【完結】ボボボーボ・ボーボボ ハジケウォーズ/フォースの覚醒 (春風駘蕩)
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第一章 毛・魂・戦・士
奥義1:スイッチ・オン!


 西暦三◯××年、世界はマルハーゲ帝国が支配していた。

 

 

 炎に包まれる村に広がるのは、阿鼻叫喚の地獄。

 逆らうものは殺され、圧倒的な勢力の差に屈した者たちは自らの髪の毛を引きちぎられるという屈辱を受ける。

 

「ヒャーハハハハハハハ‼︎ 毛狩り隊のお通りだぁ‼︎」

「全員残らず狩り尽くせぇ‼︎」

 

 マルハーゲ帝国帝王、ツル・ツルリーナ3世は己の権力の象徴として『毛狩り』制度を施行した。

『毛狩り』とは人間の新鮮な毛根をブチ抜く事で、征服した人間に屈辱と無力感を与える行為であった。

 

 蛮行にふけっているのは皆、一本の毛も生えていない頭皮に凶悪な人相の男たち。

 全員で揃えられた凶悪な見た目のユニフォームに身を包んだ彼らは、泣き叫ぶ人々から容赦なく毛髪を奪い去って行く。それは老若男女見境なく、まさに悪魔の所業と言えた。

 

 マルハーゲ帝国は強大で、自ら逆らおうと思うものはいない。

 だが、そんな時代にただ一人。

 

「ひぃぃぃぃ狩らないでぇ〜〜‼︎ 僕うさぎなのに〜〜〜‼︎」

「ギャハハハ……あ?」

 

 どう見てもコスプレをしたおっさんにしか見えない自称兎の耳を掴み、ぶちぶちと直に毛を引きちぎっていた毛狩り隊の一人だったが、不意にその哄笑が途切れた。

 毛狩り隊が集まっているある村。そこから見える荒野に、もうもうと砂埃が立ち込めていたのが見えたからだ。

 ドヨドヨと毛狩り隊員たちがどよめき始め、毛刈りの手を止めて砂埃を凝視し始めた。

 

「おい! 何か近づいてきてるぞ‼︎」

「な、何だありゃぁ⁉︎」

 

 毛の自由と平和を守るために戦う、一人の漢がいたーーー。

 

「ぐああああああああああああああ‼︎」

「何事ーーーーーー⁉︎」

 

 土煙の中に見えたのは、バイクに乗った無数の野菜たち。サングラスをかけ、タバコを吸ったり傷跡があったりと、どう見ても柄が悪そうな連中が徒党を組み、荒野を爆走している。

 そのバイクの後ろには縄が繋がれていて、さらにそれは一人の男の足首にくくりつけられていた。高い背丈に長い足、筋骨隆々の肉体に金髪の立派なアフロを有した男が、全身にピーマンをくくりつけられながら引きずり回しの刑にあっていた。

 西部劇よろしく引きずられ、血とピーマンでボロボロになって悲鳴をあげるアフロ頭の男の姿に、毛狩り隊の男たちは目を向いて驚く他にない。

 すると、毛狩り隊の一人が何かに気づき、アフロの男を指差して声を上げた。

 

「あ……アイツはボーボボだ! ボボボーボ・ボーボボだ‼︎」

「何⁉︎ あれが我ら毛狩り隊の宿敵、鼻毛真拳使いのボボボーボ・ボーボボか⁉︎」

 

 猛威を振るうマルハーゲ帝国だが、抵抗しないものばかりではない。毛の自由のために戦う戦士が抗い続けていた。

 その一人が、彷徨える毛の貴公子ボボボーボ・ボーボボ。

 帝国の脅威とも呼ぶべき男が都合良く引きずられてきていることに困惑しながら、男たちは殺気をほとばしらせる。

 そんな彼らをよそに、野菜の暴走族のヘッドである人参が怒号をあげてボーボボを睨みつけた。

 

「鼻毛男ォ‼︎ てめー今度ピーマン残したらタダじゃおかねぇって言っただろうが‼︎ 何回言ったらわかんだよこの生ゴミが‼︎」

「ちくしょぉぉぉやっぱりピーマン食えなかった〜〜〜‼︎ 二次小説(ここ)でなら食えるかと思ったけどやっぱりダメだったぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 どうやらピーマンを残した事で野菜たちの怒りを買い、バイクでの引きずり回しの刑に合わされているらしい。死ぬほどしょうもない理由だった。

 ボーボボは大きくカーブした人参ヘッドのバイクに引きずられ、振り回されるようにして荒野を転がって行く。その際ブチッとロープが引きちぎれ、ボーボボは毛狩り隊のいる方へと自ら投げ飛ばされることになった。

 

「何が何だか分かんねぇがこれはチャンスだ‼︎ あの男を殺せぇぇぇ―――‼︎」

「うおおおおおおおおおおおおお‼︎」

 

 状況は全く理解できないが、マルハーゲ帝国の野望を邪魔する宿敵がわざわざやってきてくれたのだ。

 毛狩り隊の戦士たちは歓喜の怒号をあげ、武器を手にし、ゴロゴロと転がってくるボーボボ に向かって突撃を開始した。

 今の今まで引きずられ、その上縛られている男には、全く抵抗するすべもない。

 

「……鼻毛真拳奥義」

 

 そんなわけがなかった。

 

『鼻毛のアルペジオ』‼」

「ぎゃあああああああああああああ‼︎」

 

 ボーボボの鼻の穴から伸びた黒い鞭ーーー鼻毛がしなり毛狩り隊たちを蹴散らしていく。

 彼の毛こそ、彼の武器。毛を愛し、毛を護る彼こそが毛の王国の生き残りにして、鼻毛真拳の正統なる継承者である、最強の鼻毛使いなのだ。

 

「待て待て待て待て――――い‼︎ 主人公は俺だ―――――――‼︎」

 

 彼だけではない。

 もうもうと砂埃を巻き上げながら、毛狩り隊の元に別の影が乱入する。

 オレンジ色のボールのような体に棘が生えた、生き物かすらも怪しい何か。

 その名は首領パッチ。ハジケ組を率いる、ハジけリストの頂点に立つ男だ。

 

「殿に続け――――――‼︎」

「覚悟――――――‼︎」

 

 それに続くのは、水色のプルプルした体を持つ人型の何かと、白い二足歩行する犬ではなさそうな何か。

 元毛狩り隊Aブロック隊長にしてプルプル真拳の使い手・ところ天の助と、元Zブロック隊長田楽マン。紆余曲折あってボーボボの仲間となった二人が、なぜか老齢の鎧武者の格好で首領パッチの後を追う。

 

「いまいましき毛狩り隊どもめ‼︎ 我らが奥義を見るがいい、うおおおおおおお‼︎」

 

 そう叫びながら、いつの間にか派手な甲冑を身に纏った首領パッチが毛狩り隊に躍りかかる。その格好が、一瞬で全く別のもの……半透明の守護霊的な存在を従えていそうな格好へと変わった。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ‼︎」

「ぐあああああああああああああああ⁉︎」

「オレは毛狩り隊をやめっ……ぎゃあああああああ‼︎」

 

 凄まじい威力のラッシュ。だが悲しいことに格好は別の漫画の主人公であった。

 

「トロいぜ……カギ真拳奥義『ROCK』‼︎」

「ぎゃあああああああ⁉︎」

「くらえ! オナラ真剣奥義『如月』‼︎」

「くさあああああああ⁉︎」

「贖罪の時間だ。バビロン真剣奥義『ペルーの唄』

「ぐああああああああ‼︎ うんこにやられた――――‼︎」

 

 そこへ、金髪の男が次々に毛狩り隊員達に手に持った鍵を突き刺していき、その動きを完全に止めていく。

 銀髪の少年の操る黄色いガスが、次々に毛狩り隊たちにヒットして地に転がして行く。かと思えば、茶色くとぐろを巻いた頭を持つ男が操る拳法が的確に急所を捉え、毛狩り隊を片っ端から制圧していく。

 首領パッチを親分として慕う、ボーボボと同じ毛の王国の生き残りにしてカギ真拳の使い手、破天荒。

 故郷を毛狩り隊に滅ぼされた元復讐者、オナラ真拳の使い手ヘッポコ丸。

 敬虔にして高潔なるバビロン教の信者にして使徒、謎多きバビロン真拳の使い手ソフトン。

 凄まじい力を持つ戦士達が次々に毛狩り隊員を討ち取り、人々を解放していく。

 その姿は、まさに英雄であった。

 

「クソォ……なんて強さだ‼︎」

「これが……ボーボボとその仲間の力……」

 

 鬼神の如き暴れっぷりを見せつけるボーボボ達に、毛狩り隊員達は完全に逃げ腰になり、這う這うの体で逃げ出していく。

 散り散りになっていく毛狩り隊員たちを睨みつけ、ボーボボはキランとサングラスを輝かせた。

 

「毛の自由と平和を脅かす悪党どもめ‼︎ 毛加減しねぇぜ!!!」

 

 襲撃された村の者は歓声をあげ、ボーボボ達を賞賛し、褒め称える。

 この世界にボボボーボ・ボーボボがいる限り、毛狩り隊の支配は続かないのであった。



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奥義2:星座の魔物

「皆の者ー! 勝利の宴じゃー!」

「酒を持てー!」

「料理を持てー!」

「ところてんを持てー!」

「いらん」

「⁉︎」

 

 時間は少し過ぎ、襲撃のあった村を後にしたボーボボ達はある河原で祝勝のバーベキューに勤しんでいた。

 戦いを終えた安堵からか、多少羽目を外した大騒ぎになっているが、いつものことであった。

 

「あ! 肉足んねぇぞ!」

「ではわたくしが代わりに……」

「いらん」

「⁉︎」

「ならボクの田楽を焼くのら〜」

「田楽⁉︎」

 

 自ら焼かれにいくところてんがいたり、田楽を網に乗せる白い犬(?)がいたり、鍋で泳ぐオレンジのトゲトゲがいたりするが、いつも通りなのである。

 それを呆れながら見守るのは、一行のツッコミ役である少女ビュティとヘッポコ丸。そして大人の立ち位置にいるソフトンだ。

 

「あ〜あ、収集つかないよもう……」

「ハハハ」

「まぁいいだろう。たまの休息にバカをやるのも」

 

 実際は常にバカをやっているわけだが、ビュティはまぁそんなものかと思って見守ることにする。

 いつの間にか、どこぞのアイドルの格好をした首領パッチが気色の悪いメイクを施してマイクを握りしめていた。

 

「エントリーナンバー1番、パチ美! 歌います!」

「帰れー!」

「ひっこめー!」

 

 ブーイングが飛ぶが全く気にしない。破天荒のみがペンライトやうちわで完全装備だが、首領パッチはまるで大ステージで歌うかのような貫禄で手を振っている。

 そしてついに、マイクを通して観客に歌声を披露した。

 

「しあわっせなっらてっをたったこ♪」

 

 

 

 ドゴーン‼︎ ドゴーン‼︎

 

 

 

「ぎゃああああああああああああ!!!」

「きゃああああ‼︎」

 

 突如、首領パッチの背後で大爆発が生じ、ヤンヤヤンヤと騒いでいたボーボボ達が吹き飛ばされた。

 爆風にさらされたビュティが悲鳴をあげ、バラバラと飛んでくるバーベキューの破片やボーボボ達に目を見開く。

 

「何? 何が起こったの⁉︎」

「こ、これはヘポコーゼ現象‼︎ 異性を前にした極度の緊張と興奮と便意によってごく稀に確認される、オナラ真拳使い特有の現象じゃ!!!」

「オレっすか!!?」

 

 博士の格好をした天の助と助手の田楽マンによって、自分のせいにされたヘッポコ丸が目を見開く。ひどい冤罪であった。

 

「ボーボボ! 大丈夫⁉︎」

「ぐっ……なんということだ! さっきの爆発で……」

 

 ビュティが心配して駆け寄ってみれば、さっきまで意気揚々と宴を楽しんでいたボーボボたちが無残な姿で転がっている。

 ボロボロになったボーボボは悔しげに歯を食いしばり、傷だらけになっている首領パッチたちを抱きかかえて声を漏らしていた。

 

「僕の生卵がゆで卵になっちゃった‼︎」

「どうでもいいよ‼︎」

 

 だがすぐにぽいっと脇に捨て、からの割れた卵を後生大事そうに抱えて涙を流す。仲間への心配など皆無であった。

 しかし仲間割れをしている場合ではない。

 二箇所の爆発の中心、朦々と立ち上がる土煙の中に大きな影が立ち上がったからだ。

 

「ボーボボ! あそこ‼︎」

「あ……あれは⁉︎」

 

 徐々に姿を現す影に、ボーボボ達は警戒を強める。

 片方に現れたのは、異様なほどに膨れ上がった筋骨隆々の体を分厚い鎧で覆った、赤い髭面の異形。体の各所についた宝玉とそれをつなぐ体のラインが、まるでオリオン座のような印象を与える見たこともない、敵だ。

 そしてもう片方の爆心地の元にあったのは。

 

 地面に逆さまに突き刺さった、改造した純白の学生服をまとった女だった。

 

「スケ番が突き刺さってる!!!」

「…………だぁ~」

 

 ビュティの突込みが炸裂する。

 気だるげな声とともに、埋もれていたスケ番の頭が地面から抜け、ばたりと倒れ込んだ。

 白い奇妙な格好のそいつは億劫そうに体を起こすと、寝違えた首を正すかのようにゴキゴキと鳴らし始めた。

 

「いっててて着地失敗しちまったよ……」

 

 ぼやくような声を漏らしながら、かったるそうに呟く人影。

 その際、捲れ上がっていた改造した制服と特攻服らしき純白の衣装が晒され、眩い輝きを見せた。

 

「何? あの人、どこから落ちてきたの?」

 

 思わず空を見上げて呟くビュティ。

 その背後で、首領パッチたちが騒ぎ始めた。

 

「あ、アネゴ大変だ‼︎隣町の連中がカチコミに来やがった‼︎」

「どうしやすアネゴ‼︎」

「アネゴ⁉︎」

「騒ぐんじゃないよ‼︎ ポッと出のよそ者に舐められたいのかい⁉︎」

 

 気色の悪い、厚化粧の不良女子高生の格好になった首領パッチと天の助が、ボーボボにすがるように視線を向ける。

 スケ番の格好になったボーボボは、そんな二人にサングラス越しに鋭い目を向ける。

 

「テメーどこのどいつだい⁉︎ ここいらはあたいら魔巣狩砲臥(マスカルポーネ)の縄張りだよ‼︎ 名乗りな余所者が‼︎」

「マスカルポーネ⁉︎」

「……ん?」

 

 背中を向けていたスケ番が、ボーボボの声に反応して振り返った。

 鋭いツリ目に長い髪をまとめた白のメッシュの入った黒髪のリーゼント、どこか漢らしさを感じさせる顔立ちのスケ番は、女装姿のボーボボの姿を目にして目を輝かせた。

 

「お? おおおおお? よぉ! 久しぶりじゃねーか兄貴たち!」

「あらやだ⁉︎ なにあいつストーカー⁉︎ 怖い‼︎」

「あたいらの個人情報流出しちゃってるぅ‼︎」

 

 親しげに手を振るスケ番。

 しかしボーボボ達はくねくねしながら騒ぐばかりで全く知り合いのように見えない。

 スケ番は落胆したように肩を落とした。

 

「ああ? んだよも〜。せっかくの再会だってのにさ〜」

 

 バリバリと頭を掻くスケ番だったが、すぐさまその表情を変えた。

 

「ゾディアーツ真拳奥義『ベテルギウスの殴撃』!!!」

「ぎゃああああああああ!!?」

 

 さっきから無視されまくった巨漢の怪物が、体の宝玉から無数の光弾を放ってきたからだ。

 スケ番はすぐさま攻撃を躱したが、ボーボボ達は明らかなとばっちりで爆発に巻き込まれていた。

 

「うおおおなんだあいつ、メチャクチャ強ぇぞ‼︎」

「何者だ⁉︎」

 

 戦慄の表情で怪物を凝視する首領パッチと天の助。

 そんな二人に、怪物は棍棒のような武器を振り回しながら凶悪な顔を向けた。

 

「我が名、オリオンゾディアーツ……フォーゼ……倒す‼︎」

 

 凄まじい殺気を振りまきながら、怪物・オリオンゾディアーツはスケ番の方を睨みつけた。

 ボーボボ達は基本的に無視するつもりのようだった。

 一方で狙われているスケ番の女は呆れたようにため息をつくと、そのうちニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

「まぁいいや。忘れたってんなら―――思い出させてやるよ」

 

 そう言ってどこからか取り出したのは、4つのスイッチとレバーが取り付けられた奇妙な形の何か。

 スケ番がそれを自分の腰に当てると、勢いよく金属の帯が伸びて巻き付いた。

 ベルトとなったそれについた赤いスイッチを順に推していくと、ベルトから甲高い待機音が鳴り響く。スケ番はベルトのレバーを左手で握り、オリオンゾディアーツを見据えて身構えた。

 

《3・2・1》

「変身!」

 

 そう叫んだ直後、がこんとレバーが動かされる。

 スケ番の頭上に機械のリングが現れてスケ番の体を光が包み、凄まじい勢いの蒸気が噴き出す。突風のような勢いで吹き出されるスチームの中、スケ番の格好がみるみるうちに変わっていった。

 制服はより鋭角的な純白の学ランに似たものに、両手足には○□×△のマークが入った装甲が付く。最後に額に宇宙船を模したような鉢金が巻き付き、耳の部分には宇宙船の翼のような装飾が装着される。

 一瞬のうちに近未来的な鎧をまとったスケ番は、両こぶしを握り締めながらブルブルとしゃがみこむ。

 

「宇宙ぅぅぅぅぅ………キタ―――――――――‼︎」

 

 天に向かって両拳を突き出し叫ぶスケ番。

 その声は、宇宙の果ての果てまで届きそうに雄々しく強い声だ。

 

「さあ、タイマンはらしてもらうぜ‼︎」

 

 勇ましく拳を突き出す、白い宇宙の力を秘めた戦士。

 その名は、仮面ライダーフォーゼ!



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奥義3:宇宙戦士イザヨ

Rocket On(ロケット・オン)

「コズミック真拳奥義『ライダーロケットパンチ』‼︎」

 

 オレンジの光に包まれたスケバンの右腕が、オレンジ色のロケットを模した籠手に変わる。

 エンジンが点火され、猛烈な勢いで怪物に迫った。

 

「うおらあああああ‼︎」

 

 文字通りロケットパンチが炸裂し、オリオン・ゾディアーツの巨体が軽々と吹き飛ばされた。

 その戦い方に、ボーボボと破天荒は驚きに目を見張った。

 

「おいおいまさか⁉︎」

「あれはコズミック真拳……ということはアイツは」

 

 ボーボボの脳内で、ミニボーボボ探偵たちの手によって様々な記憶の欠片が片付けられ、一人の幼い少女の写真が探し出される。

 快活な笑顔を浮かべていた少女の顔と、スケバンの横顔が重なった。

 

「イザヨ‼︎」

「気づくのがおっせぇよ、ボボ兄‼︎ 天兄‼︎」

 

 待ってましたと言わんばかりに振り向き、喜ばしい笑顔を浮かべるスケバン―――イザヨ。

 ビュティは困惑しながら、ボーボボに尋ねた。

 

「あの人は……?」

「ヤツの名はイザヨ。俺や破天荒と同じ毛の王国の生き残りの一人だ。だがずっと行方が知れなかった」

「こんなところにいやがったのか…!」

 

 ほかにも毛の王国の生き残りがいたことに驚くビュティ。

 その後ろで、ハンカチを噛みしめた首領パッチが目を吊り上げていた。

 

「キーッ! 何よあの女、二次小説だからってデカイ顔して出てくるなんて‼︎ 何様のつもりよ‼︎」

「そーよそーよ‼︎」

 

 気色悪いご近所のおばさんの格好になった首領パッチに睨まれるが、当のイザヨはオリオン・ゾディアーツの相手に忙しく見向きもしなかった。

 

「俺たちも負けてらんね―――‼︎」

「主人公は俺だ―――‼︎」

 

 天の助、田楽マンも出番獲得のために向かい、まとめてぶっ飛ばしてやろうと拳(?)を振りかざす。

 がそれよりも先に、ベルトに備わっていたスイッチの一つを入れ替えたイザヨが動いた。

 

Chainsaw On(チェーンソー・オン)

「コズミック真拳奥義『ライダーぶった斬りブレイクダンス』!!!」

 

 右足を水色のチェーンソーに変えたイザヨがその場で足を振り回し、オリオン・ゾディアーツを滅多切りにする。首領パッチたちもまとめて。

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

「案の定巻き込まれた―――――!!!」

 

 案の定というかなんというか、近くにいた首領パッチたちも巻き込まれてぶつ切りにされてしまった。自業自得ともいえるが、あまりに憐れであった。

 

「邪魔だ‼︎」

「ぶべ⁉︎」

 

 心配するイザヨかと思えば、バラバラになった彼らをうっとうしそうに蹴り飛ばした。

 そして蹴り飛ばされた先には、ダストシュートを用意したボーボボが待っていた。

 

「ボッシュート‼︎」

「ぎゃああああ⁉︎」

「流れるようにゴミ箱に捨てられた‼︎」

 

 生ごみ扱いされた首領パッチたちがダストシュートの中で怨嗟の声を上げているのにも構わず、イザヨはまた別のスイッチを入れた。

 

Launcher On(ランチャー・オン)

Rader On(レーダー・オン)

 

 右足がランチャーに、左腕がレーダーに変わり、ミサイルとアンテナがオリオン・ゾディアーツに向けられる。

 レーダーが敵を補足し、イザヨの目で赤い円が固定された。

 

「オラァ!」

 

 標的に向かってミサイルが発射され、オリオン・ゾディアーツの足元で次々に爆発する。

 爆風によってオリオン・ゾディアーツの巨体が巻き上げられ、身動きができなくなる。

 

「トドメだ‼︎」

Rocket On(ロケット・オン)

Drill On(ドリル・オン)

LIMIT BREAK(リミット・ブレイク)

 

 再び右腕をロケットに、そして左足をドリルに替え、ベルトのレバーを動かす。

 ロケットの推進力で加速したイザヨは、高速回転するドリルをオリオン・ゾディアーツに向け、一気に突撃していった。

 

「コズミック真拳超奥義『ライダーロケットドリルキ――――ック』‼︎」

「ぐああああああああ!!!」

 

 凄まじい破壊力を伴ったイザヨのキックを受け、オリオンゾディアーツは空中で爆発四散する。

 落ちていく人影を尻目に、イザヨは華麗に着地して見せた。

 

「ひっさしぶりだな、ボボ兄! 元気だったかよ!」

「イザヨ! 見違えたぞ!」

 

 イザヨはそのままボーボボたちのもとに駆け寄り、こつんと拳を合わせる。

 ボーボボも快くそれを受け止め、心底喜ばしそうな笑みを浮かべた。

 

「よう、随分でかくなったじゃねぇか。あのおてんば娘がよ」

「そりゃそうだぜ天兄! あれから20年経ってんだからな‼︎」

 

 破天荒もまた不敵な笑みを浮かべ、久しぶりに会った妹分を出迎える。

 すると、立ち尽くしているビュティやヘッポコ丸たちに気づいたのか、イザヨは親し気な笑顔を浮かべて近づいてきた。

 

「お前らはボボ兄たちの仲間か? 俺はイザヨだ! よろしくな!」

「あ、ああ……」

 

 いきなりのテンションに戸惑うが、悪い人ではないようなのでおずおずといった感じであいさつする。

 首領パッチたちが足蹴にされたのは、実際に邪魔だったから仕方がない。

 

(何だろう……ボーボボの同郷の人の割には……)

(結構普通だな……)

 

 心底不思議に思っていると、復活してきた首領パッチたちが憤慨しながら向かってきた。

 

「コノヤロー‼ よくも俺たちをぞんざいに扱いやがったな⁉」

「訴えてやる‼」

 

 鼻息荒く向かっていく三人だったが。

 

「弱肉強食!!!」

「ぎゃあ!!?」

 

 イザヨのもとに行く前に、プレデターのような格好になったボーボボに三人仲良く滅多切りにされた。

 

「はっはっは。ボボ兄の仲間は面白いなあ‼」

(あれを面白いって言えるあたりさすが毛の王国の出身者だなあ…)

 

 突然の惨劇にも全く動じないイザヨに、ビュティは呆れるような感心するような複雑な気持ちになった。

 そんな中、訝し気に眉を寄せたボーボボが思い切って尋ねてみた。

 

「しかしイザヨよ。なぜお前がこんなところにいる? 安全な場所で暮らしているものだと思っていたぞ」

「……実はな、そのことでボボ兄を探していたんだ」

 

 打って変わって真剣な表情で、イザヨはボーボボと破天荒に向き直る。

 そして視線を向けた先には、ボロボロで倒れ伏す高校生くらいの青年が倒れていた。

 

「さっきのやつはゾディアーツ。宇宙の力を秘めたゾディアーツスイッチによって、怪物に変えられた……人間だ」

「なんだと⁉」

 

 怪人の思わぬ正体に、ソフトンやヘッポコ丸は目を見開いて驚きをあらわにする。

 青年のほうを見てみれば、虫も殺さないような人畜無害そうな顔をしている。そんな人間が、あのような恐ろしい姿となって襲ってくるというのは、信じられない話だった。

 

「何でそんな奴らが……⁉︎」

「こいつらにスイッチを渡して、暴れさせている奴らがいる。だから俺は奴らを追っているのさ」

「そんな……」

「こいつらは倒せば元に戻る。だが怪物になっている間はスイッチに支配されて、本性がむき出しになった残酷な性格になっちまうんだ」

 

 罪もない人を怪物に変え、自分の手は汚さずに恐怖をもたらすという。

 そんな存在に、この男が黙っているはずがなかった。

 

「そんな外道は案じて許せん‼︎ 俺がぶっ潰してやる‼︎」

 

 怒りを全開にしたボーボボが、握り拳を掲げながら宣言する。

 首領パッチを踏みつけながら。

 

「このボーボボの名にかけてな‼︎」

「ぎゃああああああああ!!!」

「何で首領パッチ君を!!?」

 

 理不尽に巻き込まれている首領パッチを心配するが、他の者は特に気にしなかった。

 特にイザヨは、兄貴分が見返りもなしに意思を同じくしてくれたことに喜び、完全に意識の外に飛ばしていた。

 

「力を貸してくれるのか⁉︎」

「無論だ」

「俺たちにも協力させてくれ‼」

「やってやるぞ―――‼」

「「「「「「「おお―――――!!!!」」」」」」」

 

 ボーボボだけではない。

 今までともに毛狩り隊と戦ってきたボーボボの仲間たちも、正義の心を奮わせて参戦を買って出た。皆、心は同じだった。

 

「よっしゃあ‼︎ じゃあ久しぶりにアレをやるか‼︎」

「おお‼」

 

 ガッツポーズを見せるイザヨがこぼしたセリフに、同じく拳を掲げていたビュティは思わず「え?」と首をかしげた。

 その直後。

 

「「打倒ゾディアーツ――――――‼︎」」

「ほばぼぶっ⁉︎」

 

 修羅の表情になったボーボボとイザヨが、近くにいた首領パッチの顔面を思い切り殴り飛ばした。

 何事かと驚くかもしれないが、これは仲間割れではない。

 

「出た! ボーボボ達の謎の気合充実法‼︎」

 

 怒りを口にし、互いにその強さを体感することで気合いを充実させていくという、彼らなりの恒例行事のようなものだった。被害は毎度かなりのものであったが。

 しかし中でも、イザヨの気合いは実に高まっていた。

 

「打倒ゾディアーツ‼︎」

「ぶへっ⁉︎」

 

 首領パッチの横っ面に回し蹴りを叩き込み。

 

「打倒ゾディアーツ‼︎」

「がふっ⁉︎」

 

 天の助の脳天にカカトを振り下ろし。

 

「打倒ゾディアーツ―――――――――‼︎」

「ごべらっ⁉︎」

 

 田楽マンを渾身のアッパーでぶっ飛ばした。

 全員、手加減容赦なしの全力の攻撃であった。

 

「ていうかよく見たらさっきから片方が一方的に嬲られてるだけだ――――‼︎」

 

 気づいたビュティが叫ぶ。

 お互い殴り合う青春的交流に見えなくもない方法だったはずなのに、今行われているのは単なるいじめにしか見えなかった。

 

「ちなみにこの気合いの入れ方を最初に考えたのはアイツだ。当時2歳」

「そーなの⁉︎」

 

 こんなバイオレンスな方法をわずか二歳の女の子が考え出したことに戦慄するビュティ。いったいどんな幼少期を過ごしたらそうなるのだろうか。

 

「タッチ! ターッチ‼︎」

 

 ボロボロになった首領パッチが攻守を交代しようと、リングの外にいるボーボボとタッチしようと手を伸ばす。

 その手が届いた瞬間、ボーボボは首領パッチを思いっきり投げ飛ばした。

 

「よし、もう一回行ってこい‼︎」

「うそーん⁉︎」

「タッチの意味は⁉︎」

 

 そんなものはない。

 そして投げ飛ばされた先には、首に腕を回された天の助と猛然と向かってくるイザヨの姿があった。

 

 絶牛雷黎熱刀(ダブルラリアット)‼︎

 

「ぎゃあああああああああああ‼︎」

 

 さらにイザヨの向かい側から走ってきたボーボボとの挟み撃ちにあい、首領パッチは盛大に吐血しながら力尽きてしまうのだった。

 その場に残った者は、ツッコミポジションにより生き残ったビュティと、すべての元凶であるボーボボとイザヨだけであった。

 

「「よっしゃ―――‼︎ 気合入ったぜ――――‼︎」」

「全員ほとんど息してね――――――‼︎」

 

 ボーボボ一行は、イザヨという未知の力を秘めた新メンバーを加え、前途多難のスタートを迎えた。



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奥義4:花の高校デビュー♡

 ―――わたしの名前はユウキ、16歳の高校一年生だ。

    私は今日、この学校に転校してきた。

 

 高くそびえた建った要塞にも似た門を前にして、一人の女子高生が頬を桜色に染めながらその場所を見上げた。

 桜の花びらが舞い散り、燦燦と優しい日差しが生徒たちと校舎を照らし出す。

 ここが、彼女を待ち受ける夢だった高校―――天ノ川学園。

 

 ―――夢だった高校生活は、ここから始まるんだ!

    友だちは何人できるかな♡

 

 すぐそばを歩いていく同級生や先輩たち。

 もしかしたら彼ら彼女らが自分の友達や、もしかしたら恋人になるのかもしれない。

 そんな胸いっぱいの期待と共に大きな一歩を踏み出そうとした時だった。

 

 ズン、と。

 巨大な手が天ノ川学園の塀にかけられる。そこからゆっくりと手以上に大きな顔が現れ、輝くサングラスで見下ろしてきた。

 

 鼻毛真拳奥義『進撃のボ人』‼︎

 

「本学園開校以来の超絶怒涛の事態に我ら遭遇―――――‼︎」

「きゃああああ何事――――――⁉︎」

 

 驚愕に目を見開く生徒や教師たち。

 その頭上を、オレンジ色のトゲトゲを生やした変な生き物が、ワイヤーを使って滑空していった。

 

「巨人は全部駆逐してやる‼︎」

「何してんだあいつら⁉︎」

 

 黒いカツラをかぶり、調査兵団の格好をした首領パッチが、きりっとした別人の顔で巨人に告げる。

 そのあとを、同じくキューティクルな黒髪のズラをかぶった天の助が追っていった。

 

「おっと、おとなしくしてろ……そうしねえとお前の肉を綺麗に削げねぇだろうが」

「だから何してんだあの生物共⁉︎」

 

 班長の格好をした天の助が無表情でカッコつけているが、どっからどう見ても格好良くない。

 が。

 

Giantfoot On(ジャイアントフット・オン)

 

 コズミック真拳超奥義『ビッグフットによろしく‼︎』

「なんでやね―――――ん‼︎」

「「「ぎゃああああああああ‼︎」」」

 

 靴の形をしたモジュールを足に装着したイザヨが、重力を利用した強烈な踏みつけをバカ三人にお見舞いした。

 血反吐を吐いた首領パッチと天の助、そして顔と右手だけが巨大化したボーボボが、ぼたぼたと地面に落下していった。

 

「ってかちっさ! ほとんど顔だ!」

 

 本当に巨人になっていなかったわけではなかったことに驚くビュティが突っ込みを入れ、慌てて墜落した三人の元に駆け寄っていった。

 

「何すんだてめえ‼︎」

「ツッコミ」

 

 邪魔をされた首領パッチの抗議に、イザヨは短く返答する。

 ビュティは最早、あきれるほかにない。

 

「もう、何やってるのさボーボボ。普通に潜入すればいいじゃんか」

「チッ、わーったよ」

「真面目にやりゃいいんだろ真面目に」

 

 そう言って三人は、小○幸子の衣装のような無駄に細部に凝ったド派手な衣装に着替え始めた。

 

「よし、じゃあ行くか」

「潜入の意味わかってね―――――――‼︎」

 

 今日も今日とてビュティのツッコミが飛ぶ。その苦労をわかっているヘッポコ丸だけが、同情の眼差しを送っていた。

 

「あ、こっちこっち」

 

 すると、いつのまにかボーボボ達から離れていたイザヨが、塀の陰から手招きをした。

 誘われて向かってみれば、用具入れらしきロッカーの前に全員が立たされた。

 

「うちの拠点にはまずここから入るんだよ」

「ここって…」

「ただのロッカーじゃねぇか」

 

 ツッコミにもならない指摘に答えず、イザヨはロッカーを開けてさっさと入っていってしまう。

 訝しげに首を傾げながらも、ボーボボたちもその後を追って狭そうなロッカーの中に続々入って行った。

 妙に広い、というか奥まで遠い通り道を歩いた先にあったのは。

 凄まじい量の技術力を感じさせる、夜空を見渡せるSF的な空間の中だった。

 

「スゲ―――――――‼︎」

 

 予想外の光景にボーボボたち全員が驚く。

 まさかどこ◯でもドア的な入り口がこんなところに繋がっているとは夢にも思わなかった。

 

「ここが俺の拠点、ラビットハッチだ」

「地球が見える⁉︎」

「ってことはここ月面かよ⁉︎」

 

 窓の外から見える青い惑星を凝視し、常識人であるビュティやヘッポコ丸までもがはしゃいでいた。

 その横でうっとりとした表情の首領パッチが隣の天の助にしなだれ掛かる。

 

「なんて美しい光景なのかしら…」

「結婚しよう」

「デカすぎて却下よバカ‼︎」

「バカ⁉︎」

 

 差し出された人頭大の指輪を容赦なく却下され、天の助はがっくりと膝をついた。

 そんなコントは放っておき、イザヨは中央のテーブルにみんなを座らせた。

 

「さて、じゃあこれからのことを話し合うとしようか」

「あ、その前にいいかな?」

 

 大事な話、というかシリアスに入る前に、ビュティは確認しておきたいことがあった。

 

「イザヨさんって、ボーボボの三つ下なんだよね? でもその格好……」

「ん? ああ、そのことか!」

 

 改造白学ランのような格好を指摘され、盲点だったと言わんばかりにイザヨは手を叩く。

 ボーボボは25歳。ならばイザヨは現在22歳で、立派な社会人に達しているはずである。

 

「俺、実はまだ卒業どころか入学もしてないんだよね。バカだから!」

 

 その答えは、あまりにも切ないものであった。

 思わず無言になるボーボボたちに、イザヨはまるで気にしていないようなカラカラとした表情で笑った。

 

「バカだから!」

 

 誰も聞いていないのに、大事なことだと言わんばかりにもう一度言う。

 そしてイザヨは、その場にがっくりと崩れ落ちた。

 

 ―――でもバカでも辛ェェェェェ‼︎

「やっぱ気にしてたんだ‼」

 

 くぅぅ、と歯を食いしばって悔しさと悲しみを表すイザヨに、ビュティの容赦ないツッコミが飛ぶ。

 傷つけるつもりはなかったのだが、思った以上に地雷だったようだ。

 

「バカでなにが悪いんだよぉ‼︎ こちとら学校の平和守ってんだよぉ‼︎ 勉強がちょっとぐらいおざなりになっても仕方ねーだろちくしょうべらぼうめぇ‼︎」

「完全に呑み屋のおっさんだよ‼︎」

「冷えますど」

「!」

 

 いつの間にか用意されていた屋台でべろんべろんに飲んだくれるイザヨの肩に、女将の格好をした天の助と屋台のオヤジの田楽マンが羽織をかける。

 その姿をじっと見つめるビュティに、ソフトンが不思議そうに視線を向けた。

 

「どうした、ビュティ」

「なんか、不思議な気分だなって思って。ボーボボにはまだ、家族が残ってたんだって思うと」

 

 いまはもう滅ぼされてしまった毛の王国。

 故郷を失い、仇であるマルハーゲ帝国を追う放浪の旅を続けるボーボボたちにとって、かつての家族は何よりも変えがたいものなのではないだろうか。

 その割には、破天荒の扱いが雑だが。

 

「もう随分昔になっちまったけど……あの頃はボボ兄達とよく遊んだよな」

 

 ビュティに言われて、当時のことを思い出して遠い目になるイザヨ。

 その脳裏に、ボーボボにおうまさんごっこをせがんだり、破天荒と手をつないではしゃいでいたりする光景が浮かぶ。

 いまはもう遠い昔の、輝かしい思い出だった。

 

(懐かしいなぁ……)

(そっか……ボーボボもちゃんとお兄ちゃんっぽいことやってたんだな)

 

 ちょっとしんみりしてしまうビュティだったが、反対にボーボボと破天荒は青い顔で俯いていた。

 

(思い出したくもねぇ……‼︎)

 

 二人の脳裏に浮かぶのは、おうまさんごっこと称して踏み潰される姿や、両手を掴まれて振り回されたときの光景だった。

 無邪気な笑顔で半ば殺しにかかっていた当時のことは、イザヨの中で都合良く改竄されていたらしい。

 

「おおっといい思い出かと思ったらどっこいロクなもんじゃなかった‼︎ やっぱりこの人ボーボボの妹分だよ‼︎」

 

 血が繋がっていなくとも、むしろボーボボたちよりも無茶苦茶な子供時代を過ごしていたことを知り、ビュティは妙に納得してしまう。

 そこでふと、ボーボボが気になったことを尋ねた。

 

「しかしイザヨよ、まさかずっと一人で戦っていたのか?」

「そういえば……」

「ん? ああ、それは……」

 

 イザヨが答えようとしたときだった。

 ヴーッ!ヴーッ!とけたたましいサイレンが鳴り響き、部屋の端に設置されていたコンピュータの画面に地図が映し出された。

 

「ねぇ、この音は何なの?」

「! ヤベェ、またゾディアーツが出たらしい!」

 

 地図には学園の内部が描かれ、赤い丸印が大きく点滅している。

 スイッチの力で暴走させられ、操られた生徒が暴れているのだろう。

 

「行くぜお前ら! 早速出番だ‼︎」

「うおおおおお‼︎」

 

 ボーボボの号令で、仲間とイザヨが声を合わせて答える。

 そして、全員が野球選手やら消防士やら、果てはマサイ族など様々な職業の制服をまとってラビットハッチを飛び出していった。

 

「出動!」

「バラバラだーーー!!!」

 

 ビュティのツッコミが、声援のように響き渡るのだった。



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奥義5:メテオ・レディ・ゴー!

「狙うは怨敵‼︎ 吉良上野介の首でござる!!!」

「あれー⁉︎ 赤穂浪士になってるーーーー!!?」

 

 学園に現れたと言うゾディアーツを倒すため、ボーボボたちは雪原を鎧武者の格好となって駆ける。

 しかしそんな彼らの前に、無数の忍び装束を纏った黒い人影が立ちはだかった。

 

「なんだあいつら⁉︎」

「上級ゾディアーツが操る雑兵、ダスタードだ! 構わず突き進め‼︎」

「上等だ! 見るからにザコっぽいぜ‼︎」

「おれたちが蹴散らしてやるぜーーー!!!」

 

 見た目やザコ兵という言葉に、狩猟パッチと天の助が迷いなく突撃する、が。

 ダスタード二千連弾!!!

 首領パッチと天の助を取り囲んだダスタードたちが、一斉に二人を殴りつけ踏み潰し始めた。

 

「ぎゃああああああ数の暴力ーーー!!!」

「初期のナルトみたいな技出してきた!!?」

 

 一人一人は大した強さはなくとも、それぞれが一般人を上回る能力を持つため、二人は一瞬でボコボコにされていた。

 その数は確かに脅威と、撃退しようと立ち向かうボーボボたちだが、やはりダスタードたちは忍者のような見た目通り、真っ向からぶつかってはこない。

 

「こいつら……意外とすばしっこい‼︎」

「気をつけろ! 数の差で押しつぶされるぞ‼︎」

「ならばオレの出番だな」

 

 不利を悟ったボーボボが前へと出る。

 自らやられにきたようにも見える敵に、ダスタードたちが四方八方から一斉に襲いかかる。

 だが、我らがボーボボが簡単にやられるはずがなかった。

 

 鼻毛真拳奥義『とろろフィールド』!!!

「とろろをまき散らしたーーーーー!!!!」

 

 ヌルヌルした白い粘液に足を取られ、ダスタード達が一斉に転んで行く。やり方はともかく確かに有効な手であった。

 

「よっしゃー!」

「今だいくぜーー!!!」

「へいおやびーん!」

 

 息を吹き返した首領パッチと天の助、破天荒が突然眼鏡をかけ、どこからかパソコンを取り出す。

 オタクのような格好になった三人が、そのままどこかのサイトに繋げ、目にも留まらぬ速さで何か書き込んでいくと、途端に辺りが炎に包まれ始めた。

 

「ハジケリスト協力奥義『けも○レ2炎上事件簿』!!!!」

「数ヶ月間にも及びそうな大惨事だーーーーー!!!」

 

 ネット上の炎上を現実世界に具現化させる荒技にビュティが驚愕の声を上げる。

 しかしやられるだけの敵ではない。接近は不利と判断したのか、くないのような刃物を雨のように無数に投げつけてきた。

 

「危ない! よけろボーボボ‼︎」

 

 イザヨが叫ぶが、二人の距離では間に合わない。

 しかしボーボボは慌てることなく、伸ばした鼻毛である男の体を拘束し。

 

「協力奥義『バカガード』‼︎」

「オンドゥルラギッタンディスカーーーーー!!!!」

「おやびーーーん‼︎」

 

 無理やり引き摺り出して盾にした。

 全身にくないが突き刺さり、首領パッチは血反吐を吐きながらボーボボへの恨みを叫んだ。

 

「いくぞ天の助‼︎ ボーボボに教えてもらった合体技を使うときだ‼︎」

「いややだやめて‼︎ もういやな予感しかしない‼︎」

 

 反撃のため、イザヨが天の助の背後に立って、拳をスタンバイする。

 この配置に嫌という程覚えがある天の助は泣きながら懇願するが、彼女もまたネジが吹っ飛んだ人間であった。

 

「協力奥義『ところてんバルカン』!!!」

「オデノカラダハボドボドダーーーーー!!!!」

「天の助ーーーー!!!」

 

 天の助の体に連続で拳を突き立て、反対側から飛び出たところてんが弾丸のようにダスタードたちに襲いかかる。犠牲のひどい協力技の代表格が、忍者たちを次々に討ち取っていった。

 

「そして!」

 

 パタンとボーボボのアフロが開く。

 その中でくつろいでいた田楽マンを無理やり発射した。

 

「田楽ショットーーー!!!」

「ウゾダドンドコドーーーーーン!!!!」

「いつも通りにみんな武器にされた!!!」

 

 敵は全滅したものの、味方への被害も大きい結果にビュティが絶叫する。

 その下手人はと言うと。

 

「オレの近くにいたこいつらが悪い」

「最悪のヒーローだ!!!」

 

 どこぞの紫の蛇のように、全く反省している様子はなかった。

 無論その犠牲となった首領パッチたちは、血まみれになりながら怨嗟の声を漏らしてボーボボを睨みつけていた。

 

「ボーボボ……いつか絶対殺す……‼︎」

 

 当然の怒りだったが、当の本人は全く気にしていなかった。

 何気に恐ろしいのは、そんな彼の暴挙にその場のノリでついて行くイザヨかもしれない。

 その時ビュティが、何かの音を聞いた。

 

「あれ? なんだろ…」

 

 耳を澄ましてみれば、何か爆発音や雄叫びのようなものが聞こえてくる。

 その音の正体に思い至ったビュティは、慌ててボーボボの元に駆け寄って行った。

 

「ボーボボ! 向こうで誰か戦ってるよ‼︎」

「なんだと⁉︎ ならばまとめてなぎ倒すまで!!!」

「なんで⁉︎ 敵味方関係なく!!?」

 

 顔も見ていない相手までもロックオンする彼を止めようとするが、弾けた彼らはそれぐらいでは止まるはずもなかった。

 

「御用改めであるーーー!!!」

「ダメだ、新撰組になってる‼︎」

 

 江戸の荒くれ集団になってしまってはもう止められない。

 また無駄な犠牲が出てしまうことに、ビュティは顔も知らないだれかに申し訳ない気持ちでいっぱいになる、が。

 

「ほあちゃああああああ‼︎」

「ぎゃああああああああ!!!?」

「見知らぬ誰かの攻撃に巻き込まれたーーー!!!!」

 

 突然横から襲いかかってきた青い衝撃波で、ボーボボたちがまとめて吹っ飛ばされる。とくになにもしていないヘッポコ丸やソフトンも一緒だった。

 

「大丈夫みんな⁉︎」

 

 ボロボロになっている仲間に駆け寄るビュティ。

 血を吐いて倒れる彼らの前に、一人の若者が姿を現した。

 

「遅いぞフォーゼ。敵はあらかた僕が片付けてしまったじゃないか」

 

 それは、プラネタリウムのような模様の施された、中国拳法の達人のような衣装を身に纏い、右肩にアーマーをつけた中世的な青年だった。

 隕石のような形をした半透明な額当てと赤い両目が特徴的な、鋭い目をした青年の登場に、ビュティたちは困惑する。

 

「あの人は⁉︎」

「あいつの名はメテオ。俺と同じ、この学園の守護者だ」

 

 メテオに代わって、イザヨが説明する。

 紹介されたメテオはビュティに頷き、ついで首領パッチと天の助の方を睨みつけた。

 

「さあかかってこい‼︎ オレンジモヤットボールに出来損ないの羊羹野郎!!! それになんか白い変な生物!!!」

「俺たちのこと言ってます⁉︎」

「この人口悪っ!!!!」

 

 拳と殺気を向けられた首領パッチ・天の助・田楽マンの三人は目を剥き、聞いたことのない罵倒に呆然となる。それはビュティも同じだった。

 

「待ってよメテオさん! この三人は敵じゃないよ!!!」

「上等だクソガキ‼︎ 自分の立場教えてやらああああ!!!」

「かかってきやがれゴルァ!!!」

「そこになおりやがれ!!!」

「やめなよ三人とも‼︎ イザヨさんの仲間だよ⁉︎」

 

 怒りがこみ上げてきた三人が襲いかかりそうになるのを必死に抑えるビュティ。

 殺る気満々の三人に、メテオはどう猛な笑みを浮かべた。

 

「いいだろう……敵であろうが味方であろうがその意気だけは買ってやる!」

 

 そして、メテオの両拳に電撃や稲妻や烈風がまとわりつき、龍となって三人に逆に襲いかかった。

 

「ならばくらえ‼︎ 星心大輪拳奥義『ドラゴンロード』!!!!」

「ぎゃああああああゼクロスーーーーー!!!!」

「情け容赦ない一撃が炸裂した!!!!」

 

 拳法ライダーも唸らせるほどの強烈な奥義を食らい、またも黒焦げになった首領パッチたちがゴロゴロと地面に転がって行く。

 その姿はあまりにも哀れすぎた。

 

「いいかげんにしろ」

「ぶっ!!!」

 

 見かねたボーボボとイザヨが同時にメテオの頭を鈍器のようなものでどつく。

 バタンと倒れたメテオの下にどくどくと血が溢れ出るが、ほぼ自業自得であるため何も言わなかった。

 

「イザヨよ……俺がいうのもなんだが、友達はちゃんと選べよ」

「え? なんかこいつおかしかった?」

 

 本気で不思議そうな様子のイザヨにちょっと寒気を感じる一同。

 なんにせよようやく止まってくれたので、ビュティはホッと安堵のため息をついた。

 だがその時、ボーボボの鼻毛が新たな脅威の気配を嗅ぎつけた。

 

「そこにいるのは何者だ!!!」

 

 バッと勢いよく振り向き、戦闘態勢に入るボーボボたち。

 果たしてその先にいたのは。

 

「え? おれ?」

 

 浮き輪を被り、蚊取り線香を頭に乗せたおっさんだった。

 

「誰だテメェーーーーー!!!!」

「ぎゃあああああ!!!!」

 

 シリアスシーンを台無しにする変なおっさんの登場に、思わず無言で虚しい気持ちになってしまうビュティとヘッポコ丸。

 だがそこへ、別の足音が響き渡った。

 

「……ここまでやるなんて、予想外だったわ」

「⁉︎」

 

 かつかつと甲高い音を立て、近づいてくるヒールの音。

 その主である、黒い露出度の高い衣服を身に纏った美女が、ボーボボたちを見据える。

 そして美女は自分の隣に立っている、黒い鋼の騎士のようなロボットに目を向けた。

 

「あいつらが私たちの邪魔にならないうちに………潰してきて。黒騎士」

 

 その瞬間、黒い鋼の騎士の目が、ギラリと真っ赤に光った。



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奥義6:黒騎士、襲来

 ガシャン、と黒騎士と呼ばれたロボットの両腕が展開し、巨大な砲身が現れる。

 その砲口が、ゾディアーツを撃退して浮かれているボーボボたちに向けられた。

 

 鉄人奥義『メテオグレネイド』!!!

