トンネル (くにむらせいじ)
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事故

 まえがき

 くにむらせいじ( 別名 SEY_Y 又は SAY_Y )です。読んでいただきありがとうございます。
 このおはなしは、元々は「アイデアノート ジャパリ・フラグメンツ」の中にあったものです。 そちらから取り出して、単品として再投稿しました。



 

 夏の昼過ぎ。湖のログハウスの二階。

 

ビーバー  「ビーバー、どのぉ……」

 泥まみれのオグロプレーリードッグ(以下プレーリー)が、はしごを登ってきた。

ビーバー  「プレーリーさん!」

ベッドの端に座ったアメリカビーバー(以下ビーバー)が、驚いてプレーリーに駆け寄った。

ビーバー  「なにがあったッスか!? なんで泥だらけに?」

プレーリー 「穴の中がどろどろになっていたであります……」

ビーバー  「とりあえず、下で体を洗うッス」

 

 

 1時間ほどあと。ログハウスの二階。

 

 プレーリーとビーバーが、階下の穴を見下ろしていた。

プレーリー 「かなり深く掘ったであります」※1

ビーバー  「粘土の層の下まで掘ったッスよね」

プレーリー&ビーバー「……なんで水が……」

ビーバー  「水もれを止めないと、通れなくなっちゃうッスね……。木を板状にして……。

でも、作ってる間にも水が……。時間がない……。どうしよう……」

 ビーバーの表情は、不安そう、を通り越し、あせりの色が見え始めていた。

プレーリー 「とりあえず、水もれを止めればいいでありますな!」

 プレーリーは、素早くログハウスの下へ下りると、トンネルに入っていった。

ビーバー  「だめ! あぶないッスよ!」

 ビーバーもプレーリー後を追ってトンネルに入った。だが、暗いトンネルの中をプレーリーほどのスピードでは進めなかった。

 

プレーリー 「みずがー!! どろがぁー!!」

 トンネルの奥から、ゴボゴボという水の音と共に、プレーリーの叫び声が聞こえてきた。

ビーバー  「プレーリーさん!」

 ビーバーは、慌ててトンネルの中を進んだ。途中で崩落防止の木組みに頭をぶつけたが、止まらず進んだ。彼女はすぐに泥水の中へ潜り、手探りでプレーリーを探した。そして、なかば泥の中に埋もれていたプレーリーを、引きずり出した。

 トンネルの底にたまった水は、ビーバーの腰のあたりまで来ていた。プレーリーは一瞬立ち上がったが、すぐに倒れ、ビーバーにもたれかかった。ビーバーは、それを抱き留めた。

ビーバー  「プレーリーさん! 逃げるッスよ!」

プレーリー 「……げぼっ、ビーバっ、けほっ、ひとりぇ、にげぅ……」

 プレーリーが、意識を失った。

ビーバー  「プレーリーさん!」

 ビーバーはプレーリーを背負って、トンネルの縦穴を登った。水位はさらに上昇し、泥水が縦穴を登って来て、ふたりを追いかけた。

ビーバー  「うああ!」

 ふたりが首まで泥水に浸かったところで、水位の上昇が止まった。トンネルの外に出たふたりは、毛色が分からなくなるほど泥にまみれていた。

ビーバー  「はあ、はあ……」

 ビーバーは、プレーリーを降ろし、あおむけに寝かせた。

ビーバー  「プレーリーさん! プレーリーさん!」

 ビーバーはプレーリーの肩をゆすったが、起きなかった。

ビーバー  「だれかーー!! たすけてーー!!」

 ビーバーは力の限り叫んだが、反応は無かった。彼女はプレーリーの胸に耳をあてた。トクン、トクンと、心臓の音が聞こえた。

 ビーバーはプレーリーの体を横に倒し、背中をバシバシと叩いた。プレーリーの口から泥水がこぼれた。

 ビーバーはプレーリーと口を合わせて、思いきり吸った。

 ビーバーは口を離すと、ゴボッ、と泥の塊を吐き出した。

ビーバー  「うえっ、げほ、げほっ」

 ビーバーは再びプレーリーの肩をゆすった。

ビーバー  「プレーリーさん! おきて! おきるッスよ!」

 プレーリーは起きなかった。彼女は再びプレーリーの胸に耳をあてると、泣きそうな顔をした。

 心臓の音は聞こえなかった。

 

 

 ……………………。

 

 

