進撃の剣人 (カムカム@もぐもぐ)
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1話

みなさんこんちわです。

PCの調子が悪く、なおかつ忙しい合間合間に書いてた進撃のSSです。
基本PC以外で書いて、PCに送り、投稿するつもりなので更新速度は遅いです(何回目だろうか)

なのは書けよと思った皆さん。なのははPCじゃないと書けないんで許してください。

では、どうぞ。


世界は狭い。鳥籠という表現は好きではないが、今の人類に適した表現をするのならば鳥籠の中の鳥。もしくは水槽の中の魚。

…まぁ、何かに入った何かならば何でもいい。

俺たち人類は、巨大な壁に生かされているのだ。

壁の外にいる巨大な人型の生物…通称“巨人”に人類は壁の中に追いやられた。

 

―壁の中は安全だ。

誰もがそう思っていただろう。

それはそうだ。人類が追いやられてから100年近く平穏無事に過ごしてきたんだ。

 

世界は狭い。鳥籠どころかこの壁の中は、作られた平和と自由に満ち溢れた仮初の世界だ。

こんなにも広い空と、壁の外に広がる広大な大地は、たった数枚の壁に阻まれて全く手が出せない。見たことのない世界に希望を馳せることもなく、それ以上の絶望が人類を追い詰めているせいだ。

 

―ふと、壁の上を見上げた時だった。

そこにはいつもあるはずの空があって、

 

そして、

 

巨人がいた。

 

 

あぁ、自由を掴む手もない俺だが、まぁなんだ。

駆逐してやるよ。奪った奴らからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日諸君らは訓練兵を卒業する…。その中で最も訓練成績の良かった上位十名を発表する。呼ばれたものは前へ」

 

高官は名前の書かれたメモ書きを見ながら名前を呼び始める。

そこに俺の名前がないことは百も承知だ。俺が背負っているリスクはどうやら、お偉方には“使えない奴”扱いらしい。

 

「主席、ミカサ・アッカーマン。2番、ライナー・ブラウン。3番…」

 

高官は一人一人に目を向け、本人か確認しているようだ。

ちらりと一瞬だが俺に目を向けたような気がしたが、すぐさま目を逸らしてしまう。読みあげている高官がどう思っているかは知らないが、上の奴らが全てのこの世界だ。

同情などされたくもないな。

 

「…10番、クリスタ・レンズ。以上10名」

 

高官はそう言うと、後日どこに所属したいか聞くといって俺たちを解散させた。

 

『その腕では使い物にならんな。よかったじゃないか、こんな時期に順位が解るなんて。貴様は“除外”だ』

 

…嫌な事を思い出した。

まぁいい。調査兵団にさえ入ることができれば順位なんて関係がない。本当に必要なのは技術と力だ。

 

 

 

 

「よう」

「…ライナー」

 

訓練兵団の期間が今日で終わりということで行われている宴の席で俺は一人、食事を摂っていた。明日からの事を考えると若干ではあるが気分が高揚しているのが解る。

周りは飲めや騒げやだが俺の周りにはあまり人がいない。近くには友人の少ない俺に気を使ってくれるライナーと騒ぎに関心のなさそうなアニくらいだ。ライナーといつも一緒にいるベルトルトは、先程までいたが今は席を外している。ライナーは案の定いつも通り一人でいる俺を見かねたのか話しかけてきたようだ。

 

「今日くらい騒いだらどうだ?お前とアニはそうやっていることが多いからな。せっかくの同期なんだ、最後くらい仲良くしたらどうだ?」

「…最後なんて縁起の悪い事を言うな」

「おっと、すまない。あまり聞こえのいい言葉じゃなかったな」

「…ふん」

「はぁ…やれやれ」

 

ライナーは口にも出しているが、見るからにやれやれと言った様子で肩をすくめて見せる。

俺の態度に対してのライナーは、いつもこんな感じなので軽く流しつつ視線を流すとアニと目が合う。

相変わらずの冷めた目だが、その瞳には呆れが映っている。なんとなく自分と似た雰囲気を持っているので見ることがあるが、同じ無表情でもなんとなく感情が読めるようになって来た。おそらく、いや、間違いなく呆れている。

俺の相変わらずの社交性の無さになのか、ライナーとのいつものやり取りを見てなのかは判断がつかないがやれやれと言った様子だろう。

視線が交錯したのはほんの一瞬で目を逸らされてしまう。見つめ合うつもりはなかったが目を逸らされるというのは意外とショックなものだ。

まぁいいけど。

 

「まったく、最後までそれかよハンク」

「俺はずっとこうだ」

「だろうよ。それよりもハンク。さっきのエレン演説を聞いてどう思った?」

「どうもこうもない。いつもの光景だろう」

 

おもむろに視線をライナーへと向けると、ライナーは口調の割に真剣な眼差しを向けている。その視線にどんな意味が込められているのかは分からないが、恐らくライナーの言う“兵士の責任”あたりの事だろう。

 

「敢えて言うのなら、持ってる奴と持ってない奴の差だろ」

「ほう?」

 

ライナーは俺の横の椅子に、どさりと座ると視線を合わせてくる。面倒な空気になった。どっちでもいいけど。

視界の端ではアニも興味深そうに視線をこちらへ向けているのが分かる。

 

「持ってる奴、まぁこの場合は馬面か。あいつはきっと何も失ってない。だから持ってる。持ってる奴は巨人に対して特別な感情を抱いていないんだろう。だからエレンのような持ってない側の人間の気持ちが分からない。だからぶつかり合う、喧嘩になる」

 

そこまで言って、コップを傾け唇と喉を潤す。

 

「その二種類の人間は相容れない。一概に必ずそうとは言えないかもしれないが、馬面とエレンのように両極端にいる人間は相容れないだろう。それだけの話だ。お前も理解できないわけではないだろ」

 

ライナーに視線を向け、一応返答を待つ。聞かれたので答えただけだが、ライナーのことだ俺とは違う考えを持っているかもしれない。どっちでもいいんだけど。

ライナーは腕を組み考えるように目を伏せる。考えが纏まったのか顔を上げこちらに視線を向ける。その目には強い意志の光が灯っていて威圧的な雰囲気すら出ている。

 

「そうだな。そのとおりだ。力のあるものは何かを守らなければならない。だが、自分の意志を貫き通す者は兵士ではない。―――――」

 

 

 

「戦士だ」

 

 

その言葉はライナーの全てを乗せたような、重い言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『腕が…腕がぁ…!!!』

『お、落ち着いて!先生!出血が止まりません!!!』

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

『うぁ…あぁ…!!!』

『くっ!巨人から助け出せたというのに、命を助けられないのか!!!』

『ぁああ……ああああああああ!!!』

 

焼けるぅ!!!あぁぁぁぁあぁああああああああぁぁぁあああああああ!!!!

 

『暴れては駄目だ!出血が酷くなってしまう!!くそっ!こんな子供を助けられないのか!』

 

熱い!腕が!焼ける!!!!!!!

 

『熱いぃ!!!痛いぃ!!!!がぁあああああああああああああ!!』

 

『私が見よう』

『ぁ…ぁ…あ…』

『あんたは、たしか…。はっ!くっ!痛みとショックで意識が!!!んぐっ!!!!!がはっ!!!!!!!き…さま…な、にを…!』

『せ、先生!きゃあああああああああああっ、が…ぁ……。』

 

なんで、こんなに痛いんだ。何が、何が、何が!!!

 

『何があったか話せるかい?』

 

ぁ……あ?

死ぬほど熱くて死ぬほど痛くて狂いそうだった俺は、そう死ぬほど優しい声で正気に戻ったんだ。

すると痛みはぶり返す。

だけどなぜか必死で、痛みに堪えながら俺は…話すことを選んでいた。

 

『で、かい、きょじんが、お、れのう、でを……』

『腕を…?』

『く……』

 

鮮明に思い出されるビジョンは巨人を突き飛ばそうとした俺の腕を一瞬で食いちぎる巨人の姿だった。

 

『食いやがった!!!!!!!』

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

『これで君は、生き残る。使い方は、彼らの記憶が教えてくれる。だから、』

 

そう言うと優しい声をしたそいつは俺の腕に注射を撃ったんだ。

 

『生きなさい』

 

次の瞬間、全身が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬に衝撃が走る。

目を開くとそこには、平手を打った体勢のライナーが心配そうな顔で俺を覗きこんでいた。

 

さっきのは、夢、か。

 

「大丈夫か?ものすごいうなされてたが」

「…そうか」

「普段は死んだように寝てるから呻き声を聞いて驚いたぞ」

「すまない」

「…」

 

ライナーに心配をかけたことを謝ると目を見開いて驚いている。

そんなに不思議な事をしたつもりはないが。

 

「お前に謝られる日が来るとはな。ちょっと気味が悪い」

「なら早くどけ。いつまで俺の上に乗っているつもりだ。もう少し近づいていたら斬り殺していた」

「…いつも通りか」

 

ゆっくり起きあがると、鏡の前に立つ。

そして自分の姿を確認すると、思わず笑ってしまう。

 

肩口まで伸びた癖のない金色の髪に、色白の肌。大きな水色の瞳は垂れ下がっていて愛嬌がある。

自分で言うのもなんだが、女顔だといわれるのは納得がいく。

死んだような意志を感じさせない目は、一切の感情を封じ込めている。

 

「無様だな」

 

その言葉は鏡に映る自分自身への戒め。そして激励。

引き締まった体の強烈な違和感。

肘から先が“何もない”両腕を見つめる。

 

「…ハンク。そろそろ時間だぞ」

「あぁ」

 

鏡の前から動き、両腕に立てかけてある義手をはめる。付けてすぐはかなりの違和感があるがこの違和感にももう慣れた。

数分もすれば通常の腕として扱えるだろう。

 

 

 

 

 

訓練兵団の制服に着替え、今日の仕事をこなす。

今日は班ごとに分かれて別々の作業を手伝わされるらしい。俺の班の仕事は野菜などの食料を運ぶ事だ。

班員は俺、クリスタを含む8人だ。正直クリスタ以外、対して話したこともない奴らなのでこちらから話しかけることは一切ない。

その辺は女神クリスタにでもお願いしよう。どうせ向こうも俺に話しかけてこようなどと思わないだろう。

 

 

 

クリスタのおかげで何事もなく食料を運ぶ事が出来始めている。

俺には必要のない事だが、社交性が高いと便利そうだ。

 

「ねぇ、ハンク」

「なんだ」

「腕、大丈夫?」

「問題ない」

「そっか、よかった」

「…よかった?」

「うん」

 

背中に手を回しくるりと振り返りながら笑顔で話しかけてくる。

なるほど、天使…ね。

 

「ハンクが強いのは知ってるけど、やっぱり重いものとか持ったりしたら大変なんじゃないかと思ってさ」

 

なるほど、女神…ね。

 

「俺が強いのは刃物を持った時だけだと知っているだろう。体格、腕力で勝っている俺がお前に格闘訓練では一度も勝てなかった」

 

こと格闘に関してはクリスタ以下なのは同期ならば周知の事実だ。現在はどうかわからないが、当時は自身のセンスの無さを自覚していた俺は真っ先にクリスタに近づき周りから厳しい目で見られたものだ。すぐにそんなこともなくなったが。自虐的な笑みを浮かべてそう言うと、クリスタはあははっと天使の笑顔(ライナー談)で笑うと楽しそうに言葉を紡ぐ。

 

「そうじゃないよ。心の強さっていうのかな、そういうの」

「…わからん」

「本人は分からなくても、私はわかってるから大丈夫!それに、ライナーやアニだって分かってるよ!」

「そういうものか」

「そういうもの!それに格闘訓練だってアニに頑張って立ち向かってたじゃない。今ならきっと強くなってるよ」

「一日何回宙を舞ったことか」

 

思い出すだけで体が浮遊感に襲われる。

クリスタはまた、楽しそうに野菜の入った箱を抱きながら笑顔を向けてくる。

 

「よし、じゃあ運んじゃおう。話してると怒られるしね」

「そうだな」

 

そういうと俺も箱に手をかけたその時、人類のトラウマを掘り起こす轟音が耳に響いた。

 

ゆっくりと壁に視線を向けると、

 

 

いつか見たそいつが、

 

 

こちらを覗いていた。

 

 

 

 

 

 




巨人のSSはどんなふうに書いていいか悩んだので、いろいろ拙いです。

兎にも角にも誤字脱字等報告お願いします。


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2話

PCより携帯のほうが頑張っているような気がします。
PC調子悪いです。

ただ、すべて携帯で書くことになったら失踪までありますねw

ではどうぞ。


 

“やつ”が顔を覗かせてすぐ、とてつもない轟音が響き渡った。ここトロスト区の住人の中には、前回の壁破壊事件を目撃したシガンシナ区の住人も多々いる。

周りの住人の中にも居たのだろう、そして壁側からの轟音。一瞬の静寂の後に誰かの口からこぼれた言葉が止めだった。

 

「きょ……じ…ん?」

 

次の瞬間、先程の“やつ”の攻撃によって起きた音に負けず劣らずの轟音が周囲を包み込んだ。それは悲鳴、悲鳴、悲鳴。

前後左右一瞬でそこは阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 

だが、周りに反して俺は自分でも驚くほど落ち着いていた。それどころか気分が高揚しているのが分かる。

 

気分の高揚、そして周囲の騒音の中でも俺の心は落ち着いて“やつ”見据えている。それと同時に沸々と湧きあがる感情が俺の心を支配した。

 

―よし、殺そう。

 

来るんだろうな。来るんだろう。“やつ”が出たということは一緒になって来るんだろう。誰も望んでないのに来るんだろうし。

なら仕方ない。

 

この腕の責任も取ってもらわないと行けないしな。あぁ、思いつく限りあいつらが悪くないところを考えるが全く思いつかない。

―うん、仕方ない。殺そう。

 

「あれ…巨人…だよね」

「俺にはそう見えるな」

「さっきの音…壁が…」

「壊されたんだろう」

 

視線をクリスタへ向けると元々色白だったが色白を通り越して蒼白までいっている。

 

「大丈夫か?」

「えっ?あ、う、うん」

 

クリスタは物凄く驚いた顔をする。

この顔はあれだ。俺が人を心配した時にされる顔だ。

 

「安心しろ。俺は大丈夫だ。…2つの意味で」

「うん。…うん?」

「まぁいい。兎にも角にも本部に向かうぞ。この騒ぎだ、対策本部が出来ていないはずがない。それに見てみろ」

 

視線を先程まで超大型巨人がいた方向へ向けるとクリスタもそちらへ視線を向ける。そこには蒸気のようなものが立ち込めているだけで、超大型巨人の姿はない。

 

「やつは消えたみたいだし、俺たちのするべきことは本部の連中が決めるだろう」

「うん。ハンク、冷静だね」

「戸惑っている。困惑している。そんな時間はきっとない。やるべきことをやれば、最後は生き残れるはずだ」

「そうだね。本部へ行こう!」

「それともう一つ」

「え?」

「俺はわかったようなことは言うが、それが正しいとは限らない。覚えておいてくれ」

 

大事な事なので言っておく。無責任だとは思うが全ての責任を俺は負うことが出来ない。それこそライナーの言う兵士の責任と言う奴だ。

自分が正しいと思ったことをすれば、結果的にそれがどうなったとしても納得できるはずだ。俺としても適当な事を言う気はないが「あいつがこう言ったから」などと言われるのは心外だし、面倒事を背負い込む気はない。

 

「ハンクって、優しいんだね」

 

天使、女神、妖精。

なるほど、ライナーの言っていたことがやっと理解できた。

 

 

 

 

 

 

本部につくと駐屯兵団が仕切り、俺たち訓練兵が従うという構図になっていた。話を聞く限りだとどうやら現在は立体起動のガスボンベをある程度作ってから出るらしい。

ガスを補充している連中の方を見ると、ミカサがきょろきょろと周りを見渡している。この状況下だ、誰を探しているかなどは想像に難くない。

自分の準備などはここについてすぐ済ませたので、次の指示が来るまで遠目にミカサを眺めていると見つけることが出来たのか、エレンに近づいていく。

そのエレンはと言うと幼馴染のアルミンと一緒にガスを補充する作業をしているようだ。

だが、アルミンは遠目で見てもわかるくらい混乱しておりそれをエレンが落ち着かせるという構図だ。

さほど距離が離れていないためアルミンの混乱がよく伝わる言葉が聞こえてくる。

 

「巨人はその気になれば、人類なんかいつでも滅ぼすことが出来るんだ!!」

「アルミン!!」

「ッ!!」

「落ち着け!」

 

普段は割と激情型のエレンが知的なアルミンを落ち着かせる構図か。中々に面白いな。

まぁ、エレンは仲間思いだし当然と言えば当然か。

訓練兵団に入った時はジャンと口喧嘩しては無駄にキレていた、ガキっぽい奴だったが成長したものだ。

 

 

 

どうやら作戦内容は、前中後と大きく3つに分かれ前衛で出てくる巨人の迎撃、中衛は前衛の討ち漏らしの処理及び情報伝達。

後衛は精鋭班による住民の避難の補助、警護らしい。

訓練兵は中衛らしいがミカサは主席なのが理由なのか、後衛で精鋭班と一緒に行動だそうだ。

中衛か。どの程度巨人が来るかわからないが皆殺しだ。

兎に角視界に入った奴から殺そう。情報伝達が任務に入っているがこの状況下で一体どんな情報を送れというのだ。討ち漏らしを片っ端から処理するのが基本任務のようなものだろう。大体この任務はおかしなところが多い。

 

「…」

「…」

 

これからの任務の事を考えているとアニと目が合う。目があったのはほんの数瞬のことでこちらへ近づいてくる。さほど距離も離れていなかったこともあり距離が近づくとおもむろに話しかけてくる。

 

「この状況が楽しい?」

「…?その質問の意図が理解できないが」

「そう。じゃあ理解しなくていいよ」

 

そう言うと俺の頭の両端を持ち、顔を近づけてくる。

恋愛などしたことがない俺だが、恐らくアニは美人であろう。そのような少女に急にこんなことをされれば、思考が停止してしまう。

だが、そんな下賤な想像とは裏腹に唇どころか頭部にかなりの衝撃が襲った。

 

「っ!…なにをする」

「普段生気の無いような眼をしたあんたが、こんな状況下ではニヤついていたから。本当は蹴り飛ばしてもよかったんだけど、こんなところで転げまわられても困るし」

 

頭突きをしたアニは珍しくしたり顔でこちらを見ている。

復讐などと言う言葉を使う気はないが、普段と比べると確かに少し気分が高揚していただろう。思うがままに気に食わない敵を屠る事が出来るのだ。少しくらいはいいかとも思うのだが、人類の危機であることは変わりがない。

この場合はアニが正しいだろう。

 

「そうか。多少不謹慎だった」

「昨日ライナーに言った言葉をそのままあんたに使ってもよかったんだけどね」

「返す言葉もないな」

「それでも無駄に悲観してる奴らよりはマシだと思うけど」

 

視線を班分けを行っている方向へ視線を向けると大多数が暗い表情をしている。

恐らくもう死ぬんだと諦めている顔や、わずかな希望に縋り付くかのように奮起している者など様々だ。

しかし、それでも訓練兵の大体は絶望顔だ。

 

「…仕方がない。ほとんどの奴の目的は、俺やエレンとは違う」

「大多数の人間があんたたちと同じになったら、それこそ終わりだと思うけどね」

「それはどういう意味だ?」

「普段はそうじゃなくても、こうなった時考え方が死に急ぎ野郎になるあんたや、普段から死に急ぎ野郎なエレンみたいなやつばかりになったら、皆が皆調査兵団に入って死んでいくんだろうと思うとね。それこそ終わりでしょ」

 

全く、返す言葉もない。だが、それはそれで人類の可能性は広がるとは思うが極論だろう。

 

「違いない。だが、アニ。お前は大丈夫なのか?」

「は?」

 

俺の言葉に驚いたのか、視線を俺に戻すアニ。俺はさっきの頭突きの仕返しとばかりに思いついた皮肉を言ってやることにする。

 

「か弱い乙女なんだろ?この状況下は乙女には厳しいと思ってな。かく言う俺もお前のことは戦闘以外ではか弱いと思っているからな。問題があるなら言った方がいい」

「…」

 

こう言う時はどや顔と言うやつがいいらしい。決め顔としても有効らしい。

顔の筋肉の動かし方が分からないのでとりあえず通常通りでいいだろう。

 

「まさか本当に心配される日が来るとは思わなかったよ」

「…」

「気を使ってくれたのには感謝するけど、あんたも死なないようにしなさい」

「あ、あぁ」

 

アニはくるっとまわって「じゃあね、ハンク」と言い残し去っていく。

アニには死なれたくないものだ。訓練兵団時代から付き合いのある友人だからな。

兎に角、そんなことにならないように巨人はすべて殺してやろう。

 

 

 

 

現実は非常に残酷だ。今いる世界の残酷さは息をしているだけで全身に襲いかかってくる。

この世界のシステムはこの世界の住人にとって最も悲惨なものだ。

耐えられなければ死ぬ。そんなシンプルなシステムは弱められることもなく常に人類を殺しにかかっているから性質が悪い。

 

 

本部から送り出されてからどの程度たっただろうか。俺以外の班員は“全滅した”

俺と一緒にいるよりは、と思ってクリスタを外したのは正解だっただろう。

最初は必ず生き残るんだ!と騒いでいた連中は一人死んだ段階で弱気になり始めた。何回か助けもしたが、助けた次の瞬間には別の巨人に殺された。さきほどまで一緒だった班員はそんな世界のシステムに絡め捕られたんだろう。

 

「悪夢だな」

 

不意に伸ばされた巨人の手を屋根から飛び降りることで回避する。回避したはいいがそのままでは地面に叩きつけられてしまうため、アンカーを巨人の右肩に発射する。

アンカーを巻き急速に接近し、その勢いを利用することで背後に回り込む。どうやらこの辺までたどり着いている巨人の数自体は大したことがないらしく、先程数を減らしたのでそこまで周囲を気にする必要はない。

そのまま巨人の弱点である項を削ぎ、巨人を殺す。

殺した後はアンカーを使い再び屋上へ上る。

ここまで巨人がたどり着いているということは前衛はすでに壊滅したのだろう。たどり着いている数的に討ち漏らしたという数ではない。

この作戦の変なところは後衛に精鋭を置くという、討ち漏らしが出ることが前提の作戦だというところだ。たどり着かせないように初めから優秀な精鋭を前衛に置き、確実に倒しておくのがベストだっただろう。調査兵団が外へ出ているとはいえ戻ってきてくれるまでの時間稼ぎよりは倒すだけ倒して時間稼ぎと並行すればいいとは思うがな。

さすがに上の考えは理解が出来ないから何とも言えんが。

 

「また来たか」

 

今度も1体か。数体同時に来られるよりは確実に倒せていいが複数体を殺し尽くすというのも中々だ。

サイズは13Mほどか。かなり大きいが巨人は巨人。必死に俺に向かって抱きしめるように両手を伸ばしてくれるので、無防備な額にアンカーを飛ばし近づく。俺が近づいたことで喜々として口を開ける馬鹿面は見ていて腹が立つ。

 

「俺が近づいて嬉しいか」

 

このまま突っ込むと口の中に飛び込むため体勢を立て直す。口に入る寸前歯を叩き折る気持ちで蹴り、勢いを殺すと顔を駆けあがる。

 

「悪いが俺は、気分が悪い」

 

駆け上がりながら両目を刃で切り裂き視力を奪うと頭部へ立ち、アンカーを回収する。

巨人に痛覚があるのかどうかは知らないが、回復するとはいえ人体と同じ機能を果たしている巨人に眼潰しは非常に有効な手段だ。

そのまま無防備な項を通り抜けざまに切り落とし、殺す。

 

「だから、死ね」

 

もはや定位置となった屋上へ上り、周りを見渡す。すると、一時撤退の鐘が丁度鳴り響いた。撤退命令が出たのだ、丁度“二本目の”立体起動のガスも補充の頃合いだったことだし、さっさと補充して壁を登ろう。

無理をして死ぬなど最も愚かな選択肢だ。まだ4分ほどあり余裕があるといえばあるが、この程度でも任務に支障をきたす可能性を考えれば万が一を考え補充すべきだろう。

 

 

 

本部に近づくと、その途中で想像以上に多くの同期が残っている。

一時撤退の鐘が鳴ったのだから、さっさと帰還すればいいものをどうしたというのだろう。

本部近くの一角で、一際多くの同期たちが集まっているのが見える。

本部は…なるほど。本部の現状はともかく、同期たちに近づいてみる。

俺が屋根に降り立つと、多くの奴らは俺を見て驚いた様子だ。死んだと思われていたのだろうか。

 

「ハンク、生きてたか」

「当然だ」

 

俺に真っ先に声をかけてきたのはライナーだ。どうせ俺に声をかけてくる奴なんて、一部しかいないがな。

 

「他の班員はどうしたんだ?」

「死んだ」

 

ライナーに視線を向けると、悲痛そうな顔をして視線を逸らす。優しいライナーらしいな。

 

「…そうか」

「ずいぶんと暗いな」

「仲間が死んでんだぞ!!!…いや、お前の事だ。そういう意味ではないんだろ」

「…」

「俺たちのほとんどがガスが少ない。だが、本部は見ての通りで補充が出来ないから壁を登れないんだ」

 

なるほど。たしかに俺みたいな例を除けばそろそろガスが切れてくる頃か。当然だな。

 

「で、お前たちはどうするんだ?」

「お前たち…?ずいぶんと落ち着いてるな」

「俺はガスがあるからな」

 

その言葉を聞いた瞬間周りの連中は一斉に俺に視線を向けた。その視線は羨望の眼差しが多く、中には殺気を出している者もいる。当然と言えば当然か。この発言は、最低一人は確実に助かるということだ。

 

「おい!お前ら!!」

 

ライナーが察して周りを止めるも、名前も知らない恐らく同期の誰かが突っ込んでくる。

 

「ガスを…よこせぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ハンク!!!」

 

格闘では弱い俺だが、一つだけ周知の事実がある。こいつが知っているのかどうかは知らないが、我を忘れたんなら思い出させてやろう。

そいつは刃を振り下ろすが、俺は切り上げるようにそいつの両腕を肩から斬り飛ばす。

 

「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ハンク!」

「止血すれば大丈夫だ」

「そういうことじゃないだろ!!」

「こっちは殺されそうになったんだ。生かしてもらっただけマシだと思うが。それに、知っていたなら思い出したんじゃないか?そいつも」

 

ライナーには悪いが、俺はそんなに優しくはないつもりだ。

俺がガスを余らせていると言っても、たいして気にも留めなかった数名はそれを知っていたんだろう。特に成績上位の連中はよく一緒にいたから尚更だ。襲うだけ無駄だと判断したんだろう。

 

 

 

―悪いが、刃物を持った俺はミカサ級だ。

 

 

 




とりあえず投稿です。
意外と更新できますね。

誤字脱字、後感想とか評価とかあるとうれしいです。


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3話

PCのノーチャンさ。

ふとこの前エクバやってるときにウイング使っていたのですが、相手がストフリ・ジオになった時のことを思い出すレベルです。

頑張れよPC!
携帯からの巨人を投稿するだけの機械かよ!

というわけでどうぞ。今回展開が無理やりかもです。


「う、うわあああああああ、あ、あああああああああ!!!」

「…だまれ」

「ハンク!」

 

喚いている男を蹴り倒し顔を踏む。するとライナーが怒りの形相で俺の胸倉を掴んでくる。

らしい行動だが、こっちも納得はできん。

 

「どう考えてもやりすぎだ!お前なら切り落とさずとも制圧できただろ!」

「他人の命のために自分の命を天秤にかけることは俺にはできない。これが一番リスクのない制圧方だ」

「だがなぁ…!」

「ライナー!」

「…ベルトルト」

「今はそれどころじゃないだろ。僕たち全員が生き残ることを考えるんじゃなかったのか!?ミカサほどじゃなくてもハンクもいるんだ、そろそろ行動に移そう!」

 

興奮するライナーの腕力は半端ではなく、ないとは思うがこのまま殴り合いになっていたら危なかっただろう。ベルトルトには感謝だ。

視線をずらすとアニとも目が合う。何か言いたいことがあるようだが不満げに顔を背けてしまったのでその表情からはなにも伺えない。

ちらりと足の下の男の様子を見るが、見るからにもう駄目そうだ。止血をすれば助かるとは言ったがあくまで“すぐ”止血をすればの話だ。

俺個人としても見せしめのつもりだったため、こいつの事などどうでもいい。見せしめも効果があったらしく、先程まで殺気を出していた奴らはずいぶんと大人しく俺とライナーのやり取りを見ている。

 

「ベルトルト、何か策があるのか?」

「…あぁ。策ってほどじゃないけど、人数がいればもしかしたらあそこの巨人を排除できるんじゃないかってライナーやアニと話していたんだ」

 

たしかに策と呼べるものではないな。記憶に新しい口減らしを思い出させるような物量作戦か。まともに戦っても勝てないなら一人でも生き残る可能性を上げようと言うことだな。

だが、それでは全滅するだろう。

 

「無理だよ」

 

マルコは俯いたままそう言うと、覇気のない顔でこちらを見てくる。いつもの周りを気遣って、他人を尊重するマルコとは思えない姿だ。

 

「どうやったって全滅だ。いつかは死ぬとは思っていたけど、」

 

 

 

「…一体何のために死ぬんだ」

「自分の思い通りに死ねる奴なんて、いないと思うが」

「え?」

 

思っていることが、ついそのまま口に出てしまう。何のために死ぬのかを考えるくらいなら何のために生きているのかを考えた方が建設的だろ。

もちろん、必要な命として死ぬこともあるだろうが、悲観的になりすぎるのは論外だ。

ただそれでも、マルコの覚悟や思いを知っているだけに全否定はできない。

まぁいいけど。

 

「ミカサ!?お前後衛のはずじゃ…!?」

 

ん?ミカサか。大方エレンが心配で戻ってきたというところだろう。

ミカサは周りを見渡すとアニに急ぎ足で近づいていく。どうやらかなり急いできたようだ。

 

「アニ!」

「!」

「何となく状況はわかってる…その上で私情を挟んで申し訳ないけどエレンの班を見かけなかった…?」

「私は見てないけど、壁を登れた班も…」

「そういや、あっちに同じ班のアルミンがいたぞ」

「!」

 

ミカサはアルミンをすぐさま見つけると、そちらへ走って向って行く。その道中に俺の足元で死にかけている男に目が行ったようだが、優先順位は覆らなかったらしくすぐさまアルミンの元へ向かう。

しかしアルミンだけしかいないということは…いや、考えすぎか?あいつが簡単に死ぬとは思えないのだがな。

 

 

だが、

 

「エレン・イェーガー」

 

「以上5名は自分の使命を全うし…壮絶な戦死を遂げました…」

 

 

…。

エレンが死んだ、か。

アルミンの身代わりになったのか。らしいと言えばらしい最後だな。

数少ない俺と同じ考えの奴だったんだが、そうか。

周りの面子も言葉がでないようで空気が固まる。それだけエレンという人間が周りに影響を与えていたかがわかる。死に急ぎ野郎と罵っていながらもその志の高さは本物だったことを全員知っているからだ。

エレンの事を何よりも大事に思っているミカサがどんな反応を取るのか、申し訳ないとは思うが好奇心で目を向けてしまう。

 

「落ち着いて。今は感傷的になってる場合じゃない」

 

一見落ち着いているようにも見えるが、あのミカサがエレンを失って平常心とは思えない。

 

ミカサは二言三言マルコと話すと刃を掲げ、俺たち全員に聞こえるように声を発し始める。

 

「私は…強いあなた達より強い…とても強い!」

 

「…ので私は…あそこの巨人共を蹴散らせることができる。…例えば…一人でも」

 

俺たちがいる方へ刃を下ろし、言葉を紡ぐ。

 

「あなた達は…腕が立たないばかりか…臆病で腰抜けだ…」

 

「とても…残念だ」

 

「ここで…指をくわえたりしてればいい。くわえて見てろ」

 

そして少女は語る。

この世界の真実を。

 

戦はなければ、勝てない。

 

そんな当たり前のことを、知っていながら実現できない。それがこの世界だ。

自由を手に入れるために戦って、でも負けて失う。

戦う相手は強大で、まともに相手すらしてもらえない。

しかしそいつらに、戦いを挑む奴らがいる。

各々理由はともあれ、エレンはそう言う奴らの典型だった。無駄かもしれないのに、でも全力で足掻こうとする。

そんなエレンをサポートするミカサとアルミン。俺はこの3人の事は嫌いじゃなかった。

それにミカサのアレはこれからも十分俺の夢のために役に立ってくれるだろう。

 

だから俺は、お前らに賭けよう。

 

 

ミカサの発破とジャンの言葉で次々飛び出していく訓練兵の中からアルミンを捕まえる。

アルミンはとても驚いたようだが、俺だとわかると安心したように声をかけてくる。

 

「は、ハンク?なに?」

「このままだとミカサは落ちる」

「え?」

「わかっているだろ。あのミカサがエレンが死んだことを知って、冷静でいるはずがない」

「…かもね」

「きっとガスの事など考えず巨人を殺しまくって、落ちる」

「…きっとね」

「そうなったらいくらミカサと言えど、お終いだ」

「…何が言いたいの?」

 

アルミンはミカサが侮辱されたと思ったのか、全力で睨みつけてくる。

時間にすれば数秒だろう。睨みあう形になるが、こんな時間は不毛なので俺は言葉をかける。

 

「こいつを持っていけ」

 

俺は自分のガスを外し、アルミンに握らせる。

アルミンは最初その行動に意味が分からなかったようだが、すぐに我に返り詰め寄ってくる。

 

「これは……何で!?」

「あまり時間がないから色々省くが、俺の目的のためにはミカサが必要だ」

 

本当はエレンも居て欲しかったが、と言うとアルミンは色々納得が言ったようだが、それでも戸惑っている様子だ。

 

「どうした?」

「ハンクは、どうするの?仮に、仮にこのガスのおかげで、ミカサが生き残って、巨人を駆逐できたって!そこにハンクがいなかったら何にもならないじゃないか!」

 

感情的になったらしくアルミンは俺の胸倉を掴み、普段のアルミンからは考えられない怒気をぶつけてくる。

 

「ハンクの目的は、巨人がいなくなれば良いってだけじゃないんだろ!?前に話してくれたよね!?エレンやミカサと一緒に!ハンクは、“自由を掴む手を失ったけど、それでも人類の、俺の自由が壁の中になんて無いって知ってるから、危険のない外の世界を見て回りたい”って!その夢はどうするんだよ!!!!」

「…今その話を持ち出すのは卑怯だろ」

「卑怯なんかじゃないさ!!これ以上僕の前で、友達を殺させる気!?」

 

エレンを失って傷ついたのはミカサだけじゃない。そんなことはわかっていたさ。

だが、お前なら信用できる。エレンから聞いたお前ならできるんだ。

しかし、今はミカサだ。まだお前の凄いところを俺は知らんからな。

 

「安心しろ。ガスのあてがある」

「…嘘でしょ?」

「嘘じゃない」

「どうする気さ」

「言ったら止めるだろう。いいか、今こうしている間にも、ミカサのガスは減っているんだ。間に合わなくて泣くのはごめんだと思うならさっさと行け。優先順位を考えろ」

「っ!」

 

唇を噛み締め、必死に考えているようだ。

綺麗な金髪に隠れた目には涙が溜まっている。賢いこいつのことだ、俺が生き残る確率でも計算しているのだろうか。

 