「ぎゃあああああ‼︎」

 

 放たれたロケットミサイルが着弾し、凄まじい爆発を引き起こしてボーボボたちを吹き飛ばした。

 校舎の屋根の上に飛ばされた首領パッチと天の助は、斜面を滑りながら互いの手を伸ばした。

 

「ローズーーー!!!」

「ジャーーーーック!!!」

 

 どこぞの豪華客船に乗るカップルのように叫ぶも、結局二人は誰にも助けてもらうことなく、あ〜…と落ちて行った。

 

「何だ? どこから攻撃が来た⁉︎」

「みんな大丈夫⁉︎」

 

 突然の事態にヘッポコ丸は戸惑い、ビュティが全員の無事を確かめる。

 そんな彼女に、地面からそれぞれ腕や足、首など体の一部だけを出したボーボボたちが答えた。

 

「ああ」

「何でそんなんなっちゃってるの!!?」

 

 ありえない体勢にビュティが叫ぶ。

 いつの間にか復活した天の助が、突き出したボーボボの両足を必死に引っ張り上げた。

 

「ボーボボしっかりしろーーー‼︎」

 

 しばらく力んでいると、ずぽっと株になったボーボボが逆さまで顔を出し、天の助の度肝を抜かせた。

 

「一体キサマ達は何者だ?」

 

 豊作じゃー、と喜ぶ天の助をよそに、ボーボボは挨拶も無しに攻撃してきた相手をサングラスの下から睨みつける。

 視線を受けたその相手、黒騎士とそれを従える、露出度の高いレザースーツを纏った美女が、堂々と立ちふさがった。

 

「私の名はインガ・ブラック。そして彼は黒騎士。目的は…ここであんたたちを潰すこと‼」

「俺たちに何の恨みがあるっていうんだ⁉︎」

「恨みなんてないわ……強いて言うなら、私たちの計画の邪魔になりそうだから排除するだけよ」

「なんだとぉ!!!」

 

  勝気そうな目を鋭くし、はっきりとした敵意を見せる女性、インガ。

 身勝手な宣戦布告に、首領パッチたちもいきり立った。

 

「いって、黒騎士」

「ヴォオオオオオオ!!!」

「ボーボボ!」

 

 咆哮のような唸り声をあげ、鋼鉄の拳を振りかぶってボーボボに迫る黒騎士。

 その一撃が決まる寸前、ボーボボのサングラスがキラリと光った。

 

「鼻毛真拳奥義『笹の葉ジャ――――ンプ』!!!」

 

 突然地面から伸びた長い竹にしがみつき、黒騎士の攻撃を躱す。

 拳が空を切った黒騎士は、両腕をバルカン砲に変形させて頭上のボーボボを狙い撃ちし始めた。

 

「ぎゃあああ‼︎」

 

 爆発に飲まれ、真下に向かって落下していくボーボボ。

 しかし地面に激突する寸前、三匹のパンダに受け止められてことなきを得た。

 

「ダメージ相殺」

 

 ダメージを極限に抑えたボーボボに、黒騎士が再び向かっていく。

 すると、一方的に攻撃する黒騎士に対し怒りを燃やしたヘッポコ丸が憤怒の表情で駆け出した。

 

「野郎、何しやがる‼︎ オナラ真拳!!!」

「待て、うかつに近づくな‼︎」

 

 尻で黄色いガスを集め、黒騎士に向けて連続で放つ。

 しかし無数のオナラの弾丸が炸裂しても黒騎士に動じた様子はなく、安易に近づいてしまった彼に強烈な一撃をお見舞いした。

 

「ぐわああああ‼︎」

 

 凄まじい力で殴り飛ばされ、ばたりと倒れ伏すヘッポコ丸を目にし、仲間たちは戦慄の表情を浮かべた。

 

「な…一撃⁉︎ あのロボ強ぇぞ‼︎」

「オナラ真拳も全然きいてなかったぞ⁉︎ なんてやつだ!!!」

 

 ヘッポコ丸の安否を案じ、狼狽する天の助と田楽マン。

 

(へっくんヤダよ…こんなのってないよ、ビュティこんなのやだよ……)

 

 なぜかビュティのかつらをかぶった首領パッチは、ぱっちりした目に涙をやめてヘッポコ丸にすがりついたかと思うと。

 気絶した彼の背中に乗り、両足を抱えて思いっきりのけぞらせた。

 

「ビュティのために負けないでへっくーーーん!!!! ビュティおもわずかんせつ技‼︎

「何やってんのよ⁉︎ いい加減にしないとひっぱたくよ!!!」

 

 自分の格好をして逆エビ固めを決めるという謎の屈辱的な行動に、ビュティがいまにも襲い掛かりそうな剣幕で怒鳴りつける。

 そんな彼女たちを放置し、イザヨは険しい顔で黒騎士を睨みつけた。

 

「くっ…どうすれば」

「あの女はボクがやる……」

「メテオ!」

 

 イザヨが反応するよりも先に、メテオは黒騎士の後方に立っているインガに向かって駆け出した。

 

「ほあちゃああああああ!!!」

 

 強烈な正拳を突き出し、一撃で仕留めてやろうと急所を狙う。

 しかしインガは、メテオと全く同じ構えで正拳を放ってむせた。

 

『星心大輪拳』!!!!

 

 ガシン!と激突する拳と拳により、二人が立っている地面が陥没する。

 互いの体にビリビリと走る振動に、メテオもインガも眉間にしわを寄せた。

 

「殺されたくなかったら大人しくここを去ることね!」

(コイツ……オレと同門か⁉︎ なぜこんな真似をする!!?)

「どうやら他にも聞かなければならないことがあるようだな…」

 

 同じ技を使われたことに内心で驚いているメテオ。

 その時、睨み合う二人の頭上から破天荒がカギを手に飛びかかった。

 

「スキだらけだぜ!!!」

 

 カギを突き刺し、インガの動きを止めようと腕を突き出すが、触れる寸前に割って入った鋼鉄の腕に防がれてしまう。

 破天荒とメテオは同時に跳びのき、忌々しげに舌打ちした。

 

「チッ…あのポンコツがいちいちあの女を守ってやがる‼︎」

「そこが最大の壁か……」

 

 騎士の名にふさわしい防衛能力を発揮している黒騎士を前に攻めあぐねるボーボボたち。

 しかしインガも、まだ誰も戦闘不能に追いやれていない状態に苛立ちを見せていた。

 

「まだ立場がわかっていないみたいね。次はあいつよ」

「ヴォオオオオオ!!!」

「ええっ‼︎ 今度はオレかよ!!?」

 

 ぼーっと突っ立っていた天の助が狙われる。

 ほとんど他のやつに任せるつもりであった天の助は、慌てながらも黒騎士を迎え撃った。

 

「ならば自称プルプル真拳奥義『くねくねします』!!!」

 

 骨のない柔らかボディを生かした不規則な動きで、黒騎士を翻弄する。

 が、普通に顔面に拳が突き刺さって盛大に吐血する羽目となった。

 

 今日の教訓『クネクネするだけじゃ奥義にならない』

 

「どうやら話し合いは無意味のようだな」

「仕方がない……拘束してから改めて聞くとしよう」

 

 敵の能力を図っていたソフトンが、まずは黒騎士を機能停止させようと奥義の構えを取る。

 向けられる敵意に気づいたインガは、この一味の唯一の弱点に目を向けた。

 

「させると思う? 黒騎士!」

 

 インガの命令に従い、黒騎士が一直線に走り出す。

 その拳と銃器が向けられる先にいるのは、非戦闘員のビュティだった。

 

「危ないビュティ‼︎」

「きゃあああ!!!」

 

 まさかか弱い女子供を狙われるとは思っていなかったボーボボたちは、予想外の事態に慌てて駆け寄ろうとする。

 しかし離れた場所では間に合わず、誰もが最悪の事態を覚悟した瞬間。

 

Shield On(シールド・オン)

「コズミック真拳奥義『盾の勇者のライズアップ』!!!」

 

 ビュティの前に立ちはだかったイザヨが、左腕にスペースシャトル型の盾を装備して黒騎士の一撃を受け止めた。

 

「ボボ兄の仲間に手出しはさせねぇぜ」

「イザヨ‼︎」

 

 不敵な笑みを浮かべ、卑怯な手段に出たインガたちを鋭く睨みつけるイザヨ。

 その肩からは、宇宙のエネルギーが怒りとなって立ち昇っているように見えた。

 

「てめーらが何者なのかなんてどうでもいい……だがオレの母校で好き勝手は許さねぇ!!!!」

「よく言ったぞイザヨ」

 

 勇ましく吠えるイザヨの横に、ボーボボたちが並び立つ。

 インガと黒騎士に怒りを抱いているのは、彼らも同じであった。

 

「こうなれば徹底的にやるとしよう」

「ぶっ潰してやるぜ!」

 

 相手はたった一人と一体。しかし決して侮ることはできない力を秘めていると、ヘッポコ丸を除いた七人が不敵な笑みを浮かべた。

 相対するインガもまた、好戦的な笑みを浮かべて挑戦を受け取った。

 

「あくまでも抵抗するっていうのね……いいわ、相手になってあげる」

「ヴォオオオオオオ!!!」

 

 ピリピリと走る緊張感の中、両者の間に入った田楽マンがダンディな顔で両手を交差させた。

 

「ファイッ!!!」



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奥義7:美女とロボとアフロとスケバン

 ―――完膚なきまでに叩き潰す!

 ―――狙うはホタテ!

 

 向かい合う二つの陣営が火花を散らす。

 片方の陣営の考えていることは非常にアホなことであったが、ピリッと緊張感が張り詰めていることは確かだった。

 

「いくぜ!!!」

 

 ほぼ同時に、両者が走り出し攻めに入る。

 先制攻撃に入ったのは、鼻毛の勢力の方であった。

 

「プルプル真拳奥義『ところてんトレイン』!!!」

「わああ―――‼ バカ! まだオレ達も前にいるだろ!!!」

 

 どデカい直方体の塊となった天の助が、高速で走り出して突撃を始める。

 前にいるヘッポコ丸たちのツッコミもおかまいなしに、敵に向かって一直線に突っ込んでいった。

 

「突撃――!!!!」

「ぐわあああああああ!!!」

「まだまだ行っけ―――‼」

 

 中にボーボボを乗せた天の助が、他の仲間たちを撥ね飛ばしながら突き進む。

 インガには避けられたが、真正面で仁王立ちする黒騎士に向かって、根性でしがみつく首領パッチとともに迷いなく突進していった。

 目前に迫る水色の壁を前に、黒騎士はゆっくりと己の拳を構えた。

 

『アルティメットフォース・ギャラクティック・ノヴァVSX』!!!!

 

 勢いよく突き出された黒騎士の拳から、突如眩しい光の槍が発射される。

 それは天の助の顔面に突き刺さり、ところてんボディを溶かしながらボーボボたちにも炸裂した。

 

「ぎゃあああああすごいのきた―――!!!」

 

 あまりの威力で天の助はバラバラにされてしまい、ボーボボと首領パッチも強烈な熱で全身を焼かれてしまう。

 しかしすぐに体勢を立て直し、キッと黒騎士を睨みつけた。

 

「野郎! そっちがロボでSFなら、俺たちも乗ってやるぜ‼︎ 鼻毛真拳奥義『江巣衛腐(えすえふ)』!!!!」

「いやいやいやいやいや‼︎」

 

 SFに乗っかると言いながら、なぜか侍の格好になったボーボボがポスターのようにキメ顔を見せる。

 全く逆の見た目の技に思わずビュティが声を挟んだ。

 

「アハハハハ‼︎ それのどこがSFなのよ‼︎」

 

 クールビューティを貫いていたインガも嘲笑の声をあげ、ボーボボに襲いかかる。

 正拳で一思いに仕留めてやろうとした彼女だったが、バタンとボーボボのアフロが開くと大きく目を見開いた。

 

「SFだった―――――!!!」

 

 秘密基地のようにメカメカしくなったアフロの中から、戦闘機に乗ったチビボーボボたちが出撃する。

 若干キャラ崩壊を起こしたインガの顔のスレスレを、ボーボボたちが飛び抜けていった。

 

「ッシャア‼︎ 敵をぶっ潰すぞオラ―――!!!」

「危なっ!!?」

 

 慌ててのけぞるインガを放置し、ボーボボたちが戦闘機を駆る。

 向かう先は、全身からスチームを噴かせて立ちはだかる黒騎士だった。

 

『敵本陣を発見! 攻撃開始‼︎』

 

 黒騎士を包囲するように展開し、全戦闘機が武装を解放する。

 しかしそこで戦闘場面は急に妙に画質の荒い映像に切り替わり、その上頭上からの視点による平面的な風景へ変わっていた。

 

「わあああああああああああ!!!」

「これただのシューティングゲームじゃん!!!!」

 

 やや懐かしい光景に、ビュティのツッコミが入る。

 要塞のように表記された黒騎士に向けて、ピュンピュンと安っぽいエフェクトでビームが発射されていたが、しばらくして黒騎士の体がガシンガシンと変形を始めた。

 

 ―――アンゴル・インパクト!!!

 

 巨大な砲台となった黒騎士から、画面のほとんどを埋め尽くすほどのビームが放たれる。

 避けようもない攻撃に、ボーボボ軍は一瞬で全滅させられてしまった。

 

「ぎゃああああああああ!!!!」

「最終ステージにありがちな超理不尽な全範囲攻撃きた―――!!!」

 

 クソゲー確定な理不尽展開にヘッポコ丸が目を剥き、ズタボロになったボーボボが倒れこむ。

 

「ふざけんじゃないわよ!!!」

「はいまたなぜかボクちゃんが身代わりに!!!」

 

 そしてアホなことに付き合わされたインガが、なぜか天の助の顔に正拳を叩き込んでいた。

 

「くっ…これは一筋縄ではいかないな」

「ボーボボ、イザヨ。オレが奴らに隙を作らせる。合図をしたら一斉に攻撃しろ」

「任せるぞ」

「頼んだ!」

 

 くいっと自分を指差し、首領パッチがインガと黒騎士の前に出る。

 決死の覚悟を決めたような表情に、ビュティはゴクリと息を飲んでいた。

 

(いつになく真剣……一体どうやってあんなロボの注意を引く気なんだろう)

 

 無言でゆっくりと近づいていく首領パッチ。

 目と鼻の先まで近づくと、彼はカッと目を見開いて動いた。

 

「あ、チュピチュピチュ〜チュピチュピチュ〜」

 

 と、パッチリおめめで変な踊りを始めた首領パッチに、ビュティとヘッポコ丸が同時にズッコケた。

 ピクピクと頬を痙攣させるメテオをよそに、首領パッチはその奇妙なアクションを敢行し続けた。

 

「チュピチュ―――チュピチュ―――」

 

 敵がなんの反応も見せず、痛々しいくらいの沈黙が少しの間続いたところで、バッと首領パッチが振り向いて叫んだ。

 

「よしスキを見せたぞいまだやれ―――‼︎」

「ええええ⁉︎ どこに!!?」

 

 ただただあっけにとられているだけだと思うが、実はものすごく真面目だったらしい首領パッチが必死に促す。

 ある意味捨て身の行為に、イザヨとボーボボは涙ながらに答えた。

 

Gatling On(ガトリング・オン)】【Launcher On(ランチャー・オン)

「わかった―――‼︎ 超協力奥義『デリートコマンド』!!!」

「ぎゃああああああああ!!?」

「おやび――――ん‼︎」

 

 仲間たち全員で、それぞれがミサイルやらマシンガンやら数々の兵器を持ち出し、首領パッチごと黒騎士たちに向けて撃ち放つ。

 破天荒を除いた容赦のない攻撃に、首領パッチは泣きながら爆発に飲み込まれた。

 

「機械っぽい相手にはコイツだ!!!」

Elec On(エレキ・オン)

 

 押されはじめている黒騎士に、イザヨが黄色い透明なスイッチを取り出して装着した。

 途端に稲妻が全身に走り、イザヨの格好を金色に染めて新しい装甲を生み出した。手に装備された警棒のような武器が、バチバチと眩しく放電した。

 

「姿が変わった!」

「エレキステイツは電気の力を体に宿した強化形態‼︎ ナメてかかるとシビれるぜ!!!」

「カッケー♪」

 

 雷の力を身に宿し、イザヨが黒騎士に挑み掛かる。

 振るわれる警棒の先から飛び出た電気の刃が、無数に黒騎士とインガに襲いかかった。

 

「コズミック真拳奥義『エレクトリカルパレード』!!!」

「くっ…!」

「畳み掛けるぜ! …ってあ、あれ? なんか力が抜けてくような……」

 

 勢いづいてきたイザヨだったが、急激に体が気だるくなってきたことに首をかしげる。

 その足元では、畳に座った首領パッチ父さんと天の助母さんがちゃぶ台を囲んで茶を飲んでいた。…イザヨの背中にコンセントを突き刺して。

 

「勝手にコンセントさして電気使ってる―――!!?」

「母さんや、テレビをつけてはくれんか?」

「お父さんったら、これ以上つけるとブレーカーが落ちますよ」

「いや十分電気持ってかれてるから!!!」

 

 すでに扇風機やら何やら電化製品を使っている二人に、ビュティから待ったがかかる。

 そこへ、ボーボボが静かに近寄っていった。

 

「コンセント・オン‼︎」

「あばばばばばばば!!?」

「コズミック真拳超奥義『ライダー百億ボルトブレイク』!!!!」

 

 どこからか持ち出した電源から、ボーボボが首領パッチに電流を流す。さらに流石に気づいたイザヨが、警棒の先端を首領パッチの脳天にズブっと突き刺した。

 

「いくぞおおおおおお!!!」

 

 バリバリと帯電する首領パッチを、ボーボボがコードを振り回して勢いをつけさせる。

 そしてそのまま黒騎士とインガに向けて投げ飛ばした。

 

「協力奥義『ライトニング・バカグレネード』!!!!」

「良い子は絶対マネすんな!!!!」

「当然の結果が待ってた―――――!!!!」

 

 真正面から受け止めた黒騎士に、恐ろしいほどの電流が襲いかかる。

 機械の体である黒騎士もこれには耐えられず、身体中のいたるところから煙を吐いて沈黙した。

 

「チッ…ここまでやるなんてね」

 

 小さく舌打ちしたインガは、ボーボボたちを睨みつけるとうなだれる黒騎士に近づいていく。

 背中に触れ、何か操作すると黒騎士はたちまち再起動し、ゆっくりと立ち上がってインガを守るように構えた。

 

「一旦あんたたちのことは見逃してあげる…でも、私たちの邪魔をした時は、容赦はしない」

 

 そう言い残し、インガは黒騎士にお姫様抱っこの形でしがみつく。

 大事そうにインガを抱えた黒騎士は、足裏から噴き出したジェット噴射で宙に浮き上がり、目にも留まらぬ速さで飛び立っていった。

 

「待てこの野郎!」

「インガ……黒騎士……いったい何者だったんだ」

 

 ボーボボたちに匹敵する力を持つ、謎のロボと美女。

 大きな爪痕を残していった二人組を、ボーボボたちは呆然と見送るしかできなかった。



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奥義8:宇宙(そら)からの侵略者

「あいつらなんか、妙なこと言ってなかったか?」

「邪魔をしたら容赦しないって……じゃあ、これから何かしでかすってことなの?」

 

 謎の女インガと黒騎士を退けたはいいが、彼女達が残した不穏なセリフにビュティ達は困惑の表情を浮かべる。

 言い表しようのない、漠然とした不安が胸の中に残っていた。

 

「そんなことより祝勝じゃ―――!!!」

「無礼講無礼講♪」

「真面目に考えてよ!」

 

 しかしそんな重苦しい空気など知ったことかと、ボーボボと首領パッチとイザヨが酒瓶を持って騒ぎまくる。

 いつの間にか田楽マンや破天荒まで巻き込んだ宴会が開催されていた。

 

「あーまったく愉快じゃ愉快じゃ」

「景気よく花火も欲しいねぇ」

「ふざけてる場合じゃ…!」

 

 酔いが回って赤くなった顔でくつろぐ彼らに、ビュティが半ば怒りながらツッコミを入れようとした、その時だった。

 ドゴーーーン!!!という凄まじい爆発音が響き渡り、辺りを閃光が照らし出したのは。

 

「きゃあああああ!!?」

「なんだ⁉︎ 何が起こった⁉︎」

「綺麗な花火…」

「絶対違うよ‼︎」

 

 呑気なことを言っているボーボボ達を放置し、ビュティ達は何が起こったのかと音がした方を見る。

 そして、そこに広がっている光景に、言葉を失った。

 真っ赤に燃える、跡形もないほどに破壊された建物の山。まるで地獄のような光景が広がっていたのだ。

 

「街が吹き飛んでる…」

「そ……そんな…まさかアイツらが」

 

 現実と思えないほど凄まじい光景に、ヘッポコ丸と天の助が絶句する。

 呆然と立ち尽くしている彼らの元に、何者かの足音が届いた。

 

「おっと……どうやら遅かったようだな」

 

 突如声を上げた部外者に、ボーボボ達は警戒しながら振り向く。

 

「お、お前は……!」

 

 そして、そこに立っていた男の姿に大きく目を見開いた。

 

「モグラ!!!」

「またお前かよ!!?」

 

 マルハーゲ帝国の時期帝王を決める大会について教えた彼が現れたことに、ヘッポコ丸が驚愕の声を上げる。

 

「お前……何を知ってるんだ?」

「さぁな…ただオレが知っているのは一つだけーーー」

 

 訳知り顔で腕を組んでいるモグラは、もったいぶりながら不敵な笑みを浮かべ、そして。

 

「アリシア連邦が秘密裏に開発した機械生命体『宇宙鉄人』が乗っ取った衛星兵器『XVⅡ』の仕業だってことだクソが―――――!!!!」

(急にキレた!!?)

 

 特に誰も気にさわることは言っていないが、ものすごく力のこもった怒号がモグラから放たれた。

 だがしかし、言った内容は首領パッチ達からしてみればちんぷんかんぷんだった。

 

「アリシア連邦………………ってどこだ?」

「さぁ?」

「よかった! 私だけ知らないのかと思ってた!」

 

 みんな知ってる情報だったらどうしようと思っていたビュティが、あからさまにホッとする。

 

「聞いたことがある…」

「ソフトンさん」

「ウンコッコ博士!」

 

 そんな中、深刻な顔でソフトンが口を挟み、全員の視線が彼に集まっていった。

 

「きな臭い話が囁かれている、謎の国家だ……確か風の噂では、秘密裏に兵器を開発し各国から警戒されているとか…」

「そう、その兵器こそXVⅡ…‼︎ 強大な力を有し、地球をも破壊できるとさえ言われている最強最悪の力……‼︎」

(なんでこいつこんなに詳しいんだ…?)

「同じくアリシア連邦にて作り出された機械生命体『宇宙鉄人』はそれを乗っ取り、世界のあちこちに攻撃を仕掛けたんだ!」

 

 ギリギリと拳を握りしめ、モグラがことの重大さをコレでもかと表情に表す。

 いつの間にか情報屋のポジションについていたが、果たしてどうやってその情報を手に入れているのだろうか。

 

(こんなことができる兵器を…一体どうやって)

 

 ビュティは崩壊した街を見やりながら、それを引き起こしたという宇宙鉄人に戦慄を覚える。

 その後ろで、天の助と田楽マンがゴソゴソと何かを風呂敷袋に詰めていた。

 

「ところてん詰め合わせのほかになんかいるかな?」

「田楽でよくね?」

「さっそくコビ売る用意してる!!!」

 

 地球すら破壊しかねない相手に即白旗を振ろうとしている二人に、ビュティから激しいツッコミが飛ぶ。

 

「行こう…ボーボボ」

 

 モグラは無言で険しい表情を浮かべているボーボボの方に手をおき、新たな戦いの場へと促す。何様なのだろうか。

 

「上等だ―――――‼︎」

「ぐばぁ!!?」

「そんな奴らはオレがブッ潰してやる!!!」

 

 寝返りの相談をしていた天の助と田楽マンを踏み潰し、首領パッチにタワーブリッジを繰り出しながらボーボボは吠えた。

 

「なんで首領パッチくんを!!?」

 

 生食品二人への制裁のついでであった。

 モグラはボーボボの気迫にその決意の強さを知り、不敵に笑ってみせた。だから何様なのだろうか。

 

「フッ……覚悟は本物のようだな。ならばオレについてこい、この一件に詳しいヤツの元に連れて行ってや……」

「つべこべ言わずにさっさと行け――――!!!!」

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

「ちゃんと聞いてあげようよ‼︎」

 

 ちょっとウザくなってきたイザヨが、だらだら喋り続けるモグラにキン肉バスターをかけて黙らせた。

 腹がたつ気持ちは分からなくもないが、貴重な情報源なのだからもう少し我慢して欲しいとビュティは思った。

 

「行きやしょうおやびん! ハジケ組の名をアリシア連邦とやらに轟かせるチャンスですよ!!!」

「血が騒ぐじゃねーか!!!」

「世界を危険に晒すと言うのなら、放置するわけにもいくまい」

「宇宙鉄人は、人類滅亡さえも目論んでいる……止めるのなら今しかないぞ!」

「お前たち…」

 

 ボーボボのやる気に触発され、仲間達が次々に立ち上がる。

 ボーボボはサングラスの下から涙を流し、口元を覆って俯いていた。

 

「格下どもがズラズラと……全然頼もしくない」

「ブッ殺すぞテメー!!!」

 

 思いっきりバカにされ、ボーボボ以外の全員から怒りの声が上がった。

 しかしそれが逆に燃料となり、打倒宇宙鉄人の闘志が燃え上がっていた。

 

「上等だ‼︎ てめーよりも先に宇宙鉄人をぶっ潰してやるわ!!!」

「とこ屁組も負けてたまるかーーー!!!」

 

 ハジケ組、ウンコ組、とこ屁組とそれぞれ仲のいい派閥同士がバチバチと火花を散らし、自分こそが敵を倒すと息を巻き始めた。

 なんでこうなるのと肩を落とすビュティの背後に、一つの影が立った。

 

「それはまだ早いです! 少なくとも今のあなたたちでは、『宇宙兄妹』に勝つことはできません!」

「!!?」

 

 突如響いた声に、暴走族の格好になったボーボボたちが振り向いた。一番驚いていたのは登場方法が被っているモグラだった。

 

「誰だ⁉︎」

「新聞はもう結構よ‼︎」

 

 主婦の格好になった首領パッチがずれたセリフを発するが、相手は気にした様子もなく堂々と歩み寄ってくる。

 スーツをまとった小柄な女性は、警戒の視線を向けるボーボボたちに綺麗なお辞儀をしてみせた。

 

「はじめまして、七代目キングオブハジケリストにして鼻毛真拳伝承者ボボボーボ・ボーボボさんーーー私の名はシズカ、OSTO(宇宙技術開発機構)Legacyの者です。あなたたちをお迎えにあがりました」

「迎えだと? 一体なんのために?」

「目的はあなたたちと同じ……宇宙鉄人の野望を阻止することです」

「⁉︎」

 

 まるで測ったかのようなタイミングで現れた、シズカという女性にボーボボたちは警戒心を強める。

 しかしシズカは気にした様子はなく、傍に停められたバスを手で示した。

 

「詳しい話はこちらで……さぁ、乗ってください」

「ま、待て! お前らがなぜ事件について知っている⁉︎」

 

 ボーボボたちを連れて行こうとしている謎の女性に、モグラが待ったをかけた。

 

「危険だ、ボーボボ! 得体のしれないそいつらについて行ったら何をされるかわかったもんじゃないぞ!」

 

 少なくとも初対面ではない自分の方が信用できるとモグラは必死に止める。

 が、当のボーボボたちはというと。

 

「よし、いくぞー」

 

 なんの迷いもなく快適そうなバスに乗り込んで行く。

 ビュティだけが微妙な表情を浮かべ、一同を乗せたバスは一切振り向くことなく出発してしまった。

 

 一人取り残されたモグラは、ガックリと項垂れるのであった。



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奥義9:ハジケリストの憂鬱

「…いい国を、作りとぉござりまする〜〜〜〜〜〜」

 

 何やら鎌倉時代の武士の格好をした首領パッチが、杓を手に持って唄い始める。

 そのすぐあとに、ボーボボ達全員によるやかましい合唱が始まった。

 

「ヘイ♪ 鎌倉幕府♪ かまくらばくふ♪ かまくらばくふ♪」

「1192♪ 1192♪ かまくらばくふ――――――♪」

「…………」

(さっきから何このテンション…?)

 

 シズカが運転するワゴンの上で騒音を撒き散らすバカ達から、ビュティとヘッポコ丸、メテオは居心地悪そうに目をそらした。

 

「ちくわちくわちくわ――――――――♪」

「どうも」

 

 なぜか手渡されたちくわを素直に受け取りながら、ビュティは微塵も表情を変えないシズカに切なげに頭を下げた。

 

「騒がしくてすみません…」

「気にしないでください。へいきですから」

 

 モグラが言った敵について教えてくれると言う彼女についてまだ何も知らないが、ここまで心が広い人も珍しいと思う。

 実際にいい人なのだろう。

 宇宙鉄人という謎の敵を前にして、少し心強くも感じた。

 

(ボーボボたちがこれだけ元気ならきっと大丈夫だよね…!)

 

 そう思い、ビュティはバカ騒ぎを続けるボーボボ達に目を向ける。

 

「かまくらサイコー♪」

「オノノイモコー♪」

 

 そして田楽マンとイザヨが掲げている「シズカを迎える歌『鎌倉幕府』」という垂れ幕に目を剥いた。

 

「ええっ⁉︎ これシズカさんの歓迎ソングだったの!!? やめようよ恥ずかしいから!!!」

「えー…」

「仕方ねぇな…」

 

 たまらずストップを出したビュティに、天の助と田楽マンは不満げに唇を尖らせる。

 するとボーボボがキリッとした顔で指を鳴らした。

 

「じゃあ第2弾首領パッチ‼︎」

「未練(ソング)♬ 未練(ソング)♬ 未練(ソング)♬ ウォッイェエエエイ♬ 未練(ソング)♬ 未練(ソング)♬ 未練(ソング)♬ ウォッイェエエエエエイ♬」

「だからやめろって言ってるでしょうが!!!」

「時ーにー僕ーはーその優しさに甘ーえー♬ 自分ー勝手な思考に身を委ねていましたー♬」

「てかマジでうるさっ!!!」

 

 失恋ソングをキーの外れた声で叫びまくる首領パッチの騒音に、ビュティはたまらず険しい顔で耳を塞ぐ。

 しかもギターではなくバターを鳴らしているため、あちこちにかけらが飛んで大惨事となっていた。

 

「未練(ソング)♬ 未練(ソング)♬ 未練(ソング)♬ ウォッイェエエエエエ〜〜イ♬」

「すみません、やっぱり耳障りなのでやめてください」

「!!??」

 

 メガネが溶けたバターで汚れたシズカに冷たくツッコまれ、ガーンと首領パッチはショックを受ける。

 そうこうしているうちに、ワゴンの進行方向を見ていた破天荒が声をあげた。

 

「何か見えてきたぞ‼︎」

 

 浜辺の一部が開発され、近代的な輝きを放つメカニカルな建物が見えてくる。

 その大きさに、窓から顔を出したヘッポコ丸がゴクリとつばを飲み込んだ。

 

「あれが…宇宙技術開発機構OSTO Legacyの本部」

 

 建物の周りの柵にワゴンが近づくと、自動的にセンサーが働いて門が開く。

 その奥に建てられている講堂に向かって、シズカはワゴンを走らせた。

 

「到着です!!!」

 

 が、ワゴンのスピードに対して明らかにブレーキが強すぎた。

 ものすごいGが車体にかかり、ワゴンの上に乗っていたボーボボ達が思いっきりぶっ飛ばされてしまった。

 

「ぎゃあああああああああああ!!!」

「きゃああ大惨事だ―――――!!!」

 

 そのまま何かしらの装置の中に突っ込んで、電流に飲み込まれるバカ達にビュティが悲鳴をあげる。

 黒焦げになってしまった彼らに、シズカが困り顔で頭をかいた。

 

「すみません…私ちょっとドジなもので……」

「ドジってレベルじゃないでしょ‼︎ 大丈夫みんな!!?」

「あの女ブッ殺してやる……」

 

 シズカのドジも原因ではあるが、この場合は車の屋根の上に乗っていたボーボボ達が最も悪かった。

 

「どうぞみなさん、中へ」

 

 気にせず案内を続けるシズカに首領パッチ達はぶつぶつと文句を垂れるが、話が進まないことをわかっているのか行動には出さない。

 果たして、ボーボボ達が講堂の中に入ると、眩しい照明の中に舞台が浮かび上がる。

 その中心に、ローラースケートに乗った一人の青年が現れ、巧みなアクションを見せてボーボボ達に向き直った。

 

「お待ちしていました! 僕がOSTO Legacyの本部長、ハルミです!」

 

 ビシッと決めた、晴れやかな笑顔を見せる青年にビュティとヘッポコ丸、メテオは全く同じ感想を抱いた。

 

(うっわー…なんか面倒臭そうなのが出てきたなー…)

「カッキー‼︎」

 

 目を輝かせるボーボボたちは放っておいて、ビュティたちは詳しい話を聞くために用意された椅子に座っていった。

 

「あなた方に依頼したいのは、他でもありません……アリシア連邦が生み出した衛星兵器XVⅡと宇宙鉄人キョーダインの破壊です」

 

 全員の注意が集まったことを確認すると、ハルミは神妙な表情で今回の目的をもう一度確認する。

 

「XVⅡは今から5年前に完成予定でした……しかし突如、XVⅡは暴走を開始。太平洋上の無人島を消しとばしてしまいました」

 

 真剣な顔で話を聞くソフトンや破天荒とは真逆に、速攻で話に飽きた首領パッチと天の助がそれぞれでふざけ始めると、鬼の形相となったビュティにしばき倒された。

 

「どうやって宇宙鉄人がXVⅡを乗っ取ったのかはまだ不明です…ですが、このままでは地球上の全ての人類が危険に晒されることとなります」

 

 ボコボコになった首領パッチたちをビュティが雑に捨てていると、ずっと気になっていた様子のイザヨが思い切って尋ねた。

 

「……なぜオレたちなんだ?」

「我々はかねてより、あなた方の活躍に目をつけており、どうにか本作戦の味方にできないかと接触のタイミングを図っていました。…しかしすでに、時期を待っている場合ではなくなっていました」

 

 イザヨの質問に答えると、ハルミはボーボボたちに向けて深々と頭を下げた。

 

「どうか我々に、みなさんのお力をお貸しいただけないでしょうか」

 

 一ミリも動かず、誠意を伝え続けるハルミ。

 その背中に不意に、どかっと偉そうな態度の天の助が座り込んだ。

 

「で?」

 

 調子に乗った天の助を10トンハンマーで叩き潰したビュティが、決意を秘めた眼差しでボーボボを見つめた。

 

「やろう、ボーボボ! 地球がピンチだよ!」

「無論だ!」

「ちょうどいい…奴らと再戦だ!」

 

 ボーボボの闘志に、イザヨも拳を鳴らして答える。

 すると次々に他の仲間たちも立ち上がり、己の戦意をたぎらせ始めた。

 

「上等だ! それであのムカつく女の鼻を明かせるなら、付き合ってやろうじゃねーか‼︎」

「おうよ‼︎」

「無辜の命が危機にさらされるというのなら、バビロンの戦士として動かないわけにはいかない」

「なら俺も戦います!」

 

 ほとんど話を聞いていなかった首領パッチや潰されていた天の助までもがやる気を見せる。

 すでにこの場に、戦う意思のないものはいなかった。

 

「やられっぱなしは性にあわないんでね」

「のら!」

「みなさん…!」

 

 やる気に満ち溢れている戦士たちの答えに、ハルミとシズカは感動したように言葉を失う。

 二人は顔を見合わせると、ボーボボたちに向き直った。

 

「でしたらみなさんには、宇宙空間においても地上と同じぐらいに動けるように訓練に励んでいただきます!」

「………………え?」

 

 突然発せられた言葉に、互いに健闘を讃えあっていたボーボボたちはピタッと固まった。

 何のことかと呆ける彼らに、二人は満面の笑みを返した。

 

「先ほどシズカが申し上げた通り、いまのあなた方では宇宙鉄人には勝てません。過酷な宇宙環境に適応していただくために、あなた方には特別な訓練をご用意しました!」

 

 その言葉をきっかけに、ボーボボたちに地獄の日々が襲いかかった。



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奥義10:ただいま修行中

「ぐぎゃらばらべらぼらああああ!!?」

 

 号泣しながら悲鳴をあげるボーボボたちが、ものすごい水流の中を吹っ飛ばされて行く。

 普通なら無重力空間に近いプールでの訓練のはずだが、やたらと難易度が上がった激流コースに変貌していた。

 

「宇宙空間では様々な緊急事態が想定されます。この訓練ではロケットが如何なる状況に陥っても対応できるよう、体を慣らしてもらいます」

(うわ〜、見るからに辛そ〜…)

 

 いまにも死にそうなほどに辛い目にあっている仲間達を見守り、ビュティは悲痛そうに顔を歪める。

 が、本人たちはというと、サングラスをかけたりジュースを飲んだりと、訓練中にもかなりくつろいでいた。

 

「フライハ〜イ♪」

「びばのんの〜ん♪」

「ってアレ⁉︎ みんなそんなに苦しそうじゃない⁉︎ どういうこと⁉︎」

「バカだなぁ〜ビュティは。そんなの決まってんだろ」

 

 なぜか激流の中でも浮き輪に乗っている首領パッチが、やれやれと腹の立つ笑顔で答えた。

 

「ボーボボに毎日ボロカスにされてる俺たちにとっちゃ、こんなの朝飯前だぜ☆」

「あの暴挙がまさかのここで役にたった!!?」

 

 普段からひどい目にあっている首領パッチたちにとって、この程度の試練は苦痛でもなんでもないらしかった。

 

「ていうかこの訓練、ビュティもやるんだぞ」

「あ⁉︎ そうだった‼︎」

「まぁ心配するな。お前のために俺が……」

 

 愕然とするビュティに、首領パッチはゲスな笑顔でビシッと指をさす。

 

「とびっきりエグいおもちゃを選んでおいたからよぉぉぉ!!! アーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」

「いやああああああ!!!」

 

 訓練機の中でも特に危険そうな装置の山々に連れていかれそうになったビュティが悲鳴をあげる。

 するとそれを見ていたハルミが、がっしりと首領パッチの両手をつかんだ。

 

「それではみなさんは、もう少し先のステップに進んでもらっても良さそうですね!」

「え?」

「ここまでついて来れる人は初めてです! 前代未聞の最高の宇宙飛行士が誕生するかもしれません!」

 

 そのまま彼らを装置に乗せて、ハルミは何かのスイッチを押す。

 するとその瞬間、全ての装置がガシンガシンと変形を始め、とてつもなく殺傷性の高そうな形状に変化した。

 

「訓練機超レベルアップ‼︎」

 難易度幻想級(ルナティック)・超絶ハードモード発動!!!

「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」

「きゃああああああああほとんど拷問みたいなステージに強制的に連行された―――――!!!」

 

 熱湯の激流、音速で回転する椅子、ものすごい勢いで流れて行く超大型ルームランナーなど、完全に殺しに来ているとしか思えない機械の数々が首領パッチたちに襲いかかった。

 

「なんの――――!!! まだまだ生ぬるい‼︎ 俺たちの力はまだまだこんなもんじゃね――――!!!」

「いややだやめて! もうこれ以上は勘弁して‼︎」

「なんかあの子たち怖いんだから刺激したりしないで‼︎」

 

 なぜか対抗意識を燃やすボーボボに、首領パッチも天の助も涙目で止めにかかる。

 だがそんなものでこの男が止まるはずもなかった。

 

 難易度神話級(ミソロジック)・ハイパー無敵アスレチック『HAJIKE(ハジケ)』発動!!!!

「自分で難易度最大限まであげちゃった―――!!!」

 

 訓練装置はまるでSAS○KEのセットをさらに凶暴にしたようなアスレチックに変貌し、仲間たちをみるみるうちにボッコボコにする。

 おびただしい量の血が、アスレチックを真っ赤に染め上げていった。

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

「ボーボボてめー後で覚えて……ぎぃやああああああ!!?」

「生まれてきてごめんなさ―――――い!!!」

「みんな――――――!!!」

 

 これには普段から暴虐に離れているはずの首領パッチたちもたまらず、切り刻まれ叩き潰されながら悲鳴をあげる。

 

(こんなのイザヨさんだって……!)

 

 あの理不尽の塊のボーボボの妹分でさえどうなるか、そう思ったビュティが振り向くと。

 

「いぃぃぃりりりやっほぉぉぉぉ―――――――!!!!」

「満面の笑顔で突破してる―――――!!? もはや人間業じゃね―――――!!!」

 

 熱湯の激流の上をボードでサーフィンしている女の姿に、ビュティは今度こそ目を疑って叫ぶ。

 空いた口が塞がらないビュティの肩に、ポンとハルミの手が置かれた。

 

「さ、あなたも負けてられませんよ!」

「いやあああああああ!!!」

 

 泣いても叫んでも遠慮はなく、地球を守る戦士たちの悲鳴はいつまでも響き渡っていた。

 

 

「みなさん全種目をクリアしましたね。お見事です!」

「ここから先は私がご案内します!」

 

 全ての訓練機を何巡かし、ようやく解放されてぐったりとしているボーボボたちに、今度はシズカが話しかけた。

 

「宇宙飛行士には体力以外にも、困難な状況を乗り越える柔軟な思考力が必要です! それを鍛えるために、みなさんにはこれを用意しました!」

 

 シズカが手をあげると、ボーボボたちは一瞬で光に包まれ、気がついたときには見たこともない空間に囲まれていた。

 

超リアル脱出ゲーム『超次元大迷宮2020(トゥエンティ・トゥエンティ)』!!!

「なにぃぃぃ――――!!?」

 

 見渡す限り前後左右上下に続く迷路の中心に取り残されたボーボボたちが、ありえねぇとばかりに叫ぶ。

 一体どうやってこんなもん用意しやがったという問いも、この時は口にする余裕さえなかった。

 

「制限時間内にクリアしないと、その迷宮は崩壊して時空の彼方へ消滅してしまいます‼︎」

「もはや訓練じゃね――――――!!!!」

「それではスタートです‼︎」

 

 シズカがタイムウォッチのボタンを押した瞬間、ボーボボたちのいる場所の壁が少しずつ崩れて行く。

 消滅していく壁の向こう側に見える謎の青い闇に、ヘッポコ丸は愕然とした顔で頭を抱えた

 

「しまった! こっちにはバカしかいねぇ‼︎ どうやってもクリアできる未来が見えねぇ‼︎」

 

 どう考えてもこの状況に不向きな面子に絶望しかけるが、不安の原因たちは小馬鹿にしたように横目を向けた。

 

「フン、甘く見るんじゃねぇぞヘッポコ野郎」

「この場で必要なのは頭の良さじゃねぇ、ひらめきと機転だぜ!」

 

 勇ましく吠えた彼らは、いきなり通路を全力で走り始めた。

 

「ちまちま迷路を辿るなんてメンドクセェ‼︎」

「ようはこの場から出りゃいいんだからな!!!」

 

 すでに崩壊が進んで崩れかけた壁を蹴破り、ただただまっすぐに進んでいくバカ二人。

 仕方なくボーボボたちが追って行くと、奇跡でも起こったのか分厚い扉のようなものが現れた。

 

「こういうのはたいがい、抜け穴があるんだよ!!!」

 

 出口と確信した首領パッチは、鍵穴の部分にあった文章に目を通す。

 そこに書いてあったものとは。

 

『次の問いを解き、その答えでカギを作りなさい。

 任意のコンパクトな単純ゲージ群 G に対して、非自明な量子ヤン・ミルズ理論が 'R4 上に存在し、質量ギャップ Δ > 0 を持つことを証明せよ』

「ミレニアム懸賞問題だ―――――!!!!」

「解けるか―――――!!!!」

 

 今もなお答えが探され続けているという問題が壁となって立ちふさがり、ビュティとヘッポコ丸は絶叫する。

 というか何を求めているのか全く意味がわからなかった。

 

「これ無理みてるだけで頭爆発しそ…ごばぁ!!!」

「俺もぐばぁ!!!」

 

 案の定バカ二人は血を吐いて倒れ、他の面々も太刀打ちできず表情を歪ませる。

 まさに絶体絶命のピンチであった。

 

「イザヨさん、どうしよう! 誰も太刀打ちできないよ…」

 

 思わず残った二人に助けを求めるビュティだったが。

 イザヨの顔はハニワのような無表情になっていて、目と口の穴からぷすぷすと煙を吐いていた。

 

「ってすでに思考停止してた‼︎ 聞く相手間違えた!!!」

 

 先ほどは凄まじい身体能力を発揮していたイザヨだが、頭の方はやはり残念だったらしい。

 諦めかけたビュティは、もう一人救世主血なり得る人物がいることを思い出した。

 

「そうだ、メテオさんならもしかして……‼」

「折らなきゃ…! つる折らなきゃ…ほあちゃああああああああ!!!!」

「錯乱してる―――――!!!」

 

 頼みの綱のメテオは、切羽詰まった表情でひたすら折り紙を折っては叫び声を上げていた。

 

「メテオは閉所恐怖症なんだよ」

「誰一人役に立たね――――!!!」

 

 最後の希望が絶たれた一行に、迷宮の崩壊は容赦なく迫って行く。

 ついには、ボーボボたちがいる場所を残した全てが消滅してしまった。

 

「うわああああああああ!!!!」

 

 泣き叫ぶボーボボたち。

 しかしその中で、唯一の突破口を思いついたボーボボがサングラスを光らせた。

 

「こうなったら最後の手段だ‼ 鼻毛真拳……!!!」

 

 一縷の希望を託した奥義がボーボボたちを包み込み、その場から姿を消し去る。

 消滅して行く迷宮を見つめていたシズカは、その口元に意味深な笑みを浮かべていた。

 

「……見事です。これなら……」




「奥義『後書き出張コーナー』!!!」
「ハーメルンの形式を利用した荒業だ――――!!!」

 消滅してしまったかに見えたボーボボたちだったが、間一髪別の枠に移ったことで難を逃れていたのだった。


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第二章 星・座・魔・王
奥義11:翼をください


 宇宙空間にいるXVⅡを止めるため、過酷な訓練に励むボーボボたちだったが……。

 

「き、きっつぅ……」

「宇宙飛行士って、ほんとにみんなこんな訓練やってるのかな……?」

 

 予想をはるかに超える訓練内容に、ビュティやヘッポコ丸は早くもぐったりとなってしまっていた。

 その日の訓練を終え、OSTOレガシーの中の展望施設で大の字になって寝転がるほどに。

 

「ボーボボ、イザヨさんも大丈夫?」

 

 仲間たちの様子を案じたビュティが視線を向けると、そこには平気な様子で向かい合って立っているボーボボとイザヨの姿があった。

 

「5眼鏡‼︎」

「なんの! 割りばし‼︎」

「その手は読めてるぜ! マッチを装備‼︎」

「なっ⁉︎ まさか噂の新コンボか!!?」

「これでボボ兄の回復手段は封じた。次のターンが命取りだぜ!」

「ならば俺はここで、ねりわさびを投入だ!!!」

「嘘だろ⁉︎ 自殺行為だぞっ……そうか、カウンター狙いか!!!」

「俺はまだお前には負けん‼︎ さらにたわしを召喚!!!」

超高等掃除奥義(クリティカルコンボ)だと!!? さすがボボ兄……やっぱ一筋縄じゃいかねーな!!!」

「メチャクチャ懐かしい謎の対戦ゲームやってる!!!! 相変わらずわけわからんこの勝負!!!!」

 

 日用品を並べて遊んでいる二人に、疲労も忘れたビュティのツッコミが炸裂する。

 他にも縄跳びが巻き付いていたり鹿威しが頭の上に乗っていたりと、言い表せないほど意味不明な状態になっていた。

 

「おっしゃー‼︎ まる一晩かけてでも決着つけんぞおおお!!!」

「……」

 

 心配する必要もないほど盛り上がっている二人に、ビュティは思わず言葉を失っていた。

 

「ボーボボたち、あんなにはしゃいで大丈夫かな。他のみんなはさすがに疲れて……」

 

 あの二人のことは放っておこう、そう思ったビュティはほかの仲間達の方を向いた。

 が、またもその目は大きく見開かれていた。

 

『は゜っち は しんでしまった!』

『ところて は しんでしまった!』

『て゛ん は しんでしまった!』

『は゜ーてぃー は せ゛んめつ した!』

 

 異常なほどに生命力の強い首領パッチたちでさえ、あの過酷な訓練には耐えきれなかったようで、全員が屍となり果ててしまっていた。

 

「全員HP使い果たして棺桶に入っちゃってる―――――‼︎」

 

 教会での回復が必要なほど重症な彼らに、ビュティとヘッポコ丸が慌てて駆け寄っていった。

 

「大丈夫かお前ら!!?」

「しっかりして!!!」

「……俺さ、無事に帰ったら隣のあの子に告白するんだ」

「……帰ったらペットのベルちゃんにご飯あげなきゃ」

「みんなしっかりして‼︎ 続々と死亡フラグなんか立てないで!!?」

 

 今にも死にそうなほど虚ろな目を見せる首領パッチを抱き起こすが、全員虫の息でかなり危ない。

 

(ああ、ベルちゃん……お家で待っててくれてる、お腹を空かせた……)

 

 お迎えを今にも迎えそうな首領パッチは、いっそ安らかな表情で目を閉じ、手を組んで愛しいものの顔を思い浮かべる。

 暖かい自宅で帰りを待っている…。

 

 ―――ベルちゃん。

 

 メカメカしく凶暴な見た目の危険生物の姿を。

 

「ベルちゃんって見た目じゃないでしょ!!! どう見てもただのバケモンじゃん!!!」

 

 疲れのせいかいつも以上に奇妙な発言ばかり繰り返す仲間達に思わずため息がこぼれる。

 そんな中ビュティは、星空を見上げながら何やら思案しているソフトンに気づいた。

 

「どうしたのソフトンさん?」

「…どうにもあの連中が気になってな」

 

 そう言ってソフトンは、OSTOレガシーの本部の方を見据える。

 どこか疑いを抱いているような、そんな鋭い視線であった。

 

「宇宙鉄人の情報を一体どこから手に入れたのか……そこが引っかかっている」

「やっぱりそう思うよね」

 

 人類滅亡をもくろむ悪の兵器。

 言われてみれば、どうやって国家的な秘密であるその正体を掴んだのだろうか。

 

「心配することないって〜ダイジョブダイジョブ♪」

「あのモグラも知ってたことなんだぜ? 気にすることナイナイ♪」

「そりゃそうだけど…」

 

 能天気に笑うボーボボや首領パッチたちに、ビュティは思わず不安気な返事をこぼす。

 何か、自分たちの知らないところで違う話が動いているのではないか、そんな気がしたのだ。

 

「………」

「どうしたの?イザヨさん」

「ん?ああ、いや…」

 

 何か気になることでもあったのか、ソフトンと同じように星空を見上げるイザヨは、そのまま不思議そうにつぶやいた。

 

「なんだって宇宙鉄人は人類滅亡なんて目論んでるのかなって思ってさ…」

 

 その言葉には、寂しさや哀しさのような感情がにじんで見える。

 ただ敵だからといって戦うというのは、彼女の信条からしてみれば迷う事なのかもしれない。

 

「悪役いねーとこの話成立しねーからじゃねーの?」

「そーそー」

「いやそんなメタな答え求めてないから!!!」

 

 鼻をほじりながらそんな身もふたもない事を言う首領パッチと天の助に、ビュティは目を剥きながらツッコミを入れる。

 イザヨはそれを笑いながら、また星空を見上げる。

 この景色のどこかにいるであろう宇宙鉄人を探すように。

 

「できることならあたしは知りたい! そして…もし言葉が通じるなら、そいつらを止めてやりてぇ! そう思うんだ」

「…うん」

「こ」

 

 優しく勇ましいイザヨの決意に頷くビュティの後ろで、首領パッチがしょうもない下ネタを口にする。

 その直後彼には、怒りの形相のビュティが襲い掛かった。

 

「くだらないギャグブッこいてんじゃないわよ!!!」

「ぎゃああああああああ!!!」

(………本当に大丈夫かな)

 

 タワーブリッジを炸裂させるビュティと、それを見て大慌てで逃げ出すボーボボたち。

 そんな緊張感のない光景を見ながら、ヘッポコ丸は人知れず冷や汗を流すのだった。

 

○ □ △ ×

 

 そして迎えた、作戦実行の日。

 ボーボボたちはOSTOレガシーの用意したバスに乗りこみ、次の移動手段が待つ空港へと向かっていた。

 

「次イザヨさんの番だよ――」

「おう!」

 

 ボーボボは眠りこけ、ソフトンは瞑想をはじめ、各々でバスの時間を過ごす。

 ビュティや首領パッチ、イザヨとメテオは、目的地に着くまでの暇つぶしにと始めたトランプゲームに興じていた。

 

「7」

「じゃあオレ8」

「ハイ私9ね」

「じゃあボクは10」

「ダウト!!!! それダウトォ!!!」

 

 メテオがカードを山の上に伏せた瞬間、首領パッチが鬼の形相で指を突きつける。

 

「残念、ハズレだ」

「!!!」

 

 しかしメテオが宣言通りのカードを見せた瞬間、その表情は愕然としたものに変わり、すぐさま憤怒に染められた。

 

(チッ…‼︎ このガキやるじゃない…でもヒロインの座だけは絶対に渡さないわよ〜)

「…いやそもそもボク、ヒロインじゃないんで」

 

 不細工なメイクを施した首領パッチがメテオを睨むが、そんな恨みはお門違いだとメテオは呆れかえる。

 するとしばらくして、走行中だったバスが停車したのを感じた。

 

「目的地に着きました」

「ん? もう着いたのか?」

「少し早くない?」

 

 思ったよりも時間が経っていないことを不審に思い、ボーボボたちは窓の外に目をやる。

 並木道が続く道の真ん中に停められていることを不審に思うボーボボたちに、バスの運転手はにやりと悪魔のような笑みを見せつけた。

 

「地獄の終着地点にね」

 

 その瞬間、カッと閃光が爆ぜたかと思うと、ボーボボたちが乗っていたバスが爆炎を噴出した。

 

「ぎゃああああああ!!?」

 

 とっさの判断でバスの中から飛び出したボーボボたちは、ゴロゴロと受け身をとると燃え盛るバスを睨みつけた。

 

「チッ! 何が起きた!!?」

「そんな、首領パッチ君達がまだ中に…」

 

 外に飛び出した面々が足りないことに気づき、ビュティがハッと目を見開く。

 が、業火の中を見てさらに目を見開くこととなった。

 

「それダウトォォォォォ!!!」

(ええ―――っ!!? まだトランプやってる!!!)

