転生愉悦部の徒然日記 (零課)
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世紀末ブリテン暴走堪能日記編
始まり~色々突っ込みたい私の人生


とあるFGOの二次創作作品に触発されて始めたこの作品。何処まで行けるか分かりませんが頑張ります。



 私は、どうも数奇、若しくは奇妙な星の下に生まれたらしい。生まれは慶応末期。幕末と言えば分かりやすいだろうか。そこで鍛冶師の娘として生きた。しかし、お家の決定に、扱い方に嫌気が差して家出。その後は各地を流れの鍛冶師、剣客として日々の糧を得た。

 

 命の安い世界だったが、自由に生きたことは嬉しかった。例え数年しか働けず、護衛中に撃たれ死んだとしても仕方ないし、覚悟していたことだ。常に誰かに縛られ、望まぬ相手に飼い殺しにされるよりも余程・・・

 

 しかし、どうも神様は私を気に入ったのか、はたまたただの無聊の慰みか、私の記憶と持ち得た技術、肉体全てをそのままに平成・・・現代に持ち出した。ろくな人生でもないし人殺しもした私がなぜ輪廻転生の輪から外れたのか、ここが天界にしてもここまで空気が悪いのか、やけに黒い色の服だったり意味のわからぬ言葉を話し小さな板を持ち何かをしきりに話している。

 

 ここは天界ではなく地獄で私は黒い服を着た者、獄卒達に刑罰を受けるのかと、あの板は式であり、準備をしているのかと構えたが、あちらは私を奇妙な目で見るだけ、若しくは何か板をこちらに向けて光を放つばかり。この異様な光景が不気味なり、覚えていた縮地で即座に黒く硬い土と巨大な塔がそびえる街から逃げ出した。

 その後は、山奥にある研究所に拾われてそこの職員として働くことになった。確か名前は「早乙女研究所」だったか。そこで清掃員、食堂での調理職員として、たまに何やら不思議な空を飛ぶ鉄の塊に乗せられた。その時のある博士のタガの外れた笑い声は忘れられない。

 

 研究所での日々は敷島博士の暴走で死にかける以外では女性の私にも皆優しく接してくれたし、待遇も破格のものだった。そこで現代の知識も技術も、サブカルチャーも覚えた。まさか鳥獣戯画や蛸と海女のような発想を今尚愉しむとはやはりここは日本なのかと感じてしまった。

 

 しかし、ここでも奇妙なことは途切れず、私に訪れる。パソコンでのんびり音楽を聞いていたら画面が切り替わり映像が流れ始めた。止めようにも一切反応せず、ひたすらに映像が流れ続ける。始めはハッキング、新手の詐欺かと思ったがそうではない、これはある物語だ。それも、美しく、希望に溢れた物語。その物語に惹かれ、参加したいと想いを馳せていたところ、物語の主役の王、ブリテンにいた花の魔術師の計らいで参加し、端役として戦った。

 そこに集い、仲間となった部員同士の友情や愛情も生まれた。何より私自身が新たな家族に出会う事が出来たし、その後は子にも家族にも看取られながら天寿も全うできた。思わぬ幸せ、人生を全うした。これで私は閻魔様に裁判され、あの世でゆるりと眠りにつく。と思っていた。

 

 

 

―――気がつけば、私は青と白の袴姿に20の頃の肉体。四本の愛刀。そしてだだっ広い平原に寝ていた。

 

・・・・・・・・・どうやら、神様はまだ私に何かをしてほしいようだ。




パソコンや機械に強くなく、間違いも多いと思いますが、どうか温かい目で見てください。

そしていきなりブラウザの影響で危うく執筆出来なくなるかもしれなかった危機。前途多難、正直心配でしか無い。

登場人物

船坂 華奈 年齢 現在20歳(肉体年齢)

元幕末生まれの鍛冶屋の娘。生まれの藩、お家の騒ぎに嫌気が差し出奔。剣、鍛冶の才能があったので流れの鍛冶師、剣客まがいとして生きてある依頼で死亡。その後は転生? で現代日本に飛ばされ早乙女研究所で食堂のお姉さん兼清掃員。たまにゲッターパイロットとして働く。恐竜帝国もインベーダーにも遭遇せず日々を過ごしたら突然とある英雄王の叙事詩を見ることになり、勢いのまま愉悦部員入部。キャメロットから参加してそのまま部員同士と交流。その先で家族を設ける。

外見は腰まで伸ばした銀糸の髪、蒼のやや垂れ気味の眼、かなりの美人だが穏やかな雰囲気を纏っている。ランサーアルトリア並のスタイル。

剣の腕と鍛冶の腕は天才で縮地も会得している。また、幼い頃はその2つしか詰め込んでいなかったせいで現代でサブカルチャー等にハマる。笑顔動画も好きで休暇は鍛錬、動画をラジオ代わりに本を読んでいる。好きな小説は「星新一」のショートシリーズ。

筆者の気まぐれで更新すると思います。アクの強すぎる設定ですがどうかお願いします。


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書き込み開始。日記の執筆に飽きないことを祈る

日記開始。どうなるか・・・


?日>日

 

 

 

 とりあえず色々言いたいこと、神様への質問等尽きないが、まずは日記を記すことに。自分の内心を思い切り綴ることで少しは発散になるかもしれないと思い至ったためです。

 

 路銀の為に薬草を集め、野生の獣、野盗諸々を依頼で倒してその報酬のおまけで日記とペン、インクをくれた商人様には感謝する。始めは東の人間、自身の格好で信用されず大変だった事も含め、色々と都合してくれた商人様には頭が上がらない。

 

 何故か言葉は通じるので有り難いが、ここが何処なのか、どんな世界なのか、いつの時代わからない事が多い。早速情報収集に洒落込んだ結果。

 

・神の子が死んでから大体500年前後(大体6世紀) ・ここはフランスの東端

 

・ローマは分裂しているが、尚も強国。 ・最近西の方で傭兵の募集が多く、とりわけサクソン人が多く参加している

 

となった。この時代に西・・・恐らくアーサー王のライバル。ヴォーティガーン王の行動だろうが、この世界は型月世界なのでしょうか。せっかく新しい人生を歩めるのだ。この人生は思うままに生きてみようと考え、とりあえずは西に向かうことにしました。時折奴隷商人の手先や野盗、傭兵くずれが襲ってきたが、遠慮なく斬り伏せた。その際にお金は貰い、シッカリと弔った。死なば仏。せめて極楽浄土・・・ではなく天国では悪行に走ることなく過ごしてほしいもの。

 

 

 

 

○月X日

 

 

 フランスを旅していて分かったことだが、この大陸では神秘はもう殆ど無い。あるにはあるのだが、一部の秘境や伝説とされた場所。それくらいにしか幻想世界の住人はいないそうだ。それでもその残り滓で悪霊等は出るらしく、退魔組織もまだまだ各地にいること、村々での証言があることから多少の騒ぎはあるみたいだ。私自身にも使い捨ての鉄砲玉としてか依頼がある。前世での経験でそれなりに対応は出来るので問題はないし、懐が暖かくなるので嬉しい。そんな生活をしながらフランス横断中、ある森の泉に精霊がいるという泉の話が出た。

 

 アーサー王の伝承でも登場した湖の乙女だろうか。何にせよ、次の目標は出来たので行ってみたいものです。

 

 それと、なにやら依頼先の魔術師に襲われてしまいました。捕まえて問いただしたところ「使い捨ての駒に手柄を取られ、予想よりも早く終えて自分の面目を潰された」との理由から襲い、私の命と刀を奪うつもりだったようだ。余計な荒事はまっぴらなので動けなくしてそのままにした。命を奪って余計な恨みは買いたくないし、こんなことを言いふらせないでしょう。自尊心の高い方でしたし。

 

 

 

 

#月@日

 

 

目的の湖のある森に着いた。見事な森でもあるが、同時に神秘の濃ゆさにも驚きました。何と言えばいいのでしょうか。空気が粘りつくと言うか、重い。そう感じる。

 

 更には奥に行けば行くほど人よけの結界が張ってあり、少なくとも「湖の乙女」に何らかの敵意、害意を持つもの。物欲がある者には入れないようです。それ以外にも魔力障壁や森を迷宮のように迷わせる結界と。最早森ではなく、要塞。堅牢な城といった印象が強い。

 

 調べるだけでも一苦労でしたが、分かっても魔術に明るくも強くもない私にはお手上げ。乙女様には会うことを諦め、そのまま西に進むことにした。ブリテンまでもう少し。はてさて、どうなっているのか。楽しみと不安がないまぜになりながら床につきます。足も手に入れたいですね・・・

 

 

・ω・月*日

 

 

 何日か歩き、最終的には馬(栗毛と命名)に乗り、港町に着きました。へ? 馬の入手経路ですか? 当然商人から買いました。とても穏やかな性格で助かっています。

船場の先には海とその向こうに輪郭のみだが島が見える。あれがブリテン島でしょうか。いよいよかの神代が続いている神秘の島。そしてかの王がいる島へ目前となった。アーサー王伝説の時系列は全くと言っていいほど覚えていないが、どうなっているのでしょうか。そしてアーサー王は男の方か女の方か。

 

 あちらの食糧事情は少しは知っているつもりなのでブリテンに行く前に食料品を買い込んでおくことに。度々舞い込んでくる依頼で懐は温かいし、剣の腕も戻ってきた。未だ悪霊や魔術師、人間の相手が殆どで幻想種の相手はしたことはないが、いざとなれば縮地で逃げてしまえばなんとかなるでしょう。

 

 そして港町故に人の往来も激しく活気にも溢れていました。鍛冶の仕事でもしてもう少し蓄えを用意しようと思いましたが、ギルドの怒りを買いたくないので大人しく露店市場で食料品を買い込もうと足を運んだ矢先、またも騒ぎに巻き込まれました。

 

 筋肉モリモリマッチョマンのガラの悪い男性が露店の主にイチャモンを付けているのです。武装や雰囲気から軍人、職業軍人、傭兵の方だろうか。周辺の方々は愚か衛兵の方まで遠巻きに見ている始末。徐々に軍人と思われる方が熱くなり、腰の剣を抜きかねないので即座に縮地で背後に移動し、首に手刀を一撃。気絶させて衛兵に任せることにしました。

 

 店主様からはお礼を言われ、衛兵様からも感謝されていい気分でしたが、ついでに教えてもらった情報で少し気分が悪くなってしまいました。私が倒した軍人は傭兵でサクソン人。なんでもブリテンのある王に雇われここで出立の準備を整えるために市場に来たのだが、店主様からただで商品を巻き上げようとして言い合いになっていたのだとか。衛兵様もここ最近はサクソン人の傭兵が多く、毎日のように騒ぎが起きるし人手が足りていないのが現状だそうです。

 

 私に衛兵にならないかと誘われましたが、こちらも目的地があると答えましたところ心底残念そうに、ですが明るく「良き旅を」と励まされました。意外なところで人の温かさに触れ、とても嬉しくなり。一瞬気持ちが揺らいでしまったのは内緒です。船の準備までしてくれた店主様へのお礼に幾分多くのお金を店主様に渡し、船を下さった方にも多くのお金を払いました。お陰で懐は少し寂しいですが、とても嬉しい気持ちでブリテンに向かうことが出来ました。栗毛も心なしか嬉しそうですが、私は栗毛が船酔いしないか心配です。馬も船酔いはするのでしょうか?

 

 

 

 




次回はブリテン島編に入っていきます。上手く書けませんが、それでも頑張ります。時系列はかなり古いところから入るかもしれないです。

華奈は基本誰にでも丁寧な話し方をするのですが、日記では丁寧語と少し砕けた文章が混ざります。いつか周りから見た華奈も書けていけたらと思います。


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到着。ブリテンのご飯は・・・マズイ

はじめての感想を貰い。とても嬉しくなりました。普段は送る側なのですが、貰うことがこうも嬉しいとは思いませんでした。これからも頑張って書いていきたいものです。

そして多分ここから華奈の前世での経験や記憶。そしてネタを散りばめていくと思います。


X月( ´,_ゝ`)プッ日

 

 

 ブリテンに到着して一日が過ぎました。とりあえず栗毛も元気そうでしたし、私自身も健康そのもの。着いた港町で簡素な食事をとり、適当な宿で眠りにつきました。

 

 朝になり、下の食堂に着くと何やら空気が重く、皆の表情が沈んでいます。何事かと問うと卑王ヴォーティガーン王と渡り合ってきたウーサー王が病に倒れ長いこと、それに比例してヴォーティガーン王の勢いが増し、兵力のサクソン人をどんどん入植していて治安が悪化しているらしく。ここも少し離れた宿で略奪騒ぎに会ったそうな。

 

「まるでブリテンの民を何とも思っていないような行い」と口々に愚痴っていたが、卑王の思想、志が如何なるものかぼんやりとしか覚えていない私には真意が読み取れずただ周りに合わせて頷くだけでした。

 

 確かに良い知らせではありませんが、それでも朝から気が沈んでは勿体無いです。皆様を元気づけるために私のおごりで簡単な料理を作り、振る舞うとまた異変が起きました。皆様が無心に、いやがむしゃらに食事を平らげ涙を流していました。そして一同に感謝の言葉を尽くし、中には崇める者まで出る始末。一体どうしたのでしょう・・・?

 

 宿の主夫妻から少し手伝って欲しいと言われ、先程の振る舞いで路銀も尽きたので承諾。あちらも住まいに馬の世話、食事は無料で提供すると言われ、少し戸惑いました。

 

 あの・・・嬉しいですが、私・・・日本人、いうなれば黄色人種なのですが、肌の色や顔つきで災いの種にならないですかね・・・・・? ブリテンに自ら足を運んで今更ではありますが・・・・

 

 

 

$月¥日

 

 

 宿屋の主人様の元で働きはや2週間ほどが過ぎましたが、分かったことがいくつかありました。まず、食事が壊滅的にマズイ。素材自体は神秘がまだ残っている分美味しいのだが、調理方法が駄目ですし、組み合わせも質素を過ぎて互いの良さを打ち消していく。旨味の残る皮や脂を捨てるわ出汁も灰汁と一緒に捨てる。骨から出汁をとらないし、香草やキノコを使用しない。肉は焼きすぎて最早黒い何か。野菜もそのまま出すだけか、煮詰めすぎて崩れて食感も何もない。はっきり言えばフランスの安宿でもここまで酷いものは出せないでしょう。出せば即座に何処ぞのやかましいおじさんが「この料理を作ったのは誰だぁ!」と押しかけることでしょう。

 

 そして以前振る舞った料理も美味しすぎて感激したからとのことを教えてもらった時、軽くこの国の行く末に絶望したのも覚えています。

 

 港町でこの食事レベルでは内陸の方々の食事はどれほどのものか・・・・・考えるだけでも悲しくなる思いです。

 

 宿屋の夫婦様も私をコックとして雇いたかったらしく、私も夫婦様に出来る限り料理のコツを教え込んだ。嬉しいことにここの宿屋の料理が美味しいと評判となり、連日お客様で賑わっている。しばしば私にナンパするお客様や差別するお客様がいましたが、主人様が追い払い、逆に宿屋の主人様たちを馬鹿にする客は私が追い出しました。せっかくの食事で周りを不快な気持ちにさせてほしくないものです。

 

 

 

 

§月O日

 

 世話になった宿屋の夫婦様に調理方法を纏めたレシピを渡し、こちらも給料と食料、と予備の日記を積み込み港町を出発。少し人のいる場所をでればさすがは神代の時代。幻想種が出るわ出るわ。完全に絵本の世界のものからホラーバイオレンスなクリーチャーまでバラエティ豊富です。何回か斬り伏せ、町々で情報収集していたらウーサー王が亡くなったとの情報が入り、それに伴いブリテンもかつての権威が完全に無くなったとのこと。すでに力のある有力貴族は独立や他の王家に取り入っているらしく、もう国はあってないようなものらしい。

 

 ・・・・・・・・・・・間違いなく、良くないことが起きる。馬鹿でも分かる。

 

 とりあえず気は進まないがブリテンの領内で阿呆をやらかす連中がいないか見て、可能なら抑えに行こうと決心した私は早速栗毛に跨がり、移動した。

 

 そして、その嫌な予感は的中。夜更けにブリテンの城下町に到着した私の眼前には必死に逃げているやんごとなき身分であろう親子とそれを追いかける貴族と取り巻きの騎士。これがあの親子の我儘に振り回される貴族や兵士なら兎も角、目に宿るギラついた目はとてもそんな忠臣、心配しているそれではない。例えるなら餌を前にした獣。

 

 栗毛には隠れてもらい、私もこっそり後を尾行したところ、貴族はここ最近のブリテンで有力貴族がいなくなった後に宮廷を纏めていた弱小貴族で、親子はブリテンの姫と女王、モルガン様とイグレーヌ様らしい。

 目的は二人を手篭めにして無理やり既成事実を結び王位につく。そして国庫や利権を手にした後は適当に国を売り払い、自身は何処とでも高跳びして二人を自身の欲望のはけ口にして暮らす。というものだった。

 

 思い返せばアーサー王伝説ではモルガンの妨害や策略が描かれていたが、もしこのブリテンの臣下から裏切られ、母も自分を穢され、ロット王との安らぎもブリテン統一を掲げて武力でアーサー王が潰しにきたのなら・・・? 自分たちを護ることなく辱めた国を復興させようとし、更にはその矛先が自分の居場所にすらも向かってくる。私の知る騎士王への憎しみも納得がいくものだ。

 それに、女としても目の前で起こるであろう悲劇は捨て置け無い。そう思うやいなや先導していた貴族の四肢を切断。取り巻きの騎士たちも数名鎧ごと斬り殺す。一瞬の出来事に漸く思考が追いつき、武器を構える騎士に逃げ惑う騎士全てを縮地で翻弄。殺しておいた。

 

 状況の判断ができていない親子には失礼を承知で貴族に尋問を開始。謀反を起こそうとした逆臣、またそれに従う輩を全て聞き出し、約100名ほどを鏖殺。その間親子には近場の小屋に身を隠してもらい、合図をしたら出てもらうことに。

 

 事が済んだ後に親子には何度も頭を下げて感謝を述べられましたが、正直こそばゆさが先行して頬が赤くなるだけでした。気を取り直して、流石にここへの長居は無用なので、人のこない、具体的には危険区域に移動することにしました。今は獣よりも人の方を遠ざけることが先決でしょうと考えた結果でしたが、親子も了承。鏖殺ついでに貴族の馬を数頭拝借できたのでそれに国庫の金と必要なものを幾らか積み、栗毛を呼んで移動。貴族からも親子からも許可は頂いたので問題はないでしょう。

 

 親子の名前はやはりイグレーヌ女王陛下とモルガン姫。何はともあれ二人を救えたのは僥倖でした。

 

 

 

 

(`・ω・´)ゞ月>日

 

 とりあえずブリテン国を離れ、人気のない山。代わりに幻想種のはびこる森にて過ごすことにしました。途中ワーウルフや巨人族に襲われるも事なきを得て現地の妖精に協力を取り付け小屋を建築。お礼にお菓子やご飯を振る舞ったら好評でちょこちょこお邪魔しては何気ない談話をイグレーヌ様やモルガン様と楽しんでいる。

 

 合間合間にウーサー王の不義によるブリテン崩壊のきっかけの一つやマーリンなる魔術師の策略にドス黒い気が吹き出しもしましたが、その傷も少しづつ見えないようになり、今ではこの森での生活に慣れていました。

 

 実はイグレーヌ様はお体を壊しており、アーサー王・・・アルトリア様を生む際に竜の因子を組み込んだらしく、その負担で体を壊していたそうだ。そして前日の騒ぎ。よく体が持ったものだと感心します。どうやらこの世界のアーサー王は女性で間違いないようです。今は妖精様の用意した薬草を元に私とモルガン様で調合した薬を飲ませ、栄養バツグンの食事で日に日に持ち直しています。

 

 私自身は濃ゆい神秘にあてられ少し息苦しかったですが、それも漸く順応して今はお二人の身の回りのお世話と、時折やってくる馬もどきやビーバーのようなナニカ。そしてワイバーンを撃退している日々です。

 

 その生活の最中、何故かなついた白い狼の兄妹や栗毛も成長して黒王号のような巨大な馬に成長していたりと色々友だちも増え、充実の日々。

 

 ですが、お二人は王族でありロット王との婚約の約束もある。一日でも早くオークニー領に送り、婚姻を結び華やかな生活に戻らねばならない。勿論連絡は取るようにしている。縮地でオークニー領の端に移動。手紙を信頼できる兵士に渡し、指定した時間までに特定の場所に置いてもらい、それを私が回収する。というもの。女と侮られないように鎧で変装していますし、王印も刻んであるのですぐに信用してくれた。

 

 内容はモルガン様とイグレーヌ様は現在心身ともに疲弊しており、そちらまでの長旅への不安、そしてブリテンの混乱から野盗崩れや貴族たちの手が伸びてくるかもしれない。と連絡をしたところ、あちらも快復したら来てね。こちらも手を打っておくから。という大変親切なもの。それ以降は手紙を定期的に送り、こちらの回復具合を手紙に綴り、あちらも対策を逐一報告してくれています。

 

この対応には結婚する予定のモルガン様も少し気が楽になったようで手紙が来ることを少し楽しみにしている御様子。私も一度拝見しましたが、洒落のきいた気さくそうな方という印象が強かった。これならお二人も安心でしょう。

 




というわけでモルガン、イグレーヌ救済ルート。この二人は救われてアルトリアと仲良くしてほしいなあと思いこうしました。

そしてしれっと殺戮をしている華奈。前世が幕末を生きた剣客に部員。いざという時は戦に参加することに抵抗はありません。


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マジカル☆オークニー

少しの森ぐらし、そしてロット王のもとへ


(´・ω・`)月&日

 

 森暮らしを始め一週間程が過ぎました。イグレーヌ様も元気になり、モルガン様も魔術の修行と元気になられました。実は私が縮地でお二人をロット王のもとへ送る案もありましたが、二人共「今は少しだけ静かに過ごして考えたい」とのことでここでの静養を希望したわけですが、お二人とも、この環境のせいなのでしょうか、それとも元の素養でしょうか。凄まじいまでの魔術の腕を見せ、襲撃に来た巨人族、オーガの群れをあっという間に全滅させていました。

 

 ・・・これ、私の護衛は必要なのでしょうか? 栗毛やハチ、花子(狼の兄妹)も怯えて尻尾を丸めていますし。

 

 

 気にはなりますが、下手に詮索するのも失礼ですし、忘れることにしました。

 

 話題変更

 

 王族のお二人にも私の料理は大絶賛で口が汚れるのも厭わず食事に食らいつき、おかわりを何度も要求。イグレーヌ様はまだまだ完全復活とはいかないので我慢してもらいましたが、モルガン様は食べる食べる。育ち盛りなのに加え、魔術の修行も始めたせいでしょうか。そこらの男の子よりもよく食べる。

 

 年相応の笑顔で笑いかけてくれることは本当に嬉しく、美人なのも相まって絵になります。そして是非とも料理を教えてほしいとのことで晩ごはんの仕込みを手伝ってもらいました。誰かと一緒に作る料理なんて何時振りでしょうか。宿では忙しすぎて女将様も主様も接客を頼みましたし、他は一人で作って食べるか店屋物。ついつい作りすぎたので明日の分と分けていたら扉を叩く音が。

 

 モルガン様に魔術で確認してもらうと害は無いとのことで開けると一頭のうり坊が。体毛は黒く、大人しいが、見せる牙は鋭く立派で、この子も魔獣の子なのだと理解した。

 

 けれど敵意はないですし、こちらに好意的ですので飼うことに。名前は・・・・・・黒介にしましょう。お二人からはネーミングセンスを疑われましたが、日本人の名は少し変なのでしょうか?

 

 

 

 

/月✓日

 

 森暮らしを始め二週間が過ぎました。イグレーヌ様も完全回復。モルガン様もとても喜ばれていました。そして、いよいよロット王のもとに行くことになるのですが、その前に世話になった妖精の皆様にお別れの挨拶を済ませ、小屋を好きに使っていいよと教えました。王族のお二方も短い間ですが過ごした小屋から離れるのは寂しいのか少し悲しそうに見つめていました。妖精の皆様からは餞別の品として薬各種となにやら魔術礼装を渡してくれたので小物入れに大切に収納しておくことに。

 

 身辺整理を済ませていざ出発。というときに、モルガン様から「お姉さまと呼ばせてください」といきなりの発言。固まっている私に「なんでも私に助けられ、生活するうちに姉のように思えて仕方がなく、それを今回打ち明けた」とイグレーヌ様はおっしゃりました。実は私が外での仕事をしているうちに相談していたようで、決意は硬いのでしょう。まるで引く気配がないです。というよりも予定していたのでしょう。イグレーヌ様が凄く楽しそうな笑顔で私の反応を見ては目を細めているのですから。

 

 不安と期待を溜め込んだ目で訴えてくる目には耐えきれず、そう呼ぶのは認める事に。ただし、あくまで私的な間だけであり、公的、家臣の間では控えるように念を押しておいた。今から嫁ぐ先にぽっと出の別人種の小娘が迎え入れる后に姉さま呼ばわりされては余計な騒ぎと諍いの火種を呼ぶだろう。ゴマをする輩も確実に。

 

 なのでお二人を助けた騎士は私の上司で私はお二人の世話を任された侍女であり、ただの使用人。と扱うことにしてもらうことにした。もし必要なら捨て子で魔獣と関わる事が上手いということにして貰うことにしました。手紙を届ける際に鎧で変装していたこともあり、それなりの説得力は持てそうです。

 

 そしていよいよ森を出てオークニー領へ。

道中、賊や魔獣も当然襲いかかってきましたが、栗毛やハチ、花子、黒介の動物戦隊に屠られ、私自身も刀を振るいこっそり用意しておいた(ここに来る際に持ってきたものは小屋の材料に)お二人が乗るための馬車へは近づけないように戦った。それに、モルガン様にイグレーヌ様も相当な魔術を披露して襲い来る相手を蹴散らしていたためにかなり派手な旅路となったこともここに記しておきます。

 

 

 

 

(゚∀゚)月%日

 

 オークニー領へ無事に到着。ロット王も快く出迎えてくれて私の心配の半分は消し飛びました。

イグレーヌ様の同居も快諾。これでお二人の身はとりあえず大丈夫でしょう。

 

 と、言いますかロット王。豊かな金髪を後ろにかき分け、一部を垂らし、この時代にしては珍しくヒゲを全て剃り、ダンディズム溢れるナイスミドルでした。・・・・・・・ぶっちゃけた話マジッ○総帥そのものな外見に話し方、雰囲気までそのものな茶目っ気溢れる王。それがロット王でした。モルガン様も想像以上の男性に安堵の息を吐いており、イグレーヌ様も心から嬉しそうに笑っていました。

 

 お二人の話が終わり、そのまま後は婚儀の件になると思いきや助けられた経緯の話に移り、騎士の部下(という設定の)の私にも話が振られることに。想定はしていたので幾らかまた聞きしたようにぼかしながら話し、森での生活も騎士に上手く手配してもらって生活できたと話したところ、周りの家臣たちは納得しましたが、ロット王は「それほどの騎士の部下なら手ほどきも受けているはずだし、一つ試合でもどうだろうか」と試合の話を出してきた。周りも面白い催しになると騒いでいる。負けてもちゃんと取り立てるし、女の子だから負けても仕方ないと言ってくれますが、流石に安々と負けるのは面白くないですし、侍女として居る以上、お二人の護衛としての力量も見ているのでしょう。

 

 試合の形式は互いに練習用の武具で勝ち抜き戦。10人と連戦で戦う事になりました。

 結果は瞬殺。あちらも私を慮っての人選でしょうが、弱すぎるあまりについつい先手を打ち続けたら終ってしまいました。その結果に火が付いたのかその場にいた領内でも高名な騎士の方々が勝負を名乗り出て二回戦20人組手が開始。腕利きもいましたがこれも完封。流石にやりすぎたかと思い観戦席を見るとモルガン様ははしゃぎたいのを抑えながら笑顔で応え、ロット王に至っては大爆笑していました。「思わぬ拾い物だ!!」と会場全てに響くくらいの大声で叫んでいました。

 

 その結果私は侍女ではなく騎士として取り立てられそうになりましたが謹んで辞退させて頂き、イグレーヌ様の侍女という立場に収まることになった。下手に権力を得てはしがらみが増えるのも確かなので元より不要。それに、騎士という面倒くさいしきたりや矜持に付き合うのは兎も角、掲げる側は性に合わない。ただし、必要ならモルガン様の侍女としても動くことも頼まれました。これは元より頼むつもりでしたので有り難く受けることにしました。婚儀に関しては色々城や街に慣れてほしいこと、準備諸々あるだろうと一ヶ月ほど後に行われることに。これからが楽しみです。そう言えば栗毛達の住処はどうしましょうか。

 

 

 

 

∽月(´・ω:;.:...日

 

 モルガン様の結婚式が今日行われました。絶世の美女であったモルガン様でしたが、花嫁衣装や化粧が魅力をより引き立て、正しく会場の花として衆目の目を引き付けていました。

 

 私自身は女給の姿で皆様への食事の用意に走り回り、ひたすらに料理を作っていました。料理の香りによだれを我慢し、食べた時の皆様の反応は一生忘れられないでしょう。

 調理も一段落して披露宴に呼ばれた時は満面の笑みを浮かべるロット王とモルガン様ご夫妻の姿が輝いて見えました。

 御目出度う御座います。モルガン様。どうかその幸せが長く長く続きますように。




ロット王はモルガン、イグレーヌの幸せのためにマジック総帥になってもらいました。あの愉快で有能、底の見えたり見えなかったりするナイスミドルなおじさんは大好きです。次回からより面白く出来たらと思います。


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アーサー王伝説外伝 凄いよ!!華奈さん

オークニー領での日常編スタート。かなりふざけています。そして個人的には長いかもしれません。


 ブリテンの姫君との婚約は成功だった。それも、この人生の中でも最高の成功と幸運だと言い切れる。豪奢な装飾と家具に囲まれた寝室でロット王は隣で眠る姫。モルガンを横目で見つめながら思い返す。

 子がいなかった時にブリテンの美しい姫からの縁談。自身の身を守ることが目的であったのは理解していたし、この立場ではそう自由に結婚もままならないことも理解していた。それ故にこちらも美しいから、後継ぎのためだけではなかった。こちらの人望を高める。それも話題性と懐の深さをアピールするために。

 今ブリテン島にいる諸侯の悩みのタネとなっている卑王ヴォーティガーン。それと先頭切って戦い続けていたウーサー王。その娘が窮地に自分を求めて縁談を持ちかけてきた。これを受け入れる。英雄の娘の窮地に受け入れて国の混乱を収め、揺らぐ臣民を落ち着かせる。正直な話、崩壊寸前の国の姫君を受け入れることはあちらの問題も引き入れかねないから反対も出たし、自分も迷っていたが受け入れた。かつての勇者の血筋の救援を断ることは後で自分たちが窮地になった時に信頼がなく切られる可能性がある。王も人の子。いざという時の情や保険。恩は売っておくし、上手く悲劇の主人公になれば世間が生かすように動くはずだ。

 

 それに、いまこの島は英雄の存在を欲している。あのサクソン人を率いる卑王を打ち砕く王が、奇妙な外見だが決して油断できないピクト人を屠る戦士が。モルガン、イグレーヌ達の血筋はこの島の土着の女神の末裔。英雄を彼女達に生んでもらうにしろ、支えてもらうにしろ育てるにしろ、見つけるにしろ、必要な存在のはず。手元に置いておきたい札だ。

 予想外だったのはウーサーの家臣の謀反の速さ、鏖殺という鎮圧手段。モルガンが自分に期待以上の好意を抱いていたこと。そして、母娘共に術士として高い水準を有していたことだ。国庫の金も嫁入りの際に渡されたのは驚き、変な声が出そうになった。

 政略結婚だったが、心からこちらに思慕を抱いてくれるのは嬉しかったし、年甲斐もなく興奮した。思っていたよりも楽しい夫婦生活になりそうで期待に胸が躍る。

 

 術士としての才は二人の根源からくる素養もあるが、暫く過ごした神秘の濃ゆい森での生活や修行が引き起こしたのものもあるだろう。これなら実戦向きの訓練や修行対策を教えれば後方支援の将としても頼れるし、こちらも自衛の手段があると出陣しても安心できる。薬剤調合に至ってはこちらの魔術師も舌を巻くほどだ。これからの成長を見てみたくてしょうがない。

 

 最後は・・・侍女を名乗る女・・・カナ・フナサカだったか。あれはとんでもない怪物だ。やもすればこの親子を手中に収めること以上に心血を注いだかもしれにほどに。

 モルガン達が貴族共に犯される前に颯爽と現れ騎士20人以上を即座に鎮圧。その後は逆臣、参加した騎士諸共100人以上を殺害。これを彼女は上司の騎士がやったと言っていたが、嘘だ。答える時に少し動揺が感じ取れたこともそうだが、騎士ですら近寄らない森で二週間魔獣や妖精との関わり方も知らない。一人は病人の女をただの侍女が守りきり、心身ともに回復できるまでに出来るのか? 

 

 騎士は常にこちらとの連絡網を取っていたことを踏まえて、手紙を渡しに来ていた村と森の距離を考えれば森には長くは寄れないはず。となれば侍女が二人に着くことになる。その時点で只者ではないし、魔獣になった馬や魔猪、狼も手懐けている手腕も素晴らしい。極めつけはその剣の腕。会場にいた剣士は誰もがこの国の勇者、剣豪を名乗るに相応しいものばかり。始めにカナへあてがった兵士はせいぜい什長程度の部隊長達だったが、それを容易く制圧し、飛び入り参加した会場の剣豪20人も即座に倒した。

 

 此程の剣の腕、もし彼女の話が本当なら上司の騎士はどれ程の実力か? そして嘘だとしても彼女の剣の底は? 組手が終わり尚余裕のある彼女の本気は。それに、結婚式での料理の数々。今までのどんな豪華な食事よりも美味で、皿まで食らいつかんとするのを必死に抑えたほど。あれを頼めば毎日食べられるのか。既に満たされた腹を無視してよだれが出そうになる。

 

 容姿も美しい銀糸の長髪、宝石のような澄んだ蒼の瞳、豊穣の女神を思わせる程に豊かな胸、引き締まった腰、まろやかな尻と女性の美しさを我が物にしている肢体。スラリと伸びた、けれど大きすぎない背丈。あれなら諸侯の王も嫁に欲しがるし、地位を渡して新たなカードにも出来る。その際はモルガンやイグレーヌも納得させることが大変そうだが・・・まあ、なんとかしてみせよう。彼女らの信頼と仲の良さは傍から見ても最早本当の家族のそれだ。下手な刺激をしないように、穏便に。自分もこの家族を失いたくはないのは本心からだし。

 

「取り敢えずは・・・彼女の器を図り、どうさせるかだな・・・・・」

 

 思案にふけり目を光らせるその鋭さは普段のおちゃらけたフランクな王ではなく清濁飲み干す王の眼光。自身に転がり込んできた宝石の原石を如何に輝かせるか。それに傾倒する。

 

「しかし、ここまで幸せと人材が来るとはな。美しい嫁に相談役にもできそうな嫁の親、そして剣の姫・・・くっくっく・・・・・・頑張らなくてはな」

 誰にも聞かれない呟きは闇夜の帳に吸い込まれて消えた。

 

 

 

 

犬月猫日

 

 オークニーでの生活にも慣れ、婚姻も初夜も終わりました。それからはイグレーヌ様と魔術の研鑽、その練習相手兼私自身の修行で組み手を行い、城の料理人達と食事の準備。合間合間に栗毛達に乗り領内を散策する日々を満喫しています。今日も仕事を終え、散策の真っ只中。

 イグレーヌ様はウーサー王の后だったことや自身の先祖のこともあり、姫としての在り方だけではなく政務にも強く、魔術も宮廷魔術師でも最早敵うことのないほどの実力者。平たく言えば才媛です。よくロット王からも相談を持ちかけられ、それに対して的確な回答をしては国を支えている。立場自体は弱いはずなのですが、自身の才覚で宮廷内でもイグレーヌ様に相談する方が日増しに増えてきた。元気なのは嬉しいですが、同時に負担が気になるのも事実。お疲れの出ぬようにと釘を刺すと、なんでも女神の末裔としての力が目覚め始めており、体力もアーサー・・・ではなくアルトリアを生む前よりも増えており、更には歳を取らないのだとか。

 

 しれっと爆弾発言を放り込まれた事に思考が固まっているとモルガン様もすでに覚醒。自分よりも魔術の才能があるので近い内に自分を超えるとさらに爆弾と油を投下。この自分にはどう処理していいのか分からない問題に目眩を覚えていると、目の前に鎧を着込んだ兵士が走ってきました。確か、以前組手をした騎士の一人だったか。

 話によるとサクソン人が村に入り込み狼藉を働いているので手を貸してほしいとのこと。私はすぐに栗毛に乗り、騎士も乗せると戦場へ走らせる。一緒に来ていた花子とハチはイグレーヌ様の護衛を頼んだ。

 

 結果は私の介入と栗毛の大暴れで被害は最小限に抑え、勢いのままに領内へ侵入したサクソン人も残らず屠った。その時にフランスでお世話になった商人様と再会し、ロット王の計らいで城に招くことに。

 

 その際に褒美として何か欲しいものはないかと言われ「私がこの商人から欲するものを一つ買って欲しい」と頼んだところ、またもや爆笑。ロット王だけではなく家臣にも笑われた。少し恥ずかしかったのですが、承認。早速相談と行きたかったのですが、サクソン人の処理でもう夜半となっていたので翌日に持ち越すことに。

 

 何はともあれ、再会できたことが嬉しかったことも書いておきます。

 

 

 

 

(ー_ー)!!月(≧∇≦)b日

 

 商人様の訪れた理由はオークニー領に姫が嫁いだこと、そして料理がそこいらの国よりも美味しくなっていること、そして私の旅路を探した結果、ここに私が居ることに気づき、来訪。この騒ぎに紛れて商売が出来ないか、私への再会の挨拶とパイプ作りが出来ないかの相談のために来たらしい。さすがは商魂たくましい。取れる時にシッカリと動く所は好感が持てます。そして早速商談となりましたが、特に私が目を引いたのは食料の種。その中で前世から見覚えがある種があったのです。種を手に取り聞いたところ、東欧で手に入る穀物で、花がとても臭いらしい。

 

 それを聞いた時、私は思わず跳ね上がり、歓喜しました。私が求めていたもの。日本、ロシアの人には馴染み深いもの。ソバの種です。荒涼した大地でもすぐに花を咲かせ、収穫も早い。栄養もあるし間違いなくこの島にうってつけな植物。これを私は前日の褒美としてロット王に頼み、すぐさまあてがわれた畑に飛び出し植えに行きました。

 

 後で商人様から聞いたところ「その時の自分たちはなんとも間抜けな顔をしていた」らしいです。私の取り乱しようは相当だったということを自覚させられ、王と商人様からからかわれ、後でモルガン様からも笑われてしまいました。うぅ・・・恥ずかしい・・・・・・

 補足しますと、商人様とロット王は互いにパイプを手に入れたようで、挨拶代わりに食料と武器を少しばかり購入したそうです。

 

 

( ゚д゚)ハッ!月(^q^)日

 

 本日、ロット王、イグレーヌ様から食料関係の仕事。具体的には食の供給率上昇や味の改善を主軸とした仕事をするように任命されました。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? そんな大役を任せてもいいのでしょうか。他の大臣からのやっかみもそうですが、専門家でも何でも無いものにそんな仕事を任せても如何なものなのですが・・・・

 

 しかし、既にロット王の目は本気で期待しており、そして早速今晩の夕食に期待しているのかよだれを垂らしていました。少し荷が重いですが、まずは山菜の確保方法や、調理方法、取る配分を纏めねばならない。そしてここはブリテン。そちらの食べられるキノコを探すために黒介を呼んでキノコ探しの為に森へ突入。イノシシが食べられるキノコは人間が食べても問題がないからこれを纏め、さらにモルガン様達に魔術で毒がないか再確認してもらい、私が毒味。という風に作業を開始。取り敢えず5,6種類の食べても問題ないキノコを発見。これを専用の本に記し、今晩の夕食はキノコのソテーとキノコと山菜たっぷりクラムチャウダーにした。皆様最初は不気味がっていましたが、一度食べればあっという間に完食。直ぐにキノコの在庫はなくなりました。黒介の分まで出したので黒介に怒られて機嫌を取るためにおやつの木苺をあげることに。食べたかったです・・・

 

 

 

 

☆月△日

 

 今日も今日とて食料改善に走る事に。取り敢えず、調味料を準備できないかと考え、思いついたものが味噌だ。味噌は汁物に良し、米やパンに入れてもよし。長期保存も可能。戦国時代の兵士も縄に味噌を染み込ませた物を持ち、食事の時にお湯で溶かして食べていた。使えるはず。それと山菜もえんどう豆やごぼうなどの根菜も見つけられた。野生のクルミもあるので取り敢えずこれらの調理方法を記し、味噌は私の部屋に置くことに。いくら王命で動いているとは言え新入りの得体も知れない女。下手な動きは喧嘩を売りかねない。お二人のためにも慎重に動かねば。

 

 その傍らで料理人の方々にも味の改善のために調理方法を伝授。皆様始めは私のことを毛嫌いしている方が殆でしたが、今は素直に言うことを聞いて熱心に励んでいます。最近は調理方法だけではなく、食材も新しいものが来るので毎日が楽しいとイキイキしていました。心の活性剤を用意できたようで何よりです。今は私が植えたソバの調理が知りたいらしく、ずっとその噂で持ちきりだそうな。

 

 まだあれは収穫ができないので我慢してもらい、本日はごぼうと豚肉の炒めものを肉汁を混ぜた専用のソースに掛けたものと、えんどう豆の塩ゆで。大変お酒に合ったそうで皆様痛飲していました。翌日の政務は大丈夫なのでしょうか。

 

 他にも私が料理や食料探しに奔走している間は私の代わりにハチ、花子がイグレーヌ様、モルガン様の護衛をしてもらっています。狼の分不審者の臭い、音には敏感なので安心して任せられるのが大助かりです。因みに、お二人もハチたちの毛並みをモフモフして癒やされたりしているそうです。思わぬアニマルセラピー効果も付いてきたので私も試してみることに。

 

あぁ・・・・・癒やされます・・・・

 

 因みに動物達とは普段は会話の反応で、細かく知りたい時は簡単なカードで質問に答えてもらっているのですが、完全にこちらの言葉を理解しているので、お互いの予定の相談をしていたところハチたちがもう少ししたら結婚相手を探すとのこと。この子達にも春が訪れるのですかと考えたら感慨深くなりました。この子達も完全に護衛なので代わりの護衛を黒介、私で行うことに。いいパートナーを見つけられるとよいのですが・・・

 

 

 

 

ω月♣日

 

 ハチと花子がパートナー探しに出て数日。

 

 最近、山菜、香草、食の改善でオークニー領を走り回り、それぞれの区域で取れる食料の地図、調理方法の改善の為の調理教室を開いているせいでしょうか。よく領地へ侵入してくる蛮族達の相手も同時進行で行う事が増えてきました。各地に移動する以上、前線に近い村にも行くから当たり前なのですが、キリがない。の一言です。

 

 サクソン人は早い話が世紀末モヒカン達の1500年前のバージョンだと考えてください。基本粗暴な方が多く、ヴォーティガーン王が傭兵としてブリテンに入れているため、戦闘力もそれなりにはある。まぁ、私は問題なく殺せるのですが、何せ村に入れば略奪、強姦、殺人なんでもござれな野蛮人。今の所戦線を押し上げて対処していますが、果てのない殺し合いに辟易していることも事実。もう一つの蛮族ピクト人。この蛮族は・・・SF映画の住人でしょうか? 外骨格を持ったプレデター。とにかく人種云々ではなくヒューマノイドと分別したいレベルで人間離れした外見。そしてその見た目に見合った高い身体能力でこちらに攻め入ってくる。純粋な力押しで来る分、兵士個人の力量も求められるためにこちらも中々に厄介です。しかし、いくら神代の世界とは言え、よくピクト人を「蛮族」で片付けているものです。

 

 どちらの対処も手早く済ませ、この国の平穏を取り戻したいものですが。

 

 今回もサクソン人の拠点を一つ栗毛と一緒に壊滅させたところ、ロット王や将官の方から「君は功績を十分に上げているし、大切な存在だから一応の部隊は持ってほしい」と頼まれました。信賞必罰を示す部分と恐らくは個人的な部分もあるのでしょう。自分にこんこんと説得を続ける将官は現場主義の方でよく戦場にをご一緒することから交友関係もあり、よく奥様の相談もしていた間柄。私でも分かるくらいには心配そうな顔で説得してくるのだ。

 

 下手に断り続けても王に失礼ですし、他の方が功績を上げても褒美を取りづらいことになるのもまた大変。謹んで褒美を受け取り、50人部隊を率いる身になりました。これにはイグレーヌ様、モルガン様も喜んでくれましたし、動物たちも声を上げて祝ってくれました。嬉しいものです。

 

 

 

 

◇月~日

 

 本日はモルガン様と久しぶりの休暇を楽しんでいます。私の部屋に来て、持参した茶菓子を食べながら雑談を楽しむ。良い休暇です。モルガン様も最近は料理の腕を上げてきており、厨房にも立たれることが多くなりました。

 

 最初は困惑した方が多かったですが、今となっては厨房の皆様とも打ち解けて、私が立てない日はよく城の皆様の食事を用意してくれるので「厨房の女神」なんて呼ばれているようです。

 そんな女神様と最近の進展を話していくうちに、話はまだ会えていない種違いの妹、アルトリア様の話になりました。ここで過ごす傍らに使い魔を飛ばしたり、あの手この手で探してはいるのだが、マーリンに邪魔をされて一向に進展がないと愚痴っていました。こちらもマーリンの送ってくる使い魔は潰しているのでいいのだが、赤子の頃に引き離されてから会えていない妹がどうなっているのか知りたくて仕方がないと憤りを漏らす。イグレーヌ様も同じで、時折親子で相談したり、嘆いたりすることもあるそうです。

 

 ・・・・こればかりは私程度の力量ではどうにもなりませんし、そもそも足が掴めていないのでは探し出すことも出来ない。相手も私程度の考えは読めるでしょうから裏をかかれるのがオチ。マーリンがこちらの干渉を拒むのも、恐らくはアルトリア様に「理想の王」以外の道に動くことを恐れてのことでしょうか。目の前で家族の心配をする心優しい妹分の思いに応えたいのですが、今の状況ではそう簡単に投げ出せない立場になってしまいました。

 

 取り敢えず少し気の長い話にはなりますが、私達自身が力をつけてマーリンに少しでも追いつくこと。オークニー領を少しでも強国にして彼らが動いた時に協力でも対立でも安々と踏み込めないレベルの勢力を持つことを目標にして、今は研鑽、雌伏の時と説得したところ、モルガン様も快く応じてくれました。必ずあの魔術師の好きにはさせない。そう誓ったモルガン様の瞳の炎は、美しくも荒々しかった。女神の末裔の本気。いかなる結果をもたらすのか・・・

 

 

 

 

n月⑨日

 

 今日はロット王からの呼び出しがあり、急いで向かったっ所とてもいい笑顔のロット王に肩を叩かれ「進行役をしてほしい」と頼まれました。

 まるで意味がわからず困惑する私に周りの方が説明したところなんでもこの領では毎年「オークニー・ナイスミドルコンテスト」といういわゆる中年の男性メインの国内ボディビルコンテストを毎年開催しているそうな。

 ナチスドイツよりも約1400年も前にボディビルを競技にしていることも驚きだが、この大会、身分も出自も関係なく公平に執り行う大会と名高く、かれこれ8回目の大会だが、ロット王自身が一回目、そして4回目以外は優勝できてはおらず、農民や貴族、はたまた死刑囚が優勝と本当に自由で公平な大会のようだ。

 

 私にはその大会の司会を努めてほしいらしく、特に嫌でもないし、このような催し物は民の潤いにもなるので喜んで引き受けました。この大会、規模が大きくなりすぎる事を防ぐために各村から数名の代表者を出し、最終的には予選は数十名、本戦では十名前後でナイスミドルを決めるそうだ。参加賞も村への麦100キロ。優勝者には村からの騎士の選抜、税金の10%免除とかなり美味しい商品だ。そのためか会場の熱気は凄まじく、まるでサウナのような蒸し暑さ。その暑さで滲み出た汗が男たちの肉体を輝かせ殿方はその筋肉に憧れ、淑女の皆様も感嘆の息を漏らす。

 

 そんな筋肉と大人の色気満ち溢れる肉体の祭典はモルガン様と結ばれて元気ハツラツなロット王が見事三度目の優勝。その際のスピーチで「今回は妻のおかげで優勝できたしかっこいい所を見せられて気分がいいから今年の税金15%オフにしまーす!」と締めの発言で更に会場は盛り上がり、そのまま宴会となだれ込んだ。その影でイグレーヌ様と私、内政を担当する大臣でやりくりのための緊急会議を始めたのは言うまでもないです。

 

 ソバの収穫が待ち遠しいです・・・・・・・それと、ハチ、花子も帰ってきて・・・




ブリテンにそばの実が参加。そして華奈の武官への昇格に食糧事情改善のために食文化の改造計画、後進育成開始。モルガン親子も益々進化していきます。

因みにイグレーヌの立場が低いと書いた理由は国自体もアルトリアが復興しないと既に無いですし、そもそもモルガンの結婚の際に保護を求めている、居候に近い身ですからはっきり言ってパット見ではロット王は切り捨ててもおかしくなかったかな。と考えたからです。(后の母という立場を振り回して増長するのを恐れる、嫌がる家臣もいたでしょうし)

次回はかなり時間軸が移動すると思います。

最後の元ネタは「パプワくん」のマジック総帥の経歴に「ワールドナイスミドルコンテスト」優勝経験があるのでコレを採用。ドイツが生み出すよりも早くに肉体の美を競うまつりが生まれました。そして自由さ加減が増していくロット王。家臣たちは色々な意味で頭とお腹を痛めているかと。その中にイグレーヌと華奈も巻き込まれてしまいましたが。

近い内にロット王ファンクラブでも生やして握手会やサイン会でもさせてみせようか。


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オークニー領江戸化計画 序章

出来る限り沢山ネタを書きたいのですが、いやはや、3000字書くだけでも大変。長期連載を続けている皆様のバイタリティには頭が下がります。

そして、お気に入りがまさかの29件・・・・・・冗談でしょう? こんな駄文に?

頑張ります。でも、ゆっくり書きます。

今回は国の食料関係に改善策を。そして、華奈の部隊もちょい改造・・・出来るかなあ


(ヽ´ω`)月+日

 

 モルガン様が妊娠していました。この事に国は大いに騒ぎ、私達も心の底から喜びました。特にイグレーヌ様、ロット王、そして古くからロット王に仕えている家臣の喜びようは凄まじく、涙を流して床に倒れ伏す方までいました。

 

 しかし、この時代の出産は母子共に命がけ。安産祈願や栄養たっぷりの柔らかい食事、魔術の修練の一時中断と妊婦ゆえの息苦しさには抗議の声を上げ、私からも少しの運動は安産のためにもモルガン様の健康のためにも必要。と説得。栗毛に乗って散歩したり城の庭を散歩するくらいの自由は許されました。

 かなり過敏な反応でしたが、モルガン様の安全と大切な世継ぎが生まれるかもしれない。そのことで心配しているのでしょう。ロット王も何やかんや初老を過ぎかかっているお方。年齢やこの時代の病での死亡率を考えたらこの子しかいないかもと何処かで考えているのかもしれません。モルガン様も「気持ちはわかるのだけど・・・お姉さまが助けてくれなかったら牢獄みたいに閉じ込められていたかも」とふくれっ面で話していたのはとても可愛らしく、ついつい頬が緩んだ所を怒られてしまいました。

 

 そして、この嬉しい知らせに重なるようにハチと花子がパートナーを連れて帰還。少し身体も大きくなり、大型犬の二回りは大きい体になっていました。毛もそこらの刃物では切れないほどに硬く、力、速さ共に騎士は愚か魔獣すらも圧倒するほど。なついた頃のまだ少し小さい時期が懐かしく思えます。

 

 一方黒介もいつの間にやら花嫁を見つけ戻ってきました。キノコ探しの為に森に入ったこの短時間で見つけるとはなんとも手が早いというのか何というのか。黒介の嫁・・・魔猪から取ってマチコもこちらになついてくれたためにキノコ探しの効率が格段に上がりました。

 

 この子達の子供が生まれたら頭の隅で考えていた計画が動かせるかもしれない。幻想種の子供がどれ位の速度で大きくなるかは分からないが、取り敢えずはこの子達にも産休届を出さなければ。・・・動物の産休を王に出すなんて私くらいでしょうね。

 

 その間は私の下に配属された部隊の編成と調練に力を入れることに。取り敢えずはじめに部隊の説明としては「騎士団ではなく雑用、何でも屋を目指します」だった。突然の発言に食って掛かる騎士がいたが取り敢えずなだめ、話を聞いてもらうことに。 

 この部隊はロット王から好きにしてもいいとお許しを頂いているので、自分たちは戦いだけではなく、国の食料関係、農業にも手を伸ばして国全体に影響を与える部隊を目指す。そのためにはあらゆる行為や百姓の真似事、山師のようなこともするので心せよ。という意味合いだったと教えたところ、三分の一は賛成してくれたが、残りは納得がいかない、迷っているようで責任は私が持つので不満のある人達は抜けてくれても構わない。と通達して解散。

 

 私も修練をイグレーヌ様と修練をしながら頭の中で農業に関わる草案を練り、夜にその案を文字に表してみる。一部はなんとかなるが、残りの案は村のトップや王、それぞれの関係者も巻き込まなければ駄目なものばかり。少し、長い目で見なければなりませんね・・・

 

 

 

 

(・∀・)月www日

 

 本日は私の部隊・・・名前は「銀嶺」(モルガン様から拝命)部隊の初仕事。残ってくれたメンバーは約半数。早速私に懐疑的な方からの嘲笑の視線やあざ笑う声が聞こえますし、宮廷スズメ達もせせら笑う。ロット王も心配そうな視線を向けています。それはそうでしょう。なにせいきなり半数が反りが合いそうにないと離脱。これに私もお咎め無しとしたのだから「剣の腕だけ」「体を売ってつなぎとめた」等など陰口が絶えない。腹も立ちますが、堪えて仕事に。今回は漸く実ってくれたソバの収穫。そして試食会の予定だ。これが上手く行けばこの国の新たな穀物として栽培出来るし、より国が豊かになる可能性を模索できる試金石の一つと捉えている。残ってくれた騎士の皆も農民上がりだったり、現場を理解、若しくは戦にあえぐ民草の気持ちが分かる子たちなのでしょう。騎士の仕事ではない収穫作業にやる気を出している。

 

・・・・・・・・・この作業の大変さも知らずに

 

 早速道具を配り畑に向かうとロット王にイグレーヌ様、モルガン様も付いてきました。理由は「収穫される過程も知ってこそ」「どんな料理が出るか楽しみ」とのこと。私は構わないのですが・・・部下の皆さまが緊張してそれどころでは・・・そんな事を考えていると早速鼻の効く子が顔をしかめ、次々と皆の表情が歪む。畑についたときには私以外の全員が差はあれど同じ顔をしていました。

 そう、ソバの花の臭い。今回はわざと一部植える時期をずらして植えたために収穫期にも関わらずまだ花をつけているものも。それから香る臭いがはっきり言って糞の臭いそのもの。私は前世で慣れていますが、他に皆様には少しきついようです。しかし、これに慣れてもらわねばいけないので我慢してもらい作業開始。集めた物を用意した道具で脱穀、その後はモルガン様の魔術で乾燥させ、石臼で挽いた物で麺を打ち、今回はお手製麦味噌汁で実食。

 

 皆様の反応は上々。さらに小麦等と栽培、収穫の時期が少ししか被らないことから裏作も可能であること、また、荒涼した土地でもちゃんと育つことを説明すると、皆様の顔色が変わった。

 

 これを使えば今まで農耕に適さなかった土地も使えるかもしれないし、その分浮いた小麦を他の国に回したりすればこれを元手に麦転がしや貸しを作れる。それにより多くの人の飢えを救えるかもしれない。そんな所でしょうか。気がつけば皆で意見を飛ばしながら時間は過ぎていき、夜になって漸く解散。結果としては上々で早速商人様を通じてソバの実を輸入、領内で栽培に向けて動くそうです。

 

 

 

 

※月:日

 

 ソバの栽培が国内で広まり始め、少しづつではありますが国に明るい光が射し始めていると感じる今日このごろ。「銀嶺」の皆様と哨戒をした後の訓練後、肥料についての講義を始めることにしました。まずは収穫した作物から出るゴミや不要な葉、コレを纏めて腐葉土にして使用する方法。次に日常生活から出る食事の残り、肉の骨や魚の頭等、若しくは人や家畜の糞尿。これらが具体的な案となりました。腐葉土の案はすぐにでも出来るのですが、糞尿はしっかりとした肥溜めの準備とある程度民家から離すこと、衛生害虫などの対策が課題となりました。ソバはある程度荒れていたほうが良いのだが、小麦などは栄養が必要だし、ごぼうやエンドウなども栽培して味噌を普及させたい。何にせよ、肥料の確保と今まで使用していなかった物資の活用。これが私達の目的と言っても過言ではない。他にも薪などを燃やした際に出る灰も肥料に使えるのでこれも集めるように指示。

 

他にも水路や下水など、湧いてきたアイデアの泉の数々を纏め、専門家も含めて後日議論するために草案、アイデアを纏めておく。

 

 野獣対策や害虫などまだまだ問題はありますが、上手く行けばここはブリテン島随一の穀倉地帯になれるでしょう。頑張らなければ。

 

 

 

 

 この幸福は、一体何なのだろう。自分のために用意された豪華絢爛、必要なものは全て揃えた家具に宝石、化粧道具の数々、国民は私を受け入れてくれたし、母も壮健。婚約者。つまりはこの国の王も素敵な男性。蛮族の襲撃もあるが、それも小規模で撃退は出来ている。妹・・・アルトリアの心配は尽きないが、それでもこの環境は幸福そのものだろう。ここまで導いてくれたのは、あの美しい剣士。私の義姉様だ。

 

父が死に、私達を慰み者に、金を手に入れるための道具にしようと迫るゲスな男達から逃げようとしたあの夜、抵抗しようにも母は病で動けず、隙を突かれ魔術の行使に必要な詠唱も出来なくなった。女としての意地も矜持も、母を守れぬ悲しさも、王族としての誇りも通せずに汚されそうになり、諦めかけた刹那、私の喉と腕を掴んでいた男の腕は持ち主からズリ落ち、次の瞬間には足も突然、まるで人形のように離れて見上げていた男は私を見上げる形になり、その男の後ろにいたのは、芸術品のような美しい剣を携え、変わった衣装を身にまとう。銀の剣士でした。

 

 私は、呑まれた。月を背に輝くその美しい姿に。優しくこちらを見つめる優しそうな目に。かすかな風になびく銀糸の髪に。「大丈夫? 何処か怪我はない?」と優しく、鈴を転がすような落ち着いた声。そして、漸く状況を飲み込めた男と、その取り巻きの騎士たちを容赦なく切り捨て、細切れにする。無駄の無い美しい剣舞、その業。動きに合わせて揺れる衣装。鉄の鎧も剣も斧も柔らかい粘土のように斬り裂き、さっきまで生きていた人間を肉塊に変えていく。

 

 母に駆け寄り、支えながらその光景を、自分たちを犯すつもりだった男の痛みに悲鳴を上げ、芋虫のように悶える姿を見て、ああ、私達は助かるのか。と安堵の息を漏らし、緊張が緩んだせいか涙が流れた。恐怖のあまり声を上げて逃げていた最後の騎士の悲鳴が途絶え、何かが落ちる音が聞こえた後のしばしの静寂。それを破ったのは私達の救世主の足音。感極まり、御礼の言葉を言えずに焦っていると、彼女は私達を見て一言謝り、倒れていた男の手当を開始。

 

 一体何をしているのかと考えた矢先、底冷えするような目と声になり「貴方以外でこのお二人に手を出そうとした連中全て教えなさい」と傷口に、恐らく奪ってきた剣を音からして骨だろうか。に突き刺し、股ぐらを押しつぶしながら尋問を始めた。痛みのあまりに男が応えなければ足のあった部分を蹴飛ばし、余計な口を聞けば刺した剣を踏む。泣き言を喚けば鼻を折り、尚言わねば歯をへし折った。

 

 全く必要な答え以外を許すことのない尋問という名の拷問に男は情報をすべて洗いざらい吐いて、私や彼女に許しを請うた。四肢を切り落とされ、自信に満ち溢れていた下卑た男の顔は見るも無残なモノに変わり果て、整った歯も欠け落ち、滑稽だ。これがさっきまで私達を貶めようとした男の姿。その姿に彼女は何の感情も抱かない目で一言「情報提供有難う。『私は』もう手出しをしない」と言って私達に向き直ると、すぐそこの小屋に行くように頼み、更には隠蔽の魔術をつかってここに隠れて欲しいと申し出てきた。理由と聞くと今から城にいる私達を付け狙う輩を皆殺しにしてくるといい。戻ったら三回のノックとコインを落とすと伝え、最後に小さく「あの男を好きにしなさい」と呟いた直後には姿が消え、数瞬おいて城から悲鳴と怒号がかすかに消え始めた。それを聞きながら、私は目の前の男に怒りをぶつけ、殺した後に母と共に隠れ待つことにした。

 

 どれ程待っただろうか。三回のノックとコインを落とす音。扉を開けると彼女が鍵束を持って立っていた。その鍵は国庫の鍵で、一応持ち出すにも関係者の許可が必要かと。などと言ってくる事に思わず笑ってしまい。母と共に許可。城に繋いであった馬と馬車に国庫に残っていた財産と必要なものを出来る限り詰め込み、一度人目を避けるために森に隠れることになった。私もそうだが、母が人目を気にするだろうし、落ち着いて静養できない。何より今は男性に会いたくなかった。

 

 その我儘を初めから分かっていたというように彼女は快諾。そのまま森での生活が始まった。朝になり、改めて見ると美しいが幾分彫りの浅い顔つきに、肌の色が少し黄色いことなど、別の国の人種とわかったことも驚いた。

 

しかし、そんなことは関係なかった。妖精から教わる多くの技術、騎士が可愛く見えるほど凶暴な魔物の退治、なついてくれた狼やイノシシの世話。今まで味わったことのない程の美味しい料理。そして彼女・・・カナの強さ、美しさ、器の広さ。こちらに常に礼を尽くし、慮って行動してくれる察しの良さ。王宮のような豪華さはないものの、楽しく、気負うことのない生活が続いた。母の身体も薬の材料を用意し、頼りにしていた王への連絡もしてくれた。

 

 どれだけの大恩だろう。どれだけの働きだろう。どれだけ救われたのだろう。

 

 仕官の考えもないし、捨て置け無いだけでここまでしてくれた。我儘も聞いてくれた。私が長女のはずだが、この人を姉のように慕っていた。ずっといて欲しいと想っていた。母にも相談したら是非とも頼みなさいと背中を押してくれた。彼女なら受け入れるだろう。と。

 はたして、その通りにカナは受け入れた。ただ、公的には呼ぶことを禁じたことや付いていくが功績は別人のものとし、ただの侍女としてついていくことを頼んできた。どこの馬の骨が手柄を立てるのなら行方知れずの人間にして下手な注目を集めたくないと言ったのだ。此程の才能を持ちながら栄達を好まずに私達を気遣い、立てる。まさに聖人ではないか。ロット王の元に着いてからも国有数の武人たちを余裕綽々で下し、新たな食材の発見に蛮族の殲滅。合間を縫って私や母の修練や遊び相手にもなってくれる。本当に勤勉で優秀で・・・理想の姉だ。

 離すつもりはない。ずっと一緒にいてもらう。この素晴らしい家族を引き裂くものがいたら私が始末する。

 

 ・・・・・・・早くアルトリアにも会いたい。再会して、カナを紹介して、共に暮す。そのためには力をつける。私達を引き裂いたマーリンを一泡吹かせるために。この国を護るために。自身の根源も覚醒して、上手く使いこなしつつある。この幸せを、もう離すものか・・・・

 

 私のためにも、ロット王のためにも、母のためにも、カナのためにも・・・・・絶対に。

 

 




今回はモルガンの心情描写? をメインに書きました。原点でも型月でも憎さ100倍であそこまで突っ走れる女性がちゃんとした家族、理解者やヒーローに出会えたらどんな心境だろうかと思いやっちゃいました。

そして華奈サイドは騎士団と農作業。そして下水などのインフラにまで考え出す始末。暴走させたいのに華奈の性格だと難しい。そして時間軸も進まなかった。次回こそは・・・!


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オークニー領江戸化計画 其ノ弐 ~頼れる部下は、皆変わり者~

おまたせしました。執筆以外の事も忙しすぎて中々筆が進まず・・・失踪はしないのでどうかこの駄作にお付き合いください。


X月Z日

 

 私達銀嶺部隊に新たな仲間が増えました。農家から可能性を見出して私が引き抜いた、ダンカンという青年。小さな漁村に済む純朴な青年で、私達にカニを振る舞ってくれました。カニや貝の殻も砕いて肥料に出来るので、集めて纏めていたら肥料に出来るし、こちらで買い取ると伝えると皆様喜んで集め始めました。取りすぎて乱獲にならないようにちゃんと注意もしましたが・・・大丈夫でしょうか?

 

 そして、もうひとりの青年は技師の子供で、独特な言い回しをするが、懐の深さと戦略への理解、そしてその技師としての腕は確かなので採用。名前はヤマジ。ブリテンではかなり変わった名前なので聞いたところ元々が大陸の端あたりに先祖を持ち、商売で流れ流れここについたとか。少し悪そうな顔つきですが、人当たりもいいですし、私の長い人生の勘も問題ないと感じているのでそのままに。ただ・・・時折メンバーを見て舌なめずりをするのは何故だろうか・・・イイ男に対して・・・

 

 人間だとそれ以外にもソバの件を聞いて新たに10名ほどが参加。ダンカン、ヤマジを含めて37名の部隊になりました。そして、それだけでは増員は終わらず、ハチ、花子の伴侶とその子どもたちも参加。それぞれが5匹ずつ生んでいたので14匹の狼の参加、更には黒介の子も3頭入りイノシシは計5匹の参加。ハチたちには哨戒の手伝い、黒介達もキノコについてまだ知識や経験が足りない村での教育、散策に手を貸してもらう。人獣共に協力して国を栄えさせる。何とも愉快なこと。

 取り敢えずは小狼達は親たちや部下の皆さんに付いて行ってやることを覚える。そして最近益々お腹が大きくなってきたモルガン様やそのお世話に奔走するイグレーヌ様の傍にいて護衛兼癒やし役になってもらいましょう。お腹が大きくなるごとにモルガン様は不安を口にしますが、それ以上に期待と楽しさ、そして生まれくる子になんて名前をつけようかと悩んでいます。良い悩みです。

 

 安心して産めるように頑張ろう。私と銀嶺部隊の皆はそう誓い合って今日の仕事を頑張りました。

 

 追伸 オオカミたちの遊び道具としてフリスビーを木で作ったところ、大変好評だったのだが、親子入り乱れての大乱戦になったために家族分作り、遊ぶことに。危うく喧嘩になるところでした。

 

 

 

 

☀月━(゚∀゚)━日

 

 ついにモルガン様が第一子を生まれました。母子ともに無事でしかも男の子。これには国も沸き立ち、私達も思わず跳ね上がるほどに喜びました。

 

 名前はガウェイン。占った結果太陽の祝福を受け取るだろうとモルガン様はおっしゃられました。国の後継者である第一子が生命の源であり、全てを照らす太陽の祝福を持つ。これはとても素晴らしいことではないでしょうか。

 しかし太陽の加護・・・脳裏に向日葵の形をした渋い声でしゃべる妖精じみたものが「太陽おおおおおおお!!」と叫ぶ光景が思い浮かびましたが・・・関係ないでしょうね。別の世界の話でしょう。忘れちゃいましょう。

 イグレーヌ様も自分の初孫を見て、子を無事に産めた娘のモルガン様をみて嬉しさのあまりに抱きしめて離さなかったり、ロット王に関しては普段のフランクさと冷静さは何処に行ったのか。これほどにない歓喜の声と滝のような涙を流して感動を体全体で表現したり城を爆走したりと誰よりも感情を爆発させていました。

 

 この知らせには兵士たちも士気が跳ね上がり、本日の蛮族討伐はかなり楽になりました。

 

 ガウェイン様。早く大きくなることが楽しみです。

 

 

 

 

☆ミ月=日

 

 今朝、部員の時の記憶・・・つまり、二回目の人生での若い時の記憶が少しづつ思い出せるようになってきました。それに伴いアーサー王伝説も少しだけ思い出せるように。家族と同胞と王以外の記憶はわりかし曖昧だったので正直戻ることはないと思いましたが、僥倖です。この調子で色々な知識も戻ってくれば良いのですが・・・

 

 最近、蛮族の討伐や農作物の裏作で収穫量が増えたことや、食品の増加、私なりの衛生管理方法を買われ、前々から草案に上がっていた各村への肥溜めの設置、下水システム等を採用することが決定となり、各村へ大工が派遣されることとなった。

 

 そして、国に余裕が出てきたのが原因か、はたまたガウェイン様が誕生したせいか、ロット王がもの凄い子煩悩になっていました。具体的にはガウェイン様が泣けば私達以上に慌てふためき喋れば顔が溶けているのではないかと思うほどに破顔する。私にも護衛や世話役を頼み込むこともあるために遊び道具や人形も制作したりと、ドンドン仕事が増え、訓練はともかく哨戒に参加できる頻度が落ちている。ダンカンやヤマジを副官にして置かなければ大変だったでしょう。今の所動物たちからも部下の皆様からも異常の報告はない。

 

 剣の腕も全盛期に戻って来ていますし、ある程度の対応は出来るのですが、一応は神代の時代。理不尽な災害にまでは備えきれないのが悲しい。今の所それは無いですが、ケルトやギリシャ等を思い出しても・・・頭が痛い。

 

 そういえばダンカンが内陸の魚を試しに捕まえた中で鰻があったので、是非とも調理をしたいのだが、あのタレを用意できない以上別の調理方法になってしまう。ゼリー寄せ以外にいい方法を見つければ内陸でも美味しい魚料理がまた一つ出来るのだが・・・いけないいけない・・・ヨダレが。

 

 

 

 

_(:3」∠)_月B日

 

 良いことというのは続く時はトコトン続くようで、モルガン様が二人目のお子様を出産。名はガヘリス。この方もアーサー王伝説の円卓に名を連ねるはずのお方。大変元気でよく泣いては皆を集めますが、その倍笑うお子様で、モルガン様達はいつも笑顔でおられます。ガウェイン様で経験を積んだことも大きいのでしょう。泣いても慌てることなくおしめを替えたり、食事を用意したりとパニックになることなく子育てを出来ています。

 

 因みに、子育ては王族ともなれば従者が諸々をこなし、親は気構えや愛情を注ぐことが主。な場合が多いですが、モルガン様らは一緒に従者に混じって子育てに参加していきます。始めは従者の皆様も驚いていましたが、今では子育てに関しては従者も意見を出すことも多くなり、意見交換も行われています。そこにロット王が乱入しては大臣たちが追いかけてくるという光景もおまけ付きで。

 

 農業面でも進展があり、商人様が持ってきてくれた葉野菜というもの。それの正体はビートの一種。日本だと甜菜、またはサトウダイコン。最近の農業での進展を見て持ってきてくれたのですが、葉は勿論食べられますが、根を絞り煮詰ると砂糖が取れる。出来なくても飼料や肥やしに出来るので問題はない。まだ品種改良をされる前で根もそこまで大きくはありませんが、これはおいおい研究するとして、早速種や苗、そしてサンプルの商品を幾つか購入。仕入れた情報の土壌を再現し栽培開始。上手く行けば砂糖を調味料としてこの国の資金調達源に出来るかもしれません。なにせ、貴族の間では幾つ虫歯があることが砂糖菓子や甘いものを食べているかという豊かさを示すパラメーターだった時代もありましたし、手札は多いに越したことはない。

 

 欲を言えば蜂蜜、養蜂もしたいですが、場所がないですし、蜂故に危険、忌避感もあるでしょう。これはもう少し先延ばしになるでしょうね。養蜂箱の為にミツバチの採寸とスケッチ、朧げな記憶ですが設計もヤマジや大工の方々と相談せねば。




今回からオリキャラも出していこうかなと思い、副官登場。元ネタはまあ、すぐに分かるでしょうかね。

ヒントは鎌田吾作に自動車整備工です。


第二部開始に他にも諸々のせいで筆が進まず、短いですが、取り敢えずは出すことにしました。

そして、この間にお気入り件数55件、しおり、10件 UA3100超え。誠に感謝します。そして、評価をくれた方々も感謝します。これからもちゃんと書きますのでお願いします。


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華奈「ガヘリスのスケベは何処行ったぁ!!」ヤマジ「勉強があるって城に行ったぜ」

取り敢えず皆様、この駄作に付き合い頂き有難うございます。

今回から、部隊の成長、時間軸を進めていきます。そして、ネタも沢山、出せたらなあ・・・


^^;月°日

 

 ガウェイン様にガヘリス様、このお二人の王子の成長に宮廷が一喜一憂している間も私達の仕事は沢山舞い込みます。と、言いますか、ロット王が私達に教育係に任命しようかと考えているという噂が宮廷で騒がれており、当然、古参の貴族の方からは、特にイグレーヌ様を受け入れることに反対していた派閥の貴族からはそれはもうイチャモンを付けられて「従者ごときがでかい顔をするな」とか「黄色い女が出しゃばるな」など言われ裏で無茶な仕事も多く舞い込むようになっており、挙句の果てには裏で手を回したのか、ピクト人の様子見のはずが別の場所で騒ぎが起きたので銀嶺を全員向かわせてここの最前線で私が一人、しかも何故か攻めてきたピクト人とサクソン人の部隊と鉢合わせするハメに。

 

 これも貴族たちの手回しでしょうか。確かに来て二年ちょいの女が部隊を持って武官の皆様たちからも王からも信頼を得られたり、手柄を上げられては面白くもないでしょうが・・・実際問題、私やモルガン様に肩入れする派閥が出来ており、急進的に発言力を持ち始めているのもあるようです。私達に対立せずに協力を取り付けてしまえばいいでしょう。こんなゲスな方法で・・・・・はぁ、ここの担当の方に銀嶺の皆様がいなくて良かった。この数は少しばかり死者が出てしまうでしょうから。

 

 結果は鉢合わせになった蛮族全てを殺しきり、騒ぎを収めた銀嶺の皆様と合流して殺した蛮族全ての首を持ち帰り証拠として提示。それを見た貴族たちは青ざめていましたが、この事を武功として王や将軍達に評価され、銀嶺に更に20名が加わり、給料も増えました。結果的には私達の名をあげちゃうことになり、貴族の方々の目論見は最悪の結果に。因果応報なのでしょうか。

 

 

 

 

_| ̄|○月臭日

 

 甜菜も無事に育ち、早速実食開始。葉の部分は問題なく食べることが出来、甘いのもあり、民草にも受け入れているようです。僅かなスペースで植えたり、鉢植えで育てたりと、副菜の評価は好感触。

 

 しかし・・・地獄はここからでした。甜菜の根から砂糖を作る過程で失敗した結果・・・思い出すことも破棄するくらいの味の何かが出来上がり、すっかり味覚が覚醒した私達は阿鼻叫喚でした。仕方がないので失敗作は肥やしとして利用し、何とか砂糖を生産完了。少し根の香りが残りますが、果糖や調理次第でどうにでもなるもの。十分でしょう。これを国の生産、加工ラインを成立させて特産品に出来ればよいのですが・・・

 話題を変えまして、銀嶺も先の事から人数が57名と小隊前後の人数となり、これを3隊に分けて哨戒、副官もいますので模擬戦もしばしば行うようになりました。

 

 私も参加しましたが、「居るだけで無理」と言われ組手や試合の個人での教えのみ、または指揮だけになりました。・・・・・手は抜いているんですけどね・・・・・・・・

 

 訓練が終了後、ヤマジに養蜂の件を伝えると快く承認。明日以降哨戒の傍ら蜂の生息域の調査に、大工にも顔見知りを呼ぶとのこと。養蜂箱のスケッチを渡したところ、すぐにでも出来そうだということで半休をあげることに。遠心分離機はありませんが、まずは養蜂から。花の品種にもこだわりたいですが、まずは蜂が来なくては。

 甘いハチミツに焼きたてのトースト、それに紅茶・・・・・・お腹が空きました。今晩は近所の方がくれたヤギの刺し身とソバの粥にしましょうか。家に先に帰っている黒介達がお腹をすかせているでしょう。

 

 

 

 

□日?月

 

 本日はモルガン様に呼ばれて王宮へ。何でも少しいつぞやのフリスビーでハチたちと遊んだのが楽しく、新しい遊びは無いものかと聞いてきました。

 

 んぅ・・・・・モルガン様もイグレーヌ様も楽しめるものはなんだろうか・・・それも、まだ小さいお子様を見ながらゆっくり出来る・・・・・・! 電流が走り知識が蘇った私は早速作成を開始。柔らかい木材を札状に切り、それに強化の術式をモルガン様に刻んでもらい、数字や文字を彫る。そして、簡単な色つけをしたカードセット「ウノ」を作り上げた。カードゲームなら動かなくてもいいし、これならイグレーヌ様侍女、従者の皆様と楽しめるでしょう。ついでにトランプも作ると大喜びで私に抱きついてきました。く、苦しいです・・・・

 

 取り敢えずルール説明をした後に実演。トランプはババ抜きやポーカーを教えておき、騒ぎになるから賭博はやめておくように念を押しておきました。それにはシッカリと同意をしてもらい、早速侍女の皆様と興じていました。熱くなるのはいいですが、子育てを忘れないでくださいよ?

 

 モルガン様もイグレーヌ様もここ最近は自身の根源の力を制御した上で引き出しており、金の髪は灰色に近い白に、目も翡翠色になってきましたが、以前その美しさには陰りはなく、宮廷でも宮女からもてはやされて香水や服装などを真似ようとしている女が後をたたないとか。同性でも息を呑む美しさだ。分かる気もします。

 

 今回のお礼としてモルガン様、イグレーヌ様から不老の術式をかけてもらい、死ぬまで私はこの姿だとか。

 

 いや、嬉しいのは確かですが・・・良いのでしょうか、ここまでしてもらって・・・?

 

 

 

 

△日!月

 

 今回は良く現場で共に手を組むことの多い将軍。名前はジャック将軍。と軍略会議と机上演習、勉強会に雑談をすることになりました。ジャック将軍はまだ30代ながらにとんでもな奇襲戦法や堅牢な防御術で第三位将軍の地位につく方であり現場主義の若い将軍。私とも銀嶺とも公私共に仲良くしています。その御方と改めて現状確認と盤上の模擬戦、意識の齟齬の確認のための会議、そして、勉強会に雑談と大変勉強になるのでヤマジとダンカンを誘い、始めたのですが・・・私の将器を知るいい機会になりました。

 

 机上演習は、私個人は奇襲戦や機動戦、少数の部隊の戦いなら裏をかく、不意をつく、真正面でのぶつかり合いでジャック将軍相手でも圧倒できる。しかし、大人数。千人以上の大規模な軍の指揮はまるで駄目。ヤマジは兎も角私とダンカンは慌てふためき打った一手を見事に刈り取られてニ手三手封じられて完敗。もしこれが現実に起きたらおぞましい光景になることは間違いないほどでした。

 

 ジャック将軍曰く「君は別働隊かつ大きな流れを起こす飛矢になることが最適な動かし方」「総指揮はヤマジに任せて君(華奈)とダンカンは別働隊で刃となり盾となり忙しなく動くほうが部隊の最善」「出来るならもう一人副官を募り、動ける将、または私とダンカンを個別で支持できる将がいたほうがいい」「機動力重視で多くても千人前後、それ以上は将を増やすべき」との意見をいただき、大変参考になりました。

 

 未だヴォーティガーンの勢力やピクト人の侵攻へ強烈な一手を打てる勢力は現れず、どこもギリギリの現状維持で精一杯。私達も戦線も一度は上げたものの、そこで現状維持の現在。私達の国は徐々に富める状況になってきたので襲撃の頻度も比例する様に増していますが銀嶺とジャック将軍で対処できている。が、これ以上は進めないので、資産は豊かに、でもその分出費も・・・の状態。

 

 この状況を打開できるものが欲しいと嘆く将軍。良い方です。取り敢えずは銀嶺との連携、増員と装備の見直し、部隊の強化に人材確保・・・問題は山積みですが、人材に関して、私達は元の出自での差別がないぶん誰でも直ぐに呼べる分楽なんですけどね。トップの出自にしても私は侍女、ヤマジは大工、ダンカンは農家兼漁師。うん、騎士団と呼ばれもしますが自警団ですね。武士の始まりの頃ではないですか?

 

 その後は軽い談笑と試しに作った砂糖をいれたクッキーの試食会。大変美味しいので皆手が止まらずに完食。また今度用意すると約束したら大変喜んでいます。そしてヤマジ、ダンカンはまだ将軍に用があるので残るとのこと。

 

 ・・・・・・・・この三人から紫色の空気が出ていたのは気の所為でしょう。その後の野太い叫びも・・・

 

 その後はモルガン様の下にお邪魔してクッキーをプレゼント。やはり女の子には甘いものが大好きなようであっという間に平らげ、今度レシピを作る約束とドライフルーツを入れたものも教えることに。

 

その時に近くによった理由や武装の事も話したところ「私にいい考えがある」と凄くいい笑顔とサムズアップで答えてくれました。・・・・・・・フラグでは無いですよね?

 

 

 

 

(゚Д゚)ハァ??月(。・_・。)日

 

 えー今朝、私達銀嶺、及び私、船坂 華奈にガウェイン様、ガヘリス様の武術、軍事の教育係、そしてイグレーヌ様と公式で相談役に任命されました。

 

 私とヤマジ達が気絶しなかったことは奇跡だと思っています。正直冗談であって欲しかったですがジャック様に多くの騎士や民草の支持もあり、今日付けでスタートとのこと。

 私が必要なのは嬉しいです。銀嶺の皆が出世するのは喜ばしいこと。・・・・・・・でも、それを公で認めちゃいますか!!? 痛い! 王に取り入って栄達を求めている宮廷貴族達の視線が嫌に痛く感じる。そして胃も少し辛い・・・・・・

 

 任命が終わり、今日は皆で固まって行動すること、トイレでも三人で安全確認をしてから用をたすことと通達。しばらくは私達を疎ましく思う貴族たちの追手をかいくぐらねば。

 

 と思ったら夜に暗殺者は早速登場。すぐにイグレーヌ様と私でしばきあげてモルガン様の魔術とヤマジ達の本格的♂尋問で直ぐに情報を吐いてもらい差し向けた貴族は一族ごと処分。その貴族の財産は私達銀嶺への慰謝料、迷惑料とロット王自ら謝って渡してくれました。何でも「ここまで国に貢献してくれている君たちをただの一部隊で扱うのは気が引けるし、心身ともに逞しく信頼できる」とのことらしく、ロット王の誠実な言葉に皆が涙を流して王に忠誠を誓いました。

 

 因みにお金は多すぎて使いみちが思いつかないので部隊のボーナスと家族への見舞金。それでも余ったのは国庫にしまい、一部は予算と皆の食費に。明日は鍋パーティを開きましょう。

 

 

 

 

③月(・へ・)日

 

 モルガン様が3人目のお子様を生みました。年子で皆男の子とは、この国は安泰ですね。・・・しかし、この子達が皆アーサー王の下に行き、忠誠を誓うとは何とも・・・別世界のロット王とモルガン様の事が少し不憫に思います。

 三男の名前はアグラヴェイン様。赤子なのにも関わらず、あまり泣くことがなく、侍女の皆様は少し心配そうです。実際に私の目からみても大人しく、物静か。でも、視線を忙しなく動かして観察、または興味を示しているあたり知的になるかもしれない。

 

 最近成長して自由に動けるようになり、はしゃぐことこの上ないガウェイン様やガヘリス様とは代わり、おとなしい、兄たちの支え役になりそうで楽しみです。なにせ目を離せば安全な庭での訓練のはずが騎士たちが練兵所に乱入し皆で追いかけっ子。私にもよく抱きつくふりをしては胸を揉んだりお尻を触る。

 追いかけようにもガウェイン様は既に太陽の加護が現れ始めているのか日中では大人でも追いつくのが難しく、縮地を使わないといけないこともある上に、ガヘリス様は兎にも角にもやんちゃでメチャクチャ。とんでもない場所に逃げ込むので下手に追いかけないで安全な場所に誘導するかが問題となる。

 子育ては前世から数十年以上していませんが、楽しいものです。

 

 ですが、増えてきた業務をこなすのは辛く、睡眠時間も無くなっていることが現状。ジャック将軍の言うとおりに新たな副官を探しましょうか・・・・・眠い。

 

 

 

 

●月○日

 

 今日、新たな副官を見つけました。そして、その正体に驚きを隠せません。

その子は神秘の濃ゆい山におり、私と栗毛が哨戒中にワイバーンの群れが一箇所に集まる光景を見て巨大な竜種が付近にいるのかと思い襲い来るワイバーンを蹴散らして向かった所、ワイバーンの群れを纏める少女がいました。

 

 私と同じ白銀の髪を膝のあたりまで伸ばし、中肉中背の小柄な身体。顔はとても整っており、その目はクリクリと可愛らしいが、瞳は真紅で人のそれではなく竜に近い眼。

 どうにも彼女が群れを纏めているらしく、彼女が私を見て正体に気づいたところ、ワイバーンの襲撃がピタリと止み、ただ遠巻きに見るだけでした。

 

 しばらくの問答の後、やはり前世での家族の一人、アンナだと分かり、着いてくるかと聞いたところ快諾。群れのリーダーを適当なものへ譲り、私と栗毛に乗って帰ることに。

 アンナ様も気がつけばこの世界に来てはいたが、なんでも赤子の姿であり、成長して調べたところ、口減らしのために捨てられた捨て子に憑依転生していたらしいです。赤子の時は竜に何故か育てられ、成長してからは群れの長となって今日まで生きていたとのこと。丁度人員を探していて、よければ副官にならないかと仕官の誘いも持ち出しても即了承。彼女も家族のいない世界で過ごすことに辟易しており、私と会えたことが何よりも嬉しいとか。

 

 私も同じ気持ちです。アンナ様・・・・・

 

 早速帰ってから仕事の説明をしたところ、ヤマジの軍略補佐と料理を担当。動物とも仲良くなるのが早いので、近々設立予定の部隊の指揮官を任せても良いのかもしれません。

 

 

 

 

❆月犬日

 

 今日は大変寒い日となり、雪も深く積もっていることもあってか、移動するのにも一苦労です。幸いなことにソバや肥料、食料の増加で民草の皆様も飢えることはありませんが、やはり馬でもこの雪での移動は一苦労。この時期は多くの地域での交流も止まってしまうし、その間に寂れた小さな村は全滅。というのも珍しくはないですが、今回はその打開策を準備してみました。

 

 それはハチや花子の子供や孫。増えに増えてねずみ算式で60頭以上居るのですが、この子達に狼ぞり部隊を設立。冬季のみならず軍でもその機動性、小回りを発揮してもらうつもりでハチも孫たちも承認。基本的には各村に今回の冬を越すことが厳しい村に冬になる前に連絡をもらう。そこに冬になり、必要な物資を届けに行くという寸法だ。勿論誤魔化す輩も出てくることを踏まえ、一度私達自身が見た上で正確な数を出すように釘を差すことに。 

 まあ、物資輸送に往復前提なので殺してまで手に入れるよりかは素直に受け取るほうが利益は大きいし、狼達もそもそもが魔獣。手を出すことが自殺行為。大きさも小型の虎ほどはありますし。私達銀嶺の一員。つまりは、私達への宣戦布告も同義。狼達を誤魔化すことも出来ないので、素直に頼んでくれることを祈ります。

 

 

 

 

∑月E日

 

 本日、モルガン様の鎧に関しての提案とアンナ様の顔見せとなりました。基本温和なアンナ様とは料理という共通の趣味や私の話で直ぐに仲良くなられ、最後は互いに握手を交わしました。善き哉善き哉。

 

 モルガン様の鎧についてのアイデアは鎧を軽量、軽装化にしての機動戦、一撃離脱の奇襲戦法の効率化となりました。実際に重い鎧を着けては動きづらいですし、鎧の分だけ馬への負担もかかる。遠巻きに矢を射掛ける援護射撃や数回斬り付けて離脱。囮にする部隊は如何に相手との距離を詰めたり離れたり出来るかが肝ですから、正解だと思います。

 

 しかし、その為の鎧の加工はどうするのか? 技術もこの時代ではさほど高くはないですし、私が教えようにも感覚の部分が強く、教えるのに数年単位は必須。そもそもの先立つものがあまり無い。前回の貴族のお金も皆様の給料にあてちゃいましたし。悩む私に対してモルガン様のアイデアは「神秘の宿る古い木を加工して鎧に、そこに強化の魔術を加える」というものでした。

 

 神秘を貯め込む古い木は古来の神秘も内包しており下手な金属よりも強く、そこに強化の術を刻んで軽装鎧、だけど強度は以前と同様、下手をすればそこらの鎧よりも固いものが出来るかもしれないらしい。

 

 善は急げとハチ達狼家族と栗毛、アンナ様で再びワイバーンのいた山に戻り、伐採を開始。アンナ様はこの世界では魔術に才能が開花しているらしく雷や炎の術式で襲い来る魔獣や幻想種を蹴散らし、私が愛刀で木を伐採、切り分けて栗毛に犬ぞりまで引っ張り、ハチたちに持っていってもらうヤマジ達はそのそりの護衛をしてもらい、黒介はついでに山菜とキノコ採り。神秘の強い山。食材も美味しいはず。これはダンカンに同伴してもらい採取。

 

 かれこれ朝から始まり持ち帰った丸太を拠点に持ち帰る頃には夕方。作成は次回にして今日は解散・・・とはいかず、収穫した山菜とキノコ、蹴散らして解体した魔獣のスープとステーキを作り、野外で食事会に。凄くきれいな星空を眺めながらの夕食は楽しく、愉快なものでした。

 

 

 

 

※月%日

 

 改めて木製鎧の作成に着手する私達。ジャック将軍やロット王も見学に来て、何だか国軍の新装備のお披露目会みたいになっていますが、気にしないでおきましょう。モルガン様やイグレーヌ様に協力を取り付けた時点でアレですし。

 

 作業自体は簡単なもので丸太を切り出し鎧のパーツを私やヤマジ、銀嶺の手先の器用な面々で加工。部品同士を繋げる皮には魔獣の皮をなめして使用。鎧の裏に術式を彫り込み、魔術専用の塗料で塗る前に表にも金属を噛み合わせてから内部に強化の術式を彫り込んだ文字に魔術師専用の塗料を上塗りして術式を発動。強化の術式自体は魔術の初歩の初歩になる簡単な魔術らしく、燃費も少ない。使用する前に宝石や触媒に魔力を込めて使用時に発動させれば魔術の使えないメンバーでも問題が無いそうです。

 

 取り敢えず魔力の都合はアンナ様に銀嶺で魔術の素養があるメンバーで用意するとして、鎧を人数分用意。早速実験した結果。

 

長所

 ・強度は以前よりも増している。 ・重くない分動きやすいし、少し加えた工夫のおかげか関節の可動性も良し。 ・馬に乗っての長時間の移動も苦にならず、馬も潰れない。

 

短所

 ・軽い分、ぶつかり合いでは完全金属製の鎧には負けてしまい、力押しにはそもそもの自力も必要になる。 ・魔力を使用する鎧なので、長時間の遠征や隊を分ける際に魔力切れの心配が発生する。 ・素材の入手は神秘の濃ゆい、魔獣の多い地域故に私や銀嶺以外だと危険が多い。

 

となった。これでも十分な結果なので、改めてこれに弓兵用の鎧も追加できれば上々。動物たちと合わせて機動隊を作れば戦場を荒らし回る燕となるでしょう。ジャック将軍も一部支給を求め、大丈夫だと承認したところで話は終了。有意義な日になりました。

 

 

 

 

π月E日

 

 時間というものは意外と足早に過ぎていくもので、ガウェイン様が生まれて早十年。元気なのですが、如何せんよく私に抱きついては胸に顔を埋めたりスカートめくりをしたり、未来での王子様のような涼やかな顔を知っているだけにこうだったのかと思うこともあります。そして、あのオープンスケベの下地も。外見は22くらいで固定されていますが三十路のオバサンの胸を堪能したりスカートの中身を見ても嬉しくないでしょうにこの子達は・・・・もちろん叱るために追いかけますが、何せ小さい頃から繰り返しているために逃げ足が早い。健脚なのはいいですが、そんな事で発揮しないでくださいよ!

 

剣術もシッカリ教えているのですが、思い切り脳筋一直線の剣術スタイルに・・・体捌きや回避は覚えていますが、剣自体がバットや棍棒に見えるくらい荒っぽく使う。

 

 アグラヴェイン様くらいしか私の剣術を手にしていない・・・教育係としてこれはマズイのではないでしょうか・・・・・・?

 この十年の間にさらに生まれたガレス様には私の剣の真似もしますが、あくまで嗜む程度で済ませ、王女としての淑女の教育をモルガン様、イグレーヌ様、アンナ様にお願いしました。お陰で大層可愛らしいふんわりとした女の子に。育ちつつあります。

 

 この時間の間に銀嶺も成長し、人数は300人、装備も木メインの魔術編み込み製の鎧も全員に支給。鍛冶場も用意できたので私の鍛冶師としてのノウハウを詰め込んだ剣を支給。よく斬れて頑丈と評価も上々。仕方がないので騎士団と正式に名乗ることに。それでもスタンスは変えるつもりはありませんが。

 

狼達もすっかり100匹以上いるために狼輸送部隊に急襲部隊の設立。黒介一家も20頭以上になり国内外で「銀の死神部隊」と言われているとか何とか。どうでもいいですが。

 

 そして、栗毛がアンナ様と散歩していたら物凄くモコモコした猫とリスの中間? のような生物を捕まえてきた。モルガン様曰く「キャスパリーグ」と呼ぶらしい。

 

・・・・・・・ドーモ、フォウ=サン。カナです。

 

そういえばマーリンと一緒にいましたっけ。私達にすぐ馴染んでくれたので今では銀嶺の一員と認識されつつあります。・・・とんでもない獣なんですけど・・・・まあ、いいですか。あちらも害意は無いですし。

 

 因みに、ここ数年キリなく送られるマーリンの使い魔をよく潰しにかかってくれるので、その度に御礼のご飯をあげています。てっきり私達への差金かと思ったのですけどねえ? 脱走したのでしょうか?

 

 

 

 

 

 俺はしがないただの大工。一つ違うことがあるとすれば、騎士団に入れたことと、その大将がとびきり変わり種の変人ってことくらいかな。

 始まりは当時新婚ほやほやのモルガン様やイグレーヌ様の侍女を名乗る女剣士。いい男を見繕えそうだからホイホイついて行ったが、その先で騎士団ではないと言い切るわ騎士の血なんぞ欠片もない俺を副官にしちゃったり、農業を始めるわ旨い料理を振る舞うわ。俺のイメージするお硬い騎士のイメージを見事に壊し尽くした。

 

 ありゃ、女神、若しくは救世主ってのを言うんだろうな。俺にみたいな下賤な出が将軍とお突合出来ちまうし友だちになれる。王女たちにも簡単に拝謁が敵うんだ。世界が変わるにも程が有るぜ。

 

 その分危険も多い。魔獣相手に勝負は日常茶飯事、蛮族共を鏖殺するために切り込み夜襲もよくあること。でも、イイ男を守れて仲間もできたし、べっぴんの大将が振る舞う飯を食える。最高の日々だ。

 大工としての仕事もくれる。それも蜂蜜を集めるための小屋に鎧、肥溜めと幅広くて面白い。仲間の狼やイノシシも気が利くし嬉しくなっちゃうじゃないの。

 

 今まで子宝に恵まれなかったこの国待望の王子たちも元気そうだし、大将・・・カナが来てから良いことだらけだ。こりゃあの卑王もあっさ・・・「コラ~~!!! ガウェイン様!!! 女のスカートを捲ってはいけないと何度言えば!! あ、ガヘリス様も待ちなさい!!」

 

 おっと、噂をすれば大将の声だ。どうもまた王子様達にイタズラをされたようだ。一緒に10年位いるが、全く衰えない美しさだ。イタズラもされるだろうさ。俺も大将が男だったら思わず誘っちまうね。

 

「ヤマジ! ガヘリス様は見ませんでしたか!?」

 

 息を切らして走り込んでくる大将。それなら城に戻ったぞ。今から座学の時間だろ?

 

 「うぅぅぅうぅうううぅ~~~! また逃げられましたぁ・・・もう、何で私ばかり・・・」

 

 がっくりと肩を落としうなだれる大将。まあまあ、それだけ気に入られているんだろ。好印象なんだぜ大将?

 

 「それと教育は別ですよぉ・・・スイマセン、ヤマジ。私も一度哨戒に行ってきます。留守は任せましたよ」

 

 そう言って城を出る大将を俺は手を振って見送る。女に興味はないが、カナの大将の行く先には付いていきたいし、見てみたいね。退屈しなさそうだ。




マーリン「イグレーヌとモルガンをどうにかしたいがガードが固い。よし、キャスパリーグ、行け! キミにきめた!!」

フォウ「キュー・・・(何でこいつの、こんな下衆い命令効かにゃいかんのだ。バカジャネーノ? そのままバックレようか)」

   ~移動して~

アンナ「あら? 可愛らしい子ね。おいで、一緒に来ないかしら?」

栗毛「ブルル・・(ウチはいいぞ~飯もうまいし、いい人ばかりさ)」

フォウ「フォ~ウ?(うーん、子供にでっかい馬だぁ。嘘も言っていないみたいだし・・・せっかくだし見てみるかなあ)」

   ~一人+二頭移動~

華奈「どーも、フォウ=サン。カナです」

フォウ「フォウ! キャウ!(え、何これスタイル抜群のオッパイ美人。しかも性格もいいみたいだし綺麗な魂。多少血なまぐさいけど、この国をここまで救ってんの!? 決めた。貴女になら倒されれもイイ!!)」

華奈「わぷぷっ・・・! げ、元気ですね・・・うーん、木苺食べます?」

 そんなこんなでかなり長くなった今回。新しく登場したアンナは部員様から貰いましたが、元が「モンハン」の依頼者の一人、「白いドレスの少女」をモデルにしているみたいなので、竜種に育てられた雷の魔術に秀でた女の子にしました。

今回のアンナ様の生まれの設定は小さい頃に読んだ日本昔ばなしに龍に育てられた子供の話があるのでそちらを思い出しながら書きました。

西洋では竜は宝の守護者であり、倒されるべき悪として描かれることも多いですが、アーサー王の名乗る赤き竜は珍しい信仰されていた守護竜だったので大丈夫かなと。よく騎士が守護するものとして掲げたり相手を威圧する意味でマークに入れることもあるらしいですが、民草にまで信仰された竜は本当珍しいと思います。


 アンナ様の使用許可をくれた G-h様。有難うございます。

 そして、UA4162件  しおり10件  お気に入り70件  感想9件 

 部員の方々も見てくれて感謝します! これからもどうかお願いします。


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ロット王「何が始まるんです?」華奈「大惨事大戦だ」

進んだ時間、変わった国。そして漸く出てくるあのお方。


∞月8日

 

 数年の努力が実り、漸く養蜂事業が安定して供給出来るレベルに乗り出し始めました。毎日。合う花を探し、天敵への対策諸々・・・・苦節8年。遠心分離機や小屋のノウハウをようやく確立して日が浅いので、今はまだ私達生産者や豪商、上流階級のみの高級品ですが、広がれば民草全ての方にも美味しい蜂蜜が・・・・! これは頑張らなければいけません。

 

 銀嶺の皆様もこの数年ですっかり半農半兵士の部隊に心身仕上がってしまい、寂れた村を見つければ立て直し、悪さする輩は蛮族だろうが貴族だろうが地の果てまで、行く前に捕まえて張り倒す。私達騎士団に魔獣の狼に猪、黒王号張りに大きい馬に追われたらそりゃあ恐ろしいでしょうね。

 

 普段はのんびり純朴、いざとなれば鬼神の部隊として色んな練度を上げています。騎士団の中にけが人、家族の中に病人が入れば直ぐに薬草や蜂蜜、多めに作った料理を回すようにしていることから多くの方が入団したがるのですが・・・どうにも訓練や日常化している魔獣、蛮族との殺し合いについて行けないのか、死んでしまう、心が折れる人が多い。

 

 ただ、それでは勿体無いので、アンナ様、ダンカンからみて裏方で働けそうな、交渉や商才、隠密などの一芸を持つ、若しくは磨けそうな人材をジャック将軍に回しています。何となくですが前世も含めて多くの人材を見てきたせいか、それなりには分かるので受け皿になっているジャック将軍も人材の卵の増員は助かっているみたいです。ようやく後進の育成ができてきましたし、国の土壌も潤っている。軍事は少し余裕がある。後はリソースを上手く利用できるようになればこの国はもっと良くなる。少なくとも、ガウェイン様達が大人になる頃に、いい状態で渡せれば幸せです。

 

 

 

 

=月ー日

 

 養蜂技術の安定から数年。技術が高まり、安定した供給から値下げにも成功して久しいここ最近、ウーサー王の後継者を名乗る新勢力が出始めたらしく、しばしば噂に上がりました。名はアーサー。選定の剣を抜いた選ばれし王だとか、若い少年だとか。

 

 いよいよアーサー王、アルトリア様が動き始めましたか。

 

 もう少し情報を仕入れたところ、目的はブリテンの復興。この目的を聞いた時は正気かと思わず心の中で思いました。衰退する国というのは時流のタイミングが悪かったり、上手く立ち回ってもそれ以上の勢力に滅ぼされたり、奸臣や逆臣の謀反と様々です。

 

 しかし、ウーサー王は自身の病だけならまだしもイグレーヌ様への不義の件やモルガン様とロット王の婚姻の件も完全にこなせていない準備のなさ。しかも崩壊直前には忠臣なぞいなく、金と女を求めたケダモノばかり。それも謎の騎士の助力で鏖殺。再興するということはこれらの負債も背負うということ。いっそ新たな旗を掲げたほうが余程楽というものを・・・・

 

 この話をフォウ様の前で話したら牙を見せて毛を逆立てたので、ああ、やっぱりマーリンが動いてもいるんだなあと。何時此方へ矛が向くか向くか分かりませんが、対策はしておきましょうか。取り敢えず現場に張り付く騎士の皆様と打ち合わせをば

 

 因みに既に此方の偵察のためか送られる使い魔の頻度も増えてきており、見つけ次第私達が潰しますが、何故千里眼持ちの彼が使い魔を送るのかと長年疑問に思っていたところ、モルガン様やイグレーヌ様が千里眼をシャットアウトしていたとか。

 このせいでオークニーの情報が入らないから仕方なく使い魔をということらしいです。

 

 これは有り難いです。もし本気で戦うなら、情報の有無は大きいですから。

 

 

 

 

G月I日

 

 改めて部隊の人数を再確認することに。何せ蛮族だけではなくアルトリア様の勢力ともぶつかるかもしれないのですから、どれ位の戦力を用意できるか知るべきでしょう。

 

 というわけで確認開始。

 

 まず部隊長の私に副官がヤマジ、ダンカン、アンナの3名。 人間の部隊は300名 動物は馬の栗毛 魔狼はハチ達の大家族が・・・170頭 黒介ら魔猪は40頭

 

 合わせて頭数は515

 

 中々の人数。コレを細分化して暴れるのが良いでしょうが、せっかくの魔獣が多いこの部隊。少し違う暴れ方もいいでしょう。

 

 皆様も危機感、または戦の気配を感じているのか訓練も熱の入り方が凄まじいものでした。一体どうなるのか・・・

 

軍議を開いてアルトリア様を仮想敵としての軍議を開いてもいいかもしれません。ま、私は端でたまに意見を出すだけですが。

 

 

 

 

??月( ̄ー ̄)日

 

 今日は私、ジャック将軍、モルガン様、イグレーヌ様、ロット王、国防の要害を担う将軍数名。そして財務と食料関係の大臣を呼び極秘会議を開始。お題目は当然アルトリア様に関するものだ。

 

 仮想的ではあるものの、現在最も活発な上に、此方を狙う理由もあるので即座に招集。取り敢えず今までの行動を洗い出して精査。目的を見ることにしました。

 

 まずは目的はブリテンの復興にこの島、周辺のものも含めて全ての統一。そして、今はそのために行動中。中々の勢いのようです。

 

 そしてその軍の動きは自身の足場固めに弱い諸侯を優先して狙っているが、今ひとつ気になる点がある。少しばかり遠出をしたり、嫌にルートが変な時があるのだ。その理由についてはイグレーヌ様が感づき、憶測ですがと付け足して「私やウーサーの親族の逃げた先や旧ブリテンの旧臣達のいるところではないか」とのこと。その理由としては自身の後継者としての正当性に揺らぎが生じる可能性を摘むためであり、恐らく変なルートはそのために動いたものではないかとのこと。

 

 確かに国の末期には逃げ出す家臣も多かったみたいですが・・・何故お二人に手を下さなかったのかという疑問も出てくる。今、お二人がアルトリア様はペンドラゴンの後継者ではないと言えば生じる揺らぎは少なくない上に、戦おうにも私はマーリンには敵わない。後継者の立場を確実にするためならあの夜に加勢してしまえば一息だった筈なのに・・・

 

 これについてもイグレーヌ様は自分の体の衰弱具合に上手く家臣をけしかければ魔術も不十分なモルガン様は少しの抵抗は出来るとも、長くは続かずに終わることや、そもそもイグレーヌ様を連れているから取れる手段も少ないだろうと見越してのことではないかと推測を出してくれた。

 

 目の前でイグレーヌ様を庇い拘束されていたモルガン様を見ているだけにこれは嫌というほど分かり、もしあのままならマーリンの思う通りに二人は最悪の結末を迎えて、イグレーヌ様は犯された負担と病で死んで、モルガン様も生きていたとしてもきっと今のアルトリア様の行動を良しとせずに活動していたかもしれません。

 

 そしてマーリンのこと。魔女や悪魔憑き、洗脳されていると嘯き遠慮なく倒しにかかるでしょう。赤子を改造して王としての教育しかせずにその肉親は放置どころかケダモノをけしかけるような人物だ。そもそもが信用も信頼もできない。

 

 つまりは、私の乱入がマーリンの計画を狂わせ、人種や縮地などのこの時代、この島にないような存在に技が彼の手を鈍らせた。ということなのでしょうか。

 

 嬉しいですがそれはそれ。この推測が間違いないなら此方にも矛が向くのは確実で、今の軍の動きを推算して、アクシデントや休息を考えても近いうちには来るだろうとのこと。

 

 はっきり言って戦えば勝てるか? 言われたら3:7で此方が負けるでしょう。此方の強みは食料などの物資に育ってきた後進達の若い方々ですが、なにせあちらは国の復興を掲げた錦の旗に集った者達。基本国防に重きをおいていた此方とは違い魔獣に蛮族だけではなく、国を攻めるという多くの荒波に練磨されてきた経験。数は見る限り此方が多いですが、質ですぐに返されるだけ。

 

 将の質も段違い。前世の部員としての記憶を手繰っても私の知る世界ではこの島の惨状を10年も耐え抜いた常勝不敗の騎士王アルトリア様。その騎士王の師であり世界最高峰の魔術師のマーリン。アルトリア様を超える武技の持ち主であり、軍略にも明るいランスロット卿。この三名が入るだけでまず此方の対抗できるかと言われれば難しい。

 

 となれば狙うは兵の疲労、士気をついたものになる。どんなに素晴らしい将でも一度折れた士気を回復させるには少しの時間、若しくはその場を熱狂させる檄が必要だろう。その全てが将に魅入っている間に此方が一手を打てれば軍を見出せる可能性は出てくるはず。コレを引き出すには諸侯での戦が長引き、疲労した時に迎撃して上手く情報を流布させることが必須。これは諸侯の粘りを期待しつつ私達の防御網の構築になるでしょう。地形の細かい把握を銀嶺の動物たちに依頼せねば。手当にソーセージを追加で満足してくれますかね?

 

 取り敢えず銀嶺は何時も通りに奇襲、機動力、魔獣の部隊を活かした戦場の鳥となり目となり暴れること。ジャック将軍は私達が暴れられる下地の準備と最前線での盾になること。私達を第一の部隊にすることがこの場の皆様の最善策になりました。他の将軍たちは要害を固めつつ、可能な限りジャック将軍に兵を回すように王から命令。将軍たちは私にも兵を回そうかと提案してくれましたが、断ることに。

 

 申し訳ないのは本当ですが、私達の戦法は正直騎士道の欠片もないものですし、機動力、魔獣と足並みを合わせての戦い方のせいでとにかく忙しない。お陰で私達の部隊の皆んなの騎乗技術が上がる上がる。下手な騎馬民族よりも動きのキレが良いのではと思うほどに。・・・・・・話がそれました。とにかく機動重視の戦法故に恐らく急ごしらえの増援は寧ろ枷になるので辞退。

 

 毎日蛮族や幻想種、魔獣、たまに来るオーガや巨人族の騒ぎに即座に駆けつけるために鍛えられた機動力。現場で鍬振るいながら過ごした故の力ですね。

 

 最後にアルトリア様の来るタイミングは如何なるものか。ここを大きいものと捉えているか。また、兵の士気の回復と国費の消耗のおおよその推察も大臣や諜報部に依頼して解散。

 

 さて・・・此方も練兵に戦への前準備と罠の案を纏めるために銀嶺でも会議を始めましょう。アルトリア様の軍だろうと、ここを荒らし、モルガン様達を亡き者にすると言うなら、その考えを砕き散るまで暴れなければいけない。それこそ完膚なきまでに。

 

 

 

(´・ω・`)月(´Д`)ハァ…日

 

 いよいよアルトリア様の動きが激しく、その勢いは破竹の勢い、電光石火の早業と言えましょう。

兵士も王宮もアルトリア様の軍の話題でもちきり状態。貴族たちは度々私達に付近に軍は来ていないかと情報を催促することも多く、少々国全体が騒々しい状態です。

 

 それも仕方がなく、私達の調べた情報や最近この国のパイプで蜂蜜を仕入れている商人様の情報を精査した結果、近隣付近で次の標的は私達の可能性が大きいと推測された。そして、誰の口から漏れたか同じ結論に行き着いたか、こうして様々な噂が噂を呼び、誰もが心配になっている。といったところ。

 

 また、軍の情報も士気も最高潮であることに兵糧の量を見ても此方を完全に攻め落とす腹づもりでしょう。相手からしてみれば食文化が花開き始めた豊かな農業国。しかもアルトリア様の縁者もいるとなればマーリンも是が非でも攻め落としてここらで地盤を固めたいのでしょう。モルガン様、イグレーヌ様がいなくてもここは今となってはブリテン有数の食料生産地ですし。

 

 幕末も江戸のお偉いさんは黒船やら海外の毛唐がどうだのと騒いでいましたし、失礼を承知で何でしょうか。妙に親近感も感じるのは。

 

 早速緊急招集。会議を開いて最終確認。侵入するであろう場所はどうにも平野・・・と言っても山に森、湿地などの入り組んだ複雑な地形。戦の玄人が好むような場所で、そこに布陣するだろうとのこと。一度そこで拠点を作って侵攻をといったところでしょうか。

 

 ふむ・・・私達が動くにはもってこいですが・・・他の部隊の動きがどうなるか・・・視界が遮断されたりすることも考えられる以上、マーリンの千里眼が厄介この上ない。一応考えというかバクチみたいな策はありますが・・・・・うぅむ・・・

 

 と考えていると皆様の視線が私に向いており、どうしましたかと聞くと私の考えを教えてほしいとのこと。軍才がないのはジャック将軍もこの前話したモルガン様にロット王も知っているはずなのだが、それでもいいから話してほしいだとか、今はどんな意見もヒントになるかもしれないと言われてしまい、話すことに・・・本当に絵空事ですよ?

 

 

 

 

(´;ω;`)月ω日

 

 いよいよアルトリア様が此方の領地に足を踏み入れた。軍を率いていることからここも攻め落とすのだろう。

 

 戦う準備も出来てはいますが、その前に交渉の使者も出してみないかという話になり、私が使者に志願。理由としては使者を、女をむやみに斬り殺すのならアルトリア様の軍の風紀や気品が問われますし、今後にも響く。もう一つは仮にも500以上の(動物含む)部隊長を使者に出すのですからその話の真剣さも伝わるというもの。

 

 皆様難色を示しましたが、認めてくれたので早速使者としての準備を開始。警戒心を出させないために武器は一切持たずに侍女の格好に着替えて程よい馬を一頭お借りしてアルトリア様のところへ馬を飛ばしました。誰か共回りを着けたらという声もありましたが、余計に警戒するだけと念を押しておきました。

 

 出来れば戦うことがなければいいのですが・・・・・・

 

 

 

 

 そんな甘い考えはもろくも崩れてしまいました。

 

 使者として出向いて和睦、停戦への願いを出しましたがあちらは拒否。同盟なども上げましたが、統一を掲げる以上引く気は無いようで恭順、若しくは降伏しか受け入れないと強情です。

 その理由はロット王に嫁いだ姉のモルガン様が魔女でアルトリア様を憎み、殺すために王を傀儡にしているだとか、最近新たな宮廷魔術師とそれに仕える魔獣使いの剣士が不気味な術で国を栄えさせていて、その叛意、敵対の相手を潰す他ないと息巻いていました。

 

 

・・・・・・・・・・・・・? どういうことでしょうか? まるで意味がわかりません。

 

 

 モルガン様は自身の保身からの婚約とは言え、今では仲睦まじい夫婦ですし、魔術師として力を上げたのはイグレーヌ様。剣士は恐らく私で不気味な術とは肥溜めや農業政策のことでしょうか? 出来る限り宗教関係や魔術は使わないようにしましたが、こう広まっているとは・・・

 

 しかもマーリンが途中から出てきて私を件の剣士だと言いふらして周りの空気がより剣呑に。今にでも斬りかかりそうな周りの兵士にアルトリア様も表情が険しくなり。私を追い出す始末。交渉は受け付けずに。この国は魔女と魔獣が住む国であり、滅ぼさなければ此方の敵になると言って引かない。使者だから私は斬らないそうですが戦場では必ず倒してみせるとも。

 

 ・・・・・・・分かってはいましたが、こうも辛辣とは。気が重いです・・・・・

 

 仕方がないので結果を伝え、迎撃戦の準備を頼み、私も戦支度を。作戦は私のもので行くそうです。大博打ですが、決まったのは仕方なし。この戦いで大いに暴れて、アルトリア様ともう一度交渉の席に立ち、モルガン様やイグレーヌ様を会わせるために・・・頑張らなければ。

 

 

 




 今回は相当アルトリアが短絡的に、過激派に書いていますが、侵略される側だとアーサー王の手腕は恐怖でしかないと思うんですよね。アルトリアファンの皆様申し訳ありません。

そして、魔女や魔獣を使う剣士、肌の色も違う女が出たら悪魔や何かとも思うかと考え、もう一つは相手サイドから見た魔獣を扱うことの危険度もあってアルトリアはマーリンからの情報を差し引いても危険視しています。

 魔獣を従えて自分を憎むものがいて、戦力は日増しに増えていき、国力も馬鹿にできない。どちらも危険視している。そんな状況。

 今更ですがジャック将軍もオリジナルです。現場で常に自由に動ける以上ある程度は華奈を認めている理解者がいたほうがいいですよねと思い出しました。モデルと言うか立ち位置は「キングダム」の「壁将軍」。あの生真面目さとシッカリと仕事を頑張る優等生タイプ。主人公信のお兄さんみたいな存在。ああいうキャラは大好きです。

 この作品は決していい作品かと言われたらそうでもなく、内輪ネタも多いのも自覚しています。だけどこの作品を評価してくださる方に、感想をくれる方。お気に入り登録してくれる方。嬉しい限りです。

 このハーメルンという多くの作品が出ている中でこの作品を見つけ、見てくれたのは光栄です。ですが、万人向けではないのは百も承知。合わない方にはまた良き作品に出会えることを心から願います。

そして・・・UA 5,256件 しおり 13件 お気に入り 81人

この駄文を見てくれて、お気に入りにしてくれて、感謝します!!

また次回もお願いします。


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銀の飛矢

取り敢えず、アルトリアファンの皆様申し訳ありません。

しおりがじわじわ増えているんですが、どんなものか分からず、嬉しいけどなんだろう? となっていたりと色々勉強中です。

今回はまた一番長いです。ゆっくりジュースでもお茶でもお酒でも飲みつつ、ゆるゆるとお楽しみ下さい。


 戦端が開かれて両軍がぶつかりあった。剣をぶつけ、盾で受け止め、矢玉が飛び交いあれよと殺到する。けたたましい怒声が、悲鳴が熱風に乗ってこだまする。その中でひときわ輝くのは騎士王アルトリア・ペンドラゴン。青のバトルドレスに趣向を凝らした鎧に身を包み、聖剣・カリバーンを振るって戦場の花となり前線でその采配を惜しみなく振るう。

「進め! 敵の防御を突き崩せ!」

率いる精兵に檄を飛ばして戦場を優勢に持ち込もうと動く。今回の戦は此方にとっても大切なものであり、あちらもそれを感じているのか兵が今までよりも強く、固い。

 いつもならケリが付いている筈の勢いで攻めているのだが、今ひとつ決定打とならない。柔軟にいなされ、深く入り込んでも、時折現れる精兵に隊が分断され、勢いが殺される。今回の戦いにロット王も本気で決戦と決めているのか、情報で聞いた近衛兵、親衛隊まで出張ってきている。それらに・・・この国を牛耳る魔女、モルガンや名を知らぬが宮廷魔術師の配下にして側近、カナ・フナサカの部隊「銀嶺」この両部隊に更には相対するジャック将軍の巧みな防御術、用兵術。これが中々したたかだ。

 

 上手く攻めてもいつの間にか間に兵を挟んで壁を分厚くして攻め切れず、そこを分断される。相手もそれを分かっているのか微かに罠をはっており、指揮が届かぬうちに攻め込む、フォローが出来る前に進む部隊はその罠にハマる。此方も理解した上で攻めるが、そうした時に厄介な横槍が入る。

 

 王直下の近衛兵、親衛隊、そして銀嶺だ。どちらもこちら以上の精兵揃いであり、親衛隊が攻められる流れを断ち切り、そこに銀嶺の魔狼と兵士、騎馬が弓を射かけて確実に兵士を刈り取る。一撃離脱に慣れている部隊のせいで銀嶺を追いかけようにも魔狼に騎馬は素早いせいですぐに逃げられて森のなかに消えるし、親衛隊もその間に付近の兵を立て直してまた防御陣営を復活して攻撃を受け止める。この繰り返しだ。

 

 この防御陣営を支える鍵は親衛隊と銀嶺の二隊。その大将のカナは陣の半ばにいて自身の部隊の指揮に尽力を注いでいる。親衛隊は恐らく後ろに控えているジャック将軍と・・・もうひとりの・・・銀嶺の指揮官だろうか。

 とにかく厄介だ。有利ではあるが、あまり時間をかけて疲労を蓄積してはこの先の城攻めや行軍にも影響が出かねない。最終目標は王城にいるモルガン、魔術師の討伐にこの国の掌握。そのためにも相手の出鼻をくじき、即座に攻め入るためにも焦れるようなこの戦況は早く終わらせたい。いや、終わらせるべきなのだろう。兵士にも少し相手の守備の堅さに辟易した声もあるし、横槍に警戒しすぎて集中できずに死ぬ兵士も出ている。優勢とは言えこっちが血を流していないわけではない。それでも戦を大きく動かせないのは、奇襲部隊を動かすあの銀の女将軍の存在にほかならない。

 

 敵将、カナ。調べれば調べるほど、異質で、恐ろしい。モルガンを剣士と救い出してロット王のもとへ無事に送り、それ以降の目覚ましい働き。例え王が洗脳されていたとしてもその功績や用兵の妙は素晴らしく、特に機動戦においては他の追随を許さない。不気味な術や道具で農業、食料を発展させて、魔獣を使った部隊に移動手段の確保。もし魔女の手下でなければ、もっと早く知れたのなら直々に出向いてスカウトしたはずだ。此程の変わり種は個人としても興味はある。

 

 しかし、今はその将が敵なのだ。何故銀嶺の魔獣や騎士を多く出してこないのか、疑問に思って罠を警戒したが、これ以上は下策だろう。何もしてこないというのなら、こちらが一時に押し切り、変えられぬ流れを作るだけだ。

 

 「・・・・・合図を」

 剣を掲げ、陽光に照らして数瞬後、新たな鎧の音に騎馬の音が響いて戦場に近づく。その音は形を持ってオークニー領へ接近。その音も正体は軍であり、新しく現れたもう一つの軍勢が側面から喰らいつく。敵も動揺しつつも立て直そうとするが、そうはいかない。その軍をまとめ、先陣で切り込む紫紺の鎧に身を包んだ美丈夫の騎士はランスロット。彼に側面を食いつかれ、僅かな隙きも致命傷に変えるあの騎士に横腹を食らいつかれては半壊は確実。後は正面から押し込んで合流して押しつぶす。この流れは途切れない。いや、私が途切れさせない。

「皆のもの! ランスロット卿が敵を崩し始めた!! 今が攻めどきだ! 思う存分暴れるぞ!!」

 味方を鼓舞して再度突撃を敢行。このまま軍を半壊、いや壊滅させて一気に攻め上がってみせる・・・!

 

 

 

 

 

 

 「側面から敵が来たぞぉ!!!」

 兵士の叫ぶやいなや、全くその通りに敵が来た。その速さは疾風と言うにふさわしく、勢いは到底止められないであろう濁流、士気はまだ距離のあるこちらにも伝わり圧される兵が出るほど。最前線では悲鳴や怒声、肉が切り裂かれる音に金属音が響く。自分のもとには崩されて対処を求める伝令の悲鳴に近い叫び。

 まったく自分の未熟さにため息が出そうになる。何重に用意した防御策もアーサー王一人に崩されそうになり、簡単な一手でこうも容易く崩される。そして、納得もできた。

 こうも一戦で凄まじさを見せつけるアーサー王とその配下。私・・・ジャックでもこうなるのだ。今までに戦った諸侯、国の将兵も同じ気持ちだったのだろう。気圧された兵士や恐怖に動けなくなる兵士。これならまだ蛮族やワイバーンの相手のほうが余程優しい。

 予備兵や弓兵を駆使した防御に銀嶺の戦力を使って横から着いても勢いが落ちる様子はない。決めにかかった。という所だろうか。それを周りの将官も感じたか恐怖、焦りの色が出始めた。

「全く・・・・・嫌になるほど予想以上ですな・・・ジャック将軍」

 焦りを見せていないのは自分と・・・いや、彼だけだろう。木と鎧の組み合わさる独特な鎧。いつも余裕のある涼し気な顔で短い髪をまとめているイイ男。銀嶺の副官の一人、ヤマジだ。

 彼はこの状況にも冷静に兵を割り振り、切り込んでくるアーサー軍への対処を止めない。

「ああ・・・・この進軍速度、攻撃力・・・想定以上だ。・・・・・だけど、これもカナが読んでいたとおりだ。伏兵、次の一手までな」

「はい、『戦況が上手く進まず、不満の声が上がる頃に何らかの精兵を、恐らくランスロット卿を必殺の助攻として攻め込み、軍内の心境を敵味方全て塗り替えるでしょう』・・・・・と」

 二人してこの攻め込まれている状況だと言うのに思わず笑ってしまう。全くその通りに戦が運んでいる。此方も手を抜いたつもりはないし、銀嶺もその基質上侵略者、カナが警戒する相手に侮ることはありえない。つまりは本気でぶつかってもこうなる。相手のほうが上手だと完全に理解している。淡い希望もなにもない。戦うために余計な物を切り捨てて考えている。いや、希望的観測を踏まえてこうなるのが最低ラインなのかもしれない。

 守備陣営を構築しながら兵が動けるように指揮を飛ばしながら思い出す。軍議の内容を

 

『今回の私達の勝ち筋なんてはっきりありません。将を討とうにもあまりにも高みにあり、兵もまた勇猛果敢で精強。魔術に関してもマーリンがいる以上勝ちが狙えませんしそもそも食い下がれるのはモルガン様にイグレーヌ様。アンナ様もまだその域には到達してません。あの軍の濁流にぶつかればそのまま飲み込まれ、潰されるでしょう。それこそあっという間に』

 

『じゃあ、諦めるのか? そんなものは願い下げです。戦わぬうちにあの軍に生殺与奪権を与える無条件降伏なぞもってのほか。ですから考えます。この大波を乗り切る方法を』

 

『あの軍は基本的にただの力押しや勢いだけで勝てたわけではありません。恐ろしいのは何らかの原因で戦況の勢いが止まりそうになると必ずと言っていいほど第二の波を起こして空気の一新を図る。味方には戦意の火を付けて、敵には僅かな希望や意思を驚愕に変えて、次に恐怖に変える波を用意しているのです。これは各所の戦闘でも顕著に現れています』

 

『そして、この攻撃役を多く担うのはランスロット卿です。この方の戦果にはこの奇襲からの攻撃での功績も多くあることから分かるでしょう。そして、私達にも使ってくる。私の奇襲、機動戦略を潰すためか、速攻で倒すためか、最強の予備戦力を温存してアーサー王は暴れます。そして、その後は合流していつもどおりに攻める』

 

『なので、私達はその波に乗りましょう。程々に逃げちゃいましょう。波を勢いづけちゃいましょう。そうすれば面白いことになるかと。』

 

『私が前線近くで指揮を取りますから撤退し始めたら皆様も引いて下さい。ヤマジはその際に銀嶺と親衛隊を殿に置いて、ほどほど・・・ま、ほぼ逃げ腰でいいので二部隊の指揮をお願いします。いいですか? 勢いに乗る。潰そうとは考えないでくださいね?』

 

 半分ほどしか理解は出来なかったし、他の将兵もそうだろう。真に理解しているのは王、カナ、ヤマジ、アンナだけだろう。だが、それでいいと思っている。此方も完全に理解しないほうが下手な演技でボロを出さないだろう。

 

そう思っていると前線でまた大きな声が上がり、騎馬隊が此方に近づいてくる。その先頭を駆けるのはカナ。今回の作戦の立案者だ。どうやら頃合いらしい。少し此方に目配せを送ると脇目もふらずに奥へと馬を走らす。その速さはあっという間ですぐに馬の尾も見えなくなり、戦場から離脱した。この光景に味方はどよめき、相手からは嘲笑と罵声が飛び交い、此方を煽る。「魔女の使いも大したことはない」「そんな腰抜けでよくもまあ此方に和睦や同盟を打診しに来たものだ」と。

 これに憤る味方もいるがそれよりもカナが抜けたことによる前線の混乱状態がひどい。急いで撤退の指示を飛ばして退却を開始。逃げてくる味方を先に行かせて此方もヤマジと指揮を撮るために残り、少しだけ相手の様子を見ることにした。博打と揶揄したカナの作戦。どんなものか。もしかしたらこの先に目の前で起きるのかもしれない。そして・・・若きにしてこの国のために文字通り粉骨砕身で尽くすあの子の助けとなるために、もう少しだけ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 側面攻撃が成功して前線の崩れようは、見慣れた光景ながら、気持ちがいい。今回のような防御に長けた相手なら尚の事。アーサー王の旗揚げから一兵士として前線で戦ってきたが、今回の戦いは特に皆の熱の入れようが凄まじい。それもそうだろう。相手は魔女の支配する国で魔獣を操る将もいる危険極まりない国。だが同時に得るものも大きい。ここ数年の発展具合に多くの特産物。特に蜂蜜や砂糖のような高級嗜好品を多く出せる技術に以前とは見違える程豊かな土地。この国を攻め落とせたなら、自分たちのような平騎士にもどれだけの富が転がってくるのか。アーサー王は大義を掲げたが、同時にこの見返りのことも伝えて自分たちに火を着けた。

 

 その成果は凄まじく、相手もアーサー王相手に長く粘っていたが、自分の所属するランスロット卿の遊撃部隊が側面を攻撃してからは陣形が大いに乱れ、立て直して側面からの敵に対処しようにも正面のアーサー王からの苛烈な攻撃がそうはさせない。魔獣使いと噂される女将軍、カナも先程から自身の部隊で私達にぶつかり、別働隊で側面を突いて足を止めようとしているがそうはいかない。ランスロット卿がカナとぶつかり対応、二十合ほど斬り合い勝てぬと感じたか即座に自身の部隊を後ろに下げて本陣へと逃げ始めた。

 

 前線を支えていた将の不在によってオークニーの兵士のうろたえようは酷く、簡単に陣を突破できる。親衛隊や銀嶺の一部が殿となって一応の退却戦の体を繕っているが、最早潰走になるのは秒読みだ。寧ろよく持ちこたえたほうだ。士気も最高、将も最高、作戦も文句なし。此方の強みを活かした作戦にここまで食い下がれたのはそうはいない。けど、ここまでだ。もう後は相手の背を討ち、砕いた士気の相手の心を徹底的にへし折るだけだ。そしてこの国を我らの穀倉地帯にして、この島の統一を推し進め、自分もここで富を・・・・・・・

 

 そうして相手の攻撃を続けて破竹の勢いを続けて、いつも以上の勢いで攻め続けたその時、背後でありえぬ報告が聞こえた。

 

 

「敵の奇襲部隊が出現! 我らの軍が分断され・・・・奇襲部隊は銀嶺! 敵将カナもそこにいます!!!」

 

 

 有利だと思っていた、もう目前まで勝利を見据えていた。それが、全て音を立てて崩れた。周りの兵士も同様が現れ、浮足立つも、打つ手がすぐに思い浮かばない、励ます言葉が出ない。この衝撃に誰もが思考停止を、麻痺をしていた。不意を突かれたのだ。此方が、完膚なきまでに。

 

 

 

 

 

 

 

 何度歯を食いしばっただろう。何度剣に手をかけて仲間の元へ駆けつけたいと思っただろう。ダンカンは戦場から離れた森に部隊を分散させて待機、ひたすらに合図を待っていた。その間、言い難いほどの焦燥、悔しさに身を焦がしそうになり、命令違反を犯すのを堪えている。

 

 ・・・・・僕の大将、カナは『貴方の役割があのアーサー王への楔になる』と言ってくれたが、歯がゆくて仕方がない。奇襲だって手を抜いた。ランスロットの部隊を発見できても、見逃した。本気を出さずに、ひたすらに遠くでヤマジさんが、カナ大将が、ジャック将軍が、この国の兵士が・・・頑張っているのに、ただ見ているだけなのは・・・言葉に表せないほどに、辛い。

 

 そもそも、農民の出自で、さほど軍略に明るくない自分がどうやってあの常勝不敗のアーサー王への楔になるのかが分からない。離れた場所からだと尚の事分かる。あの軍は、正しく精強の軍だ。ランスロットが側面攻撃を成功させてからの動きは手慣れている。自分たちのような少数では、どれ程も被害を与えることは・・・

「お待たせしました!」

 そんな思考の海に沈みそうな時に聞こえた。待ち望んでいたよく通る綺麗な声、一度思考を切ると、そこには巨大な茶色の馬に乗る、銀糸の髪が特徴的な、キモノ? に身を包んだ美しい女性。僕の大将。カナそこにいた。どうやらあの戦場から離脱して馬を栗毛に変えてここに急いで来たのだろう。このことにみなは湧き立ち、僕自身も期待していた。もう、見るだけじゃなく、参戦できると。

「皆様・・・今、アーサー王の軍は私達を追撃、壊滅させんと勢いに乗っています・・・いえ、乗りすぎました。見なさい! 戦線は確かに押されてはいるがあの伸びに伸びた軍列を。私達の富に、勝利に目が眩んで我先にと手柄をあげんとひた走り、そのせいで将もその勢いを上手く御せずに間延びしている・・・」

 確かにそうだ。ここまで軍が伸びては、横腹を突けば僕たちでも上手く食い敗れる。いや、奇襲、強襲に慣れた僕たちならやれる。

「今の彼らは常勝不敗の軍などではなく、ただの勝利の美酒を欲して浅ましく駆ける酔っぱらい!! そんな阿呆にあなた達は負けるわけがない! そうでしょう!? 目の前の餌にヨダレ垂らした魔獣を! 弱者をいたぶるだけの、搾取しか脳のない蛮族の軍を! あなた達は蹴散らした! その疾風の如く動く足で! 剣で! 牙で!」

 身体が熱くなる、興奮で鼻の奥がツーンとなり、力が漲り始める。狼達も牙を出して唸りを上げ、魔猪達も鼻息が荒い。

 

「ここまで我慢したのはこの時のため!! 溜めに溜めさせたその力を! 勇気を! 憤りを!! あの酔いどれの横っ面にぶつけてやりましょう! そして、見せるのです・・・・・この国は容易く落とせない! 私達「銀嶺」が、皆がいるのだと!!!!」

 

 熱が、爆発した。誰もが、動物たちも興奮を抑えきれずに咆哮を上げ、皆も雄叫びを上げて猛る。空気が熱くなり、腹の底に焼けた鉛を押し付けられたような圧迫感。そして・・・この気分の高揚。抑えきれない。何かをして吐き出さないと、この熱に殺されそうだ・・・早く、早く号令が欲しい。暴れさせて欲しい。

「全軍ッ・・・突撃! あの伸びた軍を食い破り、目にものを見せますよ!!!」

カナの号令が下ったことでここに吐き出されるだけだった熱は指向性を持って動く。その速さはランスロットなど目じゃなく、その士気は会えばあの軍の誰もが息を呑むだろう。待ち望んだ救援。しかもこれが成功すれば・・・・いや、成功する。とにかく出来れば九死に一生の、相手にしてみれば盤上をひっくり返される程の衝撃だ。早く救いたい、この戦場の主導権を握り返したい。

「ダンカン・・・」

ふと、横を並走しているカナが話しかける。カナの乗る栗毛は大きいので見上げる形になるが、互いに気にせずに会話は続く

「貴方はとても優しい。農民故に弱いものの立場が。心情が理解できる。自然が相手の仕事故に長いスパンで物事を見極めることもできますし、我慢もできる・・・」

それは、優しく語りかけるも、檄だった。僕のための、静かな檄。

「だからこそこの大役を任せました。貴方だから副長に選んだ。気負うなとは言いません。だけど、忘れないで。貴方は、決して弱くも、情けなくもない、立派な戦士ですよ」

言い切ると此方に微笑んで栗毛を加速させ、いい気になっているアーサー王の軍に突撃、すぐさま突破口を開いて部隊が殺到する。勝ちを確信して目の前にしか興味のなかった相手の理解が及ばず呆然とした顔、恐怖に染まった顔。先程まで優位に立っていたはずの立場が変わったのだ。しかし、今はここに留まり、殲滅するのではなく、機動力を生かして此方の部隊で線を引く。そして、そこからは背を突いていたはずの相手の背を討ち、敗走していた部隊と挟撃を始める。きっとこの騒動を感じたヤマジさんやジャック将軍が見抜いて行動を起こすはずだ・・・今はここの軍の流れを完全に分断、孤立させる。皆ががんばった分・・・僕たちが頑張るのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ! なんなんだ!! ここに来て今更大規模な奇襲・・・しかもそのせいで分断!!? 冗談じゃねえ!」

 中軍に組み込まれていた騎士の一人が罵声を浴びせて空気が一変した戦場を見やる。戦線は完全に混戦状態。指揮系統も上手く機能していおらず、動こうとした瞬間には相手に見抜かれて殺されている。この戦が始まって度々横からの足止めや奇襲は受けた。だが、此程の攻撃はなかった。規模が違う。勢いが違う。理解できる。今までは手を抜いていたのだと。

 

 軍の特徴というのは、戦えば嫌でも理解してしまうのだが、そしてこの軍は、異常なまでの機動戦、殲滅、そして、連携に長けている。まるで狩人と軍の合わさったような部隊だ。

 

 騎士一人に対し魔狼二匹がまず襲いかかり、一匹が武器の持つ手を無力化し、もう一匹が相手の喉笛を噛みちぎるか、鎧の隙間に牙を入れて引き剥がす。そしてそこに三人組の兵士が参加する。一人は魔狼が襲いかかった騎士にとどめを刺し、残りの二人は騎馬であれ、歩兵であれ、弓を射掛け、倒した騎士の武器を投げつけ魔狼やとどめを刺す兵の死角をカバー。更には数こそ少ないが魔猪も複数参加しており、忙しなく常に戦場を駆け巡っては相手に突撃して体制を崩す、襲われそうな部隊を援護。またはその固い毛皮に大きな肉体で盾となり、場をかき乱す厄介な存在だ。

 はっきり言って自分たちのように堂々と敵を打ち砕く。というよりも、確実に敵を仕留め、仲間との連携による死者を出さぬような徹底した一対多数の戦い。しかし、少数でありながらもこれが軍全体で庇い合うように常に動き、場所を変え、思わぬところから発展し、損耗無く相手を削っていく。隙を見つけても縦横無尽に動き回るゆえに今までの常識も対策持も通用しない。陣形の穴を突こうにも何処を攻撃すればいいのか、魔獣と騎士の混成部隊なんてものがそもそも聞いたことも見たこともない。例えこの混乱を脱し、体勢を立て直そうとした騎士がいても、打てる陣形も兵法も無いと気付いて再び混乱したその一瞬を逃さずにあの部隊は刈り取る。

 恐ろしく冷静だ。徹底してすぐに殺せる「弱者」と、手を打つ可能性のある「強者」または「賢いもの」を率先して潰し、常に混乱や恐怖が続くように戦う。

 

 事実。こうして見る間にも一部の軍の遮断で精一杯の数の奇襲部隊に周辺の部隊の数は減り始めてその数の差は埋まりつつある。そうしているうちにこの部隊の戦い方のもう一つの効果が出始める。恐怖の伝播とその具体的な方法の可視化。何せ魔狼に噛み殺される、騎士に容赦なくトドメを刺される。魔猪に吹き飛ばされて武器が刺さる。首の骨が折れる。此方よりも数段早く動きまわる弓騎兵に射殺される。一番マシなのが騎馬の騎士たちに戦いを挑んで殺されるか。それも挑む場所に辿り着く前に足を封じられる。馬を魔狼や魔猪に潰されて動けないところを殺される。

 今までは前線に詰め寄せる軍の波と一部の部隊しか見えなかったはずが数が減ってきてだんだんと見えてくる。どんな死に方をするか。どんな物を相手にするのか、そして、ここまで数が減っていることの理由をまざまざと見せつけられる。

 

 こうなったらもう駄目だ。誰かが恐怖すればそれが伝わり、集団に、軍に広がり、そして皆一様に士気が下がる。足が鈍る、止まる、逃げ出す。逆に駆け出して戦おうとするものは即座に各個撃破されてそこで終わる。それを見てまた士気が下がる。

 

 そうこうしているうちにこっちにも魔獣と騎士の歯牙は向き始め、周りの騎士たちも怯えだす。自分だって逃げたい。だけど、足がすくんで動けない。ああ・・・なんてことだ。この国にいる「銀の死神部隊」その話は本当だった・・・あの鎌をしっかりと見据えるまでは動いてはいけなかった・・・二頭の魔狼が・・・襲いかかり、何かが噛みちぎられる音を最後に、意識は途切れた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 この尋常ならざる事態にマーリンはその整った顔を伝う冷や汗を拭うことも軽口を叩く余裕もなくなっていた。十数年前のモルガン達を救った女剣士。この島に、いないはずの人種。見たこともない剣技に武器、何もかもが異常。しかもその異常性は月日を過ぎる度に顕著に現れていき、片田舎のはずのオークニーをこの島でも有数の経済大国に押し上げた。更には魔獣と騎士の混成部隊の成立。モルガン、イグレーヌの覚醒による千里眼の阻害。これで正確な国の様子が見れなかったし、この戦場でもところどころ見えなくなっていた。それも意味のない場所だったりここに来て精度が低くなったことで油断していた。

 

 前線が進みすぎて伸びた軍列を容赦なく断ち切るために突入した精鋭に周辺の軍の足はすっかり止められてしまうだけではなく恐怖も刻まれている。後軍は完全に機能停止状態であり、一方的に嬲られるだけ。前軍も局地的部分は押し勝っているが、先の退却で逃げた軍がジリジリと包囲網を敷いており、分断した軍も前軍に向かえば包囲網が完成するだろう。

 

 この嫌な流れを作ったのがあの時に手をかけなかった剣士が起こしたことなのだと考えるだけでも恐ろしい。こちらの戦績を、強さを利用してこその逆転包囲。こんな戦法なんて思いつくか。思いついてもこちらが勝負に慎重にならなければ精鋭を遊ばせるだけの愚策になる危険な作戦。しかし、ハマってしまったためにこの惨状だ。急いで自分も出陣して後軍の士気を震わせて銀嶺を無理矢理にでもすり抜けてアルトリアと合流。包囲陣を敷いている分薄くなった敵軍を突き進んで包囲を突破して陣営を立て直して仕切り直すしか。

「僕も出るよ。皆出陣の用意を」

 馬に跨がり、後軍と合流しようとする直前に伝令が駆け込んできた。しかも、それは最後尾や武器などの輸送隊に配備した伝令。嫌な予感がするものの、あちらは伝えるのが仕事。こちらの心境など知らずに情報伝達と対処を貰うために伝聞を伝える。

 

「背後に隠した兵糧備蓄庫と・・・軍馬のための馬草を貯めた補給地点が奇襲を受けて焼き払われました!! 魔獣を多く従えていたことから奇襲部隊は銀嶺・・・また、将として・・・銀嶺副官アンナ。そして・・・魔女、モルガン!!! 既に敵は離脱をしており・・・我々の騎馬でも追いつけず・・・」

 

 思考が再び止まりそうになる。兵糧庫を焼き払われた? あれほど綿密に場所を見繕い、念入りに千里眼で常に周辺を索敵していたし、結界も張っていたはずだ。モルガンなら欺けるだろう。だが、何故見つかった? いや、それだけではない。これでは戦いにならない。この国なら各所で略奪をしてしまえばそれなりには持つかも知れない。だけど、それは望むところではない。あくまで魔女が悪いのであって民草は悪くないと説明した手前、アルトリアも拒みかねないし、やってしまったらこの国を完全には掌握できない。必ずこの略奪はアーサー王の経歴に泥が付き、周りの王も嘲り、認めないだろう。

 

 遅まきに後方から黒煙があがり、火花が空に舞う。間違いなく自軍の兵糧庫と馬草の集積拠点だ。この漂う臭いと煙の規模は先の伝令が嘘でも何でも無く、念入りに焼かれたのだろう。そのせいで敵軍の士気は盛り上がって各所で自軍を押し返し始めたし、味方は逆に士気がガクンと落ちたせいで前軍にも勢いがなくなり始めている。

 

 今回の戦場を掌握しているカナ。軍の生命線を壊滅させたモルガン。過去の自分の手落ちが今になって戻ってきた。この煙がその事実にあざ笑うようにこちらに流れて兵士や自分を見えなくなるまでその黒い煙を見せつけては消える。この場で動いているのはこの事実を前もって知っていた伝令と出撃を待つ軍馬のみ。今、ここにいるほぼ全ての人間が度重なるバッドニュースに思考が麻痺、いやさ放棄していた。

 

 

     そして、誰もがこう思った「常勝不敗の我が軍が、王が初めて負けるのか?」と

 

 

 

 

 

 

 

「モルガン様。これで最後の兵糧集積地点です。これ以上は焼く必要もなく、そろそろ追手が来るでしょう。急ぎ撤退をして私達は帰りましょう。カナ隊長が他の皆様と考えたルートがありますし、マーリンの千里眼から逃れられても直接襲われてはひとたまりもありません」

 銀嶺副官にして魔術師の弟子でもあるアンナの進言を耳にしながら、私はこの光景に見入っていた。あの魔術師に一泡吹かせてやった。それもこの国を守る大舞台で、気持ちがいい程に決まった奇襲で。

 思わず笑い出そうと吊り上がる口角を手で抑えながら思い返す。あの大博打と自身が罵ったカナの作戦を

 

『まずはアーサー王の軍と私達はぶつかります。で、そのまま普通に戦って下さい。あの強さの軍は下手に包囲しようとか、不意を突こうとしても上手くいかないでしょうから、防御しつつジリジリ相手を削り取ればいいです。攻め手のあちらは補給ができない、し辛い以上は嫌な打撃ですし、焦れると思います』

 

『そして、最前線・・・より少し下がった場所で私は銀嶺の一部を指揮、剣を振るいます。変な連携は不要です。悟られるのが一番まずい。そして、相手は魔獣使いだの魔女の手下だのいう私に目が行くはずですので、それも使って軍の目を前線に固定します』

 

『そうして私や軍の被害、今までよりも動かない戦局に私達の手札を見せないことに焦れてあちらが必殺の札を切ったら私は適当な時間で退却して、一気に戦線を離れて伏兵の場所に合流します。ジャック将軍たちは退却しながら私達から見た最後尾の軍を先導させながら分解して遠巻きに、少数でもいいので包囲できるように再配置を』

 

『相手が勝ちを確信して前線が勢いづき、多少なりとも軍列が伸び始めたら私とダンカンで横腹を突き破って遮断。軍を裂きます。前線に将が集まり、誰もが手柄をあげてやろうと足早になった状況で後方の弱い部隊でもいいから一人でも多く殺して頭数を減らします』

 

『そこまでしたら今度はモルガン様です。モルガン様はマーリンの千里眼を欺けますので、私の魔猪部隊、アンナ様の突撃隊、魔狼の中でも特に足の早い子達を預けます。全滅を目的としたものではなく、通りすがりに相手の食料を焼き払うすり抜け、一撃離脱の特化部隊で相手の食料を焼いて、更には包囲されつつある状況による不利な現状を完全に叩きつけます。相手がこのやたらと複雑な平野を選んだのは食料を上手く隠すため。それに適しためぼしい場所は皆で見繕っていますし、結界の種類もフランスに居る時に見れた大結界を再現、そして簡単に破壊できるまで磨き上げたモルガン様に相手の拠点破壊に優れた魔術を持つアンナ様なら可能でしょう。キャンプファイアーしたらすぐに戻ってくださいね? 長居は無用ですから』

 

『そして、最後にですが、包囲は遠巻きに、最悪いるだけでも良いです。この状況なら何処かに戦力を集めて一点突破からの撤退か奥に侵攻して略奪をしながら進むでしょう。そのために厄介な戦力のアーサー王、ランスロット卿のどれかを暫く足止めする戦力を前線に送り込んで少しでも行軍を遅らせている間に残存兵力を更に叩きます』

 

 

 確かに博打なのは否めないが、相手の戦績と強さ、今回の敵の意気込みゆえの勢いを利用し尽くし、こちらは守りと主な連携や行動を一緒にせずに機動力、少数精鋭の強みを使い尽くした戦術は見事に噛み合い、もう相手はこれ以上この国に居座り戦うなら汚名を残す略奪を取るしか無く。こっちはまだまだ拠点に兵力も温存しているので長期戦で時間を稼ぎながら銀嶺や現地の魔獣達をけしかけて削り取ればいい。

 

 後は最後の作戦。前もって飛ばした使い魔を通して写った光景は前線を支えるアルトリア。その部隊に、銀の矢が到達した。

 

『その戦力ですか・・・・・・・? 力不足かもしれませんが、私です』

 

 アルトリア。カナお姉さま・・・どちらもご無事で。戦場で我儘な願いなのは承知だが、願わずにはいられない。既に煙の臭いも無くなり、遠く戦線から離れた場所からモルガンは手を合わせて祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 思うままに戦い、攻め崩していたはずの私達がいつの間にか包囲され、追い込まれている。私が聖剣を振るおうにも遠巻きから弓騎兵の一斉射が動きを抑え、魔狼の群れが私を取り囲み、常に一定の距離を保っている。こちらが引けばその分詰め寄り、前に出ればその分引く。魔力放出で突撃を仕掛けてもヤマジという銀嶺の副官が前に出て魔猪や部下と数人がかりでなんとか押さえ込み、また押し返されるという事態。私ですらこうなのだ。ランスロット卿の場所は遠目でもこちら以上の戦力が割り振られているのだろう。一向に救援もあの声も聞こえない。

 

 こんな状況、アーサー王と名乗ってから初めての経験だ。勝利が見え始めた瞬間に一気に盤上がひっくり返り始め、煙からして食料庫まで焼き払われたのだろう。未だ将は討たれてはいないだろうが、後方の部隊は壊滅状態は確実。分断していた銀嶺の兵が殺到し始め、ここも苦しくなってきた。魔獣との連携だけが強みの部隊かと思ったことが悔やまれる。副官は満身創痍ながら私の攻撃を幾度も受け止めて、吹き飛ばされてもまた立ち上がる。兵士も魔獣をカバーするために剣を振り、こちらの精兵に渡り合い、倒していく。もうここでの戦闘は負け確定だろう。

 

 認めたくはない。だが、これ以上の兵士の消耗はここを手に入れることも、退却してからの行動も危うくなりかねない。苦渋の思いで退却の合図をしようとした矢先、新たな部隊が突撃してきた。とっさの防壁はまたたく間に砕け散り、生きていた兵士の首や腕が飛び散り、血しぶきが雨のように降り注ぐ・・・その突撃隊の戦闘に立つのは見たことのない衣装に身を包み、両手に芸術品のような反りのある片刃の剣と短剣を持って私の部隊の兵士を一息に斬り殺し、悠然と歩を進める。少々彫りの浅いことも気にならない程の美しい風貌に豊穣の女神を思わせる肢体。銀糸の長髪は返り血を浴びて一部を紅く染め、その蒼の瞳は私を見据えて他は眼中にないと視線を動かさない。魔女の手下・・・魔獣使い、銀の死神部隊・・・・そんな二つ名が思い浮かんでは消えた。そうなのかも知れない。だが、それを差し引いてもこの将は恐ろしく、油断ができない。纏う空気は涼やかで鋭く、自重だけで切り裂かれそうな剣気を纏う。初めて会う敵だ。

「あなた方の軍は強く、その勢いを活かした波状攻撃も素晴らしかったです。・・・だからこそ貴方方はこの状況に追い込まれました。会うのは二度目ですね? アーサー王。いえ、アルトリア・ペンドラゴン様」

 剣をゆうゆうと自然体で構えながら言葉をかわそうとしてくるカナ。魔術の気配も直感も感じない。なにもない普通の会話なのだろう。

「黙れ魔女の使いよ。そのような戯言を交えに来たのではあるまい?」

 こちらの言葉にそのとおりと返し、言葉を紡ぐ。

「魔女の使い・・・ふふ、ある意味正解ですが・・・はい、今回の戦は、まだ決着は着いてはいませんが、互いに多くの血を流しました。貴方の展望も知っていますが、私達の大切な方を知ること無くその覇業を成しては欲しくもなく、この国を踏みにじるのは止めてほしいのです」

 大切な人・・・モルガンのことだろうか、部下のことだろうか・・・・

 並のものでは怯え竦むような威圧を前にしてもまるで気にすることもない。警戒も、構えもしない。何故か苛立ちが募る。まるで自分が小さいことで癇癪を起こしている子供のようでカナが不思議と大きく見える。

「・・・・・・・私に席につけと?」

「はい。今回の戦を収めて休戦、和睦・・・・若しくは同盟を組んではいただけませんか? 私達はあなた達の戦力をよく分かりましたし、その道は卑王を倒す光にもなりましょう。貴方方は決してこの国が容易い敵ではなく、魔女がこの場にいなくともここまで戦えることを示しました。どうですか? 互いのためにここは一つ」

 道理だ。これ以上の被害は立て直して次の戦いにもすぐには起こせない。ここは一度引いて立て直したりこの国からの同盟や和睦の際に何らかの形で資金なり資材を手に入れるべきなのだろう・・・

 だが、もう一つだけ聞きたかった。今回の戦の動き。間違いなくこんな作戦を立てるのはこの国の将軍にはいない。こんなハチャメチャな作戦思いつかない。

「その前にだ・・・カナ」

「何でしょうか?」

「今回の作戦は、貴様のものか?」

「はい、博打同然のとんでもな机上の空論でしたが、ハマってよかったです」

 なら、ここでこの女将軍を打ち取れば戦況はともかく次に繋げられる。次もカナがいては恐ろしいが、守り以外は全てが銀嶺に、カナにしてやられた形だ。この剣士さえいなければ後はどうにかなるはずだ。

「なら・・・ここで貴様を倒して戦況を立て直す!」

 魔力を迸らせ、一息に彼我の距離を詰めて華奈に襲いかかるアルトリア。弾丸のような速度で接近して左からの横薙ぎで両断せんと迫る。華奈は右手に構えた太刀を垂直に立てて剣の軌道上に置いて、体はすべてその後ろに置く。

「っああぁあああ!!!」

 渾身の気合を吐きながら華奈の胴に振り抜かれる聖剣。しかし、その前に置かれた太刀に当たり、その刹那、聖剣の勢いをいなし、自身は聖剣の勢いに乗るように聖剣に当てた刀と一緒に縦回転で聖剣の軌道の上を転がって避ける。更にはその勢いを利用して左手の脇差で回る身体の勢いを乗せた切り上げの一撃を見舞う。

「なぁっ!?」

振り抜いた勢いで体をねじって見事に避け、回転の勢いを殺しきれずに体勢の戻りきらない華奈に向けて魔力で強化した肉体を振るい、再び再加速して上段からの打ち下ろし。

「やぁああああ!」

 しかし、これも太刀で受け止められ、あらぬ方向に逸らされる。しかも今回の華奈は体勢をその間に体制を立て直して足払いを見舞い、それにかかったアルトリアは勢いのままにつんのめり、体勢を崩して華奈の後方にたたらを踏む。

「シイッ!!!」

 互いに背中を見せる体勢を利用して聖剣を身体に隠し、振り向きざまに突きを二つ放つ。線の剣戟が通じないなら点の突きで受け流せないようにしつつ魔力放出の加速で穿つことを狙う。

 しかしこれも向き合った華奈の突き出された剣先を向けた太刀で一撃目はそっと緩やかな動きで流され、二撃目は崩れた姿勢の分より大きく身体を崩されてすぐには戻せない状況で左肩に峰で一撃を叩き込まれ、鈍い痛みがアルトリアを襲う。

「はあああああッ!!」

 怒声をあげて、我武者羅に剣を振るって華奈を倒さんとする。

 打ち下ろし、切り上げ、突き、袈裟懸け、薙ぎ。

 思いつく限りの、直感に従って振るう必殺の数々。どれも当たれば巨漢の重装兵士は愚か幻想種でも一撃で屠り、遠くの木々、兵士にも傷を与えるほどの剣圧の乱舞。それでも華奈に届くことはなく、大きな隙を突かれては、身体の所々に鈍い痛みを抱える場所が増えていく。

 幾多もの戦場で相手を屠ってきた剛剣がまるで届かない。どんな力もいなし、かわされ、勢いを必要以上に受け止めない剣術はアルトリアの力押しの剣術にはトコトン相性が悪く。その力も勢いも逆に利用されては身体を打ち据えられる。

「あぐっ・・・・・!」

 数十合ほど打ち合い、優劣が如実に現れ始めた。一合斬り合う度に焦りがアルトリアにのしかかっていく。常に先手を取り、攻めているはずなのに効果は上がらずに身体を打ち据えられるばかり。その間も自身の部隊や国の兵士たちは銀嶺に討ち取られ、数を減らしていく。それだけではない。アルトリアと華奈の一騎打ちでアルトリアは疲労がたまるばかりか、華奈は汗一つ、息一つ切らせずに攻撃を捌き、時折横槍を入れる兵士はその周辺の兵士ごと斬り殺してまたこちらと切り結ぶ。銀嶺は華奈の勝利を確信しているのかひたすらに周りの戦いに集中。強いて言うならこちらの戦いに巻き込まれないようにしているだけだろうか。

 こちらの兵士たちは対象的に士気はガタ落ちでいつもの勢いも覇気もなく魔獣や兵士に襲われ、悲鳴を上げては一人、また一人と死んでいく。

 切り上げを逸らされて晒してしまった胴体に容赦のない蹴りを打ち込まれて後方に吹き飛んでしまう。倒すと息巻いた覇気も殺気も薄れ揺らぎ、顔には焦りと疲労。そして幾ばくかの後悔があった。もしここで意地にならずに撤退していたら、ここまでの被害を出さずに済んだのだろうか。と。

 

 肺を酷使して全身に空気を行き渡らせながら思案する。この剣士をどうやって打ち倒そうか。これ以上は時間をかけられないし、自分自身も切られたわけではないが、いつも以上に溜まっている疲労に打ち込まれた打撲痕のせいで感覚がないところも出始めている。何回斬り殺されていたかも分からないが、手を抜いている、油断しているうちがチャンスだ。確実にモノにしなければいけない。

「もう止めませんか? 私としては是非ともモルガン様とお話していただければ嬉しいのですが・・・」

 悲しそうな目でこちらを見やる華奈。本人にそのつもりはなくともアルトリアにはこれが挑発と映り、思わず斬りかかりそうになるも冷静になることに努め、剣を掲げる。

(剣で敵わないなら。これで打倒してみせる!!!)

 呼吸を整えつつ、全身の魔力をカリバーンの刀身に集中させていく。華奈は一度距離を取り、太刀を二振り。右手の指の間に脇差を握り込んでブラブラと遊ばせている。華奈も特に防御の構えでもなければ、背後は銀嶺やオークニーの兵士のみ。これなら味方への被害は出ないだろう。

 これならこの攻撃も思う存分に打てる!

「選定の剣よ、力を! 邪悪を断て! 『勝利すべき・・・

 気合とともに今正に放たれんとする黄金の光。もうこの距離からは何も対応はできない。避けることはできようが巻き込まれる部下が出てくるのは確実。部下を思うならこの一撃を受けるしか無い。アルトリアが勝利を確信したその刹那。

「蹴鞠」

 遊ばせていた脇差をアルトリアがカリバーンを放つコンマ数秒早く指から放し、足の爪先で思い切り蹴り上げてカリバーンの剣先に激突。軌道が上向きに修正され、攻撃が華奈にもう届くことは無いと絶望に染まるが、まだこれだけでは終わらなかった。脇差を蹴り上げるとほぼ同時に距離を詰め、腕を左右に交差させた二つの太刀でカリバーンを挟み込むように捉え、思い切り振り抜き、自身もその勢いでアルトリアの横をすり抜けて距離を取った後、向き直る。

「太刀殺し!」

キィン! という鋭い金属音と同時に太刀による魔力を込めた一撃により行き場を一瞬失った魔力の暴発がカリバーン、アルトリアを襲う。手元から発生した爆風で地面を転がり、土にまみれてしまうアルトリア。暴風によるフラつきと衝撃から立ち直り、手元を見やるとそこには爆風で吹き飛んだ篭手の残骸と少し火傷の残る手。そして、太刀の切込みを起点に半分近くは魔力の暴発で根元付近から折れたカリバーン。

 折れた刀身は暴発による打ち上げから地面に落ちて二人の目の前に刺さり、もう使い物にならない刀身を見せる。

「あ・・・・あぁっぁあぁぁぁぁあぁ・・・」

 戦は敗戦濃厚。剣も敵わない。最後の手段は逆に狙われていたのか聖剣を折られる墓穴をほった。しかも、一騎打ちの間に周辺部隊は散々に打ち破られて立て直しも不可能・・・進撃など持っての他。アルトリアの絶望の呻きを聞いた兵士の中には完全に心が折れた者が出始め、投降するもの、命乞いをするもの、放心してしまうもの、逃げ出すもの、やけくそになり特攻するものと反応が様々だった。

 

 しかし、この騒ぎは即座に終結する。緩やかに包囲をしていたオークニーの部隊が引きはじめ、逃げ道が出来てくる。そこに誰が叫んだか退却を始める兵士で溢れかえり。あれ程国へ攻め入らんとした騎士の波は数を減らして進軍してきた方向とは逆方向に逃げおおせる。

 

 これを見た華奈はすぐに各所の銀嶺及びすべての軍に追撃は不要。敗残兵の中から略奪に走るものは私達銀嶺が皆殺しにすると伝えてアルトリアとの一騎打ちの場から離れる。

 

 暫くして別の前線で戦っていたランスロットの部隊が放心状態のアルトリアを回収。マーリンは既に退却を考えていたのかランスロットにアルトリアを任せると殿を務めた。

 

 この光景にオークニーの兵士の誰もが信じられないと放心し、すっかり日の暮れ始めた戦場に佇む。華奈自身もよくもまあ勝てたものだなと何処か他人事のように考えながら空を見上げていつの間にやら戻ってきた栗毛を撫でる。

「おいおい大将。勝鬨をあげなきゃ皆その場で眠っちまうぜ?」

 そんな軽口を叩きながらすっかりボロボロなヤマジ・・・だけでなくダンカンにアンナ、銀嶺の皆が集まっており、私に勝どきを上げろと口々に言い出す。これに現場の兵士も悪ノリしてジャック将軍も早くしないと酒が飲めないと言ってくるので私が音頭を取ることに・・・コホン

 

「この戦!わたひひゃちの勝利です!!・・・・・噛んじゃった・・・!」

 

 締まらないなと皆に笑われてながらも天をも揺るがさん勢いの雄叫びと笑い声は暫く響き渡り、夜になって皆で休むことに。さて、軍馬も沢山死んだみたいですし、馬肉の香草焼きや刺し身、タタキにハンバーグ。夜食は何にしましょうか? 取り敢えずこの後はアルトリア様の誤解が解けたらいいのですけどね。




華奈「ざわ・・・ざわ・・・・」 ←今回の博打下手人

ヤマジ「いい男ってのは、ついつい見えを張っちゃうんだぜ?」 ←影のMVP

ダンカン「ぶっ殺してやる!!」        ←大暴走、大活躍

アンナ「キャンプファイヤー会場はこちら~~」 ←お祭り開催

モルガン「マーリンザマァーアァアwwwww」 ←やり返せてご満悦

動物たち「ヒャッハー! 逃げる騎士は餌だ! 逃げない騎士はよく訓練された餌だ! ホントこの職場は天国だぜフゥハハハーハァー!!」 ←敵の騎士をムシャム                         シャ・・・華奈のご飯欲しい


マーリン「え、なんなのこの滅茶苦茶加減」 ←いつもと逆にしてやられる

ランスロット「おのれカナ!」 ← 釣り餌扱い

アルトリア「カナ怖いカナ怖いカナ怖いカナ怖い・・・・・・・もうヤダ」 ←色々やらかして完敗

というわけで色々足りない頭をひねって無駄に長くなった今回。お付き合い有難うございます。色々アルトリアがフルボッコなので愉悦部員の皆様以外、アルトリアファンの皆様には重ね重ね申し訳ありません。けど、考えていたらこうなってしまいました。

華奈もここまでうまくいくとは思わなかったこの作戦。負け無し? じゃあノラせて横から殴ろうぜ。な作戦。「耳川の戦い」をネタに色々ぶち込んで出来ちゃった今回の話し。矛盾とか練りの甘い部分も多いでしょうねえ・・・(震え声)

華奈がかなり強いですが、三度も転生して、一度目、幕末で剣客。二度目、愉悦部員。三度目、世紀末ブリテンで大暴走。経験も積み重ねたものも馬鹿にできないとこれくらいの強さにしました。

剣を使いながら魔獣も使える・・・英霊になるならセイバーとライダーのダブルクラスでしょうか?

毎回毎回更新する度にお気に入りが増えるのに嬉しいやら期待されているのでしょうか? と不安になるやらで楽しく見ています。有難うございます。

次回はゆる~くいくと思います。またゆるりとお楽しみ下さい。

最後に UA 6,377件 しおり 16件 お気に入り 92件 そして、評価をくれている皆様。いつもありがとうございます。楽しい物語に囲まれた日々を願います。


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よゐこの銀嶺~チネリは偉大~

戦後処理に休日。そしてまさかのアーサー王の軍を撃退しちゃったというとんでもないことをしてしまった結果も書いていきたいです。

前回の感想で島津じゃねーか! と言ってくれましたが、分かる人が多くて嬉しかったです。あまり九州の戦国時代の話は知られていませんが、本当九州の戦国動乱は凄まじいです。数が意味をなさない。劣勢なんぞ知るか。という勝負が多すぎますから。男も女も世紀末すぎる。

ホント事実のほうが漫画じみていることをしでかす偉人の皆様に出会えるカルデアが羨ましいです。


( ´ー`)フゥー...月□■日

 

 前回の戦が終わって早数日。私達はすっかり集会所となった銀嶺の詰め所で家族も引き連れて談話に花を咲かせています。

 

 あの戦いで私達銀嶺もすっかり疲れてしまい、死傷者は無く、何名かは前線に立てない怪我で済みましたが、ヤマジはアルトリア様の突撃を何度も食い止めたせいで全身ボロボロ、骨折も幾つかある状態。ダンカンも分断役で派手に前線で暴れ続けたせいで疲労も傷も多数。アンナ様もマーリンの罠を解除したりモルガン様に敵を近づけまいと少し過剰に思えるほどに魔術を行使してほぼ魔力切れ直前までいったりと疲れの色が濃ゆい。

 

 ・・・・・まあ、皆ここで集まって話をしているんですけどね。でも、前線には出せないと何度も釘を差しました。その事を元気なメンバーで連絡して回った結果皆で話そうと集まり、怪我人含めて雑談会に。皆で持ち寄ったお菓子や食べ物をつまみながら色々話しました。

 

 まず、戦に関しては壁役を頼んだ本軍の死者は全軍の三割。そして、アルトリア様の軍が全体の五割。特にアルトリア様の軍は部隊長などの隊長格も多く討ち取れたために被害は数字以上のものでしょう。今の所はその後の情報は来ていませんが、軍の再編成に時間が取られるのは必然。暫くは自国の領内で回復と我慢の時になると皆が踏んでいます。

 

 そして、この勝報で国は湧き立ち、先日には論功行賞も行われました。この時に困ったのは私の服をどうするか。というものでした。侍女の服に簡素な私服。この世界に来た時に着けていた袴も場にそぐわない。せめて騎士のものにしようと私に体格の近い銀嶺の部下の方の鎧に衣服を着込んで参加。戦が終わってすぐでしたから大変でした。

 

 その功績は私とジャック将軍が第一功、モルガン様、アンナ様が第二功、ダンカン、ヤマジが第三功になりましたが、私もジャック将軍も必要以上の金子以外は貰わず、兵士や領地の被害にあった貴族、今回の戦に兵を回した貴族に将軍や民草に配り、国の復興に割り当てては如何だろうかと提言しました。これは元よりジャック将軍と帰りながら考えたことで「せっかくの大勝だから頑張った皆が騒げる様に祝い金を出せないか」と考えたので、国からの盛大な祝い金にできないかと思いついた結果でしたが見事に承認。モルガン様も国の王女だから当然の仕事をした。と金も名誉も否定。これには宮廷も更に熱狂して騒ぎ始めました。

 

 ただし、私の銀嶺は人数の増加に国の第七位の将軍の位を貰うことになり、ジャック将軍も自身の土地の拡大。ダンカン、アンナ様、ヤマジはそれぞれに爵位を授けて部下にもそれぞれに金品を渡されました。

 

 それと金子を多く貰わない分、銀嶺には休暇を与えると言うことになり、一ヶ月の軍務の停止と休暇を申し付けられて傷を癒やすことになりました。その結果。なんやかんやと農業や訓練以外では哨戒をしていた私達はそれが出来なくて空いた時間を持て余したのでこうやって話を楽しんでいるわけです。

 

 ヤマジにも休むようにと念押しをしに言ったら暇だから会話をしたいとねだられて連れてきましたが、どうもそれだけではないようで、設計図を広げて私達に見せました。

 

 どうやら頼んでいたもの。パスタマシンの設計の見通しが立ったようで。押し出し式とハンドルの手回し式の二つを回復次第作るようです。そのために銀嶺の大工出身の皆様にも伝えたかったらしく。とてもイキイキと話してアイデアを出し合っていました。どうも蕎麦を自宅で食べたいというのもあったようです。

 

 私も必要かと聞きましたが大丈夫なようで、この長期休暇で形にはしてみせると珍しく鼻息を荒くして宣言しました。これは楽しみです♪

 

 

 

 

◇型☆月

 

 本日は王宮に呼ばれ、ジャック将軍とこの国の代一位の将軍、コーウェン将軍と会うことになりました。直接会うことはあまりありませんでしたが、数年前から仲良くお付き合いをしており、黒介ら魔猪による食用キノコの見分けには強い関心を抱いたのが面白かったです。軍事の頂点に立つ人間故に食には強い関心を持っており、蜂蜜の生産にも試験場を貸してくれたりと世話を焼いてくれる、独特の話し方が特徴的な五十代のオジサマです。

 

 早速出会い、お土産の蜂蜜とキノコの詰め合わせを送ると、あちらも干物を渡してくれました。領地の民から送られたものだそうです。

 

 今回私達を呼びつけた理由はアーサー王の現在の状況と、ジャック将軍に任せていた商人、交渉、隠密などの裏方の人材育成の事に参加させて欲しいというお願い。私には銀嶺の魔獣達の子供が出来たら数匹ばかり譲って欲しいとのこと。

 

 丁度アルトリア様の事は気になっていましたし、銀嶺の皆も話にあげていたのでありがたいですし、人材育成もジャック将軍に任せきりで進展状況やこれに協力者が出来るのは心強い。魔獣に関しても問題はありません。ゆっくり話しましょう。

 

 まず、アルトリア様ですが、現在は自身を甘く見ていた、後継者と認めない諸侯に攻め寄せられている状況らしく、今まで破竹の勢いの無敵の軍が悪魔だ魔女だと騒いで片田舎の私達の国に攻め込んだ結果は負けて撤退。しかも私が選定の剣「カリバーン」を壊したこともより拍車をかけているらしく、元々岩に刺さる剣を抜くという選定の儀式に不満を持っていたこの島の王や諸侯はこぞって認めないと非難。中には今まで認めていた諸侯との交易も切られるわ、袂を分かつ貴族に騎士も出ているそうな。

 

 分かってはいましたが、聖剣を暴発で壊したのは大きい傷跡のようですね。選定の聖剣。アーサー王物語ではある時を境に主兵装の立場をエクスカリバーに取って代わられますが、仮にも聖剣であり、ウーサー王の後継者と認められるための剣。言うなれば認められた証をぶち壊されて戦争にも負ける。今は正に落ち目の状況なのでしょう。しかしあの軍事力は侮れないというのは共通の認識なので、この程度では潰れないと考えてもいます。近い内に同盟なり不可侵条約なり結んで恩を売ったり出来ればいい。とコーウェン将軍とジャック将軍は考えているようです。

 

 因みに、この一戦でご近所にしか伝わってなかった私の部隊の名前も一気にこの島全土に伝わり「魔を従える女傑の誕生」とか「ベルセルクの再来」とか「狼神話の復活」、「悪魔の部隊」「王殺しの銀の牙」だのと色々悪評も混じって広まったそうです。

 

 狼も従えていますし、魔猪はケルトでも悪評高いですものね。こんな噂も広がるのも道理でしょう。今ではすっかりこの国では守護獣、勇者のお供みたいな扱いですが、元々は魔獣ですものねえ。

 

 次に銀嶺に入れるには難しい、武人には向いていない、裏方や後方支援に向いている人材育成の関係は二つ返事で快諾。最近はここに入るための人も多くいるようです。

 

 人手は幾らでも欲しいですし、お二人の持つ軍や領地の規模ですと文官も多く必要でしょう。私はそれ以外にも余裕ができてきたら若い卵を育成して、貴族や領主の皆様の補佐役を生み出せるようにしたほうがいいかもしれないと提案し、専用の学び舎を準備することも話してみました。

 

 若いうちに物事を吸収させて、各領地で自身を活かしていくのは嬉しいでしょうし、貴族の皆様も自身の領地経営を補佐できる人物を国を代表する大将軍から貰い、見どころのある人材を教え込むのも一興でしょう。

 

 派閥とかの問題もありますので、これはまた数年、若しくは十年単位での話になりそうですが、成功すれば新たな文官の養成施設の完成。哲学や道徳の話も教えたいですね。私には難しいので、銀嶺からはダンカンが適任ですかね? 優しい雰囲気に話し方もゆっくりで分かりやすいですし。

 

 そんな始まりは軍事には向いていないが別方面で優秀な人材を捨てたくない文官育成計画の最初、古参組の皆様。最近は私や私が技術を教えた鍛治師の打った鎧や剣をオススメの商品にして遠方の諸侯に売ってはこの前の戦費や復興費を少しでも回復しようとしているようです。

 

 「この新型の剣はオークニーで生まれました。戦場後で死体から奪った中古品の型落ちの品ではありません、我が国のオリジナルです。前回の戦争では一部の兵士にしか支給出来なかったのですが、今や輸出の時です。・・・・・切れ味がお好き? 結構。ではますます好きになりますよ。さぁさぁ、どうぞ。銀嶺騎士団の最新の装備品、剣は「クロッカス」鎧は「カラドス」です。快適でしょ? んあぁ、おっしゃらないで。装甲が変わっている? でも装甲の軽量化や厚さを増すような安易な改造なんて見かけだけで、夏は暑いし、よく滑るわ、すぐひび割れるわ、ろくなことはない。剣も切れ味に厚さもたっぷりありますよ。どんな力自慢の方でも大丈夫。どうぞ装備して振り回してみてください。・・・・・・・いい音でしょう? 余裕の音だ、技術が違いますよ」

 

 とまぁこんな感じでセールストークを繰り広げ、各地で販売してはお金を集めているらしいのですが、一部はそれを活用した「麦転がし」もしているらしくかなりの資金を自身の資産や国庫にいれているそうです。

 

 ・・・・・・お二方、文官でも出世出来たでしょうね。その後の顛末に進展への草案も素人の私が聞くだけでも全く無駄がない。現在も人材の育成は順調のようで、昔ジャック将軍や銀嶺の皆様に教えた

 

 

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

 

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

 

 

 この言葉を皆に教え、自身も紙に書いては読み返したりしているそうです。私自身の言葉ではなく受け売りだと言いましたが、それでも何故か私自身の言葉と広まっているそうです。解せません。

 

 

 最後に魔獣の子供を譲る話ですが、これについて今はハッキリ譲れると断言出来るものではなく、ハチや花子、黒介達に相談しなければいけません。魔獣。といいますか私達の部隊の魔獣達は始まりの世代が子供の頃からなついたせいで生まれる子どもたちもすぐに心を開いてなつくせいか、少なくとも人間をむやみに襲わない。領地を荒らす蛮族や敵兵、魔獣、害獣が主な餌になり、無い日も彼ら用の給料や私達の畑や狩りでの糧を使って餌を用意します。

 

 そういった生活ですので、家族関係がより濃ゆく、部隊を離れても大丈夫かどうかの相談。それとブリーダーの銀嶺メンバーもコーウェン将軍に派遣させねばいけない。

 

 銀嶺魔獣部隊への風評自体はこの国内にいたっては心配はしていませんしね。この十数年。魔猪によるキノコなどの新たな食料発見、哨戒がてらに畑に臭いを付けておいて他の野獣や害獣が近づかないようにする配慮。冬場の魔狼の物資輸送隊。必要なら立ち寄った村々での農作の手伝いや森での物資の入手での護衛。王女にその母君の護衛に遊び相手、王子たちとも毎日のように戯れています。そして民草を困らせる魔獣、幻想種、竜種、蛮族の殲滅。極めつけにアーサー王との戦いでの八面六臂の活躍。

 

 このオークニーでの魔獣部隊の活躍は目覚ましいばかり。キリスト教が広まり廃れて久しい狼信仰の話や狼を従えた伝承の話が飛び出したりと色々話の種になるそうだ。

 

 最初はびっくりされたり逃げられたり、怯えられたりと散々でしたが、今では哨戒先での皆様から気楽にお土産をくれたり、毛並みを楽しもうとする子供もいる。すっかり変わったものです。

 

 後日子供が数週間で生まれそうな魔狼や魔猪の家族を呼んでおくのでご自身で相談をして欲しいとコーウェン将軍に頼み、今回はここでお開き。取り敢えず私は武器の準備と新たな命が生まれそうな部隊の動物たちに今回の話をしなければ。はてさて、第二の銀嶺は生まれるのでしょうか?

 

 

 

 

>>月<<日

 

 本日、ヤマジのパスタマシンが完成したので早速お披露目会になりました。普通なら全治何ヶ月の怪我だったのですが、イグレーヌ様や銀嶺に魔術を習い始めたメンバーの治療魔術で回復して、半月ほどで全快。そのまま連日部屋にこもって作り上げたそうです。

 

 蕎麦を食べたい一心で作り上げた二種類のパスタマシンは見事で、とても新品なことも会ってピカピカと輝いています。一応蕎麦の切り方は教えたのですが、どうにも不揃いで美しくない、食感の不一致が嫌だ。と自分の打つ蕎麦の切り方には諦めたようで、今回のパスタマシンはそんなヤマジや他の蕎麦好きな面々には成功して欲しい、手に入れたいものなのでしょう。実は私も少しこのパスタマシンに一手間を加えて欲しいとヤマジに頼み、食べたいものがあるので楽しみで仕方がない。

 

 早速ソバの生地を作り、ほどよくのばした生地を準備。それと並行して沸かした窯も準備してすぐに茹でられる準備も万端。生地をパスタマシンに押し込み、蓋をして押し込む、ハンドルを回せば均一に切られた麺が出てきてちぎれることもなく一つの麺になる。窯に入れても問題はないし、これは大成功です。

 

 早速麦味噌の出汁で頂き、味を確かめても問題がないのでこれからも少しづつパスタマシンを増やして王宮や貴族にも配れば悦ばれるでしょうか? 

 

 私は私でヤマジに頼んでいた仕組みを出すように頼み、小麦粉の生地をこねる。その間に食事を一段落させたヤマジはハンドル式のパスタマシンに新しいオプションパーツを組み込む。ハンドルを回せば切られた生地が更に細かくカットされるというもの。

 

 そう、昔テレビで見た小麦粉を細かくちぎって米の代わりにした「チネリ」をしようかと考えたのです。手でしていませんのでチネリではないかもしれませんが、米を食べたいなと常々考えていたので、これを代わりにしてみることに。専用のザルを窯に入れて細かく裁断される生地を受け止めてさぱっと上げる。これを麦味噌の出汁にいれて、スプーンでいただく。

 

 うん、まずまず。これはいい出来です。度々作って食べちゃいましょう。この後は皆でチネリ米もどきをみんなで食べて、そのまま晩御飯にパスタを作り、カルボナーラも作っちゃいました。

 

 

 

 

○☂月❉日

 

 ガヘリス様から自分にも一つ刀を打って欲しいと言われました。

 

 あの戦で暴れた結果、ガウェイン様ら王子たちから尊敬の視線で見られるようになり、何かと付けて呼び出しを貰うことになりました。今回もその一件で、私の振るう四本の刀。脇差の「深山」「陽炎」太刀の「桜花」「秋水」に興味を示された御様子。数年前から鍛冶も始めているのでこれも踏まえた上での依頼でしょう。

 

 私は構わないのですが、問題はガヘリス様の戦闘方法。ガウェイン様もガヘリス様も揃って大剣を思い切り振り回すパワーファイター。並の刀、私の太刀の大きさではすぐに使い潰すか、戦場で折れてしまうかになるのでどうしたものでしょうか・・・・・・?

 

 この件には途中で聞いていたガウェイン様にも聞かれ、是非とも自分も欲しいと言ってくる。国のトップ二人の主兵装の依頼・・・これは大変です。何せ近々ロット王も最近は少し老いが目立ち始め、以前ほどの覇気もないですし、近い内にガウェイン様に王位を継承する腹積もり。その時にみすぼらしいものは作れません。

 

 ロット王も最近は王子たちが無事に成長し、安心なさったのか以前よりも気楽に振る舞い、自分で家族の料理を作って振る舞うわ、モルガン様やガレス様と散歩したり、半ば隠居生活を始めてのんびりし始めています。この前は私が気まぐれで日記の表紙に落書きしていたパンダを気に入りぬいぐるみをこさえてガレス様に「ガレスちゃーん。パパだよ。そしてこれはパンダ」といった反応に困るギャグをしたり。

 

 なんと言いますか、自由人ぶりに磨きがかかりました。政務自体は変わりない手腕なんですが、心に余裕ができたと言うのでしょうか。以前は遊び心七割だったのが九、十割に振り切れたと言いますか・・・今まで以上に城内ではしゃいでいます。料理もモルガン様やガレス様と一緒にしたりで微笑ましいのですがね・・・

 

 しっかし・・・このとんでもない依頼。少し時間をいただかなければ・・・

 

 

 

 

冰月焰日

 

 アンナ様が少しでかけてくると言って散歩にでかけました。行き先も告げず、ふらふらと出かけていきました。

 

 普段の散歩なら気にしませんが、わざわざ出かけるというあたり、何かあるのでしょうか? でも、ハチ達もフォウ様も特に急かしたり、私についていくように催促もしませんし、私から見ても違和感がない。うーん・・・

 

 とりあえずご飯と怪我をして帰ってきても良いように、何らかの騒ぎに対してもすぐに移動できるように栗毛も準備してアンナ様を待つことに。

 

 その間にコーウェン将軍がいらっしゃり、将軍と魔獣の夫婦と会話を交わし、三組の夫婦がコーウェン将軍の下に行くことに。部下は既に準備を決めているので数日後には赴くように手紙を記してハチに伝令を頼み、コーウェン将軍は三組の魔獣の夫婦と一緒に満足気に帰っていきました。これからも頑張ってくれるといいのですが。

 

夕方になり、アンナ様は無事に帰ってきました。違う点を上げるとしたら、背中に何かを背負っている点と、同行しているワイバーンの子供でしょうか。赤と緑のワイバーンのつがい。それがアンナ様の周りを飛び交い、なついているのです。

 

 

・・・・・フォウ様といい、アンナ様はいろいろツッコミに困る動物を連れて帰ってくるのが好きなのでしょうか? 因みにフォウ様は最近はガウェイン様や、ガレス様とよく遊んでいるために王宮でもちょっとした話題になっています。「不思議で可愛らしい獣」だと。

 

 一応聞いてみると、ワイバーンや竜種と過ごす際に老いた竜が居たことを思い出したので出かけてみるとその巣には横たわり、とうに死んでいる竜に二つの卵。それはその場で孵化して自分になついたことから持ち帰ったそうな。ついでに竜の逆鱗や持っていた宝玉、鱗などの素材も持ってきてくれました。これは使えそうなので一部は貰い、逆鱗や宝玉はロット王に渡すことに。

 

 新たなメンバーが増えそうですが、まずは大きくさせながら人を襲わないようにする訓練でしょうか。上手く行けば銀嶺の強襲部隊のメンバーに加えることができますし、航空戦力の参加は嬉しいです。

 

 名前は・・・赤の子が「レギア」緑が「イネンナ」にしました。これからよろしくおねがいします。

 

 

 

 

X月L日

 

 漸くガウェイン様、ガヘリス様の専用の太刀が完成しました。数打ちのように済ませるわけにはいかないので、時間がかかりましたが、漸くです。

 

 作ったのはお二人の戦い方と剣の頑強さを考えた結果大太刀にしました。真柄直隆の持っていた「太郎太刀」これくらいの大物でもお二人なら問題はないでしょう。流石に大きくて私だけでは少々手間なのでダンカンに手伝って貰い一緒に王城へ。実は、アグラヴェイン様にも武器を作ろうかと聞きましたが「未だ貴女の技術を収めていない未熟者に不相応な獲物を渡しても増長して失敗します」と断られました。合理主義の塊みたいなアグラヴェイン様ですが、私との修行は本気で打ち込みますし、銀嶺の皆様の手伝いをしたりと年相応の部分はあるのですがねえ。この前はカルボナーラを作ったら喜んでいましたし。

 

 そうこう考えながら少し前に長期休養の終えた銀嶺の活動について話しながら王宮に向かい歩いていると早馬が。鎧や馬の消耗具合からしてどこかの使者でしょうか? 前線には銀嶺や私達の知る部隊がいるはずですし、そこまでの騒ぎならモルガン様やアンナ様から連絡が飛んでいるはずですしねえ。

 

 早馬の後をゆっくりと着いていく形で王城へ足を踏み入れると早速イグレーヌ様に呼ばれて玉座のある場所へ。先の早馬はアーサー王からのものからであり、内容は前回の戦の詫びと同盟へのためにアーサー王直々にこちらに出向くというもの。下出に出ているあたり、相当な念の入れようですね。

 

 これにロット王も許可をするが、一度モルガン様と私的な話の席も欲しいと付け加えて話は終了。私も同席するように呼ばれているらしく、急いで準備のために拠点に帰宅。刀はその場ですぐにガウェイン様等に渡して急ぎ足で戻りました。漸く実った家族での会話。お互いの思考のズレをここで解消しなければ!

 

 




 コーウェン将軍のネタは真ゲッターのあの人。中の方がウルトラマンメビウスではデスレムだっりとお世話になっています。勿論性格まではあそこまでえげつなくありません。腹芸はしますが、華奈にも信頼を寄せています。副官にスティンガー君がいそう・・・

 魔獣部隊のアイデアは吸血鬼を調べる傍らで見つけたベルセルクの話と狼信仰、狼神の話は見ていて「この時代なら魔獣とはいえ狼部隊作っても面白そう」と考えて魔獣の中に狼を入れました。魔猪は現実でも猪の危険性とケルトやアルトリアも魔猪に辛酸を嘗めさせられた、魔獣のトップクラスということで出しました。実際に豚などにトリュフを探させたりきのこを見つけさせるのは現代でも行われていますからね。

 実際に狼を従えて英雄になる、問題を収める伝承なども少ないですがあるのでこういう形の将がいても面白い思い、出しました。本多忠勝が立花宗茂を助けるときの「敵で強いものは味方になっても強いものだ」という発言に、三国志での南蛮遠征で出てきた獣を従える部隊に触発されたのもあるのでしょうかね。魔獣、害獣と恐れられるものが味方になれば強いはずだ! って感じです。

 今回華奈がガウェインらのために準備した「太郎太刀」を愛用した真柄直隆は信長公の義弟、浅井長政、浅井の同盟者朝倉家の連合と織田・徳川連合の戦、姉川の戦いで朝倉の将軍として本多忠勝と一騎打ちをしたと言われる豪将。なんと彼の大太刀は175センチ。別の説では240センチとも言われるほどの馬鹿でかい刀を持って暴れたそうです。

 ガウェインのパワーやガヘリスもそっち系等のキャラにしましたし、聖剣が渡るまではこっちで暴れてもらおうかと。騎士が刀を奮って暴れる。ミスマッチにも程がある!

 次回はアルトリアとの同盟への動きがメインになるかも?

 UA 7798件 しおり 21件 お気に入り 109件 評価、感想、お気に入り登録をくれる皆々様。有難うございます。

 またこの物語にお付き合い頂く皆様は宜しくおねがいします。オリジナルキャも増えてきましたし、元ネタも含めて簡単なキャラ紹介の場所も必要でしょうか?


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同盟なんてららら

~銀嶺・拠点~

華奈「同盟の話の時は何を着ていけばいいのでしょうか?」

ヤマジ「うーん・・・外交だしなあ・・・」

ダンカン「侍女の装いは駄目だよね」

アンナ「かと言って着物やドレスも場違い。やっぱり鎧姿に刀でも差したほうがいいわよ」

華奈「そんなものですかね・・・・・私はあくまで将官で、護衛ですしそれくらいにしましょうか」

フォウ「プキュ・・・キュ(カナのドレス姿・・・見たかったなあ。いつも肌を隠して中の柔肌見たこともないし・・・くそう、残念だ。)」


>∩(・ω・)∩<月☆日

 

 本日は外交の日。なにもない小さな草原で話すことになり、そこで私達は待つことにしました。今回出向く面々との会話のために罠が貼りやすい王城よりも準備をしても見抜かれやすいここで互いに語らうことにしました。本当なら格式等色々ありますが、そんな事を抜きに話したいというロット王の考えでここになりました。

 

 メンバーはロット王、モルガン様、イグレーヌ様、ガウェイン様、ガヘリス様、コーウェン将軍、ジャック将軍、私、銀嶺の副官からヤマジとアンナ様、文官からも財務大臣と農務大臣、記録員、護衛は王の近衛兵と私達銀嶺。ダンカンに銀嶺のまとめ役を頼みました。

 

 少し待つと騎馬の地鳴りがあがり、アルトリア様とケイ卿、その他直属の部下なのでしょう。それらが周りを固めながらこちらに近寄ってきます。私やモルガン様を見るや表情を険しくさせている方もちらほら。当然でしょう。あれだけしてやられて、しかもそれが魔女や魔獣使いときたものです。彼らからしてみれば女で邪なものを操るものに敗北したのが嫌でしょうがないものもいるのでしょう。

 

 アルトリア様も少し表情を険しくし、ケイ卿も感情を殺しきれていない。恐らくあの戦の時に留守をやっていたことを悔やんでいる部分もあるのでしょう。実際、もう一人将があの軍にいたらあの戦いで削れた戦力も減っていたでしょうし。

 

 早速会話と洒落込み軽い挨拶でランスロット卿やマーリンが来ていないことを聞くと、現在も油断できる状況ではないのでこの二人を守りに置き、ケイ卿は今回のモルガンに関しての話を共に聞かせたいために同席させたそうな。アルトリア様の家族で国の最古参の騎士。話を聞かせて理解を貰うのは悪くないです。それとあの二人を残してくる辺り、四方八方に戦いを挑んだツケは大きいようですね。

 

 同盟の内容としてはまずは互いの不可侵、領土の割譲も一切なし。アルトリア様が侵攻したことへの賠償も一切しない。また、ソバやサトウダイコンの栽培技術のノウハウの輸出。この国の防衛に関しては食料の提供を確約しました。

 

 アルトリア様はソバやサトウダイコンの代わりに育てていた野菜の輸出。それがじゃがいもでした・・・今はヨーロッパにすらないものを手に入れているのでしょうか・・・でも、部員の時にお会いしたガウェイン様はポテト依存症でしたし・・・ランスロット卿が湖の乙女に頼んで南米から仕入れたのでしょうか? 水に関することに多くの加護を与えることの出来るお方ですし、神秘に溢れた海なら渡れもするのでしょうか・・・?

 

 何にせよ根菜ですし、ゴボウの仲間以外にもこういった野菜は有り難いです。気を取り直し、防衛戦にはオークニーを優先で兵力を裂くこと、また、現在ブリテンを騒がす卑王・ヴォーティガーンとの戦いにも必ず守り切る。少なくともあの王を倒すまではこの同盟を切らないことを約束しました。

 

 互いにギアススクロールで刻印を刻み、この同盟は無事に締結。そして、約束しておいた私的会話の話になり、私、モルガン様、イグレーヌ様アルトリア様、ケイ卿の面々で専用の天幕に入り、偽証探知の魔術を掛け、ギアススクロールに偽りは言わないって誓った後、話し合いが始まりました。分かってはいましたが、私的話し合いとは言えない準備ですよねえ・・・立場上仕方ないですが。

 

 漸く待ち望んだ親子の対面なのですが、何分赤子の頃以来の再会で、しかも戦争かまして魔女と罵り殺そうとした相手なのです。アルトリア様の戸惑いようは凄まじく、何から話したものか思いつかずワタワタしていました。

 

 流石にそれを眺めて楽しむつもりもないので助け舟を出し、「お互いの経緯を話してはいかがでしょう」とモルガン様に話し、それからは私達の出会いからその後の国での活動を話していったのですが、それを聞き終わる頃にはケイ卿はお腹と頭を抱え、アルトリア様は目のハイライトが完全に消えて机に突っ伏して呻いていました。

 

 対してアルトリア様からの私達への評価は千里眼で諜報も引き受けていたマーリンから教え込まれた情報が主でモルガン様はかつてのウーサー王が行った母への行い、自身への境遇からブリテンを復活させようとするアルトリア様を恨み骨髄の魔女。イグレーヌ様はそんなモルガン様に教えを施す流れの魔女で、妖術や屈強な騎士、魔獣を操り、それを私・・・魔獣使いであり「悪魔憑き」の私に一任して国をモルガン様が掌握するための手助けをしたと。

 

 糞を貯めたものは呪いや悪魔の儀式に必要な材料であり、村々に置いては街一つを結界なり何なりと使うための下地だとか魔狼の輸送隊は死体を運んでいる使い魔だと言っているらしく。取り分け表立って活動していた私の評価はもう散々でした。私がお二人を救出する際に皆殺しにした貴族たちは最後まで国を捨てなかった忠臣でこれを斬り殺した「剣鬼」とも。まあ、美談でも悲劇でもありますし、これを成人する前から教えられては復興への思いも私への敵愾心も湧くでしょう。

 

 私の話は至極どうでもいいですが。それよりもお二人の風評や扱いがもう・・・あの魔術師は本当に・・・まあ、狼達には殺した後に捌いた獣肉も運んでもらいましたからあながち間違いではありませんし、肥溜めも発酵するまでの間は臭いが強く、ハエや衛生害虫が出ますから悪魔への供物と思われても仕方がありませんが。

 

 付け加えるとイグレーヌ様自体は病死した事にしたらしいです。全くよく言うものです。ケダモノに犯させて衰弱死させるつもりだったでしょうに。ぶっちゃけ王位を欲しいならモルガン様だけを狙えばいいのですが、あの時の輩の目はお二人に向けたものでしたからね。あれが忠臣とはちゃんちゃらおかしい。

 

 この私達への評価とこの捏造話を聞いたモルガン様にイグレーヌ様は大激怒。鼓膜が破れるような怒声と向けられていないはずなのに私でも思わず後ずさるほどの怒りを吐き出しまくり。お二人に説教開始。

 

 戸惑うアルトリア様、ケイ卿に向かいお二人は事実を捲し立てて、挙げ句には「こんな嘘も見抜けずに事を構えて戦までしたのか」とか「何故自分でも深く精査をしなかったのか」と戦直前の行為まで追求してとうとうアルトリア様達がノックダウンしてしまいました。「あの時の和議に応じれば・・・・・」と念仏のように繰り返しては光のない目からは涙がダバダバと流れて机に広がる・・・ご愁傷様です。

 

 でも、ここまで事実を捻じ曲げて私達を悪役に見立てた理由がイマイチ不明なんですよねえ。復興には先立つものも必要ですし、あの武威を誇る軍勢で卑王を倒すために家族の縁を利用して協力要請すればいいものを。イマイチここが引っかかって仕方がない。

 

 モルガン様達の一族は幻想種を保護することを任とする女神の一族で、滅びる、世界の裏側に去りゆく生物たちを妖精郷に導く役割もあるのですが、そんな一族を夢魔の血が混じる彼が捨ててまで欲しいものが今ひとつ分からない。家族同士を相争わせても欲しいもの・・・? 

 

 可能性としては管理者を根絶やしにさせて幻想種をこの地に残らせて自身も住みやすい環境を残してアルトリア様の場所に居座ることですが、千里眼持ちの彼では場所のせいで見れない。なんてことも妨害さえ無ければ問題ないですし、そもそも軍にすら襲いかかる巨人族やキメラ、オーガ、ワイバーンなんてものを残しては軍の被害や国の地盤となる民草まで被害が出てしまい、動きが鈍る可能性も出ますしね。

 

 アルトリア様にも聞いても分からないの一点張り。今事実を知ったのですから、当然でしょう。しかし、かつての協力者、同胞すらもこうも利用し放題のあの方にはどうしたものか・・・基本同盟は賛成ですが、あの方の行動如何では同盟すらも揺らぎかねません。

 

 今回の件でアルトリア様、ケイ卿・・・ではなくケイ様も警戒を解いてくれたようで、とりあえずはブリテンに帰り、マーリンの監視をして真実を見抜くこと、今回の同盟の件を伝えて皆の士気を鼓舞すること、仕事を任せている家臣達に代わって責務をこなさないといけないこと等、色々こなしていくとのこと。

 

 流石に長年師として連れ添い、鍛えてくれた方を見捨てることはできませんし、人材としてもこの上なく優秀な魔術師。公私の両面で捨てるのはこちらにも思わしくない影響が出かねません。同盟相手の人材がいなくなるのは御免こうむりたいです。

 

 ・・・・・・・・一瞬思いが揺らぎそうでしたが、そこは堪えて送り出すことに。帰り際に「新たな近衛騎士団を近々結成する際に同盟の証として貴方方「銀嶺」からも欲しい」と言われてモルガン様もロット王も認めたので「お互いに信頼できたのなら是非とも」と返してにこやかに別れました。

 

 心から信頼できて、こちらも人材が育ち始めた時に何名か派遣してもいいかも知れません。何はともあれ今尚精強で名高いアルトリア様の軍がオークニーへ侵攻しないこと、協力を取り付けた事は大きいです。国防費も馬鹿に出来ませんしねえ・・・・・・

 

 

(#^ω^)月(;・∀・)日

 

 アルトリア様との同盟も無事締結。ソバやサトウダイコンの栽培方法などを交換し、じゃがいもを領内で栽培し始めたり、同盟締結してからすぐにガウェイン様が軽いノリで王位継承したりと慌ただしい中、困ったことが起きました。ガヘリス様やガレス様、更にはガウェイン様までもがアルトリア様の近衛騎士団に入りたいと騒ぎ立て、皆で説得大会が開催されました。

 

 理由としては王でありながら騎士として戦場を駆け巡り、更には長年サクソン人を送り込んでこの島全土を脅かすヴォーティガーン王に真っ向から対峙していることなど、正に輝かしく鮮烈なアルトリア様の戦歴や活動に魅入られ、さらには親族だと分かったので同盟の結束を強めるために行くだの、何だのとギャイギャイ凄まじい事に。

 

 私の銀嶺もヤマジを筆頭に数名がブリテン内で農業教育をしていることも尚刺激しているらしく、彼らの手助けのために行くと中々に粘る。

 

 ガレス様も私の剣術を合間合間ですが習い始めた結果そこらの騎士には負けなくなりましたし、アグラヴェイン様も王族でありながら文官としての才に溢れた秀才。軍事に関しても防御術はかなりのもの。ジャック将軍やコーウェン将軍の元の人材や増えている魔獣で防衛戦もバッチリ。確かにガウェイン様が不在でも国は守れまる程の布陣や準備はしていますが・・・貴方方、そもそもブリテンではなくオークニーの王族。しかもガウェイン様はもう国王なのですから我慢してくださいよ・・・紙芝居のヒーローに憧れる下町の子供ではないのですから・・・・・・・

 

 それでも引かないので、手助けなら私が行きますし、大戦にはこちらも参陣するように伝えればいいのではないでしょうか。と話し、常にとはいきませんが、出来うる限り手助け、轡を並べる機会を設けるように提案。まだまだ戦の経験も多く積ませていない皆様を戦力に数えるのは色々危ういですし、アルトリア様ともこの件は考えなければ。

 

 その件についてロット元国王様も賛成して、更には私とコーウェン将軍を同盟の際の窓口とすることを任命しました。国の最高武官にモルガン様、イグレーヌ様の信を得ていて、義理の家族の様なもの。家族での交流のほうが円滑に行くだろうとの提案でそうなりました。

 

 ・・・・・それで話が済めば良かったのですがまだ満足のいかないガヘリス様にガウェイン様は未だ抗議を続けています。「伯母上が行くなら護衛に私も行くべきです!!」などといい出す始末。・・・逆でしょう!?

 

 幼い頃の勢いに戻ったガウェイン様王族に止めたい私達将軍、銀嶺、アグラヴェイン様のメンバーで最終的には紅白戦に発展。師匠の意地で何とか勝ちましたが、その過程で王子たちの馬力に皆がポンポン王宮から吹き飛ばされるというギャグ漫画のような光景やダンカンが見事なホールド技でガヘリス様を拘束したりと他所じゃ斬首待ったなしな展開まで繰り広げられました。

 

 ここまで王族と家臣の距離が近しい国なんて私達くらいでしょうね。この光景を録画していたイグレーヌ様とモルガン様が使い魔でこの一部始終をアルトリア様に送ったらしく。「少なくともここまで自分のために動こうとする同盟者にその家臣たちだから気楽に来なさい」というメッセージも込めてのことだそうです。

 

 取り敢えず私やガウェイン様の両方の意見は伝わったはずですし、後はあちらの連絡を待つばかり。ケンカで壊した王宮の修理と仲直りの晩御飯を作り、怪我人を治しながら夜は過ぎました。いやはや・・・どうなることやら。

 

 

(`・ω・´)月(「・ω・)「日

 

 あの「オークニードタバタ相談会」は無事にアルトリア様に届いたらしく「大変面白愉快な相談会でこちらも笑わせてもらった。怪我はないか」との便りが届き、大変うれしく思う中、手紙に書いていた気になる部分が「近い内に新たな力を手に入れるために湖の乙女に会いに行くのだが、貴殿らほどの心根の綺麗な方なら是非とも紹介したいし、同行願えないか」とのこと。

 

 ふむ、恐らくですがあの「エクスカリバー」でも手に入れに行くのでしょうか。まあ、部下が聖剣を持っているのに自身はそこらの名剣では少し不釣り合いですものね。改めて手紙を深く読み返すと同盟の時に語らった事にも「貴方方の過去の経緯の言い分は貴方方のほうが正しい」と書かれ「ヤマジの教導はとても分かりやすく誰でも頑張れば出来るもので魔術師や悪魔の技術ではない」「魔獣たちもむやみに牙をむかずに哨戒をして害獣を駆除し、蛮族を退治してくれていて助かっている」と教導任務へのお褒めの言葉等など。こちらをベタ褒めしてくれている内容ばかり。特に大きないざこざも無いようで何より。

 

 そして「新たな力」を手に入れるために少し国内の防衛を完璧にしてから出かけたいためにその準備に入るために暫く後になる。とのこと。まあ、早い話が周辺の蛮族と諸侯でしょうが・・・ガウェイン様も張り切ってますし、あの湖の乙女に会えるのは私もかつてのチャンスが戻ってきたということ。二つの意味でやりがいが出ます。

 

 ガウェイン様の命令で銀嶺に指示が飛びました。目標は国内、ブリテンに侵入する蛮族の討伐。ブリテンにはモルガン様から連絡をしてもらい、私達は早速国内、侵入しようとする蛮族、軍の殲滅。ブリテンにはアンナ様を先に向かわせてヤマジと合流。その間に連絡はアルトリア様に届いているはずなのとヤマジの評判なら同じ部隊のアンナ様が来ても大丈夫でしょう。

 

 早速私は縮地で移動して拠点に移動。ダンカンやハチに連絡をしてから栗毛に乗って行動開始。さあ、早めに追い出してしまいましょうか。

 

 

☆☆☆月Z日

 

 蛮族、魔獣の殲滅を初めて一ヶ月と少し。ひたすらに国境を侵して暴れる蛮族に魔獣を殲滅、殺戮を繰り広げ、更にはブリテンとも連携しての行動も数度。ガウェイン王自ら動いての戦ということもあり、兵士の士気も高く、相対する軍、魔獣はまるで紙くずのように粉砕され、打倒されました。

 

 私達も人数だけで500人、魔獣たちも含めれば総合で800以上になる部隊で好き勝手に暴れまわっては窮地に立つ部隊や人教が必要な部隊を援護。機動力を活かした広域突撃支援で相手を狩り尽くしましました。練度も積めたことも含めて、これは有り難いです。新しくスカウトした皆様は銀嶺の十八番。高速機動戦術には不慣れな方々が大半でしたし、これで慣れてくれたら幸いです。地力も感覚も大丈夫だろうと見込んだ方々ですし、すぐに慣れるでしょう。

 

 周辺の諸侯にも上手いこと工作ができたみたいですし、少しの遠出程度なら問題はないでしょう。早速銀嶺を2つに分けて半分は留守を守るダンカン、モルガン様に預けて私はガウェイン様と共にブリテンに移動。ヤマジ、アンナ様とも合流してそこから更にその二人の部隊をオークニーへ送り、最終的には200騎ほどの戦力に。更にそこから150騎をアンナ様に預けてブリテン内で防衛を委任。ケイ様の部隊と共同で動くようです。

 

 ガウェイン様も20騎のみにしており、アルトリア様の部隊を含めても150騎以下。今回参加するメンバーはアルトリア様、ランスロット卿、ベディヴィエール卿、マーリン、私、ガウェイン様、ヤマジ、それぞれの護衛部隊計140騎前後。これで一息に湖の乙女に会いに行き、アルトリア様は新たな聖剣を手に入れるとのこと。

 

 私達にももしかしたら武器の譲渡や強化もあるかもしれないと言われ、ガウェイン様はガヘリス様の大太刀、私はダンカンの双剣とアンナ様の杖を持ってきました。ついでにご飯もあそこで食べようと思い、調理器具や食材もハチや花子に頼んで乗せています。

 

 ランスロット卿が言うには「食事も摂る」と言っていましたし、親交を深める意味でも食事はいいでしょう。蜂蜜も壺で、砂糖を使ったクッキーもありますし、楽しみです。

 

 全員の準備が揃ったところで早速行動開始。私が先陣となり哨戒役も務めることに。頑張りましょう!




~移動中~

ハチ「ガゥ!(敵を見つけた!)」

花子「キュウン?(処す? やっちゃう?)」

華奈「では、ハチたちはそれぞれ7騎率いて突撃。私がその後に5騎率いて敵の横腹を食い破ってしまいますからその後はすぐにガウェイン様の下に戻って哨戒を。ヤマジ、援護をよろしくおねがいします」

ヤマジ「了解した」

ハチ&花子「(狼や騎士を率いて偶然接敵した蛮族に突撃)」

華奈「さ、邪魔するならお相手しましょう!」

栗毛「ブルルルゥ!(ヤローオブクラッシャー!!!)」

ヤマジ「さて・・・一気に加速して倒しますか。弓用意。通りながら射掛けて追いすがる足を射抜いて大将の後を追わすな。3騎は俺と加勢して突撃隊の離脱をスムーズにしようか」

ガウェイン「ふむ・・・私達は短槍を投擲して援護。ヤマジの攻撃の後に確実に倒しましょう」

(通りすがりに出会った蛮族攻撃中)

華奈「あっさり行けましたねえ」

ガウェイン「流石伯母上。見事なお手前でした。ヤマジも感謝します」

ヤマジ「おいおい、二人に言われるほどの仕事はしていないぜ。褒められるとこそばゆいが、感謝します。王、カナの大将」

ブリテン勢「(あまりの機動戦、殲滅速度に呆然)」

ガウェイン「? どうされました? 皆様」

ベディヴィエール「あの・・・皆様はこの機動戦をいつも?」

ガウェイン「これでも少し抑え気味ですね。騎馬が離れすぎないように速度は落としていますし」

ベディヴィエール「はい? これでですか?」

ヤマジ「いつもはもっとやりたい放題ですね。でも、そうすると先に行き過ぎて分断されたり奇襲に対応できませんから」

ランスロット「これでまだ抑えめ・・・」

華奈「先にワイバーンがいますね。接敵まで余裕がありますが、迂回しますか?」

アルトリア「いえ、そのまま突っ切りましょう。今度は私達が見せる番です。マーリン、ベディヴィエール、ランスロット!」

マーリン「ハイハイ。仰せのままに。速攻で倒そうか」

ベディヴィエール「畏まりました!」

ランスロット「承知しました」

~次回に続く~

 同盟も結び、色々ゆるいオークニーに気を許し始めたアルトリア。そしてエクスカリバーを手に入れる為に湖の乙女に会いに行く。華奈も参加。はてさて、如何なる事に?

 オークニーの面々のゆるさは大体が銀嶺とロット王。それとモルガンたちが元凶です。

 今更ですが、華奈の持つ四本の刀。脇差の「深山」「陽炎」太刀の「桜花」「秋水」これらの元ネタは「新・ボクらの太陽 逆襲のサバタ」にて使われる剣のカテゴリー、「刀」から取っています。あのゲームは名作でしたが、パズルとテーマが子供向け? とはいい難いレベルだったような気がしないでもないです。友達と四苦八苦しながらやり込みました・・・

 銀嶺メンバーの武装は華奈 太刀、脇差の四本差し。ダンカン 双剣。ヤマジ ハルバード。アンナ 杖と短剣。になっています。

 最後にUA 8949件 しおり 23件 お気に入り 116件 有難うございます! 気がつけばお気入りされた方が三桁もいてくれたこと。UAが一万の大台に入りそうなこと。嬉しいです! 感想も楽しませてもらっています。いつもいつもありがとうございます。

 また次回お会いしましょう。愉しい物語に出会えることを!
 


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突撃!湖の乙女様

色々思うままに書いていますが、認めて読んでくれる皆様に感謝です。評価もジワリ・・・ジワリと増えてくれるのが嬉しいです。邪道な部分も多い作品ですが、がんばります。


∬月♭日

 

  取り敢えず遭遇した蛮族を退けた後にこの島を離れてヨーロッパに到着。早速認識阻害の魔術を施したローブを羽織り、マーリンは自身専用の礼装を装備。

 

 何せ神秘のない大陸故に幻想種、夢魔と人間のハーフであるマーリンには辛い環境らしく。少しでも軽減するものがなければいけないそうです。私達も魔狼や栗毛に専用の道具を首輪に付けて万全に動けるように。

 

 その後はひたすらに馬を走らせて行程の三分の一あたりで本日の移動は切り上げ、野営の準備に入りました。ふぅ・・・お腹が空いていましたし、栗毛を休ませたかったので有り難いです。早速そこらの川辺で水を汲んで栗毛やハチ、花子にかけてブラッシングを開始。汗も流してスッキリしましょうか。

 

 労いの意味をこめてブラッシングを行い、その間にヤマジ達が薪を集めてくれたので火をおこして晩御飯の準備に。私も鎧を外して中に入れておいた荒縄仕込みのインスタント麦味噌とポテトとベーコンのジャーマンポテト。パンはフワフワのものとクッキーの硬いタイプに蜂蜜を準備。ハチたち専用の燻製肉に栗毛用のサトウダイコンの葉。遠出なので日持ちしつつも美味しいものをチョイスして作る晩御飯に一日の疲れも癒やして貰うことにして食事を開始。

 

 うん、いけますね。香草とポテト、ベーコンの組み合わせはいいですし、パンもまだ酸味が強いですがフワフワのモチモチで蜂蜜をかければその酸味もアクセントになる。味噌の塩気と味は流した汗の塩分補給とお腹に染みる温かさをくれるので嬉しいです。欲を言えば具ももう少し入れたいですね・・・干した人参も持ち込んで入れるべきでしたか? おやつ用にドライフルーツもありますが、合わないですしねえ。

 

 そんなこんなおいしい食事を楽しんでいると、何やら大きな腹の音と、視線を感じたので振り返るとブリテンの皆様がよだれを垂らして私達のご飯に釘付け状態。・・・・・・・もしよろしければ一緒に食べますか?

 

 その言葉に目を輝かせて食事の交流会を開始。なんと言いますか、ひたすらに破竹の勢いでの進軍故に今まで食事に気を掛ける余裕もなかったのか、パンはただ小麦粉を焼いただけ、若しくは硬すぎて石のようなものですし、飲料水も簡素なもので不味い。燻製肉は乾かし方が足りないせいで酸味が付いていて美味しくありません。

 

 ハッキリ言って私が来る前の食文化のレベルのまんま。あの軍の威圧、地力の基盤をよくこれで培えたものです。今のオークニーの軍事携行食ですらこんなものでませんよ。

 

 因みに今の軍事の食料加工はコーウェン将軍が一手に引き受け、私の持つ記憶などを元に様々な物を試しています。美味しく、簡単、食べやすく。昔の食文化や大陸の歴史をさがして今は研究をロット元国王と励んでいるようです。

 

 取り敢えずこの食事にブリテンの皆様は無心で、何かのタガが外れた状態で一心不乱に味噌汁でふやかしたパン、ジャーマンポテトに足した燻製肉を口に放り込んでは・・・・私達の分が無くなりそうですが、何でしょう。この光景になぜか胸を打たれ、止める気にならないんですよね。

 

 それは皆も同じようで、ただただ見つめていました。ただ、流石に明日や明後日の分まで食べられてはいけないので隠しておいてブリテンの皆様が食べ終わるのを待つことに。食べ終わった皆様はふと我に返り、ひたすらにお礼を述べてきました。別にいいですけどね。美味しく食べてくれて、楽しんでくれたのなら重畳ですし。

 

 その後はすっかり打ち解けたブリテンの皆様と少しお話になりましたが、その際にヤマジや古参の銀嶺の方が「これらの食文化の始まりはカナの大将が始めたことで、あんたらにも色々教えてくれるだろう」なんて言い出してしまい、アルトリア様を筆頭に皆様がギラついた視線を私に向けてきました。

 

 ああ、もう・・・言わなくてもいいのに・・・視線がもう「獲物を見つけた肉食獣」「宝の山を見つけた海賊」のそれですよ・・・アルトリア様やベディヴィエール様、ランスロット様は「是非とも我が国の騎士団に」と誘い出す始末。しかもジリジリと周りを包囲し始めるブリテンの騎士まで・・・・・

 今度にしましょう! 今度に! 今は湖の乙女に合うことが先ですから!! 何でこの欧州の地で魔獣でも獣でもなく味方の騎士に眼を光らせて囲まれる事態になるんですか~~~~!!!?

 

 

 

 

(´・ω・`)月(^q^)日

 

 昨晩のブリテン大勧誘会を逃げ出してどうにか睡眠も取れた二日目。移動がてら鳥を数羽投石で撃ち落として晩御飯の準備をして移動中。今晩は焼鳥と野草を入れた味噌汁、鶏ガラも準備できればソバも出しちゃいましょう。

 

 しっかり休ませたお陰で皆様の馬も絶好調。予定よりも早く湖に着きそうなのですが、問題が発生。突然一人の騎士が目の前に立ちはだかり、私達は全員が動きを止められました。

 

 この行動に皆様が危険だとか馬鹿者と罵声を浴びせますが、目の前の騎士は気にすることもなく自己紹介を始めました。名前はペリノア。ある国の王なのですが、武者修行の最中で目についた強者に挑んでは自分を高めているそうで、私達にも目に留まる強者が数名いるために是非とも勝負をして欲しい。とのことだそうです。

 

 ・・・・・・・あれですよねえ。確か、正史でカリバーンを折った方で、円卓にもいませんでしたか? この御方。こうして見ると本当に奔放そうな方です。恐らく40代程ですが、それよりも若く見える姿に快活な雰囲気、身の丈程の大剣を担いで此方を品定めする目も王というよりも生粋の剣客、又はおもちゃを見つけた子供のようですね。

 

 そんな自由人なペリノア様はこの一行の主を聞き、それにアルトリア様とガウェイン様が名乗り出て、これ以上留まる理由もないので決闘はやめてほしいと言いますが、聞く耳を持たずに勝負だと言い出して構えだすペリノア様に対してアルトリア様はランスロット様に決闘を受けるように言い渡してランスロット卿もこれを受けてアロンダイトを抜刀して臨戦態勢。空気が張り詰めて重い静寂が流れ始めました。

 

 何かこう、アレですね。「助さん、格さん、こらしめてやりなさい」ってこういう場面で使うんでしょうねえ。と何故か場違いな感想と前世で見た時代劇の映像が脳内再生され始める。その間にも勝負は進んでおり、やはりと言いますか、ランスロット様が優勢の状況ですが、ペリノア王も彼の苛烈な攻撃に食らいつき、7,8撃に一撃は反撃できている。流石は武者修行を積んでいるだけあり、そう簡単にはやられない。

 

 しかし結局ランスロット様の優勢は終始揺るがずにペリノア王は敗北。流石に未来の円卓最強、最高の騎士と言わしめる彼には敵わなかったということでしょう。

 

 その結果にペリノア王は大爆笑。ここまで強い騎士に会えたことも光栄で嬉しいと言い出し、更にはここにいいる奴らも同じくらい強いのかと聞いたのにガウェイン様が「ここにおられるアーサー王は言わずもがな、私の師である伯母上にヤマジといますよ」と返したので更にペリノア王は爆笑。自分もこの一行に加えて欲しいと言い出してきた。

 

 アルトリア様も困惑していましたが、ペリノア王の勢いとその剣の腕を見込んで参加することを許可。職務はどうしようかとも相談会が始まったので、私は少しこの場を離れて新たに参加する分の食料調達を始めることにしました。これにガウェイン様も参加。ヤマジは一応この話を聞いておくと言うのでその間の警備を任せました。

 

 暫くして野鳥数羽とウサギを3羽、香草や野草を少しばかり、ハチ達は魚も手に入れてきました。これなら昨晩のご飯の分も補給できているでしょうし、僥倖です。

 

 戻ってくる頃にはペリノア王の職務も決まったそうで、職務は顧問監査官。

 

 いやまあ、同盟国に戦力が増えるのは嬉しいですが、今更ながらに思ったことを一つ。貴方の国の職務は大丈夫なんですか? 王ですよね? 適当に誰かに任せる? ああもう・・・・・自由人にも程がある。

 

 しかもこれを聞いたガウェイン様がどうやって国王のまま参加できないかと考え出す始末・・・はぁ、頭が痛いです。下手すればまたあの相談会再びですか。

 

 因みに参加したペリノア王は私達にも勝負を挑んできたので倒しましたが、かなりの剛剣で大変でした。ガウェイン様やガヘリス、ヤマジの力に慣れていなければ受け流すのも一苦労ですよ。勝負の後はガウェイン様とは同じパワーファイター同士気があったのか打ち解け、ヤマジはイイ男とロックオンしていました。

 

 

 

 

❖月~日

 

 大陸に入って3日ほどで漸く湖の乙女様のいる森に到着。多くの人数を入れるのは避けたいというマーリンやランスロット様のお願いにより森の入口に護衛の騎士、魔狼たちは待機。ペリノア王様とヤマジ、ベディヴィエール様をまとめ役にして私達は森の奥深くにある湖に。少しばかり歩いたところで結界に当たり、それをマーリンとランスロット様が解除、そして連絡を取ると私達を拒むこと無く更に奥まで入ることが出来ました。

 

 そこで待ったいたのは美しい湖とその中心に佇む女神を思わせるほどの美しい女性。彼女が湖の乙女なのでしょう。此方に柔らかく微笑んで挨拶を交わした後に、私達を品定めするような目で此方を見やり、クスクスと笑い始める。

 

 ? どこかおかしな点でもあるのでしょうか? まあ、精霊のお方、湖の乙女ともなると様々なことを考えているのでしょうが。取り敢えずその湖の乙女・・・ヴィヴィアン様はランスロット様とマーリンの3名で少し会話をした後に湖の中に沈み、暫くしてから二振りの剣を抱えて戻ってきて、それを一つはアルトリア様、もう一つはガウェイン様に渡しました。

 

 銘は「エクスカリバー」「ガラティーン」共に聖剣のカテゴリーでは最高ランクの武器を渡された二人は感無量というべきでしょうか。その美しくも荘厳な剣に見入っています。ガウェイン様には同盟者であり、信頼できるということも含めて用意してもらったそうです。

 

 そして、私に「折角あの島きっての食文化に貢献した方に来てもらったのだから、何か料理を振る舞ってはもらえないでしょうか?」と聞いてきました。もし満足できるなら私やヤマジ達の武器も見てもらい、強化してもらえるとの事。まあ、そう来ますよねえ。ランスロット様も絶賛していましたし。

 

 調理に取り掛かり、せっかくなのでこの森の香草や木の実も採取して使用。カルボナーラに燻製肉と香草の包み焼き、木苺と蜂蜜のパイ。鶏肉とビートのサラダ。これらを用意しました。さあ、召し上がれ?

 

 これを食べたヴィヴィアン様は絶賛。おかわりを何度も催促し、途中で補給しておいた食料と帰りの食料まで一部無くなりました。その後は互いに小話をしましたが、何でも食材自体は美味で困らないが、基本的に簡単な調理で済ませていたので今回のような細やかな料理はそう口にする機会もなかったそうな。

 

 すっかり気を許してくれたヴィヴィアン様は早速私達の装備の強化も快諾。まずはヤマジ、ダンカン、アンナ様の武器を見て修繕、手入れ、強化してくれました。

 

 ヤマジのハルバードは純粋な強化、とりわけ頑強なものになっており、切れ味も高い、かつ落ちにくい。武器としての性能が跳ね上がっていました。ダンカンの双剣は風をわずかにまとい、魔力を流せば剣のリーチを風で一時的に伸ばせるとか。アンナ様の杖は雷の魔術の増幅機構が強化されて以前の小規模の魔力で大規模の魔術を撒き散らせる魔杖。短剣は竜種との会話を可能にできるものに。ガウェイン、ガヘリス様の太郎太刀はとてつもない頑強さと、攻撃時に相手に接触した瞬間に刀の重さが倍になるという能力が付与。

 

 ぶっちゃけると皆様の武器が中堅ランクの聖剣、その類になっており、それは今までに蓄積された神秘や元の技術の土台、そして今までの防衛の最中で殺してきた相手の血を吸収したゆえに出来たものだそうです。

 

 ややこしいですが、元がいい武器で、神秘や多くの命を狩ってきた経験を昇華したゆえの出来。ということでしょうか? 最後に私の刀を見せて、ドン引きされました。理由は今までに殺してきた魔獣、幻想種、騎士にワイバーンやらとどれほど殺してきたのかわからないほどに色々なものがべったり付いていたとか。

 

 ああ、まだ銀嶺が少ない時期、防衛戦が今よりも強固でない時は三徹で常に領内を駆け回って蛮族やら何やらを殺して回ったり、半年以上も前線に張り付いて魔獣たちと栗毛を休ませている間は縮地で移動して暴れまわり続けたり、色々屍山血河を築いていますからね。最近では単身で蛮族の拠点や集落に乗り込んで全員首切りなんてのもやっていますし。

 

 引きつった笑いで「貴女は何を目指しているの?」とヴィヴィアン様に聞かれましたが、それくらいしないとオークニーの民草や兵士の被害を抑えることが出来なかったから。としか言えないんですよねえ。縮地で距離もどうにか出来ますし、受け入れてくれた国のみなさんが穏やかに過ごせるなら暴れまわりもしますよ。

 

 この答えに納得がいったのか、ヴィヴィアン様は少しだけ待って欲しいと言った後に私の刀と共に湖に沈んで行きました。ご飯をまた食べたいとも言っていましたので、この森の獣も少しばかり頂き、調理の傍らにウノで遊んでいると戻ってきました。

 

 結果から言いますと私の刀全てが聖剣上位端に指をかける位の業物になってしまいました。しかも中には魔剣のようなものまで。それだけ多くの命を狩ったということなのか、それともヴィヴィアン様が気を利かせてくれたのか。最後にアルトリア様に多くの水の精霊の加護を授かり、私も常に身体が清潔なままになる水の加護を貰い、用意しておいた鶏がら出汁のおでんと猪の味噌鍋を皆で頂き、この森で出来るレシピを渡して湖を去りました。

 

 気のいいお方でしたのでまた会えるなら会いたいですが・・・海をまたいでこの距離まで縮地が出来ませんので、簡単には出来ませんね。でも、20年近くも前に諦めた出会いが叶ったのです。それだけでも本当に嬉しいです。

 

 

 

 

(・∀・)月(*´ω`*)日

 

 帰って新たに聖剣、魔剣、魔杖を手に入れた皆様は早速使い心地を試すために訓練に汗を流しています。私の刀も慣らしていくために振るっていますが、凄まじいの一言です。

 

 「陽炎」は所謂死徒や夜、魔による者へかなりの破壊力を誇るものになり、魔を清める力、陽光も出るので夜での探索などでも役立つでしょう。

 

 「深山」は魔力や気を流して地面に刀を奔らせれば局地的な地形操作もできるものらしいです。私はそもそも魔術の素養があまり無いので、こういった武具による操作が確立されるのが有り難い。

 

 「秋水」は純粋な刀としての強化ですが、一番手に馴染み、取り回し、切れ味、どれを取っても非の打ち所のない優等生です。

 

 最後の「桜花」これが所謂魔剣、問題児でした。何せ斬り殺した分だけ切れ味も強さも増す妖刀。しかも私の血をかけたら血に宿る魔力で更に切れ味を一時的に上げるという化物ぶり。

 

 大変強化されたのは嬉しいですが、同時にこれに頼りすぎるのもいけない。出来る限り刀の性能は使わず、練習用の刀での訓練も重ねておかねばいけない。ガウェイン様たちにもこれは口酸っぱく言っており、練習用の重い刀も用意して聖剣を使いこなせるように励んでいます。剣に頼りすぎてはいけない。自身を磨いて刀に相応しく、いやさ上回る程の人物にならねばいけない。私も遅まきながらに技術以外にも肉体を磨くために筋力の増加に重きをおいた訓練を開始。剛剣は苦手ですが、まあ少しは修めておいて損はないでしょう。

 

 それは全員が自覚しているのか訓練用の武器と新たな武器を交互に使った訓練や追い詰められた状況の訓練も余念がなく、今の所天狗になっている人はいないようです。

 

 因みにアンナ様は今回の強化した短剣のおかげで我が部隊のワイバーン「レギア」と「イネンナ」との会話も楽になり、教育も進んでいるようで、むやみと噛み付くことの多かった二頭もすっかり大人しくなり魔獣たちとも打ち解け始めています。因みに食育のためにすり潰した野菜の味噌出汁漬けも喜んで食べています。魔狼や魔猪もそうですが、意外とこうすると本当に野菜も食べるんですねえ。

 

 ブリテンの方は新たに加入したペリノア様(王は付けなくてもいいとの本人のお達しでこう呼びます)の力ににエクスカリバーというアルトリア様にもたらされた聖剣に勢いを取り戻したブリテンの兵、そしてアルトリア様の勢いに誰も抑えることが出来ず、残る諸侯を軒並み平らげていきます。私達の後ろ盾もあり、守りが強化されたせいか以前よりも思い切りの良い戦略も立てて所狭しと暴れては戦果を上げたり、それに惚れ込んだ騎士が加入したり。再び勢いを取り戻すどころか増すばかり。最近、トリスタンなる騎士やパーシヴァルなる騎士も参加して将の数も増えたそうです。

 

 ・・・・・・あれ? 確か、パーシヴァル様ってペリノア様のご子息だったような・・・でも、特にそういう話は聞きませんし・・・私の知るアーサー王伝説とは完全に違う、パラレルかつメダパニ状態ですねえ・・・でも、主要な方々や部員時代に知ることが出来たお方もいますし・・・うん、出来る限り考えないほうで行きましょう。多くの作品を思い出して頭痛になりそうですし。

 

 最近では聖剣を手にしたガウェイン、ガヘリス様はよく前線に出張っては私達と共同戦線を敷いたり、ブリテンに出向いてアルトリア様のいないブリテンを守ったりと凄まじい勢いで戦いの経験を重ねて成長を続けています。私の教えた柔術や受け流しの技術も問題なく使えていますし善き哉善き哉。ただ、政務も頑張ってくださいよ? そこもしっかり出来ているのですから。

 

 ガヘリス様は苦手なので別のお仕事を教えつつ手伝いますがガウェイン様はそこも問題ないですし、アグラヴェイン様も文官の才を完全発揮してからは本当に凄まじい勢いで仕事をこなしていきますからね。本当に才気あふれる王子たちです。補佐役、後進の成長も順調ですし、私達銀嶺も以前ほど忙しくなくなり始めていますからね。

 

 お陰で畑仕事や漁、料理や食材散策、モルガン様たちとのお茶会に時間を裂けますから嬉しい限り。少し前に黒介がトリュフを見つけてくれたり、ハチが太りすぎたガチョウ、天然のフォアグラをくれましたし。モルガン様達に献上しましょうか。ハチたちにもお礼にローストビーフをプレゼント。付き合いも長いですが、魔狼、魔猪は寿命も長いのでしょうか? 全く老いを見せずに成長するばかり。元気ですねえ。

 

 そして・・・この楽しくも忙しい毎日であまり手を付けることが出来なかった問題をヴィヴィアン様から貰った加護で思い出し、只今少し悩んでいます。

 

 その問題は・・・「お風呂に殆ど入れていない」ことです。何せこの時代の風呂はローマのテルマエクラスの馬鹿でかい風呂か大きめなたらい、桶を使っての簡素な行水のどちらか。前者はただでさえ蛮族やら魔獣やら動乱のこの島では貴族も「風呂日」と決めた日にちにしか入れず、その維持費も洒落にならない。後者は貴族も庶民も使いますが、貧しい、薪などの燃料が手に入りにくい地域では基本冷たい水を布に浸して拭くだけ。

 

 私はイグレーヌ様の侍女、またモルガン様の義姉妹(扱い)ということで比較的入れましたし、アンナ様が参加してからは魔術で沸かした湯で体を拭いて誤魔化しましたが、正直もう温かな湯船に頻繁に入りたくてしょうがない。

 

 幾ら清潔なままでいられる加護を貰っても風呂でしか落とせない疲れや汚れもあります。主に心の。

 

 この余裕のある時間を利用して何らかの手段で風呂を作ることを決意。取り敢えず漁師をしていたダンカンに声をかけて相談をすることに。私のわがままですが、衛生問題、病気への対策にも一手を打てるかも知しれないですし、本気で取り組みます。




作品によってはなんとエクスカリバーすらも折った上に二回もアーサー王を下したという王様ペリノアの参戦。これを差し置いて最強と言わしめるランスロットの実力がやばいですね。カリバーンならともかくエクスカリバーですら壊すとは・・・本来は「唸る獣」を追っていたそうですが、これくらい自由人のほうがいいでしょうとこうなりました。自由人の多い作品ですねえ・・・

三国志の時代でも「風呂日」があり、偉い人でも基本はたらいでの行水くらいだったそうです。テルマエを普及させたローマの凄まじさたるや。

円卓のメンバーも揃い始め、ブリテンの快進撃も再開。順風満帆ですが、はてさて、何処まで行けるでしょうか。

そして・・・まさかのUA1万超え!!! しつこいようですが感謝です!!! 何度も言っては言葉が軽くなるかもしれないですが、言わせてください。有難うございます!! 嬉しいです。ここまで評価されて感謝です。失踪はしないよう励みますのでどうかお付き合いください!!

暫くは仕事が忙しく更新が遅れると思います。しばしお待ち下さい。

最後に UA 10572件 しおり 28件 お気に入り 130件 感謝します!!

また次回にお会いしましょう!



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いい湯だな 卑王ロック

お風呂は偉大


(*´ω`*)月(*´Д`)日

 

 お風呂づくりに取り掛かることにしましたが、取り敢えずコンセプトを決めなければいけません。ダンカンと銀嶺の新入りの子たちも呼んで話した結果「小型であること」「出来る限り省エネ、低コスト」「長持ち」とまあ普遍的ながら難しいものがあがりました。

 

 私としてはドラム缶風呂、五右衛門風呂がいいですが、水の乏しい場所や川などの水源が遠い場所ではそれは贅沢になるのでどうしたものか・・・少ない水で汗を流して、身体もポカポカ・・・あ!

 

 フィンランド発祥のサウナ。これなら蒸し風呂で少ない水で大丈夫ですし、熱源も家庭調理の窯の中に石を入れておいて回収すれば使えますし、薪の消費にもならないでしょう。五右衛門風呂は・・・あの焼けた石をブチ込んだ湯船に入っては火傷ですし、かと言ってその間待ってあの熱さを失うのは・・・

 

 取り敢えず先に作れそうな蒸し風呂を作るために銀嶺の拠点、そこの誰も使っていない空き部屋を使わせてもらい改造開始。床から引っ剥がして湿気や耐久に優れた改造に熱気を残しつつ少しづつ換気ができるような工夫も凝らす。部下の一人が使用していた部屋も使っていいと申し出があったので早速破壊して場所を繋げ、その後にまた仕切りを設ける。脱衣所と体の汗を流す為の水瓶を置く場所です。そしてそれぞれに熱くなりすぎて火傷しないように石の床や壁に木の板を貼り付けてタオルも置く。これで火傷はしないでしょう。

 

 途中から騒ぎを聞きつけたヤマジと散歩していたロット元国王、そして私に商談を持ってきた商人様も加わり大騒ぎ。ダンカンはその間に漁師の技術と私の知っている桶の作り方を曖昧ながら教えて大きな桶を作成してもらっています。

 

 やはりと言いますか、お風呂を作るというと皆様は少し不思議がりましたが、すぐに納得して笑いました「ああ、また何か閃いたか」と。もう皆様その受け入れ方なんですね・・・何か変人扱いされているような・・・・・

 

 準備していたら半ばですがもう夜になりましたので工事の音を出して近所迷惑にもなる訳にはいかない。一度中断して明日に備えることに。早くお風呂に入りたいです・・・

 

 

 

 

(._.)月(^^)/~~~日

 

 本日私とガウェイン様にアルトリア様からの手紙が届き、開いてみると近々ブリテンの近衛騎士団を改めて完成させたいのだが、その部隊の中に銀嶺の一部を組み込みたいので渡してほしいとのこと。待遇も申し分ないですし、同盟国の軍の一部を抱え込んで近衛の一部に入れるという行動を迷いなく取れる辺り信頼している事と、此方とブリテンの結束力の証として見せたいのでしょう。ブリテンも殆ど島を統一しつつありますし、改めて武威を見せつける思惑もあるのでしょうけど。

 

 ガウェイン様も私もこれには賛成なので銀嶺の皆様に話したところ、人間からは50人程、魔獣たちからは魔狼が20頭魔猪が5頭と中々の数に。アーサー王に惚れ込んだ方から同盟の結束を強めることが出来るのならと志願するものと様々。魔獣たちは何となく。だそうな。獣故に自由ですね。今回は助かりましたが。

 

 早速出立の準備をして志願した部隊はブリテンに向けて出発。家族などは後を追ってブリテンに送るとして、早く到達して部隊の連携などの打ち合わせをするべきでしょうと皆様本当に慌ただしく行ってしまいました。ブリテンとはよく連携して戦いますからすぐに会えますが、少しばかり寂しいですね・・・

 

 家族には私から説明に向かいましたが、やれ栄達しただの、私の部隊に入った以上これくらいでは驚かないだの、腹抱えて爆笑するものだのと様々。勿論怒るものや慌てふためくものもいましたが、事情を丁寧に説明して納得してもらい、今回出ていく皆様の家族には私から特別手当と移動用の路銀。また彼らのもとに行く場合は銀嶺が護衛をを出して行くことを約束しておきました。

 

 これに関してはガウェイン様に有給休暇も頼むことを考えなければ・・・

 

 最近ガウェイン様はモルガン様から島の管理者の権限を受け取り、幻想種、魔獣、巨人族などの言うなれば神代の時代から人の世界に移りゆく者たちを妖精郷に送るために時間を見つけては出かけて走り回る日々。当然何があるかわからないので護衛に私をガウェイン様やモルガン様たちから頼まれて同行。

 

 中々に忙しくも政務の息抜きになっているのかガウェイン様は大変元気に仕事をこなしていくので交渉も捗りますし、上手くいかなくて襲いかかる魔獣や巨人族でも悠々と無力化して妖精郷に強制移動。私はその無力化の手伝いと魔獣の翻訳の翻訳をしています。

 

 どうしても泥やホコリ、血糊にまみれて終わるので、加護があっても精神的な疲労が拭えません。まだお風呂も完成していませんし・・・明日は休みですからそこで終わらせませんと・・・

 

 

 

 

♨月(⌒▽⌒)日

 

 作業も大詰めに入り、実験、初風呂の披露会に向けて私、ダンカン、ヤマジ、モルガン様の皆で木材に石、道具を用意して浴場作成。他の皆様は他の仕事があったために参加できず。少し悔しそうな顔をしていました。

 

 夕暮れになるはじめる頃にサウナルーム、五右衛門風呂の両方が完成。風呂桶も水を試しに入れても漏れが出ませんし、問題はなさそうです。今晩のご飯の為に使用した竈から焼けた石をサウナルームの水桶に投入開始。

 

 途端に水が蒸発して蒸気が吹き出て部屋一面を熱気と蒸気で満たしていく。先に試験で試すことにしたヤマジは最初は驚きましたが、蒸気の熱と流れ出る汗に心地よさを感じ始めたか動揺も無くなり、サウナを堪能し始めています。あ、因みにちゃんとタオルは腰に巻いてもらっていますからね? 暫くして垢を落とすための荒縄と、フィンランドでは白樺や木の枝(葉っぱつき、神話や精霊の宿るものはなし)で体を叩いて新陳代謝を活性化させているそうなので渡しておき、私自身はもう一つの五右衛門風呂のある部屋に。

 

 木製の桶にまず石で出来た専用の下敷きを置いて、水を満たす、そこに焼けた石を入れて、さらに上から木と石を組み合わせた中蓋を置いて石で火傷しないようにすれば準備万端。モルガン様も一番風呂に入ると感嘆の声を上げて湯に浸かり、気持ちよさそうにお風呂を楽しんでいます。早速私もタオル一枚になって湯船に身を沈めることに。さて・・・?

 

 ・・・・・・・っはぁああぁぁぁあ~~~~♡

 

 ああ・・・癒やされます・・・この少し熱いくらいの温度がまた心地いいんですよねえ・・・ダンカンが気を利かせて一人なら少しくつろげるくらいの大きさにしていますし、二人でも少し大きくするだけで十分にくつろげるでしょう。これを元に改良したり地域、村に合わせたサイズにすればいいでしょう。道具も桶、石底、中蓋と多くないですし、加工方法のノウハウも教え込めば・・・

 

 そんな事を考えながら夢見心地な気分になっていると何やら邪な視線が・・・出歯亀ですか? 立て掛けていた「陽炎」を用いて飛龍閃で刀をその視線のもとに飛ばすと手応えあり。即座に風呂を上がり、濡れたままですが着替えて出歯亀を捕まえようとしたら・・・目を回しているガウェイン様と転がっている「陽炎」が・・・なにをしているのですか国王陛下・・・

 

 意識がしっかりしたところで問いただせばモルガン様から話を聞いたので是非とも見に行きたいと覗きを敢行したとかなんとか・・・

 

 私だけではなく実の母も入っているのに覗こうとしないでくださいよ・・・いくら姿が若いままとは言え、私ももう40過ぎにもなるのに・・・もっとこううら若い乙女との恋とか・・・色々あるでしょう・・・?

 

 罰としてサウナで枝でしばきあっているヤマジ達の半ばハッテン場となっているサウナ室に入れておいて湯船に浸かり直します。これは少し大きい桶を作って各村に配れば衛生対策になりますかね?

 

 

 

 

(^_^;)月¥日

 

 いよいよ数日後にアルトリア様の新たに結成する近衛兵団の結成式が近づいてきました。私も一応関わっているので騎士の装備で行こうかと思いましたら礼服にしてほしいとアルトリア様からの通達。

 

 これには流石に困りました。最近は貯金も始めていますし、今回の出費も問題はないのですが正直どのような礼服で行けば良いのかまるで見当がつきません。かと言ってモルガン様達の服を借りるわけにも・・・ああ、鉄火場と畑にばかりいた弊害がこんな形で出るなんて・・・!

 

 これに飛びついたのがイグレーヌ様にモルガン様、ガレス様達の女性陣。皆様思い思いの礼服やドレスを持って包囲しつつにじり寄ってきます。あ、これ着せ替え人形にされちゃうパターンですね。逃げ出すことも出来ましたけど、この騒ぎで礼服が汚れたり破れるのは駄目ですし、長引いては結成式にも遅れるかも・・・はぁ・・・・自分の怠慢が恨めしい・・・

 

 逃げ出すことを諦めて仕方なくお三方のきせかえ人形に甘んじることにしました。もう、奇天烈なものじゃなければいいですよもう・・・・・取り敢えず結成式ではどうやら自分も催しを行うかもしれないそうなので、ドレスですが、ある程度は動きやすいように外からは分からないように細工を施しておき、騎士の装備も改めて細かく掃除。化粧の練習もすることになりましたし大変でした。

 

 後半は何処から出てきたかガヘリス様にガウェイン様がコスプレ用の衣装を持ち込んできたのでそこで結局逃走開始。なんで猫だの狼の付け耳にメイド衣装・・・それもミニスカートの物を・・・

 

 後日調べたところ銀嶺の魔狼隊に憧れた子どもたちの遊びが生んだものだそうです。実際に狼になりきる儀式はありましたけども、まさかこうなりますか? 日本の暴走具合が混じり始めていませんか・・・ハロウィンには狼男の衣装も出てきそうですね。メイド服の謎は未だに解けませんが。

 

 

 

 

(*^^*)日〓日

 

 本日アルトリア様の新たな近衛騎士団の結成式とお披露目会。私達もブリテンに趣きその大規模な催しに参加しましたが。流石イギリスほぼ全てを統一したアルトリア様の執り行う式典だけあってすごい賑わい。目玉の近衛騎士団も代表のランスロット様を含めて皆精兵揃い。銀嶺でも半数以上の被害と指揮官クラスの大半はやられることを覚悟しなければ挑むことも許されないでしょう。

 

 ガウェイン様にモルガン様達もその力量に一目置いていました。

 

 その中に入っている銀嶺が入っていることに諸侯が驚いてもいましたが正直今更な気も。わざと驚かすためにアルトリア様は伝えていないとかあるのでしょうか?

 

 一応は式典も無事に終わり、来賓との会食になるのですが、その際にランスロット、ベディヴィエール様からは銀嶺の参加にブリテンでの教導、農業の実践などの事で礼を言われ、トリスタン様からは口説かれ、ペリノア様からは料理を作ってくれとねだられる。

 

 お願いですから皆様一斉に話さないでくださいよ・・・聖徳太子じゃないんですから。それとトリスタン様。しれっと口説いていますけど、周りの婦人方の目が怖いですから止めてください。いや本当あなた自身色男なのですからね? 

 

 そうこうやり取りを続けていると司会進行役をしていたベディヴィエール様に呼ばれ、壇上に。アルトリアが認めた剣士でブリテンとオークニーの同盟の立役者として紹介されて軽い挨拶と演武を披露。多少余計な情報が入ってもいましたが無事終了。だったら良かったのですが、さらなる催しがあると言われて壇上にブリテンの近衛騎士団が数名上がってきて此方に臨戦態勢を取ります。更には少し離れた場所には人形の的らしきものも複数に散らされています。

 

 何のことかわからない私にベディヴィエールは「今からカナにこの選りすぐりの騎士と戦ってもらいながら離れた標的を壊してもらいます」と中々に大変な催しの内容が出されました。こんなメチャクチャな内容はアルトリア様なら出さないですし・・・犯人は

 

 視線をアルトリア様たちの席に移すと申し訳なさそうに顔を青くしているアルトリア様とほくそ笑んでいるマーリン。やはりあのお方ですか。後で話をしてもらうことを条件にこの演武を開始。ドレスで少し動きづらかったですが騎士を皆軽くあしらい、受け流しながら武器を奪って「蹴鞠」の要領で的を穿ち抜いていき、終了。最後はやけくそで同時に4つを破壊したりとマーリンを驚かせる技を見せました。せめてこれくらいの茶目っ気はいいですよね? しかし慣れない衣装に少し激しく動きましたらから化粧が崩れていないか心配ですね。薄めにしてはおきましたけど・・・

 

 その後は大歓声と諸侯からやれ仕官の話やら縁談やらを持ちかけられて食事もおちおち楽しめない状況に。一応今回の宴の関係者ですし、同盟もありますので勝手に飛び出して泥を塗る訳にはいかない。なんとか断りながら対応して宴を終わらた夜更けに漸く互いに来賓、家臣から開放されたアルトリア様にマーリンと対面。

 

 申し訳ないと頭を下げるアルトリア様をなだめすかした後にマーリンと一対一で対面。今までの行為と何を目指しているのかを問いただすことに。正直アルトリア様を助けたいのか何尚かわからない部分や不可解なものもありますからね。

 

 結果は人自体は好きで人の織りなす物語が大好き。そして『ハッピーエンド』『人が織りなす美しいものが見たい』というのが目標みたいですが・・・あれですよねえ。夢魔の血が入っていることや千里眼の超越した能力で正直価値観がズレにズレていて仕方がない。軽く会話するだけでもこれが分かってしまう。

 

 それに『ハッピーエンド』も物語全体のことであり、個人の幸福については度外視、若しくは部品の一部扱いですし明確なものも言い切れていない。これってもしかしてアルトリア様の描く物語の悲劇というピースの一つ、又は成長の糧としてモルガン様達を切りましたか? 『数々の苦難を乗り越えたアーサー王の描く王としての立派な姿』のために。『今のところは悲劇を回避して手を取り合うことの出来た家族の感動の物語』にでも仕立てるために友好的なのかとも勘繰れますよもう・・・

 

 このロクでなしに任せては悲劇やアルトリア様が壊れるかもしれないですし、モルガン様とも相談しなければ・・・そもそも人の感情が理解できない輩が師となり、多感な時期の子供に王として、戦士としての教育しかしていない、この二人が人の集団の頂点である王とその参謀な時点で『ハッピーエンド』を紡げるかなんて無理だろう。それこそ機械の王様、装置の王様の完成。

 

 そしてその感情を理解できずに失敗する場面が必ず出てしまう。・・・はぁ・・・私もアルトリア様を考えるならブリテンに関わる機会を増やさなければならないのかもしれないですね。少なくとも摩耗していくアルトリア様をモルガン様たちは望まないでしょうし。

 

 

 

 

(゚∀゚)月(゜o゜;日

 

 あの後モルガン様にガウェイン様と相談した結果、私は一週間の内2,3日はブリテンで教導任務や警邏を行う事、残りはオークニーで過ごす。そして私が望んだ時にアルトリア様は週に1,2日ほどオークニーで休んでもらう事を条件に飲んでくれるならブリテンでも技を教えるし、哨戒もすると伝えました。  

 

 マーリンと話している間、アルトリア様の会話でまさか今まで不休で働いているとは。一部は私が起こしたものもあるでしょうけど、落ち着いても尚そのペースは崩さなかったとのことですからこれは異常としか言えません。王が休めなければ家臣も休めませんし、誰かに気づかれたらそれこそこれで皆様が申し訳と責任感で働き続けて過労でバタバタ・・・というのも冗談で済まされません。あの会食の場にいた家臣の中にも心酔、盲信しているのも何名かいたのはすぐに分かりましたし。

 

 私やガウェイン様で交代でブリテンを手伝い、休日は私達の場所で色々最近ゆるすぎるオークニーで安らいでもらいたいです。お風呂も銀嶺の拠点と王城を中心に広まり始めていますし、商人様に販売許可を渡す前にお風呂でくつろげるでしょうからね。

 

 色々悩みましたがアルトリア様もこの条件を飲んで幕臣に伝えました。その際に礼を言いに来たケイ様にも来てほしいと伝えて細かい帳尻合わせですぐには出来ないので取り敢えずはオークニーへ帰還。疲れました。

 

 一旦モルガン様とは別れて銀嶺の拠点に帰るとなにやら見事な美しい白髪の大層な巨漢の老人が拠点に来ており、少しここで住みたいものだから色々教えてほしいとのこと。

 

 まあ、身なりもそこら辺の老人ですし、覇気も何も無いですが・・・嫌に目の奥が猛っていると言いますか・・・品定めしているるようにも見えるんですよねえ・・・モルガン様にこっそり伝令を走らせてヤマジたちにも連絡を出していると私に老人は折角銀嶺の将に会えたからお話がしたいと言われ、断る気もないので席に座ると、腕につけていた飾りを外して、隠していたのであろう覇気と鋭い相貌を表に出しながら自己紹介をはじめました。

 

 名はヴォーティガーン。今回は銀嶺とその隊長。つまりは私を見定めに来たのだとか。そして、見事に眼鏡にかなったために勧誘したいとのこと。

 

 色々理解が追いつかない銀嶺の部下を抑え、モルガン様も察してくれたのか人払い、遮音の結界を即座に何重にも張り巡らせてくれました。これで心置きなく会話ができるので理由を聞いたところ。自分はかつてブリテンにいた白い竜の代弁者。赤き竜が人の守護者ならば白き竜は動物、いうなれば去りゆく者たちの守護者でサクソン人を戦力にあちこちで戦火と混乱をばら撒くのは『この島から人を駆逐して神秘を守り抜いていくため』だそうです。

 

 国の基盤たる民草に対しても容赦が一切なかったのはそのためでしたか。元より残すつもりもないと。そもそも害虫扱いで神秘を蝕む人間自体が邪魔である・・・ですか。

 

 その後はこの国を結界や術式を使って神秘を維持した上で回帰を目指し、諸国には殺したこの島の諸侯王侯貴族から奪い取った金品で黙らせている間にその準備を終わらせる。とのこと。

 

 私達に目をつけた理由は魔狼たちや魔猪、幻想種、かつての高みから追い落とされたものたちの認識を改めさせていたりと去りゆくもの、貶められたものたちに寄り添う者達という神秘の濃ゆい時代にいたはずの稀有な存在、そして怪物じみた私の剣技に目をつけたそうです。

 

 私達を襲わない代わりに手を貸してもらい、最後は島から無事に出して手を出さない、報酬はいくらでも用意するという条件で来ました。

 

 失礼な。空位には至りましたがまだ道半ば。それに私以上の剣の腕は絶対にいます。私などまだ半端者なババアですよ。それに忙しいですが、今の生活も満たされたもの。そう言うと呆れ返った顔になりますが、こればかりは本心ですからねえ。

 

 話を戻してこの島自体が地球の神秘のツボやへそみたいなものでここを活用すれば世界を如何様にも変えられる。それがヴォーティガーン様の考えたような世界にでも。

 

 卑王として憎まれているかの王としての姿は私には映らずにひたすらにこの島に生きる幻想種への熱すぎる思いが燃えたぎる一人の男として彼の言葉は届けられていく。

 

 それは形さえ違えどこの島を憂い嘆き、奮戦する。アルトリア様とは真逆だが、根っこは同じ『王』であり『志』を持つものなのでしょう。

 

 世界が変わろうとしてもそれで消えていくものが無情にも消え去ることは我慢できない。それを理解できずに消えゆく隣人に何の憐憫も抱かない人が憎くてたまらない。何もかもを食いつぶして忘れていく事が嘆かわしい。

 

 彼の叫びが、憤りが響くたびに前世の記憶がよみがえる。教科書にはかつての公害や人間の傲慢で壊されていく自然に生物の写真。無いはずの物質に素材。利便のため、カネに目がくらんで対策もせずに垂れ流される毒に変わり果てる生き物、そして苦しむ人間。

 

 それを風刺した絵に映画、記録映像。勢いはなくなれど以前変わらずあらゆる物を糧に、貪欲に貪る人間・・・そしてそれを助けるために生み出していく科学の数々・・・そも、世界はどうあれ『魔術』を見放すだろう。人が、世界がそれを望むからこの時代はともかく時代が進めば『神秘』も『魔術』もオカルトに定義され、『科学』が信じられてもてはやされる。

 

 『科学』は証明できれば誰もが扱えて、安全で、普及しやすい。『神秘』や『魔術』は不透明で、難解で、恐ろしい。その癖に誰にも普及はできずに捉え方で幾らでも血を流せる。例えヴォーティガーン様の目論見が成功しても、時が移ろえば人類は必ずこの島を襲い、そして制覇するだろう。

 

 科学の力で何もかもを覆し、そして、この島に生きる生物は見世物や剥製、愛玩動物になって死ぬよりも酷いことになるものも出る。必ずだ。

 

 それほどに人は業深く、欲深い。だからこそこの星のあらゆる場所で生き抜いて繁栄したのだ。

 

 私は彼の誘いを断りました。先の展望がないこともそうですが『私にも守るべきもの、愛するがある』それだけは決して譲るつもりはない。彼の思想上、そこもぶつかるのは必定だったからだ。私が、人であり、人を愛する故に・・・・・・・・

 

 私は『この島の去りゆく者達のために尽力はしましょう。その上で貴方と戦う』そう告げて互いに酒を酌み交わし、彼は『貴女と逢えてよかった』と残して去っていきました。

 

 もし・・・もし世界がもう少しだけ神秘に包まれていたら、神代の終わりが遅かったのなら、彼とアルトリア様は手を取り合い、共存の道を歩めたのだろうか? 切羽詰まることなくマーリンやモルガン様とも協力して穏やかな島でいられたのか? 

 

 どうしようもなく情けなく、いじらしく、寂しく、虚しくもそう思いながら去りゆくヴォーティガーン様の背を見送りました。

 




益々ブリテンとの関わりを増すオークニー、華奈。そしてヴォーティガーン登場。彼の化身と言われたりする白き竜。もし華奈がもう数十年早くブリテンにいたら華奈が白き竜の代弁者になっていたかも?

特撮が好きなのですが、ウルトラマンティガのガゾートにゴジラでのヘドラ等、人間の及ぼす影響の恐ろしさを表現する作品のインパクトは凄まじいです。これだけでも人間の恐ろしさが分かると思います。

華奈が誘いを断ったのはたとえ少数だけ生きてもそこからすぐに増えたり、幻想種との諍いが起こることを考えたからこその部分もあります。ヴォーティガーンの目論見を達成するには「人」は排除するべき要素と考えているから。殺さなかったのは彼の志を無粋な真似で始末をつけたくなかったという部分があります。

さて・・・ここまで皆様に見ていただいたわけですが、今回友人に華奈の立ち絵を描いてもらいました。なのでここで見てもらいたいと思います。

                   
【挿絵表示】

ここまで綺麗に描いてくれて感謝ばかりです。衣装は私の原画からそのままです。下手に負担を与えたくなかったものでして。どうかこれからもこの物語を、華奈をお願いします。

最後にUA 12230件 しおり 34件 お気に入り 140件 有難うございます。では、皆様またお会いしましょう。さようなら。さようなら。


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見回りしちゃうぞ

~銀嶺・拠点~
(朝食中)

華奈「そういえばアンナ様も十数年前から姿が変わらないですよねえ」

ダンカン「そう言えばそうだね。カナの大将もそうだけど、アンナちゃんも変わらないや」

ヤマジ「生まれというか育ちがアレだしなあ。竜の血でも引いているのか?」

アンナ「モルガン様に褒美で貰ったのよ。姿と肉体が変わらない術式」

華奈「ああ、なるほど。そう言えばレギアとイネンナの訓練も始めますから三人共お願いしますね?」

ダンカン「なら、魔狼達の訓練場で始めようか」

ヤマジ「ワイバーンだから訓練のやり方がわからんなあ。アンナに任せるか」

アンナ「問題ないわ。じゃあ、今日もがんばりますか」


(^o^)日★日

 

 本日は取り敢えず領内の見回り。未だにオークニーとブリテンでの私の扱いにどうしようかとシフトの調整が決まらないそうなので、それなりに成長したレギアとイネンナの飛行訓練も兼ねてコーウェン将軍の屋敷に、魔獣達の様子見と、なにか悩みはないかとちょっとしたお節介焼きです。お土産は乾燥パスタ麺に砂糖クッキー、黒介が見つけたトリュフを数個。

 

 早速出迎えてくれたコーウェン将軍と挨拶を交わし、茶会を行いながらコーウェン将軍の話を聞くと、どうもブリーダーの後進育成に魔獣達の教育、魔猪達の尽力もあり、ここでも小規模ながら銀嶺に近しい活動を出来ている。問題はないと言ってくれました。これは私も裏を取っていたので問題はないですが、どうも遊び道具のフリスビーの数が少ないせいでまた取り合いになったとか。

 

 懐かしいことを思い出す話も出てきてたりと和やかな会話を交わしていき、表ではコーウェン将軍の魔獣たちとレギア達がどうも狩りをしているらしく、中々に賑やかな声が聞こえてくる。

 

 話は変わって、コーウェン将軍の領内の問題になり、一つ知恵を貸してほしいとのこと。内容は塩の生産方法の効率化を図れないかとのこと。

 

 コーウェン将軍の領地は海にも面しているので、塩も生産しては輸出しているのだが、その生産方法が海水をそのまま汲んで窯で煮詰めるというもの。効率も悪いですし、燃料も使うので利率は悪いのだが、私が来る前まで少ないオークニーの輸出物であり、塩は生活に欠かせない上に長持ちするもの。是非ともその知恵を欲しいとのこと。

 

 うーむ・・・海藻を活用したものもありますが、種類が把握できていませんし・・・取り敢えず塩田が一番でしょうか? 天候次第ですが、天候さえどうにかなれば海水を撒く手間だけで済みますし、後の工程も楽ですから、これが良いでしょう。

 

 取り敢えず草案をまとめておいておきますと伝え、部下たちにもコーウェン将軍からの扱いについて聞いておき、問題がなかったので拠点に帰りました。因みに、レギア達の狩りの結果は鹿を三頭、熊を一頭仕留めていたので、鹿と熊を一頭ずつ貰うことに。イギリスは熊が絶滅していたはずですが、この時代はまだ普通に生息しているので何やかんや害獣でもあり、美味しいお肉です。今晩はステーキでも作りましょうか。

 

 

 

 

\\\月$日

 

 最近国内を騒がせていた違法な奴隷商人と密猟者の組織の摘発が無事に終了し、誘拐されていた子どもたちが帰ってきたり、お風呂の湯を沸かせるために最適そうな金属を発見したりと嬉しいことが続きます。

 

 私達が国境で蛮族と戦ったり、国政に関わっている間に国内を騒がせていた犯罪集団を取り押さえることが出来たと言うことでこれもまた大きなニュースとなり、どこでも笑顔と笑い声が響いています。

 

 そして私達の作った風呂の話を聞きつけてやって来ましたは商人様。の息子様。言うには自身が今は表で働いており、親父、詰まりは私に日記をくれたりとお世話になった商人様は今はフランスとローマで私達に売りつける新たな商品を探しているしているそうで。

 

 そんな身の上話を話しながら、今回は是非とも五右衛門風呂の販売許可を頂きたいとのこと。移動させやすく、管理も簡単で、すぐに湯に浸かれる上に、温めるための燃料は薪ではなく、調理の為の火に入れた石、若しくは最近見つけた金属で作った湯船用の金属を使うので節約、薪の取れにくい地域の衛生にも役立つと言うことでフランスなどにも販売すれば町単位に2,3個ほどなら買ってもらえるのではないだろうかと言うことらしい。

 

 既にオークニーでは各町村に狼輸送隊を使って村々に1,2個ほど置き始めていますからね。今度私がブリテンに行くときにも持ち込むつもりですし、まだまだ広まっていないものではありますが・・・ふむ

 

 許可料を王と私に半々支払えばいいと教え、作り方のノウハウもダンカンに設計図に材料、使用方法等をまとめた図案を渡しておいて今回の話は終了。帰る前にサウナと五右衛門風呂を両方味わってもらったところやる気も出たらしく、意気揚々と帰っていかれました。

 

 フランスに五右衛門風呂・・・どうにもシュールですよねえ。

 

 

 

 

>月<日

 

 ブリテンでの剣術指南、哨戒を始めました。取り敢えず受け流しに切り払い、柔術を含めた戦闘方法を教え込んでいってます。精鋭には近接での武器の奪い方にすり足などの歩法、銀嶺で行っている鍛錬方法に騎馬の訓練と多岐にわたって教え込んでいます。

 

 このためにヤマジ達も参加してそれぞれの場所別に訓練を始めているので練兵所は愚かそれ以外もまあ喧しい事この上ないです。近所迷惑にもなりかねないかと心配しましたが、王城に騒音で訴える物が出てきたらそれこそ傑物と言うか大物と言いますか、見てみたいなと思ってしまいました。

 

 騎士の中で飛び抜けて上達しているのは全体的にはランスロット様、トリスタン様は馬術と弓術を組み合わせた動きは銀嶺の古参も顔負けなほど、ペリノア様も柔術がかなりのもので加減を教えなければ相手の首を折りかねないほどに技のキレが素晴らしい。

 

 ガウェイン様たちはその全てを叩き込んでおり、最近は応用も問題なく私が教えても問題が無いレベルです。そのために私がいない時でもガウェイン様がブリテンで働く際は教えているとのことですぐに練度は上がるでしょう。

 

 サウナに五右衛門風呂の設置もダンカンとその部隊、レギア達に任せているので借り受けた私の部屋に王城の幾つかにお風呂場も完成して、兵士もここで汗を流せることになるので楽しみです。その際は逢引禁止、ハッテン禁止の張り紙、注意書きも必要でしょうけど・・・

 

 意外でしたのがアルトリア様が不器用だったこと。ガウェイン様よりも不器用とは思いもしませんでした。でも、負けん気の強く、根が私よりも数段真面目なお方。すぐにでも技術を覚えていくと思いますのでゆっくり教えていけばいい問題はなさそうですが。

 

 そして休日にアルトリア様がオークニーで過ごす約束に関しても大成功でした。打ち合わせで政治関連の話は一切しない、休暇場所は王城、又は銀嶺の拠点となったわけですが、王城ではゆるすぎる会議の様子に元国王が鍋を振るって調理をするわモルガン様もガレス様も一緒に料理したりと王族とは思えない家庭的な光景。ウノで皆様と愉快に遊んだり、たくさんあるお風呂と香木の香りで癒やされたりと出来ます。

 

 拠点では魔狼たちとフリスビーで遊んだり、魔猪たちとはキノコ、木の実狩り、ワイバーンのレギアとイネンナとは空からの遊覧飛行に鷹狩もどき、そしてどちらでもお風呂を堪能、休みたければ魔狼達の丸まった特大毛玉クッションにフォウ様の小さなタオルケット、お腹が空けば私達のご飯も食べ放題ととても満喫してくれているご様子。

 

 訓練場所や休ませている畑で好きに馬を走らせたりといったことも行い、栗毛にも乗せてみたら高すぎる上に爆走する栗毛の速さに目を輝かせていたのは印象的でした。

 

 ガウェイン様達も皆が歓迎しているので話も弾み、特にイグレーヌ様、ガレス様は常にどちらかがアルトリア様と一緒というほどでした。最初はどう接していいのかわからない様子のアルトリア様も徐々に馴染んで笑顔を無理に作ること無く自然に話せているので順調。

 

 完全に仕事を忘れて遊びぬく休暇をこうやって用意して、遊べなかった分遊び、女の子としての振る舞いをここで出来れば少しは精神的余裕も、肉体面への悪影響もなくなるでしょう。いくら竜の因子を持っていたとしても精神は人間。無理は禁物です。

 

 帰る際にハチたちがまた生んだ子供の中にいた白い子供を貰う事を頼み、ハチと交渉した結果乳離れも出来ているので問題ないとのことで譲りました。

 

 王城で育てるとのことで、名前もこの場で付けていました。名前は「カヴァス」この白い子・・・ではなくカヴァスもハチが認めるほどに才能があるのでアルトリア様に相応しい狼に育ってくれるでしょう。

 

 ブリテンまで送り届ける際に近衛騎士団の銀嶺にブリーダー役を背負っていた元部下がいるので教育方法を彼から学ぶといいとも教えました。

 

 こうして人間になついていますが、元は熟練の騎士ですらも殺せる魔狼、しかも銀嶺で対人間、軍との戦い方も刻まれ始めている獣ですからしっかりせねば何らかの拍子で暴れては大事になりかねませんからねえ。

 

 その事を告げた後のアルトリア様は少し青ざめた顔になりましたが、すぐ明るい表情になり、貰ったカヴァスが魔狼の中でも指折りの才能を持っている、それを譲ってもらえたと嬉しそうでした。

 

 ・・・良かったです。こうして『アーサー王』ではなく『アルトリア』としての一面を出せるようになって・・・

 

 あ、でもブリテンに付く頃にはキリッとしてくださいね? 流石にここのノリをブリテンでも始めたら家臣の皆様混乱しますから。

 

 

 

 

_(┐「ε:)_月_(:3」∠)_日

 

 朝方に先の誘拐犯、密猟者の事件の件についてアグラヴェイン様とジャック将軍から相談があると言われたので王城に移動。ヤマジとダンカンも同行させて確認。

 

 今まで構築していた防衛線へのリソースに哨戒のルートの見直しを始めることになり、1000人(内何割かは匹)部隊になった銀嶺の殆どが最前線にでの防衛、又は銀嶺の拠点周辺の農業に携わっているために早い話が一度中に入り込まれた場合、私達の手が届かない、その前に隠れられる部分がちらほらあること、かつて頻繁に行われた城下町の哨戒などにも力を入れてもいいのではないかという話になりました。

 

 以前は少数のためにイグレーヌ様達の侍女、御付きとして町に同行する傍ら警戒もしていましたが、農業や部隊の成長と同時に軍務、農業生産に比重が偏りかつての見回りが出来ていない事が原因でしょう。 

 

 まあ、過去は戦力も乏しく治安どころの話ではなかったこと、国力も乏しかった事もあってどうしても防衛、農業に私達が関わっていました。が、今は国も肥え、戦力も銀嶺以外にも新進気鋭の精鋭が排出され始め、ブリテンとの同盟による連携による蛮族や害獣退治も出来ているので以前ほど銀嶺が各領内を駆けずり回ることもない。

 

 早い話が幾らか余裕のできた銀嶺部隊を少しばかり町の警邏に回して国内の憂いを除くということでしょう。国が肥えれば人の豊かさも示す。それにいい意味でも悪い意味でつけ込む、狙う輩はどうしても出るものです。

 

 有志の協力もあって大きな逮捕劇になりましたが、同時にそれほどの数の犯罪者がいたということ、熟練と若い銀嶺の混成部隊を何割か回し、その穴はジャック将軍らの配下の部隊を防衛線に移動して埋めてもらうことに。あちらも若い部隊の経験を積ませたかったらしくいい機会でしょう。

 

 アグラヴェイン様も度々防衛戦に参加してはその見事な防御術で敵の足を食い止め、その間に他の連動している部隊に敵を食い破らせる戦法で蛮族を多く屠っているので国防の内情をしっかり把握した上での再配置をともに思案。銀嶺の機動力を抜いた上での防衛ラインの構築ですからそれなりの数と配置の仕方をしなければ。

 

 そうこう考えているとアンナ様からの使い魔が来て蛮族襲来との報が。どうにも戦線指揮官も雇っているのか最近の蛮族は散発的行動、単独でのゲリラ行動を控えて軍、部隊で来ることが多くなってきました。ヴォーティガーン様はそろそろ決戦の時が近いと考えているのか、それとも私達に刈り取られることを嫌がっての判断か。

 

 報告で上がった数は500前後。現在銀嶺200で足止めと撹乱をしているそうです。私が足止めの部隊の指揮。アンナ様は補佐、ダンカン、ヤマジで予備兵力を叩く、ジャック将軍とアグラヴェイン様は周辺の村々の護衛や避難をお願いして出陣。

 

 結果は快勝でしたが、その後ブリテンでも同様に規模の大きい襲撃の報告が。これにピクト人が呼応して動かれたら厄介ですね・・・これはアルトリア様にもお伝えしましょう。あの方ならとうに対策も打っているでしょうけども。

 

 

 

 

☼月☇月

 

 ロット元国王、モルガン様に新たな子宝が。女の子で名前はモードレッド。ロット様・・・元気過ぎませんかね。もう一人くらい欲しいからと言ってもこの歳でよくまあ・・・今回も母子ともに無事、ロット王は早速離乳食を作ろうとしていました。どちらかと言えばモルガン様のご飯では?

 

 これにはガレス様は大喜びで魔狼たちとはしゃぎ周り、ガヘリス様も嬉しそうに山狩りで手に入れたキノコを食べさせようとしたりと皆が喜んでいました。アグラヴェイン様も前線から戻り、モードレッド様を見て少し表情を綻ばせていたりと珍しいものが見れたときにはこれまた皆が大騒ぎ。

 

 イグレーヌ様は早速モードレッド様の服をこさえ始めました。いつもいつも孫が生まれる度に準備するのですから凄いものです。

 

 ・・・・・・・改めてこの子供皆が円卓に入って活躍したんですよねえ・・・教育係やっている身として実力、才能は理解していますが凄まじいとしか言いようがない。ガレス様も最近は魔力を剣に纏わせて飛ばして攻撃したりと器用な技も覚えましたし、本当才能に恵まれた兄妹ですよね。

 

 この報告を私がブリテンまで栗毛で移動してガウェイン様に伝えたところ、大発奮して模擬戦で大暴れ。近衛騎士団相手に百人組手を勝ち抜き、トリスタン様、ランスロット様にも勝利。その後の業務も私を巻き込んででしたが、2日分まで終了。明日の休みをアルトリア様からもぎ取って夜にはなりましたがさあ帰ろう。ということになりました。

 

 その際にガウェイン様はガラティーンを松明代わりにしようとしたら加減を間違えて炎を出しすぎてたまさかあった枝葉に着火。そこからガウェイン様に火が付きそうになり大騒ぎ。

 

 さすがにそれは危ないので栗毛に私とガウェイン様を乗せて陽炎で柔らかめの光を出してライト代わりにして移動。栗毛なら明かりがなくても問題はないはずですが、蛮族に備えて此方もよく見えるほうがいいですからね。

 

 そしてオークニーへ到達したら・・・魔獣や妖精、悪霊の類として防衛部隊と交戦、数分後に漸く誤解が解けて開放されました。あちらの言い分では「光を持った真っ黒な首なしの大きな馬、それにまたがる騎士」に見えたそうです。そして交戦時には光が急に消えたせいで周りの光景がよく分からずに判断付かずに戦ったためだそうな。

 

 陽炎の明かりのせいで栗毛の顔が隠れて首なしに、そしてそれに乗る巨漢の男性に私・・・デュラハンの仲間扱いにされていたそうです。多分、私が防御のために陽炎の明かりを消したせいで一気に周囲が暗くなり、その差で目が慣れずに私達を正確に見れなかった。と。

 

 銀嶺の部隊でもないですし、若い兵が多いことからまだ配属されたばかりの新兵部隊でしょうね。私ならいざしらず、国王陛下に武器を向けたのは・・・ガウェイン様は仕方ないね。と言っていますが、私からもこの部隊の責任者に言っておきましょうか。

 

 ふぅ・・・ドタバタで騒がしい一日でした・・・ガウェイン様を王城にお送りして私は帰宅。今日は花子に抱きついて就寝することに。ああ・・・もふもふです・・・

 

 

 

 

(;´Д`)月・ω・日

 

 漸く完成、記憶をひっくり返したり試行錯誤で出来た塩の生産方法の効率化の計画がまとまり、コーウェン将軍のもとに出向きました。

 

 必要な作業があるので魔獣達も多く動いてもらい、レギア、イネンナにも来てもらいました。ここ最近は経験も積み、美味しいご飯も食べているお陰かそこらのワイバーンよりも逞しく、大きく・・・といいますか、何処かの飛竜のつがいレベルに。お陰で兵士を乗せての偵察も出来るのでより早く情報の入手が出来ますが、住居の準備が大変で仕方ないです。ご飯は自分で取ることも多く。海獣や魔獣、海賊に最近はピクト人の砦丸ごとご飯に。豪快ですね。

 

 この草案を見せたところコーウェン将軍も大変喜び「塩害が酷く農耕できない土地がこれで有効活用できる」と手を握って感謝してくれました。

 

そして早速作業開始。水が染み込まないように固めた「塩浜」を作るために魔猪、魔狼、私達でローラーを引いて地面を固めて完成。そこから魔獣や私達の毛を焼く為にレギア達の火球ブレスで余計な異物を焼却処分。

 

 そこの「塩浜」の中心に海水を汲み置く「沼井」を五右衛門風呂の応用で作成。そこに人力で運んできた海水を汲み入れ、そこから海水を繰り返しまいて天日乾燥。塩分をたくさん含んだ砂を作成。この砂についた塩分を海水で洗い流してかん水を採り、少し離した場所に作った釜屋と呼ばれる小屋で煮詰めていき完成。

 

 少し時間はかかりますし、天候次第ですが効率は大変良いのでこれらを活用できれば塩の輸出量も増えることでしょう。一通りの作成マニュアルと対応方法を渡しておき、想像しうるリスクや対策方法も記載。これと領地をよく知る方々で作れば問題なく塩田を作れるでしょう。

 

 帰り際に「人の汗でも作れないか」というとんでも発言が誰からかは忘れましたが飛び出しむせてしまいました。誰がエリート塩ないしキタキタおやじみたいな発想で塩なんて作るものですか! 口噛み酒だけで十分ですよそういうのは。




基本戦闘、シリアスを除いてはドタバタを中心にこち亀BGMをイメージして考えています。あのBGMの万能性よ・・・

度々疑問に思われていたモードレッドは普通に人としての生まれ方で誕生。家族の愛がいっぱいの環境で育てられるのでやんちゃさはともかくひねた性格にはならないだろううなあと。勿論教育係は華奈にお任せされました。

イギリスにも過去に熊は居たそうです。ですが1057年以降には絶滅しているそうでもう見られないとか。

アルトリア癒そうぜ計画開始。銀嶺拠点と王城がホテルみたいな扱いになっちゃいました。書類と交渉、外面繕って更には蛮族との戦い。そこから離れて休めることで「王様」ではなく「人間」の時間を作って少しでも安らぎを作る。どれだけ休めるかはアルトリア次第ですが。

高評価も低評価も増えていることが毎度ながら驚きます。それだけ目に止まってくれたということですものね。精進していかねば・・・!

最後にUA 13865件 しおり 35件 お気に入り 146件

いや本当にお気に入りが増えていくのがびっくりです。更新も頑張らないといけませんね。では、皆様さようなら。さようなら。


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オリジナルキャラクター紹介の巻

アーサー王伝説にいなかったはずの華奈、そして他のオリジナルキャラクターをさっくり紹介。興味のない方は飛ばして大丈夫です。

そして、必要であれば元からいるキャラクターもここに載せていきます。

そしてこのデータは最新話(15話)のものです。ご了承ください。


 船坂 華奈 (元ネタ オリジナル) (現在の立場 イグレーヌの侍女 オークニー第七位将軍 教育係 銀嶺騎士団隊長   身分 不明→侍女→(一応)騎士)

 

 この物語の主人公 色々幕末を過ごし、死んだのに転生で今度は愉悦部員、そしてブリテンとシッチャカメッチャカな人生を送った上に転生しまくりのトラブル体質。この世界がアーサー王伝説の世界であることを知ってその伝説を見たい事からグレートブリテン島に移動。その際にモルガン、イグレーヌを助けたことで自身もその伝説の中に入り始める。

 

 性格は基本的に温和で物腰柔らか。誰にでも丁寧だが、敵、ゲスには容赦なく剣を振るい斬り殺す、拷問をすることも辞さない冷徹な部分もある。重なる転生で得た知識、経験をフル活用してオークニーを豊かにして自身の部隊も持ってとすっかり国の要人の一人に。

 

 軍才は戦略なら立てることも出来るが、戦術だと4000以上の部隊の指揮になると杜撰になるとかなり凸凹、いびつな才能の持ち主。小規模の部隊でありたいと思ったのもその才能を自覚していたから。

 

 趣味は剣の修練と散歩ハチ、花子、栗毛と遊ぶこと。剣は空位に達し、縮地も使える。最近は趣味が半ば仕事になっているのでたまにやりすぎることも。やたらと変人の多い銀嶺の皆と楽しく過ごし、オークニー、ブリテンのつなぎ役としても奔走中。最近「剣姫」「銀の救世主」とか呼ばれているのが面倒に感じている。

 

 教育係、さらにはイグレーヌ、モルガンにとっての命の恩人のために王室との関わりは公私共に強い。それを活用して幾つもの功績を上げては報奨なども多く貰い、現場重視の将軍や文官とも多くの財を手にしているが、基本的に部隊につぎ込む、部下の給料に色を付ける、余ったお金を貯金ぐらいで普段はこの世界に来た時の袴、銀嶺の騎士服、貰い物が主で贅沢はしない。

 

 というよりも農業、食料関係に関わって自身の畑や銀嶺の畑から手に入るもので満足、お風呂も入れているのでそれ以上の欲があまり沸かない。結婚願望も前世の家族のことがあるので無い上に興味も殆ど無い。

 

 

 

 

 

 ヤマジ (元ネタ くそみそテクニック 阿部高和) (現在の立場 銀嶺騎士団 副長、工兵長、軍師   身分 大工→騎士)

 

 華奈にスカウトされてホイホイついて行った元大工のイイ男。今ではアルトリアを食い止めたことや作戦立案、前線での戦いぶり、多くの道具をこしらえていったことから「銀嶺の盾」「ウホッ!イイ男」「戦斧の守護騎士」と呼ばれる。

 

 最初は興味本位からだったが今では華奈に忠誠を誓い、銀嶺騎士団にも心を開いている。ホモだが男性女性問わず紳士な対応のために人気は高く、本人が困惑している。ジャック将軍をホモにしてしまった元凶。

 

 機動力に長けた銀嶺の守備やその破壊力を活かせる広い視点を持っておりジャック将軍、コーウェン将軍曰く「世辞抜きでもう少し経験を積めば10万規模の軍の大将も可能」と言わしめる。本人は銀嶺から抜けるつもりはサラサラ無く、愉快に過ごしたいと思っている。

 

 パスタマシンでそばを作っては味噌や鶏ガラのだしで食べるのが大好きで度々仲間を呼んでは食べたりたまり場兼駐屯所の拠点で一品持ち寄りの食べくらべやアイデアの出し合いをしている。

 

 戦闘能力は高いが、軍師や大工の裏方で働くことが好きで任務や哨戒で立ち寄った村の道具や家を手入れするのもよくあること。

 

 

 

 

ダンカン (元ネタ パンツレスリングシリーズ 鎌田吾作) (現在の立場 銀嶺騎士団 副長 突撃隊長 農務長   身分 漁師兼農家→騎士)

 

 華奈にスカウトされて参加した純朴な好青年。村では普通に農家と漁師を兼業していた。銀嶺の突撃部隊を率いる銀嶺の槍。一度暴れれば手がつけられないことから「暴風」「突撃突破」と呼ばれる。

 

 自分取り立ててここまでに押し上げてくれた華奈には感謝しか無く、死ぬまでついてく所存。でも、盲信ではなくしっかりと意見も出せば怒れる人間。基本穏やかな上に風貌も純朴、無害な雰囲気のために子供からは人気が高く、慕われている。

 

 戦い方は華奈と連携して二部隊で敵を叩くための先駆け、奇襲のための部隊と最前線での戦いが多く、そのために華奈の剣術も必死に学んでいる努力家さん。最近は斬鉄も習得。威力を上げるために最近は薪割りとスクワットがマイブーム。

 

 カニが大好きで少し長い休日は海でカニを獲っては教わったカニ鍋を食べることが楽しみ。冬にはカニ鍋大会も開いたり、美味しさを皆に布教したりともうカニ依存症レベル。双剣も始めは華奈の剣術を学びたいからではなく、カニのようだなと考えたから。

 

 農業は勿論好きで最近はじゃがいもを研究中。ホクホクで大きいじゃがいもを目指して日々畑の様子を気にかけている。

 

 

 

 

アンナ (元ネタ コミュニュティ モンハンシリーズの依頼者「白いドレスの少女」) (銀嶺騎士団 副長 術士   身分 浮浪児→騎士見習い→騎士)

 

 華奈に拾われて銀嶺に加わったもうひとりの転生者で華奈の家族の一人。竜に育てられて神秘の濃度の濃ゆい食事に過酷な環境に生活で鍛えられたせいか防衛本能のせいか魔術の才能に目覚め、師になったモルガンに教育を受けた結果雷の魔術に秀でた魔術師に。マーリンの魔術にもある程度は抵抗できること、その白い髪に普段の服装も白を基調としたもののせいか「白雷の魔術師」「雷竜の生まれ変わり」などの大層な二つ名が付いている。

 

 前世の記憶もあるので華奈とは気兼ねなく接し、モルガンとの接点もそこから。やたらと節制気味でおしゃれに興味があまりない華奈を呼んでは最低限の準備はしなさいと注意することもしばしば。自身も恋愛、結婚願望はないが女としての身だしなみに気を使う淑女。

 

 魔杖を駆使した雷魔術、魔狼達の足を活かした機動力で敵部隊を遠距離からの奇襲、味方部隊の援護をメインに動き、自身は基本白兵戦、肉弾戦は行わない。一応の心得は持っているが、そもそもそうならないように心がけている。

 

 湖の乙女に強化してもらった短剣のおかげで拾ってきたワイバーンのレギア達と会話ができるようになり、気ままに会話するのが好き。成長してからは遊覧飛行をするのが楽しみになっている。

 

 銀嶺の魔術の素養があるメンバーを鍛えたり、鎧の手入れをしたりと基本裏方に回りがちだが、本人はさほど気にしていない。

 

 

 

 

ハチ&花子 (元ネタ 狼信仰諸々) (銀嶺騎士団 魔狼部隊まとめ役   身分 狼→騎士(狼)) 

 

 華奈が一時避難した先でたまたま出会い、ご飯を分けてもらった、華奈の強さを認めたことから仲間に。互いにつがいがいて、そこから沢山の魔狼が生まれた結果銀嶺の約半数近くが彼らの子供に。部隊の屋台骨を支えるお父さんとお母さん。

 

 知能が大変高いために人間の言葉も理解しては簡単な作戦、指示を出してもらっての連携、自身も考えて行動をするのでそこらの騎士では太刀打ちも出来ないほどに強い。普段は華奈、モルガン、イグレーヌの誰かの護衛、それがなければ畑の周りを走ったり、拠点で昼寝している。

 

 基本銀嶺、それ以外にも認めた相手には寛容。教育のおかげでやたらと凶暴ではなく、知らない相手でもちょっかいを出さない限りは噛まない。ハチは元気で明るい、花子はマイペースな性格。

 

 大好きなのは鹿の燻製肉と鳩の丸焼き。ご褒美に華奈からもらうのが楽しみ。

 

 

 

栗毛 (元ネタ 北斗の拳 黒王号) (銀嶺騎士団 華奈の愛馬   身分 馬)

 

 フランスで買ってから足として頼りにしている華奈の愛馬。元は普通のサイズの馬だったのだがグレートブリテン島へ移動し、神秘の深い森での生活のさなか魔獣へと変貌。成長し続けて何処ぞの拳王が乗るような馬鹿でかい馬に。速度もそのせいでとんでもないものになっているので基本的に華奈以外では練習が必要なほど。長く乗っている筈の華奈自身も未だに栗毛の全速力に慣れていない。

 

 普段はのんびり物でフォウと散歩したり、水浴びをするのが趣味の馬だが、戦闘時には豹変して暴れまわる一面も。その後の汗や汚れを洗い流す瞬間が大好きで華奈に寄っていきねだることも。実はメス。

 

好物はビートの葉、蜂蜜。遠乗りした後に貰えるので戦や長時間の哨戒の後は少しそわそわしている事が多い。

 

 

 

 

黒介 (元ネタ FGO 魔猪) (銀嶺騎士団 魔猪のまとめ役 キノコ探索班  身分 猪)

 

 華奈が一時避難した森でうりぼうの時に出会い、そのまま仲間に。鼻を活かして食用のキノコを探したり、危険な魔獣や幻想種等などを感知しては教えたりと山での山菜採りでお世話になり、戦場では突撃力と頑丈な毛皮で敵の側面をどついたり盾兵を吹き飛ばしたりと突破口をこじ開ける、流れを断ち切る役割を担う。

 

 普段は魔狼達と一緒に哨戒を行ったり森に入ってキノコのポイント探しを行うか泥浴びを楽しんでいる。マイペースな性格でいつの間にか何処かにいなくなっていたり、あてもなくフラフラ動いたりすることもある。

 

 木の実が大好きで特に木苺、野菜ではじゃがいもが大好き。収穫時期に差し掛かると好きな時に食べていい許可をもらえている(黒介が食べても大丈夫=もう十分なほどに熟している。収穫時と考えているために)

 

 

 

 

レギア&イネンナ (元ネタ モンハン レウス、レイア夫妻) (銀嶺騎士団 伝令 遊撃、強襲隊   身分 竜)

 

 アンナが拾ってきたワイバーンの子供。親が強力なのか、はたまた自身の体質かまだ幼いながらにそこらのワイバーンよりも大きく、人一人ほどを抱えての飛行も可能。ブレスはまだ吐けない。

 

 どちらも活発な性格で良く黒介と遊んでいたり、アンナを乗せて遊覧飛行したり、フォウと遊んだりとやんちゃ盛り。教育は済んでいるのでやたらと人は襲わないように矯正済み。ただし、敵と認めれば遠慮なく襲う。

 

 アンナとフォウには頭が上がらず、よく言うことを聞く。華奈はその主のため尚逆らえない。好物は軍馬のステーキ。蛮族の襲来があるとありつけるので楽しみにしている。

 

 魔狼達とボールで遊ぶこともあるのでその最中で飛行訓練も出来たりと順調に竜種の高みに登り始めている。

 

 

 

 

銀嶺騎士団 (元ネタ 特に無し オリジナル) (現在の強さ ブリテンの近衛騎士団相手に善戦できるくらい。(ただし全滅覚悟済みで))

 

 華奈が結成した部隊で現在では(15話 「見回りしちゃうぞ」の時点)魔獣人間合わせて1000を超えるオークニーきっての精鋭部隊。基本的には常に機動戦を仕掛けて動き回り、相手を削り、隙あらば食らいついて倒すという戦法がメイン。

 

 男性中心の社会の中で違う人種、軍務以外のこともやると言い出す、身元もよく分かっていない華奈に当初ふざけるなと半数近くが抜け、残った面々は鼻で笑われ、嘲りを受ける日々を甘んじていたりとしていたが、華奈の人柄に惚れ込んだもの、先見の明を持っていた者同士で頑張り、最前線で蛮族や魔獣と殺し合い、暇があれば畑を起こし、勉強会を開いて農業からインフラ関係まで考えたりと走り続けた結果、ブリテンでの戦で見せた大立ち回りで一気に精鋭として国内外に名を馳せた。

 

 隊長が身元不明の別人種、副長が元大工、農家、浮浪児(?)古参も華奈がスカウトしてきた身分を問わないメンバーばかりのために基本階級云々での軋轢は起こらない。ただし、農業や戦術、料理では熱く語り合うので上手く落ち着かせる人がいないとケンカにも。

 

 多くの特産品、農産物を生み出してきた、広めた部隊で現在(15話)の時点で

 

 

 食料 ソバ ビーツ エンドウ ゴボウ 食用きのこ 蜂蜜 砂糖 塩 味噌 新たな山菜

 

 農業関係 肥溜め、腐葉土、堆肥(骨、灰、魚の骨や頭等など) 下水設備 養蜂

 

 その他 塩田 魔狼輸送隊(冬のみ) 五右衛門風呂 サウナ パスタマシン 

 

 遊び道具 フリスビー ウノ

 

 これ以外にもパンをフンワリさせるようにしたりと色々やっている部隊故に給金も名誉も高く多くの志願者が来たが、戦い方も戦場も過酷。やることの多さに参加を希望するメンバーも多くが潰れるほど、そのために未だに華奈のスカウト、アンナ達副官らの面接で見抜いて参加許可。がメイン。

 

 

 

 

 

 ジャック将軍 (モデル キングダム 壁将軍) (オークニー第三位将軍   身分 騎士)

 

 オークニーの将軍の一人で防御を得意とする若い将軍。現場主義で常に前線で戦い続け、利害関係無くオークニーを駆け回り民草のために走り回る華奈達を早くから認め、今では公私共に仲良く過ごしている。

 

 真面目な性格で、堅実な立ち回り援護も得意なために攻撃力に秀でた銀嶺とは相性がよく。最近ではコンビで防衛戦を任せられることが増えた。その際に銀嶺では厳しく、潰れてしまう。けれど才気はある若者を回してもらい、裏方での仕事をする人材の育成も始めるようになり、現在ではその一部がオークニーで文官、軍の財政に関わり始めたりと後進育成にも手を付けている。

 

 ある日ヤマジのせいでノンケから薔薇の世界にも目覚めてしまった。跡継ぎが既にいたのが不幸中の幸い。

 

 麦ころがしを欧州で行い蓄財中。それを教育機関や新たな産業に使えないかと思案することも。

 

 最近はアグラヴェインへ戦術、戦略の教育も行っており、次世代を引っ張る働き盛りのおじさん。コンテストには参加していない。

 

 

 

 

 コーウェン将軍 (元ネタ 真ゲッターロボ 世界最後の日 コーウェン) (オークニー第一位将軍  身分 騎士 公爵)

 

 オークニーの将軍にして武官の頂点。戦いは特に得手はないが、万能で政治関係、外交で国を支える文官の一面も持つ老獪な将軍。ジャック将軍を気にかけ、外をジャック将軍、内部を自分が警戒していたが、華奈の参加で産業や領内の問題も意識し始め、始めは得体の知れない華奈に警戒心を抱いていたが、最近は頼りになると心を開いておりよく相談を持ちかける。

 

 最近のマイブームはフリスビーで魔狼と遊ぶこと、ウノでクッキーをかけて孫と遊ぶこと。

 

 最近のオークニーの隆盛には嬉しく、更には長年子宝に恵まれていなかったロット王の問題も解決したりと長くこの国で働いただけに喜びもひとしお。もう少しだけ働いたら引退してジャック将軍に後任を任せようかとも考え中。華奈は自身があれこれ言うよりも自由にさせてたまに手助けすればいいかなと考えている。息子は文官なために領地経営を任せている。

 

 華奈とジャック将軍の後進育成計画にも参加。更には塩田、魔獣の子どもたちの育成と引退は考えているが、楽しみ自体はまだまだある。元気な老人。

 




改めてホモネタ多すぎないかあ!!? と思っちゃいましたが、某動画サイトに投稿されるTRPJや作品での配役やネタが一々ツボで出しちゃいました。後悔はしていません。

阿部さん、やる夫スレだと人格者なことも多いんですよねえ・・・

次回からはまた話を書きますので大丈夫です? とりあえず無理なく進めていきます。抜けがあれば連絡してくれると幸いです。

改めまして、最後に UA 15328件 しおり 39件 お気に入り 160件

有難うございます! それでは皆様。さようなら。さようなら。




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銀嶺騎士団の日常

決戦前夜。でも、気負いもなく、のんびり銀嶺の日常は過ぎていく。


(#^^#)月(#・∀・)日

 

 塩の生産ラインが整い、勢いを増していくオークニーですが、どうも蛮族の襲来の規模、頻度が冗談抜きで激しいものとなり、中々に流通体勢もラインの見通しも整わないです。今はまだ国内に充実させる、質の向上の段階のために出せませんが、いずれは以前以上の勢いで輸出する予定。国防の観点からも、産業、貿易の観点からも喜ばしくない。

 

 ヴォーティガーン様の攻撃の苛烈さもそうですが、何より厄介なのがサクソン人の部隊同士の連携、ピクト人まで含めた広域戦略を取り始めていたことも問題でしょう。以前から部隊での規模を大きくした襲撃が増えてきましたが、ここまで連携をとった動きはなかった。

 

 銀嶺自体はレギア、イネンナの索敵とメンバー全員の足で撹乱、潰し、倒せると分かれば即座に部隊を分けて他の部隊への援護もしやすいので問題はない。ブリテンは将の数も質も鍛えている上に経験も此方に引けは取らない故に対処できてはいますが、それ以外の諸侯への被害が甚大で由々しき事態になりつつあります。

 

 何せ適当な人数で気ままに暴れるだけでも被害が出ていたサクソン人の傭兵部隊にそれ以上の身体能力を誇るピクト人の行動まで見合わせた組織的行動。防衛だけでは抑えきれず、攻めに出ればその出した分の兵の穴を突かれる。

 

 私達は攻めに出て、その穴を狙った動きすらも釣りに使えますけど、機動殲滅戦に慣れていない部隊にはたいへんやりづらい状況で、ブリテンの所からも救援要請で私、ガヘリス様で出ては戦い、その帰り道にまた蛮族を殺すという昔を思い出すほどの激しいものとなっています。

 

 この事に皆様が頭を痛めている中、少し私は不可思議に思うものがありました。何故、ここまでの財力が続くのでしょうか。未だ神秘の残る土地ゆえに地力も高いはずであろうブリテンの兵士にここまで戦えるサクソン人が大陸で安い賃金で雇われるとは思えませんし、ヴォーティガーン様もウーサー王存命の頃からや戦い続けている。ヴォーティガーン様が入植政策で迎え入れるにしても、例え此方に来る足代だけはサクソン人の自己負担だとしてもとっくに国庫は空になっていてもおかしくないほどの金が出ているはず。

 

 入植して傭兵にする以上、食料や武具、住居の負担だけでも馬鹿にできないほどの金が出る。更には傭兵故に賃金も割増。これをウーサー王の頃から行い、そして私がブリテンに来る頃、つまりは20年ほど前も規模や激しさは違えど行っていた。

 

 しかもそのサクソン人の多くは傭兵であり、それも私達が鏖殺したりすることもよくあるので減り方も凄まじいはず。忠義心もない彼らであればそんな危険極まる土地で働く旨味も少なく、島である以上、逃げやすいわけもない。

 

 それなのにこの島に入植を続け。尚も勢いを増す・・・これは指揮官級、若しくは大陸に探りを入れなければなりませんか・・・はぁ、商人様のお土産、何にしましょう。

 

 

 

 

 

⚃月⚂日

 

 取り敢えず私はフランスに居る商人様の元に栗毛を走らせ、急いで情報収集に勤しむことにしました。ガウェイン様たちにもお願いして敵の指揮官を一人でも多く捕まえるように頼み、私が不在の間はガヘリス様と連携して銀嶺は動くように指示もしておいたので問題はなし。

 

 栗毛を走らせて半日ほどで商人様が住まう大きな屋敷に到着。さすが商人様。稼業は上手くいっているようですね。まあ、そうでなければ私達との商談で大口契約をポンポン出せる訳ありませんか。この前なんて砂糖2トン、蜂蜜20樽を買い込んでいましたからねえ。蜂蜜はようやく一般、少し貧しい方々にも流通できる値段まで落とせたばかりだと言うのに。

 

 私が屋敷の門で警邏の方と商人様にお会いできないかと話していると、商人様直々に門まで来て迎えてくれて、中まで案内してくれました。なんでもあんな馬鹿でかい馬に乗る銀髪の女は私しか思い浮かばなかったからだとか。

 

 栗毛は確かにでかいですからねえ。その分力もスピードもありますからこうして早く商人様とお会いできることが出来ましたが。取り敢えずお土産の蜂蜜酒とクッキー、燻製チーズを渡して、互いに何気ない世間話で茶を濁した後、本題に入ることにしました。最近の蛮族襲来の規模の大きさ、ヴォーティガーン様との決戦の準備をしているので当分此方には足を運ばないことが懸命であることを伝えてると、ああ、そうなのかあとあまり大きな反応がありませんでした。

 

 商人様は何か知っておいでなのかと聞いたところ、ローマとヴォーティガーン様の間である取引が行われているという噂が流れているらしく、ヴォーティガーン様が自身の拠点をサクソン人に貸し与える事を条件に、ローマは武具、戦力、つまりはサクソン人を供給する取り決めだとか何とか。

 

 レンドリースじみたことを両国間で行われていることにも驚きましたが、何故ここまでの情報を得ることが出来たのかと聞いたところ、ブリテンに近いローマの港町では毎日のようにサクソン人が送られていること、また戦場で名を馳せた指揮官も僅かではあるもののいないことからこの噂は最早ローマ、フランスなどの国では皆が知っている噂なのだとか。商人様はそれにちょっと細かく探りを入れた結果このレンドリースに行き着いたのだとか。

 

 ・・・つまりはローマがヴォーティガーン様に協力してもらい、サクソン人を送り込んでブリテンの諸侯を滅ぼしてもらった後、傭兵に多くを頼っているヴォーティガーン様に折を見て兵力の供給を止めて疲弊したところを喰らう。とローマサイドは考えているんでしょうねえ。まあ、どうせヴォーティガーン様もそれを踏まえた上でしょうから、そう上手くローマの思惑通りにいかないとは思いますが。

 

 取り敢えず少なくともヴォーティガーン様を倒してこのサクソン人の入植という名の侵略行動を終わらせ、その上でローマの打ってくる手を潰さないといけないとなりますか。海で隔てられていることが幸いですが、未だ強国のあの国相手にどう立ち回るか。面倒事はまだまだ続きそうですね。

 

 それに対し苦笑気味の商人様は私に今回の情報の土産と、贔屓にしてくれているお礼も兼ねて身の丈の半分ほどの麻袋を渡してくれました。中身を開くと大量の生姜。これはまた有り難いものを。ジンジャーエールでも作ったり、色々考えていたので嬉しかったです。お礼に私も持ってきていた金貨数枚をせめてもと渡し、帰ることにしました。

 

 生姜はオークニーの土地では上手く栽培がいきませんでしたが、これで必要な料理や生薬、酒でも作ってみんなを元気づけながらモルガン様にイグレーヌ様、後はマーリンにでも相談しましょうか。品種改良で栽培できれば病気対策にできますしねえ。

 

 

 

 

 

♂月♂日

 

 帰ってみると早速ヤマジ達の捕まえた将官の情報を聞けたのですり合わせると、見事にまあ商人様の話と合致。ローマのレンドリース作戦は本当に行われていることがしっかりと確認できました。因みにこの雇われ将官は相当に口が固かったそうで、くすぐり二時間の刑、にんにくたっぷりペペロンチーノを食べた尋問官によるディープキス一時間半の刑を受けてようやく口を割ったそうです。随分ガッツのある将官ですこと。

 

 その後はギアスでもうこの国に足を踏み入れないことを誓わせて開放。廃人同然だったそうですので、まあ、二重の意味でここには来ないでしょう。

 

 早速生姜のことをモルガン様、イグレーヌ様に生姜のことを話し、その後は鍛冶場に移動。少し思いついた? 思い出した? 物を準備したいので作業開始。少し刃先を伸ばした短槍を一つ作り、その石突の部分を凹ませたものを作成。それと槍の凹んだ部分に先端が引っかかるように曲げた金属製の棒を一つ。

 

 

 槍の凹んだ石突の部分を棒の突起に合わせて軽く振り抜く。すると槍はそれ以上の高さを悠々と飛び、飛んでいたガチョウの頭を粉砕。うん。いい出来です。

 

 今回作ったものは「スピアスローワー」いわゆる投槍器の一つで、普通に投げるよりも遥かに遠くに投げることの出来るというもの。これと専用の短槍を作り、突撃部隊でも援護でぶん投げたり、重武装部隊でも遠距離から殺せる破壊力を持てるでしょうし、いざという時は剣の代わりにも出来ます。予備の近接武器にもなりますから悪くないでしょう。

 

 早速鍛冶師にこれを量産。私も練習用の道具を予備の槍を加工して作成、切った鉄の部分を溶かしてスローワーも幾つか作成。鞍にも少し手を加え、数本所持できるように改良。訓練と洒落込みました。

 

 的当てや流鏑馬じみた訓練の結果はダンカンがぶっちぎりに上手く、聞いたところ漁網を扱う日々で肩の下地自体はできていたそうな。突撃部隊を率いることの多いダンカンに相手の分厚い装甲を破壊できる投槍が出来るのは喜ばしい限り。

 

 ヤマジ、部隊の皆様もすぐに慣れましたし、上手く行けば何処からでも矢以上の遠距離攻撃の追加が出来るかもしれません。アンナ様もこれを気に入り、幾つか専用の術式を彫り、これを自身の雷魔術の誘導するものにするそうな。

 

 最後に、このスピアスローワー、軽く投げても遠くに飛ぶのが楽しいのか、適当な木の棒を加工してみんなで遠くに投げ、距離を競う。又は投げた棒を魔狼達が拾うという遊びが銀嶺とモルガン様達の間で流行りました。もう完全に犬との遊びのそれですけど、大昔の狼と人間もこうして関わって今の犬と私達の関係になっているのでしょうか。

 

 そう考えると古代の行いを再現しているなんてロマンがありますねえ。

 

 

 

・ワ・月☂日

 

 ガウェイン様、モルガン様から管理者としての権限を借り受け、蛮族共と通りがかったら始末しておきながら移動、かつて私がモルガン様達を匿った森に足を運びました。

 

 理由としてはヴォーティガーン様と交わしていた『この島の去りゆく者達のために尽力はしましょう。その上で貴方と戦う』という言葉を守るため、個人的にまた会ってみたいという考えもあるが、ブリテンサイドが勝利した場合、幻想種に寄り添うものが私やモルガン様たちしかいなくなるであろうし、早めに住みやすい、神秘の減少問題が深刻化する前に妖精郷に移ってもらおう。という考えからです。

 

 久しい森の空気に、迎えてくれた妖精、精霊達が出迎え、久しぶりだと言葉を交わしてくれました。中には私が来るときのために道具も拵えていてくれた方までいまして、私も土産は準備していたので思わず嬉しくなりました。しかもまあ腕輪に指輪、アミュレット、イヤリングと様々。モルガン様やアンナ様と関わってそういう道具も少しは目利きができるようになりましたが、これらの性能がまたすごいこと。単純な装飾品としても素晴らしい。本当、とんでもないです。妖精や精霊の皆様は。

 

 みんなで私が持ってきたお土産の豚汁を食べながら今回の用件を話すと、少し難色を示しましたが、一応は納得。森の幻想種、襲ってきた巨人族や竜種もどうにか無力化、または倒して魂を送り込んでいき、夕刻になる頃には森一つの幻想種全員を妖精郷に送り込めました。

 

 これでオークニーとその周辺の幻想種は全て送ったことになるでしょうか。取り敢えず貰った装飾品や森のめぐみを幾つか頂戴して帰りました。木苺のパイとくるみクッキーを晩御飯のデザートに出しました。

 

 

 

 

♫月±日

 

 本日はいよいよヴォーティガーン様との決戦に備えての戦略会議。私も手に入れた情報と、お菓子を持っていき王宮の戦略会議室に。そこには楽隠居したはずのロット元国王様も含めた国の武官の面々、ガウェイン様ら王族も揃い踏み。緊迫感溢れる会議室です。

 

 ・・・・・・・・まあ、私が持ってきたお菓子のせいで空気が緩んでしまいましたけど。休憩にどうでしょうかと用意しましたが、失敗でしたかね? 小腹がすいている方が多かったので皆様の飲み物も用意して、会議を再開。

 

 アルトリア様達はほぼ全ての戦力を惜しみなく振るい、ヴォーティガーン様を速攻で討伐していく腹づもりらしいのですが、ローマのレンドリースに見える野心もあるので、私達がそこに兵力を差し向けすぎると絶対に大陸が何かをしでかしてくるのは明白。ブリテンサイドはマーリンとケイ様が留守を守るそうですので、私達は選出するメンバーは私、ガウェイン様、そして満場一致でアグラヴェイン様を推薦。驚くアグラヴェイン様はまだ自分のような若輩者でこの大戦で責務を果たせるのでしょうか。と狼狽えていました。

 

 ハッキリ言って防御術に優れているので問題はなく、ある役割を持ってほしいのでお願いしたい。と私とガウェイン様で頼むと腹を括った顔で了解し、早速出せる兵力を考え始めました。こういう合理、そして私達には意外と甘い部分があるのですから本当に面白い方です。

 

 話を戻し、今回オークニーは私、ガウェイン様、アグラヴェイン様の三名を選出、私が1000、ガウェイン様達はそれぞれ2000づつの計5000のの軍でブリテンと合流。そしてロット元国王、コーウェン将軍、モルガン、イグレーヌ様がオークニーの留守を守り、ジャック将軍は兵3000を率いてブリテンの守備の援軍、ガヘリス様は両国間のどちらの援軍にも対応できるよう予備兵1万の全権を任せて待機。

 

 ガレス様も何やら出たがっていましたが、流石に王女にそれはさせられませんし、出来たとしても初陣がこれは流石に危険すぎるのでモルガン様達の護衛を頼む形で収まりました。武人としては及第点ですけど、将官としての教育はさせていませんからねえ。こんな穏やかな姫様が剣も好むとはやはりこの一族は戦が好きなのでしょうか。

 

 守備組の話が一段落したので今度はブリテンと共に攻めに行く私達の話に。今回は大規模な戦な上にサクソン人だけではなく、幻想種もいるヴォーティガーン様の居城を攻め落とす大戦。私もその幻想種を妖精郷に送る役割を戦のさなかで行い、同時に戦力の減少を狙う。そのために今回の主な攻め駒の役割はガウェイン様、守備はアグラヴェイン様にお願いすることにし、私は遊撃に徹することを伝えました。

 

 具体的には私、ダンカンで遊撃手として戦場全体を動き回り、幻想種を妖精郷に送り、そしてピンチの部隊を救援。ガウェイン様はヤマジと組み、戦線を押し上げてヴォーティガーン様に挑む。太陽の聖剣を持ち、加護もあるガウェイン様は突破力、攻撃力共にアルトリア様に引けを取らない。速攻勝負なら必須の存在のはず。

 

 アグラヴェイン様はアンナ様と組み、ガウェイン様の援護、城の内部までガウェイン様を届けたら外の蛮族を救援に行かせないための蓋の役割をお願いしました。その際にはガウェイン様と同行したヤマジもアグラヴェイン様の援護に加わり、より蓋を堅牢なものにすること。

 

 将官は分けますが、銀嶺の兵自体は私のもとに全て置き、今回は1000名(匹)全員で相手にぶつかりに行くことも伝えて会議は終了。疲れた身体と頭に糖分を送り込んだ後に各自の持ち場への準備を開始。

 

 今回は流石に何が置きてもおかしくないので森で再会した皆様から貰ったアミュレットや腕輪をガウェイン様、アグラヴェイン様やヤマジ達に渡しておき、私も部隊に戦の旨を伝えました。士気も高く、問題はない。

 

 人の視点からこの島を憂うアルトリア様、去りゆくもの、幻想の住人の視点から憂うヴォーティガーン様の決戦。どう動くかは分かりませんが、戦い抜き、私が守りたいものを守るために頑張らなければ。

 




ブリテンを終始苦しめ続けているサクソン人の入植、そして兵力。ヴォーティガーンもなんでここまで出来たんだろうなあということでああなりました。ローマが第一次大戦、二次大戦初期のアメリカみたいな扱いに。

雇われ将官の尋問、クレヨンしんちゃんの刑事編の話で登場した流血を嫌う殺し屋の殺し方で出てきたものを使いました。ターゲットの持病を調べて驚かせて心臓麻痺で殺したり、痔持ちなのでカンチョー、強烈な下痢で殺そうとしたり、やり口はともかく下調べなどはよく出来ているなあと思ったものです。

スピアスローワーはマイナーですが本当にある道具で、作るのも難しくなく、携帯も楽。もってこいだなあと準備しました。槍が数十メートル離れようとも飛んでくる。おっかないですね。

ゆるいオークニーですが、見方を変えると忌憚なく意見を出し合えて、距離も近い。円卓を再現ないし体現するような関係性に近いなと思いました。王と将軍のコントじみた話し合いに仲良く壊れた王城の掃除なんてどこまでゆるいんだか。

次回は一つの区切り、どうなるかはお楽しみにしていただけたら幸いです。

最後にUA 16634件 しおり 41件 お気に入り 168件 ありがとうございました!! ではまた次回。さようなら。さようなら。


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輝きは君の中に 赤の情熱 白の希望

一つの区切り 野望の終焉


 何度迎えたかも分からぬ夜明け。そして、その夜明けを見る度に震えを感じるようになったのはいつからだろうか。

 

幻想の住人、人の世界に塗りつぶされて消えゆくものたちの嘆きが聞こえるようになったからか。

 

森の管理者、樹妖精の許可を得ずに無作法に切り開かれる森の悲鳴が聞こえるようになったからか。

 

人を罰し、裁くために生まれたような教えが土着の教えを、営みを汚すようになったからか。

 

神と呼ばれたものが堕とされ、魔に落ちぶれる姿を見たからか。

 

人を好いて関わったばかりに封じられたものが、その与えられる力を貪るけだものを見たからか。

 

 分からない。卑王と呼ばれて尚もひた走り、下らぬ教えを伝えた大陸の下衆とも手を結んでこの島に生きる幻想のために戦い続けた、抗い続けた。

 

 アンブロシウス、ウーサー、そしてマーリン。この自身を追い詰める輩と戦い続け、アンブロシウスは殺せた。ウーサーとマーリンは粘ったが、ウーサーも長き戦に疲弊したせいで病に倒れ、自身の犯した不義のせいで国も崩壊。これでマーリンだけだと安堵したのもつかの間。新たな敵対者が現れた。

 

 アーサーと名乗るその王は颯爽と現れたかと思えばあっという間に諸侯をまとめ上げ、更には星の聖剣を手に入れ、多くの精兵をまとめ上げてかつてのウーサーを遥かに上回る戦力に成長した。たった十年そこらしか生きていない若造が行ったとはとても思えない。マーリンがいたのだとしても正に英雄、英傑の所業としか言えないだろう。

 

 更にはさしたる戦力もない片田舎だと捨て置いていたオークニーでも傑物が一人現れる。

 

 カナ・フナサカと名乗る女剣士はモルガンにイグレーヌを救い、オークニーに届けるだけではなく、神秘の宿る森の住人と打ち解け、魔獣をも配下に置き、たった十年でオークニーを経済国に引き上げた。戦に出ればアーサー王を打ち負かし、産業に関われば多くの農産物や技術を生み出して国を肥やした。教育者としても優秀で自身の配下、現国王のガウェインを始めとした多くの武人を育て上げた。

 

 しかも、それらの行いは全てが魔獣と共に行っている。迫害されるばかりの魔獣があの国では守護のシンボルになり、多くの民の心の拠り所になっていた。一度直に出向いた時も人は魔獣を尊敬し、魔獣は人間に心をひらいていた。

 

 そんな幻と、夢とも思える部隊を作り上げたカナは突然の来訪、こちらの世迷い言と嘲笑われた言葉に真摯に聞き入り、咀嚼し、受け止めきった上で言った

 

『私は我儘ですから。貴方様の素敵な意見はどうにも受け入れられません。限界まで抗って、戦って、この皆で、守りたいもののために動きますよ。貴方様と同じ様に』

 

去り際には

 

『この島の去りゆく者達のために尽力はしましょう。その上で貴方と戦う』

 

 と何処までも心配りをした上で打倒すると啖呵を切ってみせた。恐らくは私に余計な躊躇いを生まないためだろう。全く、人を憎みきったはずの自分の心に『殺すには惜しい』と思わせるほどの気持ちのいい女は初めて見た。

 

 そんな、ウーサーの後継者が迫ってくる。星の聖剣を携え、精兵を率いて自身の居城を、戦力を、そしてこのヴォーティガーンを滅ぼさんと。

 

 湖の騎士を、隻腕の騎士を、妖弦の騎士を、剛剣の王騎士を・・・他にも数え上げればキリがないほどの名だたる騎士を引き連れて。

 

 カナも・・・いや「銀嶺の将」もまた同じ。自身の主である太陽の騎士であり、王に参じる形で鉄の騎士と馬脚を揃えてこの長き争いに決着を付けんと。魔狼を、魔猪を、ワイバーンを連れて・・・

 

 しかし、こちらも負けるつもりはない。自身の意志で肉体を捨てられぬ巨人族を始めとした幻想の住人もいる。退けぬし退くつもりもない。浅ましき人間なにするものぞ。必ずこの手で討ち果たし、去りゆくものたちの楽園をこの島に・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 卑王ヴォーティガーンとアーサー王率いる軍団、そしてオークニーのガウェイン王率いる軍団の一大決戦は、正に阿鼻叫喚の血戦であり、かつてのどの戦よりも激しく、剣戟も、悲鳴も、怒号も響き渡り、草は朱に燃え、土には人であったものやパーツが飛び散り、ワタをぶちまける。血のかかっていない場所など無き程の様相を見せる。

 

 若きブリテンの騎士もこの戦場で我武者羅に剣を振るい、目の前の敵と戦い、殺し、勝利のために仲間と共闘しつつ、この戦場をふと見回す。

 

 流石はアーサー王の精兵部隊。蛮族のみならず、幻想種まで率いるヴォーティガーンの抵抗を抑え、徐々に戦線を押し上げては相手の守備を突き崩す。その戦場に、三本の飛矢が放たれた。

 

 金属と木を組み合わせた軽装鎧に身を包む騎士団、随伴する魔狼に魔猪、そして掲げられる蒼と白を基調とした狼が描かれた旗。銀嶺騎士団。その本隊がブリテン、オークニー連合軍の側面から出陣。敵陣に斜めから突入し、敵の腹を食い破る。

 

 その軍が姿を表した瞬間、正に天地が揺れた。ブリテン、オークニーの騎士は喉を裂かんばかりの歓声を上げ、サクソン人は今までの勢いが嘘のように怯え、青ざめ、悲鳴を上げては動けないものは容赦なく殺され、逃げても追いつかれて殺された。

 

 『剣姫』

 

 銀嶺騎士団隊長のカナに付けられた二つ名。最近、ブリテンに来ては剣術指導、ジュウジュツなるものを教え、それ以外の時間は農業や哨戒をしてくれる銀の麗人。

 

 その剣は涼やかな動きで美しく、まるで魔法のような技術の持ち主だという。

 

 速さを意識すればいつ剣を抜いたかも分からぬほどの抜刀で相手を切り刻む。

 

 型にはまらない、戦場仕込みの剣術よりも奔放、かつ確実に敵を屠る。舞うような、雲のような動き、軽やかな剣舞。

 

 その配下も精兵揃いで、ブリテンの精兵全てをあてがっても勝てる可能性があると言われるほど。

 

 多くの噂を呼ぶその将の噂が敵味方問わずに真実だと知らしめる様に銀嶺は暴れ回り、その先頭で華奈は自身の化け物じみた馬に跨がり、敵を斬り殺す。

 

 手の剣を何気なく、軽く動かしたような動きで敵の首が一つ宙を舞い、顔が二つに割れて中身をぶちまけ、剣を、槍を向けた騎兵の手は全て武器ごと切り捨てられ、胴が、首が泣き別れて命を失う。

 

 付き従う騎士も、魔獣も主だけに苦労させるなと暴れ回り、一人が、一匹がまるで鬼神のように、地獄の獣のように辺りの敵を屠る。華奈の側を固め、風の双剣を構える副官ダンカンは自身の周りに見えない壁があるかのようで、その円の中に入った蛮族はすぐさま身体が幾重にも切り裂かれて命を散らす。誰も近づけぬ死の間合いを作り、カナの側面の防壁となりつつ、敵を屠り続ける。

 

 この快進撃に呼応する形で中央でも二本目、三本目の矢の動きが起き始める。

 

 アーサー王とガウェイン王の持つ二振りの聖剣の光が、炎が敵をなぎ倒し、ヴォーティガーンの城への道を切り開く。

 

 更には空からの落雷に火球の嵐。それはつがいのワイバーンと銀嶺の副官にして名高き魔術師、アンナのものであり、切り開いた道を更に広げて大部隊が通れるほどのものに。なり、そこへ連合軍本陣が走り、城へと向かう。

 

 王手を打とうとするブリテンサイドにそれを防がんとする蛮族、これにまた銀嶺が動く。足止めを計るために敵の側面に撃ち込まれる槍と矢の雨。それを、戦場の端から城への道、中央付近という距離もお構いなしに届かせて蛮族をハリネズミに変える。

 

 狼や魔猪は落ちている槍を、矢を拾い、騎士たちはそれを少し変わった棒で引っ掛けて投げる。即座につがえて打つ。投げた槍は普通ではありえないほどの距離を出し、矢と共に敵へと降り注ぐ。

 

 盾をも貫く攻撃に蛮族の足は止められ、問題なく本陣は城に到達。その後の防備もまるで鉄の壁をそのまま落としたかのような防御に加え、かつてアーサー王を食い止め続けたというヤマジまでもが参戦。これで完全に城へは蛮族は一切入れない形になり、更には城と元々の連合軍のいた場所により、挟撃の形に。

 

 巨人族の攻撃もいつの間にか隊を分けていたカナの部隊が一手に引き受け、その機動力で撹乱、制圧していく。

 

 この電撃作戦にはペリノア王、パーシヴァルは大笑いをして膝をたたき、トリスタン、ベディヴィエールは呆然としてこの光景を眺めるばかり。最高の騎士として名高いランスロットも安堵の表情を浮かべ余裕のある表情に変わる。グリフレット、ベイリン、ベイランなどは先のうっぷんを晴らすかのごとくもう突撃を始めた。

 

 この時に脳裏に思い浮かんだのはアーサー王のことだ。自分の手腕、作戦一つで敵味方巻き込んで気がつけば中心にいる。やり方こそ違えど、想起してしまうほどにはこの戦場の変わりようは凄まじいもの。

 

 拮抗していた戦場は一気に崩れてしまい、ヴォーティガーンを討つために駆けた両王は無事に城に到着。

 

 敵を入れないよう残った軍は壁となり蛮族の逃げ込む場所をも奪う。しかも先の攻撃で空いた軍の穴も突かれ、蛮族の軍の横陣も二つに裂かれそうになっており、時期に分断され、包囲蹂躙されることだろう。

 

 これを覆せる破壊力を持つ巨人族、魔獣は銀嶺が既に対処し始め、アンナ、ワイバーンの援護攻撃もあり、上手く抑え込んでいる。

 

 『銀の死神部隊』その名前に相応しい暴れ方、決戦の場は、既に騎士たちの狩場となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬっ・・・・ぐぅうう・・・」

 

 たどり着いた討伐すべき目標、卑王ヴォーティガーン。その王に剣を突き立て、攻めるアルトリアにガウェインだが、未だに勝機を見いだせずにいた。

 

 アルトリアの様な瞬間的な加速もなく、ガウェインのような太陽の加護による剛力もない。しかし、速い。いや、速く見せている。細かな足の動きや最低限の動きで此方の先手を打ち、更には聖剣の開放での攻撃も味方を射程に巻き込むように立ち回るせいで強力な一撃も出せない。

 

「はあっ!」

 

 攻撃の動作に移り、剣を構えようとしても。

 

「ふん」

 

 持っている細身の剣による連続の刺突に最低限の動作で行われる鎧の隙間を狙う切り払いを防ぐために防御の動作にするしかなく。今の所致命傷もないが、あちらも同様。いや、此方がかすかに傷が増えているのに対し、ヴォーティガーンは剣で受ける必要のないものは体を動かし、鎧で受け止め、その合間を剣で反撃する分。あちらが優勢だろう。

 

 数も、武器の質もものともしない、かつてのウーサー王の時代から戦い続け、磨かれた老獪な剣術。齢すらも武器に変えて数の差も逆に決め手を打たせない戦上手な動きにガウェインは思わず歯ぎしりする。

 

 外の戦況は優勢なのだろう。此方に敵が流れ込んでいないことも、落雷に火球の音が絶え間なく響き、狼の遠吠えも聞こえる。華奈、ランスロットを始めとした外の面々は作戦を進め、蛮族達を追い詰めている。それだと言うのに自身はいまだ卑王ヴォーティガーンを討てずに、追い詰めることが出来ていない。そんな心境を見透かすようにヴォーティガーンは此方を見て下らないと距離を詰め、腹部に前蹴りを打ち込んでガウェインを吹き飛ばす。

 

「ぐっ・・・!」

 

「貴様ッ!!」

 

 アルトリアの魔力放出による加速、それに合わせた胴薙ぎを受けてヴォーティガーンは吹き飛ぶものの、動きに合わせて飛んだだけで何も問題はないと着地、つまらないと言いたいばかりにため息を吐く。

 

「この程度か・・・・早く終わらせてしまおう・・・」

 

 そのまま後ろに下がり、杯に入った赤い液体を嚥下し、身体に変化が起き始める。飲み込んだ液体は赤き竜と対をなす白き竜の血液。人から逸脱し始める人、竜の混じり合った咆哮を上げ、闇を纏いヴォーティガーンを包み込む。

 

闇が渦巻き、辺りを満たしきった後、その闇の出現元から現れたのは、黒き巨大な邪竜。憎悪に満ちた目で此方を睨み、鎌首をも上げた後に、吐き出される黒い吐息。

 

 咄嗟にアルトリア、ガウェインは飛び退くものの、逃げ遅れたもの、呆気にとられていた者は容赦なく漆黒のブレスに蹂躙され、呑み込まれ、姿を消した。

 

「この剣は太陽の現し身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!!」

 

 生死を共にし、忠誠を誓う部下の死に激高して聖剣の真命開放をするも、それも闇のブレスでかき消されるばかりか、焔、そして闇のブレスによって見えなくなった視界から邪竜の抜き手をモロに受け、ガウェインは吹き飛ばされてしまう。

 

『聖剣を持ち、加護を持ち、これだけのお膳立てをされ、素晴らしき師を持って尚この体たらくか。情けない。貴様らの師、カナであるなら一人で私と十分に切り結んで立ち回るであろうよ』

 

 失望し、侮蔑の表情でガウェイン、アルトリアに吐き捨てる邪竜ヴォーティガーン。情けないと必死に動こうとするガウェイン、そしてそのガウェインをかばう形で立つアルトリアは歯噛みした。

 

 アルトリアから言わせればそもそもあの義姉? の剣技自体がおかしいのだ。聖剣でも魔剣でもない変わった剣でカリバーンを破壊し、教導任務ではペリノア王は愚かランスロットすらも赤子扱いする。今尚強さを増す化物。全く見たことのないあの剣技の高み。どのようにすれば手に入るのか。皆目見当もつかない。

 

『人の側にありながらも魔を知り、共に歩き、慈しむ特異な存在。彼奴ほどの傑物があるからこそ私も思う様に自身の道に邁進し、そして迷いも無くなったのだ・・・!』

 

 まるで華奈に直接出会い、理解者に、友を得たような言い方。そして少しの後悔、憐憫を目に宿したものの、すぐさま金色の目に殺気を宿し、再び口におぞましいほどの魔力が溢れかえる。

 

 間に合わないか。そう思った刹那、何かがアルトリアとヴォーティガーンの間に刺さり、その次の瞬間、周りの石壁、床がまるで生きているかのように動き、幾重にもヴォーティガーンのその巨大な竜の体を拘束、ブレスも口輪をされた上に石の拳のアッパーを貰い、中断。

 

『グッァォオオォオ!!?』

 

 突然の奇襲にブレスを封じられたことで混乱するヴォーティガーンを他所に、もう一つの何か、ではなく変わった形の剣が刺さると辺りに充満し、アルトリア、ガウェインの身体を、聖剣の輝きを封じんと、蝕まんとする闇の瘴気が祓われる。

 

「これは・・・・・」

 

「はい・・・あの方しかいません」

 

 地面を操る聖剣に闇を払う剣・・・ではなく刀。これを振るう騎士は一人しか無い。思わぬ騎士の参戦にアルトリアも、ガウェインも背負っていたものが一部降ろされたような感覚を感じ、同時に申し訳なく感じる。

 

「おまたせしました。ガウェイン様、アルトリア様。大丈夫ですか?」

 

 銀嶺騎士団隊長。華奈が救援に来てくれたのだ。深山、陽炎を回収し、鞘に収めつつ両者の容態をチェックし、一度離れると同時に拘束が解けた邪竜が姿を表し、加勢した銀の騎士を見やり、一つ息を漏らす。

 

『やはり来たか。カナよ。外の巨人族、幻想種はどうした?』

 

「問題なく全て倒し、妖精郷に送り届けました。残る蛮族も銀嶺に任せていますので、貴方様との約束、そして責務を果たそうかと。そうでなくても愛弟子であり、主。そして義妹の妹であり同盟国の王。殺させはしませんよ」

 

『ふむ・・・・・言うではないか。流石は私が見込んだ女だ・・・代行者の責務もこなしている。感謝しか無いな』

 

 まるで親しい友人と話すような雰囲気の華奈にヴォーティガーン。先程までの殺し合いの空気が一変したこと、一気に疑問が浮かんでは、アルトリアの中で暴れ回り、混乱が起きる。先程からのヴォーティガーンの発言に妖精郷。わからないことに単語。一体二人は何を知っているのだろうか。

 

「カナ殿・・・ヴォーティガーンとは一体どの様な・・・」

 

「? ああ、簡単に言えば殺し合うことを約束した友達みたいなものですかね?」

 

 益々わけが解らなくなる。あの卑王と華奈が友達? しかも殺し合うことを約束? いつ出会ったのか。どうして殺し合うことを約束したのか疑問は増えてしまったが。

 

「では・・・カナ殿は私達の味方。そう考えていいですか?」

 

「勿論。敵なら初手でガウェイン様の首をはねてヴォーティガーン様と挟み撃ちでアルトリア様を刺しているはずですから」

 

 あっさり恐ろしいことを言ってのける華奈にアルトリア、ガウェインの両者は背筋が寒くなり、表情が引きつるが、援軍であることを確認出来たことで体勢を立て直したヴォーティガーンに全意識を傾け、剣を構え直す。

 

『では・・・思う存分殺そうか』

 

 ヴォーティガーンも人の身体ほどの高さもある尻尾を振るい、腕を地面に叩きつけて瓦礫を飛ばし、ブレスを吐いて此方を苛烈に追い込む。しかし、華奈の聖剣「深山」による地面からの奇襲、足場形成。「陽炎」による闇のブレスより発生する瘴気の浄化。更には加勢により、情けないところは見せられない、華奈だけに働かせるなと息を吹き返したガウェイン、アルトリアの両名も面食らった邪竜の動きに慣れてきたことで連携を取り、時折聖剣を開放して攻撃を叩き込む。

 

再び行われる光と闇の激突。剣閃の嵐が竜を襲い、また幻想種の頂点が振るう一撃が、竜の息吹が騎士たちを襲う苛烈な鎬の削りあい。

 

「カナ殿、ガウェイン殿、少し、時間を稼いでもらっていいですか?」

 

「何をするつもりで?」

 

「ロンの槍を使います・・・ですが拘束の解除などいかんせん時間がかるので・・・・」

 

 しかし、それでも決定打には至らない。そう考えたアルトリアはこのために持ってきたロンゴミニアドを開放することを決意し、華奈、ガウェインに前衛を任せ、槍の開放に務める。

 

 そうはさせじとヴォーティガーンも動くが、華奈の鋭い剣戟で足場を崩され、その隙きを突く形でガウェインがその剛力で無理やり姿勢を崩す、または聖剣の炎で視界を防ぎ、その間に移動すると中々に近づけない。

 

「――聖槍、抜錨」

 

 その間に準備を整えたアルトリアの持つ純白の光で編まれた一本の槍。

 

「最果てより光を放て。……其は空を裂き、地を繋ぐ嵐の錨! 最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!」

 

 邪竜の心臓目掛けて突撃、放たれる一撃は確かに邪竜の心臓を貫いた。手応えもアルトリアの手にしっかりと伝わる。致命傷だ。これなら助かるまい。そう確信するには十分過ぎる傷。

 

 だが、それでも尚邪竜の火は潰えず、胸に刺さるロンゴミニアドを両手で無理矢理に引き抜き、ブレスを薙ぎ払って三人を牽制する。

 

『まだ・・・・・まだだ! まだ倒れ伏すわけにはいかぬ!! 私が死ねば人に追われた獣はどうなる!? 世界に不要と断じられた種はどうなる!! 居場所を失い、ただただ追われ、怯える日を過ごして無為に消え去るだけだ! 妖精、精霊、巨人、亜人、魔獣、竜種、神霊、その分霊や化身、半神・・・全て、全てが消え去ってしまう!! 勝手に霊長の長だと驕り、ふんぞり返り、どれだけの者を手に掛けたかも分かるまい!!! 強引な開墾で管理権を失った妖精がいた! 貴様らが信仰する教えに、大陸の馬鹿な教えに貶められた神獣が、神がいた! 勝手に関わり、思いのままに行かぬからとあらぬ噂をかけられて殺された精霊がいた! 封じられた者がいた!!』

 

 胸から血を吹き出し、口からは瘴気も血反吐も呪詛も吐き出し『ヒト』全て、自身をも下らぬ、憎々しいと呪いを吐き、金の両目からは血涙を流し、その禍々しい金の竜眼は赤く染まって更に禍々しさを増す。

 

『かつての王は司祭でもあり、管理者だった! 自然に生きるもの、国に生きるものと釣り合いを保ち、神や自然と調和を、生きるテリトリーを無理なく考えるものだった・・・それが貴様らは遠慮なしに踏みにじり、魔が力を借せば『悪魔憑き』と罵り話も聞かずに封じた。妖精が関われば『妖精憑き』と疎ましがり、好意的なものまで封じた。それで利があれば飛びつく・・・浅ましさにも程がある! 悍ましい!!! 貴様ら人間ほど悍ましい者ほどいない!! 人に世界の舵を渡せば間違いなくこの世界を・・・星を喰らいつくし、自身も喰らい滅ぼす!! そしてこの星を荒れ果てた何もないものに変える!!! だからこそ、私が貴様らを殺し、住処を失う、まつろわぬものたちの守護をせねばならんのだ!!!!!』

 

 流れ出る血の量、そして吐き出される瘴気の濃度も低くなっていることから、もうヴォーティガーンに力がないことは誰にも明白だった。しかし、アルトリア、ガウェインは、金縛りにあったように動けなくなっていた。

 

 卑王ヴォーティガーン、そんなものではない。眼の前で血涙を流し、荒れ狂う竜は決してそんなものではなく、ただただ、消えゆくかつての隣人たちのために立ち上がり、満身創痍になっても尚戦おうとする、志高き王であったのだ。

 

 自分たちと同じ、守るべきものの前に立ち、壁となり、礎にならんとする王だった。

 

『消え去れ! ウーサーの子、その血を引く騎士よ! そして、人にありながら魔と共にある騎士よ! 私達の世界に人間は不要なのだ!』

 

 残った力を振り絞り、今までの規模とは比べ物にならないブレスを吐き出す。

 

 ロンゴミニアドの一撃のために力を使い果たし、逃げるすべも無くなったアルトリアにガウェインは迫りくる漆黒のブレスに覚悟を決め、目を閉じたその時

 

「奥義・因果断裂・四門」

 

 その声と同時に聞こえた太刀音。それを皮切りに幾重にも重なった斬撃の乱舞の音。恐る恐る目を開けると迫っていた漆黒の闇は全て消え去り、驚愕に目を見開くヴォーティガーン、そして二つの刀を手にもつ華奈の背中が映り込む。

 

 あのブレスを切り払い、防ぎきったのか? 太陽の聖剣すらもねじ伏せる闇を・・・

 

 ありえぬ、しかしそれがなければアルトリアもガウェインも生きていないこともまた事実であり、驚愕の余り、二度目の金縛りに二人は襲われ、そして守ってくれた女性に見入ってしまう。

 

『がっぁああああ・・・・ここまで高みにいるのか・・・・カナよ・・・だが、まだだ、貴様を殺して、アーサーもガウェインも殺して・・・外の騎士共も殺して・・・勝たねば・・・』

 

「いいえ、ヴォーティガーン様。貴方様の野望はもう潰えました。この先どう足掻こうとも貴方の負けです」

 

 血に濡れた牙を見せ、尚も戦意を見せるヴォーティガーンに対し、華奈は毅然とした態度で厳しく告げ、自身の武器をすべて収め、戦闘態勢を解く。

 

『ほざけ! 私はまだ倒れていない、戦えるのだ! ここで貴様ら最高戦力を殺せば後は貴様らと比べれば有象無象の木っ端! まだ可能性は・・・』

 

「確かにここで私達を殺せば動揺は見込めるでしょう。ですが、私達を今から倒し、その後へ続く、野望をこなせるだけの力が貴殿にあるとは思えません。それに、外にいるランスロット様、トリスタン様、ペリノア様・・・他にもいる綺羅星のごとく揃う騎士たちは決して木っ端などと言えるほど容易い相手ではないでしょう」

 

 華奈の言葉にヴォーティガーンは思わず息を呑む。華奈の見立てどおり、今のヴォーティガーンは意地、執念、気力でどうにか立っている状態であり、攻撃できたとしてもブレスを一撃。しかも、渾身の一撃を今目の前で華奈に打ち砕かれた。

 

 何らかの奇跡で三人を討ち果たしても、その時点で力尽きて待っているのは死だけだろう。

 

『・・・・・私の負け・・・・・・・か、儘ならぬものよ。人を捨て、幻想の頂点になってもこの有様・・・私の野望は積み木細工、とんだ道化だったようだ・・・』

 

 敗北を認め、地面に身を横たえる黒い竜。先程までの憎悪、殺気は無く、諦観の色が移り、光を失っている。

 

「人の欲望は恐ろしきもの。貴方様の言う通り、間違いなくこの世界を喰らいつくし、まだ見ぬ大地にも手を伸ばし、そこに残る神も、神秘も殺し、喰らい尽くすでしょう。もし、計画が成功しても、それは長く続かないでしょう。断言します。人が考えるものであり、それ故に持つ底なしの欲を持つ限り、どんなに貴殿の計画が完璧でも壊すことでしょう。私が、剣を好きなあまりにこの境地に立ったように、一人でこうなる可能性もあるのです・・・それが何千、何万と束になれば・・・・・・・作り上げた理想郷は人の手で地獄に変わります」

 

 竜に言葉を紡ぎ、沈痛な面持ちで語るカ華奈の、全てを見てきたような悲しき目に、言葉の重さに、誰もが押し黙ってしまう。

 

『はじめから・・・・・計画倒れ、いや、引き伸ばしただけ地獄の釜を熟成させただけだったか・・・ああ、悔しいが、これで良かったのだろう。カナ・・・未だこの世界に残る幻想の住人は・・・』

 

「ええ、必ず妖精郷に送ります。その約束は違えるわけにはいきません。その上で、じつは管理代行者として貴殿・・・いえ、陛下に一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」

 

 もう死ぬ寸前、竜になったことでどうにか生きながらえているだけの竜に何を頼むのだろうか? 唐突な華奈の提案に皆の意識が集中する。

 

「私は管理者代行権限でガウェイン様と共に多くの幻想に生きる方々を妖精郷に送ったのですが・・・なにせ私は騎士団の隊長、ガウェイン様は一国の王。妖精郷に送り、それぞれの生活に手を貸すどころか、テリトリーの区分けも上手くいかないのです。どうにも多種多様な種族のルールの折り合いが上手くいかないものでして・・・そこで、竜となり、幻想種の頂点である貴方様を私が送り、そこで皆の指導や生活場所の手配などを行う、言うなれば妖精郷のリーダー、守護者になっていただきたいのです」

 

『!!!!??』

 

 頬を掻きながら話されるあんまりにも突拍子もない提案に思わず驚きの声を上げるヴォーティガーン。先程まで殺し合っている相手に抹殺、封印するどころか管理者の代弁者として妖精郷の住人の管理、援助を申し出たのだ。驚きもしよう。

 

「既に私の既知の妖精、精霊、幻想の住人、そして陛下に助けられた者たちは貴方様の来訪を心待ちにしています。どうですか? 人の浅ましさ、悍ましさを知り、幻想種の頂点となり、かつての自身の種族まで捨て去って立ちはだかった偉大な守護王。私も、モルガン様も、イグレーヌ様も、そして、この件に関して手を貸すと言った湖の乙女様、幻想種の方々も貴方ならと言っています。妖精郷の住人の守護、調停、引き受けてはくれませんか?」

 

『願ってもない・・・・・・まだ、まだ私を、負けて死ぬだけの私を求める幻想の住人の声があるのか・・・こんな幸せはない。・・・・ああ、私の駆けた道は、間違いでなかった』

 

 血に染まった瞳からこぼれ出る透明な涙。それに流されるように朱に染まった瞳は美しき金に戻り、まるで憑き物が落ちたような安らかなものに、表情も傷の苦しさも、憎しみもなく、自身の未来に思いを馳せる明るきものになっていた。

 

 望外の幸せ。死んで、妖精郷でも敵対したモルガンらに消滅させられるのが関の山だと考えていたはずが、守りたいと思っていた者達の楽園の守護任務。しかも代行管理権限を借り受け、自身も認めた騎士から依頼される。これが幸せでなくて何になる。もう現世に未練はない。思い残しも彼女が、太陽の騎士が、その母が引き受ける。野望は敵わなかった。だが、新たな門出が待っていた。

 

 人であることに苦しんだ日々も、夜明けを迎える度に薄れる神秘に怯えながら戦い抜いた日々も、幻想種の保護のために身分を偽り走り抜いた日々も・・・・・・無為に終わるものではなかったのだ。

 

『では、最後に・・・私の我儘を聞いてもらいたい・・・カナ殿よ』

 

「何なりと。陛下」

 

『私の介錯を貴殿に頼みたい。私の首を土産にし、権限を得て、仲間を労い、その報奨でこの島を駆けて・・・まつろわぬ者達を救って欲しい』

 

 そう言って首を伸ばして華奈の斬りやすいようにし、目を瞑る。もう、震えも、何もこの世界に未練はない。後は安らかにこの世界を去りゆくだけ・・・・・・・

 

「相分かりました。幻想の守護王ヴォーティガーン。まつろわぬ者達の明日のために走りきった白き竜『アルビオン』の代弁者。ブリテン島の管理者、モルガン様より管理代行権限を借り受けたこの舩坂 華奈が謹んで介錯をさせて貰いましょう」

 

 華奈の宣言、鞘から解き放たれる刀の音にヴォーティガーンの動きは完全に止る。華奈も陽炎の力を放ち、柔らかな陽光が激戦で壊れた城の中に満ち溢れる。

 

『――・・・ありがとう』

 

「さらば!」

 

 ヴォーティガーンの口からポツリと溢れた感謝を合図に陽炎を一閃。振り抜かれた一撃はヴォーティガーンの首を見事に両断。溢れ出る血は城から大地にしみ込み、陽炎の魔を祓う力で竜の体に残る瘴気は現れ、黒き身体も純白の体に変わる。

 

 肉体はやがて崩れ去って白き灰になり、風に舞って場外に舞い散り、既に蛮族を討ち果たし、決着の付いた戦場の騎士たちのもとに降り注ぐ。

 

 それは、朱に染まった戦場を白く塗りつぶすように戦場全てに降り、流した血を、傷を覆い隠そうとする。純白の雪のようで、誰もが城から散り出たこのあまりにも白い灰に視線を奪われる。

 

 その後アーサー王の勝利宣言、ヴォーティガーン討伐のことが全軍に知れ渡り、その勝報はブリテン、その同盟国に即座に早馬でもたらされ、この島に残るブリテンに敵対する最後の勢力の消滅したことがこの日、確実なものになる。

 

 それは、アーサー王のブリテンが事実上のこの島の統一を果たした事にほかならず、この事に国全てが歓喜の声で満ち溢れる。ここに魔王を打ち倒す騎士の王あり。誰もが讃え、褒めちぎり、憧れ、これから訪れるであろう平穏に思いを馳せた。

 

 

 

 




取り敢えず、今回で大きな区切りの一つは終了。ちゃんと書けているのか、ヴォーティガーンを魅力的に描けているのか不安で仕方ないですが、出さなきゃ物語は進まない。ある漫画家が「漫画作品を出すのは自分のケツの穴を見せるようなもの」というような言葉を言っていた記憶が朧気にあるのですが、ああ、そのとおりだなと嫌という程実感しました。

まあ、ちゃんと完結までがんばりますけどね? 私自身、華奈の物語の結末をちゃんと出したいですから。

よくよく考えたら、白き竜の代弁者であり、ウーサー世代から戦って生き延びて、勢力を維持できるヴォーティガーンは相当に恐ろしい男ですよねえ。もし彼に少しでも多くの賛同者がいたらアルトリア、華奈はより手こずっていたでしょう。

取り敢えず、シリアスは自分は不得手なのかなあと思い、また次回からはゆるい日常を書いていけたらと思います。投稿から数日時間があいているのになぜかお気に入りが増えていてえっ、マジですかい!? と嬉しい驚きを貰ったりして、ケツ叩かれながらもゆっくり書きますので、お待ちいただけたら幸いです。

最後に UA 18027件 しおり 52件 お気に入り 187件 有難うございます! 皆様また次回までさようなら。さようなら。


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華奈、円卓入るんだって

前回は色々恥ずかしいやら、疲れたりやら。でも、色々嬉しいお言葉をいただけて嬉しかったです。これからも宜しくお願いします。


(;^ω^)月∠(`・ω・´)日

 

ヴォーティガーン様を倒し、魂も無事に妖精郷に送れた事を確認した私達は、城内の残存兵、生き残りを探した後、ガヘリス様が手配してくれた兵士と交代でオークニーへ帰還。

 

 もし私がもっと早くこの世界に来て、ヴォーティガーン様と出会っていたら私はあの方に仕えていたかもしれませんね。

 

 今回は私もなけなしの魔力をフル活用、敵を殲滅することに全力を費やした皆も疲れ切っており、ガウェイン様の心遣いで半月の休暇をいただくことになりました。助かります。魔力もすっからかんでしたから。

 

 はじめての大戦なのにも関わらず、火球を吐き、撹乱役まで買って皆を守ったレギア、イネンナには今度熊や牛、今回の戦で手に入れた馬をプレゼントしましょう。アンナ様が指示を出していたそうですし、アンナ様の部隊に組み込む時に送りましょうか。

 

 ただ、今回の件で色々疑問が湧いてたアルトリア様は私を逃してくれるはずもなく、帰還の道中で開かれたブリテンの会食にも招待という名目で連行、質問攻めになりました。

 

 これは少し秘密の話にしたいので、会食が終わり、ガウェイン様、使い魔を通してではありますがモルガン様も加わり、私とガウェイン様の行っていること、島の裏の事情、モルガン様らの血族の話をすると突然泣き出す始末。

 

 背中を擦り、宥めさせて聞いてみると折角こうして気兼ねなく話せる家族がいなくなることが嫌でついつい泣き出してしまったとのこと。王といってもまだ若く、ようやく人らしい時間も手に入れたばかりの身。そうなるのも仕方なしですか。

 

 ガウェイン様はアルトリア様を見て頬を染めない。美しいのは分かりますけど、貴方様の叔母ですからね?

 

 神の分霊の側面を持っているモルガン様、イグレーヌ様は必ず妖精郷に行かねばなりませんし、ほぼ半神のガウェイン様らも後継者を作った後、神秘の減り方具合ではすぐに行かなくてはいけない。

 

 私も数度足を運んで住めるか検証した結果、問題ないので誘われましたが、あくまで人間として生きる。と伝えたので今のブリテンの幻想種を全て送ったら権限を返して普通に生きるつもりですけどね。・・・・・まあ、女神の側面を手に入れたモルガン様達がこっそり何かをするかもしれませんけど。

 

 アルトリア様も引き下がるつもりは無いようで『私も妖精郷に行きます!』と言い出して下がらないです。竜の因子を持っているので、何ら問題なく妖精郷で過ごしていけるのでしょうけど、問題は後継者ですよねえ。

 

 ここまで大きくなった上にヴォーティガーン様まで倒した。アルトリア様がいなくなることは間違いなく国の崩壊待ったなしですから、後継者を育て、問題ないと判断した上で退位しなければせっかくの国も崩れちゃいますし。

 

 そう言うと『子供を作ります!』と返してきました。それが手っ取り早いですよねえ。王の血を継いでいることからも後継者争いにも問題ないでしょうし。

 

 ただ、性別を偽って王様をやっているので今の所お相手がいないそうで、今から探して見るそうです。

 

 今のアルトリア様の年齢は20代半ばほど。・・・あれ? 私の国の戦国時代でも17過ぎたら行き遅れ、なんて言われていましたけど、このブリテンでも娘は15,6で大体は結婚しますし、もう結構な行き遅れになるのでは・・・

 

 ・・・・・取り敢えず素敵な殿方に出会えることを祈りましょう。

 

 最後に、モルガン様、ガウェイン様に薦められたことと、前から考えていたのか、アルトリア様も私と義理の姉妹になることとなりました。今更ですが、女神の分霊で元女王、竜の因子を持つブリテンの王が妹とは・・・私の周りの人物がどんどん魔境になっているような気が・・・・・・・まあ、皆様幸せそうですし、私もまんざらではないので構いませんか。

 

 

 

 

 

 

♢月☆月

 

 オークニーに戻り、数日後にまたまた論功行賞が行われることになりました。実は私達がヴォーティガーン様と殺し合っている隙を突いて別働隊という名のローマの尖兵が送られていたので、心配への備えを使うことになり、ブリテンに踏み込んできたサクソン人達をマーリンの千里眼ですべての配置を発見。ジャック将軍、ケイ様で相手の勢いを止め、ガヘリス様で背後を、マーリンが側面を突いて三方向から攻撃して壊滅させたそうです。

 

 因みに、ローマの手だという証拠はまた捉えておいた高級武官のいる檻の目の前で専用にんにく塩ダレ焼きそばを作り、バーベキューの食事会を見せつける刑にして情報を吐き出させました。その後はまた悪さをしないギアスを仕込んで開放。おかけで地下牢が香ばしい香りにしばらくなりましたけど。

 

 さて、そんなこんなで私達のヴォーティガーン様の討伐、更には別働隊の討伐も含めた論功行賞ですが、ジャック将軍がこの国第二位の将軍。私は第三位の将軍になると同時に今は発表しないが、ある理由から特権を一つ与えられました。

 

 それは私が好きな時に好きな場所に移動でき、銀嶺全てを好きに動かせるというもの。更にはその際に消費した物資の補給も軍、国が行うというもの。つまり『軍部からの完全独立遊撃権』を与えた上でいつもどおりの支援物資をくれるという破格の待遇。

 

 理由としては今までの銀嶺の戦い方から、下手にあれやこれやと連携を取ろうとするよりも銀嶺の足の速さを活かした遊軍であり続けることの方が強みを活かせること、また、今回の戦での銀嶺の破壊力を見せつけたことで馬鹿をやろうとする諸侯への牽制も兼ねたものであるとガウェイン様は説明。

 

 まあ、放し飼いの狼の群れがオークニーに攻め込んだら即座に襲いかかるのですから攻め込む、侵攻を考える輩からはたまったものではないでしょう。後は、管理者代行として自由に動くためのものですかね。

 

 そして、今回で銀嶺は2000人部隊への格上げ、それと銀嶺の拠点周辺の土地を領土に貰いました。今回は誰もが賛成の声を上げて祝ってくれまして、宮殿が歓声で揺れました。

 

 それと、今までジャック将軍、コーウェン将軍、仲の良い文官、モルガン様たちから借りていた土地での実験栽培や農耕と自身の土地を持っていないのが現状だったので、これは素直に嬉しく、銀嶺の部隊も大歓声を上げて喜んではしゃぐ始末。狼達も吠えるわレギア達も雄叫びを上げてカオスな論功行賞のまま終了。

 

 さて、人材確保と面接の準備ですかねえ。取り敢えず3,400人ほど確保できれば2000人(匹)部隊になるのですが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

◎月(,,゚Д゚)日

 

 本日は先の戦で手に入れたヴォーティガーン様のかつての居城に出向いての会議となりました。私だけの出向でよかったはずですが、ガウェイン様も同行。何やらウキウキしている様子でしきりに体を揺らして落ち着きがないです。

 

 到着するとブリテンの中でも将官、名だたる騎士が揃っており、私達を出迎えたことで青空会議を開始。どうにもアルトリア様はこの白い巨城をキャメロットと名を改め、今後はここをブリテンの王城にすること。そしてマーリンの準備した巨大な円卓。どうにもこれには魔術がかけられており、アルトリア様が認めたものでなければこの席に着けない。というもの。

 

 これをキャメロットに置き、近衛騎士団も名を円卓の騎士に変えると宣言。準備した円卓はその円卓の騎士、英雄達の絆を繋ぐ宝なのだそうです。

 

 その栄光ある円卓の騎士の一員にガウェイン様、私も是非とも加わってほしいとのこと。

 

 ああ、ガウェイン様が浮かれていたのはそのせいですか。高みにある玉座に座るのではなく、臣下、認めたものと同じ机に着き対等であると示す円卓は確かに素晴らしいです。ガウェイン様もそれを理解した上でこの円卓に加わるのでしょう。円卓という組織には入るが、あくまでアルトリアとは同盟相手であり、対等。かつ親交を深められると考えた上で参加したいと。

 

 まあ、私情も多分にあるのでしょうけど、これは良い判断かと。

 

 ですが、アルトリア様の判断は同時に王の権力を狭める原因、家臣にすら対等に扱わなければ求心力を保てない。と周りから誹りを受けるものになりかねない。『そこまで家臣に媚びへつらう王がいてたまるか』と。何せ身分、体裁はこの時代では大切なもの。風聞一つで国が揺らぐことも決して珍しくない。

 

 周りを見れば理解して喜ぶもの。盲信していてこの采配にひたすら感心するものといる。これは少し宜しくありませんね。

 

 私は『今までどおりの勤務形態でいいなら円卓に入りますよ』とアルトリア様に伝えた所問題ないと快諾。円卓の末席に席を貰い。私も円卓の一員に。

 

 まさかここまでの栄達を遂げるなんて思いもしませんでしたね。ただ、心配はあるので、会議を終えたアルトリア様とまた二人で会話を始め、『円卓を置く意味が、アルトリア様がそこに座る意味が分かっていますか?』と質問すればあちらもそれは承知の上らしく、かつて送った『オークニードタバタ相談会』

 

 あれのように王と家臣と忌憚なく意見をぶつけ合い、上下の区別も身分も関係ないような対等な関係が、心底愉快なあの光景に触発されて今回の円卓の騎士発足を考えたのだとか。

 

 志は立派ですが、あれはぶっちゃけ目指しすぎないほうがいいような・・・普通に元農民が王弟に絞め技かましたり、王が家臣をホームランするようなハチャメチャ、ゆるすぎるギャグ漫画のような光景ですし・・・・・まあ、確かにそういう関係は憧れますものねえ。

 

 最後にそれをする以上私も遠慮なく諫言を言いますからと伝えて解散。戦の傷を修復し、王城に相応しいものにするそうなので、一度銀嶺を呼び集めて作業を手伝いましょう。

 

 

 

 

 

 

(´;ω;`)月(;^ω^)日

 

 私とガウェイン様の円卓入り。更には先の論功行賞で私に与えられた特権の意味の発表で国内が騒がしくなり、何処もかしこも騒がしい中、銀嶺の人材スカウトを一段落させ、2000人隊になり、拠点周辺に新たなメンバーの家の準備、キャメロットの修復作業、荒れた場所を耕したり、訓練をしたり、たまに遠出しては管理者の仕事をしたりと平常運転を送る私達。

 

 なのですが、通りがかった町で何やら不審者騒ぎが起きており、出向いて目撃者に話を聞くと何でもオーガ、悪魔が出たとか何とか。どうにも穏やかではないので悲鳴、人の逃げる先に行ってみるとこの時代に珍しすぎるサングラスにパンチパーマ。そしてそれを差っ引いても強面すぎる人相の若い男性。

 

 あ、どうも組長リリィさん。一体どうしたんですか?

 

 私が組長リリィ様に話しかけ、保護しますと町の方々に説得し、円卓の方なら問題ないと信用されたので栗毛に乗せて拠点に帰還。お昼がまだだったので、塩焼きそばを作り、皆で食べながら話しを聞くことに。

 

 先程まで不審者どころか悪魔使いされていた扱いが一気に変わり、見たことのない料理に戸惑いつつも、焼きそばで心がほぐれたのか話してくれました。

 

 名前はクラーク。何でも旅人らしく、最近ヴォーティガーンを倒して治安が良くなっているだけではなく、前々から砂糖や蜂蜜、武具を輸出しているオークニーが気になって来たはいいものの、その人相のせいで会う人会う人避けるわ逃げるわ。命乞いをされるわで上手く行かず、私に保護されなければ警邏に引き渡されそうだったとか。

 

 そりゃあ、言っては失礼ですけど、そこらの盗賊、蛮族よりも迫力がありますからねえ。これでドスの利いた声を出せば新兵では気絶する人もいるかと。

 

 で、その産業を起こした銀嶺に出会えたので、しばらくは周辺を散策してみるとのこと。あ、そうだ。クラーク様はその後のアテはあるのですか?

 

 聞いた所両親は早く亡くなっているので特に帰る場所もなく、また何処かに行こうかと考えている。とのことでせっかく出会えたのだからと試しに模擬戦をやってみたのですが、これが中々光るものがある。折角だから銀嶺に入らないかとスカウトしたら飛び退いて震え、入っていいのでしょうかと聞いてくる。

 

 いやあ、少し話しただけでもいい人だと分かりましたし、面構えだけで判断する馬鹿もこの部隊には一人もいない。旅人という身分も関係なしですし、才能は少し見ただけでも十分な将才、武の才を持っているのは皆が認めましたし、どうでしょう? ここで根を下ろして働くのは。

 

 この申し出に泣きながら入ってくれるといい。新たな副官として鍛えることに。いやまあ、嬉しいですけど、泣くほどのことではないかと・・・新たな戦力を手に入れたこと、そして、副官としてどのように鍛え上げようかとアンナ様、ダンカン、ヤマジは目を光らせ、部下たちもどんなおもしろ将官になるかと話題にして、勢いのままに真っ昼間から歓迎会になりました。

 

 その後トランプやウノでの賭け大会に発展しアンナ様が大勝ち。騒ぎを嗅ぎつけたガウェイン様らにクラークを紹介。ガレス様は大号泣。まだ歩けないモードレッド様は早速クラークに懐いて離れなかったりと中々に好調な滑り出し。

 

 銀嶺に入れただけではなく、オークニーの王、その兄妹にも一日で一気に会ったことでクラークは緊張してそれどころではなかったそうですが。

 

 

 

 

 

 

(・∀・)月(⌒▽⌒)日

 

 オークニーにまた一つ、面白い調味料。そして日本生まれの私には大変馴染み深い物が完成しました。それは・・・・・・醤油。日本人ならたまらない、生活の基盤の一つの偉大な調味料! 蕎麦、小麦の栽培に並行してエンドウ、大陸から仕入れて品種改良した大豆類で実験、拠点の地下室で発酵、失敗しては原因を調べたり、モルガン様やイグレーヌ様、アンナ様と地下の整理をしたり、使えなくなった物は泣く泣く肥料にしたりと十数年間。仕事の合間合間での長い努力がようやく実りました。

 

 発酵させて作ることから皆からはローマのガルムに近いのかと口々に言い合い、そして嗅いだことのない匂いに見な興味津々。この部隊、私のわがままに付き合ったせいで皆料理、食については関心が強いですからねえ。男衆だけで集まって料理会し始める騎士団とかここだけでしょう。

 

 ダンカンに鰻を獲ってこさせ、アンナ様、ヤマジには鳥を仕入れてくるように頼み、クラークには食事会の準備。私は砂糖とカタクリの代わりにじゃがいもで拵えた片栗粉を醤油にブチ込んだとろみのある甘醤油ダレ。もう一つの甘ダレを作りつつ、竈に火を入れて準備。

 

 早速ダンカンが鰻をカゴいっぱいどころか部隊全員に配って余るほどの量を持ってきました。何でも漁をしていると話しかけてきたおじいさんと談笑した所、鰻が丁度市場で大量に余っているという情報をもらい、市場にも足を運んで交渉。結果安くとんでもな量を仕入れたそうです。

 

 とても私だけでは捌ききれないのでガレス様、モルガン様、イグレーヌ様、ロット様も呼び、調理場で鰻を捌くことに。

 

 どうにか捌き切ったタイミングでヤマジ、アンナ様が鶏肉を抱えて帰還。クラークも準備を終えてバンズの準備を始めていました。流石は気が回りますね。

 

 私は鰻の蒲焼に取り掛かり、鶏肉、バンズは他の皆様に任せ、竈、拵えておいた七輪でタレを塗りたくった鰻を焼いていく。ああ・・・香ばしい香り・・・これですよ・・・これこれ・・・何十年ぶりのこの香り。涙が出そうです・・・

 

 この香りに皆様よだれを垂らして蒲焼に釘付け、酒を並べ、フォークを準備し、もう子供のようにワクワクしています。何だか、私が料理をこの国に教え始めた時期を思い出しますね。

 

 鶏肉も切り分けたり、出来たので今度はとろみのあるタレで照り焼き、生姜と醤油を合わせたタレでサプライズの豚の生姜焼き、チキンの照り焼きはビーツとバンズでテリヤキバーガーもどき、フライドポテト、ガレス様や銀嶺の家族、子供のためのブドウジュース、鰻の蒲焼と豪華なご飯。

 

 またエールを引っ張り出し、ワインを飲み始めて酒盛り開始。いやはや、少し前も歓迎会で騒いだのに、元気ですねえ。お祭り騒ぎが好きとも言いますか。

 

 この醤油についてモルガン様、ロット様は作れるかと聞いてきましたけど、何せ管理や発酵、醸造の手間が中々に手間なので、多くは作れないので、銀嶺、モルガン様達のみに製法を教えて少量を高値で販売、大陸、ローマに売りつけて外貨、金銀の獲得の手段にしようとプラン立案。

 

 ただし、オークニー、ブリテンにしっかり普及。生産地ということで安く回せるように手配してからということで醤油普及の話は終了。

 

 翌朝には皆様飲み過ぎと食べすぎて動けなくなっていました。全く・・・二日酔い専用の薬湯、胃薬はありますから皆さん飲んでください。美味しそうに食べてくれるのは嬉しいですけど、食い倒れはだめですよ。

 




いよいよ円卓の騎士の結成。華奈、ガウェインの円卓への加入。ガヘリス、アグラヴェイン、ガレスは不参加。まあ、モルガンに道具にされず、国も順調に運営。移る理由があんまりないし、こうなっちゃいました。それでも機会があればアルトリアのために援軍で参加することもあるかもですが。ファンなのには変わらず。

そして組長リリィことクレヨンしんちゃんの園長先生こと高倉文太の銀嶺入り。姿は若い頃の姿と皆様がよく知るあの姿の中間だと思ってください。

大阪での園長先生同士の会議で集まった面々があんまりにも強面揃いで会合場所のお好み焼き屋さんに来たチンピラを追い返したり、不意打ちだと自身の嫁さんや先生方が命乞いをするレベル。学習漫画では銀行強盗が泣きわめいて逃走するレベルの強面。でも、あの優しい心の持ち主はそうはいないと思います。あんな素晴らしい大人になれるのが作者の目標の一つですね。

中の人は仮面ライダー一号で声の代役、ギンガマンの知恵の樹モークだったりと私は大変お世話になった方でした。今回は銀嶺の若い有望株として参加。どんなタイプの将になるか私も楽しみですね。

因みに、これ以外の副官の候補はヴァンプ将軍、ゆかりんこと緩い八雲紫、野原ひろし、ジャギ様が上がっていました。何だこの候補。


今回出された醤油、それとローマの引き合いに出されたガルム。日本で言うところの「魚醤」タイで言うところの「ナンプラー」で某平たい顔族の漫画でもちょこっと出ていたり、今尚一部の国で使われる調味料。醤油もそうですけど、調味料の歴史は調べると意外と面白いものが多くて驚きます。

そして、今回も新たな立ち絵、銀嶺騎士団の魔術師にして華奈の前世からの家族、アンナの立ち絵も友人が完成させたので載せちゃいます。


【挿絵表示】


いやあ、これで姿が変わらないので所謂合法ロリになるんでしょうかね? 可愛らしさが素敵です。

最後に UA 19351件 しおり 56件 お気に入り 201件 まさかのお気に入り200件超え! そして、UAが2万代目前。皆様応援ありがとうございます! これからもお願いします!! では皆様、さようなら。さようなら。


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アルトリアブライド(実装されるかは不明)

前回の話以降、お気に入りがいつもよりもすごい勢いで増えていてびっくりしました。組長リリィの参戦がきっかけなのか、はたまたアンナの立ち絵効果のせいなのか。嬉しいですが、本当にびっくりしました。

因みにクラークの名前の理由は組長先生の本名が高倉文太→高倉→(いじって)クラークになりました。



\(^o^)/月・ω・日

 

 近々妖精郷に顔をだすのであるものを用意している傍ら、休暇で銀嶺の拠点で休んでいたアルトリア様が突如私の鍛冶場に突撃してきて頼みたいことがあると言い出してきました。

 

 まあまあ、落ち着きましょう。何があるのですか? 言い忘れていたことでも?

 

 聞いた所によると、近々結婚するそうで、ギネヴィア様というお方で確か、傘下に入った王(今は領主)の娘。私はちょうどオークニーにいた時に円卓に話して、私には話していなかったので休暇なのは承知で伝えたかったそうな。

 

 まあ、アルトリア様が休暇の時は政治的な話はしない約束ですが、今回のような話であればいいですよ。私も早く知れて嬉しいですし、目出度いですからねえ。

 

 更に教えてくれた所によると、選定の剣を抜いたときからお付き合いをしていたそうで、それはそれは仲睦まじいのだとか。ほほう。アルトリア様はレズビアンなのですか? 私はどちらでもいけますけども。

 

 この質問には顔を真っ赤にしながら半泣き気味で否定。ノンケなのだそうで。気を取り直して付き合うことになった理由を聞いてみればこの島を統一した後の統治体制に政を問題なく行うために彼女の家柄、諸侯の中でも飛び抜けた勢力を持つ発言権をこちらの懐に呼び込み、これからの政治に必要な諸侯の手綱を握るためにギネヴィア様の後ろ盾が必要だとか。

 

 円卓になって色々分かりますが、改めてアルトリア様がブリテンの王であり、この島最大の戦力であることは確かですが、それはあくまで「武」で諸侯を黙らせて、取り込んだものであり、政自体はまだまだ諸侯に示せていない部分が大きく、それ故に未だにアルトリア様に懐疑をもつ諸侯、家臣、陪臣も少なくはない。

 

 それに、この島の統一の強化に、民草をより活気づける意味でも今回の縁談はまあ正解。下手に後伸ばしにして有象無象の縁談話や策略が繰り広げられるのはあまりよろしくないです。

 

 ・・・ただ、まあ問題は『性別詐称』の件は伝えたのですかと聞くと『結婚初夜に伝える』と返してきました。

 

 うーん・・・私達の国では幾分薄れていますけども、まだまだ世の中は男性主権の社会。もしこの性別についてのことが露見すればまず円卓も、この国も割れてしまうことは待ったなし。騙されていたと憤る、女を主君と仰いでやるものかと離反する方は間違いなくいますからねえ。それも大勢。

 

 十年近く付き合った仲でも・・・いや、だからこそ自分も騙されていたというショックが大きくなるでしょうし、何より理想の王子様の正体が女で、思い描いていた結婚への理想も砕かれてしまう・・・やけくそに、離縁したいがために暴露する可能性も無きにしもあらず。

 

 その事への対策は講じているのかと言う質問にはアルトリア様も織り込み済みで説得してみせる、駄目でもマーリンに認識阻害の魔術で男であると思い込ませる。と中々にえげつない手段ですが考えている模様。

 

 夢魔との混血児であるマーリンは幻術関係の魔術が得意分野。やろうと思えば私やイグレーヌ様ですらもアルトリア様に見せるなんて朝飯。しかもギネヴィア様は魔術に関する習いは精通していると聞いた試しもない。あっさりとマーリンの術中にはまるでしょうねえ。

 

 一応アルトリア様の懸念事項はモルガン様にも伝え、私からはアルトリア様に説得しようが認識阻害をしようがギネヴィア様には女としての幸せや悦び、責務をこなさせてあげて下さいと念入りに伝えました。

 

 結局殿方と認識させても、ちゃんとお相手してあげないと離縁、夫婦仲の破綻になりかねませんから。こればかりは離せないかと。アルトリア様も了承してくれたので話はこれにて終了。本日は焼きそばパンでも作りましょうか。

 

 

 

 

 

 

(-_-メ)月m(__)m日

 

 アルトリア様の結婚式に備えて食材の選別に準備、下ごしらえを始める傍らにクラークを鍛えていますが、これまた有り難い才能の持ち主でした。

 

 器用万能と言いますか、教養もあるので事務などの裏方も出来、魔術は基本なら出来るので簡素な下地の底上げも可能、攻撃も防御も戦術眼も中々、個人の武力も高い。私達の仕事をどこでも補佐でき、代役も可能。万能型のバランスが取れた面白い将官。

 

 副将に据えれば間違いなく文句なしの働きを出来るので、私、銀嶺の副官、古参のもとで様々なことを学ばせて楽しんでいます。アンナ様達も面白い新入りが来たと今までの銀嶺のノウハウを叩き込んでおり、武器も直槍をメイン武器にして演習で一番頑張ったり、野草やキノコの知識をノートに書いて覚えようとしたりと楽しんでいます。

 

 当初は銀嶺でも怖がる人がいましたが、すっかり馴染んでいますし、魔獣達はクラークの心優しい本質を見抜いているのですぐさま懐いて魔獣との連携も上手くいき、もう数回演習を重ねて軽い遠乗りに付き合わせれば最前線に参加せても問題はないでしょう。

 

 私とアンナ様は料理の準備、ヤマジは結婚式に備えてパスタマシンの整備、ダンカンとクラークは訓練がてら肉の調達を頼んでおき、モルガン様、アルトリア様と使い魔を通しての打ち合わせで一日が過ぎちゃいました。

 

 夕方に戻ってきたダンカン、クラークは熊を三頭、猪を四頭、鹿を二頭仕留めてきてくれたので、アルトリア様のご馳走のために熊の右手、猪のタン鹿のつみれ団子を準備、この際に解体の仕方もクラークに教え、風呂で汚れや臭いを洗い落としてまた明日の準備に備えて就寝。いやはや、どうなることでしょうか・・・

 

 

 

 

 

 

✿月❁日

 

 本日はいよいよアルトリア様の結婚式。キャメロットのテラスに立つ若き王に王妃はさぞや絵に、新たなブリテンの門出には十二分の絵になったでしょう。

 

 まあ、私は来てくださった皆様の料理にかかりきりで見れませんでしたが、先に晴れ姿のお二方に会えたのでその絵の想像は直ぐに出来ましたし、後で皆様に感想を聞いたり、モルガン様に映像記録を見せてもらえばいいですから。今はこの猪のタンの焼き肉と頬肉の煮込みスープを準備せねば・・・・

 

 因みに、ギネヴィア様でしたがこの時代ではまた珍しい眼鏡をかけた穏やかそうな女性。なぜでしょうねえ。同じ眼鏡なのに、ギネヴィア様は穏やかな印象を際立たせますが、クラークはむしろ威圧感が増して・・・ヤマジにもグラサンを付けさせましたが、もはや西部警察でしたし。

 

 話がずれたので戻しまして・・・今回の結婚式は国王ということもあり、規模が大きく、またこの際にコネを作ろうとする諸侯、貴族は当然いるので、まあ、間違い、騒ぎは起きないかと思いますが、モルガン様達にはヤマジ、ダンカン、クラークを護衛に付け、外に身体をお風呂で綺麗にしたハチと花子も待機、森の方では銀嶺の魔獣にレギア達が待機してもらっているので、なにか騒ぎが起きれば結婚式に乗り込んで首謀者をひっ捕らえてもらう手はずに。

 

 なったのですが、まあ騒ぎは起きずに式典は和やかに終了。夜更けもいいとこですが皆様で集まり、わざと多めに作って余った料理を警邏をしてくれた魔獣の皆様、そして、料理に手を貸してくれたアンナ様に護衛をしてくれたヤマジ達と食べながら話を聞くと、まあ当然といいますか、旧ブリテンの元家臣たちが多く来てはモルガン様、イグレーヌ様に挨拶をして、すり寄る輩も多かったそうです。

 

 クラークにヤマジの威圧で問題なかったそうですし、同盟国の参加である以上は此方も礼儀を通さねばいけませんが、かつて見捨てた元家臣まで挨拶に来ていた時は複雑だったそうで、『お姉さまに助けられる様なあの境遇にならなければここまで楽しい生活にならなかったのかなあ』とモルガン様は呟いたりしていました。

 

 女であればそりゃあトラウマものですものねえ、臣下に裏切られてあの扱いは。そんな感傷も結婚式が終わって気楽にな状態で食べ始めた食事に流されて気分を切り替えられることが出来たようで良かったです。強いですねえ。

 

 そして、問題のアルトリア、ギネヴィア夫妻ですが、秘密を守ると誓ってくれました。無理矢理にでもギアスを掛けておく事も考えていたのですが、ここはアルトリア様を信じ、そしてギネヴィア様も信じましょう。まさかのカミングアウトに耐えてここまで言ってくれたお方。その言葉の重みも知っているはず。

 

 ただ、二人には休暇のときには思う存分ストレス発散すること、相談があれば聞きますよと何度も念入りに伝えて私達も帰還。モルガン様達はレギアに乗って夜の遊覧飛行を満喫しながらでした。これ、新たな妖精とかに間違われませんよね? 若しくは新手のE.○.・・・いえ、劇場版ドラえ○ん? 取り敢えずはしゃぎ疲れて爆睡した女王を部屋まで送って私達も拠点で就寝。楽しそうでなによりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

(*´∀`*)月(;´Д`)日

 

 近頃のブリテン、いえ、この島は結婚ブームなのでしょうか? 本日ブリテンで勤務していたガウェイン様、付添と研修のクラークがお嫁さん候補を連れてきて私に挨拶にときました。

 

 ガウェイン様の方はラグネル様。そして、クラークはシーマ様という女性。どちらも美人ですし、女性の方々もまんざらではないのですが・・・シーマ様は黒髪が特徴的な女性で、芯の強い印象を受ける女性ですけども・・・問題はラグネル様で年齢は19歳程だそうですけど、14~15歳ほど、下手すればもっと幼く見えるほどの容姿に、爆乳という言葉で片付けていいのか思うほどの大きな胸。しかも何か呪い付きと来たもので、頭を抱えてしまいました。

 

 ・・・・・・・何処で教育を間違えたのでしょうか? そんな兆しは見た覚えもないですけども・・・私なのでしょうか? 私のイタズラへのお仕置きがそれほど厳しくなかったせいなのでしょうか?

 

 思わず明後日の方向に思考が行きかけ、自分の教育が及ばなかったかと心配したものの、取り敢えず話してみるととても理知的で温和な女性、しかもガウェイン様を惚れさせたきっかけは容姿ではなく、聡明さだというものだから尚驚きました。

 

 美人であるのには間違い無しのラグネル様ですが、容姿が問題ではなく聡明さ。かかっている呪いが原因なのかと聞いた所によると正にそうらしく、私とモルガン様にアンナ様、イグレーヌ様でこの呪いを完全に解き、対策が出来ないかというもの。

 

 積もる話もありますが、ひとまずは解呪だと言うことで私の陽炎と因果を切り捨てる業で呪いを完全に絶ち、更にはイグレーヌ様の守護、呪い対策の魔術をラグネル様に施し、私の妖精様たちから貰った呪い対策の効果がある装飾品を一つプレゼント。

 

 宿主を離れた呪いはアンナ様とモルガン様で完全に消し去り、念のためにシーマ様も呪い対策の術式を一通り施して終了。あっという間の早業に驚いていると、次の瞬間には感激してラグネル様とシーマ様は私達に助けてくれと懇願してくる始末。

 

 聞けばラグネル様とその兄は悪魔の呪いをかけられていたそうで、ラグネル様はとんでもない醜い姿に、兄は心優しい性格が反転してひねくれた悪辣な性格に。ラグネル様の呪いの半分はたまさか通りがかったガウェイン様との問答と結婚の話で解き、残りが不明、また悪魔のものと分かって専門家に頼もうということで来たそうであり、その腕前が本物であると確信、是非ともと言って二人共離れません。

 

 シーマ様はラグネル様達の呪いを解呪できる方法を探して駆けずり回っていた所をごろつきに絡まれてしまい、そこにガウェイン様を追いかけていたクラークが救出という話だそうで、なんともまあドタバタラブロマンスな話に巻き込まれたようです。

 

 まあ、断るつもりもなかったですし、人助けは望む所。その兄のいるという城に早速赴くと何故か倒れ伏しているアルトリア様と大きな騎士がいて、その騎士がラグネル様の兄だとか。

 

 不意打ちで騎士を気絶させて解呪を開始。それと同時にアルトリア様も何らかの呪いをかけられていたのか立ち上がり、此方に礼をしてきました。この騎士に呪いをかけられて力が入らず何も出来ず、声も出せずにどうしようか思案にくれていたようで。

 

 呪いを解いたせいか爽やか好青年になった騎士様は此方に謝罪とラグネル様、シーマ様を助けてくれた事への感謝をしてくれました。アルトリア様にも事情を教えると納得して先の無礼を許し、自身の騎士団に入って働かないかと提案。この提案に騎士は喜んで受けてアルトリア様の部隊に組み込むことになりました。

 

 兄妹揃って国の王に仕える、結婚できるなんてとんでもない話ですねえ。その後はガウェイン様の結婚式が執り行われ、アルトリア様の結婚に続いてオークニーの国王も結婚と祝い事が続いて皆様ハイテンション。私もまた厨房で鍋を振るい、料理で皆様をもてなすことに。

 

 幸せな夫婦生活になることを祈るばかりですよ。

 

 

 

 

 

 

 

:D月(^^ゞ日

 

 明日から少しばかり長期休暇を取ることをアルトリア様、ガウェイン様から了承を貰うことが出来たので早速出立の準備を開始。理由としてはモルガン様やマーリンに協力してもらい、妖精郷に出向いてヴォーティガーン様の様子のチェックに行くこと。もう一つはヴォーティガーン様の持っていた剣を打ち直したので持っていき、返すことに。

 

 それと湖の乙女様、妖精たちとご飯を食べることも考えているので食材も幾つか準備。事前の連絡でクラークの直槍も持ってきてくれと頼まれたので持っていきますが、また強化してくれるのでしょうか? ありがたいですけども、そこまで気を使わなくてもいいものを、義理堅いですね。

 

 後は黒介が妖精郷で手伝いをしたいと言うので、黒介の家族と子供をヴォーティガーン様のもとに預けることもあるのでしょうか。ハチに花子も懐かしい面々に会えると言うことで来てくれるそうですし、なんだかんだ賑やかな訪問になりそうです。

 

 留守の間はヤマジに一任して動いてもらうように頼み、折があればクラークに経験を積ませるように、また誰との連携もそつなくこなせるか見ることも付け加え、書類仕事もこなして引き継ぎ終了。

 

 風呂に入って体を洗えましたし、今日は早めに休むことに。一体今の妖精郷はどうなっているのでしょうか。

 

 




本日は結婚回。ギネヴィア姫、ラグネル、シーマの三人が一気に結ばれました。

シーマは組長先生のお嫁さん、幼稚園では副園長で頑張ってる人で、おそらく毎日組長先生の寝起きに顔に驚いているお方。本名が高倉志麻なのでもじってシーマに、30年以上付き添ういい奥さんです。たまに納豆にネギを入れるかどうかで喧嘩したりおちゃめな一面も。

多分アルトリアファンの方々なら複雑な感情を持つ人もいるのではないか思うキャラ、ギネヴィア姫。彼女も被害者ですし、子を産まぬまま十年も女王でいれたりと頑張ってはいます。けど、色々とタイミングが最悪だったり、もっと対策、取れる手段はあったのかなあと考えちゃいますね。

ガウェインを知るなら多分知っている人も多いのではないだろうか、ラグネル。ガウェインの『嫁は年下に限る』の発言の元凶で、原典でも中々に聡明なお方です。元はアルトリアがひょんなことからとんでもないブスの老婆と結婚しそうになったので変わりに無理矢理にガウェインと結婚させ、その時のやり取りでラグネルの聡明さと、女性に主権、判断を委ねることで呪いが解けて本来の美しい女の子になるなど、面白い話になっています。

今回はガウェインと偶然エンカウントして呪いをとこうとやけくそ気味のラグネルとそれをなだめながら問答をするうちに気に入り、また偶然呪いが解ける行動を取る。その際に現れたラグネルの容姿で完全にハートを打ち抜かれる。呪いと分かったので治すために華奈、モルガン達に相談、ついでに結婚すると宣言。という流れです。

次回は妖精郷で少し休暇がてらヴォーティガーンと面談。どうあるのでしょうね。


最後に UA 22370件 しおり 81件 お気に入り 259件 本当にお気に入りが増えてびっくりで嬉しいです。もっと面白くかけるように頑張っていきたいです。見てくれる皆さま。どうかまたお願いします。

ではまた次回までさようなら。さようなら。


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華奈「待ぁちなさ~い! モードレッド様ぁ~~!」モードレッド「あ~ばよ~カナのおばちゃ~ん」

妖精郷での面談会。


(´・ω・`)月(゚∀゚)日

 

 妖精郷に到着し、早速妖精たちに案内されてヴォーティガーン様と再会。ヴィヴィアン様にニマーヌ様と談笑しているようで、挨拶をするとまるで憑き物が落ちたように晴れやかな笑顔で応えてくれました。

 

 ヴォーティガーン様は魂のみを妖精郷に送ったのですが、その後先に来ていたニマーヌ様に新たな肉体を作ってもらい、そこに肉体を馴染ませて活動を再開。姿は私が会った時の姿に竜の要素を幾分か足したような姿で、目が竜のような鋭い金の目、所々白の龍鱗が会ったりと少々姿が変わっていました。

 

 いやまあ、魂だけの状態からここまで出来るのも凄まじいですが、あそこまで人を憎んでおいて、また人間の姿を取るとは思いませんでしたが。これに関しては『人としての身体の時間が長いから此方のほうが活動しやすかった』『竜だと初見で幼い妖精や獣人などの子供に怖がられることもある』との理由でこの姿らしく、戦闘時、本気のときは龍の姿にもなれるそうだとか。

 

 積もる話もありますが、取り敢えず昼前に来たので食事の準備に取り掛かり、ハンバーグ、ペペロンチーノ、サラダなどなどを用意したのですが・・・匂いで妖精や他の多くのものも来てしまい、少しばかり持ち込んだ食料を一気に使い切りそうに。まあ、それはいいのですが、問題はこれで獰猛な獣も引き寄せてしまい、そのせいで一騒ぎが会ったことでしょう。

 

 何とか鎮圧した後、改めて今の妖精郷の現状を話しながら食事を始め、ヴォーティガーン様にニマーヌ様は料理がたいそう気に入ったようで、またレシピをねだられました。予想はしていたので、レシピと妖精郷にないものは代用品を探しておくことに。

 

 今の妖精郷は私が送り込んだ幻想種が当初は住む場所や縄張り争いなどで大変だったそうですが、先に来ていた幻想種、私の知り合いの妖精様、そして肉体を手に入れたヴォーティガーン様の尽力でまた妖精郷での住み分けをなんとかし、生きている以上食い合いなども起きるものの、余計な殺生はない自然が保たれているようです。

 

 白き竜の代弁者に湖の乙女、それに妖精などの言葉はやはり無視できないものであり、あちらも本能で理解したのか、いらぬ諍いや争いは起きてないとのこと。かつてこの世界に会った自然が妖精郷で営まれている。

 

 ヴォーティガーン様も楽しんでおられるようですし、住人の皆様も問題なく過ごせている様子。此方も話を切り出していくことにし、まずはヴォーティガーン様の剣を打ち直したものを渡しておき、使い心地の確認、修正などをまとめて微調整。研ぎや柄の握りも調整して完了。模擬戦も行いましたが、本人曰く『前よりも使いやすくなっている』と言っていたので問題はないでしょう。

 

 そして、二つ目の目的である黒介とその家族によるヴォーティガーン様の手伝い。それなりに歳をとったオジサンの黒介ですが魔獣故かようやく中年くらいの年齢らしく、経験を積んだ分強くもあります。戦術も簡素なものなら問題なく自分でこなせますし戦力にも機動力にも護衛にもなる。

 

 これにはヴォーティガーン様もヴィヴィアン様達も喜んでくれて受け入れくれました。けど、同時に『戦力の低下にならないのか』と聞かれましたが、そもそも魔獣だけでも1000頭超の数、教育も末端までしっかりと行き届いているので問題なし、黒介の後継者もいるのでお気になさらずと伝えておくとあちらも納得してくれました。

 

 ハチたちも妖精たちと戯れているようで楽しんでいるようで何より。取り敢えずこの素晴らしい花畑もある妖精の郷で私も休暇をとっていきましょう。

 

 寝る場所がなかったので久しぶりにハチたちと一緒に寝ました。久しぶりですねえ・・・こうやって寝るのは・・・・・・・くぅ・・・

 

 

 

 

 

(σ・∀・)σ月(((((((((((っ・ω・)っ 日

 

 妖精郷に入ってから、ヴォーティガーンと組手をして互いに磨き合い、ハチ達と一緒に木の実を探して新しいパイを開発したり、黒介や魔獣とのコミュニケーションのとり方を教えたりと過ごす中、ヴィヴィアン様に頼んでいたクラークの槍の強化が終えたのか呼び出してきました。

 

 出来上がった槍は頑強さも数段上がったものだが、面白いのが重さをある程度自由自在に変えられること。大体が3倍位には重くでき、軽くなると同じ長さの木の棒程になるとまた変わったもの。それと、ガヘリス様に毒や呪いを弾く鞘をくれました。ガウェイン様の聖剣には劣るが、どうか活用してほしいとのこと。

 

 取り敢えず妖精郷の一部だけですが地図も作っておけたのでなにか大きな騒ぎが起きればすぐに駆けつけられるでしょう。まあ、土着の神様がイタズラで地形を変えたりとか馬鹿やらなければの話ですけども。

 

 数日何も考えずに楽しみ尽くせたので、気分もスッキリですし、何やらハチや花子が栗毛並みに大きくなっていたりと面白いことにもなっているやら思いもよらぬ土産を手に入れてホクホクです。

 

 円卓にも入って大変な日々でしたからねえ。新国家なので組分けやシステムが不十分な部分があるので過去の国の良いシステムや法令を漁って改良して組み込んだりと色々模索中。いい気分転換、リフレッシュ休暇でした。

 

 それに面白かったのが神秘による味の上質さ。まだ神代、神秘の残るブリテンから生み出される食料は大陸よりも美味しいものが多いですが、此処はさらに美味しいものが多く、少し食べ過ぎちゃうほどに色々作っちゃいました。仲良くなった妖精郷の皆さまがいなければ消費し切るのが大変でしたよ本当に。

 

 そのせいで妖精郷の食材もある程度理解できたので食材別の活用方法や料理をまとめたレシピ本、ソースなどの作り方、香草などの使い方をまとめた冊子もおまけに作成。ヴォーティガーン様に差し上げましたし、色んなアレンジやご飯を楽しんで欲しいもの。

 

 やることもやり、休暇も存分に過ごせました。まだ休暇は残っていますが、残りはオークニーで過ごし、時差? があるのかは分かりませんがその差を慣らし、勤務に備えてやることの確認もしないといけませんし。ゆっくり準備しなければ。

 

 皆様に見送られながら妖精郷から帰り、帰宅場所に設定されていた銀嶺の拠点兼自宅の部屋に戻ります。

 

 早速帰還の報告をモルガン様に伝えに行った所、あちらも私が妖精郷に出かけている間に私の依頼をこなしたらしく、生姜の品種改良に本腰を入れて栽培が出来るか開始し始めたそうです。

 

 モルガン様、イグレーヌ様の庭で試験的に植えており、一応は芽が出始めているので、それ以降がどうなるかはわからないが、今のところは順調。経過報告は使い魔を通してブリテンにいても送ってくれるとか。

 

 それとは別にモードレッド様の教育を休暇中ではあるが、会いたいとねだっているので明日からまた教育をしてほしいとのこと。私も昔を思い出して楽しいので笑って受け入れ、そのまま茶会をしてから解散。

 

 もうモードレッド様も4歳。それなりに色々教えなければ。昔ガウェイン様やガレス様達に使った教材もまだ大丈夫でしょうかねえ。

 

 

 

 

 

(*´・ω・)(・ω・`*)月ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ日

 

 モードレッド様の要望で休暇中ですが訓練や教育だけはすることに。モードレッド様は何と言いますか・・・わんぱく娘という言葉がぴったりな元気っぷり。

 

 よくイタズラを仕掛けては逃げ、座学になると逃げ出し、剣の訓練だと私よりも先に訓練所に到着して勝負を催促すると中々に忙しない。ただ、甘えたがりで私にも心開いているからこそで、イタズラもその一面だと分かっているので微笑ましい。

 

 取り敢えず、剣の才能は文句なし、今は4歳程ですがそれでも尚光るものを感じるのですからもう5,6年して身体の下地が出来てきたらかなりのものになるでしょう。

 

 問題は・・・座学で、今は簡単な文字の練習なのですが、物覚えや応用も効く辺りすぐに吸収力もあるのですが、勉強嫌いですぐに逃げ出す。なので昔ガウェイン様達に教えた方法で教えることにしました。

 

 文字を動物や何らかの物に例えた絵を描いたカードで教えたり、私の知る昔話、絵本をブリテン風にアレンジした絵本を面白おかしく読み聞かせたり、ある程度の読み書きをする度にスタンプを押してたまったらお菓子の詰め合わせをあげたりとあの手この手で飽きないように、楽しめるように頑張っています。

 

 そのせいでしょうか。物凄く私に懐いてしまい、休日ということもあってピッタリとくっついて離れないです。まあ、アルトリア様にも懐いていますし、そのアルトリア様が休暇に訪れて、狼や猪、馬と触れ合える銀嶺の拠点にも入り浸るのも珍しくないですし、その主の私と居れば遊び倒せるでしょうけども・・・しっかりとモルガン様に伝えませんといけませんよ? 心配しちゃいますからねえ。

 

 取り敢えず、まだ小さな魔狼達とじゃれ合いながら遊んでいるさまは可愛らしく、癒やされちゃうのでそれを眺めながら本日のご褒美のお菓子の準備。蜂蜜を練り込んだクッキーでも作りましょうか。

 

 その後はガレス様、イグレーヌ様も合流して皆で遊び始め、花の冠を作ったり、大きくなった花子に乗って少しだけ散歩したりと微笑ましい祖母と孫娘たちのふれあいが繰り広げられ、拠点に帰ってきた皆でこの光景に目を細めて慈しみ、途中でガヘリス様にモルガン様も合流して皆でクッキーパーティーをしました。

 

 皆様美味しいと行ってくれるのは嬉しいですけど、食べ過ぎたら晩ごはんがお腹に入りませんよ?

 

 

 

 

 

 

(ノ`Д´)ノ彡┻━┻月゚ヽ(・ω・)/日

 

 最近、どうも作物の実りがほんの少しですが、少ないです。今のところは何の問題もない量で済んでいますが、どうにも少ない。具体的には肥料を広め始めて数年くらいの時期まで落ち込んでいる。

 

 神秘の減少によって土の力が徐々に減り始めている。それが顕著になった兆しなのかもしれません。

 

 少し前に漸くこの島の幻想種をあらかた送ったこともそうでしょうけど、やはり神代の終わりゆえなのでしょう。今はこの程度で済んでいるのは神代の住人である人間、家畜、その排泄物から作る肥やしでどうにか土の力が弱る速度を緩めていますが、これだけではいずれ追いつかなくなるでしょう。

 

 ふーむ・・・・・・・・・もう一つの対策も準備しなければいけませんかねえ? 取り敢えずダンカンとヤマジに動いてもらい、コーウェン将軍らにも呼びかけましょう。

 

 これ以外にも私がブリテンにいない間にどうも国の国政がおかしなことになっている所が出始めているようです。なにせ、騎士が王であるということや、武で国を再興したという側面で文官が少ない。決定的に少ない。

 

 その穴埋めに武官が文官もどきになることも少なくないことからか、その文官の決定に反対するものは決闘して勝者の案を通すという世紀末、または筋肉的解決方法がまかり通ることも少なくないです。

 

 私が円卓に参加してからは内政はケイ様、外はランスロット様。中継ぎやまとめは私やアルトリア様が行っていましたが、私が抜けたこの一ヶ月近く、その穴埋めに駆り出された騎士たちでいざこざを起こすわ、私が担当していた商人様とのやり取りで手に入る収入を改ざんして懐に収める輩も出ているとか。

 

 ああ・・・もう。なんで後進育成をしないんでしょうか・・・若しくは文官が入りやすい土壌をこさえないのか・・・・・こんな状況、才ある文官でも反対されて決闘挑まれるのが怖がったりして仕官希望も来なかったり、文官の才能ある騎士が死にかねない場所なんて行きたくもないですよ。

 

 取り敢えず利益をネコババした騎士は刑罰は確定、それとジャック将軍らに相談して文官育成の生徒たちにブリテン志望の子たちを教えてもらい、私の部隊に組み込んで働かせるのも考えなければ。

 

 こういう空気を引き締めるのはアグラヴェイン様が良いのでしょうけども、王子を揃って円卓に組み込むのも、私の配下に加えるのはあれですし、取り敢えずこの方法で文官を入れて、ブリテンに士官する子がいればすぐにアルトリア様に伝えるようにしなければ。最近ローマもまた何やら変な動きがあるようですし、内部でごたついているわけにはいきませんもの。

 

 この後キャメロットに戻り、早速不正を働いた騎士を皆しばきまわし、今回の不正の件、脳筋制度から私の部隊の文官をそのまま私の部署に組み込むこと、尚も反発して決闘するのなら文官の代わりに私が受け持つと伝えました。

 

 ケイ様とアルトリア様にはこちらの国の文官候補から志願者はそちらの直属の部隊に組み込んで保護してほしいと頼み、取り敢えず休暇は終了。ラグネル様のお兄様にも再会しましたが、元気そうで何よりです。

 

 

 

 

 

 

 

(^ω^)月゚(´~`)日

 

 本日はフランスに遠征。その目的というのも、ランスロット様の父親バン王様の領地ベンウィックを奪還するための戦争で、私達銀嶺も参戦。ですが大陸のために魔獣達を大勢連れて行くのは危ないので人の部隊と騎馬で参加。

 

 結果としては特に苦戦も何もなく奪還。フランスもこれ以上ブリテンと事を構える気はない上に、後継の正当性、これ以上は国を荒らさないとの盟約を結び、特にこれと言ったいざこざも起きないまま終了。

 

 大陸への拠点を手に入れたことにブリテンもオークニーも大きく沸き立ちました。大陸への侵攻は考えてはいませんが、仲間の土地の奪還に、神秘の減少による食料自給率の減少や税収の先を考えると正に大きな場所を手に入れたと考えるべきでしょう。

 

 それに、クラークにもそれなりに大きな戦の経験も積ませることが出来ましたし、部隊としても万々歳。あだ名が「殺し屋」とか「若頭」とまあ、愉快なことになっていましたけど。まあ、前線で好き勝手暴れていればそうなりますよねえ。戦前の気合の入った顔も、血の付いた鎧に顔で殺気をまとった強面じゃあ味方でも怖いでしょう。もう慣れた私達はともかく。

 

 取り敢えず、ペリノア様、ランスロット様、パーシヴァル様の部隊を領地の防衛線に敷き、戦の傷を癒やして領地自体の軍備が復活するまでの繋ぎに。領民も納得していることと、フランスの主要都市から離れた地方都市故に目をつけられる理由も少ない。いい場所です。

 

 ここからも人材を募り、上手く回せていけたら幸いです。

 

 帰ったらモードレッド様にお土産をねだられたので、ブドウや干し肉、帰りに船で釣りをして手に入れた大きな魚を見せたら飛び跳ねて喜び、今晩は魚の煮付けになりました。大きな魚だけに味も淡白。何の魚かは知りませんが、毒もないので有り難く煮付けに。

 

 魚拓も取りたかったのですけど、インクが勿体無いために断念。代わりにとモードレッド様に絵を描いてもらいました。拙いながらも味のある可愛らしい魚を描いてくれました。有難うございます。

 

 食事が終わって皆が寝静まったときに銀嶺の拠点の食堂。額縁に入れて飾っておきました。絵を見てほっこりしながらご飯。良いですねえ。そのためにも色々進めなければ。先に当たっては神秘の減少。これをどうしたものか・・・・・

 

 




捻じくれた思惑も無く、良き父母に祖母、兄妹、師匠がいたらこんな純粋わんぱく娘にモードレッドはなるのかなと。行動力も頭の機転も春日部の幼稚園にいる五歳児並みです。そして成長したらライダーモードレッド以上にちょろ可愛い女の子になるのかなあ・・・見てみたいですね。

ランスロットがフランスの領地を取り返したりと嬉しいことが続きますが、次回からは暗い話も増えてくると思います。幾つかは絶対に避けられないものも多いんですよねえ。昭和の特撮の馬鹿騒ぎもたくさん入れたいのですけども。

何時も何時も誤字報告、有難うございます。報告をくれる皆様には感謝です。私も探すのですけど、どうにも見つけきれないことが多いので、本当に助かります。

そして、感想が100を越えました。この作品にお声をかけて、感想をくれてありがとうございます! この応援は本当に活力になります。有り難いことこの上ないです。

最後に UA 24098件 しおり 87件 お気に入り 271件 閲覧、応援、感想、高評価、誤字報告、有難うございます! また少しばかり遅れると思いますが、どうかお付き合いをお願いします。

それでは皆様。さようなら。さようなら。


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※銀嶺は駆け込み寺ではありません

今回は取り敢えず重要な話です。そして増える家族。


(;´д`)゚(;゚∀゚)=日

 

 ・・・・・・嫌な夢を見た。幕末、私のかすれた記憶での悪夢。親に、許嫁に道具としか見られなかった日々。愛も何もない日々に、扱いに嫌になって逃げ出す夢。

 

 すっかり忘れ去った最悪の時を思い出すとは。何があるのか。こういうときに限って厄ネタが来ますからねえ。はぁ・・・仕事で忘れましょう。

 

 本日の業務も無事終了。明日の昼にはオークニーへ帰り、ゆっくりしようと考えた矢先、ランスロット様が飲みの誘いをしてきました。少しだけならと私も了解し、城の食堂でのんびり酒と私が作ったジャーキーを肴に月見酒。

 

 円卓の中でも私をあの戦から知り、同盟、湖の乙女様とも既知であり、認められたこと、ヴォーティガーン様との戦でアルトリア様に助太刀したこと等などを含め、とても友好的に接してくれます。

 

 それと、私が剣の教官としていることも一因でしょうか。見たことのない剣術に大層目を輝かせていましたから。

 

 こちらに好意を寄せてくれるのは嬉しいのですが、ついつい飲みすぎてしまうのか、私と飲むと決まって深酒をして色々愚痴り始めます。やれ『最高の騎士という称号は相応しくない』とか『期待に応えんと頑張るが、益々期待が重くなって辛い』とかまあ、溢れること溢れること。辛み苦しみが彼の口から溢れ、その愚痴に私も付き合い、改善策、対応策、を考えてみたり、必要なら私の部隊で仕事を肩代わりして業務を受け持っていたりと、鵜呑みにはしませんが、飲み会での語らいを元に少しでも負担が軽くなるようにしたりしています。

 

 あちらも母と同じ女性ながらにここまで全幅を寄せることの出来ると何かと頼りにしているらしく、ランスロット様の戦の際には後詰めに頼まれることもしばしば。こっちはこっちで信頼が少し怖いですねえ。下手すればモルガン様のように姉扱いされかねないと感じるほどには。冗談抜きで。

 

 今日もそれだけだったら良かったのですけど・・・そうもいかず。酒を傾けて酔いが回り始めたところでランスロット様が泣き出して『助けてください』といい出しました。

 

 一度落ち着くまで待ち、聞いたところによるとなんでも、いつの間にやら知らぬ女と子供ができたと言いだす始末。

 

 酔もすっかり覚め、ついでにあの夢はある意味予知夢だったのかと思いつつも経緯、詳細を聞けばまあ、酷いもの。

 

 何時も通り任務を終えて帰る道中、蛮族に襲われていた馬車があったので救援に駆けつけ、撃退。その時に助けた馬車のお嬢様はランスロット様に一目惚れ。ここまでならいつものことで済みました。ランスロット様も恋人がいますと断ったそうですから。

 

 しかしこのお嬢様、大変執念深かったようでランスロット様の恋人を調べ上げて魔術を使って変装。ランスロット様に一服盛って襲ったらしいです。

 

 ・・・・・・・・聞きたくもない胸糞悪くなる話ですが、最後まで聞かねばならない。これで済まないからこうなっているのですし。

 

 そして突如ふらりと現れたお嬢様は男の赤子を見せて『貴方と私の子』などと言い出す始末。

 

 そんな話、一笑に付して追い出すことが出来なかったのかと聞けばなんとまあマーリンの魔術礼装で親子と判別されてしまい、逃げようにも逃げられない状況。完全にはめられたそうで近々そのお嬢様の元に挨拶に行くことになったとか。

 

 そりゃあ、あの人が作ったものなら自国の宮廷魔術師、しかもこの島随一の方のものなら無視できないですけども・・・ここまでのことをやらかした女の正体を聞けばエレイン姫。カーボネック城の城主ペレス王の娘で確かあの王の一族は聖人の末裔。

 

 はぁ・・・よりもよって、基督教が国教のこの国でそれに連なる聖人の子孫との痴情のもつれからの逆に襲われる。ランスロット様には非はないですけど、これは流石に・・・

 

 『あんなオバハンに襲われるんじゃなくてモルガン様やカナ様のような若々しい方に襲われたかった』と泣き出す始末。余裕がありますね。助けなくてもどうにかなりそうですが。

 

 そういえば、この方人妻好きのマザコン。ガウェイン様やトリスタン様が揃うと禁断の恋だとか下世話な話に花が咲きますからねえ。

 

 取り敢えず酔いと泣きつかれで眠ったランスロット様を自身の部屋に寝かせ、夜勤の警備兵に酔いつぶれて眠ったから後はよろしくと伝えて一度頭の中でどうしようか考えます。

 

 まず、受け入れられるかと言えば無理。政略結婚なら受け入れる準備とか気構えが出来たりとか時間があるゆえに色々出来ますけど、今回は色々手順をすっ飛ばしての既成事実。片方は愛情もへったくれもない混乱状態ですし、下手にことがこのまま進めば途中で何らかの騒ぎが起きても可笑しくない。

 

 認知も結婚も無理。といいますかこれをどうにかするために半狂乱状態のランスロット様が武力行使に走ったら大変すぎますし。こんな手段を使う相手。交渉なんて出来っこない。出来てもそもそもが勝ち目が薄いです。子ができている上に証明までしていますからねえ・・・・・はぁ。

 

 子ができる過程が合意の上か、騙されたものかを立証してあちらの暴走だと裏付ける証拠の準備をしましょうか。アンナ様、イグレーヌ様、モルガン様、マーリンに協力して虚偽、偽装、騙しを見抜く魔術礼装の準備と証拠の整理。それとランスロット様の身体に盛られた薬の種類や出処を調べてその製作者、協力者がいればそのウラを証言にあちらの暴動を盾にこの馬鹿騒ぎをあちらの非で押しつぶす。

 

 ただ、相手は元は一国の姫であり、更には聖人の子孫。国際問題には変わりないですし、アルトリア様、ガウェイン様にも伝えておきましょう。もしランスロット様がこんな馬鹿騒ぎで結ばれたら円卓の武力を求めて諸侯が阿呆な事件や既成事実を作るためにハニートラップとかを展開しかねませんし、暴挙に出たときの『聖人の子孫』という大義名分にもなりかねない旗を叩き折る準備もしてもらわねば。

 

 上手くいったとしても今度は養育の問題。ランスロット様はあの様子で子育てなんて無理。恋人様にもショックすぎてこれを機に別れるとか、腹を痛めて生んでもいない子に愛情を注げるのかという不安もある。

 

 そしてエレイン姫もランスロット様が手に入らないなら既成事実のために生んだ子。育てるのか怪しく、育児放棄しかねない。王家も姫の一人がこんな馬鹿騒ぎで生んだ子を育てるのかも怪しい上に、血筋を見れば元王家の血、円卓最高の騎士、これまたフランスの王族の血。利用しようとする輩は出てきます。子の事を考えれば何処か実力のある勢力のもとで育てるほうがいいのでしょうけども、ブリテンでは厳しいですし・・・

 

 ・・・・・・・・最悪、私が引き取りますか。両王家に顔が利いて義理とは言え姉妹の関係、国の第三位の将軍と円卓でもありますから、同盟などなどの件を含めてもそう簡単には馬鹿はさせないようにできます。

 

 取り敢えず明日にでも動いて準備しましょう。今朝の夢はこれを教えたかったのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

( ‘д‘⊂彡☆))Д´) 月゚(#・∀・)日

 

 取り敢えず、久しぶりに本気で怒った日になりました。こんな騒ぎはもう関わることがないことを祈りますよ本当に・・・・・・・・・まあ、一応のケリを付けることができたので良かったのですが。

 

 クラークとヤマジの調査と取り調べで薬をエレイン姫に渡した宮廷魔術師から理由もバッチリ聞けた上に、モルガン様、イグレーヌ様、マーリン、アンナ様の尽力で同意した上での行為という前提は崩壊。これで結婚も見合いも挨拶もない状況になったのですが中年姫エレイン様はそうもいかず、無理心中でもする気だったのか隠し持っていた短刀振り回して襲いかかる始末。

 

 まるで山姥、妖怪のようだったという感想をいだきつつも即座に鎮圧。素人でやけくそ気味の動きでしたし、特に傷もなく抑え込むことができたのですが、ここからもさあ大変。

 

 こちらは『姫の処女が無くなったことなどに関しては謝罪をするも、被害者は此方であり、ランスロット様も婚姻の気はない。恋人がいる騎士を襲い、既成事実を作って余計な国際問題の火種を作ったエレイン姫の行動も不問とするので互いに今回の件はなかったことにしたい』と伝え、必要ならここの領地に謝罪金も渡すことを伝えたのですが、エレイン姫は『あの子が私とランスロット様子であることは間違いではなく、だからこそ私は彼の妻』と言って引かない、繰り返すばかり。

 

 こんな錯乱状態で迫ってくるものなので、私がランスロット様の代わりに交渉をし続けているのですが『私は別れないわ!!』の一点張り。

 

 ランスロット様への愛情? もはや執念、怨念とまで言える想いは分かりましたが、子は愛しているのでしょうか? 彼がいなくなった後も育てるのか? と聞いた所『ランスロットがいるなら育てるが、結ばれないなら育てる意味がない。だから子のためにも私のもとに!』と母親から事実上の育児放棄発言が飛び出しました。どう足掻こうともこの下らない話はエレイン姫の負けで終わらせるつもりですが、ここまで狂いましたか・・・・・!

 

 流石にこの発言は我慢できずに張り手を一発。それから説教開始。

 

 手段はどうであれ、腹を痛めて生んだ我が子を道具にするだけで飽き足らずに愛情もなく目論見が上手くいかねば子を生み出した母としての責務すらこなさない愚か者! 

 

 民草のために、王の為に日々走り続け、鉄火場に飛び込むランスロット様に釣り合う女になろうともせずに薬を使っての手篭めに逃げた情けない女よ! 

 

 そも元は一国の姫であり、聖人の末裔としての振る舞い、気品を見せつけ、民に威厳を見せなければいけないのに今や狂い、女としても母としても生物としての振る舞いすらもできない貴女が好いた殿方と結ばれると思うな!!

 

 今回のことの大きさも理解できずに、馬鹿な行動したがこれで婚姻までこぎつけたらどうなると思う。権力求めたものや円卓に思慕を抱く者共が模倣犯となり、不義や混乱のきっかけを撒きかねない事を考えたのか!!?

 

 最高の騎士を求めながら最低俗に成り下がった醜いものが釣り合うと思うな! 貴殿は聖人の末裔でも姫でもない、妻でも母でもない、そこらの畜生に劣る、いや、恵みをもたらし、私のもとで働く魔獣をみればそれ以下のどうしようもない女だ! 一度自身の行いを振り返りなさいな!!!

 

 何十年ぶりか思い切り叱りつけたらエレイン姫は心が折れたのか、こうなると思ってなかったか、放心状態でその場にへたり込み、涙を流すだけになりました。

 

 また、この一部始終を見ていたペレス王は腰を上げて『姫だろうと王だろうとだろうとそこまで言い切る胆力見事! そしてそこの玉なし騎士はなぁにが最高の騎士だ! 女の背に隠れて震えるだけか若造がぁあぁああ!!!!』と叫んだ後に私の肩をたたいて豪快に爆笑。エレイン姫はペレス王が呼びつけた衛兵に引きずってこの場から退場。

 

 取り敢えずこの話は一段落ですし、失礼ですが子を引き取ってもいいでしょうか? 此方で育てますので。もし駄目なら理由をお聞かせ願えませんか? と聞いた所すぐに家令を呼び出して持ってくるように指示をして、その間に語ってくれました。

 

 何でもペレス王は『最高の騎士』を求めていたそうで、エレイン姫の思慕とかねてから円卓最強、最高の騎士と謳われるランスロットの評判があり、自身の目的と重なったので承認。したはいいものの、今回のへっぴり腰加減に失望し、同時に説教かました私に免じてこの提案を受け入れ、子は返す。この件は利用しないし蒸し返さないと言い。大笑い。

 

 昔から豪傑、性豪であるペレス王は側室も子供もたくさんいるので世継ぎも諸侯への嫁、婿の候補は沢山。ぶっちゃけると今回の縁談が無くなったくらいでは痛いものではなく、むしろ金が入るので有り難いとまで言い出す始末。聖人の末裔なのにそんな発言していいのでしょうか。

 

 いえ、この発言は禍根を残さないという意味では有り難いことこの上ないのですけども、あっさりしすぎて拍子抜けと言いますか何と言いますか・・・謝罪金、予算内で収まっちゃいましたよ。想定よりも少ない金額で。

 

 その後家令が連れてきてくださった赤子を連れて帰還。礼装も反応していたことから偽装でもないでしょう。

 

 そして、相談した結果私の元で子は引き取ることに。理由としてはランスロット様が恋人との関係の悪化にエレイン姫が追いかけてきそうという理由で断り、修道院や別の諸侯に預けることも言い出す始末。被害者ですし、いきなり出てきた子供に愛情抱けというのも酷ですけども、呪いの品物扱い、そこまで言わなくても・・・・・・従兄弟に渡すという考えも、どうもエレイン姫のせいで踏み切れない御様子。

 

 結局は想定していたとおりに私が養子として引き取ることになりました。ブリテン、オークニーの両国に発言権があることや拠点の警護の厳重さでは随一ですからね。馬鹿をやる輩はいないはず。王族に預けたらまた面倒な権力争いの種になりそうなので、そういった意味でもここで育てたほうがしがらみなく育てることができそうです。

 

 帰る頃にはもう夕方。栗毛に乗ってオークニーに帰ったときにはもう夜更け。皆への連絡は明日にしましょうか・・・ああ、泣かないで・・・臭いはしませんし・・・ミルクでしょうか? でも、私は出ないですし・・・ええと・・・・・・・

 

 妖精郷から帰る際に貰った木の実の一つを粉にしてミルクにしたものと譲ってもらった礼装でどうにかミルクの代用品が出来たのであげたら落ち着いたのか眠ってくれました。お休みなさい・・・どうかゆっくり眠って・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ヽ(・ω・)/月゚゚(๑´•.̫ • `๑)日

 

 モルガン様に今回の事件の顛末を語った後、皆様にこの事を伝えたら驚かれましたが、同時に喜んでくれました。『それくらいが大将らしい』とヤマジやダンカンが言っていましたが、それ、どういう意味です? アンナ様も笑わないでくださいよ~・・・

 

 イグレーヌ様も来て、昨晩は出来なかった命名会議が開催。ただし、子供がいるので静かにしましょうと伝えて会議スタート。シュナイダー、シルヴァ、レーニング、キーロ、アーク、レオン等など何故か女性らしい名前も飛び出したり、マンネルヘイムとか何処かの英雄の名前も出たり、トーナメント方式になったりと中々の混沌具合でしたが、最後はモードレッド様とイグレーヌ様が考えた『ギャラハッド』で落ち着きました。

 

 因みにロット様も参加しており、本人は『シン』を出していましたが、準決勝で敗北。けどすぐにいい名前と受け入れ、早速孫ができたお祖父様に。モードレッド様とガレス様は従兄妹が出来たと大喜び。お二人が下なものですから、お姉ちゃんになるのが嬉しいそうな。

 

 そして、問題なのが私の勤務形態と子育ての場所。オークニーとブリテンを交互に行き交っている私に合わせては負担がバカにならないですし、かと言って落ち着ける場所となると銀嶺の拠点ですが、生まれたばかりの間もない子に母親が居ないのはいただけない。この前も長期休暇を貰いましたし、今からまた頑張らないといけませんからねえ・・・・・・・

 

 悩んでいるところに助け舟を出してくれたのがイグレーヌ様。変わりの乳母を探し、私が居ない間は面倒を見るとも言ってくれました。大変ありがたいのですけども、いいのでしょうか? 負担なども気になるのですけども。

 

 これに関しては元々大した仕事はしていないし、今はガウェイン様が国王となり、モルガン様、ロット様も余裕のある日々。植物の品種改良や魔術の研究は今は抑えてギャラハッドがある程度育つまではまた子育てをする。したいのでどうだろうかと言ってくれました。

 

 ・・・・・・感謝します。養子にしておいてあれですが、同時にこの仕事も大切なもの。代わりに会える時はとびきり構い倒して、遊んで、愛情を注ぎます。

 

 私の養子ということもあるのかもしれませんが、やはり赤子は可愛らしいもので、ギャラハッドは皆に愛され、まだ言葉も話せないですが皆声をかけて呼んでくれと言ってみたりとすぐさまアイドルに。

 

 モードレッドは自分の昔の玩具を探しに城に戻り、イグレーヌ様も赤子用の服を探しに花子に乗って城に。あ、途中でモードレッド様を拾いました。器用ですねえ。

 

 専用のベッドも作らねば・・・この前の村の家屋や納屋の修繕で余った角材はありましかね? 赤子はすぐに大きくなりますし、頑丈で安全に作れるなら、余った角材で出来ればいいでしょう。それよりも乳母の為のご飯、お給料を準備しないといけません。いい乳が無ければ赤子も育ちませんから、色を付けて厚遇しなければ。

 

 この後、余った角材でヤマジはベッドをこさえ、ダンカンは乳母の為の鹿と木の実を少々。アンナ様とクラークはおしめの準備に勤しんだりとギャラハッドのために色々してくれたり、祝い金をくれる方々が来てくれたりと賑やかなものになりました。

 

 良かったですねえ。ギャラハッド。こんなに多くの人が貴方を祝福してくれています。健やかに育つのですよ?




今回はランスロットの受難とギャラハッドの誕生。ぶっちゃけ、これはランスロットが可哀相ですよねえ。何せ好きでもない女に勝手に惚れられ、騙されて、一服盛られて致してしまい、しかも既成事実、子を持って夫婦になれと迫る始末。そりゃあ、あの親子のような関係になるはずですよ。

華奈とイグレーヌ、銀嶺の皆が親であり、師匠であり、友達になれるかどうかはこれから次第。どうしていこうか・・・

次回は華奈の対策を出せたら出していこうかと。今回はランスロット回になりましたが、神秘の減少は継続中ですものね。

最後に UA 25492件 しおり 91件 お気に入り 275件 応援有難うございます!

 ううむ、未だにお気に入りが増えるのは驚きます。中々にアクの強い作品だと思っていますから。事実ですけども。嬉しいのは変わりないですけどね! これからもお願いします。


それでは皆様また次回までさようなら。さようなら。


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おいローマ、いい加減にしろ。

華奈の対策回。受け付けない方もいるかもしれませんがご了承下さいませ。

後、華奈の声は井上喜久子様をイメージしています。なんかこう、個人的にはしっくり来ます。


( ゚∀゚)・∵. 月゚|ω・`)ノ 日

 

 とりあえず国際問題になりかけそうな痴情のもつれを解消し、ギャラハッドも無事に保護できたのもつかの間。神秘の減少による作物の不作。これをどうにかしなければこの島全土が飢餓で死にかねない、そうでなくとも反乱や暴動のきっかけにはなるでしょう。

 

 で、大陸の食物を輸入して、その土も利用すれば良いのかもしれませんが、それだと土に混じった外来種の問題や、その土が神秘を吸い上げてしまい、この島の神秘が失われる速度が増し、一時しのぎの後はより酷い事になりかねません。ではどうするのか。これに関する光明はモルガン様の報告。なんと、生姜の品種改良によるオークニーでの栽培が王城の庭、銀嶺の畑、ジャック将軍の領地で栽培が始まりました。

 

 品種改良による神秘の薄い環境でも育つ麦の準備、その合間はある程度荒れた、神秘が薄くても麦よりも育つソバで代用することに。

 

 そして、この影響が現れ始めたときからダンカン達に用意させてもらった物・・・・・これを試してみて、上手く行けば・・・そう考えていると、愉快な話し声と樽を満載した車列。先頭にはコーウェン将軍、そしてヤマジとダンカン。

 

 中身は肥料。だけどいつもの人糞や家畜の糞尿、灰などではなく、魚から作られたもの。魚肥です。魚粉や乾燥させた魚等など、貝等も粉状にして混ぜ合わせるバージョンも準備して色んな作物にも対応。

 

 大陸にも、この島にも、神秘のリソースはない。けれど、神秘の減少で飢えに直面する。なら、海の神秘、恵みを利用し、肥料で神秘を注ぎ足す。その合間にモルガン様、イグレーヌ様、マーリンに品種改良を推し進めていき、この島の環境の変化に適応した食物を生み出す。

 

 島国であることも功を奏し、あちこちで魚肥の作り方を広めていき、島中で使用してなんとか持たせていく。そう世界の流れで飢え殺しなどになるものですか。耐えませんと。

 

 魚肥の輸送に関してはジャック将軍、コーウェン将軍のもとで育った魔獣達にお任せし、私の部隊はブリテンで輸送隊の準備が整うまでは魔狼輸送隊を大々的に配備。これで民の生活に悪影響が出ないうちに迅速に魚肥を配る。苦し紛れの考えなのは承知ですが、なにかしないよりはマシなはず。臭いに関しても、さほど問題はないはず。

 

 アルトリア様、マーリンにもこの件は伝えておき、了承。早速行動を始め、広報を始めるそうです。

 

 しかし、問題はこの品種改良の出来が何処まで上手くいくか。私は魔術にさほど精通したわけではないので、あちらに丸投げしてしまうのが心苦しいですけども、代わりに私は民が飢えないように走り回るだけ。銀嶺の皆にも、まだまだ頑張ってもらいましょう。

 

 

 

 

 

 

 

(ヾノ・∀・`)月゚(´・ω・`)日

 

 最近生まれる魔狼、魔猪の子どもたちが、いつもの子とは違い、毛の色が違う。体格や力、速度は問題ないものの、顔つきが違っていたり、なつき始めたら今まで以上に懐いたり。変わり方がちらほら。

 

 調べてみるとマーリンの行為らしく、魔猪は普通の猪と、魔狼は普通の狼や犬と認識阻害の魔術で騙くらかして交配させていたとか。

 

 いきなりこんな不可解な行動をしているのかと聞いてみれば神秘の減少でこれから生まれる魔獣の子供には辛い環境なので、魔獣達も品種改良して慣らしていこうとし、既に数十頭の魔獣と獣のハーフが生まれていました。

 

 ん~・・・気遣い、善意からなのでしょうけども、騙された魔獣やその管理をする私達に無断というのは少しいただけない。話してくれたら良いものを・・・

 

 行って聞くかは分かりませんが、次回からはちゃんと教えてほしいと言い含め、貸しを一つと言うことで話は終了。せずにそのままマーリンは頼みがあるから手を貸して欲しい。と言ってきました。

 

 昨晩一夜のお付き合いをした女性が何でも中々に重い性格で離れてくれず、今は魔術で誤魔化しているが後が怖いので説得してほしいとのこと。・・・貸し、2つにしますからね?

