龍剣物語 ~少年の歩む英雄譚~ (クロス・アラベル)
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登場人物説明

オリキャラの設定や原作キャラの違いを説明させていただきます。
変わっていない人もいますが……どうぞ!


 

 

ルキア・クラネル 14歳

種族 ヒューマン

身長 168セルチ

容姿 空色の長い髪、蒼紫(タンザナイト)の瞳、中性的な顔立ち。

概要 物心ついた頃から牢屋に監禁されていた。そのため、共通語の読み書きが出来ない。が、エイナに渡された本を読んで覚えた。村では禁忌と呼ばれていた。仲のいい知人は片手で数える程しかいない。7年前に初めてできた友達に英雄譚を何度も読み聞かせてもらっていたので英雄譚についてはかなり詳しい。英雄譚を聞かせてくれたその友人は5年前からオラリオに出稼ぎ中。因みに彼には恋愛感情がない。ヒューマンではかなり珍しい魔法スロット三つ持ち。

 

Lv.1

力:I 142  耐久:I 111  器用:I 75  敏捷:I 140  魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)

・アビリティの超高補正。

・五感の超高補正。

・スキルや魔法が発現しやすくなる。

・稀に暴走する。

・自然治癒能力の超高補正。

 

強者切望(スカーター・ゼーンズフト)

・早熟する。

切望(想い)が続く限り効果持続。

切望(想い)の丈により効果向上。

・自分より強い相手と戦う時、アビリティを高補正。

 

エオス

容姿 朱色の長い髪と白藍の瞳。

身長 ルキアより少し低いくらい。

概要 ルキアの主神。(暁の神) 交友関係が広く、ヘファイストスは勿論、タケミカヅチやミアハ、そして、ロキとは親友。天界では殺し合いではなく、遊戯(ゲーム)と称してチェスやトランプなどを共にしていた仲。ロキの暴走(殺し合い)を止められる唯一の存在。アポロンとはヘリオスを通じて知り合った。が、エオスはアポロンの様々な恋に呆れており、あまりいい印象は持っていない。因みに、出てはいないが、同じ時期に天界から下界に降りたヘスティアとは結構仲良し。

 

マナ・リヨス・アールヴ 13歳

身長 エオスと同じ

容姿 翡翠色の髪と金色に輝く瞳

概要 リヴェリアの妹。幼い頃に一度会った時、大きくなったらもう一度オラリオで会うという約束をした。その約束を果たすためにエルフの里を抜け出してオラリオに来た。因みに里を抜け出した時初めて里のルールを破った。そんな嘘のつけない純情なエルフ。恋愛経験はなし。里の外のことは本を読んだことしか知らないので、世間知らず。英雄譚はエルフ著のものも他の種族から見たものもよく読んでいたがルキア程詳しくはない。魔法が発現しなかったことに意外と落ち込んでいる。誰とでも仲良くなれるような娘。

 

Lv.1

力:I 11  耐久:I 2  器用:I 14  敏捷:I 9  魔力:I 0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

【】

 

 

アミッド・テアサナーレ

概要 迷宮都市外の村にクエストを受けてクリアし、帰る途中にモンスターと戦って倒れたルキアを助けて迷宮都市に運んできた。ルキアとは仲がいい(?)あまり感情を出さないアミッドだが、ルキアには違うようだ。

 

エイナ・チュール

概要 マナとは五年前に一度会った事があり、かなり仲がいい。マナのことはちゃん付けしている。

 

タケミカヅチファミリアのみなさん

原作通り




新しいキャラクターが出次第、逐一追加していきます。


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序章
呪われた少年


祝、ダンまち二期、映画化決定!
そして、《ソードアートオンライン~時を超えし青薔薇の剣士~》約一周年!
ということで、ダンまちのssを書かせてもらいます!
それではお楽しみ下さい。



 

 

太陽の光が俺の体をポカポカと温める。

誰かが俺を腕に抱き、あやすように揺らす。

その誰かは、陰って見えないが、とても優しく俺に微笑んでくる。

青く、長い髪を左右に揺らしながら、俺をあやす。

 

『 _____ 』

 

優しい声で何かを語りかけてくるがあまりよく聞こえない。

それでも、俺を貶すわけでもなく、蔑むのでもない、何度も聞いた筈の声。

そして、最後に俺の名前を呼ぶ。

 

『…私の愛しいルキア……』

 

俺はその誰かに助けて欲しくて、手を伸ばそうとした。でも、俺の手は赤子のように短くて、小さい。

いくら伸ばしても届くことは無かった。

 

 

 

 

 

重いもので殴ったような鈍い音、そして、強い衝撃で意識が戻った。

目を開けるとそこは『檻』。壁には飛び散った血が、床には壁よりも血で紅く染まっている。無造作に置かれているのは棍棒やナイフ、鞭などの拷問道具だ。

これが俺の見慣れた風景だ。

両手首には手枷がしてあり、手枷から伸びる鎖は天井に繋がっている。足枷もしてあり、それから伸びる鎖は俺の後ろの壁に埋め込まれている。

そして、俺の目の前には三人の少年がいる。俺と同年代か、それより上の連中だろう。先程俺を殴ったのは右手に棍棒持った真ん中にいる少年だろう。

「はっ、やっと起きやがった。」

まるで起きるのを待っていたとも、起きて欲しくなかったとも取れる言葉を俺に飛ばす。

こいつらは俺が物心ついた時からこの牢屋によく来ている。成長するたび俺に暴言を吐き、暴力を振るった奴らだ。

……またあの夢を見たんだな。

ふと思う。

先見た夢は過去何度も見ている。いつもいつも、お前は誰だ、俺は何なんだ……俺の頭の中で渦巻き続ける疑問をぶつけようとするとすぐに目を覚ましてしまう。

所詮、夢か。

「おい!聞いてんのか、馬鹿。」

……うるさい、黙れ。

そう言うことは簡単だ。だが、それが相手を挑発することになることを俺は十分理解している。いや、こいつらはそれを誘発しようとしているのだ。何か言えば、相手の思う壺だろう。

「チッ、なんだよお前!俺達が相手してやってんのにシカトしやがって。なんだよ、その顔!馬鹿にしてるのか⁉︎」

また、一発。脇腹に棍棒が直撃する。

何故俺がここまで無抵抗なのか。それは俺には味方がいる。

この村にはいないが、《オラリオ》とかいう都市でどこかのファミリアに入って俺に仕送りをする、と言ってくれた奴がいる。あいつは今頃、オラリオで働き詰めの毎日だろう。だが、その仕送りが俺の元に来ないことをあいつは知らない。俺に回ってくるのはいつもごみにも似たものばかり。よくて残飯、大抵腐ったものばかりだった。『金』の『か』の字すらない。

二つ目は、俺の右腕にあるネームタグのついた鎖で繋いであるこのリストバンドのようなもの。これは物心ついた時からあったもの。前に聞いたのだが、これは俺が赤子の時からあったらしい。そう、これが親の形見のようなものだ。そこには生まれた年と俺の名前が刻まれている。

そして、最後は俺の首にかかっているネックレス。これもリストバンドと同じく初めからあったらしい。

この一人と二つ………今あるのは二つだけだが、これが俺の存在を証明する、俺の宝物だ。これがある限り、負けやしない。そう決意を固めたのだ。

だが、その希望は今日この日、一つが潰えることとなるとは、思いもしなかった。

「ムカつくな……ん?お前何を見てるんだ?」

その時、不意に俺の右腕のネームタグに棍棒を持った奴が気付いた。いや、俺の視線を追っていたようだ。

知らず知らずのうちに俺はネームタグに目を向けていた。

「なんだよこれ……」

覗き込む少年。そして、俺の名前が共通語(コイネー)で書かれているのが見えたのか……まあ、見えたってどうって事ない。

「……こいつ、なんか腕につけてるぞ。」

「なんだよ、《禁忌》のくせにそんなもん持ってんじゃねえよ‼︎」

直後、右手首に激痛が走った。

「っ!」

今度は、ナイフか何かで刺されたようだ。刺してきた張本人は小さめのナイフを手にしている。

次に俺の右手首を見た瞬間、時が止まった。

俺の右手首はそのナイフで貫かれていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………ぁ」

長年にわたり手入れなどされておらず、壊れかけの鉄のネームタグは、無残にも砕けていた。

「ふん、《禁忌》が偉そうに装飾品なんかつけてんじゃねえよ!」

心に灯る黒い炎。全てを飲み込み、その炎は俺を包み込んだ。

周りの音もあいつらの声さえも頭に入ってこない。

そして、ここから。

俺の記憶は途絶えた。

 

「……この、クソ野郎があああああああああああああああああああああああッッ‼︎‼︎」

 

悲哀とも取れるそんな呪詛を叫びながら。

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅぁ……?」

意識が戻った。

少し周りが明るく照らされている。魔石灯のような強い光ではない。

優しく、俺を癒すような光。

体を動かして見ると、ガヂャガヂャという音が聞こえる。

血まみれの腕にはあの牢屋でもつけられていた手枷。あの時、あいつらにやられた傷は見えない。腕と同じく血のついた足にも足枷が嵌めてある。が、そのどちらとも鎖の先端に漆喰壁から無理矢理力づくで外したような、そんなコンクリートの塊がある。俺の頭ほどありそうだ。

牢屋ではないどこかに俺はいた。

そして、上を見上げると、そこには丸いものがあった。それは優しく輝いている。魔石灯とはちがう光。俺は遅まきながらその輝くものの正体を察した。

 

「……アレが《月》、なのか?」

 

生まれて初めて見たの月。

幻想的だった。

あんなに優しいものがあるだなんて、俺は知らなかった。

月のことなら、オラリオに行ったあいつから聞いたことがある。

暗い夜を照らすたった一つの光。

月は俺の過去(きず)を癒すように照らし続けていた。

前に聞いた蜃気楼のように揺らめく月。

心を救う、月の光は。

遠く揺らめき、蜃気楼のようだった。

そして、俺は静かに涙を流した。

 

「…………この近くにいるはずだ!探せ!」

 

その時、かすかに誰かの声が聞こえた。

俺を探す声。

俺をあの牢屋に戻そうとする奴らだ。

そいつらに見つからないように俺は走って逃げた。

悪夢(かこ)から逃げるように。

 

 

 




今回は主人公が村を出るだけとなってしまいました。次は戦闘シーンあります。

次回《戦いの降臨~本能はしたたかに~》


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戦いの降臨~本能はしたたかに~

こんにちは、クロス・アラベルです!
早くも第二話投稿です。
今回はソードオラトリアでお馴染み(?)のあの人が登場です!
金色のガッシュ要素は当分先になりそうです……すいません。
それではどうぞ!


 

 

 

木が鬱蒼と生い茂る森の中を駆ける影があった。

一人は呪われた少年。他の12人は少年より背の低い、人外。

そして、距離をあけてもう一つ影が少年を追いかける。

走り続け、森の開けた場所に少年と12の人外が飛び出す。

少年は若かった。空色のボサボサになった長髪に蒼紫(タンザナイト)に輝く瞳。身長は168セルチ程、細身の腕や足。服装は麻布でできたショートズボンのみ。手首足首には鎖のない枷が付いている。首には青いひし形の宝石のようなものがついたネックレス。

少年は少し焦っていた。何故なら、

『ゴギャシャァア‼︎』

『ギャルシャァ…!』

野生のゴブリンに見つかってしまったからだ。

少年を囲む12体のゴブリン。

「……ちッ(……よりによって、モンスターに見つかるか……多分、ゴブリンだな。野生のモンスターは弱いって聞いたことがあるが、今の俺じゃあ勝てるかどうかは分からない。だが、戦わないという選択肢はもうすでに潰えた……)」

少年はゴブリンを睨みつける。

「……(一気に12体を相手取るのか……きついが、やるか………一体ずつ確実に…)」

深呼吸をした少年は、

「殺すッ……うおおおおおおおおおおおおおッ‼︎」

雄叫びをあげながら一体のゴブリンの元へ走る。死闘の火蓋は切られた。

『⁉︎』

まさか攻めてくるとは思わなかったのか、あっけにとられるゴブリン。そして、

「ラアアアッ‼︎」

跳躍し、ゴブリンの口に手を突っ込んで普通は開かないような角度まで無理やりかっ開く。ゴブリンの真後ろに着地を決める。

しばしの沈黙。

口が裂けて血しぶきが止まらない。

そして、そのゴブリンを両手で持ち上げて思い切り力を入れて、

「ッ‼︎」

潰す。

それと同時に、大量の血が流れ出す。

「………次」

潰れて力尽きたゴブリンを地面に放り投げる。

少年はゴブリンを誘うように走り出した。

 

 

 

 

少年とゴブリンたちとの死闘が始まった時、木の陰から見ている少女がいた。

白銀の長髪、紫眼を持った少女。

杖を持ち、彼女にとって少し大きいカバンを一つ持っている。

「……あれは…冒険者?」

彼女は少年を見て呟く。

彼女の名はアミッド・テアサナーレ。《ディアンケヒト・ファミリア》の構成員の一人で、二つ名は《戦場の聖女(デア・セイント)》。とある迷宮都市一の治療師(ヒーラー)だ。

アミッドは都市外からの治療依頼を受けて、長距離出張を終え、都市に帰る最中で少年が野生のゴブリンに追われているのを見た。

そして、今に至る。

「……冒険者…にしては、装備が貧弱過ぎますね……ズボンだけ……武器は所持していない…」

そう少女が考えているうちに少年か2体目のゴブリンに目をつけ、誘い込んでカウンターを決めた。

倒れこむゴブリンに向かって渾身の一撃を見舞う。

それを受けたゴブリンは()()()()()()()

「……あの力だと、レベル1の上位か、レベル2ですね。まさかゴブリンの頭を吹き飛ばすとは……」

そして、3体目のゴブリンの足に突進(タックル)をかまし、倒れたと同時に足を両手で持って、そのまま振り回す。

意外な攻撃に面食らったゴブリンたち4体がそのゴブリンの嵐に巻き込まれて絶命した。

少年が武器代わりに振り回していたゴブリンもいつのまにか絶命していた。

少年はゴブリンが持っていたであろうナイフを拾い、ゴブリンを誘うように走る。ゴブリンは仲間が殺されたことに腹を立てているのか、激昂しながら少年を追いかける。

「……追ってみましょう。気になります。」

アミッドは気付かれないように少年の後を追う。

少年は川まで走り、木に隠れた。ゴブリンがそれに気付かず通り過ぎる瞬間、ゴブリンを川に突き飛ばし、ゴブリンの首を絞めるように突っ込んだ。

そして、手に持っていたナイフをゴブリンの胸……魔石めがけて勢いよく振り下ろした。

ナイフはゴブリンを貫いた。アミッドからは見えにくいかも知れないが、多分魔石を捉えたのだろう。ゴブリンが力なく川に流されて行った。

少年は起き上がり、9体目となるゴブリンに向かって疾走した。

「オオオオオオオオオオッ‼︎」

少年は雄叫びをあげながらゴブリンの右肩をナイフで勢いよく斬りつける。

『ギシャァッ⁉︎』

血しぶきをあげながら後ろに飛んで行くゴブリンの右腕。

そして、ゴブリンに馬乗りになって、顔にナイフを突き立てる。

絶命したゴブリンは魔石と爪だけを遺して炭化した。

少年はそのゴブリンの爪を拾って、10体目のゴブリンに投げつける。

一瞬、隙を見せたゴブリンに向かって少年は渾身の拳を食らわせた。

顔が吹き飛び、そのまま後ろに倒れるゴブリン。

後2体のゴブリンは恐れをなしたのか、逃げて行く。

絶対に逃がさないと言外に告げるように少年は最後の2体を追いかけた。

一体を崖の下に追い詰めた少年。

素早く突っ込みゴブリンの頭を鷲掴みにして壁にそのまま叩きつける。何度も、何度も。

そのせいで上から石が落ちて来る。その一つ、少年の頭より一回りふた回りも大きい岩が少年の頭に直撃した。

「がッ………ッ‼︎」

それでも少年は倒れなかった。

そして、頭から大量に血を流すゴブリンを後ろから奇襲しようとしていた最後の一体に向けて投げつける。

『ギガァッ⁉︎』

それと同時にゴブリンめがけて走り、そして、

「ウオオオオオオオオオオオッッ‼︎」

拳をゴブリンの腹に叩き込む。

ドンッ!という大きな音が森に響く。

少年の最後の一撃はゴブリンの腹を貫通し、奇襲をかけようとしていたゴブリンの胸に突き刺さっている。

「オオオオオオオオオオオオオッ‼︎」

そして、雄叫びをあげて右腕を引き抜いた。

少年の右腕は血で真っ赤に染まっていた。

右腕から血とともに爪より小さな魔石がこぼれ落ちる。

「………一人で、12体を……」

驚きで呆然とするアミッド。

だが、少年は無理が祟ったのか前のめりに倒れこんだ。

「っ!」

アミッドは少年の元へ走り、容態を見る。

「……前頭部から出血…ほかに目立った傷は、なし…」

アミッドはすぐさま少年の安否を確認し、容態を見抜いた。そして、魔法を用いて治療を施す。

「……この方、ステイタスが刻まれていない…………⁉︎」

神の恩恵(ファルナ)》なしで戦っていたことに驚くアミッド。

「……とりあえず、休む場所もないですし……ホームに運びましょう。」

そう言って、少年を背中に背負って歩き始めた。

 




次回『少年はオラリオで目覚める』
主人公の身長を変更しました。


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少年はオラリオで目覚める

こんにちは!クロス・アラベルです!
第3話、どうぞ!