「…きっとアニは泣くよ」

「…それは困るな」

「僕も泣く」

「変な意味がなければ喜ぼう」

「皆…泣くよ」

「…良いから行け」

「…ありがとう」

 

そう言うとアルミンは、俺の顔も見ずに飛び出す。そして、練習でも出したことのない速度で遠ざかっていく。

あの速度なら最後尾くらいにはすぐ追いつくだろう。

 

「さて、ミカサの演説のおかげでお前の存在はうまくなかったことになったな」

 

さきほど俺に切りかかって来た男は完全に意識を失っている。

エレンが死んだと聞いてすぐ意識を刈り取ったのだ。

男のガスは全くないほどではなく、少なくとも使い方を考えれば本部くらいには行けるだろう。

ガスを俺の方へ付け替えると男を担ぎ、本部とは違う方向へ飛ぶ。

 

 

 

 

 

男を抱え、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。

目的はガス。

ガスは基本的には本部にしかない。当然、一部例外除けばだが。

俺はその例外を目指している。目標は現在抱えている男から先程ガスを奪ったのと同様。

もちろん、今回の相手は生きていないだろう。

 

 

―――いわゆる死体漁り。

 

巨人は殺すことを目的にしているとされているため、一定のサイズの巨人ならば体の一部が残っていることも珍しくない。

事実周りを見渡すと、上半身のみや腕だけなどはごろごろ転がっている。

言い方は悪いが、すぐ死んだ兵士ならガスはかなり余っているだろう。

 

「おっと」

 

下から巨人が手を伸ばしてくる。サイズは大きくない。5Mと言ったところか。口元が血で濡れているためどこかで人を食ってきたばかりだろうか。

 

「馬鹿どもが」

 

唇を噛み、怒りを抑え込む。

さほど遠くない場所だが、そこに首から上がない兵士の死体が転がっている。よくは見えないが恐らくガスは無事だろう。いや、無事であってほしい。

 

怒りの訳は死体に関してではない。俺はそんなに優しくないつもりだ。

 

「死体よりも生きている人間の方がお好みか…?」

 

怒りの訳は、なぜか急に数が増えだした巨人共だ。目的を果たさせまいと言わんばかりに増えやがる。

一応その辺のケアはできているんだがな…っ。

 

 

一際高い建物の上に乗ると、今まで抱えていた男を兵士の死体とは逆の方向へ投げる。

どういう理屈なのかはわからないが、生きてると判断したらしく巨人共は一斉に男どもに群がりだす。

 

「…悪いな」

 

群がったことで意識を取り戻したのか絶叫が響き渡るが、そのおかげか多くの巨人は死体から離れてくれた。

それでも近くにいる巨人は何とか処理し、死体に近づく。

死体は女性の兵士の物で、ガスに触れるとかなりの量残っているのが分かる。これならば本部に戻った後もそこそこ戦えるだろう。一応警戒のため刃は地面に立てておく。

 

「おっとっ!!」

 

ガスを変えたはいいが巨人に掴まれてしまう。さすがの体格からの腕力で骨がミシミシと音を立てるがすぐさま刃に手を伸ばし、そのまま指を切り落とし脱出する。

 

「この…っ!ゴミ屑がぁ!!!!」

 

腕は仕方がなかった…あのときの俺には力がなかった。

だが、命までは渡せない。

 

「殺す」

 

ワイヤーの突き刺さった巨人を中心にガスの勢いと遠心力を利用し一気に項を削ぎ落す。

さらにワイヤーを抜いたことで遠心力で宙を滞空する。少し遠いが巨人がこちらに向かってきているのが見える。先程の男はもう食いつくされたのだろう。

このままではぶつかって戦闘になり、時間とガスを大量に消費してしまうだろう。

最優先事項は本部に向かう皆の援護だろう。かなりの高度にいるため、少し低めの建物にワイヤーを射出、そのままガスを吹かし速度を殺さず着地する。

 

「ぐっ!」

 

屋根にめり込みつつも、巨人に見つかったかどうかの判断より先にさらに立体起動に移り、巨人から距離を取っていく。

息を切らしながら距離を離し続ける。チラリと背後を振り向くと巨人は追ってきていないようだ。

 

「優先順位を間違えるな…か」

 

ほんの少しだが熱くなってしまって、まだまだ未熟だった。

人の事は言えないな、アルミン。だが何とか生きているぞ。

まぁいいけど。

 

 




作品内では伝えきれないことも多いので一応補足。

今回の話を見ると、主人公はとんでもない外道だと思う人が大多数だと思います。
正直私も自分の中の設定がなくてこれを見ればそう思います。

ですが、あえて補足しますとこの主人公は自分の中で優先順位がしっかり決まっているためこのような行動をとります。

原作のジャンの言葉にもありますが、「誰しも他人のために自分の命を賭けられるわけではない」です。

主人公の技量なら前話で腕を切り落とさずとも制圧できたかもしれませんが、自分の命を賭けてまで命を狙ってきた相手を生かす理由がなかったからです。
刃を振り下ろされてるのにそれ以外を狙うのは非常にリスクのあるため腕を落としました。
今回の話では餌として使いましたが、当然最初は主人公にそんな気は有りません。

まぁ、今後こんなにブラックな話はなかなかないとは思いますがとにかく誤字脱字・感想待ってます。
今回の話を見て「あぁ、こういうのダメだわ。」と思った方は申し訳ありませんが、ストーリー構成上こうなってしまったのでお許しください。

長々失礼しました。


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4話

欲しいものランキング。

やらしい話、お金がほしい。そして、PCがほしい。あとは・・・なんか欲しい。

お金があればPCを買ってなのはが書ける=皆うれしい(はず)

というわけでどうぞ。


 

巨人を避けて、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。

奴らを見ていると、殺意でどうにかなってしまいそうだ。

 

殺してやりたい。

 

感情があるのなら、俺があの時受けた苦痛をそっくりそのまま返してやりたい。

 

 

だが、今はそれよりも優先する事がある。

こいつらを殲滅する…いや、駆逐するのは俺一人の力では無理だ。

俺が、“そう”のように、こいつらも“そう”なら今のままではだめだ。

 

きっと、何も変わらない。

 

殺し、殺されるだけの関係の並行線上には何もない。

 

エレンが言っていた、物量作戦では巨人に勝てない。それはそうだろう。生命力も単体での戦闘力も人間の数段上を行くような連中に数で立ち向かおうなんて無駄。

 

この世界の秘密が“こいつら”ならば、俺は失望するだろう。

 

だが、こいつらを越えた先にある“何か”ならば・・・俺は見てみたい。

巨人が人類に与えられた試練なのか、なんなのか。

 

この世界に神がいるというのなら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本部に近づくにつれて巨人が減っている気がする。

 

気のせいにしては巨人があまりにも少ない。それどころか蒸気が所々から上がり、巨人が始末されているのが分かる。

 

慎重に近づくと、本部の周りの巨人と戦う“巨人”がいた。

 

そいつを見ていると、胸が高鳴る。

 

まるでそいつは、俺の殺意を糧に巨人を殺しているのかと思うほど・・・・そいつが巨人を殺すたびに、俺は落ち着いてゆく。

 

俺は髪を掻きあげ、大きく息を吐く。

 

「…任せたぞ」

 

確信はなかった。

 

だが、俺と同じ気持ちを抱いているだろう巨人に向かってその言葉は驚くほどすんなりと出た。

あいつが巨人を倒して暴れまわっているうちに中に入り、中にいるだろう連中を助ける。

 

俺は勢いを付け、窓ガラスを割りながら中に突っ込む。

 

 

 

 

中に入り、周りを見渡すと人はいない。

窓ガラスもほぼ全壊しているところから、恐らく補給室にでもいるのだろう。

補給室に向かおうとすると次の瞬間、銃声らしきものが響き渡った。

 

「最悪の事態ではないと良いが…っ!」

 

仲間割れ、自殺。簡単に思いつくだけでも最悪の事態などいくらでもある。

出来るだけいい方向に思考を持っていきつつ、俺は駆けた。

 

 

 

 

 

補給室に入ると、数体の巨人が蒸気になっているのが分かる。

そして、二体の巨人が生きていてコニーとサシャに襲いかかっている。サイズは4Mほどで、通常なら大した脅威ではないのだろうがガス切れからだろう、立体起動を装備していない。

 

アンカーを天井に突き刺すと、ガスを吹かし、飛び出す。開幕から全開なのでかなりの勢いが出るが、目は逸らさない。

 

剣を抜き、振り子の要領で勢いを付けて突っ込む。

 

巨人の背後には、サシャ側にはミカサが、コニー側にはアニがいるのが分かる。

 

―良かった。

 

体を捻り、天井のアンカーを外すとサシャ側の巨人の眼球に向かって刃を投擲する。

視力を奪えばミカサのことだ。確実に倒せるだろう。

 

再度刃を充填し、アンカーを巨人の額に撃ちこむとそのまま巨人の顔に飛び込む。

 

ガスの勢いを利用し、両腕を目玉に叩きこむ……っ!!!

 

「ぐっ……あああああああああああああああ!!!!!」

 

柔かく、生温かい泥に手を突っ込んだかの様な感触が異様に気持ち悪いが気にせず、そのまま力の限り腕を広げ、巨人の顔を裂く。

さすがの巨人も怯んだのか、一瞬動きを止めるがすぐさま俺を掴む。

だが、もう遅い。

 

「アニ!!!!」

「っ!」

 

巨人の背後にいたアニは俺の声に反応して、攻撃してくれたようだ。

怯んだ巨人はそのままアニに項を削がれたようで、崩れ落ちていく。

 

―ざまぁみろ。

 

内心でほくそ笑みながら巨人を見つめる。フラストレーションが溜まっていたからか、かなりすっきりしている。

 

「ハンク、どこに行ってたの?」

 

振り向くとアニが訝しげな顔をしながらこちらに視線を送っている。

そうか、俺が別行動を取っていたのを知っているのはミカサとアルミンくらいか。

 

「た、助かったぜ、ハンク!アニ!」

「「どうも」」

 

俺が言葉を発するよりも先にコニーが感謝の言葉を掛けてくる。

俺としては巨人を殺すことだけを考えていたため、あくまで救助は二の次だったのだが結果として喜んでもらえたのならいいだろう。まぁ、いいけど。

 

「で、ハンクは」

「ハンク!!!」

「ぐっ!」

 

アニの言葉を遮りつつ何者かが抱きつくようにタックルしてきたようだ。

結構な勢いがあったらしくふらついてしまうが、咄嗟にアニが裾を引っ張ったので倒れずには済んだ。

 

「良かった!良かった!」

「…痛い」

「え?どこか怪我したの!?」

「…アニ」

「うわ!」

 

俺にくっ付いていた金髪の少年…アルミンをアニに引き剥がしてもらう。

悪いが俺にそっちの趣味はない。

 

「アルミン…悪いが俺にそっちの趣味はない」

「アルミン…」

「え!?馬鹿なこと言わないでよ!」

 

アニは露骨なまでに「えー…ホモかよぉ」といった風な目つきだ。

仕方がない。俺に同性愛の趣味はない。

 

「そんな目で見ないで!それに、本当に死んだかと思ったんだから!」

「…俺は死なない」

 

ここ数年の間に死ぬ予定はない。目標を達成した後俺に何も残らなかったというのならそうでもないのだろうが、今の俺には崇高ではないまでも目的がある。

 

「ハンク、何してたの?」

「別に」

「…ハンク」

 

アニの目が俺を貫く。

俺はアニの目が嫌いではない。訓練中につまらなそうに誤魔化している時の目も、自慢の格闘技で俺やライナーを空中へ吹き飛ばした時に見せる一瞬の輝きも。

だが、こうして疑いの眼差しを向けられるというのは辛い。

 

―きっとアニは泣くよ。

 

詰まらん。

だが、それ以上に泣かれるのは嫌なものだ。

がりがりと後頭部を掻くと、視線をアニへ向ける。視線が交錯する。

相変わらず綺麗な目だ。だがその目からは感情は窺えず、まっすぐに俺を見つめる。

 

俺はその視線の強さに負け、軽く息を吐きながら言葉を紡ぐ。

 

「多少危険な賭けだっただけだ」

「多少?」

「多少だ」

「アルミン」

「かなり」

「…」

 

俺の中では最善手だったはずだ。良識ぶる気はさらさらないが、こと身体能力や可能性に賭けるならばミカサの能力は現状で最も優れた戦力のはず。

そのミカサをむざむざ殺して、俺が生き残るよりかは多少のリスクを得負ってでも両方生き残る方に賭けるべきのはずだ。

 

「アルミンはハンクが何をしてたか知ってるの?」

「詳しくは知らないけど…」

「俺の話はいい」

 

強制的に話を切る。今すべきことをする方が先だ。

 

「ハンク、後で」

「…あぁ」

 

アニもガスの補充の方が先だと理解してくれたようだ。

 

俺が助けた…なんていう恩着せがましいことは言いたくないが、本人はせっせとガスを補充している。

それでいい。俺のことなど気にも留めずに巨人を殺してくれ。その先にある何かのために、俺も巨人を殺す。

 

ガスを補充し終わり外に出ると、真っ先に屋上へ上る。

すると、ミカサも上って来た。目的はあの巨人だろうか。

 

だが、巨人を殺す例の巨人が他の巨人に食われていた。

しかも、巨人の特徴でもある超がつくほどの再生能力も発動していない。

 

「どうにかして、あの巨人の謎を解明できれば…」

 

「この絶望的な状況を打開する、きっかけになるかもしれないと思ったのに……」

 

全くだ。だがそれよりなにより、

 

 

あいつを食おうなんていうその感じが気に食わない。

 

 

「同感だ!」

 

視線を向けるとライナー達が上って来ていた。

とんとん拍子に進む話を聞いているとどうやら、あの巨人を味方につければ百人力。そんな夢のある話だ。

何より意外だったのは、アニまで賛成するとはな。

 

「殺せばいいんだろ?」

 

「…ハンク?」

 

「あいつに集っているゴミ共を、一匹残らず。」

 

それに、俺もあいつには感じるところはあるしな。

巨人でありながら、巨人を殺すか。なかなかどうして面白い。

 

「あ…あいつは…トーマスを食った奇行種…!?」

 

巨人殺しの巨人に近づいてくる巨人にアルミンは見覚えがあったらしい。

トーマス…そんな奴がいた気がしないでもない。アルミンと同じ班だったのか。

 

次の瞬間、空気が震えた。

 

巨人殺しの巨人が砲轟したのだ。そこからの展開は早かった。

複数の巨人に取り押さえられ、食われるだけだった巨人殺しは突如周りの巨人を振り払うと、一瞬で巨人を殲滅した。

 

「…オイ」

 

そう呟いたのは誰だろうか。

俺はただひたすらに得物を狩り、歓喜ともいえる雄叫びをあげる“ソイツ”に夢中だった。

 

「何を助けるって?」

 

全くだ。こいつがいれば・・・・

 

「あ…!!」

 

大きな音を立て、巨人殺しは崩れ落ちる。

それを見たジャンは立ち去ろうとするが、俺を含めて他の奴らもその場を動けない。

徐々に蒸気を出し、消滅しようとする巨人殺しの項に人影が見えたのだ。

 

誰もが言葉を発せないまま、その光景を見つめる中でミカサが近づく。

そしてその人影を抱きしめると、俺たちの近くまで連れてきて抱きしめながら声を上げて泣き出してしまう。

アルミンもその人影の手を握り、涙をにじませる。

 

 

あぁ、絶望なんて見えないな。

 

俺も泣きだしたくなって来たぜ。

 

なぁ、“エレン”。

 

お前さえいれば、

 

 

「これをエレンが、やったってことか?」

 

吹き抜ける風の音は、今日一番で大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かごめかごめと言ったか。昔聞いたそういう遊びを思い出す」

「…」

「いたずらに気を張っても疲れるだけだ」

「…なんでそんなに落ち着いてるの?」

「エレンが起きなければどの道死ぬ」

 

いくら俺とお前でもな。

そう付け加えると、ミカサは苦い顔をする。それでいて周囲に気を張り詰めて周りを威圧している。

俺も刃を抜いてはいるが、現状ではどうすることもできないので周囲を見渡し、“連中”に視線を送る。

 

「…おい」

「!?き、貴様!!!言葉を発するな!!!!!」

 

巨人の中からエレンが出てきてからの進展は早かった。

その場面を目撃していた兵士から現場の司令官らしき男に情報が回ったらしく、エレンを連れて来いと言われてミカサ達が運ぶことになった。

俺はなんとなくだが嫌な感じがしたので付いていくことにした。

 

大体、呼びに来たやつのエレンを見る目が巨人を見たときの目だ。

どうやらろくな事にはならないと思ったが、現状はこれだ。

 

壁際に追い込まれて、やむなく俺とミカサでエレンとアルミンを守る形を取っている。

 

指揮官なんて言うが碌なもんじゃねぇ。ビビって後先何も考えず殺そうとしているだけだ。

本人が起きたら、なんていう世迷言をほざいていたがどうなるかなど目に見えている。

あの青ざめた顔でこちらを警戒しているのが、もうすでに俺らを敵だと判断している証じゃないか。

くだらない。

実にくだらない。

 

まぁ、どうでもいいんだけど。

 

 

「殺シテヤル…」

「…エレン?」

「?」

「は…!?」

「…エレン!!」

 

エレンが目覚めたか。寝言にしてはずいぶんと物騒だったが。

しかも高々寝言にずいぶんな反応だ。

『俺らを喰い殺す気だ。』だとか『俺たちの事だ。』だの。

馬鹿どもが。

 

エレンも状況が呑み込めていないのか、はたまた飲み込むことが出来たのか。周りを見渡し、青い顔をしている。

 

「イェーガ―訓練兵!!意識が戻ったようだな!」

 

ビビりの指揮官もエレンの意識が戻ったことに気づいたらしく、本人曰く確認の問答が始まった。

その声を聞いて、ミカサに緊張感が走ったのが分かる。

 

「今貴様らがやっている行為は人類に対する反逆行為だ!!貴様らの命の処遇を問わせてもらう!!」

 

「下手にごまかしたりそこから動こうとした場合はそこに―――」

 

「榴弾をブチ込む!」

 

「躊躇うつもりは無い!!」

 

尋問は脅迫へ変わった。

 

「…は?」

 

自分が何を言われているのか理解が追い付いていないのだろう、エレンは大砲の方へ顔を向け呆然としている。

 

「率直に問う」

 

指揮官は、出来るだけ平静を装いながら言葉を発する。

 

「貴様の正体は何だ?」

 

きっと、全員が気になっている質問。

 

「人か?」

 

お前の未来は、

 

「巨人か?」

 

DEADorALIVE?

エレンの方へ視線を向けると、青ざめた顔を困惑に変え口を開いた。

 

「し…質問の意味が分かりません!」

 

だろうな。

 

 

 

 




作品の完成度はどうなのだろうか。
というか最近気づいたのですが、あらすじを書くセンスがない()
作品のセンスは置いといてもあらすじで引き込む才能がほしいです。あらすじで引き込まれることが多くそういう人たちを尊敬しています。

よし、あらすじを弄ろう()

というわけで、誤字脱字および感想などあればお願いします。


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5話

なのはを書こうとすると、うまく書けなくて絶望中です。
そして新しい作品の案が浮かんだのでそれを書こうかなって思うけど巨人もなのはも放置したくない思いが強くてどうしたらいいかわからない私です。

キリよくしようとすると文章量の調節が難しいですね。

ちょっと今回は賛否あると思います。どうぞ。


 

「し…質問の意味が分かりません!」

「シラを切る気か?化け物め!!もう一度やってみろ!!貴様を粉々にしてやる!!一瞬だ!!正体を現すヒマなど与えん!!」

 

ぎりぎりのバランスで保たれていたコップの水も、割れる寸前まで空気を入れたボールだって、いつかは弾ける。

エレンの言葉は、当然だった。真っ当な人間だったら恐れ慄き、恐怖の戦慄を体験するような質問。

 

“お前は巨人なのか?”

 

「大勢の者が見たんだ!!」

 

「お前が巨人の体内から姿を現した瞬間をな!!」

 

「我々人類はお前のような得体の知れない者をウォール・ローゼ内に侵入させてしまっているのだ!!」

 

「たとえ貴様らが王より授けられし訓練兵の一人であってもリスクの早期排除は妥当だ!!私は間違っていない!!」

 

「今にもウォール・マリアを破壊したあの『鎧の巨人』が姿を現すかもしれない!!」

 

「今我々は人類存亡の危機の現場にいるのだ!!もう5年前の失態は許されない!!」

 

「分かったか!?これ以上貴様相手に兵力も時間も割くわけにいかん!!」

 

「私は貴様らに躊躇無く榴弾をブチ込めるのだ!!」

 

誰が納得できるだろうか。

自分は分からないけど、気が付いたら人類の天敵へと変貌していた。

きっと俺たちの後ろにいるエレンは、呆然としているのだろう。

いや、もしくは何かを思い出しているのかもしれない。

 

あぁ、そうだな。お前の言うことは正しい。

俺がお前でも、きっと同じことを言う。なにも間違ってなさ過ぎて、反論できない。

だが、立場が違う。

お前は俺らに死ねというが、俺はお前に死ねと言いたい。

俺はお前に死ねと言っても、お前は俺らを殺すだろう。

正しさの裏に潜む凶暴性が、真実をひた隠しにするんだ。

 

―お前、目が曇ってるぜ。

 

 

反抗的?時間の無駄?バラす?

 

訂正

 

―お前ら目が腐ってるぜ。

 

「私の特技は」

 

「肉を…削ぎ落すことです」

 

「必要に迫られればいつでも披露します」

 

「私の特技を体験したい方いれば…どうぞ一番先に近づいて来てください。」

 

 

剣を構え、蜜のような濃密な殺気を発するミカサにお偉方は怯んでしまう。

明確に向けられたわけでもない殺気に、冷や汗が出るとはな。

 

「ミカサ」

「?」

「“私の”?“私たち”だ」

「…どうぞ」

 

残念だが、肉を削ぐ事に関してはお前に負けることはないと自負している。

必要な場面は限られるだろうが、こと剣技に関して誰かに劣ってるという事はないはずだ。

俺自身も剣を構え、ミカサの少し後ろに立つ。

 

俺のことなど気にも留めていないのだろうが、ミカサのことはさすがに警戒しているのか緊張感が伝わってくる。

 

「オイ…お前らは何を…?何でここにいるんだ!?」

「ミカサ…人と戦ってどうするんだ?ハンクも!この狭い壁の中のどこに逃げようっていうんだ…」

「どこの誰が相手であろうと」

 

「エレンが殺されるのは阻止する」

 

「これ以外に理由は必要ない」

 

ミカサならそういうだろう。別に俺がエレンに思い入れがあるかないかは別としてもだ。

 

 

なぁ、エレン。

 

お前がいれば、俺の夢は終わらない。

 

「だそうだ」

「ハンク!」

「俺にも色々あってな、エレンを殺されるくらいならあいつらを殺す」

「話し合うんだよ!誰にも…なんにも状況が分からないから恐怖だけが伝染してるんだ…」

 

俺とミカサは歩を進める。ここで立っていても榴弾で死ぬんだ。

無駄に時間を浪費するくらいなら最善手を打つ。本当に最善かは知らんが。

 

「もう一度問う!!」

 

「貴様の正体は何だ!?」

 

何を言っても無駄なんだろう。

貴様の正体?話も聞こうとしない屑がよく言う。

 

「…じ…自分は…!!」

 

エレン。たぶんお前は・・・

 

「人間です」

 

あぁ、そうだろう。

 

「…そうか…」

 

手を上げるような素振りを見せる。

 

「悪く…思うな…」

 

最低だ。

 

「仕方無い事だ……」

 

あぁ。

 

「誰も自分が悪魔じゃないことを」

 

どっちでもいいけど。

 

「証明できないのだから…」

 

一発殴る。

 

「エレン!アルミン!ハンク!上に逃げる!!」

「よせ!オレに構うな!!お前ら!!オレから離れろ!!」

「マズい……このままじゃ」

「上にも…!?」

「き…聞いてください!…」

 

後ろで色々言ってるが、もう何も聞こえない。

極限まで昂った屑どもへの怒りが思考力を低下させているのだろう。

ぐいぐいと後ろへ引っ張られて、倒れてしまう。

すぐさま振り向くと、エレンに引っ張られたアルミンが俺の服を掴んだらしい。

 

音が消える。

 

いや、走馬灯というのだろうか、

 

空気の流れが見えるほどゆっくりの世界で、

 

榴弾がこちらへ飛んで来ているのが分かる。

 

俺らに当たる寸前、俺はなぜか手を噛もうとする。

だが、それより早く空気が爆発し、何かが榴弾を防いだ。

 

 

 

 

爆発が収まり、煙が晴れると俺たちは“巨人の中にいた”

 

 

 

 

 

 

 

「訓練兵!!装備を万全にして次の指令まで班編成で待機だ!!」

 

駐屯兵団の兵士の声が響き渡る。

その声を聞いた訓練兵の大半は、ようやく一段落できると安堵の息を吐く者。

もしくは、先程までの地獄を思い出し、恐怖し、戦線を離脱したいという者までいる。

とある一角に、先程まで必死にガスを手に入れようとしていた訓練兵たちの姿があった。

 

「そんで何とかガスが手に入ったんだ…」

「……そんなことが…」

 

坊主頭の訓練兵…コニーは先程までの話を他の場所で戦っていた同期に話ていたのだ。

相手はクリスタなど訓練兵の中でも、目立った存在の相手だ。

クリスタはその話を聞いて顔を青くさせている。

 

「ごめんなさい…何度も皆の補給の救援を志願したんだけ…」

「せっかく私達はガスを確保できたのにな…。みんなに知らせる!つって飛び出したのはコイツだ…」

「じゃ…じゃあ今ここにいない人は全員…」

「…あぁ」

「ハンク…」

「本当か?あのミカサもか?」

「ん?イヤ…ミカサもハンクもジャン達と一緒に遅れてきたと思ったんだが…」

「ジャン…まさかハンクもミカサも負傷でもしたのか?」

 

その言葉に反応したのは、ミカサやハンク達と一緒に巨人殺しを生かそうとしていた面々である。

その中でも話しかけられたジャンと、アニの顔色が特に優れない。

 

「守秘義務が課せられた…言えない。もっとも…どれほどの効果があるのかわからんが…」

 

仲間内にも言えないほどの命令。

…もともと命令とはそういうものだが、いつもとは全く雰囲気の違う仲間たちに色々な感情と思いが浮かんできたのは当然だろう。

そして、大きな爆音が響く。

 

それは何のための攻撃だったのか。

安全な壁の中での攻撃。

一部の連中は気付いたようだが、それ以外の人達は呆然と立っていることしかできなかった。

 

 

 

なんだ?

なんだったんだ?

 

なぜ俺は、手を噛もうとした?

完全に反射的だった。熱い鍋を触ってしまった時に手を引っ込めるように、俺は無意識に手を噛もうとしたのだ。

踏みとどまったからよかったもののあのまま噛んでいたら歯が欠けていただろう。

義手を噛むなんて言うのはストレス発散くらいにしかならない。

 

いや、これはもういい。忘れ――――後で考えよう。

 

 

「熱…!!今…僕たちは巨大な骨格の内側に!?」

「エレンが…私達を守った…。今はそれだけ理解できればいい」

 

つまり俺たちは巨人の内側にいるってことか。

なんだか気分が悪いな。

暴れてるのを見ている時はそうでもなかったが、巨人は巨人か。

 

「エレン!?これは―」

「わからん!!…ただこいつはもう蒸発する!!巨人の死体と同じだ少し離れるぞ!!」

 

降りてきたエレンは必死に現状を整理する。

どうやらエレンは何かを思い出したらしい。

 

――地下室に行けば何かわかる。

 

エレンの住んでいた家はシガンシナ区だったか。

巨人に関する秘密が壁の中にあったんじゃ、今までの調査兵団の連中は無駄死にってことか。

少なくとも5年前までの死者には申し訳が立たないな。

今ですらそんなところを見ているわけがない事を考えると本当にいい迷惑だ。

エレンの親父は見つけ次第殴ろう。

 

エレンはエレンで巨人化してどこかへ行くとか言い出す始末。

なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ。

なんなんだこいつは。

なんだか無性に腹が立ってきた。ビビり指揮官はイラつくし、目的のために本気で守ってる張本人は離脱するだと?

お前にどっかに行かれたら意味がないんだよ!

 

「私も行く」

 

「ダメだ。置いていく」

 

「行くなら、お前を殺す」

 

 

 

 

 

「は?」

 

それは誰の声だったか。

いや、考えるまでもない俺以外の3人の声だろう。

何を意外そうな顔をしている。慈善的に、“友達だから”なんて理由でここまでするわけないだろ。

 

「…何を言ってるの?」

「そ、そうだよハンク!」

「俺がミカサを助けたり、エレンを守ろうとするのには理由があった」

 

視線を向けると、こちらの真意を探るかのようにじっと目を向けてくる3人。

 

「だが、それはあくまで俺の目的にミカサや巨人化するエレンの力が必要だと感じたからだ。」

 

「ここでエレンを行かせてしまった場合。リスクに反してリターンが少なすぎる」

 

「なぁエレン」

 

「お前が言う“とりあえず”から始まった行動というのは、俺や壁の中の人間全員に対して希望を与えられるものなのか?」

 

「あくまで推測だが、ここまでお前を守っていた俺たちは、お前がいなくなった後拷問にでもかけられるだろうな」

 

「“オレを庇わなければ”…本当にそう思うか?お前を狙ったとはいえあの威力の榴弾を人間に撃つような連中だぞ?」

 

「そんな危険な賭けに賭ける位なら、俺はお前を殺して投降する。そして、」

 

「お前のその、シガンシナ区のお前の家の地下に何かあるという情報を提供して、地道に巨人を狩ろう」

 

「お前という前例があるんだ。少しは世界も、前へ進むだろうしな」

 

 

言葉が出ないようだ。

剣を抜く。半分脅しで半分本気。何とかできるかどうかは別問題としても、ここでエレンを行かせるわけにはいかない。

剣を抜いたことで危機感を覚えたのかミカサが再び剣を構える。

だが、ミカサには珍しく戸惑いがあるのか先程のような濃密な殺気を出してはいない。

きっとミカサにもわかっているのだろう。本当に全てを好転させるには、相応のリスクを伴うことに。

 

「エレンはやらせない」

「なら、お前も殺すだけだ」

「は、ハンク!ミカサ!お前らが争ってどうするんだ!!」

 

元凶はお前だろ。公言はしないが目で訴えかける。

 

「ハンク!!聞いてくれ!!」

「お前の妄想には付き合っていられない」

「さっき考えが2つあるって言っただろ!!これはオレが思いついた最終手段を判断材料として話したまでだ!あとは……」

 

あとは?

 

「アルミンの判断に任せる」

「え……?」

 

は?