 

 中々にこれも難航しましたが、どうにか宥めすかして知り合いの騎士と見合いをさせ、気分転換と新しいお相手との時間を用意して終了。

 

 はぁあ~~・・・・・・・ハチ、花子、栗毛、レギア、イネンナは対策用の礼装を持たせることが出来ますからまだしも、あの数は素材も、資金も大変ですからちょうどいいのかもしれません。引退した銀嶺のメンバーと働いている魔獣の今の生活についてのアンケート、部隊内でも改めて確認しなければ。

 

 きっかけはどうであれ、これは大切なものですから助かりました。短い期間で2件も痴情のもつれの問題を相談、解決されるとは思いもしませんでしたけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

(;´д`)月゚(つд⊂)日

 

 ブリテンで勤務中、蛮族の襲来の報が来たので行った所、サクソン人の軍団が野営していました。しかも2万は下らない数で。

 

 私達の部隊の夜襲と虚報、アルトリア様が逃げた蛮族の撤退先に回り、エクスカリバー乱発ですぐさま殲滅しましたが、また此程の規模のサクソン人襲来が来るとは思いもしませんでした。

 

 数年前とは言え、このブリテンで拠点を借していたヴォーティガーン様、その居城にいたそしてこの動きに連動した別働隊、合わせて数万単位で屠りさり、今尚小規模の襲来も残らず刈り取っているのにも関わらず尚も大規模で攻め寄せる・・・

 

 また、何かあったのでしょうか。今は部隊の魔獣の再編成、この環境に合わない子は妖精郷に送ったりとしている中でこれは厳しい。同時にランスロット様の大陸にある領地も危険やもしれませんし、緊急会議を開くべきでしょう。この襲来で終わるとは到底思えません。

 

 私とガウェイン様、ガヘリス様で前線に張り付いて警戒。後方でアルトリア様と円卓の方々で今後の防衛線について考えてもらうことに。私達オークニーは大きくもないですし、構築自体もジャック将軍とアグラヴェイン様で既に完成済み、更にはコーウェン将軍の育てた魔獣たちの警邏も出来ている。私は商人様、の息子様に大陸の情報を仕入れておきましょう。こんな規模の軍事行動。すぐ裏は取れるでしょう。

 

 そして情報の結果はやっぱりと言いますか、ローマのバックアップで再びサクソン人の侵攻が再開。またこの島に攻め寄せる準備がほうぼうで行われているそうで、前回の大軍もその始めなのだとか。

 

 もう何個首塚を作ったかわからないほどに狩り殺したというのに、懲りないと言いますか何と言いますか・・・すぐに伝令を飛ばし、ブリテン、オークニーへ通達。その後は交代できてくれたペリノア様らと交代してオークニー、キャメロットに別れて帰還。

 

 少し視点を変えた対策も考えるべきでしょうね。武だけでは大陸の強国の策に今のブリテンでは押しつぶされるだけですし。

 

 

 

 

 

 

( ´,_ゝ`)月゚゚m9(^Д^)日

 

 大陸からのサクソン人の再侵略。これに軍を動かし続けるのは先に此方が倒れかねない。作物の収穫の減少に対策は講じているもの、まだまだ完成には程遠い中、軍備に金をかけてしまえば国庫を圧迫し、今は問題ない水準の税金を引き上げて民の反感を買いかねない。

 

 でも、軍備を軽く見ては万単位で襲い来るサクソン人の対処ができませんし、騎士たちへの報奨を渋ればこれまた反感の危機。新たな収入源が必要でしょう。

 

 ということで少し前に栽培に成功した生姜、早めに品種改良をしておいたサトウダイコンの砂糖、蜂蜜をフランスの領地を経由して大陸に輸出。

 

 蜂蜜はとりわけ薬や滋養強壮剤、酒。生姜も生薬として流通していますが、一キロの生姜で羊一匹、蜂蜜はその半分で買えるほどの価値があるので良い収入源です。

 

 蜂蜜はマーリンの歩いた後は何故か花が咲き乱れるので、養蜂場で歩き回ってもらい、短期間での大量収入を出来るようになりました。養蜂所を分けて規模を増やし、ここにも歩いてもらうことに。早速前回の貸しを使い、大規模な養蜂場を2つ設立。これでなんとか戦費の足しにして、税の引き上げをしなくても良いようにしなくては。

 

 部隊も2つに分けて蛮族の食料庫、金銀、報奨に使う予定の財物も優先して奪い、賄うようにして、蛮族の武具も加工して軍の備品、支給品に当てたりしていきます。

 

 中には精錬して純度を上げた鉄塊に戻し、これをフランスに輸出してみたりと蛮族の来襲から奪えるものや再利用できるものをとことん利用。折角島の中での争いが無くなった。余計な波を起こさないで欲しいものですよ。

 

 私達の拠点、領地も農地を維持しながら街自体が防衛戦に長けた町に改良。田舎とはいえ、何が起こるのか分かりませんものね。

 

 これに関してはアグラヴェイン様の知識をお貸ししてもらい、中々のものが。私の深山を使って日数をかければ土の城壁を準備して「総構え」を拠点の町に出来るかもしれません。

 

 後は、敵の攻撃の際に通るルートを割り出せば簡素な防壁も出来るでしょうし、ここも考える場所ですね。

 

 

 

 

 

 

( ´ ▽ ` )ノ月゚(*ノω・*)日

 

 戦乱がまた始まろうとしていますが、四六時中戦詰めというわけではなく、オークニーでもブリテンでも普段の仕事をこなしたり、のんびりする日もちゃんとあります。とはいえ、今日はモードレッド様の教育と戦の訓練をしているのですけども。

 

 少し成長し、理解力も、身体も出来てきたモードレッド様ですが、戦い方が奔放過ぎるスタイルになってきました。

 

 柔軟を念入りにしているお陰で猫のような柔軟な身体、魔力放出も覚えている上に勘も鋭い。自由自在に辺りを動き回り、敵を撹乱して切り崩す、柔術に組技、武器も何が合うのか分からずにアレコレ試した結果、メインは剣ですが、盾でも槍でも問題なく使いこなす。

 

 この前など盾の端を研いで刃のようにしてシールドバッシュ以外にも盾を刃物代わりにしてきた時は驚きました。まだ小柄なので身を縮めれば隠れられますし、ぶん投げてきたりと本当にハチャメチャで動きが読めない。

 

 ただ、弓矢に関してはいまいち苦手なようで、それよりはやり投げで倒すほうがいい。ということで余り触れていない御様子。代わりに槍投げと投げナイフを教え、キャッチボールなどで肩を鍛える下地を始めたりと賑やかながらも気兼ねのない時間に普段の激務が癒やされます。

 

 部下も同僚も主も不満はないのですけどもまた防衛戦やら、農業にも本腰を入れ、更には交易。こういう自由な時間や子供と触れ合う時間はとても。アルトリア様も休みにギネヴィア様と来ることもありますし、のんびり魚釣りで緩やかな時間を過ごせるのが本当に貴重で・・・

 

 因みに、部隊の組分け、魔獣の整理も一段落。引退した銀嶺の皆様には畑仕事をお願いし、魔獣達でこの環境が辛いものは順次妖精郷に。黒介、ヴォーティガーン様、ニマーヌ様にも連絡しているので問題はないでしょう。今まで有難うございます。

 

 随分と若い子たちの比重が増えましたけども、またこれは教育に時間が必要でしょう。ロット様にイグレーヌ様。魔獣たちから懐かれやすいガレス様にブリーダーとして動いてもらうことになり、また次世代の戦力の編成を整えてもらうことに。

 

 百人部隊の時期が懐かしいです。あの頃は多くても十頭未満の狼の子供、魔猪の子供をみんなで育てたり、色んな遊びをしたり、好みのご飯を探したり。自由で気楽でしたからねえ。ま、魔獣の子たちも百頭以上いるので小さな獣の子たちとの微笑ましい触れ合いなんかではなく、毛玉の群れに囲まれる美少女に美女、ナイスオールドですけども。

 

 この頃にはギャラハッドも物を掴んで立ち上がったり、危なくも歩いてみたり、拙い言葉を話したりと成長が早く、皆が一日一日を楽しみにしています。銀嶺の拠点には部隊のメンバーだけではなく、家族やその子供も多く足を運ぶようになっていると言えば分かるでしょうか。増設も真剣に考えるほどの人の入りが多いので、この前も風呂場で列をなしていましたし。

 

 ・・・・・・・・ありゃ? 赤子ってここまで成長早かったものでしょうか? 一年はおろか、半年も過ぎているかどうかなのに・・・うーん。病気でもないですし、神代の時代。こういうものと納得するべきなのでしょうか。ただ、どうにもきな臭い? 嫌な感じがするんですよね。モルガン様に調べてもらいましょう。

 

 

 

 

 

 

(´・ω・`)月(;^ω^)日

 

 作物の実りが徐々に減り、目に見えて不作になる地域が出始めてきました。これに対し、ガウェイン様はオークニーにおける税の引き下げを開始。元々私が来て数年経った頃から税率は高めにしていたので問題はなく、すぐさま実行。

 

 ソバの裏作にサトウダイコン、養蜂等、そもそもがこの国の産業は豊かで末端まで行き届いていたので税率が高くてもそれ以上の実入りが民に来るので上手く回せていました。けれど、流石に収穫量が目に見えて減る以上、今の税金では遠くないうちに負担、重税になってしまう。この判断は英断と言えるでしょう。

 

 軍備は今までの税収で潤っていた国庫を開いて賄うことを通し、もう一つの対策として、かつてブリテンと交わした『ブリテンに国防戦の一部を負担してもらう』という部分を破棄することをアルトリア様と決定。そして新たな条約に『蛮族の侵略に際しては両国で共同戦で早く殲滅し、互いの民の安寧をいち早く手に入れるようにする』と付け加えました。

 

 今までは一部の蛮族がオークニーに攻め寄せてもブリテンが対処してもらうことが度々ありましたが、今後大陸の後ろ盾を得た蛮族との戦に関してこの条約がブリテンを圧迫することでブリテン内部から出るオークニーへの反感の声、これを結んだアルトリア様への非難の声を心配しての配慮でしょう。

 

 この采配を行う為にラグネル様、イグレーヌ様と何度も国庫の備蓄の確認をしたり、アグラヴェイン様と防衛ラインを見直し、ガレス様、ガヘリス様とは国の内部の治安状況なども細かに調べていたので会議でのプレゼンは万全。国防費が増すことに異論を唱える貴族もいましたが、先の蛮族の大軍の戦に大陸での情報を流した所すぐに賛成派に。

 

 そりゃあ、怖いですものねえ。あんな乱暴狼藉何でもござれな輩が横行してしまえばいつ自分の屋敷、領地に入り込むかわかったものじゃないですもの。といいますか、二十数年前まではアレがわりと国内の中にいたのですから、世紀末ですよねえ。

 

 これに際し、私の位も第二位の将軍に格上げされ、軍の規模も3000人部隊に。私と副官の皆様で分けても600で自由に動ける規模の軍。私達の脚で蛮族をすぐに見つけて殲滅、付近の軍と連携して戦って欲しいと言ってきました。

 

 守備戦に優れたジャック将軍、そのご子息様に権力を与えずに私の昇格。盾で受け止めずに剣で切り崩す。後は私の立場を考えての結果でしょうけども、まさかここで昇格とは。いやはや、随分と強気な防衛体制を敷きますねえ。ガウェイン様も。成長したと考えるべきでしょう。

 

 ただ、これでキャメロットに行くときも十分な戦力を残して移動できるので有り難いですし、円卓のみなさも喜んでいました。

 

 流石に危機感は感じているので、私が力を持つのが嬉しいことや、純粋に私の出世に喜んでくれているみたいで、特にベディヴィエール様、アルトリア様は自分のことのように喜んでいるのが使い魔を通した通信でも分かります。

 

 円卓でも私は基本機動力を活かした先鋒隊、または奇襲隊として動かすらしく、そのための打ち合わせを後日キャメロットで行うとのこと。

 

 うーん、誰を残していきましょうか。オークニーなら将軍やガヘリス様、モルガン様と連携が取れやすいですし、破壊力を求めてダンカン、万能型のクラークをオークニーへ。キャメロットには私の代わりに戦術を練るヤマジ、魔術での強烈な一撃、レギア達と連携の取れるアンナ様を同行させましょう。

 

 戦力に関してはオークニーへ6割程の戦力を置いて、私達は4割で行くことに。円卓と連携が取れることもそうですが、あちらは2名、私を含めると此方は3名。これくらいの比重でいい塩梅になるでしょう。きっと。

 

 また悩みのタネが大きくなりましたが、芽を出して成長される前に摘めれば良いのですけども・・・・・・




今回の華奈の対策は「環境に適した作物ができるまで海から神秘を補充しない?」っていう作戦ですね。地上の神秘は消え失せたけど、まだ人の手がまるで入っていない海、その生物で肥料作って神秘を補充。

ドレイクや船乗りたちによって世界の形が分かるまでは様々な形で描かれたり、化物が棲んでいるとか中世になって尚恐れや未知で溢れていた海。そんな場所ならそれなりの成果は出せるんじゃないかなという考え。

砂糖や蜂蜜などは高級品ですが、同時に生姜も高価なもので、ヨーロッパでは気候が栽培に向いていないので外からの輸入に頼ることでしか仕入れられず、中世では何と胡椒と同じ価値にもなったとか。

確か、生姜450グラムで羊一匹だったような。

古代ローマでも食用ではなく生薬くらいにしか使われていないのは、そういう部分もありそうですね。

「総構え」は城下町全てを城壁で囲んで守るもので、かなり堅牢なものです。黒田官兵衛の物語などで知る方もいたのでしょうか?私は本でたまたま知ることが出来ましたが、凄いですよねえ。発想が。

モードレッドは適正を見るためにあれこれ触らせた結果、剣と盾、投げナイフを主兵装にジャッキー・チェン、どっかの五歳児ばりに動き回って戦う戦闘スタイルに。鎧も華奈に憧れたせい、身軽さ、回避重視で軽装に。原作のあのゴツい鎧は着けないでしょう。

最後に UA 27363件 しおり 94件 お気に入り 285件 有難うございます! 暑くなってきましたが、皆様どうか水分補給には気を配ってお過ごしくださいませ。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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トリスタンの恩返し ギャラハッドくんは成長期 モードレッドちゃん、初陣を飾る の三本です

騎士の苦悩に次世代の子たちの活躍? お楽しみくだされば幸いです。


_(┐「ε:)_月>∩(・ω・)∩<日

 

養子として私が引き取ったギャラハッドの成長速度が可怪しい。一年で5歳くらいの肉体と知性を手に入れていました。実はモルガン様が半年くらいで気づいてくれたので皆で調べた所、胎児の時点で身体に術式を組み込まれていたらしく、イグレーヌ様、モルガン様、アンナ様達の対処がなければもっと大きくなっていたらしいです。

 

 私もこの魔術式を切り捨てようとしましたが、胎児の段階で深く刻まれている上に、成長など、生きることに関わるものばかり。余りにも深く根付いているせいもあり、下手にこの術式を切ろうものならギャラハッドの成長や、生命に関係するものまで斬りかねないので断念。

 

 胎児への改造なんて出来るのはエレイン姫とその父親であるペレス王でしょうね。裏を取るために単身登城。

 

 エレイン姫が喚き散らして衛兵で私を襲ったりもしましたが、半分を蹴散らし残りは『私、銀嶺全員と本気で殺し合いたいのならどうぞご自由に』と言ったところすぐに引き下がる。全く・・・まだランスロット様の事で怒っているのですか・・・アレだけのことをしてよくもまあ、執念には感心しますけども。

 

 で、二度目の対面にエレイン姫との騒ぎで衛兵も配下の将軍も殺気立ちますが、今回の訪問の理由を語ると『ガキのためにここまでするとは天晴な女だ! ロットのやつが気に入るのも分かるというもの!』と笑い、人払いをしてから私に話してくれました。

 

 何でも、ペレス王の一族は聖杯の降臨を悲願としており、ロンギヌスの槍も手元においてあるそうな。ただ、聖杯を手に入れることができるのは自分たちではなく『最高の騎士』との予言があり、その騎士をどうやって手に入れようかと思案していた矢先にエレイン姫によるランスロット様の事件。しかもバッチリ孕んでいた。円卓最高と名高い騎士との子を手に入れたので、早速その騎士が最高の騎士になるように様々な魔術で手を入れて行ったそうです。

 

 ・・・・・・・・・・・・・これが聖人の一族の行い? 何処からどう見てもショッカーもびっくりな改造事件に性犯罪を犯した輩の集まりとしか・・・赤子にまでこんな物を背負わせるなんて・・・

 

 で、成長速度の加速に関してはペレス王の親であるペラム王が存命のうちに聖杯を手にするためだとか。

 

 ただ、いざギャラハッドを手にしたはいいものの、最高の騎士のはずのランスロットはエレイン姫の半狂乱でタジタジの有様を見てこれは違うとギャラハッドも手放したとのこと。

 

 どうにもペレス王、私を痛く気に入ったらしく『若造のもとで飼い殺されるよりも儂に付け』と言い出してきました。当然断りましたけども。何で子の身体を弄り、背負わなくても良いものを無理やり背負わせる一族のもとで奉公しなければいけないのか。口には出さずにやんわりと断りました。

 

 この行為さえ無ければ気の良い方で済むのですけどねえ。ギャラハッドへの術式は出来る限り外して問題ないと言質を頂き、帰ってからももう一度解除できるものを皆で外し、夜も更けてきたのでギャラハッドはそのまま疲れて眠ったので解呪チームも解散。寿命はなんとか人並み以上、成長速度もどうにか一年で3~4歳くらいで済むそうです。

 

 はぁ・・・私に剣の腕が、こびりついた術式ですらあっさりと斬りはがせる腕があれば・・・ちゃんとした生活を送れたのに・・・ごめんね。ギャラハッド。親として見捨てない、出来る限りのことはするから、貴方も、困ったことや、何かあれば言ってね。

 

 ・・・しっかり育てるから。だから、元気でいて。

 

 

 

 

 

 

_| ̄|○月(ヽ´ω`)日

 

 キャメロットで行われる軍議の為に移動途中、レギア達から大規模な蛮族の行軍ルートの先に村があるとの報告を受け、進路を変更してその村へ急行、 部隊を2つに分けて村の住人の避難と保護、蛮族への対応に分けて応戦。三倍ほどの軍勢でしたが、村を隘路に見立てた戦術でどうにか全滅。村の人々も無事なようでしたし、良かった。

 

 その後は遅くなりましたがキャメロットに到着。先程蛮族に襲われてしまい心細いであろう村人たちは私の部隊に守らせて同行。とりあえずアルトリア様に彼らの保護、あてがう場所を相談しなければ。

 

 で、会議についたのはいいですが、いきなり目の前では『王は人の心が分からない』と怒っているトリスタン様と『お前は一体何を言っているんだ?』な顔の円卓、そして沈痛な表情なアルトリア様。

 

 修羅場にタイミング悪く来てしまったようですが、軍議でどうしてそんな事になっているのかをトリスタン様が怒りのままに逃げ出さない様に拘束しておいて始めから説明開始。

 

 今回の蛮族の侵攻は先の夜襲と挟み撃ちで一気に軍が消えたことを反省し、部隊を小分けにして同時多発的に村々を襲撃、私達の軍が動いたらすぐさま引いて他の部隊と合流して応戦。こちらの地盤から揺るがしていく作戦を取り始めたようです。

 

 そしてこの再び起こった蛮族の大規模な襲来にアルトリア様は今後も長期的に戦えるように戦力の配分、消耗を見据え、消耗、被害度合い、村々の重要度合いさを考えた結果、ある村は見捨て、その間に他のところに戦力を差し向けて蛮族を屠る。という戦略プランを提案。

 

 要はこの1を犠牲に10を救う作戦に反感を抱いた。というものですけども、ブリテンの徐々に苦しくなる台所事情にを理解している上に長く在籍し、蛮族の二度目の大規模襲来、円卓で最高機密も多く知るであろうトリスタン様が今更そんな事で怒るものでしょうか?

 

 少し話し込んでみると犠牲になる村には自分の親しい女性がいて、犠牲になることが耐えられないとか。

 

 成る程・・・? え、その村の名前、もしかして私が先程助けた村ですかね? 驚く皆さまを置いておき、その女性の特徴を聞いて護衛の銀嶺メンバーに連れてきてもらうと見事に合致。ありゃ、ちょうどいいですから私が蛮族と戦った村をルートに即座に軍を走らせて今から出撃する部隊の補助にしましょうか。

 

 この提案にアルトリア様はすぐさま戦略の絵図を書き換えて私とトリスタン様を除く円卓で各地に出撃、私とトリスタン様には留守の守備を任されちゃいました。あ、すいません。トリスタンの彼女様? また休憩に戻られて大丈夫ですよ。

 

 もう助からないと思っていた女性、村が助かったことに呆然としているトリスタン様にはちょうどいいので二者面談を開始。今回の戦略に関して何か別の案や作戦を出したのか、何かしらの意見を出したのでしょうか? と聞けば『していない』と返してきました。

 

 理由としては『畏れ多い』『王以上の策が思い浮かばず、言うだけ意味がないかもしれない』というもの。

 

 ・・・・・・・・この御方は、円卓の意味が分かっていない・・・はぁ・・・

 

 呆れる私に何故そんな顔になるのだと聞いてくるので二人椅子に腰掛けたら説教も兼ねて説明開始。

 

 アルトリア様が円卓を組織してその座に自分も腰掛ける理由は『自分とは別の視点、意見も忌憚なく欲しい』という意味も込めている、対等と便宜上でもすることで気軽に意見を出してほしいのだ。

 

 だから、こういう情報も言って欲しいし、少しでも時間稼ぎの兵を出したいとか、ケイ様等を中継して伝えるとか、色々やりようはあったでしょうに・・・

 

 そもそも『王は人の心がわからない』なんてすぐに分かる人なんて心理学者やその分野の人、そうでなければ覚り妖怪みたいな輩ぐらいですよ。普通の人間だろうとなんだろうと簡単には心なんて分かりません。だからこそ言葉をかわして、関わっていく中で少しづつ互いの心情を理解できるようになっていくものです。

 

 立場故に遠慮して理解しようとしない、努力をしなければそりゃあわからないものですよ。

 

 それに、今回の作戦をアルトリア様が好んでやるとでも? 私の拠点で時折泣き腫らして自分の政治の手腕を嘆いたり、目にクマを作り、何度も戦略を練って、使える手を何でも使った上でこの作戦がベストだと苦しい思いで割り出したものでしょう。

 

 ただ、これはあくまでアルトリア様の視点で見たものであり、私やトリスタン様の視点では違うものが見えていたり、意見を欲しているかもしれないではないですか。代案を出さず、イエスマンになっていざとなれば勝手に怒るのはお門違いも甚だしい。

 

 私が会議で普段からあれこれと意見を出しているのは皆様からも意見を出してアルトリア様の助けになってほしいからです。

 

 君主に諫言を出せぬ国は滅びます。どんな王様であれ間違いを犯す時は必ずあります。その判断を、行動を諌めるのが家臣、騎士の勤めであり仕事。それをしやすいための『円卓』でもありましょうに・・・

 

 この発言に相当堪えたのか『私が間違っていた!』と泣き出して逃げ出すトリスタン様ですが即座に腰を掴んで捕獲。そのまま椅子に再度座らせます。

 

 間違っていたのなら、逃げ出すことはやめなさい。それに、親しいお方もいるのにそんな鼻水涙の大洪水で情けない姿を晒すつもりですか? 貴方はこの国でもトップクラスの武官、円卓の騎士の一員なのですから、恥や失言、失敗は手柄を立てて挽回してくださいな。それまでは恥を忍んで時を待ちなさい。居辛いなら私のところで休暇でも取りますか?

 

 その提案はトリスタン様は断りましたが、気を新たにすると言い、一礼をしてから会議室から出ていきました。キャメロットの防備を固めるとか。

 

 良かったですよ。そのまま円卓を抜け出しそうで不安でしたから。この様子なら問題ないでしょう。

 

 因みにこの後、円卓と私達の部隊で各所に散らばっていた蛮族は尽く討ち果たせたそうです。偶然救った村の件で士気の跳ね上がった騎士と私達の少数ながらに背後を突く攻撃で小軍の蛮族は連携も取れないまま全滅。どうにか村が焼き払われ、民草が被害にあうことは避けられました。

 

 

 

 

 

 

 

(*_*)月(●´ω`●)日

 

 先のトリスタン様の事件に加えて、蛮族の襲撃によっての村々の被害も馬鹿に出来ませんが、何よりも救ったとしてもその際に私達に不信感を抱くもの、不満を抱くものも出てくるのがまた問題の一つ。もっと早く来れなかったのか、何故あの王の元にいながらこの様な思いをしなければいけないのか。そういった不満も決して少なくはなくなってきています。

 

 これが一過性のものならまだしも、村というコミュニュティの中ではその怨嗟は長く管を巻いて忘れることはなく、その不満と恐怖は細かな風聞も大げさに捉え、これがまた今の王達を乏しめ、かつての過去に思いを馳せる、過去の王達に復帰しろと声高に叫ぶものが出始める。

 

 何よりも前回の広範囲での小さな軍による行動による恐怖と中には狩場、食料補給地となる池や森、林も荒らしていったこともあり、小さな村は生活自体が立ち行きいかないというものもちらほら。一回一回の襲来の規模が大きいぶん、過去よりも深刻かもしれません。

 

 漸く品種改良に成功して各地に種籾を配り始めていますけども、このような畑仕事に行くだけでも恐怖を感じ、不満が渦巻いては税収をだまくらかしたり、良からぬことをするかもしれません。

 

 ということで早速対処策を考えて実行。その手段というのもアーサー王に不満、心配を感じる民は私達オークニーの国内、そしてランスロット様の領地のどちらかを選び、移民してもらう事を選ばせました。

 

 円卓でアルトリア様に並ぶ人気を持つ、円卓を従え、国王自身も円卓でありながら長きに渡りブリテンと同盟を続け、武に交易に秀でたオークニー。その国王ガウェイン様。

 

 アルトリア様の配下ではあるものの、フランスというローマとの緩衝国がある上に大きな戦乱もない領地を持つ、義理堅さ、人柄、その武芸で多くの騎士、民草からの尊敬を集める、最高の騎士と名高いランスロット様。

 

 オークニーも国の中では片田舎である上に、魔獣(ハーフ)の警邏もあるので他よりも即座に蛮族襲来に対応できるのですが、いやはや、流石はランスロット様。大陸の領地に多くの方が選び、この島を離れていきました。

 

 その代りに、ほぼ無償に近い費用、代金で失った民草の分の税収、食料は輸入してくれるとのこと。

 

 私達も受け入れた方々は少しの教育と安全地帯、銀嶺の、魔獣達の警備が多いところに住まわせ、税収を幾らかブリテンに回すように。後は私達が獲得した外貨を出来る限りこの島で回すように工夫して財の停留を防ぐことを心がけていきます。

 

 ただまあ、その対策の元凶である蛮族は元気でいらっしゃる・・・・・まさか散り散りになっていた部隊をかき集め、すぐに呼べるだけの兵で私達の領地に攻め寄せるとは・・・まあ、確かに醤油やら蜂蜜、砂糖、玉鋼と金の町に見えもするでしょうけどもねえ。

 

 私が休日で助かりましたよ。早速深山で町の総構えを完成させ、町の外で軍の編成。数は大体5倍ほどでしたが、私の刀で地形を変え、刀版太陽拳で撹乱してしまえばそれなりに勢いを削げもするでしょう。

 

 しかし、ここでハプニング発生。何とまあ、モードレッド様が完全武装してアグラヴェイン様の私兵を連れて参加。援軍ついでに初陣を飾ると言ってきました。

 

 初陣で5倍以上の敵と殺し合おうなんて何処かの薩人マシーンじゃあないんですから・・・でも、ここで援軍を無下にも出来ませんし、もし私達の部隊から私兵だけで離してもそこを襲われ、援護に戦力を割かれて動きの質が鈍る、最悪共倒れも考えられる。

 

 私の部隊の本陣に組み込み、上手いこと経験を積ませてしまうほうが良いでしょうか? 入れ込みすぎているのなら抑えなければいけませんし、武芸の才は間違いなく最高のもの。下手に過保護に扱い、伸ばさないのも後に影響する。難しいものです。

 

 取りあえずは本陣に組み込んで戦を開始。将官と兵の多さは負けますが、質、経験で勝る此方。悪くはないですね。取りあえずは勢い重視で突っ込んでくるあちらの攻撃の勢いを弓と槍、私の深山でせき止め、そこからレギア、アンナ様の遠距離攻撃、クラークの槍、投石の雨、ヤマジの用兵術の妙。私とダンカンの突撃分断からの包囲殲滅。

 

 これだけでも十分に敵を粉砕しましたが、モードレッド様の攻撃も苛烈なもので私とダンカンの合間を埋めるように攻め上がり、即座に追いつく。

 

 用兵術も鋭い、自身も気負いは・・・舞い上がっている、若しくは興奮しすぎていますね。私達以上に攻めが激しすぎて付いていく兵の消耗が激しい。

 

 相手もこれを見逃すほど馬鹿ではなく、深く攻め込みすぎたモードレッド様の部隊から攻め崩そうと私達の部隊に盾をおいて時間を稼ぎ、モードレッド様の部隊に殺到し始めました。

 

 これはいけない。そう思い、皆が援護に回ろうとするも逃げ始めていた蛮族も勝機と見るやすぐさま投石や落ちている武器を投げたりと妨害して中々に上手くいかない。最悪、モードレッド様は助かるにしても傷の幾つか、私兵の半壊も考えていました。

 

 そんな中、弦の音が聞こえたと感じた刹那、敵の後軍の一部がバラバラ死体の山となり、崩れていきました。あら? この戦い方、何故いるのでしょう?

 

 後方から蛮族を脅かしたのはトリスタン様と僅かな私兵。しかし、円卓の騎士の参戦に動揺する蛮族の揺れは大きく、その間に栗毛に敵を踏み殺してもらいながらモードレッド様の加勢に成功。ヤマジとアンナ様は即座にわざと斜めに部隊を走らせて正面に対応できるようにしている相手の陣を抜いて背後に回ってトリスタン様の助勢に成功。

 

 思わぬ形で挟み撃ちの形、円卓の加勢、私達の将を殺せる好機を潰された事で相手の士気は完全崩壊。そのまま相手をすり潰し、逃げる兵は残らず殺し尽くして戦闘は終了。

 

 モードレッド様は結局70の首、14の兜首を初手柄とし、大満足。かと思いきや、トリスタン様と私に『興奮しすぎて思わぬ事になった。ごめんなさい』と謝る始末。もう、こういう事はありますし、初陣でこれだけの大手柄、半ば舞い上がりながらも五体満足、元気に帰ってきてくれたのですから良いですよ。

 

 それよりも、その凄まじい戦いの才能、日々の修行が実を結びましたね♫ トリスタン様も『私も長く戦場で騎士を見ましたが、モードレッド様のような騎士はそうはいない。遠くないうちに私達と並ぶかもしれませんね。・・・私達の代で戦乱が無くなることが良いのですが。そして彼女と慰安旅行・・・』と褒めてくれました。最後の一言は置いておきましょう。

 

 ああ、トリスタン様はどうしてここに? 確か前の王城の守備を任せされていたはずでは?

 

 これに関しては蛮族の動きを察知して即座に私達の領地への侵攻と分かったために、少しでも恩を返したい、自分の我であろうがその想いに従い、防備に問題のない寡兵で馳せ参じたとか。因みに、城の指揮官はパーシヴァル様に任せたそうで。お疲れ様です。

 

 今回の件に関しては私の拠点、部隊、モードレッド様が助かったことや、思った以上に早く蛮族を討伐したこと、そして何よりトリスタン様の自ら起こした行動、円卓の絆をアルトリア様は喜ばしく感じ、トリスタン様に対して持ち場を離れた軍律違反を私の部隊への救援による大戦果、モードレッド様の初陣を無事に終わらせたことを持って相殺、お咎め無しとして終わらせました。

 

 そしてモードレッド様の次世代の若い才能の発見、親族の大活躍に大いに喜び今回の手柄に褒美、祝いの品として宝物庫から「プリドゥエン」という船にもなる盾をくれました。『船のように自由に戦場を渡り、そして堅牢な守りでこれからも貴女の守りたいものを守りなさい。モードレッド。期待していますよ?』という言葉も付けて。

 

 大興奮、歓喜の波に身体を振り回されるモードレッド様。いやはや、良かったですねえ。大好きな叔母様、もといアルトリア様から素晴らしい物を頂いて。慢心せずに、これからも頑張りましょうね?

 

 その言葉に太陽のような笑顔で応えるモードレッド様。ああ、良かった。この子がこうして笑えて。やはり、子は元気でなくては。




ギャラハッドの悲劇、トリスタンの脱退阻止、モードレッドの初陣とトリスタンの恩返し。

女に諌められ、激励され、立ち上がり守る彼女もいる。これならトリスタンも残るかなあ。と。何やかんや、素晴らしい騎士ですものね。トリスタン。

モードレッドも無事に初陣を迎えて大成功。華奈が言った薩人マシーンの初陣は「沖田畷の戦い」自滅の部分もありますが、かなりヤバイ戦いです。よくもまあ生き残れたなあ。この親子。と思うほどには凄まじいです。後半、龍造寺側の自滅を除けば。そこにも見せ場はあるのですけども。

そしてかっぱらうこと無くアルトリアの持つ武器の一つを貰えました。下手すると使わない可能性も? 大好きなアルトリアからの贈り物ですからね。家族や部下、魔獣達に自慢しまくる姿が容易に想像できます。

最後に UA 28818件 しおり 98件 お気に入り 293件 応援、有難うございます! しかし・・・まさかのUA 3万も近く、しおりも100手前、お気に入りも300目前。いつの間にかここまで来れたなんて嬉しい限り。これからもどうかお願いします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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親の心子知らず 子の心親知らず

ギャラハッドがメイン? になるかもしれません。


( ;∀;)月。・゚・(ノД`)・゚・。日

 

 蛮族の大規模な再襲来が始まり、はや数年。まるで浜辺の波のように際限なく押し寄せる蛮族のとの戦いに私達の国も疲労が見え始めてきました。作物は育てども、戦費に費やされ、それを補うための荒れ地の開拓も敗残兵の彷徨う場所もあって上手くいかず、戦場後は血潮のせいで作物が育てられるはずもなし。

 

 兵自体も緊張の連続のせいで心身共に疲労がたまり始めており、銀嶺も部隊を三分割して一組は休養、もう一組はオークニーの拠点で待機、もう一組は私やヤマジ達と共に戦場やブリテンで蛮族と戦ったり、民の避難のために走り回り、治安を見るために犬馬の労を文字通りこなす日々です。

 

 そんな最中、ギャラハッドも肉体年齢で大体14~16位の肉体になりました。そして、騎士になる、私の部隊に入れて欲しいと言って聞きません。国を救う、使命があると何度も言って引き下がらない。親のランスロット様の王族、騎士の血が騒いだのか、母方の先祖、アリマタヤのヨセフの血か。それとも・・・『最高の騎士』たるべきという魔術が残っているのか・・・

 

 魔術なら、出てきた時に私も分かるでしょうし、誰も入れない個室で話をゆっくり、じっくり聞くことにしました。

 

 そして、国を救いたい、騎士になる。というのはあくまで建前、何よりも、私、そして私の親しい人を救いたいと言ってきます。自分の出自の特異さ、酷さ、これを抱える覚悟、何ら差別すること無く受け入れてくれる皆。何より、厄介者と両親が手放した自分を受け入れて、養子にまでしてくれて両国を支えながら自分にも愛情を注いでくれた母(私)が日に日に疲れの色を見せる、それが悲しくて仕方ない。

 

 美しい銀の長髪はボサボサなのを油で軽く湿らし、目のクマも普段はしなかったはずの化粧で誤魔化す。銀嶺の皆がいつもどおり休めるように夜通し働き、時には朝暴れまわり、夜に夜襲を単独で仕掛ける。ヤマジ達もそれに続いて無茶をさせるなと頑張り通しなのに、自分にはそれを感じさせないように笑い、面白おかしい話をしてくれる。

 

 そんな家族を、皆を救うために戦わせて欲しい。と涙と嗚咽混じりに訴えかけてくるギャラハッド・・・・・・あああ、もう・・・そんな事言わないでくださいよ、貴方が穏やかに過ごせるように頑張ったのに・・・こんな道になるなんて・・・悔しいのに・・・私達を助けたいという思いが嬉しすぎて・・・私も涙が、止まらなくなるじゃないですか・・・何も出来ていない私のために身を危険に晒すなんて・・・もっと、いい道があったはずなのに、もう・・・もう・・・・・・・

 

 二人して抱きしめあいながら泣き通し、その後、どうにか感情を落ち着けられた二人で再度話し合った結果、私の部隊で騎士になることは認めるし、拒まない。けれど、今まで護身術の範囲内で抑えていた以上の訓練を始める。いきなりであろうが将官、円卓に課しているものを遠慮なしにすること。ヤマジの部隊に入れて戦術を学び、ダンカンからも魔獣とのコミュニュケーションをより細かに学んでもらう事を約束させました。

 

 私の養子であろうと、生みの親の意思も血も関係なく自由に育てようとしましたが、結果は戦場に身を投じる覚悟を決めた。ならば、絶対に死なないように、強く、何者にも負けぬような武力を持たせなければ。死なせはしない。けれど、戦場に絶対は無い。短期間で何処まで磨き上げることが出来るか・・・

 

 

 

 

 

 

(´・ω・`)月(;・∀・)日

 

 ギャラハッドが騎士になる。この事はすぐさまブリテン島全てに広まり、これまたいいニュースとして扱われました。

 

 銀嶺騎士団、カナの後継者。モードレッド様に続く次世代の誕生と持ち切り状態です。・・・騎士の道には進ませたくはありませんでしたが、こうなれば仕方なし。死なないために毎日殺しかねないほどの過酷な訓練を課し、肉体を徹底的に磨き抜き、業を練磨していきます。矛盾しているような状態ですけども、戦場で何も出来ずに死なないために、自分に言い聞かせて鍛え上げる日々。

 

 ただ、良かったのはギャラハッドが思った以上に才能に溢れ、私、皆で課す訓練を吸収し、メキメキと実力をあげていることでしょうか。実年齢はまだ4,5歳という頭が固くならない前に色々な教えを施し、すぐさま成長し続ける肉体は誰よりも早く厳しい鍛錬を血肉に変え、より激しい訓練に耐えうる肉体となる。

 

 円卓にあと半年も在れば比肩するほどの成長ぶりには皆が驚き、そして安堵と心配がありました。安堵は戦場でも問題なく戦える才能があること。心配は、才能に溺れて天狗にならないかと言うことです。穏やかで配慮も分別もありますが、そこばかりはまだまだわからない部分が大きく、教えてはいますが果たしてどうなるか・・・

 

 ギャラハッドが銀嶺に参加するということでオークニーも動きがあり、アグラヴェイン様、ガウェイン様、ガヘリス様の方々から精鋭500騎の譲渡、それとモードレッド様が私の部隊に無理やり参加してきました。

 

 説得(物理)のドタバタ相談会第二弾を繰り広げた結果、私の部隊でなら仕方ないということで皆様を黙らせたそうです。そして譲渡された部隊500騎もモードレッド様がガレス様と銀嶺に参加したい騎士たちを選んで入隊選抜試験で選りすぐった者ばかりだそうです。

 

 あはは・・・相も変わらずのお転婆具合で・・・まあ、ここまでしてくださって断れはしません。お願いしますね。モードレッド様。騎士の皆様。悪いですが、銀嶺にはいる以上は魔獣との連携と足を合わせられる馬術を手にしてもらいますので、再び扱かれてもらいますからね? 代わりに美味しいご飯は私達で準備しますから。

 

 ダンカン達に早速練兵をさせている間、ガレス様達とご飯を作りながらモードレッド様の部隊での扱いをどうするか。という話になりました。500も引き連れた参加故にすぐに銀嶺内の部隊の一つとして組み込み、動かすことは出来ますが、役割はどうしようかというもの。何を学ばせ、どういう将の器なのかを知るのも重要。

 

 その話に関してはモードレッド様の意見はクラークの部隊と共同で動き、援護、予備兵として動く中継ぎの部隊でいたい。というもの。

 

 今回の集まった騎士たちはそれぞれが毛色の違う将に鍛えられ、戦い方を知る者ばかりのため、援護や様々な戦況に対応した部隊を選出しやすいとのこと。そして、先の戦いから前軍が孤立しないようにするための後押しや、上手く後ろから戦況を見据えて必殺の一撃を出すのも面白そう。という至極真っ当、そして嬉しい申し出でした。

 

 ガウェイン様は円卓内でも攻めの強さで有数の破壊力故にその攻撃をこなす兵は衝突力は侮れず、ガヘリス様はアグラヴェイン様やジャック将軍らの守りに攻めあぐねている敵の横腹を食い破る、ほうぼうの兵への援護と援軍に動く機動力とその対応力。アグラヴェイン様は円卓にもその噂が耳に入り、演習でもガウェイン様と引き分けることもあるほどの防御術に長けた将。この中で私達に参加するほど、そしてモードレッド様達の選抜を抜けた猛者なら確かに万能でしょうし、助かります。

 

 ただ、それだけでは済まずにモードレッド様はもう一つ提案。というかお願いをしてきました。それは、ギャラハッドを自分とともに行動させて経験をもたせるといもの。

 

 後衛のヤマジ、アンナ様の部隊では戦場の熱気しか分からず、二人共少し特殊な戦い方ゆえに対応が難しいかもしれない。私とダンカンは最前線で暴れまわるゆえに危険が大きく、前の自分のように孤立したり、舞い上がって逸るのも考えると得策ではない。

 

 クラークと自分なら中継ぎ故に前線を押し上げる、援護する事で前線に触れることもあるが、深入りはあまりしない可能性があり、前線の動き、それ以外の軍の動きも理解できる視点だからここで経験を継がせるのが面白そうだ。というもので、皆も納得したので採用。ギャラハッドもまさかモードレッド様と同行するとは思わず驚きましたが、受け入れて納得。

 

 あの戦い以降、私達のもとで色々学んだり、ガウェイン様たちとも行動していただけあり、成長していますね。嬉しい限りです。

 

 その後はギャラハッドはモードレッド様の雑談を交えた組手をこなし、盾の扱い方も学んでいました。一部間違っているような戦い方も教えられて戸惑っていましたが、まあ、自分なりに吸収して物にするでしょう。きっと。

 

 話し込んでいるうちに完成。クラムチャウダースープ、海鮮パスタ、オヤツにハニーラスク。これなら大丈夫でしょう。いい匂い・・・

 

 訓練でヘトヘトになった方々にご飯を振る舞い、新たな住居の準備の相談などで日が暮れたので本日はおしまい。部隊編成もありますし、まだまだ頑張ることは目白押しですね。

 

 

 

 

 

 

 

(ー_ー;)月(。゚ω゚)日

 

 ギャラハッドの初陣は無事に事を済ませることが出来ました。モードレッド様とクラークがまだ拙い場所をカバーしていたことが功を奏し、うまい具合に戦えました。38の首。兜首5つはかなりいい滑り出しではないでしょうか。

 

 その後も2,3戦起こりましたが、事もなげに済ませ、装備はモードレッド様、そして自分の立ち上がった理由からでしょうか、巨大な盾を主兵装にして戦い始め、私達の部隊の盾として振る舞い、銀嶺仕込みの機動力を活かした動き回る盾、敵の勢いを殺す部隊として活躍。

 

 モードレッド様はクラークと共に攻め手の私、ダンカンの攻撃の補助を行い、アンナ様、ヤマジの手足となって敵の穴を突く。 新たに参戦した二人は銀嶺の穴を埋めて有り余る活躍をし、蛮族もその名前を聞けば青ざめるように。

 

 ギャラハッドには私達の部隊から500を与えましたが、それよりも少ない人数で3000以上の敵を食い止めることを成すのですから大したもの。それに、この二人の参加はより部隊を分けても守備に秀でた二人がいるので安心して戦えるという事、新たな戦力、将の台頭は銀嶺、オークニー、ブリテン全ての活力となり、少しばかり厭戦気分が漂っていたこの島の軍は活気づき、疲労も忘れるように騒ぎ、祝ってくれました。

 

 そして、この騒ぎには当然といいますか、ギャラハッドの本来の両親が反応しないはずもなく、私がオークニー、ブリテンの両国で騎士、将官をしていること、両国の王、元王姫と義理の姉妹関係でもあるので2つの国でギャラハッドの騎士としての任命式が執り行われましたが、エレイン姫は一応は自分が生んだ子ということで祝の金品と祝いの手紙を持って来ることが起きました。まあ、それを理由にランスロット様に近寄ろうとしていたのは見え見えだったので、特に気にすることはない。とギャラハッドに伝えて事もなく任命式も終了。

 

 一方のランスロット様はオークニーの防衛戦に援軍という形で参加した後に時間が空いたのでギャラハッドと対面。かつての自分の愚行を詫び、親としての覚悟も、努力もギャラハッドの姿を見たら決心がついた。縁を取り戻したいと告げましたが、にべもなく断られてしまい『今は話す気になりません』と突き放して実の親子の話は終了。完全に意気消沈したランスロット様はキャメロットに戻るために軍をまとめて帰っていきました。

 

 流石に生まれてすぐに呪いの人形扱いをされたらそう扱われるのも仕方ないのでしょうけども、どうも引っかかります。何と言いますか、複雑そうな顔と声色。ランスロット様にはこれが突き放すように聞こえたのでしょうけども、そうしきれていないと言うかなんというか・・・?

 

 で、やっぱりと言いますかギャラハッド、自分を捨てたランスロット様が何を今更やって来て虫の良いことを言うものだと憤る一方で騎士として、同性としては部下や同僚のために柔軟に立ちふるまい、武技も文句なしな姿に尊敬は抱いているようで『親としては認めたくはないが、先達、騎士としては見習いたい』という複雑な感情で自身も対応が難しかったようです。

 

 あらあら・・・? もう少し、頑張ればもしかしたら本当の家族として扱うことも出来るようになるのではないでしょうか? この事は少しだけランスロット様に手紙を渡して教え、取り敢えず『もう少し父親の良いところを見せてあげてくださいませ』という内容にしましたが、それ以降いつもよりも励んで戦い続けるようになりました。

 

 お二人の関係修復には時間は掛かりそうですが、きっかけはあったのでうまくいくことを願うばかり。それなりのフォローはしますが、こればかりは二人が心から歩み寄らないと駄目ですものね。

 

 

 

 

 

∞月゚(´∀`*)日

 

 こうして日記を記しているのですが、基本夜に綴るものですから、少しばかりロウソクなどを使ってしまいます。これも消費を抑えようかと考えていたのですが、そのロウソクのオレンジ色の炎と夜の暗さでハチを連想してしまいました。

 

 ハチ・・・蜂の巣・・・・・はえ・・・? あっ・・・・・あぁ!!

 

 夜中に大声を出してしまい、皆に少し心配されましたが、また一つ部員時代、TV番組で見た知識が思い浮かんだので早速活用できないか試すことに。

 

 翌日、もう養蜂でも使われなくなった蜂の巣、養蜂箱からはみ出てしまった巣のかけらを持ってきました。これを使ってロウソクを拵えようというもの。肥料は現在魚肥が多く出回っていますし、これもただ肥料にするのではなく、少しでもロウソクなどに作り変えて経費削減、蜜蝋は化粧品など、軟膏にも使えますから、これで蜜蝋の精製方法のノウハウがものに出来ればまた一つ収入源になるはず。

 

 この試みには皆さん大喜びで、引退、老兵の皆様はかつて国を豊かにするために走り抜け、あれこれ試し続けた日々の記憶が思い出されるようで、若い方々には銀嶺の新たな産業誕生の瞬間に立ち会えるかもと期待をしています。

 

 そして、この蜜蝋、といいますか蜂の巣はマーリンの生み出す花の花粉、蜜がタップリ染み込んだものなので、魔術礼装、道具の材料にもうってつけ。作業に必要であろうということで、呼び出したモルガン様、イグレーヌ様、アンナ様、ガレス様は大喜びで蜜蝋づくりを開始。

 

 露蜂房なるものも試したいのですが、あれはスズメバチなどですからね。危険が大きすぎますし、生薬なら既に生姜もありますから下手に探して刺されるのはごめんです。

 

 精製自体も醤油などで慣れたもの。簡単ですのですぐに蜜蝋は集まり、さっそくロウソクを皆で作成開始。取り敢えず300本ほど完成しましたが、匂いや明かりを堪能してみたいので片付けをしてから食堂に移動。

 

 灯してみると・・・はぁ・・・柔らかい光・・・煙も出ないですし、匂いもいい香りで落ち着きます・・・細いろうそくを作って寝る前の香代わりにしても面白いかもしれません。特にガレス様は気に入ったようで、自分でも養蜂を始めてみたいと言われたので引退した元銀嶺の夫婦に教育、手伝いを任命。王城でもまた一つ養蜂箱が増えちゃいました。

 

 完成した蜜蝋は香にも使える高級品として輸出。クリームとして、化粧品、薬品としても売り出して少しばかり国庫の減りを抑えることが出来そうです。

 

 これ以外だと何があるのでしょう? 一応、砂糖と塩で所謂スポーツドリンクに近いものを考えてもいますが、加工や保存の手間を考えると砂糖そのままで売るほうが良いですし、流通させるにも今の所はオークニー内だけでしょう。

 

 冗談抜きで国庫の蓄えも減ってきていますから、どうにかしなければ・・・はぁ、求める平和は遠いですね。もう・・・




ギャラハッドの騎士としてのデビュー。親子としての再開。まあ、最初のギャラハッドのへの扱いはあんまりですが、同性で考えてあの一連の騒ぎは同情できますし、遅まきながらに親としていたいと言い出すだけランスロットはいい人ですよね。本当に複雑な親子だなあ。この二人は。

モードレッドの銀嶺騎士団参戦。主な理由は「華奈と一緒にいられる」「円卓、アルトリアと一緒に戦える」「モルガンの話を聞く限り面白そう」「ギャラハッドが少し心配」という理由からです。原作でも姉御気質な部分ありますよね。あの子。

そして蜜蝋の完成。チョークに座薬、本当に多様な蜜蝋は素晴らしい。

最後に UA 30291件 しおり 103件 お気に入り 298件 応援、有難うございます! 

とうとうUAが3万、そしてしおりが100以上に! いやあ、本当に此処までになるとは・・・嬉しい限りです。いつもいつもありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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○○「不倫は文化」 銀嶺「「あんたは黙っとれい!!」」

タイトルから分かるネタバレの香り


_(:3」∠)_月c(`Д´と⌒c)つ日

 

 ギャラハッド、モードレッド様の両名が銀嶺に参加したことでより細かで綿密な連動戦術をこなせるようになり、数日前にはアルトリア様の部隊と連携してもう何度目かもわからない大規模な蛮族、サクソン人の撃退、帰り際に襲ってきたピクト人達を全滅。補給物資も全部頂いて戦費を賄う事ができたいい結果になりました。

 

 この際に私達銀嶺メンバー全員の有給をもぎ取り、一週間の夏休みに突入。皆、のんびりだらける者、魔猪、魔狼達のブラッシングや散歩に勤しむもの、畑仕事を手伝いに行くもの、貯まっていた貯金で買い物に行く者と思い思いに過ごしています。

 

 私は拠点の自室でのんびり景色を眺めながらベッドに転がり夢気分。寝ているか、お風呂に入っているか、ハチたちのブラッシングを楽しむかの日々を過ごして体の疲れを抜く。久々の長期休暇と普段から前線に張り付くことも多い私達が帰ってきているのでメンバーの家族も喜んで食事を振る舞い、賑やかで、和やかな空気が流れる日々。

 

 その間は飲み物で水に砂糖と塩を混ぜた飲料水の味見、分量も試して皆で飲んでみたりと、さほど体を動かさないまま出来る事をこなしていたりで、何やかんや皆で何かを試すことは変わらないのですけどね。

 

 丁度いいので拠点の今の生活、オークニー自体の行動への声も私の領地の皆さまや、引退している銀嶺の皆様から聞いてみることに。古参の皆様なら、私にも忌憚なく、隠すことなく正直に行ってくれるでしょうし。

 

 まずはオークニー。国の税は今の所ギリギリ重税の域には入らず、民の生活もどうにかなってはいるとのこと。ただ、同時に侵攻を再度繰り返すサクソン人を追い返せない事にはガウェイン様、そしてヴォーティガーン様を打倒したアルトリア様の手腕を疑うものも出始めているそうで、未だ噂の域を出ないが、貴族、諸侯の独立を囃し立てるものもいるのだとか。

 

 うーん、まあ、あれだけの御方を倒したのだから万事解決。なんて考えなんでしょうが、そんなおとぎ話みたいには上手くいきませんからね。裏で手を引いているローマに一撃を与えることが必要でしょうけども、そこまでの軍備を整えようにもその端からサクソン人に割り当てなければいけないのでこれまた上手くいかない。

 

 どうしたものでしょうかねえ。ローマに蜂蜜や砂糖、生姜を上手く高値で売りさばき、麦ころがしも行って出来る限り財を此方に入れるようにしてはいますが、それでも勢いは衰えない。ままならないものです。

 

 ブリテンはアルトリア様の求心力の低下も少しづつではありますが現れていること。税金も、私達よりは幾らか重いですが、こちらも重税の域には紙一重で入らず、私達の資金援助、ランスロット様のフランスの領地からの食料輸入で食いつないでいる状況。

 

 これに比例して食料、大陸へのコネがあるランスロット様の人気は諸侯、貴族にも及び、実質アルトリア様と同等、それ以上の人気を、支持を得ているようです。

 

 まあ、先立つもの、食料、避難先があるのであればこれも仕方なし。それでもあれだけの支持率を保つアルトリア様のカリスマ性、敏腕ぶりがよく分かるというもの。

 

 一度意見の聞き取り会は終了して休暇を再開。この声をうまくいかせれば良いのですけど・・・・・ふぁわ、眠い・・・

 

 

 

 

 

 

( Д ) ゚ ゚月゚(´・ω:;.:...日

 

 ブリテンは・・・・・・もう駄目かもしれませんね・・・・・・・

 

 先日、ブリテンでの勤務を終えてオークニーへ帰還する前にランスロット様が死人のような形相で迫ってきて『相談があります』と言って来ました。始めはフランスの領地の件や、蛮族の対策かと思いましたが、私の部屋に入るやいなや防音用の結界、人払いの術式を刻んだものをそこかしこに貼り付け始める。

 

 そして、言いよどんだり、無言だったり、何かジャスチャー? らしきものを繰り返した後出してきた言葉が

 

 『ギネヴィア王妃と不倫関係にある』

 

 というものでした・・・・・

 

 

 

 (次のページまで丸ごと吐血で書ける状態ではない)

 

 

 

 何でこの国が疲弊し、団結しなければならない時にこの様な爆弾が・・・血反吐吐きましたが気絶しなかっただけ大したもんだと自分を褒めたい気分です。

 

 気を取り直して聞いてみれば、その不倫関係は数年前からであり、既に肌も重ねているそうで、もう互いにゾッコンなのだとか。

 

 そして、何故私に相談したのか? ということに関してはこの不倫関係、アルトリア様の妻を寝取っていることの罪悪感に耐えきれなくなってのこと。

 

 寧ろ数年間もよくもまあ耐えきれたものだと感心するやら、肌を重ねておいて今更それを言うのですか? と呆れるやらでもう色々言いたいことはありましたが、言っても意味ないですし、取り敢えず次善策を考えることにしましょう。今の混乱と動揺が抜けきらない頭で出来るかはさておいて。

 

 この件に関して、何か希望はあるのでしょうか? と聞いてみると『ギネヴィア様と添い遂げたい』というもの。あ、これ私だけじゃ到底どうにか出来るレベルじゃないですね。アルトリア様に相談することと、どうしてこうなる前にギネヴィア様と魔術でどうこうしたり、悩みを聞いてあげなかったのかと少しばかりの説教もしなければ・・・場所は私の拠点でアンナ様の魔術で防音やらして貰い、そこでじっくりと話さねば。

 

 ランスロット様はこれを私に伝えるだけでも相当なプレッシャー負担が来たはず。これ以上は何らかの拍子に発狂して阿呆な行動を取りかねません。

 

 『アルトリア様には伝えますし、そちらの希望も通らないかと打診もします。けれど、これだけの大事へのケジメ、落とし前は必須でしょうから心構えはしておくこと、暫くはギネヴィア様と距離を置いて噂の火種を出さないように努めて欲しい』という事を伝えてこの場は解散。

 

 その後はアルトリア様とケイ様を呼んでその場ですぐに休暇を取るように頼み込み、手続きを済ませたらすぐさま私の拠点に移動。アンナ様とたまたまいたモルガン様に頼んで防音、人払いの結界を張って醤油などを製造、貯蓄している地下室の一室でこの事を暴露しました。

 

 この事を聞いたケイ様はお腹を抱えて青ざめた顔になり、モルガン様も頭を抱えて苛立ちを隠せない様子。申し訳ありません・・・余計な火種を持ち込んでしまいまして。そして、アルトリア様は何故マーリンの魔術を使ってでも男性と認識させなかったのか、若しくは、魔術で男性器を準備して肌を重ねたり、女性としての幸せを満たさなかったのかと質問を開始。この事も一因かもしれませんし、手心は加えません。

 

 少し涙目になるほどに問い詰めた所、国の政務に忙しすぎて相手ができず、休暇に一緒にいるくらいが精々だったこと。女性同士の肌の重ね合いにどうしても抵抗があったこと。その他にも色々ありましたが、どうにもギネヴィア様には構える状況ではなかったということです。

 

 まあ、今の国の現状では確かにそうですが、結婚した当初、数年くらいなら余裕もあったでしょうに、国のシステムづくりに熱を入れすぎて忘れていたり。ギネヴィア様、ランスロット様の浮気自体がなければこのようなことにはならなかったでしょうけども、そうなる火種を作っていた私達にも問題がある。

 

 二人がくっつくこと自体はアルトリア様も賛成だそうですが、国としてはどうにかギネヴィア様、ランスロット様の勢力、支援者が抜けることはどうにかしたいと頭をひねる始末。

 

 片やこの国の中でも指折りの勢力を誇る貴族の娘に、片や円卓最強、避難する民の受け入れるフランスの領地を持ち、多くの食料を輸入して国を支える騎士。この二人が抜ける、何らかの理由でいなくなる事自体国力を半減、その後の国の行く先を真っ暗にするには十分すぎる損失ですものねえ。ただ、それをするには不倫が発覚する前に迅速に処理をして、互いに大きな傷がつかないような措置を取らなければいけないもの。

 

 案自体は二つあるのですが、片方はギネヴィア様への多大な不名誉があるもの、もう一つはランスロット様もギネヴィア様も無事にできるかもしれませんが、賭けが過ぎる上にアルトリア様の支持が確実に下がるというもので、どう転ぼうとも誰かが傷ついてしまう。

 

 どちらの案も聞きたいと皆様は言ってきますが、そのためにはギネヴィア様、ランスロット様の両名の承知も必要かと思うので、案の詳細は次回にして両名の謝罪と参加もした上でしましょうということで解散。ケイ様、アルトリア様には二人が逢い引きを行わないか監視を頼んで起き、私も紙にその案をまとめてみることに。

 

 もう・・・こんな事件、ギャラハッドには絶対に教えられませんよ。折角チャンスが来たのにこれでおじゃんは台無しすぎます。

 

 

 

 

 

 

(;´д`)月。・゚・(ノ∀`)・゚・。日

 

 あの国の崩壊がかかった会議から数日後、ランスロット様が私の拠点に向かって来てくれるそうです。アルトリア様も私への労いという名目で先に来てくれたのはいいのですが、ギネヴィア様が部屋に閉じこもって出てくれないとか。

 

 アルトリア様から浮気の件を打ち明けられてから閉じこもって出ないそうで。そりゃあ、王の信頼を最悪の形で裏切ったのですから死刑になると考えて怯えているのでしょうけども、そちらが幸せになるためには、最善の形で済ませるために必要なのですから今更籠もることは許されません。

 

 すぐさまキャメロットに向かい、ギネヴィア様の部屋の扉の一部を気付かれないように斬り、その隙間から睡眠用の香を焚いて眠らせた後にレギアに運んでもらいます。

 

 侍女や家令、他の円卓の方には『ギネヴィア様は自分も銀嶺の拠点で少し休みたい』ということで先程城を護衛と共に向かっていると伝えておき、扉の修繕はヤマジに任せ私はレギアと拠点に急行。会議室について漸く会議が開始。

 

 早速、意識を取り戻して混乱するギネヴィア様をなだめて、ランスロット様と共に土下座して謝罪。幽鬼を思わせるほどに青ざめた顔に、痩せこけたほお、目のクマを見るだけでも二人がどれだけ精神的苦痛、重圧を感じていたのかということが分かります。

 

 その後ギネヴィア様から今回の浮気に走った理由が話されたのですが、長年素敵な王子様と思っていたアルトリア様が同性であり、しかも政略的部分も多分に含んだものであることに自身の純愛がなじられた気持ちになるが、アルトリア様の気持ちや志、この島の現状も理解しているゆえに理解者として支えようと気持ちを切り替えて結婚も受け入れたそうです。

 

 始めの時期は誰もが素晴らしい結婚だと祝福してくれていた。けれど、時間が経つごとに子を身に宿せない自分の事を誰もが石女と陰口を叩き、アルトリア様はそこに理解をあまり寄せてくれずに政務に励む日々。その手腕も正に素晴らしいもので、自分と釣り合うのかと不安に駆られる。

 

 女としての幸せも、王妃としての事もこなせず、女としても自身は年老いて美しさも、子を産める時間も減ってゆくのに、アルトリア様は聖剣の鞘の加護でその若く美しい姿のままでいられる。その気になればこっそり素敵な誰かと結婚もできる時間など残されすぎている。

 

 時間がすぎれば過ぎるほどに姫として、女としての価値は失い、その比較対象もまた公私含めて素晴らしすぎて自身の誇りも自身も何も無くなっていく。そんな最中、手を差し伸べたのがランスロット様で、その手を取ってからというもの、女としての幸せに、快楽に身を委ねて針のむしろから逃れたのだと。

 

 この悲痛な独白には誰もが押し黙り、沈痛な面持ちになるばかり、アルトリア様も自身の行いの大きさに顔面蒼白になり、泣いて二人に謝罪を繰り返していました。

 

 しかし、泣いてこの問題が済むわけではない。一度大きく手を叩いて場の空気を切り替えて私からの意見を出します。

 

 一つはギネヴィア様との離婚。理由としてはこの十数年子が生まれなかったことからであり、体の相性が悪かった。ギネヴィア様が石女であったことでこの結婚を破棄するというもの。ランスロット様はフランスの領地が蛮族の侵攻にあうという情報を察知してその防御に着くという理由から一度ブリテンを離れ、その際にギネヴィア様とフランスで合流。

 

 また、ギネヴィア様の行動に関してはブリテンからは何も追求、関知しない。石女の情報を探すよりも新たな花嫁候補、山積した問題の対処に向けるべきだと家臣を説得させる。

 

 蛮族からの防衛という名目でランスロット様は数年間フランスの領地で守りについてもらい、その間にマーリンやモルガン様と言った魔術師に陣中見舞、遠征見舞いという理由で出向いてもらいながらギネヴィア様に一部を除いた認識阻害魔術を徐々に深く組み込んでもらい、恋人、妻として共に帰っても問題がないようにするというもの。

 

 問題点としてはギネヴィア様が多大な不名誉を背負ってしまうことや、この離婚からほとぼりが冷めるまでの間ランスロット様がブリテンから離れるので大きな戦力の低下が起こるということ。また、ギネヴィア様の家が反発して後妻の準備を始めてしまうだろうということでしょうか。

 

 メリットとしては責任をギネヴィア様に押し付けているのでアルトリア様の支持率はあまり下がること無く、ランスロット様も一時ブリテンでの激務をこなすこと無く過ごせることでしょうね。その際に子も成せたら暫く後になりますがその子にフランスの領地を頼めるでしょうし。

 

 当然といいますか、ギネヴィア様はこの件に悲鳴に近い声で泣きじゃくり、十年以上もこの苦痛から耐えて最後は石女扱いされて国から追い出される。あんまりにも酷すぎると言って私に食って掛かる。落ち着いてください・・・というのは難しいかもしれませんが、少し待って下さい。もう一つ案がありますから、これを聞いてから考えましょう?

 

 もう一つの案というのは、アルトリア様が不能になっちゃうことからの離婚。戦場での流れ矢が下半身に刺さり、その毒によって男性器の機能が使えなくなったことでギネヴィア様との子を成すことが出来なくなったこと、王妃としての重大な勤めを果たせてやれないことから離婚。

 

 これなら後妻を押し付けられる理由もなくなりますし、虚報だと、自分のところから後妻をと迫ってくる声はマーリンを戦場に同行させて、演技をさせて治せないとでも言ってもらえば良いでしょう。何やかんや言っても彼ほどの大魔術師の言葉、信じざるを得ないでしょう。

 

 その事を承知で後妻を押し付けて王家の利権、メリットを望むであろうギネヴィア様のご実家に関しては、もう一つの、王家にも負けないほどの利権を貰える結婚相手をギネヴィア様と婚姻させることが出来ないかとアルトリア様、私達からも打診する。その相手がランスロット様。

 

 結婚もしていない上に、円卓の中でも最高峰の騎士、今の国を支える食料、領地持ち、しかも王族の血もある。現状のブリテンのことを考えればランスロット様との結びつきを強くするほうが先が見えると考える可能性は高い。

 

 何せ、ブリテンを支えるほどの食料を輸入して尚重税や不満による反乱が起きないほどの領地を持ちながらあくまでフランスの一部の都市国家、ローマとの間もフランスを挟んでいるのですぐには攻め込まれない。

 

 万が一このブリテンが滅んでもそこに逃げ込める避難の最優先権を手にするのですから、悪くはないはず。私達も裏からランスロット様との結婚を養護できるように手を回したりすればいいのですから。

 

 問題としては、アルトリア様の子が残せなくなったという理由からの離婚であるゆえに、今後ブリテンを残すためには養子を取らないといけない。

 

 しかも、王族の血であれ何であれ、皆を納得できるほどの才能に溢れた子を探しださねばいけない。そして、後継ぎの出来なくなったアルトリア様の支持が下がる一方で悲劇の離婚をされたギネヴィア様を助けたランスロット様の支持率は上がり、ランスロット様を王に据えようとする輩も出てくること。

 

 ですが、これならランスロット様、ギネヴィア様も大手を振って結婚生活を出来ること、両名の力を失うこと無くブリテンに留まらせる事が可能。アルトリア様の支持率の低下も、今は思いつきませんが大きな一手で払拭できれば問題はないでしょう。

 

 この案にはアルトリア様も『今更ながらだが、これで二人が公的に結ばれるのなら』と意気込んで賛成し、ランスロット様、ギネヴィア様もアルトリア様に押されながらも賛成。ただ、ケイ様、モルガン様から反対意見が出てきており、理由としては『その矢傷の演出のために本当に死んだり、大怪我をして戦線離脱されては元も子もない、そもそも、どうやってその大怪我を演出するというのか』というものでした。

 

 まあ、そこは想定済みですよ。少々お待ちを。

 

 少し地下室を抜けて持ってきたのは鉄と木の板、その間に何かが挟まれた腿あて。これを壁に立てかけ、ナイフを思い切り投げて突き刺す。すると腿あてから血のような液体が溢れて腿あてのみならず周りの地面を赤く汚す。

 

 驚く皆様に説明をしますと、これは銀嶺の鎧の作りを応用して鉄にも木にも強化の術式を刻み、弓矢はこの腿あてだけで問題なく防げる程度。その間に手作りの血糊もどきを袋に入れて挟み、圧縮魔術で縮めています。それ故に、かすり傷、鎧を貫通しなくても大怪我を演出できますし、薄く作っているのでアルトリア様の鎧、バトルドレスの下にでも仕込めるはず。

 

 この案に皆様飛びつき、早速蛮族との戦いの絵図を考え始めました。ああ、因みにですが、私の部隊の上級弓兵を敵軍に潜り込ませ、矢羽の一部に赤の印を刻んだものをわざと受けさせることも考えていますが、どうでしょうか? 敵軍の編成情報はトリスタン様から聞いていますが、若い兵が多いそうなので、私達の部隊の顔すべてを把握はしていないでしょうし。

 

 それも採用されてアルトリア様、ケイ様、ランスロット様、ギネヴィア様はすぐさまキャメロットに飛んで帰り、私達は下準備と腿当て、鎧の採寸、血糊もどきの色合いの調整を開始しました。不義で国を滅ぼす一因を作ったウーサー王、それに近い形で国が滅ぼされるなんてまっぴらごめんです。イグレーヌ様も嘆きのあまりに死にかねませんよ。

 

 

 

 

 

 

(*'ω'*)月゚( ・`ω・´)日

 

 作戦が開始され始めてからというもの、私達は本当に忙しい日々でした。モルガン様はアルトリア様と鎧の採寸と血糊もどきの色合いの調整、戦場にて連れて行く騎士に合わせた幻術の用意、万が一の保険に励み、私はギネヴィア様の実家の家臣たちに少しづつランスロット様への支持を持たせるように裏工作。

 

 ランスロット様とギネヴィアは互いに密会、逢い引きは控えてもらい、普段どおりに振る舞うように努めてもらう傍ら、領地からの食料の輸入を少し増やしてもらったり、前線での仕事を増やしてもらってより人気を集めてもらいます。

 

 アルトリア様は戦場の選定、その際の布陣の仕方、どうすれば違和感なく傷を負うような演出ができるか戦略、戦術、その結果のために部屋に籠もり、ケイ様はそのいない間の仕事をひたすらにこなしてアルトリア様の仕事の負担を減らす。

 

 

 弓兵も潜入は成功しましたし、マーリンの協力も問題なく取り付けることが出来たそうなので、一応の準備は万端。後は、戦の時を待つばかりでしょう。

 

 その後、アルトリア様から話があるそうで私、ガウェイン様、モルガン様、アルトリア様、ベディヴィエール様、ランスロット様を集めて密会を行いました。最近、そういう事だらけですねえ。

 

 内容というのはブリテンの限界、自身の求心力の低下などから国を緩やかに解体し、大きな災禍を起こすこと無く世代交代を行いたいというもの。この発言に皆様は驚きましたが、何処かで納得もしていました。一時は立て直しましたが、この国、いえ島自体が既に危うく、いくつも破裂寸前の爆弾を抱えたようなもの。

 

 大きな動乱や戦で民草が、騎士が死に絶えながらの流血を伴う世代交代ではなく、自ら積を負いながら王位を手放し、世代交代を早めに行いながら今のこの流れを受け入れていけないだろうか。という意見であり、私、ガウェイン様、モルガン様は賛成、ベディヴィエール様、ランスロット様は少し悩んでいました。

 

 今のブリテンの懐事情は苦しいものであり、負債も徐々にではありますが、溜まりそうな状態。諸侯もまだ一部ではあるものの不穏な空気を出しているものもいるので、大小の差はあれども反乱の気配もあるのは確か。以前よりも勢いを増すサクソン人、ピクト人の侵略に内乱まで起きればそれこそこの国の土台は愚か民草も何もかもが吹き飛んでしまう。

 

 そうなる前に世代交代をしながら常に新しい風を吹かせ、時流を受け入れ、自分たちはその新たに台頭する者達を支え、見守り、意思を次代に残していくことが今できる最善なのではないだろうか。とアルトリア様は説き、ベディヴィエール様、ランスロット様も賛成。

 

 また折を見てその際の手段を話していくそうで、このことは他言無用と箝口令をしっかりと誓い合って今回は解散しました。

 

 恐らくは、ギネヴィア様の離婚をきっかけにするのでしょうが、はたしてどうなることでしょうか・・・私としては、もう十分なほどに働いたのですから、王位を捨てて、その後は自由に旅をしたり、やりたいことをしたり、妖精郷で過ごされたほうが嬉しいですけどね・・・モルガン様、イグレーヌ様ももうじき妖精郷に行き、そこで暮らすそうですから、親子仲良く、過ごされることが叶うといいのですが。

 

 そのためにもまずはランスロット様とギネヴィア様の件を無事に片付け、最大の不安の種を取り除きましょう! さぁ・・・もう一息。私も、皆様に負けないように励まなければ!




今回は円卓崩壊の最大の爆弾とも言ってもいいランスロットとギネヴィア姫の不義。

華奈の作戦が甘いかなあ。と不安にもなりますが、私の緩い脳みそではこれくらいが精々でした。皆様、申し訳ありません。

そして国家解体の秘密裏に行うことへの始動。そりゃあ、国を象徴する王妃の不倫に、今の蛮族達の侵攻、かさみ続ける戦費、作物を品種改良しても田畑を荒らされて、思うように開拓できずに減り続ける税収。諸侯の不信感。爆弾が多すぎるにも程がある。

アルトリアのこの判断は、原作よりも片意地になりきらず、周りに相談役が多いからこそ出来た判断と私は考えております。

最後に UA 31901件 しおり 105件 お気に入り 303件 応援ありがとうございます! とうとうお気に入り数が300超え! 本当、こんな拙い作品をいつも見てくださり、応援してくださり、感謝、感謝です! 次回もよろしくおねがいします!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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華奈「休暇を貰います」

取り敢えず一段落? な話


(´Д`)月( ´∀`)日

 

 ランスロット様、ギネヴィア様のお二人を結ぶための作戦「膝に矢を受けてしまってな」は、どうにかこうにか成功しました。

 

 今回の戦の流れは私、ランスロット様、アルトリア様の三部隊で蛮族の攻勢を受け止め、その間に遠巻きに残りの円卓の皆さまが大包囲網を敷いて敵を殲滅させる作戦となり、円卓の中でも副長、多くの将を率いている私が敵の継ぎ目、隙間を突いていき、切れ込みを作る。そこにアルトリア様とランスロット様が攻撃を仕掛けて切り崩す戦法は大ハマリ。

 

 この戦法は三人が共に前線に深く入り込む形となり、自然と矢も槍も剣も飛び交う戦場での乱戦場がいくつかできていく。その中で打ち合わせの赤い矢羽の矢にアルトリア様は「わざと」受けて矢傷を負ってしまい、血糊もどきも上手く破裂したせいで出血量も多く見えてしまい、周囲は騒然。

 

 そんな中でもアルトリア様は味方に檄を飛ばし、鼓舞して前線に切り込んでいく。実際はかすり傷も良いところな怪我なのですが、真相を知らない兵士の皆様は大出血をしても尚敵に切り込む勇猛果敢な騎士王と映り、動揺で一時落ちた士気は爆発。蛮族を一気に責め立てていきました。

 

 相手も総崩れとなって逃げ出したため、銀嶺もその隙に潜り込ませた弓兵の銀嶺メンバーと合流、潜入していた部隊を全滅させてから包囲網を完成させた円卓の皆様に任せ、アルトリア様の治療をマーリンに任せるために私達は逃げる敵軍を深追いはせずにそのまま待機。

 

 到着してくれたマーリンには早速天幕で休ませているアルトリア様に治療魔術を施すために入ってもらい、その結果(演技)を皆様に伝えました。

 

 アルトリア様の腿、腰に刺さった矢の毒、鉄が体を蝕んでおり、そのまま暴れた結果、更に悪化。治療のかいあってまた今までのように戦場に出られはするが、その毒が一部男性器に悪影響を及ぼしており、もう治ることはないと皆様に伝達。

 

 そこまでの怪我でありながら雄々しく振る舞い、鼓舞し続けた偉大な王と称えるもの。この王の後を継ぐご子息が望めなくなったと嘆くもの。二つの反応に別れながらも誰もがアルトリア様の体調を気遣い、心配し、気落ちしないようにと皆がこの戦の大勝利はアルトリア様のお陰なのだと声を張り上げながらの帰路に。

 

 その際に血糊もどきは解析、気づかれぬように『毒の混じった血故に部下への感染を配慮して私が厳重に処分する』とマーリンがアルトリア様に具申。それを認めて少し部隊から離れた場所で焼却処分。更には浄化に煙の種類も幻術で見せるようにと念の入れた処分も終了。

 

 その後の早馬の報告で円卓の皆様も逃げてきた蛮族の軍を全て討ち果たし、作戦は大成功との勝報が入って更に大騒ぎ。『アーサー王万歳!!』の声がキャメロットに帰っても響き渡り、噂、帰還兵の話を聞いた民の声も重なりさらに大きくなる。

 

 この騒ぎの中『アーサー王の大怪我』『もう子を残せる身体ではなくなった』という噂に貴族、諸侯、臣下は食いついてきますが、戦疲れ、怪我もあるので後日に延長。

 

 尚も迫る方々には疲れた身体に大怪我、更には王、男性としての重要な部分が損なわれる事自体アーサー王が一番参っていると押し返しておいて私達も休息。

 

 後日の戦勝報告と噂の真偽を確かめる会議では不能になったことをすべて伝え、妃ギネヴィア様との世継ぎを作れなくなった、女としての幸せを与えてやれないという理由から離婚を宣言。

 

 これには当然ギネヴィア様の実家の兄。いわば当主と(形だけだが)ギネヴィア様が猛反対しましたが、アルトリア様が反対する二人に新たな嫁ぎ先を提案。

 

 自分よりも騎士の鏡であり、豊かな領地、優れた配下も持つ。王の血を継いでいるので格式、位も問題はない。ランスロット様と結ばれることはどうだろうか。と。ブリテンの再興からの古株であり、信も置ける最高の騎士。自分との繋がりや円卓との関わりを保ち、以前変わること無くその利点を手にして欲しいと提案しました。

 

 これには政略結婚によるメリットを見ていたギネヴィア様のお兄様も今のブリテンの現状とギネヴィアをランスロットの妻にすることでの天秤をかけた結果、渋々承諾。

 

 ギネヴィア様も子がいない状態でのこともあるのであまり強くは言わずに兄の決定に従い、ランスロット様もアルトリア様を守れずにこの様な自体になった。それにこんな形ではあるものの、ギネヴィア様ほどの方と結ばれるのならばと話は成立。

 

 また、この事による跡継ぎの問題は自身が聖剣の鞘で年を取らないので長い目で後継者を養子として探し出す、または、この体の状態を治療できる方法を探してみると伝えて戦勝祝いを開始。堅苦しいことはなしで騒いでほしいと言うことでキャメロットも我慢していた分大騒ぎになり、円卓の皆様もあちこちに引っ張りだこ。

 

 私達はこの騒ぎに乗じて集まり、アルトリア様、私、モルガン様、ランスロット様、ギネヴィア様、ケイ様、マーリンで集まって騒ぎを見届けた後にへにゃりと座り込みました。つ・・・・・・・・疲れましたぁ・・・後は、結婚式で公私共に結ばれるのを見届ければ問題はない。ということでしょうか・・・

 

 アルトリア様もその手はずは既に下準備やら諸々出来ているので後はそれをランスロット様、ギネヴィア様の従者、部下にそれとなく渡しておいて手早く段取りを拵えてやれば後はよし。はぁ・・・今日はお酒を飲みましょう。流石に疲れ・・・・・・ん?

 

 何やら肩を震わせて泣き出しそうになるランスロット様にギネヴィア様。あ、モルガン様、遮音結界、人払いの結界、マーリンは外から見える此方の景色を和やかな飲み会風にしてくださいませ。

 

 案の定、号泣して謝罪するお二方。いいのですよ。気づけなかった私が愚かなのですから。確かにとんでもない大罪でしょうが、それを差し引いてもギネヴィア様の嘆きや辛さは女として捨て置け無いものなのは確かですし、公式で結ばれるのですからもう私達に後ろめたい気持ちは抱かなくても良いのですよ? 

 

 ランスロット様も、もしこの事を嬉しく思い、アルトリア様の負担、今後を心配してくれるのならこれからもアルトリア様の剣であり、盾であり続けてくださいませ。それが何よりもアルトリア様の助けになり、ギャラハッドとの縁を取り戻せる近道。そちらの未来の幸せ、心の傷を癒やすためにも、今はお辛いでしょうが、励んでくださいませ。

 

 今回の戦働きでの報酬は私自身は金も名誉も貰わずに、部下への報奨、それと長期休暇を貰って休むことを頼むことに。知り合いの魔術師から貰った薬に、知り合いからもらったジュースを飲んで今回の心労、疲労を癒やしたいです。

 

 アルトリア様、モルガン様からも許可をもらって半月に休暇を頂くことを言質として貰っておいて私は一足先に銀嶺の拠点に帰還。モルガン様はガウェイン様と一緒に帰るそうで、その事もガウェイン様、国の留守を守るガヘリス様に伝えておきました。

 

 はぁぁあ・・・・・・どうにか、どうにかここまで行けました。後は、もう・・・あちらに任せて・・・眠い・・・今日はもう寝ましょう。流石に疲れが・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

(。-ω-)月(。゚ω゚)日

 

  どうにかこうにか不倫騒動は表に出ること無く始末をつけて、無事に結婚式を済ませることが出来、今はこうして緩やかな日記を書き進めることが出来ます。

 

 アルトリア様も祝福の言葉を捧げ、二人の門出に皆が大いに喜び、更に結婚式でのランスロット様のスピーチでより会場が沸き立ってもはや声の爆音のるつぼ状態。

 

 アルトリア様への謝罪とこれからも不甲斐ない騎士ではあるがこれからもお仕えしたい。と言い、アルトリア様もまたこれに私からもお願いしたいと返し、改めて円卓のつながりの強さが示されたと皆が喜んで騒ぎまくる。その勢いを消さないまま、賑やかなまま結婚式は終了。

 

 これからの二人の生活がうまくいくことを願うばかり。これからは相談も沢山持ちかけてほしいです。トリスタン様も、あれからよく私に部下との付き合い方や悩み解決のために来ることがありますし、ランスロット様、ギネヴィア様も相談して、問題をいち早く解決してくれる様になれば幸いなんですけどね。

 

 まあ、今の私は人のことを心配できませんかね? 帰ってくるなりフォウ様にガレス様、イグレーヌ様は心配してきましたし、ガウェイン様はもう少し休暇を伸ばしても良いのではないだろうかと言ってくるほど私の疲労具合は周りから見るとひどく見えるようで。

 

 今もこうしてゆっくり日記を書いてはベッドで睡眠を貪り、外の景色を眺めたりしています。何せ、近くの部屋でアンナ様やヤマジが訓練し始めないかと監視するのですからもう動けない。そこまで私って休まない人間と思われているのでしょうか。それなりには有給も貰っているのですけども・・・

 

 しかし、こうしてのんびり空を眺めたり、拠点の景色を眺めるなんて最近はなかったので嬉しいですね。どうしても蛮族対策の防衛ラインの考察、市街戦を想定した際の動き、空も天候による戦術の変動、行軍中の速度、休憩の取る時間の目安くらいにしか見ていませんでしたから。

 

 こうやって明日の天気を見てのんびり畑のことを考えたり、モルガン様、イグレーヌ様と散歩できるかどうか話したりと・・・どうにも動かないと昔のことも多く思い出してしまいます。

 

 ふわぁ・・・忙しさに殺されそうな日々だったのに、いざ休むと少し回復したら動きたくなる。何でしょう・・・あれ? これって社畜? ワーカーホリックなんでしょうか?

 

 ん~・・・お風呂に入りましょうか。なんかこう・・・湯船に浸かりましょう。それならと許可ももらえましたし。

 

 はぁ・・・いい湯でした・・・用意してもらった氷室で冷やした牛乳も風呂上がりには最高でしたし、やはり殺菌加工、処理などを挟まないもの、搾りたてのものは前世で飲んでいた市販品の牛乳とはレベルが違いますよ。衛生面、安全さでは処理を挟んだほうが良いのですけども、これもしぼりたて、新鮮ゆえの楽しみですねえ。

 

 まあ、サウナルームでレスリング、ガマン大会を繰り広げていた皆様のせいで危うく盛大に吹き出しそうになったんですどね。いやもう、暇を持て余してこの行動に走る辺り、私の部隊は本当変わり種ばかり。あ、誰かのぼせましたね。倒れた音が。

 

 外では養蜂場で蜂蜜を採取したり、生姜を収穫したりと農業に励むモードレッド様にギャラハッド、シーマ様。ダンカンはまた今朝漁に行ってきたのか鰻の蒲焼と蟹のソバ雑炊を作って食べていますし。皆様思い思いに過ごされています。

 

 うーん・・・明日、いや明後日にでも参加して皆でまた土いじりをやりたい。ウナギ漁をしに行きたいですね。夏休みのようなワクワク感待ち遠しさはこういう事を言うのでしょうか。

 

 そんな楽しげな風景を見ているとイグレーヌ様、ガレス様、ラグネル様がお菓子を持って私の部屋に来て皆でおしゃべり、そのまま晩御飯を食べて一日がゆっくり過ぎました。

 

 明日は何をできるか聞いて、私も外で皆様と過ごしたいですね。軟禁気味の休暇はもうこりごりですよ本当に。

 

 

 

 

 

 

 

( ・∀・)月・ω・日

 

 本日はキャメロットにてベディヴィエール様と料理教室。痛みそうなお肉、野菜を痛む前に処理しつつ、アルトリア様の身の回りの手伝いをする彼に料理のいろはを確認、私の出来る物を教えていきます。

 

 そもそも、戦場では仕方ないこととは言え、普段でもゲテモノですらそのまま食べさせたりしたりと料理に関しては普段のベディヴィエール様の穏やかさ、細やかさが消えて中々にワイルド、又はアバウトな面がある。それの矯正と調理方法の伝授。料理は味だけでも、栄養だけでもないのですから。

 

 目玉などは細切れにして水分を抜いた後に野菜も入れたつみれ団子にしてスープに添えていくならあの触感もアクセントになりますし、発情期のオスの猪の肉などしかない場合は固くなっている脂肪を除き、肉も牛乳に漬ける、水に晒したりして刺激臭の原因を取り除くなど、見た目の変え方、季節によって味を変えてしまう獣の調理方法を伝授。

 

 考えてみればブリテンは私やモルガン様、ガレス様に私と一緒に料理をしたコックの皆様がいないのですよね。美味しいですし、悪くはないですが、それ以上が何故かいないという状態。だからこそ自分が王にできる限り最高の食事をと張り切っているのでしょうけども、ベディヴィエール様は何やかんや男の料理に走る気がするので念入りに。

 

 そして今回できたのはつみれ団子の味噌汁に、猪の角煮、サラダにジャーマンポテト。十分でしょう。では、そろそろ昼食ですし、アルトリア様や他の円卓の皆様の分までお願いしますね?

 

 さて・・・鳥も数羽手に入れたのとウナギが来ていますし、下ごしらえでもして夕餉の準備でも・・・と考えていたらマーリンから呼び出されてしまい、すぐ出来るものをしてから談話室に。

 

 呼び出された内容というのは私が今からでも妖精郷に行って過ごさないかというもの。はい? 何でこのタイミングで? 色々まだやることも残っているというのにそれは少し無理な相談ですよ。

 

 理由としては私の影響で抑止力なるものが動き出そうとしているらしく、一年以内には何らかの形で私を殺そうとしてくるらしいです。それでこの世界から隔離された妖精郷で過ごして抑止の手から逃れて余生を過ごして欲しいというもの。

 

 私にここまで気にかけてくれるのは嬉しいですが、先程も言ったようにやることが残っていますし、伝えてはいないですがブリテンの緩やかな終焉を終えるまではここに残りますからね?

 

 私の姿勢に少し頭をかいた後に『引退して後を託すよりも、死んでからの後継者争いや遺産の奪い合いのほうが大きな傷になるよ』と私に告げ、この国の解体に関してもアルトリア様の夢の中で見たので知っているとのこと。

 

 いつの間に・・・この事を知っていての忠告は嬉しいですが、夢を盗み見? 夢に出てきた記憶をたどった? のは少しどうかと・・・はぁ・・・それも一理ありますし、仕方ないですね。

 

 抑止の何らかのアクションがありそうだったらすぐに私に伝えること、それがない間は半年くらいの間だけ活動しながら後継者を見繕う、または銀嶺の持ちうる財産を誰かに譲り渡して引退、妖精郷に去って抑止をやり過ごす。これでいいでしょうか?

 

 あちらもそれで了解してくれたので取り敢えず晩御飯の味見をしてもらってから話は終了。しかし、あの方が私をここまで気にかけるなんて何でしょうねえ。どんな心境の変化があったのか気にもなりますけども。

 

 しかし、抑止力ですか・・・随分と前に聞いたくらいなので忘れていましたねえ。私が病死、年齢を理由に引退ならその間に色々引き継ぎやら出来ますけども、力技で来ると周りへの被害も大きいですし、マーリンの言う通り、引退して抑止から逃げる形で妖精郷で過ごすのも一つの手段でしょう。

 

心配や、心残りも大きいですが・・・私も、そろそろ退く時期ですか。せめて上手いことやれるようにしませんと。

 




ランスロットとギネヴィアの問題も一段落。そして漸く訪れた穏やかな時間。

そして漸く腰を上げた抑止の存在。そりゃ、国庫もなんとか借金は現在の時点で少ない状態、反乱、円卓崩壊の種はあらかた阻止。食料もどうにかなっている。いいかげん「この女殺さなきゃ・・・」と考えているでしょう。

次回はハッピーエンド、バッドエンドの二つを出来る限り同時に上げたいと思っています。なので、いつも以上に時間がかかるかと思います。どうかご了承してくれたら幸いです。

最後にUA 33399件 しおり 108件 お気に入り 310件 応援、有難うございます! 誤字報告に高評価、感想など、本当に励みになっています。いつもいつもこんな変わり種な作品を追っかけてくれて有難うございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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バッドエンド 銀の終焉

バッドエンドの場合。それなりにきついかもしれません。


「ゴボっ・・・かふっ・・・・」

 

 やられた・・・まさか抑止がここまで早く手を回すとは。疫病や大災害、天変地異ではなく英霊を十人以上も用意し、更には軍までも用意、虚報を回して私達を殺しにかかるなんて。

 

 あのマーリンの警告から5ヶ月ほど、危険のラインを私も彼も読み違えたのだろう。

 

 「はぁ・・・っ・・ゴボ・・・っ・・うぁぁ・・・」

 

 臓腑は三分の一を焼かれ、腱も関節も左腕を除いて関節もろとも潰された。毒も打ち込まれて吐き出す息も腐臭が漂う。肺も腐り始めているのだろう。息を吸うだけで喉を割かれるような感覚に陥り、吐くたびに毒と熱で焼かれている思いだ。

 

 周りを見ても私と共に出立した銀嶺、おおよそ2500騎はすべて死に絶えた。抑止も私がもうじき死ぬことで目的を果たして満足したのか、それとも私達とぶつかり、半数は討たれたのでこれ以上は無駄だと判断したのか、残った英霊は皆退去して行った。幸いだろう。アルトリア様、ガウェイン様なら討ち果たすだろうが、それでも相手は遠慮も慈悲もない。被害は間違いなく出る。それもかなりのものが。

 

 「幸いなのは・・・う、ぶっぅ・・・・『あの英霊』を倒せたことでしょうか・・・」

 

 あの英霊は危うすぎた。半神、聖剣、超越的な技量、多様な宝具、誰もが油断の出来ない英霊だった。しかし、あの英霊だけは通してはいけなかった。あれを通せば、最低でも国が一つ、間違いなく滅びただろう。少ない勝機に賭けて挑み、ハチ、花子、栗毛、レギア、イネンナを借りて、彼らの死と自身の無謀な攻撃をもってどうにか討ち果たせた。

 

 「み・・・・な、死んで・・・謝りませんと・・・はぁ・・・約束・・・守れませんでしたし・・・げぉ・・・」

 

 妖精郷に送る約束を果たせなかった、そして、私のせいでついてきてくれた仲間、魔獣達が、副官、家族が死に絶えてしまった。死地を共にし、苦楽を共にした仲間を自身の・・・しかも抑止という訳のわからないもののせいで。

 

(はぁ・・・それなのに、皆最後まで私に感謝して、笑って逝くのですから・・・大馬鹿者ばかりです)

 

 指揮官としても最悪の結果。撃退はしたが、自分ももうじき死ぬ。後継者はどうするのか、この事を民にどう説明するか。全部アルトリア、ガウェイン達に任せてしまう。これがどうしようもなく情けない。仲間を生かしてやれなかったことが悲しい。思わず負の側面に呑み込まれそうになってしまう。

 

 「大将・・・まだ、生きているか・・・?」

 

 何度も聞いた声だ。何とか頭を動かすと、アンナを抱えながら、ヤマジが向かってきていた。彼自身、腹は裂けて臓腑が飛び出し、毒を貰っているのだろう、顔の所々に醜い膿や斑点が出来ている。

 

 アンナも利き手の右腕と左足が切り落とされ、その美しい真紅の瞳も片方が無くなり、出血の具合からもう長くはないだろう。

 

 「華奈・・・悔やむことはないわ・・・私達は・・・勝ったのよ」

 

 「カナの大将・・・そうだよ。僕たちは勝ったんだ・・・だから、そんな顔をしないでくれ・・・ゴホッ・・・」

 

 ダンカンとクラークもどうにか腕一本だけ、下半身の一部がなくなりつつも這いずってここまで来て、華奈に勝利なんだと口々に言う。

 

 「ですが・・・皆様・・・私も助からない・・・皆様も・・・ヒュー・・・ぶ・・・死んで、しまうのに・・・私の、せい、で・・・・」

 

 そう、彼らにも引退して穏やかな生活をさせる準備をしていたのに・・・それが、計算を読み違えてこの有様だ。そんな情けない指揮官に、将に何故ここまで・・・先に死んでいった皆もそうだ・・・

 

『大将! 最高の死に場所を有難うよ!!』 『カナ様・・・女の私にこのような最高の晴れ舞台、感謝します! ご武運を!』 『隊長。貴方と共に戦えて光栄です。では、先に失礼します』 『この部隊に相応しい強者ばかり。思い切りぶつかってやらァ!!』

 

 誰もが私と一緒に、矢で討たれ、槍に突き殺され、剣で切り裂かれ、宝具で蹂躙された。絶望したはずだ、諦めたはずだ。円卓にも届く、凌駕するような化物ばかり。それなのに、皆笑って・・・・・

 

 「そうは思ってないです。カナ様。皆、目的を果たすために戦いました。そして・・・ぐふっ・・・私達はそれを・・・果たせました・・・」

 

 「クラーク・・・! もう、喋らないで・・・!」

 

 「華奈・・・いい? 相手が何であれ、私達を害して・・・キャメロット、オークニーへ向かうあれ程の・・・ヒュッ・・・怪物・・・それを・・・はぁ・・・追い払ったのよ・・・」

 

 「つまりは・・・僕たちは・・・『防衛戦』に勝利したのさ・・・国を守れた・・・同盟相手を・・・守れた・・・おぅぶ・・・これだけの被害で済んだ・・・国土もこの一帯だけしか荒らされていない・・・」

 

 「大将も言っていたよな・・・『国の礎は人、大地は荒れても耕せますが、人の死はそれ以上に難しい』と・・・それを守り・・・ゴホっ・・・ゴホ・・・ここだけの被害で済んだ・・・俺たちの勝ちさ・・・」

 

 「だから・・・それを出来るカナ様に・・・それだけの事を出来る最強の軍を作った・・・優しいカナ様ならやってくれると・・・皆・・・・・・・目を輝かせて・・・託して逝ったのです・・・・・・・」

 

 やめて。そんなふうに言わないで・・・私は・・・敗将なのに・・・もう、死んでしまうのに・・・そんな風に言われては・・・なにも、積を感じなく・・・後悔が・・・無くなってしまう・・・積を果たせずに死んでしまうのに、これすらも良しと思って・・・

 

 「大将・・・俺は・・・しがない大工で・・・ぶふ・・・そのまま戦火に巻き込まれて死ぬか・・・何もわからないまま死ぬだけだったろうさ・・・・・・それを、王に会わせてくれた、王姫にも・・・戦場に戦える強さを、騎士の位を・・・聖剣を・・・楽しい試みを、上手い飯を・・・夢のような時間だった・・・・・・俺は、此処で最後にここで逝ける事を感謝している・・・・・・・感謝し・・・・ているぜ・・・カナの大・・・・将・・・・」

 

 ヤマジが事切れた。アンナを最後の力で優しく降ろし、ただの肉塊となって地に臥してしまった・・・涼しい顔で、安らかに・・・眠るように・・・

 

 「僕もだよ・・・僕みたいな農民が・・・騎士になって・・・あのアーサー王に一泡吹かせた・・・・そして・・・戦える力で・・・蛮族を倒して・・・・・・お風呂を作って・・・・・皆と漁をして・・・ウナギ、蟹を最高の・・・・・ご飯にしてくれた・・・蛮族に襲われたら、女は犯され、子は売りさばかれ、男も売られる、殺される・・・そんな弱い立場にも耳を貸し、声を聞き・・・・だれもそんな事で怯えないような日々を・・・安らぎをくれた・・・・・・・有難う。カナの大将・・・・・また、あの世で・・・ご飯食べようよ・・・・・」

 

 ダンカンも死んでいった・・・最後まで、人を安心させる・・・歳に不相応な優しく、純朴な顔で・・・・

 

 「華奈・・・? 私、いえ・・・・・皆も、何一つ最後の瞬間まで貴方の選択に後悔も無いわ・・・・・・・・浮浪児同然の私を見つけて・・・・人間は・・・私だけの・・・・一人きりの世界から・・・こんなに多くの友ができた。師匠が出来た・・・貴女にまた会えた・・・最高の人生だわ・・・・そして、同じ場所で・・・最後を一緒に迎えられる・・・・・・最高の死に方じゃない・・・有難う、華奈・・・来世があるのなら・・・また、私を愛してね・・・・? 私も・・・貴女を・・・・愛しているから・・・・・」

 

 アンナも・・・気丈に振る舞い・・・子供をあやすような優しい声で・・・その美しさを失わないままに・・・動かなくなった・・・・

 

 「私は・・・まだ若輩ですが・・・・・・・これだけは・・・誓って言えます・・・この部隊は最高の軍でした・・・職業も、階級も、性別すらも差別なく・・・・・・・楽しげに語らい、相談しあい・・・馬鹿をやれる・・・・夢のような・・・楽園でした・・・・・・・誰もが驚く私ですらも受け入れて・・・語らって・・・私もここまでの・・・この瞬間も・・・・・・カナ様と一緒に・・・戦えたことを何一つ後悔していません・・・・・・シーマとの時間も・・・・・・皆との時間も・・・忘れること無く抱えて・・・死ねる・・・最高です・・・・・ですから、カナ様・・・どうか・・・貴女様も笑顔で・・・あの世にいる、皆が悲しみます・・・もしくは・・・笑われちゃいますよ・・・?・・・」

 

 クラークも・・・・・・・・何とか笑顔を作って・・・優しい瞳を見せて・・・・・・・死んだ・・・・

 

 「コホッ・・・・ああ、そうですか・・・・・皆が・・・そういうのな、ら・・・・・・」

 

 正直な所、心残りも、心配もある。けれど・・・・・・

 

 「あっははははは!! 幸せでした・・・! あれだけの軍にこれ以上国を荒らさせることをさせず!! 皆と一緒に死ねて・・! やりたいことをやって!!! 誰かのために戦えて! ここまで過ごせて!!・・・・本当に、本当に・・・幸せです! ああ、いい人生だった! ・・・・・・・ゴボっ・・・」

 

 笑ってしまおう。笑顔のまま死んでいこう。自分をここまで支え、最後まで一緒に死んでくれた皆が心配しないように。そうなのだろう。私のような馬鹿女がここまでの大戦果を残して死ねる。分不相応な素晴らしい最後だ。

 

 今できることは笑って死んで、またあの世で皆に再開して、謝って、そして一緒に・・・

 

 (ああ、ただ・・・ギャラハッドに、モードレッド様・・・銀嶺の残りをお二人に任せるのは・・・ガウェイン様に遺言を読んでくれるのかは・・・・国家の解体は・・・心残りでしょうか・・・? 上・・・手・・・・・・く行・・けばい・・・・いのですが・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、あまりに規模の大きな戦の音に、銀嶺、自身の伝令から報せが入ってこないことに不安を感じたアルトリアが軍を率いて見たものは、自身の聖剣を何度も何度も振るったような荒れ果てた大地、生きているものは誰ひとりいない銀嶺騎士団、そしてそれを率いていた華奈とその副官達の亡骸だけだった・・・

 

 銀嶺騎士団の多くの死去、それも旗揚げの時期から多くを支え、円卓にも比肩するとも言われた副官達、その主であり、円卓の剣の師でもあった華奈の死は多くの衝撃と悲しみをこの島に運んだ。

 

 そして・・・・・・・・・悲しみに暮れるモルガンが華奈の自室に足を運んだ際に見つけた自分とガウェインに宛てた遺書、何が残されているのだろう。あの聡明で勇猛な姉は何を残したのだろう。もういない姉の言葉を、思いを全て心に刻むために封を切って読み耽る。

 

 

 

 

 

 「拝啓 麗しき妹 モルガン様 素晴らしき太陽の騎士にして王 ガウェイン様

 

 この手紙を見たということは、私は貴方方に何も伝えることが出来ずに戦場で死に絶えたということなのでしょう。普段からやんちゃしたり、私の部屋にも遊びに来るお二人ですが、机の日記や封をした手紙を勝手に読んだりはしませんでしたものね。

 

 まずは、申し訳ありません。この愚将、端女では、上手く事を運ぶことが出来なかったのでしょう。あれだけの特権や兵権を持たされながらにこの不始末をお許しくださいませ。

 

 私のような見たことのない人種、しかも女であり、出自もよく分かっていない私をここまで召し抱え、重宝し、楽しげな時をくださったことは正に私にとっては夢のような時間であり、どんな宝石や黄金よりも価値のあるものです。

 

 それに報いるためだったのですが・・・被害などは大丈夫だったのでしょうか。皆は、無事でしょうか。死んだことや、私はキリスト教徒にはならなかったので、別の神様のところに行っていることですし、もしかしたら死後の世界からもブリテン、オークニーは見るには遠いかもしれませんから。

 

 こんな私でも貴方様達の姉であり、師匠。導いてやり、話を聞いてやり、助けなければいけないのにここで死に絶える私を怒って下さい、なじって下さい。勝手に逝った私は、受け止めることが出来ない、謝ることが出来ない。だから・・・せめてこうすることでしか最後の気持ちを表すことが出来ませんでした。

 

 モルガン様。その悲しい境遇に負けず、女としての全てを犯されようと迫っていて尚も母を庇い、思いやり守ろうとした強い女性であり、魔術で、自身の努力で国を支えた偉大な魔術師よ。

 

 ガウェイン様。太陽の加護に聖剣を持ちながら研鑽を忘れず、常に明るく、優しく、円卓、国王であり続けて国を明るく照らした剛力無双でも名を馳せる偉大な王よ。

 

 家臣として、過ごせたことは幸福でした。家族として、愛することが出来たことは私の誇りです。愛しています。

 

 最後に、私から残せるものです。

 

 醤油や味噌を保管する地下室と、拠点内の幾つかの部屋の中に隠し金庫があります。そこには私が蓄え、本当にどうしようもないときのために出そうとしていたお金が少しばかりあります。モルガン様、イグレーヌ様、ガレス様、ガヘリス様、アグラヴェイン様、モードレッド様、ガウェイン様のそれぞれの飼っている狼の首輪の裏に鍵を入れておいたのでお使いくださいませ。

 

 足りないでしょう、はした金でしょう。けれど、これが私に出来る最後の奉公です。

 

 皆様で穏やかな夢の時を、安らげる家族との時を、民が笑えるように・・・やり残した事、お願いします。

 

 忙しくも、騒がしく、愉快で、幸せな時間でした。

                                  カナ・フナサカより」

 

 

 

 

 最後の置き土産だったのだろう。これ以外にも華奈の親しかった者全てに書いた遺書がその宛名の人全てに届けられることになり、誰もが自身よりも相手を考える、思いやる姿勢に涙を流し、嘆いた。

 

 ――何故、この偉大な方を救えなかったのだろうか。と。

 

 モードレッド、ギャラハッド、モルガン、イグレーヌは誰よりも悲しにくれ、その嘆き、慟哭はその街全てに響き渡り、聞かぬ人はいなかったほどだった。

 

 華奈、ヤマジ、アンナ、ダンカン、クラーク、率いていた銀嶺のメンバー全ては国葬以上の規模で行われ、魔獣も魔猪も欠けること無く最大級の敬意を持って執り行われ、その際に集まった人々は誰もが銀嶺の今までの行いを褒め称えた。

 

 武を見れば誰もが認め、暴れまわるその姿は円卓、アーサー王も一筋縄ではいかないと言った。

 

 脚を見れば誰もついていけぬ速さで馳せ参じ、多くと戦い、多くを救う。

 

 人を見れば変わり種ばかりだが心優しく、魔獣も無闇矢鱈と暴れずに此方を労る心を見せた。

 

 文を見れば新たな食材の発見、衛生対策、国の財源たる産業を幾つも興し、オークニーを、ブリテンを支えた。

 

 そして、それほどの騎士団が崩壊したことに危機感を覚えた。『銀嶺ほどの戦力を倒す連中がいる。自分たちは大丈夫なのか?』と。

 

 それからのブリテン、オークニーの崩壊は一気に早まった。

 

 

 オークニー国内は今までその機動力、攻撃力で蛮族を防ぎきっていた刃の銀嶺の壊滅。その事によるかつての蛮族の闊歩が再び起こるのかと混乱状態が始まり、コーウェン将軍の一族の領地で育てていた魔獣たちで形だけでも整えたが、それでも尚皆は「銀嶺」を求め、すがる。

 

 強硬手段は防げたが、中には華奈達の遺品である聖剣、聖槍、多くの礼装をも求めるものがいたほどと言えばその焦りよう、混乱具合も分かるというものだろうか。

 

 500騎でアーサー王の軍に大きな一撃を叩き込んだかつての戦歴からも、誰もが求めた。残された銀の牙を。ブリテンからも残った銀嶺の騎士を合法非合法問わずに求め、脅し、引き抜こうとし、その度にガウェインにガヘリスが間に入って執り成しに入るが、諸侯の恐怖と、銀嶺の確執は深まる。

 

 まだ多くのことを学んでいたモードレッドは師匠達の穴を埋めるために躍起となって戦場に身を晒して暴れ続け、どうにか銀嶺の威を繋ぎ止めようとあがき続ける。

 

 ギャラハッドはこの事態を、これから悪化する事態を自身の血筋、生み出された目的から聖杯を求めてガウェイン、アルトリアの両名から許可を貰った後にモードレッドに自身の部隊を預けて聖杯探索に向かい、発見。

 

 無事に聖杯に選ばれた。しかし、手にした聖杯の魔力に触れ、切り離しきれなかった成長の魔術式が暴走、寿命がそこで尽きて天へと聖杯と共に登ってしまう。

 

 その穴を埋めるために多くの若く、未熟な少年すらも駆り出され、将の穴を埋めるために魔術師、剣士の才能はあったものの、戦に出ていないガレス、年老いて引退していたコーウェン、後方支援を主としていたモルガンも前線で戦って大きな穴を埋めようと必死に駆ける。

 

 ブリテンもその崩壊の速度は尋常なものではなく、華奈を救出来なかったと嘆くアルトリア。トリスタンはかつての恩や頼りにしていた精神的支柱の一つを失い自身を責め、嘆きと悲嘆に暮れたまま円卓を去る。

 

 華奈、トリスタンの穴を埋めるために円卓も奔走するが、円卓の中でも随一の機動力と特異な流動殲滅戦を誇っていた銀嶺、そして、弓兵による援護射撃を得意とする部隊の将の損失は簡単に埋められるものではなく、華奈を救援できなかったことによるアルトリアへの不信や銀嶺を屠った部隊の存在を察知できないことから恐怖を感じ、大陸の領地を持つランスロットに飛びつき、靡いてアルトリアを廃してランスロットを王に据えていこうという貴族の動きすらも起きた。

 

 ランスロットはこれを拒否、これに異を唱え、食料を、安全を求めて諸侯達が反乱を起こす、ブリテンを離れる者が相次ぎ、それを鎮めるために戦力を割かれ、摩耗する。

 

 一方でアルトリア自身もさらなる破壊力、力を求めて、この形で国を終わらせまいと主兵装の一つにロンの槍を加え、アヴァロンをしまうことになった。その結果、今までアヴァロンにより止まっていた肉体の成長が急激に始まり、子供の体系だったアルトリアは見事な肢体の美女に成長。

 

 蛮族の侵攻は止まることもなく、更には諸侯の反乱の鎮圧。内外ともに混乱状態にブリテンも、オークニーも陥り始め、混沌となり始めた。

 

 ガウェインはこれに対し華奈の隠し財産で両国の戦費を賄い、オークニーの面々で遠征を行い、フランスと同調してローマを叩く作戦を立案。アルトリアも戦費の補充に今はこうでもしないとどうしようもないと判断し、ローマへの遠征を依頼。

 

 アルトリア、円卓の面々で島の反乱、ガウェインが攻め入る前に来ていた蛮族らを討ち果たすためにブリテンに残り、討伐を開始。ガウェインらが帰ってくるまでの間、留守を守るために必死に抗い続けた。 

 

 ガウェインらも半神、その分霊の側面を持つ面々が多く、神秘のない大陸ではマーリンに準備してもらった礼装で体力の消耗を防ぎ、その半神ゆえの強み、身体能力を生かし、華奈、ジャック、コーウェンに仕込まれ、実戦でも磨かれ続けた戦の才能を振るってフランスと連動してローマを叩き、サクソン人、及びローマにブリテン、オークニーへのこれ以上の武力介入、侵攻をしないことを和睦協定としてどうにか結ばせることに成功。一年にも及ぶ遠征劇は幕を閉じる。

 

 多くの死者が出るも、掴み取った勝利を抱えて凱旋したガウェインらの目に入ってきたのは、一年もの間でロンの槍の侵食を急速に受けて人の枠を外れ始めていたアルトリアの姿だった。

 

 半神、あるいは自身の根源が神であるガウェインらは即座に悟る。あれはいけない。アルトリアですら無くなり、華奈の意思を託したものですら無くなり別のものである恐ろしいナニカに成り果てる。そして、その先は間違いなくこの島、若しくはそれ以上の規模での惨劇が起きると感じ取ってしまう。これを止めるには、命脈を立つ他ないだろう。人としても終わらせてしまうためにも。

 

 これ以上の惨劇を防ぎ、この惨劇だけでこの島にはびこる悲劇を終わらせることを選んだガウェインらオークニーの面々はアヴァロンを手放して成長した肉体により発覚した性別詐称の事で憤っていた、それよりも前からアルトリアに反感を持っていた諸侯をすぐさま自身の傘下に纏め、加えていく。モードレッドもその際にクラレントを手にし、自身が選定の手に出来たこともより多くの戦力を集めるために一役買った。

 

 円卓の騎士、そして島の多くを領地に持つ故に離反した諸侯を除いても尚も多くの兵士を抱えるブリテン。

 

 数は少なくとも、諸侯の戦力を得てブリテンも油断できない兵力を持ち、ガウェイン、ガヘリス、アグラヴェイン、モードレッドとこの島でも指折りの将と数えられる騎士にまだ残る銀嶺隊。

 

 戦線に出ること自体がなかった、出たとしても極稀なモルガン、イグレーヌ、ガレス、既に引退して老齢のロット、コーウェンすらも剣をとって立ちはだかるオークニー。

 

 かつて二十年近くも同盟が続き、互いに足りぬところを支え合った両国は、最悪の形で割れ、壮絶な血の雨をこの島に降らせる。

 

 元から優れた技量に華奈の剣技、それを振るう上に肉体は成長し、竜の因子もそのせいか昔よりも強力。更には神霊よりになったせいで一層強力な力も振るえる強大な存在。

 

 そんな神への領域に足を踏み入れ始めたアルトリア。それに仕える円卓の騎士。誰も彼もが倒れ伏し本来なら到底叶うはずもない存在に皆が文字通り死に物狂いで立ち向かい、結果としてガウェイン、モードレッドの両者のその執念はアルトリアと共に討たれる形で幕を閉じる。

 

「叔母上・・・・・カナ・・おばちゃん・・・いや、先生はさ・・・・・・今のおばうえ・・見たら・・・・・・すっげー・・・悲しむと思うぜ・・・・・・・・何か・・・違うんだよ・・・・・疲れていても・・・・悲しんでも・・・前のほうが・・・・親しみを・・・・」

 

「アーサー王・・・・・・いえ、アルトリア・ペンドラゴン・・・叔母上・・・・・私は・・・カナは・・・人で有り続けて・・・人の目線で接し・・・・・・・・笑い・・・かける貴女様が・・・・大好きでした・・・こんな・・・・・・こんな力に・・・・・・・すがらないで・・・・・・・くだ・・・・さ・・・・ぃ・・・」

 

 後悔と悲しみに沈んだ目でアルトリアを見つめ、その言葉を伝えた後、両者ともアルトリアの目の前で倒れ伏し、物言わぬ冷たき骸となった。

 

 静まり返った戦場に、先程までの熱気、狂気を冷やすかのような冷たい風が吹く。オークニーは、一部を除いて皆死に絶え、ブリテンも、ベディヴィエールやランスロットなど生き残れたのはごくわずか。国の体裁など、ここまでの失態をやらかしては、国を保つことも、かつて話し合った穏やかな国家解体も夢のまた夢だろう。

 

「何で・・・・・・・何で・・・こうなったのでしょうか・・・・・・・・」

 

 聖剣を返還しに行くベディヴィエールの背中を見送り、改めて周囲の骸の山を見渡す。

 

 殺してしまった。自身の母を。

 

 殺してしまった。自身の種違いの姉を。

 

 殺してしまった。ガウェインを、ガヘリスを、アグラヴェインを、ガレスを、モードレッドを。愛しい甥を、姪を。

 

 殺してしまった。彼女の・・・自身のもう一人の、血の繋がらない義理の姉の残した部隊を。

 

 殺してしまった。姉らを受け入れた王を、その同僚の将軍を。

 

 華奈が愛し、友情を育み、自身もまた愛していた、信頼していたものを・・・自身の手で血に染め、殺した。ただ、守る力が欲しかっただけなのに、神だろうとなんだろうと、守れるだけのものを求めただけなのに・・・話し合うことも、止めることも出来たのではないのか? しかし、今の惨状は何だ。自身も戦を止めることが出来ずにこの有様だ。

 

 「嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・・嫌だッ!!!!」

 

 血涙を流し、歯が割れんほどに食いしばり、死にそうな身体とは思えぬほどの怒りを吹き出し、紅く染まる空を睨む。

 

 愚かだとは分かっている。彼女を殺した相手にこれをすること事態愚の骨頂。分の悪すぎる賭けになるのだろう。けれど、望まずにはいられない。あの素晴らしき日々を、人である時間をくれた、笑顔をくれたあの銀の牙達に会いたくて、手をかけてしまった家族たちの笑顔を・・・過ちを犯す前の時間を取り戻したくて仕方がない。

 

「巫山戯るな!! こんなっ結末を誰も、誰も望んではいないのだっ!!! 認めてたまるか!!!!!!」

 

 一度は手にしたが、取りこぼしてしまった万能の杯。これを求める、これで全てをやり直す。たとえそのために契約する相手が自身の愛おしい姉を殺した世界であろうとも。

 

 「我が怒り、怨嗟の源たる悍ましい元凶よ! 私の魂なぞ明け渡してやるッッ!!!! だから、寄越しなさい! 全てを望める聖杯を求める闘いを、機会を私に与えろ! こんな結末を根本からぶち壊すために!!」

 

 緩やかな終焉のために。あったはずの柔らかな時間のために。たとえそれを成すために仇敵に頼ろうとも、機械仕掛けの神にすがるしか無くても、これを覆し、望んだ時に変えられるのなら。コテコテの、子供だましと言われるほどに使い古された喜劇に変えてみせる。

 

 例え、誰が相手であろうとも、地獄すらも生ぬるい苛烈な戦場であろうとも、目的を成すために・・・・・・・

 

 世界との契約を行使した。

 

 




出来うる限りのバッドエンド・・・書いていて、うわぁ・・・と自分にドン引きでした。

救いがあったとしたら、抑止の被害を抑え込み、全滅なれども皆が墓までついていく銀嶺の絆と後悔なく幸せな時間だったと告白されて、笑って死ねた華奈、そしてその華奈と共に死ぬことが出来たヤマジ、アンナを始めとする銀嶺メンバーでしょうか。


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ハッピーエンド あの日から

ハッピーエンド。此方が本編の正史ルートにさせていただきます。


 冬というのは、つくづくにして厳しいものだ。野菜も育てることが難しくなるし、寒さと雪のせいで動くこともままならない。そのくせ獣達も食料を求めて殺気立つものもいるから恐ろしい。

 

 そんな時は・・・

 

 「皆様~イノシシの味噌鍋と、カニ鍋が出来ましたよ~」

 

 「「「待ってましたぁ!!!」」」

 

 人は、自身の屋敷で暖を取り、暖かな食事で冬を乗り切るのが一番だろう。

 

 「蟹になりたいね!」

 

 「お前は相変わらずそれだなあ。俺と一緒に銀嶺に来たときから蟹大好き人間ぶりが変わらん」

 

 「はぁ・・・~猪のタンがすっごく美味しい・・・あ、華奈。鹿の刺し身も頂戴」

 

 「ギャラハッド様、お体の調子は大丈夫でしょうか? 良ければ私がよそいますけど」

 

 「大丈夫ですよ。クラークさん。もう元気ですから」

 

 「あら! このカニ味噌、出汁と混ぜて飲むの凄く美味しいわ!」

 

 「お祖母様。このビール? というのも合うらしいですよ?」

 

 「肉うんめぇ! カナ先生~~! お代わり~~!」

 

 「いやいや、まだ鍋にあるではないですか、モードレッド」

 

 「カナの鍋なんてずいぶんと久しぶりだなあ。皆で張り切ったよなあ。特にアグラヴェインが」

 

 「なっ・・・! 兄上こそ、誰よりもたくさん捕まえてやると意気込んでいたではないですか!」

 

 「ほらほら。そんな事で喧嘩しないの。今はこのご飯を楽しみましょう?」

 

 「はっはっは。ほぅれ、私がよそるから君も食べなさい。モルガン」

 

 あの警告から、ブリテン、オークニーは国を緩やかに世代交代させるために必死に動き回ることになりました。オークニーサイドは私の溜め込んでいたへそくりで戦費を蓄えた後、フランスと連動してローマに遠征、三ヶ月以上もの間軍事拠点を徹底的に叩き、主要の港を軒並み占領下に置いて国の交易路を破壊。

 

 ローマのサクソン人とのブリテンへの策略も書類や関わった人間を証拠として抑え、これ以上攻め込むのなら更に奥深くまで侵攻を再開するとローマを脅す。フランスの援助や連動のせいでオークニーがこの大陸で飢え死ぬことはなく、二方向で戦線を構えて作戦を考えなければならず、しかも私達の軍の進行速度や精強さも誤算だったのでしょう。

 

 不可侵条約に民族の大規模な移動やこじつけによる移民も禁止すると結んだ後に占領地も全てローマに返還。多大な食料と金品を賠償金として頂いて帰りました。

 

 その間、ブリテン、オークニーの両国での騒ぎにアルトリア様達は目を光らせ、話では鬼神を思わせるほどの気迫で警戒してくれていたとか。

 

 「よし。この肉は食べごろだな・・・」

 

 「ああ! ランスロット。まだ早いです! もう少し出汁が染み込んでから食べたほうが美味しいですよ。ほら、トリスタンのも一部まだ赤いですし」

 

 「・・・ベディヴィエールが鍋奉行? になりすぎて私は悲しい・・・ああ、凄くいい香りなのに・・・・」

 

 「まあまあ、こうして待つ時間も楽しみにしてしまいましょう。ほら、冷えたエールにエジプトから輸入していたビール? というものがありますし、飲みながらベディヴィエールが見定めるタイミングまで待ちましょう」

 

 「がっはははは! 細かいことはいい。この鍋会を楽しみ倒すだけだ。ほれほれ。ケイよ。お前も飲まんか。ローマが仕入れていたビールに椰子の実の蒸留酒。こんな遠方の上物、今飲まなければ損だぞ!」

 

 「ええい、その楽しい空気を貴様の大声で台無しにするなペリノア。俺は俺のペースがあるんだ。酔いどれの貴様に付き合わされてはたまったもんではない」

 

 そのブリテン、円卓に方々も今回の鍋会に参加してくれました。半分くらいの方々しか来れませんでしたが、それでも十分で、私達銀嶺が大陸で手に入れた酒を楽しみながらこの宴会を満喫しておられて何よりです。

 

 今回の宴の名目はギャラハッドの聖杯探索からの生還と自身の身体の問題の解決、そして私の引退の祝いというもの。遠征の時にアルトリア様から頼まれていた聖杯探索。失敗はしたものの、聖杯の力を使ってギャラハッドの肉体の成長速度の問題は解決。目的は失敗ですが、誰ひとり欠けること無く生還し、円卓を超える才能を持つが短命が決められていたも同然のギャラハッドの問題が解決したことに皆が喜びました。

 

 銀嶺はギャラハッド、モードレッド様に託し、私自身は隠居してしまい、ヤマジ達もモードレッド様、ギャラハッドが銀嶺を扱いこなせるようになっていき次第引退していくらしく、今はもう少し残ってくれるそうです。

 

 引退に関しては公の場で既に宣言し、退任式も済ませたのですが、私的な場で気兼ねなく騒ごうということでこうして冬の銀嶺の拠点に集まり、飲み会ではしゃいでいる。

 

 「しかし・・・聖杯によってギャラハッドの身体が治るとは、思いもしませんでしたね。失敗したのは残念ですが、ギャラハッドが無事なのは幸いでした」

 

 「アルトリア様のお陰です。私を心配し、パーシヴァル様、それに母さんもクラークさんを寄越して後を追わせなければ私は死んでいたかと」

 

 「で、その後はその聖杯? は天に帰ったんだっけか。いいんじゃねえかな。ちゃんと持ち主に帰ったんならよ。ギャラハッドも無事に戻ったし、聖杯探索も失敗だけじゃないだろ」

 

 「本当にヒヤヒヤしましたよ・・・死にかけのギャラハッド様に聖杯。咄嗟にギャラハッド様を助けるために聖杯を使って助かりました。ただ、この後失敗の責で殺されるかと不安でした・・・」

 

 「聖杯が無くても、やりようはあるのです。それよりも、姉上の子が、ギャラハッドが無事に帰ってきたことが私は嬉しいのです。クラーク、ギャラハッド」

 

 「アルトリア様・・・ここまで私を気にかけてくれて感謝します」

 

 「僕まで気にかけてくれてたなんて・・・あはは・・・感謝の極みです」

 

 「二人がいなきゃ銀嶺じゃないからな。イイ男がそう簡単に死んじゃ、あの世でも神様にも怒られるってもんさ」

 

 「よく言うわよ。何やかんや冷や汗垂らしながら皆の無事を何度も案じていたのはヤマジ、貴方もじゃないの」

 

 酒を飲んで鍋をつつきワイワイがやがやと賑やかなことこの上ない。最低限の礼節はあるものの、王族が部下の騎士と同じ鍋を囲み、笑いながら杯を酌み交わす。大変微笑ましい光景、空気のせいだろうか。食の進みがとても早く、追加を準備しなければ間に合わないだろう。

 

 「追加の蟹、猪肉、鹿のスペアリブのタレ漬け、刺し身出来ましたよ~蜂蜜酒も飲む人はいますか~?」

 

 「華奈。蟹は私に頂戴? ハサミで切込みを入れたり、いろいろやるから」

 

 「猪肉は私も食べたいです。姉上、貰っていいですか?」

 

 「あ、蜂蜜酒は私と、トリスタンが飲みます」

 

 「おや、有難うございます。ランスロット」

 

 「うひゃ~! スペアリブ、いい香りだ~・・・流石カナ先生!!」

 

 追加のお肉に新しいメニューの追加に視線が私に集まり、持ってくるやいなや即座に振り分けられて鍋に突っ込み、飲み干し、喰らいつく。

 

 「もう、モードレッド。そんなにガツガツ食べないでも。ほら、口周りがタレでベタベタ・・・」

 

 「ん・・・わりい。姉上」

 

 「ははは。いいではないですか。カナのご飯ですし、ガレスももっと食べなさい」

 

 「そういう兄貴こそ、大丈夫かよ。ベジタリアンなのは知っているが、さっきからスモークチーズとかサラダばっかりでさ」

 

 「ふぅ・・・お、この野菜と肉はもういけそうだ・・・」

 

 兄妹で楽しく団欒する時間。

 

 「ベディヴィエール、そろそろいいですか? この肉は」

 

 「ああ、問題ないですよ。この野菜も一緒にどうぞ」

 

 「ふぅ・・・頬肉というのもいけるものだ・・・あ、ペリノア、その酒を私にも分けてくれないか?」

 

 「おうおう。いいぞー! 私には刺し身をくれないか? 鹿の刺し身は新鮮でないと食べられないからな」

 

 「トリスタン。カニ鍋をくれないか? 少し酒と猪肉から気分を変えたくてな」

 

 同僚、ともがらで交友を深め合う時間。

 

 「アンナ、もう出来たか? 早いところこっちのリブの切り分けは終わったぞ」

 

 「はいはい・・・出来たわよ。カニしゃぶ。味噌と塩出汁、どっちでも好きな方を選んで食べてね」

 

 「はぁ・・・新鮮な身がプリップリ・・・これを、湯に晒すのですか?」

 

 「そうそう。軽く湯に浸して、蟹自身の味を楽しむのさ」

 

 「美味しそうです・・・今度、一緒にカニ漁に行かせてもらえませんか?」

 

 師弟同士の他愛のない時間。

 

「ふぅ・・・いい酒だ。この歳で酒にはしゃげる事があるなんて思いもしなかった・・・」

 

 「味わったことのない酒なのは分かるけど、飲み過ぎは駄目よ?」

 

 「ああ、分かっているさ。けど、少しくらいはいいだろう? こんな気楽な酒の席なんてそうはないだろうからね」

 

 夫婦での仲睦まじい時間。

 

 「おっとと・・・あちらも見に行きませんと」

 

 この光景を眺めていたいが、そうもいかない。幾つかの大きな肉塊や鍋を数種類用意し、別の部屋に移動し始める。

 

 「栗毛~花子、ハチ~お代わりは大丈夫ですか?」

 

 華奈の声に応えるように魔獣達を纏めていた栗毛、ハチ、花子、少し離れたところにレギア、イネンナが声を上げてすり寄ってくる。体高だけで優に人よりも大きい獣達のスキンシップは一匹だけならまだしもこの数だと流石に一度に受け止めきれるものではない。

 

 一度持ってきた食材を置いていなしながら鱗、毛の感覚を堪能、撫でて愛でていく。

 

 「おやおや・・・もうすっからかん。皆元気ですねえ。はい、まずは鍋と骨せんべい・・・? 後は・・・よっこいしょ・・・」

 

 鹿、猪の骨をわずかに肉を残してこんがり焼いたものに、少し薄めに味付けした魔獣達専用の鍋、一度それをたくさん置いた後、また戻り、牛、馬数十頭分の肉をどうにか魔獣達に配り、飲み水を準備。

 

 「私はまた戻りますから、喧嘩しては駄目ですよ?」

 

 モフモフだらけの毛玉。猪だらけの食事会場のじゃまにならないように抜け出し、自分たちの宴会場に引き返す。

 

 大量の肉を用意したりで宴会場に戻る時間が遅かったせいだろう。既に皆出来上がっており、何名かは寝ていたり、潰れていたり、他ももう眠りの世界に旅経とうとする秒読み開始と、もう二次会も何もない完全なお開き状態だった。

 

 「うふふ・・・皆様、いい笑顔で寝ていらっしゃる・・・明日の二日酔いが少し心配ですけど」

 

 風邪、というよりも凍死を防ぐために客人用の毛布、枕を引っ張り出して皆にかぶせ、酔ったままに起きて拠点を出ないように厳重な戸締まりを再確認。危険な鍋などは台所に避難させて漸く一息。

 

 「私は、のんびり月見酒でもしましょうか」

 

 外を見ればいつの間にか雪雲は晴れて月はその見事な輝きを白と黒に染まったこの世界にもたらす。この見事な彩りを眺めながら酒を煽り、残っていた御飯の残りを少しづつ摘む。

 

 「隣、いいかしら。お姉さま」

 

 起きていたのだろうか、それとも、起こしてしまったか。モルガンもいつの間にやら右隣に腰を下ろし、ちびりちびりと酒を飲んで美味しそうに喉を鳴らす。

 

 「そんなに飲んで、大丈夫ですか?」

 

 「あの人のお酒の飲み過ぎを監視していたから、あんまり飲んでいませんのよ。それに・・・こういう、静かな所でお酒を飲むのも、好きなの。お姉さまとなら尚更」

 

クスクスと愉快そうに笑い、酒を飲んでほぅ。とため息を一つ。空にポツンと浮かぶ月を何処か懐かしむような視線で見つめて笑みを浮かべる。

 

 「お姉さま・・・覚えておられますか? 私と、母さまに出会ったあの夜を」

 

 「勿論。あんまり、いい出会いとは言えませんけどね?」

 

 モルガン、イグレーヌを慰み者にしようとし、国の金蔵も掠め取ろうとするゲス共を皆殺しにして森に逃げたあの日。華奈がオークニーからブリテン、ひいてはアーサー王伝説に関わり始めた夜の邂逅。

 

 「確かに、最悪の国王ではあるけど、二人目の父を失い、皆に裏切られて私も母さまも女としての何もかもを失われそうになった。けど、あれがあったから私はお姉さまと出会えた。だから母さまも無事だった。あの人・・・ロットと結ばれた。ガウェインも、ガヘリスも、アグラヴェインも、ガレスも、モードレッドにも出会えた。アルトリアにも再会できた。あの夜は・・・私にとっては運命であり、最高の出会いだった・・・」

 

 月を眺める目には光が強く宿り、言葉には熱が入る。その出会いは間違いではなかったとしっかりと伝える。

 

 「私にとっては、最高のヒーローとの出会いが、運命を何もかも変えてしまった最高の夜でした。ありがとうございました。お姉さま。ここまで私達を、この島の国を助けてくれて、感謝しか言えないけど。本当に」

 

 「もう、言い過ぎですよ。私ではなく、皆で頑張ったからです。それに、これからが忙しいのですから、燃え尽きちゃ駄目ですよ。ね? アルトリア様」

 

 言葉に熱がこもりすぎて少し涙目になっているモルガンを撫でつつ、狸寝入りをしていたアルトリアに言葉を飛ばす華奈。バレてしまい、仕方ないかと頬を少し赤らめながら華奈の左隣に腰を下ろし、誤魔化すように咳払いをして酒を飲む。

 

 「むぅ・・・そ、その・・・私も姉上に感謝を言いたくて・・・は、始めはそりゃ魔女の手先だの悪魔だの・・・色々言いましたけど・・・姉上がいたからブリテンはどうにかこの十数年耐えて、円卓の皆と本当に笑い合うことが出来ました・・・きっと私だけじゃ、円卓だけじゃ駄目でした。オークニーが、姉上達がいたから、ここまで過ごせて、人間でいられて、国にこだわりすぎて民を苦しめることもなくなりました。あ、ありがとうございました」

 

 気恥ずかしさのせいで一気にまくし立て、頭を下げてお礼を述べるアルトリア。理想の王でもなく、一人の女として過ごせた僅かながらに過ごせた得難い時間。円卓の問題もどうにか解決させて絆にヒビが入ることも、盲信もなく一丸となって国のために走り抜けた。

 

 きっと、これはブリテンだけでは無理で、オークニーの助力があってこその結末。国は消えども、残る意思を託せるとまで考えたり、相談できた存在。銀狼の騎士に神の側面をも持つ魔術師の姉。この二人、そして多くの協力者がいたから・・・

 

 「固いわよ、アルトリア。もっと気楽にいかないと駄目よ? もっと肌を寄せて、子供みたいにはしゃいだり、甘えたりするくらいしたほうが。ほ~ら、こんな風に」

 

 「わわわっ! ちょっ!? モルガン様!??」

 

 

 華奈の腰に手を回して胸に遠慮なく頭を載せて子供っぽく微笑むモルガン。姿は若いままだがここ二十年くらいしていなかった密着してのコミュニュケーションに華奈は困惑し、アルトリアは少し固まってしまう。

 

 「ん~♫ ガウェイン達がよくしていたし、モードレッドも膝枕をねだっていたわけよね~相変わらずいい香りだし、柔らかいし・・・幸せ・・・♪ ほら、アルトリアも・・・?」

 

 「いえいえいえいえ! 姉上にご迷惑でしょう? そ、それに・・・少し・・・・・・恥ずかしいですし・・・」

 

 「もう~・・・酒瓶が空・・・モルガン様ったらいつの間にこんなに飲んで・・・ふふ・・・仕方ないですね」

 

 この後、華奈、アルトリアの声に驚いたみんなが起きて酔が抜けぬままに三人の光景を見てバカ発言に暴走、妄想、それを見て肴にして傍観をするものとアホ騒ぎに発展し、思わぬ形で徹夜の二次会が発生したとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 華奈の引退、隠居から数ヶ月後、アルトリア・・・アーサー王はオークニーの大陸での遠征を成功してサクソン人、後ろ盾のローマの侵攻の手を引かせた功績を称えると同時に長くこの島で共にあり続け、ブリテンを支えてくれた事へ再度の感謝。

 

 また理想の王と謳われながらに自身の国、円卓、独力だけでは成せなかった事への自嘲、自身の体も跡継ぎは作れるものではなく、後継者たる養子も見つからなかった。

 

 自身の求心力の低下も自覚している。これ以上王座にしがみつくのも愚王の道なのだろうと王座を放棄。そのブリテンの領地、空白の王位をアーサー王はガウェインに譲り渡し、ブリテンはオークニーへ吸収、合併される形で終焉を終える。

 

 ガウェインは円卓も解散させ、第2世代の円卓を再構築。かつてのブリテンの剣、アーサー王の大駒たる円卓も主を失う以上、その衝撃や、無理に新たな主に仕えさせる事を嫌って、それによる叛意の芽を出さないための配慮だった。

 

 グリフレッドにペリノア、ボールスなど何名かは第2世代の円卓には入らずに故郷、自身の国、領地に帰るものもいたが、トリスタン、ランスロット、等、多くが次の円卓に残り、空いたその席には新たに今は引退して行方知れずの華奈の元で暴れまわった騎士たち、モードレッド、ギャラハッド、クラーク、アンナが時代の円卓として参加。

 

 ガヘリス、アグラヴェインも円卓として参加して島の覇者となったオークニーを動かし始める。

 

 手始めに今まで幾度となくこの島へと攻め込んできたサクソン人に対して入植の受け入れに関する法を制定。遠征で叩いて不可侵を結ばせたものの、いつまで持つかは分からぬもの。ならばいっそ受け入れてこの島の住人として過ごしてもらう。法も、道理も倫理も学ばせる。そして先祖の恨みや殺し合いも無くなる日が来て手を取れるように、百年先まで争いを無くせるように今起こすべきことなのだと行動を開始。

 

 幾度も攻め寄せても跳ね除け、果てには大陸にまで攻めてローマですらも旨味がないと思わせた国からのこの政策方針の転換に驚くものの、騎馬民族ですら来れない果ての島国、争いもなく過ごせるというのならとあまり怨恨のないサクソン人らが多く入植を始め、それに続く形で規模は増え、あらされた畑は直されていき、大地を切り拓き、共に汗水を流して仕事に励もうと歩み寄る。

 

 無論、諍いも犯罪も多く起こり、快調な滑り出しとは言えないものであり、叛意を見せる諸侯、元がよそ者故に怯え、自衛の形で起こる暴動を鎮圧させるために兵を繰り出す等、規模は小さくなれど平穏は訪れるのは先に感じられた。

 

 この激務に体調を崩したガウェインはモードレッド、アグラヴェインに代理の王権を譲り、養生。その際にモードレッドはクラレントを受け取り、緊急の女王として国を回して入植の政策を推し進めていく。

 

 数年後に女が政を取っていることに不満を持つ、アルトリアに叛意を持っていたものが親族である自分らにもいい気持ちを持っていない貴族が増えていることを悟ったモードレッド、ガヘリスはガウェインと相談。

 

 今尚多大な影響力を持つギネヴィア、そしてその伴侶でありこの島の生命線のランスロット。二人の間に生まれていた子に王権を譲り、自身らも身を引くべきときなのだろうと考え、ランスロットらと話し合い、王位を譲り渡し、自身らは妖精郷に去り、表舞台では病死、戦死とされた。

 

 そのランスロット、ギネヴィアの間に生まれた子はその後サクソン人の娘と婚姻をしたことや、ガウェインらが進めていた政策でこの島にも多くのサクソン人が住んでいたこともあってブリテンの民、サクソン人の入り交じる国家が成立。歴史の表舞台からはウーサー、アルトリアの親族、血を引くものは完全に消えていくことになる。

 

 

 

 

 後に綴られたアーサー王伝説はこの島を脅かすヴォーティガーンとの戦いやかつてのブリテンの再興を目指す若き理想の王、アーサー王が騎士の王となり、素晴らしい騎士と出会い、諸侯に攻め入り、時には血を分けた家族との争いや、それを通しての和解、多くの家臣、同盟国に支えられて国を再興。

 

 その後の大陸との戦いや円卓の問題を家族、同盟国と共に解決していきつつ、自身のミスもありながら穏やかな世代交代をして次世代に託していく騎士たちの、アーサー王の英雄譚として広く親しまれていくことになった。

 

 その中でも特に変わり者、人種も分からず、戦い方すらも異なり、男性主体の社会に紛れ込んだ女騎士。けれど率いた部隊も獣を多く入れた部隊は神速、突撃突破で名を馳せ、円卓の剣の師、国を富ませた文官としてもかなりの手腕。

 

 銀狼の騎士、剣姫、こう呼ばれた騎士であり、アルトリアの母、イグレーヌの侍女でありつづけた一人の女性、カナ・フナサカ。彼女もまたアーサー王伝説で人間関係の潤滑剤、相談役、多くの英傑を育てた英雄として親しまれ続けた。




これにて華奈の物語は終了。

引退した後はモルガン、イグレーヌと共に妖精郷に去り、ランスロットの子供に世代交代するまでの間過ごし、その後はまた人間の世界で隠居生活をし、人間として寿命を終えて死亡。

ダンカン、アンナ、ヤマジ、クラーク、ギャラハッドも同様に第二世代の円卓を支えた後に引退して天寿を迎える。

アルトリアにガレス等、アルトリアの一族らはみな妖精郷に移り住んで過ごし、ハチ、花子、レギア、イネンナ、栗毛も妖精郷で寿命を迎えて死亡。

抑止が手を伸ばす前に国家解体は終え、抑止が手を出す意味がなくなった、理由がなくなった頃に人間界でまた過ごして穏やかに逝けたわけです。

この後といいますか、時間はかかりますが、少しおやすみを頂いた後、FGO編もかいてみたいと思っています。自分でも無謀すぎない? と思っていますが、やってみようかと。

時間はかかりますし、大変でしょうがやれる限りはやろうと思います。オリジナル英霊と一緒にギャグ多めに作りたいなと。華奈の家族も出していきます。これ以上にアクが強いと思いますが、それでもよければどうぞ見てやってくださいませ。

改めて、このような作品を見て、応援してくれることに感謝します。ひとまずの完結までこぎつけることが出来て本当に幸せです。この多くの素晴らしい作品の数々のなかでこの作品を見てくださったことにもう一度、有難うございます。嬉しいです。

最後にUA 34782件 しおり 114件 お気に入り 312件 応援有難うございます!! ここまで見てくれてありがとうございました。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。



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皆のその後

蛇足、その後の皆のそれぞれを簡単に紹介します。あ、因みにハッピーエンドのみの紹介ですのでご了承下さいませ


ブリテン

 

 

 

アルトリア

 

 自身の手で緩やかにブリテンを終焉させた後、自身の存在による余計な火種、争いを防ぐために妖精郷に旅立ち、そこで過ごし始める。今までの分を楽しむように妖精郷で思うままに過ごし、ヴォーティガーンとも和解。妖精郷でのトラブル解決にも手を貸していく。一方で剣の修業はしっかりと続け、華奈に負けないようにと日々楽しみながら鍛錬をしていく。

 

 

トリスタン

 

 アルトリアによるブリテンの終了後、まだ華奈、そしてガウェインらに恩を返しきれていないと第2世代の円卓にも参加し、年長者の一人として若い世代を引っ張る。モードレッドの治世も助けた後、恋人と結婚、円卓を引退してあちこちを旅することに。その旅日誌は後世でも語り継がれ、人助けと音楽の旅、そして騎士の視点から見た各地の国の当時の情勢を見る資料として有名に。

 

 

ベディヴィエール

 

 アルトリアが去った後、円卓には入らずに料理人としてオークニーへ仕える。自身が騎士だったために戦、任務の度合いに応じて欲しがるであろう味付けを用意し、栄養のあるゲテモノも華奈に教え込まれたお陰で視界の暴力的なものは出すことはなく、その物腰もあって人気者に。ランスロット、ギネヴィアの息子の相談役としても影で支え、両国の終焉を最後まで中枢で見届けた。

 

 

 

ランスロット

 

 最高の騎士と呼ばれ苦悩しながらもアルトリア、ガウェインの元で円卓として自身の過ちを解決してくれた人々のために走り回る日々を過ごし、ギネヴィアとも幸せな時間を楽しむ。自身の子が王になると聞いた時は驚いたが、同時に立場や状況も理解していたので承諾、以降は教官として余生を過ごし、フランスの領地には親族、従兄弟に経営を任せる。

 

 

ギネヴィア

 

 ランスロットと共に幸せな時間を過ごし、子を身ごもる。実家からも喜ばれ、更にはその子が島の覇者になるとは思わず数日驚き、信じられなかったそうだ。王女、しかも勢力のある貴族故に教養はそれなりには仕込まれていたので長く国を裏で支え、奔走していった。

 

 

ケイ

 

 国の国家解体で胃痛から開放され、アルトリアと共に妖精郷に移り住む。つらい日々が無くなったせいかいくらか皮肉も言わなくなり、スローライフを堪能する日々を送る。特技の水泳を大いに楽しむようになり、最終的には魚を泳いで捕まえたりと変態的な動きを披露し、水の魔獣や妖精たちにも認められた。その捕まえた魚を鹿などと交換し、刺し身で食べることを楽しみにしているそうな。

 

 

マーリン

 

 アルトリアの引退と同時にブリテンを去り、妖精郷に移る。女癖の悪さは相変わらずで度々アルトリア、黒介らに怒られている。その合間に一つの本を仕上げ、世に放つ。『円卓の狼』という華奈を中心に描いた所謂アーサー王伝説のスピンオフに近いものでオークニーで走り回り、最終的には両国を支える華奈の生き様を綴った本。どうして中々乗り気で執筆したようで、完成後はヴォーティガーンにも配ったほど。

 

 

ペリノア

 

 第2世代の円卓には入らずに自国へ去り、その後はのんびり後進の育成に力を入れる。年老いても結局その自由さは変わることがなく、政治にはさほど口を出さない。というかあまり関わろうとはせず、頼まれたときだけアルトリアのもとで手に入れた経験、磨かれた手腕を振るった。時折ランスロットらのもとに訪れては自身の育てた騎士たちを訓練させて眺めるのが楽しみの一つだとか。

 

 

 

 

 

 

 

その他

 

 

ヴォーティガーン

 

 妖精郷の実質的なリーダーとして争いや問題を収めるために奔走。妖精郷に移動してきたアルトリア達とも怨恨はもう無いということで和解し、住居を用意。人の姿と竜の姿を使い分けて日々を過ごし、意外なことに子供好きだったために時折妖精や精霊の子供、幻想種の子供を竜の姿の時に背中に乗せて遊覧飛行している姿もよく見られるとか。最近の趣味は燻製料理。

 

 

ヴィヴィアン

 

 妖精郷に移り住み、穏やかに生活。ランスロットの問題を幾つも解決した華奈にさらなる加護や神造兵器を贈ろうかと考えたり、不老にして妖精郷に引き込んで自身の娘にしようかと暴走しかけたりしたがイグレーヌ、ヴォーティガーンに止められて自重。代わりに華奈の隠居する場所の山の水の浄化をしたくらいで終わる。その後は魔術の研究などをガレス、モルガンらと励む日々を送っているようだ。

 

 

ニマーヌ

 

 ヴォーティガーンの補佐として妖精郷の幻想種の住人の相談役として日々動いている。黒介を脚にしてあちこちに移動して相談のためにあちこちに出向いたり、果実や食材を集めて一緒にご飯を食べるのが日々の楽しみ。華奈から貰ったレシピ本を元に色々作るのが楽しく料理を作ってはアレンジを考えて実践し、新たなレシピ本を更新したりしている。マイブームはキノコ料理。

 

 

 

 

 

 

 

オークニー

 

 

ガウェイン

 

 太陽の騎士であり王としてアルトリアのブリテンを合併した後サクソン人を受け入れる政策などで神代の終焉を穏やかに済ませるように動き、疲労の後体調を崩した体でモードレッドに政権を託し、裏で工作や下準備をこなし、一応の見切りをつけて妖精郷に移り住む。妖精郷では農業に目覚め、ジャガイモと小麦を栽培している。アルトリアとの組手もよく行い、穏やかな日々を享受していく。

 

 

ガヘリス

 

 兄弟たちの補佐役として文官、武官と影に日向に支え続けた。次男でありながらガウェインの後に王位につかなかったのは王位自体に興味がない、自身が王の器ではないと理解しているゆえに王弟の軍として前線の士気を奮い立たせるように務め、モードレッドの政権交代を見届けた後に妖精郷に移住。趣味は釣りで最近はルアー釣りを模索中。

 

 

アグラヴェイン

 

 ガヘリスよりも後方の守将、文官として兄弟たちを支えるために頑張り続け、これまた王位には着くことはなくあくまでも武将、文官であり続けた。華奈達に矯正されて緩和したとは言え人間嫌いの部分は残っており、合理に動きすぎる部分を理解していたために辞退。兄弟たちが余りかかわらなかった内政の支えに尽力し、その後はガヘリスらと妖精郷に移住。魔狼達に乗って遠乗りするのがマイブームのようだ。

 

 

ガレス

 

 魔術師、剣士として才能はあったものの、前線に出ることはなく薬の作成や文官としてアグラヴェイン、モードレッドの補佐を務めた。ほんわりとした柔和な笑みと物腰で誰からも慕われ、妖精郷でも多くの幻想種が彼女になつき、多くの知恵、話を教えてくれたため、それを編纂した魔術書、本を執筆。普段はモルガンらと魔術の研究や料理の修行に勤しんでいる。

 

 

モードレッド

 

 ガウェインの後を緊急措置で継いで政策を推し進め、ランスロットの息子に王位を継承させた後に妖精郷に移り住む。プリドゥエン、クラレントを使った自由な戦い方をより極めるためにアルトリア、ヴォーティガーン、ガウェイン、モルガンに組み手を挑んだりする日々で、暫く政に浸かっていた反動か一層戦闘好きに磨きがかかる。一方で果樹の栽培や養蜂をイグレーヌと出来ないかと相談したりで甘い物好きな一面も出てきたとか。

 

 

モルガン

 

 子どもたちよりも神霊としての側面が強いためにブリテンの終焉、ロットが息を引き取るのを見届けた後に妖精郷に移り住み、穏やかに過ごし始める。柵も何もないスローライフを満喫し、ソバを栽培して自身で食べることが楽しみの一つ。娘のガレスと魔術の研究に励んだり、近所の妖精たちとおしゃべりしたりと問題なく妖精郷に馴染む。華奈が来なかったことは悲しんだが、華奈の意思の尊重のために決して無理強いはせず、時折出向いてくれた時に話したり、互いに料理を振る舞ったりしている。

 

 

イグレーヌ

 

 モルガンと同様に神霊の側面が強いので同じ時期に妖精郷に移動。その後は娘たち、孫たちの日々を見守りながら畑仕事、養蜂などを気ままにしながらのんびりと妖精郷の自然を楽しんでいる。花子の特大毛玉クッションでお昼寝するのが大好きでモードレッドたちとよく一緒に寝ている。

 

 

ロット

 

 ガウェインらがこの島の統治者になったことを見届けた後に死去。陰ながらに国の財源を確保するために商人に扮して仕事を行ったり、遊ぶ時はまつりの司会役や主催者、若い文官の相談役になったりと最後まで愉快な動いたっきり老人のままぽっくり世を去る。晩年に書いた『銀嶺と私』という教育係の華奈、銀嶺の皆とガウェインらのドタバタを描いた作品は良き師弟関係を表す名作になったとか。

 

 

ジャック

 

 モードレッドの治世からランスロットの子に移るまで国を支えた老将として前線で戦い続け、引退。子が無事に自分の跡を継いでくれたので悠々自適の隠居生活と洒落込み、気ままに過ごしている。料理を学び始め、男性限定の料理クラブなるものも作ったり、楽しく過ごしているそうだ。

 

 

コーウェン

 

 引退した後は子や孫に領地経営を任せ、自身は塩商人として自営業を始める。そのついでに各地での見聞録を纏めたり、珍品を集めてコレクションしたり、自由に生きていった。その手にした資金はジャック将軍と共にクラークへ渡し、学校設立への資金援助としたり、将軍という枷が外れたせいで自由気ままに生きる活発老人となっちゃった。

 

 

ラグネル そのお兄さん

 

 アルトリアの引退、ガウェインらの妖精郷への移住をきっかけにラグネルはガウェイン等に着いていき、兄はモードレッドのもとで騎士として働き、最後まで忠を尽くす。引退後はジャック将軍の領地に住まわせてもらい、穏やかな日々を送る。ラグネルは甲斐甲斐しくガウェインを支え、イグレーヌ、モルガンにお嫁さん修行をしててもらい、良妻賢母として常にガウェインを思い、妖精郷での日々を過ごす。また、華奈にかけていた肉体の老化を防ぐ魔術もかけてもらった。

 

 

ハチ、花子

 

 華奈の引退後妖精郷に移り住み、イグレーヌ達の護衛兼、家狼として過ごし、寿命を迎える。散歩も好きだが頭がいいので人間の遊びも嗜み、チェスにだるま落としや凧揚げなど、妖精郷でも皆のアイドルみたいな存在であり続け、モルガン達の良き遊び相手、脚として生きた。

 

 

栗毛

 

 ハチたちと同様に妖精郷に移り、ヴォーティガーンと妖精郷のために奔走し続けた。華奈に一番なついていたために離れるのを拒んだが、説得を受けて妖精郷でヴォーティガーン、モルガン達の手助けとなり生きることを選ぶ。相変わらずの馬力で走るため、誰が長く栗毛に乗っていられるかのロデオ大会が開かれたりと、それなりにエンジョイしている模様。

 

 

黒介

 

 一足先にヴォーティガーンの元で働き、補佐をして妖精郷のいざこざを解決してきたが、一度モルガン達に合流して畑仕事を手伝ったりと華奈の様に両者を支えるために動く。木苺のパイが大好きになり、合間合間に集めてはガレス達に作ってもらうのが楽しみ。最近、お風呂の気持ちよさに目覚めた。

 

 

レギア・イネンナ

 

 ハチたちと同様に妖精郷へ移住。川や湖で網を使ったダイナミックな漁を時おりしては干物にしたり、皆のご飯にしたりと気ままに過ごす。ケイと鹿の取引もしており、肉はあげるが、皮、骨は製品にしてもらったり、取りすぎた魚は巨人族や精霊たちに配ったり、その飛行能力を活かしたお助け便、子どもたちの遊び相手として日々を過ごす。

 

 

華奈

 

 銀嶺を引退後、妖精郷に一時避難し、ブリテン、オークニーの両国が滅びるまでの間過ごし、モルガンに肉体の不老を解除してもらった後にまた表の世界に。小さな湖がある山奥にひっそりと暮らし、世捨て人として過ごした後、寿命でこの世を去る。晩年はギャラハッドが世話をしてくれたり、妖精郷にも度々出向いては互いに助け合ったり教え合ったりしていたので基本生活に困ることはなかった。また、トリスタンやランスロットなどの一部には自分の住居を教え、島の情報を仕入れたり、交友を深めて過ごしていたそうな。

 

 

ヤマジ

 

 銀嶺を引退後、クラークの作った学校にて教員として就職。大工の技術やインフラ整備、パスタマシンの素晴らしさに軍学と幅広く教え、傍らに用務員として学校の修繕も自身の弟子や仲間と行って節約にも励んだ。男色家故の暴走は鳴りを潜め、本当の紳士として女性からも人気が出たのだが、これに対して「趣味が悪くないか?」と最後まで不思議がっていた。養子を一人引き取って後を継がせたりと一応の騎士としての役割も果たす。

 

 

ダンカン

 

 銀嶺を引退後、クラークの学校の食堂で勤務。農家、漁師の腕、銀嶺で磨かれた料理の腕を存分にふるい、生徒たちの心と腹を満たした。時折騎士を目指す子たちへの実践訓練の教官として出ることもあったが、その顔つきや食堂で鍋を振るう姿。現役の時の戦い方を見ていない子供からはそのギャップにとても驚かれて世代の波を感じたとか。後、一年に二回、食堂のご飯に蟹を振る舞うようにしていて、その時は親たちも食べに行きたいと要望があって大変だったとか。

 

 

アンナ

 

 引退後、特にすることが思い浮かばず華奈と隠居しようかと思っていたが、クラークの学校で魔術師の教師として就職。短い期間だったが多くの魔術の基礎構築、実践、それに見合う礼装、道具の見繕い方を広く教え、魔術師でない子達には家庭でもできる病気への対策や虫よけ、殺菌方法等を教えていき、名教師として人気者に。その後は華奈と共に隠居生活をして過ごし、自身も天寿を迎えて緩やかにこの世を去った。

 

 

クラーク

 

 銀嶺の引退の後、草案だけはあった学校などの教育機関を設立。文字の読み書きの教養から魔術、料理、農業、軍学、裏では魔術師専用の教室と手広い学校を設立。初代学長に就任。銀嶺の前評判、戦場で磨かれた強面と迫力、更には悪さした生徒にはドスの利いた声で注意するため、男女問わず怖がられた。ただ、長くこの学校にいる生徒は馴染んでいき、内面がよく分かるので人気は何やかんや高く、いい先生として慕われたそうな。

 

 

シーマ

 

 クラークの学校の副長として支え続け、優しくそばにあり続けた。教員の確保や教材のあれこれに悩まされたりもしたが、ジャック将軍の文官らの卵たちで教員を確保、教材は華奈たちがガウェインらに教育するために使っていた教材をアレンジして字の読み書きなどを教えられる環境を準備したりと奔走。本人は初等部などで文字の読み角や算数の基礎を教えることにし、地道に識字率をあげることに貢献した。

 

 

ギャラハッド

 

 華奈が引退した後も第2世代の円卓、モードレッドの統治が終わるまで騎士として戦場で仲間とともに戦い、引退した後は華奈、アンナと一緒に山奥で隠居生活をおくる。ランスロットとも一応のケリは付けて親子としては接していったが、華奈との接し方の温度差は埋まることはなく、華奈達に親子のやり取りを見て苦笑されたり温かい目で見られたりと何やかんや意地になっている部分があった。華奈達が死んだ後はの墓を掃除し、屋敷の手入れをしつつ晴耕雨読の生活をして人生を過ごした。

 

 

フォウ

 

 モルガンらと一緒に妖精郷に移り、穏やかに過ごす。基本、ガレスやモードレッドについて回って過ごし、時折来るマーリンに折檻をしたりなどエンジョイ。くるみやドライフルーツが好きで黒介に取ってきてくれないかよくお願いしていたそうで、二匹で話していた姿がたびたび妖精郷で見られたらしい。




取り敢えず蛇足ですがおまけもこれで終了。これで本当に次回からはFGO編に突入ですね。


しつこいかもですが、出すには時間がかかると思いますので、ごゆっくりお待ちくださいませ。


最後にUA 35992件 しおり 123件 お気に入り321件 応援ありがとうございます! 今度こそ、FGOの話に行けるようにがんばります。どうか皆様も無理なくお過ごしくださいませ。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ドタバタFGO編
現代の銀の牙


FGO編。完走できるか、滅茶苦茶にしたいなあという所存です


 「・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・」

 

 品の良い調度品、物に囲まれた部屋。強いて言うのであれば、やたらと古めかしい。アンティークなものが多い応接室で向かい合う男女。二人の間にある机。その上に落とされた紙の束にしきりに目を通し、何度も確認を繰り返す。

 

 「これで・・・落とし所でしょうかな?」

 

 「これ以上はまかり通りませんよ。おまけも付けた。現物もある。ここらへんが決めどきでしょうね」

 

 壮年の男性に若い女性。互いに笑みを浮かべつつも目の奥は油断もなく光り、絞れないか。落とせないかと探る。しばしの無言の空気の後。

 

 「では、この額で研究成果は買い取らせてもらいます。品も文句のつけようがない。有難う」

 

 「いえいえ。私こそこれを売り払えて有り難いですわ。役立つ方に渡せてこそ。そして私達も利益を得た。互いに益があるのに越したことはないです」

 

 握手を交わし、広げられていた契約の内容に合意を見せた。男は買い取るという判を押し。女は商品の受け渡し手段を念入りに説明し直し、確認していく。貴重な品物。ミスは許されない。

 

 再確認も終えて軽い挨拶を交わして別れた後。女はその男の応接室、見事な屋敷を出てタクシーを拾い都市部に向かう。電波も通らない不便な場所。報告をするためにも一息つくにも一度ここを離れなければいけない。

 

 「・・・よし。もしもし? ええ・・・はい。そこのカフェで・・・ええ、私は・・・昼過ぎでしょうか。待っている? そこらへんで土産でも探すと・・・はい。お願いします。はい、はい・・・失礼します」

 

 タクシーの中で携帯端末を取り出して電波がつながることを確認。すぐさま報告と合流のための通話を行い、簡単な待ち合わせ場所と時間を互いに確認した後に通話を切る。

 

 「これで一段落。後は、必要なら向かわなければいけませんかね。時計塔に・・・」

 

 ふぅ。と息を吐いて力を抜き、都市部に着くまでの時間を景色を見て過ごすことを決めた女性は移り行く景色に視線を向けて何も考えること無く過ごしていく。

 

 

 

 

 

 

 

イギリスの都市部。その一角にある小さな喫茶店。そこの街路側の席に腰掛けて待ち合わせの相手を待つ。先に来ているのは確かなのだが、あとから来たはずの自分が待つことになっている。土産探しに熱でも入ったのだろうか、それとも土産の追加注文でも来たのでそれの準備に追われたか。

 

「まぁ、こうしてゆっくり出来るのも嬉しいですね。私には現代の機器は便利すぎますよ」

 

 着信、メールが来ていないかとズボンのポケットから端末を出して確認しながらひとりごちる。白を基調としたこの薄い板切れ一枚で遊びもできる。買い物も、連絡も世界の情勢もニュースも手に入る。便利な半面何もかもが早すぎて時折パンクしそうになってしまう。

 

 「仕事も一呼吸置きながら出来る方が私にはよっぽど・・・ん?」

 

 特に連絡もなく端末でゲームでもしようかとした矢先、馴染みのある気配を感じて振り返ると、待ち合わせていた人達が歩いてくる。やっぱりと言うか聞いていたよりも多めの荷物をえっちらおっちらと運んでくる若い男性。此方に手を振って駆け寄ってくるまだあどけなさが抜けない少女。端末をしまい込み、此方も手を振って応える。

 

 「冬利様~咲様~お疲れ様でした~」

 

 「お、お~う、姐さん。悪かったな。遅くなってよ」

 

 「あ、姐さんーただいま~お仕事大丈夫だった?」

 

 帰ってきた主にじゃれつく子犬のように抱きついてくる少女、咲を受け止め、左腕で優しく背中をなでてやり、空いた右手は器用に男の視線を遮る土産物の山の幾つかを受け取り、自身の利用していた机におろしてやる。そうすると幾らか鋭くも、いたずら好きな光も宿らせた目、咲と同じ茶髪をした青年。冬利の顔がしっかりと此方を見つめ、ニカッと微笑む。

 

 此方もやんわりと微笑みを返し、頼んでおいた飲み物と茶菓子を置き、二人に座るように促した後で自分も腰を下ろす。

 

 「いいえ? 二人の用意した魔術師の研究成果、その現物に応用の論文にその応用を活かした品。予想よりもに割増で買い取ってくれました。見事な手腕で奪い取り、始末できた冬利様の手腕。そしてそれをあらゆる視点で見てさらなる可能性を活かせた咲様のお手柄です。後でその予想金額よりも増えた分はお渡ししますので」

 

 「そりゃ有り難いが、姐さんに任せますわ。大金の資金管理はどうにも慣れないし、すぐに使いそうでねえ」

 

 「わ、私も・・・姐さんに任せたほうがいいかなあ・・・だって、その方が姐さんが楽になるかもなんでしょう?」

 

 今回の取引で用意した魔術師・・・と言っても魔術師の中でもとびきりの外道を始末した上での入手したその魔術師の研究成果。それを幾らかマイルド、手を汚さぬような術式での転換や応用にした論文。外法にも手を染めた成果なのかとても素晴らしい出来、その危険性からも高値で取引されるそれの数割。決して少なくはない金額であり、普通の魔術師では十数年ほど資金繰りをして漸くという資金を欲することもなく自分に任せる二人に思わず笑ってしまう。

 

 「っふふ・・・もう、相変わらずですねえ。お二人は・・・これだけあれば色々できちゃいますよ?」

 

 比喩表現抜きで屋敷、別荘一つ構えてもお釣りが来るほどの金額。それを聞いても二人は変わらなかった。

 

 「でもなあ、ブラックマーケットへの顔利きも出来るし、今のとここのお金がなくても十二分に満足だからな」

 

 「わ、私は姐さんと一緒にいられるだけで幸せだし、一緒に色々やりたいから・・・」

 

 「そうそう。だから気にせずに使ってくれ。姐さん・・・いや、華奈」

 

 聞いているだけで嬉しいが、少しくすぐったくなる答えに嬉しく思うも、何故か恥ずかしく思ってしまう。飲んでいた紅茶を全部飲んでしまい、仕方がないのでごまかしも兼ねてお代わりの注文と咳払いを一つ。

 

 女性・・・華奈は蒼の宝石のような目を伏せ、銀の長髪を指先でくるくるといじり、頬を少し赤くしてしまう。

 

 「嬉しいですけど・・・そうもまっすぐ言われては・・・・・・コホン・・・あ、ああそうそう。時計塔は如何でしたか? エルメロイ二世様はなにか言っていましたか?」

 

  何はともあれこの空気を変えたい。下手すれば冬利にからかわれてしまい倒されてしまう。どうしようかと思案した中で元々ここに来たもう一つの目的、時計塔、魔術師の集う研究機関。その中でも多くを束ねる12の貴族。ロード・エルメロイ二世。彼のかつての生徒の咲。今は別のロードの元にいるが現在でも私的関係は続いており、資金援助や魔術師の思考や範疇では見れない、届かない情報や視点の提供などのために度々コンタクトを取りにも来た。

 

 華奈自身は魔術師ではないが、仮にもそういった世界に足を踏み入れ、互いに助け合う関係。せっかくその時計塔のある街に来たのだ。帰る前に頼み事でも一つあれば小事であれこなし、より関係の結び付きを強めたいものだ。

 

 「ううん? その、先生は私達から前の分の礼装を受け取ると『今の所頼み事はないからこの街をゆっくりするか、若しくはすぐにミス・カナとお前らで一緒に今いるところのロードのところに帰るも好きにしろ』って言われて・・・なんにも無いみたい」

 

 「まあ、最近は世界中の外道魔術師を始末してその研究成果、道具をほぼ全て売っぱらったり、渡したりしたからな。流石にあちらも管理と整理の時間が欲しい。若しくは思わぬ出費に頭を痛めてんじゃねえのか?」

 

 「そうなのでしょうかね? あまり深入り、詮索はしませんが。ん・・・頼み事も無いのなら戻ろうかと思いますが頼まれたものは他に何がありますか?」

 

 頼み事はなく、此方としてもここに留まる理由はない。ここで入手するものが無い限りは。自分も大学ノートを手持ちのカバンから取り出してめくり、今日のお使いに不足はないか再確認する。タクシーの中で確認はしたのだが確認グセ、そして二人も思い出してもらい、再確認してもらうためだ。

 

 二人も私に続いてタブレット、手帳を出して調べていき、ペンや鉛筆でチェックを記していく。

 

 「俺の所は無事終了。すぐにでも帰れる」

 

 「わ、私は・・・あ、日本の和菓子・・・ちゅ、注文の値段からして高いやつかな・・・それ以外にも空港土産を沢山」

 

 咲の方はまだ残りがあったらしく、和菓子。それも中々にグレードの高いやつだそうだ。後半の空港土産はともかくとして、一体何を用意したものか。

 

 「私の知り合いが東京にいますので紹介してもらいましょう。それと・・・生、日持ちしない物の保存魔術はかけていますか?」

 

 「そこに関してはバッチリだ。重量軽減の魔術もしているから多少重量オーバーするくらいに詰め込んでも問題はない」

 

 「姐さん・・・いつも確認しているものね。私も大切だから確認しているけど」

 

 当たり前だろう。自分たちの拠点は距離もあれば物資のみならず皆の依頼した嗜好品も多い。ミスは許されず、そしてその腐ったものが万が一にでも他に悪影響を与えるのは言語道断。確認は少しするくらいでちょうどいい。

 

 「そうですか・・・では、一度輸送機に積んだ後に日本に移動、その後そこでも買い物をしてから輸送機を置いている空港に戻り、帰りましょうか・・・カルデアに」

 

 冬利、咲も了解を示し、話しながら完食した紅茶や茶菓子のカップ、皿を纏め、荷物を整理した後にカフェを去る。

 

 (改めて・・・転生等はしませんでしたが・・・今度は私の家族ですか。数奇、奇妙を越えて強烈過ぎる『縁』を感じますよ)

 

 空港に向かう準備をしながら一つ華奈は思う。自身はこの世界で今から1500年以上も前にアーサー王伝説で戦い抜き、死後英霊となった。そんな自分が今はカルデアで働き、しかも部員時代の家族が今度は転生していた。しかも職場が同じ。

 

 数奇、奇縁、こんなもので片付けなければ嬉しいのだが説明が面倒臭すぎる。

 

 (まぁ・・・出会えたのです。一緒に戦い抜きましょう。取りあえずは今回の買い物を済ませて、また足りないものを早めに仕入れる。補充の確認ですね)

 

 出来れば所長への確認の時に所長がピリピリしていなければいいな。と思いつつ今ある荷物に目を通し、華奈は家族とまたいられることに微笑んだ。

 




皆様お久しぶりです。暫く書いていなかったので取りあえずは肩慣らしがてらスタート。短くて申し訳ありません。またボチボチ書いていきますので皆様よろしくおねがいします。そして、華奈の家族も紹介、登場していきます。

職員としてちょこちょこ出していきます。立ち絵もゆっくりながら準備させてもらいますのでお楽しみください。

華奈

本作の主人公。英霊となったが召喚、受肉、さらには一度若返ったりと相変わらずハチャメチャに巻き込まれた。今はカルデアで備品課、カルデアの資金運用も一部行ったり私財を使ってカルデアを補佐する。


匂坂 冬利(さきさか とうり)

元の所属・匂坂家の後継→家出してフリーランスの魔術師
魔術師としてはさほど深くない歴史の家系の生まれ。双子の内の兄で、魔術師の堅苦しい風潮が性に合わず、家出。

その後はフリーランスの魔術師として活動。噂で聞いた魔術殺しのように特に躊躇いなく重火器を使用する。魔術使い。それの強みを生かして外道の魔術師を始末し、その研究成果を咲、他の面々に渡して応用方法や現物を売りさばいてもらうなどして資金を稼ぐ。

カルデアで双子の妹とバッタリ遭遇した。

華奈と同じ備品課に所属。カルデアを離れる際はついでに銃火器の補充も行う。咲、華奈の護衛も務める。最近は投げナイフ以外にも折りたたみ式の弓も研究中。

咲が姐さん呼びするようになったのは彼が原因。


匂坂 咲(さきさか さき)

元の所属・匂坂家の後継、エルメロイ教室出身。
魔術師としてはさほど深くない歴史の家系の生まれ。双子の内の妹。先代当主(父親)が病にかかり、魔術の行使が難しくなったため、既に家と魔術刻印を継いでいる。なので魔術師としては兄より優秀。

エルメロイ教室出身であり、その成績を見込まれてカルデアにスカウトされたことを元恩師であるロード・エルメロイ二世に相談したところ「様子を見てこい」といった感じの頼みを密かに受け送り込まれる。
カルデアで双子の兄とバッタリ遭遇した。

基本気弱、引っ込み思案の気があり、話し方も少し詰まる部分があったりする。が家族、華奈には非常に素直に甘えてくれる。「子犬のよう」と評されることもしばしば。元エルメロイ二世の生徒。ということを華奈に教えた結果。両者の関係の歩み寄りに貢献したりメッセンジャーとして奔走。

兄と同様に備品課に所属。

最近は日本製のゲームをソフト、ハードの新旧、機種問わずエルメロイ二世に沢山送りつけたりしているそうな。

咲の立ち絵は完成しているので此方に貼り付けておきます。


【挿絵表示】



最後にUA 38361件 しおり 126件 お気に入り 333件 応援ありがとうございます! これからも改めてよろしくおねがいします。


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備品課の日常

~華奈が受肉した経緯~

マリスビリー「ソロモンよ。英霊を召喚できないかな?」

ソロモン「どッたの先生」

マリスビリー「いやぁ。もう聖杯戦争始まって相手も倒したけど、瞬殺だからね。警戒した参加者同士で同盟とか結託された時の備えが欲しいのよ。敵は英霊。やっぱり何が起きるかわからないし」

ソロモン「アイアイサー。リクエストなんてある?」

マリスビリー「君の神殿とか魔神で火力と防御は申し分ないし、そうだね。この英霊はどうだろ(古ぼけた狼の記された旗を渡す)」

ソロモン「誰が来るかな♪ 誰が来るかな♪」

華奈「剣と騎兵の英霊船坂 華奈。参上しました・・・? え。私いりますかこれ?」

ソロモン「ブリテンの狼の旗で日本人が来た件について」

マリスビリー「私にもわからん。けど何だか知らんがとにかくよし。宜しくね」

華奈「??? ええ、お願いします。飯炊きでもしましょうか?」

ソロモン「お菓子作れる?」

華奈「砂糖天ぷらと水ようかんでも作りましょうか」

~聖杯戦争勝利~

マリスビリー「俺、すっげー金持ちになってカルデア何とかするわ。二人も願い事を言ってみたら?」

ソロモン「僕。人間になるんだ。受肉コースで」

華奈「私も。あ、ソロモン様。私を若返らせたりとか出来ますか?」

ソロモン「ん? そういう魔神に頼めばオッケー。いまやろうか」

華奈「はい。私の呼び出された年齢が20ですので・・・14くらいまで若返らせてください」

ソロモン「じゃ・・・はい大丈夫」

華奈(14)「わぁ・・・本当に・・・さて、受肉するはいいですがどこで生きていきましょうか」

マリスビリー「お前らウチにおいでなさい」

華奈、ソロモン「「お世話になります」」

~10年後~

華奈(24)「ロマン様~最新の医療器具どうしますか~?」

ソロマン「一応予備含めて3つで。あ、ドーナツも3つで」

華奈「あ、新作も含めて買ってきますから。好みのドーナツ屋さん、新作出てるみたいですね」


 華奈が現在所属する組織、カルデア。ここには、大変な問題が一つあった。それは・・・

 

「周りは危険と寒さ、雪以外には何もない」

 

 事である・・・・・・・

 

南極にあるだけでも大変なのに標高6000メートルの雪山の中という驚きの立地条件。ご近所はせいぜいが南極探査隊の基地、若しくは南極に住んでいる動物の住処くらいだろう。

 

 そんな場所に数百名の人間が過ごしているという状況。気軽にコンビニも行けなければ旅行も一苦労。しかも様々な組織の関係上下手な行動すらも勘ぐられるから始末が悪い。

 

 しかし職員も人間。食に趣味、多くの欲を持っているのにこの辺境も辺境で缶詰は息が詰まるというもの。

 

 そういった意味では備品課の華奈達の買い出し、調達はとても助かるものでカルデアに必要な資材、道具の調達以外にも職員たちが欲しい物も一緒に買ってくれる一部酒保に近い部分もある。

 

 「はいはい・・・発電用の道具に予備の配線、PCの半導体ですか。カルデアの規格に合わせたものと電球。あ、トイレットペーパーもですね? 了解しました」

 

 カルデアの運営で必要なものから。

 

 「う、うん・・・本に、ロックのCD、コスメ・・・睡眠導入剤? ど、ドクターに一応は許可とか・・・大丈夫?」

 

 「ジャーキーにウィスキー、漫画に・・・メモ?・・・・・男の娘のフィギュア、その関連商品・・・・・・・ああ、はいはい」

 

 個人的に欲しいもの。所謂趣味、嗜好品。少し秘密に、内緒にしてほしいものなど。

 

 月に一度の買い出しの日は職員らは備品課に足を運び、思い思いに欲しいものを自腹を切って注文しにくるのだ。ただ、それだと私的注文とカルデア自体が求めるものが混在しかねない。そのためカルデアの備品、技師や魔術師が求めるものは華奈。それ以外の個人的に欲しいものは冬利、咲の二人にそれぞれに用意した窓口で注文してもらう。もし聞かれたくないならメモを渡しておくことも許可するので三人にとっては騒がしい一日となる。

 

 「ふむ・・・今日はあまり量がないですね。明日にも出ていって準備しましょうか」

 

 「あ、華奈。まだ大丈夫ですか?」

 

 「失礼します。船坂さん」

 

 この猛吹雪の山からも発進できる専用の輸送機のチェックでも。そう思っている矢先にやってくる二人の男女。男性の方は特徴的な黒髪、赤い目、丁寧な物腰、空気をまとった青年。女性の方は茶褐色の肌に金色の目、薄い金色の髪が特徴の女性。

 

 男性の方は華奈の部員時代からの友人良馬。女性の方は家族の一人、フラム。共にカルデアの職員であり、良馬は管制室スタッフ。フラムは魔術の方に重きをおいた技師。今日この時間に来るということは発注だろうが、このギリギリの時間に来るのは珍しい。いつもならメールで前もって発注したりメモを渡しておくものだが。

 

 「ええ、大丈夫ですよ。どうなさいましたか?」

 

 「ええ。外付けのハードディスク、クリアファイルを幾つか準備してもらいたいのですよ。どうにも幾つか情報を小分けにして置いたりしておかないと処理に不安が出そうでして」

 

 「私からは椅子などを幾つか。しかし、船坂さんも大変ですね。何というか、皆様からは雑用。丁稚のような扱いで。もう少し声を上げても良いのでは?」

 

 ふたりとも心配する通り、私自身のカルデアでの立場と言うのはあまりよろしくない。前所長マリスビリー・アニムスフィアの協力者であり聖杯戦争の協力者という触れ込みで入り、その見識、魔術への理解の深さは皆に認められはした。

 

 しかし、魔力量はあれど魔術師ではない上に技師でもないことからせいぜいが前所長の魔力タンク扱いだった、温情だろと邪推され、更には現所長のオルガマリー・アニムスフィアともある件から衝突してしまい、その資産運用、手腕を活かす仕事のみに当て振られ、カルデアのプロジェクトには深く関われないようにされている。機材などもメモを渡されて調達させられるものの、その程度。半ば冷や飯を食わされているようなものだ。

 

 その温和で物腰柔らかな人柄とカルデアの運用にかかるコストを理解してる面々、サブスタッフ等からは慕われているが、魔術師、ロードに媚を売りたい、魔術師達の多くからは白い目で見られていることも事実。

 

 「まあまあ。実際私にはフラム様のような技術もないですし、良馬様の様に知識もないです。これくらいでいいのですよ」

 

 「はぁ・・・相変わらずですね。謙遜しなくても古株な上に前所長の信を得ている。その気になれば副所長にもなれたでしょうに。欲が無いですね。華奈は」

 

 「らしいとも言えますし、そこが美しいとも言えますけどね。まあ、何かあれば言ってください。私も少しは言えることはあるはずですから」

 

 「っふふ。ええ、その時は存分に。キツイ時はお願いしますね?」

 

 周りからもその財や外で得たコネクションを使ってクーデターを起こさないのか、ここから離れて好き勝手にしないのか、オルガマリー・アニムスフィアよりもキリシュタリア・ヴォーダイムに接近して前所長の弟子であり、性格も出来ている彼を補佐し、庇護を貰ったほうが良いのではないのかと言われた。けれど

 

 「前所長の残した彼女を、そしていま勤めているこの場所をそう簡単には切れませんよ。それにまだ若い上に大変な境遇のあの子を見捨てられませんもの。恩もあれば長生きしている分支えてやらねば」

 

 と答えたという。

 

 普段から所長の無茶振りや関係のない癇癪すらもぶつけられるのにも関わらずそう答えてしまう華奈に感銘を受けたそうだが、実際は「ブリテンの無茶振りに比べたら子供の癇癪くらいは受け止められないといけませんよねえ」とある意味麻痺してしまった故の感性からの答えでもあるのだが、知らぬが花なのだろうか。

 

 「そうそう華奈。ロマンさんも注文まだなのでは? いつもなら楽しみにして一目散に走ってくるはずなのに」

 

 「あ~・・・ロマニさん。何度めかのマスターたちのメディカルチェックと職員の健康診断でてんてこ舞いで多分忘れているか日数感覚が狂っていると思うなあ」

 

 「確かに見ておられませんねえ。分かりました。一応は出向いてみましょう。・・・十中八九どこかでサボっているので少し散策しがてら見に行きますよ」

 

 一応は今日中に職員の皆からの買い出しを頼まないといけないのでメモを握りしめて少し早足に備品課の部屋を出る。忘れていたのなら、後日「楽しみが遠のいた~!」としょぼくれてしまうのは目に見えてしまう。

 

 「行ってらっしゃい。華奈。焦って転ばないようにね?」

 

 「今日からまた明日は出発ですか。忙しい方ですね」

 

 そんな華奈を見送る二人はそんなことをつぶやきながら遠のく背中を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ははは。見つかっちゃったぁ。やっぱり華奈には見つかるかあ」

 

 オレンジ色の伸びた髪を後ろにまとめ、それでも尚余るほどのボリュームの髪、エメラルド色の目、カルデア職員の制服に名札を首から下げているゆるい雰囲気をまとう人物。カルデアの医療チームのトップにしてサボりの常連。ドクターロマニ・アーキマン。昼のオヤツなのだろうかみたらし団子に舌鼓を打ち、ほわほわしていたのをどうにか発見できた。空き部屋の一つに隠れてパソコンを弄りながら。

 

 「ははは。じゃないですよ。今日が何の日か分かりますか?」

 

 

 「? 記念日とかでもないだろう? 上京記念日とかでもないしねえ」

 

 「どこの園長先生ですか・・・ほら、今日は買い出しのメモをまとめる日でしょう? ロマニ様は数日忙しくて忘れていたかもしれませんけども」

 

 買い出しの内容をまとめたノートを見せてみると思い出したのか先程までの落ち着いた表情は一転、焦りに変わっていく。

 

 「ええ! きょ、今日だったかい! てっきり明日かと思っていたのに!」

 

 「やっぱり日にち感覚がズレていましたか。今日までですよ。書き込むのは。ほら、まだ間に合いますからこのメモ用紙にちゃちゃっと書いてください」

 

 「有難う! いやぁ。一ヶ月も自分だけのスイーツがないのは僕の癒やしが抜けちゃうからね。それは避けなきゃいけないよ。潤いがなくなっちゃう」

 

 ピンチを回避できた反動かいつもよりも二割、三割増の笑顔で買い出しの品をかき込んでいくロマニ。重度のネットアイドルオタクで更には甘党。しかもわりかしサボってスイーツを頬張るということが潤いの一部なのだから少しどうかとも華奈は思ってしまう。

 

 医療、しかもこのカルデアのトップという重責。そしてある事柄から癒やしを求める。走るのは仕方がないのだが、休憩時間を多く貰うとか、有給について相談するとか色々逃げ道はあるだろうに。選択肢にある上であえてサボっているのか、それともただ思いつかないだけなのか。眼の前で少し前の雑誌を広げて流行りのスイーツや日本の菓子の写真の数々に目移りしている男性からは正直どれが正解なのかわからない。

 

 「うん。こんなところかな? よろしく頼むね。華奈」

 

 「・・・? あ、ああ出来ましたか? では、冬利様、咲様に渡しておきますよ。また暫くここを離れるわけですが、書き忘れはないですね?」

 

 書き終えたメモを受け取り、念を押す。通信機器の類で連絡を取れることは取れるのだが、数百人分の依頼。漏れや忘れが合っては困るし、後からの追加で予算や貨物機積載量の圧迫は避けたいところだ。

 

 華奈自身も一度目を通し、見事なまでのスイーツ一色なメモを見て少しクスリと笑みをこぼしてしまう。薬物、細かな医療機器が無いのは前回でカルデアのマスターたちへの準備に備えた結果なのだろう。

 

 「うん。これに保存魔術をかけてくれたら一ヶ月以上は持つからね。毎日おいしいオヤツが食べられる。いやぁ、僕のささやかな楽しみの一つをありがとう。またね」

 

 「はい。それでなんですが・・・さっきオルガマリー様が貴方様を呼んでいましたよ? 怒りながら。それで、私にも探すように言われているのですけども」

 

 先程までの空気が一変。ヘラヘラしていた笑顔はそのまま凍りつき、みるみるさっきまでの元気がなくなっていく。

 

 「ははは・・・見逃してもらえないかな?」

 

 「それで私まで明日の準備が遅れたら二重に私達が説教されたり最悪職員の皆様からひんしゅくを買う可能性もありますが? ほら、早めに怒られちゃうほうが良いですよ。怒りを長引かせないほうが良いですから」

 

 「そ、そうはいったって説教が長いし皆の前で怒られるのが恥ずかしいじゃないか! それに、マギ☆マリの更新も・・・」

 

 そう言ってパソコンを覗こうとするロマニの肩をしっかりと掴み、万力のような握力で離さないようにし、部屋の外に引きずり出す。

 

 「ネットアイドルのブログ更新ならいつでも見れますから・・・っ! ビクビクしながら見るよりも怒られた後に癒やされてください・・・!」

 

 「嫌だぁ~~! 僕は今日はこの部屋、楽園でずーっとマギ☆マリのブログを見るんだあぁああ!」

 

 「えぇい! いい年の、それも医療関連のトップがそんな駄々っ子じみた事を言うんじゃありません! 最悪パソコン没収しますからね!?」

 

 そんな二人の怒声と悲鳴がカルデアに響き、その後二人揃ってロマニのサボり件と大騒ぎしていたことでオルガマリーに延々と絞られ、それを皆から「いつものことか」と笑われたそうな。




写見 良馬(うつみ りょうま)
性別 男性
部署 管制室スタッフ兼食堂臨時スタッフ(ヘルプ的扱い)
元の所属 機械技師(専門はコンピューター)

魔術師の家の次男で家督は長男が継ぎ親の許可を得て表の世界で機械技師となった。
魔術と機械、両方の知識を持ち合わせているためサブスタッフに近いメインスタッフとしてスカウトされた。

元々長男が家督を継承するまではマリスビリーと同じ時計塔の天体科所属でそこから噂を聞いたオルガマリー、ロマニに話を通じスカウト。基本物腰穏やか、広い知識や料理によるコミュニュケーションでメイン、サブスタッフの人材潤滑も行っている。

因みに料理の腕は錬金術に興味が出て、そこから料理に傾倒。暇があれば咲、ロマニ等と試食会などを開いている。


フラム・ヴェルム
性別 女性
所属 整備技師
元の所属 フリーランスの魔術師

カルデアに所属する技師の一人で、元はフリーランスの魔術師。
偽名を多数持っており、詳しい過去は不明だが、『船坂 華奈』の前世では家族関係だった模様。

属性魔術、降霊術、空間魔術、黒魔術等、魔術系統に於いては広い方面で精通しており、

“広く浅い”でも“狭く深い”でもなく、“広く深い”とも形容できる程に造詣が深く、その腕を買われてカルデアにスカウトされた経歴を持つ。
その知識でカルデアを────延いては華奈と前世の家族達を全力でサポートする。

また、レフ・ライノールと同じく技師としては異例でカルデアの制服を着ておらず、
赤黒いインナーと裾の長いスカートを着用しており、その上から真っ黒なローブを纏っている。このローブは礼装の役目も持っており、

対衝撃効果の他、防水といった魔術を複数仕込んでいる。

本人は茶褐色の肌に、金色の瞳と薄金色の髪をした年齢不詳の女性で、誰に対しても物腰の低い態度で接する。
しかし、服装と物腰が不一致な為に、時偶相手に不信感を与えてしまう事がある。


このお二人もいずれ立ち絵を用意したいと思います。少々お待ちくださいませ。

備品課って本当に大変だと思うんですよね。カルデアみたいな場所や組織なら尚更。南極だけでもあれなのに更には高すぎる標高。しかも多くの組織の思惑や監視の目、人数も数百名くらいの人数が居住できる巨大施設。

日用品。万が一、日常的に消耗、交代される道具、更には食事に飲料水、南極でもあの服装で過ごせるだけのエネルギーの用意。

そして多くの重要機器の電力。本当に少し考えるだけでも運用維持費が恐ろしい。よくあれを動かす重圧にオルガマリー所長は耐えたんだなあとしみじみ思ってしまいます。

最後に UA 40071件 しおり 131件 お気に入り 344件 UA4万超えとは・・・本当に皆様の応援が嬉しいです。もしかしたら一週間毎、またはそれよりも遅い更新になるかもしれませんがどうか宜しくおねがいします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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取り敢えず、後悔?

因みにですが華奈はソロモンに座から本人が引きずり出されています。


 暗く、鋼鉄で出来た部屋に銃声が響く。四方八方から絶え間なくその鉄の筒から鉛玉を吐き出し、硝煙を吹いてその銃口が向いた先の獲物を屠らんと遮二無二に撃ちまくる。それに加えてその銃達に寄り添うように設置されているクロスボウも遠慮なしに矢を放ち続ける。

 

 狙う対象は華奈。さして身を護るためのものを着ておらず、防弾チョッキは愚かコートも着けていない。スポーツブラに動きやすいスポーツ用の長ズボン。その長い銀の髪は後ろで一纏めになっており、両手にはサバイバルナイフ。腰には二丁の拳銃のみ。

 

 普通なら、いや超人でも生きることを諦めてもおかしくない状況。けれど女はたじろぐこと無く身体を動かし、銃弾矢玉が飛び交う中で舞う。

 

 「・・・一つ、二つ、三つ・・・」

 

 

 ナイフで銃弾をそらし、猫のように体をしなやかに動かして庇いきれない、手数でかばえない場所を避ける。その動きの中で華奈の手にする銃から火を吹き、その数に応じて部屋中に設置されたクロスボウ、機関銃が動きを止める。

 

 

「よっ・・・・四つ、五つ・・・・・七、八・・・・・・・・・十・・・十九・・・」

 

 

 時折外すもののがあるがそれすらもせわしなく体を動かし、同じ場所をコンマ〇秒も見ない時間で設置物を把握し、自身を襲うもの、流れ弾、跳弾を全て理解し、時にはそれによる破壊痕を手足の引っ掛かりにして避けることに活用。そうこうして、数分立った頃だろうか。部屋に設置された全ての自動式設置機関銃、クロスボウは銃弾、ナイフによってその停止スイッチを全て押され、機能停止。華奈の訓練の一つが終了した合図だ。

 

 「ふぅ・・・残弾は・・・」

 

 自身の持っていた銃のマガジンを確認し、残弾を確認。おおよそ四発に一つは外している。身体は愚か服にも傷は付いていないが、自身の目標には今ひとつ届いていない。といったところか。はあ。とため息をついて武器をしまい部屋を出ていく。

 

 「やはり銃は慣れませんね。ナイフのほうがまだ当てやすい」

 

手軽で威力もある。けれどまだナイフの方が良い。あくまでも護身用、万が一の札の一つと考えるくらいだろう。シャワールームで汗を流し、簡単なシャツとズボンに着替えて端末とこの部屋に設置されてあるPCを繋ぎ、先程のリザルトを出す。

 

 「命中率73% そのうち的中は44% ナイフは96% 的中は100%終了タイムは早いんですが・・・うーん、スランプですねえ」

 

 聖杯戦争を終えて受肉をしてから十年続けてきた日課。鍛錬、身体の稼働効率の追求。反射神経の練磨。神秘、超越的肉体を持つ肉体を持つものが多い古代には現代の人間は貧弱かもしれない。けれどそれでも尚英霊に善戦、防戦だけならどうにかなるような人間も一応はいる。

 

 理由としては個人の才覚によるところが大きいのは確かだが、同時に昔と比べれば天と地ほどの食生活環境の改善、そして現代に至るまで研鑽され続けた「体を動かす」という技術の向上によるものだろう。神秘は失われていくが技術は向上していく。それに時折英雄級の才覚を持つものが合わさることで怪物が現代でも生まれていく。

 

 だからこそ華奈も改めて肉体を形成できる時期まで若返り、神秘を多くまとい、何度もの転生で磨かれた技術と経験に現代の効率を極めた体作り、無茶な限界を壊す鍛錬を同時に課していった。自身の限界はどこまで行けるのか、武人として高みを見てみたい心で。

 

 その途中で家族に再開し、女性らしい体作りも同時並行するはめになったが、まあそこは女の意地。ブリテン時代よりも肌艶とスタイルを獲得することに成功。その後もまだこうして練磨は続いている。

 

 「ナイフはこのまま。銃は・・う~ん・・・・私の修練不足でしょうね。口径、モデルの変更はなし。もう少しこのまま・・・今回の買い付けも終了。咲様の帰りを待ちましょうか」

 

 実は今回の買い出しの帰りのついで、燃料補給と整備のために日本に立ち寄り、そこのセーフハウスの一つで今回の修練をしながら咲を待ってたのだ。

 

 もう買い物は終わっているのだが咲の実家のある国。ちょっとした里帰りと、どうにも欲しいものがあると言って聞かなかった。そこで早めに買い物を終え、どうにか出せた一日を利用しているのが現在。

 

 「・・・お願いですから、変な本は買ってこないでくださいよ・・・冗談は抜きで」

 

行き先を聞いた時、頼むから穏便な買い物で済ませて欲しいと切に願った。行き先は秋葉原。しかも「本」を買ってくるといい出した瞬間「もしかしたら夜更け突入、若しくは羞恥プレイ実行」と考え、鍛錬で何もかも忘れようと練習量を増やしたくらいだ。

 

 自覚はと言うか英霊になって交流やのんびりと時間を過ごしていて忘れていたが、その英霊となるまで暴れまわった舞台があの「アーサー王伝説」で、しかも第1世代の円卓入り、若き頃とは言えアーサー王を打ち負かすという大暴走をしていた。アルトリアは公式の場では男性として振る舞っていたのでモルガン、イグレーヌなどの女性を除けば戦士、それも円卓にはいるほどの女性は華奈だけ。

 

 後にアンナも同格と比肩されたがそれも華奈の引退やスカウトもあっての部分で伝説では「アーサー王時代の円卓で唯一の女性騎士」という扱い。世界中で愛された物語の異端、変わり種、しかも女性で容姿についても悪くかかれない、人物関係の滅茶苦茶さ。後世で大いにネタにされ、更には日本人の目にも止まったことが運の尽き。

 

 古い時代はファミコン、新しくはブラウザゲーム、スマートホン、漫画はモデルにされるわのフリー素材。最近のゲームで美女として描かれて大ヒットする。しかも無駄に華奈に近い容姿にネタにも忠実なので歴史オタクに掘り下げられ、あらゆるカップリングを作られ、アーサー王との禁断の恋、円卓との同僚同士の社内恋愛、義理の姉妹での百合だのガウェインとの師弟関係を超えた情愛・・・・・・ネタの幅広さとそのアイディアの濃ゆさ、それを自身がされたことの衝撃に目を回し、混乱したのは記憶に新しい。

 

 華奈自身の事を気遣い買ってくるのは穏やかなうんちく本、パロディくらいだろうがそれでも自身がこうも魔改造、ほんのネタにされていくのはもどかしく恥ずかしい。買ってきた内容次第では過去の細かな説明と補足。知らない間に記された失敗談を見せられ恥ずかしさに悶えるかのどれかが待っているかも知れない。そう思うだけでも顔が赤くなる。

 

 「姐さーん。ただいまぁ。えへへ~漸くゲットしたよぉ・・・」

 

 「お帰りなさいませ咲様。それで・・・そのぉ・・・その、本の内容は・・・?」

 

 その心配の種を持ってきた家族、咲のにこやかな笑顔を此方も笑顔で返し、その手に持っているものを見て息を呑む。

 

 間違いなく同人誌ショップの類のビニール袋、そしてその模様、袋に入っている本の大きさと妙分厚さ。複数買ったのだろうが、それにしても何冊買ったのか、その種類は。まるでびっくり箱を開ける時の心境だ。

 

 「ん、ん? これはねえ。姐さんのことを描いた同人誌と、最新の歴史解説本! 絵もキレイで私好きだし、とってもわかりやすいの」

 

 「そ、それは何より・・・私に聞けば良いものを・・・」

 

 「だって、絵もあったほうが想像しやすいでしょ? それに、姐さんをきれいに描いてくれる人で大好きなの。今度姐さんもあおうよ~」

 

 少し興奮気味にまくしたてる咲に少し押されながら少し心で安堵を漏らす。内容も見たところほのぼの、短編のようで細かな補足と絵での想像の補填と言ったところだろうか。これくらいなら軽い講座のようなノリで過ごせる。

 

 それに咲の言う通りきれいな絵で描かれる自分たち、ブリテン、オークニーの皆のドタバタ具合を見ていると何だか心が緩んでしまう。一度会うのも、いいかもしれない。

 

 過去の記憶を思いついたように言って描いてもらうのも一興。出来るのなら礼金は積む。モルガン、イグレーヌの美しさや特徴もしっかりと描けそうだし、写真がない時代、記録も終始絵におこす時間の余裕もない。疑似アルバムみたいなことが出来るのなら幸い。・・・お色気などは除いて。

 

 「そうですね。出来れば私も個人的に依頼をしたいものです。まあ、無茶はさせたくないので出来る限り余裕のありそうな日を選んで。咲様、連絡先は分かります?」

 

 「う、うん! あ、じゃあカルデアに戻ってから教えるね? 全部終わってからのほうがいいもんね」

 

 「お願いします。少し私は元様。ダ・ヴィンチ様に呼ばれていますので、うーん・・・帰って、一日置いてもらっていいですか」

 

 「了解~♪ びっくりするだろうなあ。だって、本人が来ているんだもんね。そっくりさん、コスプレと思われちゃいそうだけど」

 

 「コスプレイヤー、熱心なファンくらいに捉えてくれればいいですよ。さ、少し早めに帰りましょうか。最後の仕事を終わらせて休暇をもらいましょう。その方が連絡や情報も探りやすいですしね」

 

 取りあえずは話を切り上げ、帰省と買い出しも終わったのなら後は帰って仕事の仕上げと新たな楽しみへの期待を消化していくだけだ。一応の片付けを済ませ、空港で休んでいた操縦手に連絡を取って空港へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ・・・・・・・ぁあ・・・っ。これで一段落・・・急な触媒の調達には骨が折れましたが、これで一応はメンバー全員の英霊の準備ができる訳ですか・・・一応はそれぞれの魔力量、魔術の相性に合わせて少しは用意しましたが・・・どれだけの面々が馴染めるか・・・英霊なんて性格の面でもトンデモな方が多いですし、派閥抗争や仲違いが怖いです・・・」

 

 買い出しの資材、道具、確かなルートから仕入れた英霊の触媒たるものを幾つか。全てをそれぞれの部署に配り、予算の余りをオルガマリーに報告して一段落。その後は呼び出しをされていた人物のもとに足を運ぶ。

 

 レイシフトに移行していくマスターたちの人数も後一枠の到着を除いて皆が揃っている。Aチームに至っては訓練、連携も仕上げ。そこにいる女の子・・・マシュも問題なく、出来ているようだ。時折話をしては歴史講座、豆知識解説をしているが、顔色は問題はない。まだ「あの」状況になっていないのもあるだろうが。

 

 「やぁ、華奈。お疲れ様。今回も大変な買い出しだったね」

 

 此方ににこやかに話しかける男性。カルデアの召喚課のスタッフの一人、家族の一人の源 元。カルデアの召喚課では英霊への関わり方への講義で使い魔と見ないことで変わり種とみなされ、更にはロードの一つエルメロイへの出資者なのにも関わらずアムニスフィアの施設で働くということもあってなお異端。華奈ほどではないがまた変人扱いされている男性だ。

 

 「ヤッホー♪ やぁやあ。今回の買い出しもご苦労、ここまで何でも揃えるスポンサーはそうはいないさ。私だって一回二回くらいの経験だよ。でも、疲れは大丈夫か~い? 華奈。説明の途中の寝落ちは悲しいぞ?」

 

 そして、カルデアの技術部特別名誉顧問。このカルデアの技術を纏める・・・・・・・モナ・リザの姿そのもの、声すらも美しい女性のそれをまんま体現した変質者の具現。レオナルド・ダ・ヴィンチその人。華奈の古い付き合いの一人。

 

 この二人が自分に今呼びかけること。時期も考えればあれしか浮かばない。

 

 「いえいえ。お二人の激務、調整に比べればこれしき。して、マスターたちではなく後方の私に声を掛けるということは、私にも予備として?」

 

 「うん、まあね。お守りになるし、渡しておいて損はないだろうから」

 

 「それに、やっぱり出来る限りは外部の干渉、余計な戦力の逐次投入は避けたい。そういう意味でも華奈は私達のジョーカー、隠し玉というわけさ。受け取って欲しい」

 

 そう言って二人が渡してくるのはラウンドシールドと十字架を組み合わせ、装飾を施した手のひら大のネックレス。銀と黒、白のコントラストが美しく、純粋な装飾品としても中々のものだろう。

 

 「これは、所謂簡易式召喚装置。生憎と霊脈の上でないと召喚ができないが、そうであれば海底だろうとどんな山の上だろうと英霊を召喚できる。一回限りで壊れちゃうけど、持っていて。華奈にも必要かもしれないから」

 

 「こっちも出来る限りの配慮、注意はするさ。けどね、魔術師に世界から才能を集めた変人奇人に自信過剰も珍しくないというおまけ付き。そして英霊は皆それぞれが卓越した戦闘能力、そうでなくても世界に今尚語り継がれるだけの特技がある。これを悪用したり、馬鹿する奴らはかならず出る。そうでなくてもレイシフト自体が危険な行為だ。アクシデントを何度も経験して、聖杯戦争を、英霊との戦いを、協力を知っている華奈だからこそ。わかるね? この意味が」

 

 二人の視線が穏やかなものから鋭いものに変わる。言わんとする事、その理由も全て察している。

 

 「秘密警察。万が一、主戦力すらも叛意を起こした時の制御、レイシフトの際に生じるアクシデント、任務の際の予備兵力の最後。ということですね」

 

 最終手段、暴力装置としての側面。妥当にして当然の配慮の一つだろう。何せあの英霊を数十騎以上も呼び寄せる。しかも中にはどんな英霊を呼び寄せるかも決めていない、そもそも自身の才覚に溺れる輩もいる。使い魔として英霊を見下して仲違いの果に反乱。あるいはチームごとの派閥でカルデアの主導権を握る、そうでなくとも同士討ちの危険性。

 

 これらの事が起きた場合は華奈が英霊を呼び寄せ単独、又はカルデアに協力的なメンバーと共に鎮圧。それらが起きなくてもレイシフトでの危険、外部の余計な介入、戦力不足を補うためのもの。必要であり、こればかりは仕方ない。

 

 「そういう事。出来れば無いほうがいいけど・・・でも、それを願って準備をしないのは違う。だから受け取って欲しい。出来れば、何事もなく事が済んでこれを返してくれたら万々歳なんだけど」

 

 「人ってのは大きな衝撃を受ければ変わる、そうでなくても揺らぐものさ。英霊とのコミュニケーションとなれば尚の事ね。世界中のスーパースター、超人に会ってしまえば例えそれが影法師、一部としても何が起きるかわからない・・・あ、そうそう元。新しい触媒の管理、その金庫が出来たからしまってきて欲しい。いやぁ~失礼失礼。忘れていた」

 

 テヘッと舌を出して元に笑いかけるダ・ヴィンチちゃん。すっかり全てを終わった、備えの話をしていた不意を突かれて元、華奈は「またかあ」という顔になる。

 

 「またなの? ん・・・了解。しまってくるのと、金庫別のリストを後で送るから確認してよ。じゃあ、またね。華奈」

 

 やれやれと仕方なく部署に戻っていく元を手を振って華奈、ダ・ヴィンチちゃん。そして振り返り、先程の緩んだ空気が一変。

 

 「さて・・・ダ・ヴィンチ様。あの装置は出来ましたか?」

  

 「ああ、勿論さ。フラムもよく頑張ってくれたし、一応は問題はない。可動自体もすぐ出来る。マシュがあの力を使わなければこれもお蔵入り、最悪何かあった時の外交カードにでもするが・・・皮肉なものだね」

 

 「いくら英霊とは言え、二度目の生でここまで再現されては・・・今回は時間やダ・ヴィンチ様がいるからどうにかなりそうですけども」

 

 カルデアに招かれて知った実験、更には自身の義理の息子のギャラハッドも利用していたことには腹を立て、マリスビリーを殺そうかとも考えた。殺さなくてもカルデアを破壊しようかとも考えたが、朧気ながらにこの先を見据えると堪えるしか出来ず、更にはソロモンの頼みに、このロードの後ろ盾なしにマシュを守れることが出来るのかと考えた結果剣を収め、耐え忍ぶことにしこの生まれをどうにか克服できないかと医療方面の投資に力を入れ、機材を探した。

 

 知り合い、友人のいざこざに何も知らぬうちに巻き込まれてしまう。しかも寿命も短く、目的のために生み出された。ここまでまんま再現されなくてもいいではないかと嘆き、どうにかしようと自身のできる範囲で探し続けた。その結果がかき集めた財、資材で特級の技師のダ・ヴィンチに依頼して作らせた医療ポッド。カルデアのレイシフト用のコフィンの見た目に似た形状のものでこの南極にわずかに残る神秘をかき集めてそれを治療、延命の術式に転換、濃縮した液に体を浸して細胞の寿命、そのシステム自体を長寿に作り変えていくシステム。

 

 ネズミ、猿、昆虫などで試したが従来の数倍の健常、寿命を維持できたし、人の細胞でも壊死のスピードが落ちた。現時点でも一応は使える。後はアップデートしていき、マシュに同意をとって使用するだけだ。

 

 余計なおせっかいと言われるかもしれない。けれど母として、組織の同僚としてこの施設だけに留まらずに娯楽も多いこの外の世界を知って、楽しんでほしいという老婆心からくるものも大きい。そしてそれはきっとダ・ヴィンチちゃんも同じ考えなのだろう。

 

 「そうさ。これもきっとどうにかなる。私のような天才が君の協力者であり、そして君の財産運用の手腕があったからこそこれ程の準備が出来た。少し独善的な嫌いもあるが、拒否されたのならまあそこは使わなければいい。この寿命で満足するなら蛇足だ。そうだろう?」

 

 「ええ。もしこの世界だけで満足するのなら私・・・いえギャラハッドも受け入れるかもしれません。一度は引き止めはしますが、それ以上は彼女の選択です。決して中にいるギャラハッド、そして私の感情に任せてマシュ様の人生を無理やり引きずるわけには行きませんもの」

 

 一度人生を終えた家族の勝手に今を生きる少女の運命をあれこれと引きずり回すのは勝手が過ぎる。そこの線引だけは間違ってはいけない。それを忘れぬようにと互いに念を押す。

 

 少しの空白の間が空き、くすりとダ・ヴィンチちゃんが笑みをこぼす。

 

 「互いに過保護だね。まあ若人を心配するのは老人の特徴であり、ある意味特権だ。マシュがどんな道を選ぶか見届けようじゃないか。元気な若い子は見ていて楽しいからね」

 

 「違いありません。そのためなら結構無茶な注文も付けちゃいますからね? 頼みましたよ」

 

 「お代はしっかり貰うぜ? ご飯でも素材でもね。君みたいな有能スポンサーならこの万能の天才をタダ働きさせることをしないだろう?」

 

 「ツケにする可能性もあるので。又はローン」

 

 少し芝居がかった動作で華奈が肩をすくめるとダ・ヴィンチちゃんも同じような動作を返し、いたずらめいた視線で華奈を見つめる。

 

 「そう言って今まで一括のくせに。まあいいさ。後で医療用ポッドの微調整をしておくから小休憩のオヤツにチーズとワインを用意し給えよ。君の料理はいい心の栄養剤だから」

 

 「はいはい。ああ、年代物と私のオリジナルワインを用意しましたので後でどうぞ。ピザも付けておきましょう」

 

 他愛のない言葉をかわし、手を振ってそれぞれの持場へ戻る。もう少ししたら過酷な戦いが始まる。もしまだ猶予があるのならどう動こうかと互いに思案をめぐらしながら。




 今回、少し作りが雑かもしれませんが申し訳ありませんでした。取り敢えず、次回は華奈が何で半ばカルデアで干されているのかを書けたらなあと思っています。また、お時間をくださいませ。


名前:源 元(みなもと げん)
部所:召喚課スタッフ

経歴:フリーランサーの魔術師で、エルメロイ教室の外部出資者。一度エルメロイの派閥に招かれるもあくまで出資者の姿勢を貫く一方で家族たちの存在を知ってカルデアに参加。召喚魔術への理解や技術を買われて雇用。メインスタッフの一員に。

サーヴァントマスターとしては英霊に敬意と愛情をもって接する異端。またマスターたちへの講義でもそれは現れるのだが、魔術師の一般的な認識とは噛み合わず半分聞き流される事が多い。現在は講師は別の人物に変わって今は召喚システムにのみ関わるオルガマリーに命じられる。

前世では女性との英霊との縁が多いらしく、中々に愉快な関係が多いそうな。マスター適正、レイシフト適正はあるがレイシフト適性はある意味片道切符レベルで低く、一度行えば体に無理が出るレベル。

家族はこれで皆様出ました。関係はまあかなり複雑です。

また書いていけるようにがんばります。どうかお願いします。

最後にUA 41898件 しおり 127件 お気に入り 348件 応援ありがとうございます! 皆様夏の暑さに気をつけてお過ごしくださいませ。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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心配と爆発

フラム「ん~~♪ んん~んっ~♪」
(カルデア内部を散策中)

フラム「~♪ ん・・・? 何でしょう」
(壁を剥がして見る。爆弾発見)

フラム「はぁ・・・また。華奈の言うとおりですけども、多すぎでしょう。念入りと言えばそれまでですが・・・入れ替えておきましょうか」
(ダミーに入れ替え、本物は廃棄)

フラム「さて・・・今夜は何を食べましょうかねえ~?」
(壁をもとに戻して散策を再開)


 カルデアのプロジェクトも大詰めになり、備品の配備に使用できるものを取捨選択していく。とは言え、こうなってくると準備自体は召喚課スタッフにオペレーター、レイシフトの準備するスタッフが忙しいが華奈のような前もって準備する部署はもう何もすることはなく、ただただゆっくり茶をすすって時間を潰すくらいだ。

 

 見学にも参加しても良いかもしれないがオルガマリーは認めない、もし切羽詰まった状況なら癇癪、ヒステリーを起こしてまた騒ぎになる。セレモニーがグダグダになりかねない。

 

 なので自室に・・・とはいかずカルデア内部を散策し、ある物を探しては壊したりしていた。

 

 「これで10個・・・はぁ、キリがないです」

 

 カルデアの内部に設置されつくされた爆弾。ご丁寧に施設の破壊よりも人を殺すことに主眼をおいた爆弾がゴロゴロ。ここ数年で幾つかは破壊してダミーにすり替える。そのダミーをフラウや冬利と制作しているのだが、数が増えてきている。仕掛け人のレフ・ライノールもいよいよ始めるつもりなのだろう。

 

 「尽く私の意見も潰したりする時もありましたからね。全く、オルガマリー様もほぼ依存するのが仕方ないほどの立ちふるまいや腕をふるっているので仕方ないですけども」

 

 華奈も警戒はしていたが、それのためにさりげない提案を幾度かしては却下。あれこれと理由をつけては通せなかった。その中でも大きかったのが「機材の保護や予備、内部からの攻撃に対する対策」への草案を却下されたこと。

 

 カルデアの組織はその運営に巨額の資金が動くこともそうなのだが、多くの組織の人材や技術が入り乱れて混ざったカオスな部分もある場所であり、それ故に一度何かの騒ぎでも起きれば圧力を受けて組織解体、乗っ取りもそうだが、何よりも何かが起きた時の配慮や備えが決定的に不足していた。

 

 一度テロ行為でも起きれば救援は遅く、破壊活動でも起きて精密機械が壊れればその間カルデアは動けず、万が一爆弾が壁を壊せば南極の標高6000メートルの寒い風と雪がお出迎え。

 

 外からの攻撃も魔術師ならこの雪山でも比較的軽装で活動できる魔術を使用できれば現代の防寒技術も馬鹿に出来ず魔術を使えずとも攻撃ができないわけではない。

 

 カルデアの混乱で生じる組織間の不和を狙うもの、利益となるものもいることを考えるとこれに対する備えもやっておいて問題はないだろう。

 

 その観点からカルデアの基礎の強化にこまめに信頼できるメンバーで点検。秘密裏に調査できる面々を用意するべきだと訴えたのだが予算の問題や時間がないと言われて却下。三度目辺りからは取り合ってくれずに門前払い。それからというもの聖杯戦争の同盟者、協力者ということからの意見提案も求められなくなり、メインの仕事からも外された。

 

 それでも腐ることはなかった。というかコソコソことを始めたのだが。

 

 「姐さん。こっちも一応は処理は出来た。が・・・これで全部じゃねえだろうな。どうする? もう時間も無い。さっき最後のマスターの藤丸 立香が来たようだ。フラム、良馬、元は今はあっちの準備で手が離せない」

 

 「でしょうね・・・全く、今までの処理で合計が百を超えた辺りから数えるのも億劫ですよ」

 

 レフの技術はカルデアの運営には不可欠な人材だったのは確か。爆弾の件も結びつけるのも証拠は足りない。普段の私生活も落ち度が見つからない。下手につついてもこれ以上はサブからも外されてカルデアを追われることになる。そうなればいよいよもってカルデアに干渉して手を打てることができなくなる。それこそ積みだ。

 

 なので家族とこっそりカルデアの内部を散策がてら爆弾を探し、解体。発信している電波や信号などの類を解析して同類のものをブラックマーケットなどで補充して爆発しないダミーにすり替える。これをこまめにやっているが、人のいない場所を狙ってふらついてやるのだが、効率が良くない。一応は重要区画、などはフラムや咲に依頼して強化の魔術で機材を保護、間に金属板で保護したりこれらの予備をあらゆる場所に分散して隠す。

 

 食品、資材、その他諸々をこっそりカルデアのスベースや建築の際の隙間や作っておいた隠し部屋にしまいこんで「何があっても最低限の準備ができる」くらいには備えたつもりだ。

 

 その最後のあがきとして職員の目が集まる集会の目を盗んで出来る限りの爆弾処理に勤しんでいるのだが、数が多すぎる。

 

 「ふぅ・・・・・・冬利様。欺けていると思いますか?」

 

 「半々と言っておきましょうかねえ。レフが気づいていないから爆弾の処理、すり替えが出来る。俺たちが気づけていない爆弾の威力に自信があるから俺らを泳がせている。どっちにも取れるわけで。どちらにせよ被害軽減ができるこの状況には感謝しか無いと言っておきますか。いやまあ本当なら爆弾処理をする必要がないほうが良いわけですけども?」

 

 「まぁそうなんですが・・・」

 

 談話を続けながら信号を探る探知機をしまい一度部屋に戻ろうとした刹那、爆音と地響きが轟き、先程までの明かりは消え、黒が視界を覆った次の瞬間には赤が視界に混じり始める。

 

 《緊急事態発生。緊急事態発生》

 

 赤と黒の交じる視界に更にはけたたましいアナウンスが走る。どうやら爆弾テロが始まってしまったようだ。

 

 「姐さん!」

 

 即座に冬利が緊急用の端末を投げ渡し、華奈も持っていた携帯端末と何色もの鍵が入っている鍵束を投げ渡す。

 

 「赤の鍵で鎮火の道具を! その後は緑の医療機材、薬品の準備も! それと・・・皆の安否確認を合流できたスタッフと行ってください!」

 

 《中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の障壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください》

 

 「では後で! 私はけが人の救護を行います! 冬利様はその怪我人の収容と場所の確保をお願いします」

 

 言うが早いか即座に場を離れて道中の壁を幾つか破壊して備えの一つの消火剤とマスクを撒き散らして生きながら走る。

 

 《繰り返します。中央発電所、及び中央────》

 

 どうにも出来る限りの爆弾処理はしたようだがそれでもこの破壊規模。自分たちに気づいて気づかないレベル、若しくはそれ以上の爆薬を仕掛けて念入りに破壊しておきたかったのか。中央発電所も予備の機材はあるがその損傷の度合いが分からない。この火事を鎮火、カルデアスの火を維持しつつ状況を探る。それまでは緊急用の発電機器、その場しのぎの小型発電機でどうにか賄うしか無いだろう。

 

 《動力部の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への切り替えに異常 が あります。職員は 手動で 切り替えてください》

 

 悪い予感は当たるものだ。地下の発電所を急遽起動し、それの補助も起こすことでどうにかなるだろうか。それと同時に職員も発見次第無事な場所の情報を教えて行ければ最高なのだが。

 

 そこまで考えて、この状況の酷さとその被害にあったカルデアの職員・・・家族、そしてマシュ。彼女たちは無事なのだろうか。家族は爆破の旨を知っていることで装備も準備している。カルデアの職員の服にも密かに耐爆や防壁を展開できる仕様にはしている。けれど・・・それでも心配には変わりない。冷や汗を垂らし、全速力で走り抜けた先で

 

 「うわお!? 華奈! どうしたんだいこんなところに!? ここは危険だ。早く避難、そうでなくても消火活動を・・・!」

 

 ロマニが走っていた。行先を考えるに、発電所だろう。此方も速度を合わせておく。彼も長くカルデアにいる以上、カルデアスの火を絶やさぬことの重要性は理解している。

 

 ・・・・・・・彼に任せても良いかもしれない。

 

 「私は・・・・・・・まだ奥にいるかも知れない職員たちの救助活動に。冬利様、咲様達が緊急の避難場所の確保をしています。これを渡しておきますのでお願いします。後、移動しながら緊急用のマスクと消火剤を転がしておいたので皆様に通達を」

 

 「は!? マスク!? 消火剤!!? い、いや危険過ぎる! 華奈はすぐに下がって・・・」

 

 問いかける時間も惜しい。家族用の端末を渡して再加速。後ろからロマニの呼び止める声が聞こえるが無視して走り抜ける。

 

 《隔壁閉鎖まで あと 40秒 中央区画に残っている職員は速やかに────》

 

 隔壁封鎖の直前に滑り込めたはいいが、目の前に広がる光景は酷いもの。轟々とうねる炎、瓦礫の山。遠目に見えるコフィンの様子を見ても起きるマスター達はいない。あの爆弾で意識を持っていかれた、そうでなくても重傷は免れないだろう。

 

 「深山・・・」

 

 刀を即座に一振り出し、コフィンの周辺の炎からコフィンを守る壁を作っていると聞き覚えのある声とそうでない男性の声が聞こえてきた。

 

 一人はマシュ、そしてもうひとりは・・・・

 

《中央隔壁 封鎖します。 館内洗浄開始まで あと 180秒です》

 

 「・・・一応は無事なようですか・・・」

 

 朧気な記憶ながら部員時代の記憶、もし自分の知る通りなら助かるだろう。そして藤丸も巻き込まれはするが・・・・・・・何やらアナウンスがしきりに煩いが聞こえない。バラバラ死体になっていない、一応は生きている。その事が脱力感を生み出し、動作がゆっくりしたものに。

 

 深山で崩壊しそうな壁を補強し、無事な奥への誘導マークを書きながら奥へとゆっくり向かう。瓦礫は切り捨てる。壁も切り裂く。何よりも確実に会うことを選びたい。

 

 「さて・・・あの二人は生きている。家族はどうなっているのでしょうか・・・」

 

 

《コフィン内マスターのバイタル基準値に 達していません レイシフト 定員に 達していません 該当マスターを検索中……発見しました 適応番号48 藤丸立香 及び 適応スタッフ 船坂 華奈 及び 適応スタッフ 源 元 を マスターとして 再設定 します》

 

 

《アンサモンプログラム スタート 霊子変換を開始 します》

 

 緊急措置の際にレイシフト適性のある人物を代員として当てはめるプログラムが作動したようだ。漸く瓦礫を細切れにして崩し、声がはっきり聞こえた辺りで霊子変換がスタート。

 

 徐々に意識は薄れ、霊子変換の際に見える光の粒を見つめながら刀を収める。こうなった以上はレイシフト先で合流する他ないだろう。力を抜き、徐々に夢見心地の感覚に移っていく。

 

《レイシフト開始まであと3》

 

 

《2》

 

 

《1》

 

 

《全工程 完了 ファーストオーダー 実証を 開始 します》

 

 このアナウンスを聞きながら華奈の意識は途切れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・目を覚ましたら、そこは火災現場でした。って感じでしょうか。いえ、若しくは戦場?」

 

 目を覚まし、身体を起こすと目の前に広がるはカルデア以上に燃え盛る業火、そのせいで融解したり真っ黒になっている鉄骨、瓦礫。町も多く剥がれ気になって崩れ去り、かつてあったはずの景色も何もあったものではない。

 

 地獄と呼んでもいいほどの酷い景色にこれまたその住人にふさわしい歩く骸骨。ご丁寧に武装までしてメルヘンやファンタジーの世界に迷い込んだ気分だ。

 

 その住人たちは此方を殺す対象と見たのか矛先を向け、ジリジリと近寄ってくる。

 

 「さて、マシュ様、藤丸様、元様は何処に飛ばされたのやら・・・」

 

 此方も刀を抜き、臨戦態勢を整え、構える。十年前にかつて戦った町、冬木でもう一度華奈は剣を取りここに飛ばされたメンバーと合流するべく動き始めた。




~元サイド~

元「ん・・・飛ばされて・・・ええと、冬木だったか・・・さて、こっちも召喚しなければ変えることも難しいかな?」
(華奈に渡したものと同じアクセサリーを取り出す)

元「誰が来るのか・・・部員時代だとイシュタルとの縁も深かったけども・・・今の自分には制御が難しいし、この町の縁でどなたが招かれるか・・・」
(簡易召喚開始)

メディア「あら? 貴方がマスター? ずいぶんとひどい状況ね。それで? 何をしてほしいのかしら」

元「この冬木から生還する間だけでも良いので一緒に戦ってください」

メディア「ふーん・・・ま、良いわよ。じゃ、契約完了ね。目的、若しくは今すぐしたいことは?」

元「それじゃあ、自分たち以外にもこの場所に着いたマスターたちがいるので彼らと合流したいです」

メディア「了解したわ。それじゃあ、それなりには頑張りましょうか。面倒くさいけど」



次回から冬木での探索スタート。オリジナル英霊も出せたら嬉しいですね。オリジナル英霊二騎のコンビで挑む馬鹿騒ぎ。が実現できたら良いなあ・・・


取りあえずこれからどうなるのか。

最後にUA 43062件 しおり 128件 お気に入り 353件 応援感謝します。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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嵐と火炎渦巻く都市・冬木
嵐の勇者(ヒーロー)?


タイトルでマイトガインを思い浮かべた方はどれほどいるのでしょうか。


 俺は、今でも目の前の景色が信じられずにいた。カルデアについてすぐの大爆発。何もかもが壊れて燃える惨状。それから突然どこかに飛ばされたかと思えばカルデアと同じ、それ以上かもしれない燃え盛る町に飛ばされた。

 

 何もかもが燃え、命の気配など何処にもない。化物共が闊歩している地獄と呼ぶにふさわしい光景。

 

 「ハァッ!」

 

 そんな最中に自分を先輩と呼んでくれた女の子、マシュはついさっきまで瀕死の重傷だったはずなのにいつの間にか鎧と水着を足して割った黒と紫を基調した変わった装備と巨大な十字架型の盾を振るって自分たちを襲う怪物を粉砕し。

 

 「メディアさん、空中からの魔力弾で敵の足止めを。その間にマシュに一呼吸つかせます」

 

 「了解。護衛用の竜牙兵は置いておくから必要ならそれも使いなさい」

 

 カルデアのスタッフだという元さん。そして彼が召喚したというサーヴァント? のメディアさんはマシュや俺を後方からの魔力弾とかいうエネルギー弾と骸骨によく似た兵隊を作り出してカバーするなどサポートして戦況を優位に進めてくれる。

 

 「マシュ! その骸骨で最後だ。落ち着いて仕留めて!」

 

 「了解しました! やああぁぁっ!!」

 

 渾身のシールドバッシュで骸骨は砕け散り、周辺には敵はいなくなった。翼を作って? 空を飛んでいたメディアさんも敵がいないことを確認し終えたのか地面に降り、ふぅ。と息を吐いて杖をしまう。

 

 そして最初この周辺の敵に襲われていた女の人に皆で近づく。

 

 「戦闘、終了しました。お怪我はありませんか?所長」

 

 マシュが声をかけたことで振り向いたその女性の身なり、顔を見て思い出す。自分が所属した組織カルデアの所長、オルガマリー・アムニスフィアだということを。多少すすや埃で汚れてはいるが怪我はなく無事なようだ。

 

 「あら。この子がマスターの組織のトップ? ずいぶんと可愛らしい子だこと。ふふ・・・お嬢様って感じね」

 

 「・・・着せ替えの依頼はご自身でお願いしますよ。メディアさん」

 

 「あら、マスターも協力してくださいな。主なら多少の融通を聞くのも努めでしてよ?」

 

 元さん達は元さんたちで何やら話し合っている模様。少しろくでもないような話だった気がするが気にしないことにした。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どういう事?」

 

 オルガマリー所長は俺たち四人を見やり、安堵の表情を一瞬だけ見せたかと思いきやすぐさま怪訝な表情に変わり、マシュを見て、視線を変えて俺を睨んで言葉をこぼす。

 

 元さんがマスターになっていることなのだろうかと一同首を傾げたがマシュがその呟きに理由がわかったのかすぐに理由を補足し始める。

 

 「所長?・・・・・・・・・・・・ああ、私の状況ですね?信じ難い事だとは思いますが、実は────」

 

 「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見ればわかるわよ」

 

 そんな事は知っていると切り捨てるオルガマリー。その後に表情を激高させ

 

 「私が訊きたいのは、どうして今になって成功したのかって話よ!! いえ、それ以上に貴方!この私の演説に遅刻した挙句居眠りなんて事をした一般人!!」

 

 「!?」

 

 「始まった・・・・・」

 

 「中々に気難しいのかしらね? ま、マスターから聞いた情報だけでも色々世紀末だしね。パニック状態なのかしら」

 

 まさかの自分への飛び火。いや、此方を睨んでいたから予想はついたがここまで怒るとは。元さんもマシュもこのことはいつものことなのか驚くこと無く遠巻きに見ている。

 

 居眠りについてはあんな滅茶苦茶な場所からナンたらダイブとかで疲労があったのをもう一人いた男性から聞いているから加減しても良かったのに・・・それでも何とか参加した自分を寧ろ労って欲しい。

 

 「なんでマスターになっているの!?サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ! アンタなんかがマスターになんてなれるハズないじゃない!! 元は召喚課の講師だしマスターの適性も高いから良しとしてもアンタはありえない!! ありえないはずなのよ! この子にいったいどんな乱暴を働いて言いなりにしたの!?」 

 

 まさかのマシュとの契約? に怒っていた模様。と言われましても・・・一応は弓道部に入っていたり、それなりに筋トレはしていたけど、平凡な俺がそんな事ができるものか。

 

 「そんな事言われても・・・・・・・・」

 

 それにこの極限状況に息をつかせぬ間もない襲撃や混乱。錯乱でもしなければ殴りかかったり彼女を盾にはしない。それをするよりは逃げたほうが良いかもしれない。マシュの戦闘力の向上に元さんがいなければこうは落ち着いていられない

 

 「それは誤解です所長。強引に契約を結んだのは、むしろ私の方です」

 

 「なんですって?」

 

 俺を犯人だと決めつけていた所長に異を唱えてかばってくれるマシュ。有難う。本当に。

 

 と、いいますか確かにマシュは美人でかわいいし、優しい子だけどもあんな化物骸骨を軽々と粉砕するマシュに乱暴なんて逆に俺がミンチになりそうだよなあ・・・・・・・・くわばらくわばら・・・・・

 

 「そこら辺はこっちからも説明しようかと思っている。良いですか? 所長、マシュ」

 

 「はい。此方からもお願いします。では、私と元さんで経緯を説明します。その方がお互いの状況把握にも繋がるでしょう」

 

 

 

────────────────────────

 

 「おや、懐かしい顔。十年ぶりでしょうか? 良ければこの場所を貸してくださいな」

 

 「────っ!!」

 

 「交渉失敗。じゃ、荒事と洒落込みましょうか」

 

 

────────────────────────

 

 

 

 「・・・・・フン、まあいいでしょう。状況は理解しました」

 

 カルデアでの出来事から自分たちがどうやって合流できたかの経緯。そして自分たちがどうやってこの町・・・冬木へレイシフト出来たかをマシュと元さん。俺はその時の補足を付け足しながら一通り報告を終えた。

 

 どうも腑に落ちないがしょうがないと言った表情で何かを考え込んだ後、オルガマリー所長は此方に向き直る。

 

 「藤丸 立香。緊急事態ということで、あなたとキリエライトの契約を認めます。そして源 元も緊急措置ですがメディアとの契約を続行。その上でここからは私の指示に従ってもらいます。・・・・・・・まずはベースキャンプの作成ね」

 

 「了解しました」

 

 「ハイハイ。了解しましたわ。で、陣地作成ね。忙しいこと」

 

 「有難うございます。それと・・・・・ベースキャンプ?」

 

 一応は俺とマシュの契約を認めてもらった所で新たな単語が飛んできた。ベースキャンプ? 基地でも作成するつもりなのだろうか。

 

 そんな俺の考えを見抜いたか所長は一つ息を吐き、しょうがないと説明をしてくれる。何やかんや気を回してくれる辺り悪い人でないのかもしれない。いきなり怒られたりビンタされたのはどうかと思うが。

 

 「はぁ・・・いい? 私達はこの過酷な環境でふらついて体力も時間も消耗する訳にはいかないの。それにカルデアが爆発したでしょう? 何にせよ私達は一応の物資と情報が必要。だから霊脈のターミナル、魔力が収束する場所を探すのよ」

 

 「??? その、魔力でどうするんですか?」

 

 「そこを起点に魔力を介してカルデアと通信、連絡を取るのよ。その方が確実だし、色々私達にも特があるのよ」

 

 「そうだね。今は「携帯の電波が届きやすい場所」と考えてくれたら良い。ほら、電波が良ければ連絡も出来るし、GPSで住所も分かるからすぐにものを送れるだろう?」

 

 二人の説明で一応は納得がいく。確かに訳も分からぬうちに燃える死の町に放り込まれた。しかもその出発となった場所も何らかの爆発で大惨事。情報、互いの確認をしっかりとできるメリットは大きい。

 

 「それで・・・この街の霊脈の場合は・・・・・」

 

 「このポイントです、所長。レイポイントは所長の足元だと報告します」

 

 「うぇっ!?あ・・・・・そ、そうね、そうみたいね。わ、わかってる、わかってたわよ!?そんなコト!」

 

 自身の足元だと気づかずに慌てふためき、ごまかすように声を荒げるオルガマリー。

 

 大丈夫なのだろうかこの所長は・・・・・・・何というか、優秀なのは確かのだろうが何処か抜けている・・・ポンコツな香りが・・・あまり深くは関わっていない自分でも何となく感じる。こんな強い当たり方、ごますりなどの取り巻きはいるけど、友人、気を置けない近しい存在はいない。いても勝手に依存しているんだろうなあと。寂しがり屋だけど上手く行けない状況なのだろう。

 

 もし、もしここから帰れたら少しづつ歩み寄ってみるのも良いかもしれない。それでも駄目なら諦める他無いが。

 

 「マシュ、貴方の盾をここに置きなさい。宝具を触媒にして召喚サークルを設置するから。メディアはそれを補助する術式を刻んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあ!? 何で貴方が仕切っているのロマニ!? レフは? レフは何処? レフを出しなさい!」

 

 『うひゃあぁあ!? しょ、所長、生きてらしていたんですか!? あの爆発の中で!? しかも無傷!? どんだけ!?』

 

 召喚サークルを設置した後に景色が変わったかと思いきや、眼の前で繰り広げられるのは此方に連絡をしてくれたロマニとまた声を荒げるオルガマリーのやり取りだった。何度も声を荒げるわ表情をコロコロ変えるわよくもまあ疲れないものだと内心感心してしまう。

 

 「どういう意味ですかっ! いいからレフは何処!? 医療セクションのトップがなぜその席にいるの!?」

 

 『・・・なぜ、と言われるとボクも困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚しているし。でも他に人材がいないんですよ、オルガマリー』

 

 「っ・・・! それは一体・・・」

 

 『そこからは私が説明します。ロマニさん。いいですね・・・?』

 

 『・・・頼むよ、良馬くん』

 

 空間ディスプレイ? とでも言うべきだろうか。そこにロマニ以外にも人物が映り込み、思いつめた表情で語り始める。

 

 『現在、生き残ったカルデアの正規スタッフはせいぜいが七十名。それも半数以上は何らかの傷を追っていたりで咲に頼んで治療魔術を施しているのが現状です。ロマニさんを作戦指揮に立たせたのはロマニさん以上の階級を持つ生存者がいない。古参がいないから私が引っ張ってきたからです』

 

 『それになんだけど・・・レフ教授は管制室でレイシフトの指揮を取っていた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ』

 

 「そんな──────レフ、が・・・・・? いえ、それより待って、待ちなさい、待ってよね、生き残ったのが七十人前後? じゃあマスター適正者は? コフィンはどうなったの!?」

 

 悲痛な声を張り上げてそこにはいないロマニと良馬さんに食って掛かるオルガマリー。聞くだけでも悲惨な状況だ。それに・・・思い出した、自分と話していたあの帽子をかぶっていた独特な雰囲気の男性。レフさんも・・・あんまりにもあんまりな状況だ。この報告にはマシュも元さんも顔を青ざめ、あるいはしかめて沈痛な面持ちになっている。

 

 『47人、全員が危篤状態です。医療器具も予備はありますが、人手、その環境が今は全くありません。爆発でその施設も瓦礫に埋もれています。ボクの部下・・・医療セクションの面々もほとんどが爆発で死亡・・・今からフラムや他のセクションの魔術に秀でた面々で頑張ったとしても良くて十名。全員は────』

 

 「ふざけないで、すぐに凍結保存に移行しなさい! 蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」

 

 『ん・・・了解しました。すぐ実行します』

 

 『ああ! そうか、コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!』

 

 その言葉に二人はすぐさま動き、向こう側で電話、だろうか。それですぐさま幾つかの言葉をかわしてロマニは一度席を外した。

 

 「・・・・・驚きました。凍結保存を本人の許諾なく行うのは犯罪行為です。なのに即座に英断するとは。所長として責任を負うことより、人命を優先したのですね。」

 

 人命を尊ぶその判断に素晴らしい。とマシュが表情を緩ませるがすぐさま所長の怒声を浴びせられ、驚く表情に変わる。

 

 「バカ言わないで! 死んでさえいなければ後でいくらもでも弁明できるからに決まっているでしょう!? だいたい47人分の命なんて私に背負えるハズがないじゃない・・・! 死なないでよ、頼むから・・・! ああもう、こんな時レフがいてくれたら・・・・・!」

 

 またヒステリーを引き起こし、不安に駆られた目になり、蹲って頭を抱える。この街にいるだけでも精神負担が大きいだろうに更にカルデアの惨状。トップである彼女にのしかかってくる責任、この先の不安。如何程のものだろう。呼吸が乱れ、顔がみるみる青ざめていく。

 

 「しょ、所長・・・どうか落ち着いて・・・大丈夫です、その、何かと言えるわけではないですがきっと大丈夫です・・・・」

 

 所長に寄り添い、背中を擦って慰めようとするマシュ。彼女もその負担の重さを一端でも分かっているのだろう。不安の色が見えるがそれでもなお優しく慰める。

 

 「・・・悪いけど、良馬さん。現在のカルデアの状況はどうしている? それと、あるのなら薬品のたぐいが欲しい。所長の精神安定剤をメディアさんに作ってもらいたくて」

 

 『そうですね。それも準備させます。それと、今の状況は爆発のせいで館内浄化装置も上手くいっておらず、冬利さんが消火作業と職員の避難誘導。咲さんは急遽用意した避難場所で職員の手当と名簿チェック。フラムさんはカルデアスや発電所の修理、予備の配置に奔走しています。予備のお陰でどうにかカルデアは動かせていますが、それも綱渡り、薄氷の上を歩いているようなものです』

 

 「あんまりにもひどい状況ねえ。あなた達、どれだけ恨みを買っているのよ? 神や悪魔になんか変なちょっかいでもしたのかしら?」

 

 その後は細かな状況報告を行い、度々ヒステリーを起こす所長にメディアが調合した精神安定剤を飲んで再開。となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・・・報告は以上です』

 

 『現在、カルデアの機能は七割を失っています。更にはその残った三割も維持する人員も怪我人が多数という状況です。出来ることは限りがあります。なので、此方の判断で残ったメンバーはレイシフトの修理、カルデアス、シバの現状維持に割いています・・・あ、すいません、ヘルプが来たので私は抜けますね。お願いします、ロマニさん』

 

 『あ、お願いね。・・・・というわけでこの状況を察した、若しくは感知できた外部との連絡が回復次第補給を要請、それを元にカルデア全体の立て直し・・・・・といったところですね』

 

 漸く互いの情報整理が終わり、改めて現状維持の確認。そして今後の方針を打ち合わせる。ひどい状況なのには変わりないが、何とかなっていること、メディアさんから貰った精神安定剤のお陰だろうか。さっきよりも落ち着いた状況でオルガマリーも聞いている。

 

 「結構よ。その方針を維持してください。ロマニ・アーキマン、写見 良馬。納得はいかないけども私が戻るまでカルデアを任せます。ロマニがリーダー、良馬が補佐でレイシフトの修理を優先で行いながらカルデアを維持すること。さっき抜けた良馬にも伝えなさい。」

 

 組織の長らしい、厳格に溢れた振る舞い、声でしっかりと指示を伝える所長。その言葉にディズプレイの向こう側でしっかりとうなずく両名。ここだけ見ればしっかりとした人なんだがと心の中で藤丸は思ってしまう。

 

 「それと・・・・・・私たちはこの特異点Fの調査を続けます」

 

 『うぇ!!? 所長!?そんな爆心地みたいな現場で怖くないんですかッ!?チキンなのに!! さっきも狼狽えていたのに大丈夫なんですか!!?』

 

 「煩いっ! なんでこう一言多いのよ貴方は!! っ・・・・・・今すぐ戻りたいのは山々よ。けど、レイシフトの修理が終わるまでは時間がかかるのでしょう? それにカルデアを爆破したテロの首謀者もまだいるかもわからない状況じゃない。なら、この街の現在の状況は低級な怪物のみ、護衛にデミ・サーヴァント化のマシュ、それにあの最高峰の魔女メディアがいる。今の所ここのほうが安全です」

 

 少し顔お青ざめながらも現在のカルデアの状況、そして自身らの本来の目的を述べ、仕方ないという次善策。今この場を守れる最高戦力の二人を見て少しだけ表情を和らげていく。

 

 「現場スタッフも一人はまだ未熟ですがもう一人は英霊をよく知っているスタッフ。ならこの特異点の異常事態の発生原因、そして第二陣を送り込む際に適したポイントを発見に留めます。細かな解析や原因排除はカルデアの復興後。ロマニ、それにキミもそれでいいわね?」

 

 俺に視線を向け、「どうするの?」という視線を投げかけるオルガマリー。マシュのマスターである以上主導権、もしくは一応の同意を求めているのだろうが、自分にはまだカルデアの状況で何が出来るか、ここで何をしていいのかわからない。ただ、下手な単独行動は避けるべきだと考え・・・

 

 「それでお願いします」

 

 同意で返した。まずは生き残ること、その上でここを知ることに動く。深入りは無用というのは最もだし、こんなハチャメチャな場所をもう一度訪れるのならそれの備えをしたいのも分かるというものだ。

 

 「というわけよ。カルデアは任せたわよ。ロマニ」

 

 『了解です、健闘を祈ります所長・・・・・・・・・・あれ?』

 

 「???」

 

 「まだ、何かあるのかしら」

 

 「なにか抜け落ちていることがありましたか? ドクター」

 

 いよいよ調査の開始。となる所でロマニが訝しんだような声を出し、首をかしげる。何かが足りないと言う視線を向けて。

 

 『調査員はマシュ、藤丸くん、元さんだけなのかい? ・・・・・・・・所長合わせて四人だけなんですか?』

 

 「そうよ。もっといるなら説明しているはずでしょう。何をいっているのかしら」

 

 『────そ、そんな・・・・・』

 

 これ以上はいないと断言する所長の返答に憔悴した表情になって肩を落とすロマニ。声も先程よりも焦りと不安の色が混じっている。

 

 「どうかしましたか? ドクター」

 

 『彼女・・・船坂 華奈はいないのですか?』

 

 「は?」

 

 「ええ?」

 

 「なっ・・・?」

 

 マシュ、所長、元さんは驚きと困惑の声を漏らすが、俺とメディアさんは同じことを考えていた。

 

 「「誰?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって崩壊寸前の武家屋敷。そこの大きな庭では華奈と女性・・・の形をした影が戦闘を繰り広げていた。

 

 どうにか屋敷の体裁を保っている屋敷の土壁に女性の形をした影は刀で腹部を刺されて縫い付けられ、朧気に見えるボディコンで包んだ見事な肢体は既に左手を失い、裂傷を幾つも刻まれている。

 

 武器であろう鎖の付いた杭のような短剣も片方は砕かれ、鎖も粉々に粉砕。誰が見ても追い詰められ、敗北寸前な状況だ。

 

 それを冷ややかな視線で見つめる華奈は銀と木で作られた鎧に身にを包み四本ある刀の内陽炎を右手に持ち、影を観察している。

 

 その態度が気に食わないと憤ったか、隙だと思ったか足元に転がっていた砕けた鎖を蹴り上げ華奈の目元に飛ばし、無理矢理に縫い付けている刀を外した後、姿勢を低くして突撃を敢行するが。

 

 「甘い」

 

 顔を少し動かして鎖を避け、同じ様に姿勢を低くしてすり抜けざまに陽炎を首に一閃。影は慣性で数メートル動いた後によたよたと動き、完全に糸の切れた人形のように地面に倒れ伏し、華奈の目の前にゴトリと斬り飛ばした首が転がり、少しの間をおいて霧散した。

 

 「制圧完了。ま、二度目の戦闘で手の内も知っている上に相手はランクダウン。楽なものでしたね。周辺の化物も狩り尽くしましたし、始めましょう・・・・・」

 

 改めて周辺確認をした後に鎧の胸のあたりを弄り、元、ダ・ヴィンチちゃんから貰ったアクセサリー型簡易召喚の道具を取り出す。

 

 「今はいいとして、仮にも特異点。何が起こるかわからない。私も英霊を呼んでおきましょう。合流はそれからですね」

 

 地面に置き、魔力を流し込んでスイッチを入れる。朧気な光が輝きだしたのを確認して詠唱を始める。

 

 「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が義母イグレーヌ・ペンドラゴン。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ────────」

 

 魔力と詠唱。そしてアクセサリーを起点に魔力が渦巻き、魔力は収縮して三本の円環にまとまり始める。

 

 そんな最中、華奈はふと思った。縁、ランダム召喚を今行っているわけだが、一体誰が呼ばれるのだろうか? と。自身の生まれ、この場所の日本に縁のある英霊だろうか。それとも自身の長くいた部員時代に関わった英霊、ブリテンの誰かかだろうか。

 

 「――――告げる 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に、 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ 誓いを此処に 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者 」

 

 魔力は増大し、その大量の魔力の渦で視界の一部は塞がれていく。けれど、悪くない。これなら問題がないはずだ。

 

 (ブリテンならアルトリア様達は妖精郷でしょうから物語の創作、逸話の塊。私の知る方ではないでしょうね。そうなら、ベディヴィエール様、ランスロット様、トリスタン様、ペリノア様の誰かでしょうか・・・?)

 

 「汝三大の言霊を纏う七天 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――」

 

 魔力が広まり、一部を遮っていた視界は完全に光で此方の視界を覆い尽くす。

 

 光が消える辺りで召喚は完了。一体誰が来るのだろうか。最悪自分自身がそもそも英霊なので戦力に数えずに戦うことも考えるが。

 

 そうこう考えるうちに光は止み。アクセサリーのあった場所には一人の人間が立っていた。

 

 「召喚に応じて参上した。エクストラクラス・ガンナーの英霊」

 

 その人はまるで特撮世界、B級映画、SFの世界から抜け出てきたようなコンバットスーツは赤や黄色を基調としており、頭部を覆うヘルメットもまた何処かSFチックな作りだ。手にはアサルトライフルを持っている。

 

 「名前は・・・あったような気がするが、なかった気もする。たくさんの名前で呼ばれていたような・・・・パッとしない」

 

 その人物を華奈は知っている。物語の世界、その主役。その功績たるや神代の英雄にも引けを取らないであろう怪物。

 

 「だがまあ、皆は俺を必ずこの名前で呼んでいた。だからマスターもそう呼んでくれたら幸いだ」

 

 難攻不落の拠点をぶっ壊し、敵の切り札を粉砕。怪物を幾多も屠り、神すらも殺してみせた。人形決戦兵器。

 

 「ストーム1とな」

 

 最高の怪物退治の専門家が華奈の前に現れた。




漸く来てくれました華奈の相棒となる第二のオリジナル英霊。「THE 地球防衛軍」シリーズの主人公、人形汎用決戦兵器ストーム1

怪獣殺すわ敵の移動要塞、巣穴、陣地を一人でぶっ壊し、巨大昆虫型生物を全滅。そのあまりの強さに仲間のはずのEDFからも人外扱いされたり、何で生きてんだみたい言われ方をしたり、仲間からも死神だと言われたりと色々凄まじい扱いをされる主人公。ついでに言うとある意味便利屋扱い。

最新作ではとうとう神様レベルに進化したペプシマンみたいな宇宙人をぶっ殺す偉業を達成。FGOに実装されたら特攻スキルのオンパレードでしょうね。後はガッツ持ち。

取り敢えず武器などもちょこちょこ必要であれば説明もやっていきます。

後、自己投影がしやすい、ある程度のキャラ崩壊もキャラ崩壊にならないので私は好き勝手に動かしますのでご了承願います。

最後にUA 44624件 しおり 130件 お気に入り 358件 応援有難うございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ストーム1「初期の準備は大事」華奈「武器稼ぎですね」

華奈「よろしくお願いするわ。ストーム(何でストーム1が・・・? てっきり円卓の誰か、この冬木に縁がある方が来るかと思いましたが)ん・・・・・?」
(腰のポケットに手を突っ込んで掴んだものを出す)

(P○2のメモリーカード「THE 地球防衛軍2」のデータ入り)

華奈(もしかしてこれが触媒に・・・・・・・?)

ストーム1「ああ、契約完了。よろしくな。マスター。しかし、ひどい光景だな、空爆でもしまくったのか?」
(服のデザインは2のときと考えてください)

華奈「どうでしょうねえ。取り敢えず、私以外にもこの街に知り合いや家族がいるので合流をしようかと考えていますが、いいですか?」

ストーム1「まあ落ち着け、アンタが強いのは何となく分かるが、こんな状況だ、こっちも準備がしたい。銃を渡そう」




 『・・・いない? 華奈が・・・? でも、ここでも・・・』

 

 「待って! 待ちなさい!? 何でここでアイツの名前が出てくるのよ!」

 

 一瞬ありえないと断定していた他のレイシフトしていたメンバー。しかもこれまた藤丸に次ぐ想定外の名前を出されて混乱するオルガマリー。ここにいないと分かっていてもディスプレイに移る胸ぐらをつかむように手のを伸ばして叫ぶ。

 

 「華奈!!? あの船坂 華奈もここに飛ばされているっていうの!?」

 

 『はっはははい!! そうです! カルデアの備品課課長で魔力保有量は馬鹿げたレベルで高いのに魔術の才能があんまりないあの華奈です!』

 

 「聞いていないわよそんな事っ!」

 

 新たな情報に食って掛かるオルガマリーに余計な情報を交えて話すロマニ。埒が明かないと先ほどヘルプを終えた良馬が戻ってくる。

 

 『何しているんですか・・・ほら、ロマニさんも慌ててないで説明しないと。時間は大切に』

 

 『う、うん・・・ボクが地下発電所に移動する際に彼女と出会って、そのまま中央管制室に行っていたのですよ。止めたのですが・・・』

 

 『それと、レイシフトのログも先程フラムから渡されましたが確かにレイシフトしたメンバーは五名。藤丸くん。マシュちゃん、所長、元、そして華奈。緊急時とは言え間違いはないだろうと言っていますから、確実かと』

 

 「・・・・・・・私は彼女がレイシフト適性を持っているとは聞いたことがないわよ!」

 

 『・・・・・・・・・・・あ』

 

 「何を隠しているのか・・・しっかり言いなさい」

 

 思わぬうちに地雷を踏みぬいた事に漸く気づいた事に冷や汗を垂らすロマニ。そして、カルデアのトップに必要な報告をしていないことに青筋を立てるオルガマリー。気まずい空気が流れる。

 

 『え、えぇ・・・と・・・その、色んな事情と本人からの口止めがありまして、所長や一部の人間には伝えていませんでした。・・・・・・す、すいませんでしたぁ!』

 

 「・・・・・・・・・帰ったら覚えておきなさいよ」

 

 『は、ハイ・・・・』

 

 所長の帰還後に怯えるロマニ、また癇癪の種を一つ手にしてしまったオルガマリー。そんな二人をよそ目に藤丸達は周囲の警戒をしながら元に集まっていた。

 

 「元さん。その船坂 華奈って誰なんです? 備品課とかどうとか言っていましたけど」

 

 「私も少し気になるわマスター。美人なのかしら?」

 

 一人は純粋な好奇心、もうひとりは少し別の思惑も含んで。

 

 「ん・・・・まあ、そのまんまだよ。カルデアってすごい場所にあるだろ? 藤丸くんも入館の際に雪山でしばらく立ち往生で大変だったはずだ。あんな寒くて危険な場所にある施設にいる数十人、数百人の日常生活を送るだけの物資にカルデアの施設の運営に必要な物資を仕入れるにはお金も時間も必要。それを管理しているのが華奈。カルデアの財政や職員の生活を支える縁の下の力持ち。えーと、メディアさんの言う通り美人ではありますが、多分ストライクゾーンからは外れているかと思います。」

 

 「ふーん・・・気になるね。その人。会えると良いけど・・・」

 

 「あら残念。でもまあ、物資の管理人か・・・ならヘタに考えずに会えたら幸運。でいいでしょうね」

 

 平凡な感想を漏らす藤丸に、着せ替え人形出来る美少女のゲットの機会を逃して残念そうにするメディア。人格に関しては物資の管理人、かつて経験した船旅での食料、物資を巡って起きる懲罰や争いを知っているだけに一応は大丈夫。生きているのなら儲けもの。と思考を打ち切る。

 

 「ところでドクター。ここに華奈さんも飛ばされているのなら、その位置も感知できないのですか? 仮にも聖杯戦争の経験者。合流できれば心強いのですが」

 

 オルガマリーとの間に割って入り、怒られる原因となった華奈の事を聞くマシュ。この街にいるのなら自分たちのように反応を探って場所を特定し、合流を促すことが出来るはず。仮にもレイシフト適性があるのならマスターとしてもここで何らかの英霊を呼んで戦力増強も図れるはずではないかと考えて。

 

 『えっと・・・詳しい反応は今はわからない。一度強い反応があって、英霊を召喚しただろうことは分かるのですが、彼女がいつも付けている認識阻害効果を持つ礼装の効果でぼかされているというか・・・とにかく確認が難しくて、まるでアサシンクラスのスキル、気配遮断をされているようなものなんだ』

 

 「そうですか・・・では、今は合流は・・・」

 

 『うん、難しい。でも華奈は基本勝算、準備をしないでこんな事をしないし、危険ならカルデアのシステムを利用するためにわざと礼装を解くくらいはするはず。だから少なくとも今は大丈夫だとボクは考えているよ』

 

 「・・・・・・・じゃぁ、通信が可能になったら教えるように。通信が可能になればあちらも合流が必要だと考える、若しくは近いところまで移動していることでしょうから」

 

 『了解しました所長』

 

 一応の話を終え、通信を切って調査を再開する調査チームであったが、未だ周辺の怪物に慣れないオルガマリーは怪物を見るたびに怯えては声を上げ、メディアから貰った精神安定剤を服用。暫くして活動再開と少しグダグダ気味のスタートとなったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほう、マスターも英霊なのか。しかも日本生まれ」

 

 「ええ、英霊として昇華されたところはイギリスですが、まあそこは後で語っていきましょう」

 

 華奈とストーム1はあの後すぐに藤丸達に合流することはなく互いに簡単な自己紹介をしながら深山で土の的を幾つか作り、屋敷の庭で射撃訓練をしていた。

 

 理由としてはストーム1の「こんな地獄のような光景でありながら巻き込まれた人の気配、残骸も遠目からも見られなければこの状況を作った犯人や兵器も見当たらない。ちらほら見られる化物もそんな力や能力があるとは思えない。分からないことだらけの土地で合流にかまけて此方の備えを疎かにしては共倒れ、合流前に死亡も否めない。余っている銃を渡すから手札を増やそう」という提案に乗っかり簡単な練習と相成り今に至る。

 

 華奈自身は現代の銃火器も幾つか触れているので慣れるのには時間はさほどいらず、すぐに渡されたアサルトライフルAF99の扱い方を覚えていく。

 

 「そんで十年前の聖杯戦争で受肉して、若返って鍛え直していたらこの騒ぎ、銃の腕もその間に覚えたと」

 

 「大体合っていますね。現在はなぜか何もかもが荒れ果てたこの街に十年ぶりに投げ出されて巻き込まれた皆さまと再合流をということで貴方を呼んだのですよ。ストーム」

 

 話しながらも引き金を引き、作った土壁の的を破壊していく華奈。アサルトライフルシリーズの傑作の一つと言われるだけあり扱いやすく、あっという間に作った的の数々は全てなくなった。

 

 「ん、問題はないようだな。じゃあマスター。この銃とそうだな・・・ゴリアス99を渡しておこう。魔力で装填されるからマスターの魔力がある限り打ち放題だ。魔力の残弾管理はしっかりな」

 

 持っているアサルトライフルとは別に渡されるバズーカ砲。譲渡された二つを見やり、ゴリアス99は一度霊子変換してしまい込む。

 

 「分かったわ。それと、足として私の宝具を準備するからストームももう一つの宝具で一つやってもらいたい事があるの。いいかしら」

 

 「ああ、いいが・・・そうだな、これ以上は・・・」

 

 互いに視線を感じて迎撃体制を整え、念話で先程までの会話の続きを伝えて視線を感じた位置を睨む。

 

 一寸早く気付けたお陰だろうか飛んできた矢玉を確認し、それぞれが持っていた銃で応戦して撃ち落とす。おおよその場所の把握を出来たストームがバズーカを構え、華奈は右手に秋水、左手にAF99を構えて迎撃準備をするが、相手も不利と悟ったか気配が遠ざかり、矢玉も飛んでこなかった。

 

 「今の英霊にも覚えが・・・?」

 

 「ありますね。あれはかなりの戦上手です。・・・装備の変更を一度お願いします。早く合流して迎撃しやすい状況にしましょう」

 

 「わかったぜ。少し土蔵を借りる・・・除くなよ?」

 

 「ふふふ・・・私はマチコ先生でも何処かの女教師でもないですからそんなことはしませんし起こりませんよ」

 

 気さくな会話を交わしつつも先程の攻撃予想地点を睨み、武器は構えたままの華奈。此方は準備万端。機動力も手段も多い。最悪二騎、三騎同時に相手しても大抵の相手、それも先程相手した影の英霊なら問題はない。だが

 

(藤丸様はまだ未熟。元様もレイシフトの適性はさほど高くない。成功していても負担の面から長時間の戦闘は不利。もしあの弓兵が私達の状況をすべて把握して他の英霊に指示を出せるなら・・・少し厄介なことになりそうですね)

 

 下手な策を打たれる行動を起こすべきだろう。自身の宝具も準備し、ストームと即座に行動出来るようにしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「華奈さんはどんな人か・・・ですか?」

 

 「うん、俺は元さんから一応カルデアでどんな事をしているのか。っていうのは分かったけど、性格というかこう・・・人となりがまだぼんやりしていて・・・」

 

 「と言いましても・・・私も生憎と華奈さんとは接点が特に・・・備品、嗜好品の依頼でもさほど私は物を頼まなくて」

 

 「ん~俺が言ったら、どうも贔屓して言っちゃうだろうしね。所長の目から見てどう感じます?」

 

 この特異点の原因、異常性を調査するために探索をしている傍ら、藤丸の言った言葉で皆が少しばかり意識を向ける。この目を背けたくなるような地獄を調べるという苦痛から気を紛らわすためか、それとも単純に気になるのか。

 

 藤丸の質問にマシュは普段の物欲のなさ、世間をよくわからないことから欲しいものが思い浮かばずに関われていなかったことで藤丸に情報を教えられず肩を落とし、一方で華奈びいきの元は正しい判断を狂わせると思い組織の長であるオルガマリーに質問を放り投げる。

 

 「・・・・・・・私は華奈と長く関わっていないこと、そしてあくまでも私の主観ということを忘れずに聞いて頂戴。いいわね?」

 

 「はい」

 

 仕方ない。と一呼吸を間をおいた後、少し表情をきつくさせ、オルガマリーは語り始める。

 

 「私から見ればあれは何かが欠けた、訳のわからない人間よ」

 

 「・・・・・・・はい?」

 

 先程の元の言葉をひっくり返すような発言に目を丸くする藤丸と同様に驚きを隠せない元。その吐き出すような独白をオルガマリーは続けていく。

 

 「私が彼女・・・華奈を知った・・・正確には彼女の細かな事情知ったのはカルデアの所長についてから。一応はお父様の友人と、聖杯戦争の協力者、同盟者と聞いてはいたけど、その細かな事柄や話はあやふやだったり、話してくれなかったの。そして、私はこのカルデアに触れ、細部まで事情を理解、経歴を調べていく途中で華奈の経歴、カルデアでの活動を調べて・・・絶句したわ」

 

 訳のわからない。意味がない。あり得ない。そんな思考が目に移り、混乱を思い出すオルガマリーの口調は段々と強いものになり、精神安定剤の効果を振り切り始める。

 

 「カルデアの運営には多くの資金や資材が必要・・・それこそ小国の国家予算もかくやというくらいの物が・・・だからこのカルデアは国連、魔術協会、アトラスの協力と、権力の間に挟まれ、制約を受けつつ運営を続けているけど・・・その運用資金の何割かは華奈が何処からともなく用意し、資金、触媒。本当に何もかもを用意しているの。前にカルデアの足元を見た要求を跳ね除けたこともあったそうよ。・・・十代の年齢の時期から」

 

 「国の予算クラスの資金を十代の年齢で用意してみせる手腕? 神話でもそんなやつそうはいないレベルだけど、賢者の石でも持っているのかしらね?」

 

 「しかも彼女が家族と呼んでいる・・・元、咲、冬利、フラム。親友と呼んでいる良馬。彼らはメイン、サブのスタッフを問わず優秀な職員。彼らを引き抜いて独立して、その資産運用でカルデアのスポンサーにでもなってしまえばもっと自由に・・・カルデア内部の職員、特に魔術師や魔術師上がりのスタッフに影でどうこう言われる声も聞かずに済むはずなのよ・・・私も時折思い返しても酷いことや無茶な頼みを押し付けることだってあったし・・・・・」

 

 一同の曖昧な表情にも気づかず尚続けていく。

 

 「言いがかりや、このカルデアの古株なのにも関わらず下に見られる扱い。けど華奈自身は十代から聖杯戦争の経験者でお父様も認めるほどの手腕。それだけの才覚を持ちながら不満をいだいてもすぐに受け流してこの扱いにも甘んじる。分かる? 何処でも大成功して、自由にできるほどの才覚を持ちながら今の立場をわざわざ選んで稼いだ金銭もすぐさま湯水のように使われてまた走り回る・・・自分から選んで奴隷になっているようなものよ・・・・・・・」

 

 この言葉にほぼ全員が納得する。自分の才能で得られる贅や自由を手放して小間使いに甘んじる。しかも多少の不満も無茶ぶりも受け流してこなしていく。人としても何もかもがズレている。苦行を積む必要もカルデアに留まる必要もない、最悪どうにかしてしまうほどの才能を進んで飼い殺しにしている。

 

 パッと見では立派な心がけかもしれないが、余りにも大きな物を手放しすぎている。それはオルガマリーから見れば歪、異形そのものだろう。

 

 「しかも私がカルデアの方針でぶつかって遠ざけた後も「恩があるから」「先達として支える」とか言って結局こんな状況にも巻き込まれた! 分かる!? 義理だの何だとで余りにもこだわりすぎて自身の利益や合理を捨てている。こんなの馬鹿よ! ド級の馬鹿か壊れた人間! そうでなくてもアイツの定規は何もかもがズレていたり規格外すぎるのよ!!!」

 

 「・・・なんというか・・・」

 

 「っ・・・・・・!」

 

 「所長・・・幾ら何でも・・・」

 

 華奈を馬鹿と言われて憤るも一度クールダウンさせようとする元。一方でマシュも一瞬だけ怒りを出したように表情を歪めていた。まるで何かとても大切なものを踏みにじられたような。そんな表情に。すぐさまそれは治まり、マシュと契約をしていた藤丸以外は分かることがなかったが。

 

 「まあ落ち着きなさい。こんなんでいちいち目くじらを立てても何もないわ。今はこの特異点の調査、そしてその華奈との合流。その際にでもその理由を心ゆくまで聞けばいい。そうでしょう?」

 

 鎮静の魔術をかけてオルガマリーの興奮を抑えていくメディア。ただでさえこの訳のわからぬ状況に放り込まれたのだ。話すのは構わないが、思考を削がれすぎたり調査が止まるのだけは御免だと念入りにかけてクールダウンさせる。

 

 「・・・すいません・・・少し取り乱しました。確かに私達の目標はここの調査。勿論華奈との合流も兼ねて行いましょう」

 

 「はい。所長」

 

 「了解しました」

 

 互いに元気に返事をするマシュと藤丸。マシュの声色も先程の怒り? を含んだものではなく、何時も通りの調子に戻っていた。一瞬だけ感じた感情も誤魔化そうとしたり、それよりも前向きに行こうと頑張っているのだと捉えた。

 

 その事に気が行き過ぎたせいだろうか。それとも英霊が二騎いるからとどこか気が緩んでいたのだろうか。

 

 調査を進める藤丸ら調査チームに向かって飛んでくる刃の群れ。そして二騎の黒い影が迫っていることに彼らはまるで気がついていなかった。

 

 自分たちの剣であり盾でもある英霊。それに抗し得る者が来ていることを。




華奈「さて・・・久しぶりに頼むわよ? 栗毛」

ストーム1「おまたせ~・・ってなんだこりゃ! 黒王号かあ!?」

華奈「いえいえ、茶色でしょう? この子は栗毛。私の宝具で愛馬です。さ、乗ってください。聞き分けのいい子ですから大丈夫です」
(栗毛に乗る)

ストーム1「おう。こんなバカでかい馬なんてばんえい競馬くらいでしか見たことねえな」

華奈「ま、いつもあんなバイクを乗り回している貴方もすぐ慣れるでしょう。飛ばしますよっ・・・と」
(首をぽんぽんと叩いて指示を出す)

栗毛「フフン・・・」
(疾走開始)


前回の話のラスト。ストーム1が名乗りを上げた時何だかスーパーヒーロー戦隊みたいに背後から爆発が起きていそうだなあ。と思っちゃいました。

ストーム1が華奈に武器を渡して練習していたのは5の最初のシーンです。いい人たちですよね。軍曹さん達。

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それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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爆炎上げて

華奈「さて・・・ロマニ様! 良馬様! 通信、通じているでしょう!?」

ロマニ『なっ!? か、華奈!!? 無事だったんだね!? そ、それと後ろの方はキミが呼んだ英霊かい?』

ストーム1「なんだあ? えらくなよっちい奴が出たなあ。ろくでなし、腑抜けに感じるんだが、こいつが指揮官なのか? 「流れ弾」を貰いそうだ」

ロマニ『いきなり酷すぎないかい!!? そんなに初見で罵倒される要素あったの今の反応で!』

良馬『まあまあ、あちらもなにか理由があるのでしょう。それと・・・現代の英霊・・・? でも、こんな派手な服装の英霊なんて・・・失礼ですが名前は? ああ、私は良馬。彼・・・ロマニさんのサポートをしています』


ストーム1「ストーム1、クラス・ガンナーの英霊だ。それと、マスターが話がしたいそうだが」

華奈「お二方。取り敢えずなんですが私は所長様たちと合流します。それにあたって先に連絡を入れてほしいのですが」

ロマニ『え、ああ・・・華奈、りょうか・・・・その姿は・・・・・分かった。すぐに伝えるから』

良馬『では早速・・・! 緊急事態! ただいまマシュ達は交戦中! 反応は・・・弱いが・・・英霊!?』

ロマニ「!!?」

華奈「急ぎましょうか。通信終了。栗毛、聞きましたね? 急ぎますよ」

栗毛「ヒヒーン!!」



 「マズハ一人・・・」

 

 「マシュっ!」

 

 「ッ! 危ないっ!!」

 

 かすかに聞こえた声、風切り音に反応してマシュが盾を構えると金属音と飛び散る衝突物の正体。数本の短剣が地面に落ちるのと同時にその方向を見ると、そこには人が一人、いや二人立っていた。

 

 一人は腰布以外はさほど装備をつけていないが、顔面に付けた髑髏の面。右腕は布でぐるぐる巻きにしている異形の風貌。もう一人は鎧を着込み、頭を布で覆っている。薙刀を手にしてこちらを殺さんと殺気を放っている。両者ともに黒い影のように黒く、靄のようなものを纏っている。

 

 「所長、先輩。私の後ろに・・・!」

 

 前面に出て皆を庇うように出るマシュと魔法陣を展開して迎撃体制を整えるメディア。先程の短剣の狙い。オルガマリーや藤丸、元と戦えない。この場では弱いものをまっさきに狙ってきた。得体の知れない、油断も出来ない相手。それが二体もいることにマシュは少なからず焦りを覚え、微かに体が強ばってしまう。

 

 「マシュ、有難う!」

 

 「は、はいっ! 先輩も先程の声、ナイスでした!」

 

 藤丸からのお礼で笑みを返し、少しだけ緊張がほぐれる。が、そんな事は知ったことではないと再び振るわれる短剣。メディアの障壁で弾くも、一体いつ振るわれたのか、これだけの速度を放ちながら風切り音を聞き取るのもマシュやメディアくらいの静かさ。相手の気味の悪い姿と重なり一層不気味さが増すばかり。

 

 「なっ・・・! なんで・・・何で英霊、サーヴァントがここにいるのよ!!」

 

 「えっ!?」

 

 オルガマリーの怒りと動揺の籠もった声に藤丸は思わずマシュやメディア、そして敵を見る。こちらのサーヴァントと呼ばれる存在とあちらの姿が違いすぎる。あんな黒い姿で靄で輪郭がはっきり見えない。そんなおばけのようなものなのだろうか。恐ろしいものなのかと考えてしまう。

 

 「この街は冬木・・・つまりは・・・聖杯戦争なのかもしれないね・・・」

 

 少しばかり青ざめた顔になっている元はこの状況にすぐさま理解してつぶやく。英霊という超常の存在が少なくとも二騎もいるという状況にこの街で行われたこと。それも魔術師の関連となるとそれしか無い。

 

 『そ、そうか! 確かに冬木ではかつて聖杯戦争が行われた! ここが特異点になるほどの異常事態となればそれしか無い!』

 

 いつの間にやら通信をつないでいたロマニが叫びながら映像を出して今行われているこの異常事態、そして所長の疑問に答える。

 

 かつて華奈も参加していたという聖杯戦争。それが何らかの・・・

 

 『本来ならこの土地に集ったマスターたちに呼び出され、揃った七騎で互いに殺し合う聖杯戦争の何かが狂い始めた! マスターがいなくても短時間なら単独で存在できる英霊もいるし、この異常な状況、マスターを持たない英霊もいておかしくはないのかもしれない! そして・・・このバトルロワイヤルの形式上・・・敵は英霊と、そのマスターだ!!!』

 

 つまりは、形の変えた争いが今もここでは行われている。そして、カルデアの面々はその争いの中に巻き込まれ、敵と認定されたということだと一同が理解する。

 

 「つまり・・・あのサーヴァントは私を狙って?」

 

 「おそらくはそうでしょう。所長をマスターと考えて攻撃。そうでなくとも英霊を倒すよりも弱い私達のほうが遥かに楽でいい」

 

 「う、嘘でしょ・・・私・・・あんな、あんな化物に狙われているの・・・!?」

 

 英霊の力量の一端は目の前で見ている。それが、自分を狙っている。それも二騎も。今まで蹴散らしてきた怪物とはものが違う殺気を向けられてオルガマリーは恐慌状態に陥り、力なくヘタれてしまう。

 

 「所長、しっかり!」

 

 「ああ、もうマスター! あなた達ももう一騎の存在を忘れていないかしら!?」

 

 オルガマリーに駆け寄って何とか起こそうとしている藤丸と、もう一騎のサーヴァントに攻撃を仕掛けていたメディアが皆に短剣を飛ばしたサーヴァントとは別のサーヴァントの存在を注意する。

 

 魔法陣を空中に幾つも展開して魔力弾の雨を打ち付けるメディアだが、相手も必要最低限の動作と薙刀を使って撃ち落とす。足止めは愚かハリネズミ、消し飛ばすつもりの攻撃を幾つも放っているのに相手はそういった戦いに慣れているのか多少後退させたり、動きは止めることは出来るがそれでも尚ジリジリと距離を詰められていく。

 

 竜牙兵を攻撃の手段にしても無駄だと判断したメディアはその兵たちを元らの防備に割り振り、死角からの攻撃の壁に専念させていく。

 

 「マシュ、だったかしら? 私が支援するからささっとその大きな盾でどっちか殴り飛ばしなさい!」

 

 「は、はい! 了解しました! マシュ・キリエライト敵性サーヴァントの撃破に移ります。マスター、指示を!」

 

 「よし、アイツラをやっつけるぞ!」

 

 藤丸も自身に活を入れるように声を上げてマシュに指示を出そうとするが、上手くいかない。ランサーはメディアが足止めを図っている。なら、何処からともなく攻撃してくるアサシンを叩こうと考えたが、相手が捉えきれない事に焦りを覚える。

 

 瓦礫のある、市街地だったところの端で戦い始めたこともあるだろうが、相手のアサシンが勝負を急がないことも藤丸たちを焦らせる一因だった。

 

 僅かな影、瓦礫、物陰に身を潜ませては移動していき、時折マシュ、藤丸らをランダムに狙って短剣を何処からともなく投げてくる。反応できるのは攻撃の時に感じる殺気、短剣の風切り音くらいでそれを防いでも既にそこにはいない。

 

 「なっ、くううっ! 相手を捕捉できなければ攻撃ができない・・・一体どうすれば・・・」

 

 相手の狡猾な、正面からぶつからない攻撃にマシュも焦る。正面からぶつかればせめて攻撃できるチャンスがあるかもしれない。けど、相手は常に姿を見せないように気配を消して動き回り遠巻きに短剣を投げてくるのみ。しかもそれが正確無比、人間ならまず死亡。デミ・サーヴァントの自分でももらうのは避けるべき攻撃を四方八方から投げられ、それをさばくことに意識を取られる。

 

 メディアに制圧してもらうとも考えたが、あちらももう一騎の英霊の相手をしている上に徐々に此方を支援できるように動きを誘導しようとしたり、竜牙兵を重ねて防壁にして射線を塞いだりと既に手一杯。それをあちらも理解しているのだろうか、髑髏の仮面の英霊は遠巻きにマスターやマシュを釘付けに、意識を向けさせて消耗を狙い、薙刀を持った英霊はメディアの攻撃をしのぎながら一気呵成に詰める機会を伺っている。嫌な状況だ。

 

 『緊急連絡! 緊急連絡です! アサシンと、及びランサーのクラスと見受けられるサーヴァントとの戦闘中ですが所長、大丈夫ですか!?』

 

 「なによ! こんな自体に何が起こるわけ!? もっと状況悪化の報せじゃないでしょうね!!」

 

 『華奈さんが自身で召喚した英霊と共にこの場に合流してくるそうです!』

 

 『あ、ああ! そうだった! すっかりこの状況に呑まれていたよ!! 華奈がもうすぐそこに合流する。増援が来るんですよ!』

 

 このまま膠着、消耗戦になるかと思っていた一同に降って湧いた朗報。真綿で首を絞められるような息苦しい戦況になるだろうという予測を塗り替えるほどの情報に希望が生まれる。

 

 「そ、そうなの・・・! 華奈が・・・? 私・・・あのサーヴァントに殺されなくて済むの・・・・・・?」

 

 『間違いなく戦況は此方に動きます! ただ、あ、今連絡が! 「後十秒後に今の位置から後ろに下がって欲しい」だそうです』

 

 「聞いた!? 今すぐ下がって! 何するかわからないけど、急ぐわよ!」

 

 ロマニの指示にすぐさま一同後ろに下がりはじめ、その間にも藤丸らを囲んだ防御態勢を立て直し始める。これを相手が揺らいだと一気に王手をかけようと迫りくる英霊、藤丸らの間に割いるように爆発のつぶてが降り注ぐ。

 

 「!?」

 

 「グウッ!?」

 

 規模は小さな爆発だが、それが波のように幾つも、絶え間なく降り注ぎ、更には間を置いて火砲が正確無比にランサーのサーヴァントを狙い撃ち、その爆炎と小さな爆発で揺れる瓦礫に足を取られて思うように動けない。

 

 「小癪ナ!!」

 

 だが、それはアサシンのサーヴァントには関係ない。弾幕、爆炎があろうともその射程外に逃げればいいだけ。自身は決して近距離だけしか戦闘手段が無いわけではなく、この闇雲に降り注ぐ爆発で出来る煙と舞い上がる砂塵に姿を隠せばいいだけ。アサシンのサーヴァントは攻撃の手を一度止めて距離を取る。

 

 「凄い! 爆発の雨だ!」

 

 「はぁ・・・助かった。これで仕切り直しが出来る・・・」

 

 「全く! 最初から合流していればこんな事にはならなくて済んだのに! 事が済んだら・・・・って・・・へ?」

 

 「? 所長、どうし・・・・」

 

 アサシンのサーヴァントからの攻撃が止み、ランサーのサーヴァントは今も続いている攻撃に足止めを食らっている。その攻撃が増援のものであると分かり安堵し、攻撃が来た方向に目を向けたオルガマリー、マシュ、そしてつられてその方向を見た一同は思わず硬直してしまう。

 

 「投擲騎兵なんて聞いたことが無いぞマスター!」

 

 「良いではないですか面白くて! もう少しあっちへの援護をお願いしますよ!」

 

 そこらの馬の二、三倍の大きさの馬が此方目指して爆走し、その馬に跨がり、現代の服ではなく銀の鎧姿に身を包み、左腕で手綱を握り、右腕でバズーカをぶっ放す華奈。その後ろに同乗している何処かの特撮作品から抜け出てきたような戦士はその格好で銃を握るのではなく小さく色とりどりなつぶてを握りしめてひたすらに投げまくる。

 

 何もかもがアンバランス、ズレまくっている二人と一頭の援軍がひたすらに火器、爆発物を撃ちまくりながら走りくるその光景たるや先程までの戦闘の緊張が何処かに行きそうになるほど。しかもその威力が割と馬鹿にできない威力なのも尚その状況のシュールさを増す。

 

 「ストーム! さっき見えたガイコツまじん、又はホラーマンを盾を持った女の子と一緒に倒しなさい! ヒントは「逆に考えるんだ、見えなくたっていいさ」です!」

 

 「了解! マスターは!? ってあの薙刀野郎か」

 

 「その通り!」

 

 マシュたちの少し前で栗毛の向きを華奈が変更してランサーの方向に一気に向きを変える。その際の勢いを利用してストーム1は栗毛からジャンプ。マシュのすぐとなりに降り立ち、相変わらず礫を投げまくってアサシンのサーヴァントを牽制していく。

 

 「あんたらがカルデア、のマスターと英霊で良いんだな? 俺はストーム1。ストームって呼んでくれ。勝手ながら助太刀させてもらう」

 

 「あ、ああ、はい! 私はカルデアのデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトです。よろしくお願いします」

 

 「マシュのマスターをしている藤丸 立香です」

 

 「マスターの元。メディアさんのマスターを一応やっています」

 

 「・・・メディアよ。クラスはキャスター」

 

 「カルデアの所長、オルガマリー・アムニスフィアです。貴方が華奈の召喚した英霊なのですか?」

 

 増援の加勢、攻撃で一時的ではあるが余裕ができた一同はストーム1に挨拶をし、同時に観察する。近代どころか現代の服装。けれど武器は今もなお投げまくっている何か。現代の兵器を持っていそうな身なりでまさかの投擲兵という事に疑問や怪しさを隠せない。

 

 「ああ、そうさ。エクストラクラスのガンナーで呼ばれた。それで何だが俺はマスターからさっきあんたらに攻撃していた黒いホラーマンを倒しに来たんだが、そのままイケるかい? マシュちゃんよ。あ、それとだが、メディアさんはマスターの援護をしてやってほしい。こっちはもう問題ないからな」

 

 「はい! 攻撃はまだ一撃も直撃はなし! 体力も問題ありません!」

 

 「ふーん? さっき話していたヒントと、今もしている攻撃。策があるわけね。マスター、竜牙兵の護衛と強化を解くわよ。ランサーの方を打ちのめすわ!」

 

 すぐさまストームの声に反応して盾を持ち上げ、心も体も問題ないと声を上げるマシュ。そして二正面の状態を手早く終わらせることに専念すべきだと考えてランサーの方に今までマスターの防備やアサシンへのサポートに向けていた分の魔力をすべて攻撃に回し、更に威力と手数を増した魔力弾のシャワーを降らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「栗毛!」

 

 ストームと離れた栗毛と華奈は正に人馬一体とも言えるほどの馬術の冴えを見せてランサーのサーヴァントに攻撃を振るう。

 

 騎馬した状態故に馬の足から生まれる勢いに重さを乗せた刀の一撃は止の薙刀を一々吹き飛ばしてはその間に数度の切り傷を与える時間を作り、乗馬している華奈の視点から見える薙刀の攻撃を栗毛に指示を与えて的確に避け、一呼吸置けるだけの距離を取る。

 

 攻撃に回れば華奈達が力でも速度でも上回り、防御でも剣戟を交える前にすぐさま離脱。死角を突くことも出来ない。

 

 そんな思わぬ厄介な増援に意識を向けた。傾けすぎてしまった。華奈達に殺気を向けていたランサーのサーヴァントの側頭部に魔力弾が命中。意識の外から飛ばされた一撃にたじろぐ間もなく殺到する魔力の奔流に切り払い、回避する間もなく呑まれていき、魔力弾の嵐がやんだ頃にはぼやけた輪郭ながらも分かるほどに精悍な肉体は穴だらけになり、立っている、動けるのがおかしいほど穴だらけになっていた。

 

 「・・・! ッ・・・・・!!」

 

 それでもまだ殺気を撒き散らし、動こうとするランサーのサーヴァントは背後から接近していた華奈に袈裟懸けに切られ、漸く消滅をする。

 

 「ふぅ。有難うございます。メディア様」

 

「こっちは楽ができて何よりよ。で? あれはどうするのかしら。少し骨よあれは」

 

 魔法陣、術で捉えようにもそれに対する手段も知っているのか、片手間とは言えメディアの罠にすらかからなかったアサシン。今もストームがひたすらに手投げ型拡散爆弾を投げているが捕まっていない。むしろ自分たちの視界が悪くなるばかり。あの英霊をどう捉えるのか。闇雲に突っ込んでも意味がない。そう考えるメディアとは逆に華奈はどうということはないという表情のままで

 

 「問題ないです。アレは自身の知恵と強みでやられます」

 

 不敵に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さーて、おいちち・・・おしりが四つに割れちまうかと・・・」

 

 「あ、あの・・・ストームさん。大丈夫なのでしょうか? 攻撃は凄いですが・・・その、相手のアサシンはダメージを受けていないようですし、ストームさんもダメージが・・・」

 

 一方でアサシンを受け持っていたストーム1、マシュの方は新たな戦力の増加となるも特にどうにかなるわけではなく、ストーム1の投げる爆弾で相手を牽制は出来ているがその爆炎で視界が塞がれ、防御への反応が遅れることもあるせいで相手はむしろ好機と短剣を投げまくる始末。

 

 先程も死角から投げられたナイフがストームの尻に刺さり、オルガマリーの治療魔術で治すという状況。むしろ悪化しているようにも見える状況だ。

 

 「なんなのよぉ・・・せっかく来た加勢も役立たずじゃないの! アンタ、一体さっきから化かすか爆弾放り投げて何がしたいのよ。埃っぽいったらありゃしないわ!」

 

 「目にゴミが・・・・」

 

 倒壊した建物、そこにあった埃やゴミ、建物の塵、更には炎で乾燥して飛び散りやすい状況。そこにストーム1の投げる爆弾で細かくされ、舞い上がる塵はもはやストームたちの周辺で局地的な霧、ちょっとした砂嵐の規模になっている程。

 

 視界は狭まり、相手は隠れるタイミングや場所が増える。それでも尚ストームは爆弾を投げ続け、周辺全てに埃が舞い上がりきったところで手を止める。

 

 「マシュちゃん。あんたらはアイツの姿を見ようとしすぎた。今から一つだけ俺の言うことを聞いてくれ」

 

 「! ・・・了解しました。私は何をすればいいですか?」

 

 そこからストーム1はマシュに近寄り爆弾を投げた後に小声で何かをつぶやいた。

 

 「・・・・・・・・・・・そこっ!」

 

 その直後に埃の舞い上がる場所、その中で「何故かきれいな空間」にめがけてマシュは走りより、その巨大な盾を下からかち上げる。

 

 「ギィッ!??」

 

 「このチャンス。モノにします!」

 

 そこにいたアサシンのサーヴァントの顎を捉えて砕き、追い打ちでシールドバッシュを見舞い、ひるんだ隙を狙うように左から盾の打ち付けで右腕を砕く。更には折れたアサシンの右腕を掴んで即座に上空に投げ飛ばす。

 

 身動きの効かない、奥の手も射程範囲外の上空に飛ばされたアサシンが最後に目にしたものは 

 

「じゃ、またなアサシンさんよ。ケツのナイフマッサージ代だ。受け取って座に帰んな」

 

 ストーム1が放った色とりどりの小さな爆弾の雨、そしてそれが自身にぶつかることで巻き起こる爆発の花だった。

 

 「こんな砂、埃に塵。音も立てず砂埃も立てずに英霊や藤丸らの視界から逃れる。いくら英霊になるレベルの武術の達人でも限度がある。なら、魔術を使っている。若しくは移動しながら「何らかの手段で移動先のそれらを払って」けむりを立てないようにしている」

 

 「なら、いっそ砂煙だらけにしてキレイな場所を見つけてそこに攻撃を絞る。ってこと?」

 

 塵になって消えていくアサシンの完全消滅を確認して一仕事したと息を吐き、華奈から教えてもらっていたヒントを確認していると目をこすりながら藤丸が今までのストーム1の行為をつなぎ合わせながら聞いてくる。勿論それは大正解であり、すぐにこの答えに至った藤丸に関心を寄せる。

 

 「ああ、アサシンの気配遮断だと本当に気配も場所も。高ランクになると視界に捉えているはずなのに察知できなかったりする。けど、魔術や手段は見える。俺らに投げてきた武器とかな。なら、本体を狙うよりもそれを目印にしたほうが良いだろう? 百点だ藤丸くん。後でマスターから飴玉でも貰ったら良い」

 

 「その前に水がほしいなあ・・・」

 

 ポンポンと頭をなでて褒めるストーム1に今までの緊張状態が解けて喉の渇きを実感する藤丸。なんやかんや良い精神していると表情が緩み、ストーム1は藤丸の頭においていた手を少し荒っぽく動かしてワシャワシャと乱暴に撫で回した。




無事に合流完了。そして早速二騎の英霊撃破。ストーム1が投げていた武器は皆様おなじみかんしゃく玉。ネタのガチ武器というEDFおなじみの爆弾。EDFではかんしゃく玉投げ日本代表や妖精までいるのだから愛され具合、汎用性が凄い。

ストーム1が藤丸の発言に笑ったのはまだ余裕があることからです。有望な卵を見つけたという感じでしょうか。

取りあえずはまた改めて自己紹介。華奈も英霊だと分かってしまいましたしね。

最後にUA 47640件 しおり 132件 お気に入り 369件 有難うございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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二度目の自己紹介

華奈「さて、と。あちらも一段落したようですね。行きましょうか」
(栗毛に乗ったまま、納刀してストームらのところに)

ストーム1「おー。マスターか。手間取ったがこっちも解決したぜ」

華奈「見ていましたよ。見事な爆発でした。怪我は?」

ストーム1「何ら問題はない。もう治してもらったし」

オルガマリー「・・・アンタ達、そんな事はいいから少しこっち来なさい・・・」

華奈、ストーム1「「?」」



 「まず、華奈が無事であり英霊を呼び出して私達の窮地を見事に救ってみせたこと、その采配に評価と感謝をします。けどね・・・・・その格好は何なのよ! その馬は! バズーカに刀にマシンガン!!? 何で英霊に渡り合うのよ! あれは最高レベルの生きた兵器そのものなのよ!!?」

 

 「ああ・・・・私自身も英霊ですから。色々経緯は複雑というか面倒臭いものですが」

 

 「はあぁ!? 何で英霊の貴方がカルデアのパスを人間扱いで通れるのよ! あそこのセキュリティはそんな安いものじゃないわよ!!」

 

 シャドウサーヴァントとの戦闘を終えて一息ついたかと思うのもつかの間。華奈を待っていたのは所長からのいらだちと今まで教えていなかった秘密への怒りを多分に込めた説教じみた会話の応酬だった。

 

 いきなりわけの分からぬ登場をかましたかと思えばランサーのシャドウサーヴァントを圧倒。しかも合流の際には自身の宝具だという馬を持ち出す始末。通信が今までつながらなかったことへの納得と今まで何故華奈が英霊としてカルデアのセンサーに引っかからなかったのか。自身の施設、最新鋭のテクノロジーが欺かれていたことへの感情も含めてぶちまけていく。

 

 「それに・・・・! 大体、そんな馬鹿みたいな馬はともかくとして! 四本の刀! 狼を彫り込んだ木と銀色の鎧! も、もしかしてアンタ・・・」

 

 「はい。私の英霊として登録されている名前はカナ・フナサカ。ブリテン、オークニーの将軍、円卓として英霊に登録されていますね」

 

 「!!!!????」

 

 「日本人が円卓?」

 

 思わぬカミングアウト、嫌な方向での予想の的中に硬直するオルガマリー、そして素直に疑問が出てくる藤丸。ゲームや漫画などで名前は聞いてヨーロッパにしては変な名前だとは思っていたが、まさかの日本人。しかもアーサー王伝説は6世紀の日本なんて聖徳太子が生まれているかどうか、遣隋使の時代ではなかったかと頭をひねる。

 

 そしてそれを差し置いても有り余るその正体。円卓の騎士、その中の異色中の異色。変わり種の女騎士も仲間であることを一同は頼もしく思う。

 

 「あ~・・・そこはまあまた追々話しましょう。で、ロマニ様。いいですか?」

 

 『・・・ああ、うん。話していいよ。ここまで来たら現所長にも教えるべきだろう。こればかりはね』

 

 「では、話しましょうか。オルガマリー様。貴方のお父様にも頼んでいた事なのですが、現在カルデアで召喚に成功した英霊で極秘とされる英霊の一騎。第二号の英霊が私です。第一号の英霊と共に聖杯戦争を勝ち抜き、その折に受肉したせいで人間と認識されているのですよ。私自身がそもそも半神、何らかの混血というわけではありませんから」

 

『その時の恩義と自身の研鑽でカルデアに残っていたんだけど、現代に蘇った英霊。しかも華奈の場合、逸話が多岐にわたるし、これを利用しようとする輩もいる。だから隠していたんです。華奈ならそのままの名前で名乗っても気づく人間なんていないでしょうしね』

 

 淡々と話される事実の数々。変わり種の異端児だと思っていたらそもそもがぶっ飛んでいた人間の極致の一つである英霊の一人。今までの振る舞いや華奈にぶつけていた発言の数々を思い出してオルガマリーの顔が再び青ざめていく。超常の存在の英霊。しかもそれを縛る令呪も無ければその英霊が更に訳のわからない英霊を呼んでいる。

 

 思考にすぐさま『復讐』の文字が思い浮かぶもそれを押し殺し、メディアから貰った精神安定剤の丸薬を飲んで冷静さを取り戻す。

 

 「そして・・・カルデアの職員として働いて・・・その、外に出なかった理由は?」

 

 「恩返しですね。聖杯戦争に参加して自身を磨き、更には現代まで積み重ねられた技術を学んでより上を目指せる。その機会をくれた先代所長様へ、そしてあの方が残した娘である貴女様の一助になればと」

 

 『それは私からも確かだと言わせてもらいます。華奈さんはいつもそれを考えて資金運用を考えていましたから』

 

 今までの理解できぬ行動も人間の変わり種を集めまくったような英霊の行動。しかもアーサー王伝説での行動や立ち振舞からもズレはない。

 

 それに、潰す機会は幾らでもあっただろうし、今までの提言もカルデアを守るためのもの。それに関する運用コストも華奈が用意することを考えても、思い当たるフシはない。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・何で日本人が円卓にいたのかとか、色々疑問は出来ましたが、一つだけ聞かせて。貴女は私達の味方で良いのよね?」

 

 「勿論です。裏切るならさっきの戦闘の際にとうに殺していますから」

 

 「では、カルデア職員兼英霊船坂 華奈・・・はそのまま私達の護衛役をしてもらいます。これが聖杯戦争のエラーが原因なら、少なくとも後五騎の英霊が襲い来る可能性があります。いいですね?」

 

 「畏まりました。オルガマリー様。私とストーム。出来うる限りの力を振るうと約束します」

 

 片膝をついて手を合わせて意を示す華奈に一応の納得をしたのかこれ以上はオルガマリーも追求することはなく華奈の目の前から少し離れる。

 

 華奈もそれに続く形で立ち上がってやり取りを見ていたマシュ、藤丸に笑いかけていく。

 

 「先程はありがとうございました。お蔭でだいぶ楽になりましたよ」

 

 「い、いえ! まさか華奈さんが英霊・・・しかもあの円卓の騎士なんて。一緒に戦えて光栄です!」

 

 「確か、円卓唯一の女騎士で、何でも屋なんでしたっけ?」

 

 『ああ、そうだね。カナ・フナサカは円卓の中でも一番出自や諸々が不明。そして円卓の中でもあらゆる部分に大きな影響を及ぼした変わり種の騎士だ。経済、産業、軍事、人事関連の潤滑剤。ブリテンと同盟を結んでいたオークニーの将軍でありながら円卓にガウェイン王と一緒に円卓入り。そもそもがアーサー王の姉のモルガン、母のイグレーヌを崩壊していたウーサー王時代のブリテンから救い出して当時モルガンと婚姻を約束していたオークニーのロット王に送り届けてそのまま仕えたという文官であり、武官という異端児であり麒麟児だったんだ』

 

 通信をつなげてきたロマニが藤丸の疑問に答えてざっくりとした華奈の経歴を話していく。しかしまあ聞いているだけでもゴチャついた自由さに藤丸も時たま目にしていたキャラの元ネタを噛み砕いて覚えていく。

 

 「当時ではありえない食品の開発、発見にも力を入れていましたしブリテン、オークニーの両国の国庫を潤わせたり、狼や猪の混ざった軍隊を指揮してたとか。それで「狼の騎士」と呼ばれる様になっていったのですよね」

 

 「まぁ・・・食材諸々の製造方法は後の戦火で消失。郷土料理として残ったものも産業革命でこれも消えていきましたが。大体はそんな感じです。私達にあやかって。家紋や旗に狼を掲げる部隊が今でもイギリスにいるそうですね」

 

 『武に関してもアーサー王に一度戦で勝っていたりもするし、頼もしいことこの上ないだろう。ただ・・・僕としては華奈が呼んでいるストーム1? という英霊が不思議だよ。装備からして近現代だろうけどこんな変わった武器を使う英霊なんていたっけ?』

 

 ロマニの疑問をきっかけに今度は華奈からストーム1に視線が集中する。確かに近現代の英雄にしては何処の国かともわからない服装に色とりどりの手投げ爆弾。ストームなどという部隊も聞いたことがない。

 

 「あ~俺かい? 俺はストーム1。ぶっちゃけると俺は物語の世界の住人で歴史から刻まれた英霊じゃない。そっちで言うゲームの世界から来たんだよ」

 

 少し面倒そうに頭に手を当てながら話していき、その特異な経歴を打ち明ける。

 

 「例えばシャーロック・ホームズとか、三国志演義の関羽、諸葛亮のようなメジャーな物語の人物であればそれなりの触媒や縁があれば招くことが出来る。俺の場合もその一例だと考えて欲しい」

 

 「つまり、ドラキュラとか、神話の住人も?」

 

 『一応は可能とされている。けど、それを招く際にはドラキュラと呼ばれた実在の人物や物語の誰かが招かれるかはわからないし、神話の住人は規格外な者が多い。呼び出すにしても普通の英霊よりもランクが落ちたり、そもそも呼び出せない可能性もある。・・・けど、そうか。ストーム1も物語、まさかゲームとは思わなかったけどそこから招かれたんだね』

 

 漸くストーム1の存在にも納得がいく。が、そんな中でも華奈、ストーム1、元の三名は再び警戒状態になり、周辺を警戒している。

 

 『三人共どうし・・・・・』

 

 『英霊反応。此方に一騎接近しているようです。ですが・・・その反応が変ですね?』

 

 「なっ! ちょっとロマニ! 何職務怠慢しているのよ! すぐに伝えなさいよ!」

 

 『スイマセンスイマセン! でも、何が変なんだい? 良馬君』

 

 良馬の思わぬ報告に驚くが、変な反応。という言葉に一度冷静になってロマニが聞く。緊急時のせいで指揮をとってオペレートをしているが元は医療畑出身。まだ機材の扱いに慣れていないのかそこら辺の扱いはまだ勉強中なようだ。

 

 『ええと。まずは先程倒した英霊たち・・・シャドウサーヴァントとでも呼びましょうか。アレよりも霊基がしっかりしていること。どちらかと言えば此方で呼び出しているメディアさん、ストームさんに近いです。そして、クラスはどうであれ英霊。敵意があるのならもっと早く移動したり、裏をかいたりするはずなのにそれをしないのです』

 

 『つまりは、敵意がない。又はそれをする必要がないくらいの実力者ということかい? 華奈! 皆も警戒してくれ! たとえ一騎でも英霊! 何が起こるかわからないよ!』

 

 その言葉を合図に一気に皆が臨戦態勢に移る。一秒が長く感じるほどに感じるほどに意識は昂ぶり、英霊の面々もマシュは藤丸らマスターを守れるように盾を構え、華奈は栗毛に乗って刀を抜く。メディアは全員をカバーできる防御障壁を準備し、冬木の霊脈から魔力を一部貰い、不純物は取り払いながら使用。ストーム1はかんしゃく玉を爆発しないように地面に転がして簡易地雷を設置。

 

 この警戒態勢の中に現れた英霊は

 

 「おーおーずいぶんと警戒するじゃねえか。安心していいぜ。敵意はない。あれだけ戦える、頭数も多いお前さんらに真正面から歯向かう意味もないしな」

 

 青を基調とした少し風変わりな服装。フードを被り、そこからも微かに見える蒼の髪が特徴の男性。木の杖を手にしていることからもキャスタークラスとおおよそ推測できる。

 

 「まあ、なんだ多分目的は同じはずだ。どうだい? 俺と一緒に暴れてくれねえか」

 

 こちらの警戒を意にもせず近寄り、少し獰猛に笑う。清々しい笑いだが、同時に気の抜けなさを感じる。

 

 「なら。こうしましょうか。・・・はい」

 

 カルデアで一番早く動いたのは華奈だった。刀を一度離してすぐに取れないようにした後に腰を下ろす。そして栗毛に載せていた移動の時に飲む蜂蜜酒の入った筒を一口飲んでから男に投げる。

 

 「毒は入っていませんのでこれを飲みながら互いの情報交換をしませんか? その上で手を組めると互いに判断する。それで如何です?」

 

 「ああ、それでいい。こっちの出す情報とあんたらが出す情報。つなぎ合わせてズレがあればすぐにうっちゃればいい」

 

 筒を受け取った男はそれを飲んで一息つき、華奈と向かい合うように腰を下ろす。そして、カルデアと冬木にいた理性の残っていた英霊の対話が始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで一晩明けたらいつの間にか街は炎に覆われ、マスター含めた人間は全ていなくなって残ったのは俺たちサーヴァントだけになった」

 

 「だから先のサーヴァントらにもマスターらしき人物も、それらのバックアップもいなかったのですね」

 

 「ああそうだ。そっからはまっさきにセイバーが聖杯戦争を再開。俺以外の奴らは軒並み倒されてさっきの二人みたいに真っ黒い泥に汚染された。そっからは何かを探し始めてな。そこらに湧き始めた怪物共とも動き始めたからタチが悪い」

 

 酒を酌み交わしながら始める情報交換。相手も特に隠すことはなく情報を話してくれ、此方側の立場やその状況を飲み込んでくれた。

 

 今話してくれるソレも齟齬は見当たらず、段々とこの街の狂った原因が分かり始めてくる。

 

 「七騎のサーヴァントによるサバイバル・・・それがこの街で起きた聖杯戦争のルールだったわね」

 

 「流石は犬ね。無駄に手際の良さと生き残る技術はあるんだから」

 

 「るせっ。キャスター。まさかお前さんにも会うなんてな。この街の縁か何かか? で、だ。さっきの捜し物には俺も含まれている。言っちまえば俺はまだ生き残ったサーヴァント。倒さなきゃ聖杯戦争は終わらないからな」

 

 先程まで戦った英霊は本来は敗者のはずなのに動き始めて何らかを探し、排除を目的として動いていた。化物はその炎のせいで狂った街を土壌に生み出されている。段々と狂った原因が分かってくる度に皆の表情が少しづつ真剣味を帯びるが、同時に何処か軽くなる。

 

 聖杯戦争が狂った。それくらいしか分からなかった事がわかり始めていくことに、主犯と思わしきものの存在が明らかになっていくことに。

 

 『つまり残ったサーヴァントはセイバーと貴方だけ・・・では貴方がセイバーを倒せば』

 

 「ああ、この聖杯戦争は終わる。ついでに言えばアイツがさっきの英霊を生み出したようなものだ。あんたらの言うこの狂った原因の一端、そうでなくとも何らかは知っているかもな。この状況がもとに戻るかは分からねえがな」

 

 「成る程。同盟、その場の協力関係としては良いですね。化物も無尽蔵に湧くし、英霊も襲ってくる。此方も頭数は揃えたい。ですが・・・現在の状況をもっと細かく知りたいですね。私はライダーを、藤丸様達は先程アサシンとランサーを倒しました。ついでに言うとアーチャーにも遭遇しました」

 

 「まっくろくろすけにしちゃった元凶のセイバーはまだ倒されていないとしても、キャスターの兄ちゃんはどれくらい倒せたんだ? とてもじゃないが、杖振るうだけの術士にゃ見えないが」

 

 現在敵に回っている六騎の英霊。そのうちの三騎は倒した。男も単騎とは言え半分以上の英霊の目は此方に集まり、襲撃してきた。願わくばもう一騎くらい相手が脱落、消耗してくれればいいがと期待する。

 

 「あー道理でこっちに。悪いがオレ個人でのスコアは化物除けば坊主だ。アーチャーはさっきたまたま遭遇してな。嫌に八つ当たりされるような感じで攻撃していたが。お前さんらを仕留めきれなかったからか。それでも他の奴らが嬢ちゃんらと戦っているあいだに仕留めようと動くのは悪くなかったが、そっちの戦闘が終わるとすぐに引いていきやがった」

 

 「私達に察知されて増援が来ることを嫌がったのでしょうねえ」

 

 「だろうな。アイツの攻撃を一応は対処できる英霊が二騎。そしてそこの魔女に盾の嬢ちゃん、俺。セイバーやバーサーカーくらいじゃなきゃまともにぶつかるのは自殺行為みたいなもんだ」

 

 ガシガシと頭をかいて渋面作るキャスター。その後酒を飲み干して華奈に筒を投げ返してすっくと立ち上がる。

 

 「取り敢えず、そっちの目的がこの街の異常の終結なら目指すものは大聖杯になる」

 

 「大聖杯?」

 

 『聞いたことがないけど、それは一体・・・?』

 

 聞いたことのない単語にロマニ、藤丸は疑問が浮かぶ。聖杯の大小があるのか、そしてそれは一体どういう目的のものなのか。聖杯一つでこうなるのなら大聖杯なんてあれば呼ばれた英霊すべての願いを叶えたり、この状況をどうにかできそうだと考えていく。

 

 「あ~少しここの聖杯は変わっていてな。ま、大聖杯は簡単に言えばこの土地の本当の『心臓』だ。この土地の魔力の集中するポイントで最重要な場所。特異点とやらが出来るならそこを目指すべきだろうな。だがまあ、大聖杯にはセイバーが居座っている。ヤツに汚染されたサーヴァント・・・バーサーカーは少し離れた場所にいるし、あちらも俺達を倒すためにあれを下手に突くのも悪手。無視するのも手だ」

 

 『では、キャスターさんは私達と一緒に・・・』

 

 「ああ、大聖杯を目指す。指示は・・・そうだな。そこの盾の嬢ちゃんのマスター。アンタと契約を結ぶか」

 

 「へ? 俺が?」

 

 思わぬご指名に驚きを隠せずにたじろぐ藤丸。マスターという面、修羅場への経験も何もない自分よりも英霊の華奈、メディアとすぐさま打ち解けて的確な支援、戦いができる元。もっと良いマスターがいるのに指名されたわけが分からない。

 

 「二人は既に経験を積んでいるようだが、お前はまだ青いからな。しっかり守ってやるよ。さっき酒くれた姉ちゃんと契約してもいいが、せっかくだ青二才がここをどう切り抜けるか見てやるよ坊主」

 

 バシバシと背中を叩いて快活に笑うキャスター。一応は見どころがあるのだろうかと思うのと何処か安心をくれる笑顔につられて藤丸も苦笑いを返し、仮の契約は完了した。




華奈「さて・・・ん~・・・・・・・」

マシュ「・・・・・・・・・」

元「ふふ・・・・藤丸くんも良かった・・・・」

ストーム「(おいマスター。少しこれは・・・)」

華奈「(分かっていますよ。考えてはいましたが、いいタイミングかもしれませんね)」

華奈「キャスター様、皆様。もしこれから大聖杯に向かい、原因の調査、解決をしていくとしたら私達が戦った英霊を一人で倒したセイバーに戦の立ち回りに長けたアーチャーと連続で戦うと思います。一度何処かで休息を取り、体勢を整えては如何でしょう?」

オルガマリー「そうね・・・キャスターの力もまだ見ていないし、疲れが出ているのも確か・・・分かりました。一度何処かで休息を取ることを許可します」

ストーム1「近くに学校が見えた。そこでメディア、キャスターたちで陣地、拠点でも作ってマスターたちの回復、最後のひとっ走りのための準備って話だな」

華奈「ですね。所長様、藤丸様、元様は栗毛にお乗りを。私が手綱を持って先導しますし、いい子ですから」

キャスニキ「あ、ついでに酒でもあるかい? さっきの蜂蜜酒はうまかった」

華奈「学校でつまみでも付けて渡しますから今は我慢してくださいよ?」

藤丸「うわわわ・・・視線がまるで違う・・・」

オルガマリー「ちょっと暴れないでよ。馬が混乱しちゃうじゃないの」

栗毛「(賑やかだなあ・・・・・)」






産業革命とそのくだりはロンドンで話せたらと思います。若しくはカルデアでの準備期間、休憩のあいだにでも。

漸く登場キャスタークーフーリン。何だか落ち着いた雰囲気がましてかっこいいですよね。そして同郷からの評価の酷さ。槍を使っての暴れ具合の凄まじさがよく分かります。

華奈が蜂蜜酒を持っていたのは行軍用のものです。はちみつの滋養強壮効果、長持ちで比較的好みだから。ヤマジは別の意味で持っていました。

最後にUA 49372件 しおり 142件 お気に入り 378件 応援ありがとうございます! なんだかたくさん増えていて驚きました。いつもいつも感謝します。これからもお願いします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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マシュ・キリエライトの憂鬱

そう言えば華奈とストーム1の関係ですが、バッドエンドで華奈が「こいつはヤバイ」と言っていた英霊がストーム1。まあ、平行世界、可能性の一つで殺し合った仲でもあります。こっちの華奈はハッピーエンドのルートで知らない。ストーム1自体は抑止に呼び出される際に記憶を封じられ、終わった後に関わった記憶を消されていたりで互いに本気でメモリーカードだけが触媒だと思っています。

ストーム1が抑止に召喚される際に記憶封印、消去されるのは「何でこのくらいの可能性を許容できんのだバカバカしい」という理由で速攻で自害するからです。

隊長? 峰打ちですよあれは。


 無事に学校の廃墟に到着したカルデア御一行。マスターたちが休めるための簡易の拠点を作成するために学校後にいた怪物を全滅させ、比較的崩壊の少なかった体育館、その教官室を改造することに取り掛かった。

 

 華奈の深山で崩壊の危険がある場所はすべて新たに生み出した石の柱に補強され、それを起点にキャスター二人組が魔術で補強、魔除け、気配認識阻害の術式をありったけ詰め込んでいく。

 

 そうして仮の休憩室が完成して一息つくカルデアの面々だが、その中で一人だけ別の息を吐く存在が一人。

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 マシュ・キリエライトその人である。

 

 サーヴァントとしての力を得て危機を乗り越え、共同とは言え英霊を倒したという功績を上げて、そして皆の休息の場ができたというのにその表情は浮かない。沈んでいるままだ。

 

 「ちょっと。藤丸。マシュが落ち込んでいるわよ。ケアしてあげなさい。貴方がマスターでしょ?」

 

 そっけなくオルガマリーはマシュを軽く見やると藤丸にさじを投げ、一人早速整理のついた教官室に入っていく。心配はしているようではあるが、それでも踏み込まないのだろうか。視線をときおり投げかけるがそれだけで無関心の素振りを貫く。

 

 「あ・・・その、マシュ。やっぱり・・・アレのこと?」

 

 藤丸も感じていた。いや、周りの英霊の面々を見て思っていたことをそれとなく出すとマシュもうつむきながら頷き、ぽつりぽつりと話し始める。

 

 「はい・・・その、私はデミ・サーヴァントとして先輩のもとで十分すぎるほどの経験を積みました。けれど・・・その、宝具が使えないのです・・・使い方すら分からない欠陥サーヴァントのようなのです」

 

 『ああ、そこを気にしていたのか。マシュは責任感が強いからなあ・・・でもそこは一朝一夕でいく話じゃないと思うよ? だって宝具だし。英霊の奥の手を一日二日で使えちゃったらそれこそサーヴァントの面目が立たないと言うか』

 

 ロマニがすぐさまフォローするが、その発言に召喚、合流していた英霊一同はその発言に呆れてしまう。本当に英霊を使役する、カルデアの組織の人間なのかと。

 

 「あ? そんなものすぐに使えるに決まってんじゃねえか。英霊と宝具は同じもんなんだから」

 

 「英霊とはかつてその英霊がこなした業績や逸話。その武具も含めて呼ばれるものですから使えなきゃいけないんですよ。例えばシモ・ヘイヘが呼ばれてモシン・ナガン持っているのにモシン・ナガンを使えないなんておかしいでしょう?」

 

 「俺もマスターも使えているからなあ。マシュちゃんが少し変わっているとは言え、英霊の力を使えている以上バグみたいなもんだわなあ」

 

 英霊の面々の発言で益々顔色が暗くなるマシュ。彼女も英霊をそれなりに学んでいたためによく分かっている。英霊は基本その呼出した人物のみならずその英霊の逸話、武器、クラスに合わせた宝具があることを知っていた。

 

 それは英霊の自身を示す、やもすれば弱点を晒すものであると同時に戦況をひっくり返す、切り札にもなり得るもの。先程の戦闘でもそれを使えていればと考えていたマシュにとってはもどかしく、辛い悩みでもある。

 

 「恐らくは、デミ・サーヴァントという特異な召喚、状態が原因なのでしょう」

 

 「ああ、恐らくは詰まってるのかもしれんな」

 

 「オイオイ。魔力の便秘かい? それも鬱屈も流してほしいがねえ。どうしたもんか」

 

 どうしたものかと考える一同。これから攻め入るはキャスター以外すべてを倒したセイバー。そしてまだ残っている上に立ち回りもしっかりとしたアーチャー。未だ宝具もわからない状況では此方も札は揃えておきたいのは確かであり、そしてマシュ個人の悩みをなんとかしてやりたいのも本心。

 

 少しの間を置いて、キャスターと華奈が顔を上げ、不敵に笑う。

 

 「声も上げた、経験もマシュ様みたいな戦を知らぬ方には過酷な刺激。これを数度経験しても尚もこれなら、もう理屈こねくり回すものではないですね。マシュ様、藤丸様はここのグラウンドに。ストーム。元様、所長様の護衛をしなさい。いいですね?」

 

 「了解した。こりゃあちーときっついことになるなあ」

 

 「ほう? 俺と同じ考えか。姉ちゃんキレイな顔してえげつないねえ」

 

 そう言ってすぐさま教官室を後にしてグラウンドに向かう華奈、キャスターの二人。それを追いかける形で続くマシュ、藤丸。

 

 「あ、ちょっと待ちなさいよ! 一体私に無断で何を始めるつもりなのよ!? ここには休憩できたのでしょう!!?」

 

 「・・・嫌な予感がするけど、行こうかな。メディアさん・・・」

 

 「貴方は寝ていなさい」

 

 追いかけるオルガマリー、元も行こうとするがメディアに魔術を講師されてすぐさま教官室のソファーに寝かされる。その少し離れた場所に腰掛け、華奈から貰った一杯分の蜂蜜酒を飲み始める。

 

 「おや、お姉さんは行かないのかい?」

 

 「どうせろくな事しないでしょう? 休憩場所を崩されたくないもの。それに、これだけ念入りな準備の入った仮拠点。少しの時間稼ぎは出来るしそこまで離れないだろうから休むわよ。アンタも行ってきなさい、あの子の護衛でしょうが」

 

 「ヘイヘイ。全く厳しい優しさだぜ。ま、テレビでの星座占いでも見ていたら良い。今日はお姉さん大吉だぜ? 俺が保証する」

 

 肩をすくめながらオルガマリーの後ろを追いかけるストーム1を見送った後にメディアは教官室の扉を閉じ、テレビのリモコンを見て

 

 「・・・こんな状況で大吉ですって? それにテレビも壊れているじゃないの・・・はぁ、自分で自分を占うなんて自演も良いところよ」

 

 ぼやきをぶつけた後になにか無いかと教官室を物色し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってグラウンド後。そこにはキャスタ-、華奈、ストーム1、マシュ、藤丸、オルガマリーが集まっていた。

 

 元の事に休憩所を守ってくれる、連絡係をメディアが受け持つとストーム1から聞いて安心した一同。マシュは自身の宝具に関わる事から強い期待を示しており、やれと言えば大抵のことはしていきそうなほどの気合を放っている。

 

 「それで私は何をすれば良いのでしょうか!」

 

 「俺も来たけど・・・英霊の問題ってどうするの?」

 

 気合い充分なマシュに少し何をすればいいのか少し困惑気味な藤丸という対象的なコンビ。程度はあれど前向きに進もうとする姿勢を嬉しく思い、ここにいるマシュを除いた英霊の皆は微笑む。

 

 「ま、ようはよ。宝具ってのは英霊の一部みたいなもので、手足だ。制限や消費の問題で使えないものもあるがそれさえどうにかする、気にしなければすぐに使える。それをあれこれと考える時間もねえし、説明も面倒」

 

 そういいながらマシュの盾の裏に何かを刻んでいくキャスター。

 

 「じゃあ、お嬢ちゃんは俺と一緒に街の観光、観戦と行こう。なあに、お代は俺のおごりだ」

 

 「なっ!!? えっ、あ、ちょっと離しなさい! 私を一体どうする・・・きゃぁああああ!!!」

 

 一方でストーム1はオルガマリー所長を抱えて学校の屋上まで飛び移り、藤丸らが見下ろせる位置に移動。

 

 「所長!?」

 

 「ああ、所長様は気にしないでくださいませ。必要な処置ですので。さて、キャスター様準備は?」

 

 「バッチリだ。これならいい具合にわんさか来てくれるだろうよ」

 

 いきなりの行動に驚くマシュ、藤丸、オルガマリー。三人の訳のわからぬ行動に疑問が浮かび、特にオルガマリーはひときわうるさく吠える。

 

 「ちょっと!! 何をするの離しなさい!? アイツの使い魔風情がいったいなにをしようと・・・」

 

 「落ち着けお嬢ちゃん。怒ったって喉が渇くのとシワ一本増えていくだけだ。俺はそういう女性も好きだが、今はちょっとそれどころじゃない。カーニバルが始まる」

 

 「カーニバル!? 一体何が起こる・・・・」

 

 「所長~! ご無事ですか!?」

 

 「・・・・・・・・この音は・・・」

 

 混乱する二人をよそ目に聞こえ始めてきた音に藤丸は意識を向ける。この街に来てからというもの何度も聞いている足音、それに合わせて響く武器の揺れる、こすれる音。

 

 「盾の嬢ちゃんには厄寄せのルーンを刻んだ。俺でなきゃ消せないぜ? これから有象無象、数も比べ物にならん怪物がここに殺到する。俺らも襲われるが、それ以上にお前らにまっしぐらだ」

 

 その言葉を裏付けるように怪物の足音や武器の音は増え続け、遂には何重にも重なり、あらゆる方向から響き、こだまする。

 

 「ようは、屁理屈もへったくれもない精魂果てるまでお二人は戦ってもらいます。頭なんぞ使わずに本能を出して英霊の業を出せるようにします」

 

 「もしかして馬鹿なんじゃないです・・・・」

 

 「先輩!」

 

 藤丸がそういい終わる前にマシュが視線を遮り、直後に無数の金属音が響く。盾の隙間から藤丸が華奈の方を見れば右手にはアサルトライフル・AF99が握られ、此方に銃口を向けていた。さっきの音と硝煙から見て、此方に発泡したのだろう。

 

 「お二人は戦闘経験もそれなりに積んでいるので、数だけではあっさりいなしかねない。なので、私もお二人を攻撃します。言っておきますが、このライフル。数秒で戦車もヘリもスクラップに出来る銃ですからね。マシュ様も藤丸様もしっかり気をつけてくださいね」

 

 「はああああああああ!!? 何で同士討ちを始めているのよ! 休憩どころか殺し合いをしているじゃないの! 認めないわ。華奈! マシュ! 藤丸! すぐさまその私闘を止めなさい! これは命令よ! カルデア所長オルガマリー・・・ヒィイイ!!!」

 

 「おっと、やっこさんアイドルめがけてまっしぐらか。人気者も大変だねえ。俺も所長さんも」

 

 身を乗り出して静止を試みるオルガマリーの鼻先をかすめる矢。そして次々屋上にもめがけて押し寄せる化物の群れ。見通しがよく、矢も簡単に対処しやすいが、ここもまた危険区域になり、すぐさまオルガマリーもストーム1の後ろに隠れることになり、ストーム1もかんしゃく玉で応戦を始める。

 

 それは、残った、当たることなく飛んでいくかんしゃく玉も下に落ちることであり、藤丸ら、化物に敵味方お構いなしに降り注ぐ。藤丸には当たらないように配慮はするがそれでも爆発で飛び散る爆風、瓦礫、化物の体の一部。まさにこの場所は修羅場、戦場となった。

 

 「さ、生き残りなお二人さん。あんたら、ここで駄々こねてもその次には死ぬかもしれねえぜ?」

 

 こうして敵味方お構いなしの大乱戦場が出来上がり、過酷すぎる特訓が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・ハァっ・・・・はぁ・・・も、もうこれ以上は・・・無理です・・・・もっと合理的な教え方を・・・」

 

 大乱戦が始まって暫くした後、マシュたちだけではなく周辺にいた英霊、生者の面々は皆巻き込まれながら戦うことになり、爆弾と銃弾と火球と矢玉が飛び交い、盾に刀に杖にかんしゃく玉にライフルで互いに殺し合うことに。

 

 その戦いも化物がいなくなったことで一段落。グラウンドの焼け焦げて真っ黒な土が骨のせいで白くなるまでの激闘をこなしたのにも関わらずマシュは宝具が使えず、このスパルタ方式からの変更を願い出ていた。

 

「ふむ・・・・もうひと押しですかね。マシュ様、第二ラウンド行きましょうか」

 

 「見込み違いの可能性もあるが・・・あの魔女もいるし俺もキャスター、治療も早く済むわな。・・・・・どれ、もう少し様子見と行くか。構えな。でなきゃお前さんもマスターも本当に死ぬぞ?」

 

 がそんな事知ったことかとバズーカを構え、刀を用意する華奈。杖を構え、今度はキャスターも本気で戦意を向けてくる。先程味わった化物とは違う。影の英霊たちと同じ研ぎ澄まされた気を向けられることに消耗したマシュ、藤丸らにはとても、とても重い重圧となってのしかかる。

 

 「待って! これはマシュの特訓であって彼は関係ないでしょう!?」

 

 「いいえ、オルガマリー様。マスターと英霊は運命共同体。マスターが死ねば英霊はいずれ長く顕現が叶わずに殆どが敗退・・・」

 

 「英霊が負ければマスターは英霊の前に何の手も打てずに死ぬだろうな。英霊が高潔でも使役する輩がそうとは限らねえ。しかも今回みたいな怪物や化物も襲い来る機会も多いだろう。今の坊主みたいな輩なんざすぐ餌食だろうよ。だから・・・」

 

 「「守ってみろ(なさい)マシュ(様)」」

 

 「あっ・・・・! ああっ、あああああ! もう・・・もう!!」

 

 そう言ってマシュに攻撃を開始する二人を見てひとしきり声を張り上げ、薬を一気に飲み込んで固唾をのむオルガマリー。

 

 事実なのだろう。二人の言っていることは聖杯戦争に当てはまり、マスターと英霊の関係の一端を示す。そして、特異点での危険性も嫌というほどにわかった。街一つが、英霊七騎を呼び寄せる戦いが狂っただけでこれだけのことになった。今後もこういう事があるのなら間違いなくここで宝具を手にすることが出来なくばマシュはこの先も戦えない。たとえ戦えたとしてもこの戦いでの事を引きずって何処かで躓く。

 

 それはいけない。ならここで嫌でも成長してもらうしか無い。ここで何も出来ない自分のもどかしさを歯噛みしながらオルガマリーは二人の行く末を見届けることにした。

 

 「ふむ・・・・所長さん。アンタいい女になるぜ。今はどーんと構えるのが正解さ。そんで、そのよく通る声で必要なら励ましてやれ。マシュちゃん達、すっごく嬉しくて元気出すぜ? 頑張っているやつは、おんなじように頑張っているやつの言葉にゃいっちゃん嬉しいもんだ。アンタみたいな努力家からなら尚更な」

 

 ストーム1に頭を撫でられ、それに対して怒りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アンサズ!」

 

 呪文を唱え、刻まれたルーンから放たれる火球の数々。

 

 「はい、そこ甘い」

 

 マシンガン、バズーカの雨あられを撃ちまくり、一瞬でも隙を見せれば刀で斬りかかってくる。

 

 「くっ・・・・!! うぁあ! ぐっ・・・・・・!」

 

 間断なく、常に続く波状攻撃にマシュの肌は焼かれ、爆風の破片や跳弾、盾をかいくぐって振るわれる刃に徐々に切り傷を作られていく。

 

 「やれやれ、弱い者いじめに見えちまうなあ。特訓、それもこんな場所じゃあ仕方ねえとは言え何処まで持つか」

 

 「・・・・・・・何処まで出来ると思う?」

 

 薬をもう中毒にならないかと言うほどに飲み、気持ちを落ち着けたオルガマリーはストーム1に問いかける。副作用は依存症は問題ないと聞いているが、本人のこの性格、気質をどうにかしないとどのみち依存しそうだと少し思いながらもストーム1は答える。

 

 「そうだな・・・後、一度大きなショックを与えてそれでも尚駄目ならこっから先はもう駄目だろうな。この特異点の解決は俺たちでどうにかしてマシュちゃんにはここで留守番だろうさ」

 

 「そう・・・もし何らかの体の不調を細かに調べようにも今のカルデアはあの状況だし・・・良くも悪くもここが必要なのね」

 

 眼の前で必死に食い下がり耐えるマシュの姿を見ながら泣きそうな顔を浮かべるオルガマリー。これからのことを見据え、この無茶振りを止めることなく必死に自分を抑えるその姿に思わずストーム1も唸る。

 

 「だろうな。マスターとはここでしか会話をしていないが、基本馬鹿や酔狂をやるにはその確信足り得る理由や動機がなければ動かん。・・・・・・しかし、こんな鉄火場で同士討ちにしか見えないこの戦いの意味を理解して見守る所長さんはすげえな。良いトップだ」

 

 「なっ!? いきなりこんなところで何を・・・っああ!」

 

 思わぬ不意打ちに驚いているあいだに戦況は動いており、マシュが火球に打ちのめされて体制を崩してしまう。防ぎきれなかったのが一部あったのか藤丸も服の一部が焦げ、地面を転げ回った時に着いたであろう汚れ、傷が幾つもあり、あちらも満身創痍という状況。

 

 「っ・・・・はぁ・・・はぁ・・・・! あっ・・・ぐくぅ・・・・!」

 

 「・・・・・・シメですかね」

 

 「ああ・・・さあ、どうした! お嬢ちゃん! ここで守らなきゃ主もろとも丸焼きだ、守ってみせろ! 我が魔術は焔の檻、茨の如き緑の巨人――――」

 

 キャスターの魔力が爆発的に高まる。間違いない、宝具の発動の前準備、セーフティーを外し始めている段階。

 

 「マシュ様。良いですか? 貴女様は無駄に倫理、情報に囚われすぎています。魔術では精神要素もまた重要なファクター。今何をしたいのか、柵だとか任務だとか捨て放って心からやりたいことに全力を出しなさい。例え、今の自分の状況がどうであれ」

 

 「マシュ・・・俺は信じているよ。ここまで戦ってくれたマシュを」

 

 二人からの信頼、激励。そして眼の前に迫る死の予感、恐怖。疲労であれこれと余計なことに頭は回らず、身体も動かない。魔術でどうとか、誰かの救いの手をくれるという希望的観測も出てこない。

 

 (守らないと・・・使わないと先輩が消える――――偽物でもいい。今だけでもいい。私が・・・私がちゃんと使わないと・・・・・!)

 

 「因果応報、人事の厄を清める杜、倒壊するは『灼き尽くす炎の檻』(ウィッカーマン)! そら、焼かれて土に帰るこったなあ!!」

 

 キャスターの宝具が発動し、燃え盛る木で編まれた巨人、が目の前に現れ、マシュを、藤丸を焼き殺さんと迫ってくる。逃げても纏う炎で殺され、立ち向かおうにも今のマシュたちではただの自殺行為。退くことも、進むことも死になってしまう。この絶望的状況にマシュの感情は弾け飛び

 

 「ああ、ああぁあああ――――――――!!!」

 

 真っ向から立ち向かい、踏ん張ることを選択した。盾を強く地面に打ち下ろして楔としても使い、その燃え盛る巨人の拳を受け止められるように腰を落とす。

 

 何が何でも通さない。ここを守り切る。後ろにいる守りたいものために体に残っていたあらん限りの精も根も力もすべてを吐き出したその叫びに盾が輝き――――マシュの前方に盾の数倍はある巨大な魔法陣が出現。その光の壁はウィッカーマンの拳を封じ、動きを封じ、炎を封じ、そして、ウィッカーマンが消えても尚残る炎をすべて封じきり、自身を、そして藤丸を完全に守りきって見せた。

 

 そして炎も消え去り、魔法陣が消え去った後、しばらくの静寂の後。満足げな表情のキャスター、華奈。信じられないとほうけているマシュ。眼の前で起きた宝具のぶつかり合いに驚きで目が点になっていた藤丸。いつの間にか屋上から降りていたオルガマリーにストーム1だけが残っているだけだ。

 

 

 「あ・・・・・・私・・・宝具を、展開できた・・・・・んですか?」

 

 「はい、マシュ様。その通りです。お見事な宝具でしたよ。アレ程の宝具を受け止めるとは」

 

 「―――ヒュウ、まさか一命を取り止めるくらいはやると思ったが、マスター共々無事とはな。褒めてやれよ坊主・・・いや、マスター。嬢ちゃんは間違いなく一線級の英霊。そんで、信じ抜くことが出来た坊主も立派なマスターだ」

 

 拍手をしてさっきまでの闘気を引っ込めて満面の笑みで応える華奈。太鼓判を押して爽やかな笑みを浮かべるキャスター。先程までの殺伐とした空気は何処へやら。宝具開放の成功を喜ぶ和やかなムードが燃え盛り、廃墟となっている学校のグラウンドに流れる。

 

 「良いもん見させてもらったぜ。ほれ、所長さん。組織の長として、アンタからも激励の一つでもくれてやんなあ」

 

 ぽんと背中を軽く押してオルガマリーを前に押し出してやるストーム1。それに押される形でマシュたちの前に出されたオルガマリーは

 

 

 「・・・・・・・・コホン。思わぬ訓練によって不安もありましたが、無事に宝具を発動できて嬉しい限りです。・・・・・・・・あー・・・よくやったわ。マシュ」

 

 しどろもどろ、拙いながらも認めてくれたオルガマリー。まだ恥ずかしさがあるのだが、それでも褒めることは必要だろうと絞り出した言葉にマシュは嬉しくなり、満面の笑みで応える。

 

 「はい! 有難うございます所長!」

 

 「うん。本当にすごかったよ、マシュ」

 

 「! は、はい! やりましたよ先輩!!」

 

 藤丸からの言葉に輝かんばかりの笑顔になるマシュ。先程の疲労も忘れていそうな程の笑顔で頬を赤く染める表情は年相応で此方まで元気をもらえる程。皆が集まってそこからしばらく談笑したり、笑いながら教官室に戻っていくことに。

 

 (しかし・・・血の繋がりが無いとは言え、育てた我が子が女の子に宿り、英霊の力を貸してその子は殿方に気づいていないけど思慕の情を抱く・・・あれ? これって下手すれば精神的同性愛? マシュの精神に引っ張られて目覚めた可能性も? ・・・まあ良いですけど、両者が良いのなら)

 

 その間も育ての親の少しズレた思案が悶々と続いていたのはここだけの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、教官室でメディアから傷を治してもらい、オルガマリーの予備の薬の補充。カルデアからちょっとした食べ物と水を受け取り休息。その合間にマシュの宝具はマシュに力を貸した英霊、その宝具の真名が未だわからないので仮の名前としてロード・カルデアスと命名。

 

 起動も数度試した結果問題はないので一度休息を取ることとなりマシュ、藤丸、オルガマリー、元らは二時間ほどの仮眠をとることにし、見張りとしてメディア、キャスター、ストーム1、華奈が起きることに。現在はその起きている面々でちょっとした小話をしている最中となる。

 

 「で・・・メディア様。元様の容態は? 良馬さんたちも観測している状態と照らし合わせたいのですが」

 

 「そうね・・・レイシフト? 適正が低いのと魔力を結構消費したのもあって中々の摩耗具合よ。さっきはすぐに寝かせたけど・・・下手に長引かせても危険じゃないかしら?」

 

 『はい。その通りです。存在確定のための観測はしているのですが、バイタルを見てもあまりいいとは言えません。これ以上の、カルデアに帰還しても身体に後遺症が残らないラインを想定した時間は、五時間がせいぜいでしょうね』

 

 負担と適正値がない状態でのレイシフト。更には緊急時の確立を著しく下げた状態でのこと、むしろ負担がほぼないマシュ、藤丸、華奈が奇跡なのだろうと考え、同時に残り時間の目安がはっきりする。

 

 「まあ、ダラダラするのはあまり良くないし良いくらいだろう。陰気なサウナのようなこの街も飽き飽きしていたんだ、ちょうどいいさ」

 

 「これからは強軍行、待ったなしの戦いでしょうからね。私ももう少ししたら一時間だけ仮眠を取ります。その前に・・・冬利様、フラム様。現在のカルデアの状況は?」

 

 モニターの画面が新たに増え、そこにフラム、冬利が映り込む。

 

 『そうだな・・・カルデアの館内洗浄は五割進行したが、爆発の故障とまだ職員の死体が多すぎているのもあって上手くいっていない。それにバラバラ、消失した身体もあったり、爆発の際に飛び散った糞尿、血肉の臭いでとてもじゃねえが一部は作業ができなくてゲロはいたり、精神やられる奴らもいるから今は洗浄した部分での死体集めと職員チェック、それ以外は簡素でも病原菌を防ぐためにシャッターやバリケードを作って隔離状態。中央の機材の修復に努めている』

 

 『私も同じです。カルデアスは一応復旧。レイシフトはもう少しで問題はなくなりますが、可動のための電力の安定が今のとこ上手くいってないですね。そちらの存在をしっかり捉える、存在させるための観測にそのためのバックアップ、現在進行系で職員の治療に今使えるカルデアの電力を使っていますので、帰還のためのレイシフトへの準備はもう少し後になります』

 

 一応は順調。ただ、此方もすぐさま帰還して再準備、少なくともオルガマリー、元を帰還させることも難しい。出来るならすぐに言っているだろう。それを言わないということは「全力で用意してはカルデアの悪化、復旧の遅れが出てくる。その上でも少なくとも二時間では無理」ということだろう。

 

 「分かりました。その間に此方も特異点攻略をしておきます。ですので、そちらもどうか焦らず、逸らずに」

 

 「ええ、分かっていますよ華奈。では、私は作業があるのでこれで」

 

 「了解。んじゃ姐さんも無理はするなよ?」

 

 そういったところで通信は切れ、映像もすぐさま消える。

 

 「では、私も寝ましょうか。ストーム、キャスター様、メディア様。お願いします」

 

 腰を上げ、体育館の中にいた栗毛に体を預けて華奈も意識を落とし、短い休息を取り始めた。この狂った聖杯戦争を終わらせる英気を養うために。




~二時間後~

華奈「では、参りましょうか」

藤丸「いざ、決戦! ですね」

マシュ「傷も回復。魔力もカルデアからのものでバッチリ。問題ありません」

オルガマリー「まさか簡単な調査のはずがこうなるなんてね・・・でも、盾の宝具もあるし、イケるかしらね」

華奈「守りが出来るというのは大きいですからね。貴女様があの戦いを無理やり止めなかったからこそですよ。有難うございます。オルガマリー様がトップで良かったです」

オルガマリー「ッー!! っ、そう・・・なの・・・ええ有難う。でもあんな無茶、馬鹿はこれっきりにしなさい。でないと減給するわよ?」

華奈「それは怖い。副業をしなきゃいけないのは大変ですからね。出来る限りしませんよ」

キャスニキ「おーいお前さんら早く来い。案内するからよ。置いてくぞ?」

ストーム1「待ってやりな。女の化粧と話は長いんだ。待ってやるもの男の仕事だぜ? キャスターの兄ちゃん」

キャスニキ「へいへい。まー実際、焦る必要はないか。確実が一番早いし、英霊もここまで早く減るとは思わなかったしな」

マシュ「おまたせしました。では、大聖杯のところに行きましょう!」



マシュも覚醒第一段階終了。後は大聖杯に行って大乱闘を開始するだけですね。

はてさて、次回も上手く書けるのか、少し心配ですが皆様よろしくおねがいします。

最後にUA 50920件 しおり 143件 お気に入り 387件 応援ありがとうございます! とうとうUA 50000超え・・・嬉しいです。本当に。いつも拙いこの文を読んでくれて有難うございます! どうかこれからも宜しくお願いします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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洞窟発破作戦(未遂)

華奈「あ、そうでした。いいものを準備しましたのでキャスター様はどうぞ」
(布に包んだものを放り投げる)

キャスニキ「お? どれどれ・・・・ほほう。美女からの贈り物たぁこのふざけた戦争に参加したかいがあるってものだな。サンキュ。活用させてもらう」

華奈「それは何より・・・・・おお、あそこですか? いいところですがねえ」

ストーム1「ちょっとしたハイキングにお参りにも良いかもしれないが・・・今は肝試しか?」

藤丸「おばけよりもおっかないものが出そうだけどね」

元「はは、違いない。英雄のおばけと戦うのだから次元が違う。気をつけていこうか」


 仮眠を終えてこの特異点の元凶の排除、及びその解決に乗り出したカルデア一行。しばらくの移動をした後に大聖杯があるという場所、その洞窟の入口に到着した。

 

 「ここからは栗毛で行くのは危険ですね。栗毛、伏せなさい」

 

 華奈の指示を聞いてゆっくり伏せの姿勢を取り、オルガマリー、藤丸、元が降りやすいようにする。そして三人が降りるのを確認すると光の粒となって消え、その粒は華奈の中に入ってくる。

 

 「お疲れ様です。栗毛。改めて・・・入り組んでいますねえ・・・中々に深いのですか? キャスター様」

 

 「ああ、それもあるが、入り組んでいてなあ。迷わないようにしなきゃ駄目なんだわ。そのために俺が案内をするけどよ」

 

 『実際に、奥から溢れている魔力の濃度の濃ゆさは正に聖杯と呼ぶだけのものはあります。間違いないでしょう』

 

 この先に大聖杯があり、これを収集。もしくは呼び出されていた英霊への魔力供給のバックアップをカット。それをすれば「一応」この聖杯戦争は終わる。怪物を呼び出した影響はいつまで残るかは不明だが、少なくとも英霊は長く顕現ができなくなるはず。

 

 「では、面倒臭いのでちゃちゃっと行きましょうか」

 

 言うが早いか華奈は即座にバズーカゴリアス99を洞窟の入口に向け、引き金に手をかける。

 

 「また派手な作業だねえ。ま、その方が良いか」

 

 かんしゃく玉を手に持って肩を回し始めるストーム1。それに一同の空気が凍りつく。このトンデモコンビ、なにか馬鹿をやらかそうとしている。と。

 

 「何をしようとしているのよ! まさか爆破でもする気!?」

 

 「勿論です。本拠に防備も罠も構えない人が何処にいますか。罠をあらかた爆破して、敵が巻き込まれたら幸い。そうでなくても守りを決め込んだ相手を引きずり出すことが出来ればこれまた幸い」

 

 「そもそも聖杯戦争で必須の大聖杯を守るだろうから無事だろうしな。相手にとっても大切なものならここをぶっ壊しても守りきるだろうよ」

 

 色々と過程をすっ飛ばした強硬手段を準備し始めている華奈、ストーム1に元、マシュ、藤丸も加わって止めようとした辺りで二人の意識は外に向け、即座に拘束を振り切って洞窟ではなく虚空に攻撃を始める。するとそこに飛んできていた何かとぶつかり、爆発が発生。衝撃と爆音が一同の鼓膜と肌に伝わる。

 

 「ずいぶんと手荒な侵入者だ。それが出来るほどあいにくと器用なものではないのだがね」

 

 待ち伏せていたのか、それとも偶然か黒い靄に包まれているが、弓を持った男性の英霊が洞窟とは真逆の方向から歩いてきており、少しの距離をおいて立ち止まり、虚空から新たな矢を出してつがえていく。

 

 「アーチャーのサーヴァント・・・・!」

 

 「出やがったな聖剣の信奉者。良いのかよこんなところで道草食っていてよ。崇拝するべき対象のセイバーまでまっすぐだぜ?」

 

 「勝手に信者扱いされるのも勘弁して欲しい。それに言うまでもない。閉所で動きが制限される中でこんな火器をバカスカぶっ放す英霊が二騎、それに君のような狂犬にあのメディア。私はわからないがこれまた英霊が一騎。洞窟内部で戦ってもキャスタークラスの英霊に罠をかけられて絡め取られておしまい。そうだろう?」

 

 仕方ないだろう。と表情はよくわからないが肩をすくめてニヒルに笑っているであろうアーチャーのシャドウサーヴァント。しかし、弓矢は手放さず、視線は常に全員を油断なく観察して隙を狙う。

 

 「まあ、冬木といえば坊やもそうだけど、またいるなんてね。本当に縁なのか呪いなのか調べたいくらいだわ」

 

 何度も英霊の座に刻まれた情報で知り得た知り合いに、これまた出会った場所で会う。ここまでくればもう何らかの因果関係があるのかといいたいくらいのことに呆れた声色で言ってしまう。

 

 「さてと。この方がいないのであれば少なくとも罠があっても増えはしない可能性が高いでしょう。どうぞ皆様お先に。ここは私が食い止めますので」

 

 「そういうこった。ま、俺達が洞窟で暴れるのはあんまり向いていないしな~」

 

 「ヘッ、そうさせてもらうか。じゃあそいつは任せた。今の俺は少し相手するのが面倒臭いからな。それに減らず口を叩かれるのも嫌なんでね」

 

 言うが早いか洞窟内部に入っていくキャスター。それに続く形で元、メディア、オルガマリーと入っていく。

 

 「華奈さん、ストーム1さん。お願いします!」

 

 「ちゃんと無事でいてくださいね!」

 

 マシュと藤丸は激励を送った後に先行した面々に追いつくために駆け出し、徐々に洞窟から響く音が小さくなり、聞こえなくなった辺りで炎と煙の暴れる音、遠くには怪物が歩く足音だけが響くようになった。

 

 「ずいぶんとあっさりなんですね。不躾な客をセイバーに送ってもいいのですか? 言わゆる門番でしょう? アーチャー様」

 

 「たしかにそうだろうな。後でお叱りとありがたいお言葉でもいただくかもしれないが、あの数で攻められては私も務めを果たしきれないのでね。それよりは分断したほうがいいだろう? 戦術の一つさ。それに、君たちほどの英霊を拘束誘引できたことは大きい」

 

 「逆にこっちも作戦成功だがな。セイバーとアーチャーの連携なんざ勘弁だ。それに、あっちはベテランがいるから、まあ問題ないだろうよ」

 

 空気が張り詰め、それぞれが獲物を持ち始める。華奈はアサルトライフルをストーム1に投げ渡し、深山と秋水を構える。アーチャーも弓を一度しまい、双剣に持ち替えて構えを取る。ストーム1も渡されたアサルトライフルを軽く見てから問題ないと判断して構え直す。

 

 一瞬の静寂の後に三者は動き、攻防が開始される。アーチャーは牽制の剣をいくつかストーム1に投げ、すぐさま出していた双剣を持ち直して上段からの打ち下ろしで華奈に斬りかかっていく。

 

 「っ・・・!」

 

 それに対応して華奈も右手に秋水、左手に構えた深山で秋水を十字に構えて打ち下ろしを受け止め、深山を横にずらして勢いをいなして身体の体制を崩すように狙い、すぐさまその僅かな隙間に突きこむように深山で左腕を切り落とそうと狙うがアーチャーは双剣を手放して軽くなった左腕をすぐさま引き、その左手に手放した双剣と同じものを瞬時に持ち、受け止める。

 

 反動で距離を取りながら今度は弓を手に持ち出現させた矢をつがえ、華奈に矢をいくつも放つ。出現させた矢をいくつか放った直後に体勢を変え、双剣でストーム1の放つ銃弾を受け止め、合間を縫って反撃の刀を投げつけ、その攻撃のリズムが乱れた瞬間を縫って離脱。

 

 「まだまだっ!」

 

 その足場を狙いストーム1のAF99がアーチャーの足場を撃ち抜くがそれでもさほど姿勢は揺らがず、それどころか華奈も追随して放った蹴鞠、そのままストーム1が撃っていた銃弾すべてを三枚の光の盾が花弁の一部のように開いて防ぎ切る。

 

 「シッ・・・・・・!」

 

 その盾の光、銃弾と飛んできた刀を防いだ反動で光った一瞬の隙間を縫って華奈は側面に回り込んで右からの袈裟懸けで突っ込むがそれも予想済みとドリルのような矢でいなしていく。

 

 刀の動きのそれでもなく、西洋の剣術でもない、どちらかと言えば現代のナイフでの格闘術を思い起こすような細かな動きで決して大きく動かず、最小限の、無理に拮抗しない動きを心がけて華奈の剣戟をしのぐ。

 

 「っち・・・・・! やはり二対一、それもこれでは埒が明かないな・・・!」

 

 「こっちのセリフですよ・・・はぁ、本当に戦上手ですこと」

 

 アーチャーはそうぼやくもそれは華奈も同じでストーム1の援護射撃を狙おうにもそれはわざと華奈をその射線上に巻き込みやすいように仕向け、剣さばきも守ることを重視、しかも剣を弾いても壊してもすぐさまマジシャンもびっくりな速さで手元に出しては凌ぐので無理ならわざと剣を捨てて手の負担やしびれをなくすように努め、壊してもその一瞬の油断を狙ってはナイフや刀が飛んでくる。

 

 筋力、速力、下地自体は華奈が全て勝っている。それはストーム1も同じ。けれど、その下地が勝っている、数が勝っている点を利用してとことんまで優位性を埋めていく。

 

 数が優ればその数を盾にして味方の攻撃を鈍らせ、自身は敵の数を遮蔽物にして攻撃の起点を読みづらくさせる。無論、押しているのは華奈たちだろう。けれど、押しきれない、一手がさせないような状況を作り続けることで均衡をどうにか保っている。

 

 「まったくこんな的あて、ボーイスカウトは愚かFPSだって無いだろうなあ。せいぜいが人質取ったちゃちな強盗の狙撃ミッションくらいだぜ」

 

 しかし、その思惑に乗り続けるほど華奈もストーム1も馬鹿ではない。華奈自身も十年前の経験からその戦い方を身体に思い起こさせ、太刀筋を読み取りはじめ、ストーム1もアーチャーが移動を始める。華奈との距離を取る瞬間とその予測点を撃ち始めるようになっていく。

 

 火力、制圧面ならかんしゃく玉があっただろうが、それでは標的のアーチャーと距離が近い華奈にも当たりかねないし、先程の攻撃で華奈の蹴鞠も弾かれた。その時に二人は「あれは盾か結界。それも飛び道具に強いかもしれない」と考えて出来る限りは盾を出せない、出しても無駄になるようなタイミングを交互に生み出して攻撃のチャンスを作り出すことに作戦変更。

 

 「ふぅ・・・全く、まさかここまで数が揃った相手にマスターまで英霊という異常すぎる状況になるとは思わなかったよ」

 

 追い詰められてなおもその余裕は崩さず、武器を矢と弓に変えて華奈への防戦を試み始める。

 

 弦を切られぬように、それこそ最低限の防御だけに弓を使い、身体を斬られようとも弓を刀代わりに扱い、矢はナイフ代わりに補助、距離を取ればすぐさまストーム1に放つ。

 

 「ぬおっ! なんだこりゃあ!」

 

 当然迎撃するがそれだけでは撃ち落とせずに延々と追ってくる。まるで猟犬のようにしつこくキリがない。

 

 それで少なからず攻撃の手が緩んだことで幾分か余裕が生まれたアーチャーは投げる刀、剣を投げまくっていく。それは刺さって足場を剣山に変えていく。

 

 ストーム1には逃げ場、足場を徐々に封じられて更には今はわけの分からぬ剣に追いかけられている。それでもまだ剣を投げ続けている。ストーム1の脅威がいくらか薄れた時なら次は華奈を封じるための策を講じてもいいはず、それをしないのなら・・・

 

 「っ・・・・・・・! ストーム、離れなさい!」

 

 その思惑が全てわかった瞬間華奈が叫ぶが少しばかり遅かった。自身らの飛び退く、移動するであろう場所に投げられた刀剣、華奈はアーチャーに、ストーム1はホーミングしてくる剣に拘束されている。両者ともに移動が少しばかり遅れてしまう。

 

 アーチャーは大太刀を持ち出して華奈を無理矢理に押し込んだ後、小さく唱える。

 

 「壊れた幻想」(ブロークン・ファンタズム)

 

 直後に刀剣のすべてから起こる大爆発。華奈、ストーム1を捉えた衝撃と爆熱は周辺の空気も地面も震わせ、大音量は一瞬無音に聞こえ、すぐさまつんざくような波が鼓膜を破ろうと押し寄せてつんざく。

 

 「・・・・・・・・」

 

 煙が立ち込め、残ったのは百メートルはあろうかという大きなクレーター。ふたりともしっかり刀剣の、矢の範囲内で捉えた。消耗も大きいだろうがスキルの単独行動でまだ行動はできる。何よりもこれだけの損害であの二騎にダメージを与えたであろうことが何よりも大きな収穫だ。

 

 「いない・・・消失・・・ではないにしても、ここから退散したか・・・?」

 

 渦巻いていた煙が晴れ、そこには華奈の姿も武器もな、ストーム1もいない。少なくとも消耗したであろうし、洞窟に入ったのなら反射音が聞こえてくるはず。退けた。と考えてもいいのではないだろうか。ならば今すぐに洞窟に入り、先に行ったキャスターらをセイバーと挟み撃ちで仕留める。もう魔力の乱用と無茶な使用でボロボロでも出来ることがあると足を向けた瞬間

 

 「ヒュウ! こんな爆発を起こすたあね。全く剣の大花火なんて本当にアーチャーなのかい?」

 

 上空から聞こえてくるあの何処か軽い声。その声色には全く消耗の様子は見られない。何の宝具を使ったのか? あの爆発を逃れる機動力は一見無かったはずだ。アーチャーのクラスに見えたが別のクラスに見せかけていたのか? 声の聞こえる方向に視線を向けようとしたが

 

 「残心を乱しましたね?」

 

 背中にかかる少しの衝撃と胸から生える一本の刀。つい先程戦った剣を使う英霊。華奈がいつの間にか背後に移動しており、意識がストーム1に向いた一瞬で距離を詰め、胸を貫いていた。

 

 「くそっ・・・見誤ったというのか・・・情けないな・・・」

 

 「仕方ないでしょう。彼は何もかもが滅茶苦茶です。それに私もついさっきまでまんまと引っかかってしまいましたしね」

 

 そういい切ると刀を横に払い、身体を二つに切り落としてアーチャーにとどめを刺す。二つに別れた身体の消失を見届け、刀に付いた泥と血肉も霊子に変わるのを確認してから秋水を鞘に収める。

 

 「はぁ~すっげえなあ。あんな多芸なやつが本当にアーチャーなのかい? 俺にはライダー、そうじゃなきゃ天才マジシャンに見えたがねえ。見学料、チップを渡したかったくらいさ」

 

 「なら今度あったときにでも銃の一つでも渡しては? 最高のチップでしょう? 足りないなら、貴方の起こした小さな手品でも見せたら如何ですか」

 

 上空から降りてくる、何時も通りの姿のストーム1。軽口を叩いてのんびりと歩み寄って来る姿はいつもどおりのものだった。

 

 「で? バーサーカーは動く気配は? どうせ調べているのでしょう?」

 

 「無いな。が・・・油断はできないな。合流をするほうがいいだろうよ。行くか」

 

 相対した脅威を取り払った二人は先に移動した一向に追いつくために洞窟の中に移動を開始。この先で待っている大聖杯、そこで座して待つセイバーと戦うために。




オルガマリー「なっ! 何の爆発よ!!?」

ロマニ『アーチャーと華奈の戦闘で起きた爆発だ! 一応反応は無事みたいだけど・・・』

良馬『問題は、損傷の度合いですね。バイタルも問題はないですが、再チェックします』

元「問題はないさ。華奈はこの聖杯戦争を一度体験している。万が一に備えたものくらいいくらでもあるはずだよ」

キャスニキ「信頼しているねえ。まー確かにそう簡単にゃくたばるたまじゃないようだしな。こっちも楽に行けていいもんだ」

藤丸「いやいやいや! 大変ですよ!」

メディア「なんやかんや怪物を配置しているなんてあの坊やも相変わらずねえ!罠はたしかに無いけど警備はいるじゃないの!」

マシュ「・・・取り敢えず、私達も早く進みましょう! この異変を何とかするためにも、それに・・・大丈夫な気がするんです。華奈さんは」

オルガマリー「あの爆発で無事なのがおかしいわよ! 英霊でも英霊同士の攻撃は効くのよ! それであんな爆発・・・これ以上責任が増えるなんてなったら・・・」

マシュ「でも、カルデアの観測では無事なんですよね? それなら大丈夫なはずです。後、たしかに私の方の考えは当てずっぽうの感覚かもしれませんが、それでも何故か強く信じられるんです。『問題はない』と・・・なんだか上手く言えませんが」

藤丸「信じよう。そして、僕たちも早く大聖杯に」

キャスニキ「そろそろだ。ここからは広いから安心しな」



今回は難産でした・・・エミヤの戦い方に何処までズレがないかが不安でしょうがなかったです。ちゃんと書けていればいいのですが。

エミヤの恐ろしいことは手数、手段がとにかく豊富であり、強力なものも多い。それのせいで真名も分かりづらければそもそもが未来の英霊なのでわかりようがない。クレバーで様々な手段を講じれる柔軟さ。本当に大物ぐらいが可能で厄介な敵ですよね。

華奈は縮地で爆発から離脱。ストームは持っている宝具の一つで切り抜けました。後華奈の反応が遅れたのは自身が参加した聖杯戦争ではソロモンと組んで有無を言わさずに封殺したからです。

次回は大聖杯に先行したメンバーのお話。ちゃんと書けるようにがんばります。

最後にUA 52498件 しおり 144件 お気に入り 404件 応援、呼んでくれて有難うございます! そして、お気に入り人数が400突破! ここまでこれたことが嬉しいです! 登録してくれることが嬉しいです! これからもどうか皆様よろしくお願いいたします!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ロケットウーマン

華奈「おっと、忘れ物ですね。ストーム、戻りますよ」

ストーム1「ん? なんかあったか?」

華奈「ええ、少しだけ。いいでしょう?」

ストーム1「了解。猫のような自由な方で」

華奈「逸話的には狼でしょうけどね~私」

~暫くして~

華奈「ふう。もう戦っているようですね」

ストーム1「急がなくてもいいのか? 強敵なんだろう」

華奈「どうせ不意打ちもさほど意味がないですし、そもそも英霊の中でもすこぶる猛者、高みにいる方たちがいて一人にはい負けましたではこれから先が思いやられます。試金石です。これから先を占う、戦えるかを見極める」

ストーム1「この街の最初のように分断されて、尚しばらく生き残れるか。ってことね。鬼教官だこと」

華奈「ま、出来ないといい切れる子にはさせません。最悪私もストームもすぐに駆けつけられますしね」

ストーム1「違いない。じゃ、怪物の残りに気をつけながら行きましょうかね」

華奈「普通なら発狂と命の危険がある洞窟なんでしょうけどねえ・・・」



 華奈たちと分かれて大聖杯に先行した一行。今までに通ってきた狭く、ジメジメしたところとは違ってとてつもなく大きな空洞。この洞窟自体が人の手を加えられていると思わしき箇所があることから魔術工房の一つと推測はしていたが、ここまで大きな物があるとは予想もできなかった。

 

 そして一行がその工房に置かれている大聖杯を見て思わず驚く。サイズはともかく、その技術の高さ。魔術師が多く集い、時計塔もあるイギリス。そこの頂点の一角を担、自身も一級の魔術師であるオルガマリーには嫌なほどに理解できる。この大聖杯は間違いなく今の魔術師なんかではロードが力を合わせようとも到底作ることが出来るものではない。弩級のものだと。

 

 「何よこれ・・・・・・・超抜級の魔術炉心じゃない・・・なんだってこんなのが極東の島国にあるのよ・・・」

 

 『資料によればアインツベルンという錬金術師の魔術師の一族が手がけたようです』

 

 『それ以外にも協力者がいたという話ですが・・・まさしく在野の賢人、時計塔のロードにも負けないほどの者たちだったのでしょう』

 

 これを起点に行われる聖杯戦争。これだけのものなら英霊を呼び出せるというのも納得だ。少なくともここにいる魔術に精通した面々はそんな所感を抱き

 

 「・・・今更だけど・・・本当に文字通り杯なんだね・・・」

 

 「これが聖杯・・・」

 

 魔術に明るくない、若しくは圧倒されているものはつぶやくような感想、何処かズレている所感を持つ。

 

 それとは反対に元、メディアは聖杯を見ること無く一つの点を見つめる。

 

 「さて、話はそこまでだ。来たぜ、ここを守る最後の英霊、セイバーだ」

 

 キャスターの話と元達が見ていた視線の先に現れるは小柄な鎧に身を包んだ騎士。肌は病人を通り越して死人、蝋人形のように白い肌。漆黒の鎧に美しい金髪。

 

 瞳は淀んだ金の瞳。携える件は漆黒であり、血を思わせる赤のラインが走っている。

 

 「・・・・・・・」

 

 その威圧感たるや今まで遭遇してきた英霊のそれとは質も種類も違う。気圧され、泣きそうになり、思わず後ずさりそうになる事を元、マシュ、藤丸、オルガマリーは必死にこらえて四肢に力を込めて踏ん張る。

 

 そんな面々を歯牙にもかけずに一通り見た後にマシュを見やり

 

 「――ほう。面白いサーヴァントがいるな」

 

 口を開き、冷笑を浮かべた。

 

 「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

 

 「・・・ああ。何をしても見られている故な、案山子に徹していた。だが――面白い、その宝具は面白い」

 

 「・・・・え!? 私ですか」

 

 まさかの反応だったらしく驚くキャスター、それを無視して騎士はマシュに視線を送り、ゆっくりと剣を構え始めていく。

 

 「構えるが良い、名も知れぬ娘。その盾がどれほどのものか、私が確かめてやろう!」

 

 「っはぁ・・・嬢ちゃん、アイツはアーサー・ペンドラゴン。持っている聖剣はエクスカリバー。もう分かるだろう? 油断するな、死ぬぞ?」

 

 臨戦態勢を整えるアーサー王、キャスターも華奈からもらった包みを手に持ってすぐさま動けるようにしていく。

 

 「・・・・・・・ねえ、マスターいい加減、この街の縁にもう訳がわからなくなってくるわ・・・」

 

 「・・・取り敢えず、これ以上はないことを祈って戦いましょう。それしか無いですよ・・・」

 

 青い顔をしながらも気を引き締める元、杖を構えて半歩後ろに下がるメディア。

 

 「マシュ・・・絶対に勝とう!」

 

 「っ・・・・はい! マスター! 貴方に勝利を!」

 

 「ふっ・・・では、勝ってみせろ!」

 

 言うが早いかその声は藤丸らのすぐ近くで聞こえ、いや、近くまで接近して話していた。その言葉と同時に剣を右から横薙ぎに振ってマシュを吹き飛ばそうとするもマシュもとっさに腰を落として盾を構えて受け止める。

 

 「っぐう・・・・!」

 

 華奢な男性・・・いや、女性とは思えないほどの速度、剣の重さ。吹き飛びそうになるがメディアが仕込んでおいた竜牙兵に支えられて足を崩さず、更にキャスターの飛ばした火球を避けるためにアーサー王が引いたことで倒れずに済んだ。

 

 たった一撃。その一撃で汗は吹き出て手はしびれてかすかに震える。改めて前にキャスターが言っていた自分以外全てを倒したというその実力の一端をマシュは垣間見て、一層気を引き締める。コンマ数秒でも意識がそれたら殺されると。

 

 「甘く見るなよ嬢ちゃん。アイツぁ筋肉ではなく魔力放出でカッ飛ぶ化けもんだからよ! 腹に力入れろ。今度はもっと馬鹿みたいな一撃で吹っ飛ぶぞ!」

 

「ロケットの擬人化のようなものですか・・・了解、理解しました・・・! もう、油断はしません!」

 

 「よし・・・じゃ、俺も一暴れすっか!」

 

 そう言うと杖にルーンをいくつか刻んだ後に背中にしまい、包みを解いて中身を出す。それは三本の鉄の棒・・・ではなく連結式の槍。それぞれを固定して一本の槍にしていく。

 

 「即席だが・・・これも立派な宝具、さぁ、来いやセイバー! それと所長だっけか? 頼むぜ!」

 

 荒々しい空気を放ち、今まで見たこともないほどの勢いで駆け出してセイバーに突きを入れるキャスター。セイバーもそれに対応して魔力放出を重ねた剣でいなして弾こうとするがそれも出来ずに身体を捩って避け、メディアが放つ氷柱の山を再び魔力放出で背後に飛んで避ける。

 

 「っ・・・ああ、もう! 分かっているわよ! これでいいでしょう!!?」

 

 「あらあら、猛犬・・・狂犬になっちゃって・・・やっぱり本性は獣ねえ」

 

 キャスターは基本魔術師、錬金術などの所謂研究者と呼ばれるものが当てはめられるクラス。しかし、目の前のキャスターはそんな雰囲気はまるで無く、寧ろ槍を振るってセイバーと戦っている姿のほうが何だかしっくりと当てはまり、彼自身もイキイキしているように見えた。

 

 そんな様子にメディアは顔を少ししかめるとその後に微笑み、魔術でのサポートを開始。基本氷、竜牙兵でのアシストに力を入れ、オルガマリーは考えていた作戦を開始して魔術回路を起動させる。

 

 「・・・ほう? どういう変化だ・・・? まるでキャスターとは程遠いな。槍の入手もそうだが、動きのキレもだ。本来のランサーよりもよく見えているようだが?」

 

 一方で、アーサー王は少しの驚愕と、意外な変化を少しだけ楽しんでいた。

 

 自身の持つスキル。対魔力でキャスターの攻撃は基本軽いもので済むし、魔力放出で一気に彼我の距離を詰めて不利な近接戦で切り倒せる。それ故に基本はキャスターが二人いても他のクラスに比べればさしたる脅威でもない。だからこそあの少女に一層目を向けていたが、蓋を開ければそのキャスターが自信と互角に渡り合う、援護も含めて面倒な、やりがいのある相手になっている。自身の予想が外れた事が何故か面白く思ってしまう。

 

 更には自身の直感での動きに対応して封じていくその動き。その速さは時折此方も驚くほどで何度か魔力放出で仕切り直してはまた切り結ぶ。ということしなければならないほどに鋭く、早かった。

 

 「いつもの俺なら一騎打ちだろうがな・・・今回はちょっとずるしてんのさ。恨むなら、穴熊決めたてめぇを恨め」

 

 槍の連続突きを決めてアーサー王を抑え込むキャスター。彼自身も理解している。この規格外の化物、更には自身の今のクラスととことん相性の悪いセイバーには独力では勝てない。しかし、後ろにいる若い連中との同盟を果たすために、自身の本来の戦い方を出来るようにお膳立てしてくれた英霊に報いるためにいくつかの下準備を重ねていた。

 

 槍は華奈、メディアの協力によって廃材の鉄骨からランクD++相当の槍を作ってもらい、自身の杖には肉体強化の術式をありったけ詰め込み、槍には強化のルーンを刻む。

 

 更にはメディアに道具の下地を作ってもらい、自身が合わせて仕上げた霊薬、護符の制作、装備。

 

 仕上げにオルガマリーに協力してもらって視覚共有の魔術を互いに掛け合うようにした。本来のクラスがランサーだとしても今はキャスター。強化されようとも幾らかの齟齬は生じる上に眼の前のアーサー王はどう動いてもすぐさま対応する、最適解を叩き出す勘の良さ、頭の回転の速さがある。それを封じるためにオルガマリーの視覚を共用して「自分たちが戦っている状態を俯瞰、他者の視点で見る」ことで広い範囲から予備動作を見てそれを封じる事を考えて実行。契約を結んでいない状況での魔術師と英霊の合意の上での魔術の使用を受け入れることは成功。

 

 それ故にキャスターは自身の視点、オルガマリーの二つの視点の情報を噛み合わせてアーサー王の動きを正確に捉え、フェイントや業に翻弄されること無く立ち回れる。

 

 「そらそらそらぁ! やっぱりこっちのほうが馴染んで良い!」

 

 「マシュ! キャスターを援護して! 一気に攻め込んだほうが良い!」

 

 マシュも加わり、攻める時間よりも守る時間が増えるアーサー王。この展開になるには時間とこのメンバーの合流が必須だった。初めからアーサー王が攻め込み、キャスターを狙っていたら合流自体が危険であり、他の跋扈していた英霊との襲撃で誰かが倒れ、準備もできなかった。

 

 「メディアさん・・・令呪を持って命ずる。マシュたちの援護に全力を注いでください!」

 

 その王として本拠地にて座して待つ姿勢がこの不利を招いたとキャスターは確信している。そして、この戦も綱渡りから勝てるだろうと希望を手にしていることも感じ始めている。

 

 「ふふふ・・・面白い命令ね・・・応えましょう。マスター!」

 

 令呪による命令、それによって流れ込む膨大な魔力を惜しげなく攻撃に変換してアーサー王に叩き込むメディア。攻撃は苛烈さを増し、連携も冴え渡るばかり。キャスターの攻撃以降、防戦一方のアーサー王。なぜかマスターを狙うこと無くマシュを狙うことに意識を向けていることも追い詰められる一因であり、盾で攻撃を防がれ、槍で鎧を削られる。

 

 仕切り直そうにもメディアの魔術が行き先を阻み、移動の先を読んでキャスターが回り込み、逃さないようにマシュが盾を全面に出して視界も起動も阻む。

 

 「キャスターさん! 今です!」

 

 「おうよ! 吹っ飛べやあ!」

 

 そのパターンに入ってマシュも馴染んできたのか盾を横にして移動先を塞いでキャスターの力任せな槍の打ち上げがアーサー王の横っ腹に叩き込まれる。

 

 「ッ・・・・!」

 

 鎧の一部は砕け、地面に叩きつけられるもすぐさま姿勢を立て直すアーサー王。遊ぶつもりが予想外の連携に追い込まれ、このままではあの少女の盾の真偽を確かめられない。直感、それにあれ程の盾を使う英霊はそうはいない以上ほぼ確定しているのだが、それでもこの目で確かめていない。立ち上がった場所からもう一度距離を取り、一度息を吐いて気を落ち着けていく。

 

 「このままチマチマとやるのは面倒だ・・・まとめて消し飛ばしてやろう・・・・・」

 

 剣を下段に構え、身体から溢れ出る魔力をその聖剣一つに収束していくアーサー王。漆黒の剣はさらなる暗黒を吹き出しては収束していく。

 

 間違いなく宝具開放。戦局をひっくり返すための一手を打つ、そして、マシュの盾を確かめるために巨大な一撃を叩き込むためだ。

 

 「――卑王鉄槌。極光は反転する――光を呑め!」

 

 その魔力は余りにも膨大で、その恐ろしさは竜を見たことがなくてもその姿をはっきりと幻視するほどに鮮明で、見るだけでかつていた竜の吐く息吹を連想させる。

 

 「・・・・! 皆さん、私の後ろに! 宝具を開帳・・・・・・あの攻撃を受け止めます!」

 

 その攻撃の予想される直線上にマシュが立ちはだかり、盾を構える。わからないが、身体が動いていた。アレは逃げてもどうせ殺される、ここ全てを吹き飛ばしてなお有り余る必殺のものだと、何故か分かっていた。シンプルで、とても強力な一撃を放つものなんだと。

 

 「待ちなさい! マシュ!! アレを受け止める!!? 無茶よ! そんな事を無駄死に・・・相手はあのアーサー王、その聖剣のエクスカリバーよ! 勝てる道理が・・・」

 

 「所長! マシュを・・・信じましょう。多分、マシュが、その英霊の・・・本能で分かっているんだと思うんです。受け止めないと全滅なんだと・・・」

 

 「っ・・・あぁぁあぁぁぁぁあぁあぁぁああ!!!! もう・・・分かったわよ! マシュ、勝ちなさいよ! これは命令よ!」

 

 藤丸も、短い付き合いながらにマシュのやろうとしている行動を汲み、彼女の後ろに立って下がらない。マスターと、自分を先輩と呼び慕っている女の子の行動に付き合うことを選び、オルガマリーは危険度を知りながらも初めて宝具を開帳した時のあの輝きに賭けるしか手段はないとやけっぱちながらに選んで行動をともにすることにした。

 

 そうこうしているうちにアーサー王の準備は整い

 

 「約束されたー――――勝利の剣――――!!!(エクスカリバー・モルガン)

 

 悍ましき漆黒の極光の津波が放たれる。すべてのものを飲み込み、破壊する邪竜の息吹を思わせる光の津波。歯向かうものすべてを食らい付くして壊し尽くす鉄槌はマシュ達に向かって一直線に襲い来る。

 

 「仮想宝具・疑似展開/人理の礎――――!!!(ロード・カルデアス)

 

 それを防がんと築かれる光の防陣。この破滅の光を、すべてを黒で埋め尽くす闇を一寸たりとも通さないと盾の、防陣の輝きは増していき、光と光の衝突が起こる。

 

 絶え間なく打ち付けられる暴威の奔流に押し流されないように歯を食いしばり、身体を押し付けるようにして踏ん張るマシュ。マグマの洪水が押し寄せてくるような勢いに足の筋肉は悲鳴を上げ、盾を支える手は震えが大きくなりはじめる。それは盾の支えが不安定になることと同じで震えが大きくなり、展開される光の防陣も震え、ヒビが入り始めていく。

 

 「マシュ・・・」

 

 その辛さを、苦しさを少しでも和らげたい、肩代わりしたい一心で藤丸はマシュの盾に手を伸ばして取っ手を掴む。

 

 「・・・・・!! 藤丸くん! 令呪で命じるんだ! 僕のように令呪で命じれば英霊の後押しになる!」

 

 「!・・・えっと・・令呪を持って命ずる・・・マシュ、一緒に皆をこの攻撃から守りきろう!」

 

 元からのアドバイスを貰い、とっさながらに令呪を使ってマシュへの応援になるようにと念じながらの使用。手の甲にある令呪が輝き、一角消えたかと思った次の瞬間、マシュの手の震えは止まり、ヒビの入っていた防陣は修繕されて元の美しい輝き、それ以上の輝きを放つ。

 

 「了解です・・・先輩・・・必ず、やり遂げます・・・やぁああぁああああ!!!」

 

 これだけの期待をされ、震えるほどの恐怖を乗り切ってそばに居てくれる人。信じて後押ししてくれる人。令呪によるバックアップだけではない。信じてくれる。それがマシュの心に発破をかけ、今までの消耗を吹き飛ばして盾を握る力を一層込めていく。

 

 「・・・消えろ」

 

 その足掻きを終わらそうと更に暴威を振るう黒の極光。防ぎ切ると輝きを取り戻して更に増す光の壁。衝突はいつまでも続くかと思われたが

 

 「消えるもんか! 令呪を持って命ずる! キャスター、セイバーの後ろに移動して! 続けて命じる! 思いっきりの一撃を放ってくれ!!」

 

 「ああ、これだけ受け止めりゃすげえ守りだって知るには十分だろう? 騎士王。もう終わりにしようぜ!」

 

 「なっ・・・!?」

 

 藤丸の令呪のさらなる使用によって極光を浴びること無く瞬間移動したキャスター。二角の令呪の使用によるバックアップで充実した魔力を使い、此方も宝具を開放する。

 

 「本日一番のものを喰らいなあ・・・! 焼き尽くせ木々の巨人『灼き尽くす炎の檻』(ウィッカーマン)!!!」

 

 前の発動よりもよりも焔の勢いを増し、巨大さを増した巨人がアーサー王の後ろに出現。マシュの宝具を打ち崩そうと意識が向いていたことに加えて凡庸なマスターとしか考えていなかった少年の機転はその直感を上回り、剣先を変えようとする頃には巨人の腕に掴まれてしまい、胸の檻の中に放り込まれる。

 

 「きゃっ・・・!」

 

 「わぁっ!」

 

 それによってマシュたちへの極光は消え、踏ん張っていたマシュは押し返すものがなくなったせいかつんのめるように前に倒れ込み、一緒に盾を握っていた藤丸も転んでしまう。

 

 そこから顔を上げれば業火を身にまといながら騎士王を焼いていく木で編まれた巨人。特訓の時の比ではない火力を放つその巨人にあの騎士王は倒されたのかと思った藤丸。一瞬の戦況の変化、自身が死にかけたその巨人との再びの対峙に此方への敵意はないと分かっていても思わず硬直するマシュ。

 

 「・・・・っくふ・・・メディアさん・・・令呪を持って命ずる・・・ウィッカーマンごと、アーサー王を拘束出来る魔術を用意してください・・・・・!」

 

 一方でもはや地獄でもそう見ることはないであろう激しい炎に包まれている木で編まれた巨人。その中に放り込まれて尚安心を、いや、念を入れるべきだろうと考える元は身体に鞭打ち、さらなる令呪の使用による拘束。

 

 下手な攻撃ではあのウィッカーマンの火力を下回る可能性が高く、寧ろ壊してアーサー王が脱出する可能性を生みかねない。ならそのまま拘束してそのまま倒す事を選ぶ元。

 

 その判断、メディアの行動で魔法陣が完成しようとする前に・・・

 

 「あっ・・・あぁあああ!!!!」

 

 「なっ・・・・!」

 

 「ウソ!!?」

 

 ウィッカーマンを切り裂き、アーサー王が脱出する。肌はただれ、焼け焦げ、鎧もあらゆる部分が溶けて無残な姿。傍目から見ても死んでいないのがおかしいほどの火傷、ダメージを追って尚気勢を上げ、魔力放出で魔法陣から脱出してマシュに斬りかからんとする。大聖杯を守ろうとする考えと、マシュを試す考え、敵を排除する考え全てを抱えたアーサー王の一撃は硬直していたマシュの喉元まで剣先が伸びー――――

 

 「蹴鞠」

 

 届かなかった。突如洞窟の奥から飛んできた刀がアーサー王の肩を貫いて姿勢を崩し、刃をマシュから遠ざける。その光景に呆気にとられるもすぐさまマシュも立ち上がって盾を取り、思い切りアーサー王の心臓めがけて叩き込む。

 

 「はぁあああ!」

 

 「ぐっ・・・・ほ・・・・!」

 

 胸に一撃を叩き込まれてたたらを踏み、その先に完成したメディアの魔法陣による拘束。もうこれ以上は体を動かすことも叶わず、完全な八方塞がり。

 

 「これで・・・終わりです! アーサー王!!!」

 

 トドメの一撃にマシュが放つシールドバッシュをモロに喰らい、騎士王・・・アーサー王は膝をついた。

 

 「・・・・・・・・・・・・フ。最初から聖杯を守り通す気で・・・いや、最初からもっと積極的に動かなかったのが敗因か・・・変に考え、傾いた挙げ句の敗北・・・油断と言うべきなのだろうな・・・」

 

 その目に既に戦意はなく、気配が希薄になっていくことから一同は感じていた。もう死ぬ寸前、消失する前なのだと。

 

 「結局・・・どう運命が変わろうとも・・・私一人では同じ結末ということか・・・」

 

 「あ? どういう意味だそりゃあ。テメェ。何を知っていやがる?」

 

 小さくなっていく、絶え絶えな声の中に混じっていた単語に反応するキャスター。聖杯を何から守っていたのか、そうだとして、なにに備え、待っていたのか。未だ不明な点は多く、未知が多い。それを知っているのなら今すぐにでも欲しい。情報を聞き出そうとするが

 

 「いずれ貴方も知る・・・アイルランドの光の御子よ・・・グランド・・・オーダー・・・聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりだという事をな・・・おい・・・娘・・・いや、マシュ・・・だったか・・・?」

 

 「は、はい・・・」

 

 いよいよ消滅、座への退去が始まろうとする最中、マシュへ声を掛けるアーサー王。マシュがそれに応えると鎧の一部を無理矢理に引き剥がしてマシュへと投げ渡す。

 

 「その盾、見事だった・・・・受け取れ・・・王からの・・・・褒美というやつだ・・・この・・・刀の主にでも相談するが良い・・・さ・・・」

 

 それを言い切ると消滅。完全に反応が消え去り、刺さっていた刀が地面へと転がり、マシュの手には黒い鎧の欠片が残るのみ。

 

 「おい、コラ! 言いたいことだけ言いやがって! それはー――おぉおお!? やっべえ! ここで強制帰還かよ!? ああ、クソ! 納得いかねえがしょうがねえ! 坊主! 良い采配だった! 後は任せたぜ! それと所長さん、サポートありがとよ! 後は・・・あの姉ちゃんに次はランサーで喚んでくれと伝えてくれ!」

 

 取り敢えず言いたいことを言い切って笑顔で消えていくキャスター。最後まで爽やかで頼れる兄貴分としていてくれた頼もしい英霊の退去を見届けた一同。

 

 「ふぅ・・・いやぁ、疲れましたね・・・皆様、無事に勝ったようですね。お疲れ様です」

 

 「うっへえ、こりゃあすげえ荒れようだね。中で怪人でも暴れたのか?」

 

 そこに合流した五体満足、怪我も特にない二人の声を聞いて、外のアーチャーも倒し、無事であったことに藤丸達は喜びの声を上げた。




取りあえずはアーサー王撃破。深夜テンションでかいたので正直不安だらけです。でも、無事に出せてよかったです。

ぶっちゃけ、アルトリアの強さはシンプルで厄介だと思います。そして、キャスニキはキャスターらしい前準備でランサーとして暴れる。なんかズレているような?

華奈が槍の宝具を用意できたのは一度目の人生での鍛冶師の経験、そしてブリテンでも鍛冶をして武器を作っていた話から出しました。

原作でも兄貴、必要なら手段を選ばない仕事人な部分もあるのでこれくらいは大丈夫かなーと。

次回は・・・所長の運命やいかに?

最後にUA 53917件 しおり 147件 お気に入り 411件 有難うございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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隠れキャラスリー地蔵

~セイバー討伐前 洞窟移動中~

華奈「ん~・・・やっぱり、これくらいですかね・・・・・・」

ストーム1「そこまで気にしなくていいんじゃないの? 美人は何に食っても美人なんだからよ」

華奈「いえいえ、褒めてくれるのは嬉しいですけど・・・維持のための努力も必要というか・・・・それに北欧のレーション、しかもチョコ味はさすが一気に食べる勇気がないと言いますか・・・・・」

良馬『華奈さん、ストーム1さん。戦闘が始まりました。救援は・・・』

華奈「今は待ちます。あの方たちなら問題ないはずですから。それと、そちらへの質問をしたいのですが・・・いいですか?」

良馬『・・・・・・はい、大丈夫です』

華奈「元様、所長様だけでもいいので合図があればすぐさまレイシフトできる準備をしてください。私は最後で構いません。出来ますか?」

良馬『了解しました。藤丸君達はその分頼みましたよ?』

華奈「相わかりました。では、またあとで」

良馬『はい。どうかご武運を』

ストーム1「さて・・・お前さんの言う黒幕・・・どう動くかねえ?」

華奈「さぁ? 何にせよ、私達は迷子にならないようにここを歩いて合流するだけですよ」



 狂った聖杯戦争はマシュたちの奮戦で無事にセイバー、アルトリア・ペンドラゴンを倒すことで終幕を迎え、協力者であるキャスターも消滅。カルデアのメンバーも無事に皆が合流して後は聖杯を手にして戻るだけとなる。

 

 『皆おつかれ! 後はもう帰るだけだよ。レイシフトの準備も整い始めているからもう少しだけ待ってね』

 

 「ふぅ。では、所長様、元様ですね。優先としては。取り敢えずそのための準備を・・・」

 

 今にも気絶しそうな元を横に寝かせてレイシフトのための準備を進めていく華奈、ロマニ、良馬。それを尻目に聖杯を見つめながら上の空のオルガマリ-。いの一番に帰還となれば飛びつきそうな人物のまさかの反応に藤丸は不思議に思って声を掛ける。

 

 「・・・グランドオーダー・・・あのサーヴァントが何故その単語を・・・・・これで終わりじゃないの・・?」

 

 「あの、所長。帰還の準備ができているそうです。これで切り上げる方向でいいですか?」

 

 腕を組み、眉間にシワを寄せながら考え込むオルガマリーに声をかければビクンと体を震わせて驚き、我に返ったのか周辺を見回して状況を整理、理解していく。

 

 「!? えっあ、何? な・・あ、ああはい。皆お疲れ様。不明な点もありますがこれでファーストーオーダーは終了。元ももう負担が大変みたいだし、急いで帰還。その前に聖杯を回収。帰還後はカルデアの立て直しを・・・」

 

 「聖杯は私が預かりましょう。さっさと行かないと藤丸様も魔力をマシュ様に流した、ラインを繋いだことの影響も念入りにチェックしないといけませんし・・・」

 

 取り敢えず思考を一度打ち切り、帰還、この狂った特異点の元凶であろう聖杯の回収。そして何よりも自分の帰る場所の立て直しに思考を回し始めたその時、声が響く。

 

 「いや、まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」

 

 よく通る声と共にいつからそこにいたのか、緑のスリーピースを身にまとい、同じ色のシルクハットを被る。独特なくせっ毛と穏やかな笑みが特徴の男性。

 

 魔術師にしてカルデアの顧問。オルガマリーの右腕たる存在。

 

 「レフ教授!?」

 

 レフ・ライノールその人であった。何時も通りの笑みを浮かべてマシュたちの前に数歩歩いた後に立ち止まり、此方を一瞥する。

 

 『レフ!? レフ教授だって!!? 彼がそこにいるのか!?』

 

 「うん? その声はロマニ君かな? キミも生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと行ったのに指示を聞かずに・・・全く、どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで吐き気がおさまらないな」

 

 ロマにも思わず声を上げて呼びかけるも耳を疑うような発言を放ち、まるで此方を同じ人間とみなしていないように見ている。まるでゴミ、虫以下の何かを見るように。

 

 「――! マスター、下がって・・・下がってください! あの人は危険です・・・あれは、私達の知っているレフ教授ではありません!」

 

 『・・・おかしい・・・ログに反応が一切ない。それに、カルデアのレイシフト適性があるのならすぐさま反応が来るはず・・・なのに今さっきまで反応しなかったぞ・・・?』

 

 「ふぅ・・・まあ、ロマニ様のサボりぐせはともかく、酷い言いようですね。レフ」

 

 その視線、視線をぶつけるレフに警戒するマシュ、華奈ら英霊。レイシフトしていることを確認しようとログをあさり始める良馬。明らかなイレギュラー、顧問である存在が今までの探索に一切助力をしない、この街に投げ飛ばされて救助を求めず、反応が分からなかったこと。疑問と警戒が渦巻く中、一人レフに一切の警戒をしていない人物がいた。

 

 「レフ・・・・・ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ! 良かった、貴方がいなくなったら私、この先どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」

 

 まるではぐれた親と再会した子供のように目を輝かせてレフに近寄ろうとするオルガマリー。

 

 「所長・・・・・! いけません、その男は・・・!」

 

 「ええ、行ってはいけませんよ。あれはもう人ではない」

 

 それ以上は駄目だと肩を掴む華奈、オルガマリーとレフの間に入って盾を構えるマシュ。その行動に納得がいかないと不思議がるオルガマリー。彼ほど頼れる男に何を警戒しているのだろうと、邪魔するなと視線をぶつけながら肩を掴んでいる手を振り払おうとする。

 

 「やれやれ・・・二人はもう気がついているのに全く馬鹿な女だ・・・いや、サーヴァントの感覚と喚くだけが取り柄の女と比べては駄目だな・・・私が「人ではない」事に気がつくとは。まあそれはいい。ちょうどいい機会だ。華奈君・・・いや、銀狼騎士カナ・フナサカと呼べばいいか? 教えてくれ。なぜ私の計画を知っていた? あれ程の爆弾の数々を察知し、内部からの害意に備えようと提言するとはね。あしらって遠ざけるのに苦労したよ」

 

 「・・・・・・・・え? ・・・れ、レフ? あ、それっ・・どういう・・・」

 

 爆弾、計画、そして信頼していた男の発言に理解が出来ず硬直するオルガマリー。それに意を介さず、殺気も侮蔑の意識も隠すこと無く放ち始めるレフに皆が警戒を引き上げる。

 

 その反対にストーム1はガムを噛み、華奈も緊張の色もなく構えていたが、オルガマリーを庇うように前に出て、マシュの前にも立つとゆっくりと口を開く。

 

 「ん~・・・そうですね、強いて言うなら親切すぎたんですよ貴方は。私の生涯は基本戦場と畑でしたし、知り合いの魔術を使うものは皆私に心開いていたり、変態女好きのどっちかで魔術師という人種をあまり深く理解できない部分もありました。けど、私は備品課、ついでにお金稼ぎの事で現代の魔術師、魔術使いと関わり、交渉し、殺すこともありました。そうやって関わっていった感想は『貴方は異常』だったんですよ」

 

 其の感性は自身の知らない人種、考え方、理念や倫理観を抱えた集団、理解するのには時間がかかった。それでも銀嶺時代にスカウトで部隊を作り、長年の経験で感じて、咀嚼して理解しようとするうちに違和感、異常さは浮き彫りになる。

 

 「魔術師というのはそこらの人間よりも多くの秘密や隠し事を持ちます。今までにあってきた魔術師の多く、私も何度か足を運んだ時計塔でも隣の部屋の人間が何をしているのかわからない。それが高位、実力者であればひた隠し、万が一のための備えを怠らない。けど、貴方はそれをしなかったでしょう? 自身の教えをすべて教えた。それも自分の家系、後継者でもない人間にすら関係なく「カルデアのため」といえばあっさりと教えた」

 

 鍛冶師でも自分の技術は門外不出。魔術の世界でもそれは同じであり、より重いもの。更にはレフほどの技師であれば駆け引き、万が一の備え、引き出しがあってしかるべき。それがまるで見当たらずにひたすらにカルデアに貢献する。不気味なほどに。

 

 「それは不気味なんですよ。カルデアみたいに科学と魔術が融合できた凄まじい技術は隠したい部分、機密も多いはずなのに貴方はそれを隠したりする部分もなく過ごしていた。それって、教えた後でもどうとでも出来る。どのみち使うことがないから教えた。って考えに至りました」

 

 「なんだそれは・・・つまりは、私が善人のフリをしていたからこそ分かったと・・・?」

 

 驚愕の表情を浮かべ、視線を鋭くして殺意を増すレフ。完璧なはずの計画の齟齬、その前の段階から疑われていたことへのいらだちを微塵も隠さずにぶつけていく。

 

 「そのくせ足を外に運べば裏社会にも足を運ぶ、大切な技術の結晶を守る気概も何処か抜けていた、私の内部への備えも却下していましたしね。ズレすぎてたんですよ。で、念の為と探りを入れたら爆弾がゴロゴロ。それをオルガマリー様に言ってもその時点では私は遠ざけられて何を言っても信じてもらえない状況。もしカルデアの支部に飛ばされて被害を減らせない、仕方ないので陰ながら解除。という感じです」

 

 「小さな違和感からそこまで動いて計画にも気づいていた・・・っはははははは・・・! はっははははっはは!!!」

 

 突然大声を出して笑い始めるレフ。声がそこらじゅうで反響しては響き、暫くの間満たされた後に突如止まり、殺意の籠もった視線をぶつける。

 

 「・・・・・・マリーを殺して、腑抜けた馬鹿がここで悶え死ぬさまを眺めようとしたことも出来ず、カルデアのゴミも完全に殺せなかった・・・! 不愉快で仕方がない!!」

 

 「・・・な、何を言っているの! レフ、ねえ・・・私達を殺すつもりだったの・・・? あんなに優しく、教えて、支えてくれたじゃない・・・・・・貴方も疲れて、混乱しているのよ・・・ねえ、レフ、そうでしょう? あんなにカルデに貢献してくれた貴方が・・・何で私を・・・」

 

 フラフラとよろけながらすがりつこうとするオルガマリーを視線で退けて見下す。いつもの優しい紳士の仮面を捨てたその目は怒りと侮蔑、同じ人間を見るものではなく、心底下らぬ者といった感情が籠もっていた。それを見たオルガマリーは小さく喉を鳴らし、その場にへたり込む。

 

 「全く・・・最後まで不愉快でどうしようもない・・・まあ、思わぬ余興が出来たことは最後の価値ということか。死んでも尚魂が残っているというのはゴミなりの執念なのかそれとも・・・・・」

 

 「は、ええ・・・な、どういう意味よ・・・私が、死んでいる・・・・・?」

 

 「そうだろう? そこで気絶している元、華奈はレイシフトへの適性があった。だからこそここに来れたが、君はその適性がない。だが、適性がないのは肉体であってそれがない状態の魂であればレイシフトに巻き込まれてここに来れるのも不可能ではない。私は爆弾を君の足元にも設置していてね。肉体は完全に吹き飛んだだろう。カルデアに戻ればその魂を受け入れる受け皿もない。ここで消滅するか、カルデアに帰還して完全に死ぬだけだろう」 

 

 「・・・・・ぁあ・・・・あぁあ・・・・・」

 

 先程よりも顔は青ざめ、完全にうなだれて絶望するオルガマリー。それを見て悪魔のような表情。悦に入ったものを出してほくそ笑むレフ。

 

 「ここで君を殺すのは簡単だが面白くないさて・・・どうしたものかな・・・」

 

 「では、どんでん返しはどうでしょうか?」

 

 そうつぶやいた華奈は髪をいじっていた指を鳴らした。それがスイッチとなりそこら中に仕掛けてあった箱が姿を表して形を変え、数本の足、その頂点に銃の取り付けてある固定兵器。タレットガンが火を噴く。

 

 銃弾、レーザーの雨あられはもれなくレフを貫き、穴だらけにしては身体の生命機能を奪い、壊していく。

 

 「かっ・・・! なぁあああ!! きっさ・・・」

 

 「だまりなさい。意地悪なおじさんはここで退場です」

 

 攻撃を仕掛けた華奈に穴だらけの身体でありながらも何らかの攻撃を行使しようとするよりも早く華奈の陽炎が心臓を貫き、念には念をとAF99で仕掛けておいたワイヤーを切り、石造りの地蔵がレフの頭上に落下。頭を潰す。大きく体が跳ねた後に完全にレフの動きは止まった。

 

 「ふぅ・・・メディア様。結界を」

 

 「はいはい・・・ああもう、面倒な雇い主に雇われたものだわ・・・」

 

 言うが早いか即座にメディアも結界を作って陽炎を刺しっぱなし、蜂の巣状態で息絶えたレフを封印。あらゆる動きを封じるものをかけていく。

 

 「おーい皆ドッキリに驚くのはいいがサプライズパーティーはこれでおしまいだ。帰る準備をしようぜ。二次会、打ち上げは自宅でもいいだろ? 無茶なパーティーの参加で疲れた人もいるだろうしよ」

 

 『え!? いやいやいやいや何を・・・ってそうだ元! 元君だけは緊急でレイシフト! 今すぐだ!』

 

 ストーム1の言葉で突然の出来事に我に返ったロマニはすぐさまコンソールを叩いてレイシフトを起動。適性が低いながらに無理やりレイシフトした元、その契約した英霊のメディアを霊子変換。カルデアに帰還させる。

 

 「ねぇ・・・華奈・・・」

 

 まだまだ修復は万全ではない、応急処置故に元、メディア以外の面々がまだ残る中、オルガマリーが幽鬼を思わせるような動きでふらりと立ち上がり、華奈の方に近寄る。その表情はあらゆる希望も、望みも絶たれ、打ちひしがれたもの。その顔色は先程戦ったアーサー王よりも白く、生き物と思えないほどだった。

 

 それも仕方ない。若い頃から誰も信じることが出来ず、権力、利権争いに巻き込まれ、先代の残した自身の一族の全てとも言える施設は唯一信頼できた協力者に踏みにじられ、殺されて後はこの特異点で死ぬか、カルデアで魂が消えるのを待つのみ。

 

 「お願い・・・助けて・・・・・・今までの行いも、発言からしても筋違いなのは分かっているの・・・けど、漸く、漸く認められたの・・・! 貴方に! ストーム1に! カルデアのトップにふさわしいって、いい子だって褒めてもらえたの! 嬉しかった! こんな地獄でも助かって、特異点を解決できた・・・希望があるって分かったの!」

 

 一気に感情のダムが壊れ、涙ながらに華奈に抱きつく。孤独ながら寂しさに負けず、なんとか進んだ先での裏切りによる死。その死んだ先ですら魂は地獄に放り込まれ、自覚すら無かった。けれどマシュ達に助けられ、華奈達に救われ、そのふるまいを褒められた。英霊とも一緒に戦い、勝利できた。

 

 認めてくれる、評価してくれる人がいる。そんな希望、自分の価値が独りよがりではないものと理解できた。だからこそ、進みたい。たとえ死んでいようとも、それでも生きていたい。矛盾なのは百も承知。けれど、それでもと感情を強くぶつける。

 

 「やりたいことが出来たの! やらなくちゃいけないことが自覚できたの! 自分なりに頑張ろうと思えたの・・・! だから、だから・・・お願い・・・助けてよ・・・助けてよぉ・・・・・・・・・」

 

 「何だ、そんなことですか。それならもう所長様・・・いえ、オルガマリー様が既に自分で勝ち取っているではないですか。その願いくらいなら確率100%の最高の手段が」

 

 そう言って指差すのは先程までアーサー王の持っていた、守っていた聖杯。あらゆる願いの過程をすっ飛ばして叶える魔法の産物。誰も願いを願っていない、魔力のリソース満タン状態で残ったもの。

 

 これを手にするためにオルガマリー自身もキャスターとの魔術を使った連携で戦い、レフの手に渡る事無くそのまま。本人は気づいていなかつた生き返るための手段をオルガマリーは自分の手で掴んでいたのだ。

 

 「聖杯よ。私の手に。そして、この明日を願い、生きようと願う彼女の想いに全て応えなさい!」

 

 それを手元に引き寄せるとそのままオルガマリーの身体に叩きつける。魂だけの状態オルガマリーの中に入った聖杯はまばゆい黄金の輝きを放ち、体全体を包み込んでいく。

 

 「おっと、おまけです。オルガマリー様。カルデアに帰還することも願ってください。そうじゃないと結局レイシフトが出来ないままここに残っちゃうかも」

 

 「うぇえ!!? あぁ、ああ! わわあわわわわわ分かったわ! 聖杯よ。そのまま私の帰る場所、カルデアに空間をつないで帰還させて!」

 

 忘れていた懸念事項も付け加えて聖杯に実行させ、オルガマリーは光りに包まれたまま何処かに消え去る。その神秘的な光景、本当に助かったのかと思案するしばしの静寂の後

 

 『ファッ!!? 所長が、所長が帰ってきた!! 生きている! いき『わ、私・・・本当に・・・・あの地獄から・・・へ、う、ウソ・・・・じゃないのよね・・・・・』やったああああ! 生きていた!『本当かよこれは!』『ひゃぁあ! すっげえな聖杯は!!!』』

 

 カルデアサイドから鳴り響くけたたましいロマニ、オペレーターたちの声、そしていつの間にやら切り替わった画面にはコフィンの前でへたりこんで辺りをしきりに見渡すオルガマリーの姿が写り込んでいた。

 

 「所長!」

 

 「本当に蘇ったんだ!」

 

 それに喜びの声を上げるマシュ、藤丸たちの分のレイシフトの準備もできたようで喜びの声を上げる間に転移し、再び画面に写り込んでくる。

 

 「ふぅ。これにて一件落着。とはいっても私は何もしていませんけどね」

 

 「そうだなあ。あそこに所長さんが帰れたのも必死に自分なりにここを生き抜いて、キャスターの兄ちゃん、皆にどうにかこうにか連携して生きることを願ったお陰だ。じゃなきゃ聖杯もああもすげえ輝きはしないだろうよ」

 

 先にカルデアに戻っている面々の無事を確認して微笑んだ後、蜂の巣にされ、陽炎で心臓を刺されて華奈の仕掛けた手作り地蔵に頭を潰されて、トドメにメディアの封印術式をかけられたレフの骸を華奈とストーム1は拾っていたバッグにしまい込む。

 

 「さて、ここからですね。忙しくなりますよ。ストーム」

 

 「なあに、忙しいのは慣れっこさ。何せ俺ぁ戦場の何でも屋だったからな」

 

 「違いないですね。これからそれを発揮してもらいますからね?」

 

 苦笑を浮かべながら互いに残していたレーションをかじって軽口を飛ばしていると二人の体も光りに包まれる。どうやらレイシフトの準備が整ったようだ。それに特に抗うこともなく目を閉じて身を委ね、独特の雰囲気を味わって数瞬。

 

 目を開けるといくらかの損傷はまだ目立つが応急処置のお陰でどうにか設備と機能は果たせるであろうレイシフト装置のある広間。そこに先に到着していたマシュ、藤丸、オルガマリーの姿があった。




華奈「ん~一応は大丈夫そうですね・・・」

ストーム1「しっかし・・・さすがにこのままってのはなあ・・・」

オルガマリー「華奈! ストーム1! 無事だったのね! 良かった・・・!」

マシュ「お二人も! これで全員生還ですね! 元さんは先に緊急治療を受けているそうでメディアさんはその手伝い、命に別状はないそうですが、極度の疲労があるそうですので、起きるのは数日あとになるかもだそうです」

華奈「それは重畳。取り敢えずあの方には一つ頼みたいことがあるのですが、話は後日になりそうですね」

オルガマリー「・・・・ありがとう、華奈・・・私を助けてくれて・・・認めてくれて・・・本当に・・・って・・・あれ? そのバッグは一体・・・」

ストーム1「あ、やべっ・・・」(死体の一部がぽろり)

オルガマリー「いやぁああああああ!!!! レフが、死体が! や、私また死にたくない! 死にたくない!!!!いやぁああああああぁあぁぁ!!!・・・・・・・」(気絶)

華奈「・・・・・取り敢えず、オルガマリー様を医務室に運ぶこともしましょうか」

藤丸「・・・・ZZZZZZ・・・・・」(到着してすぐに爆睡)




また深夜通しで書いたので出来が悪い意味で怖い・・・・・・!


取り敢えず所長は無事? 生還。ぶっちゃけると魂自体はあるので肉体の復元(ホムンクルス技術なら現代の魔術師でも可能)とその肉体と魂の定着。さらにはカルデアへの帰還なので聖杯のリソースは余っていそうですよね。ロマニが所長のことで最後まで慌てなかったのは華奈が落ち着いていたからです。

藤丸くんは魔術師でもない一般人だったのに爆破テロに巻き込まれ、気がついたらいきなりの死地にぶち込まれて、連戦、魔術回路も半ば強引に起動させての慣れないことだらけだったんでカルデアに帰れたと思ったら緊張の糸が爆破解体されて即ダウン。

普通に考えるだけでも精神壊れないのが凄まじい。どういう精神力なのやら。

レフへのトドメの地蔵はボーボボから。知っている方はどれほどいるのやら。タイトルも分かるでしょうかね?

次回はカルデアに戻った一行の行動、華奈も自重をなくしていきます。

最後にUA 55701件 しおり 155件 お気に入り 418件 応援ありがとうございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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灰かぶりマリー

銀嶺騎士団はやる夫スレばりにカオスな面々です。


 無事にカルデアに生還できたカルデアメンバーを待っていたのは生き残ったカルデア職員からの称賛だった。

 

 素人で魔術の魔の字も知らなかったような藤丸がマシュ、キャスターの二騎を率いて戦い抜き、訓練もレクチャーもなしに見事な指示でアーサー王を倒す一手を放つ。

 

 逆上がりすら出来なかった運動音痴のマシュが英霊として勇敢に戦い抜き、あのアーサー王にすらも毅然と立ち向かってエクスカリバーすらも受け止めて切ってみせる。

 

 英霊の扱い方が非効率、レイシフト適正の低さから冷や飯を食わされていた元は的確な指示で皆の支えとなり無茶なレイシフトで消耗した身体でありながら気絶するまで助け続けた。

 

 オルガマリーもまだ右も左もわからずに一人で地獄に放り投げられ、混乱しつつも所長として振る舞うことを忘れず、最後はキャスターの補助で自身も戦い、失った肉体を取り戻して生還を果たす。

 

 華奈は英霊としての正体、銃も刀も自由に扱い、皆の支えをして最後には爆破テロの元凶を打ち取り、所長が生還するための手段を教えてレイシフトした一行を無事にカルデアに帰還させる。

 

 混乱の中で始まった偵察から一気に特異点を攻略。しかもその探索も満足なサポートが受けられない状況でありながら誰ひとり死ぬことがないという快挙。

 

 そしてこれらを助けた英霊というかつて世界で暴れた英雄たちの超越した力。これを使い魔と見下して行使しようと考えていた面々は肝を冷やすと同時に考えを改め、素直にその力の危険さ、彼らもまた一人の人間だと考えるようになった。

 

 何せ、生きた英霊が十年もカルデアにいてふざけた財政手腕を振るう。しかも本来は武官であるはずの人間がだ。武力以外の経験もないわけではないことを思い知る。

 

 クラスに関する認識もセイバーに比べたら貧弱と思っていたキャスター、アサシンもその恐ろしさ、強さを見たことで認識不足を痛感したのだろう。

 

 そんな意識の変革のきっかけ、このカルデアに降り掛かった災厄を払い除けたメンバーは・・・

 

 「ZZZ・・・・・・・・」

 

 「所長! しっかりしてくださーい! 所長ー!」

 

 「ストーム、どうしますこれ?」

 

 「大丈夫だろこれくらい。お嬢ちゃんは少し仮眠をとっただけだ」

 

 「・・・・・・・・・」

 

 気絶、爆睡、医療必死の患者、この状況に慌てふためく、死体ぶら下げてこの状況に少し麻痺とグダグダな様子だった。

 

 「お帰り皆! まさか一回の調査でここまでするなんて・・・? あれ・・・? あの、大丈夫かい・・・・? ああ、所長が泡吹いている!? な、何を見たって・・・!うぁわああああ! 人の腕だあ!!!!」

 

 そのメンバーを労い、メディカルチェックと休憩を言い渡そうとしに来たロマニはその光景に驚き、更に華奈が持ち帰っていたレフの死体を見て更に驚くことに。

 

 「あ~・・・・・・・もう。取り敢えず気絶、就寝しているオルガマリー様、藤丸様はメディカルチェック、休憩のために医務室に。マシュ様も同行して休息と待機を。で、ロマン様はその処置を。後で話がありますのでダ・ヴィンチ様も呼ぶように」

 

 取りあえずは称賛を受けるよりも労いと休息をという指示を頭をかきながら伝える華奈。疲れが溜まっているのは事実。それに今は何よりも重要な懸念を伝えなかればいけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ・・・これで大丈夫だ。うん、取り敢えず皆異常がない。元君も極度の疲労だけだし、数日で目を覚ます。これは大丈夫・・・で、早速なんだけど・・・」

 

 「カルデアをめちゃくちゃにした黒幕をああも愉快な方法で倒したのはいいけどさ―、まさかその死体を持ってくるなんて思わなかった。って所かい? 私も同感だ。ネクロフィリアでもないだろう?」

 

 戻ってきた面々の医療チェックを済まし、人払いを済ませたところでロマニ、ダ・ヴィンチを医務室の一角に呼びつけ、更には万が一に備えた霊薬をこしらえたメディア、ストーム1も加えての密会。敵の死体を持ち帰ってくるといういきなりの行動、それに怪訝な顔を浮かべるロマニ、ダ・ヴィンチの両名だがそれを意にも止めずに持ってきたレフの死体を手術用のベッドに寝かせる。

 

 「メディア様・・・ストーム」

 

 「この部屋にも何重にも結界は貼っているわ。それに貴女の刀が封じている。魂も術式もないからもうそれはただの肉塊よ。断言する」

 

 「何時でも暴れられる。ま、どーんと構えてな」

 

 頼もしい二人の声を貰い、包みを外してレフの死体を明かりのもとに晒す。それを見たロマニたちは思わず息を呑む。

 

 人の形はしている。だが、ところどころ出ている人の体の一部とは思えないパーツ。それに封印、魂や魔術の行使も完全に塞がれて後から罠も仕掛けられない、仕込んでいた魔術の痕跡もない。もうただの肉塊なのはロマニ、ダ・ヴィンチも確信できるが、その回路、魔力の痕跡から理解できる。これは人のものではない。別の、そう・・・魔神、悪魔。そうとしか形容できないものだと。

 

 「・・・・・・・・・これは、思った以上に強烈なニュースだ。何だい? レフは悪魔だったってことか? 傑作・・・じゃないな・・・興味深いネタだが、これを相手にするというのはいささか危険すぎる」

 

 「いや、あり得ない・・・・・・なんでこんな・・・こんな・・・・嘘だろう・・?」

 

 平静を装うとするが冷や汗を流すダ・ヴィンチ。そして、相手の正体に行き着いたのか頭を抱えてぶつぶつと何かを呟くロマニ。両者の様子が一段落するまで待ち、華奈は口を開く。

 

 「どんなに酷い真実であろうがこれが現実。私がこれを持ってきたのは一つは相手を知るため。そして、もう一つはこれを調べてほしいからです。データを取り、調べ尽くしす。技術者であり、現在のカルデアでは最高ランクの技術者であり責任者のお二人だからこそのお願いです。いいですか? 恐らくですが、これをやらねば私達はこの先も勝てない。勝っても最後で躓くと思っています」

 

 悪魔、魔神だったことはまだいい。ただ、この調査が勝ちをつなぐものになる。それはここにいるかなを除いた全員が理解できなかった。油断をしていたとは言え、華奈、ストーム1の準備であったさりと倒された相手。それを何故くまなく調べることが? といった考えが頭に浮かぶ。

 

 しばらくの静寂の後にその意見に対する答えを見つけ出したメディア、ダ・ヴィンチが聞く。

 

 「レフと同じような輩がまだいるといいたいのかい? 華奈は」

 

 「この悪魔が使い魔、もしくは量産されているといいたいのかしら・・・あの顔、言い方は何度も聞くと考えるのは勘弁したいけど・・・」

 

「その通り。第一、あれがすべての黒幕ならもう事件は解決。カルデアには爆破の情報を察知した方々の何らかのコンタクト、アクションがあるはず」

 

 「まぁ~それにぃ? もしあれが重鎮、相手の引き出しがあの場所だけなら奴さん血眼になって増援出すだろうよ。けど相手は縮こまって出てこねえのか俺らの帰還にも無反応。その死体を回収も、罠を仕掛けようと活用すらしねえ。ってなるとだ。あれで全ておしまい、そうじゃなきゃあ敵さんはまだ手札を残しているかこっちを兵糧攻めするつもり・・・・・・・そっちでもなんかあったんだろ? 厄介事が」

 

 一度対峙し、討伐してからの敵の反応の薄さ、悪魔と呼べるほどの存在が殺され、聖杯という特異点一つ作って見せるほどの物を取られて尚追手を差し向けずにカルデアに帰ってこれた事実。このことからおおよそアレは敵の威力偵察、いや、斥候にもなるかどうかというくらいの存在だと考えていた。

 

 更には華奈達が爆弾テロに巻き込まれてから特異点で過ごした時間は少なく見積もっても数時間。今の人工衛星からでもカルデアの情報は外部程度なら情報を調べられる、生き残った職員が特異点解決のニュースとその問題などを外に連絡しない、いや一切行っていない。このことから華奈たちも感づいていた。あの騒ぎを引き金になにかが起こっていたと。

 

 その予想はあたっていたようで華奈の予想に青くしていた顔を更に青くしているロマニの重い口からカルデアで観測していた事実が話される。

 

 「カルデアスが真っ赤に染まり、未来・・・観測されない・・・世界・・・いや、人類史そのものが焼き尽くされたという結果が出た・・・・・フラムにも頼んでシバを修復させてみると、その中からいくつかの観測できる部分が見つかった。朧気だけどね・・・」

 

 それを語る表情はとても重く、死刑を待つ罪人。いやそれ異常。心が壊れる寸前まで追い込まれた人間のそれだった。

 

 「反応は先程華奈たちがいた場所、冬木と同じ反応。つまり・・・」

 

 「世界の時代、場所を超えて特異点が観測された。それが相手の余裕でいる根拠であり・・・」

 

 「敵が罠を張って待ち構える拠点でもあるというわけね」

 

 その言葉通りなのだろう。此方を一度見て、泣きそうな目を細め、そらすように顔を横に向けてまた喋りだす。

 

 「今回は冬木という街だけだった。けど、それが今度はどんな場所なのか? 時代なのか? 今回は人がいなかった。けれど今度は人がいる場所にも行くかもしれない、その時代の人が敵になるかもしれない。さっきの冬木よりもひどい状況かもしれない・・・そこに・・・もし、もし戦うというのなら・・・・・・・・・君たちを僕は送り出さないといけない・・・あれ以上の地獄に! 自殺の片道切符を渡すかもしれない指示を出さなきゃいけないかもしれない! 悪魔!? 騎士王!? あんなのを掃いて捨てるほど、痛くも思わない程抱えているような敵と戦わせなきゃいけない!! それが怖いんだ・・・!」

 

 声が詰まり、頭を抱えて机に突っ伏すロマニ。これからの状況に絶望し、どうしようもないと嘆いているのだろう。希望はあるかもしれないが、それも解決するにはレイシフトが出来る人間を送り込んで解決してもらわないといけない。

 

 それは、藤丸、マシュのようなまだ若い彼らにその重責を負わせるということ。他のマスターは皆動けず、正規のマスターは彼らだけ。そんな状況にどうしたらいいのか思考が追いついていないのだろう。何度も同じことをつぶやいては頭をかきむしる。

 

 「更に言うとだ。人類史が焼き尽くされたということはこのカルデア以外全てが焼き払われた。言ってしまえばさっきの冬木のような人っ子一人いない外は死だけの世界。人類は私達を除いて全滅。星の支配者があっという間に絶滅危惧種に早変わりというわけだ。だから外からの応援も補給もない。ここにあるだけのもので我々は戦い抜く、若しくは絶望しながら最後を迎えなければいけない。最悪の二者択一を迫られているわけだ」

 

 「じゃ、カルデアは最後の人類を載せたノアの箱舟。炎に包まれた世界を漂う漂流船ってわけか」

 

 「それがゴーストシップになるか、希望を載せた方舟になるかは私達次第。まさしく壮大な航海、船出。幸いなのは羅針盤が壊れていないこと、と」

 

 補足された事実はさらなる絶望。半壊した施設に人員の補充もなし。あんまりにも手詰まりな状況にメディアは何も言えず、他の世界に現実逃避していたロマニも耳をふさぐ。そんな状況で尚ストーム1、華奈は笑ってみせる。

 

 「その通り。このボロボロな船で狂った歴史、世界に飛び込まなきゃいけない。恐らくこの特異点は過去の歴史を聖杯やレフみたいな奴らで狂わせてこの人類を焼却した世界を継続する楔に準備したものだろう。それをどうに・・・」

 

 「じゃ、行きますか。難しい話は藤丸くんが来たときにでも一緒に話そう。小難しい話だとどーにも子守唄に聞こえてしょうがねえ。要はこのくだらんショーを回って幕を下ろしてやりゃいいだろう? 何時も通りだ」

 

 「私はこの施設の復旧ですね。さーて、頑張らないと。あ、お二人とも解析とデータの件は頼みましたよ? はてさて、へそくりの鍵は何処にしまいましたかねぇ?」

 

 ダ・ヴィンチの話を最後まで聞かずに席を立つ華奈、ストーム1。まるで気負いもない、日常生活を過ごすかのような仕草に、態度にさすがのダ・ヴィンチも固まり、ロマニも我に返る。

 

 「怖くはないのかい!? 聖杯を惜しまず使い! 悪魔や英霊をあったり使い捨てるような相手なんだよ!!? それにもっと恐ろしい戦場になるかもしれないのに・・・」

 

 「この天才でも分からない未知の、狂った世界への戦いだ。それも我々だけの負け戦、詰みも当然のね。ロマニの言うことをそのまんま言うけど、怖くはないのかい? 二人は」

 

 声を張り上げ、押しつぶされそうな自分とは対極的な二人にいくらかの嫉妬、恐怖も交えて半ば八つ当たりに近い態度で叫ぶロマニ。この絶望的状況に動じていないように見える二人のことを頼もしく思うと同時に不思議に思うダ・ヴィンチ。部屋を出ようとしていた二人はその事を聞いて一瞬の間を置いた後に。

 

 「カッコつけるのが大人の仕事です。それにまだ終わったわけじゃないでしょう? 戦い続ける限り決定的な負けにはなりません」

 

 「たしかに怖いさあ。だが俺は危ない目に会えば会うほど口元が緩んでくるんだ」

 

 そう言い残し、明るく笑った後に部屋を出ていく。

 

 「・・・・・・馬鹿な奴らね。あの二人も」

 

 メディアの何処へ向けたのか分からないつぶやきが部屋に響き、少しの時間を置いて何かを叩く音、作業を行う音がなり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ~・・・困りましたねえ・・・そう言えば、損傷状況もそうですが私のしたいことするためにはオルガマリー様の許可も貰わなきゃ・・・勝手にすることもそうですが、テロと思われるのも・・・」

 

 「ほう? まーたなにか考えているのかい?」

 

 部屋から出てこのカルデアを立て直そうと一案を持っていた華奈だったが、早速その許可を取り付ける最高責任者であるオルガマリーが気絶したこと。しかもそれが自分の持ち帰ってきた死体であったことに頭を抱える。

 

 ロマニからの情報に対処するための最低限の準備のためには今すぐ動くことが必須。けれどその手段は今まで以上に許可の重さが違う、その方法のために勝手にできない。やろうものならそれこそ裏切り者扱いされるのがオチと言ったものだった。

 

 現在でオルガマリーに次ぐ責任者のロマニに連絡して動こうか、医務室で寝かされているオルガマリーを起こそうかと考えていると通路の反対側からコツコツと靴が床を叩く音が聞こえてくる。

 

 その音は此方に近づき、緩やかなカーブを過ぎたところでその足音の正体が姿を見せる。オルガマリー・アムニスフィア。丁度華奈が話したかった女性だった。

 

 「あ、か、華奈! あの死体は一体どういう! ・・・・・・・・じゃなかったわ・・・ん、んんっ・・・」

 

 オルガマリーも華奈たちを確認するやいなや立ち止まって先程の死体騒ぎを追求しようとして、止めた。それから咳払いをしてしばしの時間逡巡し

 

 「・・・私の不手際で、不徳のせいで危険な目に合わせたわ・・・今までの冷遇にも耐えて、支えてそして今は私の命の恩人・・・いえ、カルデアも救った大恩人・・・今更なのは承知しています。けど、有難うございます。こんな私についてきてくれて・・・そしてご免なさい・・・私が・・・レフを見抜けなかったから・・・こんな・・・・ひどい状況に・・・!」

 

 頭を下げ、感謝と謝罪を述べていく。その小さな身体は細かく震え、声もたどたどしく詰まる部分がある。今まで素直に人に頭を下げることがなかったことからの不慣れもあるのだろう。少しぎこちなく、不恰好なもの。

 

 けれどそこには隠そうという気持ちは微塵もなく、素直に気持ちを伝えたいという想いが詰まっていた。

 

 「まぁ・・・オルガマリー様が頭を下げる必要はありません。もっと違う手段でレフを告発しなかった私にも落ち度があります。顔を上げてくださいませ。私への言葉よりも、新しい身体はどうですか? 不調や、違和感、その他は?」

 

 肩に優しく手をおいて顔をあげるように誘導し、お辞儀を終わらせるオルガマリーにニッコリと優しく微笑む華奈。オルガマリーも釣られて微笑むもその顔は涙で濡れており、青ざめていた。理解したのだろう。短い時間ながらにカルデアでの惨状。職員たちの声を耳に入れながら華奈たちを探し、合間に情報をつなぎ合わせて今のカルデアが置かれた状況をいくらか理解、目に入れていったのだろう。

 

 それでも、その目には自身の死が直前に迫っていたときとは違って微かに光が灯り、まだ何処かで諦めていないことを伺わせる。

 

 「あ・・・そうね・・・少しカルデアを回ったけど、前よりもずっと調子がいいし、羽のように軽いわ。魔力回路を起動させても問題ないどころかとんでもないレベルで向上したし・・・聖杯も既に出して格納したけど不調はないわ・・・」

 

 聖杯で復活を願う時に何処かで理想の自身。若しくは共に戦ったメディア、華奈、カルデアにいる英霊のダ・ヴィンチでも想起したのか

 

 「ヒューッ! 正にワンダーウーマン! いいねえ。美人で更に強くなったなんてモテモテのバラ色人生だ」

 

 茶化すようにその復活に賞賛を送るストーム1に表情が微笑むも、最後辺りにはまた沈んだ表情に戻ってしまう。

 

 「そ、そう・・・・じゃなくて! 人生・・・そう、人・・・私達の置かれた状況は周りの声とカルデアスでなんとなく理解できたわ・・・私達・・・これからまた冬木、それ以上の特異点に行かなきゃいけないのよね・・・? 補充もない、ここにいる皆だけで・・・」

 

 「ええ、そうですね。人類を滅ぼした状態を維持するために打ち込まれた特異点の除去。できるのはこれくらいで、残るはここに閉じこもるだけです」

 

 はっきりと事実を突きつける華奈の言葉に言葉が詰まり、泣き出しそうになるオルガマリー。絶望の中で拾った希望と命。けれどそのくぐり抜けた先はさらなる絶望と地獄。そこに転がり落ちずに針の上でどうにかバランスを保って揺れているだけの状況。

 

 残酷でひどすぎる事実。逃げ出したいのにその逃げる先すらもない。逃げた先は寧ろより惨たらしい最期が待っているかもしれない。

 

 「だがまあ俺達は所長さんを灰かぶりで、悲劇で終わらせる気はないぜ?」

 

 そんな悲観を、嫌でも感じてしまう恐怖を知ったことかと聞こえる軽い、でも頼れる声。

 

 「ええ、確かに私達の目の前には面倒ごとの一個旅団。絶望の一個師団があるでしょうね。けど、それは一度に襲ってくるわけではない。馬鹿な相手はそれを分散させて逐次投入させる腹積もり。なら、各個撃破は簡単です」

 

 絶望を殺し抜き、問題はないと言い張る優しい、落ち着く声。

 

 「さて所長さん、いやシンデレラ。俺たちはアンタを今の灰かぶりから素敵なお姫様にさせたいと願う魔女と道化だ」

 

 「願えばその願いに応えてカボチャの馬車でもガラスの靴でも素敵なドレスでも用意しましょう。けど、用意はできてもその本人が舞踏会に行く気がなければそれも意味がない」

 

 その声の持ち主達は冬木で自分たちを助けたときと変わらない表情で優しくこっちを見てくれている。

 

 「アンタが本気で立って、進むというなら例え神様だろうとぶん殴ってみせらあ」

 

 「悪魔が来たって、私が守り抜きますよ? オルガマリー様と皆を」

 

 また泣き出しそうな自分を優しく見つめ、主と認めてくれている。これからの過酷な道も進んで見せると心から言ってくれる。ついさっき信じ切っていた人に裏切られた。また同じように裏切られるかもしれないと思っている部分だってまだある。けど、けれどそれでも目の前にいる二人を、地獄から助け抜いてくれた二人を無条件に信じたかった。

 

 「信じていいのね・・・? 本当に、あなた達を───────────」

 

 「かわい子ちゃんの期待には応えたくなるってもんよ」

 

 「勿論です。私もここでおとなしくする気はないので。さぁシンデレラ様、王子様をぶん殴りに行く心の準備は出来ましたか?」

 

 目を一度強くつぶり、目頭を押さえて気分を同時に変える。開いたオルガマリーの目にはさっきまでの弱気や恐怖の色は薄れ、しっかりとした強い意志が灯る。

 

 「では・・・これから改めてカルデアの所長として、その責務を果たします。カルデアは人理継続保証機関・・・人類の未来を手を保証するためのもの。奪われたのなら取り返して再び保証するまで! そのために戦わなければいけない!! それが・・・私の、オルガマリー・アムニスフィアのするべきことだから! だから力を貸して! あらゆるものを打ち倒す、戦うだけの力をこのカルデアに! くじけない誇りと希望をこのカルデアに! そして・・・」

 

 薄れた恐怖は何度も蘇ろうとあがくがそれを必死に抑えきる。今すぐにでも吐き出して、泣いて逃げ出したい。眼の前の二人のようになりきれるなんて不可能。どこまでも小心者の根っこは拭えない。

 

 「そして・・・・・・私達の望んだ明日を・・・苦難だろうと何だろうと・・・焼き尽くされた人類全てにまた見せるために戦い抜いて! 華奈! ストーム1! かつて二国を大国から最後まで守り抜いた銀の狼! 世界を異星の侵略からはねのけた不屈の戦士! この私、オルガマリー・アム二スフィアに、このカルデアに残された皆のために力を貸して!」

 

 けど、それでもここだけは譲れない。先祖から譲り渡された大切な場所、拾った命で成したいこと。勢いのままに燃えたぎるままにやってしまおう。死ぬはずだった自分ですらいつの間にか起死回生の手段を手に入れていた。意地と矜持を持って抗うことは無意味ではないはず。

 

 今一番自分の中で渦巻いていた心の炎を二人にぶつけたオルガマリーの表情は確かに上に立つものとしての風格が漂い、覚悟を決めた者だった。

 

 「了解。言質、貰いましたよ? この中にもバッチリ♪・・・さて、では早速行きましょう。リフォームと再建築には時間が命。ストーム、リバースシューターを準備。私は宝具を使います」

 

 「あいよ。じゃ、早速俺の宝具が発動している部屋に行ってくる。この馬車をピカピカにして頂戴」

 

 その意志に応える形で拱手をし、戦意をたぎらせた目を見せる二人。言うが早いか早速何やら自動発動していた宝具から新たな武器、ではなく災害時用の宝具? を持ってくるために移動するストーム1。胸ポケットから小さな棒状のものを取り出してスイッチを切り、何か恐ろしい単語をぶちまけていた華奈。

 

 行動の速さに感心していたあまりに反応が一瞬遅れ、慌てふためく頃にはもう手遅れ。華奈の宝具発動のための準備は既に来出来上がり、今にも発動しようとしていた。

 

 「・・・あ! ちょっと華奈! さっきのってまさか・・・!」

 

 「第三宝具開帳・・・『共に在りしは銀の牙也』!!!」

 

 「な、きゃっ・・・!」

 

 ボイスレコードを取り上げようと華奈に近づくも宝具発動の魔力の奔流に足元がよろけて姿勢を崩してしまうオルガマリーは、はたして転ぶことはなかった。背中に当たる金属の感触、そしていつの間にやら気配が周囲に増えている。

 

 不思議に思い背中の方に振り向けばそこには銀と木の鎧で身を包んだ長身の男性。他にも女性、狼、イノシシと共通性は見られず、人間を見ても年齢も性別もバラバラ。ただ共通として全員が自分でも分かるほどの覇気を纏い、指示を待っているようだった。

 

 オルガマリーを受け止めた男性はそっと倒れないように背中を押して体勢を直し、微笑む。この突然の人と獣の集団にまた思考回路が止まりそうなオルガマリーは固まった表情で微笑むしか無く、当然ながら引きつった笑いを浮かべてそのまま固まる。

 

 「随分と久しぶりだな大将。ここまで緊急事態、強敵なのか?」

 

 その中から一人、ツナギのような服を着けたちょいワル風の伊達男が華奈のそばに歩き、何食わぬ顔で話しかける。

 

 「ええ、かなり。取り敢えずまた皆で戦いますよ。いいで・・」

 

 「華奈! これは一体何ですか! 突然イノシシや狼、それに人が突然現れたのに何の危害も・・・・・」

 

 この騒ぎにいの一番で駆けつけたフラムは人の波をかき分け、先程聞こえた声のことで元凶であろう華奈に問いただしに来て、一人の少女に目を奪われる。

 

 それは前世での家族の一人、大人びた雰囲気をまとい、いつも冷静で微笑みを絶やさない素敵な少女。華奈と同じくアーサー王伝説の世界で戦い、銀嶺の部隊長の一人。

 

 「あ、んな・・・・?」

 

 「あら、フラム久しぶりね。また会えて嬉しいわ」

 

 アンナその人との再会、この世界に転生してずっと会えず、もう会うこともないかもと思いかけていた再会にフラムの心が歓喜と興奮、混乱で彩られる。

 

 「は、はい・・・はい・・・・! 私もまた会えることが・・・で、でも・・・」

 

 「・・・再会を祝したいのは山々ですが、フラム様、緊急用のスピーカーのマイク、ありますか? 貸してほしいのですが」

 

 「え、あ・・・分かりました・・・・・それと華奈。後で話が・・・」

 

 嬉しさで満ち溢れた表情から一転、怒りを滲ませた冷笑を讃えながら技術チーム、その中でもトップレベルのメンバーが持たされている機材、メカのトラブルの際に避難、警告用で渡されていた小型のマイクを華奈に手渡す。

 

 「・・・お手柔らかに」

 

 それを手に取り、微笑みながら額に汗を一筋流した華奈はスイッチをいじり、一呼吸置いてよく通る声でマイクに声をぶつける。

 

 『カルデア職員全ての方に通達します。現在カルデアの中で見かけぬ武装集団、獣たちを見かけた、遭遇した人もいるでしょう。これは私の宝具によって来てくれた銀嶺騎士団です。これからこのメンバーたちの力を使って今尚傷が癒えぬカルデアの設備を復旧していきます』

 

 マイクを通してカルデア中に響く華奈の声。それを聞いた職員らは安心したのか徐々に増えていた悲鳴や怒声が収まり始めると同時にまた歓声が上がり始めた。

 

 『それにあたって良馬様はカルデア全体の修理状況の報告、被害の大きい所への指示、案内。冬利様はまだ館内洗浄が終わっていない場所、そこから先の死亡した職員の遺体を回収と館内の破損状況の報告、回収班の先導。咲様は私が残しているとっておきの鍵を渡しますので銀嶺の皆様と開放、各設備に補充を。フラム様はカルデアスやシバ、動かすための発電機の修理を。2,3日で終わらせますよ。他の職員の皆様はその場で休憩と待機を。もし不安なら私のもとに』

 

 伝えたい内容を全て言い切るとマイクのスイッチを切り、フラムに渡す。それから既に移動の準備を始めていた銀嶺騎士団の面々の方に強い語調で声を掛ける。

 

 「ヤマジは工兵、大工のメンバーで冬利様とカルデア内部の破損箇所の完全修復! アンナ様は魔術師、錬金術の使えるメンバーでフラム様のサポート! ダンカンはヤマジと同行して遺体回収、館内清浄に加えて殺菌処理と遺体も冷凍保存室に入れて防腐加工、棺の準備を。これを渡しますからヤマジとは別行動、良馬様と適宜連絡をとって行動を。クラークは咲様と一緒に物資の運搬、及び修復の際に出る瓦礫やゴミの撤去と整理。ああそれと・・・マシュ様の事は皆様分かっていますね?」

 

 カルデアの家族同様に銀嶺騎士団にも命令を伝え、同行することになるメンバーの写真、若しくは写真の入ったタブレットをヤマジ達に渡していく。

 

 「はい解散! 私は倉庫、へそくりの備蓄、損傷具合を確認してカルデアの余力を調べます。あ、ヤマジ。後からストーム1がそちらに来ますので合流して修復を」

 

 「銀嶺騎士団・・・・・アーサー王物語でも最強の一角と知られた部隊・・・それが・・・宝具?」

 

 あっという間に動き始めた銀嶺、流されるままにアンナに連れ去られたフラムがいなくなり、華奈と自分だけの状況になったところで再び思考回路が回り始めるオルガマリー。第三宝具、銀の牙、銀嶺、そして先程の光景。数人のかつての友、部下、使い魔を呼び出すケースは聞いたことがある。けれど軍団そのものを呼び出す宝具は聞いたことがない。

 

 そんな規格外をするとなればそれこそかつて征服王と呼ばれた王や世界各地に散らばる超弩級、英霊の中でさらに頂点の一角に立つ者だけだろう。

 

 「はい、25人前後と数匹。そこから始まり最後まで馬鹿騒ぎして楽しんだ友達であり、部下であり・・・誇れる戦士たち、その絆と思いが形になったものです。全員が意思を持っているので会話もできますから当時の魔術の勉強にでも如何ですか?」

 

 それを事もなげなにこなしてしまう。覚悟を決めて戦うとは言ったがそのための土台はまだ完全に修復は済んでいない。修復をしようにも人手が足りない、爆破からの傷が癒えていない職員もいるというのが現状。戦いの前準備に華奈が打った一手はそれらを解消できるかもしれないものだった。

 

 「それは後にするわ・・・それと、へそくり・・・? 華奈、貴女私に内緒でお父様と何を準備していたのよ・・・・? しっかり話してもらうからね・・・・・・ごめんなさい・・・」

 

 この後華奈と一緒にカルデアの資材、食料を華奈のこっそり作っておいた倉庫の備蓄を確認し、自分の預かり知らぬものを作っていたことにまた癇癪を起こしそうになったオルガマリーをなだめることと確認に追われる華奈。

 

 カルデアの修復作業に向かった銀嶺騎士団の無駄に濃ゆすぎる面々に色々と疲れるやら明るさに、ついさっき自身らに降り掛かった災難を一時忘れるカルデア職員と銀嶺の喧騒がカルデア中に響いたそうな。

 

 因みに、あの覚悟の声を録音した録音機の件は結局有耶無耶にされ、大量の確認作業に忙殺されてしまったオルガマリーは華奈から録音機を取り上げることを忘れてしまったとかなんとか。




取りあえずはこれで爆弾テロによる施設のダメージを回復、そして隠して溜め込んでいた資材の開放による食料、燃料諸々の補充。

次回は人事になるかと。

ストーム1が一度部屋に戻って武器を変えに行ったのは宝具ですね。自身の拠点と決めた場所でのみ武器の変更ができる。ゲームで言うところの武器選択画面。それがカルデアの一室に武器弾薬満載の部屋に変わったとでも思えば。

華奈の第三宝具はブリテンでの華奈を語るうえでは欠かせない魔獣も入った騎士団銀嶺を自由に呼び出すもの。冬木で呼び出した栗毛もこの宝具で呼びました。

モードレッドはまだ妖精郷で生きているので呼べず、ギャラハッドは英霊としての格が高すぎるなどの理由で呼べません。二人のもとにいた部隊は呼べますが。

最後にUA 56091件 しおり 154件 お気に入り 422件、いつも見てくださり有難うございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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オー人事、モー人事

~修復作業中~

ヤマジ「いいのかホイホイついてきて、俺はノンケだって構わず食っちまう人間なんだぜ」

モブ職員「いいんです・・・僕、ヤマジさんみたいないい男に・・・」

冬利「あー・・・頼むからそれは他所でやってくれ、流石にここでやられたら俺の精神にダイレクトアタックだから、施設は修復したのに心の施設に傷が残っちゃうから」

~カルデアス、発電施設、及び精密機械設備~

アンナ「さーて、細かい機器関連はともかく、うん、魔術関連なら私に部隊の皆でも行けそうね。ぱぱぱっと済ませましょう」

フラム「助かりますよ。元もここにいますので後であってきたらいいんじゃないですか?」

アンナ「それはいいわね。また無茶をしたみたいだし、今頃怒られているのかしら?」

フラム「まあ、怒られてはいないでしょうけど今後のことは話しているかと」

~物資置き場~

クラーク「咲様。この食料を置く場所は」

咲「え、あ、うん・・・・・・ここは、そっちに・・」

クラーク「ええと・・・・その、私の顔、怖いですか?」

咲「え、いや、ち、違うの・・・その、癖みたいなもので・・・姐さんが信頼している人でしょ? そ、それに、目の奥がすごく優しいから信頼しているし・・・」

クラーク「ははは・・・・・・さすがはあの人の家族ですね。では、この、ぱ、パソコン? はどちらに」

~冷凍室・緊急遺体安置所~

ダンカン「・・・・・・せめて、あの世ではいい暮らしを・・・」

ムニエル「・・・まだ信じられないよ・・・爆破テロに特異点、そして銀嶺・・・何が何だか・・・」

ダンカン「あ、職員の方ですね? お疲れですし、休んだほうが・・」

ムニエル「いや・・・・・手を合わせておきたくて・・・これが夢だっと信じたいが、それでも一応はしておくべきだろう」

ダンカン「そう・・・では、後で休んでくれたらいいですよ。僕はこれで失礼、まだ作業は終わっていませんから」

~医療室~

華奈「ですから・・・元様にやってもらいたいことがあるのです。やれ橋頭堡だの、斥候だのはいいですから落ち着いてくださいませ」

元「とはいっても君を情報も少ない危険な場所には・・・・・・」

華奈「ああ、もう、聞き分けてください。貴方様にも大事な役目がありますし、そのためにストームがいるのですから。不安な気持ちもわかりますが、それに傾きすぎてもいけない。取り敢えず明日に話しますので今はゆっくりお休みをば」



 「・・・・きて・・・・せん・・・・」

 

 声がする。まだ聞き慣れていないけど、優しい、落ち着く声。

 

 「お・・きてください・・・・・・・ぱい・・・」

 

 その声に従って体を起こし、目をこすりながら声のする方向に目を向ければ自分を先輩だと慕う美少女。マシュがそこにいた。冬木でのあの鎧? 姿でもなく盾も持っていない。初対面の時の制服姿にメガネを付けて自分がいつの間にか寝ていたベッドの側に立っている。

 

 「マシュ・・・? おはよう・・・?」

 

 「はい、おはようございます! 元気そうでよかったです。丸一日寝ていたんですよ?」

 

 「フォウ! キャ~ゥ!」

 

 まだ整理のつかない頭ながらにあの地獄から切り抜け、カルデアに帰還したことは覚えている。そこから倒れて・・・恐らくはここに運ばれたのだろう。そんな寝ぼけた意識を早く起こすんだといつの間にかいたフォウが藤丸に飛び込んで肩に乗って頬をテシテシと叩く。

 

 「わふっ・・・フォウもいたんだ・・・うん、起きた、起きましたよ―・・・で・・・カルデアの事件も解決したし、僕はまた控え選手なの?」

 

 「おや? 我等がヒーローの一人がお目覚めだね。アレだけの疲労だし、寧ろ一日で起きれるあたり頑丈な身体みたいだ」

 

 起こしてくれたフォウの頭をそっと撫でながら考える。あの事件もマシュや英霊の皆、そして・・・とんでもない方法で犯人のレフを徹底的に倒した華奈によって助けてくれた。あれ程の技術や手段を使えるカルデアのことだからもう被害にあったマスターたちの治療も済んだはず。そんな希望的観測を浮かべているところに聞いたことのない新たな声。そこにまた顔を向けて、思わず絶句した。

 

 扉のそばに立っていたのは中世の欧州を思わせるようなカラフルで芸術的な衣装に身を包み、左手に大きな篭手、杖を手にした絶世の美女。そう、間違いなく素晴らしい美女なのだが、その造形が美術に疎い自分でも分かってしまうほどに有名な絵画、モナリザそっくり、いやそのものなのだ。

 

 絵画からそのまま抜けて衣装を着替えたモナリザが目の前で気さくな笑顔を向けて喋っている。そんなメチャクチャな状態に一体何がどうなったんだと思考が止まってしまう。

 

 「? ああ、成る程、いきなり私のような美女とマシュのような美少女に起こされては嬉しさで思考停止もしてしまうかな? 一応は自己紹介をしておこう。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。ダ・ヴィンチちゃんと呼んで欲しい。見ての通りの最高の美女にして英霊さ。このカルデアで召喚成功した英霊の四号で今は技術局特別名誉顧問だね。ちなみにマシュのほうは三号。正確には彼女に宿った英霊のね。」

 

 更にはそのモナリザの美女がモナリザを描いたダ・ヴィンチ本人。ますます訳がわからない。モナリザは自画像だったのか? 物語の住人が英霊になることは華奈、ストーム1、アーサー王で分かったがこれもありなのか? 思考が混乱していく。

 

 「その話は後にするとして・・・今から君に大事な話をする。心して聞いて欲しい」

 

 自分の混乱を無視するようににダ・ヴィンチちゃんから話されていく事実、出来事は余りにも突拍子もなく、壮大過ぎる話だった。人類が焼かれた。残っているのはここだけ。それを解決するには様々な時代、場所に出現した特異点を解決していくほかなく、それをこなせるのは自分を含めて数名のみ。

 

 ついさっきまで一般人からカルデアの新入り、まだ研修期間も何も体験していないのに死地にぶち込まれてどうにか生還。これで解決したかと思えばまだそれはほんの一つだった。信じたくない、けど、冬木への移動に、英霊、焼けた街に怪物。そこでの時間に感じた恐怖は虚構だと捨てるには大きすぎる。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 「先輩・・・過酷な話だとは思っています。けど、私達は進まなければいけません・・・人類を救う、このカルデアの役割のためにも・・・」

 

 マシュも優しく言ってくれる、慰めるように、なだめるように。頭ではまだ理解しきれていなくてもなんとなくは分かる。しなきゃいけないことなのだろう。けど、同時にこうも思う。なぜ自分が? 華奈だけでは駄目なのか? 冷凍保存されたマスターを治療しては駄目なのか? ただただ参加しただけでなぜこんな危険で理不尽な戦いにまた参加しなければいけないのか? 後ろ向きな考えが出てきて止まらない。

 

 「考えさせてください・・・何が何だか・・・整理、したいです・・・・・・・」

 

 その中でようやく絞り出すようにして出せた声。藤丸は気がつけば両手で頭をかかえ、冷や汗が流れていた。

 

 「分かった。けど、時間はあんまりないし、最悪無理矢理にでも引っ張り出すこともあるかもしれない。ただ・・・君が自分で立ち向かうことを願っているよ」

 

 「先輩・・・後でカルデアの残ったメンバーでミーティングがあります。良ければきてください・・・」

 

 一人になる時間を渡すためにダ・ヴィンチちゃん、マシュは部屋を出ていく。

 

 

 「キャーウ・・・・・フォ、フォゥゥウ・・・・」

 

 心配するような声で鳴いた後にフォウも肩から降りて部屋を出ていく。あっという間に一人だけになった部屋はドアが閉じると痛いほどの静寂が包みこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀嶺騎士団らも参加したカルデアの立て直しから一日。その時間の間カルデア職員のほぼ全員を休ませて気持ちの整理をつけさせたことで改めてこの戦いに逃げ出せない、進み続けることしか無いことを理解したメンバーはある意味やけくそ気味で、あるいは冬木での活躍に淡い希望をいだいてそれにすがることでどうにか理性を保っていた。

 

 そしてカルデアの設備の修復、整理をまさかの一日で終わらせたことでその作業にあたっていたメンバー、休ませていた職員、藤丸を除いた全員が広場に集まっていた。理由は簡単。あまりにも多くの職員が失ったことでの人員整理、情報確認、そして平時の体制からこれからの、いわゆる戦時向けの体制へのシフトチェンジのためである。

 

 席にはオルガマリー、ロマニ、ダ・ヴィンチちゃん、マシュ、何故か頭にたんこぶが出来ていた華奈、元、ストーム1、メディア、そして復興作業の指揮を取ったフラム、咲、冬利、良馬達が代表として腰掛け、銀嶺騎士団の隊長格も後ろで話しを聞こうと立っていた。

 

 「では・・・・・改めて被害報告、それからの進展を」

 

 「じゃあ僕から。まずは職員から。マスターは藤丸くんを除いて皆治療をするにはもうワンランク大きな施設で行わないといけないことなどを含めて全員が今復帰できるのは無理。一般職員で残った職員はメイン、サブ含めて約70名のみ。レフ教授を除いた全員の職員の遺体の安置、名簿との確認作業も確認済み」

 

 ロマニの口から聞かされる深刻な状況に一同気が重くなる。分かってはいたことだが、数百人いた職員があっという間にこれだけ。必要なこととは言え、余りにも受け止めるには重いもの。場の空気が色を付けて沈んだような錯覚に襲われる気分だ。

 

 「あー・・・取り敢えず今度は俺から。カルデア内部の爆弾による施設の被害の修復は完了。遺体も全員分安置所に抜けなく安置できました。感染症に対しても人手でカルデアを洗浄。そして設備の館内浄化、そしてまた人手、館内浄化で確認を重ねましたので清潔そのものでしょう」

 

 そして冬利からもたらされる明るいニュース、カルデアの外の状態を考えた場合の組織の設備、基礎が直せたことには生き残った自分たちの最低限の安全が確保できたことに一同胸をなでおろす。

 

 「私からも付け足しますと、その後の銀嶺騎士団は警らを始め、設備の再点検に安全確保に意識を向けているそうです。警備の観点からも安全の質はより上がったと言えます。後、ストーム1の宝具の修復宝具によるものも大きくもはや新品同然ですね」

 

 「リバースシューターは機械、装甲も直せるからなあ。頑張ったかいがあったぜ」

 

 銀嶺騎士団の警備隊も参加。同時に傷やヒビのチェック。あの部隊が守りに来てくれるというのも安心をくれるものとして大きく、ストーム1の宝具による修繕の追加。これもまたいいニュース。

 

 「あ・・・わ、私からも言うね・・・? 食料関係は栄養価も考慮、味のクオリティも加味した上で700名いたとしても三年は問題なし。水も飲料、生活用含めて二年以上・・・嗜好品に関しても全員が何らかのものを頼んでも二年半は大丈夫です・・・それに、職員のマイルームの質の向上や改築用の資材もバッチリです」

 

 「私の方も設備の修復は終えました。壊れたものも華奈の備えで問題はないです。今までどおりのカルデアの電力供給、大きなものではないですがバックアップに冷却器、諸々を加味すれば安定性は前以上でしょう」

 

 咲、フラムの二人からの報告も嬉しいもの。取りあえずは当分の食糧問題も問題はなく、カルデアの機能自体も損なうどころかいくらかの向上を見せていける見通しがたった。人材の消失が兎にも角にも痛すぎるが、それはこの際置いておくとした場合、かなりの好条件と言えるだろう。

 

 「・・・・・・・嬉しい報告だけど・・私のカルデアがまるで忍者屋敷みたいに知らないところにいろんな物が・・・華奈とお父様たちはこの施設に一体何を仕込んだのよ・・・嬉しいけど・・・助かっているけど・・・」

 

 その報告に今後の予定、戦闘への準備もしやすいのだが、現カルデア所長であるはずのオルガマリーが知らないカルデアの秘密倉庫の数々とそこに蓄えられた備蓄の量。手品師でも出来ないであろう詰め込み具合に頭を抱え、まだ変な仕掛けがないだろうか唸っている。

 

 「あ~・・・備蓄以外は何もしていませんからオルガマリー様。最後に私ですが、娯楽のための物もたくさんありますのでご活用ください。それと、今後のカルデアの雑用、雑務、警備に関しては銀嶺騎士団で行います。ストームとも打ち合わせ、余っていた火器を銀嶺のメンバーに渡して再訓練、自力の底上げも行います。私の方は今後は特異点調査メンバーの一員として前線に立ちます」

 

 今回の消耗した人員はあまりにも多く、メイン、サブ問わずに様々な役職のメンバーがいなくなった。そこのせめてもの穴埋めとして銀嶺でカルデアのレイシフトなどの精密機器の操作以外はできる限り受け持ち、同時に今回の内部から起きた爆破テロへ対策の強化も見せて安心を図るのが華奈の考え。

 

 魔術の分野なら神代の魔術師でありブリテンでも5指に入るアンナ、銀嶺の魔術師メンバーでいくらかの補強。メディアという最高峰の魔術師もすでに招くことが出来たのが不幸中の幸い。今後は今のカルデアの魔術を使用する道具の性能の向上に役立ってもらえるだろう。

 

 「はぁ・・・じゃぁ、今後は職員20名づつに分けて8時間勤務の3交代制のシフト。余った10名はその穴埋めやヘルプ。メディアさんはダ・ヴィンチちゃんと同じ技術局の顧問をお願いします。それと・・・元だけど、華奈の提案で英霊召喚のシステムに携わる事と、戦闘の練習相手。英霊の寮の管理。良馬は華奈専属のオペレーター。ロマニは現時点で私についでカルデアの最高責任者なので問答無用でオペレート。ダ・ヴィンチちゃんは現状維持。医療チームの穴埋めは咲が代行。冬利は華奈が不在の時の銀嶺騎士団への司令。フラムはアンナさんと機材のメンテナンスに発電所の管理。マシュは華奈と同じく特異点探索チームに続行。そして・・・・・・」

 

 テキパキと今ある人材を割り振り、これからの戦時体制へのシフトに変更していくオルガマリー。立て板に水をかけるような滑らかさで指示を出していくが、最後のところで詰まる。特異点探索メンバー。その一人と考えていた藤丸立香。彼の会議への不在。

 

 分かっている。決して体調不良とかのそれではない。恐らくはあの冬木から生還して改めて現状を確認、誰かから聞かされたのだろう。これからの戦いを。聞かねばいけないし、騙すのも無理がある。癇癪を起こしていたとはいえそれでも魔術師の素養もへったくれもない、何処かにいる一般人が適正の高さで無理やり人数合わせにした一人だ。あの地獄で発狂せず、時間を置かずにさらなる劣悪な状況。少し前のオルガマリーなら間違いなく癇癪を起こして倒れるか思考停止して蹲っていたと自分でも考える。

 

 ただ、現在はその藤丸以外のマスターは起こすことも治療もままならず、華奈も英霊。元は長期期間の特異点への滞在は無理。自身も復活した際に英霊召喚ができる、レイシフトもできる体になったが華奈に怒られ倒して参加は拒否。マシュの参加も藤丸がマスターである以上彼の参加がなければ難しい。

 

 (・・・魔術師の世界の人間ですらこうよ。普通に暮らしていた彼がこの重圧に耐えきれないのも無理はない。・・・・・・・危ういけど、私がマスターとして戦ったほうが)

 

 「では・・・」

 

 藤丸の特異点探索チームの件は一度棚に上げ、次の問題に取り掛かろうとオルガマリーが切り出そうとしたとき、ドアが開いて一人の少年が入ってきた。藤丸立香だ。

 

 「先輩!」 

 

 「申し訳ありません。遅刻しました」

 

 頭を下げた後に歩いて会議をしているメンバーに近寄ってくるが、ひと目見てその消耗具合がわかる。目は充血し、まぶたはほのかに赤い。服の袖には頭をかきむしった際に付いたのだろう髪の毛が付き、どことなく頬はやつれ、背中が煤けている。決して長い時間ではないが、永劫に感じるほどに悩み、苦しんだ末の決断、行動であったことは確かであり、会議室の端に立って会議の続きを聞く姿勢に入る。

 

 「藤丸くん・・・その、大丈夫かい・・・? これからのこと、聞いたんだろう? 誰かから」

 

 「先輩。その、これからの旅路は過酷なものです。でも・・・それでもカルデアはそれに抗うしか無くて・・・お願いです、勝手な言い分なのは承知ですが、また一緒に戦ってくれませんか? 私と・・・みんなと一緒に、また・・・」

 

 優しく問いかけるロマニ。後ろめたさにたどたどしく話すも、一緒に戦ってほしいと頼み込むマシュ。

 

 「・・・藤丸くん。私からもお願いしたいわ。今カルデアでレイシフトできる人材は少ない。更には英霊との実戦経験を積んだマスター君と冬木に行ったメンバーだけ。そこでの行動や根性。全てを評価してのお願いです。カルデア・・・人類のために戦ってください」

 

 冬木での、カルデアでの初対面での態度は何処へやら、真摯な姿勢、評価した上で頭を下げて頼み込むオルガマリー。彼らの態度でも尚思い事態を理解してしまう。気を抜けば膝が震えそうな事態。

 

 「はい・・・マスターとして戦います。・・・・・・俺、やってみます」

 

 それでも決めた覚悟は変えず、進む道はこれであっていると自分に何百回も心に言い聞かせ、戦う決意を吐き出す。正直今でも投げ出したいし逃げ出したい。けど、それはきっともっと後悔することなんだと前に何処かで読んだ漫画の言葉を思い出して、支えにしてその意志を貫く。

 

 「おお~♪ いいねえいいねえ。若人が懊悩しつつも前に進む決意。そうじゃなくちゃー面白くないよ。ま、この天才がサポートするんだ。大船に乗った気分でいたまえよ。冬木じゃ出番はなかったがこれからの特異点で役立つように頑張るからさ」

 

 「・・・・・・分かりました。正規マスター最後の一人藤丸立香。貴方を今後の特異点調査メンバーの一人に任命。マシュ・キリエライトと同行して今後戦い抜くこと。それから・・・遅刻した分、会議の内容をもう一度おさらいしますのでしっかり聞くこと。最初の集会みたいに居眠りしたら怒るわよ?」

 

 クスリと柔らかな笑みを浮かべた後にいたずらっぽい笑みを浮かべてもう一度藤丸が来る前の会議の内容を掻い摘んで話すオルガマリー。そこに華奈とストーム1が茶々を入れて面白おかしくし、更にそこをダ・ヴィンチちゃんが広げていく。賑やかなものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして細かな人員の割り振り、意見の取りまとめが終了した折、今後の重要課題であり、カルデアに課せられたルールを破る問題を華奈がぶち上げた。

 

 「ふふふ・・・では、最後に残ったものですが、英霊召喚。これを定期的に行い、カルデア職員の負担軽減と防備の強化、知識の提供に装備品から施設の備品の強化などを行いたいのですが、どうでしょうか?」

 

 複数の英霊を一人のマスターが召喚、契約を結ぶこと。現時点では元にメディア。華奈にストーム1。藤丸とマシュといった具合であり、これ以上の召喚と契約はカルデアに課せられた命令違反であり、下手すればカルデアはこの事件をきっかけに戦力を蓄えて独立、関係している勢力への謀反を考えてると取られかねない。

 

 しかし、一方で英霊のその力の危険さ、味方となった際の頼もしさ。メディア、ダ・ヴィンチ、華奈等の技術やサポートの強さを考えれば今後のためにも多くの英霊を招いて戦いに備えたいのが本音。

 

 一度の戦いで騎士王、悪魔、幾多もの怪物、影の英霊と遭遇し、倒したものの危ない場面もいくつかあった。冬木の聖杯戦争の記録をたどればその影の英霊も神話のビッグネームに日本の有名な僧兵。アサシンの語源ともなった教団の教主等などどれもこれもがとんでもない人物ばかり。

 

 モニター越しでもその凄まじさ、脅威は嫌でも感じるものであり、それを次回味わい、肌身を持って知っている特異点経験組からすれば今の制限では不十分、愚かな鎖にしか映らなかった。

 

 「ふむ・・・では、緊急事態及びカルデアの復旧に仕方なく英霊の力を借りたという筋書きで後でお偉方には説明するとして、今は英霊召喚を行いましょう。実際、近現代の人物ならば上手く行けばすぐにカルデアのオペレートも出来る人もいるはずですし。何よりもダ・ヴィンチちゃんに華奈という例もあれば現代の英霊でももしかしたら呼べるという可能性をストーム1からも見せてもらいました。実行を許可しましょう。ロマニ、元。召喚準備を」

 

 「了解しました」

 

 「了解。あ、フラムさん。電力を回しておいてね?」

 

 オルガマリーもそれは痛いほどに分かっている一人。一応の屁理屈をこね、戦力と上手く行けば職員の代行確保のために召喚準備を行うように促し、自分も召喚設備のある場所に移動を開始する。元より生き残り、勝たねば未来もなにも無いのだ。足掻くための手段は使う。言い訳もカルデアの存続も後で考えればいい。

 

 「英霊召喚・・・あのキャスターさんに会えるでしょうか! 後、騎士王さんが味方ならすごく頼もしいですよ! 楽しみですね先輩!」

 

 「あ・・・そう言えばあの鎧の欠片。使えるかな?」

 

 「うーん・・・誰が来ますかねえ。冬木の縁が来るのか、はてさて自身の性質や縁が招くのか」

 

 「開けてお楽しみのびっくり箱ってやつだな。触媒があれば確定に出来るが」

 

 各々適当なことを考えつつ、召喚室に移動。これからを乗り切るための英霊を求めて移動するのであった。




冬木編ももう一息。次回は召喚回です。

ストーム1の余っていた火器。の宝具の部屋はぶっちゃけるとゲームの武器選択画面。ですね。作中で同じ武器をいくつも拾うので弾薬もろともあの中に入っているんじゃないかということで。

藤丸くんも腹をくくって戦う決意を。これでようやくオルレアンへの道の基礎は出来てきました。

今回もこの駄文お付き合いくださり有難うございます。こうして筆が遅いながらに楽しめているのも皆様の応援のおかげです。

最後にUA 58931件 しおり 151件 お気に入り 433件 応援ありがとうございます! 台風にイベントと何かと大変だとは思いますがどうか皆様お気をつけてお過ごしくださいませ!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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おいでませ、カルデアに

「お? 何だ何だ、おお、ありゃあん時の・・・いっちょ行ってみるか」

「ほう・・・ふむ・・・迷惑もかけたことだ、せめてもの詫びという訳にはいかないが行ってみるとしよう」

「はーい、ここにサインをお願いします。ふぅ・・・これで今季のものも無事に納品完了。お代は妖精郷に送られるそうですし取りあえずはこれで一段落・・・? む? この感覚は? ・・・・・まあ、少しの寄り道くらいなら」

~カルデア~

華奈「皆さん到着ですね。さて、始めましょう」

元「僕は準備に入るからいいけど、華奈もどうしてこっちに?」

ロマニ「すぐに分かるよ。さ、電力のスイッチを入れて。準備開始だ」




 カルデアの召喚ルームに入った一同。独特な雰囲気とマシュの盾を模した召喚用の土台。その他の施設とは違った空気に慣れたメンバーでも改めて気を引き締める。

 

 今残ったメンバーの殆どはここでの召喚を見ることがないままであったために、理屈やシステムは分かっていても目の前でそれを行うことは無かったことから緊張する。

 

 「ここが召喚ルーム・・・」

 

 「そう、ここで英霊を呼び、契約を結びます。取り敢えず今回は多くは呼べないけど」

 

 華奈、ダ・ヴィンチ、冬木で遭遇した英霊。人類史に刻まれた綺羅星の英霊。超常の存在がここから招かれる。それを目の当たりにするというのはやはり何かを感じ、緊張を感じるのも仕方ないこと。

 

 「今回の爆破テロで藤丸くん以外のマスターに渡していた触媒、予備の触媒は殆ど全てが消失したり、マスターと一緒にコフィンの中だからね。解凍しての治療にかける時間も電力もないし、今回は縁召喚でお願いしたいな」

 

 「はい。爆破の様子では触媒に関しては念入りに燃やされていましたからね。仕方ないことですが、現代に残った英霊たちの聖遺物が無くなるというのは・・・・・」

 

 今回行う召喚の使える触媒はアーサー王の鎧の欠片のみ。残りは殆どは使えない、使い物にならない。若しくは管理、秘密裏にいくつか手元に置けた華奈も『戦闘向きの方々ではない』という理由から持ち出していないのだった。そして、英霊たちの力の一端を知る故にショックをマシュは感じているようだった。

 

 「まあまあ、確かに触媒の損失は痛いが、今は招かれる英霊を想像しよう。ランダムや縁でも誰も彼もが世界に名を残した傑物。そんな暗い表情じゃ迎えられる側も気分が悪いだろう?」

 

 召喚の準備のためにコンソールをせわしなく叩きながら茶化すようにダ・ヴィンチちゃんが笑う。それに釣られてマシュも表情を明るくする。これから共に戦い抜くための呼び声に応えた人たちに申し訳ないと気分を変え、改めて召喚への期待を募らせる。

 

 「そうですね。どなたかはわかりませんが、ここに来てくれるみなさんに申し訳ないですものね!」

 

 「そうそう。その意気だ。そのほうが強い英霊も来てくるかもってもんだ」

 

 「ところで、華奈さんはここに入らないの?」

 

 明るく応えて花のような笑顔を咲かせるマシュとは反対に、藤丸はなぜか召喚ルームに入らなかった華奈のことを疑問に思う。今回召喚するメンバーはオルガマリー、藤丸、華奈の三名のはず。それなのに召喚のための管理室に入ってここに入ってこようとはしない。

 

 「ああ、そのことですか? 私が触媒になっては嫌なので」

 

 「触媒?」

 

 触媒になることがなぜ嫌なのかとますます頭の中で疑問が浮かぶ。円卓の騎士。しかもアーサー王も凌ぐ可能性があると謳われる騎士に馳せ参じる面々なら十分すぎるほどの戦力ではないのかと。

 

 「私がいると私に引かれて円卓が来るかもなんですが、その場合相性が良いのは基本「私」であって皆様でない可能性が高いのです。それよりは皆様の呼び声に応える英霊や紡がれた縁で呼んだほうが今後も共に戦いやすいです。受肉した英霊なんて触媒として強力すぎて皆様の縁も何もかもを無視して反応しかねませんから」

 

 「しかも華奈の場合は円卓の人材潤滑剤にオークニーとの橋渡し役。間違いなく馳せ参じたいという円卓、あの時代のブリテン、オークニーにいた英雄は皆来てしまいかねないよ」

 

 「そう・・・じゃあ、華奈は最後になるのね。私に応えてくれる英霊・・・・・・か」

 

 華奈の答えに納得すると同時に『自身の声に応えてくれる英霊』という声にオルガマリーは強く感じ入ってしまう。色々と災難すぎる始まりだが、自身の思うような肉体に再構成されて復活した肉体はレイシフト適正にマスター適正も完璧なものだった。

 

 眼の前で見たあのとんでもない力を振るうかつて世界にいた者たちが自分の呼び声に応える。ありえないはずだった行いが出来る。胸が高鳴ってしまう。拳を握りしめ、召喚台の前に立つ。

 

 「ロマニ。準備ができたら頼むわ。まずは私が・・・・・・・」

 

 「了解です。準備はほぼできていますので・・・始めます」

 

 やがて回り始める召喚サークル。電力を魔力に変換するシステムを使用して膨大な魔力が渦を成し、収束を始めていく。

 

 その魔力の渦が環となり、三本に収まる。環が収縮し、大きく光ったと思った次の瞬間。一人の男が立っていた。

 

 「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した。・・・・・・・君が私のマスターかね?」

 

 そこに立っていたのは背の高い伊達男。見るからに鍛え抜かれた褐色の肉体を赤の変わった外套に黒を基調とした衣装に身を包む。白髪をやや後ろに流している涼し気な風貌。に黒色の瞳。

 

 その細かなものはさておき、大まかな姿形には酷く覚えがある。冬木で遭遇したアーチャー。華奈とストーム1が倒した敵の一人。

 

 「ええ・・・私が貴方のマスターよ。こんな状況だけどどうか力になってほしいわアーチャー」

 

 それでもあれは泥に汚染されたもの。今眼の前に立っている男はそんな余計なものは無く、冬木で紡がれた縁、自分の声に応えてくれた英霊。

 

 応えてくれたその戦士に手を差し出して握手を求めるオルガマリー。

 

 「そうか・・・冬木での私が粗相をしたようだね。その分此方で働いて借りを返そう。見事な礼装に身なりだが、この組織の主かね?」

 

 「あ、はい。カルデアの所長をしているオルガマリー・・・」

 

 握手を返して笑みを浮かべるアーチャー。そしてその間にパッと見で見繕った礼装を吟味していく。

 

 「では、取りあえずはこの施設を回ってこよう。君のサーヴァントである以上カルデアを知り尽くしていかねばならん。君のサーヴァントとして、バトラーとして戦い抜くと誓おう。では、後がつかえていそうだ。此処を去ろう」

 

 ニヒルな笑顔でペラペラと早口で喋った後にすぐさまカルデアを見て回ろうとしていくアーチャー。一応はこの事はカルデアのモニター全てに中継しているので騒ぎは起きないだろうが、その速さに一同が呆気にとられるばかりだった。

 

 (これ、もし中継していなかったら狼やイノシシ達に襲われて更にはヤマジやクラーク、ストームに襲われていますよねえ・・・良かった。警戒の面からも映像を流しておいて。冬木の件、若しくは今回の召喚された理由で興奮しているのでしょうか?)