とある病室。

そこに少年は眠っていた。アミッドに運ばれて、諸々の処置を受けて目立った傷は無い。

そして、アミッドがベッドの横で椅子に座っている。

「……あの時、前頭部に岩が直撃していましたから…記憶障害が起こる可能性も、無いとは言えませんね…」

この病室は《ディアンケヒト・ファミリア》のホームのアミッドの私室だ。少年の所持金は無し。ということはアミッドが魔法を唱えて治療した時から借金持ちになったということだ。主神であるディアンケヒトに見つかれば即高額請求されること間違い無しだ。なので、事を自分の私的(プライベート)にするためこのホームに連れてきた。

いつもなら都市外からの依頼を終えて少し仮眠をとるのだが、この少年がベッドを使っている。少年をどかして……というような考えは頭に無く、勿論一緒に寝るような考えも毛頭無かった。

「……」

アミッドは疑問に思っていた。勿論、彼の『ゴブリン12体の同時討伐』の秘密である。

そんなことをしようとするならLevel.2ぐらいでなければ到底なしえない。しかし、この少年の背中をどう見てもステイタスがどこにも見当たらない。大抵の神々はステイタスにロックかける。だが、完全にステイタスを透明化することは出来ず、うっすらと見えてしまう(ステイタス自体の解読は不可能だ)。

冒険者でもない少年には到底不可能、Level.1の上位の冒険者でも、一気に相手取るのは至難の技だ。だが、アミッドは少年がゴブリンの頭を吹き飛ばすところも見た。

大昔、神々の恩恵(ファルナ)無しでダンジョンのモンスターと戦っていた戦士がいたというので、あり得なくもないもののアミッドは信じられなかった。

「………」

アミッドは再び黙考する。

 

 

 

 

温かい。

目が覚めた時、その一言に尽きる。

今まで地下の牢屋の中で生きてきた少年はこんなに温かく、柔らかいものを触ったことがない。

このままずっと寝ていたい、本気でそう思った。

が、少しずつ意識が覚醒して行く中で寝る……いや、気を失う前の記憶が色鮮やかに蘇ってくる。

ゴブリン。戦闘。血飛沫。

「ッ〜〜〜〜⁉︎」

それを完全に思い出した少年は勢いよく体を起こす。

が、その途端に頭に激痛が走る。

その時だった。

『気が付きましたか?』

見知らぬ誰かの声が聞こえたのは。

「ッ‼︎」

少年のすぐ横にいたのは、1人の少女。

白銀の髪に紫色の瞳、華奢な細身。

少年は少女(アンノウン)を睨みつける。よく見れば少年よりも背が低いようだ。少年にかかれば本気を出さずともひねり潰せようだった。

『……睨みつけないでください。私は貴方を脅すことも傷つけることもありません。少なくとも貴方の敵ではありませんよ?』

少女は少年の態度を見て即座にそう言った。

「……嘘をつくな。」

少年は拒絶を示す。

『……後頭部の怪我を治療したのは私ですよ?もし私が貴方の敵なら治療はせずにとどめを刺すでしょうが、生憎私は貴方の敵ではありません。』

少女の言い分は確かに的を射ている。それは認めざるを得なかった。

「…じゃあ、お前は何なんだ。」

そう言われて少女は悩むことなく答えた。

『私は《ディアンケヒト・ファミリア》に所属しているアミッド・テアサナーレ。ただの《治療師(ヒーラー)》ですよ。』

「_______ 」

治療師、と少女は言った。そして、ファミリアに入っている……いわゆる冒険者だということ。

「貴方は?」

「……?」

「貴方のお名前は?」

「…………お前に知る権利は無い。」

少女の質問を突っぱねた。すると、少女は眉を寄せて反撃する。

「……私は名乗ったというのに、自分はしないというのですか?通常この場合は答えるべきだと思いますが…」

「……知るか。」

「…貴方の傷を治したのは私なのに…ですか?」

「…」

決定的な一言を呟かれ、黙る少年。

「……」

「………ルキアだ。ルキア・クラネル。」

「ルキア、さんですね?」

「ああ。」

「体に痛みはありますか?違和感なども無いですか?」

「……無い。」

「そうですか。ならよかった。」

「………」

一方的に話しかけるアミッド。

それに対し、勢いに負けて渋々答えるルキア。

「貴方の出身は何処ですか?」

不意にそう聞かれて数秒考えた。

自分がいたあの村の名前すら覚えていないことを思い出した。

「………知らん」

「……そう、ですか…………ですが、まだ聞いておきたいことがありますがよろしいですか?」

「……」

何も言わないルキア。その沈黙を許可ととったのか、アミッドはもう一つの質問をする。

「…貴方はファミリアに入っていますか?」

「……入っていない。言っておくが、入る気は無い」

と、アミッドの考えていたことを予想していたかのように、答えた。

アミッドの疑問は深まるばかりだ。彼はファミリアに入っていないにも関わらず、大量のモンスターを一気に相手取り、あまつさえ殲滅して見せた。これが周りに知れ渡れば、神々からの熱烈な勧誘を受けるのは目に見えている。彼にとっても厄介極まりないだろう。なら、自分のファミリアに入れてあげようという解決方法は本人によって拒否された。

「……少し待っていてください。」

そして、アミッドはあることを思いつき、一度部屋を出て行った。ホームの中の武器庫に入って、無難な片手直剣と最低限の防具を鞄に入れて部屋に戻った。

「……ルキアさん、貴方が成したこと……モンスターを神々の恩恵(ファルナ)無しに討伐するということは快挙です。ですが、それが周りに知れ渡ると厄介……いえ、面倒なことになります。だから、それについてはあまり話さない方が良いんです。ここまではよろしいですか?」

「……そんなこと出来る奴、山程いるんじゃ無いのか?」

「いえ、いません。太古の時代、神々がまだ下界に降りてきていない時代にいたぐらいです。」

「貴方はファミリアに入らないと言っていますが、いずれどこかのファミリアに入ることになるでしょう。だから、これを受け取ってください。」

そう言って、持ってきたそれと、アミッドの手持ちのお金の約半分……五万ヴァリスを袋に入れて渡した。

「……」

「最低限の必要なものです。使ってください。」

ルキアは驚き、戸惑いながら言った。

「……何故、俺なんかにこんなものを渡す…?」

「………放っておけないから、でしょうか。」

「…」

ルキアはあまり、人とここまで接することがほとんどなかった。だからこそ、今弊害が出ている。アミッドの『心配』という感情が読み取れなかったのだ。友情、愛情などのものを感じたことがほとんど無かった。感じたことがあったとしても、覚えていないだろう。

「ここから出て行くのは明日以降にして下さい。怪我は完治しているとはいえ、疲労で動けないはずです。だから、行くなら明日にして下さい。」

「……分かった。すまない…」

ルキアの本心では今すぐ出て行きたいところだったが、アミッドの言葉通り、あまり自由に体が動かせなかった。

「そこは謝るのではなく、感謝を込めて『ありがとう』と言うところですよ。」

「……あ、ありが…とう」

「安静にしていて下さいね。」

そう言ってアミッドは部屋を出て行った。

 




次回「放浪少年」


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放浪少年

こんにちは!クロス・アラベルです!
第4話、どうぞ!


《ディアンケヒト・ファミリア》ホームの玄関口。

そこに2人の少年少女が立っていた。

空色の髪に蒼紫(タンザナイト)の瞳の少年、ルキアと白銀の長髪に紫眼の少女、アミッド。

ルキアは白いシャツとズボン、そして、黒いコートを身に纏い、腰には片手直剣を装備していた。防具が入った鞄も背負っている。

あれから2日後。ルキアは予定より1日遅れて出ることになった。

「……本当にいいんですか?私のファミリアに入ることも出来ますが…」

「いや、いい。言った筈だ。何処のファミリアにも入る気は、無いと」

ルキアらアミッドからの再三の誘いに即座に断りを入れた。

「…世話になった。すまない」

「…そこは謝るのではなく、お礼を言うところですよ?」

「………善処する」

「何度も言ったのに、治りませんね。やはり私でも直せないものはありますか」

「……」

初めて会ったときよりアミッドの声が優しくなったように聞こえる。

「……じゃあな」

「……………お元気で」

ルキアはそう言ってメインストリートへ向かった。

 

 

 

 

迷宮都市(オラリオ)

そこは都市の下にあるダンジョンの恩恵を受けている。

『世界の中心』とも言われるほど栄えた街だ。ヒューマンを筆頭にエルフ、小人(パルゥム)獣人やドアーフ、アマゾネスなどたくさんの亜人(デミヒューマン)が住んでいる。人種のサラダボールならぬ、«種族のサラダボール»だ。

そして、極めつけは、《超越存在(デウスデア)》である《神々》だ。

大昔、ダンジョンから出てくるモンスターを自力で押さえていた下界の子供達はある日突然、天界から降りてきた神々に出会った。その神々曰く、『楽しそうだから来てみた』という、天界にはなかった面倒臭くて面白い娯楽を求めて来たという。

それから、子供達に神々の恩恵(ファルナ)を刻んだと言う。

それから始まって今も続くこの千年間を«神時代»と呼ばれている。

そんな巨大な都市に世間を知らない一人の少年が飛び込んだ。これから少年の新しい人生が始まる。

 

 

 

 

 

田舎者がオラリオに来たら、まずやっておくべきことはギルドに行くこと。いずれファミリアに入るだろうから、行っておいた方がいい……とアミッドは念を押していた。

自分はファミリアに入る気はこれっぽっちも無い、つくづく言っていたから関係無い。

そう思っていたルキアはオラリオをなめてかかっていた。

 

「ん?うちで働きたいだって?じゃあ、どこのファミリアに所属しているんだい?…………はあ!?入ってない?なら他を探しな。」

 

「私の店で働く?なら、私のところのファミリアに入団ください。…………え?入る気は無い?じゃあ来るんじゃねえよ」

 

と、ことごとく断られた。

「………ファミリアの所属の有無はそこまで重要なのか…」

思わずこぼれる呟き。これではここで生活するどころか、働けずに飢えて死んでしまう。

「………」

これからどうするか。暫しの黙考。

「ギルド、だったか……」

アミッドの言葉。『ギルドに行った方がいい。』ルキアはその意味が今になって理解した。

「……」

ルキアはギルドを目指して歩き始めた。




次回『ギルドのチュートリアル』


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ギルドとチュートリアル

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は、あのハーフエルフさんが登場です。(名前は出てきませんが)
それではどうぞ!


オラリオの中に荘厳な神殿(パルテノン)が建っている。

それは、ギルドの本部で、主神であるウラノスが地下でダンジョンに向かって祈祷を捧げている。

そんなことはオラリオに来たてのルキアには知らない事だった。

「…ここがギルド本部か」

ルキアは物怖じせずギルド本部へと入って行く。

ギルドの制服を着た職員が受付で冒険者らしき人物と会話したり、紫色の透明な石……魔石を換金している。

そして、ルキアは迷わず、受付の方…唯一空いてるところに歩みを進めた。

「こんにちは、ようこそギルド本部へ。今日はどんな要件でしょうか?」

丁寧に挨拶して着たのは、とても綺麗な女性だった。

ブラウンカラーの髪に、エメラルドグリーンの瞳。顔は整っていて、眼鏡をかけている。特徴的なのが、尖った耳。ルキアは瞬時に彼女がエルフなのだと悟った。

「……冒険者の登録、か何かをしたい。そういうのはあるのか?」

「冒険者の登録ですか……分かりました。少々お待ちください。」

その職員はルキアの『冒険者登録』という言葉に少し戸惑いながらも、二枚の紙を持ってきた。

「これが冒険者登録書です。お名前と年齢、性別などをお書き下さい」

そう言われて差し出された紙を見てルキアは思わず顔をしかめる。

「……」

ルキアは長い間監禁されていて、文字など全く書けない。読みもほとんど出来ないので、何が書いてあって、何処に何を書けばいいか……それら諸々が全く分からないのだ。

「……すまない、何処に何を書けばいいのか教えてくれ。あと文字の書き方も。」

「……へっ?」

仕方なくエルフの職員にそう頼むと、変に間抜けた声を出してルキアを見た。

「……分かりました」

「……理由は詮索しないでくれ」

「まずここがお名前を書く欄で……貴方様のお名前は?」

「……ルキア。ルキア・クラネル。」

とその職員は懇切丁寧に教えてくれた。

「それではここに年齢を……14歳ですね。そして、ここに性別を……クラネル様は女性ですので、こっちの右側に丸を……」

「……?」

その時だった。その職員がルキアのことを『女性』だとのたまったのは。

「……俺は、男だ」

「はいっ?」

なぜ間違えるんだ。そう思っているルキアだが、ルキアの容姿を見れば誰でも女性だと言ってしまうだろう。

長い空色の髪に蒼紫(タンザナイト)の瞳。背丈はまあまあ高いが、体型もすらっとしている。顔も自分では気づいていないが、かなり整っている。初対面の人が間違えるのも無理はない。

「……し、失礼しましたっ!申し訳ありません!」

「…いや、いい。それより、全て書いたぞ。これで終わりか?」

「いえ、あと一枚ございます。これがファミリア所属の登録書になります……クラネル様はもうファミリアに入団しましたか?」

「いや、まだだ」

「では、ファミリアに入団して、主神にこれを書いてもらって下さい。もちろんクラネル様が書く欄もございます。

「……わかった。じゃあ、行ってくる」

「はい。行ってらっしゃませ。ファミリア所属登録書はクラネル様が持っていて下さい。冒険者登録書は私がお持ちしておりますので」

「……ああ」

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ。」

その職員は笑顔でルキアを見送ってくれた。

「……また、話しかけなきゃならんのか。」

ギルド本部を後にし、メインストリートに出たルキアは一つため息をついた。

 

 

 

 




次回『少年と女神』


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少年と女神

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は主神登場!ヘスティアじゃないです。
短いですが、どうぞ!


ギルド本部を後にして三時間後。

ルキアは途方に暮れていた。

あれから百を超えるファミリアのホームを訪ね、入団させてほしいと交渉したが、受け入れてくれるファミリアは一つもなかった。正確にはルキアの性別を知った途端に、だが。

「……どうするか…」

地面にへたり込み、他に行くファミリアは何処だったかを思い出そうとした、その時。

「おい、お前。こんなとこで何してんだ。」

低く掠れた声が聞こえた。

「……」

「おい、聞いてんのか!」

上を向くと、目の前にいかにもと言うような人相の悪い男がいた。その後ろには2人の細い男。

ルキアはその男たちの目を見て、悟った。『コイツらは俺から金を集ろうとしている』と。

「おい、兄ちゃん。金、持ってるか?」

「……だとしたらなんだ?」

「…その金、俺に寄越してくんねえか?」

案の定だ。

「まあ、断るってんなら…それ相応の覚悟をしてもらうけどよぉ」

「……」

面倒くさい。3対1…不利だ。相手は人間だ、ゴブリンとは違う。

「ああ、言っとっけどよぉ……俺はLevel.2だぜ?勝てるわけないと思うがなぁ…」

Level.2。世に言う、『上級冒険者』だ。俺はファミリアにはいったわけじゃないから、Level.1にも劣るだろう。そんな俺がコイツに勝とうなんざ、無理だ。だが、アミッドからもらったこの金を奪われるわけにもいかない。

「……」

よって、板挟み。

さて、どうしたものか…と、呑気に次の行動について考えていた時。

 

『やめなさい!』

 

この男達に向けて、命知らずな言葉を吐いた女がいた。

朱色の長い髪と白藍の瞳。背丈は多分、俺よりも少し低い。顔は人間とは思えないほど整っている。

『何をしているの!今すぐその子にカツアゲするのをやめなさい‼︎』

「なっ……まさか、神かっ⁉︎」

神。俺達下界のものではたどり着けない、超越存在(デウスデア)

『このまま続けるようなら、ガネーシャファミリアを呼ぶわよ!』

「チッ、お前ら、行くぞっ」

「「は、はい⁉︎」」

その女神の警告に男たちは渋々この場を去って行った。

『全く……貴方、大丈夫?』

その女神はルキアに近づき、声を掛けてきた。

『怪我はない?』

「……ああ」

『家まで送ってあげましょうか?』

「俺は子供じゃないし、家はない」

女神は心配して聞いてくるが、ルキアはうざったらしいと言わんばかりに言い返す。

『私からしたらみんな子供なんだけど……って、家がない?まさか、オラリオに来たてなの?』

ルキアの言葉に女神は少し驚きながらも問うてきた。

「だったらどうした」

『…そう……私も、下界に来て一週間も経ってないの。一緒ね、私達。』

「……さっさと要件を言え」

『へっ?』

女神はルキアの不意打ちを食らい、口を開けて驚く。

「何か言いたいことがあるだろ。さっさと言ったらどうだ?それに、最初から見てたんだろ」

ルキア最初から女神の視線に気づいていた。80件近くのファミリアに入団交渉した時からだ。

『ば、バレてたのね……じゃあ、単刀直入に言うわ』

女神は間を開けてこう言った。

 

『貴方、私の眷属にならない?』

 

眷属、と言うことは即ちファミリアに入ると言うことだ。まさか、神の方から勧誘を受けるとは思ってもいなかったルキアは目を見開いて女神を凝視する。

『私、まだファミリアも作ってなくて……もちろん、構成員はゼロ…』

自分にしてはうまく行きすぎている、と頭では思いながらも、ファミリアに入らなければ、働くことも出来ない。

「……じゃあ、頼めるのか」

ルキアはその勧誘を承諾した。

『えっ⁉︎本当に⁉︎』

「……それとも入団するなと?」

『違うわ!初めての眷属が出来たのよ!嬉しいに決まってるじゃない!』

「…うるさい神だな」

『じゃあ、自己紹介からね』

「……ルキアだ。ルキア・クラネル」

『私はエオスっていうの。よろしく、ルキア!』

こうして、少年が紡ぎ、女神が記す…《眷属物語(ファミリア・ミィス)》が始まった。

 

 

 

 




次回『少年と助言者』


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少年と助言者

こんにちは!クロス・アラベルです!
再び、ギルドでエイナさんに会うの巻。
それではどうぞ!


