隻眼の猛将、恋姫無双の世界へ (恭也)
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主要人物紹介

お久し振りです。
前回投稿から3年も経ってしまいましたので生存報告も兼ねて今更ながら主要人物の紹介を載せたいと思います。
家系や家柄等正史とは異なってる所はありますがこの小説でのオリジナル設定と言うことでご了承ください。


夏侯恩 字:子雲 真名:冬椿

 

豫州沛国の夏侯家の1つに産まれる

華琳、春蘭、秋蘭、華侖、柳琳、栄華の従兄

天命を全うした正史夏侯惇の魂が外史の管理者によって異質と化した外史に転生されて産まれる。

正史での経験全てを持ったまま転生させられた為に幼少期から流暢に言葉を話し字も書けた事で夏侯の神童と持て囃されるがそれに驕らず更なる知識を求め武芸にも早くから通じる様になる。

それにより天才だの麒麟児だのと周りから称されるがそんな評価等意味の無い事と割り切っているが自己紹介する度に言われるから正直うんざりしてきている。

しかし自身の才を表面だけではなくしっかりと見定めてくれて、色々と学ばせて貰った司馬徽にだけは敬意を払い唯一学問の師であると思っている。

外史に産まれた当初は自分の名が気に入らなくて改名を本気で考えていたが新たに産み育ててくれた両親に叱られ、又親戚に夏侯惇となる春蘭が産まれた為諦めて夏侯恩として生きていく決意を固める。

自分が夏侯恩として産まれた事や親戚に曹操や夏侯惇、夏侯淵が女として産まれた事からここが自分が経験してきた時代とは違う事には気付いているがこの新たな時代でもう一度曹操の覇道を支え天下統一まで導いてやりたいと思っている、しかし自分の知る曹操の覇道をそのままこの時代の曹操である華琳に押し付ける事が正しい事なのかとも考えている。

武芸や智略は過去の経験や知識を持ちながら更に鍛練や修得に励んでおり武芸の腕は過去の呂布並にまで鍛え、智略は同じく過去の諸葛亮や司馬懿にも引けをとらない程になっているがまだまだ未熟と研鑽を怠らない。

しかし過去の五十余年の経験から息抜きや娯楽も大事だと理解している為自ら酒宴を開いたり誰かの馬鹿騒ぎに敢えて乗っかったりと堅物では無いので配下や兵士に忠義を誓われ民からも慕われている。

その武芸の腕や智略に優れた姿から他者からの感心や羨望、嫉妬や妬みの対象になり易く武芸で肩を並べたい、智略を学び追い付きたいと思われる反面、武芸で勝ちたい、智略では負けたくないと思われて執念深く付きまとわれたりもする。

相手が男だ女だと言って分け隔てたりすることも無く対等に接するが身内や懐に引き入れた者には甘い所があり好く押しきられたりすることもある、逆にしつこく付きまとってくる者は軽くあしらい無視したりするが女子供の場合は泣かれると後味が悪くなり渋々ながら相手してやってる。

得物は昔(前世)から愛用してる朴刀だが剣や槍、戟、弓と一通りの武器は並以上に扱えて馬術も騎馬民族並に巧みに操れる、又得物の手入れや整備は自ら行い模造品程度なら自作も可能な程に器用。

華琳ら従妹達からは幼少期は遊び相手のお兄ちゃんと纏わり付かれ、少年期には頼りになる兄上と慕われ、全員が元服を迎えた頃には異性として想う様になっており、程度は違えどそれぞれが従妹ではなく女として見て欲しいと思っている。

武芸や智略の面で周囲に影響を及ぼす事も多く、敵味方問わず様々な感情を向けられているが大半が自分の意図した事では無いために無自覚で気付く事も少なくモヤモヤした気持ちを抱える者も少なくない。

 

 

曹操 字:孟徳 真名:華琳

豫州沛国の曹家当主曹嵩の子

冬椿の従妹、春蘭、秋蘭、華侖、柳琳、栄華の従姉

英雄になり得る資質を持ち治世の能臣、乱世の奸雄と称される程の才器を有している。

地位や出身に拘らず広く在野や仕官に来た者を受け入れその者が役立てる立場や役職を見極め的確に配置する事に長け、才を見抜く慧眼は天下一品と言われるがそれを教えたのが他ならぬ冬椿であることは彼女以外が知る由もない。

従兄である冬椿を心の底から慕い愛しており下ではなく隣に立ってほしいと願っているが冬椿が既に自分との間柄を主君と配下としている事に気付いており人前ではそれを守っている、しかし身内しかいない場所では相応の娘の様に振る舞う事もあり少し位ならと冬椿も黙認している。

冬椿がいる為百合百合しさは持ち合わせていないが同じく冬椿を愛している者同士で集まりいずれ冬椿と閨を共にした時にどうすれば喜んでもらえるか等を話しあい時には試したりする秘密の会合を定期的に開いており、会合が開かれる時は冬椿ですら華琳の部屋に近付く事が許されない。

 

 

夏候惇 字:元譲 真名:春蘭

豫州沛国の夏候家の1つに産まれる

冬椿、華琳の従妹、秋蘭、華侖、柳琳、栄華の従姉

武芸において華琳配下の中で冬椿に次ぐ才を持ち、猪突猛進な性格も合わさり常に先陣を切って突撃する姿から魏武の大剣と称される。

しかしその後先考えない突撃が時に戦況を覆す大きな力になることを理解している冬椿や華琳、秋蘭が言い包めたり厳しい叱責をしない為に春蘭の突撃を予定調和として戦況を見定めなければならない軍師勢にとってはは頭の痛い存在である。

従兄の冬椿に対しては華琳や秋蘭程の感情では無いが兄としても男としても武人としても慕っておりいつか背中を預けて貰いたい、いつか追い付き追い越したいと自身も鍛練に励んでおり部下にも厳しい鍛練を義務付けていて、それが春蘭の突撃を支える部隊、猛進隊の底上げに繋がっている。

 

 

夏候淵 字:妙才 真名:秋蘭

豫州沛国の夏候家の1つに産まれる

冬椿、華琳、春蘭の従妹、華侖、柳琳、栄華の従姉

武芸、智略共に優秀で冬椿、華琳と共に文武官をこなしどちらでも中枢を担え両名不在時には総大将を任される程の信を得ている。

曹軍随一の弓の使い手で冬椿も弓の腕では秋蘭に負ける事を認める程で弓使いの目標に秋蘭を定めている、その弓の腕が冬椿に認めて貰いたい、誉めて貰いたいという願いから並々ならぬ鍛練を重ねた事は本人しか知らない。

春蘭とは産まれが数日違いで互いの夏候家も同じ街にいた為双子の姉妹の様に育っているが常に自分の道を進む春蘭を追い掛けていた為無茶する娘を見守り諌める母の様な性格が出来上がり気苦労の原因になっている、しかし冬椿に出会い自分を甘えさせてくれて労ってくれる兄の存在に無意識に依存していき、それが成長と共に愛に変わっていく。

 




人物紹介のキャラは随時追加していきます。
また紹介内容も手を加えていく予定です。

ここから重要な話になります。
この作品を書き始めた当時はまだ恋姫英雄譚の情報が少しづつ出てきた頃で追加キャラを作品に出す予定はありませんでした。
しかし革命が発売されて蒼天の覇王をプレイしたら追加キャラが目立つ目立つ、かなり気に入ってしまいました。
それもあってこの作品を書き続けていくかどうか悩んだ時期もありました、加えて仕事も忙しくなかなか書く時間もとれませんでした。
しかし最近他の恋姫作品を読んだりしていたらやっぱり少しづつでも書き続けていくべきだなと思い至りました。
なので投稿ペースは遅いとは思いますがゆっくりゆっくりでも続けていきたいと思います。
更に一旦作品を見直して追加キャラも足していきたいので各話の修正、訂正を行っていこうと思っています。
今掲載されてる話はメモ代わりに残しておくので内容が被ったりしていくかもしれませんがご了承ください。
掲載開始当初から読んでくださった方がどれくらいおられるか分かりませんが新しく読んでくださった方もその辺りをご理解戴きたいです。

長ったらしい説明失礼しました。


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序章 猛将の魂、管理者の手で

修正、訂正の始まりです。
改めてですが暖かい目で見守ってくだされば幸いです。


夏侯惇。

字を元譲。

曹操の挙兵より付き従う曹魏きっての猛将、左目を射抜かれその目を食らって尚も戦い続ける胆、曹操が最も信頼し不臣の礼を認め寝室への入室すらも許可する程の男、曹操に従い数多の戦場を駆け抜けた男。

そんな男も曹操の没して直ぐに床に伏し、曹操の嫡子曹丕が献帝から帝位を禅譲させるために動いているのを床で伝え聞くだけになっていた。

「…懐かしい頃を思い出したな」

懐かしさに浸り得物を握る事も無くなった両手を眺めながらふと自分もそんなことを思うようになったのかと苦笑する。

黄巾の乱より始まった乱世を覇道による統一を目指した自分の唯一の主君、曹操。

その曹操を挙兵より共に支えてきた従弟、夏侯淵。

力と胆力、そして強い忠義心により曹操の親衛隊を任された典韋。

典韋と互角に渡り合い、共に親衛隊を任された大食漢の許緒。

軽い物腰とは裏腹に完璧なまでの策を張り巡らせる天才、郭嘉。

その武と誠実さで曹魏を支えた猛将、張遼。

武の頂きに登らんと切磋してきた徐晃。

関羽の攻めすらも防ぎ、正に曹魏の盾と言わしめた曹仁。

見た目は奇抜だったが実力は間違いなく本物だった張郃。

他にも于禁、李典、楽進、荀彧、荀攸、賈詡、龐徳、程昱、曹洪…。

数多の将や軍師達が孟徳に惹かれ集い共に戦ってきた。

しかし天下統一を目前にした赤壁での決戦で孫権・劉備の連合に破れ、孫権も劉備も力をつけてしまい、結果三国が拮抗する形になってしまいそれぞれが国力の充実を図りながら様子を見ている…いや、劉備はおそらく孫権に戦を仕掛ける準備をしているだろう、関羽を討ち取ったのは孫権の軍勢だったからな。

しかし孟徳は志半ばに病に伏してその天命を終えた。孟徳の息子、曹丕の帝位即位によりこの乱世は新たな局面を迎える事になるだろう。この局面の先に待つ天下統一、それを孟徳に掴ませてやれなかったのが心残りだが曹丕達次代の魏が天下統一を果たす事を天から見守ろう、孟徳や淵と共に。

体に力が入らなくなってきた…瞼も重い…遂に自分にもその時が来た様だ。

 

 

 

(孟徳、淵、先に散った皆…俺も今行くぞ…)

 

 

 

この日、隻眼の猛将は静かに天命を終えた。

 

 

 

 

 

「あら…?」

「どうした貂蝉、例の外史に何かあったのか?」

外史の狭間、そこには二人の外史の管理人がおり本来の外史から別たれた異質な外史を調べていた。

「強い意思と力を持った魂が流されてきたのよん、理由は知らないけどね」

「貂蝉、お主その魂を利用するつもりか?」

「いいじゃない卑弥呼、この外史にはご主人様は現れないんだから誰が主役になったって」

「うむ…それには異論は無い、問題はその魂じゃ」

二人はとある外史をどうするかを話していた。

その外史には発端である北郷一刀が何故か現れなかった。原因は解らず、その外史だけが他の外史から完全に別たれてしまったのだ。仕方なく他の人物を送り込んではみたが、その全てが半ばも持たず散ってしまった。

その為二人の管理人は頭を悩ませていた。

「この魂は…正史とはまた違った世界の夏侯惇の魂ね、それも正史の夏候惇よりも断然優れてるわ、どうしてそんな魂がここに流されてきたのかはわからないけど…凄い偶然ね」

「しかし既に夏侯惇のいる世界に夏侯惇として転生させる訳にはいかんじゃろう、どうするつもりじゃ?」

「大丈夫よん、正史には夏侯の名を持つ人物は沢山いるから適当な夏侯の家に転生させるわ」

「それならば構わぬ、しかし…偶然導かれた異端の魂にこの外史の命運を託すとはのぅ」

貂蝉と卑弥呼はこの異質な外史を早々にどうにかしなければと考えていた、そこに導かれた夏候惇の魂、これによりこの外史がどうなっていくのか、それは2人にもまだわからない。

「さあ、この魂を転生させるわよん」

「うむ、始めようか」

貂蝉と卑弥呼により別たれた外史に転生される役目を終えた筈の猛将の魂。

 

 

 

「うふふ、この外史で貴方がどう生きていくのか…見せて貰うわね?」

 

 

 

その魂はゆっくりと外史に呑み込まれ溶けていった。

 




修正、訂正の第一弾です。
大まかな本筋はそこまで弄りませんが追加キャラをどう付け足していくかが悩み所です。


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第一話 気が付いたら赤子、そして苦行

どこかに載せていたかもしれませんが改めてこの小説の主役、夏候惇の設定を。
真・三國無双7の魏伝正史ルートを進んだ設定で樊城への救援に出向き自らの手で関羽を討ち取ってはいますが真の決着をつけたとは思っていません。
また博望坡で諸葛亮の策に敗れてから諸葛亮にも思う所があり、赤壁での敗北も周瑜や龐統の策というよりは諸葛亮の策にやられたと考えています。


貂蝉と卑弥呼によって異質へと変化した外史に送り込まれた夏候惇の魂は新たな宿主として今正に産まれようとしている夏候家の赤子へ取り込まれて目覚めの準備をゆっくり進めていく。

転生された今の魂にとっては前世と言ってもいい過去の経験や蓄えた知識の全てが新たな身体に定着するのに半年の時間を有し、眠っていた赤子が目覚めるのと同時に魂も眠りから目覚めるのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

(ここは…何処だ?俺は寝室の床で死んだのでは無いのか?)

 

目が覚めて最初に目に入ったのは寝室の天井とは違う天井だった。

自分は死んだ筈では無いのかとはっきりしている記憶を辿ってみる、確かに心臓の動きが弱まっていくのを、身体の力が抜けていくのを、意識が闇の奥底へと沈んでいく感覚をはっきりと覚えている。

ならばここが死後の世界なのだろうかと俺は寝ているであろう身体を起こそうと試みたが身体が全く言うことを聞いてくれない、手足は僅かながら動かせる様だが身体を起こす事が出来ないし頭すら重くて起こせない。

顔も僅かながら左右に動かす事が出来たので自分の周囲の状況を確かめようと思ったら視界に映る物に違和感を覚える、それを認識するのにそれほど時間はかからなかった。

 

(これは…まさか俺の手なのか?どういうことだ、死後の世界では赤子に戻されるとでも言うのか?しかし身体が赤子に戻されているとなると自力では動く事が出来ん、それに…ここは何処なんだ?室内なのは間違いない様だが造りが役人階級の屋敷と同じだ、どうなっているんだ?)

 

周囲の状況や自分の状況にしばらく考えを巡らせているとこの部屋の外に気配を感じて微かに足音も聞こえてきた、どうやら誰かがこちらに向かって歩いてきているのに気付く。

 

 

(誰かが近付いてくる、この屋敷の持ち主か番人か?とにかく今の状況を正しく理解するためにも誰かに出会わなければ…しかし赤子になった俺に会話が出来るか?)

 

 

俺は近付いてくる気配に気付いてもらおうと声を出そうとした、しかし赤子の口から出るのはあーやうーといった言葉にならない声だけで俺は軽く絶望を感じた、しかしそんな声でも充分だった様で微かに聞こえていた足音が速度を上げてこちらに近付いてくるのが分かる。

そして引き戸が開かれ部屋に入ってきたのは女だった、しかも雰囲気が昔死んだ母に何処と無く似ていた。

その女は寝かされている俺の側に来ると俺の身体を容易く持ち上げて抱きかかえてきた、今の俺の身体は赤子になっているのだから女でも簡単に持ち上げられる事は理解しているが、いきなりされては流石に驚いてしまい女の着ている服にしがみついてしまう。

すると女は俺をあやすかの様に背中を軽く叩きながら抱き上げた俺を揺する、そんなことをして欲しかった訳では無いのだか不思議と不快には思わなかった、それに自分の母も幼かった俺をこんな風にあやしてくれたのだろうかと殆ど忘れかけている幼少期の自分を省みていた。

 

(身体の感覚から行動までしっかり赤子という事なのか…これからどうなるのだ?死後の世界で赤子からやり直すとでも言うのだろうか?それに死後の世界ならば孟徳や淵はどうなっているんだ?何とか探しだしたいがどうすればいいのか)

 

 

女に抱かれながら俺はこれからの事に意識を向けていた、しかし次に女が言った言葉に俺は耳を疑った。

 

 

「そういえばそろそろご飯の時間ね、だから起きていたのね、ちょっと待っててね…今お乳をあげますからね」

 

 

その言葉に俺の思考は一気に引き戻されこれまでに無いほどに混乱した。

 

 

(乳?今乳と言ったか!?ま…待て、待て待て待て!?確かに身体は赤子だが俺はもう何十年と生きてきたんだぞ!?やめろ、そんなもの飲ませなくていい、離してくれ!?)

 

 

乳を飲ませようとする女に俺はやめてくれと叫ぼうとするがそんな声が出る筈も無く、赤子が女とはいえ成人に力が勝る筈も無く逃げることも出来ずに女が服をはだけさせ乳房を片方出して俺の口に近付ける事を防ぐ事も出来無い、しかも俺の思考とは裏腹に身体は与えられた乳を飲み始めてしまう。

 

 

(ちょっと待て!?これは何の拷問だ!?やめろ、誰か、誰か助けてくれ!?)

 

 

死んで早々まさかこんな羞恥や屈辱にまみれる事になるとは思っても見なかったが身体が自由に動かせない今は只耐えるしかなく、自然に身体が乳から離れるまで目を閉じてせめて見ない様にしていた。

そして口が乳から離れ女が服を直すのを待ってから目を開き再び周囲を見回しながら考える。

ここは本当に死後の世界なのか、そうだとしたら何故ここまで俺が生きてきた時代と代わり映えが無いのか、ここまで現実的な物なのか。

様々な事が頭の中を巡っては消えていくが次第にその思考も鈍くなってくる、それもそうだ、今の俺の身体は赤子、赤子は腹が減ったら目覚め、満たされたら眠る、つまり乳を飲まされ腹が満たされた身体は眠りにつく準備を始めたのだろう。

このまま考えていても埒が明かない、それにもしかしたらこれは死んだ俺の夢かもしれない、死者が夢を見るのかどうかは分からないが目覚めたら本当の死後の世界で身体も元に戻っているかもしれない、そう考えて取りあえずはこのまま身を任せて眠ろうと決めてゆっくり瞼を閉じていく、目覚めたら今度こそ孟徳や淵に会える事を願って…。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

しかしその願いが叶わぬ願いだという事を夏候惇の魂はまだ知らない。

そして…。

 

「ふふ、お腹が満たされて眠くなったのね…強く大きく育つのよ、恩…」

 

自分が違う世界に転生させられ夏候の名を持つ別人へと変えられてしまった事を。




感想ありがとうございます。
3年もほったらかしていたのに待ってましたとの感想をいただいて感謝しかありません。
しばらくは修正、訂正が続きますが待っていてくれる方の為にも頑張っていきます。


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第二話 整理、思考、そして出会う

修正、訂正の二話です。
何処かで書いたかもしれませんが夏候惇の魂の設定を改めて載せておきます。
真・三國無双7の魏正史ルートの夏候惇です。
曹操が欲した関羽と散々苦汁を舐めさせられた諸葛亮にはかなり思う所があり、研鑽の理由のそれなりの割合をその二人に負けない為にと思っています。
勝つ為ではなく負けない為にというのが五十~六十年を生きた全ての経験を知る壮年の精神による物です。


 

目が覚めたら状況が変わっているとの願いは儚く打ち砕かれ赤子のまま乳を飲むという苦行を繰り返し味わう事になった夏候惇の魂。

しかしそこは何十年と生きてきた猛将の魂、そんな苦行も一月も経てば動じる事もなく心を無にして腹が満たされるのを待つ様になった。

そして時が経つにつれて少しづつ情報も得られそれを整理する事も出来てくる。

そして猛将の魂は幾つかの仮説を導き出していく。 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

死んだ筈の俺が赤子として目覚めてからもうすぐ半年になる。

この半年、目覚めている時は乳を飲む事に耐えながら様々な考えを巡らせてきた、そして少しづつながら今の俺がどんな状況に置かれているのかの情報も得られてきた。

 

まず一つ、それはこの赤子の身体が本当の俺の身体では無いという事だ。

 

最近俺が目覚めから半年が経過した、それは間違いないのだが、この身体はどうやら産まれてから一年が経っているらしいのだ。

と言うのも最近になって床を這って移動することが出来る様になってきたのだが、普通は産まれてから半年で這って移動なんか出来る筈が無い。

もう一つ決定的なのが部屋の外から聞こえてきた会話にご子息が一年無事に過ごせた、と言っているのが聞こえたのだ。

俺の意識からしたら半年、しかし身体からしたら一年、この食い違いに俺は一つの考えに行き着いた。

 

 

俺の魂は本来入る筈の身体では無く違う身体に入ってしまったのではないのか?

だから意識の目覚めが身体が産まれた時と誤差が出たのではないのか?

 

 

そう考えると俺がこれまでに集めた情報にも説明がつけられる様になる。

俺に乳を飲ませていた女がこの身体の母である事、この身体の産まれた家が夏候家である事、そしてこの身体の名前が恩と言う名である事だ

女は俺をあやす時によく恩、恩と言っていた、最初は意味が分からなかったがこの家が夏候家であるならこの身体は夏候恩と言う名になる。

夏候恩と言うと俺には殆ど接点が無かったが一族には確かに名があった、そして荊州での劉備軍追撃の際に劉備配下の趙雲に斬られ孟徳所有の宝剣の一振りであった青紅剣を奪われた者だ。

つまり今の俺は夏候惇の魂が夏候恩の身体に宿ってしまったのだと考えられる。

 

そう考えれば他に得られた情報にまた説明がつけられる様になる。

ここが死後の世界では無く俺が生きてきた時代と大差が余り無い時代である事だ。

俺の意識が目覚めてから半年、俺はこの部屋から出る事は殆ど無かったが稀に女に抱かれて部屋の外に出る事があった、その際にこの屋敷の様子や僅かに見える外の様子を見ていたが俺が幼少期に育った地と殆ど変わらない事に気付いた、屋敷の構えや外から僅かに聞こえる喧騒も変わりが無いのだ。

幾つか違う物もあったが衣服が少し贅沢な物になっていたり、調度品に見知らぬ物がある程度なのを考えれば大差は無いと言えるだろう

 

しかし俺の知る時代と大差無い時代に夏候恩の身体に俺が宿ってしまったと考えるなら幾つかの疑問も浮かび上がってきた。

この時代に孟徳や淵が産まれる、既に産まれていたとしたらどうなっているのか?

