俺と白露型の日常 (夜仙)
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キャラクター辞典

いつかはやらなければと思って書きました。


・吉谷雷雨(本作品の主人公)

 

 年齢 十七歳

 

 誕生日 11月11日

 

 好きな物 コーラ、ピザ、ハンバーグ、お汁粉

 

 嫌いな物 パセリ、トルコアイス、オリーブオイル

 

 得意なこと 暗算、カードゲーム

 

 好きな事 一人チェス、友達と遊ぶこと、ゲーム、一人カードゲーム

 

 嫌いな事 勉強

 

 第一印象 全体的にクールさが感じられる。

 

 作者のキャラクター紹介

 色んな事情で白露型に家を占拠された惨めな男。←あとで作者殺すby雷雨

 

 

・白露型

 

・白露

 舌がグルメな明るい少女。行動力の速さは白露型一。雷雨とは友達のような関係に近い。

 

・時雨

 皆のお母さん。雷雨より運はいい。頭は白露型で一番。

 

・村雨

 セクシーお姉さんから乙女な少女になった娘。セクシーさでは一位。雷雨が気になる。

 

・夕立

 実力は白露型でナンバー1か2の力を持つ。近所の子供達と遊ぶのが日課。

 

・春雨

 キュートさは白露型一。まだサンタはいると信じて疑わない。

 

・五月雨

 逆ラッキーガール。そのうっかりさによって生み出されたラッキーは数知れない。

 

・海風

 皆のお母さん二号。バーゲンセールは見逃さない。

 

・山風

 引きこもりゲーマー。春雨の次に可愛い。

 

・江風

 戦闘力は白露型で夕立とトップを争える実力者。近くのゲーセンに割と出没する。

 

・涼風

 雷雨の友達にして唯一の常識人。コスプレイヤー。

 

・雪原 冬樹

 

 年齢 十七歳

 

 誕生日 1月2日

 

 好きな物 鍋、うどん、シチュー

 

 嫌いな物 いちじく

 

 得意なこと 運動系全般

 

 好きな事 ソシャゲ、運動系

 

 嫌いな事 勉強

 

 第一印象 普通にかっこいい人

 

 作者のキャラクター紹介

 

 雷雨の友達にして、親友。近頃は恋とガチャに悩まされている。←他にもあるよね!あと、恋なんて、恋なんて、し、してないからな!by雪原

 

・初霜

 雪原の家に居候している。近頃は恋のことでお悩み中。

 

 

{因島}

 

・柳原 龍輝

 

 年齢 十七歳

 

 誕生日 5月14日

 

 好きな物 ししゃも、団子

 

 嫌いな物 無し

 

 得意なこと 釣り

 

 好きな事 釣り、居候三人と遊ぶこと、近所の人達との雑談

 

 嫌いな事 特に無し

 

 第一印象 優しそうな人

 

 作者のキャラクター紹介

 

 因島に住む青年。近所の人達と今日ものんびり暮らしている。←by俺のだけ雑すぎなのでは?

 

 

・伊五十八(ゴーヤ)

 

 龍輝の家の居候。龍輝に対しては特別な感情を向けている。三人の中では……特にない。←いや、あるでちよ!byゴーヤ

 

・伊一九(イク)

 

 ゴーヤと同じく龍輝の家の居候。ゴーヤ達といつも遊んでいる。三人の中ではギャグポジション。

 

・伊一六八(イムヤ)

 二人と同じ居候。三人の中での普通ポジション。




まだ載っていないキャラクターは次のキャラクター辞典で出てきます。

日常回はまだ出来ていません。もう少し、お時間を。


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第一章 「ゲームは一日一時間」ここテストに出ますよ、奥さん
プロローグ


どうも、夜仙です。

今回はギャグ大幅カットのシリアス回です。


 俺は午後六時に起床の時間を迎えた。昨日の疲れが残っているのか、目蓋が重い。

 今日は土曜日。学校に行かなくていい日だ。

 俺の名前は吉谷雷雨。この名前は両親の結婚式の時の天気で付けたらしい。不吉にも程がある。

 まぁ、そんなのを気にしないぐらいウチの親は頭のネジが取れているのだ。

 

 俺の親は二人共軍人で、小さい時はよく兵士に必要な訓練をさせられていた。おそらく、俺を軍人にしたかったんだろう。しかし、それは親が仕事の都合で遠くへ行ってしまったことでなくなった。これは俺が中学生の頃だ。俺はこの時期に訓練をするのをやめた。普通なら、ここで俺は他の人達と同じ様な学生生活を送ることになるだろう。だが、俺はそうはならなかった。逆に、普通ではない学生生活を送っていた。

 

 それは親に隠れて、ギャンブルをしていたのだ。そしてやるのは決まって一つ、ポーカーだ。

 俺は元々カードゲームはかなり得意で、負けたことは一度もない。それはポーカーに生かされ、連戦連勝。もちろん、イカサマをされる時もある。だが、そういう時があっても、すぐにそれを見破り、対策をねって軽々と勝利してみせた。今ではギャンブルで勝った金で財布は潤っていた。

 

 それを元手にして今日も荒稼ぎしに行く。金を得るために。そして………

 

 

 俺の空虚な心を満たすために…………。

 

 

 俺はいつも通り変装して、外へ出る。幸い俺は身長が高いから、仮面で顔を隠せれば何とかなる。後は父のスーツを着て行けば完璧だ。

「よし行くか」

 そう言ってドアを開けた。

 腕時計で時間を見ると、針は午後七時を指している。この時期によく吹く冷たい冬の風が体ヘとめがけて吹いてくるので、すごく寒い。こんなことなら、上着を着て行くんだったと後悔するが、そんな暇はないなと思い、鍵を閉め、目的地へと歩を進める

 ウチの近くの電気屋のテレビからニュースが流れてくる。

 

『今日の午前八時、我が国の艦娘達が最後の深海棲艦の掃討作戦で……』

 

 やはり今日も俺と関係のないニュースがやっている。本当に退屈なことしかテレビはやらない。そう思って電気屋の前を通り過ぎる。

 

 ふと電気屋の横の路地から気配がする。はっと振り向くと、そこにいたのは……

 

「ひ、人……………………………?」

 

 そこにいたのは、少女だった。雨は降っていないのに、青いレインコートを上に着ていて、そこから僅かながら綺麗な黒髪が見え、そして、下にはスカートと思われるものを着ていた。

 何だあいつ、と思ったが、どうせ家出か何かでいるのだろうと思い、無視して通り過ぎることにした。

 

「無視は酷くないかい、君」

 

 そう言って俺の腕を引っ張る。それに対し、薄気味悪さを感じた俺はその手を振り払おうとする。が、少女の引っ張る力はとても強く、その力は男顔負けで、逆にどんどん路地へ引っ張られて行く。何この娘、何者なの⁉

 

「お願い、話だけでも聞いて!」

 嫌だ、絶対にこいつ金を脅して取る奴だ。逃げないと……そう思って逃げようとしたが、結局駄目だった。

 

 

 路地裏に無理矢理連れてかれたが、どうやら本当に金は盗るつもりはないらしい。さっきから、今日の夕飯を姉妹と食うのだが何がいいかとか、おすすめの本や映画はないかというもの。お金を盗られることはないだろうが、世間話をするだけにここまでするとは思えない。もしそうだとすれば、ただの変人だ。

「…で、本題に入るんだけど」

 やっとか、心の中でそう呟いた。

「何だ」

「君、こんな夜中にどこへ行くの?」

 その言葉を聞いた瞬間、心がぞっとした。こいつまさか気づいているのか?いや、そんな訳がない。だって……

「『俺はそんな素振りを見せていないから』とでも思っているのかい?」

 少女が俺の思っていた事を口にした。

 まずい。もしかしたら、俺は人生最大の危機に直面しているかもしれない。ここで選ぶ言葉を間違えると破滅するのは、目に見えている。考えろ俺、冷静になって考えるんだ……

「もしかして、そんなに返答が詰まる質問だった?」

 そう言って、くすっと笑う少女。これを普段だったら可愛いなと思うが、この状況だとぞっとするものでしか思えなくなった。

 少女はさらに言う。

 

「学生がこんな夜中に何しに行くのかなって、思って質問したんだけど」

 俺はその言葉を聞いて、いよいよこの少女が化け物のように思えてきた。反論をしようにも口がパクパクするだけで、言葉が出ない。心臓の鼓動は大きく、速くなっていた。

「お、俺は、その………………………」

 どうにかして、言葉を紡いでいく。その声は自分自身でも分かるぐらい弱々しかった。それを聞いて、少女は確信へと辿り着いたらしく「やっぱり、あの人の言う通りだ」と呟いた。

 

「ねぇ、君」

 

 そう言うと、少女はレインコートの頭のところをとった。癖っ毛の黒い髪と綺麗な肌、そしてサファイアのような色をした目が出てきた。彼女は、にっこり笑って、こう言った。

 

 

 

「僕とギャンブルをしよう」

 

 

「……はぁ⁉」

 思わず俺は声を荒げた。コイツ、いきなり何を言っているんだ。ギャンブルをしよう?どこをどう考えて、そういう結論に至ったか全く分からない。

「そんなに驚く?」

 驚くよ、普通。だって、そういう台詞を吐くのは漫画やアニメの主人公だけだからね。

 

「まさか、そういう反応をされるなんて」

 溜め息混じりに彼女は言う。

 しかし、今思い返すと何で彼女はああ言ったんだろう?

「…で、お前の目的は何だ?」

「君とギャンブルすること」

 何言ってんの、という言葉を押し込み、訊きたかったことを訊く

「百歩譲って、俺とお前がギャンブルをして、俺が勝ったらどうなる?」

「ん〜そうだね。あっ!」

 そう言って、レインコートの中から何かを探している。レインコートのしたに鞄があるのだろう。

 

「これをあげるよ」

 自信満々そうな笑顔を見せている少女。どんな物かは分からないが、彼女の笑顔を見る限り余程の物らしい。何だろう?

 

 …次の瞬間、俺は彼女の出した物に目を見張った。

 

 

 

 それは大量の札束だった。見た感じだと百万はあると思う。こんな大金を見たのは初めてだ。そのせいか心の中で興奮と大金を賭ける時に起こる勝負師としての喜びが出てきた。

 

「じゃあ、負けたら」

 やや興奮まじりで訊く。やはり百万の威力はすごい。

 

「私の願いを叶えてもらうよ」

 願い、か。なるほど確かにそれぐらいはやらないとな。でも百万とつり合う願いって一体何だろう。そう考えると、ハイリスクハイリターンだな。しかし、彼女の持っているあの札束が欲しい。だが………………

 

 

 頭の中で葛藤する。受けて万一負けた時の事を思うと、中々踏み込めない。だが、このまま何もせずに時が過ぎるのも駄目だ。何しろ、一生に一度あるかどうかのチャンスだ。

 そう迷っていると、俺の頭に一つの言葉が出てきた。

 

 

 ーーー時は得難くして失い易し、と。

 

「いいだろう、その勝負やるよ」

「やっとやる気になってくれたんだね!」

 そう言って少女は不敵な笑みを浮かべた。

「じゃあ、君がやるゲームを決めなよ」

 まるで俺がハンデをつけられているみたいで癪だが、チャンスだ。この機を逃すなと、何処からか声が聞こえてくる。

 

 俺は少女に向かい、にっと笑ってみせた。勝利を確信したからだ。

 

 

「じゃあ、ポーカーだ」

 

「準備ができたよ」

「よし分かった」

 今のところ、イカサマをしている様子はない。少女が手に持っているトランプは俺が自宅で戦略をたてるために使うものだ。事前にイカサマの準備はできない。よって、お前の勝率はかなりさがった、残念だったな――!!うわはははは!!

「よし、じゃあいくよ」

 少女は山札からカードを引き始める。その細くて、綺麗な手でどうやってあんな力を出したんだろうな、と秘かに思う。

 少女が引き終わったので、今度は俺が引く。正直、勝てる気しかしないので余裕な表情で、スイスイと引いていく。そして、引いた結果………

 

 

 

 勝利の女神は俺を選んだ。出たのは、ハートの10、J、Q、K、Aだった。このカード達を出せば一瞬でかたがつく。思わず勝利の笑みが出そうだ。

 

(悪いが、この勝負貰った!)

 

「じゃあ、いくよ。いっせーの~せ」

 その声が聞こえると、同時に出す。

 

 

「嘘だろ……………………………………………」

 

 開いた口が塞がらなかった。少女が出したのは、スペードの10、J、Q、K、Aだった。ポーカーは数字の大小と、もう一つ役の強さがある。役というのは、トランプのハートやスペードなどのことで、これらの強さによって勝負は決まる。今回俺の引いた役のハートは、二番目に強い役だ。普通なら、この勝負は俺の勝ちで終わる。だが、少女が引いたスペードは役の中で一番強い。すなわち……………………………俺の負けだ。

 

 

 信じられない、俺が負けるなんて。どうやって勝った?イカサマが出来ないのは最初のほうで、確認した。だったら、実力で勝ったというのか?