女神と出会い、ファミリアに入団、ホームに案内してもらい、神々の恩恵(ファルナ)を刻んで荷物を置いて、ルキアはギルド本部に向かった。

「いらっしゃいませ……クラネル氏!ファミリアには入団できたのですか?」

「……ああ、一応」

受付に行くと、あのエルフの職員が対応してくれた。

「エオス・ファミリアだ。いわゆる零細ファミリアらしい」

「分かりました、お預かりします」

その職員はルキアが渡したファミリア登録書を受け取って、受付の奥に行った。

そして、帰ってきた彼女が持っていたのは

「クラネル氏、ギルドでは武器や防具などの初期装備として、売っています。多少値段は張りますが、どうでしょうか?」

「いや、武器と防具はもう持っている」

「そうですか……それでは、もう一つ。ギルドでは1人の冒険者……正確には一つのファミリアに1人、《助言者(アドバイザー)》をつける方針になっております。如何でしょうか?」

助言者(アドバイザー)》。ルキアにとっては聞き覚えのない単語だ。

「その、アドバイザーって言うのは…有料なのか?」

「いえ、無料になっております。ちなみにアドバイザーとは、冒険者のダンジョン探索をサポートするためにダンジョンについての知識や情報を提供する職員のことです」

有料ではないのなら、利用させてもらおう、そう思ったルキアはそれを承諾した。

「それでは、アドバイザーの希望の性別と種族をお選び下さい」

「……空いてる奴でいい」

「……かしこまりました。アドバイザーを選抜して来ますので……あの窓際のテーブルでお待ち下さい」

と言って、受付の奥に消えた。

 

 

 

 

その五分後、彼女は奥から出てきた。

「……選抜、終わったのか?」

「はい、それではご紹介します」

そして、彼女は言った。

 

「ルキア・クラネル氏の冒険者探索アドバイザーを務めることになりました、ハーフエルフのエイナ・チュールです」

 

そう、彼女がルキアのアドバイザーを務めることになったのだ。

「……よろしく頼む」

「よろしくお願いします。それでは、早速これからのことについて、話し合いたいんですが……よろしいですか?」

「ああ」

「はい、あとそれと……喋り方をくだけてもよろしいですか?」

多分、彼女はルキアより年上だろう、まあ、それを拒否する理由も無いので承諾した。

「……ああ」

「……ふぅ、これからよろしくね?ルキア君」

エイナは年上らしい喋る方に変わった。言うならば、姉と言ったところだ。

ルキアにとっては新鮮で、初めての体験だった。

 

 

 

 

「じゃあ、ルキア君。これからの活動方針だけど、まず、これをホームに帰ったら読んで。」

どんっと置かれたそれは、分厚い本。『ダンジョンについての基礎知識』という題名だ。

「……読む…文字が読めも、書けもしない俺に、言うことなのか?」

と、至極真っ当な答えが帰った来て、エイナは頭を抱える。

「………じゃあ、これも読んで。共通語(コイネー)について学ぶ本だよ。これで勉強して、私が認めたら、ダンジョンを探索していいから。ね?」

ダンジョンに探索しに行ける。その言葉に、ルキアは頷いた。

「はい。今日はダンジョンには行かないこと。なんの知識もない人が入ったら、どうなるかわからないんだよ?これだけは肝に命じておいて」

「……わかった。」

こうして、初めての活動方針決定会議が終わり、ルキアはエイナと別れた。

だが、ルキアはエイナの言葉(やくそく)をこの一時間程後に破ることになる。

 




次回「約束破り」


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約束破り

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回はエイナさんとの約束を破る回です。
それではどうぞ!


とある壊れかけの教会。

そこにルキアは入って、地下室へと進む。

「あら、お帰りなさい。ルキア。どうだった?」

出迎えるのは朱色の長髪と白藍の瞳の少女……ではなく、女神。

「…別に」

「……ルキア、貴方って無口なだけなの?」

「知るか」

エオスの言葉にルキアは素っ気なく返す。

ルキアは、部屋の片隅でエイナに渡された本を読み始めた。『目指せ共通語(コイネー)マスター!』とタイトルが表紙に書いてある。

「ルキアって、文字書けないの?」

「……ああ。文字もほとんど見たことも無い」

エオスには過去のことは話していないので小首をかしげる。

「……そうだ、ルキア。私が教えてあげましょうか?」

「いらん、自分でやる」

「……じゃあ、わからないことがあったら、いつでも聞いてね?」

「……」

ルキアはそのまま座り込んで本を読み続けた。

 

 

「………『コボルト』、人狼型モンスター。出現域は上層の1階層から9階層まで……攻撃方法は鋭利な爪と噛み砕くことに長けた口。比較的弱いが、数が多いと新参は苦戦することが多い……『ゴブリン』、亜人型モンスター。出現域はコボルトと同じ……攻撃方法は、『天然武器(ネイチャーウエポン)』の棍棒や斧による打撃や、斬撃。最弱のモンスターとして歌われているが、こちらも数が増えないようにしっかりと対処すること……」

 

一時間後、ルキアは共通語(コイネー)についての本を読破し共通語を覚え、ダンジョンの基礎知識についての本も読破、並びに本に書いてあったことを殆ど覚えていた。

「……る、ルキア?」

ブツブツと呟き続けるルキアに少し恐怖を覚えたエオスはどうしたのかと聞いた。

「ま、まさか……その二冊、全部読破したの?」

「ああ、そうだが何か?」

とルキアはエオスの問いに即答した。

エオスからすれば、一時間で厚さ5センチもある二冊の本を読破し、その内容を暗記するなんてことがあるのかと、驚愕し、感嘆するばかりである。しかも、ルキアには共通語が書けない、読めないという高いハードルがあったはずだ。それを気にする仕草すら見せなかったのだ。余計に驚いてしまうわけだ。

「……よし……ダンジョンの本も覚えた。行くか、ダンジョンに」

「え、ちょ……まだ早すぎるんじゃない?というより貴方、アドバイザーさんにオッケーもらったの?」

ルキアの突発な言葉に驚きを隠せないエオス。そして、冷静にエオスはルキアに妥当な質問をした。

「………ああ」

「……そう…」

ルキアの言葉にエオスは頷いた。彼の言葉を信じてみようと思ったからだ。

エオス達、神は下界の子供達の嘘を見抜くことができる。だが、ルキアはいくら目を細めて見ても、嘘かどうかが分からない。ルキアは何故か、少し靄のかかったように見える。

「……分かったわ。無理だけはしないでね」

ルキアの主神であるエオスは心配そうに言った。

「……」

ルキアが防具をつけ、剣を腰に帯剣して、黙って出て行こうとしたその時。

「ルキア!ホームから出掛ける時は何か言うことがあるじゃないかしら?」

とルキアに聞いて来た。

「………」

だが、ルキアはその言葉の意味が理解できず、そのまま無言でホームを出た。

 

 

 

 

天まで届きそうな、巨大な塔。人々はそれを『バベル』と呼んだ。

神々が下界に降りて来た時、バベルを破壊して降臨したらしいとの話がある。

ルキアはバベルの中の中央、ダンジョンの入り口の螺旋階段を降りてダンジョン一階層にたどり着いた。

「……ダンジョン、一階層」

ルキアはひとつ呟いて、歩みを進める。

ものの1分もしないうちに、モンスターと遭遇(エンカウント)した。ゴブリンだ。

「……ゴブリン、か」

ついさっき覚えた知識を頭の中で反芻する。

天然武器は持っていないものの、三体。これを同時に相手する、というのは神々の恩恵を授かったばかりの初心者(ビギナー)には不可能だ。だがルキアは違う。

「……ッ!」

ルキアは逃げるなど全く考えておらず、ゴブリン達に突貫していった。

鞘から片手剣を滑るように抜剣し、真ん中のゴブリンに向けて左下から右上に一閃。

『ギガアアアッ⁉︎』

『『⁉︎』』

斬り付けられたゴブリンは吹き飛び、後の二匹は行動が止まる。

「……らあッ!」

そして、斬った勢いそのままで回転し、また左から右へ水平に一閃。残ったゴブリン二匹をまとめて蹴散らす。

「……前のよりは、強いな」

ルキアが前に戦った野生のゴブリンは魔石が極端に小さく弱かったが、ダンジョンから生まれるモンスターは違う。耐久も力も速さも。

「…とどめ、刺しとくか」

倒れたゴブリン達の胸に一突きし、灰に変える。

残ったのは、小さな魔石とドロップアイテムである『ゴブリンの爪』だった。

「……初めてにしては上出来だな……このまま進むか」

そして、ルキアはダンジョンのより奥を目指して歩き始めた。

 

 

ダンジョン3階層。

ダンジョン探索を終え、帰路につくファミリアがいた。魔法の使える後方支援(バックワード)が1人、サポーターが2人、中衛(メディバル)が2人、巨体の前衛(フォワード)が1人の計6人によるパーティだ。

「今日も、いい感じだったね、命」

「そうですね、千草殿。やはり、桜花殿の力は大きいですね……もっと自分も精進しなければ…」

綺麗な黒い前髪で目が隠れている少女が同じ黒髪を後ろで結んだポニーテールに紫の瞳の少女に話しかける。

命と呼ばれた少女は極東風のバトルクロスを身にまとっている。一方、千草と呼ばれた少女は大きなバックパックを背負っている。

そう、このフアミリアは極東出身の者が集まっている……正確には全員が主神共に極東から引っ越して来たのだ。理由は極東の孤児院にお金を送るため。主神はタケミカヅチだ。

「命、千草。油断はするな。気を引きしめておけ」

その2人を注意する大柄の男。

「分かっていますとも!油断大敵、ですね!」

「ありがと……桜花」

桜花と呼ばれた大男は先頭を歩いている。持っている武器は大きな戦斧(バトルアクス)。この男がこのファミリアの団長だ。他にも3人団員がいる。

「……誰かが戦っているな」

「……冒険者、1人ですね」

と、その道の先で誰かがモンスターと戦闘しているのが見えた。

「……あれって…コボルトとゴブリンが、9体も……⁉︎」

「………不味いですよ!桜花殿、助太刀を……」

「待て、ダンジョン内では基本不干渉だぞ」

「で、でも、見たことない人だし……もしかしたら、駆け出しかも、知れないよっ?」

「……」

「……助けに行った方がいいんじゃない?僕たちも見捨てるなんてしたくないから…」

悩む桜花に1人の団員が声をかける。

彼の名は飛鳥。後方(バックワード)で、魔道士だ。

「……わかった。行くぞ」

「自分が先行します!」

桜花が許可を出した途端、命はその冒険者に向かって疾駆した。

が、その心配が飛んだ気苦労だったということに気がついた。

「……あれ?」

「どうした、命」

「は、早く行かないと……」

「いえ、それが……」

言い淀む命。それもそうだろう、何故なら___

『……ッッ!!!』

その冒険者は物凄い勢いでモンスターをほふり始めた。

一体、また一体と片手剣に切り伏せられていく。

遠距離にいるモンスターには剣を投擲。その後は殴る蹴る、そして、一体を横に倒れたまま胴まで持ち上げ、モンスターの群れに突っ込む。一体のゴブリンの腕を両手で掴んで頭の上まで持ち上げてその勢い殺さず、後ろに叩き落とす。

コボルトに突き刺さっていた剣を抜いて、また切り伏せる。

そして、数十秒後にはモンスターを殲滅して見せた。

「……す、すごい…」

「よく勝てたな…」

「本当に駆け出し……?」

技と技術をステイタスで補っているように見えた。

『……』

倒してから彼女____本当は『彼』なのだが____は魔石を集めた。

「……あ、あの大丈夫ですか…?」

声をかけられた彼女は無言でこちらを振りかえる。

整った顔立ち。話しかけた命自身に似た蒼紫(タンザナイト)の瞳。長くのびた澄みきった空色の髪。背丈もそれなりに高い。

モテ要素がぎっしりと詰まった少女を見て、命達は息を飲む。

だが、少女は無表情な顔でまた魔石を拾う。

「あ、あのっ……」

『………何だ』

「……け、怪我は無いですか…?」

『…怪我はしていない』

「……左肩から血が出てますけど……」

『……』

「これ、使って下さい。治りますから」

『……』

命の差し出した回復薬(ポーション)を無言で受けとる少女。

「ダンジョンに潜るのは何度目ですか?」

『…初めてだ』

ダンジョンに潜るのが初めて……すなわち完全な初心者(ビギナー)だと言われ、驚くも言葉を続ける。

「傷にかけてください。そうすれば治りますよ」

命の説明を聞いて、その通りにすると傷が癒えていく。

少女は一瞬目を見開いた。

回復薬を使うのは初めてらしい。

「これは回復薬です。薬屋に行けば買えますよ」

『……分かった…………あり、がとう…』

少女は小さく頷いてダンジョンの上層に向けて歩き始めた。

 

「………あいつ、何だったんだ…?」

「……分かんない…ダンジョン初めてで三階層……」

「………何者だったんでしょう…」

各々驚きつつ疑問を呟く《タケミカヅチ・ファミリア》。疑問は募る一方だった。

 

 

 

 

エオス・ファミリアのホームである壊れかけの教会。その地下室ではエオスがルキアのステイタスが書かれた紙を見ている。

「……一体、このスキルは何なの……?」

その紙に書かれていたステイタス。アビリティは普通だ。驚くことに、魔法欄が三つもある。大抵ヒューマンは一つ、良くても二つほどだった筈。だが、それ以上にあり得ない、とあるスキルが発現していた。

 

Lv.1

力:I 0  耐久:I 0  器用:I 0  敏捷:I 0  魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)

・全アビリティの超高補正。

・五感の超高補正。

・スキルや魔法が発現しやすくなる。

・稀に暴走する。

 

 

「……《竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)》……」

下界に降りてきてあまり日が経っていないが、直感でこのスキルが他では滅多にない……いわゆる()()()()()というものだ、と悟った。

全アビリティの超高補正。さらに五感も……天界で言う、()()()だ。こんなものあってはならない。

スキルの特性……暴走。このスキルの唯一デメリットだ。暴走というのはどれくらいのものなのか、全く予想がつかない。

そして_________このスキル名。

「…竜……」

『竜』と言えば、最強モンスターの一角だ。これはただの比喩なのか、とエオスは結論付けた。

「……周りに知れるのは避けなきゃダメね。ルキアにもあまり言いふらさないように言っておきましょう」

と、この竜の血(スキル)のことはルキアに教え、他人に言わないように言いつけた。

 




次回「家族の温もり」


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家族の温もり

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は、ルキア君が家族の愛を知る!
それではどうぞ!


ギルド本部であるパルテノンに入ってきた1人の少年。

手に持つのは、大量の魔石が入った袋。先程までダンジョンでモンスター狩りをしていた少年は換金のため訪れていた。

「…換金を頼む」

「あいよ」

換金所はパルテノンを入って右手にある。左は受付となっている。因みに受付の方にはクエスト募集の掲示板があり、依頼書を持って受付に渡すとクエストを受けることが出来る。

「……2360ヴァリスだよ」

換金係は金貨2枚と大銀貨3枚、小銀貨6枚を渡してきた。

(一時間籠ってこれか……剣と防具の整備代、食費…諸々いれて……一日二、三時間で最低限は補えるな)

そう考えていた、その時。

「……ルキア君?」

ルキアの前には自身のアドバイザーであるハーフエルフのエイナが立っていた。

 

 

 

「………ルキア君、どういうこと!?まさか私とした約束、忘れたの!?」

今、ルキアはエイナに怒られている最中だ。

換金している所を見ていたようでダンジョンに言ったことが分かったのだろう。

「………」

エイナとした約束。『エイナの許可が降りるまでダンジョンへは行かないこと』。約束して二時間後には破るなどエイナは考えもしなかったのだろう。

「ダンジョンは危険なんだよ!いつ君に牙を剥くか分からないの!イレギュラーもあり得るの!!」

必死にルキアを叱るエイナ。これ程までに怒ったことはない。後ろのエイナの同僚のミィシャがよく理解している。

「……よくエイナをここまで怒らせたねぇ、冒険者君……」

とミィシャは呟いていた。

「ダンジョン初めてで三階層って……無茶にも程があるよ!」

エイナはダンジョンに行ったことと、より下層に行ったことも怒っている。

ルキアは聞き流していたが、次の言葉を無視することができなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

そのエイナの言葉にルキアは冷たく言い放っていた。

「いねぇよ、そんな奴」

「…っ?」

ルキアは生涯孤独。両親もいなければ、兄弟も姉妹もいない。そんなルキアにとって、その言葉は無意味で、無慈悲なものでもあった。

「き、君の家族だって…」

 

「それがいないって言ってるだよッッ‼︎‼︎」

 

「っ⁉︎」

パルテノンに響く怒号。

「そ、それでも、貴方にはファミリアの主神がいらっしゃるでしょう⁉︎」

エイナはそれに驚き戸惑いながらも必死にルキアを諭す。

「……なんだよ、俺の何が分かるって言うんだ。知りもしないくせにゴタゴタうるさいんだよッ‼︎」

感情が爆発する。

「……っ」

ルキアは耐えきれず、パルテノンを出て行った。後ろからのエイナの制止の声を振り切って。

 

 

 

 

「………何をやってるんだ、俺は」

ホームへの帰り道、ルキアは顔を歪めながら呟いた。

「……さっさと帰って寝るか、今日は疲れた」

ルキアはホームの地下室に入り寝ようとしたが、それを遮る声が聞こえた。

「ルキア!」

エオスだ。息を切らして汗をかいている。走ってきたようだ。

「貴方……本当はダンジョンに潜っちゃいけなかったのね?」

「……それがなんだよ」

どうやらエオスは事情を知っているようだ。後の話だと、ファミリア結成の手続きをしようとギルド本部へ行ったところ、エイナに会いルキアがダンジョンに行ったことを言ったところ、自分はダンジョン探索の許可はしていないと言ったらしい。

「……どうしてそんな危険なことをしたの?」

「……お前には関係ないだろ………今日会ったばかりの他人なのに」

「他人じゃないわ!今日会ったばかりであっても、貴方は私の眷属よ!」

「………」

 

「私の………私のたった1人の家族なのよっ‼︎」

 

「…っ」

「貴方がいなくなったら……悲しいじゃない…っ!」

エオスは涙を流しながら訴える。

「たとえ、昨日は他人だったとしても、貴方は私の……家族、なのっ…!」

ルキアはその言葉に、戸惑う。ルキアの感じたことの無い、温かい感情が彼を包む。

「……俺は…俺は禁忌だ。傷つけられても当然の……存在なんだぞ⁉︎なのにっ、なんで…っ⁉︎」

そして、エオスはルキアに優しくこう言った。

「あの時、私は貴方に手を差し伸べた。そして……貴方はそれを受け入れて、手を取った……それだけでいいじゃない」

「……っ‼︎」

ルキアの目からはとめどなく涙が、溢れた。ルキアは崩れ落ち、嗚咽を漏らす。

「…っ!」

ルキアが上を向くと、エオスは涙を流しながらも微笑みながら言った。

「大丈夫、私は貴方の家族だから……」

「〜〜っ‼︎」

エオスはルキアが泣き止むまでルキアを抱きしめ、頭を撫でるのだった。

「……いい子、いい子………私が、そばに居るから…」

生涯孤独のルキアに大切な家族が出来た瞬間だった。

 

 

ルキア・クラネル

Lv.1

力:I 98  耐久:I 72  器用:I 56  敏捷:I 95  魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)

・アビリティの超高補正。

・五感の超高補正。

・スキルや魔法が発現しやすくなる。

・稀に暴走する。

・自然治癒能力の超高補正。

 




次章は原作のお話になっていきます!でも、1話からは原作より、少し前の話になります。
そして、次はオリジナルキャラクター登場!