夏候恩が俺と歳が近かったのか遠かったのかは知らないが、俺の魂が宿る筈だった俺の身体はどうなっているのか?

俺の知る過去と大差無い時代ならこの先また乱世になるのか、その発端たる黄巾の乱が起こるのか?

 

色々と考えが巡るが産まれて一年の身体では何か出来る訳も無く、また言葉もろくに話せない以上誰かに聞く事も出来ない。

今は流れに身を任せるしか無いと考え、俺は部屋の中を這って動き回り、時には部屋の外に出て屋敷の中を探って回っている。

しかし這っての移動では対した所まで行けないうちに身体の母である女や屋敷の使用人や侍女に見つかって抱き上げられては部屋に戻されるを繰り返していてまだ屋敷の全容は把握出来ずにいるが少しづつ行動範囲を広げている。

 

そんな生活が続いているが最近になって新たな疑問が出てきた。

この屋敷にはこの身体の母に数人の侍女と使用人がいるが、俺はこの身体の父とあった事が無いのだ。

屋敷にいない事は別に不自然でも無いがこれ程までに父の痕跡が見当たらない事や侍女や使用人の話に出てこないのは流石に不自然だ、それに息子が産まれて一年経ったのに屋敷に戻らないばかりか文や書簡すらも来ないのはおかしい、誰かに聞きたいがまだろくに話せないので聞く事も出来ない。

 

そんな疑問を抱きながら今日も屋敷の中を探ろうと部屋の戸を開けて廊下を這っていくと今日は何時もより屋敷の中が騒がしい、廊下を侍女や使用人が急ぐ様に往き来しているが誰も俺を抱き上げようともしない、何時もなら見つかったら直ぐに抱き上げられるのだが俺に気付いている筈なのにそれがない。

何かあったのだろうかと這って進むのをやめて往き来する者らを眺めていたらこっちに母が来るのが見える、母も俺を見つけると寄ってきて抱き上げる、部屋に戻されるかと思ったが何故か部屋とは違う方へ歩いていくのでやはり何かあったのだろうと結論付けていたら母に話しかけられた。

 

 

「ごめんなさいね、これから大事な用があるの、譙の曹家に跡取りが産まれたからこれから挨拶に往くの、恩の従妹になるから一緒に挨拶に往きましょうね?」

 

それを聞いて俺は冷静に考えていた。

譙の曹家の跡取り、もしかしたら孟徳の可能性が高い、俺がこんな状態になっているから確証がある訳では無いし全然違う可能性だってあるが、これで俺が考えている事の確かな裏付けがとれる事になるからだ。

 

母に抱かれまま初めて屋敷の外に出ると既に門の前には馬車が用意されていて数人の兵士が護衛に着いている、母が馬車に乗り側に控える侍女と共に座るとゆっくり馬車が動き出す。

荷台の周囲は天幕が張られていて外は分からないが正面だけは僅かに開いていて街の様子が見える、やはり俺の知る時代と大差無いし規模も中規模とまではいかないがそれなりの規模だし人にも活気がある、どうやら治安もいいらしい。

しばらくすると城壁の門を潜り街の外に出る、その先は見える限りの広野で整備された道が続くだけの様だったが俺は何か見落としが無い様にと僅かな隙間からずっと外を眺めていた。

 

 

ゆっくり進む馬車の荷台で揺られながら外を眺めていたら次第に城壁が見えてくる。

殆ど真っ直ぐに進んでいた馬車と前を歩く兵士の影の動きから予測すると三刻ほどだろうか、明らかに俺達が出た街の城壁よりもでかい城壁と門から中規模の中でも大きな部類に入る街に馬車が入る。

そこは俺がさっき知った街よりも遥かに人が多く活気に溢れていた。

おそらくこの街の領主であろう曹家に跡取りが産まれた事が知れて賑わっているのだろう、善政を敷いている領主や支配者の跡取りが産まれたら祭になるのは良く知っている、過去でもそうだったからな。

そう考えていたら馬車が一際大きな屋敷の前で止まり前の幕が開かれて母が俺を抱いたまま荷台を降りて門を潜り屋敷の中に入る。

中は俺が住む屋敷とは比べ物にならない程に広く内装もかなり綺麗にされている、侍女や使用人の数も多くやはり領主の屋敷という感じだ。

母と侍女は一旦客間らしき部屋に通される、どうやら他にも祝いの挨拶をしに親戚や縁戚が集まっている様で屋敷の中はかなり賑わっている、母にも挨拶に来る者もいて俺の事も祝われている。

そんな挨拶が続いていたら母がこの屋敷の侍女に呼ばれて部屋を出る、当然俺も抱かれているのだがまだ赤子の俺を大事な挨拶の場に連れていっていいものなのかと考えていたが、辿り着いたのは屋敷の一つの部屋の前だった。

他の部屋に比べて戸や飾りが少し豪勢なのを見ると恐らく領主の寝室なのだろう、広間や大勢の前で無いのなら俺がいても問題は無いだろうなと考えていたら母は部屋の中に入っていく。

部屋の中はやはり多少は飾り付けられているが質素な感じを残してあり、部屋の奥に置かれた床に赤子を抱えた女が座っている。

恐らく領主の妻か妾だろうと思っていたが、その考えは母の言葉でひっくり返された。

 

「曹嵩様、跡取りの誕生おめでとう御座います、我が子恩共々御祝い申し上げます。」

 

その言葉を聞いて俺は驚いたが曹嵩と呼ばれた女の言葉に俺は更に驚かされる。

 

「やめてください姉上、確かに私は曹家の養子になり今は当主ですがここは公の場では無いのです、今は姉上の妹、清華として産まれた子を祝ってください、その為にこちらに呼んだのですから」

「そう…分かったわ清華、無事に子を産む事が出来て本当に良かったわ、もう名は決まったの?」

「はい、名は操と決めました、姉上が抱いているのは姉上の子ですよね?名は恩と聞きましたが」

「そうよ、毎日部屋を抜け出して活発な子なの、それに全然泣かないのよ、きっと強い男になって清華の子も守ってくれるわ」

 

俺は二人の会話から得られた情報に驚いて必死に頭の中で纏めていた、譙の曹家当主が曹嵩、その曹嵩が女、女の曹嵩と母が姉妹、曹嵩の子が曹操…しかしそんな物を頭の中から吹っ飛ばす程の言葉を俺は想定していなかった。

 

「そうですね、女尊男卑の時代ですがその子には何かを感じますね、操も女ですが共に並び立って欲しいですね」

 

これが俺と孟徳とのこの時代での最初の出会いだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

しかし猛将の魂は未だ知らない。

この時代が自分の知る時代とはかけ離れて違う事を。

そしてこの先出会う英傑の悉くが女として産まれてくる時代だということを。




魂やら身体やら書いてますがこの時代の儒学の死生観が魂は元の身体に戻るということみたいなのでこんな感じにしました。
意見、要望、間違い等ありましたら活動報告にコメントをお願いします。


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第三話 考えて考えて決めた道、自分を超える

三話です。
ここから従妹や後に繋がる出会いが続いていきます。
直ぐにどうこうなる出会いでは無いですが重要な出会いです。


曹家の跡取り、それは曹操だった。

しかしその曹操は女として産まれ、自分の知る曹嵩は男だったがこれも女だった。

自分の知る時代と異なる時代な事がはっきりしたがまだまだ考えなければならない事が無数にある。

猛将の魂の思考は休む暇も無く考え続ける。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

俺と女として産まれた孟徳、今はまだ字は無いから曹操だが、その衝撃的な最初の出会いから既に三日が経過した。

母と曹嵩との会話はその後二、三言で終わり母は与えられていた客間に戻って俺を侍女の預けて正式な挨拶の場に向かった。

俺は曹操が女である事を知った際に頭の中で散らかった考えを纏め直すのに精一杯で床に寝かされたり侍女に抱かれたりされていたがそんな事を気にする事も無く考えては眠り、また考えては眠りを繰り返していた。

母はどうやら暫くは譙に滞在する予定らしく一日に三度程度曹嵩と個人的な話をしており、一度は俺を連れていき曹操と逢わせる様にしていた。

会話している間は曹操が泣き出したりしない限りは姉妹での会話に花を咲かせており、俺は構わないが赤子の曹操すらほっとかれている。

仕方無く俺が側についていてやるがこの赤子の曹操には俺の知る孟徳の魂は宿っていないだろうと考えている。

勿論俺の意識が目覚めたのは産まれてから半年経ってからだったからまだ分からないが、余り過度な期待はするべきでは無い事を俺は既に悟っている、それにあの孟徳が女として振る舞うのは正直見たくないからな。

 

そんな訳で二人が会話している時は寝かされている曹操の側で思考を巡らせているのだか、今日はやたらと曹操の意識がこっちに向いている、思考しながら時折曹操の方を見ているのだがずっとこっちを見ているしやたらと手を延ばしてくる。

一度俺が手を差し出したらその手をやたらと掴もうとして手を延ばしてくるので、俺も思考ばかりでは疲れるので少し相手をしてやる事にした。

曹操の前に手を差し出すと上下や左右にゆっくり動かす、目の前で動く手を曹操は掴もうと手を延ばすがまだ産まれて間もない赤子、手は直ぐに床に落ちるがまた手を延ばす。

そんな事を繰り返していると曹操の表情に変化が見られた、徐々にしかめ面になってきている。

何時までも捕まらないから腹を立てているのだろう、自分の意のままにならない事に腹を立てるとは女で赤子と言えどやはり曹操なのだなと考える。

俺は動かしていた手を更にゆっくりにしてやる、すると直ぐに曹操の手は俺の手を捕まえた。

俺の手を捕まえた事に満足したのだろう、曹操の表情がしかめ面から一転満面の笑みになる、そして俺の手を掴んだまま腕をぶんぶんと振り回す。

結構な力で掴まれている上に俺の身体もまだ幼子だ、中々に痛いのだがこれは暫く離してくれそうに無いので諦めてされるがままになっていた。

 

そんな様子を眺めていたのだろう、母と曹嵩がこちらを見ながら話していたのに俺は気付いていなかった。

 

「恩は偉いわ、操ちゃんと遊んであげて面倒見てあげてる」

「ええ、まるで本当の兄妹の様です、操も人前では表情を余り変えないのに恩君に遊んで貰ってあんなに笑みを浮かべていますよ」

「この先世がどうなるのか分からないけど…恩と操ちゃんは出来れば並び立って欲しいわね」

「そうですね…中央の腐敗は恐らくもう止められないでしょうがせめて成長するまでは守ってあげなければいけませんね、姉上」

 

そんな話を二人がしている等知らず俺は暫くの間曹操の遊び道具にされてしまった。

 

 

それから更に数日が立ち、曹家への挨拶や跡取り誕生の祝いの儀も一段落して明日には母と共に自領に帰る事になり侍女達は帰りの準備をしている中、今日は母に抱かれて曹家の屋敷の外に連れ出されていた。

母曰く今日は帰る前に旧知の人物達と話をするらしい。

何故屋敷の外でなのかは知らないが恐らくは曹家への配慮だろうと考えている。

 

俺は母に抱かれながら街の様子を眺めているがやはり街には活気が溢れていて人の往き来が多い。

最初に来た時と比べればだいぶ落ち着いているがそれでも商人が多く来ているし作物を売りに来た者もいる様だ。

街の規模が違うから当たり前だろうがやはり規模が大きく治安がいい街には人が集まるという見本だろうな。

 

そんな風に街の様子を眺めていたら目的地に着いたのだろう、母が一つの建物に入る。

どうやら飯屋の様でそれなりに賑わっていて、母は階段を上がり上の階に向かい一つの部屋に入る。

中には既に先客が何人かいて母が入ると久し振りと軽い挨拶をしている。

先客としていたのは女が三人と男が二人で女二人と男二人は母とかなり親しげに話をしているから母と歳が近いのだろう。

残された女一人は全員に対して畏まった様に話しているから若いのだろうと考えていると、その若い女が俺の事を気にし始めた。

話している内容から母と歳が近いのだろう男女には既に子がいるらしいが若い女は恐らく十五を越えて間もない位だろう、幼子が珍しいのか頻りに俺の事を見てくる。

母もそれに気付いたのか若い女に俺を抱かせようとする、若い女はまるで腫物を扱うかの様に俺を抱いているのでもっとしっかりしろと意味を込めて若い女の頬をはたいてやる。

幼子故に頬をはたいた所で大した力は無いし精々戯れている程度にしか見えないだろうと思っていたが若い女は頬をはたかれた事に戸惑い母に俺を差し出していたが、母はそんな様子を見ていて何を思ったのかとんでもない言葉を投げかけていた。

 

「あらあら、良かったわね風鈴、恩が自分から誰かに手を延ばすなんて無かったのよ?気に入られたのね」

 

母がそんな事を言ってから他の男女も将来の夫婦だの祝言には呼んでねだのと囃し立てて、若い女も顔を真っ赤にしてぼそぼそと呟きながら俯いてしまい危うく俺は落ちそうになった。

母が素早く俺を拾い上げて落ちる事は無かったがその後も母達は若い女の婿取りだの祝言は何年後だので盛り上がり、若い女はずっと顔を真っ赤にしており会話に加わる事は無く、日が暮れるまで母達の会話は終わらなかった。

 

 

そんな事があった日の翌日、街に帰る準備も終わり母は改めて曹嵩に別れの挨拶をしていた。

俺は母に抱かれているが曹嵩に抱かれた曹操がずっとこっちを見ていて時折手を延ばしてくる。

俺はそれを無視して色々な事をまた考えていた。

今特に気になっているのが聞き覚えの無い名で呼びあっている事がある事だ。

曹嵩は字が巨高で大勢の前で挨拶をしていた時には自身の事を巨高と名乗っていた。

しかし母と話している時、母は曹嵩の事を華蘭と呼んでおり俺はその名を知らない。

それに昨日旧知の者達と話していた時も聞き覚えの無い名が飛び交っていた。

 

気にはなるが話せない今は何も聞く事は出来ないのでいずれ確かめればいいかと結論を出して次の事を考えようとしていた時にふと曹操の方を見たらまた不機嫌そうな表情になっていた。

俺が無視していた事が不満なのだろう、頻りに手を延ばして俺に構えと言っている様にも見える。

仕方無く手を延ばしてやれば笑みを浮かべて俺の手を掴もうとしてくる、その様子を見て母と曹嵩はまた不穏な会話をしている。

 

「操ちゃんは本当に恩が気に入ったのね、風鈴も気にしてたし結婚相手には事欠かなさそうね」

「そうですね、昨日は皆と会ったのですよね?皆にも子が産まれたと聞いていますよ」

「ええ、袁家の紹ちゃんに荀家の彧ちゃん、公孫家の瓚ちゃんですって、皆女の子だから恩のお嫁さんになるかもしれないわね」

「英雄色を好むと言いますし、恩君には英雄の素質があるのかもしれません、将来が楽しみですね、姉上」

 

ちょっと待て、昨日会っていたのは袁家に荀家、それに公孫家だったのか?聞き覚えの無い名で呼びあっていたから分からなかったが知っている家の者と親交があったのか。

それに子の名前だ、袁紹に荀彧に公孫瓚だと?

反董卓連合の盟主になり官渡で孟徳と雌雄を決した袁紹、王佐の才と評され孟徳を支えた荀彧、幽州を治め優れた騎馬隊を用いていた公孫瓚、まさかこんな所で名を聞くことになるとは思わなかったな。

しかしまた女として産まれたのか、ここまでくると完全に俺が生きた時代とは別物なのだろう、そうなるとこの先どうなる?

黄巾の乱から始まる乱世、霊帝の崩御から反董卓連合、官渡や赤壁の戦と俺の知る時代の流れと何処まで変わらず何処まで変わるのか?

 

しかし俺のすべき事は決まっている、武芸も知勇も磨きかつての自分を超える事、それが出来れば少なくとも俺に降りかかる火の粉や災いは払う事が出来る筈だ。

昨日の母達の会話から察するに既に世の乱れは表に出始めているらしい、なら俺に出来る事は武芸を磨き鍛え、知識を得て自分が戦場に出る準備を怠らない事だ。

 

その為にも早く話が出来る様にならなければと俺は屋敷に戻ったら話す練習を始めようと決めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

情報を集め、整理して自分の道を決める猛将の魂。

決めた道の先に何があるのか、それは誰にも分からない。

そしてその道の先に様々な困難が待ち受けている事もまた知らない。




感想で指摘を貰ったのでここで説明します。

今修正してる話と既に掲載されている話は全くの別物で繋がりはありません。
なので訂正済みの話とその後の訂正前の話は全く繋がりません。
訂正前の話はこんな風に書いてたのかと確かめる為に残してあるので、それについてはご了承ください。

話の書き方についてもどう直したらいいか自分では分からないので書き方は変えずに行きます、指摘してくださった方もそれをご了承ください。

ではまたよろしくお願いします。


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第四話 研鑽の日々、明かされる事実、字と真名

夏候恩の真名は前の物と変わりません。
字は本来成人して自分でつける物ですがこの世界では真名と同時に受けとる事にしました。

では訂正四話をどうぞ。


過去の自分を超える事を決めた猛将の魂。

喋る事や書や竹簡を読む事が出来る様になり、街に出ては身体を動かして今の身体に馴染んでいく。

今日も夏候恩は街中を駆け抜け新たな知識を得る努力を続ける。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

俺が曹操と出会い、この時代での自分の進む道を決めてから早い物で既に二年が経過している。

この二年、俺は出来る事に手当たり次第に手を出して糧としている。

這っての移動しか出来なかったから早くから立つ練習を始め、長く立てるようになれば壁を伝って歩く練習をして、半年程で普通に歩ける様になった。

歩ける様になれば屋敷の中を歩き回り、庭にも出て兎に角あちこち歩き回った。侍女や使用人には心配されていたが、転んでも泣かずに立ち上がりまた歩き回る姿に母は静観しており、次第に侍女達も遠目から見守る程度になった。

屋敷には書や竹管もそれなりに所蔵されていて直ぐにでも読もうかと思ったが流石に字を習ってすらいないのに読んでいては不審がられると思い、先に母や字を書ける侍女と使用人に頼み半年程字を習い、それから読み漁り始めた。

始めの内は適当に取っては読むを繰り返していたが娯楽や兵法に関係無い物は読んでいても面白くも無かった為、直ぐに兵法書や学問書を選んで読む様になった。

一年程で屋敷に所蔵されている兵法書や学問書は読んでしまい、母に他には無いのかを尋ねたら街で私塾を営んでいる先生を紹介されて直ぐに訪ねて兵法を学びたいと願い出た。

先生は兵法よりも字の読み書きや学問を教えているらしく兵法を教える事は出来ないが私塾や個人で所有している物は好きに読んでくれて構わないと申し出てくれて、最近は時間を見つけては私塾に出向いて書を読み漁っている。

先生は時折他所の街にも出向いて字を教えており、私塾が閉まる時があった。そんな時は体力と持久力をつける為に街の中を走り廻ったり、市場を覗いて物流や価格の変動を確認している。

本当なら直ぐにでも武芸の鍛練をしたかったが今の俺は三歳の子供、今鍛練の為の武器をねだっても断られるだろうと思いそこまではしていない。

しかし街を警備、防衛するための兵士の詰所兼修練所があるので時折そこを覗いて鍛練の様子を眺めたり、武器を使わない鍛練を真似たりしている。

この街の兵士は鍛練に積極的で、俺の記憶の軍の兵と比較すると精鋭兵と比べれば流石に劣るが、雑兵や一般兵と比べればかなり優秀だろう。稀に小規模の賊が街に来るらしいが毎度返り討ちにしているらしいから練度も高いのだろう。

 

そんな風に毎日を過ごしていたある日、今日も私塾に向かおうと支度をしていたら侍女から母が呼んでいるから部屋に向かう様にと言われて母の部屋に向かっている。

母の部屋に入るとどうやら執務中らしく、近くにある来客用の椅子に座り母が執務の手を止めるのを待っていた。

母は直ぐに手を止めると既に用意されていた茶を飲んでから俺の方に向き直った。しかし何か言うのを躊躇っている様で中々話が始まらない。

仕方無く俺から話を振る事にした。

 

「母上、何か話があると呼ばれて来ました、大事な話だと言う事でしたが…?」

 

俺から話を切り出したがそれでも母は中々話を始めない。ここまで来れば俺も母が何を話したいのかは察したので更に踏み込んでみる。

 

「母上、話とは父の事ではありませんか?話しづらいのであれば時間を置いても構いませんが?」

 

俺がそう言うと母は驚いた表情になる。それはそうだろう、今まで隠していた事を問われれば驚くのが当然だ。

だが俺は父が既に死んでいるのをもう知っている。侍女や使用人が話していた内容を断片的に聞いており、それを繋ぎ合わせていって出た結論で全てを知った訳では無いが、父は夏候恩の身体が産まれる数日前に死んだ事が分かったのだ。

 

母は俺が既に父の事を知っていると分かると意を決して事の顛末を話してくれた。

 

父はこの街の兵を取り纏める立場で、この身体が産まれる数日前に街道で商人を襲う山賊の討伐を命じられて出撃したそうだ。

山賊討伐には周辺の街からも兵が出ていて、山賊の拠点がある山を包囲して徐々に殲滅していく作戦だったらしいが、連携が密になっておらず、更に他の街の兵に内通者もいた様で図らずも乱戦になってしまったそうだ。

その乱戦の最中、兵を指揮するために最前線に立っていた父はなんとか山賊の長を討ち取ったそうだが敵の矢を背中に受け、その隙を突かれて山賊に斬られたとの事だ。

 

顛末を話してくれた母の目には涙が光っており、俺もいたたまれない気持ちになった。顔も知らないし俺とは直接は何の関係も無いが夏候恩の父であり、乱戦となった戦場の前線で指揮を取り山賊の長を討ち取ったのだ、素晴らしい人物だったのだろう。

 

「ありがとうございます母上、父の事を話してくれて…私も父の様な素晴らしい人物になれる様精進していきます」

 

俺は母に頭を下げて礼を言った。本当なら話したくない、思い出したくない事だった筈。それを話してくれた事に素直に感謝の気持ちを示した。

 

「…ええ、頑張るのですよ恩、貴方は強くて立派な父の子なのですから、それともう一つ、貴方に話す事があります」

 

そう言って母は改めて姿勢を正した。俺も頭を上げて母と向き合う。

 

「恩、貴方に字と真名を授けます、いいですね?」

「字と…真名?」

 

母から字と真名を授けると言われ俺はまた考える。

まずは字だ、本来字は成長して成人した時に自分で考える物だった筈、この時代では字の使い方も違う様だ。

次に真名だ、これは全く知らん。俺が生きた時代にはそんな風習は無かったし聞いた事も無い。

俺がそんな事を考えていると母が咳払いをしたので意識を母の方に向ける。

 

「恩、貴方の字は子雲、真名は冬椿です。字は亡き父が貴方に遺してくれた物、父の思いを無下にしないよう励むのですよ?」

「…はい、夏候恩、字を子雲、真名は冬椿、受け取らせていただきます」

 

