自分の体より大きな荷物を担いで歩いていた。

 

「あの巨人が強かったから疲れたし、何処かのファミリアに持参金として渡してご飯を貰わないと……」

 

 その巨人が階層主と呼ばれる存在である事をベルはまだ知らないし、魔石は壊れたが手に入ったドロップアイテムの価値も分かっていない。一階先に町があるのも知らなかったが、付け込まれ騙されるだけだから運が良かっただろう。

 

 そして空腹が限界を迎えた時、時間帯が時間帯とあってか目の前の小さな建物から食事の匂いが漂って来る。つい顔を向け、その建物がファミリアのエンブレムを掲げていたのを発見した時、ベルにはまさに神の祝福に思えた。

 

 

 

「ええ、あの時の事は忘れないわ。ご飯時に大量のドロップアイテムや魔石を担いだ子が戸をぶち破って入って来たんだもの。その上第一声がなんだと思う? ご飯下さいっ! よ。全く……」

 

 ベルが入り込んだファミリア、ミアハ・ファミリアの団長ナァーザは後に呆れた様子でこの時の事を語るのであった……。

 

 

 

 

「小さいのによく食べるわね……」

 

「成長期だからだな。ほれ、これも旨いぞ」

 

「はい! いただきます!!」

 

 ミアハ・ファミリアは貧乏だ。借金がある上に主神が薬を配り歩いているので本当に赤貧の弱小ファミリアなので食費も出来るだけ節約している。だが、セールの時に買った保存がきく格安の食材は突如入り込んで来た入団希望者らしい少年の腹の中に次々と消えて行った。

 

 ガツガツムシャムシャと音を立てながら自分の体積以上の料理を平らげて行くベルの姿に唖然としながらも、ミアハが要らないと言いそうになったのを止めて受け取った持参金代わりの魔石やドロップアイテムの山に目をやる。

 

(ミアハ様は本当に恩恵を受けていないって言ったけど、だったら何者かしら……?)

 

 怪しくもある。だが、一日で此処まで稼げる人材を手放すのは非常に惜しい。

 

 

 

 

「あっ。おかわり貰って良いですか?」

 

「まだ食べるのっ!?」

 

 三十人前は既に平らげながらもお椀を差し出して来るベル。既に買い込んだ食材は底をついていた。まだ二人が食べていないのに関わらず……。

 

 

 

 

 

 

「ベル、貴方何者? 本当にヒューマン?」

 

「僕ですか? 僕はサイヤ人ですよ」

 

 サイヤ人って何!? 混乱するナァーザとは裏腹にベルは物足りなさを感じながらも食後のお茶を飲むのであった。なお、サイヤ人とは何かの質問に戦闘民族と答え、更にナァーザは混乱する事になる……。




感想お待ちしています

最初はオリ主人公の予定が ベジータ ブル

             ベジ ターブル

             ベ ジタブ ル

これに気付いた

やや脳筋ベル君

超になる予定は・・・・

あっ、今気づいたけど殺生石って・・・・

現在の戦闘力はご想像にお任せします 取りあえずゴライアスを手強かった、で済ませるレベル サイヤ人だから仕方ない

尚私が好きなキャラはミスターサタン 映画(東映アニメ祭り とか)から入ったからブゥの後にセル編のうざいのを知って・・・


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第一話

 食事後、ベルは正直に自らの境遇を話した。物心がつく前の事だったので赤子の時に送られる他の最下級戦士が与えられる程度の記憶しかなかったが、正直にだ。

 

「神である私でさえ知らなかった民族、サイヤ人か。他の神なら知っているかもだが、玩具にされる事を考えれば秘匿せねばな。……地上には居なかったか」

 

 ミアハは神であり人の子のウソを見抜ける。だからこそベルが正直に話している事を理解した。

 

「地上には居ない……つまりはるか昔に地下空間に移り住んだのか。精霊からも知らされないという事は余程劣悪な環境で、それに適応する為に異常なまでの身体能力を持っているのだろうな……」

 

 ベルは神々が知る地上の人間ではない、と説明した。誤魔化す気など全くなく、ミアハ達は見事に勘違いしている。追放されたという事で詳細を聞くのは悪いと聞かなかったせいでもあったが……。

 

 それは兎も角、無事にミアハから恩恵を与えられたベルだが、翌日から即ダンジョンに潜る……という訳には行かなかった。ダンジョンに関する講義を担当官から受け、漸くダンジョンに潜る事が許される。初日の件は焦って恩恵を受けて直ぐに入ってしまったからと誤魔化したが厳重注意を受けた。

 

「お前は強いが、それでもダンジョンでは何が起きるか分からない。気を付けるのだぞ、ベル」

 

「これポーションや毒消し、それと腹持ちの良い食べ物をお弁当にしておいたから。……食費、ギリギリだったから無理しない程度に頑張って」

 

 初日に登録前にダンジョンに潜った事で面倒な手続きなどが発生し、その上、中層の物が含まれていた為にギルドではなく他のファミリアに買取を頼んだ魔石やドロップアイテムは訳ありと足元を見られて買い叩かれた。それでもかなりの額ではあるが、ベルはダンジョンでの戦闘によるエネルギー消費がない日でも一食二十人前は食べる。それが毎食で、更にはディアンケヒトへの借金の返済も重なってほぼ消えていた。

 

「は、はい! 頑張ってきますっ!」

 

 自ファミリアで制作した薬をホルスターに差し、ついでにと渡されたダンジョンで採取して欲しいアイテムのメモ、そしてカバンに詰まった食料を受け取ったベルは少し緊張した様子でダンジョンへと向かっていく。初日とは違い、ファミリアの看板を背負ってのダンジョンだ。

 

 

「さて、元気で帰ってくれれば良いが……」

 

「初日の成果からすれば大丈夫だと思うけど……せめて食費だけでも稼いで来てもらわなきゃ」

 

 二人はベルの後姿を見送ると、商品であるポーションの制作に取り掛かった。無理だけはしないで欲しいと願いながら……。

 

 

 

 

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

 周囲に誰も居ないのを良い事にベルは堂々と空を飛び、冒険者に群れで上空から襲い掛かり多くの犠牲を出す事から『上位殺し』との異名を持つデッドリーホーネットの群れを気功波の連射で倒していく。胸に魔石があるという事を覚えたので頭を狙い、時に完全に破壊しながらも二十匹程の群れを返り討ちにした。

 

「あっ! あれって確かホワイトリーフ! って、ビックリしたっ!?」

 

『キュッ!?』

 

 ベルは喜んで希少な素材アイテムへと向かって行き、木陰から飛び出してきたメタルラビットを手で払い除ける。此処はダンジョン中層部『大樹の迷宮』。ミアハ達は無理はするなと言ってベルもその積りだ。ただ、この程度は無理には入らなかった。

 

 デッドリーホーネットやメタルラビットの魔石やドロップアイテムを回収し、周囲から採取出来る物を採取しつくした頃、ベルの腹の音が鳴る。ダンジョン内では分からないが、どうやらお昼時のようだ。適当な小部屋で周囲の壁を破壊してモンスターの生産を防いだベルはウキウキしながら弁当を広げた。

 

 干し肉のサンドイッチを咥えながら水筒の中のスープを蓋に注ぎ、サンドイッチを飲み込むと同時に流し込む。幾つか果物を齧り、干し魚を骨ごとバリバリと噛み砕いた。途中、喉に詰まったのか慌てて胸を叩いてスープで流し込み、再びサンドイッチに手を伸ばす。

 

「……ふぅ。ごちそうさまでした」

 

 かさばるからと食べ物が入っていたスペースに採取したアイテムなどを詰め、此処がダンジョンでなければお昼寝をしたいなと思いながら立ち上がった。

 

「この辺のモンスターじゃ手応えがないなぁ……」

 

 ベルはその気弱な性格から疎まれていたが、それでも根は戦闘民族サイヤ人。強敵と戦いたいし、戦いに集中したいから魔石やドロップアイテムの採取も実は面倒だ。

 

 

「よし! 次に行こう」

 

 次に目指すのは下層 大瀑布『巨蒼の滝』。出現モンスターも当然手強い。

 

 

「てやっ!」

 

 ベルの飛び蹴りを叩きこまれたブルークラブの体が衝撃に耐え切れずに砕け散る。足は反対側まで貫通し、魔石を見事に砕いていた。ドロップアイテムも見当たらない事に落ち込むベル。

 

「少し柔らかすぎるよね……」

 

 地上で狩っていた獣ならばナイフを使うなどの()()()()()()()。だが、ダンジョンのモンスター相手では安物のナイフなど通用せず、だからと言って素手では手加減が難しい。深く溜息を吐いたベルは次の獲物を定める。ベルの戦闘音に誘われたのか、サイヤ人の視力で確認できる距離に階層主・双頭竜アンフェス・バアナの姿が見える。推定Lv.5、水上では6の強敵。ベルの中に流れるサイヤ人の血が戦いたいと騒いでいた。

 

 

 

「……駄目だ。二人と約束したから無理は出来ない」

 

 後ろ髪を引かれる思いでベルは空を飛んで上層を目指す。何時か戦うと心に決めながら……。

 

 

「……食料が問題だよなぁ。持ち込むのは一食分がやっとだし……」

 

 なお、ダンジョン内での戦闘で腹が減ることを考慮した場合、ベルの一食は三十人前を超える。荷物が嵩張って当然であった。

 

 

 

 

「それならサポーターに任せれば戦いに専念できるが、口が堅い者でないと危ないな」

 

「Lv.5相当のLv.1とか神々が喜ぶ絶好のネタだものね。ディアンケヒト・ファミリアは大手だから信用を大切にして買い取った事に対して何も言わないけど……」

 

 出向けば目に付くからと態々人目を盗んできて貰っているが、出張料金だなんだと言って相変わらず買い叩かれている。ダンジョン十八階層に存在するリヴィラの街並みの買取金額にナァーザは憤慨するが、ミアハはベルを目立たたせない為だと言って宥めた。ローブなどで顔を隠すにも限界がある。弱小である以上は仕方のない話だった。

 

 

 

「さて、食事が終わったら更新をしよう。もしかしたらランクアップしているかもな」

 

 当然冗談だが、不安をのかき消す為の物でもある。Lv.1で下層まで行ったのだからしていても不思議ではないが、そうなれば厄介な神々の好奇心を刺激する。ベルの戦いを見られれば何時かは虚偽申告の疑いがかかるであろうし、そうなれば確認されるからそっちの方が厄介な事になる。

 

 だが、その予想は意外な形で裏切られる事になった。

 

 

 

「むっ……いや、仕方がないのか?」

 

 

 

・【 力 】: I 0 → 10

 

 

 

・【耐久】: I 0 → 3

 

 

 

・【器用】: I 0 → 9

 

 

 

・【敏捷】: I 0 → 7

 

 

 《スキル》

 

難敵高揚(ザ・サイヤ)

 

 強敵と戦闘時にアビリティ及び獲得経験値に補正

 

 戦闘欲求が高まる

 

 

「……殆ど伸びていませんよね?」

 

「いや、伸び方としてはそれ程異常ではないのだが……うーむ」

 

 下層まで出向いて戦ったにしてはあまりに上昇率が低い。だが、理由もハッキリしている。元々の戦闘力が高すぎるせいで下層のモンスターを倒した程度では大した経験値が入らないのだ。

 

 

 

 

 

「あっ、そうだミアハ様! 下層に凄く強そうな双頭の竜が居たんですっ! 戦ってみても良いですかっ!?」

 

「うん、駄目だ。それ階層主だからな」




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第二話

「ベル様お強ーい!」

 

 厄介な訳ありと関わった、サポーターの少女、リリルカ・アーデは数日前に自分を雇った冒険者であるベルに媚びを売りながら焦っていた。

 

「お兄さん、お兄さん。サポーターは要りませんか?」

 

 自ら戦う才能のない者がなるサポーターであるリリルカ、リリは視界に入った二人の内、ガラの悪そうな黒髪の青年ではなく、人の良さそうな少年を選んだ。本来ならばタイミングが合わなかった二人だが、オラリオまで上空を飛んでやって来たために到着時期がズレていたのだ。

 

 今日の日銭を稼げればいい、その程度の予定だった。実際、装備は貧弱で本人も頼りなく、もう一人が如何にもっと言う感じだったから選んだだけ。だが、実際は違った。

 

「てやっ!」

 

「キュッ!?」

 

 初日だから軽めにと言って向かったのは中層。身の程知らずを通り越して自殺志願かと焦ったが、アルミラージの群れを一蹴し、最後にミノタウロスを拳の一撃で仕留めた事で認識が変わる。

 

 もっとヤバい相手だと、悪い方へと認識を改めた。帰り道、人通りの多い場所ではフードで顔を隠し、上層部で採れる僅かな魔石以外はリリ一人に換金を任せる。そして、口止め料なのか半額をポンッと渡してきた。

 

 彼女は慎重だ。本来なら今度から関わらないが、渡されたのは彼女が報酬をキチンと貰えた場合の百倍近く。自分をカモにして稼いだ金を力付くで奪う同ファミリアの冒険者に奪わせる見せ金を除けても目標金額の達成など楽に思える。

 

(税金逃れの虚偽申告ってレベルじゃないのでしょうね。恐らくは公には顔を知られていない凶状持ち。あれだけお金を受け取った今ではリリも仲間だと思われるでしょう。……でも、せいぜい利用させて頂きます)

 

 どう見てもお人好しの田舎物にしか見えない事がリリの警戒心を解かせようとするが、強さを見る度に警戒心が強くなっていく。引き際を見定めつつ、ベルに愛想を振りまくリリであった。

 

 

 

 

 

 

「其処の貴女、ちょっと良いかしら?」

 

 其れは何時もの様にリリを獲物にしている冒険者達に暴行され、奪わせるために分けておいたヴァリスを奪われた後で残りを宝石に変えて貸金庫に入れた帰り道のこと、不意に背後から掛けられた声にリリは思わず振り向く。

 

 

 

「……あ」

 

 この瞬間、リリは心の底まで『魅了』された。

 

「貴女と一緒にダンジョンに潜っている子に少し興味が湧いたの。本当に珍しい魂の色をしていたわ。……知っている事を教えて貰えるかしら?」

 

「はい、女神様……」

 

 この数日後、リリは所属していたファミリアに脱退金を払って改宗を果たす。ファミリアは酒の販売で儲かっており、リリには特に価値のないにも関わらずそれなりの額を請求されたが何故か払う事が出来た。彼女の貯金では不足していたにも関わらず……。

 

 

 

 

 

「へぇ、前のファミリアで苛められていたのを見かねた神様が改宗を許してくれたんだ」

 

「はい! 其れで今までの雇い主で一番親切だったベル様の所が良いなと思ったわけです。宜しくお願いしますね、ベル様!」

 

 大量の食料を買って帰るとホームにリリが居た事に驚くベルだが、事情を聞かされて納得する。嬉しそうに差し出されたベルの手を握り返すリリだったが、その目は別の誰かに向けられていた。

 

 

 

 

「……宜しいのですか? 何時もの様にホームまで勧誘しに行かなくて……」

 

「ええ、構わないわ。すぐさま欲しいと思ったのではなくて、今まで見たことのない色をしていたから興味を持っただけよ。例えるなら、吹けば消えそうな程に小さいのに眩い光を放つ種火。これからどうするかは近くにいる子に定期的に様子を聞きながら考えるわ」

 

「……了解いたしました」

 

 

 

 

 

 リリがミアハ・ファミリアに入団してから数日後、リリの案で高い報酬のクエストが出たときの為に中層で採取できる鉱石を集めていた時、地響きと共に興奮した様子のミノタウロスが五体目の前に現れた。

 

「ベル様っ!」

 

 咄嗟にリリは後ろに下がり、ベルは瞬時に飛び出す。未だミノタウロスが出てくる階層ではないが、一切の躊躇なく繰り出された飛膝蹴りは中央の一体の頭蓋を砕き、倒れていくそのミノタウロスを蹴って背後に飛んだベルは両手で計四つの気弾を放って残りを同時に仕留める。今度は魔石を破壊せずに済んだ。

 

「お見事です、ベル様! でも、一体どうして五体も上階に進出を……?」

 

 ベルが飛んだり気を放ったりするのは念には念を入れたミアハの方針でスキルや魔法の類だと聞いているリリは魔石採取の為の刃物を取り出しながらも首を傾げる。その時、通路の向こう側から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

 

 

 

「おーい! 大丈夫ー?」

 

「『大切断(アマゾン)』!? ロキ・ファミリアの第一級冒険者じゃないですかっ!?」

 

 

 慌てた様子で現れたのはアマゾネスの少女。特徴的な武器こそ持っていないが、その顔に見覚えのあるリリは思わず叫んでしまうが、当の本人は気にした様子もなく、頭部を無残に破壊されているミノタウロスの死骸を興味深そうに眺め、次にベルに視線を向けた。

 

 

「これ、君が倒したの?」

 

「ごごごご、ごめんなさいっ! 別に横取りする気はなかったんですっ!」

 

 ロキ・ファミリアはオラリオでも最上位の勢力を持つ。そんな相手にダンジョンでの御法度である獲物の横取りをしたと睨まれては弱小ファミリアなど商売が成り立たなくなるだけでは済まないと慌てるベルだが、相手は一瞬面食らった後で吹き出した。

 

「あははははは! こっちのミスで逃がしちゃった訳だし、寧ろ助かった方だって。それにしても短時間で五体も倒すって強いねー。あっ、あたしティオナ。君達は?」

 

「おーい! そっちは仕留めたのー!?」

 

「あっ、未だ残ってたんだ! ごめん、もう行くね!!」

 

 貧弱な装備にも関わらず自分が見失った僅かな時間で五体も頑丈なミノタウロスを倒したベルに興味を持ったのかベタベタ触ってきたティオナだが、通路の向こうから声を掛けられて慌てて去っていく。まるで嵐のような相手に暫く呆然としていた二人だが、リリがいち早く我に返った。

 

「ベル様、早くリヴィラの街に行って貸倉庫の交渉をしませんと。保存食を倉庫に入れておけばダンジョンに長く潜れますね」

 

「うん! 僕の食事量じゃリヴィラで買い求めたら全然足りないからね。。……あっ、今日は夕食どうする?」

 

 今日は上層部でナァーザに頼まれた新薬の材料を集めるのに時間が掛かり、リヴィラの街で倉庫のレンタルに関しての交渉を終えたら直ぐに帰らないといけないが、ナァーザは取引先に食事に誘われており、ミアハは友神の愚痴を聞くために出掛けるらしい。なので今日の収入を使って偶には贅沢をしろと言われていた。

 

「……ベル様のお陰でそれなりの換金額が期待できますし、値段は張るけれど豊穣の女主人という店の料理が人気だとは聞いていますし行きませんか?」

 

 

 その後、足元を見たレンタル料に二人が諦めて地上に帰った後、二人はリリが言った店へと向かった。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ! お二人様ですね、こちらにどうぞ!」

 

 二人が店に入ると愛想の良い声で店員の少女、シルが出迎えてカウンター席へと案内される。漂ってきた香りにベル達の食欲が刺激されるも、メニュー表の値段を見て呆然とした。

 

 

「た、高い……」

 

 お金は足りるが、ベルの食欲を考えれば使い切ってしまうという事態に慌てるも、店長のミアの重圧が怖くて帰れない。仕方なく今日の収入をカウンターの上に出す。

 

「あの、予算はこの範囲で……」

 

「結構あるじゃないのさ。アンタみたいのがそんなに食えんのかい?」

 

 

 

 

 

「もぐっ! あっ、今日のオススメ三皿追加で……はぐっ! 其れとドドバスの丸焼き七皿と肉野菜炒め五皿と飲み物を……あっ、オススメはやっぱり六皿でお願いします。いやー、本当に美味しいですね、このお店」

 

 カウンターの上に積まれた皿の山は絶え間なく増え続け、ミアだけでなく料理ができる店員まで総動員して作り、残りの店員も洗い物や接客で慌ただしい。彼女達はシル以外が実は高いLvを持つにも関わらずだ。

 

「いや、その細い体の何処に入っているんだい……」

 

「……ベル様、それで最後ですからね。お金が足りなくなりますから、本当に……」

 

 この人、本当に悪人なのかと料金を計算して落ち込みながら考えるリリであった。




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魂の色? サイヤ人だし原作と違いでるって


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第三話

本日二作品目


「ずるっ………怪物祭(モンスターフィリア)?」

 

 食事時、大鍋一杯のヌードルを啜っていたベルはふと会話に出た行事について物を口に入れながら喋ったことを窘められつつ説明を受けた。ミアハが言うには観客の前でモンスターを調教するらしく、先日ガネーシャ・ファミリアが開いた神の宴も自分達が執り行う行事の邪魔をしないようにとのご機嫌取りらしくもう一度会いたいと思っていたそうだ。

 

「私とミアハ様は新薬の材料が熟成する頃だから行かないけど、ベル達は見に行ったら? 屋台も出るし気分転換になるわよ」

 

「屋台かぁ。……あの人も来るかなあ?」

 

「あの人? ベル様、どなたかお会いしたい人でも居るのですか? ならリリは別行動致しますが……」

 

 最近になると変に疑うのが馬鹿馬鹿しくなったリリのベルへの警戒心は薄れている。代わりに別の感情が芽生え始めていた。

 

「ベル様、財布を落としたり盗まれたりしていないか確かめてから食べてくださいね。其れと路地裏の怪しいお店に誘われても行かないこと。いざという時は飛んで逃げてください。どうせ降りられなくなった木の上の猫を助けたり、迷子の親探しで飛んでる所を見られているんですから!」

「はははは。まるでベルの保護者だな」

 

「いや、確かにリリはベル様より年上ですが保護者と呼ばれるほど上じゃありませんからね、ミアハ様。これも全部ベル様が心配をかけるのが悪いんです!」

 

 強いくせにお人好しで抜けているベルを近くで見ていると落ち着かないのだ。だからリリは何かと助言を繰り返し、保護者や秘書やマネージャーの類になっていた。

 

(それにしてもお子様だと思ってたけどベルも女の子に興味を持つのね。他のファミリアだと難しいから一般人だと良いのだけど)

 

 この場の三人はベルがその人物に恋でもしたのかと思っているが、年頃なので無理に聞き出そうとはしない。だから決定的な勘違いに気付かなかった。

 

 

 

 

(あのアマゾネスの人、多分凄く強い 。戦ってみたいなぁ……)

 

 力量を示すためでも、必要に迫られているからでもない。そもそもベルは暴力で解決するのは嫌いで苦手であるし、喧嘩も避けられるなら避けたい。ただ、強い相手と正面から戦ってみたいという欲求だけは持っていた。思い出すのはミノタウロスを追って来たアマゾネスの少女。身のこなしや纏う空気から強さを察したベルは三人の認識とは全く違うが、確かに彼女に会いたいと思っていた。

 

 

 

 

 

「そこの君! じゃが丸君は要らないかい? 今日は少しお買い得だぜ!」

 

「じゃあ、甘くない奴を五個ずつ下さい」

 

