NEO ULTRAMAN ((´鋼`))
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始まりの巨人

ウルトラマン熱に感化された鬼の半妖(ドアホ)

こちらはゆっくり更新していきます。


本編どうぞ








 とある1つの小さな惑星()の話をしよう。

 

 

 青く澄み渡り、時に白い雲が覆ったり、黄色い砂が別の場所から別の場所へと渡ったり、面白い渦ができたりする自然豊かな惑星()

 

 

 【地球】

 

 それがこの生命()の名前。宇宙共通の星。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に不満なんてない。何て事は無い。

 

 この世界は誰もが憧れる場所だ。という訳でも無い。

 

 この世界は矛盾が多く、世界は不平等である。

 

 唯一()()()()。ただ、それだけだ。

 

 それだけでこの世界は特別だと思うのが(地球人)だ。

 

 

 

 

 この世界は特別ではない。

 

 命が大切だと言っておきながら、争いがある。

 

 たった1つの命より、何十万、何百万の金が欲しいと言う。

 

 何物にも変え難い命より、平気で地位や権威を選ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな世界で生きている『(ニノマエ) (レイ)』という青年は、こじんまりとした小さなカフェ【夕焼ケ】で接客業に勤しんでいる。

 

 

 この青年、俗に言う“好青年”であり、この都会では珍しい心優しい()()である。

 

 

 このカフェも1980年代風の内装であり、客もまばら。昼間は偶に忙しくなるぐらいのお店である。

 

 

 そんな小さなカフェは店長とアルバイトの3()()で切り盛りされている。

 

 

 

「俺上がりま〜す」

 

 

「お疲れ様です」

「はいおっちゃれさん」

 

 

 

 黎のアルバイト仲間がカフェから出て行く。時間としては昼頃なのだが、未だに黎と店長だけは残ったままである。

 

 

 

「ホント、何時も助かってるよ黎君」

 

 

「いえいえ、こちらこそ助かってますよ」

 

 

 

 片付けが終わると、黎は制服のエプロンを脱いで白のワイシャツと青いジーパン姿で肩掛けバッグを持ってカフェ【夕焼ケ】を後にする。

 

 

 何処か懐かしいと感じる風景の中をゆっくりと歩き、その風景を楽しむ。現代の者は味わう事の無いであろう新鮮な感情を持って歩いていく。

 

 

 

「……あ、猫だ」

 

 

 

 建物と建物の隙間の道、レンガ積み式の壁の上に猫が居るのを発見する。そちらの方にフラフラと歩み寄り猫に近付いていく。

 

 

 

 

「あっ…………逃げちゃった」

 

 

 

 しかし猫は黎の方を見た途端、すぐに逃げてしまった。

 

 

 実を言うと、黎は動物に好かれない体質である。黎自身は動物は大好きのだが、動物の方が黎を嫌っている様な節を見せるのだ。

 

 

 少し寂しげな思いを持ちつつも、仕方ないと割り切るしかなかった。

 

 

 何時もこんな感じで過ごしている。既に19という年齢であるが大学には通っておらず、あのカフェ【夕焼ケ】で働き他のアルバイト先でも仕事をする日々。

 

 

 黎自身夢という物を持っていない。それどころか夢を持たない性格であり、何がしたいのかは自分でも理解できないという。ただ()()()()で生きている様な人間であった。

 

 

 1度アパートまで帰り、少し休んで再度アルバイトに向かう。部屋の扉を開けて室内に入る。玄関には黎の靴と、それと同じ大きさの靴と。

 

 

 

「ただいま、父さん」

 

 

「お帰りー」

 

 

 

 夜勤明けで帰って来ている黎の父親『一 夜月(よづき)』。椅子に座ってパラパラと新聞を捲って読んでいる公務員(警察官)であり、警視庁で働く1人の父である。

 

 

 帰ってからの黎は多少忙しくなるが、それでも苦にはならないいつもの事だと考え昼食を作る。父親である夜月は料理が壊滅的どころかインスタント食品でさえもダークマター(食えない物)と化してしまう程の腕を持っており、逆にそれしか作れない父親に黎は感心を抱いている。

 

 

 思考している内に料理が完成形を成してくる。台所を()()()()()し様々な食器類を揃え、出来上がった料理を皿に移して食卓に運ぶ。夜月は新聞を閉じて適当に空いているスペースに置いた後、黎が座るのを待つ。

 

 

 

「お待たせ」

 

 

「ん。それじゃ、いただきます」

「いただきます」

 

 

 

 箸を手に取り出来上がった料理1つ1つを食していく2人。そこに会話は特になく、ただひたすらに食べ続けていた。それが暗黙のルールというものなのだ。

 

 

 喋らなかった事で早く食事が終わった2人は、食器類を片付け始める。皿洗いの担当は夜月になっており、この時ばかりは黎も休めるというものだ。

 

 

 だが、そんな一時の合間に夜月が黎に語りかけてくる。

 

 

 

「黎」

 

 

「何?どうしたのさ、急に呼んで」

 

 

「……いや、お前はいつもカフェでバイトしてるよな?」

 

 

「うん」

 

 

「…………夢は、無いのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「無いよ」

 

 

「随分あっさりと言うんだな」

 

 

「う〜ん……何か夢って言われても、かな?よく言うじゃん、学校の先生とか“何に成りたいのか、その夢を叶える為に頑張りなさい”って。

 

 

 けど……なんだろ?()()()()()が無いっていうか。こんな風にしてても()()()()()()って終わっちゃうんだよね」

 

 

「……どうせなら黎は専門学校でも通えば良いと思っているんだがな。そこで夢でもやりたいものでも見つけてくれれば良いんだが、それでもか?」

 

 

 

 

 

 

 

「それが父さんからのお願いっていうなら()()()よ?」

 

 

「……そうか。………………そうか」

 

 

 

 どこか苦しげに応える夜月。あまりそんな様子をする事は無い父親を初めて見る黎であったが、特に()()()()()()()()()黎は父親の様子を感じ取れずにいた。

 

 

 この一黎の感性はいつもこうだ。

 

 

 特に自分の未来には興味無く、流されるまま生き続けているだけ。

 

 

 目標すら見つけられていない()()()()()()()だけの存在であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 

 

 突然黎がベランダの窓の方を向いた。何かに気付いた様子を見せているが、その感じているものの正体が分からない。

 

 

 

「ねぇ……父さん」

 

 

「んー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

「来る……?」

 

 

 

 

 

 突然地面が揺れた。

 

 

 家が揺れた。家具が揺れた。自分達も揺れた。

 

 

 

「ッ……!?まさかッ……」

 

 

 

 夜月がベランダの窓を開けて外の様子を見やる。

 

 

 

 

 

 

 

「“エレキング”……ッ!」

 

 

 

 夜月はベランダから離れ、ジュラルミンケースを持って暗証番号式の金庫を操作し開く。ジュラルミンケースを開けて金庫の中身を取り出し、それらをケースに移し替える。

 

 

 

「黎!ここから逃げるぞ!」

 

 

「ん……うん」

 

 

 

 夜月が黎の手を握り急ぎ足でアパートを出ていく。黎は成すがままという形で父親に付いていくしか出来ずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 避難所に指定されている公民館に避難した夜月と黎は、外に2人で今の有り様を見ていた。

 

 

 初めて見る“怪獣”に恐れおののき、壊されていく街に悲観し、中には小さな子どもを心配する他人まで居る。

 

 

 それを見たのにも関わらず、黎の心は()()感じなかった。全て客観的に、()()()()()()

 

 

 

「……父さん」

 

 

「何だ?」

 

 

「さっき言ってた“エレキング”ってなに?」

 

 

 

 夜月は息を吐いて少し髪を掻いて黎に手招きして人があまり居ない公民館の裏側まで行く。あまり人が居ないと言っても、そこでもチラホラと見かける。

 

 

 今時珍しく建物の下に格子窓がある場所の付近まで行き、そこで座ると黎はその窓を背にして夜月の隣に座り話し始める。

 

 

 

「……突拍子も無い話だが、エレキングとは“ピット星人”と呼ばれる宇宙人が生物兵器として利用している【怪獣】だ」

 

 

「怪…………獣……?」

 

 

「あのエレキングは体内で蓄電する仕組みを持っている。最大電流は個体差があるが50万ボルトを発生させる事なんてザラだ。さらにジャミング機能、レーダーにアンテナまで搭載している」

 

 

「要は……電気怪獣?」

 

 

「本来は“宇宙怪獣”だが……まぁ認識としては間違って無い」

 

 

「あの怪獣、宇宙から来たの?」

 

 

「まぁな。しかし、国がこれを放っておくワケが無い……特殊精鋭隊による攻撃が行われるだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その話、詳しく聞かせて貰えんかの?」

 

 

 

 突然窓が開かれて格子越しに高齢者特有の低い音質で黎と夜月の話に割り込んでくる老人。その姿を見た黎は少しだけ嬉しそうに微笑む。

 

 

 

「あ、ケトル爺だ」

 

 

「久しぶりじゃの、レイ」

 

 

「アンタは……いつも黎が世話になってる」

 

 

「通称“ケトル爺”、近所じゃそう言われるわい」

 

 

「…………そうか。なら、安心か」

 

 

 

 少しだけ安堵したような表情を浮かべた夜月は、持ってきていたジュラルミンケースを開けて中身のものを取る。2枚の厚みがある絵の入ったカードと、赤と紫の色が半分に別れている機械。それらを見やるとケトル爺の方に視線を向ける。

 

 

 

「ケトル爺…………いや、“ケットル星人”。アンタに頼みがある」

 

 

「……あれ?父さん、ケトル爺のこと知ってたの?」

 

 

「少し話した事があってな。で、ケットル星人」

 

 

「……話に聞いていた、あれか?」

 

 

「あぁ」

 

 

「…………()()に話をせんかい。馬鹿者」

 

 

「あぁ」

 

 

 

 夜月は黎の方を向くと、黎に先程の機械と2枚のカードを手渡し握らせる。その行動を不思議そうに見て尋ねた。

 

 

 

「父さん、これなに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黎、よく聞いてくれ。父さんは今から、あの怪獣を()()()()()

 

 

 だがもし、私が敗れた時は…………お前が戦ってくれ。コイツらを使って」

 

 

 

 聞いていて何のことかわからない様子を見せる黎は、首を傾げて夜月に尋ねる。

 

 

 

「何で?それより、これって?」

 

 

「【データカード】と【ミックスデバイス】というものだ。これを使って、お前は“ウルトラマン”になれる」

 

 

「“ウルトラマン”?」

 

 

「あぁ。もし私が()()()時、それを使って人々を守れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()……って、何で?」

 

 

 

 なんとなく雰囲気で気付いた黎は、少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。少しだけ泣きそうな表情であった。

 

 

 

「……あれは勝ち負けというもので治まるものじゃない。

 

 

 生きるか、死ぬか。そのどっちかだ。

 

 

 私が戦うということは、そういうことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだ…………」

 

 

 

 黎が夜月(父親)の服の袖を掴む。消えそうな声で、涙を流して、懇願した。

 

 

 

「行っちゃ、やだ…………」

 

 

「黎……」

 

 

「死んじゃ、やだ……!」

 

 

 

 そんな黎を見て、少しだけ微笑んで黎に優しく抱きつく。右手で頭を撫でながら、夜月は耳元に近付いて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな父親で、ごめんな。

 

 

 いつか君が、幸せでありますように。黎」

 

 

 

 目を開いた夜月は黎から素早く離れて壁を飛び越える。その父親を追いかけたいが、涙で視界がボヤけて見えたためか転んだ。外に出ていたケトル爺が転んだ黎に近付き立たせようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度走った夜月は地面に手を付けて回し始める。光の輪が3重になっている絵が地面に広がると、後ろから巨大な機械が現れる。

 

 

 

「行くぞ、“メカゴモラ”!」

 

 

 

 メカゴモラと呼ばれた機械に吸い込まれた夜月は、エレキングの居る方向に向け操る。

 

 

 

「私は私の意思で黎を守る!()()()の思い通りにはさせんぞ!」

 

 

 

 メカゴモラはエレキングに向かって行く。口から大量の熱が集い始め、エレキングがメカゴモラの存在に気付いた時はメカゴモラの口から熱線が放たれる。

 

 

 エレキングが熱線をモロに受けて吹き飛び、建物や道路が崩壊していく。だがそんな事は事はお構い無しにメカゴモラは倒れているエレキングに近付きゼロ距離の“メガ超振動波”を炸裂させる。

 

 

 これを受けたエレキングはダメージを喰らい、このままメカゴモラの勝利となる。

 

 

 

 

 

 

 突然、メカゴモラの右側に攻撃が当たる。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

 確認してみれば、特殊な戦闘機がメカゴモラを攻撃している。レーザー兵器やミサイルによって追い討ちされて、メカゴモラは倒れる。

 

 

 

「漸く来たか……!だが、このままでは…………!」

 

 

 

 街の被害を抑える為にエレキングにも攻撃を続けられていくが、倒れた状態で全身から“エレキングコレダー”を発動させて周囲に居る戦闘機やメカゴモラにも攻撃していく。

 

 

 全身が痺れる状態に成りながらも、夜月の目だけは諦めていなかった。多少なりと動けるメカゴモラを立ち上がらせ、エレキングと対峙するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父さん!