 

 一人自分の用意した警備で余計な騒ぎが起きなかったと安心する華奈をよそにその驚きから開放されていく面々。

 

 「い、意外と愉快そうなサーヴァントね」

 

 「はい・・・すぐに仲良くなれるかもです」

 

 「ふむ。あの方は器用万能の戦上手。十年前も現代機器も活かしてあの手この手で立ち回りましたし、オルガマリー様はいい英霊を招けましたね」

 

 十年前の聖杯戦争ではマスターを守る拠点にワイヤートラップ、毒、ブービートラップ。その他にも考えうる限りの魔術と科学、兵器を動員した守りを披露していた。このカルデアの守護や理解、そして華奈が頼みたいことも出来る英霊が来てくれた。これから多く招くであろう英霊とのクッション役や相談役。人材補充としては合格以上のものだろう。

 

 「ホント! やったわ! バトラーもしてくれるみたいだし、いきなり当りかしら! ? でも、ステータスは低かったような? あ、でもキャスターの例があるし・・・・・・・後でいろいろ聞かなきゃ。宝具とか、戦い方とか・・・」

 

 華奈からの太鼓判。そしてカルデアとも相性が良さそうな英霊。しかも執事としても行動すると言ってくる物腰も悪くない英霊が自分に来てくれたことに小躍りするオルガマリー。その映像もバッチリ中継されることを忘れ、その嬉しさに身を委ねてしばし浸っていたところで現状を思い出し、顔を赤くして咳払いをする。

 

 「お、オホン・・・! 私は終わりました。藤丸君。貴方の番よ。マシュが倒したわけだし、その騎士王の鎧、使うのかしら?」

 

 「うーん・・・」

 

 オルガマリーの話に乗っかり、手にしていた騎士王のかけらを見やる。これを触媒にすればあのアーサー王が来てくれる。気がつけば目の前に一足で飛び込んで華奢な体に見合わない剛剣を振り回し、その聖剣からはすべてを飲み込む強烈な光の渦を放つ。正に誰もが知る最高峰の英霊の一角。

 

 ただ、そのアーサー王もいいが、藤丸はそれ以上に思い出していた人物がいた。キャスターだ。右も左も知らない自分を見てくれて、マシュと一緒に成長することを見守り、導いた一人。明るく、嫌味一つ無い明るい兄貴分。味方だっからという贔屓もあるが、エクスカリバーを知って尚怯まずに戦っていった胆力、槍を使ったキャスタークラスとは思えないほどの暴れっぷり。

 

 「いいえ。華奈さん。これを預かってもらってもいいですか?」

 

 そんな彼ともまた一緒に戦いたい。ランダム、縁に依るものが多いがそれに賭けてみたい。藤丸は騎士王の鎧の欠片を一度召喚室を離れて華奈に渡して召喚室に戻っていく。

 

 「いいですが、よいのですか?アーサー王と一緒にいられるチャンスですのに」

 

 「いいんです。それに、多分華奈さんに呼ばれる方がアーサー王も嬉しい気がして」

 

 ニッコリと笑い、召喚台の前に立つ藤丸。それを見た華奈は元に目配せで頼み、スイッチを入れてもらう。

 

 「来てくれるかなぁ・・・」

 

 「きっと来てくれます。だって、槍で呼んでくれと言っていましたし」

 

 マシュもキャスターが来てくれることを望んでいるのだろう。ワクワクした様子で召喚サークルをじっと見つめ、誰が来てくれるのか穴が空くほどに見つめる。

 

 「・・・おお? これはかなり大きな魔力反応・・・英霊の中でも格の高い英霊が来るようだ!」

 

 ロマニの発言の直後にオルガマリーのときと同様に召喚台に魔力が渦巻き、収束、三本の環となって集まりった後に再び英霊が立っていた。

 

 「槍の英霊ここに参上ってな。お? どーもキャスターの俺が世話になったようだな。改めてまたよろしく頼むぜマスター」

 

 青を基調とした白いラインが走るタイツに前進を包み、血を思わせるような赤い瞳は獣のように鋭く、また手にした朱槍もそれに負けずに朱の輝きを放つ。青い髪は後ろに流して一部の長い髪は一つにまとめている。身にまとう衣服や武装は違えどその声や顔、雰囲気は違えるはずもなく、冬木で共に戦ったキャスター。その槍の、本来一番得意とするクラスでの姿だ。

 

 「宜しく! っと・・・ランサー?」

 

 「ああ、わりいわりい。二度目の厄介だってのに名前を教えないのはな。あの姉ちゃんや兄ちゃんがいるなら問題ねえか。俺の真名はクー・フーリン。しっかりと預けたぜ。マスター」

 

 「は・・・・・・? く、くくく・・」

 

 「クー・フーリンですってええええええ!!!!? 何よそれ!!? ヘラクレスやギルガメッシュ! ラーマレベルの最高クラスの英霊じゃないの!!」

 

 「あはは~・・・ドルイドの時点でケルトとは予想していましたがねー」

 

 サラリと告げられる事実と爆弾。ケルト神話の主人公の一人にして最高クラスの実力者。作った伝説は限りなく、その強さはまさしく無双。数多の武器を手にして戦場を駆け抜けた最強の一人。それがこのカルデアに馳せ参じた。その事実に華奈を除いた全員が驚く。

 

 「す、凄いです! あのクー・フーリンさんに教授してもらって一緒に戦えたなんて、それもこれからもまた!」

 

 「いや~つってもこの状態はまだまだでな。本当の俺はもっと凄いんだが・・・なにせ普通の人間の魔力の総量じゃな。ここのサポートがあっても・・・カナ? だっけか。あの姉ちゃんぐらいだろう。今ん所万全の俺を呼んで無事、問題なく戦えるのは」

 

 少し申し訳なさそうに頭をポリポリとかきながら話すクー・フーリン。その言い分も最もであり、英霊という人間の中でも超弩級。限界の限界、その先に立っているような存在は普通に呼び出そうとすれば成功なんて出来ない。それ故に聖杯戦争でも英霊の一側面だけというクラス分けをして必要なエネルギーを少なくし、更には聖杯のバックアップもある。

 

 このカルデアは聖杯のバックアップを電力、科学を用いて足りない分を補っているわけだが、それでもクー・フーリンほどの英霊をフルスペックで召喚となればそれに用いる魔力、それを一気にマスターに送り込むことによる設備とマスターの魔力回路の負担。成功しても長く持つのは難しく、設備かマスターのどちらかが悲鳴をあげるのは明白だった。

 

 「だがまあ、それでもそこらの輩に負けてやるほど衰えてはいねえ。名前を預けたんだ。最後まで戦い抜いて勝利をくれてやるさ。だから、頼ってくれよ?」

 

 そんなハンデを負ったも同然な状態でもその鋭い、突き刺さるような闘気と覇気は曇りもなく、目はギラギラとこれからの戦いに心を踊らせている。クランの猛犬。その名前に偽りがない荒々しさを醸し出す。

 

 「何やら大きな声がしたが大丈夫かマスター? なにか変な英霊でもよん・・・・・」

 

 「げっ・・・おめえは・・・!」

 

 先程の大声に反応して戻ってきたアーチャー。その視線の先に移るクー・フーリンをみて眉根を寄せ、クー・フーリンもしかめっ面になりげんなりとした顔を浮かべる。

 

 「また君とか・・・これで何度目だ? いい加減いない職場で働けると思っていたんだが・・・」

 

 「そりゃこっちのセリフだ! こちとら坊主・・・じゃなかった、マスターと一緒に戦って紡いだ縁で来たんだよ! お前みたいにおめおめと負けて敵になってもらえたものとはわけが違う」

 

 「はっ、それがどうした。ここでの働きはお互いにまだゼロ。現代機器にも精通して能力も利便性の高い私のほうがこれからカルデアに役立てるさ。君は大丈夫なのかい? やたら厄介な制約ばかりでマスターを困らなせなければいいのだが」

 

 会うなり先程までのニヒルな笑みが厭味前回でクー・フーリンを煽り始めるアーチャー、それに負けじとさっきまでの明るい笑顔が一転、喧嘩腰になって食って掛かるクー・フーリン。互いに何処かで何度もぶつかっているのか、互いをよく知るような口ぶりで怒気を隠しもせずにぶつけていがみ合う。

 

 「ンだとテメエ・・・表出ろ! ささっとカタ付けてやるぜ。今までの腐れ縁も一緒に座に返してやるからなあ!」

 

 「いいだろう。こちらもいい加減このうんざりする付き合いに熨斗つけて送ってやりたいところだったんでな。ちょうどいい練習場所がある。そこでやろうじゃないか」

 

 アーチャーの言葉で喧嘩する場所が決まったのかシミュレーションルームに足を運ぶクー・フーリンとアーチャー。さっきまでの和やかな空気は修羅場となり、そして英霊同士が喧嘩するという事態にオルガマリーの顔が青くなる。

 

 「あ、待って! まだ調整が済んでいないから・・・じゃなくて! いきなり喧嘩しないで! これから一緒に戦うのに、というかクー・フーリンとあの爆発する攻撃を打てるアーチャーが戦ったら壊れるかも知らないから待って!待ってええぇぇええぇ!!!」

 

 「・・・急ごうマシュ! なんだか怖くなってきた!」

 

 「はい、先輩! 二人の頭をクールダウンさせに行きましょう! そしてついでにアーチャーさんの真名と喧嘩の理由も聞いておかねば」

 

 悲鳴のような静止の声を上げて二人を追いかけるオルガマリー。追随する形で追いかける藤丸に英霊化してついていくマシュ。頼もしい戦力同士の喧嘩に慌てるスタッフと召喚したマスターを尻目に華奈は召喚ルームに入り、ゆったりと構える。

 

 「あーメディアさん? 理由はもう分かるかと思いますが、マシュと二人の鎮圧をお願いします・・・いえ、着せ替えに忙しい? それ以上に大変な事が・・・ですから・・・・」

 

 元の方もメディアに連絡を取り、取りあえずは行き過ぎないうちに二人を制圧するための手はずを頼む。ちなみにその頃のメディアはアンナと咲を捕まえて着せ替え人形にしていたところに召喚された二人を見てしかめっ面になり、さらには喧嘩すると聞いて着せ替えの方に現実逃避。咲から娯楽品の中にあった最新式のボトルシップの提供で手打ちにし、騒ぎを聞きつけたストーム1と合流して鎮圧に乗り出したとか。

 

 

 

 

~閑話休題~

 

 

 

 

 「さて、私ですが・・・うーん・・・触媒のこれ・・・使ってもどうなるか・・・?」

 

 藤丸から貰った騎士王の鎧の欠片。円卓の自分にと渡されたのはいいが、ぶっちゃけた話、これを使ってもアーサー王は来るのか? という疑問が華奈には浮かんでいた。

 

 自身の知る。というか一緒に戦ったアーサー王は抑止の手が伸びる前に生きたまま妖精郷で過ごし、今も生きているはず。国に関しても仕方ないと被害の少ない方法で亡国を選んだし、その後に度々会っても未練はなかった。それ故に何らかの方法で英霊の座に登録されて何かを求めるほどの強欲はなく。これを使っても呼び出されるアーサー王は自分が知るアーサー王ではなく後世に形作られたアーサー王か別の次元のアーサー王であり、自分と一緒に戦った本当のアーサー王ではない。

 

 あの最高の英霊を招けるというのに渋る自分は贅沢がすぎると分かってはいたが、それでも気が引ける。

 

 (でも、藤丸様、あの戦っていたアーサー王は私達を認めてこれをくれた・・・ふむ・・・・ま、なるようになればいい。また仲良くなれるように頑張りましょう)

 

 「よし。新しい出会いだと考えましょう。元様。お願いしまーす」

 

 「分かった。じゃあ、スイッチオン」

 

 それでも想いを無為には出来ないし、我儘を言える状況ではない。召喚台に鎧の欠片をセットしてスイッチを入れてもらう。

 

 そうして再び行われる英霊召喚。先程の二人と同じく滞りなく、強いて言うなら戦闘音と何やら怒声と悲鳴が飛び交っているくらいだったが、急にけたたましいブザーが鳴り響く。

 

 「・・・な!? 何だこの魔力は!!! 規格外・・いや、英霊じゃない!!? 生体反応あり、そのくせこの魔力量は大英雄クラスだぞ!!」

 

 「クラス測定不能! エクストラクラスの可能性・・・なし・・・生きたものがここに来る!!? この召喚を足場に、移動台にして!?」

 

 「いやいやいやいやいや。幾ら何でもめちゃくちゃだ。華奈、変なものをおいたんじゃないよね? あんまり英霊召喚の経験は積んではいないがそれでもこんなイレギュラーは早々ないと考えるが!」

 

 どうにも英霊ではなく英霊級の力を持った肉体を持つ何かが来る。この召喚の際に英霊の座に呼びかける糸を手繰って。あんまりにもメチャクチャな現実と機器が示す以上に慌てふためく元、ロマニ。その中で努めて冷静であろうとするダ・ヴィンチちゃん。機械を緊急停止、故障かとせわしなく画面を追う三人をよそに召喚は進行していき、光が収まると

 

 「セイバー問題と新鮮なお野菜の相談なら私におまかせ! バウンティーハンター兼農家。コードネームはヒロインX! 昨今社会的問題となっているセイバー増加問題、そして宇宙開拓の中でも失われない神秘も栄養もたっぷりの野菜ならわた・・・・・し・・・に・・・・?」

 

 黒い帽子に突き出てるアホ毛。金糸の美しい髪を後ろで一つにまとめた髪型。美しい青の瞳に女神を思わせる顔立ち。何処か少女らしい身体を青のジャージ、マフラー、膝下ブーツで包み、手には美しい聖剣を手にし、背中にはもう一振り黒で染まった剣を持っている。

 

 その顔に、雰囲気に華奈は覚えがあった。忘れることのない、かつて三度目の転生の後に一度目の出会いは魔女の手下と罵られ、切り結んだ。二度目は同盟を組み、真実を知って涙で机を濡らして彼女は謝った。それからは同盟者として互いに国を助け合い、支え合い、一緒に苦楽をともにして最後は義理の妹として縁を結び、共に国を崩壊させて民を傷つけない道を選んだ。

 

 自身は人としての生を終えることを選んで人生を全うし、彼女は姉や甥たちと妖精郷で過ごすことを選んだ。もう会うこともない、生きている人間は英霊として召喚できない。死んで魂が座に登録されていないから。

 

 「アルトリ・・・・・ア・・・様・・・ですか・・・?」

 

 それがどうした。今目の前にいるはっちゃけた服装と発言だがアーサー王であろう少女は自分を見て酷く狼狽えている。自分を知っている。それも深く

 

 「姉上・・・? 銀嶺・・・オークニーとの同盟・・・・・分かりますか・・・?」

 

 「はい・・・皆います。銀嶺も・・・私も・・・引退後に屋敷で開いた鍋パーティーも・・・!」

 

 自分たちが知っているブリテンでの思い出。それを話すうちに動揺は確信に変わる。驚愕に変わる。ありえないはずの再会。望むべくもない事。それが今叶っている。この事にひたすらに機械を弄る面々、シミュレーションルームでの騒ぎを置いて、二人の時間は引き伸ばされ、何も聞こえない空間が形作られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありえない。こんな事はありえない。そう思っていた。妖精郷で過ごすうちにいくつもの神話の世界、裏の世界同士が繋がり始め、壁はあるものの行けないことはなくなった。

 

 更には英霊の座とも共鳴して接続されたかサーヴァントユニヴァース。そこで自分たちはガウェインたちと一緒に農業をして日々を糧を得て、時には妖精郷以外の世界にもそれを売ったり、何故か増える自分と同じ顔の同一人物らしきものを切り捨てるために奔走していた。

 

 その世界でも華奈は、自分の姉はいなかった。あの宇宙、いくつもの可能性を内包する世界でもいないほどに自分の姉は稀有な可能性、存在だったのか、それとも自分の世界はここだけしか繋がっていなかったのか。

 

 姉を思いながらも王も権力もない、自由に、のんびりと過ごし、休憩時間に馬を走らせ、気ままに宇宙を駆け巡り、果てのない世界を見つめる。満たされた生活。今だってそうだ。今季の収穫を自分たちの分を除いて出来た分をお得意様に届け、連絡を入れてのんびり帰る傍らにかすかに感じた自分を呼びかける声。

 

 普通なら罠だと切り捨てる、そうでなくとも保険や退路を確保して望むが自身の直感が問題ないと告げる。それどころか寧ろいいことがあると。神様ですら勝手にしろと言いたくなるような広さに過酷さをもった宇宙で過ごしていくうちに磨かれた直感。それを信じて飛び込んだ先は謎の設備がひしめく部屋に見覚えのある土台? そして目の前で自分を呼んでいたであろう人物を見て思考が一瞬停止する。

 

 美しい銀糸の長髪、澄んだ蒼の瞳、それに負けないほどの美しい顔立ち。メリハリの付いた上で男を誘うような豊満でしなやかな肢体。あちらも驚いているのか詰まった様子ではあるがそれでも聞こえる優しい声色。

 

 1500年以上の時を過ごしても片時も忘れたことはない。自分の義理の姉であり、第二の剣の師匠。ブリテンで同盟を結んでからは国の崩壊まで長く助けてもらい、苦楽をともにし、「理想の王」という人形の型枠の時間から「ただのアルトリア」という人である時間をくれたかけがえのない人。

 

 「あ、はは・・・奇跡を超えたなにかですよ・・・本当に・・・・・・また会えるなんて・・・」

 

 「私もです・・・姉上に・・・また・・・また・・・・再会できる・・・なんて」

 

 カナ・フナサカ・・・・・いや、船坂 華奈との再会。言葉に詰まる。言いたいこと、今までの出来事で楽しかったことも、自分の手にした技術も山程、いや山脈になるほどある。愚痴だろうと失敗談でも嫌な顔せずに優しく聞いて、必要ならアドバイスもくれるだろう。

 

 けど、感情が渦を巻きすぎて、暴れすぎて言葉が出ない。ただただ、今起こっている出来事に目が潤み、フラフラと互いに歩み寄ることしか出来ない。

 

 「元気そうでよかったです・・・・・・ふふ・・・そちらも変わりないですか・・・?」

 

 「はい・・・みんなげんきで・・・楽しく・・・過ごしていますよ・・・・」

 

 興奮と歓喜が渦巻く中でどうにか嬉しさを表現しようと、嘘ではないと両者互いに抱きつく。その体温、柔らかな身体の感触。匂い。五感を通して伝わるすべての感覚がこれを事実だと伝え、益々嬉しさに感極まる。

 

 (ああ・・・本当に、本当に姉上の香り・・・声、感触・・・また会えたのですね・・・)

 

 このままこの嬉しさに浸り、甘えたい。昔のように一緒に髪をとかしあい、ハチ達と一緒に遊んで、栗毛に乗って遠乗りをしたい。そんな事を考えて甘える姿勢に入るアルトリアだが・・・

 

 「ぬぉおおお! 狼にイノシシ、ホモに骸骨が追いかけてくるってどんな状況だこれはぁあああ!!!! たんまたんま! 俺が悪かったって! だからこのへんな鬼ごっこの状況を止めてくれええええ!」

 

 「跳弾して襲ってくる弾丸だと!? くそっ! こんな状況でなければ一つ解析してみたいのだが・・・!」

 

 「マシュ! そのまま挟み撃ちだ!」

 

 「了解! このまま行けば華奈さんもいますから二人を抑えられます!」

 

 「い~や~!!! シミュレーターの調整を無理やり終わらせた直後に逃げないで~!! もっと脆いから! 昨日修理が終わったばっかりなのお~~!! カルデアをもう壊さないで~~~~~!!!」

 

 「二人が足を止めれば済む話なんだがなあ。全く、きかん坊で困っちゃうね~もう」

 

 その優しい時間も外から溢れ出る怒声と地響き、そしてその元凶が召喚ルームに入り込んだことで淡くも崩れ去る。

 

 「ふ・・・ふふふ・・・・らしい・・・実にらしいとは言える再会ですが・・・・・・・・」

 

 ゆらりと幽鬼のように華奈から離れて静かに二振りの聖剣を構えるアルトリア。その目には驚くほどに光はなく、虚ろで、驚くほどの殺意が隠すこともなく溢れて魔力となり、聖剣に光が迸る。

 

 「んお? セイバー! テメエもいたのか。良かった! ちょっとこの騒ぎを収めてくんねえか?」

 

 「な・・・・・キミも招かれたのか。しかし・・・その服装は一体・・・」

 

 「どいつもこいつも・・・・・・・・・・・1500年以上超えての感動の再会を邪魔するなあああぁぁぁあぁぁあッッッ!!!!!!!!」

 

 その再会を邪魔された怒りをそのまま聖剣に宿したアルトリアはその後修羅もかくやという大立ち回りを披露してアーチャー、ランサーを瞬時に鎮圧し、改めて銀嶺の面々との再会、カルデアの職員、華奈、その家族へ暴走したことの謝罪と自身の経緯を話すことになった。

 

 新しい生きた大英雄の参加にカルデアのメンバーは驚くと同時に希望が増えたことに喜びの歓声を上げ、メディアは新しい美少女がカルデアに参加することに大歓喜。即座に写真を取りまくり、記憶に姿かたちを記憶してはフィギュア作成に乗り出す始末。

 

 なんやかんやその後は華奈と行動をともにするということで落ち着き、やかましいことこの上ない召喚による戦力と人材確保はようやく終わりを告げる。




華奈「え~・・・取り敢えず職員の皆様にもですが、一応ベッドや床、壁紙など自室の質の向上などの資材も一通り用意しています。リクエストが有ればヤマジに連絡してください。彼の大工部隊がすぐに改築するでしょう。英霊の皆様も同様です」

冬利「一応、俺にもその際に連絡は欲しい。万が一の補修材料に残したいものやストック、倉庫の整理のために必要な情報だからそこは適宜頼む」

一同「了解でーす」

~しばらくして~

華奈(これで一応の戦力は整った・・・後は・・・藤丸様の気構えですね・・・少し酷ですが・・・致し方なし。やりましょう)

アルトリア「姉上? 一応連絡は済ませまして、私はここに残って問題ないそうです・・・姉上~?」

華奈「・・・? ああ、はいはい。良かった・・・これから改めてお願いしますね? アルトリア様」

アルトリア「お任せください! この長い間磨かれた剣術、姉上にも引けは取りませんとも!」

華奈「ふふ・・・頼もしいです。今度また組手をしてみましょうか」




取り敢えずこれで召喚回は終了。あといくつかネタを挟んでオルレアンです。長いのは自覚していますが、ネタや必要な準備を含めるとこうなってしまいました。

少なくとも藤丸の特訓とネタを挟んでからオルレアンに突撃です。その時にストーム1も大いに暴れてくれるでしょう。基本特異点にいるときがストーム1が輝くかも?

最後にUA 60219件 しおり 157件 お気に入り 445件 UA6万を超えました! 嬉しいです! ここまでこれるとは・・・! これからもどうかよろしくお願います。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。



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スパルタ教育(笑)

~カルデア・廊下~

クー・フーリン「はーしかしまあ、聞くだけでもやべえ状況からよくもまあ立て直したもんだ」

藤丸「うん、カルデアの皆のお陰だよ。取り敢えず今は職員の個室の改築や嗜好品、漫画とかの娯楽品の提供を始めているんだって」

クー・フーリン「あの姉ちゃんの騎士からだろ? しかもその品も姉ちゃんやその家族。俺らの時代にはなかったが、ええと・・・そう、あれだ。今は戦争中みたいなものだから慰問袋? ってのを貰っているみたいだなあ。俺もさっきタバコと飴をもらったし」

藤丸「それとは少し違うような・・・? 早いね~俺は何を貰えるのかな? あ、そうだ俺華奈さんから呼ばれているからもう少ししたら離れるね」

クー・フーリン「了解だ。じゃ、俺はそのときゃ何処かで一服するさ。釣り堀に畑も作っているみたいだし、いい暇つぶしにならぁな」

~所長室~

オルガマリー「そう、貴方の真名はエミヤ・・・で、一瞬だけだったけど冬木で見たあの変わった矢に映像で見た剣は貴方の魔術と」

エミヤ「種明かしはしまいがね。まあそんなものだと考えてくれマスター。それとだ、華奈から頼まれたもので渡しておきたいものがあるそうだ。これなんだが・・・」
(陽炎のコピーを渡す)

オルガマリー「こ、これって陽炎!? 華奈の聖剣の一つじゃない!」

エミヤ「私の能力で作った模倣品さ。とは言え、効果は発揮できるし、この刀は魔を祓う力があるそうだ。護身用にいいだろう? 許可さえ貰えればこれをカルデアの各所に設置して、起点にメディアの魔術のとの連携を取り入れた防衛体制を整える案も出来ている。検討して欲しい」

オルガマリー「・・・そうね。考えておくわ。その前に改めてカルデアの全容を再チェックね。隠し倉庫も含めて・・・」

エミヤ「ああ、ところで何だが、ここのキッチンの設備も食料も素晴らしい。マスターさえ良ければ元気のつく食事でも一つ如何だろうか?」

オルガマリー「そう言えばバトラーがどうとか言っていたわね。お願いしてもいいかしら。今は確か良馬がいたはずだから彼に聞けばいいと思うわ」

~メディアの個室~

メディア「ああ、最高! 文字通り王族で美少女! あのアーサー王と銀嶺騎士団の魔術師で幼いまんまの魔術師アンナ。最高の子たちが来て幸せだわああ! あのオルガマリーも弟子入り志願していたし、その合間に・・・!」

アルトリア「・・・どうしてこうなった?」
(メイドの衣装を着せられて激写されている)

アンナ「さぁ・・・? でも、まさかこの環境でおしゃれできるとは思わなかったし、楽しんだほうが良いと思うわよ?」
(黒のゴスロリ衣装。同じくシャッターの嵐)

メディア「かわいいかわいいかわいいかわいい! 銀嶺の中にも美少女はいたし咲ちゃんもうふふふふ~♪」

アルトリア「・・・取り敢えず別世界に行ききってしまう前に抑えるということで」

アンナ「了解」

アルトリア「(しかしまあ、あの子もいたなんて・・・一応手段は用意しましたが・・・マシュがそれを了解するかですね)」

アンナ「(電力は私の増幅装置の杖で解決できるし、フラムとダ・ヴィンチがさらなる魔力、電力に関係する手を打っているそうだし・・・どうなるかしら?)」

~射撃場~

ストーム1「うーし、じゃあ、マスターのことだから皆こっそり経験しているだろうが、これから火器の取扱、チーム編成を考えるぞ。取り敢えずAFシリーズの取扱、スナイパーライフルの扱い。それと個人でそれぞれ二つ気に入った武器を選んでくれ。清掃と分解も並行するぞ」

銀嶺隊「「了解!」」

ストーム1「さて・・・うーん・・・20名づつ射撃訓練。解体清掃。その後に教育係で更に大規模な訓練、上手く行けばショットガンやバウンドガン。変わった部類の武器も教えてくるとして・・・予備は腐るほどあるが・・」

冬利「あーちょいちょいストーム1さん。俺も使えますぜ。銃。武装集団や魔術使いとの戦いで少し」

良馬「私も出来ますよ。ちょこちょこ付き合わされてそれなりですが簡単な撃ち方くらいなら」

ストーム1「ああ、そりゃありがたい。取り敢えずエアーブラシも準備してくれねえか? あとカメラも。俺がいねえ時の教材ビデオを作りたい」



 「マシュ、少し話があるのですがよろしいですか」

 

 英霊が召喚され、各々が華奈やオルガマリーに頼まれた仕事をこなしながらカルデアを楽しんでいる最中、マシュはカルデアの現状トップ技師の一人になったフラムに声をかけられる。

 

 「はい。どうかしましたか?」

 

 その事に少し意外に思いながらマシュも応える。マスター適正さえあれば間違いなくAチーム入り確定だった魔術に造形の深い褐色の美女。華奈の「家族」ということで色々と装置や機材の管理に開発を行っているそうで今もそれをいくつか準備してカルデアの復興に尽力している一人だ。

 

 「新しい機材の操作でしょうか? 私には機会修理はできませんからその手伝いとかは難しいですが・・・」

 

 一応のオペレートも出来るのでそれなりに質問や他愛ない会話を重ねたことはある。けれど名指しで呼ばれたことはなかったので少しキョトンとしながら思い浮かんだ話をふると苦笑しながら手を横にふる。

 

 「うーん、半分正解ですね。私が操作する機械に少し付き合ってほしいのです。マシュにも必要なものなので」

 

 「必要なもの? ですか・・・・?」

 

 機械の操作に付き合って欲しい。新しい機材の使用許可はオルガマリーに聞くべきだし、何故かそれの許可が自分に聞かれ、更には自分に必要。なんだかトンチンカンな話に聞こえて頭に?マークが浮かぶ。

 

 「ドクターにも許可はとっていますので、行きましょう。そこで話したほうが色々早いでしょう」

 

 そう言いながら背中を向けて何処かへ歩き出すフラム。自分に必要なもの、許可はとっているので後ろめたいことはない。好奇心がすぐにマシュの中で上回り、フラムの後をついていく。

 

 

 

 「これですよ。分かりますか?」

 

 フラムについていった先は一つの個室。そこにぽつんと置いてあるコフィンによく似た物が置かれ、何かの液体で満たされている。

 

 その液体は魔力、神秘に溢れていることがすぐに分かり、人がなかで寝そべるためのクッションもあることで人に何らかの作用を及ぼすものだというのがなんとなくだけども理解出来た。

 

 「コフィン・・・ですけど、何かの装置ですか?」

 

 「ええ、これはいわゆる医療用のポッドとでも言うのでしょうか? それをよりアップグレードして、貴女のために華奈がカルデアの技術版のトップに頼んで準備したものです。・・・・・・・分かるでしょう? マシュ、貴女の体のこと」

 

 「・・・・っ・・・」

 

 マシュ・キリエライトの身体は普通の生まれではなくデザイナー・ベビー。れっきとした人間ではあるが、そのマスター適正とAチームに入れるほどの魔術回路の調整に力を入れたことで寿命はさほど長くなく、せいぜいが18年程度。それを超えれば活動限界となってマシュの身体の寿命は尽き、生を終える。

 

 「貴女の身体、貴女の人生。華奈に付き合っているせいでしょうね。もし満足がいく、悔いが残らない人生なら私はマシュが18年の寿命で終えても問題ないと思っているわ」

 

 「・・・はい、私は、生まれて、出会いがあって、短いですが友達も、英霊にも出会えました。得難い経験をたくさんできたと思います」

 

 そう、短いがAチームの皆にロマニ、ダ・ヴィンチちゃん、オルガマリー、華奈、そしてその家族に英霊。多くの出会いを果たした。経験があった。けど、それでも何処かフラムの言葉には引っかかりを感じ、何かムカムカする感覚をマシュは感じてしまう。

 

 「そう、出会い、その出会った大切な人たちの未来を取り戻すための戦いに私達は身を投じている。けど、そのまま戦うとね・・・マシュ、貴方が一番先に脱落するわ」

 

 「!!? そ、それは一体・・・」

 

 フラムの口から紡がれるその言葉はマシュにとっては死刑宣告を下されたときのように重くのしかかり、目の前が一瞬暗くなるように思えた。その言葉が頭の中で何度も反響しては大きくなり、思わずたたらを踏んで視界が揺らぐ。

 

 「考えてみなさい・・・超人でもない、華奈みたいな受肉した英霊でも、今も生きているアーサー王・・・アルトリアみたいな英霊の力。運動音痴で逆上がりが出来ない貴女も分かるでしょう? あの馬鹿げた力を身に宿して戦うことの負担の大きさ・・・エクスカリバーを受け止める膂力。あの巨大な盾を振り回してブレることのない体幹、それを抱えて長時間動き回って疲れることのない足腰、戦場を知らない貴女でも英霊の殺気をその身に余すこと無く受け止めて尚毅然に振る舞える精神性・・・オリンピック選手でも真似できない肉体レベルの再現に酷使、マシュの寿命が削られないわけ無いわ」

 

 「た、確かにそうですけど・・・」

 

 「マシュの英霊が負担を受け持っても感じる疲労。表に出ないだけでそれは確実に進行している。メディアにロマニにも見てもらったけど・・・冬木と同じ時間の英霊化で半年、それ以上の数日間の英霊の力の発動と維持では更に半分の三ヶ月。そこから宝具を数度使用、連戦などの負担も考えると・・・まあ、二ヶ月が山でしょうね」

 

 考えないわけではなかった。英霊、おおよそ人の可能性の極限の一つ。世界に名を刻んだ傑物、偉人。そんな彼らの力をふるい、暴れて身体に負担が来ないというのはおかしい。少し前に運動でいつもよりも多めに運動したことがあったが後日筋肉痛に襲われたり、疲労で睡魔と戦ったこともある。

 

 そんなものとは比較にならないほどの運動量、精神負担、魔術回路の使用。どんなに優れた治療魔術で治してもその爪痕が完全に消えるかと言われたら問題ないときっぱりとは言えない。そもそも自身の活動限界も残り二年。普通の人間で当てはめればとっくに老人の粋だ。そろそろ身体にガタが来て、壊れていくのもおかしくはない。

 

 「そうなると・・・マシュがこの何時まで続くかわからない戦いの途中で命を落とせば、残される藤丸くん、冬木での戦いぶりを見て希望を貰ったカルデアの皆に来る悲しみや絶望は大きいものになる」

 

 「せ、先輩を残して・・・? ぁ・・・・ああぁ・・・・・・」

 

 そうだ。英霊の力を得た自分はもう戦力の一人。誰かに任せるだけじゃない。任されて、背負う立場に立っていること。そして、自身が先輩と呼び慕う藤丸 立香。自分を信じて、あの炎の中で手を握ってくれた優しい男の子。彼との戦いも、過ごす時間もすぐに無くなってしまう。

 

 そして、それが特異点のさなかで自分が倒れたら? 複数の英霊と戦っている時にそれが起きたら?

 

 思えば思うほどに絶望は深く、これからの旅路に恐怖の色は深く染まり、自身の体を恨めしく思う。

 

 「正直・・・脅しに近い発言なのは承知。けど、せめて・・・せめてこの戦いの中だけでも生きるための手段を掴んでほしいわ。それがきっと貴女のためにもなるし・・・多分、素晴らしいものもたくさん見られるはずよ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で話すフラム。フラム自身も自分の言っていることがマシュの選択肢を奪っている、誘導していることは分かっている。けど、それでもマシュに生きていてほしいと思う部分はあるし、事情を知っているだけに見てほしかった。

 

 カルデアだけではない、映像だけじゃない。外の世界を、あんな冬木のような地獄だけが、カルデアの外の寒い真っ白な世界だけじゃないと。彩を知ってほしいと。

 

 「それは・・・確信があるものですか・・・?」

 

 「悪いけど・・・女の勘かな。でも、意外と当たるものですよ?」

 

 一瞬の間を置いて微笑むフラム。それに釣られてマシュも思わず笑い、後ろにあるコフィンに歩み寄る。自分がずっと戦えるために。藤丸の側で守るために。

 

 

 

 

 「これでいいのですか?」

 

 それから専用の衣服に着替えた後に専用のポッドに入り、身体を浸す薄緑の液体に体を委ねる。最初はひんやりとした感触に少しの不快感を抱いたが、それもすぐさま薄れていく。

 

 むしろ液から身体に充足感、隅々まで活力を補充され、身体が生まれ変わったかのような感覚すらも覚えるほどであり、心地よさと活力にあふれるその時間は心地よいものだった。

 

 「ええ、取り敢えず二時間位は入って欲しいわ。それはマシュの体を癒やすと同時に内部の修復と身体をより強いものに作り変える、英霊の力をふるいながらも人並みの寿命を手にすることが出来るようにと作ったものなの」

 

 数千億は下らないほどの資金、資材、道具を用意して作り上げた最高レベルの医療ポッド。そこらの錬金術、ホムンクルスのレベルを超えるためにカルデアの技術と頭脳を注いで完成した代物。

 

 更にこれにメディアの魔術。アルトリアのアヴァロン、華奈のかつて妖精から貰った道具の中で治療、回復関係のもの。クー・フーリンの医療用のルーンを詰め込みまくった結果数十ものアップグレードを実現させ、僅かな時間の使用で済むようになった。

 

 「これで一応の身体の回復とより頑丈な身体に・・・」

 

 「運動音痴は英霊の方から感覚を学ばないと逆上がりは難しいと思うけどね?」

 

 自分の寿命とそれからくる戦える時間の短さ。それを解消できると希望が湧くマシュに少し茶々を入れておどけるフラム。それに少し頬を膨らませて抗議するマシュを尻目に別の端末を準備し、ポッドにつなぐ。

 

 「取り敢えず、治療用でずっと目が冴えるでしょうから、暇つぶしにこれでもどうかしら?」

 

 それから端末をいじるとマシュの目の前のガラスに映像が写り、音声も流れ始める。

 

 「これで映像作品が見れるから、色々見ましょうか。取り敢えず・・・シャーロック・ホームズの作品、見る?」

 

 「は、はい! えっと・・・全作品あるのですか?」

 

 「勿論、実写、アニメ、事件も冒険から帰還までなんでも何が良い?」

 

 その言葉に前からホームズファンだったマシュの表情は輝き、フラムの取り出したDVDに目を走らせていく。

 

 「では、6つのナポレオンで! 久しぶりに見たいです!」

 

 「了解。じゃ、入れるから少し待ってね」

 

 その後は二人でホームズの映像作品を鑑賞し、終わった後に感想の言い合いで賑やかなものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて・・・始めましょうか」

 

 トレーニングルームの一室。そこにカルデア職員の服ではなく和服に身を包み、ぼんやりと天井を見つめる華奈。彼女は藤丸を呼び、ゆったりと待っていた。聞こえてくる足音から彼が来ていることを感じ取り、同時にこれから起こす、もしかしたら彼を廃人にする可能性もある荒行をしようとしていることに少し後ろめたく感じる。

 

 間違いなく必要なことであり、生存率、勝率が増える。だからこそ必要、しかし危険。劇薬をぶち込むようなものだとため息を一つ吐く。

 

 そんな華奈の心情とは逆に足音は近づき、扉の前で停まってから足音の持ち主は扉を開く。

 

 「おまたせしました。それで、要件とは?」

 

 開いた扉の先から現れるのは藤丸 立香。カルデアの正規マスター最後の一人。すでに特異点一つを解決した実績の持ち主。その中性的で優しい顔立ちは既にカルデア、英霊に馴染み、過酷な戦いへの緊張もいい意味でなれたのか気負いがない。

 

 「ええ、一つ私から訓練をしようかと思いまして」

 

 「訓練? でも、俺運動がすごく得意というわけでも・・・・・」

 

 円卓の騎士直々の訓練と聞いて両手を振って少し後ずさる藤丸。軍人、それも世界でも有名な部類の軍人からのシゴキには幾ら何でもと驚きと戸惑いが現れているのがよく分かる。

 

 「ふふ、私もいきなり私達のレベルに合わせはしませんよ。子供の教育係もやっていましたから段階を踏むことは出来ます。無事にやりきれたらプレゼントも差し上げますよ」

 

 華奈は藤丸の方に歩み寄り、手元に一振りの木刀を渡す。藤丸の方はいきなり女性、それもかなりの美人が遠慮もなく近寄ったことに年相応の反応を示して慌て、そして握っていた木刀を落とさないようにしっかりと握る。

 

 その間に華奈は数歩歩き、数メートル離れて二人が向かい合うような形を作る。それから何をするまでもなくゆったりと自然体で立つ。

 

 「その木刀を構えて、三十分立ち続けてください。ああ、痒かったら頬をかいてもいいですからね? どうでしょう。時間、ありますか」

 

 「はぁ・・・・・・・・それくらいなら」

 

 思った以上に拍子抜けすぎる訓練内容。素振りや昔漫画で見た木々の束をひたすらに打ち付けるものかと考えていたのだが、ただ棒立ち、もどかしかったり、痒かったら頬をかけばいいという緩いもの。寺の座禅のようなものだろうと剣道部の同級生の構えを思い出してぎこちないながらに木刀を華奈へと向ける。

 

 「では・・・・・・・・耐えてくださいね?」

 

 「?・・・」

 

 直後、部屋の空気が一気に氷点下まで下がった。そのように藤丸は感じた。

 

 「!・・・・・・・・・・・」

 

 息ができない、吸い込めない。吐き出すことだけしか出来ない息は鉛のように重く、ドンドン身体が苦しくなる。冷や汗が止まらず、心臓が早鐘のように鳴り響き、耳が馬鹿になるほどに大きくなる。目は大きく見開き、華奈から目が離せない。

 

 心臓を鷲掴みにされ、首に鋭利な刃物を突きつけられているような感覚を味わいながら歩いてくる華奈に反応できず、何も言えないまま

 

 貫手で胸を穿たれ、真っ赤な鮮血を吹き出した。それを見た後に藤丸は意識を手放し・・・

 

 「あら、どうしたのですか藤丸様。もしかして足がしびれましたか?」

 

 尻餅をついたところで意識を取り戻す。すぐさま穿たれたはずの胸を見ればそこには服も傷はなく、血の跡もない。華奈も最初の位置から一歩も離れてはいない。ただ先程と同じように立ち、尻餅をついて倒れた藤丸を不思議そうに眺めている。

 

 「あ、え・・・・・・? そんな・・・俺、血・・え? あ?」

 

 「ふぅ・・・・・・情けない。マシュ様がいなくばこの程度ですか」

 

 華奈は呆れたような表情に変わり、ため息を吐く。華奈は何もしていない。自分も傷一つ無い。戸惑いや恐怖が溢れ、流れる冷や汗は止まることがない。

 

 「ただ殺気をぶつけただけですよ。冬木で何度も経験したでしょう?」

 

 そのことでようやく合点がいく。恐怖、その根源と最近感じた感覚。対峙した英霊がから、化物から放たれ、向けられる殺意。それを直に受けたせいで倒れたと。ただ、今の藤丸にはそれを理解できるだけでやっと。

 

 「は・・・・え・・い、いや・・なん・・・」

 

 「さ、立ってください藤丸様。まだ始まって二分も過ぎていないですよ?」

 

 眼の前で立つように促す華奈の言葉にも身体は動かず、手足が震えているだけだ。あれだけの英霊や怪物との戦闘を経験して尚あっさりと華奈の殺気に倒れるか。その理由は単純。傍で支えた元、常に先頭に立って盾となったマシュによる支え、殺気を薄めてくれたフィルター。それがいない状態での一人のみ、薄れない、紛らわせるものがない状態では経験があれども藤丸も幾重も研ぎ澄まされた華奈の殺気にはただの年相応の凡人になる。

 

 「っ・・・く・・そ・・・」

 

 それでも藤丸は震える手で太ももを何度も叩いて活を入れ、立ち上がって木刀を構える。それでも手はなお震え、目には恐怖が強く移り住み、華奈を直視できずに目をそらしてしまう。

 

 「目をそらさない!」

 

 「ッ!!」

 

 華奈の怒声に足がもつれてまた倒れ込み、後退りをしそうになる。もう目の前にいるものが優しい女性には見えない。英霊、円卓の武官だと、逃げたいと本能が警鐘を鳴らして鳴り止まない。

 

 「・・・藤丸様、今回の冬木。英霊で戦った頭数、覚えていますか?」

 

 「・・・・・・・4騎」

 

 「6騎です。私が倒したものを含め、そして敵陣営も暴走を含めて動かせなかったワイルドカード。そして私達は私にストーム1、マシュ様、メディア様の4騎。頭数はあちらが上。それが一気に来たらどうします? 少なくとも2騎は私達という盾がない状況で英霊と向かい合い、殺気に晒されるその上で英霊に自身が指示をしなければいけない」

 

 ぽつぽつと告げられる思った以上の冬木の過酷さ。もしかすればあれ以上の状況が起こっていたのかもしれないと考えるだけでも恐ろしく、それを噛み砕きながらどうにか、どうにか藤丸はまた立ち上がる。

 

 「マスターは英霊を留める楔だけではない。精神安定剤の部分もあります。特にマシュ様は貴方を頼りにしています。だからこそ、毅然とした、はっきりとした指示を貴方は出さないといけない」

 

 マシュ。最後にカルデアに来た新人の自分を何故か先輩と呼び慕い、頼ってくれる変わった女の子。英霊の力を持ってもその優しさは変わらず、自分たちのために戦い抜こうとしている。その彼女のために指示を出さないといけない。あの化物同士の戦いとしか言えない、入り込む場所などないはずのところにも必要と言われた。聖杯戦争を経験している英霊から。

 

 「これから起こる特異点攻略の戦いは、文字通り予測不能です。狂った時代。それは何が原因で狂ったのか。そしてそはどんな輩が起こしたのか、どんな奴らが敵になるか。わかりません。そんな中で放り出され、わけも分からずまともな指示も出せないまま死ぬ。それはあまりにも悲しすぎます」

 

 話す華奈の表情はかすかに眉根が寄り、瞳が悲しげに沈んでいるように見えた。それも一瞬であり、すぐにまた無表情に変わり

 

 「だから今慣れなさい。殺意を受け、それでも歯を食いしばって立って、英霊に、敵味方に見せてやりなさい。自分はまだ倒れない。まだ行けるんだぞと」

 

 「は・・・・・い・・・!」

 

 厳しい要求、激励、そして発破を受け取って藤丸はまた立ち上がって木刀を構え、華奈に泣きそうな瞳で見据える。それをみて華奈は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ優しい笑顔を見せ。

 

 「よろしい。では残りの20分ちょい、耐え抜きなさい」

 

 再び殺気が部屋を埋め尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・・はいそこまで。お疲れ様です」

 

 「あ、有難うございました・・・・・っ・・・・・・・・」

 

 殺気に晒されて二十数分。石にかじりつくような姿勢でひたすらに殺意にさらされた藤丸は華奈の言葉で糸が切れたように倒れ、床に頬が着いた後すぐに意識を失う。涙も汗も垂れ流し、いつの間にやら床が濡れ、どこかアンモニア臭くもなっている。

 

 「クラーク。藤丸様を運んで風呂場にお連れしなさい。私はここを清掃してから私自身の鍛錬に入ります」

 

 木刀を握ったまま離さない指を一本一本外しながら声をどことなくかけると相変わらずの強面に清掃員の服に身を包んだクラークが現れ、彼に藤丸を華奈は渡す。

 

 「了解です。清掃用具はこちらにあるのでどうぞお使いくださいませ。しかし、華奈様もこの訓練はお疲れでは・・・休んだり、一度寝たほうが」

 

 用意していたのだろう。清掃用具を置き、藤丸を受け取った彼は少し気まずそうに言う。華奈もこの訓練はやっていて気持ちのいいものではなく、心を鬼にして行ったもの。精神負担からも一度藤丸の体を洗った後に自分が清掃もやろうかというと華奈は首を横に振る。

 

 「藤丸様にも言いましたが、マスターは英霊の精神安定剤、精神的支柱の一つにもなります。私も簡単に倒れないようにしなければいけませんからね。気分転換も兼ねて体を動かしますよ」

 

 そう言ってはにかむ華奈を見てクラークはもう何も言わずに藤丸を担いで風呂場に直行し、起こしてやって体を洗う。勿論あの強面が目が覚めて眼の前にいた藤丸は驚いてまた意識が飛びそうになり、華奈は改めて基礎訓練からやり直して気を引き締め直した。 




~翌朝~

藤丸「くわぁ・・・つ・・・疲れた・・・ためになる訓練だけど・・・これをやるのは・・ん?」

(枕に小箱と手紙)

藤丸「なんだろ・・・・」

「手紙」藤丸様。訓練お疲れ様です。あの訓練をどうにか最後まで成し遂げたのは大したもの。私も嬉しい限りです。もし時間がある、気概があるのならまたおいでください。私の技術を教えましょう。

そして、約束のプレゼントです。気にいるかはさておき、力になるものです。取り敢えず、気に入らないのであれば申してください。取り替えもしますので。 

                                華奈より

藤丸「・・・なんだか、嬉しいな・・・どれどれ・・・」(箱を開ける。包みと手紙)

「手紙」ただし、これは必要なものかもしれませんが危険なものでもあります。取扱には気をつけてください。どんなものでも使い方次第。悪用はせぬように

                               華奈より

藤丸「??? 何を渡そうとしているんだろう?」(包みを解いてみると銃と弾丸、手紙)

「手紙」この銃はS&Wレディスミス22口径、セカンドモデル。せっかくですのでカスタムを施してあります。22口径の小型弾を大型のフレームで扱うので反動も小さく扱いやすい、ただしリボルバーはフレームに合わせてあるので装弾数は増量して多めの8発まで装填可能。シリンダーマガジンも予備含めて3つ用意しました。極力使わないほうがいいのですが、万が一の時は使うように。訓練は私やストームが出来ます。もしこれを扱えるようにしたいのであれば呼びつけてください。

                               華奈より

藤丸「・・・・・・・・・・・・取り敢えず、銃弾は全部しまってから聞きに行こう」(全部箱にしまってカバンに突っ込んだ後に射撃訓練場に移動)



今回はマシュと藤丸の二人の準備。この二つは多分かなり必要じゃないかなと思っています。英霊と向き合って話すシーンとかも多いですし、慣れや胆力を手にする下地は今のうちに準備しておいたほうがいいかなと。

マシュもよりギャラハッドの力を引き出して行けば行くほどに負担が大きいでしょうから早めの医療ポッド設置。アルトリアにメディア、クー・フーリンがいてくれたのは嬉しい限り。ソロモンに引けを取らない英霊の力を引き出して耐えられる。ギャラハッドの気遣いもあるでしょうがそれでもとんでもないですよね。

次回は幾分おちゃらけます。かなりふざけられるようにがんばります。

最後にUA 61774件 しおり 157件 お気に入り 448件 応援ありがとうございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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なぜなに、アル華奈! ブリテンメシマズ道中

~シミュレータールーム~

藤丸「・・・・っ」

華奈「そうです藤丸様。今貴方様は死を避けることが出来ました。そこでマシュ様にサポートのために支給された礼装とかを使って」

藤丸「れ、礼装・・・?」

オルガマリー「えっと・・・藤丸が着ている服には英霊をサポートする機能があって、それのこと・・・」

メディア「はいはい。マリーはこっち。魔術の高みを目指すのなら再復習。諳んじる事ができるほどじゃないと向上は図れないわよ」

ストーム「んまあ、言ってしまえば令呪以外でのお助け機能。バックアップだなあ。なんか色々作っているみたいだが、取りあえずはその服の機能から理解していこうか」

~射撃訓練場~

ストーム1「いいか? 俺やマスターは玩具、映画の主人公みたいに銃を使ってはいるが、銃ってのは化物だ。藤丸が持っている銃ですら金属の小さな塊を音速以上の速度でぶっ放す。その反動も勿論お前さんにやってくる。だから身体の下地、撃つ際の反動の軽減、体を壊さない撃ち方。それをマスターしないといけない。取り敢えず俺が見せる撃ち方を真似してくれ」

華奈「それが出来てくれば英霊は難しいですが、あの骸骨くらいの化物なら牽制、倒せますし、英霊にも効果のある弾丸も藤丸様が上達すれば私が誂えましょう。英霊の作った武器なら、英霊にもダメージが入りますからねえ」

~廊下~

ヤマジ「いいかい藤丸くん、足腰の強さと身体の柔軟性ってのは持っているとそれだけでもありがたいもんだ。銃みたいに物によっては数キロあるブツを持って動いても疲れない、柔軟な身体は変に疲れが一箇所に集中しないから疲れないし、射撃、戦闘訓練でも稼働率のパフォーマンスは上がる。取り敢えず走ってスタミナを付け、ストレッチ。これも必ず血肉になってイイ男に近づくってものさ」

藤丸「は・・・はい・・・」
(二人一緒にランニング中)

~書庫~

アンナ「いい? 君はマシュと契約を結んで、クー・フーリンとも契約を結んだ。これは魔力というパスを通していること、魔術回路が起動していること。これは分かるわよね?」

藤丸「ええと、ようは魔力を使うための専用の通路みたいなものですよね?」

アンナ「大体はね。で、魔術回路が一応は使えて、2騎の英霊との契約も問題ない、礼装も使える。藤丸くんも魔術を使える下地が出来ているの。というわけで、魔術の初歩の初歩から教えていきます。いいですか?」

藤丸「はーい。何だか、魔法使いの学校に来た気分だ!」

アンナ「うふふ。喜んでくれたようで何より。じゃあ、取りあえずは魔術回路のスイッチの切替から・・・」


 華奈から叩き込まれた殺気をぶつけられるという荒行を受けて以降、藤丸は何度もその身に感じた死のイメージ、それを遠ざけるための訓練を銀嶺、ストーム1から学んでいた。

 

 礼装という英霊を助けるための自身の装備、護身用の銃の使い方。スタミナ、疲れにくい身体の下地作り、魔術の勉強とそれなりにハードなものだがどの訓練がどのように自分を生き残らせる可能性を上げるのか、マシュやクー・フーリンとどのように連携できるかというものが明確に示され、それを骨身まで理解して真剣に取り組むのだから成長も早い。

 

 今では華奈の殺気を受けて尚歩み寄ることも可能になり、スタミナも部活をしている同級生には及ばないが、それでも日本の十代半ばの少年の中では高い水準になっていく。

 

 このことに藤丸はそれが楽しく感じていたし、何よりも英霊たる存在が自分の事を見て教えを施し、成長している部分をしっかり褒める。そしてそれが自分と契約してくれたマシュやクー・フーリンと同じ戦場で戦える、勝率を上げる結果につながっている。最初は怖くて仕方がなかった華奈の訓練も今では楽しみの一つになっていた。

 

 華奈も最初の荒行以降は基本の基本、藤丸という少年に合わせたカリキュラムを作れたことも大きい。こんな状況故に最初からあんな訓練を課したがそれが一番必要だったし、それさえ超えてくれれば精神の補強、恐怖を実感した上での無駄がない訓練は幾らでも用意できる。教育係としてオークニーでガウェインらを育て、円卓では剣術指南、銀嶺を育てた経験は伊達ではない。

 

 そうしているうちに藤丸も華奈達に一層興味がわき、ゲームのキャラクター、円卓の女騎士という事以外でも知りたくなって調べていった結果、一つ、ある意味どうしてそこに目が行くんだという疑問が湧いた。それは

 

 「何であんなに料理がうまいのに最近までイギリスはメシマズだったのか」

 

 ということである。

 

 イギリスのメシマズはイギリスのことをよく知らない藤丸でも聞き及ぶほどのネタであり、少し前に見たバラエティ番組でもタレントや芸人がその料理の味に驚いて現地の人に話を聞くという企画を見たことがある。結果はまあ勿論メシマズ、旨い店をようやく見つけてラッキーというものだったが、1500年前以上のブリテンでこれほどの料理が出来る人がいるのになんでこうなったのか。不思議でしょうがない。

 

 このカルデアに来てからというもの三食の食事はエミヤという英霊以外にも職員の良馬さん、そして華奈、アンナ、他にも銀嶺のメンバーが作ってくれるがどれも美味いものばかり。

 

 何でこうなったのかということを訓練がない休みの日が出来た藤丸は華奈の部屋に向かい、ばったりあったマシュも合流して面白そうだからと二人で行くことにした。

 

 「華奈さーん、マシュですが、いますか~」

 

 「華奈さん、いますか?」

 

 扉の前について声を掛けるも反応はないまま。扉にはいるといことになっているのだが、寝ているのだろうか。そう考えていると何やらドタバタと騒ぎが起き、しばらくの間を置いて扉が開く。

 

 「ああ・・・おまたせしました。どうなさいましたか?」

 

 そこには少し頬を赤らめ息を浅く切らした華奈。後ろで少しもったいなさそうに華奈を見つめるアルトリア。何があったのやらと思うが、あえて突っ込まないことにした。銀嶺のメンバーが何処かズレた所。とりわけヤマジはいわゆるガチホモだったし、わりかし華奈もぶっ飛んでいるのだろうと。

 

 「いえ、その・・・先輩がブリテンの、イギリスのメシマズについて疑問だそうで。華奈さんや銀嶺の皆が料理がうまいのに、何で一族に料理が伝わらなかったのか。と」

 

 その旨をマシュが伝えると華奈もアルトリアも苦笑いを浮かべ「ああ」といった表情になる。

 

 「では、少し時代をさかのぼった授業・・・まあ、解説になりますがいいでしょうか?」

 

 「どうしてもそこら辺は歴史を遡る必要がありますからねえ。宗教に時代の流れ・・・少し大変ですが」

 

 「授業や教え方も面白かったですし、お願いします」

 

 頼む藤丸を見てやりますかと準備を始めるアルトリア、華奈。早速授業を始めるためのホワイトボードや資料、本をあさり始めていく。

 

 「取り敢えず小さい会議室でやりましょうか。少し準備をしますのでお待ち下さい」

 

 それを聞いて少しの間食堂で時間を潰すために移動する藤丸とマシュ。その間もアンナが作った「よく分かる魔術。その第一歩と肉体強化のイロハ」を読み進め、マシュに指摘してもらったりして充実した時間を過ごし、その光景を周りからからかわれたが。

 

 

 ~しばらくして~

 

 

 十人くらいが集まって話せる小さめの会議室に時間になってそこで待機するマシュ、藤丸、途中から合流したオルガマリー、ロマニ、咲、フラム、元の面々。まだかまだかと待っていると

 

 「アルと!」

 

 バニーガールの衣装に身を包んで涙目のアーサー王と

 

 「華奈の!」

 

 女性用のリクルートスーツに身を包んだ華奈が現れ

 

 「「なぜなにブリテン! メシマズ編!!」」

 

 黒子役のストーム1がテロップの看板を出して良馬がSEを出す。何ともまあカオスな授業が幕を開ける。

 

 「あ、姉上! 何でウサギさんでもこのウサギさんなんですか!!? 肌が、恥ずかしいです!」

 

 「あら、こういう授業じゃなかったかしら?」

 

 「何の授業ですかそれ! こんなうさぎが闊歩する番組子供の前で見せられるわけ無いでしょう!!?」

 

 「確かに。あれ? 私何と勘違いしてたのでしょうか」

 

 いきなりの相方のズレと何故乗ったしと言いたくなるような司会と進行役の暴走に一部は呆然とし、一部は写真を取りまくる。野次馬が増え、どこかの魔女も参加した辺りで茶を濁して言ったことに収集がつかず。

 

 「お色直しをしまーす!」

 

 アルトリアの発言で一度華奈と離れ、着替え直すことに。

 

 

 ~またしばらくして~

 

 

 「はい、というわけでブリテン、イギリスのメシマズ文化なんですが、取り敢えず大きな原因は産業革命と言っておきましょう」

 

 ようやく元ネタのお姉さん服に身を包んだ華奈。うさぎのきぐるみを着込んだアルトリアが戻ったことでようやく始まった授業。

 

 「産業革命と言うとお姉さん、いわゆる蒸気機関のあれだよね?」

 

 ホワイトボードをめくると現れる蒸気機関車、その他のイラスト。教科書や歴史の挿絵でも見たことがある絵が描かれている。

 

 「そうです。いわゆる技術のブレイクスルー。世界が一歩科学の世界に足を踏み入れたもの。人と馬の時代から蒸気と機械、そして鉄道の時代へとシフトしていく時代ですね」

 

 「私達魔術師にとってはあんまりいいものではないけれどね。古いもの、神秘が一気に無くなっていくわけだし」

 

 少し渋面を作って複雑な表情を浮かべるオルガマリー。科学と魔術の融合故にカルデアには必要なものだが、それでも魔術師としてはあまり受け入れたくはないものである。

 

 「一気に世界が変わった時代だよねえ。これで工場とかが出来てイギリスは世界の工場と呼ばれたりしたし」

 

 「でも、少し変だよねお姉さん」

 

 「ん? 何がかなあ?」

 

 「だって、今では蒸気機関は古いけど、当時はそれが最新の技術で、ある意味未知の技術でしょ? 産業革命前のイギリスにそんなお金、何処にあったのかなあ」

 

 産業革命は藤丸も知っている。教科書で小中学校で聞いたし、テストでも必ずと行っていいほど出たから嫌でも覚えた。けど、考えてみればそうだ。

 

 「確かに・・・新しい技術、それを作るだけでも凄いコストがかかるのに、何でそれがすぐ実用化して、量産できて革命になるほどの下地があったのでしょうか?」

 

 マシュの疑問ももっとも。所謂最新の機械を国中に設置しまくる。そんな金をボコボコ出して蒸気機関や道具を買って革命と呼ばれるほどに普及した。たしかに異常だ。

 

 「うんうん。たしかにそうですよねえ。では、産業革命の前にイギリスはもう一つの時代がありました! それは何か。ずばりこれ!じゃじゃーん」

 

 華奈の言葉に合わせてホワイトボードを回転。そこに描かれてたのは

 

 「大航海時代と植民地経営、奴隷売買です!」

 

 黒人奴隷を船に押し込める白人の船乗り、そして市場でそれを売っぱらう絵に優雅に屋敷でコーヒーを飲むオヤジの絵が描かれていた。

 

 「「思った以上にえげつない!!」」

 

 そんな授業を受けに来た生徒の声はまんまスルーしてその絵を見せたままアルトリアと華奈は話を進める。

 

 「17~18世紀は大航海時代とアジアから紅茶やコーヒー、所謂喫茶文化が入ってきました。お茶にコーヒーは薬や健康商品として入ってきたのですが、何せ当時のヨーロッパの水分補給は水、でもそれも腐るのでより保存の効く酒だったわけです。」

 

 「でも、それ以外で水分と分離できて多くが運べたり、保存できる、しやすいお茶、コーヒー豆はワインよりも効率がいい。しかもそれらは酒と違って眠気を飛ばす効果があったし、労働者の効率も段違い。だからイギリスはみんなこれを求めたんだね。朝の一杯なんて基本皆アルコールだったわけだし、庶民、下層階級は質も劣悪でまずいものが多いし」

 

「そのとおり! 朝からしゃっきり、運動能力も酔いがないから下がらない! 二日酔いでの身体への影響もない。いいことづくめの魔法の飲み物だったわけです。だけどまあ、需要が増えれば値段が高くなるもの。仕入先の国から足元見られたので此方で用意してやろうと考えて植民地を活用したわけです」

 

 今度は二日酔い、酒で水分補給して少しけだるげに仕事に向かう労働者と茶でリフレッシュした状況の労働者の比較したイラスト。カフェインを服用するのとアルコールの服用の違いは理解できるのもの。

 

 「ともあれ纏めますと、皆がわかり易い言葉だと三角貿易、大航海時代に開けた航路で設けたお金がイギリスなどのヨーロッパに貯まり、それを下地に産業革命時の機械の大量生産、設置が可能になったわけです」

 

 「その中で茶葉やコーヒー、砂糖などを安く手に入れることができるようにもなった。この事も覚えておいてね。なにせ美味しいものが安く手に入るし、わざわざ温暖な国から高値で仕入れないようにするために航路や植民地を使用した部分もあるってことを。まあ、その「安く、大量に」のための戦力として植民地の人間や買った奴隷を使用したんだけど」

 

 「あー以前姐さんに少し聞いたが、確かヨーロッパは頭金の三倍くらいの利益を手にしていたんだっけか。三角貿易やこのころの奴隷貿易で」

 

 「なかなかにハードだよねえ・・・というか奴隷の扱いが酷い」

 

 だいぶ濃ゆい前置きを終え、ようやく先程の蒸気機関の絵。つまりは産業革命の絵に戻る。

 

 「じゃあ、こんなお金持ちで文化も豊かになったイギリスがなぜメシマズか、その原因が産業革命なのか。答えは上流階級は美食を非道徳的、食事は清貧かつ簡潔にという考えが行き渡るわ自国の料理を食べやしない。庶民、一般の人達は産業革命で自国民が奴隷よりも安く働かせて、遥かに効率よく利益が算出できるので重労働を強いるようになり、そもそもが食事に手を回せなかった。味を求める環境が上も下もないのが当時のイギリスです」

 

 「うわーぁああ・・・美食という概念がなかったんだ・・・」

 

 アルトリアも演技ではなく本気で目から光を失ってこの事実に絶句。そして思った以上におもすぎる事実の連発に咲もドン引き、フラムも頬が引きつり、藤丸も学校の授業の内容をより深くぶち込まれて眠るどころか目が冴えてしまう。

 

 「庶民の方から見ていくと18世紀以降から紡績機などの発達で工場が建ち始めます。となればそれを動かす人がいる。それによって農村部から都市へ人が流れていきます。そこで待っているのはスモッグ排水垂れ流しの街に1日15時間、18時間以上ともいわれる労働時間。当時は働く時間、工場の稼働時間が長いほどに生産性がいいと考えていましたからとことん人を使います」

 

 「あ、ちなみにこれが後の労働法の安全規制に繋がったのも豆知識ね」

 

 次に現れるのは白黒写真のまるで森以上に立ち並ぶ家々、そこに地面だろうが集まり、腰を下ろしたり布切れを敷いて寝転ぶ人。そこら辺の下水に垂れ流されるものや空気全てが悪いものなのにそれを気にする余裕もないのか、疲れているのか江に映る人々は活気がなく、何処か悲しげだ。

 

 「そんな中でまともなご飯が作れるわけがないですよね。では、労働者は何を食べてエネルギーを補給していたのか。これなんですが、今でも有名ですね。フィッシュアンドチップス、紅茶です」

 

 「紅茶はさっきの植民地、イギリスが19世紀にインドやセイロンで紅茶の栽培に成功して下層階級にも手に入るようになったんだよ。そして他の植民地で手に入る安い砂糖。そしてフィッシュアンドチップス・・・・・・」

 

 「まあ、所謂砂糖まみれの紅茶と油ギットギトの飯でエネルギーを補給していく。これが食事の習慣になりましたし、労働者の多くは田舎から来る、つまりは地方、郷土料理も手につかなくなりますし、そもそも今日を生きるために必死ですから無頓着にもなるのも当然」

 

 そしてイラストは悲しげな労働者の絵から一転、美味しそうなミートパイや生姜を入れたスープの絵に変わり、その絵に皆少し美味しそうだとつばを飲む。

 

 「藤丸くんが言ったとおり、お姉さんや銀嶺の皆の料理は美味しかったし、それ以外にもイギリスは中世では郷土料理はヨーロッパ一って説があるくらい美味しかったの。銀嶺の料理のレシピ・・・味噌とか醤油みたいな複雑な調味料は戦火とか色々あって消えたけど、料理技術や他の料理自体は残っていった。けど、都市に働きに行く労働者は十歳とかそこら辺の、所謂取り敢えず働き始められる年齢の子が多かった。そんな料理も習わないであろう時期に出稼ぎで母から離れて都市で働く・・・」

 

 「田舎料理の伝授も、知識もない。というわけね・・・・・・」

 

 「しかも保存技術もまだ未熟な時代なので都市部に来る肉、野菜は庶民の手に入るものは大抵が腐りかけ、傷んだものだし、故郷のものが来るなんてのも少ない。さらには蒸気機関、機械の時代で燃料となる石炭や薪の燃料価格が上昇。自分の家で自炊も難しいから外食で食事を終える。ますますフィッシュアンドチップスみたいな外食産業が発展します」

 

 イラストは打って変わって揚げ物、腐りかけの野菜などに変化。イラストでもその痛々しさ、お腹を下しそうなものに顔をしかめる。これだけでもメシマズの土台がよく分かるというもの。

 

 「で、更にはそんな食品、住宅環境なので少しでも安全に食べるために『肉は焦げるまで焼き、野菜は崩れるまで煮込む』という考えや行動が定着したわけですね」

 

 「お姉さんが来る前のブリテンです。本当に有難うございます・・・・・」

 

 「そういう時事上に追い打ちをかけるように当時はこれでも尚食中毒がひどいものでした。都市部にはいる食材はどれも下層階級にはひどいものであり、そんな質の低いものは当然食品偽造は横行。有毒な食品添加物も山のように使われました。軽い一例として牛乳は水で薄めてチョーク粉で白くする。紅茶は出がらしの再利用。マシなものでも新茶をほんの一欠片混ぜて利用。中途半端な乾かし方をしていたらそこで雑菌が発生することもあり、パンにはミョウバンを混ぜて白くする。購入した食品を安心して食べられる環境がなかったわけです」

 

 そして記される風刺画。死神がミルクの入った器を赤子に進める絵。ここまで来ると華奈は変なテンションでごまかし、アルトリアはすっかり目が死んでいる状況。ただまあ、それでもこの解説はまだ残っているので努めて明るく振舞い、話を進めていく。

 

 「じゃあ、今度は上流階級はうまい食事があったのか? まあ、飢えることはないでしょうね。それにお金もあります。けど、そっちはそっちで問題がありました。簡単に言いますと、上流階級の食事のステータスが『外国人のコックに食事を作らせることがステータス』だったのでイギリス料理をさほど食べない、ちゃんと知らない人が多かったんですよ」

 

 思わぬ上流階級の発言に腰砕けな空気、さっきまでの重い空気が間の抜けた変なものへと変わる。これには解説役の華奈も苦笑いであり、同時にイギリスの上流階級、その歴史も長いオルガマリーは思うところがあるのか納得していた。

 

 「そもそもなんだけど、イギリスの貴族や王家にはフランスとかの他国から来た人も多かったの。だから『イギリスで一番うまいのはフランス料理』何ていう皮肉も生まれたんだね。同時に事実なのが凄いけど」

 

 「更にはここに宗教の問題もありまして、イギリスの主な宗教、上流階級に普及していた教えには食事も欲望の一つ。紳士であるのなら禁欲し、簡素で厳かに済ませるという考えが基本道徳だったわけです。あ、ちなみにイギリスだけの特徴ですよ?」

 

 「うーん・・・・あ、もしかしてジョジョ第一部の食事シーンって!」

 

 「はい、恐らくはそこに近いもの、もしくは意識していたのでしょうね。ジョジョ、正確にはジョナサンも時代は近いものだったはずですから」

 

 思わぬ共通点を見つけて喜ぶ藤丸にいいネタを出してくれたと喜ぶ華奈。そして上流階級のコックのことに考えが浮かんだ冬利も手をあげて聞く。

 

 「ちょっといいかい? 上流階級って海外のコックを雇ったわけだろ? それって権威、影響力のある貴族や王族の雇うコックの国の食事にマナーを合わせるわけだから」

 

 「そうだねえ。時の流行や貴族間の影響、国際情勢に合わせてコロコロとフランス式にロシア式、ドイツ式、オーストリア式と変えていったりしたもんだからかなり息苦しかったと思うよ? その度にテーブルマナーを学び直して行くから混乱するし、意識は自国の料理に向かない」

 

 「ざっくりまとめると産業革命では上流階級は自身の体面と宗教道徳のために料理に関心が向かない。下層階級は貧しさのあまりに料理へ関心が向けられない、薄れていく。中流階級は飢えもしなかったでしょうが、そこまで美味しくはなかったでしょうね。食事を作るメイドさんが下層階級の人でしたからその食生活が広まりましたし、食品の選り好みが出来てそこそこくらいではないでしょうか?」

 

 「ホームズやワトソンは本当に恵まれていた環境だったのですね・・・これ」

 

 あんまりにもひどすぎる大英帝国の産業革命、それ以降の食事の推移。マシュが愛読している探偵物語、あの時代を生きたホームズたちの食生活がどれほどマシだったかを思い返し、これには華奈たち先人が努力しても駄目だと理解する。どんなに美味しい料理があってもその下地全てがぶち壊されて継承する世代も都市部へ流れてほとんどいなくなる。しかもその美味しい料理を作れる料理人は上流階級で召し抱えられないから結局美味しいイギリスの料理は残らない、消えていったりするのみ。

 

 「あの二人の時代はかなりマシだと思いますよ? ちなみに今はネットや保存技術の向上。食品が新鮮なままで届きますからイギリスもメシマズから抜け出せるかもしれないですけどね。ふふ、色々長かった話ですが如何でしたか?」

 

 講義が終わり、黒子に徹していたストーム1が戻り、華奈も息を吐いて腰を下ろす。アルトリアものんびりと椅子に腰掛けてのどが渇いたのか水を飲み干す。

 

 「色々壮絶としか・・・日本って恵まれているんですね」

 

 「ふふ、日本と中国の食に関する貪欲さは異常ですよ。いや本当に。宗教を見ても抜け道や料理への情熱はすごいこと凄いこと・・・さて、今日は私が作りますがなにかリクエストは?」

 

 「俺は筑前煮」

 

 「華奈が作るのでしたら何でもいいですよ。あ、でもミートパイも良いかも・・・」

 

 「俺はあえてフィッシュアンドチップスで。日本人が作ればどれだけ変わるか見てみたい」

 

 「イギリスの味が日本によってどうアレンジされるか、楽しみですね先輩」

 

 「おーチャレンジャだねえ。藤丸君。じゃあ、私も」

 

 「わ、私も筑前煮で・・・」 

 

 「僕は何でも良いかなあ。華奈は基本料理に手抜きはしないし」

 

 「姉上の料理なら私も何でもいです。どれも美味しかった記憶が・・・」

 

 その後は口直しと気分転換でちょっとした料理会になり、ついでにお料理教室も開いてカルデアを巻き込んだ食事会に。




最初華奈とアルトリアは部屋でのんびり抱きついたり、髪をとかしたりと楽しんでいました。そこに藤丸らの来客。といった感じですね。

イギリスのこの頃の食事事情を見ると冗談抜きで嘘とかデマと言いたくなるような酷いものが本当に多いです。華奈が話してはいませんがもうどれが本当なんだと言いたくなるものがうじゃうじゃ。

後半はアルトリアも華奈も話していてキツイのか段々素に戻っていますけど。

もう少しでオルレアンスタート。ストーム1も暴れてくれます。やりたい放題の戦いを繰り広げられるようにがんばります。

最後にUA 62521件 しおり 160件 お気に入り 447件 有難うございます!

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ブッコミ百年戦争オルレアン
フランス突入~ドラゴンの炙り寿司~


~ストーム1の宝具、武器庫内部~

華奈「・・・ストームの装備ですが、一つこの編成で行ってほしいのですが」

ストーム1「ん? まぁ、メインはあれだから良いが、嫌に物騒だな。何を警戒している?」

アルトリア「ふぅむ・・・この兵器・・・良い火力もそうですが、魔力で扱えるのがありがたい。私の心臓ならほぼ無尽蔵で扱えるから弾切れの心配もないですし・・・? どうしましたかふたりとも」

華奈「ああ、アルトリア様もちょうどいいので。簡単に言えば対策の一つと、切り札の準備ですよ。今からの挑む特異点。決して敵は英霊だけではないですから」

ストーム1「理解した。そういうことね。じゃ、俺はその準備と・・・あれを持っていこう。少し席を外すぞ」

アルトリア「敵は英霊だけではない・・・そういうことですね? うぅむ。では、少し私も戦闘には遠距離用の武装も必要でしょうね。二人の中継ぎ、バックアップくらいが良いのでしょうか?」

華奈「ああ、ストーム。サバイバルキットも忘れないで。アルトリア様はそうですね。基本どこにでも駆けつけられる。くらいの気構えでいいと思いますよ。私達の切り札がどこへでも行ける。相手からすれば恐ろしいものです」

アルトリア「嬉しいですよぉ・・・では、私はこういう装備と・・・って二人の装備、一度切り替える時間が必要ですね。私の武装はフォロー重視でいいか・・・リバースシューターは今はいいとして・・・」




 あの愉快というか何というかへんてこな講義からはや数日。それぞれがそれぞれの鍛錬と業務をこなす傍ら。藤丸、華奈への招集がかかる。

 

 招集をわざわざ出すということの意味合いはふたりとも前もって知らされており、先にコフィンのある部屋に到達した藤丸の表情は引き締まったものであった。

 

 「やぁ。おはよう藤丸くん。よく眠れたかい?」

 

 「おはようございます先輩。私達が一番のようですね」

 

 それを出迎えるロマニとマシュ。ふたりとも顔色はよく、いつもどおりどこか落ち着く笑顔を向けてくれている。それに釣られてか藤丸も表情を崩し、はにかんで応える。

 

 「うん、元気だよ。おかげさまでよく眠れたし。俺たちが一番乗り? 華奈さんやアルトリアさん、ストーム1さんは?」

 

 ただ、こういうことならいの一番にいそうなもうひとりのマスターの華奈。生きた英雄であり、比較的あっさりとカルデアに馴染んで色んな意味でアーサー王のイメージを崩した犯人であり、アーサー王張本人。アルトリア。そして華奈が契約する英霊ストーム1。彼らの姿が見えず、キョロキョロと周辺を見回す。

 

 「ああ、彼らなら」

 

 「ついさっき連絡でもう少し準備が欲しいと連絡をしてきたわ。どうもストーム1との打ち合わせに時間がかかっているみたい」

 

 藤丸の疑問に答えたのはカルデア所長のオルガマリー。契約した英霊のエミヤは後ろでコンソールを叩いてなにかの準備をしているらしく、画面とにらめっこしながら隣りにいる良馬と話している様子。

 

 「まあまあ。いい女ってのは準備に時間がかかるものさ。マシュちゃんみたいにすぐさま動ける軽快な子も魅力的だがね」

 

 「おーマスター。遅れたな。悪い悪い。少しこっちも準備していてよ」

 

 藤丸たちのドアが開いてそこからストーム1、藤丸が契約している英霊のクー・フーリンが現れる。ふたりとも小さなバッグを手にしており、どこかで一服していたのか少しタバコと火薬臭い。

 

 「ストームさん。あれ? 華奈さんたちはまだ来ないんですか?」

 

 「あ、クー・フーリン。どこかでタバコ? 後その荷物は」

 

 「まーまー。取り敢えずもうじき来るだろ。あっちも少し色々あるようでな」

 

 「うーん。今回の特異点の説明をしたかったけど、二人が来てからだね。その間に準備を進めておこう。咲ちゃん。元君。準備はどう?」

 

 歴史にはそれなりに明るい華奈と1500年何やらぶっ飛んだ世界で過ごしていたらしいアルトリアなので簡単な説明だけで良いだろうとは思ったロマニだが、しっかりと説明はしておいたほうが良いだろうと端折ることはせずに今すぐにでもレイシフトが行えるようにしておく。

 

 「あ、問題ないです。フラムさんの方からも電力に関して問題がないと」

 

 「大丈夫ですね。ロマニさんの言う通りバイタルも問題なし。レイシフトも問題ないでしょう」

 

 「取りあえずは華奈さん達が来るだけですが・・・」

 

 「申し訳ありません。遅れました」

 

 「いやはや・・・武器の相性はついつい熱が入ってしまいます」

 

 ドタバタと駆け込んで入ってきたアルトリアと華奈。二人も準備を終えてきたのだろう。華奈の着ている服もいつものカルデア職員の服やゆったりとしたシャツではなく自衛官、軍人を思わせる服にコンバットブーツ。そして四本の刀。アルトリアもジャージ姿ではなく華奈と同様に軍服に身を包み、右手に小さな機械がついたリストバンドらしきものを巻いている。

 

 「来たようね。じゃ、ロマニ。説明を頼むわ」

 

 「了解しました。今から君たちに行ってもらう特異点はここ・・・フランス。時代1431年。百年戦争中の場所だね」

 

 オルガマリーの声でロマニもオペレーター専用の部屋に戻ってコンソールをいじり、移される半透明の地球儀からフランスの場所を映し出す。

 

 百年戦争と言えば藤丸にも聞き覚えのある戦争であり、かのジャンヌ・ダルクやジルドレ。童話にゲーム。キャラクターでも世界中に人気であり、有名なものだ。

 

 「正確にはフランス継承戦争という言い方が正しいでしょうね。この戦争は基本フランスの王家が断絶、その継承を狙ってフランスの王家、その親族。そしてそれにイギリスのフランス王族の血を引くものたちが戦ったものです」

 

 「それがおおよそ休戦などをはさみながら名が続いた戦争。それが百年戦争ですね。いやぁ。凄まじいですよねえ。フランスの土地に王権は魅力的でしょうけど何代世代が変わっているのか」

 

 オルガマリーの説明に付け足して苦笑する華奈。皮肉めいた言葉だが、まあ仕方ない。開戦の当事者すら生きていない戦争。これには流石に突っ込みたいところもあるのだろう。

 

 「そういうわけだから、この時代は休戦状態であっても特異点だ。どんな変化が起きているかわからないし、もしかしたら戦争をしているかもしれない。レイシフトには細心の注意を払うけど気をつけて欲しい。じゃ、レイシフトを始めるよ。皆コフィンに入って」

 

 ロマニの言葉とともにレイシフトのために改めて用意されたコフィンが開き、そこに皆が入っていく。これから改めて行われる人理修復の旅。あの百年戦争の時代のフランスに行く。あるものは興奮し、あるものは緊張し、あるものは別のことを考える様子。

 

 「コフィンセット完了。各メンバーのバイタル、及びコフィン異常無し」

 

 「アンサモンプログラムスタート」

 

 レイシフトのための準備が大詰めに入り、実行するための職員らに緊張が走る。決して正しい手順で踏まれたわけではない一度目のレイシフト。二度目の今回は準備も整備もイレギュラーも備えてきた。こうして実行できているのは確かだが、それでも少しの不安がよぎってくる。

 

 「まぁ、どうなることか。取りあえずは念話のラインが繋がっていることが心配ですがね」

 

 「これがレイシフト・・・一度目に比べたら楽でいいね」

 

 視線が狭まり、浮遊感がまとわりついてくる浮遊感。どこかに飛ばされていくような感覚。

 

 「オルガマリー・アムニスフィアがこれから指揮を取ります。一同、マスターと英霊のサポートに尽力を。マスターも生還と勝利を掴みなさい!」

 

 そんな中響くオルガマリーの号令。それに呼応してカルデアから怒号が響き、その直後

 

 「レイシフト・・・スタート!」

 

 レイシフトが始まり、コフィンに入ったマスターたちは飛ばされていく。混沌渦巻くであろうフランス、百年戦争地へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っふあぁ・・・・・また離れ離れ・・・しかも通信なし」

 

 「幸いなのは、私達は離れていないことですか」

 

 「令呪で呼び寄せる必要も無いからな。藤丸くんにも教えたし、あっちもすぐに英霊を呼んで無事であると思うが」

 

 早速フランスに到達したアルトリア、華奈、ストーム1。藤丸らとははぐれてしまったが自分らは固まって無事であることを確認する。それぞれに持っている装備も武装も問題はなく、体の調子も不調はない。

 

 今の所の問題はレイシフトで自身らが降りた場所がカルデアとの連絡を取りづらい場所なのか通信ができず、そして自分らの後ろにある城であった。

 

 城は砲弾でも叩き込まれたかのように一部は破損しているが砲弾の痕跡はなし。砲弾も城壁に打ち込まれた形跡すら無くむしろ内から外に打ち込まれている程。そして城壁周辺の矢、投石の様子が少ない。

 

 (ふむ・・・アルトリア様、ストーム。普通の攻城戦があったようではないですね?)

 

 (ええ・・・雲車、攻城兵器の類、痕跡が一切ない。しかも多くの矢の刺さっている場所がいやに遠い。そのくせ城壁の周辺の死体は多い)

 

 (どうにも死体の損壊が酷いのと所々焼け焦げ方がおかしい。火矢、油がぶん投げられたにしては炭化が凄まじいな。俺らが冬木であったあの怪物らに襲われるのならこんなえぐれた傷は付かねえ。もっと大きなものに食べられたみたいで)

 

 三人の念話のラインが通っていることを確認しながら近くにあったまだ火種がくすぶっている城を見て調べ始める。攻城戦が行われたであろう城壁の上部の損傷があるが、その矢の刺さり具合のおかしさに堀に落ちている死体の傷つき具合に違和感を感じる。

 

 怪物の仕業、炎を使ったものと理解は出来る。そして空を飛ぶもの。

 

 (あの骸骨なら地面にも、近い場所にも矢が飛んできているでしょうしね。野戦があった割には城周辺の騎士の死体も散らばっていない。一方的ですから怪物。恐らくはワイバーンでしょうか。取り敢えずもう人の気配は無いですが、生き残りがいるかも知れませんし、これをした主犯の手がかりや役に立つ資材、魔術の助けになるものを探してきたいのですが)

 

 (賛成ですが・・・一応嫌な感じはしますので、私は外で待機しています。もしキャスターに念話のラインが切られたときのためにインカムもありますし、城を餌にした罠の可能性もあります。私なら魔力放出ですぐさま移動できますしね)

 

 (じゃあ、俺は霊体化していくか。そのほうが気軽に見回れるし、怪物共でも脳筋なら欺ける。マスターとも奇襲や挟み撃ちがしやすいからな)

 

 兎にも角にも特異点の状況整理のための情報がほしい。そしてこの城を足がかかりにできるかもしれない。敵襲も踏まえた上での対処を念話で打ち合わせ、華奈は自信の持ち込んできた大きなカバンを片手に最早死臭と黒煙がくすぶる廃城同然の城に華奈と霊体化したストーム1が踏み込む。

 

 「酷いですね・・・それに死体の損壊や荒れ具合」

 

 その中は女子供、年齢もお構いなしの虐殺が行われ、兵士も市民も全て等しく殺され、中には黒焦げになり、鎧や石壁が誘拐するほどの高熱で焼かれていた。更には死体のいくつかはパーツが無くなっていたり、不自然な方向と距離をおいて転がっている。統制の取れた軍隊というよりも蛮族や魔獣の襲撃という言葉が当てはまるであろう城内をゆっくりと回り、手を合わせて歩いていく。

 

 半周ほど城壁伝いに歩いていると突然殺気を感じて警戒のレベルを華奈もストーム1も上げる。空の一部がなにか空を飛ぶもので埋め尽くされ、その先頭には一人の女性が立っていた。漆黒を基調とした鎧とドレスを組み合わせた装備に身を包み、何やら竜の印をかたどった槍のようにも扱えるであろう旗。腰には一振りの剣。その肌は死人のように白く、髪もまた真っ白。目は澱んだ金色。何やら大きな憎悪と狂気を秘めているのは視線を感じるだけでも分かってしまう。

 

 その女性の周りを固める人も気配や装備ですぐさま英霊と理解していく。金髪蒼眼、派手なドレスのような装飾に帽子。一振りの細剣。女性のように美しい整った顔立ちであり、化粧の一つと着せ替えでもすればさぞや映えるだろう。しかしその気配は鋭く、名のある剣士であることがすぐに感じ取れた。

 

 アッシュブロンドの長髪に男性の色気が酷く漂う男。髭をそれなりに蓄え、目鼻はくっきりとした堀の深い顔。杭のような武器に黒で固めた衣服。しかしその容姿も色気も打ち消すほどに血の臭いに包まれているのがはっきりと感じ取れ、人というよりも人の器に怪物を無理やり押し込んで固めた何か。という感想がしっくりとくる。

 

 もうひとりの女性は妖艶な身体を露出した紐のようなドレスのような衣装に身を包み、顔半分を隠した仮面。悪魔やコウモリを思わせるような髪飾り。白のややウェーブのかかった髪は肩辺りまで伸ばしている。握りこぶしは愚か拳を握ることもできないと思うほどに伸びた爪。先端に翼をかたどったような杖を手にして此方を品定めするかのように眺めて笑みをこぼす。

 

 「あら? 変な気配を感じてみれば。こんな廃城にどうしたの? 貴女」

 

 (アルトリア様、一度隠れてくださいよ。ストーム、適当な援護射撃がしやすい場所に距離を取りつつ移動。情報を引き出せるかもと、迎撃の準備を)

 

 その英霊と距離が縮まったことで視界判別ができた空を飛ぶ何か。ワイバーンを従えた英霊の一団はあっという間に華奈の前に降り立ち、そのリーダー格であろう黒尽くめの女性が話しかけてくる。その間に華奈は念話でアルトリア達に指示を伝えて毅然とした態度を崩さずにしていく。

 

 「はい。少し流浪の身なのですが路銀と食料が尽きまして。この城で仕事が無いかと思って来てみればこの状態だったので生存者がいないか探し、あわよくばその方の護衛と食料を分けてもらえないかと思いまして」

 

 「ふぅん。この状況でね・・・嘘が下手ね。貴女は。今の状況でそんな甘い考えなんて通るわけ無いでしょう? それに、どうしてここにこんな気配・・・「英霊」がいるのかしらね? しかも受肉した」

 

 女性の返答に思考を巡らせていく。英霊のことには気づかれた。受肉して一人の人間でもある華奈に向けた言葉からも真名を見抜かれたか。となればそれを出来るクラス。彼女も英霊であろうし、ルーラークラスの英霊、もしくはそれが支配下にいる。

 

 『この状況』というワードとこの物々しい部隊。廃城に感情一つ向けていないことから加害者側。自分たちの予想と合致したワイバーン、怪物の出現。まず特異点の一因と考えて問題ない。

 

 そしてこの状況。霊体化したストーム1には注意がいっていないのか、華奈に意識がいってルーラで持っているであろう英霊を感知できるクラススキルも使用している様子はない。アルトリアは生きた人間だから持ち込んだ道具や経験でやり過ごせる。

 

 「あら、分かりますか? 実はいまさっきここに来たばかりで右も左も分からない。しかもこの惨状なので足を運んだのですよ。この状況は貴女様が作ったので?」

 

 「受肉した英霊ね・・・宝具、もしくは何かそれほどのアイテムでも使ったか・・・ん? ああ、そうよ? 良いでしょう? 私がかつて受けた裏切りを、この国のために尽くして相手を血の海に沈めた分を。全部返しているのよ。ここの奴らも皆殺したわ」

 

 あっけらかんと自分が犯人だと告げ、心底面白そうに、愉快そうに歪んだ笑みを浮かべる黒尽くめの女性。所々ににじむ怒り。そして裏切りというワード。フランスで女性。そして裏切りで有名な女性というヒントで華奈もようやく目の前の英霊であろう黒尽くめの女性の正体に至った。

 

 (ジャンヌ・ダルク・・・ですかね? だとしてまあ、この特異点はこの黒ジャンヌが起こしたものか共同犯。英霊も彼女含めて四騎・・・クラスの脅威も含めればもっと跳ね上がるでしょう。なら、此処で処理するのもいいですかね。カバンも重かったですし)

 

 もし正体の予想があたっているのなら知名度補正やクラスもあってかなりの難敵。華奈たちは英霊としての記録で特にこれといった弱点となりえるものが少ないのでいいが、問題は藤丸達。まだ未熟なマスターに英霊。クー・フーリンはゲッシュのこともあるので正面からぶつかれば危ないだろう。

 

 ふぅ。と華奈は息を一つ吐いて背負っていたカバンをおろす。

 

 「では、私もこれから同じ運命を辿らせるというわけでしょうか? どうにもスカウトという雰囲気ではないですものねえ」

 

 「ええ、貴女はどうにも嫌な感じがするのよねえ・・・私の気に触ったのよ。邪魔くさいと。こうして直々に手を下されるだけマシとは思わないかしら」

 

 殺気を露わにし始め、剣を抜いて距離を詰め始める黒尽くめの女性。カバンをおろしてことが諦めと取ったのか少しも警戒せずに近寄ってくる。

 

 他の面々も抑えていた殺気を出して威圧し始め、特に仮面の女性と杭のような武器を手にした男性に関しては獲物を見つけた肉食獣のように爛々と目を輝かせている程。

 

 (ストーム、一度城壁の上に待機。アルトリア様と私の方を俯瞰で見れるほど高い場所行ってください。アルトリア様。いいですか?)

 

 (何でしょうか? 姉上。何やらトカゲとハロウィーンの武装集団が来たようですが話は終わったので?)

 

 その状態でも念話で指示を出し、城の外で隠れて待機していたアルトリアにも指示を出す。怪物と武装集団あんな派手な登場では当然アルトリアの目にもとまり、一度駆けつけようとしたが華奈からも救援要請が来ないし直感でも『このほうが良い』と感じたので動かずにいた。

 

 膨れ上がる殺気とを感じて動こうとした矢先の華奈の念話と指示。これまたアルトリアは思いとどまって指示を聞こうと待つ。

 

 (敵でどうにも私達を害そうとしているみたいですね。私や城ごとエクスカリバーで薙ぎ払ってくれませんか? ストームはもう避難できていますので)

 

 (了解です。ついでにですが、トカゲも落としませんか? あれやアレも作れますし、他にも・・・)

 

 (ああ、いいですねえ。では、そのためにもまずは彼女らには退場願いましょうか)

 

 少しの食欲と思いつきでスイッチの入ったアルトリアは早速エクスカリバーを取り出して魔力を込め始める。その黄金の輝きはブリテンでの頃よりも光の密度や量は上回り、光の柱が突如天に登っているようだった。

 

 妖精郷に移住してからの訓練と農業。神秘の圧縮した空間に食事。そして宇宙での戦いの日々はアルトリアの戦いの技術、魔力の扱い方にも磨きをかけ、魔力放出一つとっても雲泥の差。

 

 食事の栄養関係と現在はアヴァロンもカルデアに預けているので止まっていた肉体の成長も起こり竜の心臓の勢いも増す。必然、聖剣に流し込まれる魔力のそれは凄まじいものとなって溢れかえり、神々しい光はワイバーンたちの目を眩ませる。

 

 「・・・・・・・はぁ!?」

 

 「これは・・・」

 

 「な、によ・・・これ・・・」

 

 「むぅ・・・!」

 

 その光は当然城内にいた面々にも映ることとなり、その光の柱、それが魔力の柱であり途方もない威力であることはすぐさま察した。

 

 「今夜はステーキでお願いしますよ・・・カリバーーーーーっ!!!」

 

 相手の動揺など全く知らずに華奈に食事のリクエストを言いながら聖剣を振るうアルトリア。その言葉とは裏腹に馬鹿げた威力は城壁をぶっ壊し、ワイバーンもいくらか巻き込みながら華奈達めがけて光が殺到する。

 

 「ポチッとな・・・っと」

 

 それを回避しようとする黒ジャンヌらであったがその意識がエクスカリバーに向いた一瞬に華奈も置いていた大きなカバンを取ること無く縮地ですぐさまエクスカリバーの射程圏外に逃れて持っていたスイッチを押す。

 

 華奈のカバンの中身は実はデータの収穫が終わったレフの死体であり、ここらへんで処分、ついでに攻撃手段の一つで使えないかと接着爆弾のC70爆弾をありったけ詰め込んだという何とも物騒かつろくでもない中身が詰まったカバンだった。

 

 それを意識が他所に行った彼女らの前で一気に起爆させてしまうのだからもうたまらない。英霊の準備した特大級の爆弾に追撃のエクスカリバー。人っ子一人死に絶えた廃城は吹き飛び、耳をつんざく爆音と衝撃が周囲に響き渡る。

 

 この大爆発の連撃にレフの死体も塵となって消え、もうかけらも見つけきれないほどにばらばらに処分される。

 

 「ぁ・・・」

 

 その二段攻撃に仮面の女性は消滅し、あの攻撃に巻き込まれて尚黒ジャンヌと性別不明の騎士と男性は爆風でエクスカリバーから逃れたかいくらかの損傷はあるものの完全には消滅とは言えなかった。

 

 「っぐ・・・ああもう何なのよ! いきなり光の柱に爆発!? あの女! 一体何をカバンに・・・!」

 

 「びっくり箱さ。驚いたろう?」

 

 悪態をつく黒ジャンヌらにエクスカリバーから逃れていたストーム1の攻撃が始まり、抱えていたバズーカ砲から青白い玉が発射される。

 

 「殺そうとしたのです。殺されもしますよ」

 

 華奈も縮地で移動した先から同じバズーカから青白い玉をいくつも撃ち始めていく。

 

 「! バーサーク・ランサー! バーサーク・セイバー! 私を守りなさい!」

 

 あの爆発をあっさり起こすほどの火力持つ女が、新たに参加した男が同じ光弾を撃ち始める。これもまたとてつもないものなのだろうと本能で理解した黒ジャンヌは二人を盾にして自身は逃げるためにワイバーンに飛び乗ろうとする。彼らもまた自身を盾にするが、直後にまた大きな爆発が起こり、黄金の光と轟々たる赤い爆発の次は青白い爆風が周囲の空を染めていく。

 

 華奈たちの今回用意した武器はA3プラズマボンバー。普通の実弾兵器ではなく爆発するプラズマ弾を撃つ一種の光学兵器じみたもの。一度打てばリロードはできないが爆破範囲と威力はかなりのもの。バーサーク・セイバー、ランサーは消耗した身体にその攻撃を雨あられと打ち込まれて消滅。黒ジャンヌも爆風に熱を再び浴びて吹っ飛ぶ。

 

 しかし幸いにもその爆風でワイバーンのもとにたどり着き、気力を振り絞って撤退の指示を飛ばしていく。

 

 「遠距離武器はないですし、縮地も地面の上でこそ・・・弾切れでもありますし」

 

 「喧嘩打った駄賃だけでも頂きましょう」

 

 「よおし。トンボ取りか七面鳥撃ちか。取り敢えず・・・トカゲ死すべきってな」

 

 華奈たちもA3プラズマボンバーを撃ち尽くし、三人はもう一つの武器へと切り替える。それは小型の携行型ミサイルランチャー。であり、一つ一つはいやに小さい。しかしそれを撃ち始めるとまるでミサイルが途切れること無くワイバーンの群れへと殺到し、ミサイルの弾幕が展開される。三人が撃っているミサイルランチャーMLRA―TFは威力自体は小さいがそれを一度に90発以上も撃ちまくれる連射型のミサイル兵器。

 

 それをアルトリアは自身の有り余る魔力ですぐさま装填して常に撃ちまくり、華奈とストーム1は自身の持っている魔獣、怪物の特攻スキルも乗せた上で放つので小型と言えども威力は侮れるものではなく、その手数も相まって一部の空を埋め尽くすほどいたワイバーンがポロポロと落ちては死んでいく。

 

 

 

 

 しばし止むことのないミサイルのシャワーが降り注いだ後、いくらかの取り逃がしはあったが8割以上のワイバーンを殲滅。英霊も三騎撃破。もう一騎もそれなりのダメージと大戦果。しかもワイバーンも多くを仕留めきれたので上々の滑り出しと言えるだろう。

 

 リーダー格らしい黒ジャンヌは逃したが、あれだけ叩いたからしばらくは戦力の増強や編成に力を入れるだろう。藤丸らの体制を整えるには恐らく十分。

 

 「・・・ちょうどいいので情報収集とついでに少し手を打ちましょうか。ストーム、追撃の準備を。アルトリア様。今晩食べられると分かったらステーキと寿司を作りましょうか。それと・・・鱗のスープも」

 

 武器をしまいこんで指を顎に当ててふむと考える華奈は今後の行動を決めたのかボソリと指示を出し、最後に一部瓦礫の山が出来た廃城の住人たちのために手を合わせて動き始めていく。




ストーム1「うっし。フリージャー(バイク)三台用意完了だ。で、ワイバーンはどうするんだ?」

華奈「こうするのですよ。アシェラッド、タルヴェラ」

アシェラッド「うーい」

タルヴェラ「はいはい。オジサンに何の用で? 大将」

華奈「このワイバーンたちの解体を。冷却用の水はアルトリア様が用意しました。通信が回復次第カルデアにさばいた肉に骨、皮、鱗。全て送りますよ。ついでにこの内容で情報を流してください。そうですね。カルデアには1200ちょいを呼びましたから、700でいいでしょう。肉の解体と情報の流布。これができれば終わりですよでは、お願いします」

タルヴェラ「やあ、懐かしいねえ。肉の解体だなんて。ドラゴンのソーセージは絶品だった」

アシェラッド「俺は皮のパリパリ揚げだな。冬に冷えたエールでいただくのが」

華奈「まだ呼んでいないメンバーを呼んで作業をさせます。警邏に狼やイノシシらもいますからすぐ分かるでしょう」

アルトリア「これだけあればバーベキューに鍋会・・・骨も出汁や肥料に・・・えへへ・・・」

ストーム1「おーい、かえってこーい」


~藤丸サイド~

藤丸「ここが・・・フランス。平和だね・・・」

マシュ「これが・・・緑に・・・空に・・・大地。初めて触れました・・・ん?」

クー・フーリン「どうしたマシュ。空を見て。んぁ? 何だありゃ?」

藤丸「空? 一体・・・」

(遠くで爆音の雨が聞こえる)

一同(((・・・・・・・・・・・・・・・あの光・・・絶対華奈(さん)達だ・・・・・)))

ロマニ『皆! 空の光輪もそうだけど華奈達と通信がつながらないんだ! 近くにいないかい!?』

藤丸「多分あっちの方向です・・・光の柱と大爆発とバトル漫画みたいな空中で青の爆発が起きました」

ロマニ『うぇ!? って・・・』

オルガマリー『魔力の痕跡を解析・・・ああ、うん・・・そうね・・・・・・・・・また何をしたのかしら。Aランク以上の宝具の使用になんかまたマシンガンみたいな・・・何をしているのかしら?』

ロマニ『と、取り敢えずそっちの方向に探索をかけるよ。有難う! 皆も気をつけてね。一応まだ距離はあるけどエネミー反応もある。今の爆音で殺気立つ可能性もあるから警戒は怠らないでくれ』

マシュ「了解です。しっかり先輩をお守りいたします」

藤丸「取り敢えずあの爆発の方向に行こうか。手がかりにはなるはずだし」




フランス突入と同時にボスにエンカウント。そして撃退。華奈は十中八九ジャンヌ・ダルク、もしくはそれに関連するものとジャンヌオルタを捉えていますが、信じ切っててはいません。やたらと女性の英霊が多いのでさらなるイレギュラーと思い込みを警戒してのことですが。

今回からストーム1もやりたい放題開始。何が酷いって。魔獣や怪物。おおよその人外はストーム1の特攻スキルに入ることと、メカも入ってしまう特攻範囲の多さ。人以外は多分全てが倍率ドン。

早速カルデアにワイバーンのお肉が輸入準備を開始。しばらくはお肉料理が続くでしょう。食糧問題もこれにて少しは軽減。

アルトリアが水の準備ができたのは湖の乙女から魔力を水に変換できるアイテムを貰っているからです。

地球防衛軍シリーズを知らない方のために武器解説も必要なのでしょうか?

最後にUA 64001件 しおり 162件 お気に入り 456件 いつも応援ありがとうございます。この駄文ですが、ゆったり見てくだされば幸いです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ワイバーン食堂、希望の大移民~ワイバーンの鱗スープ~

~カルデア~

ムニエル「手が空いている職員と銀嶺の皆は来てくれー! 食料・・・というか解体されたワイバーンが山程送られてくるぞー!」

エミヤ「冷凍庫は用意してある。さあ、存分に来ると良い!」

ダンカン「皮とか骨、牙の材料になりそうなものはメディアさんやダ・ヴィンチちゃんに。肉は一度冷凍庫に入れて熟成。もしくは長期保存だ」

ヤマジ「部位ごとにラベルを貼らないとなれていない連中には分かりづらいな。咲さん。そういうテープみたいな物はないかい?」

咲「あ~・・・探してきます。兄さんたちが用意していたはずですから」

ロマニ「検疫もしておかなくちゃ・・・一度チェックに行こう」

オルガマリー「ワイバーンの肉を食べる・・・現代の魔術師が聞いたら激怒しそうよねえこれ」

メディア「ワイバーン・・・調理? あら・・・ま、華奈に聞きましょっか。しかし、いい仕事するわね。なかなかいい材料じゃないの」

~フランス・藤丸サイド~

藤丸「マシュ、クー・フーリン。ワイバーンを倒しに行こう!」

マシュ「はい! マシュ・キリエライト。全力でワイバーンを討伐します」

クー・フーリン「よし、いい準備運動だ。ついでに競争でもするかあ?」

???「皆さん! 水を頭から被る! 若しくは水を含んだ布を着けてください! それでもいくらかワイバーンの炎は抑えられます!」

藤丸「誰だろ。あれ?」


~???~

???「お? なんじゃ面白い奴らがいるようじゃの。少し暇じゃし見てみるか」



 「っはぁ・・・・はぁあぁ・・・・・」

 

 女は地面を這いずり、息も絶え絶えの状態でどうにか意識を保って前へ、前へと進もうとする。

 

 「ごほ・・・・っくそ・・・くそ・・・! くそ・・・・・っ!」

 

 身体にはいくつもの火傷に爆風で飛んできた破片に自身が纏う鎧が内側に食い込んで肉を切り裂く。焼け付く肌は地面から映えている草木に触れては痛みが走り、身体を動かす度に傷口から熱く鋭い痛みが走る。爆風を打ち付けられた身体は全身に鈍い痛みが常に走って鈍痛で気が失いそうだ。

 

 途中で掴んでいたワイバーンを離してしまい、地面を這いずる惨めな状態、それでも体を動かすのは復讐。このフランスへの、そしてその最高の舞台を蹂躙するのに邪魔だと思っていた羽虫・・・いや、あの英霊の面々を叩き潰して屈辱を与えるために。

 

 「ふざけんじゃないわよ・・・! あんなメチャクチャな・・・仲間ごと巻き込むようなイカレ連中だったなんて・・・」

 

 光の柱が目のつけた女英霊ごと遠慮もなく迫ってくる。しかもその間にいつの間にか女はいなくなってバッグに詰めていた爆薬と光の柱の挟撃。どうやったかはわからないが連携、打ち合わせをしていたのだろう。ただ、それが英霊を一歩間違えれば巻き込みかねない馬鹿げた作戦を平然とやっていく。自分のような復讐のみの連中ならまだしもまともな英霊であろうと思った。狂化を施したあの崇高な英霊とやらと同じ匂いがしたのにこれだ。

 

 認識を改めるべきだろう。あの英霊にヘルメットの軽口野郎。そしてあの光の柱をぶっ放したであろうマスターらしき女性。あれはとりわけ危険だ。行動もそうだが武器も危険だ。あのワイバーンの群れを活かした盾。あれも朦朧とした意識の中ではあったがあっという間に消えていった。武器、スキル。どれかはわからないが・・・あれは真っ向からぶつかっては駄目。

 

 生半可な化物ではすぐさま殺されて終わる。しかも失った戦力も大きい。時間が欲しい。自分が逃げるための時間。そして相手を調べて殺すための準備が・・・

 

 「っ・・・・・ジルとの連絡が取りたいけど・・・アレの宝具は寧ろ彼奴等を引き寄せる・・・その前、に・・・」

 

 まだ爆音で耳がイカれて思考が歪む中でどうやって生き残ろうかと必死に思案する。ライダーは駄目だ。下級とはいえ竜種の海をあっという間に屠りさる火力を叩き込まれてはアレでも意味がないだろう。そして自分の信頼できるジルドレの気色悪い怪物ももしかしたらアレらには相性が悪いかもしれない。何よりも相談相手がここで万が一にでも死ねば最高の復讐への準備が遅れかねない。

 

 処刑人も遠距離で絡め取られかねない。血を求めるあのランサーですらも気づかれること無く英霊を回り込ませる連中・・・戦場を知らない処刑人ではいかに殺しの手腕が上手くても射程内で絡め取られておしまい。

 

 相手も馬鹿ではなく追撃もしているだろう。追撃を跳ね返せて遠距離戦が出来るとなればアーチャー。そしてあの馬鹿みたいな奇策にも対処できるキチガイにも問題なさそうな傑物。となればあの二人しか無い。

 

 「バーサーク・アーチャー・・・バーサーク・・・・めんどくさい・・・ランスロット・・・ここに私を追いかけてきた連中が来たら殺しなさい。そしてバーサーク・アサシン・・・私を抱えて戻りなさい。治療もしっかりね」

 

 女・・・黒ジャンヌは自身のクラス、ルーラーの、そしてマスターの特権で英霊を呼び寄せて壁とする。緑と黒を基調とした衣装に鋭い緑の目。薄い金と緑の混じった長髪にすらりとした肢体。弓を持つこともそうだが、人でありながら獣耳と猫のような尻尾を持つ美しい女性。バーサーク・アーチャー。

 

 全身を漆黒の鎧とモヤに包まれている偉丈夫の騎士。瞳の部分は赤く光って正直な話メカに見えてもおかしくはない。低い唸り声を上げて佇むさまはそれだけでも狂気を感じさせる。円卓の騎士ランスロット。それが狂気に染まった姿。

 

 そして黒ジャンヌを抱えて走りながら治療を始める優男。白髪に碧の瞳。そして白と黒の服に身を包んだ男性。もう一騎のバーサーク・アサシン。かなりの経験者なのか手慣れた手付きで傷を治療していき、黒ジャンヌには気の紛らわしにと強い酒を飲ませる。

 

 「覚えていなさいよ・・・この傷が癒えたら今度は地獄すらも生ぬるい炎で焼き切ってあげるわよ・・・!」

 

 痛みが和らいでいく感覚とは裏腹に言えることはなく激しさを増していく憤怒の炎。最高の気分と復讐できるはずの力を覆されてそれでも、だからこそより炎は燃え盛り、自身をこんな目に合わせた三人を殺す算段を立て始めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「では・・・あなた達もこのフランスを助けに?」

 

 「は、はい。まさかいきなりワイバーンと戦うなんて思いもしませんでしたが」

 

 フランスに無事に到着した藤丸ら一行。マシュにクー・フーリンともはぐれること無く一緒に来れていることに安堵した直後にいきなりの爆音。そしてはぐれていた華奈たちの反応らしきものがそれといういきなり爆発出オチじみたひどい話に皆冬木での再会を思い出し、忘れるようにのどかな自然の風景に謎の光輪。

 

 光輪自体の謎は残ったが特にマシュは今までカルデアから出ていなかった事もあって眼の前にある土、草木。風に感動して周辺を見回していきながら足を進めていくとワイバーンに襲われていた城。ワイバーンに抵抗する兵士や逃げ惑う民草に指示を与えつつ守るために必死に戦う女性と合流。

 

 流れのままに協力してワイバーンを討伐してから一段落・・・とはいかずに女性を見るや城の誰もが怯え、時には石も投げられたので一度離れた場所に移動して会話を再開となった。

 

 「助かります・・・その、私も今の力ではとても・・・」

 

 その女性は金の長髪を編んで一つにまとめ、変わった額当てを装着、チャイナドレスと鎧を組み合わせたようなこれまた露出がやや多めのバトルドレスと鎧に女性らしい成熟した肢体を包む。武装らしい武装は腰に差した剣に旗。柔らかな碧の瞳は見ているだけで心が落ち着き、笑顔になる華やかさがある。

 

 目の前で自分の力不足を憂う女性の名はジャンヌ・ダルク。この百年戦争でさっそうと現れて快進撃をこなし、二年という短い期間で歴史に名を刻んだ聖女その人。

 

 「いえ。ジャンヌさんの参加はありがたいです。能力もそうですが、私達はこの時代のフランスをよく知りませんから。現地の人でこの時代をよく知る。その上頼もしい仲間です」

 

 マシュも有名な英雄に、しかもこの時代をよく知る同性に会えて嬉しいのか少し上機嫌気味に話しかけている。

 

 「有難うございます。それでなんですが・・・私が処刑されてあまり日がたっていない時間に呼ばれたせいでしょうか? 私自身もあまり力が出ないというのが、後は・・・竜の魔女。なんでも黒い私がこのフランスを破壊していっているとか・・・」

 

 「ああ、そう言ってたな。竜の魔女がどうたらとか」

 

 益々沈む表情のジャンヌに城での出来事、民衆の会話を思い返すクー・フーリン。魔女として裁かれた直後なので魔女扱いはまあ分かるが、『竜の魔女』というワードにさっきのワイバーン。

 

 『あんまりいい話じゃないけど、ジャンヌ・ダルクを騙る偽物が暴れているか、本当にそういうジャンヌ・ダルクが暴れているのかもしれないね』

 

 『さっきの華奈たちのところにも大量のワイバーンの群れがいたみたいだし、とりあえずワイバーンを使役している誰かがいるということは確定していいんじゃないかしら? ミス・ジャンヌには申し訳ないですが、私達の方もまだ情報が定まっていないし少ないのです。情報を持っていそうな片方は今暴走して良馬が情報を聞き出しているみたいなのでもう少しだけお待ち下さい』

 

 カルデア側も情報を調べている様子ではあるがどうにも今は遠くにエネミーがまばらにいるだけであり、索敵範囲から得られる情報は今は地理と藤丸らの無事。そして英霊の数の確認くらいだった。

 

 そのことに謝罪をするオルガマリーに頭に霜が乗ってたロマニ。何やら少し後ろが騒がしかったし冷凍庫でも故障したのだろうかと一同は小首をかしげる。

 

 「そう言えば、華奈さんらはどうしたんだろう。あの爆音から何もないけど・・・」

 

 色々と変な部分はあるが余計なことは少ししかしないはずの冷静な華奈に戦場を潜り抜けた以上余計な騒ぎの危険性を理解しているストーム1、そしてあのアーサー王、アルトリアが意味もなく爆音響かせ放題のあの騒ぎを起こしてハイ終わりというのは少し変だ。

 

 カルデアもあの爆発の反応を調べられるのだから華奈たちにも通信ができたり、位置情報を教えて合流も出来ていてもおかしくはないはずなのだが。と考えていると目の前に一騎の騎兵が駆けてくる。それは藤丸らの前で止まり、ゆっくりと馬から降りた。

 

 「おーいたいた。みんな元気い? オジサンはお使いで少し疲れちゃったよ。あ~大将・・・華奈の大将のお願いと合流地点を教えに来たんだけど、大丈夫かい?」

 

 軽装の鎧に剣を一振り、黒い髪を後ろに流している中年男性。飄々とした話し方で此方に歩み寄り、一言断って手紙を出す。

 

 ややデフォルメされたアルトリアの笑顔が描かれた便箋に一同少し硬直すると改めて封を切る。

 

 「手紙」 

 

  

 

 藤丸様、マシュ様、クー・フーリン様。この手紙が来たということは無事に銀嶺の誰かに会いましたね? 無事なようでよかったです。私の方ですが、何やら黒ジャンヌ? に会いまして早速殺されそうになったので爆弾とエクスカリバーとバズーカで撃退しました。城一つ壊しましたけど。

 

 で、そのときにワイバーンも沢山駆除してしまいまして、腐らせるのも勿体無いのでカルデアに送るために城の跡地で銀嶺の皆で解体作業をしています。そこを合流場所にしましょう。必要なら足も用意します。

 

 それと、ワイバーンだけしか遭遇していませんが、どうにも相手の札は多いようです。民草を多く巻き込むのは本意ではないですし、特異点崩壊。私達の敗北になる可能性もあります。というわけで私達の花火を利用した檄文を用意しました。

 

 これです。

 

 

 

 竜の魔女は現れた。かつて国を救うために戦った聖女は裏切りと侮蔑、辱めを糧に炎と竜。悪魔と怪物を呼び出して蹂躙する。

 

 戦場はこの国となり、怒りが闇と業火となって襲いかかる。

 

 しかしそれは聖女の望むべきものではなく、聖女を信じた民草が殺されることをこの国が、かの神が望むわけもない。

 

 それはなぜか? 聖女は自身の苛烈な未来を感じて尚気高く戦い、国のために戦った。聖女に与えたこの過酷な試練に最後まで応えた聖女を天の国へと迎えた神もこれ以上この迷える子羊に、世界に試練を望んではいない。

 

 世界もそれを良しとはせずに竜の魔女と戦うものが現れた。先程のあの黄金の柱は何か、紅蓮の爆発は何か。あの竜の群れを、雲を殺し尽くした青の光は、高速の爆発する矢はなんだろうか。見えなくともあの音はなんだろうか。

 

 それは始まりである。竜の魔女に抗う戦士の戦いの狼煙である。

 

 竜の魔女はかの聖女ではなく、聖女を騙り、よく似ている何か、別物だろう。彼女をよく知るものであればそれはよく知るところだろう。しかしその力も数もかつての戦いの比ではなく、苛烈な戦いが起こる。竜の魔女を倒すための戦士の戦いが、竜を倒す英雄たちの物語が始まる。

 

 だからこそ皆心を強く持って生き抜くことを考えよ。希望はここに再び現れた。力なきものは手を取り合って生きるためにこの過酷な戦いからはなれよ。

 

 この暴虐に抗う力を持つものは牙なき人の明日を作るために戦い抜け。

 

 神は民草の安寧と明日を手にすることを望み、戦う戦士も巻き込まれることを望まない。生きることこそ戦いであり、守ることこそが望みである。故に民は避難し、戦士は守ることを良しとせよ。

 

 さあ、動くときだ。汝の隣人を愛して手を差し伸べよ。国を覆う試練を生き延びてかの神の作った素晴らしい世界の明日を見るために、誰かに見せるために動くときだ。

 

 

 

 ・・・とまあ、こんな感じです。少しくどいかもですがこれくらい大仰な方が良いかもしれませんし、銀嶺の魔術師のメンバーで音声も流れたり複数準備して既に檄文として流しています。いずれ動き始めるでしょう。そのときにここに呼んだ銀嶺の皆様もまた準備をさせています。

 

 情報もここで交換しがてら今後の方針を打ちたいと思いますが、いいですね? 私も少なくとも夜には戻ります。どうかご武運を 

 

                                     船坂 華奈

 

 

 

 「こんな感じだ。大将は三人でツーリングに行っていたから、すぐ戻ってくるだろう。どうだい? オジサンと一緒に合流しに行くかい?」

 

 手紙を読み終わった反応を見ていつの間にかタバコを咥えてニタリと微笑む銀嶺の一員であろう中年男性。マシュも筆跡を見て華奈だと理解しているし銀嶺の使者に内容と自身らの情報の合致。問題はなさそうに思える。

 

 とりあえず城が一つおじゃんになったことなどには目をつぶるとして。だ。

 

 「ん~行ってみようかなあ・・・どの道ここに居ても怪物が来るだろうし、合流できる方が良いや」

 

 「私も賛成です。魔力反応からも嘘はないでしょうし、カルデアの騒ぎの内容もどうやら華奈さんらが原因らしいですし」

 

 ポリポリと頭をかいて藤丸は立ち上がると手紙を便箋にしまいこんで男性にお願いしますと頭を下げる。それに続いてマシュも頭を下げ、ジャンヌもそれに続く形になる。それをみて男性も苦笑しながら頭をかき

 

 「いやぁ。素直な子たちだ。とりあえずこっちも足を準備するけどしばらく時間が必要だからその間は歩こうか。ほら、藤丸くんにマシュちゃんも乗って。オジサンは久しぶりの散歩するからさ」

 

 藤丸らを馬に乗せて男性は手綱を引き、ゆったりと爆破された城に向かってあるき始めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・・・・ワイバーンの速さも久しぶりですと読み違えますかね?」

 

 黒ジャンヌに思い切り爆撃とミサイルの嵐を降らせた後にストーム1の用意したバイク、フリージャーシリーズにまたがって爆走、追跡していた華奈たちだが、姿を見失っていた。

 

 遠目からでも意識が朦朧であり、ワイバーンの妨害もバイクの装備であるミサイルやマシンガンで撃ち落とし、ミサイル片手に追いかけていたがいやに此方の障害となる地形を選んで飛んでいたせいで距離は開くばかりでついに視界から遠ざかり、今現在準備している武装の射程外になってしまう。

 

 「それよりもあの底力というべきでしょう。あの状況でああも耐える根性に衰えない気炎。フランスへの復讐でしたか? あながち、軽い言葉ではないようですね」

 

 アルトリアも黒ジャンヌの気力に思わず感心していた。自分なりに力を込めたエクスカリバーにC70爆弾の爆発、飛んで逃げ場のない空中でのプラズマボンバーの爆風。あれを浴びて尚ワイバーンにしがみつき、朦朧とした状態であろうとも掴まり続けて逃げおおせた。移動中に華奈から聞いた情報でのすり合わせで聞いたフランスへの復讐。本気であり、この程度で参る者ではないだろうと警戒を引き上げていく。

 

 「しかし、愛しのジャンヌちゃんにはこうして逃げられたし・・・これくらいで・・・!」

 

 「ストップ」

 

 「ええ・・・嫌な感じですね・・・」

 

 軽口を叩きながら最早遮るものはないバイクでの追跡をしていた三人だが突如バイクを止める。華奈は経験で。ストーム1はそのガンナーのクラスでの超越した視力、そして殺気を感じ取る。アルトリアは直感ですぐさま動きを止める。

 

 自身らの目の先にある森。この中、若しくは先に嫌なものがある。何というか、今そのまま行けば少なくとも被害を被ることは確定だろうと。

 

 『よし、ようやく通信ができた。幾ら何でもバイクの追跡は骨が折れますよ全く』

 

 ようやくバイクでの移動が止まったことで存在を保つための測定だけではなく通信も使えるようになり、華奈たちの斜め前に良馬の映像が移り、声が聞こえ始める。

 

 数百キロで爆走するバイクの追跡には骨が折れたようで少し表情が疲れていた。

 

 「ああ、申し訳ありません。上手く行けば一発解決だったもので・・・それで、失礼しますが、良馬様。索敵範囲を広げることって可能ですか?」

 

 『ん? え、ええ。十キロ以上でも問題ないです。ですが・・・あの森を調べればいいので?』

 

 「頼みます。何と言いますか。嫌な感じがしまして」

 

 言われるがままに良馬はコンソールをすぐに叩き、華奈たちの目の前にある森、周辺を調べていく。エネミー反応。毒物の検出や生きた人間がいるか。数分の細かな検索の結果は

 

 「ああ、いますね。一騎はあやふやですが少なくとも二騎。しかもどちらもかなり強力な反応です。エネミー自体は少ない、ばらばらで多分相手の用意したものではないでしょう」

 

 英霊が二騎、そしていくらかのエネミーという結果に落ち着く。数では勝っている。ただ強力な反応。タイミングからして自分らに立ち向かえる、若しくは打倒し得る戦力が来ている。最悪なのはこれに手間を取らされて自分らが包囲殲滅される。若しくは藤丸たちや民草に向かうこと。

 

 「「「・・・・・・・・・・・」」」

 

 勢いを殺さずにこのまま相手の大将首を手に入れることは大きな進展だが、一度合流と思い切り暴れても問題ない戦いの場作り、そして情報交換に切り替えたほうが良いだろうかと一同が思考を回す。

 

 「帰りましょう。そして戦力の確認と避難民の援助。ついでにこれらを大々的に宣伝してあの黒ジャンヌらに私達に徹底的にヘイトが向くように仕向けるように考えていきましょう」

 

 「敵がゲリラ戦という選択肢を選ばせないための挑発か。となればあの檄文の発行元をばらしてふっかける。逃げるさまを映像にして流しまくってやる・・・加減が難しいな。あの姉ちゃん、見るからに沸点低そうだし」

 

 「短気は損気というのに。戦でそれは死へ足を突っ込むようなものです。じゃ、今日はこれで引き上げる。でいいですか?」

 

 アルトリアの声に一同が頷きバイクの方向を反転。最早ワイバーンの解体現場とかした廃城のあった場所へとバイクを走らせていく。

 

 「あー・・・そう言えばソースとかはカルデアから送ってもらいましょうか。ワイバーンの肉に合うものと鱗のスープを作るための布に茶漉しにブラシ、ハンマー・・・野菜に関してはそこらへんの野草でいいですかね?」

 

 「暖かい飯なら尚良いな。ついでに連絡で一つ注文を銀嶺にしておいたがいいか?」

 

 「姉上。レシピを書く紙は無いですか? ワイバーンは妖精郷でも害獣として大変なんですが、最近レパートリーを増やしたくて」

 

 『私の方から用意しておきますよ。情報提供も含めて安全運転でお願いしますよ?』

 

 とても戦争をおっぱじめた主犯とは思えないほどに和やかな会話をしながら。




~廃城・爆破解体後現ワイバーン加工所~

アシェラッド「うーし。次は荷車に馬車、薬草に携帯食料の増産だー馬を使って各方面の村々に配ってついでに檄文ぶちまけてこい」

タルヴェラ「ただいまーっと。藤丸君ら無事に連れてきましたよっと」

藤丸「・・・なにこれ?」

マシュ「ワイバーンの加工に周辺の木材で馬車や荷車・・・工場というか何というか」

ジャンヌ「あの・・・銀嶺ってあの銀嶺ですか?」

ロマニ『うん。多分考えている通りの銀嶺だと思うよ』

クー・フーリン「お、いい匂いだ。飯でも作ってんのか?」

~華奈サイド~

ストーム1「あー・・・これ良いなあ。薬草だらけだ」

アルトリア「少し摘んでいきますか?」

華奈「ふむ。栄養にもいい薬味になりますし、おお。これは体温調整の薬草も・・・野宿は藤丸様には堪えるでしょうし摘んでいきましょうか」

良馬『あ、そうでした。ワイバーンですが生まれてすぐだったり、この環境ではワイバーンに寄生する寄生虫がいないのかそのまんま食べられそうです』

華奈「あら、助かりますね。念入りな血抜きと解体に気を使えば問題ないですから今晩は肝の串焼きも作りましょうか」






自分の爆破攻撃を避難のきっかけと英霊たちへの檄文、ジャンヌオルタへの宣戦布告へと利用。神の戦、にいくつかの聖書からの引用での檄文。とっさに考えた作戦ですがどうなるか。

ストーム1の追加注文は避難の助けになるための荷車に薬草などの準備。

そしてストーム1の準備したバイクは地球防衛軍シリーズ5で登場したバイク。フリージャーシリーズ。誘導ミサイルからマシンガンなど攻撃手段も様々。特にマシンガンの火力は凄まじいです。これを利用した周回引き撃ちでの殲滅をした人も多いはずです。

次回でようやく合流。もしかしたら食事から始まるかもしれません。

最後にUA 65304件 しおり 164件 お気に入り466件 有難うございます! また次回もよろしくおねがいします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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銀嶺食堂開店~ワイバーンハンバーグステーキ~

~フランス各所~

???「これは・・・私には街を守る責務がありますが、連絡を取るくらいはするべきでしょうか・・・?」

???「あら、愉快なやつがいるみたいじゃない! 私のマネージャー候補になるかもしれないわ! 会いに行ってみましょう」

???「・・・もしかしたら、私の求めるあの方もいるかも知れませんね・・・右も左もわからぬ異国でしたが、いい目標が出来たかもしれませんね」

???「未だやつは現れないが・・・俺がこうしている以上・・・出てもおかしくはない・・・・・・あれが出る前に準備をしたい・・・しかし、ここを離れるのも難しい、どうしたものか」

???「・・・竜の魔女は偽物・・・たしかにあの方は・・・・・・・・伝令を準備せよ! 急ぎこの檄文を作った集団との接触を図る! ただし失礼のないようにな! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・裏切り、見捨てた私達に来る復讐や裁きと考えていたが・・・奇跡をもう一度くれたのか? それとも・・・」

~カルデア~

華奈『あ、アンナ様~ワイバーンの材料で「あれ」作っておいてください。多分必須になると思うので』

アンナ「?・・・・・ああ「あれ」ね。分かったわ。用意しておくから半日くらい時間をちょうだい」


 「~♫~♪~~~♡」

 

 銀嶺との合流も無事に済んだ藤丸ら。廃城跡地には銀嶺の仮拠点が既に出来上がっており、出来上がった避難民専用の物資、連絡、同時に周辺に発生した獣人、ゴブリンなどのモンスターの駆逐を行っていた。

 

 それも終わって夜も深まり始める頃。作業も一段落して休憩となった頃に華奈が今晩の料理をつくるといい出し始め、カルデアから何らかのソースと器具を送ってもらって解体したワイバーンの肉を調理していた。

 

 「おーい、マスター。もう冷えてきたがこれをすくい取ればいいんだよな?」

 

 「ええ、お願いします。一通り取っていったらまた火を付けて、最後に野菜を投入。良いきのこもありますから」

 

 「姉上。マチコがトリュフを持ってきてくれたんですがどうしましょうか?」

 

 「ん~・・・今度にしましょうか。せっかくですから打ち上げのときにでも」

 

 アルトリア、ストーム1も加わっての調理、こうしてみれば兄弟の調理しているほのぼのとした光景なのだが、何せその材料がワイバーンという豪快すぎる材料。さらにはしれっとトリュフも加わりそうという豪華な食事。

 

 てっきり携帯食料で一日の食事を終えると思っていたがさっきからただよういい香りに待っていた藤丸、マシュ、クー・フーリン、そしてジャンヌは口の中によだれが溢れ、今か今かと即席の調理場に視線を向ける。

 

 「あの・・・私も手伝いましょうか? 華奈さんもお疲れでしょうし」

 

 「いえいえ。私は楽しんでいますし疲れてはいませんよ。どうぞごゆっくり。それにまあ、危険ですから」

 

 エネミーの駆逐に宝具の常時開放。そして敵の撃退に調理と華奈の疲労を気にかけて手伝いをマシュが申し出るが華奈はやんわりと断る。

 

 そして調理場のそばに置いていた酒の瓶を一つ手にとって自身が担当していた肉料理の乗っていたフライパンに瓶の蓋を外して中身をぶっかけていく。

 

 「危険ですか? 一体・・・!」

 

 「な、フライパンから火が!!?」

 

 「流石は私が選んだ酒! い~い火力と匂いです! これなら最高のできになるでしょうねえ! あっはははははは!!」

 

 フライパンに酒が注がれていってしばらくした後に辺りの景色が明るくなるほどの光、華奈の頭三回りはゆうに超えるほどの火柱が上がり、酒の芳醇な香りがあたりに漂う。

 

 その炎に合わせて響く華奈の壊れた笑い。悪魔が調理しているのかと言いたくなるような異様な調理場とは裏腹に鼻孔をくすぐる香りは食欲を刺激し、作業を終えて警邏をしていた銀嶺のメンバーにオオカミたちも調理場を見てよだれを垂らす。

 

 「おぉう・・・」

 

 『僕たちからは匂いは分からないけど、いい香りなんだろうねえ・・・でも、フランベってことはステーキなのかな? 足の肉を使うと言ってたけど、固そうだなあ・・・』

 

 「晩酌用の酒かと思ったんだがなあ。ま、この匂いなら問題はなさそうだし、待ちますか」

 

 やがて炎は収まり、酒の匂いは収まって次に漂うのは濃厚な肉の香り、そして美味しそうなスープにご飯とパン。匂いの奏でる最高の演奏会、若しくは宣伝。誰もが腹の虫をならしてこれをよこせと脳に訴える。

 

 調理場の方も作業を終えておぼんに乗せられた料理が運ばれていく。

 

 「カルデアの調理場だと火災報知器が発動するのでなかなか出来ないんですよねえ。この料理。楽しかった・・・・さ、完成です。ワイバーンのハンバーグステーキ(ドミグラスソースバージョン)」

 

 「ワイバーンのテールスープ野菜とキノコマシマシ」

 

 「もちもちバンズとふわふわご飯の完成です。ご飯、パン。どれにするかは好きにしてください。おかわりは二回までですよ?」

 

 鉄板の上でジュウジュウと香ばしい香りと音をたてるハンバーグを運んでくる華奈。寸胴鍋と器を持ってきてくるストーム1。炊飯器とカゴいっぱいにバンズを入れて持ってくるアルトリア。

 

 香ばしい匂いの発生源が近づき、皆いつの間にか列を作って食事を取り始める。藤丸、クー・フーリンは米。マシュとジャンヌはバンズを選ぶ。

 

 「いただきますまずはハンバーグを・・・・!」

 

 藤丸が手を合わせてナイフでハンバーグをナイフで切り、一口食べる。まだまだ熱々のハンバーグを食べたことによる驚きではなく、歓喜と興奮の色に染まり

 

 「旨すぎるッッッ!!!! パリッパリの表面の食感にワイバーンの肉の弾力が残った肉の粒・・・! それが溢れる肉汁と一緒にあふれて口の中に広がる・・・・!」

 

 「ドミグラスソースとの絡み合いに互いに旨味を増しますし・・・溢れる肉汁もソースもバンズに余すこと無く吸い込まれてこれまた旨味を一切逃すこと無くすべて味あわせてくれます!」

 

 「マッシュルームや野菜も良い下味がついているから全て美味しく回せる・・・酒の匂いと火力でパリパリの表面は口の中でもアクセントになっているし・・・単品で酒と合わせても良いなあ・・・こう・・・キンキンに冷えたビールとか!」

 

 「テールスープもいいです・・・あっさりとしつつ主張する美味しさに・・・野菜のシャキシャキ感・・・!ハンバーグの強い旨味を一度洗い流して再度また新しく楽しめる・・・! 舌も顎も満足です!」

 

 大きなリアクションをした藤丸に釣られて皆が食べ始め、同様に味を堪能して目を見開いている。大成功。と華奈たちは手を合わせて微笑み、自分の分もよそっていく。

 

 『ああ・・・・僕も食べたいなあ・・・華奈の本気の料理・・・』

 

 「後で送ってあげますよ~うんうん・・・やはり足の部位は筋肉がある分、上手くたたければ旨味や弾力を閉じ込めるいい肉になりますね。ソースも一ヶ月以上仕込んで用意したかいがあります」

 

 「テールスープも今回はフランスの食材に合わせたが、鶏ガラに近い部分もあるし・・・そうだなあ、白ネギ、もやしでもいいかもなあ・・・はぁ・・・日本酒が欲しい」

 

 「姉上のワイバーンハンバーグ・・・! っくぅ・・・最高です・・・私ももっと美味しく出来るようにならないと・・・」

 

 ロマニが画面越しに物欲しそうにしているのをよそに華奈たちも食べていく。ブリテンのものとは少し味が違うが流石は竜。旨味も肉の強さも違う。足や翼あたりの肉は筋張っていたり筋肉量が多いので少し熟成や煮込み料理に使う場合が多かったがハンバーグは問題ないようだ。

 

 強めのフランベで表面をパリパリに焼いて型崩れをせずに食感と肉汁を確保。酒もそのため専用のものにしたかいがある。

 

 ソースも用意したものは問題ないし、米にもパンにも相性は抜群。注射器でハンバーグにドミグラスソースを注入して表面にはケチャップ。それを挟んだハンバーガーというのも面白いかもしれない。

 

 調理組三人はそれぞれにどこをどうしようかと改善を考えながら箸を進め、同時に準備していたワインとビールを成人組に渡して自身らも一杯ひっかけていく。

 

 『うぅむ・・・ぜひともレシピを知りたい・・・この作り方もそうだが、ワイバーンという食材・・・それにこの反応・・・負けていられない!』

 

 調理場の様子からどうにか再現をしたいとメモをとるエミヤ。モニター越しに職員の何名かもよだれを垂らしているのであちらの分のご飯も作り、銀嶺の分はヤマジたちに任せてカルデアに完成したハンバーグを送り込む。

 

 「ふぅ・・・お腹も膨れましたし、改めて情報整理、そして今後の方針を立てましょうか」

 

 「ああ、こっちもこっちで知りたいことがあるからなあ。主にそこの白い姉ちゃんのことで」

 

 茶をすすって一息吐き、気分もお腹も落ち着いたところで会議に移る。華奈たちの気になる点としては明確な敵ではない、聖杯戦争での生き残りだった前回のキャスターのクー・フーリンとは違う形でこのフランスに現れた「英霊になりたて」というジャンヌ・ダルク。

 

 「むぐむぐ・・・・わ、私ですか?」

 

 「シュル・・・・・俺は黒いジャンヌ・・・? 竜の魔女? についてだけど・・・この今食べているワイバーンを引き連れていたんだっけ?」

 

 「それと、今後ですか・・・戦うにしてもどうしていくのかがまだ決まっていませんものね」

 

 食事をしていた藤丸たちも一度食事の手を止めて話に参加。藤丸たちもあの爆発や戦力、そしてどう戦うつもりなのかを確認していくために水を飲んで一息つく。

 

 「では、藤丸様たちの疑問ですが。はい。黒ジャンヌと英霊、それの足、雑兵となっていました。英霊たちは藤丸様たちも見た爆発であらかた処理。ワイバーンは今晩のご飯です」

 

 「英霊は三騎。仮面の姉ちゃん、杭を持ったいやにダンディなおっさん。男か女かわからん美人さん。まとっていた空気からして怪物に近い、若しくはそこら関係の人物だったんだろうな。美人さん以外」

 

 「姉上から聞きましたが城一つまるごと虐殺したのを妥当、裏切りの復讐と言っていたそうですから、竜の魔女=ジャンヌ・ダルクと考えるのが妥当でしょうが・・・」

 

 ここまで話してアルトリアも途中で詰まる。華奈の送りつけた檄文。この中ではバズーカでふっとばした黒ジャンヌを偽物と書かれた。恐怖を煽らないためなのかもしれないが、調べたジャンヌ・ダルクの人生を知ればこの行為も納得に思えてしまう。

 

 「はい・・・もうひとりの私が暴れているというのは理解していました・・・けど、私自身は復讐など考えてはいませんでした。そうなるかもしれない人生を選んだのは私ですし・・・」

 

 けれど目の前のジャンヌ・ダルクはこの黒ジャンヌの復讐劇に納得はしておらず、寧ろ藤丸と協力してワイバーンと戦って民草を守ったという。今も復讐には囚われていないとも言っている。

 

 「実際復讐を考えているなら混乱した市民をその旗で殴り殺せばいい。英霊になったばかりとは言えその膂力では迎える人間はほとんどいない。では、私からも一つ。ジャンヌ様。フランスで恋しい、思い出の場所はありますか?」

 

 ジャンヌにジュースを渡してニッコリと微笑む華奈。その笑顔に少し沈んでいた表情をしていたジャンヌも笑顔で受け取って飲んでいく。

 

 「ふぇ・・・? んく・・・そうですね・・・私の故郷のドンレミ村。王に任命された王城・・・結局村から出て王城以外では基本戦地でしたがそれでも今でもまた行きたい、戻って話、空気に触れたいと思っています。姉弟に、家族にも迷惑をかけたのは事実でしたし」

 

 「あ~あ~そういうことね。たしかに変だわなあ。あの姉ちゃん。そこら辺に関するためらいや憎愛の感情を匂わせる発言がなかったからなあ」

 

 自身の故郷に王に謁見が叶い、フランスのために戦えた始まりとも言える場所。血なまぐさい匂いではなく土に牧草香るゆったりとした小さな村。最後は悲劇に彩られた人生であれ、そういった黒い感情がない場所、それでも尚光栄だと、素敵な時間だったと感じる場所がある。

 

 これにストーム1も納得がいく。自身も警備の仕事でEDFの基地での仕事でろくでもない目にあったが恩人にも会えたし、色々と嫌いになれない場所がある。しかし、霊体化して近くで見れた黒ジャンヌの表情にはそれを思い出す様子も、それにためらいを見せることもなかった。

 

 「ですよね。国に裏切られたのは確かでしょうが、自身を応援して見送ってくれた村の皆様、共に戦った戦士たち。彼らは最後までジャンヌ様を助けようと動きましたし、戦いました。でも、黒ジャンヌの表情、目にはそんな楽しかったり、輝かしい時間。それを思い出すこともなく裏切られて、自身が嬲られて、処刑されるまでのことの怒りしか無いように感じたんですよ」

 

 「仮にも聖女、それも国のためにも危険な戦地に赴いた女性。復讐はあり得るとしても、最後まで応援し続けた彼らすらもまるごと復讐の対象になるのは確かに・・・」

 

 華奈が感じていたのは復讐の動機ではなく、それを起こすことによる大事な人物、最後まで信じた人物たちへの配慮がまるでないという、記憶、もしくはその比率の歪みや欠如に依る怒りの形に違和感を感じていた。裏切った王、神官、煽る連中だけに収まらず、恩しかない者までも焼こうとしている。

 

 狂化の側面で過去、歴史の表舞台に出るまでの記憶が薄れている可能性もあるが、それにしたって復讐に囚われていると華奈は感じていた。

 

 「そんな事しません! 恩を仇で返すような・・・私が頑張れたのは皆さんの支えあってこそなのに! それに、神の声があったのもそうですが、フランスがまた私の村での穏やかな時間を過ごせるようにと思ったからこそですし」

 

 「ええ、私もこうして話しいて確信しました。黒ジャンヌは英霊にしたってどこか歪。一部の記憶に強く強調されている。若しくはそういうクラスに当てはめられて協力者と暴れようとしていた」

 

 「となれば、首謀者は別、若しくは協力者、支援者がいるというわけですか私達が追いかけた際にそこに逃げようとしていたんでしょうね」

 

 とりあえず今の所の黒ジャンヌへの仮説を上げたところで軽く華奈が手を叩いてこの話はお開きと言う意味を示す。

 

 「では、藤丸様たちへの今後の戦い方の方針ですがはっきり言うなら、包囲と避難を中心に行きます。避難はもう始まっていますね。檄文を渡した後、避難が始まっていることは各所に走らせた銀嶺のメンバーの情報で確認しています」

 

 「相手はフランスの民草含めて全て焼き払うつもりですからね。民草を巻き込んで来る戦いを強制的に持ち込ませかねないので私達と怪物、そして黒ジャンヌだけの場所を作って気兼ねなく暴れまわります」

 

 「? でも、包囲は?」

 

 避難による非戦闘員の被害の減少を避けることはわかる。相手の目的が達成できなるかもしれないし、あの昼に見た馬鹿げた爆発を街の近くでドッカンドッカンされてはたまったものではない。けど、それが何故包囲につながるかは今ひとつピンとこない。

 

 「あ~これはな。ジャンヌちゃんの存在が鍵になった。俺たちは最初に黒ジャンヌをふっとばしたことでこのフランスの危機に戦える戦力、奇跡が現れたことをフランスの連中に示した。で、最初はあくまで避難する民草を殺そうとする怪物の退治と敵勢力の殲滅にって具合の戦略を考えていた」

 

 「けど、アラヤがこのまま終わるのを良しとしなかったのでしょうねえ。マスターと契約していない英霊がこの特異点に現れた。しかもこの異常を解決したいという意思を持って」

 

 華奈たちが体験した特異点では狂った聖杯戦争の生き残りしか現地で味方になる英霊はいなかった。が、目の前の英霊ジャンヌ・ダルクの存在で特異点を引き起こした元凶に抗う存在がいる。それも、まだ他にもいるかもという可能性を秘めて。

 

 「それに大きな期待をかけるつもりはないですが、ジャンヌ様以外にも戦力となりえる、私達に協力してくれる英霊が現れるかもしれない。既にいるかもしれない。もしいたのなら民草の守りにいざという時の連携、戦力の底上げになるかもしれません。そうなれば各所に散らばる英霊との連絡して相手の出処や情報を集めて此方は叩いていく」

 

 「で、後顧の憂いがなくなれば増えるかはわからんが協力できた英霊たちとあの黒ジャンヌを叩くってわけだ。俺もマスターもアルトリアも機動力は持っている。銀嶺での伝令も使える。連絡網を敷く下地は既にできているってわけ」

 

「姉上の軍も散開していますのでモンスター、ワイバーン、敵の動きがあれば即座に通達。敵の出どころも調べ、叩き、相手の逃げ場、次善策を摘み取る・・・まあ、包囲網は半ば完成されていると言ったところですか」

 

 可能であればこの特異点に現れた敵勢力ではない英霊とのコンタクト。そのための準備も、足も、ほぼ完成に近づきつつある。そう話す華奈達の目にはギラついた、狩人の光が宿る。

 

 『それと、人の居ない空白地帯、戦闘しても問題ない場所を多く作るというわけなんだね。さっきも言ってたけど、余計な被害を出さない、それに華奈達の武器は何かと破壊力の多いものがあるから』

 

 今まで会話に入ってこなかったロマニも会話に加わり、同時にこの作戦の意図を読み取る。冬木でのかんしゃく玉もそうだが、ストーム1の譲渡可能な宝具は何かと破壊力に富んだものが多く、しかもそれは一定のプロセス、または時間を置けば交代が可能。それを好き勝手に使うのであれば被害がないようにするのは当然であり、そういった意味でも避難勧告の通知が通ったのは好ましい。

 

 それがまた被害をさほど気にすること無く使える。それは藤丸たちには心強いことであり、敵にとってはご愁傷様と思う話であった。

 

 「相手はどうにも頭数も多いみたいだからな。そういった武器が必要な場面は出てくるだろうし正解だろ。住民の被害がこの特異点崩壊の条件なのかもってのは考えることだし」

 

 「だからこそ手早く敵を討つ。かつ被害は最小限に、私達は最大限暴れまわる。明日からは忙しくなりますよ? 皆さん、今のうちにいっぱい休んでくださいね?」

 

 食べ終わった食器を集め始め、片付けの準備に移る華奈。それに続く形でゆったりとしたフランスでの夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ジル! ジルはどこよ!!」

 

 ある居城。傷を癒やして完治した黒ジャンヌは怒りを全面に出しながらズカズカと足音をならしながら相談相手を探す。屈辱的な敗北に逃げおおせるという選択を選ぶしかなったこと。その原因である女たちを殺したくて仕方がない。

 

 けれど、それ以前に自身の連れ歩いた英霊の損失自体もある。それを踏まえた上でどう殺せる手立てを考えるか。いつも相談相手となり、自身に忠実な相手。ジルドレを探して怒声を上げる。

 

 「おお! ジャンヌ。傷が癒えましたか・・・何よりです。このジル・ド・レエ、貴女様の怪我が気になって気にな・・・」

 

 「うるさい!」

 

 その頼れる協力者、かつて20半ばでフランス元帥となって英雄の一人となり、ジャンヌの死から狂っていた堕ちた英雄、ジル・ド・レエ。何なやら奇っ怪な道化のような司祭のような服に身を包んで今にも飛び出そうなほどに突き出た目玉。片手には何やら気味の悪い書物を手に持っており、爪を伸ばした手に自身の纏う不気味な雰囲気も相まって一見近寄りがたい雰囲気を纏う英霊。

 

 が敬愛する魔女に近寄り、言葉を紡ぐ間に顔面を殴り飛ばされて吹っ飛ぶ。数メートル吹き飛んで整った調度品に当たってけたたましい音が鳴り響き、埃が舞う。

 

 「ぐぼぉ・・・!」

 

 「そんな下らない社交辞令いらないわ! さっさと準備しなさい! 私を殺そうとしたバカどもを殺し切る準備を!」

 

 「おぉ・・・おお・・! そうですな! ジャンヌを傷つけ、手駒を減らした愚か者を倒すために、復讐を成すために! しかし・・・しかしですぞジャンヌ」

 

 ふっ飛ばされるもよろよろと立ち上がり、怒りに震えて旗をガンガンと鳴らす黒ジャンヌを静止するように声を掛ける。一応の情報はジルにも入ってきており、黒ジャンヌから言われなくても自身も報復攻撃を行うという考えには賛成したい。

 

 けれども、ジャンヌの輝かしい戦歴を支えたその手腕、能力は狂気や怒りに支配されども残っていた。それ故に待てをかける。今の状態で行っても返り討ち、二の舞だろうと。

 

 「悔しいですがその相手も唾棄すべき相手であろうと紛れもない敵。しかも英霊である以上一筋縄ではいかない。今一度状況を整理しましょう。その上で報復を行うのです。暖炉の薪も一度整理したほうがよく燃えて行くでしょう?」

 

 「・・・ええ、そうね・・・その通りね。冷静になるべきなのでしょう。けど、まずはあのバカどもを殺すわ。徹底的になぶり殺して、燃やし尽くす。そのための策を練る。良いこと? ジル」

 

 ジルの諭し、その口調にジャンヌも一度その怒りを収め、息を吐いて一呼吸置く。そうだ。ジルの策は素晴らしいものだ。自身の策、鼓舞したことで極限状態の兵士が最高の状態で戦えるように作戦を立案、肉付けし、兵士にも細かな指示を出す名将。

 

 彼の言うことは耳に入れておくべきものであり、その結果は勝利、最高の結果になる。黒ジャンヌもそれを知るゆえに怒りを吐き出してぶつけることを抑え、落ち着きを取り戻す。

 

 「もちろんですともジャンヌ。この愚かな者共をなんとかしなければ私達の悲願は達成しませんからなあ」

 

 落ち着きを取り戻した黒ジャンヌをみてジルも満面の笑みを浮かべる。最悪レベルの犯罪者、外道に堕ちた身なれどもそのかつての救国の将軍としての経験、知識ははこびりついているもの。映像を映し出す水晶型の魔術道具を使い、黒ジャンヌのことの一部始終と現在の状況を整理するために水晶を覗き込む。

 

 

 

 

 

 (ふむ・・・・・・これは、些かまずいですね・・・ジャンヌの無事は良かったですが、相手が危険すぎる・・・)

 

 黒ジャンヌの情報の再確認、そして現状の確認と華奈達の様子を確認していくジル。表情こそ変化はないが、冷静に、しっかりとした将軍の側面で思考を回す。

 

 (軍服風の女二人・・・あの聖剣、光の柱から恐らくはエクスカリバー、そして狼に猪を率いる軍、その主となればアーサー王、そして同じ時代のブリテン最強の一角であるカナ。もうひとりの男は分からんが・・・ジャンヌの話から怪物に対する強さ、それをたやすく屠れる武器を持つ・・・後ろにあるバイクなども含めてライダーか? 機動力はあると・・・)

 

 食事を終えて一息ついた華奈たちを観察しながらその英霊の真名。をおおよそ看破していく。アーサー王伝説は騎士の時代に読んだことはあるし、敵国の物語ではあるがフランス出身のランスロット。フランスの商人と連携したり、最終的には同盟を組む際にきっかけを作ったカナ。寧ろ自分の騎士たちにはファンも多かったし、ジャンヌも時折聞いてくることがあった。

 

 それ故にアーサー王が存命で妖精郷から出てきてカナと男を読んでも不思議ではないと推測はできる。そして視線はもう一組のメンバーに映り。 

 

 (この少年がマスターか? 覇気も武才も感じられん・・・せいぜいが新兵くらいか・・・盾の少女は・・・真名は不明・・・それにジャンヌ・・・来ましたか、貴女が・・・・・そして・・・・朱槍に青タイツ・・・? たしか・・・アイルランド、ウェールズの昔の民族、ケルト人は戦争の時は身体を青の染料などで染めたとか・・・となればその中で見た目に合致して槍を振るう英霊・・・有名所で言えばクー・フーリンあたりか・・・)

 

 おおよその推察を得てもう片方のグループは危険ではあるが、搦手を使えないことはないし、まだ手段はあると考える。しかし、敵戦力の確認から同時にそこから損失の方に意識が動いていく。

 

 (失った三騎・・・ヴラド三世、デオン、カーミラ・・・この三騎はこの面々を見る限り痛い・・・それぞれの側面を活かせれば十二分に渡り合えたはず・・・)

 

 昼間の不意打ち爆発花火大会で失った英霊たち。周辺の若い女性をさらって生き血をすすったカーミラの女性に対する宝具、またその話から来る強さは、ジャンヌ、カナ、アルトリアに対しても思わぬ一撃を与えられた。そして守備の名将でもあるヴラドなら銀嶺の軍を各個撃破した上で効率よく戦えたし、万が一の時は怪物の側面を強めて夜にでもけしかければいい。デオンはフランスの英霊の中でも剣豪としても名を馳せた剣豪。カーミラの護衛にさせて隙を突くという手段も取れた。

 

 が、その三騎はおらず相手を分断するために此方から動けば察知されかねない。人質、相手にとって障害になりうる民草も既に避難を開始していて空白地帯が出来ている。相手も躊躇せずに昼間の火力をぶち込んでくる。

 

 「ジャンヌ、昼間に失った三騎以外の損失はなく、未だ顕在ですね?」

 

 「そうよ。アーチャー、バーサーカーは戻る際の森で足止めのために読んで、医者のアサシンは私の治療。それ以外は呼んでいないし、ジルからも何も聞いていないから生きているんでしょう?」

 

 これに対して此方はどうするか。昼間に渡した英霊以外にもあの数のワイバーンをあっさり屠る能力がある以上数の暴力も薄れかねない。なら、此方が取る手段は限られる。

 

 「もちろんです。そして、幸運なことに医者のアサシンは処刑人。もう一騎のアサシンも上手く使えば一気にニつの戦力を削れます。ライダー、アサシンらをバーサーカー達と合流させて戦いを挑む。バーサーカーに正面を頼み、アーチャーが後衛で支援。ライダーはワイバーンに自身の宝具で急襲、切込み。この三騎に目が行っている間にアサシンで処刑」

 

 「それを私が指揮を執るというのね・・・・っふふ。確かに、三騎を失ったけれど、あの聖女に神代にて一時代最強と謳われた剣士、ギリシャの名のある狩人がいる・・・そして私の炎にワイバーン・・・ええ、不意を突かれずに此方が立て直せれば何の問題もないでしょうね・・・けど、ジル? 貴方は何をするのかしら? これだけで終わらないでしょう?」

 

 戦力の再集結とクラスの特色、質を活かした集団戦。一度フランスの蹂躙、殲滅から英霊同士の戦いへとシフトし直す。

 

 「もちろん、ジャンヌが指揮をとってこそ。私はですね。お膳立てをしようかと」

 

 ただし、それでも相手は軍団を呼べる宝具、しかも銀嶺だ。思わぬ横槍、このフランスに来ている英霊との合流は避ける。出来ないにしろ壁は欲しい。そこでジルは手元にある禍々しい書物をジャンヌに見せ、微笑む。

 

 「へえ?」

 

 「私の宝具で海魔を生成・・・これをワイバーンに加えて防壁とします。何かあればあちらが何かを仕掛けてくる。あちら以外の英霊が来てもこれらで時間を稼いでジャンヌが迎撃できる時間を作ります。それと同時に俯瞰で戦場を見て必要ならお声掛けも」

 

 怪しげな笑みを浮かべて献策をするジル。それに黒ジャンヌはニたりと口の端を吊り上げ、目を光らせる。

 

 「・・・・そうよ、それでいいわ! それが最高よジル! あっはははははははは!! 見てなさいよあの馬鹿共! 私の邪魔をした分、思い切り焼き殺して塵にしてあげるわ! ねえ、ねえジル、有利にことが進んだと思ったあの女どもが恐怖に染まって死ぬ時はどんな顔なのかしらね!」

 

 「それは素敵な素敵な見世物になるでしょう。貴女を冒涜して、邪魔したものはそれだけ情けない最後になる。まぐれであったということを思い知るでしょう。ジャンヌはそれだけの力があり、権利があるのですから・・・」

 

 報復の手立てが出来つつあることに歓喜の声を上げる竜の魔女、それを見て同じように歪んだ笑顔を浮かべる堕ちたかつての救国の英雄。復讐鬼達の笑い声は城に響き、闇夜の空に飲み込まれていった。




ジル「では、少々準備にかかりますのでジャンヌは明日までお待ちを。その間に改めて体調のチェックを・・・」

黒ジャンヌ「・・・そうね。ええ、休ませてもらうわ。後は頼んだわよ。ジル」



~翌朝・華奈達~

華奈「んふぅ・・・さて・・・皆の分の朝食と・・・銀嶺の皆の軽食を・・・皆が食べた食料も魔力変換されるのが嬉しいですねー・・・・・ふわぁ・・」

アルトリア「姉上も朝食ですか? 手伝いますよ」

華奈「あら、お早いですね。休んでいても良かったのに」

アルトリア「パンを焼こうと思うとどうしても早く起きちゃうのです。それに、そのほうが互いに楽でしょう?」

華奈「・・・っふふ、ですね。じゃあ、朝ですし簡単で軽めのものを・・・オレンジといちごジャムのパン、それと薄めのワイバーンのテールスープ。おやつの骨せんべいでいきましょっか」

ジャンヌ「おはようございます。あの・・・私も手伝います。それと、いいでしょうか?」

華奈「おはようございます。どうしましたか?」

アルトリア「? 生憎ですがセイバーハントの依頼ならキャンセルしちゃいますよ?」



華奈が少し壊れちゃいました。昔を思い出してテンションが少し高くなっちゃったのでしょう。酒を飲むと更に壊れます。

動き始めた両陣営。考えなくても最高の名将であり、吸血鬼にしても強いヴラド公にマシュや女性なら有利、一発逆転狙えるカーミラ、フランスでも剣豪として有名なデオン。これだけでもやばいのに神代の高名な狩人に円卓最強格、ドラゴンライダー、世界有数の処刑人に知名度抜群の殺人者が控えている。そのうえでジャンヌオルタにジル・ド・レエ。序盤から飛ばしていますよねえ。本当。

ジル・ド・レエは本当に天才だと思います。名家の生まれとは言え、20代で大国フランスの元帥、ジャンヌというイレギュラーな存在ですらも受け入れて起こした勢いを絶やさずに二年ほどあの暴れっぷり。軍才含めてかなりの人物ですよね本当。その後がひどすぎますが。

最後に UA 66495件 しおり 165件 お気に入り 475件 応援ありがとうございます! 深夜テンションで書いちゃいましたがまたゆっくり書いていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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音響暴走~ワイバーンの薄切り肉サラダ シャキシャキ白ネギを添えて~

ジャンヌ「私に色々教えてもらえませんか? その・・・円卓の王に女騎士・・・お二人には憧れていまして・・・」

華奈「・・・・・はぇ?」

アルトリア「ふむ・・・? まぁ、いいですがその前に今日の枠割分担の会議からです。それと朝ごはんはどうしましょうか」

ストーム1「おーうそこの美人さんらよ。取り敢えず昨日作っておいた干し肉とテールスープ、それとマスターの部隊の奴らがサラダと野いちごのジュース作ったらしいから食おうぜ-」

~しばらくして~

藤丸「んぐ・・・っふう・・・また美味しかった・・・」

華奈「カルデアだと本当に採りたてとは行きませんからねえ。使ってない場所を畑にできれば色々出来るのですが。種もいくつか準備していましたし」

ジャンヌ「えーと・・・では、今日の予定でしたっけ?」

クー・フーリン「敵にそのまま突貫するんじゃねえのか?」

アルトリア「そうは行きませんよ。取り敢えず今から話していきますので」


 「分担作業?」

 

 朝の朝食を終え、二日目のフランスでの朝を迎えたカルデア一行とジャンヌ。敵性勢力を一気に蹴散らしてそのまま勢いのままに攻め込むことはせずに抑えと別働隊に分かれるという華奈達の提案に首を傾げる藤丸達。

 

 「そうです。相手の戦力がわからないことと、相手の残った戦力も何やら油断できない様子。一度相手が尻込みするであろうタイミングで一度こちらも戦力、第二、第三の矢を手にしておきたいのです」

 

 「それと、ストームのライフルスコープで相手の英霊のヒント、外見、武装からクラスののヒントも探せないかと思いまして」

 

 「ヒント・・・ぁあ、確かに・・・」

 

 アルトリア達のヒントに藤丸もなるほどと考える。英霊。古代の英雄たちには確かに外見が特徴的な人がいたりする。わかりやすいところだと三国志の劉備玄徳は呂布に「長耳野郎」と言われるほどに耳が大きかったらしく、武器に関しても有名所の聖剣、魔剣。そうでなくてもその武器で勇名を馳せた英霊なら予想も付けやすい。

 

 「まーそれに、敵は英霊だけではなく化物まで追加と来たもんだ。それを抑え込む人でも欲しいならわかる。がよ・・・そっちはそれでいいのか? 姉ちゃん達三騎、それにそこの聖女の姉ちゃん足しても相手は油断ならないんだろう?」

 

 「それならご安心を。銀嶺隊もここにまだ700騎残していますし」

 

 「俺も設置型の武器ならいくらかある」

 

 「私もまだまだ面白いものを用意しています。ちょっとやそっとの物量に押し負けるものではないです」

 

 問題、心配をあっさり大丈夫と言ってのける三人。もとより寡兵で戦場をひっくり返し、戦略にも影響を与えかねない暴れっぷりを披露した英雄に加えて既にここ自体が簡易式の砦とも言える状態になっていることもあり、そこに関しては問題がなかった。

 

 「では、私達は各地の戦力、いるのなら英霊に防衛、もしくは助力を申し出る。私は先輩の守りになり・・・」

 

 「俺が斥候。そんで牙というわけか・・・へへ・・っいいじゃねえのそういうの」

 

 盾を見やり気合を入れ直すマシュに槍を遊ばせながら目を光らせるクー・フーリン。守りならかのエクスカリバーでさえ受け止めた守りを持つマシュは魔術師と言えないほど未熟な藤丸を守るにはこれ以上無いほどに頼もしく、クー・フーリンは歴戦の戦士。機動力に富んでいる上にその朱槍の一撃は敵からすれば恐ろしい牙。シンプルながらに役割がはっきりしていることからしても藤丸自身も指示が混乱しないですむだろう。

 

 『しかし、せっかく合流できたのにまた別行動かぁ・・・周辺のワイバーン、怪物はあらかた退治して調理したとは言え、少し危険なんじゃないかな?』

 

 「俺は賛成だぜ? マスターやアルトリア、俺の攻撃のせいか、やっこさん、壁を敷きやがった。それを叩く戦力がほしいし、壁になるほどの数、若しくは質を置いているということはこちらが相手を監視しやすいんだ。こそこそ動かれるよりも、互いに牙向けながら見合いが出来る方が今はありがたい」

 

 『うーん、確かに・・・それにそこまで警戒してくれているのなら今のうちに戦力確保・・・妥当だなあ』

 

 『決まりね。では、華奈、アルトリア、ストーム1、ジャンヌは待機と同時に敵への抑え役。藤丸、マシュ、クー・フーリンは現地での英霊との合流、市民への避難勧告と鼓舞。軍と合流できれば市民の護衛を第一に伝えること。いいわね?』

 

 オルガマリーが手を叩いて回りに役割を伝え、それに反対するものはいない為にその場は解散。それぞれの役割をこなすために動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・で、私達に聞きたいことでしたか? 貴女ほどの戦果を上げて、たった二年で歴史に名を残した方がなんで私なんかに。アルトリア様ならともかく」

 

 「姉上。相変わらずですが・・・その謙遜は、美徳であり、姉上ほどの人物なら同時に嫌味ですよ・・・で、ジャンヌ、警戒態勢のままでいいならどうぞ?」

 

 藤丸たちを見送った後、華奈たちは銀嶺に作らせておいた瓦礫の山にカモフラージュされた櫓に少々砂と草木にまみれた状態で上り、ストームから借りたスナイパーライフルのレンズ越しに相手を観察しながらジャンヌに今朝聞かれた憧れやら、話を聞きたいということに応えることにした。

 

 「は・・・はい。その、私は神の声を聞けたということ、その使命や王、ジルの後押しがあって戦場に立つことができました。けれど、アルトリアさんは子供の頃から修練を積んで王となり、大国の圧力に屈さず島を統一してみせました。湖の乙女にも認められて、多くの武器を携えて・・・女の身でも騎士の頂点に立てました。その強さ、器に小さい頃から憧れまして・・・どんな心でいたのか知りたくて」

 

 同じ櫓の中に入って嬉しそうに話すジャンヌ。敵国の物語と言えどもアーサー王伝説の物語、騎士たちの戦いは村の大人たちから聞かされるのを楽しみにし、自分の国の騎士も同じように勇敢に戦っているのかと思いを馳せることがあった。

 

 それがこうして生きている本人に会えて話をしているということがたまらないのだろう。ニコニコと笑みを絶やさず、ほんのり紅潮した頬、輝く目。

 

 「ぁ・・・あ~まあ、その確かに私は王になり、ブリテンの平和を願い、戦いましたが、正直、弱い人間ですよ? 王になるにもマーリンやケイ、多くの騎士たちに支えられてようやく。仕事も休んではっちゃける日だってありました。理想の王なんかではなく、その仮面をかぶって政務を務め、その分を姉上のところで発散していた。フツウの女です」

 

 その眩しい視線、純粋なファンの期待に視線をそらしながら自身の身の丈をぶっちゃけるアルトリア。自身も後で思ったことだが、華奈に会う前の自分は所謂理想に縛られた社畜であり、人としての時間を手にしてから社畜からどうにか普通のOLになれたんだと思い返しては微笑んだ。

 

 そして、社畜のままなら楽しい時間を知らないまま理想の王という仮面の社畜のまま終わる可能性を考えてゾッとしたことも付け加えておく。

 

 「結局。ただただ、みんなが今日よりもいい日を。そう思っただけの女が王になれた。その思いがちょっと強いだけのね? ですから、神という大きなものを背負った貴女は本当に私に負けないくらい凄いのですよ。それに・・・私にアルトリアという時間をくれた、ブリテン、オークニーを救った姉上のほうがもっといいですよ。救いのヒーローです」

 

 「え? 今度は私ですか?」

 

 アルトリアの独白が終わり、いきなり振られたことに驚く華奈。思わず持っていたスナイパーライフルのライサンダーZを落としそうになるもどうにか持ち直し、ジャンヌに視線を向ける。

 

 「はい。お願いします。アルトリアさんも素晴らしい、想像以上の王様でした。今度は華奈さんのことを教えてください!」

 

 再びキラキラした視線を向けるジャンヌにこそばゆくなる華奈。目からそのキラキラしたものが飛んできそうなほどに光らせた目とその思い頬が赤くなりつつもライフルをアルトリアに渡してコホンと咳払いをしてから一呼吸置く。

 

 「ん~とは言いましてもねえ。私のこともおおよそ知っているでしょうし・・・私も本当にやりたいことをしていただけなんですよ。気に入った人が楽しくいてほしい。楽しい生活がしたい。美味しいものが食べたい。お風呂に入りたい。ビクビク怯えない生活がしたい。優しく、のんびりした時間と私がやりたいことを求めていった結果ですかねえ・・・」

 

 「その結果、円卓に負けないほどに濃すぎる部隊になったのは笑いましたけどね~男も女もオカマもオナベも好き放題なとんでも軍隊。部隊ごとに最早別物でしたし」

 

 「ですねえ。どうして今でもああなったのか」

 

 昔を思い出してクスクスと微笑む円卓の姉妹。今もこうして防備に務め、カルデアの雑用をこなしている軍の色々と濃ゆい日々を思い出して笑みをこぼす。

 

 「まあ、私は結局欲に従った結果ああなった。俗物なんですよ。その欲が傍から見たら清廉に見えるだけで。ジャンヌ様ほど大層な使命なんて背負った瞬間に私はぺちゃんこです」

 

 「・・・意外です・・・けど、そうですね。身近なものを守るために大きなことをする・・・そういうものなのかもしれないですね」

 

 狼の騎士の俗物発言にジャンヌ自身も胸に手を当て思い返す。神の使命、自身の故国であるフランスの救済。大きな使命を胸に秘めていたのは事実だし、ジャンヌをジャンヌたらしめる大きな柱だろう。けど、その戦いの果に自身の故郷のみんなの安心した笑顔。ともに戦場を駆けた騎士たちの勝利に喜ぶ顔。これを見たくて、励みにしていた部分もあるのは事実。

 

 あの伝説となった騎士たち、その女騎士も、騎士王も自分と変わらない。何だか面白く、雲の上のはずの英雄が身近に感じて嬉しく思う。ジャンヌも柔和な笑みがこぼれ、不思議な面白さを感じる。

 

 「・・・そこの女子会開催中のお三方。今ん所、二騎の英霊が見れる。一騎は・・・ケモミミの美女。もう一騎は騎士っぽいんだが、わかるかい?」

 

 その空気にストーム1からの横槍が飛んで空気を一変させる。たちまちほのぼのした空気は霧散し、戦場のそれに切り替わる。

 

 「私の部隊は召喚はできない・・・私自身が座の本体から出てきていますし、もしできても確率は低い。となれば」

 

 「私、ジャンヌの知り合いの可能性が高いですね。どれ・・・ストーム1。姉さまと一度情報をすり合わせて貰っていいですか?」

 

 「了解」

 

 アルトリアはスコープの調整を行って騎士を探す。華奈は櫓から降りてストーム1と一緒にカルデアと連絡を取り始める。ジャンヌはアルトリアの側に寄り、すぐさま代われるようにしていく。

 

 「しかし・・・武器は弓。アーチャーですか。あの女性は。同じアーチャーの視界に、スコープがあったとは言えよく気づかれませんでしたね」

 

 「それがよ。どうにも少し様子が変というか・・・バーサーカーの狂化だっけか? あれをかけられているみたいでなぁ」

 

 ストーム1の言葉の意味を確かめるために華奈も自身のライフルのスコープを覗くが、騎士の後方で待機する女の射手の目は確かに何らかの異常、それに抗わんとする感情を感じ取れた。

 

 『ふむ・・・もしかしたら、相手は英霊を召喚出来る手段があって、その際に召喚した英霊を意のままにするためにそういった術式を刻んでいるかもしれないわね。いくら英霊でも、召喚する際の細工には抵抗できる者も少ないでしょう』

 

 オルガマリーの推察になるほどと納得する華奈、ストーム1。英霊を召喚する術式の細工、そういった魔術があってもおかしくない。そもそも英霊を使い魔のように呼び出す術式なのだから、改造、変更をできる相手が居てもおかしくはない。

 

 「しかし・・・弓、美貌、獣の耳、しっぽ・・・うーん? 獣の皮をかぶったというのなら、人狼の戦士結社、熊のバーサーカー、日本なら赤星隊・・・は別でしょうし・・・近現代はなし。しかもどれも男子結社ですしねえ・・・・」

 

 「古代ならアタランテじゃないか? 獣なら猪との戦い、弓とか色々ピッタシじゃないか? あれで野郎ならマスターの予想であっているだろうしよ」

 

 弓なら近代でも戦果を上げた軍人なら思い当たるが、獣の耳をしたようなコスプレは聞いたことがない。役者の英霊が何らかの変装をしているとも考えられるが、スコープ越しからでも感じる空気はとても演じているものではない。

 

 取りあえずはこの線で行こうと考えていき、今度は騎士の方に意識を戻す。

 

 「?・・・あの黒い鎧・・・ん・・・? あの剣・・・え? うーん・・・もしかして、あれ、ランスロットですかね? でも、黒い鎧というよりも彼が着けていたのは紺、白・・・それに、狂化等の何らかの術式を含めてもあの纏う空気は本当に発狂しているような」

 

 一方で騎士の方を見ていたアルトリアも騎士に正体におおよその予想がついたが、まさかの正体に疑問が浮かぶ。けれど、何度も近くで見た鎧、手にしていた剣も見間違える筈はない。

 

 「え・・・? あのランスロットですか・・・? でも、あの方にそんな逸話、無いですよね?」

 

 それに驚いたジャンヌがスコープを見ようとしたのでアルトリアはとっさにライサンダーZの安全装置をつけておく。ジャンヌは借りたそのライサンダーZのスコープを覗いてその黒騎士の容貌を見る。ジャンヌもランスロットの話は知っているが、狂うような話は聞いたことがなく、困惑する。

 

 「あ~・・・・・・・・・もしかして『鏡は横にひび割れて』の後日談ではないですか?」

 

 『・・・テニスンの詩の一節でしょう? 確か、ランスロットに恋をした姫の呪い、悲恋、死、そしてひび割れる鏡。でも、なんでそれが今の黒騎士・・・ランスロットのクラスの話に?』

 

 「まず、『鏡は横にひび割れて』はシャーロットの姫がランスロット様に恋をします。あの方は姫のいる城に挨拶した折に、散歩しつつ歌を口ずさんでいました。その見事な歌声、そして素敵な容貌。騎士として全てを手にしている名声。たちまち姫は虜になります。けれど、姫は呪いを宿していました」

 

 華奈の口から紡がれるはアーサー王伝説の最高の騎士と謳われた男と、それに恋をしてしまった姫の悲恋の物語。詩となって今尚知られ続けている悲しい話。

 

 「姫は外の世界を見ることを禁じられており、ランスロット様を見るために、歌声に惹かれて外の世界を覗けばたちまちに呪いは身を蝕み、死に追いやるでしょう。それでも彼を見たくて、恋心を抑えきれずに外を見た。その時、鏡は横にひび割れ、死の呪いが降りかかる。・・・鏡は横にひび割れて。それは命運が尽きる瞬間。命の帳が降りる時。最後に姫は小舟に身を横たえ死んでいく。この後も色々あったんですが・・・シャーロットの姫様の死後、執り行われた葬式でまた問題が起きました」

 

 そしてここから紡がれるはその時代を、物語を生きた人物から紡がれる後日談。白き鎧の騎士が、黒い鎧を纏って現れた所以の憶測。

 

 「シャーロットの姫様は、その美しさ、呪いによる悲劇のこともあって民からも愛され、話題になっていました。それ故に亡くなったときの嘆きは大きかった。かの姫の葬式にはブリテンからも代表としてランスロット様も参列しましたが、そのときに姫様の死因だと誰かがランスロットを非難した。そこからの一種の集団ヒステリーというのか何なのか・・・みな姫を殺した犯人だと怒りを向け、更にはその場にいたギネヴィア様もランスロット様がシャーロットの姫様に向けた言葉を知ったことで怒ったので・・・政治的問題、自身の命の危機、更には恋人からそっぽ向かれかけているという・・・重責が一気にくるわ、さらに自身の行動が招いたことだと何重にもプレッシャーが掛かり・・・」

 

 「発狂したと」

 

 「はい・・・その後は剣や鎧も土や灰で汚して黒くして森の中を駆け回り、鹿の番を見て我に返ったところで城に戻り、熱狂も覚めた葬式の参列者も非を認め、ランスロット様も謝罪したので手打ちとして終わり。へんてこな話ですが、これが恐らくバーサーカーの側面になったのではないかと・・・」

 

 『・・・・・・・・えぇ・・・もう、どこから突っ込んでいいのやら・・・・』

 

 悲恋からの集団暴動、発狂、逃亡のシリアスブレイクな顛末にモニター越しに頭を抱えるオルガマリー。騎士の鏡とされたランスロットの悪い意味での一面を知れたジャンヌ。こんなバーサーカーに危険だと警鐘を鳴らしたのかと微妙な気持ちになるストーム1。なんとも言えない空気が場を包み、アルトリアは苦笑い、華奈もため息を付いてどうしたものかと考え込む。

 

 「ついでに言いますと、この発狂した時とっさに剣と木の枝、そこらにあったもので騎士や暴徒を鎮圧したという話が上がっていたので、多分ですが技量自体は衰えていないでしょうね・・・」

 

 「あの時代のブリテンの最強、頂点の一人の技量はそのままで理性だの何だの余計な枷がない状態・・・面倒ですね。実際彼の才覚と練習量は狂っても衰えないほどに体に染み込んでいたでしょうし」

 

 先程のふざけた物語はともかくとして、ブリテンの騎士の頂点が壁として立ちはだかり、おそらくは名うての狩人、それも予想通りなら神代の時代を来た狩人が後方から襲い来る。シンプルながらに強力な布陣。それに加えてワイバーンも加わる。相手の戦力はまだまだ油断ならないものだということが実感できる。

 

 どうやって崩していこうかと考えていた傍ら、通信が響き、空中に半透明の画面が一つ浮かぶ。

 

 

 その直後に

 

 『す、すいません! 何だか英霊と合流できたらしいのですが俺のことを想い人だの言い寄って来る和装の女の子の清姫とアイドルだとか何だと言ってくる・・え、エリ・・・うぉぉあぁ耳がぁあ!!』

 

 藤丸の悲鳴に近い報告、そして響く声とトンデモない声の武器、英霊すらも倒れ伏す音波兵器。後ろではマシュが盾を構えながらも左の手は耳をふさぐようにし、その和装の女性とアイドルと言ってる女性の仲裁に走ったであろうクー・フーリンはその音波を至近距離で聞いたせいでしゃがみこんで唸っている始末。

 

 「なんじゃあこりゃぁあ!!」

 

 「っぐぉ・・・・!?」

 

 「っぅうぅう・・・・・!」

 

 火器の発砲音をシャットアウトするヘルメットを装備しているストーム1、竜などの凄まじい声を発する幻想種と渡り合い、多少の声などなら慣れているはずのアルトリアでさえこの咆哮じみた何かには思わず耳をふさぎ、少しは距離があったことで耳をふさげたジャンヌも表情は青い。オルガマリーは既に通信を切ったのか反応はなかった。

 

 「!!!??ッッッッッッ~~~~~~!?!?!・・・・・・・・・」

 

 そして藤丸の通信を聞いて即座に周辺へ音を聞こえないようにする遮音の指輪を使ったせいで自身の対応が間に合わず、一番近くで獣にも負けないほどの鋭い聴覚でこの音声をダイレクトに聞いてしまった華奈は意識をほとんど手放して倒れ伏してしまう始末。

 

 「っうく・・・姉上!!?」

 

 「ちちっ・・・・っておいマスター!」

 

 あちらもあの声を生で聞いているせいだろうか通信どころではなく、両者しばらく通信が途絶えてしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    ~少し時間は前に~

 

 「ふぅ・・・まさか使者の人と会えるなんてね。運がいいや」

 

 「はい。この戦い・・・竜の魔女との戦いの助力、指示を仰ぐために移動していたとは・・・幸先がいいです!」

 

 戦力増強、情報確保と避難勧告のために別行動を取っていた藤丸らはその道中昨日に配られた檄文、その送り主に連絡を取るための使者に会い、あちらから街を守護しているという代表者の聖人に会ってほしいと頼まれて移動していた。

 

 使者が言うには聖人であり、街を守護。既に一度は先頭に立ってワイバーンも退けたというその人物。英霊ではないかという予想がついた為に快諾し、更にはロマニの方でも英霊の反応が一騎あるという情報で益々確信へと近づく。連絡を取ろうと動いていた聖人たる人物は英霊だと。

 

 「しかしまぁ、幸先が良いのはありがたいが、一緒に来てくれるかは別だな。あちらも街がある以上。むやみには動けねえだろうし、連絡を取るために使者を用意したというのは、街を離れたがらない女子供、老人がいたのかもなあ」

 

 『あんまり言いたくはないけど、避難するのも大変なものだ。寧ろここのほうがいいと残った人もいるのかもね・・・死に場所というか・・・』

 

 「ドクター、流石にそれは言わないほうが・・・」

 

 その英霊が動けない理由を戦争の経験からなんとなく察していたクー・フーリン、可能性の一つを出したドクターの言葉をマシュが遮る。十分に有り得る話だが、暗い話で後ろ向きに構えるよりはいい方向で考えたい、想像したくないという気持ちの現われだろう。ロマニもすぐに咳払いをして気持ちを切り替え、観測の方に再度力を入れていく。

 

 『う・・・ごめん。流石にそれ以上は言わないよ・・・ん? しばらく先にエネミー反応。それと・・・英霊? の反応がある。こちらには興味がなさそうだし・・・もしかしたらここに呼ばれた英霊のほうかも知れない。様子を見て合流してほしい』

 

 「了解です。まずはエネミーから倒しに行こう」

 

 指示に応えた藤丸も銃を構え、マシュたちに魔力を回すように意識を回し、戦闘態勢を整える。そして、クー・フーリンの槍の一撃、それに貫かれた音と同時にエネミーたちとの開戦のゴングは鳴った。

 

 

 

 

 

 時間にして10分も無い時間だろうか。エネミーは軒並み殲滅をし、一段落となる。マシュたちは怪我もなく、クー・フーリンは準備運動にもならないとぼやく始末。

 

 藤丸もその際に獣人に牽制ではあるが銃を放ち、立ち回った。生物に向けて放ったこと、何度も練習で的に目がけて引き金を引いたことで身体に走る反動も慣れたもののはずなのに、生物に向かって放つことで感じる重圧だろうか。銃を握る右手はかすかに震えていた。

 

 「っふぅ・・・・・・・はぁー・・・・みんな有難う。怪我とかはない?」

 

 深呼吸をして気持ちと身体を落ち着かせ、みんなの状況を確認する藤丸。それに応えてマシュも盾を抱えて走りより、死んだふりの相手がいないか確認していたクー・フーリンもエネミーの死体を一瞥してから歩いてくる。

 

 「大丈夫です。傷も無し、先輩の援護射撃とクー・フーリンさんのお陰ですそれと・・・・」

 

 「この程度じゃあ何の面倒にもならねえや。けどよ・・・」

 

 二人共かすり傷もなく、元気であることを見せてくれるが、それとは別に少し浮かない顔を見せながらまだ続く戦闘音の咆哮に顔を向けて、益々表情が沈む。

 

 『戦闘お疲れ様・・・それと、うん・・・どうやら先程の英霊二騎が戦闘しているようだ。タイミングからしてこちらの戦闘が火を付けたみたいだね。なんだろう、因縁のある英霊同士なのかな・・・』

 

 「・・・あっちも戦闘しているみたいだね・・・ドクター、本当に敵性反応はないのですよね?」

 

 もう少し先のほうで起きていた戦闘。さっきは一緒にいたはずなのに今では戦っているという、これまた摩訶不思議な状態。敵ならこのタイミングで襲ってくるはず。味方、あの檄文を読んでいるものならこちらに加勢してくれてもいいはず。それをせずにまさかの英霊同士の戦い。

 

 『ない・・・というか、こちらの戦闘も戦闘のゴング、きっかけくらいで我関せずくらいじゃないかな? だって、10分位の戦闘時間。英霊ならすぐにここに来て問題ないレベルの距離だもの』

 

 「俺たちの戦闘はきっかけ。味方になるとは思えないのでスルーしたいんですがドクター・・・」

 

 さっきから火球やら地面をえぐる激音。それに加えてなにか聞こえてくる女性の声。どちらもきれいな声なのだが、それが嫌悪感を丸出しでいがみ合い、敵意をぶつけ合っている声なのだからなお怖く聞こえる。

 

 たちの悪いことにそれが徐々にこちらに近寄ってくるから益々嫌な状況。逃げても感づかれる可能性はあり、味方になるかもしれない英霊ならここで戦力増強の機会を逃すことになる。かといってこのかしましく危険な喧嘩を仲裁し、なだめるほど女性の扱いも経験も藤丸にはない。

 

 そもそも英霊になるほどの女性の扱いなど平々凡々な人生を送ってきた藤丸の経験にはない。

 

 「・・・よし、まずは聖人の方に会いに・・・」

 

 結果、英霊の喧嘩? は同じ英霊、それも聖人に任せるべきだろうという結論を出した藤丸は遠回りになるがこの防風を避けて通り、合流を目指すのだが、そうは問屋が卸さない。藤丸たちが移動しようとした先を予測していたかのように先程から鳴り響く爆音の発生源はものすご勢いでこちらに近づき・・・

 

 「!!!ッ~~!? ッッ!!」

 

 「!!!!!!! ッッ!! ッ!」

 

 その発生源が目視できるレベルまで距離を詰めた。争っていたのは二人の女性。いや、少女と言う方が正しいだろうか。

 

 「このっ! このっ・・・このっおぉお!! うーーーっ! いい加減しつこいのよこの泥沼ストーカー! うざったいのよ!」

 

 変わった形の槍を持ち、黒と白のドレスに特徴的な赤に近い色の長髪。角をはやし、ぎゃいぎゃいと凄まじい声という名の破壊音波を口から放ちながら腰から生えているしっぽや槍を振り回してもうひとりの女性を打ちのめそうと振り回す。

 

 「ストーカーなどという下卑たものではありません。『隠密的にすら見える献身的な後方警備』です。この清姫、愛に生きる女です故に。ド変態フェチのエリザベートさんにはわからないでしょうけど」

 

 そのもうひとりの女性は黄緑の色素を薄めたような色合いの長髪にこれまたエリザベートと呼ばれる少女には及ばないが立派な角を持つ。白と薄い緑を基調とし、金糸で縁取りをした和装に身を包み、扇から焔を放って牽制し、上手いことエリザベートの攻撃を潰して猛攻をしのいでいる。

 

 「あぁあああぁぁっ!!! うるさいうるさいうるさい! 取り敢えず殺すわ!」

 

 「返り討ちにさせていただきます!」

 

 「「たぁああぁぁあああぁぁあ!!!」」

 

 その喧嘩、ないし殺し合いの勢いは止まることがなく、ヒートアップする一方。かしましいことこの上なく、しかも英霊というほっておけば被害は広がり、しかもこちらが求めている戦力。竜の魔女の勢力に与するものでもなさそう。

 

 そんな二騎の英霊が事情は知らないが勝手に喧嘩を始め、自分たちの邪魔にもなっている。そのことを思い返し、感情のこもらない息を一つ吐き出す。

 

 「・・・・・・・」

 

 先程全弾撃ち尽くした銃に藤丸は再度装填を行い、空に向かって全弾撃ち切る。

 

 「はいはいはーい! ストップ! ストッーーーーーープ!!! 喧嘩止め! 通行のじゃまだから! それと今のこのフランスの状況理解しているのか二人共!!」

 

 銃声に意識が向いた二人にそのままありったけの声を張り上げ、喧嘩の仲裁役を自ら買って出る藤丸。正直言って、英霊の脅威を知る彼ならこの行動は普通は取らない。けど、正直なところ彼は苛ついていた。

 

 ジャンヌが自身の力を発揮できずともワイバーンに襲われている民衆、フランス全土を覆う恐怖を払おうと戦っていること。華奈達の偶然とは言え爆発騒ぎで敵方の英霊に損失と警戒、監視しやすい状況をもお受けて行動しやすい状況を作り上げ、檄文で避難勧告と連絡まで出せるようになった。更には自分のようなガキですら銃を持ってエネミーと戦い、一刻を争う状況で勝手な喧嘩で足止めを食らう。

 

 皆が特異点を攻略しようと頑張っているさなかに突然現れて邪魔なだけではなく、こうもギャーギャーと毒音波を垂れ流して騒がれては怒りも湧き、先の戦闘での疲れも重なった結果引き金を引き、英霊、それも少女に怒鳴りつけるという状況が生まれた。

 

 「何よ! 私達の邪魔をする気!? わたしはこのトカゲ女と決着を付けなきゃいけないの!」

 

 「言ってくれますね。エリマキトカゲの分際・・・で・・・」

 

 それに対して好戦的な様子で返すエリザベートと呼ばれる少女。対して清姫と呼ばれる少女は藤丸を見るや先程まで口から火を吹きそうなほどの戦意を収め、じっと藤丸に熱のこもった視線を投げかける。

 

 「???」

 

 「これは・・・成功したのでしょうか?」

 

 「イヤーな予感がするぞ・・・・」

 

 こちらに意識が向いたことで我に返れた藤丸もまさか清姫があっさり静かになるとは思わず、あっけにとられ、マシュも一段落も飛ばした片方の鎮静に驚き、クー・フーリンは清姫の変化に嫌な予感を感じ取り、マスターへの哀れみの視線を向け、心の中で手を合わせておく。

 

 「はい・・・この清姫、はしたない真似をしました。この場はどうか退きますゆえ。お許しくださいませ。そして・・・これからの旅路に加えてもらえませんか? 英霊ですので、戦力にはなるかと」

 

 言うが早いか清姫と呼ばれた和装の少女は頭を下げて藤丸らに謝り、自身の名前、英霊であると明かし、その上で契約を頼んできた。

 

 この変わり身の速さには皆あっけにとられ、特につい先程までケンカ相手だったはずのエリザベートは鳩が豆鉄砲喰らったような顔になり、少しの停止期間をおいて再起動。

 

 「ちょ・・・ちょっとトカゲ女ぁ!? 私との決着はどうしたのよ! さっきの勢いとかはどうしたのよ!」

 

 「あら・・・? 忘れましたわそんなこと。ささ、マスター。契約を結んでくださいな。小指を出してゆーびきーりげんまんうそつーいたら・・・・・・」

 

 決着をつける相手がまさかの戦線離脱。目の前で喧嘩の仲裁を乗り出した少年と指切りげんまんで英霊としての契約を結ぶというわけのわからない急展開、清姫の変わり身の速さにもやもやとした気持ちになりはっきりと決着をつけようと煽るも清姫はどこ吹く風。あっさりといなされ、無事に契約が結ばれた。

 

 「・・・・え? 契約・・・?」

 

 「ふふ、はい。これで私は想い人(マスター)の忠実な英霊ですよ♡」

 

 実に満面の笑みで嬉しげに契約によって魔力のラインが繋がったことを確認して益々喜ぶ清姫。藤丸は何がなんだか分からずに思考がまとまらない。

 

 「~~~~!!!! ああ、喧嘩はそっちが始めたくせに勝手に抜けてんじゃないわよ電波トカゲ馬鹿! ・・・ふん、そんな大したことない子ジカをマスター? 私みたいなアイドルはもっと上の、理想のマスターをマネージャーにしてアイドルになるの。せいぜいそこの子ジカで満足してないさい」

 

 「・・・私のマスターを大したことない・・・? 馬鹿な絵空事を描くメキシコドクトカゲは。頭が日本晴れ過ぎて目もくらんだのでは?」

 

 「なんですって~~!!!?」

 

 「・・・何か?」

 

 ふたたび始まる舌戦。有毒極まりない口撃の応酬に状況の変わる速さに理解が追いつかずもうどうしようもなく、華奈たちにSOS。応援を求める。

 

 「す、すいません! 何だか英霊と合流できたらしいのですが俺のことを想い人だの言い寄って来る和装の女の子の清姫とアイドルだとか何だと言ってくる・・え、エリ・・・うぉぉあぁ耳がぁあ!!」

 

 「さ・・・さっきよりも近い分音が・・・・っ!!?」

 

 「やっぱりかよぉおおおおおっっ!! ぬぉお!!?」

 

 助けを求めようにもその行動を止めるほどの喧嘩と音波が藤丸たちを襲って動きを止め、それが華奈たちにも伝わった直後に通信は途絶。

 

 こうして、望んだ英霊の戦力増加は、色々と被害の大きい始まりとなった。




黒ジャンヌ「・・・何かしら。変な声が聞こえたような・・・?」

バーサーク・アーチャー「・・・何やら、相手のほうが倒れたか・・・」

ランスロット「■■■■■・・・・・・・・・・」

黒ジャンヌ「・・・アーチャー、もう一度確認を。そのうえで同じようなら・・・殺しに行きましょう・・・」





ランスロットの話はランスロットのエピソードをいくつか組み合わせてオリジナルのネタを入れたものです。これ以外にも多くの女性とのフラグを立てている辺り、本当にランスロットは色男ですよねえ。実力も性格も素晴らしいですし。ただ、女難の相は本当に凄まじい。

清姫の恋に走ったときのゲージの振り切れ具合は見ていて大好きです。ただ、これをまともに受けたら混乱、思考が定まらないと思うんですよね。

そして気絶した華奈、更にそこに追撃。結局しまらない状態での行動開始。エリザの破壊力はどれくらいまで引き上げていいのか不安ですがこれくらいでもいいかなと。英霊ですらダメージがはいるっていろいろ規格外すぎます。

最後にUA 68483件 お気に入り 482件 しおり 169件 応援ありがとうございます。そして更新が遅れてしまい申し訳ありません。拙い内容になりましたが、精進しつつまたすぐに出せるようにがんばります。どうぞお願いします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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嫌なピンチのお手本~モチモチパンとのいちごジャムサンド~

~前回のあらすじ~

華奈「分担作業しましょうか」

皆「OK」

~華奈サイド~

ジャンヌ「見張り中ですが・・・英雄のお二人の話を聞かせてください!」

華奈、アルトリア「「普通のOL(俗物)でしたが?」」

ジャンヌ「だからこそなのでしょうか・・・?」

ストーム1「敵の英霊を発見!」

華奈「駄目だ! ・・・・ではなくて、えー・・・? アタランテ? でいいんですか? わからないですし一応はそれで」

アルトリア「ランスロット・・・また貴方ですか・・・」

藤丸サイド「(通信伝達)ボスケテ(毒電波)」

華奈サイド「ぬわー!」

華奈「う わ ら ば !」(気絶)

~藤丸サイド~

藤丸「あ、ありのまま起こったことを話すぜ・・・俺は戦力を求めて移動していたらこのフランスの状況に何もせず喧嘩してこちらの道を塞ぐ英霊の女の子二人に怒った・・・

その直後に一人と契約して戦力ゲットして、想い人認定された。

な・・・何を言っているのかわからねーと思うが俺にも分からなかった・・・

頭がどうにかなりそうだった・・・

超展開ラブコメだとか、最強ハーレムものだとかそんなチャチなものじゃ断じてねえ

もっと恐ろしいもの、わけのわからないものの片鱗を・・・」

エリザ「私を無視するな~!!!!」

清姫「恋路を邪魔するんじゃありませんの!!」

マシュ、クー「「どうしてこうなっ・・・グワー!」」

~黒ジャンヌサイド~

黒ジャンヌ「? 何かしら?」

アタランテ「なんか敵が倒れたっぽいぞ」

黒ジャンヌ「よし殺せるチャンス」






~現在~

黒ジャンヌ「ふむ・・・・あの銀髪女が倒れているようね・・・もう片方のマスターもいないみたいだし・・・今のうちに殺しておきましょう・・・行きますよ!」


 「敵が来たぞー!」

 

 「迎撃体制! 敵は・・・ワイバーンおよそ1500! こちらに一直線です!」

 

 先程の思わぬ不意打ちを喰らい、防御に努めていた華奈達の陣営に見事なタイミングで押し寄せるワイバーンの群れ。それに銀嶺隊が既に作っておいた防衛陣、ブリテン時代に幾度も戦った経験を活かして数的不利ながらも防御の優位性も利用して立ち回る。

 

 『おっ・・どれどれ・・・・こりゃあいいじゃないの。俯瞰で戦場を見れるというのはアンナに魔術やレギアたちに乗せてもらった時以来だな』

 

 そんな戦場に部隊長、副官の一人のヤマジがカルデアのモニターから戦場を見回し、指示を送っていく。他の場所でもモニターを出してダンカン、クラークらが指示を飛ばしてワイバーンの大軍を防ぎ、徐々に、しかし確実に優位に立ち回れるように準備を始めていく。

 

 『でも・・・これじゃ華奈たちに英霊がすぐ殺到するわ! 数は・・・黒いジャンヌ? らしき英霊を含めて4騎! 応援には行かないの!?』

 

 オルガマリーは銀嶺の副官達の行動に対して早速疑問を投げかける。そう、あくまでも副官たちはワイバーンの大軍を押し留めて殲滅を第一に考えているようでヤマジたちには華奈たちに救援を送ろうとかは一人として発言せずに自身が担当している戦場に意識を傾けているだけ。

 

 部隊の質なら円卓最強とも言われた銀嶺、その副官達、強兵が助けるだけでも絶賛気絶中、混乱している華奈達の助けになるはずだ。そういった考えからの疑問だったが。

 

 『ん~やめたほうがいいわね。多分だけど、下手に加勢してしまうとそこの穴を突かれたり、またすぐに逃げ出してしまうでしょうし、それこそ逃げてから今度はどんな手を打つか。相手が聖杯を持っているのなら、引きこもって英霊を補充されるよりはここで数を減らして心を攻めたいし』

 

 『本当に危険ならわかるんだけど、今回は多分大丈夫。勘というか、直感というかね』

 

 『だからまあ、ここはしっかりと抜かれないようにケツを守ってやるのさ。大将も気絶はしたが、どうせすぐに復活するだろうよ』

 

 そこは副官たちが問題ないとバッサリと切り捨てる。負けるというよりも、相手が逃げるだの、勘だのと最悪を想定していない、していても、このタイミングではないというのだろうか。あんまりにも変わった回答にオルガマリーは一瞬固まるもすぐに再起動し

 

 『なら、せめて藤丸と連絡を取って合流してもらうわよ。外から、あのクー・フーリンが攻めれば敵には重い一撃だろうし、不意も付ける。その時にあなた達が動けば勝利に近づけるのではないかしら?』

 

 せめてもと代案を出す。あのワイバーンの数には藤丸たちも気づいているだろうし、隣の藤丸達を見ていたロマニのモニターの方では既に大方の問題は片付いたのか安堵の表情が見える。先程の音量を下げてもダメージを喰らった毒電波、もとい女同士の口喧嘩への介入と武力制圧は決着が付いたのだろう。

 

 何故か一騎は藤丸に惚れたから戦力としてついてくるだろうし、この状況でも戦争のプロたちは問題ないと言った。なら、より追撃、増援に重きをおいた考えはどうだろうと言った意見だが、これには現場の兵も副官たちも笑顔で応え

 

 『そのとおりさ。このくらいで死んじまう大将たちじゃない。それよりも、このワイバーンや英霊であちこちに飛んでフランスを荒らし回るほうが嫌なんでね。それで行こう』

 

 優しくオルガマリーの頭をヤマジやアンナが撫で、すぐにモニターに視線を戻す。

 

 『敵の英霊、華奈、ストーム1に接触!』

 

 その間にもどうやら敵の英霊は華奈たちに到着したようで、カルデアにも、銀嶺にも緊張が走る。それを確認するためにもう一つ新たにモニターの映像が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ・・・・はっ・・・・ようやく、どうにかなった・・・」

 

 肩で息を切らして滝のように汗を流す藤丸。英霊の喧嘩が自身もまだ理解しきれていない展開で収まりかけたかと思えば再発し、思わぬ攻撃(音波)で不意打ちを食らってから再びエリザベートの方から喧嘩をし始めるというひどい状況に。

 

 これをマシュ、クー・フーリンの二人と戦ってどうにか抑えたわけだが

 

 「きゅぅ・・・・・・」

 

 「ぐぅう・・・・・」

 

 清姫は目を回して気絶。エリザベートはそれは見事なたんこぶを作って地面にうつ伏せで倒れている始末。戦力になるはずの英霊が早速負傷。

 

 「ぜぇ・・・な、なんか無駄に疲れたぜ・・・しぶとすぎだろあの赤髪の嬢ちゃん」

 

 「はぁ・・・はぁ・・・宝具を使われる前にどうにかしましたが・・・疲れました・・・」

 

 マシュとクー・フーリンもあのボイスをダイレクトにもらってからの戦闘。しかもエリザベートの方はランサーだったせいもあってか、どこかで戦闘経験を積んでいたからかマシュ、クー・フーリンにもどうにか食い下がり、しばし善戦。清姫も不意にあの声と戦闘に巻き込まれてしまうと収穫どころかマイナスになりかねない状態になった。

 

 『み、皆! 大変だ! 今華奈達のほうが・・・って、何があったんだい!? 敵との戦闘が!?』

 

 ロマニの緊急の連絡を送るもこちらの状況に驚いて逆に慌てふためいてしまう始末。清姫の加入? までは映像自体は見ていたので戦闘に、それも清姫まで倒しているという状況に思考が乱れる始末。

 

 「その、ドクター・・・喧嘩の矛先がこちらに再度向いてしまいまして・・・い、いえドクター! それよりも今華奈さんたちが!? 何があったというのですか!」

 

 周辺に敵はいない、というよりもこの戦闘でいても逃げたであろうことや目下の脅威は鎮圧できたところで緊張の糸が緩んだのもつかの間。華奈達の方で問題が発生したということにマシュが食いつき、疲れを見せる表情がすぐに緊迫したものに変わる。

 

 『あ、ああ・・・その・・・エリザベート? の声をそのまま聞いたせいで他のメンバーはともかく華奈が気絶して、その様子を察知した敵が攻撃を仕掛けてきたんだ。今のところはそれぞれが一騎づつ英霊を受け止めていて、ワイバーンや骨の怪物は銀嶺が食い止めている』

 

 戦況は五分。場所の有利性と経験で抑え込んでいるのだろうが、五分である以上時間とともに戦局は敵サイドに傾きかねない。銀嶺とて不死身の軍ではなく、相手もまだ隠している英霊はいるかもしれない。華奈達の五分という状況はすぐさま崩れかねない薄氷の五分であると全員は考えた。

 

 「そんな! それでは・・・・」

 

 「・・・・・・急いで戻って華奈さん達の援護に回る! また派手に戦えば使者の方にも分かってくれるかもしれないし、味方になりえる英霊の呼び水にもなることだってある! それに・・・」

 

 「それに・・・?」

 

 戦力増強の行動は中断し、引き返すことを選択した藤丸。もう少しだけ頑張ればきてくれるかもしれない英霊の参加、呼びかけは断念して一刻も早い加勢を選択。華奈たちと同じ数という英霊を、最初に3騎倒されてなお用意できる敵の戦力の無尽蔵さになにか嫌なものを感じた故に。もう一つは

 

 「出来るならここで決着をつけたい。こんな蹂躙で人が死ぬのは沢山だ」

 

 まだ蹂躙された直後城や村の様子を自身の目で見たわけではないが、周辺への遠慮なく華奈たちがぶっ壊すほどにそこの住民を皆殺し、虐殺を怪物で行っていたという。これを一日、一刻でも早く止めたいという、勝手ながら芽生えた正義感からくる行動選択。

 

 「了解だマスター ここらでもう一発ガツンとかますのも。あの姉ちゃんだけが戦力じゃねえって見せつけてビビらせる。悪くねえ」

 

 『なら、気をつけて欲しいわ。華奈達の推測になるんだけど、予想できる英霊はギリシャでも有名な狩人のアタランテ、そして・・・円卓最強の一角を成したランスロットとなっている。少なくとも英霊の中でも上位に位置するであろう傑物。気を引き締めてかかることよ』

 

 その発言、意思にクー・フーリンは主の粋な心に面白さを感じ、同時に真紅の瞳を光らせる。少なくとも華奈、アルトリア、ストーム1。戦い方、強さの種類は違うが誰もが一時代を作った戦士。これが下手に進むのは危険だと警鐘を鳴らす相手、しかも予想ではこれまた高名な戦士や狩人。それと槍を交え、武を競える。更には主にその戦果を与えられる。騎士として、戦士個人としても心がうずく。

 

 「はい・・・! ここで決着をつければ、大きな打撃を与えることができれば特異点攻略も容易になるはずです! 急ぎましょう先輩! ここで私達の増援は大きな打撃になりえます」

 

 マシュも藤丸の言葉に自身の正義感というのか、人情に火がついたか戦闘以外では珍しく声を大きく上げて賛同し、救援に駆けつけようと準備を始める。

 

 「あら、そこの方、少し待ってもらえないかしら? 私もその戦っている方に会いたくて」

 

 「悪いね。彼女の我儘、頼み事なんだが付き合って欲しい。こうなるとてこでも動かないからさ。実際は動かないどころかこうして動き回っているんだけども!」

 

 そんな一行にさらなる乱入者、檄文に興味を抱いて接触してきたのはそんなときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つっ・・・・くぅ・・・・面倒極まりないですねえ・・・」

 

 あの爆音放送で気を失った直後に水をぶっかけられて無理やり起こされた華奈に待っていたのは敵の襲撃。防衛陣地を敷いてワイバーンや怪物のたぐいは銀嶺に任せ、英霊は英霊同士でやりあっていく。ここまでは良かった。

 

 しかし、相手の英霊がまだ3騎もいた事。黒ジャンヌ含めれば4騎。ここの英霊との頭数は同じであり、ワイバーンや怪物自体は銀嶺はなれているから今のところは問題ない。『この調子』で行けば質が数を凌駕し、包囲網を敷ける。ヤマジたちもそれをするために敢えて動いていないだろうし、動いていたらこちらから待ったをかけるつもりなのでこれもよし。

 

 問題は増援、英霊の隠し玉がどれほどの数で、どのタイミングでこちらに仕掛けるか。これを察知できないのが辛い。下手すればここが持ちこたえられずに崩れてしまい、防衛戦が崩れる恐れすらある。それに備える意味でもヤマジたちはこちらの備えになるし、最後の最後まで隠していたい。その状態ですぐさま他の援護に駆けつけて相手をひとりひとり削っていきたいのが本音だが。

 

 「・・・・・・」

 

 遠巻きにこちらに弓で攻撃を仕掛けるアーチャーに阻まれてそれもままならない。恐ろしいほどの俊足、それを殺すことなく木々を死角にせわしなく動き、華奈を一歩も動かせないように矢で動きを封じる。

 

 華奈自身もそれをはいそうですかと流すわけもなくアーチャーから放たれる矢をいなしていくが、それだけだった。

 

 (・・・・・・恐ろしいほどの威力。矢の形状も相まって衝撃波だけでも身を斬られそうになり、重さも正直いなす、流すだけだ。真っ向から受ければ吹き飛ばされる。もしくは・・・受けそこなって体の一部がやられるか・・・耳もまだキンキンするし・・・耳で探るにも時間がもっと欲しいです)

 

 四方八方から大砲の威力の矢が正確無比に襲ってくる。それを打ち破ろうにも相手の速度は凄まじく視界の端に捉えるのがどうにか。自身の不調を差し引いても油断できない相手であり、たやすく打ち破るのは不可能な相手。相当な手練の女射手。ストーム1の言っていたアタランテと仮定してもそう問題ないだろう。

 

 「やれやれ・・・狼、猪・・・害獣だったり、食べ物として狩られる場合は多いですが、まさか狩人に本当に狙われるとは、わからないものですねえ・・・・うっ!」

 

 自身が率いた魔狼、魔猪を旗印とした銀嶺。そのトップにいた自身が獲物として狩人に狙われ、ジリジリと追い詰められそうになっている。洒落のような状況に思わず苦笑するが状況はそれを許さない。次から次へと無数の矢が放たれては華奈の命を狙う。徐々に軍服も切り裂かれていき、自身の腕や足にも少しづつ、少しづつ傷が見え始める。

 

 「・・・悪いが、主命でな・・・お前にはしばらくそのままいてもらおうか・・・」

 

 苦しそうに、あるいはどこか無機質になろうとするアーチャーの声を皮切りに矢の密度は増し、華奈の動きを封じて行く動きは早くなるばかり。矢の土砂降りに華奈は歯を食いしばってこらえるだけであった。

 

 

 

 

 

 「・・・・・貴女は何者なんですか? 竜の魔女・・・・」

 

 「ハァ? 今更何を言うのです。私はジャンヌ・ダルク。旗の聖女・・・まあ、そんな物は捨てて、今はこれを掲げていますがねっ・・・・!」

 

 二人のジャンヌ・ダルクの対峙。華奈への救援に行こうとしたジャンヌを黒いジャンヌが立ちはだかる形で押さえ込み、白いジャンヌ・ダルク、黒いジャンヌ・ダルクの対決という摩訶不思議な勝負は黒いジャンヌ・ダルクの旗の一撃で幕を開けた。

 

 「くうっ!・・・・ぅぁ!?」

 

 力任せに右腕に持っていた黒い、竜の模様が書かれた旗での一撃を白いジャンヌは受け止めるが、抑えきれずに数メートル先まで吹き飛ばされる。

 

 「私はジャンヌ・ダルクでありながら神の奇跡を信じない! 竜の魔女、フランス全てをこの炎で燃やし尽くす魔女!!」

 

 それを黒いジャンヌは追撃する形で踏み込み、すぐさま距離を詰めて今度は左手の剣で白いジャンヌに斬り上げを叩き込む。これを旗の柄で受けた白いジャンヌは再び宙を舞い、すぐさま黒いジャンヌが振りかぶっていた旗に叩きつけられて地面へと押しつぶされてしまう。

 

 「かはっ・・・・! あ・・・!」

 

 肺の中の空気を一気に吐き出される感覚、息の詰まる感覚に苦悶の表情を見せるも一瞬で立て直し、自分を地面に押し付ける旗を無理やり取り払って立ち上がり、距離を取る。

 

 自身が英霊としての力が未熟ということを差し引いてもこの苛烈な、遠慮も容赦もない攻め方に加えて全力の自分でも及ばないであろう出力、馬力。たとえ『ジャンヌ・ダルク』の戦い方を知っていて対処、癖を知っていたとしてもこれではジリ貧だ。

 

 「あーらら、なっさけないわねえ。私。いえ、旗の聖女様? これくらいであっさり喰らっちゃうなんて。悪いけどどいてくれないかしら? どっちかと言えば、貴女みたいな絞りカスの力しかない馬鹿よりも私をコケにした女をなぶり殺しに行きたいのだけれど」

 

 そんな力の優劣を理解している黒いジャンヌはにやりと口の端を上げ、どうでもいいと手をプラプラと振ってあっちへ行けとポーズを見せる。ここまで力の差があればすぐにでも殺せる。眼中にないという意思を示している。

 

 更にはその先では動けずにいる華奈を標的にしているときた。悔しさと同時にやらせるものかという感情が白いジャンヌの中に湧き上がる。再度旗を強く握り、その切っ先を向けて行先を防ぐ。

 

 「行かせるものですか! このフランスだけではなく、あの方たちまで害するとは本当に私なのですか!? 昔聞いて憧れたでしょう! 狼の騎士、カナ・フナサカ。救国の女騎士に!」

 

 自身だと、竜の魔女だと語る黒いジャンヌ。それでありながら華奈を殺すと言い切る。それだけではなくフランスを、自身の故国を焼き尽くすとまでいい切った。自分の側面だとしても『ありえない』という言葉しか浮かんでこない。しかし目の前で自身を見下し、先に進もうとする、ジャンヌ・ダルクと語る女性は何のためらいもなく言ってのけ、迷いもない。

 

 自分にもそんな感情があるのだろうか。憧れた騎士ですらもすぐさま害せる気概があったのか・・・そう思いながら右からの横薙ぎで胴を打ち据えようとした旗の動きには腰が入っていない情けないもので

 

 「私だからこそよ! 私を裏切った全てを焼き尽くす! 殺し尽くす! そのために私は魔女となって蘇った!! 憧れであろうと私の邪魔をしたものは全て殺すだけよ!!!」

 

 ひらりと黒いジャンヌはバックステップで回避。すぐさま旗でがら空きになった白いジャンヌの横腹を鎧ごと壊す勢いの反撃を叩き込まれる結果に終わってしまう。

 

 「げほ・・・・つぅ・・・」

 

 「まあ、良いでしょう。まだいじらしくこんな国を守ろうと足掻くご立派な聖女を私の手で終わらせて、その間もあの狼の騎士だとかいう女がボロ布のようになっていくさまを眺めるというのも一興です。あの女の死に様を見れたら満足としましょう」

 

 地面を再び転がる白いジャンヌを一瞥して黒いジャンヌは少し離れた戦場から響く弓の音、矢を弾く金属音に耳を傾ける。戦闘は以前こちらが有利。円卓のランスロット、ドラゴンライダーのマルタでは相性が悪い可能性を考慮して遠距離での戦闘に長けたアーチャーをぶつけた結果は成功のようだとほくそ笑む。

 

 こちらの用意した隠し玉と併用してこの前の報復、そして反抗勢力を飲み干す。そういった意味では白いジャンヌの首も良い宣伝になるかもしれない、ついでに、いい娯楽だと思考を切り替え、一層悪辣な笑みを黒いジャンヌは浮かべる。

 

 「ですから・・・・行かせませんと言っているでしょう! 貴女のことを理解して、その上で何故竜の魔女となったか納得行くまであがきますからね!!」

 

 「いいわね・・・余興にはいきのいい道化が必要だもの。せいぜい足掻きなさいよ、聖女さま?」

 

 再度黒と白の聖女、旗を掲げるものはぶつかり合い、フランスを守らんとする盾、フランスを焼こうとする矛のぶつかり合いは益々激しさを増すばかり。

 

 

 

 

 

 駆ける駆ける駆ける。自身に戦場は限り無しと言わんばかりに縦横無尽に駆け巡り、時折ぶつかり合ってはそこが嵐の中心地となる。ぶつかり合うは青の騎士と黒の騎士。互いにその色を象徴するような聖剣、あるいは獲物を持ってぶつかり合う。

 

 円卓の主であったヒロインX、もといアルトリア。円卓最高の騎士と謳われ、最古参の一人ランスロット。今なお騎士道物語、英雄譚、おとぎ話として広く知られる彼らの戦いはその伝説を色褪せるものではなく、黒と青の疾風は駆け回っていく。

 

 「全く! 姉上に何度も助けてもらいながらまた迷惑をかけるのですか!? 円卓でこれ以上借りを作っては会う度に土下座と謝罪が必要になりかねませんよランスロット!!」

 

 「■■■■■・・・! ■■■■■■!!!!!」

 

 エクスカリバーの二刀流、さらには魔力放出の精度にも出力にも磨きをかけたアルトリア。円卓を率いていた時代とは比較にならないほどに研鑽も自力も上。それでもランスロットは3つの武器でアルトリアと渡り合い、それどころか要所要所では圧倒すらしていた。

 

 一つはバーサーカークラスであること。狂化を得る反面高いステータスを英霊として手にし、それは本来一番当てはまるであろうセイバークラスも凌駕するほどの基礎能力を存分に振るう。しかもその逸話が華奈、アルトリアとは関係の薄い『鏡は横にひび割れて』のことが由来なのだろうか。アルトリアの声、華奈の事を話してもまるで動じずに手にして武器をためらいなく扱っていく。

 

 「■■■■―――!!!!」

 

 「くっ・・・! ぐぅ・・・!!?」

 

 それほどの狂化を施されてもなおランスロットの2つ目の武器、『無窮の武練』でどんな状況下、武器であろうともその動きのキレ、振りの鋭さを衰えさせるものにはならない。ぱっと見では数打ちの剣と枝を駆使して子供のおもちゃのような外見の獲物を手足の延長のように使い、その特性すらも本能と経験、鍛錬で刻まれた体はどんな精神状況でも理解して扱う。

 

 アルトリア目がけて振り下ろされるそこらへんでもぎ取った枝の右袈裟懸けをアルトリアは剣で受け止めるもしなって左肩に直撃しそうになるのをとっさの魔力放出で距離を取ることで避け、そのまま引き際に枝も絡め取ることでランスロットの手から奪い、遠くに放る。

 

 「・・・くっ・・・厄介なスキルですね・・・とりわけこの組み合わせは・・・!」

 

 それでもアルトリアの渋面は晴れることはなく、優位性も獲得できたわけではない。

 

 「■・・・・■■■・・・・・・・・」

 

 ランスロットは自身の獲物が一つ無くなったことに気づくとすぐさま少し背の高い雑草を手にし、それを黒く、赤いヒビが入ったものへと変化させる。

 

 ランスロットのもう一つの武器は宝具『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』手にしたものを自身の宝具に変えてしまい、扱う宝具。紙粘土だろうと輪ゴムだろうと自身が手にしたものは宝具に変え、まわりに礫一つでもある限り限りなく武装解除が難しい宝具。さらには、これを先のスキルと組み合わせていくことで、一層恐ろしさを増す。

 

 (とにかく武器のリーチも、癖も変わる上に、枝葉となれば幾つもの刃が襲うくせに下手な受け止め方であれば肉を裂かれる・・・今の草も・・・)

 

 「■■■■!!!」

 

 アルトリアの思考を遮るように突撃を敢行して武器に変えた雑草をまるで鞭のようにしならせて打ち据えんと動くランスロット。雑草のいくつもの葉は複数の鋭く薄い刃となってしなり、形を変えて襲い、それに対処を謝ればもう一つの剣で首を狙ってくる。一度距離を取ればその間にランスロットは別の武器を選択してアルトリアはまたそれの対処に思考を裂かれる。そんな戦いが何度も繰り返され、そして互いに決定打が見つからずに泥仕合の体を成しつつあった。

 

 「ああ・・・! もう・・・姉上の救援に行かないといけないのに・・・! 円卓は円卓どうしで騒ぎを起こさないといけない運命なのでしょうか!!?」

 

 何度かエクスカリバーを放とうともしたが、それすらも長くアルトリアの側で戦ったせいか、本能が察知したかすぐさま回避、距離を取られる。放つ前にアルトリアの足場を崩してしまうとむしろエクスカリバーを放つこと自体が命取りとなりえる状況を作られる。

 

 このいらだちに歯噛みし、少しばかり怒りのボルテージが上がっていくアルトリア、それを意に介さずに狂ったままにその恩恵と自身の強みを活かしてひたすらに倒さんと立ちはだかるランスロット。最高の騎士たちの戦いは天秤がどちらに傾くかは未だ分からず、周辺を2つの嵐が再び蹂躙することとなる。

 

 

 

 

 

 「参ったね。あんたみたいな美女とはディナーのお誘いなら迷わず応じたってのによ」

 

 「ずいぶんと軽いわね。そんな様子じゃ女に好かれないわよ?」

 

 ストーム1と華奈たちは観測できずじまいだったもう一騎の英霊。やたらと露出度が高い白を基調とした衣装。紫の長髪の美女。十字架を模した身の丈以上の杖に亀のようにも見える巨大な竜。

 

 これだけの、特に目立つ竜は捉えられるはずだったが、ストーム1達の確認できる範囲外に控えていたということだろう。それだけにストーム1は腑に落ちなかった。

 

 前線に張っていたランスロットにアーチャーの二騎にすぐに追随できる機動力を持っていたのは先程自身の前に何やらどこぞの亀の怪獣のように飛んできた事も踏まえて奇襲のためだったはず。それだというのにストーム1にすらも目の前で堂々と降りてきて、こうして話もできている。

 

 (しかしまあ・・・この姉ちゃん・・・十字架となりゃ取り敢えずキリスト。それに竜・・・竜を倒した、って逸話ならまだしも従えた、共にいても問題ないほどの関係を築けている・・・・そんで、キリストで竜に関係、女性で有名所と言えば・・・)

 

 「まさか。意外とファンレターだってもらうんだぜ? 上司にゃ恵まれているしなあ。あんたはどうよ、聖女マルタ」

 

 「! どうしてマルタだと・・・?」

 

 飄々、軽薄そうな印象を受ける話し方、少し抜けたような話し方をしていたストーム1、それを狂化を自身の精神ではねのけながら見定め、どう戦おうか考えていた矢先に自身の真名にたどり着いたことにマルタは一瞬眉根を寄せるもすぐにポーカーフェイスに戻る。

 

 「俺の知り合いにEDFのフランス、ドイツ支部の連中がいてな。あんたの祭りに参加した時の話を聞けたんだよ。マルタ、タラスクの見た目とかもな。祭りの起源たる本人に合うとは思いもしなかったがねえ。全く贅沢だぜ。この戦いは救国の聖女にもうひとりの聖女。天国だって言われても信じちゃうさ」

 

 くつくつと笑みを絶やさず、相手の英霊がマルタとわかったことで今の自分の武装、相手の戦力の可能性をストーム1は頭の中で整理していく。

 

 (マルタなら少なくとも2000年以上前の人物、しかも神の子からの奇跡を経験している・・・自身も相当やれると仮定。そもそもタラスク自体もあのリヴァイアサンの子供・・・俺自身の特攻は入るにしたってあの分厚い甲羅をどうやって剥がすか・・・)

 

 今回は銀嶺とも連携することを考えて武器の一つはセントリーガンの固定兵器で既に全て援護に使っている。もう一つの武器は連射型スナイパーライフルドゥンケルN236R。威力も連射性も悪くはないのでこれで戦えないことはないが、仕切り直し、あのタラスクに威力負けしないという意味ではショットガンのガバナー、バスターショットあたりでも用意しておけば良かったと戦い方を再構築していく。

 

 自身よりもはるか昔、それも竜を御して今なお語り継がれる英霊、女性であれど何をしでかすかわからないというのは冬木でのマスター、マシュ、アルトリアを見ていれば嫌でも理解できる。油断なく、手強いものと仮定して初動を探る。

 

 「あらら・・・そんなふうに思われるとはね・・・まあ、天国どころか地獄をここに再現しそうだと言うのに聖人が多いというのも・・・ええ、酷い皮肉だわ・・・」

 

 (身なりからして軍人。知識自体はそれなりにあるし、タラスクを見ても臆さない。場所を相当くぐってきているのかしら? もしくはそういった、怪物、竜のいる戦場に身を投じていた・・・まさかね。現代の戦場でそんなものはないでしょう・・・けど、これ以上惨劇を作り上げる前に、私を止めてもらうには・・・まあ、どうにかなるかもしれないわね)

 

 マルタ自身も相対するストーム1の様子からその経験、胆力を探り自身にも伝えられた様子から武器をいくつか保持していることを踏まえて自身が自身を抑え切れなくなる前に倒してもらえる相手かもしれないと予想を立てて少し希望を見出す。

 

 今回の召喚自体、頼まれたって来たくないものだった。フランスに呼ばれ、滅ぼすために、民草を焼き尽くすために狂化をかけて令呪で縛り付けられる。あの方に教えを請い、迫害されてもなお信じ抜いて平穏な世界を夢見た自分の考えとは、生き方とは真逆もいいところ。

 

 そんな地獄、腸も煮えくり返る状況にも幸運と思えるのはそんな非道を止めてくれる存在、戦力の登場だった。マルタの理性が狂化を抑えきれなくなっても関係ないほどの実力を有した者に自身の手で民草を殺して手を血で赤くすることがないようにしてほしい。目の前のライフルを構えた男はそれを叶えてくれるかもしれないのだ。

 

 暴れろ、狂えと自身を蝕む狂化、そしてこの出会いの嬉しさで自然と体は震え、杖を構えて戦闘態勢を取る。

 

 「さて・・・お話はいいかしら? いい加減、こんな戦いは終わらせたいの・・・・・・・私を止めてみせなさい」

 

 「ああ、ちゃちゃっとマスターたちの援護にも行かないとだしな。それに、そんな苦しい顔は似合わねえなあ。もっと花のような笑顔があんたには似合うはずだ。・・・・・すぐに楽にしてやるよ」

 

 ストーム1もドゥンケルを構え、戦闘態勢に入る。ドゥンケルのセーフティーのロックを外したその瞬間に聖女と嵐を冠する戦士の戦いは幕を開け、激しい銃声、全てを焼かんとする炎、光弾の轟く戦場となった。

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 それを遠目から眺め、機をうかがう2つの存在はどこへ仕掛けようかと品定めをしていると華奈たちは気づかないまま、4つの英霊達の戦場、その軍と怪物の群れの戦い合わせて5つの戦場での争いは加熱するばかり。




優勢から急降下。ギャグからのシリアスに切り替わるくらいに変な切り替わりでした。次回で藤丸たちは再度合流でしょうか。

ストーム1のマルタに冠する情報ですがEDFシリーズでは主人公はロンドン、欧州に救援で行く場面も多いのでそこで現地のEDFの支部の人と話していたという妄想です。

ストーム1の手持ちであったドゥンケルシリーズはEDF5にてレンジャーに実装された連射タイプのスナイパーライフル。いろいろと使い勝手がいいので愛用する人も多いはず。

ガバナーはEDFシリーズではおなじみの一回の射撃でかなり多くの弾丸を発射できるタイプのショットガン。弾数は少ないですが一応使える部類のものです。 


最後にUA 70546件 しおり 170件 お気に入り 489件 応援ありがとうございます! UA7万超えまで行けたのは皆様の応援のおかげです。こんな駄作を見てくださって感謝です。

そして、長らく待たせてしまい申し訳ありません。あいも変わらず待ってくれる皆様には感謝しかありません。これからもどうかよければ暇つぶしに読んでくだされば幸いです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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増援合戦~トロトロ照り焼きダレのわがままハンバーグ(ワイバーンの胸肉)~

華奈「っ・・・・く・・・もう少し・・・なんですがね・・・」

アルトリア「互いの引き出しをよく知っている分めんどくさいですねえ!!? 大技も封殺してきますか!」

ジャンヌ(白)「ふっ・・・! なんで・・・なんでこんな・・・?」

ストーム1「うぉっと! ああもう、こんな美人な飼い主に珍しいペット、テレビに出たほうがいいだろうによ!」




クー・フーリン「マスター少し先に行くぜ!」

マシュ「あ、ちょっと、クー・フーリンさん!?」

藤丸「わかった! でも、無理はしないでよ!」

エリザベート「あ、ちょっと子鹿! どこ行くのよ! 勝手に喧嘩ふっかけて何がしたいのよ!!」

清姫「まぁ。それで引き返しているんですのね?」

ロマニ『そうなんだ。だから、意外だったけど二人が来てくれるのは本当に助かる。今は一人でも戦力が欲しかったからね。それ以外にも来てくれるなんて思わなかったけど』

良馬『あ、ちょうど先程のお二人も華奈さんのところに到着。戦闘に入りますね』


 「うぅく・・・っ・・・! くぅ・・・」

 

 アタランテの猛攻、常に動き回り、絶えず重い矢を四方から打ちすくめられる攻撃をしのぎつつ、華奈はある回復を待っていた。

 

 (あと7秒・・・それだければ耳は治ります・・・その後は・・・)

 

 聴覚の回復。耳さえ治ればこの俊足の狩人の攻撃や足取りを視覚以外でも感じ取れるようになり、考えていた方法で捕らえることも可能。引っかかるかはわからないが、警戒心をもたせる意味でも使っていきたい。

 

 幸いなことに、相手も主命といいこちらを追い詰めてはいるが、最後のひと押しだけは入れないように抗っているのか、それとも狂化では使えないのか宝具開放まではしておらず、ただこちらを矢の雨で拘束しているだけだ。

 

 (まあ・・・最初であれをかました私を嬲るつもりかもしれませんが。しかし、それにしたって・・・ああ、なるほど。では、少し早めに行きましょうか)

 

 その真意、おおよその敵の戦力に察しがついた華奈は一つ考えついた作戦を開始。回復した聴覚に早速自身の宝具で妖精たちから貰ったアクセサリー、飾り気のない銀の指輪を一つ右の親指にはめ、右鞘の近くにしまっておいた小さな、手のひらサイズの円柱状の物体を取り出して地面に転がす。

 

 「! ・・・何をするつもりか知らんが・・・!」

 

 それに気づいたアタランテもすぐさま剣山状態の華奈の近く、自身の矢の隙間をかいくぐって矢を放ち、起動を防ごうとする。

 

 が、その神業で射抜いた円柱状のそれは矢で射抜かれると同時に爆発を起こし、周辺が一瞬白むほどの閃光、そして耳をつんざくような高い音が鳴り響く。

 

 「がぁああっ!!?!?」

 

 「!?」

 

 爆撃、この剣山の状況を打ち払う風の魔術、そういったもののたぐいだと考えていたアタランテ、そして、近くで華奈を狙い、身を潜めていたものはその音と閃光のコンボに面食らい、その目を焼くような閃光と耳を抑えたくなる不快音に目をつぶって両手で耳を抑える。

 

 「見ぃ~つけたー・・・・」

 

 そんななかでもアタランテの声を聞き分け、この不快音で気配遮断を緩めた相手の声と気配を感じ、即座に華奈は両者の気配、距離を察知。潜んでいた伏兵にはアタランテの弓を地面から蹴り飛ばしてぶつけ、華奈はアタランテの方に木々を伝って一気に距離を詰めていく。

 

 「くそっ!」

 

 それでも流石は神代の狩人。とっさながらに華奈の声と目を閉じるまで寸前の位置にいた華奈の場所から相手の行動を逆算して矢の雨を再度振らせる。矢が地面に突き刺さる音が絶え間なく響き、静寂がこの場に訪れた。少しだけ回復した目を開くと、おぼろげながらにハリネズミのような状態になっている人影に、華奈の着ていた服。

 

 「・・・・や」

 

 「ってませんね。失礼」

 

 安堵の息を吐こうとした直後、背後に背後から感じる声、振り向くもその瞬間にはアタランテの弓は華奈が左手に握る桜色の刃に弦を切り捨てられ、矢を持った左手は右手で抑えられて後手に抑えられる。その直後に華奈はアタランテを抑え込んでいる右手で押さえた手の指で服の一部をひっかけ、木々を縫って戦線離脱。

 

 「な・・・なにを! す、る・・・・・?」

 

 「ふぅ・・・狂化を斬るというのは中々に難儀ですね。これを着けてください。少しお話があるので」

 

 その早業に驚く前に敵である自分を生かしておいてどうするというのか。華奈の手に矢を突き立てようと右手を動かそうとして、アタランテは違和感に気づいた。敵意、自身を蝕んでいた狂化、その破壊衝動、殺戮衝動が無くなっていた。それに戸惑っている間に華奈は戦場から離れた森、その木々の大きな枝の一部に腰を下ろし、右親指に着けていた銀の指輪の代わりに今度は金と銀が交差し、小さくダイヤがはめ込まれた指輪を自分とアタランテにはめさせる。

 

 「・・・些か信じられんが、狂化を切り、更には契約までも切るとはな・・・だが、助かった。この狂化に呑まれ、子供を害するのは身が焼かれるよりも辛いこと。・・・ありがとう」

 

 「いいえ。こちらも狂化を解いても敵対されずに済んで良かったです。私は船坂 華奈。まあカルデアのしがないマスターです。貴女を殺さずに捕まえたのは、情報がほしいのです。こちらも、いい加減この戦いにケリを付けたので」

 

 敵の捕虜から情報をもらう。しかもアタランテは黒いジャンヌの呼んだ英霊。ワイバーンが兵士だとすれば将官から情報をもらえる。敵の居場所やまだ備えがあるのか。華奈はそれを知るために刀でアタランテの『狂化』と『契約』を切り、自身の宝具で自分がカルデアに人間として認知され続ける認識阻害の指輪を自分とアタランテに着けたのだ。アーチャー故に単独行動のスキルでまだ問題なくこの場には留まれるだろうし、必要ならこっちの魔力を渡してやればいい。

 

 アタランテの方も召喚と契約には乗り気ではなかったようで、すぐに話してくれるらしく、少しの間を置いて語り始めた。

 

 

 

────────────────────────

 

「ヴィヴ・ラ・フラーンス♪」

 

 「ごフォ!?」

 

 「あー・・・・懐かしい顔、できればこんな形で見たくなかった」

 

────────────────────────

 

 

 

 

「なるほど、敵の本拠地はオルレアン、で、実働部隊は黒いジャンヌ・・・ジャンヌ・オルタで裏からのバックアップはジル・ド・レェが。聖杯もそこにあると」

 

 「あぁ・・・・・しかし、こうして話していても見つからない・・・いや、カナの英霊の気配すら感じないとはな。相当に便利なようだ、この指輪は。それに・・・あの自身の身代わりにした的? や閃光と不快音を出した筒。円卓の中でも手広くいろんなことをしたというのは一応は知っていたが・・・大したものだな」

 

 ササッとメモに情報を整理し、アタランテにはお礼のチョコバー(魔力入り)を渡しながらのしばしの情報交換。アタランテの方はチョコバーの味よりも自身は愚か、目の前でメモを取っている華奈から英霊の気配を感じない、人間と同じような気配しか取れないこと、閃光手榴弾、それも英霊の自分たちにも効果のあるものを用意できたことに感心しているようだ。

 

 「まあ私の自作ではなく、ブリテンの妖精やそのたぐいの皆さんからの貰い物ですけどね。宝具に昇華されちゃいまして。後は閃光手榴弾は自作。的に関しては閃光の間に私の刀で土人形を作って服をかぶせただけです。目がくらんだ直後ならそれでもいいかなと」

 

 自身の宝具、妖精などから貰ったアクセサリーを使用できる『妖精の宝石箱』使用できる物によって数の制限、限界量があるがそれでも妖精が持ちうる、強力な道具を使用、誰かに譲渡、貸出できるのが便利なものだ。自身とアタランテも現在認識阻害の指輪をつけて敵の目を欺き、カルデアには自身で連絡をさきほどしておいたので問題なし。

 

 アタランテからも情報を十分にもらえた。そろそろ移動するべきだろうと華奈は腰を上げ、ちらりとアタランテを見て。

 

 「さて・・・私はもう失礼しますね? 今はもう貴女も自由の身で英霊の一騎。せっかくです。少し自由にされては如何でしょう」

 

 木々を蹴って戦場へと移動していく華奈。それを見てアタランテは少しの間逡巡した後

 

 「あ! まっ・・・・・・そういえば・・・後詰めが来るとか言っていたな・・・どれ、一つ働こう。罪滅ぼしになるかはさておき」

 

 弓の弦を直し始め、微調整、まだ不快音や閃光での影響は残っているかを確かめ始めた。

 

 

 

 

 

 「っくそ・・・やっぱ片手落ちの状況でのこれはきつい。ライダーってのは、皆こうなのか?」

 

 「余計な言葉を吐いている隙があるのかしら!? タラスク!」

 

 マルタとストーム1の戦場は幻想の世界、ちょっと変わったSFファンタジーの光景を見せ、火を吹き視界を防ぐタラスク、その間をマルタが魔力弾を使って攻撃。これをしのげばタラスクがその質量、怪力を活かした突進。 

 

 

 「げっ・・・!」

 

 「そこっ!」

 

 更にはマルタ自身が躍り出て肉弾戦を展開。嫌に慣れた足を交えた拳闘の攻撃は怪物、メカと戦い慣れてはいるが対人間に慣れていないストーム1を苦しめる要因だった。タラスクはどうにか武器と特攻スキルで押し返せてはいるが、それ以上のもうひと押しのための武器が一つ無いことで対処策を封じられていることを差し引いてもこのアドバンテージは大きく、身体には火傷、数箇所の打撲が出来ていた。

 

 「くっ・・・! 聖女かと思ったらシュートボクサーってか?」

 

 炎も、突進も自身のアーマーや経験で軽減、いなすことこできる。けれどマルタの、今までのストーム1の経験した攻撃に比べたら小さく、鋭い一撃一撃がアーマーの隙間、覆われていない部分を縫って突き刺さっていく。

 

 「町娘ってのは、たくましいものなのよ! はぁああ!」

 

 杖を上空に投げて肉薄したマルタの左ショートフックがストーム1の肘を横から叩いてしびれさせ、再度振るうことでドゥンケルを持つ手の甲を叩いて銃を叩き落とす。

 

 続けてフックを撃つ際にねじった身体を戻す反動で打つ右フックで顎を打ち、左手でまだしびれの抜けないストーム1の右腕を掴み、引き寄せて左の膝蹴りを鼻先に炸裂。

 

 「つぅう・・・」

 

 たたらを踏んで下がったストーム1にさらなる追撃のために上空に投げていた杖を手にしたマルタはそのまま魔力弾を杖から発射。ふらつき、銃を落として守りの体勢が取れないストーム1に撃ちまくる。

 

 (これまでね・・・アーチャーと、あちらのセイバーは今はわからないけど、他はおおよそ優勢、互角。こいつも口だけだったか・・・)

 

 タラスクをも押しのける怪物への強さ、炎や突進を受けて尚耐えられる頑強さはあったが、英霊との戦いにこうも弱くてはアサシンも倒せるか怪しいものだ。これ以上は時間の無駄と判断したマルタは魔力を高め、宝具開放の準備を始める。

 

 「うぐ・・・いてて」

 

 (くそ・・・こりゃあ、一つ切り札を使うか。マスターに隠しておけと言われたが、あれを使わなけりゃあ問題無いと言われたし・・・)

 

 フラフラと立ち上がるストーム1も流石にこれを凌ぐには今の状態では無理と判断。もう一つの手段を使うために魔力を高め始めるが

 

 「愛を知らない哀しき竜・・・・・ここに。タラスク! 星のように!!!」

 

 それよりも早くマルタの宝具が発動し、タラスクが手足を引っ込め、凄まじい回転をしながら四方から火を吹き流星のようにストーム1へと激突、大爆発を起こす。

 

 辺りの木々が軒並みなぎ倒され、クレーターができるほどの攻撃。吹き飛ばされた土が雨となって降り、焼け焦げた地面にタラスクだけだった・・・そう見えたが

 

 「すげえ衝撃だ。流石は音に聞こえし竜。攻撃も凄まじいねえ」

 

 聞こえてくる男の声。それもさっきまで対峙し、見切りをつけて宝具でとどめを刺したはずの相手。ありえない、少なくともこうも喋れるほどの元気さなど。目を見開き、タラスクとその爆心地に目を凝らすと、タラスクの甲羅を受け止め、立っていた男がいた。

 

 「な、何よ!? その姿は! さっきとは別人・・!」

 

 まるで特撮の防衛隊、その兵士のようなコンバットスーツに銃ではなく、全身を黒の鋼で包んだ、ゴーレムのような鎧。左手に盾を、右手には巨大な丸い槍を手にし、盾でタラスクの攻撃を受け止めていたのか、まるで傷一つ無い。先程のストーム1が一般兵ならこのストーム1は重武装兵。堅牢な鎧で身を守り、その巨大な武装で敵を屠る、黒金の兵士だった。

 

 「第二宝具・・・『嵐を冠する四の兵』さっきの俺はレンジャー、今の俺はフェンサーって言ってな。まあ、いわゆるモデルチェンジってやつだ」

 

 マルタの動揺を見逃さず、盾で受け止められて尚押しつぶそうと動くタラスクの甲羅にストーム1は右手に持つ巨大な杭のような槍。を放つ兵器。ブラストホールスピアを発射。岩山を思わせる頑強な甲羅は撃ち抜かれ、更にもう一撃で完全にタラスクの心臓を吹き飛ばす。

 

 それでも勢いの衰えない巨大な槍はタラスクの身体を貫通していき、射線上にいたマルタの心臓をまるごと貫き通してそこで止まる。

 

 「ゴホ・・・ッ・・・隠し玉ってわけね・・・ふふ、やるじゃないの」

 

 「楽にはしてやれなかったが、止めてやれたぜ・・・済まなかったな。約束、守れなかった」

 

 死に体となったタラスクから自身の纏うパワードスーツの起こす膂力で槍を引き抜き、楽な姿勢を取らせてやると。心臓を穿たれて仰向けで倒れているマルタへ申し訳なさそうに頭を下げる。フルフェイスのマスク故に表情こそ見えないが声色で申し訳ないと思っているのは伝わり、それを聞いたマルタは血を吐きながらも笑顔を浮かべ

 

 「いいえ・・・息苦しい、やりたくもない破壊衝動を起こす狂化も気にせず、これ以上この土地を汚さずに済んだ・・・気が楽になれました。重荷が、全部おろせた気分です・・・・・ありがとう、ストーム1・・・異国の戦士・・・」

 

 花のような、憑き物が落ちた優しい笑顔で笑いかける。狂化という鎖も砕かれ、この特異点を終結させる希望も見つかった、満足した表情だった。

 

 「おっ、いいね。やっぱ聖女は、女の子は笑顔が一番さぁ。さあ帰って休みな。座に帰ろうとも派手な花火を見せてやるからよ。じゃあな」

 

 それに対してストーム1も表情こそ見えないが笑って応え、マルタとタラスクへと手を合わせた後にすぐさま背中についているブースターで加速、他の戦線に急変するために駆けていく。

 

 「・・・ふぅ・・・中々の骨太・・・これで楽になれるわ・・・タラスクもありがとう。もう私達も休みましょうか」

 

 その背中を見届けた後にマルタはタラスクとともに消滅。聖女は望みを託して去っていった。

 

 

 

 

 

 「おーう、アルトリア、苦戦しているようだな。その狂戦士・・・よこせや」

 

 「ランサー! ってことは・・・・戦力加入は中断ですか」

 

 アルトリアとランスロットの死闘、互いに守りの技術の上手さと手の内を知っていることで傷一つつかずにいた勝負に突如現れた槍兵。クー・フーリンの乱入に一度激戦が止まる。

 

 思わぬ戦力の追加に助かったと思う半面、自身らの作戦は潰れてしまったと気を落としもしてしまう。

 

 「■■・・・・・・? ■■■、■!」

 

 ランスロットは思わぬ敵の追加、しかも油断ならない強さを感じさせる敵一度踏みとどまる。が、すぐさま自身の獲物を横取りした青の槍兵。クー・フーリンに突撃、上段から剣の打ち下ろしを仕掛けていく。

 

 「っと・・・! へえ・・・バーサーカーの割に鋭い攻撃じゃねえの。苦戦するわけだ。行け、旗の嬢ちゃんのピンチにはマシュとマスター、後は清姫って奴が来ている。今のうちに敵の退路を断つなり、相手の残った駒を潰してきてくれや」

 

 それを槍で受け止め、反撃の一撃を振るおうとするクー・フーリン。しかその重く、鋭い一撃に返しの一手を打てずにバックステップで立て直す。

 

 「はぁ・・・相手はランスロット。円卓最強の一角です。たやすい相手ではないですよ。私は敵戦力の刈り取りと行きますので、任せました」

 

 アルトリアも仕方無しとクー・フーリンの意見を呑んで引き下がる。クー・フーリンはどうも引く気もなければ、背中の雰囲気でわかる。サシでやりたいと語っているのがわかる。最悪自身が距離を取れていればピンチの時にエクスカリバーでも打てばいいだろうと考えて戦線を離れていく。

 

 「へっ・・・いいじゃねえの。さぁて・・・・・構えな。主への御首、手柄にも申し分なし、ラッキーなもんだ。いくぜ!」

 

 浮かべる笑みは狂戦士にも負けない戦好きの顔。この特異点での戦闘、行われたのはせいぜいが眼中にもない雑魚、英霊も姦しい娘二人をのしただけ。自身が戦いたいと思えるほどの相手には巡り会えなかった。敵の主力らしいのは華奈たちに倒され、英霊の包囲戦でおしまいかと思ったら起きたアクシデント。それからの強敵との戦い。

 

 自身の戦闘への欲求を満たす相手に、マスターへの手柄としても悪くない。朱槍を握りしめ、自身から突撃を仕掛けていく。

 

 「■■! ■■■■!」

 

 もちろんそれをハイそうですかと流すランスロットではなく、自身の持っていた左の剣で受け流し、右の木の枝で反撃。それをクー・フーリンは石突のほうで受け止め、切り返す。

 

 武器の多様さ、ハチャメチャさには自身の養父、師匠、その他生前の経験で慣れてはいる。そのまま数合ほど打ち合い、相手の手の内、癖を探っていく。

 

 「つぇえな・・・なんでも武器に出来ちまうってのもそうだが、まるでそれが長年愛用した武器みたいに使いこなされる・・・なるほど、面倒くせえ。なら、こっちに来な!」

 

 打ち合いのレベルは似たり寄ったり、相手の武器の切り替わりも槍のリーチの長さ、持ち手を自由に調整できることで寄せ付けないようには立ち回れる。ただ、それでは決定打はつかめず、強烈な突きでランスロットを奥へと飛ばした後で近くの林にクー・フーリンは入っていった。

 

 「■■■■ーーーー!!!!」

 

 普通なら罠、それも槍使いがわざわざ動きの制限されやすい林に入るのは明らかにおかしい。冷静な戦士、判断ができるのならそう考え、思いとどまりもしよう。

 

 しかし現在のランスロットはバーサーカーのクラス。細かな計算や考慮を考える思考は残されておらず、自身の獲物を逃した余計な邪魔者。排除するだけの、暴れることに思考を塗りつぶされたランスロットはそのままクー・フーリンを追いかける形で突貫。戦場は森のなかに移る。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 「クリスティーヌ・・・・・・・」

 

 「栗だかクリスだかなんだか知りませんが、舌なめずりが過ぎますよ、優男」

 

 「なっ・・・!」

 

 「首、貰いましょうか」

 

────────────────────────

 

 「■■■!!! ■~~!!!!!」

 

 「おーおー・・・暴れるねえ・・・どこもかしこもぜ~んぶなぎ払いやがって」

 

 森のなかで行われる戦闘は先程よりもランスロットの攻め一辺倒になり、クー・フーリンは突きで牽制しながら距離を取り、ちょこちょこなぎ払いや斬り上げを繰り返しては周辺の樹を傷つけながら対応。ランスロットはそれに対して剣で枝葉を切り飛ばし、そこかしこにある木々をもぎ取り、へし折って宝具で武器に変え叩き折り、切り裂き、森のなかでもあたりの木々を障害物と捉えないほどの暴れっぷりを発揮していた。

 

 「■! ■■■、■■!!!」

 

 粉砕した木々は全て武器、多少の悪路など気に留めないほどの足運び、膂力、速度。1ランク底上げされた狂化の恩恵は多少の技量も問題ないほどの馬力で攻め入る。

 

 「ヘッ! いい気になんなっての・・・お前はもう、ここで戦っている時点で負けなんだよ・・・ッ!」

 

 それに対してクー・フーリンはもう一度突きを心臓目がけて放ちランスロットはそれを持っていた宝具化した棍棒で受け止めることで勢いを一度殺す。場所はすでに荒れ果てていた林の一部だったところ。いつの間にやら同じところに着いていた、いやクー・フーリンはここを狙って誘導していた。

 

 「そらそらそらぁ!! どうしたぁ!? 円卓最強ってのはびっくり一つで揺らいでしまうのかぁ!?」

 

 勢いの止まったランスロットに対してギアを上げ、折れた大木を蹴り、凸凹した地面すらも足場にして縦横無尽、槍兵の、自身の足を十二分に活かした高速機動からの四方八方から飛んでくる突きの雨あられ。時折槍、足で蹴り上げる土も目隠し代わりに飛んでいき、とことん相手を撹乱していく。

 

 「■!! ■■■■!!!!! ■■! ■・・・!」

 

 対して一度勢いを殺され、ギアを上げられて体感的には倍以上に感じるクー・フーリンの攻撃に面食らうもすぐさま立て直し、剣と小さな枝で防ぎきり、倒れていた長い枝を鎌のようにして周辺を一気に薙ぎ払う攻撃を繰り出してクー・フーリンを補足、動きを止めようとする。

 

 「ちぃっ・・・!」

 

 長い枝が胴体目がけて飛んでくることにクー・フーリンは槍で受け止めて、ランスロットの枝を掴んで奪うことは出来たが力押しに吹き飛ばされ、たたらを踏むように着地。微かに体制を崩す。

 

 「■■■!!!!! ■■ーーーーーーー!!!!!」

 

 その隙を見逃さずに一気にとどめを刺さんとクー・フーリン目がけて駆けていくランスロット。奪われた枝の代わりに視界に映った枝を握り『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』を発動、両手にある剣と宝具化したこの武器を使いクー・フーリンまで後数歩、その数歩でランスロットは『根っこに躓いて』姿勢を大いに崩した。

 

 「っはは! 引っかかってやんの! 油断しやがったなあ!」

 

 待ってましたと大笑いをあげながら冴えるクー・フーリンの朱槍は即座にランスロットの両手の甲、肩を突き刺し、槍を鎧に引っ掛けてランスロットの身体を捻るように動かすことで根っこに足を取られた、右足をねじることで動きも奪う。

 

 「■■!!!!???? ■■! ■!!!?」

 

 痛みに苦悶の声を上げるランスロット。関節と手の甲を壊されて武器を握れず、足も片足が自由に動かせないことで機動力は完全に潰れる。そこにとどめを刺さんとクー・フーリンは宝具を解放。朱槍が朱の輝きを放ち

 

 「これでおしめぇだ! 喰らいなあ! 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!!」

 

 自身の持つ朱槍。それが持つ因果逆転の一撃は『心臓に槍が命中した』という結果を生み出し、クー・フーリンの妙手から『槍を放つ』という原因を起こし、見事にランスロットの鎧を砕き、心臓を破壊。勝負はついた。

 

 「■■■・・・・・」

 

 霊核を砕かれ、限界が維持できずに退去のために光の粒となっていくランスロット。薄れゆく狂化の中で、一つ腑に落ちないことがあった。先程の自身の姿勢が大きく崩れたことだった。普通なら根っこごとき粉砕、気にせずに突き進めるはずの彼が何故根に体制を崩されたのか。死の間際で自身の敗因を考えていることを察したクー・フーリンは槍を引き抜き、ポリポリと頭をかき、口を開く。

 

 「冥土の土産だ。あれ、見てみな。ほれ、足を躓く前に握った枝」

 

 その方向を見れば、自身の持っていた枝、それと『一緒に握っていた別の木の枝が転んだ原因の根っことつながっている』光景だった。

 

 「森ってのは文字通り木が地面の土台の一つだ。種類によっちゃあそれこそ地面深くまで根を張りめぐさせるやつから浅く、広く根を張らせるやつまで多種多様。お前はそれを全部武器にできる。視点を変えれば『自分でも容易に壊せないもの』がどこでもできるわけだ。だから俺は罠を張ってみたのさ。地面のあちこちに生えている根。その中でも引っ掛けやすそうなものをな」

 

 今度は周辺の地面を指す。ただの目くらましかと思っていた土をかける行為はそれだけではなく、いくつかの地面を掘り起こし、露出している根っこ、岩。いくつかは細いながらに足を取られやすい形状をしており、まるで草結びをいくつも展開しているような状態の地面とかしている。

 

 「で、ちょうどいいのを見つけたからお前さんが握りやすいようにいくつか見繕ったり自分で用意して握らせたってわけだ。どこまで理解しているかは知らんが・・・・・・・・バーサーカーでなけりゃ、ハマることもねえ子供だましだろうよ」

 

 自力、ステータスでは負けている部分もあった、そのくせ技量は衰えない。だが、思考、判断力は戦闘以外では鈍り、目の前の相手しか映らない。そこを突いたクー・フーリンの賭け。傍から見ればあまりにもあからさまな部分が大きく、勝者のはずのクー・フーリンの表情は一瞬勝者の愉悦が消え、すぐに戻る。

 

 「今度はバーサーカー以外の、一番得意なクラスで来な。そんときゃ、心ゆくまで死合おうや」

 

 「・・・■■・・・・・・・・・・」

 

 ランスロットの完全な消滅を見届けた後、槍を肩にかけてクー・フーリンは戦場を見回し、次の獲物を探した結果

 

 「そう言えば、昨日の夜から喰っている華奈の飯・・・ワイバーンの肉だっけか・・よし、マスターとマシュへの土産も兼ねて、一狩り行くかぁ!」

 

 晩御飯のおかずを求めてカラカラと笑い、戦場に猛犬が走っていった。

 

 

 

 

 

 「っ・・・! アーチャーがあの女と一緒に消え・・・!? ライダーにバーサーカーも! ああ、どうなってんのよ! 相性も問題ないはずなのに!!! それに・・・邪魔よ盾女ぁ!!」

 

 閃光と不快音。その直後にアーチャーと一番殺したい女。華奈が消えたことに苛立ちを隠せずに暴れるも、まるであの閃光を皮切りに状況は悪くなるばかり。自分の相手をしている白ジャンヌを殺そうとした矢先に巨大な盾を持った女が現れたせいで数の上だけではなくその守りに今までは思うよう叩きのめせた相手を殴れないばかりかこちらが追い詰められる始末。

 

 「っ・・・! 重いですが・・・! 粗い! はぁあああっ!」

 

 強引に剣を盾に突き立てて押しつぶし、剣に宿した炎で女ごと焼こうとするもその盾を持った女、マシュはそれを受けた直後に剣の勢いをできる限り殺さないようにいなしてジャンヌオルタの姿勢を泳がせ

 

 「そこですっ! やぁっ!」

 

 白ジャンヌはマシュとジャンヌオルタを挟むような場所取りからの旗での打ち下ろし。身体を泳がせたジャンヌオルタはとっさに旗で防ぐも姿勢を崩した状態では持ち前の力も意味をなさずに押し切られ、そのまま旗に押される形で身体を盾に打ち付けられてしまう。

 

 「ぐっ・・・! くそっ・・・クソクソクソぉおっ!!」

 

 「うるさいですよ・・・全く、まだ自分の状況を理解できないのですか・・・?」

 

 がむしゃらに盾を蹴り飛ばし、その反動で白ジャンヌを狙おうと飛ぶも新たに加入した戦力、マスターの前に立つ清姫の放つ火炎弾で側面を狙われ、剣で払い落とす間に距離を取られてしまう。

 

 最前線をマシュ、真ん中にジャンヌ、清姫。最後尾にマスターの藤丸という陣形、マスターも含めて4対1という状況。しかも即席も良いはずのメンバーの連携、補助を指示し、回す藤丸の存在。そして新たな軸になったマシュという存在がことさらに大きな壁としてジャンヌオルタに立ちはだかる。

 

 「ジャンヌ、緊急回避! そして応急手当! マシュには瞬間強化! 清姫は相手が距離をとったら火球をお願い!」

 

 「はいっ!」

 

 「感謝します!」

 

 「はい、マスター♡」

 

 藤丸の礼装に仕組まれた魔術式を起動。マシュは肉体の強化を短時間ながら施されていくことでジャンヌオルタの馬力、炎を問題なく盾で受け止め、流していく。ジャンヌオルタの力は確かに強く、炎の熱も、威力も並大抵のものではない。

 

 しかし、それに負けないほど恐ろしいものをマシュはすでに味わっている。冬木での経験、見えない刃を、炎をまとった巨人が押しつぶし、焼き殺そうと迫る圧迫感を、熱を知っている。アーサー王の突撃を、冴え渡る剣技を。聖剣の奔流を受け止めている。

 

 カルデアでの鍛錬でも何度も恐怖を、経験を積んでいる。危険であることには変わりはないが、その経験で決して炎にひるまず、力に面食らうことなく攻撃を受け止め、その強化される馬力でジャンヌオルタの攻撃を受け流し、逆に所々では押し返しすらしていく。

 

 「ふっ・・・!」

 

 そのマシュという大盾に気を持っていかれている間に白ジャンヌという槍が迫りくる。傷もある程度癒えて頭も落ち着き、更には藤丸からの緊急回避という魔術のバックアップ。余裕がある分より冷静に攻撃を見切れる。

 

 「っ・・・あぁああ!!!」

 

 マシュに旗を弾かれ、また身体を泳いだ隙を狙ってきた白ジャンヌに二度はもらわないと泳がせた身体をぐるりと回転。右手の旗で横に薙ぎ、その勢いを活かしての左手の剣での突き。

 

 それを白ジャンヌは身体を地面に這うような低さまで落として避け、突きを緊急回避のサポートを使って回避。懐に潜り込んだ直後に突きで伸びていたジャンヌオルタの腕を掴み、そのまま上空に投げ飛ばす。

 

 「シャァアアッ!!」

 

 「んっ・・・のぉおお!」

 

 上空に投げ飛ばされたジャンヌオルタに清姫の特大級の火球が放たれるもジャンヌオルタはとっさに上空から漆黒の槍を発生させてそれを盾に凌ぐもその余波で体制を崩したまま地面を転がる羽目になる。

 

 「・・・・っうぅ・・・うう・・・・なんでよ! なんで私がこんな目にあっているのよ! 数も勝っていた! 手駒も文句なし!  それでなんでこんな奴らに手間取って、あまつさえ援軍も来るのよ!!」

 

 自身の手勢のワイバーン、怪物の大軍も銀嶺に食い止められるどころかすでに決着の着いている英霊、情けないことにその勝者は自分の召喚した英霊ではなく野良の英霊、敵対している英霊であり、その英霊らに戦力を削られている始末。盛り返すきっかけになりえたであろう自身のところにはマスターの一人まで来て抑え込んでくる念入り具合。もうひとりのマスターは何やら行方不明になってはいるが、同時にアーチャーまで行方不明。

 

 それでも目の前のジャンヌらが動揺していないのは無事であるという確信、もしくは連絡がすでに来ている、策を知らされているから。処刑、暗殺用に連れてきたアサシン二騎も何やら補足されたようで戦闘の気配が感じられる。これだけの情報が揃えば嫌でも理解する。自分の負け戦だとジャンヌオルタも理解する。

 

 それだけに、余計に腸が煮えくり返る。回りはなにも自分を助けられず、一人で敵に倒される。しかもあのイギリスの英霊がいる敵軍に。繰り返されるのか。また、結局成し遂げられずに終わるのか。

 

 それだけはまっぴらごめんだとジャンヌオルタは怒りを糧に身体を奮い立たせ、憤怒の炎を燃やす。一人二人殺し尽くす、そうでなくても手傷を追わせて反撃のきっかけを作る。そのために宝具を開放しようとしたその時

 

 

「「「・・・・・?」」」

 

 地面が大きく揺れた。




ゲオルギウス「汝は竜! 罪ありき!!」

華奈「ふぅ・・・回りの戦線は問題ないというわけでいいんですね?」

良馬『はい。藤丸君たちも無事合流成功。このまま華奈さんたちは敵を遮断し続けておけば問題ないでしょう。敵が来てもそこからならすぐに発見できるでしょうし』

ストーム1「っはぁ・・・やれやれ・・・ゾンビだのリビンデッドは藤丸君らにゃちと刺激が強すぎるなあ・・・せめて映画から見せてあげなきゃ・・・・な・・・?」

アルトリア「英霊の首をゲット~♪ って・・・地響き・・・・? なんですかこの規模・・・万単位、それ以上の軍のレベルですよこれは・・・」

クー・フーリン「お? 敵の追加か? 総決戦って感じがしてくるなあ・・・!」

フラム『華奈! そこから20キロ先から大量の魔力反応! 特大レベルのものもいくつか発生しているみたい!』

オルガマリー『規模は・・・1万ちょい!!? 急いでここを離れるか応戦・・・ってストーム1、その格好は?』

華奈「おや・・・使いましたか。アレは残していますか?」

ストーム1「おう、問題ねえって・・・・それよりも・・・何じゃあの敵影・・」

アタランテ「・・・・・・気味が悪い」

マリー「え? どれどれ? もしかしてフランスの救援かしら?」

モーツァルト「そんないいものなら皆こんな顔はしないよマリー。逃げる準備をしたほうが良さそうだ」

エリザベート「なになに! 私のファンが来たのかしら!!?」

ロマニ『ここ・・・英霊何人いるんだろうね。あ、あの怪物の大群を指揮しているらしいキャスターかな? の映像が出せるよ。はい』

ジルドレ(ブチギレ&顔芸状態)「ジャァアァァアァァァァァアアンヌゥゥウウゥウゥッゥッ!!!!!!!! いまこのジルめが助けに参りますぞおおお!!!!」

一同「「「か、怪物だぁあああああ!!!!」」」




今回はこれにて。アサシンたちはあっさり退場です。仕方ないね。

英霊がドタバタ押し寄せて一つの戦線に大集合。これを察知したジルドレはバカでかい海魔も召喚した海魔軍で援軍として参加。聖杯の力もあるので数もサイズも桁違い。

ランスロットの宝具はすごく便利なんですが、こういう形、もしくは近い形で自分の邪魔になるかもと思ったのをやってみました。バーサーカーならそこらへんの判断も鈍りそうですし。

ストーム1の宝具の一つはいわゆる兵科のチェンジ。今回登場したフェンサーはいわゆる重武装機動歩兵とも言える存在でパワードスーツによる重機ばりのパワーを活かして普通なら扱えない強力な武装を使う兵科です。ブースターも付いているので機動戦もお手の物。最新作のEDF5では空中戦すらも可能になっています。どうも作中ではその武装や堅牢さを活かした壁役、殿になることが多いようですが、やり方によっては特攻隊長も普通にできちゃいます。

武装の一つ、ブラストホールスピアは巨大な杭、ないし槍を発射する兵器。威力が高い上に貫通するので大物から小型にと使える反応性の高い武器。他にも連射性能を上げたものや貫通はしないが射程の長いものなど様々です。

盾は相手の攻撃を防ぎ、ダメージカットをできる武装ですが補助装備との組み合わせで相手の攻撃をほぼほぼシャットアウトできたり、相手の攻撃を反射したりできるタイプまであります。相手の強力な攻撃を跳ね返したり、何度打たれても平気な顔して反撃して愉悦を感じたりと愛用する方も多いかもしれない武装です。ちなみに今回ストーム1が使ったのは攻撃ダメージを軽減できるタイプです。

次回は再度合流と休憩の話になるかもです。

最後にUA 72252件 しおり 171件 お気に入り 490件 応援ありがとうございます! 次回も良ければ暇つぶしにどうぞ見てくださいませ。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ちょっとだけよん。二度目の野営~ドロドロチーズたっぷりシチューとライ麦パン~

華奈「ストーム。グレランください」

ストーム1「へいお待ち。お代は百万円ね」

華奈「今晩の晩御飯で」

ストーム1「毎度あり」

アルトリア「うげっぇ・・・・・・・これはたこ焼きにも、おでんにも出来ないですねえ・・・臭いが・・・」

クー・フーリン「しかも大将首も取れないとはねえ・・・一点集中で行くか・・・」

マリー「・・・流石に、あれは少し気味が悪いですわ」

ジャンヌ「同感です・・・しかし、こんなものを使うようになったのですね。ジル・・・」

良馬『皆さん! 敵が動きを変えました! 三方向に分散、そのまま直進していきます!』

オルガマリー『おそらくだけど、そのままフランスを蹂躙するみたい! どうするの!? 流石にこの数だとアルトリアのエクスカリバーを乱発しても・・・!』

華奈「うーん・・・エミヤ様?」

エミヤ『なにかね?』

華奈「トレースさせたAF99、ゴリアス99。いくつありますか?」

エミヤ「そうだな・・・質も維持しつつだったからせいぜいが20前後だろう」

華奈「OKです。アルトリア様、任せました」

アルトリア「では、その武器をヤマジたちに持たせて私と一緒に行動。一隊を叩きに行きましょう」

ヤマジ「任された。それじゃあ300でそこに参加、その後はすぐに戻るぜ?」

オルガマリー『正面は華奈、ストーム1、側面の一つはアルトリア、銀嶺。となれば・・・ロマニ! 藤丸、マシュに連絡!』

ロマニ『了解! 早速通信、開きます!』



~藤丸サイド~

藤丸「俺たちはもう一つを叩くんですね?」

ロマニ『うん、華奈がそっちに英霊も数騎回しているみたいだから、安心して欲しい』

オルガマリー『それと、そっちの担当陣地は銀嶺の防陣、華奈も必要に合わせて部隊を回すそうだから、比較的ヘルプは回しやすいから安心して』

マシュ「了解です! そのまま戦闘続行! あの怪物たちを食い止めます!」

~しばらくして~


 「破戒すべき全ての符!!(ルールブレイカー)

 

 「アッーーー!!?」

 

 「・・・メディアさん。流石にためらいはないのですか?」

 

 結局、その後開かれたジル・ド・レエの救援と物量作戦の反撃に華奈達カルデアと英霊達のメンバーは食い止め、殲滅は出来たがまたジル・ド・レエとジャンヌオルタは逃げられることになってしまい、マスター、英霊達の消耗も大きかったのでオルレアンに近づかずに最初に作った防衛陣地に戻り、休息を取ることとなった。

 

 そして、その間に救援に来てくれた英霊。マリー・アントワネット、モーツァルトが対処してくれた英霊。気絶したまま拘束していたジャンヌオルタサイドの英霊サンソンに短時間ながら再び元、メディアをレイシフトさせ宝具をぶっ刺して契約解除。その後藤丸に仮契約を結ばせて疲労した銀嶺、夕方に合流してくれたメンバーらの手当に手を借りたいという考えから実行。何やら変な声を出しながらも契約は切れ、そのまま契約を行使。元らはカルデアに帰還。とはならずにその様子を眺める。

 

 「いやぁ助かります。疲れていましたし、医者の方にわずかにでも狂化で手元が狂っては大変ですからね」

 

 「しかしまあ、変な絵面だ。あ、スモークチーズもう良いな。卵も。どれ・・・よし、煙の風味がいい。良いチップで燻せた」

 

 拘束したイケメンにローブの女性が歪なナイフを突き刺して少年が手の甲の令呪を光らせて契約を結ぶというなんとも言えない光景を尻目にまたアルトリア、華奈、ストーム1は銀嶺の調理ができる面々と夕ご飯のシチューと燻製料理を作り、空きっ腹に活力と栄養をぶち込もうと食材と格闘を繰り広げる。

 

 「まあ、私はともかく、藤丸くんに姉上は消耗が大きいですからね。アレを使うには魔力も足りないでしょうし・・・うーん。パリパリ感と・・・ぐぬぬ・・・燻製肉に合うパンは・・・いえ、クレソンやレタスと合わせたサラダというのも・・・」

 

 アルトリアの言う通り華奈は自身の軍団を召喚し、ストーム1の宝具をいくつも使用、自身もグレランを持ってジル・ド・レエの繰り出すタコのようなヒトデのような区別のつきにくい怪物とワイバーン、多くの怪物に打ち込みまくる。

 

 藤丸はそもそもの魔術回路の開発、変化が始まっているそうだが、その期間もまだ始まったばかり。そのくせに英霊達の長時間戦闘、宝具も低燃費とは言え使用。複数の英霊との契約。長時間戦場の空気や圧にさらされた精神的疲労。回路もメチャクチャすぎる酷使だ。ともかく、肉体的にも精神的にもカルデアのマスターたちの疲労は凄まじいもの。

 

 敵の大将は取れなかったが、やけになった相手からなにかこれ以上の手を打たれて対処が取れないよりはマシ。むしろ方位のための援軍がこうして多く駆けつけているのでむしろ有利にことが運べたとアルトリアは考えているのでさほど重くは考えておらず、むしろ燻製肉というパンには合わせづらい食材の一品に脳内の比重が大半を占める状況だ。

 

 「華奈さーん。チーズ、溶けてきましたが本当に入れるのですか~!」

 

 そして、その夜空のキッチンにマシュも即席で用意したエプロンを着け、特大鍋で用意したチーズを棍棒のようなかき混ぜ棒で混ぜ、ボコボコと沸騰していたことで声を掛ける。修羅場をくぐった直後だと言うのに楽しんでいるのか疲労の色は見えず、チーズの香りに時折匂いを嗅いでは楽しんでいる様子。

 

 「はい。私達の鍋に思い切り入れちゃってください。今日はよく冷えますからねえ。それと肉も一日置いて少しは熟成してきたので、芯からあたたまるものをと」

 

 「了解です。よいしょ・・・入れます! ここまでチーズを入れるシチューなんてはじめての体験で楽しみです」

 

 チーズの鍋を掴み、華奈の特大の魔女の鍋、芋煮の鍋を連想させるような鍋に煮立つシチューにマシュはチーズの鍋を傾けてチーズを入れていき、華奈がかき混ぜ棒でチーズを掻き出してはシチューと混ぜていく。クリームの優しい香りの中にチーズの主張ととろみが混ざりあい、昨晩のハンバーグとは別のベクトルでかぐわしい香りが漂い始める。

 

 「よし、これでいいですかね。はい、元様。これがカルデアの分ですね。仲良く食べてくださいよ?」

 

 「了解。じゃあ、メディアさん。そこを持ってください」

 

 「わかったわ。もう、こんなことなら坊やを呼んでくるべきだったかしら」

 

 ぶつくさいいながらもカルデアの分作っておいたシチューの特大鍋を受け取り、元と一緒に帰っていくメディア。後ろにはヤマジ達。それを華奈たちは手を振って見送り。

 

 「じゃ、マシュ様。完成したのでどうぞ皆様で食べてください。私は少し話がしたい方がいますので、少し離れた場所に行きますね?」

 

 残りの鍋にもチーズを流し込んで混ぜた後に自身の分を持って移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「では、あの方はますたぁの・・・えーと、先生? 上司? でいいのでしょうか。はい、あーん・・・」

 

 「うん、大体はそんな感じ・・・わわっ! ちょっ、まって! あつぅい! アツアツだから! チーズが垂れるぅ!!」

 

 そして始まるは愉快な晩餐。少し歩けばすぐ平野。廃城と防陣があるとは言え簡素な場所故に夜風は冷えるもの。そんな中でドロドロで冷めにくいシチュー、そしてわざと風味の強いライ麦パン、麦粥と更には燻製料理という熱く、濃い味の組み合わせは英霊、兵士全て別け隔てなく戦疲れと夜風の寒さを吹き飛ばし、炎を囲んで談笑しては酒や湯を傾ける。

 

 楽しい食事の時間の中で一番華やか、そして姦しいであろう集まりの中心にいる藤丸にはベッタリと清姫が付いており、スプーンでシチューを掬っては藤丸の口に近づけるが、冷めづらいようにと作ったせいでやけどするような熱さで来る上に落ちるシチューすらも熱い。ちょっとした夫婦漫才のような光景を繰り広げていた。

 

 「あら、失礼しました。では、ふーふーしてから渡しますね♡」

 

 「・・・せんぱい、私もしましょうか? は、はいあー・・・」

 

 「まってまって! 自分で食べられるから! ほら、こう・・・あっづう!!」 

 

 それに目を細め、嫉妬の表情を、マシュ本人は気づいてもないだろうが浮かべ、自身のシチューを掬って藤丸に持っていく。流石にこの状況はまずいと藤丸も自身の分を口に入れるが熱々のものを急に入れたものだから口の中で事故が発生してその衝撃で転げ回る。その中でもシチューだけはしっかりとこぼさぬように置いているところが尚面白く、みなはその光景を肴に夜を過ごす。

 

 「ウフフ。カルデアのマスターさんはとてもモテモテなのね♪ 後で私もしちゃおうかしら?」

 

 「やめたほうがいいよマリー。周りの兵士の視線が微笑ましいものから嫉妬の嵐になるだろうさ。銀嶺以外の兵は確実にね」

 

 「あ、あの・・・それはいいのですが、食べづらくはないですか? それと、そのぉ・・・は、恥ずかしい・・・」

 

 この光景を楽しむものは英霊にもいるようで、天才音楽家アマデウス・モーツァルト。革命の渦に飲まれた王女マリー・アントワネット。そして救国の聖女ジャンヌ・ダルク。三人もシチューをバケットで楽しみつつ、マリーはジャンヌに後ろから抱きついて微笑み、アマデウスはそれを見つつ、マリーの奔放な発想に釘を刺す。

 

 「あら、軽いスキンシップじゃないの。それに、フランスを救った英雄に王が礼を伝えるのは当然よ? 私も大好きなジャンヌにもこうして会えたのですもの。ほっぺにキスくらいは許してもそれは当然の褒美じゃないかしら」

 

 「い、いえマリー様。流石に・・・あの方々なら妥当ですが、その、褒章であればもっと厳粛な場所で執り行うべきでは・・・?」

 

 「大好き・・・光栄ですが、マリー様。私はさしたることは」

 

 釘を差されて尚勢いをますそのアイデアに流石にと思ったか。マリーたちに敗れ、狂化と契約を解かれて正気に戻っていたサンソンも戻ってくる。

 

 藤丸と契約をうつろな状態ではあったが結んだことで現界は可能となり、今はその技術を活かして怪我をしていた銀嶺のメンバー、そして救援に駆けつけたフランスの兵士たちの治療行為に従事していたが、自身が敬愛する王女の行動には驚いて声を掛けるが治療自体は続けていく。

 

 ジャンヌも自分の知る王とはまた違う、違いすぎるフットワークの軽さに翻弄されて頬を赤らめ、目が右に左にと泳いでしまう。

 

 「んー・・・まあ、たしかにそうだ。講演料を踏み倒すケチな貴族なんかよりは百億倍いいだろうさ。じゃ、礼は伝えるのはいい。けど、やりすぎは注意だよマリー。うん、これはいい肉だ! ワイバーンを食べるなんて、いいアイデアが出てきそうな気がした!」

 

 「まあ、それは良いこと! 皆を盛り上げる曲を作って頂戴。けど、下品な歌は駄目。ご飯が食べられなくなったらもったいないもの」

 

 「え~・・・ここまで皆の腹の面白い音や、ネタが出てくるのになあ、しょうがない、曲だけにしておこうか。作詞はまたの機会にして、その分ギャップでの破壊力を」

 

 そしてここでも始まる漫才じみたやり取り。後ろからジャンヌに抱きついたまま体を揺らしているマリーにシチューを何度もお変わりし、酒をかっくらってはケタケタと笑うアマデウス。その間で百面相を繰り広げるジャンヌに被害を出してはいなかったが狂化の際の自身の行いの贖罪と兵士の治療に熱を入れるもツッコミを入れるサンソン。ある意味新喜劇のようなやり取りが発生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハフッ、ハムハフッ・・・ングッ・・・なにこれ! すっごく美味しいわ! 熱々で、ドロドロなのにいやみったらしさがない。それに、チーズをこんなにたくさん入れているのに味のバランスが良い!」

 

 「ええ・・・チーズは食感と保温。それに・・・風味でしょうか? 微かにハーブのような風味もありますし、そのまま食べても良い。風味の強いライ麦のパンでパンとシチューの風味のダブルパンチを味わっても良い。ドロドロな分口に残りますが、それをまた燻製肉やワインで切り替えたりもできる・・・」

 

 『ふぅ・・・これはお腹にもたまりますし身体がポカポカしちゃいますね。さて、今回の協力を感謝します。ゲオルギウスさん、エリザベート・バートリーさん』

 

 食事、それも混乱期でまともに食料を作れない、用意できない状態のフランスで味わう食事、エリザベート・バートリー、もといエリザベートは貴族故に毒味、完成から届くまでの時間の長さで冷えた料理が多かったこともありこの熱々のシチューは大変好評。ゲオルギウスにもこの味は受けたようで噛みしめるように、ゆっくりと、ゆっくりと食べていた。

 

 オルガマリーも画面越しではあるがカルデアのメンバーと一緒に飯を食べようというクラークの提案に半ば流されるままに従い、一応は同じ鍋の飯を食べ、少しの間料理の感想で談笑しつつ楽しみ、そして場の空気もちょうどよくなったところで今回の参加に頭を下げる。

 

 一緒に同じ食事を食べ、同じ話題を話せたのでいくらか気は軽く、正式な顔合わせは思わぬ事故でドタキャンになったのにもかかわらずこうして海魔との戦いにも参戦し、そのまま残ってくれたゲオルギウス。出会いは最悪な状況でもなんとなくでついてきて、そのまま戦ってくれたエリザベートに心から感謝し、微笑みを浮かべた。

 

 「いえいえ。あの怪物を町に入れるわけには行きませんでしたし、それにあの檄文でフランス軍、混乱していた軍をまとめたジル・ド・レエ元帥も来たおかげで街の守備と安心を手に入れましたからこうして動くことが出来ただけです。私こそ、このような美味しいシチューをありがとうございます。冬にミサで振る舞えたらと思ってしまいますよ」

 

 「ええ、私の専属マネージャー・・・にはまだわからないけど、行きつけの料理店くらいにはしてもいいわ! それにあの怪物も気持ち悪かったし、いいストレス発散になったから大丈夫よ。悪いのはあの蛇だし? それより、この燻製肉もいいわね。おかわりあるかしら? アイドルはエネルギーが必要なの」

 

 反応自体は悪くない。そして、アイドルと自称して何やらおかわりをねだるエリザベート。思わぬワードに頭の中に? が浮かぶが抑え、改めてオルガマリーも水を飲んで一息つく。

 

 『ともあれ、お二人はそのまま戦ってくれると。では、華奈の作戦をこちらの方でつなぎますが、いかがしますか? 意見なども出せるようにしておきますが』

 

 「いえ、アーサー王に円卓の騎士、それに現フランスの元帥が策を練るのです。見せては貰いますが、そこまで口出しはするつもりはありませんし、見せてもらえるだけでも十分です」

 

 ゲオルギウスの意を汲み取り、早速コンソールを操作して華奈たちの映像をつなぐオルガマリー。あちらへの邪魔をしないようにあちらには見えないように、ゲオルギウスの方からは声などが届かないようにとしておき、感度、映像のチェックを始める。

 

 「ああ、あの派手な爆発をしたやつだっけ? 良い演出、大道具スタッフになれそうよね。一人はかなりごつい見た目だったし、残りの二人も私のバックダンサーとかに選抜して。ほら、髪の色もあってバラエティ豊かな感じがしない?」

 

 「流石に派手すぎてステージが壊れてしまいそうですがね。彼らの場合だと」

 

 黄金の光の柱に赤の爆炎、更には青の光球と赤の爆発を遠慮もなしに撒き散らして更にはその中央で歌を披露するエリザベートという光景を想像し、なんとも派手かつ目に悪いと苦笑しつつ自身もおかわりを貰って眼の前に映し出されたモニターの様子に意識を傾けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ともあれ、まさか元帥様までも動いてくださるとは。ご協力ありがとうございます。お蔭でかなり楽になりましたし、あの怪物を討つ際も砲撃支援が助かりました。この混乱の中、よくこれほどの戦力を」

 

 「いえ、まさかジャンヌにまた会える・・・それも、この窮地に来てくれたことはまさしく神の啓示。しかも円卓、あのクー・フーリンまで来てくれるという騎士としては最高の瞬間に立ち会えました。こちらこそ感謝します。カナ殿」

 

 「ほれ、ぶどうジュース。兄ちゃんもどうだ? 英霊とは言え、気分的にゃ喉も乾いたろう?」

 

 「すまない・・・しかし、賑やかなものだな、少し前まで怪物に振り回されていたフランスとは思えないほどの賑やかさだ」

 

 「まあ、その軍隊に姉上の部隊、しかも料理で騒いでいますしね。ちょっとした行軍、撃退に成功したいわば勝ち戦ですしそうなるのかもですねえ」

 

 皆がワイワイと騒ぐ中、その喧騒から少し離れた場所に作られた天幕。その中ではカルデアの現地調査員代表になっていた華奈。その補佐のアルトリア、ストーム1、今いる対竜の魔女、ジャンヌオルタ軍の代表であるこの時代、フランスに生きるジル・ド・レエ元帥、ストーム1に引っ張られる形で連れてこられた男性。白髪の髪に精悍な顔つき、体格、巨大な長剣を持ち、ただならぬ剣気をまとう豪傑。英霊の一騎。ジークフリート。

 

 現在のフランスの状況とカルデアの今までの行動を伝えあい、情報交換、そして今後はどう動くべきかという相談、作戦会議を行うために集まっていた。

 

 「外ではアタランテ様が警護をしているので問題ないとして、始めましょう。まず敵の目的はフランスの蹂躙と壊滅。まあほっておいてもあちらは出てくるでしょう。本人が出なくても何らかの手段でフランスを荒らしたい、復讐したいと考えているのなら負けっぱなし、穴熊は一番したくないでしょうから」

 

 「その英霊も私達の方は増えましたが、あちらは今日の戦いでことごとく失う、私達の方に加勢してくれました。どんな英霊を呼び出すかは不明ですが・・・正直、今のメンバーならある程度は戦える、その間に対策を打てるでしょう。私達を打ち崩すほどの大英雄ならむしろあちらも制御はし辛いはずですし」

 

 「怪物の方なんだが、無事に出てきた分、逃げなかった奴らは全て倒した。フランス軍の大砲、それとジークフリートがワイバーンを七面鳥でも撃つみたいに簡単に倒していたからなあ」

 

 今日の戦いでの戦果、行動をざっくりと上げていく。事故こそあったが結果的にはフランスに散らばる英霊の参加、フランスの軍隊も無事に合流。受け入れてくれた。怪物への対処も銀嶺が前に出て小隊規模まで対処の仕方を実演して見せてフランス軍を手助けすることで被害も最小。

 

 物量に対してもジャンヌの鼓舞や華奈たちが大いに前線で暴れまわったことで奮い立ち果敢に立ち向かってくれた。合流してくれた英霊達の応援もあって撃退成功。包囲網はより堅牢なものとなる。

 

 「部隊編成、再調整もそうですが、相手がもう一度ここに来るのなら問題はないですな。ロングボウ、クロスボウ、大砲。対処策も銀嶺の皆様に見せてもらいましたし、この防陣もいい。移動してもこれを参考にすれば簡単と崩れはしないでしょう」

 

 「ああ、それに、相手の攻撃も手数こそは多いが、それでも俺には届かなかった。俺を盾にして、あの爆撃をしてくれれば・・・・・ッ!!!」

 

 現在の布陣、地図を広げて今後の行動、戦術を組み立てようとしている際にジークフリートは突如表情が一変し、緊張したものとなる。それは一同が感じ取り、更にはカルデア側からの通信が飛んできた。

 

 『姐さん。連絡だ。先程オルレアンから大きな魔力反応・・・それも英霊とかの規模ではなく、昼に見えた怪物の種類・・・それも竜種のそれが検出された』

 

 冬利から告げられる報告に一同が理解する。おそらくドラゴンスレイヤーとしての本能が察したか、ジークフリートはその特大級の竜とやらに反応、感じ取れたのだろう。

 

 「ああ、この感覚は・・・わかる。おそらくだが、あれが来たのだろう。俺に触発されたか、それともあの強さをうってつけとしたのか・・・邪竜」

 

 『ジークフリートが言うのなら、そうだろうなあ。奴さんら、英霊で頭数を揃えるよりも怪物で攻めるつもりなんだろうさ。オルレアンにはどんどんエネミーの反応が増えてきている。すでに今日の分よりも多いとカルデアの方はデータを叩き出している』

 

 「ジークフリート殿の言う反応にあれ以上の数ですと・・・! いくらここで迎撃が叶うとしてもアレを何度もぶつけられて竜まで来ては・・・・・・!」

 

 フランスの軍を率いて戦場にあり続けたジル・ド・レエ、そして自身の逸話、英雄譚、倒したかつての凶悪な竜。それを思い浮かべるジークフリート、これをデータで、何度も再計測してもむしろ悪化する敵の情報で不安の色を画面越しに感じられるカルデア。それとは別でストーム1とアルトリアは問題ないと笑い、華奈に至ってはどこ感度した表情すら浮かべる。

 

 それに周りが気づくと不安の表情は疑問の表情に変わり、視線が三人にい集まる。

 

 「御しやすいほうを、もしくは英霊では埒が明かないと考えましたかねえ? 下手に小細工軍略考える輩が呼ばれなくてよかったですよ。これならアレを使えます」

 

 「アンナから貰ったこれもありますからね。質の種類を変更、手数で来るならむしろ楽で済むのでありがたい」

 

 「俺個人としても英霊よりは怪物のほうがやりやすいわなあ。マスターの考えがあたったし、明日はアレでいくとしようか」

 

 むしろ何の問題もない、楽でいいとすら言ってしまう始末のメンバーに呆然としてしまう面々。その中でストーム1はジークフリートの肩を軽く叩き。微笑む。

 

 「明日は頼むぜ。あんたの言う邪竜なら、倒しやすいようにお膳立てはちゃんとやるからよ」

 

 「あ、ああ。頼もしいな。しかし、やつ以外でもあれだけの怪物をどうするのだ?」

 

 「それも問題ないです。少なくとも、ワイバーンならフランスの兵士の皆様でもいい演習扱いにまでできるようにしましょう。それでは、早速明日の陣地布陣、防衛手段の補強と新たな追加ですが・・・」

 

 「私の方はグレランを藤丸君にも渡しておきましょうか。確かガス式とバネ式のやつがあったはずですし。姉上。あれ、どこの区画にしまっていましたっけ?」

 

 『ああ、あれなら姐さんの自室の隣にいくつか・・藤丸くんが使うとなれば、電動式のモーター駆動のやつも用意しておきましょうか?』

 

 「では、そうですね・・・ロングボウは後ろに、騎兵は・・・守りの陣地ですから砲弾運び、伝令にして防陣の補強にしましょう。重装歩兵は長槍でも持たせ、あの不気味な怪物、リビングデッドの対策に砲兵と入れ替わりで最前線に出るように・・・」

 

 夜は更けていき、決戦のための再配置が練られていく。そして夜明けには布陣を配置し終え。敵を今か今かと待ち構えていた。




~早朝~

アルトリア「はい、藤丸君。これ、と・・・これですね。使ってください」
(グレランと弾薬を数発渡す)

藤丸「??? なんです? これ」

アルトリア「まあ、そうですね、タイミングを図って連絡しますので、その時に敵の中に撃ってくれたら大丈夫です。モーターでバネを引いて撃つのですがグレランが重いので反動も抑えめです」

藤丸「りょ、了解です(何をするんだろ・・・?)」

華奈「あ、きましたねえ。あれが噂の邪竜でしょうか?」

ストーム1「大きいねえ!」

ジークフリート「やはり俺が呼ばれた理由はこれか・・・ファヴニール。しかしまあ、頼もしい仲間がいる。すぐに退場してもらおう」





皆様あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。

フランスに行く前から怪物を想定していたストーム1、華奈達の備えの一つを次回で使っちゃいます。華奈も竜自体はヴォーティガーンや妖精郷に送る際にいくらかの経験を、ストーム1はそもそもが怪物特化の英霊。下手な戦略云々を考えたり思わぬ手を使いかねない英霊よりも二人にとってはそっちが楽な相手だったり。

アンナからもシチューをカルデアに送る際に頼んでいたものを手に入れているのでこれまた次回。

皆様、良い新年を、楽しい時間をお過ごしいただけたら幸いです。どうか風邪にはお気をつけてお過ごしくださいませ。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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それいけ! タイタン号~スモークチーズとスモークエッグのハムサンド~

華奈「ファヴニールが来ましたか。さーて、ジークフリート様、大丈夫ですか?」

ジークフリート「ああ、問題はない。しかしまあ、これで大丈夫とはな」
(華奈の礼装を装備中)

華奈「そりゃあ、一応神代、その時代の妖精のものですし。アタランテ様、ストーム。そっちは?」

ストーム1「お色直しはバッチリよん。取り敢えず、これなら軍団戦も問題ないだろ。アタランテにも渡してきた」

アタランテ「ああ、今左翼と右翼も回した。それと、私のわがままを聞いてくれてありがとう。失礼するぞ」

華奈「問題ないです。藤丸様? そっちはどうでしょうか」



~左翼、藤丸サイド~

藤丸「こちら藤丸。問題はないです。それと、本当に良いのですか? 英霊の半数近くをこっちにくれても」

華奈(通信機)「大丈夫です。それよりも、そっちは英霊が多い分、銀嶺隊と防御陣地は殆ど無いです。はっきり言うと昨日よりも大変ですよ? いいですか?」

マシュ「私がその分先輩をお守りします! 華奈さんもそんな中で舞台を回してくれて本当に感謝します。タレットガンも本当にありがたいです」

クー・フーリン「軍団戦も問題ねえさ。大将首は任せるが、もたつくなよ? 俺が貰うかもしれねしよ」

マリー「ウフフ。私の馬車で藤丸くんを守るから大丈夫よ! サンソンもアマデウスもいるし、怪我しても治しちゃうから」

サンソン「名誉挽回、しかもマスターの護衛を承ったのです。必ずや守り抜いてみせます!」

アマデウス「堅苦しいなあ。気軽に行こう。どうせ大将同士の戦いはあっちで、こっちはあくまで壁さ。ほら、昨日のワインの残りだ。そこらの絞りカスのものじゃなくて上物だぞ? いっぱいやらないか」

清姫「あら、流石にそれは駄目ですよ? 今は我慢、勝利の美酒のほうがもっと美味しくなりませんこと?」

藤丸「みたいです。勝てますし、こっちも大丈夫です!」

華奈(通信機)「了解です。では、武運を。それと、合図をしたらそのグレランを前に、そうですね。取り敢えず200メートル先に打ってください。最低でも2発。いいですね?」

藤丸「はい!」

華奈(通信機)「では、通信終了です。」




~中央~

華奈「今度は右翼ですね。ジャンヌ様、一言いいですか?」

ジャンヌ「ふえ? わたしですか?」

華奈「ええ、だって、またオルレアンを、今度はもっと大勢でもっとやばい敵とぶつかるのですもの。励ましてあげましょう?」

ジャンヌ「あ・・・はい! 勿論です! では、通信機を借りますね? えっと・・・スイッチは・・・」

華奈「あ、こうしてですね。ここのボタンを押している間は声が届きますよ。はい、どうぞ」





~右翼、ジルドレ、フランスサイド~

ジル・ド・レエ(セイバー)「むぅ・・・こうしてみると、改めて異様、そしておぞましいものよ・・・! 銀嶺と、そしてジャンヌに多くの方がいるとは言えこれは・・・」

ジャンヌ(通信機)「皆さん、聞こえますか?」

フランス兵一同「「!? おお・・・ジャンヌだ! ジャンヌの声が!?」」

ジャンヌ(通信機)「私達は、かつてのフランスの窮地を救い、そのために激戦をしました・・・その直後に私の側面かもしれない、竜の魔女と戦い、更にはこんな怪物の軍勢と戦うことになったこと、不手際、私の至らなさのせいでしょう。申し訳ありません・・・」

ジル・ド・レエ(セイバー)「・・・何を・・・何を言いますか! アレは国が、王が貴女を見捨てたから! それに、私が動けなかったからこそ! 皆で貴女がああならないように守り、国を救った恩に報いるために必死になれば防げたかもしれなかった! それを怠ったから・・・私達は・・・本来は一緒に戦うことなど・・・」

ジャンヌ(通信機)「でも、それでも嬉しいのです。苦楽をともにしたみなさんと一緒に戦えること、国のために旗を持ち、奉公できることが。この窮地に私がこれたことは、きっと神がもう一度チャンスをくれたのかもしれないです。・・・その、もう一度一緒に戦ってくれませんか? もう一度、今度はもっとすごい勝利をしませんか? 

もう私は倒れません、負けません。みなさんがもう一度私を信じてくれたから、国を守ろうとしているのですから、私はくじけません! 勝ちましょう! もう一度オルレアンを開放するのです!」

ジル・ド・レエ(セイバー)「・・・そうだ! もう一度我らのオルレアンを奪還するのだ! 銀嶺やアーサー王にも負けないほどの戦いぶりを見せるぞ皆のもの! あんな不気味ででかいだけのケダモノに負ければ一族全ての恥になると思え! 引き下がるな! 逃げるな! 騎士の魂を見せつけるのだ!」

一同「「オォオオォオオオ!!!!」」

ゲオルギウス「士気は十分。防衛陣地、銀嶺の補填もある・・ふむ、これならワイバーンにも引けは取らないでしょう。それと・・・このグレラン? を撃てば良いのでしたか。なんだか変わったものですねえ」

エリザベート「これだけの大勢の奴らを私のファンにできるかもしれないのねえ・・・! 大チャンスだわ! 踊りを仕込んだり、ヲタ芸を疲労したりくれたり、連携の取れた素晴らしいステージに! アイドルの底力を見せつけるチャンスよ! あんな気持ち悪いものなんてすぐにちょんケチョンしてやるわ!」




~中央~

ジャンヌ「ここまで聞こえてくる声・・・すごい・・・嬉しいです」

アルトリア「貴女もいい仲間に恵まれましたね。さて、旗を掲げてもらっていいですか? これがないと作戦は始まりませんし、アレを見れば皆の士気もさらに上がるでしょう」

ジャンヌ「あ、はい。これで私達の場所を教えるんですよね?」

アルトリア「ええ。まあ、あちらは理解できるそうですが、視覚的な意味でも挑発しようかと」

ジャンヌ「では・・・よいしょ」
(旗を高らかに掲げる)



~ジャンヌオルタサイド~

ジャンヌオルタ「ここに私はいるとでも言いたいのかしら・・・? それに、あの馬鹿剣士の姿も・・・良いでしょう、乗ってあげますよ! 中央が突出している上に目障りなやつに大将首もいる! ファヴニールで蹂躙して左右を食い散らかしてやればいいわ! 真ん中抜いて挟み込めば今度はフランス軍から潰せる! その後でもうひとりのマスターを殺ればいい!!」

ジル・ド・レエ(キャスター)「逃げずに、ここで待ち構えていたのが匹夫の勇だと思い知らせたげますよぉおおお!!!」



~カルデア~

ロマニ「始まった! 敵はまっすぐ突貫! 華奈の方にめがけて一直線だ!」

オルガマリー「まあ、わざと前に出ている上に数も少なめ・・・大将格、目の敵がいれば正解よね・・・ここを叩けば士気、指示のメンバーは潰れるし、戦力ダウンも大きいし」

ダ・ヴィンチちゃん「まあ、そこは想定しているからだろうさ。余裕みたいだしね~」

ロマニ「?? どういうこと?」

ダ・ヴィンチちゃん「いやね。シチューを貰った後、元からこんなのを貰ってさ」

(手紙)「ダ・ヴィンチ様には面白いものが見れますよ。あ、画面から離れてみてくださいね

                                  華奈より」

ダ・ヴィンチちゃん「だってさ。ほら、彼女はこういう嘘はつかないし、この天才が楽しめるものだろう? 後で映像で見るのもいいかもだが、皆のリアクション込みでどんなものか見たくなってね」

ロマニ「・・・・・・・・・うん、僕たちの緊張が馬鹿らしいものになりそうなのは想像がつくよ。もしくは、ベクトルが変わるか」

オルガマリー「画面から離れてって・・・テレビゲームやアニメの注意書きじゃあないんだから・・・」



 「■■■■!!!!!!」

 

 「エクスカリバー!!」

 

 始まったオルレアン解放軍と竜の魔女の軍団の総ぶつかり。黒の鱗に身を包み、ギラつく瞳を走らせては灼熱のブレスを数十メートルはあろう巨体から放つ邪竜、ファヴニール。その炎を打ち消さんと魔力を惜しみなく放出して解き放つアルトリアの攻撃が初激となり、以降は防衛陣地を組み合わせた解放軍の守り、怪物ゆえの膂力、俊敏さ、数で押しつぶし、殺し尽くさんとする竜の魔女の軍団。

 

 ワイバーン、海魔、リビングデッド。どれもが自身の力を惜しむこと無く活かし、人を喰らわんと殺到する。

 

 「大砲撃てえ!! その後はすぐに再度装填! 重装歩兵は前に! ロングボウは重装歩兵の上空を守れ! クロスボウは敵陣の中央を射って流れを切れ!」

 

 「魔猪部隊は大砲を後方まで牽引。魔狼部隊は矢玉の補充。投石部隊はひたすらに投げまくれ。魔術チームはワイバーンを寄せ付けるな。そこだけに集中すれば後はこちらの部隊の強みが生きる」

 

 それに対し、各部隊も奮戦し、軍ならではの連携、統率という形で集団の強みで立ちはだかる。なだらかな坂を使った逆落とし、沼地、防御柵での足止め、そこに重装歩兵で敵を押し留めて遠距離攻撃ができる部隊で数を減らす。

 

 大砲は装填に時間が掛かるがそこを銀嶺の魔獣部隊で補い、ワイバーンらも魔術に長けた部隊で僅かな穴も埋めていく。

 

 「クー・フーリンは目の前のワイバーンを潰して! 清姫は右サイドの敵を潰す! マリーは少しだけ前に出て! 馬車に付けたタレットガンを起動! マシュはその護衛に、アタランテも支援をお願い。っと! 本当に反動が軽いや。この銃」

 

 藤丸たちも負けてはおらず英霊の強み、個性を生かして数が少ない分その移動範囲の広さを生かして縦横無尽に暴れ回る。クー・フーリンで敵の崩しやすいところを潰し、清姫は接近する敵を焼き払う。マリー、サンソン、アマデウスは潰されて広がった隙間を機動力を活かして広げ、マシュはそこに入り込んで傷口を埋めさせず、マリーを護衛。アタランテはその楔役のマシュをサポート。

 

 藤丸自身も危険があるが、二度目ともあって慣れたか少しだけ余裕をもって対処し、銃の反動も慣れたか敵を牽制しながら自身も傷がないように立ち回る。

 

 「シャァアッ! ふぅ・・・数は多いですが、前線でみなさんが暴れるのであちらに集中していますね。でも、この数を一気にどうにかできるという華奈さんの考えはどういうものでしょう? 私の温存でますたぁと一緒にいることができるのはいいですが・・・」

 

 ちらりと藤丸の腰に下げているグレネードランチャーを見てつぶやく清姫。弾薬も数発と少なく、扱い慣れていないとも聞いている。それを必殺の作戦と言い切る華奈を疑う訳がないが、目の前で繰り広げられる激戦、その相手の物量に理解が及ばないと思ってしまう。

 

 「まあ・・・俺もわからないけど、きっと何かあるんだと思う。ストーム1さんも、また違った姿になっていたし。あれが切り札? なのかも」

 

 銃弾を打ち切ってリロードする藤丸も分かっていないとつぶやきつつ、なんとなくその切り札に予想を付ける。昨晩もごつい近未来的重装歩兵、もといどこかのアメコミのパワードスーツのような姿に変わったかと思えば早朝は違う姿に。それが勝利の切り札なのだろうと。

 

 「ああ、おそらくはそうだろうな。カナも言っていたが、あいつ・・・あのストーム1? は怪物退治の英霊なのだろう? 姿を変えたことやこれといい、前もって予想していたのだろう。あの光る筒とか準備が良すぎる」

 

 アタランテの言葉と同時に持ってきていた大きな筒が開き、黄色い光が周辺にいる藤丸、マシュたちに伸びていく。すると、藤丸自身は分からなかったが戦闘をしていたマシュたちはすぐにその変化に気づく。

 

 「あれ・・・? 手応えが軽く・・・・ではなく、衝撃や痛みが軽くなっています!」

 

 「おうおう。炎すらもさして痛くもねえや。むしろサウナの気分になるくらいぬるいねえ。ほれ、もっと強く来いや。これくらいじゃあ薄皮一枚も焼けないだろうよ」

 

 筋力ではなく自身の武装、防具、肉体が相手の攻撃に対して強い耐性、防御力を持つようになり、敵の数によって防げなくいくつか仕方なく貰うようなかすり傷や大きな一撃すらも軽いものになっていた。前線で大盾を振るうマシュ、動き回って敵とぶつかり続けるクー・フーリンらにはその効果はひときわ大きく、反撃に使える時間、意識を向けられるようになり結果的には攻撃力の向上につながった。

 

 次から次へと敵は無残な肉塊になり、それでも衰えない敵の勢いに負けじと英霊達も喰らいつき、一層戦場激しさをます。

 

 『おそらくはストーム1の道具・・・アタランテの持ってきていたあの光る筒? アンテナ? の効果だろうね。藤丸君、マシュ、みんな。敵も本格的に・・・ジル・ド・レエはあの怪物を、ジャンヌオルタは邪竜ファヴニールを使ってきた。それに対してストーム1も今宝具を使った。反撃に移るようだ』

 

 『それで・・・華奈の合図はそれが動き始めたときなんだけど。その・・・映像はつなぐわ。その時にそのグレポンを使って殲滅。後、注意なんだけどその弾を撃った後は少なくとも数百メートルは離れるべきみたい』

 

 カルデアからも通信が繋がり、改めて合図の準備と近況報告を伝えてくれるロマニとオルガマリー。ただ、どこか歯切れが悪いと言うか緊迫感がどこか抜けている。遠目からでも見えるほどの巨体と威容を見せる邪竜に触手の怪物。確かにこちらにも感じるほどの熱と炎を吹き出し、こちらの怪物の軍団の地響きとは別の振動が伝わる。

 

 これほどの相手を真っ向から、一番少ない中央でどう受け止めるというのか。アルトリアの宝具も邪竜のブレスと相殺となり、ストーム1の装備も昨日とは違うどころか銃器もなかった。華奈も武装は変えるつもりもなく、数名の英霊と僅かな銀嶺の仲間だけ。

 

 「あの炎でジャンヌも華奈さんも焼かれていないかしら・・・心配だわ」

 

 『じゃあ、通信をつなげるね』

 

 カルデアの通信映像が繋げられ、藤丸の目の前に映し出される中央での戦闘。その映像は藤丸の予想を裏切り、そしてロマンに火をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これで・・・これで今度こそあんたらを焼き尽くして、フランスを殺し尽くせるわ!! 邪魔すぎるし目障りだったのよ! 白い私も、ブリテンの英霊も! 私の邪魔をするな! 裏切られた復讐を果たすまでこの炎はやまないわよ!!!」

 

 「ジャンヌ、貴女はなぜ立ちはだかるのです! こんな豚どもと一緒に守る価値のない、裏切られた国の民草を守って何になるというのですか! なにも価値はない! むしろ英雄すらもたやすく見捨てる腐った性根、それを守れという神すらも汚らわしい恨んでもおかしくはないはず! 立ちはだかるというのなら、そこの畜生もろとも潰し尽くしましょうぞ!!」

 

 憤怒の炎と形相をほとばしらせ、触手の怪物、邪竜に指示を出して眼の前の敵、ジャンヌ・ダルク、華奈、アルトリアに攻撃を仕掛けていくジル・ド・レエとジャンヌオルタ。ジャンヌ・オルタ自身の放つ炎に怪物たちの巨体を活かした質量攻撃 、それに指示を与えるジル・ド・レエ。

 

 「おっと、おお・・・巨人との戦いを思い出しますね」

 

 「っと、やれやれ・・・こんな大きさではなかったですがね。大丈夫ですか? ジャンヌ」

 

 「は、はい! ですが、お二人は大丈夫でしょうか!? あの方もいない・・・っぶ! ひ、ひひゃが・・・・」

 

 それをひらりひらりと闘牛の攻撃をいなすように避けていく華奈とジャンヌを抱えたまま魔力放出で地面を滑るように避けていくアルトリア、そしてそのスピードの中で喋ったせいで舌を噛むジャンヌ。怪物の攻撃を逃げ回るだけで防戦一方。初激以降はアルトリアもエクスカリバーを放つことはなく、華奈もゴリアス99を牽制程度でしか使わないこともあって傍目からは一方的に追い詰める、嬲っているような光景にも見えないこともなく、これに気分を良くしたかジャンヌオルタは高らかに笑う。

 

 「あっははははは!!! 踊れ、踊り狂え! 昨日の消耗が回復しなかったのかしら!? 余裕なその面をそのまま焼き尽くしてあげるわ! 私の復讐の悲願を邪魔したあんたらには塵芥にするだけじゃ収まらないわよ! ファヴニール! 全てを、コイツラの魂までも焼き払いなさい!」

 

 邪竜の口に再び熱気で周辺の景色が揺らめくほどの熱、炎が集まる。再び放つ灼熱のブレス。更にはジャンヌオルタ自身も炎をたけらせ、漆黒の槍にまとわていく。そして互いの炎をひとまとめにして一気にうち放つ。人を害する怪物の中でも指折りの大物、邪竜ファヴニール。自身を裏切ったものをすべて許さないと燃え続ける復讐の聖女ジャンヌオルタ。二人の放つ煉獄すら生ぬるいと思えるような業火の波。

 

 「ほら、今ですよジャンヌ。貴女の守りが、反撃の狼煙です」

 

 「・・・・はい! 宝具開帳!」

 

 そのタイミングに待ってましたと言わんばかりにアルトリアはジャンヌをおろし、ジャンヌもまた旗を掲げる。その旗は聖なる旗。それを掲げれば味方は奮い立ち、奇跡とも言える大勝を手にもした。

 

 「我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

 掲げた旗から放たれる神々しい光。旗から一定の距離を天使の祝福によって守護するものとなり、ジャンヌ・ダルクの規格外の対魔力を物理的な防御力としても行使。並大抵の英霊は愚か大英雄でもたやすくは砕けない鉄壁の守り。

 

 それでも尚復讐の炎、あらゆるものを殺し尽くす獄炎のブレスには押され気味になるが、それすでに織り込み済み。サポートのために華奈の深山を突き刺して炎の勢いをそらす石壁を作り上げ、更には陽炎の力で邪を払う力でジャンヌ自身に襲い来る炎を和らげていく。更にはストーム1の用意していた、中央、左翼、右翼に配置していた筒が開き、守り、防具の強さをますガードポストが開いてアンテナ状になったかと思うと華奈たちに光を飛ばし、さらなる守りの布陣を整える。

 

 時間にして十数秒、それでも永遠に思えるほどの時間を感じ、炎が目の前を見えなくなった後にジャンヌの目の前に映る景色は自身、華奈達の周辺以外は全て炎で焼け焦げて灰と焦土と化した地面、そしてこの攻撃に耐え抜いたジャンヌに怒り狂い、表情を歪ませるジャンヌオルタとなぜ耐えられたのか分からないといった表情のファヴニールだった。

 

 旗を見るといくらかのダメージはあるものの、その美しさ、旗印はしっかりと残り、小さく息を吐く。

 

 「はぁああ!!? 何であれを耐えるのよ! あんたみたいな田舎女がどうして!? 英霊としての馬力もないくせに! どうして、どうして!!!!」

 

 「約束しましたから。もう一度オルレアンを開放すると・・・・・そして、もう倒れないと。それに、私だけではないです。神と、神が与えてくれた運命で来てくれた皆がいるから、助けてくれるから私は立っているのです」

 

 開戦前に飛ばした自分なりの、拙い激。でもそれは自分の正直な思いであり、願い。その姿勢を、心を理解できず、理解もしたくないと憤るジャンヌオルタ。そして、どこまでもまっすぐで気高く、優しいそのあり方に一瞬目を奪われるジル・ド・レエ。

 

 「ッッッ!!??!?~~~~~~~~~~!??!?」

 

 そのあり方に目を奪われて忘れていた。もうひとりの戦力。怪物殺しの、ある意味では一番不明で、不気味な英霊、ストーム1の存在を。

 

 気がつけば、地面かに転がる発煙筒。空にはなにかの輸送機が2機。どちらも特大のコンテナを積んでおり、それが発煙筒の上、ジャンヌの眼の前で投下された。どちらも脆くなった石壁をぶち壊し、灰を、焦土と化した土を巻き上げて地面につく。

 

 「!?」

 

 「なっ・・・!」

 

 土煙が収まり、コンテナのロックが外れて中身が、シルエットが徐々に露わになるにつれて距離をとっていたアルトリア、華奈、そしてストーム1以外の全員が引きつった表情を、もしくは驚愕の表情を浮かべる。

 

 「今度はこっちのターンだ。逃げられると思うなよ?」

 

 一つは二足歩行型ロボット。丸底の足に腰に当たる部分は何らかの箱? がセットされ、頭部に当たる部分は顔もなく、両端には砲台が付いていた。その大きさたるや四階建ての建物よりも遥かに大きく、鋼の身体がまだ炎残る地面の上に堂々と佇む。

 

 もう一つは戦車。しかし、その大きさと砲台、何もかもが規格外で陸上戦艦と言ってもおかしくないほどの威容を見せて威圧してくる。その主砲のデカさは城を壊すための特大サイズの大砲にも匹敵し、こちらを撃ち殺さんと睨みつけてくる。副砲ですらも並のものではなく、とことん火力、破壊力に特化した怪物。

 

 決戦兵器プロテウス、巨大戦車タイタン。怪獣サイズの相手だろうともひるむこと無く立ちはだかる2つの兵器の登場に皆が視線を向け、そしてそれを用意したストーム1を見る。ストーム1はいつものレンジャーでもなく、昨日見せたフェンサーでもなく、レンジャーに近い格好。だが、フルフェイスのマスクに背中には巨大な通信機器らしきもの、アンテナを乗せたものを背負い、ゆうゆうと歩いてきた後にすぐさまプロテウスに乗り、銀嶺のメンバーもすぐさま砲台、中央に乗り、タイタンにもまた用意していた銀嶺のメンバーが乗り込む。エンジンが掛かり、現代でも見ることはないであろう馬鹿げたロマン兵器の塊が動き出し、邪竜、怪物の群れに、復讐者たちに向かって歩を進めていく。

 

 

 

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 「あっははははは!!! っははははっははあっはあっっは!!あ・・・ひぃ・・・ひぃ、ヒィ・・・・なんだこりゃ! こんな兵器があったんだね! 戦車に二足歩行兵器!!! ああ、これはイイ! こんなおもしろ兵器を見せられるなんて! 帰ってきたらすぐさま解体したりして仕組みを勉強したい!! 華奈、ストーム1め、こんな隠し玉があったなんてフェンサーといい、しっかりと問い詰めなきゃ!」

 

 「・・・・・・・うん、なんだろうこの特撮見てる気分。怪物がもう悪の戦闘員にしか見えなくなってきた。しかし、あのガードポスト、守りの全体補助だなんてこれは凄い・・・カルデアにも配置できないかな?」

 

 「あ、あんな乗り物を・・・複数? しかもあの守りの宝具とか、昨日の槍とか・・・彼自身のスキルを考慮しても・・・とんでもないジョーカーね。クラスチェンジに武器の譲渡でも異常なのに。本当に凄まじい英霊・・・私も、理解しなくちゃ」

 

 「おぉ・・・・華奈さんこれを持ってきたか。うん、そりゃああのゲームしているなら考えるだろうけども・・・あ、合図だけど藤丸くん理解できているかな?」

 

 「あ、姐さん・・・・うん、もうなにするかわかったなあ・・・アルトリアさんも」

 

 「かっこいい・・・・・・・」

 

 

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 『藤丸君! 合図だ! そのグレランを敵の方に打ち込んで!』

 

 巨大戦車と二足歩行決戦兵器が巨大な竜と触手の怪物に立ちはだかり、敵の群れの中に進んでいくという特撮映画、ロボットアニメじみた光景を映像越しとは言え見せられ、すっかり男の子回路前回の藤丸のほうにロマニからの声が飛び、しばし見とれていた藤丸も我に返る。

 

 「りょ、了解です。マシュ、クー・フーリン下がって!」

 

 「はい!」

 

 「問題ねえマスター!」

 

 最前線にいた二人が戻ったことを確認し、すぐさま背中に下げていたグレランを手にし、敵の中央にめがけて打ち込む。赤い煙を巻き上げながら発射した弾丸は着弾してもパン! と小さな爆発をしただけ。大爆発、もしくは毒ガスを考えていた藤丸は煙が風に流される様子を呆然と眺め、風に煙が全て流され切る前にもう一つ変化が起き始めた。

 

 我先に我先にとワイバーンが着弾地点に殺到し始め、まるで母豚に群がる子豚のように、あるいは砂糖菓子に群がる蟻のように互いに押し退けあい、押しつぶし、爪や牙で傷つくことすらも厭わず殺到している。

 

 『うひゃあ!? なんだこれ! さっきまでいたワイバーンたちが回れ右して着弾地点に向かっていったぞ!?』

 

 他の戦場でも同様の変化が起きているようで遠目からも空に散っていたワイバーンが一箇所に集まり、ここを含めて3つの地点に黒い肉の渦が出来上がっていた。きっと空からこの光景を見れば黒い雲がキレイに分かれていく光景が見えていることだろう。

 

 

 

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 「久々だったけど、あれだけの量があれば作れるものね。メディアさんの助けもあって一番の出来かも」

 

 「ふふふ・・・ワイバーンのフェロモンや糞尿に血。集めるためのものを凝縮し、そういう概念を活かした魔術を仕込んだワイバーンホイホイ。さすがはアンナ。いい仕事するじゃないの」

 

 「海魔は宝具みたいだし用意は難しかったけど、ここまでできれば問題はないね」

 

 「ええ。後は華奈様達の攻撃であの怪物たちを倒すだけ。ストーム1様のあのメカとジークフリート様の攻撃でもう決まるでしょうね」

 

 「うっわ・・・少し気持ち悪いわね・・・道具の素材と考えればお金の山なんでしょうけど」

 

 「現代の魔術師の私達からすれば文字通り金の延べ棒が集まっているような状況です。いくつかはご飯になるんでしょうけど」

 

 「あ、それなら今度は炊き込みご飯にするとか言っていたわね」

 

 

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 「こ・・・・これは・・・! これほどとは! 砲兵! 全砲門をあのワイバーンの群れに放て! 一匹も生かして帰すな! ここで叩くのだ! うてぇええい!!!」

 

 ワイバーンの戦力が減り、一気に楽にあった戦場の変化を動揺しながらも逃すはずがなく、ジル・ド・レエ元帥はすぐさま指示を飛ばし、先程まで自分らを食い殺そうとしていた怪物を殺せる千載一遇のチャンスを手にするために吠えるように指示を飛ばす。

 

 「了解! 一斉射! ってえぇ!!」

 

 それにすぐさま応えるはフランスの軍の中でも指折りの勇猛な砲兵隊。鉄くずやワイバーンの牙を詰め込んだ散弾、ぶどう弾でワイバーンに絶え間なく砲撃を続け、砲身にヒビが入ろうとも決して引くことはなくワイバーンだけに攻撃を打ち込む。

 

 それをモロに受けてワイバーンはみるみる数を減らし、それと同時に兵士の声と砲声が戦場に響き渡る。海魔はまだ残っていたが怪物の戦力を半分、それも砲兵の一部隊で対処して抜群の効率で屠っている。危険であるのは確かだが、空中からの強襲ではなく白兵戦で対処できる分兵士との相性も悪くはない。

 

 むしろ防衛陣地や高まる士気の効果もあって守りの姿勢は変わらないが決して心は折れることはなく、敵を殺さんと吠え立てて武器を振るう兵士が増えていくばかり。

 

 「根性見せていいじゃないの子豚共! ほらほらほらぁ~~! ライブも戦争も燃え上がってこそよ! 次のナンバーいくわよ!」

 

 「今こそ反撃の時! さあ、竜も恐れるものではなく倒せるものなのです! 皆で竜殺しになりましょう!」

 

 そしてそんな兵士たちの戦う姿に指揮官、前線を支える英霊達も振るいたち、薄い部分や敵を効率よく刈り殺せるように動き続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何なのよこの化物は!! ファヴニール、焼き尽くせ!」

 

 眼の前にゆっくり、ゆっくりと歩を進めてくるプロテウスとタイタン。巨大な鉄の塊がジリジリと迫りくる様にファヴニールに指示を飛ばして迎撃を試みるジャンヌオルタ。しかし、その程度の、一度の炎程度で壊れるようなやわな作りをしている乗り物ではなく、EDF謹製、異星人との戦争でも戦えるその頑強さを遺憾なく発揮し、一部の装甲を溶かされようとも問題なく動き続ける。

 

 「よし。砲撃開始、敵の動きを止めることこそ肝要と捉えろ!」

 

 ストーム1の無線機で指示を飛ばし、いよいよ2つの兵器の砲が火を噴く。タイタンの主砲から放たれる自身の体すらも後退させる反動で放たれるレクイエム砲で超巨大海魔の身体を吹き飛ばし、副砲から放たれる巨大な砲弾が触手を引きちぎり、こちらを締め上げ、引きちぎろうとするそのうねるムチを次から次へと穿ち、切断していく。

 

 プロテウスもそれに負けじと2つの腕のように付いている砲塔から砲撃を開始し、ファヴニールの翼と顔を重点的に、間断なく撃ちまくる。たとえ鎧のような鱗や皮を持っているファヴニールであってもストーム1の特攻スキルが突き刺さり、衝撃と連射に炎を吐けどもさほど動けず、互いに真正面からの殴り合いを強制される。

 

 それを邪魔しようとジャンヌオルタもワイバーンや海魔に指示を飛ばすがワイバーンは強力な餌につられて動けず、海魔は来ても腰の部分にあるミサイルがいくつも飛び交って海魔を爆散。ジャンヌオルタの用意した切り札は2つともストーム1の用意した兵器に完全に押し込められる形になった。

 

 「っち・・・! ダメージは食らっているのならいずれ壊せるんでしょう!? やってやるわよ!」

 

 しかし、ジャンヌオルタもプロテウスやタイタンの消耗具合に目をつけ、同時にファヴニールの様子を見て時間さえかければこの2つも破壊できると思考を切り替える。今すぐに壊せるわけではなさそうだが、ダメージレースならこちらの方に今のところは軍配が上がっている。変な黄色い筒の防御加護で先程は白いジャンヌは完全に攻撃を防がれたが、この2つのメカは攻撃型の宝具、ないし防御は装甲に頼る部分が大きいのだろう。

 

 なら焦ることはない。物量作戦はまだ終わっていない。少なくとも、中央のジャンヌオルタにジル・ド・レエ。二人の持つ聖杯に魔術の本で怪物を召喚できる限り増援は呼び出すことができ、変な薬に惑わされるワイバーンではなく海魔を呼び出して白兵戦で押しつぶせばいい。

 

 そうだ、互いに主力を押し留めているのだ、そしてその切り札の切り合いはこちらが勝っているのだ。焦ることはない。丁寧に、念入りに目の前のゲテモノ兵器を鉄くずに変えてしまえばそれであのへんてこな軽口男を潰して怪物を塵芥に屠る敵の戦力を減らせるのだから。

 

 「ッハハハハハハハ!! なぁあんだ! 大したことはないのね。ただデカイだけの鉄くずじゃないの! そこら辺のカノン砲がまだましよ。そのままあんたらの棺桶にしてあげるわ!」

 

 「押し返せてはいるがそれだけ! 所詮は我らの復讐を止めるにはそれだけじゃ足りないのですよ! いえ、幾千の武器であろうとも、炎であろうとも止められないのです!」

 

 気勢を上げ、ますます炎の勢いを増す邪竜の炎の渦はもはや質量を持った壁とも思えるほどで、タイタン、プロテウスの装甲を溶かしていく。

 

 砲塔を冷却するためのシステムは用をなさずに赤くなり、関節部分は溶けた金属が絡まるせいで動きが鈍る。ギギギ・・・・と嫌な音を上げ、無理に動かそうとするせいで装甲やパーツが歪み、ひしゃげている。

 

 しかし、それでも進み続けるタイタンとプロテウス。一見無理な進軍だが、その実効果はあった。炎や怪物の大部分を真っ向から引受け、対処しつつ進み続けるお蔭で白いジャンヌへの被害は大変軽いもの、それこそガードポストの保護効果だけで対処できるほどに。

 

 そして、その余裕から残しておいた銀嶺隊の兵士に渡しておいた武器をその兵士は何の焦りもなくタイタンとプロテウスに構え、弾丸を発射した。

 

 「援護が来たか! よし、進軍を継続! 全部気合と一緒に敵に撃ち尽くすまで撃ちまくれ!!」

 

 緑の粉塵の大爆発が起こり、その爆風たるや炎すらも押し返し、2つのメカのシルエットすらも隠してしまう。数度の緑の爆発が起こり、その直後に煙の中を現れるは装甲の融解、砲塔の冷却すらも済ませて完全に復活をしたタイタンとプロテウス。

 

 リバースシューターの爆煙、そしてそのナノマシンで修復を終えて一直線に突き進み、ひたすらにファヴニール、大海魔に肉薄して抑え込むための砲撃を叩き込み続ける。その砲撃を持ち前の再生力で耐える大海魔、装甲で耐え抜くファヴニール。しかし、その邪竜ファヴニールから余裕の色が消える。

 

 「あぁあああ~~~!!! どこまでしぶといのよ・・・・・? どうしたのよファヴニール? 何を怯え・・・・」

 

 「・・・・・ここまでやつを押さえつけ、俺の接近を可能にさせるとは・・・本当に何もかもがハチャメチャな戦士たちだ」

 

 指輪を外し、英霊としての気配を露わにしてゆうゆうと剣をファヴニールに構える精悍な男性。軽めの鎧に長い髪、そして、鋭い眼光に戦意を乗せて真っ直ぐに、怯みもせずに邪竜を見据える。

 

 「な・・・何よあんた」

 

 「分かっているだろうな。逃げられん、そして火を吐いても無駄だ。お前の悪行はこれ以上はできん・・・」

 

 その仕草一つ一つに、歩み、距離を縮める度に邪竜は動揺し、怯える。かつて自身を殺した英雄が来た。天敵が、最悪の敵が。逃げたい。逃げて、殺すにしても機をうかがうか自身の頭の上で檄を飛ばす主に手を貸してもらって貰うべきだ。そう考える。

 

 だが、それもできない。空に逃げるための翼は砲撃で動けなくなっている。炎を吐くための口にも同じ。地面を蹴るための足はミサイルで足場を崩されて今すぐには動けない。主も、動揺しているのと何度も撃たれている砲撃の衝撃で自由が効かないのか動けていない。そして、何よりもあの英雄が今すぐにでも自身を殺せる距離にまで近づいてきている。

 

 「俺がこの場所に呼ばれた役割を果たすために、お前に民草を殺させないために。この機会と、暖かな食事をくれた恩に報いるために・・・今一度倒れてもらう・・・・・ファヴニール!!」

 

 剣を構え直し、柄の宝玉に溜め込まれた神代の魔力を放出して剣気と共ににまとわせる。すると、そのただでさえ巨大な長剣にはその数倍の蒼い光の柱がほとばしり、赤と黒と緑に染まった戦場を蒼く照らし出す。

 

 「ジャンヌ! お・・・・・さい・・・は・・・・その・・・・・・え・・・・れ・・く・・・」

 

 魔力の爆風と砲撃の嵐で叫ぶジル・ド・レエの声もまともに通らない。ファヴニールの様子と英霊の関係にようやく察することが出来たジャンヌオルタも指示を飛ばすもすでに手遅れ。わざわざ接近し、執拗なまでに攻撃をし続けて視界と耳を集中させ、さらにはこちらの攻撃と緑の爆煙で何度も意識をそこに向けられることで接近をまんまと許してしまった。魔力の放出は臨界点に達し、ジークフリートはその竜を殺す技、宝具を開放して上段から振り抜く。

 

 「幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 放たれた剣気と神代の魔力、新エーテルの一撃はファヴニールの胸のど真ん中に命中。タイタン、プロテウスの砲撃の雨あられにもダメージを与えることが叶わなかった鱗も皮も全て切り裂いて砕け散り、その巨体を支える筋肉を、骨を外気にさらして血の噴水を吹き出させる。

 

 「■■■■■!!?!?!!!?」

 

 心臓を切られてなおも苦しさでもがき、生き抜こうと暴れるファヴニール。その竜種としてのふざけた生命力と生きようともがく生存本能はすぐさま力尽きてもおかしくない体に活力を与え、飛び立とうと羽を必死に羽ばたかせようとし

 

 「ゲームセット・・・これでおしまいだ」

 

 ストーム1の搭乗していたプロテウスの2つの砲門が一気に頭部を打ちのめし、ミサイルの雨をファヴニールに叩きつけて動きを鈍らせる。それを見逃すほどジークフリートも馬鹿ではなく即座にファヴニールに肉薄、足から駆け上がって首に近づき、一閃。

 

 巨大な邪竜の首は綺麗に転げ落ち、ズゥウン・・・・と地面に落ち、しばらくした後完全に光を失い、息絶えた。

 

 「・・・大将の方も、上手く行ったようだな」

 

 「は・・・? え、あ・・・ジル・・・え、じ、る・・・・・・・?」

 

 ファヴニールが倒れ、自身も地面に落ちたジャンヌオルタもすぐに身を起こし、プロテウスの運転を止めて降りるストーム1に殺意を向けるも、こちらのことなど我関せず。そして自身の感じる気配、その中で自身の一番近くにいたはずの相手、そしてあの威圧感を放っていた大海魔の存在の消失。ストーム1の視線の先にはタイタンに乗っていた、そう思っていたはずの二人の女性が立っており、ジル・ド・レエが持っていた聖杯を手にしていた。

 

 宝具の所有者の消失。宝具の損壊、更には魔力の源泉の所有者変更。これにより、周辺に地面を埋め尽くすほどいた海魔も動きが鈍り、消えうせていく。残りのワイバーンも一塊になっていたせいですぐさま対処されていく。

 

 「ミッション完了。これで特異点は直に解決でしょうけども」

 

 「まだ、彼女をどうにかしなければいけませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ジークフリートがファヴニールに宝具を放つ少し前

 

 「何だ、あの怯えようは・・・まさか、まさか・・・・!」

 

 大海魔の攻撃ではファヴニールの炎に自身の触手も焼きかねないと判断し、タイタンの相手のみに集中していたジル・ド・レエ。しかし、一度緑の爆風で炎を攻撃も弾き飛ばされ、少しの間の隙間が入ったその瞬間、現れた存在。そしてそれに異様なまでの反応を示すファヴニール。

 

 クー・フーリンにも、アタランテにも古代の大英雄たちにも何ら反応を返すことのなかったあの邪竜が怯えている。眼の前の鉄の怪物たちにすらも少し面食らっただけですぐに反撃を開始していた。そうなれば本能的な恐怖、もしくは、かつて邪竜を下した英傑、天敵の存在。

 

 そうでなければ物量戦でそれこそ英霊の存在は必要な駒。一人でも欲しい存在をここまで隠す必要はない。

 

 (こちらがあちらの動きを監視できるように・・・あちらも何らかの手段でこちらの手段を察知して・・・・もしくは読まれていた! あの馬鹿コンビのメチャクチャな戦い方と、戦略的価値を含めてまんまと意識を釘付けにされすぎた・・・・!)

 

 ワイバーンに海魔という怪物を、竜を屠る上で強力なジョーカーをあえて隠し、全力を最大限暴れられる距離で振るう。そして、あの化物2つを維持させる保険も使いつつ、確実に、投入できる最高火力で屠る。そのためにもわざわざ派手な手段を用い、何度も視界を塞ぐ真似をし、攻撃が通らず、足止めがせいぜいという不利な状況も少し「演出」してみせた。

 

 「ジャンヌ! お逃げください! あれは危険です! ここで投入されたということは相手の切り札です!!」

 

 おそらく邪竜は倒される。そして、その次はこちら。再生力で対処してはいたが、あの戦車の火力に加えて二足歩行のヘンテコ兵器の砲弾とミサイルの攻撃まで加わればこちらの大海魔もなにも出来ないままにミンチにされるのがオチだ。よしんば物量で張り合えてもあちらにも回復手段はある。殴り合うのはあちら側からすればむしろ望むところだろう。

 

 他の戦場でもこちらが不利に動いている。だからこそここで確実に勝ちを拾えるようにしたはずなのだが、そうでは無かったようだ。

 

 まだ勝ちの可能性はあるかもしれない。ただ、それを拾うには今はここを離脱する必要がある。相手の次の手が打たれる前に。

 

 「お逃げください! ジャンヌ! お逃げください! それはいけない! その英霊は天敵! その英霊はおそら・・・・く・・・?」

 

 「遅い、そして、意識を簡単に移しすぎです」

 

 全力で声を出すジル・ド・レエ。しかし、それも砲撃と爆音に遮られ、満足に届かない。宝具の解放までされ、大海魔を壁にしようと魔力を流し、指示を飛ばそうとしたが、果たしてその本を握っていた手は切り落とされ、本は目の前で剣に突き刺され、魔力で消し飛ばされた。

 

 「私達がタイタン、プロテウスに乗っていると思っていましたか?」

 

 銀の髪の女性、憎き女がジル・ド・レエの両腕を両手に持つ脇差で切り落とし、更には金糸の髪の女性が背後から右に持つ聖剣でジル・ド・レエの首を横薙ぎに斬りとばす、そして念入りに心臓の部分にもう一振りの聖剣を華奈と共に突き刺し、完全に霊核を破壊。復讐に燃える堕ちた英雄は。二度目の生を手にしても尚道半ばに潰えた。

 

 「聖杯確保完了。ふぅ・・・アルトリア様、大丈夫ですか?」

 

 「問題ないです。大成功でしたね。ジェット突入作戦」

 

 聖杯を確保し、敵の片方を倒した二人は魔力も宝具の持ち主も消えた大海魔の消滅から逃げるようにその消えかけている肉塊を足場に降りていく。

 

 今回の作戦もシンプルなもの。ひたすらに派手な手を打ち続け、隙を見計らって敵の片方を確実に倒すというもの。タイタンとプロテウスという巨大な乗り物で目を引き、その火力と頑強さで目を引いている間にアルトリアと華奈は一度縮地と魔力放出で戦線から一時離脱。ファヴニール自身の放つ炎と敵の群れ、白いジャンヌにタイタン、プロテウスを操る目の敵のストーム1に視界も意識も持って行かせ、聴覚は爆音と炎、更にはこの数の行軍で地響きや音も相当なもの。女二人が離脱するのは訳もない。

 

 そして、ワイバーン対策の戦況の変化、リバースシューターの爆風と視界妨害、そして回復する乗り物の仕切り直し、その中から出てくるまだ隠していた戦力に意識を引かせる。そうしている間に今度はアルトリアの聖剣2つからの魔力放出でのジェット噴射で一気に距離を詰め、怪物の上にいるうちのどちらか、今回は司令塔であろうジル・ド・レエを狙い成功。

 

 ひたすらに派手に戦い、順番に用意しておいたカードを切る。それに気を取られたうちに敵の大将の虚を突いて本陣に接近。そして首を取る。戦術としては初歩的なもののいくつかを組み合わせたもの。しかし、その組み合わせがこの戦場と敵将に噛み合ったことで効果は絶大。

 

 「ミッション完了。これで特異点も直に解決でしょうけども」

 

 「まだ、彼女をどうにかしなければいけませんね」

 

 戦場の趨勢はほぼ完全に決した。しかし、大将格はまだ残っている。竜の魔女。この戦いを、特異点を引き起こした元凶の一人。彼女を完全に討ち果たさなければいけない。

 

 ジル・ド・レエを討ち果たし、聖杯を確保した後であってもアルトリアと華奈の目には緩み、油断は一切なく、剣を抜いたままジリジリと距離を詰めていく。

 

 遠くからはもう周辺の敵を鎮圧したのか藤丸達の声も聞こえ、こちらに近づいてきているようだ。このフランスでの最後の戦いが終わろうとしていた。




~???~

???「うっはははははははは!!! なにあれ! 何じゃあれ! 鋼鉄のからくりに回復する緑の爆煙!? 炎も鞭打も意に介さずに進み続けるとかマジ欲しいんですけど! しかもその後からのロマン全開の真っ向の殴り合いじゃなくて伏兵に不意打ちとか、いろいろと期待を裏切っていって面白すぎるじゃろ!」

???「しかも、その不意打ちもお見事。剣の腕もそうですが、相当に修羅場なれしているようですね。まあ、英霊ですから当然でしょうが。一緒に仕事ができたら楽しいでしょうね」

???「あの最新式の銃に美味しい料理に狼すらも軍隊規模で従える。兵士の戦いぶりも悪くはない。ふぅむ・・・・よし! 決めた! ワシ、あそこに行く!! ワシの物語第・・・・何部じゃ? 分からんが、とにかくあそこに行くんじゃ! そうと決まれば土産じゃ土産! 仮にも働きに行くんじゃし! あ、感状って必要かのお?」

???「え? は? ちょっ! ちょっと待ってくださいよ! いきなり過ぎませんか!? しかも感状とか貴女送る身分でしょう!?」





今回でファヴニール退場。そしてジークフリート大手柄。ジル・ド・レエも退場です。

フェロモンなどの成分を使った特性のワイバーンホイホイ。そしてそこに英霊や砲兵の火力を一気に叩き込んでぶっ飛ばそう作戦。ブリテン時代に戦い続け、そして自身の部隊にもワイバーンがいた魔術師、アンナと天才若奥様メディアの二人だからこそ出来た代物と言ってもいいのでしょうか。

タイタン、プロテウスは共にEDFシリーズでは大型の頼れる兵器、そしてネタ方面でもプレイヤーに愛されている兵器ではないかと思っています。

巨大戦車マウスよりも巨大であろうタイタン。EDFシリーズでも歩兵の壁役、相手を押し込む火力役として登場しています。デカさには皆興奮する部分があるかも。

プロテウスは4人乗りの決戦兵器。シリーズでも切り札のような扱いで登場するステージもあります。そして、実際に使いこなせば本当に強いです。敵の巨大兵器同士の殴り合いも普通にできちゃうほどには。

そして、ストーム1の3つ目の姿。エアレイダー。いわば戦場の指揮官、司令役とも言えるタイプの兵種で衛星兵器や空爆、砲撃の要請、味方を助ける防護壁や今回のガードポストのような攻撃力や防御力を上げる変わった装置を使用できます。

他にもレンジャー以上に多種多様な乗り物を戦場に送ってもらうように要請できるので色んな意味で味方との連携が取りやすい兵科かもしれません。

後2話くらいでフランスは終了。になるかもです。ペースが遅い上に駄文ですが、これからもどうかよろしくおねがいします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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維持と根性の大一番~キャベツとじゃがいものワイバーンの喉肉の包み焼き~

前回書き忘れていましたが、お気に入りがとうとう500人超えという。凄いことになっていました。本当に、私みたいなアホ、馬鹿な輩の作品を読んでくださり、応援してくださりありがたいことでございます。

私の更新ペースが落ちていたりしていますが、更新された時はのんびり、暇つぶしに見てくだされば幸いです。華奈、ストーム1達の馬鹿騒ぎを少しでも楽しんでいただければ本当に嬉しいです。皆様もどうか風邪、インフルエンザにはお気をつけてお過ごしくださいませ。

そして、どうぞ本編をどうぞ。長々と失礼しました。


 「・・・・は? 嘘・・・な、なん・・・なんで・・?」

 

 突然の戦況の変化。ワイバーンのみならず海魔も消え、邪竜は死に絶え、そして頼れる相棒役、仲間のジル・ド・レエまでもが気づかぬうちに倒されていた。幾ら何でもたちの悪い冗談だ。そう思うも現実というのは皮肉なもの。ジャンヌオルタの目の前に映るは憎々しい白いジャンヌに華奈、ストーム1、そして片方の戦線にいたはずのもうひとりのマスターと英霊達が駆けつけて自分を遠巻きに取り囲んでいる。

 

 2つのゲテモノ兵器も壊せず、戦線を一つも突破できず、用意した英霊も全員倒されるどころか二騎は契約を解除されて敵対される。そして、相棒も切り札も通用しなかった。何もかもが空振り、無駄に終わったのだということを嫌でも突きつけられていく。

 

 「っ・・・ふふ・・・ふふふふっ・・アハハハハハハ!! ッハハハハハ!!!! ああ、これが、これが私の結末だというの!? おかしいわ! 可笑しすぎちゃう!」

 

 そして、突如タガが外れたような高笑い。心底おかしいとでも言うように右手で顔を隠し、大口を開けてケタケタと、よく通る声で笑う。

 

 「かつてはそこの白いのみたいに国のために、神の声に、使命とやらに従って! 殉じて・・・あらがって! 救ってみせたというのに、最後は裏切られ! 落ちぶれ! 辱められ! 聖女から魔女となって神の教えを説く輩からも裏切られた!!」

 

 ジャンヌの方を指差し、かつての半生を思い出し、今度は憤怒の怒りを露わにし、旗を何度もガンガンと慣らして憤る。かつて神の声を聞き、国のために立ち上がって戦い抜いた数年。その後の王や宗教界、民草の手のひら返し。救国の英雄は一転して汚らしい魔女。落ちぶれるところまで堕ちたジャンヌ・ダルクという女性の悲劇の最期を、それを起こした輩をどこまでも許せないと文字通り炎を巻き上げて怒りのボルテージを上げる。

 

 「このことに私には正当な復讐する権利がある! 無かろうがやり通す! ここまでの仕打ちを何故受ける!? 敵国ではなくて味方、故国からなぜ受ける必要があるのよ!! 私をかばってくれて、その後のフランスを知るジルもやるべきだと言っていたのに! そこのよその連中が邪魔して! 手駒のみならずジルも殺してくれた!! これが神のおめぼしと言うなら理不尽、手前勝手極まるというもの!!!!」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 ジャンヌオルタの独白に、自身に再び激を入れているであろう言葉の内容をジャンヌは一つ一つ噛み締め、そして、もう一人の自分、側面だと語る女性の声に目を閉じて真摯に受け止める。

 

 今までひたすらに変わり続けた戦場での日々に、その後の陰惨な裁きまでの時間。英霊となってすぐさま呼ばれたせいで深く思い返せず、そして同様にこの戦争でも目まぐるしい戦いの時間に忘れていたが、なるほど、客観的に自分に起こったことを見れば、それによる感状に振る舞わされているジャンヌオルタという女性の受けた精神的、肉体的ダメージは計りしれず、理不尽なものだ。

 

 「この怒りを、炎を作っておいて今更被害者ぶるな! 悲劇のヒロインを気取るな! 一人の女になにも報いずに魔女の烙印を押し付けて売り渡し、平然としている国なんて、全て滅んでしまえばいいのよ!! それを邪魔するよそ者も、今更悔いてガタガタ震えているフランスの連中も、全て私一人であろうと殺し尽くして、塵芥にしてやるわ!!!!」

 

 ただ、それでも愛した国なのだ、恨みも無い。苦しさも悲しさも与えた国だろうが、同様に自分も国のために敵国の兵士たちを苦しめ、殺した。その報いを受けただけなのだろ。

 

 もう自身のことは終わった。この時代では、本来はジャンヌ・ダルクはもう死んでいるのだから。これ以上死者が復讐で国を荒らす訳にはいかない。

 

 たった一人になろうとも竜の旗を掲げ、炎を四方八方に飛ばすジャンヌオルタの前にジャンヌは立ちはだかり、危なげながらも旗を振るっていなしていく。

 

 「その怒り・・・復讐に走る心の根っこ。全て聞き入れました・・・もうひとりの私。ジャンヌオルタ・・・・・・」

 

 「っは。聖女様がどうしたの? 悪いけど、御高説なら結構よ。分かっているでしょ? 神を信じて、国を信じた結果こうなった女に、何を言おうが響くわけ無いもの。邪魔よ。一番最初に死にたいの?」

 

 顔をしかめ、あっちいけと地面から炎を走らせるジャンヌオルタの炎を旗をバトンのようにくるりと回して防ぎ、一歩前に出るジャンヌ。前に戦ったときのような動揺はなく、そっと口を開く。

 

 「いえ、少し質問をしたいのです。私ならわかるはずです。貴女は、育ての親を覚えていますか?」

 

 「は? そんなの・・・・・は・・・? え、な・・」

 

 小さな女の子に聞くように丁寧に、しっかりとした声で質問を投げかけるジャンヌ、対して、まるで思い出せないのか左手で頭を抑えながら自身のことを信じられないと頭を振るジャンヌオルタ。

 

 「黄金色の麦が実り、風に揺れる美しい景色を、ちょっとした町に行って、いろんな物に目移りした時間を。藁の上で寝っ転がって、太陽の暖かさに思わず寝息を立てちゃうような柔らかくて、温かい感触を。家族と一緒にご飯を囲むときの湯気の向こうに見える笑顔を、覚えていますか?」

 

 「まちなさい・・待ちなさいよ!! なん・・そうよ、私なら覚えているはずなの・・・覚えて・・なんでよ・・・戦場のことや、牢屋での冷たい日々・・・苦しさ・・違う、違うの・・・違う違う違う違う違う!! それじゃない!」

 

 ガシガシと頭をかいて膝をついてうなり始めるジャンヌオルタ。遠目から見ても滝のような汗を流し、さっきまでとめどなく流れていた炎すらも揺らぎが大きくなり、萎んでいる。

 

 「確かに、戦場での日々、その後の事も含めて、濃厚で、大きいものです。でも、それも私達の人生で言えばほんの一部の時間。私達は、ただの村娘としての時間が多いはず・・・そして、その時間をフランスの皆に与える志も心にあったはずです。けど・・・それを裏切られ、絶望し、この理不尽さに憎悪し、憤った。違いますか?」

 

 「え? あ、え・・・ぇあ・・・・・? っ・・・」

 

 分からない。不気味、意味不明。そんな感情がうずまき始めていくジャンヌオルタ。問いかけているもう一人の自分は、自分の過去、思い出を語っているだけだ。そう、同じジャンヌ・ダルクなら思い出せる。簡単な質問。なのに、出てこない。欠片も出てこないのだ。記憶の引き出しを引っ張り出しても、ひっくり返しても、出てくるのは戦争と、裏切られての苦悶の記憶ばかり。

 

 おかしい。生まれてすぐに戦争に出たわけではない。おかしい。同一人物で、同じ記憶を持っているはずなのに、なぜ欠落した部分が出る。オカシイ・・・同一人物の記憶の差異が何故大きくなる。クラスの違いもない。同じルーラークラスのはず。このクラスの特権を活かすために取ったとは言え、同じクラスでそこまでズレが、歪みが出るものなのか?

 

 眼の前で憎らしいほど落ち着いた笑みで問いかける自分が、そして、なぜなにも思い出せないことで懊悩する自分が意味がわからなく、不気味に思えていく。この欠落は何なのだろうと。

 

 

 

 

 『・・・おかしいわ・・・同じジャンヌ・ダルクで、なんで出生、戦場に出る前の記憶が出ないのかしら・・・』

 

 二人のジャンヌの対話から距離を取り、それでもすぐさま対応できるように臨戦態勢を取りつつ、この不可解なジャンヌオルタの様子にカルデアから見ていたオルガマリーも疑問の声を小さく出してしまう。

 

 『確かに・・・ねえ、華奈。英霊ってのは、記憶自体もクラスや、ちょっとした調整で大きく変わっちゃうの?』

 

 「いえ・・・確かに、クラスによって、そうですね。バーサーカークラスだったり、触媒に使ったものによって多少の記憶の比重の差や思考の揺れ幅はあるでしょう。でも、それでも英霊というかつての一人の人間、生きた存在の出生からの生い立ちが思い出せないというのは異常です。バーサーカーであっても喋れなかったり、聞き取れないのであって覚えている人は大半でしょう」

 

 「それこそ、私達。物語として後世に伝わってる英霊ならその触媒次第では行動や生い立ちが変わっている可能性もありますが、彼女は実在の人物でしょう? いくら英霊がその英霊の一側面だけを切り取るものだとしても、記憶をここまで欠乏したものはありえないはずです」

 

 ロマニの疑問に英霊である華奈、そして今もなお生きていたアーサー王もこの様子にはしっかりと異常と告げる。自身らの物語であるアーサー王物語は後世の作家のものによっては確かにずれも存在するだろう。だが、それでも召喚ができればその英霊の人生を覚えているはずなのだ。英霊を英霊たらしめる精神性に宝具のもとたる逸話。これらを十全に振るうためには記憶の欠乏はそもそもの召喚システムが不完全としか言えない。

 

 しかし、ジャンヌオルタの呼び出した英霊、アタランテやサンソンはかつての記憶や自身の矜持や思いを失わず、もしくはあるからこそ歪められた。マルタに至っては神の教えに背く訳にはいかないと狂化に真っ向から抗っていた。彼らの記憶は万全に持っていた。ならば、召喚は成功したのだろう。

 

 そして、呼び出したであろうジャンヌオルタ自身の記憶のズレも共にいたはずのジル・ド・レエが見抜いたり、感づいて聖杯を使って解決すればいいのに、それをしなかった。もしくは・・・・・・・出来なかった。それほどに事を急ぎたかったのかもしれないが、違和感を感じないのもおかしな話。

 

 『確かに・・・作品によって違う存在だったとしても、その生い立ちが書かれていないのはおかしいわ。しかも、ジャンヌ・ダルクほどの有名な存在なら。でも、その生い立ちが記憶から消え失せ、なぜか戦場で戦い始めた記憶しかない・・・』

 

 「最初に出会ったときに、彼女の復讐の感情は、憎しみは燃え盛り、尽きぬ泉のようにありました。けど・・・かつて感じていたであろう愛や、故郷を懐かしむ感情とかは無かった、もしくは薄いように感じました。愛憎の感情がどうにも。子供でいた時間、一緒に友達でいたはずの頃の年頃の子供まで躊躇いなく皆殺しにしたと言っていたあたり、なんとなくですが感じました。勘の部分も大きいですが」

 

 「そうなると・・・あのジャンヌオルタは、ジャンヌをもとに改変された英霊、もしくは・・・作られた?」

 

 全員が考えていた予想を藤丸が口にし、それと同時に誰が作ったかを考え、すぐさまその下手人は当たりがつく。

 

 村娘の頃のジャンヌになんて会うことがないゆえにその記憶や思い出を知らぬ人物、王に謁見して軍に入った頃から共にいた人物。そして、ジャンヌの死をひどく悲しみ、その仕打ちに怒った人物。共にフランスへと復讐することを望むジャンヌ・ダルクを求めた人物。

 

 その改変を出来るほどの物を持ち、ジャンヌ・ダルクを知る人物であり、尊敬、崇拝、敬愛して止まない人物。そして、おそらくはジャンヌオルタの陣営にいた人物。

 

 「すると・・・犯人は青ひげ・・・あのジル・ド・レエだろうな。ジャンヌ・ダルクの死後の狂い様と、何かを逃避するような放蕩ぶりと残虐さは、彼女を求めたからかね。黒魔術に傾倒したとかいう噂もあるし、あの怪物を呼び出していた辺り、ジャンヌ・ダルクの死後の側面が強いやつだろうし」

 

 『おそらくは、カルデアの観測からも、あの海魔はジル・ド・レエの持っていた魔導書らしき本からの魔力の反応があったときに数を増していたから。それと、華奈の持っている聖杯も彼が所持していたし・・・おそらくはその仮定が一番有力かも・・・うわ!?』

 

 今の所の持ち得る情報でジャンヌオルタの記憶の欠落を考えていると二人のジャンヌの戦闘は幕を開けたようで、一つの巨大な火柱と、まばゆい光の膜がぶつかりあう光景が目に飛び込んでくる。

 

 「加勢は?」

 

 「しません。ジャンヌ様の経験と意地が、ジャンヌオルタに勝てるかもと思っていますが、横槍入れないほうが良い気がしまして」

 

 「了解。一応はいざという時の援護ができるようにはしておくか」

 

 『華奈さん。ジル・ド・レエ元帥の軍も今勝利したようです。ただ、けが人もなかなか多く・・・』

 

 「ふぅむ。了解です。私とサンソン様。今ここにいいる銀嶺で医療の心得を持っているメンバーで向かいます。良馬様はロマニ様と一緒に怪我のひどい兵士をチェックしておいてくださいませ」

 

 フランスの特異点を起こし、蹂躙しようと暴れていた竜の魔女の軍。その最後にして大将のジャンヌオルタとぶつかり合う救国の聖女。ジャンヌ・ダルク。この特異点最後の戦いに備えると同時に、この歪みによって起きた被害者を減らすために竜の魔女の戦いとは別に動いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「過去のことを覚えていないであろうが私もジャンヌ・ダルクであることは確かよ! いい加減にそこをどきなさい! こんな国、滅びたほうが良いのよ!」

 

 「確かに、端的に見れば功労者、将軍を救いもせずに見殺しにした部分もあるでしょう。でも、それでもそれで救われた人はいる、希望を持てた人が、戦火に怯える人を減らせた! 国を救えたのも事実です! これ以上悲劇をこの国に降らせるわけにはいけません。私は貴女を理解していき、その上で赦します。そして勝ちます!!」

 

 熱気で草花は萎れていき、炎がかすめれば周りは黒と灰色の炭や灰となる。復讐と絶望を吐き出して全てを焼き尽くそうと紅蓮の上に立つ漆黒の魔女。まるで生きているようにまとわりつき、身を焦がす執念の炎の苦しさの中にあって尚も折れること無く毅然とし、身を汚し、傷つこうとも一歩も引かない白の聖女。

 

 「勝つですってえ!? 冗談は死んで言いなさい! パワー一つとっても勝てない、あの盾女達がいないとまともに戦えないあんたがどうやって一人で勝つってのよ!」

 

 しかし、気持ちは負けていなくても自力、英霊としての基礎の力の差は埋まるわけがなく、ジャンヌオルタは依然としてその剛力を活かして旗や剣を両手に持って縦横無尽に振るい、更にはそこに炎をもまとわせて苛烈極まる連撃を仕掛けていく。

 

 「勝てなくて良いのです。力や速度で負けていても、心と、記憶で私は勝つ!」

 

 炎と一緒に襲いかかってくる旗や剣の連撃をジャンヌは距離をひたすらとっては回避し、剣の届かない場所であれば旗の攻撃は大胆に体を動かし、飛んだりとまるで軽業師のように避けていく。

 

 馬力で勝てなく、速度も負け、攻撃的宝具も多くはなく、手段もあちらが上回っている。体格も同じで、同じクラス故に特性の差を活かした戦いでの有利な展開を狙うことも出来ない。宝具も使えば傷つくことはないが動けず、ジャンヌがジャンヌオルタを倒すという目的の手段の一つにはるかもしれないが決め手にはなりづらい。

 

 じゃあどうやって勝ちを拾うのか。一つは自身の短いながらの人生の経験と、それに付き合ってくれた肉体。そして、この特異点での記憶。そして、貫き続けた自身の想い。それをぶつけるためにまずはジャンヌオルタに接近。

 

 「はっ! そう言いながらただ突っ込むなんてね!」

 

 当然、ジャンヌオルタは右手に持っている旗で外側から横薙ぎに振るい迎撃を試みる。それに合わせて一度止まり、ジャンヌは自身の旗を横薙ぎに振るうジャンヌオルタの旗の進行方向に合わせて添え、自身も後押しする形で思い切り振りかぶる。

 

 「やっ!」

 

 「なっ・・・ぁ!?」

 

 その行動に驚くのはジャンヌオルタ。自身の持ちうる筋力での横薙ぎを更に加速され、しかも距離の長い分しなりや反動も大きな旗。身体は大きく動き、身体半分を回す。引き戻そうとする右手は焦って脇を開いてまで引き戻し、身体ががら空きの状態に。そこに姿勢を低くしてジャンヌは潜り込むように突進を再開。

 

 ジャンヌオルタもすかさず左手の剣で突きを放つが無茶な姿勢での突きは当然避けられ、旗を振るった腕を戻そうとしているその右脇腹に旗での一撃をお見舞いする。

 

 「がっ・・・は・・・! くっ・・・おおぉ!」

 

 ひねった身体を戻そうとする自身の力とジャンヌの振るう旗のカウンターがぶつかる衝撃波は鎧を砕き、横っ飛びにジャンヌオルタは吹っ飛んでしまう。しかし、それも石突で地面を突き刺して支点にし、そこから地面を蹴って距離を詰めて剣での突きで反撃を開始。

 

 「くっ・・・う! はや・・・そこっ!」

 

 いくつかの突きを今度はジャンヌが旗のリーチを活かして捌き、ジャンヌオルタの胸の方に旗を差し込んだところで両手で旗を掴んで思い切り外に剣の攻撃をそらす。筋力の差はジャンヌのBとジャンヌオルタのAで差はあるが、それでも片手で振るう剣を両手で持つ旗でそらすことくらいなら成功する。

 

 すぐさま距離を詰め、今度は旗を地面、ジャンヌオルタの右手の旗を防ぐように斜めに突き刺し、そこを起点に派手な飛び蹴りをジャンヌオルタの顎に見舞う。

 

 「っづ!!! う・・・ぁ・・」

 

 思い切り顎を揺らされてたたらを踏むジャンヌオルタの隙を突いて空中で反転させた身体をキレイに回しておき、旗を地面から抜いて距離を取る。

 

 「なんなのよその動き! 昨日まで見せなかったくせに、急に見せてくるなんて、何!? 手を抜いていたの!!?」

 

 「いいえ。昨日の戦いは間違いなく私の本気でした。でも、その戦いで私は貴女の動きを見ることが出来ましたし、こういう動きは子供の頃に村で戦記物を聞いて想像したものをやっただけです」

 

 ジャンヌの動きのキレの良さの理由の一つは迷いが抜けたこと。もう一つは想像力の余地からくる旗を活かした動きにある。

 

 もう一人の自分、それもフランスへの復讐へと走る側面という考えもしなかったジャンヌオルタの登場に面食らい、更には英霊としての出力不足やあちらのパワーに振り回されたことでたどたどしい動きがあった。しかしそれも吹っ切れ、倒すと決めた後はその精神力で突き進む迷いのなさ。そして、昨日の戦闘でジャンヌオルタの旗、剣、そして炎を使ってどういう攻撃や癖をもっているか、追いつめられたときに多用する攻撃はなにかを見ることが出来た。

 

 一方でジャンヌオルタは華奈、ストーム1、アルトリア、マシュに清姫と潰したい相手や一度に戦った相手の多さゆえに、そしてうるさい格下と思っていたせいで動きを余りしっかり見ることが出来ず、更にはその戦いも前半は華奈がハリネズミになる様子を眺めようとしながらの戦闘。ジャンヌの動きよりもその後のピンチのほうが記憶に強く残ってしまうほどだ。

 

 そこの差から生まれる僅かな予想と余裕、それにあわせた反撃の方法を幼い頃に聞いた英雄譚や武勇伝。近所の子供が考えていた動き、そして自身も戦場で振るった動きを組み合わせた攻撃手段を用いたからこそ、無傷での反撃を成功させた。

 

 さらにジャンヌオルタはひたすらに復讐、怒り、それを感情の多くを締めている。その怒り、吹き出す炎に優れた身体能力で大抵の相手は何も出来ずに倒せた。しかも今は目障りでうるさいもう一人の自分が今まで周りと一緒にいて戦えていたはずなのに今は一人で立ち向かってきている。反撃すらもしてきた。

 

 自分の怒りや力が通らない、倒しきれない相手。しかもそれは自身の側面。そこから怒りやむかつきと言った感情を表に出して振るう感情的な動き単調なものとなり、全てが速さ、重さこそあれ自身のやりやすいもの、癖が見え見えのものとなって一層読みやすくなる。

 

 「そんなもので、思いつきが何度も通るわけ無いでしょうがぁ!!」

 

 旗を地面に突き刺して剣を握り、持ち前の馬力を活かして一気に彼我の距離を詰めての上段からの切り下ろし。遠目には一瞬で黒い塊が距離を詰め、燃え盛る炎の柱を振り下ろす、いっそ悪魔にも見えるような攻撃。

 

 それもジャンヌには焦る攻撃ではなくなっていた。たしかに炎の付与に身体能力の差は大きい。だが、そんなことは戦場でもよくあったことだし炎をまとった剣だって剣ではなく、それよりも当たる幅の大きいメイス。それも熱したものとでも考えればどれくらいの幅で動けばいいのかという予想も組み立てやすい。振り下ろされるジャンヌオルタの攻撃は最小限の動きでかわされ、そこにジャンヌは身体を回して砕けた鎧の右側に強烈な肘打ちを打ち込み、直後に再度距離を取る。

 

 「私なら、わかるでしょう? 野戦、一騎打ちにおいてはノリと直感が大切なときもあると。ハッ!」

 

 「ぐっ・・・・ギィっ・・・・!! あ・・・・」

 

 猪突猛進、一撃こそ怖いが怒りと思わぬ反撃にテレフォンパンチを増やしてしまうジャンヌオルタと少ない情報をもとに、自身の馬力の及ばなさから真っ向勝負を避けて一撃離脱、カウンター戦法を駆使するジャンヌ。ブルファイターとアウトボクサーの対決は見事なまでに噛み合い、それはジャンヌが有利な展開に持っていく。

 

 「さぁ・・・これで・・・・!」

 

 一度重い攻撃を加えた場所に重ねた形の攻撃は響いたか、身体をふらつかせてたたらを踏むジャンヌオルタの様子を見て少しでも追撃を加えようと旗をやや短めに持って走り、警戒しているであろう右の脇腹ではなく、左の腹部にめがけて横薙ぎで攻撃を仕掛ける。

 

 「なら、私もこうしましょうか・・・ごほっ!・・・・ふぅ・・ふぅぅう・・・!」

 

 それに対してジャンヌオルタも攻撃を逃げず、反撃すらもせずに旗を腹でそのまま受け止めるという行動を選択。苦悶の声を上げ、口から血を吐きながらも左腕でジャンヌの旗をがっしりと掴み、逃げられないようにする。しまったと気づくジャンヌよりも早く旗を掴んだまま引き寄せた後に右足で左足を踏み潰し、今度は旗を掴んでいた左手でフックをジャンヌの顔面に見舞う。

 

 「きゃっ・・・! うぁっ・・・ぁあ!!」

 

 もろに顔面に貰い、更には踏んでいた足も吹き飛ぶ際にひねってしまい足と顔に激痛が走るジャンヌ。すぐに膝立ちの姿勢に変えてジャンヌオルタから視線を外さないようにしたのは自身の戦場からの経験だろう。

 

 一方的に、一気に殺し切るという戦闘スタイルから泥臭くもカウンター、仕掛けてくる攻撃を自身の持ちうる身体の頑丈さを利用した受け止め、その攻撃の瞬間に近づいてくるジャンヌをそれ以上の攻撃でやり返すという一撃の交換に持っていくことにしたジャンヌオルタ。

 

 カウンターで自身の攻撃を利用するということは、攻撃の瞬間にはあちらも反撃のためにそれなりに距離を詰めてくるということ。そこからジャンヌよりも早く動け、かつ重い一撃を振るう自分の攻撃を確実に与えるためにあえて受ける。ダメージレースへのシフトチェンジ。

 

 「くっだらない・・・こんな国にこだわるあんたにここまで手こずるのは腹立たしい・・情けない。もっとクールに、簡単に殺すつもりでしたが・・・考えを改めましょう。ジルがいなくても、私は・・・私はやり遂げるのよ! この復讐を! そのためにもまずは一番目障りで邪魔なあんたを殺す! こんな戦法だろうとも倒せればいいのよ!!」

 

 「くだらなくなんて・・・ここに生きる人はみな一生懸命に生きようと、もっと素敵な日々を目指して生きようとしているのです。ここで食べられた食事も、兵士の皆さんの武具も生きようとした皆様の提供だったり、戦おうと備えたもの。ここまでのものを用意できる皆さまが、あんな怪物に立ち向かえる皆様をくだらないなんて言わせません! 私は倒れないと言ったでしょう!! こんな怪我はいつものこと。まだ終わりじゃないです!」

 

 足を捻ったせいで回避や逃げることも難しくなったジャンヌと痛みをこらえてカウンターを逃げずに貰う事を覚悟して距離を詰めてくるジャンヌオルタ。

 

 二人の戦いは広く場所を使ってきた戦いからクロスレンジのものにシフトし、その中で剣を振るおうとするジャンヌオルタの腕はすぐに拳で撃ち落とされて遠くに転がり、ふたりとも旗を持っていないせいですぐに拳での戦い。拳闘を繰り広げる。

 

 「ぁがっ!? ぐ・・・しっ・・・ふぐ!!」

 

 「ぶっ!・・・・あふ・・っ・・・ん、んぁぅ・・・」

 

 拳で腹や腕、胸を殴る音が辺りに響き、時折なにかにヒビが入った、折れたような音が鳴り、それに苦悶の声を上げる二人のジャンヌ・ダルク。

 

 今までのダメージの積み重ねと避けきれないことでもろに攻撃をもらうも無理やりに自身を奮い立たせ、怒りと共に復讐を企てた友の思いをバックボーンにしてパワーで押し切ろうとするジャンヌオルタ。

 

 攻撃を避けきれないまでも受け流したり軽減し、ここまでずっと戦ってくれたメンバーを背にし、その後ろにいるであろうフランスの民草を心の支えにしてカウンターと先に攻撃していた箇所を攻めていくジャンヌ。

 

 ピンボールのように顔が弾け飛び、鈍い音が響き、拳だけではなく足も使って互いの動きを封じ、金、白の髪と一緒に汗と血が陽の光に照らされて光り輝く。

 

 「こ、んの!」

 

 「っぐ! う、は・・・・はか、ぁ・・・」

 

 ジャンヌオルタの右足の蹴りで再度ジャンヌの左足を踏み潰し、左からのフックや打ち下ろしで身体を浮かせて動かし、ひたすらに足を痛めつけつつ拳で腹に拳を突き立てる。

 

 足の痛みで意識が遠のきそうになりつつも即座に腹部に刺さる鈍痛で無理やり覚醒させされ、左手で思わず腹を抑えて姿勢を低くしてしまう。

 

 「まだ・・・まだぁ!!」

 

 「あ”っ”・・・・ぁあ! が!」

 

 それでも決して戦意は衰えずジャンヌもジャンヌオルタの右脇腹に左のショートフックを連続で打ち込み、意識を下に向けさせたところで右でのアッパーで先程蹴りを見舞った顎に寸分違わず打ち込む。

 

 力に差があっても的確に放り込まれる拳はガードしても腹部に伝わる衝撃に意識を持っていかれ、姿勢を低くしているジャンヌに目を取られた間に顎に再度叩き込まれる拳に踏んでいた足も離し、痺れて力の入らない足に自身の拳を叩き込んで無理やりに言うことを聞かせて立て直す。

 

 「!! っ!! ぐぅ・・・っ・・ぁ!!? は」

 

 「っづうぁ! ひゅっ・・・ふぅ・・・っぶ・・・ぁ!!」

 

 そこからまた始まる接近戦からの殴り合い、掴み技や投げに行こうしようとしても手を撃ち落とされ、足技も大きいものはカウンターを警戒して出せない。取れる手段、可能性の高さから自然と殴り合いになり互いの纏う服も、地面も、顔にも手にも真赤なバラを咲かせ、尽きぬ闘志を身体に注ぎ込んでエンジンを噴かせてボロボロな体を動かす。

 

 「っあぁあああああ!!!」

 

 (クソクソクソクソクソ!!! こんの糞聖女のせいで殴る度に体がしびれる! 痛みが強い! ふざけんじゃないわよ私の力を利用するなんて、すぐにサンドバッグにして、その後で八つ裂きにして燃やさないと気がすまないわ!!!!)

 

 一見すれば途切れること無く放たれる重機関砲の如き連打。それも無理やり、意地で振るっているものであってジャンヌオルタの両方の肋骨は旗の攻撃で数本はへし折れ、更にはこの殴り合いでもそこを幾度となく打ち込まれ、痛みを自覚させる。これだけでも辛いというのに、更には自分が攻撃するために腕を伸ばせばそれに筋肉が脇腹を引っ張るでせい骨まで引っ張り、痛みと痺れで攻撃のキレは落ち、動きも鈍る。

 

 電流が身体を走り、動くなとストップを掛けるのを無理やり黙らせて殴り続ける。惨めな最後を遂げた自分。何もすること無く、報いること無く見捨てた国を殺し尽くすために、倒れない、倒れたくないと悲鳴をあげる身体に活を叩き込み続けて痛みすらも体を支える怒りに変えようと気を強く持つ。

 

 「はぁあぁあぁあぁああっ!!」

 

 (攻撃も防御もおぼつかない・・・もろに貰うし、踏ん張れない・・・足を使って回避も難しい・・・でも、でもまだ立てる! 戦える! 気を強く持たないと、この私には勝てない!)

