機凱種はありふれた世界をゆく (興梠 すずむし)
しおりを挟む

プロローグ

もうね、びっくりですよ。一作品の続かなさに!


ソレは()()()いなかった。しかしながら、ソレ自身らとともに活動していた。自身らの内の自身(ひとつ)は、ある生命体に対する対抗策を模索していた。ソレらを率いるモノへある生命体の中に紛れ込むという案がもたらされた。生命体について、より深く情報を得るために。ソレらは今までに犠牲、否、損失が出ることに頓着しなかった。しかし、数を減らされ過ぎた。故に、損失を減らすために、潜入という案が採決された。そのための道具は出来ていた。

 

「これ以上の損失は我らの存亡にかかっている。失敗は許されない。」

 

「【了解(ヤヴォール)】【典開(レーゼン)】『真典・偽装』」

 

ソレらは機凱種(エクスマキナ)。それそのものが機械の種族である。理論上、無限に強くなるとされている。

ソレらは、ある生命体―――天翼種(フリューゲル)の情報を収集するため、半壊したE連結(クラスタ)の機体『旧E連結体第二指揮体(アエルト・イミル・クラスタ・エアスト)』、個体識別番号Ec002Bf9O(・・)48a2が選ばれた。これは精霊反応でさえも偽装し、彼の天翼種が住まう幻想種(ファンタズマ)『アヴァントヘイム』へと飛び立った。アヴァントヘイムを目前として、イミル・エアスタはある問題に思い至った。彼の大規模破壊生命体兵器には、自分にはない『感情』、『心』がある。これを模倣しなければすぐにバレて破壊されるのは明白であった。

 

「【報告】 イミルエアスタより、連結(クラスタ)へ。天翼種には『心』があると―――?」

 

何故か連結から廃棄されていた。しかし、イミルエアスタは機凱種である。動揺もなく一瞬で判断を下した。

 

「万一にも連結を感知されないためであると判断。当機単独で『心』の解析を開始」

 

■ □ ■

 

『心』の解析を始めたイミルエアスタは3日ともたず、吐き出される膨大な矛盾(エラー)によって、ショートを起こし、浮遊地点から墜落。記録(メモリー)喪失をした見た目天翼種のこれは本物に拾われて「イヴリール」と名付けられて、機凱種であることを喪失した(わすれた)まま天翼種として過ごしていた。

 

「うぅぅぅぅ・・・・・・。イヴにゃ〜ん!ジブちゃんがウチにかまってくれないにゃあ!!」

 

「あはは・・・。アズリールさんはキモチワルイので仕方ないですよ」

 

「うわあああ!!なんにゃ?!イヴにゃんはウチがきらいなのかにゃ?!」

 

「ノーコメントで」

 

「・・・みんながウチをイジメるにゃ…。」

 

今は龍精種(ドラゴニア)狩りの最中だけど、あれはあまり他のものより強くなくて、もうそろそろ終わりかな、といったところだ。っと、精霊反応が強まりましたね。崩哮(いたちのさいごっぺ)ですかね?

 

龍精種の視線の先には天撃を撃ち込んで浮くだけでやっとのジブリールがいた。いくら力の絶対値が他とは低いとはいえ、いまの状態で当たれば間違いなく死んでしまうだろう。

 

「っ!ジブリール!!『空間転移(シフト)』!」

 

「イヴリール姉さま!?」

 

万が一に、ととっておいた『天撃』でもって迎え撃つ。

しかし、意外にもそれは強力だった。天撃は次第に押され始めて、次の瞬間、彼女は光の中に消えた。

 

■ □ ■

 

「・・・どこ此処」

 

気が付くと薄暗い場所にいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メモリー復活機凱種?

すまんやで


イヴリールのキャラクターデザイン

 

【挿絵表示】

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

イヴリールは崩哮(ファークライ)に飲み込まれ、目覚めると薄暗い洞窟にいた。まあ、頭の光輪で照らされており、暗さはあまり感じないが。

崩哮に直撃したため、吹き飛ばされたと判断し、ジブリール達の所へ空間転移しよ(とぼ)うとしてはたと気づいた。

 

「……既知の場所へ、空間転移()べない……?」

 

まさかあの崩哮には封術効果でもあったのか、と思い、短距離転移を試みた結果、転移は成功した。

 

はて、と小首を傾げるイヴリール。術が封じられているわけではなさそうである。しかし、既知の場所へ転移出来ないのも事実。何かしらの原因があるのだろう。

その原因を調べるべく、イヴリールは移動を開始した。

 

しばらくの移動の後、滝が多数流れている水辺を見つけた。

 

「……外的変化が原因かもですし。少し湖面で容姿を確認しましょうか」

 

水辺に近づき、水面を覗き込んで驚愕した。

 

イヴリールはうぐいす色の髪が外にはね、瞳の色は黄金(こがね)色で十字の紋様がある天翼種であったはずだ。

はずだった。

しかし、頭部の右側は今、艶やかな漆黒の少し毛先に癖があるストレートの髪が生え、その下の目は、どう考えても天翼種のものではないサファイアブルーの瞳の、機凱種(スクラップ)のものであった。

信じられない、と目を見開いたイヴリール。

その時、右頭部に紫電が走り記憶、否、記録が蘇った。

しばし、唐突に蘇った記録を整理するため、呆然としていたが、次第に、意識をハッキリさせた。

 

「……ええ。そうでしたね。……ふふっ。あっはは!」

 

イヴリールは笑った。

 

「我ながら無能(バカ)ですねぇ!損失を減らすために潜入したにもかかわらず!むしろ損失を増やしているとは!