「あぁ、言っとくけど僕は実力で君を負かせたんじゃあないんだよ。君に勝てたのは運が良かったからだよ」

「運で?」

「うん。これでも雪風の次に運がいいからね」

 

 その雪風という娘の事は知らないが、運だけで勝ったのか…………。癪だが、認めるしかない。現に俺はこいつに負けたからな……

 

 

「じゃあ、負けた君には僕の願いを叶えてもらおうか」

 ……そうだった。俺は負けたから、こいつの言う事を聞かなければいけないのか。

「何だ、言ってみろ」

 もう、どうなったっていいや。いずれ、こうなる事は分かっていたし。 

 

「じゃあ、僕の願いを叶える権利を二つに増やして」

「えっ」

 何、その願い。反則じゃない。

 そんな思いを無視して、少女は二つ目の願いを言うために口を開いた。

 

「まず、君はこれ以後ギャンブル禁止!」

 ん?何で、そんな願いなの?……いや待てよ、もしかしたら、あえて最初は軽い願いを叶えさせて、後から無理難題な願いを叶えさせるんじゃないか?そうだ、きっと。

 

「次は……」

 ゴクリと唾を飲む。何が来ても動じないぞ。平常心、平常心。

 

「僕を含めた白露型を君の家に住まわして。以上」

「…はぁ?」

 思わず言葉が出てしまう。俺んちに住む?白露型?何か突然意味の分からない言葉が出てきて意味が分からない。

「言っとくけど、今更取り下げは無理だよ」

「いや、そうじゃなくて、その……話についていけないというか……」

「あぁ、そういう事ね。どこからだい?」

「ギャンブル禁止から全部」

「分かったよ」

「…まず、何で俺んちに住むの?家とかあるでしょ」

「あったけど、なくなっちゃった」

 どういう事?あったけどなくなったって。

「君、テレビ観てないの?」

「うん」

「そっか。じゃあ、艦娘って知ってる?」

「知ってるよ、それぐらい。それが何?」

 そう言うと、少女は笑顔を見せた。今までと違って、優しい笑みであった。

「白露型ニ番艦時雨。それが僕の名前さ」

 この時、俺はやっと時雨という少女の言っている事が分かった。彼女たち、艦娘が今日行なわれた深海棲艦の掃討作戦をやった事をニュースでやったことを思い出した。そして、おそらくそれが成功した。そうなると、彼女達は用済みになる。当然彼女達が住んでいた鎮守府はなくなる。そうなると、彼女達は住む場所をなくす。つまり……………。

 

「お前らは今ホームレスということか」

「言い方は酷いけどそういう事だね」

 なるほど、だから一緒に住むことを選んだのか。確かに、これは辛いわな。

「分かった、君とその姉妹たちが住む事ができるよう親に言っとくよ」

「うん、ありがとう」

まぁ、負けてしまったから結局やらないといけないだけだけどね。だから、お礼なんていいのに……

 

「そういえば、姉妹ってお前と合わせて何人なの?」

「十人だけど」

「多っ!!」

 

 

 

 

 

 

こうして、俺は彼女達、白露型と住むことになった。

 



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1    人の名前はちゃんと覚えよう

題名は話に関係しています。一応。


 雀がチュンチュンと鳴く声が聞こえる。時間は七時三十分。うん、今日は日曜日だし、まだ早い。寝よう。

 

 そう思って寝ようとすると、バンと思いっきりドアを開く者がいた。思わずそちらへ見ると、そこにいたのは時雨だった。

 

「雷雨、朝だよ。そろそろ起きなよ」

 

「んー。まだ七時三十分じゃないか。」

 そう言って布団をかぶろうとすると、それを時雨が没収する。

 

「まだって、七時三十分だよ!いつも何時に起きるの?」

 

「休日は十時まで眠る」

 

「十時って…はぁ、雷雨、君いつ眠るの…」

 

「ん、いつも三時まで」

 

「…不健康まっしぐらだね」

 

 

 

 顔を洗っていて、これが夢でないことを悟る。夢であってほしかった。 

 

 

 昨夜、俺は親父に電話した。もちろん、時雨とその姉妹についての事だ。ギャンブルのことは話していない。

 

 そしたら………

 

「おぉ、そうか良かったじゃないか雷雨。不倫し放題だな」

 

 って、言いやがった。やっぱり、こいつに相談したのが間違いだっ……いや、母さんに相談するのも駄目だ。あの人も中々のアホだ。結局駄目じゃねーか、ウチの両親!

 

「だったら、彼女にこう言え。『どうぞ、どうぞ住んでください、とパパが言ってまちた』と……」

 

 さーて、許可はもらったし、家へ招待するかー。

 

 

 ウチの家は一軒家の二階建て。そのため、一人で住むにはあまりにも広すぎてどうしても静かになってしまい、寂しさがどうしても出てしまう。

 

 しかし、今は何というか、うん……明るくなってます、はい。二階からはすごい声が響いているし、ドタドタという足音がする。おまけに、しまっていたおいたはずのこたつが出ており、そこでテレビを観ながらゲラゲラと笑う奴がいる。おっさんか、お前は。

 

「おぉ、やっと起きたんだ、お前」

 

「お前じゃない、雷雨だ」

 

 そう言って俺はダイニングの椅子に座る。一応言うが、リビングとダイニングはつながっている。

 

 ところで、こいつの名前は何だったけ。うーん………

 

「雷雨、ほらご飯だよ」

 

「あぁ、ありがとう時雨」

 

 そんな事を考えているうちに、時雨がご飯を持ってきてくれた。ホカホカご飯に湯気が出ている味噌汁と卵焼きがあった。すごく美味しそうだ。だが、出てきたのは俺のやつだけ。他の奴らのは、どうしたんだ?

 

「なぁ、他の奴らのは無いのか?あいつのとか」

 

 そう言って俺はこたつにいる奴に向け、指を指す。すると俺の行動に気づいたのか、こたつにいる奴はむっとして

 

「あいつじゃない、江風だ!ちゃんと覚えとけよ」

と言って、握手を求めてきた。請われるがままに握手すると、強く握りしめてきた。痛い、痛い!おい、時雨助けてくれ。

 

「皆はもう食べたから、安心していいよ」

 

 さいでっか。じゃねぇ!おい、助けてくれよ時雨!

 

「それより、早くご飯食べなよ。冷めちゃうよ」

 

 なんで、今ご飯の事言うの!?っていうか、何で昨日みたいに心が読めないの!?直接言わなきゃいけないの!?

 

 

 この後、時雨に向けて直接助けを求めたら、助けてくれた。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「どう?お口に合った?」

 

「あぁ、とても美味しかったよ。久しぶりに食ったな、あんな飯」

 

「そうかい、それは良かった。海風と早起きして作った甲斐があったよ」

 

 

 そう言って、時雨は笑顔になる。本当にこの娘のような、美人さんな艦娘は笑顔が可愛らしい。ただ、この笑顔はどちらかといえば、うら若き少女というより、お母さんの笑顔だ。うん、みんなの。

 

「どうしたの、そんなに僕を見つめて」

 

「いや、お前って将来良いお嫁さんになるなーと思って」

 

「…照れるな、そんな事を言われたら」

 

 えへへと、時雨は笑う。こういうところは子供っぽいなと思ってしまう。そういえば、こいつらって何歳なの?と思ったので聞くと、「さぁ、そんな事考えた事ないなー。なにせ深海凄艦との戦いに無我夢中の感じだったからね」と答えられた。そこは、はぐらかしたりしないんだな。

 

 

 二階にある自分の部屋に入る。相変わらず、女の子の声が家中に聞こえてくる。もちろん、昨日までは静かだった二階も今やカオスの状態である。足音は車の音よりも大きく、もはや騒音だ。

 

 

 そんなところに俺の部屋がある。昨日までは辺りには、ギャンブルの戦略本や捨てるのが、面倒くさくて捨てていない物であふれかえっていた。しかし、そんな部屋は昨日来たあいつ等によって、きれいさっぱりなくなった。僅か二時間で俺の部屋に潜んでいたゴキブリやダニなどの生命体も容赦なく駆除された。無慈悲だった。

 

 隣の部屋から、複数人の女子たちの声がする。もしかして、これは女子トークか⁉そう思い、聞き耳をたててみると、やはりそうだった。

 

 俺は幼い頃から、女子と接するのが苦手だった。というのも、世間一般で言う乙女心?とかいうものがどういう事かわからなかったからだ。小学校の頃に母が、恋愛漫画を読んでいたことがある。正直言ってあれを男子に理解させるのは、厳しいんじゃないかと思うが。

 

 まぁそんな俺だからこそ、この娘らのような可憐な女子達が何を喋るか気になるのだ。所謂好奇心だ。俺は壁に耳を当て、隣の部屋からの声を聞いてみることにしてみた。

 

「ここの家って、広いですよね」

 

「そうだね。多少散らかっていたりする部屋があったりするけど、お皿の数とか布団の数とか、ちょうどあるしね。ここの家って住みやすいよね」

 

「さすがは……」

 

 

 俺はそっと壁から耳を遠ざけ、ベッドへとダイブした。

 

 言い知れぬ、もやもや感だけが俺を支配していた。おかしいな、女子トークってこんな居候している所の評価をするものだっけな。俺が思っていたのは、こう、ロマンチックな感じとか、ショッピングとかの計画を立てたりするものだと思っていたのに。俺がおかしいのかな?

 

「ええい、よくわからん!寝よっ」

 

    

 

 その後、時雨に起こされるまでの三時間、夢の中で俺はお菓子の家を食べていた。魔女は出てきていない。

 時雨からは、「君はどれだけ眠ればいいの!?」と言われた。以後、時雨による早寝早起き計画が俺にだけ行われた。最初は抵抗したが、鬼をも恐れさせるオーラが時雨から出てき始めたので、大人しく早寝早起きをし始めた。

 

 




ギャグって、読むぶんにはいいですけど、作るのって苦労しますね。


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2  ゲームセンターのクレーンゲームってかなり難しいよね

新キャラが登場します。
あと、今回は白露型は出ません。
ご了承ください。


 学校が終わり、帰ろうとすると、友達の雪原に止められた。なんでも買い出しに行くから、ついてきてほしいということだ。昔の俺ならそういう暇がない(ギャンブルで)から断るところだが、今は逆にする事が無くて暇なため、雪原の誘いにのることにした。

 

 

 俺ら二人はここ横浜で一番の大きさを誇るデパートへと行った。雪原の買い物に付き合った後、ゲームセンターに行くためだ。

 

 

 ここはエコンホール。横浜で一番大きいデパートだ。雑貨、日用品、ゲームなど、ありとあらゆる物がここに売っていて、平日でも祝日でも人は満員である。

 

 そこに俺らは着いた。

 

「と〜ちゃ〜く」

 

「ヒュ〜〜」

 

 こんな事をアホみたいに言っているが、一応言っとこう。学校からここまでそんなにかからない。むしろ、家の方が遠い。しかも、俺らは自転車通学だから。十分ぐらいでここに着く。え、だったら、さっきの言葉いらなくね?と思うそこの君!ずばり、こういうのは気分だ!メモをしておけ。

 

「で、何買うんだお前」

 

「あぁ、これなんだけど」

 

 そう言って、雪原は俺にメモ用紙を見せた。そこには、布団一式と鍋四人分の具材が書かれている。だが、その文字は雪原の字にしては丸みをおびすぎていて、まるで、女の子の文字だった。

 

「なぁ、これってさ誰が書いたんだ?」

 

 それを聞いた雪原の顔に動揺の色が見えた。怪しい。一方の雪原はあたふたしている。分かりやすいな、おい。お前、絶対何かあったろ。

 

「何にもないよ、別に」

 

「本当か〜?」

 

「本当だって!」

 

 こいつ、いじくると面白い反応するから、ついやっちゃうんだな。にしても、ここまで本人がないと言ったらないか。しかし、こいつの反応は面白いな。よし、数日間はこれでからかってやろう。

 

 

「ねぇ、これとこれどっちが良いと思う?」

 

「ん、こっちじゃね。シンプルな色したやつよりも水玉のほうが良いだろ。…それにほら、この布団とか割と寝心地良さそうだし」

 

 

「鍋って何入れたらいいかな」

 

「ん〜。ちくわとかウインナーとかマグロとかだろ」

 

「…なぁ、最後だけ絶対おかしいよな」

 

「ん、どこが」

 

「自覚無し!?」

 

 

「これで買い物は終わりだね。寄りたい所どこ「ゲームセンター」…てすよねー」

 

 

 という事で俺らは今行きつけのゲームセンターにいる。ここはすごい種類が豊富で、その多さは横浜のどこを探しても見つからないレベルで、一部では聖地とまで呼ばれているらしい。その種類の多さのせいか、ここから発せられる音はこのエコンホールの三階にまで届いているという。恐ろしい。

 

「おっ、あれいいじゃん。あれ取ろうぜ」

 

 そう言って、雪原が指さしたのはお菓子の詰め入りがあるクレーンゲームだった。中にはポテトチップスやチョコレートなどがたくさん入っており、お菓子十年分となっていてもおかしくない量だった。そのせいもあってか、ゲーム機の大きさも通常のやつより大きい。