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 後ろから(息子)の声が聞こえた。それだけで判断力を鈍らせて隙を生んでしまった夜月は、エレキングが連続で放電光線を放っていく。

 

 

 メカゴモラに異常が起き始めていく。システムが電撃によって著しく低下していき、夜月自身も満身創痍である。

 

 

 

「ッ……黎…………!」

 

 

 

 そんな考えをしていても、相手は待ってくれない。あの声に反応したエレキングが黎を見て体から電気を発生させていく。

 

 

 そんな夜月は、咄嗟に黎を庇うようにして覆う。近くには戦闘機と、その女性パイロットが黎を保護しようと動いていた。その女性はメカゴモラが守ってくれている事に驚きを感じて、その光景を見ることしかできなかった。

 

 

 電撃が止む。しかしメカゴモラはショート寸前、そして相手はドンドンこちらに近付いて行く。

 

 

 

「父さん!戻って来てよ!一緒に家に帰ろう!」

 

 

 

 走馬燈が見えた。夜月が黎と過ごした懐かしい日々、黎を初めて()()()と思えた時、そんな体にさせてしまった事による()()()()。夜月自身の過去。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黎………ごめんな

 

 

 

 メカゴモラが突如立ち上がり、腕のチェーンを伸ばしてエレキングを掴む。しかしエレキングも尻尾を巻き付けて電撃を放っていく。

 

 

 メカゴモラの腕のチェーンが仕舞われていく。これによって距離を稼ぎ、エレキングとの距離を無くしエレキングに力強く抱きつき拘束していく。

 

 

 

「“メガ超振動波”!」

 

 

 

 角が赤く光りエレキングにダメージを与えていく。だがエレキングも電撃を止める事は無かった。膨大な熱源反応がメカゴモラから発生されていき、メカゴモラは爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレキングがメカゴモラを攻撃している間、黎の近くに見慣れない戦闘機が黎の近くに着陸する。その中から女性パイロットが現れ、黎を避難させようとする。

 

 

 

「民間人1名を発見!保護します!」

 

 

〔了解!〕

 

 

「早く、こっちに避難を!」

 

 

 

 女性パイロットが黎の腕を引っ張る。しかし黎の体はそこからビクとも動かずに居た。終いには手を離してメカゴモラに視線を向け続けていた。

 

 

 

「何してるんですか!?早くここから逃げて!」

 

 

〔ヤクモ隊員!エレキングの放電がくるぞ!早く避難させろ!〕

 

 

「了解!」

 

 

 

 もう一度黎の腕を引っ張ろうとするが、またもやビクともしない。そして丁度その時、エレキングの放電から2人を守るメカゴモラの姿があった。咄嗟に目を閉じたヤクモ隊員であったが、電撃が来ない事が分かるとゆっくりと目を開けていく。

 

 

 そして驚愕した。何故そこまでして体を張ったのかが、理解しにくかったというのもある。

 

 

 

「父さん!戻って来てよ!一緒に家に帰ろう!」

 

 

 

 今度は疑問。メカゴモラに向けて父親と言ったというのは、中に人が居るのかという事と“宇宙人”の親子なのかということ。メカゴモラは近付くエレキングに抱きつき、()()の準備を整えさせていた。

 

 

 

〔!ヤクモ隊員、そこから離れろ!メカゴモラから膨大な熱源反応が確認された!〕

 

 

「ッ!了解!早く逃げて、爆発がくる!」

 

 

「ッ…………!父さん……父さん!」

 

 

 

 またもビクともしない。こうしている間にもドンドン熱量は上昇していき、そして遂に爆発が巻き起こった。

 

 

 辺りの建物が倒壊していく。逃げ遅れた2人はどうすることも出来ずにその場に佇み目を瞑るしか無かった。

 

 

 が、爆発の音はするのだがいつまで経っても焼かれる感覚が来ない事に疑問をもったヤクモ隊員が目を開けると何かの影に移動していた。影から察するに戦闘機が遮蔽物となってくれているが、どうしてここまで来たのかは分からずじまい。

 

 

 

 

 

 

「ふぅぅぅ……全く、年寄りはキツいわい」

 

 

「!?」

 

 

 

 声の方に振り向くと、そこには男の高齢者らしき人物に黎の姿。まさかこの老人が運んだのかと思うと、益々ワケが分からなくなる。

 

 

 黎の方は目を開けるとキョロキョロと辺りを見渡し、その老人に気付く。

 

 

 

「ケトル……爺…………」

 

 

「うむ。ケトル爺じゃぞ、レイ」

 

 

「……ッ!父さん!」

 

 

「……分かっておる。レイ」

 

 

 

 その老人が戦闘機の物陰からこっそりと覗く。ヤクモ隊員も同じ様に見るが、()()()()所からエレキングが出現した。

 

 

 

「2体目!?」

 

 

「全くもって面倒じゃな……レイ」

 

 

 

 戦闘機の物陰に隠れると老人は手に近くに置いていたジュラルミンケースを開けて黎に見せる。

 

 

 

「ッ…………これって……」

 

 

「……儂からは何も言わん。レイ、欲しいのなら手に取れ」

 

 

 

 ゆっくりと黎の手がジュラルミンケースの中身に伸ばされていく。黎の目付きが次第に変わり始め、少しして2枚のカードと機械を手に取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケトル爺、これ使えば……戦えるんだね?」

 

 

「ああ……そうだ」

 

 

「どうやってやるの?」

 

 

「赤い場所に巨人のカードを、紫の場所に怪獣のカードを差し込み機械を押せ。それで出来る」

 

 

「分かった…………

 

 

 

 

 僕、戦うから。見てて、父さん」

 

 

 

 

 戦闘機の物陰から一気に走り出して外に出ていく黎は、エレキングを眼前にして真剣な表情のまま、ミックスデバイスとデータカードを構える。

 

 

 

 

 まずは巨人のカードを赤い場所に差し込ませる。

 

 

 

〈〈ウルトラマン!〉〉

 

 

 

 光の巨人(始まりの戦士)のビジョンが黎の右側に現れる。

 

 

 次に紫の場所に怪獣のカードを差し込ませる。

 

 

 

〈〈ゼットン!〉〉

 

 

 

 巨人の天敵(終わりの怪獣)のビジョンが黎の左側に現れる。

 

 

 そして黎はミックスデバイスを押し込む。

 

 

 

〈〈ザ・フュージョン!〉〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈〈ネオ・ウルトラマン 【ZETA】!〉〉

 

 

 

今、動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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黒銀の戦士

 黎の姿が光に包まれ大きく、そして変わる。

 

 

 ()()の2つの色を基調とした仏の様な巨人。

 

 

 胸に宿る水晶は満月の様に()()()輝き、その存在を強調させている。

 

 

 これこそが新たな巨人(ネオ・ウルトラマン)終わり(最後)から産まれた始まり(最初)の戦士である。

 

 

 その一連の様子を見ていたケトル爺とヤクモ隊員は、起きた出来事に驚愕し見とれていた。

 

 

 

「あれは…………巨人……?」

 

 

「成功したか。レイは今、【ウルトラマン】となったのだ」

 

 

「ウルトラマン……?」

 

 

 

 黎は大きく変わった自分の手や、遠くなった地面に小さく見えている建物を見渡しエレキングを見やる。

 

 

 今の黎はエレキングと比べれば少し小さい。しかし、どこか威厳漂う姿に負ける気は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『行くぞ!』」

 

 

 

 黎は背を丸めて構える。その独特のポージングはケトル爺の記憶から、かの有名なウルトラマンを連想させていた。

 

 

 黎が跳躍し、エレキングの首に左手で手刀を浴びせる。モロにくらったエレキングはバランスを崩し始めた。追撃として黎は右手で手刀を作り、バランスの崩れているエレキングに与える。

 

 

 またもバランスを崩すエレキングの頭を押さえつけ、ヤクザ蹴りをエレキングに与える。距離が離れた所で黎はある事に気付く。

 

 

 

(何だ、これ?……僕の頭に戦い方が入ってくる。

 

 

 この巨人、この“ウルトラマン”の戦い方が!)

 

 

 

 黎の頭に様々な知識が流れ込んでくる。プロレス調の戦い方や、エネルギーを使用した多彩な技に関する“やり方”と“特性”が黎の体と頭に馴染んでくる。

 

 

 次に黎はエレキングに向けて右腕を突き出すと、緑色の渦巻き状の光線が発生しエレキングに向かっていく。危険察知をしたのも束の間、光線がエレキングに当たる。

 

 

 そして両腕を組むと、エレキングから爆発が巻き起こる。急に爆発が起こった事でエレキングからも動揺を隠せないが、すぐさま黎は両腕を水平にさせると丸ノコ状のエネルギーを発生させる。

 

 

 そして右手を丸ノコ状のエネルギーごと頭の側面に持っていき、それをエレキングに向けて放つ。エレキングの体に当たると、火花が散っていく。

 

 

 始まりの戦士(初代ウルトラマン)の【怪獣退治の専門家】という2つ名の通り、今の【ZETA】にはあらゆる技が()()()()()()()。“ウルトラアタック光線”も“八つ裂き光輪”も。

 

 

 エレキングは負けじと体勢を立て直し、口から放電光線を放っていく。黎は冷静にバリアを発生させて光線を防ぎ、バリアを発生させたままエレキングへと近付く。

 

 

 

「シェアアアアア!」

 

 

 

 ウルトラマンとゼットンの声が合わさった様な雄叫びを挙げると黎は跳び、ドロップキックをくらわせる。エレキングが道路に倒れ瓦礫が飛び散っていく。

 

 

 着地した黎は、追撃の為にエレキングに向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うぉおおー!スッゲェ!

「『!?』」

 

 

 

 突如黎は止まり、声の聞こえた方を見る。ウルトラマンへと変身しているため五感が優れた状態へとなっている。故に人間の声も聞こえている。

 

 

 そちらを見ると、スマホを使って動画を撮っている男性が居たのだ。

 

 

 すぐに黎は離れる様にジェスチャーをするが、相手の方は気付いてしまった事で興奮しており逆に逃げようともしなかった。どうすれば良いのか考えていると、ケトル爺とヤクモ隊員の居る場所を見やる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ZETA】へと変貌した黎を見ていたヤクモ隊員とケトル爺は、戦闘機の物陰から飛び出してこの状況を有り得ない様な表情で見ていた。

 

 

 独特なポージングにプロレス調での戦いを見ていて、ケトル爺は思い出していた。【怪獣退治の専門家】と呼ばれる“初代ウルトラマン”の姿を。

 

 

 

「ウルトラマン……か」

 

 

 

 その懐かしむ様な表情のケトル爺に、ヤクモ隊員は尋ねる。

 

 

 

「貴方、あの巨人のことを知ってるの?」

 

 

「……知っているも何も、我々宇宙人はウルトラマンという存在を知っている。

 

 

 宇宙の平穏を守り続ける、光の巨人達のことじゃよ」

 

 

 

 エレキングに猛攻を仕掛ける黒銀の巨人(ネオ・ウルトラマン ZETA)の活躍を見ていく2人。ケトル爺は初代ウルトラマンの話を噂でしか聞いたことが無い。その話が出たのも、“ウルトラマンレオ”が地球での活躍をしていたからこそ出てきた話題でもあった。

 

 

 そして長き年月が経ち、“光の国”が宇宙の交通に関する仕事をしてくれたおかげで、こうして黎の居る地球へと向かう事が出来た。黎と知り合ったのは単なる偶然ともいえるが、今は黎との出会いを()()だと感じている。

 

 

 “ウルトラアタック光線”“八つ裂き光輪”と続けざまに放つ黎は、エレキングを追い詰めていた。そして何かを考えていた際にエレキングが立ち上がり口から“放電光線”を放つも、黎は長方形型のバリアを自身の目の前に作り防いだ。

 

 

 そしてバリアを作ったまま押し出し、バリアを解除すると黎は跳んでドロップキックを放ちエレキングを倒れさせる。

 

 

 

「凄い……!あれが、ウルトラマン……!」

 

 

 

 ヤクモ隊員がその光景に釘付けになっていると、耳にかけている通信デバイスから声が聞こえる。

 

 

 

〔ヤクモ隊員、応答せよ!ヤクモ隊員!〕

 

 

「こちらヤクモ!こちらは無事です隊長!」

 

 

〔民間人の方はどうなっている!?〕

 

 

「えっ…………あの、その……」

 

 

 

 口ごもるのも無理はない。助けた民間人が、あのウルトラマンだということを伝えたとしても信じてもらえるかどうか。それだけがヤクモの頭を悩ませていた。

 

 

 そんな時、ひょいと通信デバイスを取るケトル爺。

 

 

 

「あ、ちょっと……!」

 

 

 

 ケトル爺はヤクモに落ち着けとジェスチャーをすると、その通信デバイスで話をする。

 

 

 

「はいはい、もしもし」

 

 

〔……誰だ?〕

 

 

「あぁ、スマンのぉ。儂はその民間人じゃ、つい先程助けられての。心配せんでもヤクモ隊員とやらも無事じゃぞ」

 

 

〔そ、そうか…………ではすまないが、ヤクモ隊員と変わってくれないか?〕

 

 

「了解した」

 

 

 

 ケトル爺は通信デバイスをヤクモ隊員に渡すと、自分の口に人差し指を当てる。つまりは、黎の正体については話すなということ。

 

 

 それを理解したヤクモ隊員は、通信デバイスを耳にかけて話す。

 

 

 

「すみません隊長」

 

 

〔いや良い。それよりも…………あの巨人はなんだ?エレキングが手も足も出ていない〕

 

 

「いえ、まだ私にも……何がなんだか…………」

 

 

 

 その会話中にエレキングに向かって走り出した黎。その足音に全員視線を向ける。だが、急に止まり何も無いであろう方向を見ていた。

 

 

 

「隊長!巨人が走りを止めました!」

 

 

〔こちらコカド!エレキングが起き上がります!〕

 

 

〔くそっ!なぜあの巨人は止まった……!?〕

 

 

 

 今度は黎が何もない様な場所で腕を払う動作をした。それを見ていたケトル爺が、もしやと思っている所に黎がケトル爺とヤクモ隊員が居る方向を見た。

 

 

 

 

「まさか…………すまんがヤクモよ、今すぐ戦闘機を出してくれ」

 

 

「それは、一体なぜ?」

 

 

「恐らく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウゥ!」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 黎が苦しみの声を挙げる。それもその筈、先程体を起こしたたエレキングが尻尾で黎の体を縛り“エレクトリックテール”という攻撃をくらっているからだ。

 

 

 その様子を見たケトル爺は、ヤクモ隊員を急がせる。

 

 

 

「早ようせぃ!彼奴は恐らく、まだ避難していない民間人を見つけたと思える!」

 

 

「ッ!?本当なんですか!?」

 

 

〔ヤクモ隊員、どうした!?〕

 

 

「まだ民間人が居るようです!今すぐそこに向かいます!」

 

 

〔でも、何処に居るってんだよ!?〕

 

 

「恐らく、ウルトラマンがあの時止まって見つめていた場所に居るはずです!」

 

 

〔……ウルトラマン?〕

 

 

「あの巨人の名前です!では急ぎます!」

 

 

 

 通信を切ると戦闘機へと乗り込むのだが、後ろにケトル爺が座っていた。急すぎて何が起きたのか理解しかねたヤクモ隊員であった。

 

 

 

「な、何をしているんですか貴方!?早く降りて避難を!」

 

 

「黎が示した場所は分かった!儂が案内しよう!」

 

 

「あぁもう!」

 

 

 

 ケトル爺を乗せたまま、戦闘機が離陸し黎が示していたポイントへと向かう。未だにエレキングに捕えられている黎は、胸のライフタイマーが()()点滅していく。2人はボロボロになった建物の隙間を捜し出し、ヤクモ隊員が見つけた。

 

 

 降り立ったヤクモ隊員が今現在動画を撮影している男を避難させようと試みる。

 

 

 