あぁ、可笑しいっ!」

 

感情が生まれたことで生じた自責の念ではなく、天翼種らしい感性で、機凱種(れっとうしゅ)を嗤うように。

記録を喪失し、機凱種よりも天翼種として長く過ごした彼女は、機凱種(それ)らしい価値観など無きに等しい。

イヴリールは笑った。爆笑した。笑い続けた。息をしなくとも長く保つ天翼種が苦しいと思うほどに。

 

そして酸欠に陥って、過呼吸になっていた。

 

「……うっ、く……カヒュ……っ!」

 

薄れゆく意識の中、水辺に流れ着いた黒い毛の生えた何かを見た気がした。

 

◆ ◇ ◆

 

「ーの!ーーじょーぶーーか!」

 

何かが呼びかけている。からだを揺さぶられるのを感じる。

イヴリールは何故か頭が痛むため、反応を示すのが面倒だった。

 

「大丈夫ですか!ど、どうしよう……全く反応がない。息はしてるみたいだけど……。! そうだ!」

 

普段は必要ないが、少し眠ろう。そう考え、落ち着くために少し息を深く吸った瞬間、イヴリールの顔に水がかけられた。それはイヴリールの、すっと通った形のいい鼻に吸い込まれーーー

 

「ーーーフッ!ンンッ?!」

 

鼻から頭頂部にかけて激痛が襲った。横になったままぎゅっと縮こまる。

「フクっ!フクっ!」と鼻から息を出して水を追い出す。

 

痛みが引いたので、痛みの原因をもたらした生き物を抹殺すべく、手を後方へ振るい、圧倒的な破壊を起こした。

 

「……はぁ。全く、思わぬダメージを負いました」

 

「うわぁ……」

 

「おや、まだ生きていましたか♡」

 

振り返ったイヴリールから莫大な殺気が放たれる!

それを見て、黒髪の生き物、もとい言葉を話す猿こと人間は芸術的とも言える土下座を披露した。

 

「すみませんでしたああああああああああああっ!」




ハジメくん初登場!
問題点、疑問点、普通の感想などなど!
どしどしお願いします!
元気が出るか落ち込みます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

南雲ハジメとかいう人間と機凱種(きかい)仕掛けの天翼種

3話目(さんわめ)ぃ!本日2話目ぃ!
段落の付け方わかんないの、見にくくてごめんね……。


「……なるほど。そうですか」

 

「はい。その通りでございます」

 

イヴリールは土下座をしながら水によって体温を奪われてガタガタと震える目の前の雄猿から話を聞いた。

コレの言うことによると、恐らくこの猿と同様に何かしらの原因で違う世界に転移させられたのではないか、とのこと。

それを行うにあたってどれほどの精霊を用いるのかはわからないが、そのエネルギーを補填できるのであれば、確かに、理論上は次元転移は可能である。

そこまで考えて、イヴリールは人間(さる)に目をやる。

イヴリールの目の前で、洗練された土下座をかます人間がいる。

しかし、イヴリールはこの人間が一体何をしているのかはわからない。土下座という文化を知らなかった。

ここで、イヴリールのいた世界、神々が星杯(スーニアスター)をかけて殺し合いをしていた世界において、その少し先の未来、目的を見失った天翼種達はその穴を埋めるように知識欲を満たそうとする種族となっている。

種族全体としてそうなる性質上、敬愛する彼女の主(アルトシュ)なき世界にいる今、彼女もそうなるのは自明である。

故にこの後、この青年はイヴリールに土下座について、根掘り葉掘り、一から十まで徹底的に質問攻めされることになった。

 

◆◇◆

 

「情報提供、感謝してあげましょう」

 

「は、はあ……。あ、ありがとうございます?」

 

変わった子だな、と思いながら取り敢えずお礼しておくハジメ。

しばらく待っても何も言って来ないので、ハジメは服を乾かすべく魔法陣を描き始めた。

 

「貴方の名前はなんでしょう?聞いてあげますよ」

 

「え?」

 

なんの脈絡もなくそんなことを言われたので思わず聞き返してしまった。途端に殺気が満ち満ちる!

 

「南雲ハジメと申します!」

 

殺気が霧散していったため、チラチラと様子を伺いながら魔法陣を描きあげ、顔を少し赤らめながら、

 

「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、”火種”」

 

とつぶやき、()()()()使()()()

 

「待ちなさい」

 

ビクッと反応するハジメ。

 

「何故、魔法を、人間が、行使できるんですか?」

 

ハジメは内心、何故と言われましても……、と思ったが、

口に出すと殺されそうなので、恐らく、と前置いて自分の推測を述べていく。

自分をこの世界に喚んだ神、エヒトによるものでは無いか、もしくはこの世界に来たことで自分の体が適応したのかもしれない、と。

 

イヴリールは人間のくせによく魔法についてそこまでの推測がたてられるものだ、と感心した。

しかし、後者の推測は違うと断定した。

その推測であれば自分も新たに魔法が使えるようになっていなければおかしいのだ。だが、使える気配は全くない。

それゆえの否定、断定である。

とはいえ、間違っていたとしても、この天翼種(じぶん)がいる中でよく頭がまわるハジメをイヴリールは気に入った。

この脆弱で矮小な、しかし賢いこの男を飽きるまでは保護しようと考えた。

 

(ここで死なせてしまうと、あとがつまらないでしょうしね♪)

 

こうして奈落の底で、南雲ハジメは天翼種(あくま)のような機凱種(きかい)と出会った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お冠イヴリール

評価と感想が、欲しい!
無理にとは言わぬ!
暇な時に気が向いたらでいいんだ……。
寂しす。


ーーーイヴリールはイラついていた。

なぜなら、

 

「キャインキャイン!」ダッ

 

「キュー!」スタターンッ

 

生き物がイヴリールに怯えに怯えまくって近づかず、そんな情けない姿を見るのがどうしようもなくストレスを与えていたからである。

最初は二尾狼、蹴り兎達も格下と判断し、襲いかかった。しかし、イヴリールに次々と蒸発させられたため、今ではこうなっている。

誤解なきよう言っておくが、彼等は危機察知能力が低い訳では無い。

挑みかかってくる存在を、イヴリールは煩わしいとは思わず、むしろ好ましく思っているため、威圧感は出ない。

さらに、機械という今まで見たことも触れたことも無いものが混じった気配を察知するのは至難の業である。

故に、襲いかかって来たのだがーーー

 

「……」ガタガタガタガタ

 

今では皆こうである。

そんな有様を見ているイヴリールは表面上にっこにっこと笑っているが、その額には青筋が幻視できる。周囲に放つ威圧感はハジメに向けたもの以上である。

ふと、イヴリールが静止する。

 

(い、嫌な予感が……)

 

ちらっとハジメは目を後ろに向け、後悔した。

イヴリールは、怒っていた。激怒していた。笑顔の仮面が剥がれ落ち、ストンと表情が抜け落ちたような顔をしていた。その頭に頂く光輪はそのうち軸が外れて(軸なんてないけど)飛んでくのでは?という勢いで回っている。

我慢の限界に達したのだろう。

ハジメが光の膜で包まれた次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奈落の底が光で埋め尽くされた。

 

「……っ!?」

 

ハジメは目を庇ってしばらくじっとしていたが、光が収まったので目を開いて辺りを見回した。

そこにあったのは先程までの冷ややかな雰囲気の洞窟ではなく、光に焼かれて溶けた、だだっ広い空間だけだった。

 

「……嘘だと言ってよママン」

 

イヴリールはとてもいい笑顔をしていた。ストレスが多少は晴れたようだ。

ハジメはイヴリールを見て思った。今の一撃は汗のひとつもかいていないイヴリールの全力の何パーセント程の攻撃だったのだろうか、と。気になる。気にはなるが、

 

(き、聞くのが怖い……!)