 ミアハ達に言われた様に怪物祭を楽しもうと決めたベル。だが一番の目的は食べ歩きだ。ここぞとばかりに屋台が出ており、普段から出ている屋台は値段を下げる事で客を確保しようとしている。ベルを呼び止めた少女の姿をした神もそんな屋台の従業員だ。悲しいことに眷属がいない神はバイトをして生活費を稼いでいた。

 

「へぇ。仲間の分まで買ってくれるんだね。少し時間が掛かるから待っていてくれ」

 

「いえ、全部僕が食べます」

 

「……えぇっ!?」

 

 神は人の子の嘘が分かる。だが、本当だと分かっていても大量の食べ物を抱えた細い少年のどこにそこまで入るのか信じられなかった。だが仕事は仕事。いそいそと揚げだした時、会いたくなかった相手が眷属を連れてやってきた。

 

 

「なんや、どチビー。こないな時までバイトかい。眷属の一人もいない奴は哀れやのー。ほれ、買うてやるから愛想振りまけや。お客様やで、お客様!」

 

「ぐっ、くくっ……! しょ、少々お待ちください。お先に注文したのを揚げていますので……くそっ!」

 

「いやー! 気分ええのぅ! うん。気分ええから坊主の分もウチが出したるわ!」

 

 じゃが丸君は安くて美味しいと人気の食べ物だ。味も豊富で色々楽しめる。

 

 

 

「じゃあセール価格で全部で二千ヴァリスになります」

 

「二千っ!? いやいや、どんだけやねん!?」

 

「確かにそこの少年が注文した品だし、まさか前言撤回はしないだろ?」

 

「ええい! 払ったるわ! どこかの貧乏神と違って裕福やさかいにな!」

 

「あの、小豆クリーム味ください」

 

 道の真ん中で醜く争う主神に眷属らしき少女は呆れた様子で自分の分が作られるのを待っている。一方ベルは奢ってくれた相手にお礼を言うと揚げたてを頬張りながら去っていった。

 

 

 

 

 

「……あれ? さっきの子、ティオナが言っていた子と特徴が似ている」

 

「うん? ミノタウロス数匹を秒殺したっていう奴か、アイズたん? ううん? 確かあの見た目、最近面白半分に神の間で噂になってる空飛べる兎みたいな冒険者と違うか? どうも詠唱無しで飛んだからスキルの類やないかって聞いたわ。 あっ、ウチは普通のな」

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! 空飛ぶ兎ちゃんだ!」

 

「ちょーっとお話し聞かせて貰おうか。スキルとかについて洗いざらい」

 

「まあまあ、少しステイタス確認させて貰うだけ……あっ、逃げた。マジで飛んでるよ」

 

 途中、暇を持て余した神の玩具にされそうになりながらもリリの助言通りに飛んで逃げるベル。だが人通りの多い場所で飛んでも目立つばかりで別の場所でも他の神に絡まれる。結果、屋台が軒を連ねる通りから何とか逃げ出し、今はフードの代わりに捨てられていたボロ布を被って路地裏を歩いていた。

 

「お、お爺ちゃんが言ってた通りだ。今度からはあまり飛ばないようにしないと」

 

 もう手遅れな気を感じながらも目当ての屋台を目指そうとした時、突如地面から巨大なモンスターが出現した。先端が太く丸っぽくなった蛇のようなモンスター。通りにいた人がパニックに陥る中、モンスターは猛然と突き進む。

 

 

「させるかっ! っ、堅っ!?」

 

 横合いから跳び蹴りを叩き込んで軌道を逸らすことは出来たが、ベルの足に痛みと痺れが走る。目の前の名前も知らないモンスターは非常に固かった。

 

 

「僕が引き付けますから逃げてください!」

 

 一般人らしき人々とモンスターの間に入って立ちはだかる中、建物に激突したモンスターが大して効いた様子もなく動き出し。先端が開き花が咲く。同時に地面から無数の蔦が現れた。

 

「蛇じゃなくって花だったんだ……」

 

 ベルが見上げる中、花弁の奥の歯を唾液で濡らしながらモンスターは突進してくる。その口内、上顎に魔石が存在するのをベルの目は捉えていた。

 

「限界まで引き付けて……はあっ!!」

 

 最低限の動きで蔦を避けながら右手に気弾を作り出し、愚直に突進してくるモンスターの口内に向かって放つ。咄嗟に避けようとするよりも早く気弾は口の中に飛び込み炸裂する。内部から魔石と花を破壊されたモンスターは灰になった。

 

 

「うぇ、ぺっぺっ! 口に入った!」

 

 ベルが口に入った灰を吐き出した時、先程屋台で出会った少女が高い所から下りてきた。

 

「……遅かったみたい。君が倒したんだね」

 

「は、はい! あの、巨大な花みたいなモンスターでしたけど何て奴か知りませんか? 極彩色の魔石だったり知らない奴で気になって……」

 

「! 少し話を……」

 

 極彩色の魔石と聞いた少女が反応する。もっと詳しい話を聞き出そうとした時、再び地面が盛り上がって先程と同じモンスターが三体出現した。

 

「新手っ!?」

 

 咄嗟に剣を抜いて詠唱しようとする少女。だが、其れよりも前にベルの気弾が大きく開けられた口の中に飛び込み、今度は喉の奥で炸裂、頭部が体から切り離された事で即死した。

 

「……ふぅ。これで調査が出来るかな? 全部灰にしちゃったら怒られるよね、多分」

 

 今度は魔石を破壊しなかった事に安堵するベル。その手を少女はジッと見つめていた。

 

(今、詠唱を全くしなかった。なのにあの威力。……魔力も全然感じなかったし、アレは本当に魔法?)

 

 

 あまりにも自分が知る魔法と比べて異質な事に戸惑う中、慌ただしい声が聞こえてきた。

 

「おーい! アイズ、大丈夫ー!? って、もう終わってるわね。うげっ!? 何なの、このモンスター。見たことも聞いたことも無いわよ」

 

「……あれれ? 君って確かこの前の……あっ、名前言ってなかったね。あたし、ティオナ。君は?」

 

 

 

 

 

 

 

「ベ、ベル・クラネルです。ティオナさん……あの日からずっと会いたかったです」

 

「……ほへ?」

 

 会いたかった相手との思わぬ再会と戦闘の興奮から自分が何を口走ったのか分かっていないベル。多分分かっていても気付かなかっただろう。どんな風に解釈されるのが当たり前な内容だったのかを……。

 




感想お待ちしています 明日はゲームの新章配信で休むかも


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第四話

非ログインからも感想出来るように直しました


「その後、悲鳴を上げて走り去っちゃって。お姉さんのティオネさんはニヤニヤしながら肩を叩いてくるし、ギルドへの説明もあってその後会えなかったので……」

 

「むぅ。さっぱり分からん」

 

 巨大な花のモンスター、食人花と呼ばれるようになったモンスターとの戦いがあった日の夕食時、(戦いたいという)思いを伝えた相手に逃げられて困惑するベルと、話を聞いて同じく困惑するミアハ。女性二人はそんな男性陣に呆れた眼差しを送っていた。

 

「えっと、ベル。会いたかったって伝えたのよね?」

 

「手合わせしたいって言ってないんですよね、ベル様?」

 

「え? うん、そうだけど……ええ!?」

 

 同時に溜息を吐き出す二人。意味も分からず困惑するベル。この日の夕食はこの様にして過ぎていった。

 

 

 

「新薬が必要かなーって思ってたけど無駄だったようね」

 

「あっ、新薬ってどんな薬だったんですか、ナァーザさん」

 

「……元気になるお薬」

 

 それは体力を回復する回復薬(ポーション)とは違うのかとベルは思い、ミアハは何故ベルに必要と思ったのか分からない。意味を理解したリリとナァーザはまたしても溜息を吐くのであった……。

 

 

 

 

 

 

「ギルドの内部調査?」

 

 送られてきた書状を読んでミアハは遂に来たかと眉間に皺を寄せる。恩恵を受ける前からLv.4を悠々越えた力を持つベルの秘密(やや認識の違いはあるが)が漏れれば神々の好奇心を刺激するからと策を練って平凡な下級冒険者だと認識させてきたが、食人花の死骸を調べた事で強さに疑念を持たれ、Lv.の詐称を疑われた様だ。

 

「ミアハ様、ごめんなさい。僕が軽率な真似をしたせいで……」

 

「いや、気にすることはないぞ、ベル。お前は恥ずべき事はしていない。寧ろ秘密のために助けようとしなかった方が誹りを受ける行為だ。……まあ、腹を括る時が来ただけだ」

 

 落ち込むベルを励ましたミアハは覚悟を決め、ギルドへ向かう為に普段着から正装に着替える。借金を負ってファミリアが没落してから着ることは無かったが、今が着る時だとナァーザが解れや虫食いを直してくれた。

 

 

「では行こうか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

「……此度はあらぬ嫌疑を掛けて申し訳御座いませんでした」

 

 背中のステイタスをギルドに公開したベルだが、当然不正など行っていないので潔白が証明される。ただ、普段から飛んだり、現場に居合わせた少女、アイズ・ヴァレンシュタインの証言にあった魔法が存在しない事に疑問が出たが、ミアハがこう言い切った。

 

「今回疑念を持たれた強さも、その二つもベルがオラリオに来る前に恩恵とは別の理由で手に入れた物だ。神の力が関係せぬ以上、何も話す義務はない」

 

 過去に別のファミリアに同様の疑惑が掛かった際も無実が証明され、ギルドは多額の賠償金を払った上にそのファミリアが裏で行っている事を黙認するしかなかった。弱小ファミリアが相手とはいえこれ以上事が大きくなれば他のファミリアにも強く出られなくなるとしてギルドはこれ以上の追求を避けるしかなくなった。恐らく普段は穏和なミアハが強く出たのも関係しているのだろう。

 

 結果、ベルの疑惑は間違いだった事だけが公表され、暫くは神の間でギルドへの信頼が揺らぐ事になった。そしてベルへの注目も少しは薄れたが、とある神は逆に興味を引かれるのであった。

 

「……欲しいな。ミアハの所には勿体ない人材だ」

 

 実は彼の所の下級冒険者がベルと食人花の戦いを僅かに目撃しており、今の時点でLv.3はあるのではと証言した。普通なら一笑に付すが、話半分に聞いても収集欲を刺激された男神は早速策を練りだした……。

 

 

 

 

 

 

「あっ、ティオナさん! おーい!」

 

「べ、ベル!?」

 

 ギルドから帰って直ぐ、気分転換に軽い運動がしたくなったベルはダンジョンに潜っていた。全力で飛べば走るよりも早く十八階層まで到達可能であり、ナァーザがダンジョン内部で採れる果物を使ったソースを作りたいと言っていたのを思い出したのも理由だ。

 

 その道中、ミノタウロスの群れを一蹴する集団の中にティオナを見つけたベルはつい嬉しさの余り降り立って話し掛けてしまったのだが、ティオナは彼の顔を見るなりビックリした顔になった後、真っ赤になって隣の姉の背中に隠れる。

 

 この少女、今まで団長であるフィンに四六時中求愛している姉のティオネと違い恋愛ごとにはてんで縁がなく興味もなかった。だが、一度会ったばかりの相手にずっと会いたかったと初めて言われ、その実力や所属もあって恋愛ごとに耐性のない彼女はどうして良いか分からない。

 

 尚、ベルが恋愛感情を向けているというのは誤解である。

 

「おや、君は……成る程」

 

 外見やティオナの反応からベルが誰か思い当たった小人族(パルゥム)のフィンとハイエルフのリヴェリアは少々興味深そうな視線を送る。

 

「あっ、ごごご、ごめんなさい! ティオナさんを見掛けたのが嬉しくってつい!」

 

 相手が大手ファミリアという事もあって慌てるベルは更なる誤解を積み上げる。ティオネは更に羞恥の色を濃くする妹の姿に僅かに安心し、同時にベルを警戒していた。未だギルドの発表を聞いていない彼女からすればランクの詐称をしているかもしれない相手。だが、恋愛と無縁だった妹が枕に顔を埋めて足をバタバタ動かしている姿に複雑な想いだ。

 

(まあ変な奴だったら力尽くで……)

 

 サイヤ人と似通った思考回路のアマゾネスらしい結論であった。

 

「少しビックリしたけど気にすることはないよ。此方もミノタウロスの件で迷惑を掛けたしね。それで妙な疑惑が掛かったそうだけど大丈夫なのかい? ……団長として団員に近付く相手は選ばないといけないからね」

 

 最初の友好的な態度から一変して表情は変えないまま威圧感を出すフィンだが、ベルは特に臆した様子もなく、逆に彼の強さの一端を感じ取ってワクワクしてさえいた。

 

「はい。誤解も解けたし気晴らしに十八階層まで行く途中です。じゃあ、僕はこの辺で。ティオナさん、また会いましょうね」

 

 本来奥手なベルだが、この時は戦いたい相手として認識しており、相手も自分と同じで戦いが好きだと何となく察して居たので平気でこのような事が言えた。当然、ティオナは真っ赤である。

 

 

「随分と惚れられてるわね、アンタ。……本当に詠唱もなしで飛んでるわ。しかも、ベートの全力と同じくらいの速度じゃない?」

 

「リヴェリア、ハイエルフの君でも魔力は感じなかったかい?」

 

「……ああ、アレは間違いなく魔法ではない。スキルか特殊なアイテムか……我々が知らない未知の技術なのか」

 

 リヴェリアの言葉にアイズは既に見えなくなったベルが向かった先を見つめていた……。

 

 




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第五話

「なななななっ! なんであの人がこの星に居るのっ!?」

 

 十八階層にて夢中になって果物を採取していたベルだが、遠目にとある人物を見掛けるなり咄嗟に物影に身を隠す。幼い頃の朧げな記憶、怖くて仕方がなかった父が憎み恐れていた相手の側近。

 

 名をドドリア。サイヤ人を支配下に置いていた宇宙の帝王フリーザの側近だ。

 

 鼓動が早鐘を打ち鳴らす様に高鳴り、警戒心の強い野生の小動物を捕まえる為にしていた様に何とか会得した気配を殺すコントロールをしながら息を殺し、下の階層へと進んでいるその人物を盗み見る。幸い、スカウターと呼ばれる戦闘力を計る機械を装着していないので気付きはしないだろう。

 

 だが、それも無駄だと分かっている。相手がその気になればこの星さえ吹き飛ばすことが可能なのだ。そしてそれを平気で行う残忍な性格だと薄っすらと記憶している。恐怖で体が震える中、歯がガチガチと打ち合って音を立てるのを手で必死に抑えたベルはある事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、ドドリアさんじゃないや。そっくりだけどアマゾネスだ。……でも、色黒の親戚って可能性も」

 

 ベルが見掛けたのはとある大手ファミリアの団長であるアマゾネスであり、宇宙の帝王の側近は今頃何処かの星を綺麗な花火にしている所だった。

 

 

「……あー、ビックリした。流石に神様でもフリーザ様は倒せないだろうし、来たら終わりだよね」

 

 これで遠目に少しだけ見た事がある破壊神でも来た時には恐怖で気絶するのではないかと思った時、リヴィラの街が騒がしくなった。偶にモンスターの襲撃を受けるのでそれが起こったのかと思って視線を向けたベルの視界に映ったのは昨日倒したばかりの食人花の大群に襲撃される街の姿。

 

「行かなきゃっ!」

 

 一瞬の迷いもなく果実を入れた袋の口をしっかり締め、両手に気を溜めながら全速力で飛ぶベル。その時、異変が起きる。町外れで無数の食人花が融合し、女性に酷似した上半身と無数の食人花の足を持つ巨大なモンスターへと変貌したのだ。ティオナ達は食人花達を次々に葬るが数が多く、リヴィラの住人を守りながらでは後手に回りがちだ。

 

「……此奴、魔法に反応するのね」

 

 ティオネが呟いたように、オラリオに出現した際にはベルが倒したから分からなかったが、食人花達は魔法の詠唱を始めた途端に他の獲物を無視して襲い掛かって来る。だが、その事によって策が出来た。以前から考えていたコンビネーションをレフィーヤに指示しようとリヴェリアが顔を向けた時、湖の水が荒れ狂いながら天井へと上っていく。其れだけではない。同じ様に砕けた地面の欠片も上昇気流に乗ったように上へと向かっていた。

 

「一体何が……む?」

 

 視線の先で紫の光が輝く。魔法に反応する食人花が反応を示さない光の中心は宙に浮くベルの手元。腰だめに構えて向け合う手の平の間で輝きを増していき、女形のモンスターに向かって腕が突き出されると同時に波動となって突き進む。

 

 

 

「ギャリック砲ぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

 一直線に進む紫のエネルギーは規模を増しながら突き進む。余波で強風が吹き荒れる中、正面から受けたモンスターの巨体を浮かせて垂直に飛ばす。巨体を押しやりながら突き進む紫の光は天井へと向かい、モンスターが天井に激突した瞬間に炸裂した。轟音と地響きが十八階層を襲い、大きくえぐり取られた天井から時折土塊が落下している。

 

 

「……凄まじいな」

 

「誤解が解けたって言ってたね。……つまりアレはLv.1の魔法……いや、魔法とは異なる何かって事だ」

 

 絶句するしかない光景にリヴェリアは思わず呟く。隣ではフィンが冷や汗を拭っていた。だが、今はこうしている時間ではない。遠くでアイズが戦っているからだ。

 

 

 

 

 

「……駄目だ。こんなんじゃ全然届かない」

 

 リヴェリア達が絶句するほどの高威力の攻撃を放つもベルの顔は晴れない。先ほどの技は記憶に残っている兄の必殺技を模倣した物。だが、本物を知るベルからすれば劣化コピーの後に同じ言葉が幾つも付くレベル。ターブルを除く家族が向けてきた蔑む視線を思い出した時、ベルの腹の音が鳴り響いた。

 

 

「お腹減ったなぁ……」

 

 今すぐ帰って仲間と食事にしたいと思ったが街にはモンスターによる被害が出ており負傷者も居るようだ。当然見捨てる事が出来ないベルは空腹を我慢しながら街へと向かっていった。

 

 

 

 

「やあ! さっきは凄かったね」

 

 負傷者の救助が一通り終わった頃、フィン達が話し掛けて来た。ティオナは未だティオネの背後に隠れているが興味深そうに視線を向けてきている。だが、アイズは更に強い視線をベルに向けていた。

 

「は、はい。有り難うございます……あっ」

 

 自分では未熟と思っていても誉められれば嬉しい。少しだけ表情が明るくなった時、再び腹の音が鳴り響く。思わず赤面してお腹を押さえたベルにフィンは笑い掛けた。

 

「暫く潜るつもりだったけど事件があったし予定は変更だ。食事にするから君も一緒にどうだい?」

 

「あっ、じゃあホームで作っていると思うので軽く……」

 

 何か聞かれそうだと思いながらも空腹には勝てず申し出を受け入れるベル。フィンも一人分増えても暫く潜る予定だったので余裕はあると思っていた。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。何とか一息付けました……」

 

 満腹ではないが空腹から脱した事で少し気が晴れたベル。尚、軽めだったので十人前程で済んだ。

 

「そ、それは良かった……うん、まあ良かったかな?」

 

 笑顔のままだがフィンの口元は引きつっている。レフィーヤなどは見るからに細いベルの何処に入るのかと唖然とする中、アイズが口を開いた。

 

「……貴方が使っていたアレは一体何?」

 

「え、えっと……内緒です」

 

 育ての親にもミアハにも出来るだけ黙っているようにと言い含められているベルは、ズイッと身を乗り出して問いかけてくるアイズに飲まれながらも言葉を濁す。

 

「これ、アイズ。他のファミリアの情報を探るのはマナー違反だ。すまんな、ベル。どうもあれだけの威力を見せられて興味を持ったらしい」

 

「いえ、僕なんてまだまだです。気の総量だって五歳の頃の兄さんの十分の一も無いですし……」

 

「気? ……それが貴方の使っている力?」

 

 思わずこぼしてしまった言葉に反応するアイズ。ベルがしまったと思っても遅く、聞いたことのない力に他の面々も興味を引かれた様子だ。

 

 

「し、失礼しますっ!」

 

 慌てて飛んで逃げるベル。その後ろ姿をジッと見つめていたティオナは思い立った様に立ち上がると手で両頬を挟むように叩く。

 

 

「うん。ウジウジしてても始まらないし、あたし決めた! ベルがあたしより強いのか戦って確かめる!」

 

「……弱かったらふるのね。でっ、強かったら?」

 

「……えっと、どうしようか?」

 

 姉の指摘に決意に満ちた顔から一変してモニョモニョと口ごもり出すティオナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? 何だよ、これ……。ミアハ様っ!? ナァーザさん!? リリ!?」

 

 ホームへと帰る途中、遠巻きに自分を見て何やら言われるのを気にしながらホームへと戻ってきたベル。だが、ホームは半壊していた。瓦礫の山と化しているホームに駆け寄ったベルは必死の形相で瓦礫の山を漁る。その時、背後から声が掛けられた。

 

 

「これこれ、私達は此処だ、ベル」

 

「ミアハ様っ!」

 

 怪我を手当した様子のミアハに慌てて駆け寄るベル。その隣には少し汚れているが特に目立った外傷のないリリの姿がある。だが、ナァーザの姿はなかった。

 

 

「……ナァーザならタケミカヅチの所に居る。私を庇って少し大きな怪我をしたが命に別状は無い」

 

「……ミアハ様、一体誰がこんな事を?」

 

 温厚なミアハから怒りを感じ取ったベルは何者かの仕業だと察する。ホームが襲われ仲間が傷つけられたらという事態に怒りがこみ上げていた。

 

 

「……証拠はない。だが、確証はある。アポロンの奴が言ってきた。お前を賭けて戦争遊戯(ウォー・ゲーム)をしようとな。断るなら誰かが同じ事をするだろうとな。……すまん、ベル。流石にここまでされて黙っていられるほど腑抜けでは無い。受けても良いか?」

 

 拳を握りしめながら頭を下げるミアハ。リリも同様に怒りを感じているのか震えている。そして、ベルも当然同じだった。

 

「……ええ、受けてください。僕も仲間にここまでされて目立たないように居たいなんて言えません。戦いましょう。誰が相手であっても!」

 




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第六話

とりあえず書きたいシーンは九割書いた 今後はペース落ちるかも


戦争遊戯(ウォー・ゲーム)だけど、攻城戦で良いよね? いやー、まさか即受けてくれるとは思わなかったよ、ミアハ。やっぱり何処かの誰かにホームを襲われて苛立ってたのかい?」

 

 神会にてアポロンは白々しく語るが、参加している神々は誰の仕業かなど理解していた。欲しい人材を手に入れるのに手段を選ばない彼の悪癖は知れ渡っている。その執拗な手口に辟易している者も多いが、今回は対岸の火事とばかりに静観するようだ。

 

「アポロン容赦なさすぎ!」

 

「ってかミアハがキレてるの初めて見たぞ」

 

 退屈を持て余した神々は普段の温厚な姿など捨て去ったミアハの姿さえも面白いと思いつつ、どちらが勝つかと話し合うも、やはり優勢なのは圧倒的にアポロン側。ランクアップの秘匿が誤解だった以上は尾ひれが付いた噂程度に思っており、フードで顔を隠して戦っていた為だ。