 

 ジャンヌオルタの豪腕にさらされても受け流し、立ち続けて抵抗を続け、カウンターを返しているジャンヌ。しかし、その反撃も足をかばって、腰の入っていない手打ち。体格は同じでも持っている力が違えばさして痛みはなく、その中でもダメージレースについて行っているのはカウンターと顎、両脇腹に先に大きなダメージを与えている箇所を上手くちらしてダメージを与えているから。

 

 軽いパンチでも身体は泳ぎ、左足を使えばそれだけで痛みに意識が向きかねない。土台を半分壊された状況で放たれる攻撃ではもう弱点を確実に射抜くしか無く、それを撃つために右足にほぼすべての重心をおいて軸足にし無理矢理に体に鞭打って軸足の補助に使えないはずの左足を無理矢理に支えとして動かす。

 

 勝つと決めた。この女性は自分が止めると決めた。だから引かない。この体を完全に壊し尽くされようとも魂だけでも戦い抜いてみせる。決めたのならとことんやり抜くと諦めない、ギラついた炎を瞳に宿して立ち向かう。

 

 二人のジャンヌの戦いは苛烈さを極め、赤どころか青あざは腫れすらも見えてくるほどのものになる。炎に服は焼けて肌も焦げ、汗すらも流れた先で血と一緒に蒸発する。炎のリングとかした焼け野原での殴り合いはこのまま続くかと思っていたが、ジャンヌオルタのショルダータックルで最終局面と動き始めた。

 

 「これで・・・おわりよっ! 聖女様ァアアァアア!!」

 

 身体でのぶつかりに身体を噛み合わせた直後に右からのフックでジャンヌのガードごと吹き飛ばし、続けてもう一度右からのスマッシュでがら空きになった顔面に一撃を見舞い、巻き添えを貰う距離から吹き飛ばして漆黒の槍を用意。ジャンヌを貫こうとするが、その行動は顔面に一撃を貰って尚も壊れているはずの左足で踏ん張ったジャンヌの放った右のボディを貰うことで意識が途切れて槍を放つことは失敗。

 

 「っ・・・・!! っぁぁあ!!」

 

 そこからジャンヌは再度ジャンヌオルタの右肋への左フックを放ちしびれるような衝撃を与え、右足を軸に今度は右でのストレートをみぞおちに炸裂。ソーラー・プレキサス・ブローをとっさに成功させ、ジャンヌオルタの身体がくの字に曲がる。

 

 右ボディの2連発に更にはみぞおちの一撃。今度は左が来るのかと意識を下に向けたジャンヌオルタに届いた衝撃はその予想を覆して弧を描いて飛んできた左のスウイングブローを顎に貰った強烈なもの。

 

 その後も右足を軸に身体を独楽のように左右に動かして重心を右に左にと振り回して片足だけでも腰の入った連撃を絶え間なく放ち、最後に心臓めがけて放った一撃でようやくジャンヌオルタは倒れ、立っていたのは二度も国を救った救国の聖女。ジャンヌ・ダルクその人だった。

 

 「っはぁ・・・・かは・・・っふ・・・ふぅ・・・わ、わたしの・・・・勝ち・・・で、す・・・」




ジャンヌオルタ「くっそ・・・ここまでなのね・・・復讐だけしか無い私は結局それすらもだめ・・・はは・・・フランスには私は何も出来ない。ただ邪魔者、ゴミとして滅ぼされる・・・それが、運命なのかしら」

華奈「ふぅ・・・ジャンヌ様は無事に勝利・・・それにしても・・・欲しい・・・あの魂は、素晴らしい・・・・・・・・!」

ストーム1「は?」

銀嶺隊「(始まった・・・)」

ジャンヌオルタ「げふっ・・・! おぁ・・・ガハッ・・! くっそ・・・いき・・・・ひゅぅ・・・が・・・っハ・・・! あぁ・・・・」

華奈「復讐は私もゴメンですが、フランスが出来なかった、貴女を裏切った人ができなかったことをするのは如何でしょう?」

ジャンヌオルタ「・・・けふ・はぁ・・・・?」

華奈「裏切った輩が出来なかった偉業。例えば、私達と一緒に人類史を焼き尽くした犯人をぶっ殺す。カルデアに記録されますし、英霊の方々も認めるでしょう。救国どころか人類を救った英雄。それほどの人物を見捨てた大馬鹿者と貴女を裏切った方々に鼻で笑えますよ。こんなに見る目がないんだなお前らはと」

ジャンヌオルタ「・・・・・・・」

アルトリア、ロマニ「(あ、これスカウト、そうでなくても縁をより深く繋ごうと考えています(るかなあ))」

華奈「貴女に勝ったジャンヌ様を超える業績を刻むのもよし。私達と一緒に戦うのが嫌なら、今回の敗北も次の糧にして・・・そうですねえ。もっとしっくり来るクラスで来る、狂化を施さずとも賛同してくれる方を募るのも良いかもですね」

ジャンヌ「ハッ・・・・ハァ、ッ・・・・ですね。私も・・・・貴女ほどの力を持つ方が一緒なら心強いですし」

ジャンヌオルタ「けほっ・・・ふざけ・・・ないで・・・・でも、そう・・・ね。やり返されることの後悔は・・・・見せつけた・・・今度は、そいつらが望んだって無理な高みに・・・ふっ・・ぎ・・・! なら、今度こそ私が望むものをこなすために、一度休むわ・・・ありがと・・・次のチャンスであなた達を殺すかどうか決めてあげる・・・・・・・・・わ・・・・・・」

華奈「ジャンヌオルタの消滅を確認。ロマニ様。良馬様。敵性反応はありますか?」

良馬『いいえ、敵性反応ゼロ。英霊も、いないですね』

ロマニ『完全に君たちの勝利だ・・・! フランスの特異点を攻略したんだ! お疲れ様! 華奈、藤丸くん、マシュ、アルトリア、ストーム1、みんな!』






ジャンヌオルタもここで退場。次回はフランス編のエンディングです。多分ですが、フランスで契約する英霊は少し数が増えるかもしれません。

二人のジャンヌによる血みどろの殴り合い。河川敷どころか焼け野原とゲテモノ兵器が立ち並ぶわけの分からん世紀末な状況。最後の黒い槍が放たれたらストーム1が妨害に入っていたと思います。

深夜テンションで書いているので誤字脱字、少しおかしな部分が多いと思います。できる限り直していきますので申し訳ありません。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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さよならフランス~ワイバーンの赤ワイン煮込み~

華奈「はーい、治療も終了。死傷者もいないようですし、大丈夫ですね」

サンソン「骨折や切断も怪物の力の強さが逆に綺麗に切断、折っているからむしろ綺麗につなげた。これなら、全治5ヶ月、もしくはもっと早い回復も見込めるでしょう」

銀嶺(医療チーム)「「華奈様。こちらも無事に終わりました。それで、ジル・ド・レエ元帥からお話があるそうです」」

華奈「はい? ん、了解しました。皆様は拠点にあるワイバーンや途中退治した怪物の素材と一緒にレイシフトして戻ってください。流石に即興の氷室、地下室じゃあ熟成も少し心配ですし」

銀嶺「「了解です」」





マリーアントワネット「ありがとう。ジャンヌ! フランスをまた救ってくれて本当にありがとう!」

ジャンヌ「いえ、私は当然のことをしたま・・・いだだだだだ! す、すいませんマリー、あ、あばらが・・・!」

マリーアントワネット「あらごめんなさい。そう言えば、散々殴られていたものね。大丈夫?」

ジャンヌ「だ、大丈夫です。それに、ほら・・・もうすぐ時間みたいです」

アマデウス「どうやら今回の旅、公演はここまでのようだね。良いものを見学させてもらえたよ。戦いも少なかったし、料理も美味しかった。帰ったら今回の戦いをテーマに一つ曲でも作ってみようかな」




ストーム1「大将のスカウトと治療も終わったか。さあて、俺も帰り支度をするとしましょうかね」

クー・フーリン「だなあ。いい戦いだったし、またカルデアでもあのうまい肉を食えるんだろ? 麦もあるなら、ほらあれ。ビールでも一杯」

ジークフリート「私も手を貸そう。ここまで気持ちの良い戦いの終わりは、なかなかに味わえないものだ。いつもこんな感じなのか・・・?」

ストーム1「ビールね。なら枝豆も・・・お、ジークフリート。そっちも邪竜退治おつかれさん。そうだなあ。まだ2つ目の特異点を攻略しただけだが、多分こんなノリでずっと進むと思うぜ?」

ジークフリート「そうか・・・それは、良いものだな。良ければだが、これをあの女性・・・華奈に渡してはもらえないだろうか?」
(剣を渡す)





マシュ「何だか、いろんな事がありすぎて、まだ頭が整理できていないです・・・・・」

藤丸「俺も・・・ワイバーンを引き寄せる弾丸に、巨大メカ・・・からのドラゴンスレイヤーと不意打ちでジャンヌオルタ以外全部倒して、そこからボクシングと言うか殴り合いになって・・・」

ロマニ『そんで勝利。のあとにスカウト開始。うん、確かに目まぐるしく意味がわからないね。言葉にすると』

ダ・ヴィンチちゃん『取りあえずは今は勝った、フランスの特異点も攻略できたということを覚えておけばいいさ。ほら、もうすぐ退去の時間だ。みんなに挨拶をしてこなきゃっもったいないぜ?』


 「華奈殿。この度の勝利、共に戦えた光栄をもらえてこのジル・ド・レエ。感服しました。ブリテンの円卓の騎士。その実力、まさに伝説の通り」

 

 負傷兵の治療を終えた華奈達の前で頭を下げて感謝の気持ちを示すフランス元帥のジル・ド・レエ。

 

 それに続く形で周りの将兵も皆頭を下げ、物語の世界の存在であるはずのワイバーンや怪物、それを率いる竜の魔女、英霊達との戦い。壮大でメチャクチャな英雄譚、戦いに共にいたことに、勝利できたことに皆感服し、中には涙を流す者すらいる始末。

 

 「いえ、私ではなく皆様の奮戦、そしてアルトリア様やカルデア、他にも馳せ参じた英傑たちの存在があってこそです。皆様も見たことのない相手にここまで戦い抜いたのはお見事です」

 

 「実際問題、民草の避難が出来ていなければもっと後手に回っていたり、あの兵器を出せなかったでしょうしね。本当に見事な動きでした」

 

 華奈、アルトリアも頭を下げ、微笑んで返す。最初に出した檄文、乗せられているのがわかっていただろうにそれでもすぐさま動いて余計な被害者を出さず、アレ程の怪物の群れに立ち向かっていった精神。動きの良さ。どれも素晴らしいものだった。

 

 「・・・二度もオルレアンを開放できるという、国を守りきるというこの大功。報いるための恩賞を用意したいのですが・・・竜の魔女の軍はピエール牧師や他にも多くの都市、そこにいる住人、貴族も殺しまして、混乱状態である上に、貴殿らの出生が少し問題になりまして・・・」

 

 心から嬉しそうな表情に変わり、その直後には暗い表情に変わる。竜の魔女、復讐に駆られたジャンヌ・ダルクが怪物を率いて暴れまわり、それをジャンヌ・ダルクと嘗ての英雄たちが立ち向かうという事をどう説明したものか。

 

 そしてそのフランスを救った英雄の存在は戦争していたイギリスの英雄。あまりにも分けのわからず意味不明な説明に加えて同時にこの直後に起こるは亡くなった貴族の領土、利権の奪い合いに責任のなすりつけ、そして今回の英雄をどうやって引き入れて自身の権力基盤を確かなものにしようかと考える貴族の政争になる。

 

 「まあ、そこは仕方ないですよね。政治というもの、権力に関わればそこは逃げられませんもの」

 

 「清廉潔白な政治はほぼ不可能ですものね。大丈夫ですよ。私達もすぐに帰りますし」

 

 「いえ・・・それでは私達の気持ちも収まらないです。そこで皆と相談したのですが・・・・今回私達フランス軍が用意していた軍需物資。このいくつかはこの対戦で消耗、もしくは怪物たちに『焼かれてしまった』ということにして、私達は何も手出しをしないものとします。なにせこの後も復興や諸外国との備えもあります。『焼かれて』使えないものにこだわっても意味がないでしょう?」

 

 フッ。と笑い、心底面白そうに微笑を浮かべるジル・ド・レエ。それを見て華奈もアルトリアもつられて笑いだしてしまう。天下のフランス元帥が異国の得体も知れぬ恩人のために不正を働こうというのだ。しかも部下も合意の上で。その意味と行動に必死に笑いを噛み殺す。

 

 「ふっ・・・くく、ふぅ・・・意外とこういうやんちゃ、好きなのですか? 元帥殿」

 

 「恩人に報いるように親に教えられましたし、隣人を愛すのが神の教えでしょう? この二つの教えに背くわけには参りますまい」

 

 「・・・・違いないですね。っははは! では、そうですねえ。『焼かれてしまった』ゴミは私達が預かりましょう。『掃除』は済ませておきますので、これを」

 

 屁理屈を清々しい笑顔でこねる元帥の行動にアルトリアは膝を叩いて笑った後、小さな丸い容器を渡す。

 

 「これは?」

 

 開けてみると半透明な軟膏であり、薬草の香りと優しい甘い香りが鼻に入り込んでくる。

 

 「腫れや痛み、火傷に効く軟膏です。ジャンヌももう帰るみたいですし、彼女の怪我を直したらどうです? それと、二度も国を救った大恩人。元帥自ら礼の一つも言いませんと締まらないでしょう?」

 

 「!!! ですな、ありがとうございますアルトリア殿、華奈殿! では、他の方にも挨拶に行きますので私はこれにて!」

 

 意味を理解するや風のようにジャンヌの方に飛んでいくジル・ド・レエ。彼のジャンヌ・ダルクという女性に対する敬愛、尊敬の深さ、そしてどれだけ大切にしているかがこれだけでもわかるというもの。それゆえに、この特異点を修正することでこの気持ちのいい青年が狂っていく悲劇のシナリオは止まらないことを思うと少しばかり胸に刺さるものがある。

 

 「・・・・・・・・・・・・カルデアに送る物資の準備、しましょうか」

 

 「ええ、姉上。もうヤマジ達の準備は大丈夫だそうです。少しづつ送って、保存庫にしまいましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 「ありがとう! 藤丸くん! マシュちゃん! お陰でフランスが救えたしジャンヌにも会えた! 短いけど最高の旅だったわ!! ありがとう! ただ、もっとかっこよく活躍がしたかったかなー?」

 

 「ま、マリー様・・・・・・流石にあのように戦ってはお体に傷を負いますし、やめたほうが」

 

 「そうそう、荒事は戦士たちに任せて、音楽家は励ましたり、称えるための歌を作る。医者は体を癒やしてやる。王女は功績をたたえて褒美をやる。役割を忘れ過ぎたら大変だし疲れちゃうしね」

 

 身分も生まれも違いながら同じ時代を生きて名を馳せ、大きな波に振り回された凸凹三人組。そんなことは全く感じさせず互いにツッコミを入れながらも感謝のために頭を下げ、それに対してコメントや茶々を入れるという愉快なコントが繰り広げられていく。

 

 「い、いえ・・・俺はなにも・・・マシュや華奈さん。カルデアのみなさんがいないとなんにも。でも、ありがとうございます」

 

 「ありがとうございます。マリーさん、アマデウスさん、サンソンさん。私もあまり出来たことはないですが、皆さんと戦えたのは光栄です」

 

 王女直々の礼にすこしどもりながらも礼を返して微笑む。藤丸とマシュ。清姫は藤丸にべったりだったのだがゲオルギウスとエリザベートの方に移動し、またエリザベートと口喧嘩を始めており、二人で物資の回収や協力してくれた英霊達に挨拶をしようとしたらあちらから来てこの愉快な空間。

 

 いい意味で緊張も徐々にほぐれ、笑顔も自然なものとなる。

 

 「そんなことはないわ。マシュさんたちもあの黒いジャンヌに堂々と戦ったし、あの子達を連れてきた。すっごいことよ? この広いフランスに散らばる英霊をあれだけ呼べたのは二人のおかげ。人を集めるのってとっても大変だもの」

 

 にこやかに笑い、仕草一つ一つに華を持たせながら笑いかけるマリー・アントワネット。後ろにいるサンソン、アマデウスも余計なことを言わずにその言葉にそうだなとうなずく。

 

 「あの人もネッケルとか、色んな人に協力を頼んだりして国を良くしようとしたわ。けど、それでもどうにもならない流れはあるの。でもそれを変えるきっかけを作った。派手さでは華奈さん、ストーム1さんに負けるけど、こういう事ができる人は本当に貴重よ?」

 

 実感を込めた、過去を思い返しながら一瞬表情を曇らせるマリー。フランス革命という荒波に揉まれ、その後の政府の印象操作もあっただろうがわがまま王姫としての烙印を長らく押され続けた悲運の王女。嘗て降り掛かったいくつもの事を受け止め、その上でなお楽しく笑う。

 

 「だから、二人はきっとこの先もどこまでだって行けるわ! 女の子の直感! だから、いつだって自信を持って笑って頂戴? たくさんの有能な将軍、武人、文官を見てきた私からのエール!」

 

 もっと自信を持って頂戴と指差して送る激励にアマデウスがこらえきれなくなったか笑いだし、自身も一歩前に出て一つ咳払い。

 

 「言ってることがとっちらかってるよマリー。でもそうだね。公演だって表に出る演奏者や役者だけじゃない。それを準備する舞台裏を支える人は重要さ。しかも君たちはいざという時は自身で役者として舞台に立てる。それに、優秀な先輩がヘルプで行けるんだ。もっと気楽にしていればいい」

 

 「そうだね。クー・フーリンといい、君たちの戦いぶりや勇気は素晴らしいものだ。あんな状況でも進める君たちにはきっと素晴らしい未来があるはずだし、僕もそう祈っている。本当にありがとう。僕を救ってくれたメディアさんにもまた伝え・・・・時間か・・・」

 

 サンソンの言葉に合わせたかのようにマリー達の身体が光の粒となっていく。特異点の修正が始まり、同時にここに呼ばれた英霊たちの役割も終了ということでの退去が始まったのだ。

 

 遠くで聞こえていた口喧嘩も一度止まり、大声で「待って」や「歌い足りない」だののワードが飛んできたりですぐに誰が喋っているかすぐに特定できてしまう。

 

 「じゃ、私達はこれで帰っちゃうけど、英霊の座からもあなた達の活躍を見守るし、祈っているわ! ヴィヴ・ラ・フラーンス!!」

 

 「今回は愉快で満足の行く結果だったよ。あの狼の騎士に伝えて欲しい。今度は新作やサンプルも一緒に持ってくるよ。って。じゃ、またこんどね」

 

 「マリー様、ジャンヌ様、そしてフランスという国を助けてくれてありがとう・・・君たちの旅路に幸多からんことを・・・」

 

 そんなことはお構いなし、最後まで気持ちよく、爽やかな笑顔で三人は去っていった。

 

 

 

────────────────────────

 

 「待って待って! ここで終わりなの!? 打ち上げライブとかあるんじゃないの!!? あのワイバーンの料理とかのためにたくさん退治したのに~~!!」

 

 「もう、うるさいですわよ? この特異点が解決したのですもの。消えるのは当然でしょう? 眼の前のことに熱くなりすぎですわよ」

 

 「うるさい! そっちこそべったりだった子ジカに合わなくていいの? もうすぐ私達座に帰っちゃうのよ??」

 

 「それの何が問題で? 私とますたぁは一心同体。フランスから帰ってもすぐに一緒ですよ。そうでなければ貴女のような姦しいトカゲに一応の挨拶なんてしに来ませんもの」

 

 「なぁあんですって!? この英霊業界の未来のトップアイドルに何を言ってんのよ!!!」

 

 「(それに、そのために備えはしていますもの。うふふふ♪ もうずっとこのまま・・・)」

 

 「聞いてんの!? この蛇女!」

 

 「・・・何でしょうか? キノボリトカゲ」

 

────────────────────────

 

 

 

 

 「そっちはワイバーンだけで500以上。流石だなあ。俺は作戦とは言え奥の手使わなきゃいけなかったし」

 

 「お前さんもその前に竜種を倒したんだろ? しかもかなりの大物を。しかもさっきは派手な陽動もしていたし、大手柄じゃねえか」

 

 「確か、聖マルタ殿とタラスク。どちらも並大抵な人や竜ではないですからね。浅学非才故にわかりませんでしたが、ストーム1殿ほどの方がいるとは現代も明るいものですなあ」

 

 ワイバーンの肉塊、鱗や牙、皮の切れ端。魔術の材料から今夜の晩御飯の材料もしっかりとカルデアに届けるためにゴミ拾いの清掃活動、ボランティアじみた収集活動をしながら近所のおばちゃんのように井戸端会議をしながら今回の戦いの結果を駄弁る男衆。

 

 「いや、むしろ駄目じゃないか? 俺が活躍するってむしろ争いごとが起きているんだし。まあ、人同士の戦争じゃないけどよ」

 

 「む・・・? そうなのか・・・・いや、怪物退治の専門家と言っていたが・・・現代でも怪物が存在するのか? 俺が知るような怪物はいないと思ったが・・・」

 

 「ふぅむ。確かに。平和な時は軍人や衛兵は暇になりますものね。でも、確かにあれほどの・・・ファヴニールにも動じない辺り、ああいうレベルのものとも戦闘経験が?」

 

 チリばさみとスコップを手にヒョイヒョイと背中の籠にしまいこんでいく英霊四人。話題はもっぱら先程のびっくりメカを操った現代あたりの英霊というストーム1。英霊と言っても男。なにか心をくすぐる鉄の怪物を操る英霊の後輩ともなれば興味は惹かれるのか、自分たちの知る怪物とは別ベクトルの怪物を持つ存在に手も口も休めずに作業を続けて耳を傾ける。

 

 「あーおう、ある。あれほど硬くはないが、巨大ドラゴン3体と小せえやつがたくさんとか、巨大な虫みたいなやつを山程とか。ひどい時はその群れに一人とか・・・かなりたくさんあったぜ」

 

 「・・・・・・・羨ましいねえ。それを一人で屠るとか滾るじゃねえか」

 

 「凄まじい・・・む、時間のようだな。ストーム1、済まないがそれを頼んだ。それとこれを。牙と鱗で分けておいたぞ」

 

 「おや・・・今回の戦いは有意義で楽しいものでした。竜が相手でもさほど気負わず、そして団らんも楽しめるとは。ありがとうございました。皆様の道がどこまでも光照らされて続いていますように」

 

 ジークフリートとゲオルギウスの身体も退去が始まったのか、光の粒が出始め、徐々にその存在が希薄になる。周辺を見回して取りこぼしがないことを確認しつつチリばさみと籠を渡して一方後ろに下がっておく。

 

 「了解だ。その防御力と心、竜を殺す力。しっかりと届けるよ。取り敢えず、ゴミ拾いおつかれさん。帰ってから飲んだらいい」

 

 先程ストーム1に渡したジークフリートの持つ巨大な剣。ストーム1は持っているぞと見せるために背負っているのをくるり背中を向けて見せ、戻った後に籠とは別に小さな袋から紙パックのジュースを今退去しようとしている二人に投げて渡す。

 

 「・・・すまな・・・いや、ありがとう。最高の土産だ」

 

 「おや、これはありがとうございます。後でゆっくり飲ませてもらいますよ。では、皆様に主の導きがあらんことを」

 

 思わぬ餞別に苦笑し、そして満面の笑みで座へと帰っていく二人。竜と渡り合い、戦った戦士と聖人も去り、ついさっきまで一緒に集めていたワイバーンの素材を入れる籠とチリばさみがぽつんと残る。

 

 「じゃ、帰るかあ。これでスタンプもらえたらいいけど」

 

 「近所のボランティア、清掃活動じゃねえぞ? しっかし、この量、カルデアに入り切るのかね」

 

 二人の分の籠とチリばさみも抱え、すでにカルデアに送るために準備されている列に並ぼうと歩いていくストーム1とクー・フーリン。自分たちも飲むつもりだった紙パックのオレンジジュースでのどを潤していきながら次々とカルデアに送られていく物資と戻っていく銀嶺隊の姿を眺めて再び談笑に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ジャンヌ・・・こんな痛ましい姿に。大丈夫ですか? 今怪我に効く薬を・・・」

 

 「ありがとう。ジル。でも大丈夫ですよ。戦場での名誉の負傷です」

 

 退去がゆっくりとはじまっているジャンヌに駆け寄り、先ほどもらった塗り薬を砕けた鎧から破れ、焼けて露出した肌、特に目立つ負傷箇所にゆっくり、割れ物に触るように塗り込んでいく。

 

 「はっはは。相変わらず貴女はお強い方だ。しばしの間しみますがお待ちを・・・・・・・目の前で貴女を、フランスを殺そうとしていた竜の魔女・・・・いえ、ジャンヌ・・・華奈様の檄文では偽物と言っていました。・・・・・・・しかし、私にはどうにも本物にも思えました。髪の色や細部は違えど、同じ姿、私たちの記憶をもつ。ジャンヌ、貴女のどこかで持っていた思いなのかとも・・・」

 

 「ジル・・・・・・」

 

 傷一つに薬を塗り、折れた個所に添え木と包帯を巻くたびに、言葉を紡ぐたびに勝利を得た男の、大切な人が無事であったことへの安堵の表情が沈んでいく。

 

 「こうしてフランスを守れたことの将軍としての私は歓喜に打ち震え、私個人としてももう一度貴女と一緒にフランスを守れたことは望外の幸せ、まさしく神のなせる奇跡に涙を流して走り回るほどの喜びを感じています。・・・しかし、しかしです・・・・・・それと同時にもう天の国へ召されたジャンヌを再びこの世に呼び戻し、魔女の烙印を押されたもう一人のジャンヌを生んでしまうほどの行いをした国の男として・・・防げたかもしれないことを思うと・・・この国を守れたのは、はたしてよかったのだろうかと・・・・・・!」

 

 「・・・・・・・・」

 

 目の前で吐き出されていくかつての最も信頼した男の絞り出すような苦しみ。フランス軍を率い、あの怪物たちにも、英霊にもひるまずに立ち向かった勇猛果敢な男の、後悔と迷い。

 

 まるで終末と思うほどの惨劇、蹂躙。これを引き起こしたのは少し前の自分たちが守り抜いたフランスが起こした愚行。因果応報ともいえるこの戦いを、人ならば復讐して、されて当然の結果。裏切ってしまったゆえ生まれた竜の魔女。それを止めるために二度も聖女に立ち向かってもらった。

 

 何をもって報いればいいのか。どんな言葉を贈ればいいのか。どんな褒章がいいのだろうか。今からでも聖人に認定し、魔女という烙印を消すために名誉復活の裁判をすればいいのか。

 

 それも虚しいものだろう、何せ、彼女は死んだ。復活して目の前にいるし、ともに食事もした。けれどその奇跡ももうじき終わる。黄金を贈っても、名誉回復した際の書状も、勲章も渡してもすぐに消える。持っていけるかすらもわからない。

 

 頭の中をそんな感情がぐるぐると回っているジルの肩に手を添えてほほ笑む。

 

 「ジル・・・それでも、貴方の家も・・・帰る場所も守れた。そして、かつての私のようにどこかで普通に暮らすみんなの、フランスのみんなを守れました。それでいいではないですか。私は死にました。それはあれだけの戦をしたのですから仕方ないです」

 

 「ジャンヌ・・・・赦してほしい・・・すべてを裏切り・・・それでものうのうとこうしている私を・・・! 貴女がいてくれてさえいれば私はすべてよかった・・・!! それなのに・・・それなのに・・・!!!!」

 

 とうとう手当もできず、感情のままに大粒の涙を流すジル。肩に添えられた手に両手で触れて、その鎧の造形、まだ残っている炎の熱。ジャンヌが今いる実感を涙でかすんで見えない目の代わりに手で感じる。

 

 嬉しいのだ。もう会うことはないと思っていた人に、やさしく声をかけてもらえることが、手当てを受けてくれることが。一緒に食事をとれたことが。一緒に同じ場所にいるということが。

 

 「私は死にました。けれどジルは残って、私たちが守り抜いたフランスを守ってくれる。あのフランスの状況からここまでできているのですから神様の声を聴けるだけの田舎娘ができた成果としてはできすぎなくらいです」

 

 「ですが、貴女がいたならもっとできた! より良いフランスを! 政治闘争に明け暮れて貴女を見放すような奴らをのこら・・・・・ジャンヌ!!?」

 

 「ふえ・・・・・? どうしました・・・・? ジル」

 

 急に眼を見開き、思わず飛びのいてしまうジル。先ほどまでの空気はあっという間に霧散してしまい、ジャンヌ自身も素っ頓狂な声を上げる。その疑問自体はすぐさま解決するところとなる。

 

 違和感を感じたのはジャンヌの両ほほ。何せついさっきまでジャンヌオルタと散々殴り合いを演じ、顔も何度となく拳をねじ込まれた。少しの間はよかったが、ジルに手当てを受けている間に腫れはじめ、現在はまるでア〇パン男のようにほほが大きくはれ上がっていた。

 

 ジルも訓練で顔のけがはあったし、ジャンヌの顔にもあざ自体はあったが泣いている間にまさかここまでの劇的な変化をしてしまうとは予想外であり、あの整った美しい顔がおかめのようになっているのだからこの反応もやむなしといったところだろう。

 

 「あ・・・顔が腫れて・・・じーんと熱くなってきましたね・・・っふふふ。私の顔。面白いことになっているんでしょうね」

 

 「いえ! その顔も美しいですジャンヌ! 天使だってあなたの美しさは認めるところでしょう!! さあ、より美しくなるためにこの薬をお塗りくださいませ! 腫れにも効果ありと華奈殿が言っていましたからな!! ・・・・・・・・・・・こうして、ただただ話をして過ごしたかったものです・・・」

 

 「あ、では・・・ふふ、そうですね・・・いひゃっ・・・! ひつつ・・・英霊でも、痛いものは痛いのですね・・・ひゅふ・・・」

 

 この顔がいい意味で空気を変えたか、少し砕けた様子のジルから塗り薬を受け取り、笑いながら顔にゆっくりと薬を塗りこんでいくジャンヌ。決して行ったことが消えるわけではないし、負い目もある。それでも少し前の、一緒に洗戦場を駆け回り、そのあとにのんびりとしたわずかな余暇。それを思い出しながら互いに微笑みを浮かべる。

 

 その間も退去は徐々に行われてジャンヌは足元から徐々に消えていき、光の粒となっていく。

 

 「もう時間ですね・・・ジル・・・私が今フランスにできることはここまでのようです・・・フランスの明日を頼みました。私も天の国から見守っています・・・・・・また会いましょうジル」

 

 「っ・・・・・・・! はい・・・! ジャンヌ。貴女が安心していられるようにこのジル・ド・レェが全力でフランスを守り抜きますとも!」

 

 薬を受け取ったまま、やや腫れが引いて慈しむ、やさしく投げかけるような笑みを浮かべて消えていくジャンヌ・ダルク。涙の後をぬぐい、一番思い慕う相手の前で攻めて最後くらいはとぴしりと敬礼して見送ろうとするジル・ド・レェ。

 

 「ありがとうございます・・・さようなら、ジル。これからも主の導きがあなたにあらんことを」

 

 「おおぉ・・・・! ジャンヌ! 貴女にこそ主の導きを! ご高配を賜ることを! ありがとう・・・・・救国の聖女! ジャンヌ・ダルクよ!!!」

 

 狂ったフランスでの歴史。この特異点が修正されればこの気持ちを新たにした救国の英雄たるジル・ド・レェも修正され、元の歴史の通りに淫蕩で残虐な日々にふけるだろう。

 

 それでも、のちのフランスへとのバトンをつなぐことができた。歴史を紡げた。国を託したものと残されたもの。かつての戦友の二度の別れを見届けつつ、カルデアのメンバーはフランスから帰還。約三日に及ぶ特異点での激戦は幕を閉じることとなる。




~カルデア~

ロマニ「やあみんなお疲れ様! 無事に特異点を修復できて何よりだ。聖杯も華奈が持っているし、まさか物資が増えるとは思わなかったよ。これで銀嶺隊が増えても普通に過ごせるレベル。うん、まさかの一部は黒字収入だ」

ダ・ヴィンチちゃん「ミルクにチーズにお肉に小麦♪ ワインにビールに少し古めの大樽。野菜も種もみや苗。球根とウハウハだ。これらを一部水耕栽培、空いているスペースを菜園にすれば華奈の貯蓄と合わせて食料関連も大いに回せるだろう。ウィスキーも作ろっかなー。チーズも、ヤギのミルクだってあるし癖の強いのを・・・・・っと! その前にだ! いい匂いに忘れそうになったがストーム! 華奈! あの兵器たちを私に教えたまえ!!! それと、一緒にゲームも全シリーズ! 調べつくしたいんだよねえ!!」

オルガマリー「何と言いますか・・・過酷なはずの特異点で食事の思い出、いえ記録ができるとは思いましませんでしたが・・・んんっ・・・ともあれ、特異点の攻略。感謝します。所長として貴方達を誇りに思います。本当にありがとう・・・」

良馬「ほかにも兵士への報酬や村への慰問金、もしくは復興、徴兵への手付金だったのでしょうか。いくつかの宝物もあれば宝石や魔力のリソースとなるものまで多数です。これなら必要な英霊の契約数もいくらかは多めにしても問題はないです」

元「それでなんだけど・・・食料や物資が増えた分、管理というか備蓄場所が足りない。補修作業や安全のためにまだ封鎖中の場所には置けないけど食糧庫もそれなりにきつくて、現在は華奈の用意していた英霊の聖遺物の置いていた場所、あと、書庫の一部も使わざるを得なくい状況なんだよね・・・」

エミヤ「いやはや・・・軍が本来数日食べる分、せいぜいが二日ほどだとしても軍馬や数千、万単位の兵士の食料であればカルデアには多すぎるものだな。科学と魔術の天文台が一気に大食糧庫に大変わりさ。卸業でもするつもりかね?」

アルトリア「姉上の宝具で全員出しても問題なさ・・・いえ、無理でしょうけど、それでももともとの備蓄と合わせてもキャパオーバーになりかねないと」

冬利「ぶっちゃけた話、食料の腐敗やそれによる疫病考えるレベルですぜ。今回の魔力のリソースのいくつかを冷凍保存にも回したりしておくのがいいでしょうかねえ。銀嶺に食べさせれば余剰分は華奈・・・姐さんの魔力になるらしいし」

咲「そ、それでもいくらかは菜園は必要だし、今用意しているものを利用するためにも菜園スペースは削れない。けど、食料部屋を開くにはまだ危険な部屋もあれば、整理も今から必要だなあ・・・と」

藤丸「結局、また別の意味でお仕事が増えちゃうってわけだね。うれしい悲鳴かな・・・・? ・・・?? なんだろ」
(ズボンに違和感を覚え、尻のポケットに手を伸ばす。扇が一つ)

華奈「(ふぅむ・・・・・・・書物の場所まで圧迫するのは嫌ですねえ・・・今後も防備と安心のために英霊は呼べないか打診しますし、本はいいものですから・・・あ、そうだ)」

ストーム1「(戦記物とか、伝記を取りづらくなるのはつらいなあ・・・武器の整理や休憩時間の片手間に読んでも今後はそれがヒントになるだろうし、あ、そういえばこの剣のこと、マスターに言うの忘れてた)」

マシュ「すぐにでも整理と余裕のあるスペースを確保するための整理に走らないといけませんね。良馬さん。カルデアのマップ出してもらえませんか? それとダンカンさんたちも一緒に動いてくだされば」

華奈「いえ、書物に関しては私・・・というよりも少しあてがあるのでどうにかなると思います。一度休憩室、レクリエーションルームに書物、その資材、主に机や椅子を移動。ああ、ボードも問題ないですよ」

ヤマジ「大将。何をする気なんだ? まあ、おおよそ考えはわかるが」

華奈「そりゃあ・・・カルデアの模様替えを手伝ってくれる英霊の召喚ですよ」






これにてオルレアンは終了。しばらく小ネタを挟んで次に行きたいと思っています。いきなり次回は召喚になるでしょうけど。

言い訳といいますか、今回急にPCが不調になり、しばらくパソコンにあんまり触れられない状況で全く執筆が進みませんでした。大変申し訳ありませんでした。一応は直ったのでまたゆるゆると書いていく所存です。

ジル・ド・レェが軍需物資をあっさりくれたのは想像以上に早く戦が済んで民からの徴収をしなくてもよかったことや下手に持ちすぎても食料などは腐らせる可能性もあるからです。なら恩人たちにおいしく食べてもらうほうがこちらもうれしいし動きやすいといった感じです。

自国内での前代未聞の大騒ぎを終えて尚もたくさんの食料をほぼ無傷で持っていても搾取だとなんだと騒ぐ輩もいそうだし、対立派閥からは攻撃の理由にされそうだなという考えからでもあります。現場にいた兵士はジャンヌによるまとまりと、華奈たちのおいしいご飯の恩もあるわけですし。

現在カルデアには軍の物資にフランスを苦しめた大量のワイバーンを狩りつくして部位ごとに分けられたものが山ほど。どこの市場だといいたくなるような状況です。しかもすでに加工されたワイバーンのウィンナーやら出汁用に分けられた骨などたくさん。

次回は召喚。なかなかの人数になるかもしれません。また良ければこの駄作にお付き合いくださいませ。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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求人カルデア

ストーム1「マスターこれ」
(剣を渡す)

華奈「ストーム、これジークフリート様のでは・・・?」

ストーム1「お前さんが気に入ったとよ。戦力として使っちゃいな。俺がフェンサーにならないでも済むし、それに・・・・」
(ちらりと周りを見る)

クラーク「はーい、バックおーらーい、バックおーらーい。あ、少し先がカーブになっているので気を付けてくださいね~」

アンナ「えーと、第六隠し倉庫・・・もとい備蓄庫もいっぱい・・・あ、ここは?」

フラム「だめですね。発電機の置いている場所の隣で、そこは今も専用の電池やら修理用の機材を一部移したのでもうパンパンです」

アンナ「あらぁ・・・」

良馬「あとは・・・うーん・・・サブスタッフのレクリエーションルームでしょうか。ここも使うとして・・・」

オルガマリー「書庫の一部は出しておいて。華奈が何やらするみたいだし、とりあえず娯楽作品、必要性が薄いものやいざという時に保存しないでもいいものをピックアップして。えっと、台車どこにしまったかしら・・・?」

メディア「・・・・・え、最近の神話ってわりと緩く表現されていたりするのねえ。絵もかわいい・・・」

ヤマジ「うほっ、いい男。この絵いいなあ。文字も読みやすい」

花子「ワフッ!(訳 読んでる場合か!)」

フォウ「・・・フゥォォーウ・・・(訳 相変わらずだなあ・・・このガチホモは)」

クー・フーリン「ワイン樽部屋もう一杯だぞ。チーズやミルクは大丈夫そうだけど、そっちに移すか?」

アルトリア「うーん・・・ですねえ。それで行きましょう。水で薄めたやつとか、搾りかすから作った低品質用はそこに。あとで姉さまの部隊で味を上質化させるようです」

エミヤ「なに? それはぜひとも教授願いたいな。時間はいつ頃行うのかね?」

ダ・ヴィンチちゃん「あ”~~~!!!なんだこの蜘蛛の火力! おかしくない!!? 最高難易度とはいえアーマー数値7000あって2,3体に瞬殺されるっておかしいでしょ!!!」

マシュ「あ、華奈さんが書いていますね。この時の蜘蛛の火力は歴代最高におかしいので一番油断できないですよ。らしいです。直撃すればそれくらいは覚悟しないといけないとか」

ロマニ「最高難易度しばりのすごさがよくわかるねえ・・・僕は簡単な難易度から慣らしていくしかないかな・・・?」

藤丸「うぉ・・・! 鱗だけの箱なのになかなか・・・!」

ストーム1「力仕事できる男手は欲しい」

華奈「ですよね。それに、あの強さを見ているカルデアの皆様に、藤丸様、私から見てもいれば心強い、安心感も増すでしょう。では、呼びましょうか。あ、それと・・・レクリエーションルームを・・・ロマニ様。召喚後に使っていいですか?」

ロマニ「へ? あ、ああ・・いいけど、とりあえず今の状況をどうにかしてからね。このままじゃ廊下に物資を投げっぱなしにしかねない」

華奈「了解です。では、そうですねえ・・・」
(一度自室に戻っていく)



~???~

???「あれは・・・! また会えるかもです!」

???「・・・何かしているように・・・今度こそ・・・いえ、超えるのよ・・・!!」

???「届いたか・・・俺も叶うのならあの場所の盾として・・」

???「あら・・・この気配・・・? もしかして? うふっ・・・あの方に呼ばれるのかもですね」

???「安珍さま・・・今参りますよ!」




 数日で被害なし、食料やら物資をたらふく持ち帰ることに成功した特異点攻略チーム。この快挙にカルデアは喜ぶ暇もなく、その持ち込みすぎた物資の配置や整理に早速観測スタッフや非番のスタッフまで呼び出して模様替えまでして物資の運搬にてんてこ舞いとなっていた。

 

 さながら朝市での光景を見るようなにぎやかさと食料の豊富さ、多彩さにはぱっと見ではここが南極の雪山にそびえる科学と魔術の合体した天文台とは思えないだろう。

 

 しかしながらこの物資は特異点を攻略したとはいえまだ残り6つも攻略せねばならず、そこに行くまでいつになるかわからないまま籠城しなければいけないカルデアにとっては一つ一つが貴重な食糧であり、心の支えでもある。

 

 それゆえに皆が必死に汗水流して働いているのだが、それでも元は数百名の人数で運営していた施設にどんと来た数千、万の人間の食べる食料が来ては整理も一苦労。中にはこの重労働に腰を痛めたりだの早速弊害が出る始末。

 

 とりあえずのスペース確保。人手確保のために華奈、藤丸は召喚ルームに移動し、新たな英霊の召喚に挑むことに決まった。

 

 「みんな大変な中だけど、なんだかラッキーだよ。これだけの備蓄がたまるというのはね。さ、召喚を行うけど、準備はいいかい?」

 

 大量の食料によって今後の食生活が潤う、職員の食事による栄養、および精神観念からの健康にうれしい予測を出せたことが良かったのか、それとも純粋に外で行われている模様替えに合法的にバックレることっができたのがうれしいのかわからないが、いつもよりも2割増しの笑顔で準備を始めるロマニ。後ろでは電力を多く使うためにフラムとアンナがおり、隣では良馬が改めて現在のカルデアの電力からの召喚できる余裕を再チェックしてはまた再度確認と念入りな再度チェックをしている。

 

 「私は問題ないです。とりあえずは藤丸様はどうです? 先に行きますか?」

 

 「え? うーん・・・はい。俺も早めに作業を手伝ったほうがいいでしょうし!」

 

 「えーと・・・オッケーですね。今回は船坂さんが回収した聖杯のちょっとの魔力と、フランスからの魔力リソース、これと少しのカルデアの備蓄を回せば合計八騎の召喚をしてもおつりが来ます。そのカルデアの備蓄もアルトリアさんの魔力をアンナ様が自身の雷魔術に変換してさらに増幅しているのでその備蓄も出してないも同然。イレギュラーな大英雄の召喚が来てもとりあえずは大丈夫かと」

 

 良馬のお墨付きももらい、早速召喚するために電力を回していくロマニ。準備が整ったところでまずは作業に戻ろうと考えていた藤丸が一歩前に出て立つ。

 

 「お願いします」

 

 「了解。じゃ、スイッチを入れるよ」

 

 スイッチが入り、召喚台のサークルが回り始める。正直なところ、嫌な予感・・・とまではいわなくても変な確信が藤丸にはあった。

 

 フランスで出会い、自分を運命の相手だと言ってずっとくっついていた女性。清姫。「安珍、清姫伝説」と日本の物語でもそれなりに有名で、そしてなかなかにホラーな物語。安珍の最後や行いを考えると自分も同じ目に合うのかもと想像してしまう。

 

 念のために「なぜか」あった扇は別のところにしまっておいたが、どうにも不安がぬぐえない。あの物語での執念を思うと、そして自身もフランスで感じた入れ込み具合。異性との関係に少し疎いかもしれないと考えている藤丸でも予感はあったし、今もこうして変な汗を流す。

 

 「うふふ。サーヴァント、バーサーカー清姫。ただいま参りました。ますたあ。今後もずっとお願いしますね?」

 

 その予感に応えたか、はたまた考えたせいで繋いでいた縁が強くなってきたのか。それとも、清姫がこの縁を手繰って無理やりに来たのか。光の環が収まり、聞こえてきた声、エメラルド色と白、金を基調とした美しい衣装。その衣装よりもやや色素を薄めた髪に美しい顔立ち、金の瞳。目立つ竜のものと思われる角を持つ美少女。

 

 清姫は召喚されるや否や目の前に立つ藤丸に頭を下げ、満面の笑みを浮かべる。

 

 「う、うん。よろしくね。早速なんだけど、いまカルデア模様替え中で、人手が欲しいんだけど、あとで俺の代わりに地図を見てナビとか、整理に手を貸してくれないかな・・・?」

 

 その笑顔に少し引き気味ではある藤丸だが、ともに作業しようととりあえずは投げかける。女性の英霊である以上戦闘、矢面に立たせることがあるのは確かなのだが、それでも女性としての接し方はしなければだめだと考えているし、清姫伝説は安珍からの拒絶から始まったことを一応は知っている。

 

 ならいっそ距離を近くして何がだめなのか、何がいいのかを知るために動くことに意識を向ける。いざとなれば周りの銀嶺隊やクー・フーリンに助けてもらう。多少の算段はあるが、好意を持ってくれる女性には優しく接したいという藤丸なりの意地だった。

 

 「うわぁ・・・念のために扇は仕舞っていたのに、しかもフランスの記憶もバッチリか。さすが・・・」

 

 同じくこの光景を見てロマニも清姫伝説は知っているので思わず笑顔が引きつり、聞こえない程度の小声で思わずつぶやく。そんな男性陣を気にせずに清姫は何かスイッチが入ったか目をキラキラと輝かせている。

 

 「・・・・つまり共同作業! これからの私たちの住まいのための模様替えですわね!! 喜んで。この清姫ますたあ様のために粉骨砕身働きます!!! あ、華奈さん。私にもカルデアの地図を一つ!」

 

 「へ、あ。はい。えーと、これが紙のもので、これが端末。清姫様には巻物にしておきましょうか。えっと、これがまず・・・」

 

 いうが早いか、また自分が触媒にならないために外で待機していた華奈に駆け寄って早速地図の使い方を頭に叩き込んでいく清姫。きっと今の彼女の脳内予想図には藤丸と和気あいあいと作業をして一緒に社内恋愛、もしくは新婚の夫婦が新築のために汗水流すこと自分の姿でも想像しているのだろう。

 

 「うん・・・いい子だよね。あの時代のいいとこのお嬢様なのに、こうしてすぐ働こうと考えてくれるし、わからないことはすぐに聞きに行くし・・・」

 

 「・・・マシュも藤丸君に好意的だけど、これまたさらにすごい子が来たなあ・・・藤丸君、ハーレムでも作る気?」

 

 「いえ、俺はそんな気は・・・といいますか、モテたためしなんてないです。とりあえずは次いきましょうか」

 

 あっけにとられつつも、とりあえずは空気を変えようとしたか藤丸も再度召喚を行おうと意識を切り替える。時間は欲しいし、一人目は意欲的で、とりあえずの協調性もあるだろう。となれば次の英霊、戦力だ。一緒に戦ってくれる頼もしい戦友。仲間。フランスで出会った誰が来てくれるのか。

 

 藤丸の意識の切り替えに合わせて召喚サークルは回りだし、強い光を放ち、勢いを増す。やがてそれが収まるとまた一人の人物が立っていた。

 

 「サーヴァントアヴェンジャー、召喚に従い参上しました」

 

 変わった額あて、ファーのある黒いマント。すべてをほぼ黒で統一した鎧、姿はかつてフランスで出会った聖女であっても肌の白さ、髪の色、瞳は違い、何よりもまとう空気や威圧感はまるで別物。そして、その人物は何よりも敵だった人物のひとりでありリーダー格。

 

 「どうしました? その顔は? さ、私を呼んだのですから喜ぶべきじゃないかしら?」

 

 ジャンヌオルタが藤丸の契約に応じる形で現れ、やや卑屈な笑みを浮かべていた。

 

 「これは驚きだ・・・・まさか一番僕らを殺したいはずのジャンヌオルタが来るとは・・・霊基は弱いけど、それでも並みのキャスターやアサシンならひねりつぶせるくらいの自力もある・・・どういう風の吹き回しだい?」

 

 「・・・下っ端が知った風に言いますが、まあそうですね。フランスでのあれは本当に腸が煮えくり返りました。負けて、その後も煉獄で機会を伺おうかとも思いましたがいざそうなれば知ることになったのは私が私であることへの脆弱すぎる基盤。いえ、『英霊の座』でしたか? それが私はあまりにもろすぎる。もしあんたらが負ければそれこそ復讐の機会も失われる。勝ってもここにいなければ召喚の機会も減るかも。最悪私自身も消えかねない。それよりはあの詐欺師狼女の口車に乗って、それを手繰ってくるのもいいかもと思いまして・・・癪だけど、殴る相手が殴れない、見返す相手がいないまま終わるのはごめんよ」

 

 苦虫かみつぶした顔になりながらもあっさりとすぐに事情を話すジャンヌオルタ。一度復讐の大舞台から殴り飛ばされ、その間に改めて自身の今後、フランスへの復讐、もしくは見返すためにあえて恥を忍んできたということなのだろう。

 

「うん、わかったけど下っ端はひどくないかな!? それなりに頑張っているけど・・うん、まあ実際中間管理職な部分も否めないかも・・・?」

 

 「・・・ふふっ・・・」

 

 罵倒交じりの返答に軽くショックを受けるロマニとは別に藤丸はジャンヌオルタのその返事にほほを緩ませる。やや早口で、饒舌にいうあたり初めから言い訳を考えていたか、恥ずかしいからサッサと言い切って追及させないつもりか。その反応が面白く笑みがこぼれる。それをすぐさまジャンヌオルタは逃さず鋭い視線を向けて接近していく。

 

 「・・・何がおかしいのです。私の言葉に間違いが? 見返すために戦おうと言ったのはそっちの現場の大将でしょう?」

 

 「あ、いや・・・令呪のリスクや華奈さんがいてもこうして一緒に戦えるのはうれしいよ。だって、あのパワーに炎、かっこよかったし奇麗だから」

 

 一瞬驚いて後ずさるもタハハと笑い、威圧を受け流してフランスでの戦闘でどこか感じていたことを話す藤丸。紅蓮の炎を操り、体ごと吹き飛ばしかねない一撃を細腕から繰り出す。炎の中でたたずむ姿も、最後の殴り合いで見せた根性も味方なら心強いと

 

 (それと、強情な敵がこうして味方になるってなんだかかっこいいし)

 

 「・・・・・ふぅんあの女の部下、ないし後輩みたいだけど一応の見る目はあるわけね。いいわ、ぎりぎり合格。今だけはそちらの刃になりましょう。で、初仕事は何なの? マスター」

 

 少しの間を開け、ニヤリと美しい顔をニヒルにゆがませて一歩距離をとるジャンヌオルタ。英霊との鍛錬でそれなりに慣れた、もしくは鍛えられ始めた藤丸もさすがに威圧には少し応えたか少し息を吐いて呼吸を整える。

 

 「その・・・カルデアの模様替え。あとは食料の整理とかの・・・倉庫整理・・・・かな?」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・?」

 

 先ほどの剣呑した空気から少し和やかな空気に変わったかと思えば一気に何かが抜け、言っている言葉がわからないという表情をジャンヌオルタが浮かべて静止してしまう。

 

 「もう一度お願いするわ」

 

 「いや倉庫整理・・・?」

 

 「なんで英霊を呼んでいきなりそんな雑用ないしバイトみたいなことをさせるのよ!!? こういうのは槍働きや、ピンチに対処するための戦力増強じゃないの!?」

 

 もう一度聞いても同じ答えが返ってきたことで訳が分からんと怒声を上げるジャンヌオルタ。あれほどのふざけた作戦や一日で廃城を見事な防衛陣地を敷いて見せる部隊と肩を並べるのだから激しい訓練や戦い、そのための調整があると考えていたがいきなり頼まれるのは雑用。視線を変えれば憎らしい華奈も清姫も何やら打ち合わせをしているし聞いてみればあちらはノリノリで作業のための説明を行っている始末。

 

 つまりはこちらの意識だけ違ったか、意識を上げすぎていたか。英霊というものに武官のイメージを抱きすぎたかと考えるも一度大きく息を吐き。

 

 「はぁ~~・・・・・・わかりました。食料とかの用意とか、作戦も綿密な打ち合わせが必要ですものね・・・・・・では、私も参加してきます。では、失礼するわ」

 

 ドカドカと荒々しく靴を鳴らしながら召喚ルームを出ていくジャンヌオルタ。その後華奈と清姫にあって遠目ながらに2,3つ言葉を交わしてすぐに出ていった。険悪な関係は続くかもだが、とりあえずはからかったり、下手に刺激しなければこの中になじむかもしれないと藤丸も考える。

 

 すぐに起こる部分はあるが、我慢もできれば必要な判断であれば意外と飲み込んでいけそう。とりあえずは無事に行けそうでよかったと胸をなでおろす。

 

 「まさかジャンヌオルタが来るなんてね・・・わからないものだわ。藤丸君もお疲れ様。もう大丈夫よ」

 

「所長? あれ? 所長も呼ぶのですか?」

 

 後ろからジャンヌオルタと入れ替わりに聞こえてくる声に振り向けばオルガマリーがそこに立っており、先ほどジャンヌオルタが立っていた方向を見ながらつぶやくように話す。

 

 「? ええ、華奈にぜひ一騎契約してほしいと。カルデアの防衛やいざという時に私も出るかもだから戦力増強はぜひって言われてね。・・・・元のほうが経験からしても適役だけど、いざという時に長くレイシフトしてとどまれるし、カルデアのトップの警護という点から譲られたわ。元も同じこと言ってきたし」

 

 ふぅ。と息を吐き、英霊を召喚できることの嬉しさと、同時にいざということが何なのかを想像したか表情が少し曇るオルガマリー。少し後ろ向きであることを差し引いても苛烈極まりない特異点を一回経験し、さらには二度目のワイバーンや英霊同士の合戦も映像越しとは見ていたのだ。またそれを経験するのかと気負いしてもいるのだろう。

 

 しかし、一度死の運命を乗り越えて吹っ切れたか、そのマイナス思考に飲まれる前に一度頭を振って意識を切り替え、カルデア所長としての顔になる。

 

 「とりあえずは私も補欠として備えるし、そっちも今後は後ろのことは気にしなくてもよくなるってことよ。さ、藤丸君。作業に戻って大丈夫。貴方ようの台車も一つ借りてきて外に置いてあるから使いなさい」

 

 「了解しました。所長。ありがとうございます」

 

 頭を下げ、召喚室の外に出ていく藤丸。それを見届けたオルガマリーはくるりとロマニのほうに視線を向けて大丈夫か? とアイコンタクトをとる。それに対して問題ないとにこやかな笑顔で手を振り、すぐさまコンソールを打ち、スイッチを入れた。

 

 「随分と丸くなりましたね。所長。余裕も出てきましたか?」

 

 「余裕は・・・・・そうね、少しだけ。でも、それは私個人だけで、みんながその余裕を広げたり作ったり・・・励ましてくれるからこそよ。まだまだ怖いし、泣きそうなこともあるもの。けど・・・今はこれしかないもの。走るしかないわ」

 

 フランスでのレイシフト、そしてジャンヌオルタに冬木とは違う影ではない多くの英霊に怪物、守らないといけない民衆。冬木はいっそ何もないからこそ気にせず、町の中という狭さからこそすぐに解決できた。しかし広大なフランスで、ワイバーンに英霊、相手のほうが取れる選択が多いために長く戦いは続き、物資の面でも電力の面でも不安はずっとあった。

 

 しかしふたを開ければ三日で攻略し、食料問題は解決。魔力リソースにストーム1がもらってきたジークフリートの剣という一級品の戦士、英霊の触媒すらももぎ取る始末。聖杯の回収や特異点攻略とすべてがカルデアにとってプラスに転んだのだ。

 

 まだ、振り切れてはいないが、下手に考えるよりは今ある最適解に飛び込むほうがいい。自分よりも優れた知能や見識、専門家はいる。そして、これからの荒事にも対応できる人材をこうして呼ぶことが、助けを求めることができる。そんな人材に助けてもらいながら、怖かったら頼って、すがってでも動き続ける。責任はその後で取ればいい。それが今のオルガマリーの考えだった。

 

 「そうですか・・・所長。疲れたら僕のところに来てくださいよ。体調不良は怖いですしね」

 

 「あなたがしっかりとさぼっていなければね? 甘い匂いのする医務室で診られるのは少し不安よ?」

 

 「ははは・・・患者との触れ合いも大切ということで・・・クラスは・・・エクストラクラス・・・このパターンは・・・」

 

 サークルの環が収まり、強い光を放つ。眩い光が落ち着いた後に来たのは一人の女性。

 

 「サーヴァント、ジャンヌ・ダルク。クラスはルーラー。マスター、どうぞよろしくお願いします」

 

 先ほど召喚されたジャンヌオルタとは別で柔らかな表情。女性的な雰囲気を漂わせる美しい女性。白を基調とした鎧衣装に身を包み、携える旗は神々しさすらも感じる。救国の聖女、あの邪竜の息吹すらも受け止め切り、人として、英霊として二度もフランスを救った英雄。

 

 ジャンヌ・ダルクその人が目の前に現れ、頭を下げる。

 

 「・・・・・・・あ、ん・・・私はカルデアの所長オルガマリー。貴女のマスターになります。華奈、アルトリアじゃないのは残念でしょうけど、よければ今後もカルデアの守り、そして戦いに力を貸してほしいわ」

 

「もちろんです。皆様の守りとなり、ここの支えとなりましょう。これからもこの田舎女でよければどうぞよろしくお願いします」

 

 思わぬ、まさか自分にこの聖女が契約してくれるとは思わず驚くもこちらも頭を下げ、その後に顔を上げて右手を差し出す。ジャンヌもこれに応えるように右手を出して握手をし、微笑む。

 

 「で、早速なんだけど・・・いまカルデア内部は模様替えの真っ最中で、人手が欲しいの。私たちじゃ少し手間のかかる、もしくは重たいものを持ってくれないかしら? このドアをくぐれば華奈がいるから場所とかを聞いてもらえば大丈夫」

 

 「了解です。では行ってきます!」

 

 「・・・なんだか、話していると前の私のヒステリックさとか、すぐ怒っていたのがあほらしく感じるわね。あの子を見ていると。私も行きましょうか。区画の再整備と、どれくらい部屋の余裕を作るか考えないといけないし・・・」

 

 意気揚々と部屋を出ていくジャンヌのもつ空気、というか性格にすこし前を思い出しながら召喚室を出ていくオルガマリー。そしてオルガマリーが出てからしばらくして剣と筆を持って華奈も召喚室に入り、準備を始めていく。

 

 「今回は華奈は二騎だっけ。ジークフリートと、これが触媒?」

 

 「ええ、戦力確保。そして、今の問題解決と精神的ケアの目的を達成できるかもしれない方です。まずはジークフリート様を」

 

 抱えるだけでも一苦労なサイズの剣を召喚サークルにセットし、少し離れる華奈。それをみたロマニはすぐさまスイッチを入れておく。今までの光とはまた違う、どこか荒々しくも安心できる光。

 

 「サーヴァント、セイバー・・・ジークフリートだ・・・俺を呼んでくれて感謝する。マスター」

 

 胸と背中をさらした独特な黒を基調とした衣装の上から鎧をまとい、触媒となっていた剣を背中にさす。伸びた白と一部やや黒、そして色味が混じった髪。青の鋭くもやさしさを秘めた瞳。胸には独特の文様がはしる美丈夫。フランスにて邪竜を打ち倒す大功を上げ、ストーム1に剣を託した戦士。

 

 ジークフリートがカルデアに参戦し、華奈との契約が結ばれた。

 

 「こちらこそ感謝します。貴方の守り、心、そして武勇はカルデアの皆様の支えとなりましょう。そのうえでいいます。私の呼び方はどうぞ好きなように。私もここに呼ばれた英霊ですゆえ。そして、貴方が成したいことを成し、困ったことがあれば言ってください。ストームもいますし、気楽に」

 

 「そうか・・・では、いや・・・慣れないな。マスターよ。これからもどうかお願いする。で、なんだが・・・・・外がにわかに騒がしい気もするが、どうしているのだ・・・?」

 

 「ああ・・・実はですが、今回の早急な召喚には英霊の方々の力、人でも欲しくて。大量の物資の整理のために今大忙しなんですよ」

 

 防音設備はそれなりにいいはずなのだが、それでも外の気配を感じ取ったか。苦笑しつつ今のカルデアの内情と召喚の理由を話す華奈にフランスでの記録を持っているジークフリートも理解し、納得したと視線を華奈に戻す。

 

 「そうか・・ではすまないがマスター。早速皆の手伝いに行きたいのだが・・・なにせ俺はここの施設の道がわからない。よければ道案内・・・もしくは地図はないだろうか・・・?」

 

 「それでしたら、ハチ~」

 

 一度召喚室からでて華奈が声をかければ白色の巨大な狼が召喚室に入り込み、華奈にすり寄る。

 

 「この子が案内します。とりあえずはそれで管制室にあいさつを。それとどこで作業をするか聞いてください。その時にここの皆様とあいさつもできましょう。ストームも、クー・フーリン様もいますよ?」

 

 「・・・確か、マスターの魔獣で最古参の魔狼だったか・・・すまな、あ、ありがとう。早速行ってくる。あとで会おう。マスター」

 

 ハチの頭を撫で、お願いすると頭を下げてハチと一緒に部屋を出るジークフリート。さりげなく物資の整理と聞いていたからか剣を収めて物資や職員を傷つけないようにしており、その細やかさに微笑む。

 

 すぐ後に外から歓声が上がったことから無事に受け入れられたことを華奈は感じ、今度は筆を召喚サークルにセットする。

 

 「さすがかの英雄。フランスでも立ち回りもあってすぐになじんだようで。ふふ、良き哉良き哉♪」

 

 「僕としては華奈の負担も少し心配だけど・・・まあ、まだ宝具もセーブ状態だし、ストーム1もクラススキルで基本負担はかからないからいいけど、保険は用意したいね」

 

 「そこは私も節約を心がけていくことと、立ち回りでしょうか。私よりもより大局、戦略を見れる方を今後は招くべきなのかもですね・・・・・さ、お願いします」

 

 華奈の言葉にロマニも頷き再びスイッチを入れる。先ほどよりも光の激しさはなく、どこか穏やかな光。収まってサークルの上に立っていたのは一人の女性。

 

 「サーヴァント、紫式部でございます。文に親しみ、詞に焦がれ、人の想いに寄り添う女にて・・・お久しぶりです。華奈様」

 

 しなやかでありながら出るところ出た見事な体を漆黒のドレスに身を包み、美しく長い黒髪は一部を垂らして残りは後ろに流し、一見耳にも、何かの飾りにも見えるように一部の髪をまとめ、紫の渦巻きが入った青の髪飾りでとめている。それ以外は腰よりも下に流して一部は変わったウェーブがかかる変わった髪型。

 

 紫がかった瞳はやさしくこちらを見つめ、手に持つ黒い傘はその独特で、穏やかな雰囲気を引き立てる。平安時代にていくつもの著名な作品を書き上げた歌人、作家。紫式部が召喚され、丁寧なしぐさでお辞儀をして笑う。

 

 「お久しぶりです。紫式部様。此度は貴女様の力・・・陰陽術と、私たちカルデアの書物の一部をその術で管理、保管できる場所を用意してもらいたく。このような場所、状況ですが、どうでしょうか・・・?」

 

 「紫式部!? また日本屈指の歌人じゃないか! それと、陰陽術? 術者でもあったのか!?」

 

 華奈が個人で保持していた触媒で召喚された美女の正体に驚くロマニ。

 

 「ひっ・・・!?」

 

 「驚きすぎですロマニ様・・・大丈夫です。害意は一切ないですから紫式部様。いわゆる、思わぬ有名人の登場に驚いているだけですから」

 

 「そ、そうでしょうか・・・では、先ほどのお話。喜んでお受けいたします。私を人理最後の砦の一員として迎え入れること・・・あまりにも重い話ですが・・・貴女様の頼みならお受けします。ですが、私も頼みたいことがありまして・・・」

 

 それに驚き、少し飛びのいた紫式部を受け止めてほほ笑む華奈。その笑顔に少し落ち着けたかその話を受けることで契約を結ぶ。が、ただし、と話を続け

 

 「華奈様の作品・・・サバフェスで出される作品。今までのものをこちらの用意します図書館に寄贈すること、それと・・・私は文をつづるつもりはありませんが、お手伝い、編集、相談、また開かれる催しにはサークルに売り子、手伝いとして入れてはもらえませんか・・・? で、出過ぎたものだとは思いますが! そ、そのどうでしょうか・・・!?」

 

 少し焦りながらも自身の頼みごとを言い、さすがに我儘だったかと顔を真っ赤にする紫式部。

 

 「願ってもないです。こちらから頼みます。どうか私のサークルのつたない作品であれば見ていってくださいませ。そして、その経験と文才からお助けくだされば」

 

 「ひゃ・・・! ひゃい!! ありがとうございます! で、ですが顔をお上げになってくださいませ! 貴女のサーヴァントですので私が言いすぎましたし! も、申し訳ありません!」

 

 申し出にむしろありがたいと頭を下げる華奈。これに紫式部も頭を下げ、それにまた華奈もお辞儀をするというお辞儀合戦が少しの間始まり、ようやく紫式部の気持ちも落ち着いたか真っ赤な顔はなくなっていた。

 

 「では、私もこの区画の地下に図書館を作り、そちらの一部の書物を預かります。それ以外にも椅子や机などもこちらに収納できるようにしますし、ちょっとしたレクリエーション、話し合いができる場も用意しましょう。書物の選別は終わっているとのことですし、後は図書館を作った後でそれを運び込めばいいのですね?」

 

 「はい。そのように。あとは・・・必要でしたら私の部屋にでも入れるように裏口でも作って繋げちゃえばいいですよ。そうすれば気になれば私の部屋のネームや原案、万が一の避難場所にもなります。食事が欲しければ作りますし」

 

 お辞儀合戦が収まり、今度は互いに仕事人の顔で打ち合わせをしていく華奈と紫式部。会話自体はヤマジ達一部には聞こえるように通信機をつけっぱなしにしており、すぐに紫式部が作業に入れるようにと準備を始めておく。

 

 「・・・ふふ、ではそうさせてもらいます。私もすぐに図書館を作ります。・・・・・・・ああ、そうです華奈様」

 

 「なんでしょう?」

 

 「これからもどうぞよろしくお願いします。私のことは香子と呼んでくださって大丈夫ですよ?」

 

 クスリとほほ笑み、召喚ルームから出ていく紫式部。その立ち振る舞い、歩き方は麗人、貴人のそれで思わずロマニも華奈も見とれてしまうほど。

 

 「もう・・・私なんてただのサークル仲間で、今任せた仕事もなかなかの大変な仕事ですのに、信頼されちゃいましたね・・・応えられるようにしなければ」

 

 「まさかのサークル仲間かぁ・・・サバフェス。一回くらい参加するべきだったかな・・・?」

 

 「そのためにも戦わなければいけませんねえ。さて、次の仕事です・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たな英霊の召喚、参加にカルデアの皆が沸き上がり、紫式部の用意した地下図書館に書物、備蓄庫となることで使わない、置き場所に困った椅子や机、ホワイトボードなどを図書館の蔵書、備品とすることでとりあえずのカルデア内部の大整理を終えたころ。カルデアの英霊をダ・ヴィンチちゃん除く全員を集め、面接を華奈、オルガマリー、藤丸は行い、アンケートを取らせた。

 

 「えーと・・・どれどれ・・・」

 

 内容はズバリカルデアで英霊が過ごすにあたって欲しいものの要望。今後も精神的な意味で安定してもらうためにも必要だと思うものを書いてもらい、その後英霊たちには休憩をしてもらい、あるいは銀嶺隊にカルデア内部を案内してもらって結果を待つ状況。

 

 面接もそのリクエストを直に言ってもらうこと、マスターが可能なことを現在で理解していくことなどなど。それもひと段落して改めてアンケートをチェックするために冬利、咲、そして華奈たちのマスタメンバーで目を通し、可能かどうか調べていた。

 

 「えーと・・・姐さん。今のところリクエストはこんな感じだよ・・・?」

 

 

 

 

 

 

 リクエスト結果

 

 ストーム1:自身の武器庫とは別のルームを1つ。その部屋には風呂付きであり、袋入りのインスタントコーヒーとカフェオレの備蓄も部屋にあることを望む。

 

 メディア:フィギュ制作道具一式、プラモデルやガレージキット、ボトルシップをショップ、酒保? に追加。布、服飾や今後手に入る魔術道具作成に必要な道具は一部こちらに回してもらう。

 

 クー・フーリン:シミュレーションルームの使用許可権。酒、たばこを少量でいいので都合してほしい。菜園の手伝いもしたい。定期的にカルデアの英霊との組み手を希望。

 

 エミヤ:カルデアの食堂で今後も手を貸したい。食堂用のエプロンの準備、食品備蓄庫の専用マップデータを用意してほしい。可能であればストーム1の武器のデータも見せてほしい。

 

 ジャンヌ・ダルク:祈り、ミサができる教会のような部屋、懺悔室も可能であればほしい。

 

 ジャンヌオルタ:特になし。欲しいものはその場その場で言う。

 

 清姫:花嫁修業のために食堂での手伝いをしてみたい。また、銀嶺隊の女性騎士、親の経験を持つ方への師事。マスターの部屋とはぜひとも隣室で。

 

 ジークフリート:鎧姿では職員の皆様に驚かれる、怖がられるかもしれないので何らかの衣服を欲しく。あとは菜園で手伝えることがあれば参加を所望する。

 

 紫式部:新しい書物の図書館への寄贈。華奈の部屋への裏口を用意してほしい。

 

 

 

 

 

 

 「まあ・・・どれも問題ないですかね。物資の備えで改築も可能。嗜好品もまだまだありますし、酒や食料なら山ほどある。清姫様のは・・・・一応はクー・フーリン様の部屋を藤丸様の向かいにして備えとするとして・・・私の部隊から一人教えてあげればいいでしょう」

 

 「ぜひともお願いします・・・」

 

 「ミサも・・・まあ、私としては助かるわ。キリスト教のスタッフがいるし、こんな状況。何らかの安らぎ、支えは必要よ」

 

 「神父も確か華奈の部隊にいたはずだし、一人回してもらえればいいか・・・? 食事に関してはボードで本日のおすすめとかを書いておくことでいいかな」

 

 「衣服に関しても菜園用の服と私服を用意しておくべきですかねえ? やっぱり気分の切り替えとかの問題はあるでしょうし、あちらさんはこっちのブラックな状況に応えてくれてんだ。こっちも礼をわきまえなけりゃいけない、できる限りの要望には応えたい」

 

 「ボトルシップなども部屋が手狭になれば図書館で飾れるかを聞きましょう。プラモやガレージキットも関連した本のところで飾ればいいですしね。教会も後ろのほうでワインでも作ってふるまえるようにも」

 

 「姉上の本というのが私としては初耳ですが・・・まあ、聞くところによれば紫式部? も戦闘向きではないですしこれがいいでしょう。銀嶺隊も知識欲旺盛な方や本に触れる人が多い。図書館に足を運ぶ銀嶺隊の方でで警護もできるし今のところ難しい要求もないと」

 

 今後もカルデアを支える英霊たちへの配慮と感謝。そしてその英霊を現世にとどめる楔であり主であるマスターたちは今後の働きに応えるためにカルデアの備蓄と相談しながら部屋の割り振りや運用のための案を練っていく。




というわけで召喚編はこれで終了。華奈と紫式部はサバフェスでのサークルで仲良しという感じです。同好の士。趣味友達という感じでしょうか。

後は華奈がわりと行動派、最初のころの周りの白い目にも負けずにモルガン、国のためにとしながら割と自分のしたいこともしている部分が気に入られるかも・・・? という感じです。申し訳ありません。イベントを見たときにぜひともこの組み合わせはと思いました。

カルデアに招かれる英霊もただ呼ばれて手伝うだけではなく現世を堪能してほしいとのことで今回の後半のアンケートです。銀嶺は割とリクエストが通っているので今回は割愛。アルトリアも特にリクエストもないのでこれまた割愛。ダ・ヴィンチちゃんは言わなくても自分でやりたいことをいつの間にかしていそうなので。

衣服とリクエストもあってメディアさんはおそらくカニファン的なノリで自室では過ごすと思います。そしてできた作品の一部は図書館で飾られる。

ストーム1のリクエストは行軍時に現地の水を飲まないといけないときにインスタントコーヒーにすれば飲みやすくなるからということです。フランスでいきなり離れて行動した上に万が一カルデアからの物資が来ない場合の備えの一つです。自分が呼ばれたときに持ち運ぶために。

教会の後ろでビールという意味はヨーロッパの修道院のほとんどは6世紀ごろにはビールやワインを作る場所が多く、そういった意味でも作ったほうがいいかなということです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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下手の横好きと変なミサ

~食堂~

ジャンヌ「マスター。修道院、教会風のルームができてミサができるようです。一緒に見に行きませんか?」

オルガマリー「んぐっ・・・昼からなの・・・? まあ、いいけども、神父様は誰がするのよ?」
(和風山芋パスタを食事中)

ジャンヌ「銀嶺隊で元神父、修道院の方が何名かいらっしゃるのでそちらが執り行うそうです。ワインとパン・・・酒はだめでもぶどうジュースはふるまわれるそうですよ?」

オルガマリー「あー・・・・・フランスでの物資・・・それに・・まあ、いいわ、行きましょう」

ジャンヌ「ありがとうございます。隣人にも、主にも素晴らしい教えや歌は聞いてほしいですし」

オルガマリー「(・・・まだ時間はたっていないけど、あの銀嶺隊のミサねえ・・・興味はあるし、新しい施設の完成に見学に行くのも長の役目か・・・というか今のカルデアって傍から見れば何なのかしら・・・?)」

エミヤ「ほう。ミサが開けるのか。そちらの宗教ではないが、あいさつや祝いのことも兼ねて行くとしよう。確かパンはキリストの肉と言われていたし・・・では、液体のパンといえなくもないはずのビールでも持っていくとしようかね?」

ジャンヌ「はい。フランスではあまり飲めませんでしたが、そちらもおいしいと聞いています。それに、信者でなくても親しき隣人の贈り物ならあの方も皆様も喜んでくれます」

エミヤ「ははは。そこまで信心深いつもりもなければ、良き隣人かもわからんがね。では、少しだけ量を奮発しようか。今のところ飲み物含めてこのカルデアの食料は数年は優に過ごせる量がある。瓶ビール数本増やしても構わないかい? マスター」

オルガマリー「いいですよ。心をほぐし、このつらい状況でも楽しめる機会です。ただ、強いものはやめてきなさいよ? 度が過ぎれば酒も騒ぎのもとよ」

エミヤ「了解した。少し度数の低いものや、水も一緒に持っていくとしよう。冷えたやつを・・・クーラーボックスは・・・よし」

~藤丸のマイルーム~

マシュ「先輩。トレーニングお疲れ様です。休憩がてら、新しくできた教会風のルームで行われるミサに行ってみませんか?」
(治療用カプセルでの定期治療帰り)

藤丸「え? いいけど・・・おれ、仏教だよ? 家の宗教。宗教違うけどいいのかな・・・?」
(トレーニング帰り)

清姫「まあまあ、ますたあ。一つ行ってみるのもいいではないですか? 宗教は違えどもどちらも人を救いたい、安らぎを与えたいと願うもの。それに。えーと・・・ダンカン? さん曰く『基本空気を楽しんだり、ご飯目当てで来るのもオッケー。楽しむのが第一さ』と言っていらしていましたし」

藤丸「うわっ!? 清姫!!? いつの間に」

マシュ「そ、そういえばいつの間に・・・アサシンを思わせる見事な背後の取り方でした・・・! もしや華奈さんのようなダブルクラス!?」

清姫「そんな大層なことはできないですわよ。私はバーサーカーのクラスですもの。で、どうします? ぶどうジュースにパン、それに、賛美歌や踊りもあるそうですよ?」

マシュ「あ、そこなんですよ。私、いつも映像でしか賛美歌やミサの光景って見たことがなくて、それに、当時の食事はどんなものだったのかも知りたくて」

藤丸「うーん、マシュがそういうなら、この後も特に予定はなかったし。いこっか。清姫もどう?」

マシュ「はい!」

清姫「承りました。おそばで楽しませてもらいます」

~華奈のマイルーム~

ダ・ヴィンチちゃん「よし、ストーム1! タレット置けたよ! 急いで戻って! ここからは迫撃砲と爆撃祭りだ!」
(エアレイダープレイ)

ストーム1「了解! ブーストジャンプ、ウィングフェンサーの機動力で大爆走だぜ!」
(フェンサープレイ)

紫式部「あれもストーム1様の物語のゲーム・・・ぜひとも物語・・・紙にまとめてみたいですね」

アルトリア「・・・・・・・・・」
(もくもくと読書中)

華奈「いやぁ、あれは大変だと思いますよ。ネームはこうして・・・ストーム、香子様、近くの資料7番と攻略本ください」

紫式部「はい」

ストーム1「そらよっ・・・ってカエルが面白い飛び方してんな」

ダ・ヴィンチちゃん「日本の鳥獣戯画だっけ? あれなノリだね・・・芸術点の高いカエルだ。あ、そうそう華奈。そっちの言っていた計画、あれはどうにかなりそうだ。今後も特異点でそれなりの魔力リソースを聖杯以外でも用意できれば。今回の物資もろもろだけでも一応はどうにかなるかもだが念のためにもね」

華奈「これはありがたいです。あ、そうです。これもできますか?」
(数枚の紙束を渡す)

ダ・ヴィンチちゃん「ミッションクリアー。いやあ、機動力があると違うね。どれどれ・・・? ・・・・!!? ここまで精密、かつ細かな設計とは・・いいだろう。やってみようじゃないか」

華奈「ありがとうございます。さてと・・・あ、香子様。今回はこんな感じです」

紫式部「失礼します・・・・いいですね。では、おまけの書下ろしはこれで」

ストーム1「おー・・・・こりゃすごい。武器の書き込みに発砲から数コマでの飛んだ薬きょうの合計とマガジンの交換が弾数ぴったり」

華奈「冬利様と良馬様も助けてくれましたよ。資料が手に入りやすいので」

~図書館~

ジャンヌオルタ「うっく・・・・・ぐ・・・」

アンナ「力入れすぎなくても大丈夫よ。ガリ版でもないんだし」

ジャンヌオルタ「う、うるさい! これでどう!」

アンナ「うん・・・花丸とはいかないけど、合格。それなりに読めるわ。じゃ、次の文字ね。それと、今度は下敷き抜き。頼ってしまいすぎるとそのままペラペラの紙でも強く書いて破いちゃいそうだし」

クラーク「はい、鉛筆と握り方練習用の道具。少し頑丈なものを用意しました」

アンナ「あ、ナイスタイミングよ。じゃ、これを使ってしばらく練習しましょうか。みんな今頃ミサとかご飯の時間だし、特訓もし放題よ」

ジャンヌオルタ「貸しなさい・・・そうよ・・・どんなことでも取り込んで、学んで、アイツより上だとわからせてやるんだわ!」


~カルデア・菜園場~

クー・フーリン「っはー・・・一仕事した後の一服は気持ちがいいぜ・・・」
(茶をしばきながらたばこで一服中)

ジークフリート「うねは作ったが・・・そっちは何を植えたんだ?」
(二人ともツナギルックス)

クー・フーリン「外周にニンニク。で、中に二十日大根。もう一つには白菜。そっちはまた少し違う畑だったか?」

ジークフリート「たしか・・・人参、トウモロコシを作ると言っていたな。麦は保存できるから野菜を作っていくと」

クー・フーリン「小麦粉にして真空パックにでもつめりゃ長期保存もできるしな。ほれ、腰かけな。作業員用の茶もある。たばこ、吸うか?」

ジークフリート「いや、すまないがたばこは遠慮させてもらう。茶は貰う。ん・・・ふぅ。意外と、楽しいのだな・・・畑仕事も」

クー・フーリン「ここだからってのもあるだろうよ。天候に左右されねえし、うるせえお上もいない。収穫できりゃ俺らも含めて食べて楽しめる。やればやるほどおいしいってなあこのことだ」

ジークフリート「そうだな。では、もうひと働きするとしよう」

クー・フーリン「おいおい、焦るなよ?」

ジークフリート「焦ってはいないが・・・そうだな。こういう形で人を助けたり、笑顔にするのは楽しいと思えてな。戦いがない時はこっちで頑張るさ」

クー・フーリン「そうかい。っあ~・・・じゃ、おれもヤマジの旦那に頼まれたワイバーンの解体と燻製づくりに行きましょうかねっと・・・一応、たばこのにおい落としてからにすっか」


 「ふふふーん♪」

 

 ルンルン気分でカルデアの道を歩き、ご機嫌なジャンヌ。この極限の状況の中でミサが行えるとは思わず浮かれた気分を隠せずにいた。

 

 アンケートには小さなもの、張りぼてでも構わない、数日はかかるかと思ったが昨日の今日で、しかも相当作りこんだものだという報告には驚きを隠せず、新しいマスターのオルガマリー、同じ契約している英霊のエミヤも巻き込んでカルデア初のミサに参加することとなる。

 

 「私はあまりわからんが、やはりああいうものがあるというのは大きいのだな」

 

 後ろからほほえましいものを見るようについてくる先輩英霊のエミヤにオルガマリーはそれを見てそれだけでも参加してよかったと思える。

 

 互いにビールやワインなどの一応の祝いの品を手に抱え、完成と同時に追加されたポイントへと歩いていく。

 

 「そうだと思うわよ。それにまあ、こうした小さな催しで少しでも皆の心情を楽にできるのならラッキーだわ。こういう環境になって、改めて部下へ意識が向けられるようになったというのは皮肉だけどね」

 

 さすがに教会とまではいかないが、もう少し部下への当たり方を優しくできていればと過去の自分を思い返すオルガマリー。自分同様に苦しんでいたり落ち込んだりしている部下を見て、少し心が余裕ができた今だからこそ考えられるが、それにしたってもう少しあるだろうと。そう考えてしまう。

 

 「逆境、苦境だからこそ人は育つともいうし、まあそこはそれぞれだろう。それにだ、支えてくれる人はいたんだ。巻き返しはここからだってできる」

 

 励ますように、年下の妹を慰めるようにポンポン。と肩を軽くたたいて笑みを浮かべるエミヤ。その雰囲気や言動とは裏腹に一瞬自分よりも幼く、やさしい顔に一瞬戸惑うもすぐにこちらも笑顔で返す。

 

 「もちろんです。私は、アムニスフィアは、カルデアはここで終わりませんし、今まで迷惑かけた分、ここで所長として頑張らせてもらいます。・・・・・ありがとう。エミヤ」

 

 「どういたしまして、その強さと弱さは持っておくべきものだと覚えておきたまえ」

 

「あ、藤丸さん、マシュさん、清姫さん!」

 

 談笑している二人をよそにばったりと出くわした藤丸、マシュ、清姫の三人に手を振るジャンヌ。それをみた藤丸らも手を振って応え、歩いてくる。

 

 「こんにちは。ジャンヌさん、所長とエミヤさんと一緒にミサに?」

 

 「はい。私のリクエストも通ったようでして。せっかくですから初めてのミサに参加しませんか? ということで誘ったら了解してくれたのです」

 

 「カルデア内部の新しい設備とも言えなくはないしね。あいさつと、まあどんなものかくらいかは知るべきでしょう? マシュは、勉強かしら? 清姫さんは・・・付き添い・・・で、いいのかしら」

 

 「はい、私ももしかしたら相談や、勉強できるかもですし、ミサというのがとても興味深く」

 

 「何せ、神代の時代の人たちのミサですし、催しは気になります。それに、ますたぁとの婚儀の際も利用するかもでしょう? 知っておいて損はないものです」

 

 一瞬ウェディングドレスに身を包む清姫を想像するものの、とりあえずはその場のほぼ全員はすぐに流し、ワイワイとあれやこれやとミサがどんなものかと現代の知識を話すもの、あるいはそこから想像を話すもの。愉快さを増して短い時間を歩いていると、目につくものが一つ。

 

 部屋の前にある一つの看板。『教会、および懺悔室』と書かれ、十字を描かれたた看板。その看板の置いてある部屋に入ると、元が無機質、簡素な部屋とは思えない。魔術で空間を少しゆがめて高くした天井。木製の長いすに木目の床。柱の各所には天使の像を掲げ、絨毯は神父が立つであろう場所まできれいに続く。一番に視界に飛び込んでくる壇上の後ろの大きなステンドグラスには壮大な天国の様子がガラスで描かれ、後ろから照明で照らしているのだろうか、ガラスの色が藤丸らの肌に映る。

 

 「わぁ・・・・・」

 

 「きれいだ・・・」

 

 銀嶺隊の工兵、大工メンバーと教会などにいた僧侶、牧師、神父らと資材を管理するメンバーで相談しながら作ったこの場所はどこか神秘的で、カルデアとはまるで別空間に思えるほど。

 

 部屋の隅には何やら扉が二つ。懺悔室と書かれた看板と、酒の香りが漂うあたり、酒の保存場所の一つと懺悔室、ついでに相談部屋としてのものだろう。

 

 「・・・ここまでのものを用意してくださるなんて・・・!」

 

 教会に足を運んで祈りをささげた日を思い出しているのかジャンヌの目はきらきらと輝き、部屋中を歩き回っては隅から隅まで観察していく。

 

 「西洋の宗教も、教会もきれいな場所なのですね・・・」

 

 「ほほう・・・あの色はコーラの瓶だろうか? カルデアの物資を再利用しているものも多そうだ。しかしまあ、ここまでのものを作るとは」

 

 「・・・この一室のための物資を問題ないというほど隠しているわ・・・これを数日で作るわ・・・はぁ・・・なんなのこれ・・・」

 

 自分の知る神社仏閣とはまた違うつくりに素直に感心する清姫。ステンドグラスに注目するエミヤ。久方ぶりに精神安定剤を飲んでここまでの備蓄をあっさりと用意し、作って見せたことに驚きと隠し財産にめまいのする覚えのオルガマリー。

 

 藤丸、マシュの二人はそのままジャンヌの後をゆっくりと続きながら興味深げにあたりを見回していく。

 

 「おやおや・・・まさかこんなに早く来訪者が来てくださるとは。興味か、信心か。私も配慮が足りないのでしょうか」

 

 そうしていると後ろから声が響き、一同が振り返るとやや小柄で丸眼鏡のをかけた中年男性が神父の衣装に身を包み、聖書片手にゆっくりと歩いてくる。

 

 「ともあれ、ようこそおいでくださいました。ジャンヌ様の要望もあってこれから週一回に行われることとなったこのミサ。神への感謝、そしてみなとそれを分かち合う行い。平時は私たちがここで懺悔、相談、への協力。賛美歌などの練習を行っていますゆえ、宗派云々は気になさらずにご利用を。ここに参加できなかった皆様にも伝えてくだされば幸いです」

 

 にっこりと穏やかな笑みを浮かべつつ壇上に神父が上がって聖書を開いていると後ろからカルデアの職員が数名と銀嶺隊二十名前後、狼も猪も数匹入ってきて一部は腰かけ、あるいは一部は賛美歌でも歌うのか左右に分かれ、一部は何かを用意していく。

 

 「あ、ミサが始まるみたいですね」

 

 「おっと・・・座らないと。マシュ、清姫、こっち空いてるよ」

 

 「ではその前に・・・神父殿。こちらからの少ないがあいさつ代わりに。皆で分けてくれ」

 

 「ふぅ・・・ま、ゆっくり見させてもらいましょ」

 

 「少し、浮かれてしまいますね。いつかはここで式を挙げるのもよさそうです・・・うふふ・・・」

 

 「私も十字架を・・・」

 

 席につき始めた参加者の中に交じって藤丸らも腰を下ろし、先ほど用意をしていた銀嶺のメンバーにホチキスで簡単に止めただけの冊子をもらい、全員にいきわたったのを確認するといよいよミサが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っはぁ~・・・・・・姉上! この巻の続きはないですか?」

 

 もとよりカルデアの古株。しかも一応は備品課のまとめ役ということでかなりの広いスペースを持っている華奈のマイルームでわちゃわちゃとゲームに興じるダ・ヴィンチちゃんとストーム1、何やら創作活動をし、それと今のこの状況を眺めて楽しんでいた華奈、紫式部。そしてその華奈の作った漫画を花子をクッション代わりに熟読していたアルトリアはひとしきり読み終わると次の巻をねだり、すでに読み終わった作品を片付けていく。

 

 「あ、えーと・・・『永劫戦記・邂逅』ですと・・・あそこの未発表の枠に・・・って、もうあれ読んだのですか? 第一部は巻数こそ15ですけど、一冊400ページはざらですのに。しかもその邂逅編で完結ですが、未発表含めて7巻・・・早いですね」

 

 「SFバイオレンスサイキックアクション。しかも別宇宙まで取り扱った激しい展開! 私も野菜の配達で宇宙怪獣は出ましたが、それに負けないくらい迫力も素晴らしいです・・・・! もう一回読み返したいくらいには!!」

 

 「華奈様がカルデアに召喚されて、サバフェスに参加できず10年ほど。英霊の間では打ち切り、戻ってこないのかとファンの皆様が嘆かれていましたね」

 

 また新しいファン。しかも義理の妹がはまるという事態に華奈も紫式部も苦笑いし、座から本体丸ごと呼び寄せられ、受肉して以降サバフェスに参加できず、けれど描き続けてはいた『未発表』の棚を指してアルトリアに教える。

 

 アルトリアも丁寧に少し分厚いコミックサイズの漫画を奇麗に棚へとしまい、未発表の棚へと歩いていく。それを横目に一度ゲームの休憩にジュースを飲んでいたダ・ヴィンチちゃん。華奈のネームに目を通していたストーム1も興味がわき、おそらく華奈が描いていたであろう作品の棚に視線を移す。

 

 「えーと・・・? 『こちら漢中王劉邦くん』『激突勇王ナイト・ライナー』『ごった煮学校生徒一同集まれ!』『騎士夫婦の献立』『永劫戦記』『永劫戦記・邂逅』『魔獣観察日誌』『白水のお断り』『美味しいものなら湧いて頂戴!?』・・・キャラクター資料にデザインのみのものまであるな」

 

 「こっちは・・・・・ゲーム『銀嶺暮らし』『銀嶺暮らし2』もらい物だと・・・『ルーシーの手帳』『ザ・モーリシャス』本のもらい物も『ともあれラクを一杯』『キャプテン今川』『汚物消毒神拳』『激闘歌劇団旅行つれづれ』・・・これ以外にもいろいろあるんだね」

 

 「ロボットもの、勧善懲悪時代劇アクション。エッセイ、学園もの、ギャグ作品。いろいろやりましたねえ。香子様というアドバイザー、編集者が来てくださってだいぶ楽になってついつい。恋愛ものはしたことないですが」

 

 華奈も作業の手を止めて物珍しそうに本棚を見ているメンバーを見てほほ笑み、一度作業を中断して冷蔵庫から茶を取り出して全員分用意し、自分も作業用の椅子に腰を下ろして茶をすすり、息を吐く。

 

 「確かサバフェスだったか? コミケのような感じで集まるって感じでいいのか。しかしまあ、あの劉邦のギャグマンガとか、良く描けたなこれ」

 

 「あ、それならあとがきで許可は貰ったと書いていましたよ。劉邦軍のメンバーが毎回コメント書いているのも面白かったです。・・・ガウェインも言っていましたが、ここまで絵がうまいとは」

 

 漫画に目を走らせながらつぶやくアルトリアにくすくすとほほ笑む華奈。

 

 「それはガウェイン様たちのリクエストからですよ。教育用の絵本描いたら絵が下手だと言われて、練習したり、学習道具で新しいものを用意しているうちに上達して、引退後は趣味で書いたりしていまして。英霊になってからもみんなで描いたりしたり、サバフェスをするうちに上達・・・と」

 

 「ネームも見やすいですし、絵全体に迫力を入れつつもキャラもいいですし見ごたえがあるのですのよね。宝具での人手で運営委員の手伝いになったりで、確か売上ランキングにはあんまり入らないですが、ふふ、なかなかの人気だと思いますよ?」

 

 絵を描くきっかけが教育係として見やすい、楽しみやすい本づくりから始まって、引退後も趣味になるとは思わず過去を思い返す華奈。一緒に売り子、レジ計算で目を回すような思いでもまた楽しかったと懐かしむ紫式部。

 

 「いろんなものが出るからね。あそこは。写真集に画集。CDにグッズ。ゲームに小説、漫画と。私も出そうかなあ~私の写真集とか、この最高の美女の写真集なら人気間違いなしだしね!」

 

 「何せ美女が多いですし、本当に写真集は売れるでしょうねえ・・・毎回ランキングトップのどこかには入っていたりしますし、稀代の芸術家のダ・ヴィンチ様なら魅せ方も心得てますしね」

 

 「もちろん! 華奈の漫画にゲスト投稿したっていいんだよ~? 代わりに華奈も写真を撮らせてもらうけど」

 

 今までは気まぐれの参加、ここ十年はカルデアの技術顧問として華奈同様動きづらかったダ・ヴィンチちゃんも創作活動、その集まりに参加意欲がわいたか。両手を上げて声を出した後にそのまま後ろのクッションに身を投げ出しつつ先ほど取っていた漫画を一開いてパラパラとページをめくる。

 

 「なら、開催されたら俺らでやるか? みんなでサークル参加してよ。お・・・ルート、というかスタートの部隊も選べるのか、で、部隊ごとのボーナスは違って・・・」

 

 「あ、スタートなら華奈様の部隊からがいいですよ? そこでクリアして、二週目からほかの部隊のルートのほうが自由度高かったり、楽になります。それとクリア後の派生ルートもありましたし」

 

 女性陣がみな漫画を手に取ったので興味はあるがゲームを先にやってみようと『銀嶺暮らし』を新たにプレイし始めたストーム1。それにアドバイス。チュートリアルにはない部分を教えていく紫式部。作品にすでに編集部分からかかわっている関わっている上にすでに図書館にも寄贈済みで読み終えたのか図書館ではできないゲームを一緒にプレイしたくなったか、途中からコントローラを持ち出して一緒に遊び始めることに。

 

 「ここの皆様でサークルですか・・・いいですね。ふふ、でも、今の状況では開催どころではないですよねえ・・・あと、ダ・ヴィンチ様の提案は魅力的ですが、写真は内容次第で」

 

 「星を喰らう大いなる魔物、成長・・・その軍・・・異なる宇宙に、さらなる存在・・・夜更かししそう。あ、それと私も参加します! 姉上のアシスタント兼秘書に立候補します!」

 

 「ええ、いいですよ~では、まずは道具からですね。一式の予備、ありましたっけ」

 

 元気よく挙手をしてやる気満々のアルトリア。近くで大声を出すものだから花子も思わず耳をぺたりとたたみ、しっぽをたらす。どうやら相当に漫画を気に入ったようだ。

 

 その意気を華奈も買い。早速ペン、定規にインクの予備がないかと引き出しを探し始める。

 

 「あら、アルトリア様も参加ですか? ふふ、次回のサバフェスはこのサークルがよりにぎやかになりそうです。あ、ストーム1様。案山子を立てておいたほうがいいですよ。序盤は本当に食糧確保が難しいですから少しでも対策を」

 

 「俺は・・・うーん・・・お茶くみ、荷物持ち、雑用がせいぜいだろうな・・・・・ん? でもこれだと木材が・・・伐採に出ながらキノコ、香草が拾えることを祈るか」

 

 「・・・いえ、何でしれっと最高難易度でやってるんですか?」

 

 ガヤガヤとやかましいままに昼下がりの時間は過ぎていき、ほぼ全員がそのまま華奈のマイルームで漫画とゲームに没頭しては盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もう一度! もう一度聞かせてください!」 

 

 「アンコール! アンコール!」

 

 ジャンヌたちはミサに来たにもかかわらず、心が落ち着くどころか大いに楽しみ、アンコールをリクエストするほどにはしゃいでいた。藤丸も肩を揺らして歌を楽しみ、エミヤは苦笑。

 

 マシュとオルガマリーは自分の知るミサではないと呆然とし、清姫は間違った知識を脳内に叩き込まれる。

 

 理由は当然銀嶺隊のミサで、最初は滞りなく進んでいたが、歌の合唱になるとこで変わった。厳かで、清らかな歌声、コーラスどころかゴスペル、ポップにアレンジした合唱をかまし、それに合わせて踊る連中までいる始末。

 

 そのくせ内容はばっちりしている上に皆生き生きと楽しむのだからいつの間にかカルデア職員らもエキサイトして手拍子をしたりするわで教会全体がミュージカルの舞台、イベントに思える様相を呈してきた。

 

 「これが賛美歌ですのね・・・うふふ、楽しそう」

 

 「随分とエキサイトな祈りを伝えるものだ」

 

 アンコールも無事に歌い終わり、締めのあいさつをしてミサは終わり、その後は語らいの時間ということでワインにパン、ビールにぶどうジュースをふるまい始め、休憩時間の職員はジュースとパン、非番の職員はワインやビールでのどを潤して先ほどまでのことを語りだす。

 

 「あの・・・いいですか? 所長。これが、昔のミサ・・・」

 

 「ないわ。とりあえずこんなハジケたミサは記録にも記憶にもないわよ。時計塔にだって・・・あったら間違いなく一部の学生は楽しむでしょうし」

 

 映像記録や想像をことごとく壊されて思わず所長に聞くマシュをバッサリと切り捨て、同じく熱から覚めて思い返して訳が分からんという表情になるオルガマリー。自分の知るミサはここまでお祭り騒ぎだったか? と記憶の引き出しを片っ端から開けて、閉めてを繰り返し、やっぱりないと困った顔を浮かべる。

 

 「おや、所長様。マシュ様、お二人もぶどうジュース、いかがですか? ほかの皆様はすでにいただいているようですが」

 

 「あ、いただきます」

 

 「ええ・・・ありがとう。いただきますわ」

 

 困り顔をするマシュとオルガマリーの二人の前に先ほどの神父が現れ、コップに入れたぶどうジュースを両手に持ってニコリとほほ笑みかけてくる。それに対して二人も笑顔を返して受け取り、のどに流す。程よい酸味とぶどうの心地よい甘み。予想外の情報の波をぶつけられて少し疲れた頭に糖分が送られ、気持ちの整理がつく。

 

 「えーと・・・あの、その、このミサ・・・なんでここまでハジケているのかしら」

 

 「ああ・・・それですか、華奈様と・・・私、あそこで歌を歌っていた皆様の提案でして・・・昔に・・・・」

 

 そうして語りだす、このミサまでの経緯。目の前の神父もついさっきまでノリノリで歌いまくっていた現況の発生源を語りだす。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~過去 銀嶺隊・拠点~

 

 華奈「しかし・・・ここにも教会は必要でしょうかねえ。やはり心のよりどころ、神への祈り、交流の場は必要でしょうし」

 

 ヤマジ「じゃ、早速作るか。うちらの働き者なやつらのためにこれくらいのケツ持ちはしないとな」

 

 (完成後)

 

 華奈「うーん・・・せっかくの祈りや皆様がこうして元気だとも伝える場でしょう? どうせならどこまでも楽しく歌って、踊って、今信じられることの嬉しさ、幸せだということを見せるためにもっと自由に歌いません?」

 (一通り見て)

 

 神父「いいですねえ・・・では、歌のアレンジや、踊り、場合によってはちょっとした劇もしていきましょう。華奈様のような信者でなくても隣人も楽しめる。宗派にかかわらず手を取り合える場所にしていきたいですからな」

 

 銀嶺隊員1「じゃ、踊りは少しエキサイトにしたり・・・」

 

 銀嶺隊員2「小道具とか演出は魔術も組み合わせてもいいな」

 

 銀嶺隊員3「その後は語らう場所と、時間の用意もいいな。意見も欲しいし、改良もしていきたい」

 

 

~過去 ソロモン、華奈受肉後~

 

 ロマニ「あ、華奈。面白い曲があるよ」

 

 華奈「・・・・・・・おお・・・このCD、借りていいですか?」

 

 ロマニ「いいよ。僕も聞き終わったし」

 

 華奈「ありがとうございます」

 (移動)

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「という感じで現代の音楽も勉強しながらアレンジしていったりとして今の感じになりましたよ」

 

 「そう・・・うん、まあこのほうが私もいいけど」

 

 「私もです。なんだかこう・・・皆様がすごく楽しそうで、イキイキとしているのが良かったです!」

 

 まさかの発案を受け入れ、そこからの斜め上か下の改造をした歌の数々。現代ゆえに多くの音楽を知るオルガマリー、マシュもこのアレンジを気に入ったか反応の差はあれども受け入れ、マシュに至っては目を輝かせて受け入れていた。

 

 「現在でも形を変えて主を思う、たたえる歌ができているのは素晴らしいです。アレンジもよかったですし」

 

 「おや、では、確か咲、フラム様がCDを持っていたので聞かせてもらうといいかと。ロマニ様もお持ちでしたかな。私たちの歌を録音した道具もあるので、ジャンヌ様にお渡しします」

 

 少し懺悔室のほうに移動した神父がしばらくして何やら木箱のようなものをもってジャンヌに渡す。その後、簡単な説明をして操作を始めると小さな音量ではあるが歌が聞こえ始め、音量の調整とともにあたりに広がる。

 

 「華奈の家族と、古い付き合いのドクターか。十年近くもあればこれくらいはできると。ワイン、いい味をしている。よければ数本食堂に分けてくれないかね? 料理にぜひとも使いたいのだが」

 

「もちろん、かまいませんとも。あとで包んでおきますので、今は皆様と楽しいひと時を」

 

 その後は用意されたパンとぶどうの飲み物にビール。お菓子も加えたちょっとした茶会、ないし飲み会が開かれ、畑作業から帰ってきたクー・フーリン、ジークフリートも参加。宴会騒ぎになったところでオルガマリーが全員を食堂まで引っ張り出し、水と酔い覚ましの薬を飲ませたとかなんとか。




華奈の描く漫画の画風は「魔法使いの印〇所」に近いイメージをしてくだされば幸いです。教育のための努力が趣味になって英霊になって1500年以上続けたせいです。

ミサの歌のイメージは某名作映画「天使にラ〇ソングを」という感じです。あの映画は今見ても色あせない名作だと思います。

もらい物も英霊、英霊になっていてもいいレベルかなあと思う方々、もしくは題材にできそうなものを選んだつもりです。

今回から少しづつ出てきた作品の簡単な説明を加えていきたいと思います。サバフェスもいずれやりたいですがかなり後になるのは確定ですので読み飛ばして問題ありません。あとでまとめも用意しておこうかと。

『こちら漢中王劉邦くん』 ジャンル ギャグ、コメディ 巻数17巻 完結

 始皇帝の時代にさぼりながら地元で交番兼宿屋をしていた劉邦くん。やたらとバラエティ豊かで濃ゆいメンツと少しうまくいってはすぐにやばい状況に追い込まれては土下座、逃走を繰り返していたらいつの間にやら国の将軍、王に!? でも結局素行は一部変わることもなく。楚漢戦争から皇帝になった男とその周りのドタバタを描いたギャグコメディー。あとがきでは当時を生きたメンバーのコメントも。

『ルーシーの手帳』 ゲームジャンル 推理シミュレーション (別サークルからのもらい物)

 ミス・マープルと一緒にいる才女、ルーシー・アイレスバロウ。彼女とマープルが関わった様々な事件をルーシーと一緒にメイド、執事となって解いていこう! あえて疲れたことでの演技、アクションや科学知識を活かしたギミック。クリア後にはルーシーたちがプレイヤーのために作った物語を舞台に起きた事件に挑めるエクストラモードも追加。隠しキャラでもう一人の名探偵、そしてある場所へのチケットが・・・・・・?

『白水のお断り』 ジャンル 時代活劇 巻数 5巻 完結

 世の中天下泰平。道行く人はみな笑顔・・・そんなわけはないったらない。悪の種は尽きぬものでお天道様に隠れていただけねえ計算に身をやつし、主にすらも嘘を吐く。町民にゃ悪さする。そんなやつぁ赦しちゃおけねえ。今目ん玉の中に映る人のためだけに、甘い誘いを断って、彼は悪人にこう告げる『おっとそいつぁお断りだ!』片田舎の武家の三男坊と名乗る男白水。ふらりふらりと風に任せて今日もどこかへ旅をする。
 筋が通らなきゃどんな奴だって成敗。風来坊白水と出会う人々とのほんのひと時の縁を記す人情物語。


次回はなぜなにアル華奈になるかと思います。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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なぜなに、アル華奈! これはきついよフランス革命

今回はほぼ語りのみ、台本形式に近いかもしれません。申し訳ありません。



藤丸「ところでロマンさん」

ロマニ「? どうしたの藤丸君」

藤丸「特異点って、歴史の中でも比重の重い、いわゆるターニングポイントなんでしょ?」

ロマニ「そうだね。おおよそ、この人類史の中でもターニングポイントになったもの。今回の場合はフランス、のちのフランス革命などで大きく欧州に衝撃を与え、後の歴史にも深く食い込んでくる国だから特異点になったのだろう」

藤丸「うーん・・・なら、アメリカ独立戦争とかも今後は出るのかな?」

ロマニ「まだ観測はすべてできていないけど、もしかしたら出るかもしれない。かの大国が生まれる戦いはやはり大きなターニングポイントだよ」

藤丸「しかし、フランス革命だと思っていたら百年戦争だとは思いませんでした。何というか、大きく国が揺れたのはあっちというイメージが・・・」

ロマニ「フランスとイギリスの衝突は割と起きているものね。というか藤丸君。フランス革命ってどうして起きたか知ってる?」

藤丸「え? そりゃあ、贅沢三昧の貴族たちの特権を廃止して、税を納めさせるためですよね。確か、そのために三部会もあったはずですし」

ロマニ「それも正解なんだけど、その特権を廃止するくらいに国が追い込まれていたし、民もあの暴動を起こすレベルの苦しさが蔓延していたことが原因なんだ。・・・・・また、華奈に授業を開いてもらおうか。表現も先生の経験がある華奈のほうがやりやすい」

~フラムの部屋~

華奈「・・・・・・ありがとうございます。生活排水のろ過と汚物の集積と肥料としての再利用システム。これがあれば菜園、トイレなどに水を再利用できますし、肥料に関しても無駄なく使えます」

フラム「臭いが気になる場合最悪灰にして使えばいいわけですしね。しかしまあ、下水整備に関してはさすがに良馬さんと冬利がいないときつかったですよ。土建仕事は不慣れでしたので」

良馬「菜園も、緑に触れあう場所として職員もストレス発散になっているようですし。サブスタッフは作業に従事してみたり、メインスタッフ、魔術師の方も休憩の場として利用しているそうです」

冬利「これで後は姐さん、アルトリアさんの血液。それを数滴からでも余剰魔力を採集できる道具の準備くらいか。アルトリアさんは一応持ってきてくれた道具応用できるものがないかと探しているんだっけ?」

華奈「ええ、私の宝具で呼び出した銀嶺隊の食事も食事をした場合、魔力の維持する分より多く食事をとれば私に余剰分の魔力として送られますし、アルトリア様は竜の心臓。ほぼ無尽蔵に魔力がすごい勢いで生み出せます。利用しないのは損でしょう」

フラム「カルデアの発電量も発電機の回復や持ってきてくれた魔力リソースのおかげで持ち直してはいます・・・が、今後も備える意味でも魔力はいくらでも蓄えておきたいですからね。藤丸君はまだ魔力回路が未発達。所長も量も質も回路も一級品ですが、できれば普段から備えておきたいでしょうし、元もメディアさんの魔力の余裕は欲しいでしょうからね」

華奈「まあ、そこは私とアルトリア様でいくらかは用意。後は今後の特異点で探していくほか・・・ん?」
(端末のメールを見る)

件名「またやって欲しいな」

 ロマニだけど、前の授業をまたしてほしいんだ。フランス革命の起こり、できるかい?

華奈「あら。皆様、少し失礼します。授業の依頼が入ったので」



 カルデアの食事が潤い、いくらか余裕も出てきた今日この頃。せっかくの余暇を使い、改めてフランスで出会った王女マリー・アントワネット。彼女が関わり、そして世界に大きな衝撃を与えたフランス革命。それを学ぼうという話が起こり、その形式はまたあの濃い授業でやってみようという話になった。

 

 場所は紫式部が司書を務める地下図書館。先日の大整理で持ち込まれた椅子や机に藤丸をはじめとした見物人は座り、大きなホワイトボードにこれまた黒子スタイルのストーム1がそばに立つ。

 

 紫式部もそこにうきうきとした様子で座り、本を読まないということで皆に茶菓子と緑茶をふるまう。

 

 「アルと!」

 

 そうしているうちにスーツ姿で現れたアルトリアと

 

 「華奈の!」

 

 犬の着ぐるみを着けた華奈が登場し

 

 「「なぜなにフランス! 革命の起こり~!」」

 

 いつものテロップが始まってホワイトボードには良馬の用意した映像が魔術で浮かび上がる。

 

 「あれ? 今日はお姉さんがうさ・・犬なの?」

 

 「ええ、犬の警察ではなくお姉さんですよ~。なんとなく作ってみました。はい、そんなお話はここまで。というわけで、今回の授業はズバリフランス革命! それがどうして起きたのかという話になります」

 

 「確か、フランスで近代に起きた大きな革命で、大きな影響を出したんだっけ?」

 

 映像が切り替わり、今度はフランス革命といえば思い浮かぶ絵がいくつも浮かび上がり、勉強したであろう面々は学校、あるいは本を読みふけっていた時間を思い出す。

 

 「はい、フランス革命は18世紀後半に起きたフランスでの市民革命運動を指します。市民階級と支配階級での階級闘争。市民の皆さんが自分たちの権利拡大のために起こしたと言われています」

 

 「たしか。王様貴族が贅沢ばかりで、自分たちは貧乏すぎるしできることが少ないからどうにかしろ~って話でしたっけ? お姉さん」

 

 「正解~の半分です。それ以外にも実はもう一つ大きな理由がありまして」

 

 丸の描かれたボードを上げるも華奈はそれをぱっかりと割り、ストーム1の持ってきた新しいボードをもらう。

 

 「実情としてはフランスの経済破綻が原因と考えていいでしょう。もちろん、階級闘争、そして自由や権利を求めたことも大きなポイントです。革命での矛先は実際に階級制度に向かっています。これですね」

 

 そのボードのシールをはがせば三食で分けられた三角形の絵が出てきており、頂点部分は聖職者、真ん中は貴族、そして一番下は平民というピラミッド階級が描かれている。

 

 「あ、アンシャンレジーム。歴史の授業で聞いたなあ」

 

 「この三つの階級のうち、上二つ。聖職者と貴族は税金を免除されていたんだっけ。えーと、特権階級として」

 

 「藤丸様にアルトリア様正解。あとでチョコをあげましょう。上の一部、しかもお金持ちの方々が許されて、自分らは税金を払う。これでそもそも不満がありました。が、これ以上にいろいろな要因が積み重なってフランス革命は起きました。今から、それをできる限り分けて説明していきましょう。まずはこれ。ストーム、あれお願いします」

 

 華奈たちの後ろのボードの映像が切り替わると大きな文字で「自然編」と文字が浮かび、ストーム1(黒子)が地図と何やら模型を持ってきた。

 

 「はい。では、まずはこのことを知ってもらいましょう」

 

 

 

~自然環境編~

 

 「まず、当時は太陽の活動低下による世界が小氷河期に突入。世界が冷え冷えだったんですね」

 

 「鍋料理がおいしい時期になりそうだね。お姉さんの鍋料理・・・ってそれも食べられるかどうか、この状況は」

 

 後ろの映像は地球全体がどんどん水色のベールに覆われて冷えていく様子が現れ、それとは別に世界地図に何やらものを置いていく。

 

 「これだけならまだいいです。さらに、この数年の時期は世界中で火山が噴火していて、アイスランドでラキ火山、グリスヴォトン火山。そして、日本の岩木山、浅間山火山の噴火とそれはもうすごいもので、特にラキ火山はフランスどころかヨーロッパ全域に天候不順と大きな影響を与えます。さらには先の小氷河期と合わさり」

 

 「フランス全土で不作、作物は壊滅的打撃で食料生産は激減・・・飢饉が起きたんですね・・・」

 

 「ちなみに、日本の天明の飢饉も近い時期に起きています。本当にこの時期は大変な時代だったわけです」

 

 世界地図に置かれた数個の紙粘土で作られたであろう火山の模型。その噴火口部分に大きな灰色の傘のようなものを突き刺し、火山の灰が日光を遮ったり、雨を降らせるような部品を表していく。

 

 「しかも、へたすりゃあ火山灰で畑の質も変わったりすれば今後の農作物の生産量も関わってくるだろうし、本当に食糧が不足する事態が世界の各地で起きちゃったわけだ」

 

 「はい。ちなみにこれ、後で外交的な意味でも大きな爪痕を残しますので覚えていて下さませ。では、次はこれ」

 

 

 

~フランス国内編~

 

 「まずフランス自体の状況ですが、実は経済成長をしていました。好景気にもなれたでしょうね」

 

 「・・・え? お姉さん。でも、経済破綻とかが原因と言っていなかった?」

 

 またまた画面が切り替わり、フランスの地図、そして工場がいくつも浮かび、華奈の目の前にはワイン、オリーブオイル、その他もろもろが出てくる

 

 「もちろん、経済破綻が原因です。ですが、実はフランスもこのころには産業革命が始まっていて1710年の輸出量が2億リーブルですが1780年には10億リーブルに増えています。人口自体も百年で数百万単位で増えています」

 

 「あれ? むしろ好景気にならないのがおかしくない? その収入で外国から食料を買ってしまえば飢饉に対する問題もできそうだし」

 

 「それは外交問題になりますね。結果から言うとその後はもろもろの問題で食料不足で国内の飢饉、物資の不足で都市部への食料供給も悪化してインフレ発生。小麦の値段はひどい時で前年の4割増加というありさま。それにすら手を打てない状況がフランスでした。ストーム。次を」

 

 また画面が切り替わり、大砲を撃つ軍艦、そして、ルイ16世より前のルイ14世、15世が映し出される。

 

「まずは先代からの戦争やぜいたくでの出費、増税。更には特権階級の免税。これが長く続いていたことで内情はボロボロ。でも特権階級は贅沢はやめないので出費自体はかさんでいきます。これにもちろん動いた方や国での動きもありましたが、これはあとで」

 

 「うん、私も経験あるけど、生活水準下げるのは難しい部分もあるよね。しかも、貴族ともなれば力をアピールするための出費とかしちゃうだろうし、なおさらだよね」

 

 「ええ、しかもその戦争もスペイン継承戦争、七年戦争、アメリカ独立戦争と重ね、ルイ16世のときも戦争に関しては出費をしていたので結局先代の戦争に加えて出費は重なるわ借金も増えるばかり」

 

 ルイ14世から徐々に代を継ぐごとにお金が外に飛び出ていくような絵が描かれたマグネットが張られ、それに加えて元気のなさそうな宮殿の絵。時間が過ぎるごとにフランスの財政が苦しくなっていくのがよくわかるというものだ。

 

 「当然、これに関して外交、内政でフランスは大きく動くことになります。では、次はその外交を見ていきましょう」

 

 

 

~外交編~

 

 「時には利子だけで収入の半分以上になるほどの借金を抱えたフランスですが、これに手をこまねいたわけではないのです。これを打開するためにフランスはイギリスと1786年に『イーデン条約』というものを結びます」

 

 「イーデン条約? お姉さん、なにそれ?」 

 

 「イーデン条約というのはいわゆる貿易に関する条約の一つで・・・ストーム。お願いします」

 

 ボードをアルトリアのほうにずらし、もう一つのボードを黒子ストーム1が用意して、マグネットをいつでも腫れるようにスタンバイ。これを見た華奈もよしとみて話を続ける。

 

 「これはいわゆる互いの強みを活かした貿易でイギリスは当時でも産業革命を一番乗りし、かなり進めているために工業製品を作るのが得意でしたし、フランスは農産物を大量に作れます。これらを安い関税で互いの国民で自由に貿易できるというものです」

 

 「あ、となるとイギリスは布とか革、工場でできる製品を、フランスはワインとか、穀物とかそういう食料品を輸出して互いの苦手分野を補えるし、国民の貿易でも関税が安いから民間の商人もチャンスと動くし、そこから国民へとお金も流れる」

 

 「はい。国のトップは関税が安くても盛んに貿易が行われればその分多くの税収が入りますし、新たな市場獲得、収入増加で借金もどうにかできると考えました」

 

 フランスにはワイン、小麦のマグネットが張られ、イギリスには革製品、ハンカチにシャツをはりつける。

 

 「イギリスとフランスなら距離も離れていないし、互いのサポートもできる。これ、うまくいくんじゃないの?」

 

 藤丸の疑問には華奈は両手でバツマークを組んで首を振り、そのまま話を続けていく。

 

 「ところが、これでフランスは逆に窮地に追い込まれて行ってしまします。それはもうひどいくらいに。まず、イギリスからの工業製品を、先に産業革命していて技術も先で安価な工業製品が国内に流れちゃうのでフランスの工業はつぶれます。なにせ安い国外製品が使いやすいものですから国民もそれを使いますのでフランスじゅうに流通。関税は増えますが、かえって工場からの税収が激減するという大惨事」

 

 「あ・・・しかも、そうなると工場が動かなければ新しい機械も必要なくなるから産業革命は進まない・・・」

 

 「これでフランスでの産業革命は他国よりも遅れる結果になったとも言えます。それでもフランス側の農産物の輸出もうまくいけばいいのですが、これも大失敗」

 

 「ええ・・・?」

 

 「主だった輸出品のワイン。これなんですが当時のイギリスはポルトガルとワインに関する貿易協定を結んでいたのでワインを仕入れていまして、フランスとイーデン条約を結ぶ前からイギリス国内はポルトガルワインが国内のワイン市場の多くを占めるほど。なら、フランスのワインの方がよりおいしくて、安いのか? と言われればさほど変わりはない。アルトリア様。値段も味もほぼ変わらない、そのうえでアルトリア様が当時のイギリス国民だとして慣れ親しんだ付き合いの長いワイン。新顔のワイン。どっちを選びますか?」

 

 「うーん・・・そりゃあ、慣れているほうがいいですし、みんなが飲みやすいならと家に置いておくのもポルトガルのワインでしょうか? 買うにしてもフランスのワインはまず試すか、ちょっとしたときに飲むくらいでよほど変わらないなら結局はいつもの慣れたワインを・・・・あ」

 

 少し考えた末に華奈の質問に自分での答えになるほどと合点がいき、ぽんと手をたたくアルトリア。

 

 「そう。おそらくは当時のイギリス国民もそんな反応だったでしょう。そこまで味も値段も変わらないならいつもの慣れたものでいいと考えたのでしょうかイギリス国内ではフランスのワインの売れ行きはよくありませんでした。なら、ほかの主力を! 穀物やほかの食料で勝負だ! と動こうにも当時はそれらの作物、穀物や植物油、そのほかの作物が不作で用意ができない。たとえ用意できても関税が安いので利益が確保できない量しか確保できない。つまり」

 

 「フランスはイギリスからの製品を一方的に買い続けるしかなった。更には、ルイ16世の時代もアメリカ独立戦争での援助で出費も出たのでなおきつい・・・」

 

 「なので経済の改革をフランスは行わないといけないほどとなります。では、その動きはどうだったか、おおざっぱに見ていきましょう」

 

 

 

~経済改革編~

 

 「借金は戦争やらぜいたくで減るどころか増えるばかり。これをどうにかしようと戦争すればまた出費で借金が増えるし勝てるかもわからない。貿易も失敗。産業は工業もダメ、農業は小氷河期と火山で不作。国内も国外も新しい収入を見込める場所もないし、民衆はそもそも税金にあえぎ、インフラに苦しめられている」

 

 「経済は大混乱。収入は激減。工場もつぶれたりで職がない人も増えれば農作業も不作でそもそも小麦とかのインフレが起きるレベル・・・借金返済なんて当然できない・・・できても利息だけでも怪しい、ほぼ無理・・・詰んでないですか? お姉さん」

 

 さすがにかつてのブリテンを思い返す。下手すれば産業がつぶれるわ働き手もどこで動かせばいいのやらというレベルの事態にさすがのアルトリアも不安げな表情になり、藤丸も教科書に載っていた部分を少し知るだけでもこのすさまじさにまた驚き、同時にフランスで笑顔で楽しんでいたマリー・アントワネットの嫁ぎ先のすごさに複雑な表情を浮かべる始末。

 

 「いえ、これに対してまだ打てる手はありました。ルイ16世は軍事に関して優秀だったり、農奴の廃止、拷問の禁止など民衆を苦しめる制度を改革したりしていましたが、経済に関しては素人、明るくなかったためにテュルゴーなどの識者を集めたりして改革を進めていこうとします。その中でもスイス人の銀行家ジャック・ネッケルは思い切った手を打つこととなります」

 

 その二人の表情を見ながらお華奈も話を続け、新しい人物の絵を出す。

 

 「それは?」

 

 次は二つのボードをくるりと回転させて白いボードになるとルイ16世。貴族、聖職者。そして民衆の絵が張り付けられていき、最後にネッケルとメスの絵が張り付けられる。

 

 「行政改革。それと特権階級、いわゆる貴族や聖職者など、税金を免除されていた身分の方々も課税をするようにする。簡単に言いますと、行政改革で今までの行政での無駄な出費などを削ってお財布のひもを締め、特権階級という新しい収入減の確保を始めようとしたわけなんですね」

 

 「無駄を減らして収入を増やす・・・確かに有効ですし、貴族の皆様からの課税は大きいものでしょう・・・けど、官僚などの皆様も貴族の方が多いでしょうし、その、いきなりは難しいのではないでしょうか・・・?」

 

 自身も貴族の世界に身を置いて、その世界の厳しさと動く金額の大きさ、すごさを知っている紫式部が手を上げておずおずと質問する。経済に関して自身もさほど明るくない。しかも自分よりも数百年先の異国での話。ただまあ、この手合いの話は欲が絡む、利権が動くもの。紫式部の予想は当たりだったようですぐさまボードに新しい絵が張り付けられていく。

 

 「大正解です香子様。賞品は芋羊羹でもいかがですか? 行政改革も無駄を削るということは場合によっては官僚の働き口を減らすことになりかねないし、今まで自分たちが動けていた領分に足を踏み入れられる。これで不利益をこむった官僚貴族の反対がかかって改革は頓挫。では、経済のほうはどうでしょうか? 特権階級の課税も既得権益の保持をしたい考えから反発が強いうえに、浪費していた宮殿にも質素倹約を頼んだことで貴族のみならず王族まで反発者が出る。そのせいで一度ネッケルは解雇されちゃいます」

 

 張り付けられた絵にはネッケルがあちこちに改革のメスを入れるも反発にあってメスが折れ、あちこちで怒りの声が起こって追い出されていく絵。ここまでの状況になっていながらも改革、それによる不利益を嫌がる様子がよくわかるというもの。

 

 「下手に貴族の反発を買ってしまえばそれこそ雇用したルイ16世にも怒りが飛びかねないし・・・かなりきつい状況だよねお姉さん」

 

 「ええ、おそらくはルイ16世も申し訳ないやら悔しかったでしょうね。これに対してネッケルも解雇直前の1781年にわざとフランスの国家財政を粉飾した上で公開してフランスの財政立て直しのチャンスのための時間を稼ぐ大ペテンをやって大成功。なんですが・・・ネッケル解雇後も改革はフランスではうまくいきませんし、さらには先ほどのイーデン条約でも好転せずでもう踏んだり蹴ったり。これに対処すべくルイ16世はもう一度ネッケルを頼ることとします」

 

 「あれ? でも、また呼んでも反対されて終わっちゃうんじゃないですか? 王族にも反対されてるのに」

 

 「ですので、ネッケルもまた呼ばれるときに一つ条件を付けていました。それは170年以上行われていなかった三部会の開催を約束すること。これが条件でネッケルは再度雇われます。三部会は聖職者、貴族、市民の代表者が重要課題について議論し、その時の議決は特権階級でも無視できない、簡単に突っぱねることができないものをもっていました。ただ、それを普通に行うだけでは意味がない。なので、さらにそこに一手を打ちます」

 

 「それは?」

 

 ネッケルの動きがうまくいかなかった絵から今度は三部会の絵と議席数。そして民衆の完成を上げる絵が張り付けられていき、シールも張り付ける。

 

 「三部会では、基本それぞれの身分の議席は同じ数、300ほどだったんですが、ネッケルは第三身分、いわゆる市民側の議席を倍の600席に増やしました。これを行うことでネッケル、そしてそのネッケルを採用したルイ16世に対する民衆の人気、力を得ますし、第三身分は議席数が第一、第二身分の合計と同数。発言力も三部会でも振るえるようにと頑張ったわけですね」

 

 シールがはがされて議席数の増加と増えている第三身分のデフォルトされている絵。国王も参加する大きな会議へ手を加えたことやその影響の大きさがよくわかるというものだ。

 

 「じゃあ、今度こそ改革は!」

 

 「失敗しました」

 

 「「「え!?」」」

 

 藤丸、紫式部、アルトリアの期待を裏切るかのように告げる事実に驚く間もなく映像は切り替わり、ボードも投票方法のそれに代わる。

 

 「確かに第三身分の議席数は増やせましたが、この三部会の議決権はいわゆる1人1票のシステムではなく、それぞれの身分から1票という身分別決議法というもので、いくら数を増やそうが結局はシステムではその数は活かせなかったのです。これに対して当然第一、第二身分と第三身分は投票方法を巡って対立。しかも、ネッケルの改革もまた保守派貴族らによって妨害されるし辞職に追い込まれ、三部会も対立などが原因で議場が閉鎖されたりと散々な結果に」

 

 「王自ら二度も頼んで雇用した上に、民衆からも人気もある銀行家を追い出して、三部会も結局進まず・・・これ、さすがにまず過ぎないですか・・・? お姉さん」

 

 「はい。これには民衆も怒りを見せますし、普段から民衆の苦しさを知っていたり協力したいと考えていた一部の貴族、聖職者たちが第三身分と合流。いわゆる『球戯場の誓い』が起きて国民議会が成立。これも弾圧しようとしたことに民衆は火に油どころかガソリン、火薬を注がれた状態になって蜂起につながり、そこから1789年7月14日にバスティーユ牢獄への襲撃からフランス革命は起こりました。・・・はい、というわけで今回はここまで」

 

 マグネットがしまわれ、ボードも下げられて映像を映していた光も消える。二回目となったこの授業。緊張の糸が華奈の締めの声で一同が息を吐いて興味深げに教材代わりのマグネットや小道具を見る。

 

 「飢饉に外交失敗に内政改革も失敗でさらには積み重なった借金・・・これはさすがにいろいろタイミングが悪いよね・・・」

 

 「民衆の蜂起も納得です・・・」

 

 「同時にこの革命後、職を失った宮殿に仕えていた料理人たちがレストランをパリに開いたりなどしたので貴族、王族達が食べていた食事が民衆にも触れられるようになっていき、あの美味な料理の数々が広がっていったりしたのですよね」

 

 「藤丸君らが頑張って守ったフランス。この後の出来事でまたナポレオンといった傑物が出てきたりでまた大きく変わっていくのが歴史のすごいところでしょうか・・・ふう。姉上。ちょうどいいので一息入れませんか?」

 

 「そうですね。では、フランスでとれたワイバーンの骨と鱗で取った濃厚出汁醤油ラーメン、胸肉の赤ワイン煮込み、もも肉のオリーブたっぷりホイル包み焼き。皆様もどうです?」

 

 「お、じゃあおれはチャーシューマシマシのバリカタで行こうかな。マスター。ホイル包み焼きの残り汁もらえねえか? 洋風チャーハンにしてセットにしたい」

 

 「俺は赤ワイン煮込み! ワイン使った料理はあんまり食べたことがないし」

 

 「私はホイルでの包み焼きを。少しアレンジをしてみたいですし」

 

 プチ授業が終わり、受講生と先生はみんなで食堂に移動。特異点となったフランスで手に入れた食材での食事会を開催。あとから来たメンバーにはいつの間にやら録画していた映像記録を食堂内に映し、興味のわいたメンバーたちは すぐさま図書館で食後の休憩時間を過ごしたそうな。




フランス革命、これ本当にタイミングが悪すぎますよねえ。今までの積み重ねが一気にのしかかったうえでのあらゆることがうまくいかずに起きた部分もあるわけですし。

先代のルイ14世、15世も華奈たちがあげたもの以外にも戦争を行っていたりと、少し見るだけでも本当に国の財政が厳しくなったいたんだろうなと想像できてしまいます。

ちなみにルイ16世。もともと食事も質素なうえに趣味が狩猟と錠前づくり、街中を散歩したりで精悍なスポーツマンといった体系。しかも背丈が190くらいあるという長身ぶり。性格も穏やか。王妃のマリー・アントワネットもバスト3桁。腰の括れも相当細いらしく小柄な美女。少年漫画みたいな背丈の穏やかな王様と、美少女ゲームでもそうないレベルのスタイルの美女。相当絵になったでしょうね。二人は。





サバフェス作品紹介


『激突勇王ナイト・ライナー』 ジャンル ロボットアクション 巻数26巻(未発表3冊)

 近未来の世界、その中の一つイギリス。陸戦兵の多様性と頑強性を追求していく中でロボット工学を組み合わせ、一種のブレイクスルーが発生。ロボットを操縦する技術、大型化、人同様の動きの実現が可能となって早十数年。工事現場、公共機関、重機が必要な場所には人型のロボやパワーアーマーが常にある存在となる。それはもちろん、軍隊、騎士組織の中でも重きを占めていた。騎士型メカを操る軍、超重装騎兵課の新入りとなった少年スウィントン・キーズ。

しかし超重装騎兵課、その軍のあり方を疎ましく思う組織パーティントンとの衝突に癖のある仲間にこの兵科の設立にかかわる問題とぶつかっていきながらもスウィントンは己が憧れたナイトとして、苦悩しながらも仲間と、自分に与えられたロボット。ナイト・ライナーと軍人ライフを進んでいく。




『ごった煮学校生徒一同集まれ!』 ジャンル エッセイ 巻数7巻 完結

銀嶺を作り上げた華奈が姿を消して、かつてブリテン中を暴れまわった銀嶺隊が円卓を去って、その後は穏やかに過ごした・・・なーんてわけはなく。その後は魔術師でも貴族でも平民でも通える学校を作っちゃいました! 誰もが通える、学べるうえにレベルもそれなりのこの学校。クラスに集まる生徒は身分も生まれも全部バラバラ、当然問題は起きるわハプニング頻出。笑いも涙も再発見もありながら生徒も先生も互いに振り回して振り回されるばかりで毎日が大騒ぎ! 

オークニーの何でも屋、円卓最強部隊の第二の人生をつづったエッセイコミック。



『ザ・モーリシャス』 ジャンル 育成シミュレーション(別サークルからのもらい物)

こんな状況あるわけねえ! こんなもの解決できるか! え、全部史実ですって? ややこしすぎる事情に人種も複雑。言語もバラバラ。問題頻発。さらには住人の4分の1が無職にもなることも!?

ここから成功の道を歩めるのか!? 偉大な初代首相シウサガル・ラングームとともにモーリシャスを立て直し、神様も惚れ込んだ島を作り上げよう! 経済から外交。内政にと目まぐるしく回る国を走り回れ! ほかのゲームのデータがあればそこからのアイテムや人材を引き出せるコラボ機能も充実。かの名探偵、はたまた将軍に文官。君だけの面白メンバーで愉快に発展させよう。



次回はまた物語が進むと思います。いつもいつもこの駄作にお付き合いいただき感謝します。本当にありがとうございます。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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突発発生ぐだぐだ本能寺
ぐだぐだ時空発生 変な奴がいるぞ!


~メディア・マイルーム~

メディア「はぁー・・・一仕事して、毛玉のクッションにうずもれる・・・幸せだわ・・・ここに来てよかった・・・図書館で資料探しも楽だし、狼もきれいで人懐っこいし・・趣味も研究もし放題・・・・」

元「楽しんでもらって何よりです。メディアさん。お茶と、ダ・ヴィンチさんから少し道具に関して都合してほしいそうです」

メディア「あら、マスター。来てたの? 道具? 彼女ほどの人が何を欲しいというのよ?」

元「なんでも魔力の収集と、浄化に関するものを欲しいとか。今すぐではなくて、後でもいいそうですよ」

メディア「・・・じゃ、用意はするけどいくらか触媒、道具に関して都合してほしいのと、カルデアの業務の時間を少し減らしてもらえないかしら? ものによっては数時間そばで見ないといけないかもだし」

元「わかりました。あ、それと今昼ご飯ができたそうですが、ランチに行きます?」

メディア「いいわよ。今日はなにかしら?」

元「確か、切り干し大根の味噌汁とベーコンとアスパラの炒め物、ほうれん草の和え物。リンゴ、麦ごはん。おやつにお汁粉でした」

メディア「・・・見事に日本食ね」

元「ロマニさんと華奈、ストーム1さんが日本食好きですから、リクエストしたそうです」


~???~

???「・・・あ、やっちゃった」

???「は? やっちゃったって、ちょ・・・まさか」

???「今からこの周辺は爆発と暴走が発生する!」

???「爆発落ちなんてさいて・・・コフッ!?」




授業を終えて数日。次の特異点の細かな座標特定がもう一息となるも、その一押しが進まずにカルデアの雑用と自身のトレーニングを終えて一息ついている華奈。そして農作業から帰ってきてさっそく華奈のマイルームに入り浸るアルトリア。

 

「へえ・・・グラン・スイーパー・・・足がキャタピラにも変形するのですか。人型のメカが電車を引っ張るというのもすごい光景ですね」

 

 「ええ。人の形態の時は戦闘や高所の作業を。足が戦車の時は緊急時の輸送車がわり。民間企業にも武装解除して渡すこともできますし兵站の確保、維持、護送にもできるでしょう? 鉄道はなんやかんや有事の際は必要な生命線ですからねえ」

 

 「おーい、マスター。二日間休んでいいってよ。お、アルトリアもそれ読んでいるのか。設定集は今俺が借りているから残りは図書館にあると思うぜ」

 

 そこにストーム1が通知書を持ってきて腰かけ、ついでにと用意してきたのかお菓子のグミを一袋開けて皿に広げていく。

 

 「おや、いいのでしょうか? 菜園とかも始めたうえに座標特定ももう一息なのでしょう? あ、グミありがとうございます」

 

 「だからじゃねえのか? 特異点で斬った張ったすんのは俺らだし、マスターは魔力も使うからなあ。菜園はジークフリートに銀嶺隊とプロもいるから問題なし。英気を養って万全でいろってこった。役割分担できていいじゃん。あ、ちなみにソーダ味だ」

 

 「私は一度全部読んでから資料集を・・あ、グミありがとうございます。お茶は熱いのがいいですか? いいですよねえ。メカの変形に、軍事のメカが民間でも使われるのって」

 

 三人和気あいあいと話しつつもアルトリアは紅茶を人数分カップに注ぎ、華奈も一度休暇届と仕事の残りがないか再チェックを終えて腰かける。ストーム1も図書館で借りていた本を広げてのんびりしようとし始めていく。

 

 が、そんな中

 

 「あわわわぁ~~!?」

 

 「・・・・! ・・・!」

 

 図書館、司書室から響く紫式部の声、もう一つの聞き覚えのないかすかに聞こえる声に一気に空気が切り替わる。

 

 「ストーム、ついてきて。アルトリア様。ここをお願いします。黒介、サポートを」

 

 「了解。ナイフ・・・とスナイパーライフルで行くか。図書館を荒したくねえ」

 

 「了解しました。姉上も万が一の時は派手な合図を」

 

 刀を手に取って図書室に突撃。後ろからスナイパーライフル。ストリンガーJ9を構えて援護射撃をすぐさま行えるように背中を支える。アルトリアは襲撃者がどこから来るのかわからないために扉の前で待機。エクスカリバーも抜いていつでも斬りかかれるようにしていく。

 

 

 

 

 

 「香子様! ごぶ・・じ・・・・・?」

 

 「なんじゃこりゃ・・・?」

 

 図書館に通じる扉から突撃していった華奈、ストーム1。扉を開けて紫式部のいる場所に入って、思わずそのへんてこな光景に硬直する。

 

 「ああ、華奈様! ストーム1様。その、急に珍妙な生物が出てきて飛び込んできたので整理していた本の山を崩してしまい・・・今は警らとここで読書をしていた銀嶺隊の皆様が抑えていますが・・・」

 

 若干涙目の紫式部を華奈がそっと抱きしめながら周りを見回せば

 

 「ノブっ!?」

 

 「ノブー!」

 

 なにやら軍服と鎧を組み合わせた、二頭身くらいの珍妙な生物がなにやらノブノブと鳴きながら? 話しながら倒れた本の山や本棚に埋もれ、一部は銀嶺隊の兵士につかまり、あるいは狼やイノシシに囲まれて身動きを封じられている状況。

 

 銀嶺隊のメンバーの目は驚きつつも気を抜いている気配はないことからもそれなりには強さがある、危険ではあると判断できる。急ぎこの事態の収束とこのナマモノをその間管理できる場所が欲しい。そう思考を巡らせていく華奈。

 

 「妖精とか、精霊とかいろいろ見てきましたが・・・ここまで変わったタイプのものは初めてです・・・ダンカン。ちょうどいいです。ここの警備をお願いします。ストームは香子様と一緒に行動。この変わった生き物たちの収容所を作ります」

 

 「了解。大将も感じているとは思うけど、いろいろと油断できないよこの生き物・・・ナマモノ?」

 

 「ええ、少なくともこのカルデアに来ている以上何らかの大きなきっかけがあったのでしょうね。これも特定できないかフラム様、メディア様、ダ・ヴィンチちゃんからきい・・・」

 

 話を遮るように響く警報。どうやらこの図書館だけに異常事態が起きたわけではなさそうで、図書館の外からも足音に狼たちの声、騒がしい気配が広がっているのがわかる。この珍妙な存在が大規模に発生している。もしくは、それを率いたものが出てきたか。皆が気を一層引き締める。

 

 「ストーム。ついてきなさい。香子様。一度ここで待機。防壁も図書館中に張り巡らせてくださいませ。ダンカン。香子様の警備。上にはアルトリア様がいますし、問題はないでしょう。クラーク、ヤマジの二人に隊を分けて使わせます。アンナ様はたしかメディア様と一緒ですし、問題はないでしょう。あとは職員の保護・・・」

 

 「ちょっと待ってくれ。防壁とタレットの準備でエアレイダーにチェンジしてから備えを残しておきたい。ここならマスターの部屋にも逃げ込めるし、緊急時の避難先にはいいだろう」

 

 「は、はい! 華奈様も気を付け・・・ひぃっ!?」

 

 騒ぎの拡大にメンバーを動かそうとするもまた聞こえる戦闘音。どうにも剣どうしがぶつかり合う音が上から背中から聞こえる。アルトリアも何らかと戦闘を開始したようで、しかも既に数十合打ち合っている当たり相当な強者だろう。

 

 「・・・・・・ああ、もう!」

 

 アルトリアのことも気にかかるのでとんぼ返りと来た道を引き返して自室に戻る華奈。ストーム1。その後ろで防壁を貼り始めたことを確認して図書館と自室の道を抜けると

 

 「出ましたねもう一人のセイバー! ジークフリートみたいな人ならまだしも私のそっくりでしかも桜セイバーとは言語道断! この場で切り捨てて騒ぎと一緒に処分して差し上げましょう! さあ、さあ! 首寄越せええええ!!!!」

 

 「あっ! ちょっ! なんですかこれ! いくら何でも出会い頭に殺意高すぎでしょうこの方! それに改めて私にそっくりって何ですか、パチモンですか!? 偽物ですか!!? いくら私が美少女で天才剣士だからってそこまで似せるのもやりすぎ!」

 

 「だあぁれがパチモンですか誰が! あのへんなナマモノに驚かないあたり貴女が犯人でしょう!! この場でとっちめて罪状全部吐かせてから始末です! 私に対する発言含めて始末!」

 

 アルトリアと袴にブーツといったハイカラな服装に白髪が特徴的な謎の美少女が斬りあいをしており、しかも互いに何らかの言葉を吐くせいでよりヒートアップする始末。

 

 袴の剣士に至ってはアルトリアと真っ向から切り結んで見せる剣の腕前に、技量なら勝っていることもそうだが、その顔立ち。髪の色や瞳の色など差異はあるがそれでも瓜二つ。雰囲気の違いとかの部分で見わけないければ簡単な化粧や細工一つで分からなくなるほどだ。

 

 扉前でアルトリアが持ち前のパワーと魔力放出の加速を織り交ぜた豪快な戦場剣術を放つもその袴の剣士はことごとくそれをいなし、あるいは本命をどうにか避けて見せる。アルトリアも1500年ちかく過ごし、研鑽も積んでいるのにもかかわらずそれについていく才覚と技量。

 

 挙句にはその回避行動すらも余裕が出てきている節すらもある。とんでもない傑物が入り込んできたものだと一同殺意を瞳に宿らせる。

 

 「マスター。あれはやべえ。射撃するぞ」

 

 「了解。私は逃げ道をふさいでおきましょう」

 

 「あっ! 待ってください! 待ってください! 敵じゃないです私! いえ、この騒ぎは確かに同時に起きましたがこれはそもそもアーチャーが悪いのでして! というかその銃で狙われたら一撃じゃないですかやだー!! コフッ!?」

 

 すぐさま始末しようと動いた矢先。袴の剣士は血反吐を吐いて倒れそのまま動かなくなってしまう。

 

 「・・・・えーと・・・?」

 

 「病気か・・・? それに敵じゃないって一体・・・」

 

 「なんだか知らんがとにかくよし! その首もらったあ! ・・・・む、まだ反応が!?」

 

 強敵だと思っていた相手がまさかの自爆で行動不能に陥るという変化球すぎる状況に驚きを隠せない華奈、ストーム1。そして殺意バリバリなアルトリアはエクスカリバーを振りかぶろうとするところに新しい気配が出現。

 

 「おお、人斬りよ。くたばってしまうとは情けない。じゃが、わしはこれを切り抜けて、ここでおまえの分も働かせてもらうからの。安心せい」

 

 なにやら古臭い話し方に長い黒髪。軍服と鎧を合わせたような服装にマント。そして腰には刀をひっさげた美少女。赤い瞳で一瞬剣士を見やるとすぐにこちらに笑顔で近づいてくる。

 

 「いやーすまんすまん。ちょっとそっちに来る際の持参金って用意しようとしたらこんなんなってしもうての。こいつは連れなんじゃが、まあ刃向けたら好きなようにすればいい」

 

 「すいませんが、貴女は? 見たところ、あのナマモノの親玉と見える風貌ですが」

 

 「ええ・・・さすがにこの事態に関して、ご説明いただきたいですよ・・・・」

 

 疑問の尽きない存在に刀を下げつつも短剣を懐で忍ばせ、ストーム1の前に立つことで手元の動きを隠す華奈。そして、いつの間にやら黒髪の女性の後ろに立って凄みを利かせるクラーク。

 

 「ん? 誰じゃおぬしは・・・って鬼ぃ!? なんじゃこの男! こんなこわもてわしの部下でもそうはいないぞ!」

 

 「顔のことは言わないでください! この事態に原因を知るであろう貴女は今すぐ同行してもらいます!」

 

 「いきなりそんなツラで言われても納得できんわ! 武将でも驚く面に歴戦っぽい野郎にホイホイついていけ・・・おごっ・・・!」

 

 もともとが怖いうえにこの状況の解決に焦って凄むクラークに驚いていてまた騒ぎ始めた女性にしびれを切らしたアルトリアがエクスカリバーの刃ではない部分で黒髪の女性の頭をたたいて気絶。すぐさま捕縛。

 

 「なんでしょうか・・・気配や物腰から経験豊富な将ではあるようですが、何か抜けているような・・・・?」

 

 「ナイスですアルトリア様。ほかのほうでも騒ぎは収束できたようですから、一度皆に説明してもらいましょう。現状と、この事態を知るお二人に・・・」

 

 「はぁー・・・見た感じ英霊っぽいが、どうやってカルデアに来たんだ? ここ、そうやすやすとこれる環境じゃねえだろ。今の状態ならなおさら」

 

 剣士のほうも縛り上げ、端末からほかのほうでも発生した黒髪の女性をデフォルメしたようなナマモノを鎮圧、確保できたという情報をチェックできた華奈に英霊の気配を感じ取り、外部接続もない、英霊の召喚の話も聞いていないことにこの訪問者に疑問がわくストーム1。

 

 「そのセイバーもですか? 私としてはすぐさま斬首して、黒髪のほうだけでもいいと思うのですが・・・」

 

 「まさかのカルデアへの侵入者で、アルトリア様に渡り合える実力。黒髪の方とも知己のようですし、情報源は多いほうがいいです。それにまあ、理由次第では失礼になるかもですしね」

 

 「まあ、とりあえずは情報のすり合わせと理由からだな。処罰云々はあとだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えーと・・・ボヤ程度の騒ぎが二つに、壁の破壊は数メートル。床の破壊もいくつか・・・で、現在は一応この謎のナマモノはすべて対処していて、十分ちょいたっても増えていないことから今のところは問題ない・・・と」

 

 「すいません。多分ボヤはジャンヌオルタと清姫です・・・」

 

 「ああ、それと、この原因はもんのすごい確率でほかの位相からカルデアにつながったことであの変わった生物が直接来れるようになった。それで出てきた生物に関しても対処できているし守りは今のところ問題なさそうだ。ただ、問題はその位相がつながるほどの『何か』と『エネルギー』の原因とその場所。対処かな」

 

 思わぬ襲来がひと段落して集まったメンバー。藤丸、マシュ、華奈、ダ・ヴィンチちゃん、オルガマリー、ロマニ、アルトリア、ジークフリート、ヤマジ、良馬。残りの英霊はノブノブ叫ぶ謎生物を簡易収容所に押し込んでの管理。警備に目を当て、職員はここにきているメンバーを除いて図書館を避難所として設置。

 

 まさかのカルデアにもぐりこんでくるなかなかの強さを誇る生物にアルトリアと渡り合える英霊。戦々恐々となっているカルデアの状況を解消できるかもしれない。英霊二騎。捕縛用にメディア、銀嶺の工兵隊でこさえた専用の縄と手錠にて拘束している状況だが。

 

 「ええい、いい加減わしらに戦意はない言うてるじゃろ? 手土産を用意しようとしたらちょっと手違いしただけなんじゃ! 許して~! 美女二人こんなことしてこのまま乱暴する気でしょう!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

 

 「そうですよ! 悪いのはそこの魔人アーチャーなんですから私は関係ないです~! 戦いだって急にそこの騎士王さんが斬りかかってきたから応戦してただけなんですよ! っていうか何を言ってるんですかアーチャー!? 煽る発言はやめてくださいよ!」

 

 「悪いな。おれはホモだ」

 

 「ぶっちゃけどうでもいいです・・・・・はぁ、とりあえずは私たちのもとに参加しようとして、持参金代わりに聖杯を用意しようとしたら暴走。暴発発生。そして、そのさいにアーチャー様の潜在意識をかたどってあの変わったナマモノが発生して、そのリソースに魔人アーチャー様の力を持っていかれて今は私の一兵にも負けちゃうレベルダウン・・・」

 

 そんな状況下でもまったく気にせずに騒ぐ頭にたんこぶこさえた魔人アーチャーと先ほど血反吐はいたとは思えないほど喋り捲る桜セイバーと名乗る英霊二人。情報は教えてくれているし一応は抵抗の気配もないのだが、いかんせん起きた出来事に驚きを隠せない。

 

 「これも事実みたいだね。僕たちが探していた特異点とは別でもう一つ奇妙な特異点に近い空間が発生しているし、聖杯の反応もある。レオナルドの言う原因の場所でほぼ間違いないと思う。この事態とほぼ同時に観測されたし、あの生物と同じ反応もちらほら。これに関してはシステムをロックして対処できるし、守りも英霊のみんながいるし問題ないと思う」

 

 「特異点としての強度はフランスなどに比べればもろいですが、影響がないとは言い切れないのですぐに解決に動くのが得策でしょうね。私のほうはまた船坂さんのサポートに回りましょう。なにやら変わった空間というか何かがあるようですし」

 

 情報をもとに情報精査をしていたロマニ、良馬。すでに準備もできているのだろう。いくつも空間にモニターが浮かび上がり、その中にはレイシフトの文字も映る。

 

 「じゃあ、魔人アーチャー様、桜セイバー様は私たちと同行してもらいます。一緒に戦ってもらうのですし、この際力も知りたいです。で、今回はまたあの・・・ノブ? が来ないとも限らないので守りも厚めに。ジークフリート様はオルガマリー様、および管制室の警護を。香子様はそのまま図書館に残します。いいですか? オルガマリー様」

 

 「了解した。背中は俺が守り切って見せよう」

 

 「・・・問題ないわ・・・ストーム1にも通信通しているから今準備しているみたい。藤丸君も出てもらうけど、どうする?」

 

 笑顔で手を合わせて任せろと意気を上げるジークフリート。緊急時故タンクトップにジャージ姿だが、その言葉だけで回りも幾分か落ち着きを取り戻す。

 

 精神安定剤をかじりながら薬が回って落ち着いてきたオルガマリーもいつのまにやら通信機でカルデア中にこの話の内容を流していたらしく、なにやらエミヤ、ジャンヌの声も通信機越しに響く。

 

 「俺も行きます・・・けど、今回はクー・フーリンは守りに行ってもらおうかと。やっぱり、初の侵入者ですし、後ろもしっかりしたいなと」

 

 少しの間考え、二つの特異点で活躍を見せた大英雄を守りに置くことを選択。冬木合わせて三つ目の特異点でまさかの侵入者と見た目に合わない危険度に顔を青くしている職員たちの顔を見て精神的な意味でもあの気さくな兄貴分は残しておくことがいいかもしれないと判断。

 

 マシュとジャンヌオルタで攻め込む。もしくはサポートに徹していこうかという考えをもって周りを見ているとマシュも察したか笑顔で返して英霊の力を引き出してカルデア職員の衣装から戦闘の衣装に代わる。

 

 「ええ、私もカルデアにクー・フーリンさんがいれば心強いですし、気兼ねなく私も盾で先輩も、みんなも盾で守り切ります!」

 

 「はっ・・・ようやく私の出番ですか。相手は珍妙な奴みたいですが特異点。どこまでマスターは私たちを扱えるか見せてもらおうじゃないの。ねえ? マシュ」

 

 漆黒の鎧と剣を携えてジャンヌオルタも到着。口角を釣り上げてこれからの戦いに心躍らせ、ようやく槍働きができると内心楽しみのようだ。

 

 「おまたー。準備オーケーだマスター。いつでも行けるぜ」

 

 「私も戦闘準備ばっちりです。ご飯も水もバッチリ。とりあえずは補給なしでも二日分なら行動できます」

 

 武器の整理を終えたストーム1、なにやらカバンを整理してひざ下ブーツにジーンズ。近未来的でやや露出のある衣装に帽子をかぶって出発準備なアルトリア。特異点探索チームはすでに準備完了といったところだろうか。

 

 「では、すぐにでも行けるようにしましょうか。藤丸様。これを」

 

 言うが早いか秋水を抜いて魔人アーチャー、桜セイバーの手錠と縄を切り捨てた華奈は持ってきていた銃とマガジンを藤丸に渡す。

 

 「これは・・・・・?」

 

 「ベレッタM92FS 装弾数も多いですし、威力もなかなか。弾はソルトロックで用意しているので、当たり所が悪くない限り相手を殺すこともないでしょう。必要なら実弾もありますのでまあ、備えの一つに」

 

 「おおー! 小型でたくさん打てる銃! ストーム1のもいいが、こっちもええのお!!」

 

 自分が今持っている銃よりも威力も装弾数も格上の拳銃。しかも、ドラマや映画見るような銃を手にして藤丸も再度銃の存在感、これが相手を制圧できる威力があるのだとじっくりと見つめ、魔人アーチャーはその銃の性能を聞いて目を輝かせてじろじろと見まわす。

 

 「はぁ・・・ともあれ、行きましょう。聖杯の確保とこの暴走の解決。私桜セイバーも汚名返上、名誉挽回のために励ませてもらいます!」

 

 「ありがとうございます。とりあえずは・・・ロックソルト弾で行かせてもらいます」

 

 「そうですか。ゴム弾もありますし、気楽に申してくださいな。さてと・・・特異点攻略。私も行けます」

 

 藤丸は予備のマガジンから弾丸を眺めて予備マガジン専用のウェストポーチに突っ込んで銃、レディスミスを腰のベルトとズボンの間に挟み込み、ベレッタをショルダーホルスターにしまい込む。華奈も自身の武器、魔力の流れを確認後に一つ息を吐いて用意していた小さなバッグを左手に持つ。

 

 「では、早速華奈、藤丸君、アルトリアさん、マシュで特異点攻略を開始。契約した英霊の皆さんもどうかお気を付けて・・・」

 

 オルガマリーの言葉を皮切りに皆がレイシフト開始。特異点捜索組が送り込まれ、その後に特異点との接触点に関するシステムを一部分ロック。あの生物への侵入、それ以外の危険なモンスターの対処を済ませてカルデアに残ったメンバーは息を吐く。

 

 「ふぅ・・・・これでひとまずは安心できそうだ」

 

 「そうか・・・だが何かあるかもしれない。マスターのこともあるし、俺は引き続きここで護衛をするということでいいだろうか?」

 

 「ああ、お願いするよ。なにせ、超天文学的な確率でおかしな場所につながったみたいだ。その空間からの事象汚染も起きているし、なにやらシャドウサーヴァントとも違う何か。華奈も何かを感じているみたいだからいいけど、その際にすぐに呼べるほうがいい」

 

 「私もいたほうがいいでしょうね・・・行きたくはないけど・・・もう一人のマスターだし・・・私・・・ジャンヌ呼んでおこうかしら・・・」

 

 恐ろしい見た目の怪物ではなくけったいなデフォルメされた人型のエネミーに、聖杯の暴走、それの元凶はなぜかこちらに参加しようとしてきた変わり種。内容の整理にも理解にも頭を抱える内容にコーヒーで不安ごと飲み込んでオルガマリーは画面を見る。

 

 「はぁ・・・気が休まりそうもなさそう。しばらくは・・・・・・・」




~特異点~

華奈「ん・・・ふむ。接敵なし。周囲も問題はないですね」

アルトリア「はぐれてもいませんし、今のところジャンヌオルタも問題なし。カルデアのラインも問題ない。と」

桜セイバー「? はぐれたことがあったのでしょうか?」

ストーム1「フランスで早速はぐれてな。しかも敵とすぐにエンカウントする始末よ」

魔人アーチャー「なんじゃそりゃ。いきなり敵とエンカウントってチュートリアルないの?」

ジャンヌオルタ「ゲームじゃないですし、リアルですよ。まあ、ストーム1はガンナーで魔力は長持ちですものね。私とのラインもばっちりですし、とりあえず、どうしますか?」

華奈「栗毛~・・・っと。ですね。カルデアと一度通信できるか確認した後に移動しましょうか。この子たちなら皆さんの足にもなるでしょう。ストームと私はそれこそ走ってもいいですしね」

魔人アーチャー「うぉっ! でっかいの! どっかの傾奇男か拳王が乗りそうな馬じゃな!」

栗毛「ヒヒン?」

マシュ「栗毛さん。華奈さんの愛馬で、たしか並の軍馬十頭分に匹敵する魔馬でしたか。冬木ではお世話になりました」

藤丸「・・・本当に大きいけど、やさしい目をしているなあ・・・あ、清姫に言わないで来たけど・・・・・・・後でカルデアに伝言頼もうかな」

アルトリア「いやあ・・・いい子ですね。あとはハチ、花子、黒介、マチコがいれば全員分の足になるでしょう。姉上、魔力大丈夫ですか?」

華奈「ええ、とりあえずは移動しつつ拠点、休憩所になる場所を探しましょう」




今回は早速寄り道のグダグダ本能寺。二人も正式に参加してほしいなということでイベント特異点で戦うことになることでしょう。

信長公。基本裏切られやすい理由には甘い部分もあると思うんですよね。人質は嫡男じゃなくてもいいし、功績をあげれば割とすぐ人質返したりとで部下の管理は優しい、もしくは緩い部分があります。そりゃあ、いざとなれば裏切られちゃうわけです。家を守るためや家族、嫡男、後継ぎが手元に置きやすいのですからすぐに裏切って逃げても大丈夫と。

ただ、何かあれば相談するために手紙送ってねとか、部下のお嫁さんの相談に乗ったりとか(たくさん書きすぎて最後は文字が徐々に小さくなっている)厳しい部分はあるかもですが、多分かなりいい人だと思います。甘党だったり下戸らしいというエピソードもあったりで何というか面白い人です。



サバフェス作品紹介

『騎士夫婦の献立』 ジャンル エッセイ  巻数 11巻 完結

銀嶺騎士団副長の一人クラーク。その妻でラグネルの侍女、銀嶺隊のシーマ。起用万能なクラークとあれこれとオークニー内を動き回るシーマの二人はいろんなところに出かけてはそのたびに様々な食材を持って帰り、家で調理し、あるいは出かける先で料理を楽しむ。

二人での時間から炊き出しに遠征中の料理。宮廷の料理でも。食に触れる機会はいくらでも? 工夫とアイデア、刺激はそこかしこにあふれていて。今日も料理を楽しむ仲睦まじい夫婦のささやかで、ちょこちょこ変なことが起きる日常をつづったエッセイ。番外編で銀嶺隊のメンバーからもらった食事や当時ブリテンであった食材のレシピや入手場所を書き記したメモも書下ろし。最終巻には今までの料理のレシピすべてをまとめた冊子も。



『永劫戦記』『永劫戦記・邂逅』 ジャンル SFサイキックアクション 巻数 第一部 15巻 第二部 1巻(未発表7冊) 未完


第一部

この広い宇宙。生まれた星が早死にする時間に生れ落ちてひたすらに進化し続けた先に何もかもを喰らいつくす、それは星も、宙もを積み木感覚で壊す意思を持つ魔獣が生まれた。その魔獣がいる宇宙に住む星の神々や同様に進化した魔獣たちは『星を喰らう大いなる魔物』に自身の星、宇宙を壊されることを阻むために抵抗を続け、時には自身の星から生まれる戦闘に特化した存在・・・いわゆる『勇者』『魔王』『聖獣』『魔獣』たちを神の国・・・魔獣と戦うための戦線に招き、戦い続ける。

とある星のとある国にてひたすらに戦い続けて名を馳せた叩き上げの軍人、イシモリ・センジ 神への深い信仰心とその心で司祭になれたエイセン・イネール。ある時に自身の信じる神から告げられた言葉は『宙から未知なる災厄が降り注ぎ、神の戦が行われる』という言葉。その直後に現れた見たこともない怪物と戦いつつ、世界各地に散らばる指折りの兵器を対抗策とし、これらを武装した組織を結成するために二人は協力して戦い始める。


『邂逅編』

『星を喰らう大いなる魔物』との決着はつかないどころか悪化する一方。かつて自身らが済んだ星は滅び、自分たちよりも遥か高位の存在すらも死に続ける。その戦に対して戦いのさなかで手にした『異なる宇宙』に行ける道具を手にしたエイセン・イネールは自分らの宇宙をイシモリ・センジに任せて別宇宙で募り始める。魔物を倒せる戦士を、兵器を。それを持つものらを説得するためにその宇宙でこちらの事態を観測できている者たちを探す。

その中で新たな事態を知り続けていく世界の事実。この世界が生まれる前から存在する別の宇宙から流れ着いた生物。知りえぬ術式に超兵器。可能性にあふれた宇宙から有志を募り、長く続いた宇宙をめぐる戦いに決着をつけようと折れぬ意思で戦友を求め宙を征く。



『汚物消毒神拳』  ジャンル バトルアクション 巻数 23巻 完結 (別サークルのもらい物)

医聖ヒポクラテスの提案した実用な能な焼灼手術、その論述から概念、魔術にまで引き上げた魔術師の一派。その中で不純物、毒物を取り除くすべを概念的な炎に昇華し、さらには精神のよどみも消し去れるほどに磨き上げた魔術師、アスクレイン家。その14代当主のミデア・アスクレイン。焼灼の焔を手にまとい、自身の優れた製薬技術と組み合わせて地元の町医者として患者を今日も癒す。

概念や術式を魔術に浸透させた世界、それゆえの様々な治療魔術に攻撃魔術の派生に対応して、触れていくうちに自身が護身にと磨いていた我流体術と炎を組み合わせた拳法まで作り上げたミデアは決意する。『これつかっていろんな人を、町を治し続けていこう』世の冷たい風に泥を温め、あるいは浄化しつつ町から町へと渡り歩き、自分の炎と医術を磨き上げ、進化させ続けて知らなかった世界の厳しさを少しでも変えようと歩き続ける。



そもそもが銀嶺も変な奴しかいない状況。

カルデアに守りを置くのはやはり侵入者が発生し、しかも割と危険だからですね。

ローマを期待していた皆様には申し訳ありません。ぐだぐだな特異点をお楽しみいただければ幸いです

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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煽ってナンボ

華奈(しかしまあ・・・何でへし切長谷部をこの方が持っているのでしょうか? たしか、黒田官兵衛様にお譲りしたはずですが・・・それより前が全盛期ということでしょうかね。そしてまあ、この方も来てくれると・・・)

魔人アーチャー「ん? どうした。華奈先輩よ。わしに何か興味でもあるのか?」

華奈「先輩? まあ、いいですが・・・いえ、なぜこの刀が貴女様のもとにあるのかと。黒田様、ないし秀吉公にお譲りなされたのでは」

魔人アーチャー「ああ、これね。わしが持っていた刀でもいいもんだし持ってこようかとな。不動国行もよかったが、あの切れ味を実感するとなー」

桜セイバー「アーチャーのところは本当にいろんな名刀、名物ぞろいですよね。どうせアーチャーなんですから私に分けてくださいよ」

魔人アーチャー「たわけ。あの名刀をどんな刀でも割りばし感覚でべきべき折る人斬りサークルの連中になんぞ渡せるか! 渡すにしてもしっかり手入れと管理ができるやつ、そしてわしのもとで手柄を立てたやつじゃ!」

ストーム1「おっと。みんなストップだ」

アルトリア「ええ、軍の気配ですね。これ以上はアーチャークラスがいれば見つかるやもしれません」

華奈「ですね。しかもまあ、数が多い感じです。今は夜・・・・・ストーム。周辺に湖、池、川はありますか? もしくは小高い丘でも」

ストーム1「あるな。小さな池と、林。あとは谷とかがいくつか」

華奈「では池のほうに移動して観察しましょう。これを。銃の金属に反射されても困りますしね」
(双眼鏡を渡す)

ストーム1「了解だ。それと動物たちも一度下げたほうがいいかもな。魔獣の気配で感づかれるかもしれん」

良馬『ええ、今観測しましたが、英霊が少なくとも3騎それと・・・2万以上のあの変わった生物の反応があります。うち1騎は冬木で出会ったランサーに反応が近いかと思われます』

ロマニ『今のところ、どうも野営の準備をしているみたいだ。反応を見ても近い場所を行ったり来たりで天幕や、炊事を行っているような動きも見受けられる』

華奈「では、ますます必要時以外は出さないほうがいいですね。皆さんお疲れ様でした。帰ったらご飯を用意しますね?」
(栗毛、ハチ、花子、黒介、マチコを一度出現状態を解除)

藤丸「うへぇ・・・凄い光景・・・」

ジャンヌオルタ「あれが妖精ならいいけど・・・いや、妖精も危険だったりいたずら好きもいるし同じかも・・・はぁ、あれ全部は骨が折れそうね」


 特異点に入り、早速軍と思わしき部隊の気配を観測できたカルデア。近くの小さな池を前にした林の中に身を潜め、双眼鏡で周囲を観察する。

 

 レンズが月明かりに反射してばれるのを防ぐためにもとより光を反射しほうだいの池、身を隠すための林となかなかの好条件だがやぶ蚊がひどく。仕方なしにカルデアから虫よけクリームと術式を用意しつつ見ればなるほど大軍勢。そして指揮系統も問題なくとれていると来たものだ。

 

 「あの奇妙な生物を手なずけて軍隊化しているようですね。確かに火縄銃も所持していますし、肉弾戦もそれなりにできていたみたいですし、戦力としてはちょうどいいと」

 

 「何と言いますか、あれほどの数がそろって、食事や陣地を用意しているのを見ると本当に知性があるんだとわかります」

 

 ノブ、ノブーと会話らしきものをしつつ動き回るナマモノの軍隊に少しなごみそうになるもカルデアでの襲撃や、警備にあたっているナマモノ、もといちびノブたちは刀や銃を持っているゆえにどうしたって危険なものなんだと気を引き締める。

 

 「で、ロマンじゃったか。良馬じゃったか? 英霊、まあこやつらを束ねる将を知りたい。こやつら装備にさほど差がないし、組頭も見分けが面倒じゃ。早いところ大将首を狙って指揮系統の麻痺からの壊滅を狙いたい。さっき言っておったろう?」

 

 『ええ、とりあえずですが、そちらに近い軍隊・・・やや後ろでしょうか。に英霊が2騎。そして、もう少し先の、この軍の先頭にあたるところに1騎います。おそらくは先鋒。後ろは少し強めのちびノブの反応がありますが、それだけでまあ後詰めのようなものでしょう』

 

 『問題なのは、それの3騎どちらもなかなか大きな反応。強い英霊みたいでね。しかも1騎は確定している。華奈が10年前に冬木で戦ったランサー、武蔵坊弁慶だ。何やらみんな別の要素、ないし因果が混ざっているけど、どのみち日ノ本の有名な英雄がいると考えてほしい』

 

 冬木で戦った。藤丸らも遭遇したシャドウサーヴァント、武蔵坊弁慶。子供でも知るあの有名な僧兵レベルが少なくとも3騎。しかも対処法を知るほうは最も陣が分厚い中軍におり、しかももう1騎いる。

 

 少しまずいかと華奈、ストーム1は冷や汗を垂らす。華奈は10年前はソロモン、銀嶺隊合わせての剛柔織り交ぜた戦術、戦略ともに圧勝しての勝利だが、今は銀嶺隊は守りにおき、無力化すれば即王手のマスターもいない。多勢に無勢、どう戦おうかと頭をこねくり回し始める。

 

 ストーム1は弁慶のその強さと武器にまつわる逸話。そして最後のあの戦いぶり。シャドウサーヴァントとは格が違うし、フルスペックの再現なら自分の最高火力をぶつけても耐えられるかもしれない。その間に敵の波にのまれる。火力重視にしてしまうとそれこそ巻き込みや誤射が怖い。

 

 自分とマスター、アルトリアは脱出手段はあるが、残りはそれがあるかわからない。となれば弁慶がいる上で不用意に大将首だけ狙うのも悪手。武装こそ大軍仕様にしているが、さすがに万を超える規模となれば華奈の宝具とアルトリア、そして魔人アーチャーと名乗る。あの帽子の紋でおそらくは織田信長。彼女の力も借りてようやくかと結論付ける。その中でとにかく生き残るための最善手を思考。

 

 二人が戦略を練っていると軍の将であろう弁慶とその主であろうか。鎧を着こんでいる年若い女武者・・・非常に露出度の高い姿で胸も上から鎧で隠すだけ、パンツも見えていれば下から着こむ服一枚もない。左右に分けた前髪に長い黒髪。すらりと伸びたスレンダーな肢体。もう必要最低限をさらに切り詰めた防具で鎧のない部分は自分の腕で避け切るという考えだろう。ただ、笑顔の裏には気負いも飲まれている様子もなく場慣れがあり。経験を積んだ戦士だとわかる。その二人が何やら話し始め、一同耳を澄ませて聞き始める。

 

 「野営の準備もできましたね。では、ベン・・・雪斎、宴の準備をしましょう」

 

 「はは、宴はいいですが殿。軍の斥候からの情報もまだ完全ではありません。兵を伏せる場所もありますゆえ、油断なさらぬよう」

 

 「それくらいわかる。しかしこの場所は大軍も通りづらければ間道も全て押さえている。下手に主の私が緊張し続けてはそれが軍に伝わるというもの。それが続いて目的の前に軍全体が疲弊しては元も子もないだろう?」

 

 良く通る声で雪斎となっている弁慶に話しかける女武者。会話の端々からもこの場所の地形と軍の現状を頭に入れているらしく、軍略にも明るいのだろう。そして弁慶が主と慕う相手。多少の変化こそあれ、おおよその見当はついてくる。源義経。決定はできないが、今のところはそう仮定するべきだろうと考えておく。

 

 「ノブノブー!!」

 

 「ほら、この生物もそういっています。べ・・・雪斎は心配性ですね。それでは皆がつかれます」

 

 「はぁ・・・・・・・大事にならなければいいのですが」

 

 会話をひとしきり聞き、おそらくは宴で当分は動かない。むしろ人が集まるので明かりも増えて自分らが見つかるかもしれないので双眼鏡を下げて林の奥深くにこっそり移動。英霊の気配をおおよそ把握しておき、観測はカルデアに任せて作戦会議を開催。

 

 「しかし、あれがカルデアのデータにある英霊の弁慶だというのに雪斎と呼ばれていましたし、何やら変な因子が混ざっているのでしょうか? 様子も変ですし」

 

 「大軍用にフェンサーで一つ用意してきてはいる。が、弁慶がいる上に宴で下手すれば幹部クラスも来るとなると少し厳しいな。粘られるほどにもう1騎の英霊が来る可能性が高くなるし、間道や伏兵まで考慮されちゃあ不意打ちもどこまでうまくいくか」

 

 「正面突破でもさすがにこの数では多勢に無勢ですし・・・どうしたものか・・・」

 

 「私も少し勉強したけど、あの粘りと戦術こなされたら厳しいわよ? 日本でも最高レベルの知名度で強いんでしょう?」

 

 どうしたものかと頭をひねらせるマシュ、沖田、藤丸、ストーム1、ジャンヌオルタ。それとは別に一応の作戦を練った華奈、アルトリア、魔人アーチャーは声をそろえて言う。

 

 「「「夜襲と混乱しかないじゃろ!(でしょう)(ですね)」」」

 

 『一応聞くけど、何をする気なんだい? 三人とも・・・』

 

 少し心配そうなロマニの声とは別に驚く面々。その心配を払しょくするために木の枝で地面に絵を描いていく華奈と石ころを用意するアルトリア。

 

 「まず、私たちは宴が始まるまで待ち、ここから離れます。間道や伏兵のある場所を警戒、抑えられているというのなら宴で人が離れたすきに移動して警戒された場所からの攻撃をしないでおきます」

 

 「そして、正面からマシュ様、ストーム、私、桜セイバー様で真正面から攻め込みます。ストームはフェンサーで、あれを用意してください。機を見て使います。相手の相性次第では一気に軍を削れることでしょう」

 

 「で、わしと残りのメンバーは後ろから回って後軍を叩く。前に後ろにと引っ掻き回して酒気とまさかの真正面からの殴り合いに挑んだ連中を圧殺。下手に軍を立て直すとするのならその兵力をそいで最後に皆でたたく。英霊として暴れるのならわしと華奈先輩、アルトリア先輩、ストーム1先輩でどうにかなるじゃろ? あのメカとか武器で」

 

 まさかの少数で万を超える軍を挟み撃ちで倒し切るというとんでもない作戦に出始めたことに一同目を見開く始末。

 

 『待ってください。それはさすがに賭けが過ぎるのではないでしょうか? いくら船坂さんとアルトリアさん、魔人アーチャーさんとはいえこの少数では・・・』

 

 「そ、それに相手もそれを考えているんじゃ・・・」

 

 「私もストーム1さんに華奈さん、桜セイバーさんは頼もしいですがさすがに簡単な陽動くらいしかできないかと」

 

 不安そうな声を出し始める声を一通り聞き、そのうえでまた話を続ける。

 

 「まあ、それもそうなんですが、相手は大軍はすぐに来ない。来てもわかる場所にいて、それ以上に心配しているのは細い間道やこの場所のような林。それを雪斎・・・弁慶? は心配しているわけです。だから、どうせここから奇襲しても高い可能性の一つとして考えられちゃっているわけです」

 

 「そうであればあえて真正面から少数精鋭でぶつかり、背後を突く。そうすれば敵も戦力を差し向けるでしょうが、同時に少数での攻めに不信さを覚え、別の地点からの奇襲に気を配ったりするはず」

 

 「意識が第三の奇襲に向いているその間にもわしらで敵の頭数減らして指揮系統を麻痺させ、最終的には逃げづらいこの細い場所で一気に宝具でプレスしておしまい。上級、中級指揮官が酔っ払って、しかも左右に兵力をあたふたさせている。いい作戦じゃないかの? 逃げる際も華奈先輩の魔獣にこっちは足止めの技も多い。分散して逃げれば生き残る確率も高いじゃろ」

 

「・・・本部の無茶ぶりよりもマシか。マスター。渡す武器と作戦のための俺の装備の打ち合わせだ」

 

 反対の声が出ないことを賛成ととらえて改めて作戦のための閣員の動きの再チェック。それと同時に宴が始まるかどうかを確認しつつより林の奥に移動。カムフラージュも念入りにしてその後は散開。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一番槍は私がもらいます! はあぁっ!」

 

 桜アーチャーの袈裟懸けでちびノブがやけにかわいい悲鳴をあげながら消滅。それを合図に敵の視線がその桜色の剣士の目に集まり、ざわざわと声が広がる。

 

 「マシュ・キリエライト続けて突貫! 敵の無力化を行います!」

 

 その驚愕の間断を縫って巨大な盾がちびノブを数体吹き飛ばし、横殴りで後ろの列まで崩す一撃を振るう。右に左にと地面に足がつくのを確認できないほどに軽やかに舞いながら刀を振るう桜セイバーとマシュ。その二人の攻撃にちびノブ軍団の先鋒は前列を多少崩されるが即座に立て直し、押し込もうと動く。

 

 敵の動きが変わった瞬間マシュの盾の裏になにやら黄色い光を放つ小型ビーコンらしいものがマシュの後ろから飛んできて張り付き、至近距離にいる桜セイバーにも効果を及ぼして流れ弾、刃ですら袴を傷つけきれず、マシュも数をものともせずに除雪車のごとく敵軍を押しのける。

 

 「この今川軍に夜襲とは何奴だ! たった二人とはいい度胸だな!」

 

 混乱の治まらないちびノブたちの中からマシュの盾めがけて一矢が飛び、マシュが後ろに押されてしまうほどの衝撃を与えてちびノブから引き離してしまう。その射手はちびノブたちに落ち着いて対処するように指示を飛ばし、同時に何名かを伝令として後ろに走らせる。おそらくは本陣に伝えに行ったのだろう。

 

 「ぐ・・・アシストあってまだ手がしびれる・・・?」

 

 「マシュさんの守りが押される!? でも、私たちだけじゃないですよ」

 

 桜セイバーの声と同時に闇夜をつんざく銃声と無数の弾丸がちびノブたちを撃ちすくめて数を減らしていく。銃声は大きく分けて二つ。だが、それでも同時に4,5発は同時に飛んで敵を攻撃していく。

 

 「へえ・・・この今川よしつね様の軍、そして先鋒の東洋1の弓取り、松平アーラシュに挑み、さらには射撃戦で挑むたあますますいい度胸だ俺が直接成敗してやろう。

 

 皆、敵は少数だが強敵だ! 油断するなよ。それと、下手に俺たちが配置をずらせばその間に殿たちに刺客、軍が押し寄せるかもしれん。少数の敵は俺たち前軍だけで対処するぞ!!」

 

 かがり火と月明かりのもとに現れるは短めの黒髪に黒い瞳。やや深めの黄緑色の鎧に身を包み、見事な赤い弓を手にした好青年。表情も好感を持てるもので、彼の指示にてきぱきと従い混乱を収めていくちびノブからも信頼の深さがうかがえる。

 

 「へぇ・・・かの大英雄アーラシュ、そして、今川の松平と言えばあの松平か・・・ますます油断できないな」

 

 松平アーラシュの出現に応えるようにストーム1もフェンサーの状態でゆっくりと出てくる。右手に大盾、左手に巨大な砲を手にして油断なくマシュと桜セイバーの前に立って構えて仮面の下で気合をみなぎらせてゆく。

 

 「お前が射撃手の一人か。いい腕していたが、射撃を続けずに素直に出てきたのはいい判断だ。いずれ俺が射抜いていただろうからな」

 

 「そうだなあ。でも、こうなりゃあお前さんでも俺は倒せないだろうなあ。東洋1の弓取りは危険だからここで倒させてもらうぞ」

 

 「その気合やよし! 俺も全力で倒してやる!」

 

 互いに武装を握る手に力が入った瞬間にゴングは鳴り、鉄塊が空を舞い、それを撃ち落とさんと弓の雨が風を切る。

 

 「私も・・・こふっ!?」

 

 「えええええ!!? さ、桜セイバーさん!? 吐血!???」

 

 ストーム1に加勢しようとした桜セイバーが突如吐血。さっきまでの動きが嘘のように鈍ってばったりとぶっ倒れてしまう始末。急すぎる桜セイバーの不調にマシュも目を白黒させて加勢せずに桜セイバーの前にかばうように盾を構えて桜セイバーに肩を貸す。

 

 「す、すいません・・・私・・・こう突然血を吐いて倒れちゃうことがありまして・・・敵前で無防備になったりしてしまい・・・」

 

 「え? あ、ちょ! この中でそれは致命的過ぎま・・・・」

 

 「後ろに投げなさいマシュ様! 思いきり遠くまで!」

 

 ストーム1のおかげでどうにか回り込まれてはいないがさすがに弱った仲間を抱えながらの戦闘はできない、けど、急な後退もできないしどうしようと混乱がマシュの頭を支配する前に華奈の声が響き、声のする方向、マシュの後ろにぶん投げろと指示が飛ぶ。

 

 「え、いや、相手はアーチャー・・・! 了解です。桜セイバーさん! 失礼します。やあっ!」

 

 「え、あちょっ・・・うぁわああぁあああ!!!!?」

 

 敵の火縄銃と松平アーラシュの射撃範囲外には無理だという前に意味を理解したマシュは盾を背負うようにして両手を開けるとすぐさま桜セイバーを両手でしっかりとつかんで思いきり、英霊の力もフル活用して放り投げる。

 

 桜セイバーは低空飛行の軌道を描きながら闇夜に吸い込まれてやがて皆の視線から消え去り、声も消え行く。松平アーラシュ達もすぐに撃ち落とそうとするもストーム1が松平アーラシュに急接近して射線をふさぎ、マシュもすぐにその飛んで行った方角に矢玉は通さないと盾を構えて二重のシャットアウトを行う。

 

 「ふう。前もってここの龍脈を理解できていてよかったです。大丈夫ですか? 桜セイバー様」

 

 その先に縮地で移動していた華奈が回転しながら飛んできた桜セイバーを優しくキャッチ。勢いを徐々に殺しながら受けとめるとすぐに桜セイバーを抱えて再度縮地で移動。飛んで来た軌道にめくら撃ちでもやられてもらうのはごめんだと茂みに隠れて次の狙撃ポイントに移動。

 

 「す、すいません・・・血の味は慣れているのでいいのですが・・・ぐるぐる回って飛ばされて気分が・・・うぅっ・・・!」

 

 「え、あ・・・・! 待ってください! ふぅ・・・・・えっと・・・作戦変更。タイミングをもう少し遅らせてください。楽になるかもしれません」

 

 ただまあ、手荒い緊急避難にふわついた感覚と目を回して気分を悪くした桜セイバーに慌てる華奈。その後、深山を使い場所を用意して事なきを得たとか。それとついでに、後軍を叩こうとしていた藤丸らに指示を飛ばす。

 

 

 

 

 

 「くそっ・・・・! ここまで硬い兵ってのは未体験だ! 俺の矢が通じないだと!?」

 

 「いやぁ・・・ゾンビ映画をよりシュールにしたらこんな感じなのかねえ」

 

 「っ・・・! アシストガンのサポートがなかったらさすがにきつい・・・・!!」

 

 それ以降、戦場は拮抗状態が維持されつつあった。そのストーム1は鈍重極まる見た目に反して空中すらも飛び回って縦横無尽に戦場を駆けては一回の射撃で無数の弾丸を発射して射撃した周辺のちびノブをごっそりと消滅。たとえ射撃でとらえても大盾はびくともせず、近接戦闘自体ができない。

 

 マシュもガードアシストの防御力を向上させた状態と先ほどとは違う場所から華奈の援護射撃が包囲しようとするちびノブをけん制し、その間にマシュ自身が包囲の動きを見せるちびノブを打ち砕き、個別に処理していく。守りに特化したマシュにストーム1は一撃一撃が重い松平アーラシュの攻撃をさばき、さらにはアシストや機動力を活かした戦術で部隊ごと翻弄していく。

 

 相手が武将とはいえ先鋒だけでも数千はいる。それがたった5人。前もって仕掛けや罠があるわけでもないのに攻めあぐねるという状況に松平たちは焦りの色が見え始める。

 

 「東洋1の弓取りも今川の先鋒も大したことなさそうだな! 俺たち4人、一人戦線離脱したのにその数でずっと射的ゲームを外していると来た!」

 

 「え、えーと・・・この様子ではどうせ他の勢力にすぐにつぶされて終わる弱小勢力でしょうね! 本陣まで私たちに手を煩わせればまさしく天下の笑いもの! 自慢はその数だけですか!?」

 

 マシュ、ストーム1の挑発に図星を突かれてさらに焦りが増す。これから幕府再興を目指す軍が途中で強いとはいえ数人の相手に手間取り、本陣まで動かして対処したらたとえ勝ったとしてもその噂で配下の兵卒たちは大したことがない、弱いと考えるし、周辺勢力にも舐められ、襲撃されるきっかけになりかねない。

 

 (やばいのは武田・・・へたすりゃあ、俺たちを真っ先につぶしにかかる)

 

 油断できない勢力はすでにいるし、その勢力には機動力もある騎馬隊がいる。今は伝令が内容を伝えたおかげで本陣も警戒態勢を上げて備えてくれているし、後詰も臨選対背に入ったと聞く。ただ、少数ゆえに背後やほかの場所からの奇襲を警戒して斥候、索敵を使いながら動かない。すぐに追い返せるとたかをくくって動かないのだ。

 

 そうなれば今は早急に先鋒の自分達が敵を排除してその軍で警戒、もしくは場所を移動するための先駆けとなるべきだと松平アーラシュは思考を巡らせ、自身が持つ手段で最適解をたたき出す。

 

 「よしつね様には悪いが・・・・ここで見せてやろう! 俺の全身全霊の一射で降りかかる火の粉を吹き飛ばす!!」

 

 ちびノブたちでは相手にならず、数で押そうにもうまくいかずにむしろその動きを片っ端から狙撃手に対処される。大将たちは動く様子がないし、時間をかけすぎるのもいけない。そして、狙撃手を狙うにも目の前の英霊2騎が壁になるし、このままではこちらの戦力が削られるだけ。

 

 なら、一撃ですべてを吹き飛ばし切る。弓を限界まで引き絞り、あらん限りの力を込める。その魔力の奔流は聖剣開放にも勝るような勢いを見せ、まるで地上で花火が起きたような輝きを放つ。

 

 「・・・・やべえな!」

 

 「でも、これは・・・・・!!」

 

 「今更逃げられると思うなよ。おれの弓の射程は2500㎞! 後ろの狙撃手も退場したやつごと一網打尽!」

 

 その輝きは強さを増し、思わず目をつぶりそうなるほど。しかし、その中で華奈はむしろ笑みを深め、藤丸に合図を通信で伝えて令呪を切る。

 

 「令呪をもって命じる! ストーム1、その渾身の一撃を受け止めなさい! 続けて命じる。必ずその一撃をもって敵軍を壊滅させなさい!!」

 

 「令呪をもって命じる。マシュ! ストーム1さんと連携してその一撃を凌ぐんだ!」

 

 二人による令呪のバックアップによる後押しによる力の底上げを受ける二人。ストーム1も武装をもう一つのものに切り替え、大盾とは別の盾を構え、マシュはその前に立って盾を構える二重の防壁を展開。

 

 「流星一条(ステラ)アアァァアァアァアアアアアァアァアッッ!!!!!!」

 

 目の前の障害すべてを吹き飛ばす規格外のエネルギーが弓から放たれ、その光にマシュ、ストーム1は逃げることなく立ちはだかり

 

 「行きます! 仮想宝具・疑似展開/人理の礎――――!!!!(ロード・カルデアス)

 

 宝具を展開。より強化された光の防陣を構えていくが

 

 「あ・・・・ぐ・・・もた・・・きゃああっ!!?」

 

 その途方もない一撃には耐えきれずに光の防陣はすぐさま砕けしまい、マシュはこの爆風に射線上の横に吹き飛んでいく。しかし、その途方もない一撃でもマシュの宝具は確かにこの流星の勢いをそいでいる。さらにはそこにストーム1が二つの盾を構えて前に進む。

 

 「お前さんらの矢だからな。返すぞ!!! ぬぅうお・・・!」

 

 大盾よりも小さな盾はその巨大すぎる一撃をそのままそっくり跳ね返してしまい、すでにその威力の代償で退去した松平アーラシュの軍、そして本陣、後軍全てを流星は飲み込み、吹き飛ばし、過ぎ去った後は衝撃波で吹き飛んで伸びているちびノブ、そして、後方にいたことで威力が軽減してどうにか生き残れたちびノブ。それとなぜか大量に散らばっている茶碗や茶器が転がる。

 

 「くっそ・・・シールド保護装甲とか使ってこれか・・・リフレクト・・・いやフェンサーはしばらくは使えないな・・・」

 

 これをはじき返したストーム1の装備、相手の攻撃を跳ね返す盾も二つ用意し、補助装備も用意したがそれらすべてが壊れ、フェンサーのパワードスーツシステムも少しばかり悲鳴を上げている。あのアーラシュの一撃を受け止めたのだから当然ではあるが、予想外の被害と考えてしまう。

 

 「隕石とか、電信柱よりでかい針とかも大丈夫なのによ・・・おーい、マシュちゃんよー。大丈夫かー」

 

 「だ、大丈夫です・・・いつつ。まさかの相手でしたが、どうにかなりましたね」

 

 吹き飛んだ衝撃のせいか少しふらつきながらではあるがマシュも傷一つなくストーム1のほうに歩いて近づき、笑顔で答える。

 

 「マスターももう少しでくるし、治療してもらうか。それと、晩飯のリクエストをすればいい。MVPはマシュちゃんだしよ」

 

 「そうでしょうか? でも、そうですね・・・ありがたくもらいます。グラタンとか、頼んでもいいでしょうか?」

 

 「おー頼め頼め。ここだと川魚、池の魚も狙えそうだし、そういう料理もいいかもな?」

 

 フェンサーからレンジャーにチェンジしてマシュの頭をわしわしと撫でるストーム1。マシュもそれに驚きつつも少しうれしそうに受け入れ、同時に別方面に意識を向けておく

 

 「先輩、大丈夫でしょうか?」




~今川軍・本陣~

よしつね「この大軍が一瞬・・・・ば、幕府再興の夢が・・・・・・申し訳ありませぬ。兄上・・・・」

雪斎「油断、した結果がこれか・・・今回は立ったまま失礼・・・」
(二人とも退去)



~奇襲待機組~
魔人アーチャー「おー・・・リフレクトで敵の銃弾跳ね返して押しつぶす戦法とは言っていたが、これ、予想外すぎない? わしら出番ほぼないんじゃが、じゃが?」

ジャンヌオルタ「アーラシュ・・・えーと・・・たしか弓の名手の中でいの一番に名前が上がるレベルの大英雄・・・確かにこれ一塊りになっていたほうが怖かったわね」
(英霊ピックアップ図鑑(クラーク監修))

藤丸「とりあえず、これがいまこっちに飛んで行ったってことは作戦成功。何か緊急事態の報告もないし・・・・よかった・・・」

アルトリア「姉上にマシュ、ストーム1も無事でよかった・・・・・・・さて、私たちは・・・」

魔人アーチャー「うむ! 切り取り勝手! 勝者の特権じゃな! ほれ、ジャンヌオルタ、火をつけい! わしはこれじゃ!!」
(無数の火縄銃をセット)

ジャンヌオルタ「はぁ・・・どうせなら火牛計が良かったけど・・・いいか」
(無数のたいまつに火をつけていく)

藤丸「えーと、たしかこれ・・・!」
(銅鑼を鳴らす)

ジャーンジャーン! ジャーン、ジャーン!

ちびノブ1「ノブッ!?」

ちびノブ2「ノブブブッ!?」

アルトリア「かかったなアホがっ! というやつですよ! エクスカリバー!! 連発のサービスです!!」
(エクスカリバー乱射)

魔人アーチャー「そおれ! 鉛玉をごちそうじゃ!! 高いんじゃからしっかりと受け取れい!!」
(出せる限りの火縄銃をすべて打ちまくる)

ちびノブ3「ノブァッ!!?」

ジャンヌオルタ「さあ! さっきの爆発? で主も指揮官もいない上に貴方たちはこの無数の軍とまだ戦う!? それとも、降伏、何もせずにおとなしく去るか選びなさい!! あいにくと選択時間は短いわよ!」

ちびノブたち「ノブゥ・・・・・!」
(残ったメンバーたちが頭を下げる)

魔人アーチャー「よし、ではしばらく沙汰を待て・・・といいたいが、そこらへんに落ちている道具やらを集めてもらうぞ。使えるものを集めるのじゃ! 戦の物資を無駄にするでないぞ!」


~ストーム1、マシュたち~

華奈「はぁー・・・・・お疲れ様でした。ストーム。マシュ様。派手に壊れましたねえ。しばらくフェンサーは修理で使えませんね」

ストーム1「いい意味では一撃で残りも全部吹き飛ばしたこと。悪い意味では今後の選択肢がしばらく減ったことか・・・ま、それも問題ないだろ・・・・何か・・・いや、何でもない」

マシュ「お疲れ様です華奈さん! 桜セイバーさんも無事でよかったです! あ、あちらでも奇襲が始まったみたいですね」

桜セイバー「ぁあ・・・・最初はかっこよかったのに・・・かっこよかったのぃい・・・」
(華奈におんぶされている)

華奈「次頑張りましょう。ええ、いいかがり火の置き方です。あれなら数百、千くらいには見えるでしょうね。敗残兵をまとめて、空の陣地でも作って空城の計にでも見せて虚を突こうか。それとも・・・ふぅむ」

ストーム1「ちょっとした行商隊でも作って相手の情報探ったりとか、物資を探すのもいいかもしれねえな。とりあえず合流しつつ、マシュちゃんの治療よろしく」

華奈「了解です。では、マシュ様歩きながら失礼」




信長公の配下ですごい巻き返して出世したなあと思うのは秀吉公以外にも前田利家だと個人的には思っています。「笄斬り」(信長に仕えていた茶坊主を切り捨てた事件。利家の笄をちょろまかしたという説もあるとかなんとか)事件で信長公に激怒されて追い出されて浪人となるもその後手柄を立てて帰参。馬廻り、いわゆる親衛隊の将を務めるのですからすごいです。

今回の作戦は華奈たちで先鋒を刺激→意識を向けさせる→後ろからアルトリア、ジャンヌオルタ、魔人アーチャーと大ぜいを狙える宝具で一気に叩く→挟撃で互いに押しつぶし、軍が崩れるなら英霊だけ狙う、軍で来るならストーム1はリフレクトで相手の遠距離攻撃をすべて利用する。という感じです。

まさかの超ド級の一撃を利用できたので作戦完了しちゃいましたが。

マシュとストーム1は仲はいいと思います。盾サーヴァント同士ですし、ストーム1も気さくですので。

今回ストーム1が使用したのはキャノンショットという大型散弾砲ともいうべき大砲といわゆる反射盾。EDF5からは使いづらいそうですが4、4.1などではクモなどの攻撃をはじき返して相手を倒すという戦法もありました。宝具の威力に今回はしばらく使えないという結果になりましたが。


~サバフェス作品紹介~

『魔獣観察日誌』 ジャンル エッセイ 巻数 8巻 完結

 銀嶺隊を支える魔獣たち。ただ、それ以外にも魔獣の部隊はオークニー領内にもあった。コーウェン将軍がその第二の魔獣部隊の結成にブリーダーと一緒に食事の好みや寝床の用意と四苦八苦。でも、なつくと怖くて強いはずの魔狼や魔猪がかわいく見えてきた?
部隊の子供たちやオークニー内で世話した話、日記をもとにコミカライズ。

お風呂を好んだり、思わぬ高級食材に泡拭いたり、チェスを勝負して魔狼に負けたりと新しい発見と触れあいにいつも新発見。世話する側もたいがい変人ばかりで。ほのぼの動物育成日記。




『ともあれラクを一杯』 ジャンル グルメ  巻数 10巻(別サークルからのもらい物)

 ある国でこじんまりと営まれる酒屋。その店主ケマルはラクが大好きでついついお店のおすすめに良く出したり、サービスしちゃうほど。必然この店に集うお客はラクを楽しみ、だれもが味わうようになる。つらい話も、楽しい話も、悩みも何もかもまずはラクを飲んで語らいましょう。心をほぐすための飲み物に場所、顔なじみであろうがなかろうが話しやすいお客さん。

小さな世界に集まって今日も語ろう。心に水を注ぎこみ、ハリと潤いを補充して明日も頑張ろうと思える評判の小さな居酒屋のとりとめもない話。



『キャプテン今川』 ジャンル スポーツ 巻数 38巻 (別サークルからのもらい物)

 多趣味で甘やかされていた今川 真。親の死によって中学に上がったばかりで親族をたらいまわしにされ続ける日々を過ごし、最終的に幼馴染の徳川のもとに預けられ、何をしていいかわからないために呆然と日々を過ごす。そんなある日それを見かねた親同士の付き合いで仲良くなった北川、親友の朝比奈、大沢に大好きだったサッカーをやろうと持ちかけられる。

 目標は全国規模の大会織田杯! しかも同世代ですでに飛鳥井をはじめとした全国でも有名な選手が10人もそろう黄金時代、最高レベルの大会になるという。目標が見つかり、火が付いたメンバーでサッカー部に入り、目指すは黄金世代との試合、そして勝利! 泥臭く、けど確かな絆と青春を描いた本格的サッカー漫画! おまけコーナーでは作者の落書きやミニ漫画もあるよ。



次回は華奈が少し暴走します。いろんな意味で。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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武田? そんなことより真田だ!

ちびノブ「ノッブ、ノッブ」

ちびノブ「ノブゥウ~♪」
(資材を運んで櫓、逆茂木、柵を作っていく)

アルトリア「はーい、給水所はここでーす。ふぅ・・・さすが谷を基盤に砦を作るのは大変ですが、これなら馬の突撃の勢いをそげるでしょうし地面を柔らかくして水でも流してぬかるんだ場所を作れば歩兵も動けない」

ジャンヌオルタ「わかるけど・・・わかるけど今度は炭焼き職人みたいな・・・・・」
(逆茂木、竹の先端を火であぶってはセットしていく)

魔人アーチャー「ほれほれ、戦は土木工事もできてこそじゃ! そうするほうが固くなって突き刺さりやすくなるからの。しっかし、この何重の空堀に逆茂木、谷を利用した砦。水もアルトリア先輩のおかげで問題ない。ただまあ・・・」
(使用できる資材と拾えた軍需物資、お金もろもろを計算中)

桜セイバー「ぁああ・・・・動けない・・・うごけ・・・けふぅ・・・」

マシュ「まさかここまで病弱とは・・・口まわりを拭くのと、口をすすぐための水を用意しますので」

ロマニ『さすがに英霊なのにこの病弱さはひどいとしか言えないなあ・・・病気で世を去った英霊はたくさんいるけど、ここまで病弱で歴史に名を刻んだ英霊って誰がいたかな?』

魔人アーチャー「人斬りが動けんのがなー・・・わしも楽はしたいが、頭が動かんと周りも率先して動かんというに」

華奈「まあまあ。また戦働きで功を見せればいいのですよ。それまでは休んでもらいましょう」

ストーム1「おいマスター。また敵が来た。それとだが、なんだかなあ・・・多分マスターの顔見知りだ」
(偵察から戻ってきて写真を見せる)

華奈「・・・おお。これはうれしい。少し私は出かけてきます。ストーム、ここの護衛をお願いしますね」
(いくつかの品物をくるんで出ていく)

ジャンヌオルタ「・・・? それにしても・・・空堀に・・・ねえ、アーチャー。少ししたいことがあるのだけど」

藤丸「さっき砦の様子を見てから考えたんだけど・・・」

ダ・ヴィンチちゃん「しかしまあこの地味な茶器が城一つの値段になるのがねえ・・・確かに茶碗のつくりが素晴らしいのはわかるけど・・・?」

ストーム1「あ、たしかそのうちの一つ、九十九髪茄子だったか? それ、時の将軍も愛用したものだし、そりゃあ価値がるんだろうさ」

アルトリア「確か援軍要請の交渉する際に包囲された城を出る際に嫁は置いていくのに茶器を持っていく武将のエピソードもあったような?」


 松平、今川の因子を混ぜ込まれたっぽい英霊とその軍を倒し、生き残ったちびノブらを数百名配下にしたカルデア、魔人アーチャーと桜セイバー。早速土建工事に精を出し、谷を利用した砦、一種の山城に近いものを急ピッチで仕上げていた。

 

 華奈の深山で斜面の周りには空堀を幾重にも張り巡らし、間道は巧妙に隠した後にストーム1の武装を配置。ちびノブたちの背丈に合わせた道の用意と斜面には柵と移動のための階段。逆茂木も多数とそのまま使うだけでも3倍の敵でも真正面から受け止めて対処もできるであろう。

 

 「ノブー!」

 

 その拠点防衛陣地の構築とは別で用意していたもう一つの手段。戦が長期になればどこからともなく現れる行商人たち。兵糧では賄いきれない空腹のための食料。娯楽の酒やたばこなどなどを兵士に売りに来るのだが、そのための部隊を作って各地にばらまく。

 

 同時に今動いている軍の動きを理解し、その利益などを雇用したちびノブたちの給金に充てる。見込みがあれば募兵も行う。早速そのうちの一隊が返ってきたようで、即席で作った薬や食料、なぜかゲットできた茶器。武具の入った荷車は荷物がなく、代わりにチャリチャリと銭の音がする瓶を載せて戻ってきた。どうやら無事に二つの目的を果たせたようだ。

 

 売り上げの偽造がないかの書類と同時に軍勢の情報を収集。魔人アーチャーが書類に目を通していく。

 

 「茶器好きはどこにもいるもんじゃのう。あっという間に城一つ二つは買える銭が手に入ったわい。それと・・・武田に上杉がきな臭い。か・・・かぁ~・・・いやじゃなあ・・・武田には親子二代そろって面倒じゃったし・・・ま、ともあれ大儀じゃった。さっきカルデアから食事が届いたからそれで力を蓄えて少し休め」

 

 「ノブノブー!!」

 

 がしがしと頭をかいて渋い表情を浮かべた後に報告に来たちびノブをねぎらい、どうしたものかと頭をひねる魔人アーチャー。自分の宝具なら相性もあって武田はこの場所を使えば打ちのめせる。が、その出力が今はない。連発ができても4,5回は宝具を撃たないと正直針の一刺しになるかも怪しいレベルで。

 

 それに加えてほかの英霊にその因子が混じるというのが大変すぎる。この砦がどれほど使えるのか。思索を巡らして可能性を模索する。

 

 「アーチャーさん、その情報だとあまりいい情報ではないようですが、どうかなさいましたか?」

 

 「んぉ? マシュマロ・・・じゃなくてマシュか。いやあ、華奈先輩が出かけたじゃろ? どうにも武田と名乗る軍団がこっちに来ているみたいなんじゃよ。多分それを見に行ったんじゃろうなあ」

 

 『武田・・・英霊になるほどのものとなると確か武田信玄とかだっけ?』

 

 日本の戦国時代、多くの英傑がいる時代の中でも最強レベルと言われるほどの武将、武田信玄。後の徳川幕府を作る徳川家康、戦国の風雲児織田信長も恐れ、上杉、今川、北条とも引けを取らない勢力を作った名将。それの因子を含んだ英霊がこちらを感知したのか移動を開始していると書類に記されているのを見せ、渋面を見せる魔人アーチャー。

 

 「そ、長篠の戦で信玄のせがれが負けるまでほとんどの戦に勝ちまくったやつじゃよ。条約をよく破る奴としても有名じゃったなあー・・・騎馬で来るかは知らんが、速度も相当じゃろう。ここの拠点もまだ完成にはもう一押し欲しいが・・・どうしたものか・・・?」

 

 この拠点を完成させればそれなりの防衛手段になるし、なによりもこの陣営はアーチャーのクラスの英霊に負けない、やもすればそれ以上の調査範囲が可能なカルデアのバックアップ。前線で戦える武将、遠距離での攻撃も可能な英霊がいる上にその数も多い。

 

 小隊を作り連動した動きをすることで速度と連携を強めようかとも考えていたが、ほかの行商隊を任せていたちびノブが狼に乗って戻ってきた。先ほど移動した華奈の用意だろうか。手紙もしっかり用意しており、目の前に降りると手紙を渡してすぐさまどこかにまた狼に乗って去っていく。

 

 「ふぅむ・・・ほほう!」

 

 「お? いい知らせか? 魔人アーチャーさんよ」

 

 「うむ! どうやら華奈の指示らしくてな。酒や娯楽の小規模な市を開いて武田の軍勢を小休止させたようで、しかも温泉の近くで行うことで湯治もさせたりで時間を稼ぐことに成功したみたいじゃ。これでもう少しここの防備を固めることができる。募兵でも少なくとも数十人は集まるみたいじゃ、急ぐぞ! 華奈先輩の動きはわからんが、わしらはわしらの仕事をこなすまでじゃ!」

 

 『うん、華奈は大丈夫だろう。良馬が観測してくれているけど、基本何らかの目的や勝機がない限り動かないしね。何かの下準備か調査だろうし、今は戻ってくるこの場所の防衛を堅牢にすることが一番だ。ところでなんだけど、ジャンヌオルタと藤丸君の作戦って何だい? 今のうちに話しておいたほうがいいよ。砦のつくりにかかわるのものならなおさら』

 

 「私の勘も問題ないと感じますし、いいんじゃないでしょうか? むしろ下手な助け舟がいけない気がしますし」

 

 魔人アーチャーの激を受けることで一層気を引き締める現場作業員たち。同時にロマニの言葉でつい先ほど話途中だったジャンヌオルタとの会話を思い出してまた話を切り出す。

 

 「時間があるのならなおさら試したいのでちょうどいいです。少し風向きとここの地形を利用してやってみたい作戦が。そうですね・・・斜面ではなく、平地の空堀や地面を少し使った作戦ですが・・・」

 

 「日本の戦記と、ほかの本を読んで考えたみたいです」

 

 「ええ、武田とかならこれは知らないだろうしみんなぶっ殺せるんじゃないかしら? ストーム1の力も借りるけど」

 

 持ってきたメモ帳を広げ、おおざっぱな作戦を話していくジャンヌオルタ。藤丸。魔人アーチャーでしばしの間話、その後は軽量装備を付けたストーム1が新しい陣形の準備に陣内中を走り回る羽目になったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「■■■■■■・・・・・・■■■!!」

 

 「えー・・・この連戦に次ぐ連戦。よく戦ってくれた。皆の休養を一度取り、英気を養って尾張のうつけを確実に倒す! とお館様は申しております・・・」

 

 黒い肌にいくつもの模様を走らせる三メートルはあろう大巨漢。その男の聞き取れない、叫びと言ってもよい言葉を棒読みで心底面倒くさそうに通訳する紫髪の美女・・・冬木で華奈が戦ったライダー、メドゥーサ。武田と名乗るその巨漢の周りを固める無数の近衛軍団は疲れの色こそないが、仕えているちびノブたちは別。

 

 疲れもするし、娯楽も欲しい。ここしばらく小規模勢力とはいえ連戦、しかも上杉などの油断できない勢力もまだあると来た。相手が今川を倒した場所にこもるというのなら、それを打ち砕くほどの士気をもって完全に打ち砕く。その間の警戒は疲れのない不死の軍団で守り切ればいい。

 

 「「ノッブゥ!!? ノブノブ~!」」

 

 その言葉に配下のちびノブたちは沸き立ち、貸し切りにした行商隊の市で酒や甘味に楽しみ始め、高官クラスは湯治も堪能する。

 

 「■■■・・・・・・■■■■、■■」

 

 「はぁ・・・私にも休暇ですか・・・では、せめて円陣を作ってしっかりと警戒をするように。ここは平地ですが、やはり何があるかわかりませんので」

 

 真田メドゥーサの言葉に従い、早速自身の近衛不死隊を振り分けていく漆黒の巨人。それを見届けてから真田メドゥーサも酒を一つ市で購入して人の外に出ていく。

 

 

 

 

 

 「・・・ふぅ・・・」

 

 今、心底疲れた様子で陣営を抜け出てさまようOLのような私はごく普通の戦国武将・・・の因子をあてはめられた英霊。真田メドゥーサ。

 

 強いて違うところを上げるとするのなら、真田という日本有数の知名度を誇る武将の因子をもらい、それを心底面倒くさいと思うことでしょうか。

 

 ほかの方々と違い軍を率いるなんて面倒ですし、バーサーカーの主人に怪物とナマモノの部隊。この中で休憩しても安らぐ気がしない。というわけでこっそり目星をつけていた場所に行けばちょうど足湯によさそうな温泉が。

 

 ふと見ると、その足湯には本の山と酒瓶をケースに入れた銀髪の美女がいたのです。ウホッ! いい女・・・そういえばこの方は別の町で聖杯戦争で戦った相手。敵でなければぜひともお近づきになりたいと思った女。

 

 彼女は鎧を脱ぎ捨て、湯に沈めていた酒を徳利に注いでこう言った。

 

 「やらないですか?」

 

 香る酒の香りに面白そうな本の数々、そして酌をしてくれる女性。私はホイホイ誘われるままに湯に足を浸し、酒を傾け本を読む。

 

 「はぁ・・・おいしい・・・本は・・・短編集ですか。ふむ・・・奇抜ですが納得もできる。あ、これはどうも」

 

 「いえいえ、ぜひとも癒されてくださいませ。酒もこの通り。これからもまた行軍なのでしょう? 英気を養ってくださいませ」

 

 酒の鼻を抜けるような鋭い香りに下に残る澄んだ味わい、飲み込んだ後の口に残る酒気。それも悪いものではなくいい酒だとわかる。本も短い内容ゆえにちょっと覚えるだけで後の展開も楽しめるといいチョイスだ。

 

 武将の因子も感じないし、町娘、何らかの役割でここに呼ばれたか。敵意も感じないので柔らかな笑みを浮かべる華奈の酌を受け取り、一緒に杯を煽る。

 

 「ええ、尾張のうつけだとかを倒すと意気込んでいまして。ここの休憩地がなければおそらくは休憩なしでの行軍でしたよ。いくら武将と言えどもさすがに面倒ですので」

 

 「さようですか。その面倒ごとが早く終わればよいのですが。ああ、そうです。私、少しほしいものがあるのですが、よろしいでしょうか? その代金として、こちらの本をすべて差し上げます」

 

 少しばかり距離をつめ、笑みが深くなる華奈にゾクリとする真田メドゥーサ。興味のある女性の頼みに酒と本の報酬。酔いも入ったのか、この面倒な召喚に来た癒しに誘われたか頼みの内容を聞かないままに

 

 「ええ、さすがにお礼もしないのはどうかと思いますし、酌と酒のお礼も含めて・・・」

 

 華奈の要求を受け入れる。

 

 「では、これを見てください。これをどう思いますか?」

 

 「すごく・・・きれいです」

 

 「お気に召したようで何より。早速・・・」

 

 その後、小さな声が湯気の中に消え、しばしの間をおいてまた和やかな会話が続いたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「来たのお・・・いやあれ、でかすぎじゃろ。利家が子供に見えるサイズじゃぞ」

 

 無事に陣営を完成させ、もはや一種の山城に近い状態にできたカルデア一行。なにやら肌がつやつや、ホクホク顔の華奈も戻ってからストーム1とアルトリアと一緒に走り回って最終チェック。そしてジャンヌオルタの作戦の下準備をして募兵に来た兵士、もといちびノブたちも配置につけて備えることしばらく。

 

 先頭に立つ何やら象に跨って大人一人分は優に超えそうな巨大な斧二つを手にする金色の装飾を纏う巨漢、おそらくは武田の因子を組み込まれたであろう英霊だろうが、その巨躯と雰囲気に思わず一同驚き、同時に引き連れる軍勢に目を引かれる。いくつもの異形の軍勢。そのまとう空気に名を馳せた軍団。そして、ぱっと見でも万は届くであろう数。それに続く形のちびノブ。

 

 「いやはや、壮観ですね。そしてこれだけの騎兵隊を維持できる、持てる軍勢・・・多分生前かなりの大軍団・・・軍費を賄えたからこその宝具・・・羨ましい・・・私のブリテンでもせいぜいが全部かき集めて1万・・・姉上の部隊もせいぜいが1500騎でしたし・・・」

 

 「奇妙な部隊・・・ふん、竜の魔女やったことあるけど、これは地獄の軍勢というほうが似合うでしょうね。でも、数はあるけど質はどうかしら?」

 

 「■■■■■■■――――!!!! ■■■■■!!」

 

 おいおいの感想を述べる中、乗っている象を一歩前に歩かせて武田信玄であろう英霊が地面を震わせるような声を張り上げて何かを叫ぶ。

 

 「あー・・・今川を倒したくらいで調子に乗っている尾張のうつけ。こんな砦にいようが私の騎馬隊、精鋭で瞬く間に蹂躙してやろう! と・・・お館様は言っています・・・あ、先ほどはどうも~華奈さん」

 

 「はーい。楽しい時間をありがとうございました。最後は酒が弱いのでお付き合いできずに申し訳ありませんでした」

 

 その叫びを翻訳する真田メドゥーサ。と華奈を見つけ、華奈も同様に見つけて互いに手を振り、先ほどの話に少しだけほほえましい空気が流れる戦場。

 

 『ちょっ! 華奈!? 貴女何していたのよ。敵を討ち取るチャンスだったみたいなのに何していたの!!?』

 

 『酒酌み交わして読書会していました・・・互いに軍のことは一切話していないのでああも和やかなのかもです』

 

 「敵であっても気持ちの良い奴というのはいるもんじゃからな。しかし、あの女どこかで見たような・・・?」

 

 「私も言われてみれば・・・? まあ、今は倒す相手ですけど、といいますか騎馬どころか大将が象に乗っているのですけど・・・まあ、あれを乗せられる馬なんてそういないでしょうけど」

 

 そのまさか過ぎる華奈の行動に驚き思わず声を荒げるオルガマリー、少しフォローしつつもその行動に呆れ気味な良馬。そしてなにやら真田メドゥーサに見覚えがあるのか頭をひねる魔人アーチャーと桜セイバー。

 

 「■■■■■■■!!!」

 

 ドタバタしているカルデア側には関係ないと巨漢の声で軍が動き始め、2万ほどの軍が一斉に砦めがけて殺到してく。

 

 「ふ・・・攻城兵器、対策もなしにこの場所を取れると思うでないぞ! 鉄砲隊、はなてえーい!!」

 

 魔人アーチャーの号令で彼女の無数の火縄銃が火を放ち、自身も火縄銃を撃っては持ち替えることを繰り返して鉛玉を放ち、更にはちびノブらも火縄銃、弓を雨あられとうちはなつ。

 

 「■! ■■■■!!」

 

 「ノブァッ!!?」

 

 「ノブゥゥウブブブ・・・・・! ブァッ!?」

 

 竹束、木の板をもって銃弾を凌ぐちびノブ、異形の軍勢だが木の板を持つ兵士は銃弾に打ち砕かれて自身もはじけ飛び、竹束は銃弾を凌ぐも銃弾が横に逸れて近くの友軍にあたり、矢は隙間を押しとおって竹束の後ろの兵士を射抜く。

 

 さらには華奈の用意した空堀、アルトリアの魔力放出と水を湧き出せる専用の礼装で即席の沼地、湿地帯のような場所を用意したことで駆け上り、泥に足を取られ動きが鈍るところを狙われる。先鋒の動きが遅いことで軍の動きは停滞し、それでも動かそうものなら最初に攻め入った兵は押しつぶされ、踏み殺され、あるいは自分の意志とは別に前線に押し出されて矢玉を味わう。

 

 敵も空堀や湿地に関して想定自体はしていたようだが、それでも多少の混乱は起こっているようであちこちで突出した部隊を集中的に叩き潰して勢いをそぐ。

 

 「■■■■■!!! ■■、■■■!!!」

 

 「前線の被害はその実少数。数で圧倒し、手を回らせることをさせずに火のごとく侵略してしまえ。とのことです。はぁ・・・私も行きましょうか」

 

 これに対して指示を飛ばして軍に檄を飛ばし、軍団全体を動かしていく巨漢の英霊に前線に穴を開けに行こうと駆ける真田メドゥーサ。その判断は正しく実際には前線を押しているが、高所の利、動きの鈍った部隊を優先的に刈り取っているだけでカルデアの軍全体の数は数百で相手は数万。被害は微々たるもので今の手数もいずれこの軍が動けば対処が追い付かなくなるのは目に見える。

 

 大軍に兵法なしとはよく言ったもの。数の差で相手を圧迫し、いくら刈り取ろうとも減らないの差を見せつけて士気を下げ、ただその力を平押しするだけで相手は力尽き、戦力の空いた穴に兵を投入すればそれで決するだろう。

 

 「もう少し・・・もう少し・・・!」

 

 ただし、その数の差を、装備の差を、足りないものも補い、弱者が勝者に勝つためにあるのが兵法であり、奇策、戦術である。そしてそれは相手を深くはめることで効果は増し、時にはあり得ない数の差もひっくり返し切るケースがいくつもある。

 

 ある時は退路を断って死地を用意して部隊を決死隊に変え、ある時は少数で夜襲を行い敵の混乱を誘発して敵の士気をくじき、ある時は敵の本陣を強襲して敵軍自体を麻痺させて潰走させる。そして、それ以外で持ち得る手段は、相手を死地に誘うことだろう。

 

 「ストーム。もっと派手に煙幕巻きましょうか。あれください。あの面白アイテム」

 

 「いいねえ。じゃ、賑やかしに一つ行くか!」

 

 徐々に砦の第一の防衛柵に近づいてきた武田軍に対して相手から見えづらい場所から隠れていた華奈、ストーム1の二人が左右から空堀あたりめがけて投げた黄色の煙を放ちながら転がる無数の粒。地面を跳ねまわり、転がり、武田軍に向かっていること以外は全く不規則極まる何かをいくつも放つ華奈、ストーム1。

 

 しばしの時間をおいてその粒、拡散型グレネードランチャー、スプラッシュグレネードは爆発を起こして土、泥を巻き上げて視界をふさぎ、更には止むことのない火縄銃の煙が武田軍に向かって流れる風に乗せられてともに視界を塞ぐ。

 

 敵の砦のちょっとした山まであと一息、数の差も圧倒的、そしてこの何重にも張り巡らされた空堀や湿地のせいで動きがままならない。

 

 「風林火山? でしたか? 大層な旗で・・・これも山のように動じず、風で流せるのかしらね!」

 

 すべてが整った状態を見てジャンヌオルタは思い切り旗の石突を足のそばの地面に突き刺して炎を流し込む。そこから炎が地面をはう蛇のように駆け巡っていくのとほぼ同時に地面が揺れるほどの大爆発が空堀、湿地から発生。武田軍の前軍、真田メドゥーサ、地面丸ごと吹き飛ばす。

 

 「これで終わると思わないことね! 最後の一匹まで焼き尽くす! 炎の波に呑まれて死に絶えろ!!」

 

 ストーム1が用意してありったけ皆で埋めて回ったC70爆弾の一斉起爆。これだけでジャンヌオルタの攻撃は終わらず、旗を起点に走らせた炎はもう一つ仕込んでいた油、火薬の満載した壺をいくつも爆破。先ほどの二度の爆発で水分ごと吹き飛ばし、爆風渦巻く戦場に新たな火種を投下。

 

 その莫大ともいえる炎にジャンヌオルタは自身の操る炎で後押し、指向性を与えて疑似的に操り武田軍全てにめがけて烈火の津波をお見舞いする。逃げようにも爆風に身体は自由が利かず、空堀にいたことで難を逃れてもそこには炎がまるで鉄砲水のように押し寄せて焼き尽くしに来る。

 

 「げほっ・・・・ッ! ぅぁ・・・!」

 

 「先輩! 私の後ろに・・・すごい熱です・・・!」

 

 後方にいたはずの藤丸でも息苦しさにせき込み、息をすればその熱気に水分が飛ばされそうなほどの大火炎はひとしきり武田軍全てを飲み込んで蹂躙し、視界全てを黒く染めるほどの黒煙を吐いて鎮火。地面へと帰っていく。

 

 その後には何もかもが真っ黒に焦げ付き、泥の地面はひび割れてその黒さはまるで墨をこぼしたよう。その場所には無数の茶器と異形の軍団だったものがいくつも存在する。そして倒れ伏して主より先に眠りについた象、あの炎に呑まれてなお立ち続けた巨漢の英霊、なぜか気が楽になったという表情で何かを抱えている真田メドゥーサの退去を見届けることでこの戦は勝利で終わったことを確信。

 

 「ハッ・・・武田も私・・・私たちには届かないということです」

 

 ジャンヌオルタの声を皮切りに一同が鬨の声をあげて勝利を祝い、その後は後方に隠しているであろう武田の兵糧庫を探すことになったそうな。 

 

 「ノブッ・・・ノブッ・・・ケブホッ」

 

 ちなみに、最前線で銃を構えていたちびノブらは爆風と熱のせいでアフロヘア―になった状態で煙が晴れて目の前に現れたせいで皆の腹筋を奇襲。爆音、鬨の声と続いて笑い声が響いた。




武田信玄。戦国時代で見てもかなりえげつない外交しますし、条約も破る印象が個人的に強いです。特に今川義元が倒れて以降の動きは特に。婚姻での同盟を結んだ相手でも必要なら即同盟破棄して襲い掛かりに行ったり、とても戦国武将らしい方でもあったと思います。実は信長も同盟の時に長男信忠と武田信玄の六女松姫の婚姻もしていたとか。二人は文通で愛をはぐくんだとかなんとか。ほほえましいです。

ジャンヌオルタが使用した作戦は島津と大友の戦の際に島津が駄原城を攻めた時に大友の武将、志賀親次の家臣、朝倉一玄が「留守の火縄」なるすごい兵器を使用して場内になだれ込んだ島津兵を城ごと爆発炎上させたという嘘か本当かわかりませんがもう面白いエピソードがあったので近いものにしていくらか派手にして採用。敵を地雷原に誘い込んで煙幕で視界を遮った後に爆破。

今なお「留守の火縄」の構造は謎だとか。九州は島津と戦う勢力の武将もとんでもない怪物レベルの人が多すぎるので面白いです。

華奈、ストーム1が使用した二つの兵器。一つはバウンドするグレネード弾をいくつも放って一定時間後に爆発するスプラッシュグレネード。いろいろネタ兵器ですが対空兵器に使う方もいる珍兵器。威力も数もそれなりなのでなかなか有効な模様。

もう一つの爆弾、C70爆弾。EDFシリーズでの出オチに引きうち? のお供。威力と一度に使える数が良いので洞窟にも使える便利爆弾。NPCや乗り物につけて動く爆弾にしたり自由な使い方が魅力。爆破範囲と威力も魅力。

真田メドゥーサが抱えていたのは華奈からもらった本とお酒。帰ってから早速楽しんでいるかと思います。


~サバフェス作品紹介~

『美味しいものなら湧いて頂戴!?』 ジャンル 青春学園コメディ グルメ 巻数 14巻(未発表2巻)

大企業の令嬢にて料理大好きな女子高生スミレ。食材の勉強にと農業高校に進学すればそこはド級のスパルタ高校であった!! 食堂の食材を集める実習に林業でヒルに襲われたり、イノシシに熊の影におびえたり家畜の出産の手伝いに解体まですぐさま実習させられる始末。

害虫、害獣に悲鳴を上げ、牛の尻尾で体をぶったたかれ、雑草取りに汗を流して腰を痛めて疲れ切った体で食べる料理に涙を流しつつも思わず叫ぶ『おいしいものならその場に湧いて頂戴!』今まで扱った食品のことを常に体当たりで学びながらよりおいしい料理を目指すスミレの奮闘学園コメディ。


『銀嶺暮らし』 ジャンル シミュレーションRPG

きみはブリテンに住む一人の住民。ある時に銀嶺隊のスカウトに誘われて銀嶺隊に入隊。円卓きっての変わり種部隊に所属して実力を磨きつつ君の特技、したいことを活かして銀嶺隊、オークニー、ブリテンを盛り上げていこう! 所属する部隊で成長ボーナスが付き、スキル成長にも特徴が。

IFの未来ルートを複数用意。NPCとの恋愛も可能。MODで難易度の変化にキャラクターの外見の変化も可能。クリア後に銀嶺隊以外での部隊、ブリテン、オークニーの軍からのスタートルートも実装。


『激闘歌劇団旅行つれづれ』 ジャンル 音楽コメディ 巻数 8巻 (別サークルからのもらい物)

世界に名をとどろかす有名な音楽団。それに若くして入ることのできたミューラと清輝。入った後に二人はそのたぐいまれな演奏技術を活かす・・・訳はなく? タイプライターの打ち方を覚え、金床の使い方、大砲を扱うための申請に火薬の免許を勉強し、これらを移動させるための重機の免許まで取らないといけないことになる。

「俺たち、何をしているんだっけ?」「音楽の勉強?」絶対違うといいたいような楽器に使う道具の扱いのために今日も今日とて自分の愛用の楽器よりも深く理解する羽目になり、作れたり修理できるようになる二人はちゃんと思い描いた演奏者としての人生を歩めるのだろうか? 今日も音楽団は演奏を求めて演奏以外の技術に手を伸ばす。


PC直ってからすぐさまもう一度確認したいので預けてほしいともう一度修理してもらったところに預けることになったうえに仕事も始まったので今回は短い、少し荒い内容になったと思います。申し訳ありません。

次回もまた見てくだされば幸いです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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愛と勇気と誠ちゃん

上杉アルトリア「山火事ですかこれ!? あの大爆発はいったい・・・!」

~華奈たち~

華奈「今回の勲功一番はジャンヌオルタ様、二番に藤丸様とストーム様ですね。何か欲しいものはありますか? あ、さすが武田。金が多いですね」
(ハチたちを砦の監視に残してみんなで武田の物資漁り)

アルトリア「今回は私の出番もなかったですね。おお、酒もちらほら、行商隊で買ったものですか。いい香り」

魔人アーチャー「これなら残りの奴らにもいろいろ褒美の色を付けられるのお。うっはっは! やはり勝利後のお宝漁りはたまらん!」

ジャンヌオルタ「あれだけ用意されては応えないとさすがにバカでしょう? ですがまあ・・・そうですね。今はおいしい食事でも。甘いものでもできませんか?」

藤丸「あ、賛成・・・ついでにお茶も」

ストーム1「お、ほれこれなめな。飴ちゃん。それと水な。マシュちゃんも飲んでおくといい、英霊の力があるとはいえ熱かったろ?」

マシュ「あ、ありがとうございます。あの大爆発にさすがに汗をかいてしまいました」

ロマニ『そりゃあ、ともに高火力の宝具を組み合わせた一種の対軍宝だもの。相性も良かったみたいだし熱波だけでも危険なのは納得だ。バイタルは正常だけどあの組み合わせはマスターの備えができてからだね』

華奈「おかげであの数を一網打尽、おかげでまた食料に銭がたくさんですよ。ふむ・・・小豆に米・・・もち米もありますし、ちょうどいいです。汁粉でも作りましょう。しぶーいお茶でもつけて」

アルトリア「汁粉ですか! 大きなおもちも是非!」

ロマニ『また僕たちの分も頂戴。話を聞いていたら小腹がすいてきちゃった』

ストーム1「この数ならカルデアの銀嶺や英霊に配ってもおつりが来そうだなあ。しばらく小豆フェアでも開けそうだ」

ジャンヌオルタ「確か日本の甘味でしたか? 私の口に合えばいいけど」

桜セイバー「はぁ・・・今回も活躍なし、私いい所見せられてないですよ」

上杉アルトリア「私のライバル武田はあなた方が倒したのですか・・・その兵糧は私が狙っていたもの! 寄越しなさい!」

オルガマリー『アルトリアが二人!? っていうかまたアーサー王が!!』

アルトリア「なあに私の顔で山賊まがいのこと言ってんですか恥晒しいぃいぃいいっ!!?」

藤丸「自分との対決?」

華奈「いえ、別人でいいのでは? アルトリア様本人と後世の作品のアルトリア様ですし、そっくりな別人で。あ、始まった」



 「私が食べるはずだった食料を渡しなさい!」

 

 「誰が渡すものですか誰が! いきなり出てきて食料奪おうとする奴、そして私たちの甘いおやつを寄越すものですか!!」

 

 いきなり始まる同じ聖剣使い同士、同じ顔が違う衣装に身を包んで戦っている異色すぎる対決。ヒロインXことアルトリア・ペンドラゴンご本人と上杉アルトリアことアルトリア・ペンドラゴン。互いに食料を狙い、ヒロインXのセイバー、しいて言えば自分と同じ、そっくりな顔の相手をぶっ殺そうとする殺意の入り混じった戦い。

 

 レベルの高いシュールでカオスな戦いは黄金の光と爆風で巻き上がる砂塵に覆われて大変激しいものとなり、ちびノブたちも巻き込まれないように距離を取って一騎打ちを見守る形となる。

 

「やれやれ・・・確かに食糧、資金難は織田家以外ではよく聞きますけども・・・奴隷売買とかも基本やっていた地域も多いらしいですしね・・・あ、少し甘味がないですね」

 

 「ぶっちゃけ、織田の立ち回りと経済政策の当たり具合、規模がすさまじすぎるんじゃないか? よし、いいもち米だ。正月に使いたいくらいだなあ」

 

 『こっちはなんだか正月みたいな空気と様子だけどさあ、いいの!? アルトリアさんだけに戦闘任せきっちゃって! あのアーサー王だよ!? しかも名将の上杉謙信まで入っているらしいじゃないか』

 

 一方でこちらは岩を切り崩してかまどにしてから寸胴鍋で汁粉を用意する華奈にもち米と臼をつかって餅つきを開始しているストーム1。となりの戦場からごみが飛んでこないように紫式部とメディアの防壁を用意して完全に打ち上げムード状態。

 

 さすがにロマニもツッコミを入れ、マシュたちもいつでも入れるようにしてはいるものの、ここで一番戦闘経験が豊富であろう二人の空気と様子にどうしたらいいものかと戦場と華奈たちを交互に見ておろおろしている始末。

 

 「ロマニさんもお気になさらず! このセイバーキラーの私にかかればこの私程度など瞬殺! 何使おうが無駄無駄無駄無駄!」

 

 「というわけですし、まあ気楽にしましょう。さてと・・・はーい、二列に並んでくださーい。飲み物は藤丸様のところから取ること。喧嘩したら餅抜きにしますからね」

 

 「甘い香り・・・いいじゃない。お箸も練習したし、ゆっくり食べてこの勝負を眺めましょう」

 

 完全に何かのイベント同然、むしろこのアルトリア同士の一騎打ちをイベント扱いしている節すらあるカルデア陣営。ちびノブたちもしっかりと並んで汁粉と飲み物をもらい、近くの地面にむしろ、ゴザを敷いて見学する。ジャンヌオルタは箸を少し自慢げに使い、香りと味を堪能。

 

 「くっ・・・! この甘い匂いでお腹が・・・おのれ空腹を誘って力を抜けさせるとは何たる作戦!」

 

 「それでつられる作品の私・・・ええい! ささっと倒してこの気持ちをお餅と一緒に飲み込んで切り替えましょう」

 

 その香りにつられる二人のアルトリアの叫びと止まない剣戟を響かせながら青空の下に炊煙と粉塵が巻き上がっていく。

 

 「・・・平和ですねえ・・・お、お餅おいしい。いい出来です」

 

 「ぁあ・・・この甘さがいい・・・染みるなあ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・所詮作品の世界で終わった私と、妖精郷と宇宙で鍛えていた私では経験も違うのですよ!」

 

 「うふふ。お疲れ様でしたアルトリア様。今回はアルトリア様が勲功一番。さて・・・何を用意しましょうか?」

 

 結局、一騎打ちは妖精郷と宇宙をまたにかける生活を1500年近く農業しつつ激闘、修練を繰り広げたアルトリア本人に軍配が上がり、見事なまでの圧勝劇で勝利。お汁粉の鍋を心底羨ましそうな目で見ながら退去していった上杉アルトリアに容赦なくエクスカリバーをぶっ放してすがすがしい笑顔のアルトリアの頭を撫でながら手にした物資とアルトリアの笑顔を優しい笑顔で眺める華奈。

 

 「うぅう・・・本当に、本当に活躍の場がない。アーチャーのほうはしっかり活躍しているのに・・・いくら何でも最強の私がこうなんて変ですよー!」

 

 「うっははは! まあ、わし普通に大将としての経験も多いからネ! 人斬りサークルの行ってきた作戦とは規模の違う作戦から小規模作戦もやった経験が違うんじゃよ!」

 

 これとは対照的にこれまで大きな功績がなく、むしろ吐血やらで倒れて看病される記憶しかなく落ち込んでいる桜セイバーに魔人アーチャーは容赦なく煽ってくる。自身は作戦立案に砦建設の指示を出したりと功績や結果を出しているゆえに桜セイバーも殴り返しはするものの表情は晴れず、落ち込んだまま。

 

 「むぅう・・・覚えていなさいよアーチャー・・・」

 

 『まあまあ、焦ったって敵は出ないわよ・・・で、華奈。移動するのはいいけど、どうするの?』

 

 「町に行って情報を集めようかと。あの砦に籠るのもいいですが、聖杯がどこかに固定されている可能性も捨てきれないので」

 

 一行は砦を抜けて一路街を目指して移動中。新たに仲間になったちびノブたちと今川戦以降仲間になったちびノブを残して聖杯の探索に移動。一時拠点は出来ているし、情報収集のための行商隊はいるのでこちらからも移動してこのいろいろとなじみ始めているが、ちょっとした特異点。聖杯や何らかのリソースでできている場所なら、人、何らかの情報や特徴のある場所を探すのが手の一つだ。

 

 「さすがにここで商人になっても聖杯を見つけられるかはわかりませんしね。・・・・・ん?」

 

 ずっとここで籠って相手を待つよりも情報収集をしたいと思っていた藤丸も賛成し、一部を除いて意気揚々と出発しようと思っていた矢先に何か音を聞き取る藤丸。

 

 「・・・足音・・・軽装ですね。鎧の音がしません」

 

 「・・・・・えー・・・クー・フーリンが走ってきているぞ。おーい、双子っていたっけ? クー・フーリン」

 

 『いや、いねえいねえ。多分ここの聖杯に召喚された俺だろ。気にせずぶっ飛ばしとけ』

 

 その音から相手の武装度合いを感じ取る華奈。ハーキュリーのスコープでストーム1が音の方向を見てみれば朱槍を構えてちびノブと一緒に走ってくるクー・フーリン。カルデアのほうにいるクー・フーリンに連絡を取ればジャージ姿で鍬をもって応え、カルデアのクー・フーリンの暴走ではないことと、吹っ飛ばしてよしのお墨付きをもらい戦闘態勢を整えていく一行。

 

 「はっ! 最近ここらで暴れているのはお前らか! 俺らも少しここらを手にしようとしてから邪魔なんだよ! ってことで心臓置いてけやあぁあああっ!!?」

 

 「むん」

 

 「っしょ」

 

 ぎらついた瞳とそれ以上に赤く燃え上がっていそうな闘志を見せつけて駆けてくる青の槍兵の部隊。前もって察知できていたので特に気にすることもなく華奈は桜花を抜いて斬撃を二つ飛ばしてクー・フーリンの両腕を狙うかのように飛ばし、ストーム1は逆にクー・フーリンの心臓めがけてハーキュリーをぶっ放す。

 

「っとと! いきなりかよ!!?」

 

 「いきなりわしらの心臓狙うような奴には容赦はせん! ちびノブらはわしが受け持つ! 華奈先輩、サポート頼む!」

 

 「了解です。この数なら対処もたやすい。マシュ様、いつもトレーニングしている相手です。落ち着けば大丈夫です。藤丸様、ストームの近くに。桜セイバー様とジャンヌオルタ様はマシュ様と一緒にぶつかってくださいませ。ストーム。藤丸様を護衛しつつ私とマシュ様を気まぐれサポート。アルトリア様はストームと一緒に動いてください。良馬様」

 

 『今のところ後続の部隊の気配なし。そのままぶつかって問題ないです』

 

 いきなりの攻撃にたじろぐクー・フーリンをしり目にそのすきを利用してマシュ、ジャンヌオルタ桜セイバーが前衛に立ち、ストーム1、アルトリア、藤丸は後で銃を構えてバックアップ。その左右を魔人アーチャーと華奈が左右を固めつつ銃と刀で固める。

 

 「心臓をもらうのはそちらだけではないですよ! あなたの首で私も勲功一番、アーチャーたちに負けるのは嫌ですから!」

 

 「ふん、数もせいぜいが3000程度。一気に叩き潰してあげるわ」

 

 「そう簡単に行くと思うなよ。行くぜ野郎ども!」

 

 しかしクー・フーリンもすぐさま部隊の突撃態勢を整え、再度攻撃を再開。平地での戦端が開かれた。

 

 

 

 

 「ちっ・・・英霊の数も少しばかり報告よりも多いが、連携もできていやがる・・・おい、撤退だ! これ以上は無駄死に。さっさと逃げるぞ!」

 

 戦いが始まってしばらく。数の有利を活かして包囲を行おうとしたクー・フーリンの部隊と、前線と後衛を分けつつどちらもサポートする組み合わせがうまく機能してくれたおかげで数の不利を質で補い戦えていたカルデア側。

 

 しかし、数がじりじりと減らされることでこれを長く続けては不利と判断したかクー・フーリンが撤退の合図を出し、クー・フーリン軍は一同撤退。

 

 「おや・・・?」

 

 「撤退・・・ですか」

 

 「あ、待ちなさい! 戦いを挑んでおいて逃げるなんて、首置いていきなさい!」

 

 撤退していく部隊にいの一番に追撃を仕掛けていく桜セイバーにジャンヌオルタ。

 

 「あ、ちょっ! マシュ、一応は追いかけよう」

 

 「はい。華奈さん。大丈夫ですか?」

 

 「敵の後続が来たらすぐに撤退を。それと、カルデアからの英霊を呼び出すことも視野に入れてください。・・・・・きな臭い」

 

 マシュと藤丸も先行した二人の後を追いかけることになり、華奈もゴーサインを出したことで二人のすぐに走り出す。一方で華奈はなにかを感じ取ったことで追撃には移らず何かを考え、アルトリアも直感で策の臭いを感じ取り、ストーム1も自分の今までの、数百もの戦場を渡り歩いた経験できな臭く感じたかあたりを警戒。

 

 魔人アーチャーも三人の様子にノリの良さで動くことはせず、首をかしげる。

 

 「どうしたんじゃ? 三人して難しい顔して」

 

 「いえ、クー・フーリン様に武将の因子が混じったあの方が、何らかの勝機もなく、備えもなくぶつかりますかねえと。個人としてならまだしも、軍人、将官として何の備えもなしに撤退というのもきな臭い」

 

 「それに、報告と言っていたので私たちの情報もある。英霊の数の質も、数に至ってはあのナマモノたちも拠点に置いてきたのに計算違いと言っていた。おかしいのです・・・」

 

 「拠点にも敵の気配にのろしも上がっていないし。あれじゃねえか? 逃げた先で包囲戦をかますとか。ほれ、日本の武将で有名なのがいただろ? 島津」

 

 その答えに納得がいった魔人アーチャーも頷き、武将の表情に切り替わり、鋭い目つきで一同が走っていった先を見ていく。

 

 「確かに小さいが兵を隠すのにうってつけな場所もいくつかあるし・・・ふぅむ。マシュにジャンヌオルタがいるなら持ちはするじゃろうが・・・わしらまで行くのは得策ではないのお」

 

 「ですのでまあ、私たちは片翼をつぶして、そのうえで戦うのがいいでしょう。黒介、マチコ。敵のにおいをかぎつつ先攻を。私も栗毛に乗っていきますから、皆様は私の後ろからどうぞ」

 

 「俺もいくぜ。ガンナーの目と、スコープで先導役もやろう。マシュちゃんたちが少し不安だしな」

 

 作戦は決定し、栗毛と黒介、マチコの機動力と足、ストーム1の目で伏兵を叩くために先頭を征き、それに続く形で走る一行。

 

 「若さっていいですねえ・・・あの一直線さは羨ましいです」

 

 「勇と武は十分。後は知、経験を積めば化けるでしょうね。あの桜セイバーも・・・私が斬りづらくなるので嫌ですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あーあ・・・素直に追ってきたのか・・・」

 

 砂浜が見えるまで逃げ、海が見えたあたりで足を止めるクー・フーリン。ひたすらにしんがりを続けながら戦い続け、マシュたちを止めつつでの戦いであったがここに至るまで援軍は来ず、ちびノブらも削られた。

 

 「もう逃げ場はありません。さあ、覚悟してくださいよ。私がその首をもらい受けます」

 

 「貴女じゃ難しいわよ。この大英雄。倒すのなら徹底的に焼き尽くすくらいじゃないとねえ?」

 

 気炎を上げ、功争いを楽しむ桜セイバーにジャンヌオルタ。その二人にどうにか追いついてきた藤丸、マシュ。藤丸に至ってはトレーニングしているとはいえ数キロを走り切り、途中途中で出会うちびノブらへのけん制のために銃を撃つせいで弾丸は使い果たし、息も絶え絶え。

 

 マスターの消耗はさておいて戦闘できる英霊二騎にマシュと英霊の数はこちらが上であり、経験もある。海に逃げようにもその間に背を討たれる。カルデア側からすればまさに追い込んだ形だが、クー・フーリンの余裕は崩れない。

 

 「首をもらうのは・・・俺らだよ」

 

 その言葉を合図に一斉に降り注ぐ弓矢、砲撃、炮烙玉の雨のような爆撃。

 

 「くっ・・・! 先輩、私の後ろに! 桜セイバーさんとジャンヌオルタさんも・・・きゃっ!?」

 

 「ちっ! 伏兵!? この程度の爆撃くらい私の炎で、さっさとそこの貧弱剣士でもかばってなさい!」

 

 「誰が貧弱ですか! あ、火薬の粉末と砂・・けほっごほ・・むせ・・・ごふぅ!」

 

 地面が揺れ、炮烙玉の破片が砂や土と一緒に飛び散り、煙が舞う混乱にマシュは盾で藤丸をかばい、ジャンヌオルタは炎と旗を柔軟に動かして迎撃。桜セイバーはこの煙っぽさでむせて血反吐をそのまま吐いてダウン。マシュが盾の後ろにかばうことでどうにか無事に守り切る。

 

 「さすがに疑うとは思ったが、こうも引っかかってくれるたあな。あのヘルメット兄ちゃんに先導してもらえりゃあな」

 

 「まあ、追撃戦は被害を狙えるからな。怪しくとも欲、賭けに出たいのも心理だろうさ」

 

 爆撃が止み、しばらくして出てくるはアーチャー、エミヤ。そして煙が晴れるとあたりをちびノブらが包囲し、火縄銃を構えている状態。

 

 「ちがいねえ。しかし・・・キャスターは?」

 

 その一角。この戦いを画策していたキャスターの部隊が出てこない。打ち合わせの折には戦国の中でも指折りの謀将の因子を組み込まれ、本人も優秀な術者。タイミングを逃すなんてありえない。

 

 「むう・・・確かに。彼女の分の部隊の爆撃は少な・・・っ!」

 

 警戒しつつもあたりを見回すとエミヤとクー・フーリンの二人のいた場所にバズーカと短槍が飛んでいき、二人はよけるも後ろのちびノブを吹き飛ばし、穿ちぬく。それを皮切りにその方向から矢と炮烙玉がエミヤたちめがけて降り注ぐ。

 

 「やれやれ・・・やっぱり釣り野伏でしたか・・・と、なればクー・フーリン様が島津の因子でしょうか?」

 

 「しっかしメディアの嬢ちゃんが毛利ねえ。名前もなんか変わっていたし、すごい場所だなここ」

 

 そこから現れるは華奈、ストーム1、魔人アーチャー、アルトリア、そして毛利の因子を組み込まれたメディア。包囲の一角は半壊状態となり、また互いに相対する状態に戻されてしまう

 

 「なっ・・・! おい裏切ったのかキャスター!」

 

 「いきなりド級の魔獣にセイバー二騎、それにガンナー? とか無理よ無理! だから降伏してあなた方と戦うわ。悪く思わないでね?」

 

 「まあ、毛利だ。うまく立ち回ることもさすがとしか言えないが・・・これでは互角どころか英霊の数では不利だな」

 

 不意を突かれてまともに戦えずに降伏を選んだメディア。この状況でも勝てる算段を組み立て始めるエミヤ。

 

 「げほっ・・・さすがにこの爆撃は応えます・・・・・」

 

 「まだいけるけど・・・はあ・・・だらしないわね。救援されるなんて・・・まあ、見捨てられて負ける、捕虜となるよりはましと思いましょう」

 

 「毛利・・・? 島、津?」

 

 マシュ、桜セイバーは消耗。ジャンヌオルタも同じような状況。問題は全く消耗がないうえに遠距離戦ができるストーム1、そして全く自分の正体を隠す気がない魔人アーチャー。銃撃戦に持ち込めばこちらが不利。近接線に関しても円卓きっての変わり種にアーサー王。先に罠にはめることができたメンバーを討ち取るかと一応の目算をつける。

 

 「ん・・・・ああ、そうです。クー・フーリン様はおそらく島津。メディア様は毛利。エミヤ様は今回はどのような武将の因子を」

 

 「長宗我部だ・・・このような召喚は少し乗り気ではなかったがね・・・」

 

 「長宗我部・・・土佐・・・の・・・! う、ぁ・・・」

 

 桜セイバーの様子に華奈も少し思いついたように目の色を変え、、英霊の因子を聞く。それに対してエミヤも自身にあてはめられた英霊の因子を素直に話す。その会話の中に入るワード。島津、毛利、長宗我部。戦国時代を超えた後、薩摩、長州、土佐とそれぞれの藩になる場所を治める武将の名前。

 

 桜セイバーの生涯の中で何度も倒したいと考えるほどの相手。地面に突っ伏していたはずの桜セイバーは刀を杖に立ち上がり、異様なまでのぎらついた、殺気に濡れた瞳を見せる。

 

 「うぅおぉぉおぉおおぉおおおおお!!!!」

 

 一気に魔力を放出し、袴とブーツの装いから黒のマフラー、白の短めの和装。黒の足袋とハイソックスを足したようなものを身にまとい、羽織をその上から着こむ。その装いに藤丸は思わず目が点になってしまう。何よりも羽織っている羽織り。この羽織は日本に住むものなら知る人は多く、むしろ知らない人が少ないだろう。

 

 誠の文字を背負い、武士として戦い続けた組織。新選組。その中にあって天才剣士と謳われた剣豪。

 

 「ああ、やはりそうでしたか。新選組隊長の一人にして天才剣士、沖田総司様。ふふ、太刀筋にあの刀。さて、あの剣捌きをさばけるのでしょうか?」

 

 「あ、華奈先輩に解説の役取られた!? わしショック!」

 

 「まあまあ、マスターと俺は気づいていたし、それよか抑え役頑張ろうぜ」

 

 「島津も土佐も倒して見せます! 今までの分、百倍返しいい!!!!」

 

 沖田総司の本領発揮に嬉しそうにつぶやく華奈に解説のタイミングを奪われた魔人アーチャー。魔神アーチャーの肩を叩いてハーキュリーを構えるストーム1。今までの弱弱しさが嘘のように気迫十分。荒々しくエミヤ、クー・フーリンに突っ込んでいく沖田。

 

 「いや、俺島津の役だけど島津はよく知らな・・・!」

 

 「このためにしゃべらせたか!? くそっ・・・なんだこの速さは!?」

 

 こうして砂浜で始まる新選組隊長沖田総司による八つ当たりと生前の恨みも込めての激戦は始まった・・・

 

 

 

 

 

 しばらくして

 

 「あ、そうです。メディア様は私たちに降伏して裏切りませんでしたし、このままゆっくり退去でいいですか?」

 

 「お願いするわ・・・今回の聖杯も、どうにも一度壊れて直ったけど、なんかいろいろなものが混じった・・・キメラ? フランケンシュタインのような物みたいだし、このへんてこな役も終わりたいもの」

 

 「さようですか。あ、ではこれを」

 

 沖田総司の大活躍、もとい大暴走の裏でメディアは手を貸してくれたお礼ということで痛い目に合わずに退去したいかという質問に重い溜息を吐きながら答えるメディア。聖杯もゲテモノ。役はよくわからない極東の武将をあてはめられる。訳も分からなければ利もない。痛い目を見ずに帰れるのならと要求を快諾。華奈も包囲されないで藤丸らを助けることができたのでとお礼の品を退去の前に持たせようとする。

 

 「まずはそっちから! 『無明三段突き』!!!」

 

 「うぉ!? なんだこのけ・・・ぐほぉぁあ!?」

 

 一方で砂浜では沖田総司の必殺の宝具、全く同じ個所、同じ時に同時に差し込まれる三段の突き。事象崩壊を起こすほどの剣技を受けたクー・フーリンは胸に大穴をあけて退去。

 

 「では、これを。時短料理レシピと、その解説書。あとは・・・はい。包丁セットです。手作りですがどうぞ。えい」

 

 「まあ・・・これは・・・ふむふむ・・・洋食に、日本でも出てくるようなご飯・・・包丁も素晴らしいわ。ありがとう。いいお土産ね。あ、契約を切ったのね。じゃ、これでさようなら。カルデアの私にもよければ料理を教えて頂戴ね?」

 

 その間にも華奈はお土産にと取り寄せておいた人理焼却が起きる前に買っていたレシピ本、ケースに入れた手作り包丁のセット一式をメディアに渡してこの特異点との契約を切り捨ててメディアの退去を開始させる。

 

 メディアもこのわけのわからない特異点にお土産をもって穏やかに帰れることに笑顔で喜んで光の粒になって退去完了。

 

 「これでとどめぇ!!」

 

 「いつのまに後ろ・・・がはぁ!」

 

 沖田も縮地でエミヤの背後に回って袈裟懸けでバッサリと霊核を切り捨てられて退去。これで島津、毛利、長宗我部の武将たちもここに倒れた。

 

 「はぁ・・・はぁ・・・イェーイ! 沖田さん大勝利~!! 華奈さん! 藤丸君、みんな見てくれましたか!? これで今回は私が勲功一ば・・・・こっふ・・・!!」

 

 そのうちの二人の武将を打ち倒した沖田は息を切らし、汗を流しながらも満面の笑顔でピースサインをして少しの間喜んだあとに盛大に吐血。もう一度砂浜に突っ伏す羽目に。

 

 「ああ・・・こうなりますかあ・・・治療と魔力の準備ですね。えーと、専用の礼装と体力回復、増加のアクセサリーは・・・」

 

 「・・・苛烈で短すぎる生きざまだぁ・・・」

 

 「まさしく新選組らしくないか?」

 

 盛大に地面にぶっ倒れた沖田の治療のために自身の宝具も含めての治療の用を始める華奈。有名な新選組、その戦いぶりとエンジンが切れた時のつぶれ具合に驚く藤丸とある意味感心するストーム1。ともあれ無事に戦いを乗り切り、小休止に入るカルデア一行であった。 




~木陰~

沖田「ん・・・あれ・・・ここは・・・? あ、華奈さん!?」
(頭に氷嚢乗っけられた状態)

華奈「おはようございます沖田様。砂浜ではお体に障るでしょうし、少し移動させてもらいました。大活躍、お疲れ様でした。調子は大丈夫ですか?」
(治療を終え、沖田を膝枕しながら見守っていた)

沖田「あ、はい。むしろ魔力が以前よりみなぎっていて・・・調子はもう少しだけ休めば治るかと」

華奈「それは結構です。褒美なんですが、近くの町で何か欲しいものを用意しようと思うのですが、何がいいですか?」

沖田「うーん・・・じゃあ、私も甘いものと・・・華奈さんのご飯が欲しいです。みんな食べているのでしょう? 華奈さんから甘い香りがしますし」

華奈「ええ、少しの時間を使ってパパっと。では、私たちももう少ししてから食べに行きましょう沖田様の分もしっかり用意していますので」

沖田「ええ・・・ありがとうございます」


~臨時休憩所~

魔人アーチャー「しかし、人斬りも真名を明かしたかー、わしもいよいよ話す時かのお! 皆にも伝えよう! わしの真名は第六点魔王 織田信長じゃあ!」
(水あめを堪能中)

ストーム1「知ってるよ」

信長「ええ!?」

ストーム1「いや、その刀に帽子? 兜? の家紋とか隠す気ないだろ。俺でもわかるって本当にゆるいなあ」

信長「ぐぬぬ・・・」

藤丸「沖田総司に織田信長まで女性・・・うん、ありえるかあ。アーサー王だって女性だったし」

マシュ「なんだか麻痺しちゃいそうですね・・・あ、甘い・・・疲れた体にしみわたります」

アルトリア「あー・・・私は男性として公ではふるまっていましたしね。男性として伝わるのはまあうまくいったということにしましょう・・・・・・それにしても、あの沖田とやら・・・すさまじい剣の腕。どうしたものでしょうか・・・」

ダ・ヴィンチちゃん『やあ、休憩中悪いけど、町までのルートで比較的安全な確率が高いものが出たから一応伝えるよ。あ、ロマニとオルガマリーはさっきもらった甘味を配りつつ休憩に入るみたいだから』

マシュ「了解です。早くこの特異点を解決しないと・・・」

ジャンヌオルタ「釣り野伏か・・・今度調べてみましょうか・・・くっ・・・この飴が伸びて・・・おいしいけど落ちないように食べるのが少し手間・・・」

栗毛、黒介、マチコ「♪」
(野菜ジュースをもらった)





九州のやべーやつ代表の島津。島津四兄弟全員がそれぞれに得意な分野が化け物クラスで優秀という本当にすごすぎる兄弟。彼らが率いる軍に耐えきる大友、その配下の立花、高橋らも本当にすごい武将ばかり。

釣り野伏の大変なところは囮担当の将兵も敵に怪しまれないように適度に戦い、一番危険な撤退戦をこなしつつ目的地にうまく誘い込む。これをミスは許されない一発勝負の殺し合いの場で冷静にこなさないといけない。しかも後衛は後衛で釣り野伏に適した場所にうまく隠れないといけない。

これを素晴らしい完成度で作り上げ、島津お得意の戦法だと知って尚も引っかかるほどに仕上げたのは本当にどうなっているのやら。

後、野戦で十倍の敵、しかも指揮官レベルを多数討ち取った戦いもあったりと、島津は本当に野戦でのぶつかり合いはすさまじいの一言。

沖田さん、ジャンヌオルタは若くして亡くなったので向こう見ずというか勢いがある感じにしました。そういう戦法が得意な方でもありますし。

沖田さんも覚醒してもう少しでこの特異点もおしまい。ただし、次回が本当におっかない相手。私で表現しきれるかどうか不安ですが、この駄文にお付き合いいただければ幸いです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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Q 「あなたの好きな人は?」 A アルトリア「ノーコメントで」

華奈「着きましたね。南蛮街・・・? 大友宗麟の時代にある町でそんなものがありましたが、それのイメージでしょうか?」
(メンバーの周囲を動きながら警戒しつつ、周りを軽く見まわす)

ストーム1「お、あのナマモノ以外の人もそれなりにいる。なにか情報がないか調べられるな。一度散開するか?」

華奈「いいですね。行商隊、今までの戦いで手にした財物にお金もあります。情報ついでにお買い物タイムと行きましょう。では、お小遣いを配りますよー」

沖田「華奈さん! 沖田さんはいくらもらえるのでしょうか!?」

信長「あ、わしももらうぞ! 直接首は上げてないが戦の指導に用意と裏方はしているから一番もらうぞ! 功績一番は蕭何ともいうしの! そこの人斬りよりはたくさんあるはずじゃろ? さあさあ」

藤丸「と、とりあえずは情報収集だよね」

マシュ「はい! ここまでしっかりした町、それになんだか周りの空気も違う気がします。物見遊山しつつ、情報を探るのもいいかと思います」

ジャンヌオルタ「勝利の後の休息と準備といったところかしら。ふふ、いいですね。こういうのもまあ」

アルトリア「私はどうにも嫌な予感もしますが・・・まあ、気のせいだということで。お小遣いはどうなりますか?」

華奈「一人当たり250万QP それにいままでの功績や、働きに応じて配ります。さ、並んでくださいな」

一同「「はーい」」
(お金の入ったきんちゃく袋をもらう)


~しばらくして・・・華奈・沖田サイド~

華奈「では、基本4人一組、または二人一組で行動開始。二時間後にここに集合して情報収集とすり合わせ、何も収穫がなければまた移動しましょう。はい解散」

ストーム1「アルトリア、いい茶屋と宝石屋があった。見に行かねえか?」

アルトリア「私は姉上に聞いた団子屋も・・・宝石は私の魔力の余剰分をため込むのにもよさそうですね・・・(それに姉上にもプレゼントしたいですし・・・)行きましょう。ストーム。姉上、そこの吐血剣士、私たちは一度ここではなれます。では、後で」

ストーム1「じゃ、行ってくるぜ。戦場暮らしの野郎だが、いいお茶は用意してくるわ」(何かを華奈に投げ渡してアルトリアとふらふらと移動)

華奈「ええ、行ってらっしゃいませ。では沖田様。私と一緒に行きましょうか? 何かリクエストがあればいいのですが」

沖田「うーん・・・では、私はカステラ屋さんに行ってみたいです! 大奥や将軍様も食べていたという甘味、ぜひゆっくりと食べてみたかったんですよ!」

華奈「あらあら・・・ふふ、では行きましょう。いいお店かの香りはハチに任せましょう。甘味好きですので、きっとかぎ分けるはずですから。ハチ、お願いね?」 

ハチ「わふ~」
(しっぽをぶんぶん回してゆっくり華奈、沖田の隣を歩きつつ鼻を鳴らす)

華奈「さて、物見遊山ついでに、皆様のお土産でも一つ・・・(良馬様、ロマニ様。少し頼みたいことが)」
(沖田に聞こえないように通信機を起動して連絡を入れる)

沖田「はい。私もカルデアの皆様に迷惑を掛けましたし、遅まきながらに菓子折りでも探してみようかと・・・(不思議な人です。戦いの時は今の表情の中にすごい剣気、武の臭いはするのに、今はまるで別人。同じ表情の中に別人が住んでいるみたい・・・でも、落ち着くなあ・・・)」

華奈「ああ、ふふ、では私も一緒に買いましょう。ここまで一緒に戦ってくれていますもの」


~アルトリア・ストーム1サイド~

アルトリア「ふぅむ・・・これもいい宝石です・・・しかし、加工のレベルがいろいろとすさまじすぎる・・・うぅ・・・どれを選べば・・・」

ストーム1「おばちゃーん、団子6個とお茶二つ。あ、冷たいやつねー」

アルトリア「あ、これは純度が高い。でも、魔力の保存量ならこれのほうが、いやしかし・・・」

ストーム1「意外だなあ。アーサー王がここまで宝石に詳しいとは。おれは武器関連とか以外はあまり詳しくないものとばかり」

アルトリア「姉上・・・モルガン姉上と、母上、ガレスが魔術師なので、付き合ううちに少し詳しくなりまして。それに、農閑期は暇つぶしに本を読んだりするのである程度は・・・え、割引? うーん・・・では、このネックレスと、腕輪を・・・うぐっ」

ストーム1「後は、王様時代にいろいろ見るうちに目も肥えたとかかね。あ、じゃあ俺の分も。ほれ」
(自身のきんちゃく袋を渡す)

アルトリア「い、いいのですか? あの、半分以上入っているような・・・?」

ストーム1「いいのいいの。マスターの妹で、戦友だ。気になるのなら、今まで助けてくれて礼ってことで一つ」

アルトリア「では、お言葉に甘えて。店主! そのネックレスと腕輪を一つ!」

ストーム1「おーいい趣味だな。これはマスターも・・・」

アルトリア「? ストーム、いったいどうし・・・!」


~藤丸・マシュサイド~

藤丸「じゃあ、ひもくじでも・・・一等? 特大金平糖の詰め合わせ・・・? うわっ! こぶし大のものが特大サイズの瓶一杯・・・」

マシュ「さすがです先輩! 私もおいしい果実をもらえましたし、なかなか買い物というのも楽しいですね!」

ロマニ『ほかのみんなもだけど完全エンジョイしているなあ・・・って藤丸君!? それ、相当な魔力リソースになるよ!??』

オルガマリー『しかもマシュのその果実も相当な魔力リソース・・・いえ、霊薬に使えるレベルよ・・・ただの商品でこれ、魔力のたまり場みたいなものがあるのかしら?』

藤丸「もしくは、聖杯を持っている誰かがこの街を作ったとか・・・? でも、怪しいうわさは・・・うーん・・・あ、派手な人が一人いたとかなんとか」

マシュ「では、その人の影響でしょうか? 日本の英霊でもお金持ち、羽振りの良い方の因子と組み合わさったとか」

ダ・ヴィンチちゃん『ありえない話ではないね。この茶器たちもすごい出来だし、この周辺は魔力リソース、上質な礼装になりえる道具がわんさか。そういう英霊がいてもおかしくはないさ。というか楽しそうだなあ皆! こんな面白い場所に街で好き放題だなんて!』

藤丸「お土産は買って来ますから」

ダ・ヴィンチちゃん「そう? じゃあ、楽しみにしているね~♪」


~ジャンヌオルタ・信長サイド~

信長「いやあ、甘味に織物、いろいろあるのお! 煙草も上物じゃし、うっはは! ここの町は誰もが欲しがるじゃろうよ!」

ジャンヌオルタ「そうねえ・・・大阪らしいけどここ、こんな街なのかしら? ま、こんなへんてこな世界だしどうでもいいけど」
(雑談しながら散歩中)

信長「大阪ぁ? いやいや、こんな南蛮風な街じゃったかの・・・あ、すまん、オルタ、少しトイレ行ってくる!」
(小走りで移動)

ジャンヌオルタ「あ、ちょっ!? はぁ・・・・・・まあ、いいですかこのあたりの場所で・・・マスターと、マシュにでも何か買いましょう。あの子たち、今回はさほど動けていませんもの、ここは一番大戦果を挙げた私が懐の広いところを見せませんとねえ・・・・・?」

~しばらくして~

信長「いやあーすまんすまん! 遅れた。じゃ、買い物に行くか」

オルタ「遅いわよ・・・その重そうな兜? でも落ちて洗うのに手間取りましたか? ほら、近くの土産屋があるし、そこにでも行きましょう」

信長「うむ、華奈先輩への情報土産ついでに少しくらいは目を外してもいいじゃろ!」

オルタ「貴女はいつも外しているような気がするわよ戦国の風雲児さん」

信長「生前大変な仕事たくさんしたのでこれくらいいいですぅ~! お? なんじゃ、何やらいさかいの声が聞こえるが・・・?」

オルタ「はぁ・・・行きましょう。なにかすごいでかい声聞こえるし・・・」



 「フハハハハハ! まさか、まさかここで出会えるとはなセイバー! このいびつな世界に呼ばれて無聊を慰めるのにも飽きていたが、来たかいがあったというものよ。肌をさらした変わった衣装だがそれもいい。あの嵐の勇者はどかしたし我の腕の中に来るがよい!」

 

 「何言ってんですか貴方は! 最強のセイバーなのは確かです私はアルトリアです! 確かにいつもの鎧姿よりは露出度多いかもですがおしゃれですおしゃれ! なんでここまで来てコスモギルガメスに求婚されなきゃいけないのですかもぉお!!」

 

 ぎゃあぎゃあとあたりに響き渡る喧噪。これに一度散開してすぐのカルデアメンバーの前で繰り広げられるのはアルトリアがなにやら全身黄金の鎧に身を包み、金の髪を後ろに流し、鋭い赤い瞳が特徴的な美丈夫が言い合っている様子。

 

 少し視線を移せば不意打ちでも喰らったのかストーム1が腰から上を地面に埋められているという珍妙な光景が起こっており、どうにも男の口ぶりからすると彼が吹き飛ばしたらしい。

 

 『あ・・・』

 

 「あっ・・・・」

 

 その男の顔に即座に反応してしまうロマニと華奈。二人はそれぞれにこの男と少なからずかかわりがあり、そして同時に特異点で出会うにはあまりにも危険すぎる英霊。纏っているその覇気、風格は王の中でも別格。霊基からして英霊になるほどのものでも複数人分の量を持ち、魂の強さは計り知れない。

 

 「え、英雄王!? そしてストーム、大丈夫ですか!?」

 

 最古の王にしてすべての原点を手にする最高の王。英雄王ギルガメッシュがアルトリアを口説いているというこの状況に華奈は驚きつつもストーム1を地面から引き抜き、同時に一同に驚きと戦慄が走る。

 

 「前が見えねえ・・・いきなり目の前にハンマーが来て・・・ありがとマスター」

 

 「む、我とセイバーの時間の邪魔を・・・誰かと思えば銀狼ではないか。久しいな。お前もここに呼ばれてきたのか」

 

 「あの方の攻撃を顔面で受けてぴんぴんしているのはあなたくらいでしょうねえ。そしてお久しぶりです英雄王。呼ばれたといいますか、騒ぎに巻き込まれまして」

 

 引き抜けば顔面が放送事故状態のストーム1の顔に速攻で紙袋をかぶせ、治療用の礼装で治療を施していき、その間にも自分のことに気づいた英雄王に頭を下げ、苦笑を浮かべてしまう。

 

 『え? ちょっ、英雄王!? なんでそんな大物が! そして何で華奈は知り合いなのよ! 貴女関係しているのはオークニー、ブリテン、そして日本でしょう!?』

 

 「姉上! 知り合いなのですかこの金ぴか! なんだかすごくなれないというか、ここまで同じ顔でこうも同じ対応をされると恐ろしいのですけど!!」

 

 「ええ、まあ王の愉悦部なるもののかかわりで少し。しかし英雄王。貴方様はいったいどのような用向きで、そして此度はどのような名を?」

 

 紫式部ともつながりがあるのはまあいいとしても、まさかのメソポタミア、あの神代の時代真っ盛りのなかでまさしく大暴れした大英雄とも知り合いと英霊の座はいったいどうなっているのかと猛烈に突っ込みたくなる一同だがそこを抑え、華奈の疑問に対する英雄王の返答を待つ。

 

 今まで弁慶、おそらくは牛若丸、アーラシュから始まってなにかと高名な英霊がぽこじゃか出ては何らかの日本の武将の役にあてはめられている。そうなると呼ばれたと言っていたこの王はどのような役を貰った、もとい聖杯にぶち込まれたのか。視線が集まる中、英雄王は軽く息を吐いてよく通る声をあげた。

 

「セイバーの義理の姉、銀狼に聞かれたのならば答えよう! わが名は黄金の国ZIPANGの主にして人類中世の英雄王、豊臣ギル吉!! 黄金と言わず、茶器と言わずこの世のすべての財は我のものだぎゃ!!」

 

 「ッ・・・・!! そ、そうです・・・か・・・相も変わらずまぶしく、壮健で何よりです・・・」

 

 「ま、混ざりほうだいだあ・・・」

 

 『うぁわ・・・もうどうにもならないレベルで混ざりほうだい・・・なんだろうね今の英雄王は』

 

 このハチャメチャな混ざり具合、そしてなぜか日にいまごろ当たって盛大に周囲に黄金の光をまき散らす英雄王。華奈はまさかの様子に必死に笑いをこらえ、藤丸はまさかの秀吉とギルガメッシュの悪魔合体に呆然。ロマニはこのあしゅら男爵のような英雄王をどう判断したものかと頭を抱えそうになる始末。

 

 「我がまぶしいのは仕方のないことよ銀狼。我は最高の芸術なのだからな! そして勘違いもするな。この程度の泥やら杯一つで俺の存在は塵一つ動かん。リップサービスというやつだ。此度は別件ついでに、目の前の要件で来たものでな」

 

 「別件? ふぅむ・・・となれば聖杯でしょうか?」

 

 「その通り。我のものを勝手に使うのみならずあのような珍妙なものを混ぜ込んだ犯人を討とうとしてな。そして、ここに来てようやく出会えた我が妃、セイバー! お前だ! さあ、我のところへ来い」

 

 「お断りです。誰が王の妃になってまた面倒な政治闘争に首を突っ込むものですか! 今は気楽な農家でセイバーハンター、そして姉上たちとこの特異点を解決している最中なんですう!」

 

 どうにも聖杯の管理、異物を投げ込んだ犯人の退治と、相当に惚れ込んでいるであろう。アルトリアへの求婚。アルトリア自体は本気の目で嫌がるもそれを全くに気にせず。満面の笑みで両手を広げてアルトリアを迎え入れる姿勢を見せる。

 

 「ふはははは! 照れ屋さんめ、式は盛大に上げるし、政治闘争など我のもとではないも同然!! この世のすべての悦楽を約束しよう。見てみろ! お前の姉も喜んでいるではないか」

 

 「はぁあ・・・・・アルトリア様がとうとう殿方と結婚ですか・・・感慨深いものですよ。ヤマジ、ご祝儀いくら包めばいいでしょうかね?」

 

 『そうだなあ。身内な上でもとは一国の王に、あの英雄王だろ? うーん・・・大将の出せる分くらいでどうだ? それと金塊とか大将が作った刀剣やら貴金属の加工品とか』

 

 「それくらいですか・・・私の貯金、かなり減りそうですが、せっかくですが盛大に・・・場所は先ほどの海か、ここの町で一番いい場所を」

 

 「あ、姉上・・・? 嘘ですよね!? 私無理やり結婚とか趣味じゃないですから!! というか助けてください! 冗談抜きで私この男と結婚するつもりないですからね!?」

 

 さすがに半泣きになって華奈に縋りつくアルトリア。確かにブリテンで妖精郷に行く際に男を見つけるとは言ったが、さすがにこの男とは結婚するつもりはさらさらない。

 

 華奈もそれは理解し、冗談だと苦笑してアルトリアの頭を撫で、英雄王の前に壁になるように立つ。

 

 「英雄王、アルトリア様も今回はノリ気ではない様子。申し訳ありませんが、今回は縁がなかったということで・・・」

 

 「それで我が引き下がるか! この機を逃すほど我は愚鈍でもないしはいそうですかと終わるほどセイバーを軽くは見ておらぬ! 銀狼であろうと立ちはだかるのなら粉砕するぞ!」

 

 深紅の瞳に戦意をたぎらせ、自身の背後にいくつかの黄金の波紋を浮かばせて臨戦態勢を整える英雄王。気合は十分なもので、藤丸、マシュも少しばかり気圧されるが、しっかりと構える。

 

 「では、私たちを倒したらアルトリア様を娶るなり好きにしてください。代わりに、私たちが勝ったら無理やり縁談をしようとしたのです。何か一つ私が欲しいものをくれますか?」

 

 「よかろう。銀狼、セイバーの姉となれば我の義姉となるのだ。これくらいの話なら聞いてやろうではないか。今に限っては殺しあう相手だがな」 

 

 まさかのアルトリアを賭けの対象にした戦いが決定し姉からの条件付きの許可にも快諾する英雄王。負けなど一切考えていない余裕。そして、今いるメンバー全員を相手にしても負けないという自尊がありありと見えるほど。

 

 「英雄王が相手なら、俺も行こう。さすがにこの規格外には二人だけじゃあな。信長もいいかい?」

 

 「かまわん! なんだか猿の気配がするし、こやつならわしならむしろ相性は悪くないしネ!」

 

 そして、この最古の大英雄に戦いを挑むべく華奈たちに加勢するのは顔面放送事故状態から復活したおそらくは最新の人類の救世主ストーム1、日ノ本の風雲児にして魔王の名を冠する信長。

 

 華奈、アルトリア、ストーム1、信長。4名がそれぞれに武器を構え、黄金の波紋、英雄王の動き一つに気を張り詰め、同時に身体に闘気を走らせていく。

 

 「マシュ様、ジャンヌオルタ様と一緒に藤丸様を守ってくださいませ。ジャンヌオルタ様と沖田様も今は守りを・・・流れ弾、巻き添えを喰らえばそれだけで死にかねませんので」

 

 「はっ! 我に混ざりこんだ雑種のもと主に銀狼、そして嵐の勇者が相手になるか。そしてセイバーも。妃を迎え入れる前にいい運動、初夜の前の柔軟くらいにはなろうさ。さあ、砕け散れ!」

 

 いうが早いかいくつかの黄金の波紋から放たれる様々な武具。おおざっぱな狙いで飛んでくるゆえに躱せないわけではないが、その速度、そして着弾時にその恐ろしさが目の当たりとなる。

 

 「なっ・・・!!」

 

 地面を吹き飛ばす剣はどこかで見たことがあるようなもの。建物をいくつも壊しぬいたハンマーは巨人が使うような巨大なもの。ミサイルのように地面にクレーターを作ったのは矛。

 

 「どれも・・・ただの武器・・・名刀とか、業物なんてものじゃない!?」

 

 「沖田さんもちょっとここじゃないと見たことがないような業物ばかり・・・! で、でもこれを打ったから次は華奈さんたちが・・・」

 

 その着弾したどれもが英霊になって見れるようなもの、宝具レベルのものばかり。これを射出されてはなるほど、巻き込まれたり流れ弾一つでお陀仏だってあり得る。ただ、それもしのいだ。なら今度は近接戦を得意とする華奈たちが有利だろう。そう考えていたが。

 

 「そら、次だ!」

 

 沖田、ジャンヌオルタの予想は悪い形で裏切られ、次の弾丸代わりに射出される武具が出てくる。それも先ほど飛ばしていた武器と変わらぬ、やもすればそれ以上の業物・・・いや、宝具。

 

 「くっ! この質量を弾丸にするだけでもきついのに、これですものねえ!」

 

 「ああ、もう相変わらずの大富豪スタイルな戦い! すごく羨ましいですが同時にもったいないと思います!」

 

 それを受け流す華奈に足からの魔力放出で避け切るアルトリア。自由自在に宙を飛ぶせいで町中に弾丸、もとい宝具が雨あられと飛び交い、華奈が受け流すせいであちこちにクレーターが出来上がる。

 

 下手な大砲よりも重い武具、しかもそれすべてが宝具。この勢いを継続してもなお尽きる様子、むしろ勢いをセーブしている様子さえ見える英雄王の余裕の表情。特に不慣れといった気配も見せないことから理解してしまう。これが英雄王の戦い方。この尽きることのない宝具レベルの武具を弾丸にして戦う。贅沢極まりなく、同時に相手すれば極悪ともいえる手段。

 

 「おっと・・・! すげえなあ。弾薬食料も苦しいときすらあった俺からすれば羨ましい限りだ」

 

 「この財一つあれば軍を2回、3回動かしてもおつりがくるじゃろうなあ・・・ま、これならむしろいい。行くぞストーム! 華奈先輩、アルトリア先輩! わしに合わせてくれ!」

 

 しかし、その強さや威力をひっくり返せるジョーカーもいるのが現在のカルデア。信長の声をスイッチに華奈が信長、アルトリアがストーム1のそばにつくようにし、二人一組のペアを作る。

 

 「ふん、何をするかは知らんがこれでもその余裕面ができるか見せてもらおう!」

 

 これにいち早く反応して黄金の波紋を一層増やす英雄王。もはや英雄王の背後の空間そのものが黄金の波そのものになるほどであり、視界を埋め尽くすほどの数々の武具。中には朱槍もあれば聖剣も存在し、まさしく古今東西のすべての武器が所狭しと敷き詰められて銃口を向ける姿は普通であればいっそあきらめから笑いが出てくるほどであろう。

 

 「英雄王。たしかにこれは強烈じゃ。きついじゃろうなあ・・・じゃが、わしはこんな状況を何度も切り抜けてきた天魔織田信長! あまりなめるでないぞ!」

 

 「うっし・・・チャージおっけい。これならいける。英雄王相手となれば、これを使わざるを得ないよなあ」

 

 「さてと、では、行きましょうか。このメンバーなら対応もできるでしょうし」

 

 「コスモギルガメスであろうがなかろうが、無理やりな求婚する男はお断りです!」

 

 放たれてくる無数の死の豪雨。これに対処すべくまず信長の奥の手を一つ開放。無数の火縄銃を信長の背後に出現させ、銃口を一斉に英雄王を中心に広く向ける。織田信長の有名な戦いの一つ。騎馬戦術が今なお有効だった時代にそれを得手とする戦国最強と名高い武田に壊滅的な被害を与えて趨勢を決定した。新しい戦術を確立させた逸話の再現。

 

 「これがわしの三千世界(さんだんうち)じゃあ!! 武具兵装、すべて打ち崩してくれる。うっははははは!!!」

 

 無数の弾丸はあたりの視界を遮るほどの煙をあげながら鉛玉を発射し、英雄王の武具とぶつかり合い、一部は押し勝ち、一部は押し負ける。しかし、それでも火縄銃という大口径から放たれる銃弾の威力に、信長の持つスキル、『天下布武・革新』による付与で神性、神秘の高い相手により威力を増加させた結果があの英雄王の攻撃と渡り合うほどの威力を見せ、一時的に拮抗を見せる。

 

 日輪の子である秀吉の因子に加えて更には最古の英雄にして神の血を持つギルガメッシュには力の落ちた信長でもこの威力を見せ、秀吉の因子からいくらかの情報はあったが、予想外の反撃に顔をしかめる英雄王。彼も負けじと数を増やすが。

 

 「アルトリア様、いいですか?」

 

 「もちろんです。この機を逃すほどにぶってはいません」

 

 二人の女性騎士が左右から無数の斬撃を飛ばし、この銃撃戦で押し負けそうな場所をフォロー、ところどころ視界を遮るように武器の軌道をそらしては射出する宝具の邪魔になるように動かしておく。

 

 その後は信長の銃撃で折り重なった武具はそのまま壁となって英雄王の攻撃の幅を狭め、その分を信長も他の制圧、英雄王への射撃数を増やす。

 

 「おのれ雑種!! このようなぁ!!」

 

 「おい、守りはしっかりしないといけないぜ?」

 

 射出する宝具の数を増やして押し勝とうとする英雄王の湯だった頭に響く男の声。信長から少し離れた場所からストーム1も弾丸を発射。ショットガンタイプの銃だったようで一発で無数の弾丸が英雄王めがけて襲い掛かりっていくが英雄王もとっさに盾を射出、自身の前に展開して防いで見せる。が、その弾丸ははじかれるわけでもなければそのまま盾に張り付き、しばらくしたのち。

 

 「!!?」

 

 爆発して、盾を砕いて見せた。ストーム1の打った武器はバスターショット。着弾後にしばらくの間をおいて弾丸が爆発する特殊なショットガン。その威力たるやもとから一撃で象だろうと巨人サイズのエイリアンだろうと吹き飛ばす上にかつて世界各地の神話のモチーフとなったエイリアンをぶっ殺した逸話から手にしている神性特攻も刺さるせいで英雄王の態勢をぐらつかせるほど。

 

 「よっしゃ撃て撃て!」

 

 「ほーれほれ! 神性を二重に持っている己を呪うんじゃなあ!!!!」

 

 神秘が強ければ強いほどに刺さる信長のスキルにさらにもう一人の英霊の分まで上乗せ。ストーム1も対人どころか怪物殺しを目的に練磨され続けた武装に神性特攻の倍率追加。この二人の容赦ない制圧射撃は英雄王の武装を押しつぶし、盾を砕き、増えた宝具すらもアルトリアと華奈のバックアップもあって何もできないようにさせる。

 

 「おのれおのれおのれぇえええ!!!」

 

 「慢心はするもんじゃないネ! とどめじゃあ!」

 

 「特大級のこれで昇天させてやるぜ!」

 

 終わりの見えないような銃撃もバスターショットで盾、周辺の武具を砕いた後に信長の持つ火縄銃に魔力を集中させて一気に放つ。スキルをすべて乗っけた一撃とストーム1が持っていたもう一つの武装。ノヴァバスターによる強烈な一撃は英雄王の身体に風穴を開けて吹き飛ばす。

 

 「くそっ・・・このようなあ・・・・!」

 

 「慢心しているうち、速攻戦じゃないと二人を狙われますからね。ストーム、信長様も感じてくれていたようで助かりましたよ」

 

 「油断、慢心して私たちにあたるような殿方はおよびじゃないです。出直してください」

 

 ふぅ。と息を吐いた直後にどっと滝のような汗を流す華奈。冷や汗ながらも余裕の表情を見せて勝ち誇り、同時にどこか安心した表情のアルトリア。

 

 「さてと・・・英雄王。私との賭けの内容ですが・・・・・・・・・・・・・・・というわけでお願いします」

 

 「ふっ・・・相も変わらず、世話焼きなことだ・・・よかろう・・・我との賭けに勝ったのだ・・・これくらいの安物でよければくれてやるわ。中に混ざった雑種もうるさいのでな」

 

 もうすぐ退去しようとしている英雄王秀吉に近寄り、なにやら欲しいものを話す華奈。これを聞いた英雄王もなにやら3つの小さな小瓶を華奈に渡していく。

 

 「ふぅ・・・よかった・・・これがあるのは本当に助かります」

 

 「今回はこれで引いてやる! だが、我は諦めんぞ!! いつか婚儀を上げて我のものにしてやる! 待っていろセイバー!! あ、そうだ銀狼。ウルクの民も募集し・・・-」

 

 最後までアルトリアを求める一途な思いと、何か華奈に頼もうとして帰っていくどこかぐだぐだな豊臣ギルガメッシュ。彼が退去した後には一つの茶釜が転がり落ち、かすかな輝きを放つ。

 

 『あ、華奈! それが聖杯だ! 茶釜に変質していたのか・・・これを回収すればこの特異点も解決。無事に帰れるよ』

 

 「よかったです・・・今の戦闘といい、色んな意味で疲れていましたから・・・・・」

 

 「い、生きた心地がしなかった・・・」

 

 ロマニの声で目的の聖杯を手にすることができたことで緊張の糸が切れたせいでへなへなと地面に座り込むマシュと藤丸。先ほどまで英雄王たちの攻撃で死なないように耐えていた反動と、やたら爆発だらけの特異点に長時間いたせいだろうか。どこか煤けた雰囲気すらもうかが分かるほど。

 

 変なナマモノが闊歩し英霊にほかの歴史の人物の因子が混ざるという訳の分からない特異点に加えて最後は英霊ですらもらえば一撃必殺もあり得る流れ弾が飛び交う戦場に放り投げられたストレスは大きかったのだろう。基本務めて元気であろうとするマシュも疲労の色がありありと浮かび盾を下ろすほど。さすがに誰もそれに関してツッコミは入れることなくむしろお疲れ様と優しい視線を投げて休んでおいてとジェスチャーする。

 

 「さすがに疲れたのかの。ま、これを手にすれば終わりじゃし大丈夫だいじょーぶ・・・・・・これで総てわしの思うまま・・・」

 

 「・・・ノブ?」

 

 茶釜型聖杯を回収しようとする信長。なにやら不穏な空気をはらんだ信長に嫌な予感を感じた沖田が刀を抜こうとする前に。

 

 「当て身」

 

 「ゴハッ!!?」

 

 肘で思いきり首、後頭部あたりを狙った華奈の豪快な当て身をもろにもらい、グギリ。と嫌な音を立てて信長は気絶。地面に倒れる羽目になった。

 

 「え、あ、華奈さん!?」

 

 「あ、姉上? 一体・・・!!?」

 

 「ああ、大丈夫です。死んではいませんよ。それと、もうすぐ来るはずですから」

 

 突然の意味不明な華奈の行動に驚く一同。そして、茶釜を回収してマシュのシールドの裏に収納しておくと、何か笛を一つ吹き。

 

 「さてと。これでちょっとしたものが見れますよ」

 

 信長を簀巻きにしつつまたよくわからないこと言いだした。




ストーム1「おい、どういうことだ? なんでさっきまで一緒に戦っていた戦友を今倒すんだよ。誤射とか、そういうわけでもないし」

華奈「ですから、もうじきわかりますよ。ほら」

信長「いやー助かった助かった! あのままじゃわし、トイレで生き埋めになっていて死んでいたかも」

ハチ「わう・・・」
(信長を乗せて華奈たちに歩いてくる)

華奈除いた一同「「「!!!!??」」」

華奈「ロマニ様、良馬様。説明してもよろしいですか?」

ロマニ『ああ、うん。いいよ。聖杯も回収したし、特異点の崩壊も徐々に始まっている。いつでも戻れるようにはしておくから』

良馬『ええ、データもいつでも出せます。一応カルデアのほうのナマモノたちも退去していっていますから、必要であればそちらに英霊たちを送れるようにもしておきますので』


~~

???「--------」

???「くそっキリがねえ!」

???「弱音を吐くな! 撃ち続けろ!!」

???「長篠の合戦を見せてやる!」




もし今のタイミングでぐだぐだ本能寺が実装されていたら秀吉と混ざるのはオジマンディアスだったのでしょうか。どっちにしても濃いうえに面白いのでいいかもと思ってしまいますが。

今回ストーム1が使用した兵器はバスターショット。EDF5から登場した特殊ショットガン。着弾後にしばらくして爆発を起こす超火力兵器。射程圏内に入ればたいていの敵はこれで瞬殺レベルですから恐ろしい。もう一つのノヴァバスターは一発限りのリロード不可能な光の弾を発射。一発が大体数万(威力の高いライサンダー、ほかスナイパーライフルでも5000後半から10000中間程度)のバ火力。厄介な敵を確実に倒す際に使うケースがほとんど。

英雄王もすごく男らしく、一途ですよね。ずっと一人の女性を恋焦がれて思うのですからかっこいいです。まあ、アルトリア、もといヒロインXは切り捨てると心に決めているようですが。コスモギルガメスを。

次回でぐだぐだ本能寺も終了。小休止を挟んでローマに突撃。多分碌な目にあいません。敵も味方も。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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華奈「さすが英雄王の宝物庫ですね。なんでもあります」

華奈「信長様。ご無事でしたか?」

信長「うはは! 当然当然! 悪運の強さもわしの強みよ! まあ、今回は華奈先輩のハチに助けられたがなー。トイレで縛られて放置プレイされたかと思うたらいきなり何かミサイルのようなものでトイレが崩れて生き埋めじゃ。どこかののん兵衛みたいな最期を迎えるかおもった」

華奈「あらあら・・・それはさすがにひどい最後になるでしょうし、無事でよかったですよ」

沖田「それはそれで見てみたいですねー後世のノブって、作品次第では体真っ二つにされてもお茶立てたりすることだってあるのでしょう?」

マシュ「え? 信長さんって人間ではなかったのですか!?」

藤丸「作品、作品だからマシュ」

信長「ま、魔王と後世にも伝わっているわしじゃし是非もないネ! しっかし、良く気づいたのお華奈先輩。この偽物に」

アルトリア「あー・・・なんとなくわかりました。仕込みはしてあったのですね姉上」

ジャンヌオルタ「? どういうことよ」

華奈「ま、それはおいおい語るとして・・・この偽物をさぱっと介錯してあげましょう。同じ信長様。油断できる相手ではないですし」


 「くっそー! 離すのじゃー! 品物もしっかり手にしておいたのに、なんでばれたんじゃ!? しかも割と最初辺りからっぽいし!」

 

 ゴムを練り込んだ荒縄で簀巻きにされた状態で芋虫、もしくは打ち上げられた魚のようにびったんびったん暴れる信長(偽)。この発言からも偽物だと自白しながらどうにか脱出を試みているようだが関節を的確に固定し、ついでにへし切長谷部も没収した状態では何もすることができずにただただ見苦しい状態をさらすのみ。

 

「まあ、それを悠々と語ってはいつの間にやら縄を切って反撃されそうなので次の機会にでもお話、もしくはそこの信長様に話しておくとしましょう。はい、信長様」

 

 「わし、無駄に悪運強いからネ! せっかくの土産にエンディングには余計な茶番はイランイラン。お、よかった。柿に香木、瑪瑙、うんうん。問題ない」

 

 それを視界の端で監視しつつカルデアと協力している信長に華奈は信長(偽)が信長(本物)から成り済ますために盗んでいた物品もろもろを回収。渡して抜けがないか再チェック。完了したところで信長(本物)も火縄銃を簀巻き状態の信長(偽)に向け、ぽつりとつぶやく。

 

 「おおかた、今までのここでの英霊の魂と聖杯を使って何かをしようとしていたようじゃが・・・人類がこの状況で内輪もめ、しかもわしにされるのはごめんじゃからな。潔く死ね。わしよ。カルデアを見れんかったのがそっちの不幸じゃ」

 

 「介錯は行いましょう。では、さぱっと」

 

 「うむ」

 

 頷いた直後に信長(本物)の火縄銃と華奈の持ってきていたストリンガーが火を噴いて信長(偽物)の心臓をぶち抜く。荒縄と肉体どころか南蛮街の石の道を破壊するほどの威力で霊核を完全に粉砕、信長(偽)も光の粒子となっていく。

 

 「我が野望は成就せず・・・か・・・わしが描き見た景色よりも面白いのか・・・カルデア、は・・・・もう一人のわしよ。なら、わしの分まで楽しみ・・・ぬけ・・・」

 

 「もう一人の織田信長の消失を確認。・・・・・・これで、終わったのでしょうか?」

 

 『ああ、もうこの特異点も消滅を始めている。お疲れ様。みんな。とりあえずは特異点修復完了。メディアが聖杯の修復を行うそうだし、その聖杯も持って帰ってきて大丈夫だよ』

 

 マシュの疑問を裏付けるように響くロマニの声。そして、特異点消失の前に皆の帰還準備のために準備していくコンソールの音、そして後ろで聞こえるメディアの声を聞きつつ、一行はカルデアに戻っていった。

 

 

 

 

 

 「お疲れ様、みんな。聖杯も確保完了。メディアも問題ないと言っていた。これで改めて第二の特異点に挑めるわけだ。私たちに協力してくれていた信長も何かを企んでいた信長を倒して、特異点の消失もあったか本来の力。でいいのかな? を取り戻したし万々歳」

 

 いくらかの収穫を手元にレイシフトを終えて戻ってきたカルデアの面々をねぎらうダ・ヴィンチちゃんとオルガマリー。

 

 「けど、一つの問題が残ったのとできれば私たちの疑問に答えてほしいわ。華奈。あ、ロマニは皆のメディカルチェックの準備で忙しいから今はいないわ。最初の問題だけど・・・」

 

 が、二人とも笑顔、の直後に少し困った顔を浮かべ、オルガマリーが右手を上げるとダンカンと銀嶺隊。そして、その後ろをついてくる数十人のちびノブたち。あの特異点の消失後なのにもかかわらず残っていることもそうだか、纏っている空気が敵対、恐怖のそれではなく、尊敬、憧れといったものかもしだしているのがわかる。というよりも、なぜか瞳がキラキラしているのがわかってしまう。

 

 「あなたたちに仕えたいとこの子たちが言ってきたのよ。なぜか消滅もしないで・・・本気で敵意がないみたいだし・・・無下にするのもあれだし・・・どう・・・?」

 

 「どうと言われましても・・・あー・・・ダンカン。理由わかります?」

 

 思わぬことにさすがに全員が頭を抱え、華奈にストーム1ですらも訳が分からないよとダンカンに理由を求めるとダンカンも苦笑し話始める。

 

 「ほら、最初に来た連中、図書館にまとめたりしたでしょ? だんだん敵意がなくなったのがわかったり、以外と話せるものだからと紫式部さんが大将たちの話と映像交えて話していたら仕えてみたくなった。だって」

 

 「あ、わしとおんなじ感じか。わしもフランスでプロテウスとタイタンが黒い竜に立ち向かったり、いろいろ面白い兵器を使うのがいいねと思ってきたわけじゃし」

 

 「はぁ・・・でしたら、黒介の部隊直下の騎兵隊ならぬ猪ライダー隊に組み込んで火縄銃を活かした竜騎兵。平時はカルデアの清掃要員。後は畑の管理をしてもらいましょう。お給料と福利厚生はおいおい相談して決めますのでそのつもりで。それまではお仕事なし、花子からカルデアの案内と休憩してください。・・・でいいですか?」

 

 「「ノブー!」」

 

 華奈の採用、および今後の対応に喜びの声をあげてはしゃぐちびノブたち。実際にカルデア内部で銀嶺隊にストーム1、エミヤに用意させた火器の訓練。および数の補充を行ってはいるがいきなり火縄銃を使える上に小柄で銀嶺の魔獣たちに乗せやすい、意思疎通も可能な兵士が数十と手に入るという大きな収穫に華奈も内心喜び、そして新しい人手の研修と掃除や警備のシフトの組み込みにどうしたものかと思考を一部巡らせていく。

 

 「うんうん。私たちからしてもあの子たちは害はなさそうだと感じていたからいいとして、次はだけど、華奈、どうやって信長の本物と偽物に気づいたんだい?」

 

 「あ、そうよ。どうやったの? カルデアから高性能の機器を持っていたわけでもないし、アルトリアから何か預かっていたわけじゃないでしょう?」

 

 思考を遮るようにダ・ヴィンチちゃんたちが話したかったもう一つの疑問。信長の入れ替わりをいかにして気づいたか。これの疑問に関してはクスリとほほ笑み、懐から一つのものを取り出す。

 

 「あれ? それって・・・」

 

 「私たちがお小遣い貰った時のきんちゃく袋・・・?」

 

 「この中に英霊でも嗅覚の鋭い方じゃないとわからないくらい少量の香木を混ぜ込んでいまして、ハチと私で匂いで識別して持っていなければ何かあった。持っていればよし。皆様の匂いだけ、きんちゃくだけではこれまた何かあったと判断できる材料にできるので用意しました。やはりバラバラに動くので、カルデアのバックアップ以外でも必要そうだと判断しましたが、良かったですよ」

 

 魔獣、しかも嗅覚に優れた狼、猪たちを呼べるゆえの強みを活かしたアイデアに一同感心し、きんちゃくをもらったメンバーは思わず裏返したりして香木を探し始めたりも。

 

 「へえー! 面白い使い方をするのですね! でも、それだけでノブを倒すと判断したのですか?」

 

 「いえ、先ほどのちびノブに、戦国武将の因子を組み込まれた英霊たちもそうだったのですが、あの特異点の敵を倒したり、食べ物を飲み食いしても信長様の力は戻らなかったのでやっぱり聖杯に力が残ったか、もしくはその力の暴走とか起きていそうだなあと。ロマニ様、良馬様たちにカルデアから観測していた信長様の力のデータの推移を聞いたりして半分確信、そして最後の聖杯への目で理解しました」

 

 「そういえば、信長も最初聖杯の爆発が原因で力がほとんどないと言っていましたね・・・作戦立案やらうるさいので忘れていましたよ」

 

 「戦国武将に仕えた密偵・・・ニンジャでしたっけ? がいたかもですし、街なんてそれこそ暗殺にはうってつけですものね」

 

 今度はボード上の電子端末を出して良馬、ロマニの両方に頼んでいた観測のログと信長の霊基の推移と変化。最後の信長(偽)を倒すまでは一向に変化のない状態が続き、武将を倒しても、ちびノブを軍ごと吹っ飛ばしても変化のないことを示していた。

 

 「今はこうして戻っているが、力の大半がまさかああも暴走するとは思わなかった・・・いや、わしならやっていたかもなあ。ま、ともあれ、じゃ。華奈先輩、カルデアの皆の衆」

 

 聖杯を手土産にしようとしたら爆発を起こし、あまつさえ自身の力の大半が暴走するという珍事にすらもやりかねないと言ってみせる戦国の風雲児信長。改めて気を引き締め、華奈たちと向かい合う形になると兜化防止かわからないものを脱ぎ、頭を下げる。

 

 「迷惑をかけ、多くの助力を得ての結果になってしまったが、この織田信長、華奈先輩とストーム1の戦いぶりに感服し、ともに戦いたいとはせ参じた次第。聖杯を手土産じゃが、どうかこのカルデアに置いてもらえんかの?」

 

 「あ、わ、私も。新選組隊長の一人沖田総司。私も人理修復の戦いにぜひとも参加できれば! お役に立って見せます」

 

沖田もつられて頭を下げ、改めて、カルデアへの参加を頼む。日本でも指折りの知名度を誇る戦国大名と幕末の天才剣士が戦力として加わる。これほどの頼み、しかも聖杯を用意するほどの意気込みとなれば断る理由が思い浮かぶわけもなく、蹴る気持ちもない。

 

 「私は構わないわ。カルデアの戦力増強は助かるし、聖杯までくれるなんて願ったりかなったりよ。誰と契約するかは華奈に任せる。私は元に部屋の手配と、メディアさんの様子とトレーニングしてくるから、これで失礼するわ」

 

 「了解ですオルガマリー様。では、早速契約してお二人とも改めてカルデアの見学と休憩にしましょうか」

 

 オルガマリーと華奈は二つ返事で了承。新たな戦力の増加に周りもにわかに騒がしくなり、この決定を喜んでいることがわかる。華奈の言葉を聞いた後でオルガマリーはその場を離れ、レポートに目を通しつつ別のことに意識を向け始めている。

 

 それを見送った信長らは一安心と息を吐き。

 

 「じゃ、契約と行こうかな? わしは・・・あえて藤丸立香を選ぶぜ!」

 

 神妙な空気から一変。藤丸をズビシと指さして契約相手を英霊が選ぶということを始めた。

 

 「ええ・・・? お、俺ですか? 華奈さんたちに興味が出てここまで来たのにいいんですか?」

 

 「構わん構わん。同じカルデアで前線で暴れるマスター同士だから一緒に戦えるし、武器は前もって借りればいい。それに? わしもやりたいことが出来たし。ちょうどいいかなって~」

 

 当然困惑する藤丸。まだ少ししかかかわっていないが新しもの好きで華奈たちの武装や意見を興味津々にしていた信長だからすぐさま華奈たちと契約すると思えばまさかの自分。マスターとしても魔術師としても駆け出しとも呼べない自分をなぜ選ぶのか。

 

 信長は一緒に戦うしと軽いノリで言っているがその目は本気だと訴えており、どうにも冗談の類ではないと感じさせる。

 

 「ほれ、ねねのように若い才能を育ててみるのも面白そうじゃとな。ついでに一緒に銃についての訓練もできるから拳銃訓練生の同期じゃ同期。それにこの信長がいれば援護射撃は満足なものを約束しちゃうぞ! ほれほれ、この一級サーヴァントと今なら契約すると言えばただで契約できるんじゃ、手を出せい。アクするんじゃよ~」

 

 (それにまあ。どうにも藤丸と契約している英霊には戦の経験が浅い、戦略家がいないっぽいからのお・・・負け戦からの立て直しも多くしているし、将器を磨きながら緊急時のアドリブをできるようにしておきたい。わしのスキルなら大物食いもできるし、近代の英霊ならそもそも火縄銃の火力で足止めもできる・・・)

 

 軽い口調で藤丸に契約を迫る中で、今後の戦略、配分について自分が入ることに思考を巡らせる信長。特異点での移動中に聞いた契約している英霊。ジャンヌオルタにマシュも強い、竜の力を使える上に藤丸への忠誠度ならぴか一の清姫に、神話の頂点にして火力に偵察と万能なクー・フーリン。

 

 一見強力だが、戦場の経験がないいいとこのお嬢様の清姫に、ゲッシュでの弱点もあるので気を配らなければいけないクー・フーリン。うまく戦力を十二分に活かし続けるための采配。将の将たる目を養いたいという目的からもくる藤丸を選んだ理由だった。

 

 「で、では・・・契約を・・・あの信長と一緒に戦えるなんて俺・・・まだ理解ができてないかも・・・?」

 

 「そうじゃろうそうじゃろ! なんたって日本最強の武将であるわしだからネ! 夢じゃないと後で花押やろうか? ん? さて、さっそくカルデア巡り、案内せい!」

 

 「あ、先輩! 信長さん。私も」

 

 無事に信長との契約は完了。そのままの勢いで藤丸の腕を引っ張って見学へと乗り出す信長と、半ば引きずられる藤丸にそれを追いかけるマシュ。

 

 「おいおい、マシュはメディカルチェックと治療の時間もあるってのに。あ、私もマシュを捕まえてから持ってきてくれた魔力リソースの備蓄配分とかあるからここでチャオ~♪」

 

 「ふぅ・・・私は食堂で甘味でも取って休みます。じゃ」

 

 そのマシュを追いかけるためにこれまた走っていくダ・ヴィンチちゃんに半ばあきれた様子でその場を離れていくジャンヌオルタ。

 

 とりあえずは信長もすぐにカルデアになじむだろうと残ったメンバーも見送り、今度は沖田に視線を向ける。

 

 「では、沖田様は私と契約しますか?」

 

 「は、はい! 華奈さんと一緒に戦えるのはうれしいので是非!」

 

 沖田のほうもまんざらではなさそう。むしろ嬉しさも感じる笑顔で答えるので華奈も微笑み返し、令呪のある右手で沖田の手を取って契約を行使。魔力のラインがつながったことを確認して手を放しクスリとほほ笑む。

 

 「っふふ。頼もしい方が来てくれましたよ」

 

 「むぅ~・・・・・・姉上・・私情もありますが、大丈夫なのですか? 私に張り合う剣の腕は認めますが、いつ血反吐吐いて倒れかねない爆弾を抱える貧弱ぶりは問題ですよ? ジークフリートにストーム1もいるのですしこれ以上前線を分厚くしても・・・」

 

 「まあまあ、マスターがうれしいと思っているし、必要な力だろ。アルトリア、食べ損ねた甘味をエミヤが作ってくれているそうだ。俺らも食べに行こう。今休まないとまた次の特異点で疲れが出るぞ」

 

 ほほを膨らませ、新しいセイバー、自分にそっくりレベルで似ている沖田の加入に少し不満があるアルトリアを引きずってストーム1も移動。

 

 「行きましたかあ・・・ま、アルトリア様もしばらくすれば慣れるでしょう。沖田様。これを飲んでもらっていいですか?」

 

 ずるずると後ろ髪を引かれる想いの表情で連れていかれるアルトリアの顔を苦笑しつつ、華奈も自分の用件を終わらせるために懐から小さな小瓶を一本渡す。緑色の液体で満たされた金色の小瓶。光を受けてキラキラと神秘的な輝きを放ち、二人の視界に色を付ける。

 

 「あの・・・これ、は・・・? その、すごく奇麗ですが・・・」

 

 「英雄王から頂戴いたしました霊薬。英霊だろうと神様だろうと持っている病魔をたちどころに癒すものです。・・・・・・・・・これを、安物と言って2本渡すあたり流石としか」

 

 おそらくは世界中の王侯貴族、為政者、権力者が聞けばこれを争ってむしろ自身の寿命を縮めそうな代物。最初は興味深げに眺めていた沖田もそれを聞くと思わず素手で触れていいのかと瓶を手放し、そこからハッと我に返ってまた持ち直す。

 

 ついでにその一瞬で微笑んでいた華奈の精神疲労も一瞬で疲れ、冷や汗流していたのはご愛敬。英雄王から賭けまでいただいたもの。万が一無駄にしてしまえば今度で会った際に何を言われるやら、肝が凍り付いて砕かれそうな思いだった。

 

 「は・・・し、神話レベルの霊薬・・!? で、でもなんでそれを沖田さんに・・・ッ!! の、飲めというのでしょうか・・・?」

 

 「はい。大きなお世話かもですが、貴女様のあの鋭い剣技、市街戦の経験も多く積んだ私たちにはあまりない経験。陽気さは皆の助けとなるでしょう。私も日ノ本をよく知る身ですし、貴女とも一緒に最後まで戦いたいのです。・・・受けて、くださいますか?」

 

 「っ・・・・・・・!」

 

 華奈の言葉を聞いて沖田は思わぬ胸を締め付ける想い、嬉しさから来る感情で思わず便を握りしめ、そして光り輝く霊薬をじっと眺める。沖田が望むのは『最後まで戦い抜くこと』。生前の病は英霊になってもなお蝕み、今回の戦いでも終盤まで碌な戦功をあげられなかった。

 

 けど、この薬を飲めばきっともどかしく、憎らしいこの病から解き放たれ、戦場で刀を振るえる。仲間と最後まで戦うことが出来る。しかもその戦場は人類史、徳川幕府どころでも、日ノ本だけでもない、戦士なら燃え上がるであろう世界を文字通り救うための戦いに行ける。その道を歩むための切符にも等しい薬を自分と契約してくれた女性から渡されている。これほどの嬉しい気持ちに包まれたのはいつ以来だろうか。

 

 「・・・・はい。新選組の一番隊隊長として、私個人としてもお受けします! では、華奈さん。失礼!」

 

 その思いに従い、瓶のふたを外して中身を一気に飲み干し、とても薬とは思えないほどの甘露と言える味を舌で感じ、一滴残らず飲み切ってしばらく。

 

 「・・・・・・・身体が・・・うーん? 少し、軽くなって・・だるさがないような」

 

 「どれどれ・・・・・・? あ、消えていますね。スキル、病弱が。ふふふ。おめでとうございます。沖田様。改めて、これからもお願いしますね」

 

 マスターの英霊の力量、パラメーターを見れる契約者の視点から沖田のスキルなどを除くと見事に病弱は消え去り、体力、耐久の低さは変わらないが少なくとも病魔に怯えることのなくなったことが確定。

 

 「はい!!! この沖田総司、華奈さんのために最後まで戦って人類も全部救っちゃいます! 期待してくださいね? なにせ、私天才剣士ですから!」

 

 「っうふふ。それはもちろん。では、少し遅れましたがカルデアの見学と参りましょう。快気祝い、病気の治療祝いとしておいしいご飯も作りますから、楽しみにしていてくださいね?」

 

 嬉し涙を流しながら大はしゃぎする沖田の頭を優しくなで、そっと背中を押しながらカルデアの見学へと足を運ぶ華奈。

 

 その後は元、ロマニたちの二重のチェックでも改めて病弱のスキルがなくなったと報告されてまた沖田がうれしさで大はしゃぎしたり、食堂で今までの分食べると甘味をありったけ注文したので女性職員や銀嶺の女性騎士交えた賑やかな女子会が開かれたりと一種のお祭りのような騒ぎになった。




華奈「ふぅ・・・よいしょっと・・・寝ちゃいましたか」
(沖田を背負って自室のベッドに寝かせる)

紫式部「ふふ・・・思いきりはしゃいでいましたものね、華奈様のおかげですよ。この子がここまで笑顔なのも」
(寝ている沖田のほほを撫でる)

華奈「私はただ英雄王がいたので頼んで戦っただけですよ。部屋割り、まだ決まっていなかったのとリクエストも出ていないのでもう数日・・・次の特異点に行っている間でしょうかね。部屋をご用意できるのは」

紫式部「ああ、そういえばすぐでしたか・・・私も、必要でしょうか?」

華奈「まだわかりません。ですが、その時はヤマジかアンナ様の部隊に護衛させておきます。・・・そうでした。香子様。ありがとうございました。ちびノブたちの参加。あれは今後も大きいでしょう」

紫式部「そんな・・・華奈様達がこれまで頑張ったことを私は話しただけですよ? 私なんてとてもとても」

華奈「話せる、まとめられる手腕があってこそです。ふふ・・・思わぬ拾い物でした。ふわぁ・・・・もう、休みましょう・・・」

紫式部「ですね・・・もう夜も遅いですし。ご一緒、してもよろしいでしょうか?」

華奈「ええ。いいですよ。では、おやすみなさいませ。土産話は、今度ですね」

紫式部「おやすみなさいませ・・・楽しみにしています」
(沖田を挟むようにして就寝)



信長を縛った縄にゴムがあるのは力任せに引きちぎられないためです。ゴムなら伸びて元に戻せるので縄が切れても大丈夫かなと。

沖田さんの病気は英雄王の霊薬で治療完了。あの方の蔵は本当に何でも入っていてもおかしくないのがすごすぎです。沖田さんの魅力を削ったかもしれないですが、原作でもあと一歩のところで病弱で負けそうになったりでリスキーすぎるスキルなのでさすがに治すことに。

申し訳ありませんでした。

ちびノブらはドラグナーとして今後もちょこちょこ出番はありそうです。

次回あたりからローマに向けた動き。仕事の疲れやら休みがまとまって取れないこともありうまく書けずに申し訳ありません。それでもよければどうかよろしくお願いします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ハジケ戦争 チート国家ローマ
ローマへお買い物。お目当ては布


アルトリア「あれ・・・あれ・・・っ・・・?」

華奈「ん? どうしましたか?」
(地球防衛軍シリーズプレイ中)

オルガマリー「あ、いまよ! ここで空爆を指示すれば・・・やった!」

紫式部「あわわわっ!? ふぇ、フェンサーの操作難しい・・・」

沖田「あ、紫式部さんが爆撃に巻き込まれてやられちゃいました」

ジャンヌ「エアレイダーも面白そうですね。華奈さんが使うレンジャーでの狙撃、対空特化も面白そうですが」

アルトリア「どうしましょう・・・うーん・・・一度家に帰るか・・・」

華奈「ほえ? それほどですか? 何があったのですか?」
(ステージクリア後にジャンヌにコントローラーを渡す)

アルトリア「実は・・・」


~図書館~

ストーム1「よーし。今日はリボルバータイプの拳銃の分解清掃。藤丸は前が5分くらいだったか。次の目標は4分30秒を目指していこう」

藤丸「お願いします」

信長「おお、火縄銃よりは細かいが簡単なものじゃ。どれ、わしと競争するぞ藤丸!」

クー・フーリン「お、よし。賭けるか。俺、信長に昼飯のおかず一つ」

ジークフリート「・・・じゃあ、俺は藤丸に先ほど収穫できた二十日大根を二つ賭けよう。すきにもらっていいと言っていたしな」


~図書館~

ヤマジ「というわけで、これが要塞のもたらす利点と、立てる場所についての選別のコツだな。第一次世界大戦で野砲、大砲の発展で要塞の価値は崩れたとされるが、その第一次大戦のヴェルダンで再度評価されたりとするあたり、いかに守る施設を用意することの大切さがわかるというものだ」

ジャンヌオルタ「ふぅん・・・要塞の価値がなくなる・・・大砲の登場って本当に画期的だったのね」

ヤマジ「今でも有効ではあるだろうが、火器、武器の真価の前では少し難しい部分もあるからな。ま、砦などの施設を活かした戦いの大変さと便利さは信長と大将がよく理解している。暇な時に聞けばいい」

ジャンヌオルタ「・・・考えておくわ。それじゃ」


~治療室~

マシュ「・・・本当ですか?」

咲「う、うん。マシュの寿命、今は倍以上の40歳まで伸びているよ。あと、英霊の力を行使した後の肉体の疲労度合いも少しづつ軽くなってる」

フラム「このままいけばあとひと月でも過ぎるころには負担の軽減もあってより寿命を延ばせるわ。神代の英霊の英知と武装の結晶。現代科学の粋を尽くせばこうもできるのね」

マシュ「夢のようです! 長生きできるだけじゃなくて、英霊の力もより使えるようになるなんて」

フラム「けど、油断は禁物。今から特異点攻略だし、少しでも疲労が残るのを感じたら言ってちょうだい。薬や治療魔術の用意とかできるし」

咲「その時には大変な状態かもだしね。マシュは、我慢しちゃうから」

~ダ・ヴィンチちゃんのアトリエ~

ダ・ヴィンチちゃん「というわけでね。もろい、極小の特異点からならいくらかの魔力リソースを手にすることが出来るようになったよ。アルトリアの持つ宇宙航行技術の一部も応用できたし、これならカルデアのシバのレベルも高くできる」

ロマニ「ふむふむ・・・これ、本当かい!? リソースも今のカルデアに英霊をもう数騎呼んでも維持できそうだし、演算技術も40%上昇!?」

ダ・ヴィンチちゃん「しかも、だ。演算技術はまだグレードをあげられるけど、今はこちらのシステムを理解したいとのことでお試しの軽め物で。と来た。妖精郷という神代の時代が続く場所で、他の宇宙、技術を吸収しているから、ある意味カルデアの先輩みたいなものなのかもね」

ロマニ「そういえば、トウモロコシを出荷した帰りだったっけ。ここに来たの。親御さん、甥っ子(ガヴェイン達)や姪っ子(ガレス達)に連絡入れたのかな? いや、ここまで時間すぎていて今更な疑問だけど」

ダ・ヴィンチちゃん「大丈夫みたい。むしろ姉のモルガンから『お姉さまの手伝い頑張っちゃいなさい。今から畑も休ませるし、気にせずに』ってメール来たんだって。しかも魔力リソースたっぷりの宝石付きで」

ロマニ「本当は今すぐに本人も来たいだろうに。いいお姉さんだね」


 「今回の特異点ローマでは下着も用意しましょう。皆様の服も一緒に」 

 

 特異点出発前のミーティングで出た一見ふざけた発言。それは、思わぬ一言から始まった目的だった。

 

 

 

 

 

 「ぶ、ブラがきついです・・・」

 

 「・・・え? あー・・・そうでした。あれが今治療用のポッドにありますから」

 

 ゲームをワイワイみんなで集まって楽しんでいる中、アルトリアのふとした発言。ブリテン時代からうら若い乙女の肉体を英霊でもないのに1500年以上維持できていたのはモルガンらのような神霊の側面でもなく、竜の因子でもなければ聖剣エクスカリバーの鞘、アヴァロンの効果によるもの。

 

 持ち主の傷をいやして老化を停滞させる不老不死と無限の治癒力をもたらす最大級の盾とも扱えるであろう鞘を常に肌身離さず持っていたアルトリア。しかし、このカルデアにてマシュの延命治療。英霊の力を振るえるようにするための体質改善のためにと治療用ポッドに組み込んでしばらく経つ。

 

 数時間、数十分ならまだしも数日、数週間ともなればアルトリアの肉体は止まっていた成長を再開し、必然その成長に下着が追い付かないということだった。

 

 「では、下着を用意・・・出来ないんでしたっけ。確か、大爆発とか何とかで」

 

 「ええ・・・私も確認はしたけど、衣服の予備ももうほとんどないし、男物ばっかりで」

 

 ならばと思考を練るも壁にぶち当たる紫式部と、もうカルデアには衣類の予備もあらかた先の爆破テロで燃え尽き、職員らもどうにか残ってた2,3着の服と下着を使いまわして生活している始末。かくいうオルガマリーも今着けている服、基礼装も聖杯で一緒についてきたがこれ以外は簡素なシャツとスカートくらい。

 

 「さすがに他の職員に貸してくれと頼んではあちらも大変でしょうし、私のものはいくらか予備がありますが・・・ひゃっ!」

 

 「やめてください。姉上と私の格差を改めて思い知っていろいろ追い打ちをもらいそうです・・・こうして抱きしめる分にはいいのに・・・うぅ」

 

 華奈の下着を借りようにも、少女の肉体が成長を始めたばかりのアルトリアと、成熟し、見事な肢体を持つ華奈ではサイズも合わないどころかむしろ付けたほうが邪魔なレベル。少し涙目になりながらアルトリアは華奈の胸を両手でむんずとつかみ、右ほほをくっつけて息を吐く。

 

 「ん~・・・と、なれば現地での調達。前回のように特異点での回収や、資材をもとに作るべきでしょうか? 聖杯は使用は基本厳禁ですし」

 

 「華奈さんの部隊は確か衣服、装備に関して明るい部隊がいるとか。それで安全な場所で皆様の衣服や下着を用意できればいいのでしょうけども・・・」

 

 「ん・・くっ・・・じゃ、そうしましょうか」

 

 「「「「え?」」」」

 

 少しほほを赤らめた華奈の発言に一同目を向け、そして疑問の声が上がる。

 

 

 

 

 「結局。勝負は流れてしまったな」

 

 「まさかのアナウンスで中止はしょうがねえよ。特異点に行けるそうだし、今度は首取り勝負でもするか?」

 

 「完成はしたしいいんじゃないかな。それと、物騒な勝負はやめてね?」

 

 「いいじゃないか。そういうもののふがいてこそ戦は成り立つものじゃ。ストーム1も用意しに戻ったし、楽しみじゃよう~♪」

 

 特異点観測、およびレイシフトの準備ができたということで解体清掃の練習は途中で切り上げてブリーフィングルームに移動してきたジークフリート、クー・フーリン、藤丸、信長。信長は勝負の決着こそつかなかったがストーム1から借りたMA9スレイドをほおずりして微笑む。

 

 藤丸は二丁の拳銃を腰に差し、予備の弾薬をチェックし、礼装の中、胸の内ポケットの中に忍ばせておく。

 

 

 「お、お待たせしました。マシュ・キリエライト。いつでも特異点に行けます!」

 

 そこに盾を構え、戦闘態勢を整えたマシュもイキイキとブリーフィングルームに入ってくる。しっかりと休養を取り、そしてこれからのことが明るくなるような話を聞いたせいかいつもよりも笑顔が明るく、皆に頭を下げていく。

 

 「おっ、嬢ちゃん。もう準備できているのか。張り切っているな」

 

 「マシュもやる気満々。藤丸も安心して構えていられるのお」

 

 「うん。すごく頼もしいよ。マシュがいるなら安心だし」

 

 信長らもマシュの笑顔につられてからからと笑い、藤丸も柔和な笑顔でマシュに微笑みかける。その笑顔にマシュはほほが赤くなっていき、少しドギマギとした様子を見せ、なにやら甘い空気が二人の間に渦巻く。

 

 「・・・これが、青春という奴だろうか?」

 

 「おそらくは。お待たせしました。準備できましたよ」

 

 「おまたせー。お、マスターもちょうど今か。奇遇だな」

 

 若い二人の様子に静かに笑うジークフリートに応えながら華奈、ストーム1。そして沖田、アルトリア、ジャンヌ、オルガマリー、紫式部もぞろぞろとブリーフィングルームに入り、華奈は早速お茶を人数分用意。

 

 「特異点、でしたか。次はどこでしたか」

 

 ジャンヌオルタとロマニ、ダ・ヴィンチちゃんカルデアのも入ってくることでメンバーはそろい、各々が席に座り出されたお茶をすすりながらロマニの声に意識を向ける。

 

 「さて、早速だが、今から向かう特異点の時代、場所は紀元1世紀。ローマになる」

 

 「カルデアの観測精度も少し上がってね。どうにも今回は戦争中のローマに入ることとなるかもだが、戦、荒事ならむしろ君たちの得意分野だし、将帥の加勢はうまくいけば現地の力を借りることも可能かもしれない」

 

 「うまくいくかは別として、可能性の一つとして考えておいて損はなさそうですね」

 

 明かされる特異点。ローマ。これには一同声を上げ、同時に少し浮足立つものも出てくる。全ての道はローマに通ず。とまで言われるほどの高い文化を持ち、水道整備、清潔への理解。石を使った建築物は数千年たってもなお形を残すほどの強度、完成度を誇る。

 

 美食については自身で調味料を作り、染織物などできらびやかな服飾もある。後世の国もローマの子孫、後継者と自負する国がいくつも出てくることを考えれば誰もが憧れ、追い付こうとしたのも納得の国だ。

 

 「それで、今回も藤丸君、華奈で出発。また現れた異常を排除していってくれたら」

 

 「あ、それなんですが、実は二つほど私からの提案があるのですが」

 

 「ん? 華奈からの提案? まあ、いいけど。どんなものだい」

 

 「今回の特異点ローマでは下着も用意しましょう。皆様の服の予備も含めて」

 

 この発言に何名かは茶を吹き出して机や床を汚し、あるいはむせる。思考が追い付かずに固まるものと様々。サキに話を聞いていたメンバーはこめかみを抑えるオルガマリー以外は皆の反応に「やっぱりか」と言いたげな表情を浮かべ、ロマニは驚きで目を見開き、ダ・ヴィンチちゃんは大爆笑。

 

 何が起こるかわからず、イレギュラーだらけの特異点でのまさかの服飾の用意という提案はさすがに予想外だった様子。

 

 いろいろと緊張感が吹き飛んでしまうことに。

 

 「いやいやいや! なんでそこで下着!? 僕たち買い出しに行くわけじゃないんだよ!?」

 

 「お、なら俺はアロハシャツとか欲しいな。通気性のいい奴」

 

 「あっはっははははは!! アハハハハハ!!! で、り、理由は何だい・・・? ひぃ・・ひぃ・・・腹が痛い」

 

 「いえ、例の爆破テロで皆様の服や礼装もあらかた燃えちゃったでしょう? 洗濯や浄化の術式などで対処しているのですがやはり幾分かの余裕は欲しいですし、この際職員の安全対策のための礼装なども用意できればと。この前のちびノブ襲撃事件もあったでしょう?」

 

 つい先日に起きた思わぬ特異点攻略。そしてカルデアへの侵入者。とっさに銀嶺隊が対処できたからいいものの、やはりカルデア職員の最低限の備えも欲しいという考えがある。対策は講じたとはいえ、緊急時に備えたいと思うのは人情というもの。

 

 「あれに備えられる礼装と、新しい服で気持ちの余裕と清潔の維持。服の用意に関してはアンナ様、ダンカンの部隊を用意します。ブリテン、オークニーの中でも指折りの魔術師がいる部隊に最前線で暴れまわるせいで服の補修とか慣れている部隊。礼装も、服もいいものを用意できますよ」

 

 「姉上の部隊は鎧も礼装も道具も自給自足でしたから、品質はいいものができると思いますよ」

 

 アーサー王の太鼓判つき。しかも神代の魔術師がこさえてくれる礼装に服。ともあればカルデア職員の反対も起きず、ロマニたちも安全性の考慮から頷く。

 

 (この経験と下地をもとに藤丸君の礼装も用意できそうだし、何着か同じもの、少し指向性を変えたものを用意してもらえば楽に礼装を量産できちゃうなー♪ いい提案、アイデアをくれたね)

 

 「で、もう一つは何ですか? 確か、もう一つ提案があるとか言っていたじゃない。ろくでもない提案なのはおおよそわかりますが」

 

 礼装の下地をもとに専用の装備を考えていくダ・ヴィンチちゃんとは別にもう一つの華奈の提案を聞いてくるジャンヌオルタ。相変わらずふざけた提案だが面白いという目を見せながら次のアイデアはどんなヘンテコなのかと聞きたいのか、少し食い気味だ。

 

 「ああ、もう一つは、もし私たちが時の権力者と協力するのであれば、オルガマリー様もレイシフトして長として交渉。できればそのまま当時の魔術の知識や為政者の姿を肌で感じ、学べないかと。ぶっちゃけ、オルガマリー様の参加と、戦力の補強を兼ねた勉強会です」

 

「わ、私も・・・!? た、確かに今はエミヤとジャンヌがいるけども・・・」

 

 「ふぅむ。2000年くらい前の魔術、それもローマと一緒に消えた魔術か・・・俺はあまり詳しくないが、それって結構貴重なものじゃないか?」

 

 再びあの過酷すぎる特異点にいかないかという誘いに驚き、どうしたものかと考えるオルガマリー。行きたくないというのが本音。一度死んだ上に、自身はカルデアの長。華奈、藤丸らに万が一があった時の備えという意味でもここに残るのがいいとは思う。

 

 けど、同時に命の恩人である上に信頼できる武官の華奈の提案、ストーム1の言うように魔術師としては2000年前ほどの世界の魔術を知る機会。魅力的な話に自分も英霊を2騎契約している。前とは自分含めて動ける状況である部分もある。

 

 (実際に英霊の力を使える私と英霊たちの戦力の追加でローマの攻略を早くできるかもだし、魔術師としては最高すぎる勉強の機会。怖いのは確かだけど・・・)

 

 「・・・わかりました。今回は私も必要であればレイシフトします」

 

 勇気を振り絞り、自身も今回必要であればレイシフトをすると決めたオルガマリー。手は震えているし、冷や汗も流している。けど、目は強い光をともして嘘ではないとわかるほど。

 

 前までのヒステリックかつ余裕もないオルガマリーを知っていたカルデアの面々からすれば改めて彼女の成長に驚きと喜びの声が上がるも

 

 「ただし・・・! 銀嶺隊は最低でも200はカルデアに残すこと。アルトリアと紫式部を必要であれば私の護衛につけて。まだ私も怖い部分はあるの・・・いい?」

 

 オルガマリーの声で遮られ、しっかりと自身を守るように念を押す。それでもオルガマリーの加勢はうれしいものであり、またそこかしこで嬉しそうな声が上がる。

 

 「ふむ。カルデアの所長ですから妥当ですね。姉上。私は問題ないです」

 

 「私も。むしろ一緒にローマの勉強ができるかもなんて素敵なお話。喜んでお受けします!」

 

 「了解です。ではアルトリア様と香子様を護衛に。銀嶺隊は人を多めに残しておきます。私たちがレイシフト中でもカルデアの生活を維持できるようにはしないといけませんものね」

 

 アルトリア、紫式部の了承をいただき華奈のほうも確認するように応える。その声を聞くやヤマジたちはすぐに部隊からそれぞれ掃除や雑事を担当している兵士たちに声をかけて当番の割り振りを開始。

 

 「よし。じゃあ、早速ローマにきみたちを送り込もう。目標は特異点の修正、聖杯確保と、下着、服飾の用意。シバの演算システムやモロモロも向上しているから私としてはローマの書物も写しを用意してほしいな!」

 

 「・・・なんだか余計なものが入った気もするけど・・・今回は所長の出る可能性も含めてカルデアの総力をあげた特異点攻略。何が起こるかもわからないしみんな気合を入れてほしい。レオナルドも言っていたけどカルデアのシステムもレベルアップしたからいろいろ補助の幅も広がるとは思う。安心して戦ってきてほしい」

 

 「ローマへの出立を許可します。華奈、藤丸。英霊のみんな。勝利をつかんで無事に帰還すること。そして、必要であれば私を呼ぶこと。このオルガマリー・アムニスフィアが命じます。・・・頼んだわよ!」

 

 華奈、藤丸の二人を先頭に契約している英霊。アルトリアたちが次々とコフィンに入り込んでいき、レイシフトは開始される。

 

 「・・・だいぶ成長したね。オルガマリー。前だったら駄々こねて絶対レイシフトなんてしなかったと思うよ」

 

 「そ、そんなことは・・・! あったかもですが・・・でも、藤丸に華奈の姿見ていると、なんかこう・・・負けてられない。って思うのよ・・・それにそれが最善手なら使わないで負けるのは嫌。使える手は使うべきだし・・・私だって、マスターとして頑張りたいもの」

 

 気恥ずかしさをごまかすように髪の毛を指先でくるくると巻いてみたりいじるオルガマリーとそれをほほえましいものを見るように眺めるロマニ。少し前なら絶対に見せない、ありえない様子と成長からくる思い切りの良さと吹っ切れた様子は以前の常に何かを抱えながら怯え、苦しんでいるオルガマリーよりもはるかに輝いているように見え、これからの見通しも不安極まる戦いに少しだけ希望が見えた気分になってしまう。

 

 「まあ、オルガマリーが呼ばれるかはわからないし、今はゆっくり気構えておこう。どうせ華奈たちはあそこでもふざけたことをするだろうから笑える余裕くらいは持っておこうぜ? さて・・・あの人数が一気に人のいる場所に現れては大変だし・・・着地する場所は・・・ここでいいか」

 

 コーヒーをすすりつつもコンソールをふざけた速度で叩いてレイシフトの動作を続けるダ・ヴィンチちゃん。おおよその観測では今回も国が存在し戦争状態。下手な刺激は避けようと適当なポイントへの場所を接続開始。幾分かの気持ちの整理のためにあえて人のいない場所を決定して決定のキーを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・ピクニックにでも行きたいです」

 

 「それ、もう目的地じゃないのか? ここ」

 

 レイシフトを無事に終え、到着したはなだらかな丘陵地。足元でそよ風に揺れる柔らかな草の感触に見晴らしの良い景色。さわやかな青空。そして堂々と空に浮かぶ謎の光輪。

 

 何もない状況ならちょっとした休息地、光輪を眺めつつご飯を食べてもいいかもしれない。けど、ここは特異点。油断できる状況でもなく華奈は早速花子と黒介で索敵を行い、ストーム1はフリージャーの要請を行いつつドゥンケルのスコープで周辺を見渡す。

 

 「うわっ!? 清姫!? いつの間に」

 

 「最初からおりましたよ。作戦には口出しはせずに記録していました。ふふ・・・私はますたぁのおそばに常にいますもの。あの有名なローマへの出立。お供いたします」

 

 「清姫さんがいるのは頼もしいですが、さすがにべったりくっつきすぎでは! ほら、拳銃が危ないですよ」

 

 「どっちの拳銃じゃろうな? ふぅむ・・・スレイド。取り回しはよいな。スコープはないが・・・アーチャーのわしなら裸眼でも行けるか」

 

 「いちゃつくのはいいが、落ち着いてからにしなー。さて、俺も少し様子を見てくる。ジャンヌオルタ、信長。そこの三人を頼む」

 

 いつの間にやら来ていた清姫が藤丸に抱き着いてほおずりし、それにほほを膨らまして抗議するマシュ。ジャンヌオルタはその光景に半ば呆れ、信長は借りた銃の取り回しと射程。どう使っていこうかの再確認。

 

 クー・フーリンはカラカラ笑いつつもあたりへの索敵へと走り始め、安全確保と周辺状況のゲットへと務める。

 

 「・・・というわけで、私と紫式部が護衛についた際は沖田が姉上のそばに。ジークフリートは姉上と藤丸君のサポートについてください。貴方なら安定感がありますし姉上にはストーム1がいますから視界も盾も用意できます。なら、連携を強めようかと」

 

 「どうかお願いいたします。私は荒事はまだ慣れていませんので・・・お二人に最前線をお願いします」

 

 「はい! 沖田さんが矛というわけですね。アルトリアさんの分まで働いちゃいます!」

 

 「ふむ・・・確かに。俺の鎧ならマシュほどではないが守りにはなるし、何かあった時に俺が動くと決めておけば指示も早いしな。了解した」

 

 油断なく周辺を見回しながらも華奈の代わりに自分らの動きの打ち合わせをしていくアルトリア。

 

 すでに何らかの戦いの気配は感じ取っているが、それは少し離れた場所。再確認と簡単な決め事をしてからのほうがこちらが生き残りやすいし、一度カルデアからの通信が来てからのほうがいい。あちらのバックアップや後方からの視点での状況整理、意見を聞けるほうが思考の硬直もなく柔軟な策を打てるというもの。

 

 索敵も既にしているのならこちらはその後のことを考えておく。

 

 『よし、みんな離れてはいないようだね。無事にレイシフトも完了。紀元1世紀のローマ・・・の少し離れた場所にきみたちはいる。此方からの観測では特に危険な場所もないはずだけど、どうだい?』

 

 少しの間をおいてロマニの声が響き、通信が入ったことを確認する。

 

 「特に問題ないです。が・・・花子と黒介の様子を見るに、少し離れた場所で戦が起こっているようですね。私もかすかに血の匂いを感じます」

 

 『ええ、少し離れた場所で、市街地の近くでしょうか・・・? で軍団同士のぶつかり合いが始まっています。どうにも都市を守っているほうが劣勢。当時のローマの都市、首都を考えれば劣勢なほうが正常なローマだと思われますが・・・』

 

 「後は現場の判断でというわけですね。了解です。すぐに向かいます。ストーム、足は用意できましたか?」

 

 索敵も周辺は問題なし。ただ、少し先で早速今回の特異点のゆがみを知ることが出来るかもしれない戦場があることを確認。華奈もそれを聞くとストーム1に視線を移し、動く旨を声に乗せておく。

 

 「ばっちりだぜ。とりあえずはフリージャー3セット。俺はその後軽量アーマーに着替えたから走って移動できる」

 

 「私も・・・今回は騎馬にしましょうか。軍馬をとりあえず数頭。アルトリア様に沖田様。ジークフリート様など騎乗スキル持ち、もしくは慣れている方はお乗りください。慣れていない方は慣れている方の背中か、前に座ってください。香子様は・・・栗毛に乗りましょうか。私の背中につかまってください」

 

 黒介と花子を一度戻らせ、今度は軍馬を数頭呼び出して一同の足を用意していく華奈。自身は栗毛に紫式部を乗せ、自分も騎馬してしっかりと腰に手を回させる。

 

 「よっしゃ。じゃあ出発だ。俺が後ろを守るからみんな気にせず進んでくれ」

 

 「あ、私も馬の使い方がわかる・・・というか懐かしい・・・? 先輩、私につかまってください」

 

 「あ、うん・・・じゃあ、失礼するね」

 

 「むぅ・・・わたくしが馬を扱えたら・・・」

 

 「へいへい。今度練習してから誘えばいいさ。ほれ、仲良く乗ってろ。俺がリードしてやるから」

 

 「素直な馬ね・・・相当に戦い抜いたのでしょうけど」

 

 「おーいい目をしている。わしの愛馬にしたいくらいじゃ。さ、出発じゃあ!」

 

 ワイワイガヤガヤと会話の途切れない一行を華奈とアルトリアが先導。ストーム1がしんがりを務める形で近場の戦場に向かって出発開始。ローマで特異点修復とついでに礼装やら衣服モロモロを手にするために動き始めていく。




???「兵士たちよ今は耐えるのだ! ここを落とされたら都市部や兵糧庫周辺まで一直線! 耐え凌ぎ、援軍が穴を塞いで補強するまで今しばらく踏ん張るのだ! あの都を敵に渡してはならんぞ」


~~

???「■■■!!!!!」

???「くそったれえ!! お前のせいで夢にも骸骨が出るせいで不眠症がひどくなったじゃねえか!」

???「頭を冷やせ! 出すぎだぞ!」

???「この場を数日耐え凌いでいるだけでも奇跡だ・・・! しかし・・・キリがないですね・・・!」

???「いくら怪物駆除になれた俺らでもこの数をこれ以上は・・・!」






はい、ローマ編始まります。今回は目指せ軍紀もの風です。

ちなみにヒロインXのトウモロコシ農家的な扱いは公式でそんなんだとか。

礼装の用意と爆破テロで衣服の予備やら吹っ飛んだのでローマの布やら素材使って用意しようぜなノリで目的追加。原因の一つはアルトリアのアヴァロン貸し出しによるヒロインXからXXへの変化の可能性によるもの。

今回は銀嶺隊も表に多く出て暴れまわらせる予定です。主にヤマジとダンカンはレスリング的な意味でも弾けてもらおうかなあと。

皆様大好きなあの元気な皇帝陛下は次回ご出演予定。しばらくお待ちくだされば幸いです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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皇帝陛下とご拝謁。手土産は首

~カルデア・ちびノブらの詰め所~

~雇用条件~

月収 18万QP(昇給あり、特別手当、賞与、福利厚生あり)

週休三日(各メンバーでおおざっぱな希望シフトの提出求む。 提出期限 2週間後、延長の場合は申し出を)

勤務形態7時間(プラス休憩1時間の計8時間の3交代制) 特異点での戦闘時には変更有

主な勤務内容 特異点での戦闘、カルデア内部の清掃、簡単な通達、物資運搬、戦闘訓練

相談 銀嶺隊隊員、ムニエルへの相談をして用件をまとめた用紙を提出。用紙をコピーしてコピー元を自分で持っておくこと

ちびノブら「・・・ノブー!」

ハチ「わふ・・・?」
(訳 決まったみたい?)

フォウ「キャァーウ。フォウ、フォォォオウ」
(訳 みたいだねえ。うんまあ、いい待遇じゃないかな。手当も弾むだろうし、華奈は基本褒美を惜しまないし・・・というか僕も少し手伝いしたらすごい豪華なご飯食べさせてもらえたっけ)


~メディアのアトリエ~

メディア「下着づくりですって!? 今すぐ特異点の様子をつないで頂戴マスター! セイバーに沖田に信長に・・・ぁああ! 美少女の服作り、下着づくりに何で私をかませないのよ!!」

元「お、落ち着てくださいメディアさん。まずはそれができるかの用意と素材がわからないと作れるわけもないでしょう? それらのめどがついてからお呼びしようかと・・」

メディア「むぐぐ・・・聖杯の私的使用を禁止されているのがつらいわ・・・そうね・・・じゃあ、今は草案でもスケブに書いておいて備えましょう。ああ・・・セイバーやジャンヌの衣装や下着、水着なんかも。うふふふ・・・・」


~食堂~

エミヤ「私も出陣するかもとはな・・・後方勤務でもこの戦いは意義があるものだが・・・年甲斐もなく疼く」

ジャンヌ「おや? エミヤさんも楽しみなのですか?」

エミヤ「む・・・まあね。世界を救う戦い。しかもあのローマをこの目で見れるかもというのだ。料理の勉強にもなるし、私にはただ見るだけでも実りの多いこと間違いなしだ」

ジャンヌ「ああ、オルタも勉強していました。すごく先進的、すごい文明であったと。私の時も村の長老たちの話で聞いたくらいですが・・・楽しみです!」

エミヤ「違いない。どれ、我らのマスターもそのローマが気になるだろう。加勢するにしても、見学するにしても管制室にいたいだろう。サンドイッチでもこさえよう。リクエストは? 聖女様」

ジャンヌ「では、卵を」


~特異点、ローマのどこか~

華奈「ん・・・ストップです。これ以上は危ない」

アルトリア「聞こえてきますね・・・しかし、これは・・・」


 「見えてきました・・・ふぅむ・・・」

 

 軍の索敵範囲外から戦闘の様子を眺めることにしたカルデア一行。砂塵が宙を舞い、血汗が肉片とともに地面に降り注ぎ、剣戟と鎧や肉を切り裂く音が腹の底に響いてくる。

 

 「・・・っぶ・・・うぉ”え”え”・・!」

 

 フランスでは怪物と人との戦いに、表立って戦うことも少なく、信長らの騒動では珍妙なナマモノが英霊のように消えて、茶器が出るという奇妙さゆえに戦いという感覚も薄れてはいた。

 

 しかし、目の前で見える、遠巻きにでも鼻の奥に入り込んでくる血と臓物の臭いに、殺人が幾百人、より多い人数で行うという藤丸からしてみれば遠い世界どころか味わう機会何て一生ないはずの異常な光景。

 

 人が人のまま、あるいは人でなくなって殺し合う「戦争」に耐えきれずせりあがってくる吐瀉物を吐き出してうずくまる。

 

 「先輩!? 大丈夫ですか!?」

 

 「ますたあ! お気を確かに!」

 

 「ちょっと!? 私のマントにかけないでよ! ああぁ・・・もう、そういえばフランスでは華奈たちのおかげでまだ現実味がなかったんでしょうけど・・・」

 

 英霊の影響か、戦いで幾度も血を見ているせいかどうにかこらえていたマシュ、まだまだ血なまぐさい時代を生きていた清姫は耐えていたが藤丸の異変に気付いて近寄って背中をさすり、ジャンヌオルタは一度怒るも自身の持っている記録からある意味では藤丸は訓練を終えたばかりの新兵のそれに近いと見当をつけ、仕方ないと思考を切り替えていく。

 

 「藤丸は三人に任せるとして・・・」

 

 「異常ですね・・・あの兵士たちの様子は・・・」

 

 「なんですかあれ? 全員が薩摩武士に見えるくらいぎらついているんですが。士気高すぎでしょう」

 

 「・・・・・ああ、思いきり聖剣であたり周辺をぶっ飛ばしたいです」

 

 思考を切り替え、一度都市を攻め入ろうとしている兵士に目を移すと、信長、華奈たちから見て、すさまじい士気の高さ、痛みを感じていないような勢いに思わず目を奪われる。ああも士気を高揚させる指揮官、主がいるというのだろうか。それとも、別の何かか。

 

 アルトリアのローマに対する王様時代の恨みから二本のエクスカリバーを今か今かと魔力をほとばしらせていることを除き、荒事、戦争の経験者たちはいきなり遭遇したちょっと見ないレベルの気を充実した兵士に思考を巡らせ

 

 『ストップ、ストーップ! まずは目の前の状況をどうにかしよう!? 確か、その士気が高い兵士が攻めているのがローマ方面。今守っている兵士たちがおそらくはローマ側だと思う』

 

 ロマニのツッコミが今やろうとしていた目的を思い出させてくれた。まずは戦場へ足を運び、そこでの情報収集。観察のみに意識を向けるわけにはいかなかった。

 

 『で、なんだけども、どうする? どちらかに加勢をして、恩を売ってここの情報を引き出せたらこれからの行動や敵対する相手もわかりやすいと思うんだけど・・・』

 

 「なら、劣勢のほうに加勢するのがいいでしょう。苦しい時の恩は、大きいですからね」

 

 「私もそうするべきかと・・・ローマに恩を売るのは癪ですが・・・今は人理修復が第一」

 

 「ま、それが一番じゃろ。それに、あの兵士相手にああも立ち回れる強者と協力を今から結べるのならそれがいい」

 

 烈火のごとく攻める兵士からそれを食い止める兵士たちに目を移せば精鋭だろうか、あの何もかもを踏み潰すと言わんばかりの怒涛の攻めを受け止め、いなしながら少数でどうにか受け止めている。しかも、その中でもひときわ異彩を放つのは一人の女性。

 

 赤と白、金を基調としたドレスを身にまとい、小柄ながら少し変わった形の大剣を軽々と振り回す美しい女性。これまたどういうわけかアルトリアと瓜二つな顔立ちながら快活さを思わせる空気で最前線で暴れまわり、常に兵士を鼓舞している。彼女の存在が精神的支柱。そして軍の頭なのは一目瞭然。現に倒れそうな兵士ですらも仕草、檄一つで奮い立って武器を構えるのだから相当なカリスマ、兵士から慕われているのがわかるというもの。

 

 「では、そのように。私とストーム1、沖田様、信長様、アルトリア様で行きましょう。残りはみな待機で。藤丸様・・・いきなり慣れろとは言いません。今は少し休んでくださいませ」

 

 胃の中を全部吐き出して荒く息を乱す藤丸にそういった後に華奈たちは戦場へと駆けていく。

 

 あの軍の熱気には少し慣れる時間が必要だろう。それさえできれば、ワイバーンと怪物の混成軍やちびノブの軍とも向かい合った経験が人同士の殺し合う戦場でも生きてくるはず。少なくとも、カルデアでの訓練と経験はそうさせていくだろうと華奈は考え、意識を先へとむける。

 

 

 

 

 

 「む!? 何者だ貴殿らは! 一体どこの軍か答えよ!」

 

多勢に無勢、しかしこの状況を捨て置けぬと剣を振るう少女。ただでさえ援軍が間に合うかも不安すぎる状況下でさらに現れる集団。姿に武装もバラバラではあるが、敵なら自分と近衛兵の実力を見ても尚怯まぬ強者。味方なら天の助けかこの敵対する軍にひるまぬ胆力の持ち主。

 

 単純に頭数の差が埋まる。援軍が来てくれるということならここの部隊の士気は持つ。だから、まずははっきりさせたいと声を上げる少女の声に先頭を走る変わった剣を手にした銀の女性に対して投げかける。すると

 

 「カルデアという場所から貴殿らの援軍に参りました! ローマに属するものであると考えますが、今からそちらの援護に移ります。よろしいですか!?」

 

 凛とした、けど優しい声で伝わる「援軍」という言葉。カルデアという場所はどこかわからないが、現にこちらに向けられる言葉に嘘はないと威圧する気も感じられず、兵士たちも希望を見たような目を浮かべる。

 

 「うむ! 援軍大儀である!! 余はローマの第五代皇帝ネロ・クラウディス。ここでともに戦える名誉と、褒美を後で与えよう! カルデアの兵よ。ここでともに踏ん張るぞ!」

 

 皇帝自らの援軍の受諾。これには気持ちが切れそうな兵士たちも奮い立ち、もう少しだと身体に活を入れていく。同時に敵がカルデアから来たという部隊に兵を割いたおかげで幾分楽にもなり、好転のきっかけが見え始めてきた。

 

 「むん! ストーム、信長様、場を押し上げてください! 沖田様と私で広げます! アルトリア様はその場所の維持を!」

 

 「了解マスター! ほーれほれ! 命とは言わんが、意識は貰うぜ!」

 

 「そらそら! スレイドの威力を試させてもらうぞ! 盾構えた重武装とはいい塩梅の敵じゃあ! うっははははは!」

 

 そして、そのきっかけはすぐに見えてくる。白銀の剣士がすぐさま敵の盾を切り捨てて切込み、左右から兜らしきものをかぶった男と黒髪の美しい女性が音の出す筒を振るい、光ったかと思えば何かがぶつかった音とともに兵士たちを吹き飛ばし、無力化させていく。魔術師の使う魔術、礼装なのだろうか? ああも連射の利く魔力弾など宮廷魔術師でも見たことがない。

 

 「よそ見厳禁。ああも女性に厳しいとモテませんよ・・・っと!」

 

 「甘い! その首もらったあ!」

 

 ともかく、わずかな穴から相手の軍にひびを広げ、あの屈強、苛烈な兵士をものともせずに圧倒していく。ネロと瓜二つのそれぞれが美しくも見たことのない衣装に包んだ二人の剣士も三人に意識を向けすぎた相手を的確に刈り取っては不意を突く形で無力化。そしてその拡充できた場所を維持していく。

 

 少数ながらそれぞれが自分と同じ、それ以上の力量を持つ猛者たちの連携には敵も勢いを失い、ますますネロ達ローマへ割かれる兵士の割合が減って楽になる。まさしく一騎当千。そして、これだけの救援をもらってそのままではローマの名誉、威厳に傷がつく。

 

 「今が反撃の時だ、ローマの兵士たちよ! これだけの救援をもらってすべて任せては帝国の名折れ!! さあ、槍を握れ! 盾を構えよ! 剣を掲げよ! 侵略者を完全に追い返し、勝利を我らが手中に!」

 

 今一度檄を振るい、ネロ自身も剣を振るってローマ兵に吶喊。それに遅れるなと近衛兵たちも再度敵兵にぶつかり、血の花畑が再び咲き誇り、朱に染めていく。

 

 敵の大軍がみるみる減っていき、少し動揺を感じ取れたと思ったが、そうはうまくいかず。

 

 「陛下! 前方から新たな敵らしき人物が・・・し、しかもあの方は・・・!」

 

 「・・・余の、振る舞いは、運命、である・・」

 

 新たにこの乱戦に参加するために激走する人影が一つ。真紅のマントに金の鎧でそのたくましい肉体を包み、人ではないと思うほどの爛々とした輝きを放つ瞳は狂気に彩られている。

 

 「なっ・・・!?」

 

 ネロにとってはとてもかかわりが深く、そして、今会えることが不可解であり、まずい相手。

 

 「おじ・・・いや、いいや! 偽りの連合に加担し、かつて自らが愛した国を踏みにじるとは、そなたは恥を知らぬのか! 亡霊・・・カリギュラよ!」

 

 血を分けた親族、自身よりも前にローマを治めた皇帝でありかつての名君。狂気に支配されてからは暴君へとなり下がった悲劇の皇帝。カリギュラ。

 

 

 

 

 

 

 「ほう・・・? なるほど、なんとなくですがこの特異点の異常が少しつかめましたね。アルトリア様。あれをやりましょう」

 

 援軍として加勢して敵を切り伏せ、ストーム1、信長にはロックソルトでの対応を頼んでからしばらく。敵兵を順調に無力化、数を減らしているとネロの方向に一直線に駆け抜けていく英霊の気配。

 

 「偽りの連合」、「亡霊」そしてローマを今治める「ネロ」が前線に出ていること。おおよそではあるが、この特異点の正体の青写真が華奈の頭の中で出来上がってくる。そして、どうにもカリギュラの意識はこちらなんか眼中になく、ネロにまっしぐらなご様子。戦場、しかも英霊が多数いるこの状況下ではすがすがしいほどの無防備ぶり。どうぞ首をもらってくださいと言わんほどだ。

 

 「ああ・・・いいですねそれ。ネロ達ローマへの信頼と情報を引き出すにはここでの働き次第・・・では、カルデアにも連絡を。姉上は銀嶺をオルガマリーにつけてここにレイシフトさせましょう。3000の援軍は大助かりでしょうし」

 

 剣を振るう動きを一度止め、前線を沖田とストーム1に任せてカルデアに連絡を入れる華奈を見た後にアルトリアも一度受け持っていた戦線を離れ、足から魔力を放出して即座にカリギュラの前に移動。エクスカリバーを構えて。ぎらついた瞳を見せる。

 

 「はぁああ・・・・・! さあ、おかえり願いましょうかね・・・っと!!」

 

 「!?」

 

 エクスカリバーに魔力を流し込み、一定間隔を維持。刀身からほとばしる魔力で剣自体のリーチを伸ばして光の大剣を作り出したて思いきりカリギュラめがけて振り下ろす。

 

 ネロにしか意識の行っていなかったカリギュラもさすがに目の前で光の剣を振り下ろされてはバックステップで避けるしかなく、空振った後の光の剣は地面を盛大に切り付けて爆風と剣の勢いで盛大に砂塵を巻き上げ、一瞬視界がふさがれる。

 

 もちろん、この連中がこれで終わるわけもなく、煙を切り裂いて無数の銃弾、ロックソルトでもなく殺傷能力を求めた銃弾がカリギュラめがけて飛び込み、体中に穴をあけていく。

 

 「ぐ、お・・・!!! 余と、余とネロの邪魔をするな・・・! 美しき姪の姿を・・・!」

 

 「遅い」

 

 「しゃべる暇があるのなら、足を動かすべきでしたね」

 

 これに対して激昂を見せるカリギュラだが、その声自体が命取り。砂塵の外からカリギュラを観察でき、更にはその声で位置を特定できていた華奈、沖田の二人による前後からの突きと袈裟懸けは正確に心臓と頭部を貫通。とどめに首を切断。その首を華奈が抱え、沖田とともに上空に大きくジャンプ。

 

 「さて・・・その首、もらいます! ハァッ!」

 

 最後にアルトリアの聖剣にまとわせた爆風を突きで放つ「風王鉄槌」をその肉体に打ち据え、幾重にも重なった暴風の一撃で肉体をはるか彼方に吹き飛ばす。

 

 「え、は・・・かりぎゅ、おじ・・・え・・・え・・・・ええ・・・?」

 

 「あら、消滅ですかね。でもまあ、いいですか。皇帝陛下。敵の将カリギュラの首、アルトリア様が見事討ち取りました。ご検分くださいませ」

 

 アルトリアの一撃からわずか20秒も満たない間に自分が知る限り武人としてもすぐれていたカリギュラがあっさり死んだこと。より苦境に立たされるかと思ったらまさかの展開に流石に理解が追い付いていないネロに退去が始まっているカリギュラの首を見せるために着地してすぐに生首を両手でつかんでまざまざと見せつけていく。

 

 「あ、う・・・うむ! 大儀である! この軍を追い返し、まさかあのカリギュラも討ち取るとはローマの意地を見せられたというもの! この戦、余たちの勝利であるぞ!」

 

 なんで首が光の粒になって消えかかっているのかとか、いろいろ言いたいことはあるがまずはこの勝利を近衛兵たちに伝えること、勲功者を称えるべきだとどうにか意識を切り替えて戦からの汗かこの状況の切代わりに対する汗かわからない汗を流したままとりあえずは勝鬨をあげる。

 

 

 

 

 

 「ほほう! そなたがカナたちの主であるか! うむうむ。余の美しさには劣るが素晴らしい美しさ! やはり美少女はいいな! 3000の、しかも狼やイノシシの軍もいい! 総督のみならず余の親衛隊、閨の相手にでもどうだ? 褒美も名誉も弾むぞ」

 

 「お戯れを陛下・・・さすがに新参の私たちがその待遇では周りが大変です。しかし、そのような状況なのですね」

 

 首の検分が終わり、カリギュラの退去を見届けてからしばらく。カルデアから到着したオルガマリーを先頭にした銀嶺隊3000の到着。これにはは華奈たちの援軍が嘘ではなく、しかも狼の軍隊であり誰もが精強であることがわかるほどの風格と圧を感じ取らせてくれるもので困惑気味だったネロも声をあげて喜び、オルガマリーの手を取って感謝を述べてくれた。

 

 そしてその後はオルガマリーは花子に乗り、ネロは栗毛に乗って悠々と凱旋がてら皇帝直々のスカウトに困惑している状況。

 

 「しかしまあ・・・ローマが二つに割れていると・・・で、今は軍を3つに分けて対応していたけども左翼が崩れ、そこから突破した軍が一度散開してから奥地で集合。バラバラに散ったのは追っ手をかく乱するためだったのでしょうけども・・・それをネロ陛下直々に食い止めていたところを私たちが到着したと」

 

 「うまい戦術だけど、歩兵の足でそれをやり、こうまで士気を保つことが出来る兵士ね・・・はい、おしまい。次の人ー・・・どういう指揮官なのかしらね?」

 

 華奈はといえばギャラハッドと自分の直属兵のいくらかをカルデアに残してほぼすべての兵士を出した状況。ちょうどいいと敵兵から奪った槍や道具、そこら辺の木材を加工して用意した大型の馬車の上で移動しながら兵士たちの傷の治療をアンナと行い、同時に兵士たちからの情報収集、頭の整理を始める。

 

(私たちの時代やそれより少し前にローマは2つだったか4つにわかれましたが・・・そのうえで相争う。納得は出来ましたが、これは少し厄介ですね。現状の軍の状態も見ておかねば)

 

 ネロ陛下が治める正当ローマ帝国とカリギュラなどのかつてのローマ皇帝たちが率いる連合ローマ帝国。この二つがぶつかり合い、正当ローマはすでに国土を半分も失っているときた。ネロ陛下の配下の総督や将軍でもじり貧にようやく持ち込めている。そして、その総督や将軍。いわゆる将校となれる人材も相当数が減っている事実。

 

 総督にオルガマリーが任命されるのも納得の状況。この状況では連合ローマに寝返る輩もいるだろうし、貴重な軍を率いて劣勢を助けた。どれほどネロ陛下がこの状況での助けの手で救われたのかが感じられる。彼女の奔放な性格ゆえの思い切った采配の可能性も捨てきれないが。

 

ともあれ、こうして現地の人間。しかも国のトップに関わり、協力関係を持てたのは幸い。これからの戦いの土台がしっかりできている点ではフランス以上だろう。

 

 「ふぅ・・・ふぅう・・・ようやく、落ち着いてきた・・・」

 

 「ところで、そこの少年・・・藤丸だったか? 顔色がよくないが貴族の子弟、もしくは初陣だったか? 顔色がよくないようだが・・・」

 

 「ああ、陛下。それは大丈夫です。少し長旅の疲れが出ているようなので。少ししたら慣れます。で、なんですがよければ都に戻った後、私の部隊の・・・ヤマジ、信長、アルトリアが戦略に優れています。よければ、今のローマの状態を教えてはくれませんか?」

 

 (さすがに私でも思わず血の気が引いたほどだもの。人同士の殺し合いはさすがに藤丸も応えるわよね・・・華奈は気にしてない・・・というか問題なしと考えているみたいだけど・・・今はこの方やローマの在り方を学ぶチャンス・・・現場のことは、深く言いすぎないようにするのもトップの在り方・・・なのかしらね)

 

 まだ戦の様子を見て熱気、狂気、あり方になれず顔が青いままに馬に乗られている藤丸を心配するネロをオルガマリーがフォローし自身も映像越しですら吐き気を覚えたことを思い出し、仕方ないと思ってしまう。ドロドロした暗闘、命の取り合いもあり得る魔術の世界で生きている彼女もさすがに今回は応えた。特異点の経験を積んだ藤丸でもさすがに人同士はきついものがあるのだろう。

 

 ただ、それでも落ち着いた、といえるあたり成長はしており、エミヤにクー・フーリンが励まし、宥め、清姫にマシュとジャンヌたちが側にいてくれる。もう少しすれば回復していつも通りになってくれているはず。

 

 「もちろんだ。総督の地位につけたのだ。知らねば今後の働きもできないしな。さ、見えてきたぞ! これぞ華の都、だれもが憧れ望み、ここのような街が欲しいと目指すであろう至高かつ豪華絢爛の首都、ローマである!!」

 

 ネロが声を上げ、目に入る街の景色。豪華さと機能美、外見を兼ね備えた建築物の数々。街から延びる整備しつくされた見事な道はあらゆる場所へと延びてその先が見えないほど水道を敷かれ、公衆便所もあることからもインフラや清潔に関する意識もしっかりとある。その上を歩く人の波といえば常にどこかには誰かがいるほどであり、多少の数の差はあれどその波は途切れることがない。

 

 ローマが滅びて以降も誰もが憧れ、いくつもの諸国がこの帝国の後継者を名乗るというのもわかるというもの。約2000年ほど前の都市とはとても思えない。人のだれもが戦時中、それも劣勢の中であっても笑顔を失わず往来を自分たちの笑顔や笑い声、賑やかさで彩っていく。理想の形の一つ言っても相違ないほど。

 

 「はぁ・・・(ブリテン時代、引退前に遠征していくらか沿岸部を荒しましたが、やはりふざけたレベルの都市、技術ですね)」

 

 「町のシステムとか現代と何ら変わりないレベルだぞ。主要道路の整備に下水・・・建物もつくりが遠目でもしっかりしているのがわかる・・・まじかこれ」

 

 「んお? 遠くにいくらかの小都市もあるが・・・城壁やらしっかりしているなこれ・・・え、まじ? こんなのがいくつもあんの?」

 

 「戦時中で・・・この状態でもなおこの活気・・・ブリテンとは・・・ブリテンとは・・・」

 

 反応は様々ながら、皆この都市の威容に驚いているのは確かで、それをみたネロもうれしい反応だったのだろう。うんうんと頷いて笑顔がますます輝く。

 

 「ふふふ! さあ、今からみな英雄として称えられるのだ! そして余の客将。もてなしは最高のものを用意しよう! 驚くだけではなく存分に喝采を受け、励んでほしい! さあ、ローマ市民よ! 余は帰ってきたぞ!」

 

 「陛下!? あの窮地を切り返したのですか!?」

 

 「さすがはネロ陛下! ネロ陛下がいればこの国も負けるわけがない!」

 

 「「「「「ネロ陛下! 皇帝陛下万歳! ローマ万歳!」」」」」

 

 万雷を思わせるほどの声、身体が震えているのではないかと感じるほどの喝采を浴び、バラの花吹雪を受けながら意気揚々、これが当然。しかし感謝と笑顔を忘れないネロを先頭に銀嶺隊、カルデア一行も喝采を受けて街の中を通る。

 

 「あ、あの・・・これを・・・」

 

 「え? おれに? どうも」

 

 「あんな小さな子も・・・というかこんな軍隊いたかしら?」

 

 「あらら。見た目での判断は危険よ?」

 

 「ウホッ! いい男・・・・・」

 

 「ほほう。ローマにもわかる男がいるようだ」

 

 行く先々で果実やら贈答品をもらい、またはいきなり増えた大軍に驚く街の人々。それでも皆が声をあげないのはネロのカリスマ、彼女が背中を預けて一緒にいることからだろう。

 

 「今回の戦では負けるところであった。だが、このカルデアという場所からの救援もあって被害少なく切り返し、勝利することが出来た。その功績とこの国を思っての行動に報いるために彼らを今後は客将、総督として迎え入れる。喜ぶとよい! 余の近衛兵も認める精鋭ぞろいだぞ!」

 

 ネロの一言でさらに地響きが起きたような歓声が上がる始末。それからは少しの間、隣同士の会話も難しいほどの声の嵐と熱気に包まれることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、一通りの歓迎と、もてなしができたとは思いたいが・・・本当に良いのか? 華奈たちは入れずとも」

 

 市民たちからの歓迎を受けてもてなしを受けた後にヤマジとダンカンらガチホモとおかまがネロの公認の下に男漁りに出かけたり、華奈とアルトリアにもネロの側室的な誘いがあって思わずアルトリアがエクスカリバーをぶっ放そうとしたりと些細なことがありつつも夜になり、ネロの宮殿にはオルガマリー、クー・フーリン、ジャンヌダルク、信長、紫式部、アルトリア、ヤマジ、アンナがネロとともにちょっとした大きな机の前に集まり、みな顔を突き合わせて机の上の地図と駒に視線を向ける。

 

そこにあるのは赤と青で色分けされたローマの地図と、軍を示す駒、施設などなどの位置情報が細かに記され、現在の戦況、その推移を示したもの。行うのはもちろん軍議。ただ、それで藤丸はともかく、経験豊富そうであり、皆の反応を見ても将であるはずの華奈、歴戦の勇士の空気を持つストーム1、ジークフリートらがいないことにネロは疑問の声を上げてしまう。

 

 「ええ、姉上はどちらかといえば戦術家ですし、戦略も新参の私たちとネロ陛下のずれや地力が理解できない状態では噛み合うかもわかりません。ぶっちゃけ、本人も嫌がるでしょう。なので」

 

 『戦場で相手の威圧感、土の様子や空気を感じて動ける作戦を考えてくると言っていましたね。後方の理解もあるのですが、現場主義、小隊で自由に動かすほうが華奈は強いのですよ。陛下』

 

 「ふぅむ・・・まあ、そちらの魔術の腕はよく理解したし、そういうのならいいが・・・何というか、うれしすぎてな。すぐにでも抱きしめて、余自らの食事会をもう一度・・・」

 

 新参ゆえの呼吸の合わせ方、連携が取れるかの不安、それも異常極まる敵の士気の高さ。これを知るために華奈たちは歓迎が終わるやすぐさま最前線に少数でローマを出発。相手の陣地の様子、空気を感じるためにと動いていた。

 

 その前にメンバー全員の食事を用意し、ロマニとの通信技術を見せておいてオルガマリーに宮廷魔術師としての役割も与え、補佐に紫式部とアンナをつけて置いたりとやることはやっているので相変わらずの奔放さと手早さに皆あきれている様子。ネロに関しては救援からのこの一連の動きにすでにカルデア、銀嶺への信頼は厚いようでどうにも手元に置いておきたいようだ。

 

 アルトリアはネロの発言にまた殺意が噴き出るが抑え、改めて地図に意識を向ける。

 

 「ふむ・・・? 敵は軍を大きく分けて6つに分けておるのか。前線は3つ。後方も3つ。その隙間を埋めるように野営地やら防衛陣地がちらほら・・・後方の3つは・・・すべて城になるのか」

 

 「その通り。前線の3軍は野戦を挑むために歩兵、騎兵で構成されているが、後方は堅牢な山・・・いや、樹木の城になっている。それと、配置は見た通りで、後軍の中央が大きく後ろになっていて城のように見えるが実は小さな道、関所のようなものらしい」

 

 「・・・え? いや、待ってください陛下! 樹木の城!? まるで私には訳が・・・!」

 

 樹木の城。いっていることにまるで理解が追い付かず、声を荒げるオルガマリー。華奈の深山やメディアの魔術なら確かに地形を少し変えるくらいはできる。が、華奈は砦一つの城壁を用意するのに数日係と聞いているし、そもそも難しいと言っていた。けど、相手は後方に樹木で軍を入れることが出来るほどのものができているという。しかも左右合わせて2つも。

 

 信長、アルトリアたちもさすがにこれは驚きを隠せず、目が点になる。

 

 「うむ・・・いかんせん、信じられないかもしれないが、連合ローマの拠点は、突如おびただしいほどの樹木があたりを埋め尽くし、変容して都市ができていったことから始まったのだ・・・それには余も書物、資料でしか見たことがないかつてのローマの町もあったりして、民草はみな慌てふためいた。そこからはあっという間に無数の兵士たちが各属州、都市を占拠し、その地域の兵士たちを吸収。今に至る」

 

 「・・・なるほどです・・・そういうことからも今押されているわけですね・・・しかし・・・私にはどうにも荒事はわからないのですが・・・どうなのでしょう? 城はまだしも、前線のほうは私たちで勝てそうなのですか?」

 

 突如現れた樹木の拠点と兵士、そして現地の兵士たちがあれほどの忠誠を誓うようなカリスマ。なるほど連合ローマがかつての皇帝たちが率いるというのも納得するだろう。神話時代の皇帝が英霊となればそれこそ何が起きても納得できてしまう。ただ、それに驚くだけでは終わっていけない。この軍に今からぶつかり、勝ちにいかないといけないのだから。

 

 紫式部の言葉に驚きつつも一同目を通していく。前線のほうはどうにも不利な状況ではあるが、どうにか維持自体は出来ているようで、ローマ軍の左翼が一時崩壊した以外は中央、右翼は持ちこたえている。ただ、今度はローマの采配の様子に驚くこととなる。

 

 (右翼の兵士は十数人・・・!? しかも、一番安定しているのがそこって一体・・・? 相手は1万とあるのに・・・)

 

 (中央と左翼が分厚いな・・・ただ、中央の被害は嫌に多い・・・何があったんだ?)

 

 「ネロ陛下。こちらの右翼はいったいどうなっているのですか? 嫌に人数が少ない気が・・・」

 

 「それと、中央軍の被害の大きさだな。相手はどうも数は同じようだが、それほど強いのか?」

 

 ヤマジ、アルトリアの疑問ももっともで、右翼はとてもではないが相手を食い止めるというには少なすぎるものであり、中央軍での被害は右翼の数倍は出ている。いったい何があったというのか。

 

 「うむ。そこなのだが、まずは中央軍は相手の誘導や言葉で心を折ったりしてな・・・脱走兵、寝返る兵士が非常に多いのだ。被害自体はほかの客将のおかげでどうにか少ないのだが、その無事である兵士たちの心は砕かれる、あちらに傾いてしまうのだ・・・それと、右翼だが、客将の部隊が食い止めると言い出してな。無茶だと余も止めたのだが、聞かずに行って、ここ数日ひたすらに食い止めているので後方に部隊を厚くしていつでも救援にいけるようにしている」

 

 「ほおう? 相当な勇者がいるようだな。右翼には。いつか戦ってみてえな。明日が楽しみだぜ」

 

 「言っている場合じゃないぞ。クー・フーリンよ。これは少し面倒じゃ」

 

 (この三軍も油断できないか・・・左右どちらかから崩してもすぐに樹木の城でとめられるし・・・野営地、砦で下手に奥に動いてもからめとられる。中央など狙えば四方から叩かれて即おしまい。まずは前線の軍を二つ以上食いつぶして失地回復・・・)

 

 (とはいっても、元はローマの土地。再度の統治の移行、民の鎮撫にも意識を向けないといけないじゃろうなあ・・・それのためには一度相手の第一陣を押し返してから腰を据えてにらみ合いの用意。その間にも弱所を突くしか無かろう・・・問題は現在の戦力か。それを理解しなければわしらの戦力をどう割り振るかも決められん)

 

 (俺たちの部隊がケツもちをしてやるのもいいが・・・いざという時は矢玉をぶっかけることも考えなければイケないな。クラークにも伝えておくか。よっぽどうまくハメてやらないとこの敵は倒せない。再度情報を洗い出さないと)

 

 「・・・では、とりあえずそれぞれの部隊の将を教えてください。それぞれの特技、得意な戦いがわかれば私たちもそれに合わせて動きますから」

 

 下手な奇策、不意打ちをしてもうまくいかない。まずは反撃と前線の軍を砕くしかないと結論が出たところで今度は3つの前線の軍の将たちの情報を聞いてより戦略を煮詰めることに。

 

 そのさなか、聞いた一つの部隊、その正体に一同が驚き、すぐさまそれを起点に動くことを決定していく。後日その部隊を起点に軍を動かし、大きく戦線を揺り動かすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ・・・・なんですかこの威圧感。遠くからでもここまで熱を感じるようなレベルとはいったいどのような準備と備え、指揮官がいるのでしょうか?」

 

 何度心の中で思ったか、もしくは口から出たかわからない言葉を吐き、ハチに乗りながらこっそり前線視察に出ていた華奈。かがり火の見える相手の陣営から感じる威圧感はまるで円卓、それも士気最高潮でノリノリの時にも勝るとも劣らない。

 

 遠目からも見える木々でできた重厚な防衛線とその設備の数々。こんな樹木の群れの上で人が過ごせるというのも、発生するのもおかしな話。これが移動中もロマニも言っていた今回の特異点修正の要点である連合ローマ、その誰かの宝具だとすれば規格外にもほどがある。どれほどの英霊、いや神霊レベルのものがいるというのか。

 

 「全くです。先ほどヤマジからの連絡もありましたが、少し厄介なことになりそうです」

 

 「わぁっ!? って・・・クラーク。すいません。ヤマジがそういうほどですか・・・幸いにも前線のほうは相手もぶつかってくるそうなので私たちの得意な野戦でうまくいけばどうにかできますが・・・問題はどこが弱いかですね」

 

 「い、いえ・・・中央はもちろん。出来ればどこかからこちらが動き回れる場所さえあればそこから軍を挟撃して残りも狙えるのですけども」

 

 夜の野営地に意識を向けている華奈の後ろから現れるクラーク。その強面に華奈も思わず驚き、すぐさま謝罪。クラークも仕方ないかと思い話を続行。ぱっと見ではこの場所、中央軍でも存分に銀嶺の速度は活かせそうだが、それだけでは何か足りない気がする。

 

 確実に相手を屠る一撃、衝撃をもって敵を下し、今後の戦いでローマの軍が勢いづき連合ローマ相手でも問題ないほどのもの。そうなればまずは相手の心をうまく動かして脱走兵、寝返りを誘発させていく中央軍を叩くべきだが、どうしたものかと頭を抱える始末。

 

 なにせただの野営地ですら水道、水洗トイレ、市場とちょっとした町、城壁や見張り塔が設置されている野営地ですらあるのだ。城攻めは魔獣を従える華奈たち銀嶺は不得手。やるにはアンナの部隊も必須だろう。

 

 「カルデアの観測とストームの遊覧飛行での観測。後は本営の戦略に合わせて一応は策を練りますが・・・ストーム、どうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おーマスター。いい夜だぜ。星は空を埋め尽くさんばかりだし下を見ればかがり火の景色が綺麗で綺麗で。戦じゃなければそのまま夜のデートにでも誘えば一発だろう」

 

 通信を受け取り、無線に軽い返事を返すストーム1。上空からの相手の陣地の観測のために武装ヘリ、バゼラートを出して藤丸、ジークフリートを乗せて空をのんびりと動き、その様子をデータに入れながらまだ人の明かりが空の星の明かりを薄めるほどではない頃の夜空、炎の光が揺れ動いてそれで暖を取って集まる人々を楽しみながら仕事をこなしていた 

 

 『デートのためにまずは貴方が恋人を見つけないといけませんがね。深入りはしなくて結構です。何が起こるかわかりませんし。気をつけて帰ってきてくださいね?』

 

 「了解。痛いところを言うねえ。うちのマスターも。ローマで彼女でも作ろうかねっと・・・さて、藤丸。マシュも気が楽になったか?」

 

 無線を切って苦笑を浮かべ、視線を後ろに向けると藤丸、マシュ、ジークフリートが座り、それぞれに星や町、野営地の景色を眺めては感嘆の息を漏らす。

 

 「はい。ありがとうございました。まさか空の旅になるとは思いもしませんでしたけど」

 

 「人が小さく見えて、明かりもすごく奇麗でしたし・・・これが見れるだけでも私もローマに来てよかったと思えます。ありがとうございます。ストーム1さん」

 

 「いいっていいって。ムサイ男二人の護衛付きでも楽しんでくれたら何よりだ。藤丸もマシュも、きついときは俺らに言いな。こういう戦場の経験は多いし、いろいろ馬鹿やっている分受け止められるかもだしな。現在進行形で馬鹿やりそうだけど」

 

 「俺からもありがとう・・・ストーム1.竜はこういう景色も見ていたのだろうか・・・そして俺も藤丸たちの悩みはできる限り聞いていく。本来はこういう場所は慣れていくべきではないのだが・・・それを薄め、みんなで共有して乗り越えることはできるはずだ。つらいことはみんなで分け合って薄めていこう」

 

 満面の笑みで感謝を述べる若人二人。それを見てストーム1、同じく空の景色を楽しんでいたジークフリートも優しい笑顔を浮かべ、戦場でのことのみならず悩みは言ってほしいと伝える。

 

 こういう戦場を知らず、知らないでも大丈夫な青年がいる時代。その時代の少年少女をこうして戦争やりほうだいの時代に何度も引きずり出さざるを得ない現状からのせめてもの罪滅し、そしてできる限りは壊れてほしくないという真心からのアドバイスか。

 

 ともかく、二人の言葉にはマシュと藤丸も少し気が楽になったか瞳に余裕の色の割合が増えて視線を改めて空から見える景色を楽しみ、明日への英気を蓄え始めた。

 

 「ん? マスター・・・じゃなくてアルトリアか。どうした? 客将? ふむふむ・・・・・・・・! それ、マジか!・・・・?」

 

 二人の様子を見て運転を続けていたストーム1。しかし、アルトリアからの連絡を聞いて声を荒げたストーム1の声とその内容を聞いて一同驚き、急いで空の旅は終了。華奈と合流して戦術を練り上げていくこととなる。




ローマはつるはしで戦争に勝つ。という言葉があるくらいには兵站管理、道、水道の用意に気を配りまくり作りまくりのローマ。野営地ですら市場やちょっとした設備、水道にトイレ完備とおそらく中世ヨーロッパでもかなりのレベルで整備された野営地の跡地や設計図もあるそうです。

施設も石造りで機能美、実用性と美しさの両立と本当にすごいものばかり。多分ダ・ヴィンチちゃんはカルデアのほうで必死に記録取って資料にしていそうです。

そして連合ローマの施設はあのお方の宝具を使用しての応用。これくらいは出来そうだなあと。

次回はまた新しいメンバーの参戦。そして銀嶺隊の変人どものちょっとした騒ぎも記せるように頑張ってみたいです。

フラムの絵も無事に完成しました。普段はこの上からローブなどを羽織っているものと考えてくださいませ。


【挿絵表示】


友人が仕事で忙しいのでもうきついと言っていたのでこれ以上は出ないかもしれません。ただ、気が向いたら、仕事が落ち着いたら大丈夫かもといっていたのでまた絵を描いてくれたらここで紹介できたらと思います。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ストームブリンガー

~深夜・ネロの宮殿~

ネロ「ええい、カリギュラが、叔父上が出てきた以上こちらの兵士たちも動揺しているのは確かであろう! 現皇帝である余がでて連合ローマへ真っ先に剣を向け、鼓舞してやるのが必要であることはわかっておろうが!」

華奈「わかっています。実際にそれは妙案でしょう・・・けど、さすがに護衛を着けずに進もうというのがだめなのですよ! 私たちの部隊からの護衛を用意します。可能であれば明日に最低でも敵将の首一つ。敵軍の二つを砕きます。そのための兵士の士気は大切。だからこそ、ネロ陛下には自身の身体も気にかけてください」

アルトリア「それと、同時に今日崩れた左翼の補強もですかね。これにかんしてはもともといた客将と私たちのほうからの将の配置で対処できるでしょう」

信長「それとだが、その左翼を立て直すにあたって少しやることがある。客将で攻めに秀でたやつを1,2人くらいいればすべて左翼に回してほしいの。穴はわしらが埋める」

ネロ「うむ! それはよかろう。ならすぐにでも将を移動・・・部隊ごとでいいか?」

ストーム1「それがいいだろうな。客将の力はすごいと言っていたし、それについていた兵士たちも将がいないことの不安はでるだろうし、相手がそれを利用されちゃーたまらん」

オルガマリー「でも、そうなると中央はどうするのよ? 部隊が、単純な頭数が少ないことによる不安や攻撃力防御力の差は・・・」

ヤマジ「それは俺たちが補おう。大将。兵を2000ほど中央に添えたいのだが・・・」

華奈「いいですよ。それと、ネロ陛下。左翼の増援にも私たちの部隊から500を与えたいのですが、どうですか?」

ネロ「むむぅ・・・それもだが・・・できればそちらの将を左翼にも回したい・・・3軍全てに兵力を割り振ることになるがいいのか?」

ダンカン「仕方ないね。とりあえずは中央に多めに兵力を割り振るけど・・・」

エミヤ「なら、左翼には私たちが行くが、アルトリアとクラークを回してほしい」

紫式部「では私も左翼に。その、何かできるわけではないですが、術式での防御や警報くらいなら・・・」

華奈「ありがとうございます。では、左翼はオルガマリー様が行くことでいいですか? あ、アンナ様も左翼にお願いします。あの白雷と治療術は必須でしょう」

オルガマリー「・・・わ、わかったわ・・・ええ・・・私が総督ですもの・・・やや・・・やってやるわ!」

藤丸「俺たちはどうしましょう?」

華奈「中央で戦ってもらいます。ジークフリート様を護衛に付けます。マシュ様とともに攻めあがってください」

藤丸「・・・了解です」

ストーム1「さてと・・・こんなところか?」


増援配置

右翼 華奈 ストーム1 沖田 ダンカン 兵500

中央 藤丸 マシュ 信長 清姫 ジャンヌオルタ クー・フーリン ジークフリート ヤマジ ネロ 兵2000 (客将2人、兵2000移動)

左翼 オルガマリー ジャンヌダルク エミヤ  アルトリア 紫式部 アンナ クラーク 兵500


華奈「ですね。では、これからの戦略、もとい明日からの動きですが、いかように決まりましたか? ネロ陛下」

ネロ「よくぞ聞いてくれた! 明日からの動きになるのだが・・・」



 空が白み、朝日が顔を見せ始めた時間。銀嶺隊は昨晩の作戦の絵図にのっとって移動を開始し、軍の中央からやや端のほうに配置された。

 

 突如の増援、そして移動には兵士たちが騒ぎもしたがネロ直々の激励と通達。魔獣たちを従える軍隊の加勢には兵士たちの士気も上がるばかりで、まずは第一段階の士気向上は成功したと言えるだろう。

 

 「・・・俺でもわかる。本当にすごい熱気・・・」

 

 「ネロ陛下の威光のおかげですね。そして・・・本当に私たちだけで大丈夫なのでしょうか?」

 

 兵士たちの熱気を受けながら驚きの表情をしたまま辺りを見回し、こちらの反対側にいる連合ローマの軍。まだ配置こそしていないが旗の数や炊煙でも相当数の数がいることが理解できてしまう。此方の軍団も一番数が多いと言ってはいたが、それでも不安なぬぐえず、藤丸とマシュはそろって少し不安げな顔を浮かべる。

 

 「なあに。俺らがいるさ。安心しな。策も決して悪くはない。俺らは勝つために進む。そうだろう?」

 

 「いかんせん頼りないかもだが、俺が君を守る盾になる。こうして軍の熱気と威圧を受けても構えていられるのだ。しっかりとマスターとしてふるまえば、それで勝利につなげられる。・・・・・と俺は考えているが」

 

 「そうじゃそうじゃ。どうせ今はこれくらいじゃろマシな作戦は。なに。藤丸のいる場所が一番安全じゃ。わしらを安心して動かせ! それが勝利への近道じゃ。マシュもそうでないとお前以上に気落ちしてしまうぞ?」

 

 「戦場までもお供する私・・・これって戦場デートなのでしょうか? ふふ、ますたあは私が守りますもの。どうかいつも通り明るくふるまってくださいませ。邪魔するものはこの清姫が焼いてしまいますゆえ」

 

 「はっ。あの程度の数なら物の数ではないわよ。どーんと構えてなさい。マスター。あんたがビビってちゃ私らまで弱く見えるでしょう?」

 

 「ふ、そうビビるな藤丸君。俺らが肉盾になってやるんだ。いい男は動揺しないものだぜ?」

 

 そんな二人に戦場での経験豊富な、あるいは一部ずれた思考ながら励ましてくれる英霊の面々。ここまで言われてはビビるだけではだめだと藤丸は強くほほを自分ではたき、気合を入れる。まだ背伸び、青臭い顔だが一応の覚悟を決めた瞳に切り替わり、それをみてマシュと清姫以外の皆がにやりと笑顔を見せる。

 

 「善き信頼関係、良き将たちよな。こういう友情は貴重なものだ・・・さて、敵も用意ができたようだ。始まるぞ藤丸。皆も配置についてもらう! ここから反撃のろしを上げるのだ、余に続け!」

 

 「行くよ、マシュ! みんな!」

 

 「はい!」

 

 ネロの言葉を皮切りに相手の軍も動き始め、少し遅れる形でネロ達の軍も動き始め、藤丸らはネロと藤丸を守るように動き、前進を開始。ヤマジはやや後ろに下がって全体を見渡せるように配置。合図で定めた道具を確認し、再度相手の動きの質や気合、表情から強弱を図り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こ、これが本当の戦場なのね・・・」

 

 熱気と殺気がのどに絡みつき、空気が重い。これが人の集団から発せられてくるというのだからたまらない。魔術師の家計。暗闘、裏での殺人など見ることもある。圧をまき散らす相手との交渉や戦いだってあった。

 

 ただ、これほどの重圧は感じたことがない。オルガマリーも左翼に増援とともに到着。本営という後方に、英霊とあのアーサー王がいるというのに感じる戦場の空気に驚き、冷や汗を流す。

 

 「落ち着いてください。オルガマリー・・・難しいかもですが、貴女はここでは総督。大将は将器が求められます。どっしりと構えていてください。紫式部。そういう術式、もしくはメディアの精神安定剤はありますか?」

 

 「あ、はい・・・ええと・・・華奈様から持っておくようにと・・・どうぞ」

 

 アルトリアが背中を優しくさすり、紫式部が持っていた精神安定剤を数錠水と一緒に渡し、オルガマリーもそれを飲んでしばらくし、ふぅと息を吐く。

 

 「あ、ありがとう・・・この重圧の中、よくこうしていられるわね。みんな」

 

 「プレッシャーは感じますが、まあ慣れといいますか、もっとやばい軍もいましたから。それにここよりも中央や右翼がもっときついでしょうし、潰れるわけには行きません」

 

 「アルトリア様にジャンヌ様、エミヤ様にアンナ様とクラーク様。これほどの方々がいますもの。頼もしくて、なんだか落ち着いていられるのです」

 

 『マスター。配置についた。・・・安心するといい私の目なら君に襲い掛かる敵がいても全て射抜く。それに、アーサー王と円卓の騎士がいるのだ。きっと君の考える悪い事態は起きないはずさ』

 

 『そうです。私たちでもっと戦線を楽にしていくのですし、マスターの実力はこの時代でも通用するはずです。何かあれば令呪で命じればすぐにそばに来れますから』

 

 既に所定位置についたエミヤ、ジャンヌは念話でマスターを鼓舞し、こちらも不安を感じさせない声色で語りかけてくる。別の場所ですでに準備しているアンナとクラークもいたのならこうして励ましてくれたのだろうかとオルガマリーも考えてしまう。

 

 (思えば、私はこういう経験を私よりも年下の藤丸やマシュたちに押し付けていたようなものなのね・・・組織としては私は後ろでいるほうがいいけど・・・こういう経験もなしにぎゃあぎゃあ言っても・・・今回だけかもだけど、こういう経験は詰んでいたほうが彼らの心情や提案を今後も聞いて理解できるのかも・・・)

 

 これからもこういった戦争に藤丸らを送り込むかはわからないが、間違いなくこの経験はしたくない経験であり、同時に今後も藤丸らの特異点での心情を理解するうえで必要不可欠なもの。

 

 昨晩の作戦会議もそうだが、軍人、英雄たる人物らの視点、戦略を肌で味わっていける。劇薬だが、この特異点での経験も飲み込み切れればもしかしたらよりカルデアの所長として、人として大きくなれるかもしれない。

 

 大きく深呼吸を数度行い、魔術回路を起動。全身に魔力を走らせ、礼装の具合を再度確認。その後は側にいるアルトリア、紫式部。姿こそ見えないが自分をマスターと、この場の司令官と任せてくれるメンバーを思い返し、腹をくくる。

 

 「・・・・・・わかったわ。なら、これから一緒に左翼を勝利へと導きましょう。私は後ろからだけど、良く見える分いい指示を出せるように頑張るから・・・みんなの力を貸して頂戴!」

 

 『ああ・・・もちろ・・・・マスター! 客将二人が敵に吶喊した! 私も急いで援護射撃を開始する。アルトリアとほかのみんなにも通達を』

 

 「え? あ、わわわ、わかったわ! アルトリアは急いで客将二人の間に入って助けてあげて。アンナとクラークで片方をサポート、もう片方はジャンヌが助けて頂戴。エミヤは全体から見て孤立、包囲されそうな部隊に掩護射撃を」

 

 気合を入れようとした矢先のまさかの将軍の急な吶喊になんだか出鼻をくじかれる形になったがオルガマリーのほうも戦闘開始。客将二人、アルトリアの部隊が三本の矢のようになって敵陣へと走り、激突。中央もそのころに戦闘を開始しており、二つの戦場での激戦が繰り広げられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「■■■■■■-------!!!!!」

 

 「くそっ、くそお! なんだよこれ、俺たちの銃弾がまるで歯が立たない!」

 

 「もう、終わりだあ!!」

 

 華奈たちが信長の聖杯爆弾騒動で戦った黒い体に豪奢な装い、巨大な二振りの斧を振るう大巨漢。自ら先陣を切って暴れ狂い、従う不死の1万の異形の軍団も我先にと狂気をはらんで敵へと襲い掛かる。それを受けきるは右翼を受け持つといった客将たち。

 

 しかし、その数を数日も受け止め続け、敵兵は数も減らない、勢いも衰えない。傷も即座に回復して明日には万全の状態で戦う羽目になる。精神は摩耗し、後方で十数名の狙撃部隊・・・ストーム1と同じレンジャーの集団は弱音を吐きつつも一応は狙撃中で敵兵を狙い撃ち、勢いをそいでいく。

 

 「弱音を吐くな! 俺たちがここで持ちこたえているから他に兵士を割ける。いずれ中央か左翼が勝ってこちらに救援が来る。踏ん張れ!」

 

 「そうは言うがよ! さすがにこれ以上は無理だぜ!? 先日は左翼が崩れた。もう逃げたほうがいいに決まっている!」

 

 「彼が・・・ストーム1がいてくれたら・・・」

 

 「ブレイザーでも削り切れないなんて・・・これがダレイオス三世の軍隊か! これが英霊・・!」

 

 その狙撃兵へと敵を寄せ付けずに立ちはだかる4名。声からして中年男性だろうか。その4人のリーダーは他と違う色合いのヘルメットに赤い光線を放つ銃を振るい、常に兵士を叱咤激励して戦闘でダレイオス三世、不死兵すらもひるまずに立ち向かう。残る3名もなんやかんやと愚痴りながらもアサルトライフルで応戦。自身で敵を崩し、あるいは狙撃兵の援護射撃をうまく利用して立ち回り、紙一重の状況で生き残り続ける。

 

 「■■■■■!!! ■■!!」

 

 「ブルージャケット隊! お前らももう少し狙撃に専念しろ! ここではそれが生き残る一番の作戦だ! 俺たちストーム2がいる限り、そこには近寄りはさせない! 絶対にだ!」

 

 かつてストーム1を民間人時代に巨大生物から護衛し、武器を与えて共に戦闘。多くの戦場を生き抜き、EDFが戦い続けるのに必要な功績と情報を与え続け、特殊チームに格上げされて最後まで戦い続けたストームチームの一つ。ストーム2。そしてEDFの特殊チームの一つ。ブルージャケット隊の連携でダレイオス三世。その宝具の軍隊を食い止め、死の暴風をどうにかとどめることに成功していた。

 

 何度も数の暴力、怪物や巨人のようなエイリアン。特殊兵器に空を飛んで襲い来る巨大生物にさらされて尚も生き残り続けた経験、磨かれた技術と対人を想定していない高火力の武装で1万の軍を押しとどめ、ダレイオスに傷を与えることを数日。夜になってくるとほかの部隊からの攻撃で包囲されて失うのを恐れるのかこの狂気がぴたりとやんで奥へと戻っていく。

 

 これを続けているが全くいい報告を聞かないことにストーム2もブルージャケットも正直な話希望が見えず、しかしこの暴風をほっておくのは無駄な被害が出る。この状況に精神がすり減り、愚痴、弱音を吐くものがほとんど。ストーム2の隊長。軍曹も内心どうしたものかと考え、少し後ろ向きに考えてもいた。

 

 (ブルージャケットを中央に回すべきか・・・しかし、俺たちだけでこの数を相手するのは・・・くそ・・・俺が冷静になり切れていないのかもしれないな・・・情けない)

 

 「■! ■■■ーーーーーーーー!!!!!」

 

 そんな思考も鈍りそうな軍曹らとは裏腹に数日間鈍ることのない猛威を振りかざし、何度目かもわからない突撃をダレイオス三世が仕掛ける。これを凌いでも次でチャンスを手にできるのか。そう不安が頭をよぎった刹那

 

 「やっぱり軍曹ね。相変わらずの不死身具合に・・・ブルージャケット。そりゃあ耐えきることもできるか」

 

 突如空気を割いて響く変わった銃声といくつもの青い雷。ダレイオス三世の軍に向かって放たれたそれは骸骨の敵兵を砕き、地面を這って相手を襲う。

 

 銃声とほぼ同時に聞こえてきた声。それにつられてふと空を見上げれば、ストーム2、ブルージャケットはその相手に希望を見た。

 

 「その声は紛れもなく・・・・・来てくれたのか!!!」

 

 「大将! いいところで来てくれるなあ! 相変わらず」

 

 機械の翼で空を駆け、青と白、黄色を基調とした、女性用のバトルスーツ。黒の長手袋に二―ソックス。ヘルメットも先の出た変わったものであり、激しい閃光を防ぐための黒いガードで目を隠す。女性らしいメリハリのある体に茶色の長髪を風に揺らし空から降りる姿はまさしく勝利の女神。

 

 「軍曹の存在を知ったらすぐに来るわよ。・・・とは言っても分かったのは昨晩だから今になったけど・・・お久しぶり、軍曹。みんな。ストーム1。ここに参上ってね」

 

 ストーム1の持つ4つの兵科の最後の一つ。空を駆け、思念兵器や光学兵器を多く利用する女戦士。ウィングダイバー。その姿で雷を発射する兵器、サンダーボウ30連射し、ストーム2、軍曹らを一度下げさせるための弾幕を形成する。

 

その後に続く別方向からの地響きと土煙。騎馬、狼、猪の群れに銀と木の鎧に身を包んだ騎兵。数こそ500ではあるが、ストーム1の後にこの数の増援は今までの戦歴が基本劣勢。少数での戦いに加えて増援も少ないか無いものであった軍曹らには何よりもうれしいものであり、だれもが歓喜の声を上げ、身体に気合がみなぎるのを感じていく。

 

 「射撃開始!」

 

 華奈の声を号令として騎兵のうちの数十。エミヤにカルデアで用意させたAF99STのトレース、ほかの騎兵も長弓、投げ槍をダレイオス三世向けて放ち、ストーム1の攻撃で崩れた前線を刈り取る。

 

 「ストーム、私はこのまま先へと進みます。・・・いけますか?」

 

 「問題ない。このメンバーならいけると思う。持ってきた兵器も大軍制圧用。ただまあ、少し土産は欲しいかな」

 

 「■■■■■■ーーーーーーーーーー!!!!! ■■■■!!」

 

 「あの軍隊・・・まさか、昔本で見たが、銀嶺か!?」

 

 一度制圧射撃を終えた後に華奈はストーム1と合流し、最後の一仕事欲しいというストーム1。この射撃でもせいぜいが2,300くらいしか削れていない。

 

 まだまだ9000以上の軍がいいる以上、さすがに油断はできない。前回は陣地防衛からの爆破で仕留めたが、平地での数の暴力はさすがに堪えるし耐久は巨大生物に劣るが、さすがは高名な不死隊。先ほど削った部隊も早くも復活の兆しを見せる始末だ。

 

 華奈とストーム1を一刈り取ると判断したか、ダレイオス三世は象からとびかかって二人の間めがけて大斧を打ち下ろす。大巨漢の肉体に見合うほどの武装での一撃。本人の剛力も相まって地面を大きくえぐり取り、その衝撃で華奈もストーム1も吹き飛ばされ、華奈は勢いのままに栗毛に乗って態勢を立て直し、ストーム1も飛行ユニットを巧みに扱いきれいに着地。

 

 「くっ・・・さすがはバーサーカー。こんな一撃貰いたくは・・・っ!? マスター!」

 

 「っ・・・陽炎! 深山!」

 

 その直後に飛んでくる象の鼻の一撃。華奈もとっさに気づき深山で栗毛の地面を盛り上げて象の鼻をよけ、ダレイオス三世、象目掛けて陽炎での閃光を使って目くらましを行い、距離を取る。

 

 「華奈さん! よくも・・・」

 

 「ストップ! 大将。僕たちは行くよ! 時間が惜しい!」

 

 ダレイオス三世に向かい斬りかかろうとする沖田をダンカンが抑え、騎射を再開しながら先に進んでいく。

 

 「了解。私も続きます! ストーム! ストーム2の皆様、ブルージャケットの皆様。私たちは先に進みます。援護射撃しながらですので、それを活かしてくだされば」

 

 「わかった! 行くぞ皆! ここで一気に敵を丸裸にしてやるぞ!」

 

 ダンカンらの後を追うように華奈も栗毛を走らせ、そのままこの場を離れつつ相手の軍の側面を突きつつ遠ざかる。

 

 軍曹もその攻撃を無駄にするものかと光線銃、ブレイザーを放って敵への攻撃を開始。ブルージャケットもようやく弱気が抜けたか狙撃中で的確に相手の頭を射抜き、相手を仕留めていく。

 

 「■■■■!!! ■■ーー!! ■■■■■!!」

 

 「軍曹! 私が足止めをするから切り込んで頂戴。いいもの持ってきたのよね・・・っと!」

 

 ダレイオス三世の周辺も敵が固まったことで再度軍での突撃態勢を整えたことに対してストーム1も武器を切り替え、もう一つの巨大な銃を取り出すと即座に右に左にと飛行ユニットで飛び回り引き金を引く。粒子バルカン砲、イクシオンマークX。一度に9発の弾丸を放つのをマシンガンに負けないほどの勢いでぶっ放し、不死の軍団をなぎ倒し、壁を壊していく。

 

 「任せろ! ブルージャケットはストーム1の取りこぼしをかたずけろ! 狙撃チームの本領を見せる時だ!」

 

 「了解! あの見た目、不死の時点で怪物。遠慮なく打ち倒せ! 俺たちこそ怪物処理のエリートだと見せる時だぞ!」

 

 ブルージャケットの攻撃も軍曹の援護、ストーム1の取りこぼしを狙うために動き、3つの部隊の連携で不死の部隊も目に見えて数が減り始める。彼らの武装はもともとが対人を想定せず、象ほどのサイズもある巨大生物を殺し切るためのもの。歩兵のアサルトライフルですらある程度の射撃で戦車すらも壊し切る威力。それをそれぞれの優秀な部隊が持つ兵器で狙うのだから不死の属性を持つ軍ですら倒し切れずとも早々に復帰できないほどの傷を与えるのは容易。

 

 「テレポーションシップを壊した時を思い出せ! ここを切り抜けてあのデカブツさえ倒し切ればこの怪物どもともおさらばになる!」

 

 「結局はそれかよ!? くそっ! 大将の援護があるからいいけどよお!」

 

 「この機会を逃せばもっと面倒になる。最大の好機ですね・・・!」

 

 「■■■■■!!! ----------!!!!」

 

 不死隊の被害の大きさをチャンスと捉え、敵陣に突っ込んでダレイオス三世を狙う軍曹らストーム2。そして、ダレイオス三世はそれに対してストーム1、ブルージャケットに対して盾の部隊も置くことなく、まっすぐにぶつかっていく。目の前の敵を軍を一つの塊としてぶつける。これは悪手としか言えなかった。

 

 「・・・・・クー・フーリンの言っていた通りね。やはり、バーサーカーは狂い方にもよるが、ああも目の前の敵の身に意識を向けすぎてちゃあ・・・「軍」として動きができない。一つの塊として暴れるだけでも脅威だけど・・・それは単なる「暴風」にしかならないか・・・」

 

 不死を活かしての盾、重装でストーム1、ブルージャケットのどちらかに壁を置くだけで軍への被害、軍曹らへの援護が鈍る。ただ、狂化の弊害で目の前でブレイザーとアサルトライフルを振るい暴れる軍曹らにしか目がいかず、盾を側面を2チームで制圧されて徐々にダレイオス三世の壁がはがされ、彼の肉体に銃弾が、熱線が届くようになる。

 

 軍隊としての役割分担ができず、ひたすらに強大な暴力を目についた先から一丸となって襲い掛かる。制御、援護するマスターもいない状況ではその勢いは失い、復活するよりも早く攻撃が制圧し、復活した矢先にそれも粒子バルカンに、スナイパーライフルに、電撃に崩れ落ちていく。

 

 もしこれが狂化もなく、例えばライダーのクラスで現れ、軍団をうまく動かし、かの大国を動かした財力。様々な宝物を活かしたのなら、この展開はなく、やもすれば華奈の軍がいても勝てたか怪しく思えてしまう。誰もがそう思うほどの暴力を一方的な射撃に撃ちすくめられながらも見せている。

 

 「偉大な王だろうが・・・数日見続けてその顔は見飽きた。これで終いだ。これを喰らえ!」

 

 「ッッ・・・! ■■■!!!! !! ■■■ーーー!」

 

 「軍曹に手出しはさせない! 喰らえ、化け物が!」

 

 しかし、それも軍曹らを懐まで許したのが運の尽き。ストーム1らの援護でストーム2の動きを止める、絡めとる兵士も満足に用意できない状態でブレイザーの放つ赤い光はダレイオス三世の巨体を穿ち、それでもまだ斧を振り下ろそうとする腕を、斧を軍曹の部下がアサルトライフルで打ち抜き、軌道を逸らして足掻きも抑え込むことに成功。

 

 「■■■■ーーーー・・・・・・・・・」

 

 ダレイオス三世の退去と重なり、周りの異形の軍隊も消滅。数日間の英霊の軍、部隊同士での戦いは新たな援護の来た軍曹らに軍配が上がり、正当ローマ右翼の勝利は確定になった。

 

 「ありがとう。ストーム1。あれがお前のマスターか? どこかに走ったが、行く先は敵領地の中・・・俺たちも行くべきか・・・?」

 

 「大将! 本当に助かったぜ! これで俺もあの怪物どものせいで不眠症が悪化することはないだろうよ」

 

 「ありがとうございます。ストーム1。来てくれなかったらどうなるかと」

 

 「さすがだな。しかし、あの援軍が来たということはほかの戦線でも動きが・・・?」

 

 「みんなありがとう。そうだね。さっきの騎馬・・・? うん、まあ騎馬は銀嶺。銀髪の話しかけてきたのが私のマスター。で、今からよければ軍曹たちはついてきてもらってもいいかな? ブルージャケットは今から来る援軍とここを維持してもらいたいのだけど」

 

 ストーム1も軍曹らと合流し、エネルギーを使っての武器の弾薬をチャージ。すぐさま移動できるようにしつつ、昨夜話した作戦を実行するために軍曹らにさらなる行軍を提案。

 

 「お前には何度も無茶に付き合わせたこともある・・・それに、どうも何かあるようだな。俺も行こう。ただし、後詰が来てからになる。いいな?」

 

 「了解。私は先に行っておくわ。空を飛べるし、機動力もあるからマスターと連絡とりながら。じゃ! 後でね」

 

 飛行ユニットを起動させ、すぐさま空を駆けていくストーム1。この動きの急変にようやく待ち望んだ動きが起きたのかもしれない。今までの耐えきった時間も報われたのだと軍曹は小さくこぶしを握り締め、ブルージャケットらは生き残れたことに互いに肩をたたき合って喜んだ。




今回登場した、正当ローマ軍右翼を支え続けた客将。ストーム2、軍曹チーム。彼らも大概な化け物です。おおざっぱな功績として

・ストーム1が民間人時代に巨大生物に襲われたの助け、武器を与える(この時点で人類を救ったともいえるかも)以降、護衛しながら各地を転戦。

・5か月ほど戦い戦術核でようやく1隻しか壊せなかった巨大生物輸送船を破壊する方法を提案、自身らで実行し成功。

・優に4,5メートルはあるカエル面、グレイタイプのエイリアンとの戦い方を一度戦ってすぐさま用意。生き抜いた挙句に半壊状態から生還。

・敵が用意した地下の巨大生物繁殖用の場所を壊滅。

・ストーム1(このころはまだ新入り的な扱いに近い)と一緒に合計5名で敵の足止めで輸送船数隻、大量の飛行ドローン、カエル型エイリアン、クモ、ハチ型巨大生物の部隊を壊滅。その後ももう一つの部隊と合流してさらに敵の部隊を壊滅。生き残る。

・ある戦いにて遊撃部隊「ストーム」に任命。ストーム2となり、その作戦もばっちりクリア。

・怪獣レベル、不死身なレベルの再生力もちの怪生物とミッション中に何度も遭遇して生き残り、かつミッション完遂。

これ以外にもゲーム中のストーリーで相当な功績をあげています。しかもほぼ全員が後半になるまでアサルトライフルで立ち回るという不死身っぷり。メンバーも丁寧にしゃべる奴やら面白黒人枠的で皮肉が多い不眠症。カタログスペックにこだわりがある奴と面白い人が多い印象。

軍曹もタフガイかつナイスガイ。本当に頼りになる先輩さんです。



ブルージャケットはあるミッションで登場するネームド部隊の一つ。実力はあるようなのですが、ぶち当たったプライマー(EDF5でのエイリアンの呼称)の部隊とは相性が悪く噛ませポジに。数も多くスナイパーなのでそれなりに火力はあり、またボイスで戦況を信長の戦いで例えたりと印象に残る部隊ではないでしょうか。

もし運がよかったのなら後半にも活躍していたりしてたかも・・・?


今回出てきたブレイザーはある特殊兵器(山を吹き飛ばす威力だとか)の12%の出力を放つレーザー銃。その火力は恐ろしく、NPCの中でもかなりの火力、不死身の軍曹が使うことでなお頼もしい。プレイヤーも使用できるが射程やら威力が凄まじく。これ一本で大体のことはできると思っちゃうほど。


サンダーボウはペイルウィング、もといウィングダイバーの兵器であり電撃を複数射出。地面や壁も射程内なら反射するので使いやすく。複数同時発射なので対空にもよし。30ともなれば万能枠の一つ。


イクシオンは粒子バルカン砲で複数の弾丸を同時発射するものから普通のマシンガンのように一つの弾をすさまじい速度で打ち出すタイプと多彩なものがあり、しれっと粒子砲を出すあたりEDFの殺意、意気込みが感じられる兵器。後半になるとレンジャーのアサルトライフルを圧倒するレベルのものもちらほら。



ストーム1の最後の兵科。ウィングダイバー。姿は地球防衛軍2のころをイメージしてくだされば。あのデザインが一番好きです。飛行ユニットで空を飛び、レーザーやプラズマの兵器を多く使用。基本的には飛行ユニットのエネルギーと武器のエネルギーはエネルギーコアから使用するので機動力と火力の用意の調整が必須。

機動力の高さと近、中距離の強さはすさまじく、大物狩りもしやすい。思念兵器などもあるのでどうもサイキックの才能を持つものが多いのか数も少なく、基本どのシリーズでも精鋭扱い。同時にフラグ枠。

EDF5ではエネルギーコアの種類も変えられるので立ち回りも幅広く変化できるのでそこも楽しめるかも。

次回は藤丸たちの戦線になります。うまく書けるかわかりませんがよろしくお願いいたします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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軍団パズル

~左翼~

オルガマリー「・・・私は軍を動かすべきだと思うのだけど・・・どう? アンナさん・・・」

アンナ「一度私の雷で戦場を揺らしてからね。敵の弓隊が集まっているあたりを・・・はいそこ!」
(白雷を落とす)

オルガマリー「今だわ! クラーク隊もアルトリアの後ろに随行! そのままアルトリアが敵の中で孤立するのを防いで!」

エミヤ『いい指示だ。マスター。私のほうの射撃は必要かな?』

オルガマリー「客将の・・・筋肉もりもりマッチョマンの笑顔の仮面が張り付いたような人がずっと味方の盾になったり、被害を防ぐために前に出すぎているわ。援護できないしら? もう一人のほうはジャンヌが抑え込んでいるし、クラークとアルトリアはさすが円卓。互いに息ぴったりで問題なさそう」

エミヤ『了解した・・・む、マスター少し待ってほしい。クラークの突撃で到達地点に最初攻撃を仕掛けた部隊が何やら驚いたり怯えたりで少し前線が崩れている。そこ援護してからにしよう』

アンナ「あー・・・私らや円卓の兵はともかく、慣れないとそれは仕方ないわよね・・・あ、魔猪隊が敵の重装兵を粉砕したわ」

紫式部「いい人なのですが、鬼よりも迫力があるような気もします・・・・・・はわわわわ・・・」

オルガマリー「何かしら、こう、なんか慣れてきちゃうと・・・客将の変わり具合や銀嶺の変人度合いが目に付くわ・・・」


 「報告します! わが軍の左翼、大将のダレイオス三世様は死亡! どうやら敵のほうの増援で倒れたようで、今は備えていた軍で穴を埋めようとしています。が・・・いかんせん正当ローマのほうもどうやら増援を送っているようでして・・・後方の城、野営地、砦から援軍を捻出したほうがいいのではとの声が・・・」

 

 「備えていた軍だけにしておけ、今はここにあの1万の軍を破った軍がこちらに来ないことが第一。砦の守りを厚くし、備えの軍で時間を稼いで今日を凌ぐ。備えた軍はわが軍の横に合わせて展開。必要であれば離脱も考えておくので索敵を左翼に多めに割り振っておくように。どの道大軍が来たとの報告は来ていない。で、あれば砦から兵を出してあの軍を打ち破るほどの精鋭に野戦で打ち負かされる。被害を出すほうがわが軍には痛い被害だと捉えよ」

 

 連合ローマの中央軍。その本陣に駆け込んでくる伝令の切迫した報告。あの左翼が、かの大王の軍が倒れた。しかも増援も来るというのはまだ正当ローマにも余力があるということを知り、幕僚、高級武官のだれもがざわめく中、一人の男は冷静に指示を飛ばし、面倒くさそうに息を吐き捨てる。

 

 「ハッ! では、そのように指示をいたします。失礼しました! ではこれにて」

 

 面倒くさそう、やる気も感じられない。ただ、飛ばす指示は的確。戦術も一級品。彼の指示なら間違いないだろうと伝令も新たに受けた指示を頭に叩き込みその場を離れていく。

 

 (とりあえずは気づくことが出来たか・・・この軍団の弱点を。後はどう動くかだが・・・正解を引くことが出来るか・・・? 正当ローマの将ら、そして皇帝よ・・・)

 

 けだるげに戦場を見渡し、こちらに一直線に切り込んでくる一つの部隊。赤きバラのような皇帝とその周りを固める装備も装いもバラバラ。自分と同じ存在も多くいるであろう部隊に意識を傾け、男はあごに手をやり思考をこねくり回し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ・・・ふっ・・・ふっ・・・・!!」

 

 「先輩! 大丈夫ですか!? 私の後ろに・・・清姫さんと一緒にいてください! ハッ!」

 

 「うむ! よい動きである! これならすぐにでも本陣に駆け込んで敵将の首を取れる。相手が何か策を打つ前にこちらで相手を倒すぞ!」

 

 『今のところヤマジのおかげで前線は崩れず、うまく押し込んでいけている。もう少し耐えてくれ、藤丸君!』

 

 藤丸ら中央軍はネロの部隊を先頭にマシュ、ジークフリートが盾となり、ネロと藤丸を重点的に護衛。信長とジャンヌオルタが両脇を固め、藤丸のそばは清姫が守り、本営はヤマジが総指揮を執る。

 

 クー・フーリンはもう一部隊の先陣を務めてネロらが孤立しないように隣を並走。常に互いの動きを確認しながら爆走。敵の陣を4割ほどまで進んでいた。

 

 「ふむ。第三隊はもう少し前に出てくれ。魔狼と魔猪の部隊で粉砕して一息つかせるぞ。第五はネロ陛下らが離れた部分をフォロー。ケツをしっかり絞めてやれ」

 

 中央軍の数と士気、巧みに軍の隙間を縫って進行する戦法はヤマジが本陣に残り、軍の隙間に銀嶺を少数ながら配置していくことで対処。側面、背後に即座に回り込める魔獣の機動力とパワー。その動きに呼応できる銀嶺隊の連携でかすかにではあるが時間を稼ぎ、その間に正当ローマの兵士らが建て直して抑え込む。

 

 もとより少数、20数名で始まった銀嶺には少数での戦いは慣れたもの。ましてや今回は士気も装備も最高潮、練度も悪くないローマ兵と来たものだからヤマジの策は予想以上に刺さり、ここ数日の不利が嘘のように中央軍はかみ合って連合ローマ相手に徐々に有利に動かし、前にと進めた。

 

 (俺は少数の部隊のつなぎ目を扱うだけにしていたが・・・必要となれば即座に俺に一部の軍の動きも与えてくれるとはローマの兵隊らもいい男が多いじゃないの。おかげでクー・フーリンにも一隊を任せて並走できているし・・・後は・・・大将か。相手の動きも早い。頼んだぞ。沖田、ダンカン、ストーム1・・・)

 

 しかし、それでも相手も決して崩れはせず、ネロ達の爆走による部分を除けばほかは大きく揺れ動きはせずに大きな一撃は使えない、見込めないのが現状。相当に部隊長同士の連携がうまい、かつこの状況にあっても本陣が崩れないという信頼からだろう。

 

 とりあえずはネロ達が無事に本営にたどり着いて最低でも中央軍を壊滅。将の首も取れれば今後の動きが楽になる。特にこちらの兵士らの心をへし折り、篭絡して連合ローマに寝返らせた将軍の口のうまさ、宣伝のうまさは特になくしておきたいものだ。

 

 戦局はやや優勢。この状況からいつでもヤマジ自身も援軍に加われるように予備兵の数をチェックし、盤面に意識を注ぐ。

 

 

 

 

 

 (これが・・・これが戦場の真っただ中・・・息が重いだけじゃない・・・何もかもが・・・ひどい・・・)

 

 ネロとともに敵本陣を目指す藤丸らカルデア一行。目の前に映る景色。戦場の中に入るということの過酷さに藤丸は顔をしかめ、汗を滝のように流して惨劇に目をつぶりそうになるのを、吐き気を必死に抑えていた。

 

 血の霧のせいで息が苦しく、排せつ物と臓物、血の悪臭が鼻から口から入り込んで気分が悪くなる。人を刺す、斬る音が腹の底に響き渡り、銃を構える手の震えが止まらない。

 

 イカれている。何もかもが・・・藤丸の知る世界も、映画の世界でもこうも細かには見れない戦争の光景が目に焼き付いて離れない。フランスでの戦いよりも身近で、だからこそ堪える。

 

 それでも耐えきり、進めるのは今までの経験、カルデアでの鍛錬。マシュというある意味同世代、同じ時代の人間が自分らの盾になって頑張っているのにへこたれたくないという小さなプライド。そして、この中に一人放り込まれたら死は免れないという直感。

 

 自分を守ってくれる英霊らの心強さ、守りがあるからこそここまで無傷でいられるのだとわかる。突撃を始めた際に飛んで来た連合ローマの投げ槍で盾を砕かれてほほを、あごを砕かれて顔の形が変わったもの。頭を射抜かれて、心臓を射抜かれて動けなくなったもの。比較的軽く、あるいはしのぎ切れた兵士も負傷した身で連合ローマの兵士らにぶつかって死んだ者、矢で体中がハリネズミのようになったもの。矢傷で倒れたところを抑え込まれ、槍で、ナイフで殺されたもの。そこら中にあらゆる死に方が、悲劇が転がっているのだ。

 

 「うぅう・・・くっ・・・そ・・・お! うえっ・・・おおおぉあ!!」

 

 遮二無二に吹っ切れて、今は走ることでしか意識を紛らわすことしかできず、叫びかどうかもわからない声をあげながら本陣にめがけて足を進める。早く敵将を倒してこの地獄を切り抜けたい、生き残りたい。その一心で体中に活を入れ、周りの足に負けないと踏ん張る。

 

 「・・・藤丸! 生き残りたいのなら周りを見るんじゃ! 人は撃てなくても盾を撃て! それならできるだろう!? 生きたければお前も走るだけでじゃなくて戦え! マスターらしく男を見せい!」

 

 「そうよマスター! どうせこんな事いくらでも今後あるのだもの! 生きたければ私たちと一緒に戦いなさい! 私はマラソンランナーと契約した覚えはないわ!」

 

 「お二人とも、ますたあに失礼ですよ。シャアッ!! 私が守ります。ですからますたあはどうか前だけを・・・!」

 

 信長、ジャンヌオルタ、清姫らはそれぞれがそれぞれに藤丸にはっぱをかけ、できる限り血を見ない方法で対処し始めていく。

 

 信長は火縄銃、スレイドで連合ローマ兵の頭をかすめるように撃ち、その衝撃で気絶。そうでなくても動きを鈍らせたところを銃で殴り、あるいは蹴り飛ばして押し返し、先へと走る。

 

 ジャンヌオルタ、清姫は炎で矢を撃ち落とし、時に大きな炎を出現させて炎の壁で相手を突き放し、あるいは周辺の空気を奪い、昏倒を狙う。下手に殺すよりも無力化したほうがいいだろうとの判断からでもあったが、結果的には藤丸の精神を和らげるのに一役買う。

 

 「わかった・・・分かったよ! 俺も頑張るから、生きてやるからもう少し助けてくれ!」

 

 藤丸もその言葉に応え、引き金を引いて銃弾を盾に命中させてのけぞらせることに意識を向け、無理やりにでも意識を変えようとしていき、ロックソルトの弾丸を次から次へと撃ち、ネロや自分から兵士を遠ざけていく。

 

 「後もう少し・・・後もう少しなんです・・・! なのに・・・遠い・・・っ!」

 

 「後方の予備隊をつめて陣を分厚くしているな・・・これでは・・・時間がかかりすぎてしまうぞ・・・!」

 

 顔をしかめ、苦しげながらにも盾を振り回し、矢を受け止めて先鋒を務めるマシュ。大剣をふるい敵を吹き飛ばすジークフリート。マスターの精神負担や体力もそうだが、相手の守りがうまい。もう7合目まで来ているはずなのにまだ遠く感じる。敵本陣の距離はつめているのだが、そこに行くまでの一歩が遅くなる。敵防衛陣地の分厚さによってとなりのクー・フーリンの部隊も勢いがやや鈍ったか、全体的に動きが遅くなっている。

 

 「この好機を逃すわけにはいかん! もう一押しするのだ! わがローマの勢いを、輝きをここで見せつけて勝たねばローマの名折れよ! 亡霊の連合がなんだ! 今を生きる余らの、今を輝くものが負けてはいかんのだ! 進め兵士よ! ここが勝負の分かれ目と心に刻め!!」

 

 『いや、これはやばいぞ! みんな。敵の予備隊が後ろから広がって・・・包囲を始めた! しかも本陣は後ろに下がるつもりだ! ここで一度引かないと取り残されてしまうよ!!!』

 

 ネロ自身も檄を飛ばして疲労の色が見え始めた正当ローマの背を押し、再び勢いを盛り返そうとする。が、相手はその勢いの一転押しをとうに理解していたか、本陣は後ろに下がり、予備を広く広げ、ネロ達は愚か、前線に押し上げようとしていた軍の半分までもを喰らおうと動き始めていた。

 

 「そんな!? 先輩だけでもここを突破は・・・!!」

 

 「私の宝具で竜になればどうにか・・・でも、この兵士たちを一体どこまで・・・!」

 

 「む・・・! 右翼の敵兵・・・まずい。おそらくは右翼の予備兵だったかもここに殺到しておる。数はわからんが・・・2000は確実か・・・よし!」

 

 ネロ達の部隊は敵の本陣近くまで食い込めている。それはいわゆる敵の奥深く、包囲されれば逃げ延びるのが困難な場所。焦るマシュ、清姫らをしり目に信長、ネロは笑みを深める。

 

 「おいお前ら! チャンスだ! 一気に攻め入るぞ! 包囲する兵力がこっちの守りに充てられないなら相手も守りにはさほど力は割けねえ! 包囲されることにビビるよりも相手の喉元食い破ることに意識向けろ!」

 

 「クー・フーリンの、ケルトの勇士の言うとおりだ! 者ども! いまこそ動くべきぞ! 大丈夫だ! これも想定のうちよ!」

 

 クー・フーリンは朱槍を掲げて自身の兵士を鼓舞し、ネロもかつて戦ったケルトの戦士のことをフレーズに入れ尚更進む。これに部隊が無理やり進み、なおも前進していき、敵兵も驚きつつもよく守り、進行速度は少しにぶったまま。

 

 「・・・ここまでか。包囲を狭めよ。勢いだけ、あの勢いだけでは届かぬことを理解できないのか。確かにいずれここに届くであろうが、それまでにこちらが退けばいいだけ。此方の左翼を崩したのは見事だが・・・」

 

 あきれた。そう言いたげに包囲に本腰を入れるよう指示を入れ、もったいなさそうに二つの部隊を見てどうしたかと思った矢先

 

 「急報です! 敵兵500がここ本陣目掛けて爆走! 左翼の包囲を切り抜けてこちらに来た模様! なお、皇帝も一人討ち取られ、左翼の兵は一部混乱しているようです!」

 

 「急報! 敵兵は500を100と400に分けて、こ、ここの目の前にすぐに来ます! 左翼は既に半壊! ダレイオス三世を討ち取った敵将らも今包囲をする左翼の兵士たちに襲い掛かっており、は、歯止めが効きませんっ!!!!」

 

 伝令の立て続けの連絡に本陣は一瞬静まり返り、直後に地響きとともに現れる魔獣に乗った銀の兵士ら。

 

 「間に合ったようですね!」

 

 「沖田ちゃん! 僕らは敵の後ろに回って遮断をする! 大将はネロ陛下らの支援に回るみたいだ、敵将を逃がさないようにここが踏ん張りどころだ!」

 

 「了解です! 私は切り込んで楔としますのでダンカンさんらはサポートお願いします!」

 

 ダンカン、沖田らの部隊400が連合ローマの背後に回って後ろに逃げることを防ぎ、沖田は馬を降りて持ち前の俊足とそのふざけた剣技で馬を切り捨て、兵士の腿を切り裂き、落馬した兵士の腕を刈り取って前進。同じ地面の殴り合いでも鎧ごと。あるいは隙間を縫って刀を突き立てて兵を倒す。

 

 華奈の部隊100はすぐさまネロ達を包囲しようとしている部隊の背後を襲い、切り伏せていく。もとより盾と槍をメインにした密集陣形を得意とするローマ兵では一気に素早く方向転換することが難しく、しかも背後となれば背中、無防備な横腹を食い破られ、牙で砕かれ、槍、剣、斧で壊されていく。

 

 「いいタイミングで来たな! よし! 彼らに続け! この包囲を突破するぞ!」

 

 「やっぱ華奈はいい感じに動いてくれるぜ。喰らいな!『突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)』!!!」

 

 ここぞとばかりにクー・フーリンもあえて使わなかった魔槍の力、自身の技術を用いた宝具を解放。ネロと自分の出口になるであろう場所目掛けて朱槍を投擲。するとその槍は無数に分裂し、敵の一人二人といわずに部隊丸ごと吹き飛ばしてしまうほど。

 

 華奈の支援、クー・フーリンの一撃で大穴が開いたところを一気に押し進み、無事にネロ、カルデアの面々は敵本営に到達。あともう一息というところにまで追いつめた。

 

 

 

 

 

 

 「よくぞここまでたどり着いた。ローマの皇帝。そして将たちよ。暴風を潜り抜けての側面攻撃。その機動力。そして中央からのこの統率の取れた中央を破る勢、武力。すべてが正解であろうよ」

 

 敵本陣。そのなかでどっしりと構える真紅の衣装と黄金の鎧に身を包んだ黒髪の男性。兎にも角にもふくよかな男。見事な装飾の剣を腰に下げ、少し気が楽になったと言わんばかりの目でこちらを見渡す。一見やる気のなさそうな男だが、瞳の奥の色は鋭くこちらを見定めするかのように見ており、華奈たちも油断のできない男と即座に判断。油断なく構え、意識を向ける。

 

 「でしょうね。いくら何でも、強いとはいえあのバーサーカー・・・ダレイオス三世だけで片翼を任せるというのは一歩間違えばそこから進撃できます。索敵範囲から離れるか、受け止め切れる相手を用意してその間にすり抜けてしまえば奥に行ける」

 

 「じゃが、その奥に進んでも砦や大樹の城に止められるし、何よりもそれができるほどの数の軍を動かせば必然バーサーカー、もしくはそちらが気づいて指示を飛ばして餌食にされる。・・・だから少数で奥に行くのではなく側面を狙いつぶす。まあ、この速度を出せる銀嶺だからできた作戦じゃが」

 

 華奈たちの作戦は中央に多くの英霊たちを集めて敵陣に進撃。その間に右翼でダレイオス三世をストーム1、2で足止めして別動隊で本陣を狙うために右翼から中央目掛けて移動。伏兵に関しても魔獣の嗅覚や聴覚で察知してかいくぐり続けてその速度で敵がネロ達をすりつぶす前に援護、敵本営を遮断して逃げ場を一時的でも防ぐこと。

 

 もちろん英霊の索敵能力は油断できないが、そこは敵の部隊がバーサーカー。一度暴れれば見方を巻き込みかねない。しかも軍団規模となれば連合ローマもできる限りダレイオス三世の暴れる範囲には兵を設置しなかった。だからこそ報告も一息遅れ、ストーム1にくぎ付けになることで華奈たちの進軍を許し、連合ローマの兵士たちが華奈たちを止めようにも後方に設置していたせいで華奈たちを止め切ることが出来ずこうして中央本陣の奇襲を許したことになる。

 

 (こちらの左翼を狙ったことといい、いい戦略家、実行できる実動部隊が来たか。これで面倒なこの召喚と役割をはたしておさらばできるな・・・)

 

 (しかし、どうにも腑に落ちませんね。予備兵も多かったですが、もう少しうまく設置出来た部分もあるでしょうに、変に甘かったんですよねえ。何かこの軍は変な感じがします)

 

 「まずは貴殿らの勇猛さを、そしてこの戦場でなお輝くものを持つ美しきものらを称えよう。そして、名乗りをあげよ。敵将の首を取るために剣を交えるのだ。雄弁であり、勇猛でなくてはいかん。それとも、黙することが当代のローマの在り方なのか? そこにいる遠くの時を超えてきたものらもだ。この軍に対しての働き、称賛するべきものである」

 

 「ふ、藤丸・・・はっ・・・立香です・・・ぜはっ・・・はぁ・・」

 

 「うむ。若き新兵。いや、将官の卵か・・・? 勇気を振り絞ってここに来る根性は見事。3年もすれば面白いことになるかもしれんな」

 

 弱々しくも藤丸が手をあげ、息も絶え絶えながら一歩前に出て声を振り絞る。汗まみれ、血の霧と走り続けたせいでで少し赤い顔、疲労困憊。戦場を歩いた経験のない細い少年がここまで踏ん張ってこれたことに素直に男は称え、頷く。

 

 「マシュ・キリエライトです。先輩・・藤丸先輩の専属サーヴァント、護衛役です!」

 

 「美しい。その肢体、瞳の輝き。すべてがよい。後生大事にしておけ。想い人に捧げておけるようにな。下らぬ男にけがされるのは耐えられん」

 

 マシュに関してはその体、不安と勇気の混じった瞳を称えて若い少女の未来に少し想像を入れたか優しい表情になる。

 

 「船坂 華奈。まあ、この狼の軍の指揮官ですね」

 

 「なるほど。この速度、こちらが本陣を抜けない粘りを見せた兵士の主か。その銀の美しい体。男が欲しがるであろうものに、個、軍の強さか・・・思わず私も誘うかもしれん」

 

 「御冗談を。私よりも気にかけるべき御方がいるでしょう?」

 

 まさかの高評価に華奈は苦笑し、同時に瞳で視線を投げる。たかが一武将よりも言葉を交わすべき相手がいるはずだ。と。

 

 「ああ、そうだな。さて、美しき薔薇の皇帝よ。名乗ってもらう」

 

 「心して聞くがよい! ふくよかな皇帝よ! わが名はネロ・クラウディス! 真なるローマを守護し、ここに立つ皇帝なるぞ!」

 

 大剣を高らかと掲げ、男に切っ先を向けるネロ。凛とした、よく通る声での名乗りに男も満足したかしきりに頷き、瞳を鋭く光らせる。

 

 「それでいい――――語りは終わった。では、こちらも名乗らせてもらおう。我が名はガイウス・ユリウス・カエサル。・・・本来ならこのような役などすることはないはずだが、さあ、臆せず進もうではないか。互いに賽は投げられた」

 

 「っ!? それは・・・皇帝以前の支配者の・・・ええい! それがどうした! 我がローマを守るためにカエサル、覚悟!」

 

 ネロとカエサル。かつての統治者と今のローマを統治するものがぶつかり合うことで今日一番のターニングポイントは幕が上がり、激しい剣戟が一つ多く戦場に響き渡り始めた。

 

 「僕らは・・・後ろの兵たちがここに来ないように守ろう! 必要ならジャンヌオルタがネロの援護に行ってあげて! 敵がどう動くかわからないし!」

 

 藤丸らはそのまま走り抜けてきた背後の敵軍。それがなだれ込んでカエサルを守ろうとする前にこちらから向き直って倒すまでの時間稼ぎを決行。マシュ、清姫、ジャンヌオルタらはそれを良しと考え、早速魔力をみなぎらせ、臨戦態勢を整える。

 

 「ふむ・・・ジークフリート様。援護を。私は幕僚を狩りに行きます」

 

 「了解した。くれぐれも無茶はしないでほしい。マスター」

 

 「その時はこっちに逃げますよ。では!」

 

 その様子を見て華奈はジークフリートをネロの加勢に行くように指示を飛ばし、自身はダンカン、沖田らが対処している本陣の兵士らを刈り取るために再度栗毛を走らせ、100騎とともに戦場を駆ける。カエサルというビッグネームもそうだが、歴代の皇帝がいるという連合ローマはそれ以外の兵士、幕僚も油断できないもの。

 

 軍事に秀でた皇帝らの知識を生の声で聴いて、吸収した高級武官、幕僚らがここで逃げ延びて対策、何かを手を打つのも嫌なもの。もしスキピオを逃がしたハンニバルのような結果はごめんだし、何よりもここで敵に大きな打撃を加えなければおそらく次以降の戦場を見るに削るのが少なくとも今の銀嶺では難しい。

 

 ならば守りに秀で、おそらくはあのカエサルでも完封できるであろうジークフリートに任せるのが幸い。クー・フーリン、信長らは既にこちらの意を理解しているか敵陣に切り込んでいき、藤丸らをかばうようにしつつ戦闘を開始。

 

 「鋭いものよな。よく戦を分かっている。大将だけでは戦は勝てない。その場の創意工夫。戦術指揮を取れるものがいてこその軍。数と士気だけでは同じレベルならまだしも、何か優位なものが出ていればたちどころに崩れるというものよ・・・・」

 

 「よそ見している場合か!? そこだッ!」

 

 自分を袋にするのではなく、包囲はしつつも周りから刈り取っていく。その動きに関心するカエサルに怒るようにネロが正面から剣を振り下ろすが

 

 「甘い」

 

 そのふくよかな身体に見合わぬ動きでカエサルは後ろに下がることで回避し、その勢いを殺さぬままにネロの左側面に回り込み、黄金の剣を抜いて切り上げを振るう。

 

 「むっ・・・!? な、んの!」

 

 その一撃を剣の腹で受け止めたネロは吹き飛ばされるもその反動で思いきり地面をけって高く飛翔。くるんと体を一回転させてからの大上段をお見舞いしようとするがカエサルはそれも見切っていたようで。

 

 「焦りが見えるぞ、皇帝よ」

 

 即座にネロの落下地点から横に逸れて直撃を免れ、大剣と自身の重量を乗せた一撃で地面に深く刺さった剣を抜こうとしたネロの首目掛けて突きを放つ。が、ネロも剣を手放して身をかがめて対処し、立ち上がる反動で剣を引き抜いて後ろに飛びのく。

 

 「ちぃっ・・・見た目に似合わぬ動きをするな。カエサルよ」

 

 「人を見た目で判断するというのは誠恐ろしいものよ。特に、宮廷内で過ごせばそれはわかるであろう? 私とて武人の側面も、戦の経験など数知れず。多少剣を扱うくらいたやすいことだ」

 

 「確かにそうだろうな。すまないが、この勝負、俺も参加させてもらおう。この勝負。長引かせるわけにはいかないからな」

 

 互いに剣を構えなおし、再び攻撃に動こうとするさなか、ジークフリートがその中に割って入り、2対1の形が出来上がる。

 

 「頼む。今は武人の誉れよりもローマの勝利と栄光。そして、あの偉大な先人には強者が必要である」

 

 「任された。マスターからの命もあり、微力ながら力となる」

 

 「連携も戦の花よ。では、これはどうかな!?」

 

 2,3合の斬り合いで普通にやっては何が起こるかわからないと判断したネロもジークフリートの加勢を了承。カエサルも一騎打ちとは思っていなかったのですぐに受け入れて戦闘を再開。大剣を振るう上にただならぬ気配を感じるジークフリートに対して全力で踏み込み、左からの袈裟懸けを行うが・・・

 

 「・・・無駄だ・・!」

 

 あっさりとジークフリートの剣に阻まれ、膂力で今度は逆に押し返される。その距離を即座に詰めてジークフリートの右に左にと振り回す剣戟の嵐にカエサルも振り回され、受け流しても次が飛んでくるせいで体を揺らされる。

 

 「余も負けていられるか! 勝って必ず失地回復と連合ローマを倒して見せる!」

 

 ネロも負けん気でその斬り合いに加わり、カエサルを一気呵成に攻め立てる。流石にこの二人の攻撃にはカエサルも受け止め切れずに鎧や体のいたるところに切り傷、鎧や服に傷がついていき、先ほどまでの優位性は一転。追い詰められる側に回ってしまう。

 

 「むぅ・・・これならいいかもしれないが・・・まだ試させてもらおう・・・! 私は来た! 私は見た! ならば次は勝つだけのこと。『黄の死(クロケア・モース)』!!!」

 

 このメンバーなら任せてもいいだろう。ただ、そのまま引き下がるのも、出し惜しみをして図り間違えるのも、癪だとカエサルは宝具を解放。必中の初檄をジークフリートに放ち、その後に幸運による判定を行い、黄金の猛撃を放つ。その速さ、威力たるや周辺の剣戟の音が聞こえなくなるほどであり、剣戟は全てがつながっていると思うほどの猛追。

 

 「・・・・・これで俺は・・・倒れん・・・っ・・・!」

 

 しかし、その宝具も放った相手、ジークフリートに使ったのは悪手だった。ジークフリートの持つ常時発動型の宝具、『悪竜の血鎧』。Bランク以下の魔術、物理攻撃を無効化し、それ以上の攻撃ですらBランク分の攻撃力を差し引いた分の威力しかもらわない。これだけでも強力なのだが更には正当な英霊の攻撃はB+での防御数値にまで上がる。カエサルの放つ黄金の連撃は強力。だがランクはB+相当。完全に攻撃全てをシャットアウトし、その連撃の切れ間にジークフリートはその剣を振るってカエサルの一撃をはじき返し、あの猛撃を受けて尚も無傷である肉体を見せつける。

 

 「・・・これは、負け。かな・・・いやはや、このような猛者がいるとは、大したものよな」

 

 「敵将カエサル! 勝負を諦めたのであれば、その命、このネロがもらい受ける!」

 

 己の持つ切り札も通じなかったことで剣を鞘に納めたカエサルは両手を広げて空を仰ぎ、自身の負けを認めたカエサルに引導を渡すべくネロも自身の剣でカエサルに左からの袈裟懸けを振るい、見事に霊核まで届かせた。

 

 カエサルもそれで英霊としてこの場にとどまることが難しくなり、反応が弱まって光の粒へと徐々に変わっていく。

 

 「さて・・・軍団の主としてはこの敗戦の責はいささか重いものがあるが、同時に美しきもの達に倒されること、そしてこの茶番を終わらせられること、慣れない仕事から解放されることに感謝だ・・・」

 

 「ふぅ・・・これでよしと・・・ネロ陛下、ジークフリート様。カエサル討伐。お見事でした」

 

 自身が負けて去ることに何の心残りもないと言わんばかりの笑顔で退去し始めていく。既に日が傾き始めている空を眺めていたが華奈の声に意識を向け、思い出したと表情を変えて華奈に向かって声をかける。

 

 「そうだ、そこの銀の麗人よ・・・貴様らが欲しがっているであろうもの・・聖杯。だったか? あの輩が何度も吠えていたので覚えているが、そちらはそれが欲しいのであろう? 私に勝った褒美だ。それは連合ローマの宮廷魔術師。確か・・・レフというやつが持っている」

 

 「あら・・・生きていましたか」

 

 『なんだって!? あの惨劇と、しっかり検死はしたのに!!?』

 

 今回の特異点を作った聖杯。その持ち主がまさか華奈がセントリーガンでハチの巣にし、地蔵で頭をつぶしたのちに爆破したレフだということに一同驚き、同時に連合ローマをより確実に倒す必要性が出てきたことに少なからず気持ちを引き締めていく。

 

 「ネロ・・・そこにいるのはお前もきっと驚く相手であろうよ。あの方に会い、どのような選択を選ぶか。ゆっくり見させてもらおうか・・・・・・」

 

 くつくつといたずらっぽく。けど、本当に楽しみだという顔で笑いながらカエサルは退去。それを見た連合ローマの士気は崩れ、以降は正当ローマの追撃戦に移行。

 

 「かの名君カエサル。余は先へと進む。ローマの輝きをこの手に戻すために、屍を踏み越えていく」

 

 その戦場でネロはカエサルのいた場所に頭を下げ、すぐさま指揮を取って戦線復帰。日が暮れる少し前まで追撃と右翼の兵士たちへの追撃を行うことで中央、右翼は完全に正当ローマの大勝となり、ガリアまで奪還を成功。左翼はカエサルが倒れたとの報を聞くや巧みに退却を行い後方の野営地、城に戻り兵力の温存に尽力。

 

 この一日で連合ローマの前線の第一陣は見事に打ち砕かれることとなり、正統ローマの大勝利を物語る。この勝報にローマは沸き立ち、ネロとその将兵たちすべてを称えた。




カエサルも無事に討伐完了。あの人が手を抜いていだけで多分連合ローマは本当にえげつない強さだと思います。

今回は難しいが一ひねりすれば逆転できる陣地をあえて構築。クリアできる力量、知力、胆力があれば進めるという、ネロ達を試した形になります。

華奈たちはこれに対して中央からのごり押しと側面に少数精鋭で斬り込んで狙い討つという形でチャレンジ。成功した感じです。

ジークフリートさんの鉄壁具合は本当にえげつないです。これに加えて更に対魔力で魔術の搦め手も難しいうえに殴り合いも強い。キャスターからすればアルトリアレベルで嫌な相手ではないでしょうか。

次回は少し小休止。いろいろローマを練り歩いたりしていると思います。そしてまあ、少し古代ローマの問題点も出てくるかもです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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小休止。城攻めは苦手だからね。仕方ないね♀

華奈「・・・・・ここまでですね・・・ふぅ・・・」

ストーム1「お疲れ様。マスターやったわね」

華奈「貴方たちにここまで頑張ってもらったんだもの。やらなきゃマスター失格ですよ。それで、軍曹さんらはどうですか?」

ストーム1「今は右翼の野営地で休息中。あとで軍曹がマスターと話したいそうだから今夜か、明日にでもよろしく」

華奈「了解しました。ああ、そうです。ストーム。一つ頼みが。いいですか?」

ストーム1「いいよ」

華奈「実は・・・・・・・・・・・・というわけでして」

ストーム1「わかった。じゃ、後で」



 「仕方ない。一応の目的の一つは達成した。今は兵を休めつつ、当地も再度安定させるようにしていくべきか。追撃はこれまで、退却だ」

 

 カエサルを下した後の追撃戦を終え、去っていく敵兵をしり目にネロの言葉でこの大逆転劇の一日は終わりをつげ、今までの負けが嘘のような大勝利に皆が沸き立っての凱旋。

 

 同時に兵の入れ替えを行い、取り返した分の場所の意地には銀嶺も加わって野営地を作り、警らにも参加していく中で日が暮れて夜となり、ローマは再びのお祭り騒ぎ、ネロも銀嶺や客将、ローマの将校らを労う為に宮殿に招こうとしたが急遽予定変更をするほどであり、この勝利の立役者たちを市民と触れさせ、語らせ合うことにした。

 

 新入りのカルデアの部隊の活躍はローマの市民も大いに盛り上がり酒の肴としていくほどであり、英霊ら誰もが引っ張りだこ。オルガマリーたちもその勢いに圧倒されるほどだった。

 

 その都市総てが宴のるつぼと化している中、藤丸は一人路地裏で体を小さく丸めて重い息を吐いて疲れた瞳を浮かべる。

 

 「あら、藤丸様。ここでしたか」

 

 「! ・・・・・・・華奈さん・・・」

 

 それを見つけたのは華奈。既に市民の皆の歓迎を受けたか銀の髪は少しぼさぼさで、酒や汗のにおい、手に持っている花、贈答品らしきものが目に付く。

 

 「・・・戦場の空気は、直で味わうとまた違うものです。それでもこうして最後まで走りぬいて、すごいものです」

 

 「いえ。俺は・・・途中でしか何もできなくて・・・それも、銃で盾を狙って動きを鈍らせるしか・・・マシュや華奈さん。本来は人との戦いをほとんどしていないストーム1さんもああして頑張っていたのに・・・」

 

 冬木からの経験。華奈の殺意を受け止める訓練や円卓の一員からの訓練、射撃だって少しは自身があった。人を殺すことはしたくない。けど、専用の弾を使って足止め、それくらいならできるかと思ったが人に銃口を向けることすらもできずにいた。

 

 いざ始まれば何もできず、ただただ怯えて、走り続けて、がむしゃらに追いつくしかできなかった。あれだけの訓練と経験をしても、それだけだ。一級の教師たちからの成果がこれ。情けなさと悔しさで胸がいっぱいになり、華奈から顔を逸らして再びうつむいてしまう。

 

 「手・・・震えていますね」

 

 「手のひらが真っ赤になるまで握りしめて、走っていましたから。それと・・・人に向けたからでしょうか」

 

 荷物を置いた華奈の小さな手が藤丸の震える手をそっと握り、落ち着くように、子供をなだめる時のような優しい動きで撫でていく。疲労と緊張。肉体と精神の両方から来るその震えが少しだけ、ほんの少しだけ収まり、藤丸もそっと華奈のほうに再び顔を向ける。

 

 「後者でしょうね。きっとそれは。でも、それでよかった。震えて、怖がってこそ先に進めます。その感情があっても、弱くても先に進めるその心は、耐えきる体は今までの積み重ねが無駄じゃなかったこと、これからも強くなれる証です」

 

 優しく、けど強い声色でしっかりと話す華奈の言葉。震えていてよかった。積み重ねが無駄じゃなかった。強くなれると言ってくれた。藤丸に思わず目を見開くほどの衝撃と嬉しさが駆け抜け、華奈の言葉に耳を強く傾け、口の動き、しぐさ一つにも集中していく。

 

 「私も、銀嶺のみんなも一度はそういう壁、苦しさを超えてここに来ています。私自身策を練る際に生前は被害の計算で苦しんだりすることもありました。今は慣れもあるのでしょうけど、それでも恐怖はあります。でも、その恐怖を皆が強く味合わないようにしたい、終わらせたいと思い強くなる。弱さからの強さというのは確かにあると私は思います」

 

 「・・・・・・・」

 

 「藤丸様。強さは己の器を、弱さを自覚してから始まります。その手の震えも、悔しいと思う気持ちも恥ではなく、これからの藤丸様の糧となるでしょう。またみんなで強くなりましょう。私たちも、藤丸様が生きるように、マシュ様たちのサポートをできるようにいろいろ頑張りますから」

 

 一瞬、悲しい表情を見せた後に柔和で、女性らしい笑顔を浮かべて藤丸に話しかける華奈。月明かりに照らされて見えるそれは美しく、安心してしまうものであると同時に頼もしい言葉に、やさしい言葉に少し気持ちが楽になったか藤丸は少し目を閉じ、強く目をつぶり、両手でほほを叩いてからすっくと立ちあがる。

 

 「ありがとうございました。・・・手はまだ震えますし、怖いですが・・・気持ちが楽になりました」

 

 「っふふ・・・そうですか。ああではこれを。ダンカンに渡せばおいしいお酒とジュースがありますよ。皆様がいるところで飲んで、いろいろ話して気を楽にしてください。人生の大先輩方です。もっと気が楽になりますよ」

 

 なにやら小さな紙きれを渡して華奈も立ち上がり、安心したといつもの穏やかな空気に戻る。どうやらこのこうなるかもと予想していたか、元から用意していたのか。お見通しなように思えて自分は小さいなと内心藤丸はほほをかく。

 

 「そうです藤丸様。一ついいですか?」

 

 「あ、はいどうかし―――・・・っ!?」

 

 ダンカンを見つけに行こうと歩き始めた藤丸を引き留める華奈の声。それにくるりと振り向くと華奈はいない・・・いや、いるのだが自分を抱きしめ、そっと背中を撫でていた。鎧も脱いでいるせいでそのしなやかかつ出るとこの出た豊満な肢体の柔らかさやいろんな匂いが混じっているのにも関わらず感じる華奈自身の、女性の甘い香りに一気に藤丸の心拍数は跳ね上がり、顔が真っ赤になる。

 

 「いいですか。きついときは、こうして誰かに甘えたり、吐き出してくださいね? 頑張るようには言いましたが、頑張りすぎても壊れちゃうのです。癒しや、元気をもらうために弱音を晒すのも、必要ですから」

 

 「は、はい・・・・・」

 

 「よかった・・・・では、私も少し別用があるのでこれで。ああ、ダンカンはこの先の角を右に曲がったところで鍋を開いていましたから、そこでもらってくださいね?」

 

 くすくすと、藤丸の反応を見て笑った後に後頭部を優しくなでた後に華奈も荷物をもってふらりと表通りに移動。すぐにまわりにいた人々が華奈の名前をあげていたことからもまた人波にもまれているのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えながら藤丸は先ほどの華奈の言葉と感触、匂いにぼうっとしてしまい。

 

 「・・・みんなに、いろいろ話を聞こう・・・」

 

 つぶやくようにそういうと華奈の話した場所に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 「ね? いいものでしょ? つらいことも、疲れたこともみんなで共有して、薄めて、おいしいご飯やお酒・・・マシュちゃんは未成年だからジュースで吹っ飛ばしてしまうのよ」

 

 「はい・・・! 少し、楽になりました。その、命を奪わないようにしましたが、正直、あの場所・・・戦場の空気は、フランスとはまた違って」

 

 藤丸が華奈のハグにぼんやりしているときからほんの少し前、ペイルウィングのままのストーム1とマシュも銀嶺隊と一緒に勝利の宴会を楽しんでおり、ストーム1はワイン。マシュは雰囲気だけでもとぶどうジュースを飲みながら銀嶺の人も魔獣も関係ない宴会芸や踊りに笑ったり、驚いたりしながら時折食事をつまみ、そのまま相談会となっていた。

 

 「いやー、本当、おいしいご飯をこうして食べる戦帰りの夜は私の生前じゃあ珍しかったわねえ。民間人時代は逃げながらそこら辺のコンビニや弁当屋さん、スーパーから分けてもらったり、買ったおにぎりとお茶でしのいで、EDFもレーションばっかりな時も多かったから」

 

 「それどころか夜襲作戦や、本当にいろいろしていましたものね。・・・・・・・そういえば、先輩、大丈夫でしょうか・・・」

 

 英霊の力、その精神性もあるせいかいくらか血、戦に関しての耐性があるとはいえマシュも元は戦も知らない、それどころか外の世界も知らないほどの超弩級の箱入り娘。ストーム1、銀嶺のみんなと話して、慰めてもらい、笑うことが出来たが民間人。というワードから藤丸を思い出したか表情が沈み、心配の色が顔に出てしまう。

 

「大丈夫よ。あの子は強いし、弱さを吐き出せるだろうからねえ。マシュちゃんもまずは自分が元気でいるようにしておかないとだめよ。そうでないと藤丸を心配しても逆に心配されちゃうしね」

 

 マシュの頭をポンポンと撫で心配ないとほほ笑むストーム1。相変わらずその表情はよく見えないがその空気や仕草から優しさは感じ、マシュも少しだけ表情が和らぐ。

 

 「どうせここにでもふらっと来て、いろいろ話すと思うから、その時に付き合ってあげなさい。その時はマシュもしっかりと言いたいこと、怖かったとか、きつかったとかの弱音もはいちゃってよ? ため込んで暴発、いざという時に動けない。は大変だから」

 

 「はい・・・その、少しづつ話していくようにします。しっかりと言葉にできるかはわかりませんが・・・」

 

 「マシュちゃんなら問題ないわよ。あ、ほら藤丸が来たわよ。みんなで話しちゃいなさい」

 

 ストーム1が指さす場所から藤丸が何やら小樽を二つほど持ってきてこちらに歩いてくるのをマシュも見かけ、表情がぱあっと明るいものになる。

 

 「あ、先輩! ストーム1さん。ありがとうございました。いろいろ、話してみようと思います!」

 

 すぐさま立ち上がり、藤丸に近づいていくマシュ、その後に清姫やジャンヌオルタ、クー・フーリン、ジークフリートたちが集まって騒ぎ始めたのを見届けた後に腰を上げ、都市の外周辺、警らの兵を配置している場所の一つに飛行ユニットを使って移動。天幕の一つに入っていく。

 

 そこには既に華奈が腰かけ、酒を軽く飲んでから用意していたつまみをストーム1に差し出し、椅子も用意してくる。

 

 「お疲れ様です。マシュ様は大丈夫でしたか?」

 

 「お疲れさま。まあね。冬木の時から思ったけど、芯がものすごく強いわね。あの二人。あ、ありがと」

 

 ストーム1もそれを受け取って口にし、酒を一息に呑む。予想以上に早い立ち直り、無理をしている空気も感じなかったし、意識の切り替えが得意なのか、それともこの異常事態の連続の特異点攻略の旅が鍛えたのか、兎にも角にもマシュと藤丸は強い。それがストーム1の今までの見てきた感想である。

 

 「さすがにあのヘルモード、ないしノーフューチャーな戦いに行くと決めた人間。成長度合いが凄まじいですよ。藤丸様のほうもどうにか立ち直れそうです。今夜はとにかくみんなと騒いで少しでも発散の仕方を覚えてくれれば・・・」

 

 「あんまり、人同士の争い、それも戦争に慣れさせるのもあれだけど・・・精神が壊れないようにメンタルチェック、ケアも考えておくべきよねえ・・・」

 

 「姉上、ストーム1。ここにいましたか。探しましたよ。オルガマリーも一応は大丈夫そうです。今は紫式部の用意しておいた本に術で心を休めています。あと謎のナレーションやらで気がまぎれたかつぶれることはなさそうです」

 

 二人の会話に交じる声。アルトリアも酒と干し肉を手土産に天幕の中に入り、左翼の戦場で指揮を取っていたオルガマリーの様子を報告、酒を飲んで一つ息を吐く。

 

 「アルトリア様もお疲れ様です。よかった・・・これでとりあえず三人は一つの波を超えましたか。後は・・・ローマの危機は一つ越えましたし・・・」

 

 「こちらの私用。布やらいろいろやっちゃいましょう。あ、そうです。カルデアからロマニ、ダ・ヴィンチちゃんからカルデアの物資を送れるように霊脈の確保、近くの・・・え、・・・・え・・エトナ火山。そう、エトナ火山のほうで召喚サークルのセットをしてほしいそうです」

 

 「・・・あれ、あそこは確か死霊の類が跋扈してなかったか? 少し空飛びながら見ておいたけど」

 

 酒が体の中に入り、かすかな心地よさに身をゆだねながらの今後の話。カルデアの動きのためにも召喚サークルが欲しいのだがどうにもストーム1のガンナーの目で見るにそこもまたちょっとした危険地帯。魔力が多く流れる霊脈である以上仕方ないのだが、死霊とは少したちが悪い。

 

 「私としてはアルトリア様、香子様、ジャンヌダルク様、ジャンヌオルタ様、エミヤ様とオルガマリー様、マシュ様と藤丸様のメンバーで退治ついでに訓練を積ませておきたいですね・・・礼装のアイデアにもなるでしょうし・・・どの道死霊を相手するならジャンヌ様はうってつけでしょう」

 

 『カルデアから見る分にも戦場と比べれば危険度も脅威度も天と地ほどですが・・・船坂さんもなかなかにスパルタですねえ』

 

 戦を終えての翌日も実戦。カルデアの事情もあるので仕方ない部分はあるのだが、それでも思わずツッコミが入る。

 

 「というよりも、しないといけない部分は私たちの観点からもそうですが、死霊が下手に行動範囲を広めて被害が出ないという意味でも必要なのですよ・・・私は私で前線の様子を見てから許可をもらってローマに戻ります。良馬様のほうでも礼装のデータ収集。お願いします」

 

 『了解です。船坂さんもどうか無理をなさらずに。一応バイタルは問題ないですが』

 

 『華奈が受肉した英霊とはいえ、無茶は大変だからねえ・・・礼装はレオナルドとフラムが頑張っている。とりあえずは基盤固めを明日から頑張ろうか』

 

 「はぁ・・・とりあえず、明日は動き回れるようにフェンサーにしておこう。ワイバーンとかもいないし」

 

 その後はみな酒を軽く飲み、夜食をつまんでから休息。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガリアの安全のためにより先に進むのも上策・・・だが、余にはこの先に踏み込むには今は難しいとみるが・・・どう思う? 華奈、ストーム1よ」

 

 「私の部隊は野戦特化。ある程度の野営地、砦くらいならどうにかなりますが・・・これは一筋罠ではいかないかと」

 

 「俺にも危険に見えるな。一つ二つ潰せても、意味がないか、罠に見える」

 

 二日目の朝。ネロは諸将を集めての敵の第二の防衛ラインに関して勢を頼みに攻めるか、一息つけるかの議論のために軍議を開いた。結果としてはその場にいたほぼ全員が今は攻め込むのは難しいと判断。客将の一人である荊軻もどこもかしこも怪しいというほどであり、最後に華奈、ストーム1もこれに同意見。

 

 そもそもが魔獣による機動戦術に重きを占める銀嶺は城攻めは苦手。防衛に関しても前準備が普通の部隊よりも必須。少なくともアンナの魔術部隊、ヤマジ、ダンカンの工兵部隊で用意させて無事に城を取れる。しかし、この左右の端を抑える大樹の城、連合ローマの最後の砦となる谷、点在する野営地や砦、どれもが配置の仕方、強さも並みのものではなく、不用意に何処を攻めても返り討ちが関の山と見る。

 

 カエサルを倒してもまだこれほどの陣地設置、軍略に秀でた人材が連合ローマにいる。相手の敷く兵の配置でもこうも見せつけられるのだから恐ろしいものだと華奈も少し眉根を寄せてしまう。

 

 「ここはローマの強さを・・・砦、野営地を前線に用意して守りとすぐに兵士を出せるようにしつつも兵士を休めるべきかと。ひたすらに戦い通しでは兵士たちも大変ですし、これから先は相手の城塞施設を攻めるのです。根気よく構えるのもローマならたやすいかと思いますが・・・」

 

 「よくぞ言った! ローマの建築力で戦うのは実に良い! 大反撃をするための備えともなる策。採用するぞ! なら、華奈の部隊の狼、猪らはその間警備に斥候に出てもらおう。それとだが、このガリアを奪還した後の総督についても今協議したい。やはり統治するには総督が必須であり、にらみ合いになることからもここで兵士たちや集まる人々の不安があってはならん。というわけで・・・・・・」

 

 その後は連合ローマの襲撃によって死亡して空白になっていたガリアの総督に客将ではあるが国を治めた経験のあるものとしてブーティカを短期間の臨時でという条件付きで任命。ネロ自体も先には進みたいがそれよりも戦後処理でてんやわんわといったところらしく、ストーム1がちらりと視線を移せばここにまで持ち込んでいる書類の山がずらり。

 

 形としてはローマの失地回復を進めるという姿勢を見せてはいたが本音はこの処理に意識を向けたかったようで、すらすらと戦後処理、その間の守り、対策に軍議はほとんどされることとなり、華奈たちは火山での悪霊退治とローマの警護をするというとあっさり了承。初顔合わせの荊軻、ブーディカには軽く挨拶をしてから会議半ばで抜け出すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・・・ネロ陛下も大盤振る舞いですねえ。『先に褒美を渡すから欲しいものをいうがよい!』で布が欲しいと言えばこれほどのものを・・・しかも皇帝の証文付き・・・」

 

 「いいことじゃあないか? しかし、本当にこの量なら下着だけじゃなくて、服もいろいろ作れそうだ」

 

 「ストーム1曰く変人とは聞いていたが・・・服を作るのを目的の一つに特異点に来るとはな・・・しかもそれが円卓のあの女騎士。納得はするが・・・」

 

 あの後、ネロからもらった皇帝直々の国がお金を払います。の証文と山ほどのお金をもらってローマに戻り、人ごみの中でフェンサーのパワードスケルトンで事故があっては大変だと結局レンジャーに戻ったストーム1。移動途中に急にかかってきたメディアからの通信で染料、その他霊薬、使えそうな薬のメモまで渡されて服飾の下準備に気を回す華奈。そして約束通り無事にあって自己紹介を終えたストーム2隊長こと軍曹。

 

 カルデアの現状、そして軍曹から見た砦や相手の守りの強さを語らいながら用意した荷車に布や染料を買い求めるショッピングをするという少し変わった時間を過ごし、合間合間にこちらを呼んでくれる市民の人々に応えて手を振るという具合。

 

 「いやあ、急な襲撃といいますか爆破テロのせいでいろいろ大変なうえに特異点以外外にも出れない。こういう形で補給しないと大変なんですよ。シバの観測システムの応用で物資が運び込めないともっとかつかつだったでしょう」

 

 「で、軍曹。来たのはいいけどどうしたんだ? ほかの人たちは前線で守りについているんだろう?」

 

 「うむ。ストーム1が認めたマスター。その手腕は疑わない。仮契約を結んでほしいのと、後はこれを渡しておきたい」

 

 そういうと軍曹は持っていたブレイザーのマガジンの一つを華奈に渡し、仮契約を結びたいと申し出てきた。

 

 「カルデアの状況と特異点。よければ俺も藤丸くんとやらの助けになりたいし、職員の補助を行いたい。特異点攻略後にできればカルデアに召喚してほしい。コンバットフレームの免許もあるし、ある程度の電子機器での処理、雑用は出来る。どうだろうか」

 

 「もちろん。軍曹さんたちほどの方々なら大歓迎です。では、契約を。ふふ、これからもよろしくお願いします」

 

 現代のテクノロジーに触れている人間であり、歴戦の戦士。人手不足で常にてんてこまいなカルデアにとってもうれしい話であり、華奈も迷わず契約を行使。ストーム2たちとの魔力のラインをつなぐことが出来た。

 

 『頼もしい、不死身な男たちが来ましたね。あ、船坂さん。報告です。無事に所長、藤丸君たちがエトナ火山を攻略。召喚サークルを設置出来たのでこちらからも服飾道具と物資を送ります』

 

 『あー・・・それとなんだけど、メディアがすごいやる気満々で、一応こっちから3時間と元が疲れない、負担を感じない時間でのこちらへのレイシフトを許可したけど・・・暴走を抑えてもらえないかな・・・?』

 

 「了解です。アンナ様と・・・ダンカン・・・いえ、クラークですね。後は確か服飾が得意なうちの部隊の人は・・・」

 

 やっぱりか。という感想を持ちながら急遽借りた野営地の一つに足を進め、銀嶺にも報告。メディアのハッスルに巻き込まれる女性陣に心の中で手を合わせつつ華奈はストーム1と荷車を押し、残りの布や必要なものを移動しながら買い集め、まだ事情を理解できていない軍曹は不思議に思いながら華奈と荷車を押す役を代わり、市場を抜けて、また雑談に花を咲かせた。




次の場所が固すぎて下手に攻められない。兵士たちの疲労も大きい。そもそも戦後処理や羅行政機能の復活で動けない。というわけで小休止。進軍自体は減るので華奈たちもさほど大きな動きは取りませんし取れません。

銀嶺も魔獣との連携での機動力が売りなので城攻めは苦手。水軍なんてさらに無理です。

ローマを練り歩こうかと思ったらその前のことでいっぱいになったのでローマ散策、物見遊山はまた次の機会に。

荊軻ら客将ともしっかりと顔合わせをしたり、こまごまとしたことをしていきます。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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仕立てのお時間です

ジャンヌオルタ「ふん。大したことないわね。死霊も数だけじゃね。兵士のほうがまだ固かったわよ」

ジャンヌ「お疲れ様。オルタ。ふふ、頼もしい妹のようです」

ジャンヌオルタ「・・・・・・ねえ、マスター。私の耳がおかしくなったかもだわ。いま、訳の分からない言葉を聞いた気がするわ」

藤丸「オルタが妹みたいってしっかり言ってたよ」

マシュ「なるほど。ジャンヌさんがしっかり者な長女、ジャンヌオルタさんが元気な次女。という感じでしょうか?」

ジャンヌオルタ「ああああ!! 言わないで! 聞いただけで吐き気がするわ! こいつが姉とか何の冗談よ!!?」

ジャンヌ「えー・・・? いいと思いませんか? 私が守りで支えてオルタが前で頑張る。連携もそうですが姉妹同士のコンビネーションみたいで素敵・・・」

オルガマリー「はいはい。ストップストップ。火山を溶岩以外で燃え上がらせるのはこれ以上はやめましょう。サークルが壊されたら大変だわ」

アルトリア「そうですよ二人とも。その色を塗り替えただけの鏡合わせのような漫才は後でもできますから帰りましょう。でないとカリバーでもろとも吹っ飛ばしますよ?」

紫式部「そ、それにですが華奈様も布やら礼装の用意ができたみたいで。皆様が帰ってきたらすぐに用意していくと言っていました。先に戻りませんか?」

ジャンヌオルタ「あーそういえば言っていたわね。ローマの目的の一つは達成したと・・・・いいわよ。帰りましょう。そこの聖女様の妹にされる前に私も退散して部屋着の一つでもねだっていたほうが建設的よ。じゃ、マスター先帰るから」

ジャンヌ「あ、オルタ! 一人では危険ですよ。私も・・・」

ジャンヌオルタ「ついてくんなー!」

エミヤ「やれやれ・・・マスター私たちも帰ろう。マスターの礼装に部屋着、精神的な意味でも服は必要なもの。採寸を早めにして休もう。私たちの戦いぶりからネロ陛下、ローマの信を貰えた。また動くときは派手に動くと思われる」

オルガマリー「わかっているわよ。じゃあ、戻るわよ皆。場所は野営地の一つを借りたみたいだからそこに行くわよ。あ、一応野営地と言っても最前線からは離れているから」

藤丸「了解です。服か・・・そういえば、持ってきた服、半分燃えちゃったしなあ・・・」

マシュ「休息時も制服と私服ではリラックス効果の差やそれによる肉体の休息の度合いも違うといいますし、これで職員、先輩も落ち着いて休めることになりますね」

藤丸「うーん。そうかもね。基本制服を着回ししていたし、じゃ、行こうか」

マシュ「はい!」


~カルデア~

咲「よし、これで姐さんに頼まれた女性職員の仕立てに必要な情報はばっちり・・・基礎もこれでいいし、えっと・・・」

冬利「野郎たちの分も良し。最近は土いじりもする人が多いし、ここらで用意しないとなー」

良馬「私も楽しんでいますがどうしてもツナギ、ジャージみたいなのが欲しくなりますからねえ。船坂さんもいい素材を手にしたそうですし、古い肌着や私服はしっかりと洗って少し休ませておきたいですよ」

冬利「お、おつかれー。元はどうしたよ?」

良馬「道具をあさっていたメディアさんに捕まってレイシフトの部屋に行っていましたが」

咲「わ、私とフラムも採寸されていたけど、ローマでも自分でやるみたい・・・」

良馬「・・・無事だといいですが」




メディア「さあマスター! 魔女で道具作成の技能の活かしどころよ! レイシフトしてパパっと移動! そしてじっくりねっぷり彼女たちの身を守るもの、生活に必要な衣装を作る準備するわよ! ハリー! ハリー! ハリー!」

元「ぐぇ・・・・ま、待ってくださいまだ準備が・・・!」

メディア「そんなもの魔術部分は私が起動させるから早く! 一秒でも早く準備をして、製作の時間に回したいのよ」

元「華奈に頼まれたものがあるのでそれを持ってきたいのです」

メディア「?」



 「清姫様、椅子の数は・・・ええ。それで十分。後は待合室に薄めたワインでも置いておいてリラックスできるようにしましょう」

 

 「はい。華奈さん。でも、お酒は大丈夫なのでしょうか?」

 

 「大丈夫ですよ。飲料水替わり、甘い葡萄でのワインですし4,5杯飲んでも酔わないでしょう」

 

 無事にエトナ火山の攻略を終えた藤丸たち、英霊たち、銀嶺のカルデアで雑用をしている兵士たちの礼装、私服を用意するために借りた小さな野営地の一つ。採寸するための場所の用意をしていると清姫も協力を申し出て華奈、女性騎士たちと一緒にいすを並べ、飲み物や軽食を用意したりと和やかな時間を過ごしていた。

 

 「しかしまあ、藤丸様についていくかと思っていたらまさかここの手伝いとは。よかったのですか?」

 

 「もちろんますたあに付いていきたかったですし、死霊からお守りもしたいと思いましたが、あの戦力であればきっと問題はなし。ならもう一つの準備をしてすぐに次の行動に移れるようにするのも女の務めかと思いましたし。その、血がついた服はしっかり洗ったりしたほうがいいかなと。汚い衣装に身を包んだますたあも素敵ですが、きれいなほうがきっといいかもと」

 

 「ええ、それにじっくり汚れを抜いておかないと後で洗っても落ちなかったりしますしね」

 

 てっきりいつの間にやら背後にいたりと思っていたが清姫もあの戦のあとで血や土のついた藤丸の服を見て予備の服、鎧代わりの礼装の一つでも用意してやる事が献身と捉えたか。てきぱきとこなしていく。

 

 元がいいとこのお嬢様。服への関心、清めの概念もある日ノ本の英霊の観点からもあるのだろうが、理解が早い。鼻歌交じりにワイン樽を転がして机の上に置き、グラスを置いて準備していく様子をしり目に華奈もカルデアに送る布、サンプル用のものと分けておき、霊薬、小道具、宝石も箱に詰める。

 

 「そういえばストーム1、軍曹さん・・・? はどこでしょうか?」

 

 「ああ、彼らは男性用の部屋を用意していますよ。よし、鉛のグラスはないですね・・・・・」

 

 「あ、私もそっち・・・」

 

 「だめですよ。ほかの方もいますし、清姫様も簡単な服を用意するために採寸するのですから」

 

 男女別になっていると聞いて即座に男性用の部屋に駆け込もうとする清姫の首をつかんで抑える華奈。おそらくだがどこかに隠れて藤丸の身体を眺めるか、自分が採寸すると乱入するのがオチ。とりあえずは何が起こるかわからない(銀嶺の変人どもが)上にマシュやほかの女性陣までも乱入して騒ぎが起こるのも面白いかもだが藤丸の礼装の草案にも時間を使いたい。

 

 「お、用意できているようじゃな。ご苦労ご苦労」

 

 「あら、信長様お疲れ様です。前線は大丈夫でしたか?」

 

 まだ逃げようとしている清姫に意識を向けながらこまごまとした用意をしていたところ物見遊山ついでに前線視察をしていた信長が戻り、なにやら果実を片手に笑っていた。

 

 「わしは大丈夫じゃが、男専用の場所がなにやら野太い叫び声が聞こえたが大丈夫か? しかもどたばたとやかましかったし」

 

 「ああ、レスリングでもしているのではないですか? うちの部隊では所かまわず誰かが汗を流していましたし」

 

 確かに耳をすませば「フンオオォオ!」「アッー!」などなど聞こえ、それを制圧しようと軍曹とストーム1が暴れている様子が聞き取れるが仕事が終わっての小休止だと割り切って無視。分けてくれた果実をナイフでカットして道具を再点検。

 

 「戻りました。華奈様もお疲れ様です」

 

 紫式部の声に気づいて視線を移せばエトナ火山に出かけていたメンバー、ふらふらしていたメンバーも戻ってきており、待合室の椅子に腰かけて皆一息つく。彼女らをねぎらうために冷えたワイン、ぶどうジュースを渡してまわり、自身も茶をすする。タイミングも良く、外から聞こえる男女の声。

 

 「皆様お疲れ様です。いやはや、ちょうどいいですね」

 

 「あら、みんな揃っているのね?」

 

 「わ、私は男部屋に行ってきます・・・」

 

 裁縫道具にスケッチブック、カメラを抱えたメディアとそれに引きずられる形で到着した元。華奈にアヴァロンを渡してから男部屋に移動し、直後におかまたちの黄色い歓声が響き渡る。

 

 「私たちの部屋着も作ってくれるなんて魔術師様も働き者ね? せっかくだから水着とかもあつらえてくれないかしら」

 

 「水着・・・サバフェスを思い出しちゃいますね。確か次回の開催地はアメリカでしたっけ」

 

 「アメリカですか。ふぅむ。いくつか私有地や所有している物件はありますが、咲、冬利様と後で確認しましょうか」

 

 「私にしてみればこっちのほうが本命よ・・・カルデア職員の分は終わらせたからここで手に入った布や道具で作るだけだし。その活力をもらうために・・・」

 

 道具を確認し終わった後に魔術を展開。部屋の鍵を閉め、幾重にも結界を展開。華奈たちが外に出られないように準備されたものはぱっと見でもかなり強固なものだと理解できるほど。

 

 「さあ、かわいい皆の採寸の時間よ!! その柔肌を晒して、計らせてもらうわ!」

 

 「へ、変態だぁあ!!」

 

 「あらー・・・まあ、そうなりますよねえ」

 

 「姉上!? 自分は狙われないからってその反応はどうなのですか!? エクス・・・って魔力が集中できない!?」

 

 アルトリアたちはそのメディアの気迫に何か感じ取って脱出をしようとするもすでにこの場所はメディアの工房、テリトリーの中。アルトリアのエクスカリバー対策もするほどの入念な用意。これからもどれほど楽しみだったのかがわかるというもの。

 

 「大丈夫よ。優ししくするから。さあ一人ひとり始めていきましょうか。何なら一斉でもいいわよ」

 

 竜牙兵を展開して道具を持たせ、採寸、その体系、肌に合った草案を見つつ、ギラギラと目を光らせながらじりじりと距離を詰める姿はメディア自身が美女であることもあって迫力のあるもの。手際の良さや術式の高さはまさしく天才、世界でも指折りの実力を持つ魔女なのだが、その使い方があれ過ぎることもあって残念、もしくは危険人物にしか見えないありさま。

 

 「さあ、着せ替えと資料集めの時間よおぉおおお!!」

 

 「「い~~や~~~~~~ああああ!!??」」

 

 一部の女性をしり目に始まる大魔女の採寸と着せ替え大会。カルデアからの映像記録は華奈がバッサリと切り捨てたので映像記録が残らなかったことが幸いだろうか。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「BOY♂NEXT♂DOOR」(訳 藤丸君、ドアをくぐるといい)

 

 「い、行きたくない・・・」

 

 「ぬっふっふ(^ω^)」

 

 「お、そうそう。センスいいじゃねえか。個人的には緑を基調とした花柄のアロハと、青のアロワナとかの魚をイメージしたシャツをだな」

 

 「むぅ・・・幻覚の応用でシャツのようなものもあるのか・・・では、それとツナギ、後はそうだな。簡単なシャツをいくつか」

 

 「渋いねえ・・・全くオタク渋いぜ」

 

 「あんらぁー私の好みだわぁ。ネネ、どう? ワインで一杯やりましょ」

 

 「アイスワインしかなかったけど、いいかな?」

 

 「い、いや・・・遠慮させてもらうよ」

 

 「だ、誰か助けてくれ・・・」

 

 「・・・おい、ストーム1。ここはいつから変人たちの巣窟となった?」

 

 「マスターが来た時点でかねえ。あ、俺にもワイン一つ」

 

 

────────────────────────

 

 

 「し、師匠に汚されたわ・・・」

 

「仕立てというのは・・・ここまで過激なものなのでしょうか・・・・?」

 

 「いやはや、壮絶としか言えませんでしたねえ・・・お疲れ様でした。皆様」

 

 かれこれ数十分。魔女の大暴走であれこれ身体をチェックされ、幻覚魔術の応用で疑似的な着せ替え祭りから解放されてグロッキーな女性陣。予想外のメディアのハッスルぶりに流石に華奈も驚きつつ皆に水を配り、装いを正していく。

 

 一方でメディアは銀嶺隊内でカルデアの警備、雑務にいる男性、女性騎士のメンバーの採寸をとんでもない速度で行い、いつの間にやら覚えたか電子端末にデータと写真をバリバリと入力し、作業用と私服用と細かにフォルダ分けまでする始末。

 

 「ふぅ・・・至福の時間だったわ。じゃあ、私はもう帰ることにしましょう。マスターもあの男地獄で参っているでしょうし。あ、華奈。あの中に入るのは私にはきついから誰かに頼んでつまみ出しておいて。それとアルトリア。はい。これ。サイズも成長するだろうということで予備もあるわ」

 

 ようやくやることを全てやったと判断したか立ち上がりながらメディアは端末や宝石、道具諸々を片付けていき、最後にアルトリアに少し大きい中身の入った紙袋を渡す。

 

 「感想聞かせてくれるとありがたいわ。次回作の参考になるから。じゃ、特異点攻略頑張ってね。華奈。助かったわ。いい場所を設けてくれて。さーて、今頃銀嶺のおかまどもに接近されているマスターはと・・・」

 

「あ、ありがとうございます・・・おお・・・」

 

 紙袋の中身を見てその作りに感心するアルトアリアをよそに別の部屋から魔力弾の雨の音と野太い悲鳴がしばらく響いていき、何かを引きずる音が部屋の外から聞こえ、その後に二人分の気配が消えた。

 

 「何名か後で治療魔術をしましょうか。やれやれ。相変わらず自由ですねえ」

 

 「服を作るというのはとても大変なことなのですね」

 

 「いや、わしも言うが絶対ないからな? あんなハッスル仕立て見たことないわ。大変さのベクトルが迷子状態じゃ」

 

 そうこう言いながらも身を起こし、装いを正したり休憩用に用意されていた食べ物などをつまみ始める一同。

 

 「おーい。華奈や藤丸らはいるか?」

 

 「はーい。あ、荊軻様。どうなさいましたか?」

 

 華奈が出迎えるのは白を基調とした着物のような衣装に身を包み、鋭い翠色の瞳。黒の髪を後ろにまとめた女性。どこかひょうひょうとしたような空気を感じる人だが、同時にどこか凄みを感じもする。

 

 そして女性の名前に皆が注目する。中国史の中でも指折りの知名度を誇る暗殺者。短剣とこの身一つでかの覇者、始皇帝に立ち向かった刺客。傍若無人の語源にもなった人。

 

 「え、あの荊軻!? あ・・・でも確かにカエサルさんを倒したときに後ろの守りを任せた客将に白い衣装の人がいるなーとは思いましたが・・・」

 

 「おや? 失敗した私ごときにそこまで注目しちゃうとはね。まあいいさ。マシュ。でよかったかな。この前の戦いお見事だったよ。華奈。用意は出来ていることと、もう二人が話がしたいってさ。流石に円卓の狼と騎士王。彼女も反応しちゃってもしょうがない。前線の視察ついでに挨拶をしっかりやるということでどうだい?」

 

 「私とアルトリア様・・・あーなるほど。あのお方に目を付けられるとは嬉しいですねえ。あ、これ頼まれていたものと、私の用意したものですが、使えそうですか」

 

 「ん・・・あれ、姉上。出かけるのですか? なら私も」

 

 クスリとほほ笑んでマシュに微笑みつつも荊軻は華奈から幾つかの道具や羊皮紙、布を受け取り。前線の野営地の場所を一つ教える。アルトリアは早速紙袋の中身を着けたようで着心地をチェックしつつ聖剣を担いですぐに動けるようにしていく。

 

 「ええ、客将の方としっかりとあいさつしに行く感じでしょうか。私とアルトリア様、藤丸様、オルガマリー様、ストーム、マシュ様。軍曹様。これくらいでいいでしょうかね。ほかの皆様は休憩を。では、行きましょうか」

 

 「私は私で別用をしてくる。じゃあみんなまた今度。おかげで皇帝を五人暗殺成功出来て大分仕事ができているし、お礼ということで個人的にいい酒でも振る舞わせてくれ」

 

 気配遮断を使用して早速移動し始めた荊軻を見えないまま見送りつつ、華奈とアルトリアは男の仕立て部屋に移動して少しのドタバタの後ストーム1と軍曹、少し疲れていた藤丸を引きずり出しておき、マシュたちも武装のチェック。アヴァロンをマシュの盾の裏に付けてから野営地に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっほー。この前の大立ち回りお疲れ様。私たちもだいぶ苦戦していたから本当に助かったよー♪」

 

 前線、敵の砦や旗の数もうっすらと見え隠れするほどの距離に構える野営地に着た藤丸らを出迎えたのは燃えるような赤髪を短いながらも後ろにまとめ、薄い翠と青の入った瞳。白を基調とした胸を幾分か晒す衣装に茶色の腰当らしきものに赤のスカート。左手には丸盾。右手には長剣を持っている。華奈よりも大きな長身とその見事なスタイルとにこやかな笑顔と雰囲気が合わさり健康的な色気を持つ女性。

 

 ローマの暴走に被害を受け、反乱を起こして大国に牙をむいた女王。ブーディカ直々の出迎えを藤丸らは受けることになる。

 

 「いやはや。まさか勝利の女王からのお誘いを貰えるとは、光栄ですねえ」

 

 「私もです。彼女の名前はブリテン、いえあの島に住むものであればだれもが一度は聞くでしょうから」

 

 彼女の生きた時代よりも数百年後とはいえ大国に立ち向かった勇士。勝利の女王というビッグネームは当然アルトリアたちの間でも語り継がれていたものであり、その人物と出会えたということが嬉しいものであり、同時にローマを心底憎んでいそうなものなブーディカがこうして客将でいることに違和感を覚える。

 

 「あ、君が藤丸君にマシュちゃんだね? 若いのにこうしてこんな戦いでも最前線で頑張っていて偉い偉い。お姉さんも頑張らないとね。オルガマリーちゃんもその若さで宮廷魔術師に総督とお疲れ様。無理してない?」

 

 そんな円卓組の心情はつゆ知らず、ブーディカは早速マシュ、藤丸、オルガマリーを次々とハグして頭を撫で、包容力あふれる笑顔で微笑みかけていく。

 

 「わぶっ・・・! ま、また・・・」

 

 「あ、ありがとうございま・・・先輩、誰かにハグされたのですか?」

 

 「大丈ぅぶっ。女王陛下自らこうまでして大丈夫でしょうか?」

 

 「? 気にしないでいいわよ。今はローマの一将官だもん。あ、でもこの前総督に私もなったからむしろオルガマリーちゃんとは同僚か。今度一緒に食事でもする?」

 

 フットワークの軽さと包容力。大人の女性の色気に三人が圧倒されているとブーディカの視線は華奈とアルトリアに向けられ、ひときわ目を輝かせ、駆け寄ってきて二人の間に入って抱き着いてくる。

 

 「待っていたよ~! 騎士王に銀狼! あの大国、大陸からの戦いに勝ち逃げしちゃうなんて羨ましいやら私の時代に一緒に戦いたかったよ。円卓や銀嶺は中級指揮官も多いし。なんてね」

 

 「わふっ・・・勝利の女王にそういわれるのは光栄ですよ。っふふ。素敵な歓迎。ありがとうございます。ブーディカ様」

 

 「みゅぶふっ!? や、柔らかい・・・うぅ。私のも幾分成長したのに、遠い・・・っは。失礼。そうですね。叶わぬことですが、代わりにこうして今からでも馬を並べて戦えるのは騎士として、兵士として誇りです。今回の誘いもありがとうございます。ブーディカ」

 

 なにやら柔らかさを感じつつも女性として張り合うものまだ届かぬことに敗北感を感じるアルトリアも復活してブーディカのハグを受け入れ、こちらからも抱きしめ返して嬉しそうにほほ笑む。理由はあまりいものとは言えないが周辺の部族、氏族をまとめて23万人という大軍を集めることが出来る手腕を持つ戦闘女王と戦えるのは同じ島の出身としてはうれしいこと。

 

 華奈も銀嶺の、仲間たちの評価をされたりとで思わずうれしくなってほにゃりと緩んだ笑顔で笑い返す。そんな金と赤と銀の美女の団欒に一同ほっこりしていたが、それは一人の筋肉に遮られることに。

 

 「おお、同盟者よ。見事な圧政者への対処、手腕。良きものだ。これからもその愛をもって圧政者に反逆し続けようではないかね?」

 

 その男は2メートルを超える巨漢。体には拘束具をいくつも身にまとい、腰にはパンツと腰当くらい。もはやこれが自身の服ともいわんばかりに意に介していない。それを無言で受け入れそうな、ほとんどの人が受け入れるであろう程のたくましい筋肉もりもりマッチョマンぶり。少し力を入れれば拘束具も悲鳴をあげそうなほどだ。

 

 金髪の髪に蒼の瞳。美丈夫、なかなかのいい男ぶりを感じる顔つきだが、なによりもその表情は笑顔が強力接着剤でくっつけられている。溶接されているのかと思うほどに張り付いており、どこか不穏、不気味さも感じられる。腰に下げた剣からセイバーあたりかとも考えはするが、皆がこの言動からもバーサーカーとあたりをつけてしまう。

 

 「あ、そっちはスパルタクス。私がブレーキ役をしながら前線で活躍。してもらっているよ。この前は私がいなかったけど、無事に敵地にそのまま吶喊し続けなくてよかった」

 

 「あのスパルタクスか。確か、奴隷戦争とかで大いに暴れまわった戦士だっけ。英霊だから仕方ないが、本当にビッグネームがゴロゴロ出てくるなあ。サイン色紙何枚用意しておけばいいんだろうな?」

 

 「それこそ大きな本棚一つ分くらいは必要では? ああ、スパルタクス様もありがとうございます。ええ、これからもどうかよろしくお願いします」

 

 中華屈指の知名度の暗殺者に勝利の女王、続けて反乱を起こした中でも有数の戦士。しかも苦境を何度も跳ね返して抗い続けた前線においては最も頼もしい戦士。

 

 フランスやぐだぐだな世界でも味わったが、それでもこうも大物が出て来ほうだいな状況にストーム1は苦笑し、華奈もブーディカに抱きしめられながらも片手を出してひらひらと振って応える。

 

 「・・・・・・! 嵐の戦士よ。君はとても、とてもすさまじいまでの圧政者と戦った経験がありそうだと見えるが、どうかね?」

 

 「おう? まあ、圧政者と言えばまあ。そうだろうなあ。地球そのものを侵略しようとしたり交渉も通じない奴らだったし」

 

 「ははははははは!!! 素晴らしい! その圧政者に立ち向かい続けた気力、手腕。どれも素晴らしいものだ。私よりもはるか先から来たであろう反逆者であり友よ。私と一つ愛をぶつけあってくれはしないか? その手腕、気概を学び、よりこれからの圧政者との戦いに備えたいのだ」

 

 清々しすぎる笑顔のまま剣を抜き、戦闘態勢を取るスパルタクス。ストーム1も一度はあっけにとられつつも戦闘態勢を取り、生半可な戦術じゃ無理だと宝具を解放。フェンサーにチェンジして真っ向からぶつかり合う体制を整えてシールドを構えておく。

 

 「ええー・・・? いきなり戦闘? マシュ。藤丸。下がるわよ。絶対これ派手なものになるし」

 

 「あーごめんね。客将が新しく来たと聞いたときに腕前を見てみたいと話していたからスイッチ入っているみたい。ほら、ストーム1? でいいんだっけ。彼もまたとんでもない経歴みたいだからなおさら。ね」

 

 「俺がオルガマリーたちを守ろう。ストーム1、思いっきり暴れてこい」

 

 「派手な歓迎会ですねえ。ちょうどいいので余興の一つにでもしますか?」

 

 「「いきなり過ぎません!?」」

 

 「姉上。観戦の準備はばっちりです」

 

 もう疲れていたのか焦ることもなくすぐにマシュと藤丸を呼んで後ろに下がるオルガマリーとそれらの護衛を買って出る軍曹。まあいいかと気にしない華奈に驚く藤丸とマシュ。一興だろうと椅子を用意しているアルトリア。勝利の女王の元気かつ穏やかな歓迎の次に不屈の闘士からのとにかく派手な歓迎と一勝負。いつの間にやら周辺の兵士も集まっており、兵士間の間で賭けも始まっている始末。

 

 「さあ友よ! 思いきり行こうではないか!!」

 

 「くっそ、超人レスラーみたいな身体しやがって! 遠慮なく行かせてもらうぞ!!」

 

 それから始まる特大サイズの肉戦車と鋼鉄の装甲車の派手な激突は夕方まで続き、その後は戦いの衝撃で出来たクレーターに水道を引いて整備して公衆浴場とし、皆で湯を楽しんだとか。

 

 ちなみにスパルタクスは痛くストーム1を気に入り、そのせいで第二のブレーキ役としてブーディカに誘われ、華奈とブーディカの料理対決が行われてアルトリア審査員がほかの審査員のものまで食べそうになったりと戦の激しさとは別のにぎやかさがしばし野営地に響いた。




前回の更新から大幅に遅れて申し訳ありません。リアルの事情が忙しく、なかなかに手を付けられない状況でした。それでも待ってくださった皆様本当にありがとうございます。よければ今後ものこの駄文にお付き合いくだされば幸いです。合わなかった方にはどうか素晴らしい作品との出会いを願います。

そしてUA10万越えありがとうございます! まさかここまで来るとは思いませんでした! 改めて有難うございます!