「何をしているんですか!ここは危険です、早く避難して下さい!」

「おーっと!?ここに来て美人登場!やっぱり映えるのは美人だよねぇ!」

「話を聞いてください!それと動画も止めて!」

 

 

 

 しかしやめない。命が惜しくないのだろうか、動画を撮り続けている。ケトル爺は静かに男の後ろに回り込みスマホ画面を見てみると、コメントが幾つも更新されており多くの人間が見ている事が分かった。そしてそれを()()()()()()見ている者が殆どだということを。

 

 

 

「ウアアゥ!」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 黎が3人の上空に現れたかと思いきや、その後ろに飛んでいった。エレキングが尻尾で投げ飛ばしたと推定できる。そしてエレキングが黎に向かって歩みを進めた。

 

 

 その進行方向に3人が居た。強硬手段としてヤクモ隊員は男の腕を引っ張り戦闘機へと連れて行く。

 

 

 

「おっと!?なぜか戦闘機へと連れ込まれている俺!この危機的状況に俺()()を助けたいという彼女の思いがあるのだろうか!?」

 

 

 

 そしてヤクモ隊員から、聞こえてはいけない何かが聞こえた。

 

 

 ヤクモ隊員が男の持つスマホを取り上げると、そのまま綺麗に半分に破壊した。

 

 

 

「あー!何すんだよオイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おんしゃあ、ええかげんにせぇよ!おまんみたいに避難もせん輩はアタシらにとって迷惑極まりないんじゃボケェ!そこで命がのうなったら、おまんがやりゆう動画投稿すら出来んこと考えられんのか!おぉ!?」

 

 

 

 かなり早口に捲したて四の五の言わさずに圧倒させる。土佐弁全開のヤクモ隊員は大の男を、火事場の馬鹿力とも謂わんばかりの力で男を戦闘機の後部座席に()()()()()

 

 

 変な声を挙げながら後部座席で犬神家状態となった男を乗せて、今度はケトル爺に向かい合う。

 

 

 

「おまんも早う逃げぇや!」

 

 

「少し落ち着かんか。儂はキチンと逃げるわい」

 

 

 

 ケトル爺は普通の老人が走れない速さでその場を去った。去っていった事を確認すると戦闘機に乗り込み、その場から避難する。危うくエレキングの被害にあう羽目になったと思うと少しだけ安堵するヤクモ隊員。

 

 

 

 

 

 

 その飛び立つ戦闘機に、エレキングが気付いてしまった。エレキングは体を回転させて尻尾を振るうと、戦闘機の右翼に当たり墜落していく。

 

 

 

「きゃああああああああ!」

 

 

〔ヤクモ隊員!〕

〔ヤクモ先輩!〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黎がケトル爺とヤクモ隊員が居る方向を見ていた時、突然体に尻尾が巻き付けられる。

 

 

 

「『ッ!しまった!』」

 

 

 

 拘束から逃れようと必死にもがくが、捕えられると同時に電気が黎の体を伝わっていく。尻尾から50万ボルトの電気(エレクトリックテール)によって、黎の体に被害が及び胸のライフタイマーが白く点滅していく。

 

 

 

「『なんだ、これ……力が…………ッ!入らない……!』」

 

 

 

 ネオ・ウルトラマンの胸のタイマーはエネルギーが残り少なくなっていくと黄色から白へと変わり点滅するのだ。この白い点滅が消えると黒く染まり、最終的に活動が不可能となるのだ。

 

 

 戦闘機が飛び立ち、先程の男が居た場所に着陸する。その事が分かると、とても安心していた。

 

 

 しかしそんな余裕など与えない。エレキングは黎を投げ飛ばす。

 

 

 

「『ぐあッ!』」

 

 

 

 人間サイズで比較的大きな広場に、投げて倒される黎。地面から土や道路の破片が舞い上がっていく。

 

 

 エレキングは倒れた黎に向かって歩みを進めた。進路方向には不味いことに、ヤクモ隊員とケトル爺に加えて男が居る場所だった。

 

 

 

「『ッ……不味い!このままじゃ…………!』」

 

 

 

 と、そんな時女の怒鳴り声が聞こえる。女の声でヤクモ隊員(黎は名前はまだ知らない)だと分かった。誰を怒っているのかは明白であろう。

 

 

 そして戦闘機のブースター音が黎の耳に入る。良かったと感じつつエレキングを見やるが、当のエレキングは戦闘機に視線を向けていた。

 

 

 

「『まさか…………ッ!待て!』」

 

 

 

 そして予想通り、エレキングが尻尾で戦闘機をはたき落とす。右翼に被害が及び、墜落していく戦闘機。

 

 

 

「きゃああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『絶対に、見捨てるもんか!』」

 

 

 

 黎は立ち上がる。そして初めて巨人ではなく、()()()()を使う。

 

 

 黎は願った。そして願いが届いたかの様に黎の体が()()()()()

 

 

 黎が気付いた時は、戦闘機が()()()()()()()()いる光景が目に見えた。黎は戦闘機をキャッチし動きを止める。

 

 

 落ちている感覚が無くなり、まだ生きていると実感したヤクモ隊員はネオ・ウルトラマンを見上げる。

 

 

 

「ウルトラマン……」

 

 

 

 黎は戦闘機をそっと安全な場所に降ろすと、エレキングを見やる。そうしている内にドンドン点滅が早くなっていき、黎の意識も薄れつつあった。

 

 

 そしてエレキングが、口から“放電光線”を発射した。これでトドメと謂わんばかりに。

 

 

 しかし黎は薄れつつある意識の中、無意識に両手を水平にして胸のライフタイマーを目立たせる様に構える。

 

 

 エレキングの放電光線が黎のライフタイマーに当たった瞬間、その放電光線は()()()()()()()()()。そして黎のライフタイマーの点滅が少し遅くなり、黎も少しだけ意識を取り戻した。

 

 

 

「『ッはっ!?……今の、今のって…………まさか、攻撃を?』」

 

 

 

 ここでは無いどこかの宇宙の中に、このウルトラマンがフィクションとして存在する世界がある。これはその中の1つだが、1967年4月9日に放送された話に“ゼットン”と“ウルトラマン”が戦うというお話がある。

 

 

 普通ならウルトラマンが勝つのだろうが、この時はゼットンが勝利を収めた。それはなぜか?

 

 

 ゼットンには()()()()()()()()に幾つもの能力が備わっている。空間転移(テレポーテーション)や光線吸収・反射、とてつもなく堅いバリアーに1兆度にも及ぶ火球を放つ事が出来るのだ。

 

 

 そして初代ウルトラマンを倒した事で、後々の物語でも強力な怪獣として度々ウルトラマン達の前に現れるのだという。

 

 

 黎が変身している【ZETA】は“初代ウルトラマン”と“ゼットン”の、正に因縁のある1人と1体の組み合わせである。当然、黎が初代ウルトラマンの技が使えるのならばゼットンの能力も使えるというもの。

 

 

 光線を吸収し、あとは発射するだけ。そこで黎はまた初代ウルトラマンの姿が頭の中に浮かんだ。

 

 

 初代ウルトラマンが磨き上げて必殺の威力にまで高めた、我々なら誰もが知り、そして真似をした()()()が。

 

 

 黎は少しだけ後ろに下がった後、素早く両手を十字に組むと黎の右手から()()の光線が放たれる。

 

 

 エレキングはそれをモロにくらい、エレキングが動かなくなると黎も両手を戻す。エレキングはそのまま倒れて、爆発した。

 

 

 爆発が終わり漸く戦いも終わったのだと分かった黎は、疲れからか体が後ろに倒れていく。その際に変身も解かれるが、生身の黎を支えたのはケトル爺であった。

 

 

 

「よう頑張ったな、レイ」

 

 

「……ごめん、ケトル爺。僕、ねむぃ…………」

 

 

 

 そのまま黎はケトル爺の腕の中でスヤスヤと眠ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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目覚めの時

 黎の目が覚める。知らない天井──というワケでも無かった。周りからは少し騒がしい位の人の声や足音、時たま聞こえる戦闘機のジェット音などが入る。上体を起こせば、周囲を見渡せば避難している人間が沢山居る。

 

 

 先の件のエレキングによって、建物が多く倒壊している為に帰る場所が無い。だからこそ多くの人が居る。

 

 

 

「レイ、起きたか?」

 

 

「……ケトル爺」

 

 

「ほれ、朝ご飯じゃ」

 

 

 

 手渡されたのは非常食の冷製スープと乾パン、水であった。乾パンは多く噛んで食べて、スープはゆっくりと味わって飲み干す。全部食べ終えると紙食器をゴミ袋に入れてケトル爺と今後を話す。

 

 

 

「さて、レイ。今の自分のことは理解できるな?」

 

 

「……うん。父さんのことも、分かる。僕が」

「そこからは言わんで良い。レイの正体は成る可く明るみに出てはならん」

 

 

「分かった……」

 

 

「そこでなんじゃがレイ、一旦儂の家に寄らんか?」

 

 

「ケトル爺の?あの山の?」

 

 

「うむ。少し用意したいのがあっての、今なら向かえる」

 

 

「……ん、分かった。このケースは持って行って」

「構わんよ。必要なものじゃからな」

 

 

 

 そうしてケトル爺と黎の2人は避難所を去る。立つ鳥跡を濁さずというように、元いたその場所を片付けてケトル爺の家へと向かう。

 

 

 ケトル爺の家は被害にあった建物が密集している場所ではなく、珍しく木々が密集した場所に建てられている。そしてここから3駅もの距離があるため、遠いといえば遠い。しかしケトル爺は一応“宇宙人”、黎は黎で人より体力があるので歩くのは苦というワケでは無い。

 

 

 ケトル爺と黎は荷物を持ってケトル爺の住まいに向かう。殆ど徒歩で向かっているが疲れは無い、代わりに話が滞ってしまう。そして約3時間半で到着すると古風の家に上がる。

 

 

 

「お邪魔しま〜す……」

 

 

「いらっしゃ〜い」

 

 

「……ちょっと真似したでしょ」

 

 

「まぁの。さてレイ、ゆっくりしていってくれ」

 

 

「うん」

 

 

 

 居間の場所で座布団に正座して少しゆっくりと過ごす。ケトル爺はお茶を入れに行き、1人になった所で黎はジュラルミンケースを開ける。入っているのはミックスデバイスと10枚の厚みがあるカード。

 

 

 その内2枚は巨人“初代ウルトラマン”と怪獣“ゼットン”の絵が描かれているカード。この2枚を使い、黎は黒銀のウルトラマンに変身した。しかしそんなことよりも、黎はこれを残した父である夜月のことを考えていた。

 

 

 

「…………父さん、とおさん……」

 

 

 

 勝手に出て行って、勝手に託して、勝手に戦って、勝手に死んでいった父親のことを。なぜ自分にこれを渡したのか、なぜ自分が()()()()()()になれたのかというのは深く考えていない。

 

 

 カードを元に戻しケースを閉じようとした途端、緩衝材が落ちる。元に戻そうとケースを再度開かせると何やら1冊の説明書の様な紙束があった。

 

 

 不思議そうに黎はその紙束を手に取り、裏を見る。

 

 

 

「……“適合獣”?」

 

 

 

 それだけが書かれていた。紙束を開くと、中はミックスデバイスの絵と説明文に加え巨人と怪獣のセットが幾つもあった。

 

 

 

「!…………これ、デバイスの。こっちは……」

 

 

 

 黎は初代ウルトラマンとゼットンのカードを取り出し、それらを説明書のセットと照らし合わせていく。確認された番号は1、そこに初代ウルトラマンとゼットンの絵がセットで描かれていた。

 

 

 

「やっぱり……これ、変身する時の…………」

 

 

 

 残りのカード8枚を取り出すが、両面見ても何も描かれていない。説明書には幾つかの形態と思わしき姿が書かれた文字と、使用する巨人と怪獣の絵が描かれてある。

 

 

 

「お茶持ってきたぞー、レイ」

 

 

「…………ケトル爺」

 

 

「ん、何じゃ?」

 

 

「これ、見てくれる?」

 

 

「どれどれ…………これは……ッ!」

 

 

 

 同じくその説明書を読んだケトル爺も内容に驚く。このミックスデバイスの精確な使用方法、そして巨人と怪獣のセットによる変身形態。その変身形態の特性までもが記されていたのだ。

 

 

 そして初代ウルトラマンとゼットンの組み合わせが、黎の変身した【ZETA】。初代ウルトラマンの持つ多彩な技とゼットンの固有能力が使用可能で、バランスの優れた形態であること。

 

 

 他にも防御重視の形態、攻撃重視の形態、特殊攻撃重視の形態、俊敏性重視の形態など様々な形態が。しかし姿は描かれておらず、その形態名だけしか書かれていなかった。

 

 

 黎とケトル爺は一旦机で向かい合う様に座り、話し合う。

 

 

 

「さてレイよ、これは何処で?」

 

 

「このケースの……えっと、緩衝材だっけ?その下に」

 

 

「……どうやら、レイの父親が仕込んだかもしれんな」

 

 

「父さんが…………でも、何で」

 

 

「それは分からん。じゃがレイよ、これならばその機械の使い方が大体わかるぞ。そのミックスデバイスとやらの機能もな」

 

 

 

 説明書にはこう書かれてある。

 

 

 ・怪獣に対しデバイスでスキャンさせると、該当するウルトラマンのカードと怪獣のカードを新たに使用できる

 

 ・また同様に、ウルトラマンに対してデバイスをスキャンさせると該当する怪獣のカードとウルトラマンのカードが新たに使用できる

 

 ・但し新たに使用するには、ブランクカード2枚をデバイスに差し込み怪獣(又はウルトラマン)にデバイスを接触しなければならない。

 

 ・また怪獣をスキャンする場合、該当する怪獣でなければ読み込みは不可能

 

 

 今黎の手元にあるブランクカードは残り8枚、あと4回までスキャンが可能ということだが逆を言えば()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()という問題が浮かび上がる。

 

 

 だが黎の居るこの地球には、黎以外のウルトラマンは居ないため怪獣をスキャンしなければならない。そして怪獣にも制限が掛かっているとなると、早々に力を手に入れるのは難しいことである。

 

 

 

「そして該当怪獣の制限…………ここに来るかどうかが怪しいが、覚えておいて損は無いじゃろう」

 

 

「うん……そうだね」

 

 

「…………ん、そうじゃレイ。少し相談なんじゃが」

 

 

「……相談?」

 

 

「うむ。レイよ、防衛隊に入る気は無いかの?」

 

 

「防衛隊……?」

 

 

「“Protection・Humanity・System”、その3つの頭文字を取って【P・H・S】と呼ばれる機関のことじゃ」

 

 

 