 

 もしもの話だが、顔を隠していなければ目撃者多数によって今回のような事態にはならなかったかもしれない。

 

「あっ、そうそう。絶対にないと思うけど、そっちが勝ったらどんな要求も飲むぜ。勿論こっちが勝ったらベル君を貰うけどね」

 

 その後、ミアハを闇討ちして天界に送還する計画を練りながらアポロンはほくそ笑む。ベルをどうやって可愛がろうかと欲望にまみれている頃、彼の眷属のカサンドラは悪夢を見ていた。見上げるほどに巨大な大猿が太陽を地に引きずり落とすという夢を……。

 

 不安になって仲間に話すも誰も取り合わない。そして彼女の予知夢の力を知るアポロンも今回ばかりはただの夢だと判断した。

 

 

 そして十日後、打ち捨てられた砦にて万全の布陣で待ち受けるアポロン・ファミリアに対し、ベルたった一人の決戦の幕が開かれた。

 

 

 

「ベルの勝利に賭ける。ホームから探し出した運営資金と各自の貯金だ」

 

 この日ばかりは常日頃と違って神の力を一部使うことが許され、虚空に浮かぶ鏡に砦が映し出される中、朝早くから開いた酒場は賑わいを見せ、アポロン・ファミリア側圧倒的有利に賭博が行われていた。そんな中、怪我で本調子でないナァーザとリリを引き連れたミアハが姿を見せた。

 

「ベル君たった一人でなんて酷いな、ミアハ。ああ、即座に降参する気か? その金はご祝儀だね」

 

 自分の勝利を信じて疑わないアポロンはミアハが出した大金に驚きながらも直ぐにニヤニヤ笑い出す。明らかな挑発だが、三人は全く反応しない。

 

 

「……アポロン、約束は覚えているな?」

 

「ああ、そっちの要求は何でも聞くよ。無駄な取り決めだけどね。ああ、開始が待ち遠しいよ」

 

「ああ、そうだな。此方も早く始まらないかと楽しみにしている所だ」

 

 賭けは当然の様にアポロン側に九割以上が賭け、ミアハを除けばベルに賭けたのはロキ等の僅か数名。そして開始を告げる正午の鐘が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

「色々噂になってるけど全部尾鰭背鰭だろ。だって冒険者になって三十日程度だぜ。なんならオイラ一人で倒してやるよ」

 

 普段は仲間から舐められて雑用を任されている小人(パルゥム)のルアンはここぞとばかりに得意げに語る。ベルに関する情報は下級冒険者の新人で装備は貧弱、空を飛ぶ魔法と超単文詠唱の攻撃魔法が使える、その程度と聞いている。食人花にしたって偶然急所に命中したか弱かっただけと侮っている。

 

 だが、仕方のない話だ。ランクアップの際に受ける恩恵は凄まじい。基本アビリティが最高値近くのLv.2と極めて高いわけでないLv.3、ここには数値だけなら大差がないように見えるが圧倒的な差が存在する。そしてアポロン・ファミリア団長ヒュアキントスはLv.3で、Lv.2の団員も数多く在籍する。

 

 悪夢を見た少女以外が勝利を疑わない中、飛んできても良いようにと弓や杖が構えられる。圧倒的人数差を覆すには奇襲しかなく、実力差から万が一もなくてもアポロンの命令で準備は万全。

 

「……彼奴馬鹿か?」

 

 だが、ベルは正面から現れた。悠然と歩を進め、表情からは諦めも怒りも恐怖も感じられない。

 

「おーい! アポロン様の愛が欲しいから降参する気かー? まあ、ダンジョンが怖い団長に雑魚のサポーター、そして情けない主神、そんな役立たずより……」

 

 ルアンの挑発の最中もベルは進み、砦を囲む塀の頑丈そうな門の前で立ち止まるとルアン達に声を掛けた

 

「怪我をしたくない人、僕みたいに何かされて入団させられた人は逃げてください。僕も追いません。強い人と戦うのは好きですが、弱い物いじめは嫌いなんです」(ここは弱い者が正しい…けども…)

 

 ベルの声に馬鹿にする様子はなく、本気で言っているとルアン達は受け取った。怒り出す者もいれば気が狂ったのかと指を指して笑う者もいる。ルアンもその一人だ。

 

「ははははは! 彼奴凄い馬鹿だ! おい! 早く飛んで塀を越えて見せろ! その前に撃ち落とすけどな!」

 

 ルアンの挑発によって周囲の仲間も笑い、直ぐに放てるように弓を構える。だが、ベルは首を傾げていた。

 

「飛ぶ? ……ああ、この程度の門で入れないと思ったんだ。えい!」

 

 大して気合いも入れていない様な声と共にベルの腕がブレて見えなくなり、分厚い金属製の門が水平に吹き飛んだ。唖然とするルアン達の耳に響いたのはひしゃげた門が砦に激突した音。

 

 

 

「五秒あげる。逃げるなら逃げて」

 

「撃て! 撃てっ!!」

 

「……逃げてくれないんだ」

 

 恐怖に駆られながらも一斉に放たれる矢や魔法。だが、ベルに届くよりも前に彼の姿が消え去り、ルアンの眼前に現れる。少し悲しそうな顔をしながらルアンの顔面を掴み持ち上げたベルは静かな声で言った。

 

 

「さっき変な事を言ったよね? ミアハ様達が役立たず? ミアハ様やナァーザさんは色々と薬を調合できるし、リリだって経験豊富なサポーターってだけじゃなくって最近じゃ調合を勉強してるんだ。戦うしか出来ない僕と違って凄いんだ。……そんな皆を馬鹿にするなーーーーーーっ!!!」

 

「げふっ!?」

 

 ベルはルアンを振りかぶって投げつける。直線上にいた団員が纏めて吹き飛ばされる中、砦の中に居た団員達が飛び出して来た。

 

「アポロン様の愛を受け入れぬ愚か者を討ち取れー!!」

 

「魔法に注意しろ! 取り囲んで叩け!」

 

 得意とする武器を構えて殺到するのはアポロンの趣味で集められた見目麗しい冒険者達。その一人、先陣を切って進むエルフは仲間に指示を飛ばしながらベルに飛びかかり、顔面に拳を叩き込まれて殴り飛ばされる。ルアン同様に後方の仲間を巻き込んで地面に叩き付けられた彼が気絶する中、ベルはアポロン・ファミリアの団員達の真上に飛び上がる。そして身を捻って大きく振りかぶった右手に気弾を作り出すと、勢い良く放つ。

 

「この化け物!」

 

 団員達の真上で炸裂した気弾は轟音と衝撃をまき散らし、出て来た団員を吹き飛ばす。隙有りと背後から弓が射られるもベルは振り向きもせずに片手で受け止め投げつける。弓を射た犬人の少女の足下に着弾し、足場を瓦礫に変えた。

 

 

 

 

「……馬鹿な。有り得ん……」

 

 鏡に映し出される映像にアポロンは思わずグラスを取り落とし、砕けたグラスの破片とワインが床に広がる。ランクや人数に圧倒的な差があった筈の戦いはベルの圧倒的有利で進んでいく。開始から十分足らずで既に九割近くが倒され、残りの多くは戦意喪失から逃げ出した。ベルは最初に口にした通りに逃げる者には手を出さず、只上を目指す。ヒュアキントスが待ち受ける上を目指して歩を進め続けた。

 

 

「おや、随分と余裕がないな、アポロン」

 

「……ふ、ふん! どんなトリックが有るかは知らないが、ヒュアキントスには通じない! そうだ! ファミリア最強のあの子がいれば僕の勝利は揺るがない!」

 

 二人同時に飛びかかったダフネとカサンドラが同時に壁に叩き付けられる映像に顔を引き攣らせながらもアポロンは笑う。そしてついにベルはヒュアキントスの待つ部屋へと辿り着いた。

 

 

 

「……随分と派手にやってくれたな。お陰でファミリアの面子はボロボロだ。もはや貴様を血祭りにあげる必要が有るほどにな」

 

 鎧を着け剣を構えたヒュアキントスは剣を構え、ベルを見据える。もはや侮ってはおらず全力で殺す気でいた。そんな彼に対してベルは静かに問い掛ける。

 

 

「……ファミリアの面子がボロボロ? 貴方達、その程度の覚悟で僕の仲間を襲ったんですか?」

 

「それがどうした! 弱小ファミリアなどどうなろうと……」

 

 観覧していたオラリオの住民達が静まり返る。一瞬、それこそ瞬きをした僅かな時間だった。五メートルの距離を詰めたベルの拳がヒュアキントスの腹に突き刺さったのは。高価な値段に見合った性能であろう鎧は砕け、くの字に体を折り曲げたヒュアキントスの足は床から離れている。

 

 

 

 

「少しだけ心配してたんです。ホームを襲ったのは別の誰かかもって。……お陰で安心して倒せました」

 

 静かな声で拳を引き抜くベル。ヒュアキントスは膝から崩れ落ち、白目を向いて気を失っている。素手によるたった一撃でジャイアントキリングを成し遂げたと観客が理解するのに数秒の時間を要し、オラリオに歓声が響き渡った。

 




本当はスラッグの時の中途半端超サイヤを出す予定でしたが・・・勿体ないので止めました

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第七話

後日談的な

この後は構想していない  イシュタル編は少しだけ


「うわっ!?」

 

 タケミカヅチ・ファミリア団員の一人である命が飛び上がって太股でベルの顔を挟み、見えた下着にたじろいだ隙に地面に頭から叩きつけられた。

 

「そこまで! 一本!」

 

「ふぅ。漸く一本とれましたね。……ベル殿?」

 

「だ、大丈夫です……」

 

 タケミカヅチの号令と共に額の汗を拭う命や団長の桜花。アポロンの一件が終わって早数日、賠償金で新築するホームが完成するまでの間、毎朝のようにベルは命達と稽古をしていた。狭い円の中で両手を使わずに足で防ぐか避けるかのみのベルに二人で攻撃を仕掛けるのだが、対人経験の少なさから拙い技を身体能力で補うベルに翻弄され、今日になってようやく一本が取れた。

 

 尚、先ほどの技はフランケンシュタイナーと呼ばれる技の同類であり、タケミカヅチは命に教えた事を同郷の女神から叱られていた。

 

「今日も良い天気だな、タケミカヅチ」

 

「ああ、そうだな。しかしベルは不思議な奴だ。あれ程までに強いのに対人経験が異様に少なく見える。まあ、俺の子供達にも良い刺激になるし、一から教えるのも楽しいぞ。……まだ頭が痛むな」

 

 アポロンにミアハが要求したのはファミリアを解散してオラリオから出て行く事と財産の没収だったが、ホームの襲撃によって受けた損失と借金の返済、少し大きめに作り直すホームの建設費用を除き、殆どを参加自由の宴の費用に当てた。今後ちょっかいを出してくれるなと他の神の機嫌をとり、同時に襲撃に関与しなかったアポロンの眷属に賭けで負けた者が怒りを感じないようにとの意図がある。

 

 ナァーザとリリは甘いと呆れ、ベルは賛同した。罪は罪だから襲撃の犯人には罪を償って貰うが、落とし前自体はベルが付けたからだ。

 

 そしてこれを機に団員を募集するかしないかの話になったが、ミアハの判断によって延期になった。

 

「薬の調合を一から教えるにしても、私とナァーザだけでは商品の製作も考えれば手が足りん。リリが売り物になる物を作れるようになるまで待つとしよう」

 

 ダンジョンに潜る人員については満足に戦えるのがベル一人という事もあり、負担を考えて此方も延期。取りあえず数十人前の炊事を任せられる者を金で雇うという案が話し合われている途中だ。

 

 

 

「さて、久々に技の稽古を付けてやろう。桜花から掛かって来い!」

 

「宜しくお願いします!」

 

 タケミカヅチは武神だ。神の力は封じていても技は錆び付きはしない。事実、恩恵によって身体能力が異常に上がった桜花達でさえ翻弄される。

 

 この様にホームが完成するまで居候したタケミカヅチ・ファミリアの面々と交流を深めつつベルは技を身につけていった。

 

 

 

 

 

 

 

「へえ。ベルさん、もっと強くなっているんですね。……フレイヤ様も戦っているときの魂の輝きが素晴らしいって喜んでいたそうですよ」

 

「そうですか。女神様が……」

 

 この日、普段使っている装備の整備があるからとダンジョンを休んだリリは用事を済ませた後、シルと喫茶店で話をしていた。たわいもない世間話で、内容の多くは注目されているベルについて。特に秘匿事項も話しておらず何も問題はない。

 

 只、リリの瞳は何処かの女神への魅了と良心の痛みが込められてはいたのだが……。

 

 

(リリは一体何をしているのでしょうね。これじゃあ酒欲しさに行動する前のファミリアの皆と変わりませんよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日一緒に潜ったときに見せて貰った命さんの魔法、もっと長く使えれば修行に使えるのになぁ……」

 

 Lv.5の階層主クラスでさえ動きを封じ込められる魔法を思い起こしながらベルは十八階層に辿り着く。今日はギルドの掲示板で見つけた依頼の為にやってきた。彫刻に使うので水晶を採取して欲しいとの事だ。取り敢えず手頃な大きさの物を地面からもぎ取って持ち帰ろうとしたベルは、ついでに他の依頼であるバグベアーのドロップアイテムを集めようと奥へと進む。水辺周辺で何かが水中で動く音を耳にしたベルはバグベアーかもと思い飛び出した。

 

 

「あっ、ベル!」

 

「ティオナ…さん?」

 

 だが、水音の正体は普段から水浴びに来ているティオナ。当然、全裸だ。ついでに言うならばアマゾネスは基本的に恥じらいがない。隠すべき所を隠さずに立っているティオナを真正面から見て固まったベルの顔は耳まで真っ赤になった。

 

「ごごごご、ごめんなさーい!」

 

「待って! ねぇ、今からあたしと戦おうよ!」

 

 慌てて走り去ろうとしたベルの手をティオナが掴んで引き止める。当然後ろを見れないベルだったが、思わぬ言葉に振り向いてしまった。

 

「良いんですか!? ……あっ」

 

 今度は至近距離でティオナの全身を目にしてしまうベルであった……。

 

 

 

 

 

「じゃあ、この魔石が地面に落ちたら開始ね」

 

 開けた場所で五メートルほどの距離を開けて向かい合うベルとティオナ。指で弾かれた魔石が宙を舞い、落下すると同時に二人は動く。一瞬で距離を詰め、互いの額が正面からぶつかり合い、上体を戻すと同時に膝蹴りが再び衝突する。最後に拳と拳が正面からぶつかり、同時に後ろに跳んだ。

 

 

 

「あ痛たたたたた~。君、あたしより頑丈じゃない?」

 

「それを言うならティオナさんの方が僕より力が強いです。今、少し押し負けました」

 

 ティオナは少し赤くなった拳を振り、ベルは痺れる拳を押さえる。先程のは開始の挨拶同然。今からが本番だ。ティオナは腰を落とし、しなやかな動きで矢の如き跳び蹴りを放つ。顔面目掛けて迫る蹴りを上体を反らして避けたベルの眼前で足が高々と上げられ、強烈な踵落としが襲ってくる。

 

「くぁっ!」

 

 咄嗟に滑り込ませた腕で防ぐも骨にまで響き、ベルの足が僅かにぐらつく。その瞬間、ベルの頭をティオナの両手が掴んで地面に引き倒した。そのまま着地したティオナは瞬時に振り返ってベルの頭を踏みつけようとするも転がって避けたベルは飛び上がって距離をとった。

 

 

(……やっぱり強い。でも、負けるもんか!)

 

 ベルはその場で数回飛び跳ね、激しい足踏みから一気に直進した。

 

「速っ!」

 

 咄嗟にガードを固めるティオナだが、直前でブレーキを掛けたベルは彼女の背後に回り込む。ガードに集中して出た一瞬の遅れ。ベルが渾身の一撃を振り向いた横顔に叩き込むのに十分だった。体勢を崩しながらもティオナは一撃で逆転が可能な威力の上段蹴りを放つも屈んで避けられ腹部に一撃を入れられる。

 

「てあっ!」

 

 足が地面に付くと同時の踏み込みからの強烈なアッパーも避けられ、ベルの方が自分より速いと思った瞬間、足の甲を踏んで押さえつけられ、胸部に強烈な肘打ちが叩き込まれた。

 

「ゴホッ! うん。やっぱり君は強いよ。でも、勝負はこれからだよー!」

 

「望むところです!!」

 

 

 そして、勝負は此処から熾烈さを増していく。ティオナに蹴り飛ばされたベルが木をへし折りながら飛んでいき、ベルの乱打によってティオナが水晶に叩き付けられ背後の水晶が砕けるまでベルの拳は止まらない。互いに防御も回避も考えず、より多く相手に一撃を与えようとする。

 

 その最中、ティオナの動きはダメージが有るにも関わらず速さを増していく。これこそが彼女の真髄。スキル名『大熱闘(インテンスヒート)』ダメージを受ける程、死に追いやられる程に自らを強化する。

 

 

「行っくよぉおおおおおおおっ!!」

 

 激しさを増していくティオナの猛攻。だが、ベルも同様に強さを増す。相手が強いほどに自らを強化するスキル『難敵高揚(ザ・サイヤ)』はティオナが強くなればなる程、ベルをより強くしていた。

 

 アマゾネスとサイヤ人。共に好戦的な種族の死闘、互いに時間など忘れ続けていたが、やがて終わりが訪れる。同時に響く打撃音。二人の拳は同時に突き刺さり、ベルは膝を付いてティオナはそれを見下ろして笑う。

 

 

「あはははは。あー、楽しかった! 今回はあたしの……負けだね」

 

 パタリと音を立てて倒れるティオナ。大の字になった体にはもう立ち上がる力が残っていない。激闘を制したベルは拳を握りしめ、高々に吼える。

 

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 その姿を見ながらティオナはフィンに対するティオネの気持ちを完全に理解する。今まで色恋とは無縁だった少女の胸は今確かに高鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ティオナ、アンタ今日は何時もの服でダンジョンに行ったんじゃなかったの?」

 

「実はダンジョンでベルと戦ったら使い物にならなくなっちゃって。そしたらベルが上着を貸してくれたんだ。……あたし、負けちゃった。でも、気持ちがいいんだ。これが恋なんだね、ティオネ」

 

 ベルの服を自分の体ごと抱き締める妹の顔を見ながらティオネは思う。少し安心したけど、面倒なことになりそうだと……。

 

 

 

 

 

 

「……これは」

 

 その頃、ベルのステイタスを更新したミアハは言葉を失う。あの程度など試練に値せんとばかりにアポロン・ファミリアとの戦いの後でも微量しか上昇しなかったベルのステイタスが急上昇しただけではなく、新しいスキルまで手に入れていた。

 

 

 

 

戦闘王子(プリンス・オブ・サイヤ)

 

・誇りをかけた戦いの最中ステイタスに補正

 

・理性を保てる




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第八話

眠いので感想返しは明日に・・・・


「お二人とも、立場とか周辺への被害とか考えてらっしゃいますか? 考えてらっしゃいませんよねぇ? 考えていたらこーんな事になりませんもんねぇ!」

 

 最近ベルの様子がおかしいと感じていたリリは早朝にホームを抜け出して町外れに向かう彼を尾行、ティオナと会っているのを目撃した。すわ逢い引きかと少しドキドキしたが始まったのは模擬戦。拳と拳、膝と膝が激突する度に周囲に余波が広がり地面が弾ける。踏み締める毎に足下が沈み、避けられて地面に向かった拳によって大穴が開く。

 

「……」

 

 デバガメよろしく観察しようとしていたリリは固まり、石礫が飛んできた辺りで無言で立ち去るとスコップなどの整地の道具を持って戻ってきた。

 

「あの、お二人様、少しお話を…お話……聞けって言ってるでしょうがぁあああああああああっ!!」

 

 リリも最初は我慢した。普通に止めようと話しかけるも戦闘に夢中で聞いていない。それでも普通に話し続け、最後にキレた。早朝に響きわたる絶叫と共に二人の間に投げ込まれた小袋の名は強臭袋(モルブル)。ナァーザが作り出したモンスター除けの効果がある程の強烈な臭いを放つ効果があり、意図せずして二人が突き出した拳の間に入り込み、当然のように中身がぶちまけられた。

 

 そして話は冒頭に戻る。悶絶する二人の前に臭いを我慢しながら涙目で立つリリは言った。正座しろ、と。有無を言わさぬ威圧感に二人は従うしかなく説教が始まったのだ。

 

「ティオナ様は余所のファミリアの方ですからこれ以上は言いませんが、ベル様は別ですからね! 大体、そんな事だからランクアップもしていないのに『激怒兎(デストロイヤー)』なんて物騒な二つ名が付くんです!」

 

 あの一件から町中を歩くとその二つ名で呼ばれ、アマゾネスからは熱の籠もった視線を向けられる事があった。なお、ミアハの友神が宴の席でスカウトした元アポロン眷属の少女二人には再会するなり悲鳴を上げられた。敵対した時、凄く怖かった様だ。

 

「アポロン・ファミリアとの件からでしょ? あたしは知らなくってダンジョンに潜ってたから見れなかったけど、ウチの団員も影響されて奮起する人が多いよ」

 

「ロキ・ファミリアの人かぁ……」

 

 宴の途中、話し掛けてきたベートの事を思い出す。囲んでくる人達にワタワタしていた時、不機嫌そうな声で言ってきたのだ

 

『おい、雑魚みてぇにビクビクしてんじゃねぇぞ』

 

 それだけ言って去っていったのだが、後でフィンから、彼なりにベルの強さを認めた上でそれに相応しい態度を取るのが強者の義務だと言いたいのだと教えられた。

 

「所でティオナ様。ベル様と模擬戦をしている事を仲間の方々は知っているのですか?」

 

「大丈夫大丈夫! 同じ部屋のティオネには気付かれないように出て来たからバレてないよ」

 

 正座を一旦止めさせ荒れ果てた地面を均す途中、リリから問い掛けられたティオナは自信たっぷりに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ! あのティオナさんが恋ですか!?」

 

「ちょっ! 声が大きいわよ、レフィーヤ。相手は敵対していないファミリアとはいえ他の派閥なんだから。……どうも例のベル・クラネルに一騎打ちを申し込んで負けたらしいのよ」

 

 ロキ・ファミリアのホームの廊下でティオナについて知らされたレフィーヤが大声を出してティオネに口を塞がれる。口元に指を当てて静かにする様に指示したティオネは話をしやすい様に自室へ連れ込んだ。

 

 

「ほら、アマゾネスって強い男が好きでしょ? 彼奴、今まで恋愛のれの字も知らなかったのに一騎打ちで負けちゃってから燃え上がったのよ、恋の炎がね。どうも様子からして毎朝模擬戦でもしてるらしいわ」

 

 ロキが言うにはステイタスが急上昇しているみたいだし、上質な経験値を稼いでいるのね、と呟くティオネに対しレフィーヤは混乱した様子。それ程までにティオナと恋愛が結びつかなかった。

