くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話 (文月フツカ)
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くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話

こういう感じのストーリー誰か書いてくれると信じていた。


 俺の妹はかわいい。身内贔屓も入ってはいるが、それを差し置いてもかわいいのだ。まぁ最近は村の外でうろついている魔物が慈悲なくジータの剣の錆になっており、かわいいよりもたくましいという言葉が似合い始めたが。

 俺はどうも生まれてくる時に体力とかスタミナとか、恐らく男にとって大事なものを全部ジータに渡したんだろうというのが、小さいときの親父の意見だ。それを聞いてこう思った。

―――いや多分吸い取られたんだ、と。

 

 免疫力もしっかりと無くなっているみたいで、俺はもう病弱の一言に尽きる。転んで軽い擦り傷を負えば、一カ月は治らずに、地味な痛さと格闘することになる。タンスの角に小指をぶつけようものなら半年は悶絶しなければならない。不便なようだが、唯一ジータにも負けないという特技はあるにはある。後述の理由で披露する事は無いと思うが。

 で、そんな俺は数年前から肺結核という病気にかかった。医者曰く、俺の免疫力でこれに掛かると回復は絶望的とのことだ。というかもう絶対無理と言われた。激しく動かなければ10年近くは生きれるが、唯一の特技だった剣を振るおうものならいつ死んでもおかしくないらしい。喀血と咳、あと全身の激痛と眩暈、おまけに吐き気が常に襲って来るが、じっとしていれば笑うぐらいは出来る。

 まぁジータに知られてからというもの絶対安静を食らったのだが。お兄ちゃん妹に下半身の世話されたくないんだが。

 

「お兄ちゃん。今日のお夕飯はスープにするから材料狩って来るねー!」

 

 買って来いよ。狩るってお前…。ザンクティンゼルの魔物滅ぼす気なのか。

日に日に戦闘狂に仕上がっていくお前を見ていると、将来が不安になるよ全く。お兄ちゃんあと数年の命なのに、ストレスで更に死期早めるかもしれない。

 

 そうやってぼーっとしていると、村のすぐ近くで爆発音が聞こえた。どんだけ暴れてるんだと思いつつ、なにやら変な気配もするので、悲鳴を上げる体に鞭打って行ってみよう。

 起き上がるときによっこらせと無意識に言ってしまうあたり、もう精神も年寄りかもしれない。悲しいなぁ。

 

 

 極東の島国で主流と言われている「カタナ」を鞘に入れた状態で左手に持ち、右手で吐血を防ぐため口元を抑えながら何とか村の入り口に着くと、最近良い噂を聞かないエルステ帝国の兵士が村長と何か言い合っていた。

話を盗み聞きしてみると、蒼い髪の少女を見なかったかとの事。荒事を防ぐためなのか、村長は一切知らないの一点張り。膝もガクガク震えており、聞き込んでいる帝国兵士ですらどうするよコレといった視線を向けていた。

すると突然森の方角からヒドラと呼ばれる魔物が出現した。これを緊急事態と見た兵士たちはすぐさま森の方へと駆けていく。まさかあの爆発ジータが起こしたというのか。有り得る。

 悲鳴を上げる体を無視して森の中へ進んでいると、突如として上空に……なんだアレ。え、ドラゴン?

 

 閃光のようなブレスを口から放ったドラゴンは、突如として消え失せ、代わりにヒドラの無残な姿が目に入った。あのドラゴンってまさかジータが変身したとか言ったりしないよな。正直な話出来そうで怖いんだが。

 悠長にしていると、帝国の将官と思わしき人物が突如立ち上がり、ヒドラの死体に紅い小瓶の液体をかけ始めた。

 

「いけない! ヒドラが回復したッ…!」

 

まさかあれが四肢が欠損しようがどんなに重い病気だろうが直してしまうという噂のポーションか…?

くれよそれ。

 

「もうあの星晶獣は呼び出せないみたいですねぇ! 今度こそ殺して差し上げますねぇ!」

 

舌打ちしながら剣を抜く女騎士とジータ。そして絶望の表情を浮かべる蒼い髪の少女。確かに今のジータではちょーっときついかな。まぁでも、最期に恰好付けるぐらいはいいよな。

 

「お兄ちゃん!? タンスの角に小指ぶつけるだけで半死状態になるお兄ちゃんが何でここにいるの!?」

 

妹よ、言ってなかったがお兄ちゃんの心はガラス細工なんだ。初対面の人の前で天然を使って心を抉らないで。と、アホなことを言いつつ、極東の国で量産されたであろう安物の刀「野太刀」に手を掛ける。

 

シスコン舐めんな。可愛い妹が世話になった礼ぐらいはしてやる。

 

「我が身は病弱なれど、この一撃は大切な人を守る誓いの一撃也。この誓いをもって我が剣技、ここに極致に至らん。眠れ安らかに……白刃一閃(絶対寿命が縮むわコレ)

 

 

 

 

 瞬間、文字通りに空間が切れた。比喩でもなんでもなく、一閃の傷が空間に付いた。ヒドラに放たれたソレは鱗や肉をバターのように容易に切断した。

複数あった首は全て一撃で落とされた。だがヒドラはそれに気づかずに。必死に首を元に戻そうと根元が動いている。だが落ちた首は既に地面に在り、世界がヒドラの最期を認めた途端、力なくその場に崩れ落ちた。

 

 

いつの間にか野太刀が納刀されている事実に気付いた三人が、ヒドラと青年を交互に見やる。この人物は今、達人と呼ばれる武術家以上の絶技をやってのけたのだ。

 

 

 

お兄ちゃん凄い!と駆け寄ろうとした妹が見たのは、膝を尽き口から夥しい量の血を流す、唯一の肉親であった。

 

「お兄ちゃん! しっかりして! 血が…せっかくルリアのお蔭で私、生き返れたのに……なんで、こんな」

 

「泣く、なよジータ。俺の病気なら遅かれ早かれ、こうなるんだ」

止まらない血を妹に付けないようにしながら、青年は死に際に精一杯の笑顔を浮かべる。

 

「イスタルシア、行くんだろ? 兄ちゃんは付いて行けないけど、見守ってはいるから、な?」

 

「そんなの嫌だよ! お兄ちゃんも一緒に行こう!? お兄ちゃんとビィとカタリナとルリアと私の五人旅、絶対楽しいよ!? だから早く血を止めて、ね!?」

 

「兄貴…」

 

「ジータの兄君……私の力不足だ。本当にすまない」

 

「お兄さん。わ、私の魂をもう一回っ……」

 

「……たとえ肉体が復活しても病気は消えない。だから、気持ちだけ、ありがとう」

 

青年は瞼をゆっくりと閉じる。

 

「いやだよお兄ちゃん! 置いて行かないでよ……独りに、しないで……」

 

泣きじゃくる頭に、優しく手が置かれた。

 

「独り、じゃないさ。この人たちは本当にジータを寂しくさせたりしないさ。俺も、ずっと見守っているから、いつものように笑顔で、精一杯…生きるんだよ」

 

青年は頭を優しく撫でると、ゆっくりと、ゆっくりと力が抜けていき、地面に手が落ちた。

 

その手を握りながら、少女の慟哭が森中に広がった……。

 

 

 

 

数日後。

 

「行ってきます。絶対見守っていてね! お兄ちゃん!」

 

「兄貴、俺、絶対ジータを独りにしないからな。ゆっくり休んでくれよ!」

 

「ルリアも、ジータもビィ君も、絶対に守る。あなたの生き様、一生忘れない」

 

「お兄さん……絶対、絶対にジータを独りにしません! 私の覚悟、見ていて下さいね!」

 

 

ザンクティンゼル。この小さな島から、後に世界中を巻き込む伝説の騎空団が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やべぇ……成仏出来なかった』

 

 




誰も書かなかったから書いた。
誰かこんな感じのストーリー書いて。

別にオリ主じゃなくて兄がグラン君とか、弟グラン君ショタ系でもいいから。


とりあえず兄弟モノがみたいの。


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くっそ病弱なお兄ちゃん(故)が旅立った妹を見守るお話

ルリアちゃんがジータちゃんとS○Xするお話しを誰か書いて。


 俺の妹はかわいい。そう、たとえ訓練を施された兵士を一方的にボコボコにしていたとしても、見てくれは良いから人が集まってくる。まるで誘蛾灯だと思いながら、俺は妹の将来を心配する。