 この世界には謂わば特殊な組織として存在している機関がある。それがケトル爺が言った【P・H・S】だが、昔怪獣がこの地球を襲った事件があったことで設立された機関である。

 

 

 しかし怪獣の侵攻が沈静化したのは今から32年程前。その時代に作られた機関なのか、知る人は知る古い組織。その代わり怪獣に関するデータなどは揃っており、唯一()()()()()()()()()として名を知られている。

 

 

 

「でも、何で僕に?」

 

 

「今のレイは単なる“民間人の1人”であり、ウルトラマンじゃ。怪獣が襲って来たとしても、レイは変身して戦うことが出来る。

 

 

 しかし、レイの正体は成る可く隠し通さなければならん。それなのに被害現場で民間人が逃げてもいないと勘づかれ、あまつさえウルトラマンだと言うことがバレれば不味い事態になるやも知れん。幸い、あの時居たパイロットには秘密にしてもらったがの」

 

 

「つまり……自然な状況にさせるってこと?」

 

 

「その通り。その防衛隊に行けばある程度の誤魔化しは効くと言うワケじゃ」

 

 

 

 1通り話し終えた後、ケトル爺は机の上のお茶を飲む。その間でも考えている黎であったが、自身の事をどうしようかと考えたのはあまり経験していない。そんな様子を見たケトル爺は、机に湯のみを置き話を続けた。

 

 

 

「まぁ、そこはレイ自身が決めることじゃて。無理強いはせんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い終えた時、正確には少し経ってからだが黎がキョロキョロと辺りを見渡した。

 

 

 

「どうした、レイ?」

 

 

「……ケトル爺、何か感じない?」

 

 

「なにか……?」

 

 

「そういや、エレキングが来た時もこんな感じに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、地面が揺れた。家が揺れて辺りの物が揺れる。ゆれがある程度収まった後、ケトル爺と黎は視線を合わせて頷き外に出る。

 

 

 外を見やると、鳥の顔をした怪獣が街に着陸していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、【P・H・S】本部に居るヤクモ隊員こと『ヤクモ・ヒトミ』は1人デスクで思い返していた。

 

 

 あの黒銀の巨人に変身した青年のこと。あの時自分とその青年を助けた老人のことを。あの青年が黒銀の巨人である事は、その老人から喋らないでくれと念を押されており誰にも話してはいない。

 

 

 というよりも、あの青年が黒銀の巨人へと変身したという事実が信用されにくいと考えた結果でもあった。そして、あの黒銀の巨人の名前のこと。

 

 

 

「“ウルトラマン”か…………」

 

 

「何をお考えですか、先輩」

 

 

 

 そう言ってコーヒーの入ったマグカップを置くのは、この【P・H・S】の隊員の1人『コカド・イツキ』であった。彼はこの機関のパイロットであり、操縦技術に関すれば今のところ右に出る者は居ないほどの腕前の持ち主。

 

 

 どちらかと言えば感情的なタイプであるが、それ故に仲間に対する信用が深く機関内でも信頼されている。そんな人間。

 

 

 

「あの巨人のこと……ですか?」

 

 

「えぇ。ウルトラマン……って、呼ばれている黒銀の巨人。あれが何なのか、さっぱり」

 

 

「ウルトラマン…………先輩が助けたご老人が言ってたんですよね?年齢的に7、80の。だったら昔起きた怪獣侵攻と何か関係があったりして」

 

 

「いや、それよりも前だ」

 

 

 

 自動ドアが開かれると、ガタイのいい中年男性が姿を現す。

 

 

 

「ミナト隊長」

 

 

「隊長、それより前って……」

 

 

 

 隊長と呼ばれたその人の名は『ミナト・ケンヤ』。この【P・H・S】隊長のポストに勤めており、リーダーシップを遺憾無く発揮し現場指揮を担当する傍ら自分自らが出向く時もある。

 

 

 ミナト隊長は持ってきていた資料ファイルを作戦会議に使用するデスクに置き、ファイルを開く。そこには幾つかの文献の1部と思える紙が入っており、それらを2人に見せていく。

 

 

 

「ヤクモ隊員の言っていた“ウルトラマン”について心当たりがあったからな、少し調べてみたのさ。そしたら……これらが入っていたファイルがあってな」

 

 

「……って、これかなり古いですね。確認されているだけで60年前に出没してますよ」

 

 

「あぁ。その文献には共通している点があってな、怪獣らしき生物が現れ人々の平穏を脅かそうとする時のみ現れると」

 

 

「じゃあ……先の件も私達を助ける為に?」

 

 

「いや、実は見てほしいのは別の箇所にあってな。あー………………あった、これだ」

 

 

 

 その紙を見る2人。内容を見る限り、そのウルトラマンに関する資料なのだろうが外国の文字で読めない。ミナト隊長がそれを見ている2人に説明し始める。

 

 

 

「何でも確認された中では

 

 

 紅と銀、紅のみ、銀のみという風にしか記載されていないんだ」

 

 

「で、でも……私も隊長もコカド君も見たのは…………」

 

 

()()()……全くのニュータイプなのか、若しくはウルトラマンとは()()()()なのかってことだ。そして、その文献でウルトラマンは力の大半を失い結果的には地球は救われたが負けているんだ」

 

 

「そんな…………」

 

 

 

 そんな最中、警報が鳴り響く。ミナト隊長は通信デバイスを起動させてとある人物の話す。

 

 

 

「イデさん、モニターの起動を!」

 

 

〔りょーかい!〕

 

 

 

 作戦会議用のモニターに外の風景画映し出される。またもや街中に現れた怪獣であった。

 

 

 

「ベムスター……!」

 

 

〔いや違う!宇宙怪獣ベムスターにしては大き過ぎる!あれは80m級の大きさだ!〕

 

 

「何て大きさだよ……!」

 

 

「いや、それでも我々は人々を守る為に行かねばならん時がある!今がその時だ!」

 

 

 

 ヤクモ隊員とコカド隊員がミナト隊長に向き合い、敬礼をする。

 

 

 

「出撃準備!」

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 ミナト隊長を含んだ3人が戦闘機の格納庫に向かう。グレーと青、白のカラーリングを施された戦闘機【V01】【V02】【V03】にそれぞれ乗り込み確認を行う。その間、出撃態勢が整い次第出撃できるように出撃口の扉が上下に開かれる。

 

 

 それぞれの準備が終わると、3人は出撃態勢に入る。

 

 

 

「V01!ヤクモ・ヒトミ、出撃します!」

 

 

「V02!コカド・イツキ、出撃します!」

 

 

「V03!ミナト・ケンヤ、出撃する!」

 

 

 

 3機が順に飛び立つと、急ぎ現場まで向かって行く。標的であるベムスターと思わしき怪獣は、遠くから視認できる程大きく倒せるのかどうかすら怪しい。

 

 

 

「こちらミナト!イデさん、ベムスターの弱点は!?」

 

 

〔腹部にある五角形の口の様なものがある筈だ!その吸引アトラクタースパウトはガスやエネルギー、果ては建造物なども吸い込んでしまう!〕

 

 

「それじゃ勝ち目がないんじゃ!?」

 

 

〔安心せいイツキ君!そいつは光線を吸収し過ぎると死んでしまうのだよ!スペシウムエネルギー砲を使って、たらふく食わせてやれ!〕

 

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 戦闘機の形がそれぞれ変化する。V01戦闘機の先端が2つに別れ、そこから砲身の様なものが出現する。次にV02の先端が別れると、両翼に移動し接続アタッチメントが出現しV01とドッキングを果たす。最後にV03の両翼が前に移動し、同じようにアタッチメントが出現するとV01・02複合機の最後尾にドッキングする。

 

 

 その状態で約80mもの大きさのベムスターに向かって行く途中、イデと呼ばれた人物から連絡が入る。

 

 

 

〔ベムスターは形故に背後からの攻撃に滅法弱い!先に誘導させて、そのあとスペシウムエネルギー砲を与えろ!〕

 

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 素早さで言えば、航空自衛隊にある戦闘機よりも速度のある複合機はベムスターの背中に位置する。そのベムスターは街中で暴れており、建造物を壊しまくっている。

 

 

 

「ヤクモ、コカド!スペシウムエネルギー砲のチャージはこちらが行う!お前らは被害を抑える為に攻撃し続けろ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 ヤクモとコカドがそれぞれスイッチを押すと両翼の一部と下から小さめの砲身が展開され、そこからビームが発射される。背中でモロにくらったベムスターはたじろぎ、複合機に注目する。

 

 

 しかしベムスターが腹部の吸引アトラクタースパウトを開かせると、そこから光線を発射した。

 

 

 

「ッ!回避!」

 

 

 

 寸での所で回避に成功した複合機であったが、ベムスターはまだ交戦を発射していく。しかし光線を吐き続けるベムスターの攻撃を必死に避けている為、もしエネルギーが溜まったとしても攻撃できるか怪しい。

 

 

 

「イデさん!ベムスターの腹から光線が発射されています!このままでは攻撃すら危ういです!」

 

 

〔何だと!?〕

 

 

 

 今度はベムスターの腹部から竜巻状の煙が巻き起こる。それに複合機は巻き込まれ、制御を失って上空に飛ばされる。煙が晴れると、ベムスターはすかさず光線を発射する。

 

 

 誰もが当たると確信し、避けられないと悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし攻撃は一向に当たらない。不思議に思った3人は目を開ける。

 

 

 その複合機の前方に、先日見た黒銀のウルトラマンが守っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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賽は投げられた

「ケトル爺、あれって……!」

 

 

「怪獣……それもベムスターじゃ」

 

 

 

 一方、黎とケトル爺はベムスターの姿を目撃する。ベムスターは街を淡々と破壊していくのだが、ケトル爺は何かが気になった様子。黎はミックスデバイスとカードを取り出し変身の準備に取り掛かる。

 

 

 しかしケトル爺が何かに気付いた様子で黎にあのベムスターについての知識を教えておく。

 

 

 

「レイ、あの怪獣はベムスターと呼ばれておる。しかし単なるベムスターではなく【改造ベムスター】と呼ばれる怪獣じゃ」

 

 

()()……?怪獣の改造って出来るの?」

 

 

「高度な文明を持った宇宙人ならば可能なんじゃ。そしてあの改造ベムスター……昔聞いたことがある。何でもヤプールと呼ばれる宇宙人が、ウルトラマンタロウに差し向けた怪獣の一体じゃ」

 

 

「……詳しいことは色々聞きたいけど、とにかく改造ベムスターを倒して来るよ」

 

 

 

 意気込みも束の間、【P・H・S】の複合戦闘機がベムスターの背後から攻撃を加える。それに気付いたベムスターが複合戦闘機の方に向くと、ケトル爺が黎にアドバイスを出す。

 

 

 

「レイ!ベムスターは基本的に腹部にある五角形の“吸引アトラクタースパウト”によって光線技を吸収してしまう!しかし与えすぎれば内部から爆発するぞ!」

 

 

「過剰摂取ってワケね!行ってくる!」

 

 

 

 黎はミックスデバイスとカードを構えて、変身プロセスを行う。

 

 

 始めに赤い差し込み口にウルトラマンのカードを差し込むと、ウルトラマンのビジョンが出現する。

 

 

 

〈〈ウルトラマン!〉〉

 

 

 

 次に紫の差し込み口にゼットンのカードを差し込むと、ゼットンのビジョンが出現する。

 

 

 

〈〈ゼットン!〉〉

 

 

 

 そして黎はミックスデバイスを押し込む。

 

 

 

〈〈ザ・フュージョン!〉〉

〈〈ネオ・ウルトラマン 【ZETA】!〉〉

 

 

 

 黒銀の巨人(ネオ・ウルトラマンZETA)へと変身を遂げた黎であるが、ちょうどその時複合戦闘機が竜巻状の煙に巻き込まれて身動きが取れていない頃であった。

 

 

 そして改造ベムスターが吸引アトラクタースパウトから光線を凝縮させており、それを一時的に身動きのできない複合戦闘機に発射しようとしていた。

 

 

 

「『ッ!危ない!』」

 

 

 

 黎は咄嗟にゼットンの空間転移能力を使用し複合戦闘機の前に位置取ると、放たれた光線に対しゼットンシールドを展開させ守る。

 

 

 光線が終了すると、シールドを解除し守っていた複合戦闘機の方に視線を向ける。3人全員とも無事な事を確認すると黎は空間転移能力を使用し改造ベムスターの背後を取る。

 

 

 

「『ハアッ!』」

 

 

 

 空間転移からのドロップキックを与えると、改造ベムスターはバランスを崩し建物を倒壊しながら倒れる。80m級の大きさとあって被害も甚大であるが、暴れられるよりは幾分かマシである。

 

 

 黎は起き上がり初代ウルトラマン独特のファイティングポーズを取ると、改造ベムスターを起き上がらせ右翼を掴みながら背中にラリアットを何度も与える。改造ベムスターは鬱陶しく感じたのか、力任せに右腕を振るい黎を投げ飛ばそうとする。

 

 

 

「『うわっ!』」

 

 

 

 黎は投げ飛ばされるが、バランスを取りつつ停止し改造ベムスターに振り向き戦闘態勢を取る。80m級と50m級という大きさにハンデのある戦いとなり若干黎の方が不利に見える。

 

 

 改造ベムスターが飛翔し黎に向かって飛んでくる。黎はゼットンの空間転移能力で背後を取り改造ベムスターを蹴って落とす。大きさによる落下エネルギーが大き過ぎるせいか、広範囲に渡って瓦礫が舞う。

 

 

 空中に居る黎は八つ裂き光輪を改造ベムスターに連続して発射していく。背中に八つ裂き光輪が何度も当たりダメージを蓄積していき、改造ベムスターが抵抗しようと暴れる。

 

 

 

「『って、これ不味い!』」

 

 

 

 流石に被害の規模が異常な為、一度改造ベムスターを起き上がらせようと両翼を掴むが暴れている事と体格の差で逆に黎にダメージが入っていく。

 

 

 

「『痛い痛い痛い痛い痛い!』」

 

 

 

 そして改造ベムスターの吸引アトラクタースパウトから竜巻状の煙が放出され吹き飛ばされ、道路に落ち瓦礫が舞う。すると改造ベムスターが黎に近付きマウントポジションをとると両翼の先端にある爪で切りつける。

 

 

 何度も何度も切りつけられ黎のエネルギーも減りつつある。しかし改造ベムスターに黙ってやられる程、黎も諦めてはいない。すぐに空間転移能力を使用し改造ベムスターの前方に出現すると、ヤクザ蹴りを改造ベムスターの頭に当てる。

 

 