 

「そ、それで他にその事を知る人は?」

 

「アイズも知ってるわ。あの子、ベル(が使う力)に興味が有るみたいで、自分も(模擬戦に)付き合って貰いたいって言ってたわ」

 

「ア、アイズさんが、そんな……」

 

 レフィーヤにとってアイズは憧憬の対象であり、もっと仲良くしたいと思っている相手。それが知り合ったばかりの男と付き合いたい、しかも他の仲間と一緒で良い、等と理解しきれなかった。潔癖なエルフである彼女なら特に……。

 

 

 

 

 

 

「お、おのれ! あの女誑しがぁああああああっ!!」

 

 この後、アイズに真相を問い質しに行くレフィーヤだが、アイズも重要な部分を除けたまま肯定し、結果、レフィーヤはベルを打倒すべく鍛錬に一層力を入れるのであった。

 

 

 

「……何か面白くなりそうだから放置しておきましょう。やばくなったら止めれば良いし。しっかし、あのティオナが恋ねぇ。明日にでもデートに誘うって言ってたけど、どうなるのやら……」

 

 妹の恋の行く末が楽しみであり不安でもあるティオネはやや暴走しがちな友人の姿を眺めながら空を仰ぎ、次に視線の先に思い人の姿を捉えた。

 

 

 

「団長ー! 今からデートしませんかー!」

 

 妹同様に猪突猛進気味な彼女は恋に関しては自重しない。今日も猛烈なアタックを繰り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっほー! お宝置いてけー!」

 

 ダンジョン中層『大樹の迷宮』にてティオナは大はしゃぎで木竜《ウッドドラゴン》に襲い掛かる。先の遠征で失った大双刃(ウルガ)を新調したことで背負ったローンはまだ多額が残っており、守っている宝石樹から採れる宝石やモンスター自体のドロップアイテムの換金額は三千万は下らない。何より、ベルとの()()()()なのだから気合いも入っていた。

 

(ティオナさん、気合い入っているなぁ)

 

 ティオナに()()()()()()()()()()()()()誘われたベルは感心した様に戦う彼女の姿を眺めていた。リリは今日は交友のあるタケミカヅチ・ファミリアと潜る約束をしているらしく別行動だ。

 

「ティオナさん、凄かったです!」

 

「えへへ、そう?」

 

 惜しくもドロップアイテムは無かったが誉められれば嬉しい。特に好きな相手からなら尚更だ。姉がフィンに良いところを見せたがっていた気持ちを今理解したティオナは一層張り切った。

 

 

 

「ほらほら、ベルの為に作ってきたんだ~! はい、あーん!」

 

「ちょっと、ティオナさんっ!?」

 

 

「ねぇねぇ、ちょっとおぶさって良い? 飛ぶのってどんな感じか知りたくってさ。ほら、外じゃ目立っちゃうし」

 

「む、胸が当たってますって!? わ、分かりましたから体をもっと離して……うひゃっ!?」

 

 

 この様に勇気を出してアタックを進めながら辿り着いたのは二十四階層。異常なまでに発生したモンスターを一蹴しながら進んだ先で大規模な戦闘の痕跡を発見した。

 

 

「うーん。誰が戦ったのか気になるね。こっちに向かったみたいだし、行ってみようか!」

 

 ティオナはベルの手を取ると駆け出す。二人が向かったのは食料庫(パントリー)。先ほど極秘の依頼を受けた一行が向かった先であり……その中にはアイズの姿もあった……。




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第九話

スーパーマリオランしながら返信してたらミス連続・・・俺はおこったぞぉおおおおっ!!ww


「そう言えばさ、気ってそもそも何なの?」

 

 殺到するモンスターの群れを鎧袖一触に蹴散らしながら進んでいた時、ふとティオナの口からそんな疑問が投げかけられる。普段なら誤魔化すベルだが、生来のお人好しもあってか今日までの付き合いでティオナへの警戒が薄れていた。

 

「えっと、元々はエネルギーとか戦闘力って呼んでたんだけど、色々あって母星……実家と同じ言葉を使うのが嫌で、元気とか気合いからとって気って呼ぶようにしたんだ。体内エネルギーの事で、精神的な物も影響するからピッタリかなって……」

 

 更に付け加えるなら気を増幅爆発させる事で身体能力を急上昇させる事も出来るのだが、サイヤ人やフリーザ一味には使える者は珍しいタイプと認識されている事から方法は伝わっていない様だ。

 

「何かよく分からないけどあたしにも使えるの?」

 

「僕は王子だから早い段階で使えるようにって刷り込みで使い方を覚えたから、使い方を教えるのは……壁? 植物みたいだけど……」

 

 ティオナの問いに少し申し訳なさそうに答えながら重要な部分をうっかり話してしまった時、二人の前に地図には存在しない壁が立ちふさがる。どうやら植物で構成されているようで、入り口らしき物は閉じてしまっていた。二人でベタベタ触って調べ、道を変えても壁が存在する。完全に食料庫(パントリー)への道が塞がれていた。

 

 知識にない事態であり、此処から先は未知の領域だ。警戒して引き返し、ギルドに報告するのが通常である。

 

 

「はぁっ!!」

 

 だが、二人はそんな普通な考えなど頭に浮かばず、ティオナが大双刃(ウルガ)で切りかかるも分厚くて意味がないのでベルが気功波で吹き飛ばす。ティオナが警戒もせず、ベルがオドオドしながら中に入ると壁に開いた穴が塞がった。

 

「うわぁ! 壁も天井も変なので覆われているよ。案外巨大なモンスターの体内だったりして」

 

「テ、ティオナさーん! 怖いこと言わないで……来ますっ!」

 

 内部は壁と同質の物で覆われており、興味深そうにティオナは手を当てて騒いでいる。そんな彼女の言葉にベルが弱音を吐こうとした時、前方から食人花の群れが襲いかかってきた。

 

 

「確か打撃に強いんだよね? なら……せやっ!」

 

 まず、先頭の一体に跳躍からの振り下ろしで頭部を両断し、敵中に飛び込んでの振り回しで切り刻む。高威力の武器と高い腕力に任せた豪快な戦法に感心しながらもベルは右手に気を集中させる。気功波を放つのではなく、手刀の構えから手首から先に纏い刃のようにする。

 

「はっ!」

 

 刀身は三十センチ程だが切れ味は鋭い。食人花を容易く切り裂き、速度で翻弄しながら次々にしとめていく。次々と新手が現れるも二人の進撃は衰えるどころか勢いを増していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また侵入者か。レヴィスはアリアの確保に向かい、あの者共も残りのゴミの掃除に向かわせた。さて、どうするか。食人花(ヴィオラス)程度では足止めにもならんし……仕方ないな」

 

 大樹の迷宮の奥に出現した謎の壁の内部にて仮面の男が監視カメラの様に映し出された内部の映像を見て忌々しそうに呟くと先にアイズと共に入り込んだ冒険者が目指す食料庫(パントリー)へと向かう。そして彼が指を鳴らすとモンスターの餌である栄養素が流れ出す大主柱に絡みついていた巨大な食人花の一体が蠢いた。

 

「行け、巨大花(ヴィスクム)。侵入者を押し潰して来い」

 

 

 

 

「……げっ。マジ……?」

 

 散らばった死体から極彩色の魔石を回収していた時、突如地響きと共にそれは現れた。ティオナ達と比べれば蛇と蟻程の体格差を持つ巨大。当然、通路に入りきらないので強引に突き進む。天井や壁を強靱な外皮で削りながら二人へと突き進んできた。

 

「ティオナさん!」

 

「了解っ!」

 

 回避は不可で逃走は困難。躊躇は一瞬で、詳しい指示は不要。二人は即座に腰を落として構え、巨体の猛進を正面から受け止める。超重量高速の突進によって弾き飛ばされそうになるのを踏ん張って堪え、押し込まれ足で地面を削りながらも体勢は崩さない。徐々に、だが確実に速度は落ちていく。

 

「っ! だらぁあああああああああっ!!」

 

「はぁあああああああああああああっ!!」

 

 二人同時に気合いを入れて腕と足に更に力を込める。背後に壁が迫り、押し潰される寸前で巨体の動きが停止し、ベルの手に気が溜まると同時にティオナが跳ぶ。瞬時に放たれる気功波が頭部を破壊しながら巨体を押し戻し、壁を蹴って内部に飛び込んだティオナは武器を振りかぶって頭部の奥に存在する魔石に向かって投げつけた。核である魔石を真っ二つに割られ崩壊する巨体は灰になって通路を埋める。数秒後、灰の中から二人が頭を出した。

 

 

 

「ぷふぁー! 危ない危ない。生き埋めになっちゃったよ」

 

「大きかったですね。まさかこんなのが他にも居るんじゃ……」

 

 灰と天井の間の僅かな隙間に頭を出して息を吸う二人は顔を見合わせハイタッチ。灰の中を進むのは難しいので再びティオナがベルに掴まり、飛んでこの巨大なモンスターが来た場所へと向かった。

 

 

 

 

「アスフィさんに汚い手で触るんじゃねぇ!」

 

 この日、ヘルメス・ファミリアの団員であるルルネは主神の方針で行っているランク詐称をバラすと脅され、仲間と共に食料庫(パントリー)まで辿り着いた。途中、同行したアイズが分断され、待ち受けていたのは自爆覚悟の白装束の集団と大量の食人花(ヴィクラム)、そして仮面の男。

 

 爆発する性質を持った火炎石を装着した死兵に敵味方関係無しに襲い掛かるモンスター。状況打破のため、団長であるアスフィが奥の手である飛翔靴(タラリア)を使い、それぞれを指揮する二人に迫る。白装束の指揮官を潰し、仮面の男に切りかかったが短剣を奪われ、逆に体に突き刺された。

 

「この程度では死なぬのはわかっている。だが、これで容易に全快はすまい」

 

「あ…ぐっ……あああああああああああ!!」

 

 

 抉るように短剣を動かしアスフィに深手を負わせた男はトドメを刺そうとするが、団員であるキークスの目眩ましによってアスフィを放す。だが、高位回復薬(ハイ・ポーション)を投げ渡そうとした彼の体を食人花(ヴィオラス)が貫いた。仲間が固まる中、脱力した彼は壁に叩き付けられ地面に落ちる。

 

 そして、瀕死になりながらもアスフィに薬を投げ渡そうとする彼の頭を踏み潰そうと仮面の男が足をあげた。

 

「潰れろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を……してるんだぁああああああああああああっ!!!」

 

「ぐおっ!?」

 

 だが、キークスの頭が踏み潰される寸前、猛烈な勢いを付けたベルの蹴りが仮面の男の脇腹に叩き込まれる。片足をあげた体勢では踏ん張れず蹴り飛ばされる男だが、即座に着地し、着地寸前のベルに拳を振るう。だが、命中の寸前でベルは上に飛翔し、大きく空振って無防備になった背後に降り立った。

 

 

「飛んだだとっ!? くっ!」

 

 体を回転させながら猛烈な速度で拳を振るうが、ベルはそれを屈んで避け、顎を蹴り上げる。男の体はのけぞり、更に叩き込まれたベルの拳によって壁まで殴り飛ばされた。

 

 

激怒兎(デストロイヤー)!? なんで此処にっ!?」

 

「はいはい、話は後で。ほら、早く飲んで」

 

大切断(アマゾン)まで!?」

 

 キークスの口に高位回復薬(ハイ・ポーション)が流し込まれる。数本飲ませ一命を取り留めさせたティオナは続いてアスフィの所に向かいながらベルに視線を向けた。

 

「……うーん。さっきから強くなってない」

 

 

 

 

 

 

「ぐっ! この糞餓鬼がぁっ!!」

 

 怒りから余裕をなくした仮面の男が拳を振るう。先程からのダメージで精彩を欠いているがLv.5に匹敵する身体能力でベルに襲い掛かるがベルは男と互角に……いや、徐々に押し始めた。

 

(やっぱりだっ! 何となくだけど僕の戦闘力が上がっている!)

 

 始まりはアポロン・ファミリアとの戦い。仲間を襲われ侮辱され、怒りがこみ上げてくると同時に力が湧いてくるのも感じていた。それから何となくだが戦闘力のコントロール、気を増幅させ爆発させて力を高める事が出来るようになった。同じく実戦で身に付けた兄のベジータのそれと比べればお粗末で稚拙。だが、それでも確かな成長だった。

 

 

 

 

「調子にのるなぁああああっ!!」

 

 目の前の未熟そうな少年に押される事実は彼にとって許し難く認めがたい。拳を受けながらの踏み込みからの強引な一撃をベルの顔面めがけて振るう。だが、易々と受け止められた。

 

 

「……答えて下さい。何故、あの人を殺そうとしたんですか? いえ、そもそも貴方は何ですか?」

 

 ベルは状況を理解した訳ではない。ただ、男によってアスフィやキークスが死にかけ、何となくだが男が普通の人の気を持っていないと感じ取ったのだ。

 

「何故殺そうとしたかだと? 彼女のためだ!! 私が誰かだと? 彼女に第二の命を与えられた者だ!」

 

 男が叫んだ時、先程からの戦闘の影響で仮面に罅が入り砕け散る。壁の一部が外から弾け飛び、黒髪のエルフとレフィーヤを連れたベートが現れたのはその直後であった。

 

 

「あぁっ? 何でテメェが……」

 

「馬鹿な……」

 

 ロキの頼みでアイズを探しに来たベートはベルを見て怪訝そうにし、黒髪のエルフは仮面の男の素顔を見て固まる。

 

 

 

 

 

 

「『白髪鬼(ヴェンデッタ)』オリヴァス・アクト……」




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第十話

エピソード・リューが少し混ざります  時期は・・・・うん


カラオケに行ったらドラゴンソウルが改じゃなくZの所にあった・・・いやいや

fateアポクリファが通販サイトで同人コーナーで売られていた時と同等の驚き


 邪神を名乗る神に率いられた集団『闇派閥(イヴィリス)』。オラリオに暗黒期を齎した彼らは正規のファミリアによって討伐されるも、その課程で多くの犠牲者を出した。

 

 フィルヴィスもその犠牲者の生き残りだ。二十七階層の悪夢と称される自分達を囮に多くのモンスターを討伐隊にぶつけるという作戦の首謀者こそがオリヴァスであり、唯一の生き残りがフィルヴィスだ。

 

「なぜだっ! 何故生きているっ!!」

 

「決まっているだろう! 他でもない彼女の手によって私は生まれ変わったのだ! 人とモンスター、その両方を超越した存在へと!」

 

 下半身が発見され死亡が確認された筈の仇敵を前に彼女は戸惑いと憎悪を感じながら叫び、オリヴァスは誇らしげな表情を浮かべた。両手を広げ、誇らしげに語る。ベルとの戦いでボロボロになった服を脱ぎ捨て露わになった胸元には極彩色の魔石が存在した。

 

「さて、予想外の強さを持つ小僧にロキ・ファミリアの上級冒険者。流石に私もレヴィスがアリア……剣姫を手に入れて来るまで一人で持つと思うほど傲慢ではない」

 

「かっ! なら大人しく捕まるのかよ。どっちにしろテメェをぶちのめして色々聞き出す必要があるからな」

 

 この時、ベートはオリヴァスが戦える状態ではないと見抜いていた。受けた怪我は治ってもダメージは蓄積されており、禄に動けない。だが、それを見抜かれ自分を倒せる者に囲まれて尚、彼は余裕の笑みを浮かべた。

 

「侵入者共を潰せ、巨大花(ヴィクラム)

 

 オリヴァスの指令を受けて大主柱に絡みついた巨大花(ヴィクラム)二体が動き出す。食人花(ヴィオラス)や白装束の死兵達も動く中、宙を舞うベルが巨大花(ヴィクラム)の前に立ちふさがった。その巨体こそが最大の武器である二体が迫る中、ベルからバチバチという音と共に雷撃のような光が漏れる。左右に広げた両手の手の平が眩く光り輝いた。

 

「っ!? 潰せっ! さっさと潰してしまえっ!!」

 

「ベルっ!!」

 

「ちぃ!」

 

 ベルから途方もないエネルギーの高まりを感じ取ったオリヴァスの指示によってモンスターが彼一人に殺到する。ティオナやベートの攻撃では巨大花(ヴィクラム)を止めるには至らない。

 

「はぁあああああああああああああっ!」

 

 そしてベルとモンスターの群れの距離が一メートルを切った時、ベルの気が最大まで高まり、ベルに視線を向けていた者達の目が一瞬眩む。

 

 

「吹き飛べぇええええええええええええええええっ!」

 

 放たれたのは特大の気功波。眼前に迫った巨大花(ヴィクラム)食人花(ヴィオラス)を飲み込み、後方にあった胎の宝玉ごと消し飛ばして壁に大穴を開ける。遙か先に大樹の迷宮が見えた。

 

 

「嘘…だろ……」

 

 この中で特に驚いているのは都市最強の魔術師リヴェリアの魔法を何度も見ているロキ・ファミリアの面々だった。魔法ではない未知の力だとは聞いていたが、溜めに掛かった時間に比べて余りにも威力が高すぎる。初見のベートだけでなく、既に十八階層でギャリック砲を見ているレフィーヤでさえ目を見開いて固まっていた。

 

「馬鹿なっ!? 何だ、いったい何なんだ貴様はっ!?」

 

 腰を抜かし震えながらベルを見て叫ぶオリヴァス。ベルはそんな彼を飛んだまま見下ろしていた。

 

 

「僕が何だって? 僕の名はベル・クラネル! 誇り高きサイヤ人だっ!!」

 

 ベルが叫ぶと呼応するように壁の一部が吹き飛び、赤髪の女…レヴィスが現れる。明らかにダメージを受けており、それを追うようにアイズが現れた。

 

 

「ちっ! どうやらこっちも押されているようだな。……エニュオに渡す予定の宝玉も破壊されたのか」

 

「レヴィス! 丁度良かった、力を貸せっ! あの白髪の餓鬼を此処で始末せねば危険……」

 

 オリヴァスは隣に着地したレヴィスに対してベルを指さしながら喚き散らす。だが、その胸にレヴィスの指が突き刺さった。

 

 

「あ…が……!? レ、レヴィス?」

 

「あの小僧は厄介なのだろう? アリアも予想外に成長しているので力が足りんのだ」

 

 オリヴァスの魔石を抜き取った彼女は自らの口元へそれを運ぶと、そのまま噛み砕く。仲間の筈だった彼女に核である魔石を抜き取られ体が崩壊していく中、伸ばした手は蹴り飛ばされた。

 

「じゃあな」

 

 レヴィスの拳がオリヴァスの顔面を殴り砕く。絶命したオリヴァスの姿にベルは絶句した。

 

「仲間をあっさり……」

 

「仲間? 違うな。此奴を仲間などとは思っていない。……所で知っているか? 大主柱が壊れた場合、この部屋は崩壊すると」

 

 咄嗟にアイズが止めようとするもレヴィスが一歩速い。拳を叩き込まれた部分から罅が広がり、砕け散ると同時に部屋の崩落が始まった。

 

「全員撤退します! 荷物は置いて脱出を優先させなさい!」

 

 アスフィの指示でヘルメス・ファミリアが撤退を開始する中、アイズは撤退しようとするレヴィスを追おうとするもベートに肩を掴まれて止められた。

 

「馬鹿野郎っ! さっさと避難するぞ!」

 

「……五十九階層に来い、アリア。そこに貴様が求める物が…‥っ!」

 

 意味深な言葉を残して穴から去ろうとした時、バレーボール大の光球がレヴィスへと加速しながら向かっていく。やがて速度が最高潮になると楕円形へと変化し、レヴィスはそれを咄嗟に腕を交差させて受け止める。

 

 

「ぐっ! ぐぁあああああああああっ!」」

 

 顔をしかめ踏ん張ろうとするが勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。空中で何とか受け身をとって着地したレヴィスは光球を放ったベルに視線を向けた。

 

「……先程奴が言っていた小僧か。覚えていろ、借りは返す。存分にな」

 

 崩落が始まった部屋から去る直前、憤怒の籠もった瞳をベルに向け、レヴィスは穴から去っていった……。

 

 

 

 

 

 

「間一髪でしたね。今回は助かりました、激怒兎(デストロイヤー)……どうかしましたか!?」

 

「ベル!?」

 

 崩れ去った食料庫(パントリー)から無事脱出をした一行だが、アスフィがお礼を言っている途中でベルは膝を付く。慌ててティオナが駆け寄った時、腹の音が鳴り響いた。

 

 

「力を使いすぎて、お、お腹が減った…‥」

 

 先程までの緊張感が完全に消え去り、一行は脱力をする。この後、一旦十八階層に向かおうという話になり、ティオナがほぼ強引にベルを背負って歩き出した。

 

 

「そうだ! 街に到着したら奢りますよ。今回のお礼もしたいですし」

 

 この時、アスフィは噂でしか知らず、それほど信じていなかった。ベルが常識を越えた途方もない大食漢だと……。

 

 

 

 

 皿の上に乗せられたのは炭火で炙られた靴底のように分厚い網焼きベーコン。フォークを突き刺し食いちぎれば旨味が詰まった脂がジュワっと溢れ出す。付け合わせの野菜と共にパンに挟んで口に運べば野菜の苦みがアクセントになって食が進んだ。

 

 続いては炒り豆だ。大量の香辛料を振り掛けて香ばしく炒った豆の皿を掴んでスプーンで掻き込む。粗挽きの胡椒で味付けされた豆は喉の渇きを感じさせ、飲み物で潤えば再び豆を口に詰め込んで咀嚼する。この繰り返しを数度行えばもう一皿欲しくなった。

 

 芳醇なバターの香りと強烈なニンニクの香りが混ざり合って食欲を誘う。保存のために干して乾燥させていた貝類を水で戻し、モチモチとした食感のパスタと共に強火で炒める。少しクドくなりそうだが、細切りにした大葉を上から振り掛けて調和させていた。

 

 コーンポタージュ。トウモロコシの甘みと旨味が溶け込んだスープにはトロミが付いており、みじん切りにされたタマネギや人参の甘さも美味しさの秘訣だ。鍋の取っ手を掴み、一気に流し込んだ後は千切ったパンで鍋の底を拭う。

 

 他にも火で炙ってトロトロになったチーズ、干しぶどうが入った焼きたてのパンにマーガリンを塗ったもの、ウインナーを混ぜ込んだホットケーキに熱々のマッシュポテトに少し酸味のあるソースを掛けた物など、テーブルには大量の料理が並んでいた。そう、既に存在しない。全てベルの腹の中に消え去った。

 

「あー美味しかった。あの、本当にご馳走になって良かったんでしょうか……」

 

「え、ええ、助けて貰った命はお金じゃ買えないので……」

 

 お礼にご馳走すると言ったし、命を助けられたのだから安いものだとアスフィも頭では理解している。だから幸せそうに腹をさすった後で不安そうになるベルに大丈夫だと言うしかないが、正直言って頭が痛かった。

 

 まず、身軽になる為に荷物は捨ててきた。今回のクエストに持ち込んだ消耗品の残りや予備の武器に手に入れた戦利品、主武装を置いて逃げるしかなかった者もいる。

 