 

 性格はどうなのかと言われると、基本的には明るくて社交性のある奴なので、一緒にいると楽しいだろう。

 

まぁ本人は何か呪いか祝福か受けているかの如く、面倒なことに巻き込まれていく体質なのだが。

 

 ビィはもう慣れているとして、カタリナさんという騎士や蒼い髪のルリアちゃんはこの先知ることになるだろう。ジータという存在がどれほど退屈という言葉から嫌われているのかを。

 

そんな事を俺の体が埋葬されている墓を背にしながら、去っていく3人+1匹を眺める。

 

 いやしかしアレだ。ジータが心配で成仏出来なかったとはいえ、体がこんなに軽いなんて初めてかもしれない。

なんならタンスの角に小指をぶつけても直ぐに痛みが引きそうなぐらいだ。しかし幽霊となっても何をすれば良いんだ。心配だから付いて行く、もとい憑いていっても、余計に成仏出来なさそうである。

 どうせ面倒に巻き込まれる星の下に生まれた子なんだし、死人がギャーギャー騒いでも意味はない。ちゃんと無事に五体満足で帰って来て、墓前でただいまとでも言ってくれれば、今度こそ安心して逝ける。それまでここで気ままに待っているとしよう。

 

 

『行ってらっしゃい』

 

 

「ねぇビィ。私思うんだ……お兄ちゃんはきっと私たちの旅を近くで見守ってくれている気がするの」

 

「あー、何となくわかるぜ。兄貴なら色々言いながらも見ていてくれるだろうなぁー」

 

「2人はお兄さんの事が大好きなんですね。なんだか胸が暖かくなるお話しです!」

 

「キチンと挨拶しておきたかったものだ」

 

「よーし、これからも頑張るぞ!」

 

 

 拳を高らかにあげて、おー!と言いながら進み始めたジータを微笑ましく見送る。お兄ちゃんはしっかりとしているジータを見れてとても嬉しい。

 

『おっヴぇ』

 

 その瞬間。突如として首元が引っ張られる感覚。踏みとどまろうとしても、まるで首輪を付けられているかの如く無理矢理引き摺られる。

何事かと思いちゃんと視線を向けてみると、何やら自分の首に糸が巻き付いており、その先が…先が……。

 

『じ、ジータの全部の指に滅茶苦茶に絡まってやがるッ』

 

「まずはどこに行こうか」

 

『いや妹よ死人に優しくして!? お前の無邪気さが死後のお兄ちゃんを犬のごとく引き摺ってるぞ!?』

 

 死人に口なし。死者の声が生者に聞こえる筈も無く、首輪をつけて強制移動を喰らっている俺はまるで奴隷のごとく。美少女に犬のように扱ってもらって羨ましいか? 妹にコレやられるなんてもう恥ずかしくて穴に入りたい。まぁすでに体は墓穴の中だが。やかましいわ。

 

「お兄ちゃんとこの綺麗な大空を旅したかったなー」

 

お兄ちゃん今現在お前に引っ張られてお空にダイブしそうなんだが。だめだめ許しませんよ。独り立ちしないと。

 

 

 

 唐突に話が変わるが、バンジージャンプと言うのをご存知だろうか。何でも高いところから命綱を付けて飛び降り、スリルを楽しむという、都会の若者で人気らしいアクティビティ。

 

 小型のものとはいえ騎空挺は騎空挺。それ専門の技術を学んだ人にしか操縦は出来ない。ましてや戦闘が専門である軍人騎士が、趣味でもないのに騎空挺操縦の技術を理解しているなど、普通有り得ない。

 

旅立ちに使うこの騎空挺は狭く小型であるので、霊体である俺すらも中には入れなかった。なので外の羽にでも掴まるしかないのかと諦めていたが、なんとすり抜けて掴めなかった。幾度も羽を握ろうとするも、そのたびに虚しくすり抜ける俺の手。

 

 おまけにあまりに酷いカタリナさんの操縦技術。それは変な糸で首縛られて引き摺られている霊体の俺にも影響を及ぼしている。その結果何が起こるかお分かりいただけるだろうか。

 

 

 

『あ”あ”あ”あ”あ”!』

 

 一切揺れが収まらない上に、頼みの命綱は首に巻きついている正体不明のくっそ細い紐。上を見れば今にも落ちそうなフラフラの騎空挺。下を見れば、見たことを後悔するぐらいの絶景。

生身であれば怖くて気絶できるのだが、そこは霊体の有難迷惑な仕様か何なのか、気を失う兆候が一切感じられない。生前、ジータのあまりにも破天荒な振る舞いに疲れた時、さっさと自分から眠るように気絶出来た身が羨ましく感じるとは…!

 

 というかそろそろ空挺から聞こえる嫌な音が大きくなり始めた。まぁ流石にここまで来たら俺でも分かる。痛みがあるかは知らないが、地面に突っ込む未来は変えられないらしい。というかもうすぐそこまで地面が来てる。

 

『お、おさらば』

 

 

 

 

「面目ない……騎空挺の操縦が、まさかここまで難しいとは……」

 

 地面に叩き付けられて紅葉おろしになる衝撃がここまでとは思わなかった。痛みこそ無いが、純粋な衝撃が俺の精神性をガリガリと削っていった。全部完璧な人間なんて居ないと言ってあげたいが、如何せん言葉も届かない上に、あんな事を体験させられたら、少々腹に据えかねる。

 だが良く考えなくても分かる事だが、結局のところはジータが無意識に俺を引っ張っていたのが原因なのであって、カタリナさんはそこまで悪くは……いややっぱりちゃんと習熟してから操艦してほしかったです。

 

 そのあと大きな音を聞きつけてやってきたであろうラカムという男性に色々言われたジータ達は、街道を進み街へと行くことにした。無論、俺を引っ張って。

 ちなみに去り際にラカムさんはジータらにもう会うことは無いと言った表情をしていたが、ジータ歴=死亡年齢の俺に言わせれば、その認識は実に甘い。

 ここからなし崩し的に巻き込まれ、いい話風に締められて付いて行く事になるだろう。俺のジータに関する予想はほぼほぼ当たる。何やら事情を抱えているラカムさんも、ジータに出会ったことで何かしらの進歩はあるだろう。……例えその過程が恐ろしく彼女に振り回される形であっても、頑張ってくださいとしか俺には言えないな。

 

どこかに今の俺をどうにかできる人が居ないかと思いつつ、そよ風が気持ち良い街道を、ジータに引っ張られて歩いていく。ビィを抱きかかえながら二人と話をするジータはとても楽しそうで、それを見ていると俺も自然と笑みが浮かんでくる。

 

このまま物騒なことを呟かずに少女らしく―――

 

 

「あ、魔物。斬らなきゃ」

 

 

知ってた。

 




ラカムさん胃薬待った無し。


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くっそ病弱なお兄ちゃん(故)が妹達に語られるお話

「そういえばジータの兄君はどのような人物だったのだ?」

 

ある日、騎空挺の上でカタリナさんがジータに俺の事を聞いた。そういえばジータの主観的な俺の評価を聞いた事はなかった。

 

「え、お前兄が居たのか?」

 

普段は猫を被っている錬金術師の開祖であるカリオストロさんが最初から素で聞いてきた。

 

「うん居たよ。ザンクティンゼル旅立つ時に、私たちを守るために死んじゃった……けど」

 

自分で言ってて落ち込むなら最初から言わなければ良いんだとは素直に言えないな。それだけ俺の事を思ってくれてるって事だしなぁ……。でもいい加減この首輪外して?