 

アレで1割とか言われたらどうしよう……。と思うと聞くのが怖くてたまらないハジメだった。

 

意を決して聞いてみたハジメは0.1パーセント以下と聞いて乾いた笑みで、聞いたことを後悔した。

 

◆◇◆

 

「……あのー、すみませんイヴリールさん。少々席を外して頂けると……」

 

「……はぁ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

天翼種に排泄機能はない。さっさと同じ風景ばかりのつまらないこの場所を抜け出したいイヴリールは、ハジメのこうしたプライベートな時間がとても煩わしいと考えていた。階段も全く見つからないので、不機嫌さもひとしおである。

 

空間転移(シフト)

 

少し離れたイヴリールは思った。娯楽のためにハジメを守ろうと考えたが、このイラつきと、ハジメに関するほんの少しの娯楽では釣り合いがとれない。もういっそのこと放っておけばいいのでは?と。探索範囲が狭いのはハジメが遅いからである訳でーーー

 

「置いていくが吉、ですね♪」

 

そう決断を下した。

空間転移を応用し、遠方をぐるりと見渡し下へ続く階段を見つけた。

それからイヴリール階段を降りては空間転移()び、降りては空間転移びを繰り返し、二体の巨像がある部屋を見つけた。奥の扉の、その更に奥に、吸血種(ダンピール)に似た反応を感じ取り、これといって重要なものでもないと判断し、次の階層へと空間転移した。




IMH(イヴリール マジ 薄情)
彼女、心は天翼種なの!
他種族見下しウーマンなの!
大目に見てあげて!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

滅殺の光撒き散らす六頭、機凱種というもの

感想嬉しぃしぃ……!
返信もできるだけ全部やってくよ!


ーーーイヴリールは困惑していた。

今まで、二尾狼、蹴り兎、タールザメに花の生えた肉食系爬虫類、それを操る人型の植物(ざっそう)など、様々な生物を消し飛ばしてきたが、自身に傷を付けられる生き物などいなかった。それは元いた世界においても同じだ。あそこで傷を付けられるのは龍精種(ドラゴニア)巨人種(ギガント)、種族の頂点、神霊種(オールドデウス)などの少数の強大な力を持った生命体だけであった。それなのにーーー

 

「クルアアアアアァァァァアアン!」

 

この六頭()()()竜が新たに生えた頭で放った極光はイヴリールを焼いたのだ。それも行動不能一歩手前まで。

最初は良かった。いつもの通り消し飛ばした。ただし、全部ではなく首だけ。クビオイテケ種族の天翼種(フリューゲル)の精神を持ったイヴリールはそこそこ強力な力を持つ物珍しいトカゲの首が欲しかったのだ。

 

「油断……しましたね……」

 

『 【肯定】現在の負傷は自業自得』

 

「!?」

 

呟きに対する答えがあったことにも驚いた。しかしそれ以上にーーー

 

『 【推奨】機体の主導権を当機へ譲渡。当機が確実に仕留める。【嘲笑】鳥頭は引っ込んでて』

 

頭の中に響くのは記憶の中にある機凱種(かつてのじぶん)の声だからだ。このまま体がを渡してしまったが最後、天翼種(いまのじぶん)が消えてしまいそうな気がしてならない。しかし、自分が今、動けないのは事実。

イヴリールはーーー

 

「ーーーとても腹立たしいですが、機凱種(あなた)に代われば、確実に勝てるのですよね?」

 

『 【肯定】』

 

その言葉を聞き、目を閉じーーー

 

「ーーー機体の譲渡を確認。戦闘を開始する」

 

身体を渡すことにした。

光輪が、電子的な多数の弧となった。

大規模破壊生物兵器は眠り、ここに理論上、永久に成長し続ける機凱種(きかい)が再臨した。

 

◆◇◆

 

「【偽典】『空間転移』」

 

戦闘が始まってから、イミルエアスタは敵の行動パターンの把握を始めた。

極光、2分、光散弾、1分、光散弾、1分、光散弾、1分、極光。

警戒すべきは極光のみ。

極光から次の極光までは5分間。

力を溜めつつ、節約した光散弾で牽制。

溜まれば極光。しかし、節約をする脳があるなら隠し玉を持っている可能性、大。接近と同時に極光の連射があると予想する。

規則的な行動からこの生物は創造されたモノと考えられるが、戦闘には関係ないと思考から追い出す。

 

「攻撃開始」

 

イミルエアスタは蹂躙を開始した。

イミルエアスタは首を集中的に攻撃し、極光を避け、奥の手の連射も避け、3分で死に体の元六

頭が出来上がった。

さしものイミルエアスタも、最後の最後で攻撃の時間の間隔が短くなるとは予想できなかったが、そこはそれ。デタラメ種族の為せる業である。

最後の一撃は、念には念を入れて体ごと消し飛ばすと同時に、天翼種への当てつけにあの技を模倣した兵器を展開するーーー

 

「【典開(レーゼン)】『 偽典・ 天ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇい♡」

 

ーーー前に消し飛んだ。

 

いきなりの出来事にイミルエアスタは呆然とした。

控え目だった表情が、素晴らしく恍惚とした笑顔へと変わっていく。

 

「うへへぇ〜♪とても気持ちがいぃですねぇ〜♡」

 

両手を頬に添え、ゾクゾクと震えながら笑みを浮かべるイヴリールがそこにいた。

頭の上には光輪が浮かんでいる。

 

そこで、右手が勝手に動き出し、前方へと向けられる。

それは光を照射し、かつての自分を作り出した。

その機凱種は両手で固い拳を作り、プルプルと震えている。表情は髪に隠れて見えないが、機械部品の至る所から蒸気を吹き出している。

 

「【憤怒】っ……!!【典開】『 偽典・天撃』!!」

 

空間転移でサラッと避けたイヴリールはとても嬉しそうである。

わざわざ地面に降り立ってスキップまでしている。

 

「嗚呼っ!楽しい!こんなにスッキリ爽快いい気分は初めて位階上殺し(ジャイアントキリング)した時以来です♪」

 

「〜〜〜〜〜っ!【典開】っ!【典開】っ!!」

 

「あっはぁ♪クセになりそうですねぇ♡」

 

「きぃ〜〜っ!」

 

機械部品からブシーッ!と蒸気をあげながらイヴリールを追いかけ回したが、イヴリールの方が空間転移の扱いは格段に上である。

 

追いかけっこはこの後、一日中続いた。




デデドン!
機凱種が仲間に加わった(?)!