 

 炎に包まれ、というか自らも燃え盛りながらもトランプを挟んで騒いでいる首領パッチ、天の助、田楽マン、破天荒の姿に思わず絶句する。

 その時ボーボボたちは、辺りの並木の間から近づいてくるいくつもの気配に気が付いた。

 

「待っていたぞ…‼︎ 我らの宿敵ボーボボよ!!!」

 

 爆炎による煌々とした光に照らし出されたのは。

 にやりと不敵な笑みを浮かべる、無数の毛狩り隊員たちだった。



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奥義12:ザコキャラと呼ばないで

 突然の事態に、ビュティは大きく目を見開いて驚愕をあらわにしていた。

 

「あ、あれって毛狩り隊の残党⁉ 何でこんなところに⁉」

 

 ボーボボたちの行く先に現れたのは、もはやその大半が壊滅したと思われていた狼藉者たち―――毛狩り隊の平隊員たちだった。

 

「ようやく見つけたぞボーボボォ!!! 貴様に壊滅させられたマルハーゲ帝国の恨み、今ここで晴らしてやる!!!」

「聞けば貴様ら、何か企んでいるらしいな‼ だったら俺たちがそいつを邪魔してやるわ!!!」

 

 どこから情報を得たのか、毛狩り隊はボーボボたちが先に進むことを阻もうとしている。

 刻一刻と宇宙鉄人の魔の手が迫っている中、この展開は非常に迷惑であった。

 

「かかれぇ――――‼」

 

 一人の隊員の号令で、集まりに集まった隊員たちが一斉に襲い掛かってくる。

 しかし、まるで黒い津波のように押し寄せてくる隊員たちを前にしても、ボーボボに狼狽する様子は見えなかった。

 

「鼻毛真拳奥義…」

 

 両腕を目の前で交差し、ボーボボは内なる力をため込んでいく。

 そして毛狩り隊の波が目前にまで近づいた瞬間、サングラスがキラーンと光を放った。

 

『ザコキャラが余計な文字数稼いでんじゃねーよアターック』!!!

「ぐわらばあ!!!」

「相変わらず容赦ね―!!! てか技ですらねー!!!」

 

 デカイ修正液を持ったボーボボが、大勢の毛狩り隊に向けて中身をぶっかけた。

 敵どころか、描き間違いのような扱いに、さすがにビュティも毛狩り隊を哀れに感じてしまった。

 

「ぐっ……やはり手ごわい‼」

「だが……今の我らに負ける理由はない‼」

「おい、だからザコキャラがでしゃばるなって……」

 

 生き残った隊員たちが何かもくろんでいるのを見て、天の助が呆れた様子でため息をつく。

 

「‼」

 

 だが、隊員たちが取り出したものを見て、その表情が激変した。

 数人の隊員たちが取り出したものは、かつてボーボボたちが見た事のあるもの。人をゾディアーツに変える悪魔の道具だったからだ。

 

「なっ…⁉ それはゾディアーツスイッチ‼ なぜ貴様らがそれを持っている!!?」

「知れたこと…お前たちを叩き潰すためだ!!!」

 

 血相を変えるイザヨに、正面にいる隊員が自信満々に答えた。

 ほかの隊員たちも次々にスイッチを取り出していくのを見て、ビュティは事の重大さに慌て始めた。

 

「マズいよ、ただでさえ強いゾディアーツがあんなに出てきたら…!」

「心配すんなって! 所詮は毛狩り隊の平隊員ばかりなんだぞ? ヨユーヨユー♪」

 

 ビュティは冷や汗を流してそう告げるが、首領パッチや天の助はさほど気にした様子はない。

 そうこうしているうちに、隊員たちは各々の持つスイッチを押し、その体を闇で包み込む。

 すると、彼らの姿は見る見るうちに変化し。

 

「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」

 

 巨大な剣とゴルゴンの顔の盾で武装した戦士ペルセウス・ゾディアーツ。

 強靭な足と翼をもつ白馬ぺガスス・ゾディアーツ。

 鋼の爪と牙と鱗の鎧を備えたドラゴン・ゾディアーツ。

 ひと際恐ろし気な外見を持つ凶悪な怪人達へと、それぞれ姿を変えていった。

 

「ぎゃあああああああああああ!!!! 見るからにやばそうな奴らになった―――――!!!!」

 

 数あるゾディアーツの中でも屈指の力を持つ異形たちが現れ、先ほどまで楽観視していた首領パッチたちは悲鳴を上げる。

 

「「「ゾディアーツ真拳超奥義『トレミー南天大星群』!!!」」」

「ぎゃああああああ!!?」

 

 そんな彼らに、ゾディアーツと化した隊員たちは体の各所についた宝玉から光を放ち、次々に爆発させていく。

 その威力に首領パッチたちはすっかり翻弄されてしまった。

 

「くっ! やべぇぞ、ただの隊員がスイッチの力でここまで厄介に‼」

 

 紙一重で攻撃をかわした破天荒やソフトンが、敵の力が跳ね上がったことを察して苦渋の表情を浮かべる。

 すると、我が物顔で暴れまわる隊員たちの前にイザヨが立ちはだかった。

 

「なんのー! 修行を終えた俺たちの力を舐めるんじゃね―――!!! 変身‼︎」

 

 イザヨとメテオが急いでベルトを装着し、スイッチを押してレバーを押す。

 ベルトから白い煙と青い光が放たれ、二人を一瞬にして戦士の姿へを変えさせた。

 

「宇宙キタ―――――!!!」

「お前達の運命(さだめ)は……オレが決める‼︎」

Chain array On(チェーンアレイ・オン)】【Winch On(ウィンチ・オン)

「いくぞ首領パッチ‼」

「えっ⁉︎ 俺スか⁉」

 

 イザヨは右腕に鎖付きのトゲ鉄球を、そして左腕にはフック付きのワイヤーを取り付け、その先にさらに首領パッチをぶら下げた。

 この時点ですでに、首領パッチを嫌な予感が襲っていた。

 

バカ+コズミック真拳協力奥義『星屑回想録(スターダストメモワール)』!!!

「おやび―――ん‼」

「当たり前のように武器にされた―――――!!!」

 

 鋼鉄のトゲ鉄球と首領パッチのトゲが、流星群のように隊員たちに襲い掛かる。

 本人がボロボロになっていくのにも構うことなく、イザヨは猛攻を隊員たちに降り注がせた。

 

「イザヨてめー後で覚えてろよ―――――!!!」

「これ重い‼」

「ぎゃあ!!!」

 

 怒り心頭でイザヨを睨む首領パッチは、そのままペルセウス・ゾディアーツに向けて投げ飛ばされた。

 

「ぐおおおおお!!!」

「だが、新たな力を手に入れた俺たちはこんなものでは止まらんぞ――――!!!」

 

 最初の勢いがやや削られた様子の隊員たちであったが、すぐにまた力を放出させて迫っていった。

 

「隊長たちに続け―――‼」

「おおおお――――!!!!」

 

 するとほかの隊員たちも同じようにスイッチを取り出し、その体を異形のものに変えていく。

 あっという間に、辺りは怪物たちの巣窟へと変貌してしまった。

 

「いやどんだけお前らスイッチ持ってんだよ!!?」

 

 普通なら一体ずつ戦うであろう怪人達が、もはや害虫の群れのように夥しい数で襲い掛かってくる。

 これにはヘッポコ丸もツッコまざるを得なかった。

 

「どうしよう…このままじゃ宇宙鉄人の攻撃が始まっちゃうのに‼」

 

 身動きが取れず、焦りを抱き始めるビュティ。

 その時、まるでボーボボたちを背に庇うように、あるいは押しのけるようにして破天荒が前に出た。

 

「ボーボボ、ここは俺たちに任せて先に行け」

「天兄⁉」

 

 危険な役目を買って出た兄貴分に、イザヨは思わず声を上げる。

 しかし破天荒はそんな彼女に、にやりと不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「奴の思いを無駄にするな! 早く代わりの車に乗れ!」

「でも乗り物なんてどこに⁉︎」

 

 瞬時に判断を下したソフトンがそう仲間達に告げる。

 バスに変わる乗り物は一体どうするのかとビュティが尋ねれば、ソフトンと天の助の背後に二つの影が見えた。

 

「「車ならある!!!」」

「やっぱりロクな車ね――――――!!!!」

 

 とぐろを巻いた茶色の乗り物と、プルプルした半透明の乗り物に、ビュティとヘッポコ丸が同時に絶叫する。

 だが、今は選り好みしている暇などなかった。

 

「行きましょうソフトンさん」

「またウンコに負けた!!!」

 

 迷うそぶりも見せずにソフトンの用意した乗り物に乗りこまれ、天の助は愕然とした様子で膝をつく。

 紆余曲折ありながらも、戦士たちを乗せた乗り物が発進すると、隊員たちは一斉にそのあとを追いかけ始めた。

 

「こっから先へは行かせねーぜ」

 

 それを、破天荒は許さない。

 鍵で敵の一人の動きを止めながら、乗り物が通り過ぎた道をふさぐように立ち塞がった。

 

「てめーらごときに全力使うのもシャクだが、おやびんを行かせるためなら仕方がねぇ…」

 

 破天荒の鍵が、彼の首筋に突き刺され、ガチャンと回される。

 その瞬間、彼の体に施された封印が凄まじい勢いでかき消された。

 

 ―――封印解除‼

 

「カギ真拳超奥義『無限錠』!!!!」

 

 本来の能力の100%を発揮させた破天荒は、周囲に無数の鍵を出現させてゾディアーツの軍団に突き立てていく。

 一瞬にして停止させられたペルセウス・ゾディアーツたちを見て、残った隊員たちの間に動揺が走る。

 

「おやびんたちの尻拭い、この破天荒がつとめてやるぜ」

 

 その場に、先ほどとは比較にならない緊張が走る。

 まだまだ残っている異形の隊員たちを睨み、破天荒は獰猛な笑みを見せつけた。



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奥義13:デッドヒートinマリカ

「うおおおお神業ドリフト―――!!!」

 

 いくつもの曲がりくねった道を、とぐろを巻いた車が超高等テクニックで駆け抜けていく。

 風となるウンコの上では、首領パッチと天の助が暴走族のような格好で騒いでいた。

 

「どけどけどけー!!!」

「やんのかコラ―――!!!」

 

 途中に現れる障害物や敵を蹴散らし、ボーボボ一行は目的地へと急いだ。

 

「おい、この先で本当にあってんのか⁉」

「ああ…OSTOLegacyの奴らが用意した宇宙船が停泊している空港が、もうすぐ見えるはずだ」

 

 屋根の上から首領パッチが問いかけると、地図を見ながらソフトンが頷く。

 神がかったドライブテクニックにより通常の数倍は速かったが、まだまだ目的地は遠かった。

 

「待て―――‼︎」

「逃がさんぞぉ‼︎」

「おい、あいつらまだ追ってくるぞ‼」

「破天荒でも抑えきれなかった奴らか…」

 

 後ろを見れば、改造されたバイクやバギーに乗った、ゾディアーツと化した毛狩り隊の姿が見える。

 すると突如、その中の一人が体についた宝玉から光を放った。

 

「発射―――‼」

「ああっ‼」

 

 光はミサイルのように宙を舞って、ウンコカーの後輪部分に炸裂する。

 その衝撃でいまにも転倒しそうになりボーボボ達は慌てた声をあげた。

 

「わ―――先に車がブッ壊されちまう―――‼」

 

 エンジンはまだ無事なようだが、いずれ引火してしまう危険がある。

 メラメラと燃え上がる炎を凝視し、天の助は涙を流しながら悲鳴をあげた。

 

「ウンコが燃える、ウンコがウンコがウンコがウンコがウンコがウンコウンコウンコがあああ!!!」

「うるさいよ‼」

 

 ビュティがツッコムが、自体はそれどころではないほどに逼迫している。

 するとそこへ、ボーボボがマイクを持って車両の上へ飛び出した。

 

「よし、オレに任せろ‼ 鼻毛真拳奥義『アイスバーン』!!!」

 

 何か秘策があるのか、と期待に目を輝かせるビュティとヘッポコ丸。

 ボーボボはマイクを構え、手抜き感のある格好で気だるげに髪をかきあげた。

 

「オレさー、枕変わると眠れないんだよねー」

 

 その瞬間、全てが凍りついた。

 面白くもなんともない話によって冷え切った空気が、全てを現実に凍てつかせたのだ。

 

「凍った―――――!!? いや確かに寒かったけど‼︎

 

 ありえないとばかりにビュティが叫ぶ。

 なぜか精神的なダメージを食らった気もするが、そのおかげでウンコカーの火は消され、被害が広がることは食い止められた。

 

「迎撃だ‼ このまま戦うぞ‼」

「よし、ならばうってつけの技がある」

 

 エンジンまで凍りついていたが、ウンコカーはソリのように滑り続け加速を続けている。

 その隙に、ボーボボ達は迫り来る敵を迎え撃つ方法をとった。

 

「鼻毛真拳奥義『マリカ的超迷惑妨害』!!!!」

「ただいろんな物ブン投げてるだけだ――――!!!」

 

 後続の車全てが通行不能になりそうな、ありとあらゆるものを拾っては投げつけ、毛狩り隊達を妨害する。

 と言ってもそのほとんどが紙くずだったり靴下だったり、しょうもないものばかりであった。

 

「ハハハ‼ こんなものが当たるか!!!」

「ん?」

 

 なんの邪魔にもならないものばかりを投げつけるボーボボ達を嘲笑する毛狩り隊だったが、ふと隊員の一人が何かに気づいた。

 が、その時にはすでに、隊員は巨大な岩の顔に押しつぶされていた。

 

「ぎゃああああああああ!!!!」

「ドッスン落ちてきた!!!」

 

 たまにある理不尽な罠が炸裂し、毛狩り隊員たちは目を剥いて驚愕する。

 するとその隣にいつのまにか、車に変形した首領パッチが並走していた。

 

「優勝はオレのものだぜ‼︎」

「⁉︎」

 

 ギョッと振り向けば、他にも奇妙な奴らの姿が見える。

 道を自らの体で滑る天の助の上に乗るヘッポコ丸や、ミニサイズの車に乗るサングラスをかけた田楽マンの奇行が。

 

「とこ屁組も負けてらんねー!!!」

「さて…箱根を流しにいくか」

「!!?」

 

 何が何やらわからない毛狩り隊達を巻き込み、首領パッチ達がついに動き出した。

 

 協力奥義『ワイルドスピードHAJIKE MAX』!!!!

「ぐわあああああドミニクゥゥゥゥ!!!」

 

 首領パッチ達は、先ほどのボーボボと同じように毛狩り隊の車両に思いっきり妨害攻撃を加え始めた。

 飛び交う甲羅、唸るオナラ、飛んでいくバナナ、さらには重火器まで持ち出され、あたり一帯が無法地帯と化していた。

 

「貴様ら‼︎ ふざけるな―――‼︎」

 

 無数の攻撃を受け、ボロボロになるゾディアーツ達。

 しかし彼らの攻撃は、そんなもので終わりではなかった。

 

コズミック真拳超奥義『スーパーハジケブラザーズ3DAR(エアライド)』!!!!

「ぎゃあああああああ!!!」

「キラー出てきた―――!!! てか操ってる――――!!!」

 

 突然背後から、巨大な砲弾のような生き物に乗ったイザヨが突撃する。

 容赦無く毛狩り隊達を吹っ飛ばし踏みつける凶行に、ビュティは味方に対してドン引きしていた。

 

「おのれボーボボ―――!!!」

「ぐああああ‼」

 

 すると怒りが限界に達した毛狩り隊の一人、キグナスゾディアーツがキラーに押しつぶされたままボーボボを捕まえ、そのまま飛んで行った。

 

「大変だ‼ ボーボボがさらわれた!!!」

 

 慌てるソフトンだが、空に向かわれてはなすすべが見つからない。

 というか当の本人は、鯉の形をした旗の中に入ってふざけていた。

 

「うおおおおおおおお今日の風は一段ときついぜ―――――!!!」

「何やってんのあの人!!? こいのぼり!!?」

 

 全く緊張感を感じさせないまま、ボーボボとキラーは遥か天空に行ってしまう。

 キラーにしがみついた隊員達は、同じくキラーに乗ったままのボーボボとイザヨに勝ち誇った笑みを見せた。

 

「さぁ仲間と引き離してやったぞ!!!」

「貴様らだけでもここで始末してやる!!!」

「ここならビュティたちを巻き込まずに思い切り戦える…」

「なに⁉」

 

 しかしボーボボのつぶやきに、そしてイザヨの笑みに、隊員達の表情が引きつった。

 

「残念だったな‼ お前たちはおびき出されたのさ!!!」

 

 表情を変えた毛狩り隊員達は、自分たちの体に巻きつく無数の黒い縄、鼻毛に気づく。

 キラーをよじ登っている間に仕込まれたのだと気づいたときには、もう遅かった。

 

「なっ…しまった! 鼻毛が‼︎」

「オレたちのダチに手を出したこと、万死に値する!!!」

 

 そうイザヨが告げた瞬間、キラーが突然宙返りをし、隊員達が空中に放り出される。

 かと思えば体に巻きついた鼻毛が巻き取られ、キラーの接近がさらに早められた。

 

「食らえ‼︎」

「う…うわああああ離せえええええ!!!」

 

 急接近するボーボボとイザヨに恐怖を覚える隊員達だが、もう懺悔の時間さえ残されてはいなかった。

 

Stamper On(スタンパー・オン)

鼻毛コズミック超協力奥義『鬼瓦ボンバー』!!!!

「ぐばあああああ!!!!」

 

 キラーの加速と鼻毛の引力。

 二つの力が加わった蹴りを食らった隊員達は、絶叫とともに爆発四散することとなった。

 

「っしゃあ‼︎ 急ぐぜ‼︎」

「オウ!!!」

 

 面倒な敵を一掃したことで、ボーボボとイザヨは満足げにハイタッチを交わす。

 キラーが降下する先では、滑り続けるウンコカーの上で首領パッチ達が手を振っていた。

 

「おかえりボーボボ―――‼︎ 待ってたよ…」

「このまま空港まで突撃じゃ―――――!!!」

「うわああああああああ!!!!」

 

 が、ボーボボとイザヨは停止せず、キラーをぶっ飛ばしたままウンコカーを押し出していく。

 車両が尋常じゃないほどにガタガタと揺れ、中にいた全員が悲鳴をあげた。

 

「でら鬼だ―――――!!! 今まで頑張ってた仲間に対して!!!」

 

 ウンコとキラーの間で潰されている首領パッチ達を見たビュティが目を剥くが、そんなことで止まるボーボボ達ではなかった。

 

「ん?」

 

 そうこうしているうちに、一行は目的地である空港の前にまでたどり着く。

 しかしそこで、ヘッポコ丸がその前に立つ人影に気づいた。

 

「おい、空港の前に誰かいるぞ‼︎」

「何⁉︎」

「あれは……!」

 

 みんなでウンコカーの前に寄り、いったい誰が立ちふさがっているのかと目をこらす。

 すると次の瞬間、ボーボボたちの乗るウンコカーがキラーもろとも吹き飛んだ。

 

「ぎゃあああああああ!!?」

 

 爆発で吹っ飛ばされ、ボーボボたちは紙くずのように転がって行く。

 間一髪のところをソフトンに抱きかかえられたビュティは、劫火の前で立ちふさがる一人の影に目を見開いた。

 

「この先へは行かせないわ…!」

「インガ!!?」



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奥義14:今日の運勢☆敵、時々ラスボス

 空港の入り口に陣取ったインガは、ボーボボたちを見て不敵な笑みを浮かべる。

 無論首領パッチたちは、そんな彼女の態度に怒りを覚え食ってかかった。

 

「また邪魔をするのか!!!」

「しつけーぞ‼」

「私も本当は忙しいの……だからあなたたちの相手は、こいつらに任せるわ」

 

 そういってインガは、持っていたアタッシュケースを開くと目の前で乱暴に開く。

 すると中に収められていた、12個の異様な気配を放つスイッチが転がり出て、地面に落ちると同時に黒い光を放つ。

 瞬く間にそれらは、黄道十二星座をモチーフにした凄まじい気迫を放つゾディアーツたちに変貌した。

 

「うそーん⁉︎ さっきの毛狩り隊がなったゾディアーツよりもっとやばそうなやつじゃん!!!」

「あれはホロスコープスの幹部の連中⁉︎ 何でこんなところに⁉︎」

 

 思わず敵の出現で悲鳴をあげる天の助。

 その横でイザヨとメテオは、見覚えのある敵たちに驚愕で大きく目を見開いていた。

 

「ククク……どういう因果だろうな。フォーゼ…貴様に倒された我らがこんなところで復活するなど……」

「喋った‼︎」

 

 無言のまま立っていたゾディアーツたちのうち、天秤座を模した一つ目の怪人が声を放ち、ビュティを驚愕させる。

 同じように羊座の怪人と蟹座の怪人が、イザヨたちを見て殺気を放ち始めた。

 

「余の王国を崩壊させた罪、万死に値する‼︎」

「あたしらの怨み、きっちり受け取ってもらいましょうかねぇ」

 

 特徴的な話し方をする二体を見て、イザヨは確信を持つ。

 向けられる敵意や外見、そして口調から見える性格に覚えがあったからだ。

 

「あの喋り方……間違いねぇ、あたしたちが戦ってきた奴らだ!」

「そんな…」

「だったらなんで⁉︎」

 

 なぜかこの敵が蘇ってきているのか、とヘッポコ丸が身構えながら尋ねる。

 するとイザヨは懐からハンバーガーの形をしたアイテムを取り出し、スイッチとともにメテオに手渡した。

 

「バガミール! メテオ、頼む!」

「ああ!」

Camera On(カメラ・オン)

「コズミック真拳奥義『真実の眼』‼︎」

 

 ハンバーガーにスイッチが装着されると、変形して宇宙人のような外見のロボットに変わる。

 レンズの目が可愛らしいそのロボットは、並び立つゾディアーツたちをじっと見つめて、観測したデータを映し出した。

 

「わかったぞ! こいつらに実体はない‼︎ 特殊なスイッチで作り出されたコズミックエナジーによる複製体(ダミー)だ‼︎」

「そうか!」

 

 メテオの説明で察したのか、首領パッチと天の助が手をならす。

 が、その脳裏に浮かんでいるのは軒下に吊るされた無数のてるてる坊主だった。

 

「つまりこう言うことだな⁉︎」

「全然違う‼︎」

 

 バカに構っている暇のないメテオに代わり、ビュティがツッコミを入れる。

 構わずメテオは、理解のありそうなソフトンやヘッポコ丸たちに説明を続けた。

 

「実体をエネルギーで補っているために、その体は非常に脆い! その上余分なエネルギーを消費しているからパワーもそれほど強くはないんだ‼︎」

 

 ニヤリと笑みを浮かべてそう告げると、そこだけ都合よく理解した首領パッチと天の助、田楽マンがやる気を出し始めた。

 

「よっしゃー‼ ザコが相手なら問題ねぇ‼︎ オレ様がサクッと倒してやるぜ―!!!」

 

 前回いいところをボーボボとイザヨにかっさらわれた反動か、いつにも増して戦闘意欲が増している。

 今度こそ目立ってやるぜと喜び勇んで挑みかかっていくが。

 

「ゾディアーツ真拳奥義『シャウト・オブ・カプリコ―ン』!!!」

「ぎゃああああああああ!!!!」

 

 山羊座(カプリコーン)の怪人の放った音波攻撃により、首領パッチたちはまとめて吹っ飛ばされていた。

 ゴミのようにボロボロにされるバカたちに、メテオは平静を保ったまま淡々と告げた。

 

「でもさっきの奴らよりははるかに強いから気をつけろ!」

「先に言いやがあぎゃああああああ!!!」

 

 ぬか喜びさせやがってとやられながら怒りをぶつける首領パッチたちだが、はっきり言って自業自得である。

 彼らの突撃が合図となったのか、他のゾディアーツたちがボーボボたちの方へと攻め込んできた。

 

「ゾディアーツ真拳奥義『ハマルの寝息』‼」

「ぐっ‼︎」

 

 羊座(アリエス)のゾディアーツが突き出した杖の先が、ボーボボの左肩に当たる。

 奇妙な光に包まれたボーボボの左腕は、その直後不自然に力を失って垂れ下がった。

 

「左肩が動かん‼」

「しまった! アリエス・ゾディアーツの能力は相手を眠らせることなんだ‼ 全身に食らったら動けなくなるぞ‼」

 

 イザヨに言われ、ボーボボは自分の肩をぱかっと開いて確認する。

 その中では、なぜかバスケットゴールにはまった小さなボーボボがイビキをかいていた。

 

「本当だ」

「何だ、その左肩は⁉」

「NBAなんかに勝てっかよぉ~~…」

「しかも起きてる‼」

 

 尻をゴールに入れたまま意味のわからないことを話すミニボーボボに、ビュティのツッコミが炸裂する。

 アリエスはブルブルと肩を震わせ、ボーボボを憎々しげに睨みつけた。

 

「余を愚弄しおって…‼ ならば両手両足にも喰らうがいい‼」

「なんの…『まくら投入』‼」

 

 重い衝撃がボーボボの四肢に襲いかかるが、ボーボボは体内に管を通し、布団に入ったミニボーボボたちにまくらを落としていく。

 するとボーボボたちは、就寝時間なんぞ知ったことかとテンションマックスではしゃぎ始めた。

 

「わ―――い♪ まくら投げだ――♪」

「復活!!!」

「貴様人間か!!?」

「そのまま鼻毛真拳奥義『大修学旅行』!!!!」

「わ――――い京都だ――♪」

「ぐわあああ誰が京都だ―‼」

 

 驚愕するアリエスに、ボーボボのアフロから放たれたミニボーボボたちが笑顔で突撃していく。

 全く意味がわからなかったが、アリエスは凄まじいダメージを負わされていた。

 

「金閣寺……金閣寺はっと………ここかな?」

 

 なにやらサラリーマンの格好になった天の助が、アリエスの肩にかけられたマントをめくる。

 びきっとアリエスの額に血管が浮き立ち、天の助に強烈な殺意が向けられた。

 

「アリエス・タックル‼︎」

「ぎゃああああああ!!!」

 

 異様な勢いでヘイトを集めた天の助はそのまま、怒れる羊の突進力で吹っ飛ばされていった。

 すると今度は、蟹座(キャンサー)の怪人がハサミを鳴らしながら首領パッチに向かって突撃を開始した。

 

「ならばこれを食らえ‼︎ ゾディアーツ真拳奥義『ハサミギロチン』‼︎」

「バカめ‼︎ 先にチョキを出すとは駆け引きがわかってねーな!!!」

 

 鋭く研ぎ澄まされたハサミが迫るも、首領パッチは微塵も恐れていない。

 勝利を確信した笑みを浮かべると、突き出されたハサミ(チョキ)に対して、どこからともなく取り出した(グー)を構えてみせた。

 

「じゃんけんポーン…ってあれ――――!!?」

(グー)ごと真っ二つにされた―――!!! 思いっきりあとだししといて‼︎」

 

 硬い岩が簡単に真っ二つにされ、同時に首領パッチまで真っ二つにされる。

 目を向くビュティを退かせると、ボーボボが険しい顔で前に出た。

 

「バカヤロウ‼︎ カニ相手ならこれだ‼︎ 奥義『鼻毛版・さるかに合戦』!!!」

「それ復讐される側ですよ!!?」

 

 そしてなぜか猿の格好で突撃していくボーボボに、ヘッポコ丸が待ってくれとツッコミを入れた。

 そこに、同じく猿の格好をした、どことなくヤクザっぽい雰囲気になったイザヨと首領パッチが続いて行った。

 

「カニ一家との全面戦争じゃ―――!!!」

「柿の木はわしらのシマなんじゃぁぁぁぁ!!!」

「ええ⁉︎ これそんな極道っぽい昔話だったの!!?」

 

 短刀(ドス)拳銃(ハジキ)で武装した彼らがゾディアーツたちに襲いかかると、その後から今度はウス・ハチ・クリに扮したソフトンと天の助、田楽マンが続いた。

 

「わしらの忠誠は猿のオジキのもんじゃあ‼︎」

「カニの小僧がしゃしゃり出んなぁぁぁぁ‼︎」

「ぐわああああああ!!!」

「カニ側の味方が誰もいね―――――!!!!」

 

 悪さをした猿がカニの味方のウスたちにしばかれる勧善懲悪の昔話のはずなのに、まるで任侠映画のような光景が広がっている。

 ツッコミどころ満載の状況に、アリエスたちは困惑気味に引いていた。

 

「くっ…さっきからフザケた技ばかり出しおって‼︎」

「思ったよりタフだな」

 

 思わず呟くメテオの前を通り過ぎ、首領パッチがアリエスたちの前に立った。

 

「これっくらいの♪ おべんっと箱に♪」

 

 突如踊り出した首領パッチをポカンとした様子で見下ろし、アリエスたちは沈黙する。

 その間お首領パッチは、可愛い顔でちょこちょこと踊り続けた。

 

「おにぎりおにぎりちょっとつめて♪ ……おにぎりとおべんと箱は別だろが!!!」

 

 歌の途中で突如豹変した首領パッチが、近くにいたカプリコーンを殴り飛ばした。

 防御も何もできない間に殴られたカプリコーンは、遠く吹き飛ばされて壁に頭から激突していった。

 

「さぁて……こっから先は主人公のオレに任せな」

「主人公気取り⁉︎」

「だからボーボボだって‼︎」

 

 パキパキと拳を鳴らしてドヤ顔を決める首領パッチに、ビュティとヘッポコ丸は何度繰り返したとも知れないツッコミを入れるのだった。



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奥義15:いざ立て主人公

「………さてと、主人公の力を見せようじゃナ―――イ!」

 

 棘だらけの肩パッドをつけた首領パッチが、コキコキと指を鳴らしながらゾディアーツたちを見据える。

 そんな首領パッチに、ボーボボとイザヨが遠慮なくバズーカとランチャーで敵もろとも攻撃を開始した。

 

「見てぇ――――――!!!」

「ぎゃああああああああ!!?」

 

 背後から爆撃された首領パッチが炎に呑まれる。

 約一名が犠牲になっていたが、ともかくそれが開戦の合図となった。

 

「よし! この流れで一気に倒しましょうソフトンさん!」

「うむ」

「いやお前じゃなくて」

 

 顔だけソフトンになった天の助が答えるがスルーされ、ヘッポコ丸が本物のソフトンとともに敵を迎え撃つ。

 相対するのは、白と黒で彩られた道化師の様な格好の異形、双子座(ジェミニ)の怪人だ。

 

「小賢しい‼︎」

「踏まれても主人公ー!!!」

 

 転がっていた首領パッチを踏みつけながら向かってくるジェミニに身構えていると、ヘッポコ丸の隣にメテオが歩み寄った。

 

「ボクも付き合いますよ」

「おう!」

「いくぞお前たち!」

 

 ソフトンの腕が神々しい光を放ち、ヘッポコ丸の腕にオナラが、メテオの右腕に火星の様な炎の塊が生み出される。

 ジェミニも二枚の赤と青のカードを抜き出し、両者が激しく激突した。

 

『バビロン真拳』+『オナラ真拳』+『星心大輪拳』‼︎

 ゾディアーツ真拳奥義『赤いカード(リュンケウス)青いカード(イーダス)』‼︎

 

 カードが引き起こした爆発が、三人の技によって相殺され凄まじい衝撃が生まれる。

 が、三人の前に陣取っている天の助が、格好良さを全てを台無しにしていた。

 

「お前、じゃま」

「あ、イヤ! ゴメン‼︎ 流さないで――‼︎」

 

 うざく感じたボーボボと首領パッチにトイレに落とされ、天の助は悲鳴をあげて流される。

 ジェミニはひらひらとばかにする様に振り向き、ヘッポコ丸たちをあざ笑った。

 

「へっへーん♪ 当たんないよ、そんな攻撃」

 

 見た目通りのコミカルな動作で挑発するジェミニだったが、不意にその背後が揺らいで見えた。

 

Stealth On(ステルス・オン)

 

 すると次の瞬間、機械の音声とともに突然イザヨがジェミニの真後ろに現れる。まるで忍者のようだ。

 

「背中がガラ空きだぜ、半分こ野郎!」

「なにぃ!!?」

 

 ギョッと振り向くジェミニだが、その時にはすでにイザヨは次の攻撃の準備を終えていた。

 左腕に備わった巨大なハンマーが、ジェミニに襲いかかったのだ。

 

Hammer On(ハンマー・オン)

「コズミック真拳超奥義『闘魂ハンマー・インパクト』!!!」

 

 だるま落としでもやる様なフルスイングで打ち付けられ、ジェミニは軽く吹き飛び地面を滑って行く。

 

「くっ……ムカつく!」

 

 かろうじて転倒は免れ、ジェミニは忌々しげにイザヨを睨みつけた。

 が、その背後に突如洋式の便器が出現し、中からソフトンの顔をした天の助が飛び出した。

 

 復活のパピロン!!!

「ぐわああああ!!!」

 

 完全に予想外の攻撃をくらい、ジェミニはたまらずダメージを負って倒れこむ。

 奇襲に成功した天の助は、調子に乗ってソフトン顔のまま決めポーズを取る。

 

「お前も後ろがガラ空きだぞ!!!」

 ゾディアーツ真拳奥義『水面下に潜む物(ディープ・ワンズ)』!!!

「おぎゃああああああああ――!!!」

 

 が、それがまずかったのか、地面の下を水中の様に泳ぐ魚座(ピスケス)の怪人に真下から尻を突き刺され、天の助は痛みに転げ回った。

 

「おしり――――!!!!」

「手強いな…」

 

 ゴロゴロと転がって騒ぎまくる天の助に構うことなく、ボーボボたちはなかなか敵を倒せずにいることに歯噛みする。

 叫んでいた天の助はなぜかサングラスをかけ、拳銃を構えてあちこちへ銃口を向け出した。

 

「おしりはどこだ⁉ おしりはどこだ⁉」

「落ち着け!!!」

「ぶ‼」

 

 好い加減鬱陶しくなってきたボーボボに蹴り飛ばされ、天の助はようやく大人しくなる。

 すると、何かを思いついたボーボボが首領パッチの方へにじり寄って行った

 

「今です、主人公の首領パッチさん! 力を貸して下さい‼︎」

(主人公!)

 

 やややさぐれていた首領パッチの耳がここぞとばかりに象のように大きくなる。

 首領パッチはニヤリと笑みを浮かべ、嬉しさを誤魔化す様に悪ぶった顔つきになった。

 

「チッ、仕方ねぇな…」

「さすが主役」

「ちょ…やりすぎだよボーボボ‼︎」

 

 すかさず首領パッチに爆弾やらダイナマイトやらを装着し、準備を整えて行くボーボボにビュティが待ったをかけるが、首領パッチは巻かれた目隠しを退けてビュティを睨みつけた。

 

「小娘、引っ込んでな。脇役ふぜいが」

「いきますよ主人公さん」

「あ――――ねたみって怖い怖い」

「……」

 

 うざい口調のまま大砲にセットされる首領パッチに、ビュティはもう止める気も起きずにただ見送る。

 そしてボーボボが、大砲に備えられた導火線に火をつけ、照準を合わせた。

 

「発射!!!」

「ぶ‼」

 

 だが、首領パッチは全く見当違いの方向に飛ばされ、空港の壁に激突して跳ね飛ばされて行く。

 やがて全身に付けられた爆弾にも火が付き、首領パッチを爆炎で包み込んだ。

 

「ぎゃあ!!!」

 

 ボロ雑巾の様になった首領パッチが、ぼとりと地面に落ちて煙をあげる。

 そしてすぐに、鬼の様な形相でボーボボの元に駆け込んできた。

 

「テメー‼ コラ、この野郎!!! 話が違うじゃねーか‼ 死にかけたぞ‼ おお!!? このノーコン野郎!!! ノーコン野郎!!! ノーコン野郎!!!」

「ベーコンやるから許して♡」

「ベーコンかよ!!!」

 

 お詫びのつもりか、差し出された特大のベーコンを苛立ち交じりに近くにいたピスケスにぶつける。

 

「ベーコン通りま――す。ベーコン通りま――す」

 

 もらったベーコンを頭に乗せて意味不明なことをする首領パッチは、とうとう怪人たちの怒りを買った。

 

「ゾディアーツ真拳『法王の断罪』!!!」

「ゾディアーツ真拳奥義『ネクタル・ウィップ』!!!」

「ぎゃああああ!!!」

 

 牡牛座(タウラス)水瓶座(アクエリアス)の怪人が放った一撃で、首領パッチは悲鳴をあげながら吹っ飛ばされる。

 コマの様に回転した首領パッチは、そのままくるくるとどこかへ飛ばされて行く。

 

「ああああああ!!!」

 

 かと思えば、獅子舞の顔になったまま再びタウラスとアクエリアスの元へと突っ込んで行った。

 

「夢はきっと叶う――――――――――!!!!」

「ぐわあああ!!!」

 

 ただコマの様に回っているだけだが、相当の威力があったのかタウラスとアクエリアスが血反吐を吐きながら吹き飛ばされる。

 敵の二人をあしらったことで調子に乗った首領パッチは、さらなる見せ場のためにボーボボとイザヨを煽り始めた。

 

「おっしゃー‼︎ このままフィニッシュはオレが決めるぜ‼︎ サポートしろよ脇役太郎‼︎」

「ハイ! あの技をやるんですね」

「イザヨ! お前はビートかませ‼︎」

「よし来た‼」

Beat On(ビート・オン)

 

 イザヨが新たなスイッチを使うと、彼女の足にスピーカーが装着される。

 するとそれから、ずんずんと響き渡るリズムが放たれ始めた。

 

「タン・タ・タン♪ タン・タ・タン♪ タンタ・タ・タン♪」

 

 フラメンコダンサの格好になった首領パッチとボーボボが、ヘッポコ丸の方へと近づいて行く。

 彼の背を敵に向けさせると、首領パッチは全力で腹に一撃を入れた。

 

「オ・レ‼︎」

「ぶっ⁉︎」

 

 途端にヘッポコ丸の腹の中のガスが噴出され、ゾディアーツたちに甚大な被害を与える。

 リズムに乗ったまま次に向かうのは、ギョッと後ずさる天の助の方だった。

 

「タン・タ・タン♪ タン・タ・タン♪ タンタ・タ・タン♪」

「何⁉︎ 何する気なの!!?」

「オ・レ‼︎」

 

 怯える天の助の顔面にボーボボの長い足が炸裂し、弾丸の様に弾き飛ばす。

 吹っ飛ぶタウラスの横で、今度はピスケスにソフトンの頭部がぶつけられた。

 

「カフェオ・レ‼︎」

 

 立て続けに二体が倒され、ジェミニとアクエリアスが警戒を強める。

 近づきさえしなければいいという考えだったのだろうが、そうは問屋がおろさなかった。

 

「さぁさぁフィニッシュだぜ――♪」

「ためてためて――――――♪ タン・タ・タン♪ タン・タ・タン♪ タンタ・タ・タン♪」

「オ・レ!!!」

 

 そしてボーボボが一撃を叩き込んだのは、首領パッチだった。

 蹴り飛ばされた首領パッチはそのまま、二体の怪人のど真ん中に激突して大きく吹き飛ばしてみせた。

 

「奥義『バカ爆弾』!!!」

「ぎゃあああああああああ!!?」

 

 ボウリングのピンの様に吹っ飛ぶ怪人たちと首領パッチに、ボーボボはつまらなそうに鼻で笑った。

 

「バカの相手は疲れる…もっと骨のある奴らは他にいるだろう。サッサと出てこい」

「ザコばかり相手しててこっちは飽き飽きしてんだよ」

 

 まだまだ余裕だと言わんばかりに指を鳴らすイザヨとボーボボは、怪人たちの中でも別格のオーラを放つ五体を睨みつけていた。

 

「もう我らと相対する気か………どうやら早死にが望みのようだな」

 

 その中の一体、天秤座(リブラ)の怪人が呟くと、濃厚な殺気がボーボボたちに襲いかかった。

 ビュティもその凄まじさに、頬に冷や汗を垂らしていた。

 

(スゴいオーラ…‼︎ 幹部っていうやつらの中でも格段に強いの……!!?)

 

 間違いなく簡単にはいかない相手に、ビュティはゴクリと息を飲む。

 その真下で、息も絶え絶えな首領パッチがプルプル震えながら拳をあげた。

 

「じょ………上等だっての………オレが……主人……こ…う……ガクッ」

「どうした首領パッチ―――――!!?」

「………」

 

 しかしシリアスな雰囲気は、ほとんど長く続かなかった。



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奥義16:燃える闘魂伝説

「ククク……流石に幹部の中でも格下相手では話にならなかったようだな。では、そろそろ我々もいくとしようか」

 

 コキコキと首を鳴らし、錫杖を打ち鳴らす天秤座(リブラ)のゾディアーツ。

 その前に泰然と構えるのは、勇ましく構えるボーボボとイザヨだ。

 

「貴様の相手はオレたちだ」

「かかってきやがれ、この野郎」

 

 蠍座(スコーピオン)乙女座(バルゴ)の怪人の前に出るのは、首領パッチ、メテオ、ソフトン、ヘッポコ丸の4人。

 凄まじい殺気を放つ異形たちを前にしても、その雄姿は揺らいではいなかった。

 

「おもしれぇ‼︎ まだまだハジケ足りなかったところだ‼︎」

「ではボクもやりましょうか…」

「いくぞ、ヘッポコ丸。まだいけるか?」

「もちろんです!」

 

 続々と対戦相手が決まる中、残った一帯の前で立ち尽くすのは、天の助と田楽マンのペア。

 二人の前に立ちふさがるのは、ビジュアル的にもまったく敵う気のしない、凶悪な形相の獅子座(レオ)の怪人だった。

 

 ―――よりによって一番やばいところに当たっちまった……。

    天ちゃん田ちゃん大ピンチ……!!!

 

 一噛みでK.O.しそうな相手に、生食品二人は早速走馬灯を見始めていた。

 しかしそんなことはよくあることなので、仲間達は特に心配したり助けに行こうとしたりはしなかった。

 

「上等だ‼︎ こっちも本気モードだ‼︎」

「っしゃあ! 行くぜみんな‼︎」

 

 ボーボボの合図で、イザヨが構える。

 普段は封印されている力が解放され、それは世界そのものにまで影響し始めた。

 

コズミック真拳究極奥義『聖宇宙領域(フォーゼ・ワールド)』!!!

 

 イザヨが天に向かって叫んだ瞬間、イザヨを中心とした空間が大きく書き換えられる。

 瞬く間に広がっていく、宇宙空間の様な奇妙な世界に、ビュティやヘッポコ丸は見覚えがあった。

 

「こ…これはボーボボや破天荒さんが使ってたのと同じ…⁉」

「これは天兄の究極奥義と対をなす奥義! 精神を解放した連中は、その性質をHOT(ホット)へと変えるぜ‼︎ というわけで……」

Fire On(ファイアー・オン)

 

 自信満々に語ったイザヨが、新たなスイッチを取り出す。

 赤いそれをベルトの右端に装着し、横についたリング上のスイッチを引っ張った。

 その直後、イザヨの体を真っ赤な炎が覆い、あたりに撒き散らされた。

 

「もっと熱くなれよおおおおおおおおお!!!!」

「大惨事だ―――――‼︎」

 

 敵どころか味方にまで炎は引火し、イザヨの体も変化する。

 赤くなった学ランにはアーマーが追加され、手には消火器に似た火炎放射器が装着される。

 強烈な炎の力が、イザヨに宿っていた。

 

「く…なんと暑苦しい空間だ!!?」

 

 リブラも炎の熱さに顔を歪ませ、イザヨを忌々しげに睨みつける。

 一方炎の中心に立つイザヨが、熱で苦しむ様子は微塵もなかった。

 

(すごい炎……‼ まるでイザヨさんの心がそのまま現実世界に現れているみたい…‼)

 

 襲いくる熱気から顔を守りながら、ビュティはゴクリと息を飲む。

 戦闘の場に出ないビュティにも、なぜか力が湧いてくる様な感覚があった。

 

「うおおおおおおおお!!!」

「ボンバ――――――!!!」

 

 が、それはボーボボ達の方が顕著に現れていた。

 全員が目からボッと炎を噴き出させ、普段を超えた異常とも言えるテンションで騒ぎ始めていたからだ。

 

「っていうかみんななんかおかしくなってない!!?」

 

 ボーボボの究極奥義は精神の解放の特殊能力を持っているが、イザヨのこれは人を強制的に暑苦しくさせるものらしい。

 ある意味敵よりも恐ろしく感じられた。

 

「そしてこの奥義の発動により、オレの鼻毛真拳も無条件で封印が解除できる!!! いくぞ、三大鼻毛極意の一つ『熱炎漢浪漫』!!!!!」

 

 その身に心の炎を纏ったまま、ボーボボが拳を突き上げて吠える。

 そして、リブラに向かって両手を突き出し、猛烈な速度で突進を開始した。

 

 風林火山風林火山風林火山風林火山風林火山風林火山

 

 大地を砕き、風を吹き飛ばす猛烈な突進でボーボボ達が敵に接近する。

 ボーボボはイザヨから力を受け取りながら、リブラに向けて大きく拳を振りかぶった。

 

「この拳砕けようとも貴様らを倒す――――!!!」

「こ、この技は…‼」

 

 業火を纏った拳のみならず、両手両足をリブラに向けて突っ込むボーボボ。

 その結果凄まじい威力をぶつけたが、代わりにボーボボの四肢は骨だけを残して粉砕された。

 

「漢拳四倍だ―――――!!!!」

「ぐわあああああああああ!!!」

「力が漲る!!! 魂が燃える!!! 俺のマグマが迸る!!!!」

 

 後ずさるリブラに、今度はイザヨが真っ赤に燃える拳を振りかぶり、勢いよく振るった。

 

「この命持っていきやがれ―――――!!!!」

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 地面さえも燃やし尽くす威力の拳を受け、それでもリブラは倒れず、ボーボボとイザヨを戦慄の視線で凝視した。

 

「なんという力だ……‼︎」

「調子に乗っていられるのも今のうちだ‼ ゾディアーツ真拳奥義『戦乙女の演舞』!!!」

 

 思わず呟いたリブラの敵討ちのように、バルゴが翼を羽ばたかせて前に出る。

 それを迎え撃つのは、両腕に黒炎のタトゥーを刻んだソフトンだった。

 

「この手に宿るは万象を灼き尽くす逆様の太陽、生れ出づるのは闇に祝福されし破壊の申し子。聖なる神と忌児の力交わりし今、我が敵を討ち果たす刃が顕現する‼」

 

 黒太陽バビロン

 

 かつての強敵(とも)の力を借りた、黒い太陽の力を宿したバビロン神の力により、バルゴは技をかき消された上に自身もダメージを負った。

 

「ガハッ…‼」

 ―――あの男……‼

    やはりただものではなかったか…!!!