 

「お、おう……すまん」

 

普段は魔物絶対殺すジータが珍しく落ち込んでいるのを見て、どう対応していいか分からないのか。薄情かもしれんが俺も分からん。

 

「あ、お兄ちゃんの事だったね。そうだねぇ……ビィ?」

 

「んぁ~? そりゃもうあの一言しか無いと思うぜ?」

 

え、ジータとビィの間で俺に対する共通認識の一言? それは流石に俺自身でも分かるぜ。生まれた時から3人一緒だったもんな。

 

『くっそ病弱』

 

超優しいお兄ち……えぇ? 事実だけどなんかお兄ちゃん悲しい。重ねて言うが事実だけどもッ。

 

「まず小指を角にぶつけたら半年は腫れと痛みが治まらないね」

 

「転んで出来た掠り傷一つで治るのに結構時間かかってたな」

 

「お医者様に言われてたけど、免疫力とか抗菌?とかいうのが生まれながらに完全に死んでるって」

 

「あー、肺結核とかいうのにもなってて、年中咳と吐血してたな」

 

「全力疾走とかしようものなら、走り始めた瞬間に吐血からの横転。掠り傷のコンボもあった」

 

良く生きていられたよな俺。死んだけど。

 

「えぇ……そいつ本当に生活出来てたのかよ」

 

ザンクティンゼルの澄んだ空気じゃないと肺結核悪化するとか言われた日には、ジータとは都会に旅行とか行けないのかと落ち込んだ。まぁ図らずも今は似たような状況ではあるのだが……。

 

「そ、想像以上に兄君は体が弱かったのだな」

 

ルリアちゃんもカタリナさんもドン引きする脆弱さだったらしい。

 

「で、でもでも! 私たちを守るためにヒドラをこう、ズバーっとやったのは凄かったです!」

 

「あぁ、あのヒドラを、明らかに安物の刀でありながら私にも見えない速さで斬り捨てたのは驚いた」

 

あ、刀の話をしだしたからナルメアさんが目敏く聞きつけたらしい。ふわふわとジータの近くに来た。

 

「団長ちゃん。団長ちゃんのお兄様はそんなに強いの?」

 

はっきり言うが強くない。あんなの文字通り、ジータの為ならこの命尽きても良いという覚悟の下、無理矢理気力で体を動かしたにすぎん。肉体は滅びて尚、その魂はジータに首輪を嵌められているが。

 

「少なくとも制限時間を設けた上で、1対1の剣での勝負なら私は勝った事無いなー」

 

その話を聞いて、遠巻きに聞いていた他の団員たちの驚愕の視線。なんか自分の事なのに恥ずかしい。

 

「でも戦闘とか出来ないオイラでも分かる事なんだが、正直勝つだけなら簡単だぜ?」

 

「まぁね。スタミナが無いとか、壊滅的じゃなくてマイナスに振り切ってるから、ちょっと持久戦に持ち込めば勝手に倒れるしねぇ……」

 

「まぁそれを差し引いての剣の腕は凄いというか、傍目から見ると気持ち悪かった」

 

ビィ!? そんなに変な腕してたかな俺の剣。

 

「えぇっと……団長ちゃん?」

 

「あ、ごめんなさい。強さでしたね。刀を振ってるとね、なんか剣がぶれるんだお兄ちゃんって。なんか一撃しか喰らってない筈なのに、三撃同じ所から同時に喰らったみたいな」

 

「それほど神速の剣技という事か」

 

「あ、オイラそれのネタ聞いた事あるぜ。ジータがいつ自分で気づくか、兄貴はいつも楽しみにしてた」

 

「ビィずるい! あれ一体どういう仕組か未だに分かんないんだよ!?」

 

「まぁ兄貴からは、言うなとは言われてねーしな。で、兄貴が言ってた言葉そのまま伝えるから、オイラに理屈とか聞かないでくれよな」

 

いつの間にか、剣で戦う奴ら全員が集まってきている。なんだこの公開処刑……。

 

「早く早く」

 

「ええと、一の斬撃の中に二の斬撃と三の斬撃を内包する。それをほぼ同時では無く全く同時にやる事で、例え相手が盾で防御しようが、その上から叩き斬る……らしいぜ?」

 

「んん?……えぇ? なんだそれは」

 

「あ、あらあら?……あらあら?」

 

「オイラも初めて聞いたときは何言ってんだって思ったけど、事実そうなんだ。そんな防御不可の剣を奥義でもなんでもなく、ただの通常攻撃で振るってるんだぜ? それに加えてあのジータですら突破出来ないんだぜ? 言っちゃ悪いが、剣の腕に関しては規格外って言った方がいいかもしれないぜ」

 

長々と説明ありがとうビィ。でもそんな化け物みたいに言うなよ。期待外れかもしれないが、練習でもなんでもなく、初めて剣を握った時から、感覚でやってる事だからなぁ。俺自身も、え、出来るだろこの程度の説明しか出来んのだ。

 

「団長ちゃん。お兄様の使っていた刀って持ってるかしら?」

 

「あるよ? 取ってくるね」

 

そういうとジータは私室へと駆けて行った。っていうか俺も引っ張られていく。

あぁ~れー。

 

 

 

「……団長ちゃん達には悪いのだけれど、超技巧の剣術の代償が言っていた病弱さだとしても、不気味だわ。目にも見えない速さで連続攻撃では無く? どれだけ速く攻撃出来たとしても、突き以外で同じヶ所から全く同じ攻撃をするのは不可能。その突きでさえ神速を誇っても絶対に一撃と二撃の間にラグはある」

 

「そうだな。人体の構造上、全く同時に同じ攻撃を出すなど土台無理な話だ」

 

「そも斬撃の中に斬撃を内包なんて芸当、出来る奴居んのか?」

 

「考えられるとすれば、武器に備わっている能力だが」

 

「兄貴は今ジータが持って来ている刀しか持ってなかったぜ? しかもその刀ですら、行商人から格安で買った大量生産品だしよ」

 

 

「おーい、持ってきたよー!」

 

相変わらずの安物だなその刀。もっと良い武器振ってみたかったが、もう叶わぬ夢だしなぁ。あーでも別に強さとかどうでもいいな。なんやかんや言いつつもジータが笑っていられるなら、何も要らねーな。

 

「見せてもらうわね」

 

そういってナルメアさんやカタリナさん。カリオストロさんもじーっと検分し始めた。

 

「……太刀ね」

 

「あぁ、太刀だな」

 

「何の能力も無いね☆」

 

あったらあの行商人も凄い値段吹っかけてくるしな。たしか300ルピすらもしてないぞソレ。

 

「この武器でヒドラを一撃かぁ……そっか。本当に言葉通り、決死の一撃だったのね……」

 

ま、お兄ちゃんとしては当然だな。妹を守るためなら命の一つや二つ差し出すさ。

 

 

「最近、お兄ちゃんが近くにいるって確信を持って言えるんだよね。やっぱりこれは見守ってくれてるって事だよね」

 

それを聞いて、ルリアちゃんも笑ってジータの隣に立つ。俺からもルリアちゃんに感謝を。ジータを助けてくれて、本当にありがとう。騒がしい妹だけど、これからもどうかよろしくお願いします。

 

「あ、魔物! 斬らなきゃ!」

 

 

……成仏出来んなぁ。




もう何もしなくても勝手に倒れる弱さ。石拾って足に少し強く当てるだけで致命傷。


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くっそ病弱なお兄ちゃん(故)が妹の為に目覚めるお話

2019/2/28 予想外に反響あったから、早めに続き考えて次投稿するか。
2019/3/1 見せ場だし無い画力絞って糞絵晒して場面盛り上げるか。
2020/4/24 ??????

草も生えない。

って事で初投稿です。


騎空挺がとある場所へと進んでいる中、風が打ち付ける甲板にてその二人は居た。

 

カリオっさん。

俺が密かに心の中でそう呼んでいる存在は、ジータに舐め回す様な視線を送りながら、グルグルと周囲を回っている。この人は時々予測出来ない事を何の前触れもなくやりだすから怖い。

 

「……えぇっと」

 

流石のジータも無言で見つめながらグルグル回られると落ち着かないらしい。

 

「あ、気にしないで暫くジッとしててねっ☆」

 

この矛盾したセリフを猫被った声で平然と出せないと、錬金術なんて概念は作れないんだなと尊敬する。

前にこのカリオストロさんの過去を聞いた事がある。聞いたというか、ジータと四六時中居るようなものだから勝手に聞いてしまったという方が正しいが。俺のように体が弱かったらしいが、今の姿からは想像出来ない。

 

にしても何故急にそんな回り出したのか。もしかして存在が全く謎に包まれている紐が見えているのだろうか。

 

「んぅ!?」

 

突如として、カリオストロさんがジータの口の中に指を突っ込んだ。えぇ何してるんですか。あーあー苦しそうにして涙浮かべてる。

 

「はい、終ーわり。ご協力ありがとね団長さんっ☆」

 

後に残されたのは顔を赤らめて荒い息を上げるジータだった。兄が妹に欲情することは無いと思うが、こうも目の前で絡まれると、些か下半身に来るものがある。

 

 

 

そんな事があった数日後。今度はカリオストロさんの部屋にいた。この部屋は相変わらず難しい実験器具や本が所狭しと並んでいる。頭の出来が良いとは言えない俺には、見ているだけで頭が痛くなってくる代物ばかりだ。

そんな俺の気など気づくはずもなく、ジータはお勉強の時間だ。

アルケミストなんてジョブ、まさにカリオストロさんが教えるにぴったりの内容だ。

 

「だから違うって言ってるだろ!? その比率で混ぜると結局さっきの薬品が連鎖反応で爆発ぅぅぅぅぅ!」

 

体動かすの大好きジータにお勉強を根気よく教えてくれているこの人には、なんかもう頭が上がらない。

髪も服もボロボロになりながら口元を痙攣させてるけど。

 

「ふぇぇ」

 

「何がふぇぇだバカ! んな台詞俺が言いたいぜ!」

 

もっと怒ってあげてください。いい薬です。

 

 

暫くして、ひと段落終えた二人はティータイムになっていた。

けども誤魔化されんぞ。後でしっかりカリオストロさんに謝れ妹よ。こんな惨状生み出しても匙投げない先生って凄いありがたいんだぞー?