 蹴りを入れられ少し怯む改造ベムスター。そのとき黎のライフタイマーが黄色から白に変わり点滅し始める。一気に決めようと黎も必殺技を放とうと構えた。

 

 

 すると改造ベムスターが勢いよく空に浮かんだ。改造ベムスターは吸引アトラクタースパウトから発生する竜巻状の煙を使い急上昇したのだ。さらに上昇した際の風圧と竜巻状の煙による風圧が相まって黎も複合戦闘機も耐えていた。

 

 

 

「『ぐぅ……!』」

 

 

 

 空中に上昇した改造ベムスターは上空に待機した状態で吸引アトラクタースパウトの吸収能力を発動させる。その吸引力は周囲の建造物も吸い込んでいく。黎もその吸引力はウルトラマン態の黎でさえもギリギリ耐えるのが難しいほど。

 

 

 だが、この吸引力に最も影響力を受けやすいのは他にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメです!機体が安定しません!」

 

 

「このままじゃ……あのベムスターの腹の中ですよ!」

 

 

「かくなる上は……!スペシウムエネルギー砲の蓄積エネルギーを全エンジンに回せ!」

 

 

「しかし!それでは折角の作戦が!」

 

 

「このままでは全員、ヤツの腹の中だ!生き残れば必ずチャンスはある!」

 

 

 

 複合戦闘機が改造ベムスターの吸引力に負けそうになっていた。この指示を出したミナト隊長だが本人もこの決断には苦虫を噛み粒す心境で下している。

 

 

 しかし改造ベムスターに歯が立たなかったというのもある。そして()()()()()()が駆け付けるも、そのウルトラマンでさえも改造ベムスターの吸引力に負けそうになっている。

 

 

 そして機体が安定しないことで、スペシウムエネルギー砲の狙いが付きにくい。もし運良く狙いが一瞬だけ定まったとしても長時間定まっていなければ改造ベムスターに致命傷を与える事は不可能である。

 

 

 誰もがその決断を行おうとしたその時、複合戦闘機の機体が急に安定した。コックピットから見えたのは巨大な者の影、ウルトラマンの影だった。

 

 

 

「ウルトラマン…………!」

 

 

 

 ウルトラマンとてこの吸引力に負けそうな中、黒銀のウルトラマンは必死に複合戦闘機を逃そうとしている。どうにか逃れようと複合戦闘機も今出せる最大出力でスピードを出していく。

 

 

 しかしあともう少しの所で届かない。ウルトラマンでも、これ以上は厳しいのだろう。そして何を思ったのか、ウルトラマンは複合戦闘機の最後尾を手の平で押して逃した。

 

 

 代わりに、ウルトラマンが改造ベムスターの中に吸い込まれていった。

 

 

 

「ダアアアァッ!」

 

 

「ッ、隊長!ウルトラマンがベムスターに!」

 

 

「ウルトラマン……俺達を逃がす為に……!」

 

 

 

 そうして改造ベムスターに吸い込まれていく。全身が吸い込まれ消えていくと改造ベムスターは地上に降りていく。先ずはウルトラマンの消化が先だと謂わんばかりに、今の改造ベムスターは何も興味を示さなかった。

 

 

 ちょうどその時、複合戦闘機内でアラームが鳴る。それぞれの画面に映し出されたのは、エネルギーの蓄積が完了したという報告であった。

 

 

 

「ヤクモ!コカド!エネルギーが溜まった!これで撃てる!早急にウルトラマンを救出させるぞ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 油断している改造ベムスターの真正面に陣取り、複合戦闘機の先端にある砲身に火星から採掘された“スペシウム”をエネルギーに変換させて、一気に放つ【P・H・S】の現存最強兵器を構える。

 

 

 

「位置、機体バランス、反動抑制操作ともに正常!エネルギーリーク無し!」

 

 

「スペシウムエネルギー砲…………発射ッ!

 

 

 

 ミナト隊長が操縦(かん)のボタンを押すと、砲身から青いエネルギー体のスペシウムが一気に放出される。しかし改造ベムスターの吸引アトラクタースパウトが開き、エネルギーを吸収していく。

 

 

 

「くそっ!ダメか!?」

 

 

「……!いえ、隊長!あれを!」

 

 

 

 改造ベムスターはエネルギーを吸収し続けている。だがその改造ベムスターの体が所々膨れ上がっているのだ。そうこうしている内にスペシウムエネルギー砲が消えるが、改造ベムスターの異変は逆に増えていく。

 

 

 そうして改造ベムスターも限界だったのか、体が爆発四散する。その中から黒銀のウルトラマンが姿を現すと、3人は安堵と喜びの表情を浮かべていた。

 

 

 

「そうか……!体内で光線技を放ち続けてベムスターの体を内側から!」

 

 

「恐らくエネルギーの方は、あのスペシウムエネルギー砲から摂取したのよね!間違い無いわ、昨日見てたもの!」

 

 

「報告にあったな、そんな能力……おっとウルトラマンもお帰りの様だ」

 

 

 

 ウルトラマンは複合戦闘機の方に向き合い、軽く頷いた。3人もウルトラマンに対し頷くと、ウルトラマンは空へと飛んでいった。

 

 

 

「シュワッチ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改造ベムスターを倒した後の黎はケトル爺の家の中でぐっすりと寝ていた。2回目とはいえ疲労が溜まっていたのか、布団を敷くと5秒足らずで熟睡した。

 

 

 あの時黎は、何故か吸引アトラクタースパウトが開いた事で戸惑っていたが向かってくる光線に目を付けて咄嗟にゼットンの吸収能力を使用し、その中で必殺技を回転しながら放ち続けていたのだ。そもそも点滅していた時点でエネルギーが切れかかっていた為、光線を吸収して放つ行為で面倒なエネルギーを使用していたというのもある。

 

 

 そして現在、寝ている黎の寝息を聞きつつケトル爺は台所で食事の準備をしていた。

 

 

 そうして多少月日は流れていく。その間は怪獣も出現せず復興と一時の平穏な時間だけが流れていた。黎もケトル爺の言っていた【P・H・S】に入る為に勉強し、そして今日に至る。

 

 

 この日は試験結果の発表報告がケトル爺の家に届き、黎に持っていくと2人してドキドキしながら開けていくのであった。

 

 

 そしてその次の日、黎とケトル爺は2人して【P・H・S】の航空機動隊に編成となった。この機関では航空機動隊、水中機動隊、地上機動隊、宇宙探索隊という風に4つに別れており、黎の所属する航空機動隊は2番目に所属するのが難しい部隊なのである。

 

 

 

「そういやケトル爺さ、何で保護者として来てるのに内部に来てるのさ?」

 

 

「まぁまぁレイ。少し儂に考えがあるのでな」

 

 

「ふぅん」

 

 

 

 そうしていく内に黎とケトル爺は航空機動隊本部内に到着すると、現れた3人が出迎えてくれていた。その内の1人、ガタイの良い男が黎に歩み寄る。

 

 

 

「初めまして。俺はこの航空機動隊の隊長を勤めている『ミナト・ケンヤ』だ。宜しく頼む」

 

 

「は、はい!本日付けで航空機動隊に所属になりました『一 黎』です!宜しくお願いします!」

 

 

 

 ミナト隊長と黎が握手を交わすと、次にミナト隊長が視線を向けたのはケトル爺の方であった。

 

 

 

「所で……そこの御老人は保護者ですか?」

 

 

「まぁそうじゃ。じゃが()()()()()()の、そこのヤクモ隊員に助けられた民間人じゃい」

 

 

 

 ケトル爺がヤクモ隊員に顔を向けてにこやかな表情をする。ミナト隊長はヤクモ隊員の方を見る。

 

 

 

「はい。その通りです隊長」

 

 

「そうか……だが、なぜ此処に?」

 

 

「儂にも用事があっての、ちょいと待っとれ」

 

 

 

 ケトル爺が腕を胸の辺りで交差させて目を閉じて唸る。黎は何かに気付いている様子だが、他の者は何をしているのか知らない。

 

 

 そうしていると、ケトル爺の目が開き()()()姿()が現れる。

 

 

 

「なっ…………!?」

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 

「……ケットル星人!?」

 

 

「如何にも。儂はケットル星人の『グレゴリ』という者じゃ」

 

 

 

 ケトル爺が正体を現した。ケトル爺、もといケットル星人『グレゴリ』が何故こんな場所で正体を現したのかは黎でさえ知らないが黎は平然とした様子でグレゴリを見ている。

 

 

 

「ケトル爺、何で姿を出してんのさ?」

 

 

「なぁに、ちょいと協力を頼みたいだけじゃよ」

 

 

「協力……?」

 

 

 

 ミナト隊長が警戒しながらもグレゴリの言った言葉に食いつく。警戒するのは、ケットル星人が人間よりも身体能力が高く敵に回れば手も足も出ないことを知っているからだ。

 

 

 しかし黎だけは普段と変わらない表情でグレゴリを見ていた。すると黎が何かに気付いた様にグレゴリと話す。

 

 

 

「あぁ、怪獣のか」

 

 

「うむ。儂の知りうる限りの知識と儂の持つ戦力を与えれば、今後の活動が楽になると考えての」

 

 

「でもさケトル爺、腰の方は大丈夫なの?」

 

 

「跳びさえしなければ問題無いわい」

 

 

「……黎、と言ったね?そこのケットル星人と知り合いなのか?」

 

 

 

 ミナト隊長が警戒しながら聞いてくるが、黎はあっけらかんとした表情で応える。

 

 

 

「えぇ、もう知り合って5年は経ったかと。この姿を見せてもらったのは2年前に」

 

 

「君も宇宙人……という訳では無いのか?」

 

 

「いえ、ちゃんと長野県の産まれですよ。母子手帳に書いてありますし」

 

 

「言っとくが嘘偽りは無いし、儂はお前さん達と争う気は毛頭ない。この地球を愛する1人の宇宙人として、儂にも協力させて欲しいだけじゃしの」

 

 

 

 2人の態度と口調から嘘は無いと判断したミナト隊長は警戒を解き、後ろに居た2人も警戒を解いて銃を仕舞う。

 

 

 

「すまない。どうやら俺達が思っている様な宇宙人では無かったらしい」

 

 

「何気にすることは無い。少し慣れてしもうたからの」

 

 

「慣れちゃ駄目でしょ」

 

 

 

 こうしてグレゴリも【P・H・S】に協力者として配属され、航空機動隊が少しばかり賑やかになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈〈ウルトラマンダイナ!〉〉

 

 

〈〈グランスフィア!〉〉

 

 

〈〈ザ・フュージョン!〉〉

 

 

〈〈ネオ・ウルトラマン 【グランブレイブ】!〉〉

 

 

 

 

 とある宇宙の何処か。その場所に一体の巨人が現れる。その巨人はその空間に穴を開けて紫の渦巻き状のものを出現させる。

 

 

 その巨人はその中に入っていき、暫くすると別の場所に出る。そしてその巨人が見ていたのは……

 

 

 

 

 

青い地球であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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機械人形

 とある別の宇宙、その月面にて戦う2体の巨人が居た。赤と銀 灰色の巨人が銀 青色の()()を相手しているのだが、3色の巨人の攻撃は一切当たらず2色の巨人の攻撃だけが当たっていく。1発ずつ的確に当てていく2色の巨人は、まるで相手の出方が()()()()()()様に攻撃を避けカウンターを与えていく。

 

 

 苦戦している3色の巨人は胸のX()()()()()()()が光ると同時に鎧が着せられていく。だが2色の巨人は特に反応もせず、挑発の動作を3色の巨人に見せる。3色の巨人は右腕に装着された装置から電撃を放つ。

 

 

 だがそれさえも避けられ、今度は2色の巨人から妙な球体が現れたと思いきやそれから攻撃が放たれ3色の巨人がダメージを受ける。ダメージを受けた3色の巨人は相手の出方を見るのだが、その巨人は攻撃をする様子が見られない。

 

 

 

「『エックス、大丈夫か!?』」

 

 

「『問題は無いさ大地。だが……妙な()()()()()()だ、こちらの攻撃が全て読まれている。強者の余裕なのか攻撃もしてこない』」

 

 

 

 3色の巨人と一体化している男性の名を『大空大地』、Xio日本支部の【ラボチーム】所属の研究員だが有事の際は前線に立っており文武両道な面があるも高所恐怖症である。

 

 

 そしてこの3色の巨人の名は『ウルトラマンX』、この世界のウルトラマンである。この大空大地とXioメンバーと共に今も世界を守り続けている光の巨人(ウルトラマン)である。

 

 

 

「『確かに……悔しいけど、俺達の攻撃が全部読まれてる。何処に来るか知ってるみたいだ』」

 

 

「『多分、今奇襲しても避けられる。さてどうしたものか……』」

 

 

 

 ウルトラマンXと大空大地が共に悩んでいると、2色の巨人が突然何かに気付いた様に顔を見上げる。するとその2色の巨人はウルトラマンXに背を見せると、目の前の空間に()を開けた。その時、その巨人は赤 青 銀の3色に戻る。

 

 

 その巨人は穴に入り消えるが、穴は開いたままであった。それを見ていたウルトラマンXと大空大地だが、その途中アーマーが消えて胸のタイマーが赤く点滅する。

 

 

 

「『大地、1度Xioに戻ろう。恐らく3次元時空と平行世界を繋ぐワームホールと思われるが、1度準備を整えてから行った方が良い』」

 

 

「『それもそうだよな。皆に連絡して準備してから行こう』」

 

 

 

 ウルトラマンXは開いたままのワームホールを再確認したあと地球へと帰還していく。そのワームホールは未だに開かれたままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、黎の居る地球では訓練場で黎とコカド・イツキが徒手空拳での模擬戦闘訓練を行っている。腕刀の鍔迫り合いの中、互いに様子を見るように回っている。

 

 

 

「シッ!」

「フッ!」

 

 

 

 黎がイツキの防御している腕を一瞬で掴むと黎自身の体ごと回転するとイツキの腕から手を離す。黎は綺麗に着地、イツキも伊達に【P・H・S】所属隊員であってか体を捻って黎と同じように着地する。

 

 

 黎はその体勢から飛び上がり空中一回転して蹴りを放つが、イツキは地面を転がって蹴りを避けると足払いをかけて黎を転ばせる。背中におもいっきり打ち付けられるが痛む様子を見せない黎は、ブレイクダンスの要領で脚を大きく回転させながら体を起こし構える。

 

 

 そしてすぐさまイツキに向かう黎。向かってくる黎に合わせて掌打の一撃を抑え込むが、瞬間黎がイツキの腕を掴みイツキの肘関節が曲がる様に時計回りに左肘を腹部に添える。

 

 

 黎とイツキはそこで止まり離れてから一礼をしたあとタオルで汗を拭き、ドリンクで水分補給をしっかりと行う。

 