 プレーリーがトンネルを出ると、草原だった。

プレーリー 「なんで……」

 いくつもの巣穴から、プレーリードッグ(元の動物)が出てきた。プレーリードッグたちは、プレーリーの足に抱き着いたり、足を登ろうとした。

プレーリー 「ひさしぶり、で、あります……」

 プレーリーはしゃがんで、プレーリードッグたちをなでながら、涙をこぼした。

 そして次の瞬間、プレーリーは元の動物に戻った。

 プレーリードッグの一匹が、キャンキャンと、犬のような鳴き声をあげた。

プレーリー 「お前、生き埋めにしてやった……」

 キャンキャンと鳴き声をあげた一匹が、プレーリーの後ろ足をくわえて、ずるずると引っ張っていった。

プレーリー 「なにをするでありますか! やめるであります!」

 プレーリーはバタバタと暴れたが、逃げられなかった。プレーリーはそのまま引きずられて、元来たトンネルへ放り込まれた。

 

 

 ……………………。

 

 

ヒグマ   「なにがあった!」

 セルリアンハンターの3人が、湖からあがってきた。

ビーバー  「みなさん! プレーリーさんが! プレーリーさんがぁ……」

ヒグマ   「キンシコウは心肺蘇生を! リカオンははかせに連絡を!」

キンシコウ 「はい!」

リカオン  「オーダー、了解です!」

 キンシコウが、倒れているプレーリーのもとへしゃがんだ。リカオンは引き返して、湖を泳いでいった。

ビーバー  「おねがいです……。プレーリーさんを、たすけて……ください……」

 ビーバーは、キンシコウを見て、ぽろぽろと涙をこぼした。

 ヒグマは、3人から顔をそらした。

ヒグマ   「……苦手なんだよ、こういうの」※2

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

※1 このトンネルの構造は謎です。アニメでは、縦穴がチラッと映るのですが、深さはよくわかりません。トンネルの途中に部屋を作ったっぽいのですが、位置や大きさなどはわかりません。

 

※2 この「苦手」には2つの意味があります。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。
 救命のやりかたとしては、ビーバーの対応は間違っている気がしますが、心臓が動いていたので、とりあえず喉に詰まっていた物を抜いて呼吸をさせようとしました。口を合わせるのは、しょっちゅうやっていたので全く抵抗が無かったと思います。



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会議

 

 トンネルの事故から数日後、湖のログハウスの2階。

 

 ビーバーとプレーリーが隣合って立ち、その向かい側に、アフリカオオコノハズク(はかせ)とワシミミズク(助手)が立っていた。4人は、階下へ下りる穴から下を見下ろしていた。そこから見えるトンネルには、水が満ちていた。

はかせ   「水が多い場所にトンネルを掘るのは、危険なのです」

助 手   「調べてみたのですが、ヒトもトンネルの水もれには悩まされていたようなのです」

ビーバー  「残念だけど、この穴は、あきらめるしかないッスね……」

プレーリー 「あきらめたくないであります! なにかいいやり方が……」

はかせ   「あれだけの目にあってまだ懲りていないのですか。ビーバーとハンターが近くにいなかったら死んでいたですよ」

プレーリー 「死んだ仲間に、まだくるなって言われたであります……」

ビーバー  「本当にギリギリだったんスね……」

プレーリー 「ビーバーどのと、この家でいっしょに暮らしたいであります!」

ビーバー  「橋や船を使うと、プレーリーさんの家じゃなくなっちゃうんスよね」

 助手がはかせの方を向き、小声で言った。

助 手   「技術が確立されれば、ジャングルの川の下にトンネルが掘れるのでは?」

 はかせが助手の方を向き、小声で返した。

はかせ   「ほかの島に渡るトンネルも掘れるかもしれないのです」

助 手   「さすがにそれは……」

プレーリー 「ほかの島ってなんでありますか?」

 はかせと助手が、プレーリーとビーバーの方に向き直った

はかせ   「……どうしても湖の下にトンネルを掘りたいというなら、方法はあるのです」

助 手   「水の影響を受けにくい所にトンネルを掘ること、水がもれないようにトンネルの壁を固めること、水の逃げ場を作ること、たまった水をくみだすこと、これが重要なのです」