そして母は真名について教えてくれた。

何でも字より神聖な名らしく、真に信じられる者にのみ預ける事を許し、預けられていない者が真名を呼んだら首を斬られても致し方無い程の物らしい。

どうやら母が以前に誰かに度々呼んでいた名は真名だった様だ、しかし打ち首も致し方無しな名を知らぬ者がいる場所で軽々しく使うのはどうなのかと思うがな。

 

さて、父の事も知れて新たに字と真名も得た、急いで先生の所に行くとするか。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

字と真名を得て、知識の吸収と自己の鍛練に励む夏候恩。

しかし夏候恩はまだ知らない。

時代はゆっくりと、しかし確実に乱れ始めている事を。

そしてそれは自身の足元にも迫ってきている事を。




設定やら時代背景やらにはオリジナル要素を含んだりしますのでご了承ください。
一応恋姫ベースに無双の要素も少し取り入れればなと思っています。

次話、夏候恩に悲劇が迫る…かもしれません。


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第五話 馬鹿は何処でも馬鹿なのか

今回から3人から離れてます。

そして馬鹿が出ます。

恩さんは意外とモテます


夏侯恩として生きる様になって8年。

 

俺は今洛陽にいる。

父が洛陽に赴任する事になり、無理を言って付いてきた。理由は修行の時間が欲しかったからだ。

孟徳、元譲、妙才の3人を相手にする為に修行の時間が減ってしまったので、1人になれる時間が欲しかった。

それと、3人が俺に依存し過ぎているのだ。何かあれば直ぐに俺を頼り、自分で解決しようとしない。3人の親は甘やかし過ぎだ、俺がいるからいいだろうとでも思っているのだろう。

だから3人には何も告げずに町を出た。時折母から届く手紙には3人の事が書いてあるのだが、最初の頃は悲惨だった様だ。

 

俺がいなくなったを知るや否や泣きながら町中を探し回ったらしい、しかも1日中。

次の日から孟徳は我が侭を言い続け、元譲は暴れまわり、妙才は引き籠ったそうだ。

俺はそうなる事を見越して、3日経ったら3人に手紙を渡してくれる様に母に頼んでおいた。

内容は言い回しは違えど、お前達が周りに迷惑をかけない様にならないと俺は町には戻らない。と言う内容だ。

勿論父と共に町に帰るつもりだが、手紙が効いたのか3人は俺がいた時と同じ様になったそうだ。

只やはり寂しいのか、夜になって手紙を見ながら泣いてるらしい。

それを手紙で見ると心苦しくなるが、これも3人の為だ。

 

さて、洛陽にいるのだが既に十常侍共が蔓延っていた。まだ目立った事はしていない様だが、いずれは専横に走るだろう。それを止められる奴は洛陽にはいない、十常寺に逆らおうとする奴すらいないのが現状だ。

唯一対抗出来る力を持っているのが袁家と曹家なのだが、どちらも地方に飛ばされている。まあ袁家はあまり頼りには出来ないだろう、どうせ袁家には馬鹿な奴等しかいないのだからな。

 

 

 

さて、洛陽で俺は何をしているのかと言うと、いつも通り剣の修行と学を学んでいる。

剣の修行だが、ようやく本物の剣を使って修行が出来るようになった。俺と父の住む屋敷の護衛の兵士を相手に修行をしている。

いくら長い事独自に修行をしたとは言え、あくまでも子供がした修行だ、訓練をしている兵士に敵うとは思ってはいない。しかし体力をしっかり付けた為、こっちが疲れる事は無い。むしろ兵士がバテて終わる事が多い位だ。

だが1人で行ってきた修行よりもずっと効率よく修行が出来るようになった。

 

 

学の方も洛陽には見たこともない書が沢山あり、とても有意義だ。

 

 

あいつに会わなければ・・・。

 

「おーっほっほっほっ」

 

 

また五月蝿い奴が来たか・・・。

 

 

「ちょっと夏侯恩さん、気付いているのでしょう?」

 

 

彼奴さえいなければもっと有意義に過ごせるんだが・・・。

 

 

「ちょっと!!無視ですの!?袁家の跡取りであるこの私を無視ですの!?」

 

 

五月蝿い・・・俺の邪魔をするな・・・集中してるんだ。

 

 

「キィー!!私が話しかけているのですから私を優先しなさい!!」

 

 

そう言って五月蝿い馬鹿が俺の読んでいた書を取り上げる。

 

「おい・・・俺の邪魔をするなと何時も言っているだろう・・・」

「そんなの知りませんわ!!私を無視する夏侯恩さんが悪いんですわ!!」

「お前に付き合う暇は無いんだ・・・学の邪魔をするな。」

「私は袁家の跡取りですわ!!地位の低い夏侯家の貴方には私に付き合う義務がありますわ!!」

「それはお前の勝手な言い分だろう・・・話にならん・・・」

 

 

俺は立ち上がると外に向かって歩き出す。

 

「ちょっと!!話はまだ終わっていませんわ!!」

 

後ろから馬鹿が声を張り上げながら付いてくる。

 

「話にならんと言っているんだ、付いてくるな。」

 

俺は書庫を出ると全力で走って馬鹿から遠ざかる。

 

「ちょっ!?今日こそは逃がしませんわ!!」

 

馬鹿も走り出すが俺に追い付ける筈がない。

 

馬鹿を撒くと俺は兵士の訓練所に向かう事にした。

 

兵士訓練所に来ると何人かの兵士が訓練をしていた。俺は洛陽に来てから毎日の様にここで修行しているので、ここの兵士達とは顔馴染みだ。

俺は何時もの様に訓練用の剣を取ると軽く振ってからかつての動きを真似る。やはりかつての俺の動きは体にピッタリ合う。

半刻ほどしてから並んでいる人形相手に打ち込む。これを1刻続ける。

それから1刻ほど剣を持って訓練所内を走る。

最後にもう一度かつての動きを真似て修行を終える、これが最近の修行の手順になっている。

 

訓練用の剣を戻し、訓練所を後にする頃には日は沈み暗くなっている。

俺はあちこちに蝋燭の火が灯る表通りを家に向かって歩いていると、何処からか泣く声がする。

泣く声がする方に行ってみると、あの馬鹿が泣いていた。恐らくは俺を捜している内に暗くなってしまい、帰るに帰れなくなったのだろう。

俺は無視して帰ろうと思ったが、反対側から粗暴の悪い酔っ払いが歩いてきた。酔っ払いは馬鹿に気付くと話しかけ始めたが、その眼は下心が見え見えだ。

 

俺はその酔っ払いの後ろに回り込み、手刀を食らわせて気絶させると馬鹿に声をかける。

 

 

「何時まで泣いているつもりだ、さっさと帰れ。」

「か・・・夏侯恩さん・・・グスッ・・・でも・・・暗くて・・・道が解らないんですわ・・・グスッ・・・。」

「お前の家なら俺が知ってる、送ってやるから早く立て、置いていくぞ。」

「グスッ・・・ま・・・待ってください・・・。」

 

 

やっと立ち上がった馬鹿を見ると、こいつの家に向かって歩く。馬鹿はまだ泣きながら付いてくる。

 

ちなみにこの馬鹿は袁家の跡取りである袁紹だ。かつての袁紹も家柄と血筋に傲った馬鹿だったが、場所が変わっても馬鹿は馬鹿だった様だ。

 

 

「・・・あの・・・夏侯恩さん・・・。」

「なんだ?くだらない事を言ったらお前を置いていくぞ。」

「・・・あの・・・心細いので・・・手を繋いで戴けますか・・・。」

「・・・ほらよ。」

 

 

おずおずと俺が差し出した手を握ってくる、手が冷たいな・・・今日は冷えたからな。

 

手を繋いで歩いていく俺と袁紹。その袁紹の顔がとても幸せそうだったのを俺は見ていなかった。

 

 

袁家の家の近くまで来ると、袁家の奴等が袁紹を捜していた。

 

 

「ほら、袁家の人間が捜してる、早く行ってやれ。」

 

最後まで送る必要は無さそうだと思い、繋いでいた手を離して袁紹に行く様に言う。

 

 

「あ・・・ありがとうございました・・・。」

 

袁紹も俺に頭を下げると走っていった。

 

・・・俺も帰るか・・・しかし寒いな・・・。

 

 

次の日俺は風邪を引いて寝込んでしまい、家の前で喚く馬鹿の声を無視し続ける事に追われた。




恋姫っぽくさせるために夏侯恩さんにはフラグを立てまくって貰ってます。
回収するかへし折るかは追々考えますが、恩さん自身は無自覚かつ無意識です。


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第六話 加減とは難しいな

今回もフラグが立ちます、しかも後々敵になる人に。


また今回は他人視点をいれてみました。


父と共に洛陽に来てから2年。

俺は10歳になり、いよいよ本格的な修行を始められる様になった。

父が鍛冶屋に俺の剣を頼んでくれたらしく、鍛冶屋に取りに行く時の俺の喜び様は今までで1番だったらしい。

新しい剣は俺の意向を取り入れて作られたので、形はかつての俺の剣である朴刀と同じ形になった。

やはりこの形に握った感触、これは俺の剣だ。今までのどんな剣よりも手に馴染む。これからの修行は一層力が入るな。

 

 

学の方はあの馬鹿(袁紹)の邪魔が頻繁に入るので進みこそ遅かったが、洛陽で俺が入れる書庫は全て回り全ての書を読んだので、暫くは剣の修行に集中する。

もっと中央に行ければ貴重な書があるのだろうが、1武官の父の子である俺には中央に入れる権限など無い。こればかりは諦めるしか無かった。

 

 

あの馬鹿だが、送ってやってから次に会った時に一方的に真名を預けてきたが断った。

しかしそれから会う度に真名を押し付けてくるのが10日程続いたので仕方無く預かった。言うことは無いだろうがな。

それからは前以上に俺に絡んでくる様になった。面倒な奴だ。

 

だが絡んでくるのを俺が軽くあしらうと顔を赤くして満足そうにしているが・・・馬鹿も風邪を引くんだな。

 

 

 

そんな中、十常侍の狼藉がいよいよ本格的になってきた。自分達の私腹を肥やしたいが為の増税や財産の押収が頻繁に執り行われている。

それを看過出来ないと判断した武官や文官らが定期的に会合を開く様になった。父も当然参加している。俺も付いていくが会合に参加する為ではない。

では何故か?

 

 

俺は子守を任せられるからという理由で毎回連れていかれるのだ。

確かに孟徳達で慣れているが、数が多すぎる。十数人は子供がいるのだ、1人では正直全員を見られないぞ。

 

 

そこへ1人の女が近付いて来た。

 

 

「1人では大変だろう、手を貸そうか?」

 

 

褐色肌の女が声をかけてくる。

 

 

「済まない、そうしてくれると助かる。」

 

 

「任せておけ、私も普段から子守をしているから慣れてるのよ」

「済まないな、子守の経験はあるんだが数年前でな」

「ハッハッハ、その年で子守の経験があるとは、なかなか苦労している様ね?」

「それはお互い様だろう?挨拶が遅れたな、俺は夏侯恩、字を子雲だ。」

「うむ、私は黄蓋、字を公覆だ。」

 

 

 

(黄蓋・・・確か孫家の宿将だったな・・・と言うことは孫家の将は孫堅か・・・やはり女なんだな。)

 

 

最早有名な将が女なのには驚かないが・・・孫堅と黄蓋にこんな所で会うことになるとはな。

ん?と言うことは・・・。

 

 

「祭ー、遊んで遊んで!!」

「おお策殿、しかし他の子らの面倒も見ないといけないので少し待ってくださいね。」

「ぶーぶー、今遊んでくれなきゃ嫌!!」

 

(やはり孫堅の娘は孫策か・・・何処と無く元譲に似ているな・・・。)

 

「黄蓋さん、遊んでやるといい、他の子供達は殆ど寝ているから俺だけで大丈夫だ。」

「そうか?なら夏侯恩殿の言葉に甘えさせて戴こう、策殿、お相手しますよ。」

「わーい、お兄さんありがとね、私は孫策、字は伯符よ、今度はお兄さんも遊んでねー。」

 

 

そう言いながら黄蓋と孫策は部屋を出ていった。

 

(もしかしたら他にもこの中に俺の知ってる名の子供がいるんだろうか・・・いずれは敵になる奴も・・・考えたくないな・・・。)

(かつての俺なら例え過去に会ったことのある奴でも女でも孟徳の道を阻む奴なら斬ってきたが・・・今の俺にそれが出来るだろうか・・・。)

 

 

俺がこんなことを考える様になるとはな・・・いずれ来る乱世・・・苦しい事になりそうだな・・・。

 

 

 

数日後、今日も会合があり、俺は黄蓋と共に子供達の面倒を見ている。

子供達は活発で動き回る子供達と大人しく書を読む等をする子供達と2つにまとまっている。

活発な集団には孫策がいるので黄蓋が見ている。俺は大人しい集団を見ている。

 

子供達を見ながら書を読んでいると、隣の部屋から大きな声が響いてきた。

俺は何事かと隣の部屋に入ると、子供達が喧嘩していた。叫びと喚きが木霊してかなり五月蝿い。しかも黄蓋がいない、偶々外していた所を喧嘩が始まった様だ。

何とか止めようとするが、収まる気配がない。まるで孟徳の我が侭を抑えようとしている時の様だ。

仕方無く、俺は覇気を少し纏わせて声を張った。

 

 

「・・・静かに・・・しろぉっ!!」

 

 

 

   黄蓋視点

 

 

私は黄蓋、字を公覆、孫家に仕えている。

今は主君である孫堅殿の供として洛陽に来ている。

洛陽では十常侍達が皇帝を蔑ろにして民からの搾取を繰り返している。それを快く思わない諸侯が集まり対抗する為の話し合いをしているのだが、私はそこで面白い男を見た。

夏侯恩・・・何故かその男が私は気になった。

堅殿と話し合いを行う屋敷に来た時に堅殿の子供の策殿を任せられ、他の諸侯の子供の面倒を見ている者がいるからと言われて、その者に策殿を預けようと向かった。

そこで子供達を見ていた男、それが夏侯恩だった。

男というよりもまだ子供なのだが、その雰囲気は私よりも大人びていた。

会話をしてみると礼儀正しい子供なのだが、その不釣り合いな雰囲気が私を離さなかった。

それから話し合いがある度に夏侯恩と2人で子供達の面倒を見ている。

策殿と歳は変わらない位なのに不釣り合いな雰囲気、それにあの眼・・・とても強い決意や信念を宿した眼。まるで堅殿の眼を見ている様に感じた。

 

そんなある日、今日も話し合いが行われ、私は夏侯恩と子供達を見ている。

途中で厠に行ったら何やら揉めていたので仲裁してから子供達のいる部屋に帰ると何やら騒いでいる。私のいない間に喧嘩でも始まってしまったか・・・と思いながら部屋に入ろうとした時、大きな声がした。

 

 

「・・・静かに・・・しろぉっ!!」

 

 

その声に私は動けなかった。部屋の中からも声がしなくなった。

我に返り部屋に入ると夏侯恩がいたのだが・・・。

 

強烈な気を纏い、放っていた。

 

子供達は泣きもせず、ピクリとも動かない。完全に硬直しているみたいだ正直私も動くのがキツい。

 

「か・・・夏侯恩・・・殿・・・?」

 

私は恐る恐る声をかける。

 

「・・・あ、黄蓋さん・・・驚かせて申し訳無い・・・」

 

 

 

私に気付いた夏侯恩殿は纏っていた覇気を一瞬で掻き消した。硬直していた子供達は皆腰を抜かした様に座り込んだ。

夏侯恩殿の顔を見ると気まずい表情をしていた、恐らくは覇気が強すぎたのだろう。

細かな調節は出来ないのだろうが、ここまで気を正確に操れるとは・・・末恐ろしい子供だ。

しかし・・・一体何処まで延びるのか・・・とても興味深いわね・・・。




黄蓋の口調が違うのはまだ若いからだと思ってください。

しかし赤壁の重要人物にフラグ・・・無計画で済みません。

次回は初の戦闘場面になります。


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第七話 肩慣らしには丁度いいか

戦闘場面って書くの難しいですね。
イマイチ上手く書けないです、すいません。

こんな思いつきだけの作品を待っていてくださる方々には感謝しかありません、ありがとうございます。


覇気を纏って子供達を怯えさせてしまってから1月程経った。

俺は今、この世界で初めての戦に向かっている。と言っても洛陽付近に現れた小規模の賊を討伐に向かうだけなのだが、やはりかつての俺が最後に参戦した戦からは十数年経過している。いくら体は若く、戦の記憶があるとは言え緊張するな。

 

ただ一つ疑問なのは・・・。

 

 

 

何故俺は黄蓋と進軍を共にしているんだ?

 

確かに今回の討伐は父の部隊と孫堅の部隊に命令が下りた。なので父と孫堅が共に進軍するのはわかる。

だが俺と黄蓋が共に進軍する必要は無いだろう。しかも黄蓋の副将という立場にされている、何故だ?

その黄蓋を見るととても愉快そうな顔をしている。何か良いことでも有ったのだろうか。

 

とにかく俺の初陣だ。剣の手入れは万全、準備も抜かり無い。何時でも行ける。

今までの修行の成果を試してみるか。

 

 

 

 

偵察は大事だ。それは分かる。分かるが・・・。

 

何故俺と黄蓋の2人だけなんだ?

途中で黄蓋に聞いても直ぐに分かるとしか言わない。何がしたいんだ?

 

 

俺と黄蓋は賊の拠点らしき砦の裏側の高台にある森の中に潜んでいる。

どうやら砦の正面から父と孫堅の部隊が攻めて、賊が迎撃に出た所を裏から攻める様だが・・・いくら少数の奇襲が有効とはいえ、俺と黄蓋の2人だけなのはどうなんだ?それにここからどうやって砦を奇襲するんだ?飛び降りろということか?

 

 

砦の正面の方が騒がしくなった。囮の戦闘が始まった様だな。

 

「そろそろ奇襲に向かうか?」

 

俺は黄蓋に聞く。

 

「うむ、頃合いね、行くわよ。」

 

黄蓋が俺に返す。

 

 

俺は返事を合図に走る。久々の戦闘だ、朴刀を握る手に力が入る。だがこの先の乱世を戦い抜く為に、俺は止まらない。

砦の裏の崖に来た。俺は迷い無く飛び降りた。

崖下には賊がいる、こちらには気付いていない。俺は足と朴刀に気を込めて・・・着地と同時に朴刀を地面に振り下ろす。

気を込めた朴刀が地面に当たり衝撃波が起こり、廻りにいた賊を吹っ飛ばす。

 

 

「な・・・なんだ!?」

「き・・・奇襲だーっ!!」

「うわああああっ!?」

 

奇襲等想像もしていなかったであろう賊は混乱している、その隙を逃すほど俺は甘くない。

 

「夏侯子雲・・・推して参る!!」

 

 

 

俺は砦内を走り回りながら賊を斬っていく。

向かってくる者、怯え逃げる者構わず斬り捨てる。既に数十人は斬っただろう。

 

「この餓鬼が!!死ね!!」

 

賊が俺に斬りかかってくる。

俺は朴刀で受け流し、そのまま斬る。人を斬る感触が朴刀を通じて手に、体に伝わる。

 

「な・・・何だこの餓鬼は・・・化物か!?」

 

賊は俺の姿を見て恐怖している。

朴刀も衣服も返り血をかなり浴びながら、それでも平然と子供が人を斬っているのだ。化物と思って当然だろう。

 

かつての俺も初めて人を斬った時にはもっと恐怖し、錯乱したものだ。だが今の俺は既に数千、数万もの敵を斬った経験がある。初陣であって初陣で無いのだ。

 

賊を斬って回りながら大将らしき奴を捜しているがまだ見つからない。囮の戦闘の方に出てしまったのかもしれないな。

砦内の賊は粗方斬ったし後は黄蓋に任せて正面に行こうと思っていると大男が現れた。

 

「てめぇかぁ?奇襲してきた餓鬼ってのは?」

「ああそうだ、貴様がこの賊の大将か?」

「そうだと言ったら?」

「知れたこと、さっさと討ち取らせて貰おうか。」

「生意気な糞餓鬼が、死んで後悔しな!!」

 

大男が持っていた斧を振り下ろす。俺は後ろに跳んで避ける。

大男は力任せに斧を振り回すが俺は全て避ける。

俺はわざと壁際に避けて、追い詰められた様に見せる。

 

「死ね!!糞餓鬼がぁ!!」

 

大男は斧を振り下ろす。

 

俺は腕と足に気を込めてその一撃を防ぐ。

 

大男が呆気にとられた隙を逃さず、俺は大男に朴刀を振り上げた。

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

 

大男は断末魔を上げながら倒れた。俺は大男の首を斬り、それを持ち上げて高らかに声を上げた。

 

 

「敵総大将、夏侯子雲が討ち取った!!」

 

 

 

黄蓋視点

 

あの子供・・・とんでもないわね。

あの崖から何の躊躇も無く飛び降りた時には私も流石に焦ったわ。崖から覗き込んだ時には剣を地面に叩き付けて衝撃波を放っていた。

そこからの戦ぶりは堅殿以上のものを見た。私ですら初陣で人を殺めた時には恐怖し吐いたと言うのにそんな素振りは一切見せずに賊を斬っていく姿に私は戦慄を覚えた。いずれは堅殿や策殿の前に大きな障害として立ち塞がると私はこの時予見した。

夏侯恩殿はそれから砦内に残った賊をどんどん斬っていき、賊の大将らしき大男との一騎討ちも軽々と制して賊を壊滅させた。

今回の賊討伐が初陣とはとても思えないわ。あの戦働き、まるで何年も戦を経験している歴戦の将の様だわ。

夏侯恩子雲・・・どうにかしないといけないわね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

夏侯恩視点

 

賊の討伐を終えて洛陽に帰還している。

俺は父の部隊に戻っている。やはりこっちの方が落ち着くな。

しかし・・・黄蓋には明らかに警戒された様だな。まあ当然だろう、まだ子供である俺があれだけの行動をしたんだ、警戒や危険視されて当たり前だろう。

まあ父が洛陽での任期を近く終えて町に戻る事になっている。黄蓋や馬鹿ともさよならだ。

町に戻るのは4、5年振りだな。孟徳、元譲、妙才は元気にしているだろうか?

っと・・・いい加減俺も真名を呼ぶ事に慣れないとな・・・。

 




賊相手に無双っぽく戦ったらただのチートになりました。ただの賊ならしょうがないと思いたい。

黄蓋とどうなるかは自分でもわかりません。


次回は久々にあの3人と戯れるかも。


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第八話 久しぶりに戻ったら

久しぶりに町に帰ってきた恩さんは衝撃の事実を知ることに・・・。

話の展開が遅すぎる気がする、原作開始時には何話になってるんだろうか?