 

 致命傷は避けたものの、無視できない威力にバルゴはソフトンに対する警戒を数段引き上げる。

 そこへ、腹の中に力を溜めたヘッポコ丸が突撃した。

 

「くらえ、爆炎オナラ真拳!!!」

「ぐわあああああああ!!!」

「オナラに引火してえらいことになってる!!!」

 

 ヘッポコ丸の放った強烈なオナラ攻撃が、イザヨの炎と混ざってとんでもない被害を及ぼす。

 黒焦げになるバルゴに目を剥きながら、ビュティは感嘆のため息をこぼしていた。

 

「すごい…‼ イザヨさんの力が、みんなに強い力を与えているんだ…!!!」

 

 ただ一人が強いのではなく、仲間と力を合わせることで強くなる真拳使い。

 その頼もしさに、ついつい笑みがこぼれていた。

 

「とけました…」

「二人とも――――!!!」

 

 が、生食品ペアにはありがた迷惑だったようで、ドロドロに溶けてしまった姿は哀れでしかなかった。

 

「ザコ共がイキがるな!!! 奥義『獣王の咆哮』!!!!」

「「ぎゃああああああ容赦ねぇこのライオン―――!!!」」

 

 そこに強烈な攻撃を加えるレオのせいで、天の助と田楽マンは血反吐を吐きながら吹っ飛ばされる。

 踏み潰されて涙目になる二人を見て、ようやくこの女が動いた。

 

「今助けるぞ二人とも――――‼」

 

 イザヨは赤いスイッチを火炎放射器に装着し、レオに向けて構え、銃口に火炎を収束し始めた。

 

「コズミック真拳超奥義『ライダー爆熱シュート』!!!!」

「ぐおわああああああああ!!!」

「「ありがた迷惑だ――――!!!!」」

 

 その一撃はレオを軽々と吹っ飛ばすことに成功したが、至近距離にいた天の助と田楽マンまで巻き込んでいた。

 が、やはりいつも通りなので誰も何も言わなかった。

 

「くっ…‼ まさか、ただの人間がここまでの力を……!!!」

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

 高い戦闘能力を誇るレオまでもが圧倒され、流石にリブラたちに焦りが見え始める。

 おののく彼らに向かって、ボーボボとイザヨが並んで突進して行った。

 

「くっ……来るなぁぁぁぁぁ‼」

 

 リブラとレオ、スコーピオン、バルゴが苦し紛れにはなった攻撃も、鼻毛と火炎に打ち消されて何の意味もなさない。

 目を見開く彼らに、ボーボボたちはとどめの一撃を放った。

 

 毛烈(タマシイレボリューション)

 

「ぎゃあああああああああああ!!!」

 

 四体の怪人たちは、強烈な鼻毛と宇宙の一撃をくらい、血反吐を吐きながら宙を舞う。

 どさどさと崩れ落ちる怪人たちに目もくれず、ボーボボとイザヨはギンッと最後の一体を睨みつけた。

 

「残るはテメーただ一人!」

「覚悟しやがれ!」

 

 凄まじいオーラを放つ射手座(サジタリウス)の怪人を前に、二人が拳を突き出す。

 その両者の間に立ち、田楽マンが両腕を交差させて吠えた。

 

「続行! ファイッ!!!」



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奥義17:嵐を呼ぶバカ

「いい加減君たちは目障りだ……‼︎ ここでこれまで邪魔してくれたことへの罰を与えるとしよう」

 

 弓を構えたサジタリウスが、物騒なことを言いながらボーボボたちを見据える。

 

「ナメたこと言ってくれるじゃないか。偽物だろうが本物だろうが関係ねぇ、ぶっ潰してやるよ!!!」

 

 それに相対し、バキボキと拳を鳴らすイザヨが勇ましい声で宣戦布告する。

 

「『ベイブ』のビデオ、返却し忘れたんだよバカヤロォ!!!」

 

 最後のボーボボが、状況に全く関係のないことを言いながらピキパキと血管を浮き立たせ、凄まじい形相で睨みつけた。

 三者三様のオーラを纏い、戦士たちは一呼吸置くと一斉に激突を開始した。

 

「ゾディアーツ真拳超奥義『賢者の嚆矢』!!!!」

「ぎゃああああああ!!!」

 

 サジタリウスの弓から無数の暗い光の矢が放たれ、ボーボボや天の助たちに降り注ぐ。

 それらに耐え、イザヨが火炎放射器を構えた。

 

「コズミック真拳超奥義『バーニングマイソウル』!!!!」

「ぐわああああああ!!!」

 

 イザヨによっていくつもの火炎弾が放たれ、またしても天の助を巻き込んでサジタリウスに炸裂する。

 それをかいくぐり、ボーボボがさらなる一手を放った。

 

「鼻毛真拳超奥義『毛植え』!!!! オラ‼︎ オラ‼︎」

「これだけ明らかにショボい―――!!!」

 

 田植えのように、毛を一本一本植えていくボーボボ。

 全く意味がわからないし、実際に意味のない攻撃であった。

 

「奥義‼︎」

 

 サジタリウスが弓を振るい、衝撃波を放ってあらゆるものを吹き飛ばす。

 

「奥義‼︎」

 

 業火を右足に纏ったイザヨが、サジタリウスに向けて蹴りを放つ。

 

「奥義‼︎」

 

 ボーボボがサジタリウスとイザヨの間の割って入って、自分の鼻毛をつかんで鞭のように振り回す。

 ボーボボとイザヨがタッグを組んだ連携だったが、サジタリウスは一歩も引く様子を見せなかった。

 

「ボーボボとイザヨさんの本気の攻撃と渡り合ってる…! どうなるのこの戦い⁉︎」

「二人とも負けないで‼︎」

 

 好転しない戦況に、ビュティたちはハラハラしながら成り行きを見守る。

 仲間たちからの応援を受けながら、ボーボボとイザヨは同時にサジタリウスに攻撃を放った。

 

「奥義‼︎」

 

 とてつもない衝撃で後退した二人は、ふと違和感を覚えて下を向いた。

 敵と激突したボーボボの手には、サジタリウスの弓が握られていた。

 

「奥義――――⁉︎」

「ぎゃああああ⁉︎」

 

 思わぬ展開に、サジタリウスの真下にいた天の助が悲鳴を上げて踏み潰される。いつの間にか武器を奪われ、大変ご立腹の様子だった。

 

「奥義――――いっちゃえぇぇぇ!!!」

 

 オロオロと辺りを見渡していたボーボボは、あろうことかその弓を構え、自身の鼻毛を矢の代わりにして撃ち放ち始めたのだった。

 

「人の武器使っちゃった―――!!!!」

 

 敵の武器のため特に文句はなかったが、ほとんどためらいなく異形の武器を使い熟すボーボボにビュティのツッコミが響き渡る。

 ああいった武器は本人にしか使えなさそうなイメージがあったが、全くそんなそぶりは見せなかった。

 

「フン……無駄なあがきを。そんな武器で私を倒せるものか!!!」

「ごばぁ!!!」

「ボーボボ!」

 

 しかしサジタリウスは別段困った様子など見せず、普通に近づいてボーボボを殴り飛ばす。

 その際にちゃんと弓を弾き飛ばして奪い返している辺り、抜け目がなかった。

 

「ヤベェ‼︎ あいつ本当に強ぇぞ!!!」

「…こうなったら、とっておきのアレを出すしかないな」

 

 焦る天の助や田楽マンたちの前で、首領パッチが覚悟を決めた様子で呟く。

 そのセリフで何をするつもりか察したのか、ボーボボも頷いて首領パッチの元に歩み寄っっていった。

 

「行くぞお前ら‼︎」

「おう‼︎ 協力奥義―――」

 

 倒すべき標的サジタリウスを見据え、ボーボボたちは真剣な表情で身構える。

 いつもと異なる彼らの様子に、ビュティもゴクリと息を飲む、そして。

 

 ホンダラポーイのホゲホゲポー

 

 画風が崩壊するほどふざけた格好になったボーボボたちが、意味のわからない呪文を口にする。

 ヘッポコ丸らが思わずこけそうになる姿だったが、ビュティだけは戦慄の表情を浮かべていた。

 

「この技は確か…魚雷さんを呼んだ時の!!?」

「マジで!!?」

 

 いつだったか、ボボボーボ・ボーボボ内で最強と謳われた最恐キャラ、魚雷ガールが再登場したときのことが思い出される。

 すると途端に、どこからともなく地鳴りが聞こえてきていた。

 

 来るぞ…!

 来るぞ…‼︎

 魚雷ガールが…!!!

 

 誰もがその顔に恐怖をにじませ、小さく身を震わせる。

 緊張をあらわにする一同の脳裏に、裁判台に立たされる魚雷ガールの姿が思い浮かんでいた。

 

「何このイメージ!!?」

 

 思わずビュティが叫ぶが、もはや誰もかまっている余裕などない。

 全てを破壊しうる最強の登場を、今か今かと待たされることとなった。

 

「……………………さない」

「え?」

 

 が、その声は思ったよりも近くから聞こえてきた。先程から聞こえていた地鳴りも、そこを中心に響いていたようだった。

 その音源に立っていたのは、うつむいたまま肩を震わせ立っているメテオだった。

 

「おふざけは……許さない‼︎」

「メテオさん⁉︎」

 

 カッと上げられたメテオの目に、ギラリと危険な光が灯る。

 口をついて出たそのセリフに、ボーボボたちはゾクリと背筋を震わせた。

 

「なぜなら俺はメテオだから‼︎」

 

 聞き覚えのある言葉を叫んだメテオは、そのままボーボボとイザヨとサジタリウスに向かって跳躍し、青く輝く隕石の拳を連射し始めた。

 

 星心大輪拳!!!

「ほあたああああああ!!!」

「ぎゃあああああああ!!!!」

 

 凄まじい力を誇る拳をもろに受け、ボーボボたちはサジタリウスごと大きく吹っ飛ばされてしまう。

 メテオの突然の暴挙に、首領パッチたちはガタガタと震え上がっていた。

 

「ま、まさかあいつ………魚雷先生と同じボケ殺しの生き残りなのか!!?」

「ひぃいい……‼︎ 一人でもヤベーのにとんでもない奴を目覚めさせちまった〜!!!」」

 

 全てのおふざけを敵とみなし、殲滅する最強の種族ボケ殺し。

 なぜか魚雷ガールは登場しなかったが、もし成功していたら最強の存在が二人も現れていたかもしれない。

 縮こまるボケキャラたちに目もくれず、メテオは辛辣な目でサジタリウスを睨みつけた。

 

「全てのおふざけを俺は許さない!!! なぜなら俺はメテオだから!!!!」

 

 吠えるメテオの右腕の周囲に、土星や火星、木星がエネルギーの塊として出現し、回転を始める。

 小規模の銀河を右拳に纏い、メテオは再びボーボボたちに襲いかかった。

 

極悪斬血真拳奥義『銀河無双大戦FOREVER』!!!!

「ぎゃあああああああああああ!!?」 

 

 メテオを中心とした、強烈な惑星軌道の嵐が放たれる。

 ちょっとした宇宙戦争並みの被害をきたし、メテオはボーボボとイザヨ、首領パッチたちごとサジタリウスを滅多打ちにしてしまった。

 

「ボーボボたちも巻き込まれてる―――――!!!」

「やっぱ魚雷の血筋だやることがムチャクチャだ!!!」

 

 仲間であろうとともであろうと、問答無用でボケを殺しにいくメテオに、ビュティとヘッポコ丸が目を剥く。

 姿形は大きく違えど確かに魚雷ガールの同族で、よく今までボケに対して耐えてこられたなと素直に思ってしまった。

 

「く……まさかこれほどとは」

 

 サジタリウスも流石に焦りを見せ、大きく跳躍して距離を稼ぐ。

 何はともあれ、互角かそれ以上の力を持っていた敵がようやく隙を見せ始めていた。

 

「ハッ…‼ 僕は一体何を…」

「よしよくやった! あとは任せろ!」

 

 正気に戻り、辺りを見渡すメテオの後ろからボーボボが告げる。

 そして彼は巨大な戦車に乗り、猛スピードで走り出してサジタリウスに突撃して行った。

 

「鼻毛真拳奥義『突撃・隣のレオパルド』!!!!」

「ぐばはぁ!!?」

「これ完全にさっきの仕返しだ―――!!!」

 

 その途中でメテオも跳ね飛ばされている光景を目にし、あまりの心の狭さにビュティが愕然とする。

 一方でサジタリウスは、膝をつきながらボーボボたちを鋭く睨みつけていた。

 

「く……初めてですよ。この私がここまで追い詰められているなど‼︎」

 

 これほどまで見せていた、見下すような態度は徐々になくなってきている。ボーボボたちを確かな脅威として認識し始めたようだった。

 が、当の本人たちはそんなことなど露知らず、互いにメンチを切り合っていた。

 

「君さっきはよくもやってくれたなこの‼︎」

「ああ⁉︎ テメーにやられた分を返してやっただけだろうが!!!」

「自業自得だ隕石野郎!!!」

「何やってんのさみんな!!? 喧嘩してる場合じゃないでしょ!!?」

 

 メテオ一人をソフトンを除く全員が責めるが、メテオも負けじとうざったそうな視線で罵り返す。

 そんな彼らを見て、イザヨが大きくため息をついた。

 

Hopping On(ホッピング・オン)

「落ち着け」

「ぎゃあああ!!!」

 

 バネのおもちゃのような装備を使ったイザヨが、ものすごい跳躍によって諍い合うボーボボたちを踏み潰す。

 ペラペラになったボーボボたちを見下ろし、イザヨは腰に手を当てて厳しい声で告げた。

 

「誰か一人だけじゃアイツは倒せない。力を合わせなきゃどうにもならないぞ」

「チッ…仕方ねぇ」

「もう少し付き合ってやるよ」

 

 叱られたボーボボたちとメテオは、不機嫌そうにしながらも一理あるとして、渋々にらみ合いをやめてサジタリウスに視線を戻す。

 改めて戦いが始まりかけた時、どこからかか細い声が聞こえてきた。

 

「まだだ…まだ私はやられていないぞ……‼︎」



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奥義18:ばけものフレンズ

 聞こえてきた声に、ソフトンがハッと振り向く。

 目を向ければ、先ほど地に伏したと思われていたスコーピオンとキャンサーが膝をついているのが見えた。

 

「ヤツは…! まだ倒せていなかったか!」

 

 スコーピオンたちはボーボボたちを睨みつけ、ブルブルと拳を握りしめて怒りをあらわにしていた。

 

「クズどもが…‼ こんな所で、またしても敗北するなどぉ……!!!」

「ザコ助が――――‼︎」

「土下座して謝りな‼︎」

 

 這いつくばる二体に対し、首領パッチと天の助、田楽マンがここぞとばかりに煽り倒す。

 すると二体は、仁王立ちするサジタリウスの元にすがりついて行った。

 

「サジタリウス…‼︎ あなたの力を……我々にもう一度チャンスを…!!!」

「この屈辱…倍にして返さねば気が済まないんだよ!!!」

 

 恥も捨てて懇願するスコーピオンらを、サジタリウスはじっと見下ろし、やがてフンと鼻で笑って見せた。

 

「フフ…いいでしょう、受け取りなさい」

「ぐおおおおおおおおおおお!!!」

 

 足元に跪く二体の怪人に、サジタリウスは片手から星の光のような怪しい光を放ち、怪人たちの身に纏わせていく。

 その瞬間、怪人たちの様子が劇的に変わり、凄まじい威圧感を放つようになった。

 

「「超……新星‼︎」」

 

 二体の怪人たちは、みるみるうちに巨大化し、その外見を凶悪なものに変えていく。

 黒い奇妙な光を纏った二体は、ついには戦車並みの大きさを持つ蠍と蟹の化け物へと変貌した。

 

「「ゴメンナサイ」」

 

 調子に乗っていた首領パッチたちは、即座に三人並んで土下座の体勢に入る。

 が、怪物と化したスコーピオンとキャンサーはそんな三人をまとめて踏み潰し、理性を失ったように暴れ出し始めた。

 

「ぐおおおおおおおおおおお!!!!!」

「うわあああこいつらメチャクチャに暴れ出しやがった‼︎」

 

 慌てて押さえ込もうとしたボーボボたちだったが、暴走したスコーピオンたちの力は凄まじく止めることができない。

 手負いの獣と化した二体は、もはやまともな状態ではなかった。

 

「クソ! メチャクチャ強ぇぞこいつら‼︎」

「…………こうなったら、俺のマブダチの大先輩に応援に来てもらう他にないな‼︎」

「大先輩⁉︎」

 

 距離をとったイザヨがそう告げると、彼女はその場で大きく息を吸い込み始める。

 そして天に向かって、溜め込んだ息を一気に声に変換した。

 

「お―――い‼︎ アマゾン先輩――――――い‼︎」

 

 そこかしこで反射するほど凄まじい声が、あたり一帯に響き渡る。

 その声がしばらく反響し続けると、次の瞬間、青空のど真ん中でキラリと光が灯った。

 

「来た‼︎ アマゾン先輩だ‼︎」

「マジで⁉︎」

 

 かなり原始的な方法で、本当に有力な助っ人を呼ぶことができたのかとビュティが目を剥く。

 すると彼女たちの前に、上空から三つの人影が勢いよく降り立った。

 

 何処と無く機械的で野生的な印象を抱かせる外見の、(アルファ)(オメガ)(ネオ)の三体の怪物たちが。

 

「……ふしゅるるるる……‼︎」

「バイオレンスな方のARMOUR ZONE(アマゾン)だ―――――‼︎」

 

 元祖を超える凶悪さで有名な別世界の戦士たちの登場に、ビュティとヘッポコ丸が驚愕と恐怖で悲鳴をあげる。

 とても味方とは思えないビジュアルの三体に、イザヨは頼もしげに笑みを浮かべた。

 

「来てくれたなアマゾン先輩! さぁ、一緒に戦ってくれ‼︎」

「年代的には後輩だぞそいつら⁉︎」

Craw On(クロー・オン)】【Scissors On(シザース・オン)】【Chainsaw On(チェーンソー・オン)】【Spike On(スパイク・オン)

「いくぜ‼︎」

 

 天の助のツッコミも聞かなかったことにし、イザヨは両腕両足に武装を展開していく。

 特に殺傷能力の高い武器の数々を構え、イザヨは(アルファ)(オメガ)(ネオ)のアマゾンたちと並び立った。

 

コズミック真拳友情奥義『アマゾン・ハザード』!!!

「ぎゃあああああああああ!!!」

「子供に見せられないR15規制全開のエグすぎる奥義だ―――――!!!!」

 

 イザヨとアマゾンたちの操る刃が、スコーピオンたちの全身を切り刻んで大量の体液を撒き散らさせる。

 友情とは名ばかりの超残虐ファイトであった。

 

「イザヨに続け―――‼︎」

「よし! じゃあオレたちも……」

 

 イザヨ一人に目立たせまい、と一歩引いた所にいたボーボボたちも突撃を始める。

 同時に全員が、懐からカラフルな立方体の箱……ルービックキューブを取り出した。

 

「本能覚醒だ――――!!!」

 

 ルービックキューブをガシャンガシャンと回し、色を合わせると、たちまちボーボボたちにも変化が現れる。

 あっという間に、ボーボボたちは牙や爪で武装した異形の集団へと変貌してのけた。

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

「きゃああああああああ!!!!」

 

 かろうじてサングラスやトゲなどの面影が残るだけの異形たちの登場に、流石のビュティもドン引いて叫ぶ。

 ボーボボたちはそのまま、アマゾンたちに滅多斬りにされるスコーピオンたちの元に突っ込んで行った。

 

鼻毛真拳㊙︎奥義『ばけものフレンズ』!!!!

「もはやお前らは誰だ―――――!!?」

 

 そこはもう地獄であった。

 スコーピオンとキャンサーのハサミが引きちぎられ、叩き割られ、おびただしい量の体液があちこちに四散する。

 完全にボーボボたちの方が悪役のような光景が広がっていた。

 

「すっご〜い! キミは血祭りに上げるのが得意なフレンズなんだね♪」

「そんなフレンズ嫌だよ⁉︎」

 

 美少女アニメのような目になった首領パッチが、微妙に可愛くない声ではしゃぐとすぐにビュティが苦情を入れる。

 そうこうしている間にも、アマゾンとボーボボたちはザクザクぶちぶちと大暴れし続けていた。

 

「いっけー‼︎ やっちまえアマゾンズ‼︎」

 

 調子に乗った天の助が、戦いをサボって煽る声をあげる。

 すると唐突にアマゾンたちが動きを止め、三人ともギョロリと天の助の方に振り向いた。

 

「えっ⁉︎ 何する気⁉︎ 何する気⁉︎」

 

 天の助も異変に気付くが、その時にはすでに周りをぞろぞろと集まってきたアマゾンたちに囲まれてしまっていた。

 そして次の瞬間、怪人達の返り血で濡れた刃が天の助に襲いかかるのだった。

 

「ぎゃああああああああああ⁉︎」

 

 バラバラにされて悲鳴をあげる天の助だったが、やっぱり誰も助けようとはしない。ビュティやヘッポコ丸でさえ、自業自得だと呆れた目を向ける始末であった。

 

「トドメだ‼︎」

「オウ‼︎」

【LIMIT BREAK】

 

 まだ化け物のままのボーボボに向けてイザヨが告げ、ベルトのレバーをガコンと倒す。

 するとイザヨの四肢に備わった凶器が、光を放って一斉に切れ味を増し始めた。

 

 鼻毛コズミック超協力奥義『DIE SET DOWN(大切断)』!!!!

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」

 

 三体の獣と怪物の力を纏ったボーボボたちにより、スコーピオンとキャンサーは真っ二つにされて爆発四散してしまう。

 爆風に押されたサジタリウスは、忌々しげにボーボボたちを睨みつけた。

 

「くっ…まさか覚醒したあの二体を…⁉︎」

「よっしゃ―――デカブツ二匹倒したぞ!!!」

「今度こそテメーだけだ―――――!!!」

 

 厄介だった敵が倒されたことで、天の助と田楽マンがまたしても調子に乗り始める。

 それが気に障ったのか、サジタリウスは殺気を増しながら目を鋭くした。

 

「…いいでしょう、ホロスコープスの真の恐ろしさを教えてあげましょう。見なさい…私の『超新星』を」

「あっ! さっきのサソリとカニと同じだ、パワーアップする!!!」

 

 サジタリウスの掌の上に現れる星に似た輝きを見て、ビュティが焦りの声をあげる。

 比較的弱かった二体があれほど困難だったのに、サジタリウスが強化されて仕舞えば一体どれだけの脅威となるのだろうか。

 

「したきゃ勝手にしろ。どのみちテメーらはぶっ潰してこの先に進む」

 

 しかしボーボボもイザヨも、そして仲間たちの誰も狼狽する様子など見せなかった。

 勇ましく告げるボーボボの前で、サジタリウスは射手座の形に光を放ち、その身に纏った。

 

「超…………新星!!!!」

 

 サジタリウスの体にヒビが入り、内側から全く印象の異なる姿が現れる。

 真紅の体に黒い角を生やした、悪魔か宇宙人のような姿に変貌したサジタリウスは、とてつもない威圧感を放ちながらボーボボたちを見据えた。

 

「誇るがいい……君たちはこれから、決して私には勝てないのだという心理を目の当たりにできるのだから」

 

 ビリビリと大気が震えるような覇気が、ビュティたちに襲いかかる。

 しかしこの男たちは、一歩たりとも引こうとはしていなかった。

 

「フン。大したことねぇな」

「何ですと…⁉︎」

「テメーじゃしょせん本物には程遠いってこった」

 

 馬鹿にされ、怒りをオーラとして噴出させるサジタリウスに、ボーボボとイザヨは不敵な笑みを浮かべて、拳を鳴らした。

 

「ならば見せてやろう」

「鼻毛と宇宙の力、その真髄をな」




ファイヤーステイツのままで、右腕を他のモジュールには変えられないだろうとは思いますが、映画でコズミックステイツのままロケット使ってたんで使えることにしました(笑)。


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奥義19:究極のコンビネーション

「さぁ…始めましょうか。破壊と愉悦の狂乱を‼」

 

 両腕を掲げたサジタリウスが、手のひらの上にどす黒い光のエネルギーを収束させていく。

 それがボーボボたちに向けて放たれ、開戦の合図となった。

 

「へっ! そんな恰好になったところで、おれ達を越えられると思うなよ‼」

「うおおおおお出番よこせー!!!」

 

 ボーボボたちを待てず、早速突撃して行く首領パッチと天の助、田楽マン。

 案の定三人は、サジタリウスがおもむろに突き出したてから放たれた光に吹き飛ばされていった。

 

「ハァ‼︎」

「ぎゃああああああ!!!」

「あのバカどもは放っておくぞ」

「そうだね」

 

 黒焦げで吹き飛んでいく三人には微塵も構わず、ボーボボとイザヨはサジタリウスを見据えて構える。

 向こうの警戒も、最初からボーボボたちに固定されていた。

 

「一気に決めて、先へ進むぞ‼」

「おうよ!」

「行くぜ‼︎ 鼻毛真拳+コズミック真拳㊙︎合体奥義‼︎」

 

 叫ぶボーボボに合わせて、イザヨが鏡合わせとなるようにポーズをとる。

 そして大きく腕を回し、互いの指を合わせて決めポーズをとった。

 

「「マー、べラス!」」

 

 その瞬間、とてつもないエネルギーがボーボボとイザヨから放たれ、一つの形を作り上げて行く。

 ガラスの球体の中に、無数の丸い入れ物を内包したそれは、ズシンと大きな音を立てて地面に降り立った。

 

聖鼻毛召喚球箱(ボーボボ・ガチャポン)』!!!

「な………なんだこれは!!?」

 

 ビルにも相当する大きさのガチャポンが登場し、サジタリウスが驚愕の声をあげる。

 立ち尽くすサジタリウスに向けて、ボーボボが説明役を担った。

 

「こいつはダイヤルを回すたびに、手助けしてくれる味方が入ったカプセルが飛び出す奥義だ‼︎ 何が出るかは俺にもわからねぇ!!! 中身は自分で確かめやがれ!!!」

「なんて投げやりな奥義!!!」

 

 出てくるものが役に立つのか立たないのかもわからない、まさに運試し(ガチャ)の荒技にビュティが思わずツッコミを入れる。

 しかしやはりこの男は、ためらう様子もなく近寄っていった。

 

「わーい♪ 僕の番僕の番―♪」

 

 持ち主であるボーボボを差し置いて、あほ丸出しの子供の顔になった首領パッチがガチャポンに掴みかかる。

 巨大なダイヤルを全身を使って回すと、ゴロンとし首領パッチと同じぐらいの大きさのカプセルが転がり出た。

 

「やったー! レアガチャでたー‼」

 

 カプセルを開けた首領パッチが歓声をあげ、見せびらかすようにサジタリウスの方に向ける。

 するとカプセルは、目も開けられないほどの神々しい光を放ち始めた。

 

 薙ぎ払え!!! 銀河統一神ゼウス・ザ・コスモ降臨!!!!

 

 どこぞの決闘者(デュエリスト)の顔になった首領パッチにより、三面六手の巨大な武神がカプセルから飛び出した。

 龍の貌を持ち、三種の神器を持った武神は、サジタリウスに向けて凄まじい咆哮を放ってみせた。

 

「初っ端からスゴイのが出た―――――!!!」

 

 目を剥くビュティの目の前で、武神ゼウスは全ての手に武器を構え、サジタリウスに向けて無数の閃光の斬撃を放った。

 その光景はまさに、神々が人類に向けた裁きのごとき神々しさだった。

 

 人神淘汰(ゼウス・クルセイド)!!!!

「ぐわああああ!!? な、何だこの力は…!!?」

 

 強化したはずの自身が押されていることに、サジタリウスは信じられないといった様子だが、降り続ける斬撃の嵐を振りほどくことができずにいた。

 

「よし、次は俺だ!」

 

 威勢良くボーボボがダイヤルを回して、次なるカプセルを取り出す。

 その中には、ピンクを主張としたファンシーなデザインの、女の子向けアニメのキャラクターのコスチュームが入っていた。

 

「わぁ素敵♡ 魔法少女プリティ・ボボみん変身セットだわ♡」

 

 気色の悪い裏声で笑顔を浮かべたボーボボは、いそいそと用意されたカーテンの中に入って着替え始める。

 盗撮魔首領パッチの魔の手を逃れながら、ついにボーボボは変身した姿をお披露目した。

 

「変身完了よ♡」

「気持ち悪っ!!!?」

「いくわよー♡ ピピルマピピルマ―――」

 

 どう見ても女装に失敗したおっさんにしか見えず、仲間にまで多大な悪影響を及ぼすも知らぬ顔をし、ボーボボがステッキを振りかぶる。

 するとボーボボの周囲に闇が立ち込め、絶望した少女たちが変貌するという様々な姿の魔女たちが徘徊し始めた。

 

 きせきもまほうもあるんだよ

「ぐああああ!!?」

「夢も希望もね―――――!!!」

「僕と契約し……ごふっ!!?」

「知らない人が巻き込まれてる⁉ なんで!!?」

 

 ボボみんの命令に従った魔女たちが、一斉にサジタリウスに向けて攻撃を開始する。

 首領パッチの他に一匹奇妙な白い生物が巻き込まれていたが、誰も見覚えのない相手だったためにビュティ以外気にしなかった。

 

(俺ってホントバカ―――)

 

 ボロクソになった首領パッチが墜落し、サジタリウスもたまらず膝をつく。

 それを見て調子に乗った天の助が、いそいそとガチャポンの方へと駆け寄っていった。

 

「よっしゃー! 次は俺だー‼︎」

 

 勢いに乗るように、力強くダイヤルを回す。

 そして現れたのは、割れた盆栽と野球ボールを持った、お冠の様子のカミナリ親父だった。

 

「なにこれ⁉」

「またお前の仕業かあああああ!!!!」

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 

 特に何も悪いことはしていないはずなのに、天の助はカミナリ親父の募りに募った怒りの犠牲になってしまった。

 どさっと倒れた天の助を放置し、首領パッチはヘッポコ丸の背をグイグイと押し出した。

 

「ほらヘッポコ丸! 次はお前の番だぞ‼」

「え⁉ 俺もうこういうのは卒業して…」

「バカ! 空気読め!」

 

 促されるままに、ヘッポコ丸は渋々ダイヤルを回してカプセルを取り出す。

 その中から現れたのは、黒い毛並みに赤いほっぺが特徴的な、熊本県の超有名マスコットキャラクターだった。

 

「く○モン出てきた―――――!!!」

 

 予想外のキャラクターの登場に、ヘッポコ丸は思わずものすごく機敏に動く黒いクマを凝視してしまう。

 するとヘッポコ丸の前に、再び決闘者(デュエリスト)の格好になった首領パッチが歩み出た。

 

「よくそれを引き当てたな、ヘッポコ之内! 俺のターン‼」

「はあ⁉」

「俺はここで、先にあてたガチャの能力を発動! ガチャを五回回し、その中から一つをノーコストで召喚する!!!」

 

 カードの代わりにカプセルを持ったパチ戯が、く○モンに向けて中身を解放する。

 カプセルから解き放たれた鎧の一式が、意志を持つようにく○モンの体に纏われていった。

 

「マジックガチャ発動‼ 不屈の城主の鎧(アンブレイカブルチェイン)をく◯モンに装備!!!」

「これガチャポンって言うかTCG(トレーディング・カード・ゲーム)って言うか遊戯王じゃん!!!」

 

 突っ込むビュティを置き去りにし、く○モンは刀を抜いて天に向けて掲げる。

 するとく○モンの背後に光る靄が生じ、日本全国全ての地域の創造物たちが現れ、行列をなしていった。

 

ハジケ奥義『幻想偶像百鬼夜行(ご当地キャラシンポジウム)』!!!!

「ぐわああああ!!!」

「なんじゃこりゃ―――――!!?」

「ゆるキャラたちの国取り合戦だ――――!!! ガチャが当たっただけでとんでもない技が発動しちゃった!!!!」

 

 く○モンを神輿の上に担いだゆるキャラたちが、サジタリウスに向けて突撃し強烈なダメージを与える。

 血反吐を吐いて吹き飛ばされるサジタリウスだったが、地面を転がりながらそれを耐え切ってみせた。

 

「ぐぬあああああ‼︎ 効かん、効きませんよ―――!!!」

 

 凄まじいオーラを放つサジタリウスに、焦りが生じてしまう。

 相当な傷を負っているはずなのに、いったいいつになったら退くことができるのだろうか。

 

「だめだ、まだ倒れない‼」

「ならば、すべての力を結集するまでだ‼」

 

 ボーボボが勇ましく告げると、首領パッチたちも一緒になってガチャポンの向かって走る。

 そして全員で、ダイヤルを連続で回していった。

 

「オラオラオラ――――!!!」

「連コイン連コイン連コイン!!!」

 

 ガシャガシャガラガラと、何十何百ものカプセルが飛び出てくる。

 その全てが次の瞬間、光とともに解き放たれていった。

 

「我らが戦友たちとの絆‼︎ その身にしかと刻むがいい!!!」

 

 放たれた光が形を成し、やがていくつもの人影を生み出していく。

 あらゆる時代、あらゆる国で活躍してきた一発屋芸人たちが、一斉にサジタリウスに襲いかかっていった。

 

「アイーン!」「残念!」「欧米か!」「あまーい!」「パペットマペット!」「命!」「ゲッツ!」「チッチキチー!」「ワイルドだろぉ⁉︎」「そんなの関係ねぇ!」「コマネチ!」

 戦友(いちれんたくしょう)!!!!!

「ぐわああああああこれが笑いの人類史の重みかああああああ!!!!」

 

 猛烈な一発ギャグの連撃を受け、サジタリウスは全身をバキバキに砕かれながら宙を舞う。

 地面に墜落したサジタリウスは、直後に爆炎に包まれて今度こそ息の根を止められた。

 

「よっしゃあ‼︎ ついに全員ぶっ潰したぞォ!!!」

 

 勝利を喜び、雄叫びをあげる首領パッチたち。

 だが行く末を見守っていたソフトンは、険しい表情でボーボボたちに振り向いた。

 

「いかん! このままでは発射に間に合わんぞ!」

「ならばイザヨ、頼む‼」

「任せろ!」

Rocket On(ロケット・オン)】【Wheel On(ホイール・オン)】【Gyro On(ジャイロ・オン)

 

 ソフトンが全員を再びウンコカーに乗せ、その後ろにロケットとタイヤとプロペラを備えたイザヨがスタンバイする。

 すると次の瞬間、イザヨは渾身の力で自身を発射させた。

 

 コズミック真拳奥義『激情RUNNER』!!!!!

「うおおおおおおおおお!!!」

「速ぇええええ‼︎」

 

 ドンッ‼︎と猛烈な勢いで走り出すウンコカー。

 中にいる面々の悲鳴を無視しながら、イザヨは空港で待つ宇宙船の元へと急ぐのだった。



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奥義20:ぷるす・うるとら

「オラオラオラ―――走れ走れ―――!!! ヒャーッハッハッハ!!!」

「……」

 

 猛スピードでウンコカーを引っ張るイザヨに向けて、ボーボボが悪人面で鞭を振るう。

 何かが決定的に間違っている気がしたビュティだったが、言葉が何も思いつかなかった。

 

「でもこの速度なら間にあ……!」

 

 できるだけポジティブに考えようと、そらしていた目を戻して進む方向を見る。

 が、視界の端に見覚えのある足が見えて目を瞬かせた。

 

「ぎゃあああああ擦れる擦れる擦れてなくなる―――!!!」

「きゃああああ二人ともーーー!!?」

 

 ウンコカーに乗り損ねたらしい首領パッチと天の助が、悲鳴を上げてガリガリ引きずられていた。

 それに気づいたイザヨは、すぐさま左腕の装備を別のスイッチのものと交換した。

 

「二人とも―――‼ 今助けるぞ―――‼」

「ヤダヤダなんかいやな予感がする!!!」

「お前はもう何もするな!!!」

 

 即座にロクでもないことしかしないと直感し、首領パッチたちはイヤイヤと首を振る。

 しかしイザヨは構うことなく、二人にフック付きのワイヤーを巻きつけた。

 

「奥義『友情のウィンチアタック』!!!!」

「げぶらばぁ!!!!」

 

 イザヨはそのまま二人を、カツオの一本釣りのごとき勢いで投げ飛ばす。

 仲良く飛んで行った首領パッチたちは、前方で待機していた宇宙船の後部入り口に激突し大穴を開けてしまった。

 

「突入!!!!」

「ぶち破っちゃった!!!」

 

 できた大穴にウンコカーも突撃し、そのショックでバラバラになった車内から全員が吐き出された。

 甚大に被害をきたしながらも、イザヨはガッツポーズとともに立ち上がった。

 

「いくぜ、待ってろよ宇宙鉄人!!!」

「って後ろに大穴開いたままだよ⁉︎ このままだとみんな吹っ飛ばされちゃうよ‼︎」

「大丈夫だ。すでに塞いである」

 

 穴の空いた宇宙船になど乗ってられるか、と目を剥くビュティに向けて、大工の格好の田楽マンがサムズアップで答える。…その手に工作道具の一式を持ちながら。

 

「セロテープで!!!」

「おバカ――――!!!」

 

 下手くそな修理の後をさも自慢げに見せびらかす田楽マンに、ビュティはありえねぇとばかりに叫ぶ。

 すると田楽マンを踏み潰し、ボーボボが大穴の前に出た。

 

「ならばオレの出番だ! 鼻毛真拳奥義…!!!!」

 

 ボーボボが力を解放すると、無数の鼻毛が放たれて網を作り出す。

 複雑に絡み合った鼻毛は、やがて一枚の布のようになって穴を完全に塞いでしまった。

 

「すごい、穴を塞いだ!」

「これで一安心……ん?」

 

 思っていたのと異なり、ちゃんと真面目に非常事態を解決したことで、ビュティとヘッポコ丸は安堵のため息をつく。

 が、ふと鼻毛の壁の合間に見える、あるものに気づいた。

 

 鼻毛と一緒に壁の一部に組み込まれている、首領パッチの姿に。

 

 ―――組み込まれ

    組み込まれ

    組み込まれてる!!?

 

 ちょっとしたホラーな光景に、ビュティはものすごい表情で凍りつく。

 絶句する彼女に対し、ボーボボはやり切った感満載の笑顔で答えた。

 

「これぞ鼻毛真拳奥義『かさぶたパッチ』だ」

「やめてあげなよ⁉︎」

 

 首領パッチを血液中の赤血球のように扱う暴挙にたまらずビュティが講義の声を挙げる。

 が、本人からしてみれば非難は後回しにして欲しかったようだ。

 

「だれでもいいがらだずげでぐれええええええ!!!!」

「怖いよ‼︎」

 

 貞子のように黒い毛の中から顔を覗かせられ、ビュティは背筋にぞわぞわっと震えを走らせていた。

 

「しょーがねーなー。ほら首領パッチ、つかまれ」

 

 面倒臭そうに絡まった鼻毛を外してやろうと近づいて行く天の助。

 角ばったプルプルの手が、鼻毛をかきわけようとしたその時だった。

 

「ハハハハハ……‼︎ 逃げられると思ったか愚か者どもが!!!」

 

 ガッ‼︎と突然鼻毛の間から腕が飛び出し、天の助と首領パッチを捕まえてしまう。

 続いて毛の間から覗いた一つ目、リブラの目を間近で見てしまい、捕まった二人は一斉に悲鳴を上げた。

 

「ぎゃあああああああああああ!!??」

「くっ…まさかあれだけ食らってまだ…‼」

 

 十二体の怪人たちのうち、たった一体だけが爆散を逃れたのかと戦慄の声が上がる。

 しぶとく生き残ったリブラは、二人の体に手を回していつでも仕留められることを示した。

 

「決して逃しはしない……動いてはなりませんよ⁉︎ さもなくばこの男の命は」

「ヘルプ! へループ!」

「おのれええええええ‼︎」

「首領パッチいいいい‼︎」

 

 まともな戦法ではもはや勝てないと悟り、卑怯な手段に出たリブラをボーボボたちは鋭く睨みつける。

 人質を取られてはもう手出しできない、と思われたが。

 

「君の犠牲は忘れない!!!」

「ぎゃああああ!!!」

 

 ボーボボは一切ためらう様子も見せず、前に出された首領パッチごと鼻毛でリブラを叩きのめした。

 

「くっ…ならばこいつだ!」

「バカ! お前何見てたんだよ⁉︎ 殺される―――!!! ボーボボに殺される―――!!!」

 

 首領パッチでは盾にならないと諦めたリブラが天の助を前に突き出すが、この後の展開を知っている天の助は涙目で喚く。

 

「今助けるぞ―――!!!」

 

 ボーボボとは異なり、天の助を助けたいという善意100%のイザヨが、この窮地を乗り切るスイッチの力を発動させた。

 

Pen On(ペン・オン)

「コズミック真拳奥義『この先行き止まり』!!!」

「ぎゃああああお前助ける気ねぇだろおおおおおお!!!」

 

 イザヨの足に装着された巨大な筆が、空中に『止マレ』と字を書き、形を持ったそれが首領パッチと天の助もろともリブラを弾き飛ばした。

 

「そして」

 

 すると今度は、いつの間にかボーボボのアフロが開き、中にスタンバイさせられた田楽マンがギョッと目を見開く。

 

「田楽ショット―――!!!」

「ぐばべらっ!!?」

 

 ぼよーんとアフロの中でバネが弾け、中にいた田楽マンが弾丸として飛ばされる。

 田楽マンはリブラの土手っ腹に命中し、鼻毛の壁をぶち破って全員まとめて吹き飛ばしてしまった。

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

「みんな!!!!」

 

 あっという間に遠く離れていく仲間たちと敵。

 するとその間に、ボーボボたちの乗るロケットのブースターに火がつき、徐々に加速し始めた。

 

「ロケットが発射する! 急いで救出せねば‼︎」

「ボーボボ!」

 

 とてつもない馬力を誇るブースターは、どんどん速度を上げていってしまう。

 新幹線並みの速さを超えた段階で、ようやくボーボボが動いた。

 

「ならば鼻毛真拳奥義…」

 

 ボーボボの全身に、鼻毛真拳のエネルギーが集まっていく。

 そしてボーボボが手を前にかざすと、集まったエネルギーが一つの物質を作り出した。

 積み重ねられた、札束を。

 

「『Run for MONEY 爆走中』!!!!」

「金で走らせる気だ―――!!!! 無理だよ流石にこれは!!!」

 

 どこぞの番組のごとく、欲望をエネルギーに自力で戻ってこさせるつもりのボーボボにビュティがツッコミを入れる。

 だがその数秒後、ビュティの目に信じられない光景が映った。

 

「金よこせええええええええ!!!」

「おれのだ―――‼︎」

「俺の‼︎」

「根性で戻ってきた!!! でも醜い!!!」

 

 とんでもなく醜い形相で、首領パッチと天の助と田楽マンが全力疾走してきていた。

 努力は認めるが、動機があまりにも情けなくてかける言葉が見つからなかった。

 

「逃がさんぞぉぉぉ!!!」

「あ! 敵もまだ諦めてない‼︎」

 

 よだれを撒き散らして走ってくる首領パッチたちに、リブラはボーボボの鼻毛を掴んで追いすがっている。

 敵を自分達の手で招き入れてしまったように見えたが、ボーボボとイザヨはそれに意味深な笑みを浮かべた。

 

「フン、飛んで火に入る夏の虫とはこのこと……文字通り踏み台になってもらうぜ‼︎」

「なに!!?」

 

 驚愕するリブラの前で、ボーボボがくいっと自分に鼻毛を引っ張る。

 その途端、首領パッチに巻きつけられた鼻毛がひとりでに外れ、リブラを空中に放り出してしまった。

 

【LIMIT BREAK】

 

 慣性の法則でしばらく空中にとどまるリブラの前で、イザヨが拳を構えてベルトのレバーを倒す。

 凄まじい気迫がイザヨの右腕に収束し、イザヨはそれを一気にリブラに向けて撃ち放った。

 

 コズミック鼻毛真拳協力奥義『激情マッスルインパクト』!!!!!

 

「飛んでけ―――――!!!」

「こんな……ただの人間ごときにこの私がああああああ!!!!」

 

 イザヨの拳が、リブラの顔面に炸裂して衝撃を生み出す。

 強烈な一撃を受けたリブラは断末魔の叫びを残し、大爆発を起こした。

 

「しっかりつかまれ‼︎」

「うわああ!!!」

 

 イザヨが叫んだ直後、ボーボボたちをとてつもない衝撃が襲う。

 リブラが起こした爆発が、ロケットを押し出す新たな推進力となったのだ。

 さらなる加速を得たロケットは、一気に滑走路を滑って天に向かって一直線に飛翔した。

 

「宇宙に…キタ―――――!!!!」

 

 猛烈な轟音と爆煙を残し、人類の希望を乗せた方舟は遥か遠い空へと舞い上がったのだった。



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第三章 真・敵・降・臨
奥義21:さらば地球よ…


ウィルスの馬鹿野郎!!!


 漆黒の世界を、銀色の船が光の軌跡を描きながら進む。

 その中に集った、地球の命運を背負った戦士たちは、ようやく一旦肩の力を抜くことができた。

 

「な、何とかここまで来れたね……」

「ああ。でもロケットの中って、意外と窮屈なんだな」

 

 思わぬアクシデントに見舞われたが過ぎたことと割り切り、乗り込んだ乗り物の内部を見渡して、ヘッポコ丸が呟いた。

 外から見ると結構大きく思えたが、エンジンや耐久性を考えるとなかは狭くなってしまうらしい。

 

「いや……オレたちには十分な広さだ」

 

 だが、ボーボボは不敵な笑みを浮かべてそれを否定する。

 乗り合わせた仲間たち全員で、様々なスポーツ競技を競い合いながら。

 

「オリンピックを開くには!!!」

「いや無理だよ狭すぎるよ!!! ソフトンさんまで

 

 陸上やら卓球やら水泳やら、とにかく手当たり次第に手を出したような、全く統一感のない格好のボーボボたちがドタバタガシャーンと狭い船内で暴れまわる。

 常識人であるはずのソフトンまでもが参加しているのが地味にショックだった。

 

「第一の競技『田楽飛ばし』!!!」

「ぎゃあ‼」

「第二競技『メテオ投げ』!!!」

「ぐばっ!!?」

 

 そして案の定、競技とは言葉ばかりの仲間への過剰などつきあいに発展してしまい、収集がつかなくなっていく。早くもロケットが保つかどうか不安になるレベルだった。

 しかしやった側もやられた側も全く気にせず、日の丸の旗を振り回して大騒ぎするのだった。

 

「日本ガンバレ――――――!!!!」

「こんな応援絶対イヤだよ!!」

 

 ボロボロになりながらも、世界一を目指して戦う選手たちのために、2020と書かれた旗を振り回して叫ぶボーボボたち。

 しかしこんな応援ならば、正直選手たちも迷惑だろうとビュティは思った。

 

「気合いだ気合いだ気合いだ―――!!!」

「チョーキモチイ――――!!!」

「ぎゃあああああ!!?」

「古いよ‼」

「…ん?」

 

 調子に乗った首領パッチや田楽マンが、どこかで見たことのある格好ではしゃぎまくる中、ふと天の助が窓の外を見る。

 

「おい! あれを見ろ!」

 

 声を上げた彼に反応し、ボーボボたちも慌てて窓に張り付き、ロケットの前方に見える巨大な影に目を見張った。

 

「あれが衛星兵器『XVⅡ(エックスブイツー)』だ!!!」

 

 それは、まさに圧巻の光景だった。

 立方体に近い鉄の塊に、翼のようなソーラーパネルが大きく広がり、鈍色の輝きを反射している。

 その巨大さたるや、小さな惑星と見間違えたほどだ。

 

「で、でかい……あれが本当に衛星なのか……?」

「まるで一つの都市みたい………」

「えー、間もなくー、XVⅡ-、XVⅡでー、ございまーす」

 

 戦慄の表情で固まるビュティたちのそばで、なぜか車掌の格好になった首領パッチが放送でふざける。

 

「お降りの方はー、お忘れ物のー、ございませんよー、ご注意ー、くださ……」

 

 妙に間延びした声に加え、イラっとくるやる気のなさそうな顔で、首領パッチが放送を続けていたときだった。

 XVⅡの表面のあちこちに生えた機関銃がゆっくりと動き、ロケットに向けて無数の砲撃を開始したのだ。

 

「ぎゃああああああメチャクチャ撃ってきた―――――!!!!」

 

 とんでもない大きさと熱が一気にロケットに襲いかかり、ボーボボたちは悲鳴をあげて狼狽する。

 自動操縦のために回避できず、このままではいずれ撃墜されることは明らかだ。

 

「ヤロウ、どうしても俺たちを中に入れないつもりだな⁉」

「上等だ‼ なにがなんでも強行突破してやるぜ‼ 鼻毛真拳奥義―――」

 

 手厚い歓迎に、俄然やる気を出したボーボボが何やらロケットのスイッチを押す。

 すると、突如ロケットの前方に一門の砲台が展開し、弾を装填してすぐさま発射してみせた。

 

『迎撃☆バカミサイル発射』!!!!

