Fate/Grand Order ~思案の海に流されて ~ (十握剣)
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それは思い付きから始まる

 
やってしまったぞ。でも後悔はしていない


 

 

 

 それは、いきなりのことだった。

 この世界観を壊しかねない大暴挙がそこに踊り出た。

 

「英霊たちがドッジボールやったらどうなるかな?」

 

 それは何気ない、ふと思った言葉だった。

 数多の大英雄をサーヴァントにしたマスターのふとした考え。ふとした嗜好。

 それがこんなことになるなんて、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ! 始まりましたいきなりの英霊ドッジボール大会! 我らがマスターが暇な思い付きで始まった大変面白い異聞(アンソロジー)! 解説は皆が銀種をぶつけてきても笑顔でマナプリズムと交換する稀代の大天才にして絶世の美女! レオナルド・ダ・ヴィンチちゃんだーー!!」

 

 ウワー! とウキウキ気分でそう実況する稀代の大天才に視線を向けるのは、断わることが苦手な善良な眼鏡っ娘のマシュ・キリエライトだった。

 

「ど、どうしてこんなことに?」

「さぁ? 藤丸くんが提案した案件みたいなんだけどね、ダ・ヴィンチちゃんは愉悦(たのし)そうなら喜んで手伝いをする心優しいお姉さんなのだよ」

「それが混沌(カオス)な状態になったとしてもですか!?」

「ふふふ、それこそ我らのマスターの望みなのだよ?」

「先輩が!?」

 

 そうして言い合う二人が座って眺めている先には、既に準備運動に入っている英霊たちがそこに立っている。

 

「言い出したのは俺なんだ。そりゃあ一緒にドッジやらんとねぇ!」

「随分、気合が十分ですね、マスター」

「……まったく、呆れて物が言えんよこのマスターは」

「だがやるって決めた以上、絶対に負ける訳にはいかねぇな」

「……しかし、このメンバーですか……正しくこういう時にしかできませんね。しかも……ドッジボールとは」

「なんで私まで参加なのよ! 体力バカ共に勝てる訳ないじゃない!」

「いやぁ、正に怪奇。まさかこのような形で戦うようになろうとは、面白い」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 マスターたる藤丸をはじめとしたメンバーは、セイバーたるアルトリア・ペンドラゴン、アーチャーのエミヤ、ランサーのクー・フーリン、ライダーのメドゥーサ、キャスターのメディア、アサシンの佐々木小次郎、バーサーカーのヘラクレスという錚々たる面々が立ち並ぶ。しかし、尚目立つものがあり、

 

「なんで『運動着』とかいうものに着替えないといけないのよ!」

 

 キャスターたるメディアが泣くようにして叫ぶその抗議の目はマスターの藤丸に向けられた。

 それを悠然と受け止めながら藤丸は、(おとこ)らしく、

 

「ドッジボールは運動着でするもんでしょぉおおおおお!!」

 

 と喰い見るようにメディアの『ブルマ姿』をガン見する。メディアは可愛らしく『きゃぁ!』と言いながら上半身長袖の裾を伸ばして隠そうとするが、逆にそれを藤丸に刺激する。鼻息荒々しくガン見を続けている藤丸に、他の女性サーヴァントたちもそっと距離を離す。

 藤丸チームの女性サーヴァントたちもブルマ姿の運動着姿だった。

 

「逆に、男性陣はぴったりと合うサイズの運動着をよく支給してくれたものだ。バーサーカーのサイズもぴったりじゃないか」

「■■■■■■!!」

 

 エミヤも巨体であるヘラクレスの体に合う運動着まで準備していたマスターに軽く戦慄を覚えている頃、なぜこのメンバーなのか気になった。それをマスターに聞いてみると、

 

「なんでかこのチームでやってみたかった」

 

 という。理由はそれだけだと聞かされた時は酷く驚いたエミヤ。

 

「まさか貴公と並んで戦うことになろうとは……なんとも奇妙なことですね」

「それもまたマスターがくれた不思議な縁よ。断わる理由もなかった訳だし、共に戦うとしよう、セイバー」

「えぇ。尋常に戦いましょう、アサシン」

 

 アルトリアと小次郎が意気揚々に頷き合っていたり、クー・フーリンは長袖運動着をマントのようになびかせてやる気を出しながらマスターに聞いた。

 

「それでマスター。俺らの相手は誰なんだ? ドッジボールでも本気でやるぜ?」

「その言葉を待ってたよ! ランサー!」

 

 そう答えたのは、愉悦なマスターの双子の妹である赤髪が特徴的な少女が悠然と疾走してきた。

 

「そう! 我らのマスターの双子の妹である立香(りつか)が元気よく入場!! 兄が兄なら妹も妹だぁ! 兄のふざけた提案に一番に悪ノリしたのは何を隠そうこのリツカだぁ!」

「だぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 驚くことなかれ、主人公(ふじまるりつか)は二人で一人なのだ。しかし、マスター権ははっきりと兄・藤丸の手の甲に『令呪』が浮き上がっているが、多くのサーヴァントはこの立香にもマスターに似たような雰囲気(オーラ)に当てられ、大抵の言う事は聞く。良く出来た環境(システム)である。