 

「さっきから気になっていたんだけど、あのカプセルに入ってるのは?」

 

「あぁアレか。あれは試験的に作った奴でな。近接戦闘用にカスタムした体だ。その名もカリオストロ試製高機動躯体(バージョン1.5a)だ」

 

高機動の名の通り、いつもカリオストロさんが着ている服とは大分違った。もっと可愛さを引き立てる小物とかがくっついていたのに、取り外されている。激しい動きを阻害しそうなものは徹底的に外されていた。

 

「まぁそもそも、そんな近接戦に持ち込むほどカリオストロは弱く無いけどねっ☆」

 

「いいねぇ! 私と戦ったらどっちが強いかな」

 

「末恐ろしい事言ってんじゃねーよ」

 

末恐ろしい事言ってんじゃねーよ。

 

 

 

そんな実験室での一幕からまた数日後。騎空団は夕焼けの空を飛んでいた。

 

「痛み無き戦闘団?」

 

「この付近の群島で暴れまわっている奴らですね~。他の騎空団との交戦もあったのですが、生き残った方達は大分精神がやられたみたいでして」

 

何度も思うんだが、シェロカルテさんは一体どういう伝手でこんな依頼引っ張ってくるんだ。

 

「そいつらって何を目的にしてるんだろ」

 

「きっととにかく戦いたいって連中の集まりなのよ」

 

ジータやイオちゃんの憶測通りだけならいいけどな。ただ戦いたいだけならジータが暴れたり、ナルメアさんが暴れたりすればいいだけだが。

どうせ戦利品と称して畜生働きもやってるんじゃないかな。

 

「あ、噂をすれば~」

 

噂をすれば!?

この人やっぱり腹の中真っ黒じゃないのか。

依頼説明から目標との接敵までの最短記録行ったんじゃないかコレ。むしろ今説明中だったぞ。

 

騎空挺で騎空挺に直接乗り込んでくる気か。にしても数は30前後とそれなりにいるな。

 

「急旋回掛けるぞ!」

 

ラカムさんの号令で、団員たちはしっかりと態勢を取る。

 

「畜生! ちょっと試験運用しようと甲板に出した途端コレか!」

 

カリオストロさんがキレながら試験的な体を物陰に隠す。なんかもうあの人可哀想すぎる。

 

「あいつら、相当にやばそうだぜ。全員目がやばい」

 

「……団長ちゃん。これはちょっと本気でいかないと不味いわ」

 

恐れずに騎空挺に飛び込んできやがった。目もそうだが、口元が常に笑っているのが不気味だ。操られているってわけでも無さそうだし。何より、恐怖心ってものが一切感じない。

 

「何でもいいよ。行くよ皆!」

 

ジータが駆け出したと同時に、敵も味方も戦闘を開始した。

 

 

「せいっ」

 

ナルメアさんの刀を受けた敵だが、斬られたというのに全く怯まない。寧ろ笑みを深めてさらに突撃してくる。

 

「何なのよもう!」

 

イオちゃんの魔法も効いていない。それどころか自分から当たりに言っている節すらある。

噂というか、名前通りというか。痛み無きの言葉通りだ。しかも厄介なのはそれだけじゃない。

 

「コイツも、コイツも。コイツら全員、並みの精鋭騎士団より腕が立つ!」

 

敵の1人1人、末端に至るまで恐ろしい練度だ。まるでジータの騎空団みたいだ。

おまけにただ強いだけじゃない。手段も一切選ばない。中には刀身に毒を塗ってるやつもチラホラ。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAh!」

 

「斬っても斬っても、倒れた敵は暫くしたら起き上がってくる……」

 

致命傷でない傷なら戦闘を続行し、致命傷であればその場で倒れ伏す。だが暫くすれば、突如として奇声を上げながら飛び起き、再び武器を振るってくる。

こっちの精神が持たない。

いくら歴戦の強者が多いこちら側でも、永遠に戦い続ける事は出来ない。

敵は夕焼けを背にしているので、環境も敵に回っている。

 

「アイツっ」

 

そんな不死の軍団の最後方、一人の大柄な人影。体も大きいが、何よりその盾が異常だ。まるで城壁を切り取ってきたかのような分厚さがある。兜で顔が見えないが、禄でもない奴だというのが良くわかる。

だがこの膠着に飽きたのか、大盾の持ち手を両手で掴み、振り上げた。

 

それと同時、一気にその大盾を地面に、つまり騎空挺の甲板に叩きつけた。

 

 

――――――!

 

 

 

凄まじい衝撃と共に、船が揺れた。騎空団の皆は衝撃に耐えきれず崩れ落ち、物陰に隠してあった人形が俺の傍に倒れてきた。

 

ジータが咄嗟に起き上がり、敵をすり抜けて、大盾の奴に一撃を入れる。

その攻撃も、簡単に大盾に弾かれた。

 

とっさにカタリナさんが援護に掛けるも、到底間に合わない。

その瞬間、周りが、突如として遅くなった。

 

 

 

心は思う―――おかしいな。今までだって命の危険は沢山あったじゃないか。何を心配する必要がある。

体は動く―――確信がある。今何かしなければ、今回ばかりは決定的に後悔する事になるんじゃないか。

目に映る―――あれを使う。今まで無い頭で錬金術開祖の本を盗み見ていた。恩師の為にも、諦めない。

手に掴む―――それは刀だ。傷つける武器ではあるが、手の届く範囲なら、誰にも後れを取る気は無い。

魂は叫ぶ―――妹を助ける。目に入れても痛く無い。唯一残った肉親を、こんな奴らに絶対奪わせるな。

 

手に取るようにわかる。少し重い着ぐるみを着る感覚だ。数瞬有ればすぐ慣れる。指の先、爪の先までピンと伸ばすように。長い袖に腕を通すように。

 

目は開いた。

体は動く。

音も聞こえて、力も入る。

 

動け! こんなガラじゃないのは分かっている。でも動け!

大切な人を失うな!

 

(ジータ)を守れなくて、何がお兄ちゃんだ!

 

 

 

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「……え?」

 

「ほう。どこから現れたのか、興味深い」

 




ふぇぇ。


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くっそ病弱なお兄ちゃん(故)が妹の為にお姉ちゃんになるお話

目覚めてすぐ本調子とか出ない


たった一撃。

されど一撃。

 

ジータとの間に割って入り、咄嗟に簡単な一撃を入れたのだが。新手の2名に防がれた。

 

「お前たち」

 

向こうもこういう事態を想定していたのか、異常なほどに対応が早い。他の奴らとは違い、持っている剣の鞘に白い布が巻かれている。

 

「お下がりください。あなた様に挑戦する権利があるか、見極めます」

 

虎の子の親衛隊か何かか。こんな奴ら、もっと全空に噂が広まってもいい筈なんだが。

 

「構えろ。貴様がどれほどか見るとしよう」

 

構え、か。他の武器はどうか余り知らないが、刀の構えには上段、中段、下段の基礎三つがある。

上段は既に振り被る態勢なので、一番攻撃力がある。中段はあらゆる状況に即座に対応出来る。

下段は比較的攻撃を回避しやすいが、一撃の威力が低い。

 

俺の場合は、生前の体が弱すぎて、そもそも刀を長時間構えていられなかった。上段に構えようものなら一分も持たず筋力疲労を起こす。中段は姿勢の維持は何とか出来るが、そこから何もできない。

唯一下段だけは形にはなっていた。まぁ下段にしても、構えている時はほぼほぼ力も込めていない。ただ握って持っているだけ。

 

「ふん。それが構えだというのなら、始めようか」

 

今の台詞で、こいつらに対する警戒度を上げることになった。普通ならこんな楽な姿勢の下段など、舐め腐っているようにしか見えないからな。それだけ相手も観察眼が備わっている。

さて、基礎的な復習がてら動いてみるか。弱い体でもジータに勝てていた、無い頭を使った自論剣術がどこまで通用するかな。

 

「行くぞ。貴様の血で私はまた強くなる」

 

刀を振るうとき、腕の力だけではただ振り回される。なので全身をバネの様に捻らないと形にならないのだが、生前はどうあがいてもそんな芸当出来なかった。そしてそれは健康な体を手に入れても、即座には出来る自信は無い。

ならば生前と同じやり方で戦うしかない。それ即ち―――

 

「この、ただ回避に徹するだけで―――、がッ……」

 

一人目。武器を振るっている時、戦闘中に口を開くなど、案外無駄な行動が多いな。

 

それがお前の辞世の句か?