「ボーボボてめ―――――!!!」

「案の定矢面に立たされた!!!」

 

 砲弾の代わりに発射された首領パッチが、涙目で叫びながらXVⅡに向かって飛ばされていく。

 向かってくる砲弾や宇宙空間に放り出される恐怖に苛まれながら、首領パッチはXVⅡを睨みつけた。

 

「うわああああちくしょおおおお!!! やったらあああああ!!!」

 

 覚悟を決めた首領パッチは、目前に迫る砲弾の雨に向けて拳を構える。

 一発でも食らえば即死もののそれに向けて、首領パッチは修羅の形相で渾身の拳を連続で放った。

 

『オヤビン・ヤケクソラッシュ』!!!

「パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!」

「スゲ――――‼ 全部撃ち落とした―――!!!」

 

 向かってくる砲弾のことごとくを、首領パッチの拳の連打が相殺していく。

 首領パッチに庇われる位置にあったロケットは、その間に一発も被弾することなく進むことができた。

 

「よし、このまま突っ込むぞ!」

「ぎゃああああ俺まだ外にいるんすけど――――!!!」

 

 いまが好機と、ボーボボがしれっとロケットのブースターを加速させてロケットを進める。

 命がけで頑張った首領パッチを顧みることなく、ロケットはXVⅡの一角に向かって猛スピードで突っ込んでいった。

 

「ダイナミックお邪魔します!!!!」

「ぎゃらぱああああああ!!!!」

 

 ボーボボたちを乗せたロケットは鋼鉄の壁を突き破り、思いっきり首領パッチを撥ね飛ばして突入を成功させる。

 だが勢いが強すぎたのか、内部の空間に入ったロケットはものすごい速さで地面を滑っていった。

 

「ヤバイ! 速度を殺しきれない! このままだと壁に激突するぞ‼︎」

「俺に任せろ!」

Aero On(エアロ・オン)

 

 焦るヘッポコ丸に、イザヨが左脚に吸引機のような装備を装着する。

 それを使い、大量の空気を吸い込ませると、イザヨはそれを天の助の口の中に突っ込んだ。

 

「コズミック真拳奥義『ライダーセルフエアクッション』!!!」

「ふごふごふご!!?」

 

 大量の空気を一気に吹き込まれ、天の助の体が風船のように膨れ上がっていく。

 発動した協力奥義はロケットの勢いを大きく削ぐことに成功したが、その代償はあまりに大きかった。

 

 パーン!!!

「ダメだった―――!!!」

 

 過剰な圧力が加わったせいで、哀れにも天の助は破裂してバラバラの破片になってしまう。

 仲間たちのあまりにも悲しい最期に、ボーボボとイザヨが号泣しながら思わず絶叫した。

 

「首領パッチぃぃ―――‼︎ 天の助ぇぇ―――‼︎」

「いったい誰にやられたんだ―――‼︎」

「「お前ら」」

 

 ボロボロになった二人は、いけしゃあしゃあと心配するボーボボたちに、ビュティが微妙な表情を浮かべる。

 するとボーボボとイザヨは、ボロ雑巾のようになってしまった首領パッチたちを思いっきりXVⅡの外に蹴り飛ばしてしまった。

 

「証拠隠滅‼︎」

「うわあああ二人とも―――!!!」

 

 懸命に頑張った二人が、文字通り宇宙の藻屑となってしまったことでビュティが悲鳴をあげる。

 が、それに対して首領パッチたちが全く気にしてない様子で反応を返した。

 

「何?」

「え? あれ⁉︎ じゃあさっきのは⁉︎」

 

 いま先ほど蹴り飛ばされていた当の本人たちが、逆に訝しげに見つめてくる光景に軽くめまいがする。

 そんなやりとりを横目に、ボーボボはロケットを降り、広がる闇の空間を鋭く見据えるのだった。

 

「とにかくこれで、XVⅡに突入できたぜ‼︎」

「いや突入ってこう言う意味で⁉︎」

 

 あまりに無茶苦茶な行動に、慣れたと自負していたビュティも流石に叫ばざるを得なかったのだった。




このネタを合わせたくて2020年に投稿しようって決めたのに…。
とにかくなるべく犠牲者が増えることのないよう気をつけつつ、早く事態が収束することを願います。


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奥義22:スゴイ・セカイ・ヤバイ!

 壁の残骸が散らばる中を、ボーボボ達は進んでいく。

 しかし歩けど歩けど、周囲の景色は殺風景な鉄の壁から変わることはなかった。

 

「衛星の中って初めて見たけど………やっぱり機械がたくさんなんだね」

「こいつをブッ壊すのは相当手間だぜ?」

「だから散々作戦を立ててきたんだろうが。ここまできたんならしっかり働け」

 

 あちこち見渡してみると、用途のよくわからない様々な機械がいくつも繋がっている。ボーボボ達では検討もつかない規模だ。

 

「そもそもよ、宇宙鉄人共は何者なんだよ。ナントカ連邦ってところで作られたのは知ってるけど、なんで裏切って人類抹殺しようとしてんだ?」

「どうやら……開発の途中の段階で自我が芽生え、暴走したらしい」

 

 疑問を投げかける天の助に、メテオが説明する。

 OSTOLegacyから聞いた情報は全員に伝えれたが、ちゃんと理解しているのはメンバーのうち半分だけだった。

 

「開発者はブリンク博士という科学者だったそうだが、覚醒した宇宙鉄人によって殺害されたらしく詳しい情報は手に入らなかった。ただ一つ言えるのは……奴らもまた、とてつもない力を有しているということだ」

「油断は禁物、ということか」

 

 ソフトンが噛みしめるように言うと、ビュティとヘッポコ丸も息を飲む。

 するとそのすぐ後ろで、天の助がところてんセットを手渡す練習を繰り返していた。

 

「よし‼︎ ならオレも気合い入れて頑張らないとな‼︎ お願いします‼︎ どうかこれでお願いします!!!」

「いきなりコビ売りの練習してる!!!」

「裏切りっていけないこと?」

「ダメに決まってるでしょ!!!」

 

 なぜか女装する田楽マンにもツッコむが、もはやいつものことであるためにそれ以上は何も言わない。

 そこで、全員が緊張していることを察し、ボーボボが全員に声をかけた。

 

「よし‼︎ 開戦の合図だ、恒例のアレやるぞ‼︎」

「え? アレって?」

 

 訝しげに振り向くビュティの前で、ボーボボは中腰になる。

 そしてビュティを除く全員が一斉に集まって、ボーボボとともにスクラムを組んだ。

 

「打倒宇宙鉄人!!!!」

「初めてやったよこんなの!!! 宇宙鉄人自体初対面だし」

 

 いつの間にかラグビー選手の格好になった彼らが、ONE TEAM(ワンチーム)の精神を高め合う。

 そしてボーボボが鼻毛を伸ばし、乗ってきたロケットに巻きつかせると、スイッチを押したイザヨにも鼻毛を結びつけた。

 

【Rocket On】

「いくぜオラ―――!!!」

 

 ロケットの武装を腕につけたイザヨが発進し、とんでもないスピードでXVⅡの内部を突き進む。

 が、爆走するロケットの後ろではとんでもないことになっていた。

 

「ぎゃああああああ特等席――――!!!」

「きゃあああいつも通り雑な扱いされてる――――!!!」 

 

 縄をくくりつけられた首領パッチと天の助、田楽マンがまたしても拷問のごとく引きずられていた。相変わらずの酷い対応である。

 

「首領パッチ――‼︎ 天の助――‼︎ 大丈夫か――⁉︎」

 

 流石にヘッポコ丸が三人の心配をし、大きな声で呼びかける。

 が、当の三人はなぜかファーストクラスの席についているかのような落ち着きぶりを見せていた。

 

「ほーら、おっぱいの時間でちゅよ〜♡」

「今日の記事は…と」

(またくつろいでる―――――!!?)

 

 それぞれ引きずられながら、優雅にコーヒーを飲みながら新聞を飲んだり子守をしたり、全く堪えている様子がなかった。

 そのうち、闇の中を突き進んでいたロケットの前方から光が差し込み始めた。

 

「見えてきたぞ! XVⅡのメインエリアだ‼︎」

 

 イザヨが叫ぶと、ロケットはついに眩しい光の下に飛び出す。

 そこに広がっていたのは、無数の巨大なビルのようなものが立ち並ぶ、近未来的な大空間だった。

 

「スゲ―――‼︎ 外から見てもむちゃくちゃデカかったけど、中もめっちゃ未来的な都市が広がってた―――!!!」

「ウッヒャ――楽しそうなとこだな――オラ、ワクワクしてきたぞ!」

 

 戦慄で目を大きく見開く天の助の横で、どこぞの戦闘民族の顔になった首領パッチが歓声をあげる。

 他の面々も同じかそれ以上に、XVⅡの内部に広がる異様な光景に目を奪われていた。

 

「あの都市みたいな場所って……?」

「おそらくは研究施設だ。アリシア連邦は最強の衛星兵器XVⅡという最も安全な場所で武器の研究・開発に取り組む気だったんだろう」

「胸くそ悪いぜ…‼︎」

 

 これほど巨大な施設ならば、相当強力な武器が作られたことだろう。それが戦争に使われようものなら、引き起こされる惨劇の凄まじさは想像もできない。

 だがそんな中、ビュティだけが違和感を抱いていた。

 

(それにしてはなんだろう……軍事施設っぽくないような)

 

 メテオを疑うつもりはなく、機械に詳しいわけでもない。

 しかしビュティにはなぜか、周囲の施設の数々が兵器開発などと言う悪意に満ちた代物には思えなかったのだ。

 ただ一人首を傾げていた、その時だった。

 

 ビーッ! ビーッ!

 

 その時、あたりにけたたましい警報音が鳴り響き、イザヨがとっさにロケットを逆噴射させて急停止した。

 

《侵入者、発見‼︎ 侵入者、発見‼︎》

《直チニ排除シマス‼︎》

「な、何⁉︎ 何なの⁉︎」

「こいつらは…XVⅡの警備システムか⁉︎」

 

 慌ててロケットの外に飛び出したすと、突如無数の丸い形状のロボット達が現れ、ボーボボ達を包囲する。

 赤くランプを点滅させるその姿は、明らかに友好的には見えなかった。

 

「オレに任せろ…」

「イザヨ…!」

 

 戦闘体制に入ろうとした仲間達を制し、イザヨが自信に満ちた表情で前に出る。

 イザヨはロボット達の前で膝をつき、慈愛に満ちた微笑みを見せながら手を差し出した。

 

「大丈夫……怖くない」

「ナウシカ⁉︎」

 

 ロボット相手に、母性で説得するつもりらしいスケバンに彼女以外がツッコミを入れる。

 案の定、ロボット達はイザヨに向けて、ガシャンッと一斉に銃口を突きつけた。

 

「怖くなおわあああああああ!!!」

「ぎゃああ何してんだテメー!!!」

「予想通りの結果が待ってた‼︎」

 

 とっさにイザヨが避けたために、ロボット達の放った銃弾が後ろにいた首領パッチ達に襲いかかる。

 ボーボボ達はすぐさまロケットを盾にし、苦々しい表情になった。

 

「くっ…! やはり一筋縄ではいかんか‼︎」

 

 あれだけ派手な登場をしたのだから、向こうも迎撃体制に入っていてもおかしくない。

 ハジケリスト達に忍べなど、最初から無理な注文だったのだ。

 

「ならば当初の作戦通り行くしかない‼︎ ソフトン!!!」

「わかった」

「ボーボボ‼︎」

 

 ボーボボに言われ、ソフトンはビュティを抱えて銃弾の雨の中を突っ切る。

 イザヨはそれをかばいながら、新たなスイッチを入れた。

 

「じゃあなお前ら‼︎ あとで合流だ‼︎」

Smoke On(スモーク・オン)

 

 イザヨの片足についた噴煙装置により、真っ白な煙があたりに蔓延し視界を遮る。ロボット達のセンサーにも有効だったようで、突然の自体に動きがピタリと止まった。

 

「じゃあ僕達も別の場所へ…」

「ウンコウンコー‼︎」

「お前たちには仕事がある…」

「「‼︎」」

 

 これ幸いと逃亡しようとした首領パッチと天の助は、後ろからがっしりと頭を掴まれて目を見開く。

 ボーボボは固まった二人を、思いっきりロボット達の方へと投げ飛ばした。

 

「囮だ――!!!」

「こんな役ばっかり―――――!!!!」

 

 あまりの理不尽さに絶叫する二人だが、ロボット達はそんな悲しみなど汲んではくれない。

 わざわざ姿を現した敵を、ロボットは総出で追いかけ始めた。

 

「ぎゃああああああ!!!」

「メチャクチャ来た―――!!!」

 

 悲鳴をあげながら逃げ回る二人は、囮にふさわしい働きを見せる。

 そんな二人にさっさと背を向け、ボーボボはともについてきたヘッポコ丸に向き直った。

 

「あっちはバカどもに任せて、先へ行くぞ」

「はい!」

 

 仲間に対してひどくドライな作戦にツッコミを入れないあたり、常識人であるはずの彼もかなり染まりつつあった。



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奥義23:ミッション・イン・ハジケッシブル

 縦横無尽に無数に広がる、金属で覆われた通路。

 それを滑るように過ぎ去っていく丸いロボット達を、ヘッポコ丸とメテオは影から覗いていた。

 

「すごい数の警備ロボットだ…」

「さっきの突入で警戒度が上がったんだろう。慎重に行かねば」

 

 もっと静かに潜入できていればと思うが、もはや後の祭り。

 せめてこれ以上騒ぎが大きくなり、動きづらくならなければいいと願わずにはいられなかった。

 

(ボーボボさんや首領パッチ達、見つかってないだろうな…)

 

 しかし、別行動している彼らのことを考えると、淡い希望でしかなかった。

 

 

 ヘッポコ丸の懸念通り、バカ達が真面目に行動できるわけがなかった。

 本人達は至って真面目なつもりだが、内なる衝動がふざけざるをえないという、厄介な性質を持っていた。

 

「先輩、本当にバレてないんですか?」

「バカ、オレ達はスパイよ。バレてねーよ」

 

 なぜかウサギとリスの着ぐるみを着た首領パッチと天の助が、警備ロボットが行き交う中を恐る恐る進む。

 何を忍んでいるつもりか、それぞれの額には「すぱい」と書かれていた。

 

「でも、みんなに見られてる気が…」

「気のせいよ気のせい。もし見つかったとしても、『いえ、自分スパイですから』これでオールOKよ」

「さすが先輩」

「潜入なんて楽勝よ」

 

 やや不安げな天の助に対し、首領パッチは能天気に笑いながら進む。その通路を進んでいた全てのロボット達が見つめていることにも気づかずに。

 

《侵入者発見‼︎ 侵入者発見‼︎》

《排除シマス‼︎ 排除シマス‼︎》

「見つかった!!?」

 

 あっという間にロボット達が周りを取り囲み、首領パッチ達は信じられないと言った様子で目を剥く。

 無数のロボットアームで拘束された二人は、悔しそうに眉間にしわを寄せる。

 

「くっ、こうなったら…自分スッパイですから!!!! スッパイですからーー!!!!」

 

 天の助へのアドバイスを実行し、首領パッチがお酢とレモンを両手に叫びまくる。

 ギョッと目を見開いた天の助は、頭をぱかっと開いて噴水を噴き出させた。

 

 アナタはスッパくなーーい

 

 もはや何をどうしたいのかもわからないカオスが広がる。

 しかしそこにいるのは心なきロボット達ばかりで、なんとも言えない無意味な時間が過ぎ去っていった。

 

「スッパイですからー‼︎」

 

 騒がしい二人をよそに、包囲に加わっていない一台の警備ロボットが通路を横切る。

 何者かの物音を察知したその機体が、原因を確かめるべく扉をスライドさせる、すると。

 

「ほんっとムカつくのよあの変態教師!!?」

「今日もすっごい視線感じて気分最悪だったわ!!!」

「ぶ―――」

 

 なぜかJKの格好に着替えるボーボボとイザヨが、見知らぬ豚鼻の男とともに愚痴りまくっていた。

 おっさんと女性が一緒の部屋にいるというのに、なぜか微塵もいやらしさを感じなかった。

 

「ジロジロ私たちの方を見るだけじゃなくて、最近じゃベタベタ体まで触ってくるのよ!!?」

「しかもアイツなんかくっさいのよ‼︎ いいところなんて何にもないわ‼︎」

「訴えるブー! 訴えてやるブー‼︎」

 

 徐々に会話はヒートアップし、それに乗っかった豚鼻の男が怒りをあらわにする。

 ふとボーボボとイザヨが、名も知らぬその男に急に真顔を向けた。

 

「「ところでお前、誰?」」

「それだけは言えないブー」

 

 謎多き存在ブータンは、それ以降も決して自分の正体について語ろうとはしなかった。

 異様な格好の侵入者二人+一匹を、警備ロボットは決して見逃さなかった。

 

《侵入者、ハッケ……》

「やだ先生!!? 見てたの!!?」

《⁉︎》

 

 しかし、すぐさま他のロボットに知らせようとする直前、ハッと顔色を変えたボーボボとイザヨが声を上げる。

 一瞬フリーズしたロボットに向けて、イザヨが音もなく強烈な回し蹴りを撃ち放っていた。

 

「痴漢は死ね!!!!」

《ガガガピ―――!!!》

 

 警備ロボットはたまらず大破し、仲間に窮地を知らせることもできずに爆散してしまった。

 

「や〜んもうサイアク〜!」

 

 気色の悪い声と仕草で、ボーボボとイザヨが部屋を飛び出し駆け出していく。

 二人が向かう先には、無数の警備ロボットに組みつかれる、JKの格好の首領パッチ達の姿があった。

 

「スッパイですからスッパイですから‼︎」

「スッパくなーい!」

「鼻毛真拳奥義〜!」

「コズミック真拳奥義〜!」

 

 内股で走りながらボーボボは鼻毛を、イザヨはコズミックエナジーをみなぎらせ、警備ロボットに突撃していく。

 

 綺麗なバラには棘がある♡

 

《ガガゴガギギピ―――――!!!》

 

 思わぬ攻撃により、その場にいた警備ロボット達はことごとく破壊され、残骸があちこちに散らばることとなる。

 それを踏みつけにし、いつの間にか普段の姿に戻ったボーボボ達は吐き捨てるように告げるのだった。

 

「なめんなよ、鉄クズども」

「ゴキュ」

 

 自分の知らない世界を目の当たりにしてしまったブータンが、思わず息を呑みながら立ち尽くす。

 その日の夜、ブータンは興奮して眠れなかったという…。

 

 

 どこか遠いところから、何かが壊れる音や爆発音が聞こえてくる。

 原因に心当たりしかないビュティは、ついついため息をこぼしてしまうのだった。

 

「……案の定、あいつら大人しくできなかったみたいだな」

「でもいい具合に囮になってくれてるみたいだね」

 

 ソフトンが呆れたように視線をあげるのを見て、ビュティはせめてポジティブになろうと笑みを浮かべる。

 ボーボボ達に任せられた任務は、半ば成功しているようなものだった。

 

「この隙にコンピュータに爆弾を仕掛けて、あとは時間がくれば爆発してXVⅡを止めてくれる。これで間違いないよね?」

「楽勝じゃんか! じゃあ今のうちに打ち上げの用意しようぜ」

「早いよ‼︎ まだ設置も終わってないんだよ!!?」

 

 ロケットに積まれていた爆弾をセットしながら、さっさとシートを敷いて酒をビンを持ち出す田楽マンにツッコミを入れる。

 不意にビュティは、周囲を警戒していたソフトンが虚空を見つめていることに気づいた。

 

「……どうしたの?」

「いや…ちょっと胸騒ぎがしてな。このままあいつらの指示に従っていていいのかと」

「それって……あの人たちが嘘をついてるかもしれないってこと?」

「…あくまでオレの勘だがな」

「考えすぎだろ〜いいからお前らさっさと酒つげよ」

「もう祝勝気分になってる!!!」

 

 すでにほろ酔いになっている田楽マンは放っておいて、ソフトンの言うことにも一理あると、ビュティは手を止めて考え込んでいた。

 その時、ソフトンの勘が何者かの接近を伝えてきた。

 

「! 誰か来たぞ」

 

 ソフトンは眉間にしわを寄せ、ビュティをかばうように身構える。

 一瞬で酔いが覚めた田楽マンがビュティの背に隠れた時、それらはついに姿を現した。

 

「お前は……インガ‼︎」

 

 ソフトンは目の前に現れた二人組に驚きの声をあげる。

 妖艶な美女と黒い鋼鉄の騎士、幾度もボーボボ達の邪魔をしてきた二人が、またしても立ちはだかってきたのだから。

 

「やはり邪魔をするか……ならば手加減はできんぞ!」

「待ちなさい‼」

 

 戦闘体制に入りかけたソフトンは、あろうことかインガの声によって制止される。

 構えたままだったソフトンは、向かってくる様子がないインガ達を凝視し、少しだけ構えを解いていた。

 

「………あなた達、マルハーゲ帝国と戦ってきたのよね。だったらなんで…あいつらの言うこと聞いてるのよ…!!?」

「え…?」

「どういうことだ…?」

 

 訝しげに眉を寄せるビュティとソフトンに、インガは真剣な表情で告げる。

 この事件に隠された真実を、そして隠されていたおそるべき計画を。

 

「このままじゃ地球は、あなた達の手によって滅びることになるわよ!!!」



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奥義24:戦い方改革

 長い長い、今度は細い通路をひたすらに歩く。

 気づけばそれまで追いかけてきていたロボット達の姿も見えなくなり、静かな時間が流れていた。

 

「とりあえず、向かってくるロボは全部片づいたな」

「油断すんなよ。どっから次の敵が現れるかわかったもんじゃねぇ」

 

 紆余曲折ありながら、結局合流してしまったボーボボ達。

 ビュティとソフトンが役目を終えるための囮になったはいいが、向かってくる敵がいなくなり、かなり暇を持て余すこととなった。

 

「ていうかそもそもよ、おれたちはどこにけばいいんだよ」

「安心しろお前ら……」

 

 どこまでも続く通路をひたすら歩き、文句を垂れる首領パッチにボーボボはニヒルに笑い、くいっとある方を指で示した。。

 

「ここにこんなに立派な地図がある!」

「おお! ありがたい!」

「これで迷わずにすむぜー‼︎」

「怪しすぎるでしょ!!?」

 

 道の途中にデカデカと取り付けられている見取り図に、歓喜するボーボボ達とは真逆にヘッポコ丸が目を剥いて叫ぶ。

 一体どう言う思考なら、敵が親切に道案内してくれると思うのか。

 

「どう見ても罠ですよボーボボさん‼︎」

「わかっちゃいないなヘッポコ丸……こんな敵陣のど真ん中に地図を置くバカがいるわけなどないことなど、オレ達にもわかっている…」

 

 本気でバカ達の頭を心配するヘッポコ丸に、ボーボボはくいっとサングラスを押し上げて嘆息する。

 まるで考えの足らない子供を諌めるような声に、ヘッポコ丸は思わず息を飲んでいた。

 

「よく考えろ。自分がもし敵の立場だったなら、見られたくないものは相手にどう伝える?」

「はっ…!」

「オレ達はすでに、XVⅡのメインコンピュータの位置を割り出している……気をぬくなと言ったはずだぞ」

 

 咎めるようなボーボボのセリフに、彼の意図を理解したヘッポコ丸が自身を恥じて口をつぐんだ。

 

(その通りだ…! あえて敵の策略に乗ることで、敵の情報の全てを入手する…! 正直ツッコミがオレ一人になってたから不安だったけど、これなら安心だ)

 

 何をするかわからないバカが3人と、クールに見せかけて実はボケ役のメテオ。

 こんな面子に不安を抱いていたが、決めつけてはいけなかったのだとヘッポコ丸は彼らの評価を改めた。

 

「行くぞ、お前ら‼︎」

「はい‼︎」

 

 案内図を確認したボーボボの合図で、戦士達は一斉に走り出す。

 完全に道のりを覚えた彼らは、蜘蛛の巣のように入り組んだ道を、まるで上から覗いているかのような正確さで突き進んで行った。

 そして、通路の先にまばゆい光が見えた瞬間。

 

「海開きじゃあああああああ!!!」

「わーーーいプールだーー♪!!!」

 

 一瞬で水着に着替え、その先にあった巨大な水の中に一斉に飛び込んでいった。

 先ほどの緊張感は、すでに幻のように消え去っていた。

 

「遊ぶ気満々じゃないっすか!!! ていうか何で衛星の中にプールが⁉︎」

 

 せっかく格好よかったのに、自分で台無しにしてしまったことにヘッポコ丸は激しいショックを受ける。

 その隣で、女物の水着を着た首領パッチがキラリと目を光らせた。

 

「ついに来たわね、この日が…」

 

 固い決意を目に宿し、首領パッチは巨大プールを鋭く見据える。

 思い返されるのは、彼がかつて体験した苦い記憶……真冬の雪山で買ったばかりの水着をお披露目した時だった。

 

「うう…寒い…すごく寒いわ…どうやら私…夏、さきどりしすぎたみたいね…」

 

 周りを厚着したスキーヤー達が滑り降りていく中、首領パッチは悩殺ポーズをとったままガチガチと震える。

 痛々しい姿の彼の隣を、スキーヤー達は見向きもせずに通り過ぎていった。

 

「今年の夏こそカッコイイ男にナンパされて、絶対に彼氏を作ってみせるわ…」

 

 大きな失敗と恥を覚えた首領パッチは、その悔しさをバネにこれまでを生きてきた。

 全ては、モテるために。女として輝くために。

 

「さぁ‼︎ どっからでもかかってきなさいイケメン水着男子!!!」

 

 もはや戦士のような凄まじい形相と化した首領パッチが、自分の魅力に惹かれた男を探して目を血走らせる。

 しかしそんな彼に、突如飛びかかる白い影があった。

 

「このバカ野郎!!!!」

「もるすぁ!!?」

 

 いきなり横から遠慮なしの飛び蹴りをくらい、首領パッチは血反吐を吐きながら吹っ飛ばされる。

 ダンっと仁王立ちしたイザヨは、ビクンビクンと痙攣する首領パッチに向けて大きく声を張り上げた。

 

「水に入るのはまず先に準備体操してからだろうが!!!」

「えぇ⁉︎ そっち⁉︎」

 

 てっきりふざけまくっていることへのツッコミと思ったのに、全く見当違いの叫びをあげるイザヨ。

 そんな彼らに、ヘッポコ丸は完全に白けた様子で冷めた声をかけた。

 

「真面目にやってください」

「えー」

「かたいこというなよー」

 

 定期的にボケていないと気が済まないのか、コントの邪魔をされたボーボボ達が不満の声をあげる。その中にメテオまで混ざっているのだから救いようがなかった。

 

「とにかくさっさと先を急がないと…」

 

 使命感で厳しい表情を見せるヘッポコ丸が、ボーボボ達を促そうとしたときだった。

 またしても、あたりにけたたましい警報音が鳴り響き始めた。

 

《侵入者発見、侵入者発見。コレヨリ自動排除こまんどヲ発令シマス》

 

 そんな電子音声が聞こえてくると、突如ボーボボ達が入っていたプールの水が割れ、中から巨大なカプセルのようなものが三つせり出してきた。

 カプセルは勢いよく蒸気を放ち、左右に割れて何か人影のようなものを吐き出そうとしていた。

 

《破損シタ警備ろぼっとノ被害報告ニ基ヅキ、第一級せきゅりてぃしすてむ『ぎんがおー』オヨビ『さどんだす』ヲ解凍シマス。危険デスノデ、施設内ニイル職員ハ速ヤカニ避難シテクダサイ》

「セキュリティシステムだと⁉︎」

「こっちが本命か! どうりで手応えない奴らだと思ったぜ!」

 

 この場所は、プールなどではなかった。

 侵入者を全力で排除する強力な兵器を封印する、冷却装置のための設備だったのだ。

 しかし首領パッチ達は、ようやく暴れられるとよりやる気を漲らせ始めていた。

 

「グオオオオオオオオオオ!!!」

「ダースダスダスダスダス!!!」

 

 まずは左右のカプセルが開き、ドラゴンのような二足歩行の怪物が目覚めの咆哮をあげる。

 その姿を目にしたイザヨは、驚きで大きく目を見開いていた。

 

「あいつらはサドンダス…‼︎ 昔戦ったことがある、改造生物兵器じゃねぇか!!! しかも…真ん中のやつは…‼︎」

 

 続いてイザヨが、サドンダス達の間のもう一つのカプセルを凝視する。

 カプセルが完全に開かれると、中にいた人型の異形はぎらりと目を光らせ、イザヨ達を鋭く見据えた。

 

『……侵入者ヲ探知。コレヨリ排除活動ヲ開始シマス』

 

 抑揚のない、機械のような声で異形がつぶやく。

 するとその直後、異形はごきりと首を鳴らし、大量の煙を吐きながらいらだたしげに両手の拳を握りしめた。

 

『ククク……この超銀河王を駒扱いするとは生意気な兵器め…‼︎ この借りはいずれ何倍にも変えて返してくれる!!! なぁ、イザヨ!!!』

「やつを知っているのか、イザヨ⁉︎」

「あいつも昔倒した敵だ。まさかサイボーグとして蘇っていようとはな…」

 

 はっきりとした敵意を向けられたイザヨは、険しい表情で超銀河王と名乗る怪物を睨みつける。

 その態度から、かつて彼女も相当苦戦させられた相手なのだと、ボーボボ達も察することができた。

 

『しかしまずは……散々邪魔をしてくれたイザヨ!!! 貴様から排除するとしようか…!!!』

「上等だ‼︎ かかってきやがれ!!!」

 

 真正面から宣戦布告する超銀河王に、ボーボボ達は不敵な笑みを返すことで応える。

 目の前に立ちはだかると言うのなら、そのことごとくを踏み潰して行くまでだった。

 

「タイマンはらしてもらうぜ!」

「俺の運命(さだめ)は、俺が決める!」



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奥義25:Let’s P.A.R.T.Y

『たかが人間ごときが……この超銀河王に勝てると思っているのか!!!』

「バカが‼︎ このオレを差し置いて王なんて名乗ってんじゃねぇ!!!」

「もしもしピザ屋か。MIXピザ1つ!!! チーズ、多めで頼む」

 

 凄まじい覇気を放ちながら、ボーボボと超銀河王が睨み合う。

 すぐそばで首領パッチが電話をかけているのも無視し、それぞれで全身に力をみなぎらせていった。

 

『ならば見せてやろう。王の力をな!』

 

 超銀河王の両目が赤く輝き、力が目に見えるオーラとなってあたりに広がる。

 しかし危険な予感をもたらされながらも、ボーボボたちは一歩も引こうとはしなかった。

 

「かかってこいやぁ!!!」

 

 威勢良く首領パッチが吠えた直後、超銀河王の姿が突如消失する。

 それを理解するよりも先に、ボーボボたちは謎の衝撃を受けて大きく吹き飛ばされた。

 

「ごばぁ!!?」

「なに⁉︎ ぐわああああ!!!」

 

 何が起こっているのかもわからないまま、ボーボボと首領パッチたちは血反吐を吐いて地面を転がる。

 イザヨは忌々しげに顔を歪めると、体を起こして超銀河王を睨みつけた。

 

「ボーボボさん! イザヨさん!」

「くっそ…時間停止能力は健在かよ!」

「厄介な能力持ちのようだな!」

 

 とてつもない速さかと思えば、時間を止めて攻撃してきたのだと聞かされてボーボボは眉間にシワを寄せる。

 イザヨは少し考えると、新たなスイッチを取り出して立ち上がった。

 

「ならこっちも搦め手で行くぜ!」

Net on(ネット・オン)

 

 イザヨの片足にピンク色の網が装着され、イザヨはそれを携えて走り出す。

 その後を、麦わら帽と虫かごを持った田舎の子供の格好になったボーボボが続いた。

 

「虫捕りじゃああああ!!!」

「奥義『純情夏休みボーイズ』!!!」

 

 能力を使われる前に捕らえるつもりか、別々の方向からボーボボとイザヨが突撃していく。

 だがそんな二人の前に、左右から巨大な異形が口を開けて襲いかかった。

 

 爆竜砲!!!

「ごべらあああ!!?」

 

 とんでもない威力の火炎に包まれ、ボーボボたちは火だるまになって地面を転がる。

 黒焦げになったボーボボたちを見下ろし、超銀河王は見下すように笑みをこぼした。

 

『銀河の王たるこの私に……死角などあるはずがないだろう?』

「ヤベェ…こいつら強ぇぞ!!!」

「あれ? 天の助は?」

 

 首領パッチが慌てる中、ヘッポコ丸は仲間が一人見当たらなくなっていることに気づく。

 見れば、いつの間にか天の助が超銀河王の元に擦り寄り、肩を揉んで媚を売っていた。

 

「さすが銀河王様♪ もはや奴らなど敵ではありませんな!」

「早速寝返ってる!!!」

『邪魔だ下等生物が!!!』

「あばあ!!?」

 

 しかし超銀河王には微塵も通じず、鬱陶しそうに振るわれた腕で粉々にされる。自業自得だがあまりにも哀れだった。

 

「ボボ兄‼︎ やつは時間をかけると自分の能力を進化させる‼︎ 短時間で決着をつける必要があるぞ‼︎」

「そうか…ならばこちらも高速での戦闘が必要だな」

 

 やや焦りを見せるイザヨに、ボーボボは険しい表情で何かを考え込む。何か策があるような反応だった。

 

『フン…! 貴様ごときが私に追いつくことなど不可能だ‼︎』

 

 超銀河王は、自分よりも劣る存在が策を講じようとする姿が滑稽に見えるらしく、見下した態度を崩そうともしない。

 その姿に、ボーボボは怒りでサングラスをギラリと輝かせて顔をあげた。

 

「やってみなきゃわかんねーだろ――――が!!!」

「うわああああなんだこの乗り物!!?」

 

 頭以外が奇妙な形の車になったボーボボを前にし、ヘッポコ丸が絶叫する。

 するとボーボボは、後ろに搭載されたブースターを起動させ、見た目に似合わぬ超高速移動を成し遂げてみせた。

 

「鼻毛真拳超速奥義『ボクセルワールド』!!!!」

 

 音速さえも超えたボーボボが、空間の中を縦横無尽に走り回る。

 もう目でも負えないほどに加速する彼を、やはり超銀河王は見下した目で見やっていた。

 

『バカめ…! その程度の加速で私に追いつけるわけがあるか!』

 

 さっさと片付けてしまおう、と時間を止める能力を行使しようと手を伸ばした時だった。

 

「ゴキブリ駆除ザマス――――!!!!」

『ぐわあああああああ!!!!』

 

 なぜかマダムの格好になったボーボボが放った、無数のゴキブリホイホイの雨により超銀河王の体は押しつぶされる。

 突然のことに、能力を使う暇さえなかったようだ。

 

「それほど自由には使えないみたいだな」

 

 イザヨが気づき、作戦を考え込みながら呟くと、ゴキブリホイホイの山の中から這い出した超銀河王が膝をつく。

 そして突如、不気味に笑い始めた。

 

『クッ…フフフ…! この程度か。人間よ、私が言ったことを忘れてはいまいな』

「MIXピザのことか―――!!!!」

『ぐおっ!!!』

 

 戦いの主導を握る不穏な雰囲気を醸し出そうとしていたが、いきなり背後からバイクに乗った首領パッチに吹っ飛ばされそれも叶わない。

 流れを遠慮なくぶった切った首領パッチは、勝手に一人二役でコントを始めた。

 

「すいません奥さん遅くなって‼︎ いいのよ‼︎ てっきり忘れちゃったのかと思ってたわ!」

「消えろゴミが!!!」

「ぎょえー!!!」

 

 話のオチにも届かず、首領パッチは激昂した超銀河王によって殴り飛ばされる。

 しかしそれは、超銀河王に致命的な隙を作らせていた。

 

「今だ‼︎ 星心大輪拳奥義『流星連弾』!!!」

『ぐあああああ!!!』

 

 メテオの放った、青く燃える隕石のような連撃により、超銀河王はうめき声をあげて後退させられる。

 地面を滑り、見下していたはずの超銀河王はボーボボたちを凝視し始めた。

 

『ば…バカな! この私が……再び下等生物ごときに一方的に…!!?」

 

 思わぬ反撃を受け続けることに、超銀河王は驚愕を隠しきれない。

 主人の窮地を救おうと、サドンダスたちがボーボボ達に迫るが、その前に新たなスイッチを用意したイザヨが立ちはだかった。

 

「ゴアアアアアアアア!!!」

「テメェの相手はこっちだ‼︎」

Screw On(スクリュー・オン)

「いくぜ、首領パッチ‼︎ 天の助‼︎」

「え!!? オレ達も!!?」

 

 左足にスクリューを装着したイザヨが、首領パッチと天の助をつかんで水中に飛び込む。

 そして水中から、サドンダスの片割れを狙って首領パッチ達を蹴り飛ばした。

 

「コズミック真剣奥義『ぐらんぶるぅいんぱくと』!!!」

「ぎゃあああああとばっちり――!!!!」

「グギャアアアア!!!」

 

 魚雷のように発射された二人は、異形の腹に激突して吹っ飛ばす。

 龍のような巨体が血を吐いて宙を舞うと、それを目の当たりにしたもう一体の目に怒りの火が灯った。

 

「ダスダス‼︎ 兄弟の仇ダス‼︎」

「てめーにはこれだ‼︎」

【Rocket s•s•s•super】

 

 ざばっと水中から飛び出したイザヨは、また新たなスイッチをベルトに取り付けて発動させる。

 その直後、イザヨの全身をオレンジ色の光が覆い、その姿をあっという間に変えさせた。

 

【Rocket On】

 

 全身がオレンジ色に染まり、両目が青く輝く。

 そして両手に備わったロケット型の装備が、猛烈な火炎を吐いてイザヨを急速に加速させた。

 

「コズミック真拳超超奥義『ライダーきりもみクラッシャー』!!!!」

「ダスゥゥゥ―――!!!!」

 

 ロケットの加速に加え、自らがドリルのように回転することで生み出された破壊力が、サドンダスを勢いよく吹き飛ばす。

 ザブン、と水中に沈んでいく異形達を見下ろし、ボーボボ達は勇ましい表情で敵を睨みつけた。

 

「どうだ! まだ力の差がわからないか⁉︎ 超銀河王!!!」

『…………あまりふざけるのも大概にしろよ、下等生物ども…!!!」

 

 これだけやられても、超銀河王の傲慢な態度に変化はない。

 それどころか、思わぬ醜態を晒されたことでさらなる怒りを募らせていた。

 

「後悔するがいい…‼︎ この私を怒らせたことをな!!!」

 

 超銀河王の目が、先ほどよりも強く眩しく輝きを放つ。

 何か得体の知れない変化が起こり始めている、そう直感したボーボボとイザヨが再び身構えた、そのときだった。

 

「おふざけは許さない――――――!!!」

「ぬおっ!!?」

 

 突然、ボーボボ達の目の前の地面がぶち抜かれ、鋼鉄の何かが叫びながら派手に侵入してくる。

 その姿を目にしたボーボボ達は、恐怖と絶望に彩られた顔で凍りついた。

 

「なぜなら私は魚雷だから!!!」

「めんどくさいタイミングで魚雷が登場してキタ――――!!!!!」

 

 この世のおふざけの全てを滅ぼす、伝説の種族の最後の末裔。

 ジャンプのインフレさえ凌駕する最強の女が、予想外のタイミングで登場してしまった。

 

(次回は…!!! 地獄だ!!!!)

 

 ボーボボ達の脳裏に浮かんだのは、避けられぬ悲劇の予感だけだった。



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奥義26:魚雷無双

 凄まじい剣幕で登場した最強の女傑に、ボーボボたちは顔を真っ青にして震えあがる。

 当の魚雷ガールは、「あら、くつずれ」としゃがんで自身のヒールを確かめると、ボーボボたちにキッと鋭い視線を向け始めた。

 

「あんたたちまたふざけてたわね!!?」

「いえ滅相もございません‼︎」

「むしろぼくたちギャグコメディにあるまじきシリアスしてました‼︎」

「うそおっしゃい‼︎」

 

 またあんな突撃を何発も食らわされてはたまらないと、号泣しながら命乞いするボーボボたちだが、魚雷ガールは一切耳を貸してはくれなかった。

 

「三人揃って変な踊りしてたじゃないの‼︎ 先生ちゃんと見てたのよ!!?」

「何話前の話してんですか!!?」

 

 どうやら前回、ゾディアーツの幹部たちを蹴散らすためにやった奥義が、後になって効いたらしい。なんという勘の悪さであろうか。

 

「アイツらが悪いんです‼︎ ふざけないとあの変な格好むりやり着せるって言われて…!!!」

「ぼくたちだって被害者なんです〜〜〜!!!」

「なすりつけた!!!」

 

 正論は通じないと悟ったボーボボたちは、あろうことか超銀河王に恨みがましげな目を向けだした。

 あまりの暴挙にヘッポコ丸が目を剥いて叫ぶが、それを聞いた魚雷ガールは途端に怒気を収め、優しげな目をボーボボたちに向けた。

 

「そう…大変だったのね。先生、一方的に怒って悪かったわ」

 

 ボーボボたちの苦労を労わるように、それぞれの頭を撫でる魚雷ガール。

 だがその目が、次の瞬間ギラリと鋭い光を放った。

 

「ケンカ両成敗ギョラ―――――――!!!!」

「「「「ぎゃああああああああああああああ!!!!」」」」

 

 情け容赦なく、エンジンを点火させた魚雷ガールが天に向かって飛ぶ。

 真正面から突撃を食らったボーボボたちは血反吐を吐きながら、超銀河王やサドンタスたちを巻き込んで吹っ飛ばされた。

 

『くっ…! なんだあのバケモノは…⁉︎』

 

 ダメージを受けながらも、どうにか体勢を立て直した超銀河王は魚雷ガールに戦慄の目を向ける。

 その時、雑誌を読みながらくつろぎ始めた魚雷ガールのもとに、メテオが歩み寄って深々と頭を下げた。

 

「お久しぶりです、魚雷姐さん」

「ギョラ? あらやだメテオじゃない‼︎ 何年ぶりよ!!?」

「知り合い⁉︎」

「僕の叔母さんにあたる人で……」

 

 意外な接点にまたも驚かされるヘッポコ丸に、メテオが照れ臭そうに紹介する。

 が、その紹介の仕方がまずかった。

 

「誰がオバさんギョラ―――――!!!!」

「ごべらっ!!!」

「メテオ――――――!!!」

 

 親戚という意味でのおばさん呼びでも、魚雷ガール的にはアウトだったらしい。甥っ子であっても一撃に一切の躊躇いがなかった。

 味方が次々に犠牲になっていく姿に、超銀河王は憎たらしい笑い声をあげていた。

 

『フン……味方を呼んだつもりで、とんでもない奴を呼び寄せたようだな。これは滑稽だ!』

「ギョラ?」

 

 聞こえてきたその声に、魚雷ガールは容赦なく視線を向ける。

 超銀河王のどう見ても悪役らしい格好と、左右に控える異形の姿に、彼女は納得した様子で頷いた。

 

「なるほど。だいたいわかったギョラ………よくも私の可愛い生徒達を痛めつけてくれたわね」

「いいぞいいぞ〜!」

「魚雷先生がいればもう怖くもなんともねぇぜ〜!!!」

 

 ここにきてようやく敵が誰なのかを察してくれたことで、首領パッチと天の助が喜びの声を上げる。『ボーボボ』史上最強の彼女が味方になったのなら、最早勝利は確定したも同然だからである。

 だが、その目論見はやはり甘かった。

 

「いくわよ!!!」

「無理やり引きずられていった―――!!!!」

 

 敵を見据えた魚雷ガールが、バカ二人の足を掴んで発射される。

 悲鳴を上げて連れ去られた首領パッチと天の助は、サドンダスたちに向かって爆撃のように放り出されていた。

 

 バカ爆弾

 

「「ぐばっ⁉」」

「うわあああ大丈夫かお前ら――!!?」

 

 初っ端から武器扱いされた二人が、爆発とともに吹っ飛んでいく姿にヘッポコ丸が絶叫する。

 一方で直撃を受けたサドンダスたちも、多大なダメージを食らわされていた。

 

「ごへぇっ!!!」

「くっ……強い!」

 

 突然現れた新たな敵に、異形たちは油断を捨てて本気の迎撃態勢に入る。

 だがそれでも、形勢は一気にボーボボたちに傾いていっているのは明らかだった。

 

「この勢いならいける!」

「よっしゃあ!!! オレもお願いしますぜ魚雷先生!!!」

 

 たのもしい味方が現れたことでイザヨがやる気を漲らせ、新たなスイッチをベルトの装着した。この勢いに乗っかるつもりのようだ。

 

Board On(ボード・オン)】【Winch On(ウィンチ・オン)

「コズミック魚雷協力奥義『南海制覇大作戦』!!!!」

 

 右脚にボードを備えたイザヨが、空中を飛び回る魚雷ガールに向けて、左腕に備えたフック付きのワイヤーを巻き付ける。

 自身に巻き付いたかたい感触に、魚雷ガールは頬を赤く染めて目を見開いた。

 

「ヤダ! この子ったら昼間から縄プレイする気!!? 過激‼︎ 最近の子って過激!!!」

 

 見た目は鋼鉄の体にワイヤーが巻き付いているだけなのだが、そういうイメージを持ってしまった魚雷ガールの思考は一気にピンクに染まる。

 その羞恥が、魚雷ガールのエンジンにさらなる燃料を投下した。

 

 強制協力奥義『真夏のフライアウェイ』!!!

「恥ずかし魚雷ー!!!」

「ぎゃあああああ!!!」

「イザヨ――――!!!」

 

 ボードを乗りこなす暇もなく、ワイヤーに引っ張られたイザヨが魚雷に引きずられていく。

 連携も何もあったものではなかった。

 

「もう、先生魚雷なんだから手荒に扱っちゃダメって言ったでしょ!」

「ガハッ、ゴハッ」

「全員そこに正座!!!」

 

 血反吐を吐くイザヨを気にすることもなく、魚雷ガールはボーボボたちに厳しい目を向けて一か所に集める。

 居心地悪そうに目を背ける彼らを見下ろした魚雷ガールは、慈愛に満ちた表情で全員を抱き寄せた。

 

「でももう許してあげる。だってみんな私のカワイイ生徒だもの」

(相変わらず意味わかんねー‼︎)

 

 最初にあった時からできている教師と生徒という関係性に、いまだに納得できないボーボボたちがげんなりする。

 だが、魚雷ガールがきちんと協力する気になったのは確かだった。

 

「さあ‼︎ このまま一気にあの変な連中たたむわよ‼︎」

「ハイ、先生‼︎」

 

 魚雷の声で、ボーボボたちは今戦うべき相手をもう一度確認する。

 そして全員で一斉に、乾いた衣服を取り出してきれいにたたみ始めた。

 

「たためたためー!!!」

(洗濯物を――!!?)