 

「おいおい、やめとけよ。こんなの取れるわけないだろ」

 

「いや、俺様を誰だと思っている?クレーンゲームマスター、雪原敏文だぞ!」

 

「えっ、なんて言った?」

 

「聞けよ!!」

 

 もちろん雪原の話は聞いていたが、視線がドラムの達人に行ってしまって、聞こえなくなっただけだ。決して聞いていないことはない。

 

「まぁいい。さぁ〜て、あれを取ってやるぜ〜!」

 

 雪原がゲーム機に百円玉を入れる音がする。あぁ、やるんだな〜。どうせ、撃沈するに決まって…

 

「ヤァフフフ〜!取れたぜ〜!」

 

 …へ?今なんて?取った。いやいや、空耳だ。あいつが宣言通りに取るなんて、そんなハイレベルなことある訳……

 

 そう思い、振り向くとあいつの手にあのお菓子の詰め合わせがあった。嘘だろ。

 

「ふっふ〜ん。どうよマスターの実力は」

 

「信じられない。あの駄目駄目雪原が取るなんて」

 

「…えっ、俺のことどう思っていたの?」

 

「フラグばかり建てる、駄目駄目雪原」

 

「ヒドイ!」

 

 この後、俺もあのクレーンゲームに挑んだが、取れなかった。雪原はそれをニヤニヤして見て、やがて、見てろと言わんばかりに別のゲームをやっていたが、結果は惨敗。その時は思いっきりゲラゲラと笑ってやった。ざまあみろ。

 

 

「ふぃー。疲れた」

 

「ほんと、久々に雷雨と遊んで楽しかったよ」

 

 俺ら二人は一時間ぐらいあそこで遊んでいた。馬鹿みたいに大笑いしたりして、まるで小学生のような無邪気で楽しんでいた。そのせいか、すごい疲れているのだ。

 

「じゃあ、俺こっちだから」

 

「おう、じゃあな雪原!」

 

 俺はあいつに別れを告げ、帰路に着こうとして、立ち止まった。

 

「…あのメモ誰が書いたんだ?」

 

 思わず口から出てしまった。それだけじゃない。あいつが買っていた布団一式は誰の物だ?あいつの家は両親が若くして亡くなって、住んでいるのはあいつのおじいちゃん、おばあちゃんしかいない。なのに何であいつは布団なんて買ったんだ?しかも、あれは女の子が好きそうなやつだ。さらに言うと、あいつが買っていった鍋にするための具とかも一人分多い。……どういうことだ。これは? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 ふぅー。なんとかして、やり過ごした。あいつ意外と勘が良いからな。少し、ヒヤヒヤしたよ。まぁバレなかったかったうえ、あいつと久々に遊べたから、今日はいい日だ。

 

「おかえりなさい」

 

 そんなことを考えると、リビングの方から声が聞こえてきた。あのこの声だ。そう思った俺、雪原は荷物をかかえ、あのこのいる所へ向かう。あのこのための物を持って…

 

 




もちろん、雷雨は鍋にマグロを入れません。
あと、ちょっと今探偵小説にはまってて、その影響が出て、ちょっとシリアスが混じっていたような気がします……はい。


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3 テレビで見る大体の料理は美味しそうに見える

どうでもいい事だと、思うと思いますが、聞いてください。
何故か、分かりませんが、無性にメロンが食べたくなりました。


「雷雨、ここに行きたいんだけど!」

 

 白露型の一番艦、白露がいきなりそう言って、俺の部屋へ押しかけてきた。やめて、やめて、布団を取らないで。

 

「ちょ、やめて!俺、まだ眠っていたいんだから」

 

「眠っているなんて、そんなことで時間を使うなら、美味しいもの食べて良い時間を過ごしましょうよ」

 

 駄々をこねる白露。あぁ、今全国のお父さん、お母さんの気持ちが分かった気がする。こんな風に子供は駄々をこねるのか。

 

「連れってって〜!!」

 

 あぁ、うるさい。お兄さんはまだお眠の時間なの!

 

 結局、抵抗虚しく連れて行かれることになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜♪」

 

 ご機嫌な白露。そりゃあそうだ。なんたって、今からこいつの行きたいところへ行くのだから。

 あの後、白露に見せられたチラシの場所をスマホで検索したら、普通にでてきた。

 

 そこは、レストランにしてはちょっと小さい店だが、料理は普通のところより安いうえ、味はすごい美味しいところらしい。ここから歩いて、二十分とちょっと近い(ついでにここは歩いて、十分のところだ)。…そういえば、この店今日テレビでやってたな。ふーん、そういう事。つまり、こいつはテレビで出された料理を食べに行くんだな。

 

 確かに美味しそうに見えるよね。うん、気持ちは分かるよ。気持ちはね。けどさ…………

 

「何で、こんな時間帯に行くんだよ!!」

 

「え、これぐらいの時間帯じゃないと一番に食べれないからじゃない」

 

 こいつ、頭イカれていやがる。今、午前三時だぞ!こんな時間帯に行ったって、店は開いてないし、この店は七時に開店するから、四時間以上待つことになるぞ!

 

「いやいや、帰ろうよ!なんで真夜中で店が開くのを待つのさ」

 

「そうしたほうが、やっとだっていう達成感湧かない?」

 

 湧いてたまるか、そんな達成感。こちとら、どっかのおバカさんのせいでねみーんだぞ。

 

「今、私に対して悪く思ってなかった?」

 

「ん?あぁ、お前の事をおバカさんって思ってた」

 

「ひどい!私はおバカさんじゃないもん!」

 

…いや、こんな夜中に店に行くという発想を持っている奴のことをバカと呼ばずして、何と呼ぶ。 

 

「それに、なんで俺となんだ。時雨とかと一緒に行けばいいじゃないか」

 

「だって、時雨たちだと場所を知らないと思ったから」

 

 あぁ、なるほど。確かにそれもそうだな。こいつ、こういうところでは頭使うんだな。その頭をなんで、ここでは使わなかったんだ。

 

「あっ、あそこだよ!雷雨」

 

 白露の指が指す所にあのレストランがあった。きれいな白色の壁が僅かながらにほんのりと色がぼやけて見える。そして、もちろんのことレストランは開いていない。

 

 よし、帰ろう!

 

 

  

 結局、駄目でした……はい。

 

 帰ろうとしたら、白露におもいっきし手を握られたからだ。ほんの数秒だけ、俺はこいつにドキッとしたが、その後に白露が何処からか持って来たか分からない手錠で、俺の右手とこいつの左手を繋ぎ合わせやがった。畜生!

 

「これで雷雨は逃げられないっと」

 

「ちょっと、白露さん。」

 

「何?」

 

「この手錠は何ですか?」

 

「雷雨を逃さないためのです」

 

 さいでっか…じゃない!

 

「どうして、こんな物持っているんだ。普通、これって警察官が持っているものだよね!?」

 

「え、そうなの?」

 

「そうだよ!こんな物、どこから用意したの!?」

 

「それは提督がくれ……あっ」

 

 マジかよ…提督があげたのかよ。何教えてんだ、こんなかわいい子達に。と言うか、提督って案外変人なのか?

 

「…そういうの人まえでやるなよ。絶対にろくでもない事が起きるから」

 

「分かってるって〜」

 

 その返事、絶対分かってねーな。

 

「まぁ、俺がいるなら……いや、全然良くねぇわ」

 

 うん、俺が居たってどうにか成るものじゃない。こいつの意識を変えさせないと。帰ったら、手錠を没収しよう。

 

「うーん、喋ることないし、暇だな〜。雷雨なんか話題出してよ」

 

 その暇をつくったのは誰のせいかな。それにいきなり、そんな話題がないから作ってっていう投げやりをされてもなー。……あっ!一つあったわ!

 

「そう言えば、俺と時雨が賭けをした時の金ってどうやって持って来たんだ?前から気になっていたんだけど」

 

 そう。時雨が持っていた多額の金が何処から出てきたのか俺は知らないのだ。あれだけの金は普通に働いて稼いだり、俺みたいにギャンブルをしていても、容易に稼げない。まぁ、だから時雨の誘いにのって負けたのだが。

 とにかく、あれだけの金が何処から手に入れたのか、聞こうと思っても何か恐い方法で手に入れたりしたんじゃないかとか思ったりして、ちょっと怖くて聞けなかった。それを今、ふと思い出したのだ。

 

「あぁ、あれはね。私達の退職金だよ」

 

 ふぁ!?マジっすか!?あれだけの金を艦娘していたら貰えるのか。すげーな。

 

「…もしかして艦娘をやって、私達みたいに金を手に入れよう、とか思っていない?」

 

「なんで分かった!?」

 

「顔に出てたよ」

  

「そんな分かりやすいか俺?」 

 

「うん、割と」

 

 まじかー。俺ってそんな分かりやすいのか。俺てっきり、ポーカーをかなりやっていたから、かなり表情とか分かりにくいのかと思ってた。

 

「それで、話を戻すよ。艦娘って、そもそも鎮守府とかみたいな建造ができるところで艤装とかと一緒に出てくるから、一般人はなれないんだよ。それに……」

 

「常に死と私達は向き合っていたからね」

 

 そうか。そりゃあそうだよな。こいつ等は建造とかいうやつで召喚されてから、ずっと深海凄艦と命をかけて戦かってきたんだ。あんな額を退職金でもらって納得だ。…あれ?ってことは…

 

「もしかして、お前ら戦争が終わるまでずっと鎮守府にいたのか?」

 

「うん、そうだけど」

 

 おぃぃぃぃぃ!提督、どっか出かけさせてやれよ。なるほど、今までのこと全部納得だよ。だから、こいつはこんなに世間知らずなのか。って事は、時雨達も……

 

「あぁ、時雨とか涼風は大丈夫だよ。あの二人は私達の中では積極的に提督と外でお出かけしたりしたから」

 

 まぁ、時雨はなんか納得する。涼風はやや納得する。あの二人はあの中だと常識人だからな。

 

「ねぇ、他にお姉さんに聞きたいことある?」

 

「お姉さんって……いってお前、俺より年下だろ」

 

「いや、この見た目と建造してからの年だと……」

 

 そう言おうとした白露の顔が途端に青ざめて俺の後ろをただ見つめている。何かあったのかと思って振り向くと、そこにいたのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷雨、白露姉さん。こんな夜中で何をしているの?」

 

 

 

 

 鬼をも恐れさせるオーラをまとって、静かに笑っている時雨がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺と白露は一斉に走って逃げようとしたが、あっさり捕まり、こってりと、ぐつぐつと怒られ、ダシを出し切られ、その日の俺とあいつはフラフラになった。

 

 

 ただ白露の願いは聞き届けられ、例のレストランには行けた。とても美味しかった。ただ、同時に血の涙を俺は流すことになった。何故なら、お会計は全部俺持ちだからだ。財布の中身がそこそこ減った。 

 

 




いつか食いたい。(メロンを)


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4 デパートを親と一緒に行くと、大抵は親が何か買ってくれる

子供あるあるですよね


「雷雨君、私とお出かけしましょうよ!」

 

 そう言って部屋のドアをバンと開ける音がする。はっきり言って、うるさい。君達には眠っている人に対する配慮はないのか。

 よし、寝ているふりをしよう。

 

「ねぇ、起きてってば!」

 

 うるさいうるさい!良い子はまだ寝る時間なの!さっき、ちらっと時計見たら朝の六時だったけど。あと誰だか分からないけど揺すりすぎ。頭がおかしくなる。

 

「…起きないようね。こうなったら」

 

 お、何だ。諦めるのか?

 

「時雨姉さ『あぁ、いい朝だ!』」

 

 ほんといい朝だ!(適当)

 

 

「で何?」

 

 朝食後に今日俺を起こした村雨に訳を訊く。

 

「そうね…あ!お洋服買いに行きましょう」

 

「いや、時雨達と行けよ」

 

「姉妹同士でも行っていいんだけど、男性の意見を聞かないと……ほら、モテないし」

 

 それ君が言う?きれいな髪をして、顔も良く、胸も大きい、そんな恵まれている君が言う?