※やっべー……。ヒュドラの頭の数間違えてた……。
五頭→六頭


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘後の至福

ろーくわっめ!
ちくせう!お気に入り人数が50人を超えやがったぜこんにゃろーめ!
ありがてぇてぇ!
これからもよろしくお願いします!


「おや、なかなかのセンスをお持ちのようで……」

 

「【同意】不本意ながら当機もそう思う。【賞賛】綺麗……」

 

ヒュドラ戦の部屋の奥へ進んだ2人は人間が作ったと思われる部屋の造形美に驚いていた。

こんなにも心を動かされたのは、いつ以来だろうか。

圧倒される2人の目を何よりも引くのが、天井に輝く光だった。

あの光は何を模しているのだろうか。

ただの光に、何故こうも心惹かれてしまうのか。

この光は、地下に描かれたこの暖かな光は、地上に出ればまだ、見られるだろうか。

2人はこの暖かな光が消えるまで見続けた。

 

◆◇◆

 

大きく長方形に堀抜かれた場所に温かい水が満たされている事で湯気の立ち込めた場所を見つけた。

 

「……これは……風呂、というものでしたか」

 

「【肯定】鳥頭にしては博識」

 

「死にたいのであれば言ってくださいね♡」

 

イミルエアスタは、ふいっと顔を明後日の方向へ向けた。

ここで、イヴリールは知識欲を刺激された。大戦以前は陸上哺乳類の多くが入っていたとされる、風呂。

その何が生き物を誘うのかに興味が湧いたのだ。

 

「入ってみれば、分かるかもしれませんし」

 

「【疑問】いきなりのどうした」

 

「少し、知識欲を刺激されたので……」

 

そのまま湯の中に入ろうとするイヴリールを、イミルエアスタは引き止めた。ガシッと肩を掴み、服を着たままであることを指摘した。しかし、風呂が物質的にどういうものか、ということしか分かっていないイヴリールは疑問符を飛び交わせていた。

 

「【嘆息】当機が正しい風呂の入り方をレクチャーする。【報告】当機も入る」

 

「貴女、入ったことがありますので?」

 

「【否定】でも、入り方は知っている。少なくとも衣服を身につけたまま入ろうとする鳥頭よりかは」

 

「……………………………………♡」

 

風呂の湯は全て蒸気になった。

 

◆◇◆

 

2人がクールダウンし、風呂が復活してからしばらくして、イヴリールはイミルエアスタの指示に従って、風呂に入る準備をしていた。

服を脱ぎ、布、石鹸、精霊水入りシャンプーを入れた木製の桶を持って風呂場へ入る。

掛け湯をして軽く汚れを落とし、頭から洗い、流し、身体を洗い、流す。

やっと終わったと思ったイヴリールは湯に入ろうとして、またしてもイミルエアスタに引き止められる。

布で髪をまとめろと言う。

 

「何故ですか?」

 

「【回答】天翼種や機凱種にはないが、人間は不意に髪が抜けるらしい。それが湯船に浮いていると後に入るものが不快感を抱く可能性がある。また、肌に張りつくことで鬱陶しさを感じることの予防も兼ねていると考えられる。風呂を作ったのは人間であるため、当機達もそれにならうことが必要と判断。【誤推】?」

 

「……なるほど。」

 

それも一理ある、とイヴリールは考えた。

大人しく従って、イミルエアスタを真似て、布で頭を包んで、羽毛のあるイヴリールは羽部分を空気の膜で包み、ようやく湯船に浸かった。

 

「…………ほぅ……」

 

「【満悦】…………ふぅ……」

 

じんわりと(すさ)んだ心と、戦闘後の緊張した体を(ほぐ)されるような温かみに、自然と2人の頬は緩んでいた。

 

「……侮りがたい存在ですね、人間とは……」

 

「【同意】……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

意志の強さより風呂を作ったことを認められたと知れば、人類はどう思うだろうか……。

この後、風呂にどハマりした2人は日に5回程の入浴することになる。




挿絵を描いていて気づいた。
抜け毛浮いてなくても
羽浮いてたら一緒やん───────と。
一応、空気の膜で包んでおけば大丈夫、な、はず、
うん。
無理があるとか思ったらアドバイスよろしく☆

※挿絵の追加完了!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生きる執念(ちから)を持つ者

くへへへへぇ〜⤴︎⤴︎
60人……60人超えたぜぇ……!
ありがとう!愛してる!



イミルエアスタとともに数日間。ここ、オスカー・オルクスの住居で過ごし、イヴリールはふと考えた。

 

「─────何故私はあの機凱種の首を狩っていないのでしょうか?」

 

そう。天翼種(イヴリール)機凱種(イミルエアスタ)を殺していなかった。首狩りが生き甲斐のクビオイテケ種族、天翼種であるイヴリールが。

そのつぶやきを聞いたイミルエアスタは自らの推測を述べる。

 

「【推測】当機はこうして独立して活動してはいる。けれど、機凱種としての核は天翼種としての核と混ざり合い、ひとつになって貴女の中にある。

故に、当機の意思が貴女に影響を及ぼす可能性がある。

貴女と殺し合いはしたくないという当機の意思が。」

 

イミルエアスタが漏らした訳のわからない言葉に、イヴリールの思考が停止する。

そして、思った。この目の前にいる機凱種(スクラップ)は、何を言っているのだろう、と。

そして、なんだろうこの目の前にいるコレに対する、この暖かな気持────

 

「【補足】当機は、貴女のことが嫌い」

 

「…………♡」

 