 

どうやらエレンはさっきまでの話が現実的じゃない事はわかっていたらしく、巨人の力は調査兵団で利用した方が良いに決まっている。

無茶だとは思うが、アルミンが駐屯兵団を説得できるならそれに賭ける。

無理なら先程の作戦をとるとのこと。

 

「オレは、アルミンを信じる」

「考えがあるなら…私もそれを信じる」

 

ミカサの目が俺を見る。

 

「…ハンクは?」

「…」

「ハンク。オレが前にアルミンの話をしたことがあっただろ?お前、言ってたよな。本当にそうならいつか見てみたいって」

「…」

 

考えるまでもない。説得できるならそれが一番いい。

 

「アルミン」

 

名前を呼ぶと、恐る恐るといった様子でこちらを見る。

 

「任せた」

 

 

 

 




とりあえず、一言。
主人公には主人公の思惑がある(キリッ

何考えてるかわからない系主人公を書いているはずなのに書き方は一人称。
でもまるっきり内容をひた隠しにするよりかは読み手にはわかりやすいかなーくらいで書いてます。


あんまり確認できてないのであったら誤字脱字報告等お願いします!
でわー。


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6話

巨人も更新。

とりあえずここだけ注意してほしいのは、三人称に挑戦してる部分があります。

どうぞ。


結局アルミンは、説得に成功した。

いや違うな。説得に成功したと言うより、撃たれそうになったところを出てきたピクシス指令に助けてもらったと言った方が正しいだろうか。

そして、エレンが巨人化することで大岩を持ち上げ穴を塞ぐ。

この作戦が成功すれば、これ以上壁の内側へ後退しなくて良いそうだ。

そして希望も見えてくる。

 

「エレンの護衛には私達精鋭と、ミカサ・アッカーマンで行く。いいな?」

「…」

「どうした、ミカサ?」

「私は、ハンクを連れていくことをお勧めします」

「なに?」

 

エレン巨人体は大きく、そしてなぜか巨人の姿をしているのにもかかわらず巨人に狙われる。

エレンの力は強力だが、それ故リスクもある。大きな体は狙われやすい。

それに岩を運んでいる間は無防備だ。小さく見積もっても15Mサイズでは片手間で運べるような大きさではない岩を運ぶ間は、完全に大きな的だといってもいい。

だからエレンを守るための護衛が付いていくことになった。

その選出メンバーにミカサが俺を推薦したのだ。

だが、イアンと呼ばれていた隊長の反応は芳しくない。

 

―当然の反応だな。

 

一緒にいてミカサの実力は重々承知しているのだろうが、俺はそうではない。

きっと精鋭たちからは“たまたま近くにいたからエレンを守ろうとした友達思いの奴”程度の認識なのだろう。

 

「ミカサ。お前を連れていくのは、お前の実力が俺達精鋭と比べても遜色ない・・・いや、それ以上だと考えてもいいほどだと認識しているからだ。仮にこいつの実力が訓練兵団で上位にあったとしても、それは“訓練兵団”という新人達の中での話だ。実戦では違う」

「…ハンクは」

「ん?」

「いえ、ハンクと私が本気で殺し合えば、5回に3回は私が殺されます」

 

俺としてはミカサと殺し合うのは不毛極まりないので行いたくはないな。

…そういえばさっきはエレン諸共殺そうとしたんだったか。

あの場でエレンを殺したら、その後こいつに命を狙われ続ける可能性があったのか。

そう考えるとあの案は微妙だったのか?いや、あれが最善だ。どう考えてもエレンをどこぞへと行かせるくらいなら、あの程度のリスクはリスクに含まない。

最悪刺し違えてでもミカサを殺せば、その後はどうにでもなった可能性もあったしな。

思考がずれた。こんなこと、考えるだけ本当に無駄だ。

 

「…それでもだ。格闘訓練のようなものとは違う」

「ハンク」

「…なんだ」

 

ミカサがこちらを見て言葉を投げかけてくる。その視線につられて精鋭部隊の連中もこちらを見る。

あまり俺を見るな。…気分が悪い。

 

「今日壁が壊されてから、何体巨人を倒した?」

「知らん」

 

周囲の精鋭たちはどうせ大した数殺していないんだろ?と言った様子だ。

一瞬腕を見たのも気に食わない。

巨人を殺した数で競うのも小さいが、視線が気に食わない。知ってか知らずか無意識か。兎にも角にもそんな目で俺を見るな。

まぁ、よくないな。腹立たしい。

 

「15から先は覚えてないな」

「…何人で?」

「班員は全員食われた。班員と一緒には1体も殺していないから一人でだ」

 

数を言うと、息を飲む音が鮮明に聞こえる。

何体も同時に出てきたら俺の人生の垂れ幕が下りるだろうが、2、3体なら同時に出てきたところで大した脅威ではない。奴らの強さはある程度以上の数で同時に襲うことと、奇行種と言う行動の読めない奴がいることだ。

俺は奇行種にぶつからなかったが、もしも当たっていたら無傷とはいかなかった可能性が高いだろう。

行動が読めないというのはそれだけ辛い。

 

「ミカサ。こいつには本当にそれだけの実力があるのか?」

「あります」

「こいつの実力はどの程度だ」

「私が巨人を狩りに行くとして、一人仲間を連れていくとすれば必ずハンクを連れて行きます」

「…わかった」

 

イアンは俺を見ると、一瞬目を閉じそして開く。

瞬きとは違う、瞑想のような動き。

 

「ハンク。君の同行を許可しよう。…期待しているぞ」

 

そういえばこいつは一度も俺の事について言わないな。

それに俺の腕を見た時も特に反応がなかった。

そういう反応、嫌いじゃない。

 

「…やるべき事をやるだけだ」

「そうか」

 

どうやら俺は、想像以上にミカサに信頼されていたらしい。

エレンより俺の方が優先されるのか。

…いや、単純に前提条件からして違うか。エレンを危険に巻き込まない選択と、戦力を重点に置いた判断だな。

殴り損ねたビビり野郎の代わりに巨人を狩ろう。

 

 

 

 

 

「…」

「ミカサ!!」

 

怒号が響き渡る。それは誰の声だろうか。

巨人化したエレンはおもむろにミカサへと殴りかかり始めた。

助けようかとも思ったが、今のエレン巨人体は、知能の無い巨人同等のようだ。

あの程度なら助けるまでもない。

頭部にしがみつくミカサに拳を振るうと、エレンは自分の頭部を自身の拳で破壊してしまい地面に座りこんでしまった。

 

失敗か。

 

誰もが頭にこの言葉が浮かんだだろう。かく言う俺もその一人だ。

そしてこのまま全てが終わるんだろうな。

壁の穴が塞げなければ人類はもう死ぬしかない。

畜生、イライラする。

 

「オイ!?何迷ってんだ!?指揮してくれよ!イアン!?お前のせいじゃない!ハナっから根拠のない希薄な作戦だった。みんな分かってる。試す価値確かにあったし、もう十分試し終えた!!」

 

精鋭の一人がそう言葉を発する。そして、俺たちは撤退すると。

露骨に不機嫌…いや、殺気立ち始めるミカサをイアンがなだめる。

そして、少しの言葉をリコという兵士と交わした後ついに爆発した。

 

「では!」

 

「どうやって!!」

 

「人類は巨人に勝つというのだ!!」

 

勝ち方を教えてくれと。

人間が人間のまま、人間を死なせず、巨人という強敵を倒す。

それを実現できることが出来れば、この上なく美しい事なんだろう。

 

「私が知ってるわけない…」

 

そうさ。誰も知らない。

どんなに偉そうなことをいっても誰も知らない。

保守的思考のビビり指揮官だって、俺達を信じたピクシス指令、賢いアルミンも、エレンのために命を賭けるミカサ。

 

そして、巨人になったエレンですらそう。

 

誰も知らないからこそ、何かを投げ打って戦うしかない。

今この場で賭けられる者は、自分達の命。

 

それをまるで道端の小石のように使って、エレンのために戦うしかない。

 

きっとみんな知っていたことだ。自分の命は、世界から見たら大した賭け金ではないことくらい。

でも、忘れることで前を向いてきた。暗い過去を振り返る事をせずに、前だけ向いて。

 

それが幸せだと、正しい事だと。そう思っていたのだろう。

 

その実態は、前を向いている振りをして、進んでいる振りをして、ずっと佇んでいたんだ。ぬるま湯の中でも停滞を、進歩と信じて。

 

「それが、俺たちに許された足掻きだ」

 

結局作戦は続行。

…足掻きでも犬掻きでも、連中は前に進んだようだ。

イアンか。凄い男だな。

俺も、やることをやろう。それが俺の、今回の足掻きだ。

 

 

 

「およそ10M級4体出現!!」

「ミカサ後ろを頼む。エレンのところに向かわせるな!!ここで食い止めるぞ!」

 

さすがに、混沌としてきたな。

巨人は穴からどんどん入ってくるため、殺しても殺してもきりがない。

見飽きない顔のレパートリーだと感心している暇もないくらいだ。

 

「面白い顔でこっちを見るな」

 

精鋭班は実力者揃いだが、駐屯兵団は経験が薄いせいかイマイチ実力が分かりづらい。

入ってきた10M級の背後を取ると回転するように項を削ぎ落す。

それと同時に、空いているもう一方のアンカーを次の巨人に射出。

すぐさまアンカーを巻き、急接近と同時に項を削ぐ。

 

巨人が倒れるとその音に気付いたのか残りの巨人が俺を見つけるが、関係ない。

所詮、でかくて強くて、ときどき早いだけの肉の塊だ。

近くの建物へ立体起動で飛び乗り、刃を交換する。すると俺へ向かってきていた巨人は、精鋭班に囲まれて切り刻まれてしまった。

 

「…凄い技能だな」

 

俺の隣にはイアンが居て、話しかけてくる。

巨人はまだ居るが、エレンに近い巨人はある程度処理したので問題ないだろう。

 

「どうも」

「ミカサがお前を推薦した理由が分かった。お前がいなければもっと被害が広がっていただろう」

「…」

「ふっ。クールだな」

「どういう反応を返したらいいかわからないだけです」

「とりあえずありがとうとでも言っておけ」

「…」

「まぁ、考えておいて追々わかるようになればいい。次が来たぞ」

「…了解」

 

早く起きろよエレン。

時間も人員も有限だぞ。

 

 

 

 

「死守せよ!!」

 

「我々の命と引き換えにしてでもエレンを扉まで守れ!!」

 

立ったエレンは岩を持ち、扉へ向かう。

そのエレンを、文字通り命を賭けて守ろうとする精鋭たち。

エレンに近づこうとする巨人たちは精鋭たちに全く反応を示さなくなり、ついには食いつかれるまで接近するという者たちまで出てきた。

 

―高速で近づいて、一瞬で切り殺す。

 

ハンクは、エレンを守りこそすれど精鋭を守ったりはしない。

エレンの近くにいる巨人を文字通り瞬殺していく。

エレンの近辺の巨人の多くは立ち止まり、しゃがんでいるのが多い。

エレンの近くにいる巨人が立ち止まっているのは、精鋭たちが囮になっているからである。

しゃがんで手を伸ばしたり、人を食って立ち止まっている巨人などハンクにとっては的でしかない。

エレンの歩いている場所には建物がないため一撃離脱戦法になってしまい、巨人を効率よく倒せていないのも犠牲者が多くなってしまっている原因だろう。

 

 

多くの人員が死んでいく中で、エレンは一心不乱に岩を運ぶ。

誰もが思っただろう。

 

―もっとだ!もっと早く!!!!

 

急いでくれればそれだけ被害も減る。当然の願いだ。

 

そして、死んでいく仲間たち、その命を糧に進むエレンの姿はたしかに美しかった。

だが、美しさに隠れた世界の影は当然全て上手く行かせはしない。

 

「…ぐっ!」

 

掴まれたのは、ハンクだった。

それを目撃したエレンは足を止めようとするが、その気配を察したハンクの反応は残酷だった。

 

―この世界が残酷なら、ここで死ぬのは俺だろう。

 

「と、ま、る、なあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「ハンク!!!!!」

 

アルミンの上げる叫び声、ハンクの願い。あとは、岩を下ろすだけ。

 

「う、あああああああああああああああああああああああ!!!!いけえぇぇエレン!!」

 

響き渡る少年の声に共鳴するかのように、岩は下ろされる。

 

 

 

 

 

そうこの日、人類はたしかに巨人に勝利した。

 

多くの命と引き換えに。

 

同時に舞い降りた自由の翼は、俺には遠く、眩しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

「え?」

「どうした」

 

さすがの俺も、遭遇しただけで目を見開かれて驚かれるのは心外だ。

人を心配した直後にされるあの顔の5割増しと言ったところか。

 

「…え?なん、で?」

「…ハンク、何で生きてるの?」

「…斬新な質問だな。それは、俺がどうして生命活動を行っているかという質問か?それとも、ハンクと言う名を持つ俺がどうして生きているのだろうかという質問か?」

「そ、れじゃ、い、み、一緒…だよ…」

 

ライナーに倣って冗談と言う物を行ってみたが、これは何が楽しいのだろうか。

アルミンのその反応はある程度想像できなくもないが、ミカサまでそのような顔をするとはな。

困ったものだ。対人でも対話能力などミカサ並かそれ以下の俺にはどうすればいいのかよくわからん。

 

「…泣くな」

「うっ…うっ…」

「ミカサ…お前まで泣くとは思わなかったぞ」

「…泣いてない」

「…そうか」

 

俺のとった行動は単純明快。

ただ近づいて、頭に手を置いて声をかけた。

頭を撫でると人は落ち着くらしいが、俺の義手で撫でられても堅いだけで意味がなさそうなので置くだけにしておいた。

 

 

結論からいえば、俺は生きていた。

掴まれはしたが、駐屯兵団の精鋭たちに助けられた。

どうやら俺は巨人を殺しているうちに、そこそこの人数を助けていたらしくそいつらに助けられたのだ。

 

―残酷な世界にも、救いはあるのだろうか。

 

あれば良いのだがな。

 

 

 

 

「アルミン。今俺に抱きついたらお前を殴り殺す可能性がある。注意しろ」

「えぇ!?」

「…なんで?」

「巨人に掴まれてアバラがかなり軋んでいる。抱きつかれたら痛いだろ」

「…」

「…なぜ残念そうなんだ。…まさかアルミン…お前…?」

「…同性、愛」

「ち、違うよ!!!」

 

 

 




用事があり、急いで書いた部分もあるのでちょっと文章変なところがあると思います。

そういうところがあればどんどん報告してください。

では、誤字脱字および感想待ってます。
でわでわー。


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番外編 クリスマス

クリスマス投稿!!ぎりぎりですが…w

ネタなんで気楽に見て楽しんでください!どうぞ!


「…何だそれは。」

「だから、クリスマス。」

「…。」

「もしかして、知らないの?」

「知らん。」

 

訓練が終わり、食事をとっているとアルミンに話しかけられた。何やら嬉しそうに話しかけてくるので聞いてみればどうやら、明日はその“クリスマス”という日らしい。

俺が住んでいた村ではそのような行事は聞いたことがない。シガンシナ区のような大きな町ではそのような物があったのだろうか。

 

「えっとね、クリスマスっていうのは…」

「…。」

 

話し半分で食事を進めながら聞いて行くが、どうやら昔の偉い人の生まれた日だか何だか…。

アルミンは説明しだすと多くの情報を一気に喋る癖があるため、情報が入ってきにくい。

つまり、よくわからん。

 

「ハンク、聞いてる?」

「聞いてはいる。」

「でね、」

「そんな説明はどっちでもいい。だからどうした。」

「もう…。だから、明日小規模だけどパーティーしようって話しだよ。」

「…。」

 

よくわからん。なぜ、そんなどこの誰ともわからない奴…しかも古人のためにそこまでするのだろう。

しかもチラッと聞こえた情報によれば、何かよくわからないがそれは嬉しい事らしい。

まるで意味が分からん。どういうことだ。

 

「興味がない。」

「えー。みんな参加するんだよ?」

「だからどうした。俺には関係がない。」

「もう!またそうやって輪から外れてくんだから!ライナーが心配するのも分かるよ。」

「心配など要らん。俺に必要なのはそのような物ではない。」

「うーん。」

 

ばっさり切り捨てると、考え出してしまった。

何か俺を懐柔する手段でも考えているのだろうか。

まぁ、現状俺がクリスマスとやらに参加することはないだろう。

よくわからないことに一日もかけるのは時間の無駄だ。

適度に会話をしつつ食事をしていたら食べ終わってしまった。それと同時に食事終了の鐘が鳴り、多くの訓練兵にとって安らぎの時間が終わる。

 

「では、俺は行く。」

「あ、ちょっと!」

「そのクリスマスとやらに参加することで、メリットがあるというのなら考えよう。だが現状ではそんなよくわからないことに参加する気はない。」

 

とっとと食器を持って立ち上がり、片付けに行く。

あまり時間をかけても無駄だ。話すことなど無い。

 

 

 

 

 

「どうしたんだ、アルミン。」

「んー。ハンクが明日のクリスマス会参加しないって…。」

「またあいつかよ。」

「…いつものこと。」

「結構酷いよ、その言い方。」

「悪い悪い。」

「…。」

 

アルミンがうんうん唸っていると、そこに現れたのはエレンとミカサだ。

アルミンが考え事をしていること自体は対して不思議ではないのだが、二人ともアルミンの頭の良さは知っている。

大抵のことはすぐに結論を出してしまうアルミンがそこまで唸っている事は何だろうと、近づいたのだ。

 

「でも、ハンクだろ?あいつはいつもオレ達から離れていくからな。なかなか難しいな。」

「だよね。本人が嫌がってるのに無理やりってわけにも…。ミカサはどう?」

「ライナーは?」

「あー。確かにあいつそういうの得意そうだもんな。」

「そうだね。ハンクが輪に混じってる時は大体ライナーが引っ張って来てるしね。」

 

ハンクは自らの意思で騒いでいる輪に入ったりはしない。

仮に入っていることがあれば、それは明確な目的のある第三者の意思なのだが…それは十中八九ライナーである。

ハンクは結構本気で嫌がっているのだが、ライナーの目的が100%好意であることが分かるため無下にできずなんだかんだで引っ張って連れて行かれてしまうのだ。

 

「じゃあさっそくライナーにお願いしよう!」

「おう。」

 

 

 

 

「お前らは俺を一体なんだと思ってるんだ…?」

「え?そりゃあアレだよ。」

「アレ?」

「お人よし?」

「良い人。」

「お節介。」

「オイコラ待て、アルミン除く他二名。」

「…なんだよ。」

 

ライナーは自室でベルトルトと喋っていた。

この二人は同じ村が出身ということもある仲が良い。

そしてハンクとは違い、クリスマスの事をしっかり知っていた。

そんな二人はしっかり明日のクリスマス会には出るため、そこにアルミン達はお願いしに来たのだ。

 

「いや、いい。俺のことをどう思っているかは置いておこう。」

「いいんだ。」

「本当はよくねぇよ。クリスタの気持ちが誰に向いているかと同じくらいには良くないが…まぁこの場ではいいだろう。」

「オレはハンクって言われたら納得しちまうけどな。」

「…ヤメロ。」

「あ、あはは…。」

「……………………………でだ、」

「長い間だったな。」

「でだ!!…本人には聞いたんだよな?」

「うん。」

「で、出たくはないと。」

「うん。」

「どんな感じに誘ったんだ?」

「えっとね、」

 

アルミンは一部始終を話した。

食事中に明日のクリスマス会に参加するか聞いたこと。ハンクがクリスマスの事を知らなかったこと。そして、自らがクリスマスについて知っていることを説明した事。

その話を聞いて、ライナーは思った。

 

―ハンクはきっと、クリスマスについて何も理解していないのでは?

 

アルミンには悪いが、アルミンの説明は分かりやすいところは分かりやすいがうんちくが入ってきたりしていてどちらかと言えばあらかじめ予備知識を持っている人向けの説明である。

分かる人には分かる。まさにその言葉の通りの説明だ。

 

「たぶんだけどな、ハンクはクリスマスについて何も理解していないと思う。」

「えぇ!?あんなに説明したのに?」

「まぁ、説明がどうとかいう話ではなくてだな…。ハンクは何をするか何も分からないから、参加する意義を見いだせないんじゃないか?あいつ妙に理屈でものを考えるし。」

 

な?とライナー。

うんうんとアルミン以外の3人。

あ、ベルトルト居たの?とミカサ。

酷過ぎる!?とベルトルト。

3人の目的がライナーだっただけに空気になっていたベルトルトは仕方がない。

誰も悪くないのだ。あえて悪者を上げるとすれば、どこにいるともしれない神様だろう。

 

「じゃあ、どうすればいいの?」

「ちゃんと説明すれば来るんじゃねぇか?入団初期のあいつならともかく、今のあいつなら断りはしないだろ。」

「分かった。ありがとう、ライナー。」

「おう。」

 

 

 

クリスマス、何だそれは。

まるで理解が出来ん。アルミンの言っていたことを思い出して見て考えているのだが、不思議で仕方無い。

 

『古人の…誕生日……祝って…………昔はその人のことを崇めたり……』

 

つまり、宗教か。

なるほど、性質の悪い洗脳のようなものか。

新手のウォール教の教えかもしれん。

いやはや、知らないうちにこんなところまで教えが広まっていたとはな。

宗教と言うのは恐ろしいものだ。

ん?

 

「サンタさんって本当に居るのかなー?」

「どうなんだろうねー。」

 

女たちの会話が聞こえて来た。

サンタ?誰だ。

クリスマスとは宗教的な儀式の事だとすれば…教祖?

しかし本当にいるとは何だ?どういうことだ。

明日儀式を行うのであれば、教祖自ら来るはずだろう。

いや待てよ。他の区でも同じ儀式が行われているという可能性はないだろうか。

すると、教祖であるサンタは年に一度どこかの区に現れては儀式に参加して行くということか。

しかもアルミンのあの喜びよう。相当な人物に違いない。

 

「ハンク。」

「…アルミンか。」

「明日の事なんだけどね、」

「案ずるな。その前に聞きたいことがある。」

「え?何?」

「サンタとは誰だ?いや、事前情報として凄い人物だとは聞いている。」

「うーんとね、」

 

赤い服を着て、白い口髭を蓄え、鹿に似た生命体“トナカイ”にソリを引かせ、寝ているうちに枕もとに何かを置いて行く。

そして、伝承曰くそのトナカイとソリは宙を浮くらしい。

何だそれは。

摩訶不思議などと言うレベルではないぞ。

巨人か?空中を飛行する巨人など、どうやって討伐すればいいんだ。

それに“トナカイ”。

こいつはなんだ。巨人の能力ではなくトナカイとやらの能力で空中を飛ぶのであれば、是非捕獲して戦力に加えるべきだ。

空中を自由に移動できるなど、立体起動以上の戦力になるに違いない。

そして問題はここだ。

寝ているうちに枕もとに荷物だと?どうやら鍵を閉めても置いて行くらしい。

教祖で巨人、そして透過能力に空中を駆ける不思議鹿型生物。

なるほど、世界は広い。

巨人の先にある世界の神秘が見えてきた気がするぞ。

 

―クリスマス。凄い日だ…。

 

「わかった?ハンク。」

「理解した。」

「じゃあ明日は?」

「参加を約束しよう。」

「本当!?」

「あぁ、だが俺にはこれから準備がある。先に戻って寝ると良い。」

「え?準備って何を…?ちょっと!ハンク!!」

 

俺はアルミンの言葉を聞かずに飛び出していた。

明日は人類の存亡を賭けた決戦の日になるだろう。

教祖で巨人はその場で殺す。巨人は駆逐せねばならない。

エレンに動きがないのが気になるが、洗脳されているのだろう。

ということは当然ミカサも駄目だな。

そして、鹿型不思議生命体を確保。

そしてそいつを調査兵団に届けることが出来れば、人類は大きく前へ進めるだろう。

 

つまり、俺の行動に人類の存亡がかかっている…っ!!!

 

 

 

 

「ハンク、来ないね。」

「クリスタ…あんな奴ほっとけばいいんだよ。」

「ダメ!ハンクは本当はいい人なんだよ。ユミルもそんなこと言わずに仲良くしようよ!」

 

顎の少し下で両手の握り拳を構えるクリスタとそれを呆れた様子で見るユミルは、クリスマス会の会場でも目立った存在だった。

…というよりも、クリスタの恰好がいつもよりもセクシー路線で尚且つ似合っているため注目度が段違いなのだが。

 

「お前さぁ、あいつの事好きなのかよ。」

「え?…えぇ!?」

「何だよその反応は…。」

 

両手のひらを広げ、ガビン!!とでも効果音の出るような驚き方をするクリスタ。

そんな姿を遠目に見ているライナーは、『そういうのも可愛いな。』と思ったらしい。

なんにせよ、クリスタの反応はハンクの事が好きと言っているようなものだがそのような気持は一切ない。

 

「違うよ、ユミル。」

「あ?」

「友達だよ、友達。」

「…そうかい。」

「もう!と・も・だ・ち!!」

「分かった分かった!くっ付くな!」

 

ぽかぽかとユミルを叩くクリスタとユミルはまるで姉妹のようだった。

 

 

「よう、アニ。楽しんでるか?」

「…別に。」

「そっけねぇな。ハンクがいないのが不服か?」

「は?…ライナー、一回病院で見てもらった方が良いよ。良い病院は知らないけど心配してあげる。私が蹴り過ぎたせいでそうなったのなら、少し可哀想だし。」

「…容赦ねぇな、おい。」

 

アニはジュースを飲んで遠目に眺めていた。

特に理由はないが、特別騒ぎの中心になるような性格でもない。

なら、参加するだけして面倒事を増やさないようにしようと思っていたのだが面倒事の方からやってきた。

訓練兵団のほとんどの連中はライナーにそのような感情を抱いていないだろうが、アニからすればライナーはどちらかと言えば面倒事を持ってくるタイプだ。

ほっといてほしいアニに、ライナーのお節介は毒でしかない。

 

「ハンクが来てないのは想定内でしょ。アイツがこんなことに参加しないことに不思議なんて無いよ。」

「昨日はアルミンが説得に成功したって騒いでいたんだがな。」

「なら、その場だけ誤魔化してどっかに行ったんじゃない?」

「…かもな。」

「…と思ったけど、来たみたい。」

「ん?…っておいおい、何でフル装備なんだあいつは!?」

 

ライナーの視線の先、そこにいたのは完全に戦闘態勢に入っているハンクだった。

すでに抜刀済みで、いつでも斬りかかれる状態にある。

 

「な、何やってんだ!ハンク!」

「…ライナーか。サンタとやらはどいつだ。いや…」

 

「サンタ!!!!前へ出ろ!!!!出てくれば楽に殺してやる。抵抗するならば、切り刻む。」

 

ハンクは刃先を正面へ向け、威嚇する。

ハンクは本気だと分かるくらいに殺気を出している。

死んでいる光のないハンクの目で決意のオーラを出しているのが、そこはかとなくシュールではある。

誰も笑えないのだが。

 

「おいおい、ハンク。どうしたんだよ。」

 

ハンクの言葉に全員が動揺しながらも前へ出たのは、サンタのコスチュームに身を包んだトーマスだった。

トーマスは気のいい奴で、友達思い。そんな彼はライナーほどではないにしろ、ハンクの事を気に掛けていたのだ。

 

だが、タイミングが悪かった。

 

(知らない奴だ。…それに赤い服装に口髭。容姿からして若いようだが、こいつがサンタか。)

 

そしてハンクは興味のない奴の事を、覚えていない。

哀れトーマス。君はハンクの高感度が足りなかったようだ。

 

「よく前へ出てきたな。ならば話は早い、トナカイという生命体を連れてこちらへ来い!!」

 

誰も彼もが言葉を失っているが、ただ一つ理解していることがあるとすればこれだ。

 

―なんかとんでもない勘違いをしてらっしゃる…っ!!!!!

 

空気が重い。

刃物を持ったハンクの強さは尋常ではない。

実際訓練中でも、強盗役をハンクにやらせてはいけないという暗黙の了解が出来ているほどだ。

とはいっても、アニの時はいつも強盗役をハンクがやっているのだが。

 

「…馬鹿なの?」

「…?」

 

沈黙を破った声は、ハンクには聞きなれたものだった。

 

「…アニか。」

「アニか、じゃないでしょ。馬鹿につける薬はないとは言うけど、あんたは筋金入りね。」

「なんの問題もない。サンタは危険だ。そして人類の存亡を…っ!」

 

回った。回数で言えば4回転はしただろうか。

回ったのは…当然ハンクだ。

 

「ぐっ!何を…!~~~~~~~!!!!」

「…はぁ。動かないで。折れるよ。」

 

からの関節技。

アニは一瞬でハンクを拘束したのだ。ちょっとでも動くたびにハンクは声にならない声を上げる。

 

「よくやった、アニ。」

「そういうの良いから、早く変わって。」

「嬉しいくせに。」

「あんたも宙を舞う?」

「…謹んで遠慮する。変わろう。」

 

 

 

そのあとハンクはライナーに拘束され、縄で縛られ、宙に吊るされ、どうしてこんなことをしたのか尋問された。

初めは抵抗の意思を見せていたハンクだったが、クリスマス会をぶち壊された訓練兵たちの力は恐ろしくその中の一人が呟いた一言でハンクは観念した。

 

―質問はすでに、拷問に変わってるんだぜ?

 

このときの事を後にハンクはこう語る。

「人の悪意とは恐ろしい。それこそ人一人を簡単にどうにかしてしまうほどに。俺は強いつもりだった。だが、その時学んだ。本当に恐ろしいのは、人間だと。彼らはそれを身を持って教えてくれた。」

「…なんであんたがそんなに綺麗に纏めるのよ。」

 

 

「クリスマス…恐ろしい行事だ。」

 

これは、過去の記憶。

クリスマスの思い出。

 

 

 

 

「…メリークリスマス。」

 




どうでしたでしょうか。

とりあえず、メリークリスマス!!

では、誤字脱字感想待ってまーす!!でわでわー!


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7話

そろそろ原作と違ってくる部分ができてきます。

今回の注意点

まどろっこしい言い回し、説明多め。

実は結構賢いハンク少年。

あとがきに少しですが補足します。


「さて、さっそくだけど…私たちが誰かは解るかい?」

「…」

 

椅子に座らされ、周りには調査兵団の兵士たちが佇んでいる。

別に尋問や拷問をされているわけではない。

純粋に呼び出され、座らされているだけだ。

敵意も悪意も感じない。この場で危険はなさそうだ。

 

「エルヴィン・スミス…と調査兵団」

「じゃあ私達の紹介は必要ないね。君には報告書を出して貰った。その内容についての確認…という建前で君を呼んだ」

「…」

 

建前…ね。

他の連中は街の掃除…いや、この言い方は駄目だったな。昨日こう言ったらアニとクリスタに結構な剣幕で怒られた。トラウマになりそうだった…いや、思考がずれた。出払っているというのに、俺やアルミン、ミカサはこうやって順番に呼び出されている。

エレンはあの後帰ってこなかったので、どこかに監禁でもされているのだろう。

 

「私は主に、君のことについて聞きたい。君の考えなどを聞かせて欲しい。さて…我々は、君の技能を高く評価している。駐屯兵団の精鋭たちからの報告は聞いたよ。報告の通りの実力が君にあるとすれば、君はとてつもなく優秀な人材だ」

「…どうも」

「ほぼ通常種とはいえ相当数の巨人を倒した君は、これからどうしたい?」

「…どうしたい、とは?」

「君はすでに訓練兵団を卒業した身だ。進路のこと、とでも考えてくれ」

 

別に悩む必要などない。即決即断即座に言葉を返してもいい。

だが、なぜそんなことをわざわざ聞く?優秀だったから?それならミカサも同じ質問をされたのだろうか。

いや、必要ない。

こんなことをしなくても、俺たちは勝手に好き勝手なところに行かされるはず。

スカウトなんて事はないだろう。スカウトなら初めから用件だけ伝えれば良い。まどろっこしい建前など作る必要なんてない。

答えは簡単だ。

 

―警戒されているのか。

 

実力云々は二の次にしてもだ。きっとこいつらは…違う。少なくともエルヴィン・スミス団長はエレンの可能性についてかなり警戒している。俺を敵である可能性として考えて遠回りに尋問しているのか。

面倒くさい連中だ。

 

「…調査兵団を希望している……ます」

「そうか。なぜだ?」

「…」

 

言葉につまる。

なぜ…か。どうしてかなんて考えたこともない。夢や理想の話をしてもいい。だが、それは希望だ。夢であり、妄想。

こうなればいいなんていう不確かな未来のために戦うのは本当に理由と言えるのだろうか。

少なくとも俺の知るなかでは、エレンはそうしていた。

確かに、自由を掴みたいという夢はある。義手がなければただの障害者な俺だ。そんな人間にでもこの世界の先が見たいという考えはある。

調査兵団を希望する理由…それは夢より一歩手前の話し。

いつもそこにいて、それでいてこの世界の悪意の象徴ともいえる存在。

立ち向かう必要なんて本当はないのに、立ち向かおうとする矛盾。

壁の中で腐りきって死ぬ人生が嫌?別にそうでもない。

生きている理由?別にそうでもない。

腕の恨み?別にそうでもない。

 

 

 

あぁ、そうか。そういうことか。

 

夢は夢。理由は理由。理由があって、夢がある。夢のために、理由がある。

 

「巨人を見ると、殺さずには居られないから」

 

この世界の、先を見るために。口外はしないが、心の中でそう繋げる。

答えはいつだってそうだった。

 

「そうか。悪くない答えだ」

 

狸が。物事の善し悪しなんて度外視の癖に。

俺の言葉で俺が敵ではない確信でも得たのか、緊張感が和らいでいるように見える。

 

「じゃあ次に、君はエレンをどう思う?」

「…別に」

 

どうも思わない。希望だとかそういうのは幻想だ。

あいつがいることで終わらない可能性はあるとしても、この質問に適した答えは持ち合わせない。

そんなことは当人たちが勝手に決めればいいことだ。この答えにエルヴィンは「ほう。」と驚いた様子を見せる。

俺がエレンを守っていたので、何か感じとっているとでも思っているのだろうか。

どの道俺にエレンの存在価値は計り知れない。誰がどうこう決めることなどできない物を、俺がとやかく言うことなんてできないだろう。

エレンの事はエレンが決めるだろうし、エレン自身が自身の価値について気付いていなかったとしてもこれから俺たちの命はゴミのようにあいつに使われることになるんだ。

そしてそのことに気付いたエレン自身が、自身の価値を見出して行くだろう。

 

「では…」

 

 

「君には何が見える?」

 

明確な意思の籠った質問。さっきまでの言葉に意志を感じなかったと言えば嘘になるが、この質問はエルヴィン自身が聞きたいといった様子だ。

数瞬の間、目と目が合う。

その目は、全てを見抜きそうなほど真剣でそれでいて…濁っているようにも見えた。

行きすぎた善意が悪意なように、何かを求めるこいつの目は俺には濁って見える。

目が濁っているなどと、人のことは言えないが。

 

 

「質問の意図が分からない…です」

「…そうか。では、これで失礼する。あんな事件の後だったんだ、ゆっくり休むと良い」

 

そう言って立ち上がり、兵団の兵士と出て行こうとする背中に椅子から立ち上がり声を掛ける。

立ち去ろうとするエルヴィンの声には何となく力がなく、期待していた答えは望めなかったということが明確に伝わる態度にカチンと来た。

何となく気に食わない態度だ。確信の無い答えだが、一応答えてやろう。

立ち上がらずに、振り向きもせずに声を掛けるつもりで声を発する。

 

「調査兵団」

 

俺の言葉に全員が立ち止まり、俺の方へ視線が向く気配がする。

 

「駐屯兵団」

 

息をのむような気配を感じさせる調査兵団の兵士達。それはそうだろう。急にこんなことを言い出せば。

 

「訓練兵団」

 

しかし、それはきっと一人を除いて。

 

「憲兵団」

 

その一人は当然、団長であるエルヴィン・スミスだろう。

 

「あるいは、人畜無害を装った兵士以外の民」

 

体を斜めにし、振り返る。

一見ポーカーフェイスのエルヴィンのその顔。しかしその目は驚きと、期待に溢れている。

 

―お望みの答えはこれか?

 

こう言って欲しいなら言ってやるよ。

 

「少なくともあと2人、いるだろうな。壁の中に」

 

俺の言葉を聞いて数瞬の後何のことか分からないような調査兵団の連中をよそに、エルヴィンは口を開いた。

 

「そうか」

 

たった一言だがその言葉には、満足だ。とでも言うような力が込められていた。

 

その後、調査兵団は去っていった。

俺は取り残されたわけだが、来る時も案内があったわけではないのでスムーズに宿舎へと帰ることが出来た。ほとんど尋問寸前の空気だっただけに、やたらと疲れた。

まだ他の連中は帰ってきていないようで誰もいないので、ベットで横になりエレンの可能性について考える。

 

戦力としての運用はもちろんだが、それだけではない。

エレンが人間でありながら巨人になれたということは、同じく巨人になれる人間がいる可能性がある。

そいつらは恐らく、いや間違いなく鎧と超大型だろう。

二度にわたって“偶然”壁の中でも脆い扉部分を攻撃するなどあり得ん。それに鎧に至っては内側の扉を壊している。

通常の巨人の知能ではあり得ない行動だ。人間を見れば、猪突猛進して食らいつく。

奇行種だとしても、人間を捕食することを考えていることには変わりない。

突然変異だろうがなんだろうが、ほぼ全ての巨人がそうなのに人間も食わずに壁の扉部分だけを壊す巨人など説明がつかない。

だが、それは2体とも“巨人である”という前提条件があってこそだ。

エレンの存在は巨人の中でもよくわからない2体の前提を覆す。エレンと同じ人間が変身し人間の思考で壁を壊す。

 

人間が巨人になっているという前提条件。これならば十二分に鎧と超大型の行動に説明がつくのだ。これは、理屈が分からなくてもかなりの進歩のはずだ。

 

そして、奴らは人類を滅ぼそうとしている。

 

エレンの存在は、壁の内部に巨人に与するものがいることを示唆しているに他ならない。

エルヴィン・スミスはきっとそのことについて聞きたかったのだろう。

そして、自身がそれに気づいたように同じ思考の持ち主を探している…と言ったところか。

俺も最初はエレンがいれば、いや…エレンのその力があれば結果的に良いくらいにしか考えていなかったが実際はそうではなかった。

最初に俺が見かけたとき…巨人になって巨人を殺しまくっているところは意識がなかったという。それを聞いて俺は巨人化すると意識がなくなるものだと思っていたが、実態はそうではなかった。

最初こそ暴走したもののエレンは“意識がある状態で”巨人の姿になり、岩を運んだ。

意識がある状態で巨人化できるのであれば、初めから思考する巨人より“思考出来る人間が巨人となり思考している”の方が説明がつくことに気がついた。誰に話すわけでもないが…誰が敵とも分からない状況で闇雲に同じ考えの人間を探すわけにはいかなかったが、意外と簡単に見つかったな。

 

全く、回りくどい事しやがって。面倒くさい。

これで俺まで怪しまれるなんて、面倒極まりない事態だ。

 

まぁ、どっちでもいいけど。

 

頭の後ろで手を組み、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

男は兵士を引きつれて歩いていた。

男の名前はエルヴィン・スミス。調査兵団の団長であり、世間からは人類の希望と呼ばれている。

エルヴィンは現在機嫌が良かった。

それは周りにいる兵士にも分かるほどである。

 

しかし、なぜエルヴィンの機嫌が良いのかは今日一日供にしている兵士たちにも分からないことだった。

何か新しい発見があったわけでもなく、進展もない。

特別変わったことと言えば、巨人化する少年“エレン・イェーガー”と行動を共にしていた訓練兵を呼び出し尋問―いや、質問をしたくらいか。

最初の二人は問題の人物、エレンの幼馴染らしく希望的観測が多く含まれていた。

 

―…エレンには何の危険性もない、です。

 

―僕たちは昔から一緒にいたんです!だからこそ分かります!エレンは人類にとって害なんて無いって!!