 

気分はどうだ。咄嗟に自分の武器で防ぐも、その武器ごと、着用していた防具ごと体を真っ二つにされた気分は。

 

無駄な攻撃は一切振るわない。刀での鍔迫り合いなど、以ての外だ。刀身の損耗も激しいから、継戦能力も落ちる。

ならば本当に必要最小限の動きで敵の攻撃を躱し続ける。

敵も達人と呼ばれる程なら、その攻撃密度も凄まじい。

回避のコツとしては、あまりその場から動かないこと。最小限の動きで敵の剣筋から外れる。

生前も今も、幸いにも刀の才能だけは少しあったから出来る芸当だ。

そうして回避し続け、相手の動きに致命的な隙が出来た時、または俺が打ち込めると確信した時が、敵の最期だ。

 

その瞬間、攻撃を振るうその時だけ、全身全霊を持って刀を振るう。

斬撃を内包し、防御も許さない。

剣で俺の攻撃を防げると思うな。

鎧や盾で俺の攻撃を防げると思うな。

たかが城壁が、たかが騎空挺の装甲が、妹を守るお兄ちゃんの一撃を凌ぎ切れると思うな。

 

「……こうも簡単にやられたか」

 

 

まぁ一対一ならこれでいいんだが、敵が複数いるとこの戦法もあまり通じない。警戒して攻めてこなくなるからだ。

そして予想通り様子見のごとく構えて動かなくなった。

 

だがそこでカリオストロさんがこの体の服に入れていた薬品が役に立つ。

 

俺は唯一、刀がそれなりに使えるから使っているのであって、使えるものは何でも使う。

刀身に毒を塗るのも正しい戦術であるし、土や砂で目潰しも正しい戦い方だ。隠し持っているなら隙をついて銃を撃ってもいい。事後の処理をちゃんと出来るのであれば、人質を取ってもいいし毒ガスを使ってもいい。

戦場に事の善悪無し。ましてや襲ってきたのなら尚更文句も出ないだろう。

っていうかジータにもよく目潰しやった。

 

って事で、衝撃で爆発する薬品を投げつける。

 

一瞬怯んだ相手の視覚外から強襲を掛け、一刀のもと斬り捨てる。

 

これが、剣の才能が僅かしかなく、病弱な俺がジータに勝つために無い頭で必死に考えた俺の戦い方。

 

ジータの為なら、星晶獣だって殺してみせる。

 

 

 

 

目の前にいる人は誰だろう。

誰だろうっていうか絶対お兄ちゃんだ!

お兄ちゃんがお姉ちゃんになって帰ってきた!

 

走ったらすぐに転倒して数か月寝込むお兄ちゃんだ。

靴履いてるのに足の小指ぶつけたら一か月は痛みが引かないお兄ちゃんだ。

起き上がっただけでその日の体力ほぼほぼ使い切る勢いだったお兄ちゃんだ。

 

戦いでついぞ一本も勝てなかったお兄ちゃんだ。

 

私の為に命を投げ捨てて助けてくれたお兄ちゃんだ。

 

やっぱり見守ってくれていたんだね。やっぱり私たちザンクティンゼル人の兄弟の絆は、死を持ってしても断たれない!

 

よーし力が湧いてきた!

ちょっと間抜けな所を見せたけど、一番お兄ちゃんを見てきたから大丈夫。

お姉ちゃんになってもお兄ちゃんだよ!

 

んん? まぁ変な言い回しだけど大丈夫。

 

さぁ皆、もうひと踏ん張り行ってみよう!

 

ナルメアさん、そんなお兄ちゃんを凝視してないで戦おう?

カリオストロさん、そんな鳥がバハムートのビーム喰らったみたいな顔をしてないで。

 

色々言いたいことはあると思うけど、今はただお兄ちゃんと戦おう!

 

さっきまで怖かったけど、もう大丈夫。ルリアやカタリナさんにも大分迷惑を掛けたし、これからもっと恩返ししなきゃ。

 

ほらほらランスロットさんもパーシヴァルさんも。

 

 

あれ、っていうか剣を使う人みんなお兄ちゃんを見てる。まぁやっぱりお兄ちゃんの戦い方ってかなりヤバいからね。仕方ないか。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんがお姉ちゃんになって帰ってきた!」

 

なんだアレは。

それが、ジータ率いる騎空団の中で、剣に精通する者たちが抱いた感想だ。的確に攻撃を躱すのは百歩譲って、練習次第では出来るだろう。だがその場を殆ど動かず、『最小限の動きだけで延々と躱し続ける』など、誰も出来ない。

ましてやあの攻撃は何だ。以前団長であるジータから聞いてはいたが、あの攻撃は異常だ。

 

ただの一刀。攻撃のその瞬間だけ、恐ろしい剣圧が周りに吹き荒れる。ただでさえあり得ないのに、どういう事だろうか。

斬撃の中に、斬撃が見えた。それも三重に。

それも相まって、防いだ相手が防具ごと両断された。

剣同士がぶつかり合うこともない。鍔迫り合いなど起こさず、ただ即死の攻撃だけが振るわれる。

 

あんな芸当を出来る物など、この空にはほぼ居ない。全空の脅威たる者らは分からないが、世界でも指折りの実力者や星晶獣が50以上は居るこの騎空団でも、あそこまで異常なモノは居ない。

 

「振るう一撃、全てが必殺……」

 

ナルメアが青い顔でそう呟いた。

 

読んで字の如く必殺。必ず命を絶ち殺す斬撃。これがその人の使う奥義であるならまだ説明は行く。

武器に秘められた力を開放するなり、与えられた加護を使うなりと説明できる。

 

だがアレが持っている刀はどう見てもそこら辺にあった量産品だ。自分たちの持っている名剣や神剣の類ではない。大量生産されたただのなまくらだ。

 

だというのに。自分の技量だけで、あそこまでの超絶技巧をなし得るアレは何だ。

 

一流の戦士は武器も一流だ。整備も欠かさないし、欠かせない。その武器の能力も相まって今の強さがある。

 

だが、だが!

 

今ジータの目の前にいる存在は、悉く規格外だ!

 

戦いたい! 戦いたい! あの剣技は一体何だろうか。自らの技量がどこまで通じるか見てみたい!

 

この気持ちが、敵と戦っていた団員たちに急速に広がっていく。

 

 

だが一方で、敵には恐怖が植え付けられていた。普通に斬られるのは分かる。しかし奴が刀を一太刀振るう度に、団員の一人が必ず死ぬ。

これでは望んでいた戦いとはほど遠い。

死力をぶつける殺し合いではなく、一方的に殺される狩りになってしまった。

しかも自分たちが獲物だ。

 

親衛隊二人が簡単に殺され、向かっていった23名は、ものの数十秒で斬り捨てられた。

一太刀で一人両断し、たった23回の攻撃で、向かっていった23名は死んだ。

相手は何も言葉を発しない。ただひたすらに無表情だ。

 

 

そして遂に、大盾が重く声を発した。

 

「化け物めッ……」

 

その言葉を放った敵の首領にゆっくりと顔を向け、何の感情も得ずに見返すのだった。




周囲から見れば得体の知れない不気味な強さ


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くっそ病弱だったお兄ちゃん(故)はお姉ちゃん(人形)になったお話

私はそこまでグラブルをやり込んでいません。
戦士の信念が出なくてキレる程度の浅さです。

名前変えたけど気にしないで。


なんだこれ。

言葉が出ないってこんな状態を言うのか。

 

試験的に作っていた俺のスペアボディが勝手に動き出した。それだけでも発狂しそうなのに、何か異常なほど強い。

誰だよお前。

 

いやジータがお兄ちゃんとか言っていたから、魂だけ入ったんだろうけども。

 

まぁ魔法や錬金と言った現象もそうだが、幽霊とかも割といるこの空。

いまさら? 魂が? 何かに宿った所で?