─────そんなものはなかった。これは暖かな気持ちではなく熱く激しい怒りの前兆だったのだ、と思い直したイヴリールは機凱種(スクラップ)に襲いかかった。

 

◆◇◆

 

「【報告】外でまた竜の出現を感知。【疑問】リベンジに行く?」

 

「現れたということは私達以外の生き物が来たのでしょう。少しばかり観戦しましょう。そして失敗する度に嗤います♪」

 

「【驚愕】……驚くべき性格の悪さ」

 

イミルエアスタがジトっとした目でイヴリールを見るが、イヴリールは無視を決め込み空間転移を応用し、壁を越えて遠視を始めた。

 

「あ、この人間は────」

 

 

 

 

『 おい!ユエ!しっかりしろ!』

 

黒頭の首に何らかの攻撃を受けた吸血種(ダンピール)にハジメが声をかけていた。

2人は思った。そういうのはお前の領分なのに何をやってるんだ、と。

不意にハジメとユエというらしい吸血種が軽くキスをした。

種族を超えた恋という偉業をサラッと成就させているハジメに賞賛を送るとともに、

 

「【報告】口内に過度な甘味を感知。【提示】当機の疑似味覚神経系(した)異常(バグ)が発生した可能性」

 

「…………奇遇ですね。私も口の中が甘いように感じます。異常はないのでは?」

 

甘い雰囲気に自身らの異常を伝え合っていた。

それはさておき、ラブパワーゆえか、魔法の勢いと数が数段増した吸血種の怒涛のラッシュが始まった。

それを見て抗議の声をあげるものが約1名。イヴリールである。

 

「ちょっと待ちなさい!!強さが全然違うのでは!?納得いきません!!」

 

してやられたから悔しいのだろう。

そんなイヴリールを無視して遠視越しにイミルエアスタは精霊とは違う力を観測したが、イヴリールの時と今のヒュドラでは力の絶対値が全く違うことがわかった。

 

「【報告】力の絶対値の違いを確認。イヴリールの戦闘時より弱体化している。【推測】イヴリールを構成する術式が、竜を生成、召喚する魔法陣に影響を及ぼした」

 

「……ふむ。名前を呼ばないで頂けます?気持ち悪い」

 

「【絶許】表に出ろ」

 

ここにもう1つの戦いが少しの間だけ起こった。

 

◆◇◆

 

「ふう。おや、まだやっていましたか」

 

「【報告】戦闘は5分ジャスト。人間があれを攻略するのは弱体化していても困難。5分では攻略不可能」

 

それもそうである。でなければ天翼種の私がしてやられることもなかっただろう。と考えるイヴリール。

そこでヒュドラの前にハジメ達がいなかった。

よくよく見れば、気絶しているハジメは全身焼けただれ、片目を失っていた。それを助けようとユエが口移しで何かを流し込んでいる。

ヒュドラの浸食毒を覆すほどの回復力をみせるその液体に興味が湧いたイヴリールだったが、戦いの最中に割り込むのは不粋だと判断し、自重した。

そこから吸血種は頑張ったが、5分も経たずに撃沈した。

あわや滅殺といったところでハジメが覚醒した。

ハジメの、生きる執念(ちから)を秘めたその目を見てイヴリールは震えた。

そして確信した。彼も、最強たるものの資格を備えたものであると。彼は必ず、人類最強へと至ると。

最強。それは天翼種であるイヴリールにとって甘美な響きを持っていた。

彼を守るのではなく、支えよう。

最強へと至れるように。

前ではなく、並ぼう。

それが自身が人間にできる最大の敬意であると考えた。

 

気づけばイヴリールは光輪を後ろへやって跪いていた。

そして遠視に映るハジメを熱心に見つめていた。

 

「【驚愕】チョロすぎ」

 

そんなイミルエアスタの言葉を聞いても流せる程に。




感想、待ってるぞ☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サラリと距離を詰める羽と傍観する機械

挿絵は5話ずつで聞いていこうかな、と考えています!
こうして欲しい、ああして欲しいなどの要望があればぜひ感想欄へ!
気軽にどうぞ!


戦闘後、ハジメは気絶していた。

そのハジメに寄り添うのが魔力枯渇により不安定な状態のユエである。

万が一があってはならない、とハジメを(むしば)むヒュドラの毒の浸食速度と、神水の回復速度を気にしながら安全な場所を探して周りを見渡すユエ。

 

次の瞬間、部屋の後方にある扉が轟音をたてて吹き飛んだ。

 

「そこな吸血種(ダンピール)!急いで彼をこちらへ運びます!貴女を見るに力が限界に近いのはわかっているのでこのスクラップに大人しく運ばれなさい!」

 

「【勧告】失礼する」

 

そして、あれよあれよという間にハジメが扉の奥へ連行された。

突然のことに頭がいっぱいになるユエは何も出来ずにイミルエアスタに小脇に抱えられて同じく扉の奥へ連行された。

 

◆◇◆

 

意識が浮上してくる。

まず感じたのは明るさ。洞窟内ではありえない光量だった。次に感じたのは、サラサラとした柔らかな布の感触だった。地面に寝ていたはずの体が違和感を訴えるので、周りの状況を確認しようと目を開け、知らない天井を見つけた。

 

(ここは、どこだ……?)

 

意識がハッキリとしてきたハジメ。

体を起こそうとするも、腕のなくなった左半身は力が入っているのは感じるが、何故か全く動く気配がない。

ならば、まず残っている右腕を動かそうと力を込めると、何やらぷにぷにとした素敵な感触が。

 

「……んぁ……ハジメ……ぁう……」

 

その声を聞いたハジメは足も左側が動かなかったので右足で急いで布団を蹴飛ばし、右を見るとユエが左腕を太ももで挟んで抱きついて眠っていた。

裸で。

 

「…………なるほど、これが朝チュンってやつか……。ってそうじゃない!つうかなんで左側半身が動かな─────」

 

「すやぁ……」

 

そこには自身を置いていった怨敵イヴリールがいた。

ハジメの背に右手を差し込み、左手で肩を抱き、足を絡めた状態で、実にいい笑顔。ハジメにとっては非常に腹立たしい表情で眠っていた。

裸で。

 

「────────────────────」

 

意識した瞬間に胴体から伝わる2つの大きな山の感触に脳の処理が追いつかず、ハジメはフリーズした。

固まっているハジメに、足を向けている方から声がかけられる。

 