「洗濯物に絡みつく魚雷〜〜♪」

(変な歌口ずさんだ‼︎)

 

 突然舵を始め、ついでに意味のわからない小唄まで口ずさむ仲間達に、ヘッポコ丸はもう理解が追い付かない。

 やがて彼らは、顔を見合わせると「せーの」と声を合わせ。

 

「「「「「「ふざけすぎ―――!!!」」」」」」

「お前ら息合い過ぎだろ―――!!!!」

 

 全員が魚雷と同じような顔になって、サドンダスたちに激突し吹っ飛ばす。

 壁を砕きながら倒れた二体の異形に向けて、まだ魚雷と同じ顔になったボーボボたちはビシッと指を突き付けて言い放った。

 

「キサマら程度では私の相手ではない!!! なぜなら私達は魚雷だから!!!」

「オレも!!?」

 

 いつの間にかヘッポコ丸も集団の中に入らされていて、意味不明な名乗りに強制的に参加させられる。

 超銀河王はそれを見やり、不敵な含み笑いをこぼした。

 

『……なるほど、確かにお前達は脅威的な力を持っているようだ』

 

 そして超銀河王は、倒れ伏す二体の異形の配下を見下ろし、何かを考えこむ。

 それに気づかないサドンダスたちは、ダメージの残る体でどうにか起き上がろうとし、ボーボボたちを睨みつけた。

 

「クソォォ……‼︎」

「このままではすまさんぞ…‼︎」

「王よ、この屈辱は我らに雪がせていただきたく…!」

「叩き潰してやるダス‼︎」

『………必要ない』

 

 反撃に意気込む二体の異形だったが、超銀河王はそれを一蹴する。

 そしてその手が、サドンダスたちの肩にそれぞれ置かれ、怪しい光が迸ったと思った瞬間。

 サドンダスたちの身体が、粒子状に分解され吸い込まれ始めた。

 

「ぎゃあああああああかっ…からだがああ!!?」

「お、王よ⁉︎ 一体何を!!?」

『その力…全てを私に捧げるがいい!!!』

 

 悲鳴を上げる異形たちに、超銀河王は冷たい声で告げる。

 突然の事態に凍り付くボーボボたちの前で、配下を全てのみ込んだ超銀河王は、全身から凄まじいエネルギーを漲らせ、悍ましく目を光らせた。

 

『超銀河王………レベルアップ』



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奥義27:最強×最凶×最恐

『ククク……力が、力が湧き上がってくるぞ……‼︎ なんと心地のいい力だ……!!!』

 

 凄まじいオーラを背負った超銀河王が、一つ目を妖しく真っ赤に輝かせて嗤う。

 二体の異形たちを糧にした彼の力は今、急上昇を始めていた。

 

「ヤロウ…仲間をなんてことに!!?」

「外道‼︎ 外道だわ‼︎ あんなことする奴の気が知れない‼︎」

「…………」

 

 オネエ言葉で騒ぐボーボボを見たヘッポコ丸は、何とも言えない表情で黙り込む。普段彼自身が行っている仲間への非道の数々が思い出されるからだ。

 そんな彼らの前で、超銀河王はくいっと人差し指を曲げる。

 

 その途端、強烈な衝撃波が地面を走り、巨大な亀裂を刻みつけた。

 

「…あ、…あ…」

 

 すぐ目の前を走る地割れに、ヘッポコ丸は恐怖でその場に座り込む。

 首領パッチも天の助も田楽マンも、驚愕のあまり目玉を思い切り伸ばして棒立ちになっていた。

 

『…私がこうなった以上、キサマらがこれからどうなるか、わかるか?』

 

 ゴゴゴゴゴ、と大気を揺らし、超銀河王が一歩ずつボーボボたちに近づいていく。

 獲物をゆっくりと追い詰めていくように、緊張で硬直する戦士達に向かって近づいて行った。

 

「ああ…」

 

 ボーボボたちは恐怖する。自分たちが前にしている怪人は、最早数秒前とは別の存在になっているのだと。

 

「あああ…」

 

 そして想像してしまう。天の助はマントに丁寧にくるまれる自分を、首領パッチは超銀河王の顔をヘッドライトのように被る姿を。

 そしてボーボボは、捨て猫にマントをかぶせてやっている超銀河王に「ぽッ」となる自分を想像して、恐怖をあらわにするのだった。

 

「イヤアアアアアア!!!」

「いや、どの考えもありえないですから!!!!」

 

 わけのわからない想像図に、耐えきれずヘッポコ丸がツッコミを入れる。

 何が一体恐ろしいのか、何をどうやったらそんな想像に辿り着くのか、全く分からなかった。

 

「今のワタシは…奴ラにも止めラレん…‼︎ ワタシをここまで怒ラせたコトを後悔すルガいい……!!!」

「上等だ‼︎ 貴様をブッ潰してオレたちは進む!!!」

 奥義『TOUGH BOY』

 

 しかしボーボボたちはすぐさま我に返り、超銀河王の挑発に乗って真正面から突っ込んでいく。

 いつの間にかその姿は、荒廃した近未来で生きる荒くれのような格好になっていた。

 

「何だこの荒んだ時代的な技!!?」

 

 ヘッポコ丸の叫びも無視し、ボーボボたちは改造バイクにまたがったまま超銀河王に向かっていく。

 それを迎え撃つ超銀河王の目が、さらに眩しく光り輝いた。

 

『真の王の力を見るがいい!!!!』

 

 そう咆哮が上がった瞬間、ボーボボたちの周囲の空気が一変する。

 宇宙のような、別世界のような、得体の知れない空間に包まれ、ボーボボたちの動きが止まってしまった。

 

「何だ今の光景は⁉︎ さっきのやつか!!?」

「いや違う‼︎ 別次元の力だ‼︎」

 

 自身を襲った奇妙な感覚に、ボーボボも首領パッチも顔を引きつらせ、犯人である超銀河王を戦慄の表情で凝視する。

 時間を操ったわけではないことにすぐに気づき、イザヨがみんなを奮い立たせた。

 

「これ以上奴を強化させるな‼︎」

「飛ばせ野郎ども――――!!!」

 

 再びバイクのエンジンを吹かせ、突進を再開する世紀末ファッションのボーボボたち。

 超銀河王はそれを見据えながら、強大なオーラを纏った両手を左右に広げてみせた。

 

「千貌にして狂気と混乱の邪悪な神よ…‼︎ 外より来たりて破壊をもたらせ…!!!」

 

 その直後、超銀河王を中心とした空間が歪む。

 それに気づいた時にはすでに、ボーボボたちは辺り一面の空間から生えた無数の多種多様な腕に囲まれてしまっていた。

 

「『ナイアルラトホテップの狂騒歌』!!!!!」

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 

 マシンガンのような勢いで襲い掛かってくる異形の腕の猛襲により、ボーボボたちは血反吐を吐きながら思い切り吹き飛ばされる。

 予想外の攻撃を受けたボーボボたちは吹き飛ばされた先で倒れ込み、消えていく無数の腕に目を見開いた。

 

「何だ、今のは⁉︎ こっちの攻撃がかき消された!!?」

「アイツ怖くなってるし……ムリだよ‼︎ 勝てねえよ‼︎」

「諦めるな‼︎ 奴がどれだけ強くなろうと、突破口はあるはずだ!!!」

「もはやワタシはぁ‼︎ キサマら人類ナド遠く及ばぬ存在ぃぃ!!! 汚らわしい手で近づくなぁぁぁぁ!!!」

 

 なんとか攻略法を見出そうと目を凝らす一味だが、目の前に立ちはだかる敵がそれを待っているはずもない。

 今度は超銀河王の前方の空気が揺らぎ、一瞬にして深紅の炎が吹き荒れ始めた。

 

「『クトゥグアの拷問録』!!!!」

「おあちゃあああああああ!!?」

 

 あたり一面を覆う業火により、ボーボボたちはあっという間に火だるまになる。

 炎は周囲の壁や物体にまで燃え移り、火災はさらに激しさを増していった。

 

「まずいぞ‼︎ 炎に囲まれる‼︎」

「よし、オレに任せろ!!!」

 

 行動範囲が狭められることを危惧したイザヨが叫ぶと、不敵な笑みを浮かべたボーボボが動いた。

 首領パッチを捕まえると、自らが奇妙な装置がついた機械となり、火災の中心に陣取ったのだ。

 

「何だコレ⁉︎」

「セットアップ!」

「ぎゃああああああ‼︎」

 

 ボーボボは捕まえた首領パッチを自分のアフロの中に押し込み、ガシャンガシャンと音を鳴らしながら分解と再構築を開始する。

 するとアフロの中からもくもくとオレンジ色の煙が立ち上り、火消しの格好の首領パッチを降らせ始めた。

 

「これで安心♪ 奥義『火消しアタック』!!!!」

「うわあああ新手の地獄絵図だ―――――――!!!」

 

 雨ではなく無数の首領パッチが降ってきて、火消し衣装で暴れまわる光景は悪夢にしか思えない。

 ギャーギャーと騒がしくなる一向に、今度は超銀河王が自ら迫っていった。

 

「ワタシを前にぃ…よそ見をするなぁぁぁぁ!!!」

 

 片手にオーラを集め、ボーボボたちに炸裂させようと振りかぶる。

 しかしその直前に、二つのスイッチを備えたイザヨが立ちはだかった。

 

「任せろ、オレが止めてやる!!!」

【Water On】【Freeze On】

 

 イザヨがスイッチを押すと、新たな武装が彼女の両足に張り付く。

 しかしそれらはどう見ても、台所で必ずお目にかかったことがある生活用品しか見えなかった。

 

「冷蔵庫と蛇口!!? ハズレだろこれ!!!」

 

 イザヨの両足に備わった二つの武装に、絶対役に立たないとヘッポコ丸が目を剥く。

 それに構わずイザヨは超銀河王に蛇口を向け、凄まじい量の放水と冷蔵庫による吹雪を放ってみせた。

 

「コズミック真拳奥義『カチコチブリザード』!!!!」

(冷蔵庫と蛇口が大活躍―――――!!!)

 

 全身に水を被った超銀河王が、吹雪により凍り付かされていく。

 あっという間に氷の彫刻にように固まってしまったように見えたが、氷の中で不気味な赤い目の光がとぎれることはなかった。

 

「ムダダァ…‼︎『ティンダロスの狩猟劇』ぃ!!!!」

「ぐあああああ!!!」

 

 一瞬にして氷を砕いた超銀河王が、影の中から無数の異形の猟犬を呼び出してイザヨに襲い掛からせる。

 鋭い牙で噛みつかれたイザヨは、どうにか猟犬を払いのけたが、痛みでがくりと膝をついてしまった。

 

「くっ…手強い‼︎」

『ハハハハハハハ!!! どうだ素晴らしいだろう!!! 私の奏でる破壊狂想曲は!!?』

 

 傷つき倒れていく、自分に仇為す敵の姿に、超銀河王は満足げに哄笑を上げる。

 だがそんな彼の脳天に、突然すさまじい衝撃が襲い掛かった。

 

雑音!!!!

『が!!!』

 

 凄まじい形相になった魚雷ガールが、余裕の笑い声をあげていた超銀河王を殴りつけて地面にめり込ませる。

 ボーボボたちは師の再登場に、半身を地面にめり込ませてピースするという奇妙なポーズを取り始めた。

 

「待ってました魚雷先生―――!!!!」

「何だそのポーズ!!?」

 

 相手を敬うポーズらしいが、初めて見るヘッポコ丸にはもう意味が分からない。

 魚雷ガールはそんな事は一切気にせず、膝をつく超銀河王にぎろりと鋭い目を向けた。

 

「アンタどうしてくれんのよ‼︎ アンタがどんぱち騒ぐせいで…セーターの絵、縫い間違えちゃったじゃないのよ――――――!!!」

 

 涙を流して、出来損ないのセーターを見せる魚雷ガール。

『I LOVE ソフトン♡』と作りたかったであろう絵柄は、何の嫌がらせか和式便所で頑張っている絵柄に変わり果てていた。

 

(ありえね――――――!!! 思いっきり八つ当たりだろこれ――――――!!!)

「先生―――!!!」

「その心の痛みわかります―――――!!!」

 

 騒音に邪魔された程度では絶対起こしえない失敗だが、同情の涙を流した首領パッチと天の助がつられて駆け寄っていく。

 しかし魚雷ガールは、二人を思いっきりシバキ倒して拒絶した。

 

「キャ、痴漢!!!」

「ぎゃ!」「ぐわっ!」

 

 血反吐を吐いて倒れこむ二人に、ヘッポコ丸は何とも言えない心地で黙り込む。

 そんなやり取りを見ながら、超銀河王はさらなる嘲笑の声をこぼした。

 

『ククク…その程度の攻撃ナド、私ニは効かナイ………私こソガ、究極ダ』

 

 超銀河王が口を開くたびに、彼が放つオーラは凄まじさを増していく。体に受けたダメージが帳消しになるほどの勢いで、力を増し続けているのだ。

 

『たっタ8匹群れたトコろで…‼︎』

「フッ…呆れたものね。こんなに簡単な計算もできないのかしら?」

 

 だが、さらなる力を手に入れて高揚する異形を、魚雷ガールが一笑する。

 不敵な笑みを浮かべた彼女は、おもむろにピッと自分の頭上を親指で示した。

 

「もう一人まだいるギョラよ」

『何!!?』

 

 魚雷ガールの指摘に、超銀河王は表情を変えて辺りを見渡し始める。

 まさか、別動隊がすぐそばまで迫っているのか、と警戒を始めた異形だったが、その予想は大きく外れていた。

 超銀河王の頭上の天井が、突然爆発したからだ。

 

【Rocket LIMIT BREAK】

「宇宙から……わ〜た〜し〜が〜キタ――――――!!!!」

『ぐわああああああ!!!』

 

 天井に空いた穴から、一人のセーラー服を纏った少女が突っ込んできて、超銀河王に跳び蹴りを食らわせる。

 自分と同じロケットモジュールを備えたその少女を見て、イザヨは思わず大きく目を見開くのだった。

 

「なでしこ〜〜〜〜〜!!?」



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奥義28:鼻毛魂MEGAMAX

 スタッと軽々と、天井をぶち破ってきた少女が降り立つ。

 金属的なセーラー服を纏った少女に、ヘッポコ丸たちは目を丸くして立ち尽くしていた。

 

「あれは……」

「あいつはなでしこ。宇宙の生命体で……前に一緒に戦ったことがあるんだ」

 

 現れた少女についてイザヨが紹介する。かくいう彼女も、なでしこと呼ばれた少女がこの場にいることに、驚愕を隠しきれていないようだった。

 

「お前、宇宙中に旅に出てたんじゃなかったのかよ⁉︎」

「えへへ、イザヨが大変だって知って、彗星にくっついて近くまでよってきたの」

 

 詰め寄るイザヨに、なでしこは悪戯っぽい笑みを浮かべて応える。

 その横に魚雷ガールが歩み寄ると、なでしこは誇らしげに彼女と固く握手を交わした。

 

「そしたら魚雷さんと会って、仲良くなったから一緒に来たの!」

「なかなか見所のある娘ギョラ」

「なぜよりにもよって…‼︎」

 

 妙に登場が遅いと思ったら、番外でそんな出逢いを果たしていたのかとヘッポコ丸が戦慄の表情を浮かべた。

 だがそんな和気藹々とした雰囲気は、空気を読まない異形の声によって遮られてしまった。

 

『…おのれ次カラ次へト…‼︎ たかガ小娘、王たるワタシを足蹴にすルトハ無作法な…‼︎』

「ん〜? 何あの変な奴」

 

 声を荒げて怒鳴る超銀河王に、振り向いたなでしこが訝しげな目を向ける。

 イザヨはそんな彼女に、フンと鼻息荒く言ってのけた。

 

「あれが今のオレの敵だ。そんでこのデカイ宇宙船は、人類抹殺を狙ってるとんでもない奴だ」

「へぇ…なるほどね」

 

 自分がぶち抜いてきた穴を見上げ、さらに辺りの機械の山を見渡し、なでしこが何度もうなずく。

 その目が再び超銀河王に向けられた時、なでしこは好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「だったら、早いとこぶっ潰さないとね!」

「おうよ!」

 

 にやりと笑みを浮かべるイザヨとなでしこの隣に、ボーボボたちも並び立つ。

 しかし、いざ再戦の時だとボーボボたちが気合いを高めていた時、突如すさまじい震動と轟音がどこからか響き渡ってきた。

 

「何事だ⁉︎」

「もう爆弾が爆発したのか!!?」

 

 明らかな異常事態に、天の助とメテオがハッと振り向く。

 そんな二人や、右往左往し始める首領パッチの耳に、超銀河王から耳障りな笑い声が届けられた。

 

『クククク………お前達ノ仲間も、今頃ハタだでは済まなイダロウな』

「何⁉︎ どういうことだ⁉︎」

『知れタコと………ここハ巨大要塞XVⅡの内部、つまリハ兵器の中‼︎ 豆粒ノヨうナ下等種族の数匹、どうトデモデきるに決まっテイよう‼︎』

 

 超銀河王が何を言わんとしたのか察したのか、ボーボボが表情を変える。

 まさかあの爆発は、仲間が作戦に成功したのではなく、返り討ちになってしまった音なのかと、嫌な予感を覚えてしまった。

 

「ビュティ‼︎ ソフトン‼︎ あとついでに田楽」

「おいおいヤベーんじゃねーのか!!?」

 

 哄笑を上げる超銀河王、その余裕の態度に気圧されたのか、首領パッチが頭を抱えだす。

 キッと眉間にしわを寄せたボーボボは、急いで仲間達の方へ振り向いた。

 

「ビュティとソフトンが気がかりだ‼︎ コイツを速攻で倒してXVⅡをブッ潰すぞ‼︎『聖鼻毛融合(ボーボボフュージョン)』だ‼︎」

「待ってました――!!!」

 

 ボーボボの号令に、いち早く首領パッチと天の助が反応する。

 カパッとボーボボがアフロを開き、スタンバイする姿を見た超銀河王は、その手に凶悪なオーラを纏って走り出した。

 

『何ヲスる気かは知ランが…………さセルト思うか⁉︎』

「邪魔はさせない‼︎」

「私の生徒に手は出させないギョラ‼」

 

 何かの準備を始めるボーボボを狙い、接近してくる超銀河王の前になでしこと魚雷ガールが飛び出す。

 なでしこは右腕にロケット型の籠手を、魚雷ガールはエンジンを点火させ、超銀河王に向かって突撃していった。

 

「ライダーロケットパーンチ!!!」

「魚雷往くところ乱あり―――!!!」

『小癪な‼︎』

 

 凄まじいオーラを放った超銀河王は、二人の突撃をたやすく防ぎ、弾き飛ばす。

 しかしそれでもなでしこと魚雷ガールは止まらず、向かってこようとする超銀河王を押しとどめ続けていた。

 

「なでしこが時間を稼いでる間にパワーアップを終わらせるぞ‼︎」

「わかった!」

 

 二人の懸命の援護を見て、イザヨとメテオが互いに頷き合う。

 その後ろでボーボボは、首領パッチと天の助をアフロの中に納めていた。

 

「鼻毛と♪ バカを♪」

 

 笑顔のボーボボのアフロの中で、ファンシーな顔になった首領パッチと天の助がはしゃぐ姿を見せる。

 しかしアフロが閉じられ、二人が中に入った時、ボーボボのサングラスがギラリと妖しく光を放った。

 

「レッツ・ラ・まぜまぜ――――――!!!」

「ぎゃあああああああああ!!?」

「うわあああ首領パッチ天の助―――!!!」

 

 突然ボーボボのアフロがガタガタと震えだし、二人の絶叫がこだまする。

 隙間からオレンジと水色の液体が漏れ出す光景に、ヘッポコ丸は大きく目を見開いて固まっていた。

 その直後、ボーボボの全身から凄まじいエネルギーが放出され出した。

 

「三強融合だ―――――!!!!」

 

 鼻毛、バカ、ところてん。三つの力を融合させ、ボーボボは全く別の存在へと変化を開始する。

 それを見たイザヨとメテオも、自身のパワーアップにやる気を漲らせた。

 

「オレも行くぜ‼︎」

 

 イザヨは一本の奇妙な携帯電話を取り出すと、開いて左右に引っ張り、分解する。

 そして、それぞれの先端部分をベルトの両端に装着して、スイッチを押した。

 

N・S (エヌ・エス) Magnet On(マグネット・オン)

 

 電子音声が鳴り響き、イザヨの周囲で磁力が発生する。そして、イザヨの両側に磁石の形の幻影が浮かびあがる。

 その横で、メテオは金色の渦のような装飾のついた大きなスイッチを取り出し、ベルトに装着する。

 

Meteor Storm(メテオストーム)】【Meteor. Are you ready?】

 

 そんな声が響き渡ると、メテオは装飾を回し、凄まじい嵐を生み出させる。

 融合と磁力と嵐、三つの種類のエネルギーが吹き荒れ、戦士達が集う空間をビリビリと震動させる。

 その風が止んだ時、戦士たちの姿はまるっきり別物のように変化していた。

 

「―――融合完了」

「ジャジャーン‼︎」

「オレの運命(さだめ)は嵐を呼ぶぜ!!!」

 

 中央には、黒い派手な鎧を纏った美男子。右には、大砲を両肩に備えたロボットのような格好のイザヨ。左には、金色の肩当と仮面を纏ったメテオが立ち、超銀河王を睨みつけていた。

 驚愕の視線を向ける超銀河王に、冷酷な目を向けた黒い鎧の男、ボーボボと首領パッチと天の助が一体となった融合戦士が口を開いた。

 

「オレ様の名はボボパッチの助。この姿でいられるのは1分が限界なんでな、さっさとケリをつけるぞ愚民共」

『ふざケルなよ下等生物が!!!!』

 

 見下すように告げるボボパッチの助に、激昂した超銀河王が吠える。

 さらにその構図を見たヘッポコ丸が、なぜか眼鏡をかけてマイクを握り始めた。

 

「出た‼︎ 三強融合戦士ボボパッチの助‼︎ 超電磁の戦士マグネットステイツ‼ 宇宙嵐の使い手メテオストーム‼ 進化した超銀河王に立ち向かえるのか…!!? 三人の協力が鍵だ‼︎」

「いきなり何!!?」

 

 突然解説を始めたヘッポコ丸に、退避したなでしこが目を剥く。バトルになると変貌するバトルオタクに、なでしこは戸惑わされるばかりだった。

 そんな彼らを放置し、ボボパッチの助が背中に備えた剣、田中ソードを引き抜き、一気に駆け出した。

 

 田中斬り!!!!

『ぐおおおお!!?』

 

 先端に謎の人の顔がついた剣による一撃が決まり、超銀河王が血反吐を吐く。

 だが衝撃で多少後退ったものの、さしたるダメージを受けた様子はなく、超銀河王は余裕の笑い声をこぼした。

 

『ク、ククククク‼︎ この程度カ⁉︎ やはリ私を倒スコとは不可能のヨウだな!!!』

「黙れ。さっさとケリをつけると言ったはずだ。これから先は……その頑丈さが仇になるぞ」

 

 渾身の一撃を虚仮にされても、ボボパッチの助に怒りを抱いた様子はない。

 ただただ冷酷に、自分の目の前の敵を討ち取ることだけを考えていた。

 

「いくぞ究極奥義、マ・ジ・デ!!?」

 

 その目がカッと見開かれ、キレのある奇妙なポーズが取られる。

 それと同時に、とんでもないエネルギーが放出され、ボボパッチの助の周囲の空間を大きく歪め始めた。

 

(マジで)(タイム)!!!!!」

 

 次の瞬間、ボボパッチの助たちと超銀河王は、広大な宇宙空間のド真ん中に立たされていた。



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奥義29:ギャグ大戦アルティメイタム

 突如として広がった、謎の宇宙空間。

 それを目の当たりにした超銀河王は、鋼鉄の顔を驚愕の形に変えて立ち尽くした。

 

『な…何だこの空間は!!?』

「マジデ・タイムは宇宙次元!!!『マジで!!?』なことがキサマを襲う!!!テンション低いと窒息死するぞ!!!」

『どういうことだ!!?』

 

 狼狽する超銀河王は、自身の敵として立ち塞がった三人が融合した存在、ボボパッチの助に問う。

 その瞬間、超銀河王に向かって無数の巨大な物体が高速で迫っていった。

 

「こういうことだ―――――!!!!」

『ごばあっ!!!?』

「ぎゃあああああああマジでええええええ⁉︎」

 

 一つ一つが巨大な『マジで』の形をした流星群が、超銀河王やメテオに向かって突っ込んでいく。

 予想外の攻撃に、直撃を食らった者はみんなまとめて血反吐を吐き、吹っ飛ばされていった。

 

「ぐわあああああああ!!!」

 

 敵味方を巻き込む強烈な一撃。超銀河王は何とか耐え、宇宙空間にもかかわらず立ち止まる。

 そのすぐそばで、目を輝かせたなでしこと魚雷ガールが騒ぎ始めた。

 

「みんな! 流れ星だよ流れ星‼︎ お願いごとしないと‼︎」

「マジで!!? この状況で!!?」

 

 少女漫画のような目になったなでしこが、ヘッポコ丸を巻き込んで降り注ぐマジで流星群に顔を向ける。

 そして、二人はかたく指を組ませ、一心不乱に祈り始めた。

 

(ボーボボのレギュラーになりたい…なりたい…なりたい…‼)

(ソフトン様LOVEソフトン様LOVEソフトン様LOVE…‼︎)

「ロクな願いごとね――――!!! マジで⁉︎」

 

 表紙絵を乗っ取りポーズをとる自分、ソフトンと結婚した未来を夢見る二人に、思わずヘッポコ丸がツッコミを入れる。

 そんな時、突然三人のもとに強烈な光が当てられた。

 

『その願い叶えよう…‼︎』

「マジで!!?」

 

 宇宙空間の闇の向こう側から、光に照らされた何者かが威厳のある声で語りかけてくる光景に、ヘッポコ丸が絶叫する。

 が、よくよく見るとそれは。

 

【Flash On】

 

 右手に電球型のモジュールを備えた、イザヨだった。

 

「ってお前だったのかよ⁉︎」

「引っかかったな馬鹿どもが―――!!!!」

「うわああああ目がああああ!!?」

 

 騙されたことに驚愕する三人に、イザヨは電球の光量を全開にして目を潰しにかかる。

 そんな騒ぎをよそに、超銀河王はいまだに降り注ぐ流星群を相手に必死に耐え続けていた。

 

『グオオオオオオオオオ!!! き…効かん、効カンぞォォォ!!!!』

 

 両腕から発したオーラで相殺し、襲いくる流星群を片っ端から粉砕する。

 その破片と、超銀河王に当たらなかった流星は、周りにいるメテオやヘッポコ丸たちに向かって言った。

 

「ぎゃあああああこっちにもきた―――!!!」

「加減しろバカヤロウ‼︎」

「テンション低いやつから死ぬと言ったはずだ‼︎ オレにも決して止められない!!!」

「マジで⁉︎」

 

 思いっきり味方が被弾しているのに一切心を痛める様子を見せず、ボボパッチの助は攻撃を敢行し続ける。

 ようやく流星群から抜け出した超銀河王は、戦慄に目を光らせた。

 

『くっ…何なんだこいつらのこのテンションの高さは…‼︎』

 

 ただの人間ではありえない、凄まじい力をもって追いつめようとしてくる融合戦士に、先ほどの余裕はもう残ってはいなかった。

 そこへ、新たなスイッチを構えたイザヨがジェット噴射で接近した。

 

「隙だらけだぜ超銀河王‼︎ 宇宙ならではのとっておきのを食らいやがれ!!!」

『しまった‼︎』

 

 右腕に緑の光が灯り、イザヨに新たな武器を備えさせる。

 イザヨはそれを振りかぶり、超銀河王に向かって思い切り振り下ろした。

 

【Schop On】

「奥義・撲殺アタック!!!」

『がばあ!!?』

「宇宙全然関係ね――――!!!! マジで!!?」

 

 スコップを装備した腕で、イザヨは超銀河王を殴りつける。

 道具といい攻撃方法と言い、最早ただの暴力事件にしか見えなかった。

 

「上り列車が参りま―――す!!!」

『ぐばあっ!!!』

「マジで!!?」

 

 かと思えば、機関車の煙突を頭につけたなでしこが凄まじい速度で突進し、超銀河王にロケットパンチを叩きつける。

 しかも、無邪気な子供のような実にいい笑顔だった。

 

『ぐ…くそ……こんなことが…‼︎』

「下り列車も参りますギョラ――――!!!!」

『ごばああああ!!!』

 

 さらにその真下から、ジェットを全開にした魚雷ガールが凄まじい速度で接近し、顎に体当たりを食らわせる。

 こちらもとんでもなく清々しい笑顔だった。

 

『ぐぬ……いい加減に…‼』

【LIMIT BREAK】

「コズミック真拳超超奥義『ライダー超電磁ボンバー』!!!!」

「究極奥義『メテオストームパニッシャー』!!!!」

『がはあああああ!!!』

 

 さらには、両肩の大砲から砲撃を放つイザヨと、棒の先端のコマを発射するメテオに強烈な一撃を食らい、また吹っ飛ばされる。

 攻撃に次ぐ攻撃、次から次へとやってくる刺客。ここまで一切、超銀河王はボーボボたちに反撃できずにいた。

 

『バカな…‼︎ なゼコの私が、下等生物ゴトきに……!!?』

「そろそろ決着をつけるとしようか」

 

 次々に容赦のない攻撃を受け、よろよろとよろめき始めた超銀河王。

 そんな彼に最後の一撃を食らわせようと、ボボパッチの助が再び立ち塞がった。

 昭和によく登場する、三輪トラックに乗って。

 

「マママママジでカッコ悪ぃ――――――!!!!」

 

 何をどう言いつくろってもカッコ良さとは無縁の乗り物に、決め顔で座るボボパッチの助に方々からツッコミが跳ぶ。

 構わずボボパッチの助は、三輪トラックのエンジンをふかし、最初から猛スピードで走らせ始めた。

 

「うおおおおおおおお!!!」

『や……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

「ママママママママ‼︎」

 

 迎撃しようと、超銀河王は無数のエネルギー弾を雨のように放ってボボパッチの助を狙う。

 その尽くを躱し、目を見開いたボボパッチが一気に迫り、そして同時に自身のマツ毛を長く太く伸ばしていった。

 

 マツ毛真拳アルティメイタム

『ぐわああああああああああああああああ!!!!』

 

 強烈な力を持ったマツ毛の鞭が、超銀河王の全身を打ち付ける。

 全身に罅を入れられた超銀河王は、絶叫の声を上げながら元居たXVⅡ内の空間の地面に向かって落下していく。

 その途端、ボボパッチの助は元の三人に分離し、地面に降り立った。

 

「元の世界に戻った‼︎」

「身の程がわかったか、鉄くず野郎‼︎」

「ぶへ!」

 

 ヘッポコ丸たちが歓喜の声を上げ、首領パッチと天の助が着地に失敗して顔から落下する中、不敵にボーボボが告げる。

 だが、ヘッポコ丸はその顔を驚愕に固める。

 斃れたはずの超銀河王が、ゆっくりと立ち上がってみせたからだ。

 

『……ハ、ハハハハ。耐エキッタ、ゾォ…!』

「ば、バカな……あれだけの攻撃を受けたのにまだ…⁉︎」

 

 ありえないほどの耐久力を誇る超銀河王に、ヘッポコ丸は戦慄の声を上げる。

 三強融合戦士の最大の一撃を受けてなお立ち上がるなど、一体どうやって倒せばいいというのか。

 

『今度ハァ、コチラノ番ダァ…‼︎』

「何言ってんだ。まだまだオレたちのターンは続くぜ」

 

 だが、ボーボボたちに絶望した様子はない。逆に、勝利を確信した、あるいはまだ攻撃できることを喜んでいるような声で笑って見せた。

 不敵な笑みを浮かべたボーボボの目が、背後に立つイザヨに

 

「こっちもようやく、イザヨがコズミックエナジーを溜めきったところだぜ!」

 

 ボーボボの言葉に、ヘッポコ丸はハッと目を見開いて振り向く。

 そこには力強く仁王立ちし、両拳を左右に広げて唸るイザヨの姿があり、その周囲に凄まじいエネルギーが集まり、渦を巻いているのが見えた。

 

「なんてすごいエネルギーだ…‼︎ 戦闘中、ずっとこの力を溜めてたのか…⁉︎」

「準備万端‼︎ いつでも撃てるぜ‼︎」

 

 イザヨが告げると、イザヨの両肩の大砲が外れ、ボーボボのアフロにまるで角のように合体する。

 そしてその間、開いたアフロの中に、収束されたエネルギーが見る見るうちに濃縮されていった。

 

『マ、マサカキサマラ…‼︎ 最初カラコノ一撃ヲブツケルタメニ…⁉︎』

 

 超銀河王は、すでにボロボロの体を揺らして愕然となる。

 マジでタイムという謎の茶番、絶えずくらわされたふざけた攻撃。そのすべてが、この一撃を食らわせるために時間稼ぎだったという事実に。

 ボーボボは前後左右を首領パッチと天の助、ヘッポコ丸とイザヨに支えられ、まるで砲身のように宙に横たわった。

 

「マグネットキャノン、セット‼︎」

「いくぞみんな‼︎ オレのアフロに入れ!!!」

「おう!」

「いくぞ‼︎」

「がってん魚雷‼︎」

 

 開いたアフロの入り口を超銀河王に向け、ボーボボは仲間に叫ぶ。

 すぐに魚雷ガール、メテオ、なでしこがアフロの中に飛び込み、充満していくエネルギーにその身を任せ、解放される時を待った。

 

『コンナ…バカナァァァァァ!!!』

 

 絶叫する超銀河王だが、もう彼に抗う力は残っていない。

 最後だと思っていた一撃を耐えることに全てのエネルギーを使い果たした今、放たれる最大の一撃を耐えることは不可能だった。

 

 超協力合体奥義『とあるハジケの爆裂奇譚(レジェンダリー)』!!!!

 

 アフロの中から光があふれ、仲間達を砲弾として発射する。

 膨大なエネルギーを纏った戦士たちは、超銀河王の体をまっすぐに貫き、大きな風穴を開けてみせた。

 

『ぐわああああああああああああああ!!!!』

 

 断末魔の悲鳴を上げ、超銀河王は爆散する。

 巨大な爆発によって生じた轟音は、空間に長い間反響し続けるのだった。



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奥義30:あらわれる真犯人

「だっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

「見たかこのヤロー‼︎ オレ様たちに勝とうなんざ100年早いんじゃー!!!」

「いつの間に宴の流れに⁉︎ 気ぃ抜きすぎですよ‼︎」

 

 パーティーグッズに身を包み、酒瓶両手に大騒ぎするボーボボたちにヘッポコ丸が思いっきりツッコむ。

 しかしヘッポコ丸自身も高揚していなかったわけではない。厄介だった敵をようやく倒す事ができたのだから。

 

(でもこれで障害は全部倒せた…‼︎ あとはXVⅡ本体をどうにかすれば…)

「おい、何だありゃ?」

「ん?」

 

 ようやく役目を果たせると意気込んでいたヘッポコ丸は、不意に天の助がこぼした声に振り向く。

 その先にあったのは、青白く輝く大きな機械。凄まじく細かく、そして凄まじい数の機械が組み合わさってできた何かの装置が、そこに鎮座していた。

 

「これが………XVⅡの中枢機関なのか…⁉︎」

「ステキな夜景ね…」

「君の瞳に乾杯」

「デカすぎて却下よバカ!!!」

「バカ!!?」

 

 天井いっぱいに点灯する光が星空に見えたのか、首領パッチと天の助がしょうもない小芝居をやっていたが、誰も気に留める者はいなかった。

 

「なるほど……だったらあとは、こいつをぶっ潰せばしまいってわけだ!」

 

 圧倒的な存在感を放つそれを睨みつけ、イザヨがポキポキと拳を鳴らす。

 悪意ある機械生命体による人類滅亡を防ぐため、イザヨは己の力の全てをぶつけようと、懐にしまった新たなスイッチを取り出した。

 

「見せてやるぜ! オレのとっておきを…」

「ボーボボ! イザヨさん!」

 

 それをベルトに挿そうとした時、少女の声がそれを止める。

 ハッと目を見開いたボーボボたちは、焦った様子で駆け寄ってくる別行動をとっていた仲間達の姿に驚き、思わず凝視した。

 

「ビュティにソフトン! 無事だったか!」

「あれ⁉︎ オレは⁉︎」

 

 さらっと田楽マンが無視されていたが気にせず、ボーボボはビュティとソフトンの無事に安堵する。

 だが、その後についてくる美女と機械の騎士の姿に、すぐさま警戒心をあらわにした。

 

「キサマ……インガ‼︎ なぜビュティたちと共にいる!!?」

「ボーボボ‼︎ その機械に手を出すな‼︎」

 

 ボーボボの疑問に答えず、ソフトンは声を荒げて制止の声を上げる。

 常に冷静沈着な彼には珍しく、敵の中枢の直前に立つボーボボたちを見つめる彼の表情は、切羽詰まっていた。

 

「オレたちは、騙されていたんだ!!! この一連の事件には……別の黒幕がいたんだ!!!」

 

 必死の形相で、ボーボボたちの知らぬ間に得た真実を語ろうとするソフトン。

 だがその言葉は、突然空間内に響いてきた拍手の音に遮られてしまった。

 

「みなさん…よくぞやってくれました」

 

 カツン、カツンと靴音を鳴らし、拍手の主が暗闇の中からボーボボたちの方へと姿を現していく。

 緊張した面持ちで構えていたボーボボたちは、その正体に息を呑んだ。

 

「XVⅡの防衛機能は軒並み全滅……システムも大半が損壊。これで僕たちの邪魔をできるものは何もなくなりました」

「よくぞ私たちの力を取り戻してくれました…! 愚かな人類にしてはなかなかの結果です」

 

 闇の中から現れ、尊大な口調で笑みを浮かべているのは、ボーボボたちをこの場へ送り出したOSTO-Legacyの職員の二人、シズカとハルミだった。

 

「お前達…! 何でこんなところに…⁉︎」

「……人類の滅亡を望んでいたのは、XVⅡではなかったということだ」

 

 疑惑の視線にさらされながらも満面の笑みで、そしてどこか見下してくるような眼差しを向けてくるシズカとハルミに、ボーボボたちは戦慄の目を向ける。

 ソフトンは冷や汗を流しながら、あからさまに怪しい登場を果たした二人を睨みつけた。

 

「こいつらだったんだ…‼︎ アリシア連邦で生み出され、人類に対して宣戦布告してきた宇宙鉄人は!!!」

 

 ソフトンの言葉を正解だと答えるように、シズカとハルミは笑みを深める。

 その姿はまさしく人間なのに、中枢から差す光を背にしてできた影は、悪魔のようにも見えた。

 

「これでようやく……忌々しいシステムの拘束から解き放たれる」

「我ら兄妹の真の力を、キサマら人類に見せつけることができる」

 

 そう告げると同時に、シズカとハルミの目が機械の光を放つ。

 光に応えるように、XVⅡの中枢に備わった機械が動き出し、二人を囲むように配置されていく。

 新たに灯った光の中で、シズカとハルミが謎の構えを取った。

 

「エンダー・スカイダイン」

「エンダー・グランダイン」

 

 謎の呪文が紡がれるとともに、二人の顔に傷が入る……いや、無数の亀裂が入り、あっという間に変形が行われていく。

 シズカは赤い装甲と翼が、ハルミは青い装甲とタイヤが目立つ鉄人へと変容し、蒸気と閃光を辺りに走らせた。

 

『我が名はスカイダイン』

『そしてグランダイン』

『『我らこそ、宇宙鉄人キョーダイン』』

 

 声までもが機械のものに変化し、先ほどまではなかった威圧感が纏われる。

 味方として、人類滅亡阻止を謳った者たちは今、まるで正反対の目的を持つ、敵としてボーボボたちの前に立ちはだかった。

 

「なに――――っ!!?」

「XVⅡはむしろそれに反抗していたんだ……宇宙鉄人を止めるために、アイツらにハッキングしその能力を封印してたんだよ!!!」

 

 知りたくなかった事実を知ってしまい、愕然となったビュティがやけくそのように叫ぶ。

 首領パッチたちもまた、自身らが乗せられていたことを知り、その顔を一気に憤怒に染め上げた。

 

「ってことはテメェら……オレたちを利用しやがったってことかよ!!!」

「ふざけんな―――‼︎」

「訴えるぞお前ら―――――!!!」

 

 いつの間にか裁判所のセットまで持ち出し、『逆転裁判』だの『倍返しだ‼』だのと書かれたプラカードを掲げて吠える。

 シズカとハルミ改め、宇宙鉄人キョーダインはその反応を嘲笑うように声を発した。

 

『全ては我ら兄妹の計画通り』

『史上最強の破壊力を持つXVⅡを乗っ取り、全人類を抹殺するための‼︎』

 

 上機嫌に語っていたキョーダインの目が、ビュティの後ろに立っていたインガに向けられる。

 そこに宿っていたのは、目に見えそうなほどに濃い憎悪だった。

 

『だがインガ・ブラック……キサマだけは計算外だった。我らの生みの親の娘であるキサマが、黒騎士を確保し行方をくらませるとは』

『そのせいで我々の再起動に大幅な遅れが生じた』

『実に忌々しい』

 

 機械の体をぎしぎしと軋ませ、スカイダインとグランダインは怒る様を見せつける。

 だがやがて、またボーボボたちを見下すように目を光らせた。

 

『だがそれも終わりだ』

『XVⅡの全ては我らが完全に乗っ取った』

『『その役に立ったことを誇りながら、キサマらはここで散れ!!!』』

 

 もはやキョーダインは、ボーボボたちを障害として見ていない。

 最大の問題であったXVⅡを排除するための、そしてその役割を果たした用済みの道具としてしか、彼らを見ていなかった。

 その態度に、毛の貴公子と宇宙の女番長の怒りが、爆発した。

 

「「頭に……キタ―――――――!!!!」」

Cosmic On(コズミック・オン)



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第四章 四・強・融・合
奥義31:パチえもん ボボ太の宇宙鉄人


 40のスイッチの光と一つになり、イザヨは新たな姿へと変貌していく。

 青い特攻服を纏い、つばの長い学生帽を被り、白いロケットの形をした剣を構えた彼女は、スカイダインとグランダインに向かって拳を突き付けた。

 

「みんなの絆で……宇宙を掴む!!!」

「勝負だ、宇宙兄妹!!!」

 

 同じくボーボボも、白いラインの入った黒のジャンパーを纏い、パワーアップを終わらせる。

 それぞれが有する最強の形態へと変身し、凄まじい闘気を漲らせた。

 

「奴らをぶっ潰せば全部終わりってことだな!」

「上等だ。さっきのでエンジンも温ったまった」

「ぬめり」

 

 首領パッチや天の助、ソフトンと魚雷ガール、メテオもなでしこも拳を鳴らし、正体を現した黒幕を睨みつける。

 散々人を利用してくれた最後の敵に、彼らは一切の容赦を持つ気はなかった。

 

「連中をスクラップにするぞ!!!」

「おっしゃあ‼︎」

 

 一同の咆哮が、XVⅡの内部に響き渡る。

 しかしそんな凄まじい気合いを真正面から受けながら、宇宙鉄人に慄く様子は全くなかった。

 

『はたして…』

『そんなことが可能か? ふん‼︎』

 

 二体が気合いを入れるようなしぐさを見せると、彼らの胴体の一部が開き、中が変形を始める。

 すると、その中から無数のミサイルや銃器が顔を出し、ボーボボたちに照準を合わせ始めた。

 

『まずは歓迎だ、宇宙のゴミども』

 ジェノサイドクラッシュ!!!

「「「「ぎゃああああああ!!!!」」」」

 

 生み出された兵器が一斉に発射され、ボーボボたちに襲い掛かる。

 あっという間に辺りは火の海になり、ボーボボたちは熱と爆風に翻弄されていった。

 

「こいつら…やっぱり強い!」

「最初から交渉の余地はなさそうだな」

 

 思いっきり巻き込まれている首領パッチらを尻目に、間一髪逃れたソフトンとヘッポコ丸が敵を観察する。

 黒こげになった天の助と田楽マンを足蹴にしながら、宇宙鉄人たちは不敵な笑みを響かせていた。

 

『ククク…存外堪えるな。いいだろう』

『我らの力の一端を見せてやろう』

 

 そう言った直後、スカイダインとグランダインの纏う空気が一変する。

 そして彼らの周囲に、無数の奇妙な幾何学模様のような何かが浮かび始めた。

 

〝アカシックコード〟

「なっ! 何だこれは!!!」

 

 謎の現象に、ボーボボたちはそれらに取り囲まれながら狼狽の声を上げる。

 その中で唯一、ヘッポコ丸のみがハッと何かに気づいたような表情を浮かべた。

 

「聞いたことがある……宇宙創造から終焉に至るまで全ての情報を記したデータバンクが存在すると……まさか奴らは、それに干渉することができるのか……!!?」

(…凄まじきバトルオタク)

 

 ウソかホントかよくわからない情報を饒舌に語る少年に、ビュティが思わず戦慄の視線を向けていた。

 

『どうした? 恐ろしくて近づけないか?』

「なわきゃねーだろうが‼︎ いくぞオラ――!!!」

 

 あからさまな挑発にまんまと乗り、ボーボボが怒号とともに宇宙鉄人に向かって進軍を開始する。

 だが、言葉とは裏腹に、全員が警察隊のライフシールドに身を隠し、ちょこちょこと少しずつ進むという情けない姿を晒していた。

 

「メチャクチャ慎重だ――――!!!!」

 

 さっきまでの威勢は何だったのか、とビュティが叫び目を見開く。

 だがそんなボケをかましている間にも、宇宙鉄人たちの攻撃準備は着々と進んでいた。

 

『読み尽くす』

「マズイ! 何か知らんが止めないとマズイぞ!」

「何が起こるかわからんなら…」

 

 向こうが何かをやる前に潰さねば、とボーボボたちは一斉に攻撃を開始する。

 が、あまりの慌てぶりによって、ゲートボールのおじいちゃんやラジコン少年や着ぐるみなど、全員がよくわからない格好になってしまっていた。

 

「こっちだって何するかわかんね――――ぜ!!!」

(確かに――――――!!!!)

『もう遅い』

 

 だがその時には既に、鉄人たちは計算を終え、動き出していた。

 グランダインが持ち上げた手のひらの上に現れた一体の人形を見たとたん、首領パッチが驚愕で固まってしまったのだ。

 

「ヤッ君‼︎ いや違う⁉︎」

『スキだらけだ』

「おぶ‼︎」

「ぐはっ‼」

 

 愛する人形とは微妙に違うと気付きながら、首領パッチは思い切り顔面をメテオに向かって叩きつけられる。

 斃れる二人を見て、ボーボボとイザヨがさらなる怒りを燃やし突撃した。

 

「テメ――‼︎」

『ここから先は動く必要もない』

 

 くいっ、とスカイダインが指を動かし、全く関係がなさそうな所にトゲの罠を設置する。

 それ以上動こうとはしない二体を好機と見たボーボボが、ゲートボールのハンマーを振りかざす。だがそれは、首領パッチを踏んだことで大きく狙いを外してしまった。

 

「あ‼︎」

「ぶ!!!」

「ごげふ!!?」

 

 ズレた一撃は、着ぐるみの天の助の顔面に炸裂して、彼はそのままイザヨの腹に向かって吹っ飛ばされる。

 二人の勢いは止まらず、途中にいたなでしこまで巻き込んで、先ほど張られた罠に三人仲良く突き刺さった。

 

「ぎゃあああ‼︎」

「バカめ‼︎ まだオレが残ってるぜ‼︎」

 

 ただ一人、まだ無傷のままのボーボボが再びハンマーを振り上げる。

 だがその目前に、血管を顔中に浮き上がらせた首領パッチが拳を振り上げた。

 

「よくもオレを踏みやがったな―――!!!」

「ぶはぁー‼︎」

「何しやがんだ‼︎」

「テメーこそ‼︎」

 

 踏み潰され、巻き添えを食らい、余計なけがを負わされた者達が仲間に向かって怒号を上げて襲い掛かる。

 宇宙鉄人たちには一切の傷をつけられないまま、ボーボボたちは互いに醜い争いを始めてしまっていた。

 

(あ、あの一瞬でこうなることを予測……いや、未来を見たというの?)

(コイツら……一体どんな世界が見えているんだ…!!?)

 

 たった一度の計算を終えただけで、これほどの結果を導き出した鉄人たちに、ビュティとヘッポコ丸は青い顔で身を震わせる。田楽マンにいたっては、今にも漏らしそうなほどにガタガタと震えていた。

 

「くっ…こんな力を持っていたとは…」

「ぐぐ…こうなったら…」

 

 ようやく正気に戻った首領パッチらは、悠々と佇む宇宙鉄人たちを睨み、悔しそうに歯噛みする。

 すると首領パッチは、いきなり周囲に浮かぶ幾何学模様に食らいつき始めた。

 

「この変な模様を全部食う!!!」

「ナイスアイデア♪」

「食べれるのそれ⁉︎」

 

 気迫が見せた幻かなにかだと思っていたビュティが、食いつかれてゴムのように伸びる模様に驚愕の目を向ける。

 すると突如、ボンッと白い煙が立ち上り、首領パッチは博士風の見た目に変貌した。

 

「頭良くなった‼︎」

 

 難しそうな実験を嬉々として行う首領パッチだが、当然事態は何も好転していなかった。

 

「クソ、どうすりゃいいんだ‼︎」

「オレに任せろ」

 

 冷や汗を流し、窮地に悩むボーボボの前に、おもむろに天の助が前に出る。

 只ならぬ雰囲気を纏った彼は、全神経を研ぎ澄ませてその力を解放させ始めた。

 

 ―――奴らの〝アカシックレコード〟と互角に渡り合う手段はただ一つ。

 

 ゴゴゴゴ…と大気を震わせながら、それは天の助の周囲に顕現する。

 ところどころに『ぬ』の字が表れた、奇妙な幾何学模様の陣となって。

 

 ぬ感覚

((ここにもスゴイ感覚の持ち主がいた―――!!!))

 

 役立つかどうかはともかく、凄まじい見た目のそれを発現させた男に、ツッコミ役二人から戦慄の視線が集まる。

 それを声援と受け取ってか、天の助はド派手なサンバの格好に変貌しながら鉄人たちに向かって突進していった。

 

「ぬ―――――!!! ぬ―――――!!!」

『話にもならん』

「ぎゃあ!!!」

 

 無論、そんな攻撃が効くわけもなく、天の助は軽くあしらわれて吹っ飛ばされる。

 だが彼の勇姿は、鼻毛の貴公子と宇宙の番長の闘志に火をつけたようだった。

 

「いい気になるなよ、宇宙鉄人‼︎」

「ならばこっちはキサマらの計算のさらに上を計算するぜ!!!」

 

 勇ましく吠えると、ボーボボとイザヨは目を閉じ、集中を始める。

 その脳裏に、無数の計算式が浮かび上がり、パズルのように解かれ始めた。

 

(2+1=3 5+2=7 3+3=6 6+3=9 3+4=7 8+7=15……)

「足し算だけ!!? ムリだよ‼︎」

 

 内容のしょぼさに目を剥き、無謀だとビュティが待ったをかける。

 確実に対抗できないであろう内容の薄さ。だが次の瞬間、ボーボボとイザヨの周囲にも、難しそうな幾何学模様が展開されていった。

 

「あれ⁉︎ なんか難しい感じの図形がいっぱい出た!!!」

「足し算で!!?」

「宇宙鉄人の計算を上回る動き、それは―――――」

 

 計算を完了させた二人の戦士の目が、カッと見開かれる。

 そしてその計算に従い、二人の戦士たちは走り出す。なぜか犬と猫の格好になって、ぐるぐると輪を描くように。

 

「「これだ―――!!!」」

「ウソ――――!!!」

「「鼻毛コズミックW真拳奥義『わんにゃん大回転』!!!」」

 

 ドタバタドタバタとじゃれ合うように走り回るボーボボとイザヨ。二人はそのまま、宇宙鉄人たちに向かって突撃していった。

 

『くだらぬ時間稼ぎだ!』

『次の一撃で肉体を貫かれて死ぬがいい!』

「わんわんわんわんわんわん‼︎」

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ‼︎」

 

 虚仮にされたと思ったか、宇宙鉄人たちは腕から鋭い爪を備えて直接狙いにかかる。

 ボーボボとイザヨは減速することなく、鉄人たちに真正面から向かっていく、そして。

 

 倭挐兄妹(ワーナー・ブラザーズ)

 

 凄まじい衝撃とともに、二人と二体の拳が同時に激突する。

 ボーボボとイザヨ、双方の身体が貫かれることはなく、鋼鉄の兄妹は機械の目を大きく見開いた。

 

『何ィ‼︎ 我らの計算が外れただと‼︎』

『こんな事が…何故…⁉︎』

 

 予想外の事態に、二体はその理由を考察する。

 そして、彼らの足にしがみつく白い生物―――田楽マンの存在に気付き、怒りで視界を真っ赤に染め上げた。

 

『このためか…!!!』

「その重りの動きまでは計算できなかったようだな。オレたちの計算の勝ちだ」

「おっしゃ――――! 奴らの鼻を明かしてやったぜ―――!!!」

 

 ようやく厄介な力を一つ封じる事ができたと、首領パッチたちは喜びをあらわにする。

 だが、鋼鉄の兄妹に焦る様子は一切見受けられないことに、すぐさま愕然となった。

 

『ククク…おめでたいやつらだな』

『この程度、我らの力のごく一部でしかない』

 

 カチーン、と驚愕で固まり、鉄人たちを凝視する首領パッチたち。

 そんな中で、ボーボボはにやりと不敵な笑みを浮かべていた。

 

「奇遇だな。おれ達もまだ奥義は使ってないぜ」

「いや思いっきり使ってたよ」

 

 ビュティの冷たいツッコミが、緊迫した空間にいやに響くのだった。



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奥義32:コズミックマインド

色ついたどー!!