ビーバー  「もっと大事なのは、少しでもあぶないと感じたら、穴……トンネルから出ることッス。戻って入っちゃダメッスよ」

 ビーバーはプレーリーの方をちらりと見た。

ビーバー  「まず、掘る場所ッスね……今のトンネルは、粘土の層の下を通っているんスけど、完全には水を防げていないみたいッス」

助 手   「上に粘土の層があっても、横から水が流れ込んでくる可能性があるのです」

ビーバー  「水の影響を受けにくい所……調べるのは難しいッスね。調べるために下手に穴を掘ると、あぶないかもしれないッス」

助 手   「このトンネルは、島と岸を最短でむすべる場所に掘ったのですね?」

プレーリー 「そのつもりであります」

はかせ   「この長さなら、トンネルの壁を固めるだけで、なんとかなるかもしれないのです」

ビーバー  「トンネルの位置は今のまま、ってことッスね、でも、木で固めても水がもれちゃうし、腐っちゃうかもしれないッスね」

助 手   「粘土の層がある、と言いましたね」

 ビーバーはハッとなった。

ビーバー  「木と粘土を組み合わせれば、防水できるかもしれないッス!」

助 手   「完全ではありませんが」

はかせ   「ヒトの知恵を借りるのです。コンクリートというものがあるのです」

助 手   「製造は難しいようですが、参考には」

 助手は大きな肩掛けバッグから本を取り出した。

ビーバー  「まず、水もれを粘土でふさいで、たまっている水を抜くッス」

はかせ   「水中で作業する気なのですか?」

プレーリー 「あぶないであります!」

ビーバー  「オレっち、そういうの得意ッスから。泥は沈んだみたいだし、プレーリーさんみたいな無茶はしないッスよ」

助 手   「あとは水をどうやって抜くか、ですね」

プレーリー 「温泉にあった桶とかで、水をくみ出すであります」

ビーバー  「大変そうッスね……」

はかせ   「ヒトは、“ポンプ”というものを使っていたのです。助手」

 助手は肩掛けバッグから本を取り出した。

助 手   「これです。簡単なものなら作れるかもしれないのです。ただ、これには動力が必要なのです」

ビーバー 「ずいぶんしっかり調べてくれたんスね……ここまでわかれば、何とかなりそうッス」

 

 

 

 つづく

 

 



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工事

 

 トンネルの改修工事が始まった。

 

 

 BGM:「地上の星」

 

 

[  プロジェクトフレンズ  ]

 

 

   ―――― ふたりの協力 ―――――――――

 

 

――――――― 起きてしまった事故 ――――   

 

 

   ―――― あきらめたくない ―――――――

 

 

―――――――――― 止まらない水 ――――   

 

 

   ―――― ヒトの知恵 ――――――――――

 

 

――――― 作れなかった、コンクリート ――   

 

 

   ―――― フレンズの力 ―――――――――

 

 

 

 

友と暮らすため、水と戦え

~ 湖の下、トンネルを作ったフレンズたち ~

 

 

 

助 手   「なんですか今の」

はかせ   「おーぷにんぐ、なのです。気にしてはだめなのです」

 

 プレーリーが、湖の周りに以前掘った穴から、粘土を掘り出した。

 ビーバーとプレーリーが、小さな木桶に重りの石を付けたものを作った。

プレーリー 「本当に、無茶しちゃだめであります……」

ビーバー  「大丈夫ッスよ。……いってくるッス」

 ビーバーが、粘土を入れた木桶を持って、トンネルにたまった水に潜った。泥は沈んだが、水は濁っていて、トンネルの中は暗く、ビーバーは手探りと、水の流れを体で感じることで、水もれ個所を探した。

 ビーバーは、以前事故のあった場所の近くに、トンネルの壁から水が噴き出している個所を発見した。水圧のためか勢いは弱かった。彼女はそこへ粘土を盛って、穴をふさいだ

 だが、粘土はすぐにはがれてしまった。何度盛っても水圧に負けて、上手く定着せず、水もれは止められなかった。しかも水もれは複数個所あった。

 トンネルから出てきたビーバーが言った。

ビーバー   「手ごわいッスね……。プレーリーさん、木の板を作るッス」

 ビーバーは地上とトンネルを何度も往復して、かなりの量の粘土を盛り、粘土がはがれないように木の板でおさえた。

 

 ビーバーは、はかせたちに本を読んでもらい、本の絵や写真を参考にして、木製の回転式ポンプを設計し、その縮小模型を作った。プレーリーがポンプの製作を行った。ポンプの動力は、遊園地にあった乗り物の部品を使い、自転車のような足こぎ式にした。

 