 

ははは。

 

はぁ?

 

 

この俺が生身の頃の時間の全てを費やして成し遂げた事を、こともあろうにものの数秒だと?

そのうえ十全に体を動かして異常な剣技を振るってやがるぞコイツ。

 

錬金の才能やらセンスといったモノは一切ない。文字通り無理矢理入り込みやがった。

ジータを守るためなら何の代価もなく、等価交換を無視してやるってか?

 

何なんだこの兄妹。俺の妹の方が何倍も常識と知性があるように見える。

 

方や行動全部が台風を引き起こす未曾有の大天災の妹。

方や俺の十八番をゴリ押しで真似しだした不気味な兄。

 

何がどうすればこんな兄妹が生まれてくるんだ。やる事成すこと悉く規格外のソレじゃねーか。

 

胃が痛い。

この体になって初めて胃痛がした。

 

盾というのは一見鈍重に見えて、その実とても有効な装備だ。

殴ってよし守ってよしと色々出来るのは、選択の幅が広がって有利になる。

 

ましてや壁かよと思うほどの分厚く巨大な盾を持ち、それを扱える十全な技術と体があるなら尚の事。

 

「人を簡単に斬り捨てようと、表情一つ動かんとはな」

 

視線を自分が持っている刀に向けても、映るのは何の装飾もないただの量産品。あの盾に正面から斬り込んでも、恐らく刀身が持たない。かといって武器を借りようにも問題がある。

 

こんな状況で態々予備の武器を持っている人など居ないし、貸してくれと言っても急には無理だろう。

倒した敵の武器を奪おうと、持っているのとほぼ同じ性能では、焼け石に水だ。

では盾持ちの右手に装備しているあの大きな剣はというと、これも選択肢に入らない。おそらく筋力が足りず持てない。

しかもコイツよく見たら鎧も結構ゴツイのを着込んでいる。

 

悲観的な考えが浮かんでは消えてくる。他の人たちは、敵の団員と戦闘中だし、カリオストロさんは……うわ目が合った超怖い。

 

「大丈夫」

 

……そうだったな。お前は絶対に諦める性格じゃなかったな。

 

いつの間に、どうやってかは知らないが、侍の姿になっているジータを横目に懐を弄る。

手に取った衝撃で爆発する薬品を、そっと適当な所に転がしておく。

 

幸運な事は1つ。俺とジータが敵の懐に深く入り込んだおかげで、1番船首側に居るという事。

不幸な事は2つ。敵味方が入り乱れて騎空艇の中央付近に居る事と、俺はジータが無事なら手段とかにあまり拘らない事。

でも……。

 

「みんなー! 麻痺に気を付けてね!」

 

これだもんなぁ。俺が懐を弄った段階で何をするのか分かるのは、兄妹の良い所だと思う。

 

じゃぁ、麻痺毒混入の煙幕、行ってみよう。

 

 

「全員息を最小限に抑えろ!」

 

この盾持ち、図体に反して賢い。そう思うと同時、煙幕が風に乗って船を覆う。

カリオストロさんには頭が上がらない。

 

「あの大きい人、麻痺に抵抗あるよ! 行ってくるね!」

 

何故そこで気を付けてねの一言も出て来ない? わが妹ながら、もう少し周りを労わる言葉を出しても罰は当たらないと思うぞ。

 

 

やはりというか、ジータが圧倒的に有利だ。本来なら正面からやりあえば突破は不可能に近いのだが。

 

「それっ! はいそこ!」

 

正面から堂々と向かって斬りあうジータ。

 

「おのれぇ! この程っがあぁ!? 貴様ぁ!」

 

後ろから斬りつけたり、落ちていた弓や銃で嫌がらせをする俺。

 

なまじ防御力が高いせいで、嬲り殺しのソレだ。

 

敵が再び大盾を振りかぶり、衝撃波を起こしてくる。後ろから小突いていたおかげで、足元まで目が行ってなかったな。

その攻撃がお前の最期だ。

 

ジータは跳躍で回避し、元から離れていた俺は刀を構えて走る。

 

 

―――!

 

戦場に一際大きな爆発音が響いた。

 

先ほど転がしておいた爆発薬品に、ちょうど振り下ろした盾が当たったらしい。音の大きさに対して威力は小さいが、相手を驚かせる目的なので、そこは問題ではない。その音で一瞬耳がやられたのか、仰け反った大盾持ちは、バランスを崩す。

 

そして夕陽を背にして近づく俺を真面に見てしまったのか、一瞬目を瞑った。

終わりだ。

 

余っていた最後の爆発する薬品を顔面に投げつけ起爆する。

 

「くそ! くそ! 何なんだお前! 畜生!」

 

威力が低くても爆弾は爆弾。フルフェイスだが目の覗き穴に丁度入ってしまったのも運が悪い。

もう光を映すことのないその焼け爛れた目を抑えながらも、最後の力を振り絞って、俺が居る所に突撃を仕掛けてくる。

ここまで来るとコイツの執念には驚かされる。付き合ってやる必要もないけど……こんな機会もうないだろうし、妹にカッコイイ所見せておこう。

 

あ、敵の名誉のためにいうと、相手が万全の状態であの盾を構えていたら、俺程度での攻撃は入らなかっただろう。だから今から行うのは、死にかけの獣に止めを刺す……いうなれば駆除のそれだ。

騎士道とか真剣勝負とかは興味ないが、死にかけを嬲るほど獣には落ちていない……つもりだ。

 

白刃一閃(優しく首を刎ねる)

 

戦闘が終わって、敵の団員達も降伏……しなかった。全員が全員持っていた武器で自害しやがった。

忠誠なのか狂信なのか分からないが、2度とあんな連中には会いたくない。妹も流石に思うところがあるようで、シェロカルテさんと色々話し合っていた。

 

戦闘中は面倒だから流していたけど、表情が一切動かせない。体は動くのに、顔面の筋肉だけ凝り固まったように動かせない。

これじゃ会話が出来ないから身振り手振りでしか意思疎通が出来ないな。

 

 

そんなゴタゴタが片付いて一段落すると、今度はこっちに視線が集まり出した。

心なしか団員さんたちの視線が怖い。

 

そんな中で満面の笑みで走ってくるジータ。

その肩の上で笑っているビィ。

 

 

目のハイライトが消えてほぼ無表情に近い微笑を浮かべながらウロボロスを展開しつつ全力で走ってくるヤバい人。

 

 

助けて

 

 

 

 




駆け足でさらっと戦闘終わったけど許して。

この小説も終わりが見えて参りました。


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くっそ病弱だったお兄ちゃん(故)が妹達に振り回されるお話

寒い


チクタクチクタクと時計の針が進む音だけが部屋に響く。

 

目を泳がせて成り行きを見守るわが妹に、震えて存在を消そうと必死なビィ。

 

彼女の怒気に晒されて身動き一つとれない俺。

 

「……おい」

 

そしてとうとう、我慢の限界が来たカリオストロさんがキレた―――!