およそ3年振りに産まれ育った町に帰ってきた。

たった3年とはいえ懐かしいな。しかし3年前より町が寂れている様な気がする。何と言うか人々にも表通りにも活気が無い。

間違いなく十常侍共の重税の影響だろう。こんな地方の町にまで・・・十常侍はいつか必ず斬る。

 

そう考えながら家に着いたのだが・・・人の気配がない。以前なら母や縁戚の者が何人もいた筈だが人1人いない。

父は近所の家に話を聞きに行くと言って家を出ていった。俺は仕方無く家の片付けをしている。かなり荒れていたので手間取ったが大方終わらせると父が戻ってきた。

 

 

 

 

「父・・・冗談ですよね・・・?」

 

父が話した事に俺はこれまでに無い程に動揺した。

母が・・・母が病にかかり半年前に死んだなんて・・・。

そういえば町に戻る前の半年は賊討伐に頻繁に駆り出されていて気にする隙が無かったが確かに手紙が来ていなかった。まさか死んだなんて・・・くそ・・・。

 

それと町の長の曹家の者も今病に倒れているらしく、政務や警備も滞っている様だ。まだ子供の孟徳や元譲、妙才も政務や町を襲う賊の撃退に駆り出されているらしい。

そこまでしてもかつての町の賑わいを失ってしまうとは・・・余程長が優秀で負担をかけていたんだろうな。

 

母が死んだのは悲しいがそれはもうどうしようも無いんだ。俺は前へ進むだけだ。

俺は父と共に町の中央の曹家の屋敷に向かった。3人は元気にしているだろうか・・・。

 

 

 

華琳視点

 

私は曹操、字は孟徳、真名は華琳。

この町を治める曹嵩の娘で今は病に伏している母上に変わりこの町の政務を仕切っているわ。

 

でも周りの大人達は曹嵩の娘とはいえ子供の私には従わない無能ばかり。頭にきたからそいつら全員町から追い出してやったわ。

その代わり政務は私と従妹の夏侯淵、真名は秋蘭と2人だけですることになって完全に滞ってるけど。もう1人の従妹の夏侯惇、真名は春蘭は政務は出来ないから兵達の訓練や賊の撃退を主に担当して貰ってるけど・・・人手不足は深刻ね。

せめて兄様・・・私の従兄で大好きな夏侯恩、真名は冬椿がいてくれたらずっとはかどったんでしょうけど・・・兄様は3年前に兄様のお父上と一緒に洛陽に行ってしまわれた。

あの時の事は思い出すと顔から火が噴きそうになるわ。私も春蘭も秋蘭も兄様に甘え通しだった。自分で出来る様な事まで兄様に頼りっぱなしだったわ。

今ならあの時の兄様の気持ちが分かるし兄様がくれた手紙の真意も読み取れる。兄様は私達に早く独り立ちして欲しかったんだわ。何時までも甘えては要られない、時には甘えも必要だけど甘え過ぎは人を堕落させる。甘えをはね除け自らの意思で進んで行かなきゃいけないの。この荒れ始めた大陸でなら尚更。兄様はずっと前から先の先の更に先まで見透していたのね。

でも・・・やっぱり兄様に会えないのは寂しい・・・。兄様は今何をしてるんですか・・・?華琳は町の為に頑張ってますよ?でも・・・正直もう辛いです・・・ちょっとだけ弱音を言っていいのなら・・・兄様に会いたい・・・。

 

 

 

 

秋蘭視点

 

私の名は夏侯淵、字は妙才、真名を秋蘭という。

私は今、従姉である華琳様の補佐として華琳様と共に町の政務を行っているのだが・・・。

華琳様の疲労や心労が限界なのが端から見ても明らかだ。無理も無い、町の長である曹嵩様が病に伏してから華琳様が政務を引き継いだのだが、役人達が華琳様とは仕事をしないと言い出し、華琳様を怒らせ町から追放されたので政務は華琳様と私の2人だけで行っている。

私は4人の従兄妹の一番下で、華琳様は二番目。三番目である姉者、夏侯惇は政務が出来る者では無い。一番上の兄者・・・夏侯恩は今町にはいない。

兄者・・・兄者が私達の前からいなくなってもう3年だ・・・。

まだ帰ってきてはくれないのか・・・。華琳様も姉者も私も兄者には及ばないが強くなった・・・。でも・・・もう押し潰されそうだよ・・・華琳様も・・・私も・・・。

 

 

そんなことを考えていると、屋敷の門番の兵が執務室に入ってくる。何やら慌てている様子だが何かあったか?

 

「ほ、報告致します、夏侯家のお方がいらっしゃいました。」

 

 

夏侯家の者?一体誰が?

私が考えていると華琳様が一言言い放つ。

 

 

「追い返しなさい。」

 

 

華琳様・・・それはいくら何でも・・・。

兵も何かを言おうとしたが、華琳様は更に言い放つ。

 

 

「追い返しなさいと言ってるの、今日は誰とも会わないわ。」

 

こうなっては華琳様は会われないだろう、仕方ないが私が行こう。

 

 

「華琳様、私が説明に行ってきます、宜しいですか?」

「・・・構わないわ、好きになさい。」

 

 

華琳様の許しを得たので兵と共に屋敷の門に向かう。正直な所、ずっと室内で政務をしていたから外の空気を吸いたかったからが会いに行く理由なのだが・・・。

 

屋敷の外に出て門に向かって歩く、2人の男が門の前にいた。遠くからでははっきり見えなかったが・・・近付いていって私は足が止まった。

あの姿は・・・見間違う筈がない・・・背が伸びて逞しくなっている・・・兄者だ!!

気が付いたら私は走っていた。兄者に向かって走り兄者に飛び付いた。

 

 

「兄者ぁっ!!」

「うおっ!?妙才か・・・大きくなったな。」

 

 

相変わらず兄者は真名を呼んではくれないが今はどうでもいい、ずっと会いたかった兄者に触れられる、頭を撫でて貰える、それだけで幸せだ。

だから私は気付かなかった。背後に迫る怒りの覇気を膨らませた存在に。

 

「しゅ~う~ら~ん~?」

 

 

体が硬直する、冷や汗が止まらない、私はゆっくりと振り向く、そこには・・・。

 

 

怒りの形相の華琳様がこめかみにいくつもの青筋を浮かび上がらせ口元をヒクつかせながら私を睨んでいた。

 

ああ・・・私の人生・・・終わったな・・・。




今回春蘭が居ない理由は次話でわかります。まあ想像通りだと思います。

ちなみに華琳の夏侯恩の呼び方は「にいさま」じゃなくて「あにさま」です。理由は呼び方が被らない様にです。


感想や御意見、違和感などありましたらどんどんお願いします。


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第九話 俺の変化と華琳の道

長く執筆してる方々の苦労を身をもって体感してます。

今回は恩さんと華琳の心情に変化を与えてみました。


・・・この状況はなんだ・・・?

屋敷の門で待っていたらやって来た妙才に飛び付かれ、妙才の声を聞いたんだろう孟徳が走ってきて俺に抱き付いてる妙才を気絶させ、執務室に通されて軽く挨拶をしてから・・・椅子に座る俺の膝に孟徳が座っている。

元譲は賊の撃退に出ていたらしいが戻ってきて俺が帰ってきたのを聞いたのだろう、執務室に駆け込んできて今は俺の腕に抱き付いてる。

妙才は・・・縛られて放置されている。孟徳いわく抜け駆けした罰らしいが・・・俺が口出ししない方がよさそうだ。

ちなみに父はもう家に帰っている。俺も帰りたいんだが離してくれない。流石に力任せには出来ないしな、仕方無いからしばらくは付き合ってやるか。

だが・・・3人共まだ俺への依存が抜けていないみたいだな。3年経ってもこれじゃこの先の乱世をのしあがっていけないぞ。

仕方無い、少々荒療治だがこれしか無いか。

 

「孟徳、元譲、妙才、3人の3年間の成果をみせてもらうぞ。」

 

 

 

 

 

俺は訓練用の朴刀を持って屋敷の中庭に立っている。3人の武の修行の成果を見るためだ。

俺1人に対し孟徳達3人をまとめて相手にするが相手にならないだろう、俺だってこの3年欠かさず修行してきた。体も育ち鍛えたお陰でかつての俺の全盛の頃に大分近くなってきた。

対する3人だが武具が・・・孟徳が鎌、元譲が剣、妙才が弓か。元譲と妙才は予想通りだが・・・まさか鎌とは思わなかった。かつての時代にもそんな奴はいなかったぞ。

俺の武具は持っている朴刀と腰に差している剣だ。やはりこれが一番使いやすい。

 

「こっちの準備はいいぞ。」

 

俺が言うと3人も準備が出来たのか各々が少し離れた場所で武具を構える。

1対複数での戦闘時の定石だ。密集せずに分散すればまとめてやられる事は無い上に連携が取りやすい。弓という遠距離攻撃の手段があれば格段に有利になるがそれはあくまで普通の奴相手ならばの話だ。

 

 

「さあ・・・来い!!」

 

 

お前達の力、見極めさせてもらうぞ。

 

 

 

 

華琳視点

 

・・・兄様・・・なんて強さなの・・・!?

いくら兄様相手とはいえこっちは私と春蘭と秋蘭の3人、負ける筈がないと心の何処かで思ったわ。

私と春蘭、鎌と剣による接近戦に秋蘭の弓による援護。私達の連携は兵相手の訓練や賊討伐で負けることは無かったわ。

でも・・・兄様からしたら子供の遊び程度にしかならないの・・・?

 

最初のうちは兄様相手にも有効に見えたわ。私と春蘭の攻撃に秋蘭の援護を的確に打ち込み兄様に攻撃する隙を与えなかった。

ところがしばらくしたら秋蘭の援護が無くなった。どうしたのかと思い私は一度間合いをとったら・・・兄様は秋蘭の射線に常に春蘭が来る様に動いていた。つまり兄様は私と春蘭の動きと秋蘭の動きを完全に見切っていた。普通は戦闘中にそんなこと出来ないわ。

兄様と私達との間にこんなに差があるなんて・・・。

 

 

「どうした・・・お前達の力はこんなものか?」

 

 

兄様が私達を挑発してくる。それに乗せられた春蘭が兄様に向かって突進する。

 

「駄目よ春蘭!!突出しちゃ!!」

 

 

 

 

そう言うも既に遅く、兄様は春蘭の一撃を防ぐと秋蘭の方へ蹴り飛ばした。

秋蘭は飛んでくる春蘭を当然受け止めるけどそれがいけない。兄様は一気に秋蘭との間合いを詰めて一撃を繰り出す。秋蘭は何とか防ぐけど兄様の一撃はその防御を容易く破り、春蘭と秋蘭をまとめて吹っ飛ばす。

2人は塀にぶつかり倒れる。何とか起き上がろうとしてるけどもうまともには動けない筈。実質私と兄様の一騎討ちにさせられてしまった。

こんなに強い兄様相手に一騎討ち・・・私の強さは春蘭や秋蘭と同等・・・勝てる筈がないわ・・・もう心も折れかかってる・・・いっそもう降参してしまえば・・・。

 

 

「諦めるのか?孟徳。」

 

 

兄様の声に下がっていた目線を上げる。兄様は私を見据えていた。

 

「諦めるのか?自分じゃ敵わないからといって投げ出すのか?」

 

兄様の言葉に目線がまた下がる。そんなこと言われても・・・私はどうしたらいいの・・・。

 

「諦めるな!!曹孟徳!!」

 

 

兄様が大きな声で叫んだ。私も倒れてる春蘭と秋蘭も驚いてる。

 

「お前が諦めたらお前を慕っている元譲や妙才はどうなる!?お前が治める地はどうなる!?お前に付いてくる兵達はどうなる!?お前を支えてる者達はどうなる!?」

 

私を・・・支えてくれてる者達・・・。

 

「もしお前達より強い賊が来たらどうする!?強いからと言って諦めるのか!?お前はそれでいいのか!?」

 

兄様の言葉を聞きながら、私はいつの間にか泣いていた。

 

「諦めるな!!お前を支え続ける者達がいる限りお前は決して諦めるな!!」

 

倒れてる春蘭も秋蘭も泣いていた。

 

「諦めるな!!お前は覇王だ!!覇王曹孟徳だ!!」

 

私は持っていた鎌を握り直す。

 

「いきます!!兄様!!」

「ああ!!来い!!」

 

 

私は・・・覇王になる・・・必ず!!

 

 

華琳視点終了

 

 

 

結果的に孟徳に覇道を進ませる事になったが・・・これで良かったのだろうか?

この時代の孟徳に俺はかつての孟徳を重ねすぎているのではないか?俺は華琳に困難な蕀の道を歩ませてしまうのではないか?

いや・・・孟徳と華琳は違う・・・華琳なら孟徳とは違う覇道を進むかも知れないんだ。

ならば俺は華琳の傍でそれを見届けよう。

 

 

 

だがその前に・・・華琳にはもう1つ乗り越えて貰わないとな・・・。




凄いグダグダな感じになってます、済みません。


最近この話を原作の魏ルートに沿って進めるか完全オリジナルルートにするかかなり悩んでます。


読んで下さる皆様も意見が分かれると思います。

なので活動報告でアンケートを取ろうと思います。
原作魏ルートで進めるかオリジナルルートで進めるかの意見をください。

よろしくお願いします。


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第十話 女はよく解らんな

今回は前書きと言うより注意です。

アンケートを前話から取ってますが感想に書くのは規約違反になります。最悪連載出来なくなってしまいますのでアンケートの回答は活動報告かメッセージにお願いします。



本編ですが新たな原作キャラが出ます。


町に帰ってきて、華琳達と模擬戦をしてから3年程経過した。

俺は14歳になり華琳達は12歳だ。

あの模擬戦以後俺は3人を真名で呼ぶようにした。3人の喜び様は凄かった。

 

更に俺は父達に働きかけ、町の長を正式に華琳に引き継がせた。病に伏していた華琳の母、曹嵩様は遠く離れた村に静養という名目で隠居して貰い、父に付き従う様に手筈を整えた。

それにより俺も夏侯家を継ぎ正式に華琳の下に就くことになった。華琳は従兄の俺を下にはしたくないと言ったがそれでは後から来る者達に示しがつかないので断った。華琳は不満そうだったが公私混同は良くないんだと説得して公時の際は兄様とは呼ばせない様にした。

 

 

俺の立ち位置だが軍師兼任武将になっている。今は軍師がいないから仕方無い。

まあ今は俺、華琳、春蘭、秋蘭の4人しかまともに政務や討伐の指揮を出来る者がいないんだ。一応文武官の募集はしているが滅多に来ない上に期待外れな奴しか来ない。これに関しては地道にやっていくしかないな。

 

 

しかし・・・解ってはいたが漢王朝の衰退がこれ程までになるとはな。今洛陽にいるまともな奴は何進位だろう。孫堅は江東に戻された様だし、あの馬鹿も親共々ギョウに飛ばされたらしい。いよいよ乱世の始まりが見えてきたな。

しかし今の俺達に出来る事はこの町の事だけだ。すっかり寂れてしまった町を再び活性させる為に出来ることをやっていくしかない。

俺は手始めに町の警備を充実させる事にした。警備がしっかりしていれば町で狼藉を働く奴も少なくなる。そうすれば自然と人が集まるからな。

まず俺は兵達に分担を割り当てて常に町を見回る兵がいるようにした。当然発案した俺自身も見回りに参加する。手が空いてる時には春蘭と秋蘭にも手伝ってもらう。

兵達は将を見る。将が動けば兵も動くが将が動かなければ兵だって動かない。だから将である俺や春蘭と秋蘭が行動すれば兵達も積極的に動いてくれる。

やはり効果はあったな。兵達は怠慢無く警備に打ち込んでくれてる。まあ怠った兵には春蘭から厳しい修練が待っているからな、それもあるだろうな。

 

 

さて、俺の周りでは少し・・・いや、かなり対応に困る事が続いている。

華琳、春蘭、秋蘭がやたらと俺に絡んでくる。それはまだいいんだが・・・。

 

 

 

「兄様、こんなのはどうかしら?」

 

「冬兄、似合う?似合う?」

 

「兄者、これは私に合うだろうか?」

 

 

 

俺の前では華琳、春蘭、秋蘭が様々な服を着ては俺に見せてくる。3人も女だ、それはまだいいんだが・・・。

 

 

(何故俺は椅子に縛られてるんだ!?そして3人は俺の前で堂々と着替えるな!!これは尋問か!?拷問か!?)

 

 

俺は椅子に縄で縛り付けられ身動きが取れず、3人が俺の前で服を着替えるのを見せつけられている。

そりゃ子供の頃は一緒に風呂に入ったりはしたが、3人は育ってるんだ。眼のやり場に困るんだ。3人共少しは恥じらいをもってくれ・・・。

 

 

「兄様はこんな服は好きかしら?」

 

(華琳・・・服は似合うんだが下が短すぎだ・・・見えちまうぞ・・・。)

 

 

「冬兄、どうだ?似合うか?」

 

(春蘭・・・恥じらいをもってくれ・・・肌をさらしすぎだ・・・。)

 

 

「兄者・・・こんなのはどうだろうか?」

 

(秋蘭・・・お前が一番まともだと思ってたが・・・俺に何を求めてるんだ・・・。)

 

 

最近の3人の俺への態度には本当に困る。一体俺に何を求めてるんだろうか?

 

 

 

 

かれこれ2刻ほど3人の服選びに付き合わされ、精神的に参ったが警備を休む訳にはいかない。俺は町の見回りをしている。

見回りを始める前に比べれば商人が町に出入りする様になってきた。こう眼に見える成果があれば兵達もやり甲斐を覚えるだろう。

 

そんなことを考えながらふと細い路地に眼をやると1人の娘が籠を売っていた。何故そんな場所で籠を売っているのか気になり声をかけることにした。

 

 

「見せて貰えるか?」

 

 

俺が話しかけると娘は驚いた様だが俺の言葉を理解したのか何度も頷いた。

 

「・・・いい籠だな・・・手作りだな?」

「はい・・・私の邑の人達が作りました・・・。」

 

 

どうやらこの町まで売りに来たらしいな。

 

 

「どうして広い通りで売らないんだ?これ程いい籠ならすぐ売れるだろう?」

「そ・・・それは・・・。」

 

 

何やら口ごもっているがどうしたんだろうか?

 

それは娘の顔や腕を見て気が付いた。この娘にはあちこちに傷跡があるのが見えた。その傷跡を隠すためにこんな場所で売っていたのか・・・。

 

「その傷跡で恐れられるか、兵に追い出されるかと思ったのか?」

「えっ・・・!?はい・・・。」

 

 

娘は俯きながら肯定した。成る程・・・華琳達と同じ位の年だろうが傷跡を見られたくないが籠を売らないといけない・・・だからこんな場所で売っていたか。

 

 

「そんなことは無いしさせないさ、堂々と表通りで売ったらいい。」

「えっ・・・どうしてそんなことを言いきれるのですか・・・?」

「ん・・・?俺が警備の指揮をしているからだ。」

「・・・えええええっ!?」

 

 

 

 

表通りに移動させたら案の定籠は直ぐに売れた。娘は俺の後ろに隠れていたが次第に自分から客寄せをする様になった。

そして最後の籠が売れたので後片付けを手伝ってやっていると娘が話しかけてきた。

 

 

「あの・・・ありがとうございました。」

「俺は何もしてないさ、いい籠だったから売れたんだ。」

 

 

本当に俺は何もしてない、ただ籠を表通りで売るようにさせただけだ。

 

 

「あの・・・これからもここで籠を売ってもよろしいでしょうか・・・?」

「勿論だ、何時でも構わないぞ。もし兵や誰かに何か言われたら夏侯恩子雲の許可があると言ってやれ。」

「あ・・・ありがとうございます!!」

娘は深々と頭を下げた。そんな大した事ではないんだが・・・まあいいか。

それよりも・・・。

 

 

「1つ無礼を承知で聞いてもいいか?」

「・・・傷跡の事ですよね?」

「ああ・・・何故君の様な若い娘がそんな傷跡を・・・?」

「これは・・・友を庇って受けた傷なんです・・・。」

 

娘は話してくれた。

邑が賊に襲われた時、逃げ遅れた2人の友を救う為に賊に挑み、傷だらけになりながらも戦ったと。

 

 

「・・・そうだったのか・・・済まないな、聞いてしまって。」

「いえ・・・そんな・・・。」

「だが・・・尚更傷跡を隠さず堂々としていればいいぞ。」

「えっ・・・どうして・・・?」

「友を守って受けた傷ならその傷跡は友を守った証だ、隠さず胸を張ればいいんだ。」

「友を守った・・・証・・・。」

「そうだ、堂々と胸を張って言えばいい、この傷跡は誇りだとな。」「・・・う・・・ううっ・・・。」

 

突然泣きだした娘に俺は困惑した。そしたらいきなり泣きつかれた。

「お・・・おい!?なんでいきなり泣くんだ!?」

「ううっ・・・だって・・・だって・・・初めてだから・・・うわああああん!!」

 

 

(そうか・・・こいつはずっと悩んでたんだな・・・誰にも打ち明けられなくて苦しんでたんだな・・・)

 

 

「お前、名は?」

「・・・グスッ・・・楽進・・・文謙・・・真名は・・・凪です・・・。」

「いいのか?真名を預けて?」

「はい・・・グスン・・・。」

 

(楽進か・・・もう俺の知る武将が女なのには驚かないが・・・正義感の強さは変わらない様だな・・・。)

俺は心の中で苦笑していた。

 

 

それから凪が落ち着くまで好きにさせてやった。落ち着いてから凪は慌てて俺から離れたが顔が赤かったな、風邪でも引いたのか?

 

 

その後屋敷に戻ったら俺が見知らぬ娘と抱き合っていたという誤解が広まっていてそれを揉み消すのと華琳達の機嫌を直すのにかなり苦労させられた。なんで俺がこんな目にあうんだ・・・!?

 




凪登場&フラグ立ちました。

戦や政務、また気遣い等は完璧な恩さんですが女心は全く分からない鈍感っ振りです。

ちなみに3人の恩さんを思う強さは

秋蘭>華琳>春蘭

です。
いかがでしょうか?