 

正直な話、エルヴィンを含む兵士たちは失望していた。そして全員が同じことを思っただろう。

 

―そんなことは、どうだっていい。

 

もっと重要な事があるはずなのだ。

なぜ巨人化できるのか。それはどうしてエレンに宿ったのか。それは一体…どんなものなのか。

 

報告書の確認と言う建前で呼び出している以上、あまり露骨に聞くことは叶わなかったが聞くも何も聞かされたのは聞く必要のない話だった。

そんなこともあってからか、焦っていたのかもしれない。

エルヴィンも、兵士も。

 

3人目はミカサ・アッカーマンと並び駐屯兵団の精鋭たちの報告書で、これでもかと言わんばかりに賞賛されていた少年だった。

駐屯兵団の総合的な技能値は、調査兵団に比べれば圧倒的に低いため“どうせ大したことない”と油断していたのかもしれない。

だが…少年を見た時、ほとんどの兵士が戦慄した。

 

少女と見まごうほど愛嬌のある中世的な顔立ち、そして金髪の綺麗な髪。

身長は170ほどだろうか。さらに特徴を言うなれば、両腕が義手であることだ。

 

そう語られれば、見目麗しい哀れな美少年……と言ったところだがそうではなかった。

少年の目は人間とは思えないほどに………濁っていた。

 

狂っているようには見えない。受け答えもしっかりする。

でも、それ以上に少年の目は戦慄を与えた。

 

深淵のさらに奥、冥府にでも繋がっているのではないかと思わせる黒い瞳。

 

適切な表現をするなれば、目が死んでいるのだ。

 

その瞳からは一切の感情の色を移さない。

 

それが、兵士たちを震えさせた。

 

 

だが、エルヴィンはそのような事はお構いなしと言わんばかりに質問を続けていく。

少年は敬語が苦手なのか、たどたどしくも言葉を紡ぐ。

そしてその中で知的なエルヴィンは、焦ったのか、そうでないのか。

焦れていた本能を開放するかのような迫力で、こう告げた。

 

 

「君には何が見える?」

 

 

少年―ハンクはどう思ったか分からないが、兵士たちには何のことかまるで分らなかった。

質問の意図もそうだが、エルヴィンが何を考えているのかも。

 

「質問の意図が分からない…です」

「…そうか」

 

エルヴィンの声には失望の色が濃く現れていた。

そして立ち去ろうとするエルヴィンと兵士に、ハンクは声を掛ける。

 

なんの脈絡もない発言に、ついに狂ったのかと思った兵士も居た。

 

その言葉の抑揚の無さもそうだが、顔をこちらに向けず声を発する少年はひたすらに不気味だった。

 

最後の言葉を放つ時、こちらを向いたハンクの目を直視した兵士たちは悪寒に包まれた。

 

だが、ハンクの最後の言葉を聞いたエルヴィンは驚くほど機嫌が良くなっていたのだ。

 

 

 

「エルヴィン団長」

「どうした?」

 

兵士の一人がエルヴィンへと声を掛ける。

不思議な機嫌の良さの理由を本人に聞こうとしているのだろう。

 

「先程の少年…ハンクでしたか。彼をどう思いましたか?」

「不思議な事を聞くな。そうだな…」

 

ふむ。と言った様子で顎に手を当て考える仕草をするエルヴィン。

 

「君にはどう映った?」

「…正直な話、不気味でした。本人には悪いとは思いますが、その…目が…」

「同意見だ」

「…え?」

「私も彼という存在を測りかねている。だが、それでも今日はっきりしたことがある」

「なんですか?それは」

 

エルヴィンは一旦目を瞑り、再び目を開くと通路の奥を見据える。

そこは扉が開いていて、外の光が眩しく差し込んでいる。まるで、未来へ進む道は希望の光で溢れていると言わんばかりの光景だ。

その光に兵士たちは目を細める。

 

「彼は、調査兵団にとって必要な存在であり…」

 

「壁に閉ざされた我々の世界への、希望の光になるかもしれない人間と言うことだ」

 

そう言い残すと、すたすたと出口へ向かう。

 

その背中は、もう何も語ることがないと言っているようだった。

 

 

 

 

 

本当に、碌な事がない一日だったと思う。

俺は、調査兵団へ入るために訓練兵となった。

恒例行事だか何だか知らないが、訓練兵を威圧しまくる教官。

なんだかよくわからないが、俺は目を見られただけでスルーされた。意味の分からない理由で威圧されるなど堪ったものではないので僥倖だったとは思う。

そして、これが長い。何か理由があってか全員を恫喝紛いの威圧をしているわけではないのだが数が多いためとてつもなく長く、疲れた。

時々、後ろを向け!とかいう謎の方向転換がさらに疲労を加速させる。

 

極めつけはこれだ。

偶々訓練兵を見に来ていた憲兵団の一人に絡まれたのだ。

俺の腕を見て早々に近づいてくると、

 

「なんだ?その腕は。…まるで使い物にならないではないか!いいか、よく聞け訓練兵!義手などと言ういつ壊れるかも分からない物を付けている奴などあてにならん!つまり、何が言いたいのかわかるな?…なんだその顔は。ならはっきり言ってやろう!その腕では使い物にならんな。よかったじゃないか、こんな時期に順位が解るなんて。貴様は“除外”だ」

 

とか言い出す始末。別に何を言われても構わないが、そいつの顔がムカついた。

憐れそうに俺を見る同期がいたのもイラついた。

しかしそういう性格の歪んでいる奴ほど権力を持っているらしく、どうやら憲兵の中でも新兵をどうこうできる程度は簡単らしい。

憲兵になれるのは上位10名のみのことを考えると、それだけでも奴の権力の範囲内に俺がいるのは間違いないだろう。

憲兵なんて興味ないけどな。

 

さらに続く嫌な出来事。

エレン・イェーガーとか言う巨人は俺が倒すんだ!みたいな事を言っている奴と、ジャン・キルシュタインとか言う奴が巨人がどうこうとか言う話になっていた。

そこで巨人にビビってるとか何とかで、ヒートアップしたジャンは俺の腕を指さし「あぁなっちまうぞ!」とか何とか。

なぜ俺が…とも思ったが、別にいい。興味がないので好き勝手言わせておいた。

そのあとそれは言い過ぎだとか言われていてその後謝りに来たが、自称正直すぎる男らしいので放っておいた。

その素直さをもう少し役立てれば良いのに。

まぁ、別に良いんだけど。

 

そのあとも初日だと言うのに誰とも親交を深めようとしない俺を見かねたとか言って、ライナー・ブラウンとかいう巨漢に絡まれた。

一緒にいたベルトルト・フーバーがフォローしていたが、どうやらお節介のようだ。

俺なんて放っておいて、ずっと一人でいた金髪の女の方へ行けと言ったが聞く耳もたん!とうっとおしい態度をとるので早々に寝た。

 

 

 

今日は早朝から立体起動装置の適性テスト兼姿勢制御訓練を行うらしい。

どうやら揺れがなければないほど適性が高いらしい。

みんな大した揺れもなく出来ていることを考えると、大したことはないのだろう。

一人空中に放り出されたかのようにひっくり返っている奴がいたが。

 

結果から言えば、俺は何の問題もなかった。

それどころか微動だにしない俺を見た教官は驚きを隠せないようだった。

俺の前にも黒髪の女が出来ていたような気がするのだが。

 

「すげぇじゃねぇか、ハンク!」

「…」

「あのミカサってやつも相当だが、お前もそれと同じくらいの適性みたいだぜ?」

「…」

「聞いてるか?」

「…」

「おい!」

 

うっとおしいことこの上ないお節介だ。

話しかけてきたのは当然ライナー。話しかけるな、と言って寝たのに昨日の今日で話しかけるやつがいるとは思わなかった。

 

「…黙れ」

「そう言うなよ。同期なんだから、仲良くやろうぜ?」

「そう思うなら二度と話しかけるな。俺は仲良くするつもりなどないが、別段問題を起こそうとも思わない。お互いの事を考えれば俺のことなど放っておけ」

「…この先何があるか分からないんだ。今は今を満喫しようぜ?」

「…くだらん」

 

そう言って俺は、その場を離れた。

 

 

 

「うーん…姿勢制御のコツか…」

「頼む!三人ともすごく上手いって聞いたぞ」

 

「ベルトルト…ライナー…ハンク…」

 

 

驚くほど面倒な事態に巻き込まれた。死ぬほどお節介のライナーで部屋で捕まったかと思えば、今度はエレンとアルミンとかいうのに姿勢制御訓練のコツを聞かれだした。

ライナーはぶら下がるのにコツがいるとは思えんと言う。

面倒なので返事をしないでいると俺も同意見だと取ったのか、話は進む。

 

話は変わり、ベルトルトの発言から巨人の話になった。

ベルトルトの体験談、アルミンの考え、そしてエレンの思い。

 

「殺さなきゃならねぇと思ったよ…」

 

「奴らを…一匹残らず」

 

その言葉を聞くと、自然に頬が緩んでいた。ニヤリと笑みを浮かべてしまう。

エレンの言葉を聞いて俺は声を出す。

 

「エレン…と言ったな。昨日はとんでもないお花畑が入ってきたと思ったが…」

「…は?」

「俺は俺の目的のために巨人を殺す」

「…」

「お前の考えは、嫌いではない」

「…そうかよ」

 

それに続くかのようにライナーの言葉。

信念を口にし、言葉を贈る。

 

「お前ならやれるはずだ。エレン・イェーガーだったっけ?」

「あぁ、ありがとよ…。ライナー・ブラウンだよな?あと…ハンク…」

「ハンクでいい」

 

 

次の日、エレンは合格した。

金具の破損による装置の不具合。それがエレンの連続失敗の原因。

なんてことの無い結末だ。

 

 

 

 




まどろっこしい言い回しの解説。する必要がないと思うけど、一応。

ハンクの思考。

夢…両腕を失い、自由を掴む(比喩表現)ことができないがそんな自分でも巨人を殺していけば自由を得られるのではないか。
という夢のために日々戦っています。

理由…調査兵団に入る理由は巨人を見ると殺さずには居られないから。つまり、巨人を見ると殺したくて仕方ない人種。夢をそのまま理由にしなかったのは夢は最終目標で、調査兵団は過程の段階だとハンクは考えたから。

ハンクの容姿。かなり中性的。アルミンは全然中性的ではないと思う作者。
極度のレイプ目。

訓練兵初期のハンク。他人に興味がなさ過ぎて、基本話しかけられたら無視。
馬鹿にされても無視。天敵はライナー。名前を復唱するかのように一人称で出てくるが、その数分後には記憶の彼方に忘却している。
本編中のハンクが名前を覚えていることから、しっかり成長を感じさせる。

作者的にはエレン意外に巨人化できるやつがいるということに気づく人が少なすぎる気がしないでもなくない。確かに考えたくない事態だとは思うけど…。
だからというわけではないですが、ハンクはあっさり気づきます。
本当はこんなこと書かなくてもいい作品が書ければいいんですが、作者の技量では…(ぶわっ
次話も少しの過去編と何か+αですかね。


…というわけで、見てくれた方ありです!
誤字脱字、あると思います。ですので、報告等お願いいたします!
感想及び評価など、お待ちしておりますので!!
でわー。


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8話

この辺が書きたかったためサクサクと投稿。

詰まり始めたらそこまで…かも(笑)

今回の話を見る上でのキーワード。
人はきっかけさえあれば割と簡単に変われる。


 

ついにこの日が来てしまった。

本来ならば悲観するような内容ではないのだが、俺は違う。

自分が特殊だとか、そういう事を言い出す気はないが少なくとも俺が一番ダメだろう。

このままいけば最下位待ったなしだ。

 

「では!各々好きな人員と組み、開始しろ!」

 

しかもこれだ。未だにまともに俺と話す人間なんて物好きはいない。

物好きのライナーを俺から遠ざけているのだから尚更だ。

 

“格闘訓練”

 

なんだそれは。そんなものいつ使うと言うんだ。

巨人を相手に素手で戦闘を挑めとでも言うのか。ふざけるのも大概にしろ。

 

俺には才能がない。

 

その他の事は平均位にはこなす俺には明確な弱点がある。

それは、“格闘センスの無さ”だ。

 

このことを自覚したのは開拓地に居たころだった。

性格も現在と大して変わらないが、偶然、そう偶然だ。何だかんだで年下の少女と喧嘩になり、恥ずかしい話が負けた。

お互い子供だということもあり、ラッキーパンチの可能性が捨てきれなかったが…自然と分かってしまった。

“格闘センス”とかそういう物が関係ない子供同士の喧嘩でだ。

俺はなぜか自覚してしまった。“俺には格闘の才能がない”ということを。

 

不思議な話なのだが、事実その通りなのだから仕方がない。

…ともかくだ。この訓練を何とか乗り切るしかない。

 

センスがないとかそんなことは考えるだけナンセンスだ。成績に興味はないが、やれることをやれば問題ないだろう。

ともなれば問題は相手だ。

正直な話誰でもいい。こんな時に限ってライナーはエレンと訓練か。

ふむ。…ん?

あの金髪の少女など丁度いいのではないだろうか。

それがいい。きっと同じくらいの強さのはずだ。同じくらいの強さで戦った方が実力は伸びていくのではないだろうか。

そうと決まれば、さっそく話しかけるか。

 

「…すまないが、一人か?」

「え?う、うん。」

「そうか。なら、俺と相手をしてもらえないだろうか」

 

そう声を掛けると、周りから視線が集まるのを感じる。

小さな声だが、俺を馬鹿にするような声なども聞こえる。その感想は当然だとも思うが俺からしたら貴様らの感想など求めてはいない。

 

「…迷惑だろうか」

「ううん。大丈夫だよ」

「そうか。ありがたい」

「おい!」

 

少女と話していると、俺に話しかける物好きがいた。

視線を送ると、そばかすのある女だ。

 

「…」

「無視かよ」

「…お前とは話すことなんてない。失せろ」

「…ふんっ!こんな小さな女の子しか相手にできないようなチキン野郎には言われたくないね。クリスタ!行こうぜ」

「ちょ、ちょっとユミル!」

「浅ましい挑発だな。お前こそこの少女しか相手してもらえる奴がいないから必死になっているだけだろ。俺が頼み、こいつが了承した。お前の意思など関係がない」

「…なんだと?」

「…」

 

そばかす女は物凄い形相で俺を睨んでくるが気にしない。

いくら睨まれたところで俺の気は変わらない。

 

「ユミル!この人の方が先だったんだから!それに言葉もきついよ!」

「…クリスタ、こんな奴に気を使わなくてもいいんだ。見るからに根暗野郎じゃないか。こんな奴放っておけよ」

「いいの!それにそんなに悪い人じゃないって」

「悪い人じゃない…ねぇ。さっきの口の悪さを聞いてなかったのかよ…」

「もう!兎に角、今日はこの人とやるから!」

「はいはい」

 

そういうと、小さく舌打ちをし去っていく。

俺は別に自分にデメリットのある会話をされたわけではないので事の顛末を見守る。

少女はふぅ、と息を吐くと俺に向き直る。

 

「ごめんね。ユミルも悪い人じゃないんだけど…。」

「気にするな。よくわからないが、恐らくお前のことが心配だったのだろう」

「ありがとう。私はクリスタ。クリスタ・レンズ。よろしくね。えっと…」

「ハンクだ」

「うん!よろしくね、ハンク!」

 

軽く自己紹介をすると、花が咲き誇るかのようににっこりと笑う。

よくわからないが、愛らしいとはきっとこういうことを言うのだろう。

 

ちなみにこの後俺はクリスタに一方的に負けた。

その様子を見ていたらしいユミルとかいうそばかす女には、同情された。

あれだけの挑発をしてきたので近づいてきたときにはどんな罵倒があるかと思ったが、まさか同情されるとは。

そんなにも無様だったのだろうか。

 

特に仲良くなったわけではないが、クリスタの比較的近くで食事を摂っていると喧嘩が起きた。

いつものエレンとなんとかとかいう馬面だ。

毎度毎度なぜああもくだらない内容で喧嘩が出来るのだろうか。エレンの話す内容には興味が湧くが、馬面のキレている理由がまるで理解できない。

あれでは昼間のそばかす女の方がよっぽどマシに見える。

 

遠目で見ているとついに殴り合い寸前までいった。だが、寸前でエレンの顔色が変わり謎の投げ技で馬面を倒した。

そして感情任せに生きるのは人間の本質ではない。仮にそうだとしてもお前はそうあってはいけない。それでは兵士ではないから、か。面白い事を言うな。

その理屈で言えば、俺ほど兵士に向いていない人間もいないんだろうな。

 

 

あの日から数日がたった。

そして本日もまた、格闘訓練だ。

正直に言って全く俺の成長が見られない。本日も元気にクリスタに連敗中だ。

体の動かし方とか、そういう次元ではないのかもしれない。

型どおりにやっても全く勝てない。

 

唯一格闘訓練の中でも木剣でも訓練では剣を持っていれば負けないのだが。

 

遠目には金髪の女とエレンが訓練をしている。

あ、また宙を舞った。

 

どうやらあの金髪の女は格闘技に秀でているらしく、エレンに格闘技を教えているようだ。

別に興味があるわけではないが、痛くはないのだろうか。

 

「どうしたの?ハンク」

「いや、何でもない」

 

んー?とクリスタは俺が見ていた方を見てあぁ。と納得したようだ。

 

「エレンとアニが気になるの?」

「…アニ?」

「もう!同期のみんなの名前くらい覚えようよ!」

「…」

「アニ・レオンハート!覚えた?」

「…覚えた」

「じゃああの金髪の子に吹き飛ばされてるのは?」

「エレンの事か?」

「そう。じゃあ女の子の方は?」

「…」

「…?」

「…」

「…聞いてなかったんだね」

「…すまん」

 

他人に興味のないせいか、どうでもいいと思ってしまうことは全く頭に入ってこない。

それが話したこともない他人ともなれば尚更だ。

 

「ねぇ」

「…?」

「あ」

 

噂をすれば…だ。なんとかという金髪の少女がエレンを引きつれて近づいてきた。

クリスタに用事だろうか。

俺が居ては話しづらいだろうと離れようとすると、呼びとめられてしまった。

 

「あんたよ。あんた」

「…俺か?」

「そう。遠目に見てたけど、あまりにもお粗末な格闘技術だからね。教えてあげようと思って」

 

なんだこいつは。馬鹿にしているのか。たしかにお世辞にもまともとは言い難いが、しっかり型に順じているつもりだ。

 

「…訓練の邪魔だ、消えろ」

「…そう言えって、この馬鹿がね」

「…エレン」

「あ、あははは」

 

エレンは名前を言われると渇いた笑いでごまかそうとする。

残念だが余計な御世話だ。

 

「…余計な御世話だ」

「…だろうね」

「は、ハンク、」

「と言いたいところだがその話、受けさせてもらう」

「え?」

 

エレンと金髪の少女とクリスタがものすごく驚いた顔をする。

そんなに変な事は言っていないが。

 

「ど、どうしたのハンク。そんな急に…」

「格闘技能なんて必要だとは思わないが…」

 

その言葉で金髪少女の気配が強くなる。

怒気のようなものだろうか。

 

「全ての物を無駄だと決めつけてしまう考えはさらに必要ない。結果的にこの経験がいつか何かに生きるかもしれないからな」

「ハンク…」

 

身体能力の向上にもつながる…と思うので、お願いすることにした。

言葉にも出したが、本当に必要なのないのは何もせずに何でもかんでも必要ないと決めつけてしまうことだ。

というわけで、

 

「…よろしく頼む。…」

「…?」

「あ、アニ」

「…ふん。まぁいいや。ここじゃ手狭だから向こうへ行くよ。…ハンク」

「…ふふっ。じゃあエレンは私とやろうか」

「…?あ、あぁ」

 

 

 

「やけに楽しそうだな、クリスタ」

「んー?だって、知ってる中じゃ初めてハンクから名前を呼んだんだよ?なんか嬉しいんだよ」

「オレにはよくわからないけどな」

「あ、手加減してよ?アニを相手にしてるつもりでやられたらどうしようもないからね」

「分かってるよ」

 

 

 

 

 

 

「本当にセンスが皆無なんだね」

「…」

 

開始してすでに数日経ったが、全く歯が立たないいろんなことに挑戦してみたが、当然全く勝てる見込みがない。

空中をくるくると回りまくっている俺はすでに曲芸の域だ。実際にやって見ると、アニの技量の高さが良く分かる。エレンはよくやっていたと褒められるべきだろう。

現在はまだ訓練中だが、アニが一旦休憩にしてくれた。

それでも露骨にサボっていれば咎められるため、軽く動きながらなのだが。

 

「まったく。…そういえばあんたはいつも一人だけど、なんで?」

 

休憩中、軽く拳を合わせるかのように動きながら休んでいると唐突にそんなことを言い出した。

難しい質問だな。

 

「…なんで、か。そういうお前もずっと一人だろう。仲の良い女友達の一人でもいるのか?」

「そう言われると返答のしようがないね」

 

そら見たことか。

同じ空気の人間だとは思っていたさ。

 

「…俺は、他人に興味がない」

「…」

「自分でこういう言い方をするのは変かもしれないが、他人に興味が湧かないんだ」

 

なぜだろうか。開拓地に居た時もそうだった。誰とも話さず、誰とも関わらない。

その生き方は、楽だった。

それに、俺の居た開拓地では俺の腕の事を馬鹿にする奴らばかりだったしな。

というか、なぜ俺はこんなことを話しているのだろうか。

俺に近いものを感じるからか…?

 

「それに、俺はこんな感じだ。気味悪がる連中ばかりなのもあるかもしれん。この腕だ、開拓地では役立たずと罵られる事も多かったしな。…作業量は同じだというのに」

 

義手を見せ、鼻で笑って見せる。

 

「…やっぱりあんたは馬鹿なんだね」

「…なに?」

「あんたは勘違いしてる。あんたの考えや生き方は分からないけど、少なくとも過去のあんたよりは少しは変わったんじゃない?」

「どういう、意味だ」

「どんな目に会ったか知らないけど、その腕を見れば普通じゃないことくらいわかるよ。その腕を見て、引かれて、他人に色々言われるのが怖い?」

「…怖くなど、ない」

「だろうね。あんたはここに居る連中の中じゃ強い方だから」

「…」

「それでも、私の言ってることが全て間違いだったとしてもあんたは変わってるよ」

 

何を言っているのか、分からない。いや、分かるのだが…言葉がしっかり入ってこないというのだろうか。

少なからず胸が苦しい。歯を食いしばり、アニの言葉を待つ。

 

「そう、あんたは変わって来てる。あんまり踏み込んだことはいいたくないんだけど…少なくともエレンやクリスタの名前を覚えて話すあんたは、昔とは違うんじゃない?」

「…そう、なのか?」

 

アニは俺の目を覗き込むように見ると、さらに言葉を繋げる。

綺麗な目に射ぬかれて、少し心拍数が上がる。

 

「それに、私の名前を呼んだでしょ」

 

「それも、自分から」

 

「それは成長なんじゃないの?」

 

 

スーっと心が楽になった気がする。呼吸もスムーズだ。

それだけアニの言葉は心を軽くしてくれた。

 

「…あー、柄にもないことしちゃった。忘れて」

「…忘れはしないさ」

「…嫌なやつだね」

「お前ほどではない」

「…ふん」

「アニ」

「…」

「…一応、感謝しよう」

「…ふん」

 

そういうアニは、照れたように顔を背けた。

 

 

 

あの後微妙な空気になってしまったが、今後も格闘訓練を一緒にやる約束をした。

これも、成長なのだろうか。

 

 

 

 

訓練場の森の中、いくつも飛びまわる人影がある。

それは訓練兵たちであり、巨人の項をいかに正確に削ぎ落すかの訓練中であった。

 

訓練兵の中でも頭角を出しているのは、ミカサ・アッカーマン、ライナー・ブラウン、ベルトルト・フーバー、アニ・レオンハート、ジャン・キルシュタイン、コニー・スプリンガー、サシャ・ブラウス、エレン・イェーガー、そして…ハンクと呼ばれる少年である。

 

そんな面々を見て、教官は評価を付ける。

 

その一部をお見せしよう。

 

当然ミカサやライナーといった頭角を出している人物の評価は高く、それ以外は軒並み“並”という評価だ。

 

ハンクの評価はこうだ。

 

 

・ハンク・×××××××

 

通称ハンク。ほぼ全ての訓練において平均的だが、座学では時折恐ろしく鋭い意見を発するという。そして兵士の最重要課題である立体起動での訓練においてはミカサ・アッカーマンと同等の評価を叩きだす。

ただし格闘技能は壊滅的であり、体格などにおいて勝っているはずのクリスタ・レンズにも敗北するなど評価するべきところがない…のだが、本来評価の低い格闘訓練への参加態度は非常に優秀である。

しかし、その格闘技能もなぜか刃物を持った時のみミカサ・アッカーマンと互角の動きを見せるが完全に格闘ではなく攻撃方法が殺傷のため評価できない。(刃物によって行動を制限させ、首を断ち切るように攻撃するなど。)

さらに問題を上げるとすればその人格である。

非常に他人への関心がないためか、まともな交友関係を持たず仲間からの信頼はほぼゼロである。(正確にはゼロではないが、大局的な意見を聞いた時ほぼゼロとなる。)

しかも義手というハンデがあるため、評価にマイナスが付くことも多い。

 

 

格闘術3

行動力10

頭脳戦7

協調性1

刃物11

総合評価A-

 

・教官の分析

立体起動、及び刃物を持つことでとてつもない戦闘力を誇る代わりに大きなハンデを持つとてつもなく惜しい人材。こういう言い方は卑怯かもしれないが、両腕が健在で人格がもう少しまともであればミカサ・アッカーマン以上の人材だったのかもしれない。

 

 

 

 




評価の数字とかのアレは公式ファンブックを参考に捏造。

今回の解説。技量が上がらないから一々こんなこと書かなきゃいけないんでしょうね(笑)
と、ともかく…ハンクとアニの関係性。
ハンクがアニに似た空気を感じ、なぜか話さなくてもいいことを話してしまうようにアニも同じく余計なこともまで話してしまっています。
似た者同士はすぐ仲良くなれる!これは本当に世界の法則だと思う。同族嫌悪はお互いのことを認められないから起こるわけで、認めちゃえばすぐに親友ですよ!親友!

ハンクの仲良くなった順番。ライナー(?)→エレン→クリスタ→アニ。

アルミンが格闘術2だったのでとりあえず3に。クリスタが6だったのでまぁこれくらいかな、と。
アルミンくらいならさすがに腕力一辺倒でねじ伏せられそうですし。
行動力10はまぁ…作中でエレン守ろうとした次のシーンでは殺そうとしたりとか。
頭脳戦。意外と賢い。鋭いけど作戦立案とかそういうのに向いてない。
協調性。ハンクに最も足りてないもの。アニが3だったのでそれ以下で教官とかからの目線となると1かなって。ライナーとかエレンあたりから言わせれば3くらいは有るのかもしれないけど…。
刃物11 特に言うことはないけど、これがなければハンクはちょっと賢い役立たず。これありきのハンク。これがハンクのすべてと言っても過言ではない。
教官の分析 机上の空論。

ハンクのハンデ。戦闘中及び壁外調査中に義手壊れたらいろんな意味でやばい。だから評価的にはマイナス要素。どんな頑丈なものでも必ず壊れるから仕方ない。

というわけで見てくださった方々、ありがとうございます!
誤字脱字、あると思います!報告と感想、評価などなどお待ちしております!!
でわでわー!


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9話

とりあえず一言。賛否両論あると思います。(定型文)


もう一つ。

超絶急展開注意。

ではどうぞ。


目を覚ます。

どうやらあの後眠ってしまったらしい。起きて周りを見渡すと、同期の訓練兵が寝ていることが確認できる。どうやらもう真夜中の様で、窓から差し込む月明かりが眩しい。

義手を付けたまま寝てしまったらしく接続部の皮膚が赤くなっているのが気になる。特に気にするようなことではないが、やはり少しひりひりする。

寝起きということもあり、体がかなり凝っていて無造作に凝り固まった筋肉を動かすとゴリゴリと音が鳴るのが気持ちいい。寝汗を掻いていて髪の毛が顔に貼り付いたり、肌がべたべたするのがうっとおしいがすでに入浴時間が過ぎていることが悔やまれるが後悔はなんとやらだ。

はぁと一つ溜息をつくと何もしないよりはマシだろうと思い、俺は夜風に当たりに外へ出る事にする。

教官に見つかっても厄介なので宿舎から見えにくい訓練場でいいだろうか。

 

 

 

部屋から出て、さらには扉から外へ出ると夜風が通り抜ける。

汗ばみ、火照った体に少し冷たいくらいの夜風が気持ちいい。許されるのであれば、この場でもうひと眠りしてしまいたいほどだ。

首を回すとコキッと良い音がする。この場所でもいいが、いつまでもここに居るといつ教官が出てくるとも分からないので意識を切り替えて移動する。

 

 

移動した先は、入団当初の姿勢制御訓練でエレンがひっくり返り宙にぶら下がっていたあの装置の近くだ。

何となく昔のことを思い出したようで、気持ちが高揚する。

でも、それと同時に先日の巨人襲来を思い出し嫌な気持ちになる。

今更人の生き死にに思うことなんてない。

第一俺はあの戦いの中で一人の人間を手に掛けているのだ。

 

“結果的に”“仕方がなかった”

 

なんて偽善的で、なんてすばらしい言葉なんだろう。

誰も彼もなんて助けられない。俺の力の及ぶ範囲で出来ることなんていうのは知れている。

あいつを助けていたら、俺は助からなかっただろう。

常に自分を優先する姿勢は変わらない。あの男を殺したのも、ミカサを助けたのも、エレンに協力したのも、アルミンに賭けたのも、俺のため。

アニやクリスタと仲良くしていたのだって、きっと自分の――――――――――――

 

「…?」

 

声が聞こえる。

なんだこんな夜遅くに。

俺には立ち聞きや盗み聞きをする趣味など無いが、興味がないわけではない。

恋愛話や、くだらない話なら早々に去ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「エレンを何としてでも手に入れる。俺が鎧で、お前が超大型である限りは」

 

 

俺の世界は、砕けた。

一瞬だが止まった呼吸を正常に戻し、冷静さを取り戻す。

手元には武器はない。月明かりのみで良く見えないがふと地面に折れた立体起動の刃を見つける。俺はそれを拾うと上着を脱ぎ、刃に巻く。

義手とはいえ素手でも持つなんていうのはもってのほかだ。

武器は手に入れた、気持ちも落ち着いている。

だから俺は、

 

 

 

 

 

 

ライナーとベルトルトを殺す。

 

 

 

 

 

声は壁の向こう側から聞こえる。まだ会話をしている気配があることから、すぐに移動したり宿舎へ戻ることはないだろう。

この場で殺す。

俺はすぐさま移動し、反対側へ出る。周りは暗いし遠目で分かり辛いが、2人いるのが分かる。

別に気配を消すとか、そんな小細工は必要ないだろう。ただ走って近づいて、首を落とす。

片方殺せればそれでいい。怒り狂って巨人化するならそれもいい。

両方殺せるならそれが一番いい。

思い切り踏み込み、ライナーの背後を取った。幸か不幸か気付かれなかったようだ。右手に持った刃を首目掛けて、振り抜――――――――――――

 

「それでだ――」

「ライナー!!!!」

「!?」

 

ライナーには気づかれなかったが、ベルトルトには間一髪のところで気付かれた。俺の刃はライナーの髪を数本巻き込み通過した。その巨体でしゃがんで回避するとはな。

ライナーはそのまま前転するかのようにベルトルトの横に移動し、俺を睨みつける。

…なんだその目は。どういうつもりだ。

 

「…ハンク。なんのつもりだ」

「…」

「そ、そうだよハンク!僕たちは仲間だろ!?急にどうしたんだ!」

「…」

 

聞かれてないと思っているのか。まぁいい。それならそれで都合が良い。

乱心したとでも思っていてくれ。殺すから。

ライナーが一歩前へ出る。それにカウンターの要領でタイミングを合わせて右腕を突き出す。

狙いは頭部。巨人相手には微妙だが人間の姿なら即死だ。

 

「っ!」

 

ライナーの右手に手首をを掴まれた。完全なカウンターを止められた。格闘訓練を見ている限り、この暗闇の中で防げるとは思わなかったが…実力を隠していた?