次回 第1章《Beginning》 「王族妖精との出会い」


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第一章 Beginning
王族妖精との出会い


こんにちは!クロス・アラベルです!
オリキャラ、いよいよ登場!
それでは、どうぞ!


ここは迷宮都市(オラリオ)

世界一栄える都市だ。毎日様々な種族が行き交う。ヒューマンは勿論、ドアーフ、アマゾネス、パルゥム、獣人……そして、エルフ。

今日も(エルフ)が1人、オラリオにやってきた。

翡翠色の髪と金色に輝く瞳。背丈は164セルチほど。質の良い素材でできた王族妖精(ハイエルフ)の伝統衣装である特殊なローブを身にまとっている。

「こ、ここがオラリオ……」

彼女はオラリオの活気の良さと大きさに驚いていた。少女自信、オラリオは世界一と聞いていたのだが、それでも圧倒されている。

「……よしっ、えっと…一番にやることは……ファミリアの入団!…どこか入らせてくれるファミリアあるかな…」

不安そうに歩みを進める少女。

「駄目ならお姉様のファミリアに行けばいいんだけど、やっぱりここまで来たなら自分で探したいし!…厄介事に巻き込まれないと良いんだけど……」

その言葉は、いわゆる、フラグだった。

 

 

「お嬢ちゃん、おじさん達と楽しいことしないかい?」

「あっ、ぇっと、そのっ……」

巻き込まれちゃった……と少女は内心で焦っていた。

その数分後。少女は路地裏で胡散臭そうな冒険者達に絡まれて……ナンパされていた。人数は六人。ファルナを授かっていない彼女ではどうしようもない。

「いいだろぉ、俺達と遊ぼうぜぇ」

「可愛いな……エルフはオレの好みだぜ…」

「………ぁ…ぇと……」

迫ってくる彼らに足が震え、目を潤ませる少女。

「た、助け……」

叫ぼうとしても怖くて声が出ない。

もうダメだ。そう思って目を瞑った、その時。

 

『何をしてる』

 

男たちの向こうからぶっきらぼうな声が聞こえた。

「ああん?誰だ小僧」

『……何をしてるんだ』

「お前には関係ねぇよ!おとと行きやがれ!」

そう言われても少年は物怖じせずに質問を続ける。

「……言えないことでもやってるのか?……」

「うるせえぞ!!このガキ!痛い目に会わされたくなかったら、とっとと失せろ!」

「……馬耳東風、か…」

「いい加減にしねえと殺…」

「ピーピー喚くな、お前の方がうるせえよ」

一人の男の言葉を完全無視し彼はその男を吹き飛ばした。

「…カハッ……!?」

「……はあ?」

何が起こったか分からず呆然とする男たち。

「…さて、次は……誰だ?」

少年は冷たく言い放った。

「……てめえ、何して……!?」

「…ああ、お前だな?」

頭らしき人物が何かを言おうとしたが、その前に

「…らあッ!!」

右足で蹴られて吹き飛び、

「ひぐぅッ!?」

意識を刈り取られた。

「や、やべえよ!一番強えお頭がやられるなんてッ、逃げるぞぉっ!?」

「う、うわあああッ!?」

それを見た他の男たちは尻尾をまいて逃げていった。

「………」

それを見ていた少女は見とれていた。

 

空色の長い髪に蒼紫の瞳、整った顔。すらっとしていて、背が高い。軽装備で、左腰には片手剣。

彼___彼女だと思っているが____の美しさに。そして、凛々しい姿に。

彼女は知らない。

いつの間にか、自分の頬がほんのりと赤く染まっていることを。

 

これが、少女___マナ・リヨス・アールヴと少年___ルキア・クラネルの出会いだった。

 

 

「………」

翡翠色の髪のエルフがルキアを穴が開くほど見つめてくる。

「…おい。大丈夫か」

「…ぇ?」

ルキアはへたりこんでいたエルフに手を伸ばす。

「……ぇあっ、は、はひぃっ!?」

彼女はその手を咄嗟に取り、立ち上がった。

エルフという種族は大抵潔癖じみた性格がある。初対面の相手は勿論、知り合いでも肌を触れさせない。それができるのは気を許した者のみ。そして、気の許せる者がほとんどいないのも潔癖が原因だ。

だが、彼女は違った。

「えっとっそのっ、あありがとうございますっ⁉︎」

「……いや…お前を見た時、ここにきた頃の俺を思い出した、から……何となくだ」

視線を逸らしながらルキアは少女に言い訳をする。

『俺』というルキアの一人称に小首を傾げるマナ。

「ほ、本当にありがとうございます。お強いんですね」

「いや、冒険者になってそんなに経ってない。まだ下っ端も下っ端だ」

「いえ!そんなことありませんよ!貴女は……とても、かっこよかった、です……」

「………?」

最後に溢れた呟きわを聞き取れず、首をかしげるルキア。

「あっ、貴女は冒険者でいらっしゃるんですか?」

「ああ。それがどうかしたか?」

「あ、あの……貴女のファミリアに入れてくれませんかっ?」

マナはルキアにファミリアの入団をお願いした。

「……」

「駄目、でしょうか?」

「………俺の入ってるファミリアは零細ファミリアだぞ。ホームだって、地下室だ。本当にいいのか?」

「いいんです!私は、その……貴女の入っているファミリアに入りたいんです」

「………まあ、俺としては断る理由もない、か。取り敢えず、ホームへ行く。ついてきてくれ」

「は、はいっ!」

受け入れてくれたことに嬉しくなり、つい声が大きくなるマナ。

「それで、名前は?」

「えっと、私の名前はマナ・リヨス・アールヴです!よ、よろしくお願いいたしますっ!」

「マナ………俺はルキア・クラネルだ。よろしく、な」

「ルキア、クラネル……よろしくお願いします、ルキアさん!」

2人は自己紹介をして、エオスファミリアのホームに向かった。

 




次回『少年と王族少女』


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王族少女とファミリア

こんにちは!クロス・アラベルです!
遅くなりました、第十一話です!
それではどうぞ!


ここはエオスファミリアのホーム、壊れかけの教会。その地下室、そこには3人……いや、女神とヒューマンとエルフがいた。

「で、何と記念すべき2人目の眷属になってくれる子を連れてきてくれたのね!」

笑顔で喜ぶ女神エオス。

「……そういうことだ」

「えっと、ま、マナですっ!よろしくおっお願いします!」

「よろしく、マナ。そんなに緊張しなくて良いからね?」

「は、はいっ」

無表情に答えるルキアと緊張し過ぎて噛みまくるマナ。

「それじゃあ、早速神の恩恵(ファルナ)を刻みましょう!」

「分かりました!」

「じゃあ、服を脱いで」

「は、はいっ⁉︎」

そう言ってエオスはファルナを刻むために、マナに服を脱ぐように言う。

「えっと、すいませんっ、ちょっとびっくりしてしまって……」

「……ああ、ルキアね。ルキア、一度地下室から出てちょうだい」

「……何故だ?」

「当たり前でしょう!貴方は男なんだからっ!」

「へっ?」

「……わからんが……出ていけばいいんだな?」

エオスの、ルキアは男発言に時を止めるマナ。

「ええっ⁉︎る、ルキアさんって、男性なんですかっ⁉︎」

「ええ。まあ、分かるわ。この容姿を見れば誰でも勘違いするから……って言う私もそうなんだけど」

「……っ⁉︎」

大人しく地下室の外に出て行くルキアを驚愕の目で見るマナを、エオスが達観した目で見守る。

「……えぇ…」

「……?」

「ルキア、早く!」

「……わかった。武器の整備をしているからな」

ルキアはマナからの視線を感じ、首を少し傾げた。

「……ルキアさんは、何故髪を切らないんですか?」

「それが……面倒くさい、らしいのよ。前髪、邪魔じゃないのかしら…」

「……えっと、それじゃあ、お願いします」

「……え?ああ、そうだったわ。目的を忘れていたわ」

マナに言われてファルナを刻む事を思い出したエオスは準備を始めた。といっても、小さな針を一本用意するだけなのだが。

「それじゃあ、いい?これを刻んでしまえばもう後戻りは出来ないの。まあ、脱退したいのなら無理矢理止めはしないけど…それでもいいの?」

「は、はい!」

エオスの最後の確認に頷くマナ。

「……じゃあ、始めるわよ」

そして、エオスはマナの背中に自分の血を一滴落とした。すると、共鳴するかのようにマナの背中が光り始め、文字が浮かぶ。

その文字こそ、《ヒエログリフ(神聖文字)》だ。神が天界、下界でよく使う文字だ。共通語(コイネー)と違い、ほとんど神にしか読めない。学区で神聖語は学べるものの、神ほど神聖文字(ヒエログリフ)を熟知し、使う者はいない。

「……(さて、この子にはどんなスキルや魔法(もの)が埋まっているのかしら?)」

そして、エオスはマナの背中に神聖文字(ヒエログリフ)で刻まれたステイタスを読み取る。

 

 

マナ・リヨス・アールヴ

Lv. 1

力: I 0 耐久: I 0 器用: I 0 敏捷: I 0

魔力: I 0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

【】

 

 

 

「……(まあ、普通ね。ルキアがおかしかっただけよ。スキルはチートだし、魔法(スロット)は三つあるし……後者の方はこの子もだけど)」

マナのステイタスは至って普通だった。

「………えっと、エオス様…」

「出来たわよ、少し待ってて。」

エオスは紙を一枚とってそのステイタスを書き写した。

「…はい、これが貴女のステイタスよ」

「あ、ありがとうございます!」

マナはその紙を受け取って見た後にエオスに聞いてきた。

「……これって普通、ですか?」

「ええ。基本アビリティは最初は0。スキルや魔法が初めから発現してる子供はなかなかいないわ」

「そう、ですよね…」

少しだけ落ち込むマナにエオスは疑問に思う。

「まさか、簡単にスキルや魔法が発動するとでも思ったのかしら?」

「いえ!そんなわけじゃないんですが……少しだけ、期待しちゃって…」

「ふふっ、そう。まあ、期待しちゃうわよね。でも、あなたの場合は魔法が早く発現しそうよ。種族的にエルフは魔法を覚えやすい種族だもの。それに貴女は王族(ハイエルフ)でしょう?」

「はい…」

「ならなおさらだわ」

「そ、そうですかね…」

恥ずかしいのか、少し顔が赤くなるマナ。

「それじゃあ、服を着てギルドに行ってきなさい。冒険者登録をしてこなきゃいけないから」

「はい!」

「マナ、そう言えば貴女武器の類いは持ってるの?」

「一応携帯しています。ナイフと弓です。」

「ナイフと弓ね……どっちの方が使えるの?」

「えっと、断然弓ですね。弓は里にいた時からよく狩りで使っていたのですが、ナイフは身を守るために持っているだけなので…」

「分かったわ、なら武器の方は弓と書いておきなさい。まあ、ファミリアに入ると言っても冒険者になるかどうかはあなたが決めるんだけど…」

「……ルキアさんは一人でダンジョンに?」

「ええ、ちょっと危なっかしいけれどね」

「……なら、わっ私もルキアさんと一緒にダンジョンへ行きます!」

「本当に大丈夫なの?モンスターは見たことないでしょう?」

「……はい…けど、少しでもルキアさんの役に立ちたくて…」

「……分かったわ。決めるのは貴女自身だし、ダンジョンについてはアドバイザーの子に教えて貰えばいいんだしね。」

マナは服を着て、エオスの話を聞く。

「私、頑張りますっ!」

「ええ、無理しない程度にね?ルキア!もう入っていいわよ」

エオスがルキアを呼ぶとドアの奥から返事が来た。

『…分かった。マナ、行くぞ』

「はい!」

マナはルキアを追ってホームを出て行った。

「……王族、ねぇ……私のファミリアは特殊な子ばかりだわ。」

一人は謎だらけのレアスキル保持者、もう一人は王族妖精(ハイエルフ)。こうしてでこぼこファミリアが結成された。

 

 

 

 

「……」

「……」

オラリオのメインストリートを歩くルキアとマナ。ルキアは元々無口な性格だからか、自分から話しかけることがあまりない。対してマナは初めてギルドに行くので緊張しているようだ。

それともうひとつ、ルキアと隣を歩くことにも緊張しているようで頬が少し赤い。

「…あ、あのっ……ルキアさんって、好きな食べ物とか有りますか…?」

ベタだ。マナはベタすぎる質問をルキアに投げ掛ける。マナは緊張して頭が回っていないようだ。

「……無い」

そのベタすぎる質問にルキアはマナにとって一番困る答えを出した。

「そ、そうですか……(……なんで私もっと答えやすい質問をしなかったの!?)」

と、マナは心の中で後悔した。

「じゃ、じゃあ……オラリオのおすすめのお店って有りますか?」

マナは負けじと質問を続ける。今度は普通の質問だ。

「………店は、一軒だけしか入ったことはない」

やっと返ってきたいい答え。マナはそのネタに食いついた。

「そっ、そうなんですか!…そのお店は…」

「……『青の薬舗』だ。」

「…もしかして、お薬屋さんですか?」

「ああ」

このオラリオで唯一行ったことがある店がポーションなどを扱う薬屋。そんな事実にマナは驚きを隠せない。

「もうすぐ、着くぞ」

そんなこんなでマナとルキアはギルド本部に辿り着いた。

 




次回『少年少女と妖精達』


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少年と姉妹

こんにちは!クロス・アラベルです!
遅くなりました……ちょっと短めですが、どうぞ!


 

 

「こ、ここがギルド本部……」

「…早く行くぞ?」

「はっ、はい!」

ルキアとマナはギルド本部であるパルテノンに辿り着いた。そして、ルキアは受付にいた桃色の長い髪の受付嬢に話しかけた。

「すまん、エイナはいるか?」

「はい、少しお待ち……あれ?君って、エイナがアドバイザー担当の…」

「…ああ」

ルキアが今話しかけた受付嬢であるミィシャはエイナの同僚兼友人で、一応ルキアとは知り合いなのだ。

「今日はどうしたの?いつもなら換金終わってる筈だけど」

「いや、今回は別の用件だ」

「わかった、とりあえずエイナ呼んでくるね~」

「頼む」

ミィシャは他の冒険者よりも砕けた喋り方で答えてくれた。その数十秒後、エイナは小走りでやって来た。

「こんにちは、ルキア君。どうしたの?」

「ああ…冒険者の登録をしに来た」

「冒険者の登録…君が?」

「……俺な訳がないだろう。こいつだ」

「ふみゅっう!?」

ルキアはマナの頭に手を乗せて言った。

「え_____」

マナを人目見たエイナはその瞬間、時を止めた。

 

「えええええええええ!?まっ、マナ様!?」

エイナはルキアが見たことないほど驚いた。何せファミリアに入ると言った子が、

 

「あ…エイナ、さん?」

ハイエルフだったのだから。

 

 

 

 

「知り合いだったのか」

「はい。私が幼い頃…エルフの里にいた時、里の皆さんの目を盗んでお姉様達と一緒に一度帰ってこられたんです。その時から友達で…」

「ま、マナ様!お変わり有りませんか?それより何故このオラリオに?あなた様はエルフの里にいらっしゃると聞いた筈です!それに、何故ファミリアに入りたいと……?」

エイナの質問攻めにマナは落ち着いて答えた。

「えっと……約束したんです。お姉様と………大きくなったら、里を出て世界をこの目で見ると……お姉様とまた会うって…」

「ま、マナ様……」

「え、エイナさん、その呼び方は止めて下さい。やっぱり、恥ずかしいです…」

「し、しかし…」

その時、困った二人を見かねてルキアが声をかける。

「マナの、言う通りにしてやったらどうだ、エイナ?」

「ルキア君まで……」

「……私はエイナさんより六つも年下ですし……」

「……大人として認めてやったらどうだ。本人が、こう言ってるんだしな」

さらに助け船を出すルキアと意思の変わらないマナに根負けしたのか、溜め息をついて答えた。

「わかりました……それじゃあ、ま、マナちゃんって呼ぶけど……いい?」

そう、いつものようにお姉さんな喋り方に変えたエイナにマナは笑顔でこう答えた。

「はい!これからよろしくお願いします!エイナさん!!」

 

 

 

 

「……それで、行きたいところって言うのは、どこなんだ?」

「えっと……それが、会いたい人がいるんですけど…どこにいるか知らなくて………」

ギルドで冒険者登録を済ませた後、二人はメインストリートを歩いている。

「……会いたい奴の、名前は?」

「リヴェリア・リヨス・アールヴっていう、ハイエルフの方なんですが…」

「……リヴェリア…《九魔姫(ナイン・ヘル)》、か?」

ルキアは少ないヒントを頼りに記憶からとある冒険者の二つ名を思い出す。

「な、ないん……え?」

「……ある冒険者の二つ名だ。」

「冒険者をしていらっしゃるんですか?」

「ああ。Lv.6のオラリオ一強い魔道士だ。迷宮都市(ここ)に来たての俺でも知ってる」

「そ、そうなんですか⁉︎」

「……となると……ロキ・ファミリア、か」

「ろ、ロキ・ファミリア……」

ルキアはつい最近覚えたオラリオの地図を頭の中で広げて、ロキ・ファミリアのホーム、《黄昏の館》を目指す。

 

 

 

 

「……ここが…黄昏の館…」

「…話には聞いていたが、かなりだな」

北のメインストリート、その外壁のそばにそれは建っていた。ロキ・ファミリアのホーム《黄昏の館》。

門の前には二人の門兵が槍を持って立っている。

「……ここに、リヴェリア様が…」

「…何してる?行くぞ」

「は、はいっ」

ルキアはぼーっとするマナを連れて門兵の元へ直行した。すると当然とも言えるが、門兵が槍を交差させて道を阻む。

「お前、どこのファミリアだ?」

「流石に入れるわけにはいかない。ここに入るなら、許可証を出せ!」

できた門番だ。いきなり追い返そうとはせず、話を聞こうとしている。

「えっと…エオス・ファミリアです」

「……九魔姫(ナイン・ヘル)、ロキファミリアの副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴに会いたい。」

「なぜだ?」

「他のファミリアの者がこのロキ・ファミリアの副団長に会おうなど、どういう了見だ!」

片方の門番が声を上げて問い詰めたその時、まずいと思ったのかマナが話しかけた。

「……あ、あのっ」

「「ん?」」

「会いたいと言ったのは、私、です…」

「…それで、何故会いたい?」

「……えっと…オラリオに来たら挨拶をしておきたくて…」

「……またか…」

「リヴェリアさんの顔を拝んでおきたいのか?」

「い、いえ…久し振りにお姉様に会いたくて…来てしまったんですけど…」

「「……はあ?」」

マナの『お姉様』という言葉に呆気にとられる門番。

「…自己紹介でもしたらどうだ?」

「は、はい。私、エオス・ファミリアのマナ・リヨス・アールヴです」

「……少し待っていろ、確認してくる」

片方の門番が少し訝しげに言いながら門の奥へと消えた。

 

 

その五分後、門番ではなく一人の長身のエルフが現れた。いや、弾丸となってマナを襲った。

「マナっ!本当に来るとは思わなかったぞ!」

「リヴェリアお姉様……っ!ちょっと、苦しい……です……ッ⁉︎」

マナはそのエルフに抱きしめられた。いや、Lv.6の力のアビリティによって半分絞め殺されかけている。

そのエルフの女性は翡翠色の長い髪と瞳。貴族のような出で立ち。彼女がリヴェリア・リヨス・アールヴだ。

「……放してやってくれ、苦しそうだ。」

「ん?ああ、すまない。マナ久しぶりだな。五年前に会った時以来だ」

「はい!お姉様!」

「ここに来たということは、このファミリアに入りに来たのか?」

「い、いえ、そう言うわけじゃないんですが……私、他のファミリアに入りましたのでご報告とご挨拶を…」

「そうだったか。では、君は…?」

リヴェリアはマナの後ろにいたルキアを見て聞く。

「……マナと同じファミリアの団員の、ルキア・クラネル、だ」

「……そうか、ルキア……だな。ルキア、私の妹を…マナを頼めるか?」

マナはルキアに真剣な表情でそう言った。

「……言われなくとも、そうするつもりだ。同じ、ファミリアだからな」

ルキアはその願いを受け入れたのだった。

 




次回《夜空の下で》


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夜空の下で

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は短めとなっております。
次回から原作のストーリーが始まる予定です。
それでは、どうぞ!