 

「と、とにかく行きましょう!ほら、こういうのって男性がエスコートするものよ♪」

 

「そんなの聞いたことねぇよ」

 

 っていうか、お前の言っているエスコートってかなりいい風に言っているけど、要は道案内じゃねぇか。

 

「さ、行きましょ雷雨君!」

 

 そう言って、村雨は無理矢理俺の手を握って引っ張って行った。君達って、たまに強引なところがあるよね。

 

 

 

 行き先は雪原と前一緒に来たエコンホールだった。休日もあってかやはり人が多い。

 

「はぁ…」

 

「どうしたの?ため息ついて」

 

「いや、最近こういう明るい施設ばっか行っているせいか、暗い建物に行きたくてな」

 

「暗い建物って例えば?」

 

「そうだな。カジノと「駄目です」…はい」

 

 やっぱ駄目か。

 

「そもそも、ずっと気になってたんだけど、何で雷雨君はあんな危ない場所に行っていたの?」

 

「危ない場所って……何でそういう表現を使うんだ。」

 

「いいから答えて」

 

 村雨はそう言って、俺の顔を見てきた。彼女の顔は今日の朝のような冗談が通じるような明るい顔ではなく、寧ろ真剣さをかなり帯びていて、前に見た時雨のあのオーラとは違う、別の何かだった事は分かる。

 

 ただ一つ、俺に言えることがあるとするなら、ここで正直に俺が何故あんなギャンブラーになったかを話さなくてはならない、ということだ。

 

「…毎日がつまらなかったからだよ」

 

「つまらない?」

 

「そうだ。毎日毎日同じ日々の繰り返し、まるでループしているみたいにな。それに俺は飽き飽きしていたんだ。まぁ、俺にとっては毎日はつまらないクソゲーみたいな感じだった」

 

「だから、やったと」

 

「あぁ、ところでなんで急にそんな事を訊くんだ?」

 

 俺が村雨の方を振り向くと、彼女はメモ帳に何かを書いていた。だが、それを俺が見ていると気づいた村雨は慌てて、メモ帳を隠す。

 

「何を書いていたんだ。村雨くん?」

 

「いや〜、別に何も〜」

 

 とあからさまな怪しい言い訳をする。

 

「あっ、そうだ。私トイレに「待てや、ゴラ」はい」

 

 さっきとは形勢逆転して、今度は俺があいつに尋問をする番になった。取り敢えず立ったまんまは嫌なので、近くにあったベンチに村雨と一緒に座る。

 

「で、何か俺に隠してる?」

 

「いや〜、特には」

 

「じゃあ、何で俺の方を見ないのかな〜君は」

 

「それはですね。その」

 

 早く答えてくれ、村雨。お前は気づいていないだろうが、周りの視線がさっきからこっちに向けられて痛いんだよ!もう何か殺気立っている人もいるよ!俺だってさ、こんなことしたくないよ。だけど、お前のせいで問い詰めなきゃいけなくなったんだ!そういう事だから、さっさと言ってくれーー!!

 

「えーと、あのその」

 

 もう早く…ん、あれって……

 

「え、雷雨君!?」

 

「あとで聞くから、ちょっと待ってくれ」

 

 俺は群衆に紛れて通り過ぎようとしているあいつを見つけ、肩を掴む。

 

「よっ!雪原!」

 

 さ〜て、どんな表情かな?

 

 

 

 実はあの時、あいつが俺をチラッと見て、そそくさと逃げようとしていたのを目撃したのだ。何故かは分からないが、そうやって逃げるのは嫌いな奴だけにしろよ。友達である俺が悲しくなるじゃないか。

 

「な、何、雷雨?」

 

 雪原はすごく驚いた顔をしながら言った。ただすごく驚いた顔じゃない。雪原が見せた顔はまさに驚天動地のような事が起きた時に人がする表情だった。うんうん、その表情が見たかったよ、お兄さんは。やりがいがあったぜ。

 

「どうして、ここに……ってあぁ、そういう事ね」

 

 村雨と俺を見て、ニヤニヤする雪原。なんかムカつくな。

 

「なんだよ」

 

「べっつに〜」

 

「あの、私と雷雨君はそういう仲ではないんですけど」

 

 そうだ、もっと言ってやれ。あいつに現実をたたきつけてやれ。

 

 そう思っていると、雪原は何かに気づいたのかそわそわし始めた。

 

「どうした、トイレに行きたいのか?」

 

「違うよ。俺は今友達と待ち合わせをしてんだよ」

 

 ふ〜ん、友達ね〜。そうか。

 

「そりゃあ、悪かった。じゃあな」

 

「あぁ、じゃあな」

 

 そう言って、急いで行った。ほんの一瞬だけだが、あいつは嬉しそうな顔をしていたのが見えた。なんか俺と一緒にしている時の笑みとは間違っていた。誰と会っていたんだろうか?

 

 おおっと、村雨のあの件についての追求があった。

 

「さて、村「私達も行きましょ!」えっ?」

 

 何言ってんの?あの件が…

 

「その件は後にしましょう!ね」

 

「あっ…あぁ」

 

「それじゃあ出発進行!私のいいところ見せるんだから♪」

 

 こうして村雨の勢いに流されるまま俺は村雨と一緒に買い物をするのだった。

 

 

 

[帰宅路]

 

 

 

「は〜、疲れた〜。休憩しようよ!」

 

「ふふっ、体力がないんじゃありませんか雷雨君?」

 

 いや、デパートの中の服屋とかに全部行ったんだよ。荷物も服が中に沢山あって重いし。俺じゃなくても誰だってヘトヘトになるわ。

 

「白露姉さんや時雨姉さんはあともう一周するのだけどね」

 

 アホじゃない?いや、艦娘って体力が普通の人よりかはあるのだから、当然とも言えるのか。なんだかこれだと俺のひ弱さがますます明るみになってしまって情けなくなってしまうな。そして彼女もできず…ぐっ、頭痛が……。

 

「どうしたの、頭を抱えて?」

 

「なんでもない」

 

 まぁ、この悲しい案件は今は忘れよう。悔やんでもモテるわけじゃないから。

 

 

 

 

 頭を上げた俺は村雨のいるところにちょうど夕日がさしているのが見えた。オレンジ色をしている斜光がきれいにあたりを照らしている。

 

「きれいだな」

 

「なにが?」

 

「夕日が」

 

 村雨はそれを聞き、後ろを向いて夕日を見ると「そうね」とちょっと嬉しそうに言った。だがその後、少し浮かない顔をして夕日を見ていた。

 

「どうした?」

 

「ちょっと鎮守府にいるときのことを思い出していたのよ」

 

 ふーん。…そういえば俺はこいつらの鎮守府についての思い出話を一回も聞いた事がなかったな。

 

「なぁ、村雨」

 

「何?」

 

「お前たちがいた鎮守府ってどんな所だったんだ?」

 

「そうね、明るくて賑やかな所だったわ。とても戦争をしているとは思えないぐらいに」

 

 どこか遠くを見ながら話す村雨だったが、懐かしそうに語るところから見て、相当良いところだったらしい。

 

「良いところだったんだな」

 

「えぇ」

 

「だが、なんで今その事を思い出したんだ?もしかして、近くに同じ艦娘が居たのか?」

 

 それを聞くと、クスッと笑って「違うわ」と否定した。

 

「司令官がね、夕日を見ると、よく言っていたのよ。『暁の水平線に俺らの名前を刻むんだ。そして、人間と艦娘で、この平和な日々を、毎日を守るんだ』ってね」

 

「ずいぶんと綺麗事をいう奴が提督だったんだな」

 

「ふふっ、そうね」

 

 でも、そんな綺麗事をこいつらの提督は成し遂げたすごい奴だ。一回会ってみたいな。

 

「その提督は俺と違ってモテたんだろうなぁ」

 

「まぁ、そうね」

 

 いいなぁ、俺もその人みたいにモテたい。

 

「ところで雷雨君って初恋ってした事があるの?」

 

 この村雨の余計な一言が俺の心に直撃し、心の中で血を吐いた。それ、聞いちゃう!?

 

「私はないんですよね、だから、どんな感じか分からなのよね」

 

「お、俺もしたことは……ない」

 

「そう……ってなんで、今度は胸を抑えてるの?」

 

「……気にしないでくれ」

 

 はぁはぁ、ダメージが。相当な傷が。この話題は変えよう。俺が死ぬから。しかし話題がない。傷がどんどん開いてくる。これはまずい、と思ったその時だった。村雨から見て左側の角にある角から、猛スピードでこっちに来る車が見えた。運転手は何をしているのか速度も落とさず、こっちへぐんぐんと来る。さらに運が悪い事に村雨本人は俺に何かを話しかけていて気づいていない。まずい、このままだと村雨が死んでしまう。そして、車があとちょっとのところで村雨の所に来る。…村雨、ちょっと痛いかもしれないから許してくれよ!

 

「村雨、危ない!」

 

「へ?」

 

 次の瞬間、俺は村雨の手を思いっきし握って引っ張った、それと同時に車が村雨のいた所を通り過ぎる。間一髪のところだった。

 

 しかしあまりにも引っ張りすぎたのうえ、荷物が重すぎたせいで勢いのあまり、俺は右横にあった電柱に頭を思いっきし打った。どうやらやり過ぎてしまったようだ。俺はあまりの衝撃に気を失った。

 

 

 

「ん…ここは」

 

 目を開けると、俺はベッドで寝かされていた。窓から入ってくる風が心地良い。そう思っていると、ドアが開く音がした。中に入ってきたのは皆のオカンこと、時雨だった。時雨は俺が起きている事が分かると、心配そうな顔をしていた。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「それは良かったよ」

 

 そう言って、勉強机の椅子に座った。身長が足りないのか足は宙に浮いている。

 

「ほんと無茶をするね、君は」

 

「ごめん」

 

「いや、いいよ謝らなくて」

「まぁ、おかげさまで夕飯作るのが遅くなったけど」ボソッ

 

 時雨、聞こえてるぞ、お前の本音が。

 

「わざとにきまってるじゃないか。何を言ってるの?」

 

 怖いよ、怖いよ時雨さん。

 

「まぁ、冗談だけどね」

 

 それ本当にジョークですか?

 

「うん、アメリカンジョークのつもりだったんだけど…もしかして怖かった?」

 

 今のをアメリカンジョークと、とてもじゃないけど思えません。あと、怖かったです。

 

「そんな感じじゃ女子からモテないよ」

 

「ぐっ、心に刺さる」

 

「まぁカッコいい武勇伝を作ったからね。ちょっとはモテるんじゃない?ちょっとは」

 

「うぅ〜、そのちょっとはいらない」

 

「まぁ、いいや。それじゃあ」

 

 そう言って出口へと向かう時雨だったが、突然ピタリと止まった。そして俺の方を振り向いた。その顔は目覚めた時とは違って、少し嬉しそうだった。

 

「そうだ。下に雷雨の知っている人が居るから会ってみなよ。じゃあ」

 

 そう言って、今度こそ出て行った。誰だろうか、俺の知人というのは?雪原だろうか?

 

 取り敢えず俺は階段を降りていく。そこからは懐かしい声が……ん?この声って……

 

「まさか!」

 

 俺は急いで階段を降りると、声のする方へと行った。

 

 そして、声のするダイニングへと行くと、やはり居た。

 

「おう、雷雨!起きたか!」

 

 俺をここに置き去りにした張本人であるがあいつが鍋をムシャムシャと美味しそうに食いながら言う。

 

「起きたか、じゃねぇよクソ親父!!」

 

 家に近所迷惑になるぐらいに大声で俺はそう言った。

 

 

 




すごく長くなってしまいました。あと次回は他の所の話を書くので、これの続きではないことを知っといてください。


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5 嫌いな奴も良い奴も出会いは大概突然

宣言した通り別のところです。


 ここは因島の田舎の方にある村。この村は人口は最盛期の四分の一で、高齢化が進んでいるのどかな村だ。俺こと、柳原龍輝は村の中でも少ない若者の一人だ。

 

 そんな俺は今村の近くにあるに灯籠池に来ている。近くと言っても、村から二十分歩く距離のため近いかどうかは分からないが。俺はそんな所に来て、何をするかというと、ここで釣りをしに来たのだ。

 

 

 この池は昔はただの平地だったのだが、深海凄艦がこの島を砲撃した時にたまたま、この池の所に当たって、穴ができ、そしてたまたま水源の近くだったので、それが溢れ出て、池になったという所だ。そんな池は中国地方に横長にのびている瀬戸内海に繋がっているため、池には魚がそこそこいる。と言っても、大概はブラックバスや鯉とかの魚だが。しかし釣れるは釣れるので、暇ができてはここに来て竿を手に、のんびり魚がかかるのを待っているのだ。 

 

 

 

 開始から三十分。中々釣れない。釣れないだけじゃない。あたりもこないし、ウキも何も反応していない。おかしいな、と流石に思ってしまう。いつもなら、せめて悪くてもウキが沈んだりはするのに、今日はそれが一切ない。これじゃあ、川のせせらぎを聞きに来ただけになる。それだけは避けたい。

 

 

 俺は普段はあまり釣り場として、あまり選ばない浜辺へ行くことにした。

 

 

 

 

 潮の香がする瀬戸内海。俺はそこでか細い釣り糸を海へと落とす。近くには誰も居ないため、静かだ。空はこの上ないぐらいの晴天。おかげで直射日光がを受けるため暑い。灯籠池だと木陰があったのにここにはない、理不尽。

 

「ん?あれは…」

 

 海の方を見ると、子鹿が海に溺れている。この近辺には鹿がいるのだが、たまに子鹿が水浴びに来て、それで溺れるのだ。

 

「しょうがない、助けるか」

 

 溺れそうになる子鹿を助けるのは、俺のこの自然に対する役割だ。その義務を果たさなければ、この自然、いや地球で生きていけないのだ。それが俺のルールだ。

 

 

 