藤丸君の礼装生産の下準備はこれで完了。使えるようになるのはしばらく後です。


ブーディカの受けた仕打ちは夫の王様の死から代役として王位に就くも同盟を組んでいたローマ、ローマの担当をしていた総督が暴走。

ちなみにローマは史実ではブリテン島へ支配の確立、進出の足掛かりとしてブーディカたちの国と同盟を組んでいたので国力の差はあれど一応は同じ立場のはずの同盟国、その女王や娘たち相手にあの仕打ちをしています。しかも娘は奴隷として連れ去ったりやりたい放題。

ブーディカの国もローマの法律で領地を取りあげてローマの属州にしたりとどちらが蛮族なのやら。

ブーディカの声に最終的に23万近い数が動いたのも納得です。なにせ同盟国の緊急の対処すら許さず、国のトップ直々の言葉すらも知ったことかと国王の一族すらも辱めて奴隷とすらしてしまう。周辺も危機感を覚えて結託しても仕方のないことです。


荊軻はともかく上司と同僚に恵まれていないとしか言えません。始皇帝を討つために首を差し出した将軍も歯噛みしていると思います。個人的にはこの荊軻の始皇帝暗殺計画は史実での始皇帝御つきの医者のエピソードも好きです。始皇帝の人間らしい部分も見え隠れしたりで。

個人的には逸話やら胆力という意味では同じ時代から藺相如、おそらく春秋戦国でも最強格の白起将軍がFGOで実装されたら興味深いです。

「完璧」「怒髪天を衝く」「刎頸の交わり」などなどの故事成語の語源を生み出したとんでも人物。始皇帝のおじいちゃんを何度も相手して一杯食わせたりと傑物な藺相如。

史記を軽く見るだけでも将軍としての功績で合計でおおよそ84万人を討ち取ったりした白起。盛っている言われていますがそれでも功績はとんでもないもの。どちらも出てきたら一癖も二癖もありそうな傑物ですよね。


しばらくはこのようなのんびりしたノリを行くと思いますがどうかよろしくお願いします。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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あることわざ

ネロ「衣装の仕立て祭りにスパルタクスとストーム1の模擬戦闘、さらにはそこからのテルマエの建設になって楽しんだ!!? ずるいぞ! 何故そこに余も入れてくれないのだ!」

オルガマリー「い、いきなりの展開でしたもので・・・それと、模擬戦からは本当にこちらも予想していたわけではないのです。どうかご容赦を・・・」

藤丸「(仕立てとお風呂で何度かSANチェックしそうな光景やちょっとしたトークショーとかがあったし、多分いないほうが正解かも・・・)」

ネロ「むぅ・・・まあよい。今度は余にも一声かけるのだぞ? で、だ。一応は連合ローマを追い出したはいいのだが、ガリアの内部でその残党が野盗になっていてな。ちょこちょこ野営地にやってくる商人、町での騒ぎが確認されている。動けるか?」

オルガマリー「それは大丈夫ですが・・・野盗ですか。彼らはなぜ連合ローマに戻らないのでしょうか? あの士気を与えるほどの将軍や皇帝がいる場所に戻るほうがいい気もしますが」

ネロ「うむ。おそらくだが、前線にいる将たち。軍曹やブルージャケットと遠距離戦に秀でたものやスパルタクスに呂布。多くの客将と我がローマの精鋭が連合ローマをにらみつけている。その分厚い最前線を縫って戻るよりもこちらで少数で嫌がらせをするほうがこちらへの嫌がらせの効果と生存確率も高いと踏んだのであろうよ」

藤丸「この前の大反撃で少なくとも怖がる人はいそうだしなあ・・・」

ロマニ『ゲリラ戦、もしくは生きる確率ならこのほうが高いから選んだ。というわけだね。後は、その指揮官らに会えなくて鼓舞する存在がいない故かな? 此方で華奈の用意してくれた地図と照らし合わせて隠れやすい場所とかを割り出しておくからゆっくり準備しておくといいよ』

良馬『冬利さんの出番ですかね。船坂さんと一緒に何度もゲリラ、武装勢力を鎮圧していますし』

ネロ「ゲリラ? よくはわからぬが、カルデアの人材は豊富なようだな! 委細任せる! 兵は一応被害にあっているガリアの一部の兵士たちを好きに動かしてもいいようにブーディカに伝えてある。連携して事に当たるように!」


 「オルガマリー様。頼まれていた資料の整理が終わったので確認をお願いします。それと、そちらの羊皮紙や布の本は片付けておきましょうか?」

 

「オルガマリー。先ほどの残党討伐の戦後処理の資料を一部用意できました。それとですが、市民からお礼として果実や酒、肉が届いていますが」

 

 「ありがとう。式部さん。お願い。確かそれは市民の鎮撫、意見だったから奥の棚ね。アルトリアもありがとう。・・・・さすがね。読みやすいわ。お礼は文官の皆さんに振るってあげて」

 

 総督兼宮廷魔術師としてローマで日々政務に励むオルガマリー。最初は戸惑いや文化の違いもあったが周りのサポート。特にそういった世界で過ごしていた紫式部、国一つを動かしていた上に周りが脳筋だらけだったせいで政務の実力もそこらの文官が裸足で逃げ出すレベルの実力を持つアルトリアが補佐官として書類との格闘を助け、現場でもジャンヌにエミヤ、更には将軍として藤丸と華奈のサポートもあって今では総督というよりもローマの前線と周辺属州、ローマの橋渡しをする中間管理職、便利屋として皆からの対応に追われてる日々を送っていた。

 

 「えーと・・・負傷者は少なめ。だけどもう戦線復帰は無理な人が出たのね。その人には退職金をはずんであげて。それとその経験を活かせるように新兵を鍛える練兵所への配属に行かないかの話を持ち掛けておきなさい。ノウハウ、現場を知る者の知識は金よりも貴重だわ」

 

 ただ、それでもそれは楽しいものであり、何よりも以前のカルデアとは違う視線でものを見ることが出来た。人を指揮する、まとめるという立場は変わらないのだがより現場に近く、時には現場に出てその人々や英霊たちの声を聞く。同時にトップ。ネロやほかの総督、将軍、文官らの目指す動きに合わせての細かな調整。上から下を見渡し、それに合わせた案を練る。

 

 余裕もなくいきなりトップになってからの孤独なまま書類の結果だけを見て喚き散らす日々から爆破テロを通じての職員との距離が急に近くなったりと急変化の生活だったオルガマリーにはこの経験はある意味では新鮮で、同時にロマニやダ・ヴィンチちゃん、華奈など各セクションのリーダーの苦労をそれとなくうかがえてしまう。

 

 (閉鎖空間であれだけ心身の健康を維持するように励んでいたロマニに、精密器具の補充も厳しい環境であれだけの仕事をしているダ・ヴィンチちゃん。それに・・・それらの道具や下地を全て回していた華奈・・・私の意見と現場の意見のすり合わせ・・・大変だったわよね・・・きっと)

 

 職員の体調不良が起きればロマニを怒鳴り散らし、レイシフトのコフィンのチェックが長引けばイライラを隠さずに良馬にフラムら、ダ・ヴィンチちゃんに小言を言い。吹雪が強かろうと戻ってくる日時がずれたら華奈に文句を言っていた過去の自分を恥ずかしく思うと同時に、それを理解できるようになっていた自分の余裕を嬉しくも思う。

 

 「次は・・・マシュ、怪我したの? 傷は軽いと書いているけど・・・本当に大丈夫かな・・・」

 

 「私のアヴァロンも渡していますし、姉上とロマニのいうには化膿の様子もない。特に問題はないでしょう」

 

 「そう・・・」

 

 そして、同時に現場に出てから尚更意識するようになったのはマシュ。彼女の存在だ。もとより自分の父親の非道な実験で生まれたうえに長く生きられずカルデアの無菌室の中で人生を終えるだけの存在。

 

 だったはずだが華奈の用意した治療用ポッドに英霊たちの英知を加え、更にはアーサー王、もといアルトリアの持っている不老不死与える聖剣の鞘、アヴァロンでの肉体改造を行うことで今では60後半まで寿命が延び、肉体も「あの英霊」の力を長時間行使しても負担が軽くなっているほどに変わっていた。だからこそローマでの数日間にわたる滞在も問題ないし、こうして前線で常に戦える。前ほどの無力で、世界や人を何も知らない存在ではない。

 

 そう。知り始めているからこそ自分を、マシュを作り出したマリスビリーの子だからこそ力を手にした今だからこそ復讐をされるかとも思っていた。オルガマリーにとってローマでの日々は、充実しつつも心のどこかでそれに怯えていた日々でもあった。

 

 しかしふたを開ければそんなそぶりはみじんも見せず、むしろだれにも負けないほど献身的に尽くし、時には二人きりの状況になっても心からの笑顔で接してくれたほど。トイレでむごたらしく殺される。などと想像して怯えていた自分があほらしくなるほどに、ひたむきにローマと、カルデアのために戦っている。

 

 カルデアからの拘束が緩い特異点。しかも常に武装しても問題ない状況でこれ。しかも自身もローマで見た兵士、悪霊。怪物。少し離れたとはいえ依然恐怖の付きまとう存在から退かない。本当に頼もしく、勇敢な姿。

 

 「・・・私も、彼女を心から信じたいわ・・・ね」

 

 「? ・・・オルガマリー如何しましたか? 書類ミスでもあったでしょうか」

 

 「っ・・ああ、何でもないわ。ありがとう。すごくわかりやすい書類よ。これならみんなにそのまま渡してもいいくらい」

 

 「お茶が用意できましたよ。もういい時間ですし、仕事もひと段落。休みましょう?」

 

 小さく言葉を漏らしていた上に書類を見ながら物思いにふけっていたオルガマリーを心配してアルトリアが声をかけるとハッと我に返ったオルガマリーは手を振って大丈夫だとアピール。その間にほかの雑務を終わらせていた紫式部が持ち込んでいた緑茶で一息となり。いすを並べて果実をカットしてつまむ。

 

 「ふぅ・・・しかし、あれねえ。ローマの市民の皆。本当に国のため、皇帝陛下のためと頑張るわねー」

 

 「それだけネロ様。いえ、ネロ陛下が素晴らしい方なのでしょう。いろいろ自由なお方ですが民への想いは本物。それを感じているからでは?」

 

 「後は・・・私からの視点ですが、皇帝としての誇りと自負。後は民あっての国と理解しているのかもしれませんね。私も昔、姉上から教わったことわざがあるのですが、あれは本当に心に響きました」

 

 「華奈からの教え?」

 

 「ええ。ある国の、ある部族のことわざらしいのですが、為政者、上に立つものであればこれは必ず理解しておくべきものだと痛感しました。いつも心にとどめていましたし、引退後も何度も反芻して心に刻みましたとも」

 

 あのアーサー王がそこまで言うほどのことわざ、金言。いったいどのようなものなのか。紫式部も前のめりにメモを取り出して眼鏡をかけて取材モードに入り、オルガマリーも興味深く耳を澄ませる。

 

 「それはいったい何なの? アルトリア。教えてほしいわ」

 

 「私もです。それと、できればどの国で、どの部族かもできれば・・・」

 

 「それは姉上から教わってください。きっといろいろ教えてくれるはずですから。では、そのことわざなんですが」

 

 

 

 

 

 「王が王であるのは、民の恩寵による」

 

 

 

 

 

 「というものです。・・・・・・オルガマリー。貴女もカルデアの長。一国一城の主。上に立つ人です。恩寵をくれて、支えている民。というよりは臣下でしょうが彼女に、腹を割って話してもいいのでは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マシュ。けがは大丈夫?」

 

 夜。マシュたちの雑務もひと段落、ゆったりとした時間にオルガマリーはマシュにあてがわれた天幕に足を運んだ。

 

 藤丸はどうにも信長、ジークフリートと少し別件で動いていること。そしてマシュ自身の負傷を気遣って早めに同行を断って休ませたとか。

 

 「あ、所長。はい。大した傷ではないですし、アヴァロン、魔術での治療もばっちりですし。問題ないです。今からでも戦闘したって問題なく戦えるかと。あ、クー・フーリンさんからおいしいお菓子をもらったのですよ。食べませんか?」

 

 「そう・・・・・うん。いただくわ」

 

 ニコニコと笑いお菓子と水を用意して歓迎してくれるマシュ。嫌味もなく、何か含んでいる様子もなく。本心からの笑み。自分という存在に対して嫌悪感を抱いていない。本当に、素直な娘。

 

 「あ、あのねマシュ・・・私、少しマシュに話すべきことがあってきたの・・・時間。大丈夫?」

 

 「今後の作戦ですか? 一応仮眠は取りましたし、インスタントコーヒーもあるので少しは大丈夫ですよ。あ、こういうのがいわゆる女子会。っていうものなのでしょうか」

 

 「えーと、うん。た、多分ね。それと、今はローマの話ではないわ。個人的で、私にとってはとても大切な話。・・・カルデアの長として、私自身としてのとても・・・いいえ、マシュ。貴方にとっても大切なことよ」

 

 表情が曇り、言葉が重くなり始めるオルガマリーの様子を感じ取ってマシュも表情を引き締め、用意できたコーヒーをオルガマリーに渡して椅子に腰を下ろす。

 

 「所長・・・遠慮なく言ってください。私でよければいくらでもお付き合いしますし、所長も吐き出したほうが気が楽になるのであればなおさら・・・」

 

 「ありがとう。マシュ。うん・・・じゃあ、言うわね。マシュ。私が憎くない・・・? 非人道的な実験で貴女をカルデアで生み出し、勝手に英霊の実験に使って、カルデアの外に出さず、出せず・・・じゅ、寿命も特に対策も出さない・・・お父様からの行いを改善しようとも、できもしなかった私を・・・」

 

 コーヒーを一口飲み、死にそうなほどに青ざめた表情で言葉を絞り出していくオルガマリー。デザインベイビーのことは自分も知らなければ所長になってようやく知ることが出来た。それからの忙しさやストレスでないがしろにしていたことからの恐怖、妄想からの被害妄想の成長。前なら仕方ないで一蹴して、逃げていただろう。

 

 しかし、今は違う。逃げたくないし、ここまで戦ってくれる健気すぎるマシュには自分の胸の内を吐き出したかったし、マシュの気持ちも知りたい。その一心から自分の想いを隠すことなく吐き出し、震える手を必死に抑え込む・

 

 「今なら私がジャンヌたちを呼ぶよりも早くマシュは私を殺せる。復讐をできるし・・・そうでなくても人質に取ってカルデアを乗っ取ってこの戦場から逃げかえることもできるわ。それができるだけの肉体も寿命も手にした・・・マシュ。私に、親からの行いに・・・復讐をしたいと思わないかしら・・・? あんな非人道的な実験を始めた前所長と、それを改善しようとも、できもしなかった前所長の娘である無能の私を」

 

 「所長・・・確かに。デザインベイビーの実験と英霊との組み合わせ。それは唾棄されるべき禁忌であり、許されるものではないかもしれません・・・ですが・・・私は同時にそれがもたらしたこの奇跡に感謝もしています」

 

 「・・・・・・・・奇跡・・・・・」

 

 あらゆる罵倒を受けるつもりだった。その盾で脳天を砕かれるかとも思った。しかし、聞こえてきたのはそれ以上にありえないと思っていた言葉。信じられないと目を見開くオルガマリーに対してマシュはにっこりとほほ笑み、自身を覆う英霊の装いを撫でて言葉を紡ぎ始めていく。

 

 「何も知らなかった私が、運動音痴だった私が冬木で先輩や所長を助けられたのはあの実験でのおかげで、特異点攻略の戦力に、人類を救うという戦いで役に立てるのもそうです。それに、私は生まれてからドクターにダ・ヴィンチちゃん。所長、華奈さん。多くのカルデア職員・・・先輩。多くの英霊たちに出会い。そして外の世界に触れて知りたかった世界を知ることが出来ました」

 

 「マシュ・・・貴女・・・そんな風に」

 

 「それに、あの実験を反対してもうしない上に寿命を延ばしてくれたり、こうして気遣いをしてくれているのですからそれだけでもありがたいですし。私から見れば所長はものすごい頑張っているかっこいい人・・・えっと・・・女傑? というものだと思います。これからもこうして一緒に戦えるのが頼もしいくらいです!」

 

 目を見てわかる。嘘偽りはなく素直に心から言っている。自分たちの一族の行いすらもきっぱりと否定はしつつも。その成果での戦いを嬉しく思っているし、オルガマリーのことを高く評価している。一瞬の衝撃の後にオルガマリーの瞳からは涙が滝のようにあふれて止まらない。

 

 「人でなしの実験をしたのよ・・・それを自由を与えただけの・・・放置していただけの私なのよ・・・あんな大失態の爆破テロの後でようやく半人前の仕事ができただけの私に・・なんでそこまで・・・・・・なじっても、怒ってもいいのよ・・・?」

 

 「でも、案じてくれていましたし、今もこうして私に思いのたけを話してくれています。それだけで私は十分すぎるのですよ所長。私は前所長の行いをどうこう追及する気はありません。それに、この過酷な戦いも苦しいのは確かですが、先ほども言いましたが同時に世界を知り、多くの出会いがある。私でも役に立って進めることが嬉しいです。だから、私は所長を恨んではいません。むしろこれからも未熟な私でよければ一緒に戦いましょう、楽しみましょう。所長の力は本当に頼りになり、カルデアにとっても今のローマにも必要なものですから」

 

 また必要だと、認めていると言ってもらえた。国が、将が、組織が、そして個人が自分の力が必要だと。復讐されるかもと考えていた少女からも認めてもらい、一緒に進みたいと言ってくれた。これほど優しい子に怯えていた、ひどい扱いをしていたことの過去の自分の口惜しさと怒り。そして、嬉しさに感情の堰が決壊直前になる。

 

 「ありがとう・・・マシュ・・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・・頑張るから・・・私・・・絶対にこの戦いを終わらせるように頑張るから・・・お願い・・・一緒に戦って・・・また、藤丸やみんなを守ってあげて・・・うぇっ・・うぁ・・・」

 

 本当に恵まれていた。自分の周りにいる人たちがどれほどに自分のことを見てくれていたか、支えてくれていたか、認めていたか。オルガマリーは思いきり、子供のように泣きじゃくり、マシュはそれを受け止めて優しく抱きしめ、夜は更けていった。




~野営地・城壁~

華奈「・・・・・・・アルトリア様。ありがとうございます。この役割は私では無理ですからね」

アルトリア「姉上一応王女の義理の姉で銀嶺の将・・・大将軍の一人でしょうに・・・まあ、私もうれしかったですよ。彼女はひとかどの人物。傑物の素養は十分あります」

華奈「そうですか・・・ふふ、アーサー王のお墨付きであればオルガマリー様もこれからより化けていくでしょう。私も期待にこたえられるように頑張らないと」

アルトリア「で、あればまずはあの城塞地域の攻略ですね。半分は私たちでかすめ取れるでしょうけど、姉上たちの準備は出来ていますか?」

華奈「ええ、とりあえず8割は。明日の昼には用意が整うと連絡が来ましたし号令さえかければ十全に力を振るい敵を討ち果たしましょう」

アルトリア「後は・・・荊軻の情報もですかね。あれがあれば」

華奈「それと、ジャンヌオルタ様から樹の城についての城攻めのアイデアの一つが出ているのですがこれがなかなか面白いです。明日にでも検討しようかと」

アルトリア「それならエミヤ、ブルージャケットの面々からも出ていますし、簡素な軍議でも開きましょうか。・・・オルガマリーのためにサングラス用意しておきましょうか?」

華奈「一応・・・でも、そこから内容がずれそうですねえ・・・」





今回のことわざはボツワナにあることわざであり、本当に素晴らしいと思います。あの国の初代大統領と副大統領のエピソードはとても面白いですし、英霊となってもよさそうなレベルの偉業をいくつもこなしています。なぜかネタ的な意味も含めて満載だから面白いです。本当に。

今更ですがストーム1はEDFシリーズは基本ナンバリングシリーズの記憶や経験の集合体としておきます。外伝のほうは少し設定やら肌が合わず。

どうにも筆の技量が足りずつたない話、内容も薄いとは思いますが申し訳ありません。所長はこれでようやく完全に覚醒。上に立つ人らしい人物になると思います。ただし、周りのメンバーに振り回されはすると思いますが。

次回はまた休息回。へたくそな文章になるかとは思いますがどうかよろしくお願いします。あと、かなりふざけます。多分。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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女神に会いにこう

オルガマリー(サングラス装備)「というわけで・・・荊軻の情報次第だけどこれならジャンヌオルタの作戦も素人目ではいいと思うけど、どうかしら?」

アルトリア「城の規模から考えてもその作戦はいい嫌がらせになるでしょう。ただしその作戦の肝は周辺の戦力をいかにうまく刈り取ることか。にかかっています。そのためのサポートをブルージャケット、軍曹・・・じゃなくてストーム2、エミヤ、ストーム1に任せることになるでしょう」

エミヤ「了解した。ただし、その際はストーム1のサポート、そして情報が欲しいところ。マスターも総督の立場からできる限り物資や兵士たちの状況を調べてほしい。城攻めは攻める側は準備と兵数がものをいう」

ダンカン「あ、それなら僕らの兵士たちが治療とかリハビリしているけど、復帰できる兵士は多そう。アンナもいま必要な用意ができているみたいだし、行けるんじゃないかな。輸送ならこちらの魔獣たちでやればいいし」






~ローマ・兵士療養所~

銀嶺隊モブ1「ヒャッハー! 傷口は消毒だあ~!!」

銀嶺隊モブ2「ダメダメダメダメ! 諦めたら! そこで諦めたら戦友が悲しむよ! ネバーギブアップ! 俺と一緒にリハビリとそれ以外の筋トレを始めよう! さあまずは壁にもたれての空気椅子から!」

銀嶺モブ3「あぁ・・・次はスクワットだ」

銀嶺モブ4「やはり技術の積み重ねで出来たこの赤、赤チンこそ最高ですぞー」

銀嶺モブ5「赤は黙りやがれですぅ! 薬草、漢方、生薬・・・歴史と伝統の深さの緑だって最高なのです!」

クラーク「ここで汗水一つ流すたびに戦場で自身が流す血が少なると思いなさい! そしてそれは味方の助けになるとも肝に銘じること! さあ、勇猛な兵は一度の怪我でつぶれることはないはずです。立ちなさい!」

ローマ兵「「「「はい! 兄貴!!!」」」」

スパルタクス「うむ。良き兵士たちである」

クー・フーリン「じゃ、俺もルーンで少し治療の手伝いでもしてやろうかなっと・・・」




~ローマ・兵糧集積所~

ジャンヌ「えっと・・・ここからここ・・・ま、で・・・?」

信長「ええい。わしに見せい。兵糧のここからここまではガリア。その後ろは銀嶺がいる場所に。武具は多めにガリアに送っておくように。それと宝石は別でわしらの狼にもっていくように。数一つ違ったらその部隊ごと首を切ると思え」

ブーディカ「ごめんね。あの小競り合いから兵士たちが不安がらないように多めに予備の武器が欲しくてこんな注文しちゃって」

ジャンヌ「いえ、やはり備えはあってこそ。代わりにこちらは大量の弓矢と兵糧を貰えていますからお相子です」

信長「銀嶺の魔獣たちの士気を上げるために多めに肉を用意させてもらったからなあ。干物好きだったりウナギのかば焼きが好きとかわしらよりもグルメだぞあの狼たち、あ、睨まないで狼さん。え? 干し肉? ありがとう・・・・・?」

ブーディカ「ボードゲーム。軍略もできる子もいるのよねえ・・・あの魔獣たち。ハチと栗毛? はそこらの将官より強いし・・・いったいどういう教育したのか気になるけど。でも、城攻めの用意にはまた別の手段を用意するみたいだけど、どうするの? 工兵を多めに用意はしたけど」

ジャンヌ「もう少し調査してからわかるとオルタは言っていたのですが・・・」

信長「なんだかサルと似たようなにおいを一部感じるが、いい策だとは思う。ひとまずはわしらは前線の兵を確実に食い破るための準備を進めよう」





~前線~

ストーム1「・・・兵の動きは・・・と・・・」

軍曹「やはりああいう動きか。まるで網だな」

沖田「やれやれ。これは本当にうまくできていますね。やっぱりここも左右を抑えておかないと突破もできて最低限。出来て・・・3陣まででしょうか」

ストーム1「まあ、おぼろげに見える奥の砦まで行ければいいほうだろう。間違いなくローマの兵はそこですりつぶされておしまい。広域攻撃も一点集中攻撃も想定しているって信長とアルトリアが言っていたが素人でもわかる。面倒すぎる陣形を奥の谷あたりまですべて使って用意している」

清姫「あの一帯そのものが巨大な堅城そのものと・・・どれほど知恵者、もしくは百戦錬磨の強者が用意したのでしょうか?」

沖田「そこまでは何とも・・・私だと北条の小田原城、大阪城を思い出しちゃいます」

軍曹「ああ、確かに。俺としてはベース228の奪還、マザーシップへの突入時を思い出す・・・お? 清姫ちゃん。お仕事終わったのかい」

清姫「ええ、本日の民の鎮撫。および周辺情報の収集は終わりました。それと荊軻さんの情報も届いたのですが、どうにも変わった話がありまして・・・」

ストーム1「? どうにも、敵の動きというノリではなさそうだな」

清姫「はい。何と言いましょうか。後で皆様の前で言いますね?」


 弓矢、兵糧、油などを用意して前線に送り込む日々、兵士たちの横を通り過ぎて再びネロの宮殿に集まったカルデア一行。前線に張り付いていたメンバーまでも集めて緊急会議を開始。そこで

 

 「余は神に会いに行くぞ!」

 

 「「「ちょっと何言ってるかわからないですね」」」

 

 というやり取りが行われた。

 

 「清姫たちが集めた情報であったのだ! 小さき島で古き神を見た。とな。しかも荊軻の情報でもそれはある。流言飛語と言えばそれまでだが、うまくいけばローマにとっても大きな後押しになるし、それほどの存在がどういう動きをするかも理解しておいたほうがいいだろう? 何よりも余が見たいのだしな!」

 

 「あ、あの・・・ネロ陛下が見たいのは理解しましたが・・・ローマの後押しになるとは・・・?」

 

 相変わらずの自分大好きぶり、そしてローマの後押しになる。という発言にマシュとオルガマリー、ストーム1,2、ジャンヌたちは理解ができず首をかしげる。もし神が仲間になるならまだしも、皇帝直々に敵か味方かもわからない相手がいる場所に乗り込むというのは危険すぎるのもあるからなおさら。

 

 「・・・・・・・ああ。祝福ですか?」

 

 「その通り! 神からのおめぼしで我がローマを祝福する言葉や勝利に関する言葉を貰えれば今の休養と合わせて士気は爆発、どんな布陣でも布を剣で切り裂くように引き裂いていくであろう!! 神からの言葉を預かり、それを伝えるのもまた皇帝、ひいては為政者の役目の一つよ」

 

 「まあ、いいことじゃねえの? 俺は構わねえよ」

 

 「ですがまあ、それだけではないでしょう? ネロ陛下」

 

 華奈の言葉で一同が納得し、更にはネロはあの城塞地帯を完全に砕くためにさらなる一押しを用意しようとしていること、そして新しく現れたどっちつかずの相手を見極めようとしている。それは素晴らしいことだが、アルトリアの言葉でネロも一瞬表情が沈む。

 

 「む・・・その通りだ。実際、今でこそ反撃の兆しも見え、失地回復もできた。だが、その敵対している連合ローマの武将・・・もとい皇帝、その配下たちと正直な話、神の加護でも早々できないであろう軍が相手だ。その軍の事や樹木の要塞や野営地に砦。皆勝ってみせると意気込んでいるが内心どこかで不安を覚えているだろう」

 

 「ですが祝福を、神の言葉でローマを後押しする言葉がくればこちらも神の後ろ盾を得たようなもの。しかも皇帝陛下が直々にもらい、それを裏付ける将がいればますますその重みは増して今後の士気向上、連合ローマが何を言おうがこれを突き付けてやれると」

 

 「まさしく! どうであろう? 情報の真偽の確認ともしかすれば戦力拡充、神託での後押しももらえる。嘘ならそれはそれであちらの流言飛語とわかる分無駄ではない。一挙両得ですごいであろう? ほめるがよいぞ」

 

 その直後からの満面の笑みで胸に手をあてて相変わらずの元気ぶりを見せるネロ。実際、軍を動かしての城塞地帯への殴り込みにはもう少し時間が欲しかったところだしその間に当たれば儲けものな噂の一つを調べに行くのもいいかもしれない。

 

 「ふふ、ええ。よいお考えかと。では、その間は前線と中軍に多めに兵を配置してネロ陛下たちが動けるようにしておきたいかと。私は残りますね?」

 

 「なぜだ? 華奈ほどの将が来れば心強いし、兵たちも余の直属兵を凌ぐほどではないか」

 

 「姉上の軍は野戦、砦などでの戦いでは無双しますが、海戦、海での戦いや攻城戦は苦手ですからね・・・多分、そちらの兵士たちのほうが何倍も働きますよ」

 

 「う・・・そ、そうです。どうしても魔獣が多いうえに戦場がそちらの経験ばかりでしたので・・・一応、水夫ならテニール他数十名はいますが、水運、兵士の輸送などが主でしたからねえ。経験がどうしたって足りないのです」

 

 汗を流しながら申し訳なさそうに頭を下げる華奈。魔獣の比率が多いうえにオークニーの水軍はコーウェン将軍やジャック将軍に任せていたことでそちらの経験は浅い。あれ以上軍を細分化させることが出来ないことや水兵の育成にも時間がかかりすぎることもあって断念したことをいまさらながら残念だと思ってしまう。

 

 「ふぅむ・・・なら、藤丸を連れて行こう! 船を調達して急ぎ出立する。それと神なら捧げもの、土産の一つでも用意せねば礼を欠くな。これらも用意した上で出かけるぞ! 華奈、オルガマリーは港までの護衛と諸々の用意をするように!」

 

 「「了解しました」」

 

 こうして小さき島に出かけるための用意が急ピッチで進められることとなり、藤丸、マシュ、清姫、ストーム1が選抜。ネロ陛下には30名ほどの兵士を護衛としてつけ、中型の船を一隻用意。神への捧げるものは華奈が用意したものを運び込み、ネロの操舵の元船は海を走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さあついたぞ小さき島! 久方ぶりに舵を切ったがいい風をつかめていい動きができた! いい船旅であった!!」

 

 「は、はい・・・そうです・・ね・・・今ほど三半規管も強くて助かったと思ったことはありません」

 

 「き、きつ・・・い」

 

 「はぁ・・・これは本当にすさまじい」

 

 ネロが舵を操った結果。中型の船だというのにまるで暴れ馬のように海を右に左に爆走。風が若干強いことで揺れた波をも利用しての派手な船の動きは質の悪いアトラクション、はなから人を酔わせるためだけに要されたような動きそのもの。

 

 ネロ以外のほぼ全員がノックアウト状態。敵に察知されないようにと一隻、中型の船で来たのが裏目に出たか護衛する兵士はみな動けずに半数近くが海に魚のえさをまいている始末。

 

護衛で来ていた藤丸。万が一の時はネロを抱えて空を移動するつもりでペイルウィングにクラスチェンジしていたストーム1。空中で自由自在に飛び回る彼女ですらあきれているのだからその船の運転の粗さがどれほどだったかがわかるものだ。

 

 「さてと・・・マスターから用意してもらったけど・・・これを渡しておきましょ」

 

 兎にも角にも、女神のいる島、そうでなくてもいまは怪物とか悪霊が湧き出るような状況。船酔いで動けずに死亡。藤丸も護衛なのに動けないでは意味がないのでストーム1は華奈から渡されたオレンジジュースとレモンのミックスジュースを兵士たちや藤丸たちに渡し、自身は酔ってはいないが一口。

 

 藤丸も飲み始め、うちわであおいでやると青ざめた表情が少し落ち着き、気力が戻ってきている。柑橘系は船酔いをいくら軽くすると聞いたが、あながち間違いんではなさそうだ。

 

 『ふむ。これで少しすれば皆元気になるだろう。バイタルを見ても藤丸君はいくらか回復しているんが・・・おや、誰か来たみたいだよ?』

 

 「ふふふ・・・これはこれは。サーヴァントなのが残念ですが、飛び切りの勇者と、生身で駆けだしながら素養のありそうな子・・・中々見ない組み合わせね?」

 

ロマニの声の直後に新たにこの場に現れた声の主は紫色の美しい髪のツインテールに美しい容貌。白を基調とし、フリルのついた緩やかな衣装を身に着け、こちらを見定めるようにじっくりと見つめている。その表情はどこか惹かれるもの、美しさにあふれてはいるがストーム1、そしてマシュは自身の中の英霊のせいかなんとなく察する。「ろくでもないたぐいの思考を持っているな」と。

 

 そんな考えを知ってか知らずかその女性はストーム1と藤丸を特に面白そうに見つめ、左手で口元を隠して笑う。

 

 「私が勇者ねえ・・・ま、いいわ。とりあえずは失礼。私はストーム1。この島に神がいるということで出向いた一人よ。そちらがその神様ということでいいかしらね?」

 

 「あら、礼儀もあるのね。私は女神。名をステンノといいますわ。ゴルゴンの三姉妹が一柱。何のせいでしょうかこの島に召喚されていたサーヴァント? の一人ですがそれでも女神。で、私に用があるということは祝福などでしょうか?」

 

「うむ! 余はローマ皇帝のネロ・クラウディスである! さすがは女神、思わず閨に招きたいほどの美しさよのお!! で、だ。ステンノよ。余が望むのは我が正当ローマを後押しする声を祝福として授けてはもらえないかということだ。捧げものとして果実や宝物も用意してあるが、どうだ? もしローマに来てともに戦うのであればより多くの宝物もささげるのだが」

 

 藤丸とマシュが持ってきた宝物やローマで用意出来うる最上級の果実をステンノに見せて祝福を授かろうとネロも話を持ち掛けていく。が、ステンノはそれを一瞥してから一つ息を吐く。

 

 「私を閨にだなんて。豪胆さもそうだけど、すごくまぶしいのね。でもごめんなさい。皇帝陛下。私には戦う力はないの。宝物を惜しみなくささげて私にくれるのは嬉しいけど、それはきっと無駄よ? でも、ここまでの捧げものに出向く勇者たちへの答えがそれだけではあんまりよねえ・・・」

 

 『すごい魔力や神性を観測できるんだけどなあ・・・戦えないなん・・あー・・・神様だもんなあ。いろんなありかたや力、役割があるということか。華奈やヤマジも言っていたっけ。力自体の在り方も様々だって』

 

 「そのとおりです。そしていい声ですね。響きもいい・・・手に届く範囲なら・・・・・・っふふ・・・すぐにどうにかできたのですが」

 

 ステンノの言葉に背をゾワリと寒気が走るロマニ。画面越し、届かないと知ってなお感じるこの感覚やプレッシャー。なるほどこれがステンノがもつ神様としての在り方なのかなと感じ、下手な発言は出来ないと気を再度引き締める。

 

 「で、なんでしたか・・・ああ、そうそう。ご褒美。前ならストーム1? あたりにでも妹をけしかけたのだけど・・・」

 

 「・・・けしかけた?」

 

 (マスターがいればすぐに抑え込むか、うまく対処できるかねえ。確か三度戦っているわけだし)

 

 「こほん。ふふ。ではそうですね。まずはその捧げもののご褒美として海岸沿いにある洞窟にこの時代にはない宝物を入れてあるの。それをまずはあげましょう。その宝物を手にして戻ってきたときにそちらが欲しがっていた祝福・・・そちらの皇帝陛下の国を応援する言葉を与えましょう。それはここまでやってきたことに対するご褒美。どうかしら? これほどの褒美。めったにしないのですが」

 

 その直後の物騒な。そしてゴルゴン三姉妹の妹で武闘派ともなれば十中八九メドゥーサをぶつけるという発言を受け流し、改めてネロ達が求めていた本題に移る。女神からもらえる二つの祝福。流石にこれにはネロも浮足立ち、表情が輝く。

 

 「宝物なら何でも嬉しいもの。ステンノは相当に気前の良い女神なのだな!」

 

 「最初の褒美には嘘の香りがしますが・・・もう半分は本当・・・ますたあ。この話、少し気を付けたほうがいいと思いますが」

 

 「もう、そこのお嬢様は嘘といいますが、洞窟は本当にありますし、そもそも女神が捧げものに対しての対価を与えないのであれば価値は落ちてすぐに信仰も寂れて力を失うわ。下手な嘘をつくことによるリスクはこちらも大きいの。それに、ストーム1どころかそこの盾の子にだって私は負けるほど弱いのよ?」

 

 ここまでじっと話を聞いていた清姫はいぶかしんだ顔でこの話をけることを申し出たが、ステンノはすぐさま反論。

 

 「とりあえずは行ってみようよ。いざという時はクー・フーリンやジャンヌオルタも令呪を使って呼べるし」

 

 「そういうのであれば・・・」

 

 「いざとなれば私が藤丸を抱えて離脱もできるからまあ、気楽にいこ」

 

 清姫の不安は持ちながらもここでステンノの機嫌を損ねて祝福を貰えないのも意味がないので前向きに考えることで先へと進むネロと藤丸ら一行。その背中を女神が心底性悪な笑顔を浮かべているとも知らず。

 

 

 

 

 

 

 「海辺の洞窟だから覚悟はしていたけど・・・」

 

 「じめじめして気持ちが悪い! 皇帝にこのような場所を歩かせるほどの宝なのだろうな・・・」

 

 意気揚々。とは言えないが目的のために気合を持って入った洞窟の内部。海の近くにあるので潮風で湿気はある上に出口がない、もしくはあっても小さいものなのか風が通っている感覚はなく、湿気が停滞して体にまとわりついて仕方ない。

 

 (それにしても・・・・・・・うーん・・・?)

 

 そしてそれとは別にストーム1が感じる違和感はやたらと地面が綺麗であることに目を向ける。巨大生物の巣窟に突撃した時も生物の糞尿や痕跡、えさの残骸などを見つけてきた。

 

 巨大生物はいないが洞窟であればこうもりや小さな動物、虫などの糞尿などでできる土くれなどがあるものだが、足に感じるのは風で運ばれたらしき海からの砂の感触と石の固い感触がほとんど。土くれや残骸も新しいものはない。乾燥していたりでそれなりの時間がたっている。

 

 神様の存在で洞窟の生物が退去したとかならともかく、自身の勘で感じるものはそれとは違うと告げてくるばかり。

 

 「・・・清姫は藤丸のそばにいて。皇帝陛下もそばに。マシュは皇帝陛下と藤丸を守るように」

 

 「ストーム1さん・・・?」

 

 『・・・あー・・・うん。ストーム1の言うとおりだ。みんな。あの女神からの罠です。見事なまでに包囲されている。入口すらも』

 

 ストーム1の行動の直後に聞こえてくるロマニの通信。それをさらに裏付けるようにあたりから聞こえてくる、冬木で嫌というほど聞いた武器が鳴る音に骨の足音。スケルトンの武装した大軍があたりを囲み、所狭しと瞳どころか顔の肉も無い顔をカタカタと揺らしながら殺意を乗せて歩いて包囲を狭めてくる。

 

 「はぁ・・・!?」

 

 「確かにこの数は・・・少し変です!」

 

 「なるほどね・・・あの美貌と魅了する力でホイホイついてきた男をからかう、もしくは何らかの場所に差し向けて後ろで指さして笑うタイプか・・・はぁ・・・一点突破するわよ。清姫は横穴に炎を流し込んで伏兵を倒して。回り込まれていたりこの数を隠せる当たり多分隠し穴、横穴の部類はあるから。ネロ陛下と藤丸は武器をむやみと振るわないこと。狭い場所でその大剣と銃弾は邪魔になるし、慣れていないと逆に怪我するから」

 

 しょうがないと重い溜息をつきつつも即座に指示を飛ばしておき、手元には何らかの巨大な兵器を手にして戦闘態勢を整えるストーム1。何度も味わった地底での包囲、本部がわざと誘導したのかといいたいような状況に比べれば天と地ほどのもの。一気に突破して清姫の嘘ではないと感じた『宝』とやらを頂戴して帰るほかないだろうと気持ちを切り替えていく。

 

 「ええ、もちろんです! ますたあは私がお守りします。ストーム1さんのその武器は?」

 

 「洞窟とか、多勢を相手するための武器かな。マシュは反射に気を付けてね!」

 

 元からステンノを警戒していた清姫は迷うことなく口や扇に炎を纏わせて臨戦態勢を整える。ストーム1も取り出した武器のトリガーを引いて攻撃を開始。今回の武器、サンダーボウ30は引き金を引くたびに30本もの雷の弾丸が発射され、地面に当たれば這うように動いて前へと進み、敵にあたっても反射して不規則な角度からの追撃が起こり前線の骸骨兵をあっという間に砕き、射程範囲内まで暴れまわっていく。

 

 「おお!? なんだその武器は! まるでゼウスの雷霆のようではないか! ストーム1よ、そのような武装もあるとは、ぜひとも余に譲ってくれないか!!?」

 

 「いやいや、これ・・・というかペイルウィングの武器はエネルギーコアとサイキックの素質がないと使えないから陛下には難しいわよ?」

 

 「す、すごい・・・! 骸骨兵がみるみると減っていって・・・これなら前進でき・・・? 何でしょうか・・・この香りは・・・?」

 

 確実に前へと進みつつも武器に興味津々なネロ、打ち漏らし、横穴へと炎でけん制している清姫、雷の反射に気を配りつつ藤丸らを守るマシュ。しかし、そこで何やら異臭を感じ一瞬顔をしかめ、あたりを見回す。

 

 「ん? マシュさんどうか・・・ますたあ?」

 

 「あ、あっは・・・あはははっははははははっははははははははははは!!!! はははははははははあ!!」

 

 「ふ、ふふはははははっはは!! せ、世界が回って見えるぞ! おぉおー辺りには素晴らしき美食だらけ。紫ミミズまであるとは豪華で結構! うむ、ここで宴と行こうではないか。ハラキリ岩もあることだしのお」

 

 清姫も異変に気付いて藤丸を見れば藤丸どころかネロ陛下も何やら様子がおかしく、しきりにわらい倒し、さらには何やら別世界が見えている様子。

 

 「え!? ちょっ、先輩!? せんぱーい!!」

 

 「なんじゃこりゃあ!? やばいわね。藤丸とネロ陛下がアヒャってトリップしている!」

 

 『あーもしもし? 多分だけど、清姫ちゃんの炎とストーム1の雷撃でどうやら洞窟内部に自生していたキノコを焼いちゃってみたいなんだよねえ。あの女神さまやこの怪物たちの神秘や神気を浴びたせいか二人がアヒャっちゃうレベルのものになっているみたい』

 

 ダ・ヴィンチからの言葉と視線を一瞬見回せば確かに一部何かが焼け焦げているものと異臭を感じる方向も合致。英霊にはさすがに効かなかったが英霊に近しい実力やマシュの英霊の加護があっても生身の人間であるネロと藤丸はばっちり聞いてしまったご様子。

 

 「おほほほほ。これだけ歯ごたえがありそうな食事、久しぶりだわー」

 

 「あ、ヤマジさん。訓練の時間ですか? え、やらないか?」

 

 何やら宴会場とカルデアを見ている二人の様子は全く止まる様子がなく、むしろふらふらと骸骨兵目掛けて歩いていく始末。

 

 「二人とも、ストップ、ストップ! さすがにそこは危険すぎます! カルデアのほうから何かできませんか!?」

 

『いまこっちでも観測してはいるんだけど、どうにも強烈すぎてね。ロマニも頭を抱えているんだ。華奈にも相談しているんだけど・・・お、連絡が来たね。ローマに攻め入った際に手にした薬の材料を強くしたものだって。今解毒の薬をカルデアに送ってもらうからそっちに転送するよ。ストーム1。受け取って』

 

 清姫が二人をがっちり抑えつつ、何やら「この画面を閉じるんだ!」とかなんとか叫んでいる様子に困惑しつつも藤丸の肉体を味わい、マシュは骸骨兵に意識を向けていいのか清姫たちに意識を向けていいのかと迷いながら戦闘中。ストーム1は壁の反射を利用しての広域攻撃でマシュに骸骨兵の増援が届かないように後ろの相手も対処していたところ手元に2本の小さな便を渡される。

 

 『これを水で思いきり薄めてうがいをさせた後におちょこ一杯分飲ませればいいらしい。それと一部を鼻から嗅がせれば尚更いいらしいけど・・・どう?』

 

 「あの二人の暴れ方が少し難しいかな。原液ままではだめ?」

 

 『一応は可能らしいけど、お勧めしないかな~ローマがエジプトの地域当たりから仕入れていた蒸留酒の技術から作った薬草酒らしいんだけど、アルコール度数88 飲めば一発でのどが焼けるしその後も戦力になるかは怪しい』

 

 「あー・・・うん、ネロ陛下はともかく藤丸は薄めてうがいとか、少しづつじゃないとだめだね。一応は薬だが未成年・・あっ!?」

 

 仕方ない。と一応は腰にぶら下げていた水筒を取り出そうとしたところを薬草酒の瓶をネロ達に取り上げられてしまう。

 

 「おおーよさそうなものではないか。余に献上することを許すぞ。ほれ、そこの楽しそうなやつも飲むがいい。どれ・・・」

 

 「あ、どうも。まずは運動前の水分補給・・・・」

 

 「「ゲボァ!!」」

 

 そのまま瓶のふたを外し、中身を思いきり飲み干すネロに運動前のドリンクや水に見えていた藤丸も中身を飲み干し、当然アルコール度数の強さと薬草臭さ、あくの強い味のせいで盛大に噴き出す。

 

 「あっ!?」

 

 そのままふらついた挙句マシュの盾に頭をぶつけて目を回した二人はそのまま動かなくなる。様子を見れば一気に酒を飲んだことと精神状態で酔いがすぐに回ったか、ほろ酔い状態で緩んだ表情で気絶している二人を見てほう。と皆が胸をなでおろす。

 

 「・・・えーと、ロマニ。バイタルはどう?」

 

 『えーと、うん。酔っている状態だけどさっきのアヒャっている状態はどうにかできているよ。今はほろ酔いで揺蕩っているような状況。目が覚めれば無事なはずだからそのまま進んでほしい。その間にさっきの毒の解毒するための魔術も用意しておくから』

 

 「了解。一応後でマスターに予備でも用意してもらって再度飲ませるかな。薬草酒だし、節度さえ守れば藤丸にもいい薬でしょ」

 

 なんやかんやこのぐだぐだなアヒャったメンツを酔っ払いに変えてからというものストーム1の制圧力と清姫のフォロー、マシュの守りをうまく活かしてもともとが弱い骸骨兵を鎧袖一触の勢いで砕いて進み、最奥まで進むことが出来た。

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────────────────────

 

 「ふぅ・・・・とりあえずローマでの収集の経験が活きるとは思いませんでした」

 

 「万事塞翁が馬だねえ。大将。あ、そうそう。魔術部隊に必要な道具はそろった。ネロ陛下たちが帰って、言葉を伝えて、休んでからだと・・・明日がいいかなあ」

 

 「そうですか。了解です。タルヴェラ、ムール貝の酒蒸しと魚の白身ステーキ、野菜サラダ。エールも味を良くしておいたので皆で食べてください。明日は走りますよ」

 

 「りょ~かい。じゃ、おじさんは休むけど、大将もはやくやすみなよー」

 

 「やれやれ・・・まだまだ未熟ですねえ。私も・・・おや、通信? ほうほう・・・ああ、それなら蛇のほうは残しておいてください。酒に漬ければ蛇酒になりますので。お肉は癖が強いですがその分うま味も強いので煮つけや汁物、カレーなどにすれば美味しいですし、牛乳とパインなどに漬けて臭み抜きと柔らかくすればそれはもう極上の・・・」

 

 

──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 「ふぅー・・・的が大きくて助かったわ」

 

 「一瞬でしたね・・・ドクターは強敵だと騒いでいましたが」

 

 「よかったではないですか。ますたあたちや皆さんが傷つかないのであればそれがベストです」

 

 その後たどり着いた奥の宝箱を守るようにいたキメラ。ストーム1の用意した大型専用の武装、レーザーの槍を発射するドラグーンランスを即座にぶっぱなし、その威力と持ち前の怪物、大型に対する特攻スキル。2バーストですぐさま獅子と山羊の頭をぶち抜き、蛇はすぐさま口環をしてから切り倒し、止血をしてから袋に詰める。

 

 「女神はこれが宝だと言いくるめるつもりだろうが、いやあ、極上の肉に爪や牙が装飾、武器に使えれば毛皮も防具に使用可能。文字通り極上のお宝。マスターもブリテンでも倒したものには名誉と武装の強化による今後の活躍、最高の食材で精力をつけられると言っていたし」

 

 「うぉ・・・おお・・・? ここ・・・は洞窟の奥か? そして・・・なんだこの怪物は・・・!」

 

 「あ、起きたね。陛下。これがお宝。神代の怪物、キメラだってさ。お肉がすごくおいしくなるってマスターが言っていたわ」

 

 さすがにキメラの雄たけびとその直後のドラグーンランスの射撃音で目を覚ましたネロ。流石にこの怪物は戦場でもそうは見なかったか驚き、直後に顔を輝かす。

 

 「これほどの怪物を討伐とは、ますますいいではないか! なんだかヘロヘロではあるが、これもまたいい土産になるというもの。マスターとなれば華奈か? 調理できるのであればそちらに肉を任せるが」

 

 血抜きをして冷却のための氷柱をカルデアから送ってもらって腹に埋め込むストーム1に早速キメラの使い方を任せ、それ以外に何かないかと探し始めるネロ。少し気を失っているような状況でいたせいかいくらか回復しているらしく、ヘロヘロだと言っておきながらもせわしなくあたりを見回している。

 

 「あ、そういえばモツはどうするのですか? 私がその場で焼いてもいいのですが」

 

 「またあっちでウィンナーやらモツの汁物でも作るってさ。だから帰りはフェンサーで私が運んでいくわあのパワードスーツならこれくらいの獣なら2,3頭は軽い軽い」

 

 その後はキメラをクラスチェンジしたストーム1が運んで洞窟を速攻で脱出。キメラを食べることが出来てえありがとうという反応とまさかの食材扱いに思わぬ驚いて目を見開くステンノ反応やまたまた出会えたエリザベートにタマモキャットと名乗る珍獣らしきサーヴァントでありながら神霊の側面も持っているらしいナマモノ英霊とも仲良くなり、最後にはステンノの

 

 「今正当ローマには各地からの兵士が集い反撃の機は熟す。蛮勇をそれ以上の武で制し、薔薇の皇帝のもとに帝国は前の姿になる」

 

 という祝福、もといお告げのようなものをしっかりともらいローマに戻る。ちなみに、念のためと華奈が寄越していた水夫たちのお土産の果実酒にステンノは喜び、水夫たちの制止を振り切ってネロが再び夜に差し掛かる海に船を走らせたせいで再び大半が魚のえさを海に吐き出したりと、結局最後まで締まらない旅路であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ふむふむ・・・なるほど。それは面白そうであるな。キメラにゲイザーにドラゴンにタコとかキャットもドン引きな食材ですら扱おうという胆力とエロさ。ご主人になるかもしれぬ。同行させてもらうワン」

「え、銀嶺も来てるの? じゃ、行こうかしらねえ。あの美味しいご飯もあるし、まさかの生ネロを見れたし、ローマでのライブとか最高じゃない」

「生ネロとはなんだ? 美少女の也でなければ不敬罪で切り伏せるところだが」

「えっと・・・何と言いましょうか・・・」

『よし、もう少しで港に着くぞ、頑張れ藤丸君!』

「う”ぉろろろおろろおろろろろろろろ・・・・・・」





今回は女神様ステンノの登場。何というかいいキャラしていますよね。そしてタマモキャットに爆笑した人も多いのではないでしょうか。個人的には放浪関白殿がいたらタマモキャットを溺愛するか、愛人としそうだなあと思ってしまいました。

神霊が1,2人いて神代の獣、それ以外の怪物もいたらキノコも影響してこれくらいにはなりそうかなと。自然界の毒ってすごいものが多いですし。

キメラは食材。ゲイザーですら食べてしまう円卓の騎士がいますし、これくらいはしちゃうよなあと。この後即座に牛乳の樽に肉を突っ込み、たれの樽にはあばらと肉を着けた状態でカットして漬け込むことになりました。

ようやく忙しい時期を抜けたのでできる限り早く筆を走らせるように頑張ります。

まだまだ暑い時期ですが皆様もどうかお気をつけお過ごしを。そして、読んでくださりありがとうございました。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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左右の武器

~ネロの宮殿~

荊軻「戻ったぞ。華奈、ネロ陛下はいるか?」

ネロ「おお、荊軻よ戻ったか! して、しっかりと手にできたか?」

華奈「あら。お疲れ様です。一度目を通しても?」

荊軻「ああ、いやはや、渡されたカメラ? というものは便利だな。魔術師から見ても疑われなければ、こうも鮮明に絵図を作る資料にもなる。ああ、それとだ華奈。指輪。ありがとう。おかげでばれずに済んだ」
(指輪と巻物をいくつか出す)

ネロ「ほうほう・・・なるほど。よくわかったぞ。よし、伝令! 諸将を呼べ! 軍議を始めるぞ!」

華奈「ジャンヌオルタ様はそのまま前線に待機させておきましょう。作業が気になるでしょうし。ストームは・・・これならエアレイダーでいいでしょうか」

藤丸「俺は・・・うーん・・・陛下の護衛かな?」

マシュ「そうなるでしょうか。でも、少しこれは目が回りそうですね」

ネロ「なあに、これくらいはまだ序の口、戦場に出てからもっと目を回すぞ? 華奈よ。ジャンヌオルタの頼んだ兵士の数は用意できてはいる。後は物資に・・・生木も多いようだが、大丈夫か?」

華奈「ええ、これくらいがちょうどいいでしょう。それに、これも必要だから選んだはずです。彼女を信じましょう」(近衛兵と藤丸様、ブーディカ様でネロ陛下の剣と盾にできるように話してきましたが・・・嫌な感じがします・・・ふぅむ・・・あの子たちも動いてもらえないか打診しましょう)


~前線~

ストーム1「ふむふむ・・・じゃ、今回はこれで。後は軍曹たちにはこれを渡しておくとして・・・エミヤにもだな。今回はどこもかしこも忙しくなりそうだ」

軍曹「助かる・・・これなら十分に動き回れるだろう」

ブルージャケット「今度こそ俺たちの実力を見せつける時だな!」

アルトリア「この作戦だと、姉上も暴れますか。銀嶺の魔術部隊が倒れなければいいですが・・・」


~とある野営地~

アレキサンダー「・・・来るね。何かそう感じるよ」

孔明「この空気はまさしく。何度か感じた決戦の空気。武人でなくてもそれくらいなら」

アレキサンダー「でもさ、この布陣は並みじゃない。どこから動こうが予備隊や救援に絡めとられるようになっている、先生のアレンジを加えたもの。僕でも打ち崩す攻撃をちょっと思い浮かばないほど固いのに、どうするんだろうね?」

孔明「・・・空だろう。数日前、何か変なものを感じてみれば大型の・・・空を駆ける乗り物でこちらの陣容を見ていた。それと数日間あの大王を食い止めていた少数の精鋭たちが地上からの目でもこちらを確認すれば・・・強引な突破もできるでしょう」

孔明(それに・・・かすかにだが感じた気配・・・もし予想通りであれば)

アレキサンダー「じゃ、僕たちの防御網は丸裸ってわけだけど、どうするの?」

孔明「安心ください。長き人類史の戦いの歴史にはそういう事態や視点の数にも対応できるものはあります。王のやりたいことこなすことも微力ながら手を貸します」

アレキサンダー「先生がそう言うなら問題ないね。まずは兵の移動から始めるんだっけ」

孔明「そうですね。とりあえず、ここにいては何もできなくなるでしょうから」


~中央軍 野営地~

華奈「・・・こんなところでしょうか」


配置

左翼 アルトリア ストーム1 ブルージャケット隊 スパルタクス

中央 華奈 沖田 ジークフリート 藤丸 マシュ ネロ オルガマリー ジャンヌ エミヤ クー・フーリン アンナ ヤマジ ダンカン クラーク 荊軻 呂布 ブーディカ

右翼 ジャンヌオルタ ストーム2 紫式部 信長 清姫 

後詰 キャット エリザベート


 「さ・・・てと・・・配置はこれで良し。なのですがねえ」

 

 鎧を外して軽くストレッチをしつつ華奈はこれから突撃する敵の砦、簡易要塞、両翼の大樹の城の防衛陣地を眺めて思案を巡らせる。はっきり言ってこれを踏み込むのであれば各軍に今の軍の五倍の数は欲しかったが、正直な話これ以上の時間を相手に与えるのはむしろこちらへのマイナスも大きくなる。敵軍の粉砕と失地回復の衝撃と兵力の回復のバランスが釣り合うのはこのくらい。これ以上攻め込むのを先延ばしにしてはむしろ連合ローマの兵力の回復と砕いた士気の回復をしていきかねない。

 

 「幸いなのは、沖田さんたち英霊の数が、前線よりの武将、兵士が多いこと。でしょうか?」

 

 「あら、沖田様。すいません。もう時間ですか・・・ええ、軍曹様や呂布様をはじめとして前線を崩せる、いざという時に踏ん張れる人材が豊かだったのが幸いでした。本当に」

 

 沖田の声に気づき、軽装鎧をつけなおして刀に手を当ててほほ笑む華奈。沖田も華奈の言葉にはその通りと頷く。かの超大国ローマ、その国を統治してきた皇帝が普通に軍団長、指揮官、幕僚に何名もいる連合ローマ相手に正当ローマがここまで踏ん張れているのは正当ローマの前線武官の実力とネロの采配が見事だったことが大きいだろう。

 

 沖田もそこらへんは理解しているようで、華奈の隣に立って同じく防衛陣地を眺める。

 

 「アルトリアさんとストーム1さんは心配していません。ジャンヌオルタは・・・まあ、ノブやヤマジが大丈夫だろうと言っているから気にしません。問題は、私たち中央軍がどこまでいけるか。でしょうか」

 

 「そのためには今回はどこかに力を偏らせることは難しかったですからね。沖田様にも少し大変な思いをさせることでしょう・・・申し訳ありません」

 

 「いえいえ! まさかのローマでの戦闘、しかも必要な役割を与えてくれて沖田さん大歓喜ですとも! 病気もすっかり消えたうえに銀嶺隊の呼吸はここ数日一緒に過ごして覚えました。今日の活躍も期待してくださいね?」

 

 えへへーと笑ってピースサインを見せる沖田。オークニーの将軍、円卓時代でも騎士たちが追い付く、動きになれるのに苦労していた銀嶺の速度、呼吸を覚えたと言ってのけるその才覚。改めてこの才能があと十年、いや五年長く生前生きていればどれほどの腕に到達したか。思わず剣士のはしくれとして華奈も思ってしまうも、すぐに戦場に意識を戻す。

 

 「もちろん。そのための場所は私たちが用意しましょう。っふふ・・・頼もしい方が私についてきてくれてよかったですよ」

 

 「マスター! ぼちぼち俺はいくぞー。のろしはわかりやすいものにしてあるから遅れないでくれよ~!」

 

 沖田の頭を優しく撫でているとバイクに乗って持ち場に移動しているストーム1から声を掛けられ、こちらも手を振って応えていく。

 

 ストーム1とアルトリアの二人は今度は左翼に配置。少数の兵に将の配属だが、ある意味では一番えげつない部隊。遠近ともに秀でたメンバーもそうだが、今回は本当に容赦を抜いた策を左翼は用意してある。うまくいけば左翼からも押し上げを狙えることだろう。

 

 となれば問題はやはり中央、一番多くの将を配属している分、成果をあげられなければその分の失敗も大きい。相手の防衛陣地を攻略後にこちらの軍が利用できるように後詰も用意した、先の戦い以上の総力戦。失敗は許されない。

 

 「えへへ・・・ありがとうございます。華奈さん」

 

 「はーい。あれを使うので見逃すこともないでしょうけど・・・さ、私たちも行きましょうか。藤丸様達にもスポーツトリンクとか持たせておかないと・・・」

 

 その後は改めて再確認のための軍議ついでにローマの魚で用意したうしお汁、キメラの角煮、ぶどうジャムのトーストをおやつに腹ごしらえを開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「スタートダッシュは俺たちから・・・と・・・よーしよし・・・ポインターもばっちり・・・」

 

 「私・・・ここ最近は姉上と一緒に暴れられていないですねえ・・・ご飯は一緒に食べられたので良しとしますが」

 

 エアレイダーにクラスチェンジしていたストーム1、ポインターで大樹の城に届くかを確認し、それ以外の武装の発煙筒の場所も再チェック。それを隣で眺めながらアホ毛をいじり、ふぅと息を吐くアルトリア。どうしてなかなか戦の準備の中でもなかなか一緒に遊べず、今回の戦いもまた軍の配置は別。これが適役なのはわかっているがとぼんやりと戦場を眺める。

 

 この左翼の城を相手するのであれば確かに適役。華奈は逆に中央がいいのだろうが、愚痴らずにはいられない。

 

 「仕方ないだろうよ。マスターとアルトリアは個人の武力もそうだが、武官、将軍としての経験、力量も並みのものじゃない。それに互いの意図をある程度理解できるってのもあるから広域での連携を考えればこれが正解だ」

 

 「頭を束ねるのも必要ですが、今は横に広げて全域で押し込まないといけないですから仕方なし・・・はぁ・・・あ、来ましたか。私も・・・」

 

 その後ポインターで城をマークしてしばらくして、轟音と共に一つの大きな柱が空から現れる。それは超のつくほどの巨大なミサイル。ポインターのマークする場所に向けてじわじわと移動をし始め、その威圧感とそれが何かわからなくても本能的に恐怖を感じているのか城の兵士たちが動揺しているのがアルトリアたちからも見て取れる。

 

 超大型ミサイル。テンペスト。攻撃さえ通れば巨大戦艦だろうとマザーシップだろうと大概の兵器に大打撃を与える超高速ミサイル。戦場で指揮を取り、サポートする役割のエアレイダーの中でも一握りしか使えない秘密兵器の一つ。それが出てきたのを確認したアルトリアも二振りの聖剣を抜刀。魔力をほとばしらせつつ体をほぐし、野営地を出て正面に立つ。

 

 「3、2、1、着弾。続けて第二の発射用意。アルトリア、行けそうか?」

 

 「生で見ると改めてぶっ壊れた兵器ですね・・・もちろん。これだけ大きな崩落があればたとえ大樹の城だろうと問題ありません」

 

 敵兵も弓、やり投げ、投石で対応しようとするもその意味はなくテンペストが大樹の城に着弾。耳をつんざく轟音と衝撃がアルトリアたちの陣地まで届き、その爆炎と煙は空に巨大なのろしとして上がる。敵の要塞、防衛陣地をいくつも攻略したストーム1の使うこともあって威力はふざけたもので着弾した場所は何もかもが吹き飛び、大樹の城は一部が大きくえぐられたような状態に。

 

 そして、それをそれで終わらせることもなくストーム1はもう一つのポインターでテンペストを再度要請。アルトリアはその崩れた城の部分にしっかりと狙いを定め、更に魔力を剣に流し込み、大きく振りかぶる。

 

 「エクス・・・カリバー!!! 連っ・・・発式です!!!」

 

 聖剣から放たれる膨大な魔力の奔流。それを一度振るうだけでも今の連合ローマ左翼、大樹の城には痛い打撃。それを2発、3発と絶えず二つの聖剣から何度も短いスパンでぶっ放し続ける波状攻撃。大樹の城を囲むように配置されていた陣営は吹き飛び、テンペストでえぐられた場所は聖剣の魔力の斧でさらに削られていく。

 

 「後は倒れる方向を調整・・・っと・・よーしよし・・・奴さんらもあの一撃からのこれだ。混乱しているは白の巨大な木片で思うようにこっちにも来れないんだろうな」 

 

 さらに要請準備が完了したテンペストで今度は城の上部分に着弾させることで後ろに倒れるように衝撃を与え、こちら側には倒れてこないように配慮。ついでに逃げ遅れた連合ローマ兵の一部の刈り取れるので悪くはない。

 

 「後ろにあるであろう舗装された道も塞げますから敵も増援を送れない・・・というよりも、この城の役割を考えるとむしろ逆・・・さて、こちらの兵士たちの被害がより少なくなるようにもうもう少し、喰らってもらいましょう!」

 

 結局、左翼側の戦線はそれ以上は大きな動きは見せず、どうにか動けるようになった連合ローマの兵士たちをスパルタクスとその配下の部隊で迎撃。ゴーレムや怪物などはブルージャケット隊の狙撃で排除。大樹の城を壊し切ったところでアルトリア、ストーム1も参加することでこの戦線は正統ローマの圧勝。

 

 兵士の被害も全くないうえに敵軍は拠点含めて完全に叩き潰す完勝となった。

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅん・・・改めて、士気の高さもそうだけど、城の大きさもやっぱり段違いね。これだけの大きさならそりゃ、この周辺一帯の要にもなるのが嫌でも理解できるってものか」

 

 「わ、私にはもっと大きく見えますよ・・・戦場の熱気・・・というものはやはりすごいのですね・・・サーヴァントとなっても恐怖というか・・・何と言いますか・・・」

 

 「仕方がなかろう。兵士でも少し硬い城を見てはビビり、多少怪我しただけで落せない、怪我するだけと意気消沈して逃げるやつもいるんじゃ。城攻めするというのにへたりこまずに踏ん張れるだけでも及第点だと言っておくかの」

 

 「やれやれ・・・ビッグアンカーがいくつも刺さった街中を思い出すな・・・尽きぬ敵に高所からの攻撃・・・しかも城のおかげで防備もできていれば備蓄もあると・・・」

 

 時折耳に届く風切り音と何か固いものが地面や壁に刺さる音。時折飛んでくる矢を旗で振り払いながらジャンヌオルタは大樹の城を見上げる。ジルに仕込まれた記憶にある城のどれよりも大きく、また攻めるにも守るにも適している構築。高所から打つ、山なりに矢玉を打ち精神的ダメージも見込めるかと言えばそうでもない。水に関してもこの大樹。適当な場所を一部傷つけておけばそこから水分補給も楽なものだろう。

 

坑道戦術も大樹の根のせいで困難かつ意味をなさず、火矢も樹が水分を含んでいるせいで燃えることもない。城を打ち崩そうにも石造りの城よりも頑強。そして、その巨大さから攻城兵器も従来のものはまるで使えない上にそもその兵力はこちらの数倍。包囲戦もこちらが不利になるばかり。

 

 更にはこの防衛地帯の兵力の補給地点。横から攻めあがるという戦術は使えず、かと言えば真ん中を突っ切ればこの城からの増援で挟撃を受ける羽目になる。まったく、よくできた布陣だと何度見返してもあきれ返るほど。

 

 「でもまあ、不運なのは私たちがいたこと。特にあの馬鹿火力コンビがもう片方をつぶしてくれたことね」

 

 しかし、それがどうした。城には城の弱点がある。何よりも左翼から聞こえた爆音と衝撃。そしてあの忌々しい思い出を思い出させる煙と光の柱の乱発。ストーム1たちがあれほどの成果を見せてマスターたちに任された自分が怖気づいてしまうことは許されない。何よりも自分自身があの城一つに負けることがあってはならない。

 

 待ち望んでいた槍働き。しかも一つの戦線を任されるのだ。気合が出るというもの。

 

 「じゃな。よし、ジャンヌオルタよ」

 

 「ええ、始めるわよ! 敵兵が躍り出てきたわ。此方も弓兵構え! 信長、清姫、二人にもう一つは任せる。紫式部、術をほどくんじゃないわよ。あんたが要の一つなんだから。軍曹は怪物どもを任せるわ。秘密兵器、あるんでしょ?」

 

「ああ、もちろんだ。怪物たちは任せてもらう。行くぞ!」

 

 「了解っと・・・今回は楽そうでいいぜ」

 

 「ようやく回ってきた攻めの機会。無駄にはしません」

 

 左翼から見えた爆炎と衝撃、そして大樹の城が倒壊したのを見て敵側はこちらを打ち砕いて増援に出ようと判断したか、城の出口からまるで波のように押し寄せてくるのを見てジャンヌオルタも戦闘開始の指示を取る。後方で待機させていた清姫と信長に指示を飛ばし、自身は土と煉瓦で盛り立てた土台と柵の前方に移動。最前線で指揮を取る用意をする。

 

 「よーし、皆の衆! 敵の城からこうして出てきた阿呆どもじゃが、下手に戦ったり、わしらの後ろに逃がしては華奈先輩らの邪魔になりかねん。ここでとめるぞ! 特大火の玉用意できておるか!」

 

 「ハッ! 用意した特大の木の玉およそ1万個、いつでも火をつけて火の玉にできます!」

 

 「なら柵の上に設置して矢避けとして使用。わしの合図で転がすようにするんじゃ。清姫、行けるな?」

 

 「ええ、ますたあ太刀を守るための大切な壁。ここで働けば後でたくさん褒めてもらえて・・・っふふ・・・」

 

 何やら夢見心地の清姫を横目に信長たちは地道にローマの市民たちとも協力して用意していた1メートルほどの大きさの木、わら、枯葉、そのほか諸々を混ぜ込んで球体状のものを用意、ローマの主兵装の投げ槍、弓を防ぐための盾として使いつつ機を待つ。敵の数は今出てきている数だけでもこちらの3倍。普通にぶつかるのであればそれこそ敵の大将一点狙いか銀嶺、ネロの親衛隊レベルの精兵でぶつかるほかない。それが今できないのであれば砦で耐え、城の弱点を突く。

 

 ジャンヌオルタの指示を待ちつつ信長自身も火縄銃をいくつか顕現。両手に構えて戦場を見据える。

 

 「もう少し・・・もう少し・・・っ、弓隊、放て! 槍もどんどん投げ込んでいいわ、目的は足止め、倒すことは次でいい!」

 

 一方でジャンヌオルタは射程に入った敵軍に矢と投げ槍の雨を降らせる。流石は正規兵を多く抱えるローマ。今回の緊急事態のために引退した兵士から再度登用したものも多数いるというが、それを感じさせないほどの矢の勢いと槍の飛び具合。

 

 連合ローマ兵も幾分削られるがそこは戦慣れしているためか盾を構えて防ぎ、槍に対しても盾を重ねた少人数の連携で対処をするとどうしてなかなか侮れない。結果、勢いは完全に止まらず、そのままジャンヌオルタ達の陣地を目前にまで連合ローマは踏み込むが、その兵士たちは直後足場を失い、落ちていった。

 

 「これほどのものを隠す隠蔽の術式・・・さすがに時間がかかりましたが、メディア様、フラム様たちの協力もあって完成しました。そうやすやすは崩れはしないはずです!」

 

 紫式部の術が崩れ、現れるのはジャンヌオルタ達の陣を守り、大樹の城を囲むようにできている巨大な空堀。深さ5メートル、幅20メートル以上の大きさであり、更にジャンヌオルタ達の陣営はそこから高さ2メートルの盛り土、石を交えた土台に3メートルもの柵で固めたもはや砦、城壁のような物。落ちた連合ローマ兵は自身の重装備と走ってきた勢いもあってか誰もが傷を負い、骨を折り、あるいは落ちてきた後続によって圧死、行動不能状態に陥る。

 

 「ふ・・・さすがは島津の軍を止めた空堀を参考にしたかいがあるわね・・・信長!」

 

 「おう。火をつけて転がせい!」

 

 「ふふ・・・ますたあたちの邪魔をさせませんからね。そおれっ」

 

 その落ちた兵士たちにとどめを刺すべく信長たちが用意した木の玉に清姫、ローマ兵たちで火をつけ、燃え盛る火の玉を空堀に転がし、敵兵を焼いていく。燃え尽きた後はしょせんは燃える素材でできたもの。この空堀を登る足掛かりにもなれやしない。

 

 「続けて鉄砲、矢で足が止まった敵兵をまた歓迎してあげなさい! ある程度たまったら魚油の入った壺も投げ込んで相手の軍も燃やすわよ! ケチな包囲陣地と思ったツケをたっぷりと払わせてやるわ」

 

 「うっははは!! 孫氏にもあるからのお。火を使う際は人、あるいは隊を焼けともな。資、庫は焼けぬが、今の状況ならこれだけでも十分に良いってものよ」

 

 敵兵の目に映るはもはやちょっとした谷底が足を止め、その底では落ちた味方の兵士が矢玉、火の玉で傷を受け、焼かれ、阿鼻叫喚の悲鳴を上げるという地獄絵図。しかも足を止めれば矢の雨。時折降ってくる油の壺には何か轟音のする筒から放たれる鉄の玉と黒い鎧に身を包んだ女指揮官の放つ炎で火をつけられて壺を投げられた周辺の周辺を焼いていく。進めば空堀に落下して焼かれ、足を止めても結局は焼かれる。たとえ空堀で生き延びても敵陣地に上るには最低でも7メートル以上の土壁を登らないと行けず、当然妨害も入ると八方ふさがり。

 

 この状況ではたとえ増援が来ても行軍速度は空堀で止まり、兵が詰まる分むしろ火計の効果を増す。

 

 「城ってのは防衛陣地としては優秀でしょうね・・・けど、その強さは増援が来ること前提、そしてため込んだ物資を運用、運搬できてこそ。今回の場合は城からの増援がほかの防衛陣地を助ける兵の貯蓄庫。だったら・・・その役割を果たせず置物にされておけばいいわ。攻められても落ちないとたかをくくっていた負けよ」

 

 正当ローマの今までの戦の推移を見て、カルデア、現場のメンバーたちと情報を探り、シミュレーションを繰り返した結果、左右の大樹の城の役割はその巨大さから多くの兵士、物資をため込み、中央に攻め込んできた敵兵を横から攻撃、あるいは増援を派遣するいわゆる一大補給拠点。

 

 兵法の基本なら左右から攻めるのが常道だが左右の城はそれを防ぎ、小規模の砦、野営地がひしめく中央をかすめ取ろうにも左右から横殴りを受ける。それも大量の兵士たちで。左右は鉄壁の城で落すこと自体時間をいくらかければいいかわからない。かといって中央を行けば待ってましたと多数の防衛陣地で時間をかけられ、その間に左右からも襲われて軍を壊滅させられる。恐ろしい布陣。

 

 「だったら片方でも抑え込んでしまい、その間にこちらも攻めあがるか。連合ローマが三軍すべて盾で行くのならこちらは左翼と中央を剣。右翼が盾でぶつかるという感じじゃな・・・いや、左翼は鉄槌か? お、軍曹。来たぞ!」

 

 敵兵もさすがにこのまま終わるわけはなく、兵士たちで渡れないのであればと用意したのは大量のゴーレム。矢にも炎にもある程度の耐性がある上にひるまない。そして土、石などでできている分空堀に落として壊せば空堀を埋める土嚢代わりにもなる。なるほどいい考えだ。

 

 当然、そこはジャンヌオルタも想定済み。ここ数日前線で敵軍の情報を集め続けた結果巨大な物資の箱を運ぶ際に使っていたのを見ていた。そして、普通の武装が効かないのであればこちらも次の用意をするだけ。

 

 「軍曹たち、清姫はゴーレムを砕きなさい! 信長、援護射撃は任せたわよ! こちらはゴーレムが出てきた分敵兵が詰まった、列をつめた場所を狙うわよ!! 特に空堀を越えようとするやつと土壁を壊そうとするやつらを

徹底的にたたくように! 紫式部、少し離れた防衛陣地の様子は!?」

 

 「は、はひ! 式神からの情報ではどこの戦線も安定。ですが、ゴーレムの登場で少し揺らぎを感じています。軍曹たちの攻撃のタイミングはばっちりです」

 

 「・・・エンジンよし、調整もばっちりだ・・・ストーム2、清姫ちゃん。出るぞ!」

 

 「ふふ、怪物退治なら英霊の私たちが適役ですものね」

 

 「はっ、巨大生物や怪物の軍隊と比べりゃあ、あんな石人形へでもねえ!」

 

 今まで待機させていた軍曹らストーム2もいよいよ動き始め、人型の二足歩行ロボット、ニクス。その中でもトップクラスの機動力を誇るニクスアサルトを駆り出し、空堀を越えて敵陣へと切り込む。

 

 「そおれ」

 

 「これはいい・・・動きやすいが頑強。体当たりだけでも十分すぎる!」

 

 清姫が炎を放ってストーム2たちを狙うローマ兵士を足止めし、ニクスに掴まりながら常に高い場所から戦場を見据え、要所要所で炎を扇のように広げて矢も防ぐ盾となる。

 

 そして軍曹はレンジャーではあるがコンバットフレームの運転免許も持っているがゆえにそのニクスアサルトのスペックに驚き、早速そのスペックを余すことなく活かす。マシンガンにボムで遠くのゴーレムや怪物を排除し、近くの敵にはその固い装甲と速度、質量を活かした体当たりで近くのゴーレムを次から次へと打ち砕く。

 

 軍曹の部下たちももとより巨大生物、中には70メートル以上の怪物、町一つが入りそうな大きさの円盤も動く要塞とも戦ったたたき上げの猛者。いまさら人より少し大きいだけのゴーレムなんて敵でもなんでもなく次から次へと砕いていき、軍曹と清姫の後ろを守りながらともに前進していく。

 

 「砕いた破片は敵の邪魔になるようにしておけ! あの大軍の動きを隊列一つ鈍らせるだけで転ぶ奴やけが人が出るし、それだけで行軍速度が鈍る!」

 

 「はっ! 場所を選ばなかったバケモンどもに比べれば簡単なもんだ!」

 

 「砕いた破片でも再利用されては大変ですからね。出来る限り邪魔になるように努めておかないと」

 

 右翼はその後も大きな兵士の削り合い、ぶつかり合いこそなかったが、大樹の城から兵士たちは救援に動くことが全くできず、用意していたゴーレム、怪物などの類は散々にストーム2、清姫たちに砕かれた。中には敵兵たちが焦るあまりに隊列を乱した進軍に軍曹らの砕いたゴーレムの破片やジャンヌオルタ達の邪魔で圧殺、横転してけが人が続出し、一部は行軍するだけで被害が出るというありさま。

 

 互いに大きな動きはなかったが救援目的を達成できなかった連合ローマ。敵の大軍、城の長所を殺し切って敵兵を箱詰めにしたうえで動きを封殺したジャンヌオルタと見ればどちらが勝者なのかは一目瞭然。この戦線はその小競り合いを終始続け、一日戦い続けても空堀より先に動いたものはなかった。




ようやくストーム1の火力お化けのエアレイダーの本領発揮。本当に5で使いやすくなって面白いです。ビークルでの味方のサポートもできるのでまさしく戦場での指揮官。他の3兵科にはいわゆるエリート部隊がいますが、エアレイダーはその兵科自身がエリート枠、精鋭だから出ないというのもあるのでしょうね。


島津が豊臣軍と戦い、逆に釣り野伏のような状況で負けた根城坂の戦いでもこのような空堀は使われ、深さ3.7メートル 幅5.5メートル高さ1.8メートルの柵を用意して豊臣サイドは島津の攻撃を凌いだ一場面もあったとか

本来はここから中央軍の動きになるのでしたが、今回は仕方なく前二つのみですが出させてもらいます。理由としては仕事が忙しくなかなか進まず、こうも長く皆様をお待たせしてしまっていることへの申し訳なさから来るものです。改めて、大変長らく待たせてしまい申し訳ありません。次回は中央軍の動きになります。

まさか応援してくれる人が増えるとは思ってもいないもので、こうして待ってくれることが本当にうれしいです。

台風などで大変な方もいるでしょうが、どうぞお気をつけてお過ごしください。そして、また穏やかに過ごせることが出来ることを応援しています。それしかできずに申し訳ありません。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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モグラと薔薇の戦場

今更ですが銀嶺の組織図は

華奈(大将)



副官(ダンカン、ヤマジ、アンナ、クラーク、モードレッド、ギャラハッド)



300人将(副官の増加と部隊の再配備で250人将になることもちらほら。華奈、副官らに2名づつ配置)



100人将(タルヴェラ、アシェラッドらがここらへん)



30人隊長



10人隊長



5人隊長



一般兵

となっております


 「進みなさい! 速度が肝要! 隣はアルトリア様とストームたちが抑え・・・・いや、吹っ飛ばしているのです。憂いはありません」

 

 中央軍。その左サイドから攻めあがる華奈、オルガマリーを主軸とした中央軍第二軍。銀嶺隊をほぼすべて集め、一部をローマ兵で用意した部隊。

 

 魔獣での足を活かした野戦などを得意とする銀嶺だが決して砦、小城にダメなわけではない。準備を整えさえできればむしろ強い部類であり、それを今回も活かせると踏んだからこその第二軍。

 

 「は、はやっ・・・! したか・・・舌が」

 

 その速度は今の馬でも出せるものではないほどの速度でありロード、一貴族としてのたしなみとして騎乗を学んでいるオルガマリーでもその速度、乗っている軍馬の速度には驚きっぱなしであり、風の強さや揺れ、景色の変化に動揺が収まらない。

 

 「あはは。あまりしゃべらないほうがいいですよ。慣れないと舌をかんじゃうか、歯が痛んじゃいますから。さて・・・そろそろ3つの砦と小城がでますね。魔術兵装用意! 対攻城戦を開始します! 制圧後は後詰に任せるゆえにすぐに動くこと!」

 

 「「「応!!!」」」

 

 華奈の号令をきっかけに部隊を3つに分けて見えてきた小城、砦に襲い掛かる銀嶺とローマの混合部隊。砦にはアンナを中心とした魔術部隊たちと何やら頭に鉢巻をした暑苦しい雰囲気の好青年。彼の率いる弓隊と魔術体がローマの大盾兵を前に出してからの用意が始まり、相手の弓を少しばかりしのいだ後に反撃が始まった。

 

 「弓隊、放てぇ!!」

 

 なにやら矢じりに黄色い球体を取り付けた矢をかなり山なりの軌道で上空に射かけるとそれに合わせてアンナも雷の術式を用意。矢が敵陣に落ちていく機動のさらに上から雷撃をいくつも落としてく。

 

 「その塀に柵、まとめて焼かせてもらうわよ」

 

 「もっと! 熱くなれよ!」

 

 その雷撃の熱で矢じりについていた黄色い球体が燃え、中身の油や炎を発生させる術式が起動。雷と矢玉、炎が雨あられと降り注ぎ、敵兵を陣地丸ごと焼き払い、塀も柵も何もかもを焼き払う。

 

 更には近くで降り注ぐ雷と炎の轟音は銀嶺以外の軍馬も怯えすくみ、動きを鈍らせてしまう。そこをついて炎は愚か対軍隊の訓練を受けた魔獣たちが炎をかいくぐって最前線の兵士たちを騎馬や爪、蹄で吹き飛ばしては突破口を開き、そこに銀嶺とローマの兵が入り込む。

 

 「おおー相変わらずアンナ様の魔術と弓隊の組み合わせはえげつないですね。陣地で待ち構えるほうがよっぽど被害が大きい。さてと・・・深山!」

 

 遠目からもその敵陣を完膚なきまでに叩き物して突破していくアンナたちの様子を横目で見ながら華奈も自信を戦闘に城に騎馬のまま突っ込む部隊の道を作るために自身の持つ魔剣の力を使用。ちょっとした軍が通るには申し分ない幅の地面がせり上がり、城壁へそのまま登れる坂道が開通。

 

 「なっ・・・! あの方と同じような能力を!!? 盾兵! かま・・・」

 

 「遅い。あ、それとこれ借りますね」

 

 目の前で狼やイノシシ、馬に乗った兵士たちがそのまま城壁に突撃するだけの馬鹿かと思っていたらまさかの城壁への道を作り、駆けあがる銀嶺の様子にうろたえる敵兵だがすぐさま持ち直して大盾の部隊を前に出して密集陣形を展開。道を封じる壁となるがそんなものは関係なしと栗毛の前足での蹴りと華奈の太刀の一撃は密集陣形に穴をあけ、ついでに切り伏せた盾兵の盾を奪いそのまま城壁の上で栗毛、ハチ、花子、黒介の銀嶺最古参の魔獣組で遠慮なく場を荒して爆走。

 

 「栗毛、飛ばしなさい!」

 

 ひとしきり周辺を蹂躙し、部隊の拠点を確保した後に栗毛の後ろ足の蹴りを踏み台にして跳び、自分を敵兵のど真ん中に突撃。先に奪っていた盾で槍を凌ぎ、着地後に周辺の兵を斬り捨てた後に魔獣組のタックルとは反対方向から自身も盾前に構えたままの突撃と深山で城壁の一部を動かしての豪快なプレス。

 

 こうも城壁のメリットをつぶされた上に騎馬の状態で白兵戦に持ち込まれては連合ローマの精鋭も動くに動けず、対処が遅れたすきをさらに食い破られて散々に打ち破られ、すぐさま内側から城門をあけられていく。

 

 「くそっ! 敵兵を押し返すぞ! 防御態勢・・・」

 

 「市街地戦、狭い場所での斬り合いなら私の得意分野です。新選組一番隊隊長。沖田総司、参ります!」

 

 当然敵兵も狭い城門の前で盾を構えた密集陣形で迎え撃とうとするがそこに切り込む刃はその盾を陣形丸ごと切り捨てて突破口をこじ開ける。沖田と乱戦に優れた銀嶺の部隊を一部任せた少数精鋭の特効部隊がローマ兵のために道を作り、城壁の上を銀嶺の騎兵隊が荒らしまわることで即落上。電光石火の攻めを見せ、即落城。

 

 「大将。後詰が来ました」

 

 「了解です。食料と水、交代の馬を多めに配備できるようにしてあります。今後は占領した拠点や城の物資を使いつつ適宜後退や休憩をしながら進軍。私たちはそのまま進みます。必要な物資はあとから来るようにしますのでそのつもりで」

 

 その直後に伝令のみを残してすぐさま前進。華奈の言葉通りに早くも落とした城や拠点にはタマモキャットを大将にした後詰。占領や施設を利用した緊急の拠点へと利用するための工兵を多めに配置した部隊が入れ替わりに入り、すぐさま食事や水を用意していく。

 

 「さてさて、井戸水を消毒するために入れるワインは気持ち薄めに。汗をかいた分飲みすぎて酔っぱらってもらっても困るのでな。ご飯は消化の良いものでありながら元気のつくものを。今朝から仕込んでいた塩と砂糖と水でもみ込んだ鶏肉を焼いてもらうのだニャン。物資の備蓄計算は気持ち一つ。きっちり計って連絡をするのだ」

 

 いろいろと発言がずれてはいるが要点は抑えていることや食事、戦闘に関してはノリノリかつ有能ゆえに任せた人事だが思いのほかばっちりと仕事をこなすことに華奈も移動しながら聞いていきほっと一息をつく。メイドというだけのことはあり手際も良く、もう少し拠点を占領できればローマ兵の部隊の入れ替えを行い兵を休ませながら勢いをキレさせることはないだろうと予想。

 

 次の拠点を制圧するために魔術用の道具をいくらか補給してから華奈たち銀嶺は再度足を速める。

 

 「報告します! ネロ陛下らの軍も同じく進行中。エリザベート将軍様の部隊もこことほぼ同じ深さまで進み拠点をいくつか構築。そのことでブーディカ将軍とネロ陛下から後詰同士をつなげて連携を密にするべきか。との話が出ています!」

 

 そこに伝令が来て通達。どうにもネロ達も同じような行軍速度で進んでおり、後詰も無事に動けている模様。援護を多めに用意しているのもそうだが、やはりネロ直々の出陣。兵士の士気もとんでもない勢いで敵を圧倒しているのであろう。

 

 「いえ、このまま進むことを優先しましょう。もとより私たちのほうが兵力が少ないうえにより先に進む状況。兵力を必要以上に分散するよりも速度を優先して谷の直前まで制圧してから残りの拠点を制圧したほうがいいかと。通達お願いします」

 

 「華奈さん。城を上から見てきたのですが、何らへんな感じがしました」

 

 伝令にこちらからの返事を伝えるように言っておいている間に狼にまたがって合流してきた沖田。先ほど制圧してきた城の事だろうが、少し首をかしげる。ローマの作ったもので感じる違和感というものは何のやら。

 

 「えっと、それはどういう?」

 

 「うーん・・・その、何と言いますか、私たちがぶつかった方向の城壁周辺と、反対の城壁周辺だと道が微妙に違うんですよ。で、奥に進めば進むほど少し敵の動きがよかったみたいで・・・」

 

 「ああ・・・そういえば確かに道の幅や・・・・・ハチ・・・? ん・・・・・・・・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「投槍! 行け行け!!! 強化の魔術を使える部隊はすぐに縄をつかめ! 城門をすぐにこじ開けるぞ」

 

 「弓部隊は援護を! 敵兵を近づけるなよ」

 

 「ははははは! これが魔術兵装部隊か! なるほどシンプルな道具や魔術の組み合わせが攻城兵器足りえるとはな。わからぬものだ」

 

 『スピアスロワーで槍を城壁のはるか後方に飛ばしていき、そこに仕込んで圧縮、軽量している縄を解除。城壁を攻める部隊が縄をつかんで既に城壁に上っている部隊が城門のすぐ下に降りれるようにする・・・めっちゃくちゃだけど、一度城に上れてしまえば即開城可能。今回の戦いにはもってこいだね』

 

 ネロ率いる中央軍。そこもまた破竹の勢いで攻め上がり、銀嶺の足に負けないほどの速度で次々に拠点を落としていく。速度を出せる理由としては一つは現場指揮官、武官を多めに用意していること。もう一つは魔術兵装を用意したことによる大規模な攻城兵器などを用いずに行けること。ネロ直々の出陣ということの士気。

 

 それ以外では一つは荊軻の偵察、カメラなどを活かした的確な格拠点の情報を手にしたことによる制圧するにあったっての要、弱点を攻められること。もう一つは空からの援護射撃による。

 

 『ふむ・・・階段を一部破壊して兵士たちを詰まらせるぞ。藤丸、マシュに伝令すぐ近くに増援が現れる。マシュとクー・フーリンで蓋をして押し返せと。呂布のところに道断の計の動きの予兆あり。ブーディカとジークフリードに盾を打診。荊軻殿にはその指揮官の虚を突けないか連絡だな』 

 

 ストーム1の用意したヘリ、バゼラートの上からアーチャーゆえの視力、スキルを活かして戦場を上から俯瞰して眺め、ネロとは別のもう一つの目、指揮官としてふるまうエミヤ。戦場、人の動ける範囲で見れる視点というものはどうしたって死角、奥行きが見にくいというものがある。だからこそ昔の戦いで旗を多く立てて軍を多く見せることで騙したり、逆に寡兵と見せかけて油断を狙うこともある。

 

 しかし、ネロ達は鳥の視点と英霊の知略、経験を余すことなく活かしての戦術を常に組み込むことが可能となっている。それが一日でいくつもの拠点や城を落とす快進撃をもたらした。

 

 「マシュ、そこで少し踏ん張って! クー・フーリンに横腹を突かせる!」

 

 「はい! スキル使用、押しとどめます!」

 

 「ふ、こうも計画を立てやすい戦場というのはいいな! もう六つも皇帝の首を取れた。さあて、もう一仕事行こう」

 

それぞれがそれぞれに得意な役割を果たす。英霊たちの得意な役割をできるように藤丸とネロが司令塔となり、兵士たちは兵士たちでぶつかるように率先して動く。何せこうもうまく勝ち進める。敵を打ち砕けるとなれば今までの負け戦にたまった鬱憤を吐き出し、偉大な国ローマを取り戻せると躍起になるというもの。

 

 カルデアのメンバーも、英霊たちもこの戦いが成功しなければ次はないことを理解している分豪快に、かつ細やかに兵士たちを入れかえて休ませながら戦うようにしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしていくつもの拠点を落とし、奮戦し部隊を進めていく中で一つの動きが生じる。

 

 「ネロ、呂布が城門をこじ開けたわ。私と荊軻で攻めあがるからネロはその先の敵を防ぎながら再度突撃の準備をして」

 

 「うむ。もう少し進めば拠点を遮る谷に到着する。一度傷ついた部隊を入れかえつつ進んでおこうではないか。ブーディカ。そなたも気を付けるのだぞ」

 

 「うん・・・うん。了解。周りの敵のほうも前から来る一部隊だけみたい」

 

 『カルデアから見ても特に大きな動きはないね。華奈たちのほうも進撃はしているし、兵力を出して各個撃破されることを恐れたのかな?』

 

 ネロは軍の部隊を入れかえ、藤丸はエミヤからの通信の情報をネロに伝達。ブーディカたち攻城部隊を見送りつつ壁に、ひいては次の攻撃のための矛となろうとした矢先

 

 「今だな」

 

 巨大な爆発と炎が城から上がる。しかも前もって用意されていたものか四方から次々と火の手は上がり、あっという間に城が火の海に。

 

 「なっ・・・!? 部隊は無事なのか!?」

 

 その突然のことにネロは目を見開き、声をあげて攻城部隊のの安否を見ようと前線に馬を走らせ城門を見る。他の兵士たち、客将たちも同様に城を見ると炎の中からかすかに聞こえる声、そして怒号。城の中にまでは火が回らなかったのか一応は無事なものもいると判断。

 

 「■■■■■■!!!」

 

 呂布がその剛力を活かした方天戟をふるい城壁の一部を破壊して火の壁の中から突破口を開いて脱出。更にはエミヤの操るバゼラートの機関銃でその穴を広げて中に入った軍、客将たちを脱出できるようにしていく。一部は火傷、傷を負っているが無事であることにローマ兵たちは安堵の息を吐くが、次の瞬間にはその顔が恐怖に切り替わる。

 

 『・・・まった! 敵反応あり・・・こ、これは・・・囲まれているぞ!』

 

 「あんなところに敵兵、いたっけ・・・!?」

 

 誰もが城の炎上、脱出に目を引かれていた。派手で、インパクトのある出来事故に一瞬、ほんのわずかであれども意識を引かれてしまっていた。そこから改めて目を周囲に向けていくと突如周辺には自分たちを取り囲むようにいくつもの部隊が現れ、しかも数は増していく。

 

 「・・・いつの間に!? さすがにこの数が出てくるのがあの一瞬でというのはおかしい! っ・・・ええい! 防御態勢! 一度迎え撃つぞ」

 

 「先輩! とりあえずは私たちも前に出ましょう! あの数は・・・!」

 

 混乱している兵士たちを抑え、戦うための指揮を取り、剣を掲げて鼓舞するネロと前線に出て被害を抑えようと動くマシュ。藤丸もその動きを支えるために動こうとする。だ、まだ敵の動きはこれで終わらず、ネロの本陣目掛けて疾走する騎兵隊。それは混乱が収まらないブーディカたちの部隊やネロの直下兵をすり抜けてネロに襲い掛かる。

 

 「ふん!」

 

 「ッ・・・!? 何奴!」

 

 馬でとびかかり剣を一閃。剣を防いだはずのネロを馬上から吹き飛ばして地面にたたきつけるほどの一撃を放つ赤髪の少年はネロが地面にどうにか受け身を取りながら着地したことを確認すると自分に襲い掛かる正当ローマの兵士を数名斬り捨てて下馬。

 

 「やあ。君がネロだね? 僕はアレキサンダー。君と話がしたくて来たんだよ」

 

 「いきなり苛烈な話と来たものだな! よく見れば美少年、夜を過ごしてもいいほどだが、今は敵、そこをどくがいい!」

 

 「そうはいかないかな。僕は話をしたい。君の言葉を聞きたくてここまで馬を走らせて、あの面倒くさいマスターの目的を助けるようなまねごともしたんだ。とりあえずは、僕をどうにかしないといけないんじゃないかな? でないとあのブーディカ? だっけ。の部隊や周りの兵士。みなつぶされちゃうと思うけど」

 

アレキサンダー。かの大王の名を名乗る美少年が手を振って後ろを見るようにネロを促して見せる光景は先ほどまでの勢いが嘘のようにローマ兵士たちが倒され、包囲され、混乱の中踏ん張ろうとしつつも押し流されている光景だった。

 

 この虚を突かれた衝撃から立ち直らせることが出来ているのはブーディカ、そして藤丸たちの周辺だけ。残りはおそらくはネロ自身の何らかのアクション、指示がなければ立ち直らせるのはおそらく敵の攻撃の火力、時間的なことも含めて不可能。

 

 「くっ・・・よく聞けローマの勇士たちよ! 今をもって我が部隊の指揮権は藤丸たちに一時預ける! 余はこの勇ましい剣士を倒さねばならぬ!! ここを越えれば目的の場所は近い、踏ん張りどころだぞ皆の衆!!」

 

 「「「おおおぉお!!!」」」

 

 ネロの声一つで驚き、混乱から立ち直り陣形を組みなおす兵士たち。そこからはネロ、アレキサンダーと互いの兵士たちで作られる円陣のなかで行われる一騎打ち。藤丸に指揮権を預けられ、釣鐘型の陣形を引いて敵の包囲に対応できる陣形で対応。ブーディカ、呂布、荊軻の部隊は燃える城を後ろに敵兵の波に対処し、一種の背水の陣のような状況ながら踏ん張る。3つの戦場が形成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、俺が指揮!? そんなの無茶苦茶だ! ジャンヌオルタみたいに兵法もまだ・・・」

 

 『藤丸君! 弱音を言っている場合じゃない! 前方にさらに敵が増えた! これ以上はマシュや英霊のみんなじゃないと対処が厳しいよ!』

 

 急に指揮権を与えられ、混乱するのもお構いなしに押し寄せてくる敵の波。包囲されているのみならず、数が途切れることもない。ジークフリート、クー・フーリンの両名を前に出して対処をしても尚敵はひるまず突っ込んでくるばかり。

 

 エミヤも空から操縦を銀嶺の一人に任せて弓を敵陣に射かけていくも常に現れる岩の柱などの陣形、あるいは巨大な連弩での迎撃もあって思うように敵を削ることが出来ず、かといって空からの攻撃の利点を失う、妨害をしないわけにもいかないと攻撃を続けるが焼け石に水。

 

 『くそっ・・・さらに奥からも敵の増援が来る。おそらくは・・・すり抜けてきた城や拠点からの増援だろう。私は一度あちらの妨害をしてこよう。ここよりもあちらをつぶしたほうがいくらか効果がいいと思うのでね』

 

 『まずいまずいまずい・・・このままじゃすりつぶされて・・・・・連絡だ! 華奈がここに来てくれるみたい! もう少しだけ踏ん張ってくれみんな! それとエミヤ君には何やら頼みごとがあるみたい。通信をつなぐよ』

 

 「む? ふむ・・・なるほど了解した。一度こちらは離脱。すぐに戻る」

 

 この戦況に響いたロマニの嬉しい知らせ。華奈が来てくれるということ。どうやってこの状況をこの速度で知ったのかと気になることはあるがそれよりもこの状況を打開できる何かを用意していると考えていいのかもしれない。エミヤにも早速指示が飛び、そのためにバゼラートは一度戦線離脱。正統ローマの兵士たちも先の戦いでの活躍を知っていることもあってか士気が上がり、一層の奮戦を見せる。

 

 「・・・中央とはいえ、戦線の端から端への移動か・・・備えを。奴らが手を出せなかった拠点、城からの兵士たちを出してぶつけ、途中の罠にはめればいい」

 

 眼鏡をかけ、長い髪が特徴的なスーツ姿の男性。敵の様子から増援が来ると判断、そこからこの状況にすぐさま気づいて機転を回せる部隊はもう片方の中央を攻める軍だろうと判断。自身の用意したものと連合ローマの兵数を利用した壁を後方に用意、敵に感づかれないための用意もしている。大丈夫だろう。そう判断した直後、男の、連合ローマの後方から怒声が響いた。

 

 「報告します! 敵騎兵隊・・・騎兵隊・・? と、とにかく獣に乗った部隊がこちらの部隊に突撃! 相当に練度の高い部隊のようで既に前衛を食い破りつつあります!」

 

 「兵数は?」

 

 「300騎ほど。ふざけた速度で攻め込み・・・ぐあっ!?」

 

 男に報告をしていた伝令に味方の兵士が吹き飛ばされて地面を転がる。伝令に意識を向けていたほんのわずかな時間。その時間の間に戦況は変わり、目の前には150騎になった敵の部隊。銀色の金属と木を組み合わせた鎧に身を包んだ兵士たち。誰もが返り血に濡れ、特に先頭の女性、狼やイノシシは返り血で汚れていない場所がないほど。しかし、その女性に男は見覚えがあり、一瞬渋面を見せた後に一つ溜息を吐く。

 

 (あの備えも、この防御陣地も突破する速度に武力。あの大物の力を借りてこれとは我ながら情けない。そして・・・ここで会うとは思わなんだ)

 

 「まさか貴女が英霊・・・しかもあの円卓とは思わぬものだ。しかし同時に納得だ。あの商いの腕、交渉。なるほど国を回す財源を用意できたのも頷ける」

 

 「私もそちらが英霊だとは思いもしませんでしたよ。まあ、道中の罠に、この守り、そして・・・地面に兵士たちを隠して一瞬で包囲陣地を完成させたりなどの機転の利かせ方、智謀は納得ですけど」

 

 「いつもこちらの一族のみならず私の弟子と義妹が世話になっている。華奈殿」

 

 「こちらこそ優秀なスタッフと礼装、霊薬。もろもろの橋渡し感謝していますよ。メルメロイⅡ世様・・・いえ、ウェイバー様」

 

 普段から華奈が時計塔で商談、交渉、もろもろのやり取りをする際の相手、そしてオルガマリーと同様にロードの称号を持つ一級の人物。自身の力量よりも他者を育てる才能、才能を見出すことにかけて比類なき才能を持つ、ある意味では組織の長、教師として少し前の時代であれば歴史にも刻まれたかもしれない傑物。

 

 ロード・エルメロイⅡ世。彼がなぜ軍師のような立場にあるかなどは華奈は及びもつかないが、この策略と反撃の手段、目標にはさすがに怖気を覚え、同時に聞きたくもあった。ウェイバーもそれを理解しているのか殺気立つ銀嶺と連合ローマの両方を置いて華奈との空気は殺気立ったものは一つもなく、穏やかなものだ。

 

 「まさか坑道戦術が見抜かれ、更にはここを攻撃するポイントだと見抜かれるとは思わなかった。大樹の城の救援に行くとは想像しなかったのか?」

 

 「大樹の根が固いでしょうし、あれを何らかの形で利用しているかもでしたからね。それに、布陣を見て守りをできている場所にむやみやたらと攻めるよりも虚を突いて被害を与えるほうが効果的だろうと。ああ、坑道戦術はハチたちのおかげですね。嫌な予感のしていた私に地面の感触や音、臭いで何かあると教えてくれたのでこちらに急行できました」

 

 「あれほどの威容を誇るもの。支える根の強度まで視野に入れたと・・・なるほど。魔獣たちとの意思疎通のレベルにや違和感を伝えるほどの知能を持つ獣など想定は難しいか・・・野生の感性と人の知恵の合体とは面倒極まる」

 

 互いに手の内を晒し、あごに手をやり、あるいは腕を組んでしきりに感心する両者。知り合い、男のほうは目的の一つを果たしたこともあってか華奈から見れば饒舌。珍しいものを見ている気分になってしまうほどだ。

 

 その間も増えていく敵兵の数。坑道から出てきては次から次へと戦場に散らばっていく。その動き、意図に同時に華奈も改めて空恐ろしさ、この用意されていた狩場の深さに眉を顰めてしまう。

 

 「・・・今回の目的は、いえ、連合ローマのこの場所は、まるで釣鐘の中。その中で狙うのはネロ陛下でもなく、客将でもなく。その兵士達でしょうかね?」

 

 「正解だ。将が将たりえる理由。それの根幹を削ればあの状況。崩壊もたやすいだろうとな」

 

 将軍や国の主がその振る舞いをできるのは国民が支持をして、その行動、意志に追従をしてくれるからこそ。そういう意味ではネロの見せるカリスマはまさしく異常ともいえるものであり国土を半分近く削られ、兵士を大きく奪われ、敵は過去の歴代皇帝に英霊の超常的な力。将校も客将を多くそろえてようやくという状況でも兵士たちがネロを信じ、勝利を信じ、ローマを愛しているからこそここまでの粘りや反撃を出すことが出来た。

 

 しかし、その勢いも兵士の損失というわかりやすすぎる損害、民衆への身近な打撃や悲しみは今までの劣勢の状況、厭戦気分が漂えばそれだけで反乱、クーデター、あるいは連合ローマに寝返る可能性を模索する心理効果を民衆に与えられる。なにせ将帥の手落ちがこれほどにない形でさらされるのだから。

 

 「そのために深く誘い込んでからの坑道戦術での包囲、城丸ごと燃やしての壁。左右は大樹の城でやすやすとは踏み込めず、そのまま敵地に踏み込もうにもまるで山脈のようにそびえたつ谷と細い通り道で軍はやすやすと通れない。削られた領地の復興もそもそもが歴代ローマ皇帝のいる軍。前以上の復興などたやすいゆえに取れる戦術と。まるで仕掛けの中に魚を誘い込むような作戦です」

 

 「それとそもそもが奪った領地故にさほど執着もないことに加えあの城を用意できる相手がまだこちら側にいるからこそ取れる手段。だな。ほぼ100点満点の回答。流石ミス・華奈殿といったところか」

 

種明かしを終わらせ、その内容があっていたことに微笑む華奈、見事な回答に眉間のしわが少し取れてほほ笑む。が同時に二人の身体をめぐる魔力の質は高まり、刃のように研ぎ澄まさせる。

 

 「私の部隊も無事にブーディカ様たちに届いたようですし、ネロ陛下も・・・まあ、大丈夫でしょう。とりあえず、私は私の仕事をしましょう」

 

 「私も貴女のような厄介な武将をあの方に届かせるわけにはいかんのでな。此方もこちらで面倒な後仕事を片付けよう」

 

 剣を抜き、蒼の瞳が鋭く光る華奈。戦場を見渡し、いくつもの策を用意し始めるウェイバー。始まるは軍師と武将のぶつかり合い、罠が、石柱が、地形が変わり、飛び交い狼を絡めとろうとし、狼はオオカミでその身軽さと勘を持っての激闘が展開。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「手こずっているようだな・・・尻を貸そう」

 

 「尻じゃなくて手を貸しなさいよ! っていうか女に貸したって意味ないでしょーが!!」

 

 「あはは・・・この敵陣を突破して尚も余裕があるのは頼もしいけど、私、そういう趣味はないわよ?」

 

 ネロの部隊を襲う敵軍、そこに強襲をかけた銀嶺隊。その300騎からこちらに向けて放たれた150騎。あっさりと敵の波をかいくぐり、その部隊を任されているであろう二人の男女。青い髪を長く伸ばした美女とバケツのような鎧を付けた男が目の前でコントのようなやり取りをかわしていることにブーディカは大丈夫だろうかと冷や汗をかく。

 

 どうにか押しとどまっているがそれでも燃え盛る城を背に自分達よりも数の多い敵兵。包囲されている状況のなかで押し返そうとして入るが放射熱とこのどんでん返しには兵士の心身共に削られ、呂布の突撃を持ってもその突出した分を突かれてほかの部隊は進めないという状況。

 

 そんな中でなぜこの数を寄越したのか、少し見当がつかずに頭を傾けてしまう。

 

 「ふ・・・なら敵とハメさせてくれ♂」

 

 「あの・・・申し訳ありません。この馬鹿が。頭もいいし腕もたつのですが。責任は私が負いますので思いきり中罰をくださっても結構です! ですのでこの人は、さあ、けじめを!」

 

 「いいのいいの、で、どうするの? 正直、兵士たちも今結構じり貧なんだけど」

 

 「ああ、兵士たちを削らせないように私も動いているが正直な話突破力が欲しい。それも維持できる時間を用意した上でな」

 

 さすがにこのノリをいつまでも続けられてはたまらないと少し声を荒げる女騎士を抑えつつ、救援にも現状をどうしたものかと相談しに戻ってきた荊軻。呂布はあえて右に左にと前進させずに兵士たちを助けながらの行動をさせておき、改めてどうするのかと意見を聞く。銀嶺の部隊、それも部隊長レベルを2名も寄越している。いったい何を始めるのか、ここから盛り返すのか。

 

 「まあ、簡単ですよ。まずは私たちの部隊を3つに分けます。50名の三部隊にして一つは呂布将軍のサポート、私とこいつはその両翼で横から動きを鈍らせようとする部隊や崩れそうな味方の救援に動きます。ブーディカ様は全体の指揮、荊軻様は遊撃で好きにしてくださいませ。そのほうが威力が出そうなので。では、これで!」

 

 「死線、乱戦は得手。任せるといい」

 

 いうが早いか女騎士とバケツ兜の騎士は即座に部隊を3つに分けて移動。最前線に足を運ぶ。

 

 「さあ、まずはこの挨拶をしないとね・・・ちびノブライダー隊!!!」

 

 「ノブノブ~~!!」

 

 「銃撃用意、放てぇ!!」

 

 呂布の中央に行った部隊の先頭を走る魔猪、その上にまたがるちびノブが敵兵に火縄銃を散々に撃ちすくめる。その爆音で身をすくめて敵兵は動きを鈍らせ、あるいは威力で盾や体が吹き飛び、戦友の突然の負傷に連合ローマ兵は混乱を極める。

 

 「フゴフゴッ!」

 

 「■■■■■!!!!!!!」

 

 その油断、生まれた時間を無駄にするほど呂布も魔猪たちも甘いわけもなく、乱れた部隊の穴に突撃、その穴を拡張せんと周りの兵士たちも奮戦。ようやくブーディカの軍がネロの舞台に向かって動き始めた。

 

 「ほらほら! 狙うのなら私を狙いなさい! 女に馬鹿にされて怒るプライドがあるのならね!」

 

 「甘いな。この程度じゃあ兵士とは言えんよ」

 

 「ほら、そこ。隙だらけだ・・・? 皇帝か。この部隊長。なるほどやたら呂布の動きの隙を突くのがうまいのも納得」

 

 当然。そのいきおいを削ごうと敵兵も動くが銀嶺の二部隊とその部隊に食らいついた敵の部隊長を暗殺することを選択した荊軻。やたらと守り、乱戦に秀でた部隊の銀嶺の部隊が周辺の正統ローマ兵をまとめて敵兵を受け止めて反撃し、その間に背後から荊軻がさっくりと刃を突き立てる。

 

 「よし・・・なら、全軍前進! 呂布を筆頭に急いでこの場を立て直してネロ陛下の部隊と合流! 藤丸君たちやほかの部隊と連動して大きな盾となって敵兵を押し返すわよ!」

 

 むろん、この動きの中に遅れるほどブーディカも馬鹿ではなく即座に指示を通達。前線を駆け抜ける呂布の部隊、その補助をする荊軻たちの動きを追うように軍を動かし、細かな指示を飛ばす。

 

 生前にブーディカが戦ったワトリング街道での戦い。あれは今の状況とはまるで逆だった。20万を優に超えるほどのケルト戦士、その家族を率いた軍と1万のローマ軍との衝突。結果はブーディカが軍の統率を取れず、部隊ごとに統率を取る中級指揮官の不在も相まっての惨敗。

 

 しかし、今はそれはない。数の不利はあるが練度も強さも文句なしの正統ローマ兵。砕けかけていた士気も回復、負傷者もいるがまだやれる。それに優秀な部隊長たちが小隊ごとに現場現場の指示を飛ばして軍の動きにほころびが出ないように動く。

 

 後はそれを本陣の目線から指示を飛ばして動きを助けてやる。仮にもいくつもの戦場をめぐり、英霊となってもローマ兵を率いての連戦。何の皮肉か敵として、指揮官としての経験のせいで気質も強さも性質も理解している分指示もローマ兵を動かすのに最適なものばかりを飛ばし、動きも見違えるように変わる。

 

 それは燃え盛る城から離れることで精神的な負担も熱による苦しさも軽くなったことで兵士たちの奮起もあってかすぐさま敵兵を砕き、藤丸の軍と合流が成功した。

 

 

 

 

 

 

 『藤丸君。今から頼もしい援軍をプレゼントする。出来れば兵士たちを少し下げてはもらえないだろうか?』

 

 「え? あ、了解です! みんな、一度下がって!」

 

 バゼラートに乗っていたエミヤが藤丸の真上に移動し、通信を開いて一度正統ローマ兵士を下げるように通達。正統ローマ兵も下がると同時に当然、連合ローマ兵も藤丸たちに襲い掛かってくるが、その前にバゼラートから降り立ったものが着地。

 

 「シャアアアアアアァアッッッ!!!」

 

 その人影は降りるなり扇子を展開、大規模の焔を巻き上げて連合ローマ兵士を視界の入る限り焼き尽くし、とんでもない殺意を乗せて生き残った次の連合ローマの兵士たちに襲い掛かる。

 

 「よくもっ! よくも安珍様を危険に合わせましたねこの阿呆どもぉおおお!!」

 

 救援に来たのは清姫。今回の戦いも配置の割り振りに不満気味だったがそれがベスト。マスターのためだと我慢していたがいずれ耳に入るこのピンチを聞けばに居ても立っても居られないだろうと華奈も判断。その怒りを思う存分発散させてしまえばいい救援になるのでは? という考えからのエミヤに連れてくるように連絡したからこその参戦。

 

 「まだいる! まだまだ・・・! 残らず灰になりなさい! アアァア”アァアア”!!!」

 

 ついでに言えばその報告を聞いてからの焦燥や暴走から仲間と暴れないようにとの考えもあったが、目の前で力の限り暴れまわり、藤丸をかばいつつも目の前でまるで炎の蛇が何匹も暴れ狂うと見まごうほどの魔力の使い方や暴走加減はまさしくバーサーカーに相応しい。一人人間火炎旋風状態の清姫の登場に一同唖然としていたもののしばらくして再起動。

 

 「み、みんな清姫に続いて! このチャンスを無駄にしたらだめだ! マシュは清姫をのサポートをして! ジークフリートは横腹を突く相手を砕いて! クー・フーリンは思いっきり暴れてほしい! エミヤは敵の後方を突いて混乱させていこう!」

 

 「「「了解だ!(です!)」」」

 

 藤丸の指揮をきっかけに動きを変える英霊たち。若干目の前で自分への愛の言葉と敵へのとんでもない怒りをぶつけながら暴れまわる清姫に引きつつも清姫の近くにマシュと一緒に移動。冗談抜きでペース配分や敵味方お構いなしの暴れっぷりにはさすがにこれ以上は駄目だろうと判断。

 

 「清姫、ありがとう。すごく助かったよ」

 

 「ますたあ♡ ふふ。この清姫、危機と聞いてはせ参じました。エミヤさん、華奈さんには感謝ですよ。お怪我はありませんか?」

 

 主の声を聞くなりぴたりと怒りのオーラが消え、まるで大好きなご主人を見つけた忠犬のようにすり寄り、怪我がないかと体をくまなく見まわし、手を動かす清姫。戦場の中であるのだが、少しの慣れと、清姫の救援、エミヤの復帰もあったせいか余裕ができた藤丸は清姫の手の感触や視線、甘い香りに思わずドキドキしてしまい、戦場の興奮や緊張とは別で顔が赤くなってしまう。

 

 「えっと・・・清姫さん! 戦闘中ですよ! 先輩も指示を!」

 

 そのことにむっとした表情で二人に声を飛ばしつつ盾でかばい、敵兵を吹き飛ばすマシュ。若干力のこもり気味な盾を縦横無尽に振り回し、見方が攻め込めるスペースを確保。若干八つ当たりに見えなくもない動きではあるがこの反撃の動きには見方たちも奮い立ち、各所で敵の包囲を押し返し、包囲の環が狭まるどころか広がっていく程。

 

 「みんな! 一緒に戦いましょう!」

 

 「ノブッー!」

 

 更にはブーディカの軍、その先陣を切るちびノブライダー隊たちも合流して敵兵の包囲を突破、乱戦気味ではあるが包囲から脱出できたということからも勢いを増した正統ローマは今までの連戦も忘れ、一人一人が獅子奮迅の働きをさらに見せつける。

 

 『これがローマの兵士か・・・なるほど皆が憧れるわけだ・・・』

 

 ロマニの言葉通り、何度窮地に立とうとも折れずに見せるその強さにはカルデアの皆も驚くばかりであり、同時に頼もしく、負けるものかと藤丸、英霊たちも一層奮起。数の差が嘘のような大立ち回りを始めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「余の行いが無駄、だと・・・!」

 

 「うん、だって民を愛して、守るのであれば君の戦いは矛盾しているのだから」

 

 短剣を炎を思わせる大剣のぶつかりあい、剣戟を見せるネロとアレキサンダー。子供故の身軽さを活かしての軽業師のごとき立ち回りとネロの踊りを思わせる剣術はまるで一つの踊りの演目を見ているのかと思う程に美しく、同時にその剣戟の激しさに息をのむ。

 

 「だって、僕らのほうもローマ、そして歴代の皇帝がこうして部隊長の立場にも甘んじるほどの大物がいるってことだし、君が降伏してもローマという国は存続・・・いや、前以上の繁栄や安心、飽食、豊かさを約束できると思う。特に君ほどの抵抗を見せた皇帝ならきっと連合ローマでもいい場所に入るだろう」

 

 「それは・・・・」

 

 「それに叡智も集まる。きっと民草、奴隷も皆が前以上の豊かさを手にできるかもしれない道を、君は目の前に見ながら捨てているかもしれない、理解しているだろう?」

 

 アレキサンダーの言葉に思わずネロも言葉を詰まらせてしまう。考えなかったわけではない。事実、カリギュラをはじめとして前線で見た隊長、将軍格の中には老兵が驚き、ネロもその証言から石像や肖像画でどの皇帝かを確認できた。かつてのローマを支えた偉大な先達たち。このような状況でもローマを名乗り、奪還した町も必要以上の略奪や私刑、暴力は働いていないことがわかる。彼らもローマを愛している。

 

 同じローマのもとに下り、より美しく、より輝かしい強国を作る。皇帝以前に、為政者としてさらに上を目指すための判断として考えないわけがなかった。

 

 「無駄な争いを避け、国を保つための動きをなぜしない! ローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディス。「皇帝」のままであり続け、民草も守れるための恭順をなぜ取らない!! 何故戦うのだ!」

 

 ひときわ声を荒げ、右袈裟で斬りりかかり、剣で受け止めたネロを体ごと吹き飛ばすアレキサンダー。ネロも剣を地面に突き刺しつつも後方に下がり、一瞬たたらを踏む。

 

 しかし、その道は、恭順はないと決めていた。その想いをこうも踏みにじられる。そのことにネロはいら立ち、剣を強く握る。

 

 「・・・決まっておるであろうが! その道が気に食わぬからだ!」

 

 アレキサンダーの言葉に返すように剣を下段に構え、地面をけってからの切り上げ。一気に距離をつめ、大剣での一撃に今度はアレキサンダーが吹き飛ばされ、一瞬だが空中に浮いてしまう。

 

 「・・・っ! 気に食わない?」

 

 「ああ、気に食わぬ! 「皇帝」のままであろうと、そんなものがいくつもある国への恭順などまっぴらごめんである! そも皇帝とはその時代に一人! その責を負い、国を背負い、歴史を背負うものが名乗れる称号であろうが!! すべてを愛し、すべてから愛されることが許されるものだ!!」

 

 その後も振るわれる剣の攻撃の数々はとても細身で小柄な女が振るうとは思えぬほどの一撃。アレキサンダーもうまく攻撃をいなし、かわし、反撃をしようとするもそれ以上にネロの剣の一撃が重く、しびれる手を回復しているうちに次の攻撃が放たれてしまう。

 

 赤き薔薇の皇帝の持つ怒りを乗せた剣舞。その重さ、速さ、先ほどまでなかった気合のノリにアレキサンダーもクスリとほくそ笑む。

 

 「例えすべてのローマの先達が君を呼び掛けてもか!!」

 

 「ああ、そのつもりだ!! ただ一つの巨星、ただ一つの在り方! そして君臨し、栄え、越えて見せる!! この時代のローマの主は余一人!! 伝説の王だろうと名君であろうと知ったことではない! その口を閉じよアレキサンダー! 余の国に、道に立ちはだかる敵が余計な言葉をこれ以上吐くな!」

 

 先達だろうが、ローマであろうが自身のローマでなければ、敵であればねじ伏せて見せる。過去の名君の手腕すらも越えて栄えるとも言って見せる。その豪胆さ。アレキサンダーの事も察しても尚引かず。見てきたはずだろう。皇帝たちを。見てきただろう。数々の軍の運用術、その当地の妙も。それを見ても尚超えて見せる。過去のローマがすべている国だろうとも超えていくと。

 

 あきれるほどの覚悟、あきれるほどの啖呵。そして、同時にアレキサンダーは嬉しくなる。

 

 「っはは。合格だ!! 君は覇王になる! 皇帝になれる資質がある!! 栄華繁栄を誘い、歌い上げる薔薇の皇帝よ! 魔王にも、何にだってなれるよ君は! これからも進むといい! その熱こそが今のローマを動かす原動力となり、強さとなり、この先の希望となる!!」

 

 「黙れ! これ以上の言葉はいらぬ! 去れ! アレキサンダーよ! この時代のローマの道から退くが良い!!」

 

 互いに切り結んだ中での刹那。アレキサンダーの剣をネロの渾身の一撃が弾き飛ばし、切り返しての一刀がアレキサンダーの胸を大きく切り裂く。それは霊核に届くほどの傷。致命傷となったこと、アレキサンダーも満足したのかこれ以上は抵抗をやめ、腰を下ろす。

 

 「・・・ふふ。最後に、その輝きや誇り、咲き誇る花のような美しさと尊さはいい。けど・・・それは危険なものでもある。・・・覚えておいてね」

 

 最後に優しい笑顔、満足したという表情でアレキサンダーは退去。ネロの勝利が決定し、同時にこの戦線での勝利も決める楔となった。

 




華奈「ふぅ・・・あちらも終わりましたか」

エルメロイ二世「そのようだな・・・全く、あの方は・・・いや貴方らしいおせっかいか・・・華奈殿。これを・・・」
(扇と眼鏡を渡す)

華奈「・・・よろしいので?」

エルメロイ二世「どうせ誘う気だっただろうに・・・下手な演技はいらぬよ。この小賢しい知恵でもよければこの戦いに今後もはせ参じよう。それにまあ・・・我が弟子の職場を見るのも悪くはない」

華奈「やれやれ・・・お見通しですか。この陣地構築や戦術、戦略を持つ軍師の英霊の力と貴方様が来れば百人力ですよ。助かります。待遇については召喚してからおいおい」

エルメロイ二世「やれやれ・・・召喚されてからの契約など、ブラックな契約を結ばれそうで怖いものだが・・・まあ、しかたない」
(退去)

華奈「はぁ・・・私の直下兵とはいえ敵本陣で暴れまわったせいで部隊は八割負傷・・・ちびノブ様たちには特別手当を用意ですね。初任給の手当てとはいえこの苛烈な戦場ですし急な呼び出し。・・・・・ブリテン時代の割り当てでいいか皆に相談せねば・・・それと、この呼び水となるものも」

藤丸「華奈さーん! 大丈夫ですか~!!」

華奈「あ、はーい。藤丸様も元気そうで何よりです! けがはないですかー」





今回の孔明と華奈の話した策略。あのとんでもない大軍師の考える作戦に相応しいものか今でも心配になるものでしたが、とりあえずはこんな感じに。ネロ陛下もさすがに大量の戦死者をここで出してダメでしたとなれば求心力も落ちるはそもそも戦うための戦力自体がだめだよねということで兵を狙う作戦に。

英霊がいても、敵の波を受け止めるには限度がある底をついた戦術ですね。それと坑道戦術は三国志でもよく見られる戦術ですし、ロード・エルメロイ二世のいるイギリスに「穴掘り屋」の異名を持つ軍団がいたりしたのでそこからこの作戦を想いついたりもしました。ちなみに「穴掘り屋」軍団。ある国の入り江の名前になっていたり戦艦の名前になっていたりします。

タイトルも実はそこから想像して連合ローマ側をモグラにしちゃったり。


三国志演義、特に横山大先生の作品では最近の自爆大好き軍師張りに火計、爆発使いたい放題なお方。城を爆破して敵を追い出したりとか地雷で魏延とか敵兵を焼こうとしたりとか敵を炎の壁に押し込んでやったりとか本当に炎と爆発使いまくりの怪物級の戦術眼です。

ちなみに、正史における諸葛亮が北伐を成功できなかったのは実は正攻法な方法にこだわりすぎたからというのもあるそうです。ここらへんも実は司馬懿が孔明の軍の動きと配置を考察していたり、魏延が「かつての国士無双韓信のように奇策を用いて戦いたい」といった言葉をだめだと言って正攻法の進軍ルートにしたというエピソードからもうかがえます。



ワトリング街道での戦いは一説にはブーディカ側が後方の家族云々を含めて23万。ローマ側は1万だったそうです。個の力はあれども戦術を利用せずに勢いだけの突撃をした結果ローマにそこを突かれて敗北。という感じだったそうで、いかに数をうまく運用しくことが大切かということがよくわかります。

ブーディカサイドは家族などを差し引いても男衆の軍だけでも5~6万くらいはいたでしょうし、戦慣れした民衆のやばさは赤眉の乱などを調べるとよくわかります。それを跳ね返したローマ軍の強さは本当にすさまじいとしか言えません。



清姫怒りの火炎旋風。きっと敵兵からは背中に巨大な蛇、もとい竜が映ってたのでしょうかね。マスターの前では暴走気味な忠犬そのものですが


今回銀嶺が用いた魔術兵装。言っちゃえば魔術使いの武装などに近く、鎧などにも使用したシンプルな魔術をパーツごとにつけて攻城、砦、ほかの用途に使えるようにしたものなど。魔術部隊を多く持っている。基礎学習などもやっていた銀嶺ならではの武装です




本当に時間が取れない、仕事終わりの体力がないのがつらいところ・・・なんとなくですが華奈が対魔忍の世界で教師をしていたらという小ネタもやってみたいですし。多分疲労、心労、頭を下げるの連発でしょうけど。

見てくださっている皆様にここまで遅くでしか出せないのが申し訳ないです。

改めて、執筆速度が速い方々には本当に頭が下がる思いです。読者の皆様も、執筆者の皆様もこの寒い季節、身体を壊さぬようお過ごしくだされば幸いです

次回はあの炎の男登場。多分みんな大好きな王様です。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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くろがねの城VSフレイムゲート 30分一本勝負

華奈「はぁー・・・ようやく、第三陣。というよりは最後の関門・・・銀嶺の兵士もだいぶん消耗していますし、少し休ませましょうか。ネロ陛下に食材とお酒の都合をつけてもらわねば。ほぼ銀嶺隊だけで一日で20以上の拠点や城、砦を殲滅とか英霊になって記録更新ですよ・・・スカーレット・・・」

スカーレット「はい」

華奈「アルトリア様とストームに連絡です。今日はお疲れ様。私のほうは銀嶺側の奪取した最奥の城で休みますと。それと、銀嶺にも多くが負傷しましたので明日は銀嶺隊も少し休んでもらうことを・・・それと、貴女も休んで。ボロボロだし」

スカーレット「了解した。ですがねえさ・・・華奈隊長も本当にすぐ休むように。何回か落石に変なあたり方していたか・・・ましたから。では」
(移動)





ロマニ『これで完治。と・・・この乱戦の中で前線に出て無事、本当に強運なのもあるんだろうけど、こちらから見ていてわかる。動きがよくなっているよ藤丸君』

藤丸「清姫やみんなのおかげですよ。特に清姫は炎で常に多くを倒していましたし、銀嶺の250人将? の二人は常に一番危ない場所で盾となっていましたし」

ブーディカ(青髪の女の子、途中でなんか変な戦い方や武器が変だった気がするけど気のせいかしらね??)

清姫「うふふ。ますたあが大きなけがをしなくてよかったです。この清姫全身全霊で戦ったかいが・・・」

ブーディカ「あ、そうだ。信長とかも今後方の制圧した城を改造した休憩所兼野戦病院で休んでいるみたい。ご飯もたくさんあるし、イベントがあるようだし、行ってみたら? どの道もう夕暮れ前。これ以上軍を動かすこともネロはしないだろうしねー」

マシュ「おや、今日の戦いであれ以上の増援が出なかったのも信長さんたちのおかげですし、お礼を言いつつ私たちも休みに行きます?」

藤丸「んー・・・」

ジークフリート「どうした?」

藤丸「いや、嫌な予感がして」




エリザベート「私の歌を聞けー!!!」

沖田「華奈さんに代わって前線支えたのにこの扱いはあんまり・・・コフッ!」

クー・フーリン「うぉあぁあああぁぁああ!! 頭が割れるぅう!!」

ヤマジ「アッーーー!!」

ジャンヌ「・・・」
(立ったまま気絶)

紫式部(耳専装着済み)「これでも頭がキンキンします・・・これ、が死屍累々というやつですか・・・」

信長「人間・・・五十年・・・・」

ネロ「なんと! この短時間で皆にここまでの反応をさせるとはやるな! 余も交じるぞ!」

ジャンヌオルタ「やめなさいよこのお馬鹿ども!」

軍曹「くそ・・・これがネロ陛下とエリザベートの真の武器か」

ストーム1「違う違う。それはそれとして、そろそろやめさせないと死者が出るな」

アルトリア「ふふふ・・・そう、これは事故・・・暴走した二人を抑え込んだ際の弾みで起きた事故ですむのです・・・」
(聖剣を構えながら)

オルガマリー「もうどうにでもなーれ」



 「押せぇ!!」

 

 後詰に残していたローマの誇る精兵の突撃。鍛え抜かれた肉体、それを包む鎧に剣や槍、盾の重量を乗せた人間が多数集まって行う突撃。その衝撃、練度もあって繰り出されるそれはたとえ大型の肉食獣でも身体を吹き飛ばされるであろうもの。それを一斉に何百名も行う衝突を繰り返す。何度も。

 

 「フンヌゥッ! この程度へでもないわあ!!」

 

 しかし、その何度も行われる肉の波を押し返す連合ローマの一部隊。たった300名。それでネロの正統ローマ兵数万の軍の攻撃を凌いでいた。弓矢、投石。投槍。突撃。全てを複合した息もつかせぬ波状攻撃も通じず、手詰まりの状態と化していた。

 

 「この谷を越えれば敵の首都なのだが・・・くそっ」

 

ネロも思わず悪態をつく。第二の防衛陣地を越えた最後にある、まるで敵の最後の壁と言わんばかりにそびえたつ険しすぎる山。その間にある狭い谷間。少数でしか進めないこの場所に敷き詰めた兵士が精鋭だというのは嫌でも感じられた。しかし、集団戦と密集陣形の練度ならローマの十八番。それゆえに押し切ることが出来るかと思ったゆえに客将の力を借りずに第三、ひいては敵首都に切り込む際にと残していた無傷の精鋭部隊をぶつけたが結果は御覧の通り。

 

 まるで一歩も進めず、谷の中は愚かその入り口に入ることすら許されない。まるで谷におろされた巨大な城門。特にその先頭で指揮を取る兜で顔を隠した大男。あの男がまずい。彼の声一つであの300名は奮い立ってこちらを怯ませるような声を上げ、重装盾兵であろうと貫いてくる攻撃を平然と出す。大男自身の武力も相当なもので、常に多くを屠り、そして守りを意識した戦いを崩さない。何度も挑発や罠を用意しても引っかからないのがその証拠。

 

 嫌な相手だ。ああも固くては先に進めず、挑発にも応じるような甘い連中ではない。坑道、大樹の城の背後の抜け道も探しているのだがそれも見つからず、今は目の前の敵を砕いてしか敵本拠地に進めない。

 

 「・・・客将たちはどうしておる?」

 

 「ハッ! 藤丸様、オルガマリー様両名は後方でほかの客将たちと待機。ブーディカ様、呂布様、スパルタクス様、荊軻様は大樹の城および行動にいる残存兵の調査。華奈様は先日銀嶺の奪取した城の一つで療養中。ストーム1様もそこに詰めているそうです。アルトリア様、軍曹様は一緒に第二陣地の残りの拠点を制圧中です」

 

 藤丸たちは谷を制圧した後の先陣を任せるため。荊軻たちはあの敵の軍師の用意していた坑道がまだ敵に利用されていないか。ひいてはそれを逆に領して攻めの足掛かりに使えないかの模索と思わぬ反撃を貰わないための調査。アルトリアたちは少数でも問題ないほどの勘の鋭さとあの火力を出せるアルトリア、経験豊富、多数相手にも切り抜けられる目をもつ軍曹で抜け道を探すためのスカウト。

 

 華奈は昨日敵の本陣に百五十騎で切込みをかけて敵の軍師と本陣を丸ごとつぶす大立ち回りをしたせいで疲労と怪我のために部隊ともども休養。ストーム1はその穴を埋めるための護衛。

 

 「むぐ・・・華奈、ストーム1、軍曹を呼べ! 今は一刻も惜しい、この谷を突破するために一つ頼もう。正直な話、休んでは欲しいがな」

 

 その中からだれをチョイスするか。少しの逡巡の後にネロが選んだのは華奈、そしてストーム1と軍曹だった。わずかな予感ととっかかりから敵の策を見抜いた戦術眼とふざけた武威を見せた華奈、見たこともない武器をいくつも見せ、城一つも吹き飛ばす火力を見せたというストーム1、そして1万の軍を相手に一歩も引かずにほかの兵士たちを鼓舞しながら生き抜いた軍曹。

 

 華奈は前線は少し駄目だろうが、この状況を打破できる作戦を。ストーム1、軍曹には目の前の敵の撃破。そしてその後の切込み。適役ではあるが、同時にここまで客将に頼りきりというのも申し訳ないとネロも思ってしまう。しかし、同時にこれが必要なものであるのなら仕方ないと思考を割り切って伝令に伝える。

 

 「ハッ! ではそのように」

 

 その後、しばらくして頭や体の節々に包帯を巻いた華奈、フェンサーの武装で来たストーム1、タマモキャットにじゃれつかれていたか肉球の跡をほほにつけた軍曹が到着し、戦況を眺めていった。

 

 「ん・・・・・・・・ストーム。武装はこんな感じで。軍曹様は攻め込む際の先鋒を。ゴム弾は用意しておきます。後は、ジャンヌオルタ様を呼べばいいでしょう。通達を」

 

 「俺が行こう。あの子ならおそらくは喜んでいくだろうからな」

 

 戦場を少し見るやストーム1にすぐさま武装を書いたメモを渡す華奈。軍曹は即座に自身が使いっ走りに。

 

 「しっかし、狭い場所で大軍相手にこの守り、そんで武装・・・間違いなく、あのスパルタだよなあ」

 

 『あの守りの強さに、出ている敵兵のほとんどは弱いけど英霊の反応だ。おそらくは宝具・・・そしてまあ、そう思うよねえ』

 

 「違いないですね・・・ウェイバー様の作戦でしょうけど、本気であの人は策を練ったようですねえ。本当に適材適所です。場所もしっかりと用意していますし」

 

 まったくもってあの軍師の作戦は退去しても残り続けている。大樹の城や行動の抜け道は全く見つからないし、谷も険しすぎてバゼラートなどを使わないと越えられないほど。英霊たちを少しづつ送り込んで突破口をこじ開けるのも手なのだが、ローマにも花を持たせなければいけない。そうでないと手柄をよそ物ばかりがもらい、もらえないローマの兵士たちの不満がたまる可能性があるから。

 

 そうなると必然首都へ向かう足並みもそろわなくなりかねない。それよりは英霊は英霊でぶつかり、兵士には兵士に仕事を与えて互いに功を積んだほうがいいというもの。

 

 「華奈よ。あの相手があのスパルタというのなら、かの逸話の戦いよりも倒すのが難しい相手となる。出来るか?」

 

 「おそらくは。そのためにもネロ陛下たちには少し弓兵を多めに配置してくれたら嬉しいです」

 

 「うむ! それとすぐに突撃できるように手配しておこう。あ奴らを倒した後は谷の道の確保。そこは余たちが受け持つ」

 

 いううが早いかすぐさま兵士たちの用意、配置換えを決行し、待機を指示。それに即座に動きを変えて陣の変更もすぐできるあたりその技量がうかがえるが、同時にそれを押し返す敵の部隊が末恐ろしく思う。

 

 「よいしょっと・・・うっしマスター。準備万端。いつでも行けるぞ」

 

 「来たわよ。あの最強の300名相手に私を呼ぶとは良い判断じゃない。で? その様子だと貴女は出ないようですが、どう動くのです?」

 

 「やれやれ・・・聞くやすぐにこれだ。防衛線でうっぷんが溜まっていたか?」

 

 考えていた作戦を見直ししていると準備をそろえたストーム1の後にすぐに来たジャンヌオルタと軍曹。兵士たちも自分ら客将の動きを今か今かと見ており、同時に期待されているのも分かる。自分たちが次はどう動くのか、どうあの鉄壁を突破するのかと。

 

 「では、ストーム。あの大将格の足止め、あわよくば倒してください。軍曹様、ジャンヌオルタ様は突撃してある程度前線を揺らしてください。その後に私も一手を打ちます・・・頼みましたよ」

 

 「はいよっと・・・ま、マスターは大船に乗ったつもりでその気を見ているといい・・・ふっ!」

 

 ブースターを活かし、あっという間に敵目掛けて鉄の塊となって高速移動していくストーム1。その速度にローマ兵、そして敵も驚くが、すぐさま敵兵は再度密集陣形、ファランクスを練り直す。その指示を出す並々ならぬ気配を持つ大将と思われる男。皆が皆彫刻のような筋骨隆々。その中でもひときわ鍛え抜かれ、戦闘のために作られた一種の芸術品ともいえる男に巨大な盾とツインスピアをもって激突した。

 

 「ぬぅうぅうあぉおおお!!? 貴様・・・その武装でその動き、名のある武将と見える! 我が名はレオニダス! 義も無き戦いに組することに呆れていたがこれは僥倖! 一勝負願いたい!!」

 

 「こちらからお願いしようじゃないのスパルタの王様よ! ここじゃあちっと狭い、だから、いったん広いところでやろうぜ!!」

 

 その激突にレオニダスは受け止めはするがあとずさり、周りの兵士の陣形を少し乱してしまう。しかし戦象でないと突破できないとも言われるほどの強固さを誇る密集陣形、しかもあのスパルタの組み上げる陣形を確かに一人で揺らしたストーム1 文字通り人間大の武装した鉄の塊が空飛ぶほどの速度で激突して尚受け止め切るレオニダス。この最初の激突だけでも周りは圧倒されるほどの迫力。

 

 ギャリガリと盾をぶつけあい、ブースターとパワードスケルトンを鍛え抜かれ、重武装でも騎兵相手に追いつくほどの脚力、身体の力で抑え込んでいたレオニダスだったが突如一寸ストーム1が距離を取り武装を変更。二振りの巨大なハンマー。それを体ごとたたきつけた瞬間、そのハンマーを受け止めたレオニダスの盾を起点に爆発が起きた。

 

 『なあああっ!? な、なんだこれ!? 一瞬だけどとんでもない魔力値が出たぞ!! ってかあのスパルタの陣形をあの数秒で崩したんだけど!?』

 

 「そりゃあ、ボルケーンハンマーですからねえ。あれ、普通にもらえば多分英霊でも一発で吹き飛びますよ」

 

 「ぬっ・・・ぐぅう! まだまだあ!!」

 

 チャージ次第で爆発を起こし、少しの範囲ながらふざけた威力を何度も打ち付けるハンマー。ボルケーンハンマー。その威力、爆発にレオニダスも吹き飛ばされて谷から引きずり出され、そこに追撃でツインスピアを発射しながら接近するストーム1。しかしそこはスパルタの王。爆発の瞬間に身を浮かせたかさほど衝撃を喰らった様子もなく、飛んで来た二つの槍を盾と槍で叩き落として迎撃を開始。異常なほどの巨大な金属音と爆発の怒る戦闘が開始。

 

 「なっ! 王を守れ!」

 

 当然、この動きにはレオニダスの供周りをしていた兵士たちも動く。かつてのテルモピュライの戦いでもレオニダス王は討ち取られ、その遺骸をめぐる戦いもあった。再びそれを再現するな。王を死なせるなと兵士たちも谷を出てまで救援をしようとする。

 

 「あら、陣形が乱れているわよ。しつけができてないわねえ!!」

 

 「その筋肉だろうとブレイザーなら通る・・・やらせてもらおう!」

 

 救援のために部隊を出す。一瞬でもその動きをしてしまえば密集陣形は乱れる。そこに飛び込んでいく二つの影。ジャンヌオルタ、そして軍曹の二人がスパルタの軍にぶつかり、戦闘を開始。

 

 EDFが侵略者、プライマーと戦うための組織ではあるのだがそれ以前はその過剰ともいえる武装を世界各地の紛争、テロ鎮圧に向けていた組織。軍曹も無論その経験はあり、多少のためらいは生じるがそれをおくびにも出さずに引き金を引く。放たれるのは当然ブレイザーのエネルギー。スパルタ兵を次から次へと焼き払い、既に接触をし始めているジャンヌオルタの支援に徹する。

 

 「さあ、この数で私をどうにかできるかしら!? はっ!」

 

 ジャンヌオルタの振るう剣、旗、そして蹴り。その一発一発がスパルタの兵を圧倒し、蹂躙し、陣形を押し込む。まだまだ動きの粗さも目立つ、歴戦の武官というわけでもない。しかし、その振るわれる一撃が重い。

 

 特殊な生まれをした英霊のジャンヌオルタ。そのクラスやありようを形にしたステータスなのか筋力、敏捷ともに最高ランクのA。武人として名を馳せた英霊以上のステータスを誇る。細身の女故の軽さ、攻撃は練り上げられた武でなかろうともその速度でつたなさや軽さを補い、力の入れ方の未熟さは剛力で補う。

 

 更には追い打ちと言わんばかりに業火の付与した攻撃に軍曹のいぶし銀の援護は敵の密集陣形での守りをわずかにでも穴をあけ、そこをジャンヌオルタが突き崩していく。

 

 「ちっ・・・・ならば陣地変更! 包み込め!」

 

 真正面からのぶつかり合いは不利、そして手数が借りないと判断したスパルタの兵たちはすぐさま布陣を変更。ある程度押し込まれていることを逆手に利用。ジャンヌオルタを包み込むように円陣を組み上げ、更には軍曹の攻撃を止めるために兵を一部ネロ達のほうに向けて壁とする。

 

 力をぶつけあう、押し合う戦いでジャンヌオルタ一人ならまだしも、祖のぶつかり合いに差し込まれる軍曹の援護が至極面倒。まずはジャンヌオルタを包囲し、四方八方からの槍衾で始末。その後に軍曹に対しては槍を投げ、その間に切り込んで対処。その後に改めてレオニダスと相対しているあの奇妙な全身鎧の男を対処。そうすればどうにかなるだろう。

 

 少なくとも主と同じ英霊らしき女は負傷している様子。生身の人間ながら英霊にも渡り合う現ローマ皇帝も強いではあるが目の前で剣戟と炎をまき散らす女のような速度と馬力もないようだし、レーザーを撃ちまくりながら援護をする男のような経験を積んでいるわけでもない。

 

 そう一瞬でも考えてしまったのがスパルタ兵の時間を華奈は見逃さず地面に刀を一振り突き刺す。

 

 「石牢処刑」

 

 地面に突き刺した深山。その持ち得る力は局地的ながらの地形操作。華奈の持つ四振りの聖剣、魔剣の中でも一番軍用の幅が拾い物。ジャンヌオルタを囲む円陣を崩し、まるでジャンヌオルタを中心に石壁が地面から生えてスパルタ兵を分断。谷の地形をごく一部ながら大きく変えてしまう。

 

 「あーらら。お仲間は分断。いくら固い陣形を組めても、さすがに土くれとは出来ないわよねえ・・・?」

 

 旗を地面に突き刺し、剣を構えてにやりと笑うジャンヌオルタ。スパルタの誇る密集陣形。それは縦も横も互いに一つの塊となり、壁となり、意識を一つにすること。それが強さの源。たった2,3列しか組めず、縦の幅もない。そんな狭すぎる状況では逆に個が強く動きやすくなるというもの。

 

 「せいぜい生き延びてみなさい!」

 

 いうが早いか剣を振るい、剛力を俊足を目の前の敵に容赦なく振るい叩き物していくジャンヌオルタ。一人、また一人とかつての竜の魔女の剣に、拳に、蹴りに倒れていき、数を確実に減らしていく。

 

「狭い場所での戦闘はなれている。人を撃つことにはためらうが・・・手を抜くことこそが失礼。全力で行かせてもらう!」

 

 軍曹もまたブレイザーをもってスパルタ兵をブレイザーで狙い撃ち、時には不意を突き、時には身を隠して思わぬ場所からの一撃。伊達に洞窟の中で巨大生物と戦闘を繰り広げ、巨大なエイリアンたちと市街戦を繰り広げていたわけではない。テロ組織との経験も相まって七面鳥を撃っているかのようにサクサクと敵を狩る。

 

 「ひとつ・・・ふたつっと・・・ふむ。少し移動を・・・」

 

 華奈は自身の身軽さ、深山で自身が形成した壁の場所を把握したうえで桜花を使い壁越しにスパルタ兵を刺突。斬撃を飛ばして背中を切るなどの暗殺者じみた動きを活用。深山の地形操作の範囲を絞ることで壁の再生や自身は労せずに壁の向こう側に身を隠すのでスパルタ兵も追撃をできず。壁をよじ登ったり、壊そうとしようものなら土の拳が飛んできて対処される。屈強無比なスパルタ兵、その中でも伝説を残した300の兵士たちは三人の英霊たちに前に徐々に数を減らし、最後は討ち果たされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっちはもう済んだか、しっかし、本当にタフだな。こうも連撃を防がれるとは・・・・っと!」

 

 「武器を動かすのは骨と筋肉! その動きを錬磨しつくし、可能性を考慮しながら計算すればたとえ未来の武装が相手であろうと負ける道理はないのです! ヌゥェエリリャア!!」

 

 谷から少し離れた場所で繰り広げられるフェンサーにクラスチェンジしたストーム1とレオニダスの戦闘は互いに激しくぶつかり合い、ストーム1が有利に事を進めるも、油断は許されない状況だった。

 

 ツインスピアのブースターとスーツのブースターを組み合わせた盾と槍を組み合わせた突撃も踏ん張られ、ボルケーンハンマーの連撃も初檄を受け流し、あるいは踏ん張らずにその衝撃で後方に吹き飛びその後の連撃をやり過ごされる。

 

 「楽しそうだなあ、王様よ。義のなき戦いに呆れていたんじゃないのか?」

 

 「それは心からそう思っています。しかし、あの方のためにもと守ってみれば気骨のある戦士たちと真正面からの血が沸き、肉が踊るような戦いができていること、それはとても心地よいことです。守るべきもののないつまらない戦いから解放されると! その機会をくれ、なおかつ今の皇帝も一目見ることが出来た。これだけでも有り余る報酬というものでしょう!」

 

 接近戦でもストーム1の放つ大火力の攻撃の隙間を縫ってレオニダスは槍の突きを二発、三発と叩き込んでストーム1の盾を押し返す。押せば引き、合間を縫って逆に押し返す。剛柔入り混じる盾と槍の組み合わせで武装、火力の差を埋める戦いにストーム1も少しばかり厄介だと鎧の下で顔をしかめてしまう。

 

 (ツインスピアでの突撃でも踏ん張られてペースを乱されかねないし、ボルケーンハンマーは振りかぶる合間を狙われる。敵の呼吸を見ながら戦う経験を積んだせいだろうな。守りを維持するための呼吸の取り方が抜群にうまい・・・うーん。よし)

 

 このままではらちが明かない。そう判断したストーム1は少しだけ戦い方をチェンジ。一度距離を取り直し、ツインスピアを構え、背中のブースターを再度加速できるように調整。

 

 「む・・・」

 

 相手の空気が変わったことを即座に理解したレオニダスも盾を構えて腰を少し落とし、槍を持つ手を強く引き絞り、ストーム1の接近に合わせて即座に打ち抜けるようにしておく。

 

 「そんなら、こっちも思いきり心からぶつかってくれることに感謝と敬意を。ま、ずは・・・!」

 

 ブースターを思いきりふかし、あたりの砂埃を吹き飛ばしながら爆走するストーム1。レオニダスをツインスピアの射程にギリギリ入ったことを目測で確認し、即座にツインスピアを発射。二つの巨大な槍が放たれ、レオニダスの足元を目掛けて飛んでいく。

 

 「甘い!」

 

 一撃で戦車や巨大生物、果てには戦車や巨人のようなエイリアンすらも一撃で穿つ二つの槍すらもレオニダスはとらえており、今まで同様に払い落とし、あるいは盾で受け流す。そこからストーム1は一度方向転換。盾の死角に常に回るように動いてはレオニダスを中心に円を描くように動き、ツインスピアを何度も何度も放つ。

 

 「ぬんっ! 盾の可動範囲、動かしづらい部分に逃げるつもりですか!! その程度想定済み!」

 

 レオニダスもそこは問題ないとストーム1の動きに合わせて身体を動かしてスピアを防ぎ、受け止めていく。数十発ほどスピアを放ったところで今度はストーム1がボルケーンハンマーを両手に持って突撃。思いきり振りかぶり、腰に力を入れる。

 

 「ツインスピアでも、ボルケーンハンマーでもダメなら、こいつはどうよ!?」

 

 爆発がレオニダスにぎりぎり当たるかどうかの手前で下からの打ち上げ気味に振るいあげるボルケーンハンマーの一撃。それはレオニダスの防御を吹き飛ばすのではなく、地面から大量の土くれ、そして先ほど散々あたりに散らしておいて地面に転がっているツインスピアの槍。これを爆発の衝撃でまるで散弾銃のようにぶっ放し、盾でも槍でも防げない手数と質量をぶつけていく。

 

 「グァッ!? なんのぉお!」

 

 「もう一発! そらそら! 爆発するダンスを味わってもらおうか!!」

 

 そこから次の一撃を振るい、もう一撃、もう一撃とブーストをしながら地面の槍と土くれをぶちまけ、距離をつめてからは身体を大きく回しながらまるで踊るような動きで何度も何度も爆発攻撃を叩き込んでいく。もとよりストーム1の持つ武装の中でもトップランクの突破力と突進力。そこにツインスピアの槍も所かまわずと吹き飛ばすのだ。

 

 とにかく足止めをメインに考えた攻撃故に吹き飛ばされるスピアもどこに飛んでくるのかまるで見当がつかず、対処が遅れればその間にボルケーンハンマーの一撃、そして爆発にレオニダスの身体は振り回され、防げずに肌は焼け、切り傷が至る所につけられていく。

 

 「ッ! そこだ!」

 

 「しまっ・・・! ぐぉああああああ!!!」

 

 その攻撃のさなか、ボルケーンハンマーでレオニダスの盾を内から外に吹き飛ばし、今までまるで殻にこもったかのような鉄壁さを誇るレオニダスの防御の要、盾のガードを外し肉体をストーム1の前に晒す。その一瞬を見逃さずにツインスピアのブーストも活かした加速で即座に突っ込みツインスピアを発射。その攻撃はレオニダスの岩のような胸筋、腹筋を見事に貫き、致命傷を与える。

 

 「ふぅー・・・まさか、ここまで固いとは・・・ブラストホールかジャックハンマーでも用意するべきだったかね。ま、いいバトルだったよ。今度はアリーナとかでやろうやきっと満席になるぜ?」

 

 「フッ・・・背後を突かれるわけでもなく。数の差も逆に少ない中での敗北・・・いやはや、完敗です。しかし、気持ちの良い負けでした。ええ、いいでしょう。今度は思いっきり、しがらみのない中で・・・」

 

 仮面の下から見える穏やかな瞳を見せてレオニダスも退去。ようやく一息。としようと思ったが即座にツインスピアと盾を構え、谷を見る。

 

 感じたのは強大な気配。そしてそれ以上に感じる、英雄王にも劣らないであろう覇気。

 

 「・・・隠し玉はまだありますってことか?」

 

 

 

 

 

 

 

 「よくぞここまで来た・・・我が愛しき子・・・ネロよ。小さき体、細き腕にもかかわらずこれほどのものを抱える勇を振るい、支えたものだ」

 

 「っ・・・貴方だけは・・・どこかで、違うと・・・違うのだと信じていたかったです・・・」

 

 『な、なんだいこの包み込むような威圧感と・・・霊基のすさまじさ・・・!』

 

 「・・・! わがままですが、手負いの身には過分すぎる戦力でしょうかね・・・」

 

 ストーム1がレオニダスを下したのとほぼ同時刻。伏兵などもないことを調べ終わったことで改めて谷へ軍を進めるネロ。そこに立ちはだかった一人の男。その男にネロ、正統ローマ兵の全て、そして、カルデアの面々も圧倒されていた。

 

 巌のごときたくましく、大きな身体。その肉、身体のパーツ一つ一つからあふれんばかりのエネルギーがみなぎっており、それを包む黒と金を基調とした装い、兜と真紅のマントを身にまとう。手に持つ真紅の異形の槍もまた並大抵の武具では足元にも及ばないものだとわかる。

 

 何もかもが規格外。果たしてここでぶつかって勝ち目があるのか。一目見るだけでもそう思わせるものを纏った英霊に華奈、軍曹、ジャンヌオルタだけは臨戦態勢を取るも、残りのメンバーは戦意を失っている状況であり、男の言動全てに目を奪われていた。

 

 「ローマ()は最後の場所で待つ。ここまでの道のりも、心も全て愛そう。その心の返答を今は預けよう。楽しみにしているぞ・・・ネロよ」

 

 「健国王ロムルス!! 貴方までもが・・・なんで! なぜなのだ!! なぜ立ちはだかってーーーー!!」

 

 慈愛にあふれた包まれるような声に飲まれまいと、この状況に怒りと動揺をぶつけるようにネロが吠える。健国王ロムルス。ローマ建国の祖にして神の血を引いた傑物中の傑物。ネロが愛し、慈しみ、守り抜いてきた国を生み出した、一番刃を向けてはいけないべき存在の対立を察した分その取り乱しようはひどく、一瞬で焦燥した顔になり、滝のように汗を流している様が悲痛すぎるもの。

 

 「ーー・・・ローマがローマを試そうとした。とだけ言っておこうか」

 

 立ち去ろうとしたロムルスは最後にネロに一つだけつぶやいてから即座に離脱。谷を制圧し、敵の最後の都市に攻め入ることが可能となった。

 

 だというのに前線は士気が上がることはなく、静かな夜を迎えたのちに、朝が開けることとなった。この特異点の、ローマ同士の戦いの決着をつけることとなる朝が。

 




 今回は皆様大好きレオニダス王とストーム1の激突。あのどこか気力を無理やりにでも引きずり出してくる熱血さと価値観を必要以上に押し付けすぎない分別や理解。本当、いい王様ですよね。

 スパルタ兵。なんと重装歩兵なのに騎兵相手に走って追いついたとかふざけたエピソードに事欠かない化け物ぶり。本当にこの兵士が数万もいたら一撃粉砕の大鉞になるのでしょうねえ。

今回のストーム1の武装、一つはツインスピア。二つの槍を同時に発射する武器であり、発射時にブーストで前に出ながら打ち出すので扱いにはやや癖があるものの二本同時発射なのであたり幅はそれなりに広く、ある程度動きの速い相手にも対応は可能。

ボルケーンハンマーは皆さん大好きフェンサーの武器の一つ。武器のチャージ段階で爆発を引き起こし、敵の攻撃もなかなかの割合でダメージカット。爆発と一撃の威力の高さを連続で引き起こすいわゆる「ボルケンダンス」はフェンサーに触れた人はやったことがあると思うロマンな戦法。ちなみに味方を巻き込んで被害を出すのもご愛敬。使用の際はいろいろ気を使う場面もあるかも?

 建国の祖ロムルス登場。この人のエピソードでぶっ飛びすぎなのはローマ建国直後のサビニの女の略奪結婚。

 建国直後に上も下も男だらけで薔薇の園が開きそうだが子は残せなくね? すぐに国が消えかねないんじゃないかと周辺に女性の方と婚姻させてくださいと頼むも「誰が新しい勢力に手を貸すか」と拒否されてしまい一手を考案。

 お祭りを開いて周辺の勢力を招いてある程度祭りが盛り上がったあたりで女性を片っ端から誘拐。ついでに女性には「俺の子を産んでくれ!」と猛烈アタックしたとかなんとか。

 それに激おこした周辺勢力はローマに戦争を吹っ掛けるのだが、さらわれた女性たちが「今更来て今度は私たちを未亡人にする気か!」と戦争をやめさせたそうな。結構な期間の戦争だったのかその間にローマの男たちと子供ができていた状況だからこその判断とはいえ、母は強し。でしょうか。

 次回は決戦に物語が動きます。

 それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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愛すべき子供たち

良馬『これが品物になりますね。ロマニさん、冬利さん、咲さんと用意しましたし、メディアさん監修ですから効果はばっちりです』

華奈「ありがとうございます。次攻め込むのは都市。民間人への被害は少ないに限りますそれと・・・」

ネロ「・・・」

良馬『ああ、なるほど了解です。多めに用意しておきますので後で藤丸君にも渡しておきましょう。あのグレランでいいですか?』

華奈「予備弾薬は多めでお願いします」


 「異常・・・ですね」

 

「全くだよ・・・キリがない!」

 

 連合ローマの本拠地。その都市部に入り込んだカルデア、正統ローマの部隊を歓迎したのは、民間人すらも異常なほどの戦意と神祖をあがめながら武器を持ち、あるいは武器になりえるものをもって向かってくるという異常事態。

 

 誰もかれもがひるむことなく襲い掛かり、その勢いに正統ローマの兵士たちは愚か英霊ですら戸惑う程。

 

 「けがはさせないようにしてはいますが・・・」

 

 「まっこと面倒じゃのお! 民兵の面倒くささは本願寺だけで腹いっぱいじゃというに!」

 

 藤丸、信長、軍曹らはロックソルト弾で民兵を狙って無力化し、そこを華奈、ストーム1、アルトリアがリバースシューターの爆風で吹き飛ばす。更にはそこに深山、紫式部の術式で空間を引き延ばす。町を迷路のように仕立て上げて向かって来れないようにする。

 

 藤丸に至ってはフランスで使用したグレネードランチャーにカルデアの技術メンバー謹製の麻酔ガス弾を使ってまでの制圧。緑の煙がいくつも上がり、塩の煙が舞う戦場はけったいなものだろう。

 

 しかし、それでもなお都市に攻め込んでいるせいだろう。抑えども抑えども敵は群がり続け、その士気の高さ、最早呪詛のように神祖をあがめながら襲い掛かり、死んでいく様子には正統ローマ兵も怯え、あるいは神祖に歯向かうことをためらって逃げ出すものすらも出てくる始末。

 

 「あははっ! まるでゾンビね。今回は自己防衛ってことで遠慮はしないわよ!」

 

 「フッ・・・この程度、大したことないわね」

 

 それを抑えるため、止め切れずに肉薄する敵兵は反英霊、生前民間人に手をかけることをためらうことなく出来た二人、ジャンヌオルタ、エリザベートの二人が対処。

 

 統率自体は取れていない攻撃故に対処は出来ているためか行軍自体は順調であり、連合ローマの王宮も視野に入るほどになってきた。

 

 「・・・・・・・・・・・」

 

 この快進撃を一番喜び、はしゃぐはずの人物、ネロはそのことに対しても大きな反応を見せず、むしろ宮殿が見えてくるほどに表情が沈む。

 

 「まあ、自分のルーツ、その始まりの人が敵対しているとなれば揺らぎもしますか」

 

 文字通りローマそのものと言える男の敵対宣言。おそらく今こうして馬を進められているのは神祖が宮殿で待っているからこそというのもあるのだろう。

 

 「ネロ陛下。この戦い、降りたいですか?」

 

 ただまあ、そのまま足を進めるのは駄目だろう。そう判断した華奈はネロに並走し、優しく声をかける。

 

 「華奈・・・そうだな。正直、迷っている。あの大きな懐に、ローマそのものに身をゆだね、この戦いを終わらせるのも悪くはないと・・・私の戦いが間違っているとも・・・

 

 我がローマにとって神そのものに刃を向けたとしても、あの御仁は許されるであろうし、いっそ・・・」

 

 一層うなだれ、そのまま馬に倒れ込みそうなほどに気落ちを見せるネロ。これを間近で見ていた親衛隊も不安の色を見せ、ますます戦意が落ちるばかり。

 

 「そうですねえ。許されるでしょうし、繁栄は確定。神祖様の英知とカリスマ、そしてネロ陛下の代まで押し上げた技術や国の経験を活かし、ほかの皇帝と協力すればそれこそ数千年も続く国などできるでしょうね」

 

 「そうか・・・華奈から見てもそうみえ・・・」

 

 「でも、それをしたら残りのローマの市民の皆様がこんな風になりますが、いいのですか? 私はこうも意思の自由もない、盲目すぎる国民など一緒にいても楽しくないのですが」

 

 「そうよそうよ! ライブでこんな風に声援貰ってもね、死んだ顔で言われたってうれしくないのよ! 心からの笑顔で、一緒に笑ってこそでしょうが、アンタはそんなことも分からないくらい腑抜けたの!?」

 

 「!」

 

 華奈、エリザベートの言葉でハッと顔をあげて、一度押し寄せる敵の波を見る。誰もかれもが神祖を称え、あがめる。その熱はきっとネロが日ごろ聞く称える声よりも激しいもの。しかし、まるで顔に色もなく、喜悦もない。

 

 これが自分の愛したローマに広がる。それだけは嫌だ。笑顔のない、華のないローマは自分の求めるものではないはずだ。しかし、それでもあの神祖に歯向かうのが正しいのか。そう思い返してしまう。

 

 「きっと神祖様は陛下に思いっきりぶつかって欲しと思いますよ。愛するローマをわざわざ攻め立てて、自分から表に立たず回りくどい手段を選んだ。それはきっとネロ陛下の成長や、皇帝としての気概を見たいからだと思います。でないと、あの邂逅でもっとおいでとスカウトしていたでしょうし」

 

 「だいたいね! あのおっさんのローマがどうこう言うけど、今のローマはネロのローマでしょう? 後だしでギャーギャー言われる筋合いはないはず! むしろ倒して越えて見せなさい! 親を越えて歴代最高の万能の天才であるといつも通りのどや顔で言ってやればいいじゃないのよ」

 

 「そうか・・・ああ、そうであるな!」

 

 ロムルスが敵対しているのは事実。だが、同時にそのロムルスから連綿と続くローマを継承し、一人の皇帝の席を手にして自分がいるのも事実。その皇帝としての責を果たして民を愛し、愛されている花の皇帝。その民草を捨ててまで神祖に下る。皇帝を捨てることこそ神祖に、ロムルスに礼を欠くのではないだろうか。

 

 「余は今の皇帝! たとえ神祖であろうとも譲るつもりはない! むしろここで余が神祖を下せばその実力をもってよりローマを栄えさせて見せようぞ! すまぬな、華奈、エリザベート。遅れていた足を速める。もう怯まぬ、進み、神祖だけではない、すべてのローマの歴史を背負った余の強さを堂々とロムルスに見せつけてやろう!!」

 

 目には活気が宿り、声には覇気がこもる。ネロの復活。しかもその檄にはあのロムルスすらも越えて見せると豪語した。いつものネロだ。あの元気さが戻ってきてくれたと兵士たちも元気を取り戻し、進軍速度は早まる。

 

 「これでよし・・・後は・・・」

 

 目に見えてきた王宮。そこで感じる気配でひときわ強いものは二つ。一つはロムルス。もう一つの気配も分かるもの。しかし、だからこそ不気味に感じつつも華奈は深山を振るい、背後を狙う敵兵たちの動きを止めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「来たか。愛しき子よ・・・誘いは不要か?」

 

 「来たぞ神祖ロムルス! 余は貴殿の誘いには乗らぬ! 貴殿から始まり・・・脈々と受け継がれたローマの民草や皇帝たち、臣下たちの想いを余は紡ぎ、背負い、こうしている! その想いをたとえ同じローマと言えど、神祖からの言葉と言えどはいそうですかと無下には出来ぬ!」

 

 ジャンヌオルタや紫式部ら英霊の半数近くとネロの兵士たちに足止めを頼み、ようやくたどり着いた連合ローマの王宮。玉座に鎮座していたが、腰を上げて嬉しそうに声をかけるロムルスに誘いを蹴飛ばし、啖呵を切るネロ。覇気にあふれ、剣を向けて吠える姿は様になり、その言葉をロムルスも一言一句聞き逃すまいと耳を傾ける。

 

 「そも、今のローマは余が統治し、愛するもの。たとえ神祖言えどもそこを侵されるのは出来ぬ! ゆえに現皇帝ネロ・クラウディスが告げる! 健国王ロムルス! 貴殿をここで討伐する!」

 

 「良かろう・・・これもまたローマ()であり、ローマ(勇気)であり愛しき子の示す道。それにローマ()もこれをもって応えよう」

 

 巨大な槍をゆっくりと構え、ネロに戦意を向けるロムルス。それだけで場の全員が思わずこわばるほどの威圧が向けられるも、ひるまずに戦意をたぎらせる。

 

 「うむ! ここでこの戦いを終わらせる! 藤丸、マシュ、クー・フーリン、ジークフリート、沖田よ! ともに戦うぞ!」

 

 その声を皮切りにネロ、藤丸、マシュと英霊たちの連合でロムルスと激突。この戦いを決するカギとなる戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 「やれやれ・・・あれだけの用意をしても切り抜けられる。結局、私が呼んだ英霊たちも使えず、神祖はあのありよう。私がこうして出向かんといけないとは、つくづく使えぬ使い魔どもだ」

 

 「いえいえ、皆凄まじい英傑、傑物ばかりでしたよ。一つ言うとしたらそちらはその英傑たちの心情や器を図り間違えた。それが原因では?」

 

 ネロ達とロムルスが激戦を繰り広げるの場所とは少し離れ、華奈、オルガマリーもまたもう一人玉座のそばにいた男、一度華奈が倒したはずのレフと対峙していた。

 

 冬木で対峙した時と同じ、もしくはそれ以上の怒りや侮蔑の感情を抑えることもなくこちらをにらみつけてくる。それにオルガマリーも一瞬怯むも、しっかりと足に力を入れて耐える。

 

 「レフ・・・やはり、敵なのね・・・私を今まで助けてくれたし、カルデアの発展に貢献してくれた貴方が・・・」

 

 「はっ・・・あんな無価値な組織の発展なんて吐き気を催したとも。しかし、そんなカスに縋りついて、誇りだの親が残したのだとギャアギャアわめいてコンプレックスとプライドで苦しんでいるのに少し甘い餌と声をかければ救いを得たと言わんばかりの姿が滑稽で仕方がなかったよ。それがつぶれ、私の仕掛けに気づくことなくつぶれるさまはそれは最高の見世物だった」

 

 「・・・・・・」

 

 オルガマリーとカルデアで過ごしたことを思い返しているのか、あごに手をやりこちらをじろじろと眺めるレフ。きっとその瞳の奥ではオルガマリーの今までの日々での懊悩を思い出し、そこから一喜一憂し、苦しむさまを思い返しているのだろう。

 

 「そして、結局は無価値なごみのまま死に絶え、情けない最後を見るはずだった・・・しかし、しかししかし!! 何故生き返っている!? なぜこうして肉体をもってレイシフト出来ている!? 私の計画は何もかもがご破算だ! まったくもって度し難い! 屑のくせにしぶといせいで二度も私が出向く羽目になったのだぞ!! 役立たずのくせに!」

 

 「いや、役立たずならレフ。貴方でしょう。あの状況で積みにできず、こうして私達は進めています。そして、またこうしてこの特異点にも王手を打つことが出来ている。正直な話、第二陣地での作戦がもう少し練り込まれていたら、あの谷でレオニダス王に増援があったら、危うい場面を見逃してこうなっている貴方こそ滑稽では?」

 

 「だまれ! あの程度の仕事も出来ぬ使い魔どものせいだ!! カナ、お前もオルガマリーも今度こそ殺してやる。何の慈悲も手も抜かずになぁ!!」

 

 大きく手を振り、殺意を強めていくレフ。以前よりも正体を抑える気がないのか、英霊ですらもひるむかもしれない威圧。並大抵の人間ならそれを見るだけでも足がすくんで動けない。

 

 ただ、その言葉を。確かな殺害宣言を受けてもオルガマリーの表情に、心情に変化はなく、一歩前に出ると頭を下げた。

 

 「ありがとう。レフ。今は敵だけど、そのチャンスを、土台をくれたからこそ私はこうしています。カルデアも、私も日々を助けてくれているから人類史の危機に立ち向かえています。だからこそ、まずは感謝を・・・」

 

 「・・・・・は? なんだそれは。感謝? 感謝だと? この状況がわかっているのかお前」

 

 状況が、目の前の女の言っていることが、行動が理解できないと動揺を見せるレフ。以前のオルガマリーならまた絶望し、泣いていただろう。もしくはなくこともできずに打ちひしがれていた。それが、まるで動じず心からの謝罪を、敵対者の自分に向けられている。訳が分からない。そんな感情がありありと浮かぶ。

 

 「ええ。確かに敵です。でも、ここまで進めたのは紛れもなく貴方の功績も大きい。だからこそ、今までのことに感謝を。そして・・・・・・その上で私は進みます。貴方の屍を越えてでも、カルデアの責務を、私の責務をこなします。ここで宣言しましょう。カルデアの所長として一個人、オルガマリー・アムニスフィアとして人類史を守るために、今ここで貴方を倒します。レフ・ライノール」

 

 「黙れ黙れ黙れエエェエェェッ! ああ、もういい。ここで全てひねりつぶしてくれる!」

 

 オルガマリーの宣言にいら立ちが最高潮になったレフが魔力弾を放つもそれをジャンヌに防がれて、その間にいつの間にやら取り出した聖杯を飲み喰らい、その後レフの肉体に大きな変化が表れていく。

 

 人の身体からボゴボゴと肉が膨らみ、すぐさま形を形成。それは一つの柱。そこに無数の目玉がついてぎょろぎょろとしきりに周りを見回す姿は醜悪極まりなく、感じる魔力もおぞましく、そしてふざけた出力を持っていることを感じさせる。

 

 『・・・』

 

 その魔力の性質の変化、いや本来の姿を見せていくレフを見つつ、ロマニはカルデアの計器からたたき出されるデータを見て悲しげに見つめる。華奈が持ってきたかつてのレフの遺体。そのデータと一致するたびに自分とごく一部だけが知りえる事実。そして思いたくはなかったレフとの敵対の事実に苦い表情を浮かべる。出来れば嘘であってほしかった。と内心思いつつ、そのデータを逐一精査していく。

 

 きっとこれは必要なものとなる。華奈の直感、行動はきっとこれもあることだと想定していたからだろう。だからこそあの時レフの遺体を持ってきてあらゆる情報を集めていた。そして、今は生きたレフ、いや「魔神」のデータが手に入る。それを見逃すほど愚鈍でもないとコンソールを叩く。

 

 「我が名はフラウロス! レフ・ライノール・フラウロス! 72柱の一柱! 貴様らここでまとめて焼却してくれる! 下らぬ塵どもがぁあ!!」

 

 完全に変貌を遂げ、魔眼から空間を爆砕させる攻撃を放つフラロウス。その一撃はショットガンの連射と聖剣の放った斬撃で防がれる。

 

 「塵だのカスだの使えないだの、自分の手落ちも挽回できぬ阿呆の戯言は聞き飽きました。もういいでしょう? さっさと聖杯寄越して消え失せなさい」

 

 「何というか、ここまで見下されるのはむしろ遠慮がなくなるからいいが・・・マスターを馬鹿にされるのは癪だな」

 

 明らかな怒りをはらんで華奈を守るように前に出るアルトリア、ストーム1。片や尊敬できる義理の姉を散々似罵倒され、しかもその相手は自分のしりぬぐいも満足にできていない。そんな輩に言われる筋合いはないと魔力を轟々と走らせる。片や自分のマスター、愉快で、いつも気づかいを忘れない軍人としても尊敬できる主が馬鹿にされているのだ、連射可能なショットガン、スバローショットのリロードを終え、銃口を向けた。

 

 「たかが肉柱ごときが姉上を馬鹿にするな!」

 

 「72柱だろうが百鬼夜行だろうがぶっ飛ばす!」

 

 その直後にフラウロスの放つ攻撃を皮切りにアルトリアとストーム1が駆けだして戦闘を開始。華奈も一歩下がって斬撃を飛ばし、石柱を生成して足場を提供していくなどのサポートを開始、自分の投入を控えての様子見をするつもりらしい。

 

 「マスター! 私がお守りします、ですから、どうぞ指示を!」

 

 「いい啖呵だった。マスター、後はあのけったいなナマモノを倒すだけだろう。72柱とくれば・・・ソロモン王を思い出すが、まあ、それさえもどうにかできる。少なくとも、私は今のマスターたちならできると信じている」

 

 「ええ! 行きましょう。それしか道がないのだもの! 進むって決めたもの! 力を貸して、ジャンヌ、エミヤ!」

 

 力強く頷いた後に二人も戦闘を開始。オルガマリーは即座に視覚共有と治癒の魔術を使用し始め、華奈よりも少し後ろに下がってより安全かつ全体を俯瞰できる位置で戦場を見回す。

 

 「ちときつい目つぶしだ! もらっとけ!」

 

 「強風も一緒にプレゼントです!」

 

 ストーム1の放つ連射式ショットガンと華奈の放つ無数の斬撃。特に巨大特攻、人外特攻を持つストーム1のショットガンの弾丸はフラウロスの攻撃も、その見た目に反した頑強な肉体を容赦なくぶち抜くほどで、華奈の斬撃もその弾丸を撃ち落とす攻撃を防ぐ潰れ役となっているので防ぎきれない。

 

 「・・・! ジャンヌ! その旗を思いっきり地面でしならせながら降りぬきなさい!」

 

 「はい!」

 

 「いい指示ですオルガマリー! やはりあなたは将才がありますね!!」

 

 オルガマリーの指示に従い、旗を思いきり振りかぶった後に地面にたたきつけながら降りぬこうとするジャンヌ。持ち前のパワーで勢いを殺さず、旗を大きくしならせながら前進。そこに魔力放出でアルトリアがかっとんできて旗を前に身体を回転。

 

 旗を足場に再び魔力放出。風王鉄槌を使用し、更にはしならせた旗の戻ろうとする反動とジャンヌの力も合わせた加速はフラウロスもとらえきれずに魔力乗せた刃に身体を大きく切り裂かれる。

 

 「ぐおぁっ!?」

 

 「そこっ!」

 

 斬撃、銃弾。更には魔力を纏わせた刃の連撃にその柱のような肉体は大きく傾きかける。それをさせないと治癒と再生を行おうとするもエミヤの矢が傷口に刺さり、更には爆破。

 

 その間に勢いを殺さずにUターンしてきたアルトリアと華奈の斬撃のサンドイッチを叩き込まれ、反撃も今度はストーム1の放つもう一つの武装、ゴリアス99に阻まれる。

 

 初手でいきなり大ダメージを負い、更には再生にリソースを回そうにも攻撃をしなければ押し込まれ、かといって半端な攻撃では止まらない。どちらかに力を大きく裂く、聖杯の出力があっても尚強烈すぎる攻撃の嵐にさらされるフラウロス。

 

 魔力を貯め、乾坤一擲の一撃を放とうとするもそれよりも華奈たちが動くのが早かった。

 

 「いくわよ! みんな!」

 

 「了解です。オルガマリー様!」

 

 オルガマリーの声を聞いてすぐさまオルガマリーのそばに立つ華奈。そして、二人の壁となるようにジャンヌが前に立ち宝具を解放。

 

 「我が神はここにありて!(リュミノジテ・エテルネッル)

 

 「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 「ダブル・・・カリバー!!!」

 

 「ちと火力不足だが、こいつでどうよ!!」

 

 ショットガン、二振りの聖剣から放たれる光の渦、そして強力な爆発。マスターたちはジャンヌが守ることで周りを気にしない三人の高火力、三方向から放たれる攻撃を対処しきれずにフラウロスは爆破。

 

 「ゴがぁっ!? ま、な・・・なぜだ・・・このちからがあっさりと・・・」

 

 肉柱のあった場所からはレフが人の姿で這いずって出てきており、身体のパーツが一部亡くなり、聖杯をもってしても回復もできていないことを見るだけでわかる。此方の勝利だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 華奈たちがレフを下したときとほぼ同時、もう一つの戦いも終わろうとしていた。神祖ロムルスとネロ達の戦闘。はっきり言うとロムルスの圧倒的能力、経験、規格外さに翻弄され続けていた。

 

 ジークフリートの鎧すらも打ち砕く剛力、クー・フーリンの速度についていく速度、沖田の技量にも経験の引き出しを持ち出して翻弄されない。

 

 英霊故、力の一側面だけの出力とはいえ誰もかれもが名を馳せ、一神話の世界の武力で頂点たるクー・フーリンすらも、龍殺しを馳せたジークフリートも同時に相手取り、かつマシュやネロすらもあしらうその姿はまさに神祖、あのローマを作り上げた益荒男というにふさわしいもの。

 

 「これがローマそのもの! これが神祖! 流石はローマの祖。だがひかぬぞ!!」

 

 そんな圧倒的パワーにもネロはひるまず、むしろ神祖と戦えることが、神祖の動きを知ることが出来るたびに笑みを深め、体の負傷など知らぬとイキイキと立ち向かう。

 

 「・・・」

 

 ロムルスもそれを良しと受け止めるたびに笑みをどこか深め、まるで子の成長を見ることが出来ている親のような、柔らかな空気を出す。

 

 そのせいだろうか、藤丸やマシュ、クー・フーリンたちも交えた戦いであり、傷をいくつも負っていながらこの戦いは終始どこか穏やかな空気が漂い、そしてネロを守るために必然ダメージが重なり吹き飛ばされる英霊たちをロムルスは宝具の樹木で封じることでネロと神祖、二人のぶつかり合いになっていく。

 

 「これで決めて見せる! 余は神祖の開いたローマも、先代たちのローマも背負って先に進む! その道に神祖殿が立ち向かうのなら、それを砕いて見せつけるのだ! ローマは盤石であると! 神祖の作り上げたものを磨き上げ、新しいものを加えて輝いていると!!」

 

 気迫を込めたネロの接近から振るわれる打ち下ろし。それをロムルスは簡単に弾き、突きをネロに振るう。

 

 「ぐっ!? っ・・・のぉ!」

 

 それによって剣は右腕ごと吹き飛ばされ、ネロの左肩を先端が貫く。が、ネロの執念はそれをよしとはせず貫かれた左肩のほうの腕で槍先をつかみ、無理やりに体ごと捻じって右腕の剣でロムルスに一閃。

 

 今までのダメージに加えてこの攻撃がとどめとなったか。今までどんな攻撃にも屈せずに立ち続けたロムルスの膝はついに地面についた。

 

 「見事だ・・・愛しき子よ」

 

 「神祖・・・ロムルス! 貴殿の立ち振る舞い、心、確かに刻みました・・・!」

 

 どこまでも晴れやかな笑顔を見せるロムルス、その最後まで魅せるありかたに勝利の嬉しさと感動、色んな感情がごちゃ混ぜになったせいで涙を流すネロ。

 

 「忘れるなかれ。世界は・・・ローマは永遠であり、あり続けるべきである」

 

 「はい・・・! その言葉、生涯忘れませぬ!」

 

 ぽんぽん。とまるで泣いた子供をあやすようにネロの頭を軽くなでた後にロムルスは藤丸たちに向き直る。

 

 「まだ若いながら大望を望む子たちよ。ローマを忘れるな。ローマ(情熱)こそが人の持つ可能性であり、ローマ()を愛し、望んでこそ道は開ける。常に心にローマ(浪漫)を持ち続けるのだ・・・」

 

 そう言い残し、神祖、ロムルスも退去。神祖の存在がいなくなったことは外にも伝播し、常に響いていた戦闘音が消え、まるで時が止まったかのように静まり返る。

 

 連合ローマの皇帝ロムルスの敗北によってこの戦いは収束となるも、そこでまだカルデアの戦いは終わらず、とどめを刺す前にレフの持つ聖杯がレフの修復に使われるでもなく、新たな英霊を呼び出し始めたからだ。

 

 「連合ローマの皇帝たちの魂を使い・・・こいつでお前らを始末して見せる!」

 

 その聖杯の輝きはひときわ強く、そして、荒々しいまでの輝きをもってレフの成さんとすることのために活性化していた。

 




 ようやくレフとロムルスとの戦闘。いろいろ忙しくなったとはいえここまで長かったです。

 あのやばすぎる英霊は次回にて。華奈も頑張ります。

 少し駆け足気味な後半になりましたが今回はここまで。この駄作に次回もお付き合いくだされば幸いです。肌に合わなかった方々には申し訳ありませんでした。そして善き作品に出会えることを願います。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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将軍の輝き

息抜きのほうが進みすぎていましたが、こちらのほうも進めていきます。いつも読んでくださり、応援ありがとうございます。

今回は短め、少しスランプ? 気味です。


 「やれやれ・・・」

 

 レフによって呼び出された最後の切り札であろう英霊。それを見ているほぼ全員が圧倒されていた。褐色で細身の肌を持つ女性。白いベールやそれ以外には肌を隠すものを多くは纏ってはいない。どこか無機質な雰囲気を醸し出している。獲物であろう三色の色を持つ変わった意匠を凝らした剣は何度も戦をくぐったもの達にはすぐにわかる。あれはやばい。と。

 

 「な・・・え?」

 

 それは藤丸もこの特異点でいくつもの死線をくぐったせいで感じられたようで、マシュやクー・フーリン、沖田たちがいても尚心臓を直接つかまれているような感覚を覚えてしまう。少しでも目の前の女性が睨めば自分の心臓が握りつぶされる。そう感じるほどの圧を感じてしまう。

 

 「は、ははははは・・・・・・はっはははははははははっははぁはあっはははは!!!! 勝ったぞ! これで貴様らも終わりだ! 華奈、オルガ! このサーヴァントこそ破壊の化身! アルテラにはかなう道理もない! なぜならーー」

 

 「あ」

 

 「黙れ」

 

 さすがにこれほどの英霊を呼び出したことで勝利を確信したのか先ほどまでの怒りはどこへやら。饒舌に語りだすレフ。そしてアルテラの動きの意図を感じ取った華奈の小さな声の直後に動き出したアルテラの初動はレフに対して剣を一閃。

 

 「え?」

 

 まるでうるさい羽虫を払うかのようにレフはアルテラに両断されて死亡。結局、英霊たちのことを理解していない故の最後と言えるだろうか。

 

 「レフ・・・・・・」

 

 「アルテラ・・・あるてら・・・破壊の大王・・・え!? まさか、あの歴史の!?」

 

 「シッ! マシュ様!」

 

 レフの二度目の死亡に目をつぶり手をあわせるオルガマリー。そして動揺の中でもアルテラの正体に至る藤丸。それとは別にアルテラの威圧を受けてもどうにかひるまず、むしろその挙動を細かに見ていた華奈は即座に移動。宝具『妖精の宝石箱』から筋力と速度を上げるものをチョイスしつつアルテラに斬りかかりつつ聖杯を刀でひっかけてマシュに投げ渡す。さすがにこれをこの大英雄に持たせるのはまずい。

 

「なっ、華奈さん!?」

 

 「急いでそれを回収して! こんな傑物に持たせたらレフ以上に手に負え・・っ!?」

 

 「私を人は神の懲罰と呼ぶ・・・お前たちも砕いてみせよう」

 

 軽く振るったように見える一撃は華奈を軽々と吹き飛ばし、すぐさま魔力をほとばしらせるアルテラ。その破壊の奔流は華奈がいなくなったことで視界に映るマシュたちに向けられ

 

 「神の懲罰ですか・・・だとすれば信者も救うために戦っているはずのこの子たちに振るうのはとんだお門違いですねえ・・・」

 

 王宮の床、天井から石の槍が降り注ぎアルテラに襲い掛かる。それを防いだかと思えば斬撃の嵐が飛び交いアルテラを後ろに飛びのかせる。

 

 吹き飛ばされた先から傷が開いたか額から血を流しながらも華奈が戦闘態勢を整え、二振りの太刀を構えてアルテラの前に立ちはだかった。

 

 「ネロ陛下、正統ローマの兵士、そして連合ローマの市民たちの避難指示を、神祖がいない今皇帝は再びネロ陛下です。外の英霊の皆様に指示を」

 

 「何を言うか! これほどの危険な奴、皆で」

 

 「余計な被害を出すなと言っているのです!! ここもローマの一つでしょう、この戦いの巻き添えを喰らわせる気ですか?」

 

 あまり声を荒げず、圧を向けない華奈から向けられた、怒声に一瞬たじろぐもネロもすぐさま行動を開始、王宮の外に自身の勝利を伝え、ロムルスが倒れたことを宣言。周りもあれほどのカリスマ、存在感を誇る神祖がいないことに感づいたか、抵抗する声や怒声が嘘のように静かだ。

 

 「マシュ様たちはネロ陛下の護衛を、ストーム、アルトリア様は隙あらばアルテラを不意打ちできるように。沖田様は私の戦いを見ていてください。アルテラの剣筋を見切って、必要な時への切込みに」

 

 『正気ですか船坂さん!? アッティラ・・・あのフンヌの大王相手ですよ!』

 

 「だからこそです・・・私なら縮地での回避や離脱もたやすい。相手の札を見て、私が倒せずとも次につなげます。それに、このメンバーでの連携もまだしっかりできてはいませんからね。ま、それにまだ私が負けるわけじゃないでしょう?」

 

 「・・・マシュ、華奈さんの言うとおりに。多分、それが正しいし、それに・・・・・・信じたい」

 

 「華奈さん、先輩・・・了解しました!」

 

 『・・・了解しましたよ』

 

 良馬にマシュ、藤丸の同意を得て周りの英霊たちも納得したのか少し下がって巻き添えを喰らわないようにしてくれた。

 

 アルトリアとストーム1は華奈の意図への理解と、同時に退く気がないくらいに本人が戦意を高めていることを理解しているのか何も言わない。相棒と義妹の理解の良さに感謝しつつ、秋水と桜花を握る手に力を込める。

 

 「・・・まだ壊れないか。なら」

 

 「そうですね、一勝負行きましょうか!」

 

 ぶつかる剣と刀。轟音を響かせて始まるは破壊の大王と銀狼騎士の一騎打ち。けたたましい刃のぶつかり合い、そしてその余波によって砕ける王宮。

 

 「せい!!」

 

 「・・・」

 

 華奈が左右から大きさの違う、まるで蟹の鋏のような斬撃を二対飛ばすとアルテラは剣をまるで鞭のようにしならせ、伸ばしてそれをあっさりと弾き飛ばす。

 

 「ならっ・・・」

 

 4つの斬撃による時間差攻撃がだめならと今度は自身の速力を活かして高速で動きつつ床に斬撃を叩き込んで足元を崩す。いくら力があろうと武器があろうとも体勢を崩しては満足に振るえないはず。そう考えてアルテラがぐらついた瞬間を狙うがアルテラは剣を上に掲げ、また鞭のようにしなりながら剣を伸ばす。その剣先は天井に当たって軌道を変え、切り伏せようと切り込んでくる華奈の身体を串刺しにせんと襲う。

 

 「くだらん」

 

 「ちっ!」

 

 それに気づいた華奈は即座に身体をひねって回避。その反動を活かして地面を蹴って地面に突き刺さったアルテラの剣の腹に足を乗せて加速。そのままアルテラと再度切り結ばんと接近。

 

 華奈の相手の攻撃を受け流し、逸らす剣術とアルテラの何もかもを容赦なく粉砕する膂力、実戦仕込みの剣術と鞭のしなりと剣の鋭さを両立し立ち回りは激しいものとなり、斬撃の余波としなる剣があちこちに飛び交うせいで下手に入り込めばそれだけでずたずたに引き裂かれそうなほどのもの。

 

 「重いうえに不規則とか本当、つらい相手ですね・・・っ!」

 

 「中々に守りがうまいが、いつまで持つのやらな・・・」

 

 まるで超小型の台風でも発生したかのような戦いに先ほど言っていた華奈の言葉は正しかったのだろう。まだ始まったばかりだというのに王宮は先の二つの戦い以上にボロボロに砕かれていく。こんなものに巻き込まれればローマの兵士たちは愚か英霊たちですらも危険が伴う。

 

 「・・・華奈さん・・・!」

 

 「俺も入りたいが・・・これは確かに危険すぎる・・・」

 

 それを痛いほどに現在進行形で見せられている沖田とジークフリート。二人も剣士だからこそわかる。アルテラの膂力と鞭のように動く剣の威力、それを自由自在に動かして見せる技量。自分たちの持つ剣術とはまるで違う異色のもの。それを受け流して肉薄を続けることが出来ているのは紛れもなく華奈のふざけた剣術、いくつもの乱戦、死地を歩いたからこその経験で抑えている現状。

 

 助けになりたいのであればあの剣筋やクセを見抜いてから。そうでなければ自分たちのせいでいらぬ気を向けてその間にやられるとなりかねない。

 

 「大丈夫ですよ二人とも。神様だのなんだのは知りませんが、姉上は負けません」

 

 「ま、やばいときは俺がどうにかするさ。神様の何らかの加護があれば特攻も上乗せで吹き飛ばす」

 

 まるで気負いも心配も見せないアルトリアとストーム1。武器の用意はしている。けど、まるでそれを使うそぶりもなく戦闘を見据える。

 

 「ふむ・・・なるほど、こればかりは仕方ないですね」

 

 「しぶといな・・・貴様も、国も、人も何もかもを破壊する」

 

 一方で華奈とアルテラの戦闘は変化が見え始める。鞭のように変化し、剣の重さと固さをもって暴れる暴風。これを全ていなすのは無理。出来たとしても斬り返したりの反撃が出来ないと判断し10に1は体で喰らう。それもかすめる程度にはとどめるがアルテラの振るう剣だ。鎧だろうと切り裂かれ、その下布も肌も斬られて鮮血が舞う。

 

 アルテラも目の前で砕けないどころか明らかに膂力で勝り、武装でも勝っているはずの自分に食らいつくどころか反撃をし始めた目の前の女が理解できずに執拗に攻撃を繰り返していくばかり。

 

 しならせた打ち下ろしからの切り上げで剣を吹き飛ばしたのちに背後を突く攻撃は打ち下ろしを受け流され、背後の攻撃はまるで背中に目でもついているような反応速度で避けてそのまま側面に回り込んでいき死角を狙ってくる。

 

 破壊の一撃はまるで空を切るか水でも裂こうかというほどに流され、もし肉を切る感触をとらえたとしてもその次の瞬間にはこちらにも命を刈り取りかねない一撃が飛ぶ。

 

 煩わしい。そんな感情がアルテラにふと走る。目の前の女はなるほどいい武人だ。しかし、そんなものはいくつも砕いてきた。だというのに、まるでこれが通らない。国も、人も、町も、全て壊してきた自分の刃がまだ届かない。

 

 「・・・不思議ですか?」

 

 その感情の変化に差し込まれた一刀。戦闘を始めた時から何度も見た剣筋だというのにアルテラの身体は飛ばされ、肉薄していた両者は距離を取る形に。

 

 「っ・・・・」

 

 「貴女も率いてきた、そしてぶつかってきた類の人間ですがね。もしそれを感じられないほどに破壊を求めるのなら、私は砕けませんよ」

 

 「・・・・・・・その傷で吠えられるのも今のうちだけだ」

 

 強がりだろう。アルテラはそう考えて剣先に魔力をほとばしらせていき、魔力を放出。自分がもらったダメージはかすり傷程度。目の前の女はああは言うが額からの出血で既に視界の一部は不自由なもの。それ以外にも体のあらゆるところから血が流れ、消耗度合いも激しいもの。

 

 破壊できるまで近づいている。それは確かだと三色の光線を放つ。

 

 「どうでしょうか、ねっ!」

 

 華奈はそれをするりと流れるような動きで入り込み、また再接近。アルテラもこれくらいはするかとは考えていたので右からの袈裟懸けを振るうも、華奈の迎撃で繰り出した切り上げで剣を止められ、あまつさえ押し込まれる。

 

 (なぜだ・・・私のほうが力が上)

 

 それを押し返そうと剣に力を入れれば華奈の刀はすぐさま押し返され、そこからアルテラの振るう左からの横薙ぎであっさりと吹き飛ばされる。

 

 (速度も奴の消耗もあって互角・・・手数や多様さも負けてはいない)

 

 斬撃を飛ばしはしないが剣先からの光線に鞭のようにしなる剣での四方八方からの攻撃と剛力の組み合わせ。目の前の剣を受け止めただけではしなって肉を裂き、骨を断ち、命を穿つ。

 

 華奈の移動先を封じ、少しのタメを入れた上空からの回転斬りはその余波だけで新たに華奈に傷をつけ、衝撃でいくつもある傷から血が噴き出す。

 

 「ふっ!」

 

 「ぐぅっ・・・」

 

 だというのに、返される一撃が異様なほどに重く、アルテラの持つ天性の肉体のスキルをもってしてもはじき返すことが叶わない。

 

 (なぜだ・・・)

 

 『・・・めちゃくちゃだ! 華奈のステータスや出力は消耗して万全じゃないのに、なんで万全のアルテラと切り結んで、破壊の大王と一騎打ちできているんだ!! 華奈の剣術の技量だけであの一撃は理解できないよ!』

 

 「・・・・・だろうな。あれは理屈とか技術じゃねえ」

 

 カルデアから機器を通して華奈のバイタルチェックをしているロマニが目の前の光景に叫ぶ。消耗に応じて華奈の英霊としての出力は少しづつではあるが落ちつつある。それだというのに、アルテラにほぼすべてのステータスを上回られて、相手の土俵で戦って尚も反撃を行える。このことにロマニは疑問を浮かべるが、クー・フーリンやジークフリートら英霊、特に戦士たる英霊たちはその光景に見入り始め、マシュも釘付けとなる。

 

 「なんででしょう・・・なんだか、何かこう・・・凄く見ていて、惹かれます・・・? なんで・・・?」

 

 「俺もだよ・・・」

 

 ボロボロになってくはずの華奈を見て、すぐにでも動き出すべき場面のはず。なのに、もう少しだけこの戦いを見ていたい、まるで、大切な何かを見ているような気持をマシュは抱き、同時に疑問を抱く。藤丸はそれがとてもかっこよく映り、血まみれのはずの華奈がとても美しく見えた。

 

 「・・・藤丸様、マシュ様、オルガマリー様。私が考えていた一つの考えを聞いてください」

 

 「・・・?」

 

 まだ戦闘は続き、斬り合うたびに身体に新たな傷を増やしていく華奈。激しい剣戟、轟音。だというのに不思議とよく通る声だ。

 

 「このアルテラのように、本当にすさまじい大王やダ・ヴィンチちゃんのような世界に影響を与えた偉大な人物。この方々に比べたら人類に与えた影響は少ないはずの武将、将軍がなぜ英霊になり、彼らと同様に座に登録されたか、私なりの理由の一つの考えです」

 

 剣を振るうたびに血が噴き出し、鎧のかけらがこぼれる。だが、その一刀、一撃がアルテラの剣をはじき返し、その肉体に傷をつけていく。

 

 「将軍は、あくまでも役職の一つ・・・まあ、今風に言えば公務員の階級ですよ。もっと言えばただの名称・・・特異な才能や、人の世を進めた人たちに比べたら人殺しの才能が秀でた、最も悍ましいもの。ですが、その場所につけるのは一握りの一つまみの人間・・・数多の死地を越え、数多の屍を築き、多大な武功を挙げたものが届く場所」

 

 瓦礫の山が朱に濡れ、自身の血で銀の髪が濡れはじめても振るう剣は止まらず、アルテラに何度も斬りつけられようとも止まらない。

 

 「結果、将軍たちが手にするのは幾千幾万の人の血肉を握りしめてぶつけ合い、敵兵を、土地を、国家を相手取り、殺し、奪い、戦う責務と自分と部下の背後にある多くの民草、そして主、愛するもの達・・・ひいては国家、その文化や文明、歴史そのものを背負うことも珍しくない。それをこなしたことによる絶大な栄誉・・・・・」

 

 華奈の顔の半分は血にまみれ、鎧もボロボロ。足もおぼつかない。そのはずなのに尚も破壊の剣と渡り合い続け、致命傷とはいかずとも大きな傷がアルテラの身体にも目立ち始める。自身はもっと傷ついているはずなのにその一撃の重さは増していくことを知らない。

 

 「だからこそその存在は重く、戦友をはじめとした多くの想いが双肩に宿る一撃は理屈ではない。その輝きは時に使える主すらも越えるほどのものを放ち・・・そして、皆が認める英傑として、世界の絵巻に永く刻まれていく・・・!」

 

 とうとう華奈の剣がアルテラの剣を完全にとらえ、合わせることにも出来てきたのか剣の状態、鞭のような動きにもすべて合わせはじめ、フェイント、魔力を使った衝撃波すらも、間合い全てを理解して追い詰めていく。

 

 「・・・なぜそこまで戦える、なぜ・・・倒れぬのだ・・・何者だ・・・」

 

 「っふふ・・・貴女の下にもいたでしょう・・・? 『将軍』や『隊長』の一人ですよ・・・♪ どうです? 文明や人の守り手となるものの強さは、簡単に壊れないでしょう?」

 

 「・・・・・ッ!?」

 

 にっこりと、いつも見せる柔和な笑みを浮かべる華奈。いつものような破壊、そしてそれを行う自分に対して微笑みかけてすら来た。華奈の言葉や意味に理解が及ばずに不気味なものを抱えたまま魔力を使った衝撃波で華奈を吹き飛ばす。

 

 「訳の分からぬことを・・・そんなもの、いくらでも壊してきた! そしてこれからも・・・・!」

 

 「いえいえ・・・コホッ・・・とりあえず、今はこれで打ち止めを・・・『奥義・因果断裂・四門』・・・」

 

 これ以上の問答は無用だと宝具を開帳しようとするアルテラの動きを完全に見切っていた華奈は戦闘開始時から着けていた敏捷強化の指輪を用いた速度でアルテラの目の前に移動し、そっと切っ先でアルテラの剣を逸らした後に自身の剣技を昇華させた宝具を開帳。代わる代わる振るわれる超高速の4刀の乱舞。その刃がアルテラの肉体を通るたびに魔力のラインを切り、霊核を砕き、スキルを切り離し、概念と肉体両方を切り刻んでいく。

 

 「・・・けほっ・・・ゴホ・・・・打ち止め、ですよぉー・・・・」

 

 その技が終わった後に華奈自身もガタガタに振るえた手からガチャリと刀を取りこぼし、最後に秋水を杖代わりにしてどうにか立ち、アルテラを見つめる。まだやるか・・・? そんな警戒を抱いていたが、すぐに退去の光がアルテラを包む。

 

 「ここまでか・・・・・・将軍というのは、かくも砕きづらいものだったとはな・・・この剣でもまだ壊し切れず・・・か」

 

 「私の知っている武将は誰も彼も一筋縄じゃ行きませんでしたよ・・・ふふ。今度機会があればうちの部隊とも話しますか? 私以上のタフな奴が多いので」

 

 「そうか・・・それは少し興味がある・・・ああ、破壊されないものがある・・・これが嬉しい、とはな・・・」

 

 無機質な印象を抱いた破壊の大王は最後に少女らしい、優しい笑顔を浮かべながら退去。

 

 「聖杯確保・・・イレギュラーの対応完了・・・あー・・・・・・・もう・・・・レフのアクシデントもありましたが・・・これでおしまい・・・あ、アンナ様呼んできてください・・・血が・・・」

 

 それを見届けた後に完全に気が抜けた華奈はふらりと崩れ落ち、頭からクジラの潮吹きのように血を流しながら地面に転がる。衝撃の余波だけで肉を切られたり吹き飛ばされたり無理に切り結んだせいで体のあちこちがボロボロのがたがた。指輪も上等なものを使っていたので割と消費もシャレにならないという落ち。

 

 これを見て勝負に見入っていたカルデアのメンバーもようやく動き始め、ロマニたちもそのバイタルのひどさにまた悲鳴を上げる始末。

 

 外で避難を済ませていた英霊たちやローマの兵士たちがこれを見て更に悲鳴を上げるというなんともまあ締まらない、かつやかましい中でローマ最後の戦闘は幕を閉じた。




アルテラさんと華奈の勝負も終了。ローマも次回で帰還でしょうか。

民族の玉つき事故を起してもいたらしい、本当規格外すぎるアルテラさん。ちなみにこれに近いことをしたのはシャカ・ズールー。偉大な大英帝国の軍相手に槍と弓矢、少しの銃で渡り合って勝利もつかむとかどんだけ強いのやら。そりゃあ某時間泥棒なゲームでも戦闘狂なわけです。

息抜きで始めたもう一つのほうが思った以上に砕けて書いているのでついついあちらが早くなるかと思いますが今後もしっかりと続けていきたいです。

皆様もどうか年末の寒さに負けず、風邪をひかないようお過ごしくだされば幸いです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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さよなら浪漫の国

ようやくローマ編終了。次回からはまたカルデアでの休息と準備になります。あと、今回はひどく短めです。申し訳ありません。


華奈「うぁ”-・・・ぼーっとしてきました・・・久しぶりですねえ・・・ぬるぬるした中でこんな感覚・・・」

アルトリア「姉上!? それ失血でいろいろやばくなってきているだけですから! そんなまどろんだような表情でリラックスしないでください!」

華奈「すいません・・・でも、痛みもまだ麻痺した状態で意外と血で温かく・・・・」

アンナ「なんでこう、変な部分は天然というかなんというか・・・銀嶺隊は絶対華奈が変人だからああも変わり種がそろうのよ」
(治療魔術を行使)

オルガマリー「これが銀嶺の・・・円卓の一人かぁ・・・ってそんなんじゃないわ! 私も手伝うから! なによこれ!? 華奈を中心に血だまりが広がっているんだけど!!」

良馬『あーそりゃあ、結構負傷箇所多いですよ。此方で観測した分全部で30か所切り傷や裂傷があります』

華奈「どおりで、ふぅ・・・ぐっ・・・ん。回復しましたよ。よいしょっと・・・・・さ、帰る用意です」

沖田「ほっ・・・うわぁ・・・ゾンビみたいですよ・・・」


 「・・・まこと見事であったぞ華奈よ! その剣術、人の強さを見せつけた姿! 余も感服である。その褒美をもって直属の護衛部隊にも・・・」

 

 アルテラと華奈の激闘。それを見ていたネロは先ほどまで血の海でなんかリラックスしていたけどようやく回復した華奈を見て称賛と勧誘を開始。きっと彼女にはカルデアの面々を加えたローマの復興と輝かしい未来をいつも通りの自分勝手ぶりを発揮して思い描いているのだろう。

 

 しかしまあ、聖杯を手にし、最後のイレギュラーたるアルテラも倒した。特異点の攻略はすでに終わっており、必然役割を果たしたカルデアのメンバーは退去が始まる。

 

 「嬉しい申し出ですが、ネロ陛下。それはかなわぬようです」

 

 「む? 何故だ。貴殿らほどのものなら・・・な!? 足から透けていくぞ!? どうなっているのだおぬしら!!」

 

 「陛下、私達もまた彼らを倒すために現れた存在、聖杯を手にし、目的を果たした今もうここにはいられないのです」

 

 どうにか残れてもそもそもの特異点たるここが修正されるので意味がなく、きっとネロも歴史の修正力で忘れてしまうだろう。それに下手に居座りすぎてもどんなイレギュラーが残るかもわからない。結局は帰る以外の選択肢はカルデアにはなかった。

 

 「そんな・・・嫌だぞ! これほどの武功、成果をあげたそなたたちに何も与えてはいない! 報酬を与えてやれていないではないか! 寂しいぞ! 論功行賞ではそれぞれの活躍を高らかに余が皆に伝えたかったというのに!!!」

 

 涙を流しながら身振り手振りでどうにかできないかと考えながら動き回るネロ。本当にその奔放さや正直さ、明るさがあったからこそこの特異点はここまで押し込まれても尚持ちこたえ、カルデアと戦えた。そう確信できるものをまた見せていく。

 

 「ならよ。それを物語として紡いでくれればいい。詩人あたりでも捕まえてこんなすげえ奴がいた。それを面白おかしくおとぎ話のようにな」

 

 「いいわね。ローマをさっそうと救った勇者たち! あっはは! 私が勇者とかちゃんちゃらおかしいけど、それも悪くはないか、皮肉が効いてて」

 

 「そうですね。私たちを覚えていてくれて、それでも足りないのならそうすればよろしいかと。神様が遣わした戦士たち。面白いかもですよ? ネロ陛下」

 

 思い思いにわいわいとネロに笑いかけ、茶々を入れたりもする面々。それを見てネロもニパッ。と華のような笑顔を見せて答える。

 

 「・・・そうだな! それがいい! 別れとなれどもこの出会いは消えぬものよ! 紡ぎ、次代につなげていく。それが貴殿らの報酬として与える。それでよいな?」

 

 「ええ、それに、報酬なら私もローマで魔術の研鑽や様々物を見れました。それだけでも・・・」

 

 「・・・・・・・・・・あ”! 銀嶺隊! 全員集合!!!!」

 

 徐々に透けていくカルデアのメンバー。これに対してネロも笑顔で送り出そうとしていく中、何かを思い出したか顔面蒼白になる華奈。先ほどまで失血でやばい具合になりかけていた分そりゃあ死人のようなもの。

 

 号令で即座に集合する銀嶺隊。戦が終わった、特異点も攻略。だというのに、何か忘れていたか? そんな疑問符を皆が浮かべるメンバーに華奈が告げたひと言。

 

 「急いでローマでもらった物資を、主に衣類を回収しますよ! 予備含めて結構な量を置いてきちゃいました!」

 

 これで先ほどまでの空気が完全に吹き飛んでしまった。

 

 「・・・っはははは! おいおいマスターあの変態着せ替え大会をしたのにそいつはきつくねえか?」

 

 「いえ、私はどちらかと言えば見学や観戦・・・ってそうじゃないです! 少し行ってきます!!」

 

 言うが早いか即座に銀嶺隊を一度特異点で呼んだ分を回収。その後は縮地でいなくなり、数十秒後には何やら疲れ切った顔で戻ってくる。

 

 「はひゅー・・・はふぅ・・・な、なんだか・・・先ほどの戦いより疲れた気が・・・・」

 

 「お疲れ様です。姉上・・・なんだか締まらないですねえ」

 

 「ある意味、俺たちらしいがな」

 

 「ふむ・・・そうであるな! 余とも大概な出会いであったしそのほうがいいか! ドタバタ結構。賑やかさこそローマの花よな!」

 

 この間にも既に退去はほぼ終わりかけており、身体もほぼ透けていく。もう少しでこことは完全にお別れ。だというのにしんみりした空気はなく、また明日にでも出会えそうな気楽さ。

 

 「ええ、その賑やかさでまたローマをにぎわせてくださいね?」

 

 「もちろんだ! では、さらばだ勇者たちよ! ローマは、余はこの出会いを忘れはせんぞ!!」

 

 その言葉を最後にカルデアのメンバーは完全にローマから帰還。特異点攻略を完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイシフト用のコフィンが開き、藤丸の視界に飛び込んだのはまだ数回しか見ていないが見慣れつつあるカルデアの天井。そしてコフィンの数々。

 

 「戻れたんだ・・・」

 

 あの血風吹きすさび、ひどい匂いや音の漂う戦場からの生還。最後の大英雄たちとの連戦。それからも帰還できた。嬉しいはずなのだが、それに永く浸っていたせいだろうか、逆にカルデアに戻れたか不安になる。

 

 「お疲れ様です。先輩」

 

 「みんな無事に帰還できている。と・・・ふぅ。これで肩の荷が一つ降りた気分だ」

 

 「おいおい、ドクターの仕事はここからだろう? レイシフト後の体調管理、観察が待っているぞ☆」

 

 そんな自分を出迎えに来てくれるマシュやカルデアの皆。それを見てようやくここに帰ってこれたんだと再確認できた。あの戦いを潜り抜けられたと。

 

 「なんだか・・・ものすごくいろいろ勉強になったわね・・・はぁ・・・しかしまあ、魔術の情報一つだけでも時計塔でやばいことになりそうだわ」

 

 オルガマリーもコフィンから抜け出して背伸びをしつつ、同時にローマで学んでいた魔術、頭に叩き込んでいたものを咀嚼しなおしてみて苦笑いしてしまう。2000年前のあのローマの中枢、最高レベルの魔術の知識。下手すればこれだけでも封印指定になりかねない。まあ、たとえこの戦いが終わった後にそうなるつもりは毛頭ないが。

 

 あの帝国を支えた皇帝たちの力に意地、それに惹かれた人たちの底力。武将が英霊に足りえる理由。学べたものは本当に大きいと何度思い返しても素晴らしいもの。レフには複雑だが、一度死んでからできているこの経験を思うと今更ながらに感謝が新たに出るのだから不思議なものだ。

 

 「そうだろうねえ。実際、こちらか見るだけでも貴重な情報が鈴なり。しかもそれをすべて吸収したんだろう? うまい具合にこちらでもごまかせるようにしておくよ」

 

 「ありがと。ダ・ヴィンチちゃん」

 

 「気にしないで。今回はいろいろと大変だったし、移動距離も何もかもがフランス以上だった。みんなゆっくり休んで心身休めつつ頭の中を整理してほしいな」

 

 「ですね。私もゆっくりしたいですよ。ふわぁー・・・・・」

 

 華奈も銀嶺隊を早速発動させつつも少数のみにして持ち込んできた物資をさっそく搬入。華奈も先ほどの回復で傷も癒え、いつも通りの優しい笑顔を向けている。

 

 「華奈さんもありがとうございました。あの時のハグや言葉で気持ちを切り替えられましたし」

 

 「え? ハグ? 先輩、何していたんですか?」

 

 「うふふ。ちょっと背中を押しただけですよ。それでは私は失礼」

 

 少しふくれっ面のマシュのほほを華奈が優しくなでた後に一番先に退出。他の英霊たちも徐々にマイルームや思い思い場所に移動していく。

 

 「やれやれ。相変わらず無茶をしましたね。華奈」

 

 一人のんびり、だれもついていないまま自分の部屋に移動している華奈のそばに立つフラム。さりげなく腰に手を回し、支えるように側を歩く。

 

 「まあ、っふふ。私も武人だっということで♪」

 

 「いいですよ。華奈が無理するときは勝ち目があるときですし」

 

 「よくご存じで・・・何か飲みます?」

 

 そうこうしているうちについたマイルーム。部屋に入り、ドアをロックした後で華奈もがくりと倒れ、床に転がる。

 

 「いりませんよ。それよりも貴女の治療です。・・・魔力も枯渇。魔力回路も久しぶりの大規模な使用で焼け突きやひびが多数。いきなり3000騎の部隊召喚にテンペストなどの連続使用。そしてこれらを数日間以上も維持・・・まったく」

 

 「でも、必要でしたから・・・診てもらえます?」

 

 「ええ・・・・・・しっかりばっちり治しつつおしおきもします。魔力供給もですから味わってくださいよ?」

 

 少し怒りを含ませた語気のまま華奈を抱きかかえ、ベッドに寝かせた後に上着を脱がしていくフラム。英霊の魔力回路の損傷と回復。カルデアでもトップランクの魔術師かつ華奈をよく理解しているゆえの治療。

 

 なにせ霊基にも少しの損傷と魔術は何を使用しても激痛が走る。よくもまあ涼しい顔をしていられるものだと言えるものだった。フラムも内心心配でたまらなく、同時にその分癒せることもうれしく思う。

 

 実はこっそりとロマニからも許可は取っているしストーム1とアルトリアも華奈の消耗具合を理解しているか近寄る気配もない。他の英霊たちが来ないのもそれに続いているのだろう。

 

 「ありがとう・・・じゃあ、私の身体・・・お願いしますねフラム様」

 

 「もちろん♪ うふふ・・・」

 

 それからは個人的な治療を開始。防音設備もばっちりゆえに外からは何も聞こえず、ゆっくりと時間だけが過ぎていくことに。




今回のローマ編は思った以上にキャラを出しすぎてうまく私も表現しきれていませんでしたね。反省。次回からはうまく制御できるよう気を付けていきます。

そしていよいよ年明けも近づいてまいりました。いろいろ大変なことが起きた年ですが来年は皆様にとってもいい年でありますよう願うばかりです。

ここからしばらくは休息回。また感覚を戻せるよう頑張ります。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。




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華奈 完全オフの日

~図書館~

ジャンヌオルタ「よし・・・出目は6よ!」

紫式部「えっと・・・あ、イベントですね。企画でワールドカップ観戦。3マス進む」

ジャンヌオルタ「よしよしよし! これで私がゴール目前・・・」

紫式部「あ・・・イベント。実は罠だった。ブンブンの刑に処させる。ダイスを振った枚数カードを引いて鹿でした! が出るまで休み」

ジャンヌオルタ「何よそれ!?」

紫式部「ひえっ!? そ、そういわれましても・・・」

ジャンヌ「夜行バスのラインから抜け出せません・・・」

ストーム1「野生のシェフが現れた? ぬぐお。一回休み・・・」

ジャンヌオルタ「っていうかそもそも何なのよこのすごろく! 駒がそもそもなんで達磨と糸ようじとなんかわけのわからない小屋なのよ!! それ以外はカブと鹿にシェフ?」

紫式部「なんでも華奈さん自作のある番組のすごろくだそうで・・・」

信長「いや、というかすごろくを図書館で使用して騒ぐなというに」



~訓練所~

青髪の美女「藤丸君も戦場で見たわよね? 武器ってどうしても消耗するの。うちの大将やアルトリア様、副官の武器だって手入れは必須。戦場では本当に武器の用意は大切。だけど、緊急時で、剣はボロボロ。そんなときどうする?」

藤丸「次の武器を拾うとか・・・予備を使う? ですか?」

青髪の美女「それも正解。だけどね。同じ武器でも威力の質を変更出来て、かつ使いやすい方法があるの!」

マシュ「それはすごい! 一体何ですか!?」

青髪の美女「ふっふふふ・・・それはね。こうするのよ!!」
(抜いた剣を逆さにして思いっきり刃を握る。血がぷしゃー)

青髪の美女「おっほぉおおぉおおん♪ さいこおぉおー!!」

藤丸「うわぁあああぁあぁっ!!? 血が、血があ!!」

マシュ「ななななな! 突然何をするのですか!? あぶ、危ないですよ!」

青髪の美女「何を言うのよ! これはすごく合理的なのよ!? まずハンマーよりも小ぶりかつ柄などで殴るから衝撃の接地面が少ないから威力が集中して貫通力はあるし、振りやすい、刃こぼれした後もこうして使えるから予備の武器にうつるまでの時間もある。

基本的には剣に近しい動きでも使えないわけじゃないから戦闘スタイルの変化もそのままでもいい。そして何より・・・」

マシュ、藤丸「「な、何より・・・・?」」

青髪の美女「こうして仲間を守れつつも痛い思いができる。最高じゃないの! あひぃいい♡」
(思いきり握る)

マシュ、藤丸「「へ、変態だあああ!!!?」」


~食堂~

エミヤ「そういえば、今日の訓練、誰が行っているのだ? 確か銀嶺のメンバーはほぼ休んでいるだろう?」

アルトリア「えーと・・・あー・・・・・ティエシルですね。銀嶺隊内でもかなりのスタイルと美女ですが・・・」

エミヤ「ああ、あの包囲戦を切り抜けた女傑だったか。かなりの乱戦だろうとああも暴れるとはと驚いたよ」

アルトリア「いえ、その・・・・・・弩級のマゾなんですよね。そのせいで乱戦大好き、戦闘好き、頭もキレるのですが、いつもああなのですよ・・・」

エミヤ「・・・・・大丈夫か?」

アルトリア「・・・多分・・・いえ、ギャラハッドの250人将でしたし、仲間思いで腕は確かですから・・・大丈夫。きっと・・・必ず・・・」

エミヤ「視線を合わせて話をしてくれアルトリア・・・」


~ちびノブ詰め所~

通達「今回のローマでの緊急出張手当 一人当たり150万QP 休暇、交代制で三日支給 華奈、銀嶺隊より」

ちびノブたち「「ノブノブーっ!」」
(歓喜で踊り狂う)

ジークフリート「うむ。あの働きはまさしく素晴らしいもの、次回も励んでほしいとマスターも言っていたぞ」

ちびノブたち「「ノーブッ!」」
(敬礼)

ジークフリート「給料の受け取り場所は備品課のところだ。休暇とシフトの提出もそこになる。では。これで」


 ローマに関する報告書を提出し、思い思いの休日を過ごすカルデアのマスターメンバーと英霊たち。

 

 藤丸にオルガマリーも報告書の提出は終わり、華奈も後日タブレットからの報告書と副官たちからの提出も完了。その後は思い思いの時間を過ごし、オルガマリーはアンナ、メディア、クー・フーリンと魔術の勉強と戦闘での応用。マスター、指揮官の自分はどう動くべきかを勉強。藤丸たちはローマでもブーディカたちの軍への救援をして目覚ましい活躍を見せた250人将ティエシルの変態的訓練で二人とも何度も絶叫と動揺を繰り返して精根削りつくされる始末。

 

 『ああ、こういうプレイはまだ早いか。はい。練習用のガントレット』と言われて刃を握るためのガントレットを使っての訓練は剣とガントレットの重さでの筋トレや銃の取り回しん訓練にはなったが、それ以上に目の前で手から血潮を吹き出してすんごくいい笑顔をしていた銀嶺の変人の様子に疲れ果て、ある意味戦場以上に疲れた顔をしていた。

 

 それは隣で歩いているマシュも同じだったようでとりあえずあの変態を束ねている華奈のもとでどう対応すればいいのかを聞きに行くために二人仲良くカルデアの廊下を歩く。

 

 「実際、盾を吹き飛ばすような攻撃を何度もしてきましたが・・・」

 

 「ダメージ受けるたびにすごいイキイキしてもっと殴ってきなさいとか・・・うん。怖かった」

 

 自らダメージを受け止めて悦ぶ人種という大問題な教官だったが割と訓練にはなっているのでどうしたらうまく付き合えるものかと考えているといつの間にやら華奈の部屋の前に到着。早速ドアをノックしてみるが反応はなく、マシュと一緒に藤丸は首をかしげる。

 

 「? どうしたんだろ」

 

 「いつもはドアがノックされる前に開くか、すぐ出るのですが・・・あ、開きましたね」

 

 華奈の反応がないことを疑問に思いつつもドアが開き、中に入る二人だが、ある意味先の訓練が薄まるほどの衝撃を受けてしまう。強烈な女の香りに散乱した衣服に心底幸せそうにベッドの上で眠る咲と華奈。二人ともシーツに隠れているが身を包むのは下着だけでそれも乱れている。

 

 「・・・んぇ・・・藤丸君・・・・? あれ、なんで・・・? ・・・・・まあ、いいか・・・ふたりともー」

 

 そしてフラフラと歩いてきたフラムもシャツで肌を隠すだけで残りは下着だけ、なにやらコーヒーとココアを持っているが自身も意識がはっきりしないのか、部屋に自分たち以外が来てもお構いなしに華奈たちのほうに歩いていく。

 

 「・・・」

 

 「・・・・・・・ハッ! 先輩は見ちゃだめです!」

 

 「ぐわぁあああああっ!!? 目が目がぁあ!!」

 

 しばし呆然としていた二人だが先に再起動したマシュが藤丸の目に見事な目つぶしをお見舞いし、それを喰らった藤丸は目を抑えてのたうち回る。

 

 「んふわにゃ・・・・・・どうしましたかぁー・・・・?」

 

 「あ・・・おはよ・・・姐さん・・・フラム・・・ん?」

 

 「うるさいですねえー・・・・・二人もモーニングティーでも・・・でも・・・?」

 

 さすがにこの声を聞けば華奈に咲も目を覚まし、目をこすりながらぼんやりと周りを見回す。フラムも寝ぼけていたのが少しづつ抜けていき

 

 「「「きゃあああぁあああっ!!!?」」」

 

 そのまままるで生娘のような悲鳴を上げた。華奈の悲鳴という珍しいものに、場所が場所。普段はいろんな英霊が遊びに来たり、漫画を読んだりと一つの詰め所のような場所。そこでの騒ぎともなれば誰も彼もが急いで駆けつけるわけで。

 

 「華奈さん!? ごぶ・・・じ・・・?」

 

 「マスター! どう、し・・・」

 

 「何よこの悲鳴! マスターに狼女! いったい・・・え・・・・」

 

 「なんじゃなんじゃ・・・ワーオ」

 

 「姉上!? いった・・・」

 

 この後もぞろぞろと来てはこの光景に絶句する始末、もしくはほほを真っ赤に染める。銀嶺隊に至っては何割かが涙で顔を濡らす始末だ。そして、さすがにこの状況には華奈も頭に血が上ってしまい。

 

 「出ていきなさああぁあい!!!!」

 

 ストーム1から預かっていた武装をぶっ放し、爆発がカルデア中に響いた。

 

 

 

 

 

 「はぁー・・・こんな目覚まし御免です・・・そして、何で扉が開いたのでしょう・・・?」

 

 その後、更に駆け付けた面々を100tハンマーで打ちのめし、着替えてこの状況に呆れつつ、同時にストーム1、藤丸以外には男性にこれを見られていないことを幸いに想いつつも疑問を浮かべる。ロックはしっかりしていたはずなのだが、なんで開いてしまったのだろう。と。フラムも咲もしっかりロックをかけたし、それについては自身の端末にも記録が入っていることは確認済み。

 

 「・・・あ、メンテナンスがあったみたいだね。責任者は・・・ロマニさん・・・」

 

 「・・・そうですかぁ・・・後で叱りましょうかねえ・・・ふわぁ・・・ぐぅ・・・」

 

 咲が即座に端末を調べるとその責任者はロマニ。フラムから引き継ぎはしたはずだが、仕事の後にロック状態の再セットを忘れたか。それを確認できるやいなやすぐに華奈はそのままベッドにもぐりこんで寝息を立てる。

 

 「あらあら・・・うふふ」

 

 「マスターの普段の警戒心や覇気がまるでないね。オフはこうなの?」

 

 ウィングダイバーのクラスにチェンジし、ヘルメットを外して華奈の様子を見るストーム1。ちなみに紫式部や藤丸たち以外はみな追い出され、ストーム1は女になるのならセーフという華奈のセリフからクラスチェンジして今に至る。

 

 「ええ、華奈は休日、特に連休だとこうなるの。普段の警戒も、覇気もぜーんぶ捨てて狼から一人の女になるの・・・ふふ・・・その時に甘えてくれるのが本当にうれしくて・・・可愛くて・・・♡」

 

 「なるほどねえ・・・確かに」

 

 すぴゅすぴょと寝息を立てて20歳ちょいにしてはやや童顔気味な顔が柔らかく微笑んでいるのを見るとなるほど確かに戦士の顔とは思えない。

 

 そしてそれは欲を抑えてもいないのだろう。おそらくはフラムや咲との行為や、今眠り始めた華奈のお腹がきゅぅーー・・・と鳴って目を覚ます様子を見て本当にこれがあの狼騎士なのかとストーム1は苦笑する。

 

 「とりあえず、着替えてから食道行くか」

 

 

 

 

 

 

 「むぅ・・・おいしい・・・ん・・・んむ・・・しゅる・・・」

 

 「姉上、口にソースがついていますよ」

 

 オルガマリーに事情を説明し、ロマニにはフラムの雷が落ちた後。華奈は空腹を満たすために簡素なシャツとズボンに着替えてからワイバーンのハンバーグをもそもそとほおばり、隣でおかわりを食べていたアルトリアがまるで幼子の世話をするように口を拭う。華奈も抵抗する気がないのかされるがまま。

 

 エミヤなどの英霊やカルデア職員のメンバーは驚くも、銀嶺隊のメンバーは驚かず、いつものことと流す。何でもブリテン時代半ばワーカーホリック状態の華奈は休むときは徹底的に休む。ということを周りから叩きこまれ、少なくとも休みの午前中はこの状態だという。

 

 「ふも・・・あら・・・? フラム様は・・・?」

 

 「まだ説教中だと。しかしまあ、大将がいよいよ結ばれるとは・・・」

 

 そして、フラムや咲の事を聞いて涙を流す銀嶺隊の面々。

 

 「女性同士・・・はまあ、銀嶺隊だからいいとして、どうしてそこまで泣くのだ?」

 

 エミヤの疑問にいつの間にやら用意されていたホワイトボード、というよりも日替わりメニューをかいている食堂内のホワイトボードに書き記していくとこんな感じ。

 

 ・モルガンの件をはじめとして基本結婚や色事でのトラブルが多く、結婚することで火種を増やすかもなことを回避。

 

 ・結婚を迫る男は大体が華奈の勇名や資産、銀嶺隊狙いでありそもそもいい出会いがまるでなかった。

 

 ・あの時代で同性婚は出来なかったし、そもそも華奈の立場が侍女でありながら将軍、そして義理とはいえ王家の姉扱いだったりでどのように扱うかで宮廷内でも意見が割れていた。

 

 ・神秘の減少が始まってからは仕事に殺されると思う程に多忙。色事のトラブル昼ドラ連発で結婚なんてそもそも頭に浮かびもしなかった。

 

 

 「というわけだよ。俺らからすれば待ち望んだ女の幸せ。ここでつかめたことに嬉しいのなんの・・・」

 

 「そ、そうか・・・赤飯でも今夜は炊くか?」

 

 「もう、それは勘弁ですよ。ふふ。気持ちだけで」

 

 男泣きするヤマジにくすくすとほほ笑む華奈。ようやく目が覚めてきたか、コンソメスープを一気に飲み干し、ほう。と息を吐く。

 

 「あー・・・そうです。藤丸様達は今日はどうしたのです?」

 

 「え、あ・・・えっと・・・あのティエシル? さんの操縦方法を聞けないかと・・・フリーダムすぎて」

 

 「訓練にはなりましたし、強いのですが・・・その、セルフダメージを負いながらイキイキ殴りかかってくるのが怖すぎて・・・」

 

 なんとなく同行していた藤丸たちもようやく相談内容を思い出し、あのドMをどうすればいいのかと切り出す。ちなみにストーム1と咲は部屋の片づけと爆発による損傷を修理していた。

 

 「諦めてください。実力はありますし気づかいもできますので慣れろとしか」

 

 「そ、そうですか・・・」

 

 「まあ、あとでおいおいやっておきますから。メンバーの中でまともな奴らを用意できるようしますから・・・ふわぁ・・・」

 

 眠そうにあくびをしつつ、藤丸の頭を撫で、クスリとほほ笑んだ後に食器を片付ける。

 

 「アルトリア様ー図書館行きませんか? 少し読書がしたくて」

 

 「いいですよ? そういえば今図書館でボードゲーム大会しているそうですので遊びに行きませんか?」

 

 「おお、ではダイスも確か用意していましたし、早速用意して遊びに行きましょう」

 

 その後、図書館にいたクー・フーリンとTRPGをした結果なぜか不運が周りにも波及してダイスので目が狂った結果あちこちで奇跡やファンブルの嵐が起こりまくったり、ストーム1の女の時の素顔の美人さに皆が最初ストーム1だと気づかずに困惑したり、沖田とジークフリート、ちびノブたちとご飯をつまんだりと愉快に過ごし、いつも以上に緩ーい華奈の様子に皆がリラックスできていると安心したそうな。

 

 最後にフラムからたんこぶを作ったロマニの写真が送られておしおきがされたことに華奈が苦笑したのも付け加える。




次回は召喚回。それなりに呼びます。あとはようやくいつも通りの長さに戻せるとは思います。

息抜きで始めたはずの華奈が対魔忍ワールドで過ごしている作品が筆が走ってこちらのプロットがいくつか忘れるわ筆が走らないという緊急事態が発生中です。作品の速度が落ちたり今回のように短いかもですが更新は続けるのでどうぞお願いします。

ストーム1のウィングダイバーの時の容姿は地球防衛軍の小説、ラムダチームのウィングダイバー青羽さんと同じものだと思ってくれると嬉しいです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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召喚 次への仕込み

華奈「えっと・・・触媒触媒・・・」

フラム「あ、あったわ。扇子と眼鏡と・・・カードリッジ。でも、今回はこれ以外に呼ぶんでしょ? 私が持ってくる?」

華奈「ん? いえいえ。私の部屋のほうですし、大丈夫ですよ。フラム様は例のもの、用意できています?」

フラム「大丈夫よ。そこはメディアさんや冬利たちとも用意しているから。とりあえず・・・二つとも次では持ち込めるわ」

華奈「良かった・・・まあ、一つは使うかは不明ですけどね」

フラム「でも、用意しておくことに越したことはないわ。メディアさんは少し複雑な顔していたけど」

華奈「あはは。後でお詫びの・・・うーん? 料理教室がいいでしょうか?」

フラム「一応、聞いておく」


 「さてさて、召喚に参りましょう。今回はおそらくですがカルデアの皆様に本当に助かるものとなるでしょうし」

 

 「それなりに付き合い長いけどさあ。今回は急だね? どうしたんだい?」

 

 朝から触媒の準備を終えるや寝ぼけていたロマニをたたき起こしてからの召喚室に移動していた華奈。他のマスター、藤丸、オルガマリーに伝えた時間よりも少し早い移動にロマニも少し不思議な顔をしている。

 

 「いえ。ですからカルデアの皆様。今回は・・・うーん。いわば事務員の登用にもなると思いますよ?」

 

 「事務員?」

 

 「うーん? 確かに武官だとある程度の学もあるんでしょうけど。事務員ねえ・・・」

 

 そこに到着した藤丸とオルガマリー。藤丸は朝が早いせいだろうか、少し目をこすりながらの登場。オルガマリーは戦線で見た荊軻やスパルタクスを思い出してあれが事務員とは逆に仕事が増えないかと頭に? マークを浮かべる始末。

 

 同時にある意味仕方ない。なにせまあ、のん兵衛で史実では突発的な雇われ暗殺者の荊軻にバーサーカーの二人組、そして無駄にメンツの濃い銀嶺隊のメンバー。銀嶺隊は事務員も多いが、正直普段から男も女もパンツレスリングだのなんだのと何気に暴走しがちなフリーダム具合をローマで見てきた。そこから事務員が来ると言われてもピンとこない。ちなみに、その暴走メンバーは今はカルデアには残さず、また700~1000名前後でカルデアの警備と施設管理を手伝ってもらっていたり。

 

 「あはは。うちのメンバーやバーサーカーやらを見た後だと不安ですよね。でも大丈夫です。この人は本当に怪物ですので。さて・・・ではこれを・・・」

 

 自信たっぷりな笑顔で召喚サークルに向かい、聖遺物を置いて戻ってくる華奈。しかし、そこにロマニの声がかかる。

 

 「華奈、まって眼鏡だけじゃ反応がしないよ。ほら、あれあれ」

 

 「え? あらぁ~・・・申し訳ないです。テイク2で」

 

 「「ええ・・・」」

 

 なんだか締まらないまま本当にテイク2の看板を出して眼鏡と扇子を置いて移動する華奈。ロマニも苦笑しつつもコンソールを叩いて準備を始める。

 

 「今回の契約はマリー。君にしてみるといいと華奈が言っていたよ。どうだい? 一つ」

 

 「う・・・うーん・・・分かったわ」

 

 一応、二騎の英霊は何を呼ぶかわかってはいた。だからこそ眼鏡を置いたときに誰と契約してしまうのかの予想がついて少し表情がこわばるもまあいいかと思考を切り替えるオルガマリー。

 

 ロマニもそれを見て最後の仕上げを開始。召喚サークルに多大な魔力の暴風が吹き荒れていき、収まった先に立っていたのは一人の男性。長身でしっかりとした肉体、長い髪を揺らし、赤いコートに紫煙をくゆらせる伊達男。時計塔では知らぬ者のいないロードの名を冠する一人。

 

 「キャスター・・・諸葛孔明・・・呼ばれてきたが・・・まさか貴女がマスターか?」

 

 「ええ。私がマスターになるわ。まさかロードを英霊として呼ぶなんて予想外ですけども」

 

 「華奈め・・・くそっ・・・合理ではあるが意地が悪いぞ・・・」

 

 「そうは言いましても私もバリバリの前線指揮官、藤丸様もそうですから必然大将のそば勤めがいいでしょう?」

 

 ロード・エルメロイⅡ世が孔明の力を借りて英霊として呼ばれ、同じロードのオルガマリー・アムニスフィアの英霊として仕えるという時計塔が聞けばそれだけで大問題待ったなしな絵面が展開された。

 

 「はぁ・・・なら、ここのカルデア内の映像やら諸々もうまくごまかせ、もしくはわたしは孔明でエルメロイとは他人の空似だとな。で、だ。私には何を頼みたい?」

 

 「え、えっと・・・内務よ。私も三国志は正史、演技ともに目を通したわ。その計略に誰もが目を向けるけど、私が驚いたのはその内政能力による軍事費の用意と国力の維持。しかも交通の便が悪すぎる未開の地も多い蜀の地でそれをこなす。本当にすごい才覚。それをぜひカルデアも振るい、皆の仕事のバックアップをしてほしいの」

 

 「私からは待遇ですね。とりあえず、こんなところですがどうです?」

 

 華奈にすすめられて三国志、諸葛孔明を勉強したオルガマリー。その中でだが漢中攻めに呉、南蛮、そして北伐と数十万規模の軍をあれだけ動かし、しかも国外に長期遠征をしても尚国力は衰えず、しかも基盤もしっかり残していたのか孔明亡き後、蜀が姜維による度重なる北伐の失敗でも数十年持ったところを見るとその内政能力の高さがうかがえる。その手腕、必要なものを動かして用意する政務能力をカルデア内部で活かしてほしいというオルガマリーの頼み。

 

 そして華奈からは何やら数枚の書類を持ってきてエルメロイ、もといウェイバーに渡す。それをいぶかしげに読んでいたウェイバーだが、しばらくして表情が変わった。

 

 「古今東西のゲームの最新機種・・・ソフト遊び放題。そして日本製のゲームはほぼ最新作まで網羅だと・・・!」

 

 「私の『家族』や『親友』には日本生まれも多いものでして。よく日本にも足を延ばしがてら購入します。英語訳版と日本語訳版両方も取り揃えていますし、どうですか? 一つ」

 

 「咲もそういえばここにはいたか・・・なるほど。相分かった。アムニスフィアもよく私のことを勉強しているようだし、一つ腕を振るうとしよう」

 

 「ええ、頼むわ。流石にこんな状況で時計塔の権力争いがどうこうなんて言うつもりもないし」

 

 何やらニヒルな笑みを浮かべつつオルガマリーと握手を交わして契約完了をさせる二人。時計塔の最高権力であるはずのロード二人がコンビを組むという知る人が知れば驚きな光景を見せ、次の召喚準備にうつる。

 

 「次は藤丸様。この方はきっとこれからを進む貴方様の大きな支えとなり、盾となるでしょう。すごいですよ? 不死身さならきっと神霊でもこの方を殺し切れないでしょう」

 

 召喚サークルに置いたのは一つのエネルギーカードリッジ。先ほどの眼鏡と扇子以上に訳の分からないものだが、同時にあの英霊がカルデアにいるため、おおよその予想は誰もがつく。

 

 「おんや~? 華奈ちゃんはいいの? せっかくの嵐の合流。合同部隊をできるかもなのに」

 

 「私はそんな度量も器量もないですよ。それに、あの人は育て、導く方ですから」

 

 「それもそっか♪ じゃ、すいっちおーん」

 

 「俺にあの人達が・・か・・・」

 

 藤丸も内心ワクワクしつつ起動し始めた召喚サークルを見つめる。華奈の用意していたものが確かなら来るのはあの英霊。この人たちもまたカルデアでゲームをしている。地球防衛軍をしているのなら知っているメンツ。ローマでも力を貸してくれたあの戦士たち。

 

 「ストーム2、皆からは軍曹と呼ばれていた。人類史の危機を覆すために参戦した次第だ。新しい英霊だが、できる限り君を守ろう」

 

 「ここがカルデアか。中々いいところじゃないか。給料は弾んでくれよな?」

 

 「あ、華奈さん。お疲れ様です」

 

 「どうにか来れましたか。我々のマスターは君だな?」

 

 ストーム2、地球防衛軍では主人公にて後のストーム1を序盤から最後まで多くの戦線を共にし、自身もいくつもの強敵の弱点を見つけ、対処し、その策を世界中に発信し多くの戦いを支えた大ベテラン。そしてそんな隊長。軍曹と共に戦い抜き、同じくストーム2と呼ばれるレンジャー3名。4名で一つの英霊が藤丸の前に立ち、微笑む。

 

 「君がマスターか」

 

 「は、はい」

 

 「・・・いい目をしている。強い、弱いではなく前に進む勇気を見れる。君、藤丸君のことはストーム1からも聞いている。銃も扱うそうだな?」

 

 「! は、はい! でも、まだまだハンドガン、軽いものしか・・・」

 

 「十分だ。あいつも、ストーム1も元は銃を扱う職業じゃなかったのにいきなり武器を持って戦えた。君はそういう意味では練習が出来ている。この施設なら余裕もできる。俺が教えよう。生き残り、未来をつかむために」

 

 「よろしくお願いします!!」

 

 「いい返事だ。こいつも軍人に向いていたりしてな」

 

 「軍人は良いぞー? 年金も出る。仕事中の手当てもいい」

 

 「老後は安心・・・ってこれ、ストーム1にも見習い中にこれで誘いましたっけ」

 

 軍曹は藤丸の肩に手を置き、優しく、でも力強く言葉をかけ、よろしく頼むと契約を交わす。そして始まるメンバーの談笑。まさかのゲームのような会話を交わし、なんだかストーム1に自分がなったような感覚を覚えて不思議だと藤丸も笑い、その様子を楽しそうに見つめる。

 

 (この明るさと仲の良さがあるからこそ最後まで一緒に戦えたんだろうな・・・)

 

 「さて、オルガマリー司令官」

 

 「し、司令官!? い、いえ私はオルガマリー、もしくはマリーと読んでくれたら」

 

 「ではマリーさん。俺は今から藤丸君と一緒に訓練とカルデアの中を理解していく。俺たちは軍人。警備や守るべきところを覚えていきたいのだが・・・」

 

 「えっと・・・あ、はい。許可します。今はシミュレーションルームも開いていますし。見回る際に元という英霊の皆さんの部屋の手当てと改築などを引き受けている人がいます。そこにも声を。華奈、貴女からは?」

 

 「要件は後で伝えます。今後のカルデアでの仕事も。今は自由時間、ついでになれない場所ですし慣れてもらい、休んでもらいましょう」

 

 「了解だ。では、私たちはこれで」

 

 「あ、俺もこれで。失礼しました!」

 

 軍人らしい敬礼をして部屋を出ていく4人とそれを追いかける藤丸。とりあえずこのメンバーはうまくいきそうだと安心し、最後に華奈の召喚する番となる。

 

 「で、華奈。君は誰を呼ぶんだい? どうにもローマのだれかではないようだけど」

 

 「ふむ。私はこれを」

 

 そう言って取り出すのは一冊の古びた本。少なくとも数十年、100近い年数がたっているであろうそれを召喚サークルにセットする。

 

 「本? ふぅむ? ま、いいか。スイッチを入れよう。ロマン」

 

 「ああ。早めに終わらせて、休みたいものね」

 

 「貴方は今から昨日の残務処理よロマニ」

 

 「・・・え?」

 

 ウキウキでコンソールを操作し、この後のスイーツタイムに胸をときめかせるロマニだがそれは所長からの一言であっさりと崩壊。悲しげな眼で見つめるもこれは駄目だとオルガマリーも華奈も視線を横に向けることで最後の望みもたたれる。その中でも仕事は正確にこなし、召喚を開始。サークルに宿る光は収まり、出てきた人物の

 

 「やあーやあ! よい子の皆! アラフィフおじさんの登場だよーん! こんな老骨に何を望むのカナ? 悪だくみならちょっと得意分野だけどネ!」

 

 いきなりすぎるぶっこんだあいさつに華奈以外の全員が圧倒された。

 

 「お久しぶりですモリアーティ様。ええ、今日は一緒に悪だくみをするために呼んだのですよ♪」

 

 「む? この声は・・・おお、華奈ちゃんじゃないか。いやあ。この前のサバフェスはありがとね。マッサージ店の用意にアロハシャツ。今でも気に入って保管しているよ」

 

 「おおーそれは何よりです。マッサージできるうちの隊員も呼べますので後で呼びます?」

 

 「助かるよ。なにせおじさん、ぎっくり腰のランダム爆発が怖くてねーケアは出来る限りしたいから」

 

 圧倒されているメンツをよそに行われる和やかな会話。そして、モリアーティという単語に誰もが驚く。

 

 「いや、まって華奈!? なんでよりによって犯罪界のナポレオンをここに呼んだのさ!? 危険すぎる!」

 

 「いやはや、華奈の暴走や思い付きに離れたつもりだったけど、これは予想外すぎる。どういう風の吹き回し? 華奈」

 

 なにせ華奈の呼んだ英霊はジェームズ・モリアーティ。あの名探偵ホームズの宿敵にしてライバル。彼の死後もその遺産にかかわる事件もあったほどで政府も影をつかめなかった犯罪の大天才。悪役の代名詞たる存在。そんな危険すぎる爆弾をなぜ呼んだのか。誰もが混乱し、オルガマリーに至っては即座に部屋を封鎖して戦闘準備を開始している。

 

 「そうですねえ・・・私が話す内容ならきっと乗ってくれると踏んだからです。孔明様、モリアーティ様。今から少し3人でお話をしませんか? こうも騒がれては話も茶をしばくこともできない」

 

 「ふむ・・・マスター。私もいざとなれば華奈に加勢する。とりあえず、華奈の言葉を信じてみよう」

 

 「おやおや。大層な反応だ。ま、私を知るのなら当然ともいえるか・・・? そして、いいだろう。私も正直予想はつくが、君は時折読めない。契約を結び、先へ進む以上その意図を知りたいからね」

 

 「・・・むぅ・・・・分かったわよ。ただし、アルトリアに紫式部、ストーム1でいざとなれば抑えるように言うわよ?」

 

 オルガマリーのいざという時の制圧策を聞いて華奈はそれでいいとほほ笑んで手を振り、ついでに何か小さな機器をオルガマリーに投げ渡し、華奈、孔明、モリアーティの3名は移動。ドタバタすぎ、かつ特大の爆弾を抱えた召喚を終えたメンバーは即座に厳戒態勢を発令して3名の向かった部屋に注意するように発信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「と、言うわけです・・・このために私も少しばかりそちらの知恵を借りたいのですよ」

 

 「ふむ・・・なるほど。これはまた痛快で私好みでもある。それにまあ、この歳でまさかこれほど楽しい挑戦ができるとは」

 

 「そして私は知恵袋とその経験を活かしたいざという時のストッパーとなるか・・・やれやれ。結局貧乏くじを引かせる気だったのだな?」

 

 コト、パチリと音が響き、紅茶の香りとコーヒーの湯気を漂わせた中でかわす3名の会話。3つのテーブルをはさんで華奈と孔明、モリアーティ。何気ない声色で会話を重ねるがその眼にはただならぬ気迫と戦意が宿り、指先を走らせていく。

 

 「結果的には。しかしその戦力も智謀も必要だったのは事実ですしそれぞれの視点も今後は必要かもしれませんから。これほどの事態。文字通り猫の手も狼の手も借りたいのです。飲んでくれますね?」

 

 「・・・ふ。いいだろう。この犯罪界のナポレオンと呼ばれた私だ。しっかり君の助けとなろう。あ、王手、そしてチェックだ」

 

 「了解した・・・どの道、あのアーサー王も表で暴れるつもり満々。人材も豊富であり、やる気もあふれている。ナマモノに関しては少し気がめいりそうだが・・・まあ、それはうちの弟子にでも押し付け・・・任せよう。さて、私も詰み、チェックだ」

 

 

 「うぅあああー・・・・だめでしたあ・・・とほほ。お二人とも余裕があるようですし」

 

 互いの意思の確認と合意を得られたところで机の上に置いてあったチェスと将棋、囲碁、それぞれをモリアーティと孔明にワンセットずつ置いていたので合計6個の勝負を同時にしつつの会話は終わり、そして勝負も華奈の完敗に終わった。

 

 オルガマリーに渡した通信機でこちらの会話内容も伝え、今頃メディアに念のためにモリアーティがカルデアを混乱させないための英霊用のギアスを用意させているだろうと思いつつボードゲーム格種を片付けていく。

 

 互いの力量を改めてチェックしつつの会話だが二兎を得ることは出来なかったことに少ししょんぼりしていた華奈だが即復活。一番大切なものは手にできたと笑顔で微笑み、飲み終わったカップを片付ける。

 

 「ま、私ではたかが知れていましたいいですか。では、ありがとうございましたお二人とも。食堂でおやつにご飯もあるので食べてくださいね? 私はこれで。書類が少しあるので」

 

 「気を付けてネー」

 

 「ああ、その前に私はゲームの確認をしてからにする」

 

 背伸びを一つしてから部屋を出ていく華奈を見送る二人。ぱたりと部屋が閉じ、それと同時に二人の空気ががらりと変わる。

 

 「で、何割ほどの力を出したのかな?」

 

 「・・・5割。だが、もし一対一でやっていたら6,7割は引き出されていたかもしれないな」

 

 「私もだよ。いやはや、たかが数千の兵力の運用だけに絞り切った前線部隊長だと考えていたらこうだ。末恐ろしい」

 

 それぞれに3つのボードゲームで挑んで、華奈本人は計6つのボードの状況を見極めての、頭の中を混乱させないようにつつこれだけのことをしてのけた。ルールも駒も何もかもが違うというのにそれをこなし、善戦も見せて奇策を用いた時は危ない場面もあった。古い時代の一武将と考えていたモリアーティは改めて考えを改め、同時に手を結ぶべき相手だとほくそ笑む。

 

 孔明は自分がもしカルデアから策を献策した場合前線にもそれを理解し、それに従うのみならずアドリブも聞く人材が欲しかった。それをこなせるであろうと華奈との勝負を見て安心し、同時に監視をしていたモリアーティにもこの発言や何処か読めない言動に警戒すべきだと気を引き締める。

 

 「まあ、これからは互いにカルデアの知恵袋だ。仲良くしていこうじゃないか。ミスター孔明?」

 

 「余計な悪だくみをしなければな。ミスターモリアーティ」

 

 二やついた笑顔で右手を差し出すモリアーティと少し怪訝な顔でその手を握って握手をする孔明。

 

 (人類史焼却はすでになされた。その犯罪の先にある更なる目的、犯罪・・・それをしようとしている首謀者の鼻を明かし、更にはすでに終わったこの人類史焼却という大犯罪すらもちゃぶ台返ししてしまう。野望溢れる人類史上類を見ない大犯罪者の野望を砕く共犯者となるか・・・ククッ。あの子とならそれもよさそうだ。全く。私を誑すとはね。銀郎騎士)

 

 傍から見れば怪しい笑みの中にある本当の喜悦。犯罪者冥利に尽きる共闘宣言に老いた毒蜘蛛が胸を躍らせていることに気づいているのはきっとそれを持ち込んだ銀の狼だけだろう。




苦労人軍曹おじさん、胃痛系ロン毛先生おじさん? 高〇純次おじさん登場。今回はナイスミドルとシルバー、そしてミドル候補の方々召喚回でした。

駆け足な内容で申し訳ありません。

そして報告です。次回からオケアノスに入りますが、少しあるものが欲しくてそれが手に入り次第の更新になると思われます。多分遅くなると思いますのでご了承くださいませ。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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ろくでなしオケアノス
海賊の海へレッツラゴー


大変お待たせしました。頼んでいたものが出来たので投稿再会です。

いよいよオケアノス。これでようやく三分の一が進んでいけたくらいでしょうか? 後半の特異点はどれこれも濃厚ですし。

ここでの書き方が久しぶり過ぎてどうなるか不明ですがどうかお願いします。



 次の特異点を観測できたカルデア。新たな戦力。今回は特に文官や護衛などの派手な前線での槍働きよりもカルデア内部の充実を急いだ分、その成果は大きいものだった。

 

 

 生え抜きの精鋭を失い、武将も大半を消耗。更には建国の祖である皇帝は死去し、次の主は政治経験なんてまるでない皇帝を盛り立てて北伐を5度こなし、時に3都を寝返らせて後の名将姜維を引き抜き、黄巾の乱から戦歴を重ねる魏の名将すらも討ち取って見せた孔明。彼に任せたカルデアのメンバーは人数こそ普段のカルデアを運営するには苦しいものだがやる気もこのしばらくの戦いで磨かれた技量も采配を振るうに足るもの。

 

 

 そして護衛や知識を蓄えてその職員の雑務や簡単であれば現代機器での事務処理もこなせるようになった銀嶺隊隊員。なんやかんや仕事ができるちびノブたち。彼らの仕事での無駄を省き、休暇を与えつつ長く組織を動かし続けるシステムを再構築。

 

 

 今まで若干クマを目に張り付けていたカルデア職員は安心して職務に励んでいくことしばらく、今度は現場で特異点攻略をこなすメンバーたちの出番となった。

 

 

 「よし・・・これでいいはず・・・だよね?」

 

 

 「私は問題ないかと思いますよ先輩」

 

 

 「うっははは! わしを採用するとはいいことじゃ! 任せておけい! 水軍とも何度となく戦っておるからのお!」

 

 

 用意を終えてまず入ってくるは藤丸、マシュ、信長。藤丸のほうはいつものカルデアの制服の裏地のほうにローマで得た布などを用いて作った礼装を上乗せ。防弾、防刃機能に治癒魔術の効果を加えた防御強化。今回が海の上。必要ならば船の上での行動。つまりは狭い場所での戦闘を考えたうえでのもの。

 

 

 そしてそのために参加するメンバーも少数。相棒であり守りに秀でたマシュ。銃での遠距離の制圧とここ数日英霊同士の実力を見るための訓練で剣の腕前も低いわけではない、遠近すべてに対応できることから信長。信長は自身の経験もあって相談役にもなるだろうとのチョイスだ。

 

 

 「やっほー今日も一番乗りだね藤丸君、マシュ、ノブ。うんうん。いいことだよ」

 

 

 「今回はこのチョイスで行くのね。私は悪くないと思うわ。華奈たちが来てから今の時点で分かっている特異点の情報を話して再度少し時間をあげるけど」

 

 

 「やあ藤丸君、マシュ、信長。うんうん。昨日もチェックしたけど健康そうだ。今回は船旅を味わうかもだし気少しの不調もないほうがいいからね」

 

 

来てくれた藤丸たちにダ・ヴィンチちゃん、オルガマリー、ロマニが笑顔で出迎える。ローマでの経験でさらに一皮むけたか、装備の確認など騒がしいがどこか落ち着きを感じることに三人もますます頼もしくなったと嬉しくなる。

 

 

 「ジャンヌオルタも来たがっていたけど、その、船とかが燃えたら大変ですし」

 

 

 「今回は海のある地域と聞きましたし、その、協力者になってくれる人の船を焼いたり、私たちの足になるかもしれないものを壊しかねないので」

 

 

 「実際、燃やせばいいとか脳筋丸出しじゃったの。孫子でも読んでおけと渡しておいたわい。華奈先輩と紫式部の本の中にわかりやすい解説もあったりしたし、今頃リベンジ考えながら読みふけってるんじゃないか?」

 

 

 船が鉄の船となった言ったのは割と近現代。それ以外は木造が多かったのだが今回はおそらく中世の時代。そんな中にあの業火とパワーを持つ、更には沸点の低いジャンヌオルタを持ち込めば下手な騒ぎいらぬ損害を出しかねない。そういう意味でも信長の判断は正しいものと皆が納得。

 

 

 なおジャンヌオルタは信長の言葉の通り紫式部に探してもらった孫子、軍略の本を読みながら汚い字ながら要点を書き綴っていたり。陸戦と海戦、能力の使い方についてヤマジやアンナ、軍曹にも講義を頼んでいる当たり本当に根が真面目なものだ。

 

 

 「お待たせーお、今日は信長とマシュちゃんで行くのね。クー・フーリンはいいの?」

 

 

 「あ、ストーム1さん。はい。ほら、中世とかだとクー・フーリンの伝説は有名ですし、その、身体が痺れた後に海へドボンとかは怖いですし。折を見て呼んだほうがいいのかなと」

 

 

 「あー・・・・・なるほど」

 

 

 そこにまた参加してくるのはペイルウィングの姿で入ってくるストーム1。藤丸たちのメンツを見て最高戦力の一人であろうクー・フーリンの姿が見えないことに小首をかしげていたが理由を聞いて納得する。一つの神話の頂点といっても過言ではない実力者。間違いなく強く、本人も割り切りや戦略戦術を理解する実力人格共に文句なしの戦士。

 

 

 ただ、その鮮烈すぎる伝説はあまりにも有名であり、その弱点、ゲッシュを突かれることもある。そこを配慮、加えて呼ぶとしてもそこはタイミングを見てから。その間の守りはマシュが行い、タイミングの見極めは信長が行う。なるほど悪くない。

 

 

 「イヤッホー! 皆さん! 続けて私も登板! 最強の沖田さんも暴れちゃいますよ~!」

 

 

 「おー人斬りも来るか。ま、確かに狭い街中で切った張ったをしていた弱小サークルの頭なら大丈夫かのお」

 

 

 「実際助かるわ。私じゃあ基本兵器がパワーありすぎるからね」

 

 

 「え~ノッブも来るんですか? 大丈夫です? やたら焼き討ち大好きなノッブに沖田さんたちが使うかもな船を燃やされても困るんですけど~」

 

 

 さらにそこに来るのは沖田。生前の戦歴も市街戦などの経験を多く経験しているので狭所での戦闘にはなれたもの。病弱による吐血と急なダウンもないのでその天才の剣筋を振るえる。のだが早速信長と煽り合いの勃発。喧嘩するほど仲がいいということでストーム1は止めもせず、面白いものを見たとバイザーの下からくすくすと笑う。

 

 

 「わしが焼き討ちするのは必要な時だけですぅ~物の価値も戦術戦略も理解できない狂犬集団に言われる筋合いなんてないわ」

 

 

 「なんですって!? 沖田さんだって隊長として色々考えて戦って来ました~! カルデアでは華奈さんとアルトリアさんが戦術戦略考えるから考えていないだけですよ!」

 

 

 「はいはい。だったら今は我慢しなさい沖田。この喧嘩をヒートアップしてカルデアの備品一つでも壊したら私が切ります」

 

 

 「お、アルトリア。用意できたんだ」

 

 

 「ええ。どうにも胸が大きくなったので服やら諸々の用意で手間取りましたよ」

 

 

 そこに聖剣を構えながら新たな鎧とバトルドレスをを着こなしたアルトリアも参加。アヴァロンでマシュの治療をするために長く手放していた反動での成長した肢体を包むための新たな装い。具体的には胸がたわわに成長したのでそれに合わせた調整がされている。

 

 

 やたらめったら自分と同じ顔のやつはぶっころがす考えのアルトリアだが沖田は同僚。そして姉たちと同じとはいかずとも十二分に豊かな胸。聖剣を手にしていて以降ずっと諦めていた自分の望みが一つかなったこともあって上機嫌。ストーム1もそれを感じ、手間取ったといいつつもほほが緩んでいるのを見逃さず嬉しそうに見つめていた。

 

 

 「ローマに行く時点から成長していたそうですしね。その・・・あの。大丈夫ですか?」

 

 

 「マシュ。ええ、大丈夫です。私の場合は止まっていた成長が少し進んでいただけですし、今は鞘も持っています。気にせずとも大丈夫ですよ。それよりも、今日の体調は大丈夫ですか?」

 

 

 「はい! おかげで元気満点です!」

 

 

 「そっですか。ふふ。これなら頼れますね」

 

 

 聖剣の鞘をしばらく手放していたことによる不調を心配するマシュに優しく頭を撫でながら微笑むアルトリア。マシュの英霊の正体を知っている人は少し懐かしいものを感じ、それ以外のものもそのほほえましい光景に目を細める。

 

 

 「ぅぅう~~・・・フラム様・・・これ・・・見せないといけませんかあ・・・?」

 

 

 「新装備のお披露目ですからね。しっかり見せませんと♪」

 

 

 そうこうしているとカルデアの技術屋フラムともう一人のマスターにして英霊の戦力の一人、華奈の声が響いてくる。

 

 

 「はぁ・・・もう。その代わり、今度リクエスト一つ聞いてもらいますからね? えっと・・・皆さん、お待たせしました」

 

 

 何やらもめているようだがその理由は華奈のその姿を見てすぐに理解した。

 

 

 何せ白いタイツのようなスーツが肌に張り付いて華奈の細くもメリハリのある肢体を嫌でも強調し、胸元を開けたそのデザインは扇情的。

 

 

 カルデアにも戦闘服なる礼装はあるがそれを数段魔改造したとしか言えないもの。ぶっちゃけエロゲの衣装やそういう店のコスチュームといわれても仕方ないほどのものに身を包んだ華奈がほほを赤らめながらもじもじとしていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「マスター・・・そっちの趣味が?」

 

 

 「おぉースケベじゃの。これはそそる」

 

 

 「姉上・・・似合っていますよ」

 

 

 「これは・・・エロい」

 

 

 「先輩!? 華奈さんも、何ですかその衣装!?」

 

 

 さすがにこれにはみんなが凝視し、色々と声を出すせいで華奈はますます縮こまり、膝をついて両手で身体を隠す。

 

 

 普段は明るく笑顔で振る舞っている分その差は大きく、皆が「ちょっとかわいいかも・・・」と内心思っていたり。

 

 

 「うぁ・・・も、もう・・・私の礼装です・・・フラムさんたちがカルデア戦闘服の礼装を私ように魔改造しまして・・・大変有用なスキルばかりなのですが・・・ああ・・・もう! 私はやっぱり無理ですよ! やっぱり上から何かを着けてきます」

 

 

 「どうせそういうと思いまして用意していますよ~ささ、私達からはこれで。ふふ。いいものも見れましたし」

 

 

 「了解だよフラム。ああ、それと華奈の礼装のデータとその写真は私にもくれたまえ。いい酒の肴になるから」

 

 

 その視線に耐えきれずに体を起こしてすぐさま移動する華奈と表情を眺めつつご馳走様と手を合わせてそそくさと去っていくフラム。そのフラムが隠し撮りをしていたことを見抜いて寄越せというダ・ヴィンチちゃん。

 

 

 マスターがそろうことでようやく話が進むかと思いきやむしろ混乱しつつしばらくして鎧に身を包んだ華奈が戻ってきたことでようやく話が進んでいく。

 

 

 

 

 「こほん・・・さて、全員がそろったことで話を進めていくわ。今回の特異点は海。正確には海といくつかの島々がある場所といえばいいでしょうか」

 

 

 「いわゆる大海原を舞台にすることと、時代は1573年。大航海時代の前後あたりと思えばいいかな。エリザベス一世による統治、欧州のパワーバランスが変わっていった瞬間だろう。そのきっかけが海に関わるものが多いことを踏まえても今回の場所はまた歴史のターニングポイントだね」

 

 

 「あの人のやり方はすさまじいの一言ですからねえ・・・経済に関しては苦労続きでしたがフランスやスペインに並ぶレベルにまで国を押し上げていったのですから」

 

 

 ようやく華奈の新礼装による騒ぎが収まり、皆が席に着いたところで今回の特異点の軽い情報。どうにも海で動かねばいけないらしいことやこれまた藤丸たちでも知っている大きな歴史の転換点。当時は二流国だったイギリスがかの女王たちによる努力によって大英帝国となっていく時代。その大きなものが海にある。

 

 

 自身との結婚を餌にして欧州の戦争によるイングランド征服の優先順位を下げ、かつ結婚を利用して大国同士をぶつけさせるようにするなど自身の価値を十分に利用し、さらにはライバル国の財力を削いだうえで自身の国力のプラスになる方法私掠船を用いて国に優秀な海賊を海軍として組み込むことに成功。

 

 

 その先にスペインの艦隊すらも打ち破ることでイギリスの強さを示したり陸のシルクロードに変わる海の航海ルートの開発。そこから産業革命や株式システム、植民地システムの土台に芸術でも大きな作品を生み出す国の基盤を作り上げたことからもこの時代の海が特異点になるのにも納得だろう。

 

 

 「この後にネルソンなどが生まれたり海軍のシステムを作るし、納得じゃの。海軍は百年をかけて成長するもの。なら海賊を軍に組み込んで自身の軍にノウハウを組み込むほうが早いし、わしらもそうしたからのお」

 

 

 「後々の世に関わるものを多く生み出すその土台を生み出す前の海ですか・・・」

 

 

 「当然、凶暴で危険な海賊も多い。だからローマのように協力を取り付けても油断はしないようにしてほしいね。華奈も今回は戦力としては前回ほどに活躍できないだろうし」

 

 

 「私の戦歴は基本陸戦。水軍はジャック将軍やコ―ウェン将軍に任せていたりで基本船は水運に使うくらいですからね」

 

 

 華奈が戦力として活躍できないということに皆が驚くも、華奈の場合は陸での戦いを多くこなしていたためにそこらへんはうまくいかないと先に言っておく。

 

 

 「そっか。華奈さんの場合は基本騎馬戦での遊撃、奇襲をメインにしていましたものね」

 

 

 「でも、いてくれるだけで安心します」

 

 

 「あらあらまあまあ。ふふ。ま、変に邪魔をしないようにしつつ頑張りますよ」

 

 

 それでも頼りにしているという藤丸の声に嬉しそうに返す華奈。その間にコンソールをいじっていたロマニからレイシフトOKとのハンドサインが出たので皆は腰を上げてコフィンに入っていく。

 

 

 「できる限り陸地に飛ばすとはいえ何が起こるかわからない。みんないざという時は令呪で英霊を呼び出して助けてもらったりして生き延びることも考えてほしい」

 

 

 「私とストームは問題なし、アルトリア様もあの鎧があるのなら大丈夫でしょうし、やはり藤丸様達が問題ですね。ロマニ様、ダ・ヴィンチちゃん様。場所はまあまだしも今回は私たちと距離を開けないようにできれば。そうすれば対処もできましょう」

 

 

 「オッケー♪ とはいえ、何が起こるかは本当にわからない。いざとなればカルデアからの援軍もすぐに向けるようにはするし華奈も気負い過ぎずに」

 

 

 「私もいざとなれば行くわ・・・どうか無事で、そして帰ってきてよ皆」

 

 

 カルデアの技術班、そしてオルガマリーたちに見送られながら華奈たちはレイシフト。次の旅路へと踏み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「目が覚めたら大海原でした。小説でもないスタートですねえ・・・いや、最近ではありますか?」

 

 

 「言ってる場合じゃないですよ!? おお・・・落ちています!」

 

 

 「おーちーるー!」

 

 

 『すいません船坂さん藤丸君! マシュ君! 場所がずれてこうなってしまった!』

 

 

 カルデアからの声も二人は聞く余裕もなく、空からの自由落下を味わっている藤丸、マシュ。華奈はこのスカイダイビングを楽しんでいるようだがこのままでは藤丸も危ないもので、華奈も手札を切る。

 

 

 「大丈夫ですよ。おいで。レギア、イネンナ」

 

 

 華奈がそう呼ぶとすぐさま現れるのは二匹のワイバーン。赤と緑の巨大なワイバーンが藤丸たちの空を飛び、優しく背中にマシュ、華奈、藤丸を受け止める。

 

 

 「わ、ワイバーン・・・? にしては大きい・・・」

 

 

 「華奈さんの魔獣部隊のワイバーンですね。レギアとイネンナ。確か偵察と強襲で大変助けたとか。まさかこうして乗れるなんて感激です!」

 

 

 「ふふ。長く人と関わっているので優しい子たちですよ。で、アルトリア様、ストーム。大丈夫ですか?」

 

 

 藤丸とマシュの安全を確保したところで今度は自身らの英霊の方に目を向ける。とはいえさほど心配はなく。また英霊たちも全く問題なかった。

 

 

 「ええ。念のためにとこの鎧を蒸着できるようにしてよかったですよ。カリバーのブーストでは支える手もないですからね」

 

 

 「うははは! 何その鎧欲しい! なに? 出力なんじゃそれ?」

 

 

 「この装備だとあんまり重すぎてもダメだけど・・・武装を一つ持たないようにするだけで大丈夫って沖田、軽いわねえ」

 

 

 「装備も軽いですしね。ありがとうございます。ストーム1さん」

 

 

 なにやらSFチックな全身鎧に身を包んだアルトリアが信長をお姫様抱っこで抱きかかえ、ペイルウィングのストーム1が沖田を抱っこすることで支えている。最も、ストーム1はもともと飛ぶために重量制限などもある武装のために長くは飛べず、華奈の乗っているイネンナの方に沖田と一緒に乗ることとなるが。

 

 

 『みんな無事で何よりだよ! 一応、こちらでも観測してはいるけど、大きな島は周辺にはないみたいなんだ。あたりに足となる商船とか、船はないかな?』

 

 

 「ふーむ。船が見えますが・・・どう見ても海賊船ですねえ・・・一応は交渉してみますが駄目でしたら戦うということでいいですか?」

 

 

 「私も賛成ですね。女性がほとんどの私たち相手にろくなことをするわけもないですし、何でしたら全員海に落としてから船を姉上の船乗りたちで動かすのもいいとは思いますが」

 

 

 「一応、そんな感じで行きますか。ストーム、信長様はレギアとイネンナに乗って援護射撃を。私達が交渉に向かいますので」

 

 

 割とさらりと眼下に見えていた船への接触のプランを練り上げてから船に飛ぶようにレギアたちに指示を飛ばす華奈。

 

 

 こうして華奈たちの特異点の攻略はまた始まったのであった。




オケアノス編開幕。でもさっくり終わりそう。というか多分ロンドンまではさっくり行きそうです。

ノブって原作でも沖田の動きを読んでいたとはいえ背後からの奇襲をあっさり防いでいたりほんとやばいですよね。今川義元を倒す際に自身も馬を降りて前線で戦ったという話もありますし、浅井を滅ぼす際も馬周り衆で奇襲しかけたり、前線の経験も豊富故にできる技でしょうか。


頼んでいた絵が出来たゆえの再開。これを華奈の礼装にしたかったんですよね。


華奈の礼装のスキルは


 魔力譲渡(チャージ式)余剰魔力を常に礼装に貯め込み、必要な際に渡す。ゲームならターンごとに10チャージ。最大50を味方単体にチャージ。


 武装転換(ストーム1専用)ストーム1のクラスを条件を無視してクラスチェンジを行う。ゲームだとストーム1以外だとオーダーチェンジ。


 重層治療 常に治療魔術を礼装に施すことで傷をいやし続けていく。華奈のスーツ元ネタ対魔忍八津紫の忍術を一部再現。ゲームなら三重治療をイメージしてくだされば



 今回書いてみて自分でもこの書き方は難しいと思いましたので次回から対魔忍での書き方を今後やっていこうと思います。どうかご了承を。


 それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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海賊漁り

今回から対魔忍の分の書き方にしてみます。前回の出来の悪さもしかり、早く書けないことへの自分なりの対策です。


 「テニール。進路は大丈夫ですか?」

 

 

 「大丈夫でさ大将。小さい船ながら帆が風をしっかりつかめるし、手入れもしている。中々場数を踏んだ連中の船だったようで」

 

 

 交渉の結果晴れて海での足を手に入れた私達カルデア一行。海賊たちとうちの水運部隊たちで操船してゆっくりと島に移動しています。

 

 

 「ふふふ・・・こいつらもなかなかいい男じゃねーの潮風に煽られてぼろの見えるワイルドな服と筋肉。それとブツの形がまたそそるぜ・・・!」

 

 

 「俺たち騎士団は清潔第一だから服も裁縫していたがなるほど・・・長期航海をする船乗りはこうなるのか・・・ご親切に商船や客船を装うために香水やそれ専用のものもある。これはいいねえ・・・」

 

 

 「ひっ・・・ひぇええ!? い、命は助かったが別のもの失いかねええぞ!? そ、そこの嬢ちゃんらに兄さん助けてくれえぇええ!!」

 

 

 「俺は何時でも構わねえぜ! さあヤるならやろうじゃないの!」

 

 

 後ろでは先ほど物理的交渉ついでに私たちをおもちゃや商品にしようと勇んでいた海賊の皆さんとうちのヤマジをはじめとしたガチムチホモ軍団で交友を深め合うという、陸の軍人と海の男たちによる楽し気なるひと時がそこかしこで繰り広げられ、私の呼び出しもないのに振り切って出てきた女騎士の一部の方はしきりにこの光景をスケッチしたり映像に収めている。

 

 

 まあ、ある意味いつも通りな光景ですので気にせず航海日誌や走り書きのメモなどの情報を見つつゆっくり船旅バカンス中。後ろで雄たけびも叫びも上がりましたので盛り上がっているようです。

 

 

 「ふぅ・・・日差しと潮風が心地よいですね」

 

 

 『いやいやいやいやいやいやいや!? 何いきなりいろいろとえぐい展開になっているの!? 藤丸君のバイタルがいろんな意味で乱高下しているんだけど大丈夫かい!?』

 

 

 「怖い・・・海賊も銀嶺も怖い・・・」

 

 

 「なんじゃ衆道くらい。男も女も抱いて一人前じゃろうが! 藤丸も交じればよかろう。その後にわしが慰めてやる」

 

 

 「何言っているんですか馬鹿ノブ!! 今の時代の男の子には刺激が強いですし、普通にご法度でしょう!」

 

 

 「いや、あっちから襲ってきたんだし自業自得でしょ。マスター一応金や生姜とか見せて客船として頼んできたのにああなっちゃあねえ。しかも一部の海賊たちガチホモいるから割と楽しそうよ?」

 

 

 ストーム1の言う通り私たちはワイバーンから降りて交渉を持ちかけましたがそれを蹴り飛ばして襲ってきたのはあちら。そして、そういうことを考えるやつらには基本的に容赦をしないのが銀嶺と私。むしろすぐさま海水で洗ってからハチたちの餌にしなかっただけ優しいというもの。

 

 

 航海術はテニールたちが盗めそうですし同じ阿保から奪うか、船がつかえなくなった同業者として動くかも考えておきましょう。

 

 

 ちなみに、マシュ様は無意識ながら藤丸様をかばいつつ後ろのハッテンな光景にフリーズ。アルトリア様は「やっぱり銀嶺隊だなあ・・・」といろんなことを思い出しながらうちの部隊と一緒にラム肉のベーコンをほおばっていたりしています。

 

 

 『それはそうだけどさ! うちの観測員の何割か吐いたりしていたりなんだかもうしっちゃかめっちゃかなんだけど!? とりあえず、ある程度制圧が済んだらストップだ! 観測のためにこの阿鼻叫喚を一応は見続けないといけないんだからさあ!』

 

 

 『史記でもいわゆるおホモだちの話はあるし、美少年を侍らせる話はあるが・・・さすがに私でもきついな・・・』

 

 

 やっぱり現代と昔ではここら辺の倫理観は違いますねえ。秀吉太閤殿下なんて男を抱かないことを部下に心配されたりしていたというのに。何でしたら立花宗重とか誾千代ともそれ以外とも子がいないことでソッチ専門といわれていたりもしたのですが。

 

 

 『いやー最初から飛ばしているねえ。あ、このプレイ面白そう。で、華奈。この後はどうするの?』

 

 

 「そうですねえ。船倉にいいものがあったのでそれを利用しつつ情報収集。で、船乗りの中で有名な英霊の方々と協力を取り付けたり生前の方と話をしてみるように動こうかと」

 

 

 「ふむ。姉上の持っている歴史本で予習はしましたが・・・軍関係ならネルソンやペリー、ドレイク。冒険者や海賊そこら辺ならマゼランやコロンブス、バーソロミューあたりでしょうか。ネルソンあたりだと助かりますが」

 

 

 アルトリア様もここに来る前に予習をしてきているので問題なし。ただ、コロンブスとかそこら辺には会いたくないです。いろいろ功罪大きすぎるのと私たちを商品扱いするかもですしねえ。割と諦めずに。後聖杯を奪いに来るでしょうから。

 

 

 「ですね。英国の英霊ならアルトリア様の名前も活きますし、カルデアの名前も役立つかもですから」

 

 

 「そのためには・・・ん。島が見えてきた。もうすぐ到着するから用意を。後、先客たちがわりといて暴れそうだからマスターの部隊も戦闘準備を」

 

 

 「ふう。このくそみそな様子も見ものじゃったが、どれ。略奪の時間じゃのお」

 

 

 「できれば戦いたくないですよ今は・・・あちらが負けた後がどうなるかなんというか明確に見えてしまいましたし」

 

 

 いつの間にやら上空で見張りをしていたストームの報告で上陸できる島を見つけたことやまたひと騒ぎありそうとのことなので戦闘準備に戻る銀嶺隊と信長様、沖田様。敵がどう動くかわからないのでレギアたちを前もって上空に飛ばして上空からの支援攻撃をできるようにして準備よし。

 

 

 さてさて。現地調達のお時間です。話せれば商売と交渉を。出来なければ以下略。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へ、へい・・・案内しやす・・・姉御の・・・フランシス・ドレイクの根城に」

 

 

 「当たりですね」

 

 

 「いやーこれは幸先がいい。それと、海賊たちは力量を読むことは苦手なのでしょうか?」

 

 

 『あ、姐さんたちが魅力的過ぎるんじゃないかなあ・・・あと、良馬と冬利がダウンしちゃったから、私がサポートするね?』

 

 

 この後いわゆる海賊島に上陸した私たちは前もって手にしていた情報と航海日誌やメモ。索敵でそこら辺の海賊たちをぶっ飛ばして物資を強奪。ここらへんは昔取った杵柄なので楽々でしたし、その際に武具や食料、水などを多く手にできたので最初にこちらを襲ってきた海賊たちに船賃として渡しておく。

 

 

 そんなこんなしつつ船の補修資材や金品、海賊や商船問わず求めそうなものを用意していたらまた眼帯と赤いバンダナが特徴的ななかなか面白そうな海賊が部下を引き連れてきたので彼以外を気絶させてお話したところ出てきた名前がまさかのフランシス・ドレイクという大当たり。

 

 

 「ありがとうございますサキ様。しかしまあ、彼に出会えるのは幸先がいい。商人、冒険家、軍人、海賊どの方向から見ても最高レベルの人材です」

 

 

 当時一流国であり海軍国として名を馳せていたスペインの艦隊を破り、世界一周を果たし、更には海賊としての資産も当時のイギリスの国庫の数倍の資金を持っていたりとで兎にも角にも破天荒かつとんでもないことで有名な人物。

 

 

 騎士としての経験もあるのである程度は話や利害関係も通るでしょうし助かります。

 

 

 「後は、どうなるか。ぶつかるのなら容赦なく。それ以外ならこちらも持っている商品で取りき引きが出来ますから」

 

 

 「一応、私たちも確保した船がありますが長距離後悔ともなればやはりプロが欲しいですからね。沖田さんも流石に経験がないですし、ノブも海戦経験はあるけど」

 

 

 「そうじゃのーそれに大海原の潮の引きの強さを知らんしな。華奈先輩のワイバーンやストーム先輩、アルトリア先輩の武装で空はどうにかなるとはいえおんぶや抱っこの状態で戦うのはのー」

 

 

 沖田様や信長様が話しているように私達だけでもやりようはありますがやはりプロがいるほうがいい。それにレギアたちはブレスで対応できますがストームは重量の関係で誰かを背負いながらの飛行は長くできず、アルトリア様も武装がつかえないのがデメリット。そうなるとやっぱり船という足と暴れられる土台が欲しいというもの。

 

 

 「なんだか物騒な会話をしている気がするが・・・そら、つきやしたよ。姉御―!」

 

 

 ある程度移動して森の中を歩いていましたが出口に出た後に海賊が叫ぶ。同時にかすかに感じていた酒の香りと肉の匂い。そして人の匂い。ここに海賊、少なくとも何らかの集団がいるのは確か。強い気配もしますし、これは当たりですかねえ。

 

 

 「客です! なんでも姉御と話をしたいとか!」

 

 

 「なんだい・・・気持ちよく酒かっ喰らっているってのに。海賊かい?」

 

 

 「いえ! 何というか・・・商人と武芸者といえばいいんでしょうかねえ?」

 

 

 「商人? 武芸者?」

 

 

 「足を必要としていてそのための取引をしたいとか!!」

 

 

 海賊の頭領らしき人が応えていますが、声と匂いが・・・女。まあ、私は何度か英霊の集まりで出会っていますが皆さん訝しんでいますよ。

 

 

 「ふぅん・・・ま、いい時間つぶしだし、気にはなるねえ・・・通しな!」

 

 

 「よし。お嬢さんら。大丈夫そうだ。通って下せえ」

 

 

 許可が下りたのでアジトを通り、迎えてくれた人にはさすがに皆さん驚いていました。

 

 

 「あんたらが客かい? このろくでなしどもに何を売りつけに来たんだ? 異国の品? 武器弾薬? 保存食? 水かい?」

 

 

 顔に傷を走らているがそれでもわかるほどの美貌。快活で豪快な雰囲気を持つ女性で豪快に胸元を開けた海賊服に包んだ肢体は女性として羨ましいほどの豊満かつくびれのあるライン。

 

 

 「あ、貴女がフランシス・ドレイクですか?」

 

 

 「? それ以外のだれに見えるってんだこんないい女捕まえてさ」

 

 

 「もう酒が回っているようですね姉御」

 

 

 「あっははは! ボンベは後で樽詰めて大砲な!」

 

 

 星を切り開いて人類の大きなターニングポイントを作り上げた偉大な星の開拓者。フランシス・ドレイクその人だった。

 

 

 「お初目にかかります。フランシス・ドレイク様。私達はカルデアという場所から来たものです。とりあえず、目的は今起きている異常事態の解決のための足としてあなた方を頼りに来ました。報酬としては船の補修のための木材、備品各種、食料品、武器、火薬。医薬品、財宝を用意しました」

 

 

 「話が早いし、羽振りのいい依頼者は嫌いじゃない。が・・・そうだねえ・・・あんた、私から一つ聞いていいかい? 銀髪銀鎧の姉ちゃんよ」

 

 

 面倒くさく理屈を並べるよりも手早く用件を伝えようとしたら私を指さしてきましたドレイク様。同時に眼光を鋭くしていますがはてさて?

 

 

 「ええ。どうぞ私に応えられる範囲であれば」

 

 

 「その狼が彫り込まれた鎧に、4本の変わった剣。そしてその美貌・・・まさかとは思うが、あんた・・・銀狼騎士カナ・フナサカか?」

 

 

 「ふむ・・・ええ。それについてはその通りと答えましょう。しかし、私の事をすぐに受け入れるとは。やはりドレイク様もここの異常さに気づいているのですね?」

 

 

 「やっぱりね・・・あの国の連中の腕自慢や騎士連中ならだれでも知っている英雄だよあんた。そうだねえ・・・とりあえず、かの英雄様と出会えたんだ。少し酌でも付き合いな。その間に色々教えてやるよ」

 

 

 どこからともなくラム酒と肉の山を持ってくるドレイク様。どうにもあちらもこの異常事態を知っている人間と少し話したかったようで。それと、まさか私の名前が生きるとは思いませんでした。日ノ本の英霊に未来の英霊、そしてアルトリア様は武装ではわからず、で私の場合は鎧は珍しいでしょうけどもすぐ見抜かれるとは思いませんでしたから。

 

 

 とりあえず、軽い情報収集も兼ねたちょっとした酒盛りを開始。少しだけ飲んでみましたが、久しぶりのラム酒もいいものですね。

 

 

 

 

 

 

 

 「なるほど。つまり、聖杯の確保と、同時にポセイドンを蹴散らしたと・・・さすが、英傑ですね」

 

 

 「なんてことないさね。気に入らないから吹っ飛ばしただけさ」

 

 

 話を聞いてみてみればまさかのポセイドンがこの特異点に出現したのにもかかわらずドレイク様はそれを気に入らないからとぶっ飛ばして退散させたあげくに聖杯を奪取。その際にこの異常さに気づき、下手に動いても意味がないということで船を海賊島に停泊させて聖杯で出した食品の数々で酒盛りをしていたそうな。

 

 

 さすがに神殺しをしたり地球を覆う兵器を壊したり皇帝都市をぶっ潰したりしたストーム1もこの無鉄砲さと型破り具合には驚いており、ほかのメンバーも唖然としていますよ。

 

 

 ちなみにそれを聞いたうちの部隊はドレイク様の海賊たちと仲良くなり一緒に酒盛り、一部はレスリング♂を始めていました。

 

 

 「で、どうなんじゃ? 一応、木材やら海賊が欲しいもの、船乗りならば必要なものも多いとは思うのじゃが」

 

 

 「ああ、それに天文に関わる連中に加えてかの英雄の軍を乗せてこの変な海を解決するんだろう? 最高にわくわくする話だし、報酬も悪くねえ、そして更なるお宝も狙えるかもと来たもんだ!! 乗らない話はないねえ!」

 

 

 「では、やってくれますか」

 

 

 「もちろんだ! こんな楽しい商売話はない。いいかお前ら! 今からこの連中は私らの船の大事な客だ! あほな子とした奴はその場で撃ち殺すか海に捨てると思いな!! このイカれた海を攻略する頼もしい戦力であり羽振りのいい雇い主と一緒にまた海に出るぞ! いいね!?」

 

 

 「「「「「もちろんですぜ姉御ぉ!!!」」」」」

 

 

 「なら、船を再度点検してから出港準備! たらふく飲み食いしたんだ、さっさと働きなあ!」

 

 

 ドレイク様の号令でてきぱきと働いていく部下の皆さん。切り替えの早さもそうですがその仕事の丁寧さは私たち軍関係から見てみごとの一言。

 

 

 これは大当たり。本当に幸先のいいスタートを切れたと嬉しい限りです。

 

 

 「では、前払いとして船の関連の備品や木材を渡しておきましょう。此方はこちらで医療の心得や狙撃手としてのメンバーがいます。戦力と後方支援として動きますがよろしいですね?」

 

 

 「いいのかい? あんたらは客だよ?」

 

 

 「客だからこそ大事な航海の準備は怠るべきではないですからね。それに、用意の大切さは分かっているつもりです。一応、騎士ですよ? 私」

 

 

 「あっははは! 出資者なんてけち臭かったりうるさい連中ばかりだがこれはいいね! 人手が増える分だけ船の修繕やメンテナンスにも時間をかけられるってもんだ。よっしゃ。積み荷の運搬と、同業者からの襲撃を警戒してくれ。その後に船を出す」

 

 

 その後はてきぱきとみんなで分担作業をしたうえで船の準備を整え、一部のうちの部隊はまたカルデアに戻ってもらって少数で出発。

 

 

 道中、幽霊船だか海賊船が襲って来ましたがストームのサンダーボウであっさり撃退。海賊からも姐さんといわれて面倒くさそうにしているストームが新鮮で思わずクスリと来ちゃいました。




大航海時代。調べると軍も民間も海賊も大概な世界。気軽に調べるとえぐい話多めなので注意ですねこれ。


海の男は女だけじゃなくて男にも羊さんにも飢えているんだよね。しょうがないね。


史実でぶっ飛んでいるドレイク船長。イギリスを一級の国に押し上げた一人ですし本当に怪物としか言えません。



それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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関係者が魔女

~甲板~

クラーク「えーと・・・この桶に海水を汲んで・・・」

華奈「私のこの礼装を使えば・・・はい。真水の完成♪」

ヤマジ「それならこの熱々に焼けた金属を入れて。よし。いい温度」

アルトリア「これを先ほど用意した即席風呂桶に入れれば風呂が出来ますね。マシュとドレイクらは汗と潮風で少し気持ち悪いでしょうし、アンナが相手している間に用意しましょう」


フォウ「ウォェー・・・・」

マシュ「ふぉ、フォウさんいつの間に!? それと、どうしました? 船酔いですか?」

フォウ「フォォオォウ・・・・(不意打ちであの光景を見せられたのがきつい・・・本当、この部隊はみんないいやつらだけど時折これがなあ・・・女同士はまだしも野郎同士はこたえる・・・)」

藤丸「なんか違うって首振っているけど・・・?」


華奈「あ。そうですそうです。教授~」

モリアーティ『ん? どうしたのかね? それと気軽にモリアーティでもいいんだよ? もしくはパパ』

華奈「ふーむ。じゃあ、おじさま。でいいですか?」

モリアーティ『まさかの第三の選択! まあ、それもいいか。足長おじさんポジも悪くないしネ。で、どうしたのかね?』

華奈「ええ。実は・・・ごにょごにょ・・・」

モリアーティ『ふむん・・・了解した。じゃ、こう・・・』

華奈「それでお願いします。あ、疲れるでしょうし、チョコチップのカップケーキと目薬。カルデアの備品の冷蔵庫と側の薬棚にあるのでどうぞ」

モリアーティ『いやー至れり尽くせり。あ、紅茶はあるかね?』

ロマニ『後ろのサーバーに所長とかの紅茶派のためにパックならあるよ。それと、華奈。僕らの分もあるのかい?』

華奈「ありますよー。うちのメンバーに頼めば持ってくるよう頼んでいますのでどうぞ」

ダ・ヴィンチちゃん「用意のいいことだねえ。ま、当分補給とカフェインはありがたい。私も楽しませてもらうよ」

沖田「何を話しているのでしょうか?」

信長「(・・・ま、益にすぐ転ぶ海賊相手だし、策を用意している。いや。若しくは・・・いいかの。わしが考える必要もあるまい)さあの。わしも風呂入りたいし、相談してくるか」


 「イヤッホー!! いいねいいねえ! 私の船が豆粒みたいだ! これだけでも雇われた甲斐があってもんだ」

 

 

 「ふふ。しっかり捕まってよ? レギア。急上昇からの急降下」

 

 

 空ではアンナ様と私の計らいでドレイク様を空中遊覧を満喫してもらいながら私たちは私達でお風呂の用意。遠くからでも聞こえてくるほどにエンジョイしてくれるのが嬉しいですし、こちらからのもてなし、お礼を満喫してもらえるように食事も用意しています。

 

 

 「いい―匂いだ・・・」

 

 

 「ああ・・・たまんねえ・・・」

 

 

 「ふふふ。最高の男の料理ってやつを見せてやる」

 

 

で、その間にドレイク様に聖杯で出してもらっていた食材を使った料理。ついでにちょっとしたサービスをするためにうちの魔術部隊のメンバーで少しのサプライズをしています。

 

 

 『相変わらず、サービス精神豊富だねえ』

 

 

 「海賊とはいえ商売で信用をしてもらえましたからね。ならば答えるのが雇用主の筋です。まあ、何かすればその場で対処もしますよ?」

 

 

 「あ、だ、大丈夫でさ。流石に雇い主、しかも銀嶺隊の皆さんには敬意を払いやす!」

 

 

 私の声にいち早く反応したボンベさん。私の戦い方を知っているようですし、まあ安心ですか。

 

 

 敵を魔獣の餌にしたり文字通り全滅したりで暴れていましたし。何ならハチたちを呼んですぐに食べてもいいわけで。テニールたちも操船技術を覚えていっているようですし。

 

 

 「あ、ドレイクさんたちが戻ってきましたよ」

 

 

 調理も大詰めに差し掛かっているとドレイク様たちがレギアと一緒に甲板に着地。子供の様に目をキラキラさせていますしほほも赤い。相当に楽しかったようですね。

 

 

 「おおードレイク。どうじゃった? 空の散歩は」

 

 

 「最高に決まっているじゃないか! 陸に海、空までも自由に楽しめる経験なんてそうはないよ! 鳥は何時もこれを味わっているってんなら羨ましいものだ」

 

 

 「空での移動なんて本当に最近の話ですしね。ささ、華奈さんが食事を作っていますし、どうですか?」

 

 

 「出来ていますよーさ、皆さんどうぞ」

 

 

 沖田様の声に応えて此方から用意したのは分厚い肉のステーキとサラダ。潮汁。それと、冷えたエールやラム酒。海賊ですので脂マシマシ何ですが、サラダはレモンやライムでのドレッシングを用意しているので口の中を切り替えたりで相当楽しく食べられると思うんですがね。

 

 

 「うっひょー! こんなにうまい肉初めて食べたぜ!!」

 

 

 「このサラダで肉の脂が一度口の中からなくなってリセットできる分いくらでも食える!」

 

 

 「魚の汁もこんなにうまいものなのか? 今までは干し魚くらいだったからなあ・・・」

 

 

 「それよりもこの酒だ! まるで雪みてえに冷たいがうまい! 染みる! 今までの酒がまずく思えるぜ」

 

 

 ドレイクさんも交じって皆さん豪快に食べまくる。うんうん。よかったよかった。舌にあってくれたようです。

 

 

 「っかぁ~! しかしまあ、私らよりも1000以上も昔の騎士団様らはこんなにおいしいものを食べていたのかい? 羨ましいものだよ」

 

 

 「いやあ・・・うーん・・・どうでしょうね?」

 

 

 船乗りの場合は長期航海だと後半腐った水とかびたパン。とか本当にすさまじい食事ですからねえ。でも、さっき聖杯で出した食材で飲み食いした後でもこの感想が出るあたり、やはり水準は高いのでしょうか。

 

 

 『銀嶺の食事レベルは本当に高いからね。中世になっても銀嶺隊の領地と一部で残っていた料理は最高だったと言われているし、今も残っているものもあるくらいだから』

 

 

 「やっぱりかい。イギリスも飯はうまいものが多いが、このレベルは早々ねえ。ちょっとしたアレンジのはずなのに・・・酒おかわり!」

 

 

 「ほうほう。私の地域、いまもそんなのなんですねえ。あ、はーい。どうぞどうぞ」

 

 

 産業革命以前はイギリスもおいしいご飯多かったですものね。この後も皆さんが満腹になるまで食事をしてもらいました。その後には私以外の女性陣にお風呂に入ってもらいましたが、海賊の皆さんは覗きをしようとしていたので成敗ついでにおしおきをヤマジたちに頼んでおきました。

 

 

 全く、下手すれば身体を穴だらけにされたり魚の餌になりかねない強い人だらけですのに命知らずですねえ。

 

 

 

 

 

 

 「さて。上陸だが、藤丸。一つ賭けをしないか?」

 

 

 「賭け?」

 

 

 この後、小さな島に上陸した私達ですが、早速ドレイク様と藤丸様が何やら話をしています。

 

 

 「そうさ。この島にお宝があるかどうかって賭けだ。私はあるほうに賭けるよ!」

 

 

 「うーん・・・じゃあ、俺もかなあ。なんだか、船長がここに来たのもあってありそうだし」

 

 

 その間私たちは軽微と索敵、調査を続けています。私達以外の海賊がいたりして変な騒ぎになるのもいただけませんし。しかしまあ、賭けとは面白いことをしますねえ。藤丸様もあるほうに賭けるらしいので勝負になりそうもないですが。

 

 

 「ハハハ! まいったね。これじゃあ賭けにならないよ。私の負けかねえ? 何か欲しいものはあるかい?」

 

 

 「んー? いえ。特にはないですよ。こうして一緒に旅ができるだけありがたいですし。俺みたいな若造も馬鹿にしてないですから」

 

 

 「・・・ッカー! 参ったねえ。ただでいいとか滅茶苦茶高くつくじゃないか! こりゃあ大損だ! しくじったよ」

 

 

 藤丸様のある意味一番きつい返事に大笑いのドレイク様と首をかしげるマシュ様と藤丸様。沖田様も首をかしげていますし、まあ、わからないのでしょうねえ。

 

 

 「え? あの・・・何でそれが高くつくんですか?」

 

 

 「そりゃあね。私は海賊でもあるが商人だ。なら、顧客、取引をした相手を満足させるものを用意しなきゃ三流もいい所さね。だからアタシはこの賭けの商品。品物を用意しないといけない。大金か、香辛料の山か、それとも護衛としての更なる働きか。少なくてもあんたらが満足できるものを見出して渡さないといけない。な? 高くつくだろう?」

 

 

 「相手の欲しいものを用意していくのは商人もですが武官もそうですね。国の目的や益に沿うものを用意しないといけない。それをミスすれば信を失い、続ければ首も飛びかねない。それが提示されないのはきついですよ~」

 

 

 「あいまいなことは取引でもなんでも面倒じゃからのお。しっかりと商品と目標は定めておく方がいろいろやりやすいってものじゃ。そこら辺、はぐらかしたり騙し合いの政治は本当に疲れたからのお・・・」

 

 

 「そうそう。あいまいにこんなものが―ってものすらないのにほしがるのはきついからねえ。そこの黒髪の嬢ちゃんもそこらへんは知っているだろうと思って賭けには誘わなかったが正解だったね」

 

 

 からからと笑っていますがドレイク様は目をしきりに動かしたりしながら宝を探していますし、賭けの商品を用意しようとしています。本当に律儀ですねえ。こういう大将だからこそ海賊の皆さんも変にこちらを侮ることはしないのでしょうけど。

 

 

 上陸準備と警備で残るメンバーとそうでないものを分け終わり、いざ出発という時に気配を感じ、私とストームで速攻で射撃。

 

 

 「・・・獣だね。でも、かなり頑丈だし、やっぱり気を付けるに越したことはないか」

 

 

 「ですね。後、何やら変なものを感じますし、気を付けましょう」

 

 

 藤丸様のそばにストームを付けて私とアルトリア様で先導。ゆっくりと森へと入っていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「む・・・何か見えるな・・・石板? あたりは何もなし・・・よし」

 

 

 「ふぅむ? 何でしょうかね」

 

 

 森を歩くことしばらく、何やら人工物と思われるものを発見したのでストームの目で見てもらい、レーダーにも異常なし。私の鼻にも危険なにおいはしなかったのでゆっくりと近づく。

 

 

 するとどうにも碑。しかも墓に近いような物だった。

 

 

 「なんだいこりゃ? 文字が読めないねえ」

 

 

 「うーん・・・ルーンですかね? 私も古文は学んでいましたがそこまでですし・・・アンナ様を呼びましょうかねえ」

 

 

 『あー俺が読む。こりゃあ墓だな。偉大なる血斧ここに眠る ・・・・だってよ。血斧王ってえと』

 

 

 「あ。あの方ですかー」

 

 

 思わぬ人物のお墓があったことと知り合いだったことに思わずポンと手を打っていると、遠くから爆走する足音。こりゃあ来ましたかね。

 

 

 『サーヴァント反応! っ・・・凄い速さだ! もう目視できる距離じゃないか?』

 

 

 ロマニ様の言う通り、すでに確認できる距離に頭に角を生やした大男。その巌のような身体に巨大な戦斧。バーサーカーのクラスで出ているのかどこか狂った気配を持つ戦士が目の前に迫ってきました。

 

 

 「ワガッ、ワガナハッ、エイリーク! イダイナルエイリーク!!」

 

 

 「おやおや。あの偉大なヴァイキングの王様かい? 今日はアーサー王に銀嶺隊と歴史の偉人たちとどれほど会うのやら」

 

 

 「先輩、下がってください! 戦闘準備!」

 

 

 銃を構えるドレイク様と盾を持って藤丸様とドレイク様をかばうように前に出るマシュ。

 

 

 このまま一戦やり合うのもいいですが、確かエイリーク様は奥様があれでしたし・・・やりますかねえ。多分すぐに終わるでしょうから。

 

 

 「私たちがやりますよ。ストーム、アルトリア様。2枚大盾と突進で」

 

 

 「了解。それなら行くぜ!」

 

 

 「エイリーク・・・あーなるほど。なら早いですね!」

 

 

 ストーム1に礼装のクラスチェンジを条件無視でできるものを発動してフェンサーにクラスチェンジ。スラスターとダブルシールド装備にして突貫。アルトリア様も自身の専用鎧を発現させてそれに飛び乗りながら突撃。

 

 

 二つの壁でエイリーク様の動きを封じた一瞬のうちに私の刀で狂化の付与をすっぱり切断。

 

 

 「さて・・・グンヒルド様。聞こえますか?」

 

 

 「む・・・私はいった・・・・華奈どの? これは久しぶりです・・・? どうしたので?」

 

 

 「貴方様がバーサーカークラスで呼ばれて先ほど交戦したのですよ。それと、華奈様久しぶりですね」

 

 

 それからはなんやかんや紳士な部分のあるエイリーク様も正気に戻り、降り注ぐグンヒルド様の声。流石トンデモ魔女。

 

 

 「ええ。グンヒルド様の言う通りなのですよエイリーク様。流石に妹の友達。その旦那様を切るのはあまりしたくないので今回はこうしました。で、なんですが私たちは今カクカクしかじかで」

 

 

 「私もいつも妻がお世話になっています。ああ。なるほど・・・でしたらここの場所に・・・ん?」

 

 

 事情を離せば妻の友人の姉ということですぐに了承。簡素な島の地図に情報を締めて渡してくれました。けど、その際に一瞬身体が光り、収まりました。

 

 

 これに一瞬皆が驚きましたが、これは英霊を退去させる、転移させる際の光・・・まさか?

 

 

 

 「エイリーク様を呼び出した・・・おそらくはその手のもののでしょうね。華奈様の因果断裂で緩んでいたところを私の魔術でマスター権を今切りましたので問題はないです」

 

 

 「つまりは、血斧王を遊撃として使っていた誰かがいると・・・了解です。これは早めに動く方がいいですね。ついでにですが、魔力も切っておいて退去させますか? また敵対するのも嫌ですし」

 

 

 ダメージは与えていないですが、狂化を切った異変を察してすぐに呼び戻した。普通に考えても早い動きですし、怖い相手ですねえ。それにまあ・・・海の戦になれた男とモルガン様と仲良しで腕の立つ魔女のグンヒルド様相手・・・実質英霊一騎で二騎。バーサーカーという先鋒とキャスターの援護のあるお得セットですからそういう意味でも今のうちの切り離しておきたい。

 

 

 「ええ。夫を手ごまにするのであればカルデア。その中でもそこの少年以外には嫌ですね。此方からも魔力カットをしますので」

 

 

 「よろしくお願いします・・・いやはや。出来れば今度は華奈殿の味方として戦えることを願っています」

 

 

 「あなた方ご夫妻の支援ともなればうれしいですからね。私にはない操船技術と魔術の腕。大助かりです。では、サクッと」

 

 

 いうが早いかすぐに霊核を刺突で破壊。で沈痛と傷口を塞いで痛みを消しておく。するとエイリーク様の退去が始まります。あ。そうだ。

 

 

 「エイリーク様。これを」

 

 

 「これは? なにやら・・・香?」

 

 

 「魔力を濃縮した花の香水です。グンヒルド様のお土産にいかがでしょう?」

 

 

 うちのカルデアの農園部隊で作っていた一品ですが魔女は香水を使用したお守りや礼装も作るといますし、というかうちの魔術部隊でも使えるものらしいのでいろいろ情報を貰っているお礼にと渡せばエイリーク様もほっこり笑顔。

 

 

 「ありがとう。武骨ものな私には思い浮かばないプレゼントだよ。妻も喜ぶだろう・・・本当有難う」

 

 

 「あらあら・・・わざわざ銀嶺の特製品をくださるとは・・・ありがとうございます華奈様。でも、夫に手を出したら呪いますからね?」

 

 

 何やらしれっと怖い言葉を残してエイリーク様は退去。いや、そういう意味はないのですが・・・怖かった。

 

 

 そして手にできた地図。これをもとに戦闘が終了したためにクラスチェンジの条件を満たしたストームにペイルウィングにチェンジしてもらい上空から島をぐるりと見てもらうことに。

 

 

 「・・・見えるわ。ここからしばらく歩いて出た反対側の場所に確かに船がある。ふぅむ・・・形状からしても、ヴァイキングのものね。いってみましょうか」

 

 

 「それなら、あたしを先に運べないか? 先に見れるものがあれば見ておきたいし、ほかの海賊にとられる前にね」

 

 

 ふぅむ・・・私たちもあとで追いつけるので許可をしてドレイク様をストームと同行。私達は道中獣を退治しながら進むことに。食事のあてや毛皮も使えますし、獣脂は使いようによっては木材に塗り込んで水をはじく道具としても使えるでしょうしね。

 

 

 『しかし、まさか血斧王夫妻と知り合いだとは驚くよ。本当にどうなっているんだい英霊の世界は?』

 

 

 「割と自由ですねえ。イベントも多いですし、何よりも英霊の中には聖杯やそれに近いものを持つものもいますので特異点。それに近いものを用意してこっそり英霊同士での会合やイベントも多いのです。後は、グンヒルド様やモルガン様。アルトリア様のように今も生きている方々は割とそちらの方に交流をしに来るので」

 

 

 「実際、わしもよく茶会を開いたりしておったしの。茶々とか、竜馬、ほかにも多くのやつらと話すぞ」

 

 

 『華奈はその宝具もあって英霊のイベントごとに関しては人材派遣、イベント設営や助けになることが多いからね~私も何度かお世話になったよ』

 

 

 実際、サバフェスでも何度か運営やりましたし、料理大会、バレンタインのチョコの用意や加工のために即席工場作ったりしたりでいろいろしましたからねえ。おかげで英雄王からサバフェス関連の運営スタッフは一部専属で任されていますし。

 

 

 『うーん。そういうものかあ。いろいろと興味深いね。 ・・・・・・・もっと早くこういう娯楽をしれれば変わっていたのかな』

 

 

 「? ふふ。さ。見えてきましたね」

 

 

 「あ。ドレイク船長。何かすごい勢いで走ってきましたよ?」

 

 

 ストームたちの移動した場所、エイリーク様達が使っていたらしい船が見えてくるとそこから走ってくるドレイク様。手には何やら大量の冊子や羊皮紙、巻物があります。

 

 

 「おーい! あたしの勘は間違っていなかった! いいお宝を手にできたよ!!」

 

 

 「船の方でも使えそうな備品がいくつかあった。マスター。狼運送で送れない?」

 

 

 「それがお宝ですね?」

 

 

 「ああそうとも! ヴァイキング出発から到着までの航海を細かく書き記す。海路、島や海岸の形、潮の流れに気候。この海原を渡り歩くものには必要なすべて、ヴァイキングのすべてであり船乗りなら垂涎のものだ! そして、この島と思えるもの以外にも新しいインクで書き記されたアタシも知らない海図! 新しい島の情報。これは海に生きるアタシらには飛び切りの情報だろう?」

 

 

 実際に木造の船では長い航海は船の損傷も大きいものがありますし、船という限られた積載量の中に武装に食料、船の備品。商船ならさらに商品、人員、もろもろを乗せていかないといけない。その期間を見定める指針となり、船をつけても大丈夫な海岸の地形の見定め、船足がわかる潮の流れに公開の安全度がわかる気候。これらがわかればすぐに用意をして動けますし備蓄の無駄遣いもしない。本当に良いものを手にできました。

 

 

 

 「確かに・・・次の行き先も決まりましたし、迷わず手あたり次第に行くよりよほどいいかと。流石ですドレイクさん!」

 

 

 「これくらい当然だよ。ま、あんたらのイメージだと宝はいわゆる金銀財宝だろうけど。とりあえずは次の島に行く前に英気を養ってから出港準備といくよ。少し風待ちもしないといけないしね」

 

 

 「私は構いませんよ。この船の備品と道中で手にした獣の肉や毛皮もあるのでそれらを出向の際の資材にして、また休みつつ行きましょう」

 

 

 「なら俺も。海の事は分からないし、専門家に任せる方がいいしね」

 

 

 カルデアの方からも海図が見つかったことでむしろ早く進めるから安全にという指示を貰えたので物資をもって船に戻り、またどんちゃん騒ぎに。

 

 

 その際に今度は砂浜で捕まえた海老に貝の料理を振る舞ったんですが、しょうゆで貝を焼いていたら銀嶺の料理の一つの伝説の調味料ということで皆さん驚いていました。

 

 

 やけに詳しいなあと聞いてみたら商人であるドレイク様やそこら辺を知っている皆さんからすれば軍隊でありながら国を回すほどの商売の手腕と財貨を築き上げた銀嶺隊は色々と尊敬しているし、その伝記も面白いから色々知っているとのこと。

 

 

 サザエのつぼ焼きとビールで乾杯して、風が来たので早速次の島に向かって西へ移動。はてさて、今のところ順調ですがエイリーク様を使役していたのは誰なのか。一応、ストームと信長様に交代で監視をさせていますが見つかりませんしね。怖いものです。




華奈の関係者のおかげであっさり問題解決。


少しつたない内容で申し訳ありません。最近仕事が忙しく疲れも抜けないせいもあり筆が進められませんでした。毎日投稿、早いペースで執筆している方々に比べれば甘えもいいところですが本当に申し訳ありません。


オケアノスは本当にさっくり行きそうです。


次回は皆様大好きであろうあのお二人の登場。


ではまた次回までさようなら。さようなら。


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神話新カップルとこんにちは

疲れがひどすぎぃ! 職場の環境が悪すぎる。


それはそれとして皆様ボックスガチャからのハンティングクエストお疲れ様です。欲しい素材を確保できていれば幸いです。


 「はーい。野郎衆も一度風呂にはいりなさい。服はここに出すように。裁縫しておいたり補修をしますよ~」

 

 

 「「「ウィッスー!」」」

 

 

 「海賊と言えども清潔に。先ほどの船を解体して浴槽を作れましたし、皆で入るといいでしょう。あ、阿保すれば容赦なくカリバーしますから」

 

 

 「なるほどのお・・・焼けた石や金属を使えばいいから炊事の際に放り込んでおいてからそれを水桶に放り込めば燃料も節約できると。よいしょっ! うほほ~このジュワッて音が面白いのお!」

 

 

 次の島に上陸した私達。幸いにも索敵をした結果獣もいないですしゴーストも少ない。けれど霊脈のラインはあるので風呂専用の金属と洗剤を少し用意してエイリーク様達の寄越してくれていた木材と資材から船上で大きめの浴槽を作成。

 

 

 それに海水を真水に変えたものを注いでうちの魔術部隊、アンナ様に赤熱させた金属と石をぶち込んでから熱々のお風呂が完成。

 

 

 ドレイク様曰く「あの風呂はよかったからうちの連中にも味合わせて英気をつけさせてほしい」とのお達しだったのでちょうどいいとボロボロの服の補修と獣の皮を加工して革製品に変えていたのでそれらを予備として用意しておくことに。

 

 

 「うーん。水漏れが今はないけど、木造船だからなあ。ちょうどいいしこの際にゴミや使わないを廃棄して船足を軽く、損傷の可能性も下げておくかあ」

 

 

 「しかしストームは作業も手際がいいですねえ。フェンサー・・・EDF基地で作業員していたころの名残ですか?」

 

 

 「まあな。そうじゃなくてもEDF入隊後は新入りってことでいろいろ雑用していたし・・・沖田は病弱が収まったとはいえ、重いものを扱う仕事は疲れるだろうし気を付けろよ?」

 

 

 一方で沖田様、ストームたちは備品の再整理と舟に水漏れがないか再チェック。新選組の中で旗揚げのころからいろいろいしていた沖田様と、警備員、作業員、空中ダンサー、整備士、そしてEDF隊員といろいろ経験しているストームは施設内の備品の用意や点検の大切さがよく分かっているのでサクサク作業を進めて頼もしいです。

 

 

 「召喚サークルの中で・・・んー先輩、銃弾の予備はどうします?」

 

 

 「今は使っていないし・・・うーん。船酔いもないしなあ・・・あ。塩飴とか、そういうタブレットはないかなあ。俺もだけど、マシュも甲板は熱かったし、汗をかいているだろうからさ」

 

 

 『塩分補給は大事ですものね。了解。あ、レモン味とマスカット味があるけどどっちがいい?』

 

 

 マシュ様達はサークルからの物資補給が受けられるので藤丸様の道具をチェック。オルガマリー様とも打ち解けていますしほほえましいです。

 

 

 「・・・———っ」

 

 

 「む・・・」

 

 

 が、この島にも何かはあったようで私とアルトリア様が構えたその次の瞬間、地面がぐらりと揺れました。

 

 

 『! 藤丸、マシュ! えいぞうにみ・・・――』

 

 

 「え? オルガマリー所長!? どうしました!」

 

 

 「なんだ!? 地震!? それに映像が途絶って・・・霊脈が乱れたとか?」

 

 

 「うわうわわわっ!? ちょっと・・・あぶ・・・おごっ!?」

 

 

 「沖田大丈夫か!? なんかすげえいい音したけど」

 

 

 皆さんが混乱することしばらく。ようやく揺れが収まり、風呂に入っていた海賊の皆さんがすっぽんぽんで出てきたせいでうちの連中にしばかれたり襲われることなどはありましたがどうにか収め、予備の服に着替えさせてメンテナンスを終えた武装を渡してから全員合流。

 

 

 で、そこからは信長様とストーム、沖田様が船の上で見張り。私とアルトリア様が軍で陣営を用意。藤丸様とマシュ様がその中で前線に立って壁役としてしていました。

 

 

 ドレイク様達はその間に船の様子やけが人がないかなどのチェックをしてもらうことを頼み、しばらく後。

 

 

 「結論から言うとだ。船自体は問題ない。何なら、あんたらと会う前よりも上等になっているし、故障個所もない。だけど、動かない! まるで船底を見えない糸で括り付けられちまったみたいだよ!」

 

 

 肩をすくめてやれやれとしているドレイク様。ふぅむ。先ほど感じたものといい。あたりですかねえ?

 

 

 「カルデアとの通信も途絶えましたし・・・何が起こっているのでしょうか?」

 

 

 「おそらくですが結界ですね。身を守る類ですが、同時に敵を惑わせて殺す迷宮の気配もします。しかしまあ・・・こんなレベルの結界。規模はマーリンやモルガン様以外には見たことが無いですがかなりやばいですよ」

 

 

 「島一つと少しの海域をすっぽり覆う範囲。しかも、生半可なものじゃ突破もできなり強度。英霊、キャスタークラスか、迷宮、そういったものに関わるがあるものでしょう」

 

 

 私とハチの鼻でも嗅ぎつけられないほどの場所からこの広さを出す。本当にすさまじいものです。私もこの結界を斬り捨てるには少し面倒ですし、先ほどのエイリーク様に続く英霊でしょうか? 私の部隊も魔術兵装で部隊一つ丸ごと使える結界とかありましたが、これ一つでそれの何十倍ですからおっかない。

 

 

 「要はまあ、この結界を出しているやつをどうにかしなきゃあ出られないってわけかい?」

 

 

 「そうなりますね。話ができればいいのですがエイリーク様のようにいくかは不明ですね・・・」

 

 

 「なら行くしかない! 困難トラブルは冒険の醍醐味、そしてそれには宝も付きものってものさね。この結界とやらも使い道もあるかもだし、アタシは早速行きたいがどうするアンタらは」

 

 

 私たち神代時代の人間でも驚く結界を見ても尚そう笑うドレイク様。いいですねえ。ほんと、私の軍に欲しいと思うほどの人材です。そしてまあ、その判断も嬉しい。

 

 

 「私は行きます。仲間にできればいいですし、もしかすれば相手も引き留めるためにこうした可能性もありますから」

 

 

 「俺も行く。早いところ所長たちと連絡を取れるようにする手段が見つかれば結界の解除も早まるかもだし」

 

 

 「ならわしは待機じゃの。おい沖田。付き合え」

 

 

 「え~! 私がですかあ!? 私も華奈さんたちと行きたいです!」

 

 

 「んー・・・お願いしますよ。沖田様。信長様。土産話は持っていきますから」

 

 

 (華奈先輩が身を守るといいつつもこの結界に迷宮の気配があるとも言っておったからなあ・・・先輩らでも驚愕するレベルなら神代の住人。神性持ちの可能性もある。

 

 

 神性に特攻がつくわしじゃし、華奈先輩と合わせて結界をぶち壊すのもできるがそれも織り込み済みなら手に負えないし・・・船を守っても結界がすぐに解除される保証もない。危険じゃが戦力を分けて結界の正体を理解したほうがいい。全員で動いて生命線たる船を壊されたらたまらんわい)

 

 

 

 (迷宮だとしたら罠はつきもの。そしてまあ、船も範囲に入っている今敵の掌の中ですし、船を狙われた際の戦力は残しておきたいですからねえ・・・信長様の場合は銃でこちらに合図を送れますし、私の軍の使い方も先の戦いで理解している。本当に助かります)

 

 

 危険ですがこの結界を貼れる人物が備えがあり結界をどれほど維持できるかが未知数ですし、船や戦闘力では劣るけども足たる海賊たちを狙われては今後の動きに支障をきたす。

 

 

 ならこちらから出向くことで意識を向けさせて、交渉するなり先ほどのエイリーク様を使役していたやつらの情報を探す意味でも一度調べるほうが吉。信長様も理解しているからこその留守番でしょうし、ドレイク様はおそらくは経験と勘で解を出している。うまい具合に分かれることが出来そうです。

 

 

 「なら私はマスターとだな。迷宮にバリアに空が敵になったこともある。対処は出来る」

 

 

 「私も行きます! 先輩のサーヴァントとして、それにこの盾で通路を塞ぐ壁役としても頑張ります!」

 

 

 「了解です。では、信長様に私の軍500を預けます。警備を」

 

 

 「野郎ども! 銀嶺隊の警備付きだ! 行儀よくごろごろしていな! アタシらが戻ってきたらまた本番の海に戻るからね!」

 

 

 「了解です! 姉御たちも気を付けて下せえ!」

 

 

 私の魔獣部隊、クマもいれたメンバーと信長様の補佐でクラークを付けてから出発。しかしまあ、本当に島々でイベントが起きますねえ今回は。どうなっているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 歩くことしばらく、魔力の強さと血の匂いが強くなっている場所とアルトリア様の直感。ストームのレーダーと目で探るとすぐにその迷宮は姿を現しました。

 

 

 入り口を阻む結界も扉もなくぽっかりと開けて相手を拒まない。けれど感じる血の匂いと獣や死霊の気配。ダンジョン、迷宮。入れば生きて帰れない。そんなイメージを塗り固めたような感じの場所に皆様少し緊張しています。

 

 

 「ハチ、花子。私と一緒に迷宮を攻略しますよ。花子は耳。ハチは足。私が嗅覚を」

 

 

 「俺はレンジャーのままで・・・装備はこれでいいか。レーダーにも敵の数がちらほら。だけど散らばっているし、あれだな。部屋ごとに隠れ潜んで侵入者をバクリと行く感じだろう」

 

 

 「では私がドレイクや皆の護衛に。銀嶺の備品から投げやりにロープも借りてきましたし、補佐も」

 

 

 索敵のメンバーを決め、ついでに呼び出して準備よし。銀嶺隊時代に人ならざるものを妖精郷に送るためにダンジョン攻略もしましたし、そこら辺の経験と備え、装備はあるんですよね。

 

 

 「手際がいいねえ。なら、アタシは援護射撃と行くよ。海では暴れられても陸はそっちが専門。お任せする」

 

 

 ドレイク様もすぐに理解をしてくれたので早速入っていくことに。

 

 

 

 

 

 「うーん・・・複雑ですけど、罠の類は緩いですね。しいて言うのなら本当にこの道。気を配らないと同じ場所を歩いたりより深く迷うようになっている・・・すさまじい設計です」

 

 

 「かなり深くまで入ってきたな。しかし・・・血の匂いはともかくとして、獣が少ない・・・いや死んでいる数が多い。まだ血が流れているやつもいるし、先客がいるのか?」

 

 

 結局、私が匂いで敵の有無や距離を。花子が耳でそれをより正確にして敵のかすかな声や息遣いを察知して索敵。ハチは足に感じる感触で地面にある罠を察知。ストームのレーダーとも合わせた何重にもわたる索敵と備えで特にトラブルもなくずんずん奥に進んでいく私達。

 

 

 合間合間に金貨や宝飾品が見つかりドレイク様はウハウハのご満悦。ただ、同時に奥に入れば入るほどに死体が新しいものとなるので先に入った人達がいる。それに気を付けて歩いていました。

 

 

 「同じ景色をひたすらに見続けるのも疲れますしマシュ様達の疲労も考えて・・・静かに」

 

 

 安全のために一度先ほど見つけた広場のような場所で休もうかと考えていたら何やら声。感じる気配も英霊のそれなので皆にストップをかけて歩いている音を録音したものを流しつつ耳を傾ける。

 

 

 「・・・・よあれ! 全然迷わないじゃない! どうなっているのかしらアステリオス! 貴方手を抜いたわけじゃないわよね!?」

 

 

 「う・・・」

 

 

 「そんな器用なことできるわけないか・・・・まだ足音も止まらない・・・こっちに来るわ。まずい・・・って、アステリオス! 貴方何処に行くのよ!」

 

 

 「たお、す・・・まって、て」

 

 

 

 どうにも男女二人が何やら言い合っているようで。しかし・・・アステリオス? アステリオス・・・? んー・・・どこかで・・・確かギリシャ当たりの言葉でしたっけ? ギリシャで迷宮・・・

 

 

 「マスター、この角を曲がればやつらすぐ来るぜ。迎撃したい」

 

 

 「ふぅむ・・・ん・・了解。威力は弱いものにしておきなさい。それともう一つの武装をリバースシューターに。どうにも追われている様子。誤解かもですし、傷を治せるように」

 

 

 何か引っかかって思い出せないのですが一応備える意味でも回復手段を持たせてから迎撃措置を許可。私の耳にも聞こえるほどの爆走具合でこちらに来ていますし。

 

 

 「なら・・・おらあ! 汚物は消毒だ~!」

 

 

 とりあえずは迎撃ということでストーム1が躍り出て火炎放射で迎撃。弱めのですが発射時間の長い火炎砲で足止め。その間に私も刀を抜いて斬撃を飛ばせる用意。

 

 

 アルトリア様も風王鉄槌をできるようにしてストームに続きます。

 

 

 「ぐぁああ、ぁあ・・・あ、あづい・・!」

 

 

 「アステリオスー! ちょっと・・ってナニコレ炎!? きゃああぁあ!!!」

 

 

 何やら可愛らしい声も聞こえますが目の前で炎に炙られている巨漢を見て驚きました。白い髪に両手に持つ巨大な斧。そして、牛の仮面。

 

 

 牛の仮面、迷宮。そしてアステリオス。もうこれだけピースがそろえば馬鹿の私でもわかる。

 

 

 「ストーム、ストップです。もしかしたらこの子は・・・アステリオス様。でいいですか?」

 

 

 「ん? おう。アステリオスねえ。迷宮絡みでそんな名前聴いたことないがなあ」

 

 

 ギリシャ神話の被害者。ミノタウロス。その本来持つ名前。いやはや・・・またしてもビッグネーム。しかもある意味迷宮という存在を知らしめた存在でもないですかこれ。

 

 

 「う・・・けふ。そう・・・アステリオス・・・だ」

 

 

 「ふぁっちち・・・! 何なのよこの炎! 普通の炎泥じゃないほど痛かったんだけど!? アステリオス! あなた大丈夫!? それとだよ貴女たち!」

 

 

 とりあえず、私の声を聴いて攻撃的な気配を収めたアステリオス様と、何やら後ろかついてきたローマで感じた気配と同じ気配を持つ美少女。この二人が迷宮の主でしょうか。

 

 

 「んあ? そりゃー私らはこの結界を解きつつ、お宝探しに来た・・・・ぶほぉ!!」

 

 

 「え・・・っと・・・あれ? ステンノさま・・・のお知り合いですか?」

 

 

 「私たちはカルデアのものです。ちょっと出航が出来なかったので原因の究明に・・・・んふふ」

 

 

 「あら? 私を知っているの? それとどうしたのよ?」

 

 

 どうにもローマで出会ったという女神と知り合いの様子。そしてまあ、皆が笑いをこらえるのもしょうがないこと。

 

 

 ストームの火炎砲で二人とも見事にアフロ、ドリフ爆発後のあの頭になっているんですから。威力は低いものにしたのですがストームの神性特攻、怪物特効が見事にヒットした結果でしょうかね。

 

 

 「だ・・・だってその髪型はよぉ・・・わあははははは! 駄目だ! 奇抜すぎる! 頭ボリュームありすぎだろ!」

 

 

 「ディスコにでもいそうな髪型だよなあ」

 

 

 「あんたらのせいでしょうが!!」

 

 

 「ぶはあっ!?」

 

 

 いよいよ笑い転げ始めたドレイク様と感想を述べた結果女性にビンタかまされるストーム。なんだか、悪い人達ではなさそうですねえ。

 

 

 

 

 

 

 「はぁー・・・なるほど。ドレイク様達の船を見て、追っ手の一つと勘違いしてこの迷宮を」

 

 

 「そうよ全く・・・アステリオスや私を回復してくれたことは感謝するけど、ややこしくて困ったわよ」

 

 

 「う・・・ごめんね・・・おそ、って」

 

 

 「それはお互い様よ。しっかし、カッコい名前だなあ。顔もかっこいいしよお。ほら、これ喰え。心腹も満たしてこそ本当の回復ってな」

 

 

 この後、リバースシューターで二人を回復して、敵じゃないことを話してから迷宮のきれいな広場で軽食を取りながら情報交換をしていました。

 

 

 お二人の名前はエウリュアレとアステリオス。何でも気持ち悪い海賊なるものに追われていたらしく、この島に逃げおおせてからアステリオス様の宝具でこの迷宮を作り出してその追っ手を拒んでいたそうです。

 

 

 「これ、うまい・・・!」

 

 

 「だろー? 今も残っている銀嶺の領地後の郷土料理だ。ほれ。おかわりもいいぞ」

 

 

 「しかし、あの神話の・・・アステリオスさんほどの英霊が傷を負ってしまうとは相当に強いんですね」

 

 

 「数も質も多いから面倒だったのよ。しかし・・・そこのヘルメット頭」

 

 

 「? 俺か?」

 

 

 「あなた本当に人間よね? 何というか・・・私が語っていた巨人。それと同じかそれ以上に嫌な気配がするんだけど?」

 

 

 話をしていたエウリュアレ様は紅茶を飲んだ後にストームをみて首をかしげる。やはり女神から見てもストームの神性特攻はえげつないのでしょうねえ。神話のモチーフたる宇宙人殺したり、エイリアンの最終生物兵器をぶっ飛ばしたり、星の頂点に立つ生物殺したり、本当にやりたい放題していますから。

 

 

 「俺の英霊としての経歴がそうなるんだろう。一応、人間のまま戦い続けて英霊になったとだけ言っておく」

 

 

 「ふぅん・・・そう」

 

 

 「さてと。エウリュアレ様。ここに籠ることもアステリオス様の回復でまだできるでしょうけど・・・長くは持ちません。なのでここは私たちと一緒に行きませんか」

 

 

 「・・・え?」

 

 

 キョトンとするエウリュアレ様。まあ、驚くでしょうけどね。

 

 

 「海賊というのはかつてポセイドンの領域だった海を渡り歩き、新しい土地にさえ手を伸ばすもの。迷宮だって荒波を乗り越えるように踏破していく可能性もあります。此方も海賊と戦いまして、戦力は欲しい。エウリュアレさまたちの情報も欲しい。此方が守りますのでそちらはその追っ手の情報をください。どうでしょうか? 道中の捧げもの。このお茶のみならず茶菓子も多くありますので」

 

 

 話を聞けばエウリュアレ様はアステリオス様を心配していますし、アステリオス様はエウリュアレ様を心配している。で、エウリュアレ様は力はないですし、アステリオス様は力はありますが経験がない。どちらかが人質になればすぐに終わりますし、戦力に引き込めれば助かります。

 

 

 「そう・・・酷いことしないでしょうね?」

 

 

 「しませんよ。する意味がないです。それにまあ、する輩はしばきますので」

 

 

 「アステリオスにも」

 

 

 「俺が守るよ」

 

 

 「そう・・・なら、私は一緒に行くわ。食事や外見、内面的な意味でもいろいろあの海賊に比べれば億倍ましだし」

 

 

 「おれも、行く・・・傷なおしてくれた・・・いいやつ」

 

 

 「よっしゃ! きれいな姉ちゃんにでかい兄ちゃん。それに道中での財宝も入ったし上々の成果! ならさっさとここを出て次の場所に行くよ!」

 

 

 ドレイク様も問題ないということで新しくエウリュアレ様、アステリオス様の二人が加入していくことに。

 

 

 道中、藤丸様やストームからステンノ様と出会って、何があったかを話したり、お菓子をつまみながらうちの部隊や海賊たちに歓迎されてうれしそうだけども動揺するアステリオス様。それを制して説教するエウリュアレ様とほほえましい時間を過ごしながら結界が解けたことで船出の準備をしていました。

 

 

 

 「む・・・船が見える・・・ぼんやりとじゃが・・・」

 

 

 しかしまあ、トラブルというのは畳みかけてくるのが常なのでしょうか。

 

 

 「マジか信長さん! どれ・・・姉御ぉ! 前方に船一隻! 俺らを追い回していた例のやつらですぜ!」

 

 

 アーチャー、ガンナークラスの皆さんに見える距離から見える船。これがどうにもまた問題の種みたいなんですよね。




この二人のカップル良いですよね。癒されます。まあ、私が描き切れるかなんて不安でしょうがないですが。


そしてあの人登場は次回。ただまあ・・・華奈の英霊になっての行動からしてね・・・? ということになりそうです。


 それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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オフ会は砂浜で

最近大河淫夢を楽しんでいます。あと、下北沢代表が面白い。

淫夢の名作は本当に良いものなんですねえ。名君の描き方や王ゆえの家族への愛の示し方とか、参考になります。後絵面が地獄絵図なのに感動出来たり見入るからすごい。

今回のグダグダ。銀嶺隊なら米でいろいろ作った挙句に騒ぎと祭りを作り上げている絵面を想像しました。




~船倉~

華奈「ん~? 気配。んー・・・あ。アステリオス様、これ」
(砲弾を渡す)

アステリオス「う? なにこれ・・・」
(運搬手伝い中)

華奈「そうですねえー・・・私が合図した時に悪い人たちにぶん投げるといいものですよ」

アステリオス「おお。ありが、とう」

華奈「どういたしまして。えーと。冬利様、咲様。良馬様」

良馬『どうしました?』

華奈「モリアーティー様を念のために呼ぶのと、冬利様たちは一部ロマニ様から観測モニターを借りてこの視点から見れません?」

冬利「んー・・・一応、観測出来てはいるが、そっちとの差異はある。ま、それでいいならしますよ」

咲「頑張るね!」

華奈「ありがとうございます(さてさて、一応これで後は鬼が出るか蛇が出るか)」


 「姉御! 前方に一隻の船! 俺たちを追い回していた例の船でさあ!」

 

 

 「ああ! アタシらを追い回していたアレか!」

 

 

 船上ではにわかに騒がしくなっている。どうにもドレイク様達と因縁のある相手が来ているようで、周りもすぐに大砲を出せるようにしていったりでドタバタとなり始めました。私もアステリオス様と積み込みと掃除をしていたのですが、すぐにでも上がるほうがいいでしょうねえ。

 

 

 「しかし、帆船にしては早い足じゃな。英霊の宝具じゃないかの?」

 

 

 「ドレイク船長、知っているんですか?」

 

 

 「この変な海に来てからちょっかいを出されてねえ。ここであったが百年目! 地平線の彼方へ吹っ飛ばしてやる!!」

 

 

 「んー・・・? この海賊旗。確か・・・あったあった。マスターのくれた著名海賊旗百選・・・マジ?」

 

 

 「よっしょ・・大砲の準備よし。あらあら。あの方ですか」

 

 

 船倉から出てきて甲板でも大砲を用意して、火薬をセットしていたら見えてきた船にストームが驚いていました。私が用意した冊子に乗っているものとなれば大海賊、名のある方なんでしょう。

 

 

 『うぇ!? みんな、あの船は宝具だ! 船乗りの英霊。それ以外にも数基の英霊が確認できる。足場を崩すことも難しいと思えるほどの強度を船が持っているし、まずは使い手を狙う方向で対処したほうがいい』

 

 

 「ストームでも難しいかもですか。やれやれ。それにまあ、私もなんか嫌な気配を感じますし、藤丸様、マシュ様、ドレイク様のそばに」

 

 

 「はい!」

 

 

 「おい華奈。そこまでおんぶにだっこをされるつもりはないよ?」

 

 

 「申し訳ないですが、どうにも油断できそうにないので、そちらは吹っ飛ばすチャンスをうかがってください。ちょっかい受けた分を百倍返しできるように」

 

 

 とりあえず、海賊、船乗り、海軍の人間が相手であるうえに更には船の差も大きい。ドレイク様にいざという時の指揮を頼む余裕を作らせておくようにしつつ見えてきた相手の船の船員。

 

 

 「男二人、女二人。英霊じゃな。しかし一人は幼子か? 海賊の娘とかじゃなかろうな」

 

 

 「少年兵ならぬ少女兵ですか・・・敵であれば切りますが、あまりいい気はしませんね」

 

 

 「英霊の幼い姿かもしれませんよ。顔の傷と、武器の持ち方もなれているものです」

 

 

 ぼさぼさの髪の毛に豊かな黒いひげを蓄え、コートを羽織った偉丈夫。金髪の美しい女性と顔の傷が特徴的な銀髪の少女。金髪の女性は銃を。銀糸の女性はカトラスを。後ろで槍を持っている。あごひげと何か油断ならぬ空気を感じる男。

 

 

 信長様の見立て通りその4人が英霊と見て間違いないと私の感じる感覚も訴えてきている。

 

 

 

 「おいヒゲ! 聞こえてんだろ! また何しに来やがった!」

 

 

 『華奈、相手は世界最高レベルの知名度を誇る海賊! 気を抜かないで』

 

 

 「もちろん。ですが・・・」

 

 

 私も見えるあの海賊旗と風貌ならまさしく私のよく知る方。だからこそ、怖いんですよね。気を抜く云々含めて・・・

 

 

 「はぁあ~? BBAの声なんぞ全く聞こえませんが?」

 

 

 挑発するように耳に手を当ててこちらに向けて声を投げかける黒ひげ。ティーチ氏。

 

 

 『・・・え?』

 

 

 「・・・・・・・」

 

 

 この一言で場の緊張した空気は一気に霧散。代わりに、へんてこな空間、具体的には信長様達の騒ぎに巻き込まれたときと近い空気が場を支配したと思います。

 

 

 「だーかーら! BBAはお呼びじゃないっての! 何よその無駄乳ぃ! ふざけてんの? せめてロりBBAならいいけどさーあ、でも刀傷はグッド。そういう属性となんか滾る感じは良いですぞwww せめて半分の年齢なら拙者のストライクゾーンに入ったのにW あ、でも若作りはNGでww」

 

 

 「フォォー・・・」

 

 

 「―――・・・」

 

 

 「おぉーう・・・なんつーか、あれじゃな。利家とかサルと仲良くできそうじゃ」

 

 

 そこからの利く人が聞けば異次元の言葉、別の国の言葉を離したとしか思えない言葉でまくしたてるティーチ氏。うーん相変わらず。ほんと、この一連の流れがまた恐ろしいんですよね。

 

 

 「アレよアレ! 私たちを追い回していたしゃべるゴミは!」

 

 

 「ちょっ!? エウリュアレさん!? あの変態のターゲットたるあなたが出てきたらむしろ逆効果です!」

 

 

 「エウリュアレ氏! エウリュアレ氏ではござらぬか!」

 

 

 嫌でも目立つ、場の空気を握っているティーチ氏の出す空気に耐えきれず、エウリュアレ様が我慢弱いのもあるのでしょうけど。ともかくエウリュアレ様を見てティーチ氏のテンションがアゲアゲに。

 

 

 「ウヒョォオオォオオォ!!! エウリュアレ氏! 拙者ですぞ、黒ひげですぞ~! こうしてまた出会えるとは運命、まさしく拙者たちの宿命でござるよ。さあ、そこのBBAに奴隷にされてしまう前に拙者がお救いしてそこからひたすらにprprして。そりゃあもう最高の気分を提供しますぞデュフフフフwwww」

 

 

 「ぅうう・・・も、もうやだぁ・・・!」

 

 

 「ぅう・・・!」

 

 

 ちょうどいいのでこの後もどうなるか、あの方のやり方を見ておきたいので礼装を付けて後ろに私はフェードアウト。で、そこに入れ替わり、エウリュアレ様を守るように立つアステリオス様。私があげた砲弾もいつでも投げられるようにしつつ歯をむき出しにして守る。いいナイトです。

 

 

 「は!? ちょっと~男子ぃ。邪魔でござるよ。エウリュアレ氏のあんなところやこんなところを隠しちゃうなんて無粋な。さっさと無修正のエウリュアレ氏を出すでござるよ。ほれほれ。拙者抜きげーでの異種族のサイズ差はいいでござるけどリアルでこうしてNTRは勘弁でござる。思わず船ごと沈めちゃうくらいには」

 

 

 で、まあしれっとあほなこと言いつつも強硬策をするための用意も怠らない。こっそり大砲を用意して火薬の匂いも強くなった当たり、本気でやって私たちを沈めた後にさらう用意も合図一つでできそうですし。

 

 

 「ん・・・・? その盾の女の子・・・」

 

 

 「な、なんですか・・・?」

 

 

 ひとしきり色々パッションをぶつけまくりつつ、周りを見渡しているティーチ氏。その際にマシュ様に目が止まったようでして。

 

 

 「・・・・・・〇! ごーかく! そこの紫メカクレちゃん! 名前を名乗るでござる! さもないと・・・」

 

 

 「さ、さもないと・・・・?」

 

 

 「今夜眠るとき、君の夢を見ちゃうぞ♪」

 

 

 バチコーン! と強烈なウィンクを飛ばしながらニマニマするティーチ氏にゾゾゾッ! と体を震わせながら盾を握る手に力を入れつつさりげなく身体を盾で隠すマシュ様。

 

 

 「マシュ・キリエライトです! デミ・サーヴァントです!」

 

 

 「んんー・・・マンダム。これはいいですぞ。サーヴァントの新属性に鎧の癖に誘うデザインにそのボディー・・・むっつり属性からのはまった後が楽しみですなあ・・・片目メカクレはたしか・・・バーソロミューが好きでしたかな? いやあ、ここに呼ばれていればお誘いして同盟を組めたかもなのに、デュフフフフフゥwwwwww」

 

 

 「はぁ・・・」

 

 

 おそらく、エウリュアレ様とアステリオス様に関しては既に正体も力も把握済み。ドレイク様とも一当たりして力量を計っていた。で、信長様と沖田様、ストーム様は自身の知識やほかのメンツも首を突っ込まないから日本。けどそれ以外では多くは知らないからひとまず放置。でないと信長様なんて普通にティーチ氏の好みのスタイルに美貌ですし。

 

 

 そのなかで私はまあ、視界に入り切る前に隠れましたし、残ったマシュ様。西洋の鎧に盾を主兵装にした英霊は少ない。それに釜ひっかけてしれっと英霊の亜種の可能性を見抜いて、同時にマシュ様の力量を計りつつ肉壁にできる相手もすぐに目星をつけた。

 

 

 これ、更にはマシュ様が持っている英霊の力、真名を探るために自分の今の回りの評価も利用して道化しつつ制圧する際の優先順位と殺しやすさを計っているんですからほんとおっかない。

 

 

 「ええい! さっきからごちゃごちゃ訳の分からんことをくっさい息と一緒にまき散らしているんじゃないよ! 野郎ども大砲の用意だ! あの屑海の藻屑に変えてやる! 撃て!」

 

 

 「デュフw ババアおこなの? おこなの?」

 

 

 「あーはいはい。そこまでそこまで。ティーチ氏~」

 

 

 再起動して早速海戦の用意を始めるドレイク様と、ふざけつつも合図を出して応戦の用意を見せるティーチ氏。もう、いろいろとあれな感じですが散々煽った挙句に冷静な判断を奪ってあちらの有利な海戦でこちらを潰そうとしているティーチ氏の好きにはさせたくないので礼装で気配遮断を解いて彼の視界にうつることに。

 

 

 「ん~ BBAのヒステリックさとは裏腹に駄目な攻撃をしようだなんて最初のぶつかりから学んでいませんな~デュフwww お・・・あれは・・・ちゅーし! 応戦中止!」

 

 

 そうすればあっという間にティーチ氏も攻撃をやめてしまい、先ほどまで船から感じていた攻撃の気配もぱったりとやみました。

 

 

 「おぉおぉ・・・サバフェスの暴走作家。神運営。悶絶性癖調教者の華奈氏まで出会えるとは・・・拙者。もうこれだけでも死んでいいでござる」

 

 

 「じゃ死んでくれない? あ、船はちゃんとあの船につけてからね。でないとそのまま海にドボンだし」

 

 

 「そうですわね。あっちの方が楽しそうですから」

 

 

 「ひどくない!?」

 

 

 それからはあちらは何やら女性のお二方と漫才しながらも交戦停止の旗を掲げてから接舷。此方もドレイク様を抑えさせてからの島での話し合いとなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ワーハッハッハッハ!!! ・・・・ビールだこれ! あ”あ”~やはり銀嶺印のキンキンに冷えたビールは極上ですぞ。しかもスパイスたっぷりの鳥皮フライをつまめる。これ極楽」

 

 

 「んぐっ・・ぷは・・・・はー・・・久しぶりですねえ。ティーチ氏。かれこれ・・・サバフェスでお会いして以来ですし、3年ぶりくらいでしょうか?」

 

 

 「ですなあ。いやあ、華奈氏の作品はいつも心待ちにして、拙者慣れない貯金も毎年頑張ってあの季節になるとそわそわしていたものですぞ」

 

 

 海岸でうちの部隊の用意した野営地とカルデアにローマで作らせて用意していたビールを樽で用意して飲み会開始。

 

 

 ドレイク様もちょっかいを出されて、先ほどの挑発からも誘われていたことを理解して反省しつついつでも動けるようにしていたのですがビールとつまみの味を堪能。

 

 

 「ふーん・・・? 藤丸君っていうんだ。かわいいし、綺麗な身体をしている。鍛えられているし」

 

 

 「そうですわねえ。しかもあの銀嶺隊。メアリーの軍隊にも狼の旗を掲げた部隊も多かったそうですし、うふふ・・・掘り出し物かしら?」

 

 

 「う・・・あ、あの・・・怖いです」

 

 

 「あの海賊のお二人とは思いませんでしたが、これ以上先輩に近づかないでください。まだ敵である以上、マスターに危害を加えさせません」

 

 

 「ん? ああ。それももういいよ。あのあほ・・・一応黒ひげ船長が停戦を言ったし、それにこのうまい酒と飯。心地いい場所をくれたんだ。戦う理由はないよ。それに、海賊や海の世界は海軍から海賊、それから船乗りになって高官の護衛なんてのも普通の世界。昨日の敵は今日の友なんて当たり前さ」

 

 

 「そうそう。ですから、私たちは今は同じ樽の酒・・・は飲んでいないですが同じ鍋の料理を食べた仲。警戒せずに一緒に仲良くしましょ? マシュちゃんでしたか? 藤丸君を好きなのはわかるけど、彼も私達で気持ちよくさせるのも一興ですわよ?」

 

 

 で、藤丸様とマシュ様、メアリー様とアン様は何やら藤丸様の事を気に入ったらしいのでそのまま食べよう(意味深)としているのをマシュ様が止め、そのままマシュ様も巻き込んだものにしようとしています。

 

 

 あ、信長様と沖田様が割って入ったのでなんだかいい空気に。あちらは問題なさそうですね。

 

 

 「さてと、こうして停戦してくれましたし、こちらもそのお礼というか、報酬を渡しましょう。香子様。私の本棚の一番左の棚。そこに入っている青いビニール袋を此方に送ってください」

 

 

 『え? あ、はい・・・かしこまりました』

 

 

 「何をするのです? 姉上」

 

 

 こちらはこちらでティーチ氏と私、それぞれの背後にストームとアルトリア様、ランサーらしき中年のどこか読み切れない男を護衛代わりにしつつ呑んでいました。

 

 

 で、ティーチ氏とはサバフェスで私の作品を愛読してくれるファンの一人。行列の整理をしたり、おつりがいらないように小銭をしっかり用意したりとマナーを守ってくれる良い方なのもありうちのオフ会、サービスをたびたびしていた関係。これがまさか生きるとは思いませんでしたが。

 

 

 『あ、華奈さん。送りますね?』

 

 

 「ええ。さて、ティーチ氏。まだまだこの状況故にサバフェスの見通しも立ちませんが、長く応援してくれているファンへのサービスです。どうぞ」

 

 

 「こ、こここここ・・・これはぁああ・・・!」

 

 

 無事に送られたビニール袋。それをそのままティーチ氏に渡し、ティーチ氏も手を洗い、しっかり手を拭いてから見れば目が驚愕に染まりました。

 

 

 中身は私が今まで描いた漫画でティーチ氏が好きだと言ってくれたキャラクターの絵が入った色紙。私個人とキャラからの一言を入れた色紙を計十数枚。他にもファンやサークルの方々用に用意しているのですが、こうして喜んでくれて嬉しいことです。サバフェスだとサークル同士の挨拶も軽いもので終わらせがちですし。

 

 

 「うふふ。よかったよかった」

 

 

 『なんだか海賊の戦いから一転して飲み屋さんでのお宅とサークル主の会話になっているけどさ、どういうこと?』

 

 

 「ん? なんだか拙者たちと似たような空気を感じる声に免じて教えますが華奈氏はサバフェスの運営の管理員の一人であり作家のひとり。そりゃあ様々なジャンルを書くのでマルチ、幅広い人気で上位を手堅くキープする作家。同時に・・・いわゆる裏作品。それも相当えげつない作品を時折描くことで有名なのですぞ」

 

 

 「あはは・・・あー・・・今回はありませんからね? 今まで描けなかったものを書いただけですから」

 

 

 流石にこの状況にロマニ様もツッコミを入れざるを得ず、ティーチ氏はカミングアウトを開始。

 

 

 「生えた女の子同士のレスリングとか、修道院に訳アリで入った男の娘同士のくんずほぐれつや女性に食べられたりとか、あれ過ぎる本におもちゃを開発する平賀〇内(一部史実)とそれを買いに来る歌舞伎役者の皆さんのあれこれとか、野郎の三角コメディホモ作品とか、一度出るととりあえずその濃厚さでいろいろ場を騒がす上に割と歴史から基づいて作るので勉強になったり興奮したりで・・・拙者、女一筋だったのにこれで男の娘もいけちゃう口に・・・」

 

 

 「あはははは。私が深酒したり、酔った際にぶち上げてしまった話をうちの部隊の皆が聞いて、それを後日聞かされるとネタを思い浮かぶのでR18で作るんですよねえ。・・・私の現役時代もそういうネタ事欠きませんでしたからね。ええ」

 

 

 うちの部隊員もあって本当そっちのネタを思い浮かぶ土壌は私含めて事欠かないんですよねえ。私自身がレズよりですし、そこらへんは大漁。

 

 

 『うわぁ・・・うん。何というか、色々アブノーマルな性癖に刺さるものだってのは分かったよ!』

 

 

 『うーん。流石変態国家JYAPAN そして円卓屈指の変態、変人ぞろいの銀嶺隊。流石に何処から突っ込みを入れればいいかわからないネー』

 

 

 『い、色々とあるのですね・・・(まさか華奈さんの見落とし作品があるとは・・・あとで教えてもらいましょう・・・(平安時代最大手のエロ小説作家並感))』

 

 

 「いやあーおじさんには色々ぶっ飛んだ話過ぎてついていけないねえ。このうまい酒と飯があるだけいいけど」

 

 

 「そうですね。しかしまあ・・・うん、修道院云々は・・・絶対銀嶺隊のあの子の入隊の経緯ですよね・・・」

 

 

 なんかいろいろ反論できないですが失礼な事を言われつつ、へらへらしていたランサー様がなにやら周りをうかがっている様子。あれですよねえ。へらへらしていますが持っている武装や空気、ティーチ氏含めて一番武の匂いがしますし、レベルがワンランク違う・・・神代の、相当な手練れの人ですし、酒を楽しむといいながら英霊の作った酒なのをしって酔わないようにとつまみをよく食べて一見食べているようにごまかしていますし。

 

 

 「おかげでいろいろ華奈先生の作品にはまり、すっかりのファンの一人に。海賊なのに性癖を侵略されて財宝を略奪(払う)なんてもう先生の方が海賊でござるよ。このスケベ! バイセクシャル!(あー華奈先生。華奈先生。ちょっと、後ろのヘクトール氏怪しいので組みませんかな?)」

 

 

 「む。なんだかこうして言われるのは何か来ます。ふふ。ま、機会があればノーマルなものもアブノーマルなのも見せますよ。草案含めて(了解。ストーム、用意。モリアーティ様。どうです?)」

 

 

 「そうかい? できれば文字が大きければいいなあ。おじさん、老眼が気になっちゃって(常に警戒しているねえ。鎧の事も含めて、狼に睨まれた気分だ。そばの二人も面倒だし、黒ひげの旦那も油断できねえ。仕込みもあるし、つぶし合いも難しそう。こりゃー一度引くべきだなあ)」

 

 

 『おじさん、娘のいけない気分を見た気分だよ~ああ、それとね。華奈ちゃん。いいと思うよ(黒ひげと組むほうが良し。後ろの方はやりなさい)』

 

 

 ティーチ氏が酒を飲みつつ酔ったふりをしながらアイコンタクト、ハンドサインでされた提案を見てこちらもこっそり前もって決めていた合図をみんなに通達。

 

 

 モリアーティ様の言葉を聞いてちょうどいいと陽炎をつかっての居合抜刀。斬撃を飛ばし、それにティーチ氏も一呼吸遅れつつもこちらもとんでもない早撃ちで後ろにいたランサーに攻撃。

 

 

 「ぬおっ!? おいおい。何の冗談かな? おじさん、味方だろう?」

 

 

 「はん、ハナからお前なんぞ信用してねえよ。何をたくらんでるかしらねえが、聖杯持っているBBAよりもエウリュアレ氏の方に目をぎらつかせているからずっと気になっていたんだ。拙者の宝具のほうが海で動けるのを除いても、こうもへりくだって下に来ちゃア警戒もするってもの。何をしたいか話してもらうでござるよ? ヘクトール氏」

 

 

 「いやあ、神代の時代、武器を作ったり、生み出される瞬間を見たりしていたせいで目利きは利く方ですからね。これほどの英傑が、何で海賊の配下になってまで求めているものがあるかと思っていたのでこちらの目で探らせていたのですよ。そうじゃなくても欲に素直な海賊との航海。油断はできませんでしたから」

 

 

 それを防がれますが、ティーチ氏の攻撃と私の攻撃でギリシャの大英雄。トロイア戦争のヘクトールが敵だと理解してすぐさま臨戦態勢にうつる皆さん。

 

 

 『兜輝くヘクトールとはね。まあ、おじさんそういう相手の機微を見抜いて利用したり潰したりするのが大得意だからね。しかもまあ、こっちは姿も見せずに好き放題見れる。華奈ちゃんの言う通り見ていればいつでも黒ひげを殺せるように構えていたじゃないの。ご丁寧にドレイク船長と黒ひげの船に爆弾まで仕掛けておいて』

 

 

 「いやあ。これは困った。船長一人ごまかすのも怪しかったのに、ちょっとであっただけで裏切る気満々なの見抜かれちゃっていた?」

 

 

 「ティーチ氏の合図あってこそですがね。さてと・・・エウリュアレ様にアステリオス様、ヘクトール様も来た。神代時代の英傑に住人。女神。何が来てもおかしくないですが・・・目標は何です?」

 

 

 「へいへい・・・降参降参。おじさんの負けですよ・・・それじゃあ、こっちの目標は・・・」

 

 

 降参しましたよと両手を上げて立ち上がるヘクトール。しかし、その後に起きるドレイク様、ティーチ氏の船の爆発。

 

 

 「なっ!?」

 

 

 「え? 拙者の船にまで!? しっかり部下に見せたはずなのに!」

 

 

 「紙切れサイズでも爆弾になる便利な魔術を使ってね。接舷の際に落として、波で船のお腹にくっつけば後はタイミングを見計らうという訳」

 

 

 「・・・ち。あの気配」

 

 

 これで船の、少なくてもドレイク様と私たちは足を使えない。で、余裕を持っていたのとこうもあっさり引くのはそれがいいということ。それと、逃げられる手段を持っているから。その手段も今来ているようで。

 

 

 「■■■■ー!!!」

 

 

 「ぁぐっ!?」

 

 

 「は? アステリオス!!? っ・・・なによ・・・これ!」

 

 

 突如後ろに現れた巌のような身体、とても人じゃあ振り回せないような大きな斧を振るうその何もかも恐ろしく、見る者の戦意を削ぐ。

 

 

 アステリオス様もすさまじい剛力の持ち主のはずなんですが、それさえも子供の用に吹き飛ばすパワーを見せつけ、エウリュアレ様に襲い掛かる人の形をした台風。

 

 

 「うおっと! わしらを舐めてはおらんかの? ・・・む? 効きはすごいはずじゃが・・・まるで止まらん!?」

 

 

 「いやいやいや!? 人ですかこれ!? 怪物というほうが正し・・・ぐぅっ! ノブ、早く華奈さんの所に! 私も数合打ち合えば手が馬鹿になります!」

 

 

 「うあぁあお! えうりゅあれに、手を出す、な・・・!」

 

 

 それを阻むために信長様が銃弾の雨あられを降らせ、致命傷を与えたはずですがそれも聞かないと言わんばかりに爆走。沖田様が切りかかることで再び食い止め、信長様がその間にエウリュアレ様を抱えて走りますがあの怪力の前では受け流し切れずに本当に数合で吹っ飛ばされる。

 

 

 しかしそのカバーにアステリオス様が砲弾を投げ、爆発したすきに斧を振るい一度押し返すことに成功。

 

 

 「ご苦労さん。ヘラクレス。任務は失敗したが、これ以上は望めない。とりあえず怒られはするが帰還するとしよう」

 

 

 「ぐっ・・・くそっ・・・今度は人の形をした怪物だあ? いや・・・ヘラクレスとくれば・・・あの・・・」

 

 

 「まさか、これほどの陣容を見せるとは・・・ヘクトールにヘラクレス・・・これを指揮する立場となれば・・・」

 

 

 「アキレウス・・・は無理でしょうね。因縁的に。ケイローン、イアソン、アスクレピオス・・・縁のある方で、聖杯を望むのならそちらでしょうけど、神様を欲しがるのは・・・? うーん? ギリシャって、どこも神様の被害受けているようなものですし」

 

 

 こちらがヘラクレスの繰り出す攻撃の余波、吹っ飛ぶドレイク様の部下を助けていればいつの間にやらティーチ氏から聖杯をかすめ取っていたヘクトール。ヘラクレスにもアステリオス様との戦闘をやめさせてそこに守るようにヘラクレスが来てしまい、更に斧を地面を削るように一閃。

 

 

 「うぉっと!? ぐ・・・! 本当に、半神とかいろいろ見てきましたがこの剛力はふざけすぎでしょう」

 

 

 「ぐへぁ! 拙者に石を押し付けやがって! 拙者のほっぺにくっつけていいのは美少女のちっぱ・・・ぶへぁ!?」

 

 

 そのせいであたりの砂粒はショットガン。石は砲弾となって飛んでくるのでこれを対処しているうちにティーチ氏の船につけていた小舟を使い二人は脱出。

 

 

 「くっそ・・・! アタシの船はどうだ!?」

 

 

 「駄目でさあ! どてっぱらに穴が開いていて修理しないと動けやせん! 修理用の資材はありますが、追いかけるのはとても・・・!」

 

 

 「僕らもダメだね。船長がのびちゃったせいで船が出せない」

 

 

 「かといって追跡が可能なのは・・・アルトリア様とストーム。それと私、銀嶺隊」

 

 

 あの二人だけでもやばいのに、更に未知数。というよりはおそらくギリシャの神代時代を生きたやべーやつらが待ち構えている中でこの人数で殴りこんでも大変ですし、追跡は無理。

 

 

 「駄目じゃな。わしの神性特攻も必要だろうし、戦う場所が船の上ともなればなおさら用意をしたい。聖杯は取られたが本命は無事。どうせぶつかるのなら用意してからじゃよ」

 

 

 「一度、備えつつですねえ。というか、ティーチ氏聖杯持っていたんですか」

 

 

 「いやあ、拙者幸運の男ですし? だからこうしていられますからね。デュフw で、まあ、これからどうするかだが」

 

 

 信長様の言葉がまさにその通りなので皆も追撃をという色気を出さずに終わり、私のつぶやきを拾いながらティーチ氏も復活。相変わらずのタフさです。

 

 

 そしてまあ、今後。ギリシャの英霊たちとのガチンコバトル。しかもまあ、オリオンとか、そこら辺も味方になったら怖すぎですしねえ・・・聖杯も欲しいですし・・・多分、ドレイク様のではなくあの聖杯がこの特異点の原因かもですから。確実に取り返したい。そのためには船足と戦力・・・よし

 

 

 「ドレイク様」

 

 

 「あん?」

 

 

 「ティーチ氏」

 

 

 「おう」

 

 

 「海賊同盟、組みませんか?」

 

 

 呉越同舟。敵の敵と手を組んで一緒にぶっ飛ばす。これがいいでしょう。問題は、ドレイク様をどう説得させるかですが、そこは商人。ローマ以外の大陸に、国、ブリテンやオークニーの交易で国家予算を稼ぎまくった銀嶺の手腕の見せ所です。




黒ひげ、サバフェスに参加していれば華奈との面識はありますよねえと。あのシャツの礼装。出ませんかね? 後彼と一緒にサバフェスを回るイベント来てほしいです。


平賀源内の戯作で「風流志道軒伝」というガリバー旅行記を下ネタ加工したような作品は本当にあったり。女性用の大人のおもちゃを作っていたりで、そこら辺も手広いお方。


紫式部の作品も読んでみると割とエロかったり色んな性癖の女性取り揃えたり。60代のおばちゃんを30ちょいのナイスミドルと20代になるかどうかのイケメンが取り合った話やロリコンもあるってのが。枕草子といい、平安時代も変わらない日本。歌でもいろいろ調べるとあれなものも多いです。



前田利家。側室もロリだったり、まつを12歳で妊娠させていたり仲良しな秀吉は男とのくんずほぐれつが無かったことで周りの皆さんから心配されていたりドン引きされていたりで黄金の趣味以外でも色々ぶっ飛んだ性癖で引かれている部分があるといろいろ仲良し。ねねとまつはともに才女で内助の功で夫を支えた部分もあるのでそこら辺も色々似ています。調べると面白すぎる人物。


次回、海賊同盟結成から。


それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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インスタント同盟結成

最近、下北沢が個人的に熱い。名作淫夢が多く出ているのが嬉しいです。



最近忙しさと仕事の大変さで筆が進まない・・・体力がない。悲しい。本当、更新を続ける皆様を見習ってもっと頑張れるようにしていきたいです。



 「同盟ですかぁ~? まあ、拙者は華奈先生ならいいですけど。BBAは大丈夫ですかねえ? 拙者にもヘクトール氏にも裏をかかれまくりのゆるゆる具合ですしぃ?」

 

 

 「うるさいねえここのひげは。顔ごと吹っ飛ばしてやろうか」

 

 

 「まーまー。落ち着いてくださいよ。同盟の話の是非が済む前に殺し合いとか簡便ですから」

 

 

 ヘクトールとまさかのヘラクレスの襲撃を凌いでひと段落となった私達。幸いなのは死者はいないこと。戦力をある程度計れたことでしょう。うちの衛生兵チームを呼んで治療して、大工組で船の資材をいったん引き出して修理に当たっています。

 

 

 後ろでまた赤と緑の喧嘩が始まっていますがちゃんと仕事はしているのでよし。

 

 

 「で、まあですけども。同盟なんですが簡単にいえば互いにメリットはあります。まずはティーチ氏は裏切り者のかつての乗船者を始末できれば、聖杯も奪い返せる。推しのエウリュアレ様を奪う輩を張り倒せるナイトにもなれます」

 

 

 「デュフフwwww 拙者が海のナイトですかな。それはまた面白そうでござる。女神のナイトなどかつての騎士たちにハンカチかませてやれるかもですなあwww」

 

 

 「あんたも狙っていたじゃないのよ!」

 

 

 そのセリフは私も含まれちゃうんですがそれは。一応騎士でしたし。そしてエウリュアレ様は相変わらずツッコミが鋭い。あ、ティーチ氏の迫真ウィンクでヴォエッ! ってなって逃げていった。うちの騎士に抱き着いていますけど、その騎士もガチレズですからアステリオス様のほうがいいですよ~

 

 

 「で、ドレイク様は言ってしまえばですが、海賊、冒険家としては面白いものになりますね」

 

 

 「ほーん?」

 

 

 「まあ、もう理解しているとは思いますが歴史の英霊たちさえも来ているこの状況でイリアスに名を刻む英雄ヘクトールに言わずと知れたヘラクレス。あの英雄たち、神話の海賊、冒険者のアルゴノーツのかつての船員をぶっ飛ばす絶好の機会。どうです?」

 

 

 「夢物語、あり得もしないことをできる大冒険ってわけだ。腕が鳴るねえ・・・! それに」

 

 

 やはりというか、商人でもありますが海賊、冒険好きのドレイク様は乗ってくれましたか。後はまあ、共通の目的。

 

 

 「アタシらに喧嘩を売ったうえに船員さらおうとした馬鹿は」

 

 

 「拙者の背後を狙い、エウリュアレ氏を狙った阿保は」

 

 

 「「ぶっ殺さなきゃ気が済まない」」

 

 

 舐められたら終わり、侮辱には鉛玉で返す海賊のお礼参りが出来ていない。そういう意味でも二人とも許すラインは越えていますからねえ。

 

 

 「そういう意味でも、私たちは力を合わせて共通の目的のために組むべきだと思いますよ。ついでに言えば、先にあの戦力を潰しておけばふたりの決着も水入らず。何なら私たちが余計な相手を入れないようにしますが」

 

 

 「そういうことなら尚更ありがたいですぞ。拙者はぜひとも頼みたいでござる」

 

 

 「あたしもだ。借りを返す確実な場を整えてくれるってんなら一時休戦。全部終えてからこのひげむしてやる」

 

 

 「では同盟結成ということで」

 

 

 盃3つに酒を注いで三人で同時にぐびりと飲んで同盟をするということで決まり、これで次に進めます。相手が相手ですし、手数、頭数と質を両立できるこの同盟張っておかないと勝算もないですからねえ。

 

 

 『うわー・・うわー・・・あのドレイクと黒ひげ、そして華奈の同盟とかえげつないの一言だよ・・・』

 

 

 「しかもほかのメンバーも英霊が多いという。でも、ヘラクレスにヘクトールですからね。どんな罠を敷いているのやら」

 

 

 まあ、アルトリア様の懸念ももっともです。私もですがあれ以上にアルゴノーツのメンバーがいるのかとか、ヘクトールたちが囮でオデュッセウスとか、ハンニバルとかいたらヘラクレスと自分を餌にするとか普通にするでしょうし。

 

 

 「まあ、こればかりは敵にぶつかるなり、当たるなりしてわかるしかないさ。で、目下の問題は・・・」

 

 

 「船の損傷だな。おーいマスター。やっぱきついみたいだぜドレイクの船。竜骨は幸いにして無事だが、船底まで一部吹き飛んでいて修理に時間がかかる」

 

 

 「やはりですか。リバースシューターでは無理ですか?」

 

 

 「あたしの船をよくもまあ・・・!」

 

 

 「できるが、これからの海と戦う相手を考えると心もとないし、俺の武装も一つ縛りになるぞ?」

 

 

 目下の問題は船の修理。やはりあの爆弾で大きくえぐれていた船体を見て素人目にも動かせないと思っていたのですが、こうなりましたか。しかもまあ、これからぶつかる相手を考えれば普通に修理してもすぐ壊れされるでしょうし、ポセイドンもいたというこの海自体も油断できないもの。

 

 

 となればまあ、取れる手段は限られるわけで。

 

 

 「チームを二つに分けて動きましょうか。ティーチ氏と私とストームで素材収集組。ドレイク様と藤丸様で船を護衛しつつ待機する組。これで行きましょう」

 

 

 『それしかないとは思うけど・・・大丈夫かい? 華奈。相手の格を考えるとむしろそうさせてからの狙うことも考えていそうだけど』

 

 

 「でしょうね。なのでまあ、ドレイク様達の方に多くの戦力と機動力を残します。素材収集は私とティーチ氏とストーム。それ以外はみなここに残します。私の場合は宝具で人数に困らず、ストームは特攻持ち。ティーチ氏は船を消したり出せたりするので一度島に着けば痕跡を消せますから」

 

 

 ストームなら神性、怪物、おおよそ人にもある程度は神話世代の住人なら特攻とあのめっちゃくちゃな武装、クラスチェンジで対応できるのと、私の場合は縮地で即離脱。ついでに銀嶺隊を呼べるので素材調達の際の人手にも、舟のこぎ手にも困らない。ティーチ氏は船がありますし、本人もかなりのタフネス。加えて頭もいい。ヘクトールとある程度行動している分、どう動くかの心得もドレイク様よりあるでしょう。

 

 

 「むぅ・・・あたしの船の事はあたしでしたいが・・・」

 

 

 「素材に関してはいいものを用意しますし、修理はそちらに一任しますから。餅は餅屋。調達は私たちに。加工は海の住人のあなた方に。お願いしますよ」

 

 

 「まあ、それもそうだね。なら任せたよ銀嶺隊隊長殿。かつての伝説のようにいろいろ揃えてきてくれよ?」

 

 

 「奴隷とか以外なら大概のものは集めましたからね~かしこまり」

 

 

 話も無事に終えたので素材集めのために行動開始。

 

 

 「素材集めならここら辺の海を回る際にワイバーンなども多くいる島があるのでそこに行くべきですなあ。ただ、素材加工。特にワイバーンなどの魔獣の加工は拙者たちはお手上げ。よろしく頼みますぞ~」

 

 

 「ここにも魔獣の気配はまだしますが、数をそろえるとなるとそれも必要ですしね。アルトリアさんにドレイク船長もいます。しっかりここは守ってみせます」

 

 

 マシュ様の嬉しい言葉をいただいて私たちはティーチ氏に船を出してもらい出航。念のために銀嶺隊の中でも防御、タフさに優れたメンバーを用意してからでしたし、まあ時間稼ぎにはなるでしょう、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「偵察からの報告だ。はっきり言ってここわ魔獣の宝庫。生物の乱交パーティー状態。物資補給には最適だぜ~敵はギリシャの超エロ英霊2騎確定。そのボスの思惑わ今の所聖杯と女神求めるマジ狂い。

 

 

 ヘクトールのせいでドレイクの船はユルケツで失神痙攣。船乗り共は全員落ち込み便器。ちょびっと修理程度じゃ航海で即腹筋ボコボコのマジ狂いだからここでの補充は必須。報告終わりッ!」

 

 

 「これもう分かんねぇでござる。タクヤ氏の言葉は相変わらず難解ですな」

 

 

 「まあ、ちゃんとやることを抑えた意見と偵察ですからありがたいですよ。ふぅむ・・・タクヤの目から見てもここの島は豊かなんですねえ・・・素材的な意味で」

 

 

 しばらくの航海を得て到着した島。遠目からでもワイバーンや獣が見えてはいましたが念のためにとうちの偵察兵兼私の部隊のベテランを斥候に出してみたら大当たり。

 

 

 私と一緒に30年以上戦線で暴れ続けた彼がそれほどに言うのであればここで大量に補給を用意して、ついでにワイバーンの鱗スープやいろいろ用意できそうですし。ほんと助かります。

 

 

 「それじゃあ、俺は狙撃でできる限り頭を狙えばいいんだな?」

 

 

 「ええ。爪や牙は釘に加工できますし、身体の皮は船のコーティングやより強く風をつかむための帆にも、船を支えるロープにもなります。骨に関しても甲板の骨組みや束にして油や皮で埋めてしまえばそれ以上もできます」

 

 

 「うーむ。拙者たち船乗りも生物はしっかりと使い切るところはとことん使いますがここまでやり切れるものなんですなあ」

 

 

 「いやー魔獣なのもありますよ? あの頑丈さと軽さなので小船に水運用の船を作ればそりゃあ早く動けたものでして」

 

 

 ただまあ、あのレベルの船の修理と工夫はうちの部隊にとっても未知数ですし、やはりここらへんは本職にお任せですね。幸い、うちの工兵部隊に今ティーチ氏の部下からいろいろ加工のノウハウを聞いていますし。

 

 

 「じゃあ、ひとまずノルマはワイバーン50頭、それ以外の魔獣、使えそうなものは随時集めてうちの工兵部隊に連絡を。ということで開始」

 

 

 「了解」

 

 

 「んん。かしこまり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はー・・・こんなもどかしい待ちは何時ぶりだろうかねえ・・・?」

 

 

 「ドレイク船長。お茶です。大丈夫ですよ。華奈さんたちは必ず大量の物資を抱えて戻ってくるはずですから」

 

 

 「そうだとは思うさ。アタシも問題ないと感じたからね。ただまあ、すぐにでもぶっ飛ばしに行けると思った分、尚更ね」

 

 

 木陰で横になり、海を眺めながらぼんやりと愚痴るドレイク船長にいつの間にか用意した紅茶を持ってきてほほ笑むマシュ。ドレイク船長も危険はないと感じているが、それでもなあという感じで紅茶をすすり、ふうと一息吐く。

 

 

 「海じゃあ皆が動いて、あがいていないとすぐに死ぬ。専門家もいるが、手伝いくらいはするからね。素材の完全委託はそれこそ船出くらいだったし、こうー・・・久しぶり過ぎてね? お。このお茶? いいね。美味しいよ」

 

 

 「う・・・よかっ、た」

 

 

 「このお茶、沸かすためにアステリオスさんが薪を集めてくれたんです。今は船員の治療とお風呂のためのものも用意してくれて、本当に大助かりです」

 

 

 「そのガタイとあの斧を使う分のパワーはあるってわけだ。あはは。ありがとよ。これでみんなも元気が出るさ」

 

 

 茶の味が気に入ったのと、らしくないと感じたのか苦笑しているドレイク船長。そこにのそりとアステリオスが入り込み、にこりとほほ笑む。まだ笑い慣れていないのか少し迫力があるものだったが。

 

 

 「あー! あー! もう! 信じられない! 目の前で脱いでくるなんて、きったないもの見せないでよね! アステリオス! 私にもお茶を頂戴。熱すぎてもダメよ。少しぬるめのやつ!」

 

 

 「エウリュアレ? まってね・・・?」

 

 

 「エウリュアレさん、お疲れ様です。・・・・・・・・ああ、なるほど」

 

 

 「男衆がみんな風呂場に来て、騒いだせいで天幕が倒れてさ・・・」

 

 

 更に入ってくるのは顔を赤らめて入ってくるエウリュアレとそれを宥めていた藤丸。怒っている姉をなだめるかのようにおどおどしながらもアステリオスはすぐにお茶のおかわりを取るために動き始めた。

 

 

 「ふー・・・人手が増えて楽になったね」

 

 

 「うふふ。銀嶺隊の皆様、優しい人ばかりで大助かりですわ」

 

 

 「なんだい。あんたらも来たか。見張り番するとか言っていなかったかい?」

 

 

 「ええ。確かにそうだったのですが、『同じ英霊みたいなものだし、こちらが先に見張りをする』ということで華奈さんの残した銀嶺隊の部隊長たちとアーサー王が今先に見張りをしているのです」

 

 

 「あの銀嶺隊。ボクも子供のころと軍隊の時代では良く聞かされていたけど、思った以上の変人具合とやさしさ、そして・・・強かったね。お土産ってことで即席のつまみも貰えたんだ。うちの馬鹿船長と華奈の帰りを待ちながら話さない?」

 

 

 さらにそこに入ってくるのはお酒を樽で抱えて持ってきたアン。小さな体で大皿を持ってくるメアリーの二人組。サーヴァントとしての力、船乗りの経験を活かしてヘラクレスやヘクトールの再度奇襲を防ぐための見張りを申し出た二人だが華奈の呼び出した銀嶺隊の100人将、250人将のメンバーから交代を頼まれ、その駄賃代わりにと渡された酒樽と即席で作ってくれた料理を持ってきた。

 

 

 好きな酒と銀嶺隊の料理となれば嬉しそうに体を起こしてまずは一つとエビの塩辛と冷えたエールを口に運ぶドレイク。

 

 

 「っかー・・・! うまい! んーそうだねえ。ここの魔獣も何やら頭にバケツ被ったような野郎と、何やら赤とか緑がどうとか言っていたやつらがとってきたし、でも、話すって何を話す」

 

 

 「あ、じゃあ私、ドレイク船長の冒険譚を聞きたいです!」

 

 

 「奇遇だねマシュ。私もそれを聞きたかったんだ」

 

 

 「偉大な航海者、嵐も太陽さえも討ち果たす船乗りのあこがれですもの。それに海賊としても同業者ですし、どうです? ここは一つ」

 

 

 「おれ、も聞きたい」

 

 

 「ふぅー・・・いいお茶。カルデアだとこれが毎日飲めるのかしら・・・お風呂もなにかあの変態軍団はいいものだと言っていたし・・・ん? ふーん。私を乗せてくれている船頭の話? ま、あのうるさい声を聴くよりはいいでしょう。アステリオス、そばに来なさい。護衛と、ちょうどいい椅子が欲しかったの」

 

 

 話はドレイクの航海記録を語るものとなり、興味津々のマシュ。偉大な先達の旅路を聞けると内心興奮気味のアンとメアリー。そして生まれて初めて外の世界を知ったアステリオス。いい暇つぶしにならとアステリオスの膝に座るエウリュアレ。

 

 

 『いいと思うよ? 華奈たちからの報告だけど本当にいい狩場を見つけたみたいで順調。もう少しで戻ってくるそうだし、そうなると今度はみんなで加工や力仕事だ。休んでおいたほうが一番』

 

 

 『銀嶺隊の皆が加工はするとはいえ、船の修理に関してはやっぱり皆にかかっているからね。此方も追跡しておくから気楽にしておきたまえ』

 

 

 『(一応録音はしっかりしておこ。藤丸君に迫るアンとメアリーの二人に知らずのうちに焼き持ちするマシュの様子とドレイク直々の当時の話なんて貴重だし)』

 

 

 「そうだねえ、それなら一つ軽く話すよ。いい酒とつまみ、茶のお礼代わりでも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅー・・・これくらいでいいでしょうかねえ」

 

 

 「ですぞー拙者の船はもうパンパンでごじゃる。これなら修理して資材も余ればちょっとした船を一隻は作れそうですなあ」

 

 

 「いやー・・・あれのせいで魔獣たちが一気に来たしなあ。取り過ぎたか?」

 

 

 魔獣狩りを開始してあれこれ時間が過ぎて私たちの目の前には大量の物資となったワイバーンやら色々。

 

 

 「まさか神風をしてくるワイバーンがいるとは思いませんでしたねえ。ストームと当たりの魔獣もろとも巻き込んでの大爆発。で、血煙が広がりすぎての大乱闘にもつれ込んで」

 

 

 「そのおかげでどんどん来てくれたので早く終わったのは楽でしたが、凄まじい光景だったのは確か。早いところ戻って風呂を入りつつエウリュアレ氏で癒されたいですぞ」

 

 

 「マスター以外全員血のりでべったりだしなあ。水で落しても、やっぱり風呂は欲しい・・・ん?」

 

 

 「どうかしましたか? ストー・・・あら」

 

 

 途中でアクシデントがあったとはいえ目標の資材は手にしたので早いところ持ち帰って解体。加工、その後に風呂でも入って血と汗と潮風でのべとべと感を洗い流したい。そう全員が考えていたのですがストームが感じ、私も気配を感じる。

 

 

 英霊。しかも、おそらくエウリュアレ様やアステリオス様のような神霊、それの気配が混じるもの。

 

 

 「ねーねーダーリンには負けるけど、いい腕しているし、面白そうだから行ってみない?」

 

 

 「確かにあの鎧の姉ちゃんはきれいだし是非ともお近づきに・・・いだだだ! 出る、中身が出る! ぐふぅ・・・で、でもあのヘルメットの兄ちゃんは俺たちの天敵の気配を感じるがやめたほうがよくないか?」

 

 

 「ダーリンは無敵の狩人だし大丈夫!」

 

 

 「このぬいぐるみ姿で無茶いうなー!!」

 

 

 上空でふわふわと浮いてる白く少し癖のある長髪と美しい美貌。弓を持ち、女性としてメリハリのある肢体が特徴。その女性が笑顔でメリメリと左右に引っ張っているクマのぬいぐるみ? と会話しながらこちらを見ている。

 

 

 傍から見ればイマジナリーフレンド化といいたくなる光景ですが、神霊の気配を感じるので、おそらくはそういうものなんだろうとみんな意識を切り替えつつ警戒態勢に。

 

 

 「えーと・・・お二人とも、一応、戦わないのであれば話は聞きますよ?」

 

 

 「あ。いいのー? じゃお邪魔しまーす!」

 

 

 「あっ、おいこら! だからあのヘルメット野郎はなんかやばいって・・・ああ、もう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅーん。で、連れてきたわけだ」

 

 

 「はーい! 女神アルテミスと」

 

 

 「ぬいぐるみだけどオリオンです。いやー・・・ひやひやしたね流石に」

 

 

 「いやいや。此方も手出しはしませんよ。戦わない限りは。しかし、ここで射手が来てくださるのは嬉しいですよ」

 

 

 あの後話した結果気に入られたらしく私たちについてきてくれることになった女神アルテミス様と神話の狩人の代名詞たるオリオン様。何でも色々あってオリオンについてきてセットで召喚された二人らしいのですがサブのはずのアルテミス様に力が多くいってしまい、メインのオリオン様はぬいぐるみ。力もない文字通りのマスコットに。

 

 

 その後フラフラと周りをふらついていたら私たちが暴れているところを見つけて興味を持ったそうな。

 

 

 「アタシは構わないよ。あのむかつくやつらをしばく人手が増えて嬉しいくらいだ。船も順調に修理できているからね」

 

 

 「先輩も今一緒に革から脂の切り取りやなめす作業をしていますし、ドレイク船長の船。「黄金の鹿」は確実にグレードアップしますよ!」

 

 

 「いやーもはや別物レベルだよこれ。大砲さえはじく守りに、水漏れの心配さえない防水、作りにロープも前よりも強い。火薬の一部も改良されて砲弾がよく飛ぶようになったし、うまい飯でみんな気合も入っている。これならいけるかもねえ」

 

 

 「ふふ。それは何よりです。頑張って船全体を革で包んだりできるくらい用意したり、木材同士の間に詰めたり、脂を加工して火薬の一つに練り込めるようにしたりと指示しておいてよかった」

 

 

 船の修理とグレードアップももうすぐ終了。うちの部隊を含めて急ぎでやっていますし、追跡を開始できそうです。

 

 

 「それで私たちもぜひともヘクトールにヘラクレスの討伐に入って欲しいんだっけ?」

 

 

 「どっちも聞いたことのあるビッグネームだなあー・・・まあ、俺はぜひともそこのマシュちゃん? とか女海賊の二人とか、奥で喧嘩しているあの黒髪と白髪の姉ちゃんとかそこら辺も紹介してくれればぜひさんせ・・・いだっだだだだ!!」

 

 

 「ぜひとも。そうですねえー・・・アルテミス様達には私達からの料理の奉納と、オリオン様のナンパを防いだり流したりしますので」

 

 

 「あの料理食べられるの!? しかもダーリンの浮気癖も対処してくれるなんて。いいよいいよ! 華奈ちゃんたちに協力しちゃう!」

 

 

 なんだかこのままでは夫婦漫才を見ながら終わりそうなのでとりあえず主導権を握っているアルテミス様に頭を下げて頼みます。アルテミス様達には到着の際に銀嶺の魔獣料理コースを振る舞って痛く気に入ってくれたので即快諾。

 

 

 オリオン様がしょんぼりしていますが申し訳ありません。神話の最強カップルのお二人の喧嘩がひどくなると流石にやばいのですよ。後、痴情のもつれでの大惨事はブリテンで見過ぎたのでしばらく御免です。

 

 

 「ふぅー・・・聖杯で補給していた魔力もこのご飯で補給できましたし、準備よし。それじゃあ、行きますか」

 

 

 「アタシの船はどうだ」

 

 

 「何時でも行けますぜ姉御!」

 

 

 「なら荷物詰め込んで出航! 敵の航路の方は!?」

 

 

 『聖杯の反応をマークして航路を割り出しているよ。そこから最短ルートを通って追いかけてもらう』

 

 

 「さすがですロマニ様。じゃ、お礼参りの時間ですね」

 

 

 そこからは急いで荷物を詰め込んで出航。船も直り、食材も戦力も増したメンバーで戦えるのでドレイク様の船員の皆様は大喜びですし、下がっていた士気も問題ないでしょう。

 

 

 後、アルテミス様にナンパしようとしていた船員をオリオン様が注意していたり、心配する一幕を見れたりでやっぱり惚れているんですね。と聞いてみたら『好きだし大切だけど常にあの重い愛をぶつけまくられるのは流石にきついのよ・・・こう、少し休暇をね?』とのこと。

 

 

 熟年ラブラブカップル。後、やはり人と神様のカップル故の弊害ですかねえ。アルテミス様には一度手編み物とか教えたりして自然とオリオン様が自由にできる時間を用意できるようにしたら良さそうですかねえ。神霊をカルデアに呼べるかは不明ですけど。




船の補強も済んでいよいよクライマックスに。早くなぁい? 

皆様コロナ騒ぎに年末と忙しい中、どうか無理をせずにお過ごしくだされば幸いです。


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(屑度合いは)110弱でしょうね。ええ

~カルデア~

孔明「・・・うーむ・・・この加工技術、そしてローマでの魔術兵装部隊・・・評価を変えなければいけないかもしれないな」

咲「あ、姐さんの部隊は用意さえできれば海軍以外はほぼほぼできちゃうしね」

フラム「ロケット鉛筆の発想で複数のパーツを組み込んで幾つもの術式を並行使用できる槍とか、普通考えないもの」

孔明「(ぜひとも私の中の孔明が本人と月英を交えて話してみたいと言っているな。あちらから見ても刺激をもらえるものだったか。しかし・・・)」

モリアーティ「船が強化されただけ。それだけではあの神話の頂点の一角には届かない。どうするのかね。マイガールは」

冬利「いつそっちの娘になったんだ?」

モリアーティ「マスターだしいいじゃないかね。それにま、一応個人的には・・・大学にいる初孫くらいの感覚だヨ」

ロマニ「随分と大人びた大学生だねえ。あ、嵐の中に入っていった・・・」

ダ・ヴィンチちゃん「うーん。相変わらず。まあ、どうにかなるでしょ」


 「いやー揺れますねー!」

 

 

 「わははは! 雨が痛い! ヘルメットが無ければそく・・じゃなくて顔中針でさされたようになってそうだ!」

 

 

 「言うてる場合か! 急いで波をつかむぞ! 大砲固定! 砲口にも栓! 使えんくなるぞ!」

 

 

 「ちょっ! 流石に病弱が治ったとはいえこの揺れは沖田さん・・・オボロロロロロロ!」

 

 

 ただいま海の上で発生した嵐の中を突っ切る形でヘクトールたちの持つ聖杯の反応を追跡中。最短ルートを走る際にまさかこうなるとは。いやはや、しょうがないとはいえキッツいですねえ。周りも大惨事ですし、信長様が指示を飛ばしつつ大砲や船の備品を落ちないように固定してる中、私たちもどうにかこうにかしている最中。

 

 

 「ついてきていますかな~? BBA共は。こっちの船とは違い、柔ですからな。たとえアンチエイジングしてもやはり下地はごまかせ・・・ううぉお!?」

 

 

 「軽口叩く暇あるならそっちこそ気をつけな! やろうども! 前よりも快調なこの船で遅れたら承知しないよ! 波をつかんで突っ走れ!」

 

 

 「「へい姉御ぉ!」」

 

 

 「きゃー! 揺れる揺れる!」

 

 

 「えうりゅあれ・・・! こっち・・・!」

 

 

 「エウリュアレさんとアステリオスさんは貨物室で休まれたほうが! っ・・・とと、先輩! 命綱です!」

 

 

 「ありがとう! これでだい・・おぶち!?」

 

 

 「先輩!? ってなん・・・!」

 

 

 ドレイク様とティーチ氏がいつものやり取りを交わし、後ろでメアリー様達がひらひらと手を振り、マシュ様達とアステリオス様たちがわたわたしていたら何かが藤丸様の顔面に直撃。

 

 

 ・・・魚?

 

 

 「マスター魚群が突っ込んでくるぞ」

 

 

 「何故!?」

 

 

「きゃー! 魚に襲われる~! ダーリン助けて~!」

 

 

 「その弓で撃ち落とせばいいだろーが! ぎゃあああ! 食われる! 魚に食われる!」

 

 

 魚群にでもあたりましたかねえ。いやはや数が・・・あぶなっ!

 

 

 「アルテミス様! 一緒に漁でもしましょう。たくさん魚を捕って、オリオン様にプレゼントするんですよ。ほら、クマは鮭とか、魚食べるでしょう?」

 

 

 「あっ。いいわねそれ! 華奈ちゃん流石―今度何かお礼しちゃうね♪」

 

 

 「じゃ、この箱に入れて、余った分は小さいものはリリース。開始!」

 

 

 魚のせいで私たちの足場が埋まるのは勘弁ですので私とアルテミス様で飛んでくる魚の対処に。私が鞘を抜かずに太刀で魚を叩いて箱に投げ飛ばし、アルテミス様は弓で打ち抜きつつの軌道修正。するりと流れるように箱に入っていきます。

 

 

 「なるほど・・・よし、今のうちに動くぞ。ドレイク。わしにいい考えがあるんじゃが」

 

 

 「奇遇だね。アタシもさ。お前ら! 帆を張れ! この風をつかんで荒波突っ切るよ!」

 

 

 「ならわしも波を見よう。なあに、日ノ本の早い川の流れや潮の流れを見てきたこともある。どうにかなる」

 

 

 その一方で信長様とドレイク様は嵐の中で帆を張っての強制ブーストに出るという作戦を敢行。これには一同驚きますがすぐにドレイク様の船員は笑い飛ばして指示に従う。

 

 

 「アイサー姉御! この帆と船なら耐えきれるでしょう! 急げ急げ! 魚に船を沈められる前に突破するぞおらぁ!」

 

 

 「デュフフフwwww滅茶苦茶ですが、これはこれで面白そうですなあ。野郎ども! こっちも帆を張れ! 船足で負ければ全員俺が処刑してやるからそのつもりでやれ!!」

 

 

 これに呼応してティーチ氏も帆を張って爆走を開始。波の上を帆船がジャンプしまくっていくというめっちゃくちゃな光景が繰り広げられる始末。

 

 

 「おわっととと! よしよし・・・両真様、冬利様! この航路でヘクトールは追えそうですか!?」

 

 

 『問題ないです船坂さん。ただ・・・』

 

 

 『こっちから見たらそれなりのサイズの船が何度もぴょんぴょん飛んでいる光景がいろいろ心臓に悪いから早いところ抜けてくれねえか?』

 

 

 「慣れると楽しいですよ。テーマパークのアトラクションみたいで!」

 

 

 「バイクで滅茶苦茶に戦場を駆け回った時を思い出す! うおっ!? いよいよモンスターまで飛んで来たぞ!」

 

 

 「だーいじょうぶ! うち落としてあげるから!」

 

 

 なんだかこの時間も楽しめるので笑っていたら魚に混じっていろいろ悪霊とかクラゲの怪物みたいなものとか、いろいろ飛んで来たのでこれはばっさり切り捨て御免。アルテミス様も見事な腕で船に乗る前に堕としてくれるので助かりますし、信長様と沖田様も横について対処できているのがありがたい。

 

 

 ドタバタと終始騒がしく雨風に負けないほどに声を上げてドレイク様の悲鳴と私達の喧騒を響かせながらどうにかこうにかこの嵐を抜けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅー・・・干し魚にして・・・と・・・イカとエビは塩辛にして・・・あー・・・面白かった」

 

 

 「アタシの船は漁船じゃないんだよ? とはいえ、干物の塩焼きはおいしかったし・・・ま、いいか」

 

 

 「ぶへー・・・びしょびしょじゃあ・・・着替え・・・はないか」

 

 

 「「おぇえー・・・・」」

 

 

 嵐を抜け、手にできた魚介類を処理して食べられるようにしていたらドレイク様の船がなんだか漁船のような光景になりつつひとまず船の点検と調整。

 

 

 沖田様と藤丸様はまた魚の餌を海にまいていますが、あとで薬を渡すので落ち着くでしょう。

 

 

 で、この無茶苦茶な航海をした成果は確かにありました。

 

 

 『あー・・・華奈? ヘクトールの聖杯の魔力をたどって、今はもう少し先の場所で停滞している。その場所にいる英霊の反応を見て、悪い報告がある』

 

 

 一つは敵の拠点らしき場所まで射程圏内に捕らえたこと。まあ、ロマニ様の声色からして悪い報告もありそうですが。

 

 

 『敵の英霊の反応に、ヘクトール、ヘラクレス。そして、あと二騎。セイバーとキャスターの反応がある。それが・・・・うぐぉ!?』

 

 

 『まどろっこしいわ! 華奈。面倒だから言うし、感じているだろうから言うわよ! 敵の首魁はイアソン! セイバーよ。キャスターは白い私・・・幼いころの私よ! あの下種に従順な頃の白歴史の私がいるのぉお!!! グァアアアアア!!! 最悪よ! アルゴノーツが半ばで来ているじゃないのよぉお!!』

 

 

 「あらー・・・やっぱり」

 

 

 「うへぇー・・・世界最古の海賊集団。ギリシャの英雄の多くが乗ったあの・・・つまり、なんとなく感じていたあの気配は『アルゴー号』か・・・まずいぞこりゃ」

 

 

 『何やってんのあの馬鹿! ここまで愚かになり果てるとか脳みそ欲望で腐ったんじゃないの!! 私を出しなさい華奈! 今すぐあの白歴史に引導を渡す!!!』

 

 

 オリオン様と私が感じていた気配はドンピシャ。本当にあの最悪の連中がそろっていると。幸いなのは頭数が少ないのと、メディア様が好戦的なのでしょうか。短時間とはいえあの魔術を使えるのはありがたい。

 

 

 「わかりましたわかりました。ぶっちゃけ、私も呼ぼうと思っていたので落ち着いてください。後で魚の煮つけと、スイーツを振る舞いますし。で、ロマニ様。もう一つの報告は?」

 

 

 『うぅ・・・もう一つの報告は、ここから少し離れた場所にある小島。そこに英霊の反応が二騎。恐らくはぐれサーヴァントだと思う。で、その中の反応が以前フランスで仲間になってくれたアタランテがいるんだ』

 

 

 ふぅむ・・・アルゴノーツの一員であったはずのアタランテ様がいて、でもアルゴー号にはいない。で、もう一つの英霊の存在。不思議な部分はありますが、今のイアソンの行動はメディア様がブちぎれな行動らしいですし、フランスで話した限りだとあちらもイアソンを見限ったというか、聖杯と女神を求めるのは反対しているのでしょうか?

 

 

 『普通ならアルゴノーツの一員だから敵対もあり得るけど、それならアーチャーとキャスターの合わせ技で索敵範囲を広げてもっと早く襲撃されたり、ヘラクレスで迎撃していると思う。華奈はフランスでのこともあるし、どうだろう? 一度会ってみたら』

 

 

 「んー・・・もう一騎の存在が気になりますが・・・分かりました。アルトリア様、信長様、私、ストームで行きます。ドレイク様。小型のボートを一つかしてください」

 

 

 「分かった・・・が。無理はしないでおくれよ? あのアルゴノーツを吹っ飛ばす最高の戦いの前にあんたがいなくなるのはもったいない」

 

 

 「うふふ。ありがとうございます。では、行ってきますよ」

 

 

 小型のボートに皆で乗り込んで、アルトリア様の鎧のブースターで加速。私の宝具の気配遮断を使える指輪を用いてみんなをステルス状態にして小島にレッツラゴー。全員何らかの逃走手段を持っているのとアルゴノーツ。古き時代の英傑に特攻を使える信長様とストームがいればとりあえずは痛手も狙えるでしょうから安心です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おお。アビシャグ、アビシャグじゃ・・・いや、申し訳ない。人違いだったね。だからその武器を収めてくれないか」

 

 

 「本当のアビシャグ様に失礼だとは思わないのですか? 臣下すらもそう扱うとは器が知れますねえ」

 

 

 「強いではあるが、相手はしたくない手合いだなあ」

 

 

 「・・・いきなり支えてくれた女性扱いにして抱き着こうとしたりするなど、下種ですねえ・・・姉上。吹っ飛ばしても?」

 

 

 「あー・・・まあ、私も賛成だが、そこは抑えてくれ。華奈たち」

 

 

 「なんじゃ、サル以下の女に飢えた阿保をかばうなど、何を持っておるんじゃこやつ?」

 

 

 島に上陸し、気配を少しだけ出してみればアタランテ様が迎えてくれて、私を見て安堵。その直後に来た薄黄緑色の髪と優しい風貌。さわやか系イケメンと言えばいいのでしょうかな男がきて、私たちを見るや否やアビシャグだとかなんとか言って言い寄ってきたのですぐさま包囲をして剣と銃口を突き付けいつでも殺せるようにしていたらアタランテ様がストップをかけています。

 

 

 しかし・・・アビシャグ・・・ダビデ王ですか・・・大物すぎますって。同時に、なるほど知っている逸話を起こしてもおかしくない空気を良くも悪くもまとっている。信長様も感じているからこそ、すぐに疑問を持っているのでしょうけど。

 

 

 「申し訳ない。本当に申し訳ない。ちゃんと話すから・・・実は。此方もヘラクレスたちに狙われていてね」

 

 

 「イアソンのやつが何を血迷ったかこいつの持っている宝具・・・アーク。『契約の箱』を狙っていてな。その性質と、あいつがいつもの調子に乗った際にべらべらしゃべったのを聞いて流石に看過できなくてまことに遺憾だがこいつをかばいつつ逃げていたわけだ」

 

 

 むぅ・・・アーク・・・・・・ええー・・・確かかの方の十戒の石板が入ったもので、それ以外にも蝗害、疫病をもたらす杖などが入ったトンデモボックスですよね。

 

 

 これも狙っているとは・・・

 

 

 「実はですね。此方もヘラクレスに遭遇しまして。これをつけてから話しましょう」

 

 

 

 

 

 「という訳なんですよ」

 

 

 「聖杯、女神、そしてアーク・・・この三つをもって無敵だの神になると言っていたのかアイツは」

 

 

 「まずいね。それはまずい。あのアークに神霊なんて捧げたら世界が滅びるよ」

 

 

 「なんでじゃ?」

 

 

 「あの箱は触れたものの魔力をすべて奪い取って消滅させるもので、更には神に連なるものを生贄にささげてしまった日には暴走してあたり一帯を崩壊させる。で、この脆い特異点で、更には神が世界の法則であったこの場所でそれをした日にはここは即崩壊。神様を贄にして殺せば世界も道連れってわけ」

 

 

 つまりはまあ・・・聖杯も確保できずにこの特異点は終わり、修復もできず、敵を追うための手がかりも消えちゃうと・・・面倒すぎるこの状況に私たちは呆れ同時にイアソンの盲目具合に嘆息する。

 

 

 「神が世界から離れていった時代を生きた私ですが・・・さすがにその危険さ、リスクは分かりますよ。神との距離が近い時代の人間が、危なさを知っている人間が何でこんな暴挙に・・・?」

 

 

 「あいつは・・・まあ、栄光とか、名誉とかに目がくらむと後先考えないからな・・・それと、入れ知恵したであろうやつもそこら辺を理解しつつ吹き込んだのだろうよ」

 

 

 「つまりはまあ、人参ぶら下げられた馬も同然。しかもメディアとヘラクレスとヘクトールがいて有頂天状態」

 

 

 「さすがに一歩考えないのは駄目じゃろ。くそつよ言うこと聞いちゃうバーサーカーにヘラヘラ真意を語らん昼行燈、で、さっきのメディアの話を聞けばイアソンの都合のいいことしか言わない、振る舞わない白歴史のメディアがいる・・・あーだめじゃな。止める、諫言をぶつけるやつがおらん」

 

 

 つまりまとめるとこの一行世界を滅ぼす馬鹿行動を止めるやつがいなければトップがもう栄光むけてネコまっしぐら。その際のリスクも何もかもが映っていないという。

 

 

 多分、自分が無敵、神になれば全部うまくいく、栄光を手にして思い描いた絵空事をしようと躍起。止めないとですねえ。

 

 

 「それでなんだが、一緒に協力してヘラクレスを倒したい。僕としてはこのアークを使って、ヘラクレスを消滅させたいのだけど。そちらの女神で引き寄せつつね」

 

 

 「あいつはおそらくだが・・・複数の命を持っている。一つ殺すだけでも至難の業。それを幾つもとなる上にあいつらを相手は無謀。私もそれを考えていた。どうだろうか? 華奈」

 

 

 お二人の考えはどうせヘラクレスが追ってくるのならこちらに同行しているエウリュアレ様を餌に尚更つり出したところでアークをお見舞いするぞして最高戦力を消滅させようぜな作戦。確かに十二の試練。命のストックを11も持っているのでそれは厄介ですが・・・

 

 

 「私は却下です。神霊を、英霊として呼べるほどの格落ちした神でもこれほどの暴走を起こすのならあのヘラクレスを・・・しかも、どの側面であれあの幾つもの試練で手にした武具や道具をも一緒にアークに触れさせた場合、何が起こるかわかりませんし、何より・・・」

 

 

 「何より?」

 

 

 「ぶっちゃけ、身内でも裏切り当たり前、神様のアクシデント乱発で戦争さえも起きたあのギリシャ神話の騒ぎ。で、更にはメディア様とのあの騒ぎを起こしたイアソンでしょう? イアソンはヘラクレスを最高の友としているのでそれはしないでしょうけど、周りがイアソンの目的のためにいざとなればヘラクレスとその武具諸共贄にしてしまいそうなのが・・・・・

 

 

 世界最高最強レベルのの半神をストック含めれば12人分ですよ? 神霊の代りは出来そうじゃないです?」

 

 

 私の意見を出せば皆様あー・・・という空気になってしまう。でも、本当にやばいですからね・・・金のリンゴとか、色々持っている分、どのクラスでもそれらの道具を持っていたりしてしまえばほんとアウト。

 

 

 「ううむ・・・そうなると・・・真正面からというのも無理。魔力に関しても聖杯があるから尽きない。更にはメディアという癒し手がいれば、更にはイアソンのやつ、頭は切れるし、操舵技術も最高レベル。アクシデントもヘクトールがカバーする。八方ふさがりではないか・・・・」

 

 

 「わしの弾丸も対処されていきそうだしのお。アルトリア先輩のエクスカリバーでも、殺し切れるか」

 

 

 「姉上の因果断裂ではどうです? 魔力のラインをぶった切るんです」

 

 

 「それさえも対処しきれそうなのが・・・まあ、一応ですがね。私に考えがあります。アークの使用は最後まで控えましょう?」

 

 

 「爆発するのか華奈先輩?」

 

 

 皆さん火力で吹っ飛ばす考えになりましたが、それを使う前に前々から考えていた作戦を話すことに。信長様。その発言は割と魔術兵装試験でよく爆発したり騒ぎ起きていた銀嶺隊の隊長である私には割とシャレにならないというか。

 

 

 「まあ、色々皆さんの力が必要なのが確かです。えーと・・・ごにょごにょ・・・・・・・・」

 

 

 「ほうほう・・・あははははは!! こいつはいいな!」

 

 

 ストームの同意からみんなもまずはこれで行こうと話が決まったのでダビデとアタランテ様には一度イアソンたちにばれてもらうように細工をしてもらい、護衛にアルトリア様と信長様を残すことに。で、私とストームはまたドレイク様達の船に戻り、作戦を伝えることにしました。

 

 

 この作戦はまずはアークとそれを守る存在がイアソンにばれること、そこに戦力を、ヘラクレスを裂いてもらうことが肝。うまくいけるように頑張りませんと。




華奈「ただいま戻りましたー色々皆様に報告を」

~しばらくして~


ドレイク「・・・いいね。なら、アタシらは思いきりぶち込んでやるだけか」

黒ひげ「楽な仕事ですなーまあ、そのほうがいいですが。此方をコケにした連中の悔し顔を存分に拝めますぞwww」

エウリュアレ「なら、私があのヘクトールを射抜きましょうか。攫おうとした分のお返しはもちろんしないとだし」

メディア『責任重大ね。ま、白歴史には負けるわけにはいかないわ』

沖田「吹っ飛ばされた分のお返しはしっかりしますよ!」

華奈「では、行きましょうか。面倒な相手はサクッと始末するに限ります」






ダビデ、屑なんですが同時に色ごとでのミス以外では特に国の損失無くソロモン王に譲ったあたりそこら辺も結果オーライなのがまた。あと、羊飼とか肉屋は結構金持ちなのでそこが出自、成り上がる人が多いのも名士、金があるゆえのコネから王の耳に名前が届くケースが多いのでしょうねえ。


項羽たちが暴れた楚漢戦争で項羽と劉邦の一時主だった懐王も羊飼いでしたし。


華奈は生前から割と王様しばいたり諫言する機会が多いのでダビデからしても天敵気味かもです。


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ヘラクレス簡単クッキング。はいよーいスタート

~船上~

メディア「よっしゃ来たわ! さあ華奈。作戦を教えなさい!!」

華奈「元様目を回していますよ・・・まあ、そうですね。ではまずすることですが、この部隊と魔術兵装を用いて・・・」

メディア「ふむふむ・・・で・・・あ・・ー・・・というかね。あの阿保と白歴史しばいた後にそちらの魔術兵装見せてくれないかしら? 発想が面白いし、軍用と民間用で分けられている視点が私達にはないものだわ」

華奈「いいですよ? 作り方もうちの工兵隊長を回しましょう」

ドレイク「敵の方もこっちの存在に気付いたようだね」

黒ひげ「好都合ですぞ。砲撃用意。何時でもぶち込めますなあ」

マシュ「あの、華奈さん・・・私たちはどうすれば?」

華奈「待機。私達が合図をするのでその際にイアソンたちをしばきに行ってください」




 「はははは! 聖杯求めてのこのこここまで近寄ってくれるとはやはり俺は今度こそ天を味方にしたようだ。船の上での戦いなんてなれたものだ。ヘクトール。俺が船を動かす。その飛ぶ槍で敵の足を壊してしまえ、その後はヘラクレスの投擲でぼろ船の一つ二つ楽に壊せる」

 

 

 「あいあい」

 

 

 「そしてメディア。頭数はあるやつらだ。万が一に備えて結界を。とはいえ、すでに仕込んでいたか」

 

 

 「ええ。もちろんですわイアソン様。長く私たちの旅を支えたアルゴー号。相性もいいですし、最高のものを用意できています」

 

 

 船上で私くらいでしょうが聞こえるやり取り。指輪で聴力を強化していますが、なるほどあちらも無策ではないですし、ヘラクレスが最大戦力である分動かすことへのリスク管理もあると。

 

 

 ですがまあ、同時にヘラクレスを動かせばどうにかなる。という感じがひしひしとしますし、相当な信頼、同時に神話でのあの暴れっぷりを生で見ればそうなるかもですねえという感想が素直なものです。

 

 

 まあ、私達はそれを利用させてもらいますけど。

 

 

 「よーいしょ・・・・・もうすぐで着くよマスター」

 

 

 「ん。ありがとうございます。って早速来ますねえ」

 

 

 「・・・しんぱい・・」

 

 

 ストームには一度うちの部隊に武装を渡しておき、ダビデ様のいる岸に着いたところでフェンサーにクラスチェンジ。一緒にアステリオス様とエウリュアレ様も来てもらいましたが、どうにもそわそわして落ち着かない模様。

 

 

 「ヘラクレスが気になります?」

 

 

 「・・・うん・・・ヘラクレス。かなり、つよい」

 

 

 「当然よ。あれが狂って襲うとかオリュンポスの大神たちでも驚くかもなことよ?」

 

 

 「だなー神話の最強レベルの一つだし。だからこそ、ここで俺たちが引き寄せなきゃいけない。確実に勝つために、みんなで笑うために」

 

 

 「! うん・・・!」

 

 

 ストームが背中をポンポンと叩きながらアステリオス様に微笑むと(フェンサーの武装のせいで表情見えないですけど)アステリオス様も笑顔で返して斧を握りしめる。エウリュアレ様は「これだから英雄ってのは・・・」と半ばあきれていますけど。

 

 

 「■■■■!!!」

 

 

 「来ましたか。では、まずは逃げましょうか。ストーム。殿を」

 

 

 「おう。引きながらの槍での反撃はお家芸だ」

 

 

 「アステリオス様とエウリュアレ様は先に移動を。アルトリア様とアタランテ様が待っています」

 

 

 「わかった!」

 

 

 「私をわざわざ引き出したんだもの、勝って来なさいよ! 華奈! ストーム1!」

 

 

 そうこうしていたらヘラクレスがこんにちは。敵の方もアークと女神をここに連れ出す意図を感じたか、つられたか。

 

 

 援護らしいものや魔術支援は筋力強化と敏捷性の気配を見られますし、シンプルにヘラクレスを強くしているものばかり。ただ、ストームもそれを想定してのグレートシールドと最高のスピアを用意しているので反撃しつつ距離を取れている。

 

 

 「ああくっそ・・・! エルギヌスの突進を想起するレベルの一撃って何だこれ! 神話の住人は滅茶苦茶か!」

 

 

 「■■■■■!!!」

 

 

 「大体そんなものですよ! 私も支援しますからゆっくり下がりましょう」

 

 

 私も斬撃を飛ばしてヘラクレスの視界や足場を奪いつつ撤退を開始。さてさて、どうなるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほう・・・アタランテとアーク・・・ダビデとやらにアステリオスと女神が合流。更には側にセイバー、アーチャーと思える英霊がいる・・・か」

 

 

 「加えて、現在はヘラクレス様の攻撃を凌いでいるのはランサーと思われる全身黒鎧の男。もう一騎セイバーらしき女性が殿を務めているようです」

 

 

 まだ少女のころのメディアの報告を聞いてふむ・・・とあごに手を当て思考を巡らせるイアソン。宝具と思わしき船と、何やら魔獣種の素材を用いて強化された船。この二隻を使わずに英霊をほぼほぼ半分に割り振っての移動。加えて、そこにアタランテいることを踏まえて

思考を巡らす。

 

 

 「・・・おおよそだが、俊足のアタランテにセイバーとアーチャーにアークと女神を運ばせつつ護衛。アステリオスは今ヘラクレスの相手をしている二騎が倒れた際に迷宮でも生み出すのだろうさ。

 

 どこかで俺たちの情報を手にして船足の勝負ではアルゴー号に勝てないと踏んだゆえのアタランテの足を活かしてどこかに雲隠れする腹積もりだろう。わざわざ船を見せているのは俺たちとぶつかってこれも逃げるための時間稼ぎか・・・」

 

 

 「ええ! 私もそう思いますわ。流石イアソン様です」

 

 

 「はっはっは! そうだとも。それに、何重に足止めをしようがヘラクレスを殺せるものか! たとえ殺せようともそれに耐性をつけてよみがえる英雄! 最強の益荒男!! 迷宮だろうが幾百の英霊が来ようともすべてなぎ倒すさ」

 

 

 「まー実際、更に強化されて盤石を期しているとは思いますがね。此方が倒れては元も子もない。此方はどう動くんで?」

 

 

 英霊数騎にわたる護衛と速度に秀でた英霊が守り、迷宮を生み出す英霊がいることを聞いても何一つヘラクレスの勝利を疑わないイアソン。目の前でいくつもの勝利と、その強さを見てきた故の絶対の自信と、自分の勝利を疑わない驕り。

 

 

 しかしそれも仕方のないこと。失敗したとはいえ聖杯は確保し、アークも補足。そこに女神までわざわざついてきているというのだ。取り逃がした魚が自ら赴いてきた。これに自身の勝利の運命を疑わない程イアソンという男は一度目がくらめば周りが見えなくなり、同時にそれを支えるメンバーも強く諫言をするものがいない。

 

 

 「ふん・・・アルゴー号の結界で対処しつつ俺たちは一度待機。何だったら接舷している場所も使っての守りだ。ヘラクレスは無敵だ。とはいえ、あの不意打ちを見た以上警戒されているのは明白。俺たちがあの船の雑魚どもを連れてしまい逃がすための肉壁を増やせばまた逃がすかもしれない」

 

 

 「なら、おじさんは守りの一人だねえ」

 

 

 「当たり前だ。さっきのへまの分しっかり俺を守れ。とはいえ、まあ攻撃の程は知れているだろうがな」

 

 

 神代の時代の荒波を乗り越えたアルゴー号、そして自分に都合のいい時代のメディア。更には防衛の名手のヘクトールがいる。敵の攻撃なんて大したことはないだろう。そう高をくくった数十秒後。イアソンたちの目の前には大量の鉄の嵐と、神代の魔術弾の雨あられ。そしてその神代の魔術を軍用転用したものに面食らう羽目となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「撃て! 敵の船粉みじんにするくらいに打ち込んでやりなあ!!」

 

 

 「船舶レ〇プはたまりませんぞ~ほらほら動かないで動かないで」

 

 

 「あぁあああ!! アルゴー号! 私の白歴史もろとも消し飛びなさいよ!」

 

 

 「うーん・・・周りの気迫がすごいことになっているわね・・・コンパウンドボウ部隊用意・・・放て! 私も・・・!」

 

 

 ところ変わって海賊同盟組。メディア、アンナ、銀嶺隊の弓兵部隊を交えた砲撃はすさまじいものとなり鉄の砲弾に魔術、赤雷、ストーム1の武装をエミヤにコピーしたもの、更には魔術兵装の装備が一つの船に飛ぶ。

 

 

 ちょっとした艦隊ならすぐさま海の藻屑に変えるほどの攻撃が飛び込んでいるすさまじい光景を見せていた。

 

 

 『これを耐え凌ぐアルゴー号、そしてメディアさんの若いころからの才能ぶりがわかるね・・・』

 

 

 「これは・・・私の盾でも防げるかどうか」

 

 

 「流石神話の船。対策もばっちりしているというわけだ。で・・・華奈ちゃんからの合図はまだか?」

 

 

 「まだよダーリン。何でも敵が驚いて、こっちに意識を向けてリソースを裂いたところで使うんだって」

 

 

 「マジックジャマ―・・・敵の結界や通信を遮断するための術式が盛り込まれた弓矢。うーん。ほんとあの時代の最先端を行っているんだね」

 

 

 そして、そこにあとで投入する魔術兵装の一つ。マーリンのような魔術師、結界などを用いて守りに入る城や敵陣を崩すために用意した専用の弓矢を見てつぶやく。

 

 

 「アタシらの船にも色々改造してもらいたいぐらいだねえ。そらそら! どんどん打ち込め! 船は守れても動かせやしないだろう!? うちらのジョーカーがあのトンデモ英雄を吹っ飛ばすまではりつけだ!」

 

 

 「人の軍、魔獣の群れ、それさえも統率してきた王の軍、巨人族にオーガの軍。あの島のすべての脅威とぶつかってきたと言っても過言じゃない銀嶺隊。武装はそれこそたくさんあるし、作れるわ。第二・・・マジックジャマ―用意! 華奈たちが動いたわ!」

 

 

 アンナの声を皮切りにコンパウンドボウ、幾つもの銃口、大砲に相手の結界、通信遮断モロモロを詰め込んだ魔術師殺しの武装がこめられ、神代の魔術師でも守りに意識を完全に向けるように仕向けていく。

 

 

 「マシュ、坊や。今のうちに接近するわよ。それとアルテミス様も。ささ、早く乗って乗って」

 

 

 「メディア殿たちのレベルではあのマジックジャマ―の数でも数分くらいしか凌げませんからね。いや・・・数十秒か? まあ、その間にメディア殿の更なる妨害魔術結界を張ってくれれば、うちの大将の渋い策が決まるぜ・・・」

 

 

 「その後に俺たちは切込みを仕掛けて、ヘクトールを足止め」

 

 

 「防衛線に長けた相手を逆に相手取って守り、アルテミスに近づけず、同時に敵の札を一つ潰す。ねえ・・・華奈ちゃん。相当狩り、戦慣れしているなありゃ・・・」

 

 

 「ダーリンが認めるくらいの狩人、軍人ねー・・・あたしの加護、あげちゃおっか?」

 

 

 「本人の許可とろうな?」

 

 

 その間に小舟の船頭を務めるテニールの声でこっそりと降りていくマシュ、藤丸、メディア、オリオン、アルテミス。メディアは話しつつも既に結界を張るための術式を練り上げ始め、テニールも敵の視界に入らないようにと巧みに船を動かして接近。

 

 

 「よし・・・出来たわ・・・行くわよ」

 

 

 術式を練り上げたメディアの結界が薄くアルゴー号を覆う若きメディアの結界よりさらに上に覆う。

 

 

 練り上げた術式は銀嶺隊のマジックジャマ―とは違い、内部からの魔術を結界内の外部に漏らさないようにしたもの。なので船を守る結界自体は維持もできる。だが、同時にヘラクレスの支援は一切できない。

 

 

 これに気づければイアソンたちも策を練れたが鉄の嵐と爆風と爆音。近現代の火器と古代の魔術の暴力にイアソンは混乱し、船もまともに動かせない。船の守りの綱である若いメディアはマジックジャマ―とさらに腕を上げ経験を積んだカルデアのメディアの結界の対処に手一杯になり、気を抜けば鉄の嵐が船を蹂躙される。

 

 

 ヘクトールは奥の手にしては若いメディア一人でどうにかこうにかなっているこの現状と外の情報が入らないことで思案を巡らせる。動きが止まり誰もが虚の時間を作った。そのわずかな時間を生み出した状況はもう一つの場所で大きな戦果を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐぉおお・・・・! うっしゃあ!」

 

 

 「ぐっふ・・・もお。受け流すのだって痺れるのに・・・っ!」

 

 

 「■■■■■!!! ■■■!」

 

 

 「加勢します姉上! ストーム1!」

 

 

 私の合図を見てくれた海賊同盟&カルデア組が砲撃を強めてくれたのを見て、私たちも急いでフィニッシュとしゃれこもうとしているのですが、本当にこの防風を足止めするのは骨が折れます。

 

 

 ストームもスラスター、ブースター全開でぶつかっていってからの至近距離でのキャノンショット、ガリアなどの重砲撃で吹っ飛ばしたり、私も受け流していますが体ごと吹き飛ばされてちょっと口の中を切りましたし、ストームのグレートシールド・・・隕石や大質量の攻撃さえも受け止めるストームの盾さえも少し疲労が見える。

 

 

 幸いなのは合図を見てみんなが動いてくれること。ここで一つ。フィニッシュを決めるべきでしょうかね。正直、この人間台風、いや竜巻? を何度も相手しては腕が馬鹿になって帰ってからの楽しみもなくなっちゃいます。

 

 

 「じゃあ、決めますよ・・・!」

 

 

 「風王鉄槌!」

 

 

 まずはヘラクレスが攻撃するタイミングでアルトリア様がヘラクレスの足場を風王鉄槌で吹っ飛ばしてぐらつかせる。

 

 

 「っ・・・狐火灯籠・・・!!」

 

 

 それでもヘラクレスの振るう特大の石剣はすさまじい威力を秘めている。これを受け流すために私がその剣の軌道の前に出て体ごと使った受け流し技を披露・・・数合ならしていないと本当きついですね。

 

 

 「もういっ・・・ちょぉお!!」

 

 

 「三段突き!!」

 

 

 「■■■■!!!?」

 

 

 そうやって逸らした剣閃をストームが更に身体と盾ごとぶつかっての軌道をいなし、力を幾重にも逸らし、怪物の一撃が緩んだその刀身に叩き込まれる魔剣の絶技。沖田様の宝具が大きく泳いだ岩剣を腕ごと吹き飛ばす。

 

 

 これでもなお自身の筋力で無理やりに開いた腕を引き戻して再度振るおうとするヘラクレスの腕に突き刺さる鉛玉と弓矢。

 

 

 「ふん。わしの弾丸ならこやつの守り、神秘だろうと撃ち抜けるってものじゃ」

 

 

 「しかし、まだ空いている手が・・・!」

 

 

 信長様とアタランテ様の連撃がヘラクレスの剣を持つ手を打ち抜き、更に手を動かせなくする。とはいえ、まだ片手は空いているのと、相手は軍さえも退治できなかった怪物を絞め殺すことさえできた英傑の極みの一人にして最早怪獣と差し支えないパワーの持ち主。まだ残っている手を握りしめてパンチを放とうとするのですが。

 

 

 「うがぁあああああああ!!」

 

 

 同じランク、もしくはそれ以上の怪力を誇るアステリオス様が切りかかってヘラクレスの身体を袈裟懸けに切りつけ、拳を腕でガード。そのまま腕をつかんで力の限り抱き着く。

 

 

 「離さない! はなさないぞ!!」

 

 

 「ふふ・・・さてさて・・・では、賭けの一つ、策の一手を・・・と」

 

 

 足はもつれ気味、武器を持つ手ははじき返されて銃弾、弓矢で傷多数。もう片手はアステリオス様が渾身の力をもって離さない。加えて、最初に攻撃を逸らして以降周りの攻撃や存在の追加で視線がそれた。

 

 

 他のクラスならこれでもダメかもですが、バーサーカー、理性を削がれ、技術も心の置きようも薄れた今ならできる。こっそり後ろに忍び寄り、用意していた短剣で腰にブスリ♂ と突き刺しちゃいます。

 

 

 ヘラクレスの12の命を持つ宝具「十二の試練」これにはBランク以下の攻撃さえも防いでしまうという強烈な防御効果がある。だから普通なら私の、銀嶺隊の武装の一つの短刀なんて普通は刺さらない。剣技も使っていないので尚更。

 

 

 「■■・・・■・・・! ■・・■、■・・・」

 

 

 でも、この策は、用意したものは聞いたようで子の英傑は膝をつき、先ほどまでのあたりにまき散らした戦意も覇気も、殺意もしぼんでいく。

 

 

 『・・・毒だね? しかも魔獣の毒』

 

 

 「ご名答」

 

 

 あの守りに普通の毒は愚か攻撃も生半では通らない。でも、英霊は生前の死因には通用する。ヘラクレスもあの幾つもの試練を乗り越えた後であっても最後は下半身に魔獣の毒を塗られてしまうことで死んだ。ならそれを再現してやればいい。

 

 

 『・・・カルデアのデータベースにはヘラクレスを倒せるほどの魔獣の毒を持つ相手はいなかった。マイガールたちの旅路でもね。一つ、側面を引き出さない限りではあるが』

 

 

 「もう気づかれましたか」

 

 

 「流石にネ。メデューサ。かつてその見たものを石に変える魔眼でサンゴを生み出し、生き血は蠍や毒蛇を生み出したとされるもの。毒の生きものを生み出す逸話が残る。ヒュドラに負けないほどに激烈で、強烈な毒。

 

 

 ただーカルデアのデータで見る限りあのメデューサはまだ怪物ではなく英霊の域にとどまっていた。もらったものからその側面を引き出したと考えるが?」

 

 

 モリアーティー様には少しのヒントでたどり着きましたか。そう。私はかつて冬木でその二騎とぶつかったことがある。加えて、特異点でもキャスターのクー・フーリン様の情報に一部の差異を除けばほぼほぼ過去私「達」が戦った英霊の配置のまま。

 

 

 あれほどの戦力を敵なら利用しない手はないし、特異点に呼び出されている英霊に混じっていたり呼び出される可能性もあった。

 

 

 なのでぐだぐだ特異点でメデューサ様に出会った時は色々交換条件を出してまで血液をおねだりして800mlもらいましたし、ストックも作った。

 

 

 「その通りです。うちの部隊の専属魔術師、そして現代故の世界中の毒の情報を探れるフラム様に現場でもそういう毒の研究を続けていた魔術師、魔術使いと戦ってきた冬利様、咲様。彼らに協力を頼んで二つほどつくらせました。

 

 

 一つは毒の生物を生み出すほど強烈な神代の魔獣の毒。もう一つはあらゆる病、不調を直せる霊薬として改良しました。毒と薬は表裏一体。それを用いでどうにか」

 

 

 まあ、霊薬の方はロマニ様の手助けも合ってですがね。

 

 

 「さすが・・・だ・・・ネッソスの毒よりも・・・堪える・・・」

 

 

 「! ヘラクレス! 狂化が解けて・・・!」

 

 

 「あら。ついでに切っておきましたが、どうにかなりましたね。・・・世界を壊す友人の大馬鹿を手伝いきる前に止めておきましたよ」

 

 

 そうこうしていたら概念を少し切っておいたのでヘラクレスの狂化が切れてくれたのでお話を。光の粒が舞っているところを見れば私は少し切り込みを入れただけですので限界も終わりかけで付与された狂化が外れていきかけているのでしょうかねえ。

 

 

 「ありがとう。イアソンは本当は私が止めるべきだったがそれもかなわず・・・」

 

 

 「大丈夫ですよ。未来をつかまんと戦う若人たちと、お礼参りをしたいとハッスルする海賊たちがしばきまわしてくれるでしょう。あと、過去の行いから怒っているこわーいことになっている魔術師様も」

 

 

 「メディアさん。かつてないほどにブチぎれていましたからねえ」

 

 

 「・・・ははは。彼女がいるのなら・・ますます安心だ・・・時間があれば、謝りたかったが・・頼んだ・・・ぞ・・・」

 

 

 最後に少し苦笑しつつ、にっこりと、優しい笑顔を見せて、あの猛毒に犯されて尚、私たちに後事を託してヘラクレスは退去をした。

 

 

 ・・・まったく。イアソンも本当は彼のこの笑顔や頼もしい言の葉を聞きたかったはずですのに。バーサーカーじゃないと自分の望みを止められるとでも考えたのでしょうかねえ?