「【爆笑】両手に花(笑)。【質問】どんな気分?」

 

「─────あ?」

 

そこには1人の少女がいた。イヴリールの右側を引き抜いて補ったような見た目の、艶やかな黒髪をした少女だった。何故か口調がメカメカしい。

情報量が多すぎてハジメは静かにパニックを起こしていた。

 

「【不満】。【質問】調子はどう?」

 

再度話しかけてきたイミルエアスタの声ではっと我に返った。

 

「ああ。体の調子は最高に近い。スッキリ爽快とした気分だ」

 

「【安堵】イヴリールも浮かばれる」

 

「あぁ?」

 

自分を見捨てたイヴリールが、回復魔法を用いて助けたという不可解な行動に、イミルエアスタに対して、ヤクザ顔を向けるハジメさん。

そこで、ユエが目を覚ました。

 

「ハジメ!」

 

ユエは目を覚ますなりハジメ抱きつき、ぐすっと鼻を鳴らした。イヴリールの拘束を解こうと努力しつつ、ユエが落ち着くまで頭を撫でた。

落ち着いたユエからハジメは事情を聞き出した。

ここから扉を吹き飛ばして出てきたイヴリール達がユエもハジメも助けてくれたのだという。

化け物ステータスを誇るハジメが、必死に拘束を解こうとしているが欠片もその行動に結果が伴わないほどの化け物っぷりを眠りながら発揮しているイヴリールなら、こんな所はさっさと攻略して出ているだろう。

なのにここから出てきたとなると……まさか自分を待っていたのだろうか。そんなことを考えた。

 

「【肯定】ある意味では合ってる」

 

「なんで心の声を読んでるんですかねぇ……」

 

もしや解析チートかコイツと考えたが、それも読まれる。

 

「【否定】当機は感情を学ぶ際、会話から思考パターンを割り出して統計を取った。それを元に貴方の思考を推測。スムーズな会話を試みている。【報告】貴方の思考パターンはとても平均的。ありふれている。」

 

何となくバカにされたように感じるが、それよりも先に気になることがある。

 

「ある意味ではってどういうことだ?」

 

「【回答】イヴリールが求めていた者は『最強』。

イヴリールが貴方にそれを見出した。【推奨】歓喜。貴方は最強という概念(アルトシュ)が創り出した尖兵である天翼種のお墨付きを貰った。」

 

「…………。」

 

……別れた経緯が経緯だけに素直に喜べない。

イヴリールが起きて伸びをした。畳んだ羽を大きく広げている。

それはハジメのケモナー魂に少し火をつけた。

手を伸ばしてそっと羽を撫でた。

イヴリールは少しピクっとしたが、ハジメに目を向けると、

 

「下手ですね♡」

 

と、とびきりの笑顔を送った。

撫でるのにうまいも下手もあるのかと疑問に思ったハジメに、イミルエアスタが答える。

 

「【忠告】天翼種(フリューゲル)の羽は性感帯」

 

それを聞いたハジメは頭を抱え、生温かみのある笑顔のユエとイヴリールに(なぐさ)められた。

部屋を探索し、オスカー・オルクスの魔法映像を見て真実を知ったハジメ達。

神殺しを成そうとしたというオスカーの言葉を聞いて、イヴリールは人類最強でもなく、その対となる者でもない半端者にはできるはずもないと1人納得し、イミルエアスタはこの住居の設備から換算して、オスカーが1万人ほどいれば顕現しているかは定かではないが、最弱という概念の神霊種(オールドデウス)がもしいたとすれば勝てる可能性もあると故人には考えても仕方がないことを考えていた。

それほど2人はオスカーの話自体には興味がなかった。

部屋を案内して周り、残すところは風呂だけであった。

ハジメは何度も釘を刺して一人で入ることを伝えると、脱衣場へと消えていった。

ユエとイヴリールは目を見合わせるとタイミングを見計らい、静かに服を脱ぎ風呂へ突撃した。

 

◆◇◆

 

住処に置いてあった本を読んでいるイミルエアスタの集音器は風呂から漏れてくる声を拾った。

 

『はぁい、やって参りました♡』

 

『 ……ん。ハジメ、背中流す。』

 

『俺は1人で入るって言っただろうが……!』

 

助けを求める声が聞こえ、1度本から目を離し、脱衣場の扉に目を向けるが、また本に視線を落とした。

数分後、美味しくいただかれた男の声がアーーーーッ!と迷宮に木霊した。




UAが5000に近づいてきた。嬉しい。
活動報告見てない人用に。
アンケで選ばれた『戦闘後の至福』の挿絵、出来たよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追従する羽と付随する機械

70人……!70人突破……!
ありがとう!嬉し味がすぎる……!


ハジメが武器の整備を始めたので、邪魔にならないようにユエとイヴリールは少し離れた場所にいた。

 

「ユエ様、その持ち手の付いた筒はなんでしょうか?」

 

「……ん。あれは銃という種類の遠距離武器。

……今いじっているのはドンナー。近くに置いてあるのはシュラークという名前がついてる。」

 

「ほう……」

 

自己紹介時に趣味が首の収集であると答えたところハジメの反応が悪く、この世界には頭のネジがトんだ一部の人しかその趣味は共有出来ないと言われたことで、首の収集は諦めたイヴリール。

……まあ、いつまで続くのかは分からないが。

こういった事情で種の差別が少し軽くなったイヴリールは、ハジメに最も近しい存在であるユエにも敬意を払うようにいた。

その様子はアイドルの親衛隊隊長と隊員のようだった。

イヴリールはハジメの持つ力や、その芯の強さについて。

ユエはハジメのかっこよさや魅力的な部分について語り合い、ハジメ情報を共有する。

それなりに大きな声で話すため、同じ部屋にいるハジメの耳には否が応でも入るわけで。

 

「…………。」

 

ハジメの限界値は今にも振り切れそうである。

羞恥に耐えきれずにユエとイヴリールのいない部屋にこもる日も近いかもしれない。

そんなことをした所で空間転移が使えるイヴリールがいる時点で意味は無いが。

整備が終わったハジメはオスカーの住処にあった指輪型の収納用アーティファクト、通称『宝物庫』からいくつかの鉱石を取り出して何かを作り始めた。

 

「……ハジメ、それは何?」

 