 

 

迷宮都市オラリオは今夜を迎えている。一般民は家に帰り、ダンジョンに篭っていた冒険者は酒場で飲んで笑って大騒ぎしている。

そんな冒険者街はまだ明かりが煌々と点いているが、民家はそうではない。なので、民家で夜空を見上げれば星は綺麗に見える。

エオスファミリアのホームもその例に漏れなかった。特にエオスファミリアのホームである壊れかけの教会は周りに明かりが少なく、よく星がたくさん見えた。この事を知っているのは、ルキアただ一人。だが、今夜は一人の客人がいた。

「……綺麗」

そう、エオスファミリアに入ってきた新人、マナである。一人夜空を見上げている。すると、地下室からルキアが出てきた。

「……ルキアさん…」

「……眠れないのか?」

「……少しだけ、目が冴えてしまって………すみません、すぐに寝ますね」

 

「…綺麗だな」

 

「…はい?」

マナはルキアの口から出てきた言葉に一瞬唖然とし、そして、盛大な勘違いをして顔を赤らめさせた。

「えぇっ⁉︎ちょ、でも、そんないきなり…っ⁉︎」

「…言葉が出ないって言うのは、こういうものなんだって、驚いてたぞ、俺も」

「ふぇぇっ……⁉︎」

マナの異変に気付かずにルキアは続けていく。マナはすでに茹でダコのようになっている。

 

「…ここでこの星空を見上げていたくなるのも、わかる」

 

「………はい?」

「……?」

ルキアの言葉に完全な勘違いをした事を悟ったマナは苦笑いしながら答える。

「で、ですね」

「……初めて夜空を見た時は、呆然とした。こんなにも、世界は広いのか、ってな」

「……小さな存在ですよね、私達って…」

 

「ああ……俺はな、いつか、空を飛んでみたい、死んでこの夜空に消えてしまいたいと思った」

 

また夜空を見上げるマナにルキアは過去を吐露した。

「っ⁉︎だ、駄目ですっ、そんな事っ……⁉︎」

「……だが、今は違う。前は俺はなにかを得ることも失うこともなかった。でも、今は失いたくないものがある。だから、そうは思わない」

マナはルキアのこれまでの人生を知らない。だが、なんとなく察した。そして、何故そうなったのかという怒りや悲しみも。

「…!」

「……俺はここに来て得た物が色々ある。エオスやアミッド、エイナ……そして、お前だ」

「……っ、ルキアさん…!」

「…俺は…………失いたくは、ない」

「………」

 

「……だから、失わないように、強くなりたいんだ」

 

「一緒に、頑張りましょうね」

「…ああ」

ルキアの誓いの言葉。それをしかと見たマナは頰を赤く染めながらも頷いた。

「………マナ、明日からお前はエイナにダンジョンについて習うと言ってたな」

「は、はい」

「……それは止めだ。ダンジョンに行くぞ」

「えっ⁉︎」

「……やはり、 実戦が一番だ。聞くより、見る、見るより、戦う」

「で、でも、エイナさんが……」

「次の日にでも行けばいい」

「……わ、わかりました」

 

後日、エイナにしっかりと叱られたと言う。

 

 

 

 

 

 




次回《少年と剣姫〈強き者〉》


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少年と剣姫(強き者)

説明回を投稿してから気づきました。
「あ、これって、アイズさんと会った後のステイタスだ」
と。
それではどうぞ!


「……運が悪い……っ」

ここはダンジョン5階層。駆け出し(ビギナー)では攻略不可能の層で、とある少年(ルキア)がいてはいけないところ。現にその少年(ルキア)は死にかけている。

『ヴヴモオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

化け物(ミノタウロス)に追いかけられるという地獄を味わっているのだから。

「ちっ…!」

赤銅色をした筋骨隆々の体。頭は牛、それより下は人間と変わらない肢体。足は蹄だが。

このモンスターはレベル2でなければ討伐することが出来ない。レベル1は瞬殺されると言うのが現実である。

故に彼らがミノタウロスと遭遇(エンカウント)した時に取る行動、それこそが逃走なのだ。戦うなど以ての外。逃げの一手である。

彼自身、隙を見て右手にある片手剣で何度も攻撃をしているが、全く効いておらず、かすり傷一つつけられなかった。そして、彼は悟った。『狩られるのはこちらだ』と。

そして、全速力で逃げているのだが、相手はレベル2相当のモンスター。敏捷(スピード)も尋常ではない。レベル2相当のモンスターの中ではスピードが遅い方なのだが、幾分彼自身がレベル1だ。レベル差というのは大きい。何故その図体でこのスピードが出るのか、疑問である。

鳴り響く地響き、雄叫びが背中を叩き、息は上がる。流石のルキアでも限界が来ている。

『ヴヴゥンッ‼︎』

「っ‼︎」

ルキアの足元に叩きつけられる蹄。砕け散った地面の破片がルキアを襲う。ルキアは両手を交差させ防ぎ、転がってミノタウロスと相対する。

『ヴヴモオオオッ‼︎』

そして、突っ込んでくるミノタウロスに片手剣で一閃。だがそれは、ミノタウロスを傷つけることはない。

「はッ‼︎」

小さな掛け声とともに駆け出し、攻撃を頰に擦りながらもミノタウロスの後ろへ。そして、すれ違いざまに右足関節の裏に斬り込む。

「……‼︎」

斬った場所を見るとうっすらに、血も出ていない程度だが傷が付いている。ルキアはそこに向かって剣で刺突する。が、

ガツッ

そんな音を立てて剣はミノタウロスの関節を貫くことなく、つんのめっていた。

「…だろうなッ」

『ヴヴゥムンッッ‼︎』

「ぐぉッ⁉︎」

間一髪のところでミノタウロスの反撃を避け袋小路に転げこむルキア。ミノタウロスはさらに追撃を始めようと、その太い右腕を振りかぶる。

『ヴヴォォオオオオオオオオオオッ‼︎』

「クソったれが……ッ‼︎」

絶体絶命。

ルキアは最後のあがきをしようと剣を振りかぶる、その直後。

 

ミノタウロスの屈強な肉体に一本の線が走る。

「!」

『ヴォ?』

ルキアが目を見開き、ミノタウロスの間抜けた声が溢れる。

何本もの線がミノタウロスの体を駆け巡りやがて、斬れる。

『ヴグゥッ⁉︎ヴヴゥグゥォオオオオオオオオオオッッ_____⁉︎』

そして、ミノタウロスは細切れとなり、ただの肉塊に成り下がる。ミノタウロスの地獄から聞こえるような悲鳴が途絶える。

「……」

拍子抜けな終わりに、呆然とするルキア。その目の前にいたのは、

 

「……大丈夫ですか?」

 

ひとりの少女だった。

砂金のような儚い金色の腰にまで届くその長い髪をたなびかせる。瞳は髪と同じ金色。ところどころ青を基調とした銀の防具を装備し、華奢な銀の(サーベル)を右手に立っている。

彼女の名はアイズ・ヴァレンシュタイン。二つ名は『剣姫』。オラリオの中でも1、2を争う最強のファミリア、『ロキ・ファミリア』の幹部であり、オラリオ1の剣士だ。

 

「……大丈夫、ですか?」

「……ああ、すまない」

彼女からの言葉にいつもの素っ気ない返事を返すルキア。

「……怪我は…?」

「大丈夫だ、ない」

続く沈黙。ルキアはあまり喋る方ではなく、それはアイズもそうだった。そのためか、たった4文で会話が終わってしまった。会話をするためにアイズは言ったわけではないが、これはこれでおかしいと言うか、これこそ拍子抜けだ。

だが、ルキアとアイズは気付いていない。

そして、アイズの向こう側からひとりの狼人(ウェアウルフ)の青年が走ってきた。

灰色の髪に同じ瞳。頰には雷のような刺青が施してある。かなり高身長で、武器は腰にある2振りのナイフ、身を守る防具はグリーブだけだった。

「……また、今度謝礼に向かう」

「いえ、そんな、される事でもない…です」

「いや、助けられたのはこっちだから、これくらいはさせてくれ」

そう言ってルキアは階層を上るため、そこから立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「……」

ダンジョン5階層のとある一角に彼女はいた。

無言でサーベルを鞘に納め、今しがた少年が去った方を見ている。

その隣には腹を抱えて爆笑をこらえている狼人(ウェアウルフ)の青年がいた。

「……ぷはははははははははははははは‼︎我慢出来るかあんなのォっ!ギャハハハハハハハハハハ‼︎」

結果、こらえられなかったようだが。

「真っ赤だぜ⁉︎トマトじゃねえか‼︎だはははははははは⁉︎決めた、あいつトマト野郎だ‼︎」

誰が聞いても『不快だ』と答えるようなあだ名をつけた。

彼はベート・ローガ。彼もアイズと同じロキファミリアの幹部で、レベル5の冒険者だ。二つ名は『凶狼(ヴァナルガンド)』。

「……」

そんな彼に非難の目線をひとしきり浴びせてから、彼女はまた彼の去った方を見た。

「ひいー……ここまで笑ったのは久し振りだぜ…アイズ、早いとこ戻るぞ」

「……はい」

そして、二人は仲間たちの元へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、百点満点!合格だね」

「やった!」

ギルド本部の受付。そこではエイナとマナが向かい合って喜んでいた。

「…教えるのに1日、復習に1日…それでこんなにいい成績だなんて……流石だね、マナちゃん」

「ありがとうございます、エイナさん!」

ダンジョンについてのテストで満点を取り、ダンジョンに行くことを許されたからだ。エイナとしては行って欲しくないのが山々だが、当の本人はルキアだけに負担をかけるのは申し訳ないと奮闘しているので、駄目だと言えなかったのだ。

「それじゃあ、ダンジョンに行くことは許可するけど、絶対に一人でいかないこと。必ずルキア君と一緒に行ってね?無理もしないこと。油断禁物だからね?それに……」

「え、エイナさん、気を付けますから……」

心配性……というよりは初めてダンジョンに潜るマナにエイナなりのアドバイスをしている。だが、止めなければ十分十五分とかかりそうなのでマナは苦笑いしながら返事をする。

「……とりあえず、マナちゃんの武器は弓矢だから後方支援だよ。安全だって思うかもしれないけど、しっかり周りを見ること。ルキア君の指示に絶対に従ってね。そして、ダンジョンに潜る時の合言葉は?」

「覚えてますよ。『冒険者は冒険しちゃいけない』、ですよね?」

「よし……これでまあ、安心かな」

エイナはマナを見送ろうとマナと一緒にギルド本部の玄関口までついて行く。

「今日もありがとうございました!」

「いえいえ、こっちも仕事ですから」

とマナが別れを告げて帰路につこう、そう思って左を向こうとしたその時。

 

「マナ、エイナ。今帰った」

 

彼の声がした。

「あ、ルキアさ___」

「ルキア君、お___」

二人はそれぞれルキアに今日の労いの言葉をかけようと口を開き、声の聞こえる方に振り向いた。

そこにいたのは_______

 

モンスターの返り血を思いっきり浴びて真っ赤になったルキアだった。

 

「「きゃあああああああああああああああ⁉︎」」

ギルド本部に二人の少女の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

「もう……何してるの、ルキア君!私、ちょっと君の神経疑っちゃうなぁ」

「……そう、か?」

「さ、流石に……ルキアさん、ちゃんとバベルでシャワー浴びてきましょうよ…」

「……善処する」

「……君ってばそればっかりだよ」

「……そう、か」

「……さっきと同じこと言ってますよ、ルキアさん…」

どこぞのホラー映画にゾンビとして出てきそうなほど血塗れになったルキアは先ほどシャワーを浴びて来た。タオルで頭を拭きながら二人と話している。

「それで、何があったの?まさか、ルキア君、そんなに危ない状況に陥ったの?」

「ルキアさん、ダンジョンから帰ってきても擦り傷すらもらってませんもんね…珍しいです」

ルキアはダンジョンでほぼダメージを受けずに帰ってくる。とは言っても、得物の片手剣で攻撃を受け止めるぐらいはするので順調に耐久のアビリティは上がっているが。それ故に今回は余程のことがあったのではないだろうか、と思うのも無理はない。

「……端的に話すと、五階層まで潜ってミノタウロスに遭遇(エンカウント)して死にかけた」

「「⁉︎」」

ルキアの言葉に驚愕する二人。ルキアはこの反応は予測できていたのですまし顔で続ける。

「安心しろ、目立った怪我はしていない。しっかり逃げたしな」

「なんで五階層なんかに潜ってるの‼︎行っていいのは二階層までって言ったでしょう⁉︎」

「み、みのたう、ろす……れっ、レベル2相当の超強力モンスターじゃないですか⁉︎しかも、なんで五階層で……そのモンスターは中層付近が初出現だって……」

「……マナちゃんが教えたことを早速使ってくれてすごく嬉しいけど……でも、いくら君でもレベル2相当のミノタウロスに追いかけられたら逃げ切れないはずだよ⁉︎どうやって……」

「…剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインが間一髪のところで助けてくれた」

「……剣姫…?ロキファミリアの⁉︎」

「ああ。おおよそ、遠征帰りだろうな」

「お姉様の、ロキファミリアの方が……良かった…」

「……でも、君、なんで五階層なんかに降りたの?」

「……二、三階層のモンスター達は弱過ぎる。それに金を稼ごうにも魔石が小さ過ぎて換金してもあまりいいとは言えない。効率を上げようと思えば、下の層に行くのは分かるだろう?」

「それでも、危険度が上がるんだよ⁉︎君が強いってことは私も今までの君を見れば分かるけど、ダンジョンでは何が起こるか分からないの‼︎今回みたいな異常事態(イレギュラー)があってもおかしくないんだよ⁉︎」

エイナの説教に、流石のルキアも怯み、降参する。

「……すまない」

「……分かってくれれば良いんだけど…」

「助けていただいたファミリアがお姉様のロキファミリアで良かったですね。これならお礼も会いに行きやすいです」

「……ああ」

「とにかく、冒険しないこと。それだけは覚えて、注意してね?」

「分かった」

「…それじゃあ、換金してく?」

「ああ。ミノタウロスに遭遇(エンカウント)するまでは順調に狩りがすすんだからな」

そう言ってルキアは換金所へ。

「……3700ヴァリスか」

「……毎回思うけど、駆け出しとは思えないほど高額だね。普通駆け出し、それもソロで潜る人って2000ヴァリスを超えないくらいだよ?しかも、今日はミノタウロスから逃げたから少し少なめと考えても……1200ヴァリスくらいだよ、普通」

「……高いことに越したことはない」

「やっぱり凄いですね、ルキアさん!」

「……定期的なアイテム補充、武器防具の手入れ用の研ぎ石、マナの矢、朝食代、昼食代、夕食代……貯金額は少し少なくなるが、いけるな」

ルキアは換金所でもらってきたお金を計算して、今日の分も足りることを確認した。

「ありがとうございます、ルキアさん」

「いや、当たり前のことだ」

「……ルキア君ってしっかりしてるねぇ…安心するよ。まあ、危なっかしいところもあるけど、マナ様…じゃなくて、マナちゃんのことを任せられるなぁ」

ルキアは何もかもに経験がない。だがその分、要領が良い。新しいこと……例えば、金の使い方や武器の手入れ、モンスターとの戦闘もそれに入る。ほんの数分で慣れる。

「それで、どうするの?もう今日中にロキファミリアへお礼にいく?」

「いや、ロキファミリアは遠征から帰ってきた直後だ。今行ってもあまり良い印象は持たれないだろう。明日の夕方か、明後日くらいが丁度いい」

「そうだね。それじゃあ、今日はもう帰るんだね」

「はい!エイナさん、今日はありがとうございました!」

「うん、ルキア君もお疲れ様。ゆっくり休んでね」

「ああ。ありがとう」

別れを告げてルキアとマナはギルドを後にした。

 

 

 

 




次回《強者切望(スカーター・ゼーンズフト)


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強者切望(スカーター・ゼーンズフト)