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第十一話 飛躍への足掛かりと俺の準備

今回は繋ぎ的な話です。

アンケートを取らせて頂き、今後はオリジナルで展開させていきます。原作遵守が希望だった方には悪いですが、オリジナルの方が書きたいように書けるので色々変えてみたいと思います。


凪と会い、華琳達の機嫌を直すのに苦労してから1年。

俺は15になり、華琳達は13だ。

 

大分政務も進む様になったし、町の治安も警備により良くなってきた。商人の出入りも盛んになってきたし、盗みや食い逃げ等の被害もかなり少なくなってきた。

治安や流通が良くなると人も自然と集まる。最近は兵に志願してくる者も多くなってきた。兵が増えれば治安改善が進み町の活性に繋がる。良い様に回ってきたな。

 

そんな中で華琳に洛陽から陳留の太守に命ぜられた。この町からは少し離れるがこの町も領地になるから治める土地が増えたと喜ぶべきだろうな。

ただ洛陽から命を伝えに来た勅使があろうことか賄賂を要求してきたので痛い思いをして帰ってもらった。

さて、陳留の太守に命ぜられたので拠点を陳留に移す事になるが当然町の住人達はここが疎かになることを恐れるので、一先ずは兵になって長く警備経験も多い兵達を町に残し、定期的に兵を入れ替える方針にする事にした。そうした方が住人も安心だろうし、陳留でも警備隊を作る積もりだから大丈夫だろう。

 

俺達は一月程で移動の準備や町に残す兵の選別を行い、陳留に向かう日になった。

町の殆どの住人が見送りに出てきてくれたらしく、大通りには住人が溢れていた。

これは・・・嬉しいな。春蘭も秋蘭も嬉しそうだな。華琳も満更でもなさそうだ。

 

町の門まで来ると残していく兵達が待っていた。俺は警備隊の隊長に任命した兵に話しかける。

「済まないな、残していく兵達を頼むぞ。」

「はっ!!お任せください、夏侯恩様も陳留での新たな警備隊発足、頑張ってください!!」

「ああ、この町を頼んだ。」

 

 

兵達や住人に見送られて俺達は陳留に向けて出立した。

 

 

 

 

 

町を出立から3日で俺達は陳留に到着した。ゆっくりした行軍だった上に途中で発見した賊を討伐しながら3日で到着なら早馬なら1日かからず町に行けるな。

陳留の街に入ってみるとやはり寂れているな。俺が洛陽から戻った頃の町よりも酷いかもな。前任の太守は相当駄目な奴だったんだろう。

俺達は城に入城し、街の長との謁見を行なった。それから華琳と秋蘭と俺で街をどうしていくかの話し合いを始めた。春蘭には兵達を連れて街の様子を見てきてもらっている。街をどうしていくかだが先ずは治安改善が第一なので直ぐにでも警備隊を発足させようと思うが、陳留は俺達の町と比べると倍以上の広さで今いる兵の数ではかなりの負担になってしまう。徴兵してもすぐには集まらないし、今の俺達の名声では効力もないだろう。

それに今の陳留は財政も厳しい様で今すぐ兵を増やすのは得策では無い。

先ずは財政回復と治安向上が第一だ、俺は陳留の治安向上と流通向上を主に担当する事になった。ちなみに華琳と秋蘭は財政面を担当し、春蘭は賊の撃退や兵の鍛錬を担当する。まあ妥当な配置だろうな。

 

 

俺は早速街中を歩き回り、陳留の見取図を作成した。この見取図を元に警備隊の巡回路を決めると同時に治安の良い地域と悪い地域を選別する。そして治安の悪い地域から優先的に向上を進めていく。

治安の良し悪しを比較すると良い地域と悪い地域の差がかなり酷い事が分かった。悪い地域は死体が転がり犯罪は日常的だった。

俺は数人の兵を連れて最も治安の悪い地域に向かい、犯罪を犯した奴等を全員牢にぶちこんだ。それから兵達と共に死体をちゃんと弔ってやり、通りを掃除し、損壊の酷い家々の補修を行っていった。

一通り済ませると見違える様に綺麗になり、住人にはとても感謝された。ちなみに罪人達は罪の軽い奴は兵として徴兵し、重い奴は全員罰した。犯罪を犯した者がどうなるかを住人にはっきりさせる為に、最も重い処刑は住人達の前で行なった。これが効いたのか、陳留に来てから2月で犯罪は激減した。

賊も春蘭が返り討ちにしているし、華琳と秋蘭が財政面も回復させてきた。

陳留に移って6月もたった頃には大分改善された。治安はかなり良くなり人も増え商人も来る様になった。

 

 

 

そんな中俺はこれからの行動の為に商人達を通じて大陸の他の地がどうなっているかの情報を集めている。恐らく黄巾の乱が起こるまで後4年程だ、その4年で大陸を廻ろうと思っている。上手くいけば華琳の元に良い人材を回す事も出来る。

行く先の目星は付けてある。建業、成都、天水、西涼、幽州、それから荊州にある水鏡先生の私塾だ。それぞれの地で人材探しをするが向かう理由は別にある。

建業には孫堅がいる筈だし、いずれは攻める事になる地だ、だから地理を理解しておきたい、成都も同じ様な理由だ。

天水や西涼には董卓や馬謄を見ておきたい、それに董卓の陣営には呂布や張遼がいる筈だから将も見ておきたい。

幽州は劉備がいる筈だ、華琳の最大の敵になるであろう劉備がどんな奴か見たい。もしかしたら関羽もいるかもしれないしな。

水鏡先生の私塾には軍師を探しに行く、うちには軍師がいないから重要だ。

ただ1つ不安がある。恐らく俺の知る将はことごとく女だろう。つまり勧誘するために女を口説く事になる。正直上手く出来る気がしない。女を口説くなんてしたことが無いししようとも思ったことが無い。いくら乱世を勝ち抜く為とはいえ………俺に出来るだろうか………。

 

 

そんな不安を抱えながら街の警備と商人達からの情報収集を行う毎日だ。

 




活動報告のアンケートに自分案のキャラ入れ替えを書きました。
皆様も良ければキャラの異動案や今後の展開の希望等を活動報告にお寄せください。


次回から夏侯恩は本格的に行動を開始します。


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第十二話 行動開始

タイトル通り夏侯恩が行動を始めます。
また例の3人組が揃って登場します。


俺達が陳留に移ってから1年。

俺はいよいよ自分の計画を実行させる事にした。

 

俺のかつての経験と同じなら4年後に黄巾の乱が起こり、大陸は本格的に乱世へ突入する筈だ。だが今の俺達の力では乱世を勝ち抜く事は出来ない。だから俺は自分の足で優秀な人材を大陸を回りながら華琳の元に送る為の準備を陳留に移ってからしてきた。

それに華琳達には俺無しでも政務や軍事をしっかり出来る様になってもらわなければならない。特に華琳は主として俺を使うのをどうも躊躇いがちだからな。もっと王としての威厳を身に付けてもらいたい。

 

行動を起こす為、いつもは春蘭に下される賊討伐を俺が志願した。華琳達にはたまには実戦に出たいからと適当な理由を付けて討伐の任を受けた。

(華琳、春蘭、秋蘭、しばらく留守にするが陳留を頼むぞ。)

俺は心の中で華琳に詫びて、討伐隊を編成するために玉座の間を後にした。

 

 

 

 

秋蘭視点

 

……兄者の様子が妙だ……。

この1年、兄者は相当量の仕事を凄まじい勢いでこなしてきた。陳留の治安改善や発展は確かに必要だったがたった1年でここまで改善させる必要があっただろうか?

それに……陳留にやって来る商人達と密かに何かを話している。商人達との話し合いの最中は私や華琳様ですら通さない。兄者……一体何を考えているのだ……?

 

そんな中で兄者が賊討伐に志願した。別に賊討伐に行くのには驚かない、華琳様から指示があれば私も兄者も討伐に動くからな。しかし兄者が志願するのは初めてだ。そして玉座の間を出ていく時の兄者の顔……。

 

何か決意を秘めたあの顔が頭から離れない。何時もと違う兄者の顔に私の不安が掻き立てられる。まるでしばらくの別れを告げるみたいな……!?

そんな事があたまをよぎったらもういてもたってもいられなくなり、私は無断で討伐隊を率いて出陣した兄者を追う為に厩に向かった。

兄者……兄者……!!

 

 

 

秋蘭視点終了

 

 

 

俺は十数人の騎馬隊を率いて賊の拠点と思われる場所に向かっている。この兵達は俺の隊の兵で、俺がしばらく抜ける事を話してある。兵達は「将来のこの国の為ならば、喜んで汚名を被ります!!」と言ってくれた。俺が帰った時には隊の兵全員と飲み明かそうと誓った。

 

ただ1つ計画に支障があるとすれば……秋蘭だな。

何故か秋蘭が俺達の後を付いてきている。まだ距離は離れているが、このままでは俺に付いてきそうだ。

今陳留を華琳と春蘭の2人だけには出来ない。何とか秋蘭には陳留に戻ってもらわないとな。

幸い俺達は全員騎兵だ、行軍速度を上げて秋蘭を振り切るか。そして兵達には途中で散ってもらい俺が何処に行ったか分からなくすればいいだろう。

俺は馬の速度を上げて賊の拠点に向かった。

 

 

 

 

上手く秋蘭を撒いた俺は賊の拠点に攻め入り壊滅させた。後は兵達が来て処理してくれるだろう。

 

俺は馬に跨がり、拠点内にあった適当な羽織を頭から被り眼帯を左目に着けた。そして馬を南東に向けて走らせる。

しかし眼があるのに眼帯を着けるとかなり違和感があるな。左目の視界が無いことは慣れているがこの違和感にも慣れないとな。

さて……最初の目的地は荊州の水鏡先生の私塾だな、軍師候補がいるといいんだがな……。

 

 

 

 

華琳視点

 

今陳留の城内は大混乱に陥っている。それもその筈よ、何せ兄様……夏侯恩が賊討伐に行ってから行方不明になったのだから。

夏侯恩が率いていた兵達も知らない、分からないと言うし、無断で追っていった秋蘭も途中で見失ってしまったみたいだし。

その秋蘭は帰ってきてから部屋に籠ってしまったわ。無理もないわね、私達の中で一番兄様を慕っていたし……それに秋蘭が兄様に向ける視線、あれは従兄を見る眼じゃ無いわ、好きな男を見る眼だったわ。

でもね秋蘭、私だって兄様を想う気持ちは負けないわ、兄様は私達を従妹としか見てくれないけど、私だって女として兄様が好きなのよ。それは春蘭も同じ、あまり態度には出さないけど時折熱の籠った視線を兄様に向けてるわ。

ふふ……従姉妹でありながら1人の男を想う恋敵だなんてね……まあ兄様は鈍感だから分からないでしょうけど。

 

話が逸れたわ。とにかく今兄様が行方不明になった事を街の民達に知られる訳にはいかないわ。民達や陳留にやって来る商人達は皆兄様を慕っている、その兄様が行方不明と知れたら皆陳留を離れてしまう、それだけは阻止しなきゃいけない。でも兄様が討伐に出たのを何人もの民が見ている、それが帰ってこなければ皆不安に思う。

どうにかしないと……そういえば最近兄様はよく商人達と何か話をしていたわね……何か関係があるのかしら?

 

 

私は町で商人達の集まる一角にやって来た。目的は兄様が何を話していたのか探る為。話が聞ければ兄様が何を考えていたのかが解るかもしれない。

何人か声をかけたけど誰も何も話さない、相当隠していたい事なのかしら……私に隠し事なんて……兄様の馬鹿……。

 

「おや?曹操様、どうなさいました?」

 

悲しみに暮れていたら1人の商人が話しかけてきた。その商人は兄様が贔屓にしている商人の1人、もしかしたら何か知っているかしら……?

 

「……貴方は兄様とよく話をしていたわよね?」

「はい……もしや夏侯恩様が街を離れられたのですか?」

「……ええ……貴方は何か知っているの……?」

「後で夏侯恩様が使っていた広間に来てください、そこでお話致します。」

「あの広間に……?分かったわ……春蘭と秋蘭も呼んで構わないかしら?」

「構いません、夏侯惇様も夏侯淵様も悲しんでおられるでしょうから聞いていただいた方が気持ちが晴れると思います。」

「分かったわ、一刻程でいいかしら?」

「はい、では一刻後にお待ちしております。」

 

 

 

 

まさか話して貰えるとは思ってなかったけど、これで兄様が何を考えていたのか、どうしていなくなったのかが分かるわね。

城に戻る私の足取りはとても軽かったわ。

 

 

 

華琳視点終了

 

 

 

俺は荊州への道中、偶々見つけた邑で少しばかり食料を調達しようと思い、邑に立ち寄った。

自分の食料と馬の食料を少し買い、何気なく邑を見て回った。この辺りは俺達の領地では無い為か、守備の為の兵は無く、少々の防柵があるだけか……この程度では賊に襲われたらひとたまりもない筈だが……聞いてみるか。

 

「済まないがこの邑は賊に襲われた事は無いのか?」

「いや、何度かありますが……何か?」

「それにしては兵もいないし、随分守りが疎かな様だが?」

「この邑には何人か腕の立つ者がいまして、それで今まで無事でいられておりますじゃ」

 

 

腕の立つ者か……少数の賊なら問題無いだろうが、中規模以上の賊が来たら流石に危険だな……。

 

 

「……夏侯恩様……?」

 

 

名を呼ばれてもう華琳の差し向けた兵に見つかったかと思い振り向いたら……。

 

 

「……やはり夏侯恩様でした、お久しぶりです!!」

「……凪……?」

「はい!!夏侯恩様がどうしてこの邑に?」

「お前こそどうしたんだ?また籠を売りに来ていたのか?」

「あっ……ここが私の暮らしている邑なんです。」

 

 

まさか偶々立ち寄った邑が凪の住む邑だったとはな……偶然とはいえ驚いたな。

 

「なんや凪、この兄さん知り合いかいな?しかも真名まで許してどういう関係なん?」

「凪ちゃん沙和達に内緒で大胆な事してるのー。沙和もこんなカッコイイ人と知り合いになりたいのー。」

「ち……茶化すな2人とも……この方には街で籠を売るのにお世話になって……。」

「何々?もしかして凪が街に売りに行くのに積極的になったのって……中々やるやないか凪ー。」

「ヒューヒュー、いいなー凪ちゃん、沙和も街に売りに行きたいのー。」

「べ……別にそういう事じゃ……だから茶化すな……。」

 

 

イジられて慌ててる凪は珍しいな……だが流石にこのまま見てる訳にはいかないな。

 

「凪には街で籠を売る場所を提供しているんだ、2人は凪の友人か?ならあまりからかうのは良くないぞ?」

「なんや兄さんお堅い人やなぁ、うちは李典、字は曼成、真名は真桜や。」

「凪ちゃんとおんなじ感じなのー、沙和は于禁、字が文則、真名が沙和なのー。」

 

 

(于禁に李典か……しかしこの2人の話し方は変わっているな……これも時代の違いと言うやつか……。)

 

 

「いいのか?初対面で真名を預けて?」

「かまへんよ、凪が預けてるんやから兄さんは信用出来る人やから。」

「沙和もそう思うのー、凪ちゃんが信用する人だから大丈夫なのー。」

「ふ……2人とも……。」

「3人は仲がいいんだな、俺は夏侯恩、字は子雲、真名は冬椿だ。」

「夏侯恩って……もしかして最近噂になってる陳留の警備隊長さん!?」

「確かに陳留の警備隊隊長をしてるが噂とは何だ?」

「陳留の街を甦らせた凄い人だって噂が流れてるの!!邑に来る商人が皆そう言ってるの!!」

 

(どんな噂だよ……俺は特別な事をした訳じゃ無いんだが……。)

 

「でもその陳留の警備隊長さんが何でこの邑におるん?この辺は陳留の領地や無いで?」

「個人的な用件で荊州に行く途中で立ち寄っただけだ、特に意味はないぞ。」

「なーんだ、つまんないのー。」

「お前達……将軍である夏侯恩様にそんな態度は……。」

「俺は気にしないぞ、むしろ凪の様な堅苦しい態度の方が息が詰まるぞ。」

 

 

 

こんなやり取りをしてから俺は馬の所に戻ってきた。沙和、真桜、凪が見送りに来てくれている。

 

「夏侯恩様、気をつけて下さいね。」

「また来てや、楽しみにしとるでー。」

「そうなのー、楽しみにしてるのー。」

「ああ、もしも何か問題が起こったら陳留に使いを出すといい、俺の名を出せば支援位してくれる筈だからな。」

 

 

俺は一路荊州に向けて馬を走らせた。




もう少し書き進めたら登場人物のまとめを載せようと思います。原作キャラも性格等をいじってるのでこの作品での性格等を載せます。


オリジナルキャラも出していこうと考えていますがオリキャラ案や真名案などあれば活動報告にお寄せください。


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第十三話 華琳の新たなる決意とかつて邂逅した者達

比較的スムーズに纏められました。

今回夏侯恩は出ませんが懐かしいキャラが出ます。

被お気に入りが気付けば千を超えました、皆様ありがとうございます。


華琳視点

 

私は春蘭と秋蘭を連れて兄様が商人達との話し合いに使っていた広間に向かっている。話を聞かせてくれる商人との約束は一刻後だったけれど、閉じ籠もってた秋蘭を引っ張り出すのにかなり手間取って半刻程遅くなっちゃったわ。

その秋蘭だけど兄様がいなくなったのが相当堪えてるみたいね。無理もないわ、秋蘭は兄様が大好きなんだから何も告げずに去られたら悲しむに決まってるわ。兄様ったら戦や政の事には信じられない位色々気付けるのに、ホントこういう事には無頓着と言うか鈍感と言うか……私達の好意に全然気付かないなんて……馬鹿……。

 

そんなことを考えながら広間に着くと、扉の前にはあの商人が立っていた。

 

「御待ちしておりました、少々お時間がかかっていましたが、やはり夏侯淵様が?」

「ええ、秋蘭を引っ張り出すのに手間取ってね、待たせたかしら?」

「いいえ、こちらも準備に少々手間取りまして、さあ、お入りください。」

 

 

広間に入ると、そこには壁に隙間無く沢山の地図が貼ってあり、沢山の書や竹間が山積みされてあった。私も春蘭も秋蘭もこの広間の異常な感じに圧倒されたわ。

 

「驚かれましたか?私もこれ程までの大陸の情報は見たこともありませんでしたよ。」

「……教えて……兄様は……何故こんなことを……?」

「夏侯恩様は、全ては乱世を勝ち抜く為だと仰られてました。」

「……乱世を勝ち抜く……?」

「はい、夏侯恩様は先の先まで見越しておられます。漢王朝の権威は今や無きに等しく、私腹を肥やす者や暴利を貪る者ばかり、いずれ大きな乱が起こり時代は乱世に進んでいくと仰っていました。」

「ええ……そしてその乱世を、私は覇道で突き進むわ。」

「しかし夏侯恩様は今のままではいずれ現れる強敵に踏み潰されるとお考えです、乱世を勝ち抜くには優秀な人材がもっと必要だと仰っていました。」

「……じゃあ兄様がいなくなったのは……!?」

「はい、夏侯恩様は優秀な人材を探す為、そしていずれ戦で進むであろう土地を自ら見極める為に陳留を離れられました。この事はご自分の兵や街の住人達には既にお話しております。」

 

 

(やってくれるわね……兄様……知らないのは私達だけ?これじゃ慌ててた私達がいい笑い者じゃない……。)

 

 

「夏侯恩様は曹操様達に話さなかった理由も仰っていました。未だに甘えがある3人に試練を与えなければ成長は無い、もし俺が戻る迄に俺の予想以上の成長が見られたら3人の望みを叶えてやる、とも仰っていましたよ。」

 

 

(……ふふふ……兄様……今の言葉は私の心の火に大量の油を注いだわよ……絶対に兄様の予想を越えてみせるわ!!)

 

 

「どうやらお話したのは間違いでは無かった様ですね、夏侯恩様の危惧も杞憂だった様です。」

「ええ、ありがとう、お陰で兄様が必ず帰ってくることも分かったし、優秀な人材も来る様だし、兄様から必ずご褒美を貰わなくちゃいけないしね。」

「冬兄からのご褒美!!必ず貰いましょう、華琳様!!」

「兄者……私も頑張ります……必ず帰ってきてください……!!」

「それは何よりです、では私はこれにて。」

 

 

兄様……私達は必ず成長するわ……だから兄様……必ず無事で帰ってきて……じゃなきゃ許さないんだから……!!

 

 

 

 

 

 

冀州ギョウ

 

「私が今日より袁家当主になりました袁本初ですわ!!兵の皆さん!!皆さんの命、この地の平和の為に、袁家の繁栄の為に、この袁本初に貸してください!!」

「オオオオオオオォォォォォッ!!」

「麗羽様……変わったな……。」

「そうだね……何があったんだろう……?」

「それは麗羽にしか分からない事よ、私達は変わらず麗羽を支えるだけよ。」

「そうだな、あたい達は今まで通りに。」

「麗羽様に付き従っていくだけだね。」

「さあ、猪々子さん、斗詩さん、桂花さん、このギョウの地を更に発展させて行きますわよ。」

「「「ハッ!!」」」

 

(子雲さん……洛陽で最後に会ってからもう何年経ったでしょう……洛陽で子雲さんが真名を預けて下さらなかったのは私が世間知らずで傲慢だったからだと私は考えています。子雲さんの仕えている曹操さんには及ばないかもしれませんが、私なりに頑張っています……次にお会いする事がありましたら、その時こそ真名を預けて頂ける様に、私も精進して参りますわ……。)

 

冀州ギョウ、豫州陳留に勝るとも劣らぬ平穏な地なり。

 

 

 

 

 

荊州某所 水鏡学院

 

 

「ねぇねぇ雛里ちゃん。」

「どうしたの?朱里ちゃん。」

「ずっと気になってたんだけど、どうして一ヶ所誰も座らない席があるんだろう?」

「そう言えば誰も座らないね、あの席。」

「うん、誰の席なんだろう?」

「気になるのかしら?」

「はわわ!?水鏡先生!?」

「あわわ!?いつの間に!?」

「あの席はね、ある男の子……いいえ、年齢的には青年と言うべきかしらね。」

「はわわ!?男の人の席なんでしゅか!?」

「あわわ!?もしかしてこの学院が女の子しかいないのに女学院じゃないのはもしかしゅて!?」

「ええ……その青年が来るのを私はずっと待っているのよ。」

「……水鏡先生、その男の人は先生から見てどれ位凄かったんでしゅか?」

「そうね……出会ったのはもう10年位前だったけれど、既に今の2人位の知を持っていたわね……。」

「そ……そんなにしゅごかったんでしゅか……?」

「ええ……それに彼は努力を怠らないわ……もしかしたら今の大陸で一番の知になっているかも……。」

「……そんなに凄い人がいるなんて……もっと頑張らなきゃ……。」

「……そんなに凄い人がいるなんて……会ってみたいな……。」

「ふふふ……きっといつか会えるわ……彼が来てくれればね……。」

 

 

 

 

水鏡学院にはまだ見ぬ知者に対抗意識を持つ少女と憧れを抱く少女がいた。

 

 

 

 

荊州南部長沙

 

 

「うははははーっ、今日からこの地は妾の物なのじゃーっ!!」

「流石美羽様、作戦大成功ですねーっ。」

 

「堅殿、これからどうするのじゃ?」

「……私の短慮で折角の領地を失っちまった……皆には悪いが再起を期すまで江東各地に散ってくれるかい……?」

「……やむを得ないでしょう……雪蓮は私が何とかします。」

「済まないね冥琳、祭は私に付いてくれ、蓮花と小蓮には穏、頼むよ。」

「わかりました~。」

「本当に済まないね皆……しばらくは苦汁を舐めさせられるが、私達は必ずまた立ち上がる、その時まで私に付き合ってくれ……。」

「堅殿……行きましょうぞ……。」

「ああ……冥琳、穏、娘達の事……よろしくな。」

「「ハッ!!」」

 

 

 

 

江東の虎は自らの過ちにより、袁術に領地を奪われ再起を目指す身になっていた。

 

 

大陸各地に乱世の兆しが徐々に現れて来ていた。




懐かしいキャラや初登場キャラを出して見ましたがいかがでしょうか?