 

 

 「ともあれ、バーサーカー、ヘラクレス撃破。・・・合図を送るぞ」

 

 

 「ええ。カルデアの方でも観測されているでしょうけど、こちらの目で見たうえでの合図でより確実にしたほうが」

 

 

 「へらくれす・・・わるいやつじゃ、ない・・・のか?」

 

 

 「ですね。恐らく、狂っていなければこちらと一緒に旅をしていたかもしれないですよアステリオス」

 

 

 「・・・そっか。いっしょにたびを、したかったなあ」

 

 

 退去したヘラクレスの腕の感触を思い返しながらぼんやりとしていたアステリオス様をアルトリア様がポンポンと背中を撫でながら撫でているとイアソンたちの方面であの肉の柱が出現。

 

 

 「しんみりもさせてくれんのかあの肉柱は・・・まったく。人斬り。行くぞ。わしらも早く加勢して聖杯もぎ取って大一番を見に行くんじゃ」

 

 

 「はいはい・・・今回は華奈さんの作戦勝ちですし、力を残せた分アクシデントを潰して首級を稼ぎますよ~」

 

 

 「あの気配は・・・イアソン・・全く。メディアに諭されたか奥の手かは知らんが、私の元船長がああではな・・・手を貸す」

 

 

 いうや早く動き始めた信長様、沖田様、アタランテ様。俊足の面々ですし、私たちもあとを追いかけましょう。しかし、これで決まってよかったです。それが出来なかったらストームのバ火力兵器と信長様の奥の手、私の宝具と枷を外しての連撃、アルトリア様のカリバー乱発。これを叩き込んだうえでアークをぶん投げてヘラクレスにお見舞いする作戦でしたし。使わないでよかったよかった。

 

 

 『やれやれ。また魔神柱の出現だ。マシュちゃんたちとあの海賊コンビ、アン&メアリー、銀嶺隊でぶつかっているが決め手に欠けている。また絨毯爆撃でもぶち込んでしまえばいい』

 

 

 『あの白歴史・・・ろくなことしないで・・・! 私が許可するわ華奈。アルゴー号ごと吹き飛ばして』

 

 

 「了解です。ストーム。奥の手一つ切りますよ。ルシフェルSを」

 

 

 「おっし。ほいマスター。そっちにもバズーカ」

 

 

 「私も行きます。正直、この後の一大決戦のほうが興味ありますし」

 

 

 魔神柱一つでも面倒なので早いところぶっ潰すためにダブルルシフェルSとアルトリア様のダブルカリバーを援護射撃にぶち込めばマシュ様達と信長様達もすぐさま連携を取って勝負あり。

 

 

 この後は悠々とイアソンたちのいる場所に向かいましたとさ。




 メデューサの血。赤いサンゴを生み出した原因だったり、その目で作りだしたりといろいろなものを生み出していますよね。


 華奈、元から使うつもりだったのでそれを利用するためにぐだぐだでは接近していました。これ以外にもいくつかの仕込みを既に始めています。


 最後にちょこっと出したルシフェルS 地球防衛軍2で登場した最終ミサイル兵器の一つ。最初は一つのミサイルですが上空で分離。ダメージ800のミサイルを32発叩き込むという中々のロマンミサイル。上空で分離したミサイルは悪魔の顔っぽく見える軌道を描くそうです。私もなんとなくでしかわかりませんでした。



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観戦開始

皆様あけましておめでとうございます。今年もどうかよろしくお願いします。

色々仕事で気を病んでいたり、モチベ殺されつくされたり、いろいろ大変で筆が進まず申し訳ありませんでした。

まさかの実装が昨年から相次いでびっくりです。リンボをあの自爆軍師で射出することを楽しむ方はどれほどいるのか気になったりしています。


 「ふぅー・・・ようやく一息付けます」

 

 

 「全くだ。あー・・・茶が染みる」

 

 

 魔神柱、もといイアソンとその一派をさっくり始末して、聖杯も確保できたので今は一息休憩。すぐに帰ろうにも、聖杯がもう一つあるのでそれをしっかり回収するためなのと、この度の同盟の約束を果たすことに。

 

 

 「いやーしかし、イアソンとかいうの。ほんと頭は切れるんだろうがなあ。欲にくらんだ目をしておったし、惜しいのお。ちゃんと諫言を強く言える親友、家臣が2人いればまた違ったのかね」

 

 

 「そうかもしれないですねー・・・あのメディアリリイ? さんもイアソンも聞くに互いを見つつも互いを見ていないという感じでしたし・・・あ、オッズ出ましたね・・・ふーむ。これは勝てば今夜は食堂で豪勢なランチを食べられそうです♪」

 

 

 「あー・・・もう、人があんな風に変わる光景は二度と見たくない・・・」

 

 

 「私もです。あ、先輩。観戦弁当の販売が始まりましたよ」

 

 

 『いやいやいやいや! 待ちなさい貴方たち!』

 

 

 その大一番は私達でも入ることは駄目。なので見守ることにしていているのですが、そこに飛び込んでくるのはオルガマリー様の大声の通信。あ、ハチたちも目をしぱしぱさせています。不意打ちでしたからねえ。

 

 

 「どうしましたか?」

 

 

 『どうしましたか? じゃないわよ! なんで! 特異点の問題を倒してあともう一つの聖杯を待つ際に賭博と観戦してんのよ貴方たちは!!!』

 

 

 「え? いやーせっかくの大海賊同士の戦いだぞ? しかもイギリスを大国に押し上げた星の開拓者と海賊のイメージを世界中に決定づけた海賊の中の海賊。それのガチンコ勝負を横やりなしで見られるなんてそりゃあ見るしかないでしょ」

 

 

 「それに約束ですし、見届け役が必要ですから。見ていきましょうよ。世界を変えた海賊と海賊を知らしめた海賊の戦いを。それに、ほら。ご本人たちも快諾している始末ですから」

 

 

 そう。みんなで世紀の一戦。ドレイク海賊団VS黒ひげ海賊団の対決。互いに同盟を結んでイアソンを倒した後に殺し合うと約束していたのでそれの未届けをしつつ。そのバトルを楽しもうと銀嶺隊に英霊の皆さん、そしてメアリー様とアン様も交じって大騒ぎ。

 

 

 ドレイク船長からは「アタシら悪党の戦いが娯楽になってるのならいいさね。ただし、アタシに賭けておくれよ? むしった分でまた酒盛りしてやるのさ、二次会の費用ってやつだ!」 ティーチ氏は「ひと様蹴落として、潰して名誉もへったくれもない拙者たちの戦いが盛り上げられる一大エンターテイナーになるのならモーマンタイ! デュフフフwww あ、ただしジャッジは公正にと横やり厳禁ですぞ」という具合でお互いに自分の勝利に賭けているという盛り上がりよう。

 

 

 「一応船長に賭けたんだ。勝ってもらわなきゃ困るね。あ、そこのメロンソーダとワイバーンリブスティックバケツ詰め頂戴」

 

 

 「私はあえて大穴狙いのドレイクさんですわ。うふふ。勝てれば英霊の座に戻っても遊べますし、どちらかは確実に得しますからね♪ 私は銀嶺印のビールジョッキ2つとワイバーンタコス、フィッシュ&チップスチリソースかけを」

 

 

 うちの部隊が方々で集めたこの特異点の食材と海賊たちがもっていた乾燥させたトウモロコシなどを利用しての料理と出店の数々を出店。そこで皆さん思い思いに料理を頼んでは砂浜にそのまま座ったり流木を椅子代わりにして今も海でドンパチしている二隻の船の戦闘を見て大盛り上がり。

 

 

 ちなみに、一緒に観戦している海賊コンビに関しては「あくまでも船長同士でやりあったほうがいいでしょ」とのことでここに。あくまでもドレイクと黒ひげの双方が生前、今の船乗り同士でしっかり白黒つけてほしいという計らいからだそうで。

 

 

 「さ、藤丸君? お姉さんたちと一緒に食べましょうか~♡」

 

 

 「流れ弾が来ても僕たちが対処してあげる。おいでおいで。ついでにそのハンドガンの整備もサービスしてあげる」

 

 

 「え・・・うおわ!?」

 

 

 「あ、ちょ・・先輩!?」

 

 

 「ますたぁ様に何をしているのですかお二方・・・シャアア!!」

 

 

 「いやー盛り上がっておる。しかしまあ。オッズはドレイクが1,8で黒ひげが1,1。やはり英霊ということが大きいのかのお」

 

 

 「船も船員も宝具。持久戦になれば流石に改造したあの船でもきついでしょうから、ま、皆がそう思っているのでしょう」

 

 

 『あー・・もう。分かったわよ。止めないわ。ただし、聖杯の確保はしっかりしてきなさい華奈、藤丸・・・あと、そこの昼ドラかコメディか知らないけどそこの騒ぎも抑えてね』

 

 

 よこで蛇と海賊が藤丸様をおいしくいただこうとしているのを横目にオルガマリー様の指示に了解と返しておきます。まあ、ほどほどのスキンシップならスルーですけど。

 

 

 その間も海戦は激白。まさしく海の上の要塞といえるほどの頑丈さと火力を誇るティーチ氏の船。ドレイク様の船は改造してまだ日が浅いのにすぐさま乗りこなして軽快な動きと聖杯を使って呼び出す大砲を使っての攻撃でティーチ氏の船の動く先をけん制していくことで攻撃をよけて回る。

 

 

 互いに互いの強みを活かし、火薬と海水のしぶきが舞う。いやはや。私は生涯を通して陸戦、野戦だったのですが、なるほど海の戦いも激しい。

 

 

 同時に感じるのは、この戦いをどちらも楽しんでいるというのがまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そらそら! お前らちょうどいい練習だ! これだけ打ち込んで怯まない、壊れない船なんて最高の的。ありったけぶち込んでやんなあ!!」

 

 

 「「「アイアイサー!」」」

 

 

 「姉御ぉ! 敵の方も動きが慣れて来やした! 少しづつ着弾の狙いがずれてやす!」

 

 

 いくら打ち込んでも壊れない。初めて会ってちょっかいをかけられた時と同じように。ただ、それでもそうとわかれば。この聖杯とやらで生み出した大砲で多少なりともダメージを与えられるとわかればやりようがある。

 

 

 「なら一部は帆を狙え! 方向転換と風をつかむ相手の足を無理やりにぶっ叩いて動きを鈍らせろ! ついでにあの馬鹿どもの船員もつぶせ!」

 

 

 華奈たちと集めた素材を使ってより強く、早くできたこの船の小回りを活かして常に動き回り、あのくそ髭野郎の船員を削りつつ、備える。勝利というお宝と、なめた真似した落とし前をつけさせるのなら、多少の手間や手段は問わないさ。

 

 

 宝だって地図や情報を探し、手にし、あるいは相手から分捕ってからようやく手にできる。今はその前準備。

 

 

 「見ろ! 前はアタシらをからかった相手が引っ掻き回されてこっちにゃあたりもしない! もっとからかってやれ! 木偶の棒が何しに来たってなあ!!」

 

 

 ついでに、いえば、これに乗ってくれればこちらもやれることがある。というか、それに乗ってくれないと困る。まあ、ああ見えて切れるやつだし、短い付き合いだがようやくわかった。

 

 

 あのくそ髭、道化を演じる切れ者。アタシへの罵倒は分からんが自身も楽しみつつ煽ったりからかったり欲望を出して、その自身への侮蔑や、評価自体も利用して自分が有利になるようにことに運ぶ。ならま、楽なものだ。無視してやればいい。

 

 

 そら、乗ってきた。後は・・・円卓きっての技術者集団の手が入ったこの船の頑丈さと根性勝負さね!!

 

 

 

 

 

 

 「ん・・・けっ・・・乗らないか。なら、こっちも動かす人手を増やして腕のいい砲手のみ攻撃に回せ、流石にもらいすぎても面白いものじゃねえし、前とは違う」

 

 

 いやー全く、あのBBA・・・一度戦い、華奈氏、拙者たち英霊を理解するや動きを変えてきたのと、こちらをちまちま削ってくる動きに変えてきやがった。

 

 

 こっちの船も決して遅いわけじゃない。むしろ切込み強襲、奇襲の経験を合わせればむしろ早く動ける。そのはずなのだが・・・

 

 

 「華奈氏の・・・銀嶺の手が入ったせいであの船も半ば宝具に近しい。後は・・・拙者たちの経験していた海の数の差ですな」

 

 

 拙者たち新大陸、欧州の海周辺を縄張りにしていた海賊と違い、あちらは星の開拓者、世界一周を成した船長と舟、船乗り。経験してきた荒波も潮も数も質も千差万別を味わっている。だからだろう。この海の海流の流れをつかみ、グレードアップした船、こちらの足を鈍らせることで基礎スペックの差を埋めてきている。

 

 

 だからこそ拙者の船員たちもけが人が増え、一部船に傷がついている。的確に相手の嫌な部分を狙える目利きとそれを実行できる手腕。だからこそスペインの艦隊さえも燃やし尽くして打ち砕いた。なるほど敵に回せば厄介だ。生き残れば勝ちな海賊の考えと戦術指揮官としての才も持ち合わせている。それは一度生き延びさえすれば的確に対策を練って相手を潰せるという強さにもなりえてしまうし、事実今こうして翻弄されているのだ。

 

 

 「クソッ! あいつら調子に乗りやがって・・・!」

 

 

 「その汚ねえ口動かしている暇あるのなら狙いつけろ。でなけりゃ、死んでな」

 

 

 「! は、ハイッ!」

 

 

 更には煽りも入れてうちの船員も動きが鈍る。砲撃の数も絞って砲煙をあげすぎずに狙いをつけやすくして質を上げようとしても狙いきれていない。

 

 

 そして砲手も狙われ始めて手札をじりじりと削られている。拙者の魔力も聖杯がない、華奈氏の料理で補給したとしても限りがある。なら、もう打てる手は限られる。

 

 

 「野郎ども、舵を取れ! BBAの船に切り込んで斬り合いだ!」

 

 

 持久戦は分が悪い。そう考えるも既にあのBBA・・・フランシス・ドレイクは既に俺の船の横っ腹に衝角でぶつかるために動いていた。しかもまあ、ご丁寧に帆と舟が動こうとする方向を邪魔するための砲撃までおまけ付きで。

 

 

 「遅いよ黒ひげ! そら野郎ども切り込め! 今までのうっ憤晴らすときだよ!」

 

 

 「「「アイアイサー!!! 姉御に続けェ!!」」」

 

 

 そしてその船からいの一番に乗り込んでくるドレイク。その声、動き一つで味方を奮い立たせ、敵さえも圧倒する。ああ。美しい。そして気高い。

 

 

 「デュフフフフ・・・! 負けるな野郎ども! 俺たちの船に土足で上がり込んだ阿保ども撃ち殺せ!」

 

 

 「「「ウォオオ!!」」」

 

 

 しかしこちらの方も負けてはいない。船員たちに檄を飛ばし、ぶつかり合わせる。そして、なぜだか示し合わせたように出来た、拙者とドレイクの邪魔の入らない殺し合いの空間。

 

 

 「覚悟はできているね? 黒ひげ」

 

 

 「おあいにく様、これくらいで往生するほどいい性根してませんぞwww」

 

 

 「そりゃそうか。出ないと海賊なんぞしていねえ。なら・・・今から性根ごと叩き潰すのみ!」

 

 

 「望むところですぞ。出来たらの話ですがなあ!!」

 

 

 最高の海賊との一騎打ち。多分ですが、今、拙者一番興奮して、幸せかもしれませんなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「む・・・ドレイクが船に切り込んだ・・・船長狙いだろうけど・・・滅茶苦茶するなあ」

 

 

 「あのまま逃げ回って勝利を狙うのもできたのでしょうに・・・いえ。下手に時間を与えるのが性に合わない、あとは何らかの策を練る時間を与えるのを惜しんだのでしょうか?」

 

 

 「まあ、それもいい判断でしょう。船も壊れていませんし」

 

 

 海で起きる迫真の撃ち合いから一転、ドレイク様の船がティーチ氏の船の横に衝突してからの白兵戦に移行。まあ、一撃当たればアウトになりかねないアウトボクシングを続けるよりは密着して台風の目の中で勝ちを狙うのもありということでしょう。

 

 

 私もよく敵陣ど真ん中に突っ込んで弓矢を撃たせないようにしつつ意識を引いて側面から別動隊で敵を潰したりしましたし、ありっちゃあありなんですよね。

 

 

 ここにも聞こえるほどの怒号、怒声、銃声。激しい戦いが繰り広げられるのに一同大盛り上がりしていたのですが、一部は息をのんで推移を見守っていたり、用意していた遠見の水晶や望遠鏡を借りてみています。

 

 

 「うーむ・・・ドレイクと黒ひげ互角か・・・いや、片方生身なんだよな?」

 

 

 「ストームがそれ言いますか?」

 

 

 その中でも人間離れした動きで目立つ二人の人影。ドレイク様とティーチ氏ですが、ストームがそれを言うと違和感が。

 

 

 ローマでお会いしたネロ様もそうですが、生前の英雄はやはり怪物が多いですねえ。そしてドレイク様の周りの部下も倒すというよりは倒れない。大将同士の決着までの時間稼ぎを主にしています。やはりティーチ氏達への攻撃が通るのはドレイク様だけだと理解しているのでしょう。その上で切り込みをやったのですからやはりすごい。

 

 

 おおよそ十分程でしょうか。船の上の戦いが続きましたが、とうとう勝者は決まりました。ティーチ氏の船と、気配、匂いが薄くなりました。

 

 

 「勝負あり・・・星の開拓者は、英霊と人の差さえも乗り越えましたか・・・」

 

 

 海賊同士の頂点のぶつかり合い。それも追え、ここの特異点でのおおよその事は今終わりました。

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・届かないか・・・まったく。これだからこの女は怖い・・・ははは」

 

 

 「散々てこずらせて、おちょくったと思えば急に素直になったねえ。・・・・・・この船も、あんたと一緒に消えるのかい?」

 

 

 一騎打ち。海賊というよりは騎士同士のような不思議な戦いの勝利は拙者ではなくB・・・ドレイクの方に軍配が上がった。

 

 

 後の時代の技術と、英霊という強みを持っても尚、拙者という荒波をもこの女傑は乗り越えてきたのだ。

 

 

 「まあな、英霊ってのは・・・影法師・・・ちゃんととどめを刺されれば死ぬ。そこはちゃんと人と同じだからなあ・・・」

 

 

 「そうかい。見な。あそこであんたに賭けていた連中と、アタシに賭けていた連中が騒いでいるよ。それと、称賛の声もね」

 

 

 そういって海岸を見れば確かに騒いでいた。銀嶺も、カルデアの小僧たちも、みんなが。海賊の最後なんてようやくくたばりやがったと侮蔑をもらいながら死ぬのが常。だというのにまあ、こんな歓声をもらい、そして最も尊敬した女、船乗りに討ち取られて最期を迎える。全く持って幸せとしか言えない。

 

 

 「わからねえものだなあ。俺たちがこうして扱われるなんて」

 

 

 「ああ。本当にわからないねえ。そしてだ・・・黒ひげ。首は取らないでおいてやる。きっちり首一つまで全部抱えてあの世に行け。アタシはそんなでけえ首抱える気も起きないんでね」

 

 

 「! ・・・ああ。勝者に拒まれちゃあしょうがない。この首はそのまま持って帰ろう」

 

 

 きっと、ドレイクなりの拙者への手向けだろう。海賊の死体なんて弄ばれ、侮蔑のための玩具にされ、使われていくのがオチ。拙者の死んだ後もそうだった。けれど、今は違う。

 

 

 尊敬する相手に敬意を向けられ、むかつく相手をぶん殴ることを手助けしてくれた趣味友たちに称賛をもらい、悪党同士の戦いなのにお祭り騒ぎにして楽しく見てもらえた。全く。何もかもが最高過ぎるというもんだ。

 

 

 「じゃあな、ドレイク・・・最高の旅だったぜ」

 

 

 「ああ。黒ひげ」

 

 

 最後は満面の笑顔を抑えきれずに拙者は退去。あーもう。今度はちゃんと決め顔で逝けるように練習しませんとなー

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さーてと・・・これでやることはやったわけだが、アタシ的にはまだやり残したことがある。藤丸」

 

 

 「え? あ、はい・・・?」

 

 

 ティーチ氏の船が消える前に自分たちの船に乗り移り、無事に帰ってきたドレイク様。その後に何かを思い出したのか頭をかきながらドレイク様は藤丸様を呼び、藤丸様も清姫様とアン、メアリー様お二人、マシュ様達にもみくちゃにされていた中どうにか抜け出して歩み寄る。

 

 

 「覚えているかい? 少し前の賭けのさいにそっちが欲しいものを私が欲しいものを用意できなかったこと。今回の同盟の事や、あの海賊とやりあえたことも含めてだ。これなら釣り合うかと思ったが、どうだい?」

 

 

 そういって差し出すのは聖杯。まさか過ぎる。この後どうやってドレイク様から聖杯をもらおうかとしていた問題が一気に解決しました。

 

 

 「あの・・・いいんですか?」

 

 

 「ああ。アタシにとっては商人としての矜持を貫けて、戦友に、恩人に、そして、あの英雄たちとともに入れたお礼だと思えば安いもんだ。で、どうする?」

 

 

 「ありがとうございます。マシュ。保管をお願いしていい?」

 

 

 「はい! ドレイクさん。ありがとうございます!!」

 

 

 藤丸様も聖杯を受け取り、マシュ様の盾の保管スペースにうつす。そうなると、特異点を形作っていた聖杯。そして、ポセイドンの持っていた聖杯。どちらがなくなっても片方があればこの特異点は続いたでしょうけど、その二つがカルデアにあり、そしてイアソンたちも倒した。そうなれば

 

 

 「・・・空が変わった気がする」

 

 

 「潮も変わりましたね。特異点が終わり始めましたよ」

 

 

 この不安定な、歪んだ場所は消え始める。周りにいるメンバーも、海賊の皆さんがちらほら消えていきます。

 

 

 それに対して銀嶺隊の皆さんも握手やハグ、ハイタッチに武器の交換などをしたりして愉快に。最後まで笑顔であほなことを言いつつ消えていきます。いやはや、最後まで心地のいいことで。

 

 

 「あーあ。これで終わりか。でもま、海賊なのに勝利を見届けて、酒と飯を食べながら追われるなんて最高の終わり方だね。ありがとう。カルデアの皆。今度機会があれば僕たちを呼んでほしいな」

 

 

 「楽しい時間をくれましたからね。私達のコンビネーションの真価もしっかりお見せしたいですし。それに・・・この子なら大丈夫そうですから」

 

 

 海賊コンビ組は最後まで藤丸様にベタベタなまま退去。呼んだらさっそく藤丸様は部屋でおいしくいただかれるんでしょうねえ。

 

 

 「ほんと、とんでもないものを見せられたわねえ。世界最古の海賊、アルゴノーツを策で嵌め殺し、最後は海賊同士の打ち合い、私や駄妹がいればもっと面白かったでしょうに。余計なジャマを潰してもっと気楽に楽しめたわ」

 

 

 「で、も・・・すごかった・・・」

 

 

 「・・・そうね。ああ。それとアステリオス。私の護衛。ご苦労様。おかげで楽しく食事もできたし、感謝するわ。ほら・・・失礼。ん・・・相変わらず、大きいわよね」

 

 

 「!  ありがとう。エウリュアレ」

 

 

 

 エウリュアレ様とアステリオスはのんびりお菓子やお酒を飲んでいましたが、退去の時間に。なのでエウリュアレ様は最後にアステリオス様の肩に乗っていたのでちょうどいいやとほほにキス。それをするのと同時に二人仲良く退去。

 

 

 「ギリシャの英雄も倒し、誰一人落伍者なし・・・こりゃ、えげつない狩人も出てきたもんだ」

 

 

 「ねーねーダーリン! 騒ぎも終わったし、二人で愛の逃避行しよ?」

 

 

 「いや、一応今真面目なこと考えているからね? まーいいや。カルデアの皆。お前さんらならこの先もいけるだろう。たくさんの希望を、星を。欲望にも獣性にも負けない輝きを放つ星をかき集めて進め。そんなら、イケるだろ。なんなら、俺ちゃんと今チューして縁を結んで招く? 本来なら頼りになるし。華奈ちゃんとか、マシュちゃんあたりに」

 

 

 「ダ~リ~ン・・・?」

 

 

 「ひえっ!? じゃ、じゃあな! また会える日を楽しみにしているぜ~!」

 

 

 オリオン様がアルテミス様に掴まって顔面がどこかの五歳児みたいに伸びたところで二人そろって退去。うん。相変わらずなのと、とりあえずキスされたり、アルテミス様から何か貰わないでよかったです。ギリシャの場合・・・どう動こうが災難になる場合が多いんですよね。特にあの二人は。

 

 

 「ありがとう。華奈。一度ならず二度も世話になった」

 

 

 「アタランテ様。いえいえ。気になさらずに。そちらがダビデ様を守っていたからこそ策も余裕が出来ましたし、相手もエウリュアレ様を狙うのに本気を使うこともなかったのでしたから」

 

 

 「そうか。なら、今回は私としても気持ちが軽いし、嬉しい。縁があればまた共に戦うことを願っているよ。ただまあ・・・私は今度からどんな目でアルテミス様を見ればいいのだろうな・・・」

 

 

 私と笑顔で握手をした後に、速攻で目のハイライトが消えて退去したアタランテ様。まあ、うん・・・信仰している女神さまのあーぱー具合を見てしまえばああなりますかねえ?

 

 

 

 「僕も帰ろう。ナンパは空振りだけどアークを使わないですんだのは幸いだ」

 

 

 「ったく。贄一つ次第で世界も滅ぼせるってやっぱりダビデ王はやばいのばかり持っているなあ」

 

 

 「そうかな? 僕からすれば君の方が恐ろしいよ。ストーム1」

 

 

 「?」

 

 

 「・・・僕の方は世界が狭かったし、神様の入る時代だった。だけど、君の時代は神様が去り、化学が普及し、世界の形、星の形がすべて知られた時代。それなのに空の向こうから神様のごとき力や攻めを使う相手を一人、あるいは二人、おおくても数十人あるかないかで跳ね返し、生き残ってきた。人の力で。

 

 

 きっとその力はカルデア、そしてその先を進むアビ・・・ではなく狼の助けになるはずだ。頼むよ。嵐の勇者」

 

 

 「おう・・・! お前さんも、すぐアビシャグ連呼してナンパする癖治せば持てるだろうになあ~」

 

 

 「え? そう? なら治してからカルデアに来て真面目にナンパしてカルデアの皆に・・・」

 

 

 あちらはあちらで熱い握手を交わしながら何やらストームがダビデ様にナンパ方法の改善を話し、驚いていたダビデ王が何やら企みつつ退去。うーん・・・来たら大変そうですね。主にロマニ様が。

 

 

 「アタシも頃合いみたいだね・・・はは。あんたらといっしょに旅を続けるの楽しかったが、これで目的・・このいかれた海を抜け出せるわけだ」

 

 

 「ですね。ですが、貴女とも進める海もありましょう。貴方は英雄ですし、だれもが認める相手ですから」

 

 

 「何言っているんだい! アタシらみたいなろくでなし。悪人が認められるってか? 英霊に。ないない」

 

 

 そして、いよいよドレイク様も退去の時間。楽しい旅路が終わろうとしている。その中でまた行けるかもといえば手を振って笑うドレイク様。

 

 

 「それを言えば私だって敵からすれば悪人で、恨みを多く買った女です。ドレイク様も多くの恨みを買っていたり、ろくでもないことをしているから言っているのでしょう?」

 

 

 「まあね。そりゃあ人様に言えないことをたくさんしたし、ろくな最後は迎えないだろうと思うよ。だからこそ今を楽しむわけだし」

 

 

 「そうですね。でも、それほどの感情を多くぶつけられるほどの事をした、だれもの記憶に刻まれたほどの貴女様は同時に認められてもいるんですよ。史に名を刻むほどの傑物だと。これからの貴女様の旅路はきっとそうなりますよ。私が保証します」

 

 

 「・・・ははは! 悪党としてか、商人としてかどうかは分からんが、ならやってやろうじゃないの。英霊となれるほどの旅と人生を続けて、その上であんたらともう一度進んでいく。その上で、もう一度アタシを雇ってくれないか?」

 

 

 にっこりと笑い、キャプテンハットをくるくる回しながら快活に笑うドレイク様。この記憶も消えるのでしょうけど、きっとこの先の旅路でもこんな笑顔で周りを引っ張って、進み続けるのでしょうねえ。そして、この問いかけにも私もこう答えるしかないですよ。

 

 

 「もちろん。その際はカルデアの皆が歓迎するでしょう。どうかよろしくお願いします。ドレイク様。そして、これからの旅路に幸多からんことを」

 

 

 「ああ。円卓の狼の激励。確かに受け取った。じゃあね! またどこかで合おう!」

 

 

 そういってドレイク様も退去。その後に私たちも退去が始まり、全員が無事に帰還。こうして、新しい特異点の方も無事に乗り越えることが出来ました。




これにてオケアノス終了。早いところアメリカに行かせたいですなあ。


???「ほお・・・この困難さえも笑顔で乗り切って、戦い抜く狼に、嵐の勇者・・・それについていくひな鳥たちか。わえも、少し興味がわいたぞ?」

???「あらー神さえも、困難を越えた勇者さえも策にはめ込んで封殺。自然に振る舞っているようで考えているし、この状況の先を見据えつつも潰れない・・・うふふ。ちょっと興味湧いちゃうかも。お姉さんも♪」


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龍神二人ご案内

お腹の具合が不調のまま。うーん。胃が弱ったままだなあ。大好きなサウナと大衆浴場もコロナが怖くて行けないし。つらみ。


~???~


???「ああ。ヴリちゃん。土産はばっちり?」


???「もちろんだ。ついでにここに来たそうなやつらもまとめたし、急いで行くとしよう」


???「んふふ・・・さてさて。軽く調べただけでも奇人変人娯楽まみれの騎士とグランドクラスの力と素質を持てる勇者。それについていく若人・・楽しみ」


 「ふぅー・・・なんやかんやどうにかなりましたねえ」

 

 

 「ああ。むしろローマの方が楽だったか? まあ、ドレイクという一流のキャプテンがいてこそだったがな」

 

 

 無事にレイシフトを終えて第三特異点からの帰還を終えてコフィンから出る私達。うちのメンバーが海賊相手に男漁りしたり、女神と雷光をアフロにしたり、船づくりの経験を積んだり、サバフェスのお得意様が来たり、ヘラクレスを毒殺した後にご立派な肉柱をミサイルカーニバルで吹っ飛ばしたりと変な思い出が刻まれた特異点ですねえ。

 

 

 ・・・・・・思い返せば前もそんな感じだったような?

 

 

 「しかしまあ・・・改めてはっきりしましたが英霊たちも敵の親玉に戦いを挑んでいる人たちがいる。同時に、騙されたり、破滅を望むように仕向ける英霊もいるというのが厄介ですね」

 

 

 「カルデアの英霊召喚システムの場合はある程度の制約、ともに進むことを同意してゆえの召喚ですので大丈夫とは思いたいですが・・・いろいろ思うものがないわけではないですね」

 

 

 私が必要だからと召喚したモリアーティ様というある意味特大級の爆弾もありますしねえ。それとまあ・・・早速やらかしましたね? あの人。

 

 

 「お疲れ様です先輩、華奈さん、みなさん。無事に聖杯も手にできて何よりですし、今回はみんな笑顔で終われたのが嬉しいです」

 

 

 「俺も。まさかヘラクレスと魔神柱を側溝でハメ殺すとは思わなかったけど・・・」

 

 

 「こっちでもみんな大騒ぎさ。お疲れ様皆。早速だけど、メディカルチェック。マシュはその後に治療用カプセルでゆっくり休んでほしいな」

 

 

 しばらく談話しているとロマニ様とダ・ヴィンチちゃんが来てさっそくメディカルチェック。まあ、不衛生な船旅に加えて海賊というアウトロー集団との生活。気疲れも相当だったでしょうし、しょうがなし。

 

 

 「わかりました。では早速・・・!?」

 

 

 私も行こうとしていたところに感じる魔力と気配の増加。ストームもその気配を即座に感じたようで武器を構える。

 

 

 「船坂さん。ストームさん。召喚システムの魔力が増加。何かがこちらの召喚システムを使い出てこようと・・・!!?」

 

 

 「姐さん! 魔力複数。どれも反応は英霊・・・それと・・・え? 規格外の、神霊クラスが二騎最低でもいるよ!」

 

 

 「ええ!!? 何でこう神霊が立て続けに・・・銀嶺隊はすぐに・・・」

 

 

 「もう動いていますよ。私達も行きましょう」

 

 

 全く、こうも騒ぎが立て続けに起こるとは・・・しかし、神霊とは? うーん。神王様は早々に手を貸すわけではないですし、そもそも一応ちゃんとした人・・・人なのでしょうかあの功績は。存在は。

 

 

 何はともあれ、カルデアの皆さんの声が未だに解析しても今までのデータベースに当てはまらず、その規模に驚いているのであれば今までの知り合いの可能性は無し。また霊基のブレーキを外すか、ロマニ様に頼んで私の枷を外してもらうかしないとですねえ。

 

 

 「か、数が・・・というか召喚? 連れ込んだのか!? 英霊反応更に増加! 何というか・・・もう訳が分かりません!」

 

 

 両真様も珍しがるほど、悲鳴に近い声を上げている。お願いですから敵側の直接攻撃とか簡便ですよ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァーイ華奈ちゃん。ストーム1。そして、藤丸君にマシュちゃん。お姉さん来ちゃったわ♪」

 

 

 「ふむ・・・おお。あちこちに見える補修の後、よく手入れされているが、苦労と急務さが見えるなあ・・・実にわえ好みの建物だ。そして、特にその二人がいい・・・そしてそこのひな鳥たちも実にいい。これは楽しめそうだ」

 

 

 「・・・えーと・・・・?」

 

 

 「おー・・・英霊っていうけどよ。とりあえずいいかマスター」

 

 

 召喚ルームに突撃してみれば銀嶺隊のメンバーで警戒していますがそんなことお構いなしにひょうひょうとした感じで手を振る縦セタの高身長、人外の肌色と空気。そして角としっぽをを生やしたお姉さん。そして、これまた尻尾を持ち、歯を見せながらこちらを値定めするような目で自詰めて何度も頷く褐色肌の金髪のお姉さん。

 

 

 私とストーム。主に人外との交戦経験も多数の二人で感じたことは一つ。

 

 

 「「なんで龍神がこんなところに来ているんだ(ですか)」」

 

 

 思わずそういうしかなかったです。

 

 

 「ああ。私達との縁と、まあーつながりを使ってチョチョイとね♪ 私は伊吹童子。それなりに日本じゃ有名よ?」

 

 

 「わえはヴリトラ。いわゆる邪龍に属するものとでも言えばいいか?」

 

 

 「い、いぶっ・・・!!?」

 

 

 「に、日本の大神格にインドの不滅の邪龍!? なんでそのお二人が・・・」

 

 

 このビッグネームに日本生まれの藤丸様は硬直して白目になりかけ、マシュ様はすぐさま武装を展開して盾を構える。もう、何が何やらですが、一つ。つながり?

 

 

 「あー・・・その、繋がり。というのは如何様なものです? 私は船坂華奈。なんやかんやマスター兼英霊をしています」

 

 

 「うーん・・・物語ゆえの・・・か? それとも、ジークフリート? 俺はストーム1。マスターの英霊だよ」

 

 

 「ありがとう。カルデアの現状トップマスターとその相棒さん♬ ああ。ちなみにつながりというのはあれね。いわゆる勇者に倒される、人類の敵役として出ながらも武具や存在で後世を助けたりとかそんな感じの縁をふわっとつかんで、こう。グイッと来たの♪」

 

 

 『頭が痛いどころの騒ぎじゃないぞ・・・いや、神霊ならそれくらいは出来る、存在自体がルールそのものだけどさ・・・!』

 

 

 「そこの術者は分かっておるな。そう。だからこそそれを創意工夫、努力や根性、艱難辛苦を乗り越える人は面白いのよ。ああ。それと安心しろ、流石にわえたちの普通の格では契約もできん。ここに来るさに力を割いてきた故にちゃんと英霊とやらの枠よ最も、ド級の反英霊だけどもなあ?」

 

 

 いろいろ突っ込みたいですが神霊ですからもうこの二人の言葉通りということで受け取ることしかできず納得。念のために銀嶺隊での特大結界&メディアさんの特性結界をコラボで張っていますが、私の勘がさっきから危険だけど聞けんじゃない信号を出しているのでどうにも敵意がわきませんねえ。

 

 

 「あーあのー・・・そろそろいいですか?」

 

 

 「うん? あら。かわいいじゃない♪ 音に聞こえた騎士王も・・・あれ? なんだかボインボインだけど、美少女なのね♡ ええ。お姉さんに聞いて頂戴?」

 

 

 「いやー・・・ですねー・・・藤丸君たちが泡吹くのもそうですけど、お二人の持っている麻袋の正体は何です? さっきから動いているのが気になって」

 

 

 アルトリア様がさすがに空気に耐えきれずに伊吹童子様とヴリトラ様の持っている大きな大きな麻袋の正体がいいか元気になったらしく指をさして不思議がる。

 

 

 同時に先ほど言っていた複数の英霊の反応とやらでおおよその正体は分かっているのですが、まあ、言いたくなるのも分かります。

 

 

 「む? ああ。なに。ここに来るにあたって何やら先達は手土産やらを持ってきたのだろう? で、わえたちもなんやかんやここに来るのだ、一応は人の礼儀に従えと伊吹童子に言われてな・・・今カルデアに欲しいものを持ってきただけよ」

 

 

 「ブハッー!? よ、ようやく出れたでござる。長い間の麻袋詰は流石に船旅に慣れている拙者でもきついものがありますぞ~・・・! おお、ここはもしや!?」

 

 

 「う・・・うぅ・・・ここ・・・どこ・・・?」

 

 

 「げっぐふ!? ったく。何だい何だい。急に袋詰めにされたと思えば次から次へと・・・おかげでろくに周りもわかりゃしない・・・あん? おお! 藤丸にマシュ! そしてストームに華奈! アーサー王。っはは! また会えたな!」

 

 

 「ふぅ・・・大丈夫です? メアリー」

 

 

 「ああ・・・まったく、誘拐されて知らない場所とか船乗りの勧誘じゃないんだしさ・・・あれ?」

 

 

 麻袋の中から出てきたのはティーチ氏、アステリオス様、ドレイク様、アン様、メアリー様。オケアノスで同盟を結んで一緒に暴れた皆さんがいました。お土産ってまさかこの方々です?

 

 

 「今必要なのは戦力であり、綺羅星のごとく輝く英霊であろう? いちいち魔力やら術式を策の持てまであろう。わえたちが肩代わりして引き寄せてきた。感謝すればいいぞ?」

 

 

 ふふん。と胸を張るヴリトラ様。音に聞こえる邪龍とは思えないほどに優しく温和ですねえ・・・

 

 

 一方で藤丸様は持ち前の不思議メンタルで復活してオケアノス組のメンバーと早速再会を喜んでいる様子。マシュ様達も元気そうに話しかけていますし、対応力凄いですね。

 

 

 「はっははは!いやあ、何時カルデアに行こうと思っていたらこれだ。急な誘拐をしたあの二人には一応感謝だな! ま、これからもよろしく頼むよ藤丸、いや、マスター!」

 

 

 「うふふ。私達もコンビネーションを駆使して支えますわよ? 戦闘から身の回りのことまで隅々と・・・ね?」

 

 

 「そうするといいよ。船旅はみんなで動くもの、掃除も戦闘も寝床の確保も色々ね」

 

 

 「えっ・・えっと・・・お、お願いします」

 

 

 「ますたぁ?」

 

 

 ドレイク様とメアリー様、アン様はすぐさま契約を実行。そのまま藤丸様を三人仲良くいただこうとしていたのを清姫様に止められていく。

 

 

 「あー両真様? 先ほどからロマニ様とオルガマリー様の声が聞こえないのですが、マスター契約し始めた英霊もいますが大丈夫です?」

 

 

 『大丈夫じゃないですが、所長は流石に神霊のやばさとその血を引いた英霊の危険度を二つの特異点で立て続けに見たあげくにこの事態でキャパオーバーして気絶したのでロマニさんが手当て中。ジャンヌさんも現在護衛中なのでまた華奈さんがトップということで指示と報告書お願いします』

 

 

 流石にカルデアに複数の英霊出現。しかもまあ、ほぼ全員が反英霊、主犯格は神話の中でもやべーやつだとなればここしばらく胆力が鍛えられてきたオルガマリー様でもそうなりますよねえと。

 

 

 とりあえず敵意も無ければマスター契約を結んでおく方がいいですし、正直ドレイク様とティーチ氏、アステリオス様は私も契約して手元に置いておきたい人材なので公私ともに見ても嬉しいです。

 

 

 「では、ひとまず私と契約を結んでいただいてこのカルデアの英霊であり、戦力であり、ともがらとさせていただきましょう。まずは・・・ティーチ氏」

 

 

 「おう。・・・・・まさか、華奈先生のサークル・・・もとい、部下になるとは、この黒ひげ感激ですぞ」

 

 

 「ええ。私もです。早速仕事を割り振るので部屋割と、必要なものを書くメモを渡すのでお願いします。凶悪な海賊黒ひげ、その腕前を持って敵さえも自慢の船の砲撃で踏みつぶすよう」

 

 

 ティーチ氏との契約を結び、いい笑顔で応じてくれたティーチ氏。とりあえず、麻袋の屑汚れが気になるでしょうし、お風呂にぶち込むために私の舞台で風呂場に誘導。

 

 

 「では、アステリオス様」

 

 

 「はい・・おれ、ここにいていい?」

 

 

 「もちろん。その名前の通り敵を脅かす一撃を振るい、その光で私たちの行く先を照らし出してください。守り手としても期待していますよ?」

 

 

 アステリオス様とも契約を結び、慣れていないけど可愛い笑顔を見せてから移動。途中。うちの魔獣たちとちびノブたちがご飯を持っていったのでまあ、問題なくなじむでしょう。あ。お風呂へも行くよう伝えないと・・・

 

 

 「さて、お二人は契約したい先はあります?」

 

 

 「姉上、オルガマリー、藤丸君と3名のマスターが在中。オルガマリーはどうしても立場と戦略的な意味もあってカルデアにいることが多いですが」

 

 

 問題はこの二人。規格外の戦力ですが・・・同時に素直に従うかといえば・・・うーん? 微妙としか言えないんですよね。現在。後ついでに言えば万が一暴走したりしても抑え込めるのが私とアルトリア様とストーム、ジークフリートさまと攻守何方でもやりたい放題できるこちらが安パイですが・・・

 

 

 そんなことを考えていた私達ですが、すでにお二人の方は決まっているようで笑顔を見せる。

 

 

 「私は藤丸君と。お姉さんも混ぜてほしいし。あ。でもお酒とか料理は貰いに来るわよチャオー♪」

 

 

 伊吹童子様は藤丸様の方に向かってひらひらと手を振って移動。海賊3名に円卓の騎士1名。そして蛇にある意味メガシンカしちゃった系女の子とガチの龍神が集まって藤丸君食べ放題ツアーをする・・・んでしょうねえ・・・おそらく・・・マシュ様、気絶している間に治療カプセルにぶち込むほうがいいですかねえ・・・あ。そう言えばフラム様、冬利様たちに召喚システムのメンテチェックと、元様に部屋の割り当てもらいましょう。

 

 

 うちの「家族」にはちょっと備えて用意してほしいものがありますしね。

 

 

 今だ結界を展開している部隊を藤丸様の貞操と命の危機があった時に主犯の英霊たちにタイキックをできるように指示しておき、私の直下兵、勝つ最精鋭を忍ばせておきまして、ある意味一番危ないヴリトラ様と向き合います。この方はある意味では世界の困難。人に立ちはだかる理不尽の結晶となったような人ですが、果たして?

 

 

 「わえはお前と契約する。並大抵ではない苦難の戦いにひるまず歩く勇者。その強い意志、策をめぐらして進む智謀。わえは期待し、何なら愛してもやろう。期待しているぞ? 銀狼の騎士。その名前に負けないほどの魂の輝きを見せつけよ」

 

 

 「勇者という意味では間違いなくストームとアルトリア様ですがね。ええ。これからもよろしくお願いします」

 

 

 「ああ♪ それとだ。伊吹童子のやつが渡し忘れそうだと言っていた土産がもう一つあってな。ほれ」

 

 

 無事契約を果たし、どうにも私たちを痛く気に入っているヴリトラ様は何やらナップザックから取り出して渡してきました。ってこれ・・・

 

 

 「聖杯!?」

 

 

 「の、欠片をかき集めていたらこうなった。正式な聖杯でもないシンプルな魔力の集まり。この施設の運営にでも使え。三つの特異点を踏破したお前たちにわえたちからの賞賛だ。それよりも、一つさっそくマスターに頼みたいことがあるんじゃが・・・」

 

 

 「はぁー・・・姉上。私が咲たちに渡してきますので、とりあえずその小悪魔系ドラゴンお願いします。これ、渡したらダ・ヴィンチちゃんどう反応するか」

 

 

 聖杯はアルトリア様に任せ、機器のパニック状態とカルデアの混乱を収めるために涙目になっているであろうダ・ヴィンチちゃんと咲様に聖杯を持っていってもらいます。で、頼みとは何だろうと私とストームが首をかしげていると。

 

 

 「わえの力が必要、暴れるまで時間はあるだろう? 暇つぶしの一つ二つ用意してほしい。礼は用意するぞ? わえを満足できるものを一発でくれればの」

 

 

 「ほうほう・・・では、ちょっとお待ちを・・・はい・・・はい・・・ええ。そういうことです。あのライブラリの部分を・・・ええ・・ありがとうございます。早速用意が出来そうなので行きましょうか」

 

 

 香子さまに連絡し、用意が出来たのでさっそく移動開始。困難が好き、それを乗り越えようとするものが好き。ならば・・・これしかないでしょう。

 

 

 ~しばらくして~

 

 

 「どうぞ。お納めください」

 

 

 ・SASU〇E

 

 

 ・プロジェ〇トX

 

 

 ・地方病との戦い~日本住吸血虫症~

 

 

 ・銀嶺隊道具作成あれこれ

 

 

 ・佐賀の男たち。幕末の強さへの歩みへ

 

 

 ・特撮の神様。怪獣王と光の戦士の誕生

 

 

 とりあえず、代表格としてこれらのライブラリ、そして諸々のデータを香子さまにチョイスしてもらって出来た超盛り合わせセット。これを渡すことにしてもらい、ひとまず部屋割と必要なものが用意できるまでは図書室の映像市長室で見てもらうことに。

 

 

 しばらくしてヴリトラ様を見れば、ヘヴン状態でイッちゃっていたので私が介抱して運ぶことに。

 

 

 「これほどのものをくれるとは・・・ふふふ・・・先が楽しみだ」

 

 

 そういって部屋に戻り、しばらくヴリトラ様の甲高い声と悶絶する声が扉越しに聞こえたのでより強固な特別防音性に変えました。その後でエス〇ンシリーズと地球防〇軍を持っていくと、更にやばくなったのはここだけの話。 




龍神二柱参加。まあ、この二人は目をつけそうだよなあと。将来が楽しみな上で今もおいしそうな藤丸、マシュの美男子美少女コンビ。艱難辛苦を乗り越えまくったあげくに人理焼却にも先陣を切る華奈、ストーム1、アルトリアトリオ。

ヴリトラはあのXなシリーズは一つ見れば一週間以上は感じていそうですよね。


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カルデアバイオハザード未遂

今回は短めでっす。




華奈「ストーム。ジークフリート様。ヴリトラ様は現在困難キメているので大丈夫だと思いますので、伊吹童子様やほかの人たちへの施設紹介。あとはまあ、一部を除いて大体半裸で歩くのもあれですので召し物を用意できるようにうちの舞台に頼んでいるので作業場に誘導を」


ストーム1「あいあい。ついでに備品化によって部屋に欲しいものを。だな?」


華奈「ええ。私や元様、冬利様など日本生まれも多いのと日本通がわりといたおかげもあって畳とか座布団とかもあるのである程度は日本のリクエストも応えられるでしょう」


ジークフリート「了解した。ところで沖田、黒ひげ、女海賊組の皆は一度同じ部屋に集めさせたが、何をしているのだ?」


華奈「信長様に頼んで少しやってもらいたいことをしたくて。あちらは後でいいと思います」


ストーム1「で、マスターはどうするんだ?」


華奈「手癖の悪いおじさまにちょっと釘を刺してきます」


ジークフリート「・・・護衛は?」


華奈「アルトリア様、孔明さまに頼んで、必要なら陣を敷いてもらいます。大丈夫ですよ。ダ・ヴィンチちゃんもいますし、ふふ」


 「さてと・・・その血液の予備。返してもらいますよ? モリアーティ様」

 

 

 「はて? 何のことやらさっぱり」

 

 

 強引にカルデアにやってきた皆様をさばいて、今はオルガマリー様、ストームたちに任せています。Wジャンヌをオルガマリー様に。ストームとジークフリート様でのんびりカルデア観光紹介&お引越し? の用意。ヤマジには引越しそば、クラークにはタオルを作ってもらっています。

 

 

 そして私はモリアーティ様が盗んだメデューサ様の血液の予備。厳重に保管していたのですがどうやって盗んだのやら。

 

 

 「・・・・・・・左胸の内ポケットに一つ。そしてベルトのバックルの中に一つ。匂いでわかりますしごまかしはなしですよ」

 

 

 「すでに陣も張っている。わかるな・・・? 犯罪界のナポレオン」

 

 

 「やれやれ・・・参ったヨ。ほら。返そう。しかし、銀狼騎士と言われていたがそれは戦いの鋭さや速さだけではなく本人もオオカミとは恐れ入る」

 

 

 私が嗅覚で場所を嗅ぎ当て、孔明さまの陣で逃げをなくし、それでも何かしようものなら外に控えているアルトリア様の直感で突撃してもらう。ダ・ヴィンチちゃん様も一緒にいるので一応堅い守りです。

 

 

 モリアーティ様も素直に血液の入った小さな瓶を返してくれたのでそれを受け取り、ダ・ヴィンチちゃんに渡して厳重に保管するためのボックスに収納。

 

 

 「そりゃ、あちこち放浪した理科と思えば開拓しつつ新食材発見をしていれば嫌でも嗅覚や聴覚は鍛えられますって。で・・・何に使うつもりだったので?」

 

 

 「これは華奈の所有物かつ、私でも流石に驚く劇物であり霊薬だ。マイガールと呼んでいる華奈のものをちょろまかすほどのものを考えていたのかい? ミスター・モリアーティ」

 

 

 「うぐっ・・・それを言われると痛い・・・!」

 

 

 何でかは知りませんがダ・ヴィンチちゃんの言葉にダメージをもらったモリアーティ様。「今」この血液は一つは劇毒。もう一つは万が一の解毒剤としての使用の用途だけ。毒の分は私しかもう持っていない。使用して見せたのもそれだけだ。

 

 

 ただまあ、私が話した、やって見せたことで何か思いついていたとすればこの行動も分かりますが。

 

 

 「・・・・・マイガール。華奈ちゃんの見せた。英霊としてのメデューサの血を怪物ゴルゴンとしての劇毒、そして霊薬の側面を引き出す技術。あれを見てカルデアの兵隊と資金を用意しようとしたのさ」

 

 

 「やはり」

 

 

 「はぁー・・・予想はついたけどね。おおよそ自室で調べた後にシミュレーターでテストするつもりだったね?」

 

 

 「確かにそれならやりようでは私も軍を率いれるが・・・危ないとしか言えないぞ」

 

 

 モリアーティ様の発言に皆頭を抱える始末。同時に私もそうですが、考えていたプランを一つ用意しようとしていたのに尚更この人の頭の回転に舌を巻く。

 

 

 「つまりモリアーティ様は・・・メデューサの血の側面・・・毒、薬のどちらでもなく生み出す力、変容させる力を引き出そうとしたのですね?」

 

 

 「その通り。この血液から天馬ペガサスが生まれ、そして無数の毒蛇に蠍が生まれた。その血は海へと流れれば石にされた哀れな被害者や石は赤サンゴ・・・おそらくは宝石サンゴだろうね。それに作り替えた」

 

 

 「魔獣を生み出して使い捨ての雑兵を使い、そして宝石サンゴは確かに魔力を篭める触媒としては上々。カルデアの宝石魔術やマスターたちの緊急魔力補給の道具としても使える。確かにありがたいプランだよ? でも、同時にリスクが大きすぎるし、君一人だけでやるにはちょっと危ないからね。任せられない」

 

 

 下手すれば神代時代の怪物たちをあのモリアーティ様に手綱を握らせるというのは危険だし、かと思えば宝石の方もNGカルデア内での闇取引とか、意思に何らかの細工をしてもおかしくないですよええ。

 

 

 「しかし、だ。現在カルデアの防備に関してはマイガールの部隊によって守られているのが現状。つまりは銀嶺隊の戦力は常に制限を強いられたまま今後特異点で戦わないといけない。英霊は増えたが、連携は出来ない。ならばまあ、使える戦力。しかもいくらでも使えるものを用意しておきたいと思うのは私の、マスターを重んじる英霊として当然だと思うのだが?」

 

 

 「痛いところを突くね君は。確かにそれは事実だ。だけど、それに関してもクー・フーリンや信長、ストーム2の参加で徐々に解消されている。しかも今回の大量参加であのアステリオスも来ている。犯罪界のナポレオンにしては理由付けが弱くないかな?」

 

 

 モリアーティ様の発言ももっとも。英霊たちの強さは疑うべくもないけども同時に個々の連携に関しては我の強さゆえに出来るかの不安もあった。けどもダ・ヴィンチちゃんの言う通り歴戦の神話の怪物戦士たちの頂点であった勇士クー・フーリン様、弱兵、様々な生まれの将を束ねて邁進し続けた信長様。そして神話の英霊ですらドン引きしそうな戦争を戦い続け、その場その場の部隊と連携、協力し続けたストーム2様たち。

 

 

 タフかつ経験豊富な一番槍、連携と不死身のタフさで支える中継ぎ。そしてそれを支持しつつ銃撃の嵐を叩き込めるジャイアントキリングのできる指揮官。そこに不意打ち奇襲の達人の海賊組、迷宮を使用して時間稼ぎもできるアステリオス様も言る。ダ・ヴィンチちゃんの言う通り人材不足も徐々に解消され、むしろモリアーティ様の行動のリスクの方が勝っているのが現状。

 

 

 「まいったね。その通りだよ。イヤーちょっと魔がさして、もっと言えばマイガールのあのジャイアントキリングを見たらつい発想が浮かんでね」

 

 

 「ああ。ヘラクレスをハメ殺したあの・・・でも、流石にダメですよそれは。毒の生物というだけでも危険なのに魔獣ともなれば英霊でも危ないですし、カルデアの職員はひとたまりもない」

 

 

 「毒の危険さに関しては私もよく知っている。ミスター・モリアーティ。流石に今回は華奈の言葉もあってこの注意で済ませる。以後、気を付けてほしい。でないと」

 

 

 「でないと?」

 

 

 最強の英霊ですら生前の死因からは逃げられない。そしてそれを備えて、応用してやって見せた私の戦いを見て感心すると同時にこの工夫に入ってほしくないやる気スイッチONしちゃったと。

 

 

 今回は未遂。同時にまあ惨事を引き起こさないように調整はするつもりだったであろうことは血液の量とストレス臭からわかる。なので罰は軽めに。

 

 

 「私と銀嶺隊はモリアーティ様に料理を振るいませんし、今こうしているようにおじさまと呼びませんよ? 今後一切」

 

 

 「ごめんなさい。許してください」

 

 

 私たちの料理抜きと、おじさま呼び禁止発言をすればあっさりと。もはや条件反射レベルで頭を下げたモリアーティ様。いや、予想以上のダメージなんですけども。

 

 

 「さすがにおじさんのガラスハートに華奈ちゃんにそう呼ばれないのとあの料理を味わえないのは大ダメージよ。あの美食に癒しは・・・」

 

 

 「では、今後こう言う危険な実験や試みは許可を得て、もしくは特異点で相手をハメ殺す際に使うこと。よろしいですね?」

 

 

 「こちらとしても流石に貴方を相手に気を張り続けるのは疲れるしそうしてほしい・・・戦場では手を貸すので尚更に」

 

 

 「ああ。それと協力する際は私も呼んでよ? 敵への悪だくみなら一緒にしたっていいだろう? 華奈ちゃん以上の大天才の私がいるんだ。最高の協力者じゃないか」

 

 

 釘を刺しつつも協力は惜しまないというお二人。まあ、実際あの探偵の代名詞であり象徴かつ頂点のホームズ、そしてホームズ以上の頭脳持ちと言われることもあるお兄さんにも中々尻尾をつかませなかった知識と発想。手際の良さは本当に頼もしく頼りになるんですよね。私もそれを踏まえたうえで呼びましたし。

 

 

 「了解だよ。世界史に名を刻む芸術家と軍師の協力は確かにやりがいがあるとも」

 

 

 「ふふ・・・それではモリアーティおじさま。ひとまずこれで失礼しますが、あとで紅茶とクッキーをお持ちしますのでね?」

 

 

 「ハゥッ!! ふふ。待っているよマイガール」

 

 

 ウィンクを飛ばして話は終わって席を立つ。その際にモリアーティ様は何か苦しそうでしたがすぐさま笑顔で手を振って私たちを見送るのでまあ、問題はないでしょう。

 

 

 「で・・・華奈。実のところ魔獣生成に関してどうするつもりなの?」

 

 

 「なしですね。藤丸様とマシュ様、ストームたちはいい気はしないでしょうし、制御もできるか不明。それよりは宝石サンゴを量産していざという時の特大宝具、もしくは連発用の弾薬、ガソリン代わりに使います」

 

 

 「妥当な判断だと言える。道具作成に長けたメディア、私も参加していくのと元、フラムを呼んでほしい」

 

 

 部屋を出てアルトリア様には無事終わったので休憩OKとハンドサインで伝えつつ三人で移動。実際に使うプランもありますが基本はなし。危険すぎるのと使い捨て、捨て駒の戦術は若いカルデアマスター組とストームには心象が悪いし、何より魔獣を利用されかねない。銀嶺隊は私の対魔力を使える上にそこから部隊の装備とかを用いて底上げが出来ますが、それも難しい血液製造の魔獣はもろ刃の刃かつなまくら。

 

 

 使用用途も限られて威力もないうえに危険では流石に危ないとしか言えない。

 

 

 それよりは魔力タンクの宝石を用意して貯蓄にしたほうがいい。ヴリトラ様、伊吹童子様という規格外も来た。どれだけあっても足りないかもしれないくらいだ。

 

 

 「ふぅ・・・ひとまず、私は休んでからまた部屋割りや報告書、ちょっと備えておきたいものがあるので失礼しますよ」

 

 

 色々あったドタバタ劇を終えてようやくひと段落。受肉しているので流石に疲労もたまりますねえ・・・気疲れが多いとは思いますが。ひとまず湯につかって、ご飯食べて、やることを皆さんに頼んでから眠る。そう決めて私はフラフラ歩いていきました




 メデューサの血の使い方、側面を引き出せばあのアラフィフ興味示さないわけないよねと。今回はカルデアの頭脳陣営と用意していた本人にすぐ見抜かれちゃいましたが。


 下手すればカルデア中で毒持ちの魔獣たちが暴れるという大惨事が起きていました。



 それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。


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裏技速攻攻略ロンドン
ロンドン攻略RTAスタート


 お恥ずかしながら戻ってまいりました。やっぱりちゃんと全部雑でも走り切らないといけないなあーと。


 今回のロンドンは超絶サクッと終わります。というのもある人物のせいですねえ。


 ストーム1に地球防衛軍6~9までの情報がアップデート。もっともっとやべー存在へ。もうグランドクラス級では?


 「みんなよく集まったね。次の特異点への準備が出来た」

 

 

 「今回向かう場所はイギリスはロンドン。時代としては産業革命の時代でこれまた人類史への大きな転換点となった場所だ」

 

 

 ロマニ様とダ・ヴィンチちゃんの説明で始まるブリーフィング。第四の特異点が早々に見つかった。そして観測も安定してレイシフトその準備も問題ないので皆さんを呼び出しました。

 

 

 「えーと・・・確かイギリスがメシマズの道を歩んだ転換点でしたっけ?」

 

 

 「言い方! とはいえまあ・・・その通りね。同時に大航海時代やあらゆる技術が生まれてきたともいえるわ」

 

 

 「華奈さんたちの郷土料理はおいしかったですものねえ」

 

 

 「話がずれちゃいますよ~まあ、そういうわけでして。恐らく行く場所としては。市内、街になるという感じですかね?」

 

 

 前の授業の話になりつつあったのでそこは軌道修正しつつ、今までとはまた違う場所になるのかと私が話を振ればロマニ様が咳払いをしてから頷く。

 

 

 「その通り。時代的にも既に発展して霧の都となっている場所になると思う。特異点だし、聖杯を取れば消える場所とはいえそこに住んでいる人たちも多いだろう。

 

 今までのオルレアン、セプテム、オケアノスのように派手に戦えばその被害は免れない」

 

 

 「つまりはまあ華奈ちゃんたち銀嶺隊やマシュちゃんの戦いはともかくストーム1や信長の戦いはちょっと周りを巻き込みすぎるかもしれないねって不安がある。まあ、そこを慮れる余裕があるかと言われれば分からないがその破壊が私達に有利になるとはわからない。とだけ言っておこう」

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんの説明に私達も頷く。今回のブリーフィングにいるのは私、ストーム1、2の皆さん。モリアーティ様、信長様、沖田様、藤丸様、マシュ様、ロマニ様、ダ・ヴィンチ様、そしてオルガマリー様。みんな揃ってド派手にやりたい方してきた私たちを見ますが知らんぷり。人的被害は敵軍以外だしていませんもんね~

 

 

 「まあ、それなら話は早いです。私の方はストーム、そして軍曹・・・いえ、大尉様。一緒に行きましょう」

 

 

 「了解。今回はレンジャーかウィングダイバーで行くべきかね」

 

 

 「問題ない。市街戦、対人戦の経験もばっちりだ」

 

 

 「俺は・・・マシュと・・・」

 

 

 「あー藤丸様はマシュ様と二人でお願いしていいです? 市内での戦いとなる場合人が多すぎてもですしね。後はまあ、ちょっと不安点がありまして・・・」

 

 

 何せまあ、今回行く場所は霧の都の時代のロンドン。つまりはまあ工学スモックやら糞尿に汚れまくりの川水に品質最悪の食品まみれの時代かつ、そこに何を入れ込むかわからない特異点という場所。

 

 

 私たちの場合は英霊なのと装備も相まってある程度対処は出来るとはいえ藤丸様はマシュ様の、もといギャラハッドの加護もあるとはいえそれさえも超えうる毒やら仕込み、危険で魔力の消耗や体力の消耗を抑えつつ必要に応じて戦力を出して動く方がいいだろう。

 

 

 「あの時代、日本の高度経済成長期の公害とかが可愛く見えるレベル汚染具合だったしねえ。着るだけで死に至らしめる緑のドレスとかもあったし。ただ、そこは僕たち医療班とみんなで用意したものがあるんだ。じゃじゃーん」

 

 

 「ダ・ヴィンチちゃんとロマニ、そして良馬、フラムたちによって出来上がった専用のマフラーさ。マシュちゃんと、藤丸君二人分あるよ。ガスマスク効果と悪臭をシャットアウトできる機能をつけた魔術礼装。作り自体は簡単だけどそれを使えば毒ガスの中だって悠々過ごせる一品さ!」

 

 

 そしてこういう時にちゃんと前もって動いてくれるのが有能な私の友人たち。じゃじゃーんとどこかの青たぬ・・・もとい猫型ロボットのSEを出しそうな感じで取り出したシックな濃紺のマフラーを二つ分取り出して藤丸様達に渡してくれる。

 

 

 シンプルに出来がいいのも相まって二人ともそのマフラーをまいてみては喜んでくれるので私達も思わず頬が緩む。特異点前だというのに緩いのがいいですねえ。

 

 

 「さて、オルガマリー様は今回はゆるりと休んでくださってくれれば。それと、必要ならギアススクロールも用意しておきますので」

 

 

 「助かるわ。華奈・・・今回は甘えるわね」

 

 

 「あれ? 所長は参加しないんですか? 今までも付いてきてくれたのに」

 

 

 オルガマリー様は今回メンバーから外しているのですがそれに首をかしげるのは藤丸様とマシュ様。まあ、この二人がそう思うのも今までの頑張りを考えれば妥当。でも同時にロンドンに行くのはまた特異点とはいえ彼女の立場を考えればまた危険。

 

 

 「ん~・・・そうねえ・・・まあ、いいかしら。藤丸、マシュ。二人ともすっかり忘れているけど私、仮にも時計塔にもかかわりが深い魔術師のトップ、ロードの一族なの。で、今回の場所はそれがあるロンドン。魔術師の総本山ともいえる場所にこの状況とはいえ足を運ぶのはね・・・?」

 

 

 「この人理焼却事件が終わった後に監査官たちや審問官たちに今回の件を見てロンドン、時計塔に古くから所属する魔術師たちの一族の情報を探ったり政争に使える弱みとかを握ったりとか、家宝や魔術触媒になるものを盗んだり、奪ったりしていないかと余計な火種を作りたくないのさ。いやー今のロンドンはいい場所みたいだけど時計塔は華奈から聞くだけども蟲毒ってくらいが・・・」

 

 

 「ロマニ!」

 

 

 「は、はいっ! 黙ります黙ります!」

 

 

 「全く・・・まあ、そういうわけでこの状況で何を言っているのかと思うかもだけどこの戦いが終わった後もちゃんとここカルデアを存続させるためにも余計なことを今回は出来ないの・・・申し訳ないわ・・・ただ、必要ならギアススクロールで魔術たちの私物や私財を荒らさないし見ないと制約を課してでもすぐに行くわ。だから、とりあえず頑張っていってきなさい」

 

 

 申し訳なさそうに頭を下げるオルガマリー様に皆も頷く。少し前を思えば本当に成長したとしか言えないほどのふるまいと余裕。先を見ることが出来ているのに私も安心。マリスビリー様の愛娘はちゃんと成長していますよ。

 

 

 「そういうわけです。なので今回は私とストームたちが主になって支えます。アルトリア様もいざという時の備えに残ってもらいますので予備戦力は潤沢。ストームも市街戦の経験があれば大尉様達もEDF設立前から軍で紛争地域で市街戦を経験している手練れ。少数精鋭で手早く特異点を解決するつもりで行きますよ!」

 

 

 「「「「オオッ!」」」」

 

 

 私の声でみんなが気合を入れてすぐさまレイシフトへの準備へ移る。ドタバタとにわかに騒がしくなる中、私はオルガマリー様を手招きで呼ぶ。

 

 

 「オルガマリー様。アルトリア様達にこの手紙を。それと・・・・・・・・・・・・・という感じでお願いします」

 

 

 「え、ええ・・・分かったわ。華奈・・・頼んだわ。今の実働隊のトップは貴女よ」

 

 

 「ふふ。感謝します」

 

 

 「行くぞマスターレイシフトの準備OKだ」

 

 

 オルガマリー様に手紙をいくつか手渡してから耳打ちしてからストームの声に応えてコフィンに向かいつつ手を振ってから特異点へ。さあ、昔のロンドンへ。同時に私にとっては未来でもあったロンドンはどうなっているのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オボロロロロロロロ・・・・・」

 

 

 「華奈さーん!!? だ、大丈夫ですか!!?」

 

 

 「うぅ・・・ストーム・・・水・・・後ミントガムください・・・ぃ・・・」

 

 

 特異点について早々、私はひどい悪臭に思わずゲロを吐いてしまう始末に。犬並みの嗅覚がここまで辛いなんて。化学物質と汚物とが入り混じって戦場でもそうそう嗅ぐことのない匂いでもう気分が憂鬱・・・

 

 

 「敵の気配はないが・・・いきなりこれとは大丈夫かマスター」

 

 

 「あはは・・・・あー・・・対策の礼装をつけてどうにか・・・ふぅ・・・吐き気もすぐ収まりますよ」

 

 

 『いやー・・・いきなり藤丸君たちには見せられないものを見せちゃったね・・・一応こっちの方でも観測しているが、人の動きもほぼないし、エネミーの気配もない、妙に静かすぎるくらいだ』

 

 

 『ヒロインがゲロする作品は名作といいますが流石に年上で、華奈さんヒロインというより姉さんですしねえ』

 

 

 「覚えていてくださいよ二人とも・・・ふぅ・・・」

 

 

 ロマニ様も良馬様も帰ったら辛うま料理で後日トイレの住人の刑にさせるのは確定として、その通り。特異点となったロンドンだというのに静かだ。いやに静かすぎる。ミントガムの糖分と香りでスッキリした思考と耳で周りを聞いても機械の音と人の声も家の中・・・・ん?

 

 

 「いや、敵が来る。何やら今回の相手は少し違うようだ。大尉」

 

 

 「ああ、この感じは・・・無人兵器、メカだ! マシュちゃん構えて。藤丸君は俺とマシュちゃんの後ろに」

 

 

 「チッ。メカですか。気配がないのは通りで」

 

 

 『こちらでも今観測した。エネミー! もとい魔力を纏った・・・いや、作られた? 機械とマネキンらしきものが近づいてきている。距離は100。囲まれる前に一度離れることもできる』

 

 

 人が動いている感じもないのに機械音だけが聞こえるのは変だと思っていましたがなるほど。敵の方が工場を制圧でもしてからこういう武器でも用意しましたか? シンプルに頑丈で叩きのめしやすい秋水といざという時は足場を作れるための深山を引き抜いて戦闘態勢。

 

 

 「一応この時代の町の地図はありますので一当たりしてから離れるのもありでしょう。ストーム。大尉様。スレイドを」

 

 

 「了解」

 

 

 「おう!」

 

 

 二人には最強のアサルトライフルと名高いMA10Eスレイドをもって大群対策への用意をしていく・・・が。不意に上空から気配が飛んできて私たちの前に着地。

 

 

 その存在はシンプルな皮と金属を合わせた軽装で片手には赤を基調とした両手剣ともう片手には小さめの金属でできたラウンドシールド。顔は仮面をかぶっているのでわからないが体つきと長い髪から女性と分かり美しいブロンドをポニーテールにまとめている。

 

 

 「そちらに敵意はない。少し待っていて欲しい」

 

 

 一度こちらに向き直りそうやって頭を下げた後にすぐさまその存在は霧の向こうからようやく見えてきた武骨なブリキのおもちゃとバケツをかぶせたような機械の兵士たちに突撃。その剣でまるでバターをナイフで切るようにばっさばっさと切り伏せ、大鉈のような刃は刃の腹を蹴り飛ばしてよけ、その剣を足場に飛んで機械兵を蹴り飛ばして同士討ち。川に投げ捨てたりとのやりたい放題。

 

 

 『ええ!? い、いきなり現れたと思えばなんだこの強さ!? て、敵がこちらで観測で来ていた分が次々と消えていくよ!? し、しかも・・・あの人サーヴァントじゃない!!』

 

 

 「ええ!? じゃ、じゃあ現地の人であの強さなんです!? えーと、ほら、ローマのネロ陛下みたいな」

 

 

 『その線もあるけど、この時代にここまでの超人的強さを誇る逸話の人はいないはずだよ! 何よりその魔力量がぶっ飛んでいる! 神代のそれだ!』

 

 

 「せ、先輩気を付けてください! 結構破片が飛んできて危ないです!」

 

 

 「あー・・・あれは・・・うふふ・・・」

 

 

 その戦いぶりに周りは驚くものの、私はすぐに合点がいった。その戦い方に、武器にすぐにおぼえがあったし千年以上たとうが忘れるわけがない相手。

 

 

 「伏せて(ろ)!」と二人同時に声をかけるやラウンドシールドの内側から飛び出してくる仕込みナイフがいくつもの機械兵たちに刺さり、盾とナイフを繋げるワイヤー越しに迸る赤い雷が走ったと思えば残りの機械兵たちをまとめてショートして破壊。

 

 

 こちらでも機械兵の音は遠くからやってくるのみなのを確認して頭を下げる前にその騎士は手を伸ばしてストップをかける。

 

 

 「セーフハウスがある。そこで一度話そう。それと・・・信頼のためにも自己紹介を。よっ・・・私の名前はモードレッド。元銀嶺隊の一員にして、オークニーの姫、ブリテンの後継国家の女王を一時的にしていたものだ。

 

 

 今回の騒動へは今の人類に任せるつもりだったのだが・・・この人も戦っているのにそれは不義理と思い参上した。なのでよければどうかご同行を願いたい」

 

 

 兜を脱げば私が昔分かれた時と変わらない。いや美しさは年月が磨いて落ち着きのある大人の女の色気。スタイルもアルトリア様やモルガン様達のいい所を手にしているようで親譲りのグラマラス。アヴァロンでも鍛えているようで先ほどの動きも緩みのないものだ。

 

 

 『ももも・・・モードレッド!!? 華奈の愛弟子にして宝剣クラレントなどをはじめにいくつもの武具を持つアーサー王にも認められた剣士にして銀嶺隊の遊撃部隊の隊長!! すごいビッグネームだぞ!』

 

 

 「ロマニ様声を抑えて抑えて・・・また機械兵の音が聞こえますし・・・それで、モードレッド様。そのセーフハウスにはこの大人数が来ても問題ないので?」

 

 

 「はい。華奈隊長とご同行している面々を入れても問題なく、一応数日分の食料も確保しているのでまず華奈隊長とそこの少年少女のカップルの分は問題ないです」

 

 

 「え!? あ、ちょっ・・・せ、先輩と私はそんな・・・!」

 

 

 「マシュとなら悪くないんだけどねー」

 

 

 「あ。えっと・・・そのぉ・・・」

 

 

 「はいはい。積もる話もレクリエーションの談話も移動しつつだ。俺が先導を助ける。モードレッド。それでいいか?」

 

 

 「ああ。華奈隊長が英霊として招いた人だ。よろしく頼む」

 

 

 「では私とストームが後ろを。マシュ様と藤丸様は緊急時に前後何方にも盾で蓋でも支援でもできるように真ん中に。行きましょう」

 

 

 本当に懐かしい、愛しい愛弟子であり頼もしい部隊長が帰ってきたことにモニターの向こうのカルデアでも大騒ぎ。特にモードレッド様の部隊の部下たちはそりゃあ鼻水も涙も垂れ流しの嗚咽を流しつつの歓喜の声だ。それでも静かに機械兵たちと会わないためのルートを選び、しばらく裏路地の細い道をうろうろぐるぐる回っていくように動いてから止まった建物の裏口に小さく魔術でかけたであろうロックを解除して中に溶けるように入っていくモードレッド様。

 

 

 「入るか。いやな気配も感じないし」

 

 

 「ええ。しかしまあよくもこんないいものを」

 

 

 そういってとりあえず私とストームから入っていき、整理された奇麗な居間を見た後、急に強い衝撃が襲い掛かり、その衝撃の正体、モードレッド様は大粒の涙をこぼして泣き笑いしながら私の胸に抱き着いていた。・・・・・・成長してはいるんですけど、やっぱり本質は変わってないかも?




 あの子というはモードレッド。華奈の教育を受けて成長をした大人版モードレッドですねえ~アヴァロンに住んでゆっくりと剣術に研鑽を積みつつ農家やっていたけど人理焼却騒ぎの余波を受けるわその解決に動く現人類の中に華奈がいるわで動くことを決意。


 ちなみにアヴァロンでのアルトリア達での農家としては肥料の整理やたい肥場の管理、好きな野菜はジャガイモと大豆。


 大体この子がカルデアに来る前から動いていたのでもうカルデアのやることが少ないというのが事実でしたとさ。


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華奈「もう大体終わっている」

 ~カルデア~


 モリアーティ「ああ、私の本領も発揮できそうなロンドンの特異点なのに米ガールにおいていかれた・・・もしかして前のこと怒っているのかなあ? どう謝るべきかネエ?」


 オルガマリー「ミスター・モリアーティ? 華奈からの手紙が」


 モリアーティ「マイガールが? どれ・・・・・ほほう? なるほど。了解した。感謝するよ所長さん。わざわざ来てくれたしちょっとお茶でも飲んでいくかい?」


 オルガマリー「ふふふ。じゃあ、ちょっとほかのメンバーにも手紙があるから、渡し終える時に美味しいお茶をいただいても?」


 モリアーティ「もちろんだとも」



 孔明「ほほう・・・」


 ジークフリート「ふむ・・・」


 黒ひげ「なるほど」


 沖田「かしこまりました!」


 ストーム2(居残り組)「大将の大将の頼みだ。用意してやらないとな」


 オルガマリー「一体、何を書いていたのかしらねえ」


 「うぉぉおおぉお・・・先生だ! 先生・・・せんぜいぃい・・・~~・・・俺の師匠。もう会えないかと思っていたのに・・・叔母上の言うことは本当だった・・・!!」

 

 

 「あーあーもう。さっきまでのカッコよさが台無しですよモードレッド様。ふふふ・・・私も会えてうれしいですよ。そして、ありがとう。助けてくれて」

 

 

 「っっ・・!ん・・・んぐぅ・・・うっぉおああ・・・・」

 

 

 先ほどまで毅然としていたモードレッド様がセーフハウスの中に入るや否やすぐさま抱き着いて泣いてしまう。千年の間に情緒は成長したかと思えば、アヴァロンに戻る前の、いえ、私の部隊長として過ごしていたころのじゃじゃ馬娘のころにもどっちゃいました。身体はすっかりたわわに実ったし魔力も増しているというのにもう。

 

 

 「全く戻ってきたと思えば客を大量に引き連れて泣き喚くとは道化もしないことを。それにアーサー王伝説の当事者がその師匠で円卓の騎士を連れてきただと? トンチキかつぶっ飛んだことをするな! 絵本作家の仕事がなくなるわ!」

 

 

 「まあまあアンデルセンさん。千年以上という私達では計り知れない間会え無かった相手です。多めに見てあげてください。おかえりモードレッド。そしてカルデアの皆さん。僕はジキル。どうぞよろしく」

 

 

 「私はナーサリー。よろしくお願いするわ綺麗なお姉さんたち、おじ様たち、お兄さん」

 

 

 「私はジャック。お母さんたち? なの? よろしく~」

 

 

 「私はふらん。よろしく~」

 

 

 「モードレッドの師匠か。ゴールデンではなくシルバーだが、うちの大将と同じ気配を感じるなあ。オイラは金時。ゴールデンと呼んでくれ!」

 

 

 「(どひぇええええ!!? 何ですのこのイケ魂の集まりは!? あの黒髪の少年の魂は今まさに研摩中の原石! 宝石となるかは不明ですが磨き上げればまさしく最高の玉砂利、黒曜石のような滑らかな輝きと色気はまさしく可能性の塊! そしてモードレッドさんのお師匠さんはまさしく磨き上げた刀剣! その美貌のように美しい銀色ですが、傷や使い込まれた後もあるような部分もありますがそれがまた色気に磨きをかけている! はぁ・・・こ、これはぜひお近づきになりたい!!)・・・・・・ハッ! ああ、申し遅れました。私は玉藻の前。気軽にタマモちゃんとでも呼んでくださいませ♪ 金時さんと一緒にロンドン旅行と思いましたがこのありさまでしたけど皆様との縁が出来たことが何よりですわ♡」

 

 

 ええ・・・・・・・英霊がすでに何名も。凄いことになっていますねえ。一体全体どーなっているのやら?

 

 

 「私は船坂華奈。昔にオークニーの第三位の将軍であり、円卓の騎士の末席をいただくもので、モードレッド様とは師弟であり、隊長と部隊長との関係です。今はカルデアに席を置いていますがよろしくお願いします」

 

 

 「僕は藤丸立夏。カルデアのマスターをしています。よろしくお願いします」

 

 

 「私はマシュ・キリエライト。藤丸先輩のデミ・サーヴァントでありカルデア職員の一人です。皆様よろしくお願いします」

 

 

 「華奈の英霊をしているストーム1だ。気楽にストームと呼んでほしい」

 

 

 「軍曹でも、大尉でも気楽に呼んでほしい。ストーム1と一緒に華奈の英霊として戦っている。とりあえず、情報交換をしたい」

 

 

 「フォウ!」

 

 

 「おや、フォウ様も。ふふふ。では、ここは安心できるということで休憩しがてら皆さんでどうなっているのかを話し合いましょう。カルデアの方でも聞きたい人は今すぐモニター前に集合です」

 

 

 『はいは~い♬ じゃあダ・ヴィンチちゃんがさっそくカルデアの質問を出していこう。皆よろしく頼むよ?』

 

 

 カルデア、カルデアの現地メンバー、そして特異点の英霊組がそろったのでとりあえず質問会を開始と。えーと、お茶菓子は持ってきているのと、水もあるのですが・・・ジキル様にキッチンを借りていいか許可を取らないと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ってわけだな。人理が焼けてしまって星の内海とか、あちこちの人の世界から繋がっている場所とかにも魔人柱やらなにやらがあふれたり大量の魔力リソースのかけら、いろんなものが急に溢れたりアヴァロンでも異変が起きたんだ。

 

 

 で、その際に今いる人類の組織の支援をどうするかと、今の人類に余計な干渉をするべきなのかとカルデアを調べようとしてみれば懐かしい魔力があると母上が調べれば先生がいるもんでじゃあアヴァロンはヴォーティガーンのおじさんとガヘリス兄上、ガレス姉上と妖精さんたちにアヴァロンの守りは任せて俺らはカルデア救援のために特異点に出向いたってわけ」

 

 

 「その際に現地人の僕と合流して魔術で安全な部屋に食料や諸々の備品の物資の都合の代りにその場所を貸してほしいと頼まれてね。そうしている間にあれよあれよと英霊たちと呼ばれる存在。ここの皆さんだね。を連れてきては情報収集とカルデアが来るまで守るべき拠点の警備としていたのさ」

 

 

 「ふー・・・いい茶葉だ。まあ、英霊になったとはいえ只の物書き。戦闘力に期待するなよ! まあ、この子供を肉体労働させるほど鬼畜ではないと思いたいが、魔術師どもの組織。ろくなことにならんと考えておくが」

 

 

 『なるほど。その中で何やら3魔人? という英霊たちが彼女たち、ナーサリーライムやかの切り裂きジャックをだまして町の人間を狩りつつこの魔力に満ちた霧で街を満たしていたと』

 

 

 「う。ピーとか、エム? って名前の、変な人たちに・・・博士も、やられちゃった・・・」

 

 

 なるほど。まあさっくりと言えば大体モードレッド様がカルデアの来る前にやることほぼ全部やってくれたし、戦力も整えてくれた。

 

 

 「けど、この魔力を含んだ霧と機械兵の出どころや最後の魔人。まあ英霊でしょうね。の居場所をつかめずにとりあえず撃退していたらモードレッド様の魔力放出の赤雷とこの霧の魔力が触媒になって金時さまが、そして一緒に玉藻様も来てくれたと。

 

 

 あ、クッキー焼けましたよ~それと紅茶に混ぜるためのイチゴジャムとレモン蜂蜜ソースできました~~」

 

 

 「紅茶は私特製ブレンドですよ♪」

 

 

 しかしまあ、この霧の中でここまで動きつつしかも英霊相手にこの大健闘。本当に成長しているのと聴覚を利用した居場所の察知とか色々教えていたのが功を奏しましたか。いやーよかったよかった。我が弟子の成長にちょっとおばさん泣きそうです。

 

 

 「待ってましたあ! うまい・・・はぐ・・・うめえよぉ・・・・!!」

 

 

 「モードレッドさん。あの、涙が。大丈夫ですか?」

 

 

 「ん? お、サンキューマシュ。にしても・・・・・・・あいつ、こんな趣味していたのか・・・はぁふ。倒錯しちゃったかなあ」

 

 

 「ほへ? 趣味? 倒錯?」

 

 

 「えーと・・・・あー・・・・うーん・・・あとで教える。とりあえずありがとう。マシュも食べよう。先生のクッキーは母上に負けないほどうまいぞ!」

 

 

 「はい! 昔からよくご馳走になっていますので楽しみです!」

 

 

 「なんだと! クッソー!! おい、新作とかあるのなら教えてくれ! レビューしろぉ!!」

 

 

 「ひえっ!? な、なんですか!?」

 

 

 あっちではマシュ様とモードレッド様が仲良く騒いで

 

 

 「よーしよしよし。いい子たちだあ。小さいのに頑張ったな。そら。おじさんがお菓子をあげよう」

 

 

 「「わーい!!」」

 

 

 「ふらんも―たっぷりのチョコをしょもうするー」

 

 

 「あーそれなら。確か板チョコが何枚か。マスター用に用意したものだが、飯もあるようだしほれもってけ―」

 

 

 「「「ありがとうストームおじさん!」」」

 

 

 「こんな状況だが、子供たちの笑顔はいいものだなあ・・・」

 

 

 「まったくだ大尉」

 

 

 あっちでは子供組をストームチームであやして遊んでいる。

 

 

 「ほほう! アークが本当にあったうえにしかもギリシャの英雄や海賊たちとドンパチしながらの船旅にダンジョン探索と来たか! なるほどばかげた話だがこの状況の中ではどんな話もマシだろう。さあ話せ! ここ最近は脳筋どもが敵を何体倒したとかの話しかなかったのでな。存分に聞かせてもらおうじゃないか! 全く円卓の騎士の手製茶菓子とお茶を飲みながらこれをできるとは出来れば生前にしたかったくらいだ!」

 

 

 「え。えーとじゃあ。あ、口下手なのでできればロマニさん。カルデアの映像も見せていい?」

 

 

 『あーまあーそうでないと離してくれなさそうだしねえ。いいよ。英霊の協力を得るための駄賃だと思おう』

 

 

 藤丸様はアンデルセンさまに捕まって今までの特異点の事を根掘り葉掘り聞かされそうな様子。

 

 

 「で、金時様達はとりあえずモードレッド様達の助太刀をしつつ食事の補給とか、あの機械兵とか人形とかとんで襲ってくるわエネルギー弾ぶっ放す本をしばきながら過ごしていたと。いやはや、感謝します」

 

 

 「なあに。人類のピンチ、そして師匠の助けになろうと頑張るガールを助けるのは当たり前だし、実にゴールデンな戦士。助けないのは頼光四天王の名が泣くぜ! す・・・・んー・・・ゴールデン。このゴールデンなティー。味も最高だ・・・・」

 

 

 「おほほほほ。いえいえ大和撫子が戦士の助けをするのは当然のことですわ。それよりも円卓の騎士のすさまじさは知っていたつもりですがまさか金時さんに負けないほどの大暴れをするモードレッド様も、そのお師匠様も来るとは意外でしたねえ」

 

 

 私は私で日本英霊の皆さんと茶をしばきつつ保存食で持ってきていた駄菓子とか袋菓子も開いて座布団の上でのんびり。ロマニ様が『僕も欲しかった季節限定の日本のブラ〇クサンダー!!』と嘆いていたけどこの前ミーティングをさぼろうとしていた罰ですよ。分ける分はありません。

 

 

 しかし、同時に気になることも出てくるというのもまた事実。というか不安要素と疑問点が出てきましたね。パンパンと強く手を叩いて一度みんなの話を切って私に注目させる。

 

 

 「モードレッド様の情報とカルデアの話をまとめていったところ、こんな感じですよね?

 

 

 ・敵組織は英霊を束ねていて霧と機械兵(ヘルタースケルター?)を出しながら町を侵食。

 

 

 ・霧の範囲では察知がカルデアも難しいし、どうにもその霧の範囲内では敵がこちらを察知してくるようで長居すればするほど不利。

 

 

 ・その敵の内明確に分かっている数は3名で、うち2名はモードレッド様が倒している。

 

 

 ここまでは分かります。で、今私達もこの特異点に来て1時間ちょいすぎたくらい。今から探索をする。この町の謎や情報を探るのは可能ですか? モードレッド様、ロマニ様。両真様」

 

 

 遊ぶのも座談会ももう少ししたいけどとりあえず動くべきかそうでないか。それを決めてから動くべきだろうなあーということでひとまずサクッとまとめてみるとモードレッド様とジキル様がそろって首を横に振る。

 

 

 

 「金時君、玉藻の前さんが来てくれたことでメンバーの安定感も上がったし、ジャックちゃんもいるからということで前もって昼と夜の危険度を調査したんだけど夜の方も動き回る頻度は変わらず、むしろ昼以上に視界も遮られるしで危なさが増す」

 

 

 「ジャックのおかげで無事に逃げ切れたが相手も英霊。魔力リソースをどっかで安定的に確保して常に数を用意していやがる。しかもこれに関しては完全に俺の落ち度だけど敵の英霊を二騎倒したことで敵の警戒度とその二騎を維持するための魔力も回したんだろうな。前よりもずっとあの機械どもが増えていて下手に調査をしようにも気が付いたら囲まれるって状況がここしばらくだ」

 

 

 「かといって派手に暴れれば隠れている人にも被害は出るだろうし、それに敵のいる場所への目星も全くつかめねえ。モグラ叩きっつーか、そもそもモグラの穴すらも分からねえって話だ」

 

 

 『今一応アルトリア君の機材や道具でアップデートをしているけどそれでもエネミーの索敵範囲は今までと比べてかなり落ち込んでいる。正直なところ対策が完了するのを待つよりも動いて探したほうがいいかもしれないと思う』

 

 

 うーん。敵からは霧の中に入ればこっちの場所は分かっちゃうのに、こちらは逆に探知能力が私もカルデアも鈍る。敵の将軍と言えるかもしれない英霊の数は減ったけど雑兵が増えて動きづらいし、本陣も分からない。

 

 

 敵の場所と数がわかれば策を練ることもできるんですが、相手の場所がわからないとちょっと策が打てないですねえ。

 

 

 「じゃあ、相手を倒すためにも策を練るためにも一度休むほうが正解。ってことですかねえ。とりあえず色々と整理をして考える時間が欲しいですし」

 

 

 『僕も賛成だ。この戦力とは言え視界も悪いし大立ち回りもしづらい市街地。目標を定めずにこのロンドンで動き回って迷ってしまったりとかも怖い。

 

 

 こっちも可能な限りその間にセンサーの性能などを上げられないか、センサーの方向性を変えて相手を早く捉えることが出来るように工夫をしてみる』

 

 

 「それなら明日の探索用に僕の方で用意したロンドンの地図と現在地をマークしたものがあるからそれも用意だね」

 

 

 「それなら、こっちだけわかるためのマーキングやしるしの用意とかもしておくべきかねえ」

 

 

 「でしたら私の魔術を使えば宜しいでしょう。私キャスターですしこのくらいでしたらお手の物です」

 

 

 とりあえず今は休んで夜を過ごしてから動く。そのための準備もサクッとできたのでロンドンに来て早々に休むことに。なんか、特異点に来たというよりもロンドン旅行に来た空気ですねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふわぁ・・・・さて・・・早朝ですが、今日の方はどこに行きましょうかねえ?」

 

 

 朝、とりあえず顔を洗って軽く歯磨きをしてから朝食を皆さん分作りつつとりあえずどうするか。

 

 

 とはいえこの霧の中、特に行くべき場所もなければ既に行った場所にもヒントらしいものもなかったようで現地組、先行組はほぼ全員首をかしげる中意外な人が手を挙げた。

 

 

 「それなら一つ行ってほしい場所がある。まあ、いわゆるお使いみたいなものだが、ついでにいいものでも拾えるのではないか?」

 

 

 「ほほう? そこは?」

 

 

 「魔術協会。時計塔と言えばいいか? そこだな。昨日から藤丸の話をずっと聞かせてもらっていたが英霊召喚の術式や、特異点のあれこれを聞いて気になったことがあったのでな。そしてこの魔力を含んだ霧だ。少し調べ物ついでに便利な小道具でもあればこのめんどくさい状況も変わるかもしれない。悪くないだろう?」

 

 

 次の行き先は魔術協会での本の盗み見とちょっと泥棒・・・もとい拝借できる道具の散策ですか。まあ、悪くはないかも?




 のんびりロンドン観光のノリになりそうなほどなカルデア御一行。まあモードレッドがあらかたどうにかしちゃったからね。仕方ないね。


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聖杯戦争って

 某反応集で正雪先生がカルデアの教師陣たちに教鞭をとる話。あれに華奈とクラークがいたらさらにひどいことになりそう。1000年以上も続く学校の初代校長とそれを見出して鍛え上げた将軍ですし。


 「魔術協会。ですか。悪くないですね私もこの霧をどうにかするか、出所を探るために高い場所や情報を絞るためにもいいと思いますし」

 

 

 『うーん。そうなるかあ・・・・・いくら派手に家探ししても今なら問題ないのかなあ・・・?』

 

 

 「流石に泥棒までするつもりはない。この状況。特異点への理解を深めるため。もっと言えば、だ。この霧が魔力を含んだものというのならその魔力を調べたりだのなんだのをする道具があるであろう魔術協会、時計塔に行けばいいだろう?」

 

 

 『確かに・・・・あー気が乗らないけど、可能な限り派手にやらないでよ。たとえその影響が修復後に及ぶことはないとはいえ、百年前以上の時代とはいえその子孫が今もいる場所。荒らされるのはやっぱりいい顔をしないでしょうしね』

 

 

 オルガマリー様は頭が痛そうな様子と声を出しますがそこは私も同意。というか資金確保とか備品整理の際に魔術師たちと交渉や渡り合ったからこそそういうのにも嫌がるのは納得ですし。

 

 

 「かといってこの人数でごちゃごちゃと動き回るのは結局目が着くのと、可能ならそれで相手が動いた際には即応できるように人を分けたいですね。

 

 

 私と藤丸様は分かれていきましょう。で、私は時計塔、魔術協会に。あそこには何度も足を運んでいますし罠の具合とか対応もできます」

 

 

 「俺はマスターについていこう。この兵科ならまず不利は取らないはずだ」

 

 

 「俺は藤丸君につく。恐らくだが近代都市での戦闘経験なら一番だと思う。それにガンナーの射撃能力はあって損はないだろう」

 

 

 ストーム1はペイルウィングの姿に変化してイクシオン兵装とレーザーランスの装備。大尉さんは藤丸様へ護衛。貫通するアサルトライフルを持っていますし、実際にカエルやグレイたちとの戦闘の際の経験と立ち回りは安心できますしね。

 

 

 「なら俺は藤丸達といる。先生と先生が認める戦士がいるっていうのならこっちも近接戦で荒事をできる剣士は必要だろ? それに大差はないがここで戦闘した分土地勘は少しはある。即応する際にも俺がいたほうがいい」

 

 

 「オレっちは留守番だな。小難しい文章とか魔術はさっぱりだし、拠点防衛の戦力として使ってくれ」

 

 

「僕は魔術協会に行くよ。顕学者の端くれとしても興味があるし、僕もこの状況やいろいろ知りたいし」

 

 

 「俺も出向くとしよう。やりたくもない缶詰に興味のある本や情報に触れられる取材のチャンス。それに肉盾・・・もとい護衛もたくさん特ればいい機会だ」

 

 

 「わたしたちは華奈さんについていくよ? アサシンクラスだから、色々役立つ。かも? それと、霧の中でも目がきく」

 

 

 「わたしはストーム2のおじさまと藤丸のお兄さんについていくのだわ。何もできないかもだけど、最低限戦えるから」

 

 

 「私は一応華奈さんについていきましょう。このまま缶詰も嫌ですし聖杯戦争のあれこれは多少は縁がある身。暇つぶしの情報を得るのにも、ここ以外でも使えそうな陣地を手にするにも私の能力は使えましてよ華奈さん♬」

 

 

 「ふらんはのこる。護衛? お留守番する」

 

 

 「私は先輩といます。では、魔術協会へは華奈さん、ストーム1さん、ジキルさん、アンデルセンさん、ジャックさん、玉藻の前さんが。留守番組は先輩、私、ストーム2さん、モードレッドさん、ナーサリーライムさん、金時さん、フランさんということで」

 

 

 『メンバーは決まったようだね。じゃあ、出発だ』

 

 

 『ああ、それとフラン君。君の持つそのハンマー? と器具。少し気になっていてね。解析させてもらえないかな? お礼にお菓子と美味しいジュースを上げよう』

 

 

 メンバーも無事決まったので善は急げ。ということで出発です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ!」

 

 

 「ほっ・・・!」

 

 

 さてさてついてきてくれたメンバーがほぼ英霊、そしてジキル博士もまあそこそこ動けるので早足に魔術協会跡地に向かいましたがヘルタースケルターにマネキン? の襲撃はどこかで貰うもので。

 

 

 少数なら私の飛ぶ斬撃とストームのレーザーランスですぐなんですがこうも数が多いと移動速度も鈍るというもの。銀嶺隊の一部を呼び出して戦うよりも少数である程度範囲を出せる技で戦う方がいいですし、しょうがないですかあ。

 

 

 「ストーム、そのまま右に5発」

 

 

 「マスターはそのまま前進と、んー3発放てばいいと思う」

 

 

 「了解」

 

 

 「いやはや。空中からの視界を手にしているとはいえこの濃霧の中着弾時の音と光以外ではエネミーを見れない私達ですがそれは同じはずの華奈さんも軽々と視界に入るかどうかの中でズンバらり。歴戦の猛者とはこうも怖いものなのでしょうかねえ」

 

 

 「お母さんたちすごーい」

 

 

 「おかげでこっちは多少がれきの上をたまに歩く程度で住んで実に楽でいい。そら、ここだろう。大英博物館・・・の跡地だがな。全く。派手にやったものだ」

 

 

 まあ、歩きなれた道、あれこれ言いつつも火力支援や肉体強化の術式で支援してくれる玉藻様や目についた敵はサクッと刈り取ってくれるジャック様のおかげもあって軽いジョギングの速度で着いた場所はある意味この特異点の中にあってある意味異色と言えるもの。

 

 

 基本建造物が壊されていない場所ばかりだったというのにここはもはや廃墟、あるいは解体跡地といったほうがいいほどに壊されていた博物館跡地があった。

 

 

 『ああ・・・何と嘆かわしい。世界中の歩みと歴史、多くの美術品や作品がそこにはあったというのに、ここまで壊すとは・・・許せない! 私がそこにいればすぐさま犯人を殴りに行っているところだよ!』

 

 

 『落ち着いてレオナルド。しかし、こうなると魔術協会跡地は空振りになるのかな?』

 

 

 「いえ。魔術協会跡地はありますよ。正確にはここの下に」

 

 

 『下?』

 

 

 「魔術協会は時計塔を心臓部に地下から根を伸ばすように街のあちこちにつながっていたり、通路や研究室、倉庫などがある。だからたとえ地上部が派手に壊されていたとしても地下通路が無事ならそこからいける。資料を探せるというわけです」

 

 

 「そういうわけです。どれどれ・・・」

 

 

 とりあえずがれきのない場所に鞘でコンコンと地面をたたいて歩いていき、数歩、また数歩と歩いては耳を澄ましているとあたりの音が。

 

 

 地下室への扉へのあたりを見つけたのでがれきをどけていると何やら地下室の方から変な音が。

 

 

 「む?」

 

 

 「蝙蝠でもいるのでしょうかね?」

 

 

 「あー・・・ストーム。兵装をサンダーボウにチェンジ。それと、皆様。多分挟み撃ちの状況になると思うので申し訳ありません」

 

 

 もう嫌な予感しかしないけど開けないと始まらない。ということでがれきをどけて隠し扉を蹴飛ばせば、ちょっとしたモンスターハウスが幕を開けてしまいましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ほほう。なるほど。このシステムは大変興味深い。これをもし軽量化して使えれば今後カルデアのマスターは愚か、カルデアの魔力の貯蓄もほんのちょびっとだけだが改善されるかもしれない。お手柄だぞフラン君』

 

 

 「ふふん。もっとほめていいよー」

 

 

 「おじさま。もっとプリキュアの続きが見たいのだわ! まだまだあるかしら!?」

 

 

 「あるぞーほれ、金時君には仮面ライダーの作品。漫画でいいかな?」

 

 

 「サンキューストーム2! いやー小難しい本やらフォックスの見せる旅本よりもこっちの方がおもしれえ」

 

 

 先生らが出ていってこっちは留守番組。とは言っても叩くべき英霊や敵の親玉? も出てこなければこっちの聞こえる範囲内ではヘルタースケルターは動いていないので現在は思い思いの時間で体を休めつつ娯楽にふけっている。

 

 

 そこの中には当然仲睦まじく話している藤丸とマシュもいるが、とりあえず今の時間を利用しておかない手はない。先生が沸かしてくれていたお茶を淹れ、二人の前におく。

 

 

 「おい、藤丸。マシュ。俺がここに残ったのは戦力の過剰分散を避けるためでもあるが、もうひとつ。お前らに話したいこと。伝えたいことがあるからだ」

 

 

 「何を伝えたいの。モードレッドさん」

 

 

 「はい。私達にというのは、私と先輩にですか?」

 

 

 「ああそうだ。マシュ。お前さんの力と、その装備はまさしく英霊のもの。だけどマシュは今の時代の人だし、偉人でもない。武将でもない。だけど言ったよな。デミ・サーヴァントだと」

 

 

 「はい。私は先輩のデミ・サーヴァントであり、私の体の中にある触媒。その触媒を持っていた英霊の力を借りて戦っている状況です。宝具も使えていますが・・・まだ、真名は分からずですけど」

 

 

 やっぱりだ。俺や先生を見てもマシュが何も感じていない。いや、もっと反応がないのがおかしかったがそれなら納得がいく。ったく・・・下手に深入りしたり、力を引き出させないことで体を気遣うやさしさのつもりかもしれないが、この状況で中途半端な力だけで今後への備えが出来るかってんだ。

 

 

 俺やあんたを鍛えた先生は、母上は中途半端な手を打たないだろう。まず戦なら、練兵なら、その装備を用意するのなら最高のものを、最高の練度を持つ兵士に渡したってのに・・・あーもー・・・ったく。騎士道や紳士をどうこう言える状況じゃねえのがわかってんのかねこいつは。

 

 

 「なら、話は早い。先生が何も言わないってことは俺に任せたってことだろうし。俺はマシュ。お前の中に宿る英霊の真名を知っている」

 

 

 「ほ、ほんとですか!?」

 

 

 「ああ、ただし。だ。カルデアがアイツの遺物、所縁のあるものを埋め込んでいるという部分やあえて正体を教えていないこと、先生が何も言わないことにいろいろあるのだろうけど、その上で言っておこう。それを聞く覚悟はあるか?」

 

 

 『ちょ、ちょっとモードレッド卿!! マシュにその話は!』

 

 

 ロマニだっけか? が口を挟むが無視。俺じゃなくてもパーシヴァルやほかの円卓にゆかりのあるやつらならあの気配ですぐ気づく。特異点や英霊の事を知っているのならいずれぶち当たる問題。隠したいのなら最初から戦場に出すなって話だ。

 

 

 「覚悟。ですか・・・・?」

 

 

 「ああーそうだ。いいか。お前はまだあくまでもデミ・サーヴァント。その力はあるし、ここまで来ている実績も認める。ただ、それでもあくまでお前さんはまだ英霊の力を使うだけの女の子だ。生まれつき戦士として教育されたわけでもない。ここで何も聞かずに場合によってはカルデアの一職員として藤丸や先生を補助する選択肢も選べる。今振るっているその力もまだまだマシュの中の英霊の本領じゃないしな。

 

 ただ。その名前を知れば。真名を知るということはマシュ・キリエライトとして、そしてその英霊の名を、力を振るうものとしての責務と英霊として今後より苛烈な戦いに身を投じ続けることになる。全力の力を振るえて、カルデアの内部にも明るい戦士であり、藤丸とも仲のいい戦士だ。今後どうなることであれその力は必要とされるだろう。

 

 かつて叔母上は少女の身でありながら国を思い騎士になるために聖剣を引き抜いた。先生は国や人々、俺らを守るために刃を振るい二つの国の将軍となった。マシュ。お前はその選択をしないといけない。どうする? 今ならまだ引き返せる」

 

 

 「マシュ・・・」

 

 

 藤丸もつらいだろうな。ただ、どっちにしろ保護者がいないこのタイミングだからこそ。モニターの向こうで騒ぐだけのやつらだけのこの状況だから覚悟を聞くべきだ。自分で本当にその道を選ぶのか。捨てるのか。本当に戦い抜く覚悟があるのか。その人理という重すぎるものを救うための旅路の最前線を行くのか。今の人間の覚悟と勇気を見せてほしい。

 

 

 「マシュがどの道を選んでも大丈夫だよ。俺はマシュを信じているし、ちゃんと助けたり、支えられるよう頑張るから」

 

 

 「先輩・・・! ・・・・・・・・・モードレッドさん。私に宿る英霊の名前を。真名を教えてください」

 

 

 「いいんだな? 後戻りできる最後の最後だぞ?」

 

 

 「大丈夫です。私は、皆と一緒に未来を見たい。進みたい。そのために力が必要なら。英霊の責務も背負います!」

 

 

 マシュも、藤丸もよどみのない瞳で俺を見てくる。ああ、強く優しい目だ。不安もある。でもそれを奥底に沈めて前に進むと決めた目。俺の部下や先生たち、兄上たちの持つ瞳だ。ったく。あいつめ。いい女に力を振るってもらえるとは。生前も今も女の縁には恵まれているな。性癖は置いておくとして。

 

 

 『私からも是非教えてあげてほしい。君の方から伝える方がマシュの中の英霊もきっと助けてくれるだろう』

 

 

 「分かったよ。いいか、マシュ。お前の持つ英霊の力の正体、真名は円卓の騎士ギャラハッド。そして、もうわかると思うがギャラハッドの育ての母親は同じ円卓の騎士である華奈先生だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー・・・ひっどいめにあいました・・・けむい・・・」

 

 

 『いやはや、まさか魔本、魔導書や魔術書の類がこの霧の影響のせいでモンスターとなって襲い掛かるとは。どこぞのホグワ〇ツ魔法学校か、B級ホラーパニック映画のような絵面でしたねえ』

 

 

 あれから空飛ぶ本とヘルタースケルターとマネキンの群れと戦うというトンチキな内容を越えて、なんでか変なスイッチはいったアンデルセン様を落ち着かせてから玉藻様に内側から再度地下室の扉を施錠して結界を貼ってもらう。

 

 

 「じゃあ、とりあえず調べるべき部屋から本。それと・・・・あー。あったあった。学生の実験用の教材。これが欲しかったんですよ~♪」

 

 

 「そっちも何か目当てを見つけたようだな。じゃあ、こっちはこっちでホンを読み漁らせてもらおう。ああ、当然茶菓子とお茶はあるんだろう?」

 

 

 「全くもう・・・ありますよ。少し渋めの紅茶と甘いスコーンが」

 

 

 「しかし、これで何をどうするの?」

 

 

 とりあえず結界と備えをさせてから私はその教材をもってから地下室を移動して抜け道の一つ。ぱっと見はただの高めのアパートメントの一室に移動。そこからよいしょっと屋上へ。

 

 

 「ここなら霧の影響も薄いですね。この道具。水質や大気の中の魔力濃度を調べることが出来る道具でして。例えば魔術師が魔方陣や陣地を練り上げる際にどの場所がいいか、あるいはその水を使う際に使えるのか、そして魔術師がすでに何らかの動きをしているかを調べるための簡易キットなんです」

 

 

 ぱっと見は試験官に一切れの紙が入っているだけのものだが、いわゆる小学校で使うリトマス紙の魔術師バージョンと言えばいいだろうか。その説明にストームもペイルウィングのまま女の声とスタイルで可愛く微笑む。

 

 

 「つまり、これで霧の濃度の濃いところ、つまり魔力がこの中でも特段濃い所がこの霧の発生源。というわけね」

 

 

 「ご名答♬ もはやここの霧の濃さは異常ですし、ドローンや何かを利用してもいい結果は出ないでしょうしね。あとは、おそらく下水道? とかを通じてこの霧を出しているのでそういう場所が集まる。集合住宅や広場は同じような場所がいくつも。

 

 

 この中で本命のいる可能性が高い場所を探るのはちょうどいいでしょう? しかも、ペイルウィングと飛行特化のコアエンジンなら。その調査もすぐ。ですしね。はい。最低ランクですが気配遮断に近いことが出来る指輪。ではお願いしますね~」

 

 

 「本部のいつもの無茶ぶりに比べればお茶の子さいさいってね♪ それじゃあーそれっ!」

 

 

 そういってしばらく空を飛び回り、検査結果のデータをまとめていくことしばらく。

 

 

 「・・・・・濃度の一番高い場所、一つはウェストミンスターエリア。国会議事堂のある場所ですか。で・・・もう一つは・・・ええ・・・・・シティエリアの中心地。私達の仮拠点のすぐ近く。そしてそこから近くの地下鉄エリアから特に霧が濃いと・・・灯台下暗し。って話じゃないですねえ。全く。良馬様。今の魔力の高い場所をポイント。此方の方でもマップに登録してから戻ります。

 

 

 一度地下室に戻りますのでそれでは。ストーム。行きましょう」

 

 

 「あいあい。後ろは任せて」

 

 

 こっちの方は相手の拠点と思える場所を調べ終えましたが、あっちはどんな感じですかねえ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま戻りました。そちらはどうでしたか?」

 

 

 「ああ、ある程度の目星がついたと言えるな。とりあえず。だ。メモと写しの方も用意した。戻るとしよう」

 

 

 「いやはや、私の術式や式神をコピー機のように使い倒して、自動筆記システムを用意したりとでやりたい放題でしたとも・・・・」

 

 

 「いつの時代も作家とのやり取りって大変なのねえ。お、ジャックちゃんいい子にしていた? はい。おやつ」

 

 

 「わーい♬ えへへ。ジャックいい子にしていたよ~絵本が無くてつまらなかったけど」

 

 

 「ふふふ。まあまあ、もう家に帰りますからね。あったかい毛布もストーム2のおじさんも、ナーサリーちゃんもいますよ。じゃ、とりあえず皆さん私に掴まってくださいね。あ、それかみんなで手を繋いでいきましょう」

 

 

 全員で手を握り、龍脈と仮拠点とここの流れが問題なくつながっているので縮地を使って一気に移動。この霧の中での移動も問題ないと判断しましたが無事にできてよかったです。

 

 

 ドアをノックして部屋の中に入れてもらい、改めて全員集合。マシュ様と藤丸様が何やら一皮むけた様子と、力も違う。ふむ。モードレッド様がマシュ様の英霊の力を教えましたか。いい感じに席を外せたようでよかった。

 

 

 「さて、調査の方を終えたわけだが、一応華奈の調査結果の方は既にカルデアにも出しているようだし、まずは俺の無駄話に付き合ってもらうとしよう。ああ、話を遮っても無理やりに続けるからそのつもりでな?」

 

 

 「いいですよ。積もる話は多いですがまずはそちらから」

 

 

 「では。まず、俺とジキルは聖杯戦争のシステムと英霊を気にしたこと。その上で実際にその聖杯戦争が多く行われているという極東。日本だったか。のシステムを着目した」

 

 

 「一つの聖杯をめぐり、その聖杯の力を用いて7騎の英霊とそのパートナーとなる魔術師。マスターといえばいいかな。で争い合う。それが聖杯戦争のベースとなる。でいいよね?」

 

 

 「はい。おおよそはそれであっています」

 

 

 冬利様や咲さまの調べたものだと2騎、4騎と聖杯の代りとなる規模や触媒などを使っている場合は数が違いますが完成度、その『大本』となる者には一番これが近いでしょうね。

 

 

 みんながほほうとなる中で挙手をするのはナーサリーちゃんを膝の上に乗せた大尉様が。

 

 

 「なんだ?」

 

 

 「その、聖杯戦争? とやらは英霊を呼び出す。で、勝者の賞品はその英霊を呼び出したりとか、特異点を作れるほどの力があるほどの聖杯を手にするわけだろう? つまり、勝者の魔術師、マスター。そしてパートナーの英霊が願いをかなえる。ということでいいのか?」

 

 

 「む。そういや、過去の時代の英傑が何かを願う。と言ってもそれは歴史に変化を加えることになりかねないよな。それって、出来るのか?」

 

 

 大尉様の質問に小首をかしげる膝の上にジャックちゃんを乗せた金時さまも疑問に思う。その願いが英霊の座の中だけで済むようなものならまだしも、大きな転換点、分岐点となるようなものを変えてしまう。それがかなってしまえば聖杯と言えども不具合や、何か異常が起きるのでは? と思ったのでしょうね。

 

 

 実際その通り。誰かに死後でもいいので感謝を伝えたい。とかなら神様から天国にいるあの方からのメッセージとかその程度で済みますが滅ぶ運命だった国を救いたいとか、この怪物を消滅させてほしいとかの場合神話とか伝承、歴史が大きく。カイジのグニャア・・・ってレベルではないほどに捻じ曲がる。

 

 

 「その疑問は正しいがその答えはNOと言っておこう。そもそもその疑問はその聖杯戦争は誰のものかという視点で大きく変わる。魔術師と英霊一組がその願いをかなえられるのならいい。聖杯にそこまで大きな願いがないのなら影響もない。

 

 

 ただし、利己的であり必要なら身内も裏切り殺し合うのが今も常の魔術師が英霊にも願いをかなえる相手と勘定するか? 魔術師の悲願は世界に孔をあけて根源へ至ること。世界というぶ厚いものに孔をあけるほどのエネルギー、全能ともいえることをこなすためにはそれ相応の格を持つ贄が必要だ。

 

 

 ・・・・そら。考えてみろ。7人のマスターと7人の英霊。つまりは」

 

 

 「たとえ勝利しようとも自分の英霊にすらも願いをかなえさせない。最初から呼び出された7騎の英霊全員が聖杯へとささげるための生贄。ですね」

 

 

 聖杯戦争のそのシステムに全員が絶句。そりゃあそうでしょう。英霊たち。過去に世界に名を刻んだ人物たちですらその願い事尊厳を踏みにじり、願いを餌に呼び寄せてしまうとことん魔術師のための催しですし。

 

 

 「で、でもあの英霊たちをそう簡単に生贄にできるの!? どうしうちでもしない限り最後に残った英霊だって素直に生贄になるとは・・・」

 

 

 「藤丸。その手にある令呪があるだろう? 極東の聖杯戦争のシステムはかなりそれに強制力。英霊を従わせる効果が強い。さらに言えば、そこの狼騎士がいるだろう。アイツみたいに座から本体、本人が出てこない限りは英霊はどこまで行っても使い魔であり魔術師であるマスターに依存しなければ現界もできない存在。英霊という強力な魔術兵器となりえる存在をどこまでも隷属させる手段とその戦いの果てに手に入る聖杯の機能。

 

 相当の天才でないと作れないシステムと言ってもいいだろう」

 

 

 そう考えると大真面目にマリスビリー様は魔術師の中でも異端中の異端だったんですよねえ。根源に至るよりも先にカルデアの運営費用で人理の観測を主軸に、そして私達にも真剣に付き合ってくれた。情を向けてくれた相手ですし。

 

 

 「ただ、そこで同時に疑問が生まれたんだ。なんでこの方法を選んだのかって」

 

 

 ほほう。ジキル様もアンデルセン様も鋭い。

 

 

 「と、いいますと? 今のところ大変非道と言えますが、魔術師としては選びそうな方法ですが・・・」

 

 

 「はっきり言ってリスクが高すぎるんだ。君たちの組織カルデアのように電力を魔力に変換できる装置や技術がある。それと聖杯、その代わりになる何かに電力を魔力に変えたものを注いで器を満たすだけで同じようにできることが出来るか、シンプルにエネルギーを集めて世界に魔術で孔をあけて根源に至る。そう言った方法もあるはずだ。

 

 

 だというのにこの危険な聖杯戦争システムを運用する。魔術師は愚か英霊を呼ぶリスクは何か。こと破壊力だけなら今の時代でも強い魔術師はいるはずなのにそれを選んだ。近現代の技術と魔術を合わせずにそれを選ぶのか。とね」

 

 

 「あー確かに・・・オレっちも非道なことをしてとか、そういうのはいくらマスターの頼みでもしたくはねえなあ・・・」

 

 

 「それにまあ、いくら戦争とはいえ、そのために一般市民を巻き込みまくるのは。ってことか。適当に自我を持つ大量破壊兵器を呼ぶよりも発電所でも買ってコツコツ魔力をためて用意すればいいのにそれをしない。同時にその術式が根源に至る何かによほど近道なのか、あるいは・・・?」

 

 

 「ああ、あくまでも過程だが俺はこの聖杯戦争の術式は劣化版。格落ちしたスモールスケールのものだと思っている」

 

 

 「おおよそ正解です。私達英霊はそもそも一人の魔術師なんかに使役されるような存在ではないです。英霊となって呼ばれている時点で低コストの省エネ仕様。でないとあっという間に干からびますからね。あ、私の場合は座から直接来ているのでフルスペックですよ?」

 

 

 「えーと・・・つまりは聖杯戦争システムはいわゆるおままごとや砂遊びみたいなもの。で、華奈さんやアンデルセンさん、ジキルさんはさらにその先。つまりはこの術式の大本となるもの。本来のスケールで行う召喚術式があるということですか?」

 

 

 流石玉藻様は鋭い。というか、英雄王たちとの経験もあるのでしょうかね。英霊の底知れなさ。型落ちとは思えない存在でもそれが一部分でしかないというのを知識と照らし合わせた経験で知っているゆえに分かったのかも。

 

 

 「はい。玉藻さん。人類史に刻まれた英雄。世界に刻まれた。座にいる英雄たちを呼ぶというのは本来とんでもない召喚術。それを行うほどの何かがあり、それを見つけた魔術師たちが世界につながる英霊たちの型落ちした使い魔を使うことで根源へと至る。生贄としても最適なものと目をつけたんでしょう。でも、本来はきっと違う」

 

 

 「俺たちの仮定はその本来のスケールの召喚術は『世界』が行う決戦術式。この人の世を。あるいは世界そのものを破滅させる存在へと対抗するためにかつて世界に名をとどろかせた戦士たち『英雄』を召喚する。その儀式『英雄召喚』こそが本来のものであり、決してお前たちも足を運んだ冬木の聖杯戦争のような魔術師の我欲に満たされたものではない。途方のない奇跡の術式が大本だと思っている」

 

 

 「大正解といいましょう。その考えであっています。世界を救うために現れる英雄たち。世界が望む最高峰の戦士たち。それらによって破滅をもらたす存在からこの世界の未来を守る。それが聖杯戦争の大本です」

 

 

 『うぇっぇえええ!!? ちょっちょちゅちょぉおお!! それ、まじ! ってか言っていいのかい、いい切っていいのかい華奈!?』

 

 

 うぉおう。ロマニ様の大絶叫が耳に響く。ここだと鼻も眼もあんまり使えないので耳を鋭くしていた分声が響く響く。

 

 

 「ええ・・・あだだだ・・・アンデルセンさまの観察眼と洞察力相手に嘘はつけませんし、私も英霊の座にいる時に英雄王様から直々に聞いた話でして。『銀狼はその召喚術式に見合う格はないであろうが何かと役立つ。その時が来れば呼んでやろう。我の雄姿を刻み付ける栄誉を光栄に思うがいいフハハハハハハハ!!!』と私自家製の梅酒とおつまみ味わいつつ楽しそうに話してくれました」

 

 

 「ふん。お前だけの証言でも凡そあたりと思っていたがあの英雄王が銀狼と認める相手にそこまで話すのなら間違いなはいだろう。これで俺の話は終わりだ」

 

 

 (ただまあ、その中でもこの異常事態なのといろいろとその術式も変化するもの。思わぬグランドクラスが出てきてもおかしくはないんですよねえ~)

 

 

 「フォウ」

 

 

 (そうそう。というか君とストーム1が絶賛イレギュラーだからねえ。ほんと楽しませてくれるけど目が離せない滅茶苦茶がワクワクと怖さだよ?)

 

 

 (・・・・・・直接脳内に!?)




 改めて、聖杯戦争ってすごいぶっ飛んだことしていますよねえ。そしてORT君のおかげでグランドクラスにエクストラクラスがあってもいいのさという公式のGOサイン。これは最高。


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目指せ地下鉄

とりあえずあと3~5話くらいでロンドンは終わるかも?


 「ふぅ・・・知識欲を満たしつつ、次の場所も決まったようなら俺は少し休ませてもらう。思いついたネタをノートにまとめるのでな」

 

 

 「僕はその場にいるけど、とりあえずメモをまとめておくよ」

 

 

 話が終わり、とりあえずすごいものを聞いたと少しポカンとしている皆様をよそにすぐ動いたのはアンデルセン様とジキル様。答え合わせが住んだのでそれの刺激で得た何かをまとめるようで部屋に戻るなりすぐにカリカリと筆の音が聞こえてきました。

 

 

 「あ、そうだそうだ。なーナーサリーにジャック、フランだったよな? お姉さんと一緒にこれから楽しい所に行かないか? こんな陰気な場所じゃなくてアヴァロンっていう花と畑といろいろ変な生き物とかも多い場所だぞー」

 

 

 「え!? いいの! モードレッドさんいいの!?」

 

 

 「うー花畑? 変な生き物? いくー!」

 

 

 「嬉しいのだわ! 素敵な場所に行けるのなら万々歳!」

 

 

 「おや、モードレッド様急にどうしましたか?」

 

 

 「ん? あーまあ、英霊とはいえ子供たちだし、せっかくだからうちの方で引き取ろうかってな。子供たちにはいい場所だし、ヴィーティガーンおじさんとか、おばあちゃんも喜ぶだろうしさーそれに」

 

 

 (英霊とは言うが、ジャックはおそらく水子とかそんな感じがするし、ナーサリーは絵本。何かの悪用をされたら困るし、フランは情緒があれでこの時代の知り合いの被害者を博士以外にも出るかもしれねえのを見せるわけにはいかねえだろ・・・)

 

 

 (あー・・・そうですね。出来れば子供たちには血なまぐさい戦いは見せたくないですし、それよりはアヴァロンでゆったりといつ座に帰るか不明ですがあっちで春休みないし夏休みさせたほうがいいと。納得です)

 

 

 うん。念話で聞く内容も文句はないし、それにまあ今から一気に動くとはいえ荒事には巻き込みたくない。言い方からもアヴァロンにはすぐ行けるんでしょうし、問題ないですか。

 

 

 「じゃあ、三人はモードレッド様についていって、遊んできて、偶にカルデアに来てくださいね? ふふふ」

 

 

 「俺はすぐ戻ってくるからさ。あ、土産は後で渡すから。じゃー!」

 

 

 そういってすぐさまポケットから取り出した道具で空間に孔をあけてすぐに三人を連れて孔の中に消えていくモードレッド様。ひらひらと手を振って見送りつつ、とりあえず作戦を話そうとするとマシュ様が私の袖を。ん?

 

 

 「あ、あの・・・華奈さん。私も少しいいですか?」

 

 

 「ええ。構いませんがどうしました? お腹すきました?」

 

 

 「いえそういうわけでは。モードレッドさんに私の中に宿る英霊の名前を知りました。それで・・・その・・・あの・・・・」

 

 

 『あーマシュはほら、華奈が小さいころから面倒見ていたでしょ? 本とか映像も。それでさらに英霊がギャラハッドだしでさ。華奈をお・・・』

 

 

 「ロマニさんストップストップ。そこはマシュから」

 

 

 「そうですよドクター! ええと・・・その、華奈さんをお母さん。って今後は呼んでいいですか・・・?」

 

 

 あふん。胸にやくざ顔のキューピッドにバズーカを撃たれてしまいました。キュンキュンしちゃいますよモォ・・・ほふ・・・可愛らしい美人さんなマシュ様ですがそれがますますと嬉しくなってしまい思わず抱きしめる。

 

 

 「いいですよ。ふふふ・・・では、マシュ。私が貴女のお母さんですよ♪ 現世で娘が出来るとは。全くギャラハッドには感謝しないとですねえ」

 

 

 「現役時代も今もそろって養子ってのも変な縁だなあ~とにかくおめでとう。なんか祝いを包むべきか?」

 

 

 「卒業祝いか入学祝か。いや、出産祝い?」

 

 

 「いやいやいやお二人とも。そこはご祝儀でいいのではないですかねえ」

 

 

 「へへへ。いいじゃんか。血がつながらなくても親子のきずなや強いつながりはあるってもんだぜ。大事にしろよそういうのは」

 

 

 金時さまの言葉にマシュもえへへと笑顔でほおずりしていたりとで可愛い子犬のよう。フォウ君もよかったねとてしてしと足を叩いて喜んでいる。

 

 

 でも、今こうしている時間はまた後で。まずはやるべきことをやっていきましょう!

 

 

 「じゃーとりあえず私たちは気合も入れ直してこの特異点攻略に行きますよ~というわけでロマニ様、良馬様。お願いします」

 

 

 『うぇっ? はいはい。えーと。まずなんだけど華奈たちが魔術協会に行っている間、華奈の方とこちらで霧の魔力濃度が高いところをチェックしていてね。その中で特に高いところを二つ目星をつけた。そこを叩いていくということになっている。

 

 

 まずはウェストミンスターエリア。そしてもう一つはなんとここの近くの広場、地下鉄からだったんだ』

 

 

 『なのでとりあえずここの二つを調査。ということなんですが問題はその叩くタイミング。どこからたたくか同時に叩くか。ということなんですが』

 

 

 二人の説明にどうしたものかと首をかしげる。ウェストミンスターの方は国家議事堂があるほどの大きな場所。場合によってはちょっとした要塞のようにできる。で、一方近場の広場と地下鉄の方は奥行きがあるのと地下鉄や下水を通して霧を発生させているとも考えられるので攻め込む際は気をつけたい。

 

 どっちに関してもリスクがある。という感じなのでまずはどこから行くべきか。どうするべきか。しばしみんなで逡巡した結果。

 

 

 「二手に分かれて片方の動きを監視。その間にもう片方を攻撃というのは?」

 

 

 藤丸様の意見に決まった。

 

 

 「じゃあまた二手に分かれていくということで。ウェストミンスターの方には私、ストーム、大尉様で行きます。建物の中での戦闘経験や取り回しのきく武器もありますし、場所も覚えたので縮地ですぐ行けます。藤丸様達は私達が攻撃を成功させた後にサインを送るので、その際に近くの広場に突撃。という感じで」

 

 

 「了解。あ、それで一応こっちも出てから動くべきかなあ?」

 

 

 「やめておきましょう。相手の察知範囲がこの霧の中だとしたらむしろ各個撃破のいい的。合図はこの照明弾を使いますのでその際はお願いしますね」

 

 

 軽い打ち合わせをして、さあいざ鎌倉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大尉様はスラグショット。そしてバウンドガン。ストームはショットガンとスレイドですか。ふむ。悪くないですね」

 

 

 貫通高威力のライフルに狭い場所で無類の制圧力を誇る銃火器。そして一方は面制圧の武器と対空対応。そしてシンプルに強いアサルトライフル。これなら大丈夫ですね。

 

 

 「よし。じゃあ、さっさと行こう。大尉。俺に掴まって」

 

 

 「む? 了解」

 

 

 「じゃあ、私がストームの手を取って・・・・ほっ」

 

 

 三人で仲良く手を繋いでから縮地であっという間に目的地のウェストミンスターエリアは国会議事堂に到着。

 

 

 うわ。びっくりするほどヘルタースケルターがびっしり。ジュウシマツの巣とかカメムシの大群じゃないんですから。

 

 

 「戦闘態勢用意!」

 

 

 「俺が突貫する。マスターは何かないか調べてくれ」

 

 

 「は? 瞬間移動!? な、戦闘了解! 今の武装は連射がきかない。ストーム1。フォローを頼んだ」

 

 

 で、私たちを見れば当然この機会たちは動き出すわけで。私も秋水と陽炎を抜いていざ戦闘開始。

 

 

 「ふっ! せい!」

 

 

 その上で改めて戦うとわかるが、なるほどこれも魔力を持った兵士。ではあるんですが製造されているのと蒸気機関をもとに動いているもの。同時に、気配を感じるというか、その魔力の感覚も分かってきた。

 

 

 ここらへんは私の方も魔術を纏った道具や鎧、アクセサリーなどを作ったり用いたりなどした経験。この魔力の霧の中で変に鈍っていた感覚が戻ってきたからでしょうかね?

 

 

 ザクザクと斬り捨て、ストームと大尉様が蹴散らしていると何やら変な道具がみえる?

 

 

 「えーと? 停止スイッチ。押すな絶対・・・?」

 

 

 うーんこのわざとらしい道具! でもヘルタースケルターと同じ魔力と道具のつくりの感じがするんですよねえ。押してみたい・・・・と思っていたら急に馬鹿でかいヘルタースケルターが襲い掛かってきた。しかも5体も。

 

 

 かなり大事なものなのは確かなようですね。アルトリア様の重装歩兵部隊と比べても二回り、三回りも大きな姿ですが、動きは鈍い。

 

 

 「ほっ・・・・よ! 兜割り!」

 

 

 振り下ろされ、横なぎの刃をよけて頭部の隙間に秋水を突き刺して柄の尻底を掌底で叩いて深く差し込んでグルンと体ごと回して首ちょんぱ。からの巨大なヘルタースケルターの肩を足場に飛ばした頭を蹴り飛ばしてもう一体にあててひるんだすきにその頭ともう一体丸ごと真っ二つ。

 

 

 その間に残りの方も既にストームたちがふっ飛ばしているのでとりあえず今のうちにスイッチを破壊。

 

 

 あたりのヘルタースケルターの方も、遠くから向かってきていた一部が止まる。ふむ。とはいえ完全に全員が止まっていない。

 

 

 任務成功の照明弾を上げておいてこちらの方も一応残党処理。

 

 

 「さて・・・市街戦となると、バウンドガンの代りにバスターショットがいいのかね」

 

 

 「そのほうがいいだろうな。押し込んだり場所を作るにもその性質は悪くないし。相手が機械に詳しいのなら下手な光学兵器は控えたい」

 

 

 大尉とストームが話している間に既に戦闘音が。始まりましたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アングルボダの介入・・・! わが、我が体への介入と意志・・意志が・・・!! 計画のために、ここまで、するのか・・・!」

 

 

 「ったく! 聖杯戦争のシステムを聞いた後にまさにそのケースを見せるとは胸糞悪いぜ! っしゃらあ!」

 

 

 「くそっ! どうなってんだこりゃ!? 俺の剣も、刃も。金時の刃もかすり傷もつか・・・っと!!」

 

 

 任務成功の照明弾を見た後にすぐに広場に突撃したところには、ヘルタースケルターをより巨大に、片手に携える大槌はそれ一つが最早建造物のよう。

 

 

 バベッジと名乗る。この時代の少し、本当に少し前の時代に生きていた顕学者は英霊となっているようで、しかもフランの保護やカルデアの存在を聞いてこちらに気持ちが動いてくれていたというのに聖杯のシステムを使いバベッジさんの自由意思を奪う。

 

 もはやその肉体も鎧? もあちらの黒幕の操り人形の様で苦しみながらも振るう大槌の威力はかの坂田金時ですらつばぜり合いをして押し負けていない。

 

 

 「この感じと、その膂力! 聖杯だけじゃない。多分アイツ、この鎧自体が何らかの概念っつーか、そんな感じがする。せいっ!」

 

 

 「モードレッドさん、援護します! はあぁっ!」

 

 

 モードレッドが身軽さを活かして飛び回り投げナイフで牽制をして、それを振り払おうとしていくのをマシュが止め、そこに金時が重い一撃を叩き込む。が、モードレッドの言うように何かがないとこの鎧は砕けないようで斧での振り下ろしをもってしても表面に少し傷がついただけだ。

 

 

 「ぐお・・・お・・・!」

 

 

 「なんつーヘビーなパワー! そこらの大鬼よりもずっと歯ごたえがある! これはちょっと強めに叩くべきかあ?」

 

 

 苦しみつつも振るう大槌の勢いは衰えず、戦士としての技量とパワーで対応していくもまるで傷もつかないのではらちが明かない。金時はあの変わった大斧? の何やらカードリッジを仕込んでバチバチと電気の音や輝きが聞こえる。宝具か、スキルの開放だろうか。それで叩き切ろうとしたのをモードレッドが止める。

 

 

 「まて! そろそろ来るぞ!」

 

 

 「なるほど。その身体、その鎧自体が固有結界。世界にひびを入れるだけの苛烈な一撃かあるいはそれを壊せる相性のものを持ってこないと傷一つもつけられない。

 

 しかも顕学、コンピューターの父と言わしめるほどの学者なら現代でも使える道具に魔力を付与もできるというもの。あるいみ近現代のキャスターの正解と言えるほどですね」

 

 

 その声と一緒にバベッジの背後から現れる華奈さん。この鎧の特徴を即座に見抜き、同時にキン。と甲高い金属音が一つ響いたと思えば、バベッジの動きが途端に鈍った。

 

 

 「我が結界が切られた・・鎧が・・・! 稼働率大幅減少、出力ダウン。な、これは・・・!」

 

 

 「結界を斬り捨てました。ちょっとこういう技術は出来るものでしてね」

 

 

 「学者さんには金棒よりもペンを握って戦うのは机の上と未来だけにしておきな」

 

 

 「偉大なる顕学の先達の一人、銃口を向けるのは心苦しいが」

 

 

 そして大槌をストーム1、2のレンジャーコンビでバスターショットを打つことで持続的に起きる爆発と衝撃の連鎖であの巨大な大槌がバベッジの手を離れ、遠くに転がる。チャンスだ。

 

 

 「マシュ! バベッジにあの大槌を拾わせないで! 金時、モードレッドさん!」

 

 

 「おうよ! 行くぞおっさん! 人類史の未来を描いた男が人類史を潰すなんて馬鹿、これ以上はさせねえからよ!」

 

 

 「ああ、実にナンセンスな悲劇はノーサンキュー! こいつで楽になりな!」

 

 

 「黄金衝撃(ゴールデンスパーク)!!!」

 

 

 「赤雷咆哮!!」

 

 

 金時の黄金の雷を纏った強烈無比な振り下ろし、そしてモードレッドの赤い雷の魔力を開放したその雷の奔流は見事にバベッジをとらえ、路面を砕いて爆音と空気がはぜる音が耳をつんざいて光に一瞬視界が防がれる。

 

 

 しばらくの静寂の後、ぶすぶすと真っ黒こげになり、蒸気も先ほどの勢いはなく、ショートしているであろう音が響く。機能が停止しつつある。素人目にもわかるほどに、聖杯のバックアップをもってしてももう何もできないほどのダメージがバベッジを襲ったのだ。

 

 

 

 「機能、完全停止を確認・・・」

 

 

 『退去が始まっている。さっきの攻撃で完全にバベッジの霊核を砕いたんだ。あの堅牢な守りを。流石だよ皆!』

 

 

 「我が曇った眼を晴らし、そしてこの暴走を止めた。銀狼騎士、異国の戦士、最後のマスターよ。感謝する・・・・・・・そして、ヴィクターの娘のことも。だ・・・・あの子に、この戦いを見せるのは、忍びない・・・」

 

 

 退去が始まり、味方に裏切られての暴走。それでもなお自分はこれでいいのだというように動かないまま言葉を紡ぐバベッジ。何より、フランの身を案じ、そしてアヴァロンで過ごしているということが何よりうれしいのだろう。あそこは理想郷と言われるほどの場所。そしてあらゆる生物が過ごす場所。フランケンシュタインくらい個性の一つだ。

 

 

 「ええ。そして、流石はヴィクターの娘ですね。彼女が見せてくれたもの、そして、貴方が未来に紡いだ技術はコンピューターとなってこれからも私達を進むのを支えます。あなたの計画は終わらせますが、代りに貴方たちが紡いだ人類史は歩みを戻させますよ」

 

 

 「貴方も色々考えての事だろう。だが、今は一度休んでください。後は俺たちが引き受ける」

 

 

 「感謝する・・・銀狼騎士、そして、二つ目の嵐よ・・・・最後のマスター」

 

 

 「はい・・・」

 

 

 「ここから先の地下鉄、地下にいけ。アングルボダが、我らの計画がそこにはある」

 

 

 伝えたいことを伝えたからか、地下への道を指さしたその腕も脱力し、ちょっとした建物のようなその巨体は最早機械の鎧ではなく鉄塊となりつつある。

 

 

 「我が想いを遂げる事なき世界であれど・・・我が望みし世界は結実せずとも・・・私は、隣人の世界を・・・滅ぼそうとは思わない。・・・・・・・・銀狼騎士、嵐の勇者たちよ」

 

 

 「なんですか?」

 

 

 「なんだい」

 

 

 「聞き届けましょう」

 

 

 「ヴィクターの娘と、世界の未来をを頼む。そして・・・あの子に平穏と笑顔をくれたことへの心からの感謝を・・・・」

 

 

 そこまで言って、バベッジは。偉大な学者は完全に退去した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「バベッジ様の退去をしても尚、地下にこもり、あるいは逃げられないであろう状況でも降伏をせず。それほどのものなんですかね。アングルボダというものは」

 

 

 「さぁな。いずれにしても面倒くさいブリキの軍団はもう動かない。これで俺も悠々とこの騒ぎの発生源を拝みに行けるというものだ」

 

 

 「うん。僕も流石に気になるかな。危険はまだあるんだろうけど是非一緒に行かせてほしい」

 

 

 「アンデルセンさんはまだしも、ジキルさんは生身の人間。流石に危険だと思うのですが・・・」

 

 

 「やっぱり学者、知識人ってこういう度胸というか、探求欲があるからこそそう言われるのかなあ」

 

 

 「そういう意味じゃあ、頼もしいが、荒事は苦手なんだろ。突っ走るなよお前ら」

 

 

 戦いが終わり避難していたアンデルセン様とジキル様も戻り、残ったは霧の発生源にして英霊たちを呼び出してこの街を霧で包み込もうとしていた張本人へお仕置とご退場をしていただくのみ。

 

 

 町中にいたヘルタースケルターも起動スイッチを壊し、製造元のバベッジ様が退去したことで最早動くことはなく、そこに行くだけだと見なさん意気揚々。

 

 

 『もちろんそこは賛成だ。だけど地下はカルデアの計器を正確に測定させないほどの霧を出してしまう発生源に近づく。濃度もだけど、そこの中に何が紛れ込んでいるかわからない。より慎重に、安全に動くことを意識してくれよ』

 

 

 「その通り。勝って兜の緒を締めよ。この勝利の後に相手が奇策を用いるとも限りませんしね。とりあえず私たちはしんがりを務めます。モードレッド様。藤丸様達のエスコートを」

 

 

 「了解だ先生。俺とマシュで前を固める。金時は藤丸、アンデルセン、ジキルの後ろについてくれ。背中を任せたい」

 

 

 「そこはオレっちに。といいてえが、守りの能力とナイフとかでも立ち回れるモードレッドが適任かあ・・・オーケー。しっかり守ってやるぜ」

 

 

 とりあえず前衛の方も問題なしと。

 

 

 「じゃあ私はストーム、大尉様。玉藻様で少し後をついていきます。背後から襲われてもいいように玉藻様の結界や私の方で備えをしておきますので魔本とか、マネキンとかが来ても大丈夫なようにしますよ」

 

 

 まあ気持ち3割くらいはそれが目的ですが、それ以外にもいろいろ気をつけたいことがありますしね。ゴールが見えたからと残りの力を振り絞るにはまだ不安が多い。というか今までの特異点と違ってここまで来てまだ相手の全貌がみえないのが変に構えちゃうと言いますか。

 

 

 でも皆さんは問題なく先に進んでくれて、続々と地下に降りていく。

 

 

 「・・・・ストーム。フェンサーの兵科にチェンジで、一つだけこの武装を。それと玉藻様。今から少し仕込みをしたいので是非手伝ってください」

 

 

 実は地下の大空洞に関してはおおよその目星というか、時計塔に出入りした時に確認と調査をこっそりしていたことがある。エルメロイ教室にいた咲様の協力も得て。

 

 

 そして魔術協会跡地を調べる時にもソナーで間取りを見ていたけどそこもずれがない。なら、かの王の旅路と同じことが起こりかねない。そこに対する対処とカウンター。ひとまず用意しましょうか。 




 次回は地下での戦いに?


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つまらないギャグと雷電の紳士

 ~ロンドン・地上~


 華奈「ってわけでして~そのために皆さんの力が必要なんですよ。お願いできますか?」


 ストーム2(ゴリさん)「任せな! ただ、そんなことが起きかねないのか・・・全く、俺たちの戦いはいつもこんなんだ」


 玉藻「ほほう。なるほどなるほど。かしこまりました。しかしまあ・・・・・・・よくこんなことを考え付きましたね?」


 モリアーティ「いやはや、君の考え方とその方向性は大変愉快で結構! 面白いとも。計算は既に済ませてある。設置の方も速やかにしておこう。あーそうそう。孔明君と沖田君、黒ひげ君も既に君の言うとおりにしているようだ」


 ジークフリート「マスターたちのためにこうして力を振るえるとは嬉しい。が、同時に一緒に行かなくていいのか?」


 華奈「ええ。それにこの人数の英霊で、戦闘のプロも多数。こっちに意識が向けばその間にこちらで叩きます。合図をするにも難しいでしょうし、玉藻様。私とストームの視界の一部を玉藻様とジーク様に一部共有してください。そうすればすぐに動けるでしょう。


 そっちはどうですか?」


 伊吹童子『はいはーい♬ お姉さんもばっちり。何時でも行けるわ♡』


 ヴリトラ『くひひ・・・いい困難を味合わせてもらった。どれ。軽く手を貸してやろうではないか。合図があればいつでも言え』


 華奈「感謝します。ではでは、先に行ってきます」


 「ふーむ・・・驚くほど敵がいない。なんか拍子抜けだなあ」

 

 

 「敵がいないほうがいいよ。力を残していけるし」

 

 

 『ヘルタースケルターは愚か魔本も使わない。そのわずかな魔力も残しておきたいのか、相当な自信があるのか。どっちにせよ、相手は立ち向かうかもだね』

 

 

 「一応上の方にも既に英霊の皆様を待機させております。何か動きがあれば、あるいは敵が逃げればすぐに追跡に動けるように頼んでおります。頑張りましょう」

 

 

 上での打ち合わせを終えて急いで合流して藤丸様と話しつつ前を警戒しつつ地下を降りていく私達。ストームがフェンサーになってもらっているので私がバウンドガンを借りていざという時には手数は切らさないようにしているのですが拍子抜けと不気味さをどこか残している。

 

 

 『ああ、そのためにさっき英霊たちを呼んでいたのか。じゃあ、あれは何かの準備ってこと?』

 

 

 「そういうことです。とりあえず、ジグザグと降りて・・・もう少しですか。流石に霧の方に悪臭が混ざらないので気持ちも楽です」

 

 

 「お? マジだ。いやー・・・ほんっとうにひどい匂いだったからなあ。毒、汚物の浄化やろ過システムをまるで用意していないのがもう・・・」

 

 

 「先輩、お母さん。そろそろ地下の最奥につきます。ただ、どうやら開けているようで・・・・・・? な・・・これは・・・!!」

 

 

 たどり着いたその場所は私達特異点踏破勢にはデジャヴを感じるようなもの。狭い道を抜けてみればそれは冬木の特異点で見たような大聖杯の置いている場所。

 

 

 違うのはそこには巨大な霧を生み出している機械と常に濃密な魔力の霧を生み出していること。そしてそこの前に鎮座する一人の男性がいることだ。

 

 

 「奇しくもパラケルススの言葉通りになったか。悪逆を成すものは、善を成すものによって阻まれないとならぬ。と・・・」

 

 

 その男はコートに身を包んだ赤い瞳と青い髪がワカメのようなウェーブのかかっているのが特徴的な青年。

 

 

 「巨大蒸気機関アングルボダ。これは我等が悪逆の形であり、希望でもある。ここでお前たちの道は終わりだ。貴様らの善は、我が悪逆によって駆逐されるのだから」

 

 

 「いやいや・・・ここまで追い詰められておいてそれは滑稽すぎますよ。策へのアフターケアもしない。備えも作らない三流の戦術を弄しておいて。それにまあ、私にとっては過去であり未来でもあるイギリスの時代を滅茶苦茶にされるのは一応円卓の騎士の末席としても許せません。ホモビ出演と素材にされるくらいは覚悟しておきなさい」

 

 

 「先生。色々とひどい目に合わせるのは分かるけどサクッと始末にしておこう」

 

 

 「文化汚染爆弾として使えそうだなあ・・・概念武装にできないか?」

 

 

 ストームの意見を採用。とりあえず淫夢動画にこの録画した音声でも使えないか考えておきましょう。ホモビに出せなくてもまぜるだけで効果はある。お前もファミリーだ。

 

 

 「私は円卓の騎士船坂華奈。そちらはなんとおっしゃるので?」

 

 

 「・・・・我が名はマキリ・ゾォルケン。この『魔霧計画』における最初の主ど・・・へぶばっ!!」

 

 

 「「おやじギャグじゃ(ねーか!!)ないですか!!」」

 

 

 『いったー!!? 思いっきりいったー!!! いやいいけどね!? 黒幕だけどね!? 名乗りをさせておいてまさかのグーパン!?』

 

 

 この胡散臭い、陰気で到着早々にげろ吐いてしまうほどに臭いこのロンドンに足を運んで愛弟子と子供たちを巻き込んでいた悪役の目的がまさかの自分の名前と計画を合わせたものだと確認して即座にストームと一緒に縮地とブーストでのWパンチ。

 

 

 思いっきり殴って宙を舞うマキリとそれに呆然とする皆。カルデアでは驚くロマニ様と爆笑して腹を抱えているダ・ヴィンチちゃん。魔術師が、しかもどうにも名前に覚えがあるようで頭が痛そうにしているオルガマリー様と反応は様々。

 

 

 「なるほどマキリ。あなたの魂の腐れ落ちっぷりはよーくわかりました」

 

 

 「分かったの!? 今の一瞬で!?」

 

 

 「先輩あきらめましょう。お母さん戦闘モードに入っています・・・・・」

 

 

 「マシュまで!? 何か力が目覚めてからツッコミを少し放棄していない!?」

 

 

 「大丈夫です先輩。マシュ・キリエライトは通常運転です!!」

 

 

 いやもうね。こんなのに手を出すわろくでもない使い方するわ。あーも・・・聖杯戦争のシステムで魔術師のあれさ加減は10年前もさっきも再確認したのにもう一度見せつけてくるなんて元サーヴァントの私への当てつけか何かですかねえ?

 

 

 「ぐぶ・・・ごほ・・・こ、の・・・滅茶苦茶なやつめ・・・アングルボダの魔力と霧の一部よ。わが身に宿れ・・・!」

 

 

 『我が名は、バルバトス。我が悪逆の写し身にて何時を滅ぼさん・・・・・!』

 

 

 そして変身。あーこれが切り札ですかあ・・・・ローマの時から何も学んでいませんね? でかくなるだけ意味がないというのに・・・何というか・・・このアングルボダ、もとい聖杯の安置場所にも罠らしい罠も無し。無数に伸びていた地下通路に伏兵を忍ばせての奇策もしない。

 

 

 「はぁー・・・・・・」

 

 

 『なんだそのため息は! その傲慢。善を成そうとしようとしないのなら我が――・・・・!!!』

 

 

 「ストーム、大尉様から、あとは金時とモードレッド様。マシュは守りを。それで終わります」

 

 

 あの無数の目で凝視をしてそこから放たれる魔力、高熱によって焼き殺そうとしたのでしょうけど、既に私の攻撃は終わっている。高速二刀流居合抜刀。しかも陽炎の魔や悪に対する特攻も乗せた飛ぶ斬撃でゾォルケン。いえバルバトスの目はあらかた潰した。

 

 

 ただ眼を潰しただけですぐ再生するであろう軽いものだけど、そこの切り傷は浅く広く。目印に、そして広げてえぐり深く突きさすにはもってこいな程度。

 

 

 「油断しているのはお前さんらの方だ!」

 

 

 ストーム1はフェンサーの持つ最強のハンドガトリング。FGZFハンドガトリングを両手でぶっ放して片方だけでもかなりの弾幕を誇るそれで容赦なくバルバトスの目も、魔力も押しつぶしていく勢いで乱射。肉に弾丸がめり込み何かが破裂する音が心地よく響く。

 

 

 「おぞましい姿だ・・・ただ、的が大きくなったのならこれが活きる!」

 

 

 更には大尉のバスターショットを乱発し、ストームがこじ開けた弾痕に更にぶち込んで、中でさらに爆発してともうズタボロ。

 

 

 「いよっしゃ! もう一発行くぞ金時! もうむかつくこの町の状況事吹っ飛ばすぞ!」

 

 

 「おうよ! そのでかい柱真っ二つにしてやる!!」

 

 

 そしてそこに更にはW雷撃の斬撃でぶち込まれるという完全なコンボ。で、その間にアングルボダとバルバトスの残った肉体にCA90爆弾を投げ込んで起爆。盛大な大爆発が起こってバルバトスは爆発四散。アングルボダも半壊。

 

 

 「くぅううっ・・・! お、お母さんちょっとやり過ぎでは!!」

 

 

 「すみません念には念をです」

 

 

 汚い肉片花火となったそれはまあ―四方八方に飛んできますがそこはマシュ、そしてギャラハッドの守りの力で見事余波を防いで完勝。半分むかつきですが、子供と善人を悪用しようとした罰です。結局バルバトスは何も言い残せずにご退場。あ・・・ホモビの刑忘れていました・・・

 

 

 「フォォー・・・(流石にやめてあげようよ)」

 

 

 ですかあーまあ、しょうがないですねえ。とりあえず、あとはアングルボダの中身であろう聖杯をぶっこ抜けばこれで一件落着・・・あれ・・・?

 

 

 「あーロマニ様。アングルボダ。なんか動いていませんか?」

 

 

 『え? あ、ほんとだ! サーヴァント召喚反応あり! アングルボダを起点に呼びされる!』

 

 

 「はぁ!? ちょいと待て! 今魔術師はふっ飛ばしたぞ!」

 

 

 「マキリは死んだはず!」

 

 

 「うーん・・・多分バックアップ。若しくは・・・バルバトスへと変わる際の術式と、この魔力を含んだ霧が召喚の手伝いをした。あるいは自分が危うくなった時に任意ですぐ呼べるようにしていたのかも? ・・・・変なところで変な備えをしてしまいますねえ魔術師というのは。途中で心配になったのでしょうか?」

 

 

 「英霊を呼び出せるほどの霧だし、最初から呼び出して戦力にすればもう少しましだったろうになあー・・・」

 

 

 「いっている場合かマスター! ストーム!」

 

 

 大気が震え、地響きが聞こえる。召喚される英霊次第では仕掛けを早急に切らないといけないのですが、どーにもこの術式の空気と感覚に見覚えがある。なんだろうか。と頭を少しひねると思い浮かんだ答えが案外直近のものでした。

 

 

 これ・・・・フランスで見た狂化の術式混じっていませんかね? うーん。

 

 

 『ちょっ! 華奈!? 近づいたらまずいって! 今すごい勢いのマナが、魔力が収束しているんだ! それに英霊が呼び出された際にいきなりー・・・』

 

 

 「ほっ!」

 

 

 む。少し部厚い。でも手ごたえあり。ですね。狂化の部分はとりあえず斬り捨ててみたので一度後ろに下がってみてしばらく。

 

 

 「ははははははははははははは!!!!! ははははははははははははははははははは!!」

 

 

 イケボがこの大空洞全域に反響するほどに鳴り響いた。

 

 

 「諸君! 君たちとこうして出会えることへの幸運に感謝と、この状態にしてくれたことへの敬意を払おう!!

 

 

 その上で君たちに聞こう。神とはなんだ! 神話で出てくる神とは!!」

 

 

 そしてまあー筋骨隆々な身体に片方の腕には何やら機械らしきものを装備しており背中にはマント。ナイスガイでアメコミの主人公を張っていそうなほどの男が出てくるや私達に問いかけてきた。神様ですかあ。

 

 

 「自然現象が形を成した存在がルールな個性豊かな方々」(華奈)

 

 

 「自分の大ポカのせいで勝手に滅ぼしにかかる裏ワザ使いの生き恥野郎」(ストーム1)

 

 

 「おぞましい破壊者・・・か?」(ストーム2、大尉)

 

 

 「神話体系にてカタチを持つ、与えられる大いなる存在。ですかね?」(マシュ)

 

 

 「祈りをささげる超常の存在?」(藤丸)

 

 

 「たまに暴走するご近所さん」(モードレッド)

 

 

 「んー・・・敬意と畏怖を同時に持つ存在。か?」(金時)

 

 

 「うぬぼれる読者と編集。いや、あれは勝手な思い込みで筆者を追い込む輩か!」(アンデルセン)

 

 

 「イエスのお父さん。かなあ」(ジキル)

 

 

 と、まあ一通り皆さんの意見を出してみましたがそれらを聞いてフムフムと顎に手を当てて考えた後にその手を掲げてナイスガイは叫ぶ。

 

 

 「実にいい意見。しかし答えは否! 否! イナである!! そう、神とは・・・・雷である!!

 

 

 ゼウス、サンダーバード、インドラと世界に名だたる神々はみな雷霆、雷電を持ち空から振る舞うその比類なき力、輝きはまさしく神であった! しかし、その雷を手にした私こそ現代に現れた雷神!! 人類史の新たなる神話。そう。それは我が名!

 

 

 ニコラ・テスラである!!」

 

 

 ドン!!! と大きな何かがみえたり聞こえそうなほど啖呵を切っての登場に半分は引く、半分は本当に驚くと反応は様々。ただ、引いていた中ですぐさまアンデルセン様とジキル様はこの口上から情報を纏えてすぐに驚愕へと変わる。

 

 

 『ニコラ・テスラ!! 電気の分野において交流電流を生み出して人類の電気文明、科学技術を大いに飛躍させた孤高の大天才!!』

 

 

 『このカルデアの技術は愚か今の家電製品、いや、彼の技術が関わっていないものはほぼほぼないと言えるほどの開発と発想をもって人類史の発展を大いに加速させた。つまりは私やドレイクと同じ星の開拓者の資格を持つものだね』

 

 

 まさしく神による力や加護ではなく、運命や神託もなく「人の力」で新たなステージ、未来への道を切り開く傑物。

 

 

 「ふふふふ。いやはや、とんでもない方が来ましたねえ。して、早速本題ですがやり合いますか?」

 

 

 「ははは! 美しき騎士よ。その答えはノーだと言っておこう。確かに我を呼んだ召喚者にはこのロンドンを覆う魔霧を扱い雷霆で森羅万象を焼き払うという使命を帯びていた。ご丁寧にそれを確実に実行するために狂化の術式までつけていたようだな。

 

 

 だが我が幸運は尽きなかった。何やら心地よい金属音とともにその狂化の術式が切り払われ、令呪を使用するマスターもいない今その使命を執行する気もさらさらない!」

 

 

 あーやっぱり。フランスで見た。狂化の術式だったと。それを私が召喚の間にスパッと斬り捨てたのでシラフ。もとい正常な状態で来たし、無理やり令呪で動かすマスターもいない。なのでいわゆる野良英霊。召喚時このような状態できちゃったと。

 

 

 「ふーむ・・・ならまあ、この特異点もすぐに終わらせますし、かといってこの縁をすぐ終わらせるのは申し訳ない。どうでしょう? 契約してカルデアに来ませんか? 現代の科学技術と魔術のハイブリットの最高峰。

 

 

 あと、さらにはとんでも武装多数のストーム1の武器とか、本もたっぷりありますよ~そのついでに人類史を救う。ニコラ様の神話、英雄譚に一つ話も追加できますけど」

 

 

 「どうも。現代の英霊になっているストーム1です」

 

 

 「あ、私現代の科学の力もあって生まれた英霊で人間です? マシュ・キリエライトです」

 

 

 「ん? あー・・・一応宇宙規模で野菜を出荷している農家のモードレッドだ」

 

 

 「ほほう・・・・・ほほう!! はははははははははははは!!! 素敵なレディ。いや騎士殿! 最高の契約条件だ! 我が雷電の技術の最先端を見聞きして触れさせて、あまつさえさらにはその最高レベルの武装を見れるだとぉお!!! 更には宇宙! いやレディ。モードレッド殿の野菜はおいしくいただいている。食生活も確保とは天国ではないか!!!!

 

 

 更には我が雷神の神話に人類史救済の旅路に参加せよとは! 誠剛毅!! そうでなくては!! よかろう! この大天才ニコラ・テスラ。交流の電気技術をもってカルデアをより切り開いてみせよう!」

 

 

 やったぜ大天才。私の招きたかった英霊と仮契約成功。

 

 

 「では私の名前は船坂 華奈。好きな呼び方でどうぞ」

 

 

 「ではマスター。早速其方のカルデアに行こう・・・!」

 

 

 「まて、大天才よ。あの雷霆を完全にものにしただと? その話を是非是非しっかりたっぷりと話してもらおうじゃないか。なあに。退去、この特異点が消えるまでまだ時間はあるはず。さあ、話してもらおうじゃないか」

 

 

 「あ、僕も是非是非。しかも今の時代の家電、生活にほぼ使われるほどのものを。後学、顕学のためにも是非是非」

 

 

 このまま聖杯を確保してからカルデアに帰還。とはいかずニコラ様は早速アンデルセン様とジキルさまに捕まってしまい取材モードの二人に囲まれてしまう。

 

 

 「あっちゃぁー・・・・・始まったあ・・・」

 

 

 「まあま、いいじゃないですか。戦いで時間を作るよりはよっぽど」

 

 

 「そういうこった。ハッピーエンドのままで絞めるにはこれくらいがいいってな」

 

 

 『ははは。違いないね。あ、聖杯の反応はアングルボダの中からある。そこからも見える金色に光っている部分。あれで間違いないよ。回収して早いところ帰還しよう』

 

 

 金時さまが見事締めて私とマシュもアングルボダから聖杯を取りに。




 ということで蟲爺は何もできずに殴られてふっ飛ばされて退場。ホモビの刑にならずにマシだったかも? ニコラ・テスラは見事仲間になった。


 次回はあの人登場~


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ボス登場

 ~ロンドン・地上~


 モリアーティ「お。見事なまでの完封劇で勝利。もはや後は聖杯を取るだけか。あっけないものだねえ敵の魔術師は」


 玉藻「おやおや? それは結構。このロンドンでは下見旅行もできたものではないので早いところカルデアで召喚されるチャンスを待ちつつこの湿気で濡れてしまった尻尾を乾かしたく」


 ストーム2(ゴリさん)「大将と隊長がいるんだ。問題ないはずだぜ! ただよぉ・・・・どーにも、不安が出てくるのはなんでだ?」


 ジークフリート「奇遇だな。俺の方も何か変な感じをする」


 孔明『こういう時の軍人の、歴戦の戦士の勘は馬鹿にできない。現に、華奈もこの人の解除を解かない。最後まで油断はせずに。ということか』


 「さてさて・・・聖杯を・・・・!」

 

 

 戦いも終わり、備えも使わずに済んだ。と思っていたんですが急に感じる底冷えする寒気。お尻につららを突っ込んだと思うほどに腹の底に響く悪寒。ああ・・・来てしまいましたか。出来れば聖杯は回収してトンずらしたかったですが、しょうがなし。

 

 

 「下がって。皆さん。とんでもないのが来ますよ」

 

 

 「ここまでよく来た。と言えばいいのか? ああ、その歩みも意味のない、実にくだらない。くだらないものではあるがな。全く・・・・魔元帥ジル・ドレェ。帝国神祖ロムルス。英雄間者イアソン。聖杯戦争システム考案者マキリ・ゾォルケン。どれもこれも小間使いもできず小娘と現代の戦士人理すら求められない。実に興ざめ。実に愚か。人はやはり時代を重ねるごとに劣化するか」

 

 

 「ああ・・・下がってな嬢ちゃんたち。こいつは直視するだけで呪われたっておかしくねえ。実にバッドな奴だ」

 

 

 「おいおい・・・人の姿で竜種は愚か、それ以上の何かってか・・・」

 

 

 その言葉一つ、所作一つだけでも圧倒されるような魔力と存在感。私とストーム、大尉様、金時様達で前に出て構える。

 

 

 「・・・まさか本命がこの段階で来るとはな。まったく。この特異点ではいったいどれほどの取材と調査をさせてくれるというのだ? 華奈。いくらなんでもここまで体当たりな取材は勘弁願うが」

 

 

 『こっちでも捉えているが。まさか! その姿は、存在は! 間違いないけど・・・だけど、あり得ない!』

 

 

 『とはいえ、この姿と威容。間違いはないはずだろう?』

 

 

 カルデアの方でも今までの中でもぶっちぎりの存在、計り知れない魔力量、何よりこの存在を知っている私たちの内ダ・ヴィンチちゃんとロマニ様は驚愕を隠せていない。いやはや・・・ほんっっとうにこの姿をこうしてみるのは10年ぶりですが、側だけですね。纏う空気がもうおぞましすぎてなんといえばいいのか。

 

 

 「こうして声を出しているというのに、存在を見せているというのに見通すことが出来ないカルデア。時間軸から外れたゆえに、こちらからは観測も察知も出来ない拠点となった。あらゆる未来を見通す我が眼ですらカルデアを観ることは難しい。

 

 

 だからこそ生きている。無様に、無残に、無益に。人類史の滅びを受け入れられずに大海に放り出された船の中で漂う。そのくせ人類史に残るシミ。私の事業に唯一残った愚者たちよ」

 

 

 『ちょ、ちょっと! 二人とも慌てて一体何なのよ! 目の前のこの怪物は何! 化け物って表現すら可愛いほどの何かよ!』

 

 

 「全く・・・こうして会うのは少し早いと思いますが、部下の視察にでも来ましたか? 魔術王ソロモン。魔術師の頂点。冠位をいただく者。・・・・・・まあ、今はどうか知りませんが」

 

 

 ソロモン王。冠位をいただく者という発言に皆が驚く。と同時にカルデア側にいるメンバーはみな納得する。ヒントは敵の存在で既に示されつつあった。ただ、敵側も英霊を使役して戦っていたために、その特異点の首謀者がノイズになっていた。けどそれらへ力を、特異点と聖杯を渡した大本が出てきたのだ。いやでもわかる最悪の答え合わせでしょうね。

 

 

 「全く小賢しい人だ。だが、ああ。その通り。我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え玉座より人類を滅ぼすもの。名はソロモン。そこの女の言うように頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

 

 そしてしっかりと答えを教えてくれる。

 

 

 『はぁああああああ!!!? ふざけないで! あの大王が敵!? ってことは何。英霊なの! こんなのを操るマスターがいるっての!?』

 

 

 「馬鹿なことを言うな小娘! 冠位という言葉にすらまだわからぬのか! ああ、愚か愚か愚か!! 愚鈍! 無能! こんなのが最後のシミ、取り残しだというのか!? 弾劾する! 弾劾する! 弾劾する! 憤死さえも検討するほどだ!!」

 

 

 『ヒィイイッ!!? な、なんなのよ一体!』

 

 

 「英霊の格。座ではないということです。アンデルセン様との答え合わせ。英雄召喚。つまりは世界が読んだ英雄かそれ以外か・・・とにかく、マスターを持つ存在ではなく自らの意思と力を十全にもってこの場に現れたということですよ」

 

 

 「ってことは・・・あのソロモン王は、自ら復活したということですか!?」

 

 

 「ふふふ・・・ああ、そうだオークニーの騎士。そして無知な貴様らにしっかりとかみ砕いて教えてやろう。我は英雄召喚。世界が呼んだ冠位、つまり『グランド』の名を持つキャスターだ」

 

 

 まあ、その内実はどうか知りませんがその冠位を有する条件も持ち、実力は文句なし。今の時点ではけちのつけようはない。それを暴けるのは、私とロマニ様、ダ・ヴィンチちゃん。そして・・・英雄王だけでしょうね。

 

 

 「つ、つまり・・・世界が、世界を滅ぼそうとして、ソロモン王を呼んだ・・・? でも、世界を滅ぼせるわけがないはず・・・!」

 

 

 藤丸様の意見も確か。この状態が異常すぎるのと、いくら冠位と言っても一個人の力でそんなことが出来るわけがないと。

 

 

 ただ、それも軽く崩される。

 

 

 「出来るとも。私にはその手段があり、意思があり、事実がある。既にお前たちの時代は滅ぼさった。時間を超える我が七十二柱の魔神柱によって。たしか・・・藤丸だったか・・・貴様はカルデアの外をその目で見たか? 外に歩みだすことを許可されたか? 我が眼でカルデアを観測できずともそこ以外はすべてが同じだ。焼き払われ、何もない。特異点と我が拠点、そしてカルデア以外は何もかもがない。それを観ずに世界を滅ぼせないと世迷言を言うではない」

 

 

 「時間を超えるか・・・それなら、俺らが見たやつらもレメゲトンにある魔神だったのか・・?」

 

 

 『いや、伝承とあまりに違いすぎる! ソロモン王の使い魔、魔神があんな醜悪な肉の化け物なわけがない!』

 

 

 そう。そこもまた事実。ソロモン王の魔神、使い魔たちは今も書物で、伝承でその姿は事細かに今も伝えられている。だからこそあんな姿はありえないはず。なのですが・・・

 

 

 「んー・・・・もしかして、あの魔神柱。いや、魔神たちは王が自ら新しい肉体を与えてあの形にする。そうすることで意味を新たに持たせたと?」

 

 

 「その通り。魔神柱はあらゆる時代に刺さる楔であり錨。そのための肉体、そのための姿。そしてそれによって既に我が宝具は見ているはずであろう。天に渦巻く光帯こそ、我が宝具の姿である」

 

 

 「なっ・・・・・空のあれがすべて・・・?」

 

 

 「あの光帯の一条一条が聖剣ほどの熱線。アーサー王の持つ聖剣を幾億。いやもっとかもな。それを束ねて放つ光。即ち――対人理宝具である」

 

 

 とんでもない話です。私達の持つ武装は通じるわけもなく、そもそもこの特異点にもあるのでやろうと思えばすぐさま私たちは天から光に焼かれて死んでしまう。はっきり言ってしまえば舐めプもいい所であり掌の上で生殺与奪券を握られているも同然。

 

 

 ただ、相手はまだそれをする様子はないようで。

 

 

 「質問は答えた。次はこちらの番だ。カルデアの生き残りよ。もはや私が気になるのはそこの盾の娘、そしてオークニーの騎士。さあ、楽しい会話を始めよう」

 

 

 そういって魔力を開放して魔神柱をあたりに召喚していくソロモン王? 合図をしておきましょう。

 

 

 「ちっ! やるしかねえか! 行くぜモードレッド。俺たちが今度は先陣を切る!」

 

 

 「ああ、こんな状況だが敵の親玉が来ているんだ。ぶった切るチャンスにほかならねえ!」

 

 

 「で、でも・・・あの英霊には・・・いえ、英雄には決して・・・」

 

 

 『マシュ! しっかりして! 心を保ってしっかり敵を見る! どんな相手であれ相手は英霊、サーヴァントなら勝機はあるはずだ! 君の英霊は聖杯に選ばれた英霊だ! 格は決してソロモンに引けを取らない!』

 

 

 「英霊の格が基準になるとでも? まったく・・・無知とは罪だな。それなりの知恵者かと思えば。貴様らの司令官はわめくしかできず、参謀も取るに足らない魔術師。そこの騎士の方がずっとずっとましだな。

 

 

 さあ、今回はある程度見る意味でも使うのは八本程度にとどめてやろう」

 

 

 「ストーム。リフレクトシールド用意」

 

 

 いよいよソロモン王? をの背後に参列し、あるいはそばにいるように出てくる魔神柱の数々。そしてご挨拶。と言わんばかりにこちらに見据えている。その視線から放たれる八柱から飛んでくる無数の熱線と魔力が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――合図だ。マイガールからの合図。相手はソロモン王へのカウンターアタック。行くヨ皆」

 

 

 「はぁああああ・・・・ー・・・とんでもない案件ですが、やってやりましょうじゃないですか。皆さん」

 

 

 「おう! 人類史を滅ぼそうとする相手は2度目になるからな! じゃあ行くぞ!」

 

 

 「お姉さんはり切っちゃわうわ~♡」

 

 

 「ああ、ああぁああ・・・たまらぬなあ。魔術王。冠位を持つものが襲うとは。退けるのもこれまた一興よ!」

 

 

 ヤー全くソロモン王が出てくるとか、流石におじさん腰を抜かしてぎっくり腰が再発しそうになっちゃったよ。同時に、この陣形と人選を敷いていたのも納得。既にレイシフトを済ませている伊吹童子君とヴリトラ君も準備OK。

 

 

 華奈君の備えていた作戦を発動させる合図も出たので我々もさっそく開始。まずはちまちまとあちこちにAC90爆弾をまいていたストーム2の爆弾を発破。ちょうどこの広場から地下への大空洞。つまりは華奈君たちのいる場所に落ちるように発破の場所と角度、計算はすべて済ましている。

 

 

 歴戦の戦士と最高技術の爆弾の火力であっという間に我々の足場は崩れ去り地下へと真っ逆さま。

 

 

 「さあ、行こう・・・幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!!」

 

 

 地下までは深い、まだまだ残る障害はジークフリート君の宝具で打ち砕き更に落下は続けていく。そうして落ちていき大空洞がみえるあたりで次は玉藻君。

 

 

 「水天日光天照八野鎮石!」

 

 

 彼女の宝具は神宝を一時的に開放して呪詛によりこの世の理を遮断してしまい呪力行使、つまりは我々の宝具や出力を上げる際のコストを減らす。これは見方を変えればこの結界を使える間は無限の魔力供給を行うということに他ならない。

 

 

 それに目をつけた華奈君は即決でこの作戦を実行。本来ならカルデアの面々だけでどうにかするつもりだったようだけど、これを転用することに目をつけたというわけだね。

 

 

 ジークフリート君は連射を止めず、あっという間に地下に。その間にジークフリート君の宝具はその大剣の柄に埋め込まれている宝玉のエネルギーを使うわけだがそれはなんと真エーテル。つまりは神代のエネルギーだ。

 

 

 それをさらにこの結界で大量に引き出して真エーテルをとことん出しまくり、しかも孔明君やほかの面々にも用意してもらった魔力を集めるための機会や術式。これらもこの魔霧の魔力を用いれば玉藻君への負担も減らせるし維持も容易い。

 

 

 いやー流石は道具作りでも名を馳せていた、アーサー王物語でもかかれていた華奈君の部隊だ。実に使い勝手のいいものを用意しているよ。

 

 

 到着すれば既に目の前には大量の魔力の熱線と爆風、光線を撃ちまくっている瞬間。

 

 

 「待たせたね。マイガール」

 

 

 「ナイスタイミングです。おじ様。銀嶺防陣術式展開。同調対象はストーム1に。リフレクトシールドの範囲拡大」

 

 

 「喰らいなソロモン王。お前さんらがここにぶちまけ続けた魔霧の一部の味だよ」

 

 

 「うふふふ。華奈ちゃんに悪さするのはお姉さん許せないわね! 神剣・草那芸之大刀!!!」

 

 

 「おおおぉ。真エーテルとは気前がいいのう! 力がみなぎるというもの! さあ、わえのも味わえ! 魔よ、悉く天地を塞げ(アスラシュレーシュタ)!!」

 

 

 華奈君。アンナ君、ヤマジ君で銀嶺隊時代に構築した魔術師数人で行う大規模防御結界のインスタント術式。それをストーム1のリフレクトシールドに合わせて範囲を拡大。魔力で強化をしたストーム1の盾。相手の攻撃を反射し返すその盾と合わせて魔神柱たちの攻撃はそのままソロモン王たちに。

 

 

 更に追撃にと神代の龍神たちである伊吹童子君、ヴリトラ君らには相性抜群。普通の魔力以上に力を引き出せる真エーテルで支援をした二人の開放する宝具。

 

 

 大地を割き山河を切り開く神剣の一撃が、天地を覆う魔の軍勢が追撃を放つ。大空洞は愚かその余波は空高く天に届きこのロンドンのぶ厚い雲を晴らしてのけてしまった。そして見えるのはソロモン王の宝具の光帯。

 

 

 「さてと・・・まあ、手痛い一撃とは言わずとも、驚かせるくらいにはちょうどいいですかね?」

 

 

 「まったく。君といると飽きないネエ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほう。こう返してくるか。同時にこれが限界・・・仮にも神霊と言えども英霊の規模になれば悲しいものだな」

 

 

 「むー・・・」

 

 

 「とはいえ、もうお遊びは、語る時間は終わりですかね?」

 

 

 カウンターパンチ作戦は大成功。魔神柱はソロモン王? の盾となりボロボロと炭化した肉片になって崩れ落ちていく中でつぶやく。

 

 

 「ああ、同時にどうあがいても脅威として見ることが出来ないとも確信した。仮にも神霊を呼び出したはずの英霊二騎、真エーテル、そして攻撃の反射。これだけのことをしても割れの肉体にかすり傷ひとつつけられない」

 

 

 「個人に対する規模の英霊と、世界に対する英霊でここまでされてなおこれを言えるか。全く格も規模も違うか」

 

 

 「その通り。そして、同時にこの最大のチャンスも活かせないのなら今後の特異点も踏破できるとは思えんな。さて・・・帰るとしよう」

 

 

 「は・・・な!? 何だ!? 帰るってお前何しに来たんだよ!?」

 

 

 「興味の対象の下見と暇つぶしだが? 仕事を終え、あるいは読書の合間に一息つくついでに外の景色や天気を見る時があるだろう? そういうものだ」

 

 

 「つまりは私達は外で飛んでいる鳥や虫、あるいは空模様の雲ひとつ程度に過ぎないということかね?」

 

 

 「はははははは!! ああ、そうだ。貴様らはそれ以下の価値すらもない塵芥だがな!! 私はお前たちなどどうでもいい、生かすも殺すも値しない。見ることもな。だが、ふむ・・・もしも七つの特異点全てを消去したのならその時こそお前たちを『私が解決すべき案件』として考えてやろう」

 

 

 実際に、今の時点では私達に打つ手はないし、サクッと皆殺せる実力がある。文字通り仕事終わりに自分の用意した仕事の書類の上で動くだけの羽虫に過ぎないのでしょう。

 

 

 そうしてここにいる全員を見回して・・・とっさにマシュと藤丸様が視線を合わせないように動いてしまい、視線が、瞳があってしまった。

 

 

 (あ、やっば・・・・・やらないといけないこと、メモしておかないと・・・)

 

 

 「では、いずれもう一度会うでしょうね。また会いましょうか魔術王とやら。私達は必ず届きます」

 

 

 「ふん・・・カルデアに唯一の忠告をしておこう。進むこともせずにここですべて放棄することが最も楽な生き方だと知るがいい。何も、灰も残らぬ。貴様らの未来はそれよ」

 

 

 そういってソロモン王? は消えていった。いやな気分と沈痛で絶望な気分を残して。だというのにロンドンの空は晴れ渡り、光帯が明るく輝くのが皮肉ってものですよええ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なーんか・・・道の途中でずっこけたような気分だなあ・・・あんなのが敵だとはよ。先生、俺は戦うが、とりあえず作戦を考えないとだなあ」

 

 

 「全くです。ま、とりあえず今は疲れて考え一つもまとまらない。とりあえずカルデアに来てくれる皆様と契約のためにと・・・」

 

 

 「うーん。まさかの超厄ネタですが、どーせあれをどうにかしないと私たちおしまいですしねえ。カルデアに来ていいでしょうか? 非力なキャスターですがやれることはあるでしょう」

 

 

 「オレはくるぜ。あんな怪物、嬢ちゃんたちにだけ任せるのは忍びねえ。この金時、鉞とゴールデンベアー号でいつでも助けに行くからよ!」

 

 

 「もちろん私も行こう! 最高の人類科学の技術に私の頭脳が加わればきっと魔術王でも打倒できるはずである! ははははははは! あれを見てひるまない騎士がいるのだ。私達がひるんでいるわけにはいかない!」

 

 

 「ふん。今後の人類史の趨勢をそばで見るのも悪くないな。ただし、編集としては緩く対応しろよ。締め切りに追われるの二度目の人生で味わうのはごめんだ!」

 

 

 聖杯を回収して地下を上がり、とりあえずみんな疲れたので作戦を考える前に今後のために英霊の皆様からの触媒プレゼントの時間を開催。その間も特異点は消えていくのでまさしく最後の時間。

 

 

 「僕からも魔術王に関して少しだけど見た所管。書物の方で気になったメモとか、使えそうな本の名前をまとめておいたものを渡すよ。使ってくれ」

 

 

 「感謝しますジキルさん」

 

 

 「何で・・・冠位の英霊が人類史を燃やそうとしているんだろう・・・」

 

 

 「さぁなあ・・・人類を滅ぼす相手に喧嘩をしたことはあるが、まさかの身内というか、同じ人間が世界を滅ぼすのを見る羽目になるとは思わなかったよ」

 

 

 「とりあえず。今後も進み続けるほかないだろう。とにかく進めば、きっとわかること、見えることがあるはずだ」

 

 

 あっちではストームメンバーで藤丸やマシュ様を慰めたり励ましつつお茶をしばきつつジキル様たちと文章交換。私の方でもちょっと緊急時に備えてカルデアにもどったらやってほしいことをメモしています。

 

 

 「あ、カルデアの方から特異点退去のためのアンカーが通せたみたい。さあーみんなー戻るわよ~」

 

 

 「さてさて。予想を超えたなんて気にどう対処するか。今後もカルデアの動向を見るために力を貸しつつそばで見させてもらおう。ゆめゆめ、逃げる。折れることはしないようにな?」

 

 

 カルデアとのやり取りを頼んでおいた伊吹様からの連絡も来たので早速現地組、仮契約組の皆様とは別れてレイシフトでロンドンを退去。こうして、ちょっと重い空気のまま私たちのロンドン特異点攻略は完了したのでしたとさ。




 ということで英霊たちと合わせて放つ合体反射盾の攻撃と追撃の合わせ技。


 次回、プチイベントはーじまーるよー。行先は不明。


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誘拐旅行鬼ヶ島
迫真誘拐旅行


 ~時間神殿~


 魔術王?「藤丸とやらは監獄に誘い込めなかったが、代りに騎士を引き込めたか。しかし、あの騎士に今更あの監獄を見せたところで脱出もすればあれを地獄と思うか怪しい・・・・・・


 ああ、そういえばアイツは日本出身だったな。ちょうどいい。あの島にでも送りこんでしまうか。下手な相手よりもまず、助からない」


 「みんなお疲れさまだ! よく無事でいてくれたよ・・・・! 相手がまさかの魔術王。しかも、冠位を持つものだなんて・・・!」

 

 

 「積もる話はあとよロマニ! 急いで全員の治療と検査。呪いの類がないかチェックよ! 華奈、貴方の部隊は今は借りないわ。あなた自身も危ないもの!!」

 

 

 「メディカルチェックの類はばっちりだよ。さあさ。特にマシュ君、華奈君。藤丸君らはしっかりと。それと新入りのモードレッド君には悪いが英霊も含めて今回特異点に言ったみんなは早速シャワーや衣類の洗濯を頼みたいあそこの霧、というか空気の毒は怖いからね!」

 

 

 レイシフトから戻り、早々に出迎えたのは心底心配していたロマニ様とオルガマリー様、ダ・ヴィンチちゃん。ただいまの挨拶を言う前に矢継ぎ早に私達の無事と検査をしようとすんごく騒がしい。

 

 

 その勢いにつられて周りの職員の皆さんも心配と安どで魔術王が敵だという不安も一時的に忘れている。よかった。私や銀嶺隊はまだしもほかの皆さんには。いえ、魔術師として、そして英霊を知る組織だからこそその絶望は計り知れませんし。

 

 

 「感謝します。そしてただいまですよ。じゃあ、早速シャワーとメディカルチェックを受けてきますね? 香子様やアルトリア様の術式や道具ならちょうどいいでしょう。あと、クー・フーリン様も。ふふふ。少し休ませてもらいます」

 

 

 「はい・・・少し、私も休ませてもらいます。話は、あとでじっくりとしますので。それでいいでしょうか? 所長、ドクター、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 

 「色々あってくたくた・・・」

 

 

 「今回は色々あったなあ。ただ、ゴールが見えたのはいいと考えるべきか」

 

 

 「さてな。相手が相手だ。とにかく今は力を蓄えていくほかないだろうさ」

 

 

 「全く、人類史を救う戦いってのはこうなるのかねえ。こりゃ、今後は楽は出来そうにないなあ」

 

 

 とにかく今はその相手が気まぐれを起こして帰ったこと。それで生き残れたということに感謝しつつ皆一度メディカルチェックへ。その際に、滅茶苦茶伊吹童子様に食べられそうになったりもみくちゃにされたのは内緒です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・・ん・・・あ・・・」

 

 

 風呂に入り、メディカルチェックなどを受けてからブリーフィングルームに行く途中。ふいに来る眠気と、瞼の裏に映るカルデアとは違う場所。

 

 

 早い。思った以上に何かが来ている。いえ、私が届けられているのでしょうか?

 

 

 「マスター?」

 

 

 「っち・・・ストーム。このメモを。皆さんに届けておいてください。やるべきことが書いています・・・」

 

 

 「そうか? しかし、疲れが来たのかねえ。マスターはリモートか、休んでいくべきじゃないか? 俺が伝えても」

 

 

 「そうですねえ・・・」

 

 

 あー身体が重い。というよりは自分の身体から離れるような感覚。まずい。これ・・・きっつぅ・・・

 

 

 「お願いします・・・わたし、ちょっと・・・やば・・・あふん」

 

 

 完全にもう無理。自由がきかないからだと意識はそのまま手放して、私は多分カルデアの床にぶっ倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くふぅ・・・ふぅ・・・はぁ・・・ここは・・・」

 

 

 目を覚ませば、そこは知らぬ浜辺。ぐったりとしていたのですが近くにあった船がいい感じに影になっていたのでしょう。周りの人眼にはつかずに済みました。

 

 

 そのまま体に力は入るか、武装は使えるかをチェック。

 

 

 「銀嶺隊は呼べず、妖精の宝石箱は使えますが数がない・・・刀は・・・4振りとも無事」

 

 

 とりあえず、一人で動かないといけない。そしてまあ、恐らくですが・・・

 

 

 「魔術王が私を殺すための場所。あるいは幽閉するための場所でしょうけど・・・・はぁー・・・当てつけですか?」

 

 

 この形状、そして感じる妖魔類の匂い。恐らく・・・

 

 

 「鬼ヶ島。ですか。同時に私にとっては一番厄介であり、恐怖をあおるにもちょうどいい」

 

 

 完全にこの島も、住んでいるであろう住人も作られたものであり、私の伝手も縁も情報も使えないであろう場所。歴史に通じているけど日本の鬼種との戦闘経験は少ない。加えて軍団戦もできない。

 

 

 孤立無援の状態のままで戦わないといけないというのも相まってまさしく私を処刑するための場所と言える。

 

 

 「ただまあ、魔術王の聖杯を受け取ってこれを作った相手がいるとして、それは誰なのやら・・・ふぅ・・・考えさせてくれる時間さえもないですか」

 

 

 そしてまあ、流石は鬼。目も鼻も聞くようで、私に気づいたようで早速金棒と下卑た目線を向けながら走ってくる。

 

 

 「私をどうするかはまあ、想像がつきますがね?」

 

 

 「ギィッ!?」

 

 

 「シャアッ・・・か・・・ッ!」

 

 

 襲い掛かってくる鬼を数十匹とりあえず切り伏せて血の雨を降らせつつ、船を持ち上げてぶん投げて狭い道に押し返す。

 

 

 「私を本気で殺したければ。将も名の知れた鬼もなく取り押さえたければ万を超える群を持ってこないと駄目ですよぉ・・・?」

 

 

 とにかくここの状況を切り抜けていかないとですね。これも修行の一環と思いますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、マスターはどうなっているんだ? ダ・ヴィンチちゃんの方でも診てもらったんだろう?」

 

 

 「それが・・・まるで動かない。眠っているというか、魔力の方も身体の方も問題ない。身体は大丈夫なんだけど、魂だけスポっと抜けたような・・・」

 

 

 「・・・・・・・・」

 

 

 「あの華奈が何かあったの? 気がつけばトンチキな作戦やらぶち込むのが日常。驚かせて逆に倒れさせるようなバカがねえ?」

 

 

 「うーん・・・いったい何が・・・」

 

 

 「姉上! 姉上が!! どどどどど、どうしたらいいのですかモードレッド! ユニヴァースの方でなんかいい道具でも持ってきた方が!!」

 

 

 「叔母上おち・・いや、俺もどうしたらいいんだよぉ! ロンドンで再開したと思ったらこれとかさあ!! くそが! おい! 魂が抜けたとして、どこに行くってんだよぉお!!」

 

 

 あの後、マスターがぶっ倒れてから急いでサイドメディカルチェック。科学に魔術にとあらゆる分野で精密検査をしても結果は問題なし。

 

 

 ただ、まるで動かない。ぷつんと動かない。息はしているのだけどもうんともすんとも言わないのだ。

 

 

 それで英霊も職員も集まってあーでもないこーでもないと喧々諤々の大騒ぎ。

 

 

 俺も正直気が気でない。が、医療関連なんて真面目に戦闘時に使えるものくらいで精密な道具や術式、知識も経験もない。あくまでも俺はただの軍人。戦い以外は本当に明るくない。ただ、騒いでもどうしようもないのは数十年の戦いの経験で分かる。歯がゆいとしか言えない。

 

 

 「・・・・おそらく、邪視と言われるものだ。魔術王と目があった際に視線に乗せて呪いを叩き込まれたんだと思う。そして、今魂は別の場所に飛ばされている。ただ、完全に体から離れていないから華奈はまだその飛ばされた先で無事だとは思う」

 

 

 「「「「!!?」」」」

 

 

 まさかのロマニからのマスターの状況を見抜いていることに視線が集まる。当然だろう。急にすらすらとこのことを言われては。

 

 

 「ロマニ。どういうこと! 邪視!? それで、華奈は一体どこに魂を飛ばされているってのよ!」

 

 

 「分からない・・・ただ、すぐに魂を殺せていないのは、どこかに飛ばされているんだと思う。そこで魔術王が用意した場所で戦っているはず・・・」

 

 

 「待ちなさいドクターロマン。なぜ貴方がそこまで知っているのです? 魔術師の組織の医療責任者と言えども詳しい・・・何を知っています? 何を分かっています? 教えてもらいましょう・・・姉上を救うためなら、何をしてもいいですよ今の私は」

 

 

 ギラリと龍のような目をしつつ聖剣を抜いてロマニの前に王の威圧感をもって迫る。それは他も同じ。マスターに縁のある、恩のあるものは全員とにかくこの状況をどうにかしたい。そのためなら暴力も拷問もいとわないと言わんばかり。

 

 

 「・・・・分かった。すべて話すよ」

 

 

 「っ・・・いいのかい? ロマニ。その選択は・・・」

 

 

 「いや、あんなことがあったんだ。すべて話すべきだと思う。華奈なら必ず到達する。あの魔術王の皮をかぶったやつの所まで。だから。レオナルド。僕は言うよ」

 

 

 「そう・・・」

 

 

 ふっと切なげに目を細めてそれ以上は何も言わないと離れるレオナルドと、俺たちを見回してロマニ唾をのんだ後に。

 

 

 「僕の正体は英霊。ソロモン王だ。同時に、あのロンドンで出てきた魔術王は僕の姿をしているけど、おそらくソロモン王じゃない」

 

 

 

 「「「「「・・・・・・・・・はぁああああああぁあぁああっああああ!!?」」」」」

 

 

 今日一番の、カルデアの壁が声で壊れんばかりの絶叫と衝撃が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやー全く! こんな場所でまた会うとは、ミス・シルバーも大変だなあ!」

 

 

 「私だって予想外過ぎて。というか日本の鬼ってこんなんでしたっけ!?」

 

 

 突然ひき逃げアタックで助けてくれたライダースーツにばっちり決めた髪型が光る金時様。ロンドンからすぐさま。時間的には2、3時間後のすぐさま再開と同時に鬼たち相手に大立ち回り。一体一体がまあ雑兵以下のトーシロなので楽々拳と蹴りと刃で叩きのめしていますが全くキリがない。

 

 

 「いやいやいや。流石にこれはねえ。なんかの絵物語から出てきたような緩ーい鬼なんぞ。オレっちが戦っていた鬼たちはもっとこう。雑兵でもそれなりにやべえ気迫がある。こんな腑抜け顔してねえ・・・よっ!」

 

 

 「じゃあ、やっぱりここに何なそちらに縁のある誰かがいるってことですかねえ? 魔術王のせいで恐らく私ここに来ちゃったんですけど」

 

 

 「はぁ!? おいおい! 流石に俺っちの仲間にそんな無粋なことをする奴は一人もいねえぜミス・シルバー! 曲がったことは大嫌い。京を鬼、妖魔から守り続けた頼光四天王。あんなのに手を貸すわけねーぜ!」

 

 

 「ですよ・・・ねっ!」

 

 

 金時様の拳から迸る電撃と私の振るう飛ぶ斬撃で鬼の群れに叩き込んで無理やりに道を切り開いていく。よし。これくらいなら?

 

 

 

 「行きましょう金時様。さっさとここを抜けて一息つきつつ探れる場所を探って脱出しましょう」

 

 

 「オーライ。じゃあばっちり掴まってなミス・シルバー!! こいつは一瞬で百里も駆け抜けるモンスターだからよぉ!」

 

 

 「それは頼もしいですね! よいしょ!」

 

 

 ムニュン♡

 

 

 「っと・・・あー・・・その、なんだ。で、出来ればすこーし後ろに下がってもらえねえかな? 安全のために」

 

 

 「ほへ? まあーいいですよーじゃあバイクの掴めるところに片手を・・・じゃ、お願いします。金時様。ベアーちゃん」

 

 

 「いよっしゃ! ゴールデンな走りで行くぜおらぁ!!」

 

 

 

 こうして、私と金時様でこの奇妙な鬼ヶ島の冒険。恐らく魔術王の用意した場所を抜け出すための戦いが始まりましたとさ。




 ということで始まりました鬼ヶ島。ぶっちゃけ華奈だと監獄に叩き込んだところで人の感情による憎悪や大罪は現役時代にもいやッてほど見尽くしているので。後シンプルに強い。


 藤丸君はいつか適当なところで最高の共犯者であり相棒のエドモンと裏で出会ってもらって仲良く男同士で馬鹿な話をしてほしいなあって。


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鬼と金太郎と変な女

 別世界の戦士もストーム1以外で呼び出す話を作りましょうかね。ちょうどいい場所がありますし。


 「ロマンが・・・ソロモン王!? ど、どういうこと!? それなら、あのソロモン王は!? 魔神柱は!? あ、ああぁああ・・・・色々と驚きの情報が出すぎ!!」

 

 

 「でも、ロマニそこまで肌黒くないし肌も白いよね?」

 

 

 「それはこうするようにした。肌とかも魔術で変えていたからね。ほら。これならわかりやすいかな・・・」

 

 

 そういってロマニは僕らの前であっという間に姿を変えて見慣れた姿からあのソロモン王の姿に変わり、カルデア中が騒然となる。

 

 

 「な・・・な!? いや、でも確かに・・・!!」

 

 

 「魔力の感じも、あの時のやつと同じだ・・・・どういうことだよ! 相手がわかったうえで華奈先生を見殺しに、カルデアでキャンキャン吠えるだけだったってのか!!? ぁあ!!」

 

 

 殺意を増して剣から電撃を走らせながら近寄るモードレッドに目の鋭さは変わらないまま、アルトリアが片手で制する。

 

 

 「色々と困惑していて、私も今怒りのやり場をどうぶつけていいのかわかりません。ただ・・・その事情は何ですか? なぜ、ダ・ヴィンチは事情を知っていたうえで隠していたのか。そして・・・おそらく、姉上も同じなんでしょう?

 

 

 カルデアの古株と二人は聞いています。だからこそ、なんでこういう行動をしているのか。意味があるのか・・・教えてください」

 

 

 ギリギリと聖剣を握る音を響かせながらも必死に怒りを抑え込んで暴れない。暴れないとこらえているアルトリアさん。恐らくこの中でも銀嶺隊と同じかそれ以上に怒っているあの人の覇気、怒気に僕もみんなも黙ってしまい、じっとロマニ・・・いや、ソロモン王を見るほかなかった。

 

 

 「うん。まず、これは言う。僕は確かにソロモン王だ。そして、ロンドンに出たソロモン王は『肉体』はソロモン王。ただ、なかにいる精神、魂は別物だと言っていい」

 

 

 「ふむ・・・つまり、あれはソロモン王であってソロモン王じゃない。あくまでも外側だけはそうだけど、英霊として、ソロモン王としての存在ではない。か・・・でも、冠位の資格と、出力はあるよな?」

 

 

 いろいろと困惑する発言に、ストーム1の発言になるほどと一同が納得する。

 

 

 「ふむ・・・・・・・む。レギオン。だったか・・・確か、いくつもの人格を持つ悪魔だったような。そう言う・・・いわゆる悪魔がソロモン王の肉体を利用した。ということが近いのか?」

 

 

 「あぁ? ってーと・・・あれだろ? 恐らく魔術王の身体に誰かが乗り移って他人を騙っているっつーか」

 

 

 「だけど、七十二柱の魔神とかの逸話を持つ、力を使える王様というのは相違ないはずだが」

 

 

 ストーム2の皆さんの発言に段々とロマニへの嫌悪や不安、怒りは薄れていく。

 

 

 「ああ、そもそも。英霊として呼ばれない限りソロモン王がこの時代に来ることがない。そして、僕は確かに一度死んでいる。だけど、魔神柱たち。あの七十二柱は僕と同じ寿命があるわけでもない高次の存在。

 

 

 そして、仮にも僕の使い魔としていた存在。だから死後僕の肉体を使い、動くうえでも最適だったんだろう。僕という魂と精神が抜けた抜け殻の肉体。だけどその魔術回路と使い心地は最適で使い勝手の分かるパーツ」

 

 

 「つまり・・・あれはソロモン王の魔神たちが動かしているだけのソロモン王の生きた術式・・・・・・ということですか・・・!?」

 

 

 マシュの発言に皆が更にどよめく。

 

 

 「ああ、ほら、わずかだけどアイツが出てきたとき・・・仮に、ゲーティアと呼ぼう。ゲーティアが出てきたときに皆と会話した時に皆へそのまま似たような反応をしていただろう? それはきっと魔神たちでそれぞれ違う存在が対応していたんだろうね。

 

 

 魔神柱たちの集合体。そしていくつもの意識があるゆえにそれに合わせた対応をする。そして・・・もうわかると思うけど・・・あいつは冠位を名乗っていたが決してそれはない」

 

 

 「なるほど・・・キョンシーみたいなものですかね。で、確かに英霊の肉体はあれど英霊の精神も魂もない生きた術式。冠位を名乗る能力はあれども、冠位ではない。しかしその力は英霊を隔絶する強さ・・・

 

 

 そうなると・・・冠位をいただく英雄でないとしたら」

 

 

 「冠位を持つ英雄たちが戦うべき存在。人理を滅ぼす。世界を滅ぼすもの・・・か?」

 

 

 「おそらくそうだ。英霊の座にいた時、聖杯戦争にいた時に冠位やそこら辺の決戦術式への知識はあった。そしてゲーティアは英霊ではない人類を滅ぼそうとしている存在。

 

 ・・・・・ビースト。人類悪と呼ばれる人類を、世界を滅ぼす自滅機構の一角だろうね」

 

 

 さらなる存在の。本来なら冠位の英霊たちが倒すべき存在が敵だということにもう周りが驚きの連続で処理落ちするもの。驚きで固まる者。気絶するもの。ソロモン王が敵ではないがその魔神たちは敵であり、しかも人類悪。

 

 

 話が急に動きすぎて最早何が何やら。としか言えない。ただ、同時に納得がいく。人類悪。それほどの存在なら人類史を滅ぼす。焼くというのもある程度納得はいく・・・

 

 

 「僕も、正直な話予想外にもほどがあった。本当に察知もできず、ローマで嫌な予感はしたけど信じきれず、そして、ようやくロンドンで理解できた。

 

 ・・・・・・・ただ、その結果僕を支えてくれた姉のような大事な人をこうなるまで何もできなかった。だから、どうか話を聞いてほしい。ゲーティアをどうにかするためにも」

 

 

 「・・・・・・部下の監督不行き届きでとんでも暴走を許してしまったのは、私も覚えがあります・・・貴方も被害者と言っていいですね・・・とりあえず、話を聞きましょう」

 

 

 二振りの聖剣をしまい、座布団を持ってきてアンナさんたちに茶菓子と紅茶を頼むアルトリアさん。そしてみんなもそれに続いて腰を下ろす。確かにロマニも被害者だし、何より気にならないと言えばウソだ。使い魔と言えど、ソロモン王と人生を共にした魔神たちが何でこんなことをしたのか。

 

 

 何でそんな選択肢をしたのか。魔神を一番よく知るロマニ。もといソロモン王からの話を聞くべきだと。さっきまで充満していた殺気と怒気は消えて、ソロモン王は語り始めていった。前の人生とそのころのソロモン王の実態を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅー・・・・・感謝しますよ金時様。この機動力。栗毛やハチたちも驚くかも。あ、これつけていてください。気配遮断の効果を低ランクですが持てるブレスレットです」

 

 

 「サンキュー! ミス・シルバー。しっかし、改めてどこにいても鬼の匂いがしまくる。文字通り鬼の島。鬼ヶ島ってわけかあ・・・」

 

 

 何とか鬼たちの群れを潜り抜けて無事に休めそうな場所にたどり着いた私達。お茶とかこじゃれたものがあるわけでもないのですがひとまず岩場に腰かけて小休憩。

 

 

 「に、しても嫌に手ごたえが軽いと言いましょうか。あの鬼たち。私達がいたブリテンでもオーガ、そちらの鬼種に近い存在はいましたが、これは・・・少し違うような? あの固い、岩のような肉体とは違うと言いましょうか」

 

 

 「ああ、あれはどっちかと言えば呪いが形を成したもの。霊獣とか、神獣たちの血を引くようなものや実在しているやつらっつーよりも実在しない生まれた呪いというべきか。そんな奴らだな。だから見た目・・・もあれだが切っても殴っても手ごたえが軽い」

 

 

 「流石は金時様。専門家の意見を頂けるのはありがたい話です。ですが同時にそうなるとここは・・・」

 

 

 鬼が住まう島ではあるけど、自意識や、自由権利を持つ鬼種たちの集まり。というよりも使い魔として鬼たちが存在していてその鬼たちも管理されている。黒幕というか管理者以外は全部全部がまがい物というのが正しいかもしれない。

 

 

 まあ、あの魔術王が私をぶっ殺すために用意した場所なのでさもありなん。という感じですがそうなると同時にこの島はまだしもあの数の鬼を用意出来たという事実。島を生み出す逸話や道具を用意して、その魔力を鬼を生み出すために使っているというかそこら辺だろうか。

 

 

 しばらく金時様と会話をして情報と意見交換をしていましたがらちが明かない。分かったのは鬼の種類の違いだけとなってしばらく。

 

 

 「こうしているだけでは俺っちもベアー号もしょうがねえ。ミス・シルバーをカルデアに返すためにもこの島を見てくるべきだな。この便利なブレスレット。しばらく借りていいか?」

 

 

 「ええ。私も一度この島を見てどうするべきかを考えます。どこをどうするべきか。どこに進んでいくのが正しいのか。一緒に行ける戦力はこの島にいるのか。わかるものがないと進む筋道もない」

 

 

 「だな。じゃ、一度離れてここで再度合流するってことで。ミス・シルバーの腕前なら問題ねえとは思うが、気を付けていくんだぞ」

 

 

 「ふふふ。優しいですね金時様は。ええ。気を付けていきます。どうか武運を」

 

 

 互いに気配遮断と敏捷を強化できるアクセサリーをつけて改めて鬼ヶ島の探索を開始。魔術王が用意した私を殺すための舞台。見極めつつ帰るために頑張らないと! 後ついでにお茶が欲しい。のどかわきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まず。僕ソロモン王は人としての意思が希薄ないわゆる『人でなし』な人間だった。何せまあ、神にささげられた人間だったうえにいわゆる神様の意思を代弁するだけの操り人形。傀儡と言っていいくらいだよ。

 

 だってソロモン王の時代は人の意思が希薄だし、何をするにしても神様の意思を聞いたほうがいい。そのほうが気楽で確実。御告げなら間違いない。

 

 その神様の声を聴くだけの人形がソロモン王。民を導くための神様の動かしやすい道具だ」

 

 

 「神権政治。ってよりは文字通り神様の言葉によって動かしている国。か・・・俺らの時代だとちょっと考えられないけど・・・時代と偉業を考えれば納得もいく・・かねえ・・・」

 

 

 「母上がブリテンの妖精や神様と縁のある巫女の血筋、と言えばいいのか。そんな方でしたし、なるほど・・・私たちの時代以上に神様が身近かつ、しかもその神託を聞ける存在となれば、基本的にはソロモン王自身の意識もあんまり・・・国を動かすための機械・・・」

 

 

 ロマニの語るソロモン王としての話は、思ったよりもぶっ飛んでいたというか、僕らからは想像もつかない話だった。生まれてからずっと神様の傀儡。

 

 

 しかし、それに反応するのはアルトリアさんやクー・フーリンたち。彼らの場合、神様や巫女、まだまだ神代の時代だったのもあってそういう存在。神託を聞く人間のあれこれや王という名の国を回す機械となってしまう存在を、経験をしているからわかるのだろうか。苦虫を噛み潰したような顔だ。

 

 

 「まあ、だから何だろうね。人としての意思も希薄。自分で何を考えるわけでもない。喜怒哀楽なんてまるでない。なにがあっても「ふーん? それで?」って済ませてしまう人でなしさ。

 

 

 そこに珍しく神様が僕になんでもプレゼントをするっていうからさ。僕はちょうどいいや。と思ったんだ。こういう生活を送っていると考えていたことがある。

 

 

 僕は人を、人間を知りたい。その心を、ありのままを知りたい。って生きていくことの意味を。辛く苦しいことも多い中で何を思い生きているのかって」

 

 

 人を知りたい。その思いで神様に栄誉も富も求めない。いや、それは既に満ち足りているからなのかな。だから。選んだ。人を知ることを。苦笑しながらも懐かしむように話すロマニは姿は違っても僕のよく知るドクターだった。

 

 

 「それで神様に『知恵を。世界に満ち足りる当たり前を知るための知恵を』って願ったんだよ。人々が普段から感じていること。思っていること。そんな人だから、人らしいことを知りたかった。

 

 

 なのにさあ! 神様は何を勘違いしたか10の指輪を渡してきたんだよ! 天使と悪魔。あーあの魔神たちね。を使役できる指輪。奇跡と称される力を。知恵じゃなくて知恵を持つパシリを渡したって知恵が増えないよ! 下請けに下請けを増やしたって何の意味ないよ!!

 

 

 ということも言えず考えられず、そのままさ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ご協力感謝します剣士のお方。貴女様の剣技。まるで流水のように滑らかで、されど刃は曇りなく敵を討つ。お見事な剣技でした」

 

 

 「こちらこそ。いやー知り合いの待ち合わせの場所に鬼が居座ってどうしましょうかとなっていたものですから。私は船坂華奈。にほ・・・日ノ本の人間ですが、異国で騎士をしています」

 

 

 あの後一通り島を見回り、結局周りにどうこうするためのものもなく、上に行ってしまうしかないかなあ。となって待ち合わせ場所にもどったら鬼たちが小休止を始めてしまい、ぶっ殺すかと考えていた矢先。黒髪爆乳美人さんが来て鬼を斬り捨ててくれたので手伝って瞬殺。

 

 

 二人で一気にし多分音も大きく出ずに済んで無事にひと段落。の後にまず自己紹介。

 

 

 「あらあらまあまあ。同業の方でしたか。騎士・・・とは、武者の違う言いかたでしょうか? 狼を彫り込まれた鎧。大神・・・天照大神を信仰する方でしょうか」

 

 

 「んー狼とは仲良しですけど、ちょっと違うかも? ところで、貴女様は一体? その太刀筋。立ち回り。はっきり言って並みの武芸では済まないほどの腕前ですが」

 

 

 「私のことなどお気になさらずに。お互いになすべきことをしたために道が交わっただけ。巡り合わせがあればまた会うでしょう。なので、その時が来ればまた・・・私はこれにて失礼しますね」

 

 

 「あ。行っちゃった。うーん・・・まあ、予想はつきますが、はてさて・・・」

 

 

 するりと抜けるように話を終えてどこかに行く美人さん。全く、とんでもない腕前。生で見るのは初めてですが、その技量、そして振るう太刀。その鳴り響いていた名前は伊達ではないですか。

 

 

 「いよう。悪かったな。ベアー号がゴキゲンすぎてちょいと遠くまで行ってきていた。んで? 一戦始めた後かよ。無事かあ?」

 

 

 その考えをふっ飛ばすように鳴り響く爆音。そしてバイクから降りてくる金時様。真面目にこれで鬼の追跡が来ないんですから気配遮断ってすごいんですねえ。

 

 

 「ええ。私はほぼ不意打ちで終わらせましたし、それに、美人さんに助けてもらいました」

 

 

 「美人さんだぁ? そんなのがいたのか?」

 

 

 「ええ。すらりと長身で爆乳。所作も戦いも全部流麗で、それでいて艶やかで包容力のあるかたでしたね。優しく微笑む中にも警戒を絶やさない。まさしく武芸者としてもかなりのものでした」

 

 

 「・・・・・あ・・・? いや・・・まじか? まさかな・・・」

 

 

 あーこれはビンゴ―。絶対頼光さんですねえ。そりゃあ、魔術王の用意した舞台で出会うとか想像しないでしょうし、同時にあれこれ考えているのがよくわかる。あの顔が出てきてしまえば何が起きてもおかしくないので。

 

 

 ここを切り抜けた後はぜひお近づきになってほしい方なんですけどねえ~香子様との話も聞きたいですし。

 

 

 「まあ、とりあえず私も得た情報があるので話しましょう。ベアーちゃんも休ませつつ、ちょっと水とかをくすねてきたので」

 

 

 「お、そいつはいいな。有難く頂戴するぜ」

 

 

 ふぅー・・・えーと。どこから話しましょうかね?




 華奈は基本こんなノリ。もう突っ走るしかねえやって感じ。


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攻略の道筋は

 華奈と一緒に異聞帯を歩く際にストーム1とカービィが一緒にいたら楽しいことになりそう。そう言えば何気にストーム1は最新作で異聞帯切除みたいなことしているんですよねえ。真面目にこの最新の英霊やばすぎる。


 「ってわけでして。どーにも鬼が人を使役して島を工事している感じなんですが、そこには大事そうなものも戦力もいないですが、まあ人助けをしていてはキリがない。

 

 

 で、その後に上に向かってみたら三つの関所があって、そこから何やら濃い魔力の気配を感じました。この箱庭のような島を作るため、魔術王の用意した場所を抜け出す何かになるかも。ですね」

 

 

 「なるほどなあ。こっちも似たようなものだ。今労働させられている人らにはソーリーだが、ここが魔術王の世界の場所ってんならおそらくあの鬼も人もまがい物や呪いみてえなもの。それでも人を救う。そしてミス・シルバーを救うにも上を目指すのが吉ってか。

 

 

 抜け道らしいものもない、一本道で分かりやすいが同時に関所を抜けるために強行突破になるぜ。いいか?」

 

 

 とりあえず互いに散策後に合流。金時様と一緒に互いの得た情報をもとに話し合いをしていると結局は上を目指そうということになりそうになっていますねえ。

 

 

 まあ、龍脈もつかみづらいのはもともとの島の地形の上に土を持っていたり、術者が一気に行けないように一部とぎれとぎれになっているからもし頂上を目指すのなら金時様の言うように強行突破になるしかない。

 

 

 ここの雑兵の鬼とはいえ数も多いし消耗もする。その上でさらに何が来るかわからないと来た。二人で協力して消費は抑えつつ行くほうがいい。一本道で裏道もないのなら突破してしまえば後は狭い道で一気に相手せずに済みますし。

 

 

 「問題ありません。とりあえずあの女武者さん? のおかげか鬼も少ないですしサクッと行ってしまいましょう。さっき始末した鬼たちを探しに来る仲間がいるかもですし」

 

 

 「オーケー。それじゃ、ベアー号に乗りな。とっとと行くぞ!」

 

 

 「ふふふ。かっ飛ばしてくださいね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、使い魔が増えてから職務の方も効率が良くなってガンガン国を回していたらまあ、使い魔たちからのクレームが飛んで来るようになったんだ。

 

 

 『人間は不完全だ!』とか

 

 

 『この世界は悲しみに満ちている!』とか。だっけかな。

 

 

 ソロモン王の薄い心よりも、彼らはしっかりとした心があった。その違いのせいだろうね。気の利いたことはまるで言えなかったんだ。何を聞いてもそれで? そんなのがどうしたのって感じで。

 

 

 で、とうとう魔神たちも怒ったんだね。『貴方は何も感じないのですか!!』『この悲劇を! 人間の不完全さをどうにかしたいと思わないのですか!!』って。

 

 

 でもね。ソロモン王はこう返したんだ。いや、まあ。別に何も? って」

 

 

 

 「「「「・・・・うっわぁ・・・」」」」

 

 

 「いや、うん。わかっていたよ! わかっていたけどやっぱりそう言われると辛いなあ!」

 

 

 「そりゃあ、当時の魔神たちもそんな反応とリアクションに近しいのでは? 自業自得です。ドクター」

 

 

 マシュの返しがぐさりと刺さり、そして銀嶺隊のほぼ全員と僕も同じ反応にロマニ、もといソロモンもうなだれる始末。ロマニの独白から始まるソロモン王の過去は、納得がいくのと同時に、知恵を、人を知ろうとして半分アンジャッシュなノリで貰った魔神たちに結局人らしい反応や知ることもできない。

 

 

 ある意味ではソロモン王の知りたかった知恵と感情を持つ使い魔たちから何も学ばずに進んでしまっていたことにドン引きになってしまう。しょうがない。とはいえここまで人らしい情緒がないままになるというのにある意味恐怖さえも覚えてしまう。

 

 

 「で、でまあ・・・人なんてはじめからそんなものだし、それをどうこうするのは神様から言われていないし気にせず職務、責務を果たせと言い聞かせてさ。

 

 

 『責務、責務・・・責務・・・!!』

 

 

 怒ったんだろう、呆れたんだろう。哀しんだんだろう。

 

 

 だけど、そんなのをソロモンは気に解さなかった。それだけならまだいいさ。ソロモン王は千里眼を持っていた。未来を見通す目を。そのせいで人間の総てをずっと、延々見続けないといけなかった。あらゆる人の醜さを、苦しさを見ないといけなかった。目をそらすことも逃げることもできないまま。

 

 

 それで助けてくれと主に頼めばこのままだ。

 

 

 結局ソロモン王は人を神の言うとおりに整理して、導いて国を豊かにしてそのまま眠りについた。精々自分でしたことは指輪を返しただけ。ソロモンという人でなしの話はここで終わり」

 

 

 ソロモン王の苦悩も、魔神たちの憤りもよくわかる。あまりに無関心、無感情。しかも自分たちがやるべき責務に関して関わるものに。だ。ただ、同時にソロモン王もそういう教育がされなかったのだろう。合ったとしても神々への神託への知識や技術くらい。

 

 

 どっちもやるべきことをしていた。ただ、相互理解が足りなかった。

 

 

 「なんというか・・・国の責務に携わる、関わる人間らをめんどくさい宿題程度にしか捉えていなかったんですね・・・それを考えるほどの自由意思も、思考も及ばなかったと」

 

 

 「・・・国王は国家第一の僕とはいうけど、ロマン。いえ・・・ソロモン王。貴方は文字通りそうだったのね。ただ、同時にあまりに僕過ぎて、それが逆にこうなったと・・・はぁ・・・」

 

 

 「うん。それで、ソロモン王という上司は死んで、抱けど魔神たちは死ななかった。だから、その後に考えていたんだろう。『どうにかしよう』って。で、その際にちょうど相性は良く、力もある肉体があるからそれに魔神たちが利用する側としてあの遺体を。ね。

 

 

 ほんっとうに皆の言うとおりに使い魔とのコミュニケーション不足のせいだ。今更ながらあの時に僕に自由意思がもう少しあったら・・・なあ・・・」

 

 

 その結果があの魔神柱の誕生。人理焼却というとんでもない大惨事になる。本当にとんでもないことだ。結局はソロモン王という存在が無くてもその使い魔だけでここまでの事が出来てしまい、あまつさえ人類悪の一角ともなってしまう。

 

 

 冠位をいただく存在。人類史でも偉大な王様とたたえるだけの存在、実力となれるわけだ。

 

 

 

 「ふぅ・・・とりあえず、当時の大ポカのやらかしはまさしくその場でぶっ殺されても問題ない。拷問にかけてもいいくらいでしょうね」

 

 

 ロマニの話を聞いてアルトリアさんがスパッと斬り捨ててしまう。

 

 

 「じゃのお。仮にも為政者となっている。それは国の責務のみならず臣民の心も考えないといけないもの。そこまで注意を行かずともある程度すんだ時代とはいえ、そうでない輩もいるじゃろう。なのにまあ子供のような言い訳こねたってなあ。それもドクターの落ち度。じゃろ。わしの方でもしっかりと困りごとがあればじっくり相談事はしましょうねって織田家の決め事にあるぞ?」

 

 

 ただまあ、それも領主、国持ちの英霊である信長にも情けないと斬り捨てられる。当時の状況がどうであれ、それは国王である者の落ち度。神様の存在は認めるとしてもそれだけ王の存在と責務は重いということか。

 

 

 「まあ、なあ・・・叔母上に先生も、母上も父上も皆後続たちに、のちの国を作る人たちに、民たちに余計な置き土産を置かないようにしていたからなあ・・・心が薄いと言っても、どうしたって王はそういうものだ。お前が魔神に言っていた責務を果たせていない結果だわ」

 

 

 「うぐぅ! うん・・・本当に、本当にその通りだよ・・・・・・そのせいでこんなことに・・・そして、その場で僕を殺してもいいのは確かだ」

 

 

 「ええ。ですが同情の余地もあるのは確か。魔神側のやらかしも悪いですしね。そして、気になることが新たにできました。そんな人でなしのソロモン王が今の優しいドクターロマニとなるには何があったのですか?

 

 

 このことを知っていながらその問題の最前線に苦悩しながら突っ走ることを選んだ。今の心を得た理由は何ですか?」

 

 

 アルトリアさんの疑問と質問は、皆が考えていたことなのだろう。確かにと無言の反応が返ってくる。

 

 

 「確かに・・・今のさぼり大好きドルオタドクターになるには不思議な気もします。教えてください。ドクター。カルデアの仲間として、戦友としてこれからも進むために、全部教えてください」

 

 

 「うん。出来れば全部教えてほしいですロマニ」

 

 

 「そうね。話なさい。ロマン。所長としても貴方をこの騒動の後にもいろいろと信頼し、助けるためにも。ね」

 

 

 「皆・・・うん。そうだね。僕が何でこうなったか。いや、こうして成長できたのか。それはこのカルデアに来る前のある聖杯戦争がきっかけなんだ。その時、マスターと、華奈に出会ったんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ! おわっ、ちょ!」

 

 

 「ヒュウ! 何て速度だ! こいつはまるで空を飛んでいるような、地面に足をつけているのか疑問になるぜ!」

 

 

 やってきました第一の門。そこにいる緑色の、この星じゃなくてナメック星にいる方が似合いそうな鬼さんとの戦闘になったんですが、見た目とは540°真逆な俊敏な動きに私も金時様も翻弄されたりまだ慣れていない状況です。

 

 

 なにせまあ、目の前にいたと思えば即座に後ろや側面から攻撃をしてくるんですが、その巨体が急に消えるほどの速度、そしてその巨体から来る攻撃は即ち攻撃範囲にも直結する。

 

 

 「グォオオッ!!」

 

 

 「凱鳥!」

 

 

 「おらぁっ!!」

 

 

 鳥のような範囲を広げた飛ぶ斬撃と金時様の電撃を拳で飛ばす弾丸もよけてしまってとまあー素早いのなんの。

 

 

 「んーむ・・・力は強い。とはいえ規格外ではないので私も問題ないですが、いかんせん素早く傷を与えられない・・・・ふむ? 金時様。ちょっと試してみたいことがあります。これをこうしましてね?」

 

 

 「ほうほう・・・なーるほど。そいつはグッドだぜ! じゃあ、頼んだぜミス・シルバー!」

 

 

 「ええ。はぁあっ!」

 

 

 軽い打ち合わせをしてこの鬼をしばきまわすためのプランを実行。私が真っ向から鬼に立ち向かい、その速度に合わせつつ、秋水と桜花の太刀二振りでわざと派手な飛ぶ斬撃を飛ばしたり、振り下ろしを連続。

 

 

 ただ、それも鬼の軽い身のこなしでよけられてしまい、それを追いかけては斬撃を飛ばすということの繰り返し。ただ、斬撃を飛ばしたりする際には逃げ道を塞いで誘導したり、それでも逃げられてもいいようにと立ち回っていく。

 

 

 「くっ、ふ! この中でも返しをしてきますか。うーん・・・相当手練れといえますが・・・慣れてきましたね」

 

 

 そうこうしていくうちに速さに目が慣れていき、鬼の攻撃、カウンターにも刀を使っての対応もいらずに身体を逸らす程度で済んでしまう。

 

 

 「でも、うぉう! ここまで接近戦は冷や汗です! 焦げ臭い!」

 

 

 それでもやっぱり刃や拳、鬼の攻撃を体でよける分髪の毛の先が鬼の攻撃をかすめてしまい焦げ付くにおいを出していく程には早く、なんやかんやとスリルある戦い。

 

 

 「ヘイヘイへイ! 鬼さんよお! そんなにミス・シルバーだけに意識を向けちゃっていいのか―? このゴールデンベアー号と俺っちがふっ飛ばしてやる。フルスロットルならお前なんざ遅すぎる!」

 

 

 その中で戦いの範囲からよけつつぐるっと加速していた金時様が加速の距離を手にして最高速度になっての加速。

 

 

 鬼さんも逃げようとしますが、もう遅い。

 

 

 「フゴッ!? グガァッ!!」

 

 

 「あまりに逃げ切るのに気にしすぎで足元おろそかになりましたね? ふふふ・・・道の整理もばっちりですよ。さ、金時様」

 

 

 私がやみくもに速度勝負を挑んでいたわけではなく、範囲攻撃で倒そうとしていたわけでもない。斬撃や鬼を早く動かしてしまい、早く動く分踏み込む力も相まって周りの地面はボロボロ。踏み砕かれ、斬撃で亀裂を入れられた周りはもはや不安定で踏み込まないと大鬼の巨体では足を取られるぬかるみ。

 

 

 おまけに魔へ特段ダメージを与えられる陽炎を足に突き刺しておいたのでさらにご自慢の速度ももう活かせない。一方で金時様の走る道は深山の効果で新たにきれいな地面を用意しておいたのであっちは減速もないままの大爆走。

 

 

 「そぉら。海の果てまで飛んでいきなぁ!!」

 

 

 こうして金時様のひき逃げアタックが決まって緑の大鬼は吹っ飛んでいく。と同時に腰から落ちていく鍵を走ってゲット。

 

 

 「おー飛んでる飛んでる」

 

 

 「あの高さと距離、速度。あ、海にぶつかる際に身体が砕けましたね」

 

 

 最後は大鬼が海面にたたきつけられて死亡するのを確認して、鍵で扉を開けて次の場所へ。ふぅー私一人だともう少し面倒だったでしょうね。




 今回は用心棒はいません。魔術王の用意した場所ですしね。金時は頼光の縁にひかれて偶然来れただけです。


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おかぁ・・・・・はぁん・・・

 急いでアメリカまで走りたーい。でもここら辺も書きたい。あぁーもどかしぃい~


 「ここからはとりあえず物探しと、無駄に戦うこともないので再び気配遮断の腕輪でこっそりですよ。出来る限り砂ぼこりで察知されるのも嫌なので金時様はベアー号を押して動きましょう」

 

 

 「ちぇーせっかくの山攻めってのによ。まあしょうがねえけど。今はミス・シルバーを無事に返す手段を探すべきだ。ここのエネルギーは次の門、大鬼の前まで取っておくわ」

 

 

 バーサーカーでもライダークラスでも基本的に物分かりがいいので助かりますねえ金時様は。早速礼装を起動させてこそこそと抜き足すり足忍び足。

 

 

 途中に人の休憩所、というよりは捕虜収容所? らしきところがあったのでそこにも足を運んでみましたが、むしろこの鬼ヶ島がわからないというか、ここの島の管理者がよくわからない? ということになりました。

 

 

 「うーん・・・金時様。島を作るにしても、人を動かすより鬼の方が早いですし、人はやせ細ってしまうまで働かせるよりも、食べてしまう方が血肉の脂の乗りもよいはずですよね?

 

 

 ここの鬼はどこか変ですけど、金時様はどう思いますか?」

 

 

 「ああ、実際あちこちでそう言う愚痴を言う鬼がいる。しかも鬼の場合、人を超える技術、建築技術を持つやつだっている。それに、たとえ人を管理していくにしたって、普通ならある程度太らせたりとか、まあそういうのをするくらいのはず。

 

 

 ここが島だからまあ、魔術王の用意した場所ってのを差し置いてもこんな風に労働奴隷として管理することはない。とは思う・・・そういう鬼がいるってんなら話は別だが、俺っちの記憶にはまずない」

 

 

 やはり。そうなるとますますこの場所が不思議。私を殺すために送り込んだ場所というよりも、別の意図の方が強いといいましょうか・・・いや、鬼種自体はとても強烈で、私の軍でも死傷者は出ずともけが人出るくらいですし。

 

 

 でも、そこでもう一つ気になるのが。

 

 

 「じゃあ、金時様が昔見た絵巻物の鬼とか、そういう寝物語として聞いた鬼とかは? 何かここの鬼の顔は変。というか、いわゆる。緩いんでしょう?」

 

 

 「んあぁー実はそこは引っかかっている。いやーに緩いっつーか、本当に昔どっかで見た記憶はあるんだけどなあ。思い出せねえ・・・」

 

 

 「うーん・・・まあ、あのロンドンでの件といい、魔術王はどうにもこっちを邪魔ともまだ思っていないようなので適当に誰かに用意させた適当な場所に私を送って、とりあえず死ねばいいやってくらいなのかもしれませんね。

 

 

 だから妙にちぐはぐでみょうちきりんな鬼ヶ島と」

 

 

 「こっちはまだあっちの事をよくわからねえけど、まあ―あの連携攻撃を見てこれだけで済ませると考えれば納得か。じゃあ、とりあえず急いで上に行こうぜ。そら、見えてきたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、今度は僕が聖杯戦争に呼ばれた時の話だね。まずオルガマリー所長。君のお父さん、マリスビリーが呼んだ英霊こそが僕。つまりはカルデアが召喚に成功した英霊第一号だ確か指輪の一つを触媒にしたっけか」

 

 

 「な・・・! だ、だからどれだけ調べても第一号の事を分からなかったのね・・・! じゃあ、華奈は二号として、なんで二人とも厳重に隠されていたの? あなたがお父様のパートナーなのはいいとして、華奈はそうじゃないでしょう?」

 

 

 所長の疑問も最も。確か聖杯戦争のシステムは一人の魔術師につき英霊は一騎。そこでマリスビリー前所長? のパートナーがソロモン王なら、華奈さんは呼べないはず。

 

 

 「まーそうだけどね? ソロモン王はその逸話として魔神。天使と悪魔を従えることが出来る最高の召喚術を持つキャスターとしての側面もある。だから、リソースさえどうにかできてしまえば半ばごり押しでもできてしまったんだ。

 

 

 で、当時僕たちは最初の戦いで見事勝利して相手のサーヴァントを倒した。だけどあまりに圧勝だったからほかの陣営同士で同盟や協力をされても困る。しかもソロモン王の知名度を考えれば尚更こちらも札が欲しいってことでマリスビリーから渡されたのが狼を記していた旗。もうわかるよね。ランスロットと肩を並べる円卓の騎士。華奈の部隊。銀嶺隊のものだ」

 

 

 「ほんと、これだからグランドってのは・・・・」

 

 

 メディアさんが何やら渋面して悔しいやらの顔をしている。聖杯戦争で何か似たような過去があったのかな?

 

 

 「で、とりあえず銀嶺隊のメンバーは基本器用だから誰が来てもいい。ランダムになるけどそれでもと思えばまさか来たのは日本人の華奈で、しかもちゃんと円卓の騎士だし、さらにはグランドのおかげか座から直接本人が来た。困惑はしたけどその能力は本物。同時に何よりうれしかったのはその強さよりも、技術よりも振る舞いだったんだ。

 

 

 マリスビリーにも軍人、神代に生きていた住人としての意見をガンガン行って調整や足りない部分を補うし、僕が神様に祈った知恵の事も聞きだしてね。それからことあるごとに教育時間を作ったり、料理や掃除をさせられたんだよ。ソロモン王に。しかもそのソロモン王が英霊として呼び出した英霊が。だよ?」

 

 

 「うーわ。英霊、戦力を呼んだと思ったらご意見番するわ、しかも家政婦のまねごとをさせる? あんた、よくそんな扱いされてへらへらしているわねえ。殺そうとか思わなかったの?」

 

 

 「あー・・・お母さんならやりそうです・・・」

 

 

 「わははは! マスターはそんなことしていたのか! ソロモン王に掃除に料理をさせるとかこりゃ傑作!!」

 

 

 あちこちからの笑い声。いやそうだよねえ。冠位の資格持ち。未来を見通せる千里眼持ちの英霊にさせる仕事じゃないよこんなの。それはそうだとロマニも笑うけど、だけどとてもその笑顔は晴れ晴れとしていた。

 

 

 「いやいや、あれは全部僕のためだったんだ。ソロモン王じゃない。ただのソロモンとして、王様ではない個人として誰かに何かをする。仕事じゃなくて生活するうえで何をするのか。人の生活を、思いを学ばせるためだったんだ。それは本当に刺激的だったし、何より僕を対等に見て、いや、あれは弟かな? のような扱いをしてしっかりと自分を見ていたのが嬉しかった。

 

 

 何か大きな間違いをしたり、毒舌をかましたりしたらおやつ、晩御飯抜きにされたり、初めてのお使いをさせられたり。掃除や料理で魔神たちに力を借りようとしたらげんこつされたりとね。そして、銀嶺隊の皆とも遊んで、本を読んで、倒した英霊のデータを調べてどんな人生を歩んだのかと考えたり。天体観測しようと星を見たり。テレビを見て笑ったり。

 

 

 マリスビリーも引きずって冬木の拠点の近くの定食屋でみんなで食事をして周りにいる人や料理人の顔を見たり、本当に、今まで考えたこともない生活があったんだ」

 

 

 「王様ではない、個人の時間。ですか・・・・・・・・・・ああ・・・実に、実に姉上らしい」

 

 

 昔を思い出しているようで、しばらくして帽子を深くかぶりつつうんうんと頷くアルトリアさん。

 

 

 「ギャラハッドも、アルトリアさんも、お母さんのそういう優しさと、王であろうとも言う時は言う。そう言う優しさに救われていたのですものね」

 

 

 「ついでにサウナでケツを掘ってやろうかと思ってたが、いやー惜しかったなあ。まさかこんなに近くにいたとは」

 

 

 「ちょおっ! だから君やたら銭湯に行きたがっていたのかヤマジ! 本当に君はさあ! 偵察ついでに公園でツナギ姿で男漁りとかしていて!!」

 

 

 お尻を抑えながら後ずさりするロマニ。悲報、グランドキャスターとカルデア前所長。ホモに目をつけられていたしあわや貞操の危機があった。香子さんは急いで筆を走らせているけど。ちょ、何かいているの!?

 

 

 「コホン・・・で、まあそんなこんなでいい時間を過ごしていたけどこの時間は聖杯戦争あってのものだ。最後のひと組になったら自害しないといけない。魔術師たちが目指す根源に至るほどの奇蹟を起こすには、華奈はまだしも僕は必要な費用だったはずだからね。

 

 

 だけど、マリスビリーはそれを望まず、いや、それを求めていただろうけどそれよりも巨万の富を選んだ。人理保障。その義務と聖杯という抜け道ではない自分なりのやり方で根源を求めつつ、聖杯に財を望んだ。ただ、そうなると当然聖杯のリソースはダダ余りだ。魔術的なものでもなく、奇蹟でもない。金銀財宝、紙幣なんて用意するのは軽いもの。

 

 

 余ったリソースを僕たちが使っていい。それならと僕と華奈は受肉。華奈は若返って最後自分を鍛え直すことを選んで、三人とも新たな道を歩むはずだったんだ」

 

 

 聖杯戦争への事はロンドンで聞いていたために、その事実に魔術師を知る者は人も英霊も関係なく啞然。いや、それはそうだろう。何せ自分の英霊も最初から生贄にするための儀式で勝利した魔術師と英霊、さらにはその英霊の召喚した英霊も願いが叶い万々歳で終わる。普通ならそれでハッピーエンド。

 

 

 華奈さんはおそらく剣術を基本とした武芸の披露。ロマニさんも医者としてか、それ以外の道があったはず。ここからなんでまたこの過酷な道を歩んだのか。

 

 

 「最高だったとも! これで自由だ! やりたいことに挑戦して、好きなことをして生きられるんだって。力もいらない。自由に生涯を選んでいける・・・そう。そう思えたんだ。だけど、僕は見た。いや、見てしまったんだ」

 

 

 喜色満面の笑顔のロマニの顔が、ふっと青ざめ、悲痛なものに。そう。何年もずっとまとわりついてきたトラウマを思い出すかのようなものになっていく。

 

 

 「星が焼けていく。崩れ行く未来。滅びていく都市。あらゆる歴史が消えていく。人類の終焉を英霊ソロモン王から只の青年になるその直前に千里眼で、見てしまったんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふーむ・・・この程度で技を売りにしている大鬼? いやぁ・・・聞いてあきれますねえ」

 

 

 次の大門。もとい第二の関所? ではどうにも技が売りらしい大鬼との対決となりましたが、まあ―はっきりと言えばこれは相性の面で私が有利すぎるの一言に尽きました。

 

 

 その肉切り包丁を身体ごといなし、攻撃の勢いを利用して大鬼の耐性を崩したり、自分の攻撃の勢いに利用してのカウンター。

 

 

 やはり体躯が大きく、同じサイズの鬼相手ならその技量で詰められるのでしょうけど私相手にそれをするのは無謀。もとより体長数十メートルのドラゴンから人の形をしたドラゴンかつ剣術の達人相手に、土着信の血を引く天才魔術師だったりと戦ってきた引き出しの数は無数。

 

 

 ちょっと大きくて器用なだけの相手とは積み重ねが違いますよ。

 

 

 「ほらほら鬼さんこちら。手のなるほう・・・へ~・・・・・・フッ!」

 

 

 それにまあ、ちょっと餌をばらまくだけですぐに引っかかる。シンプルな身体能力の高さこそが鬼種の厄介さ。技を極めたと言えどもこの範疇なら正直な話ヤマジ達でも十合打ち合えば後半はあしらって終わりです。

 

 

 ある程度相手の頭に血を登らせつつ、余計な引出しを出してくる。冷却期間を置いてほしくないのでそのまま腕、足、首、頭を真っ二つという順番で対処を終え、腰に下げていたカギを使って第二の関所を突破。次の場所へと足を進めていく。

 

 

 「うーん・・・・やーっぱり。ここ、どうにも変ですねえ。鬼たちの要塞というよりもまるで腕試しの場所。遊び場というか、ずれている?」

 

 

 「あー・・・やっぱそう感じるか? だよなあー無意味なコースやまるで峠攻めのためのような場所。かと思えば畑まであった。誰かを迎え撃つ。殺すという気配もない。いくら適当と言っても見当違いにもほどがあらぁ。

 

 

 ミス・ブルーが今まで特異点であってきたやつらってのは、大小の違いはあれども本気でカルデアにぶつかったり、試すにしても本気だったんだろう? だってのに、大鬼たちと戦う時に弓矢を射かけてくる鬼すらいねえ。石を投げるやつも。だ。妙に手ぬるい。大鬼は強ぇが、集中してやり合える」

 

 

 「魔の類をけしかける。孤島に私を送るっていうのはまあ、いい采配。でもそれ以降は私への殺意もなく、何かを作る合間の防備程度。数はいるけど本気で殺すってわけでもないですしねえ。あと一つの関所に歩くこの合間も罠の一つもありゃしない」

 

 

 こう。なんでしょうねえ。魔術王から聖杯を受け取って、狩場というか、特異点に近しいものを作った。鬼と言う戦力も置いた。だけど、それ以降の動きがどこかちぐはぐ。最終目標が不明。何かを作りたいのなら、鬼たちを動かしておいて人間は食料としてやせ細らせるよりも動かさずにおいたほうがいい。

 

 

 侵入者が堂々と暴れたりしているのに全力を向けるわけでもなし。

 

 

 一本道で鬼たちをしばきまわしているのに門を開けても手洗い歓迎も無い。

 

 

 なんというか。上に来るのを待っているかのような。あるいは自分たちを見て楽しんでいるかのような。そう言うノリがする。

 

 

 「頂上にとんでもない罠とか、あるいは私たちが来ることで完成する。心も体も壊すようなものがあるんですかねえ・・・?」

 

 

 「さて、なぁ・・・かといって、鬼たちの会話を盗み聞きしたり、ミス・シルバーが来る前にドライブしてみても宝物庫の一つや何かをしまうような場所は一つもなかった。あって木材や石置き場くらいで」

 

 

 「なんといいますか、こういう催しをするような知り合いいます? 鬼でもいいです」

 

 

 「んー? あー・・・酒呑のやつなら・・・やりかねねえ。けど、鬼をあんな感じ動かさせるのは茨木のやつだ。あいつならまず自分が食って掛かるだろうし、うーん・・・うちの大将なら剛毅にやることはやるけど、あれは家財道具を提供したって感じだし、そもそも鬼が大嫌いだしなあ・・・」

 

 

 頭をひねる金時様ですが、流石に島一つを改造してやりたい放題するような輩はいないのと、魔術王という人類史を焼くような輩に聖杯をもらってまでこんなことをする奴がいない。後味が悪いことをする人を思いつかないようで頭を左右にゆらゆら。

 

 

 結局罠があっても私もここを抜け出すためには島を調べ尽くしてどうするかを考えないといけないので動くしかないとはいえ、なんか情報がかみ合わないのは嫌なんですよねえ。はぁー・・・次の大鬼、門はどうなっているのか。




 ~どこか~


 シバの女王「ああ、ソロモン様! こんなところに! 今すぐにでもお会いしたく・・・ってええ!!? あ、あの銀髪の騎士は実質、ソロモン様の先生で、お義姉様!!? ななな、どどどど、どうしましょう! 菓子折り! お礼の品! あいさつのための品はどうすれば!? ああ、でもその前にこの話を聞き終えてからでも! それと、ソロモン様の処女は私のです!!(?)」
(お目目ぐるぐる)










 華奈、ロマニの情緒教育にも一役買っていた。後ロマニはケツを狙われていたのがわかる。そして正体ばれで再度ロックオン。「ゆるふわな優しいイケメンドクターとミステリアスでイケイケ風な偉大な魔術王二つのイケメンが同居するのね! 嫌いじゃないわ!!」


 というか魔神を大量展開できるキャスターと人懐こい半分魔獣みたいな狼や馬、イノシシたちにまたがる精鋭軍団を呼び出せるセイバーとライダーのダブルクラスの英霊コンビってかなりひどいですね今思うと。


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ママ友会

 ロマニの独白は今回でおしまい。そして華奈の方もサクッと行きます。脳筋特化鬼は真面目に華奈にとってカモ過ぎるし金時も力自慢相手とは散々逸話でぶつかっていますし。熊とか鬼とか


 「ふぅー・・・魔力を水に変えられるアイテムを思い出してよかった・・・喉が渇いてしょうがなかったですし」

 

 

 「いやー便利だなあその宝石箱。妖精からの贈り物だっけ?」

 

 

 「ええ。知り合いや友達になった妖精や人でない存在。そう言う子たちからもらったもので便利なもの。戦闘に使えるものを集めたものですね。種類も数もありますが、あくまでも補助程度。過信はしすぎないことです」

 

 

 力自慢という赤鬼相手も、逆にテンプレ過ぎて私も金時様も対処法は慣れている。癖のある大鬼たちを相手にしていた、サイズ感もつかんできたのでカウンター戦法&陽炎での目くらまし。金時様のひき逃げアタックからのライダーキック。

 

 

 これを繰り返して暴れまわればあっという間に対処を終え。いよいよ頂上へ。となる前に水を飲んで一息。魔力の消費も少なく済んで体に活と癒しをくれるので安いもの。

 

 

 果たしてこの先にあるのは罠か、最後の刺客か。あるいは完全に何もない。私を閉じ込めるためだけの場所か。一応濃い魔力の気配と何かは感じるので空ぶりはないはずなんですけど。

 

 

 「着きました・・・が・・・・何もない広場?」

 

 

 ようやくこの鬼ヶ島の頂上に到着。しかし、そこには驚くほどにスッキリとした広場。まさかの空振りか? と思っていましたが広場の奥に見える悪趣味というか、禍々しい杯。

 

 

 「おそらく、あれが聖杯。か、それに準ずるほどの魔力をため込んでいるもの。ですね。恐らくここを抜け出すためのカギにも・・・」

 

 

 「・・・・・・」

 

 

 あれを触れればいいのか。願えばいいのか。一応対魔力強化の指輪をつけてから近づくと目の前に現れる人影。

 

 

 「あ、武者さん。早い再開ですねえ。貴女もこちらに?」

 

 

 「あらあら、騎士さんも。それに、金時。よく来ましたね」

 

 

 「やっぱり大将・・・・いや、下がりな。ミス・シルバー。あれは俺っちの大将の頼光さんであってそうじゃねえ。あれは違う。頼光様だが、あれは在り方がねじ曲がっている」

 

 

 黒髪の美女さん。もとい、頼光さん。ただ、そのまま歩こうとしていた私を金時様は肩をつかんで引き寄せ、前に出る。

 

 

 「違う。とは? しかし、あの方が頼光様ですか」

 

 

 「ふふふ・・・同じことですよ」

 

 

 「いいや違うね。そうだろう? 天魔の総大将、鈴ヶ森の丑御前サンよォ」

 

 

 その瞬間頼光様から急に一気に膨れ上がる魔と神性の気配と圧。先ほどまでこれを隠していたとは思えないほどの怖気が背中を駆け抜け、冷や汗が少し出てしまう。ここまでの圧はちょっとヴォーティガーン様を思い出すほどだ。

 

 

 「ふむ・・・・頼光様だけど頼光様ではなく、丑御前・・・二重人格。あるいは神性、魔を持つ者ゆえの側面。ですかね? 神様と荒魂の側面といいましょうか・・・」

 

 

 「まあ大体そんなところだ。で、だ・・・・なんでアンタこんなところにいるんだよ」

 

 

 「ええ。この鬼ヶ島を作ったのは、おそらくあの聖杯。魔術王が用意したであろう物。それを興味持たないのは、不思議ですよ?」

 

 

 まさしくあの優しい笑顔と同時に内包する狂気の側面といいましょうか。確か半神の類に近しい存在だったと覚えていますがそれゆえか。兎にも角にも、金時様が大将。様付けするほどに付き従い、敬意を払う京の守護神と、目の前の悪鬼羅刹も首を垂れるような気配を放つ丑御前は似ているようで違う同一人物であり別人と。

 

 

 うーんややこしい。頓智を聞いている気分です。一休さん呼びたい。

 

 

 で、同時まあ分かり切っている答えではある。天魔の総大将がこの鬼ヶ島にいる。あの杯に何の感慨もいだかない時点でそうだろうと考えているが一応は、確認も込めて聞いてみる。

 

 

 「では、お二人の質問に同時に答えましょう。母がここにいる理由は簡単。ここにいるのが答えであり、聖杯に興味を持たないのはそれは私のものだから」

 

 

 「・・・・ぁー・・・やっぱり。一応聞きますが、その聖杯はどこで手に入れました?」

 

 

 「魔術王と名乗るものから。好きに使っていいが、時が来ればカルデアなる場所からやってくる輩を排除するための場所としての場を用意しておけという約束の下でこの鬼ヶ島を作りました。

 

 

 完全なる鬼たちの王国を作るために」

 

 

 もう自分の正体を隠す気がないようで、丑御前の覇気は周りの天候とも鳴動するように周囲の雲が荒れまわり、雷光を轟かせ、雷が海に落ちては轟音がなる。

 

 

 「おぉん・・・そうですよねえ・・・・国産み、島産みレベルの権能なんて牛頭天王の化身としての力に卓越した武力を持つ貴女様なら、資材をどうにかできる。用意できる聖杯があればそりゃあ島の一つ二つ用意して、しかもそこを好き放題に造るための人手と鬼も用意出来ましょう・・・」

 

 

 「あらあら。やはり聡い方ですね。魔の匂い、術式や神々の匂いや気配を多く感じるも、御身自身はどこまでも人。されどその武芸は実戦で磨かれつくしたもの。私と同じ匂いを感じましたが、その通りです」

 

 

 「ちょいと待ちな。鬼の国だと? アンタ、鬼は虫だのなんだのとだいっっ嫌いじゃねえか。頼光四天王の頂点。源氏棟梁として多くの鬼を切ってきた。そのアンタが今更鬼の国。そんなバッドでデンジャラスな国を作るだと? その理由は何だよ」

 

 

 何でか知らないけど私もロックオンされていた様子。もしかして道中で私も金時様と一緒に観察されて、丑御前流の勧誘とそのための実力試験されていましたか私?

 

 

 で、同時にそりゃあ丑御前、天魔の総大将とはいえ同時に頼光様でもあるので金時様も眉間にしわを寄せて質問をぶつける。いくら今は丑御前が出ているとはいえ、もとより魔を切り、闇を払い人々を守護し、酒呑童子をも征伐したほどの武者が何だって今更鬼のための、その血筋と化身の側面を考えれば納得だが、なんで今それをするんだと。投げかける。

 

 

 それに丑御前は頬に指をあててはて。と小首をかしげた。

 

 

 「・・・はて、理由。ですか。それは・・・えっと・・・ああ、そうですね。私たちまつろわぬ者共の復権。というのはどうでしょう? この土地に古くから住まうものであるというのに、鬼だから、妖だからと異形であるだけで退治される。それは無体だと、頼光はなんとなく思っていました。

 

 

 ですので、今回はそれを理由にこの鬼ヶ島。魔のための国を作った・・・・・というのは、筋が通っているのではないでしょうか? 華奈さん。貴女も分かるでしょう? 恐らく常日頃から魔と触れ合い。しかして魔とともに人の共生をしなければそこまでべったりとこびりつかないほどの狼や魔の匂い。戦友が異形だからと迫害される。退治されるというのは無体なはず」

 

 

 その理由に、私も半分は納得は出来る。ブリテンでも人に被害を出す、あるいは必要以上に暴れすぎるからと先住民であるはずの魔獣や害獣を退治したりはしたものの、宗教の関係で土着の考えや奉られて信仰されていた存在を追い出されるのを忍びないと。

 

 

 仲良くできるものは銀嶺隊に入れたりこっそりかくまい、あるいは早めに星の内海やアヴァロンに送ったりと傷つけないように穏便に対処をした。隠れ住むことなく堂々と過ごせる場所は魔や妖、異形にもあってしかるべき。そこは分かる。ただ、その上で同時にその意見だと納得いかない部分が出てきてしまう。

 

 

 「それなら、なぜ私と出会った時に鬼たちを容赦なく斬り捨てたのですか? 貴女にとって鬼ヶ島を作るべき労力であり、住人であり、天魔の総大将である貴女には部下です。

 

 

 鬼の、魔のための国を作ろうとして置きながら人への害をなす鬼を嫌い斬り捨て、同じく私も鬼を切りながらも怒ることはなくその武芸を褒めた。変ですよ」

 

 

 「ああ、それはほら。私も頼光も鬼とか嫌いですから」

 

 

 「・・・・・・・・・ほへ?」

 

 

 「魔国を作るための労働力ですが、目につけば処分します。人間は食べ物なので保存する価値はありますが・・・ああ、華奈さん。貴女は例外です。鬼は、ほら。醜いだけで何の価値もないでしょう?」

 

 

 「っ・・・・・」

 

 

 絶句。それ以外の言葉が思いつかなかった。鬼のための国、魔のための国を作ると言いながらその鬼を嫌いと言い捨て、醜いと罵り、一方で魔獣や精霊とも共生したり仲良くしていたとはいえ人間の私は特例と言ってしまう。滅茶苦茶だ。精霊やオーガと触れ合ったことは何度もあるがここまでねじ曲がっているのはそうそう出会わなかった。

 

 

 「いや、しかし・・・部下でしょう?」

 

 

 「ええ。でも無価値ですよ。だってこの島の鬼たちも全部私が作ったもの。たまたまうまく描けた。強くできそうなものには大鬼として役職と力を与えましたがそれ以外は汚らわしい落書きばかり。自らの至らなさを見るのは辛いもの。この島の工事が終わればまとめて処分する気です」

 

 

 「うわぁちゃ・・・要は使い魔だったと。しかもその使い魔は自分が嫌いな鬼で用意しましたって・・・鬼ヶ島ですからそりゃあ鬼がやるのはあっていますけど・・・」

 

 

 「忘れていたぜ・・・あの鬼ども、どっか見覚えがあったがあれか・・・ガキの頃、頼光様に描いてもらった鬼の絵か・・・」

 

 

 なんというかもう。凄いですねえとしか言えない。何がすごいって、多少は鬼とかそういう人ならざる者の機微とか少しは分かるんですがここまで一切の曇りもなく心からこれが最善と考えているのがありありとわかるということ。

 

 

 これくらい頭のネジとんだ上で倫理観と思考が変じゃないと天魔の総大将にはなれないんですかね。

 

 

 

 「どうです二人とも。この島は中々のものでしょう? 私たちは人と神の気まぐれでその人生を振り回されてきました。人界では生きづらく、たとえ人を守り、貢献したとしても生まれやそばにいるものでつまはじきに合い、陰で眉を顰められる。

 

 

 でもこの島なら人目を気にする必要もありません。ここまで面倒なことは本当はしたくなかったのですが、下手に日ノ本でこれをしようものなら、金時に怒られ、華奈さんの組織が怒るでしょう? 子供の遊び場は大事に、カルデアに目をつけられぬようにするにはこれが最適でした」

 

 

 「あー・・・・・・よくわかりました。同時に、先に謝っておきましょう。金時様。貴方にも」

 

 

 「謝ることはねえぜ。ミス・シルバー。今回の件は俺の責任だ」

 

 

 子供の遊び場と自分が過ごすために魔神王から聖杯をもらい、人をどこかから調達し絵から鬼を作りその鬼を無下にする。どこまでも我欲でここまでのことをしでかしてしまう。それもすべて善意からしているというもの。

 

 

 こんな存在は申し訳ないけども善意と言えども、厚意と言えども受け取れない。秋水と陽炎を抜き、戦闘態勢に入る。

 

 

 「・・・なぜ母に敵意を向けるのですか二人とも? ここはあなた達のために造った島だと言ったでしょう? 本当は天守閣が出来てから自慢したかったのだけど、秘密にするのはここまでです。さあ、来なさい我が頼光四天王。私が認めし剣豪。安心して私のもとに来るのです」

 

 

 「そいつは待った。丑御前さんよ。アンタが本質的には頼光様と同じだってコトぁよく知っている。源頼光の功績はアンタの功績であり、丑御前の悪行は頼光様の罰だってな。・・・・・・アンタにはとても返せねえ大きな借りがある。恩人で、尊敬だってしてらぁ。

 

 

 だがよ。それでも言わせてもらうぜ。テメェ。やっぱ要らねえわ」

 

 

 「何・・・ですって・・・?」

 

 

 

 思いっきり丑御前を理解した上での完全拒絶。流石にこれには今まで余裕を持っていた丑御前の顔が歪む。うん。私も同じことをギャラハッドやマシュに言われたら泣くかもしれないですね。

 

 

 

 「テメェなんざ怖くねえって話だよ。頼光様の説教の方が何倍も怖え。それになーにが俺たちのための島だよ。行き場のない自分のための。魔術王に、カルデアにビビって用意しただけの場所じゃねえか。

 

 

 俺の知る頼光サマならよぉ。たとえ角が生えようが牛神になろうが天魔になろうがこんなことはしねえ! 魔術王に喧嘩を売って、ミス・シルバーと一緒にカルデアで戦いに参じることを望む!! 自分のことで苦しんでも、泣いていじけて駄々こねた後にドーンと京を守るために、人を守るために構えるのが源頼光だ!! テメェなんざ鬼落ちした挙句に格上に喧嘩売る気概もなくなった敗北者だ。さっさとその聖杯を寄越して頼光サンに戻りな。こんなとこで足止め喰っている場合じゃねえんだよ!!」

 

 

 うーん痺れる。そしてかっこいい。これは快男児。皆が憧れる武士の坂田金時です。

 

 

 「まあ、そういうことです。私達のためにとは言いますが、それならその聖杯と、頼光様を呼んで一緒にカルデアで魔術王をしばきまわすために来てください。それがだめなら・・・げんこつの一つでも落として、無理やりにでも帰らせてもらいましょう」

 

 

 「・・・・・・そうですか。同じまつろわぬものとともにあるものとしてわかってくれると思っていましたが、あくまでも人の側につくと。正直、見逃してもいいですがそうもいかないのでしょう? 人の世を守るのなら人以外の頂点を認めないということ。まったく。どちらが鬼なのですかね? 皆殺しにするという結論において私たちは同じなのにね?」

 

 

 「なーに言っているんですか。私はそういう人の世になりつつある世界からまつろわぬものたちを、妖精を、星の内海に、アヴァロンに避難させたりすること。異界へ逃すことで対処をしていました。決して皆殺しは一度もしていません。むしろ人間の軍隊を皆殺しにしている方です。

 

 

 この日ノ本だって異界に行くための道も避難場所も、星の内海に行く場所はあったはず。それを選ぼうと、探そうとせずに島にこもり勝手に皆殺ししかないと考えてしまった貴女の浅慮が招いたことですよ。だからここで教えましょう。島に引きこもらずに、人と魔が共に支え合った軍の長として道を示しましょう」

 

 

 「いいか、丑御前。今から俺はアンタをぶっ飛ばす。ただ、それは決して俺が源四天王の一人金太郎だからでも、ミス・シルバーの、カルデアのためでもねえ。息子として母親の馬鹿騒ぎを止めるってだけだ。そこんとこ間違えんな」

 

 

 私と金時様はそろって啖呵を切る。貴女の善意はもう結構だ。今ここではっ倒して、カルデアに戻るためにも、丑御前が、あるいは頼光が考えもしなかった軍隊の、あの頃のブリテンの在り方を伝えるために。そして、身内の暴走を止める一人の息子として。刃と拳を丑御前に向ける。

 

 

 「・・・・・・!! あ、ああ・・・・やだ、ダメ、いけません、母親なのに、ああ、身体の奥が熱い! 熱い!! 嬉しい嬉しい、嬉しいです金時、華奈さん!! それは・・・愛ですね!

 

 

 それなら私も本気になれるというもの! ここであなた達の思いを全て受け止めて・・・貴方たちを()してあげることが出来るのだから!!」

 

 

 あちらもこの啖呵に火がついたようで互いに戦闘態勢に。なんか変な気もしますが、そこはまあ、シンプルに自分に真っ向から思いをぶつけてくれるというのと、天魔ゆえの価値観でしょうか。

 

 

 「ふぅ・・・まあ、とりあえず色々濃かったですが、ここを切り抜けて聖杯を手にすればここを脱出できる。というのは合っていそう。金時様。頑張りましょう」

 

 

 「ああ、身内の馬鹿騒ぎのせいで巻き込んですまねえが、手加減してどうにかできる相手ではない。黒焦げにならないようにいくぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「その人類の終焉を観たかった、知りたかった。どうしてそうなるのか、なんで、なんで・・・

 

 

 ひたすらにそう思った。自由になった。だけど、それとほぼ同時にこれを見たせいで見過ごすことは出来なかった。直感で僕が原因だと思ったから。だから・・・一からやり直した。そしてそこには彼女もいた。

 

 

 『じゃあ、私も働く場所が欲しかったので一緒にいますよ』

 

 

 何もかもを学び直した。あらゆる役立つことを学んだ。何かに備え続けた。そして、そのそばには常に華奈も一緒にいて、一緒に前に進み、わけのわからないけど破滅の未来に備えた」

 

 

 そうつぶやくロマニの顔は、苦しそうに思えた。けど、違った。

 

 

 

 「とことんやること山積みで、人になったというのに損だってつぶやくこともある。だけど、それがとことん『楽しかった』自分で自分の生き方を選べる。そしてそれをそばで支えて、時には叱ってくれて、褒めてくれて、ぼく個人を見てくれる姉のような存在が常にいた。楽しいし嬉しい。苦しいけどそれが常にあった。

 

 

 自分で何かを成し遂げる。『ロマン』に溢れる人生。それの理解者がいた。何が原因かわからないけど、破滅に備えて頑張る日々を過ごすものでも。でも、でもね・・・楽しかったんだ」

 

 

 その笑顔はすごく晴れやかで、作り笑いやごまかすようなものではない。文字通り本気でその人生を苦しみつつも経験できたことを本当の宝物として、最高だと断言する。

 

 

 僕らはそれが苦しいだけに思えるはずなんだけど、自分で動いて、お姉さんみたいな人がいて、とことん自分で自分の人生を動かすことはきっと生前にはありえなかったのだろう。

 

 

 「そうして過ごすうちに、藤丸君。君が来てくれたんだ。これが、君たちに黙っていて危険な目に合わせた男の話さ・・・・・」

 

 

 ロマニの話が終わり、静寂が少しの間場を包む。それを破ったのはダ・ヴィンチちゃんの拍手だった。

 

 

 「おめでとう。ロマン! ようやく君の涙を流しながら駆け抜ける自由が終わったんだ。今までよく頑張ったね!!」

 

 

 その言葉は、まさしく総意だったと思う。

 

 

 「これだけのことを、お母さん、ドクター、ダ・ヴィンチちゃんの三人だけで話さずにいたんですか・・・?」

 

 

 「本当なら三人だけで誰にも話さずにいたつもりさ。僕は最後に僕の持つ切札で魔神たちに引導を渡すつもりだったよ。だけどね・・・もう限界だったんだ。

 

 

 だってさ、みんなみんな素敵で、困難に立ち向かっていく姿に。なにくそとこの異常事態に立ち向かう強さに、優しさに嘘をつきたくない、騙したくない、後ろめたいことをしたくないって思ったんだ。それに・・・・

 

 

 『貴方は必ず私が未来を見せて自由をこれからも続けてもらいます。ロマンという名前を名乗るのなら、その名に恥じぬ人生を。ソロモン王の時代よりうーんと長生きさせちゃいますよ!!』そう言ってどこまでも突っ走り続ける華奈に。常に明るく馬鹿をしたり愉快に支え続けた僕のお姉さんに、恥じない生き方をしたいんだ・・・!!」

 

 

 そういって滂沱の涙を流しながら笑うロマニ。自分が原因だって、二度目の人生もつぶれそうなのに、それを支え続けて、ずっとずっと。この人理焼却を支え続けた聖杯戦争からの、十年以上も陰に日向にと支えた華奈さん。

 

 

 あの人のように素直に、何の陰りも隠しもしない人生を歩みたいんだって。ソロモン王。いや、ロマニが選んだことなんだ。その覚悟の重さ。一体どれほどのものか。

 

 

 「そっか・・・それなら、俺もこれからドクターを支えたいな。マスターの考えに、ドクターの考え。俺は感動した!!」

 

 

 「ああ、確かに過去に原因はある。だが、それに立ち向かう勇気があるというのなら、支えてやる。自分のケツを自分で拭こうって頑張る青年を支えないのは男が廃る」

 

 

 ロマニの肩を叩き、支えると言って笑顔を見せるのはストーム1、大尉。

 

 

 「おうよ! どれだけ謝ったって腹の足しにも特異点攻略の支えにもなりゃしねえ。だったら。これからも助けるから俺たちも助けてくれよ先生!」

 

 

 「そうそう。それに、僕はカルデアのドクターはあなたしかいないと思いますよ」

 

 

 「ドクター働き者でさぼり魔なのが面白いけどなるほど全力でどっちも味わっていたんだねえ」

 

 

 そういってストーム2の皆が笑顔でロマニの背中をさする。

 

 

 「私からもお願いしたい。確かにこの人理焼却はソロモン王の魔神たちが起こした騒ぎだ。だけど、ソロモン。いや、ロマニもそれを悔いて、自らを犠牲に動いて解決するつもりだった。だけど華奈はそれをどうにかするために動いて、戦っているんだ。

 

 

 私と、華奈の願いをかなえる意味でもどうかロマニをこれからもこのカルデアにおいてほしい」

 

 

 「ちょっ。ダ・ヴィンチちゃん!? 土下座なんて」

 

 

 「日本ではこれが最上位の謝罪とお願い何だろう。どうか頼む。私にとっても大事な友人の命のためであり、願いなんだ。この通り・・・・!」

 

 

 「頭を上げて体を起こしなさいダ・ヴィンチ。そして、ソロモン王。いえ、ロマニ。貴方の事情は理解しました。そして、その上でカルデア所長として言い渡します。

 

 

 現在の医療チームの責任者でありカルデアの技術や知識、経験を持つ人材はあなたしかいないです。何より、貴方が華奈といてくれたからこそ私は今を生きてカルデアはここまで来れました。これらと相殺して、さらには必ず目を覚ます華奈のケアと治療に全力を尽くすこと。いいですね」

 

 

 腕を組んでロマニの目を見つめてまっすぐに処罰を下すオルガマリー所長。その裁定に皆がわっと沸き立つ。

 

 

 「所長! にくい裁きをしますね!」

 

 

 「ふん。どこかの変人騎士のせいでしょうね。それに人材という意味でも、大事にするべき人でもありますよドクターロマンは」

 

 

 そういいつつも少し頬を赤くしているし目を潤ませているオルガマリー所長。自分もなまじ追い詰められた日々を走っていた分。感じ入るものもあったんだろうなあ・・・英霊の皆も打ち解けていき、笑顔をみせるなか。

 

 

 「ありがとう・・・ほんとうに・・・ありがとう・・・! 華奈は、ちゃんと戻ってくる。だから、ちゃんと待って、すぐに最高のケアをするよ・・・・!!」

 

 

 子供のようにわんわん泣きながらも気合を新たにするロマニ。ロマニの方の問題はどうにかなった。ただ、問題はまだ解決していない。

 

 

 ベッドの上でピクリとも動かない華奈さん。魔術王によって魂を飛ばされた先でその魂が死んだら意味がない。これからは華奈さんがいつ戻ってくるか。その間は身体を衰弱させないように栄養の点滴をつけて置き、見守るほかなかった。

 

 

 特異点解決のレポートを出しつつ、対策会議を先にしつつ、祝勝会は華奈さんが帰ってきてからということに。早く帰ってきてくださいね華奈さん。もうロマニさんは一歩前に進んで皆に受け入れられて、皆で待っていますから。




 まあ、丑御前ならこれくらいはしそうよねって。コラボイベでのあのぶっ飛び具合。そりゃあ金時が自分の育ての親、母親代わりである存在の側面を要らねえと言わしめますわ。


 ということで母親経験ありの華奈と頼光、息子の金時も参加してクライマックス。壮大な親子喧嘩ですなあ。


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お母さんは狼。お母さんは牛

 ようやくここまで行けたー


 「はっ、んっぐ!?」

 

 

 「うふふふ・・・これも読みますか!」

 

 

 「オラァッ!」

 

 

 「甘い!」

 

 

 丑御前との切り合い。殴り合いは私と金時様という数の有利があってもなかなかに押し切れずに何合目かもわからない切り合い打ち合いを続けている。

 

 

 「わっととと! ほん、と・・・にぃ!」

 

 

 「全く、綱や私以上の剣技を持つ剣士がいたとは。世界は広いものですねえ。ですが、非力ですよ」

 

 

 「あぶねえ!」

 

 

 黒い雷をよけて斬撃を飛ばしていくもそれをよけつつ構えた弓からマシンガンのように矢が放たれるのを金時様の雷撃が防いで何度目かもわからない距離の取り合い。

 

 

 剣士としての技量、速度は私が勝っている。飛ぶ斬撃の自由度も範囲もキレも私が上。だけどそれを丑御前はあの細身のどこにあるのか知りたいほどの怪力と、神性を纏い放つ黒い雷撃をその刀剣に、弓にまとわせて飛ぶ斬撃代わりに、あるいは矢玉の威力を底上げして放つなど私が勝っている技量と速度をその有り余るパワーと出力に物を言わせて拮抗し、あるいはねじ伏せていく。

 

 

 しかも私が見せる剛柔織り交ぜた剣術や、奇策ももとより人ならざる者相手に戦い続けた歴戦の戦士。その鋭い感覚と体に刻まれた対応がすんでのところで何とかしてしまうので質が悪い。

 

 

 「ぬぉおおお!!!」

 

 

 「拳の打ち方が単純です。そんなもの、なんの・・・チッ」

 

 

 「ネズミ花火!」

 

 

 「おやおや、渦を巻いて自在に動く斬撃とは。このような技もあるのですねえ」

 

 

 「サンキューミス・シルバー。ったく・・・危うく腕と体がおさらばだったぜ・・・」

 

 

 私でこれなのだ。金時様の場合はもっと悪い。何せまあ、丑御前という容赦もなく神性を全力で出して暴れているが身体は頼光様。記憶もあるのでしょうね。つまりは金時様を鍛え導いた戦士として金時様の技術も技も全部知っている。

 

 

 たとえ必殺のラッシュでも少しでも粗や隙を見つければその腕を斬り捨てるなんて造作もない。ましてや雷撃という武器は空いても持っている。最初から不利なのだ。

 

 

 電撃のような攻撃ですらもなれたものならカウンターを叩き込もうとしたので地面に上にと跳ね回る斬撃を無数に飛ばして金時様と頼光様を突き放させ、そのまま私が再度切り結ぶ。

 

 

 「ぐっ・・・くぐぅう・・・・!! ほんと、これだからパワーファイターってのは!! っぅ!」

 

 

 「ぐっぅ!? なるほど・・・これは二刀流ならではのもの・・・こういうのもありなのですねえ」

 

 

 切り結ぶとはいえ、それは首を狙った一撃。それに丑御前も乗って互いに打ち合い、折を見て特に強く打ち下ろす刃。これに丑御前も合わせればぶつかった直後に太刀の力を抜き、もう片手の脇差を太刀の後ろにおいて受け流しつつ抑え込み、そのまま横腹に蹴りを入れてふっ飛ばす。

 

 

 も、すぐに立ち上がって今の受け流し。反撃に備えて防御をしながらの組術にも理解をしてしまっている。ただの力だけなら楽な相手何ですがかなりの技量も頭も持ち合わせている戦士なのが面倒くさいことこの上ない。

 

 

 「しかし、こうも私の力と打ち合いながらも受け流すだけではなく時には押し勝ち、あるいは力む瞬間を理解して反撃をしてしまう。

 

 

 そういう相手との経験もあるので?」

 

 

 「妹と、弟子たちがまさしくそれなので!」

 

 

 ロケットのようにぶっ飛んできて切り伏せるアルトリア様に、太陽のある場所では三倍のパワーでねじ伏せに来るガウェイン様、身のこなしを活かした魔力放出でトリッキーに動くモードレッド様。ほんと、こういう怪力、力自慢相手の経験が生きていますよええ。

 

 

 「ふっ!」

 

 

 「むん」

 

 

 斬撃と雷撃をぶつけあい、金時様の攻撃を通すように立ち回る方向にシフト。頼光様と丑御前の切り替えというか、そういう概念を切ろうにも切ってはいけない気がするのと、斬撃は陽炎以外では通る気がしない。しかも陽炎は警戒されている。

 

 

 拳や組討ちの技はどうにも通るとしてもひとつしか思い浮かばない。それならパワーも上で電撃事ぶち込める金時様を動かしやすくしていくほうがいい。

 

 

 全く・・・! 聖杯と神性の後押しを得た技量持ちの戦士ってのは厄介ですねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「華奈さんはまだ起きませんか・・・?」

 

 

 「ああ、まだだな」

 

 

 ドクターロマンの思わぬ正体と、改めてカルデアに迎え入れるという騒ぎ。その原因となったうちのマスターは丸一日まるで石像になったかのように動かず眠っている。

 

 

 今目の前にいる紫式部といい、数十分ごとに誰かが来ては様子を見るというのがずっと続いている。うちのマスターの人望が垣間見える話だが、同時に誰もが仕事も手につかないという感じだ。

 

 

 「本当に心配です・・・魔に対する術式や治療、あらゆるものを試してもまるで意味がない・・・私の非力を嘆くばかりで・・・」

 

 

 「ロマニ曰く、どこかに魂だけを送られている状況。だからなあ。呪いで済んでいるのならきっとここのメンバーでどうにかできたはず・・・だけどなあー・・・身体は健康。魂だけどこかに幽閉しているからその場所をとらえないといけない。だけどそれもできない。

 

 

 幽閉された場所でマスターが暴れまわって無理やりに脱出しないと目を覚まさない。面倒なことで」

 

 

 「魔術王・・・いえ。人類悪というのはどれほどの怪物か、わかってしまいますね・・・」

 

 

 青ざめ、瞳を潤ませながら奇麗な顔で眠っているような状態のマスターを見る紫式部。

 

 

 心配なのはわかる。なにせまあー基本いつも前を向いて皆を励ます才媛がまんまと罠にはまった。しかも日本とインドの龍神たちの攻撃すらも効かなかった。今のカルデアでは最高火力でまだ見せていないのはマスターの義理の妹の騎士王の聖剣しかない。

 

 

 「だがよ。それほどの怪物にひるまずに、誰一人欠けることなく策を弄して生還したのがうちのマスターだ。あんな見る目のねえ阿呆が用意した奴なんかに負けねえさ」

 

 

 「! ・・・・ええ。そうですね。あの人なら、今までのようにきっと起きてきますよね」

 

 

 「そうそう。むしろうちのマスター多分一番のピンチがフランスで耳の良さのせいで気絶しかけた以外はヘラクレス相手を毒殺しちまうんだ。まず並みの相手、並み以上でも勝てやしねえ。

 

 

 だから、労うためのうまい飯とか、お菓子を用意したほうがいい。図書館休んでいいのなら、作ってあげたらいいんじゃないか?」

 

 

 「そうですね。このままでも何かできることがないですし。頑張ります! 平安時代のOLの技量を見せる時です。ストーム1さん。ありがとうございます。それでは」

 

 

 まだ泣きそうな顔のまま、でも笑顔を見せて紫式部は出ていった。罪な女だねえうちのマスター。

 

 

 「失礼します。華奈さんの具合は・・・」

 

 

 そうやっているうちに次はマシュが。まったく。早く目を覚ましてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー! もー!! 金時様! 頼光様と丑御前のつながりをぶった切るのは駄目ですよねえ!?」

 

 

 「そいつは駄目だ! 同じ人間、あくまでも互いに同一人物で、側面! それを切れても死んじまう! というかそんなの出来るってマジでどういう剣技なんだミス・シルバー!!」

 

 

 「でーすーよーねー!!!」

 

 

 「そらそらどうしました! 母を倒すのではなかったのですか!!」

 

 

 千日手! まったくもって私と金時様での即席タッグとはいえ私も丑御前も互いに互いの技を盗んで、覚えてしまうので互いに防御や対応が攻撃を上回ってしまって私もダメージはないですがあっちもほぼほぼノーダメージ。

 

 

 かといってあっちは聖杯の後押しがあるので常に全力でスタミナ切れもない。逆にこっちは座から直接来ているとはいえ生身。消耗はどうしても出てしまう。

 

 

 いまも矢の雨から二人で逃げつつ次のギアにあげて無理やりにでも丑御前と頼光様のつながりをぶった切ることでどうにかできないかと聞けばそれは殺すも同義ということで即却下。

 

 

 何かに特化しているうえでこうもマルチに強い相手だと本当にめんどくさいったらありゃしない。うーん・・・

 

 

 「じゃあ、金時様。私がちょっと隙を作るので、あの人の対処お願いしますよ。正直、じれったいですし、私も少し同じ母親としてイラつくので」

 

 

 「え? あ、オイっ!」

 

 

 このままもうちょっとやり合ってもいいですが、あの黒い雷や武器の多さ。何かのミスで負ける可能性が増える方が怖い。飛んでくる矢の雨を桜花で切り払い、無理やりに突撃。

 

 

 「ふぅ・・・ー・・・はぁっ!」

 

 

 多少矢が刺さり身体にちにの匂いと肉が焦げる感触を感じながらも突っ走り、桜花で下からの刺突と、深山の上からの振り下ろしをほぼ同時と言えるほどの速さで振るう技。

 

 

 「それは、見ましたよ」

 

 

 ただ、あちらもすぐに弓から太刀に持ち替え、桜花での刺突は身体を半身横に動かしてよけて刀身をつかんで抑え込み、深山は太刀で受け止めてそのまま力で振り上げて深山を奪い地面に転がす。

 

 

 「まずは、貴女を・・・!?」

 

 

 「ふふふ・・・取りました・・・ね!」

 

 

 そこから振り下ろして首に落とされる刃。それを体を動かして、急いで抜いた秋水で受け止めつつも力が違う。そのまま押されていき首ではないけど鎖骨のあたりに刃がいったあたりで丑御前が刃を引こうとするも、もう遅い。

 

 

 自分の肉と、そして秋水を握っていた手は丑御前の太刀の手を握りメキメキと力を入れて指が肉を突き破るほどに抑え込んで太刀を落とさせる。もう片方の手も桜花を持つ私の手を自由にさせては腕の一つ持っていかれることがわかっているのでしょうね。

 

 

 「離しなさい!」

 

 

 「うぐっおぉぁあ・・・!!! 嫌です・・・よっ!!」

 

 

 「っっっ!!!!?」

 

 

 黒い雷撃を放って私の身体を焼いていくも、それでも離さない。炎とは違う痛み、痺れる感覚に力が緩みそうになるのを抑え、膝裏に蹴りを入れて少しかがませた後に思いきり首に力を込めて渾身の頭突きを丑御前の脳天に一発。

 

 

 さらに二発、三発とごすっ、ドグッ。と鈍い音と同時に叩き込み、シンプルな痛みよりも頭を揺らされ、視界に火花が散る衝撃を与えていく。が、そこは相手もこれ以上はとそのパワーを使って無理やりに私を引き離し、ここで仕留めることはあきらめたようですね。

 

 

 「はっ・・・ぐ・・・く・・・! なんて、あらっぽ・・・・!」

 

 

 「こいつで終いだ!! 喰らいな!!」

 

 

 ただまあ、流石に数発脳天に頭突きをされてはひるんだようで、その間に金時様の渾身の拳が丑御前のお腹と側頭部に叩き込まれる。

 

 

 特大級の雷轟が響いた後にしばらくして、ふらふらとのけぞる丑御前でしたがぷつんと糸が切れたように倒れ込んだ。

 

 

 「ふぅ・・・あづづ・・・あー・・・もー・・・ここまで傷を負ったのはローマの時ですねえ・・・これで、いいのですか・・・?」

 

 

 「大丈夫かミス・シルバー! 体張り過ぎだぜ! ったく・・・えーと・・・あったあった・・・ベアー号には一応事故に備えての救急キットがあるから、せめてこれ使え。

 

 

 ・・・・ははは。アンタやっぱいいやつだな。で、問題ねえ。前もこうして丑御前を抑え込んだ。あいつを抑えるのには丑御前を気絶させてしまう。文字通りの『失神』だな。なんつーか、ある程度神気を発散させて、気絶させてしまえばいいんだよ。

 

 

 あれだけ暴れまわったうえでの気絶。流石に精魂尽き果てているだろうよ。だから起きたらいつもの源頼光になっているはずだぜ」

 

 

 「なるほど。それなら体を張った甲斐があります」

 

 

 うーん・・・鎖骨は半分切れましたか。軽装とはいえ、鎧ごと軽々と斬り捨てて、あちらが罠に気づいて、私が抑えてもようやくこれ・・・ほんと、人間程度なら多少鍛えていようが豆腐のように斬れるんですねえ。

 

 

 まったく。身体は防具の術式でひどい火傷は抑えきれましたが痛みもシビレもひどい。失血は雷のせいで肩以外はふさがっていますけど。あづづづ・・・!!!

 

 

 「おいおいおいおい!! いきなり肩をはだけるな脇を見せるな! 胸がみえそうだろーが!!」

 

 

 「だって肉を切られたんですし、止血帯とかできつく縛っておかないとですよ。服や鎧をつけていては無理でしょうに」

 

 

 「だからって急にするか! 俺っちはあっち見ているからはやくしてろ!」

 

 

 「了解です。あ、傷薬に止血剤。流石ですねえ。ありがとうございます金時様。・・・・・・・・・んー・・・これで大丈夫です。後は回復に使える指輪をつけて・・・」

 

 

 とりあえず応急処置は済ませて黒焦げの顔も拭いてどうにか体を起こす。まるで眠っているような丑御前ですがはてさて・・・?

 

 

 「ううん・・・わたし・・・は。いったい・・・・」

 

 

 「ほら見ろ。鬼の影の形もねえ。よぅ。起きたか大将」

 

 

 あ、これは確かに。あのガンギマリのやばい空気や気配がまるでなくとても柔和な空気を持つ女性ですね。というか同一人物で同じ顔なのにまるで違うように思えるあたり改めて丑御前のやばさを再確認です。

 

 

 「まあ、金時ではないですか! 久しぶりですが元気そうですね」

 

 

 丑御前の間は記憶はないと。言わないほうがいいでしょうねえ・・・自分の側面が鬼どころか天魔の総大将。しかも暴れた挙句鬼ヶ島造るわ金時様ぶち殺そうとしていましたし。

 

 

 「そして其方は・・・どうやら、大変なご迷惑をおかけしたようですね・・・・・金時、そして剣士のお方。記憶はありませんがこの状況を見れば事は明白。・・・・・・私のいたらぬ弱さ、はしたない本性が、貴方たちに害をなしたと思います

 

 

 貴女のような美しい人に残るほどの傷を負わせてしまったことも含め、謝って許されることではありませんが、この通り。どうか、お許しくださいませ」

 

 

 思わずこちらが姿勢を正してしまいそうなほどの所作の美しさ。そして美貌と隠し切れない母性や包容力。先ほどの強さも相まってなるほどと納得してしまう。これは金時様を含めて傑物たちを束ねる英傑だなあと。

 

 

 「いいですよ別に。私も軍人。そちらでいえば武者みたいなものでして。傷は日常茶飯事ですし、とりあえず後ろの聖杯を取って、ここを脱出できるか気になります」

 

 

 「そういやあそうだったな。俺らはどうにかしてこの島を出たいんだが・・・お? 紙切れ?」

 

 

 ただまあ、流石に息子の金時様の前で母親の頼光様に何かをする気もなければ私も別にこれ以上する気もない。というか傷が痛いしお腹空いたし喉も乾いたのでカルデアで一休みをしたいです。

 

 

 その目的を果たすためにもこの魔術王の用意した場所を脱出できるかの手段は聖杯にあるのか。兎にも角にも手にしてみようと思うなか頼光様のそばに紙切れが。

 

 

 『私を倒したとき、魔術王との契約は切れ、杯の中は澄み渡らん』

 

 

 「・・・けっ。結局アイツも素直に従うわけもなく・・・倒せるのなら道を譲りますってか?」

 

 

 「ふむ・・・確かに私の目から見ても、先ほどの禍々しさ、よどみは何もないですね」

 

 

 多分さっき金時様に気絶させられる前のほんのわずかな時間で地面に落としたのでしょうね。

 

 

 まあ、金時様に私をどういう形であれ愛してしまおうとしていた相手。もし負けた時は魔術王の仕掛けがあっても解除できるようにしていたと。恐らくここは丑御前。牛頭天王の権能と聖杯を使ったとはいえ国産み・島産みの力で用意した場所。いわば自分の陣地であり庭。そこでなら魔術王が渡したもののひとつくらいなら解呪、もとい毒抜きくらいは出来てしまう。

 

 

 って感じなのでしょうか? 丑御前。天魔の類と言っても頼光様と同じ人物、経験や技術はある以上そういうのを対処するのもできてしまったと。

 

 

 聖杯の魔力はきれいなもので、先ほどまで暴れていた空模様とは一転。雲一つない青空のようです。

 

 

 「まあ、それなら無事に二人も帰れるということですね? あ・・・」

 

 

 「ふむ。私が戻れるようになった以上、頼光様も退去。そしておそらく頼光様の縁で来ることが出来た金時様も無事にここを脱出できるようですね。いやあ、よかったです」

 

 

 「私の役割は終わりのようですが、私は決して忘れません。この源頼光。源氏の棟梁として、一人の武士として貴女に受けた恩は必ず返すと約束しましょう。次に見えた時。私は貴女の刃です。

 

 

 英霊の一人として、どのようなご用命も」

 

 

 そういって頼光様は退去する前に私に弓を渡してきた。触媒に使ってほしいということでしょうか。武士が弓を渡す。全く信頼されましたねえこの短時間で。

 

 

 「なら、どうかこれからカルデアで一緒に遊んだり、料理をしたり笑顔で過ごしましょう?」

 

 

 「まあ、お優しいのですね・・・ふふ、もちろん構いませんとも。いろんな遊びも、料理の腕も自信があります。その時がもう楽しみです」

 

 

 丑御前の時とはまるで違う笑顔を最後まで絶やさず頼光様は退去していきました。

 

 

 「って俺っちもか。なんにせよミス・シルバーを助けることが出来て、頼光サンも助けることが出来てと最高の結果だ。ロンドンの時といい。アンタには借りがある。俺からも」

 

 

 金時様も退去が始まり、その前にと渡してきたのはベアー号のキー。

 

 

 「頼光サンが来るっていうのなら俺も尚更カルデアで恩に報い、人理焼却に立ち向かいてえ日ノ本一の鬼退治の英雄。この坂田金時がゴールデンに駆けつけてどこへでも連れて行ってやるからよ!!」

 

 

 「頼もしいですねえ。それなら是非是非ストームと一緒に。彼のゲームも遊んでほしいですし、まだまだ私もストームも本気や手札を出し切っていませんよ?」

 

 

 「まじかよ! やっぱアンタらサイコーにクールだぜ! ますます楽しみだ。早く呼んでくれよな!」

 

 

 「もちろんです! それじゃあ、今度はカルデアで」

 

 

 私も聖杯を使いこの体を本来の場にと願い、金時様と笑顔で一緒に退去。この鬼ヶ島からの脱出を果たしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・ん・・・うぉあー・・・いだだだだだ!!! 肩が痛い!? 肌も!?」

 

 

 「おわぁああ!!? って・・・マスター!!?」

 

 

 目を覚ますと。そこは病室でしたとさ。

 

 

 そばで本を読んでいたストームが私の声に驚き、目をぱちくり。

 

 

 私も状況を理解するために周りを見回してみるとそばには頼光様の弓、金時様のベアー号のキー、そして聖杯が枕のそばに。ほっ・・・無事に持ち帰れましたか。

 

 

 「あ、ストーム。いやーどうにか帰ってこれました。あと、すっごく体が痛いんですけど私火傷しています?」

 

 

 「いや、ひでえミミズ腫れをしているけど、何があったんだ?」

 

 

 「あー・・・多分私が行った場所でのダメージのフィードバックですかねえ・・・ふぅ・・・とりあえず・・・よかった・・・」

 

 

 多分、精神か魂だけあっちに行って受けたダメージが肉体にも来てしまった感じですか。一応後でロマニ様に見てもらわないと。

 

 

 「いやよかったじゃねえよ。ったく。魔術王の呪いのせいであんた2日間ずっと寝ていたんだぞ? で、目を覚ませば叫ぶわ、なんか私物増えているわ聖杯もって帰るわ。今から来る連中にもしっかり教えろよ」

 

 

 「今から・・・?」

 

 

 ハァーと安堵の息を吐きつつコーヒーをすするストーム。笑顔を見せてニヤニヤしますが、その言葉にすぐに理解が及ぶ。ドドドドドドドドドという地響きと声の数々。

 

 

 そして即座にドアが開かれるや狼にちびノブにうちの部隊に、マシュ様にといろんな人たちがだいぶして抱き着いてくる。

 

 

 「・・・・おぁっああぁあああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 その際に丑御前に切られた肩の部分と体に来た衝撃でカルデア中に響く絶叫を上げてしまい、しばらく面会謝絶の治療が行われて回復後にもう一回同じ騒ぎが起きましたとさ。とほほ・・・身体は休めているのになんか休めた気がしないです。

 

 




 無事にカルデアに帰還。次は召喚です。


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AIBOと母親と電撃ともふもふ

~どこか~


???「む。この匂い、私を呼んでいる?」


???「メイクよし、菓子折りよし。なぞかけ・・・・あああ、流石にそれはソロモン様のお義姉さまに失礼・・・よしよし・・・」


???「ふふふ。さっそく呼んでくださるようで。これははせ参じなければ」


???「ヒュー。楽しみだぜ!」


???「ははははっははははははははは!!! 待ちわびたぞこの時を!」


???「おお、いよいよ。花嫁修業を兼ねた同棲生活です!」


 「いやー皆さんそこまで過保護にしなくてもいいですのに。おかげで創作活動の時間が増えたのはいいことですけど」

 

 

 「みんな姉上を心配していたんですよ。あと、実は目を覚ます前までおもに備品課が大変でして」

 

 

 「私も本当に心配で・・・! しかし、同時にそんな大冒険と、あの源氏の棟梁と金時様に会えていたとは!」

 

 

 目を覚ましてレポートを提出して数日。疲れを抜いていたのですがその間皆さんがまあ―甘やかすのなんの。食堂での調理に掃除に、備品、在庫のチェックも全部銀嶺隊やほかの皆さんがやっていく。

 

 

 畑仕事もクー・フーリン様やジークフリート様がやってくれて私は精々水まきがせいぜい。

 

 

 動物たちのケアも栗毛やハチたち以外にさせてくれないので結局創作活動と鬼ヶ島の出来事を改めてアルトリア様と香子様に話しつつ茶をしばく。という時間を過ごしています。

 

 

 「冬利様と咲様に迷惑かけましたねえ。あ、そういえばフラム様がすっごいいい笑顔していましたが何があったんです?」

 

 

 「ああーそれは姉上ロンドンでフランケンシュタイン。フランちゃんに会ったでしょう? その時彼女の持っていたハンマー? のシステムをダ・ヴィンチちゃんと解析したところ、周辺のあらゆる魔力の残滓を集めて魔力に再度練り直すものだったようで。

 

 

 それを再現、小型化して、さらには私の持っていた増幅装置の機能も合わせたんですね。それで少しのエネルギーから多くのエネルギーを用意できるようになりまして。これで姉上や藤丸君は愚か、カルデアのエネルギーに備蓄の余裕も出てくるとウッハウハなんです」

 

 

 ああーなるほど。うん・・・カルデアの運営費の半分以上はカルデアスの維持とか、南極で快適に過ごすための電力。そこら辺がどうにか賄えそうになるってならそりゃあフラム様もはしゃぎますよ。

 

 

 「ふふふ。おかげでこちらも小さな自家発電機をもらえまして。図書館でも本を読む際のライトとか、そういうのも増やせそうなんですよ。灯りをいつでも気軽にともせるのは素晴らしいことです。

 

 

 ・・・・・・・ああ、そうでした。華奈さんが用意が出来たらロンドンで縁を繋いだというニコラ・テスラ様を含めて召喚をしようという話がオルガマリー所長からありました。それと、その際にはストーム1様から前もって一報くれとも」

 

 

 おお、うちの部隊がますます図書館にこもりそう。いやー灯りの発明は偉大ですよねえ。本当に。発明者は割としばきまわしたいですけど。

 

 

 そして、ストームは、なるほど。あの方を呼ぶつもりですかね? じゃあさっそく。

 

 

 「もしもしストーム? エミヤ様にチーズバーガー作ってもらうように頼んでいいです? ええ。お持ち帰りできるような感じで。私も20分後に召喚室に向かいますので。ええ。皆様には私の方から伝えます。

 

 

 あ、ダ・ヴィンチちゃんには私がいいますので。ええ。失礼」

 

 

 内線でストームに伝えておいて、休憩中にのんでいたお茶を飲み干し、描いていた原稿を片付けて背中を伸ばす。ミミズ腫れも引いて痛みもない。メディア様にカルデアのチェックでも魂、精神に問題はなし。完全復活していますし、ササっと次の仕込みと戦力。友達を招きましょうか。

 

 

 「じゃあ、行ってきますよ香子様。アルトリア様。多分うちの部隊が紹介とカルデア案内で来ると思うので、その際に新メンバーとお話をどうぞ♪」

 

 

 「ふふふ。また後でお話を。新しい仲間もお待ちしておりますね」

 

 

 「ストーム1がいるのなら問題ないでしょうけど、召喚室のそばで待機はしておきますね」

 

 

 アルトリア様も過保護ですねえ。もう。まあ、嬉しいので一緒についてきてもらいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて。揃ったわね。華奈。藤丸。今回の英霊召喚。大分触媒をもっての召喚になるとは思うけど、元の方はいいのかしら?」

 

 

 「あー元様、アン様達に搾り取られているようなのとちょっと別件で動いてもらうために今回は見送るそうです。そのほうに時間を使いたいとかなんとか」

 

 

 「見送る。って?」

 

 

 召喚室にはオルガマリー様、藤丸様、そして私。ストームはそばでお茶をすすって音楽を聴いてリラックス中。私がぶっ倒れている時ずっと警護感謝しますよええ。で、まあ今回は聖杯を二つ手にして魔力も新機材で潤沢なので大量召喚もできる。のですが四人目のマスターである元様がいないのにその事情に半分顔を赤らめつつ首をかしげる二人。

 

 

 「私と藤丸様、オルガマリー様はレイシフト適正100% アルトリア様やモードレッド様はマスター適正はないですが自身が戦力であり、勿論レイシフト適正100% マシュ様は双方が100%とまあー高い。ですが元様は現状そのレイシフト適正が低く、レイシフトを行うこと自体が私たちよりずっと危ない。

 

 

 なので現在モードレッド様達が持ってきているユニヴァース技術。カルデアの技術の見直しをして元様のレイシフト適正を高めたり、そういう道具を作れないかという話が上がっているんですよ」

 

 

 まあ、今回私がぶっ倒れてしまったのもその計画を早める原因になったようですけど。今回私がゲーティアの呪いで倒れてしまった。明確にマスターが行動不能。最悪死亡してしまうというケースをレフダイナマイト事件以来直に味わったカルデア。

 

 

 現在残ったマスター適正のあるメンバーで現場にいける戦力を多めに確保できるようにしておくべき。三名に頼るだけではなくいざという時は元様も動けるために。

 

 

 「なるほど・・・それらが出来上がって明確に特異点に出向けるようになってから改めて呼ぶメンバーを考えるわけね。分かったわ。じゃあ、そうするとして、まずは私からね?」

 

 

 「ええ。ではでは。これをどうぞ」

 

 

 とりあえず私よりも忙しい、今後の方針をまとめるために早めに召喚を終わらせるためにオルガマリー様から。ということで触媒として用意したのがテスラ様からもらった何かの道具と、私とストームが用意したチーズバーガーとスレイド。

 

 

 「・・・・・・・・何でチーズバーガー?」

 

 

 「あーまあ、そこはおいおい。カルデアに基本いてもらうオルガマリー様にはぴったりの人ですから」

 

 

 「ま、まあ・・・なんやかんや華奈の言うことだし、たとえどっかのファストフードのピエロでも信じるわよ。じゃあ、始めましょう」

 

 

 そういってオルガマリー様も召喚の術式とスイッチを入れ始め、今回呼び出す英霊たちに使う道具を置いていく。

 

 

 まずはニコラ様の道具。空気が震え、マナが収束し、まばゆい光の後に出てきたのは。

 

 

 「ははははははははは!! ようやく召喚してくれたか! アーチャーニコラ・テスラ! 現代の雷神にして交流の天才である! む。華奈殿がマスターではないのだね。レディ。君が私のマスターか?」

 

 

 「ええ。カルデア所長オルガマリー・アムニスフィアです。カルデアたっての希望であなたには是非その知能を、発想を、技術を存分に活かしてほしいの。雷電を支配したその頭脳で助けてほしいの」

 

 

 ロンドンで仲良くなった。私も招きたかった大天才ニコラ・テスラ様。いやーこの人は本当に今後必要な戦力です。何せ雷電を用いた技術をあらゆる場面に広げている現代技術の申し子なのに魔術で英霊として呼ばれるというカルデアにピッタリな人。

 

 

 ある計画のためにも是非是非。ふふふ。

 

 

 「もちろんだとも! 私の力でこのカルデアたちどころに世界最高峰、いや、あの魔術王ですら吹き飛ばせる兵器でも装置でも生み出してやろうではないか! では早速その設備を・・・」

 

 

 「おっと。待ってくれニコラ・テスラ」

 

 

 「おお、君はストーム1君と、華奈君」

 

 

 「もう一名、貴方と合同で研究開発を頼みたい方がいるのですよ」

 

 

 「・・・・あの悪鬼ではないな?」

 

 

 「大丈夫です。まあまあ、とりあえずオルガマリー様。次の召喚をお願いしていいですか?」

 

 

 エジソンでしょうけどあの人は呼びません。というか絶対仕事が進まないというか勝手に何かしかねないので困る。史実からしてすごいですものねえこの二人。

 

 

 オルガマリー様もとりあえず・・・ということでハンバーガーとスレイドを召喚陣に置いて再度スイッチを入れる。何が来るのやら? そんな空気が場を包みつつも召喚の儀式は進み、出てきたのはシンプルなシャツとズボン。袖なしのジャケットを羽織った眼鏡をつけた一見普通の風貌の男。

 

 

 「キャスター。名前は・・・まあ、そこはいいかな。私の事はプロフェッサーと呼んでほしい。そこまで強くはないが、役に立つ武器、兵器を作ることと記憶することは自信がある」

 

 

 プロフェッサー。ストーム1とともに何十年も絶望と不安を抱えたままプライマー相手に戦い続け、武器の研究とプライマーの考察を考え、武器を開発するのみではなくプライマーを滅ぼす一手を打った策士でもある。恐らく人類史最新にして最高の武器開発者。そして優秀な科学者だ。

 

 

 「よう。久しぶりだな。相棒」

 

 

 「ストーム1! 久しぶりだ!! 君が僕のマスターかい?」

 

 

 「いいえ、マスターは私です。ここカルデアの所長。オルガマリー・アムニスフィアです。もしかして、ストーム1や2の武器を作ったのは貴方が?」

 

 

 「おっと失礼した。そしてはい。私が開発したものです。ひたすらに強い武器を。使えるものを。それをすることでしか戦えなかったもので」

 

 

 オルガマリー様がマスターと分かり頭を下げた後に武器開発者であることを正直に答えるプロフェッサー。

 

 

 「あれだけの武装を・・・そしてエミヤに、ニコラ・テスラ。ダ・ヴィンチちゃん。華奈・・・なるほど。二人の思惑は分かったわ。プロフェッサー。カルデアは貴方を歓迎します。これからもどうか人類のために一緒に進みましょう」

 

 

 「こちらこそ。それと・・・このチーズバーガーは、貰っていいかな?」

 

 

 「おう。カルデアに入隊祝いだ。凄く美味しいぞー?」

 

 

 「ん? あれ? 召喚の準備が勝手に? あら? いったい何が?」

 

 

 「え、ちょっ!? ストーム、華奈、戦闘態勢!」

 

 

 チーズバーガーを手に取って歩くプロフェッサーの後に急に動き出す召喚陣。止めようにも召喚は止まらず、迎撃態勢を整えるも出てきたのは褐色のケモミミ巨乳美女。

 

 

 「キャスター、シバの女王。ソロモン王・・・いえ、今はロマニ様と、そのお義姉様達とともにカルデアで人理修復を成すためにはせ参じました。組織運営のマネジメントと、金銭の管理はお任せを! それ以外でも手伝える限り助けましょう」

 

 

 シバの女王というこれまたビッグネームが。これには全員がポカン。

 

 

 「な。シバの女王ですって!? ソロモン王伝説に登場する知啓溢れる美女。精霊、ジンと人の子とも言われる人じゃないの! ろ、ロマニと、お義姉様?」

 

 

 「貴女がマスターで、ロマニ様の上司ですね。どうぞよろしくお願いします! これ、お近づきのしるしに。ラクダのチョコとクッキーです。ええ、華奈さん。ソロモン王を王ではなく人として愛し、接し、助けた戦士。

 

 

 ロマニ様が姉と慕う方ですね。ああ、お義姉様も、ぜひぜひお願いします」

 

 

 「え、ええ。ふふふ・・・なるほど。ロマニ様のお嫁様ですか。是非是非あの人をお願いします。王として、ドクターとしては偉大で優秀かもですが、情緒は貴女が教え導くべき方です。私の方こそどうかこれからもお願いします」

 

 

 なんか、すっごく好感度が高いのですがまあ信長様のように何らかの手段でここを見たり知ったのでしょう。あのシバの女王。ソロモン王との出会いの際に何か便利な道具や魔術を持っていてもおかしくはない。

 

 

 あとはまあ、真面目に世界に名高い知恵者がロマニ様を支えてくれつつ婿にもらってくれるのなら幸い。とりあえずカルデアで搾り取られる男性が増えるであろうことは気にしない。せっかくだから甥でも姪でも早い所見せてほしいです。

 

 

 そういうわけで私の方も頭を下げて握手。シバの女王様もすっごくいい笑顔で。

 

 

 「ではでは。早速ロマニ様の方にご挨拶をしてきます! オルガマリー様。今後ともよろしくお願いします!」

 

 

 「ははははは! ミステリアスかと思いきや、愉快なレディだ。ではでは、私もカルデアの設備をチェックしていくとしよう」

 

 

 「私の方もできることがあるか見ていく。一刻でも早くみんなの助けになるために」

 

 

 「ああ、それならニコラ・テスラとプロフェッサーはダ・ヴィンチちゃんが呼んでいたからここに行ってきて」

 

 

 召喚室を出ていく技術畑二人にその名前を言って驚かせたり、その反応を楽しみつつとりあえずオルガマリー様の召喚は終了。

 

 

 「かのニコラ・テスラに人類最新の先進科学技術者。そしてシバの女王。うーん・・・凄いメンツが来たわね」

 

 

 「オルガマリー様はカルデアをより自分好みに、そして最高の仕事をできる環境にしてくださいませ。あと、プロフェッサーも実はストームチームに迫るほどには強いので」

 

 

 「ふふふ。それは知っているわ。じゃ、次は華奈ね」

 

 

 オルガマリー様も一緒に地球防衛軍で遊んでいますものねーじゃあ、次は私。

 

 

 えーと、弓と、鍵を置いてと・・・・召喚陣スイッチオン。

 

 

 バチバチととんでもない稲光があたりを覆い、ビカビカとまぶしい光が常に続き、大きく空気を震わせたと思えば、光が収まり二人が出てきた。

 

 

 「ライダークラスで参上したぜ坂田金時。どんなところへもつれていくし、ツーリングで楽しむのも良し。だぜ。借りを返しに来たぜ。ミス・シルバー。いや、マスター」

 

 

 「クラス、バーサーカーで参上しました。源頼光。貴女の刃となり、支えましょう。どうぞ私を母と呼んでもいいのですよ? マスター」

 

 

 ロンドンに鬼ヶ島で助けてもらった二人。いやー神秘殺しかつ荒事もバッチこい。魔に対する経験も豊富な二人。本当に助かります。二人とも私ファンですし! 

 

 

 「はぁー・・・東洋の神秘殺し。魔を狩り鬼を打ち倒した戦士たち・・・ね」

 

 

 「お二人ともよろしくお願いします。あ、それとうちの部隊がカルデアを警備していますが、魔獣とは言っても人懐っこく優しいので安心してくださいね?」

 

 

 「おう。俺のベアー号みたいなものだろう?」

 

 

 「問題ありません。マスターと同じ人を守るために戦った者たち。それなら私と手無下にはしません。では早速料理でも振る舞いましょうか」

 

 

 「ふふふ。ならそのために厨房にどうぞ。まずは私たちの方からの歓迎を受けてくださいね」

 

 

 流石にトランスフォームする魔獣たちはいませんけどね! 巨大化とか火を噴いたり、配達員をしているのはいますけど。それとまあ、金時様を受け入れていたり、神の二面性、悪のみではない。という部分が頼光様も受け入れてくれたのでしょうか? よかったぁ・・・

 

 

 「おお! そいつはありがてえ! カルデアでランチタイムとしゃれこむか。行こうぜ頼光サン。まずはここを知ってから俺らもマスターをもてなしていこう」

 

 

 「あらあら。いきなり娘とその部下からのもてなしとは・・・孝行娘を持ったものです。ええ。では、まずは旅の疲れを休ませてもらいますね?」

 

 

 ピッ。とかっこよくポーズを決めてから頼光様を誘導するように出ていく金時様と、綺麗なお辞儀をして出ていく頼光様。・・・・んーイグレーヌ様と私の親権争いしないですよね? なんか後々会いそうな気がします。

 

 

 「これで私もOK。今度は藤丸様の方ですね。確かこれを触媒に」

 

 

 「うん。よーし。仲良くできればいいなあ」

 

 

 まあ、それは後で考えるとして、最後は藤丸様。実は藤丸様の召喚。かなりあたりだとは思うんですよねえ。こと軍団戦、チームプレイだとあの方すごく活きるでしょうし。

 

 

 ロンドンで貰っていたお札と毛をセットしてから召喚陣を起動。

 

 

 「キャスター玉藻の前。みこっと参上しました♡ マスターの良妻として、術者としてあんなこともこんなこともお助けしちゃいます! というわけで・・・ささ、まずは一緒にお茶でも」

 

 

 おぉーん。相変わらずの美貌とモフモフ尻尾。そして、改めて面白いお方。しかしてその術も知識もキャスターとしては素晴らしい。玉藻の前様が来てくれました。

 

 

 「よろしくお願い。玉藻さん。僕がマスターなるけど、いいかな?」

 

 

 「ええ、ええ!! それはそれは。お優しいあなたなら私全力で支えますもの! そして華奈さんもいるので私が足りない場所や知識は支えてもらいます」

 

 

 「ちゃっかりしていますねえ。ふふふ。いいですか藤丸様。改めて貴方のそばにいるマシュを含めたメンバー。そのメンバーの穴を。あるいは私たちを支援したりあるいはあなたが生きて戦う上で玉藻様の技術と知識は学ぶものが多いです。

 

 

 しっかり仲良く楽しんでくださいね♪」

 

 

 まあ、実際ギャグや癒しという意味を抜いてもこの方はとてもありがたい。どうにも幾つかの聖杯戦争の記憶を持っていそうですし場数と対処術、藤丸様の礼装の強化など大助かり。

 

 

 「オルガマリーよ玉藻の前さん。基本的には藤丸を助けてもらうけど、カルデアで必要な依頼や手伝いが来たら手を貸してほしいの。いいかしら?」

 

 

 「貴女がカルデアのトップですよね? 華奈さんから聞いています。そして了解です。私もちょこっと宮仕えの経験、陰陽師などを知る者。星読み、天体の事なら多少は助けられます。あ、一応料理もできますので、食堂でも働けますので」

 

 

 ・・・ちょこっと? まあ、とりあえず料理もできる人材が増えたのはありがたい。後陰陽師は天体観測や当時の最新の科学者という感じですので新しい知識を取り入れる柔軟さもある。色々とマルチに行ける人ですし頼りにしましょう。

 

 

 「分かったわ。でも、とりあえず今はマスターの藤丸達と話して、藤丸と契約した英霊たちとも顔合わせをして頂戴。まだ次の特異点観測もできていないししばらくはカルデアになれつつ休んで頂戴」

 

 

 「お言葉に甘えます。うふふふ。ささ、マスター行きましょう♡(うーん。この方はまだまだ魂を磨く途中ですが、それでも善きイケ魂になる可能性もりもりのいい女。藤丸様は渡しませんが、この方もいずれは・・・うふふふ。いい場所ですねえカルデアは♬)」

 

 

 「わわわっ! しょ、所長! 華奈さん。先に失礼します~」

 

 

 「ええ~昼ご飯はちゃんと食べるんですよ~」

 

 

 「華奈、貴女もよ」

 

 

 「じゃあー一緒に食べましょう~今日の日替わりランチは何でしょうねえ~」

 

 

 とりあえず召喚が終わり、私たちの方も一度食事に。いやー思わぬお客様も来て愉快愉快♬




 ロマニ「なっ! 君は!」


 シバの女王「お会いしたかったですソロモン様。いえ、ロマニ様! もう逃がしません。これからは英霊として、補佐としてどうかお願いしますね?」


 ロマニ「お、おうあぇ? よろしく。いや、しかしどうやって君を呼んだんだろう華奈は? 君の触媒になるものはなかったようだけど・・・」


 シバの女王「いえ、気合できました!」


 ロマニ「・・・・えええええええええええええええええ!!!?」





 ダ・ヴィンチちゃん「やーやー! 君たちが来てくれてとても助かる! 華奈とストーム1から用意を頼まれている計画に君たちの力は必要! 是非是非一緒にやろうじゃないか!」


 ニコラ「ほほう。この天才をさっそく使うとは流石! しかし、だ。あのレディは一体何を企んでいるのだね? ロンドンの時といい。彼女も興味を惹かれる!」


 プロフェッサー「僕たちが必要なものかあ。英霊という超常の戦士たち。その筆頭が必要なものかあ。一体何を想定しているのか」


 ダ・ヴィンチちゃん「それはね・・・これを見ると早いだろう!」
 (あるノートと設計図を広げる)


 ニコラ「・・・・・・・ははははは!!! ははははははははははははははははははははははは!!!!!!! なるほど。これは、これは実に刺激的かつ最高のものではないか!! 私に、この私に万能の天才と、最新の戦士にして天才と一緒にこれを成し遂げろと!! いいだろう! このニコラ・テスラ。全身全霊をとして取り組もうではないか!!」


 プロフェッサー「確かにこれは・・・・私が取り組むべきもの。そして、挑むべきものだ! ぜひやらせてもらいたい。いや、やらせてください。かの偉人たちと一緒に仕事をできるだけでも望外の喜び。しかも上も下も理解を示して動ける環境。必ず成し遂げる!」


 ダ・ヴィンチちゃん「うんうん。頼んだよ二人とも! カルデアの一大作戦の一つは君たちの双肩にかかっているんだ! じゃあ軽く打ち合わせと進展具合、質問のために話し合おうじゃないか!!」









 カルデアに今回来たメンバーは真面目に最前線と技術者のトップが来ました。尚技術者は人類史の近現代史における最高峰。


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小休止と武器の選択

 次はアメリカに。アメリカから色々と本編も濃密になってきてよかったですよねえ~




 「よーし。ウォームアップ終了! 5分休憩の後、次のトレーニングに入る。今のうちに水を飲んでおくように!」

 

 

 「「はいっ!!」」

 

 

 華奈さんも無事にカルデアに復帰してからしばらく。新しいメンバーもそろってから僕らは早速鍛錬に励んでいた。大尉たちと一緒にいつ終わるかわからないマラソン。それを終えて汗だくのまま急いで水を浴びるように飲み、塩分タブレットを口に含んでいく。

 

 

 「まったく。なんで延々ずっと走らないといけないのですか。疲れは感じますがそれも英霊にとっては肉体の錯覚みたいなもの。ダメージを負わない限りこのカルデアでは無事。移動の際もマスターは運べばいいというのに」

 

 

 「もちろんそれが最適解だろう。ただ、これは精神鍛錬の意味が大きい。いつ終わるかもわからないゴールを目指して走り続ける体力と気力。今回のロンドンは早めに終わったが、人類史は長く、広い。広大な場所を移動する際には自分で歩く必要もあるはずだ。

 

 

 その際にも問題ない健脚、体力があるに越したことはないし、何よりその体力は藤丸君の疲労による判断力の低下を抑えてくれる。まあ、それを置いても育ち盛りの少年だ。みるみるたくましくなっていくのは面白いしな」

 

 

 「それはちげぇねえ。実際、ローマの行軍の時のように体力が必要かもしれないし」

 

 

 息を整えつつジャンヌオルタ、大尉、クー・フーリンの会話を聞きつつ、ふと自分の身体を見る。

 

 

 カルデアに来る前までは普通の中肉中背。くらいだったはずの身体は確かに筋肉が増して、背も高くなった気がする。数か月の間とは言え、皆と頑張った成果は出ているのかも?

 

 

 「うーん・・・そう? かなあ?」

 

 

 汗で重くなったシャツを脱ぎつつシミュレータールームの休憩室に置いている鏡の前で自分の身体を見る。少し割れてきた腹筋。胸板がわかり始めてきた胸襟。太く張りのある腕。

 

 

 うん。変わってきている・・・けど、クー・フーリンやヤマジさんの腹筋を見ているとまだまだだなあーとちょっと恥ずかしく思う。

 

 

 「ん・・・ま、まあ確かに? いい体には成ってきたとは思いますけどね。いい加減、そろそろハンドガンからマシンガンの一つでも持たせてはどうよ? その体なら、いいでしょう」

 

 

 「はい。先輩は本当にたくましく育っています。最初のころとは別人のように精悍で・・・ふふふ・・・」

 

 

 「オルタにマシュの嬢ちゃん顔が赤いねえ。ったくほの字か?」

 

 

 え? と思わず二人を見るとどちらも白い肌が映える奇麗な顔を真っ赤にして僕を見ていた。う、うーん。僕以上にいい男が多いカルデアでそれは自意識過剰だよね。と。考えておく。

 

 

 ・・・ただ、男としての自信をつけるためにも。腰のキャノン砲♂のあれこれは一応ヤマジさんに聞いてみよう。一応・・・

 

 

 「はぁっ!? 違いますけど! 最初にあったころのへなちょこよりは成長したってだけよ!」

 

 

 「え、えっとあの・・・な、なんといえばいいか・・・あわ・・・わぁわああ・・・」

 

 

 「ははははは。そうからかってあげるな。クー・フーリン。そして、武器の方は実際、アサルトライフルを既に用意している。これだ」

 

 

 慌てる二人をしり目に笑いつつ大尉が持ってきたのはストームや大尉が使っているのとは別のアサルトライフル。ただ、しいて言うのならマガジンが大きい?

 

 

 「M9レイヴン 現在我々レンジャーが使えるアサルトライフルでは最強の一角と言っていいほどのものだ。一発一発の威力、有効射程距離はスレイドに劣るものの、その分弾丸が小さく、装填数は1092発。近距離での制圧力、そして早々に弾切れしないのは藤丸君の身を守る上でも大事だろう」

 

 

 「・・・は? こんなマガジンに1092発も? しかも、あのスレイド、私も借りたことありますがあの破壊力以上ですって?」

 

 

 「も、最早アサルトライフルの形をしたガトリング、ミニガンですね・・・」

 

 

 「まあ、もっとやばいものもあるのだが、これに関してはシンプルに扱いのためにプロフェッサーや俺たちの方で講義を用意しておく。きっとオルタも気に入るであろう物だし、楽しみにしておけ。

 

 

 さあ、休憩は終わりだ。次の練習は市街戦、建物内を想定した模擬戦!」

 

 

 M9レイヴンを受け取り、前に教えてもらった扱いを思い出しつつ、マガジンの中身を確認すると柔らかいシリコン製の模擬弾丸。あ、実弾じゃなくてよかったと思っていると軍曹が手を叩き、端末を扱ってシミュレーションルームの風景が草原から石造りの建築物が映える街並みに変わっていく。

 

 

 「英霊たちの持つ武器は多少のものならそのまま壊して扱えるだろう。しかし相手も英霊。あるいはそうはいかずとも厄介なエネミーなどが群れを成してくる可能性もある。

 

 

 ロンドンの戦闘記録がいい例だ。なので、閉所の戦い、市街戦を想定した場所でその大きな得物をいかに扱うか、戦うかを訓練する。ちなみに、エネミーの配置や動き、対応は黒ひげ、アン、メアリー、沖田君とその手の戦いに慣れている英霊の皆に組んでもらったもの。油断すれば即座にあの世行きと思え」

 

 

 「たしかに、フランス、ローマ、オケアノスは広い場所で戦いましたがアステリオスさんの迷宮といい、ロンドンでは地下道などもありました。こういう時の対処術。私もこの盾、そしてサブの武器を考えておきます」

 

 

 なるほど。華奈さんたちからの授業を受けていると人類史のターニングポイントは近現代史でもたくさんある。そこで狭い場所で襲われる場所を。走り込んで小休止している時を想定していくと。

 

 

 僕も銃を握りつつ気合が入る。華奈さんたちだけに任せてはいけない。怖いけど、それでもやれることを増やしていきたい。ロマニのように、自分で選んで、進めるように。

 

 

 「私はロケットランチャーでも今度貰いましょうかね。遠距離戦でバカバカぶっぱなしたいですし」

 

 

 「俺は今のままだ。そら、先陣は俺が貰うぜ!」

 

 

 そういいつつ、敵を見つけたクー・フーリンが敵に突っ込んでいき、そこをジャンヌオルタが補助。大尉は後ろを守りつつスレイドで支援、マシュは僕を守りつつその盾を活かして敵の動きに蓋を置いて、その間にレイヴンで支援と。戦闘経験を積んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてさて。とりあえず皆さんにカルデアの事で何か問題は起きていませんか?」

 

 

 次の特異点に行く前にまずは一度改めてカルデアの状態を調べて私が行く前にやるべきことの最終チェック。どうしても一度特異点に行くと料理とか備蓄とか、そこら辺でのあれこれのためにもどれませんしねえ。

 

 

 「うーん。特に問題はないかな。調味料からトイレットペーパー鼻紙に至るまで全部問題ない。ろ過、分解、浄化、再構築の魔術や現代技術のおかげでリサイクルの方もできているし」

 

 

 「わ、私の方も問題ないよ~あ、でもちびノブたちがレーザー兵器の方を触れたいって意見があったね。あと、カルデアの方にも自衛兵器を置くべきかどうかの議題が上がっている」

 

 

 冬利、咲様の方は武器関連以外は問題なし。と。そして、武装ですかあ。

 

 

 「では、ちびノブたちには明日から大尉様達にレーザー兵装の講習をできないか頼んでみましょうか。私もちょこっとしか使っていないですし、実弾兵装以外はまだまだなんですよねえ。で、自衛兵器に関してはやるにしてもあくまで足止めにとどめます。素人がそれを使用する状況なんて、パニックなって銃火器を使えるわけないですし。銀嶺隊の方で対処をしますね」

 

 

 「ま、それくらいだなぁ。あ、そうだ。モードレッドが野菜畑の方で働いているから顔見せてやってくれ」

 

 

 「元王様が泥にまみれて頑張っているよ~」

 

 

 あらあら。本当にアヴァロンに移り住んだ後はのんびりとした農民。農家ライフを楽しんでいたようですねえ。すぐさまここの畑に行くとは。ふふふ。いつか私の方も学びに行きましょう。

 

 

 「こっちの方はしいて言うのなら、扇風機とかを少し備蓄から出していいか。ってくらいですねえ」

 

 

 「魔力の方は現在英霊が増えても問題なし。例のスペースと、倉庫の方もあってなお魔力はカルデア中の残滓、わずかな余剰のものもガルバリズムシステムで蓄積しています」

 

 

 「ほうほう。扇風機?」

 

 

 「あーその、アルトリアさんやモードレッドさんの持ってきてくれたあちらの宇宙世界? で使われるPCシステムや、カルデアの方もシステムをアップデートしていたらそれらを冷風するためのものがちょっといろんなところに置けるものが欲しくなりましてね?」

 

 

 「ジョーンズさんとかが見てくれているんですが、ちょっと温度が高い場所もあるそうで」

 

 

 ふーむ。PC、サーバーなどのシステムの冷却に扇風機を追加。で、起きたいと。端末の方で備品の在庫状況と、延長コードのほうも・・・・・・・ありますね。

 

 

 「問題ないかと。とりあえず5台持ち出して使ってみてください。それでだめなら絶賛研究所に缶詰め中のニコラ様とプロフェッサー様にも手伝わせますので」

 

 

 「助かります。機能はそのままにできる限り小型化、メンテのシステムを良くして熱を籠らないようにしているんですけど、いかんせんカルデアのシステムを維持しながらとなると遅くなるので」

 

 

 「私たちからはこれくらいです」

 

 

 良馬様、フラム様の方はこれくらい。と。では最後に元様。ですね。

 

 

 「では、元様の方はどうです? 英霊の皆様の事で何か」

 

 

 「伊吹童子がいろんなお酒が欲しいっていうのと、信長がギターの練習をしてうるさいから防音壁を用意する、角のボイラー室の横に置いてくれっていうこと以外は特にはないかな?」

 

 

 「あー・・・お酒の方は今畑で果実酒とかも作っているのと、私が英霊の皆さんからもらっているものを一部渡しましょう。私どうせお酒弱いですし。で、本当にそれだけで?」

 

 

 私図書館でそのまま香子様と寝たり、自室も課長特権ってことで広めですから気づきませんでしたが信長様新しい趣味に目覚めたんですねえ。いや、音楽や踊り好きなので現代の曲を取り入れたのかも? で、まあそれだけじゃないでしょう? と視線を向けるとタハハと頭をかく元様。

 

 

 「うちの部隊の狼や、皆から聞いているんですよ。夜のプロレスが激しいのはいいけど、その後の掃除とかもしないし食事もデリバリーした後にそのまま片づけないからにおいもする。汚部屋になりつつあるって。

 

 

 相手は船乗り。しかも海賊なのであれくらいは慣れっこなんでしょうけど、貴方が契約した英霊ですし、お願いしますね。メディア様からの苦情もあるんですよ」

 

 

 「いやー申し訳ない。何度も誘われちゃって。その後は僕も仕事で」

 

 

 「あなたほどの色男なら優しくしちゃうし誘われるのも分かるんですけどねえ・・・私が前線に出ている間英霊の皆様の住む場所の管理人は元様ですし、お願いますよ」

 

 

 了解と言質をもらい話は終了。

 

 

 「じゃあ、お昼のおやつにしましょうか。今日はブルーベリーパイと紅茶ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は、はひー・・・はへぇ・・・つ、疲れた・・・」

 

 

 「お疲れ様です先輩。今日も大変でしたね」

 

 

 あの後、模擬戦はひたすら続き、ロンドンのように相手の英霊にもマスターがいることを想定して華奈さん、オルガマリー所長とエミヤのメンバーと戦い続け、そしてオルガマリー所長の魔術講座。

 

 

 射撃練習。リロードの練習。分解清掃。とにかく体を鍛え続け、動き回り続けた。そしてすべてが終わり、シャワーを浴びてプロテインを飲み、マシュと一緒にふらふらと食堂に向かっていた。

 

 

 「本当にね・・・でも、こんないいものをもらえたのは嬉しい」

 

 

 「M9レイヴン。ずっと打ち続けても尚弾丸がある。本当に不意の弾切れに気をつければ私も頼りになる名銃です。先輩ならあっという間に使いこなせるはずですよ」

 

 

 「反動が少ない。って大尉たちは言っていたけど、連射がすごすぎて大変だったよー」

 

 

 僕の新しい武器。EDFでも最初は上澄みの精鋭隊員にしか渡されていなかったM9レイヴン。ゲームでもかなり使えるアサルトライフルを実際に自分のものとしてもらえるように。

 

 

 嬉しくて頑張って使ったけどスレイド以上の瞬間火力と連射速度は結局弾丸が小さい故の反動が少ないもの連続で来てしまうので銃身が跳ね上がるのを抑えるのに大変で、終わった後は腕も手もプルプルしてシャワーの蛇口をひねるのにすら一苦労するほど。

 

 

 これをずっと使い続けて暴れ続けて平然としているストームは一体どうなっているのか。そしてあの弾丸の豪雨をよけきってしまうクー・フーリンの技量と矢避けの加護はどれほどすごいのだろう?

 

 

 「私も盾を使い続けていきますけど、何かサブの武装を持つ方がいいかもですね。狭い場所で戦う時、あるいは距離が離れている敵を攻撃。味方を支援するために何か持っておいたほうがいいかもと思えましたし」

 

 

 「マシュが使うのは、何がいいんだろう? ライフル? ショットガン? あ、ブレイザーとかどうだろう? マシュは頭もいいし、きっとすぐ使えると思うんだけど」

 

 

 「い、いえいえ! 流石に中に関しては先輩より経験も足りないですし、まずはハンドガンから教えてください先輩」

 

 

 「え? あ、うん。僕も色々教えるね? あ、それと華奈さんもハンドガンは持っているから聞くといいかも」

 

 

 「お母さんにも。じゃあ、三人で学びましょう!」

 

 

 ニコニコと笑うマシュの笑顔に少し元気をもらいつつ、食堂につく。

 

 

 「お疲れ様ですマスター。マシュさん。今日は何を食べますか?」

 

 

 「あれ? 玉藻? 食堂で働くの?」

 

 

 食堂につけば既にワイワイとみんながご飯を食べつつ、おいているテレビからアニメを見たり談笑する中、エプロン姿の玉藻がニコニコと近づいてくる。模擬戦はパスと言っていたけど、ここにいたのか―

 

 

 「はい。やはりどんなに体を鍛えても、動かしても食を取らなければ、よい食事を血肉に変えなければやせ細り、善き食事は日々の活力になります。この玉藻、前線で暴れるだけではなく女として、貴方の英霊として裏方の方からも支えたく♡

 

 

 マシュさんもそれは同じ。たとえ英霊の力を持っているとしても運動経験は少ないと華奈さんから聞いています。疲労を抜くためにも、色々な食事をより楽しんでくださいまし♬ ささ、今日のご注文は? 腕によりをかけますよ」

 

 

 尻尾をゆらゆら耳をピコピコと可愛く揺らし、人懐こい笑顔でタブレットを取り出してメモを取ろうとする玉藻。ああ、頼もしいお兄さんお姉さん、先輩なのに後輩なマシュに、皆がいて。幸せだなあ僕は。

 

 

 「豚肉の生姜焼き定食と、オレンジジュースを」

 

 

 「私もそれを」

 

 

 「かしこまりました。注文はいりまーす!」

 

 

 「ふぅー・・・気がつけばこんな時間か。あ、玉藻さん。私はチーズバーガーセットを」

 

 

 「私はサバの塩焼き定食を。金時は何を選びますか?」

 

 

 「俺っちはこのゴールデンな肉じゃが定食。うーん・・・ジャガイモの輝きが実にゴールド!」

 

 

 「あーいい汗かきましたあ。ジャガイモもですが、ゴーヤーにキュウリもいいものが出来そうです。ここの畑は規模は小さいですが害虫に悩まされないのがいいです」

 

 

 「ゴーヤー苦いんだよなあ。叔母上。もやしとかも一緒に育てない?」

 

 

 「うふふ。ピーマンはいけるのですがモードレッド様はゴーヤーが苦手ですかあ。じゃあ、今度美味しく食べられる料理を私が作りましょう」

 

 

 いつの間にやらどたばたとみんなも入ってきて食堂はさらに大盛り上がり。

 

 

 「急ぎましょう先輩。いい場所取られてアニメをベストポジションで見れなくなります! 今からホームズ君の放送時間なんです!」

 

 

 「あ、と、まってぇええ~僕足ががくがく!!」

 

 

 マシュ。最初よりだいぶアグレッシブというか表情豊かになっていないかな?




 藤丸も無事アップデート。後恋の予感も。ペペさんいたら絶対マシュの反応含めて楽しんでいるはず。


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女傑大集合だよアメリカ
リアルチート国家へ


この特異点を考えた人は話しを作る前にボーボボでも読んでいたのではないですかね。アメリカでインドって。


 「フォー。フォォーウ」

 

 

 「むふー・・」

 

 

 「うあぁー・・・・あと五分・・・あとごふぅん・・・もほふあ・・・あぶぶぶ!!!」

 

 

 心地よい眠りを味わっていた中、栗毛に目覚ましに顔じゅうを舐めまわされて、フォウ様に顔をダイブされて息が出来なくなったりと手荒な方法で目を覚ます。

 

 

 うーん・・・眠い・・・

 

 

 「どうかしましたかぁ・・・まだ、目覚ましが鳴る20分前じゃないですか」

 

 

 「フォーウ」

 

 

 「え? メール? あ、レイシフトが決まったので準備・・・場所は・・・なるほどぉ。了解です。じゃあ、栗毛とフォウ様にも朝ごはんを用意しつつ行きましょう。早起きをさせてくれて感謝します」

 

 

 目を覚まし、シャワーを浴びてから鎧姿に着替えて栗毛にフォウ様を乗せてもそもそと部屋を出る。んー・・・今回は、移動しまくりですかねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてと、これで全員揃ったかな。じゃあ話を始めよう」

 

 

 「進行はロマニ様と私シバの女王が努めますわ。気軽にシバにゃんと呼んでくだされば♡」

 

 

 「あ、あはは・・・まあ、そういうわけで。今回観測された特異点は魔術師的には驚きの場所と言っていいだろう。その場所は北アメリカ大陸。アメリカ合衆国と呼ばれる超大国だ」

 

 

 ロマニ様のそばでビシッと決めたスーツ姿ですっかりロマニ様の秘書としての風貌を見せているシバにゃんとそれにほほを赤らめつつもたじたじのロマニ様。新婚おしどり夫婦の話で伝えられる今回の特異点はアメリカ。

 

 

 「まあ、魔術的にはあんまり魅力的でもない場所でしょうけどその影響力はここ2百年以上常に大きなもの。重要性でいえばローマにも負けないでしょう」

 

 

 「なるほど。確かに建国して歴史も浅く聖杯戦争などが行われた記録もない。ですが同時に影響力は確かに。特にフランス革命などの原因にもなった独立戦争、第一次世界大戦以降の世界での影響力はまさしく世界史でも類を見ないほどの超大国」

 

 

 「僕らの国、日本でも本当にあの国の一挙手一投足が影響を与えるからなあ。経済でもアメリカが咳をすれば日本は風邪をひく。なんて皮肉もあるくらいだし」

 

 

 魔術師的には歯牙にもかけない場所ですが、カルデアという国連にも関り、大きな財力や運営を必要とする以上はどうしても関わる。そして世界史的にも切り離せない国。皆もなるほどと納得をする。

 

 

 いやあ、真面目に考えるとそうですよねえ。あんな経済規模と戦力を有しているってローマでもできなかったことですし。

 

 

 「んまあ。そんなわけで今やアメコミヒーローと科学の国というイメージだけど魔術などの土壌がないかと言われるとそうではない。ちゃんと神話もあれば精霊を降臨させるなどの魔術もある。いわゆるシャーマンというものになるかな」

 

 

 「むしろ、独特かつあっという間にその伝承などが残らなかったことを踏まえるとあちらの魔術師やそれにまつわる英霊やエネミーは何をしてくるか不明ということ。知らぬということは同時に不安をあおり、また対応が遅れます。皆様も警戒は怠ることのなきよう。ですよね。ロマニ様♡」

 

 

 「う、うん。それに、英霊の存在も確認されているのと何より範囲が広大。今までとも勝手が違えばアウトローの伝説も多い場所だ。荒事が多くなるかもしれない分気を付けてほしい」

 

 

 まあ、マフィアとかギャング、シリアルキラーに列車強盗のアウトロー、伝説的ボクサー、ガンマンなどなど今も人気を誇る面々が多数いた場所。ただまあ、同時に気になるのが時代。

 

 

 「了解しました。では、そのアメリカの時代はおおよそいつの時代になるので?」

 

 

 「1783年前後。アメリカとは言ったけど、アメリカが生まれる前の時代になる。もっと言えばこの年のイギリスとの独立戦争を終結させて、アメリカという国家の成立と歩みが始まったんだ」

 

 

 「・・・・・魔術師としてはあれだけど、研究と合理、最適を求めて突き進むというのは化学でも魔術でも同じ。探求するもの、突き進む国という意味では決して批判は出来ないのよねえ」

 

 

 「場合によっては我が国の戦士たちと戦うことになるかも。ですか。気が乗りませんが、そうでもしないといけないのなら、やるしかないですね」

 

 

 「叔母上の言うとおりだ。一応勉強はしたが、あの国は今独立できずとも必ず独立したはず。それを壊しかねないほどの何かがあるってんなら、解決しつつ聖杯をもらっていこうぜ」

 

 

 ため息をつきつつもカルデアという科学と魔術の最先端を持つという矛盾、二律背反を抱える組織の長としてはあの国にもいい所はあると思うオルガマリー様に、下手すればイギリスを守るために出向いた後にすぐさまイギリスの兵士と戦わないといけないのかあーとため息をつきつつも剣を握るアルトリア様にモードレッド様。

 

 

 とりあえずは見てみないと、いってみないとわからないとはいえ、今回はすぐに終わるものではないだろうと予想がつく。一魔術師の起こした街一つの騒動ではない。今の時点で国家規模の騒動が起きているのは想像に容易いから。

 

 

 「ええ。その上で今回は私もカルデアの皆さんに頼みたいことがありまして」

 

 

 「華奈がお願い。しかも改まって言うって珍しいね。何かあったの?」

 

 

 「そうですね。もし特異点で軍団戦、本気で暴れる場合、カルデアで警備と雑用をしている私の銀嶺隊の一部と、ちびノブたちは全員連れていって暴れます。それの許可を」

 

 

 「あーああと俺もちょっと派手にやるかもしれない。時代が時代だ。近現代の戦争ならきっとこっちのほうがいい」

 

 

 で、まあ暴れるのなら思いきりやりたいので私とストームは思いきりやりたいので銀嶺隊の戦士たちを持ち出していきたい許可を。

 

 

 モードレッド様、マシュ。もといギャラハッドとうちの部隊の部隊長も全員揃っているのでフルパワーで暴れられるでしょうし、私の直下兵の中でも最精鋭たちを出していけるでしょうし。

 

 

 あとはまあ、あれが出来そうですしねえ~

 

 

 「そうね・・・いいでしょう。カルデアには元がいるし、今回は私も行くわ。だから思いきり暴れなさい華奈。バックアップ、フォローはしてあげる」

 

 

 「感謝しますオルガマリー様」

 

 

 「まあ、なんにせよ私が私の絵に勝手に暗号仕込んだとかにしてくる愉快な国だ。何があってもおかしくない。そう言う意味では華奈の全力は出せるに越したことがない。じゃあ、今回は誰を連れていくんだい?」

 

 

 無事にうちの部隊を連れ出せる許可も出たのでレイシフトの準備をするロマニ様は今回連れ出す英霊を聞く。

 

 

 「私はストーム、沖田様ですね」

 

 

 「僕はクー・フーリン、ストーム2、信長、ジャンヌオルタ」

 

 

 「私はエミヤ、ジャンヌ・ダルクを連れていくわ」

 

 

 「あ、俺もいくぜ」

 

 

 「私も行きましょう」

 

 

 「もちろん私も。先輩の英霊ですので」

 

 

 ということでこのメンバーでアメリカにいざレイシフト。なーにがあるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「着きましたね。しかし、ここはどこかの森・・・?」

 

 

 「ふむ・・・皆離れずにこれたのはいいことですが・・・どうやら、早速騒ぎのようですよ」

 

 

 レイシフトは出来た。それはいいのですが何というか、どうやら近くで戦闘が始まっている様子。しかもかなりの大規模で。

 

 

 姿を隠せる森の中でみんながいることは本当に幸いだったというべきでしょうね。戦場のど真ん中にレイシフトしていたら出オチもいい所です。

 

 

 「確かに。しかも銃弾の音まで聞こえます。索敵するべきでしょう」

 

 

 「とりあえず見るほかないですね。この様子だと軍団戦。全く何が起きているのか」

 

 

 アルトリア様の意見に従い、皆でこそこそ木々の間を縫い、ピュンピュンと弾丸の音と怒声、怒号と銃声が響く音が大きくなるのを聞きつつ茂みに身を潜めてこっそりと顔を出せば。

 

 

 「怯むな! 栄光ある機械化兵団の精鋭たちよ! この陣地をなんとしても死守するのだ!」

 

 

 「イエス、ドミネーション・オーダー! 弾倉が空になるまで撃ち続ける覚悟であります!」

 

 

 「うぉぉおおっぉおおお!!! 殺せ、進めええ!!」

 

 

 南北戦争は愚か現代のアメリカでも実戦配備されていないアメリカンカラーなヘルタースケルターのような姿をした機械の兵士が大型マシンガンをぶっ放し、生身の兵士も見た目こそ古いがボルトアクションライフルだろうか? とにかく少なくてもこの時代にはないはずのライフルを操り、砲撃と弾丸の雨を打ち込んでいる。

 

 

 一方でもう片方の軍隊はその装備が古めかしい。具体的には私の部隊よりもずっと古い装備。ただその一人一人の兵士の戦闘能力はとても高く機械兵や銃器を持っている兵士たちの攻撃に倒れたりもするがそれでも敵陣に肉薄してその槍を、刃を突き立てる。まるで獣のごとき獰猛さと屈強な肉体。

 

 

 別時代の兵士たちが出会ったようなその異様な戦場におもわず私もみんなもポカン。

 

 

 「ええ・・・何ですかこれ。というか、あの兵士たちの顔、うーん? そっくりさん多くないです?」

 

 

 「あー・・・イヤーな予感がしてきやがった。これ、あいつらがいるとかじゃねえだろうな・・・」

 

 

 「勇猛果敢。技術と肉体のぶつかり合いですねえ」

 

 

 「うわー・・・怪物たちを迎撃するような感じで嫌だなあ」

 

 

 『君たち、観戦中悪いけど双方の軍の解析がある程度終わった。あの機械と銃で武装した兵士たちは基本生身、機械の方も魔術の香りはほぼしないものだ。

 

 

 一方で、肉弾戦を敢行している兵士たちの方は濃い魔力反応。そして極々わずかだが、英霊の反応がある。とはいえ、その反応は限りなく薄い。恐らく宝具。若しくは何らかの要因で呼ばれた名もなき兵士たちといったところだろう』

 

 

 ロマニ様達の観測結果を聞けば、なるほど納得。軍団系の宝具を使う相手の尖兵と、それから必死に守る兵士たち。

 

 

 私個人としては古風な軍団をしばきまわすか、機械兵の皆さんを助けるなりして恩を売りつつ情報を聞けるであろうあちらに話を聞いていきたい感じですが。皆さんも同じ考えの様で。

 

 

 「マスター、俺らはあの機械の部隊を助けていくべきじゃねえか?」

 

 

 「奇遇ですね。私も同意見です。でも、私たちが急に飛び出してしまえば私たちの格好も相まって敵とみなされかねません。皆興奮している状況ですしね」

 

 

 「じゃあ、隠れたまま見過ごすってことです?」

 

 

 「いいえ、こんな茂みで、私たちのことを見つけていないのなら、やれることがあるでしょう?」

 

 

 「・・・ああ・・・狙撃ね。いいんじゃないかしら? ちょうどここまで銃声でうるさいくらいです。多少変な方向から銃声が聞こえても気のせいと思うか意に介さないでしょう」

 

 

 こそこそ茂みの中に戻り、流れ弾も来ないであろう場所まで離れてからそれぞれ木々をそばにあるようにして配置。

 

 

 「そういうとおもい、ライフルをトレースしておいた。ハーキュリーというものだが、使いやすいと思う」

 

 

 「流石よエミヤ。じゃあ、ライフルを使えるメンバーはそれぞれ構えて。そして、銃を使えない、不慣れなメンバーは護衛と警戒を頼んだわよ」

 

 

 エミヤ様が用意してくれたEDFの名銃の一つハーキュリーを私達それぞれが握り、石や倒木の上に乗せ、三脚などで調整してから森の中から即席スナイパー部隊が完成。

 

 

 「攻撃開始」

 

 

 そこからは大砲の音などに合わせて弾丸を発射。戦車でも貫通するライフル弾の威力というのに反動は少なく音も砲弾の音と木々が吸収してくれるのもあって私たちの攻撃は両軍にばれることなく前時代的装備の兵士たちの横腹を食い破り、頭を吹き飛ばす。

 

 

 そうやって機械兵たちを支援していたのですが、機械兵たちの方がさがっていく。

 

 

 「後退せよ! 増援が来るまで第二防衛陣地に撤退! 急げ! 負傷兵もつれていけ!」

 

 

 どうやらどこかの部隊がダメージを受けてしまい、そこから総崩れになる前に撤退を選択した様子。私たちの支援で敵の勢いは一部減っているとはいえそれでもまるで後続も途切れないので流石に一息つきたいとなったのでしょうね。

 

 

 しかし、あそこまで肉薄している前時代的装備の兵士たちがいては弓矢で負傷したり、投石、ナイフで怪我をしてる。動けない兵士たちは撤退もうまくいきそうになさそうですね。うーん・・・・・・・

 

 

 「ストーム、リバースシューターをもって機械化兵たちの中に紛れ込むようにして撤退を助ける兵士のふりをして、迎撃とリバースシューターで負傷兵、機械の治療をしてきてください。藤丸様。ストーム2のメンバーもいいですか?」

 

 

 「俺たちは問題ない」

 

 

 「おうよ。これくらいなら朝飯前だ!」

 

 

 「しっかりとした人を撃つのは久しぶりですが、覚悟はできています」

 

 

 「ただ、藤丸君はマシュの隣にお願いしたい」

 

 

 「そこはもちろん」

 

 

 「了解。ストーム2の皆、ストーム1。頼んだよ」

 

 

 「マスターに藤丸君も了解だ。じゃ、行ってくる」

 

 

 撤退へと意識が向いているのならその中にどさくさで紛れ込むのは出来るでしょうし、負傷兵を助けてきているのでまあ、そのまま野戦病院とかに行けそうですしね。とりあえずダッシュで撤退する機械化兵たち、兵士たちの方に行くストームたちを見送り

 

 

 「じゃあ、私たちも私たちで撤退支援をしましょうか。敵はおそらく宝具で生み出されたであろう兵士たち。何の気兼ねなく、切り捨てられます!」

 

 

 「ええ、その通り!」

 

 

 私たちは私たちで森から飛び出して荒野で追撃をする前時代的装備の軍隊に襲い掛かる。私とアルトリア様が一番槍を務め、そこに続くようにモードレッド様、クー・フーリン様達と続いて刃を振るう。

 

 

 「ふっ! はぁっ!」

 

 

 「ここまで広いとまたぶっぱなせますね。カリバー!!」

 

 

 「ロンドンじゃあここまでできなかったんだ。お前ら悪いなあ! ストレス発散だぁああ!!」

 

 

 「遅い! せいっ!」

 

 

 「うわはははははは! 何じゃこいつら。面白いぐらいにバカスカ弾丸がきくぞ。ほれほれ、もっとたんまり馳走してやるわい! 顔見せついでにあの世までもっていけぇい!」

 

 

 敵兵ごと切り伏せてなお飛ぶ斬撃が。聖剣の輝きが、赤い雷が、神速の剣技が。先ほどの機械兵とは比べ物にならない弾丸の嵐が、槍が飛んでは敵兵をバッタバッタと仕留めては進撃。

 

 

 「ジャンヌは好きに動きなさい。私とエミヤは狙撃を継続。あの機械兵たちの撤退が罠だと思ってくれるくらい打ち込みなさい」

 

 

 「分かりました。では私は撤退する兵士さんを助けにストームさん達と合流を! マスターもエミヤさんも武運を」

 

 

 「ああ。それでいいと思う。では、好きに行かせてもらおうか」

 

 

 森の中からはエミヤ様とオルガマリー様の狙撃支援が火を噴き私たちに襲い掛かる敵兵たちを撃ちぬく。

 

 

 「救援完了! それじゃあ、俺たちも好きにさせてもらうぞ!」

 

 

 「ストーム2、反撃に出る! 思い切り撃ちまくれ!」

 

 

 そしてその間にリバースシューターで機械兵と負傷兵の治療を終えたストームたちも前に出て反撃開始。

 

 

 「所属不明の友軍に感謝! 火力支援をしつつの撤退をします!」

 

 

 「あの強さ、サーヴァント・タイプか。しかし、こちらを助けてくれたのは事実。この情報は持ち帰り彼らを味方だと伝えなければ! 感謝する! 戦士たちよ!」

 

 

 その行動に無事動けるようになった皆さんも撤退はしつつも支援してくれたり、残ってくれたりとしてくれる人もいて暴れまわること暫く。

 

 

 「敵兵、さがっていきます。無事撤退支援成功です!」

 

 

 「いいえ、まだですマシュ。私たちがいけなかった場所の負傷兵の皆さんを助けて野戦病院に行きますよ。栗毛、ハチ、花子、マチコ。馬車を。負傷者をどんどん乗せて治療をしますよ。所長様も手伝ってください。

 

 

 マシュ様は藤丸様の・・・ほっ!」

 

 

 逃げ帰っていく前時代的装備の軍の背中を見送りつつ、すぐさま私たちがいけなかった場所の負傷兵たちにリバースシューターや魔術。持ち込んでおいた治療道具で手当てをしつつ私の部隊から栗毛たち軍馬、狼の一部と魔猪たちを呼びだして近くの木々を組んで簡素な馬車を用意して負傷者を乗せていく。

 

 

 幸いというか、機械化兵があるほどの技術と、そのパワーを活かして負傷兵を軍が回収しているから撤退の追撃を短い間とはいえ受けたのに案外被害は少ない。

 

 

 なので急いで百名前後を救助していたら恐らく第二防衛ラインからの砲撃が飛んできたので斬撃を飛ばして対処。多分、撤退に成功した部隊から敵軍を押し返すための、撤退支援するためのものでしょうけど危うくこっちが貰うところでした。

 

 

 「さてと。第二陣地と、野戦病院の場所を教えてもらっていいですか?」

 

 

 「あ、ああ・・・感謝するよ・・・美人さん。こっちの方向だ・・・」

 

 

 治療中の負傷兵さんに方向を教えてもらい、機械化兵とうちの魔獣たちで馬車を引いて野戦病院に。はー今回の特異点。大分すごいことになっているようですねえ。




 始まりましたアメリカ。ケルトにインドにアメリカ。いやー改めても凄いメンツがそろったまさしくハリウッド映画もびっくりの規模。

 後メイヴの能力で兵士たちの遺伝子情報を取り込んで体内で複製、自分の血液を垂らしてその血泡から兵士たちを生み出すとかすごい能力ですよねえ。どれだけ男たちと遊んでいたのか。そしてそれをハジケさせまくったのがあのアメリカの特異点と。


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鋼の女

考えてみると婦長ってニコラ・テスラと同じかそれ以上に魔術の付け入るスキがない合理主義と成果を出していますよねえ。


 「次の患者を。ああ、この方なら簡単な止血と、疲労を抜くための睡眠。それと、塩分を少し多めにした食事をとるように。水は多めに取らずに。次。その方は後です。それ以上に重傷の患者を。次・・・・その腕はもう縫合も意味ないでしょう。切断します」

 

 

 とりあえず恩を売ることに成功した私たち一行は野戦病院まで負傷兵を運び、手当と情報を引き出すことをどうにかしたいので向かいましたが、そこはこの時代の野戦病院のそれではなかった。

 

 

 簡易なキャンプと言えど清潔にされており、不衛生なものは一か所に集めて焼却処分。下水などの衛生管理も行き届き、何より負傷兵を地面の上に布を置いたようなものではなく簡易ベッドの上で休ませることで体温が地面に持っていかれること、ばい菌が傷口に入らないようにするなど現代医療では当たり前。

 

 

 でもこれを正確に理解するにはもう少し先の治療のためのノウハウを使っているものでした。

 

 

 「姉上の領地、戦地での野戦病院。診療所と同じ・・・相当にすごい人がいるようですね」

 

 

 「この状況です。ブラックジャックがいたってありえない話じゃないですが、ふーむ?」

 

 

 「おーい! 新しい負傷兵が来たぞー! 応急処置はしているけど見てやってくれー!」

 

 

 私と魔獣たちはその野戦病院で指揮を執り、トリアージをしている声が女性と分かっているのでブラックジャックはいないのかもですが、何やら面白そうな人がいるのは確定。

 

 

 ストームが声をあげて負傷兵が来たことを伝えつつ、衛生兵、軍医たちを呼びつけていく。その中に先ほどの声の主が。

 

 

 「ふむ。素晴らしい応急処置。いえ、最早治療の領域ですね。ほとんどが軽傷の域、もしくは翌日には復帰できるほどのもの。で、あればベッドで休ませるよりも軽い手当と診察。その上で栄養のある食事をとってしまえば問題ない。

 

 

 素晴らしい腕前のドクターがいたのですか?」

 

 

 灰色の髪に薄桃色がすこし混じったと言えばいいのか? な色合いの髪を後ろで一つにまとめて編み込み、赤い軍服とスカート、腰には物騒な銃器と医療器具を詰め込んだバッグ。

 

 

 先ほどの治療への対処の即断即決、そしてそれを判断できる確かな眼。

 

 

 医療の世界において女性でこれを成し、そして軍服に身を置いて戦場に出向いた人は一人しか知らない。

 

 

 「貴女は・・・フローレンス・ナイチンゲールで間違いないですか?」

 

 

 「ええ。それがなにか? そんなことより治療のジャマです。貴女たちは健康なら患者を搬送したことには感謝しますが邪魔なので出ていってくれれば。ここにはまだまだ患者が来ます。そのためのスペースの確保に忙しいので」

 

 

 「うわ、凄いわね。目がイッてるわ。行きましょ、私たちの目的は情報収集でしょう?」

 

 

 「んー・・・そのほうがいいだろうな。話を聞くのが一番だぜ」

 

 

 さらりと真名を答えてくれたフローレンス様。でもそんな私たちのことは眼中にないようで次の患者の治療へと向かっていく。

 

 

 まあ、実際にここは野戦病院。邪魔をしては銃をぶっ放されてしまってもおかしくないのでここは退散。

 

 

 ここで怪我をしている人らは何と戦っているのか、この人々の陣営は何をしているのか? 今のアメリカはどうなっているのか。それを聞き出すべきでしょう。というわけで外に出て警備兵たちに話を聞くことに。

 

 

 「今日は兵士さん。先ほどは大丈夫でしたか?」

 

 

 「ああ、あんたたちはさっきの! いやー助かったよ。おかげで被害もほぼなく撤退。むしろ敵に痛い目を見せられ気が晴れたよ」

 

 

 「いえいえ。それで、私たち実は片田舎から来たものでして、この戦争の事を良く知らないのですよ。よければ教えていただいても?」

 

 

 「それくらいでよければ。そうだなあ・・・まず、なんというか今のアメリカは三つに分かれている状況だ。まずは俺たち大統王の収めるアメリカ。そしてもう一つはレジスタンスたちを取り込んで俺たちとは別行動をしている陣営。陣営とは言うが、ほぼ国のサイズでな。協力して戦うことも多い戦友だ。

 

 

 そして、三つ目だが、何やらケルトだのなんだの言って女王と狂王が収める国。こいつらが突然東海岸から現れて侵略を開始した」

 

 

 うわぁー・・・・・・・思った以上にカオス。ローマのころ以上に変な状況っていうか。

 

 

 「三国志みたいな状況だなあ。精強なケルト・・・まじで? なケルト軍と、それの侵略に対抗するためにアメリカ陣営とレジスタンス陣営。いや、最早第三国が協力してどうにか立ち向かっていると」

 

 

 「かーなり状況は悪いですがまだ踏ん張っている。土俵際少し前にじりじり押されている感じかもですねえ」

 

 

 おじさんの話を聞けばアメリカが三つに分かれて、しかも片方はイギリスじゃなくてケルトと来た。そりゃあ強いわけです。私たちより前の時代の兵士たち。雑兵であってもそこそこ動けるのも納得する。

 

 

 「おぁあああぁあああ~~~~~!! 絶対にメイヴじゃねえか! 何をやらかしたんだあの阿保! やりかねえけどさあ! そりゃああの男狂いで色情魔なら欲望のために国滅ぼしはするだろうけどよぉお」

 

 

 で、頭を抱えて悶絶するクー・フーリン。あらぁ・・・・・顔見知りでそれをするような人がいると。やっぱこの人含めてケルトはぶっ飛んでいますね。

 

 

 時代と同じ世界で生きた同郷と言ってもいい存在が、しかも顔見知りが絶賛特異点を作ってなんか王様と一緒に国を滅ぼそうとしていて魔術王に協力していまーす。ってそりゃ。私だったら気絶して思わず頭がパーンするでしょうね。

 

 

 これにはクー・フーリン様と腐れ縁のエミヤ様も何とも言えない顔で口元を抑えるほかない。

 

 

 というか、私鬼ヶ島といい知り合いが魔術王から聖杯をもらって協力しているのに悶絶したり苦悩する男性を連続で見ているんですが何でこうなるのか。音声録画したら素材に使えませんかねえ。と思わないとやってられないほど嫌な状況に私も苦笑するほかない。

 

 

 「??? ま、まあとりあえず。だ、今はアメリカ大陸は我らの陣営と、ケルト陣営で大きく二つに分かれ、南部分。メキシコだったか? に近いあたりはレジスタンス陣営が存在して戦っているというわけだ。

 

 

 で、今日の戦いもどうにか増援が来てくれて第二防衛人は守れたから感謝しか・・・!!」

 

 

 「来ましたか!」

 

 

 『え? え? あ、エネミー! 先ほどの敵が来た!』

 

 

 「敵襲! 敵襲ー!! 動けるものは銃をとれ! 敵が来たぞー!」

 

 

 急いで走ってくる伝令さんの言葉が来る前に私の勘とカルデアの方がエネミー、ケルト軍ですか。を捉えた。私たちの後をつけていたか、あるいは弱い所から刈り取るためにここを狙ったか。まあ、いいです。あっちを遠慮なくぶっ殺していいのなら遠慮なく。

 

 

 「行きますよ銀嶺隊! 藤丸様、オルガマリー様、兜首はそっちにあげます! ストーム。フェンサースタイルで、スピア6と名刀。もう一つにはミサイルです!」

 

 

 「おうよ!」

 

 

 「え!? は!?」

 

 

 「兜首・・・分かったわ。藤丸! 貴方の英霊は動かさないで。エミヤ。汚れ仕事になるわよ。いいかしら?」

 

 

 急いで銀嶺隊。2000名を呼び出してそのまま栗毛に乗って突撃。ストームには戦場をひっかきまわしてもらうための装備を用意してもらい、藤丸様達には敵の指揮官をぶっ潰す奇襲部隊の役割をお願い。

 

 

 さてさて・・・ダンカン、私、モードレッド様、マシュの部隊を出して、これでひとまず当たっていきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「進め。その先に敵陣地がある。先ほどはサーヴァントに負けたと言っていたが、それには私たちが対処する」

 

 

 「ええ。このオディナ・ディルムッドが如何なる敵も打ち払い、この槍で仕留めましょう」

 

 

 「はははははは。流石は我が最高の臣下であり雄姿。頼もしいなあ。その際は是非是非『違えては』ならぬぞ? 最後まで我が槍としてな」

 

 

 「はは・・・! それはもちろん!」

 

 

 んー? いや、敵は馬鹿ですかねえ。これでもうケルト軍は確定。しかもまあ、のんきに陣形も組まずに歩いているだけ。迎撃するだろうと暢気に構えて銃声が聞こえたら動けばいいとでも? 円卓の銀狼騎士の前でそれは・・・ただの餌です。全く。念のためにと聴力を強めていればこれですものねえ。慢心駄目絶対。

 

 

 「陣形を三又フォークに。先頭を私、ダンカン、モードレッド様。アルトリア様は私と一緒に中央に入ってもらいます。いいですか?」

 

 

 「もちろん。ふふっふふふ・・・あとくされのないブッパと暴れが出来る・・・さあ。見えてきましたね」

 

 

 「ケルトの軍団だろ? しかも早くも敵将がみえた。サクッとやってやろうぜ!」

 

 

 「敵軍がみえた。数は・・・3万!」

 

 

 「問題ありません。陣形を作って敵の将軍首を取って帰りますよ!」

 

 

 お二人も気合ばっちり。左翼に配置したダンカンも問題なさそうですし。とりあえず密集陣形を作り三又の槍の形態に。

 

 

 「む。敵襲! しかも騎馬・・・いや、狼に魔猪に乗っています!」

 

 

 「打って出てきたか! しかし、なんだそれは? オオカミやあの魔猪を懐かせているだと!? 方陣を組め! 伍を組んで備えろ!」

 

 

 「間に合いません! 敵の足が速すぎる! ぶつかります!」

 

 

 敵兵が気付くももう遅い。加速の時間をくれた分だけうちの部隊は早い。まして・・・乱戦激突突破戦なら・・・・・・・・

 

 

 「エクス・・・・・カリバー!!! カリバー!! もういっちょぉお!!」

 

 

 「おらおらおらぁああ!! 剣で喧嘩してやるからいくらでもかかってこいやぁ!!」

 

 

 「ぶっ殺せ!」

 

 

 「「「オォオオオオオオ!!!」」」

 

 

 うちの軍隊は、負け無しなんですよ!! さあ、油断していたツケを払ってもらいましょう。

 

 

 「そらそらそらぁ! 敵将はあの金髪男にあのイケメン! 投槍! 攻め上がりなさい!」

 

 

 「いよっしゃあああ!! 手柄首は俺のものだぁああ!!」

 

 

 「私よぉお!」

 

 

 「イケメンコンビで将軍なのね。嫌いじゃないわ!」

 

 

 「ぬぐっ! く! 皆のもの! 不意を突かれようとも勇猛なるケルト兵がぶつかり合いで負けるな! くっ・・・ぐ! 槍の雨が絶えない! 一度下がりつつ、陣形を組みなおしてぶつかりなおせ!」

 

 

 「主殿は一度お下がりください! 陣形はもはや半壊! しかもあの敵軍。強い、我らを集中的に狙うことで混乱を解けないようにしながら錐型突撃を三つに分けて攻め上がるほど。もはや前線の兵は捨てて仕切り直すほか!」

 

 

 ほほう。うちの部隊の意図がわかりますか。三つの錘型で突撃したこれは突破力よりも、前線の兵士を殺す、潰すことに特化した陣形。三つの刃で切り崩された敵軍はそのまま挟み撃ちの形で刃の間ですりつぶされ、後ろに逃げようにも友軍が邪魔をしてそれを容易に許さない。

 

 

 その上で見る。うちの軍が殺すさまを。三方向包囲されたうえで魔獣たちにも食い殺され、喉笛をかみちぎられ、はらわたをぶち抜かれて広げ、踏み砕かれるさまをありありと。これにビビれば進むこの三つの刃殺し間を進めながら敵軍の頭をぶち抜くために突っ込み続けるだけです。

 

 

 それを理解しているあのイケメンはまあ見どころはありますし、その大将も下手に下がればむしろ狩場が広がるのを理解している。うーん。流石生前に仲たがいしたコンビ。互いに数秒慌てる間に数百以上の兵士の首が飛ぶ。

 

 

 この場合、後ろに思いきり逃げるか左右どちらかに逃げて逆に挟み撃ちにしてしまうなりしてしまうのが正解なんですが、それも鉄壁の守りを見せるギャラハッドの部隊を後続に備えさせているので生身で鉄の城壁に体当たりするようなもの。

 

 

 さらにさらに、今は最新の英雄もいるんですよね♪

 

 

 「ミサイルロックオン。さあ、吹っ飛ばすぜ!」

 

 

 「ぎゃぁあああああっああああ!!? な、なんだ! 空から爆発・・ぐふえ!?」

 

 

 「今度はこれをお見舞いするぞ! こちとら異星の人類滅ぼしているんだ。今更人間相手だろうと敵に向ける刃に躊躇はねえ!」

 

 

 ハイサイクル・ハウンドとFGXR高高度強襲ミサイルでの空から降り注ぐミサイルの攻撃に吹っ飛ぶ敵陣営。そして着地するはフェンサースタイル。まさしく動く黒鉄の要塞と言ってもいいストーム。

 

 

 ミサイルを撃った後に次に持った武器は電刃刀 八閃 とフラッシング・スピアMW6 の近接の鬼の組み合わせ。8つの斬撃のエネルギーをぶっ飛ばす大太刀と一度に6個の飛ぶ槍をマシンガンのようにぶっぱなす質量とエネルギーの暴力の乱打は数十メートルサイズの怪生物ですらも耐えきれない代物。

 

 

 これを神代とはいえうちの部隊より格下もいいところな雑兵に食らわせてしまえばどうなるか。簡単スプラッタショー、EDF版コマンドーの開幕です。爆発するミサイル! はじける鉄の筋肉! 飛び散る血潮! 戦う男はかっこいいぞー!

 

 

 まるで敵兵がいないように、オモチャやドミノのようにばっさばっさと肉片に早変わりしつつ吹っ飛んでいくのだから痛快。まあ、もとより像とかそれ以上の怪物専用の兵器を人間にぶっぱなせばそうなります。

 

 

 「一騎打ちする価値もこいつらにはない! みんなで囲んで殺しなさい!」

 

 

 「「「イェエエエエェエエエイイイッ!!!」」」

 

 

 「姉上のご褒美は私のもんだー!!」

 

 

 「叔母上にもダンカンにも、ストームにも負けるか! 飯は俺のもんだ!!」

 

 

 「なぬ! マスターの飯は俺の!」

 

 

 「「「「(俺)私らのもんだー!! その首寄越せええ!!」」」」

 

 

 「な、なんだこいつらは! どっちが侵略者か、攻めているのかまるで分らんぞ!」

 

 

 「どうやらわれらはとんでもない怪物の尾を踏んでしまったようだな! 迎え撃つぞ!」

 

 

 真っ向からぶっ潰して進む私たちと、敵陣の真横から豪快に一人台風となって進むストームで最早敵も立ち向かうほかないと向かってくる。そしてこっちも私の作る手作り料理やご褒美求めてさらに加速。

 

 

 金髪イケメンが私たちの方に意識を向けるその瞬間。

 

 

 「おいおい・・・背中がお留守だぜ、オラァ!!」

 

 

 ストーム1が暴れ散らしておいた場所から縫うように迫っていたクー・フーリンがその朱槍がディルムッドが主と仰ぐ男。恐らくはフィン・マックールの心臓と、頭。見事に霊核のある場所でもある弱点をぶち抜いて即死。

 

 

 「主! おのれ・・・!」

 

 

 「心配している暇があるので?」

 

 

 「な、カハッ・・・・! お、の・・・!」

 

 

 そしてディルムッドの方もフィンの方に意識を向けた瞬間に両手の槍を手首事切り落とし、遠くからエミヤ様の矢がこれまた辞世の句も残せぬ合間に眉間と心臓をぶち抜いて無事終了。

 

 

 「あらあら・・・残りは残飯処理になりますが、まあいいです。精々、逃げ回りなさいね?」

 

 

 あっという間に自分の軍の将軍がそろって二人もやられたことに混乱しているその間隙の間も私たちの攻撃は緩むことはなく、エミヤと一緒に待機していたジャンヌオルタ様がプロフェッサー様からもらっていたグラントMTZを乱射。

 

 

 「ひ・・・退け! 退けー!! こ、こんな滅茶苦茶な奴らにつき・・・あばふっ!」

 

 

 「ひでぶっ!」

 

 

 「たわばっ!」

 

 

 「ま、待ってくれ! おいてかないでくれ・・・ぎゃぁあああああっああああ!!!!」

 

 

 爆炎に巻き込まれて吹っ飛ぶもの。私たちの軍に切り殺され、踏み殺され、穿ちぬかれ、魔獣たちの餌になり、追撃もしばらくして敵兵を9割8分皆殺しした後に追撃は終了。

 

 

 「これで下手な兵士よりこっちの方に目を向けてくれるので被害も減ればいいのですがねえ」

 

 

 とりあえずアメリカでの最初の手柄はおそらくケルト神話でのディルムッド・オディナとフィン・マックールの二騎。悪くはないですね。さてさて、野戦病院に戻りますかあ~




 史実の方がぶっ飛びしている方。いやほんと凄いですよねえ。医療においてこの人の功績はでかすぎる。


 今回のストームの武装

 FGXR高高度強襲ミサイル ハイサイクル・ハウンド

 電刃刀 八閃 フラッシング・スピアMW6


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物騒な話

 ~カルデア~


 ロマニ「えええ・・・・一刻もたたない間に2000で3万のケルト兵とディルムッドと思われる英霊、フィン・マックールと思われる英霊を瞬殺・・・これが銀嶺隊とストーム1が合わさることの強さ・・・」


 シバにゃん「いやはや、滅茶苦茶ですね。ひたすらに攻撃特化の陣形とはいえ本来は3500騎いるうちの2000騎だけで敵本陣までぶち抜き一騎たりとも離脱者なし。シンプルな強さもですが兵法の基礎も忘れない。お義姉様は昔からこうだったので?」


 ロマニ「お、お義姉様?」


 シバにゃん「ん? ええ、だったロマニ様の姉のような方なら私にとってもお義姉様ですもの。ささ、紅茶はありますので喉の渇きも心配せずに教えてくださいませ」


 ロマニ「う、うーん。とは言っても、ここの前所長と一緒にいた時はそもそもそこまでの大規模な軍団戦はしなかったし、ローマで暴れはしたけど、フォローに回っていたからね。完全に銀嶺隊とカルデアの面々だけで暴れたのは本当に少ない」


 シバにゃん「つまりはまだまだあの部隊には引き出しがあり、しかもマシュさんやモードレッドさんもいることでさらにキレが上がると?」


 ロマニ「それは間違いないね。何せ今まで銀嶺隊は2人の部隊長を欠いたままだった。それは今もアヴァロンで生きていて英霊の座にはいないモードレッド。そしてマシュの中に宿る華奈の養子ギャラハッド。その二人がしっかりと揃い、アーサー王にストーム1や英霊たちがいる。きっとまたとんでもないことをしでかすよ」


 シバにゃん「なるほど。では私もお側で見させていただきますね? あ、職員の皆様にもスイーツの差し入れを持ってきますので」


 ロマニ「あ、助かるよ。今日のスイーツは華奈特製のバウムクーヘン。紅茶に合うからうれしいなあ」





 改めて銀嶺隊の軍容


 部隊総数 人 3500 魔獣(狼、猪、馬、ワイバーン) 3502


 隊長 華奈 500騎 役割 主攻、助攻、奇襲、強襲、遊撃、工兵、兵站管理


 部隊長 


 ダンカン隊 500騎 役割 主攻、助攻、強襲


 ヤマジ隊 500騎 役割 後方での作戦指揮、援軍配備、工兵、守備、兵站管理


 アンナ隊 502騎(2はワイバーンのレギアとイネンナ) 役割 魔術支援、遊撃、ヤマジ隊の補佐、増援、奇襲、兵站管理


 クラーク隊 500騎 役割 遊撃、支援、守備、助攻


 モードレッド隊 500騎 役割 支援、遊撃、強襲、助攻、魔術支援


 ギャラハッド(現在はマシュ)隊 500騎 役割 守備、部隊配置転換時の繋ぎ、工兵、助攻


 「ふぅー・・・・・んー肩慣らしにもなりやしない。全く油断した敵兵は魔獣のおやつですねえ」

 

 

 「あ、あんたたち何者なんだ・・・!」

 

 

 「通りすがりの英霊。あーサーヴァント・タイプと言えばわかりますか?」

 

 

 あの後結局しばらく下がって陣地を敷いてケルト兵の報復が来るかを待っていましたが20分待っても来なかったので野戦病院に戻ることに。

 

 

 で、機械兵があるほどに技術のあるここの軍隊。私たちの戦いの様子を見ていた人もいたようでして2000騎ちょいで3万の敵軍をほぼほぼ皆殺しにしたことに驚かれたりドン引きされたり、歓喜されたりで大騒ぎ。

 

 

 いやあ、私たちは弱い敵をしばきまわして油断していた英霊の首を狩っただけですけどもねえ。

 

 

 それよりもまず話したい人がいるので歓喜に沸く野戦病院の皆様にはうちの部隊に対応を任せておいてと。

 

 

 「少しフローレンス様に会ってきます。何というか、彼女が必要な気がしますので」

 

 

 「む? おう。それと先生。うちの軍医チームも動かしていいか?」

 

 

 「ええ。思ったより時間も空きましたし、どのみちすこし話し合いをします。その間に一人でも元気にさせてあげてください」

 

 

 モードレッド様に現場の対処を頼んでおき、私の方はフローレンス様のいるテントに。

 

 

 「フローレンス様。一つ話をしたいのですが」

 

 

 「何の用です。私は今治療の準備に忙しく・・・」

 

 

 「その治療の件ですね。もっと言えば、この状況への根本的なものへの。どうです?」

 

 

 「・・・どの件での治療でしょうか?」

 

 

 「国と戦争」

 

 

 「分かりました。では話を聞きましょう」

 

 

 「私の方の軍医チームを動かして貴女のいない間も治療の手は休ませません。そちらの医療への技術や理解は全員理解していますので」

 

 

 流石、ここらへんは本人が学者としても名うての天才になれるほどの才女。すぐさま私の話を見抜きましたか。テントを出て話をする間もうちの軍医、衛生兵たちの治療の様子を見せてフローレンス様が話しても大丈夫というのを見せつつ。話に。

 

 

 「まあ、ざっくりといいましょう。フローレンス様。私たちと一緒に国の病を治すために私たちと来てください」

 

 

 「貴女は今も国の病といいましたが、それは戦争の事でいいのですか?」

 

 

 「ええ。今この国は戦争という病にかかり、そして国を支える国民達を失い、怪我をするという症状が起きています。フローレンス様はその怪我をした人たちを救うために献身していますが、はっきり言いましょうか。そんなことをしたとして、この戦争がいつ終わるか、どうやってしまえばいいかわかっていますか?」

 

 

 「・・・・・・・目の前の患者を助け続ければ、いつか・・・」

 

 

 「そのいつか、を待つよりも、一日でも早くこの戦争を終わらせて未来に生まれるであろう患者を生み出さないためにこの戦争を終わらせるために貴女が動くべきなのです。その手腕でかつてのクリミア戦争で野戦病院を用意して、女王陛下たちを動かせたその動きは感服しますし敬意を払います。

 

 

 しかし、それの同じことをしたとして今回も通用するとは限りません。敵はいまだ交渉の席につかず、今も猛威を振るう。その間お上同士の話し合いを待ちながら増え続ける患者をあなたの身一つで助けると? 前線の情報と、停戦、交渉、譲歩の話は入ってきていますか?」

 

 

 「いいえ、はっきり言って、常に戦線は苛烈であり、この野戦病院も何度転移したか。なるほど。つまりはそれ自体を止めるために私に看護師ではなく軍医、衛生兵としてより正式に軍に入れと」

 

 

 「そうです。フローレンス様。生前のように病院経営をしつつ上の采配を待つのではなく、貴女自身も動いてこの戦争を早く終わらせるために私たちとともに戦うことをお願いしたい。そして、目の前で行われている治療の腕と、先ほどケルト軍3万を屠ってきた強さを考えて判断を」

 

 

 生前の行いもまさしく苛烈。家柄や行動力、本人の才覚と努力も相まって一個人で成し遂げたものとは思えないもの。しかもあの時代に患者の個人情報の保護にも目を向けるというのはすさまじすぎる。だけどそれを今ここで、英霊ゆえの体力をもってしても変わることはないどころか悪化する。

 

 

 彼女もうすうす考えていた、感じていたんでしょうね。生前に経験した戦争とは違うもの。自分の治療の方針を変えないと、対処するべき対象を変えないとどうにもならない。と。

 

 

 しばらく。彼女にとっては大分考え込んだうえで彼女、もといフローレンス様は私の目を見て。

 

 

 「分かりました。貴女の部隊に入りましょう。そしてこの医療技術も、対応も素晴らしい。これからはドクターと呼ばせていただきます。それと、一応お名前を」

 

 

 「よろしくお願いしますフローレンス様。私は船坂華奈。気軽に華奈でも、ドクターでもお好きなように」

 

 

 互いに頭を下げて仲間になることを合意。うん。とりあえず現場の兵士たちからの信頼をもって、敵兵と英霊をしばきまわして、仲間に看護師の英霊を仲間に。初日でこれはいい感じです。

 

 

 「では、私がここを離れるに至って皆さんに引継ぎと治療法、対処への講義をしてきます。その間この野戦病院の警護、ドクターたちが動けない間患者の対応をお願いします」

 

 

 そういってすぐさまテントに戻り軍医、衛生兵たちを集めて話を始めるフローレンス様。数発弾丸が飛んで、地面を殴ったような音が聞こえたのは気のせいにしておきましょう。

 

 

 「銀嶺隊。治療チームは軍医の皆さんがいない間にサクッと魔術や治療薬を用いて手当てを! そしてアンナ様の魔術部隊はここ一辺の野戦病院の浄化術式を。私達からもお礼と筋を通す意味でも」

 

 

 「了解したわ」

 

 

 アンナ様の魔術部隊も動き、みるみる負傷兵たちが復帰していくのを見つつとりあえずサンドイッチでも作るかなあーと考えていると。

 

 

 「やれやれ。英霊をしばきまわし、軍を叩きつぶしたという大戦果を聞いてまさかと思ったけど、同時に納得。円卓の騎士。しかもその中でも最強格じゃないの」

 

 

 サンドイッチを作りつつ待っているとケルト軍の来た方向とは逆。つまりは大統王のいる陣地から来た使い・・・いえ、この魔力と風貌は英霊ですか。アメシストを思わせる髪をボブカットくらいに伸ばし、瞳もアメシスト色。黒を基調に赤を入れた超ミニスカ、ノースリーブに萌え袖のスレンダー少女。うーん・・・可愛い。そして背後にはアメリカンスタイルなヘルタースケルターな機械兵が数機? 数人。

 

 

 何より、特濃で強い気配を放つのは白髪の髪を少しオシャレに伸ばし、金の槍に防具。黒い服? をつけた色男。胸にある宝珠が少し気になるけど、何よりこの強さは戦闘態勢は愚か警戒もさしていないのに私たち全員が察知してしまうほど。

 

 

 間違いなく英霊の中でも武力で飛びぬけた存在ですね。

 

 

 「どなたさまです? お昼ご飯でしたらちゃんと並んでもらいに来てくださいね?」

 

 

 「あ、私はサーモンサンド・・じゃなくて! 私は大統王のご意見番をしている英霊よ。で、今回はここずっとじりじりと押されている中での大勝利を聞いて勝報に対する労いと感謝。そしてその戦力や作戦を聞きに来たんだけど。

 

 

 円卓の狼。その速度と火力は比類なきもの。個性派をまとめ上げて自身も怪物と言わしめたカナ。貴女と会えるとはね」

 

 

 うわっちゃ。私の存在もうばれちゃった。早すぎません?

 

 

 「えーと。あたりですけど、まさかこうも早くばれちゃうとは」

 

 

 「騎士の格好をして、美しい銀髪に美貌、騎士なのに刀を腰に下げている。更にはその銀の狼を彫り込んだ鎧に青い狼の旗。流石に見る人が見れば一目瞭然よ」

 

 

 「ですかぁー・・・で、その上で勧誘でもしようって腹積もりです?」

 

 

 「そうね。単刀直入に言えばそうよ。その戦力を活かしてケルト軍を蹴散らしてほしいのと、出来ればフローレンスを連れて行かないでほしいの」

 

 

 『そうはいってもなあ。既にこっちは話しを決めているし』

 

 

 「失礼。そちらの意見も分かります。ただ、それでもナイチンゲールさんは私たちのもとに来て特異点解決に動くつもりです。そちらの迷惑にはならないようにしますのでナイチンゲールさんはこちらにいさせてほしいのです」

 

 

 目的は勧誘と知って、正直手間が省けたと考えるか増えたと考えるか。ケルト軍はぶっ潰すべき対象なのは分かる。で、残りのレジスタンスと大統王の内一つから、しかも側近らしい人が来ている。アメリカで王様になっているという変わり種の正体を見極めるべきか、それともあれよあれよとこの国の組織に入れられて雁字搦めになるか。

 

 

 私の縮地は知られていない以上少数だけで顔出しをしてから抜け出すときは一気に。というのもできるんですが・・・うーん。

 

 

 「まあ、ちゃんと互いに話を通しているのは分かるわ。あの子早々話を聞くタイプじゃないからその上で行動を共にできるよう説得したというのはそれだけ筋が通っているのでしょうね。その上で、国として、特異点を守りつつケルト軍の進撃を阻むためにも頼んでいるの」

 

 

 「ごちゃごちゃうるさいわねえ。勝手に出てきて、今まで負けっぱなしの負け犬が勝ち馬に乗ろうとしている割には図々しいんじゃないの?」

 

 

 「そうじゃのぉ。話を聞くにしても、ちぃーとこちらの言い分も聞いてもらわんとなあ? 後ろの用心棒らが頼りなんじゃろうが、暴力だけで通すのならケルト軍と変わらんぞ?」

 

 

 『ストップストップ!! 暴力反対! そちらのレディも、オルタ君も信長君も抑えて抑えて! 行動力ある女性の英霊の皆がそろうとあっという間に修羅場だなあ! 華奈もどう・・・あ、いや考えていいから暴れないで! 君が一番やばいんだった!』

 

 

 後で覚えていなさいロマニ様。で、まあ、うん。既に沖田様が背後から不意打ちの構えで私に合図を求めていますし、銀嶺隊も既に臨戦態勢。唯一現代人のストームチームと藤丸様、マシュ様は冷静ですがこのふっ賭けには皆暴れようとしているのがありあり。

 

 

 「ー・・・・作戦ターイム!」

 

 

 「・・・認めるっ!!」

 

 

 タイムをもらいとりあえず少し離れたところでみんなを集める。銀嶺隊の皆の分のサンドイッチを作りつつ。

 

 

 「でー・・・どうしましょうか?」

 

 

 「私としては反対です。何というか、ネロ陛下のような方とは違うせいかギャラハッドさんがやめておけと言っているようで」

 

 

 「私も反対ね。いきなり上から物を言うけど、どうせ自分よりも後ろの取り巻きたちで脅すだけでしょう? それよりはとりあえずもう一つのレジスタンスの集まりを見てみたいわね。二大大国に挟まれながらうまい具合にしているやつが気になる」

 

 

 「わしは・・・折衷案じゃな。出来れば大統王とやらの顔を拝んで見極めた後にどう動くかを見たい。ただ全員ではいかん。一部だけで。な」

 

 

 「僕は賛成。一応色々話を聞けるかもしれないし」

 

 

 「俺はどっちでもいいぜ」

 

 

 「俺は信長と同じ意見だ」

 

 

 「私は賛成ですねえ。あちらに協力するついでに資金や武器を引き出せれば楽に戦えるのでは?」

 

 

 「うーん・・・組織のバックアップは必要よねえ・・・ただ、かといって素直に受けるべきかどうか・・・」

 

 

 みんなであーだこーだと聞けばうまい具合に敵を砕きたいではあるけど、かといって大統王に頼り過ぎず、でもどんな奴か見てみたい。最初からいきなりああいう接触なのもあってちょっと不信感が出ていますね皆さん。

 

 

 ふむ・・・で、この中で一番いいのは・・・信長様の意見。私も同意見ですし、なら。

 

 

 「じゃあ、こういうのはどうです? 折衷案で大統王に会いに行きます。まずは話を。と。ただしそれは私とストームと藤丸様。カルデアのマスター二人、そして銀嶺隊の隊長とその英霊が行くので飲んでもらえるかと。

 

 

 で、私たちが出向いている間は皆さんに前線でケルト軍を対処しつつ、レジスタンスたちの情報を集める。一応協力はしますよーって姿勢を示すために前線にいる兵士たちと協力しつつ」

 

 

 「ふむ・・・姉上とストームなら問題ないとは思いますし。そうしますか」

 

 

 「ただ、何かあれば俺たちに行ってくれよ! 先生に何かあったらここに来た意味がねえ!」

 

 

 『意見はまとまったようだね。とりあえず、その意見でいいかを聞いてみようか』

 

 

 ロマニ様の言葉が作戦タイムが終わり、意見もこれでいいかとなったのでお開き。サンドイッチを栗毛にあげて撫でた後に女性の方に。

 

 

 「ひとまず、私の部隊と戦士たちは前線においてケルト軍の攻撃を凌ぎ、そちらの軍を助けます。その間に私と、藤丸様のカルデアのマスター2名、そして一応の護衛としてストームを一人の計三人でついていく。ということはできないですか?」

 

 

 「ふむ・・・・うーん・・・できればフローレンスやほかの子たちも合わせたいけど・・・」

 

 

 「エレナ。今は欲を張るな。どうせすぐに分かることだ。条件を飲もう」

 

 

 しばらく相談を重ね。私たちの意見を飲む形でエレナ様は私たちを大統王のもとに連れていくことに。ふぅ。よかったよかった。




 真面目にエレナとエジソンってほんと初見で見抜けって無理ですよね。


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華奈「英霊・・・英霊?」

 華奈「あ、信長様。二人に私の部隊の指揮権を預けておきます」


 信長「おう! ・・・まじ?」


 華奈「で、采配に関してはアルトリア様に預けますので、信長様とアルトリア様お二人で銀嶺隊をどう動かすか、私たちがいない間カルデアの部隊としてどう動くか。まあ考えておいてくださいな」


 アルトリア「了解です。とはいえ、まあー留守番するくらいでしょうから、ひとまず近くの森で何か使えそうなものでも採取しておきます」


 「さて。姉上たちが行きましたが。今日はもう戦いはないですかねえ・・・」

 

 

 「もう夜が来るしのお。ケルト軍と言えども夜襲の準備が無くては被害が増すばかりじゃろ」

 

 

 姉上から軍権を託されましたが、私の直感と、アンナの部隊に索敵をさせても敵が来る様子はない。いくらケルトの戦士と言えども全員が英霊、サーヴァントというわけではなく、何より下手にここに攻められないと判断して野営でもしているのだろう。

 

 

 私の目からは見えない場所に陣地を構えるあたり、あちらの方も大統王の大砲や銃弾も気にしているのか。

 

 

 「うーん。それじゃ、こっちから打って出るってのは無し?」

 

 

 「銀嶺隊だけならそれくらいお茶の子さいさい。とはいえ、俺たちが前に出る間はここの病院ががら空きになるからなあ。俺らの突破力を見ていた相手が会えてすり抜けてから背後に回って挟み撃ち。

 

 

 その際にここの病院を潰すとか、大砲をくすねてとかされたら流石に先生に面目が立たねえ」

 

 

 「夜襲・・・いいとは思うんですがねえ」

 

 

 聖女とは思えない脳筋思考になんやかんや姉妹見たいですねえと思いつつ、モードレッドの意見に同意。敵の火力が高い場合、あえていなしつつ深くまで進ませたところで包囲殲滅を狙う。という策もある。

 

 

 姉上の部隊ならそれも軽々壊す、対応もできなくはないし、しかもこの英霊の面々だ。粘れる。けど、この戦争は自分たちのものだけではない。先頭の余波があちこちに伝播して前線広域で大規模な乱戦になる可能性も捨てきれない。

 

 

 「夜襲は効果があるが、同時に敵の物資や食料もある。つまりは気力を養い回復している状態でもある。ましてや数が違う相手。下手につつくよりはこっちの有利な陣地で防御の有利性を活かしていくほうがいい」

 

 

 「そういうことです。それに夜襲や不意打ちはあちらも得意戦術としている分こちらの足を見ている分警戒しているでしょう。今夜は森の動物たちを食べるための罠の設置と、防衛陣地の設置をして休みましょう」

 

 

 なのでま、やれることは姉上たちが帰るまでの間に病院前に私たち以外の兵士たちも使える防御陣地を作って、あとはレジスタンスの方に合流をしてみる。

 

 

 「もどったよ~クマとウサギ、山菜と薬草を見つけた。罠も設置してきたから今日は鍋をつつこうか」

 

 

 とりあえず今後の方針を決めて野営の準備をしていると先に森に入っていたダンカンが持ってきてくれた大量のウサギと丸々と太った熊。そして荷車一杯の山菜。アンナの部隊で用意した水もあるし、まあ、スープを作るくらいなら問題ないですか。

 

 

 食事の方も、野営の準備も良し。そうなると疑問が頭に浮かぶ。

 

 

 「ですね。あ、熊の胆は胃薬になるのでそれは野戦病院に分けましょうか。で、クー・フーリン。貴方が言っていたメイヴ。現在のケルト軍を率いているかもしれない女王。ですよね? どのような英霊なのです?」

 

 

 「ん? あー・・・そうだな。知っておかねえといけねえか。はっきりと言えばいい女だろうけど、とにかく自分に正直、我がままでとんでもねえことをすることもしばしばな奴だよ」

 

 

 『ケルト神話、アルスター伝説に登場するコノートの女王だね。財を狙いアルスター伝説でも大規模の戦争を起こしたり、夫とライバルだったり、破天荒なエピソードには事欠かないよ。妖精の女王マブと同一視されることもあるんだけど、それも納得なほどの交友関係と行動力だ』

 

 

 「んで、まあー・・・要はアイツ生前から自分の望みと、欲しいものがあれば戦争をやらかす。俺らの時代はそういうものだったが、なかでもアイツは自由だった。男もとっかえひっかえ。男接だけで固めた近衛兵、親衛隊を作ったりでなあ」

 

 

 「え・・・あの・・・女王。ですよね?」

 

 

 ・・・一応知ってはいましたが、改めて聞くとすさまじいとしか言えないですね。マシュが思わず聞いてしまうのも分かります。火遊び愛人を持つのはまあ貴族でも珍しくないというか有名。とはいえ神話時代とはいえ一国の女王が愛人を大量に持ってしかも遊びまくり。

 

 

 後継者問題や国の事は大丈夫か? と。というか夫ともライバルという関係性が既にすごすぎる。モードレッドも宇宙猫になっていますし。

 

 

 「ああ、女王だ。だがそんなのは関係ねえよ。やりたいからヤル。そう言うやつだアイツは」

 

 

 「貴様も大概だがな」

 

 

 「あんだとぉ!?」

 

 

 「四人の女性と関係を持ち、しかもうち一人は一騎打ちで倒して認めさせたのだろう? やりたいからヤる。貴様の言うことまんまだ」

 

 

 「ぬぐっ、というか師匠をカウントすんな! むしろ怖気が走るわ! それにアイツとは規模が違う!!」

 

 

 まあ、クー・フーリンの犬っぷりとおつらい過去の方は置いておくとして・・・

 

 

 「その話は後で酒の肴にするとして」

 

 

 「すんな!」

 

 

 「そちらと関係を持つ、知り合いの女王や神の血を引く女性は多いと思いますが、なんでメイヴが主犯だと確信したので?」

 

 

 「そうだったな。そっちが本題だった。俺もあくまでうわさでしか聞いたことがねえが、あいつは多くの兵士の母と呼ばれていたんだが、実際に腹を痛めてその兵士たちを産んだわけではねえ。あ、一応腹を痛めて産んだ子はいるようだけどな?

 

 

 で、なんでそう呼ばれるかってーとアイツは自分と関係を持った相手の精液とか、今でいうと遺伝子情報か。それを体に取り込んだ後に人差し指の先を刃物で傷つけて、その血からその関係を持つ兵士の複製が生まれてくる。はっきり言えば複製工場みたいなことをできるんだよ」

 

 

 「なるほど。それで姉上がそっくりさんが多いとツッコんでいたわけです」

 

 

 『いやいやいや! それ相当やばいよね!? 華奈たちは瞬殺していたけど神話時代の兵士をいくらでも生み出せるってことだよ!? どおりで剣やら槍、弓矢であの弾丸の雨あられの中に突っ込んでここまで戦えるわけだよ!』

 

 

 

 「そ、それがあれば・・・! い、いや流石にクローンはな・・・」

 

 

 「でも、為政者が軍を操る上ではもってこいですね・・・手段の是非はまだしも合理的かつ早い・・・ストームチームのクローン・・・」

 

 

 「それ、スプリガンとペイルウィングのストーム1は駄目じゃない?」

 

 

 「何じゃその能力!! そんな能力あれば馬廻りとか強い兵士を固められるのに! ズル! ズルじゃろそれ!! コスパ最強で精鋭を生み出せるって羨ましぃいいいいいい~~~~~!!!」

 

 

 「ノッブが発狂しています。まあ、気持ちはわかります。アメリカの広い大地をあそこまで制圧できる兵士たちをたくさん・・・これがあれば新選組も・・・あ、やめましょう。土方さんの軍団とか考えたら頭痛くなり・・・コフッ!」

 

 

 「ご飯できたわよ~」

 

 

 まさしく兵士たちにとっての母であり支配する女王の能力。勇士ひしめくケルト神話の中でも納得の女傑っぷりです。そして、ますます発狂する面々にこのくらいの騒ぎはなれているので出来上がったジビエスープを持ってきてくれるアンナ。

 

 

 ほふぅ・・・荒野は冷えるので焚火とスープの温かさ、肉の味と山菜の味が染みる・・・

 

 

 とりあえず騒ぎつつもみんなもスープを取り、パンをかじってワイワイ野営を満喫中。

 

 

 「まあ、とはいえその中で英霊をしばきまわせたのと、真面目にそれゆえの崩し方は思いついたので今は休みましょう。ところで、ナイチンゲールはどこです?」

 

 

 「あ、それならカルデアから持ってきた治療や応急手当の本、薬草の効能や銀嶺隊の野戦病院の準備のあれこれをまとめたマニュアルに目を通しています。少し前まですぐに動こうと暴れる勢いでしたが、知識を吸収すると言ってまるで椅子や机と溶接したかのように動きません」

 

 

 「ふむ。スープとドリンクを持っていきますか。英霊とはいえ食事による魔力補給と、気持ちの娯楽、癒しはあって損はなし」

 

 

 あの美貌・・・看護師。ライバルになりそうな気もしますが仲間ですしね。今は新しい仲間と一緒にローマぶりの野営を楽しみましょう。あー魔獣のモフモフとスープ最高。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「に、しても助かったわ。カルナが負けないでしょうけどあそこで暴れて余計な被害を出したくなかったからね」

 

 

 のんびり快適な場所に揺られてぽっこぽこ。というわけではなくヘルタースケルターの足をタイヤにした馬車みたいなもの? にけん引されての移動。何でも大統王の側近や将官たちを移動させるときにしか使わない数少ないものだとか。

 

 

 で、エレナ様は私たちと事を荒げずに済んでよかった。と勝つこと前提で話している。いやまあ、インドの大英雄ですし、しかもその原点でもあまりの強さに搦手で封殺しまくって殺す程でしたけどねえ。でもそれは思い上がり。

 

 

 「いや、私とストーム、大尉様達がいればその時点で負けていましたよカルナ様」

 

 

 「え?」

 

 

 「だって、ストームチーム、インドの神話の神様の一角ぶち殺していますし」

 

 

 実際はタイムマシンで数千年前に人類を見たさに時間旅行した銀の人。生き恥ペプシマンたちでしょうけど。でも結局世界を作り替えるようなことをしていましたし、伝承の主を潰したという意味でも怪物ですからねえ。

 

 

 「もっと言えばヴィマナに乗る神様を。ですね」

 

 

 「・・・・・・ええ・・・」

 

 

 「幽霊の正体見たり枯れ尾花。となるどころか時空も操る別ベクトルでやばかったけどなあ。その神様もどき」

 

 

 「なるほど。だからか。神殺しの気配を感じた」

 

 

 だからまあ、神様、神話体系に関わる英霊は数あれど、インド系は特にストームの特攻スキルや経験がぶっ刺さる。というか多分経験していない相手がほぼいない。そして全員ぶち殺している。

 

 

 「ただまあ、せっかく守った病院の皆さんの前で自分たちの心の支えと争い、場を荒らすのも嫌だったので。暴れるよりは素直に話をしてそちらの王様を知るほうが早いですし」

 

 

 「そ、そう・・・ますます、こっちに来てほしいのだけどねえ」

 

 

 「私たちもこの特異点を知りたいですし、そういう意味では渡りに船ですがねえ。レジスタンスも気になりますし。私たちの軍が動きやすいかも含めて」

 

 

 「一応、頼めば特権は与えてくれると思うけどね。カルナを倒せるかもしれない英霊を招ける。しかも現代の英霊となれば自分の用意した武器をテストしてもらえると大騒ぎでしょうし」

 

 

 「王様。科学者か何か?」

 

 

 藤丸様の質問にごまかすように、あるいは苦笑するような感じのエレナ様。うーん。発明者、科学者・・・うーん。確かに。あれだけの火薬と技術を用意しているとなるとそうなりますよねえ。そして、それが出来るのはキャスター。

 

 

 近現代史にいますからねえ。毒ガスに肥料に、火薬を空気から生み出したとんでもない天才科学者。私も部員としての中の記憶でちょっと一部ど忘れがありますねえ。うーん。誰だったか。

 

 

 「ま、せっかく顔見せしてくれるし旅の道連れというかなんと言いますか縁です。サンドイッチどうぞ。サーモンではないですが美味しいと思いますよ?」

 

 

 「ありがとう。いただくわ。うん・・・おいしい! 両面しっかりパンを焼いてバターも香ばしい・・・ほんのり甘いのは蜂蜜かしら? いい味のチョイスの卵ハムサンドね」

 

 

 「うん・・・活力が出る。美食を感謝する」

 

 

 大袈裟ですねえ。サクッと作れるものですのに。蜂蜜も卵を焼く際にすこーしまぜただけですが見抜くとは。本気の料理も機会があれば振るいたいですねえ。

 

 

 「あ、あの大きな建物です? うーん・・・うーん?」

 

 

 「なんつーか・・・派手だなあ・・・」

 

 

 「電飾まみれだぁ・・・夜襲には強そうだけど」

 

 

 そしてたどり着いた場所はホワイトハウスを意識しているであろう豪奢な城砦。なんですが、いたるところに電球やら電飾。そして色んな機械? のモデルに機械兵が至る所に鎮座。もはや凱旋する王様や将軍を出迎えるような派手さが常にそこにあるというもので、風に揺れる無数のアメリカの旗がそれをなお引き立てる。

 

 

 これには私も含めてカルデア側は見事困惑。なんでしょうかねえ―地雷臭がプンプン。

 

 

 「ブラヴァツキー夫人、カルナ様、そしてカルデアの方々。大統王がお待ちです。すぐにおいでください」

 

 

 

 「はいは~い。さ、我らが王様に会ってもらいましょうか!」

 

 

 とりあえず、出会わないことには話が始まらないので早速中に。で、なかにもこれ見よがしに電球と電飾、配線に機械まみれ。顕示欲が・・・顕示欲が強い! そしてここまでされれば馬鹿でも正体が変わるというかここに関わっている英霊の目星がつく!

 

 

 ストームもまさかという顔ですし。うんうん・・・日本生まれだとあの曲と漫画で絶対触れますものねえ。

 

 

 「あー・・・もしかしてさあ・・・マスターここの王様って・・・」

 

 

 「おそらく・・・確かに偉業を成した方ですが」

 

 

 「でもなんか変な予感するんだよねえ」

 

 

 そうこう話すうちに少し広い部屋に出て、奥の方に鎮座する執務のための椅子と後ろにある通路。そして

 

 

 「はははははは!! あの円卓の鬼神! 銀狼と会えるとは! しかもそばには最新の英霊とは! 見識を広められる。しかもこの状況を早くしまってケルトども潰せる! 納期が早く済み、しかも質も良いものになるかもしれないチャンス。ものにしたいものだ!」

 

 

 すっごい良く通る声が響きながら色々ぶちまけている。

 

 

 「・・・・はぁまた歩きながら独り言言っている。この癖は治らないのねえ」

 

 

 「これ独り言かよ!」

 

 

 「諸君、率直に言って大儀である! みんな、はじめまして、おめでとう!」

 

 

 そして目の前に出てくるのは筋骨隆々な肉体に、両肩にまばゆく光る電球。身体を包む衣装はアメリカンカラーで彩られ、そして頭部パーツははホワイトライオンそのまま。

 

 

 アメコミの異色ヒーロー枠がそのまま飛び出してきたような、アメリカ版ライオン丸が出てきたようなその存在に藤丸様とストームは思わず絶句。王様ってよりヒーロー、前線でビームぶっぱなしている方が似合う人? が来ればそうもなります。

 

 

 「・・・・・・・・・」

 

 

 「こちらは喧嘩を売ってきたやつらを退治しただけの事。感謝は頂戴しますが、そこまでの事はしていません」

 

 

 「何を言うか! もう一度言おう。大儀である! と」

 

 

 「ね、ね、ね? 驚いたでしょ? 華奈の方はすぐに対応できるあたり流石だけど」

 

 

 「・・・・・・まあ、これを見れば驚かないのも無理はない」

 

 

 とりあえず拝手の姿勢をとって頭を下げればサイドすごい声量での感謝。いたずらっ子の笑顔を浮かべるエレナ様。そうなるとカルナ様。私はまだしも二人があの反応ですので当然面白いですよねえ。

 

 

 「い、いやぁ・・・いろいろ見てきたけど、びっくりで・・・」

 

 

 「英霊って色々いるんだなあ。・・・でー・・・あー俺はストーム1 貴方がこのアメリカの王様。ってことでいいんです?」

 

 

 ショックが抜けきれない二人もしどろもどろというかぎこちないながらに対応をしていく。あのストームもこうなるって話せるクリーチャーな見た目はなんか不意打ちだったのでしょうか。今まで魑魅魍魎、百鬼夜行の怪物とエイリアンばかり相手してきたのに。

 

 

 「如何にもその通り。我こそはあの野蛮なケルトを粉砕する役割を背負った、このアメリカを統べる王。サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン! 大統王! トーマス・アルバ・エジソンである!!!」

 

 

 「「・・・・・・エジソン!!?」」

 

 

 「いやぁー・・・ですよねえ~・・・さすがに驚きモモノキ」

 

 

 で、まあ分かっていたとはいえ真名を聞けば驚くのも無理はない。藤丸様はその姿に。ストームはおそらく感じる気配の異色さも相まってますます驚く。珍しいものを見れている私も、改めて本人から聞くこの衝撃は苦笑が止まらない。

 

 

 「しっかしまあ、かの高名な発明家が今度は王様とは、何が起きるかわからないもの・・・」

 

 

 「全くですな。そして、貴女が銀嶺隊隊長にして円卓の騎士カナ殿ですか。寝物語、絵本でも書かれていた通り美しい・・・時代も国もまるで違うというのにこうして巡り合えたのは奇蹟といいましょう。私は軍人ではないのですがゆえに、そちらの行動、奮励努力とその功績、あり方は敬意を払うものです。

 

 

 是非、その力を貸してもらいたい。現場の士気高揚に戦術戦略の指南、自前の領地で二つの国を支えた経済発展の指南などなど・・・わが国には足りないものを貴女達は持っている」

 

 

 「ふむ・・・・・・なるほど。なんとなしに感じていましたが、そちらの国には将たる存在がいない。ということですか」

 

 

 「・・・その通りよ。このアメリカ側の英霊はここにいる3名。私と、カルナ、そしてエジソンね。ケルト軍はその数と機械化兵団でどうにか押し返して拮抗しているけど・・・」

 

 

 「それでもあの蛮人たちは恐れを知らずに我が兵士たちに襲い掛かり、しかも一騎当千のエース。英霊もいる。英霊は英霊でないと倒せない。しかもあちら側は武に長けた英霊が多く、逆に我が国は私とエレナ夫人は前線で戦うタイプではなく、カルナ君も動いてくれているがこのアメリカは広い。

 

 

 ひとつ陣地を取る間に別の陣地を取られて。の繰り返しになっているのが現状だ」

 

 

 「通りで・・・だから指揮官らしいやつらもあんまりいなければ練度も低い。鉄の物量と距離の差でどうにかなっていた感じだなあ」

 

 

 エレナ様が欲しがるのも分かる。私一人を招くだけで円卓一人、準円卓級が5名。そして百戦錬磨。30年以上側で暴れ続けた兵士が3500騎揃いますものね。今はそこにアルトリア様とモードレッド様、マシュと円卓とその騎士王がいるのでさらに。

 

 

 で、ストームは指揮官経験。大軍を指揮することはあんまりなかった。合っても数十人くらいですがその最新の兵器を研究、量産できればさらにあの機械化兵団たちは強くなる。ストームの武器は確かに強いし怪物も大型船もビルもぶっ壊せるけどそれはEDFの科学力が生み出した兵器。聖剣、魔剣、魔力や加護の籠ったワンオフ物の武装、神造兵器の類とは違って技術と素材が伴えば量産できてしまう。

 

 

 というか現にカルデアではエミヤ様の魔術で複製したものを銀嶺隊とちびノブ隊に渡していますし藤丸様にもあげていますしね。

 

 

 現場を指揮できる英霊との戦いを経験している私。武器の情報提供とこれまた一騎当千の怪物のストーム。なるほどエレナ様がしきりに欲しがるのも分かる。

 

 

 「うむ。なので是非我が国に来てほしいのだ。前線指揮のエキスパートに遊撃手であり武器のデータ提供者としても。他にも英霊はいるのだが、我が国に協力せずふらふらとしていて頼りにならぬのでな」

 

 

 「・・・うーん・・・その話を聞く前に、三つ質問をしたいです。宜しいですか?」

 

 

 「構わないとも。英霊二騎を撃破してその主力部隊を現場に張り付かせてくれているのだ。これくらいはしないとジェントルマンの名が廃る」

 

 

 ニコニコとほほ笑んで執務席に腰かけるエジソンさまと、私たちも椅子を用意してもらい腰掛けることに。

 

 

 「ではまず一つ。あの獰猛なケルト軍を押し返して戦線を拮抗させている機械化兵団に武器技術の進歩。それはすごい手腕ですが、同時にその武器弾薬をどうやって確保しているので?」

 

 

 「うむ! あれは私の用意した新体制! この国難を克服し、砕くために考え付いた結論である!! 国家団結、市民一群・・・いや、一軍となっての新星! 老若男女分け隔てない国家への奉仕! いずれはすべての国民に武器と機械化兵器がいきわたりケルト軍を打ち破るだろう。

 

 

 しかし、そのためには大規模な生産ライン。それを維持する工場が必須。カナ君の質問ももっともだ。だからこそ私は各地に散らばる労働者を集めて監視のもと一日二十時間の労働。その分福利厚生も最上級にしていく。娯楽あっての労働であるからな。常人の三倍働き、三倍遊び、三倍勝ち続ける! それこそが私の目指すアメリカの新体制なのだ!!」

 

 

 「・・・・・・人間の限界を知らないのかな?」

 

 

 「「・・・・・・・・あー・・・・」」

 

 

 藤丸様の発言はごもっとも。ですが私とストームはなんというか、どこもそうなるよなあーと絶句と内心苦虫噛み潰した心情に。私も防衛戦争に侵略者排除、国内の治安維持と走り回った時は真面目に三日三晩動き通してぶっ倒れるように寝て、起きてからまたすぐ三日三晩暴れ続けて敵兵をぶち殺すとかしていましたし。

 

 

 で、ストームに関しても、失業者は愚か最終的には市民すらも捨て駒に敵にぶつけて時間稼ぎをするような戦いを経験しているのでこの話を聞くだけでもエジソンは見た目とリアクション以上に追い詰められているというか、追い込まれている思考というか。

 

 

 自身は英霊で疲れは魔力補給さえできれば問題ないのでそのテンポを周りにも押し付けている節も相まってまあ―大変な体制を打ち上げようとしています。でもこれを議論したら話が進まないので、次に。

 

 

 「では、二つ目ですね。エジソンさま。貴方はケルト軍を敵視していますが、もう一つのレジスタンス。この国から南の方にあるあの地域。あの場所に知っている情報はないですか?」

 

 

 「ふむ。あの地域はいわゆる受け皿となっている。仕方のない話だが国がある以上その国に合う合わないは出てくるもの。ケルト軍はケルト人以外を認めず民間人も虐殺していたり暴行虐待が普通だが、あの国はそういった避難民、そしてなぜかこの国につかなかった英霊たちがいる場所となっている。

 

 

 この国の良さを見抜けぬ愚か者と思うところはあるが同時に協力してくれる動きと食糧支援、何より英霊がいることもそうだが少数の兵士で戦い方がうまい。ゆえに同盟に近い関係を結んで現在は双方向から県政をすることでケルト軍を抑えている。レジスタンスの名前は確か・・・マジカル☆ウルフルズ だったか・・・」

 

 

 「・・・・・っ・・・・」

 

 

 動揺しないように、小さく息をのむ。もしかして、あの方がいる? 同時に、モードレッド様以外にもカルデアに手を貸すように動いているメンバーを思い出せば・・・・ああ、多分。恐らくですが、あの方でしょうね。ほんとっ。茶目っ気とそういうところがいい男です。

 

 

 「なるほど。では最後に。エジソンさま。いえ、エジソン王。貴方は、ケルトの駆逐の先に何を望みますか?」

 

 

 そして、ここが本題と言える。というのも。だ。この聖杯というのは文字通り国一つを切り取り、場所を作り、英霊を呼び出しているほどのとんでもないもの。今までそれを使う敵を倒してきたがその協力者たちは聖杯を望まずに託してくれたもの、助けてくれた報酬としてくれたもの。そもそもカルデアがしっかりと直に回収できたものと様々。

 

 

 ただ、その聖杯の力を知った権力者が。魔術師のクラスを得ているであろう発明家がそれを求めれば何を考えるか。王として、個人として、権力者として。この戦いの後に聖杯を奪い取ろうという考えを持つ可能性もない。こういう勘は騎士としての数十年。カルデアでの十年。この人理修復の合間に出会った皆様のおかげでより鋭く、少しだけど目が肥えてしまった気がする。

 

 

 私の質問にエジソンもしばしの間腕を組んで考えた後。

 

 

 「アメリカの完全なる回復。だ」

 

 

 「それは「本来のアメリカ」ですか? この特異点のアメリカ「だけ」ですか?」

 

 

 「・・・鋭いな。君は。そうだ。聖杯を確保した後は聖杯を改良してしまいこのアメリカの焼却を防ぐ。そうなれば特殊な状況だが異なる時間軸にこのアメリカという世界が誕生。いや、あり続けることとなる」

 

 

 「少し待ってほしいエジソン王。それじゃあ、ほかの国は。アメリカ以外の国はどうなるってんだよ?」

 

 

 「それに時代も。今は国や土地だけじゃない。歴史が、時代が焼かれている。アメリカ以外の場所はどうするの?」

 

 

 「滅びるだろうな」

 

 

 ふーむ・・・アメリカだけを完全に守るために他を斬り捨てる。と・・・そして、聖杯のエネルギーとその力、機能は理解している。ケルト軍の強さも理解しつつも、倒せると踏んではいる。

 

 

 「なっ・・・! おい!」

 

 

 「待って、それじゃあせっかく僕らはここ・・・」

 

 

 思わず腰をあげる二人を制しつつ、会話を続けさせてほしいと制止させてからエジソンに向き直る。

 

 

 「魔術王に挑む未来は考えないのということでいいですね?」

 

 

 「ああ、今までの君たちが歩んできた特異点攻略は見てきた。そしてそのうえでの判断だ。このような聖杯をいくつも所持してなお些事と考える者相手に立ち向かい臣民を被害に合わせてアメリカを消滅させては意味がないとな」

 

 

 「分かりました・・・・・」

 

 

 なるほど。この人も魔術王。いえ、ゲーティアにビビってしまった口と。ならまあ、話は早い。

 

 

 「おお! そうかね! では是非カナ君にはこれからの軍事運用について・・」

 

 

 「行きますよ二人とも! 急いでレジスタンスの皆さんと合流です!」

 

 

 二人の手を握ってからすぐさま縮地で信長様の所へバイバイ。その前に三人が何かを言おうとしていましたがしったことではない。ふふふ。円卓の騎士が東洋の仙術を覚えているのは流石にエレナ様も対処できませんでしたか。

 

 

 「うおっ! 華奈先輩!? ストーム1先輩!」

 

 

 「姉上! 会談は?」

 

 

 「先輩! ストーム1さん。お母さん!」

 

 

 「アメリカでの就職話は蹴ってきました! さあ、レジスタンス軍の方に逃げながら出発です!」

 

 

 「「「「イエッサー!!」」」」

 

 

 そしてすぐさま皆さんに指示を出して機械化兵団とかが来る前にスタコラサッサ。なんか数十名私たちの方についてくれるアメリカ兵もいましたのでその皆さんも参加。これは愉快な旅になりそうですね。




 華奈がエジソンを苦手な理由はやり口を想像しやすいことですね。訴訟やら金をむしり取るやり方が。


 ドリフターズでもFGOでも敵の能力にブちぎれながら羨ましがる信長。こういう運命なのかなあ。


 華奈とストーム1、アメリカの状況にベストマッチ。いやこの二人の当たり判定が広すぎるだけか。


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旅は道連れ世は世紀末

 インド神話に登場した武器っていったいどれほどあるんでしょうねえ。かなりの数の武器が一個人にあるなんてのもざらですし。


 「ってわけなんですよ~だからまあ、とりあえずエジソン王もケルトをぶっ潰してくれる存在ですし喧嘩をする前にとんずらしてきたわけでして」

 

 

 「一応一方的にあちらの防備を見るわけにはいかないし礼儀も兼ねてカルデアとの通信をさせないようにしていたけど、まあ・・・非情な判断かもだけど同時に合理的ね。国を守るという為政者が取る判断として。ゲーティアに立ち向かうことの無謀さもよくわかっているようだし」

 

 

 「しっかりと国の思ってはいるんだろうな。ただ・・・ロンドンの事を見ないようにしていないかアイツ?」

 

 

 野戦病院の皆さんに引継ぎとお別れの挨拶をしてからみんなで移動ながらの情報交換。ケルトの方も攻め上がってこないあたり夜襲を嫌がっていたらしく英霊の皆さんで交換して監視をしながら銀嶺隊は魔獣含めて仮眠をとって気力上々。

 

 

 心地よく夜風を切りながらアメリカの荒野を駆けています。

 

 

 「まあーですよねえ。エジソン王がアメリカを異なる時間軸にある国にするとして、それでも一度聖杯を置き、特異点としてくさびを打ち込んだ場所。はっきり言えば処刑される時間を引き延ばしにしたようしか思えないですね。直にゲーティアを見た後だと」

 

 

 カルデアのように観測が難しい状態にするのかもしれませんが、その聖杯のリソースもどこまであるのか。機能が優れていてもそれを動かせるためのエネルギーも直に見ていないうえでの仮定でしょうし、感情も判断も分かりますが内向的かつ目途がうまくいくかもどこまでもが不安定。

 

 

 ただ、とりあえずそれをガツンと言って決裂するよりは今は泳がせつつケルトと戦ってもらう方がいい。ということで私たちは次の戦力を持つ陣営レジスタンスの方に。

 

 

 『ちょっと待ってほしい。サーヴァントの反応だ。一騎こちらに来ている。だけど、うーん。ケルト兵のような反応を連れていないし、こちらを見て動きを止めた、宝具を展開するようなそぶりもない』

 

 

 「こちらでも見えました。見たところ・・・アメリカのインディアン? みたいな風貌をしていますね。全軍停止。防御態勢を取り警戒を解かないように」

 

 

 ロマニ様の報告と同時にこっちでも見えてきたので一度部隊を停止。ケルト軍、エジソン王の軍に備えるように円陣を敷いてもらいつつ私とアルトリア様の方でゆっくりと前に出て目の前の男に近寄る。

 

 

 「私たちはカルデアのものです。用向きがあると思いましたが貴方の名前を教えていただいてもよろしいですか?」

 

 

 「ああ、感謝する。私の名前はジェロニモ。見ての通りサーヴァントであり、レジスタンスに所属しているものだ」

 

 

 「たしか・・・アパッチ族の誇り高い戦士でしたね。精霊を呼び出せるシャーマンと聞きましたが?」

 

 

 あっさりと真名も明かして名乗り出てくれるジェロニモ様。世界にインディアンの勇猛果敢さを知らしめた英雄。同時にこのアメリカに住まうものだった一人。

 

 

 「いやいや・・・そんな大それたものではない。ただの昼寝が好きなものさ。単刀直入に言おう。我らがレジスタンスに協力してほしい。そして、それがたとえ無理でもできればその治療技術を貸してほしいのだ」

 

 

 「いいでしょう。私も話を聞きたいのでその情報を話してくれるのなら治療でもケルト軍ぶち転がしでもやります。先ほどアメリカ側の話は聞けて私たちもレジスタンスに会いに行く予定だったので」

 

 

 「な、ほ、本当か! 話が早くて助かる!」

 

 

 渡りに船とはこのこと。あちらも私たちの方を探していた様子。なのでまあさっくりと受け入れて行動をしようと握手。ただ、治療技術という単語にあの人が反応しないわけもなく。

 

 

 「治療。患者ですか?」

 

 

 「ああ、実は我々と協力してくれているサーヴァント・・・」

 

 

 「英霊でいいですよ? 貴方も偉大な尊敬するべき先達であり戦士ですから」

 

 

 「ありがとう。偉大な狼騎士に言われるとは。こほん。我々レジスタンス軍の中で狂王と呼ばれるケルト軍の首魁の一人と思わしきものと戦闘をした英霊がいる。が、狂王の力はすさまじくてな。とんでもない深手を負って今は隠れている状態だ。

 

 

 私の知っている治療や、レジスタンスの治療も施したが現状維持もギリギリ。そこで力を貸してほしい」

 

 

 「分かりました。患者がいるのなら私はどこへ立っていきましょう。ジェロニモ。案内をお願いします」

 

 

 『敵の首魁と戦った戦士がいる! それはすごくうれしい情報だ! 華奈。急いで行先をそっちにしよう!』

 

 

 「もちろんです。ではジェロニモ様。私の馬に乗ってください。私はハチに乗るので。先導と、その間情報を聞かせてくださいませ」

 

 

 フローレンス様も速攻であちらに向かう気満々。そしてまあ、こちらとしてもさらに情報を教えてくれる相手がいるとわかりウキウキ。急いで軍の陣形を解除してジェロニモ様を栗毛に乗せて移動を開始。

 

 

 「あ、藤丸様。マシュ。オルガマリー様、モードレッド様、アルトリア様は用意しておいた馬車の中で休んでください。震動軽減。クッションも防音もばっちりなのできっと快適でしょう」

 

 

 「了解です姉上。朝の方は私が警戒をするのでその時に姉上も休んでください。モードレッド、オルガマリー所長。藤丸、マシュ。休みますよ」

 

 

 移動しつつ生身のメンバーは私以外を即席の仮眠室、あるいは荷車に扱うように作っておいた馬車で休ませておき、銀嶺隊は速度をやや出しながら夜の荒野を走る走る。

 

 

 「さて・・・と。じゃあ、ジェロニモ様。現在のレジスタンスについて教えてもらっていいですか?」

 

 

 「ああ。現在レジスタンスはアメリカの南の部分に拠点を作り現在は拠点周辺を防衛しつつ戦士たちを集めている。そこには英霊が三騎拠点を起点にいくつもの村や集落を作り、現在は工場を建築している。彼らに守りを任せている間私たちが戦士たち。つまりはアメリカに呼び出された英霊たちをかき集めている状態なんだ」

 

 

 「ふむ。ということは実働部隊はジェロニモ様以外にもいるんです? あ、これ蜂蜜レモンジュースです」

 

 

 「いただこう。うん・・・!! 美味しい・・・気力がわく。で、その通りだな。私以外に協力している英霊が3騎。ただ、そのうち1騎が深手を負ってある町の方で隠れつつ治療をしてもらっている現状だ。

 

 

 しかも人手の多さという面と嗅覚の鋭さはケルト軍が上の状況でね。最初はもっと英霊も多かったのだが、協力、連合をする前にケルト軍がその英霊たちを各個撃破していて我々は後手に回っている。正直言えば本来なら守りも実働も倍はいけたはずなのだが・・・敵の行軍速度を見誤っていた」

 

 

 「うーん・・・先ほどの話と合わせて、さらに私たちの経験も合わせると多分英霊とぶつかったケルト兵は即座に自軍の英霊。私たちが始末したやつらといい、狂王に連絡をして足止めなりをしながら確実に刈り取っていくというスタイルをしているんでしょうね。

 

 

 物量に任せた壁と攻めをしつつ英霊には英霊。しかも戦闘狂、強力な戦士ぞろいのケルトの英雄たちをぶつけてくる。合理的です」

 

 

 『全く怖い話だ。蛮族扱いも納得だけど同時にだからこそ脅威の排除に関しての動きも洗練されている。もしかして、ディルムッドたちも華奈たちが暴れた際にその報告を聞いて調べに来ていたのかな?』

 

 

 あり得ない話ではないですねえ。そしてレジスタンスにも、アメリカにも英霊が来ないほどにあちらは動いていたというのにこれを抑えてどうにか拮抗に持ち込んでいるエジソン王。ふーむ・・・エジソンという男に軍略、武器に明るいという話はない。ただカルナという超一級品の英霊と、エレナ様。それ以外にも何かの要素がケルト軍を抑え込めるほどのあの兵器を作れたということですかね?

 

 

 「ただ、君たちがレジスタンスに来てくれれば話は変わる。銀嶺隊の機動力、英霊たちがいればより大胆に行動もとれるだろう。仲間を集めてアメリカ側と連携、呼応をしていけばケルト軍を押し返し勝利のきっかけを作れるはずだ」

 

 

 「ふむ。ではひとつ。質問をよろしいですか?」

 

 

 「ああ、こちらに答えられることならなんでも。婦長さん」

 

 

 「それなら私の記憶が確かならジェロニモ。あなたはこの国と戦った人間のはず」

 

 

 「・・・そうだな」

 

 

 「この時代を修正すればやはりあなたは敗北した戦士として扱われるでしょう。それでもいいのですか?」

 

 

 うーん・・・鋭い。そして、確かにとも思う。エジソン王が負ければアメリカが滅ぶさまを見れる。エジソン王が勝てばジェロニモ様の敗北や悲劇はなかったことになる。つまりはこの戦いに参加せずともいい部分もあるよね。その上で何で戦うのかをフローレンス様は気になったと。

 

 

 「構わないのだよ。私は。・・・勝利も敗北も、所詮は時代の中に組み込まれた点に過ぎない。この時代を潰すということは私の流した血が、私の同胞たちが流した血が無為になるということだ。何かをなかったことにするのは簡単だ。ましてそれが自分の不利益になることなら尚更な。

 

 

 それでも、それを堪えるのが戦士というもの。『なかったことにする』だけでは小狡いコヨーテだ。皮肉にも程があるがね」

 

 

 「・・・そうですか。なら、今のところは味方と考えていいのですね」

 

 

 「ブリテン、もとい円卓の騎士をやっていた私がいうべきかはあれですが、素晴らしい戦士であり、そして・・・高潔です。貴方に私、そして銀嶺隊は敬意を払います。ジェロニモ様」

 

 

 「いやいや、いくら何でも君は時代が違いすぎる。それに、あの行動をしたのは英国人ではなくアメリカ人だ。だからその温かい気持ちはありがたく受け取るよ。

 

 

 あともう少しでつく。今度は私から君たちの話を聞かせてほしいな」

 

 

 それならと私たちの話を行軍の音をBGMにしつつゆったりと今までのカルデアの旅路を話しつつ、余は更けて空は白んでで行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふわぁ・・・・・よく眠れたわ・・・」

 

 

 「んっくぅうー・・・・」

 

 

 「はふ・・・馬車。快適でしたね」

 

 

 「おはようマスター、藤丸。マシュ。5時間の睡眠だが熟睡のようだな。簡素な朝食になるがサンドイッチとコーヒーだ。ゆっくり食べてほしい」

 

 

 「おはようございます。さてと。ジェロニモ様。ここに仲間がいるのですね?」

 

 

 「ああ、ここにいるのは我々の同胞だけだ」

 

 

 起きた藤丸様達に簡素な朝食を取らせつつ、ジェロニモ様とも情報交換。小さな町ですが閑散としており人の気配はあっても数十人あるかどうか。あくまでも偵察とこの町の物資調達が出来るか。くらいの人数ですね。

 

 

 「ふむ。町の資材。木々などは頂戴していいです?」

 

 

 「住人は避難しているが・・・この状況だ。後で私が説明しておこう。建物の破壊は勘弁してくれよ?」

 

 

 「大丈夫です。工兵部隊は早急に荷車を作ってください。レジスタンスの皆さんも乗せていくつもりなのでそこそこのサイズを数台」

 

 

 ある程度の補給は許可をもらえたので早速町の建築資材や木材置き場などにうちの部隊を向かわせて荷車の用意。なんでしたら避難している住人にレジスタンスの拠点に生きがてら物を届けられますしね。

 

 

 「これがアメリカの、黒船を送った国の街並み・・・ところで、その負傷している英霊とやらはどこです?」

 

 

 「ああ。それなら」

 

 

 「ジェロニモか!」

 

 

 「彼は無事か?」

 

 

 沖田様や信長様が興味深げに町の様子を見ていると話しこんでくる一人の兵士。どうやらレジスタンスの様で私たちに最初面食らいましたがジェロニモ様がそばにいるので仲間と判断してくれたんでしょう。落ち着いて話を続けます。

 

 

 「ああ、サーヴァントの生命力はすさまじいな。無事とは言い切れないが、かろうじて呼吸はして生きているよ」

 

 

 「ではその患者に会いに行きましょうか。早急に治療をしなければ」

 

 

 「ああ、では彼を運んできてくれ!」

 

 

 ジェロニモ様の発言で担架に運ばれてくる一人の英霊。しかし、その様子はまあ見ていてすさまじいとしか言えないものでした。

 

 

 赤い髪を後ろでまとめた中性よりだけど男と分かる顔と肉体。細くも鍛えられた剣士のそれに赤い衣装と籠手を纏い、そばには見事な大剣が一振り。

 

 

 そして、彼の胸には彼の髪の形状に赤く、いえどす黒いものが混じった血が流れながら大穴が開いており、正直なんで生きているの? って具合のものでした。これには私たち一同も思わず驚愕を隠せない。

 

 

 「ぐっ・・・げふ・・っ!」

 

 

 「・・・酷い・・・!」

 

 

 『心臓を半分ほど抉られているぞ!? よく生きているなあ彼!』

 

 

 「呪いの類まであるわ・・・とてもじゃないけど現代の魔術師では土台できないようなもの・・・見るだけで悍ましい・・・!!」

 

 

 「多分神代のものでしょうね。いやしかし・・・ここまでひっどい呪いをぶち込める武装って・・・」

 

 

 「俺らも英霊の端くれだが、これをされたら流石に生きていないだろうなあ・・・」

 

 

 いや、ストームと大尉様らの場合多分爆撃かましても生きているでしょ。アーマー的な意味で。しかしオルガマリー様、マシュの顔も流石に青くなりますよねえ。魔術師としての知識が無くても分かるほどの濃密な呪いとえげつない傷口。ローマでの戦場を潜り抜けてもこれはきついでしょう。

 

 

 うちの魔術部隊でもこれは治癒は出来ない、解呪もできない。治療に長けた英霊や、そういうのに特化したものじゃないと現状維持は愚か鎮痛剤にもなりはしない。

 

 

 「・・・・まあ、頑丈なのが・・・・取柄、だからな・・・・ぐぅぅっ・・・!!」

 

 

 「こんな傷は初めてです。ですが、見捨てることはしません。安心しなさい少年。地獄に落ちても引きずり出して見せます」

 

 

 「くく・・・それは、安心できそうだ・・・! アダダダ!! 貴様もうちょっと手加減できないのか!? 余は心臓を潰されているのだぞ!」

 

 

 「心臓を砕かれて喋っている方が驚愕です」

 

 

 「コントしているんじゃないんだから。はぁー・・・ねえ、あんた。これ呪いもあるんでしょう? 祈りでどうにかできないの?」

 

 

 「これは・・・いえ、私の力でも通用するかどうか・・・」

 

 

 ジャンヌ様でも駄目ですか。そしてまあ、うん。とてもじゃないですが心臓潰された人のやり取りではないですよねえ。この規格外の生命力。怪獣でも心臓は弱点だっていうのに。で、目の前では四肢切断をしてしまおうというフローレンス様の提案にドン引きするレジスタンスの一同。

 

 

 それは勘弁してくれという英霊と絶対に治して生きさせるから黙っていろと言わんばかりのフローレンス様の押し問答。やっぱりコントでは?

 

 

 「えーと・・・あの、そちらの英霊の方は? この国の英霊ではなさそうですが」

 

 

 「よ、余の事か!? 余はラーマ! 偉大なるコサラの王である! 詳しくは・・・アイダダダダ!! 『ラーマーヤナ』を読め。以じょ・・・っああだっだあ!! 待て待て! それ以上は流石に・・・ぐぉぉぉおっぉお!!?」

 

 

 「・・・悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい・・・・・・! 追いかける死の速度を鈍くできても止めることは出来ないの!? いいえ、諦めはしません。この肉体が生きている限り、私は己の務めを果たすのみです!」

 

 

 うーむ・・・私も合間合間に呪いを切ろうとしていますが、フローレンス様の治療と合わせても痛みを緩和したり抑え込むだけ。はっきりと言えば鎮痛剤や解熱剤のようなその場しのぎ以下。死という概念を強烈に叩き込み、加えて霊核に与えたダメージ。

 

 

 まるで神霊、大神レベルが放った死の呪いそのもの。

 

 

 「ああ、ナイチンゲールさんお手柔らかに!」

 

 

 「ふむ・・・この呪い、傷・・・覚えがあるぞ・・・」

 

 

 「本当!? エミヤ!」

 

 

 「仕方あるまい・・・何しろ相手は、クー・フーリン。アイルランド最強の英雄だ」

 

 

 そして、戦ったラーマ様からのこの深手を与えた正体は、クー・フーリン様。

 

 

 「え、オレッ!!?」

 

 

 「はぁ・・・貴様というやつは。ケルトにいるのは納得するがな・・・」

 

 

 思わず全員の視線が集まってしまい、ドン引きされる視線も多々。いやー英霊のシステムのせいでご愁傷様です。

 

 

 「いやいや! 俺アンタと戦った覚えはねえぞ!!」

 

 

 「なに! やつが来ているのか・・・!? あ、いや・・・貴様、ではないな・・・その槍よりもえげつない槍、そして纏う空気も、立ち振る舞いも似てはいるが別ものだった・・・いづづ! おそらく、別の側面で呼ばれた貴様であろう。うぐぅ・・・同じ気配を持つ朱槍でも、別ものだった」

 

 

 「おそらく本気で戦う時のモンスターモードとか、何かの細工があるんでしょうねえ。同時に納得です。私も呪いを切ろうとしていますが切った先からすぐに呪いがラーマ様を蝕む。フローレンス様の治療と含めてもまだ足りない」

 

 

 しかもこの状況で人の気配と血の匂いを引き付けたかワイバーンやらも出てきて・・・はー積み荷に積む食料が増えたと思いましょう。

 

 

 「モードレッド様。対応お願いします」

 

 

 「よし来た!」

 

 

 とりあえずモードレッド様に任せて、治療の方針を考える。

 

 

 「オルガマリー様。クー・フーリン様。一応聞くのですが、其方から見ても心臓付近に渦巻くあれは呪いで間違いないですよね?」

 

 

 「ええ。心臓を破壊する。という因果の呪い。と、同時に濃密な死の気配・・・あの英霊に二度も戦わないといけないとか・・・あの時はテストみたいなものだったけど・・・思い出すだけで・・・」

 

 

 「あー・・・ああ、強度は違えどまず俺の槍でぶち抜いたやつだな。インド神話の大英雄だから耐えたと言ってもいい。本当にとんでもねえな」

 

 

 フローレンス様の治療で治した先から傷口が広がり壊死していくというとんでもない状態を見つつ、自分の側面の攻撃と現代では最高峰の魔術師の一人から見てもらいそれは呪いで問題ないと太鼓判。

 

 

 じゃあ、これが早いですかねと・・・

 

 

 「む。貴様。一体何を・・・」

 

 

 「えいや」

 

 

 「ぐおぉおっ!?」

 

 

 「殺菌!!」

 

 

 「あばふっ!!」

 

 

 「お母さん!!?」

 

 

 「姉上!?」

 

 

 陽炎をラーマ様の脇腹に、臓腑に突き刺さらないようにぶすりとしたらフローレンス様に殴り飛ばされました。あだだ・・・思った以上に響く・・・

 

 

 「い、いきなり何・・・を・・・? む・・・い、痛みが和らいだ・・・いや、酷くならぬぞ!?」

 

 

 「・・・ドクター。一体何をしたのです?」

 

 

 「あつつ・・・私の脇差の陽炎は呪いや魔への浄化や特攻を持てる刀剣です。神代が終わる時代とはいえ、その時代に鍛え直された刀です。その刀の力を直に叩き込めばあるいはと思ったんですが・・・ふむ。効果覿面ですか」

 

 

 やっぱりエクスカリバーなどを渡してくれた湖の乙女に鍛え直してもらった刀剣。効果はあると。

 

 

 じゃあと一度刃を抜いて、鞘に納めてラーマ様に埋め込んで、えーと・・・呪い対策のアクセもついでに・・・うーん。魔力の消費はワイバーンをステーキにして食べて補いますかあ。なんかまだ戦闘続いている当たり数十匹単位で来ているようですし。

 

 

 『いや、さいしょからそうしようよ華奈・・・でも、今なら治療はどうかな?』

 

 

 「む・・・心臓が治療できました。が・・・完全ではない。完治とは言えません・・・ドクターでも駄目とは相当ですね」

 

 

 「激痛が走るのは止まらぬが、それでも戦えないわけではない! それに身体にも力が少しづつ・・・うん。いけるぞ!」

 

 

 「大人しくしていなさい。もう少し休んでおくべきです」

 

 

 「ですね。まずは肉やごはんを食べて血肉をつけて元気になりましょう。今ワイバーンを仕留め終わったのでちょっと料理してきますので。レジスタンスの皆さんもどうです? 腹肉と足の方はやわらかくていいですよ~♪」

 

 

 「うわははは。アメリカンステーキを朝食の後にすぐ食べられるとは贅沢だのう」

 

 

 

 「あれうまいんだよな~大尉らもいずれやると思うから勉強しに行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っはぁー・・・! 生き返る気持ちだ!! 感謝するぞ華奈殿! このくらいの痛みなら我慢できるし、婦長殿の鎮痛剤も効いてこんなにおいしい食事はアメリカに来て初めてだ!」

 

 

 「飲酒は駄目ですからね。心臓が9割5分復帰したと思えばすぐに豪快に食事もできる。インドの英雄とは規格外なのですね・・・」

 

 

 「これがワイバーンの味。うーむ。バイソンよりおいしい肉があるとは・・・! これは癖になるな。お酒もあればよかったが、贅沢は言っていられない。おかわり貰えるかな?」

 

 

 「ふっふふ。これで治療はもう一息。なんですが・・・うーん。出来ればケルト軍と本格的にぶつかる前に完治させたいですねえ」

 

 

 みんなでラーマ様のある程度の復活を祝いワイバーンステーキとテールスープ。バケットで食事会。エジソン王のもとから離れたメンバーにレジスタンスメンバーもワイバーンをここまで食べられるとは思っていなかったようでみんなうまいうまいと驚きながら舌鼓を打っております。

 

 

 豪快に食事をかき込むラーマ様をフローレンス様がたしなめつつ、同時にまだ完全復活とは言えないラーマ様の治療についてはどうしたものかと首を傾けてしまう。

 

 

 「私の鞘を使わずともこれとは流石ですが・・・呪いを抑えているだけで、姉上の武器を使っている以上英霊の数は増えましたが、やはり完治してほしいですし、どうやって治しましょうか」

 

 

 『うーん。もしかしたらだけど、それをできるかもしれない方法がある。賭けみたいなものだけど』

 

 

 「ロマニ。それは一体?」

 

 

 『そうだね。一つはラーマが英霊という存在ゆえにその存在を補強、後押しできるかもしれないということ。で、もう一つはここは特異点。世界がぐらぐらと不安定な場所だ。ケルト軍もあやふやで、英霊も呼び出されては戦い、殺され、今もどこかに召喚されているかもしれない。この国は今アメリカとケルトの存在と英霊の戦いで揺れ動いている。

 

 

 その中にラーマの存在を補強できるような。具体的にはいくつもの武具を持ち、多くの伝承を持つラーマのそばにいた英雄たちの補助や生前のラーマを知る者。生前のラーマを知る者であればミス・ナイチンゲールの死を取り除く。治療の効果もより上がり、華奈の陽炎が呪いを押し出せる助けにもなるはず』

 

 

 なるほど。確かに神々では殺せない魔王を退治し、多くの英雄伝を持つインドの伝説的大英雄。英霊の格でいえばクー・フーリン様にも引けは取らない。いや、むしろ神代の時代の深さ的にはこちらが勝る部分もある。

 

 

 そんな彼に、ラーマ様に近づければこの呪いをはじき返す。そのためのバックアップも既にあるから押し返せるだろう。と。この話を聞いていたラーマ様の食事の手がぴたりと止まる。

 

 

 「・・・一人、いる。この世界のどこかに召喚された英霊が。それは余と同じ時代から召喚される英霊。我が妻シータだ。余もまだこの目では見ていないが、必ずこの世界のどこかに囚われている。余はそれを糾弾し、彼女の居場所を知るためにクー・フーリンと刃を交えたのだ」

 

 

 「妻ですか。ならばきっとラーマ様の縁によってここに来たのでしょうね。それなら尚更にありがたい。では、とりあえずお嫁さん救出ついでに移動中にケルト軍に出会えばアナル地獄賞でも与えて話を引き出せるよう試しましょう」

 

 

 「あ、アナ・・・?」

 

 

 「あ、お母さんの言うことは半分流していいので。たまにぶっ飛んだ行動をしますが・・・シータさんを助けるために最善を尽くすというのは確定ですので」

 

 

 「う、うむ・・・ありがたいが、下手に怒らせないほうがよさそうだな」

 

 

 大分言うようになりましたねえマシュ。これくらい元気な方が可愛いってものでうれしいです。まあ、それはそれとしてケルト軍はアナル地獄賞は確定ですけど。うちのオカマとゲイに食べていいと許可出しておきましょ。




 ラーマがフルアーマー状態で来たら速攻で召喚室の一角が武器まみれになりそう。確か原点でも数ページに及ぶほどの武器をもらっているんですよねラーマって。


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レジスタンス?