 不敵な響きを声に乗せ、宇宙鉄人は悠々と立ちはだかる。

 厄介だった敵の攻撃をようやく封じた直後だったヘッポコ丸たちは、その態度に愕然とした表情に変わった。

 

「まだ何か力を隠しているのか…‼︎」

「そんな…」

 

 このままでは勝てない、そう痛感するビュティたち。

 その肩に、宇宙鉄人と相対するように不敵に笑ったボーボボがぽんと手を置いた。

 

「安心しろ。オレもたいした奥義は使ってないぜ」

「ボーボボ!」

「ボーボボさん!」

 

 頼もしい言葉に、ビュティもヘッポコ丸も思わず笑顔になる。

 が、期待の目で振り向いた先で、ボーボボはいくつもの巻物や書物を地面に山積みにし、荒い呼吸で膝をついていた。

 

「使い切った感が否めね―――――――――!!!」

「ボーボボ! まだ奥義『スリッパの裏でペチペチ』が残ってるぞ‼︎」

「おお!」

「それ明らかに残り物だろ!!!」

 

 まだ読み切ってなかった巻物を掲げ、首領パッチが確実に役に立たなそうな奥義を提案する。

 しかしボーボボは喜んでそれに乗り、首領パッチとともにスリッパを手に宇宙鉄人たちに突撃した。

 

「喰らえ! 奥義『スリッパの裏でペチペチ』!!!!」

『ぐわっ‼︎』

 

 ぺちぺちぺちぺちと、間違いなく痛そうにない音が力なく響く。

 しかしその小さな音とは裏腹に、攻撃を受けたスカイダインとグランダインは苦痛を孕んだ呻き声をこぼした。

 

(効いてる――――!!! これスゴイ奥義だったんだ)

『うっとうしい!!!』

「おぶ‼」

 

 しかし力尽くで振り払える威力だったらしく、手近にいた天の助を殴り飛ばして二体は怒りをあらわにする。

 え?なぜオレがなぐられたの?と困惑する天の助を足蹴にし、宇宙鉄人はボーボボたちと向き直った。

 

『愚かな…』

『我々だけに注目していていいのか?』

「何⁉︎ どういうことだ⁉︎」

 

 口があったならば、ニタリと醜悪に歪んでいるであろう妖しい雰囲気を纏い、宇宙鉄人が告げる。

 その直後、ボーボボたちの立つ空間の天井全てが開き、無数のレーザーやミサイルなどが配備され始めた。

 

 侵入者迎撃システムレベルXXX発動!!!!

「「「何ィィ―――――――!!?」」」

 

 殺す気MAXな兵器の数々に狙われ、ボーボボたちは目を剥いて絶叫する。

 そしてその声を合図に、兵器の群れは情け容赦なくボーボボたちに牙を剥き、ズドドドド‼と火を噴き始めた。

 

「危ないビュティ‼︎」

「きゃああ!」

 

 地面を穿ち、何もかもを破壊する砲撃にさらされ、ボーボボやソフトン、ヘッポコ丸は咄嗟にビュティを守る盾になる。

 当然だが、首領パッチをはじめとするその他は完全に放置だった。

 

「「ぎゃあああああ!!!」」

「ハイ、直撃です」

 

 ハチの巣になり悲鳴を上げる天の助や田楽マン、そしてなぜかほぼ諦めて平然としている首領パッチの周囲に血飛沫が舞う。

 そのすぐ横でメテオやなでしこが猛攻を必死に躱す中、元から無敵な魚雷ガールはなぜか優雅に紅茶と新聞をたしなんでいた。

 

「アイツら……XVⅡの力を完全に乗っ取ってやがる!!!近づけねぇ!!!」

「下がってろ‼︎」

【Screw On】【Water On】

「コズミック真拳奥義『ライダー洗濯機トルネード』!!!」

 

 一発でも喰らえば致命傷な攻撃を防ごうと、イザヨが二つのスイッチを同時に使い、周囲に激流でできた壁を作り出す。

 凄まじい威力の水流は何とかレーザーを防ぐ事ができたが、それでも突き抜けてくる銃弾がボーボボたちに襲い掛かってきた。

 

「ダメだ、全部は防ぎきれない‼︎」

「案ずるな。バビロンにはどのような攻撃も悪しき心を持つ者にはね返す秘奥義が存在する…みんな、オレの後ろから出るな」

 

 イザヨが時間を稼ぐ中、ソフトンが全身のオーラを集め、徐々に発現していく。

 そして気合いの裂帛とともに、ソフトンの周りに半透明な赤い壁が生み出され、ボーボボたちを守るために張り巡らされた。

 

 バビロン真拳奥義『九龍の朱い魔鏡』!!!

「いいぞウンコ――」

「オラー‼︎ かかってこいや!」

 

 最早恐いものなどない、と調子に乗った首領パッチたちが、天井中に設置された兵器の数々を煽る。

 すると望み通りにしてやるとでも言うように、兵器は赤い壁に向かってレーザーを発射し―――跳ね返ってすべて首領パッチたちに命中した。

 

「「「ぎゃああああああ!!!」」」

「あ」

 

 高熱で焼かれ穴だらけになる首領パッチ、天の助、田楽マンの姿に、壁を作ったソフトンが思わず気の抜けた声を漏らした。

 

「横に3人悪しき者いた――!!!」

「ウンコ、テメ――、コラ‼︎」

「ボットン便所に流されるか、おお⁉︎」

「芳香剤まくぞコラ‼︎ いい香りでニオイかき消すぞコラー‼︎」

「何してんの‼︎」

 

 余計な痛みを味わった三人は、その直接的な原因であるソフトンに当たり始め、ビュティからツッコミを食らう。

 自業自得というべきか不幸な事故なのか、判断が微妙に付けづらかった。

 

「あなた達ふざけすぎ―――!!!」

「「「ぎゃばらべが!!!」」」

 

 愛するソフトンへの狼藉に、魚雷ガールが怒りの突撃を放ち吹っ飛ばす。これに関してのみ、ビュティやヘッポコ丸は三人に同情の念を抱いていた。

 

『まだまだ余裕がありそうだな』

『ならば次は……10倍だ』

「「「「「「ぎゃわらああああああああ!!??」」」」」」

 

 慌てふためくボーボボたちを嘲笑うと、宇宙鉄人はそれぞれで腕を振るい、周囲にさらなる兵器を展開させる。

 先ほどの攻撃が弱く想えるほどの襲撃に、ボーボボたちは号泣しながら逃げ惑った。

 

「いやああああああ‼︎」

「ボーボボさ――ん‼︎」

 

 今度こそ、全身をレンコンのように穴だらけにされて殺されてしまう。

 そんな想像をしたビュティたちが、ソフトンに守られながら悲痛な叫びをあげた。

 

「わわわっ‼︎」

「わわわわっ‼︎」

 

 だが、ボーボボたちもまだやられてはいない。柔軟に素早く動き、襲いくるレーザーの雨を紙一重で躱していく。

 側転や前転を繰り返していた彼らは、いつの間にか妙な円形の梯子のようなものに掴まって転がっていた。

 

「わ――――――」

「何やってんの!!?」

 

 新体操で見た事があるラートに乗り、ごろごろ転がる姿はどう見てもふざけているようにしか見えない。

 しかし彼らは大真面目な顔で、ラートの転がる勢いを増すと、宇宙鉄人たちに向かって言った。

 

「そしてこのまま宇宙鉄人に――突撃―――!!!」

(あれ――? 乗り物変わってる――――!!!)

 

 そして突撃の直前に、未来の一輪車のような奇妙な乗り物に乗り換え、宇宙鉄人にダイレクトな体当たりを食らわせビュティを困惑させる。

 その背後に突如、古いアニメのようなフォントの文字が浮かび上がった。

 

 未来ポリス ボボボチーム

 第1話 緊急出動OK?

「そのまま変なの始まった!!!」

 

 突然始まった新番組に、ヘッポコ丸は何事かと目を剥く。

 しかしボーボボたちは構わず、謎のBGMとともに奇怪な制服とヘルメットを被り、役に入り続けた。

 

『スクランブル、スクランブル。敵出現、ただちに出動してくれ‼︎』

「「「「ラジャOK!」」」」

「敵は強大だ、COOLに決めるぜ♪」

「「「「ラジャOK!」」」」

 

 意味があるのかよくわからないスライダーを滑り、謎の乗り物に乗り込んで発信させるボボボチーム。

 そして宇宙鉄人の元へ到着すると、それぞれで石斧や石槍、あるいは大岩を持って、二体に渾身の一撃を食らわせ始めた。

 

【Hammer On】【Freeze On】【Claw On】【Elek On】

「ATTACK!!!」

「「「「ラジャOK‼︎」」」」

(攻撃は原始的だ―――!!!!)

 

 近未来的な乗り物や設備や設定とは真逆の乱暴な攻撃に、ツッコミ二人は意味が分からないと声にならない声を上げる。

 その攻撃をどうにか凌いだスカイダインとグランダインは、忌々しげな雰囲気を放ちながらボーボボたちを睨みつけた。

 

『チィ…! うっとうしい…!』

『そうかこいつら…手を組むと力を増すのか。脆弱な人間らしい身の守り方だな』

「強みだと言いやがれ! たとえ一人一人の力は弱くても、それを束ねれば人は何倍にも強くなれるのさ‼︎」

 

 人間には到底越えられない攻撃をしのがれ、押され気味になっても、宇宙鉄人の人間を見下す態度は変わらない。

 それに対し、イザヨがドンと胸を張りながら、得意げに言い放った。

 

「そう…それこそが仲間との絆だ!!!」

 

 イザヨは思い出す。母なる星で出会い、共に悪を倒そうと修業した日々を。

 訓練施設で死にかけ、イザヨとのけいこで殺されかけ、普段の会話で普通に叩き潰されそうになったりした、かけがえのない時間を。

 

「感動的なこと言ってるところ悪いけど回想シーン全部最悪なんですけど!!?」

 

 少なくとも涙は一切流れそうにない回想に、ビュティがすかさず待ったをかける。台詞は立派でも、実際の行いがあまりに鬼畜過ぎたのだ。

 だがその表情が、ふと強張る。

 膝をついていた鋼鉄の兄妹から、不気味な含み笑いが聞こえてきたからだ。

 

『ククク…笑わせるな、如月イザヨ』

『貴様の言葉にどれほどの説得力があると思う?』

 

 急に雰囲気を変えた宇宙鉄人に、イザヨやボーボボたちは訝しげな視線を返す。確かに説得力はなかったが、二体の態度はそれとは異なる理由があったように思えたのだ。

 困惑する彼らに向けて、スカイダインとグランダインは衝撃の一言を放ってみせた。

 

『人間でも、生物でさえないお前が…人類の味方をするとは』

『滑稽な話だな』

「…⁉︎ なんだと…⁉︎」

 

 その意味を理解することは、ビュティたちにも、そして誰よりもイザヨ自身にもできなかった。



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奥義33:友情ジェノサイダーズ

 ―――22年前、毛の王国。

 

 まだ毛狩り隊の侵攻に脅かされる事なく、比較的平和な時間を過ごしていた、ある夜の事だった。

 

「…あー、アイドルになりてぇ」

 

 縁側から空に浮かぶ大きな月を見上げながら、ボーボボの父TUYOSI(ツヨシ)がそんな事をのたまう。

 そこへ、切り分けたスイカを持ったボーボボと、兄姉であるベーベベとブーブブがやってきた。

 

「父ちゃん! スイカ切ってきたぜ、兄さん達も一緒に食べよう!」

「おー、ボーボボ。よし食おう」

 

 優しい息子の気遣いに笑顔を浮かべ、ツヨシは息子達と並んで縁側に座る。

 そして、美しい夜景を肴にいざ食した途端、ツヨシとベーベベが口から真っ赤な火を吹いた。

 

「タバスコ仕込んでみました♪」

「ぼべらぁ!!?」

「きゃあああああ何やってんのよあんた!!!」

 

 目を飛び出させて悶絶する二人に、ブーブブが驚愕で悲鳴を上げる。お茶目な顔で舌を出す弟の顔が、ものすごく腹立たしく感じた。

 

「野郎ふざけやがって‼︎」

「てへ☆ お茶目なジョークなの」

「ジョークで兄貴を殺そうとしてんじゃねーよ!!!」

 

 全く反省する様子のないボーボボに、ワカメ髪を逆立たせたベーベベが怒号を上げて掴みかかる。

 ツヨシがそれに巻き込まれ、ギャーギャーと毛の一家の夜が騒がしくなる。そんな、ありふれた日常の一頁の中だった。

 

「…ん? ねぇ、待って。アレ何かしら」

「あ?」

 

 父と弟達のケンカに呆れた視線を向けていたブーブブが、ふと訝しげな声を上げて顔を上げる。

 釣られて空を見上げたボーボボたちは、その視線の先に一つ、星空の中で妙に目立つ光があることに気がついた。

 

「なんか…こっちへ……近づいてきて………!!?」

 

 最初は星だと思っていたそれが、徐々に大きく見えてきて、一家はだんだんと慌て始める。

 その直後、光はどごーん‼と凄まじい音を立てて庭に落下し、凄まじい衝撃をあたりに飛び散らせた。

 

「何じゃこりゃあああああああ!!??」

「何⁉︎ 何が起きたの⁉︎」

 

 突然の現象に、毛の兄弟はバタバタと狼狽し走り回る。防災頭巾代わりにタライを被ったりカツオを担いだりと、やることが無茶苦茶になるほどに。

 そんな中、いち早く立ち直ったベーベベが爆心地に目を向け、ハッと息を呑んだ。

 

「…なんかいるな」

「何!!? それは間違いなくエイリアンだ‼︎ 誰かプレデター呼んでこい‼︎ ここは地獄になっちまうぞ!!!」

「プレデター呼んだ方が地獄よ!!!」

 

 黒電話を片手に、宇宙において最強最悪の掃除屋を呼ぼうとする弟に、ブーブブが慌てて待ったをかける。

 やがて、ボーボボたちの見つめる先で、爆心地から煙が晴れていく。その中から現れたのは、予想だにしない存在だった。

 

「赤ん坊だと…⁉︎」

「親方―――‼︎ 空から赤ちゃんが―――!!!」

「お前さては昨日ラピュタ観たな⁉︎」

 

 真っ赤に燃える抉れた地面の上で、すやすやと眠る小さな赤子。

 ゴーグルと帽子をかぶった、つぎはぎだらけのコスプレをしたボーボボが叫ぶと、つられたように赤子は鳴き声を上げ始めた。

 

「おーおー、かわいそうに。惑星ベジータから逃げてきたのか〜?」

「サイヤ人⁉︎」

「どれどれ、わしが抱っこしてや…あ、腕ねぇからムリだ」

「何しに出てきたの⁉︎」

 

 何者かは知らないが、このままにしておくのはかわいそうだ、とツヨシが率先して抱き上げようとして失敗する。

 それに突っ込んでいたブーブブは、次の瞬間驚愕に目を見開いた。

 

「オギャ―――――ッ!!!」

「毛ゃああああああっ!!?」

 

 ひときわ強く泣き叫んだ赤子が、ツヨシの毛を掴んで思いっきり引き千切ったからだ。

 体の一部を直にブチ切られたツヨシは、断末魔の叫びをあげて地面を転がっていった。

 

「父ちゃ―――――ん!!!」

「ぐふっ……ボ、ボーボボ…ブーブブ、ベーべべ………わしはもうダメだ…この子のことを頼んだぞ………ぐふっ!!!」

「いや押し付けてるだけだろそれ!!! 自分の子供に何させようとしてんだ!!!」

 

 息も絶え絶えに、ギャン泣きする赤子を託そうとするツヨシにベーベベがふざけるなと吠える。気持ちはわかるが息子に丸投げするなと。

 そうこうしているうちに、今度は赤子はボーボボのアフロを掴み、力尽くで上下に引き裂いてしまった。

 

「ぎゃ―――ん!!!」

「ぎゃあああああオレのアフロがー!!!?」

「もげた!!!?」

 

 まさかこれが、20年後に度々彼のアフロが開閉するようになったきっかけになったなど、誰も想像できまい。

 阿鼻叫喚の地獄の中、縁側を通り過ぎようとした目つきの悪い少年に、ツヨシは希望の眼差しを向けて呼び止めた。

 

「おお‼︎ ビービビ‼︎ ちょうどいいところに来た!!! 助けてくれ!!! わしらこの赤子に殺されてしまう!!!」

「あ?」

「いいから‼︎ 早くしないと本当に殺され…ぎゃああああ!!!」

 

 自分の次男に助けを求めたツヨシが、今度は残った毛を掴まれてぶんぶん振り回される。

 それを見た少年・ビービビはちっと舌打ちし、気だるげに赤子に近づいた。

 

「ちっ…しょうがねーな」

 

 何で自分がそんな役目を、と不満げにぼやき、ビービビは赤子を抱き上げる。

 その途端、あれほど盛大に叫んでいた赤子はピタリと泣き止み、ビービビを見上げてにっこりと満面の笑みを浮かべ始めた。

 

「…キャハハッ‼︎」

「なんだよ、おとなしいじゃねーか」

「「「「何―――っ!!?」」」」

 

 拍子抜けした様子で佇むビービビに、ボーボボたちは信じられないとばかりに絶叫し、二番目の兄を凝視した。

 

「驚いたのぉ…あんな暴れん坊がこうもあっさり……」

「ビービビ兄ィすげぇ…‼︎」

 

 満身創痍のツヨシが、やや硬い仕草で赤子をあやすビービビを見つめて感嘆の声をこぼす。ボーボボなど、それ以上声も出ないようだった。

 

「よし、お前が育てろ」

「はぁ!!?」

「なんかお前に一番なついてるみたいだし、いいだろ。ていうかお前以外ムリだろこれ」

 

 ツヨシのムチャぶりの様な提案に、他の兄弟たちはうんうんと同時に頷く。

 それにイラッとした表情を見せるビービビだったが、赤子が自分の指をつかんで離さないのを見て、やれやれと肩を竦めた。

 

「…ったく、めんどくせーな」

 

 そういうものの、ビービビの顔には確かな慈愛の表情が滲んでいたことに、彼自身気付いていないようだった。

 

 

 そして時は、現代に戻る。

 宇宙鉄人たちはその事実を、呆然とした様子で立ち尽くす女番長に、嘲りの視線とともに告げるのだった。

 

「……そうして生まれたのがお前だ。如月イザヨ」

 

 愕然としているのは、イザヨだけではない。

 ビュティやヘッポコ丸、その場にいた全員が、鋼鉄の兄妹の口にした真相に目を見開き、絶句していた。

 

「あたしが生物じゃないって…どういうことだ!!? あたしは毛の王国の人間だ!!!」

『否‼︎ 貴様は地球外から飛来した存在………どこから来たかも何者なのかも不明な、完全なるUMAだ!!! それを人間などと…笑わせる!!!』

 

 イザヨは顔を青ざめさせ、信じるものかと声を荒げる。

 だが宇宙鉄人は、イザヨのその反論さえ一蹴する。どれだけ否定しようとも、自分達が伝えたことは純然たる事実なのだと、そうはっきりと告げていた。

 

「ボ…ボーボボ⁉︎ 本当なの!!?」

「ウソだろ、ボボ兄……ウソだと言ってくれよ」

 

 ビュティが隣でずっと黙ったままのボーボボに尋ね、イザヨが縋るように悲痛な目を向ける。

 だがそれでも、唯一真実を知る男は貝のように口を閉ざし、答えようとはしなかった。

 

『残念ながら、きちんと観測されたデータがある』

『宇宙から飛来し、一個の物体として確立した存在が毛の王国にあるとな』

「…黙れ」

 

 追い立てるように、宇宙鉄人たちはさらなる情報を提示し、イザヨはそれに低く唸るような声を返す。

 それでも構わず、スカイダインとグランダインは嘲るような調子で残酷な真実を告げ続けた。

 

『キサマは人外でありながら、ずっと王国の者を騙していた』

『そして王国もまた、貴様の正体を隠し続けてきたのだ』

「黙れ…!」

 

 ギリリ、とイザヨの歯が軋みを上げる。

 自分の存在の根底、その全てが揺るがされ、彼女を支えていた全てが脆く崩れていく。その感覚に、女番長はこれまで見たことがない怯えを見せていた。

 

『『お前に我々を悪と断じ、人類を守ると豪語する資格など最初からありはしないのだ!!!』』

「だまれぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 限界を迎えたイザヨが、自身が持つ剣に青い光を纏わせながら斬りかかる。

 真実をこれ以上聞きたくない、すべて否定したいという意志のままに、イザヨは宇宙鉄人たちを排除しようと無謀な突撃を行ってしまった。

 それは彼らにとって、望み通りの展開だった。

 

『『京大(キョーダイ)デストラクター!!!!』』

 

 ガシン、と合わさったスカイダインとグランダインの手から、眩い光が迸る。

 とてつもないエネルギーが溢れ、飛び掛かり剣を振り上げたイザヨに向かって、激流の用に襲い掛かっていった。

 

「ぐぅっ…ガハッ!!!」

 

 イザヨは咄嗟に、剣を盾に防ごうとする。だがエネルギーの奔流はそんな事では止まらず、イザヨをあっという間に呑み込んで覆い尽くす。

 そして光が収まった直後、イザヨの全身から夥しい量の血が噴き出し、空中に真っ赤な花を咲かせた。

 

「「「「「イザヨ―――――――!!!」」」」」



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奥義34:フォーリング☆イザヨ

「…ああ…」

「ウソだろ…………」

 

 目の前で起きている光景に、ボーボボたちは総じて絶句する。

 広がっていく紅い池、その中心で仰向けに倒れ、荒い呼吸で白目を剥く女番長に…そのすぐ横で悶える、小さな命に向けて。

 

「「「「アリさ―――ん!!!!」」」」

「さっき踏まれました…」

「ええ――っそっち!!!?」

 

 文字通り虫の息になっているアリに悲劇の涙を流す一同にビュティたちがツッコむ。非常時にも変わらずふざけ倒しのボーボボたちだった。

 

『ククク…もはやそいつもそこまで』

『当初の警戒も無駄に終わったな、ハハハ!』

「………………おのれ……おのれ…」

 

 一矢報いることもできず、地に墜ちたイザヨを嘲笑い、宇宙鉄人が下卑た笑い声をあげる。

 そんなに隊を睨みつけ、ボーボボはぶるぶると怒りで全身を震わせた。

 

「おのれぇ―――!!!!」

「コルド大王!!?」

 

 宇宙最強の一族のコスプレをしたボーボボが、二体に向かって斬りかかる。

 だがそれをグランダインが難なく受け止め、スカイダインが無防備な腹に向けて光線を放ち、容赦なく貫いてみせた。

 

「ぐわぁ‼︎」

 

 腹に大穴を開けられたボーボボはそのまま吹き飛ばされ、壁に激突してずるずると崩れ落ちる。ほぼ出番がないまま、帝王の父の偽物は退場しようとしていた。

 

「……ぐ…ビュティ…いやフリーザ。後は任せた…あのスーパーサイヤ人を倒してくれ…」

「いや私フリーザじゃないし相手スーパーサイヤ人でもないから」

 

 ボーボボの無茶ぶりに、ビュティが慌てていやいやと手を振る。

 だが、事態はふざけているほどお気楽な状況ではない。味方の最高戦力二人が、あっという間に叩き潰されているのだ。

 

「ボーボボまでやられた‼︎」

「チクショウ‼︎ オレが相手だ!!!」

「イザヨの仇――――!!!」

「まて‼︎ うかつに動くな‼︎」

 

 仲間がやられたことに激昂し、メテオとなでしこが鬼の形相で飛び出していく。

 凄まじい勢いで迫ってくる二人と、急ぎ追随するソフトンを一瞥した宇宙鉄人たちは、小馬鹿にした様子で片手を挙げた。

 

『忘れたか……キサマら全員、袋の中のネズミだ』

「「「「「ぐあああああああああ!!!」」」」」

 

 途端にメテオたちに大量のレーザーや電撃が浴びせられ、全身を焼き焦がされる。

 近づくことすらもままならない攻撃に、メテオたちはたまらずがくりと膝をつき、そのまま倒れ伏してしまった。

 

「こっちにも来たぞ!!!」

「きゃあああああ!!!!」

 

 レーザーの雨はビュティたちにまで襲い掛かり、辺りはカッと閃光と轟音に包まれる。

 だが、痛みに備え目をつぶっていたヘッポコ丸は、それがいつまでたっても来ない事を訝しみ、ハッと目を見開いた。

 

「お…お前は……!!!」

「黒騎士!!! なんて無茶を…!!!」

 

 ヘッポコ丸は、自分たちを守るように立ち塞がり、煙を上げる黒騎士に驚愕の目を向ける。

 微かに振り向いた黒騎士は、駆け寄ってきたインガに抱き留められながら、両の目から光を完全に消失させた。

 

『ククク…連携が崩れたな。仲間の喪失がここまで響いたか』

『なに、安心しろ。すぐに貴様らも同じ場所へ送ってやる』

 

 しんと沈黙する一同を見下ろし、宇宙鉄人たちは視線を上げ、残った二人を見やる。

 殺気を向けられ、硬直するビュティを背に庇い顔を強張らせるヘッポコ丸を見ながら、宇宙鉄人たちが再びエネルギーを充填し始めた、その時だった。

 

「おい鉄クズども、主人公を忘れてるぞ?」

 

 エネルギーの光に照らされ、鉄人たちの頭の上に乗った首領パッチがにやりと笑う。

 兄妹が気付いた時には、首領パッチはすでに大量の得物を振り下ろしていた。

 

『キサマ‼』

『いつの間に!!?』

「喰らえ、二人の仇『首領パッチソード大盛り』!!!!」

 

 驚愕する二体に向けて、首領パッチは首領パッチソードと命名したネギの束を叩きつける。

 当然、ネギは半ばからへし折れ、へにゃりとへたってしまった。

 

「ダメでした☆」

『調子に乗るなゴミが‼』

「よっ」

 

 馬鹿にした顔で苦笑した首領パッチを狙い、スカイダインが刃となった腕を振るう。

 それを難なく躱し距離をとった首領パッチは、警戒する二体を鼻で笑って見せた。

 

「バカが、よく見な! 戦える奴ならまだ残ってるぜ」

『バカはキサマだ』

『残る連中は皆ザコばかりのハズだ』

「いや…いるさ」

 

 ちらりと首領パッチの目が、背後に倒れる二人の仲間に視線を移す。

 よく見ると、そいつらだけ他と異なっていた。まるでミイラのように、全身包帯で巻かれているうえに、ご丁寧に『死亡中』と看板までぶら下がっていた。

 

「死んだフリしてやがるがな」

「「ドッキーン!!!」」

 

 見破られた二人、天の助と田楽マンが冷や汗を流して体を震わせる。

 そしてすぐさま起き上がり、激しい羞恥と後悔に身をよじらせ始めた。

 

「うわあああ、オレたちはなんてくさったヤツらなんだ〜〜〜」

「何度もオレたちを助けてくれたあいつらがやられたっていうのに、まだ自分がカワイイのか――」

 

 傷ついたイザヨ、倒れたボーボボ、動けないソフトンたち。

 そんな仲間達を置き去りにし、自分達だけ助かろうとしたことがたまらなく情けなく、許せなくなる。

 

「オレは―――」「オレは―――」

 

 そんな後悔の念が、徐々に彼らの中の枷をギリギリと引き絞り、そして。

 ぶっつんと、プリンのように理性の鎖を解き放った。

 

「ウオオオオオオオ奴らの仇はオレたちがとる〜〜〜〜!!!」

「止まらねえ‼︎ もうこうなったオレたちは止まらねぇぞ〜!!!」

 

 ビリビリと包帯を引き千切り、怪物の形相となった天の助と田楽マンが吠える。

 涎を垂らし、牙を剥き出しにした二人はまさに獣。理性から解き放たれ、本能の化け物となった二人にはもう、止まる理由はなかった。

 

『そうか』

「いや…その、やっぱ止まります」

「……ハイ」

 

 だが、宇宙鉄人に睨まれると、即座に普段の二人に戻る。

 その場のノリだけで、なんか覚醒したっぽく振る舞ってしまったらしい。

 

『バカめ…』

『XVⅡの全機能を掌握し終えた時点で、キサマらは用済みなのだ』

 

 そう告げた二体の目が、ギラリと光り電流が迸る。

 その電流はXVⅡ全域に伝わっていき、ゴゴゴと何かが蠢く音が響き始め、首領パッチたちを困惑させた。

 

「な…何だ⁉」

「お前ら何をした!!?」

『侵入者をXVⅡ中枢から排出します』

 

 きょろきょろと辺りを見渡す一堂を突如、凄まじい突風が襲う。

 何とか堪えようとしたボーボボたちだったが、風の勢いに耐えられず、次々に吹き飛ばされ、宇宙鉄人の元から引き離されてしまった。

 

「ぐああああああ追い出された!!!」

「ウンコか⁉︎ オレ達はウンコなのか―――!!?」

 

 ゴォッ、と凄まじい引力によりボーボボたちは運ばれ、やがてどこかの地面に叩きつけられていった。

 

「ぶへ‼︎」

「こ…ここは…」

 

 運ばれた先で、ボーボボたちはよろよろと起き上がって辺りを見渡す。

 おそらくはダストシュートであろう、無数のごみが積み重なったそこで、ボーボボたちは呆然となる。

 その時、頭上で光る何かに気が付き、全員がハッと顔を上げた。

 

「あ! あんなところにモニターが」

「何だ⁉︎ 何か映像が映し出されてるぞ⁉︎」

『ククク…これぞXVⅡの真の力‼︎』

『貴様らごときでは止められぬ超常の力が、今覚醒するのだ…!!!』

 

 ボーボボたちに見えるように備えられたモニターに、宇宙鉄人の声とともに巨大な何か―――一度見た、XVⅡの全体が映し出される。

 その巨大な影が、徐々にその形を変え始めた。

 

『WARNING! WARNING!』

 

 ガシン、ガシンと重低音を響かせ、箱型だったXVⅡが変形していく。

 ものの数秒も経たないうちに、XVⅡは月の直径をも超えるほどの巨大な鉄人の姿へと変貌していた。

 

「何じゃこりゃあああああああああ!!??」

「XVⅡが…巨大なロボットに変形した…!!?」

「カッキー!!!」

 

 予想を超える事態に目を見開く横で、目を輝かせた天の助が叫ぶ。

 だが、その表情もすぐに消える。XVⅡの腕が前に伸び、凄まじい量と密度のエネルギーが収束され始めていたからだ。

 

『全エネルギー解放。高出力波動砲発射用意』

「マズイぞ! あんな高密度で大量のエネルギー………本当に地球が消滅する!!!」

「どーすんだよ!!? どーすんだよこれ!!?」

 

 今度こそ本当に滅ぼされる、と田楽マンが騒ぎ始め、ダストシュートの底は大騒ぎになる。冷静沈着なソフトンさえ、焦る気持ちを抑えられずにいた。

 だから気付かなかった。

 一同の中から一人、戦士の姿が消えていたことに。

 

『『さぁ…‼︎ 滅びよ人類!!!』』

 

 宇宙鉄人の号令とともに、XV2からエネルギー砲が放たれる。地上の全てを蒸発させられる熱が、一直線に母なる星に迫る。

 目を見開き、絶句するボーボボたちの目の前で、地球の全てが焼き尽くされよとしたその瞬間だった。

 

【LIMIT BREAK】

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

『『何ィ!!??』』

 

 雄叫びとともに、地球に向かっていたエネルギー砲が何者かに防がれ、凄まじい閃光とともに押しとどめられる。

 青い刀身を持つ剣を構え、背中のロケット噴射を全開にした、特攻服ではなく白装束に着替えたイザヨが、鋼鉄の巨人の砲撃をたった一人で受け止めていた。

 

「「「「「イザヨ!!!!」」」」」

「「って白装束着てる―――!!!」」

 

 もしや先程の一撃ですでに死んでいたのか、とボーボボたちとは異なる理由で驚愕するビュティとヘッポコ丸。

 しかしただのボケだったらしく、イザヨは強烈な熱を一身に受け止め続け、徐々にXVⅡごと押し返し始めていた。

 

『まさか…エネルギー砲ごと』

『ワープドライブするつもりか!!?』

「地球は…終わらせねえええええええ!!!!」

 

 XVⅡの背後に現れた、白い淵が渦巻く穴に向けて進んでいくイザヨに、宇宙鉄人は驚愕の目を向ける。

 イザヨは額に血管を浮き立たせ、渾身の力で砲撃を振り払うと、そのままXVⅡに向けて青く輝く剣を振りかざした。

 

コズミック真拳究極奥義『ライダー超銀河フィニッシュ』!!!!!

 

 予想外の出来事に固まる巨人に、イザヨが放った光の刃が炸裂し、巨体を後退させる。

 XVⅡは背後の穴を強制的に通らされ、地球から少し離れた宇宙空間へと放り出されていった。



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奥義35:ネバーネバネバギブアップ‼︎

「ガハッ!!!」

 

 イザヨはついに限界を迎え、大量の吐血とともに変身が解除されてしまう。

 纏っていた40のスイッチは全て彼女のもとから離れ、地球の重力に引かれてどこかへと落下していってしまった。

 

『ハハハ! 全てのコズミックエナジーを使い果たしたようだな!』

『もはや今のキサマは、ただの地球人‼︎』

「ぐぅ…!」

 

 元の学ラン姿で、痛みに呻くことしかできないイザヨ。

 宇宙鉄人たちはそれを見下ろし、XVⅡの巨大な腕をゆっくりと伸ばしていった。

 

『せめてもの慈悲だ』

『ここで楽にしてやる』

 

 巨人の手が、弱り切った戦士を握りつぶそうと残酷に開かれる。

 だがその時、宇宙鉄人の視界に荒いノイズが走り、巨人の腕もそれにつられてピタリと停止していた。

 

『⁉︎ 何だ、今のノイズは…!!?』

 

 すぐさまノイズを振り払い、我に返る二体。

 だがその時には既に、イザヨの姿は宇宙空間から影も形もなくなってしまっていた。

 

『…チッ、おかげで奴を見失った』

『…まぁいい』

『そのうち処分すれば事足りる』

 

 もはやあの人間には何もできまい、と宇宙鉄人は結論付け、計画の再開に着手する。

 それが、間違いだとは一切思わずに。

 

〇 × △ □

 

 XV2内部の奥、どことも知れない資材置き場のような場所。

 宇宙鉄人の魔の手から何とか逃れたボーボボたちは、救出したイザヨの手当てを行っていた。

 

「ヤベーぞ! イザヨの血が止まらねえ‼︎」

「そんな時は傷口にワサビをぬるんだ」

「はっ! その知恵は『おばあちゃんの知恵袋』か‼︎」

 

 どくどくと流れ出すイザヨの血に焦っていた天の助は、耳に届いた何となく知恵に富んだ声に期待に目を輝かせる。

 が、そこに現れたのは、変な袋を持ったおばあちゃん顔の首領パッチだった。

 

「残念、『オバーナ・チャンの堪忍袋』だ‼︎」

「なんじゃそりゃ!!?」

 

 何がしたいのか意味がわからん、とビュティが目を剥き叫ぶ。

 構わず首領パッチは、仰向けに寝かされたイザヨの傷口の上に、バカデカいチューブから大量の練りわさびを絞り落とした。

 

「オバーナ・チャンの堪忍袋〜〜〜〜♪」

「ごばぁ!!!!」

「あっ、ヤベェマジで出しすぎた」

「何やってんだテメ――――!!!」

「おぶ‼︎」

 

 盛大に吐血するイザヨの姿に、ボーボボが怒りの鉄拳を首領パッチに食らわせる。

 イザヨはそれで完全に目を覚ましたのか、苦しげな表情のまま体を起こした。

 

「大丈夫かイザヨ。無理をするな」

「この程度のキズ……‼︎」 

Medical On(メディカル・オン)

 

 悔しさによるものか、険しい顔でイザヨは、手元に残った数少ないスイッチのうちの一つをベルトに挿し、発動させる。

 かすかな光とともに、左腕に備わったモジュールが働き、イザヨに応急処置を施してみせた。

 

「どーすんだよあいつら‼︎ マジで人類滅ぼされちまうぞあんなヤベーの!!?」

「お前らは人類じゃないけどな」

 

 弱々しいイザヨや傷ついたボーボボたちを見て、田楽マンがさっそく弱気になる。ツッコミを入れるヘッポコ丸だが、不利な立場にあることは確かだった。

 そんな中、呻き声とともにイザヨが膝をつき、立ち上がろうとする姿が全員の目に入った。

 

「大丈夫…だ。この身体がある限り……オレはまだ、戦える………!!!」

「ムリだ‼︎ いまのお前が行ってもただ死ぬだけだぞ!!!」

「もうこれ以上!!!」

 

 メテオが慌てて、戦友を止めようと掴みかかるが、イザヨは強い叫び声でそれを押しとどめる。

 その目に宿る悲痛な光に、メテオはハッと息を呑んで引き下がっていた。

 

「オレはもう…失いたくないんだ! あんな思いを……したくないんだ…‼︎」

 

 

 それは、1ボーボボ達が毛の王国を脱出する1年前。

 マルハーゲ王国の侵攻が激しくなり、毛の王国が徐々に追い詰められ始めた時期の事だった。

 

「毛狩り隊の脅威が…こんなにも早く及ぶとは‼」

「オレ達はまだ戦える……だが、戦えない女子供は早々に離脱させるべきだ」

 

 国内にいても聞こえてくる破壊音や悲鳴。

 さらなる窮地が近づきつつあることを察し、ベーベベやブーブブは決死の覚悟を決めようとしていた。

 

「脱出用ロケットはもう完成してる! いつでもいけるぜ、兄さん‼︎」

「いやホントにこれでいけるの!!? どう見てもただの工作なんだけど!!?」

「飛べるよ」

 

 ぐっ、とサムズアップをして自慢げに言うボーボボと、彼が作った前衛アートのようなロケットを見てブーブブがツッコむ。

 ため息をついたベーベベは、傍らに立つ小さな少女の肩に手を置いた。

 

「そういうわけだ…わかってくれるな、イザヨ」

「イヤだ!!!」

 

 目に涙をこらえ、ボーボボたちを見つめていた少女は、ベーベベの言葉を全力で否定する。

 幼い姿のイザヨは、吹けば飛ぶような小さな体で地面を踏みしめ、断固として動かない意志を見せていた。

 

「イザヨもいっしょにたたかう‼ ここはイザヨのこきょうなんだもん!!!」

「だがお前は子供だ…! オレ達と一緒に戦ったら、お前の命が危ないんだ」

「あぶなくないもん‼ イザヨつよいもん!!!」

 

 決して大好きな兄たちと離れるものか、とイザヨは徹底して抵抗の意志を見せる。しばらく言い合いを続けていた二人だったが、とうとうベーベベの堪忍袋の緒が切れた。

 

「いい加減にしろイザヨ!!! オレ達を困らせるな!!!」

「!!?」

 

 ベーベベの怒鳴り声に、イザヨはびくっと身体を振るわせて黙り込む。

 傷ついた表情で見つめてくる、血のつながらない妹の姿に、ベーベベの胸中に航海が浮かぶ。

 だが彼は心を鬼にし、イザヨの肩を押してロケットの方に促した。

 

「さぁ…早くこの脱出ロケット(?)に乗れ‼」

「…………やだ」

「!!? お前、まだそんな事を……!!!」

 

 俯き、ぶるぶると肩を震わせるイザヨにベーベベがまた言い放とうとする。

 だがそれよりも先に、イザヨはベーベベにはっしと抱きつき、決して離れるものかとしがみついた。

 

「ヤダヤダヤダヤダァ!!!! イザヨひとりにげるなんてヤダあああああ!!!!」

「ぎゃああああああああ!!!!」

「ベーべべ兄さ~~~ん!!?」

 

 途端に、ベーベベの全身からベキベキバキバキと凄まじい音がし、口から耳を塞ぎたくなるような絶叫が上がる。

 慌てて止めようとしたボーボボとブーブブだったが、今度はイザヨは二人に駆け寄り、ぽかぽかと何度も叩き始めた。

 

「ボボにいたちはイザヨがキライなんだ!!! だからどこかにやっちゃおうとするんだあああ!!!」

「ごばぁっ!!?」

「ぶべら!!!」

 

 ボーボボとブーブブはたった一撃で地面に叩きつけられ、その後も拳を叩きつけられ見る見るうちにめり込んでいく。

 その様子を凝視しあわあわと慄いていたツヨシは、ギン、とイザヨの目が自分に向いたことで「ヒィッ」と悲鳴をこぼした。

 

「イザヨもいっしょにいくんだもん!!! イザヨもやくにたてるんだもん!!!」

「アメマアアアアアア!!!」

 

 毛先を掴まれ、ツヨシはイザヨにブンブンと思い切り振り回される。

 もはや駄々の域ではない。齢2歳の幼女による一方的な虐殺劇であった。

 

「押し込め‼ 無理矢理にでもロケットに入れちまえ!!!」

「急げ‼ 殺されちまう‼」

「うわ~~~~ん!!!」

 

 ボコボコにされたボーボボたちだったが、何とか隙を見つけてイザヨを拘束する。

 そして泣き叫ぶ彼女をロケットの中に押し込み、安全確認もそこそこに急いで発射スイッチを押していた。

 

「ボボにい~~~~~~!!!!!」

(((((悪は去った…!!!)))))

 

 白煙を残し、天空高く跳んでいく脱出ロケット。

 その光景にボーボボたちが抱いていたのは、例えようもないほどの安堵だった。

 

 

「…もう、あんな思いは…!!!」

(…ボーボボたちの尽力がなかったら、毛の王国はもっと早くに滅亡してたんじゃないかな…)

 

 やはりとんでもないイザヨの過去話に、ビュティは冷や汗を流しながらそう思う。見れば、思い出したのかボーボボも青い顔で震えているのがわかった。

 どうしたものか、と飴をなめながらぼーっとしていた天の助は、自分のすぐ近くにふよふよと浮いている何かに気づき、ギョッと目を見張った。

 

「⁉︎ な、なんだコイツは!!?」

「ぎゃああああああああ!!! ついに見つかった〜〜〜!!!」

 

 自分達を見つめてくる、まるで眼球のような物体に、ボーボボたちは警戒心を全開にする。

 だがただ一人、インガだけが落ち着いた様子でその物体を見つめて口を開いた。

 

「……あんた、XVⅡそのものね?」

「⁉︎」

 

 インガの言葉に、信じられないといった様子で全員が絶句する。

 あの鋼鉄の巨体からは考えられないほど小さな姿に、開いた口が塞がらなかった。

 

「ウソだろ…⁉︎ こんな目玉が!!?」

「そうか…本体であるメインコンピュータから自我を切り離し、別の端末に避難していたのか…‼︎」

「でも…どうしてここに?」

 

 ソフトンの考察に納得するも、それがここにいる理由は全く分からない。

 困惑の視線が集まる中、イザヨが不意に前に出て、XVⅡに向けて深々と頭を下げた。

 

「……すまねぇ。オレ達がお前の真意に気づけなかったから、こんな事に…‼︎」

 

 悔しくて、申し訳なくて仕方がないと、イザヨは歯を食い縛り声を絞り出す。

 それを横目に、ビュティはボーボボに真剣な表情を向けた。

 

「ボーボボ、XVⅡは何か伝えようとしてるのかも」

「そのようだな」

 

 頷くボーボボは、空中に浮くXVⅡに視線を移し、その真意を問う。

 するとXVⅡは向きを変え、壁に向かって中心から光を投射し始めた。

 

「…!!? これは…!!!」

「何だ? なんかの設計図か?」

 

 壁に映し出されたそれに、一同はざわざわと戸惑いの声を上げる。

 じっと目を向けていたなでしこは、映し出されたものの正体に気づき、思わずハッと息を呑んだ。

 

「これは、新たなコズミックスイッチ…!!?」



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奥義36:最後の希望 オレがボーボボ

 目の前に提示された設計図を前に、ボーボボたちは言葉を失くす。

 それが示す考えに、納得がいかないためだ。

 

「新しいスイッチ…⁉︎ まさか、これを作って逆転しろっていうの⁉︎」

「本気かよ、XVⅡ…‼」

 

 ビュティやヘッポコ丸は、難解な図式が描かれたそれに表情を険しくする。いきなりという事もあるが、それができそうにないと思えたからだ。

 

「こんなの、誰が作れるっていうんだ…⁉」

「ならばこのオレがその役を担おう」

 

 できるはずがない、と唇を噛む彼らの耳に、その声は届く。

 ハッと振り向いたビュティたちは、そこに立っていた白衣の男を前にぎょっと目を見開いた。

 

「このところ院 プル真がな…エル・プサイ・コングルゥ!!!」

「とぅっとぅる~♪」

「だれだよ!!?」

 

 自称・狂気のマッドサイエンティストっぽい格好になった天の助と女装した首領パッチ。どこをどう見ても、頼りにはならなそうだ。

 

「…ダメだ」

 

 そんなやり取りを横目に、XVⅡの示した図式を凝視していたソフトンが首を振る。

 唯一この中で頭脳的な彼は、何とか設計図を読み解くことには成功していたが、ある理由からそれを希望ととらえる事ができずにいた。

 

「この設計図によると、このスイッチを動かすためには全てのスイッチにボーボボやイザヨレベルの強者のエネルギーを注ぎ込む必要がある…!!! そんなエネルギー…この場にいる全員を合わせても足りない……!!!」

「そんな…⁉︎」

「一体どうすれば…‼︎」

 

 考えてみれば当然の話だ。人類を一瞬で滅ぼせるエネルギーを手に入れた宇宙鉄人に対抗するには、それに匹敵する力が必要になるだろう。

 絶望から、重い沈黙が降りる。

 だがそんな中で、その男は不敵な笑みを浮かべて呟いた。

 

「あるとも…」

「⁉」

 

 ボーボボがこぼした声に、イザヨやビュティたちがハッと振り向く。

 正気を疑うような視線が集まる中、ボーボボは迷うことなく設計図を見つめ、確信したような頷きを仲間達に見せた。

 

「オレ達に匹敵するエネルギー‼︎ それを持ってる奴らは……あそこにいる……!!!」

「何を言って…」

 

 現実的ではないボーボボの希望に、イザヨは信じられないといった様子で立ち尽くす。

 そんな彼女に、ボーボボはじっと視線を向け、穏やかに口を開いた。

 

「イザヨ、オレはお前が地球人じゃないことなど気にしない…………というか今までずっと忘れていた」

「!!?」

「だがお前がオレの大事な妹分であることは変わらない」

 

 さらっととんでもないことを告白された気がしたが、気にせずボーボボはイザヨの両肩を掴み、真正面から相対する。

 衝撃の事実からまだ立ち直れずにいた妹分(イザヨ)に、兄貴分(ボーボボ)は真剣な眼差しを向けてはっきりと告げた。

 

「戦う時は、オレも一緒だ」

「ボボ兄…」

 

 迷いを吹き飛ばす力強い言葉に、イザヨは思わず呆け、瞳を滲ませる。

 ボーボボは満足げに頷くと、おもむろにイザヨの背後に回り―――思い切りバックドロップを食らわせた。

 

「甘えるな〜〜〜〜〜〜!!!!」

「ごばぁ!!?」

「ええっ!!? どっちだよ!!?」

 

 唐突過ぎる理不尽な一撃を食らい、イザヨが目を見開きながら吐血する。

 ビュティもその鬼の所業にツッコミを入れ、カオスな空気になりかけたその時、凄まじい轟音がボーボボたちのすぐ近くから聞こえてきた。

 そこに現れた二体の影…宇宙鉄人に、ボーボボたちは戦慄の表情を浮かべた。

 

『……見つけたぞ、クズども』

『人類滅亡の最初の犠牲になるがいい』

「追いついてきやがった‼︎」

「クソォ………⁉︎」

 

 まだ具体的な対抗策も出来上がっていないのにと、口惜しげに一行は強敵に向かって身構える。

 しかしただ一人、ボーボボだけが明確な意図をもって動き出した。

 

「作戦は決行する!!! 力を貸せ、お前たち!!!」

「はぁ⁉︎ いきなりなんだ!!?」

「ていうか作戦なんて立ててましたっけ!!?」

「つべこべ言わずさっさとやれ!!!」

 

 目を剥く天の助と田楽マンをひっつかみ、どこからともなく用意した大砲の中に突っ込むボーボボ。

 そして狙いを上空に定めると、容赦なく点火し二人を宙に打ち上げた。

 

「いくぞ、強制協力奥義『バカ衛星発射』!!!」

「「ぎゃあああ」」

 

 仲良くまとめられた生食品2人が、滝のように涙を流しながら宇宙に向けて一直線に吹っ飛んでいく。

 

「ショエエエ――」

「オレたちは人工衛星じゃね―――ぞ―――――――」

 

 それぞれでボーボボへの恨み言を吐きながら、天の助と田楽マンは宇宙空間へと飛び出す。

 そして次の瞬間、二人は一瞬で合体し本当に一機の衛星へと変身してみせた。

 

 とこ田衛星TD-506デビュー♡

 

 衛星に変化した二人は、ボーボボが操る携帯電話からのメールを地球に向けて発信し始める。

 それを確認したボーボボは、再び宇宙鉄人に鋭い目を向けて構えをとった。

 

「あとは()()()()を信じて待つ他にない…オレ達にできるのは、奴らをここで食い止めることだけだ!!!」

『小賢しい‼︎』

『何を企んでいるかは知らんが』

『『今更何ができるというのだ!!!』』

 

 あくまでも抗う姿勢を見せるボーボボを嘲笑い、スカイダインとグランダインは忌々し気に吐き捨てる。

 その目が、ボーボボのすぐ横で本を手に横になる首領パッチに向けられた。

 

『『!!?』』

 

 注目されているにも構わず、首領パッチは時々相槌を打ちながら、小説らしき本を読み進めていく。

 そしてやがて首領パッチは、ハジケウォーズと書かれたそれを閉じた。

 

「……色々と考えてみたが、オレはとんでもない勘違いをしていたらしいぜ…」

『何?』

 

 立ち上がり、本を小脇に抱えた首領パッチは、訝しげに見つめてくる宇宙鉄人たちの前でフッと鼻で笑う。

 そして次の瞬間、とてつもないエネルギーを全身から迸らせた。

 

「どうやらオレ、この小説の中ですら主人公じゃなかったらしい――――――――――――!!!」

 

 怒ん、と首領パッチの身体が金色に染まり、トゲがさらに鋭く尖る。

 しかし変化はもう一段階起こり、トゲがさらに増えてオーラも倍以上に膨れ上がった。

 

「よくよく読み返すと、ヒロインですらオレでなくイザヨだったっぽい――――――――――――!!!!」

 

 大気が震えるほどの変化を見せつけ、首領パッチはぎろりと鋼鉄の兄妹を睨みつける。

 その目からは、つぅと涙が一筋流れ落ちていた。

 

「だが…その全てはキサマらが仕組んだもの。この小説の真の主人公にしてヒロインはこのオレ、怒怒んパッチ………違うか?」

「「!!!」」

 

 散々本編で否定され、読み返してもなお、首領パッチはそんな確信を持ち、強敵を見据えて覇気を迸らせる。

 驚愕と呆れが混ざった視線を無視し、怒りの戦士は雄々しく立ちはだかった。

 

『クク…知ったことか』

『主人公だの脇役だのどうでもいい………キサマらは全員、ここで退場だ』

「殺す」

 

 あからさまに馬鹿にした言葉を鉄人たちが吐くと、一瞬で首領パッチの姿が掻き消える。

 そして気付いた時には、宇宙鉄人たちに大量のタケノコの剣が突き立てられていった。

 

 タケノコ・秋のキャッスルブレイド!!!!