 

「…っ!ハン、ぐがっ!!!」

「ライナー!?」

 

手の中で刃を一回転させ手首にある腕の筋を断ち切る。

一気に力が抜け振り払うと逆手持ちのまま首を狙うが左で殴られる。体格道理の物凄い一撃だが目を逸らさない。無感動に、無慈悲に、それでいて芸術的に。

この場で殺す。

 

「なんのつもりだ!もう冗談じゃ済まされないぞ!」

「…笑える話だな」

「なに?」

「大量殺人の主犯が、高々腕を切られた程度で冗談じゃ済まされないとは」

「…何の話だ?」

「…詰まらない冗談は嫌いだ」

 

怯んで動けないベルトルトは後でいい。一筋縄ではいかないだろうが次の攻防の中でライナーは確実に殺す。

再び攻撃を―

 

「…俺たちの話を聞く気は?」

「ないな」

「…僕たちにだって、」

「事情があった、か?」

「…そうさ」

「だからどうした。お前たちが鎧と超大型であるならば、その事実だけで俺はお前たちを無限に殺し続けることを誓える」

 

言い訳など聞く必要がない。会話の流れとこいつらを見ていれば事実であるということが丸わかりだ。

逆にこいつらが無罪だったとしても俺は謝らない。誰にどう責められようとも、怪しいこいつらを殺したことに後悔はないはずだ。

 

「お前は良いのかよ」

「…」

「周りを見ろ!こんな淀んだ世界に何を見る!お前の語る自由はここにあるのか!?先の無いものに縋って、信じて、裏切られた時お前たちはどうするんだ!」

 

手を広げ、声を荒げながら力説するライナーの顔は真に迫ると言った様子だ。教官が来たら厄介だと言うのに、などと考えてしまうが口には出さない。

 

「…たとえ裏切り者だと言われても、俺たちは前へ進む。だから、」

「人に委ねる安心感」

「…?」

「お前たちが何を考えているのかなんていうのは知らん。だが、」

 

「前を見る振りをして足踏みをするのは楽しいか?」

 

「血に染まった手で食った飯は美味かったか?」

 

「口先だけで語る兵士論を掲げて生きる生活は快適か?」

 

「人様の心を、土足で踏み躙るのは楽しいのか?」

 

「そうして、」

 

「そうして得た自由に価値はあるのか?」

「…あるさ」

 

俺の言葉に一瞬だけ動揺したようにも見えたが、すぐに言葉を返してくる。

苛立ちにも似た感情が俺を支配する。歯を食いしばり、飛び出しそうになるのを堪える。

 

「もう十分間違って来たんだ。ここで引き下がれるわけがないだろ!」

「…そうさ。もう下がれない」

「当たり前だ。お前たちの最後はここだ」

 

目に殺意を込めて睨みつける。負ける気はしないがむやみに飛び出すのは危険だ。実力を隠していたとなれば実力は不明。それでなくとも成績上位2名だ。警戒するに越したことはない。

 

「…ハンク」

「…」

「見逃せとは言わない。だが、俺たちと一緒に来ないか?」

「ライナー!?」

「命乞いなら聞かない」

 

今更何を言われても揺らぐはずがない。俺はずっと、そうやって来たんだ。

今更言葉なんかで変わるものか。

 

「…お前さえ良ければ、こっちへ来てほしい。確かにこの場での命はお前が握っている。だからこその交渉もあるが、それだけじゃない。お前の語っていた自由な世界を、俺はお前に見せることが出来る」

「そのために巨人どもの仲間になれと?」

「そうだ。それが最善だ」

「中々魅力的だが、」

 

言葉を発すると顔色が変わるのが分かる。殺されるのがそんなに嫌だったか。

まぁ、嫌だろうな。俺の腕を奪ったくせに。

 

「やめておこう」

「…。なぜだ」

「説明が必要か?まぁいいけど。あんな家畜以下の奴らと見る世界なんていう物に興味はない。どんなにおいしい料理も一緒に食っている奴が嫌ならおいしくないだろ」

「…そんな理由で、」

「それにな、」

 

 

 

「俺は人間だ。人間で十分だ」

 

「…そうか」

 

血を吐くように絞り出したライナーの言葉を聞くと、俺は刃を構える。

さっき手の中で回した時に布が落ちたらしく義手で直接持っているため義手に刃が食い込んでいる。こういうとき義手で良かったと頭の片隅で考えてしまう。

 

「…悪いなハンク」

 

背後で足音がする。

 

―もう一人いたのか。

 

ライナーとベルトルトが敵だった時点でもう誰が敵だったとしても驚かない。

誰だって殺して見せる。

隙を作らないように、コンパクトに背後に向かって刃を振り抜く。外れても回避して、体制の崩れた相手なら十分距離を取れるは――――――

 

 

ドンッ!と大きな衝撃が体を突き抜ける。次の瞬間、俺の視界がぶれ体を襲う浮遊感。訓練兵時代毎日のように味わっていたあの感覚だ。

どさりと自分の体が地面に落ちる音を確認すると、反射的に体を起こし距離を取る。脳震盪を起こしたかのように頭に鈍い痛みが起こるが全力で体に渇を入れ、前を向く。

視界がぼやける。跳ね起きたはいいものの膝が震えている。今襲われたら何もできない間に殺されるだろう。

しかし、表面上は無表情で睨みつけるかのようにライナーを見据える。

 

 

だが俺を襲った攻撃の主を、目に入れない。

意識して、外す。頭がくらくらするというのもあるが、思考は冷静だ。

残酷なまでに現実を脳に叩きつけてくる。

こいつらを助けて、俺を攻撃。

 

―あー、駄目だ。

 

きっと、泣いてしまう。

ただでさえ膝が震えているというのに、見たら確実に崩れてしまうだろう。

常に殺し、抑え、それは平常心へと変わっていた心の防壁は、ぼろぼろと音を立てて崩れていくような気がする。

 

―何やってんだよ、アニ。

 

 

 

 

 

「助かったぜ、アニ」

「…」

「本当に助かったよ」

「…」

「…アニ?」

「…何やってるの?」

 

無感情にそう告げる金髪の少女は、言葉の内に恐ろしいほどの激情を秘めていた。

『分かりにくいがあいつは色んな表情をしている。お前らにも分かるだろ。』

ライナーは過去にハンクがそう言っていたことを思い出す。今のアニは、一見無感情に状況を訊ねているように見えるがそうではない。

怒っている。それも、本気で。

過去に何度か挑発して怒らせたことがあったが、それの比ではない。比べるまでもない。

今、この場でアニが殺しにかかって来ても何の不思議もないくらいに激怒している。

 

「…いやこれは」

「…なんで、」

「…え?」

 

ベルトルトは弁解の言葉を口にしようとするが、それを遮るようにアニの言葉が被せられた。アニは気付いている。

今この場がどういう状況なのか。ライナーは口に出さず何も言わないが、ある種危機的状況なのではないかと思っている。

 

「なんでハンクがここにいるの…?」

「…」

 

ライナーは視線を逸らす。ベルトルトは何も言えずに俯く。

アニはその二人を見ようともせず視線を下げたままだ。どういった表情をしているかは誰にもわからない。

ハンクはと言えば、アニの登場から息をしていないのではないかと言うほど動かない。

 

「答えなさいよ。ライナー、ベルトルト」

 

静かな声が、響く。

答えられない。答えない。

ライナーもベルトルトも知っていた。アニはこのことを、誰よりもハンクに知られたくないことを。

やってしまった。ライナーとベルトルトは至極単純な失敗から、アニを傷つけた。

どうしてこうなったのだろう。

アニは呆然と考える。背後からでは誰か分からなかったため攻撃したが、それがハンクだったとは。

これではまるで仲間だと。弁解の余地などない。

 

「…最悪」

「…すまな」

 

謝罪の言葉の口にしようとしたライナーに石が当たる。

投げたのはハンクだ。

刃なら即死していたかもしれない事にライナーは危機感を覚え、視線を鋭く向けるがハンクは石を投擲したポーズのまま視線を向けるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

耐えられない。

なんだ、どういうことだ。

アニは…敵だったのか。

なんだ、この感情は。

湧き上がる不思議な感情は俺の意識をあやふやにする。

先程まで感じていた殺意はどこ吹く風。俺は真っ白な頭でひたすらに考える。

どうすればいい。どうすれば。

俺はとりあえずといったよくわからない意識でこう判断した。

 

―攻撃、しなきゃ。

 

足元にある石を、投げる。

寸分違わずライナーの額に直撃するが、体にまったく力が入っておらずダメージにはなっていなさそうだ。

こちらに視線を向けたアニと目が合う。

アニは――――――

 

 

 

 

 

泣いていた。

 

 

 

それを見た俺は、目頭が熱くなるのを感じる。

なんだこれは。なんなんだ。

やめろ、やめろ、やめろ。

俺の中に、入ってくるな。

体が動かない。よくわからない感情が俺を支配する。

 

動け。動け動け動け。

 

ただひたすら、自身の中で繰り返すたびに体は痺れていく。

 

「…ハンク」

 

俺の名を呼ぶその声は、震えている。

その声を、俺は好いていた。そんな声で俺を呼ぶな。

 

「わた、し、は…」

 

俺の体に熱が籠る。動けと念じるエネルギーは、爆発した。

一瞬だった。これでもかと地面を踏みしめていた足から出た速度は早く、一瞬でライナーに近づき殴り飛ばす。

一瞬のことで動けなかったベルトルトを蹴り飛ばす。

刃を、アニに突き付ける。

 

「なぜだ」

「…ごめ、んな、さ、い」

「詰まらない冗談は嫌いだ」

「…」

 

アニは、泣いている。

俺は、泣いているのだろう。

顔を伝う液体に、温かさを感じる。

流れ出た涙が、今まで自分を守ってきた防壁を崩す。

自分が、出てしまうのが怖い。

本心を伝えるのが。

突き付けた刃を持つ手をアニが優しく包む。

言ってしまいたい。

でも、言えない。

俺が、今のままの俺でいるために―――、

 

「私は、ハンクの敵」

「―――――あ」

 

俺は、崩れた。

泣いているのだろうか。

これは涙なのだろうか。

あの日あの時、俺が俺でいるために作ってきた防壁は完全に崩れ去った。

全てを奪った巨人共を殺す、刃。

そうあるために生きてきた俺は、“ハンク”

何でもない、ただのハンク。

 

「なぜ、お前なんだアニ」

 

まだ手はアニに握られている。

顔も上げられず、震える声で言葉を放つ。

動けない。動かない。

上手く言葉が出てこない。

でも、それでも内から湧き上がる言葉をぶつける。

 

「他の誰でも良かった。敵ならば殺した。でも、なぜだ」

 

アニは言葉を返さない。時折頭に温かいしずくが落ちてくるのを感じる。

 

「なぜ、お前なんだ」

 

恥も何もない。一度崩れた防壁は、簡単には治らない。

 

「全てを切り裂いて、貫いて、自由を、掴むから――――」

 

ヤメロ。言うな。言うな、俺。

止まらない。これを言ったら、もう俺は―――――――――――

 

「“俺を、一人にしないで”」

 

言葉を発すると同時に視界が暗転してゆく。

願わくば、悪夢が去りますように。

 

 

 

 

 

 

「“俺を、一人にしないで”」

 

そう告げたハンクはアニにもたれかかるように気を失ってしまった。

アニは、泣いている。

ハンクは強いようで、弱かった。脆い柄に取り付けられた名刀。支えていた物がなくなった名刀は、自身を傷つけたのだ。

ライナーはその光景を一部始終見ていた。そして、悔やむ。

ベルトルトは、見ていられないとばかりに視線を外す。

二人の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

アニは気を失ったハンクを抱きしめると、囁きかける。

 

「一緒に、いるから」

「…アニ」

 

ライナーは声を掛ける。アニは意志の戻った瞳をライナーへ向け、睨みつけるかのように見つめ言葉を紡ぐ。

 

「私は、降りる」

「…」

 

ライナーもベルトルトも何も言えない。

決めたのだ。もう誰にも何も言わせない。アニの言葉にはそういった思いが込められていることが伝わってきていたからだ。

 

「いいのか、それで」

「いい」

「…ハンクは、」

「一人になんて、させない。どう思われていたっていい。私には、ハンクが必要」

「…そうか」

 

アニの決意の固さに、血を吐くように言葉を返すライナー。

裏切るなら殺してしまおうかと考えてしまうライナーは、先程の光景を思い出し自己嫌悪に陥る。

 

(あれを見て、そんなことしか考えられないのか…っ!!!!俺は…っ!!!!)

 

目的を遂行するだけならば何も間違っていない。しかしそんな考えを持つだけ無粋なのだと、歯を食いしばり自分を殺す。

 

「大丈夫。何も言わないから。…ハンクを、お願い」

「…あぁ」

「…アニ!!」

「…」

「いつでも、戻ってきていいから」

「…そう」

 

そう言うとアニはライナーにハンクを預け、去っていく。

ライナーはそれを見送るとベルトルトに視線を送る。

ベルトルトは泣いていた。

ライナーは勘付いていたが、ベルトルトはアニの事が好きだったのだろう。

でも、だからこそ。優しいベルトルトは本人の意思を尊重する。

人を殺す巨人であっても、心だけは人間でありたい。

ライナーはそう思い、何も言わずにハンクを宿舎へと運んで行く。

 

 




個人的にはこれくらいあっさり進んだほうが楽しいと感じます。

ハンクのフルネームはまだ出てきていませんが、ハンクは自分のことをハンクとしてしか回りに紹介していません。
ある種クリスタが偽名的なそんな感じ。ちなみにハンクという名前は本名です。家族とかそういう柵に囚われない一人の刃…という感じでファミリーネームを名乗りません。

俺の中のアニと違う!!とかそういうのは勘弁してください。本当に。

ハンクは感受性の高い時期を自分を殺すことで生きてきたので無感動自分がよければいいや人間に成長しています。今後もずっとこんな感じでしょう。
ただ、本心を隠しているとかではなく単純に自身の変化に感情が追い付かずに言わなくていいような余計なことまで言ってしまったのが今回のハンクです。
聡い皆さんのことですから大丈夫でしょうが、一応いつもの補足。

次の展開も自分の中ではできてるので早めの更新を頑張りたいと思います。

誤字脱字・及び感想、質問等あればお願いします。評価とかしてくれても嬉しいです。
では今回はこの辺で。でわでわー。


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10話

どうも皆さんお久しぶりです。
なんか気がついたら1カ月以上たってました。

あ、この話からルートの一つに入ってます。
条件とかは終わった後にでも話します。

では、どうぞ。


「…あー、だるい」

 

口を開けば出るのは体のダルさと頭痛のうっとおしさくらいのものだ。

“どういったわけか気が付いたら朝だった”まではいい。別に特に支障があるわけじゃない。

“よくわからないがライナーとベルトルトの余所余所しさ”だってどっちだっていい。そんなもの犬に食わせて捨てておけ。

問題は――――――――

 

「どうしたの?大丈夫?」

「――――」

 

朝食を食べに出てきて遭遇してから、俺にくっ付いて離れないアニだ。

頭痛がする。周りの目などあまり気にしたことがないが、なんだこれは。

別に問題があるわけではないのだが――――いや、ある、のか?

細かいことは良い。問題は一見いつもどおりなのに体を密着させて来たり、俺をやたらと心配してくるこいつだ。

極めつけは、

 

「ハンク、大丈夫?食べさせてあげようか?」

 

などと言ってくる始末。

何が大丈夫?だ。それはこっちのセリフだ。それに俺は一度たりとも自分で食事を摂れなかったことはない。

ここ数年同じ釜の飯を食っているというのに一体何を見ていたというんだ。

…興味がなかったと言われればそこまでだが。

 

「どうしたの?」

「…なんでもない」

 

悪意の無い顔で覗き込んでくるアニの行為を無下にも出来ないが、食べさせてもらうなど洒落にならない。

アニの行動は正直奇行だ。

周りを見ても俺という周りから見てもよくわからない存在と、アニの奇行のせいで誰もこちらを見ていない。

いい現実逃避だ。俺もできるなら夢にしてしまいたいほどだ。

ミカサとアルミンを発見した。

何となくミカサと目があったので目に精一杯力を込めて、“助けろ。”と送って見る。

伝わったのか伝わっていないのか、謎のガッツポーズを返してくれた。

ミカサのガッツポーズを見て今度はアルミンと視線が合う。今度こそ…と“助けろ。”と送っておく。

アルミンはというと…照れたように顔をそむけやがった。ダメだあいつ。完全にアブノーマルな方向だ。近づかないようにしよう。

何とかミカサに…と思ってミカサを見ようとすると、頬にそこそこの痛みが走るので振り向くとアニが目を細めてスプーンの柄の部分を俺の頬に当て、ぐりぐりと抉っているではないか。正直痛い。

 

「ねぇ、食べないの?それとも…ミカサが良いの?」

「―――――」

 

別に誰が良いとかではないため、返す言葉はない。

 

「いや、別に―――」

「まさか…アルミンが良いの?」

「それはない」

 

おい、アルミン。聞こえたのかもしれないがそんなことは万に一つもないから黙って食ってろ。

 

「じゃあ―――」

「俺はもういい」

「え?」

 

そう言うと一つ嘆息する。このままここに居ても事態は好転しないだろうからな。

そのまま席を立つと、部屋に戻ることにする。

 

 

 

 

 

「よ、よう、ハンク」

「―――」

 

部屋に戻って見たら今度はうっとおしさ50%増の巨漢が居た。

いつものフランクさはどこへ行ったのか謎の馴れ馴れしさで肩を組んだりしてくる。

うざい。

 

「どうした」

「どうもしてねぇよ。お前こそ調子はどうだ?」

「別にどうもしない」

「あっはっはっはっは!そうかそうか!」

 

ばしばしと俺の背中を馬鹿力で叩き始める。何が楽しいのか笑ってやがるのが腹立つ。

痛い。

とりあえずムカついたので顔面に拳を叩きこんでおく。

ぐえとかいう唸り声を上げて倒れたが、あの巨体なのだ大丈夫だろう。

今日は昼過ぎに所属兵団を決める。

調査兵団志望は変わらないので特に覚悟も何もない。

時間はまだある。頭痛もするし違和感もある。どう言った理由かは分からないが、大抵のことは眠れば治る。

どうせ睡眠不足だろうと勝手に判断し昼まで眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

「ハンクの様子はどうだ?」

 

鼻を赤くした巨漢の少年―――ライナーは訊ねる。

 

「…なんか、おかしいよね」

 

それに答えるのはライナーより背丈だけ見れば一回り大きな少年――――ベルトルト。

 

「…だよな」

 

ハンクの様子はおかしかった。

二人の少年は人類を滅ぼそうとした巨人であり、その内密な会話を昨晩ハンクに聞かれ、殺されかけた。

アニという存在がなんらかしろの影響をハンクに与え、ハンクは意識を失ったためその場では特に何もなかったが朝になれば嫌でも顔を合わせることになるのだ。

正直な話、気まずい。というか、自分たちの命が危険だ。

調査兵団含め、壁の中の人員は超大型巨人、そして鎧の巨人は巨人の亜種くらいにしか捉えていない。

ハンクの普段の行動を鑑みるに、周りの人間が信用するとは思えない。

酷い言い方だが、彼の人望の無さは知っている。

冷酷、無慈悲、無関心。

興味がなければ話など聞こうともしない、敵であるならば仲間であっても腕を切り落とすくらい簡単にする。

目的意識が高いと言えば聞こえはいいが、同じ目的を持つエレンとは天と地の差をつけられるほどの人望の差がある。

しかしそんなエレンとハンクが仲が良いのが不思議なものだ。

そんなハンクが急に「ライナーとベルトルトの正体が巨人。」と言いだしても信用されるかどうかと言われれば、それは否だ。

ライナーもベルトルトも成績上位者ということと合わせて、かなりの人望を持っている。

ライナーに至っては下手をすれば同期の中では一番信頼されているのではないだろうか。

そんな真逆の人望の二人のどちらを信用するかと言われれば回答など火を見るに明らかだ。

ハンクの妄言として即座に吊るし上げをくらうだろう。

だが、そんなことはハンクは分かっているだろう。ハンクは頭が良い。…というよりかは勘の鋭さと普段見せない興味を一点に集中させているからなのか集中力がすごいのだ。

他人に出せない答えを“なんとなく”“そうなんじゃないか”などといって答えを出すことが出来る。あとは遠慮がないので教官に対してもズバズバと質問をしていた事が二人の記憶には新しい。

そんなハンクが自分のこととライナー達のことを比べてそんな結論に至らないわけがない。

だから二人は考えていた。

 

――――おかしい。

 

ハンクの行動はおかしかった。

目を覚ましたハンクは、特に警戒するわけではなくいつものように目が覚めていない様子でふらふらと起きあがると平然と「ん、んー…ふわぁ~…だる。」などと言葉を残して顔を洗いに行った。

戻って来てからもライナー達が警戒しているのを察したのか視線を向けてきて小首を傾げたかと思うと「…馬鹿なのか?」と毒を吐いてきた。

そのあともどういうわけかハンク以上におかしな行動をとるアニに呆然としながらもハンクを見ていると違和感の正体に気付いた。

というよりかは気付いていたのだが、警戒しすぎて結論を先延ばしにしていただけである。

 

――――おかしい。

 

ハンクは、“あまりにも自然すぎる。”

先程もいつもよりテンションがおかしくなったライナーの顔面にパンチを叩きこんだことと言い、“いつも通りすぎる。”

…ライナーはここまで思い返して自分の扱いの酷さに軽くショックを受けたがそれどころではないので詳しい事はいいとしよう。

 

「…私はもう協力しないって言わなかった?」

 

金髪の少女―――アニは嫌悪を隠そうとせず言葉を紡ぐ。

 

「…そういうな。ハンクの事に関しては、俺たちは情報が欲しい」

「気持ちは分からなくはないけど、私はもう関係ない」

「本当にそう思うか?」

「…」

「いくらお前が無関係になっても、お前が俺たちと協力関係にあったという事実は変わらない。ハンクの不自然さも気になる」

「…だから?」

「ハンクについての考察に参加してくれ」

「…はぁ」

 

アニは溜息をつくと、壁に背を預ける。

ライナーの発言が馬鹿すぎて呆れ果てているのだ。

ベルトルトすら呆れ顔なのだから相当だろう。

 

「なんだ、その反応は」

「…はぁ」

 

もう一つ嘆息。切羽詰まっているのか元々馬鹿なのか。

いや、ここに入って出会った男はみんな馬鹿だ。…一人を除いて。と、自己解決して向き直る。

 

「まぁいいわ。協力しろとか言ってたら自滅覚悟で全ての情報を流してやろうと思ってたけど…それくらいなら付き合ってあげるわ」

「さらりと怖い事を言うな…」

「ま、まぁ、アニも協力してくれるって言うんだし、少ない情報で頑張ろうよ」

「…とは言ってもねぇ…」

 

ハンクの行動がおかしいと言っても、その理由を結論付けるのは難しい。

いつも通りの行動をしているのにそれを不自然だと感じるのは、自分たちに後ろめたいことがあるからなわけであり…それを証明できるわけもなく、本人に直接訊ねることもできない。

変な話、誰にも証明できない事を考察して結論付けようと言うのだ。

 

「…はぁ」

 

アニはここでもう一つ嘆息。

やっぱりライナー達の案に参加したのは無駄だったかもしれない。

証明できないことを考え続けるなど時間の無駄だ。

 

――――やっぱり、馬鹿ばっかり。

 

とはいえ、時間を掛ければ仮説の一つくらいは立つかもしれないし…と真面目に考える。

きっと無駄だろう。

まぁ、いいけど。と思考を切り替えるアニであった。

 

 

 

 

 

目を覚まし、同期が集合している場所へ向かう。

数刻ほど経つと集合を掛けられ、先日会話を交わしたエルヴィンが演説を始める。その内容は調査兵団の現状を含め、正直調査兵団への兵士を募る内容としては最下級だ。

あんな話を聞けば、入ろうとする奴などかなりの数に絞られるだろう。

だが、それと同時に重要そうな話が混じっていた。

エレンの実家の地下には何かある。

それだけ。たったそれだけ。

だが、それだけのことが重要なのだ。

エレンという希望はそれだけでは何の役にも立たない。

彼単体で出来ることなど知れている。エレンが居れば巨人がなんなのかわかるのか?答えは否だ。エレンが居れば壁の秘密が解けるのか?答えは否だ。エレンが居れば巨人を駆逐できるのか?答えは否だ。

足りない物が多すぎる。情報も、力も、先を見るための希望も。

エレンの地下に何かあるなら、それは十分な可能性だ。

それに…エルヴィンのあの目。

何かを探っている?

…この前俺が話した内側の敵の事か。

 

ぐわりと視線が揺らぐ。立ち眩みのような感覚だ。

体調は万全だ。少なくとも急に立ち眩む理由など無い…と思う。

頭が痛い。味方に…敵…?

いない…とは言えない。…そんなことは分かってる。

だが、なんだ?…くそ、違和感が拭えない。

迷うな。決めたんだろ、ハンク。

俺の敵は、俺の自由を阻むもの全てだ。巨人も、人間も関係ない。目の前の障害全てが敵だ。

一つ、深呼吸。小さく息を吸い、小さく吐く。

深呼吸にしては小さな呼吸。でも、それで十分。迷うな。この違和感の正体が、何であろうと。

 

エルヴィンの演説はほとんど聞き流していたが、周囲を見渡すとほとんどの者は顔を顰めている。

当然と言えば当然なんだが、過剰に反応しすぎじゃないかと思う。

たしかに先日巨人に壁を破られて死の恐怖をその身に味わったという事実は同情に値する。だが、そんな世界だからこそ先を見通せる力と恐怖との折り合いをつけて生きていかなければならないと思う。

真っ向から否定するつもりは当然ないが、もう前例が出来てしまった以上“無関係でいることが安全”ということはなくなったのだ。

…まぁ、別にいいけど。

 

 

終わって、結局残ったのは十数名。おおよそ予想通りのメンバーだ。

意外だったのはあれだけ内地志望だと騒いでいた馬面と…アニ。

あとは成績上位の面々と、アルミンなどの目的意識のある奴ら。後は知らん。

 

「……皆…」

「あぁ……クソが…最悪だチクショウ…調査兵団なんて…」

「…う…嫌だよぉ…こわいぃ…村に帰りたい……」

「あぁ…もういいや…どうでもいい」

「泣く位ならよしとけってんだよ」

 

エルヴィンの声が響く。

 

「第104期調査兵団は敬礼をしている総勢22名だな」

 

22人…意外と残った、というべきか。

 

「よく恐怖に耐えてくれた…君たちは勇敢な兵士だ。心より尊敬する」

 

 

 

 

 

頭に血が上る。きっと俺は今、怒っているのだろう。

間違ったことをしているつもりはない。目の前に居るこの野郎をぶっ飛ばしてやりたい気分だ。

 

きっかけは単純な事。エレンに絡んでいた馬面にイラついて口を出したからだ。

 

「お前、ミカサを殺そうとしたらしいな?それは一体どういうことだ?」

「違う。エレンはハエを叩こうとして…」

「お前には聞いてねぇよ」

「ミカサ一人くらいなら事故の範囲だろ」

「…あ?」

「偶然ミカサがそこに居ただけかもしれないだろ」

「…てめぇには聞いてねぇんだよ、根暗野郎」

「どうした馬面。口先だけか?俺は自分の意思でエレンもミカサもアルミンも纏めて殺そうとしたんだ。事故かもしれない事象に文句を言ってる暇があったら改善点の一つでも出して見ろ」

「事故…だと…?殺そうとしたのも許せねぇが…自分で何を言ってるのかわかってるのか?」

「貴様こそ何を言ってるのかわかっているのか?」

「…なに?…俺たちは自分の命をエレンのために使うことになるんだ。その辺しっかりさせておくのが」

「そんなことは聞いてない。今まであれだけエレンの事を馬鹿にしておいてちょっと自覚を持ったら説教か」

「…」

「イラつくんだよ。分かったようなこと言って、自分の都合だけ押し付けて」

「…うるせぇ」

「お前の言いたいことが分からないでもないが…今のお前は認められない」

「…ハンク、言い過ぎ」

「いいか馬面。お前がどう思おうとも、エレンがどう思おうともお前がエレンにぶつけてきたものは無くなりはしない。良い事言って、正しい事を言っただけじゃ割り切れないんだ。お前が一言エレンに言うまで、お前にエレンに言葉を掛ける資格はない」

「…良く喋るな」

「ハンク、ジャンの言うことも聞いてあげて」

「…エレン。この馬面はお前にしっかりしろと言いたいらしい。いいか、この馬面は気に食わないが言っていることは間違っていない。いいか、“お前次第だ”」

 

馬面には悪いが、どこで誰が何があろうともお前はエレンに謝るべきだ。

俺も言いすぎたかもしれないが…いや、いつも通りか。

嫌われようがなんだろうが、別にいい。

 

 




正直ジャンの都合のいい立場はあんまり好きじゃないです。
言ってることは正しいけど、だからってそれまでのことが無しになるとは思いません。

ともかく、次はできるだけ早めに…

誤字脱字あると思うので報告お願いします。
後感想評価まってまーす。でわでわー。


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11話

独自解釈…というかハンクが存在することで見解を深めた回。
何言ってんだこいつ。みたいなところとか文章が変なところがあったら教えてください。


馬に乗った俺たち調査兵団は壁外調査へと出かける。

周りでは調査兵団の兵員が大声で叫びまくっているのが印象的だ。ちょっとうるさいと思ってしまうが、実際うるさい。

壁から出るとそこは地獄だ。まるで地獄。

全てが荒れ果てさせられ、無残にも砕かれた建物の多くがそこにある。ついでに言うと、ちょくちょく討伐し忘れていたらしい巨人に遭遇するのも俺の中ではマイナスだ。

適当な仕事しやがって。

 

今回の遠征は“表向きは”言って帰ってくること。その実態はまた違う。

…というよりも、あまりにも不自然なタイミングだ。

新兵が入ったからと言ってそんなに急に実勢経験を踏ませる必要性をまるで感じない。

たしかに最初の遠征で生き残った兵士は大成するみたいな言葉があるが、このタイミングではまるで“使える兵士”と“使えない兵士”で振るいに掛けているようなものだ。

だが、調査兵団の上の連中にきっとそんな真意はないだろう。あくまで偶然。

何も話されていなければ反感の一つでも湧いたのかもしれないが、今回は事前に打ち明けられていた。

それに、俺は出ていなかったがエレンの事を法廷で近日中の壁外遠征で見極めるとか何とか言って連れ帰ってきたらしいし仕方のない部分も多いだろう。

とはいってもどこかで大きな経験を踏ませて成長させなければ永遠に巨人に怯えているだけになってしまうのも分かる。

特に俺を含めた104期生は巨人と対面したことがあるのだ。俺は別に今までと変わりないが、兵団を決めたあの日の夜の夕食時は調査兵団志望組のテンションが死ぬのではないかと思った位低かった。

俺にだけ話してあるというのはどこかで俺を含め104期生を試したようだが、合格者は俺一人とのこと。

いつそのような事をされたのか全く記憶にない事だが、結果的に良い方向へ行っているようでなによりだ。

 

 

 

俺の居る位置は、次列中央。つまり指揮だ

頭を使うのがそこまで得意でもない俺をここに置く意味などあまり感じないが、信頼されているということにしておこう。

まぁ、いいけど。

 

飛んでくる信煙弾を見て、エルヴィン団長が指揮を出す。俺たちはそれについて行く。

長距離索敵陣形の中で重要でありながらも、かなり退屈な場所だ。

しかし、今回の遠征が命がけの遠足なだけではないことを知っている分多少の緊張が体に走るのを感じる。

 

 

 

 

どれだけ進んだだろうか。かなり走ったと思うが、壁にたどり着くにはまだまだのようだ。

すると、エルヴィン団長がこちらに合図を出してきた。

その合図を皮切りに、周りの兵士が同じ方向を向く。そちらからは黒い信煙弾が複数飛んでいるのが確認できる。方角的には、アルミンが居るはずの方向だ。

若干の嫌な予感がしつつも極めて冷静に指示を待つ。

 

「森だ。この先に森がある。そこに運んできたトラップを仕掛け、捕獲する」

「了解」

 

今回の遠征の目標は、往復の確認の遠征に見せかけた壁の中に居るであろう人類の敵の確認及び捕獲。

どうやら物凄い金額をつぎ込んだトラップをいくつも持ってきたらしいし、それだけ今回の遠征に本気だというのが窺える。

 

 

 

 

森につくと、開けた場所に敵を誘い込むとのことで外では今多くの兵士がそれをやっているらしい。

エレンの巨人体を見た限り、意志を持った巨人の戦闘力は尋常ではない。あのサイズでまともに思考し、馬とほぼ同速で走り圧倒的な力で敵を粉砕する。そして極めつけはあの超回復力。誘導するのにも多くの人命が消えるはずだ。これが誘導ではなくもっと違う作戦なら被害は少ないのだろうが…誘導となると色々な方法を用いなければならない。

まずぱっと思いつくのはエレンを餌に誘導すること。だが、これはリスクが高すぎる。エレンを攫われたら人類に明日はないのだ。ともなると、少なからずダメージを与えて意識を自分に向けさせるとか。…ただ、これも理性の無い通常の巨人ならまだしもまともな思考が出来るとなると効果は薄そうだ。目的意識があるのならば、それだけ冷静に物事を運んでくるはず。ちょっと邪魔だからと言って怒りに身を任せるような奴がこんな任務をしているとは思えないからな。

となるとだ、結局エレンを上手く利用しつつそのほかの兵士に上手い事誘導してもらうしかなさそうだな。…あぁ、これは死ぬな。たぶん、壊滅するんじゃないかっていうくらい死ぬ。

俺の頭程度で思いついた作戦だから何とも言えないが、本当にこんな作戦ならばほとんど死ぬだろう。しかも、エルヴィンのあの口ぶりからすると誘いこむということを念頭に置いている奴はほぼいないと言っていいはずだ。

ということは“結果として誘導していた”事にするだけで、兵士は基本的にエレンを守るために全力で巨人を殺しに行くはずだ。殺せればそれでいいが、そうはいかない。

…全く、外道ここに極めたりと言ったもんだな。だが、きっとそれが正しい。

馬面に賛成するわけではないが、命は金貨だ。エレンのように貴重な存在ほどレートが高く、俺たちのような使い捨ては使い捨て同然。エレンの命を守り、人類の未来のための情報を買うために…命の金貨を使うんだ。

あぁ、馬面よ。少しお前の気持ち分かったかもしれない。死にたくないよなぁ。俺だってそうだ。でもな、結局いつだって生き残る奴っては迷わない奴だ。

本当に何かを成し遂げたいなら一瞬でも迷うな。迷えば、後悔してもしきれない物まで失うかもしれないんだからな。まぁ、それでも俺は謝らないけどな。

なぁ、エレン。こいつは責任重大だぜ?お前の知らないところでそれだけの命を吸って生きてるんだ。お前の存在価値は計り知れなく高い。吸った命の分だけお前は何かしなきゃならないしな。あーあ、ご苦労な事だ。

………………まぁ、俺もなんとかしてみるさ。

 

 

 

トラップを開けた場所に入ってきた獲物を全方位から狙い撃ちにして磔にするように配置する。

罠の詳細は大砲の様な物から射出される、鉤爪と矢の中間のような鏃に超強力なワイヤーを付けたものだ。理屈はわからないが理論上一度刺さればよほどのことがない限り身動きはとれなくなるらしい。どうやら先端は過去の人類が壁の外で使っていた碇というものに酷似しているらしいが、俺には興味がない。

捕まえて尋問なりなんなりで目的を吐かせてやる。

 

「やぁ、ハンク」

「…」

「んー、相変わらず冷たいなぁ。私の何が気に入らないっていうんだい?」

 

気を抜いていたわけではないが、少し考え事をしていた俺に話しかけてきたのはハンジ分隊長。

正直俺の苦手な人だ。まず、性別不詳。次に巨人の事を喜々として話す。巨人の実験で巨人の事をまるで家族のように扱う。

性別不詳はまぁいい。アルミンだってそれっぽい恰好をすればそう見えなくもないし気にするようなことでもない。ただ、隠し事が多いと信用しにくい。

次に巨人についてだ。何が楽しくて巨人について楽しく会話しなくてはならないんだ。俺は別に巨人に興味がないわけではない。だから巨人について多くの知識を持っているこの人と話すこと自体は無益だとは思わないが、楽しそうに話されるとやり辛い。

最後に、一つ前と通じる事だが俺は巨人が嫌いだ。殺してやりたい。視界にだって入れたくない。だが、実験などをすること自体は無駄ではないことも理解している。

だが、それはそれ。これはこれだ。

目撃した時は衝撃だった。巨人を槍で突き刺し、絶叫している。いや、巨人の叫びに合わせて号泣していた。

引いたとか引かないの話しではない。

俺は少し、軽蔑した。

別に俺だけが巨人を憎んでいるとか、そういったことなど思っていないしエレンや他の兵士だって同じように思っているはずだ。

だが、それでも巨人の気持ちになって泣くなどあり得ない。憎くないのか?悔しくないのか?

なんのために、生きているんだ?