連続投稿です。はい。


「帰ったぞ、エオス」

「ただいま帰りました、エオス様!」

エオスファミリアのホームである壊れかけの教会、その地下室に帰ってきた二人。

「おかえりなさい、ルキア、マナ。今日は早かったのね?」

「はい、ルキアさんがダンジョン探索を早めに終わらせてくれたので…」

「……間違ってはいないな」

出迎えるエオスは丁度アルバイトから帰って来たところだったようで、鞄がソファに置かれている。

「どうしたの?貴方、いつも夕方までは頑張ってるのに」

「一言で言えば、ミノタウロスに殺されかけた」

「ええっ⁉︎だ、大丈夫なの⁉︎貴方はさらっと衝撃的な事実を言うわね……どうやって逃げて来たの?」

「ロキファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインに間一髪のところで助けられた」

「え?ロキって言った?」

「はい、そうですけど…」

「やっぱり有名になってるのね……ああごめんなさい、ロキとは天界で友達だったのよ。しばらく会ってなかったけれど…」

「……スゴイ方と御友達なんですね…」

「……今度会いにでも行こうかしら」

たまにはそういうのもいいだろうと、エオスが言っているとルキアがステイタス更新を催促する。

「分かったわ。マナ…」

「わっ、分かってますっ‼︎」

エオスに言われて慌ててマナが部屋を出て行った。実は先日、ルキアのステイタス更新(半裸)を見てしまうという事件が起こったため、ステイタス更新時はマナに逐一知らせるというのがルールになってしまった。

「……さて、今日はどんな冒険をして来たのかしら?」

エオスがベットに仰向けになるルキアに乗り、小さな針を取り出して言う。そして、エオスは自分の指に針を刺す。指ににじむ真紅の血。その血を一滴、ルキアの……あたかも古代書の一枚のようなステイタスが刻まれた背中に落とす。

するとルキアの背中に白い光の波紋が広がる。そして、ステイタスの文字が白く光り、浮き上がる。まるで鍵を開けるような音と共にステイタスの基本アビリティの数字が動く。その動きを見てエオスはルキアに呆れながら言う。

「……今日も本当に、無茶したわね」

「…無理しなければミノタウロスから逃げられない」

「違う!貴方真正面からじゃなくとも戦闘しようとしたわよね⁉︎」

「……」

「こら!黙らないの!」

エオスの言葉に無言を決めるルキア。こうなると口を割らないのがルキアだと知っているエオスはため息をつきながらステイタス更新を進める。すると、エオスはルキアのステイタスを見て首を傾げた。経験(エクセリア)の中に有望なものがあったのだ。

「…なに、これ?」

「……どうかしたか?」

「いえ、何もないわ」

エオスは気にせずにステイタス更新をする。有望な物があるのなら積極的に使っていかなければ、とエオスはその経験(エクセリア)を取り出し、ステイタスに反映させる。すると、とあるスキルが出来た。

「……(……強者切望(スカーター・ゼーンズフト)?聞いたことのないスキルね)」

「終わったか?」

「ええ、少し待って。今写すから」

エオスは更新を終了し、恩恵(ファルナ)を再びルキアに戻す。

その時だった。そのスキルの詳細を見たのは。

「……⁉︎(な、何よ…これ⁉︎)」

エオスは驚愕した。そのスキルの性能に。

「……(不味いわね……こんなスキル周りに知られたら……)」

エオスはある懸念に気付き、すぐさまそのスキルだけ紙に写らないように手を施した。

そして、紙を取り出してルキアの背中、ステイタスの上に貼り、少し押し付ける。

「……はい、出来たわ」

「……ん」

ルキアは服を着ながらエオスからステイタスが書かれた紙を受け取る。

 

 

Lv.1

力:H 142→179  耐久:H 111→163  器用:I 75→92  敏捷:H 140→178  魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)

・アビリティの超高補正。

・五感の超高補正。

・スキルや魔法が発現しやすくなる。

・稀に暴走する。

・自然治癒能力の超高補正。

 

 

 

「……今日は、増え方が凄いな」

「まあ、ミノタウロスから逃げたり、戦ったりしたんだから、当然じゃないの?」

「……そうだな」

唇を尖らせてエオスは皮肉たっぷりに言う。

「…マナ。もういいぞ」

「…あ、はい!」

ルキアは丁度着替え終わり、部屋に入ってくるようドアの向こう側にいるマナへ言う。

「……じゃあ、俺は出てるぞ」

「はい、毎回すみません…」

「…気にするな」

ルキアは剣とその手入れに必要な道具を持って出て行った。

「……それじゃあ、お願いします」

「ええ」

マナは服を脱いで仰向けになり、エオスはステイタス更新を行う。

「…貴女は、ダンジョンには行ってないから…ほとんど上がらないわよ?」

「それでもいいんです」

エオスは苦笑しながら言うと、マナは同じく苦笑いで返す。

「……えーっと…まあ、こんな感じかしらね」

「…やっぱりこんな感じなんですね」

マナはエオスから受け取ったステイタスを写した紙を見る。

 

 

Lv.1

力:I 4→5  耐久:I 2  器用:I 11→15  敏捷:I 8→11  魔力:I 0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

【】

 

 

「……器用のアビリティが他と比べて結構上がってますね」

「貴女は料理をしてくれてるから、包丁使いが上手くなってるとかじゃないかしら?些細なことでも一応経験(エクセリア)に数えられるから…」

「そうなんですね…」

恩恵(ファルナ)を受けてまだ日の経っていないマナは戦闘はしたことがなく、ダンジョンにも一度しか行ったことがないマナには、ステイタスの大幅向上は見込めない。マナはそれを自分でもわかっているのだ。

「…じゃあ、ご飯にしますか?」

「そうね……今日もルキアと一緒に買い物頼めるかしら?」

「はい。喜んで!」

マナは服を着て上着を羽織ってお金を持って外に出て行った。

 

 

 

 

「………はあ。まさか、またレアスキルが発現するなんて」

エオス以外誰もいなくなったホームで彼女はため息をつきながら言う。

エオスの持っているルキアのステイタスを写した紙。エオスはそれのスキル表示部分を撫でるように触る。するとそこには新たな文字が現れる。

 

 

Lv.1

力:I 142  耐久:I 111  器用:I 75  敏捷:I 140  魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)

・アビリティの超高補正。

・五感の超高補正。

・スキルや魔法が発現しやすくなる。

・稀に暴走する。

・自然治癒能力の超高補正。

 

強者切望(スカーター・ゼーンズフト)

・早熟する。

・切望想いが続く限り効果持続。

・切望想いの丈により効果向上。

・自分より強い相手と戦う時、アビリティを高補正。

 

 

ルキアに発現したスキルは間違いなく、レアスキルだ。正真正銘の、世界で一つの。

「今日のアイズ・ヴァレンシュタインとの出会いがきっかけかしら……ちょっと、悔しいわね」

エオスは一人、悔しそうに本音を零した。

 

 




次回《酒場の少女》


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酒場の少女

こんにちは!クロス・アラベルです!
遅くなりましたが、17話を投稿しました!
それではどうぞ!


 

 

「………早く起きないと。ミア母さんに怒られちゃう」

とある一軒家の一室で、少女は目覚めた。

ベットから起き上がり、箪笥の元に行って服を取る。寝巻きと仕事着である制服に着替えて、鏡の前で薄鈍色の寝癖のついた長い髪を直し始める。

薄鈍色の長い髪に同色の瞳に身長は166センチ。神風に言うならば、『良質町娘』というものであろう。

「……よしっ!」

彼女は身嗜みを整え終わり、荷物を持ってその部屋を出る。すると玄関の手すりに小鳥が止まっていることに気付いた。少女がゆっくりと手を伸ばすと小鳥はさえずりながら手に止まった。そして、また空に向かって飛んで行った。

「……なんだか、今日はいいことありそう!」

そう、彼女は笑顔で呟いた。

 

 

 

 

エオスファミリアのホーム、壊れかけの教会地下。魔石灯で薄っすらと照らされた室内には静寂が訪れていた。

「……五時か」

ルキアは目が覚めたようでまぶたを開け、時計を見るとまだ朝の五時だった。ここにきてからルキアはこの時間帯に起きるのが日課となっていた。

「……またか」

音を立てずに立とうとすると、何かが太ももの上に乗っかっていることに気が付く。それはマナだった。ルキアはいつもソファに座るようにして寝ている。マナが来た時はエオスは前と同じようにベットで、ルキアがマナにソファを譲ろうとしたのだが、マナがめっそうもないと断固拒否して来た。ルキアは渋々マナと一緒に座るようにして寝ている筈なのだが、毎朝気付けばマナはルキアの方は倒れこんで丁度ルキアの太ももに頭が乗るという状況になるのだ。ルキア自身は嫌でもなんともないが、マナは起きて状況を把握した瞬間に気絶するだろう。だが、今までそうはなっていない。ルキアの方が早起きだからだ。

「……」

ルキアはマナをソファに寝かせて、起き上がった。音を立てずに着替え、顔を洗い、歯を磨く。

「……んぅ…?あれ、ルキアさんっ?」

歯を磨いているとマナが目を覚ました。眠そうに目をこすりながらルキアを探す。

「……おえなあおおにいうぞ(俺ならここにいるぞ)

「あ、起きてらっしゃったんですね。私も起きなきゃ……」

ういはすうあ(無理はするな)

歯を磨きながらルキアはマナに言う。

「大丈夫ですよ。里でもこれくらいの時間に起きてましたから…」

「……おおさええいたんじゃあいか(起こされていたんじゃないか)?」

「そっ、それは、その………はぃ」

「……」

マナは朝に弱い。エルフの里ではいつも世話係の少女に叩かれて起きるのだ。

「わ、私も、ダンジョン探索に行くんですから……ルキアさん、よろしくお願いします」

「……ん」

二人はそのままダンジョン探索の準備を整えた。

 

 

 

 

「エオス様、行ってきます…」

「…行くぞ」

「……はい」

マナはまだ寝ているエオスに小声で挨拶をして先にホームを出ていたルキアについて行く。

「……ルキアさん、ダンジョン探索でのことなんですけど…」

「…?」

「ルキアさんが前衛で私が弓で後方支援…ということでいいんですよね?」

「ああ。それが一番いい」

「わ、分かりました。ルキアさんをしっかりサポートさせて頂きます!」

「……出来るところまででいい。それと、俺に当てるな」

「そっ、それくらいは分かってますよ⁉︎」

メインストリートを二人で会話しながら歩く。その時、ルキアは不自然な視線を感じた。まるで、絡み付いてくるような、無遠慮過ぎる視線。

「……」

ルキアは静かに後ろを振り向く。が、ルキアを見ている人物は誰もいない。

「ルキアさん?」

マナもルキアの行動に首を傾げながら顔を覗いてくる。

その場にいるのは、マナとドアーフの冒険者五人パーティと店のテラスの椅子を下ろしている店員のみ。怪しい影は見当たらない。

「……」

「あ、あの……?」

その時、ルキアとマナに話しかけてくる人物がいた。それは一人のヒューマン(少女)だった。薄鈍色の髪に同色の瞳。髪は後ろでまとめてお団子のようにしている。

「どなたでしょうか?」

「…何か、用か?」

「あの、()()のですよね?これを落としましたよ?」

少女が二人に差し出したのは、小指の爪程しかない魔石だった。

「……袋の帯が緩んでいたか?」

「あ、ありがとうございます!」

ルキは腰巾着の入り口を右手で触り確認し、マナは頭を下げる。

「いえ、いいんですよ。こんなに早くからダンジョン探索ですか?」

「ああ、いつものことだ。それに、こいつは本格的にダンジョン探索をするのは初めてだからな。早朝なら、人が少ないだろうからやりやすい」

「そうでしたか」

「あなたもお店の準備大変ですね」

「いえ、慣れていますから…」

たわいもない会話をしてルキアはさっさとダンジョン行ってしまおう、そう思った時、ルキアのお腹から音が聞こえた。

「……朝ごはん、食べてらっしゃらないんですか?」

「ああ」

「は、恥ずかしながら……急いできたものですから…」

どうやらマナもルキアと同じだったらしい。

「少し待っていてください」

少女は小走りで店まで行き、右手に何かを持って出てきた。

「これ、どうぞ食べてください。まだお店やってなくて、賄いじゃないんですけど…」

「えっ⁉︎で、でも、これはあなたの朝ご飯じゃ……」

「……そう、なのか?」

マナは慌てて、ルキアは不思議そうに少女に聞いた。少女は恥ずかしそうにはにかみながら、続ける。

「このまま放っておいたら、私の良心が痛んでしまいそうなんです。冒険者さん、どうか受け取ってくれませんか?お二人で分けて食べて下さい」

「そ、そんな…」

「……それはお前のだろう?何故そこまでして…」

ルキア達が受け取らずにいると、少女は何か閃いたかのように指を立てて、言う。

「これは利害の一致です。私もちょっと損しますけど、貴方達はここで腹ごしらえができる代わりに…」

「…」

「か、代わりに……?」

「今夜の夕食を私の働くあの酒場で召し上がって頂かなければいけません」

「……えっ?」

「……そう、か」

少女の言葉にルキアは大体の意味を理解したようだ。

「うふふ、ささっ、もらって下さい。私の今日のお給金は、高くなること間違いなしなんですから」

遠慮することはないですよ、と少女はルキアとマナに言う。

「……じゃあ、今夜、来させてもらう」

「ありがとうございます!一緒に行きますね!」

「はい、お待ちしています」

マナはバスケットを持ち、ルキアについて行く。その少女は笑顔で見送ってくれている。その時、ルキアは彼女の名前を聞いていないことに気付き、立ち止まって振り返って少女に問いかける。

「…ルキア・クラネルだ。こいつはマナ。お前は?」

すると、少女はわずかに瞳を見開いた後、すぐにぱっと微笑んだ。

「シル・フローヴァです。マナさん、ルキアさん」

その名前を心に留め、ルキアとマナはバベルへ歩き出す。

そして、ルキアは呟いた。

「……()()、か…何故俺が男だと分かったんだ…?」

 

 

 

 

「………ルキア・クラネルさん、かぁ…これは、報告物かな?」

ルキアが呟いたと同時に、少女は呟いた。

 

 

 

 




次回《酒場での飲み方》


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稀少種(レアモンスター)》との戦いは冷静に

こんにちは!クロス・アラベルです!
大変遅くなりました。やっと投稿できました。今回はシルさんとの約束を果たす前のダンジョン探索でのお話です。短いですが、どうぞ!


 

 

薄暗いダンジョン3階層。そこではモンスター8体と冒険者二人の攻防戦が繰り広げられていた。

「ッ!」

「ギャウッ⁉︎」

前衛の少年(ルキア)がコボルトを猛然と屠り続ける。もうすでに二体が戦闘不能に陥っており、残るは六体。

「ッ、LB2‼︎」

「はいっ!」

ルキアの掛け声で少女(マナ)は矢を射る。放たれた矢は六体のうちの一体……左後ろ二体目の目に命中し、目を塞ぎながら悶える。

そして、その一体が悶えている間に前の二体の足元に水平斬りを食らわせて動きを止め、後ろの中央の一体に向かって全力で刺突。脳天を貫かれ絶命するコボルトから剣を抜いてそのコボルトの胸倉を無理矢理掴んで盾代わりとして使って左のコボルトの攻撃を防ぎながら右のコボルトの首に一閃し、頭を吹き飛ばす。

そして、剣をそのまま盾として使っていたコボルトごと貫き、攻撃を防がれて怯んでいたコボルトを諸共絶命に追い込んだ。

前にいた二体の首を難なく撥ね飛ばし、未だに悶え続けるコボルトに垂直斬りでとどめを刺す。

「……か、勝った……流石です、ルキアさん!」

「良い射撃だった。次も頼むぞ」

コボルトを殲滅し、一息つく二人。そして、手袋をカバンから取り出した。

「どうだ、指示の方は……慣れたか?」

「はい。完璧です!」

「そうか。ならいいんだ」

ルキアの言う指示というのは先ほどの戦闘で出てきた『LB2』のことだ。これはルキアが考えた指示方法で、LはLeft()、BがBack(後ろ)、その後ろにある2は後ろ2列目を意味している。例を出すとするならば『R3F』はRight()から三体目のFront(先頭)……といった具合にだ。

「………で、でも、魔石取り(こっち)は全然慣れませんね………うぅっ……!」

「急ぐ必要はない。いつまでも出来ないのも困るがな」

「……が、頑張りますぅっ!」

マナはモンスターの死体から魔石を取り出す作業が苦手だった。初めてした時は手が震えてナイフで魔石を傷つけてしまった程にだ。因みにこの時も涙目だった。今もだが。

「……ドロップアイテムも出たか」

「えっ、本当ですか⁉︎」

ルキアの手の中にあるのはコボルトの爪。ドロップアイテムはここの魔石よりも高く買い取ってくれるため、出たら出ただけ得なのだ。

「おぉ……凄いですね!」

「……今日はいつもより多く、稼いでおかなければならない。残りを回収したらもう一戦だ」

「分かりました!」

ルキア達は魔石回収を早めに終わらせ、ダンジョンの奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「一匹、来てるな」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。足音を聴くに……節足、蜘蛛だ」

「ってことは、稀少種(レアモンスター)の…」

ダンジョン4階層。ルキアとマナはもうそろそろ切り上げようと帰路につこうとしたその時、ルキアがモンスターの気配を感じ取った。

「……『ゴゴモア』、か」

この4階層を含む上層では蜘蛛モンスターはほとんど出てこない。唯一出てくるのが、ゴゴモアだ。特徴として、蜘蛛ならではの糸による拘束攻撃により足を取られ、壁に張り付けにされたり、ルームの中央で捕らわれることもある。ゴゴモアの糸は上層のものにしては丈夫で、レベル2でなければ破壊することができず、レベル1はもちろんレベル2でもその体のいたるところを巻きつけられた状態から逃れるのは困難である。しかも、その糸は頑丈な上に細いため、運が悪いとその糸で体が切れてしまう。素手での破壊は難しく、刃物で切らなければ不可能な代物だ。駆け出しが相手をすれば、十中八九勝てない。

「る、ルキアさん、逃げましょう!ゴゴモアは上層の稀少種(レアモンスター)ですけど、レベル1の私達では勝てません!」

それをエイナから聞いていたマナは即座に撤退を提案する。

「その通りだ。相手してみたいというのも山々だが、ここは逃げの一手だ」

ルキアは少々危なっかしいことを呟きながら撤退の案を受け入れ、マナと共に逆方向、この層の移動階段を目指し走り出す。

「……不味いな」

「えっ?」

走り始めて20秒、ルキアはそんなことを呟いていきなりマナを押し倒した。

「ひゃあっ⁉︎////」

とマナが悲鳴を上げた直後、マナ達の上をなにかが通った。

『キシャァァッ‼︎』

三度四度転がり、素早く起き上がるルキア。その視線の先には、《ゴゴモア》がいた。

全身が黒く、大きな目が一つ。体は人間よりひと回りもふた回りも小さく、弱そうにも見える。蜘蛛は大抵複眼なのだが、このゴゴモアは単眼だ。ほぼ死角のない他の蜘蛛系モンスターに対し、ゴゴモアは広い視界を犠牲にしてその単眼でより遠くのものを見ることが可能にし、索敵能力を上げたのだ。