 

「英霊同士のドッジボール大いに興味がある! さぁ! 私のサーヴァントたちよ! 敵を屠るのだ!」

 

 藤丸の妹・立香の不穏な言葉に冷や汗を流すが、更に流すことになる。

 

「青は消え去るべき、男は黒に染まるのだ」

「くだらない……くだらな過ぎるぞ」

「……なんでも良い、破壊できるならなぁ」

「フハハハ、私が私と戦えるとはなぁ」

「ウフフフ、私も私と戦えるが来るなんて思いもしませんでした♡」

「なんで私なの? えっ? 小次郎なら武蔵でしょって?……それ逆じゃない?」

「私なんて同じアルゴー船に乗っていただけだというのに来させられたのだぞ。……ヘラクレスと戦えとか言わないよな、マスター?」

 

 クラスが別々だというのに、関連性のあるサーヴァントで固めてきた立香に本気度が窺える。

 青セイバーを睨む黒セイバー(同:アルトリア)と、エミヤの反転(オルタ)が銃を見せびらかし、クー・フーリン・オルタは凶悪な甲殻を軋ませ、髪から無数の蛇を靡かせるゴルゴーン、ウキウキと可愛らしく微笑む(リリィ)なメディア、なんで呼ばれた女剣士・新免武蔵守藤原玄信(みやもとむさし)、同じ国と同じ乗船者というだけの繋がり、渋面のアテランテが並び立っていた。

 当然、女性陣はブルマ姿である。そして、敵陣営に誰よりも衝撃を受けたであろう人物は気を失いそうに倒れそうになっていた。

 

「……し、しっかりなさい! あなただけが衝撃を受けているわけではないのですよ!?」

「いやぁ、でも一番の衝撃を受けたのはコイツだろうぜ! わははは!」

「クっ! ク、ククク……ほ、ほれ、しゃんと立つが良い魔女よ」

「■■■■■■■!」

「マスター……これは余りにも酷だぞ。自分の若かりし日の、しかも誰よりもあのブルマ(かっこう)が似合う者に対し、この魔女の年齢を考えるにだな……」

 

 気絶しそうになったメディア(魔女)は、メディア(姫)を見て血の気を失せ、メドゥーサがそれを支え、小次郎とヘラクレスも支えてやっていた。クー・フーリンは笑いを隠そうともせず、エミヤに関しては的確に魔女の心境を聞かせていた。あとで弓兵と槍兵は殺すと決めるメディア。

 正しく異様というこの風景。

 見物しに来た他の英霊たちも面白おかしく眺めていた。

 場所は、いつの間にできたのか分からない『カルデア体育館』。日本に存在していた武道館並みの大きさを誇るその広さに、ドッジボールをやるにしてもこんなに広くなくていいじゃん、とい声も聞こえるが無視だ。

 

「それではそろそろ始めたいと思います。両者、代表者前へ」

 

 代表……というより、背が高い英霊に任せられる。

 

「■■■■■■■■■■■ーーー!!」

「はっ、せいぜい吼えるだけ吼えていろ」

 

 藤丸チームはヘラクレスが、立香チームはクー・フーリン・オルタが互いを牽制するように睨み合う。

 

「どうでも良いがあの大英雄は、このドッジに何も疑問もないのか」

「ドッジボール発祥の地はギリシャである。ならばギリシャ出身……それも神話の英雄ならばこれを断る訳にはいかぬ」

「君が答えるかアタランテ」

「代弁したまでだ」

 

 ヘラクレスに並び、ギリシャ神話に登場する狩猟と純潔の女神アルテミスの加護を授かって生まれた『純潔の狩人』アタランテはキリッとした顔で答えるも、その姿は運動着にブルマ姿なので何故か残念に思えるのはエミヤだけではないはずだ。

 巨体というだけ大きな二人が並ぶと、まるで壁が立ったように思うほど圧倒される。しかし、このバーサーカー二人もしっかりとぴったりの運動着を着ているので残念さが滲み出てくる。仮にここに彼らを信仰する者や、慕う者たちがいれば怒り狂うことだろう。

 誰だあんなピチピチな運動着をギリシャとアイルランドの大英雄に着させているのは、と。

 

 そんなこんなんで、審判役を押し付けられた裁定者(ルーラー)二人、ジャンヌ・ダルクと天草四郎時貞が側につき、空を飛べるイシュタルがボールを落とす役割にされていた。ジャンヌは『皆で楽しく遊んで親交を深めるから』という理由で誘い、四郎は『愉悦が見られるぞ』と誘い、イシュタルには『どちらかに勝つか賭け事をして、どちらか勝っても美味しいところ持って行ってOK権』をというもので釣り上げた。

 

「みなさん、楽しく遊びましょう」

「えぇ、皆さん、愉しく遊びましょう」

「ジャンヌの横にいるもう一人のルーラーの言葉なんか引っかかった!」

 

 クー・フーリンがそう叫ぶ隙に、イシュタルは『¥』の目になったまま始まりの許可もなく、ボールを地に落とした。

 

 

 

 

 今、七騎対七騎の激闘が、始まった。




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