 次にダンジョン内部という立地、そして足元を盛大に見る事で成立する馬鹿げた代金。ここにベルの食事量が加われば損害は途轍もない。

 

(今は全員生還した事を良しとして、謎の依頼主の報酬に期待しましょう……)

 

 クエスト開始前に全員で半分空けた酒の残り半分を仲間全員と飲み交わしながらアスフィはベルに視線を向ける。主神が彼のことをアポロンの一件より前から気にしていたのを思い出した。

 

(そもそも存在からして違う、と言っていましたが……)

 

 今回も見た謎の力のことだけではないと感じつつも今は判断材料が足りない。他のファミリアを詮索するのは暗黙の了解で禁じられているからだ。

 

 

 

「……おい、兎野郎。サイヤ人って何だ?」

 

「あっ、僕の種族の……あっ!? な、何でもありません!」

 

 だが、他人の決め手もいないルールなど知ったことかとばかりにベートが威圧するような態度で問いかけ、アイズもワタワタしているレフィーヤの横で興味深そうな視線を向ける。咄嗟に誤魔化そうとするベルだが下手すぎて意味がない。そんな時、ティオナが強引に割って入った。

 

 

「ちょっと待ったー! サイヤ人だとか王子だったとか、ちゃんと話そうとしないって事は話したくないって事なんだし、詮索は禁止ー! ほら、もう行こ、ベル」

 

「は、はい!」

 

 ベルを強引に連れ出し、止める間もなく去っていくティオナ。サラッと重要そうな事を漏らした事に皆が気付く中、レフィーヤはとある事を思い出した。

 

「……あれ? ティオネさんが言うには今日はデートに誘うって話じゃ。どうしてダンジョンに……あっ」

 

 言葉にできない思いを誰もが感じていた。当然、ベートもだ。彼さえも此処から先は口にする事が出来なかった……。

 

 

 

 

「春姫様? そんなお友達がいらしたのですね。……偶然ってあるものですねぇ」

 

「リリ殿、偶然とは?」

 

 一方タケミカヅチ・ファミリアの面々と小休止を取っていたリリは、桜花が漏らした、今居るメンバーと屋敷から抜け出した春姫と共によく遊んだな、との言葉に何となく反応し、気になった命の問い掛けに対して、秘密ですよ、と前置きして話し出した。

 

 

 

 それはイシュタル・ファミリアから最近取り扱いだした元気になる薬、要するに精力剤の大量注文に加え、配達依頼まで受けたのでリリが配達した時の事だ。受取書のサインに使うペンが壊れていたので新しいのを探すからと待たされていた時、一人のアマゾネスがリリに気付かなかったのか不満をこぼしながら現れた。

 

「アイシャー。春姫の奴、また失敗したんだって? ったく、何度目だよ、あの馬鹿狐人(ルナール)。オレ、本当にアイツ嫌い」

 

 屋敷から抜け出したと聞いて良家の娘だと判断したリリは同名の別人だろうと思った。だが、その話を聞いた瞬間、一同の表情が変わった。

 

 

 

 

「……リリ殿、確かに狐人(ルナール)だと言っていたのですね?」

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ミアハ・ファミリアに一人の来客があった。家政婦募集の張り紙を見てやって来たと語る少女の名はアンナ・クレーズ。西地区に住む、神に求婚されるくらいの器量良しで評判の娘。

 

 

 

 

 

 その彼女の瞳に宿る感情をミアハは見逃さなかった……。

 

 




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第十一話

ドラゴンボールのお気に入りの動画が消えた 仕方ないが残念 アレ見てスラッグの出た話借りたのに

ジャネンバ誕生シーンがDVDでは削られて不満 倒した後で鬼になった説明ができないじゃんか


「貴様の様な雑魚が俺を兄と呼ぶな、虫唾が走るっ!!」

 

 怒号と同時に幼いベルの腹部にベジータの拳が叩き込まれ、叩き付けられた背後の壁が砕ける。焼け付くような痛みを感じながら薄れ行く視界で見たのは自分に全く意識を向けない兄の後ろ姿。

 

 悲しいと思ったが、同時に仕方ないとも思った。生まれ持った戦闘力で地位が決まるサイヤ人に生まれ、本能的に強い敵との正面戦闘を望む心が悪いと思ったのは兄ではなく弱い自分。なので感じたのは兄とは分かり合えないという気持ち、そして圧倒的強さへの憧憬であった。

 

 

 

「……懐かしいな。前に故郷の夢を見たのは何時だっけ?」

 

 差し込む朝日によって目を覚ましたベルは漸く完成したホームの自室で目を覚ます。この星に来て、あの星での常識は別物だと理解したし、無駄な争いを好まない温厚な性格がこの星の方が良いと感じている。ただ、それでも故郷とは忘れがたい物である。たとえ勘当されようと、ベルにとってベジータ達は家族であった。

 

 目を擦り、グッと伸びをすると朝食の香りが漂ってくる。昨夜も昨夜で明らかに体積を超えた量を平らげたにも関わらず空腹を感じたベルはお腹を押さえながら起き上がった。

 

 

 

「ベルさん、お早う御座います!」

 

「お早う御座います」

 

 自室から出ると既にリビングには他の面々が揃い、口々に朝の挨拶を投げかけてくる。最後にキッチンからスープの入った大鍋を持って来たのは住み込みで働きだした家政婦のアンナだ。何故かナァーザは彼女に気を許すなと言って来たが、お人よしのベルに他人を疑えという方が無理があるので警戒をしていなかった。

 

「うむ。全員揃った事であるし、朝食にしよう」

 

 ミアハの言葉で食卓を囲み、食事が始まる。昨夜から炊事を始めたばかりのアンナはまだベルの食事量に圧倒されていたが、既に慣れたミアハ達は平然とした様子だ。むしろ慣れるしかないのだろうが。

 

 

 

「今日は探索は休むのだったな、ベル」

 

「はい。魔石を取り出す時に使っているナイフが欠けちゃったし、新しいのを買おうかと。防具を買った方が良いともアドバイザーのエイナさんに言われたのですが……流石にオリハルコンやアダマンタイトの防具には手が届かないですよね」

 

「え? 他の金属でも十分なんじゃ……」

 

 溜息を吐くベル。その様子を見たアンナの疑問は当然だろう。アダマンタイトやオリハルコン製の防具となると値段が凄まじい。幾らベルが強くても食費や持ち込める食料の問題で一日で稼げる額には限度がある。だが、それ以外の金属なら何とかなると思うだろう。

 

「だって他の金属って柔らかいですし。この前も試しに叩いてみた防具を凹ましちゃって。子供の頃も力加減が出来なくって物を壊しちゃってたし、下手な道具を持っても……」

 

「えぇ!? ベ、ベルさんって幼い頃から強いんですか!? 一体どんな修行を…‥」

 

 その防具を作った鍛冶師は落ち込んだが買い取りはしないで良いと言ってくれたので安心したとまで語るベルに対し、アンナは驚き、最後にどこか探るような口調で問い掛ける。だが、ベルが答えるより前にミアハの咳払いで中断された。

 

「これこれ、食事に落ち込む話題は止めておこう。しかしアポロンに勝った事でギルドに払う税金も増えてしまったし……」

 

「ミアハ様がベルのレベル詐称疑惑の時に税金の免除でも要求して下さっていれば…‥」

 

「いや、流石にそれはな……」

 

「ローンですかね、やっぱり。活躍していても下級冒険者じゃ前払いの内金をかなり請求されそうですが」

 

 ナァーザが非難する様な口振りでそんな事を言いだし、リリが皆が避けていた事を口にする。話題が完全に逸れる中、アンナは表情を僅かに曇らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり高いなぁ。宝石樹の宝石を換金したけど、前金も足りそうにないし…‥」

 

 やって来たのはバベル内部にあるヘファイストス・ファミリアの店。ナァーザから教えて貰って新米冒険者向きに新米鍛冶師の作品を売っているコーナーでナイフは掘り出し物を見つけたが、本店と言うべきファミリアのロゴが入った商品を取り扱っている店の商品には手が出そうにない。

 

「確か専属契約をしている相手なら持ち込んだ素材で作ってくれたりするって聞いたけど……」

 

 あの戦争遊戯(ウォーゲーム)で名は売れたので見つかるだろうが、見極めてからじゃないと損をするし、直ぐに解約すれば信用にも関わる、と、ナァーザから聞いているし、見付けるアテもない。せめて鍛冶系ファミリアに知り合いか、知り合いの知り合いでも居ればと思いながらバベルを後にした時、物陰から呼び止める声が聞こえてきた。

 

 

 

「クラネルさん、少し良いですか?」

 

「あっ、えっと……」

 

 話し掛けて来たのは緑の髪のエルフだが、直ぐに思い出せない。何処かで会ったことは確かだと悩み、漸く思い出した。

 

「あっ! 確か豊穣の女主人の…‥」

 

「ええ、ウェイトレスのリュー・リオンです。少しお尋ねしたいことが有りまして。……アンナ・クレーズさんについでです」

 

 何故その様な事を? と疑問を顔に出したベルに対し、リューは事情を話し出した。

 

 

 

 

「借金のカタに奪われたっ!?それって人身売買じゃ…‥」

 

「しっ! 声が大きいです。兎に角相談をしてきた父親は脅される形で娘を借金の担保に入れる事を承諾したらしいのですが、交易所から今度は歓楽街のカジノのオーナーに買われたとまで判明したのですが…‥」

 

「それが何で家政婦に…‥?」

 

 カジノについてはリリから聞いている。鴨にされるから絶対に行くなと保護者のような注意も込めてだ。オラリオ外の国や都市から娯楽の為に招集されておりギルドも介入できない治外法権。特にアンナを買った者のカジノ『エルドラド・リゾート』は高級店であり、ガネーシャ・ファミリアの団員に警備を任されているとの情報を今リューから得た。

 

 わざわざ働きに出す程に給金は出ないと疑問に思うベルに対し、リューはそっと彼を指さした。

 

「恐らく貴方の情報を得るのが目的かと。集めた情報からして前々から狙われていたらしい彼女ですが、家政婦募集を知り、潜り込ませるには最適だと思ったのでしょう。……下級冒険者でありながら一人でアポロン・ファミリアを倒した貴方の強さの秘密は高く売れるでしょうから」

 

「……あっ、そう言えば昨日はステイタスの更新の結果を口で教えられたから変だと思ったんです。ミアハ様も薄々気付いてたんでしょうか?」

 

 朝食時も話題を変えたが、それなら説明が付く。だが、ベルは逆に困っていた。知られたとして、真似が出来ない理由だからだ。それよりもギルドや助けてくれそうな他のファミリアに駆け込まない理由に思い当たってしまった。

 

「もしかして両親に何かするって脅されているんじゃ…‥」

 

「その可能性は有ります。彼女自体は潜入中は安全ですが、何時まで安全か分かりません。……くれぐれもご注意を。それと私が関わった事は…‥」

 

「は、はい! もちろん秘密にします!」

 

 素直に承諾するベルにリューは安堵しながらも、今度は顔に出そうで心配になる。

 

(見立てた通り彼は善人のようですが、これは早く動かなければいけませんね…‥)

 

 去って行くベルの背中を見ながらリューは悩むのであった。

 

 

 

 

 

「……成る程。真偽は定かでないが、恐らく本当だろう。だとすれば私達も見張られている可能性があるな。ガネーシャやギルドに相談に行けば警戒される可能性がある。だが、他にも犠牲者が居るかも知れんし放置は出来んな」

 

 街中で売り歩きをしていたミアハと遭遇したベルは共に喫茶店に入り、今は周囲に見張りが居ないのを確認して先程の話をリューの部分は省いて説明した。薄々気付いていたミアハも納得が行ったらしく考える。どうすればアンナを救えるのかと。 

 

 

 そんな悩みを抱えながらベルが帰宅すると、作業所で回復薬(ポーション)の作成をしていたリリが一冊の本を差し出してきた。

 

「ベル様、剣姫様から報酬のお裾分けだそうです。自分はそれほど働いてないからだそうですよ……まーた何か厄介事に首を突っ込んだのですか?」

 

 ティオナと探索に出た時に遭遇した一件は極秘の依頼が関わっているらしく、アスフィから秘密にするように頼まれているのでリリは知らない。だからこそベルが何かやらかしたのではと思っているようだ。

 

「ですが、これで高い装備が買えますね。何せこれは……」

 

「へぇ、この本って高く売れるの?」

 

「ええ、何せ魔導書(グリモワール)です…から……」

 

 魔法の強制発現装置と言うべきこの本は物によっては億単位の値が付く。攻撃魔法が出てもベルなら意味がないし、だから売ってしまいましょう、そう言い掛けたリリの目の前でベルは本を開いて読み出していた。

 

 

 

 

 

「ベル様、正座」

 

「えぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 そしてこの日の夜、別の星の荒野でベルはある人物と相対していた……。

 

 

 

「へへーん! お前みたいなカスはとっとと掃除してやるぜ。お命頂戴、とおっ!」




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どこの特選隊なんだろうか……


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第十二話

短いです


『此より挑むは熾烈なる試練 決して手の届かぬ高み』

 

『されど報酬はなく 無為なる闘争』

 

『だが我は挑もう 其処に強者が居る故に』

 

『バトルアリーナ!』

 

 ベルが詠唱を終えると足下に下向きの門が現れる。円形の枠の中心にある丸い門はベルが近付くと左右に割れ、ワクワクした様子で飛び込むと閉じた。

 

 

「ミアハ様、これってどんな魔法なのですか?」

 

「うむ。術者と縁の有る強者の虚像と戦えるらしいぞ。外には被害もなく、大怪我を負っても精神疲労(マインドダウン)で済む。代わりに内部では経験値は入らんそうだ」

 

「……要するに強い方と戦えるだけの魔法だと」

 

 妙に活き活きとした表情で入っていったと思ったら、そういう事かと呆れるリリ。前のファミリアの同僚がアルコール中毒の屑なら、今は戦闘中毒のお人好しかと思うと心労が溜まって来た。こっちに改宗(コンバート)してから幸せだと理解してはいるが、それでも精神的に疲れるリリであった。

 

 

 

 

 

 

「……此処は」

 

 朧げな記憶だがベルは其処が何処か理解していた。サイヤ人はフリーザの部下として地上げ屋のような仕事をしていたが、幼くって体の弱いベルも見限られる前に一度だけ遠征に連れていかれた事がある。それがこの星だ。大して高く売れそうになく、星の住民も知能の低い獣だけだとの事だったが、何の手違いか別の部隊まで来ていた。

 

 

 

「おいおい。ベジータちゃんの弟じゃんか。戦闘力が百五十もないとか幾らサイヤ人でもカス過ぎんだろ」

 

 目の前に立つのは面長で筋骨隆々な大男。赤色のパイナップルの様な髪形をした、精鋭部隊ギニュー特戦隊の一人だ。

 

「リクームさん……」

 

 ベルを見下し、今から戦う……いや、彼からすれば戦いなどではなく虫を手で払う程度の作業を行うのを心底面倒臭そうにしていた。

 

「まぁ、良いや。ほれ、さっさと掛かって来な。先手は譲ってやるよ」

 

 これがリクームのやり方だとベルは知っている。相手に散々攻撃をさせておき、平然と立ち上がって心を折ってから甚振る。仲間のバータからでさえ嫌な奴と呼ばれていたのを。

 

「行きますっ!」

 

 だが、それでもベルは心が躍る気分を感じていた。絶対に勝てないと分かっている圧倒的強者に挑む。サイヤ人の心がこの星に来てから味わえなかったその思いに興奮しているのだ。

 

 指をクイクイと動かし待ちの態勢に入ったリクームに対し、ベルは顔面に膝蹴りを叩き込むが、微動だにしない、そのまま頭上に飛び上がり、背後に回って腰に手を回って蹴り飛ばす。一切踏ん張らないリクームの体は前方へと飛んで行き、低空を飛んでそれに追いつくと真上に蹴り上げ、追い越すと両手を組み合わせて叩き落す。先程からの攻撃で逆にベルの手足がダメージを受ける中、気を一気に練り上げる。

 

「ん? おいおい、戦闘力がほーんのちょっぴり上がってるな」

 

「ギャリック砲っ!!」

 

 今撃てる最大威力のギャリック砲を仰向けに倒れるリクームに放ち、限界を超えて気を練り上げ続け放出を続ける。飛行を続ける力さえ使い切り、何とか着地した時、土煙の中から無傷のリクームが立ち上がった。

 

 

 

「へへーん! お前みたいなカスはとっとと掃除してやるぜ。お命頂戴、とおっ!」

 

 予想通りだとベルは思っていた、もう立つのが精一杯な程に体力を使っており、ポーズを付けたリクームが地面に拳を付けて大技を出す動作に入るのを見るしかなかった。

 

「リクーム…ウルトラ…ファイティング…ミラクル…アターック!!」

 

 広範囲全方位に向かって放たれる圧倒的破壊力のエネルギー波。ダメージを受けたと感じるよりも前にベルの意識は閉ざされた。

 

 

 

 

 目が覚めた時、ベルはベッドの中で寝ており、隣の椅子にはミアハが座っていた。

 

「目が覚めたようだな。錐揉み回転をしながら飛び出して来たから驚いたぞ、ベル。……それでどうだった?」

 

「楽しくって……凄く勉強になりました」

 

 起き上がり、グッと拳を握り締めるベル。まだまだ自分は弱者だと改めて認識し、強くなりたいという欲求が更に高まる、何より教えてくれる者が誰も居らず、そもそも使える者さえ居ない気を使った戦闘は僅か数秒でも得る物があったと、そう感じていた。

 

「……むぅ、あまり使うなと言いたかったが、無駄のようだな」

 

「すみません。でも、一度戦った人以外はランダムで選ばれるから……家族に会えるかも知れないと思うと」

 

「そうか。リリ達も心配している事であるし、無理はするなよ?」

 

 それだけ言うとミアハはベルが頷いたのを見るなり部屋から去っていく。

 

 

 

 

「さて、リリ達への説得をせねばな」

 

 少し頭が痛む思いをしながらミアハはベルの部屋の扉を振り返る。家族について語った時のベルの顔を思い出せば説得するしかないと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうも尾行は無いみたいですね。売上を持っていますし、早く帰らないと」

 

 配達の帰り、リリは街中を歩きながら後ろを気にする。アンナを送り込んだカジノのオーナーの手のものがここ数日の間、出かける度に尾行していたが、今日は居ないようだ。今までの生活によって尾行や逃亡のスキルが上がったリリは尾行を見抜く技術も身に付けていた。

 

 ミアハ・ファミリアのホームは少し街中から離れた場所にあるので少し警戒しながら路地裏を歩いていた時、アンナがガラの悪い男と話をしているのが目に入った。慌てて物陰に隠れ、そっと耳を澄まして盗み聞きをする。

 

 

 

「まだ情報は手に入らないのか。あのような強さ、何かカラクリがあるに決まっているだろう」

 

「ご、ごめんなさい。もう少しだけ……」

 

「早くしろ、お前の両親がどうなっても良いのか? 何なら色仕掛けでもして聞き出せばいいだろうに。どうせ散々遊んでいるんだろうが」

 

 男はアンナの態度が気に入らないのか苛立ちはじめ、最後には服に手を掛けた。

 

 

「どうせ今後はあのドワーフの妾になるんだ。ここで俺が色々教えてやる!」

 

「い、嫌っ!」

 

 アンナは抵抗しようとするが、男はランクアップを果たした恩恵を受けているのか抵抗を物ともしない。前までのリリなら見捨てただろう。だが、今の彼女は見捨てる事が出来なかった。

 

(もう! リリはベル様に毒されてしまったようですねっ!!)