もしかしたら、俺には分からない体験をしているのかもしれない。俺には到底理解できない考えを持っているかもしれない。

聞けば答えてくれるかもしれないそんな疑問を、俺は聞けない。

ただの食わず嫌いなのかもしれない。だけど、俺が俺であるために認められない。

だから、嫌いだ。

 

「…」

「…やれやれ。無視は辛いんだけどなぁ…」

 

なんて落ち込むそぶりを見せてくるハンジ分隊長。

 

「で、なんですか?」

「お。いやいや、君は色んな新しい発想を持ってきてくれるからね。今回の巨人についても何か考えがあるんじゃないかと思ってね。どうだい?」

「…」

 

そんなことを言われても困るだけなのだが。とも思うが顔色には臆面も出さないようにする。別に巨人談義する分にはちょうどいい相手だ。

 

「さぁ?とりあえず俺の知り合いにはいないと思いますが」

「知り合い…っていうと104期生かい?」

「…えぇ。全員の顔と名前は覚えてはいませんが…とりあえず今回出てくるであろう巨人は俺の知り合いには“絶対に”いません」

「へぇ、凄い自信だね。どうしてだい?」

「まず、壁の中に巨人が入り込んでいるとして人間に化けているという前提で今回の作戦が立てられているのは知っているな?…じゃない、御存じですね?」

「敬語苦手なら無理しなくていいよ。私もエルヴィンにはタメ口だし」

 

敬語を使わなくていいと言ってくれるのはありがたい。少し気が楽になったので思っていることを話し始める。

 

「じゃあ、遠慮なく。作戦上では敵は何かしろの理由でエレンを狙うために、巨人による犠牲が出ても全て内部とは無関係に出来る壁外調査に合わせて狙ってくること前提で多くの作戦を組んだ」

 

うんうんと頷くハンジ。

 

「そこで重要なのは、どうしてエレンを狙うか。これは俺の友人の推論であることはこの前エルヴィン団長にも話した通りだ」

「本来であれば殺し切れていたはずの人類が生き残っていること。超大型とともに現れて内扉を破壊することが可能な鎧が現れなかったことだね」

「エレンが巨人化したことで、それどころではなくなったという事実が人類存亡にも繋がっている可能性の高さ。これは団長含めて賛同を貰った通りだ」

 

俺は木に凭れかかり、話を続ける。

 

「なら、兵団の中のどこかに…あの時の現場に居合わせた中に犯人が居る可能性は極めて高い。いや、確実だ。だが、104期だとして調査兵団に居る奴がそのまま動くのは怪しすぎるとも思う。もちろん絶対ではない。しかし、人間が人間のサイズでエレンを攫うのには無理がある。壁外ともなればなおの事のはず」

「対象が壁外で行動を起こすとなると、極めて自然な流れで巨人体で襲いかかってくるってことだね。ここもこの前の会議で話したね」

「あぁ。あくまで俺の知り合い…つまり104期に限った話になるが仮にこの中に巨人の仲間が居て情報を伝えていてもその中に行動の実行犯がいるとは考え辛い」

「ちょっと希望的観測のように聞こえるけどね」

「確証はないが、自信はある」

「と言うと?」

「巨人の姿になるというのは言うのは簡単だが、実際はそれどころの騒ぎじゃないだろ。調査兵団に居るのならば一人だけ隊を外れるわけにもいかない。仮に外れたとして、それが目撃されれば実行犯であると言わんばかりだ。さらに言えば変身時の蒸気も隠しきれない。長距離索敵にまぎれて変身し、その組みを全滅させたとしてもだ…なぜ一人だけ生き残る?確かに運良くなどというのは簡単だ。ただ、疑念などは残ってしまう」

 

ふぅ、と一息つき言葉を繋げる。

 

「本気で事を起こそうとしているなら、少しの疑念も残したくないはずだ」

「たしかにそうだね。でも、それだと104期生の潔白にはならないんじゃない?」

「別に俺は104期生の中に内通者が居ないとは思っていない」

「え?」

「そんなに不思議な事を言ったつもりはないが…あくまで推測の域で言えることは、エレンは白。それ以外は全員が黒の可能性が残っている。ただ、今回の実行者が104期生に居ないというのには自信がある。新人であり、かつ大した研修期間も無く実戦に駆り出された俺たちは多くの熟練者とともに居る。俺があんたたち分隊長、エレンが兵士長、アルミンは名前は忘れたが俺たちに長距離索敵陣形の教習をした人。他もそれぞれ熟練者に囲まれていることだろう。…そんな中あからさまに怪しい行動を取って見ろ。“多少の疑念”どころか“実行犯扱い”だ」

「なるほどね。“新人だから”付けた補助の兵士が結果的に監視にもなってるってことだね」

「そういうことだ」

「…たしかにそうだ。でも、“絶対”は言いすぎじゃないか?」

「…」

 

たしかに。この世に絶対など無い。

 

「もっともな意見だ」

「もっと厳しい人だって、聞いてたけど…意外だね」

 

にこにこと笑う顔に更なる苛立ちを覚えるが、我慢する。

ただでさえ俺の身勝手で嫌っているのだ。堪えろ。

 

「……か」

 

一言、呟く。

 

「え?今なんて?」

 

聞こえて無かったらしいハンジは聞き返してくる。

今日の俺はよく喋る。どこでブレ始めたのだろうか。いや、いつもこんなものか?

…まぁ、いいや。

 

「はっ。なら、俺が甘くなったのか」

 

別に聞かれて困るような内容ではないので、しっかりと聞こえるように言ってやる。

背後でどんな表情をしているかわからないが、今の俺の顔は赤くなっている気がする。

何に照れてるんだ、馬鹿らしい。ただ、俺の顔の熱は中々治まらなかった。

 

 

 




ここまでの原作のとの違い。
1、アニが調査兵団に入っている。
2、すでにライナーたちと協力関係及び人類を滅ぼす気がない。


ハンクの考察は人間が巨人化するデメリットに基づいて考えてます。まず、蒸気が半端じゃなかったりとかそういうの。調査兵団内に巨人化してエレンを連れ去ろうとするやつがいる可能性の低さを語ってます。本人は絶対と言っていますが正直穴がないわけではないのでやはりハンクが甘くなってきているという変化の表れとか。
優しくなったとは言いません。今後の展開に期待(ステマ)

というわけで、正直文章がおかしいところがある可能性も高いです。
なので、誤字脱字、感想評価など待ってまーす!!あと、クウガとFateのクロスオーバーも見てくれるとうれしいです!でわでわー。

最近リリなのボーン頑張って修正したりしてます。期待してくださっている方がいらっしゃれば幸いです。


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12話

今のところ投稿する気はないですが息抜きにムシウタとか書いてます。
ムシウタはいい作品だった…。ありがとうムシウタ!

というわけで本編どうぞ。


「甘くなった…ねぇ」

 

俺の言葉に訝しげに反応するハンジ。背けた顔を再びハンジに戻すと顎に手を当てて考えるようなポーズだ。その姿が様になっていて、おちょくられているような気分になる。

八つ当たりだ。そんなことは分かっているが、気に入らない相手と言うのもあってつい強く言ってしまう。

 

「…何が言いたい」

「私は君のことは知らないんだけどさ、あらかじめ聞かされてた情報だと…冷静、冷徹、それでいて頭が切れる。しかも実力がある」

「…とんだ出鱈目データだな。集めた奴は職務怠慢もいいところだ」

 

ふんっと鼻で笑い飛ばす。俺は結局自分のことしか考えていないのだ。冷徹?他に興味がないだけ。冷静?慌てふためいて事象が好転するのか?頭が切れる?他が頭足りてないだけだろ。

実力がある?才能を言い訳に逃げているかやる気がないだけだろ。

正直まともに訓練している奴なんて言うのは馬鹿真面目か目標意識のある奴らだけだった。

それ以外は事務的に…技術を高めて調査兵団で活躍しようとか、憲兵団を狙おうなんていう連中は少数だ。

結局流れに任せて軽く流して駐屯兵団に入り、運が良ければ内地を狙う。そんな考えの連中に比べて“実力がある”…か。

ただ、目的のために技術を高めてきたことに後悔なんて無い。別に褒められることが嬉しくないわけではない。

…比較対象が悪いとどうしてこうもイライラするのか。

 

「うん、そうだ。君はデータ通りだ」

「…」

「きっと君は何も変わってない。君の気のせいだ」

「…」

 

呆れて何も言えないとはまさにこの事だな。

こいつは一体何を言っている?実はやっぱり頭が悪いのか?

 

「そんな目で見るなよ。真面目に考えた結果なんだからさ」

 

態度に出ていたのだろう。嫌な顔をしていただろう俺に弁解に近い言葉を掛けてくる。

 

「どんな確証がある。俺の事は俺が一番分かってるはずだ。データ上の俺のことしか知らない俺の事に口を出すな」

「あんまり口出しする気はないんだけどね。…データを見た時の私の感想はこうだ。“まるで刃物のような男だ”って。例えるならリヴァイがそれに近い雰囲気を持ってるかな。でも、君は違う。リヴァイも口が悪いし、怒ると結構すぐ手を出すけど…ハンク、君は刃物そのもののような人間だと思った。きっと君の周りの人も同じことを思っているはずだし、エルヴィンもきっと同じことを思ってる」

「…で、結局何が言いたい。それで俺の変化と何か関係あるのか?」

「君は変わってない。データ上から読み取れる君と、今の君は同じに見えるからね」

「はっ。とんだインチキ評論家だな。イメージと実物の差異がなかったら何だって言うんだ」

「つまり、君は君が思っているほど変わっていないってことさ」

「…」

「人の心なんて誰にもわからないものだから、君が変わったって言うなら変わったのかもしれない。でも、私が見る君は誰が見てもきっと昔のままだと思うよ」

 

イライラする。なんだこいつは。何を言ってる。

別に俺が甘くなったとかなってないとか…俺の変化についてなんて二の次だ。

俺はこいつに俺について……俺よりも詳しい素振りなのが気に食わない。俺は変わったのかもしれない。“甘くなった”、と。

 

「ならお前の“厳しい人だと思ってた”っていうのは妄言か?」

「別にイメージ通りだからって、何でもかんでもその通りになるわけないだろ?食べる前のパンと実際食べたパンは違うものだ。ただ、私には君が甘くなったっていうのはまた違う。ただ、“想像よりは厳しくないがデータ上で見た範疇の人間だった”ってだけさ」

「ややこしいな。俺には違いが分からん」

「分からなくてもいいと思うけどね。君が君ならそれでいいんじゃない?」

「…俺の発言を否定していた人間の発言とは思えないな」

「君はくだらないと言うかもしれないけど、自分の事を知っておくと言うのは大事な事なんだ。自分よりも他人の方が自分を知ってるなんて言うのはよくある話さ。他から見た君は、昔と変わってないはずだよ」

「…本当にくだらない。言葉遊びにすらなってるか怪しい発言だな。妄想と断じて捨てられる」

「…かもね。ははっ…私は、何を言ってるんだろう」

「…」

 

そのあとハンジとは離れ、配置についた俺は…考えるのをやめた。

自身の変化についてなんて、結局誰にもわからない。甘くなったと言う考えが、すでに甘えているのかもしれない。

…やめよう。俺は俺。それでいいだろ。今までそれを曲げずに来たんだ。変わったと思うなら、元に戻す。変わってないなら、それでいい。きっと、それが俺なんだ。

 

 

 

「撃て!!」

 

エレンたちが連れて来た巨人に罠が炸裂する。

理論上直撃したら脱出不可能の対巨人最強の罠だ。

どうやら対巨人最強罠は伊達ではないらしく、全方位からの直撃を受けた巨人は身動きが取れなくなっているようだ。

ただ、ぎりぎりで反応したのか両手で項を守っている。やはり明確な弱点である項を守っているところを見ると、知能があるタイプ。人間が巨人化した姿に間違いはなさそうだ。

エレンたちは見事囮の役目を果たしたのでそのまま離れていく。そこから飛び出した一つの影がエルヴィン団長へ近づいていくのが確認できた。軽く動いているように見えて超軌道をしているところを見るとリヴァイ兵長だろう。

ギシギシとワイヤーを抜こうとする巨人を視界の中心に入れる。

簡単な言葉を使うのならば、異形だ。生殖器の無い巨大な人型の生き物…それが巨人だ。

といってもそれは俺の勝手な解釈で、正確にはもっと分け方があるのだろうが視界に捉えた時の見分け方なんてサイズ位なものだ。

異形としか言えない見た目をしたこいつは、やはり巨人なのだろう。大きさは15M級くらいだろうか。大きな特徴を上げるとするならば、巨大な岩石のような顎だ。

突き出していて、平べったく巨大な顎は差し詰めハンマーと言ったところだ。

巨人なんて眺めていても気分のいいものじゃないので視線を上げると、ひゅんひゅん音がするかと思うとガキンと金属の砕ける音が響く。

リヴァイ兵士長とミケ分隊長が腕を切り落とそうとしているようだが、難航しているんだろう。

…腕が硬質化でもしているのか?生身の部分もあるようだが、硬質的な部分もある。

チラリと視線を巨人に戻すと特徴である顎は、自然の鉱物のようには見えない。

面白半分、興味本位で刃を一本顎を狙い投擲してみるとしっかりと命中し…木端微塵に砕けた。

結果を見るにあの顎は伊達ではなさそうだ。少なくともあれが武器だと仮定して、人間を叩きつぶしたらミンチどころの騒ぎではないだろう。壁に叩きつけられたカエル。高所から落としたトマト。…違うな、踏みつけた昆虫が適切か。どの道死ぬな。

ハンジもテンションが上がってぎゃあぎゃあ騒いでいるし、どうしたものか。

捕獲したはいいが、手詰まりだろう。

調査兵団に限った話ではないが主力の武器が立体起動の刃である以上、調査兵団最強の戦力であるリヴァイ兵長が何も出来ないとなるとどうしてもそれ以上の物が必要になってくる。

 

「ハンクもさぁ!こっちこいよ!!」

 

ハンジとか言う理解不能な生き物が俺を呼ぶ。

当然俺は無視を決め込む。何か叫んでいるようだが俺は反応しない。ライナーもそうだがこういう輩は無視するに限る。それが一番効果的なのだ。

次の瞬間…ひゅーっと空気の動く音がする。

たいして気にするような事じゃないのだが、ちょっと気になる。気にしていたらきりがないのだが、他の面々も気になったらしい。

音の出所は…巨人だ。

磔にされた巨人に空気が集まっているのだ。

 

…なんだ?何をしてい

 

「グ………グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

響き渡る重低音。甲高い声よりかは耳に良いが、それでも爆音に近い巨大な咆哮は俺達を吹き飛ばすには十分すぎる音だった。

音の巨大さに吹き飛ばされたと言うよりかは大きすぎる音の壁に押し出されたという表現が正しいだろう。

意識が飛びそうになるのを抑えて、ワイヤーを飛ばし木にぶら下がる。断末魔と言うには早すぎる気がしないでもないが、自業自得だろうという気持ちでいっぱいになる。

次には殺意。全ての面倒事がこいつのせいなのではないかと言う錯覚すら起きるのだから相当だ。

どうやら弾かれたのは俺だけではないらしく、多くの調査兵団の兵士が頭を抱えている。

ハンジはなんだかわからんが騒いでいるのが視界に映ってうっとおしい。

くらくらする頭を押さえて木の上に戻ると、今度は急激な寒気に襲われる。

簡単な言葉を使うと嫌な予感。

戦闘において直感がいかに大切な物かは嫌というほど分かっているつもりだ。

まぁ…嫌な予感どころか嫌な現実になったけどな。

 

 

 

面白い顔の連中が連続で数匹近づいてくる。それを先陣切って迎撃しようとした兵士が攻撃しようとするもあっさりと“無視”された。

すぐさまリヴァイ兵士長が切り刻むが、俺は面倒な事態だと思う。

人間が狙いじゃないなら狙いは一つしかない。

 

――エレンの時と同じか。

 

リヴァイ兵士長が洩らした小型の巨人の頭部にアンカーを発射し、巻く。

急速接近するとそのまま頭に着地し、前方へ一回転。地面に落ちざまに項を削ぎ落し、殺す。

あの時も人間を無視しエレンを狙っていた。かなりの距離接近するまで無視をするということは何か不思議な力で人間より巨人の姿を纏った人間の方が優先度が高いと言う事。

 

「全方位から巨人出現!!」

 

その言葉と同時に俺の嫌な予感はピークを迎える。全方向どこを見ても巨人が居て、顎のしゃくれた謎の巨人目掛けて集結しているのだ。

 

「全員戦闘開始!!鎚の巨人を死守せよ!!」

 

そのエルヴィンの言葉と同時に全ての兵士が飛び出す。俺もアンカーを木の高いところへ突き刺し高度を維持。そのまま巨人の群へと飛び出した。

しかし鎚の巨人か。エルヴィンセンスあるな。

 

 

 

 

 

「総員撤退!!巨人が鎚の巨人の残骸に集中している内に馬に移れ!荷馬車はすべてここに置いていく!巨大樹の森西方向に集結し陣形を再展開!カラネス区へ帰還せよ!!」

 

大量の巨人が一匹の大きな巨人へ集中し、その肉を貪り食うと言う実に目を逸らしたくなる気持ち悪い現実を俺は見つめている。

巨人の体が蒸気となり朽ちて行くさまと言うのも実に気分が悪い。

大損害。というか実益ゼロ。皆無。無意味な遠征。

多くの兵士を無意味に失っただけ。正直壁の中にこの手の連中が居ることが分かっていたなら今回の遠征の意味なんて捕獲意外になかった。それを逃したとなれば、当然実益ゼロの骨折り損。

無意味な事この上なしだ。とりあえずエレンが生きているようでなにより。

 

「ハンク!」

「…?」

「君もリヴァイとともに補給をし…エレンの元へ向かえ!」

「…任務了解」

 

何はともあれ最大の不安要素であるエレンの元へ自分で迎えるのだ。現実は、自分の目で確認しなければ。

 

 

 

 

「エルヴィンはかなりお前の事を買っているらしい。エレンを任せると言うのはよほどの事だ」

「…」

「とにかくだ、俺とお前はとっととエレンを見つけて護衛に回る。いいな」

「…あぁ」

 

リヴァイ兵士長は、正直言って想像以上に速い。ミカサも速いと感じていたが、それでも俺と五分くらいだ。この人は、やはりすごい。

別に俺として興味があるのは、何を思って戦っているかだ。崇高な目的意識があるのか、それともなんとなく戦っているのか。俺はこの人がどんな人か知らない。

だが、そんな事は聞けるわけもない。俺の戦いがあるように、きっとこの人にはこの人の戦いがあるんだろう。

 

「そういえばハンク」

「…?」

「お前の腕の“ソレ”…俺は使わせる気がない」

「知ってた…んです…ね」

「エルヴィンから真っ先に聞いた。確かにかなりのものだ。位置によっては巨人ですら倒せる。だが…そんなクソみたいなものを俺は使わせない。そんな場面にさせない。お前みたいなケツの青いガキが一人前に責任感を感じているのは大人の責任だ。ゴミのような世界でもクソのように生きてクソのように死ぬんだとしてもだ」

「…良く喋りま…すね」

「知らないのか。俺は元々良く喋る」

 

ただ、お前の“ソレ”は見逃さないがな。とリヴァイ兵士長。

目聡いな。だが、俺は使うと思う。

 

「…使いますよ」

「何?」

「本当に必要な時が来れば、いつでも」

 

視線をリヴァイ兵長へ向けると、無表情ながらも含みのある視線を俺に向けている。

それでも速度は一向に変わらないのが凄いところだ。

 

「お前は、」

 

リヴァイ兵長が何か言おうとした時、何かの叫び声が聞こえる。俺も聞いたことがあるその声は…

 

「エレン?」

「お前もそう思うか。…こっちだ」

 

そう、エレンだ。エレンの巨人化した際の叫び声に似ている…気がする。直感を信じるのならば恐らく間違いない。

声のする方向へ向きを変え、素早く移動する。静かな森とはいえあれだけ聞こえたということは近くに居るのだろう。

…死ぬなよ。

 

 

 




中途半端にならないように投稿はしていませんが実はいろんな作品を書いてます。
ですので巨人の投稿が遅いのはそのせいもあります。楽しみにしてくださっている方は申し訳ありません。

本編の解説は特にないです。あ。オリジナルの巨人が出てます。
この巨人についてはそのうちお話ししますね。

ではこの辺で。誤字脱字報告、感想評価待ってます。でわでわー。


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13話

いつもの注意書き

今回は半分以上が(おそらく)3人称です。文章がおかしい可能性があるのでそういったところがあれば感想欄に報告お願いします。


駆け抜けた場所は地獄だ。

いや、地獄だったが正しいのかもしれない。夢にまで見た外の世界は地獄だし、同じくらい壁の中は地獄だ。

そんな事は分かっていた事だし、結局この先もここが地獄であることは変わらない。

むしろその証明のように人は死ぬ。

仮に俺が無敵の超人だとして、人は救えるのだろうか。

それは無理だ。

俺がいくら強くて、この世に殺せない巨人がいないとしてもだ。

何せ俺は――――――

 

 

 

 

他者を救うことなんて一切考えていないのだから。

 

 

 

 

 

横を飛ぶリヴァイ兵士長は転がる死体を一つ一つ確認する。近くには項の部分を齧りとられたように横たわる大きな巨人の姿も確認できる。エレンか?

俺には分からないが、死体はリヴァイ兵士長の知り合いなのかもしれない。顔色は窺えないが、悔やんでいるのかもしれない。

 

「お前にはどう見える」

 

勢いよく気の上に戻ってくるリヴァイ兵士長は俺に声を掛ける。

正直何の話をしているか分からないが、この惨状の事をだろうと言う解釈で話を繋ぐ。

 

「さぁ」

「…何も感じないか?」

「人が…いや、生きている物が死ぬことに一体何を感じろと?」

 

俺の言葉を聞いたリヴァイ兵士長の顔は変わらない。顔色さえ変えないポーカーフェイスに特に感じる感想も無く、返事を待つ。

しかし、リヴァイ兵士長はそれから特に反応を見せることなく俺に向かって「そうか。」というと飛び出す。

人類を救う奇跡の対象であるエレン探しの続行だろう。

いや、そう考えるとこの死体はエレンを守っていたのだろう。結果的に死んだわけだが。

御苦労さん。

 

 

 

足音も感じていたので納得できる距離に“そいつ”はいた。

全身ボロボロで現在も進行して切られている。たしか…鎚の巨人だったか。先程とりあえずこんな呼び方をしておけと言われていたが、中々のセンスだと思う。たしかにあの顎は鎚のようだ。

よく見ると顔の周辺は傷が少なく攻撃の通りが悪いように見える。

近くに居るのは…ミカサか。

執拗なまでに攻撃を繰り返すミカサに一切怯まず逃亡を続ける鎚の巨人。

どこかにエレンが囚われているか、もしくは食われたか殺された。と考えるのが妥当か。

一瞬の事だ。リヴァイ兵士長が飛び出したかと思うとミカサを攫って帰って来た。

どうやらミカサの話曰くエレンは口に含まれている。それでいて殺すのならば潰すことで十分だと。だからエレンは生きているという。

 

「エレンを食うことが目的かもしれん。そうなればエレンは胃袋の中だ…普通に考えれば死んでるが…」

「生きてます」

「…だといいがな」

 

巨人と一定の距離を離しつつ睨み合うリヴァイ兵士長とミカサ。というより一方的に睨んでいるように見える。

 

「…そもそもは、あなたがちゃんとエレンを守っていれば、こんなことにはならなかった。ハンクだってそう」

「…」

「…お前は、あの時のエレンのなじみか。そうか」

 

特に言うことは無い。

確かにそうかもしれないし、違うのかもしれない。別にどう思われてもいいという気持ちもあるが…もやもやする。いや、苛立ちか。

結局リヴァイ兵士長の案でエレンを救出することに重点を置く。

硬化能力のせいで仕留めきれないのは俺も見ていて知っている。

しかし、

 

「俺が砕く」

「…駄目だ。それをするつもりなら今すぐ戻れ、邪魔だ」

「俺があんたの指示に従う理由は無い。俺は俺だ」

「面倒な奴だ。エルヴィンはすぐ俺に面倒を押しつけたがる。…いいかハンク。お前は今クソにも劣る発言をしている。理解しろ」

「もしミカサの発言通り口内にエレンが居るのなら、あの堅牢な口周辺を砕くのは立体起動では無理だ」

「なら頭を使え。やりようによっては不可能じゃない」

「…なら、俺は俺のやり方でやる」

「くだらない問答をする時間は無い。…お前の案は一旦置いておく。俺のやり方が駄目なら別の案を考える。お前の“それ”は使わせない」

「…」

 

何を躊躇う必要があるのか。

誰も損をしない方法だと思うが。ミカサは俺を見て不思議そうにしている。

別に大したことじゃない。

 

 

俺とリヴァイ兵士長で削る。振り回す腕は触れただけでミンチになりそうなほどの圧力を以て空間を制圧する。

しかし俺たちの立体起動の機動力はそれよりもワンテンポ速い。当然当たる時は当たるのだろうが、振り回しているだけの腕に当たるような技量はリヴァイ兵士長は持ち合わせていない。

俺にも見えていて当たらない。時折近くを唸りを上げながら通り過ぎていくのに驚くが大したことではない。

ミカサは距離を見計らいつつ隙を狙っている。

木にアンカーを飛ばし急接近、口の筋肉を削ごうとするが顔をずらされ関係ないところ斬る。だが、それを読んでいたかのように反対側から突如現れたリヴァイ兵士長が切り裂く。

砕けた。砕けたのはリヴァイ兵士長の刃。

単純に硬化されただけだ。腕を振り回すだけだが、防御に関しては一定の技能を感じる動き。顔を動かした後両側の頬を硬化させ筋肉を裂かれるのを防いでいる。

まだだと思うがかなりの距離を移動している。森から出られたらお終い。立体起動の扱いがどんなに上手くとも障害物、もしくはなにかアンカーが使えるよう大きな物体がないと効力は半分も出せない。そうなれば本当の詰みだ。

それが分かっている俺たちの攻撃は熾烈になって行く…が、通らない。

ガスとて無限ではない。ミカサは牽制に徹しているため余力があるが全力で攻撃を繰り返す俺とリヴァイ兵士長…少なくとも俺のガスは帰還まで持つかどうか怪しくなってきた。

ミカサも攻撃に転じる回数が増えてきている。

ただ…このメンツで落とせないとなると、どうすればいい。

口への攻撃を集中している分項はガラ空きかと思いきやそうではない。体格からは想像できない速度で反応し攻撃、さらには硬化による防御を繰り返す。

リヴァイ兵士長の指示が来る。

 

――同時攻撃。

 

同時に両頬と項を攻撃することで一撃を確実に当てることだろう。ただ、両頬を同時に切り裂かなければ効果は薄いような気がするが最悪項さえ切り取ればこいつは死ぬ。

天に祈る暇なんて無い超高機動戦。

攻撃の指示が出た。

 

「…!!」

「!!!」

「っ!!!」

 

三者三様の反応。

少なくとも、歓喜ではない。

響き渡る鋼の砕ける音。それは絶望の音となる。

“三人の持っている刃が全て砕けた”。

目に追えないほどの超高機動での移動で視界を奪った。一撃一撃が必殺ならタイミングをずらしながらの移動は相手を混乱させるには十分なはず。そこからの同時攻撃。

読まれたわけではない。故に動きが一瞬止まったのだ。勝ったと思った。

“勝っていなければおかしかった”。

この鎚の巨人と称された巨人は、上半身だけとはいえ―――――――――

 

 

 

 

 

 

―――――――――完全に硬化させて見せた。

 

 

「…クソが」

「リヴァイ兵長!!!」

 

リヴァイ兵士長の呟きにミカサが声を出す。まだ、諦めてはいない。

分かっているさ。

絶望するには遅すぎるが…まだ、終わらない。

 

 

 

 

リヴァイ兵士長、ミカサ・アッカーマン…そして、ハンク。

それぞれが最高クラスの兵士だと言われれば異論がある者は少ないだろう。

人類最強の兵士と言われるリヴァイ。

今期の卒業生で1位、さらにはその技能値の高さは一般の兵士100人に相当すると言われるほどの少女、ミカサ・アッカーマン。

そしてこと刃物の扱いに置いて、立体起動の技能値においてはミカサ・アッカーマンと同等の評価を持つハンク。

まともな連携など練習したことも無い3人ではあるが、差異はあれど同等の技能値を持っているからこそのある種連携を取っていた。

攻めの起点はリヴァイ。ミカサとハンクを上回る圧倒的速度と超人的な技量で全身の筋、または隙を見て顎の筋肉を狙う。当然一人で出来ることなど限られているのであくまでも起点。

攻撃の主力はハンク。リヴァイほどではないが早い動きと一瞬で大ダメージを与える鋭い斬撃は巨人に対して圧倒的なダメージを与えられる。

救出の要はミカサ。飛び抜けた部分がない代わりに超高度な部分で平均的技能値を持つミカサは、2人と1体の様子を窺いつつ一瞬の隙を狙って一定の速度を保ちつつ駆け抜ける。

この3人がしっかりと自分の役目がこなせているのなら巨人にとってこれほど恐ろしいモノも無いだろう。

だが、しかし…

 

 

状況は均衡していた。

この3人が挑んでまともにダメージを与えられない、巨大な鉄槌の様な顎を持つ巨人。通称鎚の巨人はまさに真の化け物だった。

疲弊していく3人を嘲笑うかのように、マイペースに森の外を目指す巨人。しかも、口内に居るとみられるエレンの救出できるタイムリミットは限界が近かった。

無表情ながらも明らかに焦りの色が目立つリヴァイ。必死の形相で食らいつくかのように剣を振るうミカサ。淀んだ、死人の様な目をしていながらも、超機動で攻めるハンク。

誰もが諦めていない。連携もすでに乱れ、必死に攻勢に出て少しでも時間を稼ぐ、そしてエレン救出のチャンスを掴もうとしている。だが、“2人”が感じるものは絶望でしかない。

 

「エレン!!!!起きて!!!」

 

叫ぶのはミカサ。もし、声が届きエレンが口内で巨人化すれば一発逆転も考えられる。15M級の巨人への変化への莫大な質量の増加は如何に強靭かつ超硬度を持つあの顎でも耐えられないだろう。

だが、無情にも反応は無い。いくら声を掛け、刃が砕けようとも顎にダメージは無い。攻撃を繰り返すミカサは…涙を流している。迫りくる絶望は少女の心を抉るのに十分すぎるほどだった。

 

「クソったれが!!!」

 

焦れている。人類最強の兵士は明らかに焦れている。柄にもなく声を張り上げ、腕部などを狙い筋を断つ。足止めは出来る。だが、先がない。巨人もそれが分かっているのか防御は本当に必要最低限。手足を狙われる分には構わないと完全にされるがままだ。

いくら時間を掛けようが援軍には期待できず、下手に数多く兵士が来ても足手まといにしかならない可能性がある。

 

「…」

 

ハンクは何も語らない。時折腕をチラリと見ては筋を、そして口筋を狙う。

その目は明らかに濁っていて感情が感じられない。他者に、いや、巨人に見せる感情など殺意で十分だと視線で語る。

 

「エレン!!!!」

「エレン!!!起きて!!!」

 

叫び声に合わせて巨人の眼前に何かが飛び出した。

驚愕の表情を向けるミカサと対照的に、リヴァイは苦い表情だ。

飛びだしたのは当然ハンク。勢いを殺さずにハンクは躊躇い無く巨人の目に両腕を突っ込んだ。

瞬間、動いたのはリヴァイ。

 

「…口からも離れているし、エレンは死なないだろう」

 

そうハンクが呟く。小さく呟いたその言葉は当然誰にも聞こえていない。眼前に居る巨人には聞こえたのか、手を伸ばすがすでに遅いとにやりと笑うハンク。するとと同時にハンクの元へ到達したリヴァイは、一瞬で“ハンクの義手のみを切り落とした”。そのままハンクを抱え巨人の手からも逃れ、離脱する。

切り落としたと言っても義手の両腕は巨人の眼球の中ではあるが。

 

「…なにをっ!」

「黙っていろ」

 

言うが早いかアンカーを飛ばし、ハンクを抱えたまま急速に巨人から距離を取るリヴァイ。

その動きに迷いはなく、ミカサは呆然とするしかないが我に返ると同時に声を荒げる。

 

「兵長!!!エレンは!!!」

 

ミカサの言葉は、巨人の頭部から放たれた閃光と爆発によってかき消された。

 

「…え?」

 

視線を向けると先程の巨人の頭部はほぼ完全に吹き飛んでおり、残っているのは大量の血液と涎を流す下顎のみ。

呆然とするミカサにリヴァイはハンクを放り投げるとすぐさま口の上に飛び乗る。ぐちゃりぐちゃりという血液と涎を踏みならしながら嫌そうに手を突っ込み…エレンを引きずり上げる。

意識を失ったエレンに目を向け、安心したように嘆息すると項へ目を向けるが巨人の両手が完全にかばっており手を出すことが出来ない。それに熱気とともにジュウジュウと肉が盛り返していることから再生も始まっている。

これ以上の戦闘行為は無駄だと判断するとすぐさま立体起動に移り、

 

「引き上げるぞ。最低限の事はやった。これ以上の戦闘は無駄だ」

 

そうミカサに告げると飛び去る。ミカサもハンクを抱え、飛ぶ。

抱えられているハンクはというと、意識はあるようだが特に言葉を口にすることはなくただただ抱えられている。

その目は何を語るわけでもなく、いつも通り全てに興味を無くしたように濁っている。

 




今回は半分以上が3人称でした。…たぶん。
オリジナル巨人は、とあるコンセプトに基づいて作られてます。ですので「なんだこいつチートじゃねぇか。」みたいなことになっていると思いますが、その辺はご了承ください。
この作品もキリがよくなったら「進撃の剣人Q&A」でもしようかと思ってますので秘話とかはそこで話しますね。


なれない3人称は言葉が変なところとかあったと思います。
というかあります(確信)ですので誤字脱字報告、感想評価まってまーす。でわでわー。


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14話

目を開けると首ががくんがくんする。どうやらまだミカサに抱えられているらしい。

というよりこの状況で寝てしまっていた自分の図太さに驚きだ。…もしかしたら意外と疲れていたのかもしれない。

 

「…ハンク?」

「なんだ」

「…最初死んだのかと思った」

「…笑えないな」

 

正直、死のうとしていた。あの自爆で俺が死んだとしてもきっと俺に後悔は無かっただろう。…いや、語弊があるか。別に死んだところで感じる物は無かっただろう。ただ、本能的に、それでいて、強烈に。ただ目の前の巨人をぶっ殺してやりたかった。

しかし、現実はそれだけじゃない。詰んでいたし、詰まされていた。現実は非情だ。立体起動なんていう物を作って人類がようやく巨人と対等に戦えると思えば、無敵と思えるほど強力な巨人が姿を現した。

口には出さないが、視界の先で飛んでいるリヴァイ兵長もきっと同じことを思っているのだろう。俺の考えは碌に当たらない。…ミカサは…どうだ。

人の気持ちなんて分かりはしないが、俺はやはり悔しいという思いはある。やれるだけやって、駄目だった。結果的にエレンを助けられたとはいえ、何も進歩していない。少しだけ、落ち込んでいるのかもしれない。技術の進歩も、能力の向上も、とりあえず均きり無駄にされた事が。

俺たち人類は、どこまで行くのだろう。

 

「もうすぐ馬車のはずだから、我慢して」

「あぁ」

 

どっちでもいいのだが、ミカサ的には俺を抱えるよりエレンを抱えて居たいのではないだろうか。ミカサは俺から見ても分かるくらいエレンに入れ込んでいる。俺にはない家族としての関係と言うのは思いのほか人間を強くするのかもしれない。…ミカサの強さの秘密がそれなら俺には無縁な話だな。結局さっきの戦闘でも最後の瞬間俺の脳裏を焼いたのは憎しみだった。腕だとか、自由だとか、そう言うことではない、純粋な感情。飲まれるほど大きな憎しみ。殺せなかった。殺し足りない。…危ない感情だとは思うが、多くの兵士はこの感情を持っていると思う。巨人に対する憎悪なんて飽きるほど感じて来たものだ。そのエレンはというとリヴァイ兵長が脇に抱えている。エレンは結構いい体格をしているのにそれをほいほいと片手で抱えているのにはさすがに感心する。

…特別性別にこだわりがあるわけではないが、長時間男に抱えられると言うのは結構嫌だ。

まぁ、その点ミカサでよかったような気もするが直接口頭で伝えるような内容でも無いので省く。

しかし…情けない。

視界に映りこんだ両腕を見ると綺麗に先が無い。義手に仕込んでいた爆弾は想像通りの威力だった。いや、想像以上かもしれない。まぁその代わり貴重な義手を失ったわけだが。一応帰れば変わりがあるとはいえ、無力を絵にかいたような状態の俺はもう完全に帰還するまで本当に何もできない。本当に無力だ。

ふと…頭にいつかの憲兵の発言が蘇る。

 