「……マナ、お前は後ろから援護射撃を頼む」

「は、はい」

ゴゴモアと対峙し、腰の剣を抜いたルキアはゴゴモアの目を見る。

「……(奴の弱点は目だ。他の蜘蛛系モンスターは複眼で視力を奪うことは容易ではないが、ゴゴモアは違う。あの一つ目を潰せば勝機は見える。だが、恐ろしいのは奴の糸。あれに囚われれば身動きが取れなくなる。それだけは避けなければ…)」

『…ギジャァァ‼︎』

「ちッ‼︎」

ルキアはゴゴモアの突進をギリギリ避けて、そのスピードに驚愕した。

「っ!(速い!こいつ、思ったより素早いぞ)」

転がり、再びゴゴモアの方を向いた瞬間、黒い何かがルキアの顔面めがけて飛んできた。

「ッ⁉︎」

間一髪避けたが、頰を掠ったようで血が滴る。

「……」

『ギジャァァァアッ‼︎』

「シッ‼︎」

飛んでくるのに合わせて剣を振るうが、掠りもしない。

『……ジャァッ!』

「あ、避けられた…!」

マナの射撃もゴゴモアの速度を捉えきれていない。

その射撃の(マナ)を見つけたゴゴモアは糸をマナに打ち込んだ。

「きゃぁッ⁉︎」

両足を固定されたマナはそこから動けなくなってしまった。

「マナ‼︎」

そこから、たった一匹の蜘蛛による蹂躙が始まった。360度、全方位から繰り出される高速の一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)の突進はもはやルキアやマナにとって弾丸のようだった。

「ちっ_____‼︎」

致命傷を負わぬよう直撃は回避しているが、ゴゴモアの猛攻は間違いなくルキアの体力を削っていた。

「クソったれが……拉致があかないっ……‼︎」

そして、ついにルキアの動きが止まった。

「⁉︎」

正確には止まったのではない。止められたのだ。

「る、ルキアさん⁉︎」

ルキアはゴゴモアの糸によって拘束されていた。よく見ると糸があちらこちらの壁や天井からルキアの腕や足、胴体に巻きついている。

「……さっきの一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)はこれが狙いか…‼︎」

完全に身動きを封じられたルキアは悔しげに言葉を零す。

そして、ゴゴモアは勝ったと言わんばかりにゆっくりとルキアに近づき糸を伝ってルキアの眼前にきた。

『ジャァ……!』

ゴゴモアが口を開け、ルキアの顔ごと捕食しようとしたその時。

「ルキアさん‼︎」

マナの鋭い声が響く。

「…遅いぞ」

ルキアはマナの声にそう答え、首を傾げることで道を開ける。

『ギッギギャァァッ⁉︎』

何が起こるかを感じ取ったゴゴモアは即座に避けようとしたが、もうすでに遅かった。

次の瞬間放たれた矢が逃げ遅れたゴゴモアの腹に突き刺さった。

『ギ、ギジャァ……⁉︎』

そして、勢いそのままゴゴモアはダンジョンの壁に張り付けにされた。

「だが、上出来だ」

「……やっと、捉えました」

マナがルキアの後ろで弓を放ったのだ。マナはゴゴモアの糸によって拘束されていたが、ナイフで糸を切り、矢をつがえたのだ。

ゴゴモアの糸には弱点がある。ゴゴモアの糸は打撃などには強いが、斬撃や刺突耐性に難がある。衝撃は吸収するし、千切ろうとも不可能だが、刃物による切断は効果的だった。それをエイナに教わったマナは即座に腰からナイフを取り出し、時間はかかったものの呪縛を解き、難を逃れた。

「……マナ、まだ終わっていないぞ。とどめを刺せ」

「…はい」

マナはルキアを通り過ぎ、ダンジョンの壁に張り付けになったゴゴモアの前に行き、ナイフを構える。

「……ごめんなさい」

これから死にゆくゴゴモアに謝罪と感謝の意を込めてた言葉を零し、魔石があるだろう胴にナイフを突き刺した。

『……ギッ……!』

ナイフの刺突はゴゴモアの魔石を掠ったらしく、ゴゴモアは灰となった。

「……」

その灰をぼうっと見つめているとルキアから声がかかった。

「…マナ。早くこの糸を処理してくれないか?」

「…は、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……6400ヴァリス…まあ、いつもよりは高めか」

「これでシルさんのお店に行けますね!」

ルキアの持つ麻袋にはいつもより多めの額の貨幣が入っている。昨日が3700ヴァリス、いつもは4800ヴァリスほどだ。

「……ああ」

「ルキアさん、そういえば、その『ゴゴモアの糸』、売却しないんですか?」

マナがルキアのポーチの中にあるドロップアイテムについて聞いてくる。この二人は知らないだろうが、先程戦ったゴゴモアは『強化種』で魔石をかなり取り込んでいた。そのため異常なほどの速さを持っていたのだ。だから、ドロップアイテム『ゴゴモアの眼』はなんと900ヴァリスもした。そして、マナは時間をかけてゴゴモアの糸を切るのではなく、綺麗に解き、回収した。長さは約50メドルをあったらしい。

「『ゴゴモアの糸』というのは衣服を作るときにも役に立つらしい。打撃耐性がつくと聞いたことがある。これはまたの機会にとっておこう。その前にホームに帰ってステイタスを更新するぞ」

「はい!」

マナは鼻歌を歌いながら、ルキアはその鼻歌を聴きながらホームへ向かった。

 

 

 

 

「……これまた、凄いわね」

「何がだ?」

「アビリティの上がり具合よ」

エオスファミリアのホームでは早速ルキアがステイタス更新をエオスにしてもらっていた。マナは先に済ませてある。

「……(……あり得ないほどアビリティが上がってるわね。力、敏捷、耐久は特に…これも強者切望(スカーター・ゼーンズフト)が原因かしら?)」

 

 

ルキア・クラネル

Lv.1

力:H 179→197  耐久:H 163→181  器用:I 92→117  敏捷:H 178→189  魔力:I0

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)

・アビリティの超高補正。

・五感の超高補正。

・スキルや魔法が発現しやすくなる。

・稀に暴走する。

・自然治癒能力の超高補正。

 

 

「……はい、終わったわ」

「ん」

ルキアはエオスから受け取ったステイタスを見て一言だけ言う。

「……上がり具合はなかなかだな」

「なかなかどころじゃないわよ。貴方、初めてステイタス更新した時なんか、各アビリティ50は余裕で超えてたし、あの時は卒倒しそうになったわ」

ルキアの異常さはファミリアに入った当初からエオスは知っている。初めてとはいえアビリティの上昇値がトータル300オーバーだった。ちなみに一番高いもので力の98。あり得ないが、成長したのだ。だった数時間で。そこからは普通だった。上がっても8、9ほどだ。

「……あ、そうそう。ルキアには言ってなかったけど、今日は私アルバイト仲間と飲み会に行くわ」

「分かった」

エオスのアルバイト仲間というのはおばちゃんととある一柱(ひとり)の女神だ。特に女神とは仲が良い。その女神は同時期に下界に降りてきたので、幼馴染のように接している。見かけは背が低く子供のように見えるので二人並ぶと姉妹と思われてしまうが。

「丁度いい。俺とマナも今夜酒場に行く予定をしてる」

「そうなの?貴方、お酒は初めてでしょう?程々にしておきなさいよ」

「……善処する」

ルキアは念のために今夜の予定を言っておいた。

「もう約束の時間だし、行くわね」

「ああ」

「気をつけて行きなさいよ!」

エオスは小さな肩がけカバンを持ってホームを出て行った。

「……マナ、もういいぞ」

「あ、はい!私達ももうそろそろ行きますか?」

「ああ。腹も減っただろう?」

「はい!楽しみです」

ルキアとマナは防具の類を全解除し、護身用に片手剣だけを腰にかけて今朝少女(シル)とあった通りへ向かった。

 

 

 




次回《酒場での再会》


……気づいてしまいました。マナが来たのが3日前。そして、一日経ってロキファミリアが遠征から帰ってきて宴会を開く……遠征って原作(外伝)を読んでいると、安全階層(セーフティポイント)である50階層に行くだけで最低5日はかかるそうです。余裕を持って一週間、帰りも合わせると二週間以上かかるそうなんです。そして、マナとルキアがリヴェリアに会ったのはこの話を見ると遠征に向かっているはずの期間なんですよね。あとで訂正しておきます。はい。

そして、今回出てきたモンスター《ゴゴモア》は皆さん察しの通り、○ンス○ー○ンター フロ○テ○アZに登場するモンスターを元(原案)にしました。なんでも、もともとこのゴゴモアは蜘蛛型モンスターだったらしいのですが、大人の事情により、猿型モンスターになったんだそうです。それを見て、ダンまちに登場させてみようかな?と思い立ち、書きました。


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酒場での再会

大変長らくお待たせいたしました!クロス・アラベルです!
SAOシリーズでも書きましたが、リアルが忙しくなり投稿が遅れました。ごめんなさいm(_ _)m
それでは、どうぞ!


 

 

「えっと、シルさんと会ったのってここ、ですよね?」

「……その筈だ」

西のメインストリートのとある一角……二人は少女シルと出会った場所で彼女を探していた。

「……ど、どこに…」

「…後ろ、そこじゃないか?」

「へ?」

マナの後ろには二階建ての家が建っており、その一階は何やらお店となっているようだ。

「……豊穣の、女主人…」

「入らないのか?」

「いえ、入りますけど……酒場だったんですね。朝の雰囲気はカフェのような感じだったのに…」

エルフは基本的に酒はあまり飲まない。水だったり果汁ジュースだったりする。酒を飲むエルフはかなり珍しい。マナはまだ13歳、酒など飲んだこともないし、周りからは飲むなとばかり言われてきた。周りが全く飲んでいないというのも原因だろうが。

店の雰囲気は朝とはガラリと変わっており、今は冒険者が集う酒場となっている。

「ルキアさん、マナさん!」

すると店の扉からシルが出てきた。今朝と同じ格好に、右手には銀製のお盆を持っている。

「来させてもらった」

「……です!」

「いらっしゃいませ!」

二人はシルにカウンター席の角の二席へ案内された。酒場の雰囲気にあまり慣れていない二人への配慮だろう。

「アンタらがシルの言ってた冒険者かい?冒険者のくせして可愛い顔してるねぇ!」

カウンターの向こうから乗り出してくるドアーフの女将は二人を見てそう言った。

マナは可愛らしく、ルキアは美しくと、違うタイプの顔だが、二人とも美少女であることは変わりない。一人は男だが。

「あ、ありがとうございます…」

「……可愛い…?」

マナはお礼を、ルキアは首を傾げ呟く。

「なんでもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食らいなんだそうじゃないか!ジャンジャン料理を出すから、ジャンジャン金使ってってくれよ!」

「ええ⁉︎」

「……どういうことだ、シル?」

突然告げられた言葉に驚きを隠せないマナと冷静にシルを問い詰めるルキア。それに対してシルは静かに目をそらした。

「こっ、これはどういう……⁉︎」

「…その、ミア母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振舞って上げて、と伝えたら……いつのまにか尾鰭がたくさんついた話になっちゃって……」

「そ、そんなぁ……」

「……意図的にこうしたとしか思えないが」

「私、応援してますからっ!」

「まずは誤解を解いてくださいよ、シルさん!」

「…俺達のファミリアは貧乏だ。そこまで出せる金はあまりないぞ」

「お、お腹が空いて力が出ないー…朝ごはんを食べられなかったせいだー」

「うっ⁉︎」

「……」

二人の言葉にわざとらしくお腹を抑え、天に右手を仰ぎシルは言った。その言葉を間に受けたマナは呻き声を上げ、それが芝居だということをわかっているルキアは呆れたのか反応しない。

「ふふ、冗談ですよ。ちょっとだけ奮発してくれるだけでいいんで、ごゆっくりしていってください♪」

シルは舌を少しだけ出して、茶目っ気たっぷりにそう言って仕事に戻っていってた。

「……ちょっと、か」

早速ルキアはメニューを見る。値段的には普通の店より少し高いらしい。

今回持ってきた金額は4000ヴァリス。二人で2000ヴァリスもあれば十分だろう。そう考えたルキアは考えを改めなければならないことを悟った。

「……ミートスパゲッティと豚肉の香辛焼きを」

「えっと……私は、カルボナーラと、サラダ、アルヴの聖水をお願いします。えっと、全体的に少なめで…」

「あいよ!」

ルキアは二品で780ヴァリス、マナは670ヴァリスかかった。今までで一番高い夕食になったな、とルキアは思った。

女将に料理を頼み、待つこと十分。早速パスタとマナのサラダが出てきた。

「あんたの肉もすぐ出来るから待ってな」

「分かった」

「酒は?」

「……いらん、マナと同じものを頼む」

「釣れないねぇ」

パスタを食べ始める二人に仕事がひと段落したのか、シルがルキアの隣の席にやってきた。

「…仕事はいいのか?」

「キッチンの方は忙しいですけど、給仕の方は十分間に合ってますので。良いですよね?」

シルがそう言って女将に聞くと、女将はニヤリと笑いながら頷いた。

「えっと、今朝はありがとうございました!美味しかったです」

いえいえ、頑張って渡した甲斐がありました」

「その言葉には語弊があるように思えるが……まあいい」

追加でルキアの豚の香辛焼きが届いた。

「楽しんでますか?お二人とも」

「……少しはな」

「とても楽しいですね。あんまりエルフの里では味わえない体験ばかりですし!」

「しかし……この店は何か他と違うように思える。お前以外の店員一人一人が何かに秀でているんじゃないか?……主に、戦闘面で」

「……よくわかりましたね。その通り、この『豊穣の女主人』は元冒険者や訳あってここに厄介になっている冒険者の集まりなんです」

「そうだったんですね…」

「……特にヤバいのはドアーフの女将だが…」

「ミア母さんも元冒険者だったんです。結構凄腕の」

「…なるほどな」

ルキアの言葉を肯定し、この店が凄腕の冒険者の集まりだということを告げる。

「……シル、お前はそんな感じはしないがな」

「それはそうですよ。私、一般市民ですから」

話は進み、シルが何故この店で働いているかという話になった。

「このお店、結構お給金いいんですよ?」

「シルさんは一人暮らしなんですか?」

「……まあ、そうですね」

「…大丈夫なのか?ここの一人暮らしはかなり危なっかしいだろう」

「いえ、そうでもないです。泥棒に入られたことだったただの一度もないですし」

「そうか。周りの奴のお前を見る目が何か怪しい気がした」

「ご心配、ありがとうございます♪」

食事を進める二人に笑顔で話すシルにマナも笑顔になった。

「すごいですね。やっぱり人がたくさんいると、なんだか楽しいと感じちゃいます」

「私もですよ、マナさん。知らない人と触れ合うのが、なんて言うか、趣味になっちゃって………心が疼いて来ちゃうんです」

「俺にはその感性は分からんが……なんとなくわかる気もする」

ルキアがパスタを食べ終え、豚の香辛焼きを本格的に食べようとナイフを取った、その時、団体の客が入ってきた。

「予約したお客様のご来店にゃ!」

その団体客はテラス席と店の中央のテーブルの二手に分かれて座った。

一人は、小人族(パルゥム)の少年。柔らかい黄金色の髪に、湖面のように澄んだ碧眼。その幼い外見からは何か落ち着いた大人の雰囲気、そして、深い理知が感じられる。

一人は、筋骨隆々のドアーフ。彼を見る誰もが『彼は歴戦の戦士だ』と口々に言うだろう。

一人は流麗なエルフ。翡翠色の長い髪に同色の瞳。先程のドアーフは『武』、このエルフを一文字で表すならば『知』であろう。

一人は、狼人(ヴェアウルフ)の青年。灰色の髪に霞んだ金色の瞳、そして、鋭い毛並みの耳と尻尾は狼の血が混じっていることを主張している。左頬には雷のような刺青(タトゥー)が入っている。

一人は、天真爛漫なアマゾネスの少女。腰にはパレオ、胸は薄い布一枚だけと、かなり肌の露出が多く、いかにもアマゾネスらしい格好だ。褐色のスレンダーな身体から活発さが見て取れる。

一人は、先程の少女と瓜二つのアマゾネスの少女。違う点と言えば、長い髪と豊かな胸だろう。彼女も先程の少女と同じように露出の多い服を着ている。

一人はエルフの少女。山吹色の長い髪に水色の瞳。もう一人のエルフと同じような魔導師系の服を着ている。

一人は朱色の髪の少女。糸のように細い目は表情を明るくしている。他のものとは違う、神の雰囲気を感じる。

そして_______

最後…朱色の髪の少女の後ろにいるのは、金髪金眼の少女だった。砂金のように薄く輝くその存在はその店の中でも異彩を放っていた。

そう、彼女の名は『アイズ・ヴァレンシュタイン』。二つ名は『剣姫』。都市最大のファミリア、『ロキ・ファミリア』の一人。若干16歳にしてレベル5に達し、ダンジョンの最前線を行く強者。

そう、彼女達一行こそが_____

 

『ロキ・ファミリア』だった。

 

 

 

 




次回《強者の宴》


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強者の宴

大変遅くなりました、クロス・アラベルです!
今回はアイズ達《ロキ・ファミリア》視点です。
それでは、どうぞ!