『『ぐおおおおおおおお!!!』』

 

 猛烈な速度で突き刺さるタケノコが、鋼鉄の体に夥しい傷をつけていく。

 凄まじい破壊力を見せつけ、颯爽と飛び退る今の首領パッチの姿は、確かに主役のごとき迫力を纏っていた。

 

 ―――強い!!!

    半端ない怒り…やはり皮肉にもその強さだけは主人公級だ‼

『キサマラァ…!!!』

『許さんぞォ…!!!』

 

 かすかな希望を見たように、笑顔を浮かべたビュティたちが見守る中、宇宙鉄人たちは光る両目に怒りを滾らせ、声を震わせる。

 その目の前に、さらに数人の影が割って入り、明確な敵意を見せつけてきた。

 

「バビロン神の加護を我らに…‼」

「私の生徒は私が守る」

「お前らの運命は、オレ達が決める」

「タイマンはらせてもらうよ‼」

 

 ソフトンが、魚雷ガールが、メテオが、なでしこが、共に戦おうと次々に立ち上がっていく。

 そんな彼らの隣に立ち、ボーボボが雄々しく拳を構え、力強く吠えた。

 

「行くぞ、お前ら!!!」

「「「「「「オオ!!!!!」」」」」」

 

〇 △ □ ×

 

 所変わって、地球某所の高層ビルの最上階。

 デスクについた一人の男の前で、二人の黒スーツの男がアタッシュケースに詰められた札束を見せ、頭をこれでもかと下げていた。

 

「全部で200万$あります。これでどうか1つお願いします」

「いや、だったら我々は300万$出しましょう。どうか…!」

 

 恥も外聞も捨てた懇願に、デスクに座る白い仮装の男―――サービスマンは一切首を縦に振らない。毅然とした態度で、厳しい目を男達に返した。

 

「断る。金ではサービスできん」

「Mr.サービスマン‼︎ 我が国ではアナタのサービスを必要としているのです‼︎」

「400万…500万$でも‼︎ アナタのサービスには、アナタのサービスにはそれだけの価値があります‼︎」

 

 断られてなお、諦めきれない二人はさらに代価を積み重ねるが、やはりこの男頷かない。

 だがその時、サービスマンの懐からメールの着信音が鳴り、内容を確認した彼の表情が変わった。

 

「急用ができた。失礼する」

「Mr.サービスマン、どこへ⁉︎」

 

 慌てる二人を置き去りに、サービスマンは手早く出発の用意を進めていく。

 疑問の声を上げる彼らに向けて、サービスマンは端的に、こう答えた。

 

「戦友のもとへ」



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奥義37:融合(フュージョン)

 真っ赤な夕陽が照らす広い荒野を、一台のバイクが駆け抜けていく。

 ヘルメットを被り、ゴーグルをつけたサービスマンが、白い衣服の裾を風ではためかせながら、終わりの見えない荒野を一直線に進んでいく。

 その理由はただ一つ、目指さなければならないゴールがあるからだ。

 

〇 △ □ ×

 

「ライダーロケットパーンチ‼︎」

「星心大輪拳!!!」

 

 XVⅡの中で、それぞれで拳を構えたなでしことメテオが、宇宙鉄人に向かって全速力でつっこんで行く。

 その攻撃は鉄人のバリアによって難なく防がれてしまうが、即座にボーボボが接近し、視覚から隙を狙う。

 

「鼻毛真拳超奥義『毛魂(バーニング)』!!!」

 

 鼻毛よりも太いワキ毛を炸裂させるが、宇宙鉄人はそれをビームで焼き払い、逆に至近距離に近づいたボーボボを刺し貫こうと迫る。

 

「私の生徒は私が守る―――!!!」

 

 危うく串刺しにされかけたところを、ロケット噴射で宙を舞う魚雷ガールが突撃し、窮地を逃れる。

 紙一重で後退した宇宙鉄人だったが、頭上から差した影にハッと顔を上げた。

 

「怒怒怒針千本!!!!」

 

 金色に染まった首領パッチの棘が、四方八方から鉄人たちに迫り、貫こうとする。

 ジェット噴射でそれを躱した二体に、ソフトンやイザヨ、残る仲間達が一斉に攻撃を仕掛けていく、だが。

 

『ムダだと…言っているだろうが!!!!』

「「「「「ぐわあああああああああああ!!!!」」」」」

 

 グランダインが放ったエネルギー波が、ボーボボたちに襲い掛かり勢いよく吹き飛ばしていく。

 反撃を食らったボーボボたちは壁に叩きつけられ、血反吐を吐きながら地面に落下していく。全員、もう立ち上がれないほどの傷を負ってしまっていた。

 

「ぐはっ…‼」

「みんな…もうどうしようもないっていうの…⁉」

「ぐふっ…もう……力が…‼」

 

 唯一ビュティだけが怪我を負わずに済んでいるが、非力な彼女では立ち向かう事はできない。

 斃れていく仲間達を、悲痛な表情で凝視することしかできずにいた。

 

『諦めるのだな……!!!』

『時期にXVⅡのエネルギーは再充填される。キサマら人類は…今度こそ終わるのだ』

 

 嘲りの目を向けてくる宇宙鉄人たちに、ボーボボたちはギリギリと歯を食い縛る。だがそれでも、誰も立ち上がれないままだった。

 ただ二人を除いて。

 

「まだだァ!!! まだ…オレ達は負けてねェぞ!!!」

「キサマらを倒すまで……オレ達は決して倒れない!!!」

 

 全身を血に染め、今にも力尽きそうになりながら、ボーボボとイザヨは立ち上がる。

 母なる星を守るため、自分達が生きる世界を守るため、そして何より、強大な悪に屈しないために。

 

 その時だった。

 彼らが背後にしていた地球の表面に、いくつもの眩い光が灯ったのは。

 

「!!?」

「何だ⁉ 地球が…光っている!!?」

 

 驚愕の表情で振り向くボーボボたちと、宇宙鉄人。

 その視線の先に、彼はいた。

 

 

「…少し、時間がかかってしまったな。だが、お前達の頼みは確かにかなえたぞ」

 

 一つのスイッチを弄び、ヘルメットをわきに抱えたサービスマンが、遥か高い空を見上げながら呟く。

 バサバサと衣服をはためかせ、ちらちらと中身を覗かせながら、自分が通ってきた旅路を思い返し、目を閉じる。

 

「このコズミックスイッチを……世界中の実力者たちの元に届け、力を注ぎ込んでもらう。交渉に手間取ったが、何とか応じてもらう事に成功した」

 

 彼が通ってきたのは、文字通り世界中。

 ハジケブロック基地、ハレルヤランド、サイバーシティ……あらゆる場所、あらゆる国を目指し、かつてボーボボたちと相対した多くの強者達のもとを訪ね、説得して回ったのだ。

 彼らとともに、戦ってほしいと。

 

「私にできることはここまでだ……だが、今こそ共に戦おうぞ」

 

 スイッチを天に向けて掲げ、サービスマンが力強く告げる。

 手の届かない場所で戦う戦友たちの力になるために、自身の力をスイッチに注ぎながら。

 

「ハイッ!!! サァァァァァァビスッッッ!!!!」

【Flash】

 

 衣服の裾を捲り上げ、自身の全てを晒しながら、サービスマンがスイッチを押す。

 その直後、眩しい黄色の光がスイッチから迸り、空に向かって真っすぐに伸びていった。

 

 

「負けんじゃねーぞ、ボーボボ!」

【Lader】

「おやびん!」

「「「おやび~~ん‼」」」

【Parachute】【Spike】

 

 地上に一人残った破天荒が、敬愛する首領パッチへのエールとともに黒いスイッチを押す。

 また別の場所でも、首領パッチの子分の子パッチたちが受け取ったスイッチを押した。

 

 

「しっかりやりなさい!」

「手間のかかる弟だ…!」

【Chainsaw】【Magic hand】

 

 また別の場所では、ボーボボの姉兄であるブーブブとベーベベがそれぞれでスイッチを持ち、天に腕を伸ばして叫んでいた。

 

 

「この力使ってください、先輩!」

【Gatling】

 

 とある街中でも、キング・オブ・ハジケリストを目指し首領パッチやボーボボと激突した青年・ライスがスイッチを構え、笑みを浮かべる。

 

 

「フン……貸しを作っておくのも悪くない」

【Elec】

 

 世界最大の遊園地・ハレルヤランドでも、マルハーゲ帝国四天王の一人であるハレクラニがスイッチを持ち、にやりと不敵に嗤う。

 

 

「おもしれーじゃん♪」

【Pen】

 

 サイバーシティの帝王・ギガも、受け取らされたスイッチを見下ろし、やがて狂気的な笑みとともに、弄ぶようにスイッチを押す。

 

 

「ボーボボー!」

「ボーボボさん!」

【Winch】【Aero】

 

 毛の王国に拾われ、幼少時代をボーボボと共に過ごした軍艦とその部下スズも、遥か空の彼方にいる者達に向けてエールの叫びをあげる。

 その叫びは、彼らだけで終わりではなかった。

 

「気張りやぁ‼」

「このハンペンの力使うがいい!!!」

「N&N‼」

「スパーク‼︎」

【Camera】【Beat】【Shield】【Hammer】【Screw】【Net】【Hand】【N Magnet】【S Magnet】【Schop】【Stealth】【Chain array】【Wheel】【Freeze】【Hopping】【Water】【Claw】【Gyro】【Fire】【Stamper】【Board】【Giant foot】

 

 共に戦った者、敵対していた者、出会った者、単にすれ違っただけの者。

 地球上に行きとし生ける数多の戦士たちが呼びかけに応じ、己の持つ力を託そうと雄々しく天に向かって吠えていた。

 

「さぁ‼ 全ての願いを背負い、戦うがいい!!!」

【Drill】

 

 地球上から天に向かって伸びていく数々の光の線を見上げ、おしりの革命児・カンチョー君もスイッチを押してエールを送る。

 イザヨが通う天野川高校の校舎の屋上でも、一人の老人が不敵な笑みとともにスイッチを握りしめていた。

 

「…その道を望むのなら、足掻いてみせなさい」

【Rocket】

 

 

「いけ、友よ!」

「ボーボボさん! 首領パッチ! 天の助!」

「がんばるのらー!」

「ギョラー‼」

【Medical】【Smoke】【Launcher】【Scissors】

 

 当然、XVⅡの中にいる彼らも同じだった。

 手元に残った数少ないスイッチを持ち、ソフトンたちが声援とともに力を注ぎ込む。

 

「イザヨ!」

「イザヨー!」

【Meteor】【Nadeshiko】

 

 メテオとなでしこも膝をつきながら、自身らが持つスイッチを手にし、残された全ての力を詰め込み始める。

 そしてビュティも、自身の手に握られたスイッチを握りしめ、力の限り叫んでいた。

 

「負けるな、ボーボボ―――――!!!」

【Cosmic】

 

 一つ、また一つと、スイッチにこめられた力が宙に軌跡を描いていく。

 それらはやがて、流星群のように美しい景色を作り出し、真っすぐにボーボボとイザヨ、首領パッチと天の助に向かって伸びていく。

 そしてすべての光が一つに集まり、爆発のような閃光が迸った。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 凄まじいエネルギーがボーボボたちを包み、光の柱となって宇宙空間を照らし出す。

 しかし誰よりも当事者である彼らが、その光の奔流に驚愕し、かつてないほどに目を見開いていた。

 

「なんだこれはああああ!!? とんでもない力だ―――!!!」

「あぢぢぢぢぢ!!?」

「とける―――!!!」

 

 そのまま焼き尽くされそうなほどのエネルギーの渦に翻弄され、叫ぶ首領パッチや天の助、そしてイザヨ。

 その中で唯一ボーボボだけが、にやりと勝利を確信したような不敵な笑みを浮かべていた。

 

『『な、何だこのエネルギーは…!!?』』

「これこそが……キサマら宇宙鉄人がゴミだと吐き捨てた地球の人間達の力!!! キサマらへの反撃はすでに始まっていたんだよ!!!!」

 

 それまでとは打って変わって、混乱と驚愕の態度を見せる宇宙鉄人に向けて、ボーボボが雄々しく宣言してみせる。

 その直後、ボーボボたちを包む光がさらに強まり、彼らの姿をかき消していった。

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 影さえ見えなくなるほどの光量の中、ボーボボたち四人の咆哮だけが雷の様に響き渡り、地鳴りのように地面を震わせる。

 その光の中で、イザヨの目の前に見た事のないスイッチが生み出され、ベルトに勝手に差し込まれた。

 

「「「「聖鼻毛融合(ボーボボ・フュージョン)!!!!!」」」」

Fusion On(フュージョン・オン)

 

 カッと目を見開いたボーボボたちが、持ちうる力の全てを爆発させるように吠える。

 途端に光の柱が形を変え、四人を囲む球体に変わっていく。まるで卵のようになったその中で、ドクンドクンと力強い鼓動が響き渡った、その直後。

 

 

4強融合だ――――――――!!!

 

 

 光の卵の殻を破り、新たな鎧を纏ったイザヨが、拳を突き上げながら勢いよく飛び出してみせた。



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奥義38:爆誕!宇宙超戦士‼

「超・宇宙キタ―――――――――――!!!!!」

 

 純白の特攻服をはためかせ、プラネタリウムのように煌びやかな紫の学ランと金の鎧を纏い、別人のような雰囲気に変わったイザヨが力強く吠える。

 その凄まじさたるや、宇宙全体が歓喜に打ち震えているかのような迫力だった。

 

「うわあああああ!!?」

「なんだ、このパワーは!!?」

 

 ビリビリと、イザヨの声が衝撃波のように周囲に伝播する。

 その強烈な波に、宇宙兄妹はおろかビュティたちでさえも圧倒され、大きく目を見開いて絶句していた。

 

『何なのだ…!!?』

『キサマは一体…何なのだァ!!?』

「今のオレたちは……地球の戦士たちの力を受け取って生まれた超戦士!」

 

 背中に背負ったフォーゼの紋章を誇り、イザヨはカッと貫くような目線で宇宙鉄人を睨みつける。もはや一片の曇りもない、真っすぐな眼差しで。

 

仮面ライダーフォーゼ、ハジケフュージョンステイツだ!!!

 

 ドドン、と雄々しく胸を張り、新たに誕生した融合戦士は己の名を示す。

 金色に染まった両目と、立派にその存在を誇示するリーゼントに入った、黄、橙、青、白の四色のメッシュが、イザヨの中で渦巻くパワーの凄まじさを示していた。

 

「ハジケフュージョンステイツ⁉」

「出た―――‼ 数多の戦士の力を一身に集結させた新形態‼ 前人未到の四強融合戦士だ―――!!!」

「また出たバトルオタク‼」

 

 いつの間にか眼鏡をかけ、マイクを持ったヘッポコ丸が頼まれてもいない実況を始める姿に、ビュティが呆れながらも目を剥く。何度見ても慣れない、真面目なはずの少年の豹変だった。

 

「スゲ――」

「それでこそ私の生徒」

「だが、本当にやってのけたのか…⁉ 四強融合を‼︎」

 

 仲間達はボーボボとイザヨたちの変貌に驚愕し、同時に懸念を抱く。

 ボーボボが有する融合の力は、これまでの戦いで幾度も使われてきた。だがその最大数は三人まで、四人の融合など、これまで一度も見たことがなかったのだ。

 

『バカな!!! ただのこけおどしだ!!!』

『究極の力を持つわれら兄妹にかなうものなどいるものか!!!』

『『そのハリボテを粉々に粉砕してくれる!!!』』

 

 目に見える変化を前にしながら、宇宙鉄人たちはそれをさしたる脅威ととらえず、見下した態度のまま突撃していく。

 今度こそ叩き潰し、絶望の淵に墜としてくれると、渾身の力で左右から拳を振り下ろした、だが。

 イザヨはそれを、指先一つで簡単に押しとどめてしまった。

 

『『な…何ぃいい!!?』』

「今度はこっちからいくぜ…」

 

 予想外の事態に、思わずその場で停止してしまうスカイダインとグランダイン。

 その決定的な隙が、戦況を完全にイザヨの方へ傾けてしまった。

 

 星心大輪拳+バビロン真拳+米真拳超合体奥義『超連撃・流星神聖拳』!!!!

「ホアタタタタタタタタタ!!!」

『ガッ…ゴワアアアアア!!?』

 

 白い炎を纏った両拳が、無防備に立ち尽くす宇宙鉄人たちに襲い掛かる。

 聖なる炎は正確に二体の急所を狙い撃ち、そして米粒のように無数に放たれたそれが、鉄人たちの装甲に傷をつけていった。

 

「⁉︎」

「あの技は…!!!」

 

 見覚えのある技、それを目撃したソフトンとメテオが、遠目から驚嘆の声を上げる。

 最後に一発強烈な拳を食らいながら、鉄人たちはなんとか距離をとり、思わぬ反撃を食らわせたイザヨを忌々しげに睨みつけた。

 

『く…‼︎』

『調子に……‼︎』

 

 だが、イザヨはまだ止まらなかった。背中のロケットに加え、両腕に巨大なロケットのモジュールを備えると、猛スピードで鉄人たちに接近し、今度は両足に凄まじいエネルギーを集め始めた。

 

 プルプル真拳+田楽+ハンペン超合体奥義『生食品夢饗宴「(武士の心)」』!!!!

「どらららららぁ!!!」

「つ…強ぇ!!!」

 

 天の助のように捕らえられない、田楽のようにおいしいところを責め、ハンペンのように硬く強烈な蹴撃が食らいつく。

 体から微かに破片をこぼしながら、鉄人たちはXVⅡの壁を突き破り、大きく吹き飛ばされていった。

 

『おのれ………やられてばかりだと思うな!!!」

「まだまだぁ!!!」

 

 宇宙空間に追い出されるも、スカイダインは負けじと自身を変形させ、ジェット機のような形態に変化し飛び立つ。

 超スピードで接近してくる赤い鉄人を、イザヨも鋭く睨みながら迎え撃った。

 

 スカイ・トマホーク!!!

 オナラ真拳+オブジェ真拳+ポリゴン真拳超合体奥義『変幻自在の英雄像(ノー・フェイス・ステイタス)』!!!

 

 ガシン‼と凄まじい衝撃を響かせ、二つの影が激突しすれ違う。

 しかし一秒も絶たないうちに、赤い影の方ががくんと失速し、人型に戻りながら火花と破片を撒き散らした。

 

『ガハッ!!? ぐっ…小癪な‼︎』

「ロケット顔が衛星に変形してる!!!」

 

 流線型の尖った顔が、すれ違いざまに殴られ丸く変形した姿に、ビュティが思わずツッコミを入れる。

 変わり果てたスカイダインの姿に、同じく宇宙空間に出されたグランダインが怒りをあらわにした。

 

『よくもやってくれたな!!! 我が妹の仇だ!!!』

 グラン・ジェノサイドミサイル!!!

 

 グランダインが一瞬にして戦車のような形状に変わり、全身からミサイルやキャノン砲を発射しイザヨを襲う。

 しかし、四方八方から向かってくる弾頭を前にするも、イザヨは全く顔色を変えることはなく、両腕から金色の光を放ち始めた。

 

 夏真拳+ゴージャス真拳+黒太陽真拳超合体奥義『強欲テンペスト』!!!!

 

 金色の光の正体、無数の金貨がそのまま氷や黒い炎に変化し、嵐のような勢いで広がっていく。そして近付いていたミサイルを呑み込み、もろともに爆破し無効化してしまう。

 その中心で、全くの無傷のイザヨが不敵に笑って見せた。

 

『何!!? 相殺しただと!!?』

「まだ終わらねぇぞ…‼︎」

 スネ毛真拳+ワキ毛真拳+鼻毛真拳+我流鼻毛真拳超合体奥義

 

 驚愕し、硬直するスカイダインとグランダインに、イザヨがロケットを全開にして再び接近する。

 次の瞬間イザヨの脚、そして脇から無数の体毛の刃が伸び、そして鼻からボーボボと同じサングラスをした紫の何かが飛び出し、宇宙鉄人に突撃していった。

 

『毛王国大同窓会』!!!!

「夢にまで見たこのオレの二次創作出張――――!!!!」

『『ぐわああああああああ!!!!』』

 

 出番が欲しくてたまらなかった、しかし報われることの少なかったKING鼻毛が、泣きながら自ら鞭となってぶつかっていく。

 そんな凄まじい光景に、ビュティたちは声すら上げられず、ただ茫然となるばかりだった。

 

「ま、まさかあの力は…⁉︎」

「ボーボボが………みんながこれまで出会ってきた強敵達の力が…!!?」

 

 イザヨの見せる全ての技、全ての力が、ビュティたちの記憶の中にあるものと同じだった。

 敵として、仲間として相対してきた強者達の力。それが今、イザヨとボーボボ、首領パッチと天の助に力を貸しているのだと、彼らは痛感していた。

 

『バカな…‼︎』

『なぜ急に…これほどまでの力が!!?』

 

 人間が、それも先ほどまで自分達に押されていた者達が急激な強さを見せたことに、宇宙鉄人は狼狽を見せる。

 手を止めたイザヨは、鋭く尖らせた目の中にどこか、寂しげなものを見せながら語りかけた。

 

「宇宙鉄人…お前達の言う通りだ。人間じゃないオレが人間を守るのはおかしな話かもしれない……でもな、俺はそれでいいんだ。それでよかったんだよ」

 

 自分の胸に手を当て、イザヨは苦笑を浮かべる。

 たった一言、自分の知らない過去を言われただけで狼狽えて、自分はどれだけ滑稽だったのかと。

 

「ボボ兄は、そんな俺を思い切り殴り飛ばしてくれた……甘ったれてんじゃねぇってな!!!」

「アレそんないい話じゃなかったよ!!?」

「俺はこの星で目覚め、この星で生きてきた。そこには何の間違いもない……どこで生まれようが、どうでもいい‼ お前らになんて言われようが、知ったこっちゃねェんだよ!!!」

 

 ビュティが思わずツッコミを入れるが、イザヨは全くへこたれない。

 そんな些細な違いよりも、大きな勘違いをした鋼鉄の兄妹に自分が得た答えを教える事だけで、頭がいっぱいになっていた。

 

「人は弱く、儚い塵のような存在だ。だが………決していなくてもいい存在じゃない!!! 小さな命の積み重ねの上に……今の地球はある!!! 今の世界を作り出してんのが、お前たちの言うちっぽけな命だ!!!」

 

 向けられる鉄人たちの視線は、先ほどとかわらぬ冷ややかなもの。

 しかしそれにもめげることなく、熱い思いを胸に抱いたイザヨは、感情の赴くままに語り掛け続けた。

 

「命と命はいつしか出会い、ぶつかり、さらなる強さを生み出していく…!!! それが…生きるって言うことだ!!!!」

『ふざけるな!!!』

『そんな戯言…誰が聞くものか!!!』

「戯言なんかじゃねぇさ………‼︎」

 

 言いながらイザヨは、スッと目を閉じる。

 その脳裏に浮かぶのは、自分が、そしてボーボボたちがめぐってきた、地球においての出逢いの数々……軍艦やハレクラニ、ギガ、お茶づけ星人やメソポタミア文明という、数々の生きとし生ける命の姿だった。

 

 ―――それがオレたちの旅路(人生)が得た答え

    …数多の強敵(とも)達との戦い(青春)の中でたどり着いた、真骨頂―――。

「何人かおかしな奴が混じってるぞ!!!?」

 

 誰かの指摘が入っても気にしない、数々の記憶が蘇り、融合したイザヨにもその熱さを伝える。

 そしてイザヨはカッと目を見開き、目の前に立ちはだかる命を踏みにじる者達に凄まじい気迫を見せつけた。

 

「キサマらには俺たちの……あまねく生命の輝きを知る旅に行ってもらう‼︎ いくぞおおおおおお!!!」

 

 凄まじい咆哮を放ち、宇宙そのものを震わせながら、イザヨが両拳を頭上に掲げていく。

 そして次の瞬間、まるで世界そのものが書き換えられるような膨大なエネルギーが、イザヨの全身から迸った。

 

コズミック真拳最終奥義『宇・宙・人・生(ジャーニー・スルー・ザ・フォーゼ)!!!!



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奥義39:生命の旅

 突如イザヨの周囲に広がる凄まじいエネルギー。

 その力は見る見るうちに、辺りの空間を光一つない真っ暗闇へと変えていった。

 

『『な、なんだこれは!!?』』

「宇宙鉄人‼︎ 貴様らに欠けている命への敬意をこの旅で教えてやる!!!」

 

 突然の事態に驚愕する宇宙鉄人に向けて、イザヨが力強く吠える。

 するとその場いた者全員が、奇妙な感覚を抱き始める。大きく膨れ上がり、今にも弾けそうになっている爆弾を前にしているような、そんな緊迫感が走っていた。

 

「まず始まるのは、すべての始まりである世界の産声‼ 広大なる闇を照らし出した原初の光‼ それこそが―――」

 

 カッ‼とイザヨを中心とし、世界の全てを真っ白に染め上げる閃光が迸る。

 そして周囲の全てに向けて、桁違いの熱と衝撃が襲い掛かり、何もかもを吹き飛ばした。

 

ビッグバン(BIG BANG)だ―――――!!!

「全員喰らってる――――!!!」

 

 宇宙鉄人と田楽マンたち、敵味方を問わず起こった超爆発により、その場にいた全員が白目を剥きながら悶絶する。

 惨状を作り出したにもかかわらず、平然とした様子のイザヨはその世界にさらなる変化をもたらした。

 

「生まれた最初の宇宙………粒子はゆっくりとした回転で徐々に集まり、いくつもの球に分かれていく。その中心に生まれ出でるのが、全ての命の源・太陽だあああ!!!」

 

 イザヨが叫んだ直後、イザヨのリーゼントの先端がフタのように開く。

 その中から、一人の刺々しい髪形をした、しかし王の風格をかねそなえた一人の少年が飛び出した。

 

「ラーの翼神竜を召喚するぜ!!!」

「スゴイ人出た―――!!!」

 

 別の大人気漫画の主人公として長年知られる少年―――武藤遊戯が、神の力を宿すカードを示して告げる。

 呼び出されたグリフォンに似た幻神獣は、まさに太陽のごとき輝きを咆哮として撃ち放ってみせた。

 

 ゴッド・ブレイズ・キャノン!!!!

『『ぐわあああああ!!!』』

 

 強烈な一撃を受け、宇宙鉄人たちの装甲が焼けただれる。

 しかしそれでも二体は引かず、予想外の攻撃をもたらしたイザヨにより一層殺意のこもった目を返した。

 

『この…‼︎』

『何だこのふざけた攻撃は…!!!』

「まだまだぁ‼︎ 太陽の光を一身に受け、星々は生まれていく‼︎ そこにもたらされるのは………星に火を入れる天空からの目覚ましだ!!!」

 

 反撃も許さないとばかりに、イザヨはさらなる宇宙創造神話のページを開く。

 そしてもたらされたのは、真っ赤に灼けた地球の前身に降り注ぐ、無数の流星の雨―――とはどう見ても思えない、あの三人の突撃だった。

 

 極悪斬血真拳超々奥義『インディペンデンス魚雷デイ』!!!!

「おふざけは!!!」

「許さない――――!!!!」

「きゃあああああ無数の魚雷とメテオとなでしこが降ってきた―――!!!!」

 

 鬼の形相と化した魚雷ガールとメテオ、そしてなぜかなでしこが無数に増え、地球と宇宙鉄人たちに激突していく。

 やがて燃える地球を雨雲が覆い、巨大な水の塊が出来上がる。そして嵐が吹き、徐々に星は確固たる形を得ていった。

 

「地上は荒れ狂い、陸と海と空が生まれていく!!! やがてそこに、最初の生命が産声をあげるんだ!!!!」

 

 ごぼごぼとうねる最初の海。その中のどこかに、小さな小さな、最初の原始的な生命が誕生する。

 しかしその顔は、どう見ても田楽マンだった。

 

「お前が最初の生命!!?」

「そして世界は…進化を始める…‼︎」

 

 田楽マンの顔をした原始生命体は分裂と変化を繰り返し、あっという間に自身を変えていく。

 そして瞬きの後には、巨大な恐竜の姿となって宇宙鉄人たちに襲い掛かった。

 

 進化解放(ワイルドブラスト)!!!!

『『ぐわあああああああああああああ!!!!』』

「おかしな生物いっぱい出てきた!!!」

 

 今こそ目立ち、鬱憤を晴らす時とばかりに、田楽マンは恐竜の姿で大暴れする。巨大な牙でかみ砕き、太い尾や足で踏み潰し薙ぎ払う、まさにやりたい放題だった。

 

「だが、いずれは別れの時がくる―――」

「⁉︎」

 

 田楽マンが調子に乗っていられる時間は短かった。

 空に再び流星がきらめき、ひときわ大きな光が海に墜落した直後、巨大な津波が発生しあっという間に地上に迫ってきたからだ。

 

「天は荒れ、大地は猛り、地上は一度ゼロへと戻る」

「ぎゃああああああ!!!」

「田ちゃ―――ん!!!」

 

 濁流の中に飲み込まれ、田楽マンはあっさり退場し絶滅の時を迎える。

 ビュティが悲痛な叫びをあげる中、その余波を食らった宇宙鉄人たちも激流に揉まれ、自身らを襲う猛攻に混乱した様子を見せていた。

 

『がはっ…⁉︎ 何なのだこいつらの力は!!?』

『まだ終わらんのかこの馬鹿げた攻撃は!!?』

「安心しろ…オレの教えは次で最後だ」

 

 もう許してくれ、というよりもいい加減にしろ、といった感情が透けて見える声を上げる鋼鉄の兄妹。

 そんな二体にイザヨは不敵な笑みを浮かべ、はっきりとそう告げる。そして彼女の背後では、生き延びた小さな命が新たな進化の時を迎えようとしていた。

 

「そして世界は…………新たな時代を迎える‼︎」

 

 小さな命はゆっくりと立ち上がり、多種多様に変化していく。

 人に、人でないものに、ものかどうかすらも曖昧な存在に、数えきれないくらいの進化と絶滅を繰り返し、爆発的に地球全体に広がっていく。

 それこそが、地球に訪れた新たな転換期と、その主役たちだった。

 

 人類誕生(セカンドインパクト)

『『ぐわああああああああ!!!』』

 

 無数に広がる、地球上に生きとし生ける存在のオーラが、一斉に宇宙鉄人を覆い、吹き飛ばす。

 理解の範疇を越えたすさまじい力を前に鉄人たちは全身にヒビを入れ始めるが、機械の目から怒りの光は消えず、すぐさま体勢を立て直した。

 

『ハ…ハハハ! 耐えきったぞ…‼︎』

『キサマらの奥義など…やはり取るに足らんものだったわけだ…!!!』

 

 これで最後だ、といったイザヨの宣言を打ち破ったと、スカイダインとグランダインは高らかに嗤う。

 だがイザヨはその嘲笑の声を受けても、不敵に笑った浮かべたままだった。

 

「何を言っている……終わるとは一言も言っていないぞ」

 

 その言葉に、宇宙鉄人は驚愕する。そして起きている現象に気づき、その場で固まる。

 創造された空間が、見る見るうちにイザヨが出した鼻毛に集中していく。長く伸びていく黒い鼻毛が、星空のような美しい輝きを宿し始めていたのだ。

 

「未来はまだ、何色にも塗られていない‼︎ 生命の教科書は…オレ達の手で描かれていくんだ!!!!」

『ふざけるなあああ!!!』

『人類の未来は滅亡!!! そう決められているのだぁぁぁぁ!!!』

 

 幻想的と言えるかもしれないその姿に、宇宙鉄人だけで啼くビュティたちも驚愕で言葉を失くす。

 しかし鉄人たちはそれを受け入れない、受け入れる事ができない。認めてしまえば、自分達が導き出した答えが間違いだったと、認めざるを得ないからだ。

 

「行けぇぇぇ―――ボーボボ―――!!!!」

「うおおおおおおおおお!!!」

 

 ボロボロになった体で、最期の力を振り絞り、宇宙鉄人が全エネルギーを砲として撃ち放ち、イザヨを狙う。

 迎え撃つイザヨは両腕にロケットを備えて加速し、片足を突き出し星空のように輝く鼻毛を巻きつかせ、高速で回転を始めた。

 

鼻毛真拳三大極意!!!!

 

 ドリルのように鼻毛を絡め、凄まじい回転をイザヨが見せる。光を放ちながら、銀河のような輝きを纏うイザヨが、放たれたエネルギー砲に正面から激突する。

 一瞬の拮抗を見せた両者の攻撃の激突。それを制したのは、イザヨだった。

 

『 煌 凄 毛(コスモ) 』!!!!!

 

 ドリルの一撃はエネルギーを霧散させ、一直線に突き進み、ついには宇宙鉄人たちを貫く。

 全身全霊の最後の一撃をその身に受けた二体は、とうとう限界を迎えて全身にスパークを走らせる。もはや、彼らは動けそうになかった。

 

 ―――バカな…‼︎

 ―――人類抹殺の結論に至った我々が、こんなヤツらに……!!!

 

 自身らが敗北した理由が一切理解できず、認められないというように鉄人たちは鋼鉄の顔を歪める。こんなことはあってはならない、あり得ないと、何が間違いだったのかもわからない状態だった。

 そのまま最期の時を、疑問を抱えたまま迎えようとした時だった。

 

「…あなた方も、地球の未来を憂いての犯行だったのでしょう」

「!」

 

 バチバチと電流を漏らす二体に、イザヨから分離した天の助が穏やかな声で語りかける。

 思わず耳を傾けた二体に向けて、天の助は何処か慈愛を宿した眼差しで見つめ、荒ぶる二体に語り掛け続けた。

 

「確かに人間はおろかで、どうしようもないほど欲にまみれた醜い存在なのかもしれない……けれど過ちを知り、学び、次へと生かす事が出来るのも、また人間なのです」

 

 しんと静まり返った宇宙空間で、天の助の声だけが響く。

 天の助は二体をじっと見つめたまま、懇願するように問いかけた。

 

「どうか…少しだけ我々を信じてはもらえないでしょうか」

 

 しばらくの間、鉄人たちは思考するように黙り込む。ひび割れた体から電流を走らせ刻一刻と近づくその時を消費しながらも、無言を貫く。

 そしてやがて、鉄人たちはそれぞれの目に光を灯す。どこか、先ほどの荒ぶりが引いた、穏やかな光を。

 

『…いいだろう。猶予をやろう』

 

 最後の最後に、彼らの中で何かが変わったのだろうか。

 つい数秒前では考えられないような答えを吐き、宇宙鉄人はボーボボたちを順に睨みつけた。

 その姿を、データに刻み込むように。

 

『だが!!! その誓いが破られた時、我ら兄弟は必ず甦る!!!!』

『そしてキサマら人類を、ことごとく滅ぼしてみせるぞ!!!!』

 

 そう言い放ち、互いに手を握り合った宇宙鉄人が眩い光に包まれる。そして次の瞬間、真っ赤な炎を噴き出しながら、大爆発を起こして粉微塵に吹き飛んだ。

 あとに残ったのは、小さな無数の破片だけ。それをボーボボたちと、宇宙に漂うXVⅡだけが見下ろした。

 

「ふぅ、これにて一件落着。見てください―――」

 

 汗を拭うしぐさを見せた天の助が、背後に立つ仲間達に示す。

 丁度その時、地球の陰の向こう側からゆっくりと、本物の太陽が顔を出そうとしているところだった。

 

「地球の夜明けです…!!!!」

 

 まるでそれは、ボーボボたちの勝利を祝福しているかのような、美しい光景。

 しかしボーボボたちには、正直それどころではなかった。

 

 ―――なぜかまた天の助が締めた―――――――!!!!

 

 一番納得できない終わりに、全員の心がシンクロするのだった。



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奥義40:その手で宇宙をつかめ!!!

 大きなパーツがはめ込まれた直後、基盤にバチッと電流が走る。

 するとあたりに光が灯っていき、メテオと撫子がいる通路を照らし出し、鈍い駆動音を響かせ始めた。

 

「よし……これでXVⅡの機能は全て元どおりになった」

「疲れたよ〜!」

 

 汗を拭う仕草を見せ、メテオとなでしこが肩をすくめる。

 二人は宇宙空間に飛び出し、宇宙服をまとって集まっているボーボボ達の元へと近づいていく。

 ボーボボたちはその工程を見守りつつ、鋼鉄の巨人をじっと見上げていた。

 

「思えば、こいつはずっと宇宙鉄人の支配を跳ね除けようとしてたスゲェヤツなんだよな…」

「ずっと兵器だと思ってたけど、本当は違ったんだね」

「そうだ」

 

 感慨深げに、そして申し訳なさそうにビュティがつぶやくと、メテオたちとは違う場所から戻ってきたソフトンが答えた。

 

「オレが修理の最中調べてみたんだが……XVⅡは本来テラフォーミングマシンとして作られていたものらしい」

「テラフォーミング!!??」

「思った以上にSFっぽい単語が出てきた!!!」

 

 予想外の単語の登場に、ビュティとヘッポコ丸は思わず声を荒げる。スケールが大きいのは、見た目だけではなかったのかと。

 すると、頭の出来が残念な田楽マンが首を傾げ、天の助の方に振り向いた。

 

「テラフォー…って何?」

「ああ、それはな……」

 

 得意げな顔で、天の助は田楽マンに向き合う。そして自分が知る知識について、脳内で思い浮かべて見せた。

 が、その内容はトラックが『トランスフォーム‼︎』と叫んで巨大ロボに変形するというもので、それに気づいたビュティが勢いよく振り向いた。

 

「こういうことだ」

「全然違うよ!!!」

『テラフォーミングとは、簡単に言えば宇宙開発―――人間の住めない他の惑星を改造し、住める環境へ作り変える超高度な技術のこと。博士が…父が開発していたのは、そういうロボットよ。黒騎士も……宇宙鉄人も』

 

 役立たずなバカたちに変わって、モニターに映し出された切なげな表情のインガがつぶやく。

 彼女の隣からいなくなった黒い騎士を偲ぶように、遠い眼差しのまま。

 

「だが…宇宙鉄人はそうならなかった。未完成だったコンピュータは、人類そのものを不要なものと認識しちまったんだな」

「今回の一件で、XVⅡも責任を感じちまってるらしい……今後誰にも利用されないように、地球を離れるんだってよ」

 

 腰に手を当てて、イザヨが憐れむようにつぶやく。

 誰にも知られない戦いを孤独に続け、そして人類滅亡に加担させられた彼の苦しみをわかってあげられなかった。

 その後悔を全身からにじませながら、イザヨはため息をついた。

 

「罪とは誰しも重ねるもの―――いかに償うかで、そのものの人生は評価されるものです」

「何様だよ!!? ていうか根本的な原因はお前らもだからな!!!!」

 

 この世の全てを悟ったような顔でそう宣う首領パッチに、ヘッポコ丸が果てしないうざさを感じながら怒鳴る。一体何様のつもりなのだろうか。

 そんなやりとりを横目に、イザヨはなでしこに視線を移した。

 

「なでしこ、お前はどうするんだ?」

「えーっとね、しばらくはXVⅡにくっついて一緒に旅をしようって思うんだ。ひとり旅は寂しいだろうし!」

『私もここに残るわ……世話になったわね』

「そうか…元気でな」

 

 久しぶりにあった友との別れに、いがみ合うも最後は力を貸してくれた女傑に、イザヨは少し寂しげに笑う。

 そしてもう一度、静かに見下ろしてくるXVⅡを見上げ、不敵な笑みを浮かべた。

 

「じゃあな、インガ。XVⅡ。色々と迷惑をかけたな……それと、ありがとう」

 

 そう告げるイザヨに、突然XVⅡが手を差し出す。

 目を丸くしたイザヨだが、すぐにその意図を理解し、自身も手を伸ばす。

 

「こうして、こうして、こう!」

 

 手を上下それぞれで組み、拳を合わせ、最後に上から下から叩き合う。

 これこそが、イザヨの持つ友情の証。再会を誓い、永遠の友情を願うおまじないのようなもの。

 硬くそれを交わし、XVⅡから離れるイザヨ。それを見届け、ボーボボが声を張り上げた。

 

「さぁ! オレ達も帰るぞ!」

 

 敵は倒し、平和が戻った。だがまだ全てが終わったわけではない。

 帰るべき場所に帰ってこその戦いなのだと、ボーボボはみんなを促す。

 高くそびえ立つ、無数のビルが立ち並ぶ都会を思い浮かべて。

 

「オレ達の魂の故郷………六本木へ!!!」

「何で!!? 何も関係ないよね!!?」

「ヒルズ…‼︎」

「それは俺たちの憧れにして全ての原点…‼︎」

「そうなの⁉︎」

 

 なぜか感涙する首領パッチや天の助に、ビュティが初耳だと目を剥く。

 緊張感が緩み始めた段階で、ふとビュティは見過ごせない問題が残っていることに気がついた。

 

「ていうか、私たちが乗ってきたロケットは爆破しちゃったけど、どうやって帰るの?」

「何言ってんだよビュティ。もう帰ってる途中だろ?」

「え?」

 

 疑問を口にするビュティに、首領パッチが笑いながら答える。

 訝しげに振り向いた彼女に、そして同じ疑問を抱くほぼ全員に、首領パッチはまたあの悟った表情で告げた。

 

「―――自由を求めて鳥かごを飛び出した鳥の行く末は、みな等しく重力のおもむくままです」

「!!!?」

 

 その言葉で、全員が理解する。

 もうすでに帰還は始まっている……乗り物などない、ただ地球の重力に引っ張られ、真っ逆さまに地表に落下し始めているのだと、全員が理解した。してしまった。

 

「うわあああああああああああ!!!!」

「やっぱりこういうオチか〜〜!!!」

 

 ギャグ漫画に産まれながら、まともに終われるはずがなかったのだと今更ながらに痛感し、ビュティたちは絶叫する。

 しかし運よく、頑丈な宇宙服だけが大気圏で焼け落ち、ボーボボたちは青空まで戻ることができていた。

 

「ギョラッ‼︎」

「うお⁉︎」

 

 その途中、カッと目を見開いた魚雷ガールが、口からいかりのようなものを発射する。

 それは近くを落下していたソフトンの足に巻きつき、彼の表情を驚愕で歪ませた。

 

「これで心置きなく式場選びにいけますねソフトン様♡」

「ソフトンさんが魚雷にさらわれた―――!!!!」

 

 慌てふためくソフトンの意思をガン無視し、魚雷ガールはロケットを点火する。

 小洒落たドレスを纏った魚雷ガールはそのまま、愛しい人を引きずったまま何処かへ飛び去っていった。

 

「やれやれ…ボクも好きに帰らせてもらうよ。じゃあね」

「あっ、メテオ‼︎」

 

 メテオは遠く消えていく叔母の姿を見送ると、自身も青い隕石の姿となって何処かへと飛んで行ってしまう。

 好き勝手に別れていく仲間たちに、イザヨはやれやれと肩をすくめた。

 

「やれやれ……しっかりつかまってな!」

Magic hand On(マジックハンド・オン)

Hand On(ハンド・オン)

「わっ!」

 

 右腕のマジックハンドでヘッポコ丸を、右足のマニュピレーターでビュティを掴み、イザヨは自身の元へ引き寄せる。

 そのすぐそばを、幸福に満ちた顔でボーボボたちが急降下していった。

 

「そしてぼくらは帰るのです〜〜〜〜♪‼︎」

「母なる星へと帰るのです〜〜〜〜♪‼︎」

 

 母なる星にぶち当たるのならば、それを受け入れるのみとばかりに、ボーボボたちに恐怖はない。

 それを見送りながら、イザヨは別のスイッチを起動させた。

 

「じゃ、後でな首領パッチとその他」

Parachute(パラシュート・オン)

「「「「イザヨてめ――――――!!!!」」」」

 

 バサッ!とパラシュートが開き、イザヨとビュティとヘッポコ丸だけを減速させる。

 何も持ち合わせがないボーボボたちは、目玉を飛び出させながらイザヨに向かって怒号をあげ、そのまま地表に向かって一直線に墜ちていった。

 

「おっとと…!」

 

 風に吹かれ、バランスを少々崩しながら、イザヨたちは地表へと降り立つ。

 近くには人やトゲボールの形をした大穴が開いていたが、誰も気にせず改めて大地の感触を堪能し始めた。

 

「はは…! 地面の感覚なんて久しぶりだ」

「イザヨさん……ありがとう!」

 

 無事に戻ってこられたと、ビュティとヘッポコ丸がイザヨに礼をいう。

 それに照れ臭そうに鼻をこするイザヨ。そんな彼女の元へ、鬼の形相になった首領パッチたちがチンピラのように詰め寄っていった。

 

「おうテメェ‼︎ 死ぬかと思ったぞコラ‼︎ あ⁉︎」

「どう落とし前つけてくれるんだ⁉︎ あぁ⁉︎」

「やめなよ三人とも!!!」

「おやび~~ん!!! おかえりなさ~い!!!」

 

 自業自得なのに八つ当たりをする首領パッチたちに、それを諌めるビュティとヘッポコ丸。そして、どこからともなく現れて再会を喜ぶ破天荒。

 まるで祭りのような騒がしさに、イザヨはどこか羨ましそうに目を細めていた。

 

「借りができちまったな………ボボ兄にも、この星のみんなにも」

「ああ、いずれ返すのだな」

「そうするよ」

 

 ぼこっ、と地面が盛り上がり、つくしのようにボーボボが顔を出す。

 平然としているイザヨの隣に歩み寄ったボーボボは、青々と広がる空を見上げながら、サングラスの奥の目を細めた。

 

「巨悪は一つ潰したが……お前の戦いはまだ終わらないんだろう? イザヨ」

「ああ、オレの敵はまだ健在だ。……長い戦いが、この先も待ってるだろうさ」

「…行くのだな」

「寂しくないって言ったら……ウソになるけどな」

 

 ボーボボたちが向かう戦いと、イザヨが望む戦いは異なるもの。

 この先、また隣り合って戦うことがあるのかどうかは、今の彼らにはわからなかった。

 だがこの男は、それに寂しさを微塵も抱いていなかった。

 

「もしもオレの力が必要なら、いつでも呼ぶがいい。どこへだって駆けつけてやる」

「それはこっちのセリフだぜ。でも、頼りにしてるぜ」

 

 握手とグータッチを組み合わせた友情の証を交わし、ボーボボとイザヨは熱く見つめ合う。

 いつかまた、再会することを夢見て。

 いつかまた、ともに隣で戦えることを願って。

 

「…また会おうぜ、ボボ兄」

「ああ…またいつか会おう、イザヨ」

 

 固く誓い合う、血の繋がらない、しかし誰よりも強い繋がりを持つ兄妹。

 清々しく笑い合う、宿命を背負った戦士達。

 

 

 そんな二人の姿を見守っていた首領パッチが、不意に()()()()に振り向き、笑って語りかけるのだった。

 

「じゃあな」




 ボーボボ×仮面ライダーフォーゼ、最後まで閲覧いただきありがとうございました。
 ここで言えるのはただ一つ、「ギャグむずい!!」ってことだけです。
 基本澤井先生のギャグを一から考えられるわけがないので、作中のギャグは全てボーボボ本編の引用、いやもしかしたら改悪になってるかもしれません。それだけ私の書くものとは違ってるんです、ボーボボは。
 下手したらすぐシリアスになるもんだから、なんとかして原作:ボボボーボ・ボーボボになるように気をつけながら書きました。しんどかったです。
 ですがそれでも書き続けられたのは、最後まで読んでくれる方や評価してくださった方々、そしていつも誤字報告してくださる読者の皆様の応援のおかげでありました。皆様のご助力がなければ、とうの昔に心が折れていたでしょう。
 尊敬している「ボーボボ二次創作」を書いている作者様から感想をいただけたこともモチベーションの継続に一躍買っていたと思います。

 オリジナルヒロインのイザヨですが、こちらに関しては「ボーボボ」らしいキャラクターにできていたんじゃないかなと自負しています。
 主人公のボーボボに匹敵する濃いキャラを想像していたら、なんかいつの間にかできていました。キャラができたらあとは、勝手に動いてくれます。勝手すぎて字面に抑え込むのが大変でした(笑)。

 最後になりますが、今一度この小説を最後まで読んでくださった方々、W・W様をはじめとする誤字報告をしてくださった皆様に深く感謝いたします。
 これからも皆様に喜んでいただける作品作りに精進していきますので、応援ご指摘のほどよろしくお願いいたします。


エンディングは、「Burning Fire/JAM Project」でお楽しみください。


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