 

 リリの魔法は変身魔法。あまり体形の違うものには変身できないが、同じ種族なら問題ない、そう今から変身するのは小人族(パルゥム)の英雄にしてロキ・ファミリア団長フィン。

 

 

「そこの君、待って……」

 

 物陰で変身し、脅して追い払おうとした時、リリの横を疾風が通り過ぎる。リリの背後から飛び出したりリューが一撃で男を叩きのめした。

 

 

 

「脅迫によりファミリアの団員の情報を探らせようとし、堂々と婦女を暴行。……これで公の機関が乗り込む口実が出来ましたね」

 

 




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何故リクームさん? ギニュー特戦隊の歌にはまったからです


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第十三話

「へぇ。アンナさんを脅していたカジノのオーナーってお尋ね者だったんですね」

 

 お昼時、昨日行われたガネーシャ・ファミリアによるカジノオーナー捕縛の詳細をナァーザから聞いたベルは三十個目のパンを食べる手を止めて呟いた。

 

「いや、大変だったんですよ、ベル様。リューさんはどうもギルドに直接出向けない理由があるらしくって、リリが代わりに色々誤魔化して説明したんですから」

 

 どうも前々からガネーシャ・ファミリアはエルドラドリゾートのオナーであるテリーを怪しんでいたらしく、迅速な行動で聴取に出向き、事前に調査をしていた何者かからのタレコミもあって背中に刻まれた恩恵から手配中のお尋ね者だと判明した。なお、なぜ背中を見る事が出来たかというと、偶然が重なって背中が露出した……という事になっている。

 

「まあ、今回は私達は目立たなくて良かったな。アポロンの一件から注目されている事であるし、別の話題に興味が移るのは良い事だ」

 

「それは良いんですが……アンナさん、辞めてしまいましたからね。また新しい人を探さないと」

 

 事件が解決し、借金を理由に妾にされていた女性達も解放された。その中にアンナもいたのだが、さすがにスパイ活動をしていた事が心苦しいのか親元に戻る際に家政婦を辞めてしまったのだ。結果、ベルの膨大な食事を作る人手が減ってしまった。

 

 

「おや、客のようだな。急な怪我人かもしれんし、開けるとしよう」

 

 今はお昼時であり、休憩時間の看板を店のドアにぶら下げていたのだが、ノックをする音が聞こえてくる。ミアハが席から立ち上がり鍵を開けた時、慌てた様子で飛び込んで来たのはタケミカヅチであった。

 

 

 

 

 

「ミアハ、頼む! 金を貸してくれ。大金が今すぐ必要なんだっ!!」

 

「ちょっと待ってくれ。説明を頼む」

 

 ミアハの顔を見るなり土下座をして頼み込んでくるタケミカヅチ、そして続いて入ってきた眷属達も同様だ。土下座が何を示すか住んでいた場所が違うので知らないミアハだが、流れから大体察する。その上で事情を聴きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……春姫が歓楽街に?」

 

 リリから話を聞いた桜花達はホームに帰るなりタケミカヅチに春姫がイシュタルの所に居るかもしれないと話をした。彼女と彼らの付き合いは古く、タケミカヅチが管理する孤児院に春姫の頼みで支援がなされ、それを切っ掛けに屋敷に忍び込んで遊ぶようになったのだ。

 

 だが、ある日を類に行方不明になった。その彼女が歓楽街、しかも娼婦を束ねるイシュタルの所に居るかも知れないという。

 

「名前が同じな上に種族も同じらしく……」

 

 信じたくなく、勘違いであってくれと願いながら命は言葉を濁す。沈黙が流れる中、タケミカヅチが立ち上がった。

 

「こうして話していても埒が明かん。実際に歓楽街に行って確かめに行こう」

 

「しかし探っているとイシュタル様に知られれば……」

 

 イシュタル・ファミリアは大手だ。弱小の自分達など簡単に叩き潰されると、此処に居る皆分かっている。だが、それでも本人かもしれないという気持ちは抑えきれない。

 

「よし! 俺が他の客の様に客のふりをして探りに行こう。冷やかしで見て回るだけの奴も居ると聞くし……」

 

「取り合えず私達の中の誰かが見に行きましょう。女性より男性の方が良いですよね。桜花……はランクアップしているから止めておきましょうか。アマゾネスに狙われるかもしれない」

 

 タケミカヅチが行くという選択肢は眷属達の中にはない。本人は無自覚なだけで女性にモテる彼を送り込むのはウナギの群れの中に麩を放り込むようなもの。食われて終わりだ。そして桜花だが、命は彼に好意を寄せる千草に視線を送り、止めさせる。

 

 結果、Lv.1の男が見学のふりをして見に行く事になった。お金などないので間違っても客引きに引っかからないようにと言い含められ、数日を掛けて調査をした結果、春姫を発見したのだ。

 

 

 

 

「……だが、人違いだと言われたらしい。恐らくは今の姿を俺達に見られたくないのだろうな」

 

 良家の箱入り娘が何故遠国の娼館等に居るのかは分からないが、少なくても辛いであろう事は理解出来る。だから彼らはある手段に出る事にした。身請け、脱退金を払ってイシュタルの所から抜け出させるのだ。多少強引な気もするが、それが春姫を助ける唯一の方法だ。

 

「だが、俺達は孤児院に仕送りする為に出稼ぎに来て、俺までバイトをして金を稼いでいる身で身請け金など到底出せん」

 

「……それで私達に貸して欲しいと、そういう事ですね」

 

 ナァーザは内心面倒だと思っていた。主神は友神同士かもしれないが、見受けに使う様な大金を貸し、イシュタルに何かの形で目を付けられるのも嫌だ。だが、同時に悟っていた。ミアハは言って止めるような神ではないと。……だからこそ自分は彼に好意を寄せているのだとも。

 

 

「ベル、貯えが減るから暫くは深層で稼いで来て貰える? 高く売れる物をリストアップしとくから。……言っておくけど階層主に挑んだら駄目だから」

 

「は、はい! ……どうしても駄目ですか?」

 

「魔法が有るでしょ。昨日は見た事もない緑の化け物だっけ?」

 

 抜け目なく釘を刺すナァーザに落胆しつつも一応お伺いを掛けるベル。最近気の扱いを学んだので一度挑んでみたいと思ったのだが、結局却下された。尚、緑の化け物は自分にはベジータの細胞が云々といわれたがベルにはチンプンカンプンで理解出来なかった。

 

 

 

 

 その後、『巨蒼の滝』に通いつつ、ティオナとの組手や魔法を使っての強敵との戦闘にならない戦闘を繰り返しながらベルの日常は過ぎていった。青いハリケーンや赤いマグマを名乗る者達に二日続けて瞬殺されたベルは今日も『バトルアリーナ』を使用する。

 

 

 

「ふんっ! 生温い星では碌な修業が出来んかったようだな。だが、強くなろうとする意志は認めてやる」

 

「えっと……誰ですか?」

 

 この日現れたのは父親によく似た男だが見覚えがない。だから素直に聞いたのだが、不機嫌そうな顔で返された。

 

「貴様は自分の力もよく理解していないのか、馬鹿め。現れる虚像の年齢はランダムで決まり、それ以降は固定される。もっとも、ランダムでしか呼べない今のお前では意味がないがな。……さて、御託は此処までだ。はぁっ!!」

 

 男が気合いを入れると同時に全身が金色のオーラに覆われ、毛も金へと変貌する。放たれる圧力にベルは後退りしそうになり、寸前で踏みとどまった。

 

 

「一々気のコントロールや探知などを教えてやる気はない。ベル、貴様もサイヤ人なら分かっているな?」

 

「はい! 実戦で学べ、ですね!」

 

 男に向き合ったベルは気を練って戦闘力を高める。目の前の相手に比べれば雑で未熟すぎるが、ベルに出来る最大限だ。そして、男が指で掛かって来いと合図した瞬間、ベルは全速力で飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は随分と長かったですね」

 

「ああ、それに随分と嬉しそうだ……」

 

 何時もは数秒なのに、この日は数時間が経過した頃に気絶して出て来たベルだが、その顔はとても晴れ晴れとした物だった。まるで憧れていた存在に少し認めて貰った様な、そんな顔で気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……春姫を身請けしたがっている奴らが居る?」

 

 美の女神イシュタルは美童が差し出した果物を口に運びながら側近の青年からの報告を受ける。面倒だという感情を隠そうともしないが美貌に陰りはなかった。

 

「はっ! どうも同郷の知人らしく、タケミカヅチ・ファミリアの様です」

 

「それで引き取ろうってのかい。下手に拒否をすれば勘ぐられてフレイヤとの抗争に響くかも知れないね」

 

「……潰しますか?」

 

 寵愛を注いでいる眷属の言葉にイシュタルは首を横に振る。もう目当ての物の入手の手立ては付いた。潰すのは容易いが、どうせ何も出来ない連中を警戒するのも癪だった。

 

「春姫を閉じ込めておきな。他の者に買われたとでも言っておけば良いさ。タケミカヅチには嘘がわかるが、騒ぐならその時には潰せばいい。……それより例の小僧の情報は集まったのかい?」

 

「どうやら最近は一人で深層まで行っている様です。ですが、ギルドからランクアップしたとの発表も無く……」

 

 その報告に対し、イシュタルは面白そうに目を光らせ舌なめずりをする。そして忌々しそうにバベルの上層部、フレイヤの部屋に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「春姫同様にとんでもない秘密があるんだろうさ。利用出来そうだし、もっと調べるんだ」

 

 これからの計画を思いイシュタルは笑みを浮かべる。空に浮かぶ月は後数日で満月になろうとしていた……。

 

 

 

 

 そして次の日、ベルは今までの最短記録で魔法で作り出した空間から飛び出してきた。彼は譫言のように呟いていたという。破壊しないで下さい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「おや、どうかなされましたか?」

 

「なーんか僕の偽物っぽい力を感じてさ。……一眠りしたら見に行くぞ」




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第十四話

「えー! そんな魔法を覚えたんだ。いーなー!」

 

 ダンジョン十一階層の奥にてベルをデートに誘ったティオナは彼の魔法の詳細を聞いて羨ましがっていた。霧が立ちこめ木が点在する周囲の風景は惨状と化しており、穴だらけの地面や無惨に薙ぎ倒された木々を見ればデートの内容もお察しだ。

 

「何故かナァーザさんやリリには呆れられてるけど、僕よりずっと強い人達だから勉強になるんだ。……ビルス様は次元が違いすぎだけど」

 

 幼い頃、遠目に見ただけでトラウマになった破壊神の恐怖を思い出してベルは身を震わせる。もっとも怖かった父が良いようにされている姿は彼の心に刻まれて居たのだ。

 

「ビルス様って?」

 

「ほ、他にも色々な人が居てさ。決めポーズを誉めたら機嫌が良くなって気のコントロールの実戦形式で理解できていなかった所や、宴会芸に使えるって言って踊りを教えてくれた人も居たよ」

 

「あっ! それで最近強くなったんだ。あたしが弱くなったのかもって悩んだんだからね」

 

「ティオナさんが弱くなるわけないよ。行動力があって迷い無く大胆に行動できて、僕、そんな所が凄いって思ってるんだ」

 

「そう? ありがとう、ベルー!」

 

 誉められるなりティオナはベルに正面から抱き付く。僅か、ほんの僅かに存在する膨らみが押し当てられてベルが慌てふためく中、そっと小声で耳打ちがされた

 

「ベル、気付いてる?」

 

「……ダンジョンの途中から尾けてきてる人達ですよね? ……多分Lv.3位かな?」

 

 濃い霧の向こうから二人の様子を伺っていた者達の存在に気付いていた二人は小声で数度やりとりをし、取りあえず放置する事にした。何かしてくるならその時に対処すれば良い、そう判断した二人がダンジョンから出ると既に夕日が沈み掛ける時間帯。多くの冒険者がホームに帰る中、途中まで帰り道が同じだからと一緒に帰っている途中、ティオナが急に立ち止まった。

 

 

「あっ、そうだ! 何時までもさん付けじゃ他人行儀だし、あたしは呼び捨てで良いよ」

 

「え? う、うん。分かったよ、……ティオナ」

 

 流石に呼び捨ては恥ずかしいのか照れながらも了解するベルにティオナは機嫌を良くし、丁度分かれ道に到達したので手を振って別れる。帰り道、ティオナの足取りは軽やかだった。

 

 

 

「……うーん。なんかムズムズするなぁ」

 

 一方、ベルは尾てい骨の周辺をさすりながらホームへと帰っていく。その背中を遠くから観察する複数の者達に少し警戒しながら。襲ってくる様子はないが、ジッと見られるのは少し変な気分であった。

 

 

 

 

 

 

「……あー、今日はホンマ疲れるわー」

 

 この日の晩、明日は遠征出発日という事もあって参加する団員がギリギリまで特訓を続けてロキの所にステイタスの更新にやって来ていた。部屋の前には行列ができ、ティオナも幹部ではあるが並んで漸く順番が回ってきた。

 

「最近更新忘れてたし楽しみだなー」

 

「まぁ、この前の更新の時、一気に伸びたし、体を慣らすからって次の更新を先延ばしにしとったからな。ほれ、脱いで寝転べや」

 

 ベッドに寝転んだティオナの背中に血を垂らしてステイタスの更新を行うロキだが、何故か直ぐに紙に書き写そうとしない。ティオナが不思議に思って振り向くと、拳を握りしめて震えていたロキが勢い良く立ち上がって拳を振り上げた。

 

 

 

「ティオナ、Lv.6来たぁああああっ!!」

 

 ティオナ達曰く、深層でも禄な経験値は得られず、同等の姉妹での戦いも数をこなしすぎて判定が厳しくなっているらしいが、短期間で成長を続けるベルとのデートという名の殴り合いは上質な経験値をティオナに与えていた。結果、遠征直前にランクアップという事態に発展したようだ。

 

 だが、此処で少し問題がある。フィン達もそれで頭を悩ませていた。

 

 

 

 

「うーん。ランクアップは嬉しいけど直前って言うのがね」

 

「他の団員の経験値稼ぎの為に幹部は浅い階層では控える予定だが……どうする?」

 

 ランクアップの恩恵は大きい。数十数百の成長の余地など無視しても大丈夫な位にだ。それ故に感覚のズレが発生する。待ち受ける強力なモンスター相手にそれは致命的になりかねなかった。

 

「……所で中庭で凄い音がしてるけど僕の気のせい……じゃないよね?」

 

 フィンとリヴェリアが相談する中、団員であるラウルが飛び込んできた。

 

 

 

「大変ッス! 慣らしの為って言ってアイズさんとティオナさんが戦っているッス!!」

 

「「……あの馬鹿」」

 

 頭がズキズキ痛み、胃がキリキリ痛む中、二人は止めるために動くのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

「……ロキ・ファミリアの所のと?」

 

「ああ、決闘したかと思うと仲良く話して、最後には『大切断(アマゾン)』が抱きついてたよ。……ありゃ少なくても女の方は惚れてるね」

 

 ベルを調べるように命じたアイシャからの報告を受け、イシュタルは舌打ちをする。ロキ・ファミリアは前々から目障りだったが、狙っている相手に関わるようでは更に邪魔だ。

 

「確か今日から遠征だったね。おい、常連客の神や取引先のファミリアのリストを用意しろ。宴を開くよ」

 

 

 

 

 

 

 

「イシュタル・ファミリアから神の宴の案内? ミアハ様、断って下さい」

 

 昼前に届けられた神の宴の招待状を見てナァーザは躊躇無く言い放つ。イシュタルからの案内などにミアハを行かせたくなく、実際今まで性に合わないと行かなかった。だが、最近になって媚薬を中心に大量の取引も有るのも事実。故にミアハも困っていた。

 

「私も出来れば行きたくないが、イシュタルはプライドが高いからな。断ればどうなるか…‥。むぅ、困った」

 

 眉間にしわを寄せながら招待状に目を通した時、最後に書かれた項目が目に入る。男性の団員の参加も一人まで可能。主神が多忙な際は団員だけでも参加下さい、との事だ。

 

 

「ベル、(貞操が)危なくなったら逃げて。あっ、ミアハ様は不眠不休で新商品の開発をするから行けないから」

 

「今後の取引の為です。頑張って下さい」

 

「えぇっ!?」

 

 結果、ベルが一人で行く羽目になるのであった。だが、この時彼らは知らなかった。この宴に女神の陰謀と嫉妬が渦巻いていることを。この世界の危機に大きく関わるという事をまだ知る由も無かった。

 

 

 

 それはそうとして、今日も戦闘経験を積むために魔法を発動するベル。性質上連続使用は出来ないので発動をした事による魔力の成長は低い上に、虚像に言われたように魔法に対する理解も進んでいない。そんな中、現れたのはまたしても知らない相手だった。ただ、その顔は知っていた。

 

 

「えっと、下級戦士の方ですよね?」

 

 サイヤ人の特徴として顔の種類が少ないという物があり、階級別に育てられるためか同じ階級の者は顔が似ているのだ。ベルは聞いた後で更に弱い自分に怒らないかと思ったが、相手に怒った様子はなかった。

 

 

「オラも詳しくは知らねっけど、どうやらそうらしいな。でも、落ちこぼれだって努力すりゃエリートを超えられるかも知れねぇんだぜ? オメェ、ベジータの弟なんだって?」

 

「は、はい。ベルといいます」

 

 

 

 

 

 

 

「オッス! オラ悟空!」

 

 そのサイヤ人は片手を上げて笑うと直ぐに拳を構える。ベルも彼と同様に構え、稽古が始まった…‥。




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第十五話

身内のことで落ち込むのが続いて遅くなったです

今後も遅れそう


ところでヤムチャが捨てられたとか風潮だけど彼が浮気癖だったってトランクス言ってたよ 喧嘩ばかりってブルマもナメック星で言ったし


 女神の持つ美は一部の例外を除き人を超越している。それが美の女神であるなら尚更だ。他の女神の嫉妬を買い、その姿を目にする者を魅了するほどに美しい。

 

 だが、それ故にイシュタルは自分を差し置いて賛美されるフレイヤが憎かった。身を焦がすほどの女神の嫉妬。それは数多くの英雄譚において破滅をもたらして来た物。只、破滅の対象は英雄ばかりとは限らず……。

 

 

「そろそろ出て行く頃かね」

 

 今回神の宴を開いたイシュタルは開始直後には登場せず、念入りに身だしなみを整えていた。招待客の多くは数多くの美姫に魅了され通い詰める神々と眷属達。当然、接待をしているのは見栄麗しい美貌の持ち主、生きた宝石。だが、見る者の心を奪う程の美の持ち主であろうと美の女神の前では引き立て役にしかならない。

 

 イシュタルが一度颯爽と現れれば誰もが視線を奪われ心を蕩けさせる。その筈だった……。

 

 

「行けー! もっと食うんだっ!」

 

「糞っ! まさか此処までとは……」

 

 一台のテーブルを囲み盛り上がる招待客達。有る者は拳を振り上げて鼓舞し、またある者は膝を折ってうなだれる。その中心にいるのは今回のターゲットであったベルであり、イシュタルの登場に男共は気が付いていない。この瞬間、イシュタルの誇りが傷付いた。

 

「……おい、アイシャ。アレはどうなっているんだ? 私の登場を待ちかまえずに何をしている?」

 

「ああ、『激怒兎(ベルセルク)』が結構な大食家って噂があってね、あの客がどれほど食べられるかって言い出して賭に発展したのさ。……牛の丸焼き一頭に七面鳥の丸焼き五羽目。客も全員興味を持って行かれてるんだ。しっかし、あの小柄の何処にそれだけ……」

 

 ベルに視線を向けたまま呆れ半分関心半分で主神の問いに答えたアマゾネスは、ふと声の方に視線を向けて身を竦ませる。イシュタルの顔には濃密な憤怒の色が浮かび、とある理由から絶対に逆らえないアイシャは腰を抜かし壁にもたれ掛かる。

 

「あ…うぁ……」

 

「私の登場よりもあの餓鬼の方が興味深いって? 舐めやがって。……気分が悪い。客の相手はお前がしておけ」

 

 荒い足取りで踵を返し来た道を戻るイシュタル。途中、花が飾られた花瓶、当然高価なそれに手を掛けると苛立ちをぶつける様に床に叩きつける。水飛沫と破片が飛び散り、床に落ちた花を踏みにじりながらイシュタルは拳を握り締めて身を震わせた。

 

 

 

 

「……あの糞餓鬼、思い知らせてやる。徹底的に魅了して、その後は眷属共の玩具にしてやろうじゃないかっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イシュタルは出て来なかったのか。風邪でも引いたか?」

 

 翌朝、食べるだけ食べて帰ったベルが宴の話をするとミアハは普通にイシュタルの心配をする。地上に降りた際に能力を封じた神は死にはしないが病気にはなる。弱味を見せない為に隠しているのだろうが、最近のお得意さまという事で何か滋養に良い薬でも贈ろうかと思っていた。

 

「でも、会わなくて正解かも。あの女神、厄介な噂も多いし」

 

 ミアハがイシュタルを心配した事に嫉妬したのか少々厳しい意見のナァーザ。そんな中、リリの視線はベルに注がれていた。

 

「あの、皆様がスルーしているから言いますけど……何でベル様に尻尾が生えてらっしゃるのですか!?」

 

 ベルの尻の辺りから伸びた猿の尻尾は先程からユラユラ揺れており、当然二人も気付いているが、当人が平然としているので聞き出しづらかった様だ。リリが言ったことで二人の視線がベルに向けられる。話せと目が語っていた。

 

 

「あっ、僕も少し驚いたんです。一歳の時に父さんに切り落とされてから生えて来なかったんですが、寝ている間に生えてきたみたいで」

 

「いや、タケノコか何かみたいに言ってるけど、普通は生えてこないんじゃない? 切り落とされたとか物騒な事はスルーするけど、流石にそれは……」

 

「サイヤ人の特性だから僕にそう言われても。確かにこの星の人は生えてこないでしょうけど、宇宙には色々な種族が居るから……」

 

「……あのー、ベル様? その言い方だと他の星にも人が居たり、ベル様が別の星から来たみたいに聞こえますけど冗談……ですよね?」

 

 ナァーザとリリが視線を向けたのはミアハ。嘘を見抜ける神であり、本神の気質から嘘がつけるタイプではない。そのミアハが固まっている事に二人どころかベルも驚いていた。

 

「え? 僕、地上の出身じゃないって言いましたよね?」

 

「うむ。地下に隠れ住んでいたと思ったのだが……この機会だ。詳しく話して貰えるか?」

 

 こうして勘違いは解消され、ベルの口から別の星の事、サイヤ人の事、フリーザ一味の事、そして破壊神ビルス……但し彼については詳細は分かっていない、が語られた。嘘を見抜けない二人もミアハの反応から真偽を判別し、壮大な内容に暫し言葉を失った。

 

 

 

「下手すれば本気の神でさえ赤子扱いの連中がウヨウヨいるのか……」

 

「こ、この星は辺境ですしダンジョンも有るから高く売れないだろうし、わざわざ地上げに来ないとは思いますけど……。それと平均して高い戦闘力を持つのはサイヤ人位です。他は突然変異のエリート戦士だそうで」

 

「あー、うん。何かもうお腹一杯な感じね……」

 

「ベル様の無茶苦茶な理由が分かった気がします……」

 

 驚きも一定を超すと逆に落ち着きに変わり、そのまま食事に戻る中、ベルが困ったような表情になった。尻尾を必死に動かしては困惑し、うっかり握って体から力が抜けている。

 

 

 

 

 

「……あれ? 尻尾が抜けない。そういえば自分で抜く訓練はしてないっ!」

 

「弱点な上に満月を見ると凶暴な大猿に変化するのであったな? ……困った」

 

 ホームにある刃物では文字通り刃が立たず、取り敢えず満月の日はダンジョンかホームに籠もるという事になった。

 

 

 

 

 

 

 

「それではベル様。リリはタケミカヅチ・ファミリアの皆様と、最近契約なさったらしい鍛冶師の方と潜りますのでお気を付けて。明日は満月ですので日を跨いで籠らないようになさってくださいね? くれぐれもお願いしますよ?」

 

「う、うん」

 

 何重にも念を押されてベルが少々困惑した表情を見せる中、リリは先にホームから出て行き、ベルも大量の食料が入ったバッグを背負ってダンジョンへと向かって行った。

 

 

 

(しかし、凄かった。あの人、本当に下級戦士なのかな? 身勝手の極意とか何とか言ってたけどさ……)

 

 孫悟空と名乗った下級戦士にサイヤ人としての力を突き詰めた先の力やそれを上回る力を見せられベルは高揚しているが、それ以外にも幾らか技を習う事が出来た他に魔法の扱いにも慣れたのか、次回からは一度出た相手ならば選択出来るようにもなった。

 

 

「よしっ! 頑張るぞっ!!」

 

 強い相手との戦いに心を弾ませベルは上機嫌でダンジョンへと入り、全力で飛んで深層へと向かう。その姿を観察する者の気に気付いていたが、この時はただ見られているだけだと、そう思っていた。

 

 

 

 

「行ったな」

 

「サポーターの方はどうする?」

 

「あっちにはアイシャが向かったよ」

 

 数名のアマゾネスはベルが奥へと向かったのを確認すると来た道を戻っていき地上に出る。そしてそのまま人目がない道へと入り込んだ……。

 

 

 

 

 

 そして夕方、大量の魔石やドロップアイテムをダンジョンから持ち帰り換金を済ませたベルがホームに帰ると新築したばかりのホームが荒らされ、壁に短剣で手紙が張り付けられていた。

 

 

 

 

 

『主神と仲間達は預かった。明日の夜、指定の場所に一人で来い。他の者に知らせれば仲間の命はない』

 

 無言で張り紙を破り取り握りしめるベル。その拳は怒りで震えていた。

 

 

 

 

 

 

「……うん、仕方ないよね。僕は怒ったよ。だから相手をしてあげる。冒険者としてではなく、サイヤ人の戦士として……」

 

 その表情は普段と変わらない。だが、その瞳は怒りで満ちており、そのまま『バトルアリ-ナ』を発動させる。ベルの前に現れたのは一度会った生え際がⅯ字のサイヤ人だった。

 

 

「事情は大体知っている。さっさと向って来い。サイヤ人の戦い方を教えてやるっ!」

 

「有難う御座います……兄さんっ!」

 

 ベルは礼を言うなり男……ベジータへと飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おや? 一眠りするんじゃなかったのですか?」

 