『なんだ?その腕は。…まるで使い物にならないではないか!いいか、よく聞け訓練兵!義手などと言ういつ壊れるかも分からない物を付けている奴などあてにならん!つまり、何が言いたいのかわかるな?…なんだその顔は。ならはっきり言ってやろう!その腕では使い物にならんな。よかったじゃないか、こんな時期に順位が解るなんて。貴様は“除外”だ』

 

腹が立つほど適切な表現だ。

いくら技量が高くとも、一度義手が壊れてしまえばこの様。足手まとい。命のやり取りをいつ行うか分からない壁外でこの状態の俺など赤子同然。当然腕が無ければ立体起動なんて操れないわけなのでお荷物だ。

順位での除外がここまで適切だとは思わなかった。これで上位に入っていたらそれこそ笑い物だ。

 

「ミカサ」

「…ん」

「すまない」

「…え?」

 

知らず知らずのうちに弱音を吐いていた。理由は特に無い。自分の中に浮かんだ無気力な黒い塊を撒き散らしたくなって、結局近くに居たミカサにぶつけただけだ。それにしっかり考えなくても分かるほど、ミカサは優秀だ。俺のようにデメリットを一切抱えていない事もそうだが、俺よりも優秀な面などいくらでもある。

それに、もしここで巨人に襲われてもミカサ一人なら何とかするだろう。…つまり、こうやって足を引っ張っている自分が嫌になる。それはもう…死ぬほど。…撒き散らすはずが、逆に苛立ち始めた。実は自分では思っているよりよほど俺はこの事を気にしていたのかもしれない。

 

「…どうしたの?」

「何となく…こうやって迷惑を掛けているからな。…すまないと思っただけだ」

 

顔は見えないが戸惑うような様子は伝わる。混乱させる気はなかったが、意図せず惑わせてしまったか。

はぁ、と一つ嘆息するミカサ。無いとは思うが一応罵倒されてもいいように心構えを決める。八つ当たり気味に発した言葉が原因のため、覚悟を決める。

 

「ハンク」

「…」

「ありがとう」

「…何?」

「…」

 

ミカサは何も言わない。だが、俺にとっては最も意外だった言葉を耳にして動揺を隠せない俺はミカサに声を掛ける。

 

「それは、どういう」

「人は、」

 

「一人じゃ生きていけない」

 

「一人は、寂しい。それに」

 

「とても寒い」

 

「私は今、凄く温かい。だから、ありがとう」

「…」

 

ミカサが立体起動で木の上を跳ねるたびに頭ががくんがくんする。無理をすれば大丈夫だろうが、その方が後々首を痛めそうだ。

無視をしているわけでもない。ただ、なんて言えば良いか分からないのだ。

厳しい言葉が良いとか、そうじゃない。だが、困る。

そんな優しい声で、そんな暖かい声で、そんな…俺ですら分かるような柔かい顔で、感謝の言葉を口にするなんて。

…卑怯だ。ずるい。背後からのハイキックよりよっぽどの不意打ちだ。

だって、困るから。

揺すられ続ける俺は何も言えない。ただ、一言を覗いて。

 

「…エレンに言ってやれ」

 

 

 

ぐてーっと体の力を抜いてミカサに抱えられる腕に全てを委ねる。こういう場合は余計な事をしない方が良い。それが一番ミカサにとっても俺にとっても楽な選択だ。

別に歩けなくは無いのだが…無理をする必要も無いだろう。騒がしさを感じることから街に着いたようだ。ミカサは先程エレンの無事を確認して安心しているのかかなり余裕のある雰囲気を出している。

…何となくだが結果的にに助けられて良かった。案外悪いことだけでもない、と思う。

まぁ、別にいいけど。

 

「ハンク!」

 

その声は誰だろうか。首を起こそうとも思ったが、揺れに揺られて結構首が痛い。

仕方が無いのでそのままの体勢で待つ。面倒という気持ちが多々あるのだが…まぁ、ミカサがあしらってくれるだろうという期待が無いわけではない。寧ろ多分にある。

 

「ミカサ…?ま、まさか…!!!」

「大丈夫」

「え?」

「ハンクは生きてる。ただ、疲れてるだけ」

 

まぁ、ミカサの言い分は間違っていない。疲れているだけと言えば疲れているだけだし。疲弊してないわけではない。

声の主に聞き覚えはある。一応確認のために首を上げると…

 

「ハンク!」

「…」

「な、なに?その顔は…」

 

アルミンだった。特に何も感じていないのでただ視線を合わせただけなのだが怯えられた。ただ、アルミンの存在は痛い首にダメージを負うほどではなかった。結構痛い。

 

「ハンク、立てる?」

「あぁ」

「は、ハンク!腕!!」

「…ん?あぁ、消し飛んだ」

「け、消し…?」

 

アルミンが腕の事にようやく気付いたのか動揺しながらも気にかけてくるのでとりあえず見せる。

ついでに先の無い両腕を振って俺自身は無事だということをアピールする。見ての通り、疲労は溜まっているが元気だ。あとはさっきの馬車に横になっていた時間が長かったせいで背中が痛いくらいか。

 

「う、うん」

 

アルミンは引きつったような笑いをする。どうした、笑いどこだと思うのだが。

すると頭部に軽い衝撃が走る。痛くは無い。効果音にするならばぽかっと言ったところ。

 

「なに馬鹿やってるのよ」

「…アニか」

「アニか。じゃないわよ。…その腕」

「あぁ、消し飛んだ。跡形も無く」

「…」

 

今度は俺がアニに無言の圧力を掛けられる。嘘は一切言っていない。

そしてミカサにアイコンタクト。ミカサが余計な事を言うとは思えないが、余計なことは言わないでほしいものだ。面倒くさい。

 

「あんたは…。いや、やめておくわ」

「…言いたいことがあるなら言え」

「あんたはどこぞの死に急ぎ野郎より酷いかもね」

「…お前が言うならそうなのかもな」

「…は?」

 

俺が言うとアニは不思議そうに首を傾げる。

自分の事は自分が一番よく知っているなんてことは無いのかもしれない。だから言いたいことは言わせるし、反論が無い場合は呑みもする。そんなに不思議なことだろうか。

 

「無茶したことを責めるか?俺は一向に構わん。…どうせ俺は…いや…」

「…珍しく歯切れが悪いわね」

「…別に」

 

どういうわけか思考がネガティブになっている。今日の事が相当俺の中に響いているのだろうか。

そうだといい。こんなのは、俺らしくない。

 

「…まぁいいわ。とりあえずあんたはその腕を何とかしないとね」

「…寮に戻れば変えがある」

「まずは医者だよ、ハンク」

「アルミン。この程度別に心配するほどじゃない」

「歩けもしないのに?」

「…馬鹿を言うな。ペースさえ落とせば歩く位わけない」

「日が暮れるわよ」

「…」

 

俺は義手が無いとまともに歩行することが出来ない。しかしゆっくりなら歩くことが可能なため寝る際はいつも外しているのだが…。まさか壊れるとは思いもしないだろう。

仮に壊れてもあの場面なら使用者の俺も居なくなるわけであって何の問題も無いつもりでいた。恐らく歩行の原因は体重移動に何か理由があるのだろうと、勝手に考える。俺の義手は強度やら何やらが結構高性能な変わりに、重い。だからそれに慣れて立体起動や歩行の体重移動のバランス感覚が崩れて歩行に支障が出るのではないかと勝手に解釈している。詳しい事は専門外だ。ちなみに俺の専門は何もない。

そして俺は結局、再びミカサに抱えられる羽目になった。

 

そこから先ははまさに怒涛の展開だった。

ミカサの脇に抱えられていたことが原因で死んだと思われたのか数人に叩かれたり、馬面が良く分からない嫉妬で顔面真っ赤だったり。

結果として俺のやろうとしていたことはミカサによってなんともあっけなく公開され、ライナーなどにはめちゃくちゃ怒られた。…あの体格で詰め寄られるのは普通に怖い。腕が無い状態なのだからなおのこと怖い。いつも通り殴ってやろうかと思ったが腕が無いのでやめておいた。アニには笑顔で詰め寄られた。よく分からないが、怖い。女が怖いと言う話はどうやら迷信ではなかったようだ。今後は注意しよう。

まぁ、結果的に大きな怪我も無く無事俺たちは帰還した事は幸運だったのだ。

とはいっても調査兵団内での死亡者数はとんでもないことになっているらしいので喜んでばかりも居られない。

リヴァイ兵長が柄にもなく頭を抱えていたのが印象的だった。あの人も悩むのか。

 

 

 

「ハンク、お前の義手は全て俺たちが用意する。エルヴィンが許可したとはいえ、アレはもう二度と使うな。アレはクソにも劣る何かだ」

「…」

 

今はリヴァイ兵長が用意してくれた部屋で話を聞いている。今後の作戦内容含め伝えておくと言われた。

別にやましい事があるわけではないが、特に返す言葉は無い。

 

「…無視するのもいいが、お前にとっても大事な事だ。よく聞いておけ」

「…はい」

 

俺の正面の椅子に腰かけると足を組み俺に視線を合わせる。小さな子供によくやる手だが、俺はそんなに子供ではないつもりだ。あと、リヴァイ兵長の目つきが悪すぎて脅されているみたいだ。まぁ、目つきに関しては人の事を言えないわけだが。

 

「まず、調査兵団内に人間に擬態…もしくは巨人に成ることのできる奴が居るかどうか現在調べている」

「…」

「まず、俺がなぜお前にこの話をしているか分かるか?」

「…俺が潔白だと証明された…とか?」

「あぁ。遠からず。と言ったところか。お前は雰囲気に似合わず賢いからな。余計なことは話さないからしっかり聞け」

 

今度はどっかりと背もたれに背を預け話しだす。視線は俺を捉えて入るが、その視線からはどこか考え事をしているような雰囲気を感じる。話せることだけが全てじゃないと言うわけか。

 

「作戦を考えたのはエルヴィンだ。あいつはある程度その可能性がある奴を絞った。そして、それ以外を距離を置いた場所で監視状態においている。お前の同期も大体がそこだ」

 

ふむ。つまりある程度絞れていると言うことか?いや、早計だな。

巨人化能力の最大の利点は“人間の姿”で居られる事だ。発見されるリスクは少なく、リターンが大きい。

まぁ、当然相応の弱点もあるわけだが。

 

「そして俺たちはこれからあの鎚の巨人を探す」

「…どういうこと…ですか?」

「あいつの正体が人間であるということはお前も分かっているとエルヴィンは言っていたが…違うのか?」

「そういうことじゃない…です。人間の姿の目星が付いているのかということだ…です」

 

あぁ、と一つ呟くと少し考える動作をするリヴァイ兵長。

…もしかして作戦前だからあまり口外したくないのかもしれない。なら、無理に聞くのもどうかと思うところだが…聞けるなら聞いておきたい。

明確な何かを見つけたなら今後役に立つだろう。

 

「付いていると言えば付いているが、付いていないと言えば付いていない」

「中途半端な言葉ですね」

「あぁ、我ながらクソみたいな言葉だ。まぁ、まだ話せる段階ではないことは確かだ。…それにその作戦にはお前は参加させない」

「…なぜ?」

「まず、義手の準備がまだ出来ていない。分かっているとは思うが義手が無いお前は立体起動どころではないのは言わなくてもいいな」

「…」

「前使ってたやつを渡してもいいんだが、お前ほどの戦力が戦場で一瞬で無力になるのは避けたい。だから強度を上げた奴を渡す。これは信頼の証だ」

「…リヴァイ兵長」

「というのはエルヴィンの言葉だ。俺がそんなクソみたいな綺麗事を言うか」

「…」

「…露骨な態度を取るのはやめろ」

「…」

「ちっ」

「…ちっ」

「…」

「…」

「…はぁ」

 

やれやれと肩を竦めるリヴァイ兵長。

別にそう言うつもりはなかったのだが無意識のうちに威圧していたかもしれない。…まぁ、それに怯むような人ではないだろうが。むしろいつ手を出されるかと不安に駆られたのはこちらだ。

 

「とにかくだ、ここは壁の中だしかなり安全だ。クソみたいな事件が起きて偶然お前が巻き込まれるなんて言うクソみたいな状況にならなければ、だが」

「無いとは思います」

「そりゃあそうだ。そんなことになって見ろ、犯人をお前と仲の良い女が蹴り殺すだろう」

「…そうでしょうか」

「帰還後すぐの対応を見れば何となく分かる」

「…」

「まぁいい。お前はとりあえずここでゆっくり休め」

「・・・それは、」

「命令だ」

「…はい」

 

そう言うと満足したのかゆっくりと部屋から出ていく。一応簡易的な義手…指が二本だけのおもちゃの様な義手があるので何とかなりそうではあるが、やはり普段の物ではないと不安になる物だ。

ごろんとベッドに横になると目を閉じる。

今までの事、これからの事、色んなことが頭に浮かぶが、結局なにも纏まらない。

書いては消す、書いては消すを繰り返す落書きの様な物。どれも不安定で、先の無い、空虚で空っぽな妄想。

 

「俺は、何がしたいんだ」

 

今更こんな事で悩むとは思わなかった。だが、はっきりさせておきたいことでもある。

 

「…何を弱気になっている」

 

鎚の巨人…奴には本当に何も通用しなかった。今まで培ってきた技術も、何もかも。

ただ、それだけが心を荒ませる。

いつものようにくだらないと一言で断じればどれほど楽か。

どれだけ考えても有効な攻撃、これからの事、なにも纏まらない。つまり人一人の力など限界があると言う事。

結局俺は…

 

「…寝よう」

 

逃げた。

 

 

 

 

 




まずは皆さんに幾つか言っておきたいことが…。
別に皆さんを批判するとかそういうことではないので悪しからず。

私の作品は基本的にハーレムを目指しません。この作品におけるクリスタやミカサがヒロインとなる事は現状あり得ません。
ただ、タグに複数のルートとあるようにもともとプロットの段階では複数のルートを予定していました。今複数のルートを後々投稿できるかと言われれば善処はしますが難しいところです。そんなわけでクリスタは一応別ルートヒロインポジでしたのでどこから派生してもヒロインになれるように調整していました。ですが、この作品でのクリスタの本質は「最終的にはヒロインにもなりうる可能性を持ったハンクの理解者ポジ」です。どちらかと言えばハンクを弟のように思ってたり(ちょっと違うかもしれません)します。訓練兵の時アニの名前を読んだ時にうれしそうなのはなんとなくハンクを理解していたから変化を喜んでいたりするだけです。当然最終的に恋愛感情に芽生える可能性もありますが、たぶんこのルートないでは無いです。
ミカサはヒロインですらないです。ただ、ハンクの大凡の目的がエレンと同じである以上ある程度エレンとハンクに関係性を持たせたとき、いつも近くに言るであろうミカサと交友がないのは不自然とかそんな理由です。
友人からは爆発の影響でエレンが死ぬかもしれないのに感情的にならないのはミカサっぽくないとか指摘を受けましたが、一応理由…というか私の自己解釈ですが、ミカサは私の中ではどこまで行っても普通の女の子だと思います。ですからあのまま連れ去られても、爆発で死んでも最終的にミカサのもとからエレンがいなくなる事には変わらないので結果的にとはいえエレンが戻ってきたきっかけを作ったハンクに感謝しています。どんなに感情的になろうとやはり最後は感謝すると思ったので。
まぁ、連れ去られた場合は救出に向かうこともできるでしょうが…恐らく流れ的に殺されそうですし。

あとはそうですね…。主人公マンセーに見える部分もあるとか友人には指摘されました。
ですが、私はこう考えています。力だけが全てじゃないにしろエルヴィンは有能な人材をわざわざ無駄にするような人物ではないと考えています。それに現在直接かかわるのが調査兵団ですし、役に立っているなら色々言われたりはしないと思います。
今後出てくる憲兵やら何やらとなればもっとひどい扱いを受けるでしょうけど…。
これくらいですかね。
作品趣旨と方向性…とかそういうことを言ってみました。みなさんがこう思っていたら、と思い一応補足的に入れてみました。気に障った方がいましたら本当に申し訳ありません。

あと、最近ちょっと忙しくてそれ関連で腱鞘炎…まではいかないまでも手首に炎症を起こしてあまり書けていません。
ですので次はもっと遅くなってしまうかもしれませんが、完結させる気ではいますのでどうぞよろしくお願いします。

誤字脱字報告及び感想評価待ってます!!でわでわー。


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15話

戦いを望むわけではないが、こんなにゆっくりしたのはいつ以来だろうか。

現在ベッドの上で惰眠を貪ることしか許されていない俺にとってはある意味最大級の強敵は暇だった。

腕にはめている簡易的な義手は調子が良く、リヴァイ兵長が持ってくるという新しい義手に期待をしている。

…退屈だ。正直言ってここに来ての戦線離脱。頭の悪そうな意地の悪い顔をした憲兵の台詞がそのまま今の俺に当て嵌まっている。

別にあの憲兵の言葉が正しいとかそういったつもりは一切ないし、今更調査兵団に入った事を悔やんだりとかしているわけでもない。ただ、こうやって現実を突き付けられると自分の置かれている立場や現実が良く分かるというものだ。

結局俺は“ミカサと同等の評価”なんていう理想を描きながらも現実は“評価を覆すほどの欠陥品”と言ったところ。

評価なんてものを気にするつもりもないし、今更それに拘っている奴なんていないだろうけども…“欠陥品”なら“欠陥品”らしく、一発やらかしてやろうとも思った。

『自分の命なんてどうでもいい!俺は兎に角命懸けで事を成したいんだ!!』なんていう台詞で動けたらどれだけ楽か。

こういう台詞で動いて最後まで生き残れるのはエレンの様な男であって俺ではない。

だからこそ義手に仕込んだ発破は俺の切り札だった。しかし、初めから死ぬつもりだったかと言われればそうでもない。

あくまでも俺にとって大事な事とは巨人を殲滅して自由を掴む事。

その過程で命を散らして得られる物とは到底思えない。それこそ、生きているから価値があるという事だ。

ただ、あの場でエレンを助け出さないという選択肢はどうだったのだろうか。

人間が姿を変えたのか、巨人が人間の姿になっているのかは正確には分からないがやはり人類にとってそれが脅威であることは変わりない。

鎧の巨人や超大型巨人がそのいい例だ。人類を守っている壁の比較的脆い部分。それは開閉だから、超大型はそこを狙った。

内側の扉さえ破れば最初の壁の内側はもう駄目だというのも明確だ。だからこそ鎧はそこを狙った。超大型ではない理由は防御力の都合だろうか。

攻撃力のある超大型はでか過ぎて大砲の的になるからというのが俺の解釈。

…少し思考がずれたがとにかく思考が出来る敵というのはそれだけで脅威なのだ。

人間同士の喧嘩だとしても慣れていなければ体格と勢いで勝敗が決まるのと同じ。

人間と巨人が勢い任せに戦えば人間に勝ち目は無い。

だが、人間にはあって、巨人に無い物…まぁ、一言で言えば知能か。

頭を使わずにただ突っ込むだけなら立体起動があるうちはそう簡単には負けない。これでようやく五分。なんて言ったって相手はあれだけの質量で高機動。さらには攻撃が一撃必殺と戦力差は大きいのだ。

ただ、その“ようやく五分”という戦力差も巨人が思考してくれば違う。高機動、一撃必殺、さらには考える。…まるでおとぎ話の怪物そのものだな。

お姫様を救い出す勇者には本当に頭が上がらない。

とまぁ、ここまで揃えばいつでも人類を滅ぼせるはずなのだが…それをせずにわざわざエレンを狙う理由。これが不明だ。

巨人化できるから?…自分たちも出来るのに?

巨人の力を脅威と見るか?…巨人化したエレンを簡単に撃破できる巨人が居るのに?

もしくはそれ以外の何かをエレンが持っているか…だな。

まぁ、こんな事俺がいくら考えたところで俺程度の頭ではさっぱりだ。まるで皆目見当もつかない。

金…とか。

…あり得んか。このご時世金に価値が無いとは言わないが、それを巨人が欲する理由が思いつかん。

人類と共存する気があるようには到底思えないから人類に必要な物を巨人が同じように欲しがるとも思えない。ともすると……なんだ。

 

「はぁ」

 

ふと溜息が出る。少し考えに没頭していたようで少々時間が立っていたようだ。

といってもここに居る目的自体が体を休める事が目的の様なものなので、いくらだらけていてもいいと思うが…正直この生活も飽きてきている。

義手が出来るまでの辛抱とはいってもいつになったら出来るかも分からないし、それにもうすでにかなりの日数が経っている。

当初は何もしないという未知の感覚に戸惑ったりもしたものだが、人間の順応性の高さはさすがの物だ。

ただ、このままこうしているのもいただけない。

自ら体を鍛えるという事は余りしてこなかったが、こうしていると体が劣化していくような気がして仕方ない。

事実一日中ベッドの上に居ると用を足しに行くのも億劫に感じるのが証拠だ。

 

「…?」

 

ドンドンと扉を叩く音がする。

大体誰が来たかは察しが付くので適当に返事をすると一言失礼しますと声を発しながら入ってくる。

そいつは俺がここに入れられた時から監視役に任命された女…というのはいくらなんでも失礼か。

ミカサより少し短めの髪、色は茶色。顔は…美人というよりかは可愛らしいという表現が似会う。可愛らしい顔をして凶暴というタイプにも見えず、先日聞いた理由だとリヴァイ兵長に憧れて…とか何とか。

まぁ、リヴァイ兵長に信頼されて俺の監視を任せられたというのなら良かったんだと思う。

俺みたいな捻くれ者に何日も付き合わされるのはご愁傷様としか言いようがないが。

…あぁ、もしかしたら作戦に参加できるほどの技量が無い可能性もあるのか。

 

「ハンク君」

「なんですか」

「うん、今日もいつも通りだね!」

「…暇なんですか?」

「いやいや、これが私の仕事だから!“あの”リヴァイ兵長から直々に頼まれた仕事だから!」

 

“あの”の部分を強調するあたりよほど嬉しかったのだろう。

そう言えば俺たちの先輩に当たる兵士の大半はエルヴィン団長、もしくはリヴァイ兵長に憧れて入団したという噂がある。

聞いた時は鼻で笑ったが、リヴァイ兵長の技量は純粋に感服するし、エルヴィン団長の指示やカリスマとでも言うべき雰囲気には純粋な関心が持てる。

それに入って見て分かったが、リヴァイ兵長達への雰囲気からしてあの噂が本当だと確信した。

 

「それは御苦労さまです」

「まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいんだけどねー」

「…」

「…」

「…」

「…あれ?聞かないの?」

「驚くほど興味が無いので」

「……いいわ。それは置いときましょう」

 

そういって椅子を持ってきて俺の対面に座る。俺はベッドの上で胡坐を書いているためベッドの横に椅子を付ける形だ。

椅子に座り、一息付くと話し始めた。

 

「義手はもう少しで出来るそうよ」

「…そうですか。それは純粋に有りがたい」

 

簡易の義手はあくまで簡易。本当に最低限で手としての機能を果たしているが、あくまで最低限だ。

細かい作業など出来ないし、強度なんて不安しかない。

立体起動の刃の切れ味は信じられないほどいい。そのおかげで巨人の肉を削ぐ事が出来ているが、それを差し引いても巨人の肉は固い。

あくまでも体感だがこの簡易の義手の感じからすると、二三回肉を削げば次は腕の方が折れるだろう。

俺としてもこんな玩具は言い過ぎとはいえ情けない義手で戦場に出ようとは思わないが、本当にいざという時の事を考えると良い物が用意されることにこしたことなど無い。

 

「しかし君も恵まれてるよね」

「…?」

「あ、気付いてないの?」

「…まぁ」

「贅沢だなー。だってよく考えてみてよ。調査兵団きっての英雄、エルヴィン・スミス団長と人類最強の兵士の称号を持つリヴァイ兵長に目を掛けられてるんだよ?もう普通じゃありえないよ!」

「…そう言われればそうかもしれないですね」

「それにこの待遇!部屋を一室借りて世話係が付いてるなんて一言で言えば驚きだよ!超待遇!貴族か何かなの!?って感じ」

「いや、そんなことはない」

「…とまぁ、これだけ上げただけでもおかしいのに、更には特注の義手を用意するんだとか何とか。義手って作るの大変なんだってね」

「…妙に含んだ言い方だな」

「…」

「…」

 

睨み合うかのように見つめ合う。

別に睨んでいるつもりはないが、空気が勝手にそういう雰囲気を作っているのだ。

相手もじっと何かを考えるように俺を見ている。

折れたわけではないが、焦れた俺は一つ舌打ちをすると視線をずらす。

 

「面倒な女だ」

「半分は嫉妬」

「…は?」

「含みのある言い方が気になったんでしょ。その理由」

「…」

 

はぁ。と一つ溜息を吐くと視線を俺から外しながら話し始める。

 

「子供っぽい我儘なだけ。半分は嫉妬、もう半分は羨望。憧れて、憧れて、命を落とすことも厭わずに入った調査兵団。今はこうして生きているけど、正直私なんていつ死んでもおかしくない。…でも、諦めずに食いついてようやくリヴァイ兵長にこうして仕事を任せられた。そしたら今期の入団兵の面倒を見ろだってさ。別に仕事内容とかに不満があるわけじゃない。それに私の技量が低い事なんて百も承知。ただ、そんな私の憧れは消えて無くて…英雄二人によく扱われる君に嫉妬しただけ」

「…もう半分は?」

「…今のの中に入ってるけど、君の技量が羨ましいの。君くらい戦えれば私のことをもっとみんな評価してくれるのかなって。まぁ、最初は普通の子供かって思ったけど、接してみたら君は案の定普通じゃなかった。存在感…?いや、そんな不思議な力を感じるとかじゃないけどこう…やっぱり一人の人間として“持ってるな”って。だから羨望」

「聞いてみたら凄いくだらない話だな」

「君にしたらそうかもね。でも、私みたいにあの二人に憧れて入った兵士はみんなそう思ってると思うよ。だって、“どう見ても君は普通じゃないもの”」

 

普通じゃない、か。そりゃあそうだ。

俺は普通じゃない。そんな当然のことを今更言われたって何とも思わないな。

 

「当たり前だ」

「…?」

「普通の人間は、こんな目にあってる最中に巨人を殺したいなんて思わないだろ」

 

驚いた顔をする先輩兵士。名前のなんて覚えていないが、そいつの驚いた顔は中々に面白かった。

 

 

 

 

 

 

「…それは普通じゃないね」

 

そう言って先輩兵士は出て言った。

ただ、もう一言そのあとに付け加えた台詞が俺を悩ませる。

 

「そういえば例の巨人、目星が付いたって近日中に作戦行動に入るらしいわ。…私も君もこのままだと待機ね。参加したかったけど、君も同じ気持ち…かな?」

 

別にあの鎚の巨人の人間の姿に目星が付いたのは良い事だ。だが、自身の無力さを痛感する事に変わりは無い。

今までも繰り返してきた自己嫌悪。後悔の無い選択をいくらしたところで限界のある事なんていくらだってあるに決まっている。

それが俺のこの腕であったり、先日の壁外調査の時の鎚の巨人との戦闘だったり。

ただ馬鹿みたいに何も考えずひたすらに力を振るい続ける事が出来れば楽なのだろうか。

自分の性格や考え方を今更矯正できるなんて到底思えないわけだが、今ほどもっと前向きだったらと思う事は無い。

性格やら何やらというのが形成されるのは幼少期という話を聞いた事があるのか本で見た事があるのか…理由は思い出せないがふとそんな話を思い出す。

俺の場合はどうだったろうか。腕を失う以前の事なんて碌に思い出せない。

友人が居たのかどうか、どんな生活をしていたのか。

自分の事とは思えないほど曖昧な記憶は、思い出そうとするのが無駄に思えるほど情報量が足りていない。

記憶喪失とは違う、全体的に曖昧な感じ。こう、空白なのではなくもっと、足りない感じ。

口頭で説明できるならどれほど楽な事か。

つまり、俺の人格は腕を失った後…さらに言うなら病院で目を覚ました後か。

その後の俺は自分で言うのもなんだが、碌なものじゃない。

ずっと巨人を殺すことだけ考えてて、義手だからって役立たず扱いされたり、訓練兵になってあいつらと出会って…何だかんだで今に至る。

本当に碌な人間じゃない。自分を見つめ直すいい機会だから、と思ったがこれは本当に酷いな。社交性皆無なのは分かっていたが、自分で思っていたよりずっと酷い。

しかしまぁ、意図せずそんな態度を取っているのだからこれからも変わらないだろうし、変える気も無い。

結局、俺が俺であることに変化を持たせる必要など無いのだから。

自己嫌悪するだけじゃ何も変わらない。

義手が出来て、自分にしか出来ない事を…やり遂げる。

それが、無力を痛感している俺に出来る唯一の覚悟の形。

 




約一カ月更新より少し遅れてしまいました。
なぜかというと、疲労、トライエイジ新弾、FBDLC、迷走、疲労による睡魔。
この辺の単語からなんとなく読解してくださるとありがたいです。

ライジングの新弾は全くできてないです。辛いです。
遊戯王もやってますが、疲労でそれどころじゃないですね。大会にも全く出られていない状況。

とまぁ、関係ない話はいいとして…内容が全然進んでないですね。時系列的には一応進んではいるのですが、戦線離脱した主人公サイドの話なので主人公の視点からぐだぐだ過ごしているだけの話です。
いわゆる難産でした。言い訳させてもらうとこの辺の話は本当に悩みました。というよりこの先の展開どうしようかとてつもなく悩んでます。
クウガ書いてるほうが気楽だったりそうでなかったり…。

あまり関係ない話ばかりしても仕方ないのでこの辺で。
では、感想とか評価とか誤字脱字とか…お願いします!


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16話

少女の目は…失礼な言い方だが、いつもとは違い活力とでも言うべき力に満ち溢れている。

場所は調査兵団居住区の食堂。

さすがに調査兵団に長くいる兵士たちはすぐに食事を始めたものだが…先の壁外調査の影響でまともに食事を取ろうとする影は無い。

そんな食堂に居る影は3つ。

少女、アニ・レオンハートと巨漢ライナー・ブラウン。長身の少年、ベルトルト・フーバーである。

アニの力の満ち溢れた姿とは裏腹に、ライナーとベルトルトはどことなく暗い雰囲気だ。

 

「本当に知らないの?」

「…俺たちの知ってる事はお前も知っている事だろ」

「そうだよ」

「じゃあ、“あの巨人”は…なんだって言うの?」

「…」

「…」

 

あの巨人…とは先日の壁外調査で現れた通称鎚の巨人のことだろう。

高い防御力と機動力、そして圧倒的とも言える攻撃力の高さは他の巨人と比べても普通じゃないことは誰の目にもすぐに分かった。

 

「俺達の知らない巨人…というだけで脅威だな。なにせ“俺達”を仲間と認識してるかどうかすら分からないんだからな」

「“俺達”?」

 

その言葉に反応したのは当然アニ。

力のある視線から一変。その目は不満に染まり、不機嫌一色に変わる。

その目の色の変化を感じたライナーは内心しまったと思うがもう遅い。

 

「私は降りたの。…忘れたわけ?」

「あー…言葉のあやだ」

「ふんっ」

「…でもさ…アニはやっぱり…」

 

言いにくそうにしながらも、何かを伝えようとするベルトルトに視線が集まる。

その顔はいつも弱気なベルトルトを表したような表情であり、それに合わさるかのように空気が少しだけ重くなる。

 

「悪いけど…私は変わらない」

 

言いたい事は伝わる。

それはなんとなくだけども、分かるのだ。

スッと肩を落としたベルトルトは溜息を吐くと、思った事をそのまま口にする。

 

「…まるでハンクみたい」

「まったくだ」

 

その発言にアニはふんっと鼻を鳴らすとさらに不機嫌そうな顔を背ける。

 

「とにかく…あの巨人が何を考えているかが私やあんたたちに分からない以上…あんたたちも私も一緒だって事は分かってる?」

「まぁ…な。といっても元々アニ、お前がやるはずだった事をやったんだ。俺達の事がバレてるのか…それとも何かあるのか」

「そう言う話になると怪しいのはあんた達なんだけど」

「…そうなるな。ただ、俺たちは違う。今はそれだけははっきりしてる。お前が離れた時点で俺たちはあの壁外調査はスルーするつもりだった」

 

アニの疑いの視線を物ともせずに視線をぶつけるライナー。

その視線は自分に非が無いと疑って無い強い視線。

 

「お前がやれる事を俺たちには出来ない。得手不得手がはっきりしているからな。…俺じゃ鈍足すぎるし、ベルトルトは話にすらならない」

 

大体顔が割れてるのがやりずらい。とライナー。

 

「…まぁ細かい話はいいわ。なにが言いたいかって言うと…」

 

今度はぐっと溜めるアニに視線が集中する。

やはり普段のどことなく力の抜けた雰囲気は感じさせず、意志の強さを秘めた瞳は容姿の美しさもあって人を魅了するオーラを出している。

当然本人にその意志は無いが。

 

「立ちはだかるなら潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、あの発言をした後こうやって人里離れた場所に監禁紛いの事をされてる感想はどうだ?アニ」

 

苦笑いしながら茶化すようにアニに話しかけるのはライナー。

正直急に荷物もまともに持たされず、こうして高原の真ん中にある一軒家に閉じ込められるかのように入れられている事にライナーは笑うしかない。

 

「…最悪」

「は、はは…」

 

柄にもなくぷっくりと頬を膨らませて視線を逸らすアニの表情は、年相応の少女の物だ。

そんなアニの態度にベルトルトは渇いた笑いをするしかなく、同期の面々は会話の内容は分からなくてもアニの表情に目を丸くしている。

クリスタなどはそんなアニの表情に柔らかい笑顔を浮かべていたりするのだが…。

 

「しかし、だ。アニはいいとしても、この現状は釈然としないな。…まるで監禁…なんてて言うのは言葉が悪いか?」

「…ちっ」

「…アニが拗ねて和んではいるが、この現状は普通じゃないと思わないか?」

 

ライナーの表情が引き締まる。

 

「なんで私服で待機なんだ?『戦闘服は着るな』『訓練もするな』だぞ?なぜだ?俺たちは兵士だぞ!さらに疑問なのは上官たちの完全装備だ。ここは前線でもねぇ壁の内側だぜ?何と戦うってんだ?」

 

ライナーの真剣な表情と疑問も食欲馬鹿とただの馬鹿には届かない。

頬杖を突いたままうーんと唸るくらいのもの。

 

「このあたりはクマが出るからな」

「えぇ。クマですね」

「クマなら鉄砲でいいだろ…みんなワケが分からなくて困惑してる。呑気にくつろいでんのはお前らだけだよ」

 

そして視線はアニへ。口外しないがライナーは「まぁ、例外も居るが…」と視線で語る。

それを受けたアニは当然視線で応戦、「…回す」と圧力をかける。

 

「…いっそ抜けだして上官の反応でも伺いたい気分だ」

 

ライナーは真剣な話をしたはずなのに、なぜか空気が軽いと感じている。

馬鹿二人の存在もそうだが、それ以上にアニが本当にやる気を無くしているからだ。

元々憲兵を目指しているといっても訓練兵時代もそこまで真剣ではなかったアニではあるが、その空気はいつも鋭かった。

変わったと言えば変わったんだろうし、根本的には変わってないのだろうが…こうして調査兵団の一員としているアニは昔とは違うと感じる。

訓練兵時代なら冷たい視線で完封されたものだとライナーは懐かしく感じるほど。

 

しかし、現実はどうだろう。

懐かしく感じる暇など無いほど、世界が人間に与える脅威、その障害はとてつもなく…大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おい、なんだこの空気は」

 

扉を開けた先で、真っ先に視界に入ったのはベッドで寝ているエレン。

特に外傷は無さそうだが、ベッドの横に座るミカサの雰囲気から察するに大したことは無いんだろう。

だが、それ以上にここの空気は重い。

…また誰か死んだという考え方も出来るが、同期以外の人間の死でここまで感傷的になれるほど薄い経験はしてないと思うが。

 

「は、ハンク!」

 

俺に真っ先に反応したのはベッドの上に座りこんだアルミンの横に立つ馬面。

 

「…大丈夫なの?」

「そこそこ元気だな。ほら」

 

そう言って完成した義手をぶらつかせる。

見た目に変化は特に無し、具体的な変化のほどは見た目からは感じないがどうやら耐久性が向上したらしい。

しかし戦場での俺にとっての義手が生命線である以上、耐久性の向上ほどありがたい強化も中々無い。

まぁ、残念なことに耐久の変わりの重量が増しているそうだ。

渡された後「対人戦でのパンチは強力だぞ!」なんて言われたが、人間相手にこんな金属の塊で殴れば重さに関係なくさぞ強力な武器になるだろう。

 

「いや、義手もだけど、体は?」

「特に問題ないな。義手が完成するまでずっと閉じ込められていたから、肉体的には元気だ。まぁ、どれほど体が鈍ったかは…わからないが」

「…何にしろよかったじゃねぇか」

「…お前らは大丈夫そうじゃないが?」

「…は、ははは。ハンクにはそう見える?」

 

渇いた笑いで視線を向けるアルミンの表情は暗い。

ミカサの無表情もどことなく暗く感じるし、馬面の笑顔なんて張り付いたかのように硬い。

…大丈夫には程遠いな。

 

「…大丈夫には見えないな。なにがあった」

「唐突なんだけどさ…えーっと…人は、もしかしたら、なんだけど巨人に守られていたかもしれないんだ。ハンク、一旦今回何があったか話した方が良い?」

「いや、結論だけ話してくれ。お前たちが何をして、なにを経験したかを聞いてもしょうがない。有益な情報があればそれだけでいい」

 

実際多くは知らないが、鎚の巨人を捉える作戦に出たという話は先程聞いてから来た。

そこで何があったかなんて知らないし、知ろうとも思わない。

…情が移ったとでも言うべきなのか、こいつらが生きていた事が、まぁ、なんだ。

そんなに悪くない気分だ。

…………別に心配だったとかそういうわけではない。断じてない。

ただ、これ以上俺の目の届かないところで、知り合いが死んでいくのが堪らなく悔しい。

俺が訓練兵時代学んだ物はなんだ?得た物は?