「ん?ああ。片腕じゃあ色々不便だから義手を作ろうと思ってな」

 

「ほほう。義手、ですか?」

 

自分のいた世界の人間は物資も技術も人も時間もなく、なくても生きていけるよう努力している人間ばかりで、無機物で出来た腕、というものに非常に興味が湧いた。

 

「【注釈】当機の腕のようなもの。【嘲笑】馬鹿。鳥頭。【自賛】絶対当機の腕の方が優秀。」

 

「…………♡」

 

イミルエアスタの発言は実際納得出来てしまう部分があるため、余計に腹が立ったイヴリールはにっこりとした笑顔を貼り付けて殺気を撒き散らしながらヒュドラの部屋へクイッと親指を向けた。これの意味するところは、すなわち──────表に出ろ。ぶっ殺してやる。

イミルエアスタ内心、やっべぇ地雷踏んだ。と焦りを覚えた。

 

その後の怪獣大戦を見てハジメとユエはコイツらどうにかしないと自分達が出ていく前にこの世界滅ぶわ……。と遠い目をした。

 

イミルエアスタはハジメに謝罪しつつ、義手に組み込めるよう小型化した兵装をいくつか渡すことでイヴリールに許された。

 

◆◇◆

 

義手も作り終えて食料、服、その他必要な物を詰め、出発の準備を済ませた。

 

「さて、いよいよ地上だな……。」

 

「……ん!楽しみ。」

 

「早く、本物の『太陽』とやらを拝みたいですねえ♪」

 

「【同意】製造以来初めての『太陽』。記録領域にしっかり焼き付ける。」

 

そして四人揃って魔法陣へ乗り、景色が切り替わるとそこには──────また壁があった。

 

2名と1機は、ブチッという音を聞いた。

 

イヴリールの右手に光槍が生じる!

ハジメは急いでイヴリールを羽交い締めにした!

ユエはイヴリールの腰にしがみつき、イミルエアスタは『通行規制(アイン・ヴィーク)』を多数典開し、力を誘導することで光槍を取り上げ、『一方通行(ウイン・ヴィーク)』で空間を割り、喧嘩で攻撃に使用された空間転移を模倣した『偽典・天移(シュラポクリフェン)』で世界の隙間にとばした!

 

イミルエアスタが全力でイヴリールを拘束しつつ、ハジメとユエが説得を続けることで何とか事態は収拾がついた。

ハジメは先行きが不安になった。

気を取り直して指輪で隠し扉を開け、外に出る。

辺りは太陽の暖かな光で満たされ、幸先の良さを暗示しているかのようだった。

敵の攻撃によって目を潰される眩しさとは違い、優しさに溢れた柔らかな光の眩しさは誕生してからこの方、1度も太陽を見たことの無い大戦出身の2人に、生まれて初めての感動を与えた。

ひとしきり感動した四人は、次なる目的地へ向けて出発した。

 




マダ、ガンバル!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来予知兎に(ひる)む機械

タイトルの通り、ついにあの人が出ます!


腕が完成した後に製作した2輪バイク、シュタイフを走らせることしばし、イミルエアスタは数キロメートル先に2つの生体反応を観測した。

1つは大型の生物、もう1つは人間と同じほどの大きさの生物と判断した。恐らくは襲われているのだろう。

このまま移動を続ければほぼ一本道と言っても差し支えないこの谷の底であるライセン峡谷では鉢合わせるのは確実である。

面倒を避けるため、イミルエアスタは兵装を典開し、大型生物を瞬殺するのことで小さき生物の行先にはとてつもない化け物がいると理解させ、追い払おうとした。

 

「【典開(レーゼン)】『偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)』──────────再現率、3%。」

 

光の奔流が大型生物の生体反応を消失させた。

これを観測したイミルエアスタは連結(クラスタ)から外されたことで狭まっている状態の索敵範囲へと戻した。

面倒の種を撒きに来る生物は来ないだろうとたかをくくったからである。

このイミルエアスタの予測はこの後、盛大に外れたことを証明されることとなった。

 

◆◇◆

 

「すみませえええええん!助けてくださあああああああい!!」

 

イミルエアスタは驚愕した。

 

「私の家族を!助けてくださあああああああい!」

 

わざわざ離れるようにと可視の『 偽典・天撃』を撃ち込み、大型生物を消し飛ばしたのに。

 

「ふう〜。やっとつきました!あ、私、兎人族のシア・ハウリアと申しますです!そこの御一行様方、私の家族を助けていただけませんか!」

 

なぜこの獣人種(ケモノ)は攻撃が飛んできた方向に来るのか。

戸惑いに戸惑ったイミルエアスタは理解不能な恐怖の塊とも言える目の前の獣人種に自信の持っている兵装の中で最速にして不可視の兵装、『 偽典・森空囁(ラウヴァポクリフェン)』を典開した。

機凱種の持つ、未来予知にすら迫る演算能力を駆使して兎の獣人種に向かって兵装を起動する。

不可視の真空の刃はウサミミ獣人を両断するかと思われた。しかし─────

 

「─────ッ?!ヒィ!い、いきなり何するんですかぁ!!」

 

─────避けられた。まるで未来予知でもされたかのように。

イミルエアスタは本格的に恐怖を覚え、イヴリールの陰に隠れた。

今まで格下相手の行動予測を外したことがないため、初めて経験した「違和感」による戸惑いがさらに「恐怖」を呼んだのだ。

 

目に怯えを宿すイミルエアスタを見た兎は、大丈夫ですぅ!怖くないですぅ!と笑いかけるが、イミルエアスタ・アイには自分を嘲笑うかのような笑顔を向ける凶悪な獣人種にしか見えなかった。

さらに怯えた。

なぜかしらん?と首を傾げる兎獣人。

しかし、イミルエアスタは、張り付かれるのが鬱陶しいと感じたイヴリールに前へ蹴り出された。

除染液(ちのけ)が引き、顔面部の透明度がいくらか増したことで青ざめているようにも見えるイミルエアスタは顔を横に振りながら必死さを伺わせる表情で、すぐさますがりついた。

その目には自身が初めて浮かべるであろう涙があった。

イミルエアスタのコアを内蔵するイヴリールは、そこから伝わる感情を読み取ることが出来る。

しかし、その思考、なぜその感情に至ったかという経緯までは分からない。

しかし、恐怖の中に少なからず動揺があったために何となく察しがついた。

数刻前の異常行動(とつぜんのこうげき)を見てイヴリールは、この機凱種(スクラップ)ついに思考領域に限界が来たのか、ハジメに被害が及ぶ前に処分すべきか、と考えていた。