「どうも気になって眠れなくてね。今日は面倒臭いから明日にでも行ってみるよ。……ちょっと不愉快だし、場合によっては破壊しちゃおっかな」

 




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好きな作品が多重アカウントで消えた 残念


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第十六話

GW無関係の疲れとマーベルにはまって遅くなりました 明日も続き借りるので遅くなりそう


 満天の月が空を覆う雲に隠されて一筋の月光も差さぬ大地に陣取り、篝火で周囲を照らして今か今かと待ちわびる者達の姿が其処にあった。

 

「折角大枚はたいて外に出たってのに月見酒も出来ないのか。……まあ、良いさ。その分、あの餓鬼で楽しませて貰うからね」

 

「ゲゲゲゲゲッ! なら、あの神様で楽しまないかい? イシュタル様ぁ」

 

 本来オラリオに住む神はオラリオから出るのはタブーだ。眷属である冒険者が他の国や街に寝返らない為であり、今のイシュタル・ファミリアの様に大勢の上級冒険者を引き連れての外出は本来なら無理だが、普通ではない手段を用いて現状に至る。

 

 イシュタルがベルをおびき寄せる時間が来るまで酒でも飲んで暇を潰そうとする中、団長であるフリュネが獲物に所望したのは檻に入れられたミアハだ。今はナァーザとリリと共に薬で眠らされている。そんな彼を蹂躙したいと語るが、イシュタルは首を縦には振らなかった。

 

「駄目だ。万が一眷属を助けるために神の力を解放されたら厄介だからね。『激怒兎(デストロイヤー)』を捕まえたら首を刎ねるなりして送還するよ」

 

「……ちっ! でも、あの小僧は構わないだろぅ?」

 

「聞き出す情報を全部聞き出したら好きにしな」

 

 歓声と共に色めき立つアマゾネス達。獣のような目を光らせ哀れな獲物が来るのを待ちわびる。そして遂にその時が訪れた。

 

「上だっ! 真っ直ぐ降りてくる!!」

 

 最初に気付いたのはアイシャだった。今回の作戦に気乗りしていなかった彼女は警戒の振りをして適当にサボっていたが、見つけたからには黙っていられない。心に刻まれたトラウマでイシュタルに逆らえない彼女が指さした先には夜闇に紛れる黒いフード付きのローブで全身を覆ったベルが上空から急降下していた。

 

「構えなぁっ!」

 

 空からの奇襲は予想みとばかりに準備されていた飛び道具を一斉に構えたアマゾネスの視線はベルに集中する。だが、それこそがベルの狙いであった。

 

(よし! ミアハ様達は気を失ってる。好都合だけど……矢っ張り許せないや」

 

 怒りに震える手が顔の前に翳され、飛び道具の射程に入る瞬間、その技は放たれた。

 

 

 

「太陽拳っ!!」

 

 

 

 この時、漆黒の闇を大地に降臨した太陽が眩く照らした。多くの者が朝が来たのだと誤認する程の眩しい光。ベルから放たれたその光をイシュタル達は至近距離で目にしてしまう。

 

「ぎゃぁあああああああっ!? 目が、目がぁあああああああっ!!」

 

 両手で目を覆い苦しむ中、ベルの手が鉄製の檻を掴み、片手で持ち上げる。目が眩みのたうち回っているイシュタル・ファミリアの面々を放置して檻を担いで飛び上がり、もう片方の手で気弾を放つ。集団の中央に向かって放たれたソレは地中へと突き進み炸裂。音を立てて崩れていく足場に翻弄されるイシュタル達を放置してベルはオラリオまで一気に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「今日は妙だな。何時もなら外のモンスターが現れるのに……」

 

「楽なのは良いじゃないか。彼女に捨てられたばかりの俺の心じゃ激戦は辛い……ん?」

 

 オラリオの門番達が何かに怯えたかのように姿を見せないモンスターをいぶかしんでいた時、上空から風を切る音が聞こえてくる。思わず見上げた時、薬の効果は切れたが高速飛行に堪えきれずに気絶した三人が入った檻を担いだベルが目の前に降り立った。

 

 

「あの、皆を宜しく御願いしますっ!」

 

 元々は他の何かを入れるためだったのか強固な金属で作られた檻の鍵を拳を叩き込んで破壊して三人が出られるようにしたベルは、細かい説明をせずに門番に後を任せて再び飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「糞っ! やってくれたじゃないか。こんな事ならリスクを犯しても春姫を連れて来るんだったよっ!」

 

 人質や数の利、逃げられたり戦闘に巻き込まれたりするリスクから連れてこなかった切り札の存在を口にしながらイシュタルは差し出されたタオルで顔を拭く。足下が崩壊して土砂に呑まれた為に全身土まみれて体中が痛む。怒髪天をつく勢いで怒り狂う主神を怯えた眷属達が遠巻きに見守る中、タオルを見たイシュタルの手が止まり、目は見開かれている。

 

 今顔を拭いたばかりのタオルには血が付いていた。思わず頬を撫でるとヌルリとした感触と共に頬に痛みが走る。側近に常に携帯させている鏡を見たイシュタルの顔から血の気が引く。美の女神であるイシュタルの顔に傷が付いていた。

 

「直ぐに薬を……」

 

「……さない。絶対に許さない。絶対に許してなるものかっ!! 私は本気で怒ったぞぉおおおおおおおおっ!!」

 

 張り上げた声が周囲に響き、普段は抑えている神気が溢れ出す。イシュタルを侮っているフリュネでさえも後退りするほどの怒気が溢れ出す中、静かな声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……許さないのは僕の方です。僕は怒ったぞっ! イシュタルゥウウウウウウウウウっ!!」

 

 イシュタル達の前に舞い戻ったベルは濃厚な神気を当てられても怯まず怒気を放ち返す。高まった気が上昇気流を発生させ土砂が上空へと舞い上がる中、フリュネが前に進み出た。

 

 

 

「ゲゲゲゲゲッ! なめた真似をしてくれたじゃないのさ。アタイも流石に……」

 

「ド、ドドリアさんっ!? あっ、違った」

 

「あぁん? このアタイにそっくりな知り合いでも居るってのかい? それなら傾国の美女って噂になってるもんだがねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、ドドリアさんは男です。ヒキガエルとオークを足して二で割って全身をピンクで染めた様な見た目をしていて……あっ」

 

 怖い知り合いに会ったと間違えた為か緊張感が薄れたベルは口を滑らし、失言に気付く。そのドドリアと間違えた相手の前で見た目をなんと説明したか気付いたのだ。

 

 

 

 

「えっと……ドドリアさんの故郷では美人かも知れませんよ?」

 

 間違ったフォローを重ねた時、誰かが思わず吹き出す。フリュネの怒りが臨界点を突破した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

「ぶち殺してやるよぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 大戦斧を振り上げ飛びかかってくるフリュネに対し、ベルは手の平を上にして右手を挙げる。練り上げた気は円盤状になって飛ばされた。

 

 

「気円斬っ!!」

 

「……はっ?」

 

 フリュネの腕に掛かっていた重量が突如減少する。第一級冒険者が持つに相応しい装備である斧の刃は根本から上が切断されて地面に落下する。フリュネが柄だけになった武器を見て呆然とする中、ベルの左右に広げた手の平に溜められた気が眩く輝いた。

 

 

 

「やっぱり悟空さんから習った技だけじゃなくって兄さんの技も使わせて貰いますっ! ファイナルフラァァァァァァァッッシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

 突き出された両手から放たれた気功波は余波でイシュタル達を転がしながら突き進み、空を覆う暗雲を吹き飛ばす。それと同時にベルはローブを脱ぎ捨てた。

 

 

「僕をおびき寄せた理由は大体察してる。だったら見せてあげるよ。僕の、戦闘民族サイヤ人のちからをねっ!」

 

 満月を目にしたベルの体に異変が起きる。牙が延び体は膨らみ、全身に白い体毛が生え始める。血のように赤い目は鋭くなり、威圧感が一気に増す。

 

 

 

 

「これこそが僕の奥の手。さあ! 今の僕の戦闘力はさっきまでの十倍だっ!!」

 

 

 イシュタル達の前でベルは大猿へと変身し、雄叫びが広く轟く。足を踏みならす度に地面が揺れイシュタルはマトモに立てて居られなかった。

 

 

「化け物めっ!」

 

「その化け物に喧嘩を売ったのは……」

 

 イシュタルを見下ろしていたベルが急に固まり、即座に平伏す。怪訝に思ったイシュタル達が振り向いた時、その二人が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやまぁ。白い体毛とは珍しい。アルビノでしょうか?」

 

「確かサイヤ人の城で見たこと有るな。生意気にも向かってきた兄貴と違って物陰で震えていたよ、確か。……ねぇ、君。ちょっと質問に答えてくれないかな?」

 

 




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第十七話

「あっ、この世界滅びるな」

 

 ギルド最奥の祭壇にて祈祷を続けダンジョンを鎮めている神が居る。名をウラノス。バベルによって封印されたダンジョンへの大穴を封じるのに貢献した神々の内の一柱であり、威厳のある老人の姿をしている。

 

 そんな彼の諦めきった様な声色でいつもと違う口調の呟きに対し、部屋にいた男は我が耳を疑った。この神の性格からして冗談など言うはずがないのだ。つまり、彼が世界が終わると思うほどの何かが起きており、まず思いつくのが一つある。

 

 

「まさかダンジョンの封印が解ける……オラリオが崩壊するのか!?」

 

 大昔の伝承に残る地獄のような戦いが再び始まるのかの問いに対してウラノスは静かに首を横に振った。

 

「それならば希望が残っている。だが、あのお方の気分次第では世界が文字通り消え去るのだ。我らこの星の大神や神が力を合わせても到底敵わぬ存在によってな」

 

 長い付き合いだ。苛立った顔、焦った顔は見て来た。だが、今回のように目の前の神が全てを諦めた顔をするのを見るのは彼にとって初めてのことであった。

 

 

 

 

「ききき、聞きたいことですかっ!? ぼ、僕に答えられる事なら何なりとっ!!」

 

 イシュタル・ファミリアの面々は急展開に取り残されていた。主神のターゲットを万全の状態で待ちかまえていたにも関わらず人質を奪還され、無謀にも一人で戻ってきたかと想えば巨大な猿に変身した。既にお腹一杯なのだが、突如現れた謎の()()()()()に巨大な猿が完全に怯えている。自分達には臆さず向かって来たのにだ。

 

 

「おいっ! 私が先だ、引っ込んでいろっ!」

 

 だからだろう、イシュタルが片方の紫の猫の様な方に怒鳴ったのは。言葉を話すモンスターに微塵も驚いていないのは理由有ってのことで、外のモンスターはダンジョンのより弱いから眷属がこれだけ居れば瞬殺だと思っていたのだろう。結果から言えば無知無謀の行動だった。

 

 イシュタルが怒鳴った方……破壊神ビルスの目が不愉快そうに細められ、指先が彼女に向けられる。

 

 

「破壊」

 

 ただ、それだけ言っただけだ。それだけでイシュタルの体は足下から透け、やがて完全に消え去る。眷属達は目の前の光景が飲み込めず、ビルスは横に立つお付きの青年に視線を向けて顎でしゃくる。

 

「おい、ウイス。残りの適当に飛ばせ。僕は眠くて面倒臭い」

 

「はいはい。ご自分で行くとおっしゃっていたのに、まったく」

 

 文句を言いながらもウィスが杖を掲げると光り輝き、イシュタルの眷属達の姿が消え去った。それを見たビルスの視線が縮こまったままのベルに向き、彼は巨体をビクッと跳ねさせる。

 

 

 

「邪魔者は居なくなったね。じゃあ聞くけどさ……この星から僕の偽物っぽい力が放たれたんだ。君、何か知ってるかい?」

 

 誤魔化しは許さないとビルスの目が告げ、ベルの記憶が蘇る。父が宇宙一寝心地の良い枕を要求されたのに自分で使い、ビルスには二番目のを差し出したのがバレて怒りを買った時の光景だ。ベジータが堪えきれずに向かっていって触れることすら出来ず、自分は物陰から震えて見ているだけだった。

 

 

「何か知ってるぽいね。早く言わないと僕不愉快に思っちゃうかもよ?」

 

「い、言いますっ! 実は……」

 

 ベルは観念し、ビルスの怒りを買わないことを願いながら魔法の事を話し出した。ビルスは時折神から貰える恩恵について聞き、漸く質問が終わったと思った時、ベルは完全に消耗しきっていた。

 

 

 

「まっ、ワザとじゃないなら勘弁してやるか。超サイヤ人ゴッドについても知ってたしね。……あー、でも僕の眠りを邪魔したしな」

 

「ビルス様ったら大人気ないですよ。許すとおっしゃったじゃないですか」

 

「……じゃあ何か芸をしろ。それで許してやる」

 

 この時ほどベルはバトルアリーナを会得して良かったと思うことはなかった。何せバトルアリーナのせいで呼び寄せてしまったビルスの機嫌を取る為の芸はバトルアリーナで出会った知人の虚像から伝授されているからだ。

 

 

「それではビルス様との再会を祝してギニューさん直伝の喜びの舞を披露いたします!」

 

 

 

 

 

 数日後、また変身するかもと焦っていたベルだが、魔法を使ってベジータに尻尾を抜くコツを聞いたおかげで、聞く前に四苦八苦しても抜けなかった尻尾が何とか抜けたベルはホームでご飯を食べていた。

 

「それで踊りを見せたら帰ってくださったのか。ビルス様とやらは……」

 

「ええ、ウィスの踊りの十倍酷い、怒る気力もなくした、っておっしゃって帰って行かれました」

 

 ウィスによってバラバラに飛ばされたイシュタルの眷属達だが、運良くオラリオ内部やオラリオ近辺に飛ばされた者も居たようで、今はイシュタルが行った事をギルドに報告している所だ。だが、ビルスに関する事項はウラノス直々に箝口令が敷かれ、ミアハ達にも多額の口止め料と共に話さないようにとの書状が誰かの手によって届けられた。

 

 

「だけど僕のせいで皆がまた……」

 

「何、気にするな。此処にお前を責める者は一人もおらん。それに例の春姫だが、仲の良かった団員と共にオラリオに戻ってきたそうではないか。不幸中の幸いといった奴だな」

 

 イシュタルが消えたことについて言及しない所を見るとミアハも怒っていたようだ。だが、それ以上に嬉しいこともあった。春姫だが、豊穣の女主人で働きながらタケミカヅチ達との交流を取り戻したようだ。本人の娼婦に関するコンプレックスも、ウブすぎて使い物にならなかったと知ったらしい。

 

 

「でも、もう変身は懲り懲りですよ。スキルの効果で理性は保てるって兄さんとの修行で知ったけど、服は破けるし、遠吠えはオラリオまで響いていて、箝口令も相まって謎のモンスターって騒ぎになっちゃうし」

 

 もっとも、面倒な事もあったが。何とかローブで全裸は免れたが、風が吹くたびにビクビクしながら歩いたのは苦い思い出になった。

 

 

 

 

「それよりもランクアップですよ、ベル様。今更ですから騒ぎになっていませんが、世界最速記録って噂になっていますよ。

 

 そう。今回得た経験値でベルはランクアップを果たした。浚われた直前までに稼いだ分か、星を救ったとカウントされたのかは分からないのだが。もう起きるであろう騒ぎに慣れてきた一行がさほど心配していなかった時、不意に来客があった。名をヘルメスという。

 

 

 

「やあ、ミアハ。朝から悪いんだけど、帰ってこないヘスティアの眷属を救出するのを手伝ってくれないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所でウィス。彼奴って神なのにどうして僕を知らなかったんだ?」

 

「普通の星とは違ってあの星は神が司る物を分担してらっしゃいますからね。通常の神の業務である星の管理をしている大神数名だけが知っているのですよ」

 

「しかし踊りは本当に酷かった。……ギニューって奴が教えたんだっけ? 起きたら文句言いに行かなくちゃね」

 




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第十八話

感想の返信は少し待って 眠いんだ・・


 命がランクアップした事による中層への進出。タケミカヅチ・ファミリアは孤児を養うための出稼ぎに来ており、稼ぎは大きい方が良い。だが、ダンジョンはそんな彼らに牙をむいた。上層部では考えられない数のモンスターの数や魔力を扱う個体によって追い詰められ、千草という重傷の仲間を抱えた一行が遠くで戦っている者達に押し付けようとするのは当然であった。

 

 

「くっ! お前達、反転だっ!」

 

 だが、リーダーである桜花が見捨てることが出来るのは名も知らない相手だけ。主神の友神の眷属になって既に顔見知りだったダフネとカサンドラだと分かった以上は無理だ。

 

「邪魔。怪我人連れて先に行って」

 

「こ、今度ご飯を奢ってくれたら良いですから」

 

「……すまん!」

 

 一旦は戦おうとした桜花は二人の言葉、そして血の気の引いた千草の顔を見たことによって迫り来る群れを二人に任せて逃走した。

 

 そして日を跨いでも戻ってこない二人を心配したヘスティアは救出について行くと言い出し、ヘルメスの提案によってベルにも協力要請が来たらしい。

 

 

「友神の眷属のピンチだ。俺もついて行くぜ」

 

「……申し訳ありません。このバ神、言ったら聞かないもので」

 

「バ神っ!?」

 

 

 ヘルメスまで同行すると言うことに対してアスフィが謝る中、救出チームが結成された。

 

 

 

 

「はあっ!!」

 

 ベルが放った気功波は通路全体を覆い尽くしながら突き進み、魔石ごとモンスターの群れを消し去る。床や天井、壁も削り取られ暫くモンスターは現れないだろう。

 

「これ、私達が行く意味無いですよね?」

 

 この場の誰もが浮かべた感想をアスフィが口にする。先程からベルだけで中層のモンスターすら蹴散らして、既に十六階層まで来ていた。ヘスティア達が唖然とする中、ヘルメスは値踏みするような笑みを浮かべてアスフィに小声で話し掛ける。

 

 

「間近で見ると此処までとはね。……彼が言っていたこともあながち嘘じゃないのかな?」

 

「宇宙人、とかいう嘘っぽい話ですか? まあ、同じ人間とは思えない力ですよね」

 

「あっ、もしかして空を自力で飛べることに嫉妬かい? まあ、切り札だったからね」

 

 ヘルメスが軽口を叩く中、モンスターはベルの姿を見た途端に悲鳴を上げて逃げていく。やがて十七階まで辿り着いた時、目前の壁がひび割れ、巨人が頭を覗かせる。階層主ゴライアスは獲物を発見し、全身を壁から出そうと咆哮を上げる。

 

 

 

「ギャリック砲っ!!」

 

 そして姿を現す前に上半身を吹き飛ばされた。警戒した者達は沈黙だ、沈黙しかない。

 

「さあ! 十八階層に二人を捜しに行きましょう!」

 

「あっ、はい……」

 

 大穴が空いた壁と灰になったゴライアスに言葉を失いながらも一行は十八階層へと降りていった。

 

 

 

 

 

「二人共っ! 良かった、無事だったんだねっ!」

 

「「ヘスティア様ぁっ!?  って、『激怒兎(ベルセルク)』ゥゥゥウウウウウウッ!!?」」

 

 リヴィラの町付近で直ぐに見つかったダフネとカサンドラは流石は元アポロン・ファミリアの上級冒険者といった所だろう。多少の怪我はあっても特に荷物も失っておらず、金がないからか野営をしていた。二人を見つけるなり駆け寄って行くヘスティアに驚き、ベルの姿にもっと驚く。ちょっとだけベルは傷付いた。

 

 

 

「悪かったって。ほら、戦争遊技の時にボッコボコにされたじゃない」

 

「あれ以来アルミラージどころか普通の兎すら怖くって……」

 

「こらっ! アンタは余計なこと言わないのっ! それにしても神様がダンジョンに来るって無茶しすぎ。まあ、それほど心配したって事なんだろうけど。桜花、千草は大丈夫?」

 

「ああ、お陰様でな。今回の探索には置いてきたが怪我は治った」

 

 皆で火を囲み持ち込んだ食料を口にする。救出が最優先だったので荷物は最小限であり、急な依頼だったので持ち込める食料にも限度がある。実際、ミアハ・ファミリアに気軽に食べられる保存食のストックは殆ど残っていなかった。

 

 

「あっ……」

 

 つまり、ベルの膨大な必要摂取量には全然足りなかったのだ。響き渡る腹の音。

 

「ベル君、君は成長期だから仕方ないさ。ほら、好きなだけお代わりすれば良いよ」

 

 そんなレベルじゃない、とベルの食事量を知る面々が一斉に思う。特に接点が無く、宴の時も勧誘で大忙しだったヘスティアは知らないので呑気に言ってしまったが、ベルにだって遠慮という言葉の知識くらい有る。保存食で作った簡易なスープは食べたいが、残り全部食べても到底足りなかったし、体を使う以上は他の者も多少は一般人よりも多く食べる。

 

「しょ、食料探してきます!」

 

 リヴィラの街の店は高いので買いに行くという選択肢はない。結果、ベルは空きっ腹を抱えて食料探しに向かった。まだ八人前しか食べていないので大急ぎだ。

 

 

 

 

 

 

「あっ! ベル発見っ! 久し振りー!」

 

 広大な十八階層を巡り、通常ならば向かわない場所にある穴場の果実を採取し、途中で謎の門や地面に隠れた新種のモンスターを倒したベルが最後にキャンプ場所近くまで戻って来た時、嬉しそうな声と共にティオナが抱きついてきた。Lv.6の一切の遠慮も手加減もない全力のタックル。ゴライアス程度なら悶絶間違いなしの強力な不意打ちをベルは正面から受け止めた。細身の体は巨岩の如き不動でティオナを止め、少しくらいなら後退すると思っていたのか彼女はビックリしている。

 

「久しぶりだね、ティオナ…さ……」

 

 途中までさん付けしそうになったのを堪えれば喜色が更に増してより強い力でベルを締め上げる。ミノタウロスなら胴体が千切れるかも知れない締め付けだが、ベルはただ抱きつかれただけのように赤くなるだけだ。

 

「こんな所で会えて嬉しいな! ベルは探索? あたし達は色々あって足止め食らってさ。食料を探しているところなんだ」

 

「僕はミアハ様の神友の眷属が帰ってこないからって探しに来てて……そうだ! これ、僕が集めた食料だから受け取って!」

 

「い、いいよ! 流石に悪いからさ」

 

 差し出された果物を押しそうにしながらも断るティオナ。今回の件は自分達の問題だからと返そうとしたが、ベルも引き下がる様子はない。

 

 

 

 

「受け取って。僕、(友達として)大好きなティオナの助けになりたいんだ」

 

「うぇっ!? あわわわわわっ!? う、うん。ありがとう……」

 

 フィンへの恋を語るときのティオネ以上に乙女の顔になったティオナはオズオズと差し出された食料を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! ティオナのファミリアもキャンプしているなら顔を出しても良いかな?(友達とはいえ別ファミリアだし)ちゃんと君との関係もあるから挨拶しておきたいんだ」

 

 

 




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第十九話

十七話 尻尾関連の付け足し有ります


「この短期間でランクアップをしたのかい!? いったいどんな功績を……いや、今更か」

 