 島じゅうにある、使われていない水道管を、プレーリーが掘り出した。

 ある時、掘り出した水道管から、水が噴き出した。

ビーバー  「あああ! それまだ生きてるッスよ!」

 

 水道管を、ビーバーが水に潜ってトンネルの底に通し、排水管にした。排水管のつなぎ目には粘土を使った。

 

 プレーリーがペダルをこいで、回転式ポンプを動かした。

プレーリー 「はあ、はあ……」

 ビーバーは、湖へ水を吐き出す部分を見ていた。

ビーバー  「水が、出てこないッスね……」

 回転式ポンプは空回りするばかりで、水を吸い上げることができなかった。

プレーリー 「やはり桶でくみ出すしかないであります」

ビーバー  「完成後のことを考えると、やっぱりポンプが欲しいッスよ。あの本にはほかの形のポンプも書いてあったから、そっちを試してみるッス」

 

 ビーバーが、ポンプをピストン式として再設計し、プレーリーがポンプの製作を行った。木製では強度と精度に不安があったため、遊園地の乗り物の駆動部の部品と、木製の部品を組み合わせて製作した。

 完成したポンプは、手押しの井戸ポンプを二回り大きくしたようなものになった。

 

ビーバー  「やった! 水がでた! すいあげてるッス!」

 ポンプは水を吸い上げた。水を湖へ移すことに成功した。

 

 ビーバーとプレーリーが交代でポンプを動かし、トンネル内にたまっていた水を、湖へ移していった。

プレーリー 「はあ、はあ、はあ……」

ビーバー  「もういいっスよ……。交代するっス……」

 これには、かなりの労力が必要だった。

 

 彼女たちは、本で得た知識で、コンクリートの材料のセメントを作ろうとした。これは、止水や水抜きの作業と平行して行われた。

はかせ   「セメントの原料は、島じゅうを探せばなんとかなるです」

助 手   「ただ、製造には特殊な窯が必要なのです。これです」

 助手は本に載っていた図を指差した。

ビーバー  「こんなもの、どうやって作るんスか?」

助 手   「代用品を探す……のもむずかしいですね」

はかせ   「さらに、セメントの製造には火を使う必要があるのです」

ビーバー  「そんなの無理っスよ……」

 セメントは、製造が困難だった。

はかせ   「探すのです」

 彼女たちは、ほかのフレンズにも協力してもらいながら、島にセメントがないか探した。

 

 

 砂漠の地下迷宮。

 

ツチノコ  「外に、袋が積んであったな」

助 手   「おそらく、それですね」

はかせ   「確認するのです」

 建設途中だった砂漠の地下迷宮で、セメントが発見された。彼女たちは、セメントと、砂利、砂、水を混ぜて、コンクリートを作った。

 

 彼女たちは、トンネルの壁に、薄く延ばした粘土を木で支えるようにして貼り付け、その上に木で型枠を作って、そこにコンクリートを流し込んだ。その作業と並行して、以前の木組みを撤去していった。コンクリートが固まったら型枠を外して、コンクリートに隙間ができた所には粘土を詰めた。短いトンネルだったが工程が多く、崩落がおきないように慎重に作業を進めたため、工事には時間がかかった。

 

プレーリー 「水が! 開けてしまったであります!」

 再び、トンネルの壁から水が噴き出した。

 型枠を取り付ける作業の途中、プレーリーがトンネルの壁に穴を開けていたが、穴が偶然水脈につながってしまったのだった。

プレーリー 「ここはわたしが食い止めるであります!ビーバーどのは先に逃げるであります!」

 プレーリーは、木材で穴をふさごうとした。

ビーバー  「ダメッスよ! いっしょに逃げるッス!」

 ふたりは無事退避できたが、トンネルの約三割が水没した。再び水もれを塞ぎ、水抜きが行われた。そのあとは、水もれで破損した型枠を補修しなければならなかった。

 

プレーリー 「また水たまりができているであります!」

 コンクリートと粘土で固めた壁から、水がしみ出していた。

ビーバー  「たぶん、また同じことがおきるッス。対策が必要っスね」

 プレーリーがトンネルの一番深い所に小さな横穴を作り、そこの床を下に掘り下げて、貯水槽を作った。排水管を貯水槽に突っ込み、必要に応じてポンプで水抜きができるようにした。

 

 

 

 

 トンネルの、改修工事が完了した。

 

 

 湖の岸側の、トンネル入り口。

 