既に何人かのオリキャラ案を頂きました、本当にありがとうございます。
皆様もこんなキャラを出して欲しい、このキャラはこの陣営にして欲しい等活動報告やメッセージにお寄せください。


次回はある方と再開します。


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第十四話 幼き知者との邂逅

今回はあの2人と出会います。


冬椿はとても紳士的な人物です。


陳留を離れて一月。

俺は荊州の襄陽に来た。たしか水鏡先生は襄陽の何処かに私塾を作ると言っていたんだが……何処だか全く分からん。おそらく水鏡先生は大きい街には作っていないんだろう。こうなったら襄陽中をしらみ潰しに探すしか無いんだろうが、襄陽は陳留と比べると領地も広い上に地形も起伏に富んでいる。探すのに何日かかるか分からんが……やるしかないだろう。幸いまだ手持ちの食料には余裕があるし、季節は春だ、最悪山で獲物を採ればいいだろう。

 

「よし……気合を入れて行くか。」

 

一先ず西側から当たってみるか。

 

 

 

 

 

水鏡先生の私塾を探し始めて4日。今俺は山にいるんだが……。

 

「まさか猪に不覚を取るとはな……。」

 

正面から襲ってきた猪に気を取られ、左から来た猪に気付かなかった。完全に眼帯による死角だったが俺の油断が原因だ、早く慣れないといかんな。

幸い2頭の猪は仕留めたが、左腕と左足を負傷しちまった。薬や手頃な布も持っていない、どうしたものか……。

 

 

 

カサッ

 

(……何かの気配がする……また猪か……!?)

 

カサカサッ

 

(ちっ……あまり動けん……何とか一撃で仕留めなければ……!!)

 

ガサガサッ

 

(さあ……来いっ!!)

 

「……朱里ちゃん……本当に合ってるの……?」

 

(っ……!?子供の声!?何故こんな山に子供が!?)

 

「だ……大丈夫だよ雛里ちゃん……きっと合ってるよ……。」

 

(しかも2人……それに女!?)

 

「ほら、出られた……はわっ!?」

「朱里ちゃんどうしたの……あわっ!?」

 

茂みから現れたのは2人の子供だった。

 

「はわわ……こ……殺さないでくだしゃい……。」

「あわわ……た……助けてくだしゃい……。」

「ん……?ああ……済まん、驚かせてしまったな。」

 

俺は右手に握っていた朴刀を地面に刺して離す。

 

「ほら、なにもしないから早く家に帰りな。」

「はわ……さ……山賊じゃないんでしゅか……?」

「山賊じゃないぞ、猪を狩ってただけだ。」

「あわ……け……怪我してるんでしゅか……?」

「ん……ああ……ちょっと油断してな。」

「……雛里ちゃん、お薬持ってたよね?」

「……うん、手当てしてあげよう。」

「お……おい、俺の事はいいから家に帰るんだ。」

「怪我してる人をほっとけましぇん!!」

「そうでしゅ!!ほっとけましぇん!!」

 

そう言って2人は俺の左腕と左足の傷の手当てをしてくれた。

子供が山の中を歩き回ってるのもそうだが何故傷の手当てまでしっかり出来るんだろうか?気になった俺は聞いてみることにした。

 

「……2人はこの辺に住んでいるのか?」

「はわ!?……はい、そうでしゅ。」

「あわ!?……この近くの私塾に住んでましゅ。」

「私塾……!?すまんがその私塾の先生は水鏡先生で間違いないか!?」

「はわわ!?そうでしゅよ!?」

「あわわ!?水鏡先生を知ってるんでしゅか!?」

「短い期間だが水鏡先生に教わっていた、まさかこんな山の中に私塾を作るなんて……。」

「……水鏡先生に……?」

「……教わっていた……?」

「済まないが案内してくれないか?実は水鏡先生の私塾を探しに襄陽まで来たんだ。」

「は……はひ!!わかりましゅた!!」

「つ……ちゅいてきてくだしゃい!!」

 

 

2人の案内の元水鏡先生の私塾に向かい山を進む。しかしこんな山道を子供に歩かせるには酷なので俺の馬に乗せてやった。俺は手当てして貰ったお陰で歩く程度には問題ない、そんな柔な鍛え方はしていないからな。

山道を進むと山中に立派な建物が見えてきた。あれが水鏡先生の私塾、水鏡学院だそうだ。門の前で2人を馬から降ろすと水鏡先生の名を呼びながら中に走っていった。

しばらく待っていると2人に手を引かれてやって来た……。

 

「お久しぶりです、水鏡先生。」

 

「ま……まさか……子雲君なの……!?」

「はい、夏侯恩子雲です。水鏡先生、十数年振りですが御元気そうですね。」

「ええ……子雲君も、あんなに小さかった子雲君がこんなに凛々しく逞しくなって……!?子雲君、その眼帯は!?何があったの!?」

「す……水鏡先生……お客様なのに立ち話は良くないと思いましゅ……。」

「あっ……そ……そうね……子雲君、入門証は持ってきてるかしら?」

「勿論です、あのときは男に渡したのは初めてだと言っていましたが、あれから男の子供は受け入れたのですか?」

「いいえ、結局男の子に子雲君の様な子はいなかったわ……さあ、入って頂戴。」

 

俺は水鏡先生に付いて私塾の中を歩いていく。後ろには2人が付いてきている。何人かの子供とすれ違ったが皆一様に驚いていたな。まあ女しかいない私塾に男が来たんだ、驚くに決まっているか。

 

案内されたのは水鏡先生の部屋の様だ。扉に許可無く立入禁止と札がかかっていた。

 

「朱里、雛里、2人は部屋に戻りなさい。」

「はわ!?……はい……。」

「あわ!?……わかりました……。」

 

2人は落ち込みながら離れていった。

 

「さあ、座って頂戴、子雲君。」

「ありがとうございます、失礼します。」

 

俺と水鏡先生は机を挟み向かい合って座る。

 

「色々聞きたいけれど……先ずは私と別れてからの十数年、子雲君が何をしてきたのか聞かせてくれるかしら?」

「……そうですね、この十数年色々ありましたよ。」

 

 

俺はこの十数年の事を話した。洛陽に行った事。洛陽の乱れを感じた事。実戦を経験した事。町に戻り華琳の配下になった事。今は陳留で将軍及び警備隊隊長をしている事。全てを話した。

 

 

「様々な経験をしたのね……子雲君は……。」

「はい、剣の修行も学も欠かさずにやって来ましたよ。」

「じゃあその眼帯はどうしたの?それに陳留の将軍が何故荊州に来たの?」

「陳留を離れたのは優秀な人材を探すため、眼帯は正体を隠す為と察知能力を高める為って所です。」

「それじゃあ子雲君がここに来た目的は……?」

「……はい、優秀な軍師を探す為です。」

「……やっぱり子雲君は軍師にはならないのね……子雲君なら間違いなく大陸一の軍師になれるのに……。」

「俺が目指すのは孟徳の天下を斬り開く為の武と知ですから……大陸一の軍師になりたい訳ではないので。」

「残念ね……それに今いる子達はまだ幼い……まだ軍でやっていける年齢では無いわ……だから連れていく事は許可出来ないわ……。」

「分かっています。何人かすれ違った生徒は皆子供……水鏡先生に教えを受けているから皆優秀でしょうが、いきなり軍を任せる事は出来ない……まして戦場に連れていくなど出来ません。」

「……それじゃあどうするのかしら?このまま陳留に帰るの?」

「俺は今、数年先を見て行動しています。水鏡先生が特に優秀だと思う生徒に話をさせて頂きたいんです。この学院から巣立った時、陳留に仕官してくれないかと。」

「……本当に勿体無いわ……子雲君の眼は……一体何処まで見ているの……?」

 

 

「…………数年後に始まる乱世……そしてその先にある華琳の……曹孟徳の天下まで。」

 

 

「……子雲君の決意は分かったわ。私が特に優秀だと思う生徒は3人いるわ。」

「3人……その名は……?」

「……諸葛亮孔明、ホウ統士元、徐庶元直、この3人が水鏡学院の誇る3人よ。」

 

(やはり諸葛亮にホウ統、徐庶か……かつて徐庶に3人は水鏡先生の元で同門だったと聞いていたからこれには驚かないな。)

 

「因みにさっき子雲君を案内してきた黄色い髪の子が孔明ちゃん、とんがり帽子を被った子が士元ちゃんよ。」

「……なっ……!?あの2人が……!?」

 

 

 

予想外な事に俺は頭を抱えるしか無かった。




と言うわけで諸葛亮とホウ統と出会いました。

2人共原作とは性格等が変わります、その辺も後に載せるキャラクター紹介に書いていきます。


次回は朱里と雛里と更に絡みます。


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第十五話 伏龍と鳳雛と

ちょっと時間がかかりました。

朱里と雛里ともう少し絡みます。


諸葛亮とホウ統が少女だと知り驚愕してからも水鏡先生と話を続け、気が付くと外はすっかり暗くなっていた。

 

「随分長く話し込んでいたみたいね……。」

「そうですね……しまった……宿まで遠いな……。」

「しばらくここにいたらどうかしら?滞在する猶予はあるのでしょう?」

「いいんですか?かなりの生徒がいる様ですが……?」

「空き部屋ならあるわ、元々子雲君の為の部屋なのよ。」

「なら……済みませんがしばらく厄介になります。」

「ええ、それじゃあ案内を……。」

 

水鏡先生は立ち上がると部屋の扉を開けた。

 

「はわっ!?」

「あわっ!?」

「盗み聞きは感心しないわよ、朱里ちゃん、雛里ちゃん。」

 

諸葛亮とホウ統は立ち去る振りをして話を盗み聞きしていた様だな。

 

「構いませんよ水鏡先生。聞かれて困る様な話では無いですから。」

「そう?子雲君がいいならいいけど。」

「だが盗み聞きは良くないな、2人だって盗み聞きされたら気分は良くないだろう?」

「……はい……考えが足りませんでした……。」

「……はい……ごめんなさい……。」

 

2人は揃って頭を下げる。まるで姉妹みたいだな。

 

「分かってくれたならいいさ。さて、まだちゃんと挨拶をしていなかったな。姓は夏侯、名は恩、字は子雲、真名は冬椿だ。」

「はわわ!?真名まで預けてくれるんでしゅか!?」

「あわわ!?どうしてまにゃまで!?」

「さっき傷の手当てをして貰っただろう?俺は恩を受けた者に礼として真名を預けるんだ。2人は俺に真名を預けてくれなくても構わないぞ。」

「そんな失礼な事は出来ましぇん!!姓は諸葛、名は亮、字は孔明、真名は朱里でしゅ!!」

「あわわ……姓はホウ、名は統、字は士元、真名は雛里でしゅ……。」

 

2人はそれぞれ帽子を取って挨拶してくれる。

 

「そうか……短い間かもしれんがよろしくな、朱里、雛里。」

 

俺はつい2人の頭をくしゃくしゃと撫でてしまった。

 

「はわわ!?そんな子供扱いしないでくだしゃい!!」

「あわわ!?……あわわ……。」

「っと……スマン、従妹がいるからつい撫でちまった。」

 

俺は撫でてた2人の頭から手を離す。朱里は子供扱いされたと思い文句を言ってきたが撫でる手を払うことは無かった。雛里は大人しく撫でられてたな。何となく態度が朱里は華琳、雛里は秋蘭に似てたな。

そういえば俺が頭を撫でると皆顔を赤くするが……何故だ?

 

 

「はいはい、仲良くするのはいいから、朱里ちゃんに雛里ちゃん、子雲君を部屋に案内してあげて頂戴。」

「はわっ!?わかりましゅた!!」

「あわっ!?付いてきてくだしゃい!!」

「ああ、頼むよ、水鏡先生、失礼しました。」

 

 

手を振り見送る水鏡先生を背に俺は朱里と雛里に案内されて学院を歩いていく。朱里と雛里は時折俺をチラッと見てはまた前を向く、を繰り返している。

 

「……俺の顔に何か付いてるか?」

「はわっ!?な、何も付いてないでしゅ!!」

「あわっ!?な、何でも無いでしゅ!!」

 

 

……何というか見ていて和むな……慌てて話して噛むのは……。

 

「あの……聞いてもいいでしゅか……?」

不意に朱里が話しかけてきた。

 

「何だ?」

「冬椿さんの妹ってどんな人なんですか?」

「妹と言っても従兄妹なんだがな……2歳離れた従妹が3人いるぞ。」

「3人!?三つ子なんでしゅか!?」

「いや、その3人も従姉妹だ。俺が仕えている曹操と共に曹操に仕えている夏侯惇と夏侯淵だ。」

「ええっ!?従妹さんに仕えているんでしゅか!?」

「確かに産まれたのは俺の方が早いが俺の父が曹家に仕えていたんだ。だから主従としては曹操が上なんだ。」

「そ……そうなんでしゅか……。」

 

そんなことを話ながら歩いていき、おそらく宿舎であろう建物の一番奥の部屋の前に着いた。

 

「ここが水鏡先生が冬椿さん用にあてがわれた部屋です。」

「そうか、済まんな。」

 

 

扉を開けて中に入ると……あまりの部屋の広さに驚いた。

 

「おい……何だよこの部屋の広さは……!?」

「はわわ!?凄く豪華でしゅ!?」

「あわわ!?私達の部屋の倍は有りそうでしゅ!?」

 

 

水鏡先生……これは差別にならないか……?こんな部屋に1人は……辛いぞ?

 

 

「……朱里、雛里、この部屋しか空きは無いのか……?」

「……今はこの部屋しか無いでしゅ……。」

「……朱里ちゃん……冬椿さん……凄いんだね……。」

「……冬椿さん……案内も終わりましたから……私達はこれで失礼します……。」

「あっ……!?朱里ちゃん引っ張らないで!?」

いきなり朱里が雛里を引っ張って部屋を出ていった。最後に朱里と目が合ったが……あの目には嫉妬や怒り、悔しさが篭っていた。

かつての俺が関羽に対して向けていた目と同じ目だな。俺は関羽が孟徳に高く評価された事に嫉妬した。確かに関羽は強かった、それは俺も認めていた。だが孟徳が俺よりも関羽を優遇し、俺の立ち位置を関羽に奪われてしまう事を恐れた。結局関羽は孟徳の元には付かず劉備の元に戻ったが俺は心の何処かで安堵していた。その後俺と関羽が直接戦う事は無かったが、呉に討たれるまで関羽には負けんと鍛錬を止めなかったな。

話が逸れたが、さっきの朱里の目は正にそう言った思いが篭っていた。朱里にはおそらく水鏡学院で一番なのは自分だと言う自負があるんだろう。そこへいきなり現れた俺が自分よりも上と評価されれば嫉妬するのも当然だろう。

こうなると朱里は陳留には間違いなく来ないだろう。諸葛亮はこの時代でも俺達の敵となるか。

 

 

朱里視点

 

 

 

私は無言のまま雛里ちゃんの手を引き宿舎の廊下を歩いていく。雛里ちゃんが何か言ってるけど私の耳には入らなかった。とにかく子雲さんから離れたかった。

こんな感情を抱くなんて自分でも驚いてる。今まで誰かに嫉妬したりする事は無かった。

でも私は子雲さんに嫉妬した。自分よりも頭が良くて色々な事を知ってて、あの水鏡先生よりも凄い人、それも男の人。

私だって水鏡学院に来て水鏡先生に教わったり自分で書物を読んだりして沢山の知識を身に付けた。水鏡先生には及ばないけど、水鏡学院では一番だって思ってた。

負けたくない。子雲さんに負けたくないよ。でも今までのやり方じゃきっと勝てない。子雲さんに勝つには……もっと……。




この小説での朱里はちょっとダークになります。こんな朱里でもいいと思うんです。
雛里は純情なキャラになります。秋蘭に近い感じになります。


次回はオリキャラを出します。


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第十六話 勧誘、そして苦悩

今回は実験的に恋姫っぽくお色気場面を入れて見ました。
合う合わないは皆様の判断にお任せしますがちょいちょい入れていくつもりです。
そして初オリキャラが登場します。


翌日、俺は改めて水鏡先生の部屋を訪れた。水鏡先生と軽く挨拶してから1つの部屋に案内された。中に入ると雛里ともう1人がいた。朱里がいないのを見ると恐らくは徐庶だろう。

 

 

「お兄さんが夏侯恩さん?ボクは徐庶、字は元直、真名は優里だよ。」

「初対面なのに真名を預けていいのか?」

「構わないよ、雛里が許してるならお兄さんはいい人だって事だからね。」

「そうか、なら預かるぞ優里、俺は夏侯恩、字は子雲、真名は冬椿だ。」

「冬椿さんだね、ボク的にはお兄さんの方が呼びやすいからお兄さんでいいかな?」

「ああ、好きに呼んでくれて構わない。」

 

徐庶、優里との挨拶を済ませてから俺は2人と半刻程雑談に費やした。

雛里も優里も幼いながらもかなり知に優れているのが雑談してるだけでも分かる。優里は更に武も多少優れているらしく、水鏡学院に賊が来た時には優里がほぼ1人で倒していると雛里が話してくれた。

この2人は是非とも俺達の元に置きたいな。だが無理強いはしない。あくまでも本人の意思で来て貰いたいからな。さて、そろそろ本題に入るとするか。

 

 

「雛里、優里、2人は水鏡学院を出たらどうするつもりだ?」

「……私は……まだ分からないでしゅ……はう……。」

「ボクも決めてないよ、しばらくは大陸を回ろうかなと思ってるけどね。」

「2人とも、俺達の元に来る気は無いか?2人の才なら軍師として充分だ。」

「あわっ!?私と優里ちゃんが陳留の軍師でしゅか!?」

「へぇ……雛里から聞いてたけど、陳留の将軍様から直々に勧誘に来るなんてね。」

「勿論無理強いはしないし今すぐ答えを出す必要も無いぞ。ゆっくり考えて答えを出してくれれば構わないからな。」

 

俺はそう言って席を外す為に立ち上がる。

 

「お兄さん、何処か行くの?」

「考えるのに俺が居たら良くないからな、それに日課の鍛錬をしたいんだ。」

 

俺は2人を残して部屋を出る。

外に出る為に廊下を歩いていくと向こうから朱里が歩いてくる。俺と朱里は何も言わずに擦れ違う。そして数歩歩いてから朱里が話しかけてきた。

 

「子雲さん、私は陳留には行きません。」

「ああ、あの部屋に居なかったのが答えなんだろう?孔明。」

「私は負けませんから、必ず子雲さんの上に行ってみせますから。」

「いつか、この大陸を掛けて勝負だな、孔明。」

 

俺と朱里はそれだけ言葉を交わしてまた歩きだした。

朱里はいずれ俺達の最大の壁として立ちはだかるだろう。だが負ける訳にはいかない、俺達が乱世の覇者になるんだからな。

 

 

俺は雛里と優里と話をしてから数日程水鏡学院に留まった。

日課である鍛錬をしながら、男手が無いので力仕事を引き受けたり、時には水鏡先生に頼まれて生徒に教えたりする事もあった。

やはり朱里は俺の授業には来なかったが雛里は毎回来ていたな。水鏡先生の認める程の知なのに俺に教わる事など無いと思うんだがな。

日課の鍛錬に優里が加わる事もあった。優里は撃剣の使い手で中々の腕前だった。華琳や春蘭、秋蘭には少し劣るが充分に一軍の将として通用する実力を持っている。その上朱里と雛里と同等の知を持っているのだからとても優秀だな。

 

 

今日も朝の鍛錬を優里と共にしてから薪割りや離れた町への買い出しに出掛け、戻ってからは生徒達が俺に質問に来るのに答えていた。

今は与えられた自室でくつろぎながらこれからの事を考えていた。

 

(そろそろここを立たなくてはならないな、襄陽から南に向かえば袁術の領地だな。新しい情報だと孫堅の領地が袁術の領地に呑み込まれているが何があったのか……直接会えればいいが……。)

 

そんなことを考えていると雛里の声が聞こえた。

 

「冬椿さん……お風呂の順番ですよ……。」

「そうか、わざわざ済まないな雛里。」

「……あの……冬椿さん……その……。」

「……どうかしたのか?」

「雛里はお兄さんと一緒にお風呂に入りたいんだってさ。」

「あわっ!?優里ちゃん!?」

「……雛里……いくらなんでもな……。」

「……ダメでしゅか……?」

「うっ……し、しかし……水鏡先生の許可無くは……。」

「それならさっき雛里が水鏡先生に許可を貰ってましたよ?」

「……冬椿さん……ダメでしゅか……?」

 

ウルウルした眼で俺を見てくる雛里。その眼や仕草が昔の秋蘭とそっくりだ。正直その眼をされると弱いんだ、物凄い罪悪感に駆られる。

 

「……今日だけだぞ……?」

「……!?……はいっ!!」

「よかったね雛里、勇気を出した甲斐があったじゃん。」

「うんっ……ありがとう優里ちゃん……。」

「さて……いくぞ雛里。」

 

雛里と一緒に浴場に向かうと何故か優里も付いてきた。

 

「何故優里も付いて来るんだ?」

「ボクも水鏡先生に許可を貰ってあるんだよ?雛里はよくてボクは除け者にするの?」

「優里ちゃん……冬椿さん……優里ちゃんも一緒に……3人で入りませんか……?」

「……分かったよ……優里も今日だけだからな……。」

「流石お兄さん、心が広いね。」

 

 

 

そんな訳で3人で浴場に来た。流石に一緒に着替えるのは不味いので俺が先に着替える事にした。優里は一緒に着替えても構わないと言ってきたがそれだけはやめさせた。

 

俺は服を脱ぎ腰に手ぬぐいを2枚巻いてから2人に入ってくる様に伝えると先に湯に浸かる。少しして2人の足音が聞こえてきた。

 

「お兄さん、お待たせ~。」

「と……冬椿さん……お待たせしました……。」

「ああ、2人も湯に浸かれよ……」

 

2人も湯に浸かってから向き合うと何とも気恥ずかしい空気になる。

 

「お兄さん、可愛い女の子2人とお風呂に入ってるんだからもっとはしゃげばいいのに。」

「はしゃげるか、優里はもっと恥じらいを持てよ、もっとちゃんと隠してくれ。」

「おっ、やっぱりお兄さんも男だねぇ、ほらほら。」

「なっ!?やめろ!?腕にしがみつくな!?」

 

優里の体は同い年の筈の雛里より明らかに成長している。恐らく華琳よりも出る場所は出ている。そんな体で腕にしがみつかれたら腕に感触が……だからやめてくれ……抑えるのに必死なんだ……。

 

「ゆ……優里ちゃん……えいっ!!」

「おっ、おい!?雛里!?」

「……優里ちゃんに……負けたくないです……!!」

「何を張り合ってるんだ!?頼むから離れてくれ!!」

 

雛里の体は年相応だが、僅かに膨らみかけた場所が腕に……駄目だ!!何も考えるな!!無心になれ俺!!