 

「お前ふざけんなよ!? 妹を助けるためとはいえ俺の予備の体に入った挙句に滅茶苦茶に負荷掛けてぶっ壊しやがるだと!?」

 

挙句に体から出る事出来ないとかお前さぁ……と、勝手に使われて壊されたカリオストロさんは大変ご立腹だ。

 

いやほんと申し訳ないです。ただでさえ妹の面倒を見てくれているというのに、保護者の俺までこんなにお世話になって。

 

「お前ら兄弟は起こす事全部常識の理外じゃないと気が済まねーのか。しかも顔面の筋肉だけ動かないから喋れないだと? あるかよそんな局地的な筋肉硬直! 全身がちゃんと動くように調節してるっての。お前の顔面動かす力が無ぇだけだよ」

 

うーんこのド正論。俺はひたすらに頭を下げるしかない。本当にすいませんカリオストロさん。

 

「くっそ、俺の見た目だから可愛いのが余計腹立つ。数秒で錬金の最奥に到達した奴はやっぱり非常識だなおい」

 

頭を下げるだけではと思い、近くにあったメモ用紙にペンで謝罪の言葉を書く。

 

『すいません』

 

「まぁカリオストロさんも落ち着いて? お兄ちゃんも私を助けるために頑張ってくれたんだし、体の材料費とか費用とか騎空団の公庫から出すから……」

 

どうもカリオストロさんは、生前全てを掛けて成し遂げた技術を、感覚だけでやり遂げた俺に思うところがあるようで……。

 

『着ぐるみを着る感覚でした』

 

「はあああああ!?」

 

色々と限界が来たらしいカリオストロさんは、ウロボロスを展開して俺を拘束し、薬品漬けの巨大容器に押し込んだ。

いやぁ……ごめんなさい。

体ぶっ壊したのは謝りますが、決してカリオストロさんに思うことがあるとか、そういった事は断じて無いです!

 

 

 

普通の行動は特に問題なく出来るようになった。

あの後カリオストロさんは文句を言いながらもしっかりと体を治してくれた。

 

大変だったのは団員さんたちへの説明だ。兄が姉になって帰ってきたとかいう謎のワードを皆さんに説明しきるだけで3日を要した。刀を使う団員さんからはそれはもう興味の視線を頂いた。

 

中には鯉口を切られた方も数名……いやぁ、無理。練習試合とはいえ、勝てる気が一切しないな。

 

「あの、団長ちゃんのお兄様、是非是非私と一試合」

 

鯉口を切ったヤバい人筆頭のナルメアさん。この人、ジータ達に思いや悩みを全部ぶちまけて悟り開いた上でこの言動だからなぁ。

 

今はメモ用紙とか持っていないので、申し訳ない顔をして頭を下げる。するとどうだろうか、シュンと目を伏せながら、気にしないでねと去っていく。

ふええこっちも色々と辛い。

 

どうも団員の皆さんには、俺は策をも弄する凄腕の刀使いと思われているらしい。

 

試しに数回刀を振ってみて、斬撃の内包とかやってみたが……そも攻撃を当てられるという確信自体持てなかった。だって騎士団長だとか二つ名持ちの人ばっかりのこの人外魔境だもんなぁ。

 

隙を見せたらお前の最期だとか言ったけど、見せる隙自体が無い人だとどうしてもな。

 

「お兄ちゃん。ナルメアさんがそろそろ可哀想だよ?」

 

妹よぉ。お前は優しいな! でも俺って本来戦いとか嫌いなんだが!

 

『…!…!』

 

動かない表情と身振り手振りでジータに伝えると、ジータは苦笑いを返してきた。

 

「嫌いではあっても苦手ではないもんね。んー、私もお兄ちゃんの技もう少し見てみたいしなぁ」

 

妹がぶつぶつと呟いて考え込んでしまったので、カリオストロさんの部屋に避難した。普段から感覚で動いている妹が考え込むというのは、天変地異の前触れみたいなものだと、団内ではわりかし有名だ。

怖い怖い。

 

 

 

 

3日後

 

甲板にて

 

 

 

俺は今団員の皆さんが遠巻きに見つめる中、ナルメアさんと対峙しています。

 

 

おお、もう……どうしてこうなった?




あと3話ぐらいで終わりの予定


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くっそ病弱だったお兄ちゃん(故)が格上の人と模擬戦するお話

本作の1話前の投稿日が10月17日
今は12月13日

まあ少し間が空いたけど許してほしいので初投稿です


 ジータさんやぁ、どうしてそうも人が唖然とする事を平然と行えるんですかい?

 

 目に入れても痛く無い程に愛しい妹なのだが、やる事なすこと悉くが酷い。

 しかも一切の悪意無く、純粋な善意でやってるってんだから。

 

 今回の場合、ナルメアさんが可哀想だから場をセッティングしたんだと言いたげな表情だ。

 

「では、よろしくお願いします」

 

 見てみろジータ。このナルメアさんの表情の一体何処にそんな悲劇のヒロインが宿ってるんだ。

 あんな笑顔初めて見る。

 

「……」

 

 こっちはこっちで喋れないし。

 しかも体から魂が抜けかけて動きにくいし。

 

 身振り手振りで嫌だと表現しても伝わる気配も無いし。

 

 感覚で入り込んだだけだから正直言って何が起こってもおかしく無いのに、やってる事戦いばっかりじゃねぇか。

 いや戦いの最中に守りたいからって気持ちで出来てしまった手前、戦いたくないとは言い難いが。

 

 カリオストロさんはと言えば肉体に傷付けたら許さんって表情だし。

 

 すっごーく嫌々な感じの動作で一礼をして剣を構える。

 更に言えば訓練用の木剣やら木刀じゃなくて実戦用の真剣だ。

 

 くん……れん?

 そっか、訓練か……そっかぁ。

 

 ジータを守る為の実戦なら騎士道精神やら正々堂々なんて鼻で嗤うけど、こうも純粋に当たってくる人って初体験だから慣れない。

 

 

 下段に構えてナルメアさんが攻撃してくるのを待っている。

 

 10秒後。

 

 20秒後。

 

「―――そこっ」

 

 ナルメアさんの神速の一撃が放たれた。

 

 いや首ぃ!?

 

 この人何の躊躇も無く真剣で急所狙ってきたんだが!?

 

 取り敢えず様子見で受け……止められる筈ないよなぁ!?

 

 チラッと見たけどカリオストロさんの顔色も結構な事になって来てるし……。

 取り敢えず今は避ける事に専念しないとッ……。

 

 

 

 良く分かんねぇ化け物が根性論と精神論(シスコンパワー)で錬金の真理の一部を行使しやがった。

 それだけでも頭痛ぇってのに、挙句には戦闘狂(ナルメア)との模擬訓練でオレ様の試作体を使うだと?

 

 舐めてんじぇねーぞクソガキ共が……っと、いけないいけないっ☆―――はぁ……。

 

 武器振り回す近接戦はそこまで詳しくねーけどよ、真剣でやる必要あるのか?

 見ろよ隅で埃被って放置されてる木剣をよ。

 

 まあ入ったもんは仕方ないから研究しようとしてたのになぁ……見たかよあのナルメア。真剣でいきなり首狙ってやがる。

 お前それがオレ様の体って分かってんだろーな?

 

 怒りを通り越して凄まじい疲労感だけが襲って来る。胃と頭が鈍い鈍痛を訴えてきやがる。

 

 薬飲めば和らぐか……体をぶっ壊されそうな緊張感と簡単に体に入った異常な技術に対する気持ちで最近寝れねーよ。

 

 

 近接で戦う奴は、強い奴ほど無駄な動きが削ぎ落されて洗練されていく。中にはあえて派手に立ち回って威圧するって動きもあるが、大概は前者だ。

 ナルメアなんてその洗練って動きの最たる例だと思っている。可愛さこそ無いが、抜刀から斬撃に至るまで最低限の動きしか無いって事は、近接が少し苦手な俺様でも分かる。

 

 ただ回避だけはあの無駄な胸の影響でそこまでって感じだが、それでもこの世界ではトップに程近い。この世界は、当たれば呪いや即死や毒なんて当たり前の武器が道端の石ころ感覚で転がっている。

 故に多少大げさな回避でもそれは正しい選択であるし、一度仕切り直す為にも後ろへ大きく跳んで回避も正しい選択肢だ。

 

 対するジータの兄といえば、一言で表せば地味だ。地味ではあるが異常とも言える。

 

 アイツが攻撃を躱す時、どんなに大きく動いたとしても足がその場から1歩動く程度だ。

 足1歩動かしつつ上半身を捻って斬撃を躱す。

 

 1回だけなどではなく、2回3回と軟体動物の様に躱していく。

 

 ナルメアだって手を抜いている訳じゃ無いだろうよ。攻撃密度とか言うのも凄まじい。

 その凄まじい攻撃を連続で避けるもんだから、ついつい斬撃がすり抜けてるように見えるのもまた可笑しい。

 

 そんな事出来る機能つけた覚えねーんだよなぁ。何だアレ、才能って言葉で片付けていいのか?