 

「よ〜し、よ〜しほら行っておいで」

 

 海を泳いで、何とか子鹿を陸へと帰すことができた。子鹿はブルブルと身震いしてから、小走りで去っていった。

 

 これで役目は終わった、そう思い、海の方を見る。しかし、振り向いた俺が見たものは衝撃的だった。

 

 

 

 

 人の尻がぷかぷかと浮いているのだ。

 

 俺はそれを幻覚だと思い、目を凝らしたり、こすったりしたが何も変わらなかった。

 

「うん、これはあれだよ。うん、あれ。新種の桃だよ、きっと。多分どっかの拍子で流れてきたんだろ。うん」

 

 とりあえず、そうだ。きっとそうに違いない。だって、こんな深海凄艦との戦いが終わったとはいえ安全面ではまだ大丈夫とは言えない状況だ。それに水着ぽい物を着ているからと言って泳ぎに来たとは限らない。だって、こんなすぐに海水浴とか行く人は居ないし、何よりそいつはかなりのアホだ。いや、むしろアホを超えるとんでもない奴かもしれない。その顔を見てみたいな。いや、待て待て。まだ人とは決まっていない。もしかしたら、御伽話に出てくる桃かもしれないしな。

 

 チラッとそれを見る。桃っぽい物は川の流れに逆らうことなく、トンブラコドンブラコ流れていく。それを目で追う俺。やっぱりあれが何なのか気になるのだ。しかし、そんな俺の気持ちをくみ取らず、流れていく桃っぽい物。うん、でもな、ああいうのはお爺さんとかお婆さんとかが拾うべきじゃ、うーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから悩みに悩んで、結局桃っぽい物を陸へとあげた。大変だった。

 

 流れてきたのは少女だった。

 

 ピンク色の髪をした綺麗なこだが、何故か服装が水着だ。

 

「はぁ、どうしよう」

 

 少女の顔をちらと見て、俺はため息をついた。

 

 

 

 

 目が覚めたら、私は見知らぬ家の天井を最初に見る事になった。

 

「何処だろう、ここは?」

 

 そう呟くとともに、どうしてそうなったかの経緯を思い出そうとした。

 

 

 

 

 

〜十時間前〜

 

 私は仲間と共に海で遊んでいた。戦争が終わって、する事がなくなったからでち。私、ゴーヤは仲の良かったイクとイムヤと共に海に潜っていた。しかし、する事がなくて、ゴーヤ達は暇になったでち。

 

 そんな時、イクが…

 

「だったら、この中でどれぐらいラッコ状態で海に浮かべられるか勝負するのね」

 

 と言った。これにゴーヤとイムヤはのって、勝負することになったでち。

 

「いち早く浮くのをやめたら、その人はチキンなのね。では、いくのね」

 

「「「いっせーのーせ」」」

 

 ドボンとゴーヤ達は海にダイビングしたでち。

 

 

「ちょっと、もう限界!」

 

 イムヤのギブアップとも言える声が耳に聞こえてきた。

 

「ふふん、イムヤが一番チキンなのね。さぁ、ゴーヤも諦めるといいのね!」

 

「ふん、そっちこそ諦めてギブアップするでち!」

 

 イクの降伏勧告を突っぱね、逆にイクに降伏勧告を突きつけたゴーヤ。でも、本心で言うと、今すぐギブアップしたかったでち。だって、もう何だかんだて夜になっていて薄暗いうえ、また周りがどうなっているか分からないので怖さは倍増。イクに対し、虚勢を張るのに限界がくるのも時間の問題だったでち。でも、何でかは分からないけど、イクを負かせたい思いもあって、両者せめぎ合っている。

 

 そんなゴーヤがイクに勝てるかもしれない秘策をこの時、思いついたでち。

 

 それは、このまま浮いたままで寝ることでち。そうしたら不安な心を落ち着かせる事ができるし、イクの降伏勧告も聞こえない。

 

(よし、これなら!)

 

 ゴーヤは決心して、目をつむった。最初は怖かったけど次第に慣れてきて、ついに意識を失えたのが幸いだったでち。

 

 

 そこからは夢の世界でお菓子の家を潜水艦の皆と美味しく食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それで気づいたら見知らぬ天井をゴーヤは見ていた。頭があまり働いていない。一体、ここは何処だろうか?もし、恐い人だったら、そのときは…。自然とゴーヤの手に拳ができているのに自分でも気づいたでち。

 

 ガラガラ。

 

 ここの家の玄関と思われる扉が開いた。ドンドンドンと足音がこっちへ近づいて行く。その度ごとにゴーヤの手はぎゅっとなっていく。ついに足音がこの部屋の襖の前に来た。

 

 そしてスーっと襖が開き、足音の主が表れたでち。

 

 綺麗な女の人のような髪をしていて、少し日に焼けているとはいえ色白で整った顔に、細過ぎもせず太過ぎもしないちょうど良い体型をしている男の人がいた。男の人はゴーヤに気づくと少しホッとしたような顔を浮かべて、

 

「大丈夫?」

 

 と、ゴーヤに言ったでち。その優しそうな、ひまわりのように太陽の光を反射しているその白い肌がくっきりと見えた。

 

「だ、大丈夫…です」

 

「そう、良かった」

 

 彼の顔にニッコリと純粋無垢な笑顔が浮かび上がった。その優しそうな顔にゴーヤは思わずうっとりと眺めたくなったでち。しかし、男の人は何かに気づいたのか明るく、透き通った声で、

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。俺は柳原龍輝。君は?」

 

「わ、私は…」

 

 少し、ゴーヤは吃りつつも、ゴーヤは彼に名前を伝える。

 

「私は潜水艦伊五十八!ゴーヤって呼んでね!」  

 




このお話は龍輝と伊五十八とかがのほほんとするお話。あと、ラッコ泳ぎはトラウマがあって、作者はできません。


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6 親は昔の事をよく言うけど、子供は大抵それを嫌う

また長くなってしまいました


「いきなりなんだ、そんな大声出して。今お前のせいでこの部屋でワイワイガヤガヤやっていたのが台無しじゃないか。え?」

 

「何が『え?』だ!クソ親父!!何しに来たんだよ!」

 

 ホントに何しに来たんだクソ親父!連絡も寄越さないで!

 

「って言うか、今まで何処をほっつき歩いていたんだよ!連絡も寄越さずに!」

 

「お、何?心配してくれたの?パパ嬉しいよ〜」

 

「誰が心配するもんか!!」

 

「落ち着いてください雷雨君。これには深い理由があるんですよ」

 

 村雨、庇うんじゃあねぇ!そいつは俺からしてみれば長い間連絡一つも寄越さず何処で何してたか分からない奴だぞ!

 

「雷雨、落ち着きなさい。これには訳があるの」

 

「だか、ら…って母さん!?」

 

 声のした方向を見ると、母さんがいた。長い髪をきちんと留めていて、幼い頃から変わらない凛々しさがある顔には父よりも軍人らしい顔つきをしていて、軍人としてこの上ない適任な人だ。そう思うと、何でこんなヘラヘラしている父と結婚したのか気になるところだ。

 

「あ、加賀さん。久しぶり」

 

 白露が笑顔で母さんに手を振っている。それを見た母さんもまた少し微笑んで、

 

「あら、白露じゃない。久しぶりね」

 

「ん?母さん白露と知り合い?」

 

 その言葉を俺が発すると、親父と母さんはキョトンとした顔をした。そして、時雨たちの方を見ると急にゴニョゴニョと小さい声で喋りはじめた。当の時雨たちもまた、ゴニョゴニョ声で喋っている。どうやら見た感じ、討論をしているようだ。俺は討論の内容を聞こうとするが、親父の「え!」とか「マジで!?」の言葉を聞くことになるという無駄な結果しかなかった。親父、マジで黙ってろ。

 

 やがて討論は終わったのかこっちに振り向く。

 

「あのな、息子よ。よく聞いてほしい」

 

「え、何だよ。急に」

 

「実はな、お前にずっと隠していたことがある」

 

「え、本当に何?まさか親父浮気して、母さんと離婚したのか!?」

 

「お前……俺を何だと思っているんだ?」

 

「連絡一つも寄越さず、何年間もずっと金しか送ってこず、いっつもムカつくような言葉しかかけてこないクソ親父」

 

「ぐっ……いくらなんでも酷すぎじゃない。その評価」

 

 いや、これでも大分妥協してるよ俺は。あ、母さんがすごいオーラ纏ってる。

 

「浮気…してたんですか?」

 

「してないしてない!無実だ、俺は!」

 

「まぁ、でもちょっと話し合い…しましょうか」

 

「え、ちょっと待って。本当に無実なんだって!雷雨、助けてくれーー!!」

 

 親父がどんどん引きずられていく。まぁ、可愛そうとは思っても親父を助ける気にはなれない。ガンバ。

 

「ウッソでしょーーー!?い〜やーー!!」

 

 やがて、親父の声が完全になくなった。恐らく、あの後はずっと説教だな〜。 

 

 

 って言うか何でお前ら笑顔なの?いや家族である俺が笑顔ならまだしも、何で初めて会った人の不幸を笑顔で見られるのかなぁ?

 

「お前ら何で笑顔なの?」

 

「いや提督が加賀さんと漫談しているのを久々に見られてね」

 

 そうかそうか…ん?待てよ。さっき提督って…それに何故そこに母さんの名前が…

 

「気のせいか?今さっき提督なんてワードが出てきたのは」

 

「「「「あ」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!?親父があ、あの提督だと!?それに母さんは『加賀』っていう空母の艦娘だって!?」

「うん…そうだね」

 

 おい、何でそんなに引いているんだ。うん、言いたい事は分かるよ。「驚き過ぎだよ」だろ。でもしょうが無いじゃん。だって、あの夏休みになると、いっつもカブトムシを捕まえて、母さんに叱られているクソ親父があの深海棲艦から世界を守った提督だぞ。驚くに決まってんだろうが。

 

「親父ちゃんとやってたのか?お仕事とか」

 

「加賀さんに怒られてやったりするけど、ちゃんとやれてるよ」

 

 時雨がそう言うと、隣にいる白髪の娘がクスッと笑った。

 

「おいそこの白髪、何笑ってんだ」

 

「白髪じゃなくて海風です」

 

 一方の海風は俺の言葉を聞いて頭にデコピンをしてきた。かなり痛めの。

 

「痛い!何すんだ!」

 

「私の名前をちゃんと呼ばなかった事に対する罰です」

 

 しょうがないじゃん。だって自己紹介したのは、最初に君達が家に乗り込んできた時の一回だけだから覚えてる訳ないじゃん。

 

「って言うか、何でお前は笑っていたんだ?」

 

「いや、提督って息子さんにかなり失望されてると思ったら笑えてしまって」

 

「あぁそう」

 

 だったら安心しろ。こういう光景だったら毎日見られるから。もれなく朝昼晩の三食と共にな。

 

 そんな事を思っていると、すっと部屋に親父と母さんが入ってきた。親父はさっきの威勢はどこへやら、もはやしおしおとなっている。それを母さんはじっと見ている。

 

 だが、母さんはその視線を急に俺の方へ向けた。ギロっと一瞬見られた感じがして思わずビクっとなってしまった。

 

「雷雨。ちょっと来なさい。あなたも」

 

 そう言って俺を呼び出し、親父も一緒に連れて行かされていた。親父は相変わらずしおしおとなって、引っ張られていった。

 

 

 

 連れて行かれたのはお父さんとお母さんの部屋であった場所だった部屋だ。今は白露と夕立の部屋になっている。え、なんでそうなったかって?部屋が足りなかったんだよ。

 

「雷雨、あなたは人の許可を得ないで…」

 

「ごめんなさい」

 

「いいのよ。どうせ足りなくなるのは目に見えてたしね」

 

 はぁ、とため息をつく母さん。その音に起こされたのか親父が起きた。

 

「ん、ここは何処だ?こんな部屋家にあったか?」

 

「ここは私達の家部屋だった場所よ」

 

「え、マジで?」

 

「マジよ」

 

 これには親父のほうがショックが大きかったらしく、絶叫した。ちょっとやり過ぎたか?

 

「うわ〜ん!せっかく加賀に内緒でエロ本とかエロ画像とか貯めてた部屋が〜!!」

 

 前言撤回。あ、母さんが鬼の目つきになってる。

 

「そんな事してたんですか、あなたという人は」

 

「ヒッ!」

 

「…まぁ良いわ。これが終わった後にまた話しましょう」

 

「…はい」

 

 親父、お前が勝手に掘った墓穴だ。自分で落とし前をつけろ。

 

「雷雨あなたにも説教をしなければいけません」

 

「え、説教?」

 

 急に説教するって言われたって…俺何かしたか?