「ほらほら、どうなの?お兄さん。」

「冬椿さん……。(ウルウル)」

「た……頼むから……やめてくれ……耐えろ……俺の理性よ……!!」

 

2人はまるで張り合うかの様に俺の腕に胸を押し付けてくるので俺は必死に理性を保った。

 

 

結局理性は持ちこたえたが長く湯に浸かっていた為全員のぼせてしまい、遅いのを不信に思った水鏡先生に助けられ、意識が回復してから3人揃って水鏡先生にお叱りを受ける事になったのだった。




オリキャラ徐庶登場です。しかもいきなり雛里と一緒に冬椿を悩ませました。

三國無双のキャラにうまく恋姫無双の展開に持ち込ませるのは大変ですがなんとかやっていきます。

こういうお色気場面をちょいちょい出していくつもりですが、似合わないからやめろとかもっと濃い絡みが見たいとかありましたら活動報告やメッセージにお願いします。


次回は水鏡学院から出立します。


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第十七話 鳳雛の巣立ち

今回は雛里の決意と想いが表れます。

しかし自分で書いておきながら冬椿の鈍感さは凄いと思います。


水鏡先生のお叱りを受けてから数日。

俺はそろそろ出立する事を水鏡先生に話すために水鏡先生の部屋を訪ねた。

 

 

「失礼します、水鏡先生。」

「あら色男君、どうしたの?」

「……それは忘れてください……。」

「うふふ、冗談よ、それでどうしたの?」

「そろそろ立とうと思ってるんです。」

「そう……淋しくなるわね。」

「済みません……お世話になっておいて何も出来ませんが……。」

「なら一晩共にして貰おうかしら?」

「……勘弁してください……。」

 

 

 

それから数日かけて出立の準備を整えながら情報をまとめていた。目的地は南の袁術の領地と決まっている。

今の袁術の領地は荊州の南四郡から江東までの広範囲を領地としている。江東は元々孫堅の領地だったが何故か袁術に呑み込まれている。あの孫堅に何があったのかが気になるな。

それに長江域なら水練に秀でた者が多いだろう。いずれ必ず水軍を使う時が来る筈だからな、出来れば陳留に勧誘したいものだな。

 

 

 

 

雛里視点

 

最近冬椿さんが色々調べてる……きっと近く水鏡学院を出ていっちゃうんだ……。

冬椿さんに陳留に誘われてから私の心の中は冬椿さんでいっぱいでしゅ……あんなに優しくてカッコよくてとても紳士的で……勇気を出して一緒にお風呂に入った時は優里ちゃんに冬椿さんを取られたくなくて……あんなことまでしちゃって……水鏡先生に叱られた時には私達を庇ってくれて、私が冬椿さんに謝ったら私の頭を撫でながら気にするなと言ってくれて……。

私が冬椿さんに抱いてる想い……優里ちゃんは恋だって……男の人を愛する事だって教えてくれた……。冬椿さんの事を考えたり、お話をすると心がとっても暖かくなって……冬椿さんが優里ちゃんとか他の子と話してるのを見たら心がチクチク痛くなる……これが恋……最初はよく分からなかったけど……今なら分かる……。

私は……冬椿さんが好き……冬椿さんと一緒にいたい……。陳留の曹操さんの軍師じゃなくて、冬椿さんの軍師になりたい。

でも……冬椿さんはもうすぐここを出ていっちゃう……。冬椿さんは大陸を回ってから陳留に戻るって言ってた……今冬椿さんと離れたらきっと何年も会えなくなっちゃう……そんなの……そんなの嫌だよ……。

 

「何悩んでるの、雛里。」

「……優里ちゃん……。」

「お兄さん、きっと2、3日したら出ていっちゃうよ。」

「……うん……分かってる……。」

「……雛里はお兄さんに付いていきたいんじゃないの?」

「……でも……大陸を回るのに……私が付いていったって……。」

「……雛里はどうしたいのさ?」

「……私は……冬椿さんと一緒にいたいよ……でも……。」

「だったらその想いをお兄さんにぶつけたらいいじゃない、行動する前から恐れてたら進めないよ。」

「……でも……でも……。」

「……焦れったいなぁ……そんなに不安ならずっと怯えてればいいよ、ボクがお兄さんに付いてくから。」

「……えっ……優里ちゃん……!?」

「雛里が行動しないんならボクが行動するよ、ボクもお兄さん好きだし、ああ見えて押しに弱そうだから強引に迫れば……。」

 

優里ちゃんの言葉の後半は私の耳には届いてなかったです。呆然としてる私の頭の中では考えたくない事がグルグル渦巻いてました。

冬椿さんと優里ちゃん……2人で大陸を回ってる……お互いの距離がとても近く……寄り添って寝たり……遂には裸の2人の影が重なって……。

そこまで考え、ふと優里ちゃんが扉のほうに向かってるのが見えて……気が付いたら私は扉の前に優里ちゃんに立ちはだかる様に立ってました……。

 

「……雛里……退いてくれる?」

「……ダメ……ダメなの……。」

「何がダメなの?お兄さんの所に行くんだから退いてくれる?」

「ダメなの!!優里ちゃんでも……優里ちゃんでもダメなの!!私が……私が冬椿さんに付いていくの!!だからダメなの!!」

「……雛里……気付くの遅すぎだよ。」

「えっ……!?優里ちゃん……?」

「ボクは雛里の本音が聞きたかったんだよ、理屈云々は抜きにした雛里の本音がね。」

「えっ……じゃあ……。」

「ボクはお兄さんに付いてくつもりは無いよ、まぁ雛里が最後まで渋ったら付いてく気だったけどね。」

「……優里ちゃん……。」

「雛里、水鏡先生の部屋に行ってきなよ、水鏡先生にはちゃんと話しておかなきゃダメでしょう?」

「……うん……ありがとう優里ちゃん……。」

 

優里ちゃんに背中を押されて私は水鏡先生の部屋に向かいます。もう心は決めました。私は……冬椿さんに付いていきます……冬椿さんの傍にいたいです。

 

 

雛里視点終了

 

水鏡学院を立つ日、俺は日の出る前に門に来た。門の前には水鏡先生がいた。

 

「また来てね、子雲君。」

「はい、水鏡先生、お世話になりました。」

「……冬椿さん!!」

 

声がしたので振り向くと、雛里と優里がいた。2人は勘づいてるだろうとは思っていたが……雛里の格好はまるで旅に出る様な格好だ。

 

「冬椿さん……私も連れていってくだしゃい!!」

「……何!?どうして……!?」

「私……冬椿さんの軍師になりたいんでしゅ!!冬椿さんの傍にいたいんでしゅ!!」

「……雛里……お前……。」

「お兄さん、女の子がここまで言ってるんだよ?それを無下にするの?」

「子雲君、雛里ちゃんは本気なの、私も子雲君になら安心して雛里ちゃんを任せられるわ、一緒に連れていってあげて頂戴。」

「……危険だぞ?宿も食事も保証は無いんだ、それでも一緒に来たいのか?」

「はい、我慢しましゅ、冬椿さんの傍に置いてくだしゃい!!」

「……分かった……宜しくな、雛里。」

「あっ……はい!!宜しくお願いしましゅ!!」

 

 

 

 

 

こうして俺は雛里と共に水鏡学院を後にして南へと向かうのだった。




雛里は冬椿専属の軍師になりました、これからは冬椿にベッタリになります。

優里は原作の星みたいな感じになってます、からかいつつ核心を突く感じは軍師の素質です。


次回は2人旅の模様をお見せします。


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第十八話 虎との再会

大分お待たせしました。

連載はなんとか続けていきますのでよろしくお願いします。
今回後半がかなりグダグダかもしれないです。


雛里と共に水鏡学院を後にして数日。俺達は南に向けて馬を進めている。ただ馬は俺の一頭しかいない。どうしているかと言うと……。

 

 

「……雛里……。」

「何ですか?冬椿さん。」

「……そんなにくっつかなくてもいいと思うんだが……。」

「こうしてる方が安全ですよ?」

「それは分かるんだが……。」

「……嫌なんでしゅか……?(ウルウル)」

「うっ……嫌ではないが……。」

 

 

 

こんな感じで雛里を俺の前に乗せてるんだが……雛里はやたらと俺にくっついてくる。しかも少し離そうとすると泣きそうな顔で見上げてきて俺の罪悪感を煽ってくるのでなし崩し的に雛里の思うままになっている感じだ。この俺の心を責めてくる感じは昔の秋蘭とそっくりだな。そんなやりとりをしながら襄陽から長沙に入りあちこち回っているんだが……かなり酷いな。袁術……袁紹の従妹だと聞いているが、あの家系は馬鹿しか産まれないのか?と疑問に思うな。

袁術の領地は税がかなり重いらしく立ち寄った邑や町はかなり貧しい生活を余儀無くされている様だ。それにより賊も多く何度も襲われた。まあ全て討ったがな。

今も立ち寄った邑を襲ってきた賊を討ち、賊の大将の身柄を軍に引き渡す為に邑に留まっているんだが……軍の動きが明らかに遅い。この辺りは長沙からはそれほど離れていない筈だがこの遅さはおかしい。

 

しばらく待っていると漸く軍の連中が来た様だ。文句の1つでも言ってやろうかと思いそっちを向いて……驚いた。

やって来たのは孫堅と黄蓋だった。孫堅は俺の事を憶えていないのだろう、大した反応が無いが黄蓋からは驚きと警戒心が見えるな。

 

「あんたかい?この邑を襲ってきた賊を討ったのは?」

「そうだ……まさかこんな所でまた会うとは思わなかったぞ、孫堅、黄蓋。」

「うん?なんで私と祭の事を知ってるんだい?」

「堅殿、夏侯のご子息じゃよ、洛陽で策殿らを儂と一緒に見ておったよ。」

「ああ、あの時の坊やかい、それは悪かったね、憶えてなくて。」

「それは構わないさ、どうやら変わり無い様だな、少し安心した。」

 

そんな会話をしながら賊の身柄を預けると、孫堅は兵だけを先に戻らせて俺をマジマジと観察し出した。

 

「随分逞しくなったもんだね、あの頃からやけに達観した子供だとは思ってたけどここまでになるとはね。」

「そいつはどうも……あれから鍛錬はサボっていないし場数も大分踏んだからな。」

「へぇ……祭はどう見る?」

「……寸分も隙を見せない上に纏う覇気……正直に言えば全盛期の堅殿を越えているやもしれませぬな……。」

「ちょっと……それは聞き捨てならないわね……私が坊やに負けるとでも言うのかい?」

「まあ……領地を奪われる様な年寄りに負けるつもりは無いが?」

「……年寄り……?私が年寄りだって……?」

 

途端に孫堅の雰囲気が変わり、体からは覇気が溢れてくる。雛里はすっかり怯えて俺の後ろにしがみついてる。

 

「……上等だよ!!面貸しな!!私はまだまだ若いって事を教えてやるよ!!」

「いいだろう、賊よりは歯応えがある事を期待するぞ。」

「その減らず口を塞いでやるよ!!祭!!立ち会いな!!」

「やれやれ……困った堅殿じゃ……そこのお嬢ちゃんはどうするかな?」

「あわっ!?一緒にいきましゅ!!」

 

 

こうして俺と孫堅は邑から少し離れた場所で勝負する事になった。正直な所食い付いて来るとは思ってなかったんだが……どうやら血気盛んな様だな……しかし孫堅から溢れ出る覇気は正に虎だな、気を緩めたら殺られかねないな。

 

 

「覚悟は出来たかい!!私に喧嘩を売ったことを後悔させてやるよ!!」

「そっちも負けて恥をかく覚悟は出来たか?」

「まだ言うかい!!祭!!早く始めな!!」

「血が昇りすぎじゃよ堅殿……では……始め!!」

 

 

 

 

黄蓋視点

 

堅殿と夏侯恩の仕合、儂は火が付いた堅殿がアッサリ勝つと思っておった。しかし夏侯恩は堅殿と互角以上に渡り合い、今は堅殿を圧し始めておる。

数年前、堅殿の補佐として洛陽にいた時に出会ったまだ子供だった夏侯恩。子供ながら覇気を使い、一緒に賊討伐に行った時には崖から飛び降り、賊の大将を討ち取った。その頃はいずれ儂等の脅威になるやもと警戒しておったが、夏侯恩が洛陽を去ってからは気になって仕方がなかった。

洛陽での任期を終えて江東に戻ってからは時折夏侯恩の情報を集めさせた。陳留の曹操と言う小娘に仕えているとの情報を得てからは兵を旅人に仕立てて陳留に送ったりもした。

その夏侯恩が儂の前で堅殿を圧している。堅殿に勝てる者などいないと思っておった、堅殿は江東の虎の異名を持つ程の武を誇っておる。少々知が足りず、それにより江東の地を奪われたが、武で敵う者はいなかった。

その堅殿を夏侯恩は完全に圧しているのが儂には信じられなかった。儂でもまだ敵わない堅殿が明らかに圧されている。

堅殿の表情がどんどん曇っていく、既に全力で攻めているのだろう、だが夏侯恩はまだ余裕を感じさせる表情をしておる。

そして……堅殿に疲労の色が見えた瞬間、夏侯恩は堅殿の持つ南海覇王を弾き飛ばして剣先を堅殿に向ける。

 

「……勝者……夏侯恩……。」

 

儂が挙げた勝者の声はとても小さかった。

 




孫堅と夏侯恩との再開と仕合です。
戦闘模写はやはり苦手です。

次回は来年1月中には載せられる様に頑張ります


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第十九話 虎の秘めた思いと若虎の秘めた願い

今回はちょっと短めです。

孫堅がある思いを胸に秘めます。
そして若虎はすぐ分かります。


孫堅の剣を弾き飛ばし、朴刀を孫堅の喉に突きつける。孫堅は苦々しげに俺を見上げてくるが、やがて大の字に寝転がるといきなり叫んだ。

 

「ああああああーーーっ!!負けたああーーーーっ!!」

 

大声で叫ばれて近くにいた俺は思わず怯んだ。叫び声で怯むとは俺もまだまだだな、と考えていると孫堅は上体だけを起こす。

 

「あー参った参った、まさか私が負けるとはねぇ。」

 

そう言いながら立ち上がる孫堅。負けたのに随分清々しい顔をしているな。

 

「坊や……夏侯恩だったね、中々やるじゃないか。祭はどう思う?」

「……正直堅殿に勝つとは思わなかったですな、儂や策殿では相手にならないでしょうな。」

「俺は誰にも負けない、大陸一になるからな。」

「あわわ……カッコイイでしゅ……。」

「ハッハッハ!!お嬢ちゃんは夏侯恩にお熱かい!!」

「……雛里……お前……。」

「あわっ!?……あわわ……。」

 

雛里が顔を真っ赤にして慌てている。あまり雛里を弄ってやるな、黄蓋も笑ってるぞ。

 

「おや、小さいお嬢ちゃんは夏侯恩に惚れ込んでるみたいだねぇ、夏侯恩は小さい女が好みなのかい?」

「……何故そうなるんだ、雛里は軍師になるんだ、俺達の軍のな。」

「小さいお嬢ちゃんが軍師かい、祭はどう思う?」

「うちの冥琳や穏も若いですが、このお嬢ちゃんは若すぎる気がしますな。」

「雛里は優秀な軍師だ、俺以上に、大陸一になれる才能を持ってる。」

「あわわ……言い過ぎでしゅよ……。」

 

雛里は謙遜しているが俺は本気で雛里は大陸一になれると思っている。それだけの才能を有しているんだ。その才能を開花させられるかどうかは雛里次第だが雛里なら出来ると俺は信じている。

 

「これからは若い奴等の時代なのかねぇ……私もそろそろ引き際なのかねぇ……。」

「何を仰います堅殿!!我らにはまだまだ堅殿の力が必要ですぞ!!」

 

孫堅がいきなりしんみりした顔で弱気な事を言い出した。俺や雛里を見て気持ちが老いたんだろうな。

 

「いきなり何を言ってるんだ、あんたは娘とは違うだろう、あんたにはあんたにしか出来ない事があるだろう。」

「夏侯恩……私にしか出来ない事ねぇ……。」

 

 

 

孫堅は何か考えている様だな。だが俺達には目的がある、長居は出来ないからな。

 

「孫堅、俺達はもう行くぞ。」

「ん?そんなに急がなくてもいいじゃないか、私らの城に来な、もてなし位するよ?」

「……しかしな……。」

「袁術の領地を自由に動ける手形も用意させるよ?」

「……世話になる……。」

「そうこなくちゃね、祭、雪蓮と冥琳に城に来るように早馬を出しな。」

「了解じゃ、今日は宴会じゃな、堅殿。」

「あっはっは、そうだね、盛大にやろうじゃないか!!」

 

 

……何故だかとてつもなく嫌な予感がするな……手形に釣られたのは間違いだったか……。

 

 

雪蓮視点

 

「雪蓮、そんなに急ぐ必要は無いだろう!?」

 

私の後ろから馬を飛ばしながら冥琳が叫ぶけど私は構わずむしろ馬の速度を上げる。速く、もっと速くと私の勘が訴える。けどこれ以上速度を上げたら馬が潰れちゃうから今の速度が限界、これでも最大限に急いでるのよ。

 

「いったい何だと言うんだ、祭殿からの早馬の報告を聞くなり飛び出して行くなんて!?」

「会いたいの!!速く会いたいのよ!!」

「別に急がなくても何時でも会えるだろう!?」

「母様じゃないわ!!小さい頃に会って憧れた人よ!!」

 

 

ちらっと振り向いて冥琳を見ると唖然としてるわね。

当然よね今まで冥琳にも妹の蓮花や小蓮にも話した事は無かったわ。幼いながらも感じた強さ、纏う覇気、それでいて歳は私と変わらないのに揺るがぬ芯を持ってた。母様と同じかそれ以上に憧れた人に会えるのに急がないなんてあり得ないわ。

 

 

「やっと……やっと話が出来るわ……夏侯恩……。」

 

 

私はボソッと呟いた。憧れの人の名を、私が目指す人の名を。




孫堅の秘めたる思いが何なのかは後々分かりますが鋭い人はあっさり看破されると思います。

そしてここにも夏侯恩に憧れを抱く人がいました。こんな感じのキャラはもう何人かいますがあくまでも夏侯恩の強さや人柄に憧れたので恋愛対象ではありません。(会ってどうなるかはわかりません)


次回は宴の模様をお送りします。


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第二十話 若虎と夏侯恩

だいぶお待たせしました。

何とかやっていきますよ。


外はすっかり暗くなったが、今俺がいる長沙の外れにある小さな街の城は賑やか……いや、騒々しいな。

孫堅に誘われてこの街に来て城に通されて、宴が始まった時にはまだ日は出ていた。それからずっと宴が続いているが、既に孫堅と黄蓋と俺しかいない。少ないながらもいた他の文官や武官は早々に席を立ち、雛里は飲むなと言ったのに酒を飲んで酔い潰れてさっき俺達の客間に運んだ。雛里には今後酒は絶対に飲ませないと誓う、まさかあんなに悪酔いするとはな……。

 

そんな訳で今この広間には俺達3人しかいないのだが……。

 

「夏侯恩~、もっと飲みなさいよ~。」

「いや……飲んでるぞ……。」

「遠慮するでないわ、ほれ、もっと飲め。」

「だから飲んでるぞ……。」

「なによ~、あたしの酒が飲めないってのかい~。」

「堅殿ばかりでなく儂の酒も飲まぬか。」

「そんなにまとめて飲めるか……!!」

 

 

ずっとこんな感じだ。この2人はかなり酒癖が悪い上にやたら絡んでくる。俺も酒は好きだが騒がしく飲むよりは静かに飲む方が好きなんだが、この2人のせいでそれは出来ない。

それにこの2人は酒癖が悪い上にやたらと飲みまくっていて、回りには酒の入っていた器や壺が散乱している。一体どれだけ飲んでいるのか……この2人には付き合いきれんな。

俺は席を立つ、酔った孫堅が俺に絡んでくる。

 

「夏侯恩~、何処行くのよ~、もっと飲みなさいよ~。」

「酔いを冷ましに行くだけだ、2人で好きなだけ飲んでいろ。」

 

俺はそう言って広間を出ると風に当たりに城壁へと足を向けた。

 

 

 

雪蓮視点

 

馬を飛ばして母様の城に急いだけど途中で冥琳の馬が持たなくて仕方無く速度を落としたら暗くなっちゃったわね。城に着いて馬を預けてから母様と夏侯恩がいるだろう広間に向かう足取りは思わず速くなっちゃう、でもそこで私の勘が城壁へ行けと訴える。自慢じゃ無いけど私の勘は外れた事が無いわ、私が方向を変えると当然冥琳が止める。

 

「雪蓮、何処へ行くつもりだ?」

「え~、厠よ厠、冥琳も一緒にしたいの?」

「はぁ……早く行ってきなさい、私は先に行ってるわ。」

「は~い、母様と祭によろしくね~。」

 

私は逸る気持ちを抑えて城壁に向かう。直ぐそこの筈なのにその道程はとても長く感じたわ。

そして見つけた、城壁に佇む男、私の憧れた人を。

 

「……やっと……やっと会えたわ……夏侯恩……。」

 

 

 

雪蓮視点終了

 

「……やっと……やっと会えたわ……夏侯恩……。」

 

声をかけられ振り向くと、そこには俺と歳は同じ位の女がいた。褐色の肌に桃色の長い髪、目のやり場に困る服、そして雰囲気や纏う覇気は孫堅ととても似ている。

 

「……お前は……。」

「あ……そうよね……覚えてないわよね……私は……。」

「……孫策……だろう?」

「孫策…………えっ……!?」

「数年前洛陽で会っている……よくはしゃぐ子供だったな。」

「貴方が落ち着き過ぎなだけだと思うわよ……でも……覚えてくれてたんだ……。」

「孫堅によく似ているからな。」

「そっか……覚えててもらって光栄だわ……私、ずっと貴方に憧れてたのよ。」

「……俺に憧れていた……?」

 

(俺と孫策の関わりは洛陽でのほんの僅かな物だが、俺に憧れるとはどういう事だ?)