 

 

「ふぅー…………凄いね、黎君」

 

 

「全部ケトル爺のおかげですよ、イツキさん」

 

 

 

 【P・H・S】航空機動隊に所属してから1ヶ月半が経ったが、その間はケットル星人の『グレゴリ』もといケトル爺が黎の練習に付き合っていた。やはりケットル星人、様々な武術や武道全般に通じている故に生身で勝てる者は殆ど居ない。漸く黎もケトル爺とギリギリにまで渡り合える程度の実力を身につけたが、ケトル爺曰くまだまだだそう。

 

 

 未だに他の部隊員に手ほどきをしているケトル爺を見ながらそう考えた。ちょうどお昼頃になっている為、黎とイツキはやって来るケトル爺と共に昼食を摂る。

 

 

 食堂で食べるのだが、イツキは照り焼きチキン定食なのに対し黎はカツ丼 手羽先唐揚げ60本 白飯3合分の量を何の躊躇いもなく食していく。ここ最近、というより【P・H・S】に所属してから3日後にこの位の量にまで増えたらしい。

 

 

 そんな時、イツキの隣に座る1人の男が黎の食べっぷりを嬉しそうに見つめる。

 

 

 

「相変わらず良い食べっぷりだな、レイ」

 

 

「ムグ?………ゴックン ミナト隊長。えぇ、体を動かしてたら急にお腹が空いてきて」

 

 

「若い頃は食っておいた方が良い。……うん、そうであるとも」

 

 

「隊長…………」

 

 

 

 正直言って、黎の食事量は傍から見ても多すぎるのは確かである。しかも摂取した食事量よりも消費カロリー量が多いのか体型が殆ど変わっていない。ミナト隊長も黎の異常性に少しだけ上の空になり、それを見たイツキも苦笑しか浮かべなかった。

 

 

 その集団の中に1人の足音が近付く。

 

 

 

「多っ!」

 

 

「あ、ヤクモさん。どうも」

 

 

 

 やはり普通の反応をしたヤクモは一旦黎の食事量のことは頭の隅に追いやると、ミナト隊長の方に視線を向ける。

 

 

 

「ミナト隊長、お話が」

 

 

「あぁ……それならイデさんから聞いた。()()()だろう?」

 

 

「はい。漸く完成に至りました」

 

 

「そうか。……レイ、ちょっといいか?」

 

 

「はい」

 

 

 

 ミナト隊長は黎の方に視線を向けると、黎も返事をする。

 

 

 

「昼食が終わり次第、一緒に技術班のラボにまで来てくれないか?そこで見せたいものがある」

 

 

「見せたいもの…………ってなんですか?」

 

 

「来れば分かるさ」

 

 

 

 そうして黎の食事も終わり、既に食事を終えていたミナト隊長と共に2人が技術班のラボに向かう。

 

 

 この【P・H・S】に存在するラボは多岐に渡り全ての部隊がお世話になっており、航空機動隊の戦闘機や地上機動隊の車両や隊員が常備する銃や通信用デバイスなどが制作されている。

 

 

 ただ、この技術力で作られた多くの物は【M(uch)E(xtreme )T(echnology) (of) E(xtraterrestrial) OR(igin )】、通称METEORと呼ばれる超絶科学技術で製作され不安要素の塊のような代物。火星で採掘したスペシウムを利用した“スペシウムエネルギー砲”もその内の1つだ。

 

 

 閑話休題(話を戻して)

 

 

 黎とミナト隊長がラボに到着すると、かなり朗らかな様子を感じられる白衣を着た老人が出迎えてくれた。

 

 

 

「おぉ!待ってたぞケン!そしてレイ君!」

 

 

「ご無沙汰しています、イデさん」

 

 

「えっと……初めまして、一 黎です」

 

 

「私の名は『伊出(イデ) 光祐(ミツヒロ)』よく“イデさん”と全部隊がそう呼ばれるから、別にイデさんでも良いぞ。宜しくなレイ君」

 

 

「宜しく御願いします、イデさん」

 

 

「おっ、飲み込みが早いな」

 

 

「それでイデさん、早速なんですが」

 

 

「分かってる、ピットにあるから付いて来なさい」

 

 

 

 イデに案内されるままピットに向かうミナト隊長と黎。到着して中に入ると、1機の整備されている機体が目に止まる。少なくとも、これまで見た事ない形の戦闘機であった。

 

 

 ミナト隊長と黎が驚く中、イデはこの戦闘機を背に説明をし始める。

 

 

 

「レイ君専用に開発した、戦闘支援機【V04】だ!他の戦闘機と合体することで真価を発揮するのだ!」

 

 

 

 両翼に取り付けられた2つの大型ブースターとV04の後方に取り付けられた3つのコンテナが注目される戦闘支援機V04、これが黎の乗る機体となる。

 

 

 

「一応操縦法は他の戦闘機と同じだが、様々な武器があるから少しゴチャゴチャしているやもしれない。そこは私が説明しよう」

 

 

「感謝します、イデさん」

 

 

 

 そんな時、黎の様子が少しだけ変わる。上を見てキョロキョロと頭を動かして視線を変えていくのだが、ミナト隊長とイデはそんな様子を見て疑問に感じ黎に尋ねた。

 

 

 

「どうした、レイ」

 

 

「ミナト隊長…………何か来ます」

 

 

「来るって……何g」

 

 

 

 

 黎がそう言った直後、警報が辺りに鳴り響きアナウンスが流れる。

 

 

 

〔緊急警報発令!緊急警報発令!現在謎の飛行物体が宇宙から侵入!直ちにそれぞれのミーティングルームにて飛行物体を確認し、出動せよ!〕

 

 

 

 ミナト隊長と黎、イデはそれぞれお互いを見ると足早に向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に地上機動隊が着陸予想地点付近の住民に避難誘導を呼びかけ、続いて航空機動隊が向かう。今回はミナト隊長は指示を出す役目、代わりにV04戦闘支援機に黎が乗り出動するのだ。

 

 

 

〔総員、出撃せよ!〕

 

 

「V01!ヤクモ・ヒトミ、出撃します!」

 

 

「V02!コカド・イツキ、出撃します!」

 

 

「V04!ニノマエ・レイ、出撃します!」

 

 

 

 ピットから3機がそれぞれ出撃し、目標の飛行物体を目指す。数は4機であるが移動速度がこの戦闘機よりも速い。さらにモニターで確認できる辺りでは、その飛行物体はどれも特殊な形状をしている。

 

 

 そしてその4機の飛行物体が、それぞれ合体し始めた。縦に連結するように合体し、人の形を取った。正しく機械人形と呼ぶに相応しい風貌であった。

 

 

 

〔全機に情報を伝達する!アイツは“キング・ジョー”と呼ばれるペダン星人の開発したロボットだ!〕

 

 

〔レイ君、聞こえるか!?〕

 

 

「はい!」

 

 

〔今から指示を出す!操縦席の左側に設置したレバーハンドルを倒して、透過光線を出してくれ!生体反応があれば中のペダン星人を捕獲せよ!〕

 

 

「了解!」

 

 

 

 黎がキング・ジョーの周囲を移動し背後に回ると、左に設置されているレバーハンドルを握る。

 

 

 

「透過光線、発射します!」

 

 

 

 レバーハンドルを前に倒すと、V04の照明部分から透過光線が発射される。視覚的に確認していくが中には誰も居なかった。

 

 

 

「こちら黎!キング・ジョーの中には誰も居ません!無人機です!」

 

 

〔よし。ならば総員、キング・ジョーに攻撃せよ!〕

 

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 キング・ジョーに対し攻撃が行われる。連続射出されるレーザーやミサイルを発射していくが、ある程度怯むだけで他は何も攻撃する気配が無い。

 

 

 それどころか戦闘機を目で追っている様子が見られる。それに気付いた隊員達は連絡を入れる。

 

 

 

「ミナト隊長、キング・ジョーが行動を起こしません。精々我々を目で追っているだけです」

 

 

〔……一体何を考えているのだ?〕

 

 

「何か我々を観察している……のでしょうか?」

 

 

「ですけど、無人機ですよ?何かしらプログラムされてもおかしくは……あ、こちらを見ました」

 

 

 

 そして最後に黎の乗る戦闘機を見ると、キング・ジョーはすぐさま黎の乗るV04を掴み取った。

 

 

 

「おわっ!?」

 

 

「「黎君!」」

 

 

〔ヤクモ隊員とコカド隊員はすぐにレイ隊員を救出せよ!〕

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 V01戦闘機とV02戦闘機がキング・ジョーに攻撃を仕掛けるが、すぐに黎の乗るV04戦闘機を地面に向かって投げた。

 

 

 

「機体が安定しません!不時着します!」

 

 

 

 V04戦闘機が誰も居ない道路に不時着したのも束の間、今度はキング・ジョーが目から何かを収束させている。

 

 

 

〔レイ隊員、今すぐ避難せよ!〕

 

 

〔いや、間に合わん!〕

 

 

 

 ケトル爺からの通信が入った時、黎はすぐにミックスデバイスとデータカードを持ち、それぞれの差し込み口に対応したデータカードを差し込む。

 

 

 

〈〈ウルトラマン!〉〉

 

 

 

 先に赤い差し込み口にウルトラマンのカードを入れると、初代ウルトラマンのビジョンが現れる。

 

 

 

〈〈ゼットン!〉〉

 

 

 

 続いて紫の差し込み口にゼットンのカードを入れると、ゼットンのビジョンが現れる。

 

 

 そしてミックスデバイスを押し込み、変身する。

 

 

 

〈〈ザ・フュージョン!〉〉

〈〈ネオ・ウルトラマン 【ZETA】!〉〉

 

 

 

 光となってウルトラマンとなった黎が戦闘機から飛び立つと、光線を発射する寸前のキング・ジョーを真正面からのタックルによって防ぐ。

 

 

 キング・ジョーはすぐに倒れ、ウルトラマンとなった黎は戦闘態勢を取る。

 

 

 

「隊長!ウルトラマンが現れました!」

 

 

〔よし!総員直ちにウルトラマンの援護を!〕

 

 

 

 キング・ジョーが起き上がると、黎はジャンプしてキング・ジョーに接近しチョップを与えようとする。しかしキング・ジョーは4つに分離して攻撃を回避すると、目から“デスト・レイ”を発射する。

 

 

 背中でモロに受けた黎は膝を着くも、次にキング・ジョーはまた“デスト・レイ”を発射しようとする。それをゼットンの空間転移で避けた後、背後をとって手刀を大きく振りかぶって当てる。

 

 

 

「『かったい!攻撃が届いてない!』」

 

 

 

 しかし相手はペダニウムという宇宙鉱物で構成された機械。その外装はとてつもなく固く、通常の攻撃ではダメージを与えるどころでは無い。

 

 

 次にキング・ジョーは黎に裏拳を与えた後、そのまま機械的に1発ずつ正確に拳を放つ。元来の格闘能力が高い故に黎の防御はなす術が無い。ダメージがドンドン蓄積されている。

 

 

 

「隊長!ウルトラマンが押されています!」

 

 

「このままじゃ負けてしまいます!」

 

 

(成程、了解。)ヤクモ、コカド隊員はキング・ジョーの頭部にあるアンテナ型の分離装置を狙え!そうすれば分離による回避は封じられる!〕

 

 

「分離装置ですか!?」

 

 

〔グレゴリからの確かな情報だ。早く!〕

 

 

「ヤクモさん!ウルトラマンの援護は俺に!」

 

 

「分かった!私は分離装置を!」

 

 

 

 今度は黎が道路に倒れ、キング・ジョーが黎をマウントポジションで抑え込んだ。力で負けているのか拘束が解除されず、キング・ジョーは目から“デスト・レイ”をチャージする。

 

 

 そこに2機の戦闘機がキング・ジョーに向かっていく。ヤクモは照準を確認し準備が整うと、コカドがキング・ジョーの背中にレーザーを連続射出する。しかしキング・ジョーは動かなかった。

 

 

 

「忠告はした!ヤクモさん!」

 

 

「“ペネトレーションミサイル”、発射!」

 

 

 

 V01の右翼から1つのミサイルが発射される。それはキング・ジョーの分離装置を正確に狙い、貫く。これによりキング・ジョーも動きが鈍くなり、好機と狙った黎は両足でキング・ジョーを押し退ける。

 

 

 キング・ジョーは動きが鈍くなり、攻撃しにくくなっている。黎は思い出した様にミックスデバイスを取り出し、2つの差し込み口にブランクカードを差し込む。

 

 

 

「『これで……よし!』」

 

 

 

 黎はキング・ジョーに接近しウルトラマン態では殴っているのだが、黎はミックスデバイスをキング・ジョーに当てた。

 

 

 すると中にあるブランクカードが光り始めると、カードが射出され黎の手元に集まる。

 

 

 新たな巨人の絵とキング・ジョーの絵がカードに刻まれた。そして黎は、そのカードを使う。

 

 

 

 

 

 

 

 赤い差し込み口に、新たな真紅のウルトラマンを差し込む。

 

 

 

〈〈ウルトラセブン!〉〉

 

 

 

 黎の右側に、ウルトラセブンのビジョンが現れる。

 

 

 次に黎は紫の差し込み口にキング・ジョーのカードを差し込む。

 

 

 

〈〈キング・ジョー!〉〉

 

 

 

 そしてミックスデバイスを押し込み、新たな力を発動させる。

 

 

 

〈〈ザ・フュージョン!〉〉

 

 

 

 

 

 

 

〈〈ネオ・ウルトラマン 【アーマード】!〉〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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鎧の騎士

 巨人が光に包まれ、そして光が収まっていく。

 

 

 その姿は黒銀の巨人ではなく、赤い鎧を着た騎士の姿。

 

 

 姿そのものが変わっているだけではなく、頭部は西洋兜風のものに変わっており視界は隙間の箇所のみ。それを補うかの様に腕や脚は勿論のこと、関節の殆どにも赤い装甲が装着されている。

 

 

 そして頭頂部に目立つ特徴的なブレード。変身に使うデータカードに“ウルトラセブン”を使用している事から、セブンが使用する“アイスラッガー”が搭載されている。

 

 

 これこそが赤き鎧の巨人(ネオ・ウルトラマン アーマード)、騎士の姿を特徴とした重厚感溢れる新たな姿。しかし姿が丸っきり変わるのは予想していなかった。

 

 

 

「『……なんか、重いし動きづらい』」

 

 

 

 黎がそんな愚痴を零す。そもそもZETAの時は何も着けておらず、身軽な状態から繰り出されるプロレス調の戦い方をしてきた。ある意味初めての形態な故に違和感を感じるのは仕方がない。