 

 あと他の奴らと違う点と言えば、武器大好きな奴らが戦闘中好んでやる鍔迫り合いとか言うのもやろうとしない。

 自分の武器が脆いって認識からやらないんだろうが、それにしたってなぁ。

 

 

 避けてばかりじゃキリが無いって分かってる筈だろ?

 

 それとも決定的な隙とやらでも探してるのか?

 くそ、オレ様の自信作の可愛い瞳だから分かんないッ☆

 

 でも何となくだが、隙を伺ってるっぽいなアレ……ホント、頼むから壊してくれるな。割と一点物だから壊されると洒落になんねーんだ。

 

 早くナルメアの隙とか見つけて打ち込めよ!!!

 

 

 

 隙とかあるわけねーんだよなぁ!

 

 大体あっちは何年も修行と実戦を繰り返して来た歴戦の侍?だぞ。

 

 対するこっちは生前寝たきりで死後人形の体に入って初めて刀振っただけのパンピーだぞ。

 

 何を期待した目で見てるんだよ。

 

 平伏せ、一般人様だぞ。

 

「先程から私の攻撃は通ってない。しかし私に攻撃もしてこない。何故です?」

 

 打ち込んだら返り討ちに会う未来しか感じないから動けないんです。何あの目力……腕の一本は貰っていくぞみたいな雰囲気なんだが。

 

 団員全員忘れてるだろうけど、この体カリオストロさんの物なんだけど!?

 まぁ口は動かせないから、暫くしたら萎えて試合が中断するだろ。ジータがお世話になってる人達だが、此処は何とか引いてもらおう。

 

「ナルメアさーん! お兄ちゃん今喋れないから言うだけ無駄だよー!」

「そうでしたね。では再開致しましょう」

 

 

 ジーーーーーータァアアアアアアア!

 

 

 

 

 




キャラ崩壊ですか?
スレで晒してご意見を頂戴したのですが、そもそも私自身が根本的に色々と忘れてるのでダメです。

あと2話ぐらいで完結です。張り切って行こ―。


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くっそ病弱だったお兄ちゃん(故)が格上の人に負けるお話

前回の投稿日12/13
今回の投稿日12/21


 首 頸動脈、太腿 眼球 また首と眼球、心臓。

 

 さっきから狙ってる箇所全部急所なんだが!?

 もうコレ確実に殺す気だろ!

 

「当たらない…太刀筋を読まれている」

 

 人形の体でマジ助かった。息切れって概念がほぼ無いから避ける事が出来る。

 

 まあ逆を言えば、避けるだけで精一杯で、こっちが打ち込む隙が無くてやばい。

 普通なら、どこかしらに確実に隙があるから、それを伺って、俺の打ち込む姿勢とか整ったら行くんだが。

 

 この人さぁ。

 いやこの人に限らないんだよなぁ。

 

 ジータの騎空団に所属する中でも上位の奴らって大概このレベルがデフォなんだよな。

 

 ナルメアさんは、敢えて隙を晒すなんて事絶対にしない人だから、そういった方面も期待できない。

 

 煙幕持って無い。

 閃光が発生する爆薬持って無い。

 毒薬持って無い。

 目つぶし用の砂利…そもそもここ船の上。

 

 カリオストロさん、片腕犠牲にしたら怒るかな。

 

 うん。まあ仕方ないよね。

 

 などと考えていると、ナルメアさんの斬撃が通り過ぎた。

 

 

 ここだ。ここしかない。

 

 刀が振り切られた瞬間に全力で左半身を前にしてナルメアさんに逼迫する。

 

 突如として動いたナルメアさんは僅かに険しい貌をする。

 問題なのは、表情が険しいだけで、一切の動揺などが見えない点だ。

 

 ちょっとぐらい驚いて欲しい。

 もしかして筋線維とかの動きで全部把握してたりする!?

 

 だったら詰みなんだけど、もういいや行こう。

 だってこの体勢で躊躇したら多分一刀両断される。

 

「左腕貰います」

 

 その言葉と同時、凄まじい剣閃が左腕に到達し、カリオストロさんが必死になって作り上げた最高級人形の左腕が宙を舞った。

 

「おいthsgjkpld」

 

 言葉にならない悲鳴を上げるカリオストロさんを尻目に、腕から溢れ出る人工血液をナルメアさんの目に向けて飛ばした。

 

 だがそんな小細工もナルメアさんは予想していたのか、その飛沫一滴に至るまで全てを見切り回避した。

 

 別にそれでいい。目潰し出来れば御の字だったけど、目的は僅かの間だけでも俺の右腕を隠す事だし。

 

「お兄ちゃん……内包出来るの斬撃だけじゃないんだね

 

 だからどうして口に出すんだジータぁぁアアアアア!

 

「!」

 

 ほらバレた。この一瞬で奥の手もう看破されたけど!?

 ええい構わん行け! 頑張れ俺! どうせ千日手で打つ手無いんだからもういい!

 

 

 刀の柄の下部分を持ち上半身をバネの様にして―――突くべし!

 この距離なら上下左右後方の回避は不可、受け流すのも大歓迎だ!

 

 そうだよ文字通り渾身の突き技だよ。

 まあそれも、ジータの言葉で全てを察したナルメアさんは対処してきた。

 

「迎撃させていただきます」

 

 まさか俺の突きに対して真正面から、同じ角度で突きを放ってくるとは。

 

 ……は?

 ちょ、え、待ってほしい。

 こちとら人形の体だから最悪損傷してもいいけど、そっち生身では!?

 

 

 などと考えている間に、互いの刀身の切っ先がぶつかり合った。

 

 その瞬間、とんでもない不協和音が鳴り響く。

 

 だが拮抗したのはほんの僅かなだけだった。

 

 突きの中に3つ内包させた。

 牙突という突き技は刀を使う人らは勿論知っているし、連続突きだって多用するだろう。

 

 格好をつけて言うなれば、牙突三段。

 でも所詮こっちの武器は大量生産品という事実は変わらない。

 対して向こうは世界に2本と無い一点もの超強力な物だ。

 

 俺の持っていた刀は衝撃に耐え切れず折れ、向こうは……あ、罅は入った。

 

 

 折れた刀を少し見た俺は、降参と手を上げた。

 

 失望されたかなとナルメアさんを見ると、刀身を見ていた。

 だが下を向いたまま直ぐに鞘に刀を戻した。

 

 そうして顔を上げたナルメアさんは、この上無く嬉しそうに嗤っていた。

 

 

 あ、駄目だこの人。

 

 

 

「ヌー、ネー」

 

 カリオストロさんがぬとねの区別が着かない顔で斬り飛ばされた左腕を見てる。

 

 かわいそう。

 

 かわいそうではあるんだが、これ正気に戻った時の反動が一番怖いじゃないですかやだー。

 なんだこれ、嵐の前の静けさか!?

 

「その、ね。ほら材料費とか追加の研究費とか公庫から出すから」

 

 多分なんだけど、材料自体が洒落にならない程の希少性なんじゃないかな。

 ほらカリオストロさんって4桁年前の材料とか持ってるけど、その中でも特に希少だったとか。

 

 あれ、それ考えたら俺のやってる事やばくね?

 勝手に体を乗っ取っただけでも大概なのに、文句言いながら使うの認めてくれた人に対して、物損を突き付けた訳だ。

 

 しかも故意的に。

 

 居た堪れなくなって来たからカリオストロさんを抱きしめよう。片腕だけど。

 ぎゅっと抱きしめると、目が合った。

 

 うわ目怖い。ハイライト無いし段々口が弧を描いて来た。

 

 さっと離れてジータの後ろに身を隠す。

 

「お兄ちゃん。さっきの技なんだけど」

 

 お前マジでちょっと空気読んだ方がいいぞ!?

 お世話になってるカリオストロさんに兄妹共々ここまで迷惑掛けてんだからさ!

 

 どうするよこの人騎空団の中で1、2を争うぐらい常識的な人なのに、そんな人怒らせるってヤバいぞ。

 

「いや兄貴、カリオストロが常識人は無いぜ」

 

 ビィ何で今それ言った!? なんでそんな火に油を注ぐ事言った!?

 

「ちょっと、お話しよっか☆」

 

 その可愛い声と同時、急に辺りが暗くなった。

 何ぞやと顔を上げると、カリオストロさんの相棒である龍が大口を開けて―――

 

 俺はそのままごっくんと飲み込まれた。




次辺りで完結させたい
初期と矛盾点多いですね


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