魔法少女にあこがれてを楽しんでおります。ああいう形で魔法少女というコンテンツを輝かせるって作者様の発想力に脱帽。


 「さてさて。ラーマ様も動けるようになり、腹ごしらえも済みました。なのでこれからの方針を定めたいと思いますが、私としてやりたいことは大きく分けて二つ」

 

 

 「ラーマとシータの逢瀬による槍の呪いの解呪。レジスタンス軍との合流。この二つね。出来ればラーマとシータは出合わせたいけど・・・」

 

 

 「エジソン王の所の機械兵や兵士たちに聞いてもそれらしい情報はなかったなあ。レジスタンスの方でもそういう話はないよな?」

 

 

 「あいにくだが。そもそもあのケルト軍たちは略奪、殺戮などはするが捕虜の類は取らない。女子供だろうと容赦なく殺す。英霊となると扱いは不明だがまず彼らの領地の中にいる可能性は薄いと思う」

 

 

 「ですが同時にそれだとエジソン王のもとにいた英霊は自身を含めて3騎と言っていたのでアメリカ側にもいない。まだ流浪の英霊としてさまよっているか、特例として何らかの場所にケルトの側についた英霊に囚われているか・・・になりますよねえ・・・」

 

 

 腹も膨れ、改めて今後の動きをどうするかということになり、指針を二つ出してみても結局はシータ様の居場所がわからないということになり会える可能性があるのか? と望み薄になりつつある現状。

 

 

 レジスタンスの方も頑張って捜索はしているんでしょうけど、それでもケルトの現在の領地。アメリカの半分近くを牛耳っているのでそこに入り込むのは至難の業ですしねえ。

 

 

 うちの部隊にも斥候くらいはいますが、間者となるといないですし・・・うーむ。

 

 

 「だが、シータは必ずこの特異点。アメリカにいるはずだ! どこかに隠れ潜んでいるかもしれぬし探したいのだが・・・」

 

 

 「かといって単独行動をすればまた狂王にでも念入りに今度は殺されるでしょうねえ。英霊専用の軍も用意していたほどかつ各個撃破を専念しているケルト軍。広いアメリカの中で敵の海を潜り抜けて探すのも至難の技」

 

 

 「そうなると・・・今はとりあえず現場で動く英霊たちと合流。そこで情報を集めつつ戦力を固めてケルト軍の幹部たちから情報を引き出せるチャンスをうかがうほかないかしら・・・・・・」

 

 

 「あーそれなら、一つ意見をいいかなあ」

 

 

 とりあえずやれることは合流をしていくほかないかなあという方針で決まりつつある中、手を挙げたのはストーム。

 

 

 「それなら分散行動をしていかないか? ただ、大きな危険はしないうえで。だけど」

 

 

 「ほう。どういったものをするんだ?」

 

 

 「まずはジェロニモチームで現地の英霊と合流するチーム。で、せっかくだからうちらカルデアとしてもレジスタンスのトップと顔見せもしておきたいわけだ。そこに行くチーム。この二つに分かれて行動をしないか?

 

 そこでの方針を知れば今後何をするか、出来るか。もしかしたらラーマの妻捜索部隊を増やしたりレジスタンスの情報網の中で何かを探すネットが広がるし」

 

 

 なるほどとみんな納得。ちょうど今いる場所はエジソン王の領地から少し離れていつつレジスタンス領地にも近い敵地。皆で行くのもいいが同時にこの大人数。見つかる可能性も高いし、情報収集をするのなら味方の法にも呼び掛けるには早いに越したことはない。

 

 

 「いい案だと思いますストーム1さん!」

 

 

 「僕もいいと思う。だけど、チームはどう分ける?」

 

 

 「まず、ラーマとナイチンゲールは確定。嫁さんを探したい本人と、それを看護する人材かつ英霊だからなあ。で、問題はマスターの方だが」

 

 

 「あ、それなら先生はレジスタンスに行ったほうがいいと思うぜ。銀嶺隊っていう3500騎の戦力の大将が挨拶に行かねえのは流石にあちらさんに筋が通せねえだろ? ・・・・・・・・・・それにまあ、そろそろ行かないと大変そうだし」

 

 

 最後のつぶやきは不明ですが、モードレッドの意見とストームの意見を合わせれば私、ストーム、ラーマ様フローレンス様はとりあえずレジスタンス側に。

 

 

 「なら、護衛として私も姉上の方につきましょう。モードレッドも来なさい」

 

 

 「おう! で、残りの方は現地の英霊たちの方についていくのはどうよ? ジェロニモとしては、銀嶺隊の戦力も欲しいか?」

 

 

 「できればでいいから回してほしい。あの機動力と移動距離。戦闘能力。工兵としてもすぐれている。合流する場所から物資を持って帰るにも人手は欲しいからね」

 

 

 「じゃあ私たちはレジスタンスの領地に入るので出来れば私たちを味方と分かってくれるよう人を数名回せばとりあえず2000騎を回しましょう。残りの1500騎はレジスタンス領地で何かあった時に使う労働力ということで。

 

 

 うちの部隊の総指揮はオルガマリー様に。そして、ジャンヌ様、ジャンヌオルタ様には私の直下兵500騎を貸しておきます。これでいいでしょうか?」

 

 

 「先輩はどうします? どちらの方に行きますか?」

 

 

 「僕はジェロニモチームに行くよ。とりあえず敵がこれ以上来る前に合流して戻れればいいなあ」

 

 

 「私の方もジェロニモチームね。華奈から部隊も借りたし、敵地の方に踏み入れるのなら戦力は多めがいいわ」

 

 

 じゃあマスターのほうは私がレジスタンス領地。藤丸様、オルガマリー様、藤丸様はジェロニモチームで決定。英霊の方もそのように分けていくことで話は決まりました。

 

 

 うちの部隊の方は攻撃に秀でた部隊を貸したのでまあ、何かあっても藤丸様達を避難させるくらいは楽勝ですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、そういえばなんですが一つ気になることがありました。兵士さんいいです?」

 

 

 「ん? ええ、私で答えられることであれば」

 

 

 少数でレジスタンス領地に向かう中、ストームの用意した戦車ギガンテスと、戦車がけん引している荷車に乗せているレジスタンスの方と野戦病院からついてきてくれている兵士さんに話をかけるとエジソン王から離れた方が応えてくれる。

 

 

 「エジソン王の統治政策。というか方針はどのようなものになっているんです? 一応彼からこういう感じだよっていうのは聞いているんですが」

 

 

 「そうですね。具体的に言えばエジソン王を独裁者とした状態で民間人は一定の年齢なら性別を問わずに工場に強制的に移住させて機械化歩兵を大量に生産するように動いています」

 

 

 「まさしく国家総動員状態。いや、それ以上の状態だな。大東亜戦争末期のソ連か、ドイツか、日本みたいな状態かあ」

 

 

 「ケルト軍に殺されるよりはまし。ということで逃げ込んだのですが、こっちはこっちで監獄にいるようなものです。私の場合、体力があり動けたので機械化歩兵が出来るまで時間稼ぎで戦っていたのですがそのままずっと前線に」

 

 

 うーむ・・・ストームの言う通り文字通りの官民一体。エジソン王が私たちに言っていたことは大きなことではなく既にやっていることと。

 

 

 同時に、アメリカは本当にいざ戦うとなると動きもその規模も段違い。そのためのシステムもしっかりありますが、それはこの時代より未来の話。エジソン王の考えでここまでやれるとは・・・うーん。発明王。なのに何というかその手腕は権力者のそれですね。

 

 

 「じゃあ、今度はレジスタンスの皆さんに聞きますが、レジスタンスはそういうエジソン王の独裁状態から嫌がって離れた感じで?」

 

 

 「ええ。そんなところです。あまりにも強制的かつ人の身体を考えない状態。私の娘も働いていましたが身体を崩しまして・・・こういう状況なのでしょうがないと思っていましたが、レジスタンスの方でならもっと違う戦いが出来るのではないかと一縷の望みをかけまして・・・」

 

 

 「その判断はどうでした?」

 

 

 「今は正解だと思っています。此方も王が。サー・・・いえ、英霊が収めているのですが人種も性別も差別なく、女子供に仕事はさせますが無理のないもの、しっかりと区別をつけたうえで短時間の労働のみ。今現在は防衛をしておくべきだと言って守備のための施設を作りつつ英霊たちを集めている状態です」

 

 

 ふむ。中々にいい統治と。同時にその発言で今更ながらに思い出したことが。そう言えば、私たちが最初に寄った野戦病院や荒野の戦場。あれ。考えれば防護柵とか、銃撃戦で使いやすいための陣地らしいものがなかったような?

 

 

 「そういえば、防衛陣地に関してはエジソン王らはどうしているんです? いわゆる要塞とか」

 

 

 「そういうのは作っていますが、数で押し返す。弾丸の雨が壁であるということで重要拠点意外には作っていません。それにそういうのを指揮する指揮官も不在で・・・・」

 

 

 「何? 守りというのは味方を守り国を守り、有利に相手に損害を与えつつ次にすすための足場だ。それをしないとはエジソンとやらは戦がわからないのか?」

 

 

 「もともとはラーマの方でいえば学者とか、技術者だからなあ。そりゃ戦に関しては詳しくない部分もあるだろうさ」

 

 

 「・・・・病気の気もしますがね。いずれ直にあって診察するべきでしょう。トリアージ的にも今はラーマ君を最優先です」

 

 

 「・・・姉上を欲しがった理由がわかりますねえ・・・総構えをできるようにした城塞都市を自分の領地に造りましたし。機動防御もよくしていましたから」

 

 

 「特に先生の直下兵はやばかったなー。気がついたら飛んできて敵兵を蹴散らして、すぐさま別の場所に行くんだから」

 

 

 そばにいたエレナ様も確か史実だと魔術師ですし、戦事は貴族などの教養で知っていたとしてもそこまで深くないでしょうし、カルナ様も戦士ですがインドの場合、技一つで大地がわれるだの数万人が吹っ飛ぶとか普通なので陣地作成とかにはあんまり触れていなさそうですし・・・

 

 

 うーん。真面目に物量と鉄の暴風による武具の距離の有利でどうにか食い止めている?

 

 

 「お、見えてきた。あれがレジスタンスの場所か?」

 

 

 「そうですそうです。マジカル☆ウルフルズの拠点。王が住む場所です。少々そこでお待ちを。国王夫妻に私が伝えてきますので」

 

 

 「その必要はないよ。彼女は私たちにとっては最高の来訪者。此方から動かないと礼をかくのでね」

 

 

 見えてきた白い大きな議事堂。そこにはためく旗はなんかコミカルな狼がジャーキーをかじっている絵。どっかで見たころあるような絵柄と、なんか、緩いなあーと思っていれば目の前に現れたナイスミドル。ピシッとした赤のスーツに奇麗で豊かな金髪をオールバックにした服の下からでもわかる鍛えた筋肉と長身。

 

 

 「ロット王!!」

 

 

 「義兄上!? な、なんでここに!?」

 

 

 「父上。久しぶりー!! いやーマジで呼んでいたんだな母上は! あれ? その母上は?」

 

 

 そう。ロット王その人。私がオークニーで仕えていた愉快なおっさん兼私に自由な戦いをさせてくれた人です。そして私のある意味弟。え? モードレッド様。母上ってまさか?

 

 

 『ちょ、まさかのロット王!? 華奈の元上司にしてガウェイン、ガヘリス、アグラヴェイン、モードレッドら子供たちがそろいも沿って円卓級の人物という。まさしく円卓の父親と言ってもいい人だよ!?』

 

 

 「ほぉ。華奈の王。円卓の騎士の多くの父親か。これはこれは。余はラーマ。コサラの王である」

 

 

 「フローレンス・ナイチンゲールです」

 

 

 「ストーム1だ。今は華奈のもとで英霊やっている」

 

 

 「かしこまらなくていいよ。今はただのレジスタンスのまとめ役のおじさんだ。それよりも・・・」

 

 

 「お姉様~!!!」

 

 

 「ぐはぁっ!!」

 

 

 みんなであいさつをしているとロット王はほほ笑んで気にしないでと気さくに対応。そうこうしていると後ろから土煙を上げて走ってくるモルガン様。ああ、変わらない綺麗さで・・・と思っていたらそのまま思い切り飛び込んで抱き着いてきたのでそのまま私も吹っ飛んで転がる。

 

 

 あ、相変わらずのパワーで・・・元気そうでよかったですし、ふふふ・・・ぐぇええ・・・・!!

 

 

 「ああ、お姉様・・・!! お会いしたかったです! モードレッド、アルトリア。連れてきてありがとう。後でおやつあげるわ!」

 

 

 「お、おう母上・・・先生。首を極められているけど大丈夫か?」

 

 

 「本当に、姉上は。よくここまで我慢出来ていたものです」

 

 

 「ハハハハっ! マイハニーも華奈の前では。いやお義姉さんの前では一人の少女だね! でも、流石に話をする前に気絶されても困るからちょっと力を弱めて」

 

 

 「あ、ああ失礼・・・! はぁ・・・本当にお姉様。英霊として会えるとは・・・! あのろくでなしの言うことも聞いてみるものですね」

 

 

 「ああー・・・眠くなるところでした。とにかく、ロット王、モルガン様。ご無沙汰しております」

 

 

 「すげえなーマスターを速攻でKOしそうなほどとは。あれがモルガン・・・マスターの・・・義理の妹だっけ?」

 

 

 意識がもうろうとするほどに首を抱きしめられていたのですがみんなのとりなしで無事に立ち上がって一息して拝手の姿勢でご挨拶。同時にあの緩い狼の旗も思い出しました。あれイグレーヌ様の絵柄ですね。お母様も来ているとは・・・

 

 

 「改めて挨拶を。レジスタンス。マジカル☆ウルフルズの代表ロットだ。元王様だけど、気楽にね。もう王様じゃないし。それと、新たに招いた戦力もいるが君たちが来てくれればより賑やかになりそうだ」

 

 

 「妻のモルガンです。お姉様や娘がお世話になっております。戦争状態ということで大したおもてなしは出来ませんがここに来てくれたということは相談もしたいでしょう。どうぞ議事堂に。お姉様にも懐かしい顔がたくさんいますので」

 

 

 そういって二人そろって頭を下げて直々に議事堂への案内をしてくれる。合間にここに住んでいる皆さんとも気さくに触れあっていて、相変わらずの様子。そして、懐かしい顔。イグレーヌ様以外にもいるんですかね?




 はい。ということでモルガン登場。こっちの世界だと自分の国も持った経験あるし愛する旦那も子供もいるし自分にとってのヒーローの義理の姉の華奈もいるしで結構エンジョイ勢。表情コロコロ変えるクール系の面をかぶった面白お姉さん。華奈と銀嶺隊ガチ勢。


 ロット王はパプワ君のマジック元帥そのままの見た目。英霊になっていてモルガンがアメリカで召喚しましたとさ。


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ダブルガンマン

 ここのモルガンは母親としてもちゃんとしていますがそれはそれとして華奈の前では甘えます。後異聞帯のモルガンと同じくらいには強い。


 「む。敵の斥候だな」

 

 

 「エミヤ。仕留められるのなら仕留めておきなさい」

 

 

 「所長さん。敵兵の方もうちの斥候が見つけたわよ。数は4000ほど」

 

 

 「オルタ、信長。いけそう?」

 

 

 「もちろんじゃ。このくらいなら20分もあれば全滅じゃろ」

 

 

 「じゃあ、殲滅をお願いするわ。レギアたちにも上空からの火力支援でかく乱してもらうから」

 

 

 華奈さんらと別れて移動中。たびたび500~5000ほどのケルト兵にあっては先んじて不意打ちで蹴散らすということをしばしばしつつ、行軍を繰り返す僕ら。

 

 

 銀嶺隊。その直下兵を借り受けたジャンヌオルタは特にイキイキしていて、同じくテンションアゲアゲな信長と、華奈さんらと一緒に行けなかったことでふてくされている沖田と一緒に敵を撃破している。

 

 

 「ふむ。ならこの移動中になるが現状を話していこう。まずは今から合流する英霊だが、ともにクラスはアーチャー。真名は本人らから聞いてほしい。どちらとも名うての英霊かつ、ゲリラ戦に秀でている。よほどの強敵に合わない限り敗北はないだろう。

 

 ただ、その上でその戦術もケルト軍の数に関してはあくまでも抑制的効果でしかなく、あちらに大きな被害は与えられていない。ケルト軍はそれほどに多く、縦横無尽にこの大陸を荒らしまわっている。分かり易過ぎるほどに蛮族的にな」

 

 

 「縦横無尽? 蛮族的。には納得がいきますが、その話しぶりだと組織的活動はしていないのですか?」

 

 

 「確かにそうね。私たちが出会った英霊の率いた軍はちゃんと統率も動きもしっかりしていたけど」

 

 

 「あれは対英霊用の軍。言ってしまえばあそこだけはしっかりとした指示と命令がある部隊。と言っていい。客観的に見て組織的動きは最小限だが、それでも邪魔なものを排除するための用意はする。後は各々が好きに暴れてしまえばそれで事足りると相手は考えているのだろうさ。目的は大陸の掌握。そこだけ抑えておくことを考えておけばいいと」

 

 

 「あー・・・まあ、そうだな。俺らの時代は個人の喧嘩から国や都市の戦争に発展ってのも珍しくなかったし、気がついたらすぐに喧嘩や戦争、敵より味方の方が怖いなんてのはしょっちゅうだった。メイヴのやつもそこを分かっているんだろ。軍としてやらせるよりも、形として軍の名前は付けるが、好きに暴れさせて飲み食いするために、殺しや戦いをするために制限をつけないほうがいいって」

 

 

 何とも蛮族的なクー・フーリン直々のケルト講座に一同ドン引きするがそれも納得だ。

 

 

 あの3万の軍以外では斥候などはいるけどあくまでも最低限のものらしく銀嶺隊の面々も個の強さはあるけどそれだけなので対応がすごく楽だと言っているくらいだし。

 

 

 「なるほどのお。変に目的をお上の方からあれこれ言うよりも飯や女や金に酒、殺しを求めて動かすと。実際、即物的、実利的なものの方が動かしやすいというものよ。武田と上杉の川中島の戦いなんぞまさしく銭を手に入れやすい地域を求めての戦いだったしのぉ」

 

 

 「はぁ。いつの世もやっぱりそういう部分はあるんですねえ。まあ、実際ご褒美がすぐそばにあるほうがいいのは分かりますけど」

 

 

 「ただそれでもこの強さ、あの野蛮さを引き出すという意味ではメイヴとやらも悪くはないんじゃないかの。下手にぶつかれば兵法の常識に当てはめた分だけめんどくさい動きをしてきそうじゃし」

 

 

 もう片をつけたのか戻ってきた信長と沖田さん。やっぱりというか、華奈さんの直下兵はものすごく強いようですぐに始末できたそうな。

 

 

 「あれ? ジャンヌ達は?」

 

 

 「大尉らと一緒に斥候の勉強をするためにと言って追撃の後前に出ているぞ」

 

 

 「獣相手に人の戦いを持ち込んでも通用はしないということか。なるほど、英雄王が貴様を犬呼ばわりしていたのも納得だ」

 

 

 「うるせえ! それでも強いし生き残ったやつはさらに強くなれたんだからそういうものだったんだよ!」

 

 

 ギャーギャーと騒がしくも愉快に行軍を続ける中、遠くに煙がみえ始め、同時にジャンヌ達から無線で連絡が入る。

 

 

 「マスター、所長さん。聞いているわね? 目的の町らしいところで既にケルト軍と英霊らしいやつらが交戦中よ。私とバカ聖女で先に支援していくから、銀嶺隊の方もすぐに突撃の用意をさせておいて」

 

 

 『こっちでも確認できた。英霊の存在を複数確認。町の中の遮蔽物を活かして敵軍を食い止めているようだ!』

 

 

 「了解。オルガマリー所長。マシュ!」

 

 

 「ええ。銀嶺隊。突撃用意! マシュの部隊以外は二手に分かれて町の包囲をしているケルト軍の排除。マシュの部隊と私たち本隊は町中に強行突破をして合流を図るわ。お願いね。花子ちゃん」

 

 

 そういって所長を乗せている花子相図をすれば魔猪の花子ちゃんもコクリと頷いた後に猛ダッシュを始めて銀嶺隊もすぐさま行動に。どんな英霊たちかな。ゲリラ戦のプロってどんな人たちなんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うーん・・・・・これ、調理できるのかしら・・・?」

 

 

 「脂を濾していけば魔術の材料とか、味付けにはできそうだけど・・・食いでは・・・なさそうだなあ」

 

 

 「でもでも、せっかくですしワイバーンの例もあります。食べてみましょうよ!」

 

 

 「やめておけ。食べられたとしてもバラムツのようになりかねん」

 

 

 「そういえば、戦争末期の際に食べて酷いことになったやつがいたような・・・」

 

 

 「思い出させないでください。おかげでひどい目に合ったんですから」

 

 

 『流石にこのヘドロみたいな油を出す魔獣はやめたほうがいいと思うなあ・・・とにかく戦闘お疲れ様。アーチャーの二人のおかげで大分楽に済んだね』

 

 

 ケルト軍をあっさりと蹴散らし、出てきた脂を纏う大柄の四足歩行の生物も軽々と始末。その後にジャンヌ達が食べられるかどうかを大尉さんらと話しつつワイバーンはまた解体していると僕らの前に二人の英霊が。一人は美少年で金髪を少しのばした柔らかい笑顔とシャツの上から黒のジャケットスーツ。腰に下げているリボルバーが特徴的。

 

 

 もう一人は整った顔立ちと片目を隠している茶髪の髪の美青年。全身を緑や渋茶色の装いで隠し、ボウガン? らしきものを持っていて、どこか冬利さんに似ている雰囲気だ。

 

 

 「よ、あんたらがジェロニモのおっさんの言っていた援軍かい?」

 

 

 「いやー助かったよ。いきなり双子の女性二人が旗やら剣を振り回し、軍人らしい人らがマシンガンで大暴れした時は最初思わずエジソン軍が来たのかと」

 

 

 「あはは。うちの自慢の英霊たちです。僕は藤丸立夏。しがないカルデアのマスターです」

 

 

 「私はマシュ・キリエライト。藤丸先輩の後輩でファーストサーヴァントです」

 

 

 「フォー」

 

 

 「こっちはフォウっていうカルデアのマスコット? らしいわ。私はオルガマリー・アムニスフィア。カルデアの所長です」

 

 

 僕らであいさつをすると二人とも笑顔で握手にも応じてくれて感謝をしてくれた。どうやら二人でかなりの時間ケルト軍を相手し続けていたようで、町の建物を遮蔽物や隠れる場所にして不意打ちや罠で対応していたけど戦の音を聞きつけて敵がひっきりなしに来て困っていたところに僕らがちょうどよく来たという感じらしい。

 

 

 「流石に孤軍奮闘、一人で戦う時はなれているけど流石にくたびれましたねえ。オレの名前は・・・めんどくさいし言っておくか。ロビンフッド。クラスはアーチャー。で、隣のコイツがー」

 

 

 「なんだ。あっさり明かしちゃうのか。ズルいなあ。それじゃあ僕も明かさないわけにはいかないじゃないか。僕はウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。人呼んでビリー・ザ・キッド! この国を守るためにこの国のサーヴァントである僕が呼ばれたようだね。クラスは当然アーチャー。よろしく!」

 

 

 「おおぉ・・・! あの二人が!」

 

 

 「はい! アニメでよく見た二人です!」

 

 

 僕は漫画とかでモデルにされている二人を。マシュは多分華奈さんから見せてもらったアニメで見た二人を直に見れて興奮気味。いやあ、アーチャーと言えば思い浮かべる代名詞の二人だ。

 

 

 「二人とも生きていて何よりだ。カルデアの組織。そしてそこにいる円卓の騎士カナの軍団で来ている状況だ。二人以外には誰かいるのか?」

 

 

 「避難できなかった、遅れた住人が少々。怪我をしていてね」

 

 

 「それでしたら、既に食事と手当を終えて、簡素ですが荷車を今作ったのでそれに乗せています。そのまま避難もできるかと」

 

 

 「全く。人間は不便ね。少し傷を負ったくらいで何もできないんだから。ま、あの戦の中で声を殺して英霊二人のジャマにならないようにしたのは良かったんじゃないかしら?」

 

 

 その住人の手当ても移動手段も確保していたらしいジャンヌ達が戻ってきて人を助けることが出来て笑顔のジャンヌと人のもろさをあれこれ言いつつも助かったことへの評価もくれるジャンヌオルタ。なんやかんや、フランスのころより丸くなっているなあジャンヌオルタは。

 

 

 「そいつはよかった! で、それなら住人の避難に僕らもやることはやった。次は何をするんだい? ジェロニモ」

 

 

 「うむ。それに関してだが、その円卓の騎士カナと騎士王らがレジスタンスの拠点についていてな。今後どうするかを話すそうだ。一度拠点に戻りつつ避難民や同胞になりたいものらを受け入れつつ戻るべきかと考えている。

 

 

 君らを休ませつつ、実働部隊の再編成を考えるためにもね」

 

 

 「私も同意見だわ。それに、今後レジスタンスと協力するうえでもトップがそういう思想を持っているのか、本当に助けてくれるかを見極めないといけない。エジソン王のような場合だと、最後には戦うなんてこと人るのはごめんだし」

 

 

 「では、一度引き返そう。この町から持っていける物資と住人を乗せて移動だ。すぐにケルト軍らが血の匂いにつられてやってくるはずだ」

 

 

 ひとまずの合流と成果を見せたことで僕らは一度レジスタンスの本拠点に移動することに。華奈さんたちは一体どうなっているのかなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「皆さん。ご飯が出来ましたよ。ってあら・・・? 看護師さんは?」

 

 

 「あーレジスタンスの医療施設の機材や薬品を見に行くと言って、あと患者がいるのなら手伝うと言って飛び出していきました。ラーマ様もそれに引っ張られてしまったので、あとで振る舞いましょう。ちなみにイグレーヌ様は?」

 

 

 「お母様も病院の方でお手伝いを。後畑を耕すということで水まきと雑草むしりを」

 

 

 「相変わらずですねえ母上。まあ、今は栗毛やハチたちと戯れているのかも?」

 

 

 あの後とりあえずということで軽い食事をとりながらレジスタンスの皆さんと顔合わせと相成り、主力の皆さんの顔を見せてもらうことに。

 

 

 バケットにジャム、バター、紅茶にベーコンとコーン、は野菜の炒め物にスクランブルエッグ。コンソメスープにポテトサラダと戦時下とは思えないほどの豪華さだが、これでも質素なもの。らしい。相当いい運営しているようですねえ。

 

 

 「ウオッホッホ。いやいや。華奈君とまた会えるとは。王や姫様。ジャック君と会えた時も驚いたが、全く楽しみは死後も増えるものだねえ。相変わらず元気そうで」

 

 

 「華奈殿とまた轡を並べて戦える。しかもこの大陸を救うとなればまさしく騎士の誉れ。ヤマジ殿もいるようですし腕がなりますな」

 

 

 そして、懐かしい顔というのがこれまたオークニーで一緒に働いたコ―ウェン将軍とジャック将軍。モルガン様はロット王・・ではなくロット様を召喚した際に更にこの二人も召喚していたようで、ジェロニモ様が拠点を守備している英霊の三騎というのがこれまた納得のいくものだった。

 

 

 「私もお二人と会えるとは思いもしませんでした。が、同時にこのレジスタンスの拠点の豊かさと民草の様子を見て納得が行きました。確かにロット様とお二人、モルガン様達ならこれくらいの善政はたやすいでしょう」

 

 

 「いやー兵士も気合充実。子供らも遊んでいたり本を読んだり。まるで平和そのものみたいな様子だったからなあ」

 

 

 ストームの言う通り、レジスタンスの領地内は確かに子供たちも働いてはいたが、無理のないものであり誰もが疲れを感じつつも希望と安心を持っていた。同時に神代の時代からひたすらに研鑽を積み重ねたモルガン様とイグレーヌ様の魔術。そして国の運営、財務を回したり宣伝、兵站の用意は一級品のコ―ウェン将軍。守りならアルトリア様も突破をやすやすとさせないほどの守りを見せるジャック将軍。

 

 

 そして私を含め皆を全力で活かせるように采配を振るいつつ定期的に催しで国をにぎわせ、財務調整、官民へのバランスもとっていたロット様。なるほどこれくらいは出来ることなのでしょうねえ。英霊として得た現代の知識と超絶パワーアップしたお母様と愛妻がいるんですから。

 

 

 「ふふふ。華奈君にそう言ってもらえるとはおじさん頑張った甲斐があるなあ~」

 

 

 「父上。鼻の下のばしているぞー母上に抱き着かれてデレデレだなあ。おー熱い熱い」

 

 

 「からかうものじゃないですよモードレッド。姉上とも夫とも千年以上久しぶりの逢瀬。味合わなくてどうするというのです」

 

 

 で、まあそのモルガン様は配膳が終わるやロット王の腕に自分の腕を絡ませつつ私の胸に顔を突っ込んで私吸いなるものをしている始末。これでいいのかレジスタンスの女王様。声と表情はキリっとクールなのに行動がもうどうしていいのやら。

 

 

 「カカカッ! まあ、いいではないか。戦時下で平和な夫婦や時間は貴重だ。そして・・・王がこれほどの剣士と知り合いで、しかももう一人の銃使いもかなりのもの・・・もしよければ一手死合わなぬか?」

 

 

 私を見つつ器用にお箸で食事をしている赤髪の精悍な顔立ちに鍛えられつつもしなやかな身体。人を射頃さん目で。というか今すぐにでも殺し合いをしたいと言っている男。近現代史にあってその強さ、技は神槍と詠われた武術の大達人、李書文。

 

 

 「はははは。せめてカルデアが合流するまで勘弁してください」

 

 

 「いやいやー王様達も凄いですねえ。このような美女がお姉さんかつ有能な剣士とは。欧州きっての騎士の一角円卓とは。私ともよければ是非模擬戦でいいので一戦を!」

 

 

 そしてもう一人。白銀の髪の毛を後ろに結っておりその豊満な女体とくびれ、美貌は着物に負けない美しさ。食事が出るまでは鯉口を鳴らしまくって私とストーム、ラーマ様に挑発しまくっていた剣豪宮本武蔵。

 

 

 ジェロニモ様達がアメリカ各地で英霊を探す中、生身で領地内に現れた武蔵様と、ケルト兵をぶっ飛ばして回っていた李書文様をジャック将軍が勧誘していたようでこの二人も客将、食客という扱いで現在はレジスタンスの遊撃隊に所属しているそうです。

 

 

 で、武蔵様の方は私を性的な目で狙いつつも斬りあいもしたいようでギラギラと視線が痛い。この状況にわははと笑う皆さんも全く。うちの変人どもに慣れてしまったせいですかねえ。割と何割かマジで命狙われているというのに。

 

 

 「はぁー・・・じゃあ、私と、アルトリア様もよければ手伝ってくださいな。この二人相手を連戦は骨が折れます。んー・・・おいしい・・・腕を上げていますねえ。モルガン様」

 

 

 「はい。それと姉上は華奈に引っ付きすぎです!」

 

 

 「いいじゃないのアルトリア! 貴女はここ数か月好きな時に味わえたんですから! ああ、それとロットさん。華奈に頼みたいことがあるんじゃなくって?」

 

 

 「そうだねえ。華奈姉上。出来れば私たちレジスタンス軍に参加してほしいのはもちろんだが、出来ればその勝ち方、あり方にも今回は贅沢を求めたいんだ」

 

 

 どっちがアルトリア様か、モードレッド様か、私か、ストームとやるかとじゃんけんをしている武蔵様と李書文様。食事を楽しんでいたロット様はその手を止め、考えていたことを話す。贅沢な勝ち方。とは変な注文です。

 

 

 「贅沢? ですか」

 

 

 「ああ、この数の英霊たちと、エジソン王らの機械の軍団を合わせて戦えばそれだけでも十分にケルト軍を押し込める数にはなるとは思う。それで焦った敵の総大将が出れば袋叩きにもできるだろう。

 

 ただ、この大陸、大地に生きる人らは英霊の力や科学の技術だけで終わったと思ってほしくない。人類の希望と未来を取り戻すための戦いであり、合理の怪物かつ夢を追い求めてきた人らも多くが生まれるこのアメリカという国。彼ら自身の手でも取り戻せる。そう言う勝利を与えたいんだ」

 

 

 「ふーむ・・・なるほど。つまりはアメリカ国民をケルト軍相手に機械兵や英霊に頼り切らず自分も銃を持って前に出て押し返す気概を持つ様に練兵しろと? その上で暴れて来いと」

 

 

 「そういうことだ。それに現実的な話この広い大陸で敵と戦う以上人手は欲しい。勇気ある歩みと古代の戦士に負けない積み重ねをしているんだって見せていくことがカギだと思うんだ」

 

 

 なるほど。軍の数を増やし、質を増やすことでケルト軍を押し返す意味でも、英霊たちに甘え寄りかかるのではなく自分らでも勇気を持つように。ですか。

 

 

 「それは私としては受けたいですし、一度オルガマリー様にも話を聞いてもらいましょう。その上でいいのなら、武蔵様、李書文様の相手もしつつ兵士の練兵もケルト軍相手に突撃乱射出来るくらいには鍛えます」

 

 

 さてさて。一応聖杯のあれこれも聞いておくのとかもありますが、細かい話はカルデアのもう一つのグループが戻ってから。そこでの談義の上で、どう動いていくかを決めましょうか。




 愉快な仲間たち勢ぞろい。オークニーでの仲間と達人と剣豪参戦。大分人数がすごいことになっていますねレジスタンス軍。


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進むために捨てること。進むために拾うこと

 イグレーヌはモルガンを更に胸が大きく、ムチムチのほわほわあらあら系の美女ですね。顔立ちとかは対魔忍の不知火とかの方が近いイメージです


 「ここがレジスタンスの拠点領域・・・穏やかですね。とても戦時中とは思えない」

 

 

 「いやー前よりも栄えている。ロット王のおっさん。いい政治をしているようで」

 

 

 「病院とかの設備も分かりやすいし、工場もあるけど排水処理もしているみたい」

 

 

 「恐らく魔術ね・・・いや、これ現代の魔術のそれじゃないわ。神代級のそれじゃ・・・」

 

 

 レジスタンスの拠点について、何か可愛い狼の旗と和やかな雰囲気、気合に満ち溢れた兵士たちが僕らを出迎え、白い奇麗な議事堂とそのすぐ後ろの大きな邸宅が目を引く。

 

 

 野戦病院で戦争の苛烈さ、ケルト軍の蛮行を見た後にこの景色は心が現れるようで、フォウ君も嬉しそうに景色を見ていた。

 

 

 「なんですかこの槍さばき!? ぬぐっく! こなくそぉ!!?」

 

 

 「クカカカッ!! 流石は音に聞こえし大英雄! たぎる! たぎるぞ!! さあ、もう一番行かせてもらう!!」

 

 

 「うわわっああ!!? な、なんですかこれ! 同じ四刀、剣技なのに幅が、引き出しがまるで違う!? 鞭みたいに・・・・! くふっ! わたたたたたたっ!!」

 

 

 「パワーはそちらが上ですがね。補うやり方はいくらでもあるんですよ! さあさぁ! 私に負けたら閨だのなんだの吹っ掛けて言ってきた分、年季の差を思い知らせてやりますよ!! 今は3刀流ですが、それでもこれくらいは軽い軽い!」

 

 

 「わはははははは!! こいつはすごいカードだ! いいぞもっとやれー!」

 

 

 「おお、ストーム君も酒は好きかね? ならこの蜂蜜酒とリンゴ酒はどうかね。新作なんだ」

 

 

 「姉上ファイトですよー!! 武蔵ちゃんを嫁にしてしまいなさーい!」

 

 

 「叔母上負けるなー! 勝ってからアイツの中華料理をもらうんだー!」

 

 

 「おおお! これはたぎる! まさしく剣豪らの大衝突よなあ! 余も参加したいぞ! 体のさび落としといこ・・」

 

 

 「病人は可能な限り大人しくしなさい!!」

 

 

 「あらあらぁ~みんな元気ねえ~ふふふ。華奈ちゃん怪我しても治してあげるから元気に動いてきなさーい」

 

 

 その直後に運動場らしい場所でアルトリアさんと赤い髪の槍使いの人が、華奈さんと何やら女性の剣士が試合をしておりそれを酒盛りしながらやんややんやとはやし立てる大人組とぶどうジュースで乾杯しているモードレッドと白髪のロングヘア―の爆乳美人さん。

 

 

 レジスタンスについて早々に何やら打ち解けているというか、派手に騒いでいるのがまた非常にらしかった。

 

 

 「何をしているのかしらうちの最高戦力たちは・・・というか周りにいる人たちってうそでしょ・・・多分だけど神霊と、英霊が何騎もいるんだけど・・・」

 

 

 「え・・・ロット王、それにコ―ウェンさん、ジャックさん、モルガン様にイグレーヌ様も!? うわ、すごい。私の中のギャラハッドさんがすごくはしゃいでいます!」

 

 

 「つまり円卓の人間ってこと?」

 

 

 「いやーいいねいいね。こういう騒ぎは大好き。おーい僕にも一杯頂戴~」

 

 

 驚く僕らをしり目に銀嶺隊の皆は思わず涙を流したり歓喜したり、この景色をなつかしんだりと様々で、ビリーは速攻で酒や食事に目が行ったようで中に入って観戦しつつ早速楽しんでいる始末。

 

 

 『いやーあはははは。何やらレジスタンスの主がロット王らしくてね。そのまま仲良しになったみたい。あ、だけどカルデアも組むかどうかはまず話を聞いてからってあっちも言っているから、所長たちも楽しんできたらいいよ。

 

 

 止めようにももうこの空気は無理そうだしね!』

 

 

 「同感。っつーかロット王のおっさん。しれっと英霊を新たに引き入れていないか?」

 

 

 「うむ。あの槍使いはおそらく英霊だろうな。いつの間に・・・」

 

 

 「と、とりあえず挨拶に行きましょう。酒で出来上がって挨拶が出来ないようになる前に」

 

 

 ロマニとマシュの意見も相まって僕らも観戦しがてらロット王に挨拶に行くことに。凄く丁寧なあいさつと優しくお土産もくれるあたり、なんというか今までの王様とは違い少しフランクだなあと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、仲良くなれたことだし、早速本題と行こうか。カルデアの諸君。私たちは君たちと協力してケルト軍を撃退してこの時代を修正することを目的としている。そのために手を組みたいのだが」

 

 

 「ええ。ロット王。そのことは聞き及んでいます。その上で私達からも質問をしたいのです」

 

 

 私たちの模擬戦という名の殺し合いレベルの戦闘を終えて、合流したカルデアの皆さんとレジスタンスの皆さんで食事会をしてから議事堂での話し合い。ようやくここに行けました。

 

 

 で、カルデア側からはオルガマリー様。レジスタンスからはロット様が代表として話し合うことに。

 

 

 「構わないとも。私で答えられることならなんでも」

 

 

 「では、まず聖杯を確保したのち、この特異点、時代を修正するために聖杯はカルデアの方で確保、管理してしまうということで動きたいのですが宜しいのでしょうか?」

 

 

 「うむ。構わないとも。むしろ私を呼んでくれたハニーもそのつもりで動いているし私も、コ―ウェンもジャックも聖杯にかける望みなどない。いやむしろ今叶ったと言える。だから聖杯は好きにしてほしい。必要ならギアスでもかけるかい?」

 

 

 ロット様は私には事前に言っていたことを答え、聖杯はいらない。手にかけるとしたら制限でもかけていいよとモルガン様に用意させておいた専用のギアススクロールを持ってくるが、それは結構だと手ぶりでオルガマリー様も辞退。

 

 

 「いえ。ならばその聖杯の力を感じたうえでなぜエジソン王のように行動を。このアメリカを生き永らえさせるという判断や、自分の国をもう一度興そうという考えには至らないのでしょうか。大変失礼なのは承知ですが、それほどのことが出来るものです。ここの聖杯は」

 

 

 「あーそうだねえー確かに今のアメリカ側の選択も分かっているよ? 同じ為政者としてその判断も考えたさ。だけどね。それは私から言ってしまえば未来がない。これからを魔術王から守るために進むためにアメリカ以外を捨てるんじゃなくて進むつもりで自分の未来事ほかの国を捨てているようなものだと思ったんだ」

 

 

 ただ、ここからは私もまだ聞いていないロット様の本音。王としての立ち振る舞いをお隣がしている判断をしたうえで同じように国やここにいる人を守るために聖杯を取るという判断にはきっぱりとNOを突き付けた。

 

 

 「国はね。一国だけでいろいろできるように見えてそうじゃない。周りの国が、人が、それに根付く思想や考え、刺激があって、これらの交流があってこそ栄えて、いろんな人材が来て、あるいは出ていって、それらの繰り返しで成長していくことだ。僕らの時代はそりゃあ戦争まみれだったけど、その合間も流れてきた人材を招いたりしてその人らが助けたこともしょっちゅうさ。僕の義姉とか、銀嶺隊がいい例だね。

 

 

 そういった色んな人々が関われる世界を斬り捨ててアメリカだけの世界にしてしまうっていうのは正直言ってこれから出会えたはずの人々の可能性や、刺激も、思いもみんなみんな捨ててしまう。そんな状況にしたところで結局魔術王の気が変わったところで何もできやしないさ。

 

 

 カルデアのように頑張れることもなくぺしゃんこにされてしまうだろうね。一国だけでいいのなら他国を意識した軍隊もない。精々保安官レベルでいいと国民が思うだろうし。彼は自分らの未来を守って進んでいるように見えて処刑台の順番を変えただけってことにまるで気づいていない」

 

 

 あーまあ、私と同じ結論に至っていましたか。そう。結局のところその場しのぎ。って感じなんですよねえエジソン王の考えている作戦。体制は。

 

 

 ぶっちゃけ、ケルト軍を倒した後にこのアメリカを切り取ったとしてもこれ以上の敵がいるから備えろ。と言われても今の時点でレジスタンスが国レベルの規模になるほどに人が出て行ってしまうのでお察し。絶望してその場で死ぬことで終末世界の後に復活することに希望を見出す人の方が多そうで。

 

 

 「ですが、同時に魔術王の危険度、脅威も知っているはずです。その上で、なおカルデアに。人理修復の可能性や未来があると踏んでくれるんですか?」

 

 

 「当然じゃないか。僕らのヒーローの華奈があきらめていない。今の時代を生きる後輩たちが僕らも想像しえない相手に立ち向かうっていうのなら、先輩の僕らが先にへし折れて君たちの足を引っ張るようなことは絶対にしないよ。

 

 

 僕らはね。かつて神代の時代から今の時代に変わる際に自ら国を緩やかに終わらせた。それは、この国に縋り付いて未来を描ける人材たちを無駄に潰したくなかったからだし、そのほうがブリテンに、オークニーにより良い未来をもたらせると思った。

 

 

 そのより良い未来に進むためにあえて国を「捨てる」ことで被害を少なく未来へと足を進めた。ナイチンゲール君風に言えば悪くなった部位を切除して消毒してしまう感じかな」

 

 

 「なるほど。壊死しそうな部分を早めに切断してそこから化膿、感染をしないために消毒をする。あるいは伸びてしまい汚れた髪の毛や爪を切り取るようにしたと。ええ。いい判断でしょう」

 

 

 あの時は本当に世界自体が大きく変わるのも相まって今までの政治体制や国家体制を維持してしまうのは下手すれば戦乱になる可能性がありましたからねえ・・・それを減らす、なくすために苦心しましたね。

 

 

 「だけど、今しないといけないのは僕ら先人から君たちカルデアを支えること。どんなに小さくてもいい。魔術王が何だ。人類は負けを認めていない。倒してやるんだと応援している、支えていこうとしている英霊たちがいることを知ってほしい。小さな希望でもそれを拾い集めて、この特異点も、この先の特異点も乗り越えていってほしいんだ。

 

 

 君たちが守ろうとしている人理。人類史の歴史の中にはすごい人たちがたくさんいる。きっと彼らとの出会いと、力が、助けが、知恵が君たちが歩く未来を切り開くはず。若しくは、案外もうそばにいたりしてね・・・・なんて」

 

 

 この言葉にはカルデアの皆さんは思わずハッとなり、そして嬉しそうに喜色をにじませる。魔術王を知っても尚戦ってくれる人は側にいる。英霊たちもそれは同じ。どこまでも人類の未来を見据えたうえで支えたいとかつての王がいうのだ。初期のカルデアと比べればぼろぼろの。数百名いた職員も数十名になってしまってひーこら言っている組織を応援してくれているのが嬉しいのでしょう。私も実際に嬉しく思い思わず目頭を押さえてしまう。

 

 

 「・・・・・・・・感謝、します・・・ロット王。では、改めてカルデア代表として、レジスタンスの力を貸してくれるよう願います」

 

 

 「もちろんさ。この大地の未来だけではない。その先の特異点も、未来を救うためにまずはここで勝っていこうじゃないか」

 

 

 二人の握手と同時に議事堂が大いに沸く。カルデアとレジスタンスの協力。円卓の騎士たちがアメリカの未来のために手を貸すというのもこれまたイギリス系アメリカ人には何というか色々と嬉しいようで拍手喝采。

 

 

 こうして、改めて私たちが本格的に暴れるための土俵が出来ました。

 

 

 「ではでは、早速なんだが実は華奈姉さんらと一緒に君らと私たちのやることを決めていきたいんだ。既に君たちの適正や、今後のためにも戦略のためにこの方がいいだろうという方針を考えていた。ではでは」

 

 

 「はい。それでは。まず、私とマシュは少しやることがあるのでおいておくとして藤丸様や信長様、クー・フーリン様は練兵、現場での防衛線に力を貸してほしいです。特にクー・フーリン様はケルト兵の戦い方を皆さんに教えてもらい、信長様はレジスタンスの士官たちに戦略や戦術についての教鞭を振るってもらいたいですね。

 

 

 で、オルガマリー様ですがエミヤ様と一緒に工場長をしてほしいです。ちびノブ部隊とレジスタンスの女性の方々もいるので、人では困らないでしょう」

 

 

 そしてさっそく今後戦うためにもそれぞれが持ちえるべき役割を考えた結果の草案発表にオルガマリー様がポカン。

 

 

 「何で工場長なのよ!? ってかまた裏方!?」

 

 

 「まーまー抑えてくださいませ。それに関しての理由と役割はまた個別で質疑応答の時間を設けますから。で、ほかに皆さまなんですが・・・」

 

 

 こうして皆様への説明と今後の役職への説明をしていき、皆さんも納得した形で議会は解散。そのままおやつの時間ということでカルデアからチョコを持ち込んで皆でおいしくいただいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うふふ~まさか凛々しい孫が可愛い孫娘になるなんてね。マシュちゃんも本当にいい子いい子♡ いつかひ孫も見せて頂戴ね?」

 

 

 「わわっ。イグレーヌさん。わ、私はまだそういうお相手は・・・」

 

 

 「マシュちゃんほどの美人ならきっとお相手はすぐよ。あ、それと後でお小遣いとお年玉あげましょうか♬ おばあちゃんに孫を愛でさせなさい~」

 

 

 「ふふふ。確かに早いですがいずれは見たいですね。イグレーヌ様も相変わらず元気そうで。栗毛たちも大喜びですよ」

 

 

 おやつの時間を終えてからイグレーヌ様やモルガン様から再度激しいハグを受け、胸に押しつぶされたり女の匂いに圧倒されたりと親子の再開を楽しんだ後に早速マシュと一仕事。

 

 

 というのも、レジスタンスは今力を蓄えている状態だけどそのための兵站、生産のラインの増強が必要なのですがそれは急いですぐできるものではない。エジソン王のような滅茶苦茶な政策をしていないのでそれはなおさら。でも今後のためには色々と物入り。

 

 

 なのでレジスタンスの領地で本拠点のそばの荒野にやってきました。その間イグレーヌ様は私を見て号泣して抱き着きギャラハッドの気配をマシュから感じて性転換したのかと大騒ぎしたり、栗毛たちを撫でまくったりと見た目三十路くらいの美女が大はしゃぎとモルガン様と親子そろって私たちを大歓迎しながらの散歩道でした。

 

 

 「ふーむ・・・・確かに、ここはいわゆるセーフゾーンですが開拓もできていないですし、もったいない場所ですねえ」

 

 

 「そうでしょう? だけど、今の時点で動かせる人でも限りがあるからどうしましょうかと思っていたところに華奈ちゃんとマシュちゃんが来てくれたんだもの。多分、あれをできるわよね? お願いしていいかしら?」

 

 

 「ええ、お母様の頼みであり私たちのためにもなることです。断る道理はありません。マシュもいいですね?」

 

 

 「もちろんです。お祖母ちゃんの頼みであり、大事なこと。それに・・・私もこの目で見てみたいです。この宝具を。その景色を」

 

 

 ならば問題ないということで私は深山を地面に突き立て、マシュは大盾を地面に刺す。そして魔力を巡らせて、私とマシュ。もといギャラハッド。この二人がいないと発動できない珍しい二人で展開する宝具。決して強くはない。けれど、私たちにとってはとても大事なもの。

 

 

 「「いつか帰りし狼の城(ホーム・サムデイ・ウルフキャッスル)」」

 

 

 宝具を開放したその瞬間。一面の荒野が変わっていく。雑草とサボテンしかなかった荒野は緑あふれる大地とふかふかの畑に変わり、そして少し後に土とレンガで作った巨大な城壁。

 

 

 無数の建物と住人が、決して豪華ではないが大きな屋敷が。馬が、狼が、イノシシが、それらの子どもが出てきては世界を賑やかに変えていく。

 

 

 そう。この宝具は私とギャラハッドの故郷にして私の領地を召喚する宝具。かつてここから二国を支えた財政と食料を生み出せた。自分でいうのもあれですがまさしく国の金庫、金の生る大地と言ってもいいほどに豊かにして、戦士もお金も食料も生み出し続けた。

 

 

 モルガン様もアルトリア様もバカンス地として選びイグレーヌ様はここでモフモフたちと遊んでいた銀嶺隊の本拠地。それを丸ごと一つ呼び出す特大級の宝具。・・・・・まあ、かっこつけていますが、あくまでも領地。なのでこういうケースじゃないと使えないのと、戦力自体は銀嶺隊でいいのですが。この状況なら話は別。

 

 

 さあ、ケルト兵から装備を奪い、その装備を武器弾薬に。あるいは装備に作り替えて、畑からもガンガン食料を生み出していきますよー

 

 

 「ヒャン。わふ?」

 

 

 「ぷぐ。プギュー」

 

 

 「むふ・・・ヒヒーン」

 

 

 「わ、わぁ・・・可愛い動物の子どもたちがこんなに! すごい! これが・・・華奈さんの本拠地! 動物も人も作物も何もかもがいっぱいです!」

 

 

 「ああ・・・・・もうないはずのあの場所がこうしてここに・・・うぅ・・・長生きはするものね。またここで過ごせる時間が一時でもあるだなんて・・・ありがとう華奈ちゃん。マシュちゃん。おばあちゃんもう死んでもいいわ」

 

 

 「死んだら駄目ですよ!? ずっと元気に長生きしてくださいねイグレーヌ様。ほらほら、皆イグレーヌ様に会えてうれしいようですし」

 

 

 滂沱の涙を流しながら私たちの領地を見て感激するイグレーヌ様。ちょっと神霊になって長生きできたゆえのこれですので人理修復まで見届けてこれからも元気でいてほしいですね。そしてそんなイグレーヌ様の回りにもたくさんの子狼にうり坊に仔馬たちが寄ってきては既に可愛らしい光景が。

 

 

 「おおー! 華奈さま!」

 

 

 「華奈さまが帰って来たぞー!」

 

 

 「領主さまだ! こうしてきたってことはひと仕事あるぞ野郎ども! 後で新聞の用意だ!」

 

 

 で、うちの領民も私を見てすぐに宝具の事や何かあると気づいて早速総動員体制に。よしよし。これはロット様にいい報告が出来そうです♬

 

 

 「ん・・・ぐす・・・ああ、そうです。華奈ちゃん。忘れていました。実は私からもお土産があってね? ほら、華奈ちゃん今はラーマ君の治療のために刀を一振り使っていて3振りだけしかないでしょう? それの代用品になりそうなものを持ってきたの。知り合いの湖の妖精からもらったのだけど・・・どうかしら?」

 

 

 「おお? なんですか? 是非是非受け取らせてください」

 

 

 「じゃあ、これ。きっといい武器だし、色々使えるはずだから」

 

 

 そういってイグレーヌ様が渡してきたのは長ネギと大根。でも帯びている魔力・・・なるほど・・・

 

 

 「有難く。これで5刀流で暴れられそうです!」

 

 

 「まあ嬉しい♬ 今度その剣技も見せて頂戴ね」

 

 

 「ええー!! いいんですか!? いいんですか!? ネギと大根ですよ!?」

 

 

 マシュが突っ込みますがまあまあ、いい業物ですよこれは。ふふふ。




 華奈は新武装を手に入れた。イグレーヌの知り合いの妖精はアルプス山脈の天然の水、湖に生息していた妖精で、そこからお近づきのあいさつで貰ったそうです。


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作戦行動の前準備

 華奈、モルガン、アルトリア、ストーム1 多分このメンバーセットが来たらすごく便利そう。聖杯戦争でもいろいろと強い方だといいですねえ華奈も。でも多分一番いいのはこのメンバーで7騎VS7騎の形態で戦うバージョン。


 「おぉお・・・何て美しい・・・派手、荘厳ではないが、牧歌的で、のどかで、でも活気がある」

 

 

 「これが円卓の狼騎士の領地。ブリテンを支えた産業、穀倉地域・・・」

 

 

 『おそらくこのアメリカの中では一番豊かで、一番平和な場所だろうねえ。しっかり戦闘経験も積んでいる堅牢な城砦都市であり豊かな農地。銀嶺隊の家族と領民が住まう安住の場所だ』

 

 

 私たちが展開した銀嶺隊と私の領地に驚く皆さん。そして千数百年ぶりの懐かしい故郷の顕現に感動する皆さんとで反応は様々。

 

 

 「これが華奈の、いえ、マシュとの第四宝具。すごいわね・・・固有結界とは違うけど、規模も何もかもが桁違い・・・」

 

 

 「わぁー・・・のどかだぁ」

 

 

 「ふふふ。ボケっとしている場合じゃないですよ。皆さん! 今日は銀嶺隊と、新しい仲間の出会いや再開を祝して宴をしましょう! 明日から大忙しで動く分、今のうちに飲んで騒いでください! 酒蔵も食糧庫も全部開いていきますよ。

 

 

 銀嶺隊婦人会に少年隊も動いて動いて!」

 

 

 でもせっかくなので気合と景気づけも兼ねてうちの領地の食料を開放してレジスタンスへの食糧と酒を振る舞い宴を簡単に開きましょう。今から夜ですし、夜戦をするには危険ですからねえ。領地の皆さんは大喜びで、レジスタンス、カルデアの皆さんも喜んでそのまま宴にしゃれ込みました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お姉様。そう言えばこちらのラーマ君でしたっけ?」

 

 

 「余に何か?」

 

 

 「かの朱槍の呪い以外にも魔獣というか、何かの呪いもあったりとでこの人、生前に何やらかしたんです?」

 

 

 「あー・・・ラーマ様が現在求めているシータ様に関してのものですが・・・」

 

 

 宴を一通り楽しみ、夜に私の館。モルガン様達には民宿というか、リゾートスパ? な場所で夜風に当たっているとふとモルガン様が酒を飲んでいたラーマ様を連れてきて私に聞いてくる。流石にモルガン様は気づきますかあ。

 

 

 ただまあ、この内容は正直な話、私達的には少し嫌な話なんですよねえ。

 

 

 「よい。余はハヌマーンや猿の軍団を率いて戦いをしていたが、その猿同士の争いで味方のスグリーバを救うために敵対していた猿、バーリを騙し討ちしたのだ。

 

 

 その際に、そのバーリの妻の猿に呪いをかけられたのだ。余はたとえシータを取り戻したとしても喜びを分かち合うことはない。とな。そしてそれはそうなった。魔王ラーヴァナを倒した後も不貞を疑い、追放してしまったのだ・・・」

 

 

 「なるほど。国王なのでしょうがないですが、正直そこまで愛した妻をそうやってしがらみや風評で捨てるとは馬鹿々々しい。呪いといいますが、貴方の弱さもあるのでは?」

 

 

 「うぐっ・・・その通りだ・・・そしてその呪いは今もあり、決して聖杯戦争で余が呼ばれればシータは呼ばれず、シータが呼ばれれば余は呼ばれぬように英霊の座を同じにしておきながら会えないようにしている。ただ、今回のような状況ならもしかしたらと思い・・・」

 

 

 「まあ、モルガン様の言うことは確かですよねえ。神々も不貞はなく純潔だって一度しっかり証明したのに結局は追放しているので・・・で、その呪いがどうしましたか?」

 

 

 モルガン様もあわや純潔を奪われて好き放題されかけた経験があるので、そこを必死に助けてくれる存在が風評に囚われて追い出しましたとか王族ゆえの辛さは分かりますがそれならそもそも来ないほうがと思うのも。

 

 

 「ふぅー・・・まあ、その前にラーマ君。貴方はもうシータちゃんを疑うことなく愛したいの?」

 

 

 「もちろんだ! そのためなら余は何を捨てても構わない!」

 

 

 「よろしい。お姉様。ラーマ君の別離の呪いレベルなら私サクッと解呪できるのですが、綺麗に切り離してちょっと使い道を考えているので、よければ手伝ってもらっていいです?」

 

 

 「ああーなるほど。ええ。いいですよ。じゃあ、早速しましょうか。酒も飲んでいないので酔いもないですし」

 

 

 妻を思う旦那としての覚悟を見てモルガン様もにこりと微笑んで呪いの解除と何やら考えている様子。まあ、どうせ面白いことを考えたりレジスタンス、アメリカのためになることでしょうし私も手間が省けて有難いので桜花を抜いて手のひらを切って血を桜花に吸わせる。

 

 

 「なっ!? で、出来るのか!? 座にあるほどの呪いだぞ!」

 

 

 「もちろん。あのろくでなしと一緒にいざという時はお姉様を英霊の座からアヴァロンに保護できるようにしっかりと理解も術式も組んでいますので。これくらいは軽いことです」

 

 

 「全く、本当に私の妹は頼もしい限り・・・・で!」

 

 

 神代の猿。しかも神々を従えさせる魔王に戦える猿の軍団の敵対者の妻。中々に重い呪いなので概念を切るための切れ味をあげるために桜花に血を吸わせてあげた切れ味でラーマ様の中にある呪いの一つに狙いを定めて振るう。

 

 

 キィン。と心地よいととともに、斬れた。確かな手ごたえを感じます。成功ですね。

 

 

 「・・・捉えました。ほほう。これは中々。ですが、逆恨みの呪いを延々吐き出すものなんてくだらない・・・ふぅ・・・解除も完了です」

 

 

 ラーマ様からあふれたどす黒い猿叫をするもやを結界で捉え、即座に光で包んだと思えばそのもやは完全に消え去り、代りに小さな光が。

 

 

 「あ・・・・な・・・な、ない・・・? ない!? ないぞ! 余の中に感じる呪いが! か、完全に消したのか・・・・・本当に・・・感謝するぞモルガン殿! 華奈殿!」

 

 

 そして自分の中の呪いも理解していたラーマ様もその呪いが完全に消えたことを理解してすごく驚いた後に頭を下げる。まあ、あの時代、神話の武装の数々でも取り除けず、神仙、神々も解けない呪いでしたしねえ。そりゃあそうなりますか。

 

 

 「お姉様の陽炎で呪いを抑え、桜花の切れ味と剣技、それがあってのことです。出ないと解呪に一日はいただいていましたよ。

 

 

 で、この呪いはシータちゃんにもあるのでしょう? それならちょうどいいので、ラーマ君のこの呪いを解除した後に残るラーマ君の魔力の残滓。これを利用してシータちゃんがこの特異点にいるかも探知しておきましょう。そのために一日ほど時間をいただきますが、お姉様。大丈夫で?」

 

 

 「構いません。私がカルデアの皆さんとレジスタンスの方に入っておくのと銀嶺隊の警備も私の直下兵最強の10騎をつけておきます。一日あればインド最強格の英霊とモルガン様も動ける。有難いです」

 

 

 二人に関わる呪いゆえにそれを解除した後に関わる因果を逆探知してしまうということですかあ。ここらへんは呪術、呪詛返しのそれの応用でしょうけど本当に多芸ですねえ。

 

 

 で、まあ目の前で一気に問題が解決していく、シータ様の場所までわかるかもとなってラーマ様はもう何が何やらで目が点状態。

 

 

 んーまあ、神代の天才魔術師かつ半神霊が本気を出したらこうなるってことで納得してもらいつつ、とりあえず元気を養ってということでまだ外で続いている宴会にラーマ様を放り投げておきました。

 

 

 ふわぁ・・・私の方は・・・眠いですし・・・モルガン様と一緒に添い寝しましょうかねえ。凄くせがまれていますし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぎゃーーっ!!!」

 

 

 んお・・・シーマ様の悲鳴・・・相変わらず早いですねえ・・・多分、クラークのグラサン外した素顔見て驚きましたか。毎日見ているはずなのに、寝起きはやっぱ不意打ちですか?

 

 

 「ほふ・・・お姉様・・・おはようございます・・・ん・・・」

 

 

 「おはようございますモルガン様」

 

 

 「わ”ーーっっ!!!」

 

 

 あ、今度はクラークの悲鳴。自分の顔を鏡で見て驚きましたかあ。はぁー・・・1500年ぶりに聞く悲鳴の目覚まし&スヌーズ。んーっ・・・すっごく懐かしいですが相変わらず目が覚める。

 

 

 「ワフ」

 

 

 「あーおいでーハチ、花子~」

 

 

 そして扉を開けて入ってくる狼に猪。みんな優しくじゃれついて顔を舐めたりしていると完全に頭しゃっきり。モルガン様はもう一度寝そうなくらいに幸せな顔をしています。

 

 

 「よーし。私はみんなのご飯を作りますから、皆は朝の運動。栗毛もつれていくように。今日はワイバーンの刺身と燻製ですよ~」

 

 

 みんな眼を輝かせてすぐに屋敷を出ていき栗毛の馬房を開けて早速庭で引き運動。

 

 

 「うふふふ・・・ああー・・・幸せ・・・じゃあ、お姉様。私も料理を手伝いますね。レジスタンスの戦士たちへの炊き出しや、婦人会の皆さんともおしゃべりしたいですし」

 

 

 「お仕事はしてくださいよ~私は仕込みは手伝いますがその後すぐ栗毛たちの手入れをしてから前線に行くので」

 

 

 一緒に顔を洗い、着替えてから階段を下りて厨房のかまどに火をつけて、食糧庫とアメリカに来て以降仕留めては解体していたワイバーンや食べられる魔獣たちの肉、骨を仕込んでから調理を開始。

 

 

 肉が焼ける、骨が煮込まれる匂いにつられてやってくる狼やイノシシたちにも食事を振る舞っていると二人の声が。

 

 

 「んあぁー・・・おはよぉ・・・先生・・・ははうぇ~・・・・ふほわ・・・」

 

 

 「おはようございます・・・二人とも、早いですねえ~・・・」

 

 

 「おはようございますモードレッド様、アルトリア様。ほらほら二人も顔を洗って着替えて。モードレッド様は運送。アルトリア様は全線で警備と戦いをするんですから。美味しいごはん作りますからね~」

 

 

 「おはようございますモードレッド、アルトリア。ここは安らぐのは分かりますが、気合を入れて。ふふふ」

 

 

 あー懐かしいこの空気、やり取り。いいですねえ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、作戦会議。もとい戦略会議となるが・・・いやはや、レジスタンス兵の方も問題を抱えていたとはのお」

 

 

 「全く。わからんものだなあ実際に関わらないと」

 

 

 信長やコ―ウェン。うちのマスターらを除いた面々で北アメリカ大陸。の今いる場所、特異点のある場所の地図を広げてレジスタンス、アメリカ、ケルト軍。で線引きしてから見ているが、コ―ウェンから聞かされる情報は意外なものだった。

 

 

 「いやはや、意外というかもしれないがね。そうなんだ。我がレジスタンス軍は守ることに関しては気合もあり、強いのだが、攻め込むことを恐れている。気概がないんだ」

 

 

 「正直な話、防御陣地と防御有利の法則を働かせて戦っているが、どうにも相手の陣地に踏み込むことを恐れている。ただ、それ以外にも原因はある・・・」

 

 

 「まあ、わかるわい。レジスタンス軍の領地は7割ほどがケルト軍の領地とぶつかっておらず常に兵力優位と防御陣地、要塞を用いて守れば負けることがない。加えてエジソン王がケルト軍を押し返す。殲滅するとノリノリ。こっちは守って耐えればいずれエジソン王が何とかしてくれるだろうと。

 

 

 だから食料、物資支援でアメリカを支援しつつも同じ敵を持ちつつも前に出ない。他力本願な部分が出ていると・・・」

 

 

 「まあ、ケルト兵のあの荒々しさ、どう猛さに恐怖を感じてトラウマになったんだろうな。あれが同じ人なのか。って」

 

 

 実際、EDFでも恐怖やトラウマで勇敢だった戦士がおびえたり、使い物にならなかったり、心折れる瞬間を何度も戦場で見てきた。それも怪物相手。ワイバーンや魔獣ならまだわかるが同じ人の形。過去の時代の戦士たちだ。いくら強かろうと技術や武器の違いでどうにかなると思いきや銃弾の雨あられにひるまず突っ込んでとんでもない速度と力と耐久力を誇る。

 

 

 同じ人間で、戦士としての格の違いを感じてしまいこうなるのも正直分からんでもない。

 

 

 「そう。物資に守り、戦力も申し分なく用意はしている。だけど攻め込む気概がなければ君たち戦力を無事に敵の首魁に送り込む。安全にこの広い大陸を深入りするための支えが出来ないと思っているのだよ。

 

 

 華奈君の方は3日あればとりあえず練兵をできると言っていただ、私のような老骨に少し理解が及ばず。わかるかね?」

 

 

 「ほう・・・三日で練兵を・・・のう」

 

 

 攻める気力のない他力本願がほとんどの兵士たちを三日で戦うようにする・・・か・・・いや、どうするんだ・・・? 信長はしばらく考えているが俺には頓珍漢だ。

 

 

 「いや、なるほどのぉ。恐らくじゃがそれは出来る。ただ、それをするとなると恐らく対魔獣、ワイバーン用の武器も必要になる。ショットガン。散弾迫撃砲などの発注をするべきじゃな。

 

 

 それと、高台となる小城、もしくは簡単な傾斜を持つ場所を作りたい。あーそれと、ちょっと思いついた作戦があるから、華奈先輩とちょっと相談しておかないといけないのお」

 

 

 「何を思いついたんだ? 信長」

 

 

 「にひひ。恐らく、これからを踏まえた作戦と華奈先輩が欲しがるであろう物じゃよ」

 

 

 「うぉっほっほっほ。流石華奈君が褒めちぎる名将信長君だねえ。ならそのための物資の用意と宣伝は任せてくれたまえ。そしてストーム1君。君は超熟練の現場兵士と聞いている。君の視点から防御陣地の意見と、部隊編成についての相談をしていきたい」

 

 

 お、俺もいいのかあ。なんか士官は愚か将軍に直々に意見するって改めてすごい出世した気分だなあ。現場だと好き放題していた俺だけど、それでよければ。だなあ。

 

 

 「あ、じゃあまず俺の意見だけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えーそれでは皆さん。今日から工場長になりましたオルガマリー・アムニスフィアです。これからの仕事はまた違う弾丸、武器を作ることになりますが不慣れな仕事になるので緊張と焦りは持たないように。じっくりと。でも確実にいいものを作るよう。

 

 

 なにより怪我、事故をせずに仕事を終えて家族や友達を出迎え出来るように。では、よろしくお願いします」

 

 

 「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 

 はぁー・・・アメリカの特異点攻略に来たはずなのにまさかの弾薬、銃器の生産工場長になるとは。ローマの時は文官をしていたけど、なんというか、裏方ばかりね。せっかくレイシフトできるようになったってのに。

 

 

 まあ、腐らずに行きましょう。実際、複製魔術を使えるエミヤなら武器の弾薬も銃器も増やせるし、私もモルガンさんやイグレーヌさんからもらった複製魔術を使える礼装を借りられて増やせるし。

 

 

 「えーと・・・スレイド、レイヴン、ショットガンあたりと・・・散弾迫撃砲。スナイパーライフルはハーキュリーと。ふむふむ。じゃあラインはまずはスレイドからいって散弾迫撃砲は最後ね。

 

 

 とにかく今はレジスタンスの正規兵と訓練中の志願兵たちにも渡せるようにしないと・・・でも、無理はしすぎずにしないといけない。効率とシフト表を・・・」

 

 

 あ、これ・・・組織の運用方法よね。うーん。なら、無理しないように、女性の皆さんだしこうして・・・で、火薬生産工場からの用意できるのは・・・む、出来ればより良い質を確保してほしいけど・・

 

 

 「ふむ。まず優先を決めて、その上で最初は余裕を持たせていくのか。悪くはないと思うぞ」

 

 

 「エミヤ。ええ。無理を強引にやらせてはエジソン王と同じ。それに、工場とはいえ、多分、数だけを優先したら駄目な気がするのよ・・・」

 

 

 「それはなぜだい?」

 

 

 「これなんだけど・・・」

 

 

 エミヤが工場長室に紅茶とクッキーを持ってきてくれたので疑問に答えるようにロビンフッドが持ってきてくれていたアメリカの機械兵の設計図、その銃器、兵士が使う銃火器のデータを見せる。

 

 

 「このスペックはいいけど、それでも数を用意していかないとケルト兵を押しとどめられず、レジスタンスも防御陣地と将軍の戦術があれば被害なく守り通すのはたやすい。それでいてすぐ作れるわ。でも、私たちは攻めていかないといけない。そして、そのスペックも私たちが作る武器と比べれば雲泥の差」

 

 

 まあそれも当然よね。なにせ像のサイズもある怪物や空を飛ぶ巨大な円盤や兵器を破壊できる武器。人類最新鋭のエイリアンに対抗できるEDFの兵器。型落ちと言えども比べるのもおこがましい。これより型を落として簡単なものを作れば数倍の速度で作れる。

 

 

 でもあえてこれを選んだ・・・ということは

 

 

 「多分、華奈や信長たちの考えは数で戦うけど、数の用意の仕方を相手に合わせないと思うの。軍の総数という意味での数の勝負ではなく質の数で勝負。英霊の数だけじゃなくて質の高い部隊達を用意してその連携で戦う。それをしたいと思うの」

 

 

 正直な話ここまでアメリカで過ごして感じた違和感はケルト軍が本腰を入れていないということ。英霊二騎を華奈たちと討ち取って尚本気で対処する動きがない。焦りを感じないのだ。ということはまだあちらには余裕があり、更なる戦力があるか、クー・フーリンとメイヴはその二騎を失っても気にしないほど強いということ。

 

 

 もしくはさらに数を用意することが可能なのだろう。それなのに数で対抗しても相手の隠し玉、次なる策があればそれで終わる。

 

 

 メイヴやクー・フーリンは私達が対処する。だけどその邪魔をさせないための戦力、奥地に踏み込むための部隊を用意しないとその作戦も、備えもできやしない。

 

 

 だからその備えの一歩として質の高い兵器を製造する工場。そして組織を回す経験のある私が・・・あ。華奈はだから私をここに。

 

 

 「私も同じ意見だオルガマリー。私達は出来る限りあの戦士たちを支えて戦いに行く。しかし、特異点は何があってもおかしくない。そのための備えの大事さは英霊以外にも現場にあるものを利用するのも必要だ。特に君は苦労を経験している。だから華奈も任せたのだろうさ」

 

 

 「ええ。そうね。それとだけどエミヤ。私、どういう武器が自衛用、支援にいいかしら?」

 

 

 「む。マスター。君も武器を持つのかい?」

 

 

 「ええ。支援ならこれに魔力を乗せていくのがいいでしょう?」

 

 

 なんとなく意図がわかれば気合も入ってくる。私達が特異点攻略に必要な武器弾薬。用意してやろうじゃない。後ついでに自分の武器も。

 

 

 それと、うーん。この武器の技術や完成品をエジソン王らに販売や、うまい具合に交渉材料にできればレジスタンスとの合同作戦にも乗り気になりそうだし、ちょっと考えておくべきかしら?

 

 

 『所長。ノリノリだねえ。いいことだよ』

 

 

 「ま、乗せられた形だけどね。あ、ロマニ。華奈とストームに私の武器に関して後で相談する時間確保するように伝えなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いい? まず、この銃火器は連射が出来る。反動はすごく少ないけど、連続で何度も弾丸を打つから跳ね上がる銃身を抑えながら撃つように。じゃあ、まずは単発で撃つようにセットして、的を狙って。発射!」

 

 

 「よーしいいぞ! マスケット銃になれている分反動は問題なさそうだな。もう少し的を撃っていこう。さあ、構え!」

 

 

 「な、なんて撃ちやすいんだ・・・しかも狙い通りに当たった!」

 

 

 「こんな銃を持っているのか。しかも藤丸曹長はこれの名銃を当てられるほどとは!」

 

 

 「流石です先輩!」

 

 

 華奈さんはレジスタンス全域に僕らの加勢のニュースと食料配達、炊き出しの用意に領地をフル回転させて、前線勤務。所長は元気に工場勤務で銃火器の生産。ジャック将軍は現場で防衛そして僕らは英霊の一部を連れて訓練をしていく。

 

 

 僕は銃の扱いにカルデアで大尉たちに教えてもらっているので射撃練習や銃の取り扱い、マガジンの交換や、諸々を大尉と一緒にレジスタンスの兵士の皆さんに教えている。なので僕より年上の皆が先輩、上司と慕うのでとりあえずロット王に曹長の階級をもらっちゃった。勲章まで。マシュはすごく目をキラキラさせていたし、フォウ君にはからかうように頬をムニムニされたけど、素直にうれしい。

 

 

 王様から、しかも華奈さんが仕えた王様にもらえるなんてなあー

 

 

 「じゃあ、次はここをこうして・・・じゃ、次は連射で撃ってもらう。ただし、銃の連射が不慣れなので、この鉄板を置いて人数は半分にして撃つようにしていくよ。大尉さん。大丈夫?」

 

 

 「ここの兵士の筋力なら大丈夫と思いたいが、まあ、不慣れは怖いものだ。そうしよう。おい、防弾板を持ってこい!」

 

 

 「はいよ」

 

 

 大尉の部下の皆さんが次の練習を用意してから射撃練習を。マシュも新しい武器を考えつつ、僕と一緒に射撃練習。マシュはなんか、ショットガン? の方が気になるらしい。

 

 

 「そら! いいか! まずお前さんらの強みは弓矢以上の速度で弾丸を打てること。それを意識しろ! まず相手の初動を殺せ。敵兵が如何にすごもうとこっちの方が先に殺す手段を使えるんだ!」

 

 

 「どんなに強烈な初太刀も当たらなければ意味がないです。私の上司の近藤さんも島津の一撃は避けることを心掛けよと言っていました。そして複数人で当たるようにと。どんなに強い兵士も数という暴力は立ち向かえるものになりえます。

 

 

 加えて、戦争というのは距離のある武器を競い開発する側面もあります。そう言う意味では貴方たちは負ける要素は少ない。後は立ち向かう勇気です。まあ、沖田さんならその不利も楽勝で勝ちますが、その沖田さんが味方なので尚更にみんな負けることはないです!」

 

 

 「そういうことよ。さあ、行くわよ。突撃!」

 

 

 あっちはあっちでケルト、サムライ、聖女? によるケルト兵対策の練兵講義と練習。ダンカンさんの部隊をケルト兵に。クー・フーリン、沖田さん。ジャンヌオルタがその部隊長役になって対処法を懇切丁寧に教えてからの分かれてケルト兵になり切って突撃。

 

 

 「皆さん防御形態! いいですか! 敵の手が届くより早く、長く私たちは攻撃が出来ます。その優位性と、攻撃に参加できる人数を活かせば手数は数倍! ・・・よく狙い・・・撃て!!」

 

 

 一方で防御側はジャンヌが指揮を執って守備部隊の隊長として前線で旗を振るいその身体を活かして豪快にみんなを勇気づけている。ジャンヌの指揮通りに膝立ち、前に立つもの、その兵士たちの頭上を守るために盾やショットガンを構えて飛んでくる弓矢に対処。銃撃部隊は新型火薬。というよりは現代基準の弾薬を用いたゆえのもので煙も少なく連射も可能。木製の弾丸がいくつも飛んではケルト軍役の前列がアウト判定をもらう。

 

 

 そして近づけばすぐに撤退して防御陣地へさらに誘導しつつ砲弾の雨を降らすとこの動きをチームを入れかえ、場所を少し変えて練習に励む姿がよく見えた。

 

 

 「じゃあ、簡単にできる罠。ブービートラップってやつだな。これはマスケット銃を用いたものだが、二段構えになっている。まずはこのワイヤーに引っかかってしまえばワイヤーが引き金を引いて弾丸がズドン。で、発砲時の熱で銃床に仕込んでいる爆薬に導火線がついてさらに爆発するタイプのものだな」

 

 

 「へぇーこういうやり方もあるんだ。一度で二度おいしい。数でひしめくケルト軍ならどっかで引っかかれば被害は増えそう」

 

 

 「ふーむ。そうなると、今武器を刷新している最中。古い銃の方は銃床に古い火薬、爆薬をつめて在庫処理を兼ねて作る感じがいいだろう。しかし、このやり方だと市街地とかでないと使えないのでは?」

 

 

 

 「いやいや。そこは森の狩人。知恵の見せどころですわ。荒れ地でもちらほら見える岩などに隠して、火薬も地面に仕込んで地雷にしてしまえばいいってこと。それに、ちょいと改良もすれば自動防御射撃陣地もできるんですわ」

 

 

 あっちではロビンフッドがビリー、ジェロニモなどの現場で英霊を探すメンバーと工兵部隊にゲリラ戦術や罠のノウハウを教えている。流石というべきかアメリカに合わせた武器と道具に合わせた備えに皆興味深げにメモを取ったり話を聞いている。

 

 

 「じゃあ次に自動防御射撃陣地ですが、こいつはさっきの銃のブービートラップの応用で、銃の引き金を引くためのワイヤーとスイッチ。これを押すのはこいつらだ」

 

 

 「えーと。引き金につながっているワイヤーの先にある大きなスプーン? みたいなところの斜め上に大量の泥団子があるね」

 

 

 「そ、で、ここの蓋で泥団子を転がせないようにしているんだけど、このふたを外せば・・・」

 

 

 「おお、泥団子が一つ一つゆっくりと落ちて、スプーンに入って自動で発砲。しかもスプーンから泥団子は転がり落ちて元に戻るからまた新しい泥団子を受け止めて発砲したぞ!」

 

 

 「華奈さんから聞いたシシオドシ? ってやつの構造を使ってできるやつですわ。これをいくつも用意して即席の陣地にでも置いて、弾丸は自動装てんできるあの銃火器で使えれば守りにおいてはケルト軍以上の球数で攻撃出るのと、避難して人のいない町に前もって仕込んでおけばその発砲音で陽動にもできるんでさっきのブービートラップとも組み合わせられるんですわ」

 

 

 「うぅむ。見事としか言えない。この引き出しの多さが二人でケルト軍を倒し続けられる一助となったのか・・・ところでその泥団子はどうやって集めたのだ?」

 

 

 「レジスタンス領地の子どもたちに頼んでおいた。1個ごとにお菓子や小銭を報酬にってことで小遣い稼ぎとか家の助けに小さい子もできるようにって昨晩オレが華奈さんに相談したらあっという間に広めてついでに草案も出してくれたんすよ」

 

 

 思わず僕も驚くほどの仕掛け。いや、仕掛けはシンプルだし、でも防御陣地や隠れやすいゴーストタウン、廃墟ならぱっと見はばれずに人数をごまかして戦える。いろんな場面に応用できる手段。これにはみんながロビンフッドに歓声を上げて拍手を送る。本人は謙遜しているけど、本当にすごい作戦だ。

 

 

 「藤丸君。交代の時間だ。次の兵士たちにも射撃訓練を行おう。マシュ君も、頼んだぞ」

 

 

 「はい!」

 

 

 「もちろんです。ケルト軍も押し返してしまえるようみんなで鍛えていきましょう!」

 

 

 僕とマシュ、大尉、部下の皆さんと気合を入れ直し、新たにやってくる射撃訓練に来たレジスタンス兵を出迎える。僕の今までの経験が、アメリカの皆に、特異点攻略に役立てますように。そう願いつつ僕も腕を磨いて、皆で学んで練習に励む一日を送った。




 モルガンでもちょっとクー・フーリンの呪いは解除できない様子。ほぼほぼ確定して決まっている状態を抑え込んでいるのが異常でラーマには少し驚いている。でもそれはそれとして姉妹でなら猿の呪い一つくらいは楽勝。


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行動開始

アメリカ内容濃いな~マテリアルを読み直して思います。






~カルデア~


孔明「さてさて・・・華奈の言う通りの状況になった。その上でレジスタンスの宣伝のうたい文句や流言飛語を用意しろとはな」


モリアーティ「緩いつながりだったレジスタンスとアメリカをより強固に、英霊の数の今からの行動でアメリカ側からイニシアチブをもらい動かす。って塩梅だろうねえ。数はないなら将官の質とトップの差で埋めると」


アステリオス「お、おれも・・・こい。って」


エウリュアレ「まったく。せっかくゆったり出来ていたのに急にこいだなんて。まあ、アステリオスもいるし、相手は名もなき戦士なら私を呼ぶのは合っているのかも」





~アメリカ・レジスタンス領地~


武蔵「ほほう。なるほど。面白そうな作戦ですね」


李書文「まあ、肩慣らしにはちょうどいいだろう。食客としての働きもしないといけないしな。英霊でも来ればよいのだが」


 「ふぅ・・・今日はこれまで、ですね」

 

 

 ケルト軍を撃退しつつ、練兵の一日目。仕込みのための場所を用意してもらいつつ夕暮れを見届けつつ帰還。敵兵は相変わらず軍団らしい動きはなく、数は在れども戦術を使えば容易くひねることが出来ました。

 

 

 多分、英霊とメイヴ以外には将らしい将の役割を当てずに動いているんでしょうねえ。部隊長みたいな才能をある役割の人を当てるとなれば、同じ人にずっと役割を当て続けることになるので取り分とかがどこでもその人のコピーが独占し続けて内乱起こしそうですし。

 

 

 兎にも角にも、初日は私達銀嶺たちだけで対処をしましたし、明日以降はモードレッド様に任せましょう。

 

 

 「モードレッド様。明日から銀嶺隊を預けます。出来ますね?」

 

 

 「え! い、いいのか!?」

 

 

 「もちろん。もとより戦術的動きは私の教えを叩き込んでいますし、自分の部隊を役割を当てて自由に動けるようにして受け攻め、支援。それらを長く経験しているので問題ないです。頼みましたよ。モードレッド隊長」

 

 

 「・・・おう! 練兵の方もうまくやっておく」

 

 

 いい返事をもらいつつレジスタンス領地に。

 

 

 「おかえりなさい皆さん~ご飯とお風呂で来ていますよ~」

 

 

 「見事だったよ勇者諸君。さあ、疲れを癒してくれたまえ」

 

 

 イグレーヌ様とロット様が出迎えてくれて私たちも頭を下げてから有難く休暇に。今回は私達だけでケルト軍に対応をしたのでレジスタンス軍はいい鍛錬、休暇の時間を手にできたとご満悦でしたしよかった。

 

 

 「あ、そうそう華奈ちゃん。モルガンが呼んでいたわ。多分ラーマ君の事じゃないかしらぁ。後で会ってあげて?」

 

 

 「おお、了解です。じゃあストームとも会って行動を・・・」

 

 

 『その前に華奈さん。皆で後で議事堂に集まってください。明日の行動の確認をするために食事後に集合とのことで』

 

 

 あ、良馬様。ほほう。となると明日は分散行動になりますかね。はてさて、どうなることか。でもとりあえずまずはお風呂・・・さすがに全身返り血で血まみれ状態なので栗毛も私もお化けみたいな状態ですし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて。みんな集まったね。とりあえず、眠気覚ましのコーヒーとカフェオレを飲みつつ明日の行動について相談しよう」

 

 

 食後のデザートのケーキとコーヒーをたしなみつつロット様が音頭を取って会議が始まりました。

 

 

 「まずは今日で得た情報について大きなものが二つ。まずはロビン君とカルデアの方で得たものがあるようだ。じゃあ、ロビン君。お願いね」

 

 

 「うい。とりあえずレジスタンスの防御の陣地は今日で大分進んだんで英霊探しを続行したいんですが、あー・・・まあ、一応戦力になりそうな英霊を知っていて。多分拾っておいた情報とカルデアのレーダーで再調査したんすが」

 

 

 『見事一致。ある町。ここの方に英霊の反応が見つかってね。そこに行って英霊の勧誘をしたいと思っているんだ』

 

 

 「戦力にはなる・・・・・・うん。なるとは思うんで、とりあえずついてきてくれる人材募集ってことっすわ。オレと、ジェロニモ、ビリーで行くがもう少し戦力が欲しい。誰かついてきてくれねえか?」

 

 

 ? なんかところどころ渋い顔をしながら話すロビンフッド様。何か嫌な思い出でもある英霊なんですかね? でも、戦力になると言われるほどなら招かない手はないですしね。

 

 

 「あ、じゃあ僕が行きます。軍団戦の指揮とか僕には無理だし」

 

 

 「なら私も行きます。しっかり盾として戦いますので支援はお願いしますね皆さん」

 

 

 「あーわしはパス。レジスタンス軍の練兵と警備に努めておくわい」

 

 

 「私は行くわ。籠りっきりなのも性に合わないし」

 

 

 「では、実動隊には藤丸君、マシュちゃん。ジャンヌオルタちゃん。ジェロニモ君、ロビン君、ビリー君で行ってもらうとしよう。無理はしない。これを心がけてくれ」

 

 

 ロット様の言葉にはい。と返す皆さん。まず英霊引き抜き実動隊は決定。じゃあ次はというところでモルガン様が出てくる。

 

 

 「次は私から。ラーマ君の妻、シータちゃんがこの特異点に召喚されていること。そしてその居場所の探知に成功しました」

 

 

 「おお! 成功したか! 感謝するモルガン殿! ど、どこにいるのだ!?」

 

 

 「興奮しない。ラーマ君。病気は治りかけの最後の一押しの時こそ安静にです」

 

 

 奇跡の確立を引き当て、妻の存在を確定させたモルガン様の言葉に大興奮のラーマ様。を即座に抑え込むフローレンス様。なんというか、尻に敷かれていますねえ。

 

 

 「場所はここから西の海岸にあるこの島。たしか、アルカトラズ島。という場所ですね。ここに存在が探知できました」

 

 

 「あの名高い監獄がある場所ですか。なるほど・・・え? いや、凄い場所にいますねえ・・・シータ様は」

 

 

 アメリカの中でも更生不可能と言われた凶悪犯らを収監する名高い刑務所。脱獄は不可能と言われて、かのアル・カポネもいたとされる場所ですね。ちなみに刑務所内で囚人が夢中になったのはバンド活動。

 

 

 「ただ、どうにもラーマ君の考えは当たっていたようで、そこには英霊とワイバーン、ケルト兵の気配を多数察知できた。恐らく敵の拠点の一つなのでしょうね。いつの間に用意したのか・・・」

 

 

 「ええ・・・・・・・・いやいや・・・つまりこれ、場合によってはケルト軍、アルカトラズ島と呼応してエジソン王は愚かこちらの方も挟み撃ちにできるってことですか。戦線を二つに割かないといけないといけないのは怖いですねえ・・・」

 

 

 「とはいえ、数はたかが知れているのでしょう。私はこの拠点を守るために現場に出向くメンバーをどうしようかと」

 

 

 「それなら余は絶対に行くぞ!」

 

 

 「私も患者をほっておけないので同行します」

 

 

 「私も行きましょうか。銀嶺隊はモードレッド様に任せているので暴れてきます」

 

 

 「アメリカの真ん中から端っこに行くんだろう? 足が必要なはずだ。俺も行くぜ。マスター。ヘリでいいか?」

 

 

 「私も行きましょう。動きがないとはいえどんな敵がいるのか不明ですし」

 

 

 「シータちゃんの呪いを確実に解除するために私も行きましょう」

 

 

 ということでアルカトラズ島には私、ラーマ様、フローレンス様。ストーム、アルトリア様、モルガン様で決定。ここも少数ですが機動力はストームが用意してくれるので問題ないでしょう。

 

 

 「では、残りの方は防衛拠点をしつつ練兵を続けてもらうとしよう。この件がうまくいけば英霊を二騎招き、さらにはラーマ君という大英雄の完全復活。大きな弾みとなるだろう。今夜はもう遅いので早く休んで英気を養うように。解散」

 

 

 「じゃあ私たちの方はそのまま行きますか。私とアルトリア様、ストームで交代で運転。若しくは自動運転システムを組み込んでいきましょう」

 

 

 ロット様の合図でケーキやクッキーを各々持ち帰りつつ休むことに。ただ私たちの方に関しては距離が距離なので今からヘリで移動していくことに。

 

 

 移動中にアメリカにもケルトにも目をつけられて妨害をされてしまうのも防ぐためには必要。

 

 

 「うーんこの人数かあ。エウロスに乗せるが、銃座の操作は誰かについてもらうぞ?」

 

 

 「座ったままの仮眠ですかあー夜景も楽しめなさそうですね」

 

 

 「ふふふ。夜景デート。遊覧飛行ってわけにはいかなさそうね」

 

 

 モルガン様もアルトリア様も割かしごねなくてよかったです。じゃあとりあえずエアレイダーにクラスチェンジしてヘリのエウロスを出してもらい、レンジャーにクラスチェンジしてからみんなでヘリに乗り込んで夜間飛行です。

 

 

 モルガン様のシータ様を探し当てた際にその場所をヘリが迷わないようにデータに刻んでくれたおかげで自動操縦での小休止も楽にできそうで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「銀嶺隊。私達の後の時代の戦士たちだっては聞いていたけど、ここまでするとはね・・・・!」

 

 

 「狼。猪、馬の魔獣化したやつらと心を通わせて戦い抜く騎士王が全幅を置いた戦士達か。俺たちの時代でも見たことがないやつらだが、ラーマよりは殺すのに手間がかかりそうだ」

 

 

 「メイヴの生み出した軍勢もほとんどが帰らぬ状態。何やら最新の英霊という存在もいるようだが、まったくここにきてアメリカ西部と南部の一部にかのオークニーの軍容が出来上がるとは思いもしなんだ」

 

 

 アメリカ東部。そこの一室で行われる英霊三騎による会話。ケルト軍を率いて、その戦士たちを生み出してこの大地を掌握せんと動く女王メイヴ。ラーマを容易く圧倒してしまうほどの戦士にして現東アメリカを牛耳る狂王クー・フーリン。そして彼らのもとで戦士として、また現在は精鋭部隊を率いる将として動く勇者フェルグス。

 

 

 「全くよ。高々発明王がここまで粘った間にまさかブリテンの魔女がかつての旦那と家臣を呼んで南部の一部を掌握。英霊の数は多いけど小粒だからまだ何とかなりそうなのに、発明王のもとにカルナが、そしてカルデアの方も来て面倒くさいったらありゃしない」

 

 

 「カルナという大英雄と圧倒的物量を持つ発明王率いるアメリカ西部。モルガンとロット、カルデアがいるアメリカ南部。現在はどちらも前線を深入りすることはしていないがこの二つの戦線に兵士を割かないといけないのは少し手間だな」

 

 

 「・・・間抜け。相手が小さいうちに刈り取らなかった手前の失敗だろうが」

 

 

 ラーマをはじめとして多くの英霊を刈り取り、始末し、アメリカの半分を手に入れたケルト軍だったがエジソンが王としてアメリカ西部をまとめ上げ、その間にモルガンが南部で挙兵してケルト、アメリカ西部どちらにも相いれないものを吸収して一大勢力に。

 

 

 最初のころのようにこの時代を生きていたジョージ・ワシントンや閣僚たちを抹殺して虚を突いた勢いでの侵略を見せていたのだが、ここ最近はその動きが停滞し、膠着状態が続いていた。

 

 

 「だからって近現代の、しかも戦士でもないやつがここまでするとは思わないわよ! あいつが思った以上に粘るせいで南にも戦線を作られるわ、使いやすかったフィンもディルムッドも即座にカルデアに始末されるし! カルナがついたのも大失敗だわ」

 

 

 ただ、メイヴの判断も間違ってはいなかったのだ。モルガンという神代の魔女という。しかも今も生きている半神霊状態の強者よりもアメリカという国を作ろうとしていたこの時代の人間を多くまとめるも力はない。ましてや文官、武官の経験すらない近現代の技術者一人がリーダーシップをとる英霊の方を先に始末する。

 

 

 戦術も戦略も知らないやつが音頭を取ったところで烏合の衆が。ケルトの強さを骨の髄まで叩き込んだやつらが何もできるわけではない。そいつらを刈り取って残りはモルガンのいる少数を包囲して叩けばいい。そう思っていたのに予想以上の粘りと兵器による対抗。カルナという大戦士と二人を補佐するエレナの存在。彼らが踏みとどまった矢先にレジスタンスの方も防御態勢を整えてアメリカを支援する動きを開始。

 

 

 それでもじりじりと戦線を押し上げていたところにカルデアが来て自分らの手駒を二騎始末してきた。英霊の損失としてはケルト軍初の英霊の損失以降、最初の勢いはすっかり消えていた。

 

 

 「どうもあの発明王。なんかの後押しを受けている気がするのよね。聖杯以外の何か。そうでなくちゃ、ここまで対抗できるわけがない」

 

 

 「・・・ふん。そりゃきな臭いな」

 

 

 「戦術はお粗末と言えるがその物量を維持するための生産体制、為政者としてのふるまいは確かなものだと言えよう。ましてやそれについていけず脱走するものがいてもレジスタンスが受け止めて支援をすることで結果的には人的資源は常に動いて回している。

 

 

 そこに来てカルデアだ。これは俺たちであっても少々骨が折れるかもしれんぞ?」

 

 

 メイヴの読み違えとカルデアの参戦。圧倒的武力を持つケルトも相手を完全に理解しているわけではなく、不安要素はある。

 

 

 「それなりの相手だろうが知ったことか。俺はこの大地を平らげる。そのために多少の敵がいるのなら殺す。それだけだ。それで全部終わる」

 

 

 「・・・・・・ふむ。変わったのお」

 

 

 ただ、それでも狂王はひるまず、障害と理解していてもそれは壊すだけだと言ってはばからない。それが出来る実力がある。このくらいの相手にひるむような勇士ではないとどす黒い覇気を出す。

 

 

 「ええ。そうよ。私たちはこの大地をものにするの。それで、フェルグス。私達の方で斥候が英霊を捉えたの。レジスタンスの方でもすでに動いているみたいだけど、これ以上一つの集団となるのは面倒。先回りして潰しておいてくれないかしら?」

 

 

 「各個撃破というわけか。承った。その程度なら容易い」

 

 

 「ありがとう。フェルグス。帰ってきたら一晩相手してあげようかしら?」

 

 

 そしてその覇道を進むためにケルト軍もひとまず英霊たちの合流をする前に各個撃破をする。まずは目下の敵が力を蓄えることを防ぐことに動くことを選び、そのために女王メイヴはフェルグスに命令を下す。更には王がいるというのに閨を共にして肌を重ねるかと褒美に出して誘うあたり流石の稀代の好色で知られる女王である。

 

 

 「ふむ。いやいや。それはやはりやめておこう。せっかくの二度目の生だ。貪欲に生きるのもいいが、たまには禁欲的なのもいいだろう。戦うことに全精力を傾ける。昂る獣性の赴くままに。な」

 

 

 これに返す一見この中では紳士的ともいえる男フェルグスもやはりケルトの戦士。思いきり戦って暴れてみせようと任務をこなすことと、とにかく戦いを楽しむ気性はやはり勇士たちの長。

 

 

 すぐさま出ていくと王と女王に伝えて彼は扉を閉めてこの場から出ていき、ケルト軍も次なる動きを見せようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「楽勝!」

 

 

 「ちょろいわね」

 

 

 「・・・まさか、まさかなあ・・・」

 

 

 レジスタンスの領地から出発してロビンフッドの言う英霊の場所に移動していた僕ら。だけどその英霊のいるとされている町? の手前でケルト軍が襲い掛かってきて対処。したのだけど、僕でもわかる。妙に弱ってる。

 

 

 レイヴンの弾幕だけで盾をすぐに落としたり、動きが鈍かったり頭を痛そうに抑えていたりとで、消耗しているのがまるわかり。

 

 

 「うーん? 別のところで戦いをしていた部隊でしょうか? その後にここを仮拠点としていたとか」

 

 

 マシュも弱り具合を感じていたようで不思議そうにあたりを警戒しつつ戦闘の所感をつぶやいていると何かが聞こえてきた。

 

 

 「・・・・むぐ」

 

 

 「・・・う・・・」

 

 

 それを聞いてジェロニモが顔をしかめ、僕は冷や汗が止まらなかった。

 

 

 「な、何か奇怪な音が・・・」

 

 

 「ん? うわ、なにこの・・・なに? 一つ一つの音はきれいなのに、全体として汚泥のように濁っているような・・・キレイ絵の具を同じ場所に複数強引に混ぜたら真っ黒になりましたって感じ・・・」

 

 

 「・・・ねえ。ここから戻らないかしら。英霊はいませんでしたってことで」

 

 

 「待ってくださいマスター。私達この歌を知っているような気がします」

 

 

 「気乗せ、気のせいじゃないかなななんあなななんあななあ」

 

 

 思い出したくない。色々な意味で思い出したくないフランスのあの珍妙な出来事と歌声、冷や汗が止まらずレイヴンにかけている指を話さないと暴発しそうなほどに僕は震えてしまう。

 

 

 「マスター! 語尾が面白いことになっています!」

 

 

 「あー・・・聞きたくない! 何よこの歌! もしかしてこの歌だけでさっきのケルト軍弱ったんじゃないかしらね! もうその場に置いとくだけで行軍するアイツら消耗させてくれるから解散しましょ解散!」

 

 

 「うぇ。まだ歌ってんのアイツ?」

 

 

 ロビンフッド曰くずっと歌っているらしく、いやいやながら足を踏み入れればそこにはエリザベート・バートリーが一人でお立ち台? らしきものを作って歌と振り付けの練習をしていた。

 

 

 「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」

 

 

 近くで聞けばあんまりにも。地声はいいし美貌もある。歌詞もいわゆるパンクロックというかどっかの電子世界の歌姫の歌と思えば受け入れられる。だけどあまりに音痴。これを聞き続けてしまいには英霊ゆえの強さもあればケルト軍が憔悴するのもああ・・・といろいろな感情を含んだ無言の感情がみんな湧き出てしまう。

 

 

 「あら、小鹿にマシュ。それに緑ネズミにその他大勢。何か用なの?」

 

 

 「人を色で覚えるなっつーの! で・・・オタク、まだここで歌っていたのか」

 

 

 「イエス。何しろここは欲望に肥え太ったブタたちの集う究極の芸能地獄。その名も・・・ブロードウェイ! なのだから!」

 

 

 「ぶろーどうぇい?」

 

 

 「ゴーストタウンで一人歌って何言ってんのよアンタは」

 

 

 あーうん・・・なるほど。その衣装とさっきの踊りも相まってなるほどなるほど・・・地獄って部分だけは再現できていると思うよエリザ。

 

 

 「うそ? 知らないの? ミュージカルの本場ブロードウェイの栄光を! そこは輝ける娯楽の殿堂。なんかキラキラした天上の表現天国・・・確かにここは田舎町、ゴーストタウンだけどこのアタシがここをブロードウェイと定めたの! アメリカで価値があるのはこことあそこだけ! そしてここでアタシだけのブロードウェイを立ち上げて・・・」

 

 

 すっごい豪快かつ豪華な自分の野望をぶちまけて語るエリザの夢に皆またもや絶句というか呆れというか。それを聞いて相変わらずすぎる。としかいえなかった。

 

 

 「あの・・・だれか止めてあげない?」

 

 

 「おいなんだよその目は? イヤだよオレ? だって夢見るのは自由じゃん!」

 

 

 「もしかしてさ。あのドラ娘がここまでテンション高いのって、ここがアメリカだけってじゃなくてさっきのケルト兵士、お客さんか何かと思っていないかしら? ほら、オタクの群れというか、ファンだと思って自分の応援とか」

 

 

 「・・・・・・・ありえなくはないな」

 

 

 「うん。多分そうだと思う。すっごい前向きな子だから」

 

 

 ジャンヌオルタの発言に皆も頷く。そりゃあ、あれだけぎらついた眼で襲い掛かってくるのをエリザの胆力とアメリカに来たテンション高めの状態ならお客さんと思うかも・・・というか、玉藻といい、女性の英霊たちこの人理焼却の状態でついでに旅行満喫しようとしている人ちらほらいない?

 

 

 「と、とりあえずエリザさん! お久しぶりです! その努力する姿は素晴らしいですが率直に申し上げるとこのままでは貴女の観客は襲い掛かってくるケルト兵だけになるかと!! 彼らに貴女の美声は届きません。おなかの空いた竜の断末魔にしか聞こえないでしょう!!」

 

 

 「え? お客がひっきりなしに来るかと思って張り切っていたのに・・・芸術も解さない馬鹿者だったの?」

 

 

 再起動したマシュがなんか変な勢いでまくし立てて、エリザもまさかの真実に驚き。いや、ジャンヌオルタの予想がここまで正確って。みんなしてさっきのケルト兵の弱り具合を再確認。

 

 

 そしてこの後何やかんやマシュの頼み込みとうまい具合に丸め込んでエリザを仲間に引き入れることが出来た。そして、何やらセイバーの情報も知っているようなので一緒に更に移動。知り合いの英霊と会うことがまさかここまで不安になるとは思わなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うまくやっているなあ銀嶺隊と信長は」

 

 

 「銀嶺隊が敵を分断して暴れつつ敵の目を引き、集まってくるケルト軍の軍団をレジスタンスの防御陣地や部隊で背後を銃撃する。うまいものです」

 

 

 華奈さんたちと藤丸君たちがそれぞれの任務に赴いている間、私宮本武蔵と李書文はレジスタンス領地での防衛任務。で、銀嶺隊とレジスタンスの兵士たちの連携で敵を分断しつつ対処。

 

 

 戦の音で引き寄せられる相手も撃破と包囲をさせない立ち回りには惚れ惚れするほど。モルガン陛下が10万の兵力よりも銀嶺隊の方が何倍も強いと言わしめるのも納得です。総大将の華奈さんがいなくてもこれですから。

 

 

 「むぅ・・・しかし、カカカ。来たな。武蔵。ケルト兵が負けた矢先こっちに目を向けたようだぞ」

 

 

 「ええ。ようやくですか」

 

 

 そして一度敵の方も守りの陣地、高知の有利さ。そして取りやすい拠点を狙ってきたのでしょう。私たちのいる場所。華奈さんが作っておいた小城ほどの大きさの砦に向けて一同が退却しながら狙ってくる。こっちの方ならと思っているのでしょう。

 

 

 「敵を引き付けて、あの旗があるところが来たら射撃開始です。もうすこし・・・もう少し・・・今です!」

 

 

 ジャンヌちゃんの合図で砦全体から大砲や銃撃戦が始まり、弾丸がケルト兵に飛んでいく。より強化されたEDFという組織の持つ銃の複製と弾薬。それはあの勇猛果敢なケルト兵の肉体も鎧も砕いていく。

 

 

 「思った通りだ! この拠点は手薄だ! いけるぞ野郎ども!」

 

 

 「おぉおお!!」

 

 

 「ここを確保してレジスタンス領を攻める足場にしつつ銀嶺隊たちを凌ぐ!」

 

 

 ただ、ここにいるレジスタンス兵は「今は」少ない。たとえ未来の銃火器と言えどもどうしても発砲の際の光でその人数は分かってしまうというもの。自分らを蹴散らしたレジスタンスの防御陣地ほど堅牢ではなく、銀嶺隊は全員が騎乗している部隊ゆえに砦攻めには向かないという判断でしょう。

 

 

 「ジャンヌさん。敵部隊第二ラインまで迫りました!」

 

 

 「頃合いですね・・・よし、皆さん銃を撃ちながら順次砦に避難を! けが人を優先的に収容するように! そして各自伍長としっかり動くように」

 

 

 「「「「ハッ!」」」」

 

 

 だけどそれも織り込み済み。なぜならここもまた華奈さんの用意した狩場の一つ。ジャンヌちゃんも前もって分かりやすく、でも相手にはわかりづらい目印で撤退するべきラインまで敵が来てから即座に砦の中に避難。

 

 

 「よし。各々位置につくか。手ごわい戦士や魔獣が来てくれるといいがのお」

 

 

 「それは私がいただいて是非是非美味しい手柄をいただきたいですが、まあこればかりは運任せ。武運を」

 

 

 「そっちこそ」

 

 

 敵がはしごを、あるいは簡素な土壁の一部を壊し、這い登ってくる。若しくは城門を壊して入ってくるケルト兵の気配を背後に感じつつ、私も李書文も砦の中に。

 

 

 「よし! 入れたぞ! 術師を呼べ! 治療と陣地作成・・・な、なんだこりゃあ!?」

 

 

 「おい・・大きな城どころじゃねえ。まるで城の中に迷宮があるような!?」

 

 

 「この中にレジスタンスどもは逃げたか・・・まあいい、どうせ袋のネズミ、それに防衛陣地としての側としては使えるだろ」

 

 

 城壁から、城門からケルト兵が中に入れば、その異色さに驚く。何せ、そこからは思いきり巨大な迷宮があり、扉を越えればその中一つが異世界。

 

 

 でも影の世界など、色々と異界を知るケルト兵はすぐに気を取り直して調査に入る者、後続に押される形でこの砦に入る声が聞こえてくる。

 

 

 「ノブー!」

 

 

 「ノブノブー!」

 

 

 しかしそこからも怖いのがこの砦。ちびノブなる不思議な生き物? たち専用の出入り口からちびノブたちがケルト兵の足元から火炎放射器、マシンガンで不意打ちをしてケルト兵を焼き殺し、ハチの巣にして殺し、あるいはレジスタンス兵らに渡されたAF100、スレイド、バウンドガン、レイヴンシリーズの銃器での射撃。狭い通路で逃げ場もない道で思いきり撃たれ放題。

 

 

 かといって逃げようにも既にここは迷宮。どこに行けばいいか動けば動くほどに迷い、深入りし、あらゆる罠が、十字砲火が襲う。数の強みも迷宮で分断されてしまい少数ごとに刈り取られ悲鳴が響けば不安をあおる。

 

 

 「うぉおおおお!! ケルトへい・・・ころす!」

 

 

 「いい、無理は禁物よアステリオス。じっくり、しっかりと殺し尽くして、逃げるものは追わないように」

 

 

 この砦の内側を作る迷宮の正体はアステリオス君の宝具で作り出した迷宮。運悪く彼と、彼と仲良しの女神さまにして美少女のエウリュアレちゃんのコンビによって容赦なく叩きのめされてしまう。私たちレジスタンス軍は彼らからもらった迷宮のマップをもとに罠の位置や避難経路、隠れ場所。攻撃位置についたりするので敵からの捕捉は土台無理。

 

 

 恐ろしいものですねえ。これがより本気なら難攻不落の城壁と、ここを越えても死の迷宮で迷い分断されて味方の悲鳴を聞きながら死んでいくのですから。

 

 

 「なんだここは広い・・・!」

 

 

 「おや、ようこそ。ではでは・・・殺しましょうか」

 

 

 そして、ここに来ることが出来た悪運の強い、あるいは強者は私や李書文と広間に隠れているちびノブで刈り取る。さぁて。槍働きしましょうか!




 フェルグスおじきのヒントをもらう前に突撃。


 世界的有名な映画産業でも有名なハリウッド。実はこれが出来たきっかけはエジソンが経営していた映画会社が自分の会社のグループに入らない会社をとにかく抑圧。参加しない、出来ない映画会社には高額の特許料などを科されるなどしてそれから逃げる形で集まった新天地が今のハリウッドの原型だとか。もう何というか世界初の映画館を作ったりサブカル関連へも影響も凄いですよねえ発明王は。


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あっ、どうもお久しぶりです

プロフェッサー『おおーいい出来だ。これならいい対空兵器もできそうだし、ショットガンとしてもいい出来栄えだよ』


オルガマリー「そういってくれるのならうれしいわ。アサルトライフル4 ショットガン1くらいで今はいくべきかしら」


プロフェッサー『ワイバーンが多いのならね。でも、本格的に動くのは後だろう。今は無理せず充実を急ぐように』


オルガマリー「分かったわ。そっちの方も華奈に任されたプロジェクト頑張ってね」


 「お、見えてきましたか。アルカトラズ島。うわぁ・・・」

 

 

 「ありゃあ、刑務所ってよりも最早ワイバーンの島だなあ・・・」

 

 

 早朝、アルカトラズ島がみえてきたので目を凝らせばそこにはケルト兵とそれ以上であろう程のワイバーンだらけの島が。

 

 

 「あそこの地下にシータちゃんがいるわね。どれ・・・この距離なら・・・うん。特に負傷もなく、周りに兵の気配もない。独房に入れられているわ」

 

 

 「そこまでわかるのか!? ああ、シータ! 今すぐにでも・・・!」

 

 

 「待ちなさい。この海に落ちて泳ぐつもりですか。堪えなさい。あなたが泳ぐよりもこのヘリの方がずっと早い」

 

 

 「刑務所もあるようですが・・・どちらかと言えば兵舎ですね。さて・・・皆さん。強行突破の準備は出来ていますか?」

 

 

 アルトリア様の感想がまさしく的を得ていて。同時にこの兵力はかなり物ですし英霊もいる。あと、何やら強力な気配を感じるのですがこの戦力を遊ばせるような感じにしてまでシータ様を捕らえているのはなぜでしょうか。なにか強力な武器でもあるのか、それとも?

 

 

 とにかく行けば分かるというのとそろそろワイバーンも気づく頃なのでアルトリア様もスナイパーライフルのライサンダーZを構え、ストームもバスターショットとMEX5エメロードを装備して戦闘準備はOK。私はイグレーヌ様からもらった伝説の剣と言われるネギとMLRAーTF。他の刀は陽炎以外は魔力節約のために今は格納。

 

 

 「こちらはいつでも」

 

 

 「問題ありません」

 

 

 「じゃあ、低空飛行に切り替えて・・・一気に突撃だ!」

 

 

 ストームがそういうやヘリが速度を上げてアルカトラズ島に突撃。襲い来るワイバーン、ケルト兵の弓矢、魔力弾をミサイルやライフル射撃。モルガン様の放つ魔力の攻撃でエウロスをカバーしてエウロスもマシンガンやレーザー砲で正面の敵を迎撃しながら島の中を移動してシータ様のいる監獄の前まであっという間に到着。

 

 

 「全く豪快な侵入者がいたもんだ。ようこそアルカトラズ刑務所へ。入監か? 襲撃か? 脱獄の手伝いか? 希望を言いな。殺した後で聞いてやるか考えておく」

 

 

 そこに堂々と立ちこちらを見据える英霊。全身に激しい戦いの傷跡に筋骨隆々の肉体。金髪の髪と赤い瞳は整い顔立ちもいいのですがその気風。英霊の数を見てもひるまないあたり相当に場数を踏んでいる戦士だというのがよくわかる。

 

 

 「こちらの患者の奥方がここに監禁されているそうなので。治療のために開放していただけないかと」

 

 

 「なんだよ面会かよ。おいおい戦いに来たんじゃないのかい?」

 

 

 「まさか。看護師が戦いに来てどうするのです。看護師が戦うのは、怪我と病気と決まっています」

 

 

 「そういうわけで、私たちはそちらの監禁しているシータ様の開放をお願いしたいですね。荒事はこれ以上はしたくないので」

 

 

 (モルガン様・・・)

 

 

 (ええ。竜種がちらほら。何時でも暴れられる用意はしていますよ)

 

 

 (・・・大真面目に、ここに兵力を増やして挟み撃ちされるとアメリカやばかったでしょうねえ)

 

 

 とりあえず話し合いが出来るのならと一応話しては見ますが、どうにも相手の持ちえる戦力は多いのと、竜種という私たちがアメリカで出会った魔獣の中でも飛び切りのやつらがいるのでそれらへの対処を念話でモルガン様と話しつつ、ケルト兵たちも私たちの方に向かってきている声が聞こえる。これ以上話すのはこちらが不利になるだけですね。

 

 

 「しかし残念だが、俺はその奥方を開放するつもりはな・・・うぉおおっ!?」

 

 

 「ならいいです。さっさと周りの竜種もケルト兵も出しなさい。あなたの欲しい戦いをしたうえで私たちは進みます。情けないことをしたうえでえらそうにしている貴方との時間が惜しいですから」

 

 

 で、まあ開放するつもりがないと応えればすぐさまモルガン様とフローレンス様の銃弾と魔力の弾丸が飛んできて男を狙う。患者の治療の障壁と夫婦の逢瀬を邪魔するとなればまあそうなります。

 

 

 「そんなら早速やろうじゃねえか。お前らが戦士だって証を見せろ。この戦いの泥にまみれた国の中で自分らの価値と証を示せ。さあ、派手な団体戦としゃれこもうや!」

 

 

 あっちもあっちでノリノリで竜種を十匹とワイバーンを数百、ケルト兵も同じほどに呼び出してきて私たちを取り囲むように。うーん。数は多い。質はそこそこ。

 

 

 「ラーマ様。相手は竜殺しですが、やれますか?」

 

 

 「華奈殿、やらせてほしい。全力は出来ないかもしれないが、この身で今できる限りを。華奈殿の刀の力で痛みのないうちに、あの男を思いきり殴らせてほしい!」

 

 

 「了解です。フローレンス様。ラーマ様はこの通りこれをしなければたぶん自分が思うべき治療と思いません。すべきことと言えましょう。ラーマ様のサポートをお願いします」

 

 

 「・・・分かりましたドクター。私がラーマ君を絶対に死なせません」

 

 

 「アルトリア様、ストーム、モルガン様。一人当たり大体300前後。竜種は3、4匹。何分で行けます?」

 

 

 「「「3分」」」

 

 

 「私もですね。では、暴れましょう!」

 

 

 割り振りをさくっと決めてからいざ戦闘開始。さてさて、私はミサイルとネギで援護しますが、出来ればここの島にいる竜種の肉も持って帰りたいところです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っははははは! こいつはすげえなインドの英雄! スデゴロもいけるとは多芸なもんだ!」

 

 

 「ぐっ・・・く! これくらい、子供でも覚えるわ!」

 

 

 戦いのさなかなのったあちら側の英霊。ベオウルフ様とラーマ様の戦いは互いに熾烈を極め、私達の戦闘がひと段落した後も続いていました。

 

 

 持ち前の剛力をもってラーマ様の武器を弾き飛ばしたベオウルフですが、ラーマ様も負けじと一振りを叩き落とし、フローレンス様の銃撃がもう一振りの剣を落とす。そこからは互いに全力での拳の殴り合いが続き、青あざと血汗が飛び、鈍い音がこの監獄に響き渡る。

 

 

 「はぁ・・・余は、シータに会うのだ! 貴様との戦闘に興味などない! そこをどけ! ぐっ・・・こんな、こんなチャンスを逃がしては、華奈殿たちにも、申し訳が立たぬ!」

 

 

 「ぐはっ! が・・・か・・・んおぉおお!!」

 

 

 「ぐぶっ! づ・・・! ま、まだまだぁ!!」

 

 

 「恐ろしいですねえ・・・どちらもすさまじい・・・む」

 

 

 その戦いを見ていたのですが、その間にわずかに息を吹き返したドラゴンたちが周りのケルト兵とワイバーンを食べて復活。ああ、もう。これだから竜種の生命力、底知れないエネルギーってのは厄介なんですよね!

 

 

 「グォオオオオオ!!」

 

 

 「お姉様!」

 

 

 「はいっ! っと・・・! あ、いい匂い」

 

 

 ぶっ放してくるブレスをネギで切り払い、喉元を今度こそざっくりとネギで斬り捨てれば首と体が泣き別れをして今度こそ完全に絶命。うーん。このネギ、大真面目に魔剣レベルの切れ味がある。あと、炎で少し焼けてほんのりいい匂いが。

 

 

 念入りにとほかの竜種の方も始末をしていれば、ラーマ様とベオウルフの戦いの方もあともう一押しの様で。

 

 

 「っ・・・ッッッ!!!」

 

 

 「ち・・・半病人にこのざまか。俺の負けだな・・・降参だ。降参。好きにしろ。これ以上流石に恋路を邪魔するつもりはねえ。

 

 

 ん・・・ぷっ。まったく。戦場に色恋沙汰を持ち込みやがって。そう言うのに弱いんだよ。俺は」

 

 

 ラーマ様の気合のラッシュがベオウルフをふっ飛ばし、あちらも踏ん張るもこれ以上は野暮だと感じたか自ら座って降参だと両手をあげる。

 

 

 見事。この数分間ひたすら殴り合っていた激しい拳闘はラーマ様が制しました。口から豪快に血反吐を吐き出すベオウルフもぐったりと運動あとの疲れを感じつつ頭をかいています。

 

 

 「はぁ・・・はぁ・・・さ、最初からそうしていればいいのだ・・・! 余のシータには手を出していないだろうな?」

 

 

 「ああ、俺を含めケルトの馬鹿どもにも指一本触れちゃいねえし触れさせていねえ。華奢過ぎて触ったら折れそうだったものでな。こんな後だが、一応元王の俺の言葉だ。嘘は言っていねえ」

 

 

 「では、戦闘を放棄するということでよろしいのですか?」

 

 

 「そういうことだ。さっさと行けよ優男。華奢な奥方が奥で待っているぜ」

 

 

 これにてアルカトラズの戦力は全員対処完了。ですかね。ただ、バベッジ様のケースがあるのでストームに頼んで迎撃用の罠の設置だけをしつつシータ様の方に向かっていざ突撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・? 何かしら・・・いい匂い・・・・ラーマ様!?」

 

 

 「シータか? シータ! 迎えに来たんだ! 遅くなって、本当に申し訳ない・・・!」

 

 

 罠や仕掛けなどを警戒しつつ先へ先へと進み、ついた独房の一つ。そこをこじ開ければ中からは長く伸びた赤毛をツインテールにしてネグリジェと下着? の確かに華奢な美少女。そして背中には大きな弓を背負う英霊がそこにはいました。

 

 

 彼女がシータ様。ラーマ様の后であり、追い求めていた方ですか。

 

 

 「お二人の再会にあれだけど申し訳ないわねシータちゃん。貴女の呪いの方も対処させてもらうわ。お姉様」

 

 

 「ええ。よいしょ。・・・・・はいっ」

 

 

 ただまあ、その前にシータ様の方の離別の呪いの方も完全に対処するために私が桜花で呪いをシータ様の方から切り離し、モルガン様がそれを完全に解呪。二人に影響を及ぼさないようにしっかりと対処。

 

 

 これで二人が抱き合おうが乳繰り合おうが問題なく一緒のままで呪いはもうありません。

 

 

 「シータ。・・・・会いたかった。会いたかったんだ・・・本当に、本当に会いたかったんだ・・・! 僕は、君がいるだけで。それだけでよかった! 彼女たちはそんな願いをかなえるために協力してくれた恩人。僕とシータの離別の呪いも、今解除してくれた。

 

 

 これからは・・・ずっと・・・ずっと一緒なんだ・・・!!」

 

 

 「本当なんですか・・・!!? あ、あの呪いを。英霊になってもなお残る呪いを!?」

 

 

 「ええ。ではその未来のためにも治療を開始します。本来ならこんな不衛生な場所で行うべきではないですが、英霊ゆえの特例。そして次の国の治療に移るために急がせてもらいます。シータちゃんは遠慮なく彼の手を握り、過ごしてください。

 

 

 ドクター、モルガンさん。ストーム1さん。治療道具の用意を」

 

 

 驚くシータ様に微笑みつつ治療を始めるフローレンス様にモルガン様の治療道具、ストームのリバーサー、アルトリア様と私からは先ほど倒した竜種のハツ。魔力素材としても生命力を治療道具に使えたりするので色々便利なんですよねえ。

 

 

 「では、治療を始めます」

 

 

 「あ、あの・・・ラーマ様と本当にこうして手を握り、一緒に会えるだけで幸せ過ぎますが・・・あの、華奈、さんですよね・・・?

 

 

 なんで、皆さん焼き肉をしているんです?」

 

 

 「「「「昼飯」」」」

 

 

 シータ様が私が先ほどから焼いている竜種の肉とワイバーンの肉を七輪で焼きながら台車で持ち歩いていたのにツッコミを入れつつ、道具やらラーマ様の言葉から私たちが助けたのは確かだけどどういうべきなのかと困っている様子。

 

 

 いやーここにきているの生身の人が多いのでお腹が空いて空いて。持ち込んでおいたおにぎりと塩が合う会う。

 

 

 「あ、ストームタレありますけどどうです?」

 

 

 「おお、貰う。アルトリアもどうだ? 檸檬だれもあるぞー」

 

 

 「いいですねえ。いただきます。ああー・・・このうま味、たまーに出会えた時に食べる贅沢ですねえ・・・」

 

 

 「新鮮なハツは食感がいい。ふふふ。後で壺漬けのお肉も用意してお母さまたちにもプレゼントしましょう」

 

 

 「ま、まあシータよ。彼らはなんというか奔放かつ、だからこそここまで余を運んでくれたのだ。今はどうか手を握って・・・君を感じさせてほしい。ああ・・・本当に、こうして見れることも、感じることも、ぬくもりも全部嘘じゃないんだ・・・」

 

 

 「ふふ・・・分かりました。ハヌマーンよりも自由なお方たちと。ええ。私はここにいます。どうか癒されることを」

 

 

 「ああ・・・ぐっく・・・くぅ・・・!」

 

 

 うーん・・・竜種の心臓の肉の機能と、シータ様の後押しがあっても治療の際の痛みは思わずうめくほど。本当にあの槍の呪い。凄すぎませんか? なんかこう・・・聖杯で後押しとかされているのか、何かあるんですかねえ・・・もしくはそういう部分をより引き出したとか。

 

 

 「・・・・・・・ふぅ・・・治療完了。完全に快癒と言っていいでしょう」

 

 

 「おぉ・・・おぉお・・・・! 体に痛みもなく、よどみもない・・・! 戻った! 余の身体が! ありがとうシータ! ナイチンゲール! 華奈殿! モルガン殿! これは・・・貴殿らが起こした奇跡だ!」

 

 

 ただまあ、ちゃんとシータ様の後押しとフローレンス様の治療技術。呪いの方もぶった切ったのでもう問題なし。完全に元気満々のラーマ様ががばりと立ち上がって頭を下げる。

 

 

 「ラーマ様。ああ・・・こんなに元気になって。感謝します。皆さん。まさか、呪いを気にせずにこうしてラーマ様のお側にいられるなんて」

 

 

 「ふふふ。ではでは、お二人の再会と復活を祝してまずはおにぎりと焼き肉とお茶ですが乾杯して昼食をとりましょう? 二人とも体力を回復させてからヘリでまたお送りしますので」

 

 

 「ほらほら、早くしないと私とストーム1で食べ尽くしますよ」

 

 

 兎にも角にもひと段落したらもうお昼前なので昼食の時間。皆でおにぎりと焼き肉をつついて監獄の中を肉と煙臭くしてしまうまで食べ続けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これらの肉は転移魔術で銀嶺領地に送りましょうか。さてさて。お昼下がりですから、今からなら夜にはつくでしょうか」

 

 

 「ええ。敵兵もやはりアルカトラズまで船なりなんなりでアメリカの半分を超えてくるのは出来ないようで。まあ、レジスタンス領地が今は海への道をシャットアウトしているのもあるかも」

 

 

 「いやーこの肉の量はアメリカに送ってもあまりそう。骨も煮込んで出し汁でラーメンなりスープを作りましょうかあ」

 

 

 食後に皆でさあレジスタンス領地に帰りましょ。ってまえに戦利品のワイバーンと竜種の肉をモルガン様の魔術で送りこんでいる中、ストームが新しいエウロスを用意していましたが、なんでか二台出していました。

 

 

 「おや、ストーム。どうしましたか?」

 

 

 「ははは。エウロスはこれ以上は店員オーバーだからさ。ここからは二台で帰ろうかと。俺はアルトリアとモルガン、ナイチンゲールを送るから、マスターはあの夫婦を頼んでいいか?」

 

 

 「・・・ああーなるほど。ふふふ。そうしましょう。ええ。了解です」

 

 

 なるほどうまいことを。二人の再会を祝しての軽いサプライズということでそうしましょうか。

 

 

 「じゃあ、連れ帰る人が増えたのでヘリの定員オーバーをしてしまいましたので、ラーマ様とシータ様は私と。ストームはモルガン様、アルトリア様。フローレンス様でお願いします」

 

 

 「了解ですお姉様。私達は先に行っていますのでどうか運転にお気をつけて。ささ、行きますよアルトリア。疲れを抜きましょう」

 

 

 「わわ、すぐ行きますよ~」

 

 

 モルガン様はすぐに意図を察してフローレンス様とアルトリア様をヘリに押し込んでストームたちは先に発進。

 

 

 その後に私達も二代目のエウロスにラーマ様たち夫妻を乗せてシートベルトをしっかり装着させて、飲み物とドーナツを渡しておいて空からの帰路に。

 

 

 「わぁ・・・・・! 空からこうして・・・ラーマ様と一緒に! あぁ・・・地上がよく見える・・・海が輝いて・・・」

 

 

 「ああ・・・美しい。ただ、シータ。君がいるからこそこの景色は映えるのだ・・・」

 

 

 「ラーマ様・・・」

 

 

 「シータ・・・」

 

 

 「「大好き(です)だ」」

 

 

 二人のそっとキスをする気配を感じて運転席の私の方は見えないように黒いシートを下ろして二人きりの世界に。後は何でかあったオーディオ機器にジブリ映画作品の音楽集があったのでそれを流しておきながらご夫婦再開後のアメリカの大地と海を眺めながらの遊覧飛行。

 

 

 こんな戦争の状況ですが、今くらいはデートを楽しんでくださいね~




 無事夫婦再会。もう別離の呪いもないので安心して夫婦やれますね。


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より深い同盟へ

 イドクリアしましたーすごくよかったですね今回も。





 華奈「んー・・・明日はラーマ様とシータ様は一日お休みにしましょうか」


 ラーマ「まて、華奈殿よ。流石に恩を返せないのは余も心苦しい。本調子に戻ったから是非・・」


 華奈「明日は私達だけでどうにかなるので予備戦力としてうちの領地で休みつつ二人でデートでもしてきてください。はい。ロット様からのご祝儀のお金とうちの領地のデートスポットのマップですのでお役立てくださいな」


 シータ「あ、あの・・・本当にいいのですか? 遊覧飛行といい、ここまで至れり尽くせりで」


 華奈「いいんですよ。これはレジスタンスの主要メンバーの総意です。それに、英気を養いいずれ大仕事してもらうので。あ、うちの領地だと私の館が一番いいとは思うので客間でおくつろぎを」


 「さて・・・今日で練兵の成果を見せる日ですね・・・」

 

 

 「んー・・・沖田さんにはあんまりわかりませんが、銀嶺隊にレジスタンス兵を付いていかせていいんですか? しかも守備に英霊を使ってまで多くの兵士を」

 

 

 「いやーようやく派手に暴れられるか。わざわざいい装備をサンキューな」

 

 

 ラーマ様たちを無事に領地に届けて翌日の三日目。モードレッド様から先日の様子を聞いて問題なさそうなので私も戻っての今日も押しかけてくるケルト兵たちを蹴散らしつつ、仕込みの成果を見る大事な日。

 

 

 クー・フーリン様にも認識阻害の魔術を纏った外套をメディア様とフラム様、私達の部隊で作製してつけてもらったのでとりあえず史実のようにゲッシュでハメ殺されるのはない。と思いたいですね・・・

 

 

 「沖田様。大丈夫ですよ。私を信じてください。ストーム。配置は?」

 

 

 「問題なし。俺も今回は白兵戦用の最速フェンサーだ」

 

 

 「よし。クー・フーリン様。コ―ウェン将軍たちの方は」

 

 

 「今出たそうだな。映像記録の道具もバッチし」

 

 

 すべて準備は問題ない。ならばあとは目の前に群がり包囲しようと広く広がる初日の数倍のケルト軍を蹴散らすのみ。

 

 

 「兵士たちに告げる! ただひたすらに突撃し、あの馬鹿どもを殺し尽くせ。それだけです!」

 

 

 私が声をあげて拳をあげればそれで銀嶺隊もレジスタンスも声を張り上げ銃、剣、槍、それぞれの武器を掲げる。この気合の量。士気の高さ。攻めに転じるといううえでこれは・・・いける。

 

 

 「全軍、突撃!」

 

 

 号令をかけて銀嶺隊が錐型の陣で突撃して足の都合でレジスタンスたちが後方で方陣を組んで突撃。

 

 

 「アンナ様。防御結界」

 

 

 「了解。アンナ隊。守備結界最大展開。上だけでいいわ」

 

 

 降りかかる弓矢はレジスタンスを守る分だけ魔術結界をアンナ様の方で用意して守ってもらい、いざ激突。

 

 

 「うぉおお! 今までの分のお返しだ! 撃て! 撃てぇ!!」

 

 

 「リロードの間のカバーを忘れるな! ショットガン、かんしゃく玉、を合間に入れて押し返す、息を入れるのが大事だと大尉殿の忘れを徹底だ!」

 

 

 「弾丸の量、つまりは攻撃の手数は俺たちが何倍も上なんだ! ケルト兵よりも殺せるぞ!!」

 

 

 私たちの方は問題なくするすると殺せる中、レジスタンスの方も防御陣地を抜けての攻めにも果敢に動き、伍を組んでしっかりとケルト兵たちを圧倒。文字通りの圧勝劇を続けている。

 

 

 「ははっははははは!! おいおい! マジかよ。ケルト兵を圧倒しているぜ! この士気・・・いいねえ・・・戦場はこうでなくちゃぁな! 俺も行くぜ! 手柄をこいつらとストームにとられる前になあ!」

 

 

 「あ、ズルいですよクーさん! 沖田さんも行きます!」

 

 

 この勢いを見てそれに乗っかる形で前に出て敵兵を切り殺し、突き殺すクー・フーリン様と沖田様。これについていく形でレジスタンスも銀嶺隊のいない、敵兵の中に自ら突っ込んでいく。よしよし。これは順調。

 

 

 「よーちょいとあっちと遊ぶ前に俺と遊んでもらうぞ野蛮人ども!」

 

 

 私たちの部隊を挟撃の形にしようと動くケルト軍には最速装備ゆえにぎゅんぎゅん動き回るストームがフォースアックスG3、電刃刀・八閃とデクスター自動散弾銃ZGXXでぶつかって対応。何がひどいって私たちでもほっておくとどこに移動しているか分からないほどの速度で刀と斧を振るって衝撃波と斬撃でぶっ飛ばし、ワイバーンや弓矢に関しての対空支援もできちゃう。

 

 

 更にはあの速度かつ、EDFの最新式戦車以上のパワーで動き回るのでケルト兵たちはそれにぶつかるだけで見事肉塊に早変わり。一人軍団と言えるほどの大立ち回りに全軍も士気がさらに上がってケルト兵を恐れずに突っ込んでいく。

 

 

 さぁ・・・反撃の時間です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『な、なんだこれは・・・いくら装備がそろったとはいえ、今まで攻めること、防御陣地から出ることは嫌がっていたレジスタンス兵なのか? 三日前とはまるで別人だ』

 

 

 「え、ええ・・・本当に・・・まるでレジスタンスも銀嶺隊になったかのような攻撃力と勇敢さ・・・」

 

 

 「当然ですよ。しっかりと練兵をしたんですから」

 

 

 戦場を観戦しに来ていたオルガマリーとモニター越しにカルデアでもこの暴れっぷりに驚いているロマニ。私の方は今回はお休みという子でしたが、一応防御のために近くにいましたが驚くのも無理はないです。

 

 

 「え、でも特に領地内で練兵以外にどうやってあそこまで士気を・・・」

 

 

 「うーん。そうですね。まずは手順を追って話しましょう。まずレジスタンス兵士たちは基本今の生活を守ることに関しては士気は高いですが攻めかかることは嫌がり、アメリカの奪還はエジソンらに丸投げ。これではいざ前に出るという時に、今後一つの軍として戦えないです。温度差がありますから。

 

 

 だからまず初日は銀嶺隊の強さを見せてこんな頼もしい戦士が来たんだと見せるためにわざと銀嶺隊と英霊たちだけでケルト軍とぶつかりました」

 

 

 「それは見ていたわ。銀嶺隊だけで数万の敵軍を蹴散らしていたもの」

 

 

 英霊という存在と、銀嶺隊。ただでさえ私が王様していた時も円卓の騎士の部隊三つ用意しないと止めきれないほどの攻めをできる軍に更に戦力マシマシ。ええ。そりゃあそうなります。

 

 

 「で、二日目はわざと姉上とマシュという銀嶺隊の総大将とその娘を抜いたうえでも戦い、さらにはケルト軍をレジスタンス軍の守備陣地に誘導するように動き、その際にオルガマリーとエミヤが用意したEDFの最新火器を使って対処。ぱっと見では銀嶺隊の取りこぼしを処理したように見えるでしょうけど

 

 

 レジスタンスの方からは新武装はケルト軍を圧倒し尽くせる性能と自分たちがここまでの大戦果をあげられたという自信。銀嶺隊と連携をしてここまでやれるんだという経験を得た」

 

 

 『つまり、レジスタンス兵はケルト軍にも戦えるんだ。前に出て、銀嶺隊と一緒ならいけるかもという自信を手に入れた』

 

 

 「その通りです。自信の大きさは士気の高さ、その自信は伝播して一人一人を前に動かす熱量となる。三日前のレジスタンスと今目の前で暴れているレジスタンスは別の軍と言っていいでしょう」

 

 

 そう。前に出ること。守備の有利の法則を捨てて前に出るというのはとても勇気のいること。この広い大陸の半分まで押し込まれる。逃げ続けた恐怖を振り払うというのは難しい。でも、それを三日で覆して一人前の兵士たちに育て上げてしまった。おそらくケルト軍の方でも予想外だろう。

 

 

 「この成果はオルガマリー、貴女のものでもあります。いくら自信があっても兵士に多くの被害が出ては逆戻りする可能性があった。そうさせないほどの武器弾薬の用意が出来てこそ。流石はカルデアの所長。工場一つを運営するのもお手の物ですか」

 

 

 「そ、そうね。ふふふ。ありがとうアルトリア。私がこれの助けに・・・」

 

 

 『いやあ、凄まじいとしか言えないねこれは。華奈やストーム1、沖田君にクー・フーリンの暴れっぷりがここからでも目立つけど、逆に言えば銀嶺隊があまり支援をしなくてもレジスタンスたちも各々部隊ごとに対応をしてケルト軍を圧倒している。

 

 

 半分包囲されるような状態でもその包囲も食いつぶしている始末だし』

 

 

 士気の高さ、武装の更新による火力の高さ。銀嶺隊と英霊という将官の存在。これらを手にしたレジスタンス軍の「力」は数倍の軍相手にはものともしないというのがわかった。

 

 

 しかも、レジスタンス軍は今日の勝ち戦を糧に更に成長して強大に、自信をつけていく。今後の育成次第ではまさしく精鋭部隊となっていけるはずだ。

 

 

 「さて・・・戻りますか。後は藤丸君たちと、裏方の成果を待って動くだけになるでしょうし」

 

 

 だけどこれだけで確実にケルト軍には勝てない。アメリカの被害を減らすという意味ではこの軍だけが強くては意味がないのだ。武官の方は働きを見せた。次は文官の方です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うおっほっほ。どうですかね? エジソン王。これらを見て、この手土産をもってしても、聖杯をあきらめるというわけにはいきませんかねぇ?」

 

 

 「ぬぐ・・・駄目だ。我が偉大なるアメリカを守るために聖杯はたとえカルデアと言えども渡せない・・・」

 

 

 「おやおや。しかし、そちらには以前戦線を押し上げる成果もなく、わが軍は今日で既に拠点をいくつか奪取して砦を修理して前に出ております。銀嶺隊のみならずレジスタンスたちの成果で」

 

 

 金髪の髪に浅黒い肌、サングラスで視線を隠しつつも朗らかに笑う目の前の男。コ―ウェン。オークニーで文官みたいな将軍というのはアーサー王物語の書物で知っていたがなるほど納得する。

 

 

 そして同時に見せられる今日行われているという戦の内容と我が国の伝令、機械兵たちからもたらされる情報と合わせて見せつけられる。レジスタンス軍が前に出て勝利している。我が国の労働体制と物量よりも緩い政治体制を敷いているあの地域の兵士がケルト軍を圧倒して進軍。失地回復を大成功させたというニュースはもうアメリカ中に広がってしまった。

 

 

 「エジソン王。貴方は先を見据えて動くのはいい。しかし、いささか守りに入りすぎている。そして頑固だ。武器の方に関しても私たちの武器より自分の武器が優れていると言っていましたが、それならなぜこの成果を出せない?」

 

 

 「そ、それは銀嶺隊のような存在がいないからで・・・」

 

 

 「なぁにをおっしゃいますか。カルナという最高峰の英霊を手元に置いておきながら。・・・・・・まあ、武器の設計図と食糧支援の方はお土産ということでお渡ししておきましょう。いずれは華奈殿と再度じっくりと話し合っていければと思います。

 

 

 レジスタンスは生まれ変わり前に出て攻めて行ける。勇気を取り返しつつあるので軍事協力。共同戦線、作戦立案もできるのでね。では」

 

 

 彼はそう言って頭を下げて中折れハッとをかぶって出ていく。バタン。とドアが閉まった後に大きくため息をつきつつお土産と言って持ってきたアサルトライフル、スナイパーライフルなどの設計図を見る。

 

 

 「むぅ・・・どれもこれもが最新・・・いや、私でも知らないような技術やノウハウが詰め込まれている・・・2022年以降の最新火器とはこれほどに・・・これをすぐに用意できただと?

 

 

 いったいどれほどの手腕を用いて・・・」

 

 

 「わわ! これ竜種の肉じゃない! しかもアルカトラズの方の!? 後顧の憂いも断ってきている・・・私たちがひーこら言っている間に一気にレジスタンスは動いているのね」

 

 

 エレナ君もお土産の中にある大量の冷凍されている肉が竜種であること、我が国の海。アルカトラズ刑務所にたむろしていたワイバーンらも殲滅していたことが分かり、ますますもって頭が痛くなる。少数精鋭のレジスタンスの方がここ数日で大戦果を挙げ続けていること。

 

 

 銀嶺隊が来て以降守ることはできるが攻めは出来ないはずの臆病な軍隊がいきなり数十キロの失地回復を成し遂げたこと。これらをもってレジスタンスの方。いやカルデアか。あちらが共同戦線の誘いとイニシアチブを奪うための話を持ち掛けてきて、聖杯まであきらめろと言ってきたのだ。

 

 

 我が国を守るためにも、ケルト軍を物量で押し返す政策を間違いだと認めないためにも飲めない話ではあった。だけどこうして見せられる数々の成果。そして科学技術。竜種の肉という幻想種の頂点の一角まで仕留めているとなればその考えも揺らぐ。

 

 

 数日前から国中に出ている新聞や情報でもレジスタンスをほめたたえているのも相まって逃亡、脱走してあちらに行くものばかりだ。

 

 

 「やっぱり華奈のそばにいたあの英霊・・・ストーム1って言っていたわよね。人類最新にして英雄王が勇者と認める戦士・・・彼の方もつれていけなかったのはまずかったようね。

 

 

 ね、エジソン。もう一度華奈たちと会ってみないかしら?」

 

 

 「うぐぐ・・・しかし、しかしだなあ・・・あちらに主導権を握らせる。アメリカを魔術王から守るためには・・・」

 

 

 「だからこそ。よ。私達は一度聖杯を取る。カルデアに渡さないと言っていたけど、魔神柱も、いくつもの特異点を越えたカルデアで何かあれに対応するための技術や対策を練っているかもしれない。

 

 

 なにより、ロット王を召喚したのがかのモルガン。しかも今も生きて技術を磨いている。その娘のモードレッドに騎士王もいる。下手にぶつかれば結局ケルトを倒しても私たちも共倒れで何も残せないわよ」

 

 

 「ふむ・・・・・なら、此方もこの武器を製造して、戦線を安定させてからだ。武器を見て、彼らの誠意を見てからだ。オイ、君。この設計図を急いで製造ラインに回せ!」

 

 

 「了解しました!」

 

 

 ふぅ・・・アメリカを守るために・・・か・・・・・・・・私は間違っていたのか・・・? だから、英霊たちの方も来なかったのか・・・? いや、そんなわけはない。だけど、この勢いの差は何だ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くふぅ・・・銀嶺隊の目覚ましは強力だったな・・・」

 

 

 「でも、納得でしたね。クラーク殿の顔、思わず驚くほどでしたし」

 

 

 シータと迎える朝。クラーク夫妻の。クラークの顔に自分と嫁のシーマが驚く悲鳴で目が覚めてしまって迎えたが、シータがそばにいる。もう王様としてのしがらみもなく、呪いもなく一緒に過ごせることを夢だと思ってしまうほど。

 

 

 二人で一緒に急いで駆け付ければクラークのおどろく顔に思わずぎょっとなってしまった。あの迫力はなれないな。ラーヴァナよりも怖いとは思わなかったぞ。

 

 

 それから再度シータと一緒にベッドで過ごし、銀嶺隊が出て行った後に開放される華奈殿の屋敷の食堂スペース。そこではみんなが思い思いに食事をしつつ、譲り合い、おすそ分けと緩やかな時間を過ごしていた。余らも一緒に味わったが、今でいうところのビュッフェ? バイキング? のように色んなご飯をられ手大変満足であった。

 

 

 銀嶺領地を回ることになったが、さて、どこに行こうかと地図を広げる。料理屋さん、浴場、広場、公園、牧場、釣り堀・・・ふーむ・・・・

 

 

 「シータ。どこに行きたい?」

 

 

 「ラーマ様と一緒ならどこへでも・・・」

 

 

 「む・・・むぅ。じゃあ・・・とりあえず自由市に行ってみよう。色々あるようだしな」

 

 

 「はい!」

 

 

 とりあえず朝の賑わいがいいという自由市に出向くことに。広場から大通りに広がるそこは、まさしく銀嶺領の賑わいが集まっている一つと言っても過言ではない。

 

 

 常に人の波があり、どの屋台の商品も山のよう。果実一つとってもみずみずしく、酒に肉、武具に果てには玩具に古本、古着まで扱っていてそれらがどの店でも繁盛している。

 

 

 特に書物に関してはそこら辺で子供たちが読みふけ手って楽しんでいる。識字率の高さには驚かされるばかりだ。

 

 

 「ほほぉ・・・」

 

 

 「うわぁー・・・すっごい・・・」

 

 

 「おお、そこの二人はラーマ君とシータちゃんだね?」

 

 

 「む、そうである。ご主人。知っているのか?」

 

 

 ただ物見遊山するだけでも刺激的だったがその中で屋台をやっている老夫婦の内男が声をかけてきた。

 

 

 「ああ、私は元銀嶺隊で引退したものでねえ。華奈隊長がお前さんらを褒めていたんだよ。凄い夫婦だってな。私も隊長に救われて漁師と騎士として戦ってこうしている身だ。サービスしていくから、軽食を良ければどうだい? 魚料理は自信があるよ」

 

 

 そういってニヤリと微笑む顔は深いしわの中に確かに戦の傷、鍛え上げられた肉体と気風を持っている。そばにいる狼も年を取っているが身体は大きく、目は優しくも鋭い。老兵。あの戦士たちを導いた先達といったところか。

 

 

 「ふむ・・・ではひとついただこう。お代の方は・・・」

 

 

 「新婚旅行をしているようなものだろう? いらんいらん。ささ。席に腰かけておきな。おーい母さん。お客さん二人―」

 

 

 「はーい! ささ、座って座って。うちの料理だと揚げ物とイモ料理は最高よ♪ はい。お茶をどうぞ」

 

 

 「うむ。ん・・・おいしい・・・」

 

 

 「香りがいい・・・リンゴのお茶でしょうか? スッキリとしているのに甘い風味が・・・」

 

 

 ただでこのお茶を出しているようで、飲み放題とは儲かっているようだ。シータのおいしそうにお茶を飲む顔が美しい・・・

 

 

 ふむ・・・フィッシュ&チップス、ボイル焼き、鮮魚を買うのみならずこういう料理も売っているのか・・・うーむ・・・む? バーガー? メルルーサ?

 

 

 「ご主人。このメルルーサのフライバーガーとは?」

 

 

 「ああーそれね。美味しい白身魚を油で揚げて、パンで挟んで食べるハンバーガーっていうこの国の料理らしい。美味しかったんでうちでも新メニューに出したのさ。歩きながら食べられるし若者に受けているぞ?」

 

 

 ほほう。アメリカの料理と美味しい魚。食べ歩きとは行儀が悪いが二度目の人生。ましてや華奈殿の元部下が出している店にあるメニュー。風評などを気にしないでいいここでなら食べ歩きという少し悪いことをして歩くのも、二度目の生。シータもいるのだし試してみてもいいだろう。

 

 

 「ではこのメルルーサのフライバーガーを二つ。トマトも入れて」

 

 

 「はいよ。すぐ作るから待っておきな!」

 

 

 そういって娘に店の表を任せて厨房で料理を始める店主。揚げ物は自分でしたいのだろうか。嫁さんに別の料理を任せて自分で油で満たされた鍋に向かい香ばしい音と香りが漂う。数分してすぐさまぶ厚い紙に包まれたパンにはさまれた香ばしい揚げたての魚の揚げ物とそれを挟む葉野菜とトマト、白いソースが美しいコントラストを奏でて香りと見た目で食欲を誘う。

 

 

 「ささ、少ししてから食べるといいわ。それと今度はこのお茶をどうぞ」

 

 

 ハンバーガーを持ってきてくれた夫人がすでに飲み終わっているコップを下げて新しいお茶を持ってきてからゆっくりしてねと柔らかい笑顔を見せて去っていく。

 

 

 「では、いただこう。シータ」

 

 

 「はい。ラーマ様。いただきます」

 

 

 「いただきます。あむ・・・・・・!」

 

 

 二人で手を合わせて紙の上からパンを抑えてかぶりつくハンバーガー。そうすると感じるうま味。メルルーサ? の魚肉はシンプルな味で白身魚らしいがとてもうま味がよく、なかにほのかに潮を塗っているのかこれ単体でも美味しい。

 

 そこにザクザクとしたころもの食感と葉野菜のシャキシャキとした感触に口の中でがぶりゅと広がるトマトのみずみずしいフレッシュな味が油と魚肉のうま味の上から違ううまさを持ってくる。

 

 

 この二つを調和する。いや引き立てる白いソースの酸味とうま味、中に入っている・・・ピクルス? の細切れがカリコリと揚げ物とは違う固くも美味しい食感が広がり、それらをパンの香りとパン自体が優しく包み込んで口の中で広がっていく。

 

 

 異国の食文化。手のひらより少し大きいだけのものだがこれ一つに入っている味の深さ。シータも目をキラキラと輝かせて美味しそうに食べていき頬に食べかすがついているのも気づかないほどにほおばっている。王様となって以来、食事一つにも風聞に気をつけねばいけなかった頃を考えれば想像もできないほどだ・・・

 

 

 「あ、ラーマ様。ソースがついていますよ。取ってあげますね♡」

 

 

 「シータこそ。揚げ物のかけらがついているぞ。余も取ってやろう」

 

 

 互いに食べかすを取って頬を赤らめながら口に入れる。小さなものだというのにシータの頬についていたというだけで最高の食事になる。そして、一通り口の中がバーガーの味に満たされた後にお茶を飲めば、口の中がスキっと変わりゆく。

 

 

 柑橘系を思わせる酸っぱさは強くなく語り掛けるように鼻腔を通り抜け、油と食材を流してさわやかな、まるで果樹園で収穫作業をしている側にいるような感じさえもするほどの味わいと香り。先ほどまでシンプルな食材の組み合わせでうま味を満たし尽くされていた口の中にさわやかな風が通る。

 

 

 これはいける。美味い。二人で話すのもほどほどに味の感想ばかりを言いつつ食べていけばあっという間に完食。

 

 

 店主にお礼と一応食事代を無理やりに押し付けて次の場所に。

 

 

 

 

 

 

 

 「おぉー・・・大きいですねえ・・・」

 

 

 「うーむ。余も軍馬を何頭も見てきたが、これほどとは・・・」

 

 

 「華奈さまの愛馬栗毛の愛娘ですからね。大きいですよ~この子はタナボタチャン。大根とレンコンと。あとクルミ味噌に野菜スティックをつけたやつ」

 

 

 「「クルミ味噌?」」

 

 

 銀嶺隊と言えば全員が騎乗技術を持ち、軍馬と軍狼、軍猪らが仲良しなのも特徴。ゆえに牧場も広いので来てみればわかってはいたがどれもこれもが大きな馬ばかり。その中でもひときわ大きく、鹿毛の可愛らしい牝馬がこっちを見てポコポコと歩いてきて挨拶と言わんばかりにお辞儀をしてくれた。

 

 

 そしてここの牧場長に説明されると栗毛の娘。好きなものに早速二人そろって首をかしげる。

 

 

 「華奈さま考案の麦や大豆を使って作る調味料? でして。いやーこれと人参とリンゴを見るとうちの馬とイノシシはみんな・・・っとわ!?」

 

 

 これですよーと好々爺が持ってくるツボに入っている茶色のペースト状の物体に野菜を棒状に切ったもの。悪い香りはしないが、見た目が悪いこれを好むのか? といいつつも柵を見ればいつの間にやら馬も猪も集まってそれを見て涎を垂らしている始末。そ、そこまで美味しいのか・・・?

 

 

 「もともとは私らの栄養補給、塩分補給の健康食なんですがこの子らにもあげると大好評で。人でも美味しいもの何で、ささ、おひとつどうぞ。こら、服を噛むんじゃない。あげるから」

 

 

 服の裾をはみはみされながら馬たちにねだれている好々爺に渡された野菜スティック。味噌を先っぽにつけて食べてみると・・・みずみずしい野菜にかかる味噌の濃密な塩味とうま味。野菜の水分が味噌を口の中で溶かして広がり噛むたびに何方のおいしさも広がる最高のもの。

 

 

 これは食べたくなるし馬たちも欲しがるというのも納得だ。目の前で馬たちに順番にクルミ味噌をつけた野菜スティックを食べさせている好々爺を見てこうもなるとシータと二人で苦笑。

 

 

 「ささ、せっかくですし乗馬でもしていきますか? いずれ軍務をするのであれば足は必要でしょう。ラーマ様はまだしも、シータ様に無理はさせたくないでしょうし」

 

 

 「そうだな。ではこのタナボタチャン? とやらに乗せてほしい」

 

 

 「かしこまりました。おいでタナボタチャン。鞍をつけるよ~」

 

 

 蔵をつけてもらい、シータと一緒に乗る。その大きさゆえに少し手間取るかと思ったがシータも余と同じ英霊の座を同じにしていたり、弓術を受け継いでいるからか身体能力は問題なく大きなタナボタチャンに乗ってタナボタチャンもすぐに言うことを聞いて草原をかけてくれる。

 

 

 その脚はたくましくしっかりと地面をつかんで蹴り。その大きさゆえに広がる草原と黄金の麦の畑。畑。何もかもがみえてどこへでも行けそうだ。

 

 

 余の前で馬にまたがって一緒にその景色を見て、シータの髪、背中の感触。聞こえる声が、今日ずっと過ごして感じることが出来るのがいとおしい。ああ、こうしたかった。かつてもシータを追い求めて、一緒にこうして馬でどこまでも駆けて冒険をして、銀嶺領みたいな知らない街を二人で歩いて、食事して。お土産をハヌマーンたちにわけたりとか。そんなことをしたかった。

 

 

 何もかもがすべていかず結局要らない王様というしがらみで何もかもを失ったが・・・英霊となってこうして叶うなんて。奇跡というものはあるのだな。

 

 

 「すごいですラーマ様! どこまでもいけそうで、あのヘリから見た大地をどこまでも、自由に行けそうで・・・!」

 

 

 「ああ、本当にそう思う。この馬はいい馬だ。そして、優しく。強く・・・素晴らしい景色を見せてくれる」

 

 

 タナボタチャンも嬉しそうにいななきつつ馬脚を速めていろんなところに行った。柵を飛び越えて城壁を。城壁の外の皆の様子を。泥団子づくりを休憩時間に頑張る子供に麦を収穫している少年。

 

 

 狼の子どもたちと戯れるイグレーヌ殿にワイバーンのレギアとイネンナが配達をしている風景。老夫婦たちが絵本や自分らでもできることをやっていてそれを見守りつつ食事を作る夫人。老夫婦に集まる孫たち。

 

 

 栄えている。そして何より皆がやることを相談して頑張る穏やかで活気のある幸せな場所。あの屈強無比な軍が生まれるのも、守ろうと強くなるのも納得の場所で、それをシータと一緒に見れたのは幸せ以外の何物でもない。これはきっと座の方でも永遠に刻み込むべきものだろう。いやそうする。

 

 

 「おおっと。帰られましたか。もータナボタチャンもサービスするのはいいけどちゃんと相談しないとだよ」

 

 

 「いやいや失敬した。しかし、おかげで最高の時間を過ごせた。迷惑料と乗馬の代金だが・・・」

 

 

 「ああ、それなら結構。彼女もいい運動になりましたしね。いずれ戦いの時にはこの子も出向くので、ぜひ乗ってやってください。あ、それともう夕方。いいお店があるので夕食はそちらに行くといいでしょう」

 

 

 急な脱走して数時間駆けていたというのに起こることはせずむしろ戦いの時にタナボタチャンに乗っていいよと言ってくれる牧場長に頭を下げ、タナボタチャンの鼻筋を撫でてから余たちは地図に記された店へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いらっしゃいませ。おや、ラーマ様とシータ様ですね。どうぞこちらへ。まずはゆるりとお過ごしを」

 

 

 牧場長に教えてもらった店に入ればそこは大変奇麗だが木材と石材を使ったシックで物静かな場所。何やら音楽を魔術の道具で流しているようで店内に響く心地よい音楽とほのかな酒精と料理の香り。そして香木の香りその雰囲気を引き立てる。

 

 

 現代でいうところの喫茶店? に近しいのか。ぴしりとスーツを着こなす初老のマスターには顔に大きな傷があり、これまた元銀嶺隊の隊員だったのだろう。穏やかな着こなしの中に鋭い動きと武の匂いが隠せていない。

 

 

 お通し? という文化で出された冷水とドライフルーツをつまみつつ、何を頼んだものかと思っていたところにキャンペーンメニューというものが目に入る。

 

 

 「脱獄記念。プリズンブレイクセット・・・? 店主。これは一体?」

 

 

 「ああ、これは華奈隊長がお二人が無事にアルカトラズ刑務所から戻れたことを記念して作ったメニューでして。モルガン様の長子ガウェイン様の大好きなポテト。銀嶺隊特産の鶏肉。チーズなどを使って出来たメニューでございます。

 

 

 メインはそのポテト料理。ドリンク。ご一緒にスープ、サラダとデザートがついてくるものですね」

 

 

 「ほほう・・・では、シータが余のもとに戻ってきてくれた祝いにこれを」

 

 

 「私も。あ、ドリンクは木苺ドリンクで」

 

 

 「余はぶどうジュースを」

 

 

 「かしこまりました。ではでは。ジャズ、バラードというカルデアにいた銀嶺隊隊員たちが持ってきてくれた音楽を聴きながらどうかお過ごしくださいませ」

 

 

 頭を下げて裏の厨房に回るマスターは仕草もてきぱきとしている。

 

 

 「いやはや・・・ここまで素晴らしいとは思わなかった。最高のデートだな。シータ」

 

 

 「私もです。でも、ラーマ様。貴方が。大好きな、愛している貴方がそばにいるからとっても楽しいんです。一人で過ごすのよりも何万倍も、ずっと」

 

 

 「余も・・・僕もだ。シータ。本当に、何度も。ずっとそう思っていた。夢のような一日だ」

 

 

 何度も何度もこの一日でかみしめたか分からない幸せ。ひと時の泡沫の奇蹟でしか来れないはずの英霊で。特異点でありえないはずだった再会をして、呪いを解除してもらい、戦乱の中において平和な場所で一日自由にデートできた。

 

 

 奇跡を越えた奇跡だ。何度シータの身体の感触を、においを、声を、全部感じて側にいつづけること。こんな日をくれた華奈殿にはどうお返しをすればいいのか。あのクー・フーリンやメイヴとか言う女王を倒しただけでは足りないほどの時間をくれた。王であるはずの余もこれに報いる方法はちょっとどうしたものか。

 

 

 「シータ。明日から余は戦に行く。シータもよければ・・・一緒に来てほしい。敵には指一本。髪の毛の先すらも触れさせない。必ず守る。どうか側に・・・」

 

 

 「ラーマ様。私も英霊。しかも離別の呪いのせいで座が一緒にいたおかげで今はラーマ様の弓術と弓をもってアーチャーのクラスで顕現できました。私も戦力になります。華奈さまに、カルデアに恩を返さないと私もラーマ様の后として廃ります。貴方が成したいことを成すための戦いに、今度は私も連れて行ってくださいませ・・・」

 

 

 「シータ・・・・ああ。もちろんだ・・・! 我ら夫婦なら最強。必ず戦い抜いて、一緒に勝ち鬨をあげてみせようではないか!」

 

 

 「ふふふ。その後は出来れば是非二人で過ごして。あ、そういえばモルガン様からWデートのお誘いが来ているのです。夫婦二組で一緒に友達になりませんかって。そこもしましょうよ」

 

 

 「それはいいな! 元王族同士、色々と話せることもあるだろう」

 

 

 一緒になって過ごすこれからの日々。特異点を攻略すればなくなる。出来ないであろうことだが未来を考えて明るく過ごすのは本当にいいものだ。

 

 

 「お待たせしましたお二人とも。プリズンブレイクセットでございます。ソースはお好みで」

 

 

 マスターがちょうどいいタイミングで持ってきてくれたのは柵の形、牢屋の格子をイメージしたようなポテトがハンバーガーのパンのように全部を包んでいるポテトの塊。

 

 

 サラダは小さなパンの塊とソースをかけているもので、スープはコンソメスープ? というものがある。なるほどこのポテトの塊を牢屋と例えて食べることで脱獄と捉えているのか。洒落ている。

 

 

 ソースを上からそれとなくそっとかけてからナイフを入れて切り分けて、フォークで刺して一口。

 

 

 「・・・・・・・・うまい」

 

 

 「美味しい・・・!」

 

 

 何度目の美味しいだろうか。ここの領地の食事にはずれはないのか? ほくほくのポテトなのに外はカリッとしていて塩味がいい。そしてそこにチーズと鶏肉の味わい。ポテトという牢屋を壊した後に広がる凶悪な熱ウマなチーズと肉の囚人が脱獄して余の口の中にうま味と一緒に暴れていく。

 

 

 かみ砕けばかみ砕くほどに牢屋が砕けるほどにそのうま味を助ける。いわば囚人の武器と言ってもいいほどのソースが一つ一つは素朴な味をさらにうまく引き立てていく。まさしく鬼に金棒。虎に翼だ。

 

 

 熱々のポテトの塊に、口を冷やすためのひんやりしたサラダがまさしく熱い脱獄劇の後のオアシスのように染みる。

 

 

 「はふう・・・ホカホカします・・・ん~♡ すっごくこのジュースも美味しいです!」

 

 

 シータも口の中を冷やすためにのんだ木苺のジュース。それがよほど美味しいのだろう。可愛い顔をさらに可愛く丸くさせながら両手で頬を抑えながら食を楽しむそれは応急の豪華な食事では見れなかったものだ。

 

 

 余のぶどうジュースを飲めば甘く芳醇。だけどスッと後味が残り過ぎずに通り過ぎていくのがたまらなくうまい。美味しいのに美味しすぎてすぐに飲んでしまう。味わうためにのむのを我慢するジュースというのは経験がない。

 

 

 「おや、お二人ともあっという間に食べましたね。では、食後のデザートにマシュマロとクリームたっぷりハニーパウンドケーキ。チョコドリンクでございます」

 

 

 あっという間に食べ尽くし、その後に出される白と黄金色のコントラストが美しいケーキに、とろりとまろやかな感じがわかる美味しそうな甘そうなドリンク。チョコ。とは?

 

 

 専用の小さなフォークで切り分けて食べると蜂蜜と牛乳? を加工したのだろうか? のクリームと生地。ふわふわでまるで浮雲のような心地よい食感だが甘みと同時に風味がすごく美味しい。

 

 

 甘く、身を焼くと思うほどに美味しく。活力をくれる。二つの甘さが口の中で踊り。まるで宮廷の踊り子たちが目の前できらびやかに舞っているようだ。

 

 

 そしてチョコドリンクを飲めばその口の中を濃密。まさしく泥のように粘度があるがその美味しさが凄まじく甘く叩き込まれる。ヴリトラの魔の軍勢を思わせるような濃密でガツンと来る強力なそれは先ほどまでの軽やかな甘みの舞を一気に塗り替えてゆく。

 

 

 だというのに一緒に来る甘さはまさしく天上のもの。豊かで、大地の如く口の中に根付くようなもの。黒い土のような飲み物だがまさしくそれにふさわしい味わい。味わいの違うそれはまるで互いの強みを持つ舞姫がそれぞれに引き立て合い、センターを取り合う踊りの勝負。

 

 

 ああ。こんなにインパクトのある最高の味・・・甘み。まるで飽きさせない。

 

 

 「ふぅ・・・ご馳走様・・・大変美味しかった」

 

 

 「ご馳走様です。はぁ・・・幸せです。・・・・・・・・・・・・・に、しても・・・ん・・・ぽかぽかしてきました」

 

 

 「む・・・シータもか? 余も確かに・・・身体が熱いな・・・」

 

 

 食後の熱さだけではない。何か身体の芯から熱い熱を感じて、疼くような感触。何より、火照るシータが今朝よりもずっと美しく、いとおしく。そして・・・一層シータを欲しい。そう思ってしまう。

 

 

 「ああ、ご夫婦には説明していませんでしたね。カカオ。チョコドリンクの原料ですね。これはギリシャ語で神の食べ物と言われ、王侯貴族の栄養食品。神への供物。通貨にもされるほどのものでして。滋養強壮効果もありますが、ふふふ・・・ほれ薬、夜の勝負にもいいそうです。

 

 

 どうかお二人で心地よい時間を。そしてまたのお越しを」

 

 

 あ、あのマスター! 去り際になんてことを言うのだ! それが無くてもシータは魅力的すぎるのだが、いや・・・! でもこのドキドキ・・・ほてりが・・・・!!

 

 

 「ラーマ様・・・いい、ですよ・・・♡」

 

 

 「シータ・・・ああ・・・今晩は、お願いする・・・」

 

 

 この後、二人で浴場で身を清め、宿を借りて一晩、シータと思い切り愛を確かめて求め合った。

 

 

 銀嶺領。恐ろしいが素晴らしい場所だ・・・




 オークニー&カルデア式練兵術。


 ポケモンSVで新登場したミガルーサのモデルと思われる? メルルーサ。北米沖でも取れるそうですね。白身フライに良く使われる食材。日本やアメリカだと大衆向けの魚なんですが欧州だと高いとか? 同じ魚でも地域によって値段が違うのも面白いですね~


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大手柄

 華奈「おじ様。アメリカの兵士の様子ですが、この練度と、この渡せる武器。諸々を加味して、攻め込めると思いますか?」


 モリアーティ『まーそうね。それなら問題ない。ただ、あのバイコーン? とか、油まみれの黒いやつ? とかの一部の大型魔獣。あれには伍ではなく集で火力を集中したり、EDFの兵器が必要だろうね』


 華奈「ふむ。軍人とも交友のあったそちらの意見は安心できますし、感謝します。孔明さまの方もどうでしょうか。防御陣地のそれとない宣伝とうちの布教は」


 孔明『問題はない。流石物量で質と量を両立しているケルト軍に対応していた国だ。少し守りの陣地のヒントを教えるだけであっという間に対応して守りを安定化している。そして宣伝の効果はそっちがわかっているだろうに』


 華奈「ええ。新たな移民がたくさんで今は漁師も猟師も農民も工場の働き手もいい感じです。では、出来ればプロフェッサー様にもよろしくお伝えくだされば」


 「先輩! 戦闘音です!」

 

 

 「急ごう。多分ジェロニモたちが教えてくれた英霊たちかもしれないし!」

 

 

 華奈さんたちが仕込みをしているさなか、エリザとほかの次なる英霊の情報をもとに歩いていれば聞こえてくる激しい剣戟の音。

 

 

 セイバー同士の戦いなのだろうか? 何度も英霊たちとシミュレーションにいっていたり訓練を積んでいた故か音だけでどんな武具がぶつかり合っているか少しわかるようになってきていた。

 

 

 みんなで足を速めていって街に行けば、そこでは激しい剣戟が。

 

 

 「ぬっ、ぐぅ! 何という剛力! 先ほどの言葉嘘ではないようだな!」

 

 

 「はっはは! こちらこそ侮っていた。自由かつ重たい剣戟。舞を見るようですさまじい!」

 

 

 そこには半裸で筋骨隆々。短い髪と胸の傷が特徴的で、ドリル・・・? のような巨大な剣を豪快に振るう快活そうな男と、白い衣装に身を包んではいるけどお世話になった女性。ネロ陛下がそこにはいた。

 

 

 「ロビン!」

 

 

 「分かってら!」

 

 

 ただ、再会をすぐに懐かしむ余裕はないようで僕とロビンフッド。もといロビンで弾丸と矢を打ち込んであの男に防御をさせて先頭に割って入る。

 

 

 「おお、エリザベートに顔のない王。そしてふむ? どこか懐かしい感じの顔ぶれだな! とにかく感謝しよう。この騎士と戦うのもよいが、余はそれよりも別のことを早くしたかったのだ!」

 

 

 「ネロ陛下。お久しぶりです!」

 

 

 「ネロさん。この戦い、協力させてください」

 

 

 「おお、よいぞ。とはいえ、数で有利を得ても油断する出ない。この男。騎士。フェルグスと言ったな。余に会う前に既に5騎以上は英霊を屠ってきたという戦士。かなりの名うての戦士だったのだろう」

 

 

 フェルグス。その名前は確かクー・フーリンから聞いている。確か、クー・フーリンの友にして養父。しかも魔剣だか聖剣を持つケルトでも高名かつ武勇を広めた快男児。ネロ陛下も強い方だとは思うが戦士としての格と練度が違う。むしろ良く持ってくれた方なのではないだろうか。

 

 

 「おいおい。これ、敵さんの方でも最高幹部レベルだろ。こんなのが出向いてくるって」

 

 

 「これも余の魅力ゆえよな! 魅力ゆえに暗殺、声をかけられるのは慣れておる!」

 

 

 「ふむ。この数ではいささか無謀か。では、此方も遠慮なく女王の力を借りるとしよう。出てこい! 誇り高き戦士たちよ!」

 

 

 確かにケルト軍でも人望も武勇も高いこの戦士を討ち取りつつネロ陛下を味方に引き込めれば最高だ。大きく特異点攻略の一歩となる。だけど、あちらもさすがに単身で殴りこんできたわけではないようで、フェルグスの一声で彼の後ろが人の波で埋め尽くされるほどに兵士たちが出てきた。

 

 

 「英霊の数では此方が絶望的だが、単純な数では此方が上回った。それなりには拮抗できるだろう。これも戦。やらせてもらうぞ」

 

 

 「うわぁー・・・早撃ちしたとしてもリロード間に合うかな?」

 

 

 「うぅむ・・・数が多い・・・」

 

 

 「マスターちゃんは背後に気をつけつつさがって。支援は無理せずでいいわ。兎にも角にも、あっちの動きを潰せるいいチャンス。暴れるわよ!」

 

 

 「ジャンヌオルタさんの言う通りです! 先輩、前に出過ぎずにお願いします!」

 

 

 ジャンヌオルタの言葉が戦闘の口火を切り、再度激しい戦い。軍団戦が幕を開けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっ・・・! 本当に、数が多い・・・! エリザ。下がって!」

 

 

 「ッ! サンキュー小鹿! まったく! キリがないわ! もう数十人は串刺しにしているってのに!」

 

 

 「ふぅむ。その銃。なるほどこれが前線にあれば我が女王の兵士たちも手を焼くというもの。だが、その戦い方は些か特性を乱用しすぎじゃないか?」

 

 

 「こっちに集中、しなさいよ!」

 

 

 「ウム! 余を見ずにマスター? と銃を見よって! 確かにあれは欲しい武器だが!」

 

 

 ジャンヌオルタとネロ陛下の二人の剛力と赤と白い炎でフェルグスと戦いつつ、僕らはケルト兵らを相手するのだけど、街中の戦闘というのもあって相手が一気に攻めてこれない。弓矢なども咆哮が絞られるからマシュも僕も守りやカバーをしやすく、英霊の皆も対処は楽。

 

 

 だけど、その数ゆえに攻撃の波は常に途切れず、倒しても倒してもキリがない。

 

 

 僕はレイヴンで建物の、この時代の薄い木造の壁からケルト兵を撃ちぬいて不意打ちと援護をするけど小さな弾丸ゆえに距離で威力の減衰が激しいレイヴン。加えて壁からの不意打ちを意識している兵士が対処をして、かなり強い兵士たちの様で今までのように簡単に倒せないことも増えてきた。

 

 

 「距離と壁は如何なる武器でも多くは勢いを失うというもの。加えてこの兵士たちも精鋭の部類だ。カルデアのマスターよ。そしてそこの盾の少女よ。戦うというのなら武器の利点を、おのが立ち振る舞いを考える時間を持て。

 

 

 さすれば、より良い動きが出来るであろう。よっ!!」

 

 

 「んぐっ・・・! つ・・・の・・・!」

 

 

 「ふぐ! いやはや、騎士であり勇者であるか! 血がたぎると同時に恐ろしいの!」

 

 

 思いきり剣を振り抜きジャンヌオルタとネロ陛下を同時にふっ飛ばすフェルグス。旗で受け止めるも押し込まれた際に自分の籠手か旗を頬にぶつかって口の中を切ったらしいジャンヌオルタと手がしびれてしまって少し下がるネロ陛下。

 

 

 筋力はジャンヌオルタもAランクとカルデアの中でも最高峰の筋力。だというのにこれを抑え込みながら英霊二人をふっ飛ばす。多分戦闘経験と得物の重さの差だろうけど、いずれにしても英霊二騎を同時に相手どれるのが凄まじい。

 

 

 「フェルグスさんでしたっけ。なぜ私達に助言を? 敵でしょう? はあぁっ!!」

 

 

 「くっ! よい重さだ! ムン! 敵であろうと、困難に挑む若き勇者には。よい相手には認めるのが戦士、騎士の流儀。俺の流儀よ。まあ、それはそれとして殺すが、な!」

 

 

 「つっ!」

 

 

 マシュのシールドバッシュも受け止めてから足蹴りからの蹴り飛ばした足をそのまま前に踏み込んでの剣での振り下ろしで確実にふっ飛ばしていく。

 

 

 「む! よき矢だが、甘い。狙撃に意識をしておけば早々当たらんぞ」

 

 

 「おいおい不意打ちも想定内ですかい。全く厄介なもんだ光の御子の養父ってのは!」

 

 

 背後から心臓を狙ったであろうロビンの姿を消しての狙撃もすぐに体をひねり避けてしまう。全く持って隙がない。それでいて戦士たちの流れも途切れやしない。どうしたものか・・・いや、力や狙撃が無理。要はそれらをしないでいい手段があれば何か・・・

 

 

 それなら・・・これを試すほかないのかも?

 

 

 

 「ビリー! ジェロニモ! 一緒に手を貸して! そして、ジェロニモには雷を呼べないかな!」

 

 

 「お? 何か思いついた? いいよ!」

 

 

 「ふむ。サンダーバードは無理だが、雷の精くらいであればどうにかしよう」

 

 

 「ジャンヌオルタ、マシュ。二人は思いきりぶつかって」

 

 

 「分かったわ! マシュ!」

 

 

 「はい! オルタさん!」

 

 

 まずマシュとジャンヌオルタが二人とも武器屋パワーを活かしてフェルグスに再度アタック。パワーもだけど旗と大盾。その武器で遮蔽物。目くらましになってもらう。

 

 

 「いくよ。攻撃開始!」

 

 

 「それじゃ、早撃ちの技術をご覧あれ。壊音の霹靂(サンダラー)!」

 

 

 「そら、食らうがいい!」

 

 

 

 そこから二人に合図を送って離れてもらい、ほぼ同時に僕がレイヴンを。ビリーは宝具の、どうやら自分の早撃ちの技術を宝具に昇華したもの? の早撃ちでの攻撃。そこにシャーマンであるジェロニモが呼んだ雷の精の雷を含んだ幕をフェルグスと僕らの間に置くことで弾丸に雷を纏わせていく。

 

 

 パワーも不意打ちも駄目なら僕のケルト兵にも通用する弾丸の雨と、そこにビリー・ザ・キッドの驚異的早撃ちの技術を絡めたもので勝負。

 

 

 「ぬぐっ・・・! ぐぅうう!! こ、これは・・・・!」

 

 

 「これで幕引きよ。フェルグス!!」

 

 

 弾丸の雨と早撃ちはいくつか撃ち落されるもそれでも武器に当たった時点で雷撃がフェルグスの身体を襲い、弾丸が身体を貫く。いくら屈強な戦士と言えども動きの止まるその時間に大きく飛び上がったネロ陛下の乾坤一擲の振り下ろしがフェルグスの身体を袈裟懸けに切り裂いた。

 

 

 僕らの勝利。ほぼほぼ数が減りつつあったケルト兵もこの衝撃に気を取られている間にエリザやロビンが刈り取ってくれてどうにか全滅をさせることが成功。

 

 

 「フッ・・・見事な連携だ・・・若き戦士よ。しかし・・・今生の世では今度こそあの女王と対等に付き合いたかったが・・・ままならぬものよな」

 

 

 ほぼほぼ退去が始まっているフェルグスだけど、剣を杖代わりに地面に突き立て、倒れずに僕らを見回している。

 

 

 「しかしまあ・・・それでもかまわぬか。こんなところで死ぬのも勿体ないが、女王以外にも美き女が多い。いずれまた会える機会があるとわかるだけよしとするか。・・・クハハハ!」

 

 

 最後の最後まで豪快に笑って退去していくフェルグス。何というか、敵だけど気持ちのいい。豪快な戦士だったという印象だ。

 

 

 「・・・ケルトの戦士であるが美を愛で、敵であれど勇者をたたえるか。フェルグスと言う男見る目があるではないか!」

 

 

 「んまぁ・・・半分は見境がないとも言えそうだけどな・・・で? 皇帝陛下に置かれましてはこの無人の町で何をしていたんで?」

 

 

 「貴様には分からぬか? ・・・・・まあ、無理もないか」

 

 

 ネロ陛下もフェルグスを称えつつも、ロビンは何で無人の町にいるのかと質問。なんとなく予想はというかオチは分かる気がするけど、確かに愛されたがり、派手好きのネロ陛下がレジスタンスやエジソン王の場所にいないのかは不思議だ。

 

 

 あそこで自分のファンでも作ってしまいそうなものだというのに。

 

 

 「ふふふ。私には分かるわ。分かってしまったわ! 芸術と美を愛する女ならではの計画ね! そしてここアメリカで召喚されたのも何かの縁! 決着をつけるわよセイバー!」

 

 

 「おお。余のクセッ毛に反応があるかと思えば貴様か魔性の歌姫エリザベートよ! 貴様になら明かさねばなるまい。いや、聞いてもらうべきだな。聞くがいい。余の深淵にして遠大な計画をな!」

 

 

 エリザが反応して、ネロ陛下もライバル? みたいな感じで反応と、うん。なんというか数時間前に感じたものが。これがデジャヴ?

 

 

 「・・・・・何となーく想像はついているけどな。どうぞ。皇帝陛下」

 

 

 「うむ。では答えよう! 予はここに究極の幻想都市。すなわち・・・娯楽の殿堂! 万客集う音高きハリウッドを! 築く、つもりなのだ!」

 

 

 「な、なんだってーー!!」

 

 

 「いや、そこまで反応する?」

 

 

 まあ、陛下はこういうのを好みそうだし。

 

 

 「うむ。気持ちの良いリアクション感謝である! 貴様、一流のマスターと見た!」

 

 

 「くっ・・・アメリカ二大拠点の一つを抑えているなんて・・・あ、一つはアタシがゲットしたけど。やっぱりセイバー・・・あなたと私は友という絆で結ばれているみたいね・・・!」

 

 

 「ライバルというやつだな! ドル友である!」

 

 

 「・・・・・・・予想通りでしたね先輩」

 

 

 「英霊で、皇帝と貴族がアイドルやらドル友ねえ・・・ほんと、自由人ばかりなのかしら英霊って」

 

 

 半分呆れているマシュとジャンヌオルタのつぶやきに僕も同意。いや本当にこの状況下でこれをしようとするネロ陛下の胆力というか行動力は驚きだ。

 

 

 「あはは。英霊って面白いねージェロニモさん」

 

 

 「ローマ帝国が衰退した理由をなんとなく理解できた気がするな。私は」

 

 

 思い思いの反応を返す中、英霊同士の交流を温めつつ、同時にネロ陛下を引き込むために言葉をかける。

 

 

 「ネロ陛下。でもその計画。多分今のままだと成功しません」

 

 

 「はい。私も先輩と同意見です」

 

 

 「むむむ? 余の計画に瑕疵があると?」

 

 

 「えーと・・・今この国は戦乱真っ只中。先程のフェルグスもこの大陸を荒らすケルト軍の長の一人です。国が荒れて戦争にどちらも全力を傾けているのでとてもですがスタッフや観客を招くことは不可能かと思います!」

 

 

 マシュの熱い言葉にはっとなるネロ陛下。先程まで戦闘をしていたのですぐに分かったのだろう。この言葉の意味が。

 

 

 「なのでまずはこの戦乱を収めてからその計画にかかるべきかと。ちょうどレジスタンス領地にはお母さん・・・もとい、円卓の騎士華奈さんと銀嶺隊もいますから」

 

 

 「「何だと!?」」

 

 

 声をハモらせて驚くエリザとネロ陛下。え。そこまで華奈さんって有名なの?

 

 

 「おぉおお!! あの華奈、銀嶺隊か! サバフェスで映像作品やミュージカル、ドラマにダンス。MVもお手の物。イベントも作り上げるなんでもスタッフ! ここに来ているとは! こうしてはいられない! 早速この大地に平安をもたらしたあとに華奈殿に余のスタッフとして任命するぞ!」

 

 

 「あ、ちょっと待ちなさいよセイバー! 先に子鹿たちの仲間になったのはアタシ! こっちの方にも人材を回してもらうわよ!」

 

 

 なんか・・・英霊の界隈でも何でも屋と言うか、サブカル関連で有名なんだって改めて思い知らされるのと同時に・・・

 

 

 「マシュ。いつの間にか華奈さんに仕事回しそうだけど大丈夫かな?」

 

 

 「・・・・・・・あ。え、えっと・・・後でお母さんには謝っておきます・・・」

 

 

 うん。自分で言いだしたことだし今更止められないよね。僕からも言っておこう。あと手伝いをして負担を減らすようにしないと・・・

 

 

 「あの戯けと馬鹿女の企みを砕かんとする戦士たちか。良ければ儂も加えてはくれないか? 星見の者等よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、はいもしもし。銀嶺隊です。出前の方はしょうしょう・・・あー藤丸様。おお、無事に英霊と合流。・・・・・・はい!? フェルグスを討ち取ったし、しかもスカサハも仲間になった!? おお~しかも英霊の方はエリザ様とネロ様ですか。

 

 

 いやはや。ここアメリカに来て一番の大手柄ですねえ。今晩は好きなものを作って上げますよ。ふふふ。では、帰還をお待ちしています。どうか無事に・・・ええ。はい。はい」

 

 

 いやはや、まさかまさかの勝報に驚くほかない。あの勇士フェルグス。ケルトを相手にするのならまず障壁としてぶつかるであろう難敵を討ち果たし、クー・フーリンの師匠。影の国の女王が仲間になるとは・・・・・

 

 

 いやはや、一つでも値千金。いや、三つなので三千金の価値ある報告ですよこれは。

 

 

 「いやあーさすがは藤丸くんとマシュちゃんたち! ふふふ。君の愛娘と弟子は素晴らしい!」

 

 

 「ロット様。感謝します。あ、エジソン王との会談はいかがでしたか?」

 

 

 「面倒だったが無事にあちらが折れてくれてね。明日の夕刻にこちらで会談をすることになった。ここに来るということ。つまりは・・・」

 

 

 「こちらにイニシアチブを譲る形を選んだと言っていい。英霊の数と質あるアメリカの戦士たちを求めた形にしたと」

 

 

 コーウェン将軍。さすがですねえ。数をこれで引き込めればいいですが。まずケルト軍の王の師匠が来てくれているというのはありがたい。

 

 

 でもまあ・・・あの人のエピソードを考えると。認めさせる。私達と行動をともにしてもらうためにも、私も武勇を示す必要がありそうですね。ストームにも連絡しておきましょう。

 




 次回は影の国の女王と銀狼、嵐の勇者の邂逅。そして会談。


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ホワイトライオン ☓ 白猫 ◯

 スカサハさん登場。私は大好きなキャラですし華奈も美貌も技術も好ましい人ですがこの一点はマジでキレる部分がある。


 「さて、改めて名乗るか。影の国の女王スカサハだ。今回はバカ弟子の件で流石に師匠として灸を据えようと思ってな。この一軍に勝手ながら参加させてもらう」

 

 

 「了解です。私は銀嶺隊隊長。円卓の騎士華奈です。よろしくお願いします。いやはや、しかし貴女ほどの戦士が来るとは」

 

 

 眼の前にいる全身タイツ。ワインレッドカラーの色で統一したような髪の毛と瞳、タイツ。そのスタイルと美貌に、大変見覚えのある朱槍。感じる気風も、なるほどあの戦士の師匠というのは納得です。

 

 

 「うげ! マジで師匠がいるのかよ・・・はぁー・・・」

 

 

 「ほう。こちらはまともな方のセタンタか。全く、腕は鈍っておらんだろうな」

 

 

 「問題ねーわ! ってか、師匠なら俺は愚か、どうせメイヴやなんか英霊の首でも持ってきたのか?」

 

 

 「いや、全く」

 

 

 「はぁ!? アンタほどの戦士がなんでだよ!」

 

 

 懐かしき師弟の再開・・・という感じではないですが・・・まあー・・・ですよねえ。色々とカルデアでも酒の席で愚痴をこぼしていましたし。

 

 

 そして、クー・フーリン様の発言には私も同意。私でもわかるほどの戦士がまさかの手ぶらで来るというのも。

 

 

 「腹立たしいが簡単な話よ。あちらにいるあの馬鹿弟子は私でも殺せぬほどの相手。しかもそばにはそこそこ腕のたつ弓兵もいてな。無駄死にするだけだっただろうよ」

 

 

 「スカサハ様がそう言わしめるほどですか・・・所感としては、どのような?」

 

 

 「あれは私の知るクー・フーリンであってクー・フーリンではない。眼の前でバカ面さらす此奴とは別物じゃ。メイヴめが聖杯に願ったのであろうよ。自分に並び立つほどの邪悪な王にしろと。

 

 

 その結果がおそらく戦士としてではなく王としてあるために不要なものを削ぎ落とし、そこに死の棘を纏い委ねた牙神。あるいは狂王。それがケルトの王になっているクー・フーリンだ」

 

 

 「死の棘を纏う・・・まさか」

 

 

 「ああ。死の棘。一本でも痛く手に余るような朱槍を千本も手にして魔獣、呪いの戦士とかした阿呆は哀れでみるに耐えんものだった」

 

 

 うわぁ・・・・つまりはあの朱槍。ゲイ・ボルグを基礎に全身をそれに関わるもので身を包んだ全身ハリネズミのようなもの。戦士というか魔獣というか。そう言わしめるのも納得です。

 

 

 「哀れな」

 

 

 「全く。しかしその代わりというべきだろうな。アレは私を超えていた。迷いのない馬鹿は強いと言うだろう?」

 

 

 「それは強いのではありません。ただ、人生を檻に封じ込めただけです。何と言う破綻。外に開かれない夢はただの妄執です」

 

 

 フローレンス様の言う通り。そしてそれは同時に短い付き合いですがクー・フーリン様の望むものか? と言われるとそうではない。

 

 

 多分、王として望んだ。というのは英霊の側面を呼び出して強化した。だけにはとどまりそうにないですね。

 

 

 「んじゃあまあ・・・俺の尻拭いってことで俺はその俺に? ぶつかるが、やっぱり俺を殺しても意味ないだろう?」

 

 

 「ああ、お前のけったいな姿を倒すだけでは意味がない。むしろ被害の範囲と実際に軍の指揮、音頭を取っているのはメイヴだ。あやつから聖杯を取り上げないと意味がない。

 

 

 かといって馬鹿弟子もメイヴも生前にゲッシュの制約やら恨みから奇襲、不意打ち、そういうのはされてきている。しかもまあ、なまじ時代が進んだこの特異点では知られているのもあって闇討ちもやりづらければ軍を砕いて進もうにも、指針を定めなければ逃げ回るか、罠を仕掛けてくるだろう」

 

 

 「ふむ。ならばまあ、まずあちらの目的はなんかやべーことになっているクー・フーリン様と自分の親衛隊たちで国盗りをしてアメリカをものにしようとしている。其の上でアメリカという国へ衝撃を与えるためのいい場所は・・・」

 

 

 「ワシントンだろうな。敵へ屈辱的衝撃と不安を与えるのなら敵の首都を抑えていくのが筋だ。加えてレジスタンスの間者からの情報でも兵士の出入り、出発点はそこが多かったという報告がある」

 

 

 ふむ。ジェロニモ様の情報と国盗りの方針的にもそうなるでしょうね。実際に戦争で印象的場所、首都、歴史的要地というのは取られるとショックが大きいもの。ただでさえ独立戦争をしていたこの時代で自分たちの足場を完全に奪われて、首都を敵が我が物顔で過ごしていれば心に来るというもの。

 

 

 「じゃあ、メイヴの方は私達でぶっ飛ばすとして、問題は圧倒的武力を持つクー・フーリン様。あそこには腕自慢を置きたいですし・・・」

 

 

 「はいはーい。沖田さんはどうです? 天才剣士ですし、いけますってー」

 

 

 「余も出向きたい。借りを返す。華奈殿等への音へ報いるための首級としても是非狙いたい」

 

 

 「俺も行くぜ。なんというか、色々と俺が行くほうがいいだろうさ」

 

 

 「レンジャーだと不安だが、フェンサー、エアレイダーなら行けると思うが、どうだろうか?」

 

 

 「わ、私も是非ラーマ様とご一緒に!」

 

 

 立候補してくれたのは沖田様、ラーマ夫妻、クー・フーリン様。ストームの5騎。ふむ・・・悪くはない。ですかね。多少なにかの変異があったとしてもクー・フーリン様の側面。動きの癖、攻撃の対応とかを考えればいるだけで違うでしょうし。ラーマ様も、シータ様と一緒にいれば手数が二倍以上。ストームもフェンサーで盾スピアなら・・・

 

 

 「では、ひとまず狂王クー・フーリンへの対応メンバーはそれにしましょう。ただ、それ以外でいた弓兵。そこが気になりますねスカサハ様。弓兵。名はわかりますか?」

 

 

 「うむ。名はアルジュナ。インド神話における英雄の一角じゃな」

 

 

 げ・・・カルナ様と並ぶインド叙事詩の大スター・・・あっちゃぁー・・・ただでさえ二騎に主力を当てようと考えていたのに・・・大真面目にエジソン王を抱き込んでカルナ様と当てておかないとあの弓矢でバカスか射たれるだけでもアメリカの民草が死んで特異点崩壊となりかねないですよ・・・

 

 

 『あ、アルジュナだって!? ラーマに並び比較されるほどのインドの大英雄だぞ!!? これに加えてさっきまではフェルグスがいた・・・ベオウルフは戦意喪失させたとはいえ、大真面目にこんなのばかりがいてよくアメリカは今まで無事だったよ』

 

 

 いやはや全く持ってその通り。相手が基本英霊を狩る以外は舐めプしていたか、国を作るために裏方で何かをしていたかとしか思えないほどのメンツですよええ。

 

 

 この中で残ったメンバーだと・・・信長様、モルガン様がいればまあ、どうにか・・・? でもできればモルガン様には仕事を振りたいんですよね。なのでカルナ様はほしい。

 

 

 「まあ、そこもおいおい考えます。ストーム2の皆様もいれば大丈夫でしょうし。ただそれはそれとして・・・・」

 

 

 「カカカっ。いやはや。とんでもない武の匂いを嗅ぎつければ麗しい女性がいるが、まさかかの影の国の門番とは。是非、神にまで上り詰めた武技、我が槍が届くか死合を申し込みたい!」

 

 

 「ゾクゾクするほどの気配・・・背筋が震えるほどです! 私も是非! 何年も、何百年も、千年以上も鍛え続けた技術を、その体を是非!」

 

 

 「うむ。大変弄り甲斐の有りそうなオモ・・・もとい戦士たちがいるな。ふむ・・・華奈よ。時間はあるか?」

 

 

 うん。そりゃあこの二人を中心にそりゃあ腕自慢たちと目をつけられた戦士たちを見てスカサハ様も戦士として教師? としての血が疼いたんでしょうね。

 

 

 「ええ。どうせ本格的に動くのはこのあとのエジソン王等との会談での成果次第で動くので。少し気合を入れたり、鍛錬をつけたり気負いなく戦える時間を過ごしてください」

 

 

 「ほほう。では少し見てやろう。ばか弟子に最新の英霊、そして盾に剣、銃と多くの戦士。楽しめそうだ」

 

 

 「ただですね?」

 

 

 頼りになるし特異点攻略のための情報をくれて協力もしてくれそうな様子。とはいえ、私としてはここを抑えておくべきものがある。

 

 

 「かつてのクー・フーリン様と、コンラ様のような、弟子たちを、親子を悲劇に合わせるような性根の腐ったことを一瞬でも考えれば、私が絶対に許しません・・・マシュ様と藤丸様たちを。人里の紡ぐ家族の縁を壊すのはだめですよ?」

 

 

 「う、うむ・・・そこは流石にわきまえておる。より強き戦士となるためにどちらかを食い物にしないと誓おう」

 

 

 「ならば良し。お願いしますねスカサハ様。影の国の女王であり門番。武技で人を超えたその手腕。頼りにしております」

 

 

 本気で殺気と怒気をぶつけて注意をしてから問題なさそうだったので私はオルガマリー様たちと一緒にそろそろつくであろうエジソン王らとの会談に。

 

 

 真面目にこっちに集中するためにもスカサハ様のこの行動とか、ついついなにか馬鹿をしないかが怖かったので安心ですよ・・・ただでさえ文官の仕事は現場仕事畑仕事以外は苦手なんですから集中できないと困る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて・・・偉大なるアメリカの王様エジソンに。彼を支えるレディ・エレナ。そして大いなる戦士カルナ。総出できてくれて感謝しよう」

 

 

 「御託はいい・・・くそ・・・貴様らが先ほどフェルグスを倒し、しかもケルトの偉大なる戦士、スカサハを招き入れたというのは事実なのか?」

 

 

 「ええ。ほら、あっちで朱槍が飛んでいるでしょう? あれはスカサハ様の槍です。あ、モルガン様が結界を張っているので流れ弾、槍は大丈夫かと」

 

 

 こうして迎えたエジソン王との二度目の談話。最初はこちらを招くはずが逆に招かれる側。いやはや、面白いものですよ。同時にここに来るまで大変でしたけど。

 

 

 というかストームたちもブレイザーにフラッシングスピアをバカバカ撃って・・・多分クー・フーリン対策の練習でしょうけど、ギンギンガンガン凄い音が響きまくる。お茶に鉄の味がしそうです。

 

 

 「ええ。そしてその上で言いましょう。私達にはすでにアメリカの、レジスタンスに所属する兵士たちを皆攻め込めるようにできるほどに鍛え上げ、武器も充実。そちらに渡せるだけのものも大量に用意しています。

 

 

 数、その数の質も全てが上。そして英霊もそれぞれに軍団分けできるほどには揃えました。もう、一歩踏み込むための用意はできている。あなたが聖杯を手放す覚悟があれば・・・ですがね? キング・エジソン」

 

 

 「ぐぐぅう・・・しかし・・・しかしだ。まず数でケルトに勝つにはこちらにも大量の兵士が・・・そして、その後の魔術王への対処もだな・・・」

 

 

 「その割にはずいぶんと非合理的な判断を、戦術も取りますねエジソン」

 

 

 「な、に・・・? 今、私を非合理と言ったのか・・・?」

 

 

 「そう言いましたが? 非合理な戦いぶりですね」

 

 

 「ええ・・・実際、そうだからこそお姉様の用意した布陣、武器で大きく変化をしてそちらも国を留守にするほどの余裕ができた。今まではできなかったでしょう?」

 

 

 「私は常に合理的である! この国とこの私は、論理から産み落とされたもの。非合理などあるはずが・・・!」

 

 

 「・・・・勝てない」

 

 

 モルガン様とフローレンス様の言葉に熱くなって反論をするエジソン王にするりと入り込む勝てないという言葉。これがまるで氷の壁のようにエジソン王の言葉を抑え込む。

 

 

 「彼らケルト兵は生まれてから死ぬまで戦いに明け暮れた生物です。この国の人間からはスタート地点から大きく引き離されている。ましてや彼らが敬う女王メイヴは聖杯を所持して無限とも言えるほどに戦士を生み出している。

 

 

 だから勝てない。勝てるはずがない。彼らには聖杯とメイヴという英霊の資源以外に必要なものがない。数で勝負するという発想がすでに間違いなのです」

 

 

 「私は一応お姉様から武人としての技術と、銀嶺隊が育つ様子を見てきました。一人の戦士を育てるための時間。練習用の武器。戦場に立つ覚悟。その兵士たちの食事に寝床。これらを用意していくのにそちらがどれだけ短縮し、機械や近代兵器、薬物によって即物的に兵士たちを用意しても、それはメイヴたちには及ばないでしょう。

 

 

 なにせ時間がかかる練兵を彼らはする必要がない。食事など気にする必要がない。戦闘、死への恐怖を恐れないようにする教育もしなくていい。最初から済んでいる状態で増殖させるから。

 

 

 それを上回り、対応できたのは華奈お姉様や夫たちが数の差を埋めるための守りを、より高い質を用意したからこそここまでこれたこと。物量勝負での押し切りではなく質量での乾坤一擲を狙った」

 

 

 「ですがあなたはそれを譲らなかった。いえ、その仕組みにおいては負けたくなかった」

 

 

 私のそばで数十年兵士を育てるさまを見てきて、女王としてその戦を見てきたモルガン様に、実際に戦場と政治をその目で見てきたフローレンス様。二人の言葉は重いもので、この会議の場の空気を完全に握っている。

 

 

 「何故なら・・・大量に生産する。より安価で良いものを作る。それが貴方の。トーマス・エジソンが誇る天才性だから。そして、その美学が貴方からその知性を奪っていった」

 

 

 「自分のホームグラウンドで、このアメリカで負けてなるものかと無意識のうちにムキになった。戦略はある程度あっても、そこにこだわるゆえに戦術研究も、対応策も数と鉄の暴風くらいで要塞も砦も、からくり一つすらない」

 

 

 「そんなふうに愚図愚図考えていたからそんな病に侵され、ドクター。華奈の行動力にあっという間に追い越されて立場が変わったのです。助力を頼む立場から願う立場に」

 

 

 「あっちゃぁー・・・」

 

 

 「・・・な、いや・・・ー・・・しかし、なんということか・・・否定、できぬ・・・」

 

 

 でしょうねえ。なんやかんやと言っても王の立場、色々と見る機会やその刺激と知識で自分の行動を孝もサラリと見抜かれれば、しかもプロの戦場の看護師、軍人らからの言葉。刺さるでしょうよ。

 

 

 というか話しとこうして見ただけでその状態を見抜けるフローレンス様。本当に病を見抜き、そして戦場であらゆる方面を見てきたその知性と経験。とんでもないですね。

 

 

 「たしかに私は生産力にこだわっていた。いずれ資源も尽きるというのに、最終的には勝つからいいのだ! などと・・・」

 

 

 「いやはや。それでたとえ勝ったとしても。だ。私から言わせてもらうとその間もメイヴは聖杯のリソースを使い続け、米を守るためのリソースは減り続ける。数という面でのゴリ押しは、自ら国を守るための聖杯というエネルギーを使い潰す速度を早めるだけだよ?」

 

 

 「うぐぅう・・・!」

 

 

 うん。ロット様の言う通り。どんなものにも。聖杯というものにも限りはある。無限、途方も無いほどに思えるエネルギーを持っていますがそれも有限なんですよ。聖杯の機能の凄さに、そこも失念していたのでしょう。

 

 

 「全くです。生産力だけ勝ってどうするというのです。そ、し、て! エジソン。あなたはライオンの頭を持っていたわけでもこの筋骨隆々の肉体も、力も持っていたわけではない! ならば、貴方をこうする何かがある。貴方以外の何かが貴方を「王」とするなにかが」

 

 

 「そもそも。それを。ええ。米を守るのなら国というよりも会社とかを作ったりしたほうが貴方の、エジソンという発明王のノウハウが活かせるはず。だというのにこの手腕・・・エジソン王。いえ、エジソン様。貴方。何を背負いましたか?」

 

 

 「・・・その通りだ。私の名はトーマス・アルバ・エジソン。そしてこのアメリカ合衆国の大統王・・・過去、現在、そして未来。この国の歴代大統領から力を与えられし者。何故なら、そのほうが合理的だからだ」

 

 

 「たとえ大統領をすべて呼ぼうともそれを各個撃破される可能性や、リソースの問題。そして何より国というシステム以外にも実働的かつ大量生産を可能とする。その逸話を持つケルトよりも新しい時代のこの国の、世界的知名度を持つ人物。エジソン様に力を集めてアメリカの代表としたと・・・」

 

 

 「そうだ・・・! 私は彼らにこの国を、アメリカの未来を託されたのだ!」

 

 

 それは同時にその人数の分だけアメリカという国への思い。もはやそれも一種の怨念や執念というほどのものになってしまい、エジソンを暴走に至らせた可能性も・・・ですか。

 

 

 だけど同時にそれは、英霊として、アメリカという国の成り立ちからして矛盾している。

 

 

 「それが貴方の病です。私達英霊は、まして世界のリーダー、警察と言っている時期さえもあったアメリカを。アメリカだけを救うというのは使命がある。

 

 

 更には、この国の過去から未来。様々な人種、民族から生まれ、それを内包するこの国はあらゆる国家との縁、切れない関係がある。エジソン。それは貴方にも。だからこそアメリカだけではなく世界を救うべきというのに、目をそらして自国だけ救おうとするから大統領の意思とのズレでエジソン。貴方は苦しむのです」

 

 

 エジソンの発明。というよりはそれを世間に広めるようにできた電球。あれには日本の竹が関わっていて、それ以降エジソンは日本に興味と好き? 見てみたい。という感情があったといいますし、それを無視して、彼の知的好奇心と世界を守りたいという英霊故に思うことを切り捨ててのこの判断。そりゃあ・・・そうなる。

 

 

 「そして、そんな狭窄的思考でしか物を見れないから同じ天才発明家としてニコラ・テスラに敗北するのです、貴方は」

 

 

 あ・・・・・そ、それは・・・

 

 

 「Gaohooooooooooo!!?」

 

 

 ああぁー・・・言っちゃったぁ・・・・・うん。ですよねえー実際今の電子機器やハイテク機材。ほぼほぼ彼の技術や発想が基盤ですし。なんというかすごい人に出せない声を出してもんどり打ってビクンビクンするエジソン。

 

 

 (一番重いの言っちゃったー!!!)

 

 

 (・・・手加減してほしかったがな・・・)

 

 

 『ハハハハハハハハハハハハ!! これは痛快愉快! あの悪鬼エジソンがド正論かつここまで惨めにのたうち回るとはな!! ああ、そうだろうさ。いつだって情けない失敗をして、このように被害を見ないふりしての失敗だ。そりゃあ堪えるだろう』

 

 

 で、まあそこに追い打ちをかけるように係るカルデアの通信と、この声。

 

 

 「GAFUU・・・ぬ、ぐぅ・・・まさかこの声は・・・!」

 

 

 『そう! 今しがた貴様よりも上と認められた大天才、ニコラ・テスラである! すでに私の方はカルデアに着任していてね。魔術王は愚か、あらゆる脅威と戦うためのプロジェクトにミス・華奈とマスターに任命され、異星の侵略者から戦い抜き武器を開発した天才プロフェッサー殿と一緒に日夜研究に励んでいるとも! ポンコツの貴様で大統領等の力を借りてこのような愚策しか出せないとはな。底が知れるぞ』

 

 

 「何っ!!? 異星の侵略者!? 魔術王すらも超えてそれを対応するだと!? すっとんきょうがほざくな!」

 

 

 「いえ、それも事実です。私の方ですでに万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチと人類最新の英雄。何度も地球外生命体による侵略を幅未勝利した英雄ストーム1。その相棒と言ってもいい先進科学研究、武器開発のエキスパートプロフェッサー、そして我が銀嶺隊で新武装開発。及び対処策を考えています」

 

 

 (まあ、半分は本当。残り半分のうち半分は嘘。ですけどね)

 

 

 「え!? ちょ、それって、つまりマハトマに関係することや、超古代文明などに関しても・・・!」

 

 

 「それどころか未来も、それ以外にもいろいろな情報を、武器を用意しようと動き、そのためにニコラ・テスラ様をお呼びしました。彼は魔術王が相手でもともに戦うだろうと思いまして。なにせ地球を割れると豪語するほどの男。怯むことはないでしょうしねって」

 

 

 というか、真面目にかなり人里焼却に近しいことをしようとしてきた侵略者を最低2回以上は退けているんですよねえ・・・あのときの私のポケットにあってよかったメモリーカード。

 

 

 そして異星の侵略者という話や、人類最新の英雄。そこにニコラ・テスラと有名どころが集って研究となればそりゃあ知識欲も、英霊として戦う姿に嫉妬もしちゃうわけでして先程までのショックはどこへやら。

 

 

 「ぐむぅむ・・・・・うぐぐぐぐぅううううう・・・ぐぎぃ・・・認める・・・フローレンス・ナイチンゲール。そしてオークニーの王、王女、そして騎士よ・・・私は歴代の王たちから力を託され、それでも合理的に勝利できないという事実を導き出し・・・

 

 

 道を・・・ちょっと・・・ちょっと間違えた・・・」

 

 

 「「ちょっと・・・? ちょっと・・・」」

 

 

 「まあいいでしょう。間違いを認め、病と認めた。病気を癒すには大事なこと。貴方はようやくスタート地点に戻れたのです」

 

 

 後ろでニコラ様がうるさく茶々を入れまくって流石にまたエジソン様が頑固になりそうなんで通信をぶった切っておく。流石にこの独白は・・・記録はされて後々ネタにされるんでしょうけど、それでも自分で進んでくれる機会を蔑ろにはできないですし・・・

 

 

 「そうか・・・ここまで市民たちに犠牲と重圧を敷いてようやくスタート地点か・・・これは厳しい・・・厳しいな・・・実際、私はどうすればいいのか・・・」

 

 

 「ふぅ・・・頼ればいいのです。レジスタンスも英霊も、市民も私の領民も。みんなみんなで協力すればいいのです。

 

 

 人種も年齢も関係なくチャンスが有り、受け入れてくれる人種のサラダボウルなのがアメリカ。そこで大輪の花を咲かせたのがエジソン様。貴方です。次のチャレンジに挑む際は、私達と動く。そもそも、そのために今日はこうしてきたのでしょう?」

 

 

 「そうです。ミスタ・エジソン。ここには英霊が。あらゆる時代の戦士が、考えが、それぞれが持つ偉大な功績や技量を、武勇を持つ戦士たちがいます。彼らと一緒になって動けば貴方の知識は必ず輝くでしょう」

 

 

 みんなからの励ましと、実際問題物量のぶつかり合いでここまで持ちこたえているのはすごい話。それはひとえにエジソン様の特技が国規模で動かせるという荒業をこなしたからこそですしねえ。

 

 

 「・・・わかった・・・繁栄の世界の夢! ここに復活! 諸君。今まで迷惑をかけた。そしてこれからもどうかこの世界を、この戦争に勝利をするために協力をお願いしたい! 今この時点で、私の持つ権限はすべてオルガマリー所長に全部譲渡する!

 

 

 私にはない発想を、行動を。指針を示し、ともに、今度は一緒に戦ってほしい!」

 

 

 「もちろんです。エジソン。カルデアは貴方の判断を。心を歓迎します。これからもお願いしますね」

 

 

 「ふふふ。オルガマリー様も臨時副大統領兼工場長ですかあ。出世しましたねえ」

 

 

 「なぬ! 君があの銃火器を生み出した工場の主なのかね!? そ、それは是非今後のためにも教えてほしく・・・」

 

 

 「エジソン。そっちよりもまずこれからの戦略でしょう?」

 

 

 「ようやく、本来の彼らしくなったということか。霧が晴れたな」

 

 

 ですねえ。はぁー・・・これで西部と南部は協力できる。一つの軍として動かせます。いやあ・・・嬉しいぃ~




 ほんとケルト側の戦力がやばすぎますよねアメリカ。そりゃけるとも英霊以外は基本舐めプみたいな動きしますわ


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攻撃作戦

 そろそろ一気に仕掛ける感じです


 「さて・・・早速作戦に関しても始めましょうか。エジソン様はああ言いましたが、実はケルト軍への攻撃プランはすでに組んでいます」

 

 

 「なにっ!?」

 

 

 「貴方が大統領の力と貴方の力で生産と物量、政務のプロならこっちは軍人の端くれ。いまケルトに喧嘩を売る戦力を総動員したうえでの戦術を考えていたので。エジソン様たちが協力をしてくれるのなら使えるもの。ですが」

 

 

 手合わせの終わった皆さんも一緒に議事堂に集め、現在のアメリカの戦線マップの立体映像を議事堂の大きな机の上に映し出す。

 

 

 「で、まあ・・・せっかくなので一応聞きますが・・・エジソン様。貴方は歴代大統領からもらっているのは、力だけで?」

 

 

 「う、うむ? そうだが・・・」

 

 

 「知識や経験・・・ユリシーズ・S・グラント大統領などの知識は?」

 

 

 「・・・・・・・申し訳ないがさっぱり」

 

 

 あふん。

 

 

 「お母さん!?」

 

 

 「おい。華奈よ大丈夫か? 突っ伏してしまったが」

 

 

 あはぁ・・・・・あー・・・しょうがない・・・しょうがないんですが。なるほど。あの名将の知識もあれば助かったんですがねえ・・・はぁー・・・

 

 

 「ふぅ・・・ま、まあ・・・しょうがないので話を進めましょう。まず、ケルト軍を叩き潰す作戦ですが、攻めと受けを分けます。おそらくケルトが領地を広げているのはこの特異点を崩壊させるため。なのでアメリカを守るための兵力と、攻め上がるための兵力。これを用意していかないといけないです。

 

 

 そういう意味では米を守るために物量でどうにか戦線を押し上げて守り抜いたエジソン様の行動は正解と言えます」

 

 

 「そ、そうか・・・! 私の行動の中にも、正解はあった・・・アメリカを守るためにあっていたのはあったのか・・・」

 

 

 実際、戦力を固めて動かせば片方は薄くなる。そこを突いて包囲されたり孤立させられれば意味ないですし。

 

 

 物量を用意したうえで質の高い兵器と戦士、将官を用意できればよかったんですが、まあそこはしょうがなし。

 

 

 「で、話を戻しまして。南北に兵力を分けて乾坤一擲の一撃を放り込む。敵の主戦力がぶつかって対応しないといけないほどの侵攻軍を起こして動き、その間ケルト兵で裏をかくような動きも封じる盾。それを用意するべきですね」

 

 

 「うむ。メイヴめも暗殺や奇襲への対応はしているはず。それなら正面からぶつかる方が良い。ここを叩けばあとは問題ないと思わせる攻め。そしてそれを躱したとしても守れる対処。ふむ・・・どう動かしていくべきか」

 

 

 「で、あれば私は残ります。守りなら自信はありますし、既にエジソン殿の領地に武器弾薬も輸送しております。どこから華奈殿たちが出向こうが対処はできるでしょう」

 

 

 「私も残るとしよう。老骨なのでじっくりと腰を据えて迎え撃つとしたいものでねえ」

 

 

 「では、私もだな。指揮官としては非才だが、まもりの陣地作成は頑張るよ」

 

 

 「夫が残るのなら私も。でも、姉上の進軍の際の露払いはしますので」

 

 

 残ると手を上げたのはジャック将軍、コーウェン将軍、ロット様、モルガン様のオークニー組。うん。まずこのメンバーは残ってくれる方が良い。モルガン様も強いですし守りならロット様たちは安心できる。

 

 

 「うーむ・・・私も武官ではない。兵力の強化と準備に努めたいので残る」

 

 

 「私も。荒事に関しては流石に厳しいし。それと、カルデアの方にちょっと話をしたいから」

 

 

 「アタシも。せっかくだしライブとかダンスの練習をしつつアメリカの拠点を作る。セイバーに負けないアイドルになるために時間はほしいし!」

 

 

 「んー・・・それならオレも残りますわ。トラップの作成とかをこの物量と道具を使えば守り切るのにはいいだろうし、とりあえず支援射撃もできるんで」

 

 

 更にエジソン様、エレナ様、エリザ様、ロビン様の合計8人の英霊、神霊級の戦士が残ると。

 

 

 ふーむ・・・

 

 

 「エジソン様たちはカルデアから孔明様に頼んで防御陣地、罠の講義と動きを学んでの対応と、武器のアップグレードを。ロビン様はエジソン様の方に。ジャック様はウチの領地の人らも動員して守りの壁を分厚く、前線への兵器の用意と食料をたっぷりと。

 

 

 あとストーム。EMCと自走レールガンを用意しましょう。モルガン様。ウチの兵士と領民にありったけ食料を振る舞ってもらっていいです? すっごく魔力消費するすごいやつを用意するので」

 

 

 「了解。エアレイダーになって早速大尉らとエジソン等の領地に送っておく。戦力配分は?」

 

 

 「わかりました。アルトリア、モードレッド。手伝いなさい。数万人規模の食事の用意ですよ」

 

 

 「エジソン様等の方に2。モルガン様等の方に1の割合で。あ、それとアルトリア様とモードレッド様には攻めについてきてもらいますのでね。暴れてもらいますよ」

 

 

 食事の用意をしてもらう皆さんに手を振りつつ早速ズドンと来る魔力の消費に少しめまいがする。

 

 

 さ、流石にこの2つを数台用意するのは堪えますね・・・急いでみんなにご飯を取ってもらって魔力補給してもらわないと・・・

 

 

 「うーん・・・ねえ。華奈。守りの方だけど、私も残ったほうがいいかしら?」

 

 

 攻めの方を考えるべきかと思っていたらオルガマリー様の方も残るべきか? と首を傾げる。

 

 

 「ほほう。それはなぜ?」

 

 

 「私達にとっては何よりもまず特異点を崩壊させないこと。そこが大事だし、マスターが守りにもいたほうがいいのかなって」

 

 

 「なるほど。そしてエミヤ様は守りも上手ですし、武器弾薬の用意も簡単。ジャンヌ様も頼もしいですし。ええ、任せます。オルガマリー様も背中を支えるのなら遠慮なく攻め込めます」

 

 

 頭をぽんぽんとなでつつ、じゃあ次は残りのメンバーでどうやって攻め上がるかという作戦会議。

 

 

 私が考えていた戦術の内攻めのプラン。対クー・フーリン。とアルジュナの方も考えつつ話していき、夕方になる頃には明日に攻め上がるための配置準備で解散となりました。

 

 

 攻め上がる場所は南軍。その先鋒は私達銀嶺隊と、ストームチームとなりました。あ、そういえばさらに用意をしないといけないのが・・・・私、明日干からびていないように願うほかないですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「全軍。揃いましたね。今日この戦いで、このアメリカを。私達ブリテン。イギリスから旅立って多くの人種を、民族を内包する私達の子孫たちの国を救いましょう。いざ、前進!」

 

 

 南軍、レジスタンス領地に集めた侵攻軍。私の号令で先陣をかける銀嶺隊。そして、こちらの動きを読んでいたであろう敵の先遣隊が襲ってくる。その数も、一つで数万規模。敵も本気ですか。

 

 

 でも、この数は、ひとまず周辺の数は気にしなくていい。

 

 

 「世界のテクスチャを繋ぎ止める錨であり神槍・・・それを魔術に落とし込んだこの一撃。お姉様の勝利の手向けに、露払いに使いましょう。ハァッ!!」

 

 

 背後で防陣を敷くモルガン様の放つロンゴミニアドをもした魔術の槍の一撃はそれだけでケルトの軍団数万の陣形にまるで何もなかなったかのような大穴をこじ開け、兵士たちを消し飛ばして素通りすることが余裕なほどの通り道を作ってくれる。

 

 

 「銀嶺隊。左右のケルト兵をぶっ殺しながらすり抜けますよ」

 

 

 「兵士たちよ。銃を構えよ! 敵が動揺している今の内に撃て!」

 

 

 「「「了解!」」」

 

 

 ラーマ様の号令でEDFの銃を撃ち、敵兵を撃破しながらまるで無人の野を駆け抜けるように走り抜ける私達南軍。

 

 

 「ほほう。あの魔女。神槍を魔術に落とし込めるほどの実力者だったか・・・神霊、まつろわぬものたちの管理者たる血筋のみならず個人としても相当・・・ふふふ。カルデアに興味が湧くというものだ」

 

 

 スカサハ様も同行しつつ思わずモルガン様の力量にニッコリと笑顔。うーんこの・・・殺そうとしたら私も対処しないと・・・

 

 

 まあいい。今は先に進むだけ。エジソン様の用意したブースター付き機械兵に、生身の兵士たちを連れていけるための自動馬車、ヘルタースケルターの脚部キャタピラ換装式の機械化軍に牽引される兵士たちは銀嶺隊の脚についていけるほどの速さ。ワシントンまで夜まで休みなく走れる私達の魔獣等にも問題なくついていける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ショットガン部隊! スナイパー部隊! 撃て!」

 

 

 「いやっほー! 戦場でのヘリの強さ、歩兵からの恐怖の象徴をぶつけてしまいますよ!」

 

 

 「ワイバーンも、戦闘ヘリには叶わねえよなあ! そらそらぁ! あー農薬散布以外でこうして操るの初めてだけどすげえなこれ!」

 

 

 ワイバーン等空を飛ぶ魔獣はレジスタンスの対空部隊が対応し、エウロスに乗せたアルトリア様とモードレッド様が掃討。ケルト兵らにもアウトレンジからのバルカンにミサイルにレーザーとやりたい放題に仕掛けて一方的に殲滅。

 

 

 レギアとイネンナのワイバーンコンビも火の玉を吐いたり手榴弾を満載した袋を上空から落として爆撃するので数の差をものともせず、散々に打ちのめしたあとに銀嶺隊の突撃突破でぶち抜き、追撃の銃弾の雨あられが打ち据えてはケルト兵らを屠る。

 

 

 「に、しても数が多い・・・既に20万は始末したのでは?」

 

 

 「それだけ相手も本気ということだろう」

 

 

 「紛争でもここまでひどい物量戦はなかったぜ!」

 

 

 「全くだ。しかもこの気合。俺達の武器が上回っていなければと考えると恐ろしいな」

 

 

 ラーマ様とストーム2が会話をしつつ敵を倒しているとレジスタンスのベテラン斥候の方が急いで戻ってくる。うちの馬に乗れるので馬を預けていましたが、英霊に近しいレベルの腕前ですねえ。

 

 

 「華奈将軍。ラーマ指揮官。ご報告です。ここから20キロ先にケルトの特に大きな軍団を確認。指揮していたのは褐色の肌に純白の衣装。巨大な弓を持つサーヴァント。アルジュナと一致するかと思います」

 

 

 来ましたか。敵戦力の中でも特に気をつけなければいけない男が。

 

 

 同時に、作戦は第二弾階に移る状態になる。

 

 

 「カルナ様」

 

 

 「ああ。オレとやつは個人的にも、色々と因縁があるし、足止めはオレがやるべきだ。いや、是非やらせてもらいたい」

 

 

 「もちろんです。ただし、相手はケルト兵も多く従えている状態。お二人の戦いに巻き込まれるのを防ぎつつ、こちらを挟撃するように動かれても困るので、こっちも戦力を分けてカルナ様と同行させます。いいですね?」

 

 

 敵将の中でアルジュナがいた場合。まずアルジュナという遠距離攻撃をできる存在。そしてそばにいるケルト兵。カルナ様だけでアルジュナを足止めはできてもケルト兵をどう動かすかが問題。なにせまあ、数が揃えば武闘派の英霊でもある程度足止めできる戦士たちがわんさか。

 

 

 流石に背後を突かれるのは勘弁願いたいので。ここで戦力を分ける。

 

 

 「問題ない。勝利のために、オレが遠慮なく戦えるためにしてくれる配慮に感謝しかない。こちらから頼む」

 

 

 「了解です。では、銀嶺隊500! クラーク隊は李書文様、武蔵様の指揮下に入り、カルナ様に同行! アルトリア様とモードレッド様はうちの部隊をアルジュナの弓から守りつつ動いてもらいます!」

 

 

 「アメリカの兵士諸君の内5000はビリー、ジェロニモについて行きカルナについて行け! そして我らが本軍はアルジュナの部隊を相手せずにそのまますり抜けて前に進むぞ!」

 

 

 武蔵様と英霊の3騎。銀嶺隊のうち器用なクラーク隊と英霊のクラーク。そして最新武装を施した兵士5000足止めしつつカルナ様がアルジュナとぶつかる際に周りを始末するにはいいくらいでしょう。

 

 

 「イエス! サー! さあ、行くぞアメリカの男たちよ! 本軍を通すための盾となるぞ!」

 

 

 「それと、大尉様たちにはコンバットフレームの最新機に乗ってもらい抜けた穴を埋めてもらいます。ストーム。用意を。

 

 

 そして、李書文様、武蔵様」

 

 

 すぐさま軍を分けて行動に移る兵士たちを見つつストームにはコンバットフレームを用意してもらい、軍を分けて落ちてしまう機動力と火力の補充を頼みつつ、李書文様と武蔵様に声を掛ける。

 

 

 「お二人は必ずカルナ様たちと同行をせずとも構いません。もし私達が攻め上がる際に到着地点にクー・フーリンとメイヴがいない。もしくは・・・・まだ隠している英霊。ケルト側の英霊がこちらの守りの方に入るとわかればそっちを討ちに行っても構いません。

 

 

 遊撃隊として、判断はそちらに任せます」

 

 

 「うむ。委細承知。アメリカ側の戦士たちと散々に戦わせてもらった。このワガママに答えた礼として最善を尽くそう」

 

 

 「了解です♪ いやーカルデアに行きたいし、ちゃんと仕事はしていくので華奈さんたちもどうか武運を」

 

 

 「みなさんもご無事で」

 

 

 そう行って馬にまたがってかけていく二人。支援射撃のビリー様に、この土地のシャーマン、支援は豊富で戦士でもあるジェロニモ様。そしてスカサハ様も私も驚く腕前の李書文様に、成長の可能性を見せる武蔵様。

 

 

 このメンバーをカルナ様に預けて、私達も進む他ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「来たか、カルナ」

 

 

 「いついかなる時代とてお前の相手はオレしかいるまい」

 

 

 ケルト兵は指揮を任せたジェロニモとクラークに頼み、眼の前の男。アルジュナに全身全霊を傾ける。

 

 

 「聖杯戦争にサーヴァントとして召喚される度に、私は貴様の姿を探し続けたのだろう。正しき英霊としてあろうとしながら貴様の姿を探し求めては落胆したはずだ」

 

 

 オレも同じ気持ちだし、何より最大の相手、障害となるのはきっとアルジュナ。お前だろうと考えている。それは本当に因果、因縁。それ以上の深いものと思えるもので。今もこうして将軍という地位と役割をもらいつつも指揮の仕事も兵士を鼓舞する仕事も丸投げして、華奈には専用の作戦と部隊を分けてもらったくらいには。

 

 

 「・・・・・・こんな機会はおそらく、二度と巡り合うことはないのかもしれない」

 

 

 「・・・・・・・・」

 

 

 確かに。サーヴァント。英霊としてのめぐり合わせがこうしてあるだけでも奇跡。さらには互いに邪魔の入らないこの状況。奇跡を超えた奇跡というべきだろう。

 

 

 「お前がそこに立った時点で、他のすべてのものが優先事項から滑り落ちた。ではカルナ。続きを始めようか・・・」

 

 

 「そうだな・・・アルジュナ」

 

 

 ああ、お前も同じ気持ちなんだな。責務を投げ出してしまいながら。ケルトの将軍という立場を放棄してこの戦いに全身をなげうつ。それほどにオレを殺したい。戦いたいと。

 

 

 「オレもお前も癒えることのない宿痾に囚われているようだ」

 

 

 「そうだな。だからこそ・・・」

 

 

 「「それは歓喜」」

 

 

 そう。互いに互いが全力で決着を。勝負をつけたいと思う相手が同じ気持ちを持ち続けて、燃やし続けている。戦士として、因縁も何もかもを全力をぶつけ合える宿敵。こんな出会いは最高だとしか言いようがない。

 

 

 「聖杯に願うはずの願いが今叶った。世界を救うことに興味がない。滅ぶのならば滅ぶのだろう。しかし、貴様は救おうとする。この世界を」

 

 

 「無論だ。正しく生きようと願うものがいる限りオレは彼らを庇護し続ける。この力はそのために与えられたもの。我が父、我が生命がある限り日輪は不滅と知れ」

 

 

 こんなオレの願いのためにお膳立てをしてくれて、背中を押してくれる戦友も。オレを将軍として慕ってくれる兵士も。新しい友もいる。彼らが願う生き方を。世界を守るためにこの力がある。そしてそれをオレ自身がオレ自身のためだけに振るうことも快諾して、問題ないと理由も付けて送り出してくれた。

 

 

 そんな素晴らしき輩達のためにも、オレは世界を救うのだ。

 

 

 「だから私は滅ぼす側だ。貴様が善につくのなら私は悪につく。それでこそ対等だ。今度こそ・・・今度こそ対等のものとして、貴様の息の根を止めなければならない!」

 

 

 ビリビリと肌を刺すような殺気が体を襲う。ふむ・・・オレを殺すために。対等という立場にこだわり悪につく。行いをする。か・・・人を呪わば穴二つ。その行いの因果が巡ることがあるかもしれんな。

 

 

 「ふむ。それなら、腐れ縁だが付き合いは誰よりも長いのがオレ達だ。その縁に免じて、一つだけ約束しろ。オレを討ったときは本来の英霊としての責務を果たせ。その『炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)』で世界を救え。

 

 

 ・・・・・・言いたくはないがな。その手の仕事は貴様のほうが遥かに上手い」

 

 

 万が一に備え、オレがもし負けた場合。アルジュナは対等な立場にこだわってオレを倒す目的を果たしたのだからケルト側に着く義理も、悪に、滅ぼす側につく意味もない。むしろ神話の時代の住人とはいえ、その遠い遠い現代のインドの住人らも住むアメリカを救う。英霊としての義務を果たすのには問題ないだろうと頼んでおく。

 

 

 なにせまあ、イレギュラーはつきもの。動ける戦力は大いに越したことはないはずだし、オレなりの華奈やエジソン等へ残せる備えというやつだろう。

 

 

 「・・・いいだろう。だが決した後、それを敗北の理由にしないことだ」

 

 

 「まさか。敗北のために戦うことはない。この槍に誓って、この肉体に誓って。父と母に誓って、そして、戦友に誓って、勝利を奪う」

 

 

 既に遠く後ろに、本陣目掛けて駆けている華奈たちと協力すればアルジュナと同じ仕事はできるだろう。むしろ互いを知っているので連携は早いはず。アルジュナよ。あくまでも保険であって手を抜くことをお前相手にオレはできないし絶対にしない。

 

 

 「私も父と母、そして兄弟に勝利を誓おう。幾千と幾万もの月日を乗り越え、ようやくこの偶然を掴んだ! たとえ如何なる天魔といえども邪魔立てはさせぬ・・・!」

 

 

 あちらも安心したのだろう。すぐに戦意を高ぶらせ、魔力をみなぎらせていく。オレも魔力を高め、いざ戦いへの気力を最大限にしていく。

 

 

 「「行くぞ!!」」

 

 

 示し合わせたわけでもなく同時に、オレ達は戦いを始めた。互いに互いの役割を投げ出し、眼の前の男を殺すために。




 華奈がガックシする理由になった知識や経験をくれていなかった大統領。ユリシーズ・S・グラント アメリカの南北戦争にて北軍を勝利に導いた名将であり後の大統領。後世のアメリカの戦略やいろんなことに影響を与えた方。戦争時にはリンカーンの仕掛けた魔法のようなトラップをあわせて戦略面で負けずに大事な勝利を掴み取った怪物ですね。


 南軍を乾し殺すアナコンダ作戦という大規模な包囲作戦を始めとして陸軍出身かつ、海軍力も乏しい当時のアメリカでシーパワーにも着目して海軍と陸軍の連携。そのためなら運河も作ったり、兵站の拠点のために街を作るような規模で動かして戦争による特需を生み出す。無条件降伏をアメリカで初めて持ち出した人だったりと色々すごい。


 個人としては大統領で初めての回顧録を出版した人でアメリカの大統領の方がよく回顧録を出すようになったのもこの人が走りだとか。


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機動力700%

~移動中~


ハチ「ウォウ。ウォーン」


華奈「む・・・ハチ。貴方も感じましたか。ええ。マシュ様、藤丸様。先に行っておいてください。ダンカン、護衛を」


ダンカン「了解」


マシュ「え。お母さんどうしたんです?」


華奈「ちょっと嫌な匂いを感じたので、様子を見つつ可能なら仕留めてきます。クー・フーリン対策メンバーとネロ陛下、スカサハ様もついてきてください。


ストームも。アルトリア様はヘリで先導。大尉様たちはニクスで同じく先行を」
(メンバーを集めて進路を変えて本隊から離れる)


ラーマ「華奈殿。クー・フーリンがいるのか!?」


華奈「おそらく。とんでもない気配を感じたのでどちらにせよ確認するべきでしょう」


ロマニ『うわ、本当だ! 華奈の移動方向にサーヴァント反応! しかもとんでもない魔力量と存在。進路、向かう方向的におそらく敵の英霊と考えていいと思う。どういう嗅覚、察知範囲しているのかなあ!?』


華奈「戦場で培われた勘ってやつですね。えーと・・・これとこれをつけて・・・あ、ストームにはこれを・・・そぉい!」
(妖精の宝石箱から装備をつけてからネギをぶん投げる)


 「・・・ちっ・・・何をしているんだかあいつは。無駄に決闘にこだわりやがって・・・・! っ!」

 

 

 「む。流石に弾きますか」

 

 

 「何だお前・・・っ!!」

 

 

 ネギを弾かれ、それをキャッチしつつ桜花で切り込みましたがそれでも少し後ずさるだけ。うーん。私だけではなく栗毛の爆走の勢いも乗せた勢いなのに。まあ、この連撃で意識を私に向かせた間に地面に刺しておいた深山で地面から土の拳でのみぞおちへのボディブローでぶっ飛ばしておく。手応えは薄いですが。

 

 

 「よーし。皆集合! こいつはチャンスだぞ!」

 

 

 ストームも追随してすぐにクー・フーリン。いやあー青をメインとした普段の色合いとはまるで違う黒い魔獣を思わせる鎧をまとっていた。死の匂いが濃密すぎる存在にガトリングをぶっ放して縫い付けている間にクー・フーリン対策メンバー&ネロ陛下とスカサハ様のメンバーも到着。

 

 

「相手はラーマ様を軽くひねるほどの怪物です。複数人で相手するのを卑怯と思わず、相手を人と思わぬようにしてください」

 

 

 「ああ、此奴はもはや人ではない。人の形をした牙神。魔獣みたいなものよ。ここで仕留めるぞ!」

 

 

 「うむ。此奴が敵将か。確かに獣というべき風貌と気配よ。春の日差し、花の乱舞! 皐月の風は頬を撫で、祝福はステラの彼方まで・・・開け、ヌプティアエ・ドレス・アウレアよ!」

 

 

 ネロ陛下の宝具で私以外の沖田様、クー・フーリン様、ラーマ様、シータ様、ネロ陛下、スカサハ様、ストームはネロ陛下の作り出した異界に相手のクー・フーリンと一緒に入り込む。7対1。とりあえず、形としてはおそらくアルジュナに合流される前に、カルナ様やビリー様たちを撃破するために合流させることなく逆に各個撃破できたというのは僥倖。

 

 

 「さて・・・戻りましょう。あとはあの女王陛下とやらをしばき回す番です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむふむ。なるほど。つまりは地球防衛機構ができたのは古代に墜落事故をしてしまったプライマーのせいと。はぁー・・・自分で自分の墓穴をほったのね」

 

 

 『そういうことになりますね。ただ、それ以外でもEDFが成立している世界。つまりは世界規模の地球防衛治安機構ができているシリーズもあるので、そこでの違いなどもあるのかなとは』

 

 

 「うーむ・・・異星の侵略に矢面に立てるほどの軍事組織を各国が協力している状態。まさしく理想の世界と言えるだろうな。侵略者さえいなければ」

 

 

 「横暴な国のトップや領主もいるんでしょうけど、それでも全世界から守りの代表。戦士たちが生まれるとはねえ。未来の人類も捨てたもんじゃない未来があるってわけだ」

 

 

 こちらは北軍部隊。完成した砦に要塞、カルデアの軍師たちの英霊の意見も相まってできたこの要塞で、奥の手を隠しつつ戦闘の前の少しの時間。カルデアの元ってやつから改めてストーム1,2の所属する組織。EDFについて聞いていた。

 

 

 いやあ、すごいもんですわ。軍権なんて権力者がまっさきに手放したくないものだっていうのに未来の世界ではそれを手放し、しかも異星人が侵略に来るまでは各国の紛争鎮圧にも協力できる世界最新。あらゆる国のプロの軍人が揃う精鋭組織。あり得るもんなんだなあ。

 

 

 「っと・・・来たか。さーて仕掛けのほど・・・・おいおいおい。まじかよ。オレちゃんと7割減らしたはずなんだけどな? 目がおかしくなったか」

 

 

 しかし話も程々に聞こえる怒声と気配。急いで双眼鏡を持ってケルトの軍勢を見れば、その一軍だけで10万を超える規模の敵の波が。

 

 

 さらにこれ、波状攻撃っぽいから更に第二第三の敵軍までいるなあ・・・いやいや、規模が違いすぎるでしょうよ。

 

 

 「ちょっと緑ネズミ! これちゃんと仕事したんでしょうね!?」

 

 

 「いやいやいや、あらゆるトラップを仕掛けたんだぜ? しかも銀嶺隊の工兵部隊とも一緒に。お陰で二つの軍相手に仕掛けられるほどの罠、仕掛け、諸々用意できたんだ。しっかり仕事をやり遂げたうえでこれだ。嫌になるねえ」

 

 

 「これは出し惜しみしている場合ではないな・・・全大砲用意! そしてEMC、レールガンも出せ! 長丁場になる。敵を可能な限り減らし、ここを守り抜くのだ!!」

 

 

 「南軍、元レジスタンスの方はどうなの?」

 

 

 『あ、うん。あっちはなんか・・・モルガンが大暴れしていて、ロット王たちもフルで戦術を駆使。銀嶺領の連携も相まってひどい光景だよ』

 

 

 流石に出し惜しみをしていられないとストーム1から借りた2両づつ借り受けたレールガンとEMC。怪獣レベルの怪物でも貫いて瞬殺する。山一つ軽々と吹っ飛ばす兵器というがそれをすぐに出す判断をしたエジソン。その方が良い。兵士の疲弊を軽減する意味でもここは早めに動くほうがいい。

 

 

 南軍の守りの方はさすが神代の魔女。騎士王の姉と華奈が信頼を置く拠点の王様たち。向こうを心配する必要もないってことか。

 

 

 「それなら、こっちは防御の強みを活かす番ってわけだ。よし。一つ頑張りましょうか!」

 

 

 「レールガンは兵士の集まっている場所を貫け! EMCは魔獣や銃の射程外の外にいる軍を攻撃することで敵の波に鈍る時間を作るように。数は少ないがまさしく人類の叡智の武器。この蛮族共にそれを味あわせてやると良い!」

 

 

 「マハトマにもひるまず、怪獣相手でも立ち向かえる技術、私も負けてられないわね! 行くわ!」

 

 

 みんなも乗り気になったところで開戦。さてさて、できれば早くしてちょうだいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわぁ。白い魔王城ってこんなかんじなんですかねえ」

 

 

 「うーむ・・・本来のホワイトハウスのほうがかっこいいと思うがなあ・・・俺は」

 

 

 「まさしくケルトらしい拠点ですってことか。流石に・・・キャメロットと比べるのがおこがましいほどです」

 

 

 「もはや異界みたいですね・・・」

 

 

 ホワイトハウス。にたどり着いたと思えばまさかの白い柱に竜の置物に戦士の石像。古代建築と現代建築のごっちゃにした悪趣味な建物に思わずドン引きしてしまう私達。うーんこの・・・

 

 

 と、同時にメイヴがなにもしてこないのを不思議に感じ、念の為通信スイッチを入れて南軍、北軍にもこちらの情報を伝えられるようにしておく。

 

 

 「ようこそ私達の城に」

 

 

 「ようやく会えましたね。ケルト軍女王メイヴ。流石に城を壊されるのは貴女も嫌ですか」

 

 

 そして相まみえるピンク髪のきれいな体を白いドレス風の衣装に身を包んだ美女。メイヴが顔を出す。なんといいましょうか。美女とかわいいの中間でナイスバランスな美貌なんですが・・・その顔に感じる邪悪さというか、えげつないこと考えているというのがありありと分かる。

 

 

 「そりゃあね? 王様の帰りを待つべき場所。本来はクーちゃんと一緒にあなた達を殺そうとしたのだけど・・・殺気から気配を感じ取れないのよね。殺されるはずはないと思うけど、クーちゃんを一体どうしたというの?」

 

 

 「狩り場に招待しておきましたよ。スカサハ様と、他にも腕利きの。有利な場所に招待できる英霊たち合計7騎で」

 

 

 「・・・そう。まあ、時間稼ぎにはなるんじゃないの? クーちゃんが負けるはずないし」

 

 

 少し不安を感じましたが、持ち直しましたね。この場にラーマ様とシータ様がいないこと。加えてスカサハ様にカルデア側の英霊たちで情報が入っているメンバーから誰をあてたか。察したということでしょう。それでもなお時間稼ぎになると言い張るあたり、本当にあのクー・フーリンは強いのでしょうねえ。

 

 

 「じゃあ、そのうえで貴女はどうしますか? ここで殺されるか、未だある奥の手と、あらゆる兵士を動員してここで私達と戦うか、逃げてアルジュナかクー・フーリンと合流してサイド各個撃破を狙うか。偉大なるコノートの女王。戦士たちの女王は。

 

 

 嫌がらせでもして、王の帰りも待たずに野望を終わらせます?」

 

 

 「殺したいわね。ほんとムカつく女だわ。スカサハを思い出す・・・! ええ、いいわよ。挑発に乗ってやろうじゃないの。同時に、私を挑発したこと。後悔させてあげる!」

 

 

 バシン。と石柱を叩く音と同時に出てくるシャドウサーヴァント、ケルト兵、竜種、魔獣たちの群れ。その数は私達銀嶺隊と南軍侵攻部隊の数をあっという間に上回るほどに。

 

 

 なるほど。さすが本陣。これくらいは用意していますが、まだこれだけでは終わらないでしょうね。

 

 

 「そして、この雑兵だけじゃないわ。私の伝説に刻まれた最高傑作。稀代の英雄クー・フーリンを倒す集合戦士! 『二十八人の戦士(クラン・カラティン)』!!」

 

 

 む・・・さらなる勇士たちの召喚術式ですか。アルトリア様とモードレッド様、マシュと私で対応しつつ、メイヴの方はストーム2に任せる他ないですかね? いや・・・・なんですかこの魔力の奔流と規模は・・・!

 

 

 「・・・とんでもないことをしましたね・・・・女王、メイヴ!!」

 

 

 「おいおいおい!? あいつケルトの女王だろ!? なんで、魔神柱が出てきているんだよ!!」

 

 

 空から降り立つ28本の魔神柱。これを戦士と言い張れるものではないし、メイヴに魔神の伝承はないはず。なら・・・!

 

 

 「魔神柱を戦士として自分の宝具に押し込み、そして魔神柱の力を落とさないように聖杯を用いたエネルギーで強さを落とさないケルト流の魔神柱を生成・・・! とんでもない発想、とんでもない構想!!

 

 

 そこまであの王に、クー・フーリンに尽くしますか・・・女王として、女として。同じ女性として敬意を払うほどですね・・・だけどこの発想がえげつなさ過ぎる! ここまで戦士を醜悪にしちゃうんですか!!?」

 

 

 「ふふふ。あら、意外と話がわかるわね。そうよ。私は恋する女王。そしてクー・フーリンに尽くす可愛い女の子。だからね? 今ここで私の全力をなげうってあなた達を殺し、その上ですべてをものにする! 行きなさい! 兵士たちよ!」

 

 

 「チッ! コンバットフレームバトルシステムフル稼働! エイレンⅥの性能を見せるときだ!」

 

 

 「ここまで来ても結局物量戦かよ! ひどい話だぜ!!」

 

 

 「戦闘準備、始めます!」

 

 

 空を覆うほどの魔神柱と大地を埋め尽くすほどの敵軍の群れ。いやはや、ひりつく展開ですね・・・! 同時に、この方を連れてきてよかったとは言えますが、連携と切り札を切る瞬間は間違えないようにしないと・・・!

 

 

 通信でこれが伝わってくれれば、きっとうまくいくんですがそれまでは耐えの時間です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「セェい!!」

 

 

 「はぁあっ!!」

 

 

 「ぐ、く・・・! ち・・・どうなっているんだコイツラの装備と技は・・・」

 

 

 「やぁっ!」

 

 

 7対1で始まったクー・フーリン討伐戦。ネロの用意した戦場の中で弱体化を食らったというのにそれでもとんでもないパワーとスピードを持って暴れまわるまさしく人の形をした怪獣そのものだ。

 

 

 ただ、インドの大英雄ラーマを単体で軽く殺しかけるほどの実力者というのがわかっていたので俺等は最初から役割を分けることで殺すことを考えていた。ストーム1こと俺、沖田、クー・フーリンの三名のうち沖田はそのずば抜けた剣技と身軽さ。カルデアのクー・フーリンは自分自身のもう一つの姿。槍の構えや技、クセを知り尽くしている利点を活かして横槍を入れてもらう。

 

 

 俺はマスターから借りている敏捷速度増加のアクセサリーを腰のボックスにしまい、移動速度上昇用の補助装備をガン積みした結果普段の機動力を700%増加。敏捷を3ランクとプラスで早くしたその速さと俺と装備とパワードスケルトンの重量を生かしたシールドバッシュとフラッシング・スピアM7Lの槍を単発でマシンガンのように連射する武器で押し込む。

 

 

 「ラーマ様!」

 

 

 「おう! シータ!! はぁあああ!!」

 

 

 そして、シータも英霊の座をラーマと同じになっていた影響でアーチャークラスの英霊。しかもラーマの弓術、技を使えるようで俺のFGZFハンドガトリング二丁持ちと合わせた弾幕を張り、多方向からクー・フーリンを縫い付けている間にラーマが斬りかかる。

 

 

 「ぐっくぅぐ・・・くそっ! っづ!」

 

 

 「余の劇場、余の戦場で見落とすとは不敬であり、致命的であるぞ?」

 

 

 「これで・・・!」

 

 

 「っち! ラアっ!!」

 

 

 復活したうえでシータも一緒溺愛百倍のラーマの剣戟に対応をして傷を負い、押し返せば不意をついてネロの剣戟が鎧を砕く。

 

 

 更にスカサハも一撃を放つがそれを自分の掌で受け止めて貫かれた手のひらで槍を握りぶん投げ、尻尾? それっぽい武装? を用いた三つの武装で俺等を押し返す。

 

 

 ここで終わらずに近くにいたネロを狙うが

 

 

 「させるか!」

 

 

 カルデア側のクー・フーリンがその槍を抑え

 

 

 「フッ!」

 

 

 「オラァ!!」

 

 

 沖田に合わせて俺がシールドバッシュとフラッシング・スピアの突撃して壁になりつつ沖田にその隙間を縫って攻撃をしてもらいつつネロやラーマたちから距離を取らせる。

 

 

 スカサハに穿たれた手のひらの傷もすぐに回復しているけど、それでもこっちの与えるダメージのほうが早い。

 

 

 「くそっ・・・! この連携でも、尚仕留めきれぬか!」

 

 

 「私の・・・ハラダヌの弓からの矢すらも弾くとは・・・! ラーマ様も警戒するのも納得です」

 

 

 「全く一個人で国盗りをできるほどの武力よの。これに加えてメイヴの物量もあればなるほど。二騎でこの大地を物にできると豪語するわけだ」

 

 

 「自分自身と殺し合うってのは不思議な気分だが・・・本当に、これは俺の一側面なのか・・・?」

 

 

 「なるほど。俺自身と師匠に加えてこの数、場も用意した。メイヴもアルジュナも、ベオウルフもいねえ。あの馬鹿が手こずるカルナを仕留めようと思えばこれだ。欲を出したか」

 

 

 それでもこの英霊のメンバーでも一押しが足りない。更に相手のクー・フーリンは自分の必殺の技。ゲイ・ボルグは自分の側面とスカサハという師匠のおかげで阻まれている。

 

 

 だってのに、余裕を崩さない。もしくはこの状況でも嫌に冷めているというべきか? 

 

 

 「なにはともあれこっちは削ることをできているんだ。焦らず、逸らず、仕留めるぞ。たった数人のこの戦場だが、落としちゃいけないってのは確かだしよ」

 

 

 「はい。ここで王を討てば私達も動ける。援軍としていけるわけですからね」

 

 

 沖田の言う通り。そして俺は単騎で一気に行ける機動力がある。ただ、だからこそ油断はいけない。俺の持つ最強の盾。グレート・シールドの使い所も考えなければいけない。あのえげつない極太の朱槍から何が放たれるか。相手の必殺の一撃を防ぐ。時間を作るそのタイミングを見極めないといけない。

 

 

 ケルトの戦士の頂点。インドの大英雄等を従え、退け、仕留めに行けると自信を持つその正体。見極めてやる!




 ストーム1。フェンサースタイルの最速のさらに最速装備に。多分はたから見るとすごい光景。あとクー・フーリンを袋叩きにできているのに油断しないのは強さもだけどシンプルにこのあと敵がなにかするっていう状況も何度も味わってきているので。


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戦線変化

 もう少しでアメリカ編も終了へ~


 「おいおい・・・数がますます増えていねえか?」

 

 

 「レールガンも、EMCも、そして兵士たちの銃火器も最高のもの。だというのに、敵の波が増えているような気が・・・」

 

 

 北軍の戦いを始め、オレ達もいい具合に第1軍、2軍と仕留めていたはずだが後続の軍が更に増えている。偵察での報告でも一つの軍で20万以上。しかもシャドウサーヴァントもまじり始めてきた。

 

 

 いやなに? メイヴってやつまだ本気じゃなかったってわけ?

 

 

 「最高の装備と英霊の数も何倍。だけどこの状況。人生ってうまくいかないものね」

 

 

 「ああ、全くだ。そう上手くいかねえのが人生ってものだな。ってなんだ。小狡いアーチャーとやせっぽっちのランサー。それにまるで戦闘要員でもねえキャスター二人だけかよ。

 

 

 俺をぶっ倒したラーマと、残りの連中はどこに行った?」

 

 

 眼の前に現れるケルト側らしい筋骨隆々、赤い剣を持った傷だらけの金髪の英霊。やべえ。おそらくバーサーカーだし何か滾っているっぽい。まあそれはそれとして。

 

 

 「留守よ。それから痩せっぽっちじゃなくてスレンダー!」

 

 

 「何だ、オレ褒められてやんの」

 

 

 ゲリラ戦術、奇襲不意打ちが得手のオレにとってはそう言わしめるほど相手さん等が罠にハマってくれたらしい、評価してくれるのは嬉しいねえ。

 

 

 「おう。褒めてるぜ。罠だけで最初の軍の7割を減らすとはな。・・・だが、罠ってのは一度発動してしまえば二度目を使えるのはあんまりねえ。どうやら女王とやらもここが攻め時と考えたらしい。消耗した分以上をドバっと注ぎ込んできやがった。

 

 

 まだまだ来るぜ。この波は」

 

 

 「あーやだやだ! ガサツで無神経で破廉恥で! おまけに筋肉に入れ墨に無精ひげ! 下品極まりないわ。アンタ、相手しなさいよ」

 

 

 「へいへい、と言いたいところだが、悪いけど手伝ってくれないとオレ死んじゃいそう」

 

 

 おそらく報告に聞いている竜殺し、巨人殺しの英雄ベオウルフ。大真面目に肉体の基礎スペックからしてものが違う。あとエリザよ。筋肉はそこまで卑下しなさんな。

 

 

 「だらしないわねえ」

 

 

 「遠距離戦と毒殺と破壊工作しか取り柄がないからね。オレ」

 

 

 「じゃ、後ろでちまちま弓でも射ってなさいな。行くわよ半裸男! 竜殺しなんて一人で十分なのよ!」

 

 

 「せめて名前の方で呼んでくれるとありがたいんだがねえ。痩せ・・・スレンダーなランサーさんよ!」

 

 

 「くぁっ!!」

 

 

 始まった戦闘だが、やっぱりバーサーカーに加えてもとが竜殺しの英雄。しかも剛力で名を馳せたベオウルフだ。一撃でエリザをふっとばしやがった。エリザも着地は大丈夫だが槍がビリビリと震えている。

 

 

 「エリザベートとロビンフッドの援護は可能か!?」

 

 

 「無理っ! ケルト軍を押し止めるので精一杯よ! EMC、レールガンも敵の波を攻撃するのに使わないとあっという間に籠城戦になる!

 

 

 そうなると手数が減る分ますます不利になるわ!」

 

 

 あっちではエジソンのおっさんとエレナが支援できないかと動いてくれているが、それもできなさそうだ。

 

 

 こっちもずっと矢を射っているがどうにもあのバーサーカー、周りにも注意を向けているせいでまるで当たりやしねえ!

 

 

 「やはりここ一番の粘りではケルト軍に及ばないのか・・・無念である・・・これが大量生産の限界・・・いやっ! そうではない。私のやり方が正解ではなかっただけだ! いずれ成功の栄光を掴むためにも負けられない! ここは責任者である私が奮戦しなければ・・・!」

 

 

 「く、うぅ・・・!」

 

 

 「野郎!」

 

 

 あっちも身動きは取れないまま。エリザも押されてやがる。急いで矢を連射しつつ下からストーム1からもらっていた手榴弾を転がす連携をするも、矢を撃ち落とし、手榴弾にも気づいてとっさに飛び退いて回避。

 

 

 クソ。エリザとの距離を取らせることはできたが傷一つ、かすり傷もなしかよ。

 

 

 「悪いな。俺はバーサーカーにしては比較的頭がトンでいなくてね。せいぜい少し凶暴になる程度。培った技術と勘は早々鈍りやしない」

 

 

 「畜生! こういうタイプは苦手なんだって・・・!」

 

 

 戦意を常に高いままに保ちつつも技術も頭の回転も鈍らない。技術も持ったままのバーサーカー。獣のようなやつなら罠に仕掛けるのもできるがこいつはできない。しかも、狂化の恩恵を受けるのがあの竜殺しのベオウルフだ。シンプルなぶつかり合いでも、技の勝負でも俺とエリザじゃあどっちも格が違いすぎる。

 

 

 「では、選手交代と行こうではないか」

 

 

 このままベオウルフに押されて各個撃破という文字も浮かぶ中、聞こえてきた声。そして凄まじい武器のぶつかる音。

 

 

 「おっと・・・おいおい何者だ?」

 

 

 「みんなー! 助けに来たわよ!」

 

 

 「元レジスタンス所属の神槍。名を李書文という」

 

 

 そこには李書文がベオウルフに槍を穿ちそれをベオウルフが防いで退治しており、武蔵とクラーク。そして銀嶺隊の一部隊が駆けつけていた。

 

 

 「え・・・!? なんでここにクラーク隊と武蔵、そして李書文が!? あなた達は南軍の侵攻軍にいたはずじゃ!!」

 

 

 「いやーそれがアルジュナの対処の部隊に入ったのですがどうにも嫌な予感がしまして。南軍から援軍を出してもらいつつ北軍の援護に入ったんですよ」

 

 

 「南軍にはシャドウサーヴァント数騎以外それらしい敵がおらず、おそらく北軍に力を入れてると思い500騎だけですが駆けつけました」

 

 

 いやーここに来て英霊2騎、英霊級の剣士一人が来るのは十分にありがたい!!

 

 

 「みんな待たせたわ! 軽量迫撃砲の弾薬も準備できた! 城壁のみんなはこれをセットして! 撃ち方は簡単だから!」

 

 

 「申し訳ない。ありったけの弾薬と銃を持ってきた。ついでに予備兵力も。兵士を入れ替えて休ませつつ攻撃の勢いを鈍らせないようにしよう」

 

 

 「さあ、まだまだここからです!」

 

 

 しかも後ろで準備をしていたオルガマリーさんらの準備もできたようで城壁、砦からの攻撃に爆発物、エミヤの支援。ジャンヌがエジソンのおっさん等の支援に入る。いいぞいいぞ! こいつはチャンスだ!

 

 

 「ふむ・・・いやはやこのアメリカに来てから役得よのぉ。かの名高きベオウルフと打ち合えるとは光栄の至りよ」

 

 

 「っとと。神槍とは大きく出たな。ああ、そして李書文か。知っているぜ」

 

 

 「そう呼ばれていた時期もあるというだけよ。で、どうする。怪物グレンデルを素手で殴り殺したという闘士。良ければ、儂と一戦どうじゃ?」

 

 

 「ハッ、いうねえ。そういうお前さんは二の打ち要らずだったか? 大層なハッタリじゃねえか!」

 

 

 「それが誇張か通り名かどうか試してみてはどうか? 偶然にもここで無手で戦えるサーヴァントが二騎出会ってしまったのだ。まこと数奇なめぐり合わせよ」

 

 

 「確かに数奇だなあ。ってことはあれか。いわゆる素手喧嘩か? いいじゃねえか。そういうノリは嫌いじゃねえ」

 

 

 あっちはあっちでなんか槍と剣を地面においてバキボキと拳を鳴らしてにらみ合う。おいおい。まさかだが・・・

 

 

 「「一、二の・・・三っ!!」」

 

 

 その予想はどんぴしゃり。互いに激しい踏み込みから始まる豪快な殴り合い。あたりに殴り合う音、地面を踏み込んでは瓦礫が舞い、とてもじゃないけど人を殴るような音とは思えない衝撃が飛び交う。

 

 

 「きゃああぁあああ!!? 殴り合い!? 殴り合いなの!? こういうの怖い。止めなさいよ緑ぃ!」

 

 

 「お断りですぅー!! こんなん神様で求められねえぞ!? うわー・・・すげー・・・同じ人類とは思えねえ・・・」

 

 

 「いやはや、相撲の開祖宿禰を思い出すようなとんでもないぶつかり合い! じっくり見ていたいところですが、こちらもまた修羅場! あの男が動けぬ間に倒してしまいましょう」

 

 

 いや本当に。武芸で伝説、英霊となるような戦士たちは体の作りも別物なんだなあって。オレどんなに修行してもあの領域に届く気がしないわ。

 

 

 「フランスを思い出しますね。っと! はぁ! とはいえ、ベオウルフを抑えてもこの勢いは変わらず。しかも竜種まで来ますか! エミヤさん、マスター! 対空射撃。えーと・・・ネットランチャーの用意も!」

 

 

 「了解。急いで用意させるわ!」

 

 

 「まったく。男の考えることってたまにわからないわね。でもま、たしかにこれで余裕も生まれた」

 

 

 「ああ、我が発明直流電磁ネットランチャーも大活躍で満足! しかし、竜種にシャドウサーヴァントは流石に厄介だ。もう一踏ん張り、気合を入れ直すぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァアアアアアっっ!!」

 

 

 「シャァアアア!!」

 

 

 「うわーとんでもないねこれ。同じサーヴァント? アーチャーの戦いとは思えないよ」

 

 

 カルナとアルジュナの対決。僕はこれに巻き添えを喰らわないように見ていたけど、正直規模が違う。射撃であの弓を落としたりとか対空はできると思うけど一撃一撃の威力と弓で銃に匹敵する射撃速度というのがもうおかしい。

 

 

 「全くだ。私も弓は多少なりとも扱えるが、ものが違うとしか言いようがない。これがインドの大英雄同士の戦いか・・・」

 

 

 銃も弓も扱えるジェロニモさんもそうつぶやきつつケルト兵を対応し、ストーム1からもらった中で薙ぎ払う。

 

 

 僕の使う銃も威力は高いはずなのにダイナマイトと比べるような攻撃の応酬を見つつ横槍なんて入れる余地もない戦いの横で僕らは必死にケルト兵を対処していた。

 

 

 李書文と武蔵はなにか嫌な感じがして北軍に援軍に行ったけど、その判断も正解だったようだし。

 

 

 「北軍の方にはベオウルフ。南軍は今のところシャドウサーヴァントと竜種が来ているけど思い切りモルガンがぶっ潰して、守備の名将たちのお陰で問題ないからねえ。やっぱり問題は・・・」

 

 

 「南軍の侵攻軍、対クー・フーリンだな・・・そこをどうにかするには、ここが肝だ!」

 

 

 ジェロニモンさんの言う通り。北軍の支援にも、南軍の侵攻軍に支援に行けるのは実はこっち。モルガンとかもいるとはいえカルナと僕らで動きに行ける。数は少ない軍隊だけど、早いところ動けるようにしていかないと。

 

 

 「ふっ!! せぇい!」

 

 

 「カルナが押してきた! 行くぞ戦士たちよ! 我らも続け!」

 

 

 「おぉおお!!」

 

 

 「ようやく懐に入れたね。でも、ここまで粘れるの!?」

 

 

 カルナがアルジュナの懐に入っての乱戦。に。其の上で互角そうに見えるけど、弓兵が槍兵に懐に入りこまれれば武器のリーチの違いが出てくる。

 

 

 今の間合いはアルジュナにとっては逆に外れている場所。カルナにとってはある程度外れているとはいえアルジュナよりもずっと戦える。それでもむしろ弓や矢じりを用意してナイフ代わりにして対応しつつ距離を取ろうとしているのが、互角に見える部分もあるのが流石だ。

 

 

 「ふっ・・・! これで・・・・! おぉおお!!」

 

 

 「ガ、ハァッ・・・!!」

 

 

 そして、弓のもつ手を切り落とし、心臓に槍が穿たれてアルジュナの胸を貫く。先程まで爆風と爆熱の台風の中心地のような戦いだったのに、まるでそれがなかったようにピタリと止まり、それは僕らも、ケルト兵も思わず戦いを止める時間だった。

 

 

 「・・・はぁ・・・・はぁ・・・ケルトの将軍、カルナ・・・! アメリカ国将軍、カルナが討ち取った・・・!」

 

 

 そしてカルナがいろいろな感情を含んだ顔から片手を上げてアルジュナを討ち取ったと宣言。この勝利宣言はアルジュナの強さを見ていたケルト兵、そしてそれを倒したカルナを見たケルト兵には衝撃だったようで、一気に攻撃の勢いが鈍る。

 

 

 「カルナに続け! 我らが動けるようになれば友軍を助けに行ける! より他の戦場を有利にして早く戦争を終わらせられるぞ!」

 

 

 このタイミングを逃さずすぐさまジェロニモさんが兵士たちに檄を飛ばして、追撃に移る。将の敗北からのこの攻撃はふいうちに近しい効果を見せてみるみる先程までのケルトの勢いはない。

 

 

 「クソ・・・敵わず・・・か・・・なぜだ・・・何故・・・!」

 

 

 「あくまでも対等にあろうとしたが・・・オレには、背負うべき世界。仲間、友がいた。それがきっと勝敗を分けたのだろう。アルジュナ。お前も正しくあろうと、そして兄弟らに勝利を誓いつつもその勝利はその兄弟らのいた世界を滅ぼす側にいた将としての誓いだ。

 

 

 勝つだけで終わりではない。勝ったあとに何をするのか。個人として戦い抜いたが、その後に英雄としての背負うべきもの。それが・・・きっと今のオレ達のこの状況なのだろう。それ以外。本当に何もかもが紙一重で、互角だったと思う」

 

 

 「そう・・・か・・・英霊として、戦士として有り続けた貴様と、戦士としてだけの私では・・・そこが・・・・納得・・・・・・した・・・」

 

 

 膝をつきながらの尚最後の言葉をカルナと交わして退去したアルジュナ。カルナも色々と思うことがあるんだろうね。しばらくは呆然としてなにか感慨にふけっている。

 

 

 「まったく、これが決闘ならこのあと酒でも飲んだり休めるんだろうけど、戦争だからそうもいかない。面倒なものだよ」

 

 

 やけっぱちになって襲い来るケルト兵の眉間に風穴を開けつつ襲い来るケルト兵以外を追撃して行きつつ、僕らの戦場は勝利が確定。

 

 

 「よし。ここの戦場は勝利が決した。あとはここからどうするかだが・・・」

 

 

 『それなら是非南軍の侵攻部隊の戦場、ホワイトハウスの方に向かってくれないかな!? 今すごい状況なんだ!』

 

 

 追撃部隊を指揮していたジェロニモさんが戻ってきてこれからどうするかとなっていたところカルデアからの急ぎらしい通信が。ホワイトハウス? と思いそっちの方向を見れば確かに空がどす黒く曇天がうずまき落雷も見える。

 

 

 それに・・・いや、なんか変なの動いていない?

 

 

 「わかった。すぐに向かおう」

 

 

 「カルナ。もう大丈夫?」

 

 

 「ああ、それにオレの我儘に最後まで付き合ってくれた友、戦友等を助けなければ英雄の名が廃る。まだまだ苦労をかけるがみんな、付いてきてくれ」

 

 

 「オッケー! 大手柄を自慢しつつ華奈さん等を助けに行こうか!」

 

 

 「もちろんだとも。むしろありがたい限りだよ」

 

 

 僕とジェロニモさんもニッコリと微笑んで兵士たちも気合十分。急いで弾薬の補給と負傷者の手当。搬送をしつつ動けるメンバーを組んで急いで僕らはホワイトハウスに向かった。ここから英霊の速度と銀嶺隊の騎馬、魔獣、ブースター付き機械兵でも休みなく走って2時間ほど・・・大丈夫かな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいおいおい! なんじゃこりゃ!? リバースシューターや回復アイテム無しで腕が再生したぞ!? これがゲイ・ボルグの打ち合い、そして撃つ代償かよ・・・!!」

 

 

 「心臓を確実に貫く死棘の槍・・・同じ槍が同じ軌道で最短を互いに目指したゆえにぶつかり合う・・・凄まじいものだ」

 

 

 ネロの異界の中での戦いでとうとう放たれた宝具ゲイ・ボルグ。三人で放たれる死の槍はぶつかり合って弾かれるけど、何よりその槍を放つ際に三人の手がそれぞれ損傷をしていること。特に魔獣のようなクー・フーリンは傷つきながら再生するというそれはえげつないものだった。

 

 

 スカサハが一本でも手にあまるというがなるほど納得。こんなの一つ使うだけで常人は愚かケルトの戦士たちでも痛みで気が引けそうなものだ。

 

 

 「全く、全身傷だらけになっても戦意も技も衰えぬものよ。しかもこの名うての英霊ばかりで。メイヴの奴め一体どれほどに凶悪な王として貴様にそのあり方を望んだのか想像もつかんな」

 

 

 「は。そこはアイツに聞くほかねえだろう。そして・・・このままズルズルとやるのも流石に面倒だ・・・仕留めさせてもらうぜ」

 

 

 空気が変わる。まだ隠し持っている切り札を使う気だ。やるしかねえか・・・!

 

 

 「させるか!!」

 

 

 ガトリング二丁持ちで弾幕を放つも止まらない。その間にもクー・フーリンの姿はみるみる変わり、いやまとっている外殻が体を包んで行くようになり、手足にはえげつない走行と棘、爪も相まって文字通りの魔獣だ。

 

 

 「ストーム1さん!」

 

 

 「まずはうろちょろするテメエだ・・・『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』!!」

 

 

 「グアッ!!」

 

 

 シータの弓矢の支援でも勢いは止まらず、そしてその両手に伸びた爪の外殻が俺の体に思い切り乱打を放つ。

 

 

 「・・・・・なんてな・・・!」

 

 

 「っっ!! なんだ、その盾は・・・ぐぉぉおおおお!!!!?」

 

 

 鎧をつけて、ガトリングガンと剛弓の攻撃で視界を防いでいる間にこっちはグレート・シールドとフラッシング・スピアM7Lの装備に切り替えてその攻撃を受け止めていた。

 

 

 最新の伝承も、伝説もない盾だが、その積み重ねと、最新技術。それは星の頂点の140メートルサイズの怪獣の攻撃でも、隕石でも耐えきれるフェンサーの最強の盾! 魔獣の爪、牙の乱打だけでそう簡単に砕けてしまうものか!!

 

 

 相手が切り返す前にフラッシング・スピアでその土手っ腹にすかさず乱発。その鎧の外殻に罅を入れる。

 

 

 「今だ!!」

 

 

 「無明・三段突き!!」

 

 

 「再生はさせぬぞ! はぁあああ!!」

 

 

 「俺の知らねえ技だが、こいつを最初に狙ったのは悪手だな! 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!』」

 

 

 この間に沖田の宝具が更に魔獣クー・フーリンの外殻を更に壊し、傷つく肉体や外殻の再生を許させないようにネロの白い炎の熱と斬撃で焼き、そしてその傷から更にカルデア側のクー・フーリンの必殺の一撃が横腹から心臓を穿つ。

 

 

 「ぐがっ、か・・・!! は・・ま、まだまだぁ・・・!」

 

 

 「いや、ここまでよ馬鹿弟子。師として引導をやろう」

 

 

 それでもまだ、心臓を打ち抜かれても、土手っ腹に槍を叩き込んで切り刻まれてもまだ目の炎は、戦意は尽きていない。が、そこにスカサハが割って入ってくる。

 

 

 「刺し穿ち、突き穿つ!」

 

 

 「我が力に刮目せよ!」

 

 

 「皆さんにこの一矢を・・・!」

 

 

 魔獣クー・フーリンを空に打ち上げて縫い付け、その間に三名が宝具を開放。濃密な死の気配を纏う槍が。巨大な光の弓矢が、円盤状の光の刃がすべて魔獣クー・フーリンを狙う。

 

 

 「貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティブ)!」

 

 

 「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 

 「追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

 

 

 どれもこれも必殺級。しかも大英雄級三名の宝具をだ。全身の鎧が砕けきり、ズタボロの肉体はもはや限界。再生する肉体の速度も遅い。

 

 

 「クソ・・・王になる・・・ことも果たせねえとはな・・・メイヴに悪いぜ・・・」

 

 

 「あやつのためにここまでするか。律儀よの。しかしだ、馬鹿弟子。なぜ醜悪な王の道を選んだ。この道を選ばずともよかったであろう」

 

 

 「は・・・そんなの・・・俺の知る王がどいつもこいつも醜悪だったからだよ・・・」

 

 

 「そこまで律儀な馬鹿をしたか・・・故に、負けたのだよお前は」

 

 

 「そう・・・か・・・・」

 

 

 ようやく完全に退去した魔獣クー・フーリンを見てネロが宝具を解除。文字通り桁違いの英霊を倒したというのもあって皆荒野を見てはぁーと息をつく。

 

 

 「本当に恐ろしい相手であった・・・しかし、勝てたのだな・・・」

 

 

 「俺が俺を殺すってのも変な話だぜ・・・いい経験にはなったけど、これ以上勘弁だな」

 

 

 「ふぅ・・・まず、皆に感謝しておこう。私一人ではあのクー・フーリンを倒すことはできなかった。私に引導を渡す機会、抑えてくれる機会をくれてケルトを代表して感謝する」

 

 

 頭を下げるスカサハにみんなもいやいやと気にせずに微笑む。俺もそうだ。あの技術と対応力。知っているからこその対応も無ければ2,3人は死んでいたかも知れないほどの怪物みたいなあのクー・フーリンを全員無事で倒せたんだし。

 

 

 「ただまあ、そのまま休ませてはくれなさそうだなあ・・・」

 

 

 「うむ。南の空は暗く、そして北の方は敵が向かうのを遠目に見える。どうするべきかの?」

 

 

 そう。マスターが居る場所の方は何やらえげつない気配が感じるほどで、北の方は何やらガンナーゆえの視力とレーダーを見ても敵の波が動いているのを見える。

 

 

 どっちの方も火急を迎えているのだろうとわかるほどだ。

 

 

 「じゃあ、俺は北軍の援護に向かう。メイヴのことだ、嫌がらせをしてきてもおかしくねえ。南軍にも支援を向けられるように戦力は会っていいはずだ」

 

 

 「ふむ。では余も戻ろう。ライバルでありドル友のエリザを助けに向かうとしよう!」

 

 

 「クー・フーリンとネロが行ってくれるのか。なら俺はマスターの方に向かうぜ。どのみちメイヴをしばいて聖杯を手にしないと終わらねえんだ。急いで終わらせてくる」

 

 

 「余も向かうぞ。この勝利があっても華奈殿が、カルデアのマスターが無事でなければ意味がない!」

 

 

 「私にとっても恩人ですし、最後までラーマ様のお供に!」

 

 

 「私は無論華奈さんの方に。あともう一押しですよみなさん!」

 

 

 「では、私も華奈に、この機会をくれた戦士を助けに行くとしよう。それに、メイヴの吠え面でも楽しんでやろう」

 

 

 俺、沖田、ラーマ、シータ、スカサハは南軍侵攻部隊の支援に向かうことでその場で解散。の前にレンジャーに一度クラスチェンジしてリバースシューターで全員フル回復させてから再度機動力700%のフェンサーで緊急移動。

 

 

 まったく・・・一体何がいるっていうんだ? あの曇天どころか雷雲の下に。




 李書文改めて怪物ですねえ。神代の巨人と竜殺しの英雄相手にスデゴロで互角なんですから。


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総仕上げ

 アメリカはこれでほぼほぼ終了。いやぁ、長かったぁ。華奈の教育コーナーは南北戦争での大きな変化にするか第二次世界大戦時のアメリカの兵糧にするか、真面目に大航海時代以降のアメリカの存在感と経済、戦術、戦略で世界に与えた影響は大きいですからねえ。


 「「怯むな! 撃て、撃てー!!」」

 

 

 「銀嶺隊はアンナ様、マシュ隊は防陣大展開! レジスタンスの兵士たちを守りますよ。他の部隊は魔術兵装を用いて遠距離戦を! ちびノブライダー部隊は撹乱しつつ魔神柱達を撹乱!」

 

 

 「チッ! ロンドンが可愛く見えるほどの光景ね!」

 

 

 「いやー天地すべてが敵というのはとんでもない!」

 

 

 「先輩もレジスタンスの兵士たちと一緒に! 私も守りますがこれは・・・ぐぅっ!」

 

 

 うーむ。始まりました南軍侵攻部隊VSメイヴ&魔神柱28本&詰め合わせセットの敵軍団。いやあー真面目に私以外は基本円陣を組んでレジスタンスを守りつつ銃火器の遠距離攻撃でどうにかしていますが対応できているのが私だけとは。

 

 

 真面目に、相手が連携らしい連携なしでもこの一人魔神柱の存在が厄介ですね。もともとはクー・フーリンを倒すための兵士が今や英霊数騎でも相手取れる奴ら28本にメガシンカですし。

 

 

 「まったく。この虹の光線は、フェルグスのものです? 厄介です・・・ね!」

 

 

 「それはこっちの話よ! ここまで総動員してあっさり潰されないってのもそうだし、その中で戦えているアンタ。華奈だっけ? も面倒だし、なにより・・・」

 

 

 む。レーザー? いえ、魔術弾ですか。これはおそらく戦士の本の技が出ているのでしょうか? 弾いて他の攻撃と相殺させておき、メイヴのチャリオットでの突撃は上に回避して鞭の方はネギで凌ぐ。

 

 

 「なんで野菜で魔神柱や私の攻撃をしのいでいるのよ!!」

 

 

 「アヴァロンの妖精が用意してくれた魔剣だそうですよ? ほ・・・蹴鞠!」

 

 

 いや真面目にかなり形はあれですが強いですね伝説のなんちゃらソードと魔剣大根ブレード。そのうちの大根ブレードの尻底を蹴り飛ばしてスプリガンと竜種の喉をぶち抜き手元に戻ってくる。

 

 

 「ふーむ・・・これが・・・私流の5刀流! ですね! ソードファンネル追加です! ってうわわ! 集中してきましたか! あ、ちょうどいいので今のうちにフローレンス様は片っ端から私の部隊といっしょに負傷者治療を!」

 

 

 「もう既にやっています!」

 

 

 「目障りよ。その美貌で常に戦い続けて絶望もせず、私をここまで追い込んでいるのも、クーちゃんと一緒にいるのも。それに、あなたがいなくなればきっとこの軍も瓦解するでしょう?」

 

 

 魔神柱の攻撃の多くがこっちに飛んできたのを縮地や深山で足場を作って逃げつつ、ケルト兵の矢玉を避けて敵を足場に斬り伏せていきますが、メイヴの指示が私を集中して叩くことに変化。

 

 

 私を潰すことでレジスタンス等の士気を折ろうというわけですか。なるほど、嫌がらせを考える。見抜く思考は戦術を考えるうえでも必要。戦士としての技量はあるんですね。まあ、私怨多めでしょうけど。

 

 

 『全く絶望的状況だが・・・勝報だ! カルナがアルジュナに勝利。ストーム1たちが狂王クー・フーリンを見事討ち取った! そして戦士たちもすぐに駆けつける。みんな、王は討ち取った。後は目の前のクイーンを倒せばもう一息だよ!』

 

 

 ロマニ様のアナウンスが流れると同時に、なるほどストーム1の存在が感じ取れる。助かりますねえ。ふふふ。この朗報は戦士たちを活気づけて士気はむしろ高まる。

 

 

 「俺達の勝利が近づいている。みんな! 負けじと撃ちまくれ! コイツラにだって倒せる手段はあるはずだ!」

 

 

 「おぉおー!! 銃身が焼け付くまで撃ちまくれー!!」

 

 

 「え・・・・う、うそ、嘘よ! 私の求めた最強のクー・フーリンが! ゲッシュの制約の弱点もない・・・な、なんでなんで・・・! なんで最新の、神代の時代でもない、伝承も神創兵器もないやつに負けるのよ!! ありえない!」

 

 

 「令呪を持って命じる。私のそばに来なさいストーム。事実です。こうして呼べるのなら。ね」

 

 

 そして大局的にありえないと叫びながら動揺して悲鳴のような叫びを上げるメイヴ。それに動揺する魔神柱にケルト兵。

 

 

 この隙を逃すはずもなく、令呪を一画使ってストームを瞬間移動させてそばに。こういう時英霊なのはありがたいです。

 

 

 「仕留めましょう。露払いは私が」

 

 

 「おう。乳繰り合いは座に帰ってからしな。女王様」

 

 

 呼んだストームといっしょにすぐさま突撃して、斬撃と蹴鞠でストームに飛んでくる攻撃を盾の範囲外の部分を弾き飛ばし、互いに速度を持ってメイヴに最接近。

 

 

 「ガっ!!? か・・・かひゅ・・・クー・・・ちゃ・・・ん・・・私、ほめられ・・・」

 

 

 「そういうのはサバフェスとかで。ね?」

 

 

 フラッシング・スピアでメイヴの腹と心臓をぶち抜き、私が首を切り落として女王メイヴは撃破し、聖杯も奪取。マシュ様に渡したいですが・・・この状況では逆に奪われかねないですね。

 

 

 メイヴは倒したけど、聖杯を用いて注ぎ込んだ魔獣たちにシャドウ・サーヴァントに何より魔神柱たちが健在。全く・・・残していた作戦を使うほかないですか。これも対クー・フーリン、メイヴようでしたけど・・・これに応用しましょう。

 

 

 「アルトリア様、モードレッド様。ヘリから降りて戦闘態勢。モルガン様に連絡。プランBの作戦を実行すると。ストーム。礼装で武装を一回強行変更します。これとこれで・・・

 

 

 信長様、ジャンヌオルタ様。出番です。マシュ様。フローレンス様。後ろは任せましたよ」

 

 

 さて・・・この武装と、この戦力。行けるでしょうか? でも、もう少し時間稼ぎをしないとですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「オォオオオオオォオオ!!!」」

 

 

 「うわぁ・・・もう周りの奴らとこの二人どっちが化け物やら。竜種すらも漁夫の利を狙わねえって相当だぞ」

 

 

 「いやはや、武を極めるとこうなるのかね。だが、この間を狙わねば!」

 

 

 エジソンのおっさんの言う通り。ベオウルフと李書文。この二人の戦いはまさしく柔と剛の、力と技のぶつかり合いで、スプリガンやバイコーンの動きが普通に見えてしまうほど。

 

 

 ベオウルフのパワーと直感に任せた拳は李書文が武術や自身の小柄さを生かした技術で避けて、八極拳を叩き込んでいくがそこは肉体の強さや直感で急所を避け、あるいは耐えて力で防御をねじ伏せて叩き潰す。

 

 

 こんな戦いを続けて双方青あざと腫れ上がった部分、血を口から流して拳も赤い。それでも戦いは続き、むしろキレが上がっていくように見えてしまうほどだ。

 

 

 『勝報! 華奈がメイヴを見事撃破! カルナがアルジュナに勝利。そして、狂王クー・フーリンを撃破! これでメイヴの生み出す軍勢はおしまいになる。耐えきれば勝利だ!』

 

 

 とにかく今の内に。と思ったときに来るカルデアの連絡。その情報に俺達は沸き立つ。

 

 

 「やったじゃないアイツら! それならもうすぐこの戦いも終わるってわけね」

 

 

 「流石よ・・・華奈、藤丸。エミヤ! こっちも気合を入れ直すわ。あの矢を爆発するやつも惜しみなく使って! とにかく耐えきる。兵士たちのリロードの合間を稼ぐためにもぶっ放しなさい!」

 

 

 「いいだろうマスター。それならこちらも魔力を気にせず大盤振る舞いとしよう」

 

 

 「クラークさん。私も再度前に出ます!」

 

 

 オルガマリーにエミヤ、ジャンヌもその勢いを殺すまいと前に出て兵士たちを鼓舞しつつ、あるいは城壁からの援護射撃をより激しくしてくれる。いいぞいいぞ。この流れはいけるはず。

 

 

 「ふ・・・流石円卓の騎士と勇士たち。見事に成し遂げたものだ」

 

 

 「ああ、俺を倒した奴らだ。それくらいはするだろうさ。ただまあ、まだ終わりじゃねえだろうな。あの女王、なにか隠し玉を持っていたっぽいからな。もう少し、付き合えや」

 

 

 「応よ。華奈殿たちが戻る様子がない、勝鬨を聞くまでは油断できない。故に、ベオウルフ。お前を儂は引き留めよう」

 

 

 あっちはあっちでまだまだ殴り合いを続けていく。いやいや、もうほとんど戦いたいだけだよな? はあー・・・ま、いいや、ひとまず邪魔せずにこっちももう少し耐えればいい。

 

 

 「よう。耐える戦いだろ? 俺等も手を貸すぜ」

 

 

 「エリザよ。助けに来たぞ! 余の救援に咽び泣くが良いぞ!」

 

 

 おっと。ここに来てカルデアのクー・フーリンと皇帝陛下の参戦か。こいつは文字通り風向きが変わってきた。前線向けの英霊が来てくれるってのは本当に助かるぜ。

 

 

 「あら。セイバー。あのクー・フーリンは倒したのにこっちに来たの?」

 

 

 「もちろんである! 王は倒した。女王を倒すのはあちらに任せて余はカルデアが心配する後ろを守りにな。皇帝たるもの、友たちが無事であるように時には転進するのも必要であると理解しているのだ!」

 

 

 「まーそういうことだ。大物は俺等がやる。雑魚は任せたぞ!」

 

 

 「ようやく一息つけそうね。さー私も一つ披露しましょうか!」

 

 

 宝具を展開するエレナにエジソン。そしてシャドウ・サーヴァントを蹴散らすクー・フーリン。いやはや、もう増援がない。これがわかるのがどれほどありがたいか。この特異点に来て初めて相手の数が有限と感じる瞬間ですわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ストーム。とにかく敵にやりを打ち込んできてください。フラッシング・スピアM6Wなら、思い切り撃ち抜けるでしょう。撹乱ついでに。ね」

 

 

 「了解。じゃあー行ってくるぜ」

 

 

 「槍が必要なら、私も手を貸そうか」

 

 

 作戦開始。となっているときにストームの槍と一緒に飛んでくる無数の朱槍。これは・・・スカサハ様ですか。ルーンで強化して急いできたのでしょうか? すごいですねえ。

 

 

 「スカサハ様。感謝します。しかし同時に、無茶はせずに」

 

 

 「お姉様。アンナとの連携大結界を持って、ナイチンゲールの治療宝具で兵士たちは無事に保護しています。が、長くは持ちません。撹乱はあともう少し必要ですね」

 

 

 そして転移魔術で来てくれたモルガン様も攻撃に移るまでは守りを助けつつ、策を用意中。私はモルガン様を守りつつ、作戦の用意を待つ他ない。

 

 

 「ストームの槍と、スカサハ様の槍にマーキングを。アルトリア様。モードレッド様の警備は大丈夫ですか? ジャンヌオルタ様」

 

 

 「しているわよ! 全く無茶振りするわねアンタは! くそっ! きりがないわ!」

 

 

 「なら、援護をしよっか」

 

 

 「ふむ。これが地獄というやつか」

 

 

 「ビリー様。ジェロニモ様。来てくれましたか!」

 

 

 更にはアルジュナを倒したメンバーも合流。

 

 

 「いやいやいや!!? 華奈さんこれは流石にとんでも無い敵ですよ!! いつもそうですねえメチャクチャです!」

 

 

 「全くとんでもない! ラーヴァナでもこれは流石に驚くような光景だぞ! 見える限りすべてが敵ではないか!」

 

 

 「私の弓も支援に使います! どうか皆さん負けないで!」

 

 

 「まさしく。ここをどうにかしないと結局特異点は、この大地は滅びるだろうな」

 

 

 沖田様、ラーマ様、カルナ様、シータ様も無事に到着。ふむ・・・いけますね。これなら・・・!

 

 

 今も撹乱しつつ魔神柱たちに槍をぶち込んでくれているストームとスカサハ様に声を掛けるべきですね。

 

 

 「皆様戻ってください! モルガン様。お願いします」

 

 

 「ええ。束縛、結集!」

 

 

 銀嶺隊の魔術兵装を起点に魔術陣や広範囲の攻撃をする術式の応用でストームやスカサハ様の槍を起点にモルガン様の魔術で巨大な魔術のネットを生み出し、絞めるようにして空にうごめく魔神柱をぎゅぅ。と一箇所に集めてしまい空に極太の肉の柱が一本完成。

 

 

 更にはアンナ様の結界を今度はその魔神柱たちを囲うように展開できるように準備、ほんの一時衝撃を逃さず全部叩き込む。逃さないためのかすかな時間稼ぎ。でも、これで十分。ストーム1もフラッシング・スピアの武装から超重粉砕迫撃砲を両肩にセット。威力も大変高いですが何よりその爆破半径は60m超えのとんでも火力。一個人で持つ兵器では破格でしょうね。

 

 

 「投槍器用意! 爆破魔術搭載のジャベリン用意! 銀嶺隊全員構え!」

 

 

 「二振りの聖剣・・・思い切り叩き込みましょう」

 

 

 「空を割る赤雷、お前らをソーセージにしてやるぜ!」

 

 

 「ここが大一番。ならば、余の最高の一撃を振るってやろう!」

 

 

 「照準よし。いつでも行けるぜ!」

 

 

 「オレの全力を叩き込もう」

 

 

 「うわははははは! あれだけデカイのがああなれば外すわけがないのお。さあ、ワシの鉄砲の火力を見せてやろう!」

 

 

 そしてここに来た英霊たちの中でも遠距離攻撃。破壊力、軍団戦に秀でたメンバーの宝具、武装をすべて一斉に叩き込む。衝撃も、身体自体も逃げ場のない中で28柱を同時にぶっ飛ばして焼き尽くす。

 

 

 「銀嶺隊、一斉射! 私も・・・二刀流奥義・・・覇斬爪!!」

 

 

 「ダブル・・・カリバー!!」

 

 

 「レッド・サンダー・ブレイク!!」

 

 

 「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 

 「超重粉砕迫撃砲・・・同時発射!」

 

 

 「日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!」

 

 

 「三千世界(さんだんうち)!!」

 

 

 爆発する矢に槍、爪をもした私の飛ぶ斬撃の最高火力の一つ。聖剣二振りによるWエクスカリバー、聖剣による赤い魔力の龍のブレスのような強烈な一撃。魔を討ち滅ぼす強烈な投擲武器が、拠点一つを吹っ飛ばせる大爆発が。世界を焼き尽くすような強烈な一撃が。神性を持つもの、騎乗スキルを持つものには死の雨といっていい弾丸の暴風が魔神柱達に殺到。

 

 

 「結界、展開!」

 

 

 そして着弾するコンマ数秒前。魔神柱の周辺にアンナ隊の結界が展開してその攻撃の余波は一切逃さずに数秒。とはいえその数秒でどれほどの熱が暴れ狂うか。もはや空に浮かぶもう一つの太陽ができたと思えるほど。

 

 

 結界も砕ける方向をどうにか敵側に調整してもらい結界が破れて飛び出てくるエネルギーと爆熱の奔流は地面にいる敵の波を飲み尽くし、焼き尽くしてこちらも思わず顔をしかめるほどの熱波が伝う。

 

 

 そして空を見れば全身消し炭になった魔神柱がぼろぼろと崩れつつ消失。なまじ魔神柱を戦士として落とし込んだこと。神代の時代の戦士故に騎乗スキルや神性スキルが混ざっていると思いましたがやはり信長様のスキルもぶっ刺さりでしたねえ。

 

 

 『ま、魔神柱完全消失・・・!! いや、メチャクチャをメチャクチャで倒したよ!!』

 

 

 「メチャクチャではありませんよロマニ様。戦士たちの積み重ねた歩みと技は魔神柱にもそうそう負けるものではないという証明です。・・・・・・・この戦争、私達の勝利です!」

 

 

 あまりの光景に呆然としているレジスタンスの兵士たちに気付けの意味でも勝鬨を上げればみんなもハッと我に返り勝利の大歓喜。私達の名を何度もコールしては喜んでくれます。

 

 

 「あ、マシュ様。聖杯をお願いします」

 

 

 「ええ。聖杯を盾に格納します。これで、この特異点も・・・勝利できたんですね」

 

 

 「ああ、いやはや、あのクー・フーリンに加えて魔神柱28本を同時に始末とは本当に良き勇士だお前は。華奈。私は興味が湧いてきた」

 

 

 大熱狂の中、レジスタンス兵士たちも負傷者は1000名以上出ましたが死傷者はゼロ。英霊も脱落者なしのまま大勝利。そんな中スカサハ様たちが近寄ってくる。

 

 

 「弟子への引導に加えてケルトのバカどもの不始末をしてくれたお礼だ。これをやる。良ければカルデアに招き、私を一振りの槍として使ってほしい」

 

 

 「余も華奈殿には助けられっぱなしだ。これくらいでは恩を返せない。どうかカルデアにおいてほしい」

 

 

 「わ、私も良ければ是非! ラーマ様とお役に立ちます!」

 

 

 「おやおや、皆様有り難うございま・・・ぐはぁっ!!」

 

 

 スカサハ様の朱槍の一つ、ラーマ様からの大剣。そしてシータ様の弓を受け取る際におもすぎて弓に押し倒される。そ、そうでした・・・たしかこれ、8台の荷車に乗せて運ばないといけないほど重いんでした・・・ぐ、ぐぅ・・・

 

 

 「マスターだいじょーぶかー? わはは。魔神柱に勝って弓に負けるって締まりが無いなあ」

 

 

 「あつつ・・・全くです・・・はぁー・・・いでで」

 

 

 ストームのパワードスケルトンの力で弓を持ってもらい、謝るシータ様に気にしないでと言いつつ周りの兵士からも笑われる。確かにあの化け物に勝って弓にダウンを奪われる将軍って、ふふふ。コミカルですねえはたから見ると。

 

 

 「いやはや、華奈。君のお陰で色々と楽しく過ごせた。良ければ私もカルデアに」

 

 

 「おお。いいですよ~ジェロニモ様。お願いします」

 

 

 「私からも。そして・・・一つ、私から頼みたいことが。どうか、握手をしてください。ドクター。いえ、ミス・華奈」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「む。いよいよこの時代の修正。特異点が消滅するようだね」

 

 

 「あらあら。私達の子供は無事に成し遂げましたか」

 

 

 イグレーヌお義母さんと私で感じる世界の変化。同時に勢いを失いあっという間に駆逐される魔獣たち。そして勝報。間違いなくカルデアが勝利して聖杯を掴み取ったのだろうと元レジスタンスにもわかり、歓声が上がる。

 

 

 「うおっほっほ。いやはや、我々が端役ですんで何よりですなあ。アメリカを守るのはアメリカの、そしてここに歩みに来たカルデアがなすべきこと」

 

 

 「そのための踏み台、ジャンプ台になれたのなら我々の面目躍如ですね」

 

 

 コーウェン、ジャックも戻ってきてニコニコと笑いつつ、眼の前でもう用をなしたゆえに消えていく銀嶺領を見届けつつ、四人で最後の一杯と紅茶をすする。うむ・・・勝利の後の一杯はいつでもしみるものだ。

 

 

 「ところでお義母さん。今後カルデアにはどう関わるので? ガッチリとカルデアに接するのですか?」

 

 

 「う~ん。いえ。多分たまに顔を出すくらいですね。だって農家なので畑を休ませたり、冬の間くらいじゃないといつも大変ですからね。ふふふ。モルガンたちは居座るんでしょうけど、それでも働かせますよ。私達にもお客様がいるので~」

 

 

 「はははは。女王をやり遂げ、今やすっかり農家さんだねえ。にしては肌が白く美しいのが流石ですが」

 

 

 「やだも~おだてたっておばあちゃんは何も出せないわよ。ふふふ。それに、華奈もきっとそれを望んでいるもの。私達はあの頼もしい我が子を信じていつもどおり過ごすだけ。だけど、遊びに来たり、差し入れやおすそ分けを持ってきたり、お泊りさせてもらうくらいはいいわよね?」

 

 

 「それがいいでしょう。これからを歩む人類の背中を支えたり元気づけるくらいが私達にはいいし、一緒に前に進むのは我らの銀の狼にして、娘のようで、気のおけない大親友に任せてしまえばいい」

 

 

 「イグレーヌ様はまだしも我らは既に死者。英霊という奇跡ゆえに出会えたこの時間。それを胸にこれからも座からみんなを見届けていければですね」

 

 

 その通り。我ら英霊は今を進む人間を助けつつもあくまでも死者。過去の時代の人間であり異物だ。昔の人間を懐かしんで頼るのもいいが今の時代もまだ捨てたものじゃない。

 

 

 華奈はそれを知っているから助けていくのだろうし、それを見届けるのが義弟であり、そして元上司としての私や同僚のみんながするべきことだろう。

 

 

 「じゃ、私はそろそろ一度アヴァロン経由でカルデアに挨拶するわね。あ、多分だけどロット。あなたモルガンから呼ばれるでしょうし、カルデアに行くことは考えておいてねー」

 

 

 はははは。なんてことだ。第二の新婚生活を遅れるということかな? いや、資格の勉強の日々か。どちらにせよ忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「引き分け・・・か・・・流石に、力が入らぬわ・・・」

 

 

 「ハハっ。何いってんだ。俺の負けだよ。軍は全滅し、残るは俺だけ。アメリカ側の完勝だよ。俺は降伏だ。最後にスデゴロできただけ上等かねえ」

 

 

 「はぁー・・・き、気づいたら夜ね・・・ふぅ・・星が綺麗・・・まったく・・・ローマのときよりずっと疲れたわ」

 

 

 華奈たちが何やらメイヴの奥の手らしい28本の魔神柱をふっとばし、勝利と聖杯をマシュに預けたことでようやく始まる時代の修正。英霊たちも続々と退去が始まり、さっきまで殴り合いをしていた李書文とベオウルフも大の字で地面に転がっている。

 

 

 かくいう私もローマのときよりも気の遠くなる物量と質に最後の最後まで気を抜けず、城壁の上でへたり込んで空を見てぼうっとしてしまうほど。

 

 

 「お疲れ様だ。マスター。今回も見事大勝利。いやはや見事な守りだったぞ」

 

 

 「ええ。私の方にも度々の援護助かりました。ふふふ。すっかり全員まっくろけですね」

 

 

 エミヤとジャンヌが私を城壁に座らせつつ持ってきた水を飲みつつ互いの顔を見る。たしかに砲弾や銃の硝煙や煙で全員頬も服も黒いのなんの。まるで画像で見た炭鉱夫みたいだ。

 

 

 「ふふふ。そうね。カルデアに戻ったらまずシャワーを浴びたいわ。レポートはその後にして・・・はふぁ・・・」

 

 

 「副大統領オルガマリー殿。此度の勝利お見事であった! そして、感謝する。カルデアのマスターがいたからこそ。最後まで我々は粘れただろう」

 

 

 「ええ。本当にお疲れ様。私達といっしょにいてくれて」

 

 

 緊張の糸が切れると同時に自分の体の煙と汗臭さがきになり早くシャワーを浴びたいと思う中、エジソンとエレナがこちらに歩いてきて頭を下げる。いえいえ。こっちの方もエジソン等のバックアップにすごく助けられたし。

 

 

 「こちらこそ。あなた達と共に戦えたのは光栄。本当に助かったもの」

 

 

 「ふふふ・・・私も、大統王として自分の過ちを認めつつ勝利をつかめて安堵している。どうかこれからも進み、そして魔術王を倒してくれ。私達もできる限り協力しようではないか」

 

 

 「そうそう。カルデアの元? という男にプロフェッサーの話も気になるし、それなりに知恵は出せると思うからね」

 

 

 「人気者だねえ我がカルデアの所長は。あー・・・にしても、もう俺自身やケルトが敵に回るのは勘弁だなあ。流石に人類を滅ぼす側に行くのはいくらアイツラとはいえ少し複雑だし」

 

 

 「ははは。流石にそれは大変であるな。余もカルデアに是非行きたいものだ。あの良いリアクションをしたマスターが気になるのでな。そのときは頼んだぞオルガマリー!」

 

 

 「あ、それなら私も! 銀嶺隊に私のMVを撮らせるのよ!」

 

 

 「ふぅー・・・今度は気ままに喧嘩ができそうなカルデアに呼ばれる方がいいのかねえ・・・ま、縁があればってやつだな」

 

 

 「ふふふ。あ、そうだ武蔵ちゃん。貴女も一緒に一度カルデアに来てもらいます。ちょっと気になることがありまして」

 

 

 「え? 私です?」

 

 

 最後までワイワイガヤガヤ。どこまでも愉快にしながら私の方もエミヤたちに武蔵と一緒にレイシフトで戻ることに。さようなら、アメリカ。そして英霊、この時代のみんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふ・・・連れ添った患者が退院する時、こうして手を握り合うのが密かな楽しみでした。あなたのお陰でこの国を、時代を治療できた。この喜びは、そうはないものです」

 

 

 「あらあら。可愛いですね。ふふ・・・まさしくあなたはいい女で、最高の看護師ですよ。フローレンス様」

 

 

 握手をしつつニコリとほほえみを向けると初めて見た頬を真っ赤にしているフローレンス様。おやおや。これはいい餞別を。

 

 

 「か。可愛いなど・・・これくらいは看護師として普通の嗜みです。もう・・・ドクターは最初から最後まで自由かつ、でも的確でした。そして、これからもあなた達は進むのでしょう。まだまだ先にある病気を抱えた国を、場所を。時代を。

 

 

 その戦いと治療は過酷なもの。カルデアを支える意味でも良ければ私を雇用してくだされば」

 

 

 そう行って頬を赤くしつつも真面目な顔で医療カバンを渡してくれるフローレンス様。看護師にとって大事なこれを渡すというのはそれほどに本気ということ。同時に、医療チーム参加ということはロマニ様の負担も減る。ええ。いいことですし助かります。

 

 

 「必ず。そして、ここの戦いを無駄にせずこれからも進むでしょう。どうか皆様もご無事で」

 

 

 私達もまだまだ話したいことがありますが、もう時代の修正が進み、レイシフトをしないといけないので話半ばでぶった切る形でレイシフトでアメリカからカルデアに。モルガン様は自前の魔術でイグレーヌ様と一緒に一度アヴァロンに戻り、そこからアルトリア様たちの移動経路を再現してカルデアに来るとか。まあアルトリア様のエクスカリバーの鞘があれば移動もできますし、問題ない。

 

 

 一気に戦力が増えそうですねえーこれは。ふふふ・・・




 これにてアメリカ戦線収束。次回は召喚になります。


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大量召喚

~カルデア・魔神柱をふっとばした時~


伊吹童子「あっははは!! いいわよ~華奈ちゃん! 流石ね♡ お姉さんますます好きになっちゃう♪」


ヴリトラ「おぉお・・・これも退けてしまうか。知恵と勇気、備えで切り抜ける。あぁあ・・・そうだ。これこそが人類よなあ。ロンドンの数倍の魔神柱と軍勢を退ける。あっぱれだ!」


ドレイク「なはははは! 最高の酒の肴だ。いいねいいね。ふんぞり返っている奴らをふっとばすのはいつ見ても爽快だよ!!」


黒ひげ「ほほう。作戦をねっていたとは・・・うーむ。暴力装置としての軍人と拙者たち海賊とは色々と近しいですが違いますなあ」


ジークフリート「ああ、カルナ。お前は見事成し遂げたんだな。俺も負けてられない」


 「ふぅー・・・疲れましたね。銀嶺隊も一度休んでからまたカルデアに回すのでお待ちを」

 

 

 「お疲れ様ですお姉様。ふふふ。大一番見事でした」

 

 

 「いやー・・・いろんな敵詰め合わせでプライマーと戦った時を思い出すわ」

 

 

 無事にアメリカから大量のお土産を持ってカルデアに帰還。既に来ているモルガン様にはもうツッコまないことにします。

 

 

 「ふぅ・・・あー・・・と、とりあえずシャワーと仮眠、食事休憩を取ってからレポートを各自提出。その後に召喚を行います。ほ、本当にお疲れ様です。これでいいかしら? 華奈?」

 

 

 「そうしましょう。いくら魔術で肉体が回復するとはいえ、気持ちを落ち着けたり休む時間は必須。私も荷物を片付けてから仮眠を取るので。モルガン様と一緒に軽食を作っておきますね?」

 

 

 「有難うございますお母さん。私は聖杯をダ・ヴィンチちゃんに預けたあと、治療用のマシンの方で仮眠を取りつつ休んでおきます」

 

 

 「では私がそばで仮眠を取りつつ機械を操作しましょう。ふふ。今回はローマ以上に敵の敵の質も、数も、移動距離も異常でしたからね」

 

 

 アメリカを西から東に、北から南と大横断でしたからねえ。まったく。アルトリア様にマシュを任せていいでしょうし、私もシャワーを浴びて食事を・・・真面目にストーム&超火力マシン6台&領地召喚&銀嶺隊全員召喚等などの魔力を消費し続けるのはウチの領民や銀嶺帯が食事を摂ることで魔力補給で一部賄えると行っても流石に消耗と魔術回路が疲れますよぉ。

 

 

 「ではー・・・うーん・・・チキンと、ポテトにレモン果汁を塗り込んだフライと、あっさり目ポトフ、メルルーサの甘煮でも作って仮眠を取りましょう。ところでイグレーヌ様は?」

 

 

 「ああお母様はアヴァロンでジャックちゃんたちと一緒に畑仕事に戻ると。ふふ。ついでにお姉様の領内、屋敷の方で昔お姉様が作ってくれた絵本を持ち帰って読み聞かせているかと」

 

 

 ああーそれはそれは。いずれアヴァロンにもうちの部隊で人手を回して畑仕事とか、子どもたちをもてなしてあげないとですね。しかし、私自作の絵本ですかあ・・・ガウェイン様からモードレッド様全員に読み聞かせましたねえ・・・あれが喜んでくれればいいのですけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハムハム・・・んふぅー・・・はぁ・・・ようやくカルデアに戻ったという実感が湧くわね・・・」

 

 

 「兵士の皆さんと一緒にレーションとか、乾パンを食べる事が多かったし、温かい料理がしみる・・・砂埃を気にしないのもいい・・・はふぅ・・・」

 

 

 「んむ。んー♪ お母さんの料理はいつでも美味しいです。エミヤさんの紅茶もすごく合いますし、あふあふ」

 

 

 「しかし、私も召喚かあ。彼女を呼ぶのかい? 華奈」

 

 

 一日をおいてとりあえずのレポートを出して夕食くらいの時間帯。流石にあの大陸横断と特異点の状況も相まって流石に朝からずっと書いてもようやくこの時間。いやー大変でしたねえ。まあ、昼下がりからは藤丸様のレポートの手伝いに時間がかかったんですけど。

 

 

 で、元様も呼んだのは今回契約してほしいメンバーで相性が良さそうな二人がいるのとシンプルに人数が多いので人数分担ってことですね。

 

 

 「んー♪ この味、深み、旨味・・・これがカルデアのうどん・・・!! 私、ここに来れて幸せです!」

 

 

 「ふーむ。おかわりと、七味と、ネギはどうです?」

 

 

 「いただきますモルガン陛下!」

 

 

 それとここにつれてきた武蔵様。生身の人間で大英雄級の戦闘能力とまさかの私とほぼ近い世界の放浪者。世界線ごと渡り歩く存在ですが、元様が一目惚れ。ついでに武蔵様も興味マシマシなのでカルデアに招き、モルガン様と私の剣技の合せ技で元様の存在が武蔵様をこの世界に繋ぎ止める楔にしておいてとりあえず食堂で料理を満喫。

 

 

 モルガン様も自分の畑のネギと、うどんを美味しそうに食べる武蔵様に餌付けしつつ評価を聞いてにっこにこ。旅をしたい時、匿うときはアヴァロンにつれていけばいいのでありがたいことです。

 

 

 「ふぅー・・・では、お腹も膨れたので行きましょうかあ」

 

 

 私も食事を終えてとりあえず召喚室に。さてさて。誰から呼ぶべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「では、まずはモルガン様。1騎だけでいいですね?」

 

 

 「はい。これを触媒に」

 

 

 最初はモルガン様が呼ぶことになり、指輪とティアラをおいて召喚のスイッチを入れて呼ばれる相手は当然この人。

 

 

 「セイバークラスで参上した。ロット王だ。ふふふ。また会えたねマイハニー。一緒にカルデアを支えようじゃないか」

 

 

 「あなた・・・ええ。お姉さまたちをみんなで支えましょう。そして、もう一度夫婦生活を・・・」

 

 

 「はははは。もちろんだとも! 藤丸くんに所長さんもよろしくね。とはいえ、私の方は武人としては凡人だ。裏方や雑用で頑張るし、まあうまい具合に使ってくれ」

 

 

 最初に来たのはロット様。早速モルガン様に結婚指輪とティアラを装着させて恋人握りでイチャイチャ。いやーナイスミドルと美女は絵になりますねえ。殺気飲んでいたカフェオレが激甘になりますよ無糖で飲んでいたのに。

 

 

 もーマシュに藤丸様、オルガマリー様は顔を赤くして。これくらい毎日見ることになるのでなれてくださいよ?

 

 

 早速ウチのオオカミたちに連れられてカルデア内を散策していく夫婦たちを見送り、今度はオルガマリー様の方。もらっておいたナイフをセットして召喚の準備を整えてスイッチオン。

 

 

 「キャスタージェロニモだ。アメリカ以来だね。すぐに呼んでくれて嬉しいよ。私は非力な方だろうが、それでもできることはきっとある。どうかよろしく頼む」

 

 

 「オルガマリーよ。マリーでも気楽に呼んで頂戴?」

 

 

 「ふむ・・・では、マリー。お願いするよ」

 

 

 呼ばれたのはジェロニモ様。この方は是非カルデアに必要な人材というのと、何よりこの方の知識はオルガマリー様にとてもいいものに動くはず。

 

 

 「オルガマリー様。この方はとても優しく、人種も年齢も性別も問わず優しく接してくれる真の紳士。さらに言えばアメリカの魔術師、シャーマンであり武芸にも秀でる戦士。礼装にも色々とヒントや失われた魔術形態や精霊にまつわる知識も教えてもらえるでしょう。

 

 

 ふふ。女磨きにも、魔術師としての先生としてもがんばってくださいね?」

 

 

 「おや、では可能な限り私も教える限りを教えていく。まあ、その前にまずはここで直ぐにデキる仕事を教えてもらえるかな? 働いていかねばね」

 

 

 「ふむ。じゃあ今は銀嶺隊が多く出ていないし、ちょっと掃除や図書室の雑務。あ、それと軽食あるから食べていけばいいわよ。華奈、藤丸、元。私は先に出ていくから、あとは頼んだわよ」

 

 

 「はいはーい♪ さてさて、次は元様ですね。元様は特に今後騒がしくなる原因になるであろう存在を呼ぶので、手綱は握ってくださいよ」

 

 

 「ふふふ。それはそれは。気合を入れないといけないね。じゃあ、行こうか」

 

 

 元様も問題なさそうなので触媒の帽子をおいて召喚陣のスイッチを入れてからいざスタート。召喚の勢いが収まり、出てくるのは。

 

 

 「キャスターエレナ・ブラヴァツキーよ。あら。アメリカでお世話になった声の人? これはいいわね。これからもよろしく頼むわ」

 

 

 「こちらこそ。レディ・エレナ。私はカルデアのマスター・・・の教師? 講師? をしているものです。色々と用意もできるので是非お願いします」

 

 

 「あら。それなら早速だけどストーム1やプロフェッサーのことを知るためにも是非EDFのゲームを!」

 

 

 「あーストップですエレナ様。まだ召喚が控えていますので。ね?」

 

 

 鼻息荒く召喚早々に元様と召喚室を飛び出そうとするエレナ様を抑えつつ、次に大きな電球をことりと置いて召喚陣のスイッチをいれる。

 

 

 「キャスターアルヴァ・トーマス・エジソンだ! うむぅ。ようやく来たぞカルデアに! 君が私のマスターだね? ぜひぜひ、我が直流によってこれからの未来もカルデアも最高のものにしてみせようではないか!」

 

 

 アメリカの大統領のバフスタイルは変わらないようで、相変わらずのスーパーマン&ホワイトライオンな見た目のエジソン様が意気揚々とカルデアに参戦。その声の大きさとよく通るもので、目がより覚めます。

 

 

 「お願いします。ミスター・エジソン。あ、それとカルデアの備品やEDFの開発の割振りは華奈とプロフェッサー、オルガマリーが責任者なのでそこは一言聞いてからにしてくださいね?」

 

 

 「まあ基本的に資材と場所はある程度自由に使っていいですよ。で、そちらに関してはレンジャーとフェンサーの武装についての基礎研究、そこからの増産、強化などをできるかをお願いしたいですね。アレラもハイテク武装なのと、ウチの部隊に配備していきたいのでエジソン様の特技は助かるんですよね」

 

 

 「うむうむ! 引き受けよう! それと、あのすっとんきょうはどうしているのだ?」

 

 

 「プロフェッサー様と絶賛引きこもって研究に没頭中ですねえ。あちらはオルガマリー様と契約しているので、話はそちらに」

 

 

 「了解した。ではマスター、エレナ君。早速カルデアの探索と」

 

 

 「EDFの世界の異星人の研究ね! そのためにも徹夜でプレイするわよー!」

 

 

 「はははは。できればお手柔らかにね?」

 

 

 二人と一緒に召喚室を出ていく元様。いやあーあのゲームカルデア内で大人気ですし、テレビとか、ゲーム機足りますかねえ? 予備がなければ私の分を回しますかあ。海賊組がすごく上手で面白いですし仲良くできるかも?

 

 

 さてさて次は藤丸様。こちらの方にはかなりガチのメンバーを呼んでもらいましょう。

 

 

 「では、藤丸様。貴方には呼んでもらう英霊は二人。ですが、かなりの怪物ですのでね。ふふふ。ささ、どうぞ前に」

 

 

 藤丸様も前に来てもらい、触媒の髪の毛? をおいてからスイッチオン。

 

 

 「サーヴァント、カルナ。クラスはランサーだ。マスター。世界を救う旅路。俺も手を貸していく」

 

 

 「カルナ。僕は藤丸。どうかよろしくね」

 

 

 「ああ、よろしく頼むマスター。そして華奈。これからも頼むぞ」

 

 

 「あらあら。ではでは、早速次の方も呼びましょう。少し気合が入っているので早速良い練習相手ではないでしょうか」

 

 

 クスクスと笑いつつ、次は帯? を触媒に召喚陣のスイッチを入れていく。しかし出てきたのはまさかの槍を持つのではなく無手。そして赤い髪は白髪に。

 

 

 「アサシン・李書文だ。若い頃の儂が世話になったようだが、ふむ。こちらの儂が呼ばれるとはな。まあ、何かの縁だ。これからもよろしく頼む」

 

 

 おぉう。まさかの拳を極めた方であろう李書文。おじいちゃんスタイルのほうが来るとは。思わぬ形ですねえ。あちらもランサークラスの方での記憶があるようで不思議がっていますがまあ、それはそれとして血の気が多すぎる若い頃よりはこっちのほうがいいかも?

 

 

 「藤丸です。よろしくお願いします李書文さん」

 

 

 「若い頃のお前にはアメリカで世話になった。これからもこの若きマスターを支えていこうじゃないか」

 

 

 「ふむ・・・では、軽く互いに技を教えたりしつつ我らの運用方法を考えてもらうとしようではないか。マスター。体でも動かさぬか?」

 

 

 「お願いします李書文先生。カルナ!」

 

 

 ニコリとやさしい好々爺の笑みを浮かべて三人でシミュレーションルームで訓練をする様子。ふふふ。元気なようで何よりです。あ、マシュ様にも一応連絡を入れておいてと・・・

 

 

 そして最後に残ったのは私だけ。今回呼ぶ英霊は私も多いですしねえ。

 

 

 まずは・・・一番重たいこの弓と、大剣をセットして・・・と・・・ふぅ・・・筋力増加の指輪をつけてないと大変ですねえこれ。そしてスイッチポン。

 

 

 「セイバー・ラーマ。此度は召喚してくれて感謝するぞ華奈殿。改めてよろしく頼む」

 

 

 「アーチャー・シータ。ラーマ様と一緒にこれからもお役立ちできるよう頑張ります。どうかカルデアにおいてくだされば」

 

 

 ラーマ様とシータ様ご夫妻も無事にカルデアに召喚完了。うんうん。無事に座へも届く呪いの排除は問題なさそうですねえ。ふふふ。いやはや、ふたりとも無事そうで良かったです。

 

 

 「もちろんお願いします。でも、夫婦仲良く過ごしてくださいね。ここでは風聞も気にせず私達の仲間であり友達ですからね。あーそうですねえ。シータ様にはできればカルデアのキッチンを回していく人材がほしいので二人でデートついでに食堂で料理を味わってくださいませ」

 

 

 「ふふふ。わかった。とはいえ、戦うときはすぐに呼んでくれ。余とシータは華奈殿に返しきれないほどの恩があるのでな」

 

 

 「はい! 最高の料理を皆さんに振る舞えるよう頑張ります!」

 

 

 御夫婦揃って腕を組んでカルデアの探索に行くのを見届け、次は医療カバンをセットして召喚の準備をして開始。

 

 

 「サーヴァント・バーサーカーフローレンス・ナイチンゲールです。ドクター。これからはこの施設の殺菌、消毒、衛生に関してはおまかせくださいませ」

 

 

 フローレンス様も無事に召喚完了。ふふふ。優しい笑顔を見せてくれて嬉しいですね。

 

 

 「ではでは。早速ですがフローレンス様は最初に行ってもらいたい場所があります。カルデアの医療チーム。ロマニ様が現在トップに立っていて、補助にシバ様がいます。そこでここの医療設備や道具を見て、研修を受けたうえで治療チームとして平時は動いてもらいます。

 

 

 必要なら問答無用で現地に行きますがいいですね?」

 

 

 「もちろんです。世界を侵す病を治し、特異点を修復するためにも全身全霊を尽くしましょう」

 

 

 「ではではお願いします。それと、私はドクターではなく名前で。友達として気楽にしてくださいな」

 

 

 「・・・では、華奈。頼みましたよ。ふふふ・・・」

 

 

 一度柔らかく微笑んだあとにすぐにきりりと表情を引き締めてすぐに医療チームの場所を聞いて出ていくフローレンス様。医療に従事するものの負担は知っているので私といるときくらいは気楽にしておいてほしいですよ。ロマニ様は・・・まあ、サボり癖が多いのでたまに怒らないとだめですけどね。

 

 

 さてさて。次。というよりは最後の召喚はクー・フーリン様とほぼ同じ朱槍をセットしてから召喚陣のスイッチを入れていく。

 

 

 「ランサー・スカサハである。無事に私を呼んでくれたな華奈。ふふふ。華奈とその部下、皆鍛えがいがあるし馬鹿弟子もアメリカでは言わなかったが、腕が鈍っていたのでな。灸をすえる意味でも鍛える意味でもこれて嬉しいよ」

 

 

 「私もです。貴女のような戦力は助かりますし、これからもどうかお願いします」

 

 

 「ああ。こうして変な状況だがあらゆる時代の英傑たちと共に並び戦えるのは幸いだ。そして・・・華奈よ。お前は特に気になる相手だ。その剣技。是非じっくり見せてもらうぞ?」

 

 

 ふむ・・・私の概念切りのことでしょうか? たしかにこれはある程度なら呪いやそういう見えないものもぶった切れますしねえ。ケルトの方でも多分見ない技術でウキウキしているのかも?

 

 

 そういってしばらく話をしてから出ていくと数分後にはクー・フーリン様の悲鳴がカルデア中に響いた。ああー・・・南無。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむふむ・・・糸に酸や電流!? 実際の生物での進化の方向と、蜘蛛という生物の多様性・・・! インベーダーも有効活用するのね。これは興味深いわ・・・!」

 

 

 「おぉ・・・なるほど。頭部パーツからは遠距離のプラズマキャノンに近、中距離はレーザーのシャワーで制圧。脚部パーツは付け足しがしやすいアタッチメントとすることで市街地に潜伏しやすい対地スタイル。もしくは脚を長くして山やビルを一跨ぎして悪路をものともしない。ふーむ・・・興味深い」

 

 

 「私はほぼ船が出ていないのは残念ですが、思うままに市民も街も気にせず暴れまわれるのが爽快ですわ」

 

 

 「ボクはいろんな兵器を使えるのがいいね。軍人時代でも基本武器が変わらなかったけどこれは色々使えてワクワクするよ」

 

 

 「私はフェンサーのあのブレード? がきになる。元さん。次、次はあれを使って一緒にやりましょうよ!」

 

 

 「はいはい。アン、メアリー。次は私と武蔵に代わってもらっていい?」

 

 

 元様たちは早速歴代地球防衛軍シリーズから4,1をプレイしてみんなでご満悦。ふふふ。エジソン様もニコラ様と喧嘩したようですが、なんとかなってよかったです。

 

 

 「あの色男にもようやく男の英霊が来て安心ね。そのままハーレムになりそうだったし」

 

 

 「ふふふ。魅力的ですからね元様は。あ、メディア様。例の礼装。フラム様との研究はどうでしたか?」

 

 

 「ん? ええ。もう少し微調整をしたらできると思うわ。レイシフト適正を100%にしてしまえる専用礼装。華奈たちのデータ、藤丸くんのデータに所長のデータでようやく前線に出られるかもって感じね」

 

 

 ふぅむ。それなら問題ないですか。あの人もしきりに前線に出たい、私の役に立ちたいとまあぼやいていましたし、これで色々と気苦労の種が一つ消えればいいのですけども。

 

 

 「あ、じゃあメディア様。お礼と言ってはなんですが、モルガン様もそちらに礼装や使えそうな道具の素材諸々を都合してくれるので、よければ気兼ねなくもらってくださいね?」

 

 

 「え、それってつまりアヴァロン・・・妖精や星の内海、神代の時代からの道具や素材をそのまま貰えるのよね!?」

 

 

 「ええ。あとあちらは宇宙にも行けるようなのでそれの素材も? 今はちょっと畑仕事をしているようですがうちの部隊を送っているので、作業が終わればすぐに来るでしょうし話はその際にでも。ふふふ。失礼しました」

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルデア・男湯~

 

 

 カルナ「アステリオス様。頭を洗ってよろしいですか?」

 

 

 アステリオス「う? いい、よ」

 

 

 ストーム1「あ、そっかあ。アステリオスは神代の時代の牛と人の。王族の血を引く子だもんね。インド勢からすればまさしく神様の御使いかあ」

 

 

 

 ~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむふむ・・・! アメリカ大陸で行われたケルトとアメリカ、インドの神話合戦! そしてそこにカルデアの助力! 今回の話も大変興味深いですね!」

 

 

 「あはは。そう言ってくだされば嬉しいですよ」

 

 

 私も作業を終えて香子様に今回の特異点での話や情報を話して、香子様はそれに刺激を受けているのか目を見開いて筆を走らせる。興奮冷めやらぬという感じで目を輝かせていますがまあ、戦話なんて遠い話の香子様にしてみれば大陸を走り回る大戦争なんて源平合戦みたいなものですしそりゃあ戦記物としてもワクワクしますかねえ。

 

 

 「しかし、神話の、文字通り規格外の力すらも大駒の一つになり、その力も運用を間違えれば最強も倒れる。いやはやとんでもない・・・」

 

 

 「それは同時に情報や知識は単騎で最強であってもやりようによっては対処できるということですね。うふふ。香子様ももし筆が乗ればこれをモデルになにか話を書いてもいいかもですよ?」

 

 

 「ふーむ・・・それも興味深いですが、まずはラーマ様とシータ様のお話を今度は教えていただきたく!」

 

 

 あ、やっぱりそっちですかあ。まあ、熱い恋のものがたりで、時代を超えて英霊になってようやく繋がれた愛の物語。香子様にはビンビンのギンギンになる話ですよねえ。

 

 

 「うーん。そこは是非ご本人様たちに。今度ラーマ様たちからハヌマーンブランドのバナナでパウンドケーキと銀嶺のはちみつでドリンクを作るのでそれを報酬に取材をしたほうが」

 

 

 「只今戻りましたお姉様」

 

 

 「おや、おかえりなさいませモルガン様。収穫は無事できましたか?」

 

 

 じゃがいもの収穫を終えたツナギ姿のモルガン様が汗をかきつつカバンを持って部屋に入ってくる。いやはや、うちの部隊1000名と1000匹を回しましたがいい感じに終わったようで。

 

 

 「予定よりもずっと早くサイズ別選別も倉庫への収納もできまして。それと同時に懐かしい絵本があったのでメディアさんへのお礼の素材といっしょに。どうです?」

 

 

 そう言ってモルガン様が出した絵本は私の絵柄ではなくイグレーヌ様の絵柄で描かれている絵本。タイトルは「始まりの妖精たち」ああーこれは懐かしい。ふふふ。私が絵本をガウェイン様等の教育や寝物語にと作っていたのに刺激を受けてイグレーヌ様と妖精のみんなで話を聞いて作り出した絵本でしたねえ。

 

 

 「あらー懐かしい。ふふふ。確か、白い巨人。セファールについて関わる話でしたっけ? いやはや、アヴァロンに一度お邪魔したときに当時の妖精さんたちから色々聞きましたっけ~」

 

 

 「ええ。魔術できれいに保存していたのですがせっかくですのでどうかなって。一応現代でも魔術界隈では有名でしょうけど、本人? 等の証言を元に作った資料としても」

 

 

 「じゃーコピーを早速して・・・・おわぁ!?」

 

 

 「はぁああ・・・!!  一万四千年前の歴史に妖精!? そ、それはとんでもない。ぜひぜひ私に読み聞かせを・・・はわゃあぁああ!!? 」

 

 

 懐かしい絵本をパラパラめくりつつコピーでも作ろうかと思っていたら急に開かれるドア。うーん私の部屋のドアのロック。少し固くするべきでしょうか?

 

 

 「ちょちょちょちょ!!? それ、神創兵器にも関する話だからね!? 何さらっととんでもない資料を持ってきているのモルガン陛下!?」

 

 

 「え? いえ、私の妹もその部下も息子もその武器を湖の妖精から受け取っていますし、私やお母様はそれに連なる神霊の血が入っていますし。知り合いでもおかしくないでしょう? ましてや華奈お姉様はその妖精や獣たちをアヴァロンや星の内海に送ってくれた巫女の代理人であり剣士。知らないほうがおかしいのでは?」

 

 

 ロマニ様にシバ様も驚いていますが、まあ、そうなんですよね。ある意味私達そういう歴史に近しい存在と関係があるので割とこういう話は寝物語に軽く話していたのでちょっと麻痺していましたが。

 

 

 「ふふふ。では、軽く読み聞かせをしましょうか? 軽い息抜きにでも」

 

 

 シバ様とロマニ様に座布団を敷き、モルガン様はシャワーを浴びて急いで戻ってきて、香子様はお茶とまんじゅうを持ってきて人数分配って準備よし。

 

 

 ではでは、話していきましょうか。昔話。絵本で綴られたブリテンの大昔を。




 ということで大量召喚。


 そして次回はこの世界線でのセファールと妖精とヌンノスの物語。華奈のボイスイメージは井上喜久子さんなのでその声でゆったりと聞くイメージで考えてくだされば。


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はじまりの妖精たち

 だいぶ色々混じっていますこの世界の妖精たち。某スレネタも満載


 「さてさて・・・では、始めましょうか。ふふふ・・・読み聞かせなど何年ぶりか」

 

 

 「この世界の、星の内海で鍛えられたという神秘の武装。神創兵器の話・・・すごい・・・」

 

 

 いつの間にやらみなさんが私の部屋に図書館に集合しているのでスピーカーとマイクをセットして聞こえるように。

 

 

 ではでは・・・・

 

 

 

 「昔々。とっても昔。ある日、空から星が降ってきて、そこから白い巨人が現れました。

 

 

 その巨人は妖精も人も大地も奪い、吸い尽くす怖い怖い巨人でした。これに妖精も、精霊も、神様も星の内海に逃げました。怖い、強い、嫌だ。そんな気持ちをみんなが持ちます。

 

 

 だけどそれだけではだめだと誰かが言い、白い巨人を倒すための武器を作り始めます。そのために楽園の神様はたくさんの妖精たちにお願いします。とっても強い武器を作ってと。

 

 

 妖精たちは頑張ります。ヌオーという水と土の妖精たちが中心に花の妖精に羽の妖精たち、いろんな妖精たちが動く中、納得がいかない6にんの妖精がいました。

 

 

 『武器ができるまでの間、やられっぱなしでいいのか?』『僕らの逃げられなかった友達たちを見殺しにするのは嫌だ』『僕たちでもやれることをしよう』そう6人は口々に言い、楽園の神様に言いました。戦わせてほしい。もといる場所に出してほしいと。

 

 

 妖精たちに楽園の神様は反対しましたが最後は彼らの勇気に負けて星の表に送りだしました。ビリー、オバマ、カズヤ、マッシ、タニオカ、アンパンの6人はみんなに悪いことをする白い巨人に向かって勇敢に戦いました。

 

 

 しかし白い巨人は強く、たくさんの神様たちが、戦士たちが頑張っても追い返せない。妖精たちも頑張りますが傷ついて、ぼろぼろになっていきます。

 

 

 そんな中、妖精たちの中の影と悪夢を操る妖精が頑張ってみんなを助けて休ませます。白い巨人たちと戦い疲れた妖精たちはそれでも頑張って立ち上がります。『勝手にやってきて勝手に荒らすだらしねえアイツに負けない』その気持が妖精たちを突き動かします。

 

 

 大地が削られ、命が、みんなで積み上げた家がなくなるのに妖精たちは我慢できないと倒れても倒れても何度でも蘇っては戦い続けます。それでも白い巨人を倒せない中、大地の中からヌオーたちが出てきます。なんとたくさんの聖剣が、武器が完成していたのです。そして、それを握るための人間も次々に現れ、白い巨人に妖精たちと立ち向かい、なんと神様たちが倒せなかった白い巨人を倒せました。

 

 

 みんなで白い巨人を倒したことを喜びますが、それでも削れた大地も、家も、森もないことにみんなは悲しみました。白い巨人に取られてしまったのです。

 

 

 だけどなんとかしようとみんなで海から石や岩を持ってきて取られた部分をどうにかしようと動きます。楽園の神様と巫女もみんなで頑張っていきました。

 

 

 できた場所ができれば喜び。作物ができれば宴をして、大きな石を持ってきてくれた神様に感謝をして、人も、神様も、妖精も、動物も、みんなで一緒に頑張りました。

 

 

 そうしている内に、楽園の神様は妖精たちにいつか帰ってきてね。そして、『私の肉体を島に足していいよ』そう言って魂だけが楽園に帰り、その肉体は大きな大地となりました。ここでもみんなは頑張って働きました。休んで、遊んで。でも仕事は必死にこなします。

 

 

 だけど、人間は、巫女は死んでしまいました。妖精たちと違い動物も、人間も動ける時間は限りがあったのです。みんなはわんわん泣きました。泣いて泣いて、ずっと泣いていました。そして、大事に大事に埋めました。神様の肉体の大地に埋めました。

 

 

 大事な友だちを埋めた場所でみんなは過ごし始めます。沢山の花を埋めて、暑くないように木を植え、そしていつの間にかそこは花畑になり、森ができているではありませんか。

 

 

 こうしている内に動物も人間も、妖精も増えていましたが巫女を、友達を知る妖精たちのようにいい子たちではなく、人に悪いことをする妖精も動物に悪いことをする妖精もいました。

 

 

 みんなはだめだよ。めだよ。といいますが言うことを聞きません。喧嘩も起きてしょうがないと妖精たちは友達のお墓がある森で静かに暮らしていました。とても心優しい妖精に、不思議な妖精も増えていきながら長い長い時間が過ぎて、楽園に帰ろうにも行き方を忘れた時、その人間は突然きます。

 

 

 『あなた達が妖精なのね。私は楽園に、星の中に帰る道を教えているの。話を聞いてくれないかな?』みんな驚きました。その人間は巫女の、だいじな友達の面影を持つ、自分たちに近いような動物たちをたくさん従える銀色の騎士と仲間たちだったのです。

 

 

 もう人と妖精は一緒にいることはない時代の中、あの時を思い出すような新しい友達にみんなは笑顔を浮かべて仲良く過ごしますが、その時間はあっという間。

 

 

 美味しいご飯を食べて、遊んで、レスリングして、おしゃべりして、そして妖精たちは巫女のお墓と一緒に楽園に帰ります。こうして、ずっとずっと白い巨人から守った大地と世界を見続けた妖精たちは大事な友だちと一緒に新しい友達とお別れをしました。

 

 

 そして、楽園でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。・・・・・・・これがふふ。セファールを倒した神創兵器を創る話ですね」

 

 

 私の朗読、読み聞かせが終わるとみんなが拍手を何故かしてくれたので照れくさく頬をかいていると、図書室から私の部屋への直通の階段からエレナ様がすっ飛んできた。

 

 

 「ちょちょちょ!! セファール!!? 一万四千年前の異星の侵略。あのハーヴェスターについての記述、当事者を知っているの!!? お、おおぉお、教えて華奈! いや、教えて下さい!」

 

 

 「オリュンポス12神のトラウマ。あれにまつわる昔話を直に聞けるなんてわからないものね」

 

 

 なんかすっごい毛並みと肌艶が良くなったアステリオス様とお菓子をほおばるエウリュアレ様も興味深そうに頷く。あーそういえばいろんな神様が戦って敵わないとあるのにオリュンポスの神々も入っていたんですね。

 

 

 「一応言っておくとこの当事者の妖精たちは今もアヴァロン、楽園で健在で私達といっしょに農家と漁業をしているわよ?」

 

 

 「私も生前アヴァロンに一度お邪魔しましたが当時の話を面白く語ってくれましたねえ。あと私の領地にも妖精が遊びに来ることもあったのでアメリカでもしかしたらモニターに写っていた子もいるかも? 今度Gen様と一緒に農業の手伝いがてら会いに行けるのなら会うかここに呼べます? モルガン様」

 

 

 「どちらも可能ですよお姉様。ふふふ。タニオカとアンパンはパン工房とドライバーもしていて今も宇宙に美味しいパンと私達の作物をアルトリアと一緒に届けておりますので」

 

 

 じゃあラーマ様たちとモルガン様たちの夫婦旅行ついでにエレナ様の探求のための取材にいかせますかあ。なんかオルガマリー様が泡吹いて倒れましたがまあ些細なことです。そちらもそのアヴァロンや妖精のプレゼントを貰えるんですから。

 

 

 このあと、モルガン様とアルトリア様たちアヴァロン組はエレナ様からあれやこれやと色々質問攻めにされてしまい珍しいぐったり顔になっていましたよ。ふふふ。絵本一つから面白いことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ・・・合格。パソコン検定4級無事合格ですね」

 

 

 「おぉ・・・やった。これで私もようやく半人前だな!」

 

 

 「流石ですねえ。ですが、カルデアの雑務、備品課を手伝うにはもう少しパソコンを覚えてもらいます。まあ、今は休んでからまた」

 

 

 ロット様がカルデアに来て以来、早速アルトリア様と一緒にパソコンの扱い方を実戦で学ぶために私が昔勉強用で持っていた本を元に頭に鉢巻きを巻いて早速練習に打ち込んでいます。

 

 

 というのもロット様も確かに剣術は達人のそれなんですがモードレッド様やアルトリア様のような一線級の英霊には及ばない。逸話も基本内政よりなのも相まって前に出るタイプではないので基本銀嶺隊の手伝いと私の備品課の仕事をすることになったそうで。

 

 

 アルトリア様たちはアヴァロンでユニヴァース? という不思議な宇宙空間で農家をする際に農業用の重機や道具、端末の扱いを覚えて、ロット様の方も召喚に際して現代知識はあるといえど知識があるだけで実践は別問題。ということで日々パソコンと格闘するお父さんとそれを応援するお母さんと娘、手伝う義妹という絵面ができております。

 

 

 「ふぅー・・・一休みしたら少し散歩もしてこよう。今日はシミュレーターが賑やかのようだしね」

 

 

 そういえば今日はうちの部隊でヤマジがジャンヌ姉妹たちを鍛えていましたね。見に行ってみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うーん。力任せでもそのパワーで問題はないが、まあやっぱり経験者には劣るねえ。特にオルタちゃんは刀も使うのなら、動かし方は勉強するべきだな」

 

 

 「くぅ・・・ムカつくけど、このガチホモやっぱり強いのよねえ・・・」

 

 

 「うーん。旗の振りがこれではだめだとは」

 

 

 シミュレーションの方ではヤマジがハルバードの使い手なので旗を武器にするジャンヌ姉妹らに、オルタの方には炎を使うのは厳禁でシンプルに技術を鍛えてもらっている最中。

 

 

 まあ、ふたりとも戦闘経験は浅いですし、シンプルな技術と軽い効果とはいえ魔槍の類になるハルバードを使えるヤマジでは撃ち合えば負けないでしょうね。

 

 

 「ジャンヌちゃんは押しの力はいい。だけど旗を振り下ろす、振るう際に引く動きをもっとシュッと引いてよりキレを良くしていくほうがいい。

 

 

 で、オルタちゃんの方は派手に振るう攻撃は確かに見た目もいいし派手に見えるけど、その実脇も甘いし、簡単に弾かれる。アメリカで馬上槍もうまくいかないのはそれだな」

 

 

 「うーん・・・こうです?」

 

 

 「しょうがないわねえ。ちゃんと覚えていかないと。・・・アメリカで鍛えられた武人たちの技術を見たし、流石に力技だけじゃ足りないわ」

 

 

 「その意気だ。じゃあーとりあえず演武、型を教えるからこれと素振りを毎日やろうか。俺等英霊は鍛えられないが技術は磨ける。俺が非番の日は同じ槍、薙刀の使い手をよこすからな」

 

 

 さすがアルトリア様相手に粘れた武人。ふふふ。いい刺激になったようですね。ほんと・・・男漁り、ホモですがいい男ではあるんですよねえ。

 

 

 「銃を使うのもいいが、やはりその反動を抑えるためにも鍛えるのは必要。さあ次は八極の型を教えていこう」

 

 

 「はい、李書文先生!」

 

 

 「同じ盾サーヴァントとして、改めてストーム1さん。今日はお願いします!」

 

 

 「ははは。じゃあ、色々と技を叩き込んでいくからそれをしのいだら反撃。の練習をしていくかあ。俺の攻撃はちょっと激しいぞ?」

 

 

 あっちでは藤丸さまと李書文様が武術鍛錬。マシュはストームと思い切り盾をぶつけ合い、ガンガンとぶつかり合う光景は派手なもの。

 

 

 「さすがはインドの大英雄。見事なものよ。さあ、このスカサハに武を示せ!」

 

 

 「いいだろう。ここからだ!」

 

 

 そしてあっちではスカサハ様とカルナ様の大激突。こっちまで空気がビリビリ震えてしまうほどで思わず見入る。太陽と影の激突。金と赤のやりの激突は見て気持ちがいい。いやはや素晴らしい。周りに既にしばき倒され・・・もとい、手ほどきを受けて転がっている銀嶺隊兵士とクー・フーリンはおいておきましょう。うちの250人将の一人は恍惚の笑顔を出していますし。

 

 

 「はぁー・・・平和平和」

 

 

 (・ヮ・)「へいわです?」

 

 

 (・ヮ・)「ぎんれいたいではよくあったこうけい」

 

 

 (・ヮ・)「すぽどりおいしいです」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・あれぇ~・・・? なんで妖精さんがここに? 私が顔を向けるとわーっと驚きつつも笑顔を見せる。

 

 

 とりあえずお菓子で釣りつつ、周りを見ると・・・うん。いない・・・いない。ですよね?

 

 

 「うーん・・・カルデアの職員さんには見つかっちゃだめですよ?」

 

 

 (・ヮ・)「「「はーい!」」」

 

 

 フォウ様に連れて行ってもらい、ひとまずなんか変な空気をごまかしつつ私も鍛錬に参加。言えないです。流石にカルデアに妖精が紛れ込み始めたとか。ああー私が色々仕込んでいた隠し扉とか、収納スペースが魔改造されていませんように・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フローレンス様。お茶とお菓子をどうぞ」

 

 

 「華奈さん。まだまだいけますのでそれは結構です」

 

 

 「医療従事者がいざというときにちゃんと動けないとだめでしょう? 機械にも手入れと休憩を必要なように人間、英霊も休む時間は同じ。糖分と水分、エネルギー補給をしましょう?」

 

 

 「ふむ・・・了解です。ああ、よければこちらの紫式部にもお願いしても? まったく・・・徹夜をしていて図書館業務もおろそかにするほどで」

 

 

 「ヒィん。そ、そのぉ・・・イグレーヌ様から聞いた華奈様の話にもうついつい創作意欲が湧きましてぇ・・・」

 

 

 「言い訳しない。軽食を取ったあとに仮眠を取ったら退室を」

 

 

 いやはや手厳しい。まあ、私の方も夜ふかししていると容赦なく突撃してきそうになるので最近は創作活動が少し鈍りましたがそこはしょうがない。私が招いた仲間ですしね。

 

 

 「マスター。あら、そこにいたのですね」

 

 

 「おや、頼光様。どうしましたか?」

 

 

 「うふふ。新作の料理が食堂に並びまして。良ければご試食をどうぞと思いまして」

 

 

 ふむ。鍛錬後に治療と差し入れついでに来ましたがそろそろ御飯の時間ですか。いいですねえ。

 

 

 「では参りましょう。フローレンス様もちゃんと食べに来るんですよ~香子様は、仮眠を取ったあとにご飯を。あ、図書館で食べちゃだめですよ~」

 

 

 いままでは食堂からのデリバリーもしていましたがそれもできないでしょうしね。涙目の香子様をおいて私は食堂に。ああ、アメリカの激闘のあとにこの時間。癒やされますねえ。




 この世界の妖精は多種多様。そしていい妖精も多かったので華奈とフォウ君が領地で一緒にいて問題なかったわけですね。尚すでに一部勝手に紛れ込んできている様子。妖精も妖精♂も


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カルデア料理研究会

 華奈「うーん。思った以上に妖精さんが多い」


 (・ヮ・)「りょうちをだしてくれればぼくらもごはんをつくるです?」


 (・ヮ・)「どうぐもでんりょくもよういするです」


 (・ヮ・)「アヴァロンにおねがいするです」
  (みんなイノシシや狼に乗ったり遊んでいる)


 華奈「ほほう・・・じゃあ、甘味もつけましょうか。マシュ~ちょっと手伝ってくださいなー」


 「さてさて、今回もまた多くの英霊が来てくれました。そして華奈さんのお陰でアヴァロンでの栄養豊富な野菜に、銀嶺領地も用意したので肉も水も潤沢。文字通りカルデアの食糧問題は解決しました」

 

 

 ゲンドウスタイル? で手を組みつつ眼の前にいる清姫さん、頼光さん、エミヤさん、紫式部さん(勉強のため)らと相談をする。

 

 

 「フランスから特異点で集めてきて魔術によって瞬間冷凍。腐敗をさせないおかげで肉や貝類はおろかエビ類ですらも問題なく食べられる。しかも米も麦も豊富。茶葉も華奈の備蓄で有に持つ」

 

 

 「そうなると・・・やはりお酒や、調味料のたぐいでしょうか? もともと酒を飲む方は増えていますし、一応モリアーティさんがバーを開きましたが食事に合う酒。となると種類は違いますし、伊吹童子様にスカサハさんと酒をたくさん飲みますし・・・」

 

 

 「ふぅむ。調理酒などはたくさんありましたねえ。でも、たしかに日本酒などは少なかったですし、そこの製造も頼んでみます?」

 

 

 私玉藻的にもぜひぜひお込めは豊穣を願ったりとか神様っぽいこともできるのと、銀嶺領地はあの騎士王も魔女も、そしてラーマご夫妻も絶賛するデートスポットと言われる街! 神代の時代に人口数万を誇る一大城塞都市であり穀倉地帯。そこに恩を売れば色々と私のマスターとのデートにも・・・こほん。

 

 

 しかし、やっぱりというか食料が足りてくればやっぱり消費が追いつかなる。供給が難しいのは調味料。塩、味噌、マヨネーズ、醤油、ケチャップはある程度用意できますが香辛料に日本酒などの調理酒が足りない。あと酒飲みが増えたせいでシンプルに消費が激しい・・・

 

 

 「華奈さんに頼んでみましょう。アヴァロンの方でも仕入れてもらうそうですが、なにせトンチキ宇宙空間。調理酒も酒に使う米も不安がありますし・・・で、次は料理ですが・・・」

 

 

 「焼けばいいでしょう?」

 

 

 「色々できるが、手の込んだものは挑戦中だ」

 

 

 「私も日本の料理しか・・・マスターの料理に負けてしまうのがごちそうを振る舞えないのが悲しく・・・」

 

 

 「わ、私もあまり・・・一般的なのはできますが」

 

 

 清姫さんは論外として、エミヤさんは頼もしい。だけどやっぱり日本文化、料理メイン。しかも昔の食文化からあまり進んでいない平安組にもうーんと首を傾けて茶を飲む。

 

 

 そう。我らがカルデアキッチン。紅先生のヘルズキッチンを経験しているメンバーでも私以外はエミヤさん以外は戦力外。というか焦げやら精進料理ばかりで日本の外の皆様の口に合わせる事ができてない。カルデアに来たばかりというのもあるがレパートリーや調理技術は華奈さん、モルガンさん、イグレーヌさんらが圧倒的すぎるのだ。

 

 

 眼の前で涙目になっている頼光さんも華奈さんに料理を振る舞えばお返しにと用意された洋菓子に食事に敗北を喫して影で落ち込んでいたほど。

 

 

 「うぅー・・・ん・・・困りましたねえ。今度のシーフードフェアではピザも作りますので清姫さんにも問題ない。でもそれ以外海外の料理などをやりたいですが手の込んだ者はエミヤさん以外はあんまりですか・・・」

 

 

 「できれば銀嶺隊がいればいいが、アメリカのように全軍出ていくときもあるし、やはり学んでいくべきだろうなあ。レシピ本などは図書館にないかね? 紫式部」

 

 

 「はわっ! え、えっと基本物語や軍記物、恋愛本が多くて・・・あ、でも、華奈さんの書斎や、銀嶺隊の持ち物にあるかと」

 

 

 やっぱりというか銀嶺隊が関わることになりますかあ。できれば華奈さんの負担を減らしたいですが、まあとりあえず学びにいいくべきでしょう。ついでに調味料についてもカルデアの畑に、銀嶺領、アヴァロンの方でも色々と相談をしたいですし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほうほう。いわゆる洋風料理などを学んでいきたいと。あーうちの部隊はなんやかんやブリテンの兵士ですしねえ。そしてそのための香辛料や調味料を作りたいと。ふーむ。レシピ本は確か・・・」

 

 

 創作活動が一区切りになり撫でられ待ちの狼やイノシシ、馬たちを撫でまくっていた華奈さんに私達が顔を出せばレシピ本を持ってきてくれるのだが、和、洋、中、アジアなどなどの各国のレシピを日本語でまとめたものがわんさか。

 

 

 「まぁ。こんなに彩り豊かな・・・マスターの料理上手はこれで鍛えたのもあるのですね。母もがんばりますよ」

 

 

 「ウチの領地向けに大量に刷っておいたので良ければ皆様にもどうぞ。ふふふ。それと、ふーむ・・・それなら私の方も頼みがありまして。実は私も飲みたいもの、おじ様。モリアーティ様ですね。のバーで使いたい酒があるんですがそれを作ってほしくて。その調整に関して手を貸してくれません?」

 

 

 「うふふ。華奈さんの頼み、ますたぁに食堂のレパートリーが増えるのなら引き受けますよ。どんな頼み事です?」

 

 

 あ、清姫さん抜け駆け。ま、まあいいでしょう。料理の腕なら私のほうが上ですし? そしてお酒とは?

 

 

 「実は私、あまーい赤ワインを作ってほしくて。渋みも少ないやつで。それを炭酸で割って飲むお酒がすごく好きで。日本以外では見られなくて中々手に入れず。おやつといっしょに一献ほしいんですけどねえ。酒造、カクテル関連はまだ勉強中で。お願いしていいです?」

 

 

 「甘い・・・ワインというと果実酒でしょうか? 渋みも少ない・・・口噛み酒でしょうか?」

 

 

 「い、いえいえ。頼光様違います。多分華奈さんが言うのは「赤玉パ◯チ」というお酒でしょう。甘いお酒が好きなんですね」

 

 

 ほほう。そういえば東京でサワー系を飲んだときにあったような? そう思っていたらサンプルを持ってくる。ああー見ましたねこれ。たしかにこれはいいものです。

 

 

 「これ、甘さがすごいのでチョコレートの中に入れたりとか酒のあるお菓子とかにも使えるので是非是非。あ、それと畑の模様替えはクー・フーリン様とオルガマリー様に私から話を通してハーブ、スパイス関連を作るようにしておきます。

 

 

 で、出来ればお菓子のレパートリーも増やしてほしいのですが、それにあたって意見と、ある人をおすすめしたくて」

 

 

 ふむ。華奈さんの提案ですし、それに対する提案もすごく得。ふふふ。これをマスターに自慢すれば尻尾をもふもふさせつつアプローチもできるかも? いよっし良妻ポイント獲得!

 

 

 このあとすぐに銀嶺隊による畑の模様替えと前に植えていた野菜はアヴァロン、アヴァロンに召喚した銀嶺領地に植え直してもらいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いいこと。お菓子作りにおいて必要なのは完成までは絶対にアレンジをしない。分量通り、レシピ通りを徹底すること。やるにしても完成後にまず試食をして、その後にちょっとした甘味を足すだけにすること。錬金術、製薬と同じものよ」

 

 

 「まあ、メディア殿がこのようなお菓子上手とは。ふふふ、是非是非参考にさせてもらいます」

 

 

 「むぅ・・・焼きを早めるのはむしろ焦がす・・・と。蒸しよりも大事なのですね・・・」

 

 

 華奈さんが紹介した人材はメディアさん。そしてその道具作成などのノウハウでしっかりきっちりレシピ通り、分量通りにテキパキとできていくお菓子の数々。そしてカラフルな見た目に甘い香りで私達は感嘆の声が上がります。

 

 

 うぅーむ・・・道具の使い方一つ見てもなるほど。魔女という職業はそういうのにもタケているのですねえ。

 

 

 「で、砂糖に関しては今ある甜菜以外にもサトウキビとかは結構使いやすいし、果汁とも合わせやすいからそこも利用していくのよ。で、逆に私も是非みんなに日本食を教えてほしいのよ。ボウヤに教えてもらっていたけど落し蓋とか、裏ごしとか、色々と教えてほしいのよ。日本料理難しいのよ」

 

 

 「ほう。それはいいが、メディアも花嫁修業か?」

 

 

 「それ以上言えば怒るわよボウヤ。まあ、今のマスターもいい男だけどタイプじゃないし。それに趣味の合間に私も料理の腕を磨くのもいいかもって思ったのよ。最近はカルデアも鉄臭いし、癒やしはあるから幅を増やそうと」

 

 

 「ああ、狼は馬は多いですが獣臭はしないし、武器製造とかで色々その仕事が増えたと・・・」

 

 

 「ええ、それにマスターのレイシフト適性の道具を作るためにここ数日徹夜してね・・・食の癒やしがほしいのよ・・・」

 

 

 大真面目にここにいる英霊の中の魔女の中では一番器用かつ道具作成に優れ、聖杯戦争で現代生活も知っているオールマイティーなキャスターですしねえ。モルガンさんもすごいですがあっちは戦闘と魔術はとんでもないですが道具作成はメディアさんが勝ちますし。

 

 

 で、EDFの武器作成もエジソンさんたちが来て銀嶺帯への配備も進んでいる以上硝煙と鉄と機械油に触れるので癒やしがほしいと。

 

 

 動物たち以外の癒やしもまあわかります。

 

 

 「というか、逆に洋食くらいでよければ今から私とボウヤで振る舞って食べて、見て覚えるのもいいんじゃないかしら? とりあえずいくつかやるから試食係研勉強していきなさい」

 

 

 このあとみんなで料理をいくつも作りすごい大量の料理ができましたがセット料理で出せばあっという間にさばけていきましたし、定期的にメディアさんが厨房にも顔を出すようになりました。

 

 

 カルデアキッチンの人材も増えてきましたし、これはいいことです。

 

 

 あと、このあと華奈さんの知り合いでアヴァロンにいるという蜘蛛の魔獣に自前の糸で作った布で作ってくれたカルデア調理班のためのエプロンを譲ってくださいました。あの・・・これ・・・私が見てきた中でも最上級ランクの布ですよ。十分に礼装としても使えますし。

 

 

 ほんと、モルガンさんたちがカルデアとアヴァロンを行き来することでだいぶ物資が潤沢になりましたねえ。オルガマリーさんも目を白黒していましたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふふ。ゲームもできるバーにするとは思い切りましたねえおじ様。いやー・・・ワインサイダーとドライフルーツ。甘味がしみます・・・♡」

 

 

 「ビール以外での炭酸を味わってみたが興味深いネ。カクテルづくりにもだがサワー系も増やしてみるよ。それとゲームはエルメロイ君の提案でねえ。ほら、最近はアーマー◯・コア? とか、そういうバーでも合いそうな雰囲気のゲームが多いそうじゃないか。

 

 

 だからせっかくだしと思ってねえ。騒がしくなれば防音の魔術と仕切りを作って静かな時間を用意できるし。私としても楽しんでいるよ」

 

 

 「うふふ。いいじゃない。娯楽に酒と楽しめるのは多いに越したことないわ。にしてもこのカクテル甘くて美味しい~お酒と甘味同時に飲んでいる気分♪」

 

 

 カルデアキッチン、料理研究会の話で甘みが多く作られるようになったり、スパイスが増えたのでお酒にあうおつまみ、酒の種類が増えたので私もモリアーティおじ様のカクテルを伊吹童子様と一緒に味わいつつドライフルーツやナッツ、それ以外では何を出すかの意見交換とついでに飲み会をしています。

 

 

 いやーこのオルガマリー様のお気に入りチョイスのドライフルーツ。いい趣味をしているのも相まって本当にカクテルに合う。

 

 

 「このドライフルーツは所長様のでしょうけど、ビールはシバ様からです?」

 

 

 「そうだねえ。中東、エジプトあたりの自慢のビールです! ってことでこちらに売り込んできて、物がいいからすこーし卸してみたんだよ。今はそこに果実や甘みを増やすように調整したり、栄養価が豊富だから職員等の夜食のあてにどうかなって」

 

 

 「んー・・・ぷふ・・・確かに。あとはビール酵母を使った味付けをするナッツ類もあるのでそっちの開発もしましょうか。沖縄とかの料理類が多分バーの空気や匂いを損なわずに濃い味なのでお酒に合うかも。えーと・・・これですね。あちらのお酒の酵母を使用したナッツなんですが」

 

 

 エジプトや砂漠などの地域のビール。というか基本ビールは歴史的にも栄養補給の面が強かったですし、シバ様の卸すビールもそっち方面が強いんでしょうねえ。ならこれはどうだろうかと日本で見つけたビール酵母を使ったお菓子を一つ。

 

 

 「・・・ホウ。これはいいね。普通の塩を降ったナッツよりも味わい深く塩味も効いている。作り方がわかれば是非是非出してほしいくらいだよ。アルコールは飛ばしてあるんだろう?」

 

 

 「ん~この濃さだとジュースにも合いそう。マシュちゃんとか藤丸君の口にも合うんじゃないかしら?」

 

 

 おお、好評ですね。ふふふ。やはり調理技術や工夫は現代だって負けていないです。

 

 

 「ええ。ノンアルですよ。なので神代の時代のビールを使った栄養たっぷり豆菓子とビールで体に元気をって感じで」

 

 

 「私も元気が出るし華奈ちゃんだいすきよー♡」

 

 

 「うわっぷふ。もーふふふ。私も好きですよ。ささ、これ以外にも一口サイズにしたイカの姿フライとか、海鮮風味の豆菓子。チョコクッキーなど机を汚さない美味しいものを用意しましたし試食、試飲会をしましょう」

 

 

 伊吹童子様の豊満な胸に息をつまらせかけつつも、どうにか三人で和気あいあいと意見を出しつつバーにだすおつまみの種類を絞っていき、残りの方は食堂やバーで提供。

 

 

 したんですが、そこに海賊組と武蔵様たちが音頭を取ってあっという間に酒盛り会場に早変わり。いやー・・・翌日の二日酔いが心配です。神代と楽園の酒も多数で、英霊の作った、しかもモノ作りに伝承、逸話のある私達の作ったものですから英霊ゆえの食での影響も出そうですし。




 華奈は多忙すぎて参加していませんが定期的に厨房に手を貸します。


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ごたごたキャメロット
出会いはいつだって突然


 華奈の知り合いの魔獣や妖精は基本コミカルで優しい。それ以外の凶暴だったり危険な奴らはだいたい星の内海に送り、なかよしは楽園、基アヴァロンに送っています。



 華奈「そういえば、この大根ブレードとネギ。鞘ってあるんです?」


 イグレーヌ「これかしら~?」


 マシュ「(土ですね)」


 藤丸「(土じゃない?)」


 ジャンヌオルタ「(土じゃない・・・)」


 アルトリア「いやいや母上。これはどうでしょう?」


 ストーム1「(ぬか床じゃねえか・・・)」


 ストーム2(大尉)「(ギャグか真面目かわからん・・・)」


 信長「それぬか床じゃね?」


 沖田「それならこれはどうです? 土方さんがたくあん樽ごと買ったときのものなんですが」


 イグレーヌ「あらーこれも良いぬか床。じゃあ、これにはこれを」
 (もう一本の大根ブレードを突き刺す)


 華奈「じゃあ私の大根ブレードの鞘はアルトリア様のこれに」(アルトリアの持ってきたぬか床に自分の大根ブレードを突き刺す)


 華奈「じゃあ、ネギの鞘の方はこれで・・・」
 (水洗いしてから七輪の上において焼いてから醤油を垂らして蕎麦の薬味にする)


 一同(アルトリアたちを除く)「「「「伝説の剣を焼いちゃったー! そして切ったー!!」」」」


 イグレーヌ「あ、予備はあるから大丈夫よ~」


 マシュ「ええ!!? いや、伝説の剣ってそんな安売りするものじゃないのでは!? そして魔神柱の攻撃を弾き返せるネギがこんなに!?」


 エミヤ「この大根とネギは複製(トレース)しておくべきか・・・?」
 


 「ほふぁわ・・・んー・・・フローレンス様のお陰で早起きが楽になりましたねえ」

 

 

 就寝時間を少し早めるようにフローレンス様から言われ、それをしないと鉄拳制裁かベッドが飛んでくることになるので早く寝るようになった結果早寝早起きが楽になるようになった今日このごろ。

 

 

 なので今日はゆっくりと朝食の仕込みをしようと食堂に向かうと既に先客が。

 

 

 「うーむ。やはりメアリー君のカトラスの改造は難しそうだなあ」

 

 

 「もともとフォースブレードやハンマー系列の武装はフェンサーのパワー。まあこれは英霊故にどうにかなるとしても、あのサイズを用いての火力。機構を縮小化、サイズも軽量にするにはもう少し、アルトリア君たちのユニヴァース技術も必須だろう」

 

 

 エジソン様とプロフェッサー様が缶コーヒーをすすり、おっきなチョコクッキーをかじりながら何やらアン様とメアリー様の武装についての改良をあれこれ。EDFの武装をもとにしようとしているんですか。

 

 

 「おはようございますお二人共。ずいぶんとお早いですねえ。それと、改良案で?」

 

 

 「おお、おはよう華奈君。そうそう。EDFの武装技術を学んで、元君も問題なくレイシフトできるともあって二人からの武装強化を頼まれてねえ」

 

 

 「それでエジソンさんといっしょに話をしていたんですよ。アンさんの武装の方はマスケット銃。しかもあのサイズと連射が効くものをほしいと言っていたのでハーキュリーとバウンドガンの銃弾を使って威力、跳弾も思いのままの狙撃もある程度の速射も効く武器を作ったんだけど」

 

 

 「メアリー君のカトラス。あれの改良案で少し苦労してねえ・・・徹夜で語り合って小休止と言ったところだ」

 

 

 「あらら。徹夜ですかあ・・・疲れは大丈夫で?」

 

 

 髪をまとめ、エプロンを付けつつ食材を仕込みつつ味噌汁の用意。案外日本食好きなカルデア職員多いんですよねえ。

 

 

 そしてホント研究畑の人たちは武闘派の英霊とは別ベクトルでスタミナ、体力おばけですねえ。英霊とはいえ疲れに近い感覚はあるはずなのに元気なんですからこの二人。私なら徹夜は少しつらいのに。

 

 

 「なに。常に新鮮な刺激をもらい、その刺激の完成形の武器を使えるゲームを遊べて、しかも人類を救うための研究。むしろ元気マシマシだとも! ただ、それはそれとして口寂しくてね」

 

 

 「ふふふ。そういうことでちょっと食堂でおやつを」

 

 

 「そういうことですかあ。ふーむ・・・じゃあ、朝ご飯も食べていきます? はい。ヨーグルトのメープルシロップ混ぜ。お二人ならチーズバーガーがいいですよね? すぐ用意しますよ」

 

 

 「おお! わかっているじゃないか華奈くん! フレッシュなトマトも頼むよ。銀嶺領地のトマト。あれは最高だった・・・」

 

 

 「いやー助かります。最高級のチーズバーガーが食べられそうだ」

 

 

 ぱぁっと笑顔を開かせるお二人につられて笑顔になり、とりあえずバンズを用意し、ミンチにしていたワイバーンの解凍肉を焼いて塩コショウで味付け、ウチの領地のトマトスライスと、チーズ、ピクルスに、レタス。肉厚野菜たっぷりのハンバーガーに、口の中をリフレッシュするためのりんごも添えて・・・

 

 

 はい。こんなものでしょう。ふふふ。簡単にできて栄養抜群! 女性には少し変えれば一口で食べやすく可愛いサンドイッチにもできるのでいいですよねえー

 

 

 味噌汁に豆腐と、お揚げを入れて、ふーむ・・・いい感じ。ウチの部隊も領地が召喚できたので指揮も上がったしご飯も満足に食べられているし、ふふふ。これならきっといい流れ・・・

 

 

 『ああ・・・やっと、見つけた』

 

 

 「!?」

 

 

 なにか聞こえた声に、そしてゾワッと総毛立つ感触に答えて調理場から飛び出て食堂でチーズバーガーを頬張るエジソン様とプロフェッサー様の前で刀を構える。

 

 

 「づっ・・・!! ぐ・・!」

 

 

 光る馬上槍? みたいな。その全容は見えないがそれを二人からそらしましたが脇腹は貫かれてしまい、ざっくりとお腹が切られてしまう。

 

 

 鈍色の銀色の鎧を身にまとう白馬に、ライオンのような造形の顔が見えないフルフェイスタイプの兜をつけた戦士。

 

 

 『流石ですね・・・』

 

 

 「どういたしまし・・・て!」

 

 

 急に食堂に出てくる不審者はそのまま馬上槍を振るい、私も秋水と桜花で対処するも一撃一撃の鋭さはアルテラ。いえ、技の冴えはそれ以上。

 

 

 「お二人共、避難を!」

 

 

 「いや、私も多少は戦え・・・」

 

 

 「神霊級、戦神レベルです! 急いで!」

 

 

 エジソン様たちも武器を持って対応しようとしますが真面目に感じる武の匂いが凄まじすぎる。攻撃を守る、受け流す余裕もないし、下手に暴れればむしろカルデアが壊されかねない。

 

 

 それに外から感じるドタバタと聞こえる。戦闘音で皆さんが駆けつけてくれる。合流してバックアップしてくれる方が・・・

 

 

 いえ、それを許してはくれないようですね。

 

 

 『・・・・』

 

 

 「チッ・・・ああ、もう・・・頼みましたよみなさん! それと食堂の修理お願いします!」

 

 

 「ま、待て華奈くん一体何・・・を・・・!」

 

 

 槍に集まるとんでもない魔力。それを今ぶつけるだけでとんでもない被害が出てしまう。万が一シバのレンズ、カルデアス、コフィンに被害が出れば人理修復、今後に多大な影響が出る。そして、この戦士らしき相手が出てきた光の孔? はあるまま。誘われているんでしょうけど、ああ、しょうがない。

 

 

 陽炎で思い切り、太陽拳レベルの光を見せて騎士の方ではなく馬の方を驚かせて、そこから馬の胸筋を持ち上げて押し込んで光の孔に入り込んでいく。

 

 

 あ、あれ? まさかの空中!? あ、ちょ。トンネルを抜けたら空って天候どころの変化じゃ・・・これ・・・・やばいぃ!!

 

 

 「(0M0;)うわぁアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「というわけで・・・華奈くんが行方不明になった・・・というよりは、おそらくだけど次の特異点にいる何かの罠に踏み込んでカルデアを守る形になったと・・・」

 

 

 「申し訳ない・・・戦闘向けサーヴァントでないとはわかっていたが抵抗はするべきだった・・・」

 

 

 「いいえ、貴方は悪くないですプロフェッサー。エジソンも気を落とさずに。あれはできる限りの最善手であり、必要なこと・・・聖剣エクスカリバーに匹敵する。いえ、魔力量はそれを超えるであろうものをカルデアの中で放たれればきっと華奈を助けるチャンスすらなかった・・・」

 

 

 オルガマリー所長の言うことも正しい。監視カメラとデータを逆算してもあれを防ぐには華奈くんがあの英霊らしき。いや、神霊レベルの騎士を押し返してしまうほかなかった。相手が光の孔を閉じたのを見てもそれが作戦だったとしても、それが最善だった。

 

 

 「特異点の場所はシバのおかげもあってわかった。だけど・・・結果が安定していない。時代証明が一致しないし、観測そのものができなかったりで今もかなりメチャクチャなんだ」

 

 

 「うん。そこは私もアルトリアたちにも手を尽くしてもらったけど、ユニヴァース。星間航行ができるほどの超演算技術を足してもできない。この万能の天才に、そして異世界の超技術を持ってもだめ。華奈くんの存在はどうにか観測できるがそれも銀嶺隊に領地、ストーム1や契約している英霊とのパスを繋いでようやく。そこから出る結論は・・・今回の観測場所はカルデアスの表層に存在しない場所。いや、抜け落ちつつある場所になっている」

 

 

 しかも、その場所はメチャクチャな状況になっていると来た。全く頭の痛い話が続くものだよ。

 

 

 「さらに言えば、観測できないということは人理の流れから外れつつある。ありえないはずの、あってはならない歴史になりつつあります。これはカルデアの今までの特異点の戦いの中でも異質も異質。放置してしまえばゲーティアの人理焼却をリセットできたとしても、とんでもない被害を追うことは確定」

 

 

 「其の上で華奈を狙う、聖剣レベルの武器を持つ槍使いがいる。アメリカ以上に予想もできず困難なものになる。何もかもが特殊ということだ・・・はぁあああ・・・・・・・・」

 

 

 いつもは軽いふるまいのシバも流石に義妹の、しかもアメリカでの大立ち回りを見た華奈くんがいない。そしてこの特異点の状況を観測、割り出した分だけ異常さがわかるロマニは頭を抱える。それもそうだろう。

 

 

 ただ、その中でバァンと机を強く叩く二人の女性。アルトリア、モルガン姉妹だ。

 

 

 「そんなことはどうでもいいです。どんな場所だろうと姉上を拉致した相手は殺す。それだけです。急いでレイシフトは、特異点にはいけないのですかロマニ!!」

 

 

 「そうです。私の魔術でも何故か観測ができない、故に機材を買い込んでカルデアの設備を整えました。それの成果が出ないというわけではないでしょう? さあ、急いでいきましょう」

 

 

 見る人が、いや私も含めてほとんどが寒気を感じるほどの殺意を見せつつ急いでレイシフトに行こうとする二人。この二人の声はカルデアの全員の声の代弁者であり、しかし周りがどこか尻すぼみするのもわかる。

 

 

 正直言って今までカルデアのこの破竹の勢いは華奈くんとストーム1くんらの立ち回り、戦術に物資に戦略。あらゆる面で支え、その実績が大きな精神的支柱となっていた。

 

 

 みんなや現地の英霊の協力込みでだが冬木ではアーサー王を撃破し、オルガマリー所長を救い、フランスでは敵サーヴァントを多数撃破。邪竜すらも退けた。ローマでは魔神柱にアルテラを倒し、オケアノスではあのヘラクレスを罠にはめて毒殺。ロンドンでは魔神柱8本を瞬殺。アメリカではクー・フーリンにメイヴ、28本の魔神柱を倒してしまう。

 

 

 カルデア内でも藤丸君の良き師匠、マシュの寿命問題を解決。オルガマリー所長の心の棘を抜き、礼装や武装も英霊に通用するものをストーム1君の武器を複製して用意。美食に読書に娯楽に物資問題解決のための人手を用意して自分でできない、足りないものは専門家に任せて手っ取り早く解決していく。

 

 

 『軍隊っていうのはいわば市民全員が武器を持って移動する町。故に色々できるようにしていくべき』という言葉と軍は兵站第一、準備第一という理念で動くので用意はバッチリ。特異点の状態にも対応できる柔軟性。必要なら人に丸投げして協力を取れる。そんな人材が抜けてしまったのだ。

 

 

 かといって特異点に全力を向けようにもゲーティアが未だに観測できないゆえに難攻不落になっているはずのカルデアに入り込めたあの槍兵を警戒して最低でもマスターを置くべき。ならオルガマリー所長をおいておくという話はまとまっていて、藤丸くんとマシュちゃんの二人と英霊に任せることへの不安。

 

 

 カルデアの守りをしつつアメリカ以上に特例づくしの、何が起きているかも何が起きるかもわからない場所に放り込むべきか。余計に戦力を失うのではという不安。それにフォローをできる一番の人材の欠如。困難と不安と例外づくし。だからこそ特異点に行く。その一歩が踏めずにいた。

 

 

 それに、カルデアスとシバのレンズ以外にも華奈くんに任せてもらっている「例のアレ」を守り抜くには戦力は多く割けないし・・・まいったね。やっぱり軍事関連は華奈くんに任せていたからこういうときの采配は鈍る。この天才ダ・ヴィンチちゃんとしたことが。

 

 

 「申し訳ありません。お待たせしました!!」

 

 

 戦力采配をどうするべきか。迷ってたときにブリーフィングに参加が遅れていた元君と後ろには改造された銃を持つアン君とエレナ君がそこにはいた。

 

 

 「レイシフト適正増幅礼装の最終調整が終わりました! カルデアの4番めのマスターとして、藤丸君のサポートとして源 元 参加できます! 是非私を入れたうえで再度会議をお願いします」

 

 

 「ふふふ。会議が止まるときにナイスタイミングだよ元君! いやあー流石華奈くんの『家族』だ!」

 

 

 こんなときでも君の縁が君を救うとはね。まったく。無事に生きていてくれたまえよ。華奈君。準備を早めてすぐにでも向かうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あだだだ・・・・ペッペ・・・ひぇー・・・死ぬかと思いましたぁ・・・」

 

 

 あの騎士といっしょに空にほうりでたあと、空中戦、カルデアではないので気にせず斬撃と組討をしてどうにかこうにか落下しつつあの騎士を城塞都市の方に蹴り飛ばして自分もその反動で砂漠に落下と言うか、墜落しつつ一時的に逃げることができました。

 

 

 ただまあ、その際にも体には傷ができたし、脇腹の傷は妖精の宝石箱から魔力を水に変えるアクセサリーで傷口を洗い、医療用瞬間接着剤で傷口にたっぷり塗ってくっつける。

 

 

 「あづづづうぅぅうううう・・・・!!! うぅ・・・染みる・・・はぁー・・・体に傷が増えましたねえ・・・」

 

 

 人理焼却が始まって以降アルテラ、頼光様、そしてこの槍兵と本当に規格外ばかりとやり合うのと治療がままならない、治療しても残る傷が増えてすっかり傷だらけ。一応きれいな体だったはずですが、はぁー・・・頼光様のきれいな体とは反対にボロボロです。

 

 

 ただまあ、生きていれば儲けもの。カルデアの方には戦力を残すためにもここに銀嶺隊を呼べないですし、どうにかここの状況を知るために動かないと・・・

 

 

 「む・・・? あれは・・・」

 

 

 どうにか歩けるので砂漠を歩いていると女性を取り囲むマスクをしてボロボロの布をまとい、刃こぼれの激しい剣を持つ連中が。

 

 

 追い剥ぎ・・・いえ、殺す気でしょうねえあれ。

 

 

 「おーい! 待ちなさい! あだだっだだ!! その女性をどうするつもりですか。なにか恨みでも?」

 

 

 「チガウ・・・食う・・ころす・・・乾いた・・・ああ、うまそうな女が増えた・・・きヒヒヒ!!」

 

 

 「あ、あの・・・感謝します・・・って貴女も傷が・・・! しかも・・・」

 

 

 「気にせず・・・しかし・・・屍鬼になりつつある人間・・・それほどに厳しい場所・・・と・・・ふぅ・・・しょうがない。一つ、いえ、二つ人助けをしましょう」

 

 

 私の傷を気に掛ける女性。いえ、英霊は美しい小麦色の肌にきれいな黒髪を長く伸ばしいわゆる姫カット? に左右対称に白いリボンと美しい大輪の花飾りをしているスレンダーな美しい肢体を包む純白の衣装に黄金の装飾。間違いない。あの方の妻。あの太陽神、神王が敬愛したネフェルタリ様その人。

 

 

 これは、必ず救い出し、そして届けなければいけませんね。あと旅の仲間が増えそうで嬉しいです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて・・・ようやく送り出す準備ができた。今回の場合、カルデアにも防御を置かないといけないので少数精鋭になったが・・・大丈夫だね?」

 

 

 「はい、いつでもいけます!」

 

 

 「私のほうが特異点攻略は後輩。藤丸くんを支えつつも最終決定は基本従いますよ。よろしくねみんな」

 

 

 「もちろん! お母さんを助け、必ず特異点も攻略してみせます!」

 

 

 「母としてマスターを守れぬ不覚は取り戻し守り抜くことで取り返します。金時。留守は任せましたよ」

 

 

 「なぁに。かの武人頼光にこの私。そしてメンバーもこれならきっと大丈夫だろう」

 

 

 「うふふ。この新型の銃の性能テストをしつつサクッと華奈さんはお救いしますわよ♪ それに、華奈さんは海賊視点で見てもそうそう死ぬような人じゃないですし、きっと大丈夫でしょう」

 

 

 「未知の探索に仮定を組みつつの対応ね。アメリカとは理由が違いすぎるけど仮定、仮説を考えて挑む、調整するのは探求者としての本分。カルデアの支援が多くを望めない分は私達キャスタークラスが補うわ」

 

 

 あれから数日。どうにかこうにかレイシフトの準備を整え、持ち込めるだけの支援物資を前もって用意しての日々。ようやくレイシフト準備がスタート。今回挑むメンバーは藤丸君、マシュ、元、アン、エレナ、頼光、そしてこの私ダ・ヴィンチちゃんだ。

 

 

 ストーム1、アルトリア、モルガン等には華奈の用意や帰る場所を守り抜いてほしい。ここが潰れたら本当に終わりだと懇切丁寧に、粘り強く説得してどうにかこうにか守りに行くことで納得。あと、銀嶺隊に領地が消えていないのもあってまだ生きているという状況証拠が最後の一押しになった。

 

 

 とはいえ、イグレーヌは号泣して取り乱し、紫式部は泡を吹いて気絶。栗毛にハチたちや魔獣も混乱してと本当に皆を落ち着かせるのが大変。

 

 

 それでもようやく終わり、特異点に。13世紀のエルサレムにレイシフトできる。私の、ロマニの親友を、大事な仲間を助けに行けるんだ。

 

 

 「フォー!! フフォオオ~ウ!!」

 

 

 フォウ君もマシュのコフィンに入ってやる気満々。ふふふ。さあ、急いで救いに行こう。遅くなったけど、何があるかわからないけど、それでもかならず行くよ。




 謎の乱入者。一体誰なんだー(棒)


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いざ砂漠へ

 あ、そういえばですが華奈のいる世界ではアヴァロンでバーヴァン・シーは元気に生きております。素直で優しい子で基本はイグレーヌたちと一緒に農家をして馬やオオカミたちと戯れております。


 「ふぃー・・・・はぁー・・・・お腹の傷が開かなくてよかったぁ」

 

 

 「お、俺は一体・・・も、申し訳ねえ! 騎士様に高貴な方!」

 

 

 屍鬼になりかけていた連中に陽炎をフラッシュバン代わりに使ってくらんだ間に刺突で斬撃を飛ばしてかすり傷を作りつつ屍鬼化の状況を浄化しておいてみれば記憶はあるようで皆様即座に土下座。

 

 

 「まあ・・・屍鬼になりかけていた人をあっという間に・・・すごいわ! 貴女。名前は?」

 

 

 「私は華奈。しがない剣士です。さてさて・・・ふぅー・・・その剣をもらいますよ」

 

 

 「私はネフェルタリ。よろしくね。? 何をするの?」

 

 

 ネフェルタリ様と挨拶をしつつ、土下座している人から剣をもらい、刀で刀身を三つに縦に切って真ん中で金属の棒にしたものを折り曲げる。

 

 

 「ふむふむ・・・・・・お、すぐですね。ここですか」

 

 

 ダウジングロッドを即席で作り、すぐに水脈を発見。表の地面はひどい有り様ですが、やはりあるものですねえ。

 

 

 深山を突き刺して地面をいじくって地面に穴を開けてしまえば・・・

 

 

 「ふふふ。やはりあるものですね。しかもやはり豊富でしたか」

 

 

 大地は焼け付いている。文字通りの荒れ地。炎が舐めたあとのようですけど、それでも早々に大地は死なない。底力はまだありますね。

 

 

 「ぉおおおおお!!! 水、水だー!!」

 

 

 「わぁあ・・・! こんな荒れ果てた場所で水を!?」

 

 

 「まだまだありますよ。えーと・・・」

 

 

 妖精さんに渡されていた豆菓子に加工するように持ってきていた種。火を通していないのと、何でも水と土があればサイバ◯マンレベルですぐ成長するとか。

 

 

 水の湧き出る場所の一部で豆を数粒植えてみれば・・・おぉ・・・ト◯ロかな? すっごい伸びる。伸びますねえ!

 

 

 で、すぐに実をつけて、青々とした果実が鈴なりでたっぷり。ふむふむ。味もいいですね。私も魔力補給したいですし、血肉を補給するためにも何個か持っていきましょう。ネフェルタリ様の分も・・・

 

 

 「皆さん、この水場と果実は譲るんですが、ここの場所でなんというかー・・・大きな勢力を持つ人らって知っています?」

 

 

 「はぐうぐ・・・うめえ・・・うめえ・・・お、おぉ・・・そうだなあ・・・ここから東に行けばなんだ。聖都という場所があって、騎士たちがいるらしい。で、西の方に行けば、まあすぐ分かるだろう。

 

 

 太陽王という奴らが支配する砂漠があって、その奥に太陽王というやつがいる。ただ、そこは砂漠と砂嵐がうずまき、人食いの獣も当たり前にいる場所だ。とてもじゃあねえが。いかないほうがいい」

 

 

 「太陽王・・・それはファラオの・・・そして・・・」

 

 

 「神王、あの方がいるかも知れませんね。ふむ。感謝します」

 

 

 泣きながら水を飲み、果実をかじる人らに話を聞くと、多分私がここに落下しながらあの槍兵を馬ごと空中で蹴り飛ばした場所が聖都。あれは派手だったと、方向的にも多分あっている。

 

 

 で、もう一つが砂漠に住まう太陽王。王を関するもので太陽を名乗るとなればファラオなどのいわゆるエジプトの王様たちがいるはず。

 

 

 ネフェルタリ様もそれを考えていたようでにわかにソワソワ、目をキラキラさせています。

 

 

 「ネフェルタリ様。私はこの特異点を解決する役割を持つカルデアという星見の組織の武官であり英霊と思ってください。そして、その上で貴女様を護衛して、太陽王に会いに行こうと思いますが、いかがします? 危険な旅路ではありますが」

 

 

 「是非! そして、私もサーヴァント。英霊ですが貴女ほど、華奈さんほど強くはないです。砂の民であり、その女王としては恥ずかしいですが、どうか一緒に・・・!」

 

 

 「お、おいおいおい!! 待ってくれ騎士さんに王女様! あそこは危険だ! それよりは聖都に行くほうが! 俺達も恩を返したい・・・!!」

 

 

 「ま、まて! 化け物たちが来るぞ! それに強盗も!」

 

 

 はぁー・・・水に果実の匂いにつられて少ない餌を求めに来たであろう化け物・・・む? バイコーンの類に、トカゲ、ヘビのたぐいですか。それに強盗は・・・屍鬼ではなく人間のまま。うん。殺しましょう。

 

 

 さてさて~・・・ふぅ・・・暴れさせてもらいますよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えーと、この肉はこうして焼くと美味しいのと、これはこうやって、ああ、骨の方はこうして使うとかごにできるので果実を持っていくときは使うと良いでしょう」

 

 

 「あ、ああ・・・いや本当に・・・強いなあ騎士さんは・・アンタ一体、何者だい?」

 

 

 結局手負いの私でも数分かからず仕留めきれたので皆さんに手伝ってもらってその場で猛獣魔獣化け物は解体して皮と骨で果物をいれるかご、牙や爪、角で簡易なナイフや槍、投げ槍。を作ってから皆さんに采配。

 

 

 「華奈。あーカルデアに所属している騎士ですよ。ささ、乾燥させてないので重いですがその荷車で水と食料を持って聖都、そこに集まる人らのいる周辺の街、集落で商売でも家族にでも分ければいいでしょう。

 

 

 お待たせしましたネフェルタリ様。行きましょうか」

 

 

 「ふふふ。いえいえ。動物の毛皮や骨の加工。お見事でしたよ。そして、これからどうかお願いします」

 

 

 「ではでは。栗毛ー」

 

 

 果実と水で体力も気力も魔力も回復できたのでなんとか呼べそうな栗毛を呼んでネフェルタリ様を乗せて、荷物、もとい食料と水を持っていざ出発。

 

 

 「ありがとうよ騎士さん、女王様!! アンタたちは救世主だ! 必ず恩は返すぜ~!!」

 

 

 屍鬼になりかけていた人たちとも別れの挨拶と手を降ってから互いに反対の方向に歩きだしていざ出発。

 

 

 栗毛に心配そうに舐められたりしましたが大丈夫ですよ私は。

 

 

 「あ、待って待ってー!! ねえ、そこのお二人ー!!」

 

 

 歩いていると、後ろから女性の声が聞こえ、振り返ると白ビキニに法衣? をつけて手には錫杖を持つナイスバディの美女。そしてその後ろからついてくる。緑髪の筋骨隆々で和装を纏う弓を背負う快男児。ついでに脇には米俵を抱えている。

 

 

 「はぁ・・・はぁ・・・いやー間に合った! ねえねえ。さっきの立ち回りと、見事な人助け! 刀を地面に突き刺して水をわかせて、大樹を育て果実を実らせるその絶技!

 

 

 神通力の類でしょう!? 私達と一緒に旅をしましょう? 私も今から西に向かうところなの!」

 

 

 「おおう。待てい三蔵殿。そこのお二人にも予定がある。流石に急に頼むのは失礼であろう。拙者は俵藤太。見ての通りサーヴァント。クラスはアーチャーだ」

 

 

 「あ、そうよね。まずは自己紹介から。私は三蔵法師。気さくに三蔵ちゃんって呼んでね!」

 

 

 おぉう・・・ビッグネーム。日の本の東国における武芸の開祖。龍神すらも困り果てる大百足も退治した伝説の戦士。そして、日本人だと西遊記などが有名ですが仏教の教えを広く広め、学問のために命をかけた大旅行をしたまさしく仏徒の鏡の三蔵法師。いやあ・・・思わず頭が下がるというものです。

 

 

 「私は華奈。しがない騎士をしています。こちらはネフェルタリ様。あるファラオ。あー・・・王様の妻であり、これから砂漠の行く先にあるという太陽王の神殿にそのお知り合い、もしくは旦那様がいるかもということで旅をしようと思います」

 

 

 「私はネフェルタリ。華奈さんの紹介通りあるファラオの・・・ラーメスの妻なの。それで太陽神がいるという場所にもしかしたらと思って。良ければご一緒します?」

 

 

 「うんうん! 旅は愉快でないといけないからね! 一緒にいきましょう。GOGO!!」

 

 

 私だけでは少し不安だった砂漠の旅。これはいい感じになりそうです。あ、そういえば砂煙からネフェルタリ様を守るために先程始末した盗賊から頂戴して水洗いしておいた外套と、砂よけの加護のあるボタンを外套の留めに使ってと。

 

 

 いざ出発。途中三蔵様に自分も栗毛に乗せてほしいと言われましたが食料と水があるので拒否。駄々をこねましたが修行と思いなさいと言っておきましたら素直に歩いてくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「~♪ ~~♫」

 

 

 「ふぅーむ。良い音色だなあ。華奈殿。ふふふ。心地よい」

 

 

 「ねー。その歌。なんて歌なの?」

 

 

 旅の中ただただ歩くだけなのも暇でしょうし、先程始末しておいた奴らの肉体や素材、樹木で作ったギターとオカリナとハーモニカ。これらで演奏をしつつ。ワイルドアームズシリーズの音楽を弾いていましたが皆さんすごくいい感じ。

 

 

 「あるゲーム。遊びの曲ですね。ふふふ。うーん。せっかく西に向かうのです。新天地を目指すアメリカの曲と、そうですねえ。三蔵法師様と、孫悟空のことを歌った曲でも奏でましょうか? どちらも歌い手は男性なので私の声ではあれでしょうけど」

 

 

 「まさか。すっごく上手で聞いていて楽しいもの! 是非聞かせてほしいわ華奈さん。栗毛も急かしているわよ?」

 

 

 「私も~! 旅の中でこんなにきれいな音楽を聞ける機会はなかったもの。お願い!」

 

 

 「ははは。華奈殿は多芸だのお。拙者からも是非。風よけにはなるのでな。頼む」

 

 

 藤太様が前に出て私とネフェルタリ様を風から守りつつ警戒をしてくれるのに感謝しつつ、じゃあ。ということで「GoW◯st」と「モンキーマ◯ック」を演奏しつつ砂漠の旅を満喫中。なんでか人食いの獣もワイバーン以外はてんで襲われないので楽ちん楽ちん。

 

 

 これ以外にも知っている。演奏したことのある曲を弾いたり、吹いたりしつつ旅を続けていましたが、いつの間にやら夜。

 

 

 あれほど暑かったというのに、夜になると砂漠はとたんに極寒地会へと早変わりするのが恐ろしい話。

 

 

 深山で砂漠の中から巨岩を取り出して、かたなでくりぬいて、かまくらに煙突を付けて砂が入らないように工夫をしてから中で焚き火を囲む。

 

 

 焼き肉に果物の飾り切り、少し味気ないと思いましたが旅先で水は貴重品。多くは使えません。

 

 

 「いただきます。はぁー・・・みずみずしい。染みるわぁ。はふぅ・・・お肉は食べられないけど、これだけでもいいわ」

 

 

 「食べていいのでは? ふふふ。私が徳を積むと思い、そして旅を続けるためにもどうでしょう?」

 

 

 「え!? い、いやでも・・・」

 

 

 「うーん。例えばですね三蔵様。三蔵様は『不殺生戒』を守り、そして今は私から食事をもらいましたよね? いわゆる托鉢です」

 

 

 まさか三蔵様に仏教の話を説くとは思いませんでしたが、そうでもしないと下手すれば太陽王の神殿でもなにか起こしそうですし前もって言っていくべきですかねえ・・・多分、英霊としての使命というのも無意識に感じていそうですし。

 

 

 「そうね。実際この果実も、肉も華奈ちゃんが私にくれたものだし」

 

 

 「これはいわば『三種浄肉』に当たるものだと私は思いますので三蔵様は戒律を破っていないと思います。そして、三蔵様も修行の際に『乞食(こつじき)』をしたでしょう?」

 

 

 実際、私が魔獣たちを殺して解体したあとに猛ダッシュで追いかけていたのでころすさまを見ていないので戒律は破っていないでしょうしね。

 

 

 「ええ。その際に托鉢もしたわね。というか似たような感じかも?」

 

 

 「その際に例えば私は果実がありますが、肉だけしか今はない、お肉屋さんの場合、その肉を、僧侶様に功徳を積むため、また真心から渡したかったのに断るわけには行かないでしょう?」

 

 

 「う、うん。そりゃあ食べ物を分けてくださる方の御心を粗末にするのはだめだもん」

 

 

 「だからこその『中道』だからこその『不殺生戒を破っていない三種浄肉』なら食べてもよいはずです。それも許可する戒律は仏様の教えであるはずですし。砂漠の夜は冷えてしまうもの。お肉でお腹から温め、焚き火で体を温め、そして楽しくみんなで過ごして心を温めましょう?」

 

 

 そう言ってシンプルな塩だけで味付けした肉のスープを三蔵様に渡せば笑顔で受け取って食べてくれました。

 

 

 「いやーすっかり戒律に縛られすぎていたようね私。中道。そう。それが大事! 華奈。忘れかけていた教えを思い出させてくれてありがとう! そしていただきます。んー・・・はぁー・・・ほんと・・・すっごく美味しい・・・

 

 

 華奈ちゃんも藤太といっしょに私の弟子にしてあげる! まさか仏教に理解の深い子がここでも出会えるなんて!」

 

 

 「ええ!? いや、私八百万信仰・・・あーいや、それならむしろ弁財天や多くの神様が御仏様と関わりありますし、まあ。いいですかあー」

 

 

 「ははははは。まさか騎士の華奈殿から三蔵の意見を変えるほどの仏教の戒律を聞くとは思わなんだ。お礼に今度水が豊富な場所では是非拙者の無尽俵で美味しいお米を馳走すると約束するぞう!」

 

 

 まったく愉快な人達です。っとネフェルタリ様の方にも気を向けてみれば何やら興味深げに目を見開いて果実をかじったまま口が止まっています。

 

 

 「あれ? ネフェリタルちゃん? 大丈夫?」

 

 

 「はむっ! あ、ああ! はい。いえ。戒律や教えとか、そういう話を聞くとモーセを思い出して・・・三人の話がすごく面白いのもあってついつい」

 

 

 ああ、そういえば時代的にも確か既知の仲、そしてその話しぶりだと、ふふふふ。大事な友だちだったのでしょうねえ。宗教などの違いはあれども垣根を超えた友情。いいものです。

 

 

 「ふふふ。可愛いですねネフェルタリ様。ふーむ・・・では、そうですね。より良い生き方を教え、そして色んな人と優しく過ごすのが仏教。その開祖ブッダ様のお話でもします?

 

 

 それとも三蔵様のお話をしましょうか? 音楽でもいいですよー」

 

 

 「じゃあ、ブッダ様? のお話のあとに音楽をまた。今度は優しい曲をね?」

 

 

 このあとはブッダ様の話をして、あの方の功徳、戒律のたとえのわかりやすい例えを教えて、私と藤太様で即興演奏をして、月が頂点に上ったところで私とネフェルタリ様は休みにつきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてさて・・・あの人達の言う人食いの獣も数が少ない。スフィンクスが見えてきたのでまあ、ファラオの誰かがいる・・・でも、あの神獣を従えられる人なんて真面目に神代のファラオの中でも一握りでしょうね」

 

 

 「あの遠目に見る人の顔をした獣? へー神獣なのね。じゃあ、私の言うことも聞いてくれるかな? 私、一応仏僧だけど」

 

 

 「いやいや、宗教と主が違うだろうに。怒られるだけで済まんぞ三蔵殿しかし、そうだなあ。人食いだの死の砂漠と言うには穏やかだ」

 

 

 「私の存在。でしょうか・・・?」

 

 

 「おそらく」

 

 

 そりゃあ、ファラオの妻。その方のそばにいる聖者と竜神のかごを持つ武芸者に、私は・・・まあ、特になにもないですがネフェリタル様の馬を引くものですし、いわば従者。頭もいいので多分下手に手を出したらやばいと理性と本能でわかっているのでしょう。

 

 

 なのでそのファラオの子飼い? ではないであろう、砂漠に住む魔獣たちを蹴散らしつつ進むだけでいいのですが、進むことしばらく。ブワリと風が強く舞い、空にはスフィンクスが私達の進路の前に。その上には英霊の気配が。

 

 

 「そこの侵入者! 昨晩はほっておいていましたがこれ以上の侵入はこのファラオにしてホルスの化身ニトクリスが成敗しましょう!」

 

 

 降り立つスフィンクスの上に立つ紫髪のロングヘアに、長いケモミミ? を持つ美少女で、三蔵様に負けず劣らずの格好。手に持つ杖と感じる空気はなるほど神代の時代のファラオ・ニトクリスと言っていいのでしょう。まず女性のファラオ自体が少ないですしね。

 

 

 三蔵様たちがなにか言う前に私のほうが前に出て頭を下げて両手を前に出しつつ拳を握ることで無手。何もしないことを示しつつ言葉を紡ぐ。

 

 

 「申し訳ありませんニトクリス様。私は神王オジマンディアス様の愛妻ネフェルタリ様をここの主。太陽王様たちの庇護のもとにあるべきと考えて来た次第です。そしてその神獣とニトクリス様。ファラオがいるのなら是非、ここの主に謁見を願いたく」

 

 

 「なっ・・・! 嘘を言うな不敬もの! この先におわすファラオに対しても無礼千万! これ以上その頭を上げるな! そのままスフィンクスに踏み潰させて・・・」

 

 

 「お待ち下さいファラオ・ニトクリス様! 私は確かにネフェルタリであり、オジマンディアスの妻です! そしてその騎士は私を守ってくれた恩人。嘘であるのならアビス神の天秤を用いて神殿の中で容赦なく殺せばいいこと。どうか私達を通してください!」

 

 

 外套を外して素顔と衣装を見せるネフェルタリ様。その振る舞いや空気に何かを感じたようでニトクリス様と、私の頭の上に今にも踏み潰そうとしていたスフィンクスの動きが止まる。

 

 

 「うぅうむ・・・・いや、しかし・・・ですが万が一というのもある・・・それに、よく見ればなにかの加護を持つ武者に、破廉恥な見た目ですが聖人と見受けられる女・・・くぅ・・・ぐくぅう・・・

 

 

 ・・・いいでしょう。では、その言葉の真偽は我らが神王の前で裁定を下しましょう。付いてきなさい」

 

 

 私の頭を覆う影が消えて、スフィンクスはくるりと向きを変えてニトクリス様は付いてきなさいと言う。いやはや、流石にここで切合いは流石に勘弁なので良かったです。竜種を超えるときもある神獣との喧嘩は傷がまだ癒えていないのもあって少し手間取るかもですし。

 

 

 ふぅ・・・どうにかついていけばなにか巨大な建物が見えてきました。さてさて。神王様はいらっしゃるか、あるいは別のファラオか。 




 というわけで4人で砂漠の旅。そして、早速次回神王に出会います。


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三組目の夫婦再会

 この方を調べれば調べるほどなろう系だの何だのの無双ぶりも小さく思えるほどの傑物ですよねオジマンディアス。平均年齢が4,50歳くらいと言われていたあの時代のエジプトで90歳以上生きているって、リアルドクターくれはですよんなもん。


 出来れば弓に関する逸話もあるのでアーチャークラスも見てみたい所存。


 「「おぉおお・・・・」」

 

 

 「いやはや・・・流石ですねえ・・・変わらず・・・」

 

 

 「はぁああ・・・・ああ・・・間違いないわ・・・これは・・・」

 

 

 ニトクリス様に連れられて付いたとんでもない巨大な建物。太陽の光を浴びて輝くそれは光輝織りなす白と金を貴重とした美しく荘厳な神殿、ピラミッドの建物。オジマンディアス様の宝具の一つである『光輝織りなす複合大神殿』愉悦部員時代に見て以来焼き付いていましたがそれを思い起こしそしてリンクさせる。

 

 

 ネフェルタリ様の方もまた外套を被り直してその大神殿を見てオジマンディアス様がいると確信。頬を赤くして目を輝かせつつ歩いていきます。

 

 

 「さて・・・一応わかっているとは思いますがここからはファラオの法具であり大神殿のなか、あなた達を殺そうと思えば即座に神代の毒で溢れさせることもできる。生殺与奪は思いのままです。

 

 

 直々にファラオ自らに私が頼み、裁定をしてもらう。故に、余計な考えは一切しないように。中に入ればもう、あなた達はあの方の気分一つで死ぬのですからね」

 

 

 ニトクリス様の言う事に嘘偽りはない。実際にこの大神殿一つをとってもとんでもない要塞の宝具。偉大なる太陽王、神王の住まいなのだから。

 

 

 「ほほう。いや早胸が踊るというものだ。それほどの偉大な王。一目見れるのならその場で心でもいいかも知れないのお」

 

 

 「ちょっと藤太! 私は出来れば御仏の教えを広めつつ、この特異点を解決したいのにー」

 

 

 「あはは。まあ、きっと大丈夫ですよ。ささ、進みましょう進みましょう」

 

 

 とりあえず入るべきということで中に入り、いちおう荷物、私の刀に藤太様の弓は今は出すなということで消しておき、中も最初から最後まで豪華たっぷりな内装を歩いていくことしばらく。

 

 

 その玉座の間は陽光が心地よく刺し、玉座に座る褐色肌の巨漢。整った顔立ちに宿る覇気は尋常ではなく。眠そうな顔だけどもその体を、顔を光が包みこんでいるように見える。

 

 

 ああ・・・元気そうですねえ・・・ふふふ。良かったですよ。

 

 

 「いいですか怪しき旅の者たち! 傲岸不遜、不敬の極みにもファラオの中のファラオ。このお方の関係者を名乗るその言葉の是非を正すためにこうして今王への謁見の場を用意しました。平伏なさい!」

 

 

 「オーッホッホ!! そうよ。偉大なる太陽神。我らがファラオの前で、その領地でこのようなことを言うなどその場でその身を切り刻まれても文句は言えない所業。それでも英霊。サーヴァントだから手に入れたこのチャンス。

 

 

 せいぜい私達の美貌と神王様の尊顔を見ておくといいわ」

 

 

 緑がかった髪の毛に独特のジャケットを付けたスタイルの良い美女。あれ。もしかしてクレオパトラ様ですかね? ファラオということで、呼ばれていたのですかあ。

 

 

 「・・・ふぅむ・・・眠いな。余は、とても・・・む?」

 

 

 眠そうにまぶたをこするオジマンディアス様がゆるりと目を開け、息を吸ってから私達を見る。

 

 

 「・・・・・・・・余に対する謁見か? ニトクリスよ」

 

 

 「ハッ! 不敬にもこの者たちファラオ・オジマンディアス様の関係者を騙ると思わしきものでして。しかし英霊でもあるので確実な裁定を頼むためにこうして連れてきた次第です!」

 

 

 「そうか・・・そして、不敬なのはお前だ。ニトクリス。そしてクレオパトラよ」

 

 

 「えっ!?」

 

 

 「なっ!?」

 

 

 眠そうに玉座で姿勢を整え、配下に用意させてきたであろうビールを飲んで眠気覚ましの一杯と言わんばかりに豪快に煽り、鋭い金色の目をしっかりと開いていく。

 

 

 「久しいな銀狼よ。黄金の部員とやらの集まりで飲み会をした以来か? 相変わらず変な傷を作るわ知り合いを増やすわで忙しない女だ。その美貌も変わらずのようだな」

 

 

 「ふふふ。そちらこそご健勝何よりですオジマンディアス様。偉大なる太陽神。本日は私よりも、この方に関しての話がありまして」

 

 

 私の方もまだ、外套の影で顔を隠しながら。というか自分をシルエットにしか見えないように体を隠しながらサプライズをしようとしているネフェルタリ様を連れて前に出る。

 

 

 「ほう。ニトクリス。この女。銀髪の方だな。は銀狼。余の認める剣士であり、変人だ。そして・・・・・・・・余はまだ寝ぼけているわけではあるまいな?」

 

 

 「は、ははっ・・・!! それは大変失礼をいたしました! まさかオジマンディアス様の認める戦士とは・・・! そして、ええ。オジマンディアス様の体はしっかり覚めているかと!!」

 

 

 「そうか・・・なら・・・そこの外套を被った者よ。外套を外し、余に顔を見せい・・・」

 

 

 「ええ。ふふ・・・久しぶりですね。ラーメス。また会えるなんて」

 

 

 外套を外して私に預けて一歩一歩玉座へと上がっていくネフェルタリ様。そしてネフェルタリ様が近づくたびに。視線に入り、距離が近くなってそれが現実だと何度も反芻しているであろうオジマンディアス様も玉座から立ち上がってネフェルタリ様が玉座に登りきったあとに二人で熱い抱擁を交わした。

 

 

 「ああ・・・ネフェルタリ! 余は会いたかったぞ! 銀狼殿が運んできてくれたのか!」

 

 

 「はい。私がこの特異点に召喚されて屍鬼化しつつあった集団に襲われそうになった時、すぐさま傷を追っていた華奈さんが駆けつけて屍鬼になりかけていた人らを助けつつ私を守り、三蔵ちゃんと、藤太さんと一緒にこの砂漠の旅の間ずっと」

 

 

 「そうか・・・何もされてはいないな?」

 

 

 「ラーメス。私の瞳と顔を見てそれを言わせますか?」

 

 

 「いや・・・失言だった。取り消そう。では、楽しかったか?」

 

 

 「ええ! すっごくみんないい人で、こんな人とも知り合いだなんて流石だわ!」

 

 

 そして二人でのイチャイチャタイムに私と三蔵様、藤太様は満面の笑み。ニトクリス様とクレオパトラ様はポカーンとしたあとにガタガタと顔を真っ青にしながら震え始めました。

 

 

 「くは、くはははははははははははははははは!!!! はーっははははははははははははははははははははは!! ああ、そうか! フハハハハハハハハハ!! ああ、そうだとも。余は偉大なる太陽神! 神王であるのでなあ! ネフェリタルの認める戦士は知っているとも!!

 

 

 銀狼殿。そして異邦からの戦士に聖者よ。まずは余からの感謝を。余の領外では今人理焼却。いや、抜け落ちつつあるというべきか。それもあってあの時代にあってあの時代にあらずな危険な状態。そして、砂漠もまたスフィンクス以外にも危険な魔獣はいる。

 

 

 そのなかでネフェルタリに指一本、毛先ほども触れさせずに守り抜きこの美しき美貌を隠し通して届けた判断。良きものだ。そして重ねて銀狼殿。そなたの特異点修復の旅は見ていた。中々の戦士だと見ていたが今回のこの件でますます余は貴様を認めるほかない! 偉大なる勇者であり、余の妻を守り抜いた功績。ああ、最高だとも!!!」

 

 

 「褒められた? これって処刑とか、死刑はないってことよね?」

 

 

 「戯けぇ!! 余が妻を無事に送り届けた銀狼殿の一行にそのようなことをするか! いくらなんでも冗談が過ぎるというものだ聖者よ!」

 

 

 「ははははは! いやはや一件落着。華奈殿とオジマンディアス殿の縁があって生き延びたのだから人間万事塞翁が馬というもの」

 

 

 処刑はないということ。ネフェルタリ様が本物だということで大喜びする三蔵様とカラカラと大笑いして腰を落とす藤太様。確かに私達下手すれば死ぬ一歩手前でしたねえ~

 

 

 そして私を銀狼ではなく、銀狼殿。ですか・・・いやはや、だいぶ評価されちゃったようで。

 

 

 「ふふふ。私の方こそオジマンディアス様、ネフェルタリ様双方に感謝を。私はカルデアのものとして今は活動をしている中楽しく特異点を歩き、ご飯を食べて過ごせました。そして神王との仲睦まじい姿を見れるのも感謝しかなく。

 

 

 お二人と、ニトクリス様、クレオパトラ様の分もあるので私が持ってきた果実。冷やして食べませんか? 私の妹、騎士王の住むアヴァロンが原産の果実ですよ。献上できればと思いますがいかがでしょうか」

 

 

 「ほほう! 銀狼殿からの献上品もあるとは。しかも騎士王の故郷の果実か。良い! 食べるとしよう!!」

 

 

 「あれ、すっごく甘くてみずみずしくて美味しいの! それを冷やして、ラーメスもみんなで食べると美味しいわよ!」

 

 

 「フハハハハハハハハハ!! 最高だ。よし。宴だ! 宴の準備をせよ! 余の愛妻が戻ってきた、認める戦士が来た祝いだ! ニトクリス。今度手落ちをすれば容赦はせん。さあ、クレオパトラも共に疾くと動けぇい!!」

 

 

 「「は、はひぃっ!!」」

 

 

 涙目で急いで準備に走り去る女性ファラオ二人組。うーん・・・苦労人の匂いと、案外性根は生真面目な気がします・・・そしてまあ、宴会ですかあ。

 

 

 「オジマンディアス様、ネフェルタリ様。良ければ私の方も料理を振る舞いますよ。眼の前で料理をしたり、体の傷が癒えれば少し余興もします。愛妻のご帰還。私も祝うべき内容ですしね」

 

 

 「そうだのぉう。じゃあ、拙者も弓以外にもお米を振る舞える。龍神がくれたこの無尽俵。太陽神の領民に振る舞いたい。皆でお腹いっぱい食べて祝おうではないか!」

 

 

 「そうね! 私も簡単な料理はできるし、夫婦がまた出会えたことを祝いましょう!」

 

 

 と、言うわけでこのあとは私達も参加してのオジマンディアス様の召喚していたあらゆる時代のエジプトの領地、民総出で祝う大宴会。そこで余興として演武に斬撃を飛ばして狙撃をしたりオジマンディアス様と藤太様の弓術を活かしての連携をした曲芸、絶技を見せたりなど、愉快な一日を過ごしました。

 

 

 あ、あとついでに聖杯に陽炎と水、毒の浄化のアクセを一日浸しておいて魔神柱とか、そんなへんな毒がないかとカルキ抜き、もしくは水に備長炭を入れる感じでとりあえず毒の杯からまともなものに戻しておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうか。もう少しいてもよいのだが、ゆくのだな銀狼殿。聖者、武者よ」

 

 

 「ええ。私はカルデアのもの。そしてお二人は旅をしつつこの特異点を見定めたいと同意しているので。それに、神王様が聖杯を守護し、ネフェルタリ様たちと過ごしてくれるなら私は気楽なものです」

 

 

 「うふふ。とっても楽しかった時間をありがとう。華奈さん。三蔵さん。藤太さん。おにぎりもすっごく美味しかったし。また今度お願いしてもいい?」

 

 

 それから別れの時間というのは来るものでして。1日中宴会をしつつ私の傷の治療もしてくれて完全復活をしてから特異点を見て回ることにしたのでオジマンディアス様の領地を出ることに。

 

 

 聖杯を既にオジマンディアス様が持っていること。其の上で

 

 

 『成すべきことを成す。もしそれが叶えば、あるいは必要ならこの聖杯。ネフェルタリを無事に余の下へ送り届けた功績と褒美として下賜してやる』

 

 

 という約束までくださったので心置きなく私はあの槍騎士たちやこの世界でどこの勢力をぶっ潰すべきかを見に行くことにしました。

 

 

 「もちろんですネフェルタリ様。そして、オジマンディアス様。どうかご健勝を。ではでは。私はこれで」

 

 

 「それでは太陽王ご夫妻。拙者たちと縁があればまたどこかで」

 

 

 「ふふふふ。みんなと話せて楽しかったし、さて。次はどこへ行こうかしら?」

 

 

 栗毛と私の部隊の馬、グローリーデイズ、クイックアズライトニングを呼び出してから三蔵様と藤太様を乗せて、大量のお土産といっしょに再び砂漠の旅に。あの槍兵が私を狙っている可能性が高い以上、カルデアとの合流よりも情報収集をしつつ様子を見るほうがいいでしょう。

 

 

 ・・・・・・・・それにまあ、神王様の心の陰り、不安も見えましたね。いやはや。頭が回る。ゲーティアの計画を見たゆえにでしょうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まったくひどい砂嵐だ。加えて敵の方もまさか神獣が出るなんて・・・」

 

 

 「ですが、神獣にしては嫌に弱かったような・・・?」

 

 

 「それはおそらく頼光さんが強すぎるだけでは」

 

 

 「まあまあ、何にせよ切り抜けられてよかった。こんな場所に落としたロマニには後でお仕置きをするとして、アン。敵はどう?」

 

 

 「んー今のところいませんわね。といいますか。砂嵐のせいでレンズも傷つきそうで不安になりますわよ」

 

 

 「それにしても神獣もだけど、かなりの敵。ここ、13世紀のエルサレムよね? とてもじゃないけど神代の時代に放り込まれた気分だわ」

 

 

 無事。というわけではないけど何とか藤丸くん等とレイシフトをして負担もなくこの第六特異点に到着したが、その幸先はいいとはいえなかった。

 

 

 強烈な砂嵐に加えてなんでか少し弱いけどあの神獣スフィンクス。それ以外にも無数の獣がゴロゴロとひしめく魔境と言っていい場所。

 

 

 この頃の時代のエルサレムだと十字軍とか、もっとこう・・・アメリカのように人同士の戦いを想定していたので早速予想の一つが崩れた形だ。

 

 

 「しかし、このスフィンクスの羽毛に毛、爪のかけら・・・ふふふ。良質な素材ね。あとついでにこれから召喚者の痕跡とかを解析できないか試してみるわ」

 

 

 「ありがとうエレナさん。うーん・・・」

 

 

 「いやはや、弱体化しているらしいとはいえさすが神獣スフィンクス。EDFの魔改造マスケットに我々の攻撃。頼光の雷でも本気で叩き込んでも耐えるとは」

 

 

 「相性もあるのでしょうけど、異邦の神獣。侮れません。・・・・・・ああっ! 華奈さんは。娘は無事なのでしょうか!? 母は、母は心配で胸がはち切れそうです!」

 

 

 「既にはちきれんばかりの胸じゃないか君。まあまあ、むしろ神獣、魔獣相手なら華奈君は動物会話のスキルで対応ができるし、栗毛を始めとして数頭の軍馬がカルデアの畑からいなくなった。華奈くんに呼び寄せられた。おそらく、無事に生きていて、どこかで行動しているのだろう。かつての冬木のように。ね。縮地で逃げられるし、栗毛たちの脚ならきっと英霊からも逃げ切れる」

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんの仮定はおそらくあたっている。今回の場合、というかいきなり襲ってきた槍兵は華奈に照準を絞っていた。下手にカルデアの者同士で合流するよりは自分を餌にしつつ特異点を調べつつ戦力を集めるつもりなのだろうけど・・・

 

 

 私生活はともかくとして、戦闘、任務となれば恐ろしいほどに早い切り替えと次善策を用意していくのが華奈という女性。

 

 

 「とにかく、今は一度この砂嵐から抜けて休みつつ情報収集のできる場所を・・・」

 

 

 「マスター! 人の集団がこちらに走ってきていますわ! そして、何やら手足を縛られた女性を担いで猛獣たちから逃走中!」

 

 

 「髑髏の面・・・?」

 

 

 「ふむ・・・少しはやるようですね」

 

 

 既に戦闘態勢の頼光さんとアン。そしてエレナさんにダ・ヴィンチちゃん。藤丸君も遅れてレイヴンを構えていく。

 

 

 「チッ! 先回りされていたか! 兵士をよこすとはさすが太陽王よ。女王を捕まえておけば獣共はほとんど手を出せぬが、人なら別というわけだ」

 

 

 全員が影に潜みやすいフードを被り、髑髏の面をつけている。英霊・・・! でも、一人ひとりの魔力は高いが英霊にしては少ない・・・?

 

 

 「手早く処理せよ! ただし、一人は情報収集のために生かせよ!」

 

 

 「アン。あっちも縛られている女性の方も何がどうなっているかわからない状態だ。できる限りやりすぎないように」

 

 

 「はいはーい。身代金目当ての捕縛はお手の物。海賊は案外捕縛術も豊富でしてよ♡」

 

 

 「動きからして暗殺者のたぐいですか。藤丸君。元殿。お下がりください。この砂嵐に乗じて・・・このように暗剣でも飛ばしてくるでしょうし、油断なりません」

 

 

 「頼もしいねえ。とはいえ、私も今回は秘密兵器を用意してきた最高の美人サーヴァント。ダ・ヴィンチちゃん戦闘モード! 槍働きもしていこうじゃないか」




 1組目はモルガン、ロットご夫妻。 2組目はラーマ、シータ夫妻 そして今回はオジマンディアス、ネフェルタリご夫妻が再会されました。


 まあ、ニトクリスの判断も間違ってはいないよねって。ハサン等アサシン集団がいるのを考えると変装もありえない話ではないので。真面目に三蔵ちゃん等とスフィンクスの対応がなかったらここまでの対応はしていません。


 なんか華奈が縁結びというか、縁を再度くっつけ直す機会を与える人になりつつある。あ、ブリテン時代からそう変わらないか。


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ニトちゃん

雨が最近多くて嬉しいですが暑いのと雷が大変ですね。


 「くっ・・・なんだコレ? どういう集団なんだろう」

 

 

 「連携が凄まじいですし、うぐ!」

 

 

 「藤丸君下がって。エレナさん。翻弄をお願いします!」

 

 

 「よろしくてよ!」

 

 

 「いい技量。ですが速度が足りませんね」

 

 

 元さんにさげられつつも、とりあえずみんなを射線上に入れないようにしつつ、縛られた女性をあてないようにレイヴンを撃つけど、敵兵の中に英霊っぽそうなのに英霊より非力で、でもケルト兵よりは数段強い。まるで銀嶺隊の50人長が十人も混じっているようなもの。

 

 

 急に飛んでくる暗剣、ナイフを頼光さんが切り落とし、あるいは弓矢で迎撃して、マシュが守ってくれる中、エレナさんとダ・ヴィンチちゃんが魔力弾で対応。

 

 

 「射線のラインは整いましたわ。さあ、喰らいなさい!」

 

 

 「なっ!!? ぐっ!」

 

 

 「ぐほっ!?」

 

 

 「ぬがっ!!」

 

 

 「つぁっ! 私の仮面が!!」

 

 

 その間にアンさんが放つ銃弾の数々。なんでもプロフェッサーさんがアンさんに頼まれて用意した新型のスナイパーライフル。まるでハンドガンのように連射と、反動も少ないその弾丸の威力は高く。しかもあの骸骨の面の集団を跳弾であちこちを打ち据えて銃弾で峰打ちをするという神業を披露。

 

 

 「うふふ。マスケットよりもずっと扱いやすい。武器も新調できるのならしておくべきですわね♫」

 

 

 「はははは。この女性はこの天才がいただいたよ」

 

 

 銃身二キスをしてウィンクをするアンさんと、いつの間にか縛られた女性。褐色肌に薄紫。アメシスト? 色の髪の毛の方をこちらの方で確保。

 

 

 「な、い、いつの間に!?」

 

 

 「いやいや、ハサン!? 山の翁たちってことは山の民!?」

 

 

 「む・・・そこの二人マスターか! 一体私達の命を奪わずに邪魔をするとは何をしたいのだ!」

 

 

 それを気づくのと、僕も含めてあちら側の戦力は誰一人として殺していないのを見て黒い肌? に紫髪のハサンらしき女性が吠える。

 

 

 「私達はカルデアのもので、今のこの・・・エルサレムの状況を知りたくて。それと、誘拐はいけないことかと・・・」

 

 

 「そう言われて、目標の女王を奪った相手に言えるものか! まずい。スフィンクスにメジェドが来るぞ! 総員退却! 奪取した食料と水は落とすなよ!」

 

 

 「あ、ちょっ! ・・・・・・・対象、砂煙に紛れて逃げました・・・」

 

 

 「見事なまでの逃走術だったね・・・」

 

 

 マシュの言う通り文字通り砂隠れと言わんばかりにあっという間に逃げてしまうハサンたち。まいったなあ。大真面目にこっちは何がなんだかのこの状況だっていうのに。

 

 

 こうなると話が聞けそうなのはこの女性だけど・・・

 

 

 青い顔をして苦しそうにしているのをダ・ヴィンチちゃんが拘束と猿ぐつわを外してもらい体に外傷がないので毒かなとみんなで心配していると。

 

 

 「う・・・ウプっ・・・ふぁ、ファラオ・・・それ以上は飲めない・・・わ、わたしげんか・・・うぅお・・・」

 

 

 「・・・・・・・二日酔い。かな? 酒臭いし・・・」

 

 

 「華奈さんのお酒を飲みまくったあとのメアリーみたいになっていますわねえ。こういうときは冷たい水と、二日酔いの薬ですが・・・あります?」

 

 

 「流石に持ってきてないわよ・・・いちおう、アルコールを毒として抜く解毒の術式があるけど・・・効くかしら」

 

 

 持ち込んでいた冷たい水のボトルを用意して、エレナさんの方も魔術を使い少しこの女性のアルコールを抜く。

 

 

 「おーい? 起きているかい? 二日酔いなら、まずは水を飲むといいよ。飲める?」

 

 

 「あ、ありがとうございます。んぷ・・・・んむ・・・は、はぁ・・・少しはマシに・・・・・・・え」

 

 

 水を飲んで顔色が優れてくる女性の方。そしてアルコールをいくらか抜いたお陰か眼の前の僕らを見て硬直。

 

 

 (まずい・・・ですかね?)

 

 

 (多分。いやーもしかしてやっちゃったかなあこれ)

 

 

 「な、何者ですかあなた達! この無礼者! この私を、ファラオ・ニトクリスと知っての狼藉ですか!」

 

 

 「い、いえファラオ・ニトクリス。私達は貴女をさらっていた集団から救い出したもので」

 

 

 「ちょっ、あのニトクリスですって!? 大物じゃないの!」

 

 

 しょうがないけど、思い切り敵意を剥き出しにして飛び退くニトクリスと、その名前に驚くみんな、頭を下げる元さん。

 

 

 よほどすごいファラオなのかな? 僕はよくわからないけど。

 

 

 「あ、あのーその水も、酒を抜いたのも僕らの方で・・・」

 

 

 とりあえずレイヴンを下げてこっちも敵意がないことを示すんだけど、これも意味がない。

 

 

 「お、おのれ・・・! 私達が連日宴でオジマンディアス様からのお酒で二日酔いをしていたときにこ、こんなことを・・・う、うぷっ・・・!」

 

 

 「あーあー二日酔いのあとに急に動いたり叫んだりしたらそりゃこうなる。頭も痛いし気分も悪い子で。ちょっと吐いてくる? 私達は後ろ向いておくから」

 

 

 「なな・・・さ、更に私に恥辱を・・・! ぅう・・・」

 

 

 流石に二日酔いで寝起き、さらに水を飲んで少し膨れたお腹が揺れるせいで気分が悪い用でさっきより青い顔になって杖で体を支えつつ口を抑えるニトクリス。

 

 

 威厳がなあ・・・本当にファラオなの?

 

 

 「ニトクリス様! ご無事ですか!! それと、そこの一行は何者ですか!」

 

 

 そこにスフィンクスに乗って現れるこれまた美女。うーん・・・? この人もファラオ? 女性のファラオって僕クレオパトラ以外は知らないんだよねえ。

 

 

 「クレオパトラ、来てくれましたか! 助かります。 ぷふ・・・うぅ・・・そこの不敬者に罰を下すのに手を貸しなさい!」

 

 

 「う、了解しました・・・その、私もまだ酔いが抜けないですが・・・!」

 

 

 「えーと・・・クレオパトラ・・・世界三大美女の一人でファラオですね・・・なんか、二日酔いしているようですが・・・」

 

 

 「酒は飲んでも呑まれるな。ですねえ・・・はぁ。しかし、ここまで酔わせるとは、相当に酒豪の方につきあわされたのでしょうか?」

 

 

 「うーん。エジプトのお酒が気になりますわね」

 

 

 「あ、あのー・・・・・」

 

 

 なんか二人揃って青い顔をしつつ睨むも動けず、それをオロオロしながら見守るスフィンクスというとてもじゃないが血風吹きすさぶ戦いではなく吐瀉物がまず飛びそうな様子になるのか。と神獣と英霊二人を見ても思わずそう思ったけど、元さんが両手を上げて無抵抗を示しつつ前に出てくる。

 

 

 「その、私達はカルデアのものでして。華奈という銀髪の美女で私達の仲間を探しているんです。なにかお二人は知らないですか?」

 

 

 この発言に二人のファラオははっと顔を見合わせて、まるで酔いが抜けたようにシャッキリとしたと思えば、今度は逆にまた青い顔をする。

 

 

 (どどど、どうしましょうクレオパトラ! 銀狼殿の知り合いとなれば私達は丁重にもてなすべき方! それなのにこの対応をしてしまったとわかればオジマンディアス様に怒られます!)

 

 

 (お、落ち着いてくださいニトクリス様! 今からでも丁寧にもてなせばきっと・・・! そ、それにニトクリス様を誘拐しようとしていた奴らとは別の方です。私も追いかけていましたが別の方でしたし、その恩義の方で迎えれば・・・)

 

 

 (な、なるほど。で、ではとりあえずその方向でいきましょう・・・)

 

 

 「え、えー・・・銀狼殿は確かにここに来ていました。それと、こほん・・・水をくれたことに免じて聞きましょう。私を誘拐していたのは貴方たちではないのですか?」

 

 

 何やらしばらく小声で相談したあとに急に戦意を収めてくれる二人。そして、華奈さんがいたという情報に驚く。

 

 

 「はい! お母さんがいたんですか!? そ、それとそうですね。ニトクリスさんを誘拐していたのはハサンたちだと思います」

 

 

 「な、ご子女ですか!? あわわわ・・・・な、なんとファラオに報告すればいいか・・・なるほど。では、貴方達はたしかに私を助けてくれたと。それなら、先程の勘違いを詫びましょう。

 

 

 して、この砂の民の領地に来てくれて申し訳ないですが、華奈殿、もとい銀狼殿は数日前にここを出ていかれました。この特異点を見定めると言って今は私達も行方知れずで・・・」

 

 

 「その際にカルデアのことは聞いていますし、貴方方は大事なご客人。とりあえず、よければ我らがファラオに謁見の許可を願いますので、どうぞ」

 

 

 そう言って案内すると先ほどとは180°真逆の対応をしてくれる。華奈さんがいないのは残念だけど、かといってこれを断るのも失礼だし、何よりも分散行動をするにはここは謎が多すぎる。

 

 

 「華奈くんが無事だというのはわかったし、ひとまずはご厄介になるとしようか。色々と知りたいこと、この特異点を知らないといけないし」

 

 

 「はい・・・それに、母も心配ですがあえてここで待たないということは回復している。元気である証でしょう。便りがないのは元気の証といいますし。・・・・・・出来れば、一緒にいてほしいですけど」

 

 

 「まあ、無事なら何よりだしこの優しいファラオの方々と一緒にいたのなら回復もしているだろうしね。問題ないと思う。それはそうと、藤丸君。君の方はあまり前に出すぎないほうがいい」

 

 

 「え?」

 

 

 ファラオたちに先導されながら歩く中、急に元さんに注意をされた。

 

 

 「その武器は英霊にも通用するし軍団戦にも使える名銃。でもそれはあくまで護身用だし、マシュの支援、目くらまし程度のものに考えたほうがいいよ。僕らマスターが倒れてしまえば終わりなんだから万が一は抑えたほうがいい」

 

 

 「でも、華奈さんは戦うし、それに勇気を持って挑まないと」

 

 

 「華奈自身も英霊だし、しかも円卓最高の騎士ランスロット以上に強い、最強と言わしめた騎士だからね。君と同じマスターだけど、同じと思ったらだめ。勇気は素晴らしいけど、英霊たちの将は君だから無理はダメだよ」

 

 

 「はい。先輩の支援はたいへん助かっていますが、私は英霊の、ギャラハッドさんの力を借りているから前に出れます。先輩はそれもなく助けて、特異点に来てくれる。それだけですごい勇気ですし、できる限りアメリカのように前に出過ぎる機会も抑えつつ。

 

 

 あ、でも本当に支援は助かっていますから」

 

 

 うぅーん。そうかあ。そうなると、後方支援になるけども・・・M9レイヴンは支援するには有効射程距離が少ないしなあ。

 

 

 「はははは。まあ、藤丸。君は君なりに英霊たちとともに戦うために自分を生きるようにしつつ、支援できる方法を模索しよう。なあに、必要な道具があればこの天才が助けるとも!」

 

 

 「それでしたら、私の持つこの銃。スナイパーライフルとかどうでしょう? 確か、ハーキュリーを使用したとか。あ、それか近距離にも使えるKFF71S などは? 近距離なら貫通も使えますし敵の波をさばきつつ連射もできるかと」

 

 

 「ああー伊吹童子が『うーん。微妙ねえー』って言っていたやつ。でも小回りは効くし、下手に火力が高すぎても藤丸君の肩がぶっ壊れそうだし、そのくらいがいいのかも?」

 

 

 なるほど。狙撃支援で手数も安定した武器。この方が良いのかも知れない。ふーむ。二刀流もありだし、ちょっとカルデアに戻ったらストーム1さんとプロフェッサーさん。それと合流したら華奈さんにも相談しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・ふぅ・・・感謝します。エレナ。だいぶ楽になりましたよ」

 

 

 「よくってよ。しかし、サーヴァントでも酔っ払うほどのお酒って。それほどに大宴会と強い酒を飲まされていたの?」

 

 

 「ええ。私達のファラオ。オジマンディアス様の愛妻ネフェルタリ様の再会を祝して連日宴が続きまして。その際に神酒の類を飲んだのでいくら神の化身たるファラオでも流石に酔いが」

 

 

 歩きつつまだふらつく二人のファラオ・ニトクリス、クレオパトラ殿らをエレナさんと私の魔術で毒を抜いてしゃっきり復活。水とお菓子で回復したようで顔色ももとに戻ったようだ。

 

 

 「しかし、銀狼殿の家族とは。本当にあの方の関係者は礼節を極めているのですね。マシュもいい子ですし」

 

 

 「いえいえ。ファラオ・ニトクリス、クレオパトラに敬意を払うのは当然ですゆえに。それと、よければこのエルサレムのことについてよければお教えいただけないでしょうか。物資の中にある菓子類も献上しますゆえに」

 

 

 「ありがたいですが・・・私はこの砂漠の鏡番であり、ファラオに近づく不敬者を裁く門番。故に、すべてを知るあの方に聞くべきでしょう。銀狼殿の知り合いとなれば決して無下にはしないでしょう」

 

 

 「それに今はきっと銀狼殿の作った「ツケモノ」? を食べて楽しんでいるでしょうし、上機嫌ですわよ。健康にもいいと聞いてぜひぜひ商売にも使いたいので教えていただきたかったのですが・・・・ぬか床とは一体・・・?」

 

 

 漬物まで即席で作ったのか・・・麦糠にしたのかな? いや本当に行動力があるなあ・・・

 

 

 「ふーむ。まあ、それはきっとまた会えるでしょうしその際に聞けばきっと。華奈は円卓の騎士の中でも食文化にも貢献しているので。銀嶺隊といえばわかります?」

 

 

 「・・・あ。あの銀嶺隊ですか! 狼のマークがある。ああー・・・そういえば座にいるときに何度かスパの計画を考える際にサウナとか、色々意見案をもらったり見積もりを作ってもらったわ。あの何でも屋。円卓最強の騎士の部隊だったんですね・・・」

 

 

 クレオパトラさん。貴女も銀嶺隊は知っているのか。逆に華奈を知らないのは・・・まあ、建築やスパなどの経営は華奈は関わっていないと言うか、部下に任せているから代表をそっちで覚えていたのかも?