 

 

 しかし黎の頭の中にはウルトラセブンの戦い方が入ってくる。そして使われているデータカードの“キング・ジョー”の戦い方も頭に入ってくると、すぐに黎は気付いた。

 

 

 ()()()んじゃない、()()()()()んだと。

 

 

 

「た……隊長!ウルトラマンの姿が!」

 

 

「変わってます!黒と銀から、真っ赤に!」

 

 

 

〔……一体、あのウルトラマンは〕

 

 

 

 

 三者三様の反応を見せていると、キング・ジョーの頭部にあるアンテナが自己修復し再び4つに分離し黎に攻撃を加えていく。

 

 

 

「隊長!今度はキング・ジョーが復活しました!しかも分離装置が修復されています!」

 

 

〔ならば合体した瞬間、ペネトレーション・ミサイルをもう一度撃て!それまで攻撃を避け続けろ!〕

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 キング・ジョーがそれぞれレーザーを黎に放っていく。黎から幾つもの爆発が起こるが、怯む様子すら見せない。レーザーが撃ち終わり煙が晴れていくと、そこには傷一つ付いていない黎が佇んでいた。

 

 

 

 

「『すっごい…………傷1つ付いてない……!』」

 

 

 

 黎がこの鎧に驚いている中、キング・ジョーが合体していく。そこを狙っていたかのようにイツキが背後を取る。

 

 

 

「ペネトレーション・ミサイル、発射!」

 

 

 

 貫通性を高めたミサイルがキング・ジョーの分離装置目掛けて放たれる。もう一度破壊された事で、またも動きがぎこちなくなったキング・ジョーに向かって黎は走って向かう。

 

 

 重厚感溢れる足音とフォルムから放たれる正拳突きをキング・ジョーの上体部に放つ。その重い一撃はキング・ジョーを浮かせて吹き飛ばし、道路に仰向けの状態に倒させる。

 

 

 その隙に黎は全装甲を()()()()()させて身軽になった状態からで跳ぶ。キング・ジョーの真上に来たところで全装甲を()()()()()させることで重量を増した落下攻撃を加える。

 

 

 この落下攻撃で瀕死の状態になっているキング・ジョーであったが、黎はお構い無しに馬乗りの状態で何度も何度も殴っていく。最後はトドメの一撃と謂わんばかりの両手を組んでの振り下ろしを与えて、キング・ジョーの装甲を大破させ機能を停止させる。

 

 

 キング・ジョーから爆発が巻き起こる。近くに居る黎も爆発に巻き込まれるが、それを心配するのは黎の仲間達であった。

 

 

 

「ウルトラマン!」

 

 

 

 ヤクモ隊員が叫んだ。しかし煙が晴れていくと、そこには何処にも傷は見当たらないウルトラマンの姿をした黎が立っていた。あの装甲は、キング・ジョーの爆発に耐えたのだ。

 

 

 

「『重いけど……凄いや!()()()が格段に違う!』」

 

 

 

 そう、夜月が残した説明書には“ウルトラセブン”と“キング・ジョー”のデータカードを使用した形態【アーマード】が書かれていたのだ。この形態は防御に特化させた仕様であり、殆どの攻撃を防ぎ相手に重い一撃を与えるパワーファイタータイプである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処か別の場所、複数人が集まって会話をしていた。但し全員ローブを羽織っているせいか、全体像が見えない。

 

 

 

「素晴らしい……!やはり成功例の()()()の実力が素晴らしい!こんなにも、こんなにも相性が良いのだな!」

 

 

「黙ってろマッハ。お前が喜ぶと騒がしい」

 

 

「なぜ?なぜ私は喜ぶことすら許されないのだ!?」

 

 

「その騒がしさが目に余るからだろぉよ」

 

 

「貴方の反応がドライなだけだ!本来なら貴方も喜びを顕にするべきだ!」

 

 

「いや他の奴等はどうすんだよ?全員お前のテンションに着いてこれねぇんだよ」

 

 

「むきぃー!言わせておけばぁ!」

 

 

 

 

「やめなさい、君達」

 

 

 

 この場所で主に2人の人物が口論をしていた。他の者は見慣れた光景だというのか、誰も口出しせずにその場に佇んでいた。しかしそこに1人の人物が漸く話に割り込んだ。

 

 

 

「今ここに集まったのは、誰が『一 黎』の()()()()()()()となるのかです。早く進んでしまえば、彼のライフタイマーの件はまだ間に合いますから」

 

 

「おぉっと、そうでしたそうでした!では僭越ながら私が行きましょう!」

 

 

「おーぅ行ってこい行ってこい。そんで2度と帰ってくんな」

 

 

 

 その1人の人物は自分のローブを脱ぎ捨て、姿を現す。

 

 

 紫の体色に、特徴的な両手のブレード。スタイリッシュな姿の()()()が向かっていく。

 

 

 

 

「スラン星人『マッハ』!彼の力を高める礎とならん!」

 

 

 

 光に包まれると、先程名乗ったスラン星人は消えた。残された者達は皆次々に消えていくが、さきほど話していた2人の者だけは残っていた。

 

 

 

「……アルバス、なぜ戻らないのですか?」

 

 

「…………いんや、特に理由は無い」

 

 

「左様ですか」

 

 

「あっとすまん。1つ再確認したかったかわ」

 

 

「何です?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にウルトラマンを()()()のか?アイツ」

 

 

「えぇ、倒せますとも」

 

 

 

 余裕綽々な笑みを浮かべて話していた1人が消える。残された者は1人、自分の耳に手を当てて独り言を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キング・ジョーが倒されたことで変身を解除させようとする黎であったが、突如飛来してきたレーザーが鎧に当たり何事かとそちらの方を振り向く。時を同じくして戦闘機に乗っているイツキとヤクモ、司令室で確認しているミナト隊長とケトル爺も驚いていた。

 

 

 そこには黎が初めて見る人の形をした怪獣……否

 

 

 

「我が名はスラン星人『マッハ』!」

 

 

 

 巨大化した()()()が、そこに居た。

 

 

 

〔スラン星人!?何故こんな所に!〕

 

 

「グレゴリさん!スラン星人とは!?」

 

 

〔ある1体のウルトラマンを執拗に狙うめんどくさい宇宙人とは聞いたことがある!〕

「ウルトラマンのストーカーですか?」

 

 

〔そこは別にどうでも良い!厄介なのは、スラン星人の持つ異常なスピード!彼奴らの右に出るものは宇宙広しとはいえ殆どおらん!〕

 

 

〔ヤクモ!コカド!今から俺がそちらに向かう!上手くいくかは分からんが、ウルトラマンと連携して“エナジートラップ”で捕らえるぞ!〕

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 通信が終了した頃、黎はスラン星人に対して警戒心を持ち戦闘態勢を取りながら睨みつける。そのスラン星人は今の黎の状態、アーマードの状態をじっくりと観察する様に見ていく。

 

 

 

「キング・ジョーを意図も容易く倒した強大なパワー、そして私の攻撃を食らっても怯んだ様子すら見せないその防御力………………やはり素晴らしい!君は最高だ!」

 

 

「『僕の事を……知ってるんですか?』」

 

 

「知っているに決まってる!()()は君をずっと()()()()からさ!

 

 

 君が…………ウルトラマンをッ!」

 

 

「『ッ!まずいな…… !』」

 

 

 

 スラン星人が何か言いかけたが、遮る様に黎の額のライフタイマーが黄色から白へと点滅し始めた。どうやら使用するカードによってライフタイマーの仕様も変わる事が判明した。

 

 

 スラン星人は少し不機嫌になりながらも、戦闘態勢を取りながら黎と相対する。

 

 

 

「時間が惜しい……さっさと始めますよ!」

 

 

「『ッ!?』」

 

 

 

 スラン星人が高速で黎の横を通り過ぎると、背後からレーザーが発射される。しかし黎は怯まずに攻撃した方に振り向くが、スラン星人は背後をとる。同じ事を3回ほど繰り返して埒があかないと思った黎は、身に付けている装甲全てを周囲に飛ばす。

 

 

 だがスラン星人は飛ばした装甲の隙間を潜り抜け、防御力が失われた黎にラリアットを加える。

 

 

 

「『がぁッ!』」

 

 

「さぁ、まだこんなものじゃないでしょう!?見せて下さい!君の本気を!」

 

 

「『くそっ……!いきなり何さ……!?』」

 

 

 

 すぐさま装甲を戻そうとするが、スラン星人もタダではやらせずに高速移動による加速を加えた攻撃を何度も黎に当てていく。黎も何とか装甲を着けていくが、その分動きが遅くなっていく。

 

 

 やがて黎が地面に倒れたと同時に、最後の装甲の1つが黎に装着される。だが額のライフタイマーは点滅を徐々に早くさせているので時間が殆ど残されていなかった。逆にスラン星人は余裕の表情と、()()()()()を見せていた。

 

 

 

「ガッカリだ。まさか私の見当違いだったとはねぇ」

 

 

「『な…………に……?』」

 

 

「君なら、私なんて赤子の手を捻る様に倒せた筈だ。

 

 

 君ならその力を真に活用して、私を容易くあしらえた筈だ。

 

 

 

 だが今の君には……それが無い。だからだ」

 

 

 

 黎自身、このスラン星人が何を言っているのか皆目検討も付かなかった。彼は異星人との交流は初めてではないが、()()()()()()になった事は1度たりとも無かった。

 

 

 そして黎は、ケトル爺以外の他の異星人に会った事は無い。

 

 

 

「もう良いですね。私は帰らせてもらいますよ」

 

 

「『……帰る?』」

 

 

「このまま居たとしても、何も成果は出ない。報告だけ済ませて私は帰ります」

 

 

 

 帰るのなら、本当はそれで良いのかもしれない。それならば街に被害は無く、単に(ウルトラマン)が傷付いて終わっただけになるから。しかしそこで本当は、このスラン星人に対して諦めずに立ち向かうのが人間の最も取る考えであるのだ。

 

 

 だが黎は、()()()()()を取った。帰ってくれるなら、それで良い。そうすれば無駄な被害だって抑えられるからこそ、黎はスラン星人が消えていく様を立ちながら見ることしかしなかった。

 

 

 ミナト隊長が駆け付けた時には既にスラン星人は居なくなっており、結果的に締まらない形となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この宇宙の何処かの辺境の惑星、そこで爆発が起こる。

 

 

 赤 銀の2色のウルトラマンが、この宇宙で“レギオノイド”と呼ばれる機械を倒していた。レギオノイドは片腕のドリルをそのウルトラマンに殴り掛かろうとするが、右フックで腕ごと破壊されストレートを諸に受けて破壊される。

 

 

 残り32体。なぜ()()()()()()()()がこんな辺境の惑星で()()()()()()と戦いを繰り広げているのかは今は誰にも分からない。だが予想される事が出来ると言えるのは、このウルトラマンの後ろにある()()()()()()が原因だろう。

 

 

 このウルトラマンは辺りを見渡し、数をあらかた確認していくと光に包まれる。

 

 

 

〈〈ウルトラマンガイア!〉〉

 

 

 

 右側にウルトラマンガイア(地球の意思そのもの)が現れる。

 

 

 

〈〈アパテー!〉〉

 

 

 

 左側に意思を持つ金属生命体が現れる。

 

 

 

〈〈ザ・フュージョン!〉〉

 

 

〈〈ネオ・ウルトラマン!【リキッドグランド】!〉〉

 

 

 

 

 光が収まると、姿が変わった。

 

 

 赤と銀、そして黒が体の殆どを占めている“ウルトラマンガイア”の姿がそこにはあった。このウルトラマンは別世界のウルトラマンであり、本来は地球の意思が具現化された存在である。

 

 

 しかし今居るウルトラマンは、まるで地球の怒りを表した様な姿となっていた。何となく、何となくであるが地球が人間に失望するとなれば、ガイアはこの様な姿になるのだろうかと想像できる。

 

 

 名付けるのならば地球の怒りの具現化(ネオ・ウルトラマン リキッドグランド)。その力は地球の怒りに相応しい力である。

 

 

 リキッドグランドが地面に拳を叩き付ける。するとこの惑星が揺れ始めた。次第にその揺れは増していき、ついには惑星にある()()から大量のマグマが一気に溢れ出した。

 

 

 そのマグマの速度は誰から見ても異常であった。速い、そして冷めない。マグマがレギオノイド全てを覆い尽くすが、リキッドグランドだけは包まれていない。

 

 

 少し話は逸れるが、マグマの生成条件を語ろう。これはリキッドグランドの力の本質でもあるからだ。

 

 

 火山内部にあるマグマというのは、地球では内部に潜り込んでいくプレートが溶けたものである。液状化されたプレートが火山内部で溶けて、上昇すると一時的に溜まり場の様な場所に蓄積される。これをマグマ溜まりという。

 

 

 リキッドグランドはプレートの溶解速度を速めてマグマ溜まりを急速に膨張させることで、一気にマグマを噴出させる力がある故にその力を見た者は地球(ガイア)の怒りとされるのだ。

 

 

 レギオノイドを全て片付けたウルトラマンは、変身を解除していく。光がこの惑星の一部を包み込むと、そのウルトラマンが居た所には1()()()()()しか居らず他は誰も居ない。

 

 

 その人間は惑星から空を見上げると同時に()()()()()()()。その上空から星の様子を見ていた場所には、1体のウルトラマンが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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地球旅行で

「妙な()()が、ウルトラマンになっていた?」

 

 

「マジで言ってんの?ゼロちゃん」

 

 

「この目で見たのに嘘なんてつけるかよ。てか嘘付いたことねぇだろ俺はよ」

 

 

 

 とある宇宙空間にて、5名の集団が会話をしていた。その中にはエックスと同じウルトラマンである“ウルトラマンゼロ”を中心に“グレンファイヤー”、“ミラーナイト”、“ジャンボット”に“ジャンナイン”というメンツ。

 

 

 この5名は様々な宇宙を守り続ける戦士達の集い。その名も【ウルティメイトフォースゼロ】。宇宙の平和を維持するべく幾つもの宇宙を渡り、その手で守り続けてきている。だが今は珍しくウルトラマンゼロが見た光景の事を聞いていた。

 

 

 

「ベリアル軍の残党が生き残っててよ、しかもレギオノイドまである始末だ。そんな時、空間の歪から“ウルトラマンダイナ”が出てきてな」

 

 

「ウルトラマンダイナ……過去にゼロと共に戦ったウルトラマンだったな。確かその時はバット星人『グラシエ』が操る“ハイパーゼットン”と」

 

 

「おう。で何で来てるのか知りたかったのもあってな、加勢しようとしたんだけど止めたんだよ」

 