プレーリー 「完成、したであります……」

ビーバー  「長かったッスね……」

プレーリー 「最初は、ビーバーどのが通るであります!」

ビーバー  「これは、プレーリーさんのトンネルッスから、プレーリーさんが先に……」

プレーリー 「工事の指揮を取ったのはビーバーどのであります! 先に行くであります!」

ビーバー  「いえ、お先にどうぞッス」

プレーリー 「いやいや、ビーバーどのが」

ビーバー  「いえいえ、プレーリーさんが」

プレーリー 「いやいや」

ビーバー  「いえいえ」

助 手   「あなた達は何度も通ったのではないですか?」

はかせ   「では、われわれが先に……」

プレーリー&ビーバー「ダメ(であります!)(ッスよ!)」

プレーリー 「ふたりでいっしょに通るであります!」

 

 ビーバーとプレーリーを追って、はかせと助手がトンネルの中を歩いていた。

 

はかせ 「時間はかかったですが、予想以上の完成度なのです」

助 手 「本によると、ヒトはこれの5千倍以上の長さのトンネルを、海の下に掘ったそうです」

はかせ 「……ありえないのです。それが本当ならヒトは化け物……化け物以上なのです。その本は信用できないのです」

助 手 「島の地下のバイパス、あれも相当な規模ですから……おそらく本当なのでしょう」

はかせ 「恐ろしいのです……。ほかには、どんなトンネルがあったですか?」

助 手 「正直、思い出したくないのですが……。その本によると、ヒトが作った大きなトンネルは、数え切れないほどあるようです。トンネルの太さはこれの10倍以上のものも珍しくなく、その中には、バスをはるかに超える大きさの乗り物が走っていました。……地上からトンネルまでの深さは……我々の身長の千倍以上のものもあります……」

 助手の声が震えてきた。

助 手 「……メインのトンネルとならんで、脱出や作業のための……同じ長さのトンネルが、数本掘られていて……。途中には……いくつもの横穴、縦穴があり……地上へと……」

はかせ 「やめるです……。からだが……ふるえてきたのです…………」

助 手 「……やっぱり……思い出さなければよかったです…………」

 はかせと助手はガタガタと震えた。

 

 BGM:「ヘッドライト・テールライト」

 

 はかせと助手がトンネルから出て来た。

 

助 手 「以前、“ほかの島に渡るトンネル”と言いましたね」

はかせ 「ヒトはそれを作ることができたのです。われわれは、仮にもヒトの姿になったのです。理論上は、我々にも作れるです」

助 手 「知識と技術の蓄積、技術者の育成、地盤の調査、掘削機械の開発、トンネルの設計、莫大な量の資材の調達や製造、資材や機械の運搬方法の確立、作業員の確保……。そこまでできて、やっと、仮のトンネルの工事ができる……。そこから先は、見ての通り、水や崩落との戦いになります」

はかせ 「我々の生きているうちには完成しないのです」※

助 手 「開通どころか、着工すら難しいでしょうね」

 

はかせ 「遠い遠い未来の、夢物語、なのです」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ フレンズの寿命って、どのくらいなのでしょう? 謎です。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 TVアニメ1期5話を見て、このトンネルは危険じゃないか? と思って書きました。けものフレンズはそんな所を気にするような作品ではないし、そこを真面目に書くと固い話になってしまって、原作のゆるい感じと逆の変な方向に行ってしまうのですが、どうせ書くなら、誰も書かないような変なものを書きたい、と思って書きました。変だけどこれは面白いのか? という疑問がありますが。
 多少は調べて書いたのですが、知識不足です。粘土なんか使って大丈夫なのかは分かりません。
 フレンズの力と島にあるものだけで、困難なことを実現するにはどうしたらいいのか? というのを真面目に考えました。それは「ひこうじょう」と同じです。

「プロジェクトⅩ」懐かしいです。パロディになりきれていないのは私の力不足です。「地上の星」「砂の中の銀河」がサンドスターっぽい、と書いてから気付きました。「ヘッドライト・テールライト」は3番の歌詞がポイントです。
 ポンプの動力を、オランダの干拓みたいに風車にしたらきれいかな、と思ったんですが、大げさすぎるのでやめました。
 青函トンネルの構想は、大正時代からあったそうです。本州と北海道を結ぶ隧道ができたら、と考える人はもっと昔からいたと思います。「遠い遠い未来の、夢物語」です。



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