 

「あなた、夜中から朝方までずっとギャンブルしてたでしょ?」

 

「!!!!」

 

 …え?何で母さんがそれを…

 

「図星ね。何で分かったか教えましょうか?」

 

 そう言って母さんは放心状態の親父の意識を腹パンで戻させた。

 

「ん?これ何のムード?」

 

 親父、あんたこの緊迫した状況でよくそんな素っ頓狂なこと言えたな。すごいよ。

 

「雷雨の件です」

 

「あぁ、あの件か」

 

 親父は微笑すると、こっちを細目で見てきた。

 

 その時、俺は一瞬だけゾクッとなった。親父の目が何時にも増して真剣さを帯び、なおかつその目には何もかもを見透かすような冷淡な目をしている。はっきり言って、怖い。こんな親父見た事が無い。これが戦争を終わらせた内の提督達の一人か…

 

「実はね、雷雨。お前がギャンブルしにカジノへ入っていくのを偶々休暇をもらっていた雪風が見たと言ってね。少し心配だったから妖精さんを使って、お前の動向を探ってみたんだ。そしたらお前がギャンブルをしているのを、さらに俺と加賀がいつ帰って来てもいいように偽装工作をしていたのも全部把握できたよ」

 

 気づかなかった。まさかここまでバレていたなんて。

 

「…ごめんなさい」

 

「謝ってすむ問題じゃない。幸い依存症や犯罪を犯したりしなかったから良かったが、そうなってたら間違いなく勘当だな」

 

 ブルブルと震える手…勘当。その言葉だけが俺の心の中に静かに響いていた。

 

「まぁだが罰は与える。そうでないとお前の為になんないからな」

 

 そう言って、ちらりと母さんを見る。母さんはひたすら終始無言で何も言わない。それで何を受け取ったかは分からないが、親父はふぅと息を吐くと、静かに言葉を紡ぐ。

 

「罰はな」

 

 ゴクリとつばを飲む。何を言われるのだろうか。だが一つ分かる事はとても罰は重い事だけだ。

 

 

 

 

 

「白露型の皆をここにずっと住ませる事だ!!」

 

「え?」

 

 思わず親父の顔を見る。そこには俺の知っている何時もの馬鹿な親父の姿があった。

 

「幸い、お前の変装が功を奏してお前とは分かっていない。そこでお前の変装した姿の奴は俺が軍が捕まえたと言っておいたから、仮に誰かが通報しても大丈夫だ」

 

「ありがとうございます」

 

「いや〜。あの娘達に教えといて、良かったよ〜。あの娘達もお前との生活は気に入っているみたいだし。な?」

 

「そうね。かなりイキイキしているみたいだから、余計そう思ってしまうわ」

 

「え?それってどういう…」

 

 どういう事だ?だって、時雨達がいたのは偶然なんじゃ…

 

「あぁ、実はな。俺らの家を白露型に紹介したのは俺らだからな」

 

「え!?」

 

 何そんな話聞いてない。

 

「その調子だと本当に何も聞いていないみたいね。だったら説明するわ。あの娘達は実は色々あって戦争後での引き取り先がなかったの。というのは彼女達が『姉妹全員じゃなきゃイヤだ!』って言っていたからなんだけど。そこで私と提督とで『私達の家に住まわせよう』ってなったのだけど、あなたがギャンブルに傾倒しているっていうから少しそれで困ったの。もしかしたら、あの娘達を放置してギャンブルをし続けるんじゃないかって。そこで一計を案じたの。雷雨、あなたが『ギャンブルをするのを辞めさせたらいいわ』とあの娘達に言ったわ。そうしたら、それ通りにやってくれたから結果的には良かったわ」

 

 そうか。通りであんな場所にいられたのか。っていうかそう考えると時雨は俺を待ち伏せていたって事じゃん。

 

「まぁ取り敢えずあいつ等を頼むな。あっ、俺と加賀は新たに建てた別邸に住むからそこんところよろしく!」

 

「おい、ちょっと待て。その話初耳だぞ!?」

 

「そりゃあ俺らが知らせなかったからな」

 

「ドヤ顔で言う台詞じゃねぇよ!そこは!」

 

「まぁまぁ、そういきり立つな。ほれ」

 

 そう言って、親父は入り口の方を指さす。そこには…

 

「イッチバ〜ン!」「雷雨、鍋が冷めちゃうよ!早く来なよ」「あの、雷雨君早く行きましょう?」「早く来るっぽい!」

 

 白露型オールスターズがいた。と言うか、何でひょっこり顔しか見せねぇんだよ。

 

「行ってきなさい雷雨」

 

「さぁさぁ主役は遅れて登場ってもんだ!さぁさぁ行った行った!」

 

「ちょっ、押すなってクソ親父!」

 

「クソ親父じゃない!」

 

 そう言って親父は入り口を閉ざした。

 

 

 

 

 

 ワイワイガヤガヤ。

 

「下の階は賑やかだな」

 

「そうね」

 

「それにしても久しぶりに見たなぁ。雷雨のあの笑顔」

 

「えぇ、あの子ドアが閉まる前にほんの少しだけ笑顔だった気がします」

 

「フッ、あいつをあの娘達と一緒にさせて正解だったな」

 

 よっこらせ、と言って親父こと、吉谷駿河は立った。

 

「よぉ〜し、俺もあいつらと一緒にどんちゃん騒ぎするぞ〜!!」

 

 そう言って、駿河が行こうとするところを加賀が止める。

 

「何を言ってるの?あなたはこれからオハナシがあるのよ。だから残りなさい」

 

 その般若のような顔に思わず駿河は絶叫した。

 

 後日、駿河は別邸でスルメイカと同じところでパンツ一丁で干されていたという。

 

 




加賀さんのキャラは多分崩壊してます。多分。


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7 世界で一番最強なのは案外心がピュアな奴かもしれない

お気に入り五十人突破しました!ありがとうございます!これも読者の皆様のおかげです!…え?もうとっくに突破してるって?…とりあえず本編スタートしま〜す!!

 今回は前の話と比べるとかなり短いです。


 ピピッ

 

 うるさい目覚ましの音がする。もう起きろ、という事だろう。だが、断る!

 

 昨日は金曜日の学校でお疲れなんだ。そっとしておいてくれ。

 

 しかし、そんな願いも虚しくドアをノックする音が聞こえてくる。多分あいつ等だろう。しかし、なんであいつ等は俺にいちいち構ってくるのだろうか。正直寝させてほしい。

 

 だが、そんな想いもあいつ等にとってはささいな事。容赦なくノックしてくる。だが俺は負けない。負けてたまるもんか!

 

 そう思い、断固たる意思を固めた俺は寝ようと努力する。が、どんどんノックする音が激しくなっていく。

 

 バンバンバンバン

 

 だぁぁぁ、ウルセェーー!!

 

 

「やっと起きたね。雷雨」

 

「…時雨、お前が黒幕だろ」

 

「何の事やら」

 

「おい、とぼけんじゃねーぞ」

 

 もう俺には分かってんだぞ。春雨に今日家から一番近い映画館で全国の少女が絶対見ると言われるキューティーガールの映画をやるから、もし俺を起こしてきたら連れっていってもらいなよ、ってお前が言っているって報告してくれたからな。

 

「まぁ、いいや。それより朝ご飯出来たから、食べてね」

 

 おい、それよりって何だ、それよりって。俺にとっては大事な睡眠がなくなったんだぞ。

 

「あぁ、忙しい、忙しい」

 

 クソ、おとぼけですか、この野郎。後で覚えとけよ…あ、朝ご飯お汁粉だ。俺これ大好き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キューティーガール、キューティーガール♪」

 

 春雨がいつにも増してウキウキしている。そんなに好きなのか?だって、春雨ってその見た目だと大体中学生ぐらいじゃないか。それが小学校低学年がギリのキューティガールを見に映画館に行くなんて考えられないけどな。

 

「そんなに好きなのか?キューティーガール」

 

「えぇ大好きです!」

 

 うわ〜、眩しい笑顔。こんな顔を見たら、子供の純粋さがいかに凄いかがよく分かる。

 

「春雨は昔っからキューティガールが好きなんですよ」

 

 ふーん、そうか。

 

「ところでさ」

 

「はい」

 

「何で村雨も一緒に来てんの?」

 

「えぇ〜そうなります!?」

 

「うん。だってなんかさり気に付いて来ているから、今まで放置してたけどさ」

 

「放置されてたんですか私!?」

 

 うん。というか声には出さないけど、君かなりキャラ変わってない?前そんな感じじゃなかったよね。

 

「まぁ、あれだ。お前帰っていいよ」

 

「ひどい!私は帰りませんからね!」

 

「あ、もうすぐ映画館ですよ!」

 

「そうか。もうすぐか」

 

「ガン無視してませーん!?」

 

 

 

 

 

〜映画館内〜

 

 久々に近くの映画館に行ったが、やはりあまり帰っていない。入り口に売ってある百二十円の塩味のポップコーンを頬張る。ふと辺りを食いながら見渡す。辺りは真っ暗になっていて隣に座っている筈の村雨と春雨が見れない。まるで黒いカーテンに覆われているみたいだ。

 

「もうすぐですよ!」

 

 うん。分かったから。君がこの映画がどれだけ好きかと言うのは十分分かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜映画館外〜

 

「面白かったです!!」

 

「そうね。まさかああいう展開になるなんて」

 

 今、元艦娘で女子中学生と見られてもおかしくない二人が俺を挟んでキューティーガールの映画の感想を言い合ってます。

 

 まぁでも二人が言っている通り確かに映画は面白かった。…ちょっと誤解を招くかもしれないがしょうがない。だって、初っ端からキューティガールが変身するのに必要なルビーベルトが近所のパン屋さんに奪われ、そこからの敵登場でボコボコにされ、入院生活を送って、そこから這い上がってボクシング選手への道を歩んでいくという全国の親御さんにとって「これ見せて大丈夫?」という内容だった。もちろん最後はキューティーガールに変身でき、ラスボスの首筋に手刀で倒して終わった。そん時の俺は思わず「手刀って…」と思ってしまったな。だって普通そこはビームとかで決めるところじゃない?

 

「面白かったですよね雷雨君?」

 

「あぁ面白かったよ」

 

「ですよね!!」

 

 多分春雨は俺の感じている面白さじゃないところに面白さを感じたんだろうな。

 

「…」

 

…ん?どうした村雨?何かずっと会話に入っていないけど。

 

「どうした?まさか財布でもなくしたのか?」

 

「違います」

 

「じゃあなんだ。トイレか?」

 

「…雷雨君それあまり言わない方がいいですよ」

 

 なんだよ。そんな急に睨んで…。

 

「でなんだ?」

 

「いえ、あそこに知り合いが居たので」

 

 そうか、それは偶然だなー。

 

「だったら行ってきなよ。待ってるから」

 

「はい。わかりました。それじゃあ」

 

 そう言って、村雨は足早に知り合いがいるというベンチに行った。

 

 ふと春雨の方を見ると、村雨の行ったところを見ている。

 

 その視線の先を見ると、村雨とその知り合いの女の子の所を見ていた。もしかして行きたいのか?

 

「春雨、行きたいならお前も行っていいんだぞ?」

 

「いえいえ私はいいです」

 

「いや別に遠慮しなくていいぞ」

 

 そう言うと俺の耳に春雨は顔を近づけ、ゴニョゴニョ声で

 

「姉さんは気付いていないんですが、彼氏と一緒なので行きにくいといいますか」

 

 ほぉ彼氏か…確かに近寄り難いな。

 

「ところでその知り合いと彼氏は何処なんだ?」

 

「あそこです」

 

 春雨はある男女に指を指す。その指先が案内した先には村雨のいう知り合いの女の子らしき人がいて、その右隣に村雨がいる。一方の男性は…

 

「あれ?あいつって…まさか!」  

 

「ちょっ!?雷雨君!?」

 

 

 俺は春雨の言葉を無視し、その彼氏ぽいやつのところへダッシュで向かった。

   

   




評価、感想をお待ちしています。


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8 相手の事について異常に敏感な人ほど自分のことについては鈍感

こういう人ほど自分のクラス内での立ち位置や好かれている女子がいる事とかには気づかないと勝手に思ってしまいます。知らないって怖い。

今回、雪原が言っていた女の子の正体が分かります。さて誰なんでしょうかね〜。ヒントとしてはその人と雪原の名前に注目してください。ある一つの季節に辿り着くと思います。では、本編をお読みください。 


 今日、俺は映画館に来ている。もちろん映画館に来ていると言う事はやることは映画を見る一択だ。

 

 何を見に来たかというと、今話題の『ドローン君、上から見るか北を向くか』という映画だ。感想はと言えば普通に面白かった。だが、映画館の中にいた他の人達は俺の感想よりはもっと映画に対する評価が良かったようだ。中には声を出して泣いている人もいた。たが何故かそのシーンは主人公がアリを潰して泣いているところだった。というかアリを潰して泣くシーンで泣くって…どんな心境だったんだよ。まぁ、とにかくあのこが面白いって言ってくれたから来て良かった。

 

「面白かったですね映画!」

 

 映画館の近くにあるクレープ屋からクレープを二つ買って、あのこがいるベンチに行くと彼女は嬉しそうにそう言った。

 

「そうか、それは良かった」

 

「はい!まさかあの人気映画のチケットをこのあいだの福引きに行って当てられてよかったです!」

 

 そう…俺とあのこはこのあいだデパートに行って、チラシにあった福引き券を使って、福引きをしに行ったのだ。だが、途中で俺がトイレから帰っていく途中にあいつと会った。しかも美人さん連れで来ていた。…あの野郎、非リア充の仲間だと思ったのに裏切りやがって!!