  遠征中に発生した強力な敵との大規模な戦闘による被害から撤退を決めたロキ・ファミリアだが毒妖蛭(ポイズン・ウェルミス)の大群に襲撃された。耐異常のスキルを持っても耐えられない強力な毒に大勢がダウンし、今はベートが貴重な解毒剤を買いに地上に戻っている。

 

 そんな折、不足していた食糧を大量に持って来たベルは無事だった幹部達から歓迎され、救護を受けている者や、その世話の邪魔にならないようにとフィンのテントに案内された。その中での会話でベルが自身のランクアップについて話したのだ。

 

「どうやってかは、その……」

 

 口止めは口止めをされていること自体隠せるのなら隠す物、ましてや宇宙からやって来た破壊神に踊りを見せて世界を救った、など荒唐無稽が過ぎる。フィンも単身でアポロン・ファミリアを潰し、Lv.5のティオナに打ち勝った事による経験値でもランクアップはしなかったが、それだけやればギリギリまで貯まっており、説明するのが躊躇われる程に些細な事でランクアップに至っても不思議ではないと考えていた。

 

(いや、下級冒険者、それも恩恵を得て半年もしないでって考えれば不思議なんだけどね)

 

 ギルドの調査で不正の有無は確認されており、本来ならばスカウトしたかも知れないが、あの食事量を考えれば遠征には連れて行けないと断念するフィン。だから次の話、団長として聞いておくべき事を口にした。

 

 

 

 

「……一つ聞かせてくれ。君はティオナとの(恋人)関係を理由に僕に挨拶に来たけど……本当に彼女が好きだと言えるかい?」

 

「はい! 僕はティオナが(友達として)大好きです」

 

 威圧感すら感じる視線、テントの中で見守るティオナ、そんな状況でベルは迷い無く答える。但し、双方の認識に大きな違いがあったが。

 

 

「……うん。僕は神じゃないけど、君が嘘をついていないって分かるよ。将来的なことは後々考えるとしよう」

 

「ベルー! あたしも大好きー!!」

 

「わっぷっ!? テ、ティオナっ!? む、胸が顔に……」

 

 ベルの誠実さが伝わって安心するフィン。ファミリアが違う者同士の結婚は子供の所属で揉めるが、互いの規模の違いや主に行う事の違いから大きな問題にはならないだろうと確信し、仲を咎めはしない。これでアイズならロキが猛反発しただろうが。

 

 そしてティオナはティオナで嬉しさのあまりベルに飛びついて抱き付く。好きな相手に好きだと言って貰えた嬉しさは、今まで色恋のいの字も知らなかった少女には自分を律する事が出来ないほど大きい。横にいた姉であるティオネも安心しつつ、自分もフィンに同じ事をするタイミングを伺うのであった。

 

 

 

 

 

 だが、もう一度言おう。互いの認識に大きな食い違いがあると。

 

 

 

 

 

 

 

 

「海、ですか? どうしてまた……」

 

「ああ、最近は色々あって皆疲れているし、売り上げも好調だ。此処は一度慰安旅行に行こうと思ってな」

 

 

 

 ロキ・ファミリアの野営地から戻った後、二人も特に怪我がないからと速攻での帰還が決められた。言い出したのはアスフィで、彼女が言うには神がダンジョンに居続けるのは非常に拙いので気付かれる前に出ようとの事。但し、問題が一つ。ヘスティアとヘルメスは一般人程度の体力しかないので足手纏いになることだ。

 

 だが、これは直ぐに解決した。

 

 

「あっ、だったら僕が全速力で飛んで運びますよ」

 

 ベルの提案に対し、空を飛ぶということに興味が湧いていた二人は喜んだ。……但し、飛んでから数分後には言葉を発することすら出来ないグロッキー状態。ベルの全速力はあまりにもキツかった。結局、慌てたベルがバベルの入り口で騒いだためにギルドにバレて両方のファミリアに罰則が与えられるのだが、今は関係ない話だ。

 

 閑話休題、その日の夕食時にミアハからなされたのは皆で遊びに行こうというもの。ナァーザが驚いていない所を見ると一緒に前々から計画していた様だ。

 

「でもミアハ様、神が都市外に出るのは面倒な手続きが必要では?」

 

 リリが言うとおり、オラリオは有力な冒険者の流出を避けるために主神を都市の外に出したがらない。要するに人質ならぬ神質だが、ミアハは何時の間に手続きをしたのか許可書、それもファミリア全員分の許可を取っていた。

 

「ベルの疑惑の件やイシュタルの一件でウラノスに貸しが出来たからな。前々からの計画を話したら直ぐに許可が出た。破壊神とやらについて二人で話したのだが、奴はどうも存在を知っていたらしく、大変だっただろうから楽しませてやれ、だそうだ。向こうでは好きなだけ食べれば良い」

 

 その際、ミアハは驚きの真実を聞かされたのだが、世界の命運を急に担わされたベルを労ってやろうと心に決めた。幸い、口止め料をたんまり貰ったのでベルの食費も恐らく問題がないかも知れない。

 

 

 

 

 

 

「……それにしてもミアハ様、少し逞しくなられましたね。昔の貴方なら貸し借りなんて気にしなかったのに」

 

「私も驚きだ。神も成長出来るものだな」

 

 

 

 

 

 この二日後、ロキもとある目的のためにギルドに出向いて外出の許可を取ろうとしたのだが……。

 

 

 

「はぁ!? 何で手続きが出来んのやっ!?」

 

「申し訳御座いません、神ロキ。イシュタル・ファミリアの解散に伴うトラブルで立て込んでいまして、通常業務は少しの間制限させて頂いているんです」

 

 この事でロキ達がベル達の目的地である港町メレンに向かうのは予定より少し後になってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んげぇ!? 激怒兎(ベルセルク)ゥゥウウウウウ!?」

 

 メレンに到着後、宿の場所を聞こうとアマゾネスの少女に話し掛けた一行だが、ベルの顔を見るなり開口一番に叫んで飛び退く。流石のベルも傷付く中、少女は一目散に逃げ去っていった。

 

「……僕、何かしましたっけ?」

 

「あの方って、確かイシュタル・ファミリアの眷属の中に居た人ですけど……気にせず宿を探しましょう、ベル様っ!」

 

「そ、そうだな。彼処で釣り具の貸し出しもやっているようだし、皆で釣りでもしよう」

 

 本人からすれば不本意な事にアポロン・ファミリアとの戦いで付いた異名はランクアップによって正式な二つ名として採用されてしまった。ベルは落ち込んだが、ミアハは弱小ファミリアへの扱いとして眷属に痛々しい二つ名を付けられるケースが大半なので安心していた。

 

 落ち込むベルを励ましつつ、何とか見つけた宿屋に荷物を置いて釣りに出掛けた一行。その姿を遠くから先程の少女が眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「絶対目を付けられるよねぇ。なんで連続で厄介な神様に関わっちゃうんだろう」

 

 少女は自分と視線の先のベル達の不幸を嘆いていた。そして同時刻、同じ様に不幸な目に遭っている者が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとギニューさん! 破壊神から貴方への苦情が届いていますがどういう事ですかっ!? 暫く寝てから直接文句を言いに行くと手紙に書いているのですよっ!」

 

「えぇっ!?」




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第二十話

当初はシリアスにする予定だった


 駆ける、駆ける、駆ける。月光以外に地上を照らす物の存在しない港町を駆け抜け、少年は必死に逃げていた。追走者の姿は見えず、されど確実に己を追って来ているのを感じ取る。恐怖に支配された心は冷静な思考を阻み、最適の逃亡経路に行き当たらせない。

 

「ひっ!?」

 

 水面を魚が跳ねる音に思わず悲鳴を上げる。この時間は沖の方に出かけているのか漁師達の騒がしい声も聞こえず、風で枝が揺れる音や虫の声だけが耳に入ってくる静けさだ。聞こえるはずのない足音の幻聴を感じベルは身を竦ませる。捕まれば只では済まないと本能が告げ、兎に角距離を開けることしか考えられない。

 

「と、取り敢えずこっちにっ!」

 

 接近する気配に震えながらベルは足音を忍ばせつつ逃走を続ける。何故こうなったのか、それは前日まで時間を遡る……。

 

 

 

 

 

「イシュタル・ファミリアの団員が居た? ベル様、それは確かですか?」

 

「うん。随分弱々しい気だったから恩恵は受けていないみたいだけど、多分同じ気配の持ち主があの時に居たと思う」

 

 釣りを楽しんだ旅行初日の昼時、特大の巨黒魚(ドドバス)の丸焼きの十皿目を食べていたベルは思い出した事をミアハ達に告げる。すわ報復か、と警戒したリリであったが恩恵を失ったままと聞いて一安心。一瞬、イシュタルに熱を上げていた神が彼女から話を聞いてベルに見当違いの怒りを抱いたのかもと思ったが、恩恵を失った状態の者一人を見張りにするのなら可能性は薄い。

 

「恐らく偶々見かけた程度だろうが……ふむ」

 

「ああ、だったら午後は船釣りに行く? もしもの時はベルが飛んで運んでくれれば良いし」

 

 トラブルに巻き込まれることより、巻き込まれた後でベルが気にすることを心配したミアハだったが、ナァーザがベルに提案した内容で解決する。観光客用に行っている船釣り、それが午後からの予定になった。

 

 

 

 

 

「モンスター除けのアイテム?」

 

「ああ、これを撒いてるとモンスターに襲われにくくなってな。でも、襲ってくるのがいたら頼むぜ?」

 

 釣り竿を持ち込み釣り船の乗り込む一行。水中にも既に塞いだ穴を通ってダンジョンから抜け出したモンスターの子孫が存在し、漁業に深刻な損害を出しているらしい。先程ベルが店の在庫を食べ尽くした巨黒魚(ドドバス)もモンスターに対抗すべく鱗が異様に発達する始末。だが、船員が今撒いている黒い粉が有れば船が襲われる確率が減るとの事だ。

 

(あれ? これは避けているって言うよりも……)

 

 船員の言葉が気になって水中に意識を向ければ手に取るように魚やモンスターの気配が感じられる。此方の気配を察知したのか非常に弱いモンスターの気配が接近するも、別のモンスター、それもダンジョンで普段戦っているのとはどこか違った気配の持ち主が襲い掛かっている。この気配、何処かで会った事がと思ったが思い出せない。

 

「ベル、どうかしたのか? ……おや? 襲われたようではないが随分ボロボロだな」

 

 ベルが思い出そうとしているのが気になった様子のミアハ。船が港から遠ざかろうとした時、桟橋に引っかかる様にして浮いている小船を発見した。襲撃による物というよりは過剰な負荷、それこそ尋常極まる速度を出した様なそれによって受けたらしきダメージを負った船とオール。少しだけ嫌な予感がした……。

 

 

 

 

「……アイツか?」

 

「う、うん! そう。あの子が激怒兎(ベルセルク)ベル・クラネル。Lv.5のティオナ相手にLv.1の時点で互角以上に戦ってたよ。……えっと、もう行って良いかな? 案内はしたしさ……」

 

 まだ少女特有の顔立ちや未発達の体を持つ彼女、ベルが言っていたイシュタル・ファミリアの元団員はビルス達によって飛ばされた先に存在した船の乗組員、その中でも最強の二人相手にオドオドしながら話をしていた。

 

 アマゾネスの国から主神であるカーリーと共に来た彼女達に曲者だと殺されそうになるも、急に現れた事に興味を持ったカーリーに事情を話して助かった。どうやらイシュタルと約束があったらしいが恩恵が消えた事から地上に不在だと計画は頓挫。その代わり、ベルに興味を持たれた。

 

 曰く、何度もランクアップする素質も欲しいが、一度もランクアップしていないのにそこまで強いのは体に何かあるのだろう、と。肉体的な物なら引き継ぎやすいだろうとベルを攫う事になり、目立たない為にLv.6の二人と共に小船でやって来たと言う訳だ。

 

「ああ、国に来ないなら用はない。ワタシ達の目的はあの男だ」

 

「まあ、種馬としては役に立つだろうな」

 

 この二人、と言うよりはベルとこれ以上関わりたくない彼女は返事を聞くなり急いで去っていく。ベル達がこの町に来ていなければオラリオの内部を案内しなければならなかったので幸運と言えるだろう。この後、次のファミリアが見付かって嬉しさから飲み過ぎた結果、とある狼人の青年に絡んで返り討ちにあうのだが、また別の話だ。

 

 

 

 

 

「……漸く戻ったか」

 

「ナァーザさん、リリ、ミアハ達を。先に宿に帰って料理を注文しておいて下さい。来るまでに向かいます」

 

 元々別の言葉を使っていたのか少々訛のような物が感じられるアマゾネスが二人、宿に向かうベル達の前に立ちふさがる。二人とも拳を構え、これから闘いを始める気なのは一目瞭然。後ろを歩む三人を手で制したベルは二人から視線を外さないまま、それでも当たり前のように言い放つ。この二人は自分より弱いから直ぐに済むと。

 

「私としては闘いは避けて欲しいのだがな。怪我はせぬようにな」

 

 ミアハは戦うこと前提のベルに溜め息を吐きながらも心配した様子はなく、リリやナァーザも全く不安そうにしていない。一行の態度が気に入らないのかアマゾネス達の表情が険しくなる。戦士としての矜持を傷付けられた、その様な表情だ。

 

 

 

 

 

「……それで僕に何の用ですか? えっと、初対面ですよね?」

 

「ああ、貴様の事を聞いてな。あの女の言葉を鵜呑みにする訳じゃないが、国にまで来て貰うぞ」

 

「その前にどれだけ戦えるか試してやる」

 

 あの女とは自分を観察していた少女の事かと思っていたベル。その思考による隙さえ侮辱と感じたのだろう。二人は同時に襲い掛かった。

 

 

 

 

「わっ!? きゅ、急に来るなんて……」

 

 二人の拳打、手刀、蹴り、一撃一撃が常人なら挽き肉になる程の威力で振るわれ、容赦なく繰り出され続ける。アマゾネス特有の武術によって果敢に攻め立て、嵐の如き勢いで前進を続ける。ベルは全く反撃する様子を見せず後退するばかりだ。

 

「……うん。もう良いかな? 厄介なスキルを発動されても困るし」

 

 端から見れば一方的な闘いだが、表情を見れば有利不利が覆る。焦りを見せる二人に対し、ベルは無傷のまま表情を変えない。二人による猛攻を受け止め、弾き、逸らす。反撃できないのではなく、しない。ベルは背後を見て呟いた。彼の背後は騒ぎに巻き込まれまいと先程まで居た人々が逃げ出して誰も居らず、もう十分に時間は稼いだ。

 

 怒りの籠もった二人の突きはベルの急所めがけ放たれ、残像をすり抜ける。背後から聞こえる着地音。直ぐ様振り向く二人。ベルの両手から放たれた気功波は二人を飲み込み、湖の上を突き進んだ後で上空へと昇っていく。Lv.6の耐久性故か気功波の直撃を受けても立っていた二人だが、最後にベルのデコピンで二人揃って仰向けに倒れた。

 

 

「えっと、人を呼んでおけば良いかな?」

 

 二人の事を騒ぎを聞きつけてやって来たギルド支部の者に説明し、事情聴取を言い渡されるより前に逃げ出すベル。わずかな時間だが戦いによって空腹だった。当然、ご飯を食べた後に見付かって長時間事情説明をするはめになったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ……その夜、奇妙な気配を感じたベルが目を覚ませば部屋に誰か居る。

 

「あ、貴女達は昼間のっ!」

 

 居たのは昼間のアマゾネス。どうもリベンジ、という訳では無さそうだ。殺気も感じず、瞳は熱を帯びている。

 

 

 

「……パーチェだ」

 

「アルガナだ……」

 

 何の用か、ベルは怖くて聞けなかったが二人は聞いても居ないのに口にする。自分達を圧倒したベルの子供が欲しい、と。

 

 

 ベルは当然の様に逃げ出した。もう父親とは別のベクトルで怖かったらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、同じ町にロキ・ファミリアの一行がやって来た。




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第二十一話

お待たせしました


「わざわざ俺を呼びだしたかと思えば、女に襲われて怖いから知恵を貸してくれだと? 愚か者がっ! 貴様もサイヤ人の王子ならば自分で解決せんかっ!」

 

 昼間に返り討ちにしたアマゾネス姉妹に(性的に)襲われそうになったベルは逃げ出した先でバトルアリーナを発動、兄を指名して相談するも怒られてしまう。吐き捨てるように言って背を向けて去ろうとした兄の足に涙目のベルがすがりついた。今まで親しい女は団員のナァーザとリリ、そして友人のティオナしかおらず会ったばかりの相手に体を求められるという恐怖は男女関係ない。逃がしてなるものかとすがりつくが、そもそも戦うための異空間なので実際は去りようがなかった。

 

 兄弟揃って気がついていないが……。

 

「この前、ブルマさんが呼び出されて、戦うわけにも行かないから兄さんとの馴れ初めとか、ビルス様の機嫌を取る為に頑張った事とか聞いたんです! 今の兄さんがどの時点かは知らないけどお願いだから知恵を貸してください!」

 

「彼奴余計な事を吹き込みやがって! って言うかビルスに貴様の踊りについて文句を言われたんだぞ、俺はっ! ……もうアレだ。適当な相手に恋人役でも演じてもらえ。どうせ貴様一人で楽に勝てるなら危なくなっても守ってやれるだろう?」

 

「流石兄さん! すっかり父親らしくなったって聞いただけあります!」

 

「……余計な事は言わんで良い。まあ、上手くやれ」

 

 少々ぶっきらぼうな言い方だが彼なりに弟の心配をしてのアドバイスであった。尚、彼の場合は据え膳を食った結果に散々苦労して至った領域に幼い息子が簡単に到達したり、金を稼いでいないのに誕生日プレゼントを買ってあげたり、お好み焼きを作る歌を歌ったりしているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「もー! ベルったら何処に行ったんだろ? それにしても偶々出掛けた先が一緒なんて運命だよね~」

 

「はいはい。今は調査が先でしょ?」

 

「はーい。早く終わらせて探しに行こうっと。水着誉めてくれるかな~?」

 

 ダンジョンと地上を繋ぐ別の出入り口を探すべく港町までやって来たロキ・ファミリア一行(ただし女性陣のみ)。水中のモンスターが抜け出た穴の封印に向かったティオネとティオナであったが、ティオナは他のことに気を取られていた。

 

 

 

 

 

「むっ。ロキか。お前達も旅行か?」

 

「なんや、ミアハか。まあ、そんな所や」

 

 来て早々にミアハ達と出会した時、ティオナは即座にベルの姿を探す。だが、他の二人は居るのにベルの姿だけは見えない事に少し落胆し、他のメンツも彼だけが居ない事を疑問に思ったのが伝わったのだろう。ミアハが少し困った様子で口を開いた。

 

「どうもベルが朝食前に宿を抜け出してな。こうして探しているという訳だ。……昨日、少し揉め事に巻き込まれたと言っていたが」

 

「なんや、喧嘩か? あの坊主、見た目は大人しいのに怒ったら別人やさかいな。売られた喧嘩の始末に行ったんちゃうん? それに単純な力ではLv.5相当やろ、心配いらんって」

 

「いや、襲われて返り討ちにしたそうだ。それにベルが朝食を食べずに出掛けるなど尋常ではない。何処かで食べていれば目立つはずだしな。……では、見掛けたら教えてくれ」

 

 挨拶もそこそこに去っていくミアハ達。ティオナも心配するもベルだから大丈夫だろうと気持ちを切り替える。彼の強さを身を持って体験したからこそアマゾネスの本能を刺激されたのだから当然だ。少なくても自分が子を産む相手が生半可な事で危機に陥るなど有り得ないと楽観視した。

 

 

 

 

「うーん。リリは昨日戦ったのがアマゾネスだって言うのが心配なんですよね」

 

「あっ、やっぱり?」

 

 

 

 

 聞こえてきた会話に別の危機感を感じるのだったが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティオナ、あれ見てっ!」

 

 封印に綻びが無いことを確認した二人が戻ろうとした時、目前を泳ぐ食人花を発見する。推定Lv.3から4相手ではオラリオ外の住人では太刀打ちできないと即座に始末しようと向かった時、水中を飛来する光の円盤が二人が仕掛けるよりも前にモンスターの胴体を両断して絶命させた。飛来した方向を見た瞬間、ティオナは発展系アビリティさえも活用して一気に突き進んだ。

 

 

「ベルーっ!!」

 

「ちょっとっ!?」

 

 喜色を顔一面に浮かばせ全速力でベルに向かっていく妹を止めようと手を伸ばすティオネだが、遠征で漸くランクアップを果たした彼女よりも遠征前にランクアップしたティオナの方がステイタスが体に馴染んでいる。悔しかったので遠征から帰ってランクアップするなりベートと組み手をして慣れさせはしたが妹を止めるに及ばない。

 

 Lv.5の時でもタックルのダメージが大きかったのだから、このまま何時もの勢いで突撃すればベルが受けるダメージは尋常でないと判断するティオネ。だが、ティオナは一切の遠慮無しにベルに突撃し、ベルは楽々と彼女を受け止めた。

 

「ティオナ! 丁度良かった。君に会いたかったんだ」

 

「ベルも? わたしも凄く会いたかったよ」

 

「わっぷっ!?」

 

 言葉を聞くなり全力で抱き締めて体を密着させてくるティオナに赤面するベルを見ながらティオネは驚いていた。まさかランクアップしたのかと。アポロン・ファミリアを一人で撃退してもランクアップしなかった彼が功績と認められる程の何があったのかと。

 

(イシュタル・ファミリアが解散したって噂だったけど……まさかね)

 

 流石にそれは無いと首を横に振った彼女は取り敢えず陸に上がることを提案するのだった。

 

 

 

 

「それでどうしたのよ? アンタの所の仲間が探していたわよ」

 

「あっ! 慌てて宿を出たから……」

 

 ミアハ達が心配している事を告げられたベルは途端に慌てだし、自分にくっついたままのティオナの方を向いて手を合わした。

 

「ティオナ! お願いがあるんだっ!」

 

「え? 何々? ベルのお願いだったら何だって聞いてあげちゃうよ? 遠慮せずに言って」

 

 自分がフィンと進展しないからか若干イライラしながらも表面上は押し殺すティオネ。ベルの言葉に甘えるように体をすり寄せる妹の姿にギリギリの所で踏みとどまるも限界は近かった。

 

(此奴ら爆発しないかしら?)

 

 それを見て、ほーら、ご覧なさい。綺麗な花火ですよ、とでも言ってやろうかと思った彼女が顔を逸らすと物陰で此方を伺っていたアマゾネスの少女と目が合う。

 

 

 

 

 

 

 

「お願い! 今日だけで良いから僕の恋人(役)になってっ!」

 

「うん! 良いよ! じゃあ、早速……」

 

「ええ!? どうして脱いでっ!? 」

 

「別に恋人ならこの位普通だって」

 

 

 

 ……取り敢えず二人……というより駄妹を止めようと思うティオネであった。

 

 




他にも書いてるのでそっちも宜しくお願いします

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