 

「私は江東の虎の娘よ?覇気を感じとれるし人を見る目位持ってるわ、幼かったといえね。」

「ならその目に俺はどの様に写ったんだ?」

 

他人から自分がどう見えたのか気になった俺は孫策に聞き返す。その答えは……。

 

「真の強さと気高さ……それと、真っ直ぐな信念と願い……それを感じたわ、正に英雄よ……貴方らは。」

 

 

俺の予想を遥かに超える評価だった。

 

「そこまで言ってもらえるのは有りがたいが……英雄は言い過ぎだと思うが……。」

「いいえ、間違いないわ……今の貴方を見て確信したわよ、貴方は間違いなく英雄たる男よ。」

 

 

英雄は流石に買い被り過ぎだと思うが……まあ他人からどう見えているのか分かっただけでもいいか。

そう考えていると孫策からとんでもない事を言われる。

 

 

「ねぇ、貴方は人の下にいるべきじゃないわ、私達の上に立たない?」

「……いきなり何を言ってるんだお前は……。」

「貴方は英雄よ、下にいるべきじゃないわ、貴方だって上に立ちたいでしょう?」

「……俺は自分を英雄だと思ってないし上に立ちたいとも思ってない。」

「……それ……本気で言ってるの……?」

「俺は陳留太守曹孟徳の配下、夏侯子雲だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

 

 

俺がそう言うと孫策は一瞬かなりの覇気を放ったが直ぐに抑えて俺に背を向ける。

 

 

「そう……なら今は諦めるわ……今はね……。」

 

 

そう言ってクスリと笑う孫策を見て俺は思った。

 

 

(今は……か……孫策伯符……小覇王の名は偽り無しか……。)

 

 

 

俺はこの時直感した。孫策こそ俺達の最大の障壁になるのではないか……と。

 

 

 

その頃宴をしていた広間では孫堅と黄蓋が正座させられて周瑜にくどくどと説教されていて、翌日2人が周瑜の監視の元悲鳴をあげながら溜まっていた政務をさせられたのは余談だ。




孫策の心にも嫉妬が芽生えました、対象は冬椿よりも華琳に向きます、要は羨ましいんです。


最近創作意欲が上がらないです。恋姫熱が冷めた訳じゃないのに……やっぱり思いつきで書き始めたからでしょうか……。
でも何とか、遅くなってもいいから続けようと奮起してるこの頃です。


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第二一話 旅の再開、新たな出会い

やっと出来ました。
待っていてくれた方もそうでない方もお待たせしました。

今回は新たなキャラが出ます。


孫堅の城に来てから数日経った。

俺と雛里は昨日から東に向かって旅を再開した。

 

何故昨日からなのかと言うと色々あったからだ。

 

 

本当なら翌日には手形を貰い旅に出るつもりだったのだが、雛里が二日酔いで寝込んでしまったのでまず1日ずれた。

更に手形を貰おうと孫堅の元を訪ねたら孫策と黄蓋と共に溜め込んでいたらしい政務をしていて4日程待たされた。

 

その際に周瑜を紹介された。周瑜は鞭を片手に3人が逃げない様にずっと見張っているらしく、時折見張りを代わってやった。

又溜まっていた政務が片付いた日の夜に気晴らしに酒に誘ったら、相当鬱憤が溜まっていたのだろう、かなりの酒を煽り3人に対する愚痴を散々聞かされた。まあ俺も従妹3人の愚痴を言ったのでお互い様だろう。同じ様な苦労をする者同士として酒を酌み交わし、真名も預け合ったのだがこれが更に余計な事態を招いた。

翌日に手形を貰いにいった時に周瑜が俺の真名を口走り、3人が周瑜を問い詰めた。俺はその隙に部屋を出ようとしたが、周瑜が白状してしまい逃げられず、今度は俺が問いただされた挙げ句3人と勝負させられる羽目になった。まあ勝負にはきっちり勝たせてもらったが。

そして3人からも真名を預けられた。

 

孫堅の真名が蓮虎、黄蓋が祭、孫策が雪蓮、周瑜が冥琳だ。

しかしこいつらの服はどうにかしてほしい限りだ。4人が4人とも女でも羨む様な体つきをしている上に布が少ない。正直目のやり場に困るし雛里が蔑んだ様な怨みが籠った様な目で俺を見てきて俺の心が責められる。雛里、頼むからそんな目で見ないでくれ……。

 

 

そんな事があり予定がずれたが、俺達は東、江東に向かい馬を進めているのだが雛里の機嫌がまだ悪い。前に座らせているから表情は見えないが明らかに怒っている雰囲気を纏っている。原因は俺とあの4人なんだろうが……どうにも声をかけづらい。

だが何時までもこのままでは俺が持たないので意を決して声をかける事にした。

 

 

 

「ひ…雛里…。」

「何ですか?巨乳好きな冬椿さん。」

「うぐ…頼むから機嫌を直してくれないか…?」

「何を言ってるんですか?私はもう怒ってませんよ?」

 

そう言って振り返る雛里は確かに笑顔だったが、俺はその笑顔を見て背筋が冷えたし明らかに不機嫌な雰囲気を纏っているんだが…。

 

「ただ私はどうしたら巨乳をこの世界から消滅させることが出来るのかを考えてるだけですから、もう怒ってませんよ。」

 

 

それを聞いて、俺は雛里に話しかける事が出来なくなりった。そして雛里の機嫌を損ねるのは止めようと心に誓って馬を進めるのだった。

 

 

 

???視点

 

 

私は今森の中に身を潜めて人が通るのを待ってます。目的は通りがかった人のお金や食べ物を頂く為です。そうしないと私は生きていけません。それしか生き方を知らないですし誰も教えてくれません、私はこの森で1人で生きてきましたから。

私はお兄ちゃんと一緒にこの森で生きてきました。お父さんとお母さんは私は知りません。お兄ちゃんが話してくれたのは暮らしてた邑が山賊に襲われて死んだって事だけでした。そのお兄ちゃんも少し前に死んじゃいました。お金を頂こうとした人が強くて私が殺られそうになった所をお兄ちゃんが私を庇って斬られちゃって…私はこの森に1人になっちゃいました。

それにしても最近この森を人が通らなくなっちゃいました。最後に人が来たのはもう10日も前で、最後の食べ物は昨日食べちゃって朝から何も食べてなくてちょっとフラフラします…。

そんな事を考えてたら近くに人の気配がしました。森の入り口の方に行くと馬に乗った男の人と女の子が森に入ってくるのを見ました。久しぶりの獲物です、絶対に食べ物を頂かないと…。私は慎重に2人に近付きながら背中に背負ったお兄ちゃんの剣に手をかけました。

 

 

???視点終了

 

 

 

東へと馬を進めて2日経ち、森に差し掛かった。直前に立ち寄った邑で仕入れた情報だとこの森を抜けるのが建業への最短距離らしいが、賊が頻繁に現れて金や食料を奪っていくらしい。しかもかなりの手練れで現れるまで気配が全くしないそうだ。それほどの手練れなら普通の行商人や護衛では太刀打ち出来ないだろうな。

だが俺には通用しない。なので森を抜ける事にした。雛里は慌てていたが俺は大丈夫だと雛里の頭を撫でてやった。

 

そして俺達は森の入り口まで来た。俺は森の中の賊の気配を探ってみたが人の気配を感じない。この森の広さがどの位なのかは知らないが、俺の気配探知の広さは陳留の街の端に居ても反対側の端にいた春蘭の気配を探知出来る程だ。つまりこの賊は相当気配を消す事に長けた奴だと言うことになる。

このままでは賊を見つけ出す事は出来ない。なら誘き寄せるしかない。俺は馬を森の中に進めた。雛里が怯えた様子で俺にしがみついてくる。俺はあえて馬の足音が辺りに響く様に歩かせて賊の気配を探る、範囲はこの近くに絞る。俺の気配探知力は範囲を絞れば絞った分精密になるが、もしこれで見つけられなかったら俺もお手上げだ。しかし微かながら気配を感じ取る事が出来た。正確な位置までは解らないがおおよそ何処にいるか判れば動きやすいからな。

どうやら賊は1人らしく、付かず離れずつけてきている。おそらく期を伺っているのだろう。どうするべきか考えていると雛里が立ち寄った邑で調達した果物を取り出して渡してきた。なるほど、更に餌を撒いて引き寄せるか。俺は果物を受け取るとあえて賊に見せつける様に持つ。一瞬だが賊の気配が揺れた。そして近付いてくる。俺は果物を賊に向かって投げると馬を降りる、と同時に馬の腹を蹴り馬を森の外に向けて走らせる。馬に残した雛里に一応馬術は教えているから止める位は出来る筈だ。

俺は賊の方に向き直る、そこには目を疑いたくなる奴が居た。

 

 

俺の前には身の丈よりも長い剣を背に背負い、投げた果物が当たったであろう額を擦る少女が居たのだから。




投稿頻度は遅いと思いますがなんとか続けていきますのでこれからもよろしくお願いいたします。


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第二十二話 対峙する冬椿、寂しがる雛里

だいぶ時間が開いてしまいました。
恋姫英雄譚のキャラとかを見てどうしようかと考えたりバイトが忙しかったり色々ありましたがなんとか執筆始めた続けております。

今回は噂の賊との戦いですがあっさりしてます。
後冬椿さんは少なめです。


俺が果物を投げた賊。そいつは雛里とそれほど背丈の変わらない少女だった。かなり長い黒髪に背丈程ある鞘に入った細身の剣を背に背負い、身なりはぼろぼろで薄汚れていてとても普通の少女が身につける様な物じゃない。つまりこの少女が件の賊で間違いないのだろう。

だが今目の前にいる少女は俺が不意打ち気味に投げた果物が額に当たったらしく、へたりこんで額を押さえているが。

 

「うぅ~…痛いです~…。

「その、なんだ…すまなかった…。」

「い、いえ……はうあっ!?」

 

俺がつい普通に謝ると少女は慌てて距離を取り背の剣に手をかける。俺も念のため腰にある剣を抜く。

 

「食べ物かお金を…置いていくのです!!」

 

少女は俺に接近しながら剣を抜いて横凪ぎに斬りかかってくる。その速さはかなりの速さで普通の奴が初見で防ぐのはかなり難しいだろう。だが俺にははっきり見えているから剣の軌道に合わせて俺の剣を動かせば容易に防げる。

少女は俺が防いだのに一瞬戸惑った様だがすぐに間合いを取りまた斬りかかってくるがそれも防ぐ。それが何度か繰り返される。

どうやらこの少女は速さや気配を消す事に関してはかなりの物だが力が無いのと剣術の知識が無いのだろう。剣をただ闇雲に振るしか出来ず、長い剣を大振りするため剣に振り回されている。やはりこの少女が今まで返り討ちに合わなかったのは間近まで気配を消して接近出来た事と初見では防ぎ辛い速さの賜物だろう。それが通じない相手だったらこの少女に勝ち目は万に一つも無いのは明らかだ。

 

しばらくの間少女の攻撃を防ぎ続けていると動きが眼に見えて落ちてきた。既に肩で大きく息をしているし何度も剣を落としそうになっている。これ以上続けるのは酷だろう、俺は気を静めて周辺に気配を徐々に同化させていく。

さて、相手には俺がどう見えているか…。俺には驚愕の表情をしている少女の表情がはっきりと見えていた。

 

 

???視点

 

私は困惑してました。隠れてた私の気配を感じ取るだけじゃなく私の速さすら完全に捉えてた目の前の剣を持ったお兄さんに。

これまで私が襲った人の中には少ないけど私の気配に気付く人はいました。だけど私の攻撃を最初から防げる人はいませんでした。だから最初の私の攻撃で怯んだ所を食べ物を奪ったり、荷物を置いて逃げる人ばかりだったから今までやってこれました。

けどこのお兄さんには全然隙がありません。でもこのお兄さんを逃したら私は生きていけない。だから私は必死に剣を振りました。でももう限界で…そしたらふとお兄さんの気配が小さくなってるのに気付いてお兄さんを見ました。

私は驚きました。お兄さんが少しずつ透けていくからです。最初は私が疲れて変な風に見えたのかと思ったけどお兄さんがどんどん透けていって私の目がおかしい訳じゃないのがわかりました。そしてお兄さんが透けていくと気配もどんどん小さくなってるのに気付いて私はもう混乱してました。私よりも凄いこのお兄さん、私は既に疲れきってフラフラ、もう奪う事も逃げる事も出来ません。

それでも何とか逃げようと少し逸らした視線をもう一度お兄さんに向けたら…そこにお兄さんは居ませんでした。慌てて周りを見回したけどどこにも姿は無く気配すら感じられません。

 

「すまんな、少し寝ててくれ。」

 

どこからかお兄さんの声がしたと思ったら痛みを感じて…私の意識は途切れました。

 

 

???視点終了

 

 

気配を断ち気を周囲に同化させて素早く少女の背後に回り込み首に軽く手刀を当てて少女を気絶させる。ゆっくり前に倒れる少女を支えてその場に寝かせてやる。

少女の身なりはかなりボロボロで薄汚れている、かなり長い間この森で生きていたのだろう。この少女に何が起こったのか…直接聞いてみなければ分からないが、これはいい拾い物かもしれない。

少女の身を隠す能力はかなりの才能だ、ちゃんと育ててやれば偵察や斥候として大いに活躍出来るだろう。しかしそれには少女がその道を選んでくれなければならない、無理に押しつける訳にはいかないからな。どうしたものか。

そんな事を考えていると森の出口の方が騒がしくなっているのを感じた。俺は考えるのを止めて少女を担ぎ上げると森の出口に向かって歩きだした。

 

 

 

雛里視点

 

 

私は走る馬に必死でしがみついてます。

冬椿さんが森に現れるという賊の気配に感じて馬を降りてから馬を先に行かせました。その馬に必死にしがみついてます。

一応冬椿さんに馬術は教わってちょっとだけなら操れる様にはなりました、だけどこんなに速く走らせた事は無いです。もう振り落とされない様にしがみつくのに精一杯でとても手綱を握れません。

このまま止まらなくて遠くまで行っちゃって冬椿さんとも離ればなれになっちゃって…考えただけで涙が出てきちゃいました。

ところが馬の走る速さが少しずつ遅くなってるのを感じて私はゆっくり目を開いて前を見ました。すると森の出口が見えたので私は何とか馬を止めようと手綱を握ろうとしたけど手が届きません。

それでも馬は出口に近付くにつれどんどん遅くなっていって森を出た所で止まりました。

 

「あ…ありがとう…止まってくれて…」

 

私はちょっと怯えながら馬にお礼を言いました。すると馬はそれに答える様に短く小さく嘶きました。まるで私の言った事が分かるみたいで不思議な感じがしました。

 

それからしばらく冬椿さんを待っていると森と反対の方から地響きが聞こえてきました。そっちを見ると、騎馬の集団がこっちへ来るのが見えました。最初は賊かと思ったけど、先頭の二人以外の兵装が蓮虎さんの所にいた兵と同じ兵装をしてるのを見て建業の駐留軍だと予想がつきました。

その軍は森に近づいて来ると私の姿を確認したらしく動きを止めました。そして先頭にいた二人だけが私に近づいて来ました。一人は武器を持っているから間違いなく武官、もう一人…あの胸の大きい人は多分軍師…。

その軍師らしき巨乳の人が更に私に近づいて来ます、武官の人は何かあった際の護衛でしょう。

 

「すみませぇ~ん、こんな場所に一人でどうしたんですかぁ?」

 

なんかほんわかした喋り方です、見た目もほんわかしてます、でも胸が…胸が揺れてます。

 

「え…えっと、一緒に旅をしてる人を待ってます…」

「森を抜けて来たんですかぁ?噂になってる賊に出くわしませんでしたかぁ?」

「はい…一緒に旅をしてる冬椿さん…子雲さんが私を先に逃がしてくれて…」

「一人で対峙しているの!?直ぐに救援に行かなくては!!」

 

巨乳の軍師の人の後ろに控えてた武官…何処と無く蓮虎さんや雪蓮さんに似てる人が慌てた様子で兵に指示を出し始めました。

 

「蓮華様~、救援は必要無いみたいですよぉ~」

「何言ってるのよ、これまでも腕の立つ武芸者達が返り討ちに合ってるのよ!?」

「そうですけど~、中から誰が歩いて来ますよぉ?」

 

軍師の人がそう言ってそこにいた全員が森の方に注目しました。

私も同じく森の方を振り向いたら…私と同じ位の女の子を担いだ冬椿さんが歩いて来るのが見えました。




時間がかかった割には短くてすいません。

感想にもあった孫堅さんですがこの孫堅さんは英雄譚は無視します。
ただ何人か考えてるオリキャラと被らずいいなと思うキャラはいるので出せたらいいなとは考えてます。

次話ですが最初から遅くなる事を明らかにしておきます。なんとか続けていきますのでよろしくお願いいたします。


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第二十三話 虎の次女登場、建業到着

またお待たせしてしまいました。

今回は虎の次女と2番手軍師がちょこっと出ます、そして例の賊少女とのふれあいもちょこっとあります。

楽しんで貰えたら幸いです。


俺が少女を担いで森から出ると雛里が今にも泣きそうな顔でこっちを見てくる。それと恐らく建業の軍であろう兵が俺の周囲を囲む様に展開している。確かに向こうから見れば少女を担いでる俺の方が賊に見られても仕方無いだろうが…。

それを制している二人の女の片方…髪の色や肌の色から間違いなく孫堅の娘であろう女に俺は声をかけた。

 

「お前、この軍の指揮する将で間違いないか?」

「!?…何故私が指揮官だと思うのだ?」

「何、お前の事は聞かされていたからな…孫仲謀」

「なっ!?何故私の知っているの!?」

「言っただろう、聞かされていると…ほらよ、お前への預かり物だ。」

 

俺は蓮虎から手形を貰う際に預けられた竹管を投げて渡す。孫権は戸惑いながらそれを取ると竹管を広げて見ている。すると孫権の表情が戸惑いから驚きに変わっていくのがはっきりと分かり俺は心の中で苦笑した。

 

(どうやら孫権は感情を押さえる事が得意では無い様だな、蓮虎や雪蓮は感情を露にさせる事が多いが押さえる事は出来ていた、それに知らない相手に名を言われて動揺を隠さなかった、まだまだ未熟…発展途上と言った所か)

 

そんな事を考えていたらいつの間にか立ち直った孫権が兵に俺の包囲を解く様に指示を出し始めた。隣にいる補佐であろう女はよく分かっていない様子だが、孫権から竹管を渡され眼を通すと理解したのだろう、兵をまとめ始めた。成る程、優秀な様だ。

 

「申し訳ない、危うく客人に無礼を働く所だったわ」

「気にするな、子供を担いでいたら疑われるのは仕方無いからな」

「そう言って貰えてありがたいわ、このような場所で長話もあれだわ、町まで同伴して貰えるかしら?」

「構わん、俺たちの目的地も建業だからな、それに…この子供はかなり弱っている、医者に見せなければならないしな」

 

俺が担いでる少女を示しながら言うと補佐の女が訪ねてきた。

 

「そういえば森に現れる賊と対峙したんですよねぇ?討ち取ったんですかぁ?」

「…いや、しばらく打ち合って浅い一撃が入ったら逃げ出してな、少し追った所でこの子供を見つけたから追うのを止めた」

「そうなんですかぁ、でもその子が背負ってるのは剣ですよねぇ?それに子供に襲われたって証言があるんですけどぉ?」

「少なくとも俺たちを襲ったのは子供じゃなかった、仮にこの子供も共犯だったとしても置いていかれたって事は見捨てられたんだろう、そんな子供を俺は見捨てられないな」

 

俺と補佐の女が討論を始めて雛里は戸惑っていたが、孫権がため息をつきながら仲裁に入った。

 

「やめなさい穏、貴方も、今ここで話さなくてもいいでしょう、その子供も心配だわ、早く建業に戻るわよ」

 

そう言われて俺たちは討論をやめて建業へ向けて歩き始めた。流石に少女を担いだまま馬には乗れなかったので雛里と少女を馬に乗せて俺は走った。孫権達は俺に合わせてくれたからそれほど苦ではなかったがな。

 

 

 

建業へは一刻半程で到着した。

俺たちは城へ案内されて客間を一つ与えられた。建業にいる間は好きにしていて構わないと言われ、流石にそこまでされる義理は無いと断ったんだが、どうやら蓮虎の竹管に俺たちを厚遇しろと書かれていた様だ。更には雪蓮からも似たような内容の竹管が届いていたらしい。抜け目が無いな…あの親子はそこまで俺を繋ぎ止めようとしてるのか。まあありがたく使わせて貰おうか、繋がれるつもりは無いがな。

 

連れてきた少女は床に寝かせてある。医者によればやはり栄養失調気味の様だ。当然だろうがな。

背丈は雛里よりちょっと高いが痩せすぎなのだ。それにボロボロの衣服に薄汚れた肌、あんな森で賊として生活してたらこうなるのは当然だからな。

どうして少女が森で暮らしてたのかは話してみなければ分からないが…ろくな理由じゃ無いだろう。目が覚めたら色々聞かなければならないな。

 

しばらく部屋で雛里と話をしていると少女がもぞもぞと動いた気配を感じたので雛里に町で食い物を買ってくる様に頼んで部屋から出す。そして少女におもむろに話しかけた。

 

「…起きているんだろう?ここには俺しかいない、それに気配でわかるぞ」

 

すると少女がガバッと立ち上がり俺と距離をとってこちらを睨んでくる。明らかに警戒している少女に予め用意していた果物を投げて渡してやる。

少女は驚きながらそれを取ると果物と俺を交互に見てくる。おそらく食い物を与えられる事に慣れていないのだろう、俺は頷いて食べる様に促すと少女は果物にかぶりついた。

 

余程腹が減っていたのだろう、少女はあっという間に果物を食べきった。俺がもう1つ果物を投げて渡すと今度は俺を見る事無く果物にかぶりついた。

2つ目の果物もあっという間に食べてしまい、少女はもっと欲しいと言わんばかりの眼で俺を見てくる。まるで犬や猫に餌付けしている様な感覚で俺も面白くなってきて、果物を取ると投げて渡す振りだけして投げなかった。

すると少女は明らかに落ち込んでから俺に近づいて来て俺の側に来ると期待を込めた眼で俺を見上げてきた。俺はその眼を見て思わずたじろいで果物を手から落とした。少女はそれを取ると嬉しそうにかぶりついた。

俺はそんな少女を見ながらさっきの少女の眼を思い出した。あの眼は俺達が陳留に来たばかりの頃の荒れた地域に居た子供達と同じだ。親兄弟を失い誰も信じられず回りを敵視していた子供達と同じ眼。

だが今ではその子供達も俺達や警備兵を信じてくれて子供本来の明るさを取り戻してくれた、この少女にそれが出来ない筈がない。

 

 

今は少女に満足するまで食わせてやろう、俺は自分でも似つかわしくない笑みを浮かべているのを自覚しながら少女に次の果物を差し出した。




いかがだったでしょうか?

最後がらしくないかなとは思いますが、たまにはいいかなと。
この少女がどう冬椿と関わっていくのかお楽しみに、まあ皆さんは誰だかは分かってると思います。

次話は出来れば今年中に出せたらいいなと思ってます、気長にお待ちいただきたいです、ではまた。


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