 

「どうしたんですか!?急に炎が出ていますよ!大丈夫ですか?」

 

 あぁ君のその顔で俺の怒りの炎は消化されたよ〜。

 

「あ、消えた。良かったです」

 

 そうあのこは言った。本当に可愛らしい、俺はいつも彼女を見ると、可愛くて可愛くてしょうがなくなる。長いツヤツヤな黒髪にキュッと巻いている頭のバンダナ、見た目としては中学生のような見た目だが、彼女には思わずいつもドキッとしてしまう。この心は恐らく母性愛というやつだろう、多分。そしてドキッとした時はいつも彼女の頭を撫でてしまう。『体が勝手に〜』と言うやつだ。

 

「それにしても、沢山人がいますね」

 

「そうだな。それがどうしたんだ?」

 

「あ、いえ久し振りにこういう感じを味わえたなと思いまして」

 

 そうか。彼女は今までずっと深海棲艦との戦いで同じ艦娘同士で過ごしていて、自然と賑やかになっていたのか。まぁ家は爺ちゃんと婆ちゃんしかいないから、あんまり賑やかにならないからな。

 

「偶に鎮守府にいた皆に会いたくなるんですよ。今どうしているのかなぁ…」

 

 彼女はクレープを食べながら、少し顔をうつむかせた。おそらく昔の事を思い出しているんだろう。暫くの間このままにさせておこう。そうしたほうがいい。

 

 俺は真正面を見て、クレープを食べようとした時だった。

 

「お~い!」

 

 俺が向いた真正面から見覚えのある女の子がこっちに来た。長いオレンジ色の髪をポニーテールで結び、胸が大きい、まさに男が最終的に求めるもの全てを兼ね備えている娘だった。

 

 これには流石に学校で見覚えが無いから、このこの知り合いだろう。彼女の方を見ると、まだ女の子に気づいていない様子だった。

 

「おい、なんかお前の友達か何かが呼んでるぞ」

 

「友達?」 

 

 俺は彼女に女の子のいる方向を見させた。すると彼女の表情は一転、嬉しそうな顔をしている。そして女の子の方へと行き大声で、

 

「村雨さん!」

 

 と女の子の名前を言った。

 

 すると、女の子も嬉しそうに彼女を見つめて、

 

「初霜ちゃん!」

 

 そう言った。 

 

 

 

「村雨さんもここにいたんですね」

 

「えぇ、初霜ちゃんだって映画を見に来ていたなんてね」

 

 あれが女子トークか…長年に渡って無縁だった身からすると新鮮だな〜。うんうん……ん?そう言えばこの娘どっかで見た事があるような……あっ!

 

「もしかして君ってこのあいだ雷雨と一緒にデパートに行ってた娘か!」

 

「えっ、あっ、はいそうですけど」

 

 やっぱりそうか〜。いや、それにしてもな〜。雷雨とこの娘はどういう関係なんだろう……

 

「ところで村雨ちゃんと雷雨はどんな関係なの?恋人?それとも……」

 

 恋人、と俺が言うと村雨ちゃんの顔が赤くなって、手をぶんぶん振って、

 

「ち、ち、違います!!雷雨君と私はそ、そういう関係ではな、なくて」

 

 あぁ、この娘分かりやすいわ〜。多分村雨ちゃん雷雨の事好きなんだな〜。へぇー、雷雨もやるようになったじゃん。明日からこのネタでからかおーっと♪一方話に加わっていない初霜も村雨ちゃんの事を感じ取ったのか「頑張ってください」と言っていた。 

 

「そういえば村雨さんは今日は一人で来たんですか?」

 

「いいえ、雷雨君と春雨と来たの」

 

 え?あいつも来たの?こうしてはいられない!あいつが俺と初霜と一緒にいるところを見たらからかうこと間違いなしだ!逃げないと!

 

 そう思い、正面を向いた時だった。

 

 

「お~い!ゆ〜き〜は〜ら〜♪」

 

 悪魔が笑顔で走ってきた。

 

 

「ギャアーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆こんにちは。俺、雷雨。

 

 友達を見つけて走って行ったら、絶叫されました。

 

「酷くないか?いくらなんでも」

 

「お前が悪い」

 

 なんだよ……そんなにふてくしなくてもいいだろ?だって別段悪いところなんかないじゃんか。映画見に来たんだろ?彼女と二人で……な♪

 

「いや〜雪原君。彼女が出来たなんて喜ばしいですな〜。え?」

 

 そう俺が茶化すと、雪原はそっぽを向いた。気のせいか顔がちょっと赤くなっている。

 

「……別にそんなんじゃ……ねぇよ」

 

 雪原、小声で言っているから何言っているか分からないよ。というか、初霜ちゃん。何でこっちを向いて顔赤くなってんの?村雨と春雨が困っているよ。

 

「初霜ちゃん?」

 

「どうしました?」

 

 二人が心配して訊いているが、初霜ちゃんは明後日の方を見て魂が何処か行っている。しかも顔はアヘ顔になっているし、「えへへ」と言っている。何君たち?まさか、本当にそういう感じなの?

 

「おい雪原」

 

「何?」

 

「お前ら付き合ってんの?」

 

「……付き合ってねぇよ」

 

 あっ……これは本当だ。雪原が能面みたいな顔をするときはマジな時だ。しかも、泣きそうだ。

 

「おい、泣くなよ。なっ?」

 

「すまない……」

 

「からかわないから。応援するからな、お前のことは」

 

「頼んだぞ」

 

 こうして、俺は友達の初恋を応援する事になった。あいつには言わないが、初霜ちゃんは告れば一発オーケーだぞ。

 

 後日、あいつはいつから自分が初霜に恋をしていたかを訊いたら、俺の「彼女」という言葉で色々と妄想して、あの短時間で頭の中で紆余曲折した末にこの気持ちが恋心と分かったらしい。

 

 あいつ色々と鈍すぎだろ。

 

   




初霜ちゃんでしたね。 


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9 都会だと天の川どころか琴も鷲も見えない

大急ぎで作ったお話です。


〜因島〜

 

「龍輝ー!!」

 

 大声で家の中に入っていく声がする。おそらく、ゴーヤだろう。彼女はここに来てから事ある事に叫んで帰ってくる。まぁ、大概はどうでもいい事にだけど。この間なんてカカシの一つだけで、散々騒いで、

 

「不審者がいるー!!」

 

 と言っていた。

 

 だから彼女が騒ぐことなんて日常茶飯事に起きるから慣れた。

 

 ドタドタと走り、バンと襖を開く。

 

 チラッとゴーヤの顔を見ると、何処か嬉しそうな顔をしている。

 

「ねぇ、私聞いたよ!今日って七夕なんでしょう?」

 

 あぁ、そういえばそうだったなー。田舎だと夏の盆踊りとかお花見ぐらいしかイベントがないから、ついつい忘れちゃうんだよな。

 

「そういえばそうだったな。ところで、それ誰から聞いたんだ?」

 

「靖子婆さんからでち」

 

 久我さんから聞いたのか。あの人達は季節のイベントとかを重視しているからな。去年のバレンタインデーだって村人全員に手作りチョコ作って渡していたし。

 

「とにかく私達もやろうよ!七夕!」

 

「やるって何をさ」

 

「えぇと……ほら短冊書いたりしてさ」

 

 ふーん、にしても……

 

「意外だなぁ」

 

「何が?」

 

「いや、ゴーヤってそういうのを気にしないタイプだと思っていたから」

 

「逆に気にしない人なんているんでちか?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 あれれ?なんだこの雰囲気。ゴーヤ、どうしてそんな顔するんだ?  

 

「もしかして龍輝ってこういうイベントとか気にしない人?」

 

「うん」

 

 その返事にゴーヤはため息を返す。そして「よし!」と何か決意したらしく、顔を上げ俺の方を見る。ゴーヤはなぜか目をキラキラさせながら、しかしどこか顔が赤くなっている。

 

「決めたでち!今日から龍輝にイベントの面白さをゴーヤが伝える!そして龍輝がいつの日か毎日カレンダーを見て、イベントを気にするようにさせてみせるでち!」 

 

 おいおい、ゴーヤさん。何もそこまでしなくても……

 

「そうと決まれば早速……」

 

 ガシッと急にゴーヤが俺の腕を掴む。

 

「おい、何すんだ!?」

 

「それはもちろん、ささの葉を貰いにでち」

 

「はぁ!?」

 

「そうと決まれば行くでちよ!オリョクルで鍛えた忍耐力を見せつけてやるでち!」

 

 強制的に俺は連れて行かれるんですね。はい。というか、オリョクルって何さ?

 

 

 

 

「さぁ、ささを貰いに行くでち!」

 

「お、おー」

 

 ゴーヤはすごいな、なんでもかんでも気分上げる事ができるなんて。 

 

「ところで、何処に行けば貰えるかな〜?」

 

「あ〜。だったら木津さん家だな。あの人はこの辺の林業を統括しているからな」

 

「だったら、そこに行くでち!」

 

 うん。分かったけど……

 

「なんで手を繋ぐんてますかね、ゴーヤさん?」

 

 手は繋がなくていいでしょ?って、なんで無視するんですか?あと気のせいですか、手を握る力もっと強くなってません?……ちょっと遠藤さんに加藤さん、なんでこっち見て、そんな微笑ましい笑顔をしているんですか!?

 

 

「ここでちね」

 

「うん。ここ」

 

 恥ずかしかった。周りの目がこっちに集中してくるし、皆微笑ましい笑顔をして、こっちを見ていた。すごい恥ずかしかった。

 

 だが、そんな俺の気持ちを知らないゴーヤは木津さん家のインターホンを押した。

 

 はーい、という返事とともにドンドンと足音がし、やがてガラガラと扉が開く。

 

 中から出てきたのは、ツルツルの頭をしていて、格好は汗をかいてもいいようにティーシャツに短パンを着ていて、下駄を履いて出てくる五十代ぐらいの中老男が出てきた。この男こそ木津さんだ。

 

 木津さんは俺らの姿を見てニヤっと笑い、

 

「おやおや御二人さん。何しに来たんだい?」

 

 と言った。あんたもか。

 

「今日は七夕の短冊を飾るのに必要なささを貰いに来ました」

 

「あぁ、何だ。そんな事か。ほれ、そこにそれ用に出来そうなもんがあるから持ってきな」

 

「ありがとうございます」

 

「礼はいい。それより末永くやっていけよ御二人さん」

 

 最後ものすごく変な言葉が出たと思ったのは俺の気のせいだ。うん。……ゴーヤ、お前なんで顔赤くなってるんだ?おまけに「えへへ」って……。

 

 

 

 

「取り敢えずこんなところかな?」

 

「うん!いいと思うよ!」

 

 俺は家に帰ると、木津さんから貰ったささをいい感じにカットしたりして、庭に飾れるようにしておいた。我ながら上出来だと思う。

 

「あとは短冊なんだが……それ用の紙がないんだよな」

 

「あ!紙ならあるよ。ほら」

 

 そう言って、出てきたのは短冊用の紙だった。準備いいな。

 

「よし、だったら、願い事書いて飾るぞ」

 

「了解でち!」

 

 にしても願い事か。思い浮かばないな。今までこれといった願望なんて持ったことがないからな。うーん……

 

 チラッ

 

 ゴーヤを見てみる。本人は願いをスラスラと書いている。

 

 ……よし決めた。俺の願いは……。

 

「できたよー!」

 

「よし、じゃあ飾るか」

 

 俺とゴーヤはささの葉と紐を通した短冊を結ぶ。あまりいい結び方ではないが、一応は結べた。

 

〜一方、その頃〜

 

ー横浜ー 

 

 皆さん、こんにちは。白露達に短冊のお願い事を見てみました。いやね、今日母さんがささを送ってきたから、皆でお願い事を書いて飾ろうって言ったんですよ。それで書いたんですよ。で、俺が最後に書き終わったんですよー。それで、興味本位で皆が何書いたか見たんですよ。俺のも合わせて見てください。

 

『良い事が起きますように  雷雨』

 

『美味しいものがいっぱい食べれますように。あと、私は常にイチバン!   白露』

 

『雷雨が早起きしますように。あと姉さん、姉さんっていっつも僕達に負けてるよね。  時雨』

 

『雷雨君達と平和に暮らしたいです! あと、時雨姉さん、白露姉さんがイチバンになるときだってあるよ。偶に。  村雨』

 

『もっと遊びたいっぽい! あと、村雨。それって食欲とその気持ちだけだよね  夕立』

 

『キュティーガールとお友達になりたいです! あと、夕立姉さん。食欲はこの間涼風に負けてましたよ。 春雨』

 

『ドジっ子の汚名を挽回してください! あと、春雨。白露姉さんは大抵の事はいつも最下位になっていますよ 五月雨』

 