あの醜悪で、存在そのものが嫌悪の対象になる、巨人を殺す力だ。

得たはずだ。それは通用したはずだ。

だが…届かない奴も居た。

それが鎚の巨人だったし、そこでは生命線である義手を失った。

感じた物、それは無力だ。あの無力さ。

培った物が活かせず、結局目的を果たせず、悪戯に戦力を失う。

全てが最後に繋がっていくのなら、俺が居ない場所でエレンやミカサのような力を失うのは全て俺の責任。

自意識過剰なのかもしれないが、そう思わなければいけない。

“俺が全ての巨人を殺せば、全て上手く行く”のだから。

 

「…そっか。あの巨人、えっと、鎚の巨人は結局捕まえた…で、いいのかな。なんか水晶みたいなのに閉じこもっちゃって、どうする事も出来ない状況なんだ」

「…」

「それと、偶然分かった事なんだけどね…壁の中に巨人が居るみたいなんだ」

「…ほう」

「理由も分からないし、これからの事を考えるとそんな事ばかりも考えていられないんだろうけどね」

 

壁の中に巨人、か。

どうしてそこに居るかなんて分からないが、とりあえず現状害が無いなら放置しておけばよさそうだ。

何かあるなら上の連中はもっと騒いでいそうだし、そうでもないなら後から何とかするつもりなのだろう。身近にいた事には虫唾が走るが…精々人間を守ってくれ。…最後には殺してやる。

 

「アルミン来て。会議に参加してくれって団長が呼んでる」

 

扉を開けて入ってきたのはアルミンを呼びに来た兵士。

アルミンは一言返事をすると、いそいそと準備をして付いていく。

どうやら馬面も付いていくようで、ミカサを誘うがミカサは残るらしい。

 

「俺も行く」

「うん」

 

ミカサはそう言うと視線をエレンに戻す。

俺はというと、それを確認するまでも無く部屋を出て外を目指す。

振り出しに戻った、とはいかないまでもかなり微妙な空気だな。

…どの道近道なんて、ありはしないのか。

不意に、大きな溜息が出た。

 

 

 

 

 

 

事件の日ストヘス区内の憲兵団支部の施設でこの日を総括する会議が行われた。

各々の考えが渦巻く会議はお互いに言いたい事を言い合い、平行線を辿っていると言っても差し支えない内容だ。

憲兵団側は「目星が付いているのならばなぜ憲兵団に協力を要請しなかったのか」というもの。

それに対し調査兵団の団長であるエルヴィン・スミスは「潔白を証明できる者のみで作戦を遂行する必要があった」と述べる。

どちらの言っている事も正しい。そこに隠れる思惑のありなしを除いたとしても、“口頭で”語っている事に不審な点は感じられない。

憲兵側のする質問に対してエルヴィンは「住民の財産を失わせてしまった事に関しては反省している。しかしそれでも結果的に、最終的に住民を安全かつ平和な世界へ導くためには今回の作戦は必要だった。壁の中に潜む敵は必ず排除する事を誓う」と大まかに言えばこのような発言をするエルヴィンの視線は鋭く、その意気込みが窺えるというものだろう。

しかし、今日の問題は止まる事は無い。

大きな音を立てて飛び込んできた一人の調査兵団の兵士。

その口から放たれた言葉は、本日日中の事件よりさらに大きな波紋を呼ぶ。

 

「エルヴィン団長!!大変です!ウォール・ローゼが!」

 

人類の砦とも言える壁。その危機は、常に隣り合わせである。

それが今宵、今一度砕かれる。

 

 

 

 

 

 

また壁が破壊されたかもしれない…か。

なんていう絶望感。

もはやここまで来ると絶望ここに極まり、とでも言いたいところだな。

呆れてしまう。

馬車に揺れる俺やエレン、ミカサとアルミンは話の内容に驚愕に染まっている。

正直、ぶん殴ってやりたい。が、我慢する。

どうやらリヴァイ兵長やハンジ副隊長が言うには一緒に乗っている司祭…ニックとか言ったか。こいつは壁の中に巨人が居る事を知っていたらしい。

理由は不明。聞きだそうとしても答えない。何で知っているかも不明。当然話そうとしない。

不明不明不明。ただ何も話そうともせず、何も語らない司祭にイライラが募る。

 

「どうしたハンク、やけに静かだな。お前ならエレンのように噛みつくかと思ったが…」

「…冗談」

 

リヴァイ兵長の言葉を受け、肩を竦めて返す。

 

「言って聞かないようなら……俺は調査兵団をそういう組織だと思ってる。兵長たちに聞き出せないなら今更俺が言っても意味無いかと」

「…違いないな」

「は、ハンク…」

 

かわりに視線を司祭へ送る。

一瞬視線がぶつかるが司祭はすぐに逸らしてしまう。

…あまりにも判断に困っている目をしていてやり辛い。なにを知っているか分からないが、出来るならあまり手を焼かせないでもらいたいものだ。陰謀か何かで黙っているなら濁った眼をしてるからすぐ分かるものだが、そうも見えない。…本当に厄介。

 

そんな事をしている間にも話は進んでいく。

どうやら壁の材質は硬化した巨人の皮膚と同じだと言う事。

アルミンが何かに気づいていたこと。

本来であれば20年はかかる壁の修理もすぐにでも修復が可能になる可能性がある事。

そしてそれは全て…エレン次第だと言う事。

 

「できそうかどうかじゃねぇだろ…」

「…!」

「やれ…やるしかねぇだろ」

 

否定を許さない真っ直ぐな視線がエレンを貫く。

リヴァイ兵長の言葉は重く、プレッシャーのようにも感じるだろうが…出来る奴が一人しかいないんじゃな。

 

「こんな状況だ…兵団もそれにを死力尽くす以外にやる事はねぇはずだ。必ず成功させろ」

「…はい!オレが必ず穴を塞ぎます!」

 

言いきり、鍵を握りしめるエレン。

いつか言っていた全ての答えがある地下室への道。どの道いつかは解決しなくてはいけない問題。

全ての命運はエレン次第。

ま、そうすりゃあ分かるんだろ?俺も感じてる。

 

「この怒りの矛先をどこに向ければいいかが…」

 

そうしている内に馬車はエルミハ区に到着した。

リヴァイ兵長と司祭はここで降りるので全員に一言ずつ言葉を掛けている。

アルミンには頭を使え、ミカサにはしくじるな…そして俺へと視線を向ける兵長。

視線だけで何となく緊張感が走るこの人にはさすがに頭が上がらない。

 

「ハンク、お前には特に言う事は無い。言っておくがこれは信頼じゃない。お前の事だから言っても聞かないだろうし、俺の期待をいい意味で裏切れると思っているからだ。期待はしていないが、お前がやれることもやり尽くせ。…いいな」

「…了解」

 

最低限、いや、全力を尽くすことに変わりは無い。

 




お久しぶりです。
遅れてすいません…と言いたいところですが、おそらく次も遅れます。
ですので次の機会にとって置きたいと思います。

原作の方も進んでいますし、これからどうするかは悩みまくっているのでどんどんペースが落ちると思います。
月刊の方を読んでいるとなんかこのまま行って先が見えるのか見えないのか…納得できる形に持っていければいいのですがそこも考えものですし、色々難しいです。
もしかしたら一旦大きく時間を空けて考える時間をとってもいいかもいいかもしれませんね。
中途半端な作品を読んで面白いと思う人もいないでしょうし。
まぁ、元々のクオリティが低いのでどうなるかわかりませんが…。

ともかく、読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告及び、感想評価待ってまーす。でわわわ


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番外編 Bad End

そう言えばライナー達が出てきたので一応更新。
アニがどうなるのかわからないと書きづらい。
というわけでBAD ENDです。


先刻全身に駆け抜けた衝撃は、間違いなく俺という存在がこの世に生まれてから最大の衝撃だった。

壁外遠征の最中に現れたそいつは、俺たち人間を蹂躙するには十分すぎる暴力を振りかざし、まるで虫でも払うかのように兵士たちを殺していく。

……実際そいつからすれば人間などは虫けら、ゴミのような存在であり、立体起動を所持して戦う力を得た人間ですら蝿程度にしか認識していないのだろう。

蠅にいくら集られても死なないように、そいつにとって正しく人類は虫けらなのだ。

朦朧とする意識を集中し、どこか壊れてしまったのかギシギシと変な違和感を発する義手に力を込めてみる。

いつもの無力感よりもさらに上の絶望感。俺にとっての無力の証明である義手が悲鳴を上げている事が、俺にとっての何かに訴えかける。

座りこみ、木に背中を預けた体に、これ以上ないほどの力を込め立ち上がる。

……大丈夫、立体起動はまだ動く。

これならまだ、まだ戦える。

俺は、湿った手を握りしめ、立体起動を開始する。

 

 

 

 

 

人類最強の兵士と称されるリヴァイ兵長、そして新人でありながらリヴァイ兵長同等のポテンシャルを秘めているであろうミカサ・アッカーマンのペアは、敵を追い詰めていた。

精鋭揃いの調査兵団内でも屈指の戦闘能力を持つ二人を前に、ついに“女型の巨人”は追い詰められたのだ。

幾人もの兵士を殺し、ついには巨人化能力を有するエレンを撃破。そのエレンを口内に含んだままの逃亡戦では、相当の劣勢だった事を除いてもこの二人を相手にして未だに生存している事がこの巨人が普通ではない事を物語っていた。

さらに一閃、リヴァイの刃が煌めき女型の巨人の身を削る。

当然巨人であるためその回復力は人間と比較するのは馬鹿らしい速度で再生していく。

しかし、どんな凶悪な再生能力でもラグがあり、無敵ではない。

それに人体構造が人間で酷似している事で、全身の筋、腱などを切断されれば当然行動を一時的に封じることだって可能。

とはいっても動く相手を的確に狙うのは難易度が高く、並大抵のことではない。それに女型の巨人は機動力が高く、その全力は巨人よりも速く走れるように調整された馬よりも圧倒的に早い。

だが、しかしだ、女型の巨人は普通の巨人と比較しても尋常ではない速度で動いてはいるが、それと相対する兵士は人間の範疇に収めるのが馬鹿らしいほどの技量と戦闘力。

立体起動と肉体の限界をあっさりと超えた身体能力、さらにはその身体能力を十全に生かした二人はそんな無理難題を軽やかにこなしていく。

ただそれでも二人の顔色が優れないのは、純粋に焦っているからだろう。

彼女―――と称していいかは不明だが、女型の巨人の口内に含まれているであろうエレン・イェーガーは、人類にとっての希望となりうる人物であり、ミカサ・アッカーマンにとっての命よりも大切な人物なのだ。

それが、生きているかも死んでいるかも不明。さらには時間経過と森が脱出された場合の追撃不可能と言う現状、それが冷静な技量を乱している。

だからこそ女型の巨人に対して、未だに有効な攻撃を与えられていないのだ。

それに女型の巨人の使う、硬化能力。これによって本当に重要な筋などは完全に守られてしまう。

ただ、本来であればいくら硬化能力を有していようともリヴァイ兵長からすれば全身を同時に硬化させない限りいくらでもやりようはあるのだが……この女型の巨人は何かを悟ったかのように冷静であり、超高機動での撹乱の類に一切引っ掛らない。

筋を攻撃すると見せかけ一気に駆け上がり、頬を破ってエレンを救出しようとした際には筋を守ろうともせず頬を硬化させた。

それどころか反撃など一切せずひたすら逃げに徹するこの巨人は、本当の意味で人類に絶望を与えようとしている。

それが、どれだけの焦燥感を煽るかなど……考える事すらできない。

事実、もはやリヴァイとミカサ・アッカーマンは思考することすら疎かになり、ただ現実を悪夢に変えないようひたすらに努力を繰り返すことすら許されない。

当初は一旦止まって作戦を練る時間もあったものだが、現状そんな事をしていたら逃げ切りを許してしまう。

立体起動など足元にも及ばない全力疾走を隠し玉にしている女型の巨人にとって時間を与えられると言う事は、逃げてくださいと言われているような行為に他ならないからだ。

現在それが許されないのは二人の猛攻があってこそであり、時間を与えてしまえば本当に一瞬で逃げ切りを許してしまうことは間違いのない事実だ。

それに、ガスと言う消耗品を使用してこそ許された高機動には当然限界がある。

当然補給など軽々しくできる物ではないし、戦闘中にそれが許されるような相手ではないのだから二人の意識は自然にそっちに向く。集中力こそが戦闘の要であるのは言わずもがなであるが、集中しきれていないというのは非常にマズイ。

こうした複数の要素が絡み合い、何とも言えない微妙なバランスでの追撃戦が行われているのだ。

 

「クソったれが……っ!」

 

苛立ちを隠そうともしないリヴァイは更に速度を上げる。それを見てミカサは瞬時に意図を理解。なりふり構わない特攻ではなく圧倒的な速度と技量を前面に押し出した短期決戦。これ以上長引かせる事はナンセンス極まりないというリヴァイの判断だろうとミカサは考え、それに続く。

巨人は速いと言っても立体起動で追えない速度ではなく、追いつくこと自体は簡単だ。それに対巨人戦はむしろ複数人で攻めて、単体ならば逃げるのが定石であるため巨人の全力疾走からも複数の条件が重なれば逃げることなど容易い速度を出すことが可能だ。

それはいくら運動性能が高い女型の巨人でも例外ではなくただ単に走るだけならば、一瞬で追いつくことが可能である。

リヴァイは瞬時に足元に纏わりつくような機動を取ると、刃で斬るのではなく“叩く”。

本来ならば巨人にこんな手段を取る必要など無いだろうが、この女型の中身が人間であるならばその限りではない。痛みが有るのか、むしろ神経が有るのか不明だが……何かを掴む、口にエレンを入れていることから一定の感触を感じていることに違いはないはずだ。

では無ければ掴むことなど出来ず、いや寧ろ力加減が出来ず一瞬で握りつぶすだろうし感覚が無ければ口の中のエレンなど一瞬で飲み干すだろう。

だからこそ、“叩く”。痛みはなくとも感触さえ伝わっているならこれで十分フェイントとしては有効なはず。噂に聞く鎧の巨人が全身なのに対し、一部……もしくは数か所程度の硬化しないのならやりようはある。いくら冷静に局部だけ守ろうとも口か項か、はたまた筋か。どれか潰せばチャンスが生まれるのだから、中身が人間であり神でないのなら判断を鈍らせたり混乱を招くと言うのは相当有効なはずだから。

それと同時にミカサは頭部へ飛ぶ。その役目は、確認。リヴァイが何回か足まわりに衝撃を与えると女型はついに頬を硬化させた。

最強格の兵士二人による完璧とも言えるコンビネーション。そしてそれが初とは思えない圧倒的なまでのタイミング調整。

 

「兵長!!」

 

次の瞬間にはリヴァイ兵長が足の腱を切り裂き、勝利を収めるだろう。

 

 

だが、運命は残酷だ。世界は優しくなんて無いし、人の気持ちや意思なんて簡単に踏み躙る。

 

 

全てが完璧な作戦に唯一の失敗が有るとすれば、ミカサが合図に声を出した事だろう。

女型の巨人はその声を聞いた瞬間大きく屈むと……まるで砲弾のように前進した。それは、恐れていた超加速だ。

まるで空気を抉り取るかのように突き進むための初速から生まれた風圧は、人間など紙屑同然に吹き飛ばす。サイズの問題など身体能力云々の問題ではないのだから人類最強だろうがなんだろうが、“人類”である限り抗うことなど不可能だろう。

 

「っの……!!がぁぁぁぁぁ!!!」

 

吹き飛ばされながらも、気合いを充填。木に齧りつくようにしがみ付くとリヴァイは立体機動へと移る。その瞳には絶望の色はなく、ただ目先の生涯を一身に排除しようと言う気持ちが色濃く出ている。

それに対しミカサはというと、顔色は蒼白でその心に大きく絶望が圧し掛かっている事だろう。

ミカサは思う。警戒していたあの加速をされた時点で詰み。もう、全てが終わりなんだ。エレンも取り返せず、結局守ることなんてできなかった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい、エレン。

 

実際、平地では馬ですら一瞬で追いつき追い越す女型の加速は立体起動でさえ追尾するのは不可能に近く、その性能を十全に活かせる森ですら五分ではないのだ。

まっさらな平地に出られれば本当に詰むのだから、やれる事はやる。リヴァイはそう考え、全力で飛ぶ。

奇跡は待っていても起こせない、だからこそ起こせる者を世界は、人は必要とするのだろう。

この時人類の希望たるエレン・イェーガー救出に、奇跡は………起きた。

 

 

 

 

 

ただ、殺す。虚仮の一念なんてモノじゃない。そんな純粋なモノじゃない。

もっと醜くて、希望を照らすはずの未来さえ消すかもしれないほど醜悪なほどの殺意。

俺という存在が、俺という人間の生き方がそれを証明する。

いつだったかエレンに言ったあの言葉。……本当にいつだったかもわからないほど全身の激痛と頭痛で何も分からないが、間違いなく思いだせる。

 

「……巨人は皆殺しだ。絶対に―――殺す」

 

俺の存在を賭けた……殺意の権化と化した俺は、あの女型を……絶対に許さない。

 

待ち伏せなど余裕だった。エレンを捕まえた以上兵長とミカサが黙っているはずなど無い。あの二人を信頼してないわけではないが、最低でも遅延くらいはしているに違いない。

ほとんど森の中心でエレンとの戦闘が有った事を考えると俺を跳ね飛ばした後の方向から推測できる逃げ道はそう多くない。立体起動を使えば分かるが方向転換とはかなりの速度を削ぎ落される。逃げるなら真っ直ぐ、愚直に直進するはずだ。

俺の体のダメージはかなり大きい。もしかしたら今後戦えなくなる可能性もある。

だからといって自棄になったわけではないが、俺の怒りは振りきれた。エレンがどうとか人類がどうとかじゃない。もう、我慢なんてできない。

あの女型だけはどんな手段を持ってしても殺してやる。

 

案の定回り込みに成功した俺に向かって女型が猛スピードで突っ込んでくる。その速度たるや立体起動の比ではない。

が、逃げるのを追うのは無理でも向ってくる物を迎撃するなんてたいして難しくはない。

それこそ逃げる相手には槍でも刺さりにくいが向ってくるなら木の枝でも刺さる。

……どうやら女型も俺に気付いたようで速度を上げる。どうやら勢いを殺して捌くよりそのまま吹き飛ばした方が確実という判断だろう。

賢明な判断だ。冷静だし、まともにやり合って勝てるとは思えない。

だが、お前はここで死ぬ。お前が巨人である以上俺は殺さなきゃいけないんだ。

俺の命を賭けた殺意に、貴様なんかが……勝てるもんかよっ!!!!!

 

「ふっ!!!」

 

木から飛び降りアンカーを飛ばす。目標は女型の額だ。どんな判断をしようが硬化させるならどうせうなじだろ?

俺は勢いよく突っ込んでくる女型の勢いに流されながらも体制を立て直し項にしがみつく。

これで、詰みだ。

目の前の項は高質化して見ただけでも刃ごときじゃ通らなさそうだ。

だが、俺の“コイツ”は絶対にお前を殺す。

 

「悪いが、俺と一緒んに死んでもらうぞ。……“  ”」

 

そんなに嫌いじゃない奴の名前を投げかけると、少しだけ速度が遅くなった気がした。

うん、たぶんの気のせい。

だから俺は、何も考えずに自爆した。

 

 

 

 

 

 

 

そこで何が起きたのか、何が有ったのか。ミカサ・アッカーマンとリヴァイ兵長は何も語らない。正確には団長やその側近には語られたらしいが、その詳細を知るものは少ない。

だがエレンという人類の希望が帰って来た事に喜ぶ半面、大きな犠牲を出したことも事実。

そして行方不明者、戦死者の中に刻まれた名前は“彼”と同期の物にとっては衝撃的な名前だったという事は間違いないだろう。

 

「オレを助けたのかな」

「……どうだろう。少なくともハンクはハンクの考えで動いたって事だと思うけど」

「私はハンクじゃないから何も分からない……けど、もしエレンを助けるために命を賭けたのなら私はハンクに大きな借りを作ってしまった」

「……ミカサ」

「一人ぼっちは寂しい。心が寒い。……エレン以外はどうなってもいいって思ってた時もあった。今でもその気持ちは強い」

 

すぅっと一つ息を吸うミカサ。心なしか肩が震えているようにも見える。

 

「私は今、すごく、すごく寒い」

「そんなこと、オレだって分かってるよ」

「僕だってそうさ」

「だからこそ、殺さなきゃいけない。敵が誰であったって、どんな強敵だったって……巨人は皆殺しだ」

 

「駆逐してやる、一匹残らず……切り刻む」

 

こうして、ハンクという一人の男は死んだ。

だが、残された物もある。それが何かは言うまでも無いが……多くのうち一つを上げるとすれば、想いだろうか。

 

これは、いくつもある終わりの一つの形。一太刀に命を掛け、巨人を切り続けた男の一つの終わりである。

 




ただ、何も考えず口とうなじだけ守ってる女型ってわりと手の着けようがないと思います。
あと、ハンクを跳ね飛ばしたことで殺したと思った女型中の人は感情が振り切れて逆に冷静になってるパターンです。

まぁ、とりあえずの更新ということで……次はアニが出てきてどうすればいいのかわかるようになったら更新します。

感想などまってます!


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17話

 

 

ユミルという女のことは苦手でもなければたいして好きでもないし、だからと言って特別嫌いでもない。

『どうでもいいやつ』位の評価のやつ。

 

だがどうでもいいやつではあるが、俺との絡みは実はそんなに少なくなく、訓練兵団時代にはアニやエレン、ライナーやミカサといった近接戦闘の怪物達との訓練の傍ら、なんと驚くことに力業で強引に押し倒す以外の能力は五分といった様子のクリスタとはよく訓練をしていたので、クリスタになぜか異常なほど過保護なユミルとも話す機会自体は多かった。

 

以前クリスタが強くなってるかもみたいなことを言っていたがそんなことは全くなく相変わらず素手での戦闘能力は酷いものだ。

 

「成長が見れねぇな」

「うちのクリスタを見習えよ」

「あんな化け物みたいな強さの連中と一緒になってやってる意味あんのか?」

 

等々口を開けば文句や皮肉ばかり。

 

「もう!ハンクだって頑張ってるんだよ!」

 

と、クリスタに言われれば大人しくなるがお節介ライナーやエレン狂いミカサより何を考えているかわからないから厄介で仕方ない。

それでいて構うなというとクリスタを引き合いに出してごちゃごちゃ言ってくるのが質が悪い。

これだけ俺の中には悪評があるのに、どうでもいいやつから鬱陶しいやつにならないのはクリスタの、

 

「ユミルは口が悪いけど、根は良い人だよ。それにハンクに悪口ばっかり言うけど…その、えっと、義手には触れないでしょ?やっぱり踏み込んじゃいけないところっていうのは理解してるんだよ。だから、ハンクも仲良くしてあげて」

 

との言葉が以外とスッと頭に入ってきたからだろう。

コンプレックス…とでもいうのか義手にしてから言われてきた『お荷物』『役立たず』この手の言葉は確かに嫌いだ。言われてもなんとも思わないが、それでも言われたいわけではない。

その点文句ばかりだが、そう考えると言われたくないことを言ってこないユミルは一歩線を引いているのかもしれない。

しかしそれで帳消し。悪態とクリスタの言葉でマイナスイメージがプラスになったりはしないからちょうど『どうでもいいやつ』と言ったことろだろう。

 

だからこそ俺は、巨人に群がられて貪られかけているそいつを『ユミル』と呼んだクリスタの言葉を信じて巨人を助けようとしているのだろう。

 

「ハンク!?」

 

驚きの声は誰のものだろうか。

崩れた城での戦闘は、立体起動を用いた戦闘とは相性がよくない。

高さを生かした手の届かないところからの一撃離脱戦法ならともかく、ほぼ更地同然の瓦礫の山の上では平地と大差ないのだ。

 

「邪魔だ」

 

しかしそんなものは大した問題ではない。

目の前のボコボコにされている巨人がユミルなら、そいつを死なせるわけにはいかない。

そもそも援軍が俺一人なら、という条件付きの敗北条件だ。

 

「討伐数…一ィ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かったぜ、ハンク」

「あぁ」

 

腕を怪我したのか支え木をした腕を吊るしたライナーは、いつものフランクさで話しかけてくる。

しかしフランクさとは裏腹にその顔は本当に疲れているようでどことなく覇気がないような気すらする。

 

「正直もうダメだと思ったぞ。上官がなに考えてるか解らないが、武装なしの待機が今回は悪い方に傾いた。理由を是非とも聞かせ」

「ユミルが巨人になったところを見たか?」

「…」

「どうなんだ、ライナー」

 

言葉を遮って告げた俺の言葉に、ライナーは壁の向こうに視線をずらすと言いづらそうに口を開く。

 

「あぁ、見た」

「そうか」

「ハンク、待て。落ち着け」

「?なにがだ」

「何ってお前…そりゃお前のことだ、巨人は皆殺しって」

「ユミルは別に殺さない。エレンと同じだ。巨人を殺してくれるならわざわざ殺す必要なんてないだろ」

「…なんかハンクのことがまた少しわかった気がするよ」

「…なんだ居たのかベルトルト」

 

酷い!と騒ぐがライナーとベルトルトは大体セットだがベルトルトはデカいわりに口数がやたらと少ないから空気みたいなもんだ。

図体がでかいんだからもっと存在感をだせ。

どうでもいいけど。

 

「俺の夢は変わらない。巨人は殺す。自由を掴むために、な」

 

なら、使えるものは使うし、使えるものをわざわざ殺す必要なんてないだろ?

そう言って小さく笑うと、ライナーとベルトルトは目を見開いて驚く。

そんな驚くことじゃないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はライナー達から離れてクリスタとアニの近くにいる。エレンとミカサが話したいというので離れたのだ。

込み入った"話"もあるだろうし、俺らに聞かされた"話"もあるがそんなことは何かが起きてからしか考えようのないことだ。

 

「ハンクはさ」

「…」

「ユミルの、味方、だよね?」

「…」

「ユミルはさ、良い人だよ。私がイイことする度になんでイイことするんだって怒るんだ。だけどそれは、誰かのために誰かが犠牲になるのが気に入らないんじゃないのかな」

 

私の想像も入っちゃってるけどね。と笑うと俺の目を見て言葉を続ける。

 

「それはきっとユミルの本心だろうし、それをやってる私は偽善的に写ってたはずなのにいつも私の事を心配してくれて、それで…」

 

言葉に詰まったのか俯き、拳を握って冷静に言葉を探すクリスタ。

ほんの少しの間のあと、顔を上げて

 

「結局私達のために、命を懸けて戦っちゃうんだもん。とんでもないイイことして、私には前を向いて生きろなんて偉そうなこと言うんだよ!どっちが良い人なんだよって思うよね。…ねぇ、ハンク」

「なんだ」

「ユミルは、きっと大丈夫。だから巨人になれるけど、仲間…だよね。エレンと同じように、これからも仲良くしてくれるよね」

 

…なるほど。エレンが周りにどう思われてるか解らないが、これはさっきのライナー達と同じだな。

 

「別にユミルは殺さない。元からそんなつもりはない」

「…本当?」

「エレンが特別なんじゃない。エレンがその辺の巨人と同じように暴れるなら殺す。同じ志があろうが無かろうが敵は殺すだけだ。…ユミルはエレンと同じで巨人を殺す巨人になるなら、味方を殺す必要なんてあると思うか?」

「…そうだよね!そう思うよね!」

 

そう言って抱き付かれてしまったがこれは

 

『エレンとは仲良しだったから殺さなかったけど、ユミルは酷いこと言ってたし巨人になったからハンクは絶対ユミル殺すよね。どうしよう、ユミルは悪い人じゃないよ!』

 

と言うことだろうか。俺がユミルを殺さないから抱き付いてきたのなら、一体俺は何だと思われているんだ。

いや、心当たりを探れば山ほどあるか。

エレンと違って社交的とはほど遠いしな。

 

「ちょっと」

「ぐえ」

 

普段ならそんな言葉を発したのを見たことのない声を出したのはクリスタで、出させたのはアニだ。

後ろ襟を引っ張って俺から引き剥がしたのだ。

 

「イイ感じのところ悪いんだけど、私も居るんだよね」

「イイ感じ!?」

「俺がユミルに手を出さないから安心しただけだろ」

「ハンクは黙ってて」

「…」

 

やる気のない雰囲気のアニには珍しく、格闘訓練中のような覇気を灯した目に威圧され大人しく黙る。

こうなったやつは大体人の話を聞かないからな。

戦闘中や、戦闘準備中なら何を言い出しても大人しく戦闘に集中しろと怒るだろうが命の危機を脱した後な訳だし少しくらい好きにさせるか。

 

「抱き付くとか、クリスタはこいつのこと好きなの?」

「…え?」

「皆から天使だとか言われてるあんたのその辺の事情は気になるところなんだよね。ユミルとあんたの感動話はいいけど、それはそれだし」

 

……なんだこの空気は。

冷徹なアニの視線を真正面から受け止めるクリスタ。

元々自分の考えがあり、しっかり者のクリスタらしいと言えばらしいが…普段は喧嘩をすぐ仲裁する側なだけに、

 

「アニには関係ないよ」

 

なんて言い返すとは思わなかった。

 

「…ふーん」

 

クリスタの言葉にアニは少し驚いたようだがすぐに刺々しい雰囲気を纒だしたので、さすがに止めようと口を挟む。

ちょっとした軽口くらいならいいが、喧嘩にまで発展するのはやりすぎだ。

 

「おい、いい加減にしろ。なんでもいいが、安全圏に移動してからにした方が良い」

 

痺れを切らした俺の言葉に二人は渋々といった様子でこちらを見る。なんだその目は。

 

「そもそもあんたが…」

「どうでもよくないよ…」

「?なにが」

 

このピリつきながらも、訓練兵の時のような空気は文字通り閃光と爆発によって掻き消された。

よりにもよって俺が世界でもっとも憎い、巨人の出現で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄だ」

 

長年調査兵団の兵士をやってきた、男は目の前の光景に言葉をこぼす。

調査兵団は巨人との接触機会がもっとも多く、男はそんな人類の宿敵である対巨人戦闘を何度も繰り返してきたのだ。

それでいてこうして生きていることは、複数の幸運があったとはいえ男を優秀な兵士と言える要因だろう。

 

「地獄だ」

 

そんな数々の修羅場を潜った男も、こんな地獄とも言える空間を体験したことなどない。

いや、命の危機を感じるという点ではもっと背筋を凍らす恐怖体験は数あるが。

 

「地獄だ」

 

ベクトルが違う。

まるでこの世の終わりを見ているようだ。

 

バチンと肉が物を叩く音が響く。

ちらりと男は話に聞いたエレン巨人の運動性能に、驚嘆のため息が出る。

見たことのない、見慣れない…そう巨人を何体も見てきた男にすら見たことのない巨人だ。

優秀とはいえ所詮は優秀の域をでない男を遥かに越す、対巨人戦闘のプロ。副隊長や側近が、エレン巨人とその側で構えを取る『鎧の巨人』を取り囲む。

人類に明確な敵意をもつであろう鎧の巨人は、エレン巨人の、横にいる。

そう、男にも理解し難く、何が起こっているのかよく分からないのだが、エレン巨人と鎧の巨人は『共闘』しているのだろう。

 

めちゃくちゃだ。

そして人間が巨人になった戦闘能力の計り知れなさは、エレン巨人が、そして先の作戦である鎚の巨人捕獲作戦の犠牲者の数が物語っている。しかもエレン巨人と鎧の巨人に巨人殺しのエキスパート達だ。

どんな巨人が勝てるというのだ。

 

鎧の巨人が宙を舞う。

地面から突然生えた戦鎚の様な塊に吹き飛ばされたのだ。

アレだ。

アレだけでも鎧とエレンは苦しめられている。

どこからともなく、前触れもなく攻撃されているのだからその厄介さは計り知れない。

更にはどこから湧いたのか、見慣れた巨人がうようよとエレンたちに群がって来たのだ。

運動能力が違うエレンと鎧、更には調査兵団のエリート達に巨人など物の数ではないが、正体不明の攻撃はエレンや鎧はともかく生身の人間には触れただけで即死の攻撃である。

すでに何人も犠牲になっていて、普通の巨人相手でも安易に攻められない。

人間と巨人が入り乱れ、この世の終わりのような光景を見て、男は言葉を溢す。

 

「地獄だ」

 

これは、人間が巨人に刻まれた恐怖から来る、本能の言葉だ。

男は震える拳を握り締め、その地獄を見つめる事しかできない。

なぜなら人は、何度もこうして巨人に敗北し、恐怖を刻まれてきたのだから。





ルート分岐点の一つ

城での場面はアニが追加されただけで特に変化なしなのでカット

次話ではエレンと鎧の共闘が始まるまでを起点に書きたいと思います。

なんやかんやクリスタって可愛いよね!

ではまた次回、よろしくお願いします!
でわでわー


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