あれはバグではなく、こちらに来たケモノを追い払うためであったのであり、そうするためにわざわざ精霊を大きく消費する天撃を模した兵装を使ったにもかかわらず、こちらに寄ってきたケモノ(イレギュラー)に心底困惑しているのだろう。

そう100点満点の答えを導き出したイヴリール。

件のケモノに目を向けると、ハジメとユエに適当にあしらわれていた。

ついにはユエをペタンコと称し、風を操る魔法、『嵐帝』によって空高く打ち上げられた。

 

ハジメは兎獣人種ことシア・ハウリアを樹海の案内役として使うことを考えた。

ちなみに機凱種(イミルエアスタ)の探知能力をもってすれば方角はもちろん索敵、地形、さらにはその土地の植物や土、生物の性質すらも把握出来る。ただし現在、未知に怯えてポンコツと化しているが。

そして、イミルエアスタが一方的に頼りにしている相棒の天翼種(イヴリール)は、ハジメ語りによってもはや尊敬から敬愛へと至ったユエにペタ───ゲフンゲフン。体の一部分が慎ましいと発言したため、シアに威圧していた。

その様子を見て、ハジメさんの胃はキリキリした!

ユエさんの追撃!

 

「……ハジメ。大きいほうが、好き?」

 

「……ユエ。大事なのは大きさじゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ。」

 

「……………………ん。」

 

いつもより長い間をあけて何とか納得して返事をくれたユエに冷や汗を流しつつ、ハジメとユエが全く了承してくれないため、外堀から埋めようとでも考えたのか青いままのイミルエアスタに話し掛けた結果、銃口を突きつけられて青くなりながら手を上げるシアを見た。

結局、ハジメはシアを案内役として雇い、報酬としてハウリア一族を助けることにした。

 

「……はあ。まあ、いいから後ろに乗れよ」

 

「は、はいっ!」

 

イヴリールからの威圧感が増した!

ユエさんの威圧も加わった!

シアの胃もキリキリした!

自慢のうさ耳は(しお)れている!

 

「…………」

 

ハジメは背中に当たるイヴリールとはまた違った柔らかさの大きい2つの存在を意識して無視しつつ無言でシュタイフを発進させた。




お気に入り(ともだち)100人できるかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

兎に荒ぶる羽

私は……帰ってきたっ!!!!!!!!!!!!
お待たせして申し訳ないです!


「『未来視』?」

 

「はいです!」

 

シュタイフを走らせながらイミルエアスタが何に怯えているのかを探るべく、シアに能力についての質問をしたところ、未来を見ることが出来る固有スキルを持っていることが分かった。

 

「…………【不解】獣人種(ワービースト)がそんな能力を持つのは不可能。扱える精霊量は七位未満。【抗議】納得いかない。」

 

シュタイフと並んで飛ぶイヴリールの後ろに隠れて飛ぶイミルエアスタは、抗議の声をあげた。イヴリールは深い、深〜い溜息を吐いた。

こいつ、まだ思考回路が整理出来てないな……。と。

 

「ポンコツここに極まれりですね……。そろそろちゃんと頭を回して欲しいのですが?」

 

「【反論】当機はしっかり思考している。」

 

「ハジメ、このスクラップは記憶領域に異常が生じたようです。置いていきましょう!」

 

「置いてかれても空間転移()んで来るだろ」

 

ハジメさんはもう疲れ始めている!これからこの調子がずっと続いてしまったらどうしようかと遠い目をしていたハジメの耳にモンスターの鳴き声と悲鳴が聞こえた。

シアの急かす声に舌打ちを1つこぼして、シュタイフへの魔力供給量を跳ね上げた。それに応えるようにシュタイフは爆発的に加速した。

大きい岩をドリフトして迂回すると、兎人族をワイバーンが狙っている光景に出くわした。

シアの顔がサッと青くなった。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

ふむ、あのワイバーンはハイベリアと言うのか、と全部で6体いるそれらを見た。兎人族の上空を旋回しながら品定めをしているらしい。

ついにハイベリアのうちの一体が動いた。

大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族だったが、ワイバーンの持つモーニングスターのような尻尾に岩を砕かれ、這い出でることを余儀なくされた。

動けなくなった子どもとそれを庇う男も喰らおうとハイベリアがその顎門(あぎと)を開いた。

兎人族達がその2人が無残に食い散らかされる未来を想像した、その瞬間。

 

ドパンッ!!ドパンッ!!と2発の乾いた音が炸裂した。それに伴って放たれた2条の閃紅が走り、ハイベリアの眉間を撃ち抜いた。

呆然とする兎人族が次に感知したのは絶叫だった。つられて声の方を見ると、そこには血を噴き出してのたうち回るハイベリアがいた。その近くにはへたりこんだ兎人族の姿があった。

のたうち回るハイベリアは瞬く間に閃紅に蹂躙された。

 

「……ちっ」

 

ハジメはイライラしていた。それは2体目を一撃で仕留められなかった事もある。しかし何よりもイラつくのがその原因だった。喜び、ピョンピョンすることで体を預けられているハジメの頭に重量級の凶器(巨乳)がのっしのっしと衝撃を与え、照準がぶれた。

 

「─────♡」

 

イヴリールはイライラしていた。奈落の底で出会った魔物以下の生物しかいないこともある。しかしそれ以上にイラつかせたのはシアがハジメの邪魔をしたのがわかったからである。ついでに敬愛すべきユエ様に無いものを激しく主張させているととらえたためでもある。

 

ガシッ

 

「【質問】なぜ当機の脚部を掴む?」

 

イヴリールはイミルエアスタの質問には耳を貸さず、両足を掴み、振りかぶった。

 

ゴッシャアァッ

 

─────みんな〜ぁぶんっ!?

 

そしてそのままシアに向かってフルスイングした。ビターンという効果音がつきそうな格好で壁に叩きつけられた。

イヴリールはスッキリした!

 

「……死んでないよな?」

 

「……イヴリール?」

 

「ご安心を♪」

 

「すっげー信用出来ねえ」

 

残りの4体のハイベリアはイヴリールの一撃で蒸発した。




やっと・・・かけた・・・!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。