 

 

 しかし、やっぱりファラオたちには猛獣やスフィンクスが襲わないんだなあ。しつけが行き届いている?

 

 

 「さ、つきましたよ。ここが太陽神オジマンディアス様の神殿です!」

 

 

 そうこうしているうちに見えてきたまさしく豪華絢爛。ピラミッドと神殿を合わせたようなとんでもないものを見て思わず呆気にとられる。感じる魔力からして宝具だけど、その質と、輝きは華奈とマシュの宝具以上に濃密で濃い。

 

 

 「なんじゃこりゃあー!!」

 

 

 驚く藤丸くん。いやあーそうだよねえー私も呆気にとられるよこんなの。

 

 

 「流石、あまねく神殿すべてを自分のものと豪語した建築王。感じる神秘の力も威容もわかるというもの。ふふふ。さあ、どんな出会いがあるか楽しみだ」

 

 

 「はぁー・・・これがエジプトの王の住まい、神殿ですか・・・豪華絢爛。公家でも皇家出ないと考えもしないようなものです」

 

 

 「・・・文字通り全部がたからものですわねえ。思わず海賊の血が騒ぎますが、ちょっとこれは取れないかも?」

 

 

 アン。物騒な発言はやめてとチョップを入れつつニトクリスさんに案内されて神殿内部に。中はすごく涼しく快適で、別世界だと思えるほど。いや実際にそうなのだろう。

 

 

 「ファラオ・オジマンディアス様。王への謁見を求めるものが来ました。銀狼殿の関係者ということでして」

 

 

 そこには少し眠そうにしつつこちらに視線を向ける美丈夫。あれがオジマンディアス・・・英雄王に並び立てるであろう王の中の王。最強の一角。

 

 

 「・・・ほう。銀狼殿の関係者か。よく来た! カルデアのものよ」

 

 

 「それと、どうやら銀狼殿の御息女もいらっしゃるようでして。こちらのマシュ殿ですが・・・」

 

 

 「なんと。いつの間に娘まで作っていたのか! して、伴侶の夫はどこだ?」

 

 

 「あ、いえ。どちらかといえば養子に近い感じでして。マシュ・キリエライトです」

 

 

 何やらすっごいご機嫌で話しかけてくれる。何かあったのだろうか? 異邦の旅人に対しては嫌に・・・あー華奈のお陰かあ。

 

 

 「ふむ・・・良き目をしている。銀狼殿の娘。なら、母に負けぬよう励むがいい。あの戦士に追いつくのは大変であろうがな。

 

 

 さて。我が名はオジマンディアス。神であり太陽であり、地上を支配するファラオである。過去、現在共にそれは変わることがない。して、貴様らがカルデアの使者であり、5つの特異点を攻略したのは知っている。其の上で求める情報も聖杯と銀狼殿のことだろう。そのうち余から話せるのは聖杯のことだ」

 

 

 おお、既に聖杯のことも知っているし、カルデアのことも。エジソンといい、ある程度高位の英霊や何らかの製造技術に秀でている英霊なら私達の旅路を見ることができるのだろうか。何にせよ話が早い。

 

 

 取り出される聖杯を見て僕らは一同おお。と声を出す。ここまで早く特異点で聖杯を見るのは初めてじゃないかな? 

 

 

 「え。で、でも今まで聖杯を持っていたのは魔術王の方に手を貸した奴らだけど・・・」

 

 

 「誰が魔術王なぞに与するか。これは余がこの砂の聖地に降臨した際に十字軍から・・・・」

 

 

 聖杯を持ちつつ藤丸君の懸念に応えるオジマンディアス王。だけど、その合間に首が突然ずれた。まるできれいにくっついていたものがズルリとずれるように。その首をトントンとすぐに直すオジマンディアス王。いやいやいや!?

 

 

 「フォーーーーーゥ!!!?」

 

 

 「十字軍から没収したものだ。真の王たる余にふさわしいものとして。な」

 

 

 「あ、あのオジマンディアス王。それも驚きなのですが・・・!」

 

 

 「く、首がずれましてよ・・・?」

 

 

 僕らはみんなで頷く。それはそうだろう。流石に死んでいるのかなんかの逸話でないとこうしているのがありえないほどだし、首が切れても生きていたという逸話はない。

 

 

 ただそれを見てオジマンディアス王は少し苦々しい顔をして。

 

 

 「旅の疲れであろう。許す。そして聖杯を手に入れた余は・・・おっと」

 

 

 またもや首がずれ落ちるのを防いで下に戻していく。もはやコントだ。ろくろ首や酒呑童子と話しているような気分にすらなっていく。あちらは触れてほしくないようなので必死に視線をそらして見なかったふりをするけど、もはや何がなんだか。

 

 

 「まあ、とりあえずだが、結論から言おう。この聖杯はカルデアには渡さん。この聖杯は余のもとに愛妻ネフェルタリを届けた銀狼。華奈殿に下賜すると決めている。しかし、それには成すべきことを成してからである。

 

 

 そのうえで言おう。遅すぎるのだカルデアの者たちよ! 銀狼殿がいてこの遅さとは! この時代の人理はとっくに崩壊しておる!!」

 

 

 「なっ・・・! いや、王よ。崩壊しているとはどういうことです!!」

 

 

 「そ、そうです! それは一体どういう・・・」

 

 

 「言葉通りの意味よ。この時代は本来であれば聖地を奪い合う戦いがあった。一方は守り一方は攻める。二つの民族による絶対に相容れない殺し合い。その中で聖杯は奪い合い、手にした陣営によって聖地は魔神柱か、あるいはどこぞの英霊の馬鹿げた欲望の苗床になっていたであろうよ。

 

 

 ・・・銀狼殿や、その側を固める狼達に嵐の戦士殿がいてもっと早く来れていればな・・・」

 

 

 なるほど。おそらく十字軍から聖杯を奪い合う際にオジマンディアス王が見聞きした情報と情勢からそうなり得るということだったのか。崩壊する前のここの人理、特異点は。そして、早く来ていればというのは、華奈がゲーティアの瞳術で魂を鬼が島に幽閉された際に皆が作業が止まりアメリカの特異点の割り出しが遅くなっていた。

 

 

 そのツケがここに回ってきたというのか・・・ここの聖杯のことといい、大真面目に華奈に助けられつつも、僕らが甘えていた部分も如実に出てしまったのだろうか・・・

 

 

 「でもそうはならなかった。聖地争奪戦は起こらなかった。そういうことでいいかな?」

 

 

 「確かに・・・今太陽王が聖杯を十字軍から奪取した。そして眼の前にある。なら、王が十字軍を蹴散らして、もう片方の勢力が聖杯を持たないまま。オジマンディアス王が十字軍を蹴散らしたとなれば、もう片方は・・・?」

 

 

 「ほう。鋭いな。そこの二人。いずれ余の側室に加えるゆえに予定を開けておけ」

 

 

 「いやいや? 私は太陽王よりちょ~っと知性が上なだけさ」

 

 

 「ふふ。嬉しいですが私は粗忽者。それに、華奈が、娘がいますので・・・」

 

 

 気になるのはそこだ。オジマンディアス王のことだ。どうせ十字軍は完全崩壊したとしてもう一つの存在は、このエルサレムに住む存在はどうしたというのだろう?

 

 

 ネフェルタリ様がいるうえで側室を求めるあたり性豪だし、沢山の子供がいたのも納得だぁ。

 

 

 「ふはは。銀狼殿の母か。なるほどその美貌も似たというのは納得よ。なら側室はそこの知恵者だけだな。そして、話を戻すがたしかに2つの軍勢のうち1つは余が叩き潰した。そして残党も始末し、この特異点を特例の状況かつ、崩壊させた者は聖都の残骸。エルサレムの跡地に居を構えておる。

 

 

 通り名は獅子王。純白の獅子王などと謳ってなあ! カルデアのもの等よ。貴様らもわかっているだろうが既に崩壊している人理。特異点。そこに挑むには貴様らは矜持も覚悟も足りず、ましてや主力と離れている。

 

 

 故に、一度ここから出て見聞を広め、その残酷さ、過酷さを知りつつ銀狼殿と合流せよ。其の上でもう一度、どうしたいかを聞こうではないか。余の首を狙うか、協定を結び獅子王を狙うか。あるいは、それ以外の選択か」




 ニトクリスカワイソス。まあ、戦闘はしていないのでギリギリセーフ。


 謁見の際にネフェルタリがいなかったのは首切られていたオジマンディアスが流石に見せるわけにはいかないのでちょっと仕事と料理を作ってもらうよう頼んだ直後でした。多分見せたらSAN値直葬者ですよこんなの


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 ネフェルタリ「ラーメス。貴方。少し弱っているんじゃないの?」


 オジマンディアス「余が。か? ありえぬよ。ネフェルタリ。余はいつでも万全であるゆえにな」


 ネフェルタリ「そうね。肉体はそう。でも、心に迷いがあるわ。カルデアに、華奈さんになにかあるの?」


 オジマンディアス「隠せぬものか。フハハハ。ああ。少し悩みがある。が、それは彼奴らと銀狼殿と話して決める。故に、今は気にするでない」


 ネフェルタリ「そう。なら、今は貴方を支えながらいつでも歓迎の準備をしないとね!」


 オジマンディアス「それでこそ余の妻よ。では、早速動くとしよう(・・・聖杯を下賜するのはいい。ただ、あの狼は目に聖杯を見ても喜びよりも余の目を見ていた。見抜かれていたか。


 余の予想が正しければ獅子王の正体や、余の考え、獅子王の考えを持ってどのような答えを出すか。博打などする趣味はないが、今回はそれにかけるぞ。銀狼殿)」





 ~カルデア~


 清姫「ここまでカルデアが緊張しているのは初めてですね・・・華奈さんも無事だといいですが」


 スカサハ「なぁに。そこで早々に死ぬような奴ならここまで来る前に死んでいる。問題はないだろう。それに銀嶺隊が今もいるのが生きている証拠よ」


 清姫「そうですね・・・はやくますたぁと元さんと合流できればいいのですが」


 スカサハ「ずっとそれを考えつつヤキモキしては気が滅入るだろう。せっかくだ。私が槍の稽古をつけてやろう。運動はいい気分転換になるぞ。薙刀などどうだ?」


 清姫「うーん・・・」


 スカサハ「もし武芸もある程度学べば藤丸とも一緒に修練ができるぞ」


 清姫「します! 是非ご指導お願いします!」


 スカサハ「よし。では基本的な動きから教えよう」


 「いやはや、さすがファラオだ。これだけ大量の物資を分けてくれるなんて。ふふふ」

 

 

 「おいしい水に新鮮な果実に食料。それに干し肉に干し魚。医薬品までよりどりみどりですわね♫」

 

 

 「当然です! 我ら砂の民、ファラオである王の領地の中で野垂れ死なれては面目がたちませんし。それに、王は貴方たちに華奈殿への何かしらの期待があるようです。

 

 

 ・・・私ではオジマンディアス様や銀狼殿の真意は見抜けませんがきっとこの状況を変えるべきものでしょう。故に、手厚くもてなしたとは思います」

 

 

 「おそらくはそうなのでしょう。私達も華奈の行動は基本敵を倒すことにつながっていますが、読めないことがあるので」

 

 

 あれから軽く豪華な食事会をオジマンディアス王の妻ネフェルタリさんも参加して開いてもらい、休憩後に物資をたくさんもらって僕らも砂漠を抜けて行くことにした。華奈さんがいないし、何より見聞を広める。

 

 

 それはつまり聖都に、そしてハサンらしきメンバーの勢力を見て回り、聖都の獅子王か、オジマンディアスどちらかを倒すかを考えるべきということだと思う。

 

 

 「ああ。それは確かだろう。それに、その行動をする間ファラオのみんなが守ってくれるのなら聖杯も問題ないし、とことん感謝するよ。大量の資材のお陰でこれも作れたしね!」

 

 

 ホクホク顔で最後に出てきたダ・ヴィンチちゃんが何やら持ってきた2台の木製のバギー。

 

 

 「名付けて万能車両オーニソプター・スピンクスさ!」

 

 

 「まあまあ! なんときれいで可愛らしい」

 

 

 「フォーぅ! キャウ。フォー!」

 

 

 「おお、ダ・ヴィンチちゃん。これは・・・! 運転免許証等は必要でしょうか!?」

 

 

 「いやいや、流石にエンジンとかはないし、それにこの時代に合わせた技術力じゃないと成功しないからねえ。でもちゃんと動くし、動力は魔力をもとにしているからね。

 

 

 ロンドンで出会ったフランちゃんのあのガルバニズムを軽量、小型化したものを組んでいるから元、藤丸でそれぞれ分かれて魔力を流してくれればそれを動力炉に時速70キロは出せる。ここから聖都まではおよそ100キロほど。砂丘などを考えても2、3時間では問題なくつくはずさ」

 

 

 なんと魔力で動くアシスト自転車ならぬ自動車を即席で作ったという。しかも4人乗りだからこの人数なら2台あれば問題ない。

 

 

 ぶっ飛んだ発想だけどあの砂漠を歩かないでいいのは本当に大助かりだ。

 

 

 「なんと・・・! 天才とずっと言っていましたがこれは本当にすごいです!」

 

 

 「ふふふ。言っただろう? 万能の天才ダ・ヴィンチちゃんだって♫」

 

 

 「ええ。ふふふ。どうか旅路もお気をつけて。元。華奈殿にも無事出会えるように。そして、次は戦ではなく穏やかな再会を願います」

 

 

 笑顔で優しく手を降ってからスフィンクスに乗って自身の神殿に戻っていくニトクリス。エジプトという国を、領地を呼び出しているそうなので宴が終われば政務につかないといけないようで中々大変そうだ。

 

 

 「さて、それじゃあチーム分けだ。私とマシュ、藤丸、フォウ君で1台目。2台目は元、アン、頼光でいこう。運転は任せたよ藤丸」

 

 

 笑顔でスピンクスのドアを開けて乗り込むダ・ヴィンチちゃん。おおー! 車の運転ができるなんて! 安全運転しつつ楽しむぞー!

 

 

 「あ、それと砂嵐、砂対策のゴーグルね。ちゃんと専用のがあるからそれも着用して」

 

 

 「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやっほー! 早いはやーい!」

 

 

 「先輩! 私にも是非運転を!」

 

 

 「ん? マシュも? いいよー。じゃあ、助手席に盾をおいて、僕は後ね? よろしく!」

 

 

 「了解です!」

 

 

 「うーん馬車よりずっと快適で早い。これが車の乗り心地。いいですわねえ」

 

 

 「ふふふ。快適です。愛馬に無理をさせたくないときはこれを使うのがいいのでしょうね」

 

 

 砂漠の中をみんなでドライブでもするように駆け抜けていく。砂嵐の地帯を超えれば視界も開けてきて楽しくみんなで砂丘を飛び越えたり上手に合間を縫いつつ進路が逸れないようにしたりとで楽しく走っていく。

 

 

 無免許運転なのにそれが問題ない。自転車と同じだからということでこうして一足先に木製のバギーを運転できるなんて最高!

 

 

 マシュに途中で一度停車して運転席を交換してもらい、後ろでダ・ヴィンチちゃんと休憩しつつ水を飲む。

 

 

 「いやあ、今回は肉体労働が増えそうだったから用意したけどこれはいいね。荷物もトランクに積み込めるし、砂漠の中でもこの速度。これなら華奈に銀嶺隊を呼んでもらわずともいいから魔力を、消耗を抑えられる」

 

 

 「ですね。しかし、一体この外の、エルサレムはどうなっているんでしょう」

 

 

 「うーん・・・予想が当たればひどいが、そうでなくてもまず悲惨だろう。どうころぼうが最悪。それが緩和されることはないだろうね。アメリカのときもひどかったがまだあれは人理が崩壊する土俵際で踏ん張っていた。が、今回はそれがない。

 

 

 神王が最初から味方してくれるかもなのはいいがそれでも本来なら米国で言うところのエジソンに当たる陣営が一つ滅んでいるわけだ。それを滅ぼした獅子王がなぜそれをしたのか。あの槍兵含めてまだ不安は多い。華奈君があえて通信をよこさないのもそれだろう。自分が目当ての一つと思われているからね」

 

 

 確かに。言ってしまえば勢力を一つ滅ぼして尚あのオジマンディアス王が直々には手を出さないほどの、出せば被害を出すと思うほどの相手なのかも。あれだけスフィンクスもいて、尚そう思わせるほどの・・・

 

 

 華奈さんを求めるとなれば円卓の騎士に憧れているか、求める人だろうけどもあれは個人で動いているのかここの特異点の組織の差し金なのかもわからない。

 

 

 「謎が多いですね・・・」

 

 

 「ああ、その上で華奈は狙われていた。だから離れて私達は気楽に動ける。狙う相手が減るからね。でも、その槍兵は華奈がオジマンディアスの領地に来たときは襲われなかったことから砂漠の領地に踏み込むのは危ないと理解もしている。と、同時にファラオたちの味方ではないと推測できる。

 

 

 そこを割り出しつつ我らが騎士様を迎えに行こうじゃないか。おっと。そろそろ砂漠エリアを抜けるぞ。総員速度を落として」

 

 

 話しているといつの間にか砂漠エリアを抜けて漸くこの特異点の姿。13世紀のエルサレムの本来の状態がわかる。

 

 

 「安全運転で行きます。では、3,2,1。抜けます!」

 

 

 僕らの車が先頭のまま砂漠エリアを抜けると、そこは、ひどい有り様だった。とある一画を除いて。

 

 

 大地が燃え尽くされて草木も生えず、倒木も燃えカスになりつつあるような状況。更には暑さも砂漠程ではないが近しいほどの暑さだ。

 

 

 「これは・・・気温48度。相対湿度0% 大気の魔力密度0,3%・・・・予想があたってしまったようだね。人の生きられる環境じゃない」

 

 

 「これが・・・13世紀のエルサレム?」

 

 

 「ひどいな・・・紛争地帯のほうがまだましなレベルだぞ」

 

 

 元さんらも降りてきてその光景に唖然。

 

 

 それはそうだろう。建物もなく、何やらオアシスのある場所以外はあらゆる場所で生命の気配がまるでない。

 

 

 「おそらくだが、ゲーティアの人理焼却の仕事。それに近しい状態になりつつあるんだろう。魔術王は人類定礎を歪めてしまうことで特異点を生み出して、不安定になった人類史を過去まで燃やし尽くした。

 

 

 逆を言えばその人理焼却の基点たる特異点は焼却の波が来なかったんだけど・・・特異点が崩壊してしまえばこうなるのもあり得ると。

 

 

 ただ、その中であのオアシスは・・・?」

 

 

 「・・・いちおう、話を聞いてみましょう。すいませんみなさん。少しお話いいですか?」

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言うことが確かなら文字通り完全に死に絶えて焼け落ちつつある大地ということになるのだけど、その中でひときわ、普通ならあっていいはずだけど今は異常なオアシス。

 

 

 そこで水くみをして、果実を分け与えている人らにマシュが声をかけてみる。するとその人らも笑顔で答えてくれる。

 

 

 「おお、なんだいお嬢ちゃん。水がほしいのかい?」

 

 

 「ああ、いえいえ。そこは皆様でどうか最後の一杯を。あの、このオアシスは一体どうしたんです?」

 

 

 「これか。これはなあ。華奈さんっていうすげえきれいなカルデアの騎士さんが掘り当ててくれた水と、果実だ。急に村が焼けて、食べるものもなくて化け物になりかけていた俺等を助けてくれただけじゃなくて、こうして恵みまで与えてくれた・・・」

 

 

 「それから砂漠にお姫様? といっしょに行って心配していたんだが、数日前にここから北の方でまた似たようにオアシスを作り出したって噂でなあ。ここの水ももう最後だし、俺等も水と果実を自分の分以外分けたら出発しようとしていたんだ」

 

 

 「お、おかあ。いえ、華奈さんが。ですか!? そ、その新しいオアシスの話は何日前です!? 私達もカルデアのものです!」

 

 

 まさかの華奈さんの人助けの痕跡。というか、人類史が焼け落ちつつあるこの場所で水を掘り当ててしまい、果実まで用意するとかどういう道具を使ったんだろう・・・?

 

 

 「君等カルデアのものか! いやーそれはそれは・・・本当に命の恩人だよ。華奈さんらは。感謝してもしきれない程に。あーそれと、いちおう新しいオアシスを作ったという話は2日前ほどだね。砂漠から抜け出してきたあたり大したものだが、太陽王と反りが合わずに聖都に向かっているのかも知れねえが・・・」

 

 

 「明日以降かね。聖抜という儀式が近づいている。ただ・・・そこにはいかねえほうがいい。たしかにあそこはなんでもあるだろうし、強い戦士たちもいる。だがな。何もかもあるからこそ、綺麗だからこそ怖いものがある」

 

 

 なんでもあるし、その儀式がすごく大事なのだろうか? でも、この反応は、顔はいいものを思い出す。見てきたような顔じゃない・・・

 

 

 アンさんに頼光さんも怪訝な顔をしつつ不安そうにしている。

 

 

 「でも太陽王の場所も危ない。ここのオアシスも水はそろそろ尽きる。それなら、皆さんはどこに行くんですか?」

 

 

 「お、いいこと聞くねえお兄さん。俺等はここから北にあるという山村に行くことにしている。その合間にオアシスで補給をしつつな。兄さん等カルデアの騎士の関係者なら獅子王とやらも気にいるかも知れねえが・・・悪いことは言わねえ。死にたくなかったら聖都の壁には近づくな」

 

 

 「ご忠告感謝します。それと、どうかご無事で」

 

 

 「ああ。嬢ちゃん等の方もな」

 

 

 手を降って分かれつつ、スピンクスに乗り込んで少し岩陰に移動しつつちょっと相談をしようとみんなに頼んで止まり、考え込む。

 

 

 「うーん。獅子王。実際にいた王様だとは知っているけど、彼十字軍サイドだよね? 十字軍はオジマンディアス王が蹴散らして、だっていうのに聖都には獅子王率いる騎士たちがいる。で、何かの儀式を行っていて、でも危険だと」

 

 

 「なんというか、情報があまりにチグハグで・・・まとまりがあるようですが知っている情報と噛み合わない。十字軍なら、やはり現地住民への加害などでしょうか?」

 

 

 「それと3つ目の勢力と言うか、まあ小さいのでしょうけどおそらくハサンたちのいるばしょ。ここから北の山村にいるというのもありそうでは? たしか彼ら「山の翁」と呼ばれた人たちでしょう?」

 

 

 「じゃあ、今のところオジマンディアス王たちのエジプト。ハサンたちの小さな山村、そして、獅子王のいる聖都にいる騎士団。でいいのかな?」

 

 

 それぞれのいる場所を大まかに地面に石でガリガリと描いて線でつなげて見る。綺麗に三角形で、そしてそれぞれが山、都市、砂漠と守りに秀でているゆえに多くぶつかり合わないようになっているように思えてくる。

 

 

 「そのうちの二つ。山村か、聖都どちらかに華奈がいるのだろう。現状、ハサンは私達がニトクリスさんを誘拐したのを不正だから歓迎してくれるかは未知数だし・・・聖都にはもしかしたら華奈を狙った騎士がいる可能性が高い」

 

 

 「でもまあ、どのみち調べないといけない場所。とりあえず、聖都に行ってみる他ないかも知れないね」

 

 

 『ああ、やっとつながったわ! みんな。無事!? 漸く通信が安定して』

 

 

 行き先が決まったところで割り込んでくるカルデアの通信。オルガマリー所長の声にみんなホッとなりつつ笑顔を見せて返す。

 

 

 「もちろん元気です!」

 

 

 「オルガマリー所長。はい。私達も今から聖都に向かうところでして」

 

 

 「ああ、それとねオルガマリー所長。変な話だがこの特異点では既に十字軍は敗北しているのだけど獅子王たる人物が今のエルサレム。そこを聖都としているというトンチンカンな状況でね。華奈くんの状況含めてなにか知らないかな?」

 

 

 『は、はい!!?』

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんのいきなりの情報交換でぶっこんでくるものに素っ頓狂な声を出してしまう所長。うんうん。言っていることメチャクチャだけど事実らしいんだよねえ。それ以外にも続々と話される情報でパンクしそうな声が聞こえるのが面白い。

 

 

 『う、うーん・・・いちおう、まずは聖都のほうね。まず観測できるうえで二つ巨大な魔力感知ができる。その一つがおそらく聖都。もう一つは、貴方達の行ってきたオジマンディアスの場所でしょうね。で、2つ目に華奈の方も無事観測はできているわ。ただ、存在証明のための所在がわかる。程度でモニターはできていないの。

 

 

 冬木よろしく気配遮断の礼装とかで時折ごまかしつつって感じね。だから、そっちの行く方針に関しては了解。だけど、気を付けて。仮にも獅子王と名乗り今も無事。オジマンディアスが倒したというのにその名前を名乗っているというのはエジプトのファラオたちも早々に手を出せないのかも知れないし』

 

 

 「もちろんさ。聖抜という儀式を見定めつつ華奈を探して、いなければ山村に行こうと思う」

 

 

 そう言って通信を切り、僕らもまたスピンクスで聖都を目指していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「・・・止まってください・・・!」」

 

 

 運転中、急にアンと頼光サンの声が被ってスピンクスを止めるように静かに、よく通る声でみんなに伝え、そしてスピンクスを止めた。

 

 

 「なにか・・・嫌な気配が・・・」

 

 

 「ええ・・・エレナさん・・・出来れば、遮音の術などはありますか・・・?」

 

 

 「な、なに?」

 

 

 「すごい・・・気配がします。おぞましい何かがいる。そういう気配と英霊が」

 

 

 アーチャーの目と海賊、武者の直感というべきなのだろうか。厳しい表情で遠くを見つめる頼光さんの視線を追えば確かに500メートル先に英霊らしき弓を携えた戦士と、それを守ろうと前に出ている人影、そしてその後ろには一般人と思わしき人が。

 

 

 「・・・っ・・・! と、トリスタン卿・・・!」

 

 

 

 マシュが消え入りそうな声で必死に両手で口をふさぎつつも話した言葉に僕もみんなも驚く。あの赤毛の戦士。それがトリスタンというのなら、円卓の騎士。華奈さんたちの同期で、高名な騎士の一人だ。

 

 

 急いでスピンクスを影に。ちょうど小さな坂の下だったのであちらから見えないようになりつつ反射光対策をした望遠鏡と遮音の魔術をエレナさんがこっそり個人ごとにてくれたのでそれで様子を見る。

 

 

 「・・・・・嘘でしょ・・・あれって・・・」

 

 

 「最悪だ・・・・」

 

 

 隣でエレナさんとダ・ヴィンチちゃんも見ているが何やらトリスタンを見て悲痛な顔を見せつつ悩んでいる。

 

 

 「トリスタン卿・・・もしかして、獅子王のそばにいるのでしょうか・・・」

 

 

 「一旦下がるべき・・・?」

 

 

 「駄目だ。もし下手に動けば、気配を微塵でも感じさせればたとえ頼光がいても誰かが死にかねないほどだ。「ギフト」を持っている・・・おそらく、マシュ。君の中のギャラハッドが覚えている頃よりあのトリスタンはずっと強い・・・」

 

 

 「多分、私達がこの距離に近づいて気づかれていないのはあのアサシンの英霊たちを追いかけていた直後と私達が見つけたタイミングが被って、しかもその上であのアサシンが手練れだからこそ意識を割いているからですわ。

 

 

 でないと・・・音に聞こえし円卓の騎士の中においても数少ない弓の名手。その目に私達は見つけられていたでしょう」

 

 

 逃げるのも駄目、助けに行くのも駄目だとダ・ヴィンチちゃんが止める。それほどに強いというのか・・・ギフト。祝福? なにかの後押しを受けているってこと・・・?

 

 

 とにかく息を殺しつつ、坂を壁に、燃え残っていた倒木や岩と岩の隙間からそっと覗いてみる。

 

 

 

 「さて・・・我が使命は情報収集と貴方達を捕らえるまで止まりません。故に、どのように後ろの方々を逃がすおつもりで?」

 

 

 「・・・私が投降しよう。情けない首だがいちおうハサンの一人。故に、そちらの欲しい情報もあるかもしれん。その首と引き換えに一日その脚と右手を動かすな。それなら、いいだろう? その後で尋問でも拷問でもして話を引き出すがいいさ」

 

 

 なにか、話している? そして、アサシンの方は何やらトリスタン? から後ろの人らを逃がそうとしているようだ。

 

 

 「何たる高潔。そして、そこまでして後ろの人々への万が一を考えるとは。なるほど。素晴らしい。そして、価値ある貴方が来るというのであれば・・・」

 

 

 「その返事、承諾と受け取る。ならば・・・」

 

 

 「ええ。ですが、そのために抵抗されては困ります。手足の腱を切らせてもらいましょうか。そしてそこのあなた。このハサンを縛りなさい。逃げられないように念入りに」

 

 

 ハサンの持っていたナイフで肘と膝の周辺。筋肉の腱がある場所を両手両足切り裂いて動きをできなくしていた。捕虜にする気だろうか。更には一般市民の一人に束縛もされてしまう。これでは逃げることもできないというもの。

 

 

 「ぐっ・・・グォ・・・! これで、いいな・・・さあ、いけ! 同胞たち! 呪腕の奴らなら受け入れてくれるはずだ!」

 

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 

 なにか頭を下げつつ走り去っていく一般市民の人々。交渉が成立したのか。

 

 

 

 「自ら動きを封じ、束縛にも応じた。お見事ですならば私も約定を守りましょう。そして・・・・尋問を始めましょう」

 

 

 そう思ったのもつかの間。左手で弓らしきものの弦を鳴らした瞬間、逃げていた女性の首が切り落とされて、近くの女性の傍で血飛沫を上げて走ったまましばらくして倒れる。

 

 

 「な、なにを・・・!!」

 

 

 「ああ、私は悲しい。ハサンであろうものが私の得物を理解していないとは。両足と片手を動かせないことで私を封じたとはなんという慢心」

 

 

 また弦を弾けば、今度は男性の一人が真っ二つにされて大地に臓物をぶちまけてただの肉塊に代わってしまう。

 

 

 「我が妖弦フェイルノートに矢はありません。これはつま弾く事で敵を切断する音の刃。一歩も動かず、弓を構えずとも肉袋を立つ程度は容易いこと。さあ、ではここ数日前に太陽王の領地を出たという銀狼騎士。華奈はどこにいるのか。先程言っていたハサンの情報網。関係性からある程度知っているでしょう?

 

 

 貴方の大事な同胞とやらが全部死なない内に教えてくれれば幸いです」

 

 

 「おのれ・・・! 聖都の騎士が!」

 

 

 「ほら、早く言うのは恨み言ではなく情報です」

 

 

 あまりにひどい惨劇が数秒ごとに人の命が散らされる一方的な虐殺によって繰り広げられていく。ハサンの方も何もできずにそれを見ていくだけ。

 

 

 ひどい。これをどうにかしたい。だが、そのなかで鳴り響く刃と刃がぶつかり合う音が響く。

 

 

 「「!!?」」

 

 

 「「「「「!」」」」」

 

 

 それには全員が驚く。深くフードをまとった人物が剣を一振り持ってトリスタンのあの攻撃を防いだのだ。

 

 

 「少しはやるようですね」

 

 

 攻撃の標的をその剣を持つ人に変えるもその剣士は剣を軽く振りつつトリスタンに近づき、あの音の刃の攻撃を全部躱し、受け止めきっていたのだ。

 

 

 「なっ・・・・ガァっ!!?」

 

 

 そこから更に震脚を使い深い踏み込みから放たれる拳の一撃をトリスタンの土手っ腹に打ち込んで数十メートル遠くにふっとばして転がし、その間にハサンの拘束を解き、最後のおまけと言わんばかりに使っていた剣を鞘ごと放り投げてトリスタンの顔面にストライク。

 

 

 「! っ・・・! 貴方は・・・!」

 

 

 頼光さんたちでも危ないと思わせる相手を瞬殺したことに驚きつつも、次の瞬間にはハサンを抱えたまま僕らの後ろに移動しており、なにか羊皮紙? を巻いたものを転がしてから次の瞬間にはまたいなくなっていた。

 

 

 気がつけば市民の人らもいなくなっており、死者は・・・5名ほど出てしまったけど、残りは全員あの人がハサンも一緒に助けたんだろう。

 

 

 「な、何者なんでしょう・・・・・」

 

 

 「わからない・・・あれもハサンの一人なのだろうか?」

 

 

 「いや、あの移動方法と、あの弓の攻撃方法を知っている対処法はあの子でしょう」

 

 

 起き上がったトリスタンが先程の剣士の投げた剣を持ち、しばらくなにか感慨にふけっていたのか? をしたあとに立ち去っていき、漸く緊張の糸が切れたところでみんなでどっとへたり込む。

 

 

 急な状況が連続で起きすぎて何が何やらだ。

 

 

 「・・・聖都の騎士と、ハサンは敵対状態のようだけど、民間人も容赦なく巻き込むとは・・・」

 

 

 「現在の状況だと、それぞれがそれぞれに敵対している状態なのかなあ・・・」

 

 

 「元。その羊皮紙にはなんて書いているの? それと、カルデアの方でも観測はどうなっているかしら。あのアーチャー、本当に離れているわよね?」

 

 

 『ああ、あのアーチャーは君たちから離れて既に800メートル以上は離れている。この殺害は何の意味があるのか。十字軍の再現をしているというのなら悪趣味だけども・・・』

 

 

 「ああ。了解エレナ。えーと・・・『聖抜の儀で会いましょう 華奈より』・・・さっきの剣士、華奈だったのか! じゃあ、剣を使っていたのはあのアーチャーに、トリスタンに悟られないため?」

 

 

 「ああ、お母さん。無事で良かったです! ハサンを助けたということは、現在は山の翁のもとにいるんでしょうか?」

 

 

 「その可能性は高いですわね。それに・・・先程のアーチャーの様子と、聖抜の儀。そして聖騎士の話・・・うーん・・・」

 

 

 「とにかく、今は一度ここで隠れ過ごしてから夜明けになって動きましょう。あと、オアシスの人の発言を踏まえるとおそらく聖抜の儀は人を集めて行うもの。外部から人を招くものでしょうし、下手にそこでは暴れないでしょう。あのアーチャーが聖騎士だとしたら」

 

 

 「エレナの言う通りだね。今日はこれ以上は行動せずに明日早く動くことで今日の移動できなかった分を埋めていこう」

 

 

 その後は仮眠の交代を決めてしっかりと休んでいき、夜が明けたところでスピンクスに乗って僕らは聖都を目指した。




 華奈、モルガン、アルトリア、モードレッドブチギレ案件。


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華奈「一番弟子の馬鹿を見るとは思いませんでした」

 考えてみるとアメリカはスカサハが弟子の醜態を見て、今回は華奈が元同僚や弟子兼甥の醜態を見ることになるんですよね。これはひどい。


 「ああ、ありがとうございます。強盗を追い払うどころか護衛までしてくださって」

 

 

 「いえ、礼には及びません。こちらこそ聖都への方角を教えてくれてありがとうございます。皆さんはこの大所帯でどこへ向かうのですか?」

 

 

 「どこへ。と言われましても聖都ですね。安全な場所はもうあそこしかないですから。侵略者たちがやってきて、土地が燃えて、聖地も奪われて・・・でも、獅子王様が非道なる十字軍を蹴散らして聖地を我々にも開いてくれたのです」

 

 

 あれからトリスタンがいなくなって交代で仮眠を取っての翌朝。僕らは道中で出会った強盗に襲われていた集団を助けてもらいつつ話をしている。

 

 

 「どこから来たのかわからない騎士様ですが十字軍を皆殺しにしてくれただけありがたいじゃないですか。そりゃあ、聖地に恥知らずな都を建てたと嘆く人もいますけど・・・神の教えは不変のもの。都がどんな形だろうと私達の祈りは変わりませんから」

 

 

 「ええ。信仰と祈り。その心こそが神様も喜ぶべきものでしょう。その聖都でもまた皆様の教会ができるのであればよいのですが」

 

 

 (十字軍は獅子王に蹴散らされたと。オジマンディアスの発言も含めてますますリチャード一世じゃないね)

 

 

 (そうなると、やっぱり獅子王を騙る英霊がいるってことでいいのかしらね。でも、都を立てるほどの騎士。とかになると数は限られるわよ?)

 

 

 「失礼、お姉さん。そうなると貴方達は聖都への難民ってことになりますが、えーと。一応、その聖都は異民族でも受け入れているんです?」

 

 

 「ええ。もちろんです。獅子王様は誰も拒まないと聞いています」

 

 

 昨晩のトリスタンの行動を思い出すとそうなのだろうか。という考えが頭によぎるが、山の翁のハサンからなにかの情報を引き出すための致し方ない犠牲と考えているのか。

 

 

 華奈さんも敵兵相手には容赦のないことはするけど、民間人へは手出しをしなかったのでまだどうにも僕の頭の中では難民の皆さんの言う獅子王のイメージと僕のイメージの獅子王はどうにもズレが有るように感じてしまう。

 

 

 「その受入のイベントが聖抜。というものですの?」

 

 

 「はい。聖都では月に一度聖抜の儀という難民を受け入れてくれる日があるんです。その日までに聖都にたどり着けばもう心配はいらないとか。私達も最初は迷いましたけども、村が焼けてしまい・・・半分は私達、もう半分は山岳に向かいました」

 

 

 「山岳。ですか?」

 

 

 「はい。先程も言いましたが聖地に都を建てた獅子王様を信じきれない人もいまして。なのでその方々は山の民が住まう山岳地帯に移動しました。ですが・・・山岳地帯は既に不毛の地。この地で生きたいのなら聖都しかないと思います・・・」

 

 

 なるほど。同時に聖都を拒む山の民。そこについているであろう山の翁。ハサンたちは聖都の騎士から見ると敵対者。なのかな? でも、そうなるといまのところ衝突の話を聞かないオジマンディアス王たちと聖都のほうは一体?

 

 

 ちょっと疑問が増えたと思いつつも、少しだけ水と食料を分けてから先に進む難民の皆さんを見送って僕らは小休止をしつつ話をまとめてみようとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてと・・・これで明確に3つの勢力がわかったわけだけど・・・元。君はどう思うかな?」

 

 

 「そうですね・・・まず、おそらくですがファラオたちと聖都は不可侵条約、冷戦状態だと思います。理由としては先程の難民の皆さんの話や、ここで最初に出会ったおそらく華奈が助けたであろう人たちの方でもその2つの勢力がぶつかった話を聞かないこと。

 

 

 もう一つは、その勢力どちらにも手を出す、関わっていたのが山の翁たちと思われる存在。多分、ニトクリスさんを誘拐しようとしていたのは彼女を人質にオジマンディアス王を動かして聖都を奪還しようとレジスタンス活動をしているからじゃないかなって」

 

 

 「うん。私もそう思っている。なにせこの時代の山の翁といえば暗殺者の語源ともなったハサンたちの住む場所、お膝元だ。そこを獅子王に取られたとなれば看過はできないだろうね」

 

 

 なるほど。其の上でレジスタンス活動をしているであろうアサシン教団は昨晩はトリスタンに襲われたと・・・

 

 

 『うーん・・・多分、不可侵条約を結んでいるのは獅子王、オジマンディアス王どちらも互いに手を出せば痛手になる。ただでは済まないと理解しているからで、だからこそ第3勢力のハサンたちがどうにかファラオたち動かそうとしていた。

 

 

 で、そこに華奈がいて今は正体を隠しているけど聖抜の儀を見る。特異点を生み出したと言われる獅子王を見定めたうえで考えを出さないといけないと。私としては可能なら最初から山の翁たちに協力を仰ぎたいけど、まあ、聖抜の儀を逃せば次は1ヶ月後。流石にそこまで長居はできないし彼らのあり方を見ていくしかないわね』

 

 

 「そうですね。所長。それと、華奈さんの方は観測できました?」

 

 

 『ええ。聖都に向かって動く反応が定期的に見せてくれるようになっていてロマニと良真二人で追ってもらっているわ。だから貴方達も気にせず向かいなさい』

 

 

 「はい。ありがとうございます所長!」

 

 

 ここで通信は切れて僕らも再度移動を開始。難民を受け入れる日。話だけ聞けばいい話だけど、うーん・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どんな場所でも、この状況でもいるんだね強盗は・・・」

 

 

 「はい。ですがしょうがないのでしょう。なにせ、ここまで人が、聖都に希望を求めて荷物を抱えてきているのですし」

 

 

 無事に白亜の白。美しい巨大な城塞都市。聖都にやってきたけど、早々に追い剥ぎというか盗賊に襲われてそれを対処したあとにみんなでホッと息を吐く。

 

 

 「実際、都市に来る方は財貨を持ってくるものが多いので京の周辺にも山賊、野盗、そして鬼もたくさんいました。人の世ではもはやどこでもあることなのでしょうね・・・嘆かわしいことですが」

 

 

 「海賊としてはまあ分かるんだけど、流石に私のマスター、カルデアの皆さんを襲うのはいただけませんね。今は大事な宝物ですから」

 

 

 「頼もしいわねえ。武人と海賊の嗅覚と危機察知能力は。さ、みんな。これを被って」

 

 

 周りにまだ襲う輩はいないかと確認する中、エレナさんが人数分の外套を持ってきてくれた。どうやらこの大量の難民が住む城郭の周りでちょっとしたお店をしている人もいるようでボロの外套だがスピンクスを作成する際に残っていた木材と果実で取引をしたとか。

 

 

 「一応見た目だけでも英霊とバレる可能性を抑えないといけないからね。さ、これを・・・・・・は?」

 

 

 「え。僕たち寝ていたっけ・・・?」

 

 

 外套を被り、難民たちの中に交じる中、夜真っ只中だった空が急に快晴となっている。まるで紙芝居で次のページに移ったように突然に。

 

 

 そして、それのあとに城門が開いて出てくるのは全身を白銀の鎧に身を包んだ重装騎士。皆ハルバードに大剣、大弓を持ちながら僕らを含めた難民たちを守るようにして囲ってくる。

 

 

 「・・・・どうなっているの? いつの間に日が昇ったんだ・・・?」

 

 

 この現象は僕らだけの錯覚では無いようで難民のみんなもざわつく中、それを鎮めるように騎士の声が響いた。

 

 

 「落ち着きなさい。これは獅子王がもたらす奇蹟。『常に太陽の祝福あれ』と我が王が、私に与えた祝福なのです」

 

 

 「が、ガウェイン卿・・・!」

 

 

 「え、円卓の騎士で華奈さんの一番弟子の方ですか? まあ・・・」

 

 

 その声にマシュは信じられないものを見るようにして声を殺しつつもつぶやき、それにつられて僕らもその筋骨隆々のきれいなブロンドと大剣を持つ騎士の言動に注目していく。

 

 

 「ガウェイン卿だ! 円卓の騎士、ガウェイン卿だ! 聖抜が始まるぞ。聖都に入れるぞー!!」

 

 

 彼の言葉と奇蹟という言葉。それに難民のみんなも沸き立っていて、この苦しい時間も終わるんだと嬉し涙を流すものまでいる。そりゃあそうだろう。この豪奢な騎士たちに奇蹟を見せられ、美しい城塞都市。貧しい暮らしも苦しい思いもしなくて良い。盗賊たちもこの騎士たちが追い払ってくれると信じるに足りる威容なのだから。

 

 

 ガウェインの話は続き、そのたびに難民たちからの拍手と感謝の声が響いていく。話の中にあるこの都市の名前もわかったけど、キャメロット・・・それって、アルトリアさんがかつて騎士王の時代に治めていた城。そしてガウェイン・・・まさか、獅子王の正体って・・・

 

 

 「ありがとうございます。ここに至るまで長く、辛い旅路があったでしょう。我が王はあらゆる民を受け入れます。異民であっても異教徒であっても例外なく」

 

 

 その言葉にますます歓喜の声は高まり、異郷の騎士であっても輝きは本物だともてはやすものまでいる始末。いや、こんなひどい状況でこの言葉に喜ばないわけがないだろう。僕も同じ立場ならきっと同じことを考えていたはずだし。

 

 

 彼らの歓声の渦の中、城門から更に出てくる純白の鎧とライオンをもした兜をかぶった細身の騎士が白馬に乗って現れ、獅子王と名乗りガウェインの言葉の続きをつなぐ。あれが獅子王・・・この都市の所有者。

 

 

 「最果てに導かれるものは限られている。人の根は腐り落ちるもの。故に、私は選び取る。決して穢れない魂を。あらゆる悪に乱れぬ魂を。・・・・生まれながらに不変の、永劫無垢な人間を」

 

 

 「・・・・・・最悪だ。あり得ない。こんなことが起こり得るというのか・・・マシュ、藤丸、元。みんなここから急いで離れよう。何が聖抜だ。文字が違うじゃないか・・・奴らは・・・」

 

 

 「ダ・ヴィンチちゃん? でも、それでは華奈さんが・・・」

 

 

 話している間に急に輝く強烈な光。それは僕らや難民を包むけど眩しくない、不思議な光だった。驚く中で、何名か、本当になんでそれがわかるか不明だったけど何名かだけ光っていない難民がいた。

 

 

 「聖抜は成された。その三名のみを招き入れる。回収するが良い。ガウェイン卿」

 

 

 「・・・御意」

 

 

 光は収まり、光っていなかった難民の人たちを受け入れるように指示したらしい獅子王は護衛を連れて城門から都市、キャメロットに戻っていった。

 

 

 ガウェインたちはそれを片膝を付いて拝手で見送り、すっと立ち上がると先程の柔和な好青年。美男子の顔から剣士の顔に変わっていた。空気の変化がわかる。あれは・・・まずい。

 

 

 「皆さん。誠に残念です。ですがこれも人の世を後に繋げるため。王は貴方がたの粛清を望まれました。では、これより聖罰を開始します」

 

 

 「「・・・え」」

 

 

 僕とマシュがつぶやくのと同時に武器を構え、囲うようにしていた騎士たちが剣を振り下ろそうと、聖罰で都市に入ることを許された子供の母親を切り捨てようと粛清の一番槍を果たそうとする中。

 

 

 「・・・・・・・ふざけたことを」

 

 

 その剣は一人の女性に受け止められ、握力で握り壊された。騎士の一振りを片手でつかみ取りあまつさえ剣を破壊してしまう。人間離れしたその行いに粛清の空気から今度はその女性に視線が集まる。

 

 

 が、直後に地響きが起きたと思えばまるで難民たちから騎士を遠ざけるように大地から岩の丸太が飛び出しては騎士たちを吹き飛ばしていく。

 

 

 「! あれは、深山での技! ということは・・・」

 

 

 「荒野を彷徨い、たとえ異郷の、異教徒の騎士であってもかすかな希望を求めてやってきた牙なき難民に刃を向け、母子を目の前で殺めて引き離す真似を目の前で・・・!」

 

 

 その女性は刀を抜き、騎士たちを片っ端から。まるで剣舞を舞うように、一合も打ち合わせずに無人の場所で舞うように次から次へと殺して暴れ舞う。

 

 

 「その刃は敵対者へ。守るものを脅かすものを砕くために向けるもの。これは『騎士』の行いではない! 私が教えた『紳士』として、『戦士』としての教えではない!」

 

 

 突破口をあっという間に切り開き、軍馬、狼たち呼び出して難民たちに乗るようにジェスチャーをしつつも片手の太刀だけで騎士を殺しながらガウェインに迫る。間違いない。華奈さんだ。

 

 

 「先生・・・! いえ、華奈きょ・・・・」

 

 

 「この、大馬鹿弟子がぁああ!!!!」

 

 

 構えていたガウェインの刃を刀で抑え、その間に放つ鉄拳がガウェインの顔面にクリーンヒット。

 

 

 「ぐはあっ!!?」

 

 

 あっという間に城塞に向けて吹っ飛び、騎士たちを巻き込んで倒れて鼻血を流す。

 

 

 「マシュ、皆さん待たせましたね! とっととウチの子達に難民乗っけて逃げますよ! ハサンのみなさんが先導を、殿は、私と藤太様で行うので」

 

 

 「うむ。任された。我らが東国の武者も非道なことは何度もしてきているが、流石に保護を餌に粛清は許せん。さあ、我が弓術をご覧あれ!」

 

 

 そう言って英霊らしい戦士が飛び出してきて無数の矢を放っては難民を殺そうとする騎士たちを逆に仕留めていく。

 

 

 「華奈さん! ああ、母は無事で嬉しいです! 殿は私も任せてください。この頼光も存分に」

 

 

 「じゃあ、置き土産をしていきつつ逃げようか。エレナさん」

 

 

 「もちろんよ。騎士相手。ケルトのときよりきつそうだけど、二人でなら!」

 

 

 一方で僕らもスピンクスに乗って華奈さんの軍馬たちが駆けていく方向に逃げつつ、エレナさんの魔導書? が空中から魔力の弾丸と光線を撃ち、アンさんが騎士たちの集団目掛けて狙撃を開始。射程内なら何度でも跳弾するその銃弾は騎士の集団の中で無数に跳ね回っては鎧や武器を壊し、殺してと多いに足止めに効果を発揮していき、被害者は出るものの包囲を砕いて騎士から逃げ切る脚を用意してくれたのが功を奏してほとんどが逃げ切れている。

 

 

 倒れている騎士も普通ではないようで倒れると光の粒となって消滅していく。生身の人間じゃない?

 

 

 『おそらく使い魔、召喚された騎士に近い。形としてはメイヴの召喚していたケルト兵士と似たりよったりだろう。ただ、こっちは組織化されていて軍団戦もできる。みんな気をつけて逃げ切ってくれ!』

 

 

 「くっ・・・軍を二手に分けよ。4割は難民へ。残りはすべて華奈殿への追撃部隊とする! 残りの英霊は始末していいがあの銀髪の騎士、華奈殿は生け捕りとする。それを守らなければ我が王からの粛清が来ると思え!」

 

 

 ガウェインも軍を分けて僕らと華奈さんたちを追いかけるようで、ガウェインは華奈さんの方に。そこからは華奈さん、頼光さん、藤太さん? と分かれつつ、山間の村を目指すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ガウェイン。戻りました」

 

 

 あの苛烈な追撃戦の後、華奈たちを捕まえきれずに聖都へ戻り、玉座の間に来たガウェイン。その右頬には腫れ上がった跡があり、華奈に殴られた証が痛々しく美丈夫ぶりを汚していた。

 

 

 「戻りましたか兄上。して・・・師匠の方は?」

 

 

 「申し訳ありませんが逃げられました。深山を使い、猛獣の巣に誘導して騎士たちを戦わせて追撃の足を鈍らせるなど、相変わらずの撤退術で・・・」

 

 

 「そうか・・・獅子王。兄上・・・いえ、ガウェイン卿への裁定はどのようにしましょうか」

 

 

 玉座でその話を聞いていた獅子王と、その補佐の立場にいる真っ黒な鎧を身に包む騎士でありガウェインの弟のアグラヴェインが話をふると獅子王は立ち上がる。

 

 

 「ガウェイン卿。あの方を取り逃したこと以外での被害は?」

 

 

 「はっ。粛清騎士100名、軍馬を20頭。失い、そして難民を900名取り逃してしまいました・・・陛下の威光に泥を塗ってしまい・・・いかような罰でも受ける所存です」

 

 

 「そうか、では頭をあげよ。ああ、膝は付いたままでいい」

 

 

 そう言って獅子王は指先をガウェインに向け、瞬間、光の槍がガウェインを吹き飛ばし、苦悶の声を上げる間もなく玉座の間から城の壁を壊れるほどの勢いで空を舞った。

 

 

 「あ、兄上! 兄上! 生きておいでで・・・・・・は、はぁ・・・生きているか・・・おい、医者を呼べ。兄上を治療せよ」

 

 

 ふっとばされたガウェインは城の壁は愚か、城壁まで吹っ飛んでしまい、壁に叩きつけられても尚生きているようで血だるまになってこそいるが死んでない内容だとアグラヴェインはぶち抜かれた城壁から確認して急いで医者を呼ぶように手配していく。

 

 

 「私はガウェイン卿に死の一撃を与えた。これを受けて生き延びたことで赦しとする。異議のあるものはいるか?」

 

 

 獅子王は兜を脱ぎ、その美しい美貌を見せつつもまるで氷のように無表情のまま告げる。今の行いに異議はあるのかと。

 

 

 「・・・王の裁定に異論などありましょうか。それに、ガウェイン卿にも直にみてもらうことで確信しました。華奈殿は生きている。そして、おそらく我々に挑みに来るだろうと」

 

 

 「私も同じ意見です。師匠は・・・華奈殿は向かってくる。そこで我々で招き、今度こそ護り抜くために万全を期していきましょう」

 

 

 「ああ・・・それに、太陽王にも既に目をかけられているようだが、こちらにあの方がいれば決戦で十分に蹂躙できるようになるであろう。ガウェインが取り逃がすほどの脚、そして難民の逃げられた数を見れば銀嶺隊もいる。あの部隊はギフトを与えた貴殿らでも2部隊で当たらねば勢いは止められないであろう」

 

 

 この言葉にトリスタンもアグラヴェインも頷く。オジマンディアスとはいずれ雌雄を決する。今の時点でもそれはできるが被害が出かねない。その不安要素を払拭するうえでも、自分たちの目的のためにも華奈という存在は必須。

 

 

 生前でも華奈の部隊は円卓の騎士3部隊を壁として漸く勢いが鈍るほどの激しい攻めを誇る部隊。かといって守りに関しても支援にも隙がない最強の部隊。スフィンクスが相手だろうと問題なく餌にしてしまうという確信があるほどには。

 

 

 「湖の騎士に追撃を任せつつ、今は決戦の準備をせよ。あの方を取り戻し、今度こそ失わせないためにも・・・誰の手にも渡すな。良いな」

 

 

 「「ハハッ!!」」

 

 

 獅子王の言葉は総意であった。もうあのような、抑止にさえ抗い遺産まで残してくれた偉大な戦士をもう傷つけさせない、誰の手にも奪われないために傷つけてでも奪い取る。矛盾しているが、悲痛な思いを胸に騎士たちは任務をこなしていくことになる。 




 多分カルデアの事を気にかけなくて良いのならなストーム1を呼んでエアレイダーで爆撃祭りをしていたくらいには華奈も怒り心頭。


 赤子から面倒を見て家庭教師をして、妻を見つけて結婚して幸せな家庭を見届けていますのでそのガウェインが子供の目の前で戦士でもない普通の母親を殺そうとするのは、ねえ。


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山の村

~カルデア~


アルトリア「うがぁああああ!! あ、ああああ、あの馬鹿ども! おそらく創作のガウェインか、平行世界の存在でしょうけどあんなことをして、根本から叩き直してやる! どいてくださいストーム1!」


ストーム1「下手にここ襲撃されたらマスター帰れないからここを離れるなって言っているだろーが! ぬがあー! パワードスケルトンと互角って!」


モードレッド「何やってんじゃ兄上!! 流石にそれはやっちゃいけねえ。騎士道にも、先生の教え的にもアウトだぞ! つーか、英霊だよな? 流石に本人だと私ショックだぞ!」


モルガン「あぁあああ・・・・・ええ・・・確か息子は第七特異点にいると言っていましたし、連絡は・・・うん、うん・・・本人じゃないから・・・並行世界。いやでも、愚息のこの馬鹿加減は・・・うぉおぉう・・・」
(連絡を取って本人確認はしたけどがっくりうなだれている)


イグレーヌ「」(魂抜けている)


ロット「なんてことだ・・・」


ロマニ「ナニコレ新手の地獄絵図?」


スカサハ「私に続いてまさかの師弟の愚行を見るということになれば、肉親が見ればこうもなろうよなあ・・・一応、コフィンへ出入りをさせないようルーンをかけておくか。メディア。手を貸せ」


メディア「はいはい。私もまあ・・・私の白歴史とか、イアソンのバカをもう一度見たら発狂するかも。カルナ、クー・フーリン、ジークフリート。警備は頼んだわ」


カルナ「うむ・・・しかし、まあ、そうなるな・・・」


クー・フーリン「ま、まあ・・・俺もアメリカでは複雑な心境だったし・・・気合い入れるかあ・・・」


ジークフリート「身内の暴走を見るのは、ああ・・・辛いものよな・・・・」


 「追撃は振り切れたようですね・・・ふぅ・・・くぅ・・・」

 

 

 「はぁー・・・聖抜ではなく聖罰。た、たちが悪いなんてものじゃないよ・・・」

 

 

 「銀嶺隊の脚と華奈たちが暴れてくれないとここまで助けきれなかっただろうね」

 

 

  無事にみんなで逃走を成功させて山の民の村に向かう道中。やっぱりというかあの銀嶺隊の足となる魔獣たちはものすごい速さで、人を乗せて走る動きも慣れたものだから難民のみんなを抱えての爆走でも疲れを見せずに騎士たちが見えなくなっても実に数時間走り通してくれた。

 

 

 「はぁ・・・あの騎士さんが助けてくれなかったら私達は今頃・・・」

 

 

 「我らの聖地へは戻れず、聖都は死のたまり場とは・・・」

 

 

 「・・・・・ガウェイン卿・・・」

 

 

 その中でマシュや難民のみんなはふさぎ込む、落ち込んでいる。当然だよ。アメリカではマシュにとっても育ての親や家族たちの温かさや領地での休憩に頼もしさを見たあとでこれを見るというのは。

 

 

 「・・・藤丸君。マシュと一緒にいてあげて。私が警戒をしておくから」

 

 

 「ありがとうございます。マシュ。大丈夫?」

 

 

 「ありがとうございます先輩・・・。その、私の中のギャラハッドさんも色々と打ちひしがれているようで・・・私自身も、お母さんや、イグレーヌさん、モルガンさん達を見てきたあとにあれで色々と・・・兄弟子みたいな方でもありますし」

 

 

 「そうだよね・・・ただ、あれをしようとしている理由を突き止めて、どうしていくかを考えよう。きっと、大変で辛いけど僕らがこの特異点でやることだし、少しは・・・助けるから」

 

 

 「はい。ありがとうございます先輩。ただ、常に太陽のもとにあるガウェイン卿は力が3倍になるのもあるんですが、何よりお母さんの一番弟子。長くお母さんの剣術を見ている上に本人は剛剣の使い手ですが、その技術は一部あります。どうしていくか・・・」

 

 

 シンプルに倒すべき相手としても厄介極まりないと・・・うーむ。

 

 

 「しかし、山の民の村、私達を受け入れるのもだけど獅子王たちとどう戦ってくれるかよね」

 

 

 「ですね。おそらくハサンの皆さんたちでしょうしアサシンの彼らは闇討ち、奇襲を得意としますが問題はあの聖都に入れるか」

 

 

 「なにせまあ、かの騎士王と円卓の騎士の拠点となった白亜の城。その守りに関しても硬いはず。だからこそ今もああして聖罰という行為を行えているはず。とんだ難題を抱えそうだねこれは」

 

 

 「まさか騎士がこのようなことをするとは思いませんでしたしね。ふぅー・・・どうしたものか・・・む・・・マスター。追手が来たようですわ。数は・・・500。方向からしておそらく外征にでも出ていた部隊のようです」

 

 

 アンさんが見つけた方向に目を向ければたしかに遠くから土煙が上がってきている。地響きも聞こえてきてその光景に難民が慌てふためく。

 

 

 「藤丸君。ここは喰い止めるために一当たりだけして離脱して難民のみんなを逃がすように動こう。山の民が先導してくれているからはぐれはしないはず」

 

 

 「わかりました。マシュも・・・マシュ?」

 

 

 「・・・あ、あの人は・・・!」

 

 

 数に関しても、その戦闘を走る英霊であろう存在を見ておそらくギフト持ちの円卓の騎士の一人。紫色の髪に鋭い目、鎧に身を包んだ騎士を見てマシュが目を見開くもトリスタンやガウェインを見たときとは違う、わなわなと体を震わせてまるで怒りがこみ上げているようだ。

 

 

 「先輩、オーダー了解しました! マシュ・キリエライトあの馬鹿騎士を抑えに行きます!」

 

 

 「あ、ちょっ!?」

 

 

 まさかの単騎突撃にしに行くマシュを見て驚く一同。最初にトリスタン達を見たときとは違ってなんか元気良すぎない!?

 

 

 「アン、援護射撃! エレナさんとダ・ヴィンチちゃんは藤丸くんを乗せて二人で援護を。私もスピンクスで後ろにつくのでお願いします!」

 

 

 「りょーかい! なにかマシュの中のギャラハッドが抑えきれない感情でも湧いてしまったんだろうさ」

 

 

 「大変ねまったく」

 

 

 「む・・・な、あの大盾、も、もしや。いや、少女?」

 

 

 「ガウェイン卿に続いて、一体何をしているんですかお父さんのバカ!!」

 

 

 「な、なに!? ぐふっ!」

 

 

 猛ダッシュで走ったマシュがジャンプしてライダーキックのように上空からのシールドバッシュで眼の前の騎士をお父さんと言いつつ馬から叩き落とし後ろの騎士まで巻き込んでの揉みくちゃ。

 

 

 でもそのお陰で騎士たちの行軍の動きがそこで止まり足止めの初動としては悪くない形になった。

 

 

 あと何やら相手の騎士が動揺しているのが響いているようでマシュ一人である程度止めているのが助かるのでその間にマシュに近づく相手にレイヴンで弾丸の雨をごちそうさせて対処。人じゃないとわかれば引き金も軽いよ!

 

 

 「本当に! 円卓最高の騎士として円卓最強のお母さんと二枚看板となっていたのに、それに泥を塗るような真似を! しているんですか! ランスロット卿!」

 

 

 「な、なぜそれを! 君は、いや、レディはギャラハッドなのか!」

 

 

 「その方から力を借りているデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトです! そして、華奈お母さんに育ててもらった、ギャラハッドさんと同じ養子みたいなものですよ!」

 

 

 「な、なんと・・・・・! く、でも私は・・・ドハァッ!」

 

 

 「私の娘にまで剣を向けますかランスロット様ぁ!! 生前からまるで反省していないようで!」

 

 

 そういえばある意味特定の目的のためだけに生み出された、寿命が華奈さんがいなかったら短かった。血はつながっていないけど親子。という点でもマシュとギャラハッドは共通点が多いんだなあーと考えつつリロードしていたら華奈さんがハチと栗毛、頼光さんと武者さんを引き連れてドロップキックでランスロットをふっとばす。

 

 

 「ほらほらー逃げないと馬の皆さん食べられちゃいますよーマシュ。無理はダメですよ。この人一応私以外では円卓最強格です。しかも今はギフトによって座から本人が降りている以上に強いです」

 

 

 騎士たちを斬り殺しつつ軍馬たちに動物会話のスキルだろうか? とハチ達軍狼の威嚇に恐怖して騎士たちを振り落として逃げていく軍馬。落馬した奴らはすぐにアンさんと武者さんの弓で射抜かれ、僕やダ・ヴィンチちゃん。エレナさんの援護で対処。

 

 

 「さ、逃げますよ。このくらいでちょうどいいです。これ以上付き合えば逆に増援が来かねないです」

 

 

 「了解ですお母さん。皆さん。離脱しましょう!」

 

 

 マシュと華奈さんの号令で急いで逃げて先に行っていた難民の皆さんと合流して撤退は成功。

 

 

 途中で武者さんと自己紹介をして俵藤太さんとわかりこれまたビッグネームが来たとみんなで大喜び。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こ、ここが山の民の村・・・・・!」

 

 

 「これが不毛の地? 冗談でしょ」

 

 

 「あはははは。まあまあ、実際数日前までは大変だったんですよここも」

 

 

 無事に追撃を振り切って到着しました山の民の村。とはいっても、山脈の山陰に隠れるようにして点在する村ですが、それぞれの場所に大きなため池と食料庫、簡素ですが土塁、城壁としては機能する土壁で囲った場所はまあ、聖都に比べれば月とスッポンですが不毛とは言わせません。

 

 

 「ははははは。これも華奈殿のお陰でして。何やら棒切による不思議な探知術で水源を掘り当てて土塁を作り、そしてそこの藤太殿による無限のお米。我らが山の民の救世主達によるものです」

 

 

 「あ。トータに華奈。おかえりー! その子達が華奈の友達や家族? アタシは三蔵法師玄奘。三蔵ちゃんって呼んでね」

 

 

 「よっ。いやー今回も大量に難民が来たな。こいつは賑やかになりそうだぜ。俺はアーラシュ。弓には自信があるぜ」

 

 

 出迎えてくれる呪腕のハサン様に三蔵様、そしてアーラシュ様。

 

 

 「あ、みなさんがカルデアの・・・キャッ!?」

 

 

 「あ、ぐふっ!」

 

 

 で、静謐のハサン様も迎えに来てくれたんですが、石に躓いて藤丸様と抱き合って倒れて、キス・・・しちゃいましたね。ファーストキス奪われちゃいましたかマシュ。ドンマイ☆

 

 

 「あ、あの・・・先輩?」

 

 

 「あ、あわわわわ・・・ど、どうしましょう・・・!」

 

 

 「静謐! お前はよりによって恩人の知り合いになんてことを! そこのマスター殿! ご無事で!」

 

 

 「え、あ。はい。なんか少しお菓子みたいなパチッとしましたけど」

 

 

 静謐様は全身猛毒の文字通り生体兵器みたいな感じのハサンなんですがギャラハッドの毒耐性の加護がその毒を知育菓子の刺激程度に抑え込んで解毒していたようでまあ問題ない様子。

 

 

 「う、うそ・・・私と触れ合っても問題ない方なんて・・・!」

 

 

 で、まああっという間に一目惚れ。恋はハリケーンな展開にとマシュは先程までの山の村の感動から無意識のジェラシーに意識が移行。いやー青春ですねえ。癒やされます。

 

 

 「ふぅ・・・いやはや、華奈殿。ウチのものが失礼を。そして、高名な武人やカルデアのマスターが来てくれたことは我らにとっても千人力。助かるばかりです」

 

 

 「ささ、まずはお腹を満たしましょう。難民の皆さんももう安心よ! ご飯もたくさんあるから、おにぎりとかだけど水も塩も、おかずもあるから食べていってー!」

 

 

 「本当に連れてくるとはな・・・百貌のハサンだ。貴様らの突撃隊長には助けられている。そして、我らが同胞、ハサンたちを幾度となく助けてもらった。ありがとう」

 

 

 「いえいえ。しかし、この様子だと華奈はずっとここに?」

 

 

 「ええ。三蔵殿、藤太殿と一緒にここに来てその日の食うものにも困っていた私達に恵みと助けをくれて、住まいもうまい具合に作りお陰でこの余裕があります」

 

 

 「まあ、それはおいておきまして。ちょっと皆様に会わせたい方がいまして。申し訳ないですがアン様、アーラシュ様、藤太様で警備をお願いしていいでしょうか? 今回の件で私が山の翁様たちと繋がっているのが聖都にも割れたでしょう。いつ攻めてくるかもわかりませんし」

 

 

 一息つきたいのは山々ですが相手がアルトリア様たちなら、聡い彼女たちならすぐに私の行動に気づいてここを探り当ててくる。

 

 

 粛清騎士たちを思い切り叩いておいたので部隊の回復には時間が掛かるでしょうけど、それでも持って数日程度。私がオジマンディアス様と接触する前に動くとするべきか、それとも万全を期すために備えを重視するか。

 

 

 どちらにせよ時間はない。獅子王たちの情報と、顔合わせ。そして私が動きたい方針を聞かせるためにも。

 

 

 「っ・・・そうですね。お、ランスロット卿までいればもはやあの聖都、獅子王の存在が円卓の騎士の主アーサー王の可能性の一つであるのは間違いないでしょう。

 

 

 あの方の戦略眼、戦術の鋭さなら早めに動かないと銀嶺隊の足で逃げて作った時間が無駄になるかも・・・マスター、申し訳ないですがもう少しだけ休憩は我慢してくれれば」

 

 

 「いやいや、スピンクスに乗っていただけだし、金平糖も食べたしで大丈夫だよ」

 

 

 「ふむ。では、母も警備に回りましょう。弓は扱えますし、手伝えることもあるはずです。エレナ殿。良ければ後で話を教えてもらっても?」

 

 

 「問題ないわ。じゃあ、私とマスター、藤丸君にマシュ、華奈、ダ・ヴィンチちゃんの6人でその人たちに会いましょう?」

 

 

 「うん。この数日の間に出会った人たちと出来事。そして、これからの作戦を聞くために」

 

 

 賭けに近いないようですがまあ、どのみちこうなりそうなことですし、飲んでくださり感謝ばかり。とりあえず皆さんを連れて私が深山で作った岩造りの小さな家に。

 

 

 「うーん・・・ハサンたちもいいものを使っている。これは・・・クルな・・・」

 

 

 「うーん・・・うぅ・・・けほ・・・けふ・・・あ、華奈、殿・・・?」

 

 

 そこではハシシをキメているヤク中探偵に、その煙で目が覚めて私に気づく隻腕が銀の腕になっている元同僚。

 

 

 はぁー・・・・・・・

 

 

 「療養中に人のいる場所でヤクを決めているんじゃないですよ! 子どもの教育に悪い!!」

 

 

 「ああ、これを取るんじゃないよ華奈君。全くワトソン君やハドソン夫人のように口うるさい。アイリーンのように鋭いがそこは問題だなあ・・・ふむ。子供というのはそこの少女かね?」

 

 

 「そうですよ。そして黒髪の少年は藤丸さま。もー・・・ハサン様たちもおすそ分けしすぎですって。紹介します。ここの黒髪イケメンがシャーロック・ホームズ様。で、ブロンド髪の美青年がベディヴィエール様。円卓の騎士です」

 

 

 「シャーロック・ホームズ! あの世界で最も有名な探偵が! わわ、私はマシュ・キリエライト! 華奈さんの義理の娘で、その、あの・・・大ファンです! ホームズさんの作品はたくさん読んでいるんです!」

 

 

 マシュ様は多分ここ数日で一番の笑顔を見せてホームズ様に握手をしてサイン色紙はないかとスピンクスを探そうとしてフォウ様に呆れられる。残りのみなさんも同様に驚く。

 

 

 『シャーロック・ホームズ! あの名探偵が!?』

 

 

 『ゲェーッ! ホームズ! お前もマイ・ガールと出会ったのか!』

 

 

 「む。モリアーティに、ドクターロマニか。全く信用できないコンビはほっとこう。話が進まないからね。ただし後でカルデアに来たあとはバリツを叩き込んでやろう。さ、体調は大丈夫かねベディヴィエール卿」

 

 

 「は、はい・・・お陰で体も回復して・・・華奈殿。そして、マシュさんは・・・ああ。あの子の・・・皆さん。私は円卓の騎士ベディヴィエール。その・・・私から知っている獅子王・・・いえ、騎士王。我が王のことについて知ってほしくて皆さんを待っていました」

 

 

 とある理由で荒事を連発するには問題がある。というかそれをすると下手すれば目的を果たす前に死にかねなかったので村の警備に押し込んでおいて休ませておいたのですが、漸く話せそうです。

 

 

 「私の方も聞いていない内容ですので、それを聞いたうえで、その次に私の策を聞いてほしくて。あーそれと・・・静謐様はどうしたんで?」

 

 

 ハシシを取り上げてから換気をして沸かした茶を持ってくれば外でソワソワと藤丸様を見ている静謐様も発見。

 

 

 「あ、あの・・・護衛にと思いまして。アサシンですので色々できるかなあと」

 

 

 「ふむ。ではまあ警備への差し入れということでこれを」

 

 

 お茶とお菓子を差し入れということで渡しておき、全員にお茶と茶菓子を渡してからベディヴィエール様から語られる獅子王。いえ、並行世界のアルトリア様と、バカ弟子含めた円卓の騎士の行動を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・そんな、そんなことって・・・」

 

 

 「抑止による銀嶺対主力、華奈さんも含めた死亡・・・それを基点に早まる円卓の騎士、ブリテンの崩壊・・・」

 

 

 「酷い。そうとしかいえない・・・ただ、それで終わっていないんでしょう。ベディヴィエールさん」

 

 

 「はぁー・・・私はちゃんと守りきって死んだのに残された者たちで同士討ちって・・・しかも英霊になっても再度これ・・・破門ものですねえ・・・頭痛い・・・というかおおよそが私のせいじゃないですか・・・」

 

 

 「ええ。このあとは私の愚行によって、王を今の姿に変えてしまいました・・・」

 

 

 聞かされた内容は私という異物、漂流者によるブリテン崩壊の時間を引き伸ばしたことによる抑止による抹殺。そして抑止直々にブリテンへ攻め込もうとしていたのを私が対処していたという話。まあ、それで私は死んじゃったのですがその後にみんなで同士討ちしてしまいおしまい。

 

 

 ではなく、その際に聖槍ロンゴミニアドを握っていたアルトリア様はベディヴィエール様に聖剣を湖の乙女に、星の内海に還すことを三度も躊躇ってしまい(ダチ◯ウ倶楽部かとツッコミたかった)、その間にアルトリア様はおそらく聖槍の力で生きながらえ、生きたまま抑止力のもとでしばらくは英霊として聖杯を求めて戦いに身を投じていたと。

 

 

 そのせいでベディヴィエール様はアルトリア様の遺骸も姿も見ることができず、聖剣の不老の加護によって1000年以上生きながらえているという生身の人間。それでも尚アルトリア様に聖剣を還すために生き続けていればマーリンによって並行世界に移動して私を探しているという情報を聞きこの特異点へとやってきたというから始末に負えない。というか泣きたい、お腹痛い・・・

 

 

 「そして、私もマーリンから聞いているので確実ではありませんがおそらく今の円卓の騎士たちは華奈殿を求め、魔術王から守るために強引に連れ込もうとしている状態。その際にあの聖罰は不明ですが・・・その騒ぎを収め、そして華奈殿の特異点攻略のために助けになれればと思い、皆さまを待っていました。

 

 

 この銀椀、模造品ですがアガートラムは聖剣を携えており、聖剣を王にお還しするためにも微力ながらお手伝いを・・・あの、華奈殿・・・?」

 

 

 「お、お腹が痛いです・・・なんですかねえ・・・はぁー・・・私のせいでこうなったと・・・いやもう・・・もう・・・漸く実感してきてきついです・・・」

 

 

 「え、えっと・・・あの・・・その、はい・・・この世界でも貴女に迷惑をかけるのが、負担を増やすのは本当に申し訳ありません・・・」

 

 

 『もうね・・・惨いとしかいえないよ僕は・・・多分・・・抑止のせいで君たちのいた世界では華奈君の存在は抹消されてしまい英霊の座にすら登録できなかったんだろう。だから、自分の世界での抑止との契約を断ち切ってこの世界であの獅子王は華奈を求めてきた。

 

 

 それに加えてベディヴィエールも忠誠で1000年以上もひたすらに生き続けて・・・世界は円卓の騎士に恨みでもあるというのかい? ここの世界でも華奈は緩やかにブリテンの国を崩壊させてあとに託すしかなかったっていうのに・・・』

 

 

 「それだけ抑止、いや、人類史の中ではブリテン、いや騎士王の物語の終焉と神代の終わりの最後たるあの土地のタイミングを引き伸ばすのは許せなかったのだろうさ。それをどうこう出来た華奈君の行動は私達くらいしか知らないがまさしくとんでもない偉業を成し遂げていた。しかしそれを手荒く壊した結果があれと」

 

 

 「はぁー・・・絶対に獅子王は私がどうにかしますので、処分も受けるので本当にしばらくは私と一緒に行動をお願いします皆様」

 

 

 『いいえ、処分もなにもないわ華奈。ここの貴女も、ベディヴィエールのいた世界の貴女も人のために、まつろわぬものたちのためにも全身全霊で献身と愛を振りまいていたもの。責任は一切ない。

 

 

 でも、円卓の狼としてこの特異点を終わらせるものとして貴方は適任。所長命令として無事に解決してきなさい。いいこと』

 

 

 ああ・・・オルガマリー様の優しさが身にしみる・・・昔なら絶対ヒステリック起こして解決しろと喚いていたでしょうに・・・・はぁ・・・そして同時に、この事情を知れば私の考えが成功しそうなのも皮肉すぎるというか・・・うぅう・・・

 

 

 「ありがとうございますオルガマリー様。では・・・出来ればですがイグレーヌ様やアルトリア様たちに無理やり気分転換も兼ねてアヴァロンに召喚している私の領地の収穫の一部、ほんの一部でいいのでそれをここに送ってくれれば・・・食料の彩りを増やして皆さんをもてなしたいので・・・」

 

 

 『わかったわ。頼んでおく』

 

 

 「それと・・・ふぅ・・・私の考えというか、まあ此処から先どうやって愚妹とバカ弟子と馬鹿たちを倒すかですが・・・まあ、決闘方式でカタを付けようかな。と思います。私を餌にして」




 漸く山の民の村に。ここからはだいぶサクサク。


 華奈自身はまあみんな守れて遺産も用意して死ねたのは軍人ですししょうがないよねー、むしろいいかあ。くらいの考えですがその後の同士討ちとここでも迷惑の原因になっているのが胃痛ポイント。ゴッフ所長がカルデアスがこの異聞帯創設問題の元凶とわかったくらいの大ダメージ。薄々感じてはいたけど突きつけられればきつい。


 ホームズから見た華奈は「副官、側近、補佐として文句のつけようがない軍人」でワトソン君ポイント。「諫言は言うし、食事も用意したり住まいを用意する女性」でハドソン夫人ポイント。「鋭い視点や行動、ときに思わぬ手を打つ」というところでアイリーンポイントを華奈につけています。ポイントが貯まると華奈を助手扱いしかねない。


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呼び出しベル

 暑くなってきまして春からあっという間に夏になりそうですねえ。こち亀の異常気象回を思い出します。


 「決闘方式? いや、なんでそれを考えたんだい? 流石にぶっ飛んだ発想すぎて私でもちょっと考えがつかないよ」

 

 

 「まあ、ここに関しては仮定、想定の上でのプランですが、ホームズ様の話を聞きつつ私の考えを聞いてくだされば」

 

 

 今までの特異点でもあんまりなかった話。あの馬鹿円卓たちの行為を見たあとだとなんでそうなると私とホームズ様以外では頭にクエスチョンマークが浮かんでいますが、その理由を解説してもらいましょう。

 

 

 「ふむ。任された。ではまずだがこの特異点では大きく今までと違うであろう点が2つほどある。1つは太陽王オジマンディアスは聖杯を手にしていながら自国の領地を呼び出す以外は何もしていない。そう。聖杯を持ちつつもそれだけにとどめていること。

 

 

 もう1つは既に君たちも感じているだろうが獅子王陣営と太陽王陣営は不可侵条約を結んで冷戦状態。聖杯の所有者がわかっていながらそれぞれに大きな動きをこの三つ巴の構図ができて以来山の民以外はまるで大きな動きがないことだ」

 

 

 「今までの特異点では聖杯を所有したものが特異点の問題の核となっているか何かと相争う、特異点崩壊に動くものばかりでしたが今回はそれがない。この崩壊する特異点という状況以外にもこれがイレギュラーなんです」

 

 

 あ、と言わんばかりに皆も納得がいく。そうですよねえー色々とイレギュラーが起きすぎて見落としがちですが聖杯を所有しているものが大きく動かず、特異点に関して干渉をしようとしていない。

 

 

 それでいてゲーティアの味方ではないというのが本当にすごいトンチンカン。

 

 

 「で、山の翁達、オジマンディアス王、バカ円卓のうち2つの陣営は私の行動による答えと、存在を求めている。聖杯以上に。これもまたイレギュラーでしょうねえ。いや本当。ホームズ様の推理、ベディヴィエール様の話す円卓の内情。そして山の翁の皆様の情報をすり合わせるとある一定の時期からオジマンディアス様も馬鹿円卓たちも自分の管轄の場以外では大きな行動をしていない。

 

 

 何だったら私が特異点に来て以降粛清騎士たちによる偵察や先ほどのランスロットによる外征がまして活発になったくらいだそうで」

 

 

 「じゃあ、円卓は華奈の身柄を求めているとして、オジマンディアス王は何を求めているの? 私達に華奈と一緒にもう一度来いといっていたけど・・・」

 

 

 あの人そんなこと言っていたんですかあ。やはりまだ決断も出来ず、迷っているのでしょうねえきっと。ふーむ・・・

 

 

 「それは私の出す答え。獅子王を如何に倒すか。自分と比肩しうる存在をどう倒してこの特異点を戻すのか、そしてその先へのことを聞きたいのでしょう」

 

 

 「その先・・・つまり第七の特異点、そして・・・」

 

 

 「魔術王、ソロモン。彼をどうやって倒すか、あるいは挑むべきか。それを聞きたいのだろうね。彼は王であり聡明だ。故に魔術王の計画の凄まじさを理解している。だからこそ下手に挑むのではなく守ることを今は選んでいる。

 

 

 が、恐らく妻、ネフェルタリの存在がいて若い頃の活力を、そして魔術王の用意した処刑場を味わい尚こうしてはつらつとしている華奈君を見てその判断が揺らいでいる。踏ん切りをつけるためにも意見を求めているのだろう」

 

 

 さすがホームズ様。私と同じ意見です。そう。あの方は偉大であり神の化身でありますがゆえにその視点の広さと聡明さ故にゲーティアの人理焼却に内心怯んでいる。何より王という立場が勇気ある一歩を絡め取っているとも。

 

 

 「そうなると、当然獅子王も華奈を求めている以上恐らくアメリカでのエジソンのように人理焼却から守れる領地を持つ術があり、その中で一度失った華奈を守るために強引とも言える手段で動いていると。

 

 

 無垢な魂、いわば善き人間を集めていたのは一応人を守る意思もあるからと。そういう見解で良いのかな?」

 

 

 「ええ。聖槍ロンゴミニアド。あれは星のテクスチャを縫い留める錨であり、巨大な塔。あの聖都はその塔のほんの一部に過ぎません。何よりあれは星の聖槍。神創兵器。星の内海で生み出された槍ゆえに魔術王でも壊せないのでしょう」

 

 

 「そんな・・・お母さんを守るためにあんなことをしたり、人を標本みたいに扱うのは絶対に駄目です!」

 

 

 マシュの心からの叫びに私達全員も頷く。ええ。そんな行為はさせられません。そしてしません。

 

 

 「その通り。そしてここからの仮定が正しければきっとですが私の身柄を餌に交渉を、かつあの聖槍を傷つけさせない提案であればきっと通りますし、同時にそれを通すための文章も作りました」

 

 

 ここ2日位色々と情報を手にして作っておいた皮の表紙と内側は紙の巻物の中に書かれた内容分を皆さんに見せる。

 

 

 「どれどれ・・・? 『拝啓、偉大なる獅子王様へ。聖都にてくだらぬ聖罰以外での日々の時間を過ごす中いかがでしょうか。

 

 

 今回は私元円卓の騎士船坂 華奈 の身柄を賭けたそちらの騎士の将たちとの勝負を挑みたいと思います。

 

 

 私達の出会いはこの崩壊しつつある特異点。その現況である魔術王があってこそ。故に、たとえ私がいようともその魔術王の配下が襲いかかってきた場合、あるいは貴方様達の策に異を唱えるもの。そしてカルデアの戦力へ万全な対処ができるかを見定める意味でも、獅子王様たちの武威を示す意味でも良いと思われます。

 

 

 後日、こちらの戦力を6~7人ほど用意してそちらに挑みたいと思います。貴方様への謁見を望むもの、そしてこの特異点にいる者たちで挑むゆえに心配なさらず。そしてその間は山の民を始めとしてあらゆる勢力への手出しを止めていただけると幸いです。

 

 

 

 色よいお返事をお待ちしております。

 

 

                       円卓の狼 船坂 華奈より』

 

 

 ・・・・・いや、待って待って! 華奈。あのギフト持ちの円卓の騎士と、それを束ねる聖槍持ちの騎士王、アーサー王に挑むっていうのか!! 無謀じゃないの!?」

 

 

 「私も元と同じ意見だ。頼光ですらどうにか相手できるかと言うほどの相手。マシュでもまだ難しいし、この中では戦力になるのは、決闘。たとえ相手が3対1でこちらに挑ませてくれても厳しいものがあるよ?」

 

 

 あーまあ、そういう意見になりますかあ。まあ、マシュ様もまだまだ成長していけるのですがうーん・・・英霊の皆さんの強化のためのプランも考えておくとして・・・

 

 

 まあ、流石に無策ではないですよ。と手を前に出して静止させる。

 

 

 「皆さん。今まで私が無鉄砲に、備えや考え無しでこんなことをしましたか? そのうえで逆に聞きましょう。今すぐにでも私をあぶり出すために聖槍ぶっ放してきたりガウェインの剛力に火炎の波や粛清騎士たちによる行動を防ぐために今すぐ何を出来ますか?

 

 

 あのオジマンディアス王も痛み分けないし共倒れであろうと考えるほどの勢力が本気で動けば、少なくても考える時間も思考もなく味方になりえる勢力は時間とともに消えかねないですよ」

 

 

 「む・・・実際、そのとおりね・・・アメリカのように凌げるわけでもないし、しかも今回は敵の主力も動く可能性が高い・・・逃走中に見た聖都周辺のあのクレーター・・・もしかして・・・」

 

 

 「ロンゴミニアドによる攻撃のものですね。カルデアにいるアルトリア様よりも成長しているであろう肉体。それはつまりより強く大きくなった竜の、ブリテンの守護竜たる赤き竜の化身たるもの心臓をエンジンに放ちます。

 

 

 ・・・たとえオジマンディアス様の大複合神殿でも、ただではすみませんよ?」

 

 

 ほんと生前でも見ていたし知っているので説得力がこもるし、エレナ様もアメリカでのあれこれの記憶が濃いようで顔を青くする。そりゃあそうです。積極的に動き回るアルジュナや魔獣クー・フーリンみたいなものです。しかも目標はこの私。

 

 

 みなさんもカルデアの英霊を呼び出すべきか。と考えるもそれも出来ない。私さえ保護できてしまえばあの聖槍の塔の機能で守れる以上カルデアを容赦なくふっとばしに行くことも考えるべき想定だから守りを薄くは出来ない。

 

 

 ギフト持ち円卓の騎士に挑めるほどの戦力を出すということはそれだけカルデアに不安要素を残すわけですからねえ。空気が重くなってしまう。

 

 

 「さてさて、君たち気落ちしてはいけない。君たちが想定することを加味したうえで華奈くんはこの作戦を考えた。だからこそ聞いていこうじゃないか。その作戦をどうやって成功させていくか」

 

 

 「そうですね。銀嶺隊は銀の懐刀。大きな一撃ではなく確実な一撃を差し込んで楔として、風向きを変える部隊。その隊長である華奈殿の作戦です。是非、聞きましょうみなさん」

 

 

 ナイスですホームズ様、ベディヴィエール様。では、こほんと咳払いしつつおかわりのお茶を飲んで一息ついて話す。

 

 

 「まずはモルガン様。これをギアス・スクロール化していつでも馬鹿円卓たちに渡せるようにしておくよう頼んでいいです? あ、私の血判も・・・・イチっ。ホイペタリ。これで私はちゃんと聖都に行く強制的約束があるのであちらも余計な手出しをしないという約束を守れば私がホイホイ来る。

 

 

 で、まあこの決闘ですが『カルデア』だけ。とも『山の翁』だけ。でもない。『この特異点』にいるものたち。でバカ円卓達の考えに異を反するもの。あるいは私についてくれる方で6~7人です」

 

 

 『エレナさん送ってくれますか? あの愚妹たちでは壊せないほどのものにするのと蝋印をあちらならわかるものにするから』

 

 

 「ええ、了解よ。輸送ポイントをセットして・・・ふむ・・・その戦力は?」

 

 

 無事に私の手紙をギアス・スクロール化してくれるように動いてくれるモルガン様達。一方で、ここの特異点での戦力。という言葉をつぶやきつつ藤丸様が不安そうです。

 

 

 「戦力・・・華奈さんと、ランスロットに見せた立ち回りだと、マシュ。あとは頼光さん、藤太さん、それ以外は・・・?」

 

 

 「私の候補としてはそこにアーラシュ様、そして、オジマンディアス王を引き込むのと、実はもう一人既に相談を持ちかけている方がいましてね。そろそろ・・・・・お、来て良いようです」

 

 

 ちょうどいいタイミングで鳴り響く鐘の音。いやはや本当にいいタイミングですねえあの方は。

 

 

 「皆さん。その戦力候補のウチ一人は今ちょうどいいようなので会いに行きましょう。元様、ダ・ヴィンチちゃん、エレナ様は出来れば留守をお願いしていいですか?

 

 

 藤丸様、マシュ様、あとは頼光様と藤太様を一緒につれていきましょう」

 

 

 「え? 私には何も。何が聞こえているんです?」

 

 

 「うーん・・・来ていいって合図の呼び出しベル?」

 

 

 『そんな世俗的な呼び出しをする人が戦力なんです? お姉様。出来ました。このギアススクロールに答える形の返事と制約に沿えばお姉様は数日後に必ず聖都に行くようにしています』

 

 

 モルガン様の方も用意ができた巻物の手紙を私に渡してくれる。ふむ・・・キャメロットの城門のマークに、エクスカリバーの蝋印。あとは私の宝石箱から銀嶺隊結成を祝して作られた狼の文様がある指輪で蝋印をしてと・・・これでよし。

 

 

 これをアーラシュ様の弓で聖都に向けて矢文でぶっ放してもらって、祝聖騎士や英霊に拾われるまで光り続ける術式をダ・ヴィンチちゃんに組んでもらっているので拾われるでしょう。

 

 

 さてさて。それ以外にも用意していくものを。と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な・・・・・! アズライールの廟に行くというのですか!? しかもそこからの鐘の音が聞こえると・・・・・!!」

 

 

 「つまりは初代様直々に華奈殿を呼んでいるだと・・・! あ、あり得るというのか!?」

 

 

 出発前にそれなりの戦力を割いていくのでハサンの皆様に話せばなんというかやっぱりドン引きというか恐怖の表情で迎えられる始末。

 

 

 そこであの方角から鐘の音が聞こえると指させばますますもって皆様がすごい顔になり、しばらくして話し合ったあとに向き直る。

 

 

 「・・・・・・華奈殿。あの方とは、いつの間に関係を・・・?」

 

 

 「ここにふっとばされて、三蔵様たち合流してから一緒にこの村に来ての夜ですね。私に対して『獅子王に、太陽王に何を示す』と聞かれたんですよ。なので『挑む道を示す。そのための説得と必要なら拳を馳走します』と言ったら『首を狙うのではないのか?』と言われて『必要なら。でも、見極めない内に殺すのを判断にいれるのは浅慮でしょう』と返したら『では時が来れば来るが良い。銀狼』と言って消えたんですよねえ」

 

 

 「そうですか・・・皆様。恐らくですが我々の、翁の偉大なる初代様が華奈殿を認めたようです。恐らくですが、その鐘の聞こえる方向に向かえば円卓の騎士など楽に対処できるお方がいるでしょう。

 

 

 私のほうが案内しますので、2日、いえ1日ほど時間をいただければ・・・」

 

 

 うーん・・・呪腕様。自分を犠牲にしようとしていませんかね。あの方に関しては私も一応少しは知っていますが、下手するとここにいる翁様全員首がすっ飛びかねない・・・

 

 

 「いえいえ。私達だけで行きます。きっと、下手に貴方達が行けば翁の任を捨てたと判断して首を取りかねないでしょう? レギア、イネンナ!」

 

 

 「! 華奈殿。一体貴方はどこまで知っていて・・・」

 

 

 「偉大なる英雄王様とのご縁あってこそです。さ、皆さん乗ってください。この子達なら歩いて2日の距離も3時間でひとっ飛びです」

 

 

 うちのワイバーンの夫婦を呼び出してそこに皆さまを乗せていざ出発。鐘の音を便りにするという方法ですがそこは軍で鍛えている音を察知して移動する技術は使えるので険しい谷もらくらく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ・・・ここがアズライールの廟。なるほど。死を感じることはいくつもありましたがここまで濃密な死の気配を煮詰めて集めたような場所は初めてです」

 

 

 「はい・・・空気が重い・・・それに、この威圧感。オジマンディアス王以上です・・・!」

 

 

 「うぅーむ・・・拙者が昔相対したかの魔神の如き武者を思い出す・・・大百足ですら可愛いものに感じるわ」

 

 

 「思わず身震いがするほどですね・・・武者震いではない。単純に、何かが・・・違う・・・」

 

 

 やってきましたアズライールの廟。初代翁様の眠る場所。皆様も身震いをしてしまうほどのその場所に着いてそうそうレギアたちも怯えているので戻ってもらいつつ、扉をノック。来ましたよー

 

 

 「来たか・・・銀狼。そして魔術の徒に英霊たちよ」

 

 

 来た。その瞬間に皆様も更に威圧感を感じて誰もが冷や汗を流す。

 

 

 まさしく死の顕現。今自分は死んでしまうという予感を想起させ、そしてそれはあちらの気分次第で簡単に実現させてくれる。

 

 

 とてもではないが暗殺者。かつて人としてあった方とは思えないが、同時になるほど。アサシンの語源たるハサンたちの伝説たる初代山の翁。

 

 

 巨大な剣に暗き闇夜を表したような骸骨をつけた鎧。幽鬼も怯えすくむその姿が私達の目の前に現れた。

 

 

 『な、なによこの魔力量に・・・凄まじい、画面越しでもわかる死の予感・・・はぁ・・・は・・・こ、これが伝説の翁・・・・なの?』

 

 

 「無理をするな魔術の徒を束ねる者よ。そして、銀狼。我が刃を牙として何を成す。何を示す。答えを持ってきたというのだな」

 

 

 「ええ。神なんかに落ちて大事なものを落としたかも知れない並行世界の愚妹をお説教してきます。私と、私の戦友で!」

 

 

 「ふむ・・・」

 

 

 「何と言う武の局地、結晶よ・・・! 拙者があと三、四十ほど齢を重ねて漸く一射届くかと言うほどの武人だ・・・」

 

 

 「すごい・・・神々でもこの方は、いえ、龍神でも斬り殺せるでしょう・・・まさしく死を与える暗殺者の極み・・・」

 

 

 「よかろう。魔術王の行った人理焼却の根幹、それらを知りそして尚挑むその武勇、気骨を認めよう。しかし、それを見せるだけでは尚我が剣を振るうには足らぬ。故に」

 

 

 翁様が剣を握り、私も鎧を解除してかすかな魔力も、動きを邪魔しかねないものを外して刀をすべて出していく。

 

 

 「ええ。1つ手合わせをお願いします」

 

 

 あの方なりの試練。初代翁様との直々の手合わせ。私と翁様で霊廟の中に入るのを皆様が驚いてしまう。

 

 

 「ま、待ってくださいお母さん! この方は私も見ただけでわかります! 格が違うと! なんで手合わせを!?」

 

 

 「当然、これから挑む相手は最強のファラオですらも早々手出しの出来ない神に、あるいは龍神に近づいたであろうアルトリア様とその祝福を受けし円卓の騎士達です。そしてそれを超えてもさらなる過酷な旅路が続く。

 

 

 それを超える気概を持つものか。翁様頼りの情けない戦士かを見極めるため、武勇を、覚悟を翁様に示さなければいけません。これは試練であり、そして私と翁様なりの相互理解です」

 

 

 「然り。英霊と人の両方の顔を持つ娘よ。魔術の徒よ。英霊よ。これは我らが挑むべき偉業の破壊に比べれば些事たるもの。手出しをすればその時点で銀狼の覚悟も無駄になると思え」

 

 

 うふふ・・・武者震いがしますし、ええ。少しワクワクしますね。この方との手合わせ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すごい・・・」

 

 

 マシュの言葉がきっとここにいる皆の総意だった。

 

 

 「ハァッ! っ・・・! ん!」

 

 

 大剣のひとふりだけで4つの斬撃を繰り出す初代翁。マシュ命名のキングハサンの攻撃を華奈さんは二つを刀で受け止め、もう一つを体裁きで、もう一つは足で当たらないように移動して対処。

 

 

 返す刀で二刀流の連撃と斬撃を飛ばし、まるでブーメランのように飛ばして擬似的に同時に4、8つの攻撃をキングハサンの死角からも繰り出すけど、それさえ見ているかのようにキングハサンはいつの間にか華奈さんの上空に移動して刺突。

 

 

 「ハァイ!」

 

 

 「フン」

 

 

 その刺突から床を割ってほとばしる青い炎を華奈さんも同じように斬撃を飛ばして炎を割り、上を向いて飛んでいく斬撃と炎の割れ目に突撃する形で仕掛ける華奈さんの居合術が廟の石柱を斬撃だけで豆腐のように切り裂くけどもそこに既にキングハサンはいない。

 

 

 華奈さんが急にしゃがんだと思えばそこにはいつの間にかいたキングハサンの横薙ぎの一振りが華奈さんの首のあった場所を振り抜いていて数旬遅れれば首は繋がっていなかっただろう。

 

 

 「ここまでお母さんが強かったなんて・・・所々見えないほどです・・・」

 

 

 「ああ・・・互いに斬撃を当然のように飛ばし、炎に神仙術・・・」

 

 

 「見えないところに剣をふるったと思えばそこに刃の当たる音、あるいは何方かがいる。とんでもない。これが初代山の翁様に華奈さんの武術、武芸」

 

 

 青い炎が華奈さんを燃やしたと思えばそれは火炎の竜巻となっていくも、華奈さんが自分を襲う炎を切り裂き、鳥、爪、獣の顎を思わせる多種多様な斬撃を飛ばしてキングハサンを攻撃、迎撃していく。

 

 

 まるで互角。円卓最強の騎士の武芸は初代山の翁に通じる。そう思っていた剣戟も、しばらくして変化が起きてしまう。

 

 

 「づっ・・・! あグッ!! ・・・・う・・んぐっ!」

 

 

 華奈さんが押され始めていく。止めの剣が弾き返されてしまいまるでピンボールのように弾き飛ばされては血反吐を吐く。

 

 

 斬撃もぶつかり合いが押し負けてしまい回避することが増えて、どんどん体中に切り傷とやけどが増えていき、白銀の美貌と体が赤い血と黒いやけど、土の汚れが増えてしまう。

 

 

 「あ、ああ・・・アルテラとのときよりも・・・押し勝てて・・・いない・・・っう・・・! お、お母さん。負けないで・・・いえ、死なないでください!」

 

 

 「な、なんであんな一方的に、さっきまで互角だったのに! 華奈さんなにか試練での枷があるの・・・?」

 

 

 抵抗できていたのが今はもはや一方的な攻撃に耐えつつかろうじて致命傷を避けるだけ。いじめを見ているような状況だ。

 

 

 「何を言うか・・・何方も、初代翁殿も、華奈殿も攻撃も防御も何方も超一級品。今の拙者では逆立ちしても土台出来ぬほどの剣技と体術の応酬よ」

 

 

 「はい。私でも出来ぬ技ばかり・・・」

 

 

 「で、でもお母さん一方的にやられているじゃないですか!」

 

 

 「それほどに武力の差があるということよ・・・! なんという・・・底が見えぬ。拙者が先ほど感じた武の見定めも甘いやもしれんほどだ」

 

 

 あたりに華奈さんの血が飛び散り床に、石柱に、壁にかかり、マシュの盾や僕の頬にも飛び散る程に、全身血だるまになり、息も絶え絶え。

 

 

 それでもまだ華奈さんとキングハサンの激闘、いや、もはや拷問とも思える試練は続いていく。華奈さんの声も小さく痛みに呻く気力も少ないように見えている中、キングハサンの剣に唐突に華奈さんが待っていたと言わんばかりに飛びかかり、飛ぶ斬撃と刀の両方で弾き飛ばす。

 

 

 ただこれもキングハサンは予測済みとすぐに引き下がって瞳が光ったと思えば青い炎と斬撃が華奈さんを襲う。

 

 

 「おう、か・・・!」

 

 

 華奈さんを助けようと前に出そうになった瞬間、青い豪火の中から聞こえた華奈さんの声と同時に薄く桜色に光る刀と斬撃が炎を切り裂き、斬撃を弾き、そして、小さな金属音が響く。

 

 

 「か、かフッ・・・・ふー・・・ふ・・・ど、どうです・・・か・・・?」

 

 

 炎が収まり、そこから全身やけどと傷口が変色している全身ボロボロの華奈さんが刀を杖に立っているのが不思議なほどの状態の中、ニヤリと嬉しそうに微笑んでギラつく目でキングハサンを見る。

 

 

 「・・・・・見事。銀狼よ。貴様の牙、確かにこの翁に届いた」

 

 

 そう、小さな、ダメージにすらならないほどのものだけどキングハサンの鎧、その胸の部分にある髑髏の右目から上にかけて刃で切られた跡。さっき華奈さんが桜色の刀で飛ばした斬撃が確かにキングハサンの鎧に届いた証だ。

 

 

 「ふふふ・・・では・・・」

 

 

 「我も力を貸そう。獅子王との決闘。その戦士の一人として参列する申し出を受け入れる」

 

 

 「ありがとう、ございます・・・・あ、やば・・・へぶす・・・!」

 

 

 華奈さんへ課された試練は無事に認められ、先ほどまであった濃密な死の気配、戦闘の空気は霧散してキングハサンも剣を収める。

 

 

 それで緊張の糸が切れたのか、べチャリと床に倒れる華奈さん。同時にドバっと血が流れて倒れた際の衝撃で炎で焼かれていた傷口も一部裂けて再出血。血の海が出来上がりそうになる。

 

 

 「お、お母さん!? 先輩急いで回復治療のスクロールと止血を! 緊急バッグ!」

 

 

 「華奈さん! ああ、ここまでの武芸を持って試練を超えたこと、母として誇らしいですが同時に無理しないでください! こんなボロボロに・・・急いで治しますからね!」

 

 

 「天晴。まさしく八百万の神々も魅入り、恐れるほどの武芸の応酬であった。そして初代翁殿。協力感謝する」

 

 

 僕らで急いで治療をしていく中、それを見届けているキングハサンの空気が少し柔らかく。笑った? 用に思えた。

 

 

 「あ・・・そう、です・・・マシュ様・・・私のカバン・・・中身を開けてください・・・」

 

 

 「お母さん? え、ええ! 急いで中身を・・・・お茶と・・・クッキー・・・?」

 

 

 「うふふふ・・・挨拶、しに来たんですし頼み事もあるのです。運動と話を終えれば、御礼の品と、休息の一品は、必要。でしょう・・・? 翁様に・・・」

 

 

 「え、あ、あの・・・えーっと・・・はい! あ、あのキングハサンさん。これをどうぞ!」

 

 

 「受け取ろう。では、太陽王のもとで会おう」

 

 

 クッキーの入ったカゴとお茶の入った木製の水筒を受け取ってキングハサンはいなくなった。フラフラと体を起こす華奈さんは微笑みつつ一人目勧誘成功。と笑っていた。

 

 

 ほんと、この人強すぎるよ・・・




 ~聖都前~


 ドスッ!


 粛清騎士「む・・・何だこれは・・・キャメロットの紋章に、獅子王様への手紙・・・!?」(矢文を拾い上げる)


 ランスロット(帰還中)「どうしたのだそれは」


 粛清騎士「ハッ! 今さきほどこのような矢文が届きまして! しかし、獅子王様への手紙。何かの呪いでしょうか・・・?」


 ランスロット「・・・・・!! いや、これは呪いではない。むしろ制約。何かしらの頼み事を含んだもの。そして、よく見つけてくれた。これは我らが騎士団、そして獅子王様へ届けるべき重要文書。私が責任を持って王へ届けよう」


 粛清騎士「ハッ! 光栄であります! そして任務の帰還お疲れ様であります!」



 ~聖都キャメロット・玉座の間~


 獅子王「ふむ・・・・・よくぞ届けたランスロット」


 アグラヴェイン「そこにはなんと記されていましたか?」


 獅子王「あの人・・・姉上がここの特異点の戦力のみで我らとの決闘を挑んできた。人数的に卿らのうち誰かと、私が2人を相手することになるが・・・うまく行けば太陽王と決戦をせず、山の民たちの村二軍を向けず、消耗なく、カルデアの増援をこれ以上入れずに挑める機会となり、我らが勝てば被害も消耗も少なく姉上を手中にできる」


 一同「「「「!!!」」」」


 獅子王「しかも、そのために恐らくだが、神代の魔術師による制約を課している。つまり、これを我らが受け入れればその間動きは取らねば姉上もここに向かわなければいけず、いくら戦力を引き連れようがその人数でしか我らに挑めず、そして同時に我らを試している」


 アグラヴェイン「試す。とは?」


 獅子王「読んでみよ」(手紙を投げ渡す)


 アグラヴェイン「失礼・・・・! なるほど・・・この戦いを切り抜けられなければカルデアの次なる戦士たちにも、魔術王にも負けるであろう。そんな軟弱者たちでは土台自分を捕まえられぬと・・・大きく出ましたな」


 ガウェイン「しかし、事実私も、トリスタン卿も、そしてランスロット卿、我が王とも切り結んで尚今も逃げ続けているのが華奈卿・・・先生です。なるほど。あちらから出向いてやるから我らが領地で真価を見せてみろと。先生とその選んだ戦士たちを倒せれば我らが軍門に下ると」


 トリスタン「ああ・・・私は悲しい。我らが円卓の、獅子王の騎士を侮っていると見られる。いえ、それがそれ以上の目論見を考えているのでしょうか・・・?」


 ランスロット「そうなるとすれば・・・我が王、そして我らの行動の意味を問いただしに来たのでしょう。この人理焼却のさなかで何をしているのかと」


 獅子王「そういうことであろう。あの人は・・・恐らくそれをする・・・ランスロット卿。この手紙の返事を送る使者となれ。この決闘を受け入れる。その間はこちらも何もしないと誓うと。姉上とカルデアのもの等が逃げた方角は覚えているな?」


 ランスロット「ハッ。では早速使者として向かわせてもらいます」


 獅子王「うむ。いいか我が騎士たちよ。我らが大望が数日後自らやってくる。しかしそれは同時に我らへの試練を同時に運んでくる。何より姉上自身が最大の障壁。いや・・・太陽王も動くであろう。しかし怯むことなく、そして油断なく備えをせよ。いいな」


 一同「「「「ハハァッ!!!」」」」











 アトラス院のこともですが既にロマニの正体やゲーティアのことも知っているので実は鬼ヶ島あたりで初代翁様の言う人理焼却のことを知るということはクリアしているので華奈達は呼ばれました。


 あとクッキーとお茶はキングハサンが美味しくいただきました。


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腰を上げましょう

 次は太陽王へ。華奈も忙しいものです


 「返事を受け取りました。では・・・3日後に再び聖都でそちらに挑む戦士たち以外は戦わせないと誓いましょう」

 

 

 「ええ。こちらとしても聖罰を見せたうえで信用するのは難しいでしょうがそれでも円卓の騎士。獅子王の騎士。条約は守りましょう」

 

 

 しっかりとした目でこちらを見据えているランスロット。華奈たちがアズライールの霊廟に行ってそろそろ帰るか。そう思っていた矢先にランスロットと数騎の護衛らしき騎士たちが来て構えたが、その内容は華奈の作戦が、つまりそれぞれの代表を用意しての決闘。それまでの期間動きをしないというのを飲んだということ。

 

 

 「では。カルデアの代表として私元がサインを・・・」

 

 

 「む、ええ。了承しました。では聖都にてお待ちしています」

 

 

 ギアス・スクロールで結ばれた条約が結ばれたのを感じ、頭を下げてから去っていくランスロット。どこかホッとしているようだ。

 

 

 「いやはや、肝が冷えましたわねえ。マスター。私不安でしたわ♫」

 

 

 「あ、そう言ってー最初は怖くなかったでしょうに」

 

 

 「あははは。いやいや、華奈に並び立つと言われた湖の騎士。そう思ってもしょうがないよ」

 

 

 猫なで声でこれ幸いと私に抱きついて豊満な肢体を押し付けて甘えるアンの頭をなでつつ少し頬を膨らませているエレナさん。実際に肝が冷えていたエレナさんからしたら少し面白くないのかな?

 

 

 そのむくれ顔もかわいいもの。

 

 

 「なんともはや・・・我ら山の民への不干渉、停戦を数日とはいえ許可とは。獅子王にはよほどな内容だったのでしょうな」

 

 

 「ある意味敵の肝心要を着いたといえますからね。とはいえ、あのトリスタンは怖い。呪椀さんもどうか気は緩めずに」

 

 

 「もちろんです。初代様に呼ばれた御仁のご家族の前で、恩人の前で不手際はしませんぞ」

 

 

 「元さん。華奈さんが戻ってきました。戻ってきたんですが・・・」

 

 

 静謐のハサンが僕に藤丸と華奈たちが戻ってきたのを教えてくれている。つまりは成果を持って帰ったのだろうけど。どうにも浮かない顔だ。

 

 

 どうしたのだろうか? ハサンが畏れ敬う初代山の翁の下から戻ったというのに。

 

 

 「元。ダ・ヴィンチを呼んで医療道具をもってこい。ボロ雑巾のようなやつがいるぞ」

 

 

 「だいじょーぶですよぉー・・・おふぅ・・・さ、元様。ほふ・・・次、いきましょう」

 

 

 百貌のハサンが声を掛ける前に眼の前に霊廟から戻ってきたメンバー、そこで鎧以外は全身ズタボロの華奈が今もマシュの用意していた応急手当の魔術と医薬品で治療を受けつつふらついていた。

 

 

 「ちょっ! 何をしてきたの!? 今までにないほど消耗しているじゃないか!」

 

 

 「初代翁様と切り合いまして・・・協力は取り付けたんですが・・・いやー・・・強かった・・・あちち。染みますよダ・ヴィンチちゃん」

 

 

 「はー・・・全く無茶をする。ボロボロじゃないか。それで、華奈をこうも追い詰められる暗殺者を仲間にできたのは良い。ただ、すぐに太陽王のもとに向かうとは無茶じゃないかい?」

 

 

 「いえいえ・・・私は恐らくオジマンディアス様に考えを伝えるだけでいい・・・うふぅ・・・あー・・・スピンクスに乗せてくださいませ。

 

 

 メンバーは・・・私、マシュ、藤丸様、元様、エレナ様、アン様、ダ・ヴィンチちゃん、アーラシュ様。頼光様は・・・ふふ。付いてくるでしょうし、お願いします」

 

 

 口調はゆるいけど、この状態の華奈は引かない。行くと言ったら行く。目を話した隙に勝手に行きかねない頑固なときのものだ。

 

 

 うーん・・・流石に、ほっておけないし・・・時間は限られている。その内に動くしかない。かあ・・・

 

 

 「わかった。じゃあ、今すぐ行こう。ただし華奈は絶対安静。戦闘はしないことだよ。いいね?」

 

 

 「ええ。わかりました。どのみち今はちょっと体が元気になっても気力がないので大人しくしておきますよ」

 

 

 「お願いしますお母さん。私本当に肝が冷えましたよ・・・魔術王のせいで魂が鬼ヶ島に行ったときのように・・・」

 

 

 「やーれやれ。スピンクスは3人乗り。2台じゃ足りないね。もう一台用意するからその間だけ待ち給え。アン、エレナ、手を貸して。海賊と魔術師なら木組みや雑用はお手の物だろう?」

 

 

 「わかりましたわ。ではでは、再び太陽王のもとへですわね。豪華な食事を味わいつつ華奈さんも復活すればいいですが」

 

 

 皆も華奈の言葉に動くしかないと理解したようで急いで3台目のスピンクスを作り上げて日が落ち始めていた中太陽王のいる神殿に向けて砂漠へとスピンクスを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フハハハハハハハ!! 意外と早い再開だなカルデアのもの等に銀狼殿、そして勇者殿までいるとは! 千客万来とはまさしくこのことか! 早速酒と食事を持ってもてなす! ・・・と言いたいところだが、勇者殿、銀狼殿もいる中でこそ、余は聞くべき事がある。わかるな?」

 

 

 どうにか傷まみれ火傷まみれの体を無事に完全復活。いやー翁様も手加減してくれていたので火傷も傷跡も残らず良かった。のですが精神の消耗はまだまだ戻らずぐったり気味。そこを頼光様に支えてもらいつつのまま二度目の大神殿、オジマンディアス王のもとに謁見へ。

 

 

 アーラシュ様や私を見てテンションが上った。というよりは社交辞令を述べたあとにゆっくりと腕を組んでこちらを見据える。

 

 

 「ええ。獅子王を倒せるか否か。そしてこの先・・・特異点修復の先にある魔術王との決戦。そこに私が何を考えているか。ですよね?」

 

 

 「うむ。余は偉大なる戦士である以前にファラオ。王である。故にこの人理焼却の中でまず余たちの国を、領地を守ることを優先した。これは為政者であり、民草へ永遠なる太陽の恵みと日々を与える神王たる余のすべきことであるゆえに。

 

 

 しかし、しかしだ。勝手に余やネフェルタリとの歴史も、勝手に人理を燃やした魔術王への怒りもある。彼奴らへ一撃を加えてしまいたい。それに関しての意見を、考えを聞かせてほしい・・・」

 

 

 「ラーメス・・・貴方やっぱり悩んでいたのね・・・私にも言ってくれれば」

 

 

 「許せ、ネフェルタリ。この難題は銀狼殿にこそ聞きたいものであり、獅子王を、山の民達を見たうえでどうしたいかを聞きたかったものなのだ」

 

 

 「王様ってのは大変だよなあ・・・あれこれ考えつつ、どうしたって動きが鈍る」

 

 

 「まあ、だからこそ変人の私の意見をほしいと。ええ。話しましょう。ですがそれには下準備が必要でして・・・」

 

 

 ちらりとニトクリス様、クレオパトラ様とネフェルタリ様。そして私以外で一緒に来ていた面々。更には、オジマンディアス様のもとにある聖杯・・・

 

 

 「ふむ・・・ニトクリス、クレオパトラ。貴様らは席を外せ。神殿でカルデアのもの等と交友を深めておれば良い」

 

 

 「え、オジマンディアス様!? 私達にも!」

 

 

 「くどい。二度は言わぬぞ」

 

 

 「は、はい・・・かしこまりました」

 

 

 「私も了解しましたわ」

 

 

 「そして、聖杯とネフェルタリ様も神殿の奥の方で一度休まれてくだされば。オジマンディアス様への飲み物を用意していただければ。どうかゆるりと・・・」

 

 

 「・・・ええ。ラーメス。しばらく預かるわよ? 大丈夫?」

 

 

 「いいだろう。それも持っていってくれ。ネフェルタリ」

 

 

 「では、皆様も一度神殿から外してくれれば。そして・・・翁様。お願いします」

 

 

 「承った」

 

 

 皆様も神殿からでてもらい、カルデアの方からも、魔術方面でもこの神殿への外部干渉を完全に切り捨ててもらう。これでこの玉座の間は私とオジマンディアス王二人だけ。会話を一切聞き取れない完全な密室遮音の空間。

 

 

 (今の死を煮詰めたような気配の声・・・余の首を切ったのは・・・まさか、な)

 

 

 「さて・・・玉座の間の方も完全に繋がる道を閉じた。今、ここは余と銀狼殿だけの空間よ。さぁ、ここまで人払いをしたのだ。話してもらうぞ、銀狼殿の考えを、策を」

 

 

 「はい。では申し上げます。私の持つ備えのうち一つを・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「銀狼殿と王は何を話しているのでしょうか・・・」

 

 

 「華奈の考えを、これからの旅路での対策だけど・・・王を納得できるほどのものかあ・・・」

 

 

 「あーダメそうだね。盗聴も、音も一切聞こえない。魔力の方も電波も集音器も意味がない。まるで異空間の壁を何重にも用意したような厳重さだよ」

 

 

 『カルデアの方でも音声や映像は一切見ることも聞くことも出来ない。本当にとことん徹底した情報漏洩を防いでいるようだねえ』

 

 

 ネフェルタリ様以外皆で神殿の外に追い出され、仕方がないので入口から少し離れた神殿の周りの庭園のコテージで一息入れることに。

 

 

 こらこら。カルデアの知識人が揃って盗聴しようとは趣味が悪い。まあ、気にはなるけどもねえ。

 

 

 「ちょっ! 不敬ですよ! 王と銀狼殿の大事な会話。私達がその時間を乱すことがあってはなりません!」

 

 

 「そうですよダ・ヴィンチちゃん。それに、私も華奈さんとダ・ヴィンチちゃんの用意している備えとやらを教えてもらえていないのにそっちが盗み聞きはずるいですよ」

 

 

 「いやいやー気になるじゃないか。まさかの獅子王に真っ向から喧嘩を売る作戦を出す華奈が何を考えついたか。あの神王も動かす上奏は何なのか。王の意志を動かす考え。気にならないかい?」

 

 

 「ま、まあ流石に気にはなりますけども・・・オジマンディアス王のお考えも思慮深く計り知れないですが、同時に銀狼殿の考えも読めない。聞くだけでも寿命が縮みそうで・・・それにまあ、知られる人間が少ないほうが良いのはわかりますし」

 

 

 「情報漏洩や機密を大事にするのは好感が持てますが、ファラオから聞いた話。特異点でのアレコレを聞けばまあ、ニトクリス様のご意見も正しいですわ・・・」

 

 

 女性ファラオ二人も流石にあの二人の会話は気になるが、多分聞けば突拍子もない作戦を出していそうで驚きそう。そしてそれを口に出す。知られてしまうのは魔術王、いやゲーティアに知られる可能性できる限りなくす意味でも大事というのはそうだ。

 

 

 だからこそ私も華奈の『備え』と『作戦』を聞いていないわけだし。

 

 

 「ま、何にせよオレ等の図れる話じゃあねえのなら、今はゆっくりするだけ。それにうまく行けばあの太陽王が仲間になって獅子王に挑めるんだろう? 頼もしいことこの上ねえさ! 文字通りの百人力。ギフト持ちの円卓の騎士たちでも圧勝なはず!」

 

 

 「ええ。オジマンディアス様と、銀狼殿をあそこまでヘロヘロにさせてしまう山の翁。そして回復した銀狼殿たちならきっと・・・・そうですね。せっかくですし、少しだけ華奈が何をしてきてここまで来たかを話しましょうか?」

 

 

 「あら、銀嶺隊の話を。いいわ。良ければ話して貰えれば。軍記、戦記という意味ではカエサル様のガリア戦記が一番でしょうけど、特異点でどうしたのか気になりますし」

 

 

 「そうですね。では元。そして藤丸にマシュ。貴方達も元の補助をしつつ話をきかせなさい」

 

 

 「もちろん」

 

 

 「はい。お母さんが今まで特異点で何を成してきたか。それを是非知っていただければ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わはははは! 酒と本を引き換えに手にしたメデューサの血を利用してあのヘラクレスを毒殺してしまう!? アークを利用せずに手頃な、しかも英霊の弱点をつくとはなあ。想定していたってことか」

 

 

 「魔神柱8本を瞬殺して、その次は28本をひとまとめにして集団爆撃、宝具の一斉射で始末・・・・・合理的ですが、恐ろしいのはその理解力ですね・・・英霊の強み、性質。特にジークフリードの宝具開放の際に扱われる真エーテルを増幅することで神霊たちを強化するとは・・・」

 

 

 「か、カエサル様のみならず神祖ロムルス様も撃破した・・・!? あのフン族の破壊の戦士アルテラすらも打ち砕く・・・! 嘘。と言いたいですが・・・オジマンディアス王が銀狼殿と呼び、ここまで来た事実が・・・・」

 

 

 「まあ、普通はそういう反応ですよねえ。でも、華奈は藤丸君たちと一緒に越えてきたんですよ。だからこうしてここで今太陽王と話している」

 

 

 「はい。そして、円卓の騎士が・・・お母さんの古巣と言ってもいい。英霊として登録されている仲間たちと戦うとなっても躊躇なく戦いに行ける。本当に、勇気ある人です」

 

 

 皆で特異点の中でどういう戦いがあったかと聞かれるとこういうのがあったよとピックアップして特異点でのあらましや内容を語れば皆が目を輝かせて話を聞いて驚いて、楽しんで過ごせる時間。ただ、その話の中でニトクリスが英霊の能力、適正の組み合わせという部分で興味を持った。

 

 

 「ふむ・・・元。貴方のもとには神代の魔女メディア、そして近現代の魔術師エレナがいますよね。で、彼女たちの協力もあって貴方も特異点へ問題なくレイシフトできている。

 

 

 私もキャスタークラスですが、貴方達の可能性を聞けば・・・私にも、なにかできることが増え・・・っ。神殿の扉が開きましたか。ということは・・・・」

 

 

 『入れ。ニトクリス、クレオパトラ。そしてカルデアの者たちに勇者殿よ。余と銀狼殿の話は終わった。その結果を話す』

 

 

 完全に閉め切っていた神殿の扉が開き、上空からオジマンディアス王の言葉が響く。話が終わった。華奈とオジマンディアス王の話が。つまりは決闘の参加への是非や、華奈の備えを聞いて問答が終わったのだろう。

 

 

 「皆、入ろう」

 

 

 オジマンディアス王に促されるままに再度玉座の間に通れば、そこには聖杯を持つオジマンディアス王だけで、華奈も、ネフェルタリさんの姿もなかった。

 

 

 「オジマンディアス王。華奈の話は終わったと言っていたけど、その華奈はどこへ行ったのか知りませんかー?」

 

 

 「銀狼殿は消耗が激しかったようなのでな、ネフェルタリと湯浴みに食事でもてなしている。そして・・・銀狼殿の上奏。そして問答を経て余の考えを伝える。玉音。しかと聞くが良い。

 

 

 銀狼殿の決闘の戦士の一人として参加することを受け入れよう。打倒獅子王。そのために力を貸し、そして聖杯もその戦いが終われば銀狼殿へ下賜すると約束する。銀狼殿の策。愉快なものだったのでな。笑い倒したあまりに曇っていた余の目も晴れた気持ちよ。そこの女武者よ。従者をつけるゆえに湯浴み場で銀狼殿を支えてやれ」

 

 

 「ありがとうございますオジマンディアス様。では、少し席を外しますね」

 

 

 「で、では! 一緒に獅子王との戦いに!」

 

 

 「しかぁし!!」

 

 

 まさしく吉報。華奈はキングハサンには覚悟と武威を示して、そして太陽王へは自身の備えと対獅子王への献策をもってこの二大戦力を引き入れることに成功した。しかも聖杯もちゃんと渡すという約束付きだ。

 

 

 喜ぶマシュやダ・ヴィンチちゃんの言葉を遮るように太陽王の言葉が場を沈めさせてシン。と場の熱が抜けていく。

 

 

 「聖杯の下賜も、獅子王等を下す戦士の一人になるのも良い。だが、それはあくまでも銀狼殿の行動あってこそ。余はまだ見極めていない。聞いていない見ていない。カルデアの者たちよ! 貴様らは同じ覚悟を持っているのか、余に近しい力を持つであろう獅子王に、この星の表層を刺し留める錨であり塔であり、針を持つ戦士に挑めるのか。

 

 

 たとえ決闘に選ばれることなき戦士だとしても、この先の戦いへの余の気持ちが変わることがないであろうともここで王として余が戦士たち、勇者たちの度量を見てやろうではないか」

 

 

 そう言って太陽王は持っていたナイフで手のひらを切りつけて血が聖杯の中に満たされていく。

 

 

 まさか・・・今からここで暴れようっていうのか!?

 

 

 「銀狼殿と余によって浄化されし聖杯よ! 余の体に神を宿せ! 我が大神殿に祀る神の一柱。ラーよ!」

 

 

 そう言ってオジマンディアス王と聖杯は輝きを増し、姿を変え、全身が金色の、赤き目を持つ巨大な四足歩行の翼を持つ獣に変化した。

 

 

 「ワァオ。こいつはすごい! ラーと言えばエジプト神話の太陽神。文字通り最高位の神性だ! そんな巨大な神性が直に顕界するということはほぼほぼない。でも、太陽王オジマンディアスという最強のファラオの肉体、そして神を奉る神殿という空間。更にその神性を宿し維持する器としての聖杯。

 

 

 それらが揃ってこそ起きたもの。時間には限りがあるだろうが・・・魔神柱なんて容易く屠る存在だ!」

 

 

 「これと相対してしばらく生き延びるくらいじゃないと獅子王は愚かこの先へも渡っていけないと・・・どんな荒波と嵐、焼け付く太陽を超えてゆくのが海賊! マスター。援護頼みましたわよ!」

 

 

 「本気だな。オジマンディアス。いいだろう。一飯の恩。そしてこの特異点へ希望を見出したコイツらを先へ送り届けるためにもこのアーラシュ。挑ませてもらうぞ!」

 

 

 「すっごい奇蹟を見ているけど、それを感じるのは戦闘になるのね・・・まあいいわ。全部調べ尽くしてあげる!」

 

 

 アン、アーラシュ、エレナも準備OK

 

 

 「お母さんがここまで繋いだバトンを私達で落とすわけには行きません! オジマンディアス王! 貴方の期待に応えてみせます!」

 

 

 「藤丸君も無理はしないことだ。いいかい、ちゃんとマシュの後ろにいるんだよ。でないと、あっという間に黒焦げだ!」

 

 

 「もちろんです。でも、これでなら盾を超えて支援できるので礼装込みで頑張ります!」

 

 

 皆も武器と礼装を用意して準備万端。私も回復魔術特化の礼装で支援をするようにしていきつつ、こちらを見定めている赤い瞳が輝いて、翼を動かしたと思えば熱風が神殿内を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つっ! 何ていう熱量・・・!」

 

 

 「レイヴンも喰らってはいるけど・・・」

 

 

 「いやあーとんでもないね! 藤丸と元の方は真面目に私が結界と冷却システムを機能しておかないと室内なのもあってすぐに焼け・・・おおっと!」

 

 

 ラーを憑依させたオジマンディアス王との激闘は、こちらも反撃を繰り返してはいるがそれが効いているという素振りはまるで見せず、藤丸のレイヴンは愚かアンの銃撃で関節部分を狙って跳弾も活かして少し動きを鈍らせ、その間にマシュのシールドバッシュがどうにか。

 

 

 「本当にトップサーヴァントと聖杯の組み合わせはろくなことがおきないわね!」

 

 

 「聖杯がなくてもアイツはこういうことは平然とするぞ? 最強のファラオは伊達ではないってことさ。シっ!!」

 

 

 やはり一番のダメージソースとなるのはアーラシュの剛弓。その一撃一撃、速度、精度はどれをとっても一級品。弓の技術で現代の最新火器であるはずのEDFのアサルトライフルに引けを取らないのは怪物と言って良い。

 

 

 「ぜはっ・・・は・・・! く・・・」

 

 

 「さあ、どうした! 耐え凌ぐだけでこの太陽の熱は終わることはないぞ! 勇者であるのなら、人理を燃やされて尚進む勇気。それを支える気概を見せてみよ!」

 

 

 「先輩! 元さん! 後ろに!」

 

 

 「魔力を回すわよ!」

 

 

 前足の爪先に魔力をためて放たれる一撃。それは超高熱の斬撃となってこちらに飛び、マシュの防御スキルと大盾。そこにエレナの魔力を一部譲渡できるスキルで補強することで攻撃を凌ぐも、その余波だけでこっちが吹っ飛び、焼け付く床に手のひらが付いて熱さに思わず手を跳ね上げる。

 

 

 「あつつつっ!!」

 

 

 「ガンド! ガンド!」

 

 

 「はあぁっ!」

 

 

 「むっ・・・!」

 

 

 追撃をしようとしていたオジマンディアス王に藤丸のガンドの連打。どうにか少しだけ怯んだ間にオジマンディアス王の振り上げた手。その姿勢の間にお腹にアーラシュが矢の連射。その威力でオジマンディアス王の巨体が浮き上がり、藤丸のレイヴンで目を狙うことで目眩しと、守るために顔を動かすことでよろめかせていく。チャンスだ。

 

 

 「アン! 地面! エレナ。支援! ダ・ヴィンチちゃん!」

 

 

 「了解~♫」

 

 

 アンの連射で床の瓦礫やラーの姿へと変化しているオジマンディアス王の足跡で出来たくぼみ。そこを砕きながら乱反射しては更に床を緩くしていく。

 

 

 そこにエレナが呼び出した・・・UFO? を用いて翼に攻撃・・・はしたのだけど体当たりを用いて両翼を一瞬だけ封殺。

 

 

 仕上げにダ・ヴィンチちゃんの巨大なガントレット。あれを更に巨大化させたものをオジマンディアス王の顎に発射して叩きつける。質量という意味ではある意味一番重いだろうものを叩き込めばゆるい足元、アーラシュの剛弓で浮き上がったからだ、翼も姿勢制御に使えず、顔は藤丸のレイヴンとダ・ヴィンチちゃんのロケットパンチな攻撃でぐらつく。

 

 

 「っ!」

 

 

 「むぅ!」

 

 

 その僅かな隙を逃さずにマシュが盾でぶつかり、ラーを憑依しているオジマンディアス王をひっくり返してしまう。ダウンを奪えたのだ。

 

 

 「や、やった・・・! 今のうちに・・・・うっ・・・!」

 

 

 「あ、あちち・・・! もう握れない・・・!」

 

 

 追撃を。そう思うのだけどサウナ以上の熱すぎる玉座の間での戦闘。体中の肌がスポンジになって体の中の水を出していると思えるように汗の滝が流れて、床に付けばすぐに蒸発してしまうほどの灼熱地獄。

 

 

 英霊の皆、英霊の力を借りているマシュたちはまだまだ問題ないけど、神性を含んだ熱に僕らマスターのほうが先にやられそうだ。視界がぐらつき、汗がしみるなか

 

 

 「はははははははは!! 見事である! 高き太陽神であるラーを転ばせるか! そしてチャンスを逃さぬ。尽きぬ戦意。よい。認めよう。

 

 

 この5分の間余の攻撃をしのいだこと、大きな一撃を与えたこと。勇者殿の助力ありとはいえ見事」

 

 

 ラーを身に宿していたオジマンディアス王の変身? 憑依? まあ、変化が解けて先程の姿に戻り、神殿は熱が逃げていき徐々に最初の頃の涼しい神殿に。戦闘の余波で傷ついた玉座の間のダメージも完全に直っている。

 

 

 無事に最高位の神性を相手に僕らは生き延びた。逃げるだけではない。確かに戦う意思を見せつつ。

 

 

 「よ、よかった・・・死ぬかと・・・喉、乾いた・・・」

 

 

 「ぼ、僕もだねえ・・・水は・・・ある・・かな?」

 

 

 「フハハハ。生身の人間には辛かろう灼熱によく耐えた。回復と英気を養うための食事を振る舞おうではないか。

 

 

 聖都には刻限通り訪れる。食事を取ったあとにスフィンクスで余の領域を出る直前までは送ろう。元、藤丸。貴様らも獅子王に挑む。魔術王に戦う胆力を持つものとして今はもてなそうではないか」

 

 

 ご機嫌そうにオジマンディアス王も従者を呼んでまた僕らに豪華な食事を振る舞い、湯上がりらしい華奈、ネフェルタリさん、頼光さんも交えて皆で豪華な晩餐会を開いて、寝床まで借りることになり翌日にはお開きになった。




 これで仕込み完了。次は殴り込みへ


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殴り込み前日

 ~カルデア~


 沖田「こ、これが華奈さんの本気・・・でも、それさえも児戯のように対応するキングハサン・・・」


 スカサハ「これに一撃を入れた華奈も大概だが、まさかここまでの武の極みを持つ存在がいたとは。肝が冷える思いと血が滾る思いを同時にするとは一体何時ぶりか・・・華奈も、凄まじい」


 武蔵「剣士の極み、目指す場所になるかもしれない・・・こ、この映像の録画データをコピーしてもらって何度も見直して勉強しないと!」


 ラーマ「余の剣技は自信があった。しかし、互いに神仏の加護もなくひたすらに剣技だけであの戦い。技術、攻撃・・・全く、世界というものは広い、そして英霊の高みは高く、深い」




 ~模擬戦終了後・太陽神殿~


 オジマンディアス「ニトクリス。話がある」


 ニトクリス「ハッ。何でしょうかオジマンディアス様」


 オジマンディアス「余とクレオパトラ、ネフェルタリはこの特異点攻略後神殿を完全に守り、第七特異点にて待つ。しかしだ。ニトクリス。お前はカルデアに行くがよい」


 ニトクリス「・・・・・・オジマンディアス様。それは、私がファラオとしてふさわしくないからですか?」


 オジマンディアス「そうではない。カルデアと余たちをつなぐ連絡役として、何より、ニトクリス。お前はファラオとしてより見聞を広める。カルデアの在り方を学ぶほうが成長に、可能性を広げると余は判断した。


 銀狼殿にもらったこの霊フォン(電報システム版)なるものがあれば魔術王にも察知されずに連絡が取れるという。なので連絡を取る祭はこれを使うとして銀狼殿や、今を生きる人理焼却に挑む人らと共に学ぶがよい」


 ニトクリス「そういうことであれば。では、マスターはやはり銀狼殿で?」


 オジマンディアス「いや、お前の同盟相手。マスターとなる相手だ。それくらい自分で選んでみせよ。それと、銀狼殿のいう相棒の嵐の勇者。彼らは側で見るよりも少し離れた場所で見るほうがきっと面白いぞ」


 「ふぅー・・・ここの特異点での疲れが完全に吹っ飛びました・・・」

 

 

 いやーさすがはオジマンディアス様の太陽神殿。大したものです。モルガン様に頼んで聖杯のかけらになり得る魔力リソースも大量に神殿に運び込んで数ヶ月の維持も楽勝にしましたし、ネフェルタリ様たちと楽しく話して心身完全復活。

 

 

 後は来る決戦に備えて明日には山の村に戻って備えて・・・む? ニトクリス様? 夜更けに客間に来て一体何のようでしょう。

 

 

 うーん・・・なんか、キョロキョロしていていますし・・・どれ、面白そうなので気配遮断の腕輪を付けてと・・・スニーキング開始です。

 

 

 「元。いますか?」

 

 

 「はい。ニトクリスさん。どうかしましたか?」

 

 

 「いえ、我がファラオ、オジマンディアス様と話をしまして。単刀直入に言いましょう。カルデアにてこの私と同盟者として盟約を結び呼びなさい。触媒としてこれを渡しましょう」

 

 

 元様の客室をノックして元様を呼びつけて少し赤い顔で金色の腕輪を一つ差し出すニトクリス様。おやおや。これは側で見るよりも聞くだけでいいですね。自室にこっそりと戻って、扉の音を出さないように閉め切らずにベッドで楽に。私の聴覚ならそれで十分です。

 

 

 「大変嬉しい話です。しかし、私をマスターにとは。華奈でなくていいのですか?」

 

 

 「銀狼殿・・・オジマンディアス様が敬意を払う戦士には私には荷が勝ちすぎる・・・ではなく、私がファラオとして貴方を鍛えつつ、私もまたファラオとしての経験を積むためにちょうどいいと貴方を選んだのです。王からの言葉。受け取らないのですか?」

 

 

 「いいえ。王からの選抜。ありがたく頂戴します。ファラオ・ニトクリス。まだまだ未熟なマスターですが、どうかよろしければ人理修復へ助力を願います」

 

 

 「よろしい。それで、よければですが皆さん。アンにエレナでしたね。聞けば海賊に術者。まあ、賊というのはあれですがしっかりと善い行いを今はしていると聞きますし、航海の話や船乗りのこと。そして学問についても是非聞かせてくれれば」

 

 

 「もちろんです。多分、まだ部屋に持ち込んだ酒で一杯やっているのと、本を読んでいるでしょうし呼んできますよ」

 

 

 ふむ・・・契約してくれますか。オジマンディアス様と私の話した内容はどうしても一時オジマンディアス様たちとカルデアの接触は断つので、その間もニトクリスというファラオとしての才覚も能力もあるけど在位期間の短さ故に見聞を広める機会に恵まれなかった彼女に刺激を与えたいという配慮ですか。

 

 

 そしてニトクリス様が選んだのは元様と。ふふふ。甘酸っぱい香りがしますが、カルデアでどうなるかこれは楽しみが増えました。

 

 

 さて・・・酔いも来ましたし寝ましょう。いい夢が見れそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「只今戻りましたー。お土産た~っぷりですよ~」

 

 

 「おお、戻ったか。しかし大量の魚に酒。これはビールというやつか!」

 

 

 「わぁー太陽王ったら太っ腹ね! まるでちょっとした宝船のようよ!」

 

 

 大量のお土産と食料をいただいて山の里に戻れば皆様目を輝かせて私達が運んできたものをみて、三蔵様に藤太様も満面の笑顔。

 

 

 「ちょうどいい時間だし、今からこれでご飯にする? 華奈さん」

 

 

 「ふむ。良い時間ですしね。よし。じゃあー早速これで皆さんに豪華な食事を振る舞いましょう! 銀嶺隊の料理メンバーであっという間に作っちゃいますよー」

 

 

 「あ、私も手伝います! 頼光さんにエミヤさんにも料理を教わっていますし!」

 

 

 「うふふ。あ、でもお米がないので良ければ藤太様。お米を頼んでも?」

 

 

 「もちろんよ! さあ、無尽俵。美味しいお米がドーンどーん!!」

 

 

 私の方も銀嶺隊を呼び出して料理人メンバーで調理場を用意して、下ごしらえをしている間に藤太様も宝具の俵で米をどんどん出してはそれを壺やカゴに入れて綺麗にしておきつつ、私の指輪で魔力から水を生成してそれで米を炊き始める。

 

 

 「はーいお酒が戒律でだめな人ははちみつとオレンジのジュースに、お茶にシロップもあるから飲んでいってー」

 

 

 「甘い果実もあるわよ。ちゃんと人数分あるから並んで並んでー」

 

 

 皆で並ばせて炊き出しをしてワイワイ愉快に。

 

 

 「さ、ベディヴィエール様にホームズ様も。エジプトの大河で取れた新鮮な魚に、キンキンに冷えたビールですよ」

 

 

 「おお、ありがとうございます華奈殿。では・・・はぁ・・・美味しい・・・! 染み渡るようなビールも、噛めば旨味がしみるような焼き魚も・・・」

 

 

 「ふむ。うん・・・これはいい・・・思わず食べすぎないようにしていかないとな」

 

 

 まあ、ホームズ様の時代はメシマズ真っ只中のイギリスでしたしねえ。そりゃ、素直に称賛しますか。ふふふ。

 

 

 『この状況下でも宴会みたいなことができるって藤太の宝具も、太陽王の気前の良さもすごいなあ・・・あ、そうだ。華奈。決闘に関してだけどメンバーは決まっているのかい?』

 

 

 食事を食べている中、ロマニ様が連絡をくれたのでちょうどいいとメモを出していく。

 

 

 「えーと。こうですね。あちらの方の戦力は獅子王含めて5人。で、こちらの場合は 1 オジマンディアス 2 初代翁 3 アーラシュ、頼光 4 マシュ 5 私、ベディヴィエール の7人で当たります。誓約書にもその人数まででいいと許可を得ていますし、代わりにこのメンバー以外はこの決闘が終わるまで絶対に戦えません。

 

 

 横入りも駄目です。互いに互いがぶつかるとなった戦いにはこのメンバー内でもです」

 

 

 『ふむ。藤太とかも入れたいけど、それでもこの特異点にいるメンバーの中では最強格が揃っていると言って良いね。勝算はある。それに、ギフトを得た英霊でも、華奈ならきっと負けないだろう』

 

 

 当然です。負けてなるものですか。

 

 

 「ふふ。まあ、そこは大丈夫です。とりあえず、そちらにもビールと魚、麦を送るので良ければ保存を。美味しいですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「明日になればいざ決戦。ですね。ふふふ・・・」

 

 

 「あっという間ね。華奈。寝なくて大丈夫なの?」

 

 

 夜も軽い宴となって皆で騒いで楽しんだ後、夜風に当たれば三蔵様が。いやはや、昨晩といいいろんなイベントにあいますね。

 

 

 「ええ。昼寝もしましたし、もう少しだけ夜風にあたって。三蔵様は?」

 

 

 「あはは。子どもたちの寝かしつけと見張りの人たちに夜食を配りに言っていたら今までかかって。華奈。一つ聞きたいのだけど、貴方はなんでここまで勇気を持っていられるの?

 

 

 マシュや藤丸くんに聞いたけど、華奈は基本身内や友達の問題や悩みは慌てたり気をもむことが多いけど、この人理焼却・・・御仏も、神仏も恐れぬことを成し遂げてしまう魔術王相手にも怯まない。怖くはないの?」

 

 

 三蔵様もそれを聞きますかあ。まあ、これは私の気性もあるんでしょうけどね。

 

 

 「うーん。怖い。かもしれませんが、戦える手段は考えているのと、家族や友達、仲間たちも倒したいと、どうにかしたいと思っているのです。なら戦うべきでしょう? それにまあ、ある程度なら絶望を許すやわな魂はしていないかもですね私は。うふふふ」

 

 

 ぶっちゃけブリテンでのランスロット浮気騒動とかそっちのほうがよっぽど怖かったですねえ! そう思っていたら三蔵様はクスクスと笑っている。

 

 

 「うふふ。なるほど。悟空のような強いだけじゃない。いえ、既に勇気も覚悟もある。なるほど。華奈さんのことがよくわかったわ。じゃあ、よければ私もカルデアに招いてくれれば。皆の悩みを聞いたり、説法を教えたり出来そうだし」

 

 

 そう言って三蔵様は私に錫杖を渡してくれる。いやはや。大事なものをまた。ふふ。ありがたい。

 

 

 「ええ。ではでは、しっかりと明日を超えて、カルデアで会えるように頑張りましょう。感謝しますよ三蔵様」

 

 

 「うんうん! ありがとう華奈さん。私の弟子としても、カルデアの騎士としても明日は獅子王をふっとばしてきて!」

 

 

 二人で水杯を交わして。それから冷えてきたので寝床に戻り就寝。明日に備えましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて・・・無事にここまで来ましたが・・・門を開けている・・・」

 

 

 「よほど自信があるのであろうよ。もしくは奴らにも騎士道精神が残っていたか」

 

 

 「まあ、変に閉じこもられたりするよりよっぽど良い」

 

 

 「ええ。あの槍、いえ。塔が閉じられたら大変ですしね」

 

 

 決闘の日。すっかり難民のキャンプがないキャメロットの大きな城門は開かれていて、遠くからでも私達を待ち構えているのがわかる。既に来ているオジマンディアス様に、私達決闘に挑むメンバーで歩いて近づけば、城門に立つのはガウェイン。

 

 

 「来ましたね。先生に・・・太陽王、戦士の皆様。私達獅子王の騎士も決闘を受け入れます。が、獅子王はこの聖都の玉座の間で待っています」

 

 

 「ほう。そして太陽の騎士の貴様がそこにいる。ということは・・・」

 

 

 「ええ。先生の書簡の方での意見を想定した趣向で玉座の間に行くまでの間に我々騎士が戦士として立ちはだかり、王を狙う戦士たちとぶつかることをします。

 

 

 王を守る4人の騎士の一番槍を承ったのはこの太陽騎士ガウェイン。そちらの方は誰が相手されますか?」

 

 

 なるほど。私達が獅子王の塔を壊そうとするゲーティアの手先とした想定戦の意味合いもあると。それに、ガウェインのガラティーンの強みを活かす意味でも、太陽の加護を受ける意味でもガウェインは巻き添えを考えると都市の中で暴れさせるわけには行かないということもありそうです。

 

 

 「ほう。では最初は余が行こう。太陽の加護を受ける騎士。つまりは余の加護を受けるもの。弟のようなものよ。道を踏み外した弟に説教をするのは努めよ」

 

 

 ガウェイン様と戦うことになったのはオジマンディアス王。神殿の宝物庫から持ってきたという大きな杖を持って前に出る。

 

 

 「こい。太陽の騎士。銀狼殿の『元』一番弟子として、その剣技の冴え、太陽の加護。剛力ぶりを余が直々に見定めてやろうではないか」

 

 

 「太陽王と戦えるのは光栄の至り。ですが・・・元。ではありません。今も私は先生の弟子で、そしてこれからも守護するものです!」

 

 

 気合を入れてガラティーンを抜くガウェイン様。いや、今も生きているガウェイン様を始めとしたこの世界線のガウェイン様等兄弟姉妹は愛弟子ですが貴方は破門です。

 

 

 少なくても罪をすすぐ、禊を済ませないと無理無理。まあ、そんな事を考えながら私達の前で二人の太陽の力を振るう戦士たちの戦いが始まりました。




 次回、オジマンディアスVSガウェインからの獅子王陣営と戦士たちの戦いに。


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ろくでなし共しばき隊

 さーてキャメロットもクライマックスー


 「ハァッ!!」

 

 

 「ふん。やはり獅子王の子飼いの騎士であればこの程度か」

 

 

 「ぐ、ぐぅっ!?」

 

 

 始まった決闘の最初の勝負。ガウェインとオジマンディアス王。その戦いは、下馬評通りで、驚いているのはカルデアの皆さんくらい。いくらギフト持ちの円卓の騎士とはいえ、聖杯を持ち、愛妻と私、アーラシュ様もいる精神バフマシマシのオジマンディアス様にはあしらわれています。

 

 

 あ、聖杯はちなみに使わないでこの状況ですね。流石、平行世界では英霊三騎を相手に短剣で対処できると豪語した英傑。すこし私が情報を与えればこのとおりですか。

 

 

 「如何な剛力といえど、技の「おこり」を押さえれば大したことはない。そして、良き振りをするが、刺突も、踏み込みも甘いわ!」

 

 

 「ぬぐっ!」

 

 

 オジマンディアス様の用意した杖。自分の背丈より少し長いくらいの、2メートル位のその杖でガラティーンを振り切る前にその大剣の根元辺りに突きを入れて力を出し切る前に抑え、そのまま二撃目を放って鎧に突きを入れて吹き飛ばす。

 

 

 かといって刺突をしようにもこの大剣では突きの軌道も読みやすくそれを横に避けて杖で足払いをして剣事蹴り飛ばしてしまう。

 

 

 ガウェイン。いえ、こちらの方のガウェイン様も剛剣の方に行ったので技術を教えましたが、一応私で柔剣の対処も教えたりしましたのに・・・いえ、この場合はそれを持ってもオジマンディアス王の戦技がすごいと言うべきですか。

 

 

 本人も何人もの力自慢でないと弦を張ることさえ出来ないという大弓を軽々と引くという怪力ですし、何より、ガウェインのギフトすらも徐々に力が弱まってきている。オジマンディアス王がギフトの日差しを制御しつつあるのかも?

 

 

 「ふぅ・・・くっ・・・! 私の力が・・・弱まって・・・? オジマンディアス。何をした!」

 

 

 「何を? 貴様が勝手に使っている太陽の動き。それを弱めただけよ。余は太陽王にて太陽神ラーの化身オジマンディアス! 太陽の加護を受けるだけの騎士が太陽まで自由にするとは増長も甚だしいのでそれをすこし身の程に合わせつあるだけ。

 

 

 どうした? 銀狼殿を守るというのならギフトなしでも、そういう状況でも踏ん張ってこそであろう。それとも、余の加護がなければその立派な剣を振るう勇気もわかぬか」

 

 

 ガァン! と特に強い振り下ろしをガウェインが受け止めるけども力が弱まっているせいで受け止めるか重苦しいものであり、押し返そうとすればその力を利用してくるりと杖を回して下からの突き上げがガウェインの顎を跳ね上げてしまう。

 

 

 「うぐっぉお・・・! ぐ・・ぐ・・・く!」

 

 

 なんともまあ、メチャクチャな道理ですが実際にオジマンディアス様の言葉通りにガウェインの力は弱まっている。日差しの方にも、陰りが見えてきて、時間も実際に日中だと言うのに、その加護が奪われつつあるような。

 

 

 いえ・・・ああーなるほど。太陽の動き、日差しの方。戦いの中で見えなかったですが、巨大な砂塵。これが太陽の光を覆いつつある。オジマンディアス様の領域、砂漠の入口からしばらくあるあの砂嵐。多分上空のみ一時的に領地の、砂漠の砂嵐の気候を召喚してあれで加護を封じつつあると。

 

 

 領地を呼び出せるオジマンディアス様ならではの豪快な手段でガウェインの加護を封じているとは。

 

 

 「全く、情けない弟よ」

 

 

 「誰が弟ですか!」

 

 

 「貴様だ太陽の騎士。その加護を。余の加護を受けるものなら弟よ。民草を導けず、師匠と再び轡を並べることもなく、主へ諫言も言えず。貴様の目指した騎士は犬のようにへりくだるか。そうではないだろう! 銀狼殿は! 狼のように賢く、仲間を導き、時には貴様の王にも諫言を言うことも、意見を言うことも厭わぬ女傑のはず!

 

 

 それが王の血を引き、聖剣の姉妹剣を持ちながらこの体たらく! これが騎士か!! 貴様の師匠が体現する戦士か! もうよいわ! これ以上は興ざめだ。一番やりの努めも果たしたしな」

 

 

 オジマンディアス王ももうこれ以上はする気がないということで魔力を高めて宝具を放つ構えに。一瞬だけ私を見ましたが問題ないと頷く。

 

 

 一度殺すか、痛めつけてやらないとこの馬鹿弟子の性根を叩き直すのは出来ないでしょう。思い切ってやってくださいませ。それくらいしないとこの子は倒れないくらい頑丈ですし。

 

 

 「光輝の大複合神殿(ラムセウム・ティンティリス)!!」

 

 

 「ぐっ・・・くぅううう・・・・! まだ、まだぁ・・・! 私は、モードレッドに、ガヘリス、ガレスのために、母上のためにも・・・ぬぉぉおおお!!」

 

 

 必死に空から降ってきたピラミッドを受け止めて踏ん張るガウェイン。歯が砕ける音に骨がきしむ様子がわかりますが・・・だからといって、聖罰はきっとその皆様も望んでいないですよ・・・道を間違えています。

 

 

 「ほほう。やるではないか。だが、余の、太陽の拳にも耐えきれるかなぁ!? フハハハハハハハハ!!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァアアアアアア!!!!」

 

 

 オジマンディアス様も色々と鬱憤が溜まっていたのかどこぞのスタンド使いの吸血鬼のようにピラミッドの上からラッシュを叩き込んで宝具の小さなピラミッドを破壊しながら豪快に高笑い。

 

 

 あまりに豪快、メチャクチャな戦い方と宝具の組み合わせに私達も唖然からの大笑い。

 

 

 ガウェインは手足がグシャグシャに折れ曲がり、血を吐きながら気絶していますが生きてはいますね。・・・バカ弟子ですが、教え子がこうしてぼろぼろになるのは悲しいですね・・・でも、私が選んだ策での結果。悔いはない。

 

 

 「まずは一勝。ありがとうございますオジマンディアス様。幸先の良い勝利です」

 

 

 「当然であろう! 余がいる限り負けはない! で、銀狼殿。そいつも連れて行くのか?」

 

 

 「ええ。お仕置きのために」

 

 

 「まあ・・・その、華奈さん。その・・・縛りが破廉恥な・・・」

 

 

 気絶しているガウェインの手足の骨折と割けた肉を治療魔術を使える礼装で治してから全身を亀甲縛りで縛り上げてソリにのせていく。

 

 

 勝つつもりですし、この後のためにもこの馬鹿弟子に特大級のものを見せてあげましょう。

 

 

 とりあえず城門も閉まっていないので無事に中に入城。次の相手は誰か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「華奈殿・・・」

 

 

 「次はランスロットと。ふむ」

 

 

 聖都に入れば次にいるのはランスロット。悲痛な顔でこちらを見ていますが、そちらも選んだ道。カルデアと喧嘩をする以上。剣を交え、切り合いをするのはわかっていたはずです。

 

 

 「ランスロット卿・・・お母さん。次は私が・・・」

 

 

 「いいえ、この方に戦う相手は既に決まっています」

 

 

 「では、私です?」

 

 

 いやいや、ベディヴィエール様も違いますよ。その方は・・・既にそこにいる。

 

 

 「頼みましたよ。翁様。円卓最高の騎士と謳われた騎士です」

 

 

 「承った。湖の騎士か。覚悟するとよい」

 

 

 私の側にいつの間にか。というよりは気配を消していただけの初代翁様が気配遮断を終わらせる。というよりはただ意識させるために出てくれた。

 

 

 「なっ・・・! 山の翁・・・だと! しかし、その姿、武器で暗殺者とは・・・! そしてなんという・・・!!」

 

 

 流石、ひと目見ただけでその強さの一端を見抜きますか。

 

 

 「キングハサンさん!」

 

 

 「この方が魔術師が言っていた初代山の翁・・・! なんという威容。そして、死の気配!! 華奈殿が手も足も出なかったというのも納得する・・・!」

 

 

 「ふむ・・・初代翁か。なるほど。暗殺者の語源。そして死を司る存在と言っても過言ではないな・・・」

 

 

 ああ、うん。オジマンディアス様。絶対貴方様の首をズンバラリしたのはこの方ですが今は聞かないでください。下手に見抜いたことをいえば多分もう一度切り落とそうか? なんて言い放ったらやばいので。多分初代翁様的にも首をたしかに切って死ななかったのはオジマンディアス様だけですし。

 

 

 「人理焼却を成した魔術王へ挑む銀狼の覚悟と武威に応じ此度剣を握る。神になりつつある獅子王への諫言も出来ず、ただただ不満を抱えながら従うだけの騎士よ。忠義という名の怠惰に浸った欺瞞ごと終わらせてくれよう」

 

 

 「っ・・・いや、こういうことを想定したこともあっての決闘! 獅子王の騎士、ランスロット。参る!!」

 

 

 ランスロットの表情が初代翁様の言葉で苦悶に曇ると言うか、図星を疲れ様な顔に・・・もしかして、表向きは獅子王に仕えるを選んで、うまい具合に裏切ってなんとかするとか、もしくは何も出来ないから仕えているとかそんな感じのことを考えていたとか?

 

 

 でも、決闘のこの日までに何も出来ていないから初代翁様はそう言ったと・・・・・生前でも裏でアルトリア様を裏切っていたけどここでも同じことをしようとしていたと・・・はぁー・・・変わりませんねえこの人も良くも悪くも。

 

 

 こんな形で始まる切り合い。ですが。私を子供扱いしている初代翁様。ランスロットが相手になるわけもなく。

 

 

 「軽い」

 

 

 「グッ、っ・・・うぐぉおおおおおお!!!?」

 

 

 剣をぶつけて弾き返し、そこから目が光ったと思えばランスロットを青い炎が包みこんで襲いかかり焼いていく。

 

 

 「あが、カ・・・・うっ・・・おぉ!」

 

 

 全身を焼かれながらも尚挑みかかるランスロット。剣が輝き、宝具を開帳しようとしているようですが、既にそこには初代翁様はいない。

 

 

 「哀れ。仮初の忠義に宿る輝きなどない」

 

 

 後ろに移動していた初代翁様によって急に持ち出してきた大盾で後頭部をガァんと殴って気絶させることでこの決闘も終了。豪快すぎる当身ですが、まあ・・・首を取らなかっただけ良しとしましょう。

 

 

 「銀狼。此奴にも罰を与えるのだろう。死は救いになりかねないのであろうと考えたゆえに、後は任せる」

 

 

 そう言ってフッと霧のように、あるいは最初からそこにいなかったようにいなくなる初代翁様。多分どこかで見ているんでしょうけど、いやはや冠位の資格を持つものはとんでもないですねえ。

 

 

 初代翁様の慈悲に感謝しつつ甘える形でランスロットも一応の治療をしてから亀甲縛りと猿轡をしてソリに投げ込む。ウチの部隊のオカマたちが騒いでいる声が聞こえるが気にしない。いや・・・このまま投げ込むのもアリ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、あの二人がこうもやられるとは。私は悲しい・・・これでは、私の手間が増えますね。華奈殿、そして・・・ベディヴィエールを殺さないようにしつつ戦うのは骨が折れる」

 

 

 「トリスタン。よく言いますね」

 

 

 聖都の中央にそびえる巨大な城。そこの入口で待ち構えているのはトリスタン。やはりというか、言葉は穏やかですが感じる気配が穏やかじゃない。

 

 

 ギフトのせいでしょうか・・・残酷な気配を感じるんですよね・・・円卓の中でも慈悲深い面がよく見えた人だったのに。

 

 

 まったく・・・あの愚妹、どういうギフトを与えたのかこってり聞かないと。

 

 

 「さて。とはいえこれは我が王が認めた決闘。さぁ。私と戦う戦士は誰ですか?」

 

 

 「オレと」

 

 

 「私が相手になりましょう」

 

 

 トリスタンと戦うのはアーラシュ様と頼光様。アーチャーの中では文句なしの一級品の大英雄と、その技量と武芸百般はあらゆる状況で鈍ることはない戦士。この二人ならある意味円卓の騎士の中でも特異な攻撃手段のトリスタンにも行けるでしょう。

 

 

 「ふむ。何方もかなりの武人。相手にとって不足なし。では、始めましょう」

 

 

 勝負が始まり、その弓の弦が鳴らされると音の刃が飛び、頼光とアーラシュに向かうも、それはアーラシュは音の刃のゆらぎを見切って避け、頼光様も魔力をまとった刀で弾く。

 

 

 「ほう・・・」

 

 

 反撃の二人で放つ矢の雨はまさしく豪雨と言っていいほどでトリスタンもフェイルノートをかき鳴らして音の刃を複数発射して矢を切り落とすもさばききれずに回避行動を取って矢の攻撃をしのぎつつ数秒間フェイルノートを鳴らしてあっちも連続攻撃。

 

 

 「ハァッ!!」

 

 

 「むん!」

 

 

 「ッ!」

 

 

 見えないはずの、いえ、かすかに空気のゆらぎは見えるかもな程度の、刃を出す以上ほんの僅かなその変化を逃さずに雷状の魔力をまとった刀で攻撃を叩き落としてしまう頼光様。そして、アーラシュ様も矢じりをナイフ代わりにして音の刃を叩き落とし、体捌きを持って回避の連続。

 

 

 「せぇい!」

 

 

 「お返しだ!」

 

 

 「グッ! 見切れるとは・・・音の刃を!」

 

 

 「目の良さには自信があるんでな。音のかすかなゆらめきを捉えられるんだよ」

 

 

 「初代翁殿と華奈さんの戦いで似たような技を見ていましたのでね。対処を学んでいるのです」

 

 

 「流石勇者殿と銀狼殿の母だな!」

 

 

 いやいやいや・・・目の良さと耳の良さもあるんでしょうけどそれを即座に対処できるアーラシュ様と、私と初代翁様の戦いで飛ぶ斬撃の応酬を見せましたけど、それで応用で音の刃もとは・・・大英雄の武の天賦の器は違いますねえ。

 

 

 「では・・・こちらも出し惜しみはなしです!」

 

 

 「最初からそうしろってんだ! こっちは必死だぜ!」

 

 

 「ですが、いずれにしろ獅子王への道は通してもらいましょう!!」

 

 

 トリスタンも本気で激しい攻撃の波を放ちますが、そのギフト持ちの重い一撃を二人は連携と手数を持って対応。特にアーラシュ様の攻撃の重さはギフト持ちトリスタンの攻撃に対抗できるうえに、そこを近距離で刀で戦え、矢での支援もできる頼光様の支援がアーラシュ様の攻撃の手を緩めさせないように立ち回るのが上手い。

 

 

 即席のコンビだと言うのに、かなりの連携を見せていくゆえにトリスタンもジリジリと追い詰められていく。

 

 

 ときに矢の雨が。ときに突貫してくる剣士と剛弓をさばきながらの対処。しかもその剣士は相手が格上、鬼という怪力を誇る種族や牛鬼などの妖怪天魔と戦い慣れている頼光様。ギフトの加護による力の上乗せなどもすぐに対応してしまい、手札の多さと雷撃で逆にトリスタンの攻撃を封殺。

 

 

 「捉えたっ!!」

 

 

 「そらぁあ!」

 

 

 「ぐ、く・・・・・か、な・・どの・・・」

 

 

 最後は頼光様が刀でフェイルノートを真っ二つに叩き切り、アーラシュ様が矢で両手のひらを打ち抜き、最後に二人で前後からボディブローと当身のコンボで気絶させる形で勝利。

 

 

 最後に私を見て手を伸ばそうと見えましたが・・・戦いを選んだ以上。まあしょうがないことです。

 

 

 ここの戦闘も無事勝利。多少手傷を負った二人ですが、それでも無事そうで何より。

 

 

 「うふふ。華奈さん。無事にトリスタンを捕らえました。彼も捕縛を?」

 

 

 「ええ。ただ、この方の場合は指が動けば危険なので、両手を合わせて指を絡ませてから、ギッチギチにテープとワイヤーで縛ってと・・・亀甲縛りからのエビゾリで・・・よし」

 

 

 三人目のバカ騎士も捕獲成功。さぁ、ソリにしまっちゃおうね~していよいよ聖都の、獅子王が待つ城の中にいざ鎌倉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「兄上も、トリスタン卿も、ランスロット卿・・・はまあ、いいが、ここまで通されて尚被害はない。さすが先生とその側を固める戦士たち・・・・・」

 

 

 「ふん。そこは王たる余はよく知っている。そして貴様も同様ではないのか? 鉄の騎士、アグラヴェインよ」

 

 

 「・・・ああ。そして、それでも私は、私達は先生を守るために、ここにいてもらうためにも諦めきれない・・・! 非道な行いをしているのは十も承知。それでも、我らの大恩人を守るための最善を成すためにも・・・王のためにも引き下がれない」

 

 

 「アグラヴェインさん・・・! その思いは正しいでしょう。でも、お母さんの話と、まだ別の道もあるはずです!」

 

 

 城内の中層にある広間。そこで漆黒の鎧とやや長めのショートソードを構えて戦闘態勢を整えるアグラヴェイン。そこに立ちはだかるのはマシュ。そしてマスターの藤丸様。

 

 

 「華奈さんとじっくり話すという選択肢はないの?」

 

 

 「ギャラハッド・・・いや、マシュといったか。そしてそのマスター。貴様は失ったことや、その後の悲劇を、その重みを味わったことがないから言えるのだろう。私も、先生は無敵だと思っていたさ。今も尊敬してやまない偉大な騎士だ。

 

 

 人理というあまりに大きなものを、マスター。君の家族も、日常も失っている中で言うべきことではないかもしれない。しかし、側にいて、常に私達を優しく包んでいた月光のような方を失った重みを知っているか。それをもう味わいたくない。故に、愚かな行動であろうが止まれない。先生の養子であれど・・・今の時代の弟子であれど、引き下がれないのだ!」

 

 

 「アグラヴェインさん・・・! なら・・・押し通ります! 何方の意見も譲れないのならぶつかりあって決める! それがオークニー流の会議でしたものね!」

 

 

 悲痛で、まるで小さい頃に珍しく見せた泣き顔を思い出させる顔で剣を構えてマシュとぶつかり合うアグラヴェイン。

 

 

 ・・・・

 

 

 「・・・・・・アグラヴェイン卿の言うことは本当です。私達はアーサー王を私達を照らし輝き、導く太陽なら華奈殿は私達を涼風で癒やし、優しい光で包んで夜道も迷わず歩ける助けをしてくれる月だと思っていました。

 

 

 王の金の輝きと聖剣の光。華奈殿の銀の軍が牙となり敵を穿つ様。それは、私達の希望でした」

 

 

 「それが片方欠けてしまい、すべての歯車が狂ってしまった・・・」

 

 

 「太陽と月。騎士王と銀狼。なるほど・・・今までの騎士たちの行動にも、そこまでになって求めるのはわかった気がします。騎士としての光が騎士王なら、一個人としての時間を、余裕をくれたのは華奈さん・・・と」

 

 

 ギフト持ち、しかも恐らく鉄と言わしめるほどの正確無比な剣術の型を戦場でも使うほどの反復練習と実践の鬼であり守りの達人のアグラヴェイン。その剣技の中に私の使う受け流しや体捌きの技術を体得している。

 

 

 力ではない。鋭い硬さと、柔らかいしなり。まるで先端に刃物をつけたムチのような攻撃。

 

 

 マシュもギャラハッドの記憶と、私達のシゴキもあってこういう動きは対処できてはいるけども、派手さがない分、逆にマシュも攻撃が通らず攻めあぐねてしまっている状態。

 

 

 藤丸様のレイヴンでの援護射撃も目くらましにしかならず、いやむしろその回避の際に距離を取りつつ壁際に追い詰められないように円を描くように移動するので捕まえられないだけだ。

 

 

 「負けるわけには行かない! ここで一人でも・・・! 王のために、そして、先生のためにも・・・!」

 

 

 「先生のために先生のためにって! それでお母さんを怒らせて、手間を取らせてしまってまるで助けになっていないじゃないですか! なんで最初から協力しないのですか!」

 

 

 段々と感情をむき出しにしてぶつかり合いが激しくなる二人。マシュ様を盾ごと押し返す剣圧と、盾を蹴り飛ばして上空からの追撃か回避に使う技術をフル活用して弾丸を避けつつマシュに何度も苛烈に、たとえ盾が砕けなくても。砕ける代物でないと知っていても叩きつけていくアグラヴェインに、マシュも盾を剥がそうと、どかして剣を滑り込ませる動きへの対応をこなしつつ面白い戦い方を。いや強引と言うべき動きもする。

 

 

 十字架と円卓を合わせたようなその大盾の一部を持って体でぶん回してハンマー代わりにして殴りかかったり、いつもなら絶対にしないであろう足を高くあげてヒール部分でアグラヴェインの篭手を蹴り上げて攻撃を回避などなど。

 

 

 剣技のレベルも盾の扱いも奔放かつ高い技術なのだけども・・・

 

 

 「ふー・・・・まるで・・・子ども同士の喧嘩を見ている気分です・・・・・もう・・・決闘だと言うのに」

 

 

 「先生なら魔術王へ挑むのを止めない! それではいけないのだ! あの完璧な計画をする様な怪物に先生をこれ以上進ませては! 何故わからないのだマシュ!」

 

 

 「わからないです! そこまでわかるアグラヴェイン卿たちと、こんな力を渡せる獅子王に、皆がいれば違う未来が見えるはずなのに!」

 

 

 「もう、この人を傷つけさせる。死の危険を与えないためだ! そのための獅子王の聖槍なのだ!」

 

 

 「なら、なんでこんな顔をして剣を振るうんですか! 本当は、期待しているくせに! 頼りたいくせに!」

 

 

 子どものような口喧嘩をしながらの盾と剣のぶつかり合いに、藤丸様のレイヴンの射撃も徐々にあたり鎧が砕けていくけどそれでもアグラヴェインは防御をできず、いや、しなくなっている。

 

 

 「みんな、ブリテンでの恩があるからって助けたいと言っているけど、結局お母さんの戦いを、どういう策を持っているかどこか気になっているのに! 獅子王と、いえ、アーサー王とお母さんの二人の協力を見たいはずなのに幽閉こそが一番だと自分に言い聞かせて!

 

 

 もう一度くらい、一緒に戦うとか、話し合いをするくらいしましょうよ! この、不器用な騎士たちが!!」

 

 

 「ッッッ!!! う・・・く・・・」

 

 

 マシュの気合のシールドバッシュと藤丸様の礼装での筋力強化支援での一撃がアグラヴェインにクリーンヒットして気絶。

 

 

 「ふー・・・・ふー・・・はぁ・・・は、円卓の騎士・・・アグラヴェイン卿・・・気絶しました。私達の、勝利です。先輩。お母さん・・・」

 

 

 「お疲れ様ですお二人共」

 

 

 「ここまで派手な兄妹喧嘩か? はすこし見たことがないなあ! わははは。まあ、兄ちゃんである分色々悩んだんだろ。それを吐き出せた分、少しは良いガス抜きになったと思うぜ。マシュ。藤丸」

 

 

 「全く歪んだ忠誠心と独善は何時の世も問題になるものだな。それが円卓になればこうなるとは。銀狼殿も人気者と見える」

 

 

 「からかわないでくださいよーオジマンディアス様。でも、これで獅子王の騎士を全員倒しました。もう後は・・・この元凶をしばくだけ。皆様の戦いに恥じない成果を見せます」

 

 

 気絶して尚眉間にしわ寄せて・・・いつも色々と考えている子でしたけど、全くもう。お仕置きのあとは好きなご飯を作りましょう。まあ、今は暴れさせないために亀甲縛りと猿轡はしますけど。

 

 

 そしてソリに乗せて、いざ玉座の間に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「我が騎士たちをすべて退けてきたか・・・」

 

 

 玉座の間に座る獅子王。いえ、あれが聖槍を握り続けた並行世界のアルトリアですか・・・

 

 

 「姉上なら、きっと、超えてくるだろうと考えていましたが、やはりされると違いますね」

 

 

 「こうして敵として、ぶつかり合う相手として会うのは二度目になりますね。アルトリア」

 

 

 「・・・・・・ええ。そして・・その大盾の娘と・・・そこの騎士は・・・?」




 まあ、そうなるよねって。


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対極の在り方

 お好きな曲と一緒に読んでくれると嬉しいです。


 「・・・・マシュはしょうがないとして、この大盾を、気配を覚えていないのですか? ギャラハッド。円卓の騎士の一人で私の養子です。そして、ベディヴィエール様。貴方の執事役でもある、最も忠義に厚い騎士だと言うのに・・・」

 

 

 獅子王となっていたアルトリアは。ええ、美貌の成長に感じる魔力、立ち振舞い。本当に素敵な淑女になりましたとも。ただし、そのガワは。中身の方は、私のよく知るアルトリア様とは大違い。

 

 

 マシュとはまあ、そりゃあ知るよしはないですがマシュに力を貸してくれている、実の子のように接してくれていたギャラハッドさえも、貴方の側役として常に支えていたベディヴィエール様も忘れるとは・・・

 

 

 「そうか、ならば。我が円卓にこの後加わるがよい。我が聖槍で貴殿らも保護すると約束しよう」

 

 

 「いえ、王は私に罰と、復讐をすべき相手。私を討つべきなのですから」

 

 

 「なに・・・?」

 

 

 ベディヴィエール様は銀の義手を解除して、偽装を解除。それは、一振りの聖剣。獅子王が、眼の前のアルトリアが還すよう託したもの。

 

 

 「エクスカリバー・・・そうか、そう・・・か、あの・・・あのときの・・・」

 

 

 エクスカリバーを見て記憶が掘り起こされつつある様子の獅子王。頭を抑え、眉間にシワを寄せてしばらくのあと

 

 

 「それを還しに来たというのだな・・・まったく・・・私が忘れるほどの長き時間。呆れる忠義だ」

 

 

 「いえ。これは私の罪、私の成すべきこと故に・・・・」

 

 

 「その方法に決闘を選ぶか。そして、姉上・・・どうしても、戦うというのですね」

 

 

 すこしだけ、記憶を思い出せたようでとりあえずあっちは大丈夫そう。そして、私に向き直り聖槍を構える獅子王。

 

 

 「ええ。私は人理修復のために戦っている。そのために、そしてこの様な手段で私を守ろうとする馬鹿げた考えをする愚妹を止めるために騎士として、カルデアのものとして諫言をしに来たのです」

 

 

 私の声に一瞬、ぐ。と硬い表情をした後にすぐに戻り。

 

 

 「私は魔術王に一度挑み、そして敗走をしました。敵わない。そして完璧な計画に、人理ではなく人という種を存続すること。守護することを願った。そして、それ以上に、何よりも姉上。貴方を全てから守るために。

 

 

 だから、そのために貴女をここで倒し、聖槍の中に収容します。受け入れないというのなら、無理矢理にでも・・・!」

 

 

 「もとより決闘のオオトリ。そこで私とベディヴィエール様を倒せば円卓の騎士、聖剣、私が来ますよ。さぁ、勝負です!」

 

 

 どのみち戦うしかない。この先は互いに強さが物を言う。それを伝えつつこの特異点できっと最後の戦いのゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獅子王の武力は、文字通り物が違った。

 

 

 「ぐぅっ!! か、うあっ!」

 

 

 ベディエールさんをたった一振りで吹き飛ばし、刺突で銀腕を突き更に押し返す。

 

 

 「ぐっ! ぐぅ・・・・っ、ゴホッ!!」

 

 

 剣技で言えば華奈さんが上だけど、それを超える速さ、力を持って技術を叩き潰していく。

 

 

 嵐の王。聖槍の力と僕らが知るアルトリアさん以上に成長した竜の心臓と肉体。そして、この聖都。いや、聖槍の塔の一部での戦闘もあるのだろうか。

 

 

 秋水一振りだけで珍しく両手で刀を握る華奈さんを何度も何度も地面に転がし、体中に傷を増やしていく。

 

 

 「・・・ああ、華奈さん・・・! 母は、母は動いてはいけない。武者の戦いでの、決闘への横入りは駄目だとわかっていますがそれでも!」

 

 

 「先輩、私は、私も動かないと駄目なんじゃないですか・・・! こんな、こんな戦いは・・・!」

 

 

 頼光さんと、マシュが決闘に入ろうとしているけど、僕はそれを駄目だと首を横に振る。

 

 

 「それじゃあ、華奈さんの作戦と、ベディヴィエールさんの思いが無駄になっちゃう。我慢だよ。マシュ。頼光さん」

 

 

 僕も参加したい。マシュのマスターとして気持ちを汲んでやりたい。でも、それはしてはいけない。人という種の守護のために見定めたもの意外を虐殺することも、華奈さんをそこまで守りたがるのかがわからないし。

 

 

 その考えにはっきりと違うと突きつけるのはきっとあの二人じゃないと駄目。僕らが水を差せばきっとそれも駄目だという予感がする。

 

 

 「ふん。母子という関係が目を濁らせるか。見ておけ。そら、動くぞ」

 

 

 オジマンディアス王がそう言って僕らもしっかりと戦況に目を向けると

 

 

 「ハァアアっ!!」

 

 

 ベディヴィエールさんの剣が獅子王の槍の攻撃を受け止めても倒れず。

 

 

 「ふっ!」

 

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 

 華奈さんの秋水の一振りが獅子王をあの聖槍ごとふっとばしていく。

 

 

 『嘘だろ・・・!? 獅子王相手に拮抗し始めている! 一体どうなっているんだ!!?』

 

 

 そう。二人が獅子王相手に押されていた状況が変わり、互角に打ち合っているのだ

 

 

 「おぉおお!!」

 

 

 しかも、槍の薙ぎ払いを華奈さんが弾き飛ばし、そのまま斬り伏せようとしたのを獅子王が防ぐも、力押しで負けつつあるのだ。

 

 

 「っっ・・・ツァあっ!」

 

 

 「はっ・・・ぁ!」

 

 

 「甘い!」

 

 

 それを魔力放出だろうか。そのブーストで華奈さんを押し返し、ベディヴィエールの攻撃をしのいでいくけども、さっきまでの一方的なものではない。

 

 

 「・・・キングハサンとの戦い。いえ、違う・・・これは。アルテラとの戦いのときのような・・・」

 

 

 「隻腕の騎士はひたすらに怨念とも言えるほどの忠義と目的のために。そして、獅子王の力はたしかに凄まじい。だが、その対極にある力を持っているのが銀狼殿だ」

 

 

 「対極・・・?」

 

 

 眼の前では互角に。それでも華奈さんとベディヴィエールさんの傷は、ダメージは増えていくのが早いけど、でもさっきのように獅子王の攻撃で膝をつかない。倒れない。

 

 

 たしかに両足で踏ん張って二人は剣を振るっている。

 

 

 「そうだ。聖槍を握り神霊に近づき、同時に人の視座が、人との繋がり薄まりつつある獅子王。目標がどうであれとことん個の力とは真逆。

 

 

 概念を斬れるほどの、人の域を超えつつある武芸を身に着けつつも人の身であり続け、関わる者たちの想いを紡いで、束ねて戦う。まさしく英雄。勇者の力だ」

 

 

 「ラぁアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 「っっ・・・・・・・」

 

 

 華奈さんの気炎をぶつけるような一撃に大きくふっとばされて片膝をつく獅子王。

 

 

 今まで常に先手を打とうとしていた獅子王の動きが止まり、少ししか変化を見せなかった表情にも大きな変化が起きる。まるで、華奈さんだけではない。ベディヴィエールさんだけではない。もっと多くの、もっとたくさんの人と戦っているような。

 

 

 ダメージは少ない。かすり傷もないはずなのに、聖槍を動かせずに二人を見ている。ふたりともすでに全身傷だらけ、時折痙攣もするほどで、血の出ているというのに、反撃に移っていない。

 

 

 「貴女は確かに人から、神へと高みを得たのでしょう・・・でも、そのせいで多くのものを忘れて、こぼしてしまった・・・人のときに、私と過ごしたときのものがないから・・・貴女の刃は冷たく痛いだけで・・・

 

 

 あのときの、騎士王として、アルトリアとしての刃の重みがまるで無いんです!!」

 

 

 

 「うぐっ!! それでも、貴女を人理にも、魔術王にも抹殺させるわけにはいかないのです!!」

 

 

 「っっづぅう・・・! ま、まだまだぁ・・・・・!」

 

 

 「!!? なぜ、なんで人理がお母さんを抹殺するというのですか!!」

 

 

 華奈さんが再度吹き飛ばし、獅子王に初めての肩口への切り傷がつき、追撃をしようとするものの、獅子王も聖槍の石突で床を叩いて踏ん張り、吹き飛ばして叫ぶ。その内容に。戦意をたぎらせている華奈さんと内情を知っているであろうベディヴィエールさん以外が、僕も驚愕の内容に染まる。

 

 

 「・・・私の世界の姉上は。我が国を緩やかに解体するその直前に我が国事潰そうとしていた抑止の派遣した兵士と戦い。そして殺された。

 

 

 きっと、本来はもっと早く我が国が限界を迎えるはずだったのだろう。それを姉上が伸ばし、そして、その分だけ幸せを私達にくれた。その姉上を。銀嶺隊を殺したのだけでも許せぬが・・・姉上の存在自体をなかったことにした。

 

 

 私の世界では姉上を英霊として呼び出すことも、冥界にもいない。完全にあの世界の人理という世界から消されたのだ」

 

 

 「そんな・・・お母さんが・・・」

 

 

 「なるほど。そして神霊に近づいた貴様は聖杯戦争かなにかに乱入して聖杯を手にして試したと。しかし、それは叶わなかった」

 

 

 「そのとおりだ太陽王よ。そして幾多もの並行世界を渡り歩いて尚姉上の存在がある世界はなく、漸くたどり着いたこの世界では姉上は二度目の生を謳歌していたが、魔術王の人理焼却が襲ってきた。

 

 

 わかるか? この絶望が。人も、獣も、魔も、神も、妖精も受け入れ、ともにある生き方を示し私に人としての時間を。騎士たちに癒やしをくれた。私達を救った。

 

 

 その姉上が生きていて、しかし再び死の危険のある戦いに身を投じ、自分の都合のためには私の世界からは存在を消滅させた抑止のある人理を救うために・・・どう転んでも危険がある。だから、私は、いや、私達は姉上を救うためにこうしているのだ。

 

 

 姉上から手を引け。カルデアの戦士よ。私の槍の保護に入ってください。姉上。そうであれば、私はこの特異点から身を引き、人理修復への道を塞ぎません」

 

 

 涙を流して自分の思いを吐露する獅子王の顔は、苦悶と懊悩と、憎悪の入り混じった顔でこちらを見渡す。

 

 

 あの獅子王に、アルトリアに道を譲っていいかも知れない。そう思っていたときに、この空気を壊したのは、華奈さんだった。

 

 

 「なるほど・・・ね・・・よーくわかりました。同時に、マーリンの手引と、私がなんで座から直々に来れたかも・・・あの魔術師は全く・・・

 

 

 それと、そこまで私を思う騎士たちの思いは伝わり、アルトリア。貴女の愛も感じます。でもね、一つ聞かせなさい。円卓の騎士。ガウェイン、トリスタン、ランスロット、アグラヴェイン。貴女に付き従う騎士はこれだけ。ベディヴィエール様はここにいますが・・・

 

 

 残りの騎士たちは、どうしましたか?」

 

 

 「我が声によって円卓を全員呼び、会議をしました。姉上を聖槍で保護すると。それに反対したものは私の意見に賛成した者たちで争い、殺しました。特にモードレッドは最後まで戦い抜くほど勇猛でした。

 

 

 そしてガレスは・・・この聖都を用意する際にでてきた偽りの十字軍。魔神の如き軍の首魁を討つ際に死亡をしました」

 

 

 「円卓の騎士で同士討ちをしたというのですか!!? そんなことを・・・!」

 

 

 「いやいや・・・付き合いは短いが、それは華奈は望まないだろ。それよりもいっそ・・・」

 

 

 「ええ・・・! それなら最初から私と、カルデアの皆で話して、同盟なり、なんなりと別の手段を取ればよかった!」

 

 

 会話の間に傷の応急手当と、ベディヴィエールに妖精の宝石箱の道具を一部渡しつつ華奈さんの顔にも先程以上の。文字通り鬼子母神の如き迫力を見せていく。

 

 

 多分、獅子王も見たことのない顔。本気で怒りを見せた顔なのだろう。思わず後ずさってしまいそうになるほどだ。

 

 

 「いかに神様に近づこうとも! 聖槍を持って成長しようとも、貴女は私の妹! 心臓一つ、命一つの人間! それなら、最初から何でもしようとせずに頼れば良い! それをこんな血染めの道の先にある塔での生活なんてまっぴらごめんです!!

 

 

 アルトリア。貴女は・・・! 絶対にお仕置きをしてやります!」

 

 

 「王よ! 私は貴女に聖剣を還す。そして、その先を・・・! 華奈殿・・・お願いが」

 

 

 「わかっていますよ・・・」

 

 

 ふたたび始まる剣戟の激しい応酬。でも、獅子王にも傷が増えていき、聖槍も弾き飛ばされては、聖槍の先からも裁きの光と言われる攻撃を放つも、華奈さんはそれさえも受け流し、あるいはベディヴィエールさんも隻腕に集約させた魔力を用いる絶技で対処してしまう。

 

 

 神槍の裁きさえも、忠義と聖剣の加護で。あるいは人の力の極致と言えるもので受け止め、受け流し、立ち向かい続けていく。

 

 

 互いに互いを想い合う関係だったはずの、騎士と王の戦いは苛烈で白亜の玉座の間が三人の血で汚れてしまう。

 

 

 「アルトリア!」

 

 

 「我が王よ!」

 

 

 「ぐぅっぐ・・・ま、まだ・・・! 私は・・・・」

 

 

 華奈さんと、ベディヴィエールさんの二人の刀と剣が獅子王の聖槍を押さえつけ、聖槍にヒビが入っていき、そして、その一部が砕け散ってしまう。

 

 

 「ようやく・・・ああ・・・これを。王。よ・・・・私は、このために・・・」

 

 

 無手となった獅子王に華奈さんも刀を収め、ベディヴィエールさんは聖剣を還して、僕らの眼の前で土塊となり、焼け焦げた灰のようにサラサラと風化していくように消えていった。

 

 

 このために1000年以上も生き続けていた忠義の騎士は、漸く長い長い旅を終えて、笑顔のまま去った。

 

 

 すごい、男だった。騎士だったよ・・・ベディヴィエールさん。

 

 

 「ベディヴィエール・・・・・・卿・・・姉上・・・」

 

 

 「これで・・・聖槍の、貴女を獅子王たらしめる者は砕いた・・・獅子王・・・いえ、アルトリア。貴女はきっと、女神にありつつ状態を砕き、本来死ぬはずだった運命を戻した・・・訳では無いでしょう。

 

 

 恐らく、その運命は、貴女の血と、その愛が・・・既に砕き、命を繋いでいる」

 

 

 全身がボロボロ、キングハサンのときと同じかそれ以上に傷だらけになって一息つくように床に座り込む。

 

 

 本来、ベディヴィエールさんが成すべきだった聖剣の返還。これを成したことで死ぬはずだったはずの獅子王の運命がなくなっている。その内容にオジマンディアス王以外が不思議そうにしている。僕ももちろん。

 

 

 「どういういう・・・ことです・・・?」

 

 

 「貴女の心臓はブリテンの赤き守護竜の心臓。それが成長し、聖槍の神性を失っても尚、もう一つの・・・ブリテンのまつろわぬもの、妖精たち、幻想種たちをアヴァロンや星の内海に送るあの土地の管理者たる土地神、女神の末裔の血・・・イグレーヌ様の血を引いている。

 

 

 長きに渡る聖槍によってあった時間は確かに聖槍により、神により過ぎたゆえに、聖槍を砕き、聖剣を返された今は死ぬと思ったでしょうけど・・・

 

 

 聖槍の、女神ロンゴミニアドの代わりに今度はそっちの血が、ロンゴミニアドの神聖が高まるのと同じように高まっていた神性が、竜の生命力が貴女を支えているはず・・・どうです・・・? カルデアの計測機器では・・・ふふ・・・ゴホッ、ゴブ・・・!」

 

 

 血反吐をどぼどぼと吐きながらも笑顔で微笑む華奈さん。急いで僕らで全力で治療をする間、ロマニの方からの通信が届いた。

 

 

 『うん。確かに神性が変化している。ロンゴミニアドとしての女神、化身としての側面は弱いけど、代わりにもう一つの・・・モルガンやイグレーヌと同じ神性の類の反応。竜種としてのエネルギーも最高。

 

 

 さっきまでは女神ロンゴミニアドというべき存在だったけど、今はいわゆる複合神性。ブリテンの守護竜の化身、ブリテンの幻想種の管理者たる女神の分霊。その神性が獅子王。いや、平行世界のアルトリアを形作っている。

 

 

 不老不死とは言わないだろうけど、きっと寿命とかはある半神・・・いや、4分の3が神霊? の感じだと思う』

 

 

 「そもそも、けふ・・・貴女は遠い遠い。もしくは近いかもしれませんが並行世界のアルトリア。聖剣の加護だけで生きていたベディヴィエール様とは違い、死ぬはずだった運命もここの世界にはなく、傷も1000年以上もあれば癒えているでしょう。

 

 

 だからまあ、決闘を挑んだんですよ。聖槍を砕こうと、この聖都を最悪ぶち壊そうとも貴女の家族の血と、あれな話ですがマーリンとウーサーの用意した心臓があって死なないってある程度計算できたので」

 

 

 頭からクジラのように血をぴゅーぴゅー出している華奈さんの笑顔は。作戦が大成功したと行った具合にいたずらっぽい笑顔で、最初からこのアルトリアも生かすつもりだったのが見える。

 

 

 「ですが・・・私の目論見は、大望は潰えた・・・姉上を守る手段も・・・」

 

 

 「ええ。でもまだ戦える。その聖剣も、聖槍もこちらのアヴァロンにある。そして、私はまだまだ備えを用意しています。魔術王にも、この先にも使えそうな手札を。ね。

 

 

 この決闘の勝者である私からアルトリア。そしてあそこで転がしている馬鹿騎士たちに頼みがあります。カルデアに来てください。そこでここでの愚行に、同士討ちをした馬鹿をへの禊をするために、そして、私の備えを見極めて、守るために。姉妹として、戦士として、何より一個人として、来てください。アルトリア」

 

 

 確かに聖槍は砕けた。でも、聖剣もある。聖槍も、というかなんで過去このアルトリアさんは聖剣を二振り持っている。何だったら惑星間航行をしている宇宙規模の農家をしているので異性の神創兵器を用意してもらうのも良いかも知れない。

 

 

 獅子王という仮面も在り方も完全に砕いた勝者からの、姉からの提案に獅子王はまた滝のような涙を流して手を握る。

 

 

 「ふぁい・・・おねがい、します・・・姉上・・・わだぢを・・・わだじだちを・・・もう一度、一緒に・・・」

 

 

 子どものように泣きじゃくり、嗚咽をこぼす眼の前のアルトリアは。さっきまでの獅子王ではなく、会いたい人に漸く会えた。不安で不安で仕方なかった子どものように泣き続け、戦闘の疲労も相まって華奈さんと揃ってふたりともばったりと倒れてしまった。

 

 

 「ははははははははははははは!! 見事。実に見事! 獅子王に、聖槍の女神にひたすらに人の力で、想いで立ち向かい勝利する! まさしく勇者、いや、猛き、そして美しき狼である!!

 

 

 成すべきことを成した。そして・・・戦士として、人としてとことん魅せつけてくれたものよ・・・余も銀狼殿へ下賜するべきものを渡さなければな・・・」

 

 

 愉快痛快と大笑いしたオジマンディアス王は慈愛の笑顔を浮かべて、聖杯を取り出して華奈さんの胸に取り込ませて格納。

 

 

 これで、獅子王の、人理を崩壊させていた聖都も崩れ、聖杯もカルデアにわたり、崩壊したこの13世紀のイスラエルの聖都での戦いが終わったんだ。

 

 

 『しんみりしていたいところ悪いけど! 聖槍が壊れたせいでこの聖都も崩れそうだ! 皆急いでレイシフトを! それと、太陽王オジマンディアス様、華奈さんからこれ預けるから後で返してねっていうものが!』

 

 

 ただ、ロマニの言葉で見落としていた、この聖都も聖槍の一部。聖槍を華奈さんとベディヴィエールがぶっ壊したので当然機能は崩壊していく。都市としての形を保てなくなる。

 

 

 あまりの激闘にあたりが既にぼろぼろだったので見落としていたが天井にもヒビが入っているのを見てやばいとすぐにどたばたしつつレイシフトの準備が始まっていた。

 

 

 一方で、ロマニはオジマンディアス王に何かを手元におくる。

 

 

 「ほう・・・フハハハ!! 銀狼殿はとことん備えるな! 相わかった! では、次に相まみえるときを楽しみにしているぞカルデアの者たちに銀狼殿! そして獅子王・・・いや、騎士王よ! 勇者殿も乗ると良い。さあ、ここを出るぞ!」

 

 

 それを見て大笑いしつつしまい込むオジマンディアス王はスフィンクスを呼んでアーラシュさんを乗せてあっという間に聖都を飛び去っていく。

 

 

 本当に頼もしくて、愉快で、同時にアーラシュさんと華奈さんのファンだったのが面白いくらいの人だった。

 

 

 「先輩・・・私達も帰りましょう。ここの騎士たちも・・・お母さんのためにも、私達のためにも」

 

 

 そう言ってモルガンさんの魔術でもう一人のアルトリアさんと、円卓の騎士たちを送り、僕らもカルデアに戻った。

 

 

 とはいえ、目を覚ました華奈さんは一体あのメンバーにどういう罰をするのだろうか? それが頭から離れなかった。




 これにてキャメロット決着。


 まあ、女神の神性一つが壊れても他の神性もあるし、竜種の心臓があれば平行世界での死の運命は関係なく弾けるよねって。


 竜種で存在のかけらからも命を生み出したり、生きながらえる可能性があるのはメリュジーヌを見ればありえますし。生身でハイ・サーヴァントみたいな状況になっちゃいました。メルトリリスとか水着BBちゃんに近しい存在。


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お仕置き

ここで少し休んで、ウルクへごー


 「んむぅ・・・くふわぁ・・・・ほはぁ・・・ねむい・・・」

 

 

 「おはようございます姉上。傷は大丈夫ですか?」

 

 

 目を覚ませば、アルトリア様が香子様と一緒にご飯を持ってきて私の前でゆっくりとしている。ああー・・・そうだ。カルデアに戻って・・・あー・・・2日めでしたね・・・1日目は仮眠取って、レポート仕上げて無理矢理に一日寝て・・・

 

 

 漸くもぎ取ったオフ。それと基本あの特異点暑い場所しかなかったので大真面目にこの涼しさが最高に快適すぎて・・・うふう・・

 

 

 「ええ・・・フローレンス様の看病と治療でバッチリ。うふふ・・・今日のご飯は・・・んー豚肉の生姜焼き定食ですか。いいですねえ・・・・ではでは」

 

 

 ラフなTシャツとバスパン姿ですがベッドから降りて三人で緩やかな朝食。んー美味しい・・・少しづつ目も冴えてきました

 

 

 「そういえば、あの馬鹿騎士たちはどうしています?」

 

 

 「大人しく与えられた部屋で大人しくしています。昨日までは母上や姉上、モードレッドをはじめとして皆から代わる代わる説教を受けていましたけど」

 

 

 「あ、そういえば。えーと。武器の方も預かっていますけども、華奈さんからのお仕置きはどうするのかという声が」

 

 

 暴走はしないと。まあ、聖槍を砕いてしまって今は私のいられる場所がカルデアである以上。決闘に負けた以上流石に言うことは聞きますか。カルデアに残っていた戦力を見て、あの決闘も決して無茶ぶりではなく殴り込みに来る戦力はあれくらいもあり得る可能性と捉えたでしょうし。

 

 

 「ですか・・・くわ・・・じゃあ、後でそのお仕置きの内容発表と、今回繋いだ縁の方々を召喚しましょう。んふぅー・・・」

 

 

 「まあ、お仕置きをするというのは良いですし、彼らにも、別の私にも酌量の余地はあるでしょう。けど、何をもって?」

 

 

 不機嫌と心配と、いろいろな表情がまじりつつサラダを食べているアルトリア様。まあ、あの内容を聞いてしまえば暴走するのはわかる。けども。という感じですよねきっと。

 

 

 ふふふ。まあ、厳しいですがひどい目には合わせませんよ。

 

 

 「私達という人種には辛いものとだけ」

 

 

 「華奈さんたち、騎士には辛い罰? そうそう。良ければ後で研究所・・・というよりは、プロフェッサー殿とエジソン殿たちが呼んでいたので、是非そちらにも後で」

 

 

 「わかりました。流石にこれ以上動かないのは今のカルデアではサボりになりそうですしね。んっー・・・味噌汁美味しい・・・」

 

 

 「姉上がこうして元気になりつつあって嬉しいです。本当に、もうひとりの私のせいでカルデアから動けないままずっと待つのは辛くて・・・」

 

 

 心配をかけさせて申し訳ないですが、カルデアを疎かにしてしまうわけにはいかなかったですしねえ。真面目に変える場所がなくなるのは駄目。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてと・・・揃いましたね元獅子王の騎士と獅子王さん?」

 

 

 モルガン様も呼んでとりあえずミーティングルームに呼びつけたバカ騎士ども。反省の色を見せているのがありありと分かりますが、まあ、そんな物を見せたところで罰が揺らぐわけもない。

 

 

 「私一人のために銀嶺隊も、私の家族も切り捨てて挑んできた。全く・・・カルデアに来れるんですから協力を仰げば早々に第六特異点はオジマンディアス王から聖杯をもらうだけで良かったのに・・・そちらと神王の協力があれば半日で終り、すぐに第七特異点へ行けましたよ。

 

 

 その時間で出来たこともあるでしょうに。この言葉の意味、わかりますよね?」

 

 

 「「「「ハッ・・・・」」」」

 

 

 「今回のように、我々で特異点を滅ぼす。第七特異点へ行く際もそういう人理を守る現地勢力への助けが早く出来た。けれど・・・我らのせいでそれも少し遅れた・・・」

 

 

 その通り。と頷く。この騎士たちは言ってしまえば人理修復になるはずの行動をしたのに結局自分等で新たな問題の元凶となった。

 

 

 解決をして、その後にカルデアと私を最初に連れ去ったように来てくれてコンタクトを取ってオジマンディアス王に相談をしてしまえばスルスルと済んだのを決闘騒ぎとその準備も含めてかかった時間。これは本来できた動きを考えるとあの特異点の問題を考えても惜しいと思う。

 

 

 こっちのアルトリアも人の視点を戻しつつある分、今にも死にそうな顔をしていますが、まあ自害は許さない。私と、皆様と、漸く英霊として座で見ているであろうベディヴィエールが。

 

 

 「まあ、過ぎたことなのと、アルトリア様のお陰で第七特異点はより古い時代と分かってそこの調査をカルデアが出来ているのでそこの分は良しとします。が、お仕置きはします。その内容は私が良しと言うまでカルデアの防衛戦力として尽力すること。

 

 

 次の第七特異点へは誰一人として私との同行を赦しません。罪を、汚名を挽回、返上しようとして槍働きを望むとしてもそれをさせませんから」

 

 

 そして私の用意した罰というのは私への護衛として特異点攻略への戦力として参加することを一切許さない。つまり私を守ろうとしていた騎士たちが自分のポカのせいでそれを果たさせないということ。

 

 

 これを聞いて皆が驚いていますが、手を叩いて黙らせる。

 

 

 「神の視点を得たせいで協力もせずに暴走をしまくった愚妹にカルデアを知って尚諫言も上奏もできない騎士たちがいても意味がないので。それよりも連携できる私の相棒や仲間たちと戦うほうがずっと良い。

 

 

 ただ、わたしは頑固になるつもりはないので、もし危険な場合、必要なら頼りにします。カルデアに危険が起きた場合、そしてわたしからの協力要請があった場合はモルガン様に預けて保管してる武器のドアを解除するので。わたしからは以上です」

 

 

 「姉上・・・まだ、やり直しの機会を・・・?」

 

 

 「ふー・・・どんなに馬鹿をしようとも、平行世界であろうとも、アルトリア様は私の大事な妹で、そしてガウェイン、トリスタン、ランスロット、アグラヴェイン。ここにいない皆もわたしの大事な戦友であり仲間です。そこは絶対に変わりませんよ」

 

 

 「そもそも、本当にお姉様が何も思わないならあの場で全員始末しているわよ。それだけ貴方達を大事に、やり直しの機会を与えたいと・・・」

 

 

 「こーらモルガン様。それ以上はストップ。改めて武器の所持を禁じる術式の再チェックと、断食していたであろうここのメンツに食事をお願いします。私は私でまた所長様たちと英霊召喚に呼ばれていますので」

 

 

 まったくモルガン様は。まあ、本人も言いたいこと言い切ってある程度は優しいのでしょうけども。罰を与えたのに少し嬉しそうな顔をして。

 

 

 とりあえず、仕事はしっかりしてくれるのなら良いですけどね。去り際、聖槍を持っていた方のアルトリア様から並行世界で手にしたという聖杯を私に託してくれました。これはありがたいので、もらっておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お待たせしました。愚妹たちの方はモルガン様に武器を没収させて封印しているので問題ないでしょう」

 

 

 「お疲れ様華奈。まあ、なんやかんや円卓の騎士たちがカルデアに来てくれるのは良いことだし、より警備が堅牢になったと思いましょう。それで、今回は4騎英霊を招くそうだけど、私には誰を?」

 

 

 「うーん。知恵袋。ですかねえ」

 

 

 召喚室にて各々の触媒を手にして来れば既に来ているオルガマリー様に藤丸様、元様がお出迎え。いやはや、前向きにあの人達を受け入れてくれているのが嬉しいですよ。

 

 

 「そうなると・・・あの探偵を?」

 

 

 「ええ。今回の一件のようにダ・ヴィンチちゃんが特異点に出向く可能性も鑑みるのと、やはり考察、推理のプロがいたほうがいいかなって」

 

 

 「召喚の準備ができたよ華奈。さ、触媒を」

 

 

 元様が準備をしてくれたので預かっていたパイプをセットしてスイッチオン。

 

 

 「サーヴァント・ルーラーで招かれた。シャーロック・ホームズだ。君が私のマスター。ふむ。カルデアの所長かね? 一応武術も嗜んでいる。護衛もできるが、出来れば頭脳労働で使ってほしいものだ」

 

 

 来てくれたのはまずホームズ様。これからカルデアの知恵袋、アイデアマンとしても動いてほしいですねえ。ふふふ。

 

 

 「よろしく。私はオルガマリー。カルデアの所長よ。そしてもちろん頭脳労働を頼みたいわ。ウチの技術者たちも頭は良いけど、出来れば分担して無理なく動いてほしいし」

 

 

 「ふむ。現場は華奈君たち、本陣はマスターが。そして後方の役割として・・・私は参謀といったところか。承った。それと、たしかここにはモリアーティもいるようだが?」

 

 

 「今はバーで仕込みをしているかと。喧嘩はしないでくださいよ。皆さんの癒しなんですから」

 

 

 「はははは。そうかそうか。では挨拶をしてくるのと、これから世話になる場所だ。見回りをしたいのだけどもマスター。是非同伴を頼んでも?」

 

 

 「わかりました。それと、私の契約した英霊たちとも挨拶を。製造、開発に秀でている人達が多いから色々相談もできるはずよ」

 

 

 そう言って二人は早速カルデアの散策に。慣れてきましたねえオルガマリー様。そして、早速騒がしく・・・後で見舞いに行きましょうか。

 

 

 「では、次は藤丸様ですね。さてさて」

 

 

 「多分、あの子だよねえ」

 

 

 「まあ、間違いなく」

 

 

 私達も予想はつきますが、とりあえず召喚陣のスイッチをオン。

 

 

 「サーヴァント、アサシン。静謐のハサンです・・・マスター・・・お会いしたかった。そして、初代様に認められし方に、もうひとりの魔術師も。どうかお願いします」

 

 

 最初から仮面を外している状態の静謐のハサン様が藤丸様のサーヴァントとして参戦。まあ、毒という武器と、ハサンという超一流の暗殺者。真面目に裏方や情報収集、工作としてはこれ以上ない人材ですしね。善き哉善き哉。

 

 

 「よろしく。わっ。どうしたの?」

 

 

 「いえ・・・ああ、本当に私と触れても大丈夫なマスター・・・・・護衛も、側にもどうかいさせてくれれば」

 

 

 握手を求める藤丸様の手を握ってニギニギと両手で何度も握り、その感触を味わう静謐様。いやあ。ほんと、人との触れ合いも出来ない人生だったんでしょうけども、本当に人肌と、藤丸様を求めちゃうんでしょうね。

 

 

 ん・・・ウチのドM250人将がわざと触れて毒プレイを楽しんだり、オカマ250人将が嫌いじゃないわ! って言ってくれそうですし、そういう意味でも後で会わせてあげましょうか。

 

 

 「ま、まあそれならこのカルデアを案内していくよ。それに僕と契約してくれている英霊の皆の紹介もしたいし。いっしょにね」

 

 

 「はい。お願いしますねマスター」

 

 

 仲良くでていく二人を見送り、私と元様だけが残る。

 

 

 「ではでは、次は元様ですね。触媒の方は?」

 

 

 「もちろん。しっかりと」

 

 

 「キャスターが多いですしここで神代の異系の魔術を使えるの方は良いことですねえ。ではでは」

 

 

 金の腕輪。多分18金ですかね? をセットしてスイッチオン。

 

 

 「キャスター・ニトクリス。参上しました。ちゃんと私をカルデアに招きましたね。同盟者。そして、お世話になります銀狼殿。未熟とはいえわたしもファラオ。その神威も、実力も存分に振るいましょう」

 

 

 ニトクリス様も無事に参戦。いやあ、これで元様のもとには色とりどりのキャスターが。しかも皆個性と強みで支援に関しては超一級品ですし、バックアップとして助かります。

 

 

 「こちらこそ。貴女様の実力は頼もしい限りですし。まあ、今は元様にもてなされておくと良いでしょう」

 

 

 「ニトクリス。では同盟者としてまず私達の拠点の紹介とエスコート。それと食堂でもてなしを。途中、狼や馬、猪に小人? もいますが華奈の部隊の子たちなので気にせず」

 

 

 「むしろ仲間には人懐っこいですよー」

 

 

 「良き態度です元。そして感謝します銀狼殿。案内を頼みますよ。いつかオジマンディアス様を招く際にもわたしが知っておくべきなので」

 

 

 満足気にピコピコとアホ毛っぽい礼装? を揺らしつつ元の後ろをついていくニトクリス様。お二人もお似合いですし、うーん。元様のハーレムが形成されるか、藤丸様のハーレムが完成するか。銀嶺隊で今度賭けてみましょうかねえ。あ、ストームチームも呼んで。

 

 

 さてさて、最後はわたし。預かっていた錫杖をセットしてスイッチオン。

 

 

 「キャスター玄奘三蔵。ここに参上! あ、華奈ちゃん。獅子王の戦いはお疲れ様! わたしもこれからは助けていくし、一緒に頑張ろうね」

 

 

 明るい笑顔でニコニコと微笑んでくれる三蔵様。うふふふ。ありがたい。そして、同時に頼みたいこともあるので是非是非。

 

 

 「ええ。それとなんですが三蔵様。1つここで頼みたいことがありまして」

 

 

 「ん? なになに?」

 

 

 「私の部隊、銀嶺隊は多神教というか、まあいろんな神々を信仰すれば、同時に仏教や神道、八百万信仰。東洋の宗教にも興味がありますし、カルデアにもアジアの人は多いです。その方々への説法や教え、お悩みを聞いてあげたりなどをしてくれると嬉しいのですがどうですか?」

 

 

 「え!? サーヴァントとしての戦い以外にも私のやりたいことをしていいの!?」

 

 

 「鍛錬ももちろんですし、魚や鶏肉もありますし、あと、私の方で仏教に関する研究の本。後日本の仏像の画像もありますよ」

 

 

 私は八百万信仰で基本いろんな神様ウェルカム。皆でお茶飲みましょーってスタンスなのと日本出身が家族に多いのでついつい買っていたんですよねえ。

 

 

 「ありがとう華奈ちゃん! 大好き!!」

 

 

 「わぷぶっ!」

 

 

 まあ、今の状況だと戦闘のために呼ばれたと思っていた三蔵様も嬉しいようで私にダイブして抱きついてくる。胸が心地よい。うーん煩悩増えちゃ~う。

 

 

 「うふふ。まあまあ。とりあえず、私達もカルデアを散策しましょうか。とりあえず食堂、図書室、鍛錬、シミュレーションルーム、お風呂場。ここらへんをしっかりと。あ、それと私のマイルームも図書室と直通なので」

 

 

 「いいわね! それじゃあ、早速ゴーゴー!」

 

 

 三蔵様と一緒に渡しも散策をしつつ挨拶と備品で必要なものがないかを聞き出しつつ歩いて行けば皆様から沢山お菓子をもらいました。いやー、そこまで心配せずともいいのに。




 華奈完全にオフモード。まあこの特異点で三回も血だらけになって、激闘して、胃痛案件を抱えたりで忙しかったのでだいぶ疲労がたっぷり


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次への備えに

 カルデアの方でもコツコツとEDFと銀嶺ワールドのミックスが広まっております。


 「ぜー・・・ぜー・・・ぜは・・・」

 

 

 「元さん。早く早く! まだ走るよ!」

 

 

 「そうだぞ元! 訓練に付いていかなければ意味がない!」

 

 

 華奈さんも完全復活してカルデアにのんびりとした空気が流れる中、僕は元さんとストーム2のみんなと日課のマラソンをしていたけど、元さんは今までそういう運動はしていなかったからすぐにダウン。

 

 

 ストーム2の皆の激が飛び、僕らも少し歩調を緩めるけど走りは止めない。

 

 

 「マシュに藤丸。後輩たちも頑張っている。貴様もマスターとして前線に出る以上今のうちにみっちり鍛えてやる。覚悟しておけ!」

 

 

 「頑張りなさいマスター! 私の同盟者というのなら強い足腰に心肺機能は必須! 走りなさい!」

 

 

 「は、はい・・・! ふ・・・んぐぅー・・・!」

 

 

 ニトクリスさんの叱咤激励に男として気合が入ったのか、ヘロヘロだったフォームが少しまともになってなんとか追いついてくる元さん。

 

 

 「よぉーし! あと3週! その後に武器分解組み立て、そして、藤丸と元に与えるスナイパーライフルの講義と射撃練習を行う。それまで気絶も許さん! 駆け足!」

 

 

 「「「はい!」」」

 

 

 「わははは! 大尉殿も気合入っているなあ」

 

 

 「華奈さんのあんな大立ち回りを見たんだ。燃えないわけがない」

 

 

 「俺達も英霊の端くれとして呼ばれていたんだ。頑張らないとな」

 

 

 そう言って大尉さんたちについて行きつつ走る走る。

 

 

 「次は古代の、神代の環境と聞いています。先輩。新武装の練習。わたしも応援と見学させてくださいね」

 

 

 「うん! 結局ドゥンケルシリーズになりそうだし、無理せずにマシュを守るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハッ!」

 

 

 「ま、参りました」

 

 

 わたしが完全復帰して、いちおうフローレンス様に検査をしてもらってからというもの、剣士の皆さんとスカサハ様、につれてこられたクー・フーリン様たちがこぞって私とストーム、アルトリア様に練習試合を挑むことが増えました。

 

 

 今も武蔵様に剣術指南ということで戦い刀を全部ふっとばしてから首筋に刃を当てて両手をあげさせて勝負あり。

 

 

 「んー武蔵様の剣術はやはり剛剣より。居合術も素晴らしいですが、それよりもまず受けの対応をしないとですね。今まで大体20合も撃ち合えば倒せていたでしょう武蔵様」

 

 

 「え? あ、はい。そこそこ腕の立つ剣士ともやり合いましたが、だいたいそれくらいで・・・」

 

 

 「あーならまあ、いわゆる防御への対処がどこか雑になる部分が多いはずです。良いですか武蔵様。空手という武術の考えでもありますが、防御はただ相手の攻撃を受けるだけにあらず。その受けるという行為にも反撃を与えたり、あるいは隙を作るようにも出来ます。

 

 

 ダンカンは常に無数の敵と最前線で切り合っている故にそこの技術も高く私の剣術も一部使えます。少し休憩した後は彼からも学んできなさい」

 

 

 「はいっ! ご指導ありがとうございます華奈さん!」

 

 

 刀を一緒に拾って鞘に収めた後に背筋を伸ばしてきれいなお辞儀でお礼をする武蔵様。いやはや、新しい門下生が来たようでなんだか昔に、ブリテン時代に戻った気分です

 

 

 「ふふふ。武蔵様は筋が良く、才能は私以上のものがあります。もう少し進めば、概念切りの技術も教えましょう。さて・・・次は沖田様ですね?」

 

 

 「はい! あんな熱い戦い。まさしく騎士としての在り方に沖田さんしびれました! 私は侍ですが、色々学ばせてくださいね!」

 

 

 「いえいえ。わたしも沖田様の身軽な動きに、あの三段突きは私とは別の形の剣術の極み。是非、今はいい試合を・・・」

 

 

 次の相手は沖田様。この方はわたしとは別で凄まじい剣術を。しかも病弱の身で覚えてしまっているという明確に私よりもとんでもない天才。概念を捕らえる私と、同じ時間、瞬間に三つの刃を叩き込むという神々も驚く絶技。

 

 

 言ってしまえば初代翁様の技術の一つですしねえこれ。

 

 

 「おい、華奈よ。私との体力も残しておけよ? 私も血が沸き立っているのだ、思う存分やらせてくれねばこの馬鹿弟子に本気でぶつかる」

 

 

 「オレを勝手にサンドバッグ扱いするんじゃねーよ! 頼むぜ華奈! 戦いは好きだが師匠のシゴキは勘弁だ!」

 

 

 「あはは。これはこれは。本気で沖田様とぶつかりつつ余力を残せと。贅沢な注文で。可能な限り応えます。さ・・・行きますよ・・・沖田様」

 

 

 「はい。では・・・」

 

 

 「「参る」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よーし。次は銃の講義だ! しかし・・・思った以上に生徒が増えたな?」

 

 

 「わたしも使う機会があるかもですし、お気になさらず」

 

 

 「現代の最新の武装。気になるのでな」

 

 

 それぞれの練習が一息つき、藤丸様、元様へのスナイパーライフルの支給と講義、そして解体組み立て、手入れの授業でしたがスカサハ様と私、銀嶺隊のメンバーも揃って集合。

 

 

 大尉様も少し驚いていましたがまあいいかと言うことでホワイトボードに描いた銃の絵と、性能について解説してくれます。

 

 

 「では、説明していこう。今から藤丸、元に渡すスナイパーライフル。ドゥンケルN236R これは狙撃銃ではあるがその速射性能の高さと威力の高さからアサルトライフルとして、そしてスカウトチームなどが愛用する武器だ。

 

 

 装弾数は82発。藤丸の使うM9レイヴンやストーム1、華奈の使うスレイドとは違い貫通することはないが、1秒で約8発の速射に2キロ以上の有効射程。近、中距離でもレーザーサイトがあるのでそれを使えば速射での対応もできるまさに名銃の一つだろう」

 

 

 「スナイパー・・・ライフル?」

 

 

 「ゲームでも対空戦に強いし、ミサイルと違って自分で獲物を選べるのがいいですよね」

 

 

 「スコープにレーザーサイト。うーん。至れり尽くせりにこの装弾数。継戦能力も大変グッド!」

 

 

 ゲームにあった武器を実際に、その世界の住人がこうしてリアルで説明してくれるというのは英霊が多数いるこのカルデアでもやはり楽しい時間。そして元様はまあ、そういう反応になりますよね。突撃銃と言ったほうがまだわかるような性能ですし。

 

 

 もしくはゴルゴ13の使う遠距離狙撃もできるM16か。

 

 

 「ただし! 藤丸の使うレイヴン以上の威力の弾丸をより遠くに発射する威力。その反動と速射性は正直言って、軍人でも制御するのは難しい。

 

 

 君たちが礼装で筋力を強化するとしてもその制御術や扱いに慣れないと味方への誤射や狙撃の失敗につながる。故に、筋力トレーニング。そして射撃練習の時間を増やしつつこれからの訓練メニューを変える。さあ、休憩ついでの講義も終わった。射撃場に行くぞ!」

 

 

 「はい! しかし、指が痙攣しそう」

 

 

 「実際、僕もレイヴンを扱いなれるまでペットボトルを開けるのさえも出来ないほどに消耗しましたよ」

 

 

 ふふふ。まあ、こういうのは慣れてこそ。急いで鍛えていってくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よく来たわね。華奈。スカサハ。礼装は持ってきてくれたかしら?」

 

 

 「それとジュースにお菓子も。休憩しつつ話を聞きましょう」

 

 

 「元からの頼みと言っていたな。確かニトクリスに関してとか」

 

 

 思う存分射撃練習を途中から参加したアン様とちびノブの皆さんも交えて撃ちまくり硝煙と銃声の雨の中から抜けてきて次に来たのはメディア様の自室兼工房。なんかフィギュアとか、色々増えてきていますがそれでも綺麗で整理がされているのはさすが。

 

 

 元様なりのある考えとニトクリス様の宝具から着想を得た発想を活かせないかということで私のものが必要だったようです。

 

 

 「ええ。私のカルデアの礼装服。まあ、シャツですが。それにあるストーム1専用のクラスチェンジ、もとい兵科チェンジのやつですよね?」

 

 

 「それとスカサハのルーンね。ニトクリスの冥界を映し出すような鏡と、生前での行いから神罰の執行者、復讐者としての側面。あれで『天空の神の化身』としてのファラオ以外にも『冥界神』としての側面を出せないかって言われて。

 

 

 ほら、スカサハ。クー・フーリンもアメリカででてきたあのオルタっていえば良いのかしら? ああいう魔獣の牙、棘を表に出した側面と、ストーム1の兵科チェンジを見てニトクリスにもそういうクラスチェンジが出来ないかって」

 

 

 なるほど。まあ、生前の行いからしてアヴェンジャーやアサシンのようなクラスにもなれそうですし、相手への対応を変えるなどの面でもニトクリスという神代のファラオにして神の化身という本人がルールという自由も聞きやすい存在ゆえの考えですか。

 

 

 後はスカ様のルーン。それも大変多芸かつ効果もすごいですし、ストーム1は本来の特性からできるものですが、それに合わせた礼装をより強固にしてニトクリスにもクラスチェンジをさせてしまう。と。

 

 

 「ふむ・・・確かに霊基をルーンで少しいじくれば出来ないこともない。というか問題なくできる。そして生前の行いで可能性があるのならなおさらにそれは容易い。

 

 

 ただ、それは一度切り替えれば戻せないものにするのか? それともストーム1のように自由に変えていくのか?」

 

 

 そこですよね。ストーム1の場合はゲームの都合一息挟める。そういう余裕がある場所でなら自由に兵科を変えられるけど別側面、別クラスに変えるとなればその負担や魔力の用意も元様にかかる負担そこそこありそうですし。

 

 

 「元からは一度クラスを変えて、その後に戻せるようにする感じのようね。だから例えば今のニトクリスはキャスタークラスだから、そこからアサシンクラスとかに変えてしまうと1~2日ほどはそのクラスのまま戻せない。って感じのようよ」

 

 

 「なるほど。それくらいのクール期間を置くのならまあ、良いのかも? じゃあ、とりあえず後でダ・ヴィンチちゃん、フラム様にも話を通しておくので、まずは二人で草案を作る。そしてあちらと一度草案を突き合わせてから改良をするという感じで行くのはどうでしょう?」

 

 

 「うむ。そのほうが良いだろう。華奈。しばらく礼装を借りていくぞ」

 

 

 「ウチのマスターの我儘と無茶ぶりも驚くけど、まあ創作意欲やチャレンジを気兼ねなくやれる。道具も時間もゆっくりやれるし楽しんでおくわ」

 

 

 彼もニトクリス。王であり神の化身と契約できて。あと多分好いている女性へ助けをしたいという嬉しさと頑張りなんでしょう。

 

 

 三人で少し談笑をしつつ私の礼装のシャツをわたしてから小腹がすいたので食堂へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うーん・・・やっぱり魚介スープもいけますねえ。銀嶺領印のラーメン久しぶりです」

 

 

 「イギリス産日本人発案ラーメン。行けるいける。はふ・・・んーすいませーん。魚の炊き込みご飯も追加で!」

 

 

 ストーム1、モルガン様、聖剣二刀流のアルトリア様と一緒に食堂で食事。

 

 

 「いやー魚介出汁もですが鶏ガラで調整を取れば。それに小麦、麺の風味もいいですね。七味、胡椒での味変は・・・いや、シソの刻みでも?」

 

 

 「はふ・・・はふぅ・・・んー昔の麦でもこれ。今の私達の畑の小麦を銀嶺領の土壌と、農家のみんなにさせればどれほどになるか・・・ふふふ」

 

 

 「私としては骨と小魚の粉末ふりかけのおにぎりもいいですねえ。うまいうまい♪ でーどうしたんです? 急に四人で話し合おうって言い出して。うふふ。クアトロデートは流石に驚きですよ?」

 

 

 ぬか床につけていた魔剣大根ブレードで出来たたくあんも大変美味しく、魔力がすごいので体に力が貯まるのを実感しつつ改めて呼ばれた内容を聞く。普段なら朝の挨拶がてら食事に誘うのですがメールで直に頼まれるとは思いませんでしたよ。

 

 

 それを聞けば三人とも真面目な顔になっていく。おや、なんでしょう?

 

 

 「いやぁな。三人で話したんだよ。それで、是非そうしようってなったんだけどやっぱりマスターの、華奈の許可をもらいたくて。

 

 

 マスター。オレと同じストームチームにはいって、そして銀嶺隊に俺も入れてくれ」

 

 

 「私もですお姉様。昔は王女という立場で動けないでしたが今は違う。農民ですし、是非銀嶺隊に入れてください」

 

 

 「私もです! 姉上と一緒の部隊に。もう王様ではなく、一人のアルトリアとして!」

 

 

 おぉう。まさかの三人からの入隊願いと私をストーム1のチームに勧誘ですか。うふふふ。一気に来ましたねえ。

 

 

 今の時代に、英霊になって尚新加入が増えるとは。いやはや面白いことは尽きないものです。答えも当然。

 

 

 「もちろんです。改めてお願いしますストーム、モルガン様。アルトリア様。んーじゃあ、ストームは私の部隊。モルガン様はアンナ隊、アルトリア様はクラーク隊に入れていきます。そして、ストーム1の仲間としても入りますが・・・プロフェッサー様にも加入願いはしていますか?」

 

 

 「ああ、当然だ。アイツは俺の相棒の一人。EDFの頭脳だ。頼んだら二つ返事だよ。ふふふ。現代と昔の軍部隊にそれぞれの戦士が、騎士王が来てくれるってすごいことが起きるよな。マスター」

 

 

 「ありがとうございますお姉様! うふふ。ああ、それなら早速鎧の用意と、ああ。夫にも言いにいかないと。ふふふ。武器は・・・ハルバードのようなものが良いでしょうか? 急いで妖精さんにも新調してもらわねば!」

 

 

 「やったー!! 姉上と同じ銀嶺隊に! あの癒やしの最高の場所、戦士たちと一緒に! タナボタチャンともまた会える! 姉上。あの子を私の愛馬に! それとクラーク隊・・・なるほど。支援や助力。ヤマジ隊とは別で私の戦略、戦術で動いていいという感じです?」

 

 

 いやはや、三者三様大喜びで嬉しい限り。そして、ええ。ストーム。これがあるから今のカルデアは面白い。モルガン様はたしかに護身用の武器としてなにか持っていたほうが良いかも。アヴァロンで鍛える妖精たちの作る武器・・・最高ランクの魔槍ができそう。

 

 

 アルトリア様はやはり鋭い。そうなんですよね。モードレッド隊と同じように鋭く強い戦士が一つ余裕を持った視点で動いてくれる方がウチの部隊の機動力の切れも増すというもの。

 

 

 頼もしい三人の武将級。超弩級の英霊たちを招いたようなことが起きましたし嬉しいこと。ふふふ。これはアヴァロンに召喚している私の領地と、領地で休暇を取っている、カルデアで過ごす銀嶺隊にもビッグニュースとして送りましょうか。

 

 

 「じゃ、入隊祝いとしてラーメン替え玉と、チャーシュー大盛りのおまけを私の権限で頼みましょう。エミヤ様! ここの3名にチャーシュー大盛り、替え玉トッピング全部のせ! あとコーラにサイダーも!」

 

 

 「よかろう。本来はないメニューだが特別に用意していこうではないか。そしてそのメニューを乗せる際には三人がその味を知る第一号だ! お上がりよ」

 

 

 三人から太っ腹と囃し立てられたりしつつ、皆でワイワイ話す内にあっという間に時間は過ぎて。麺が伸びきれないように急いで完食して昼食は終了。良い時間でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おお、待っていたよ華奈くん! この天才エジソンとプロフェッサー君の成果を話す時が来たようだな!」

 

 

 「何を言うポンコツが。私とプロフェッサー殿の成果であろう?」

 

 

 「あ?」

 

 

 「お?」

 

 

 「はいはいふたりとも喧嘩しない。クライアント兼カルデアの最高戦力よ。ごめんなさいね。ふたりとも張り切っていて」

 

 

 「ふたりともすごくいい仕事をしてくれていてね。いやあ、本当に私にとっても貴重な経験になったよ」

 

 

 お昼からはエジソン様、ニコラ様、プロフェッサー様に頼んでいた装備諸々の用意が一段落したということでその報告会。なんですが、まーったく仲良く喧嘩して。まあ、プロフェッサー様とエレナ様の反応を見ればその仕事ぶりは問題なさそうなのでいいですがね。

 

 

 皆で昼下がりのお茶を飲んで平和なひととき。

 

 

 「まあまあ、じゃあまずはエジソン様からお願いします」

 

 

 「ウム! まずは銀嶺隊、エミヤ君、プロフェッサー君、妖精さんたちと協力してMA10Eスレイド、M9レイヴン、SGNーDAT、KFF71Sをそれぞれ500丁、E21ホーネットを100丁づつ英霊向けの武器として製造。テストも既に済んでいる。

 

 

 そして、レンジャーの兵科と合わせた銀嶺隊向けのアーマースーツも3500人分用意しているぞ。これで銀嶺隊はまさしく神代最後の時代のブリテンの銀の牙に現代の最新兵器技術と英霊の強みを併せ持つ部隊となるはずだ! ・・・銃の方はまだ全員に渡すことは出来ていないが、必ず更に用意して見せる」

 

 

 「パーフェクト。さすがですエジソン様。これは後でモルガン様たちに頼んでヴォーティガーン様や知り合いの竜種たちの生活の中で取れた鱗やいろんな素材と報酬を送ります。ふふふ・・・防具も武器も軽く、でも強く。歩兵戦での戦いも強くなるので魔獣たちの行動力や選択肢も増えていく・・・

 

 

 まさしく理想。私の部隊もだいぶ良くなってきましたよ・・・!」

 

 

 エジソン様が来るまではまだ700人分しか用意できなかった武装が一気にこれです。さすが大量生産という技術のノウハウに人手と技術、資材を与えればあっという間にこなしてしまう。最高ですよ。最高の仕事人です。

 

 

 ウチの魔獣部隊には空いた背中の鞍にセントリーガンとか、パワーポスト、ガードポスト、後はリバースシューターとかを乗せてしまっても良いかも。銃声への訓練とそういう改造ができないかも後で発案、相談をしておきましょう。

 

 

 「おお! そうかそうか! いやはや、軍事関連の仕事も面白いものだったし、プロフェッサー君の頭の中の武器の設計図も書き出して保管している。今後はこれを元に改良案を出したりしていくので良ければ華奈くんの部隊からもテスター、アンケート結果をくれると嬉しい」

 

 

 「わかりました。その際は集計とかも手伝うのでエジソン様は気楽に発明や研究などを楽しんでくださいませ。第七特異点を前に間に合ってよかったです」

 

 

 「そうであろうそうであろう! 軍隊に必要な数と高品質な武器。それをこの数用意できるのは私だからこそ!」

 

 

 「チッ。まあいい。次は私とプロフェッサー殿の成果報告と行こう。まず十数人分のフェンサー、ペイルウィングの最新プラズマコア、補助装備、そして最強と思われる最高の装備をそれぞれ10種を10人分用意した。

 

 

 そして、ストーム1,2への最高のプロテクトアーマースーツと、目玉はやはりこれだろうな」

 

 

 「プラネットシリーズの武器にブレイザーの最強装備を用意できた。それ以外にもバスターショットにドゥンケルN236Rなどなど、彼らをより英霊としての高みへ、いや、本来の戦闘装備を用意できた甥って良いだろう」

 

 

 「流石です! これはいい・・・しかもブレイザーは助かりますよ。文字通り火力が違う」

 

 

 こちらも満足の行く内容。いやはや、アサルトライフルや実弾銃以外は本当に量産、用意するのが難しかったのですがそれをこの数用意できるのは素晴らしい。質の方も問題なさそうですし、ブレイザーもいちおう射程距離はスナイパーライフルに劣ったり、手数勝負という意味ではバスターショットなども必要。

 

 

 彼らの不死身の戦歴と経験。これに最強の装備を合わせれば神代の英霊や敵が相手でも戦えるはず。まああっちは異星の侵略者、その神のような存在と未来の母星の怪物たちととんでもない物量に対処しているので大概ですけどね。

 

 

 「ふむふむ・・・ああ、そうですプロフェッサー様、ニコラ様。ダ・ヴィンチちゃんとのあれの用意は?」

 

 

 「既に問題ない。最終調整も済んでいるよ。ジェノサイド砲のリロード時間と弾速も改良が済んでいて、既にストーム1に渡している」

 

 

 「了解です。これで私の備えも漸くもう一つが揃った。安心できました・・・ふぅ・・・」

 

 

 安心して落ち着ける。ウチの部隊の強化に備えも一段落。高高度ミサイルとか、スターダストキャノンもあるのが素晴らしい・・・・・・・

 

 

 「皆様。報酬の2億QPと、ウチの領地で使える貨幣の1億QP分を一人づつ用意しました。使ってください。それと・・・・・・全員何日寝ていないですか?」

 

 

 「「「5日」」」

 

 

 「止めたんだけどね・・・」

 

 

 「報告会終了! 今すぐ寝なさい! 起きたら私の方で料理を用意しますから」

 

 

 報酬を研究室において、急いでワーカーホリックたちをそれぞれのベッドに叩き込んでホットミルクやハーブティーを用意してから寝かしつけました。通りでところどころ目の焦点があっていないはずです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やあ華奈君。今日も忙しかったようだね。備品課課長だから今は特異点やアヴァロン以外では仕入先もないってのに。人気者は辛いね☆」

 

 

 「ふふふ。でも楽しいですし明るいのは良いことです。ダ・ヴィンチちゃんも大丈夫で?」

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんの方でのんびりと一緒に持ち込んだアップルティーとクッキーで茶をしばきつつゆっくり談話。というわけにもいかず。

 

 

 「ああ、例の仕込みも万全。武装研究の方に関してもプロフェッサー君のお陰で大分楽させてもらっているよ。知恵袋たる、万能の私でも体は一つだ。頭脳労働、作製労働も担ってくれるプロフェッショナルが来てフランスの特異点に行っていたときよりも仕事量は50%軽減。

 

 

 気楽に仕事をさせてもらえて万々歳さ。ロマニの方もナイチンゲールに銀嶺隊の医療チームのおかげで余裕が増えつつあるのと、第七特異点。あれの観測、割り出しもだいぶ早い」

 

 

 「そうですか・・・いよいよ最後の特異点。ゲーティアに挑む前の最後の障害たる特異点」

 

 

 甘く香り豊かなアップルティーを飲みつつ、真剣な表情で互いに見つめ・・・すっごい美人ですねえやっぱりダ・ヴィンチちゃんは。おっとと。まあ、いよいよここまで来ました。

 

 

 「あのゲーティアがあそこまで余裕なのは多分その特異点。西暦よりも前の神代の時代。そこは絶対に突破できない。もしくは突破したとしてもその間にゲーティアの計画が完了する時間を稼げると踏んでいるのだろうさ。

 

 

 今回のエルサレム以上の戦力や何かがいる」

 

 

 「でしょうねえ。今回ですら神代の、神霊級の力を持っていたアルトリアにオジマンディアス様。そして神代のファラオニトクリス様に、大英雄アーラシュ様に藤太様。まさかの大聖者三蔵様に初代翁様。大真面目にそれ以上の何かがいる場所。艱難辛苦が待ち受けていると然るべき。

 

 

 ・・・・・・・・でも、止まりませんし、戦い抜きますし、藤丸様たちも、元様も、マシュも死なせずに勝ちます。私と、ダ・ヴィンチちゃん、ロマニ様。皆で用意した備えと私の最強の相棒ストーム。仲間たちで必ず・・・!」

 

 

 まあ、まずゲーティアがヘラクレスや魔神柱、ロンドンででてきた際には魔神柱8本を瞬殺しても気にもとめない、被害と捉えないのは本人の絶対の自信と、それだけ第七特異点の恐ろしいまでの状態はカルデアに踏破できないと思っているのでしょう。

 

 

 でもここまで来た。止まる気はないし、守備には成長したアルトリアとギフトは外れたとはいえ覚悟の決まった騎士たちもいる。私達の戦力で絶対に戦い抜く。その気持を出せばダ・ヴィンチちゃんがくすくすと微笑む。

 

 

 んえ?

 

 

 「ふふふ。流石だね。どんな状況でも君は怯まない。そして、やり遂げてきた。だからだろうね。安心してしまうよ君の言葉には。銀嶺隊、ストームチーム双方に円卓と嵐の勇者が来たんだ。きっとやり遂げるよ。

 

 

 思わず惚れちゃうほど、美しさは私が少しばかり上だが、かっこよさは私より上だねえ。華奈。さ、おかわりの紅茶とお菓子を用意している。淹れてあげるからカップを出し給え」

 

 

 「おやおや。これはレアな。普段は私達から紅茶やお菓子をねだる立場ですのに」

 

 

 「ふふふ。第六特異点攻略の勇者への私からささやかな労いさ♪ それに、料理のレシピを学んでいたのでね。味見役をしてもらおうじゃないか」

 

 

 「変な薬淹れてないでしょうねー?」

 

 

 「失礼な。私から君へのアプローチだよ。ああ、それとだね。英霊の霊基を強化するために現在の人理焼却野中にカルデアの外を漂うエネルギーや高濃度魔力の塊をかき集めたエネルギーをまとめた物があってね。その名も叡智の業火! これと華奈くんら銀嶺隊が集めていた魔術触媒、素材に使えそうなものを使えば英霊たちの強さを後押しできると思うよ。

 

 

 君にそれを初回サービス。叡智の業火を50個あげるので是非活用したまえ」

 

 

 種火なる面白そうなキンキラの金平糖? みたいなものをもらい、二人でガールズトークをしつつゆったりと計画の確認。そこにロマニ様も混じって三人での久しぶりの時間を過ごしました。ふふふ。こういう余裕は良いものです。




 ~アヴァロン~


モードレッド「おーいケルヌンノス様ー!! 今いいかー!」


ケルヌンノス「シー。今ジャックちゃんとナーサリー、フランちゃんが寝たから」


モードレッド「あ、悪い悪い。いやあさ。華奈先生からケルヌンノス様にお土産だって」


ケルヌンノス「ええ! 私に? いやー今領地からも毎日おいしい捧げ物のご飯もらっているのに、もっとアヴァロンを豊穣で楽しくしないとね」


モードレッド「豊作になりすぎても収穫作業でまたバーヴァン・シーが腰痛めるぞ? 豊穣の祭神っていっても無理せずにだ。ほい。お土産」
(藤太のくれた美味しいお米満載米俵、エジプトの椰子の実蒸留酒、ビール。果実詰め合わせセット)


ケルヌンノス「・・・・・・・あれ? 華奈ちゃんまたローマ攻めたの? 君たちがアヴァロン来る前にしていたよね大規模遠征。その戦利品・・・あ、でも質はこっちがすごく良いなあー」


モードレッド「いんや、エルサレムで並行世界の叔母上にお説教してきた」


ケルヌンノス「・・・??? ま、まあ人理焼却事件だし、こういうことも起きるよね。うん。ありがとう。モードレットちゃん」


モードレッド「おうよ。またなにかお土産手に入れたら送るって言うから期待していてくれよなーアタシも頑張ってくるから!」






 漸く出せます現時点でのEDFでの最強、最優レベルの武器、プラネットシリーズ。あとある意味伝説のジェノサイド砲も改良完成。


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ゆったりのんびり

 モルガン「槍使いのアルトリア。少し話があります」


 アルトリア(槍)「何でしょうか、モルガン姉上」


 モルガン「貴女は特異点でお姉様とベディヴィエールに聖槍ロンゴミニアドを砕かれていましたね」


 アルトリア(槍)「はい・・・それ故に今はモルガン姉上に渡した、ベディヴィエールが命をとして還してくれたエクスカリバーだけで・・・」


 モルガン「では、これを用意しておきます」(馬上槍を一つ取り出す)


 アルトリア(槍)「なっ・・・!! ロンゴミニアド!? い、いえ・・・ですが微妙に違う・・・この感じ・・・まさか・・・」


 モルガン「ええ。私の魔術で再現したロンゴミニアドの術式を銀嶺隊の鍛冶職人と妖精さんたちに作らせた槍に刻み込んだものです。今は渡せませんが、もし戦う機会が来た時、まだその聖剣を握る勇気がない時。


 その時はこれを使えるようにしておきます。長く握り続けた槍の模造品とはいえ、扱いなれた武器の種類のほうが良いでしょう?」


 アルトリア(槍)「そんな・・・そこまで私のために・・・」


 モルガン「これは内緒だけど・・・華奈お姉様がこっそり頼んでいたのよ。いつか本気で貴女が立ち上がれるように、私達のアヴァロンで過ごせるときに十全の力を振るえるようにって。


 アルトリア。だから今は自棄にならずに騎士たちと一緒にこのカルデアを守り、お姉様の許可が降りた時、改めてここで本気で今まで失っていた楽しい時間を取り返してきなさい。良いですね?」


 アルトリア(槍)「はい・・・!」


 「これは・・・! 私が生前では届かなかった・・・ファラオとしての、ホルスの化身としての姿・・・ああ・・・なんという・・・感謝します。マスター・・・貴方は、私にとって得難きマスターであり、同盟者です」

 

 

 「いえいえ。これもダ・ヴィンチちゃんや華奈の助け、そしてカルデアという組織の努力とニトクリスさんの可能性の凄まじさゆえです。本当に、美しく、強くなって・・・」

 

 

 華奈から聞いた業火、種火という英霊たちの霊基をより高みへ、あるいは強化することができる魔力、エーテルの結晶というものがダ・ヴィンチちゃんの工房で売られるようになり、早速それをニトクリスに使えば、その肢体は、美貌は、長い髪はより美しく。メリハリのあるグラマラスなボディー、身にまとう礼装も布面積が増え、彼女が思い描いていたものになったのだろう。

 

 

 私にとっても眼福だけど、何より感極まると行った具合で笑顔を向けてくれるニトクリス。彼女のためになれたというのがとても嬉しい。

 

 

 「ええ。これでメジェド様やスカラベ様たちと共に戦い、これから先も道を切り開けるでしょう。アンとメアリーの海賊たちにもこれで遅れを取らず、私が貴方の最優のサーヴァント、英霊ですね?」

 

 

 「もちろん。ですが、彼女たちもまた貴方を見て女として、戦士として鍛えてくるでしょうし、ふふ。良き切磋琢磨できる戦士仲間、英霊の友達かと」

 

 

 アンの方も漸くフォース・ブレードと刀の合わせで出来た専用の斬撃を飛ばせる巨大なカトラスと、アンと連携用に作ったスラグ弾を放てるトマホークと合わせた銃。それらを合わせたあの比翼の連携はニトクリスでも厳しいだろう。

 

 

 「むぅ・・・海賊となど。と思いますが、信長も九鬼水軍、そしてドレイクもイギリスで軍として活躍したといいますし、たとえ海賊といえども、有用なら、鍛え会えるのなら彼女らとも連携を取るべきですかね?」

 

 

 「ええ。天空の神。ホルスの化身であるニトクリスさんであれば海をゆく戦士たちにも協力者であれば慈悲と、そして寛容さを持つべきかと」

 

 

 「ふむ。それもそうですね。今は我ら人類史を取り戻す戦士。彼女たちともいずれ話をしましょう。ただし、それはそれとしてです。元。我が同盟者」

 

 

 生真面目な彼女だ。紫式部の図書館で歴史の書物でこのカルデアにいる英霊の皆のことを調べていたのでやはりというか、ある程度柔らかく、思い込みが強い部分を少し抑えて義理堅さ、お人好しのいい部分がでて英霊の皆を見てくれている。

 

 

 少し短気なきらいがあったけど、これなら衝突も少なく済みそう。連携も考えた戦闘練習を。と思っていたら急にかしこまってきた。どうしたのだろう?

 

 

 「貴女にはメディア、アンとメアリー、そしてエレナ。生身の人間ですが宮本武蔵という英霊級の女傑もいます。しかし、最優の英霊は、同盟者の最高の女は私。それをじっくりと、この姿に届かせてくれた貴方には今夜じっくりと教えましょう・・・・

 

 

 あの奔放で色好きなアン、メアリーにはうまい具合に今夜部屋には来ないようにしておきなさい。では。わたしも一度今の力量を見るために少し運動してきます」

 

 

 私の顎を掴んで見つめつつその胸を押し付けつつ明らかにそういう意図の言葉を話してから私のマイルームからでていくニトクリス。

 

 

 やれやれ・・・どうにかしてバーの方で酒を飲んでもらうようにしてもらうかなあ。あそこあんまりゲームの音声以外ではしゃぎすぎるのは厳禁なんだけど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なるほど。どおりで彼が君たちカルデアの方に協力してくれているわけだ。そして、ロンドンでの魔術王への対処とアメリカでのプロパガンダでも協力したと」

 

 

 「そういうことです。おじ様の策や頭脳。そして考えは非常に助かります」

 

 

 「全く。何度もそう言っているだろう? だと言うのに君は早々にバリツを叩き込もうとして、お陰で腰が大変になりかけたんだからな! イケメンだからってやりすぎは駄目だぞ!」

 

 

 カルデアの片隅にあるゲームバー。そこでは少しくたびれた様子のモリアーティ様にカクテルをもらい、ナッツをつまみつつホームズ様も酒を飲みつつ三人で一杯。

 

 

 なんで犯罪界のナポレオンと言われるほどの存在が巨悪たる魔術王の方につかずにカルデア側についているのか心底不審がっていたホームズ様は昨日に早々に喧嘩を売るし、バーにも殴り込みそうだったので私が止めつつ説明。

 

 

 人理焼却を成した巨悪の鼻を折る。その企みをひっくり返してしまうというのはきっと最高の企みであり、今は勝者であり正義を語れる魔術王に対しての悪になる。という説得を受け入れているというのを説明すれば漸く納得してくれた。いやーつかれました。

 

 

 「しかし、それと同時にまさかのロマニの正体も知っていたからこそ私という探偵ではなく彼を呼んだと」

 

 

 「ええ。貴方は謎を解き明かすもの。であり謎を解いた先への仮定なども考えてくれますが謎の解明に力を割く人種でしょう? それよりも計画を練り、策を弄し長い時間を待ち、機会をうかがえる人種。そういう意味でのモリアーティ様。計画を作るものとして相談にも色々助かったのですよ」

 

 

 「ま、そういうことだね。君というヤク中探偵よりもダンディな私の頭脳を求めたのだよマイ・ガールは」

 

 

 「ははははは。なるほどなるほど。おっとバリツが」

 

 

 「ぐはぁ!? ちょっ、今カクテルの用意しているんだから暴力はダメ!」

 

 

 気を抜けばすぐに拳や杖が飛んできますが、適時わたしも治療魔術をモリアーティ様にかけて治しつつ、カルアミルクをクピクピ。美味しい・・・あまーい、飲みやすいお酒が一番ですよええ。

 

 

 「まあまあ。ただ、同時にここからは、そしてこれから先への備えのためにもホームズ様の頭脳と推理、観察眼も必要だと思ったので招いたのです。お二人の善悪、年齢、経験それぞれの視点からなる判断や意見はカルデアを助けます。

 

 

 なので、出来れば喧嘩はやりすぎず。それと、モリアーティ様。スペシャルカクテルの方はどうです?」

 

 

 「まあ、私としてもホームズでもここではお客だ。ゆっくり酒でも飲みつつ過ごしてくれれば言うことはないよ。そして、ああ、そのカクテルはもう少し後で出してあげるよ。マイ・ガール」

 

 

 「ふむ・・・まあ、カルデアの頭脳、ご意見番としてマスターから任命された私をモリアーティがどうこうする訳もないか。何より不思議な縁での共同戦線。楽しもうではないか」

 

 

 ふぅ・・・なんやかんや落ち着きそうで何よりですよ・・・そして、カクテル。ふふふ。何より。

 

 

 「ではではその時は一杯くださいな」

 

 

 「もちろん。私が最高のものをあげるとも。さ、おかわりのカルアミルクをどうぞ。レディ」

 

 

 「ふふふ。感謝します。ホームズ様もどうです? 赤玉パンチという甘い美味しいシュワシュワワイン美味しいですよ?」

 

 

 「ほう。では、それに合うのは何かね? マスター」

 

 

 「それだとドライフルーツなどどうかね。君のマスターオルガマリーも好みだよ」

 

 

 「ではそのセットを」

 

 

 「お二人には今日は私がおごりますし、どうぞモリアーティ様も好きに飲んでください」

 

 

 「おや、でもマイガールからのプレゼントは嬉しいけど、いいのかい?」

 

 

 「ふふふ。いいですよ。おじ様の苦労に労いと感謝のために。バーの売上のためにも気楽に飲んでくださいな♪」

 

 

 私の言葉になんかすっごくジーンときちゃっているモリアーティ様。そして自分も飲み始める頃にバーのドアが開く音。

 

 

 「あら。華奈ちゃん奢ってくれるの? わたしもいいー?」

 

 

 「あら。伊吹童子様。ええ。貴女もどうぞどうぞ。せっかくですしカクテルというおしゃれなものをどんどんと」

 

 

 伊吹童子様がふらりとやってきて私のおごりと聞いて目をキラキラしている。おごりでいいよということで側に座るようにとぽんぽんと椅子を叩くとそこに座る。

 

 

 「じゃあマスター、とりあえず色のきれいなカクテルをメニュー分作って頂戴♪ うふふ。捧げ物、プレゼントとして嬉しいのは何時ぶりかしら♡」

 

 

 「おやおや、これは珍しいお客様だ。そしていいだろう。タワーができるほどに作ってやろうじゃないかね。その後でわたしもその飲みっぷりを見つつ飲んでやる」

 

 

 ふふふ。仲良しですね。私の頭を腕で捕まえて絡めて胸に押し付けつつ駆けつけいっぱいのビールを飲みつつナッツをボリボリしてカクテルを待つ伊吹童子様。

 

 

 この後ダル絡みして、酒を浴びるように飲みつつ、皆で飲んでいたらお会計が数百万QPに。おぉう・・・サバフェスでの売上の少し飛ぶとはさすが・・・まあ、伊吹様がすごく楽しんでいたのでいいですかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ・・・この礼装の強度なら大丈夫ですかね?」

 

 

 「ええ。神代の時代、真エーテルの濃度、たとえ魔術工房の中でも問題ない。今の時代で作れる礼装でも最高峰の耐毒、神代の時代でも今の時代が動けるのに問題ない礼装でしょう」

 

 

 フラム様とモルガン様とイグレーヌ様でアヴァロンでのテストも兼ねて作っていた藤丸様、元様の礼装を見て、ジークフリート様や玉藻様たちのテストも兼ねて問題なし。の太鼓判をいただけました。

 

 

 「ふぅー・・・・良かったです・・・次の場所がまさか気温とかは問題ないですが、マナ、エーテルがやばい場所。偉大なりし英雄王の収めた城塞都市ウルクでしたからねえ」

 

 

 「魔術師の私としても大変興味深く、華奈が尊敬するギルガメシュ王のいる場所・・・時代。いやあ、胸が踊りますよわたしも」

 

 

 「ふふふ。ですね。どれほどの困難な場所かわかりませんが・・・暴れぬき、勝っていけるよう頑張ります」

 

 

 カルデアの特異点を割り出すチームが見つけて私達に伝えてきた第七の特異点。古代バビロニア。英雄王が治めていた時代のウルク。

 

 

 私にとってはまさしく聖地であり、そして、同時にとてつもない何かが待っているであろう場所。

 

 

 だからこそ燃えてしまう部分もある。最高と最悪の詰め合わせセットでしょうけどね。

 

 

 「後は、やっぱり物資は銀嶺隊の持ち込みに頼る部分が多そうね。神代の時代に、古代になればなるほどに観測とかも難しい。アルトリアたちの持ってきている機材でも神代の時代は慎重を期さないといけないほど」

 

 

 「もちろん。神代はいわば魔獣や神々の存在や思考がルール。数秒後に別のなにかに塗り替えられかねないですしね。その中で環境で死なずにお二人の礼装作製ありがとうございました」

 

 

 「メディアさんは元の礼装作製にかかっていましたし、ダ・ヴィンチちゃんと協力してよかった。ふふふ。武運をね。華奈」

 

 

 フラム様に頬へのキスをもらい、わたしもお礼にとキスを返してから自室に戻っていく。良い成果でした。

 

 

 フローレンス様の健康診断を受けて問題なし、刀もある。用意もできた。あとは待つだけです。・・・・・・・元様の部屋からすっごい嬌声が聞こえまくりましたが、特異点へ行く体力は残しておいてくださいよ皆さん。




 次回はウルクへ。愉悦部員の華奈にとっては色々と感慨深い場所なので多分華奈こわれる。


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大乱闘スマッシュウルク
愉悦部の聖地、聖なる時代? へ


 何かの機会でアヴァロンで過ごしているフランを出す際は水着のときの感じで行くか、中の人的な意味でツッコミ役(ビュティ)にするか。まあ間違いなくその際はストーム1と華奈とオジマンディアスがハジケている。ビュティポジはメアリーでも良いんですよねえ。中の人がこれまたビュティ役だったので。







 ~夜明けの時間、カルデア~


プロフェッサー「華奈くん。備えができた。その1つを黒ひげさんやドレイクさん、アンさんとメアリーさんにもデータを送っておく。いいかな」


華奈「ええ。それでお願いします。いやはや、あの刺激を形にできそうで良かったです」


プロフェッサー「良い参考例を見せてくれたからね。じゃあ、また休んでほしい。ウルクでの旅路。武運を祈る」


華奈「ええ。おやすみなさいませ。プロフェッサー様。仮眠は取ってくださいよ?」


 さてさて。いよいよ第七の特異点・・・遠足の前日のようなワクワク感を感じています。前もってオルガマリー様やダ・ヴィンチちゃんから聞いているので。

 

 

 その場所はわたしにとってもすごい場所。ある意味この時代に行けるのは憧れです。

 

 

 「えーと・・・カメラと、予備のバッテリー・・・あと、神代・・・メディア様、モルガン様印の正露丸と救急箱。うん。これくらいですかね。あとは、武器を担いでと・・・」

 

 

 銀嶺隊で持ち運びもできるのでそこは問題ないとして、私自身の装備も完了。最後の仕込みを自分の体にしてからいざブリーフィングルームへ。

 

 

 「おはようございます。ロマニ様。ダ・ヴィンチちゃん。オルガマリー様。ストーム」

 

 

 「おはよう。華奈。よく眠れた?」

 

 

 「やぁやあ。華奈。いい顔しているねえ。今までの中でも最高にいい笑顔と肌艶だ!」

 

 

 「おはよう。いよいよね。ゲーティアの残した最後の特異点・・・」

 

 

 「おはよう。マスター。準備はOKか?」

 

 

 みなさんと挨拶を交わしつつもちろんと返して朝の紅茶とおやつをかじりつつ待っていれば藤丸様、マシュ、ストーム2の皆さん。元様、ニトクリス様も無事到着。ニトクリス様と元様は・・・うん。腰の方は大丈夫そうですね。

 

 

 「さて。皆揃いましたね。今回行く場所について説明します。その場所は人類史の始まり。各文明の興りたるもの。世界が未だ一つにあった中の世界そのもの。紀元前2600年。古代メソポタミアの地。シュメール文明始まりの場所だ」

 

 

 「この時期に生まれたもので今にも残る概念としては一週間という日付の区切りが有名ですかね。一年の区切りを12ヶ月とした考えは古代中華の春秋戦国時代、呂不韋による『呂氏春秋』ですが、曜日の区切りを生んだのはもっと古いこの地域からとされているとか」

 

 

 「60進法とか、1分は60秒という区切りもここから来ていると言われる。すべての道はローマに通ず。というならまさしく古代メソポタミアはすべての興りはメソポタミアにあり。と言えるくらいだ。なにせボードゲームもあったようだし」

 

 

 「はぁー・・・ボクらの時代にも大きな影響があったんだね」

 

 

 まさしく。というか古代の文明たちは皆凄まじいんですよね。知の巨人、天才たちがそこかしこで今につながる概念や発明を生み出していますし。

 

 

 「まさしく。そして神と人間が袂を分かつ最初の場所とも言われているけど、それでも神々の存在は常に傍にあって、強くあり続けた最後の時代。その結果というか、古代を遡り存在証明や君たちのサポートに回す人数の関係で最初から連れていけるメンバーはこの人数だけだ」

 

 

 「まあそれもあるのでストームチーム入り、銀嶺隊入をしたモルガン様とアルトリア様にも今回は存在証明やカルデアのスタッフのサポートとして回し、ロット様も参加。余裕ができれば色々選択肢の幅も広がるでしょうし、危険ですが皆様連携を取って動きましょう」

 

 

 「わかった。それなら、藤丸君の安全は俺が守ろう。最古の時代にも今の時代の人間の意地を見せてやらないとな」

 

 

 「わはははは。今更神代の時代である程度のものは見ても問題ないでしょ大尉は。グラウコスに銀の人に、さんざんやべーの見てきたんだし」

 

 

 「それを全部ぶち殺した大将もな! しかし・・・神代の時代かあ。お祈りすれば、ご利益のすごいのかねえ?」

 

 

 「しっかりとした捧げ物と神に願うまでの道のりが確かならきっと答えてくれるでしょう。まあ、この地域の神々はよく知りませんけども・・・」

 

 

 兎にも角にも、下手な英雄たちよりもやばい戦闘を切り抜け続けた不死身のストーム2に、最高の盾と言えるマシュ。神の化身。オジマンディアス様に近しいほどに格を高めたニトクリス様。そして神代の時代最後ですがその次代のまつろわぬものや妖精、幻想種の管理者代行をしていた私に、言わずもがなのストーム1。

 

 

 不死身の生存力と神代の時代を知る英霊たちでの布陣ですし。ひとまずこの時代に挑むメンツとしては悪くないはず。

 

 

 「じゃあ、皆。コフィンに入って。私の方もすぐに存在証明の手伝いにはいるし、任せてほしいわ」

 

 

 「はい。行ってきます。所長。皆さん!」

 

 

 マシュの言葉に皆で手をふりあってからコフィンに入りいざ、バビロニアにレイシフト開始です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何と言うんでしょうか・・・銀嶺隊の狼や猪とは違う。いえ、敵へ向ける目はそれに近いですがもっと・・・憎悪を含んでいるように思えたんです」

 

 

 「獣が憎悪を・・・銀狼殿の軍隊の獣とはまた違う・・・むむ・・・」

 

 

 レイシフトのその先は、いきなりの上空からのスタート。これ自体はマシュの宝具でなんとかなった。けれど困ったことにまた華奈さんとストーム1さんはどこかにはぐれて元さん、僕、マシュ、ストーム2、ニトクリスさんのメンバーでゴーストタウンとなっていたこの時代の都市で神話の中でもまるで思い当たるフシのない、見たことのない憎悪にまみれた魔獣に襲われるともう散々だ。

 

 

 「この時代最大の都市。といえばウルク。華奈が敬服し、英霊の座でも色々交友があったと言われるギルガメッシュ王の都市だが・・・故に、そこにレイシフトしようとしても結界の防御で弾かれるとはなあ・・・

 

 

 ふむ・・・この状況が状況。魔獣たちも怖いが、ウルクにはいるための関税代わりの物資や情報がほしい。一度俺達で街を少し見てくる。元、ニトクリス、マシュ、藤丸はそこから動かないように。行くぞ」

 

 

 「おう。しっかし・・・ゴーストタウンに魔獣の群れ・・・嫌なものを思い出しちまったぜ」

 

 

 「タッドポウルに占拠された街のことですね。あれは・・・確かに」

 

 

 「生存者がいれば御の字と捉えよう」

 

 

 ストーム2のみんなはひとまずまちの中で資材収集と情報、生存者を探すために街の中に。

 

 

 『神代の濃いマナのせいでこっちに来る情報伝達も遅れているね。情報処理がどうにか追いついて行けているってくらいには。

 

 

 ストーム2の皆は?』

 

 

 「一応生存者の捜索と情報、資材集めに行きました。ここがウルクから離れている都市ということならウルクに入る際の関税などの代わりとしての資材も集めるとかで」

 

 

 『ふむ・・・まあ、この時代ならギリ物々交換も通るかもだし、悪くはない。か』

 

 

 「それもですがロマニさん。華奈たちの方はどうです?」

 

 

 『そこは問題ない。同じように上空にレイシフトしてしまったけど深い森の方にレギアたちを呼び出してストーム1と一緒に森の中に着地。今は森の木々の間を忍者みたいに走りつつ物資を集めているよ』

 

 

 「たくましいですね銀狼殿は。森というと、恐らくあそこの方向ですかね?」

 

 

 多分、こういう経験はこの前のエルサレムでもしちゃっているのと、まあ、サバイバル生活もなれているだろうからこうして魔獣たちと当たらないようにしつつ移動していると。無事で良かった。

 

 

 「今回は派手に遠くに行っていないようだし、すぐに合流も出来そうだ。ストーム2のみなさんが戻ったらカルデアの情報を聞きつつ合流お”っ!!?」

 

 

 ニトクリスさんの指差す森の方を見てこれならエルサレムのようにはならないだろうと安堵しつつとりあえずここを動かずに大尉さんたちが来るのを待つ。前に突然なにかの悲鳴とその悲鳴を叫んでいる固まりが元さんを押しつぶしてしまう。

 

 

 「あだだだ・・・・きゃあっ!? なにこの! 誰よ! 私に触れるのは!」

 

 

 「おぶ・・・! あ、あの・・・こ、ここです・・・かふ・・・!」

 

 

 黒髪ツインテールの露出度がほぼ水着のすっごい美人な女性が元さんの顔をお尻で潰してしまい、元さんはとっさに突き出した手でこの女性のおしりをもんでいるような手つき。

 

 

 多分、EDF技術を一部流用した元さんの新型礼装のおかげで無事なんだろうけど・・・うん。顔を赤くして叫ぶ女性の方の意見もわかる。そりゃあ、あんなガッツリとラッキースケベを満喫したらね。元さんも顔を赤いままだし。鼻血は衝突のせいなのかなんなのか。

 

 

 マシュもフォウもちょっとええ・・・って顔だし。

 

 

 「いきなりの破廉恥に無礼に、私の体に触れた・・・貴方、ウルクの民でもないわよね? 容赦なく殺してあげる。手足を射抜いて、その後で獣の餌、に・・・」

 

 

 (あれ? すっごいいい男じゃない。しかも、なんでかしら? 妙に親近感があると言うか・・・いや、でも私の体に触れた上にこの始末! ちゃんと殺しておかないと私の威厳に関わる・・・!)

 

 

 「ちょっとまちなさいそこの女神! たしかに我が同盟者が貴女の臀部を揉んでしまった不敬は然るべき罰を与えるべきです。しかし、同時に私達はここで大人しく仲間の合流を待っていたなかで急に貴女が衝突してきました。

 

 

 そこの部分を無視して一方的に責めるというのは酷というものでは? 可能なら裁判でも、こちらの映像記録でも出しましょうか?」

 

 

 「い、いえ! 誰が裁判なんて! あれの交通事故、乗り物に乗っている方が基本悪い扱いになるんだし! ん? あれ? アンタも女神? ではなさそうだけど・・・神の気配をだいぶ感じるわね。しかも、私と近しい空の・・・どこかの女王様かしら? 

 

 

 そ、そして・・・それはそうかもだけど! でも、同時に私にこの不敬をするのはそうそう許されることではないわ! 私の名前を知っているでしょう!」

 

 

 ニトクリスさんがしっかりとその女性に待ったをかけてとりあえずそっちにも悪い部分はあるからそこも差し引きで考えるべきといえば、あちらも流石に今はホルスの化身に近しいニトクリスさんの言葉には聞く耳があるようで。

 

 

 少し迷いつつも、でも元さんに悪いと言おうとしていたら元さんも頭を下げていく。

 

 

 「申し訳ありませんでした女神イシュタル。その、私もつい反応ができずに。ウルクの都市神である美の女神。こちらの方も謝罪の意思はありますし、どうかこちらを・・・」

 

 

 『女神イシュタル!? 元の言う通りでいくつもの女神としての顔を持つ神話の中でも上位に位置する強力な神霊だ! そ、そりゃあそうなるよ・・・』

 

 

 「遠見の魔術? まあ、その声の主は一発殴りたいとして、へぇ~? わかっているじゃないの。そうそう。そうして誠意を見せればわたしも示談で・・・良い宝石ね。いや、これ星の内海の宝石の1つじゃないの!」

 

 

 「私の家族の騎士の分けてくれたものでして。どうかこれでこの失礼を許してくれれば」

 

 

 まさかのとんでもない宝石・・・いや、多分これ、華奈さんが妖精さんから

 

 

 (・ヮ・)「かなさんのかぞくにあげるです?」

 

 

 (・ヮ・)「もっとほしければおかしをくれるのです」

 

 

 ってことからホールケーキ20個と交換したものの1つだったかなあ? いや・・・多分これ1つで魔術協会泡吹くよねえ。一応僕もフラムさんとかエレナさんから魔術協会もある程度教えてもらったし。

 

 

 「いいわ。じゃ、これはもらって、特例で許すとして、そうね。わたしはちょっと別件があるからいなくなるけど、ウルクに生き延びて来ることが出来ればまた会うのを許してあげる。じゃあね」

 

 

 そう言って最後は上機嫌で去っていくイシュタル。嵐のような女神だったなあ・・・

 

 

 あ、ウルクへの方角を聞くの忘れてた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「三女神同盟。ですか?」

 

 

 「ええ。この時代の聖杯はまだ誰の手にも渡らず、そして、今この時代を見出しているのは人類を滅ぼそうとしている三柱の女神たちなのです。

 

 

 先程僕らが戦った魔獣もその一柱の女神の配下。いえ、子どもと言っていいでしょう」

 

 

 「女神によって・・・か。同時に、なるほど。それなら俺達が知らない魔獣だったのも筋が通る」

 

 

 「どういうことです。大尉」

 

 

 「知られている魔獣であれば対策がうたれてしまう。それをするよりも新しく権能や能力で生み出せるのなら新たな、未知の部分と女神の子供という強みを押し付ける方が良い。知らないというのはそれだけで武器にもなり得るからな」

 

 

 「確かに・・・」

 

 

 あれからイシュタルがいなくなって、大尉さんらも人は見つからず、せいぜいが遺品と思われる宝石や武器、布切れ程度。これらを集めていればなんと英雄王の親友エルキドゥがウルクに案内と護衛をすると言ってくれたのでありがたくそれを受け止める。

 

 

 そして、そのさなかで知る女神たちが人類を滅ぼそうとしているという話に皆で驚きも出るが納得もする。

 

 

 「割と神話では人を選びつつ滅ぼす。ノアの箱舟とかのような話もあるしなあ・・・今回はそれがよりハードなものと・・・」

 

 

 「ええ。それにメソポタミアの神は人間は神々の労働力。自分たちの代わりに仕事をするものとして作り出したと語っています。だから庇護対象ではあっても手放せない愛情の対象ではない。大方、今の人類を根こそぎ滅ぼして新しい神代の時代でも作るつもりでは?」

 

 

 「それが事実なら、止めるべき話です・・・! そして、私達がいた場所のまちは既に滅んでいた。なら、ウルクの方は今は一体?」

 

 

 「現在ウルクは三女神同盟のうち最大勢力の『魔獣の女神』の軍勢が一番苛烈に攻めているでしょう。ほら・・・見えてきた。ここの高台からなら、今の北壁の様子がよく見える」

 

 

 エルキドゥに促されて皆で高台から見る光景は、何もかもが圧巻。そしていくら特異点でも、ケルトの軍団を見たあとでもこれが現実とは思えないようなすさまじい光景に息を呑む。

 

 

 「な、何だこれは・・・果ての無いように思えるほどの大きく巨大な城壁・・・」

 

 

 「それに・・・魔獣の数が・・・ざっと見るだけでも数万以上は固い・・・!」

 

 

 「おいおい・・・空の戦力が少ないのが救いって言えるほどじゃねえぞ! 平原でプライマー共とやり合ったときを思い出すほどじゃねえか!」

 

 

 魔獣が大地を埋め尽くす獣の群れ、それを塞ぎ止めるためであろう長城のような巨大すぎる壁。そして、その前にある防壁代わりの逆茂木。壁の方で聞こえる戦闘音。

 

 

 城壁目掛けてなだれ込み続けている魔獣たちも一匹一匹が銀嶺隊の魔獣たちを比較に出す程度には強い。それがあの数・・・

 

 

 「そう。あの城壁は魔獣たちが北部を埋め尽くした時にバビロン市を解体してその資材で作り上げたもの。今では人間の希望。四方世界を守る最後にして最大の砦。絶対魔獣戦線バビロニア。と」

 

 

 「都市1つ分の資材で作った城壁! 通りであんな規模になるわけだ・・・」

 

 

 「文字通り小山の連なるような城壁、それにしても規模が凄まじい。しかし、それでもあの魔獣たちの強さを考えると・・・」

 

 

 「厳しい・・・と思える」

 

 

 『北部にはこれの数十倍の魔力の数が反応している。こ、これで人類が生き残って、しかも城壁に穴がないのが不思議だぞ!?』

 

 

 ロマニの言うことが最もだ。なにせ一体一体がケルト兵を容易く何人も屠れるであろう魔獣。それがこの数。女神の子というのなら今後も増やせる可能性もある。英霊システムでスケールダウンした神霊ではなく、文字通りの『神』がここにはいるというのだから。

 

 

 でも、エルキドゥの話を聞く感じでは、その砦、壁は砕けていないように思える。ということは。

 

 

 「信じきれませんが・・・城壁の外に出て、戦っている兵士のみなさんが見事に・・・この魔獣の群れの攻撃を防いでいます・・・! すごい練度です! 一人一人が銀嶺隊の兵士に近しいほど!」

 

 

 『いやいやいや! それつまり一人一人がアメリカでケルト兵10人同時に相手して軽々と屠り、100人将以上は円卓の騎士ともある程度打ち合えるあの怪物部隊と同じ練度の戦士たちがあの城壁の下をカバーできるほどにいるってことかい!? どれだけ頑丈で屈強なんだシュメールの人々は!!』

 

 

 「それくらいで驚かれても。彼らは半年もの間あの壁を維持しているのですから。一部の隙のない交代精度に練兵術。軍の運用術に防壁からの援護射撃。戦いながら兵士を鍛え上げて損傷した兵士はすぐに下げて徹底的に休ませ、回復させる。

 

 

 まさに拠点防衛の究極ですね。そこにあの城壁ができるほぼ同じ時期に異邦からやってきたとある騎士。そして、ウルクを治める王ギルガメッシュが呼び出したある2つの戦士の部隊。そして守備隊を束ねるある男。その存在が特に大きくあと6ヶ月でも耐えきるでしょうね」

 

 

 「はい・・・! 負けているように見えますが、全体的には勝ち、そして何より負傷者がでても穴を塞ぐのが早い。異常なまでに乱戦、混戦。数の不利な戦いに慣れているような動きです」

 

 

 「ギャラハッドの記憶や経験も体に染み込みつつあるマシュがそういうのなら、そうなんだろうねえ。華奈さんも認める守りの名将ジャック将軍の守備術も使えるし」

 

 

 「なにはともあれ、エルキドゥのような戦士からの視点でもあの壁は容易くは落ちないと。それなら、早いところギルガメッシュ王に謁見をして、私達も助力をするようにしないと。この時代を修正するための聖杯を探すためにも」

 

 

 元さんの言う通りだと皆が頷いて歩き出す中、森の方から駆けてくる、いや、二人は馬に乗ってくる四人。

 

 

 「あ、みなさーん」

 

 

 「おおー無事だったんだなー皆。おろ? そのお姉さん・・・? は誰?」

 

 

 「おや、君たちがカルデアのものかい? いやー3日も歩いて足が棒になっていたところに華奈くんが馬に乗せてくれてね。魔獣の女神のお膝元の森からすぐに出られてよかったよ! 君も良かったじゃないかアナ。栗毛はいい子だよ?」

 

 

 「・・・・・」

 

 

 華奈さんとストーム1、そして、白いフードに青の交じる白髪の美男子。と、黒いフードに大きな紫色の刃の大鎌を持った少女。

 

 

 「お母さん。ストーム1さん。無事だったのですね! そこのお二人・・・は・・・ま、マーリンさん!!?」

 

 

 『はああああーーーーーーー!!!? あり得ない! なんでマーリンがここにいるんだ! こいつ英霊になっているわけないよ!? あ、もしかして!?!?』

 

 

 「んー? 遠見の魔術かな。はははははは。そりゃあ私は死んでいないからね。今も元気に生きている生身のマーリンお兄さんさ。ま、華奈君がいるのならもう分かるだろう? わたしも来ているんだよ。アヴァロンからちょっと手助けにね。カルデアにもいわゆる種火。プロメテウスの火を炉に入れておいたりで頑張っていたんだぞう。

 

 

 で、君たちの名前を教えてもらっていいかな? いくら華奈くんの知り合いと行っても、名前を知らない人と一緒に歩くほどわたしも用心がないわけはない」

 

 

 「マーリンシスベシフォーウ!!」

 

 

 思い切りマシュとロマニが驚き、フォウはなんでか死ぬべしと言ってベシベシと全力で飛びかかってタックルを仕掛けてくる。

 

 

 「え、い、いやぁ・・・あのマーリンが? でも、うん。それならアルトリアさんにモードレッドさん、イグレーヌさんにモルガンさんがいるのも納得・・・あ、えっと。藤丸です」

 

 

 「マシュ・キリエライト。藤丸先輩のファーストサーヴァントです。英霊としての力はギャラハッドさんから借りています」

 

 

 「俺達はストーム2だ。そこのストーム1の同僚。同じ部隊の中の1チームと思ってくれると良い」

 

 

 「元です。カルデアでマスターの一人として参加しています」

 

 

 「我が名はニトクリス。ホルスの化身であり偉大なるファラオです。しかし、そうですか。貴方が騎士王の師のような存在で、銀狼殿、華奈さんの仲間でもある魔術師」

 

 

 「私はエルキドゥ。彼らを護衛しつつウルクにつれていく予定です」

 

 

 皆の自己紹介が進んでいく中、エルキドゥと聞いた瞬間、華奈さん、マーリン、ストーム1の表情が一気に曇り、あるいは鋭いものに変わる。

 

 

 「エルキドゥだって? うーむ。困ったなあ。それはとても困る」

 

 

 「ええ。この時代、この時期のギルガメッシュ様はエルキドゥ様の死の後に不老不死の霊草探索から戻ってきたあとの王様です。つまりー・・・」

 

 

 「英霊として存在しているならまだしも、なんで、現地の反応や存在として、そこにいるんだい? なあ、パチモンさんよ!」

 

 

 ストーム1と大尉さんたち、華奈さんが即座に飛ぶ斬撃を居合で、そしてMA10Eスレイドで射撃を行うも、それを回避してエルキドゥ。いや、それに扮していたのであろう存在は後ろに下がる。

 

 

 『た、たしかに! ギルガメッシュは親友エルキドゥの死をきっかけに不老不死の霊草を求めて冒険を行った。それの後の時代がここというのなら、エルキドゥはとっくに死んでいる。だというのに、たしかにその反応は現地人のものだぞ!? どういうことだ!!?』

 

 

 「ふ、ふふふふふふふふふ!! まあそうだよね。これくらいの即興の芝居はバレてくれないと嘘だよね!」

 

 

 「やれやれ・・・エルキドゥを騙って。あわよくばさっきの森の方に誘い込んでって腹づもりですかねえ。どれ・・・やりましょうストーム。相手は神代の、神々が生み出した兵器と言ってもいいもの。なんで生き返っているのか知りませんが、しばいて聞きましょう。

 

 

 倒そうが逃げようが逃げられようが面倒な事情を聞かされそうなら手柄と情報を持っておく方に限ります」

 

 

 「同感だ。それに案外あっちもそういうノリが大好きそうだしなあ」

 

 

 エルキドゥ? は嘘をついていたのか。それとも、死んで尚復活をした。だとしたらなんで親友であるはずのギルガメッシュ王のところで戦わないのか? 疑問が尽きないまま僕らも急いで臨戦態勢を整えた。

 




 モードレッド「そういえばさ母上。先生の護衛の件。伝えたの?」


 モルガン「・・・あ。二代目のブリトマートを呼ぶの忘れていたわ。銀嶺隊加入が嬉しくて・・・」


 モードレッド「ええー? おいおい。しょうがねえし。とりあえずウルクから戻ったら一度顔合わせしようか。聖槍の方の叔母上のような急に襲う相手への対処としての護衛と、アイツの騎士修行としてお願いって」


 モルガン「そうね。いやー恥ずかしいわ・・・」


 モードレッド「わははははは!! 母上りんごみたいに顔真っ赤ー!」


 モルガン「こ、こらモードレッド! 母をからかうものじゃありません!」







 ドレイク「さーてと・・・ウチ等のマスターたちのために、ちょいと用意しに行こうか。何時でも動けるように」


 黒ひげ「ですなあ。これに関しては拙者たちの仕事もある。そして、何より想定しているものがものなら」


 アン「私達こそふさわしい人材であり、備えも出来ている」


 メアリー「しかしまあ、華奈さんは一体どこまで備えと、その考えをしていたんだろうね。まだまだ手札を隠しているようだし」


 ドレイク「さぁてね。ま、良いじゃないか。アタシらは楽しい時間のために気合い入れようじゃないか! 旨い酒と飯、住処、そしてこの戦いというお宝に応えるためにもろくでなしでもやることやるよ!」




 はい、始まりましたウルクへの旅が


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賢王様

 ウルクの状態を考えると大真面目にエルキドゥ。もといキングゥは精神ダメージ、曇らせがひどいと思うの。


 「ふー。面倒くさかったので逃げましたが、これで一段落。ですかねえ?」

 

 

 「いやはや、華奈君が打ち合う際にそれとなく陽炎でかすかな光で剣戟で派手に火花を散らすように見せている間に幻術を見せる仕掛け。見事ハマったねえ。

 

 

 相手はまだ子供のようなもの。精神的干渉や搦手には弱いと見える」

 

 

 偽エルキドゥ? と少し戦いましたが、マーリンの言葉とあちらの思惑を考えると森の近くで戦うのは大変危険。ということでひとまず幻術を使って撤退。

 

 

 「しかし、あの出力、戦闘能力はまさしく神々の生み出した兵器、そして・・・可の英雄王の親友と呼ぶにふさわしいもの。本当に、あのエルキドゥは、死んだものなのですか?」

 

 

 「はい。お母さんにストーム1さん。ストーム2の皆さんたちでないとついていけないような動きでしたし・・・」

 

 

 「ああ、ちょっとこんがらがる話になるけど、事実だ。あの戦闘能力や戦法はまさしくエルキドゥ。しかし、今の彼? 彼女? は三女神同盟の調停役であり、すべてのウルクの民の裏切り者だ」

 

 

 『一応魔力の性質の方は魔神柱のそれに近しいから、何かの仕掛けや関係が絡んでくるのだろうけども・・・にしたって、エルキドゥが敵になるなんて』

 

 

 まあ、あの英雄王に最強の一角と言わしめるほどの存在。大真面目にそれが調停役として動きつつもある程度の自由行動を許されている。つまりは遊撃にも行けるってことは確かに辛い事実。

 

 

 数合打ち合いましたがアルテラを想起させる程には重く速い攻撃ばかりでしたし、経験を積んでいなければ多分手傷の一つ二つは負っていたでしょう。

 

 

 「カルデアの皆のショックもわかるけど事実、彼に殺された戦士は数しれない。魔獣の女神に代わって魔獣たちの指揮をとっている彼こそが魔術王直属の配下と言えるからね」

 

 

 ここで更に新情報。そしてなるほど。魔神柱の性質ににた魔力。そして・・・ソロモンの遺骸を借りて復活した、いやソロモン王を騙るゲーティアなら思いつきそうな話です。

 

 

 なにせ、何かの細工を加えつつ蘇らせれば最強の神獣相手にも喧嘩できるまさしくウルクの守護神足り得る戦力を引き込みつつウルクの民の心を折りに行けるのですから。

 

 

 「ふーむ・・・なるほど。いやらしいやり方をしてきやがる。多分シンプルな能力差もあるだろうけど、信じられないと刃を向けきれずに死んでいった兵士も多いだろうに・・・」

 

 

 「まあね。実際、彼はエルキドゥと名乗って多くの城塞都市を滅ぼし、魔獣たちを送り込んできた。ウルクの民は偽物と信じたいようだけど、あの戦闘力はエルキドゥ以外の何物でもない。直に切り結んだ華奈ならわかるだろう?

 

 

 そこらの英霊がまがい物を作り出してできる能力じゃない。スケールダウンしたサーヴァントシステムで再現するにはどれほどのものが必要かを」

 

 

 「ええ。あれは本当に強かった。ですが同時に、そういう形であるのならば付け込む隙も見えてきましたよ。

 

 

 とりあえず今は私が魔獣のいない場所を探りつつ、ストームのブレイザーで斥候代わりの奴らは排除していきます。目指すはウルク。でしょう? マーリン」

 

 

 「ああ、ウルクは拠点活動に最適だし、なにより華奈君、そして君たちストームチームは歓迎されるだろう。私と一緒にアヴァロンからカルデアに協力を申し出たかつてのブリテン、オークニーからやってきた騎士。

 

 

 華奈くんの一番弟子にして太陽の騎士。聖剣の姉妹剣を握り勇猛果敢、ウルクの戦士たちからも一騎当千との称賛を受けるガウェイン。彼が常日頃から師匠である華奈くんのことを話していてウルクもその戦士が来ることを待ち望んでいるからさ」

 

 

 「あ、あははは~」

 

 

 「それならありがたい話だ。名前が知られている分、華奈さんから俺達も軍人として採用されたり、あるいは何らかの調査をできるであろうしな」

 

 

 「また新兵スタートってのは疲れそうだが・・・まあこれもしょうがねえ。やるしかありませんかっと」

 

 

 いやはや気恥ずかしい。そして、あのウルクの兵士たちにも称えられる戦いをして人々を守ってくれているのが師匠として誇らしい・・・ああ、エルサレムでの傷が癒やされる・・・

 

 

 皆をハチ、花子、栗毛、黒介、マチ子に乗せて走らせていれば見えてくるのが大きな、牛や馬の絵が特徴的な青い巨大な城門。

 

 

 いやはや・・・すごい。数十メートルはくだらない巨大なものですねえ。しかも私達ブリテンでもキャメロットに匹敵するほどの美しい組み方。

 

 

 そして城門の前に立つ門番・・・検問をしていますが・・・ほほう。ウチの什長に即採用できるほどの武力。それに・・・多分頭が切れる方ですか。

 

 

 「失礼します。門番様。私達はこのウルクに入城したいものなんですが」

 

 

 「こんにちは。礼儀正しい挨拶ありがとうございます。新顔ですね? どこの街からの方でしょうか」

 

 

 「ああ、彼らはギルスからの難民だ。私はこの通り祭祀場から商売の許しを得ている。彼らをウルクに避難させたいのだけど、手続きは必要かな?」

 

 

 そう言ってマーリンは印鑑が押されている証文を見せて門番の方に見せてくれる。マシュは最初からスニーキングで入ろうとしていましたが、そんなことをすればすぐバレますよ。そもそも私達が最初に空からばらばらになったのもあのウルクの結界のせいですし。

 

 

 「シドゥリ様の印ですね。それでしたら問題ありません。難民の受け入れでしたら、今日は西市場のメトゥラの店がいいでしょう。ちょうど二階の倉庫を難民の皆さん用に開放したと報せが届いています。生活用品は各城門で受取をしてくだされば。また、臨時の市民登録はラナの娼館で行っています。二週間以上のご滞在の際は是非ご利用を」

 

 

 「ふむ・・・門番の人。ここに入る際に、検問料金、そういうのはあるか? 一応使えそうなものはあるのだが」

 

 

 「いえ、そういうのはありませんし、それなりに質の良い宝石に布。これは市の方で買い取りをしてくれる業者があるのでそこでそちらの資金の足しにすると良いでしょう。何よりまずはこの長旅の疲れを癒やし、休んでください。

 

 

 ようこそウルク市へ。我々は生きるために戦うもの。その全てに協力を惜しみません」

 

 

 「ありがとうございます。門番様もお勤めご苦労さまです」

 

 

 無事に入城許可が出たので私達もいざウルクへ。その際に門番さんからアナ様へ砂糖菓子をプレゼントされるというほっこりの一幕と、この戦時下にあっても門番の家庭がサラリと砂糖菓子を持てるほどの経済的余裕、そして豊かさに驚きました。

 

 

 中世の応酬では貴族ぐらいしか楽しめなかったもの。私の領地でもはちみつと甜菜の流通は大変だったのに・・・すごいです・・・さすがウルク!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うふふ。何処もかしこも大賑わい。しかも区画整理も完璧。流石としかいえないですねえ。納得と驚きを同時に味わっています」

 

 

 「君の銀嶺領もなかなかだったがここまでのシステマチックかつ見事な整理、そして無駄のない采配と配置は見事だよねえ。君の領地の究極。いや、原初にして頂点と言っていいほどのものだ」

 

 

 「いやいや、私の領地など猿真似以下。これを王に聞かれていたら首が飛んでいますよ私とマーリンは」

 

 

 ウルクの市内に入ればまさしくそこは最高の戦闘都市としている。市場は騒々しく活気に満ち溢れうなだれている人はいない。常に緊張や急かされるものはあるけどもそれは笑顔を忘れず、希望と覚悟に溢れている。

 

 

 鍛冶場は常に稼働して金床とハンマーの音は街のBGMとなり彩りになるほどで、煙もそれは戦災のそれではなく戦う意志を絶やしていないという戦意の狼煙だ。

 

 

 「街全体が生きようとする活気。生きようとする意思で溢れています!」

 

 

 「あの城門の戦いといい、古代人間ってのはすげえな! 未知の魔獣達が、女神が相手でも怯みやしない! こいつは人類の後輩としても負けてられねえ!」

 

 

 「すっげえなあー・・・・食材の流通量や店の客引きを見ても食料品が尽きている様子もないし、さっきの巨大な城壁の後ろからを大量に農耕地としてとにかく食料品を用意。

 

 

 大河も利用して良質な泥で食品に建材の調達をしているんだろうけど、現代の都市にも通じるぞこれは」

 

 

 「これが古代ウルク・・・都市国家の興りの場所であり、我らがエジプトと生まれを近しいものとする最古の文明都市国家」

 

 

 「シュメル人は紀元前四千年前に歴史に登場した人々だが、その文明は実に細やかだった。人類最古の都市文明。数千人単位の村社会からの脱却から始まり、灌漑農耕による穀物の増産を始めとして数万人からなる都市国家群を形成した。

 

 

 もちろんそれだけの国になれば文字の発明。学校による高等教育も行われている。木材には恵まれないが二つの大河に囲まれた肥沃な大地は良質な泥を生み出し、彼らは泥を練った粘土で様々な城塞を作り出した。それが泥と粘土と麦と羊の国、メソポタミアだ」

 

 

 これには野蛮な都市国家だと思っていたロマニ様も撃沈して反省。

 

 

 いやぁね・・・ほんっとブリテンでは王族でも文字の読み書きができない人が普通にいて、学校施設も教会でする他なく、5,6000人の村はやや都会の判定。

 

 

 私の領地で教育システムを組んで漸く後半に識字率6割、人口数万の城塞都市にできたんですからそれより数千年前の時代に数万人が住まう城塞都市「郡」と高等教育システムを作り出して、キャメロットと私の領地以外では当時なかったほどの区画整理術を既に用意している。

 

 

 本当に、この時代のみなさんが生み出した技術がすごすぎて私たちの時代が退化している。暗黒時代の中世ヨーロッパと言われますよそりゃあ。

 

 

 「さて、このままこのウルク市の案内と行きたいところだがそれはあとにしてジグラットに向かうとしよう」

 

 

 「メソポタミアの神殿ですよね。あの台形の建物がそうですか? マーリンさん」

 

 

 「ああ、ではいよいよギルガメッシュ王とのご対面だ。張り切っていこう!」

 

 

 ええ。既にワクワクが止まりませんよ私は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何度も言わせるな! 戦線の報告は新しければ新しいほどよい! 更新を怠るな! こちらがせわしなく働いた分だけ奴らの機会が減ると思え! 楽に戦いたければ足を止めるな!」

 

 

 「はっ! 秘書官による粘土板づくりを1時間毎に、運搬役を三車増やして対応します!」

 

 

 「よい。では次だ。本日の資材運搬の一覧はこれか? ・・・エレシュ市からの物資運搬に遅延が見られるな。街道に魔獣たちが巣をはったか」

 

 

 ジグラットに通され、玉座の間に着けばそこではギルガメッシュ様が神官や武官、文官等に代わる代わる指示を与えて粘土板をテキパキと目を通しては的確な指示を与えている。しかも何がすごいかって兵卒や他の市からの人間の名前と特技まで頭に叩き込んでいるという事実だ。

 

 

 まさしく賢王。英雄譚を作り上げ終え、その後に王の政務に励む英雄の姿がそこにはありました。

 

 

 「・・・聞いていた想像とは違うような・・・もっと、こう。ひどい王様のイメージでしたが・・・」

 

 

 「まさしく暴君って感じのはずが、賢王ですしね。丸くなったのでしょう」

 

 

 アナ様の意見ももっともですし、ええ。若い頃の英雄王なら実際に色々怖いですよ。

 

 

 「ふーむ・・・こんな列、どうせ後から後からひっきりなしに次の報告を持ってくる人が来るでしょうし、ここは強引に声をかけに行くのが正解ですかね?」

 

 

 「ああ、あっちは場の空気を読まない。ならこっちから殴り込んでいくだけだ。多少無礼でも言いたいことを言うべきだよ」

 

 

 「じゃあ俺とマスターで問題ないわけだ」

 

 

 こらストーム。まあ、それぐらいがこの状況、あの王様への対応としては正しいのでしょうけどもねえ。

 

 

 「それなら・・・ギルガメッシュ王! 魔術師マーリン。客人をお連れした! 忙しい? うん。知っている。だから今からそこに来るよ」

 

 

 ということでマーリン様と一緒に玉座の間、ギルガメッシュ王への謁見に半ば強行的に実行。しかし・・いやー若いですねえ本当に。歳をとっても変わらないと言うか

 

 

 「む?」

 

 

 「帰還したのですね、魔術師マーリン。ご苦労でした。王はお喜びです」

 

 

 いやあ・・・明らかにそうじゃねえよと言わんばかりの目ですけども・・・そばにいるきれいな女性。ギルガメッシュ王の秘書さん的ポジションでしょうね。

 

 

 「それで、成果は? 天命の粘土板、見事持ち帰りましたか?」

 

 

 「いや、そちらは空振りに終わったよ。西の杉の森にはないね。あれ。まったく・・・王様がどこにおいてきたかを覚えていればこんなことにはならなかったのに」

 

 

 天命の粘土板。ふーむ。そういう物があるんですねえ。マーリンの愚痴にシドゥリ様が怒りますが、同時に私達の方に視線を移して漸く意識が向いてくれました。

 

 

 「その方たちは? どう見てもウルクのものではありませんが・・・」

 

 

 「よい。おおよその事情は察したわ。貴様は下がっておれ、シドゥリ。マーリン。一応そいつ等を連れてきたのは褒めてやろう。銀狼、嵐の勇者、そしてその仲間たる嵐の戦士たち。貴様らのことは若い頃の、いや英霊となった我人の関わり、そして我自身も良く知っているし、何より、既に我に使われている、仮仕えしている奴らが散々語っているのでな・・・

 

 

 そら来たぞ」

 

 

 私、ストーム、大尉様達を見て漸くかと言わんばかりに息を吐くギルガメッシュ様。しばらくしてドタバタとジグラットを爆走してくる音とガッチャガッチャとけたたましい鎧の音がジグラット中に響く。

 

 

 「ギルガメッシュ王! このウルクに銀髪の女騎士と軽装の銃を持った異邦人が来ていると聞きこのガウェイン馳せ参じ・・・! 先生! ま、間違いないですよね!」

 

 

 ガウェイン様。獅子王の騎士ではなく、私とともに過ごしてアヴァロンで元気にじゃがいもと山芋農家をしているガウェイン様。あいも変わらずの美丈夫。好青年ぶりで太陽の聖剣を腰に穿いて元気に拝手をしている。

 

 

 「ええ、今も元気にじゃがいも農家をして、最近はアヴァロンでラグネル様と一緒にスイートポテトのアレンジに精を出しているとか?」

 

 

 「っっ・・・はい。今も先生のお陰で穏やかに農家をして、広い星の海の星の住人に美味しい野菜を送りつつ、そこでの出会い、剣士としても充実した日々を過ごしています。そして、こうして人理の危機の際に偉大なるギルガメッシュ様のもとで騎士として戦える栄誉。すべて先生のおかげです」

 

 

 「いえいえそんな。そして、ギルガメッシュ様のもとでも無事に働いていて何よりです。怪我もないようですしさすが私の一番弟子」

 

 

 片膝を付いて拝手の姿勢で嬉し涙を流すガウェイン様。ああ、変わらない。いやむしろ心は成長しているのでしょう。だからこそ、ギルガメッシュ様が私達とこうして話してくれるのですし。

 

 

 「師弟の再会、善きものかもしれんが、まだそれは続くだろうよ。嵐の勇者に戦士たちよ。貴様らと同じ部隊の嵐の戦士たちも来ている。ちょうど報告の日だ。ガウェインは銀狼の話を聞いて持ち場を離れたゆえに後で倍働かせてやるとして」

 

 

 「はい! このガウェイン! 更に魔獣を撃退し王の負担を減らしてみせましょう! では、先生。マーリン。そして皆様。また後で会いましょう! 夜になればきっと会えるのでとりあえず暴れてきます!」

 

 

 ピューとあっという間ジグラットからはしって出ていくガウェイン様。多分、これ以上いたら3倍敵を倒せとか言われる前に逃げた・・・? 逃げ足は私にいたずらしていたときから変わらずですねえ。

 

 

 「よーストーム1、ストーム2。久しぶりだな。待っていたぞ」

 

 

 「ストーム1、ストーム2。ようやく会えましたね。また貴方たちと共に戦えることを待っていました」

 

 

 そこには全身が真っ黒なパワードスケルトンと頭のフルフェイスヘルメットアーマーを外して渋い声で話す中年になりかけくらいの男性。

 

 

 もう一人は20代なかば。私(24)と同じくらい? か少し上くらいの女性がペイルウィングの衣装に身を包み、一緒に歩いている。

 

 

 その声と、ストームチームと同じ嵐の戦士たち。と、なればすぐに答えは出てくるというもの。

 

 

 「ストーム3、ストーム4!」

 

 

 「お前たちも来ていたのか!」

 

 

 「懐かしいぜ! これでストームチーム再結成だな!」

 

 

 これにはストームチームの皆も喜んで握手を交わしたりハイタッチをしたりと和気あいあい。ですがすぐにストーム3、フェンサーの精鋭部隊グリムリーパーの隊長さんは粘土板を持ってきてギルガメッシュ様に渡す。

 

 

 「積もる話は後だ。王様。戦果報告と、現在の戦況報告だ。受け取ってほしい」

 

 

 「ふむ。現在はお前とスプリガンの副隊長たちがお前らの部隊の指揮をとっていると。そして被害もない。なら今すぐ休んでこい。そして回復を早めて戦線で敵の首を穿ちぬけ」

 

 

 「了解しました。ギルガメッシュ王。ストーム1,ストーム2。そしてガウェインの認めている華奈さんの処遇ですが・・・」

 

 

 「無論。貴様らと同じ部隊であり、その活躍は我も知っている。嵐の勇者、ストーム1。嵐の戦士たち、ストーム2を我の軍門のもとで戦うことを許す。せいぜい暴れてみせろ。銀狼。お前も同様だ。貴様の部隊である銀嶺隊。あれの魔獣の足、そして連携術を持って我がウルクの民と足並みをそろえてみせるが良い。シドゥリ。配置を任せる」

 

 

 「はい」

 

 

 まさかの速攻採用。いやはや、だいぶ厳しい視線を感じましたがある意味縁故採用。これはその分成果を見せないといけないですねえ。最初からそのつもりですが頑張らないと。

 

 

 「だが! それ以外の雑種共は我に使われる価値もないわ!! さっさと出ていくが良い! 我は忙しい。雑種程度に使う時間があるほど暇ではないわ!」

 

 

 ただ、マシュたちの方は使う価値もないと追い出そうとしてくる。うーん・・・まあ、この方ならしかねないですが、とりあえず話だけでも聞いてもらわないと・・・

 

 

 




 改めてウルクのヤバさがよく分かる。宗教に根付いた考え方やいろんな思考や発想があるからこその部分もあるんでしょうねえー


 ストームチームウルクで再結成。そして華奈とガウェインの剛柔師弟コンビも復活&速攻採用。


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小間使い開始

 魔法使いの夜コラボ。楽しみですねえー


 「お待ち下さい。ギルガメッシュ様」

 

 

 「どうした銀狼。貴様の言葉とはいえ、雑種共を我に認めろというのなら貴様は追い出すぞ」

 

 

 「いいえ。無理に、かつ急にその様な状態を与えれば天狗になって馬鹿をするでしょうし、私のもとで働かせてもそれは人理を修復するためにやってきたマスターにはふさわしくない。

 

 

 ですが、王は知っているでしょう? ここまで来る。第六特異点までの過酷な旅路を」

 

 

 「ふん。そこは認める。貴様らの働きは見事だ。しかし、それはそれよ。ここでは関係のない話であり、何より自ら言葉と意思を持って伝えぬ意志薄弱な輩など言語道断」

 

 

 まあ、でしょうね。元様も藤丸様もやや萎縮していますし。でもまあ、認めるべき部分はあるのと、それと同時にこの英霊たちの顔ぶれ。

 

 

 話せる場所はある。

 

 

 「しかし、今の王はウルクを回すにあたって異邦者であるマーリンにガウェイン様、そしてストーム3,4のメンバーを集めています。それは、それほどのものを対処しないといけない。

 

 

 そのためには時代も場所も違う戦士たちであれど必要なほどの厄災に備えているという証では?」

 

 

 「フン。相変わらず鼻が効く。ああ、そうだ。此度の厄災は我一人が強ければいいというものではない。加えて、その人手も必要なうえで民を守り、国土を守り、国を安定させてメソポタミアすべての力を用いて戦う必要がある。

 

 

 そのために必要な英雄召喚で呼んだのは事実だ」

 

 

 「で、あれば今までのか細い希望を掴み取ってきたこの子達も磨けば王も使い所を見出し、そして今のウルクで働ける場所にあてがえればより民を守りやすくなるでしょう。

 

 

 丁稚奉公。小間使い。下働きで始めさせ、その成果は私や銀嶺隊、ガウェイン様、ストーム2以外の皆様によるものではない。確かな彼らの成果として貴方の目に通していける機会だけでもお与えくだされば。

 

 

 王のもとではなく、王の庇護する民の手伝いとして、その上でウルクを守り、可能性を見せるというのはどうでしょう」

 

 

 私の話にギルガメッシュ王も顎に手を当ててしばらく考え込んだ後にふぅと息を吐いてこちらを睨む。

 

 

 「ああ、よかろう。それならこのウルクでの滞在も許す。なによりそこの小娘も大地の声を聞いていないであろう。来たるべき時が来るまでせいぜい働き倒せば良い。

 

 

 銀狼。貴様の上奏を受け入れよう。そして、祭祀長! こやつらの待遇は一任する! 手間だろうが面倒を見てやれ!」

 

 

 そう言ってこれ以上は絶対に話さんぞ。ということで私達はジグラットから追い出され、私とストームは練兵所、兵長達がいる場所への地図と王の印鑑がされた許可証を渡されました。

 

 

 なるほどここでやれと。あと銀嶺隊を召喚するにしても広い場所じゃないと大変ですしねえ。・・・・・・一応役場でメンバー全員の登録手続きをしないといけないですかねえ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・なんとかウルクでの滞在は許されましたが、ほとんどお母さんとギルガメッシュ王による対談がほとんどでしたね・・・これからどうしましょうか。マスター」

 

 

 「あれが英雄王。オジマンディアス様に匹敵するほどの威厳。威光。わたしもファラオだと言うのに何もいえないまま・・・」

 

 

 「とりあえず、ストーム2のみんなが集めてくれていた資材を換金する他ないのかなあ」

 

 

 やれやれ。皆さん気落ちせずとも。大真面目にギルガメッシュ王は破格すぎる対応を持って歓迎しているといいますのに。

 

 

 そばにいるシドゥリ様がその証拠。

 

 

 「ご心配なく。当面の間皆様の生活はわたしが保証します。申し遅れました。私はシドゥリ。王の補佐官であり、祭祀場を取りまとめているものです」

 

 

 「よろしくお願いしますシドゥリさん」

 

 

 「よろしくお願いします。そして私達にそこまでしていただいて感謝します」

 

 

 「いえいえ。王は貴方達を不要と言いましたが、無意味、無価値とは言いませんでした。だからこそ銀狼殿の言葉を受け入れたのです。ですので皆様が仕事をこなし、功績を上げていく事で認めてもらうことこそが近道かと」

 

 

 本気で要らない場合無駄な時間を使わせたとその場で殺していたでしょうしねえ。それができる力量もありますし。

 

 

 だから自分に謁見するのならそれなりに理由と功績をもってこい。ということです。

 

 

 「功績を上げる・・・そうなると、やはり魔獣戦線で魔獣の退治になるでしょうか?」

 

 

 「いいえ、それは軍人の仕事であり、今しがたそれも銀狼・・・たしか、華奈さんと呼ばれていましたよね? が入ったのでしばらくはそれもないでしょう。なので、このウルク市内の市民の皆様の仕事を見ていただきたい。王はそれを望んでいると思うのです。

 

 

 まあ、華奈さんが言っていたような小間使い。何でも屋というわけです。では、皆様が過ごす宿舎にご案内します」

 

 

 「お願いします。では、私の方は兵舎に向かい、それと手続きの方をしておきます。今から一気に人材と獣の手を増やすので」

 

 

 ひとまず私の方は割り当てられた仕事があるので早速それをこなすための準備と市民登録も兼ねてマシュ様たちとは別行動。ストームチーム全員で向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて・・・この広場なら良いでしょう。来い、銀嶺隊!」

 

 

 「おぉー・・・これがアーサー王が全幅を寄せた銀の牙。銀嶺隊」

 

 

 「まさしく壮観だなあ」

 

 

 練兵場の広場、運動場で私の銀嶺隊を3000騎ほど呼び出し、兵士長に宝具というもので召喚した。ギルガメッシュ王に聞けばわかるので、とりあえずメンバーを市民登録させてほしいと頼んでから五什長以上のメンバーは粘土板を借りてきて早速割り振りを開始。

 

 

 「えー皆さん。まず今現在私達の方にある最新の銃火器は2500丁ほど。今いる銀嶺隊、ちびノブ部隊、あれ・・・妖精さん? んー・・・ま、まあそれらを合わせるととてもではありませんが武器はまだ回せません。

 

 

 さらに、今回は籠城戦なので騎乗戦、私達の機動力を活かす戦いにならないので魔獣の皆さんは基本動けないでしょう」

 

 

 そう。今回は守備、しかも城塞の守りを維持するので基本騎馬で戦うことは出来ない。

 

 

 「ですが、この練兵所や物資備蓄庫と城塞、その戦場への物資運搬。負傷者の輸送。畑の濃厚に泥の採掘。燃料の確保。そしてアヴァロンでの私の領地からも薪などの支援物資を送るなどでむしろ貴方達魔獣の機動力と輸送量は大助かりになります。

 

 

 今回はかつてない規模で行われる防衛戦。敵の質も凄まじく、EDFの最新武装出会っても油断せずにぶつかります。いいですね!」

 

 

 私の声に狼に馬に猪に戦士たちも気合の声を上げてくれる。よし。これなら行ける。

 

 

 「では早速ですがまず人間の兵士の方は2500を大体6つに分けて常に1部隊以上は休暇が回せるようにしておき、更に残りの500は魔獣の皆さんと一緒に輸送、運搬任務にあたってもらいます。

 

 

 そして、妖精さんは平時はウルクの市内を歩いていいですが市街地はダメ。危険なので。で、私や栗毛、ハチと一緒になにか頼み事をする際は声をかけるので。いいですね?」

 

 

 (・ヮ・)「「「「「わかったですー」」」」」

 

 

 とりあえずこれで物資運搬と農業効率は落とさずに済むし兵士の方もいくらか呼び戦力が出来たとして・・・

 

 

 「すいません。プロフェッサー様。通信は可能ですか?」

 

 

 『もちろん可能だ。そして、話は装備の件だね?』

 

 

 通信を繋げばプロフェッサー様の方も理解してくれているようで早速送ってきてくれるウィングダイバー、フェンサーの専用最強格の装備、盾、プラズマコア、補助装備などなどをストーム3、4の分。前にニコラ様と一緒に用意させておいた甲斐があります。

 

 

 「ほぉ。ストームチームマークのグレートシールドに、最強のブラストホール・スピアにスパインドライバー。ミサイルにデクスター自動散弾銃。ブースターとよりどりみどりだ」

 

 

 「これだけの装備・・・そしてこの声、先進科学技術部の主任ですか。まさか装備を大幅に強化、更新ができるとは。感謝する」

 

 

 よしよし。もしここで出会えなくてもそれはそれで量産しているパワードスケルトンをうちの部隊にも着けさせるのを考えていましたし、精鋭たちをより更に強化できるようになったのは嬉しいです。

 

 

 ストーム3もミサイルや散弾銃で遠距離支援もできるようになりますし、上空からキャノンショットやプラネットシリーズの武器をぶち込んでも良い。で、ストーム4もスターダスト・キャノンやガイストなどの兵器に最新鋭のコア。

 

 

 可能な限りのバックアップは出来たでしょう。

 

 

 「ありがとうございます。精鋭たちによりさらなる装備更新。アーマーの強化もできて、ますますこれからの戦いも行けるでしょう」

 

 

 『いやいや、わたしも晴れてストームチームの一人だ。戦友。相棒の助けになれて嬉しいよ』

 

 

 「ほう。主任殿もストームチームか。なら、戦友からの差し入れ。感謝する」

 

 

 「これでより戦える。ふふふ。さあ、行こうか」

 

 

 「よぉし! 俺達ストームチームで戦い抜くぞ! まずは城壁にいる戦友たちと戦いに行こう!」

 

 

 「私はストームと一緒に行きます。銀嶺隊はストーム2,3,4について言って支援。その後にガウェイン様たちの支援射撃を。ちびノブたちは城壁から援護狙撃。負傷兵にはリバースシューターを打ち込みつつ魔獣と負傷兵を引き離してください。

 

 

 では、行動開始!」

 

 

 「「「「おう!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あははははは! いやーそれでまあ、無事に今日は死傷者はゼロ。なんとかなったので良かったですよ」

 

 

 「日中が私のフルパワーを出せるので夜は休みで良かったです。こうして先生といっしょに麦酒を飲めるなんて夢のようです!」

 

 

 「なんて旨い酒だ・・・! ふぅー・・・戦闘後にこれが飲めるのは・・・いいな・・・!」

 

 

 「うーん。羊肉もうまい! 特に調味料もなくこれ・・・は。つまりマスターの調理技術を使えば!?」

 

 

 (・ヮ・)「さとうがしうまうま」

 

 

 (・ヮ・)「かじつみずもおいしーですー」

 

 

 「うふふ。皆さんお疲れ様です。私達も無事に拠点ができましたし、明日からは私達もみなさんが戦っている場所に行けるようにがんばりますね!」

 

 

 「いやはや、まさかガウェイン殿の師匠にその軍隊が来てくれる。この戦いの中にこの援軍が来るとはまさしく万人力! このレオニダス感動して思わず槍が振るい過ぎて筋肉が熱くなりましたとも!」

 

 

 戦闘任務が終わり交代の時間。マシュたちの住まいで皆で酒と肉とパンと水で乾杯。私とストームチーム、ガウェイン様は兵舎の近くの建物に住まいをもらいましたがここでの時間も良いものです。

 

 

 そこに今日知り合ったスパルタの王レオニダス様。そして武蔵坊弁慶様に牛若丸様。誰も彼もが有名な英霊たち。この戦士にガウェイン様、ストーム3,4の皆さんで戦い、兵士たちの将となって暴れていたゆえに持ちこたえていたのも、あのとんでもない守備陣系と対応術も納得。

 

 

 「ふふふ。レオニダスの言う通り。ガウェイン殿という屈強な盾であり敵を焼き尽くす灼熱の大剣。それを鍛え上げた師匠である華奈殿に銀嶺隊、後ちびノブ? に妖精さんという不思議な存在も来ましたが・・・まあ、座敷わらしのようなものでしょう。

 

 

 しかし、出来れば是非今度華奈殿の料理を味わいたい次第・・・ひたすらに美味いとガウェイン殿が称賛していましたので」

 

 

 「いやはや。全くですなあ。我ら戦場に生きる武人ですがそれは日々の癒やしがあってこそ。狼を従える女傑。彼らの胃袋を掴んだ美味。このウルクの食材でどれほどに・・・」

 

 

 「おい。生臭な発言は控えろよ? その首が飛んでも知らないからな」

 

 

 「しかしですねえ。私はウルクの兵士たちの意識改善も是非してもらいたい。死ぬまで戦っては敵を追い返せない。若い命が散っていくだけ。『勝つまで負けない!』が拠点防衛の心得だと思うのですよ私は! うぃ~・・・あふ・・・あ、お肉とお水もう一杯!」

 

 

 「知り合いのジャック将軍も似たようなことを言っていましたねえ。うふふ。はい。酔い冷ましの果汁いりお水と鶏肉の香辛料焼き。お待ちどう♪」

 

 

 「私の実家の野菜の蒸し焼きに塩を降ったものもどうぞ。そのままでも甘いですし、肉汁につけて食べてもいいでしょう」

 

 

 即席でその場にあった食材を調理してどんちゃん騒ぎの宴。なんやかんや元気な皆さまも疲労が溜まっているでしょうし、疲労回復の魔術礼装で回復も適宜かけて置きつつ一息。

 

 

 「しかし、魔獣。女神の子どもとはいっていましたが彼らも生物。夜の方は休眠や動きが鈍るのですねえ」

 

 

 「ああ、だから守りは最低限残すが城門裏の予備隊と城壁からの射撃で時間を稼ぐことができやすい分戦力は温存しやすかった」

 

 

 「加えて我々の装備はプラズマ、レーザー兵装が多い。闇夜の中では魔獣たちにとっては目を潰すような閃光であり、友軍には魔獣の規模を見せる照明弾となる」

 

 

 「なるほど・・・ああ、それと牛若丸様。私の軍を預けるのもですが、ある程度自由にしていいというのは本当ですか?」

 

 

 麦酒を飲み、野菜を食べつつ今日の戦闘終了後の帰り道の中、牛若丸様からの提案。私の軍を指揮を預かる代わりにしばらくはこのウルクで藤丸様たちと一緒に仕事をしてもいいという内容。

 

 

 一応わたしも武人ですし、座から直接来ているので大丈夫だと思いましたが。

 

 

 「いいのですよ。藤丸殿、マシュ殿、元殿。貴方達は遠き場所からこの厄災あふれる土地に訪れたマスターと戦士たち。その意気を買わずして何が英霊か。それに、華奈殿はこのウルクへ訪れること、英雄王を尊敬していると聞いています。

 

 

 ならばせっかくですし今から戦う土地のことを知り、肌で感じてもらうのが良いでしょう。知らぬものを守るよりも知るもののために戦うほうが士気も高くなるというもの。加えて『銀狼は物資調達や兵站任務、現場の仕事は任せても良い』と王からも言付かっているので。それを終えて改めて戦場で共に戦いましょう」

 

 

 ありがたい心遣いです・・・それに甘えて早速ウチの部隊の休暇の方たちも可能ならウルクを楽しみなさいと言っておきましょうかあ。

 

 

 「では、そうですね。後方にも少しであれば魔獣が現れるかも知れませんし、そこも警戒しつつ好きにさせてもらいます。・・・あのエルキドゥを騙る存在の方も気になりますしね」

 

 

 「貴方がたも出会ったのですね。あのエルキドゥと名乗るものに」

 

 

 「はい。私はよく知りませんが、あの戦闘力はまさしく神々の生み出した兵器と言っていいほど。最強の一角に名前負けしない・・・でも、あの方は昔にお亡くなりになったのですよね?」

 

 

 「・・・ええ。確かに王が最後を看取り、その肉体は冥界に埋葬されました」

 

 

 「ですか・・・失礼しました。では、次に当たるときは容赦なく私達も今度は倒します。それに、私とマスターなら、きっとその真偽もわかるはずです」

 

 

 頭を下げた後に麦酒を飲んで皆でいろいろと語らいつつ夜は更けて、二日酔いにならないように水をたくさん飲んで解散。

 

 

 さあ、明日から楽しいウルク散策しつつの仕事です!




 改めて日本英霊、ウルク、ギリシャ、南米と色んなところのメンバーが戦っていたとはすごいですよねえバビロニア。


 そして茨木、天草、風魔の代わりにガウェイン、ストーム3(元グリムリーパー)ストーム4(元スプリガン)が参加しています。不意打ち奇襲、濃霧、砂嵐、街がアラネアの糸によってジャングル状態。空も大地も敵だらけでテレポーションシップやアンカーを壊さない限り無限湧きする敵の中で生き残った怪物なので元気に全員生きています。


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短期バイト

 華奈「おおーありがとうございます。これらがあればだいぶ使えそうです」(モルガンから妖精たちや自分で作った植物の種子をもらう)


 モルガン『いえいえ。お姉様のためですもの。それと、知り合いからこれもいただいたので良ければどうぞ。お姉様には相性がいいかと』(オレンジ色の三角錐のものを送る)


 華奈「ほう・・・? なるほど了解です」


 モルガン『私の方でも何時でも増援に来れるようにしているので、ふふふ。どうかお願いします』


 「では、今日の私達の仕事はシドゥリさんからもらった羊毛の刈り込みとそれを集めて洗い、羊を洗うことだね。羊毛は生活の服にも、布、生活に必要な物資。それを賄うためにも頑張ろう」

 

 

 「ええ。家畜は貴重な財産。私たちの時代からその家畜を買うのは財貨のあるものたちだけ。マシュさん。藤丸さん。アナさん。用意を」

 

 

 シドゥリさんから送られていた粘土板に書かれていた今日の依頼は朝は羊毛の収穫の手伝い。古来から羊や牛飼い、ヤギなどの家畜を買えるというのはお金持ちの証であり生活の糧。

 

 

 その仕事をできるとなれば英雄王、いや。今は賢王か。あの人に評価を稼げるように励むべきだ。

 

 

 「ふわぁ・・・あれ、華奈さんは?」

 

 

 「華奈は畑の仕事と木材の運搬に栗毛やタナボタチャン、ハチたちを連れて夜明けにはでたよ」

 

 

 「私達にも護衛というか、牧羊犬代わりに狼を3頭貸してくれました。さぁ、いきましょう」

 

 

 「はい。もこもこの羊さんたちの毛。収穫してその海で戯れたり抱きついたりしたいです!」

 

 

 「もこもこ・・・今はもふもふ」

 

 

 アナは銀嶺隊の狼に抱きついて撫で回して狼の方も心地よさそうにしつつペロペロ舐めている。いやはや、一匹がサラブレッドサイズなのもあって本当に頼もしい。

 

 

 粘土板の案内に従っていざ出発。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おお、貴方達が手伝いをしてくれるのですね。そして銀嶺隊の狼も! 魔獣よりも大きくて頼もしい・・・では、このナイフでちゃんと刈り取っていくことになります。

 

 

 私達が連れてきて仕切りの中でカットをしていくことになりますので、どうかお願いします」

 

 

 「はい! それにしても・・・すっごい・・・まるで羊毛の巨大な塊ですね」

 

 

 「あはははは! 今ウルクはとても忙しい。新兵の補給や、鍛冶場に働き手が行っていたので毛が伸びて伸びて。なのでこうして人手を借りられるのはすごく助かりますよ」

 

 

 とても朗らかで血色の良い優しい人柄の牧夫さんが説明をしつつ鞘に入ったナイフを人数分手渡してくれる。

 

 

 鋭い切れ味・・・私たちの時代に使うひげ剃りに使えるような切れ味だ・・・すごい技術だなあ・・・

 

 

 「よし。じゃあ、オオカミくん。この子達を誘導して・・・」

 

 

 羊毛を刈り取る作業を見せてもらい、いざ作業となる前に銀嶺隊の狼達がどこかを向いてグルルと唸り声をあげて臨戦態勢にはいっていると、そこに若い男性が焦って駆け込んできた。

 

 

 「お、おーい!! 大変だ牧場長!! 魔獣だ! 魔獣が来やがった!!」

 

 

 「なんだって! どっかの抜け道か、迂回してきて来た奴らか!?」

 

 

 「た、たぶん! そんで、羊の毛を狩る際にその毛の匂いからつられてきやがった!」

 

 

 魔獣が!? いや、たしか賢王様と最初にあった際に報告の中で確か街道に魔獣が巣を作ったという話もあったし・・・多分あの城壁で闘う以外でもはぐれた数匹の群れが迷いでてしまったのか?

 

 

 う、うーん。そうなると、ここを開けるわけには行かないし・・・

 

 

 「マシュ、藤丸、アナちゃん。オオカミくんたちと一緒に羊たちと牧夫の皆さんを守りながら作業をしておいて。オオカミくんたち一匹は私と。残りは警戒をしつつ守ってあげて。ニトクリス。行こう。支援は私に任せて」

 

 

 「わかりました。行きますよマスター。私の初陣。その力を見せてあげましょう!」

 

 

 ドゥンケルN236R を担いで急いで現場に急行。狼の誘導も相まってしばらくいけばあのえげつない顎とたてがみ、憎悪をたぎらせる目を持つ魔獣たちが20匹ほど。

 

 

 これは・・・下手に逃がすのもアウトだ。幸い、私達が風下で、遮蔽物もあるから坂の上だけど、隠れられる。

 

 

 「マスター。ここはどうしますか?」

 

 

 「狼がいれば私はある程度堆退避も対応もできる。ニトクリスは霊体化して、街の方角を守るようにして移動して、私の射撃を合図に攻撃をしていこう。

 

 

 何秒で移動できる?」

 

 

 「10秒で。では、行きますよ」

 

 

 ニトクリスも私の作戦を理解してすぐさま霊体化して移動していく。魔獣たちが近づいていく中、岩陰に隠れていき、9・・・10!

 

 

 岩陰から顔を出して銃を岩に乗せてスコープ越しに魔獣を捉えてドゥンケルN236R を発射。

 

 

 「っづ・・・!」

 

 

 何度も練習はしていたけど、それでも実弾の威力。更にはスナイパーライフルの威力をマシンガンのような勢いで撃てるのだから反動が凄まじい。

 

 

 しかし、その威力もまたお墨付き。顔に当たれば顔の一部がえぐれて即死、足や体に当たれば動きが止まる。貫通こそしないが、それでも装弾数82発の弾幕はばらまいてしまえばそれだけで足止めに、動けない、死んだ魔獣を踏み越える、避けて襲いかかろうとしていく魔獣たちにも牽制。

 

 

 「ここですよ! 逃がしはしません! 出ませい!」

 

 

 ニトクリスも霊体化を解いてメジェドを呼び出して目からビームをぶっ放し、私の射撃と合わせてスカラベで魔獣たちの体を貫いていく。

 

 

 使い魔や神様の攻撃、弾幕の十字砲火で打ち据える中、魔獣の群れたちは全滅した。

 

 

 「ふぅ・・・死んでいる・・・よね?」

 

 

 「恐らく。一応確認のためにチェックの射撃をして、周辺の方も調べていくべきでしょう。同盟者。行きますよ」

 

 

 「はい。狼くんも一緒に」

 

 

 この後、念の為に街道や周辺に魔獣がいないかを調査して、魔獣の件と死骸を衛兵に報告して処理をしてもらう。

 

 

 ようやく話が終わり、私達も羊毛の刈込に戻ったんだけど・・・

 

 

 「ほふぅ・・・もふもふでしたぁー・・・白い波、素敵でした」

 

 

 「もふもふ・・・もふもふ・・・」

 

 

 既に羊毛の刈り込みは終わった後で、今は水で羊の体をブラシで洗い流しているさなかだった。

 

 

 「む。マシュ。そちらの方では無事だったのですね?」

 

 

 「ニトクリスさん。元さん。はい。こちらは無事でした。作業の方もとても楽しくて」

 

 

 「そうですか。それは・・・何よりです」

 

 

 ニトクリスも笑顔を繕うけどやりたかったようで頭の耳のような触媒が垂れてしまっている。後で慰めてあげよう。

 

 

 (・ヮ・)「ころころー」

 

 

 (・ヮ・)「ようもうろーるですー」

 

 

 いつの間にかやってきていた妖精さんが羊毛を転がして納屋においていると、特に大きな羊毛が急に止まり、ぱかり真ん中から横に割れて中身が開く。

 

 

 「給食の煮豆~」

 

 

 (・ヮ・)「にまめですー? にまめのかみさまですー」

 

 

 「変な神様でてきたー!!」

 

 

 「何だとコノヤロー! 本当は煮豆嫌いなんだよぉ!!」

 

 

 「なんでそれで神をやっているんですか!?」

 

 

 アフロでグラサンの謎の神様が出てきて、しかも煮豆は嫌いと来た。いやメッチャクチャだなあ!?

 

 

 あーでも・・・それなら・・・?

 

 

 「じゃあ、代わりにお昼ご飯のこの鶏肉の足はどう?」

 

 

 「受け取ろう。そして、これはお礼だ。奥義「晴れ、時々豆」では」

 

 

 そう言ってこの謎の神様は閉じる羊毛の固まりの中に戻り、開けても中には何もいない。そして、空から降り注ぐ大量の煮豆の原料の豆が降り注ぐ。

 

 

 「「「うわぁあああああああ・・・・・!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 「・・・と、いうことで魔獣の処理と羊毛の刈込みの仕事と、洗浄に何故か大量の豆が手に入りまして。毒はないので良ければ街で売りさばいてくれれば」

 

 

 「どういう状況だ! そんな神など我も知らんぞ!! だがまあ・・よい。魔獣の排除と食料物資の臨時追加の分の報酬も用意しておくので下がれ」

 

 

 「ハッ!」

 

 

 あの後大量の、牧場を埋め尽くすほどの豆もなんでか手に入り、食料品は愚か家畜の飼料の質もあげられるということで多めの報酬の銀の貨幣をいただいた。

 

 

 臨時収入を除いても一日を過ごすには問題ないほどだし、少し砂糖菓子やバターケーキとかでもマシュや藤丸くん、ニトクリスにあげるべきかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はいはいどーどーはいどーどー。はーい肥料をまきますよー」

 

 

 「いやあー銀狼さん良い手際だねえー。収穫からの根っこの除去と掘り起こし、ウネの作りに肥料をまいての畑をすぐに栄養を満たす動きも大したもんだ」

 

 

 馬鍬を狼と猪たちに引かせて、栗毛たち馬には収穫した果実や野菜、麦を積載した荷車に乗せて、選別や加工、保存用の倉庫に送ってもらう。

 

 

 神代の時代かつ泥もあって豊かな土壌。肥料や泥の補給に水もあるし魔術なども仕込んでいるのでしょうか。たいへん短いスパンでとんでもない勢いの食料品が取れる。半年以上もあの苛烈な戦闘を繰り広げて今も豊かな国、街、元気な人々を支えられるのだなあーと実感します。

 

 

 一緒に仕事をするおばちゃんたちも元気で良いことです。お歳の割に若々しく、ふふふ。美人でいい人たち。

 

 

 「ところで、この妖精さん? とやらが、なにかしたいようだけど、させていいかい?」

 

 

 (・ヮ・)「おかしのおれいをするです」

 

 

 (・ヮ・)「いいものうえるです?」

 

 

 おばちゃんたちに可愛いとチヤホヤされてお菓子をもらってさっきまで日陰で食べていた妖精さんが助けると言ってくれたので、まあー良いかと。

 

 

 「いいですよ~。じゃあ、木材と、マンゴーでも埋めましょうか?」

 

 

 (・ヮ・)「「はーい」」

 

 

 「皆さまー作物を植える前にすこーしだけ、この子達の作物を最初に植えていいですかー? すぐに収穫も終わると思うので」

 

 

 許可ももらえたので早速指定された種を2つの畑にそれぞれ植えて、栄養剤を地面にブスリ。

 

 

 一緒にダンスを踊ればいいと言うのでわたしとウチの部隊の魔獣たちと妖精さんたちで踊っていけば、ぐんぐんと植物が伸びて木に・・・そして、数十秒であっという間に大樹に。

 

 

 畑一体を覆うほどの大樹が2つ出来上がり。

 

 

 まるで時計を早回しにしたような勢いでできたこの大樹に、そしてその大樹に鈴なりに狂い実るマンゴー。妖精さんとアルトリアの品種改良で出来たというこの珍妙な。どっかのポケ◯ンの木の実を思い出して作ったというこれを落とすためには。

 

 

 「皆さん布でクッションを作ってください。今から揺らしますよー」

 

 

 「え。お、おお? わかったわ。でも銀狼殿。どうやって?」

 

 

 「こうやって。そいや」

 

 

 深山を地面に突き刺して、この大樹二つの根っこの方を揺らしてグラングランと派手にダンスするように動かしまくればたわわに実ったマンゴーは自分の重さに茎が耐えきれずにまるでオレンジ色の雨がどさぁあーと振りまくって畑一面がマンゴーまみれ。

 

 

 しばらく揺り動かしても落ちないのを見て、これで良しと見たのでまずはみなさんを畑から避難。

 

 

 「ふんっ!」

 

 

 「た、大樹が飛んだぁー!?」

 

 

 深山の力で地面を動かして根っこから丸ごと上にふっとばしてしまう勢いで空に放り投げられる大樹が二つ。これらは妖精さんいわく良い薪になる。つまりは燃料にも武器精錬にも、色んな面で使えるもの。

 

 

 「凱鳥乱舞!」

 

 

 空に打ち上げた大樹に飛ぶ斬撃を無数に放って空で切り刻み、鞘に深山を収めればスパン! と一つ一つが私の手首から肘ほどのサイズ、もしくは大きめの板か薪になって畑の側の人の歩く道にドガガガガガガと積み上がっていき、あっという間に大量の未乾燥の薪が完成♪

 

 

 これで当分は燃料に関してはいくらか余裕ができそうですね。

 

 

 「よーし、銀嶺隊の一部はこの薪を保管庫に。残りは再度泥と肥料をまいて、ウネを作り直してから麦を植えるわよー」

 

 

 「「「「はーい」」」」

 

 

 (・ヮ・)「「はーい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ってわけで大量のマンゴーと、木材を確保しました。畑の方もウチの軍馬と軍狼、軍猪たちで巡回させて匂いをつけておいたので害獣たちとかもあんまりこないとは思います」

 

 

 「それで先程から倉庫の拡張や地下収納の相談がひっきりなしなわけか! ええい! お陰でこの木材不足のウルクの実りになったわ! 臨時収入は入れておく」

 

 

 「あ、それとマンゴープリンとジュースを作ったので良ければどうぞ。疲労回復に良いですよ?」

 

 

 ギルガメッシュ様に無事に差し入れも献上していざ午後の部へ。木材運搬、肥料用、粘土用の泥の採掘もでしたねえー。さてさて、泥の採取ですし、足を取られないように気をつけねば。




 妖精さんたちもハジケてしまう


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バイト 午後の部

 ウルクの勉強シーンを見て改めて色んな所への影響がありますよねえ。古代中国、インド、バビロニア、エジプト。どれもこれもがすごすぎる


 「さて・・・午後の部は・・・浮気調査?」

 

 

 「えーと・・・そういうのは個人で行われるべきかと思いますが・・・」

 

 

 「はい。ですがこの依頼主のキッシナムゥ氏からで、この方は兵器舎の親方で半日は動けないのです。そしてそれが気になって仕事のノリが悪いので是非」

 

 

 シドゥリさんから渡された午後の依頼はまさかの浮気調査。午前は酪農的仕事で午後は興信所、もとい探偵みたいなことをするって・・・わからないものだなあー

 

 

 「では、間男の裁判のときにも備えた状況証拠なども備えておくべきですね。こちらで物的証拠も抑えますので」

 

 

 「ええ。裁判となれば証拠は必須。キッシナムゥ氏の証拠はそちらの兵器舎の方で、奥方の方と間男の証拠もしっかりと抑えたうえで解決しましょう!」

 

 

 「ほほう。それは面白そうだ。藤丸殿。マシュ殿。わたしもついて行ってよろしいですかな?」

 

 

 「牛若丸? あれ? 城壁の防御は?」

 

 

 元さんとニトクリスさんが気合の入っている返事を返し、しかも証拠も抑えるということでニッコリのシドゥリの側にヒョコっと姿を表す牛若丸。確か壁の防衛をシていたはずだけどなあ。

 

 

 「ああ、それは午前だけで午後は休憩をいただけたのですよ。華奈殿とストーム1、2殿に銀嶺隊が来てストーム3、ストーム4の装備を増やしたことで殲滅力や手数が増えたのでだいぶ守りが楽に。

 

 

 城壁からの援護射撃も大変豊富で城壁の下での守りが暇な時間ができるほどです」

 

 

 「拙僧もお手伝いしましょう。浮気調査は侮れませぬ。追い詰めた奥方や間男が魔性に転じて襲い来るなどよくある話。しかし拙僧の法力はこの異国の地でも淀みなく。無闇矢鱈と調伏してみせましょう!」

 

 

 「ああ、皆様このヌリカベの言うことは聞き流してもらって結構ですので」

 

 

 「いやいや、武蔵坊弁慶。日本で最も高名かつ武勇に優れた僧兵の方に牛若丸が来てくれるのは嬉しいですよ」

 

 

 「はい! ですが、お二人も仕事終わりの身。無理はしないでくださいね?」

 

 

 嬉しい援軍だけど、そっかあ、軽く人が魔性に変身することあるんだ・・・マシュもギャラハッドの記憶を見ているからか割と魔性への変身部分はスルーしているし。

 

 

 「・・・あの。私は今日は別用があるので同行は出来ません・・・」

 

 

 「確か花屋のおばあさんのお手伝いでしたよね。お店番を募集していたとか。どうかお気をつけて!」

 

 

 アナちゃんは頭を下げてでていく。あんな可愛い子がお店番をしてくれるんだし、売上が上がると良いなあ。

 

 

 「それでは参りましょう、奥方の尾行から始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「た・・・大変な事件でした・・・」

 

 

 「大変な事件でしたな・・・」

 

 

 「はい・・・まさか奥方が地下に住まう謎の種族で地上世界への進出を目論んでいたとは・・・」

 

 

 「しかも地下の郊外にあんな溶岩地帯と大空洞があったとは・・・一言で言い表せない大冒険だったよ・・・」

 

 

 「最後は銀狼殿も呼んで対応に当たりましたが・・・地底種族の皆さんのあの異常な怯えようは何だったのでしょうか?」

 

 

 「わからない・・・けど、同時にすごくきれいなものを見た気がする」

 

 

 夕暮れ、僕たちは帰路の中で今回の浮気調査の結果を話しながら歩いていた。まさかの地底に住まう種族、しかもまさかの溶岩地帯。高い戦闘力となんというか、未来のたぬ・・げふんげふん。猫型ロボットと小学生たちの映画を体験したような気持ちになった。

 

 

 「はい。奥方の愛は本物でした。だからこそ地上世界を救った・・・」

 

 

 「今回は拙僧護衛だけでしたがこういうときにこそ僧侶としての説法もすべきでしたと反省するばかり」

 

 

 「元さんが記録してくれた映像データと、証拠、地図の場所も一応あるのでこれらを持ってギルガメッシュ王に話すべきですね・・・お母さんもあの後なにかするんでしたっけ?」

 

 

 「うん。地下世界の種族。しかも郊外とはいえウルク市の中にある。いつ気が変わって闘うとなったらあの戦闘力と人数を相手にするのはとてもつらい。

 

 

 だから情報を賢王に話して許可が取れた後に後で華奈とアルトリアたちでアヴァロンからユニヴァース世界の未開拓の星に移住させるように動くんだって」

 

 

 『やれやれ・・・古代都市郊外の地下にある謎の種族の大冒険からの愛の物語と宇宙への移民。本当にぶっ飛んでいる』

 

 

 「しかし、今回の件で異種族との交友や婚姻についての法律も一応整備しておくようにとギルガメッシュ王に進言しておきましょう。そのお土産もあればきっと上機嫌で受けてくれるでしょう」

 

 

 そう。この異種族間の恋愛と侵略云々。この話はこれで終わりではなく、この奥方相当に地底の種族の方では立場の高い人でもあったようで、ギルガメッシュ王に穏便に済ませてしかも地上世界への移住の話もだしてくれたお礼にと出された宝物の数々。

 

 

 お酒に金銀財宝。宝石と溶岩や地底の中で採掘されたそれはとても美しく、特に『パピロン』なるこの水色の宝石の輝きはスゴイものがある。

 

 

 「本当に見たことがないほどの輝き・・・素晴らしいものです」

 

 

 「へぇー? 良い宝石を持っているじゃないの。またあったわね?」

 

 

 皆でそれを眺めていると空から急にイシュタルが降りてくる。それにぎょっとして急いで僕らの前に出て臨戦態勢を整える牛若丸と弁慶。

 

 

 「何をしに来た女神イシュタル。またウルクへの無差別爆撃でもしに来たか?」

 

 

 「そんなんじゃないわよ。ただ、ちょーっと良い宝石がまたあったからそこの男に声をかけに来ただけ。あーえーと名前は何ていうんだっけ?」

 

 

 「元です。源 元」

 

 

 「なんと。元殿は源氏の末裔なのですかな!?」

 

 

 「い、いえいえ。たまたまです。たとえそうだとしても大真面目に遠戚も遠戚。箸にも棒にもかからないくらいの家系かと」

 

 

 元さんの名字に驚く中、イシュタルの方は前に会ったときのように臨戦態勢。というわけではなくすごく興味深げに元さんが持っている箱の中身、水色の宝石パピロンに目が言っているようだ。

 

 

 「そう。元。覚えておくわ。でね? この前の宝石に続いてこんな私でも見たことがないほどの美しい地底の宝石・・・地底はアイツがいるから下手に行けないのもあるけど、まあ、こんなにすごい宝石はウルクでも、いえあの馬鹿王でもそうそうお目にかかれないほどのもの。

 

 

 これを見つけてくれたんだし、元は私もここの都市女神で、更には美の女神。どう? 私の彩りの一つとして捧げないかしら? してくれたら日頃の無差別爆撃もちょっとは抑えるわよ?」

 

 

 「あの、出来れば爆撃自体を控えていただければ・・・」

 

 

 「あ、それは無理。三女神同盟としても聖杯狙っているし。で、どうするの? でなければ無理矢理にウルクを巻き込んでここで暴れてもいいわよ?」

 

 

 「いえいえ。女神イシュタル様に捧げます。どうぞ。地底の種族の方々でも最高と言わしめる宝石パピロン。是非お納めを」

 

 

 元さんは前に出てすぐに宝石箱を差し出し、それ以外にも金銀財宝の一部を譲渡。

 

 

 「うんうん。わかっているじゃないの貴方。名前も覚えたし、ついでに信者の一人とかんがえておくのもいいわね。それじゃ、わたしもそろそろ寝る時間だしまたね~」

 

 

 宝石をもらってホクホクのイシュタルはすぐにあの弓? 船? のようなものに乗ってすぐに何処かに飛んでいく。あれだけの宝物の中の一部だから対して痛くはないけど・・・パピロンはほとんど持っていかれちゃったなあ。なんだかもったいない。

 

 

 「女神イシュタル。追跡不能距離まで行きました・・・なんか、ひどい脅しを見たような気がします」

 

 

 「同感」

 

 

 「同盟者もすぐに宝石を差し出すのは正しいかもですがもう少しこう・・・葛藤というものをですね・・・」

 

 

 出来ればあれは欲しかったという顔のニトクリスさん。うん。空を思わせるようなきれいな宝石だし、ホルスの化身でもあるニトクリスさんはほしいよねえ。あとはまあ、元さんの顔が少しイシュタルに見惚れているようなのも嫌なのかな?

 

 

 やっぱりふたりとも出来ているよねえ。僕も・・・うーん・・・魅力的な女性が多いし、振り返ってもらえるよう頑張ろう。

 

 

 「イシュタルの爆撃の数が減るかも知れないという功績も伝えておくとして、ところでみなさんはウルクの中は徐々に知りつつありますが、外について。いわば現在の状況を知っていますか?

 

 

 同行してわかりましたが皆様の武力はなるほどいままでの旅を乗り越えるのも納得。いずれ王からの軍事作戦へも動かされると思いますし伝聞で良ければお教えしますが」

 

 

 「是非お願いします。外・・・となるとやっぱり?」

 

 

 「三女神同盟。ですよね。牛若丸さんと弁慶さんも午前は防衛に行っていた」

 

 

 「はい。現在このウルクを攻める女神は三柱あります。その三女神同盟がウルクの最大の脅威。北壁の魔獣戦線。南の死と戦士の密林。そして北東の山脈から飛来するイシュタルの無差別爆撃。現在ウルク市はこの三方向からそれぞれの侵略攻撃を受けています。

 

 

 北の魔獣戦線はレオニダス殿とストーム3、ストーム4が維持、いえむしろ安定しつつあります。南の密林の方は最初は頓痴気な薙刀を振るう戦士と、組術を好む女神が来ていたのですが、ストーム3のメンバーが対処。

 

 

 その後に華奈殿が来てから『オーウ。また懐かしい顔ぶれが。ではでは、そのイベントの日まで体を作っておきマース☆』などと言い残し現在はとんと侵略が途絶えている状態。やはり問題は北東。そして、安定しつつあるとはいえ北が一番の気がかりです」

 

 

 話を聞いて・・・やっぱり華奈さんの英霊の座にいる頃の縁とかが色々と広すぎてまさかの貢献をこのウルクでもしているのと、イシュタルの爆撃かあ。確か、ウルクの都市女神でもあるそうだし、一応勉強した中だと戦に関係する神性もあるのが厄介なのかなあ。

 

 

 「先ほども見えましたように女神イシュタルが乗るあれは天舟という神の乗り物らしく大空を自在に駆け回る。しかもその上弓としても機能するので文字通りの大弓を放つので威力も折り紙付き。当初はストーム4が対空攻撃をしていたのですが今はそれも届かぬ範囲からの攻撃をしてくるので被害のほどは魔獣戦線にお取りますがとにかく迷惑です」

 

 

 「総括すると一番被害が多くて目が話せないのは北の魔獣戦線。次にイシュタルの爆撃。そして南の密林は現在は動きがないと。うーん? やっぱり謎が多いのは、北になるんだねえ」

 

 

 「ですね。一番激しく動き血を血で洗う戦いをしているのは北壁。ここをどうにかしないと・・・」

 

 

 「それもだけど、女神たちは同盟を組んでまでなんでウルクを攻めるんだろう。聖杯とかを狙っているとか?」

 

 

 『可能性はある。霊草探索を終えたあとのギルガメッシュなら特異点の聖杯を持っていてもおかしくはないし、そうでなくても原初の王。聖杯やそれに近しいものなんてそれこそ腐るほどあるだろうし、それの奪取が目的だろう』

 

 

 それほどの財貨を持っているのかギルガメッシュ王。うーん・・・本当に華奈さんや誰もが最強の王の一人というのは、この特異点で女神の侵攻を受け止めているのは納得なんだろうなあ。

 

 

 「ああ、ウルクの大杯ですね。わたしも見せびらかさ・・失敬。見せていただきました。あれはたしかに途方も無いほどに膨大な魔力がこもった杯。女神であれ人間であれ英霊であれ、あれを手にすれば誰だろうと王になるのは容易いでしょう。

 

 

 女神たちはウルクを滅ぼしあの杯を手にしたあとに思うままに作り変えるために狙っているのでは?」

 

 

 「そうなると・・・神代を永遠に続かせるために一から人類創造をやり直すとか?」

 

 

 ウルクの神々における人間が自分たちにとっての代えのきく従者だとしたら。それくらいはしそうだし、女神と戦っている今のウルク市民をどうにかしたあと・・・・うん。自分の意に沿わない。認めない人を粛清、抹殺していた獅子王の例もあるし・・・ありえない話じゃないよね。

 

 

 『ウルクの大杯? ギルガメッシュ王はそういったのかい? 牛若丸君』

 

 

 ロマニの疑問のところはそこなんだ? ・・・ん? いや、たしかに? 魔術王絡みの聖杯じゃなくて、ウルクの大杯。あれ? 魔術王が特異点を作り出すために用意した聖杯じゃなくてウルクのもの?

 

 

 「ええ。そんな名前をつけてはしゃいでいましたね」

 

 

 牛若丸の話を聞きつつ、ちょっと話がわからなくなってきた。もしかして、女神たちが聖杯を求めてはいる。だけど、それはこの特異点を作り出した聖杯ではなくギルガメッシュ王が最初から持っているかも知れない聖杯。

 

 

 じゃあ、魔術王が用意した聖杯は別の何処かにある? どういうことだろうと楽しく話しつつ、とりあえずギルガメッシュ王に映像記録付きで今回の浮気調査の一部始終をしっかりと報告。

 

 

 なんでそうなった! しかし大儀である! ということで今回は大量のお金と労いを。あと、宝物もしっかりと収めてくれた。宝石のパピロンと地底の水で作られて地底湖で熟成させた酒も大変気に入ってくれたようですっごく上機嫌だったなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よっせ、よっせ。ふぅー・・・川の掃除もしっかりとしないと良い泥が作れないですねえ。こら、泥遊びは後でですよー」

 

 

 ウルクのレンガから粘土板、建材まで何でもござれな万能建材粘土。その泥を採取するには川辺が一番ですが、やはり川なので生活のゴミの一部や流木に落ち葉などが混ざるのは御愛嬌。

 

 

 ざるを用意してきれいに濾してから粘土づくりの大きな箱に入れては加工場へ皆で輸送。

 

 

 ウチの魔獣たちも泥遊びからの川遊びをしたいようですがそこは仕事が終わってからと念を押す。いやあーすっごくきれいでおいしい水に良い泥ですからね。遊ぶだけで魔力を吸収して強くなれそうなので気持ちはわかります。

 

 

 ただまあ、泥をこす、作業をする際には地面にいる虫や、川の中に棲む生物たちも混ざるのでそれも逃がしているんですが、それを目当てにやってくる水鳥や森の鳥もいる様子。

 

 

 「うーん。ねえねえ。あの鳥たちを捕まえて飯にするために、罠を仕掛けていいですか?」

 

 

 「おお、そいつは良いね。南に出来た森やこの前のマンゴー騒動もあってたらふく太った鳥が多い。捕まえれば晩飯の一品が増えそうだ。銀狼殿の舞台のお陰でここの作業効率もかなり早くなって仕事の目安も超えて明日も楽できそうなくらいだし、一つやろうか」

 

 

 現場監督殿の許可もいただけたの早速シンプルな鳥かご、後用意したよくしなる竹を曲げて地面に楔を刺してしならせたまま抑えて、周辺に餌となるマンゴーの皮に種、虫などをおいておく。

 

 

 そこに集まってきた鳥たちの隙をついて支え棒の紐を引いて籠で鳥たちを捕まえたり、楔を外して勢いよくしなった竹が元に戻ろうとする力で鳥たちを打ちのめして動けない間に捕獲。

 

 

 「いやっほー! 臨時収入だー! これでカミさんにちょっといいものあげられぜー!」

 

 

 「おほー! いいねいいね。こいつは今日も満腹だぜ!」

 

 

 喜ぶウルクの皆さんに現場監督殿。

 

 

 とはいえ、流石に連続でするとあちらも警戒するのでポイントを変え、時間をおいて仕事の合間、一息入れる時間で作業をすることしばらく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ということで偶然捕まえました金のうんこをするガチョウでございます」

 

 

 「そこは金の卵ではないのか銀狼よ! たしかに目の前で排泄しているそれは黄金だが!」

 

 

 鳥かごにかかっていたガチョウの中になんでかいた童話からでてきたような金のうんこをするガチョウ。あまりにスゴイものなのでこの捕獲の機会を与えてくれた現場監督殿の功績ということで持ってきたんですがギルガメッシュ王はそりゃあツッコむ。

 

 

 「えーと。私の動物会話で聞いた話だと『だってここバビロンじゃん?』とのことでして」

 

 

 「ここはバビロニアでウルクだ戯けぇ!! どこぞの毒婦の空中神殿のある場所ではないわ! ええい! しかし貴重なものでありたしかに我の宝物庫で飼うには値する・・・献上品を受け取ろう。そして粘土採掘の監督バーニュイにも後で銀貨30枚を取らせておくと約束する銀狼。貴様にも後で銀嶺隊含めて報奨を送る」

 

 

 「有り難く」

 

 

 王のペットとなるのを理解したのかきりりとした顔になるガチョウ。うーん。いい生活はするでしょうし頑張ってうんこするんですよー。私としては普通のガチョウのほうがうんこで肥料も火薬も作れるので良かったですが。

 

 

 「あ、そうそう。藤丸様、マシュ、元様、ニトクリス様、弁慶様に牛若丸様でのあの浮気地底探検の件ですが、あの地底種族の皆様は私の方で預かるということでよろしいですか?」

 

 

 「ああ、あんな頓痴気で愉快な冒険劇を見せてくれたうえで危険分子も引き取るというのは任せる。それとそれ以外で温泉も作ったと聞いたが銀狼?」

 

 

 「はい。溶岩地帯の直ぐ側にあった地下水の場所をエイヤッと斬撃で切りつけてみれば温泉が湧きまして。効能は疲労回復に美肌。そして混浴すれば寿命が伸びる」

 

 

 いやーあれは良いものでした。湯加減もよいのでギルガメッシュ王が入った後。一番風呂を頂戴した後は一般でも使用できるように広く開拓したいんですよね。湯量も申し分ないほどですし、早速温泉卵も作っているので。

 

 

 「は、はあ・・・? 混浴すれば寿命が伸びるなど、そんな珍説聞いたことがないですが」

 

 

 「ぐだぐだアホアホ言ってんじゃないですよシドゥリ様! 混浴すれば寿命が伸びるっていう湯なんですよぉーゥ!!」

 

 

 「そうだシドゥリ! とうりょ・・・ではない。銀狼がそういうのだからそうであろう! 供をしろ! 一番風呂と冷えた牛乳、温泉卵は我とシドゥリでいただくぞ!」

 

 

 おっと思わず強い言葉が。まあ良いです。王への休暇、癒やしとシドゥリ様にもご褒美を与えられたようで何よりですし。

 

 

 「は、はい失礼しました華奈殿。そして光栄の至りです王よ」

 

 

 「あ、お風呂のマナーと食事の楽しみ方は温泉の入口のそばに粘土板をおいているのでそれを見てくださいね? では、これを渡して・・・お風呂で見てくれれば。私達はもう人仕事してきますよー」

 

 

 「うむ。ではな。銀狼」

 

 

 映像を繋げられる魔術道具を渡してから私は一度ジグラットを退出。さーて時間もいい感じですね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さーぁ! 7時だよ!」

 

 

 「「「「全員集合~!!」」」」

 

 

 さあ、ウルクに麦酒に、美味しいお肉があれば、魔術で光も用意できるのなら娯楽もやらないとですよねえ! というわけで始まりました銀嶺隊軍楽隊、娯楽の部隊を呼んでの開演でーす!

 

 

 「ワハハハ!! なんじゃこら!」

 

 

 「いいぞいいぞー! あーらちょっとやりすぎぃ! ぶわはははっはは!!」

 

 

 仕事と飯だけでも満ち足りるほどの素晴らしい場所。でもせっかくなら皆で気楽に笑いあえる時間があってこそ! それに、私達のアピールと元気のプレゼントはこれだけじゃない!

 

 

 「う、美味い! 美味すぎる! 何だこの味・・・調理方法は!?」

 

 

 「ケーキがフワッフワで濃密で甘くて・・・はぁああ・・・・マンゴージュースも滑らか・・・プリンも最高♡ ミルクの味わいも素敵だわ♡」

 

 

 そう。たしかに食材の、素材の良さは文字通り神代のこの時代のものはすべてが現代の最高級品以上のものでしょう。

 

 

 でも、それを調理する技術や工夫の歴史は現代のほうが遥かに上! 調味料や調理技術に知識の広さ。それは明確にこの時代を上回るもの!

 

 

 さあー甘味もお酒の工夫も、お肉もおつまみもどんどん食べましょう! 楽しく騒ぎ、夜も少しの時間ですが英気をより濃密に味わって明日も元気に行くんですよ。これが銀嶺流です。

 

 

 「キンキンに冷えた麦酒と焼鳥セットいかがっすかー! タレ、塩、香草の三つお好きなものからどうぞ~!」

 

 

 「超濃厚! 果実と牛乳を混ぜたフルーツ牛乳もあるぞー! 子どもたちはこっちもいいぜー! 暑さも仕事の疲れも吹っ飛ばせー!」

 

 

 「はふ・・あむ。美味しい! すっごいです・・・これが銀嶺隊の・・・料理・・・あ、おかわりもいいですか?」

 

 

 アナ様も目をキラキラさせて花屋のおばあさまと一緒に楽しくご飯を食べつつ私達のコントやギャグに笑ってもくれます。魔獣戦線をネタに笑い飛ばす皮肉のあるものもあるあるネタとして笑ってくれたりでいい感じ。

 

 

 この光景もギルガメッシュ王とシドゥリ様に通信魔術で映像と音声も伝えていますし、笑いがウケなくてもこの民草の笑顔は元気になるものでしょう。ふふふ。さぁさ。どんどんいってみよー




 ちなみに浮気調査の依頼に関しては最初華奈がする予定でしたが急遽変更しました。あとケツァルと華奈は某ご機嫌王のときに部員として会っている縁がある感じです。あとシンプルに現代最新の人間の力を見せつけたストーム3を認めているので侵攻は抑えめ。


 現代のほうが体の動かし方や料理への研究や技術は秀でているのは華奈も受肉してからの生活で実感しているのと、だからこそその技術をウルクで使います。これにはエミヤに頼光、玉藻たちも良いなーと思っているかも?


 次回、華奈もはっちゃける。


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ウルク大運動会

 魔獣戦線にいざ鎌倉。


 ~ドリフコントから翌朝~


 華奈「あ、ストームと、ストーム2の皆さん。今日はこれでカチコミしましょう」


 ストーム「おお、あれだな。了解!」


 ストーム2「ふむ。まあ、こういう装備も大事だ」


 華奈「ではこれこれとを用意してと・・・あ、ちびノブのみなさんも今日はこれ使っていいですよ?」(グラントMTZを20、E21ホーネットを30丁渡す)


 ちびノブたち「「「ノブノブー!!」」」(嬉しそうに受け取って城壁にかけていく)


 ~BGM 有馬記念のファンファーレ、以下、運動会メドレー~

 

 

 魔獣戦線バビロニア。そこは常に魔獣たちの群れが襲い来る悪夢のような光景。

 

 

 「魔獣だー!」

 

 

 見渡す限りが敵敵、敵。でも、それはEDFにとってはいつものこと。ストーム1にとってもいつものこと。

 

 

 と、言うわけで。

 

 

 「そしてぇ!」

 

 

 「「玉入れの時間だぁアアアああああああ!!!」」

 

 

 思い切り攻撃をしながらハジケルしかないですよねえ!!? ヘッドホンと装着済みのミニマイクと録音、録画昨日も用意してバッチリです。

 

 

 「さぁ、始まりました人類の存亡をかけた玉入れ合戦! 赤組が多く我らが青組の壁に到達するか、はたまた青組、我らがストームチームの玉入れがまさるかのまさに激しい国家規模の大運動会! 実況は私現在もプラネット・スーパーカノンで援護射撃をしております銀嶺隊隊長船坂 華奈と!!」

 

 

 「声がいいということで採用されました。同じくプラネット・スーパーカノンで射撃支援をしています銀嶺隊所属ヤマジ隊250人将のゲンイチロウです」

 

 

 「赤組は文字通り赤い波となって青組に襲いかかり壁を目指しますがそこは青組代表ストーム1が見事対応。戦闘に出て赤い津波に向かってかんしゃく玉を投擲。先頭集団から次々ひき肉になっていく。われわれEDFを愛するもの、戦士、レンジャーであるのならおなじみの光景。

 

 

 その桁違いの肩から生み出される投擲と広がる無数のかんしゃく玉が広範囲を爆撃。その爆撃にふっとばされた魔獣たちが動けない間に地面も空も問わずに次の爆発で吹っ飛んで動きを封じられる完全無欠のコンボ。かんしゃく玉張り手です!」

 

 

 眼の前ではストームが逆茂木の前に出て魔獣たちにかんしゃく玉を投擲。500m先まで有に届くそのかんしゃく玉の爆破範囲はプロフェッサー様によって改良をされて千一号弾の火力と弾数をぶん投げられるように。

 

 

 「これは的確なコンボです。魔獣たちの群れは近接武器がなくストーム1は投げるということで程よい距離を保っているままあの爆撃の嵐。一つ一つがスナイパーライフルに近しい威力の爆弾の雨。これはまさしく歩く爆撃機と言ったところでしょうか」

 

 

 「ストーム1投げる! 当たる! その間にもう一発投げる! どんなに魔獣の数が多かろうが硬かろうがこれで死ぬってわけですね! これが人間でなくてよかったですね。人だったらただの殺戮ショーです!」

 

 

 「どっちにしろ目の前で爆炎と血しぶき肉塊飛び散るまさしく大戦争」

 

 

 「さあそんな恥知らずな魔獣たちの波を超えたと思えば次から次へとやってきます魔獣たち。この魔獣たちはどこからくるのか。魔獣の女神が畑になって取れるというのか、生み出しているとしてもこの規模は凄まじい。赤組はまだまだ諦めない様子。物量作戦による青組のいるゴール目掛けて前進だ!

 

 

 しかしそんな魔獣にも怯まずストーム1かんしゃく玉を投げる投げる! その爆撃範囲はまさしく巨人の一撃。愛のかんしゃく玉張り手でふっとばすその様は小さな巨人。ガリバーのビンタが魔獣に響いていく。

 

 

 目に憎悪を宿る魔獣の愛を求める叫びかはたまた愛を知らない故か! そんな悲しき魔獣たちにストーム1かんしゃく玉を投げて殺すことで愛を送ります。死ぬことによって憎悪から開放されるまさしく小さな巨人による愛の張り手による救済! これぞ権能。これぞ肩力! いまEDFの英雄がこの絶対魔獣戦線バビロニアで唸る肩で愛の救済殺戮劇神話を生み出しています!」

 

 

 「そんな物騒なことして・・・いやしているけどなあ!」

 

 

 ストームのナイスツッコミも無事に入り戦闘もまた一つ先に。壁の前についていた魔獣は軒並み吹っ飛んだので奥から更にやってくる魔獣たち。血の匂いを嗅いで興奮気味でますます元気一杯です。

 

 

 

 「敵の魔獣たちはその巨体によって突撃しつつ炎を吐く竜にその鋭い角と毒針を持って襲い来るトカゲ、そして大きな顎に生える牙で襲うライオンみたいな奴らと多種多様。その魔獣の群れが猪突猛進、お前を倒してゴールに向かうと更に勢いが良い。

 

 

 かんしゃく玉の爆発と肩力が勝つか物量が勝つかのまさに真っ向勝負! 小細工抜きの時間無制限一本勝負が幕を開けました! さあストーム1更に肩を唸らせてかんしゃく玉を投げる。筋肉のねぎとろじみた大回転。機関車の如きピストン運動で敵をひき肉に変えていきます!」

 

 

 「これはいい動き。良い回転です。来年のドラフト会議でもEDF代表チームとして野球界を賑わせるでしょう」

 

 

 「さあ敵はまさしく動く魔獣の波。動く山脈。ケモケモ山脈だ。互いに射程圏内にはいっての爆撃祭り。ストーム1選手投げる投げる! その物量の接近早いぞ!」

 

 

 おお、敵の方も更に勢いよく、更に突っ込んでくる方角も増えたためにストーム1に近づきますが。直前で爆発と弾丸の雨がそれをカット。

 

 

 「ここでストーム2、青組の大尉チームと城壁よりE21ホーネット、グラントMTZで支援射撃をしているちびノブたちの援護です! 近中距離では無類の強さを誇るアサルトライフルMA10Eスレイドも合わせてまさしくそのカットは神業! 赤組のストーム1包囲網に穴を開けました!

 

 

 かんしゃく玉はその爆破範囲一つ一つは小さいので誤爆の危険性は少ないですが過度な接近はご法度。お触り禁止のマナーを守りつつ玉入れを頑張ってほしいです! ああっとこれも危ない! 敵の猛襲止まらない! 右を見て、左を見て人間に襲い掛かれ! 自動車教習所ならぬ人間強襲所を卒業したドライバーの魔獣たちが教えを守って群れをなす! これはストームチーム危ないか! 頑張れストームチーム! 負けるな赤組!」

 

 

 「「「「「いや敵を応援するな!!」」」」」

 

 

 「ナイスツッコミいただきました」

 

 

 うふふふ。皆様のりがいいので兵士のみなさんも気合が入っていきますねえ。ええ。ええ。これでこそウルクです!

 

 

 あ、ツッコミをしている間にストームが噛まれた。

 

 

 「おおっとストーム1選手! ライオンのような魔獣に噛まれた! がっぷり四つ! 首相撲のままスレイドで応戦します! 吹っ飛んだぁああああ! 着地します! そして再びかんしゃく玉で応戦開始! 地図を塗り替えるごとき魔獣の波に向かって気合の一投! ああっと、これもまた噛みつかれた! 赤と黒の正面衝突! 漫画のような交通事故!! ストーム1のかんしゃく玉闘争本能が鈍った隙を赤組見逃しません!!

 

 

 しかしここでストーム2のかんしゃく玉がストーム1ごと魔獣を吹っ飛ばす! そしてここでかんしゃく玉の戦士が5人揃いました! さあ、地球防衛戦隊ゴレンジャイの勢揃い! ここからショータイム、ここからが本当の地球防衛の始まりです!」

 

 

 「それぞれが一方方向にバラバラにかんしゃく玉を投げていたのが5人でカバーしつつ前に出ていくのでそれに魔獣たちも追いかけるので城壁から引き離しつつのこの爆破の雨。これは効果的ではないでしょうか」

 

 

 「止まらない止まらない! ゴレンジャイのかんしゃく玉張り手とその進撃はまさしく破壊力抜群のブルドーザー! 敵の波を雪のように吹っ飛ばす除雪車のごとく! 大事に爆炎と黒煙が渦巻いて太陽のもとでおこなられる整地作業! 害獣駆除! 私達もプラネット・スーパーカノンを絶えず射っていますがその威力はものが違う。範囲が違う!

 

 

 敵がこちらの作った陣地を埋めるか爆発の波があちらの陣地を脅かすかの勝負はまさしく未来の時代でときめく娯楽。大人気ゲームスプラト◯ーンをこの神代の時代で再現してしまうのか! お前の血と俺の爆炎でナワバリバトルだ! なんて物騒な! これが神代の塗りあい勝負、地と泥と肉片と炎渦巻く熱い命がけのバトル! 青組が背を向ければ赤い津波が襲い、赤組がひるめば赤い爆炎、レッドサイクロンが吹っ飛ばす!

 

 

 さあこの半年以上もの間この場所を埋めていた魔獣たちの数も数が数えられるほどに! かんしゃく玉の攻撃力はまさしく隕石! それが5人揃えばまさしく流星群! 止まらない止まらない! その戦いに終止符の楔を撃てストームチーム!」

 

 

 「敵の流れが途切れています。これは魔獣の女神、一度戦力の投入を断念して補給と備えに行くのでしょうか。ストームチームと我らウルクの駆除能力が上回りつつあります」

 

 

 ふむ。ゲンイチロウの言うように確かに敵の波が途切れ、こちらの見える場所にとどまっている。今日はここまで。でしょうか?

 

 

 そうなればこちらのワンサイドゲーム。どんどん敵の波も減り、消滅していき包囲殲滅に。

 

 

 「さぁ、最後の敵の一匹へ全員の集中砲火を持ってのオーバーキルで見事に勝利! 絶対魔獣戦線バビロニア! 今日も青組による見事な防衛、見事な玉入れを終えました! 我らがウルク軍の勝利です!

 

 

 では、続きまして次のプログラムは勝鬨と軍歌の合唱になります。実況は銀嶺隊隊長船坂 華奈と」

 

 

 「銀嶺隊所属、ヤマジ隊250人将ゲンイチロウでお送りしました。皆様ごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・ということで、これが戦況報告の映像記録と粘土板です」

 

 

 「フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! っははははははははははは!!! あの魔獣の群れを運動会のプログラム感覚で仕留めるでないわ! 全く持って現時点では比類なき功績であるぞ銀狼に嵐の勇者よ!」

 

 

 「いやーお陰で肩が熱くて。アイシング中で申し訳ない」

 

 

 「ふっ・・・くく・・・い、いえ・・・私には文字通りウルクの英雄として、そして三女神同盟にも大きな痛手とは思います」

 

 

 無事に戦闘も終わり、あのエルキドゥのそっくりさん? と魔獣の女神も動いてくることはなく戦況報告に行けばお二人揃って大爆笑。いやー頑張った甲斐がありますね。

 

 

 ロマニ様の報告と探知いわくあれがまだまだ10倍以上備えていて、数も増えているようですがそれでもこの猛攻の成果はあったようで。

 

 

 「ふん・・・しかし、この一日の猛攻、負傷者もなく乗り切ったのは大きい。その1日分の猶予で生まれた兵力を回せる。が、同時に魔獣の女神とその子は襲い来るだろう。銀狼。無闇矢鱈と煽ったのはそれも見越してか?」

 

 

 「ええ。私でも出る杭、戦場で目立つ、危険な存在は優先して討つ。動くでしょうし、明日にはわたしも前に出ます。銀嶺帯の方も1000名を出そうかと」

 

 

 ただしまあ、当然この被害は女神がすぐに埋め合わせるように誕生させたとしても城壁を突破できないとわかればその存在を叩くべきと腰を上げるはず。

 

 

 そこで倒せずとも、打撃を与えて三女神同盟で一番活発な戦力を鈍らせることが出来ればこっちが前に出ることができる。女神の陣営に打って出て対処に動けるとかんがえている。それはギルガメッシュ様も考えているようで。

 

 

 「・・・ふむ・・・ガウェイン、ストーム3、ストーム4もいれば問題ないか?」

 

 

 「そこにストーム、ストーム2。つまりはストームチームと、私とガウェイン様のコンビでなら」

 

 

 「よかろう! ならばいますぐにでも城壁側に向かい魔獣の女神及びその子等に備える意味でも待機しつつ休憩せよ!」

 

 

 「ハッ!」

 

 

 「イェッサー!」

 

 

 とりあえず、決定打になるかは不明ですが、今夜か明日にでも大きな動きを起こせるであろう戦いが出来そうです。何方かだけでも手傷を与えれば、はてさて・・・どう動く?




 EDFシリーズで人理修復をするのなら運動会、もといかんしゃく玉回は必須だよなあ!? ってことでようやくできました。いやー書いていてかんがえたりしましたが楽しかった。


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迫真お使い部。初めてのお買い物

 疲れた。






 華奈「マシュ。これを渡しておきます。マーリン。あとで元様と相談して、必要なら使いどきを間違えずに。ですよ?」


 マシュ「はい? え・・・こ、これを・・・良いのですか!?」


 マーリン「おやおや、また変わったものをいつの間に」


 華奈「ええ、使い道は恐らく賢王様と元様が示してくれるでしょう。そして、ふふふ。今までの旅路の成果の一つです。では、私はこれで」


 「来たか雑種共」

 

 

 「はい。しかし、王からの直々の呼び出しとは・・・」

 

 

 「ええ。私達はまだ依頼を多くはこなしていないのですが・・・」

 

 

 「ふん。貴様らの存在が必要になったゆえよ。こうして呼び出される名誉は嵐の戦士たちと銀狼が引き寄せたもの。感謝しろ」

 

 

 いつも通り元気そうな賢王様。しかし、ストームチームと華奈さんが引き寄せたもの。となるとこの前の大暴走運動会のかんしゃく玉玉入れ大会くらいしか思い浮かばないが・・・?

 

 

 「三女神同盟の性質はある程度知れている。そして、そのうち二つの同行は現在知れている。ウル市、エリドゥ市を緑で覆った女神はいたずらに市民を手にかけず、そしてこのウルクへの侵攻もしない。銀狼との縁があるようだが、それを差し引いても顕示欲を示さず、必要なときに必要な札を使い無闇矢鱈に暴れない。完成度の高く冷静な女神よ。

 

 

 そして、もう一つ魔獣の女神はおそらく今日北壁に姿を表す。昨日のあの大暴れで魔獣共を散々に追い払ったのだ。今まで常に城壁の側で守る他なかった我らが魔獣で埋め尽くされた大地を取り戻す。その失われた尊厳を取り戻すために。な。で、まあ。そうなると現在の三女神同盟の中で一つ手を付けやすい女神がいる」

 

 

 「イシュタル神。ですか?」

 

 

 「そうだ雑種。絶賛今も自分の土地、都市を貶めている駄女神だが、此奴は三女神の中で唯一拠点が正確にわかり、かつウルクに自在に来れる存在。

 

 

 南の女神は動かず、北壁の魔獣の女神はまず銀狼と嵐の勇者たちを狙う。その間に一柱を攻略する。貴様らに女神イシュタルの攻略を命ずる」

 

 

 「「「「「!!!」」」」」

 

 

 皆が驚く。そうだろう。まさかの三女神。しかも地元の女神イシュタルを攻略するなんて。これには驚くけど、すぐに思考を巡らせてなるほどと笑みを浮かべていたのは元さんだった。

 

 

 「お待ち下さい王。女神イシュタル様を倒すというのですか? それは承伏出来ません。いかに被害を広げようともあの方はウルクの都市神。それに矛を向けるなど・・・」

 

 

 「じゃあ、倒さずに引き抜くというのはどうでしょう?」

 

 

 「ほう。なかなか鋭いな。雑種。名前をなんという」

 

 

 「元です。源 元」

 

 

 「覚えておこう。そしてシドゥリ。そういうことよ。そして、あやつはウルクを離れたとはいえこの都市を諦めきれておらなんだ。その証拠に今までの爆撃の対象。狙いは魔獣を狙っていた。

 

 

 三女神同盟と言いつつも、その実ウルクの守りをシていたというわけよ。難儀な女だ」

 

 

 まさかの情報と、そして攻略方法に僕らは呆気にとられるが、なるほど。三女神同盟としてこのウルクを攻めつつも、まだウルクへの愛は残っていたと。そこにつけ込んで引き抜く。

 

 

 「そして、我は面倒なのでな。引き抜いて仲間にした後の猛獣使いは元。貴様に任せよう。あやつの戦力は期待せぬが、やつの従属下にある神獣グガランナ。一瞬で都市を滅ぼす焦土兵器。あれが必要になる事態はかならず来る。そうなる前にここに引き入れ、銀狼のもとで管理させる。

 

 

 魔獣は愚か祭神、妖精、女神の血を引く魔女、魔の守護竜と心を通わせ、友に、仲間に、家族にしてきたアイツなら最強の神獣の真価を引き上げさせるのも可能と言える」

 

 

 「なるほどね。確かにヴォーティガーンやケルヌンノスとも仲良しになった華奈ならその神獣を早いうちから引き合わせて仲良くするのは良いアイデアだし、イシュタルを引き抜けば防衛戦力も潤沢。三女神同盟にも穴が開く。最高の一手じゃないか王様!」

 

 

 「・・・しかし、ギルガメッシュ王。貴方とイシュタルは何度も戦った間柄。仲間に引き入れたとして、大丈夫なのでしょうか?」

 

 

 「だからこそ元に手綱を引かせるのよ。我のもとに来るのは力の限り拒否するだろうが、こいつらなら問題なかろう。まあ、アイツを懐にいれる時点で蓋のしてない瓶を荷台に乗せるようなものだが・・・とりあえず、具体的な内容を教える。いいかお前ら。イシュタルはな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後に、一通り話を聞いてその引き込みのための用意を済ませて僕らは出発。華奈さんからも使っていいよということで銀嶺隊の馬と猪を30頭ほど借りて荷車と僕らを乗せて進んでもらう。

 

 

 「ああ、そうだ皆。良ければだけど、今から行く目的地のエビフ山。そこに行く前に小休止の時間を一つ挟みたいんだ。マシュ。あれをだしてもらって良い?」

 

 

 「はい。元さん。これですね」

 

 

 そう言ってマシュは盾の裏から取り出すのは赤い液体がはいった小瓶。

 

 

 「む・・・魔性の、いえ、女神? の血・・・ですか?」

 

 

 「ええ。ニトクリスさん。これは英霊メドゥーサの血液。を加工したものです。お母さんが第三特異点オケアノスでヘラクレスを討伐する際にも利用したものでして」

 

 

 「っっ・・・マシュさん。それを・・・華奈さんはどうやって?」

 

 

 「お母さんに聞いたんですが、なんでも温泉で出会ったメドゥーサさんに大量の本とお酒と交換で献血を頼んだそうでして。良い時間だったと言っていましたよ?」

 

 

 思えば、アークにヘラクレスを触れさせず、魔獣の毒を用いる。その応用で対処するってあたりは本当に華奈さんの備えの考えがよくわかった経験だったなあ。

 

 

 アナちゃんはなにか不穏な空気を出していたけど、交渉したうえで手にしたものだとわかればほっと息を吐く。

 

 

 「なるほど。でも、これをどうするんです? イシュタルに使うとでも?」

 

 

 「いやいや。アナ。これは確かにメドゥーサの、あのあらゆる毒の生物を生み出したという伝承の毒性もある。が、華奈が出会ったメドゥーサは恐らく女神の顔がある状態だ。毒性もはっきり言ってある程度の毒耐性のある英霊には効果がないし、ましてや神霊のイシュタルには効かない」

 

 

 「ただ、その力を一つ引き出せるようにしているのでそれを使おうかなって。華奈も多分、いや、本来はこっちの使い方を想定していないだろうけど、確実さを求めてこっちに渡したのかも?」

 

 

 「?? 話が見えてきませんねえ・・・」

 

 

 ニトクリスさんもだけど、僕もわからない。多分話の中身というか、この血液を元にした液体? の真価はもう少し先になりそうだ。

 

 

 「ブモブモ」

 

 

 「ブルル」

 

 

 そうこうしていると、馬やイノシシたちが足を早めていき、その様子と反応を見ると魔獣たちが追いかけてきている。

 

 

 「元さん!」

 

 

 「うん! ニトクリス。三人でまずは狙撃で数を減らしていこう! アナちゃんは荷車を守りつつ無理はしないでね!」

 

 

 「・・・はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よーしよしよし・・・これで用意はできた。これで・・・ほんの少しまた確率が上がった。と思う・・・どうだろう?」

 

 

 「いやいや。これは面白いものを作ったと思うよ。現代でもお目にかかる機会はちょっと少ないかもね。さて・・・いざエビフ山に登山だ」

 

 

 「なるほど・・・これは確かに。同時に、銀狼殿ができる限り残していたのも納得です」

 

 

 元さんとマシュの言っていた用意も、マーリンの手助けもあって無事に完成し、エビフ山へと登っていく僕ら。

 

 

 道中の魔獣も最初に遠距離射撃とニトクリスの神々の使い魔での攻撃で数を減らしたり消耗したあとに攻撃という連携は通用していて、道中の妨害も難なく突破できた。

 

 

 「さて。ここからはいよいよ女神のお膝元。基本拠地と言ってもいい。魔獣はこないだろうが、イシュタルの護衛はいる。気をつけていこう」

 

 

 そして移動途中はマーリンからのこのエビフ山とイシュタルの神話。同時にイシュタルは戦いに関係する神性を持つ女神でもあること。

 

 

 この女神がいればウルクの民も活気づくし、今戦っているはずの華奈さん達が勝っても負けてもその加入は追い風となる。と説明してくれた。

 

 

 今起こっている戦いに女神たちの視線が釘付けになっている間にその一人が協力する姿勢を見せればなにかいい流れが起きるはず。

 

 

 道中襲ってきた嫌にセンスの悪い護衛らしき石像をしばき壊して、神殿についたんだけども・・・

 

 

 「・・・ひどい目に会いました。女神イシュタルの美的センスの壊滅的です・・・」

 

 

 「・・・ああ、ここまでひどいとはね。ほっておいても自滅するんじゃないのか彼女。モルガンやイグレーヌのほうが万倍もましな女神の一族とわかるよ」

 

 

 「皆さん・・・お気を確かに。あちらをご覧ください」

 

 

 ブリテン組が揃ってげんなりして、僕らも同じ。見たくないけど、見るしかないその神殿・・・

 

 

 金と白で彩られた神殿に、左右に鎮座する黄金の招き猫に犬っぽい何か。オジマンディアスの神殿の玉座の間は美しくきれいだったと言うのにこっちはとにかく壊滅的。俗っぽさがありすぎるものだった。

 

 

 「よし。皆帰ろう」

 

 

 「いや、うん。わたしもそう思いたいけど仕事だし、皆、もう少しだけ頑張ろう!!」

 

 

 「はぁ・・・わたしも帰りたいです同盟者」

 

 

 ニトクリスさんも同じ意見だけど、うん。元さんは引けないと言わんばかりに。多分半分やけくそ気味、残りは仕事。残った一部は多分イシュタルとまた会えるのを楽しみにしている気持ちで僕らを引っ張っていく。

 

 

 あーもー! 元さんが矢面に立って交渉してよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私の信者とはいえよくもまあそれ以外の奴らと一緒に堂々と正面から私の神殿に足を踏み入れたわね元」

 

 

 「申し訳ないですイシュタル様。ですが火急の用があって是非お話を・・・」

 

 

 「ん? んー・・・まあ、いいわ。信者からの火急のようとなればね。今行われている魔獣戦線のことで?」

 

 

 最初から戦闘態勢を整えていたイシュタルだけど、元さんが急いで五体投地をしたあとに声を出せばそこまでのことかとイシュタルも前のパピロンプレゼントのこともあってかすぐに戦意は消えてくれた。

 

 

 やっぱり魔獣戦線はそこまでの動きがあるのか。華奈さんのことが心配になるけど・・・

 

 

 「アンタのとこのあの銀髪の剣士、メッチャクチャね。パワーは女神に劣るのに、すっごい引っ掻き回しまくっていてやりたい放題よ?」

 

 

 「そ、それはなにより・・・そして、この戦いに更に勢いがほしいので是非イシュタル様のお力添えもいただければと・・・単刀直入にいえば、私達のもとに来てください!」

 

 

 どうやら華奈さんは色々どうにかして無事な様子なのと、まどろっこしい話はなしと言わんばかりにストレートに引き込みの交渉を開始。

 

 

 「はぁ? アンタの宝石はたしかに二つとも目を見張る物があったけど、あれだけじゃとても私が来るのは無理よ懐具合だって・・・」

 

 

 ここで、少し思い出すのは出発前の賢王様の話。

 

 

 

 

 『イシュタルはあれでもシュメルの女神の頂点に立つもの。イナンナとは「天の女主人」天空神アンの代理として天を治めた経験もある女神だ。力では決して屈せぬし、負けぬ。

 

 

 加えて下手に交渉の人間に天、太陽の加護を持つガウェインにアヤツに負けぬ美貌を持つ戦士の華奈、戦士の極地の一つストームチームを連れていけばエビフ山の例もある。追い詰めれば追い詰めるほど、下手に刺激するような要素を持つものであればなおさらに要らぬ根性をだして余計に難航する。それがヤツだ。

 

 

 だが、そんなイシュタルにも弱点がある。宝石の類よ。我は人類の宝すべてを収集するがあの女は宝石に目がなくてな。しかし愉快なことかつ重要なことだがあの女には黄金律というものが致命的に欠けている』

 

 

 「「ええ・・・・・」」

 

 

 まさかまさかの弱点。というか、うん。通りで元さんの持っていた宝石二つにもあの反応を見せるのかと合点がいく。それほどの宝石マニア。愛好家なんだ。

 

 

 『宝石を愛しておきながら宝石に縁が無い。今まではこのウルクの都市神に加えていくつもの女神の顔を持つゆえに人や神々から事あるごとに貢がせていたが、いまや都市神の立場を放り捨てての三女神同盟の一柱となっている。故に、人間も神々もヤツに宝を貢ぐものがいないのだ』

 

 

 「あのー・・・それは、なんというか・・・本末転倒では? この都市神であれば宝石も、聖杯も狙えたりしたはずなのにむしろ自分から遠ざかっているような」

 

 

 『だから言ったであろう。ヤツには黄金律が欠けており、宝石に縁が無いと』

 

 

 ファラオ。王様の視点でもそりゃあ自分を応援してくれる存在を手放しているんだし、しかもこの喋り用と、三女神同盟ができてこのウルクを攻めて半年。

 

 

 「もしかして、イシュタルって今は素寒貧の可能性も?」

 

 

 「まあ・・・ありえますね。私達と最初にあったときもなにか落とし物をしていたようですし」

 

 

 『そういうことよ。だから今懐も胸も寂しくなったあの女神を文字通り買収。競り落としてこい。元。貴様には我の宝物庫の宝石類三割を委ねる。このウルクの民としてありつつも異邦のものとしてこそできる難行。女神を競り落として我らがウルクの守りに加えてこい。

 

 

 さすれば貴様らの名前くらいは覚えて、使う価値があると認めようではないか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ニトクリス。マシュ。お願いして良い?」

 

 

 「ええ。同じ天空の神としてもある女神イシュタル。我が化身。天空の神ホルスとしても約束します。この宝石は文字通り物が違う最高のもの」

 

 

 「はい。では。こちらを」

 

 

 ニトクリスさんとマシュの二人が荷車を馬たちと引いてきて中身を見せる。

 

 

 「な、なななな・・・何そのに台いっぱいのラピス・ラズリは!? 冠!? もしかして七石の冠もない!? しかも黄金の冠に、うそ! 七星剣まで!? これだけあれば魔術用の宝石にも困らない・・・え、嘘、くれるのこれを!? 神か!?」

 

 

 女神様から神様呼ばわりされるほどの宝石たち。というかしれっと中国の宝物もあるような気がするけど・・・まあ、いいのかなあ?

 

 

 「途中で嘘です。なんて言わないわよね? あとこれ、もちろん非課税で良いんでしょうね!?」

 

 

 ・・・むしろ税を課す側な気がするんだけどそこを気にするあたり何かあるのかな? 本当に妙なところで現代っぽいぞこの女神。

 

 

 「あわわ。目がくらくらしてきた。落ち着け私。落ち着けイシュタル!」

 

 

 「ええ。この荷台の宝石、宝物はすべて手付金。いわば女神イシュタルとの交渉につく際の手付金ということです。なのでこれは問題なくすべて差し上げます。そして、同盟者」

 

 

 「ニトクリスの言う通り、これはまずこの話を聞いてくれる手付金。そして」

 

 

 「その依頼内容。いや、女神である君に頼みたいのは頼れる戦力として、都市神として雇いたい。これはすべてのウルクの民の願いだそうだ。その証拠に、ギルガメッシュ王はバビロンの蔵を開放すると約束した」

 

 

 「それに比べれば小さなものですがカルデアからも私達の気持ちとして更に宝石を用意させていただきましたよ」

 

 

 そう。ギルガメッシュ王の方からだけではなく今回はカルデアの方からも追加の宝石を用意することが出来た。目を白黒させるイシュタルに元さんが柔和な笑顔を浮かべたままはっきりと伝える。

 

 

 「宝物庫の宝石類1割を献上、加えてカルデアからもこちらを差し上げたいと思います」

 

 

 そう言って荷車のもう一つを持ってきて覆いを外して見せていく中身

 

 

 「なん・・・だと・・・!? ほ、宝石サンゴ!? しかもこの美しさに大きさ、形状! お母様の海でもそうそう取れないほどのとんでもない一品! まるで一つの大杯のようなものまで!? うそ、元あんたこんなにやばいお金持ちだったの!!? ほ、宝石の花!? 花冠に、腕輪、そして・・・花束。す・・・すごすぎる・・・!!」

 

 

 まあ、これらはほぼ即席で用意したものではある。というのも、メドゥーサの逸話で首から切り落とされた血が大地に広がりその血から無数の毒虫や毒蛇が生まれたという話の他にその赤い血がサンゴになったという話。

 

 

 これが宝石珊瑚だったりとか言われるようで、華奈さんはそれをアンナさんに頼んで方向性を調整。その血液を大地に垂らせば宝石サンゴを生み出したり何かを媒介に宝石にできるようにしたようで、歩くたびに足元に花が乱れ咲くマーリンの生成? した花も道中で加工してから宝石に変化させることで数々の宝石の工芸品を用意したというわけだ。

 

 

 なのでどれも神代の魔力や美しさ、輝きを持つものになっているので宝石に目がない。つまり宝石眼が肥えているイシュタルにも認められる品々となったようだ。

 

 

 「フォウ、フォウ、ドフォーウ!!(ちょろいなこの女神!)」

 

 

 「フォウ。落ち着いて言いたいことはわかるけど、ここは静かに」

 

 

 「う、うーん・・・たしかにこれはすごいわ。でも、アンタたちカルデアの方はまあ、いいわ。だけどギルガメッシュの方よ。バビロンの宝物庫と言ってもあれでしょ? アイツが未来に向けて作っているやつ。完成すれば底なしだとかその時の人類の総資産が入っているとかいう触れ込みのあれ。

 

 

 それの1割? そんな量。ちょっと眉唾もの過ぎて信じられないっていうか」

 

 

 「じゃあ、2割5分では?」

 

 

 「まだ上がるの!? しかも2割5分ってつまりは25%!!?」

 

 

 「ええ。それに加えて、異邦の地カルデアのこの宝石の数々も一緒に」

 

 

 一気に2倍異常の値段をぶつけられてまたもや目ん玉が飛び出そうになるほどに驚くイシュタル。そして再度ちらつかせる海で取れる宝石と花の宝石の数々。

 

 

 「う、ぐ・・・で、でも私は女神イシュタル・・・そんな浅ましい条件で・・・」

 

 

 「そうですか・・・我々も用意できるものをこの戦時下の中で用意したつもりですが・・・手付金以外はマシュ、ニトクリス。全部荷台を下げて。残りは持ち帰りましょう。カルデアの宝石の一部はニトクリスに」

 

 

 「ええ。それに、華奈さんたちの勝報を聞いてこれを恩賞にあげるのもいいかと」

 

 

 そう言って荷車に布をかぶせて大事そうに神殿からだしていこうとすればイシュタルはいよいよ涙目に。

 

 

 「あ、止めて。それ止めて。そういうことしないで。悲しすぎて死にそうだから」

 

 

 「では、そろそろご決断を。女神イシュタル。ウルクの民の総意とカルデアの財貨を用いての願いと契約。いかがしますか」

 

 

 「それにですが女神イシュタル。貴方がたが人類を滅ぼせば今後の信者も、貴女の美しさや偉業を称える者がいなくなります。苦しい中でこそ与えられる助けや恩は大きなもの。

 

 

 こういうときにこそ助けての女神であり、その後称えられる神話の逸話に、都市神である貴女に来る捧げ物も、きっと長い目で見れば今私たちが持ってきている宝石を超えるほどに来るかも知れませんよ?」

 

 

 ニトクリスさんの最後の一押しがさくりとイシュタルの心に刺さったようで、頭を抱えてもんどり打ったあとに。

 

 

 「・・・・・・・・・」

 

 

 長考し始めた。いや、悩んでいるというのかな? 女神のプライドと、都市神として称えられながら宝石を受け取りつつ凱旋するか。

 

 

 チラッチラッと宝石を見つつも、どこか違う場所を見るのは多分北壁の魔獣戦線のほうだろう。

 

 

 実に二分間位の間考えた結果。

 

 

 「・・・よし! そういうことなら良しとしましょうか! 貴方の勝ちよ元。その条件であなたの味方になってあげる。なにせ今世界が七度滅ぶくらいには全力で葛藤したし、それくらい悩めばいいかなって」

 

 

 「有難うございます女神イシュタル!」

 

 

 「あ、イシュタルでいいわ。あれだけの宝石をくれて、多分本来はギルガメッシュだけの分をここまでくれたんだもの。ちゃんとその分は無礼を許してあげる」

 

 

 「ほっ・・・一山越えましたね。見事です同盟者。そしてお願いしますイシュタル神」

 

 

 「女神イシュタル・・・! では、ウルクのために戦ってくれるのですね!」

 

 

 「二人もイシュタルでいいわよニトクリス、マシュ。長い付き合いになりそうだし、ニトクリスの場合は私に近しい部分もあるしね? じゃ、元。まずは跪いて私の足の甲にキスをしてくれる?」

 

 

 無事に契約成立。そしてここまで心を許してくれるとなれば本当に頼もしい。三女神の一角が来てくれた。これは嬉しすぎる。

 

 

 のだけどいきなりの頼みごとに一同ポカン。

 

 

 「な、何故ですイシュタル?」

 

 

 「え? あー私一応神霊、神格だけどサーヴァントの術式がはいっていて。人間の味方をするのならちゃんと契約したいじゃない? ましてやウルクの宝物、宝石に負けない物を捧げ続けた男だもの。しっかりと。ね♪」

 

 

 「ははは・・・なるほどこれは大変な契約だ。覚悟を決めて、では・・・」

 

 

 「ま、待ちなさい同盟者にイシュタル! その契約はまだ私と同盟者でもしていないのでするのなら私と!」

 

 

 「おおっと修羅場になりそうだ。皆一度ここは神殿を出よう。あ、その前にしっかりと荷車は神殿の中に全部押し込んでね」

 

 

 とりあえず女、女神同士のいざこざはおいておいて、うん。せっかく運んできた宝石が壊れなければ良いなあとだけ思っておこう。




 華奈が魔獣戦線で戦っている合間のウルク。まあ、賢王が使える戦力で元気ならこのチャンスの間に遊ばせるわけはないよねえと。


 あとエビフ山に移動中に元が言っていた本来の使い方。は魔獣、毒虫を生み出す伝承の方を利用して魔獣戦線で魔獣の死骸も触媒にして強力な魔獣の軍をだして魔獣同士で戦わせるという考え方の方を指しています。


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華奈こわれる

 今回ひどいことになるかも。まずキングゥファンには最初にごめんなさい。


 「ガウェイン様。あのエルキドゥ? 相手に時間稼ぎはどれくらい出来ますか」

 

 

 「ふむ・・・5分。ですね。ダメージの方も狙えますが、流石に周りの魔獣が邪魔しますし、皆様にも迷惑をかけたくないです」

 

 

 「ええ。守備に置いては連携が第一。穴を開けられると危ないですし勝負は一瞬。千年以上ぶりの戦というのにいい判断です」

 

 

 夜明けを見つつ茶をしばいて城壁の上から襲い来る魔獣の群れ。そこの中でも特に目立つ緑髪の・・・まあ、美少年でいいですか。エルキドゥ?

 

 

 あれに一か八かな賭けですが、使いたい物を使うために皆様に頼んで少しの間守備陣地を抜けての切り合いの許可をいただきました。

 

 

 「ありがとうございます。そして、平行世界とはいえ、獅子王の円卓のことは聞きました・・・同時に、あそこの私や皆様の気持ちも理解できる。だからこそ、魅せつけたいのです先生。私と先生が、カルデアが組めばかの英雄王が認めた意思を持つ神創兵器。偉大なる戦士と同じ強さを持つ相手にも策を撃てるとまず見せましょう」

 

 

 「ええ。ですが逸らずに。いいですか?」

 

 

 「「天使のように繊細に、悪魔のように大胆に」」

 

 

 幼い頃から教えていた言葉。ふふふ。本当に変わらない。愛しい一番弟子です・・・

 

 

 城壁から飛び降りて逆茂木から出て待ち構える。

 

 

 

 「おや、逃げ足は一級の女に、頑丈だけの騎士。旧式二人で僕に挑むのかい?」

 

 

 「ですねえー貴方の強さはわかった。そして、本腰を上げてきた女神の先鋒。勢いをくじかせてもらいましょう」

 

 

 「そういうことです。さあ、旧式二人相手に袋叩きをするためにもう少し話しますか? それとも、新型の、神代の最強兵器の性能を皆様に見せつけるので?」

 

 

 この挑発に相手の方もピクリと眉を上げたあとに残虐な笑顔を見せた。いやはや、美人が怒ると怖いものです。

 

 

 「いいだろう。その挑発に乗ってやる。それに、あのムカつく実況? も潰せればその分悲鳴も大きく響いてくれそうだしね!」

 

 

 「行きますよ、ガウェイン様!」

 

 

 「ええ、先生!」

 

 

 さぁ、いざ勝負。魔獣の群れがぶつかるまでの時間がリミット!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぅーむ・・・まるで牛若丸様の戦いのよう・・・いや、あれ以上?」

 

 

 「おい。その舌を切る・・・と、言いたいが、うむ。華奈殿の剣技は美しい。そして、ガウェイン殿の剣戟と合わせてまるで舞を踊っているようだ」

 

 

 このヌリカベの言うことなので少し癪だが事実だ。華奈殿の剣戟はまるで天狗のように、あるいは浮雲のようにふわふわと舞い、相手の剣戟を交わし、受け流しつつも、時に瀑布のような鋭く思い一撃を放り込む。

 

 

 必要な動き以外はできる限り真っ向からは受けない我流の気質なれどその分雲のように千変万化の剣。それでいて美しい。

 

 

 そこに合わせるはガウェイン殿の剛剣。いや、剛よりの柔も交えた剣術と言っていいだろう。あの剛力と炎熱をまとう剣でエルキドゥを騙るものに攻撃をし、回避に関してはその豪快な力とは裏腹に華奈殿を思わせる防御の剣術や立ち回りを使う。

 

 

 地面から飛び出る無数の矢玉、エルキドゥを騙るものの手のひらから飛び出る無数の刃のついた鎖すらも受け流し、拘束をさせずに師弟揃って攻撃を叩き込む。

 

 

 「ほっ。ガウェイン様」

 

 

 「はいさ!」

 

 

 かと思えば華奈殿が腕を組んでそれを足場にガウェイン殿が上空に跳んで炎をまとった斬撃を連続で飛ばしたり。

 

 

 「ターン、からのステップ」

 

 

 「一旦離れて、挟み撃ち!」

 

 

 手を組んで二人一組の踊りで避けて左右からの攻撃。踊りながら闘うというのはこのことかと戦場の誰もが目を奪われそうになる。

 

 

 「皆のもの! 盾を構え! 城壁のストーム3,4の皆さんは華奈殿たちが戻り次第急いで迎撃準備を!」

 

 

 しかし、その時間も長くない。単騎で急接近してきたあのエルキドゥもどきに追いつく形で昨日よりも多い数の魔獣が来ている。あれにも対処をしなければいけないが、少なくてもそれは華奈殿とガウェイン殿の二人が引いてからだ。

 

 

「ちっ! チョロチョロと!」

 

 

 「パワーもスピードもわたしより上。攻撃範囲もスゴイ。でも、その攻撃は見抜きました。はぁっ!」

 

 

 華奈殿がエルキドゥもどきの攻撃をかいくぐり、横腹にオレンジ色の三角錐を突き刺す。

 

 

 「エキス注入!」

 

 

 「くっ! 離れろ! 毒・・・でもない。何をした!?」

 

 

 その後はエルキドゥもどきに距離を取られるが、どうやら毒でもない様子。む? 華奈殿は一体何を?

 

 

 「さぁーわたしもよくわからない。賭けですね」

 

 

 「・・・うん。異常はない。なんだ、ただの虚仮威しか。それならその御礼として君たちをスクラップにしてあげよう!」

 

 

 エルキドゥもどきはそのまま反撃の攻撃として地面に手を当ててまた刃の雨を飛ばそうとしていくが、なんでか飛んでくるのは納豆。

 

 

 「!? な、何だこの臭い豆は!? こんなのだした覚えはない!」

 

 

 「隙あり!」

 

 

 「ぐはぁっ!!?」

 

 

 「・・・・先生。とんでもないものを用意しましたね」

 

 

 ガウェイン殿の攻撃がエルキドゥもどきの体を一部切りつけ、とっさに対処するもふっとばされるエルキドゥもどき。

 

 

 何人もの戦士を不思議な方法とはいえ、対処してみせたこの二人に喝采が沸くが、これを楽しんでいる余裕はない。

 

 

 「城壁部隊! 攻撃開始! 華奈殿、ガウェイン殿の周りを支援しつつ二人の帰る道を作りつつ魔獣たちを近寄せるな!」

 

 

 時間切れ。魔獣の群れたちが襲い来るので急いで城壁からの攻撃を開始。銀嶺隊、ストーム4、ちびノブ、ウルクの兵士たちの雨あられの攻撃に、ストーム3のガトリングガンやフラッシングスピアで削りつつ全体の防御はレオニダス殿に任せる。

 

 

 「エルキドゥもどき。そのエキスは毒ではないので死ぬわけではないです。ただ、アルプスの水の妖精の首領パッチというやつと思考がおなじになるだけです。ただ、まあエルキドゥ様と同じ事ができるのなら数日くらい後に効果を抜けきれるかも?」

 

 

 なんでだろうか。先程の納豆が飛んでしまうこともだが、それは凌辱や死よりも恐怖となるものだと何かが訴えている。華奈殿には喧嘩を売らないでおこうとこの牛若丸肝に銘じておこう。

 

 

 「妖精と同じ思考になるだと? 僕は正常だ!」

 

 

 先程の攻撃はなにかの偶然だと攻撃規模を更に広げるエルキドゥもどきだが、出てきたのは麦酒、馬鹿な顔をした胸像、ちくわ。

 

 

 「明らかに異常だー!!」

 

 

 そしてその生み出した粘土の生産物の攻撃はなんでか弁慶に。

 

 

 「おぶっ!?」

 

 

 「弁慶殿ー!」

 

 

 「いいぞもっとやれ!」

 

 

 ははははははははは!! ここまで愉快なことは初めてだ! あんなふうにあの王の全盛期と同じ強さを持つ戦士のまがい物を封殺するとは!! これが華奈殿か! なるほどあのガウェイン殿の師匠。滅茶苦茶だ!

 

 

 「くそっ! それなら肉弾戦で!」

 

 

 「それならこのガウェインがお相手しましょう! 居合い切りボンバー!!」

 

 

 「おぶっ!」

 

 

 もはや大地や自分の体を武器に変えるのは無理だと判断してその持ち前の肉体で圧倒しようとしてきたエルキドゥもどきですがそこはガウェイン殿の、太陽のもとでは夜でもあのとんでもない馬鹿力を誇る力が更に三倍。

 

 

 その太い腕ででの薙ぎ払いは見事エルキドゥもどきの首を捕らえて魔獣の群れを十数匹巻き込みながらふっ飛ばしていく。

 

 

 「皆のもの! お二人に負けることなく眼の前の魔獣を打ち殺せ! でないと手柄を取られるぞ!」

 

 

 「「「おぉおー!!」」」

 

 

 撤退してくる華奈殿とガウェイン殿と入れ替わるように兵士たちで防陣を再度固め、魔獣たちを押し留めている間にやりで突き殺し、城壁からの支援で仕留める。

 

 

 エルキドゥもどきは華奈殿の言葉が確かなら数日はアイツはあの頓痴気な状況で強みの1つを封じられている。魔獣もストームチームなら他愛ない相手。

 

 

 このまま押し切るぞ!

 

 

 「む・・・これは・・・来ましたか」

 

 

 「タイミング的にはありがたいです。同時に相手したらまず勝てない相手ですよあれは」

 

 

 華奈殿が自分の首にあの三角錐をブスリと指しつつ、見ている方向を見ると大地を鳴らすほどの巨体と膂力、鱗をもつ。大蛇のようなもの・・・

 

 

 「あ、あれは・・・あれはティアマト神だ! ・・・ひッ・・・う、牛若丸様! 撤退を! あれは、あれは敵う相手ではないです!」

 

 

 「ぐっ! 尾を払うだけでこの風圧とは・・・! 牛若丸様、お下がりを!」

 

 

 弁慶に引かれつつも、その威容はなるほど、魔獣の女神と呼ぶにふさわしい。黄金の鱗に黒い腹の巨大な尾、黄金の翼に紫色? の髪は先端が無数の蛇に変化しており、赤く鋭い瞳は魔性のもの。金と黒に彩られたその鎧と、美貌は女神と呼ぶにふさわしいがその体躯も尻尾ほどではないが十分に巨人の領域。

 

 

 「あれが魔獣の女神・・・ティアマト神か!」

 

 

 「騒がしいな、人間ども。人類の怨敵『三女神同盟』が首魁。貴様らが魔獣の女神と恐れた怪物。百獣母神ティアマトが姿を見せたのだ。平伏し、祈りを捧げるべきだろう?」

 

 

 「あいにくと八百万信仰ですがここまでひどいことを現在進行系で行う女神はお断りです。ウルクへも立入禁止で」

 

 

 「ええ。それに、なにがティアマトか。貴女は別の女神。いや怪物でしょう?」

 

 

 あの威圧感、巨躯にも全く怯むことなくティアマトの前に立ちはだかる華奈殿とガウェイン殿。先程のエルキドゥもどきとは体格差も、女神故の権能もあるであろう相手というのに怯えすらない。

 

 

 「ご機嫌麗しゅう母上。そして申し訳ありません。眼の前の銀髪の騎士に私の機能が封じられ、露払いを遂行できずに・・・再生の日まで大事に使うべきお体をこの様な場に来てくださったというのに」

 

 

 「なに、流石にあの事態は捨て置けぬ。それに我が子を勝手に弄った相手への罰を与え、魔獣を退けた愚か者への神罰を下すためにも必要なことよ。

 

 

 そして・・・目の前の女がそうか? カルデアの生き残りとアヴァロンの戦士。今持って人間の世にしがみつく虫とは」

 

 

 「ええ・・・そして、魔獣を、貴女の子をお遊び感覚で滅ぼした一角です」

 

 

 「ふむ・・・ならば、石にしてみようか。・・・魔と共にあった白銀の勇者。銀狼の彫像であれば我が神殿に飾る価値はありそうだ」

 

 

 全く好き放題言ってくれる。こちらもまだ戦意は衰えていないというのに! 前に出ようとする私を、手で制するのは華奈殿。あれに二人でいいというのか?

 

 

 そして、よく見ると華奈殿の装いが変わっていた。銀と木、布で作られた白銀の狼の鎧はいつの間にか純白の革の、当世で言うところのジャケット? に変わっていて、背中には大きな文字で『HAJIKE』と狼の模様。頭にはハンチングキャップを被っている。

 

 

 「ほほう。石化の魔眼ですかあ。貴女、ゴルゴーンですね? 全くティアマトを騙るとは・・・己の名前に嫌気が差して使わないんで?」

 

 

 「言うではないか貴様・・・! ならば、その勇者として散らせてやろうではないか! 王も、竜も、魔も認めし戦士よ!!」

 

 

 そういってティアマト。いや、ゴルゴーンは華奈殿に魔眼を向ける。

 

 

 「っ!」

 

 

 「先生!」

 

 

 「うわぁあ~~!!いちごになっちゃうよぉおお!!!」

 

 

 しかし、石像、彫像になるのではなくてなんでか真っ赤な美味しそうな果実に変身していく華奈殿。

 

 

 「なんで!!?」

 

 

 これには思わずゴルゴーンもツッコミを入れるというもの。いやそうだ。魔眼で本来の形にならない。女神のそれでこうなるとは!?

 

 

 「ええい! ならばもう一度!」

 

 

 「おわぁああああ~~~~!! なんのぉおお!! 元に戻れ元に戻れ元にもどれ!」

 

 

 流石に女神もこの不可解さにはもう一度魔眼を使うも、華奈殿が気合で念じると・・・・・・

 

 

 「いよっしゃーもとに戻りました!」

 

 

 巨大な要塞となってゴルゴーンや魔獣に砲撃を開始し始めた。いやだからなんで!!?

 

 

 「あ、あれは無敵要塞ザイガス!」

 

 

 「なぬ! 無敵要塞ですと!?」

 

 

 目の前でゴルゴーン相手に砲撃を持って攻撃をし対応している華奈殿? ザイガス? を見て驚くガウェイン殿に、無敵要塞と聞いて思わず聞き耳を立てるレオニダス殿。

 

 

 「ええ。万人とて突破を許さぬ堅牢無比な要塞。ある妖精の所有物ですが・・・凄まじい」

 

 

 「ぬぅううう!! 何なのだ貴様! まるで意味がわからぬぞ!!」

 

 

 「はははははは! このハジケを理解できないのであれば女神も、新たなヒトとやらもウルクには届きませんよ! そして、良いのですかねえ? 私、ザイガスだけを見ていて」

 

 

 「な、・・・おごっぉおお!!?」

 

 

 ぽふん。と人の姿に戻った華奈殿の言葉と同時に空から降ってきてゴルゴーンの後頭部に直撃する二足歩行の巨大なへんてこな兵器。

 

 

 「プロテウスの最新バージョン。プロテウスシグマ。届けましたよストーム2!」

 

 

 「よぉーし! ストーム2乗り込め! 反撃開始だ!」

 

 

 そこにストーム2のメンバー4人が入り込んで機動。その片方の砲門から放たれる光線にもう片方は砲撃。その威力の連射速度に更にミサイルや何やら小箱からも光線が雨あられとなって光線と砲撃の雨あられ。

 

 

 ゴルゴーンは愚か魔獣たちさえも抑え込むその鋼鉄の異形の巨人が女神を抑え込んでいるこの光景は先程まで絶望で覆われていた戦士たちも奮い立つ。

 

 

 「ぐぐぅう・・・! おのれぇ!」

 

 

 「ぐぅっ! なんて一撃だ! だが、EDFの武装はタフだぞ!」

 

 

 「大尉様たちに遊んでいて良いんですかねえ? 目的は私でしょうが! 喰らえハジケ攻撃、ウルク版清姫伝説!」

 

 

 巨大な尾でプロテウスなる巨人を吹っ飛ばすもそれではまだまだ壊れないようで砲撃は続けられる。その間に華奈殿がさらなる攻撃。いや、清姫伝説ってもしや?

 

 

 再び空から降り注ぐ巨大な釣り鐘。それがゴルゴーンの体をすっぽりと入ってゴォーんと鐘の音がウルクに響く。

 

 

 「ぬぐぅうおぉおお!!!?」

 

 

 「そしてぇ! カネのなる木! 妖精さん印!」

 

 

 「先生! それ鐘違いです!」

 

 

 自分の声が反響して更にうるさくなってゴルゴーンに響くという悪循環をしつつ、更に地面に種を植えれば魔獣の死骸を栄養に育つ大樹に鈴なりの鐘。金ではないのですか!?

 

 

 「そぉーら! そのまま除夜の鐘突きです! 煩悩退散! 煩悩退散! 煩悩退散!!!」

 

 

 ゴルゴーンの体にかぶせた鐘を深山と大樹を支えに少し釣り上げてから作った足場でボルケーンハンマーZDを振るい豪快な鐘撞き。爆音と鐘の音が無数にゴルゴーンの頭を覆う釣り鐘と大樹に実る釣り鐘の音が鳴り響いてまさしく大騒音。

 

 

 「む・・・! 牛若丸様! 魔獣たちが弱っています!」

 

 

 「あ、あの鐘の音、魔獣に、いや清めの力が効いているのか!? い、今のうちに矢玉を打ち込め! チャンスだぞ!」

 

 

 「おわぁああああーーーー!!」

 

 

 「って華奈さんも効いているようですが!?」

 

 

 「あの人魔獣部隊はいるけど本人は人ですよね!? なんで!?」

 

 

 「選手交代、今度は私が女神の煩悩を晴らしましょう! そらそらそら! 千本ノックで鍛えた、餅つきで鍛えたハンマー使いはどうですか!」

 

 

 「うぐっぉぉおおおおおおおおお!! 五月蝿い五月蝿い! いい加減に止めぬかぁああ!!」

 

 

 「ならば今度はこれで対応しましょう! エクスカリバー・ガラティーン!!」

 

 

 ならばと太陽の聖剣の熱戦、炎熱で鐘とゴルゴーンごと焼くガウェイン殿。

 

 

 「はははははははははは。はっははははは!! き、清姫の立場のはずのゴルゴーンが逆に鐘ごと焼くとはまるであべこべ! め、メッチャクチャだ! こ、これが円卓の騎士ですが! あはははははははは!!」

 

 

 三女神同盟の首魁。このウルクの偉大なる母神の名を持つ大魔性をこうも手玉に取るのか! ハジケというのは凄まじい。是非後で華奈殿に教えてもらわねば!

 

 

 「昇竜螺旋! 行きますよガウェイン様!」

 

 

 「はい、先生! この聖なる鐘で作りしは・・・女神を、魔性を封じる鉄の拘束に!」

 

 

 「「大女神アイアンヒートロック!」」

 

 

 「ぬぐぉおぉおおぉおぉあおおおお!!!?!!??」

 

 

 華奈殿が飛ぶ斬撃でボルケーンハンマーと、ガラティーンの熱で熱くなった巨大な釣り鐘をまるで皮むきのように螺旋状に斬り、それを篭手をしたガウェイン殿と華奈殿で動かして釣り鐘は巨大な、焼けた鉄の拘束具となってゴルゴーンを焼きながら縛り付けるという新技を披露。

 

 

 「は、母上! ここは一度引きましょう! 我らの敵は人類だけではなく女神も。そのために母上の体にこれ以上の負担を与えてはこれから先の計画にも支障が!」

 

 

 「く、口惜しい・・・くそ・・・この様な辱めをして・・・殺す。必ず殺すぞ銀狼! 太陽の騎士! 傷が癒えた後に、必ず八つ裂きにしてくれる!!」

 

 

 そう言って尾で体を立て直してエルキドゥもどきと一緒に撤退していくゴルゴーン。

 

 

 「勝ったのか・・・・・・あの大魔性、八岐之大蛇の如き、この大地の神々の母神を名乗れる相手を・・・・」

 

 

 「その通り! たとえ三女神同盟! 魔獣の女神であろうとも! ティアマト神であろうとも! 我らと華奈殿がいればウルクは健在である!!

 

 

 皆のもの! 英雄華奈殿とガウェイン殿へ喝采を、勝鬨をあげよ!!」

 

 

 まだ魔獣は襲い来るが、それもあの二人を見た後では大したものに思えない。それ以上にこの勝報は凄まじい気力と士気を我らにくれた。

 

 

 ああ、なるほどこれは王が銀狼と認めるのも納得だ。まさしく賢く、強く、そして我らが国では大神と言わしめる孤高でありつつも群れに優しい獣。それと美しき銀を合わせて名乗るのもわかる。

 

 

 この様な武者にあえて牛若丸は幸せです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁーモルガン様はいいものくれますね♪」

 

 

 「母上と先生に何度も『ヒロインは私のものよー!』とけんかを売っていたあの妖精のエキスとあそこまで相性がいいとは。お体は大丈夫ですか?」

 

 

 無事にゴルゴーンとエルキドゥもどきを退散させて戦果報告にウルクを歩きつつジグラットに向かう道すがらガウェイン様とのんびり談話。

 

 

 ふふふ。ハジケは私もしたかったですし、いやはやエルサレムでのあの騒ぎのストレス発散になりましたし良かったです。ただ、相当に消費はすごかったので、しようは気をつけないとですねえ。

 

 

 「ええ。ただ、あんまりにも消費が激しいので使用時間は制限をつけるべきですね」

 

 

 「ふむ。まあ、あの魔眼すらも受け流して反撃できるのはスゴイですが納得。なら、カラータイマーでも着けます? それと名前もスーパーウルフ3とか」

 

 

 「どこの光の巨人とサイヤ人ですか! うふふ。でも、そういう機能はいいかも。後で考えておきましょう」

 

 

 「本当ですか! ではでは早速後で家族会議を・・・リモートで良いんでしょうか?」

 

 

 何やら前々から変なことを考えていたようでブツブツ呟くガウェイン様。私を光の国の戦士のコスプレか防衛隊員のコスプレをさせようとしていませんかねえ?

 

 

 ジグラットの階段を歩いていると息を切らしたシドゥリ様が。

 

 

 「はぁ・・・はぁ・・・! か、華奈殿にガウェイン殿!」

 

 

 「シドゥリ様。どうなされましたか。藤丸様、元様たちに異変ですか・・・?」

 

 

 「い、いえ・・・! そういうわけではないのですが・・・その、お二人は急いで玉座の間に!」

 

 

 なにかただ事ではならない雰囲気と焦り具合に私達も先程までのゆるい空気から切り替えて臨戦態勢を整えて急いでジグラットの奥、賢王様のいる場所に。

 

 

 「賢王様! 戦果報告となにかあった・・・あれ? 賢王様は?」

 

 

 「いつもはここで政務をこなしていたはずですが・・・というよりも、この重苦しい空気は一体・・・」

 

 

 「そ、その・・・大変申し上げにくいのですが・・・私達も投影魔術によりそちらの戦いぶりを見せていただいていたのですが、それを見て大爆笑していたギルガメッシュ王が死にました・・・死因は、笑いし死にです」

 

 

 「「・・・・・・・・・ハァ!!!?」」




 はい。ということで首領パッチエキスをぶち込んだキングゥは行動不能。ついでに華奈は臨時と言うか一日3分限定でエクストラクラス「ハジケリスト(見習い)」を習得した。


 尚モルガン曰く「女神対策で敵に使うと思っていたけど予想外過ぎた。まあ、お姉様の行動を予想できないわたしも悪いのですが」とのこと。まあ華奈がアメリカでイグレーヌから首領パッチソード(長ネギ)と魔剣大根ブレード(大根)を受け取っていた時点でお察しでしょうけど。


 型月世界の湖の乙女とアルプスの天然水の妖精と縁がよくある華奈。


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冥界旅行、ガールフレンドを連れて

 前回のあらすじ


 ・華奈がエクストラクラス、ハジケリスト(見習い)を確保した


 ・華奈の中に二つのなにかが目を覚ます。


 ・賢王が笑い死んだ



 ~カルデア~


 ダ・ヴィンチちゃん「ぶふわははははははははは!! あーっはははは!! 尻尾も含めれば100メートルを超える母神の名前を名乗るギリシャ神話切手の魔獣で元女神をあんな形で対処って! なんだい無敵要塞ザイガスって!!」


 モルガン「っんっ・・・くくく。も、もうお姉様ったら・・・(すごい変化をしましたが、同時に何かを目覚めさせたようですね。ふふふ。どこまで自由なのですか)今度アイツには水晶コーラとちくわでもおごりましょうか」


 ホームズ「何なのだあれは! まるで理解できないぞ!」


 ナイチンゲール「戻ってきたら急いで精密検査ですね。全く・・・あんな効果を出すエキスなんて理解不能ですが解析しなければ」


 アルトリア(槍)「ガウェイン、そして姉上・・・あ、あんな形で女神をふっとばすなんて」


 「おぉおお!! 女神イシュタル様が凱旋成されたぞ!」

 

 

 「何でも、あのカルデアの一行というメンバーが成し遂げたとか!」

 

 

 「北壁でティアマト神を退けたのも確かカルデアの銀狼と、その弟子のガウェインだとか!」

 

 

 「その方々を登用したギルガメッシュ王の采配は流石だ!」

 

 

 

 「「「ばんざーい! イシュタル神、ギルガメッシュ王ばんざーい!!」」」

 

 

 「うふふふ。良いわね良いわねこういうの! やっぱり私は祝福と感謝がなくっちゃ!」

 

 

 無事にイシュタルを仲間に引き入れてウルクに戻ると歓喜に湧く街、そしてイシュタルへの喝采。やっぱりウルクの民の、都市神だからこそ頼もしいんだろうなあ。

 

 

 「華奈の方も無事に勝利したようだね」

 

 

 『ああ、なんというかすごいやり方で勝利していたよ。とりあえず後で映像データは送るけど。それとこの凱旋に浸っている場合じゃない。急いでジグラットに向かってほしい、とんでもない事件が起きたんだ!』

 

 

 「お母さんは無事に勝ったというのに、この街も騒ぎはなさそうですが?」

 

 

 「ま、どーせあの金ピカが変なことしてしまったんでしょ。この歓声の後にアイツの失態を見て笑い飛ばせるなんて最高だし、さっさと行きましょ。ジグラットに私への捧げ物やシドゥリに管理をお願いしたいし」

 

 

 「この明るい勝報の中での緊急事態? いきましょう」

 

 

 なんというかカルデアとウルクでの温度差を不思議に思いつつ一応報告はするさいにジグラットには行くのでとりあえず向かうことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァアアアアアア!!? あ、あの金ピカが笑い死んだですって!? わたしも一応魔獣戦線は見ていたけど、見ていない間に何があったのよシドゥリ!!」

 

 

 「はい・・・その、北壁の方は一番戦線が激しくその分被害報告や連絡を逐一、詳細によこしていました。そしてその中でも今日はティアマト神、いえ、ゴルゴーンと闘うであろう日なので華奈殿に頼んでいつぞやに用意してもらった映像魔術をつないでここからでも北壁の戦線を直に見れるようにしたのです

 

 

 その・・・そこで華奈殿とガウェイン殿は大変荒唐無稽、かつ愉快すぎる戦闘でエルキドゥの姿を持つものにゴルゴーンを撃退。ウルクの兵士たちも怯えるほどの巨大な魔獣の女神をあんな形で追い返したものですから笑いすぎた王はそのまま眠りに・・・」

 

 

 「いやはや・・・なんというか実感がわかないのですが大変申し訳ありませんでした・・・」

 

 

 「いえ、これに関しては王が笑いすぎて途中で映像を切らずに最後まで見ていた落ち度もありますので華奈殿は気にせずに。むしろ昨日は大地を埋め尽くす魔獣の群れを殲滅し、今日は女神をも撃退。今やウルクの英雄です」

 

 

 なんというか、まさかの身内の心遣いと戦術によって王様が笑い死ぬというアホすぎる死因を聞いて僕らはあきれるというか理解がしばらく出来なかった。

 

 

 「え、えーと・・・そ、それで・・・この後のことはどうするつもりなんですか?」

 

 

 「今はご遺体を安置しており、時間をおいて葬儀を行うと私達で決めました。この勝報とイシュタル様の凱旋。ある程度熱を落とさないようにしつつ夜にでも・・・」

 

 

 「うーん。でも、あの王様がその程度で、いや死因にはなるだろうけどそれだけで死ぬかな? 真面目に華奈たちが来ていくらか仕事は楽になっているし、特に機能の方は魔獣戦線が落ち着いた分長く休めたはずだ」

 

 

 「他にもなにかの要因が重なって・・・ということですか?」

 

 

 「ふむ・・・たしかに最近の王は食事の余裕も湯浴みの時間も取れていましたし、笑いのショックだけで死ぬというのも・・・なくはないですが、少ないでしょう」

 

 

 「じゃあ、体力がなくなったときに何かによって賢王様の魂が抜き取られたとか?」

 

 

 何気ないかもだけど、病死でもないし傷でも死んでいないのなら、そうなのかなあとポロリとこぼしてみればシドゥリさんとマーリンが納得といったように驚く

 

 

 「ガルラ霊! そうです! 体力がなくなったものから魂を抜き取るあの霊ならあれほど笑い転げたギルガメッシュ王、気の緩み切った間に魂を抜くのはできるはず! ・・・・・その、私も華奈殿たちの戦いで笑っていましたから」

 

 

 「そうなると、冥界の神。そしてガルラ霊を扱いウルクに侵入できるものとなれば応えは明確。冥界の女主人エレシュキガルの仕業だろう。華奈のあの馬鹿騒ぎがきっかけだけどその間にとどめを刺したのかもね」

 

 

 「はぁ!? なんでアイツまで蘇っているのよ!」

 

 

 「と、というか三女神同盟にイシュタルさんは入っていないのですか!?」

 

 

 「え? そりゃそうよ。ただ一応ウルクに喧嘩ふっかけてはいたけども?」

 

 

 なんというか・・・破天荒過ぎる・・・それと、新たに出てきた女神の名前。エレシュキガル。話を聞くと、冥界の神様なのかな?

 

 

 「うーん・・・恐らくだけど、女神イシュタル。キミが英霊としてここに召喚された際に一緒に召喚されたのかも知れない。キミとエレシュキガルは恐らく繋がりの強さと、キミの依代になった少女の性格が愉快すぎたのだろうね。

 

 

 善悪ですっぱり2つに分けられるその何方かがイシュタルに。もう一つがエレシュキガルになった。本来なら神霊を英霊化して呼ぶこと事態がとんでもない行為だがそこはこのウルクの都市神と冥界神でありこの時代だから出来た偶然というべきか」

 

 

 「ふーむ・・・豊穣の女神であるイシュタル様は人間の生の母と言ってもいいです。で、冥界の女神エレシュキガルはその生命が消えたものを管理するもう一つの世界であり確かにつながるもの。切っても切れない関係ですし、それ故にこういう事が起こったのかも?

 

 

 で、まあマーリンやシドゥリ様の仮定が確かなら賢王様は恐らく冥界の檻に囚われていると」

 

 

 華奈さんも少し復活したようで水を飲んでから考えをまとめていく。

 

 

 「! それでしたらまだ間に合います! 王のご遺体は埋葬しておりません! 魂を冥界の檻から開放すれば王は再び目を覚ますかと!」

 

 

 「そのとおりだシドゥリ殿。まだまだ三女神同盟を討ち果たしておらず、これからというときに彼に退場されては困る。あと流石に身内の心遣いが死因というのは勘弁だ」

 

 

 「ぐはぁ!」

 

 

 「それなら、私が冥界に向かい賢王様を連れ戻してきます!」

 

 

 「私も。恐らく、冥界に行くのであれば私と同盟者が一番でしょう」

 

 

 「楽しそうな話をしているなあ。それなら、俺も一枚噛ませてくれないか」

 

 

 今度の行き先は冥界。それが決まったとなればメンバーもすぐに決まり、グリムリーパー隊長も来てくれてとスゴイことに。

 

 

 「げ、アンタたち本当に行くの? 勇気ありすぎない? 冥界よ冥界。どんな神性も強者も無力化する世界よ? あそこじゃエレシュキガルが絶対の法律。だってのにそれは流石に・・・!」

 

 

 「なぁに。元死神と呼ばれて生き残ったはてに守護神と呼ばれたんだ。ちょっと本来行くべきだった場所にいいくくらい大したことはない」

 

 

 「私とニトクリスで少し考えがあるのと、ストーム3の隊長がいるのなら問題ないはずです。そして、イシュタル。貴女はたしか一度冥界に行ったことがあるはず。案内してもらえますよね?」

 

 

 「ちょっ! 待ちなさい元! 私あそこで一度死んだのよ!? もうドゥムジもいないのに行くもんですかぁー!!」

 

 

 ギャーギャーと騒ぐイシュタルをストーム1と3で縛り上げて運び、いざ冥界下りへ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さーてと・・・ここがクタ市だ。今頃は王様の葬儀で大騒ぎだろうよ」

 

 

 「流石に笑い死にはあれだから過労死ってことにして華奈は警備に残したけど・・・いやあ、ほんと、今日はウルクの民にとっては忙しい一日だろうね・・・」

 

 

 パワードスケルトンのフルパワーでイシュタルを引きずって、合間合間に契約したんだから頑張れと皆で説得しつつようやく着いたクタ市。

 

 

 「はいは・・・流石に観念したわよ。それじゃあ、冥界に行くのは良いとして、行くのは私、元、ニトクリス、そしてストーム3隊長だけよ。マシュ、藤丸。アンタたちは絶対に残っていなさい」

 

 

 「え? 私達も行ったほうが良いのでは?」

 

 

 「あのね。流石にこの人数で行こうがいかないであろうが危険度は変わらない。それならリスクを減らして備えにおいておいた方が良いの。まだ三女神同盟は健在。なんで私をその一角と勘違いしたかはおいておくけど。

 

 

 とにかく冥界では下手に強い神霊を呼ぼうものならその神性がマイナスに働くし、冥界の7つの門もだけど罠も多い。カルデアで観測ができたり、もし私達全員が囚われた際はその痕跡を見て今度はマシュたちが挑むようにした方が良いの」

 

 

 なるほど。それだとたしかにニトクリスの場合は古代のファラオ故にあの備えがないと危ないし、そしてストーム3の体調は逆に科学と現代は愚か未来の英霊。逆に神性云々でのマイナスはないし、冥界、地下世界での戦いの経験もある。

 

 

 「まあ、とりあえずなその上でニトクリスを選んだのはおいておくとして、あの魔獣戦線の中で十名足らずで突っ込んで魔獣の群れを串刺しにしてきたストーム3の、未来の英霊がいるのは頼りになるはず。だから、この4名で挑むわよ。アンタたち、何かあれば私を守りなさいよ」

 

 

 「任せろ。死に場所を求め続けて来た。その上で生きて新たな道を得た。アイツに教えられた。冥界だろうと最高の盾になってやる」

 

 

 「頼もしいことです。マスターも礼装は大丈夫ですか?」

 

 

 「うん。バッチリ」

 

 

 「それじゃ、行くわよ! 思い切りここの大地をふっ飛ばして、冥界への道をこじ開けるから!」

 

 

 そう言ってイシュタルは空に上がり魔力を集めて空舟で矢を引き絞る・・・まてまてまて!

 

 

 「ま、マシュ宝具展開! ここら一体が吹き飛ぶぞ!」

 

 

 「うぇえっ!? りょ、りょうかいです!」

 

 

 マシュの宝具が展開するのとほぼ同時にイシュタルの放つ矢が大地を砕いて冥界への道を開かせ、そこにすぐさま飛び込みながら私とニトクリスを捕まえて飛び込むストーム3隊長。なんとも派手な冥界下りが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さ、着いたわよ皆。ここが冥界!」

 

 

 「ほほう・・・これが・・・暗いが、足元が不安になるほどでもなし、ふむ。涼しい場所じゃないか」

 

 

 「やり方が豪快だねえイシュタル。一応羽織るものあるけど。もらう? ニトクリスも」

 

 

 「有り難く頂くわ」

 

 

 「感謝します。しかし・・・そこかしこに檻? 籠? のようなものに、魂が・・・」

 

 

 豪快としか言いようのない冥界への到着を果たした私達だが、そこはまるで一面の檻が槍のように、あるいは鍾乳洞のようにあり、ニトクリスはその中身をすぐに見抜いていた。

 

 

 二人に用意していた銀嶺隊特性のローブをかぶせてあげつつ、ストーム3の隊長は周囲を警戒しつつも、経験してきた場所に比べると問題ないと言いつつ、装備のチェックをしている。ありがたい。

 

 

 「あれはエレシュキガルの槍檻。あれに囚われれば最後その魂は決して地上に帰れない。・・・なんでここまで数を増やして、管理しているのかはわからないけど・・・アイツ、死者の国でも作るのかしら?

 

 

 とりあえずあの細い未知の崖の上にある7つの門を超えて行けばエレシュキガルの神殿がある。そこにアイツはいるわ」

 

 

 「なるほど。それじゃあ、まずはその最初の門に行ってみるとしよう」

 

 

 「ええ。第一の門。そこに行けばこの冥界のルールが分かるしね。行くしかないわ」

 

 

 「敵の様子も見られないしな。とはいえ、ここは俺のような英霊はまだしも、元のような生者には危険極まりない。警戒を緩めずに行こう」

 

 

 4人で少し歩いていけば目の前にある巨大な石造りの門。そこから声が響いてくる。

 

 

 「答えよ、答えよ。冥界に落ちた生者よ。その魂の在り方を答えよ」

 

 

 「二択の質問が来るわよ元。冥界の門は善悪の魂を問う。公正にして理性の門。善も悪も等価値ではある。ただそれを選ぶ人間の価値が変わるだけ。だから、どっちが正解ってことはないわ。ぶっちゃけどっちを選んでも嫌がらせの試練が始まるから楽な方と思える方を選ぶのが正解かしら」

 

 

 なるほど。試練ではあるけども、何方かといえばここに来た人間の在り方を見定めるマークシート形式の質問票に応える感じなのかな?

 

 

 「では、罪深きもの元に問う」

 

 

 (はぁ? 名指しだぁ?)

 

 

 (名指し、ですか?)

 

 

 「美の基準は千差万別のようであり絶対なり。黒は白に勝り大地は天に勝つ。であれば・・・エレシュキガルとイシュタル。美しいのは何方なりや?」

 

 

 「「ええー・・・?」」

 

 

 「ちょっと待ったー!! 前と違うわよそれー!?」

 

 

 「エレシュキガル」

 

 

 「第一問から裏切られたー!!? い、いや違うわ頭脳戦よね! そ、そうよね。エレシュキガルを持ち上げておけば試練の敵が弱くなるものね!」

 

 

 うん。それの気持ちが高いし、多分依代となった話の関係が本当なら同じくらい美人だけど、ここは言わぬが花、沈黙は金だ。

 

 

 「BーUーZーAーMーAー よーろーしーいー!」

 

 

 なにかクイズ番組のような音とともに声がいい評価とイシュタルへの侮蔑を放ち、ゴーストが襲い来る。

 

 

 「よろしいのに敵は来るのか・・・まあいい。相手してやろう」

 

 

 このあと、ストーム3だけでどうにかなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわぁーガルラ霊相手でもこの動きかあ。流石、ずっと北壁で暴れ続けた守護神の一人ね。しかしまあ・・・こんな問いかけばかりじゃないわよね流石に・・・」

 

 

 『いやいや、それはないよ。天と地の女神だから基準の物差しとして良いんだろう』

 

 

 ロマニさんなだめてくれてありがとう。それと、地上と陸続きなこの神代の環境が味方したのかな。カルデアの方でも通信ができるほどには安定しているようなのがありがたい。万が一でもデータを下に藤丸くんたちが動けるし。

 

 

 「さて・・・次はこの門を通らないといけないのよね」

 

 

 「ふむ。何の問題もない。英霊の俺でも良いのだから、元にお嬢さんがた二人も行けると思うぞ」

 

 

 「ありがとう。ストーム3。うん。わたしも問題ないね」

 

 

 「ではわたしも・・・」

 

 

 「ありがとう。ストーム3、元。それじゃ・・・」

 

 

 「「キャッ!!?」」

 

 

 わたしとストーム3が通り、無事なのを見てニトクリスとイシュタルも門をくぐっていく。しかし、そのときに二人の悲鳴が上がる。

 

 

 「だ、大丈夫ふたりとも・・・あれ? 外套は?」

 

 

 「え? あれ? 嘘! 落として・・・ない。なくなってるー!?」

 

 

 「な、同盟者からの贈り物を!」

 

 

 なにか起きたかと思えばダメージはないし体には異常はなさそう。だけど、それ以外。寒さ対策にと渡した外套がなくなっていたのだ。

 

 

 そして目の前に現れる霊が語りだす。

 

 

 「そうよ。イシュタル。そしてもうひとりの神霊に近しい英霊ですが二人の外套は私が没収しました。かつて冥界下りに失敗したイシュタル。その神話の事実がある限りその呪いは逃げられない。かつて奪った7つの宝物。そのかわりに今回はその外套を。次回は宝に変わるものとして貴方達に負債を。魔力を7分の1奪います」

 

 

 「な、待ってくださいエレシュキガル! 私は今冥界下りをしたばかりであり失敗したこともなければ挑んだのも初めてです!」

 

 

 「貴女は確かにそう。だけどイシュタルと近しい天空の神の神性を持つ英霊よ。貴女もまた冥界の神の対策の権限内に触れるもの。故にイシュタルと同じ裁定を下しました。これから貴方達は門をくぐるたびに小さくなる。

 

 

 その恐怖を超えて尚、7つの門を超えていければ私が冥界の女主人としてもてなしましょう。では・・・」

 

 

 そう言って霊は消えていった。

 

 

 ふむ・・・ニトクリスの方はやっぱり天空の神、ホルスの側面が足を引っ張るか・・・なら・・・

 

 

 「ニトクリス。ここはあれを試そう」

 

 

 「はい。同盟者。お願いします」

 

 

 『? 元君。一体何をする気なのかな?』

 

 

 華奈、メディア、モルガンにスカサハ、ストーム1、ダ・ヴィンチちゃんたちと相談してニトクリスと決めた、こういう異界にも挑む際に使えそうだと無理言って用意してもらった切り札を使うべきだろう。

 

 

 「礼装起動、ニトクリス、クラスチェンジ! その姿は神罰の執行者、天を統べ、冥府女王の在り方であれ! ニトクリス・オルタ!」

 

 

 礼装を起動させてニトクリスの霊基が変わる。ニトクリスは本人も言っているが天空の神ホルスの化身。そして復讐を持って佞臣たちを殺し、王朝の正当性を保ち後世に託したファラオ。

 

 

 だけど、その宝具はなんでかアヌビス神の、冥界の鏡を使うもので、冥界の神の特性もあると考えていた。生前の行いから手にしたものだろうけども、その側面を。冥界でもなおも怒りを持ちつつも冷静に振るえる神罰の執行者にして冥府の女王。

 

 

 そして、成長したニトクリスのもしもの可能性を併せ持つ姿も、きっとあるはず。ホルスの化身としての可能性に届いた彼女なら。

 

 

 魔力の奔流が終わり、光が収まればそこには紫と金の長髪は白いものに。瞳も金色に変わり、装いも違うものへと変化。

 

 

 「クラスチェンジ終了・・・そして成功です。同盟者。ふふふ・・・これならこの冥界。エレシュキガルの庭であろうとも我が力、宝物を奪われることなくストーム3と一緒に同盟者を守りましょう」

 

 

 「ああ、よろしくニトクリス・オルタ。その姿もきれいだよ」

 

 

 「ほぉーう。ストーム1と似たようなことをできるとは。しかも・・・」

 

 

 「はぁあああああ!!? ちょっ! 私と同じ天空神のあり方をある程度残しつつ冥界神としての、しかも神罰の執行者としての力を出すですって!? 文字通り神霊クラスじゃないのよ!」

 

 

 「ふふふ。やっぱり。之なら冥界下りもある程度安全に行ける確率がましたかな? じゃあ、いざ第二の門へ!」




 ニトクリス・オルタ登場。ただこれはかなり強引なクラスチェンジ、ストーム1の用に仕様や逸話があるわけではないので何度もポンポンは使えず、一度クラスチェンジすると1日クールダウンをはさんで、再度礼装で元のクラスに戻すという手順を踏まないとキャスタークラスのニトクリスに戻れないです。くっそ手間。


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