 

 

迷宮都市(オラリオ)の西のメインストリートにある酒場『豊穣の女主人』は賑わっていた。太陽はすでに沈み、昼間ダンジョンに篭っていた冒険者達が帰還し、酒場で飲み明かしているのだ。酒場にとっては冒険者からの金が稼ぎの大半を占める。それはこの『豊穣の女主人』も例外では無かった。

「アーイズ!もっと食べようよ〜、全然食べてないよ?」

店の中央の大きなテーブルでゆっくりと食事をしていたアイズは隣の同僚、ティオナ・ヒュリテに声をかけられた。アマゾネスである彼女はアマゾネスの中では珍しく性にあまり興味を持たない一人だった。そういうこともした事は無いらしい。アイズは理解出来なかったが。

「……大丈夫、食べてるよ…?」

「もう、アイズは元気が足りないなぁ!ほら、このお肉食べる?」

「……じゃあ、ちょっとだけ」

「はい!ちょっとだけ!」

出された肉料理はアイズの予想を超える量だった。ちょっとだけと言ったが、ティオナにとってはこれが『ちょっと』らしい。

「あ、アイズさん…食べ切れますか…?」

アイズの左隣にいた一人のエルフ、後輩であるレフィーヤ・ウィリディスが不安そうに聞いてくる。たしかに、アイズ一人では無理だ。彼女自身、少食であることを自覚しているのでどうしたものかと考えていたところだった。

「…多分、無理……」

「えっと、私、お手伝いしますね!」

「…ありがとう」

アイズは彼女の優しさに甘えることにした。

「さ、団長。お注ぎしますね」

「ティオネ、君さっきからずっと間髪入れずにエールを飲ませてるけど、僕が酔っ払った後何をする気か、教えて欲しいな」

「他意なんかありませんよ♪ささ!」

アイズから見て向こう側には団長であるフィン・ディムナがティオナの実の姉であるティオネ・ヒュリテにエールを注がれている。

「ガレスー!ウチと飲み比べやー‼︎」

「ふん、いいじゃろう。返り討ちにしてやるわい」

その左隣ではこのロキ・ファミリアの主神であるロキがファミリアの中でも最古参の重戦士であるドアーフのガレス・ランドロックに飲み比べを仕掛けた。

ティオネの反対側のフィンの隣席には王族妖精(ハイエルフ)であるリヴェリア・リヨス・アールヴが静かにアルヴの聖水を飲んでいる。

アイズはこの時が一番楽しくて、好きだ。過去に両親を失った時にぽっかりと空いた穴が少しずつ治っていくのが、そして____心の奥底で燃え続ける黒い炎が弱まっていくのが分かる。完全になくなるわけでは無いが、アイズはこの時間が____ファミリアのみんなと一緒にいる時間が好きだった。

ファミリアの後輩にここぞとばかりに酒を勧められることもあれば、自分が酒を飲んでは行けない理由で盛り上がる。その時ばかりは顔を赤くしてしまっていたが、アイズはこの一時の幸せを心の底から味わっていた、その時だった。

 

「そうだ、アイズ!お前、あの話を聞かせてやれよ!」

ロキを中心に遠征の話題で盛り上がっていたベートが頰を赤くしながら何かの話の催促をしてきた。彼にしては珍しく上機嫌だ。思わず首をかしげるアイズにベートは言葉を続ける。

「あれだよ、あれ!帰る途中で何匹か逃したミノタウロスだよ!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ⁉︎それでよ、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

その言葉を聞いてアイズは彼が何を言おうとしているのかを悟った。

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたらすぐ集団で逃げていった?」

「それそれ!アホみてぇに上の階層に登って行きやがってよ、俺達が大慌てで追っかけてった奴!疲れてるっつうのによ、余計なことしやがって……ヒック」

ティオネの言葉にベートが相槌を打った。ファミリアの団員が聞き入っている中、彼はアイズが予感していた事を口に出した。

「それでよぉ、いたんだよ!いかにも駆け出しみてぇなひょろくせぇ女がよ!」

止めて、と心の中で呟くもののそれが彼に届く訳もなく。

「ったくよ、勝てる訳ねぇっつうのに立ち向かって返り討ちにあってやがって……」

「ちょっとベート!いくらなんでもそれの言い草はないって!その子、駆け出しだったんなら普通そうでしょ?」

「そうよ、ベート。あんた、レベル1の駆け出しの頃にミノタウロスに立ち向かったことある訳?勝てるとでもいうの?ないなら止めて。こっちの品位が下がるわよ」

そんなベートの言い方に腹を立てたアマゾネスの姉妹はベートを集中攻撃した。

「うるせぇよ、バカゾネス!」

「ちょっと!バカはティオナだけにしておいてくれない?」

「ティオネー!ちょっとはあたしのことも否定してよー!」

「…アイズ。その子は何歳くらいだった?」

「……私と、変わらないくらい…だと思う」

言い合う3人を見て、フィンが不意にアイズへ質問をする。その答えを聞いて、やはりベートは酔っているらしいとフィンは思った。

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて………真っ赤なトマトになっちまったんだぜ!ひーっ、腹いてぇ…!」

「ホントサイテー。これだから駄犬は…」

「俺は犬じゃねぇ‼︎狼だっ!」

二人と言い合うベートに誰もが引き気味な目線を送る。

「なあ、アイズ。あれ、狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ……くくくっ…!」

「……そんなこと、ないです」

笑い過ぎて目に涙を溜めるベートにアイズはたった一言しか言えなかった。

「だからよ、そん時からずっとトマト野郎って言ってんだけど……いや、あいつ女だから『トマト女』か?どちらにせよ笑えるぜ……!」

「……ベート、お前さん、儂の『龍殺しの火酒』を飲んだんじゃな?」

一人盛り上がるベートの側には二つジョッキが置いてある。片方は普通のエール。もう片方は真っ赤な酒だ。間違ってガレスのジョッキに入っていた『龍殺しの火酒』を飲んでしまったようだ。因みに『龍殺しの火酒』は龍に飲ませたら一瞬で酔っ払ったというか昔話からその名がついた世界一酒気(アルコール)の強い酒だ。飲めるのは大抵ドアーフやアマゾネス、獣人などの体の強い種族くらいで他の種族が飲むと堕ちるらしい。レベル5のステイタスのお陰で『めちゃくちゃ酔う』程度に収まっているベートはさらに言葉を続ける。

「ったく、女が調子乗りやがってよ。巣穴に戻ってろってんだよ」

「いい加減その煩い口を閉じろ、ベート。そのミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。私達がその少女に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利など無い。恥を知れ」

今まで静観していたリヴェリアがとうとう口を開いた。かなりお冠のようだ。その言葉には怒気がこもっている。

「そーだよ!言い過ぎにも程があるよ!」

「おーおー、流石は誇り高いエルフ様だな。でもよ、そんな弱え奴を擁護して何になるってんだ?それはてめえの失敗をてめえの勝手な言葉で誤魔化すためのただの自己満足だろうが。ゴミをゴミと言って何が悪いってんだよ?」

「これやめぃ、二人とも。ほんなこと目の前でされたら、うまい酒も不味なるやろ」

仲裁のために言ったロキの言葉もベートはほとんど聞いていないようだ。ベートへの周りの視線が酷くなる。

「なあ、アイズ。お前はどう思うんだよ」

「…?」

「モンスター目の前にして、何にも出来なかった奴をだよ。あれで俺たちと同じ冒険者を名乗ってんだぜ?」

「……あの状況じゃ、仕方がなかったと思います…」

「んだよ、いい子ちゃんぶっちまってよ。ならどうだよ、お前はあいつと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

突拍子も無いことを言い出したベートに皆呆れ返った。

「…ベート、君、酔ってるね?その子は女の子…」

「いいから答えろよ、アイズ!どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

「全く、呆れて物も言えないわ」

ベートの破茶滅茶な話に呆れるティオネ。ベートに珍しく嫌悪感を覚え、はっきりとアイズは言った。

「……そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

「無様だな」

「よっ!流石アイズ!そこに痺れる憧れるぅ‼︎」

「黙れババア、絶壁‼︎」

「ちょっと!今なんて言った⁉︎」

アイズの言葉にティオナがわざと声を大にして言うとお返しとばかりにベートが言い返した。

「じゃあなんだよ、お前はあんな奴を『深層』に連れて行けんのかよ?」

「……」

「お前はあの女を心の底から戦友として受け入れるか?」

「……っ」

「んなわけねぇよな!あんな雑魚、アイズにはミリセンたりとも似合わねぇ。何よりお前は強さを求めてる!あんな雑魚に構ってなんかやれねえだろ?」

「……‼︎」

「結局あの女は上層で朽ち果てるような雑魚なんだよ‼︎なんなら今にでも野垂れ死んでんじゃねえか?そう思ったら笑えるぜ!ギャハハハハハハハハハハハ‼︎」

ベートの認めざるを得ない言葉に口は動こうとしない。心の底では分かっていたのかもしれない。だが、目を背けていた。自分の悲願の為に、全てを____

 

その時だった。ベートの頭の上からバシャッと水が落ちてきたのは。いや、それは間違っている。正確には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

びしょびしょに濡れだベートは不機嫌そうに後ろを向く。

「……ああ?」

ファミリアのみんなも驚いてその水をかけた犯人を見る。その正体は____

 

空色の長い髪に蒼紫(タンザナイト)の瞳の少女だった。アイズが命を救い、そしてベートが散々侮辱した___その本人だった。

 

 




次回《酔いどれ狼の躾》


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酔いどれ狼の躾

たいっへんっ、遅くなりました‼︎クロス・アラベルです!そして、明けましておめでとう御座いますm(_ _)m
今回のお話に筋を通すにはどうすればいいかに滅茶苦茶悩みました。30回目の実験で初めて成立しました。よかったぁ…
えっ?年が明けてるって?
………御勘弁を m( _ _ )mゴメンナサイ
それではどうぞ!


 

 

 

「煩いぞ、酔い駄犬が」

これが彼女の最初の言葉だった。

「……んあ?お前……あ、お前、トマト女じゃねえか‼︎凄え偶然だなぁ‼︎」

ベートは彼女の言葉に対してベートはわざとらしく声を張り上げる。

「調子に乗ってんなら巣に叩きつけるぞ?」

「悪いが犬みたいに巣は持っていない。お前はもうすこし冒険者としての意識を持ってから犬小屋を出てこい」

「る、ルキアさん…⁉︎」

彼女にとってベートは格上の相手。レベルの差はたった一つ違うだけでも圧倒される。もちろん、ベートもやっているとはいえレベル5。いやでも気迫というのは十分ついてくる。普通ならここまで不機嫌な声を脅されたら、動くことなど出来ないはずだ。だが、彼女はそれをもろともしない。

後ろにいたエルフの少女が喧嘩腰な彼女を宥めようと声をかけるが、聞いていない。

「ああ?俺に手も足も出せねぇヤツが何言ってんだ?」

「手も足も出せないとは、心外だな。今のお前なら気絶くらいはさせられるぞ」

「……はっ、負け犬の遠吠えだな。出来る訳ねぇことをほざいてよ…んじゃあお前はなんだ?俺があの牛野郎どころかお前にさえも負けるっつうのか?」

「ああ。今からでもするか?」

交わされていく物騒な会話にアイズとベート以外で唯一彼女と面識があるリヴェリア、ついには団長であるフィンが止めに入る。

「る、ルキアだったのか……落ち着いてくれ。ベートは…」

「ベート、やめるんだ。酔った勢いに任せていうのは……」

「うるせぇよ。黙ってろ、フィン」

「すまない、こればかりは譲ることは出来ない」

が、二人はフィン達の言葉を聞かない。

「言ったよな、お前よ。気絶くらい簡単だってよぉ」

「それには語弊がある。俺は簡単とは言っていない。逆にかなり苦労する。時間もかかるだろう」

「るっせえよ、んなことはどうだっていい。今すぐ戦ろうじゃねぇかよ……それともなんだぁ?ビビって出来ねえのか?」

まさに売り言葉に買い言葉。ヒートアップしていく二人は誰も止められなかった。カウンターからはこの店の店長からの殺気がダダ漏れだったが、ベートは酒で酔っていて気付かなかったが、ルキアはとっくに気付いていた。

「……いいだろう。お前の望む通りやってやる。ただし外でやる」

「洒落臭ぇ‼︎今から戦んだよ………今からなぁ‼︎」

店の外へ出ることを提案するとベートは我慢できなかったのか、ルキアに突撃をかまそうと超スピードで飛んできた。それをルキアは間一髪で避けようとしたが、ベートの勢いに巻き込まれてベート諸共店の外へ吹き飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、食らってんじゃねえかよ」

一番最初のタックルが当たり、店の外に吹き飛ばされたルキアにベートが笑いながらそう小馬鹿にした。

「………」

ルキアの目は険しかった。けれど不敵に笑うこともしなかったが、苦しそうに顔を歪めることもなかった。ルキアは勝つために考えた戦法を上手くかけられるかを吟味していた。

「おい、ダンマリかぁ?勝てそうもねえから黙るしか無いのか⁉︎」

「……(勝てる可能性は3%と言ったところか。確率的に低いかもしれないが、勝てないわけじゃ無い。今の俺と、今のアイツなら。)」

「じゃあよ、こっちから行くぞゴラァ‼︎」

ルキアの思考を遮ってベートは突っ込んでくるが、ルキアはそれに構わず、後ろに方向転換して走った。

「はあ⁉︎」

呆気なさ過ぎる逃走にベートは無性に腹が立った。

「……逃げてんじゃねえよッ‼︎」

ベートもルキアを追って走り出した。ベートはレベル5。レベル1のルキアが逃げ切れる訳がない。だが、ルキアにとって逃げることは勝つ為の一つの行程でしかなかった。

「……ッ!」

ルキアはベートとの差が20メドルを切った直後ルキアは角を曲がり、裏路地へ入っていった。

「逃すと思ってんのかぁ⁉︎っととと」

ベートは酒で酔っているせいか、少しよろけながらもその裏路地へ入った。だが、そこは行き止まりだったのだが、ルキアの姿がない。

「あ?」

するとルキアはすでに建物の屋根に登っていた。壁を蹴って上がったのだろう。

「……」

ルキアは氷のように冷たい目でベートを屋根から見下ろしていた。

「雑魚が粋がってんじゃねえぞ……三下ァ‼︎」

ベートにとってこれくらいの高さならひとっ飛びで上がれる。逃げたつもりだと思っていると思い、何を無駄な事を、とベートはルキアのいる屋根まで一蹴りで跳躍する。

ルキアはすぐに屋根の上を走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(奴の勝つ方法は一つ。ぶっつけ本番、これが成功しなければ勝ち目はない。)

屋根の上を走りながらルキアは黙考する。

(レベルは向こうの方が格段に上、力も速さも硬さも……そして、五感の鋭さも)

屋根から屋根へなんとか飛び移り、タイミングを計る。

(…だが、()()違う。ロキ・ファミリアの会話を聞いていたが、奴は龍殺しの火酒を飲んだと誰かが言っていた。確か、龍殺しの火酒はレベルの高い者か、或いはドアーフなど耐久力に優れたものしか飲めず、他のものが飲むとたちまち気絶、泥酔、ヒューマンなんかが飲むと死んだという例も聞く。ならば、奴も例外ではないかもしれん。酒気(アルコール)が馬鹿ほど高い酒、それが龍殺しの火酒だ。あいつも高レベルだが、酒場では顔を赤くして感情(テンション)が妙に高かったし、先程からの走行中奴の動きが妙に鈍いということにと気がついた。)

走りながらもルキアはズボンのポケットの中に手を突っ込んだ。

(そして、奴は何も持っていない。俺には()()がある。()()がカギだ。)

「……やるか」

ルキアは作戦を実行に移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ。あいつ何がしてぇんだ?ずっと逃げやがって……」

ベート・ローガは苛ついていた。酒に酔っていながらも己のプライドや心の芯は失っていなかった。

「ずっと逃げたってなんも変わんねぇんだよ‼︎雑魚がぁ‼︎」

そう叫んだ時、ルキアは右側に方向を変えてより高い建物の影に走っていった。

そして、ベートもそっちへ走って角を曲がる。だが、そこにはルキアの姿はなかった。

「……あ?」

その時、()()が右足に巻きついた。直後ルキアが真下から飛んでくる。

「…なんだァ?今のは」

「……答える義理はない」

「……まぁいい。覚悟は出来てんだろうな……なぁオイ‼︎」

そして、ベートはしびれを切らしてルキアに向かって飛んだ。その時、ルキアは動いた。

「……かかったな」

ルキアは何かを両手で掴み、体全体でそれを回した。ベートも同様に見えない何かに引っ張られ足をすくわれた。

「ああッ⁉︎」

そして、そのままルキアによって宙に浮き、ルキアを中心にぐるぐると回転する。

「うおおおおおおおおおおおッ‼︎」

見えない何か。それはこの日手に入れたゴゴモアの糸だった。ゴゴモアの糸で石を巻きつけ、それを投げてベートの足に巻きつかせたのだ。それは頑丈で、なおかつこの宵闇では一本くらい容易に視認できない。レベル5であるベートは視認できるかもしれないが、今は火酒を飲んだ後。酔っている状態では普段見えるものも見えなくなる。

ルキアのアビリティでは人一人ぶん回すのは不可能な筈なのだが、この時、ルキアのスキルである【強者切望(スカーター・ゼーンズフト)】が発動し、全アビリティを高補正していたのだ。そして、元々ある【竜の血(ドラゴンズ・ブラッド)】による全アビリティ超高補正がかかっていることで、この荒技を可能にしている。

そして、レベル5であるベートに対してこんなことをしても全くの無意味なのだが、一部の人間には効果覿面だ。

「てめぇ、何して………うぷっ……⁉︎」

そう、酒で酔っている人間だ。例えレベルが高くてもあの火酒を飲んで酔っているのだ。いわゆる乗り物酔いになる程ぶん回されていれば、当然気持ち悪くなる。飲んだものが胃から上がってくる。

「て、てめぇ……やめっ_____」

流石のベートもそれを遅まきながら理解したのか、顔を真っ青にしてやめろと言おうとしたが、ルキアはそんなこと御構い無しに回し続ける。

80回程回した時、ルキアは屋根を足で蹴り、空を飛ぶ。そして、そのまま_______

「おおおおおおおおらァアッッ‼︎」

下へ叩きつけた。

そこには噴水があったが、それも御構い無しだ。ベートは勢いそのままに噴水へ叩きつけられた。

「ぐおおおおおおおおおおおッッ⁉︎」

「ッ」

ルキアも勢いあまって地面に転げ落ちたが、なんとか着地した。

「や、やべぇ……もう…う、うおおええええええええええええええぇぇぇぇ_____」

そして、ベートは叩きつけられた直後に限界を迎えたようで、胃の中のものをぶちまけた。要するにゲロを吐いた。そのままベートは吐きながら気絶してしまった。

「…ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

流石のルキアも息を切らしていた。そして、ルキアは夜空を見上げた。

 

「まだ、弱い。まだ足りない___________強くならなければ____ッ」

そして、護身用にと持っていた片手剣を手に、宵闇にそびえるバベルを見据え、それに向かった歩き出した。

 

 




この龍剣物語も次からツイッターで次回予告をさせて頂きます。
それでは、次回も楽しみに‼︎


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