 

「それはまた何故?」

 

 

「いや……何かこう、()()って感じがしてよ。姿とかタイプチェンジとかはダイナなんだが、雰囲気が別物って感じがした。まぁその勘は当たっててよ、今度は話しに聞いた“ウルトラマンガイア”に変わりやがった」

 

 

「ウルトラマンガイア……?」

 

 

「なにそれ?」

「なぜ代名詞なんだ?」

 

 

「聞いた話じゃ地球の意思が生んだウルトラマンって言われててよ。地球が誕生した時に存在していたらしいぜ。地球が大体46億年前に誕生したっていうから、その時から生きてるってことになるな」

 

 

「だがゼロ、君は先程ダイナからウルトラマンガイアに()()()()と」

 

 

「あぁ、あれはジードやオーブのとは丸っきり違う。自分の元の姿をベースとした変身じゃねぇ、もっと別の何かだ。しかも変身を解除した時の人間態は地球以外の惑星環境で平気だったし、何より()()()()を使うなんて怪し過ぎる。だから俺は調査に向かうぜ」

 

 

「んじゃあ、俺らはゼロちゃんが来るまで何時もどーりに!」

 

 

 

 ウルトラマンゼロは左手首の“ウルティメイトブレス”を展開し、(ノア)から授かりしバラージの盾(ウルティメイトイージス)を装着し時空に穴を開けて何処かへと旅立って行く。

 

 

 見送った4名は何時ものパトロールを再開しようとするが、ふとグレンファイヤーが何か思い出したのかその場に止まり、それをジャンナインが見かけると声を掛けられる。

 

 

 

「どうされましたか?」

 

 

「いや、どーでも良いことなんだけどよ。噂すると何とやらって言うじゃんか普通。今噂してたから、もしかしたら俺らん所来るかもーってよ」

 

 

「はぁ……?」

 

 

「……そんな目で見んなよぉ」

 

 

 

 そんな事もあって、ウルティメイトフォースゼロの4名はパトロールを再開したのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くからその噂の()()()()()()が見ている事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方【P・H・S】航空機動隊所属の黎はというと、前回の戦いから早二十数日ほど経ったのだが特に気にする様子も無く事務処理であったり訓練であったりと1隊員として過ごしている。

 

 

 いつもの通り黎はイツキと互いを鍛え合い、時にお互いの隙も言い合うほどの仲となっていた。しかし未だに黎とスラン星人の戦いを引きずっている女性が1人……それを宥めようとするも何やかんやで無意味に終わる異星人が2人の様子を眺めていた。

 

 

 

「はぁ……ッ、あんなに実力をつけてるのにねぇ……」

 

 

「じゃからの、黎とて考えて」

 

 

「でも黎君が何て言ったか知ってますよね!?

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()って!

 

 

 普通そういう問題じゃないのにぃいいい!」

 

 

 

 不肖ヤクモ・ヒトミ。黎とスラン星人との対決に不満タラタラであるものの、正体を知っている身としては勝ってほしかったのが本音。しかしどちらかといえば、戦いに身を置いてそこまで経っていない黎にとっては誰かを危険に晒す行為を()()()()()()()()()()

 

 

 最近芽生えた感情は、名も知らない人々を守る為の選択を生み、あの結果になった。まぁこれは黎本人の感情によって決まるので、どうしようも無いのだが。

 

 

 しかし通常侵略目的で訪れるはずの宇宙人。例外として旅行であったり移住であったりはあるものの、大体の宇宙人は侵略性がある者をよく見る。そんな宇宙人を態々逃してしまったというのは今後に影響してしまう。

 

 

 だがあのスラン星人は、どちらかといえば地球侵略というよりも黎自身を狙っていた様子が見られる。でなければ早々と黎を倒して、その後に征服すれば良かった筈だ。

 

 

 そして今、黎とイツキの訓練も終わってお互い疲れている所にミナト隊長が現れる。ミナト隊長は黎とイツキの居る方を見ると駆け足でやって来る。

 

 

 

「おぉレイ、やっぱりここに居たか」

 

 

「隊長、どうされました?」

 

 

「いや、至急レイに頼みたい事があってな」

 

 

「それって何です?」

 

 

「地球旅行にやって来た“メトロン星人”の相手をして欲しいんだ。何分宇宙人との交流が深いのはレイしか居ないからな」

 

 

「それなら分かりました。僕に出来ることなら喜んで」

 

 

「よし。じゃあすまないがレイ、すぐに支度してくれ」

 

 

「了解。あと、ケトル爺も一緒に構いませんか?」

 

 

「掛け合ってはみよう。まぁ大丈夫だと思うが」

 

 

「ありがとうございます。では」

 

 

 

 敬礼の後、黎はケトル爺を連れて駆け足で訓練場を出ていく。ケトル爺も話を聞いていたので黎に着いていく。尚、ケトル爺の同行は、地球に慣れ親しんだ宇宙人が1人居ると宇宙人なりの視点で相手できるという理由で許可された。

 

 

 黎が来る前の対処は地上機動隊が行っていたのだが、大体が地球侵略系の宇宙人であるせいか逮捕する方が多い故に旅行案内という経験は無い。しかも何故ここ(P・H・S)に案内を頼んだのかも理解できない。

 

 

 しかし黎はそこまで考えておらず、案内を頼まれたらするだけの考えであった。少し変わった考えを持っている黎なのであった。

 

 

 そして支度も終えて、来ているメトロン星人の元に向かう。

 

 

 

「お待たせしてすみませーん!」

 

 

「おっ……来たか」

 

 

 

 かなりカラフルな容姿のメトロン星人。10人中10人全員がこのカラーリングを覚えている位のインパクトがあり、何処か親近感と夕日を思い浮かべそうな第一印象であった。

 

 

 

「初めまして。案内をさせて頂く一 黎です。こっちはケトル爺っていいます」

 

 

「ケトル爺は渾名じゃよ黎。儂はケットル星人のグレゴリという者、訳あって防衛隊に身を置いとる」

 

 

「はぁーっ……珍しいね。ケットル星人が地球で何もしないなんて」

 

 

「?」

 

 

「そこのレイって子は知らなさそうだけど」

 

 

「まぁ知った所で、()()()だと言い張りそうじゃがの。ほれ、地球旅行に来たんじゃろ?」

 

 

「ん、それもそうだ」

 

 

 

 メトロン星人の姿が、地球人と何ら変わらぬ姿に変化する。片手に財布を持っており、行く気満々と言った所である。

 

 

 

「さぁいざゆかん!アキバへ!」

「なぜ此処に頼んだ?」

「地理的に詳しくないし」

「理由になっとらんわい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして秋葉原でかなりの時間を過ごした後、この奇怪なメンツ3人はス○バでそれぞれ頼んで休憩していた。

 

 

 

「ふぃー、買った買った。いやはや地球に来たら日本のアキバ!あ、これ宇宙で鉄則だぜ」

 

 

「ほぇー。そうなんですか」

「黎、そんなものはあらん。単なるマニアというものじゃよ、この若造は」

 

 

 

 このメトロン星人の名は『ミッド』。名前の方は後で知ったのだが、この宇宙人はとにかくオタク。だが何方かと言えば“日本に来たての外国人”というのが的を射ている。

 

 

 黎とケトル爺の方はそもそもアキバに行った事も無いので、地図から分かる内容で道案内という形に徹していた。そもそも2人とも、そのような場所には出入りすらしていない故にミッドのテンションについていけない。

 

 

 そんな中ミッドは、自分の頼んだカフェラテを1口飲むと2人に尋ねた。

 

 

 

「なぁ2人とも、聞いていいか?」

 

 

「何ですか?」

 

 

「夕日が綺麗に見える場所を探してんだよ。どっかないかな〜ってさ」

 

 

「なぜ夕日を?」

 

 

「ヘヘッ。恥ずかしながら、俺の祖父さんの話を聞いて見てみたくなったのさ。祖父さんからは“特に日本の黄昏時って時間帯は美しいぞ”って、俺がちっこい頃によく言ってたんだ」

 

 

「へぇ〜……あの、今お祖父さんの方は」

 

 

「あー……んまぁ、な。祖父さんはなぁ…………」

 

 

 

 少し悲観的な表情を醸し出しながら話すミッド。少しため息をついて、少し悲しげに話した。

 

 

 

「残念だけどよ、もう62年前にお天道様の所に行っちまったんだわ」

 

 

「あっ…………あの、その……」

 

 

「良いんだよ別に。けどよ、祖父さんは無茶苦茶地球人の事を好いていたんだ。特にケンちゃんって地球人と仲良くなってた事は聞いたぜ。あとよ、ウルトラマンにも会った事があるんだよ俺の祖父さん」

 

 

「ほぉ……ウルトラマンにか」

 

 

「おうよ。話だと“ウルトラセブン”と“ウルトラマンマックス”にな。祖父さんが会った時のマックスは、昔の自分に少し似てたって言ってたな」

 

 

「面白いですね。ウルトラマンも、宇宙人も」

 

 

「まぁな」

 

 

 

 休憩も終わり、勘定を終えて店から出ていく3人。かなりの量の荷物を持ち上げて背伸びをするミッドは、多少雲が垣間見える空を見上げた後に2人に向き合う。

 

 

 

「さてっと。んじゃあ2人のオススメの場所にまで、案内してもらおっかな?」

 

 

「儂らが決めるのか?」

 

 

「当たり前じゃんアゼルバイジャン。俺地球の地理そこまで詳しくねぇしよ」

 

 

「えっと、それは夕焼けが綺麗に見える場所で?」

 

 

「そうだよ」

 

 

 

 と言われたところで2人は悩む。何せ夕焼けが綺麗な場所といっても、この都会の近場でその様な場所はあったかと必死に頭を捻り続ける。

 

 

 と、そんな時にケトル爺がふと思い出した様子を見せる。そういえばと黎に耳打ちすると、黎も思い出したかの様に頷いた。とにかくそれが決まった所でミッドに話をする。

 

 

 

「ミッドさん。夕日が綺麗に見える場所なんですが、個人的な解釈で選ばせてもらって構いませんか?」

 

 

「あぁ、うん。それで良いけど……(うーん)……」

 

 

 

 行く場所も決まったところで、さぁ行こうと意気込んでいたのだが黎の通信デバイスから連絡が入る。黎は断りを入れて離れた場所で通信相手と話す。

 

 

 

「はい、こちら黎」

 

 

〔レイ君無事かね!?〕

 

 

「あれイデさん?どうされました、そんなに慌てて」

 

 

 

 通信機越しに聞こえてくる慌てた様子のイデには特に関心を示さず、黎はイデの言葉を待つ。少しすると

イデも落ち着いて話した。

 

 

 

〔良いか、落ち着いて聞いてくれ〕

 

 

「はぁ」

 

 

〔落ち着きすぎやしないかねレイ君?〕

 

 

「こちらは特に現状に変わりありませんし……」

 

 

〔……まぁよく聞いてくれ。実はP・H・Sに予告状が届いたんだ〕

 

 

「予告状……ですか?」

 

 

〔あぁ。その内容が

 

 【今日の午後3時に、東京の一部を()()()参る】

 

『怪盗 ヒマラ』

 

 

 その様に来た故に我々も警戒態勢を敷いた。しかし呆気なく東京の一部、()()()が消えてしまったんだ!〕

 

 

「ゑっ!?」

 

 

 

 思い出すまでも無いだろうが、思い出してほしい。先程イデは秋葉原が()()()と言っていた。しかし今黎達が居るこの場所は秋葉原である。

 

 

 少し困惑した黎は、悩んだ後にイデに対して告げる。

 

 

 

「あの、イデさん。僕ら秋葉原に来ているんですよ」

 

 

〔!それは好都合じゃないか!〕

 

 

「ええ。1度不審な点が無いか確認して、また報告します」

 

 

 

 通信デバイスを切ると、黎は2人の元に駆け寄り現状を伝える。

 

 

 

「おぉ、何かあったか黎」

 

 

「あの2人とも、落ち着いて聞いてほしい事が」

 

 

「ん、何なに?」

 

 

「いえ。実はイデさんからの連絡で、()()()が消えたって言ってたんですよ」

 

 

「…………今儂らが居るのは、秋葉原じゃぞ?」

 

 

「うん。だから、この秋葉原に不審な点が無いか探してから連絡することにしたよ。ケトル爺はお願いだけとミッドさんと一緒に居てくれる?」

 

 

「ふむ、ならば任された」

 

 

「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」

 

 

 

 黎はこの秋葉原の異常の捜索を開始した。場所から場所を隅々と駆け巡り不審な点が無いか探していく。秋葉原とてそこまで狭くは無い上に人混みも多い故に、かなり体力が削られていく筈だ。

 

 

 しかし何の疲れも見せずに全部走り回った黎であったが、何の異常も発見できなかった。困り果てた時、黎は時間を確認する。今の時刻は、()()3()()5()0()()

 

 

 

「…………うん?」

 

 

 

 と、ここで黎は少し疑問を覚えた。日の出ている場所で立っている黎は自分の影を見てみた。

 

 

 ()()()()()()()()()()。影が全く動いていないという事は、影を作る太陽も動いていないも同然。確信を持つ為に黎は他の人物や建物の影も見ていく。

 

 

 やはり同じように全く動いていなかった。そこに強めの風が吹き、黎の視界の上辺りに葉が舞った。そこで黎は本当に確信を得た。

 

 

 ()()()()()()()()()()のだ。早急に黎は通信デバイスを起動させてイデと話す。

 

 

 

〔こちらイデ!〕

 

 

「イデさん、確認してみましたが妙でした」

 

 

〔妙とは?〕

 

 

「この秋葉原に居る人の影や建造物の影が全く動いてませんでした。だとすると、この秋葉原だけ隔離されたと考えられます」

 

 

〔成程……よし分かった。報告感謝する。こちらも君のデバイスの電波を捜索して場所を割り当てている所だ、少しだけ辛抱してくれ〕

 

 

「了解」

 

 

 

 通信デバイスを切ると、黎は空を見上げる。全く変わらない青い空が残酷なまでに真実を突き付ける。これでは夕日を見せる事が難しそうだと考えた。

 

 

 ならばと思い、黎は手頃な建造物の裏路地に身を潜めてミックスデバイスと2枚のデータカードを用意する。赤い場所にウルトラマン、紫の場所に怪獣のカードを差し込みデバイスを押す。

 

 

 

〈〈ウルトラマン!〉〉

 

 

〈〈ゼットン!〉〉

 

 

〈〈ザ・フュージョン!〉〉

〈〈ネオ・ウルトラマン 【ZETA】!〉〉

 

 

 

 黎はZETAへと変貌を遂げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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