『料理をもっと上手くなりたいです。 白露姉さんは努力はしていますよ。努力は。 海風』

 

『人ともっと話せるようになりたい。 白露姉さんは努力家ではあるんだけど…… 山風』

 

『アクションゲームが欲しい! 白露姉さんは努力家だぜ!変な方向に向かっていっているけどな! 江風』

 

『こうした平和な日々が続きますように。 江風に同意見だな。 涼風』

 

 

 願いと共に綴られている白露へのバッシングに近い意見。これは……本人に見せないようにしよう。あいつが可愛そうになってきたわ。

 

 

 

〜因島〜

 

「出来たぞー」

 

「ホント!?今日の夕飯は何?」

 

 あーはいはい。見れば分かるから。

 

「ってあれ?なんでダイニングで食べないの?そっちは……」

 

「あぁ、今日は庭で食うぞ。ほら、シート敷いて、そっちの長机を置いて」

 

 俺の言葉に何か解せない顔をしながら、言われた通りシートを庭に敷き、長机を置いた。俺はその上に料理を載せる。

 

 ゴーヤは料理を見て、「あ!」と何かに気づいた。

 

「ご飯の上に星が……というか星まみれでち!」

 

 そこまで驚くと、お兄さん作った甲斐があったな。今朝自家栽培していたオクラを星型にして、豆腐に載っけたやつとご飯の上に焼いた星形の人参を載っけたやつと近くで買ったゼリーに星形のラムネを載っけた簡素な料理の品だ。。まぁ、それ以外に今朝釣った魚と味噌汁があるが、これらは特に何も手をつけていない。

 

 それに……

 

「上を見てみろよ」

 

 ゴーヤは上を見ると、やっとここで食べる本当の意味を悟ったようだった。俺達の上には天の川が雄大に流れていて、それを挟んで二つの星座がある。こと座とわし座だ。それ以外にも白鳥とか色々あるが。

 

「ゴーヤ行ったよな?『私達もやろうよ!七夕!』って。だったら俺も性を尽くしてやってやるさ。さぁ、食べよう」

 

「うん!」

 

 この後、俺とゴーヤはご飯を美味しく食べた。あいつ、本当にいい笑顔するな……って思った。こんな簡素な料理なのに。

 

 食べ終わると、ゴーヤのリクエストに合わせて、星座の解説をする事になった。

 

「あそこにあるのはこと座で、あそこにあるのがわし座。それぞれに変に光っているのがあるだろ」

 

「あるでちね」

 

「あれはそれぞれベガとアルタイルっていう星で、それぞれ織姫星と彦星っていう星なんだ」

 

「へぇーそうなんでちか」

 

「ためになるのね」

 

「でも、こととわしにあるなんてね。どうせなら、そういう星座でも作ればよかったのにね」

 

「そうだな。俺もそう思って……」

 

 ゴーヤの方を振り返ると、そこにいたのはゴーヤと青い髪をした水着姿の少女とピンク色の髪をしたこちらも水着姿の少女がいた。

 

「お前ら誰ーー!!??」

 

「え?えあーー!??」

 

 俺とゴーヤは天の川まで届くぐらいに絶叫した。

 

 この時、俺は気づかなかったが短冊が二人分新たに飾られていた。

 

『この日常が長く続きますように 龍輝』

 

『龍輝君とずっといられますように 伊五十八』

 

『これから、皆で仲良く過ごせますように、なのね ???』

 

『平和に過ごせますように ???』

 

 

 




あなたはどんな願いを短冊に書きましたか?


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10 噂には大抵真実がない 

 間違えてこの話を『提督をみつけたらの三次創作』に投稿していました。誠に申し訳ございません。

 そのため遅くなりました。

 今後はこのようがない事をご約束します。

 ですので、引き続き読んでくださったら嬉しいです。

 謝罪はこれにて。

 では


 かつて深海凄艦というものがこの地上にいた。彼らはかつて破壊者として地上にいる我らを脅かし、怖がらせた。

 

 そう、艦娘が現れるまでは……

 

 彼女らの出現は大きく、深海凄艦が手に入れていた海域を次々と攻略。彼らはどんどんやられていき、追い詰められていった。

 

 そこで彼らはどうやって被害を減らすかに頭を使うようになった。

 

 どうやって奴らを倒すか?

 

 悩んだ挙げ句、彼らは一つの案を思いついた。

 

 

 

 それは艦娘達を二つ名で呼ぶことだ。

 

 二つ名と言ってもあだ名に近い。例えば、とある駆逐艦を『主人公』、とある軽巡を『レズ』といった感じだ。

 

 

 もちろん白露型にもある。

 

 白露は、一番に敵に突っ込み、その攻撃力から『特攻戦艦』と呼ばれ、時雨は、その頭のよさ、作戦立案の適格さから『策士』、村雨は、その容姿、口調から『エロ先生』、春雨は、あまりにも可愛らしく、敵である深海凄艦も思わずほのぼのしてしまうことから、『大天使春雨ちゃん』、五月雨は、そのドジっ娘ぶりとそれによって引き起こされる運の良さから『ラッキー地味少女』、海風は、その母性本能の高さから『オカン海風』、山風は、いつもぼっちなイメージがあり、また本人自身あまり喋らないので『コミュ障』、涼風は口調を除けば、ただの普通の奴で、一番まともな思考を持っていることから『ツッコミ』とこんな感じである。

 

 

 

 そんな風に艦娘達を呼んでいる深海凄艦だが、中には『見たら逃げろ』という警告を出させる奴らがいた。

 

 深海を自由にたゆたい、楽しそうに敵を全滅させていく潜水艦『青い悪魔』、いつも無表情で、その顔で敵を威圧する空母『能面空母』、その運の良さで敵の魚雷、主砲が当たらず、それどころか、その運の良さで敵の弱点に当ててくる駆逐艦『幸福の女神』、『練習通り、練習通り♪』と言ってストレッチをするような調子で敵を倒す軽巡『ストレッチ軽巡』……そして、『紅白まんじゅう』と呼ばれた二人。この二人は駆逐艦なのにそれと思えない攻撃力と瞬発力を持ち、敵からはそれぞれ『赤い悪魔』、『白い悪魔』と呼ばれていた。

 

 この以上六人は深海凄艦に最も恐れられていた。何故なら、彼女らが一人でも参加した場合、たとえ姫級でも悪いときで小破程度で倒せる。そんな六人だが何回かこの六人で艦隊を組んで出撃したことがある。

 

 その結果は酷かった。たった一時間でそこにいたフラグシップはおろか、その辺にいた全ての深海凄艦が殲滅された。

 

「彼女らは恐るべき力を持っている」

 

 そう深海凄艦の一人は語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれ?」

 

 どうも、皆さんこんばんわ。雷雨です。

 

 今日早起きして、暇だったからテレビを見たら変なユーマ番組がやっていました。

 

「それにしても『紅白まんじゅう』か……ブッ」

 

 いかんいかん。殺されるから、殺され……ブフォ!

 

「ワハハハ!ヤッベ笑いが止まんね〜!!」

 

 紅白まんじゅうって……最早悪魔でも女神でもなく夜叉でもなく、まんじゅう!まんじゅうだよ、まんじゅう!どういうあだ名だよ!

 

 ガセにしてはひどすぎだろ!

 

 

 

 

「ハァハァ笑い疲れた」

 

 ちょっと腹筋痛いわ。お兄さん朝から疲れたわ。

 

 そう思った時だった。

 

 ドタドタドタ、と足音が聞こえてくる。しかも、それはこっちへ来ている。

 

 ん?これはもしや……

 

「ぽぉぉぉぉぃぃい!‼」

 

 駄犬だ。駄犬が来た。

 

 猛ダッシュでこっちに来ている。じきにここに来るな。

 

 そう思っているとバンというドアが音とともに開く。やはり俺の予想通り駄犬夕立だ。

 

 

 夕立は白い髪の毛に犬を連想させるようなぴょんとはねた癖っ毛にルビーのような赤い色をした目をしており、胸は割と大きい。もし、こいつの性格がもう少し大人しい方だったら、恐らく彼氏は一ヶ月も経たないうちに出来てしまいそうなんだが、そうは神様が許さないらしい。夕立は犬のような性格をしており、それは『駄犬』という言葉がよく似合う感じになってしまった、いわゆる残念系美人だ。

 

 そんな彼女が今ドアを開き、猛ダッシュでこっちに来た。

 

 俺は避けようとしたが夕立の方が速かった。避けようとした時には手でぎゅっと腰の位置に手を回されていたのだ。

 

 そして、その勢いでソファへと押し倒される。言っておくが、読者の思っているような押し倒され方ではない。バトル漫画で敵かなんかが攻撃を放って、味方、もしくは主人公が壁までふっ飛ばされるやつがあるだろう?あれに近い感じだ。

 

 まぁ、そういう感じだからソファが俺を受け止めようとして、すごく動いた。

 

「雷雨〜。遊ぼ〜!」

 

 夕立さん、痛いです。どんだけ力を入れているんですか!?おかげで腰と腹がくっついちゃいそうだから!

 

 その時、ドアが開く。また誰か来たのか、だとすれば誰でもいい。助けてくれ!

 

 そう思って待っていると俺にとって救世主になるかもしれないやつが入ってきた。

 

 

 

 

「おーい、夕立姉さん。どこ行っ……」

 

 来たのは赤い髪をした少女、江風だった。助かったかもしれない。あいつは俺の手を潰すぐらいの強さで握りしめるくらいの力があるからな(『人の名前はちゃんと覚えよう』参照)。

 

「おい、助けて『お邪魔しました、仲良くやってください』はぁ!?待てやゴラ!!」

 

 何逃げようとしてんだよ!

 

「冗談だよ、冗談。お前には冗談が通じねぇのか?」

 

 今、冗談を受け取れる状況じゃねぇのにお前は気づかないのか、江風!?

 

「はぁ、しょうがねぇなぁ」

 

 そう言って、江風は夕立を手馴れた手付きで俺から引っ剥がす。当の夕立もさして抵抗しなかった。恐らく両者共に暗黙の了解があるのだろう。

 

 流石、姉妹艦。そういうところに仲の良さが出てくる。

 

「ところでさ。お前、ここでさっきまで何していたんだ?」

 

 一段落ついて思い出したかのように江風が訊いてきた。

 

「あぁ、テレビ見ていたんだよ。早起きしちまって暇だったから」

 

「ふーん」

 

「そういえば、今日は何時に起きたっぽい?」

 

「……五時ぐらいかな」

 

 俺のその一言に二人はすごく驚いた顔をした。そして、面と面をお互い合わせると、ごにょごにょ声で何か喋っている。

 

「おい、どういうことだよ。まさか雷雨の野郎、優等生にでもなったのか?」

 

「そんなことはないはずっぽい。だって、昨日『夜ふかししてやるぜ!』っていうことを部屋の中でテンション上がりながら言っていたのを聞いたもん」 

 

 おい、聞こえてんぞ馬鹿共。あと、さらりと昨日の俺のことを喋らないでくれるかい、夕立さんや。……仕方ない、一応理由は話しておこう。

 

「実は昨日な、夜ふかししようとしたら眠たくなってな。それで早く寝たんだ」

 

「そうなんだ」

 

「へぇー」

 

 二人は再び俺の方に面を向いた。さっきの俺の言葉のおかげだろう。あと、江風が『これで槍の雨が降らなくて良かったぜ』って言ったのは気のせいであってほしい。まさか、それを危惧していたんだとしたら……な。あ、ついでにだが、実はこの俺の寝た理由は嘘だ。夕立の言ったとおり昨日は夜ふかししようとしていたら、時雨と海風が部屋に乗り込んできて、無理矢理寝させてきたのだ。もちろん抵抗したが、十秒でそれは終わった。クソ!あのおかん共め!十時はまだセーフだろうが!

 

 やがて、廊下から三つの足音がこちらに向かって近づいて来るのが聞こえてくる。

 

(誰だろう)

 

 そう思っていると、扉がゆっくりと開き、それぞれの足音の主が姿を表した。

 

 来たのは白露と時雨と涼風だった。

 

「あっ!夕立に江風にそれに雷雨じゃん!珍しい組み合わせだね〜!」

 

 と白露。

 

「雷雨……やっと早起きができるようになったんだね」

 

 と涙ぐむおかん。

 

「雷雨やったな!お前もやればできるじゃねぇか!」

 

 と普通のことを言う涼風。

 

 三者三様ってよく言うけど、まさに今それを体験しているな。これは勉強になる。

 

「ところでだけど、雷雨はさっきまで何してたっぽい?まさか……いけないことしてたっぽい?」

 

 この言葉に俺を除く各々の雰囲気が変わった。それぞれが後ろに大きな巨人や魔神みたいな奴らを従えているみたいな光景が目に映る。幻だろうか? 

 

「違う違う!俺はさっきまでテレビを見ていたんだよ!」

 

 そこから俺はあいつ等に分かりやすく番組の説明をする事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん……そんな番組がやっているんだ」

 

「あたいらのを取り上げてくれるのは嬉しいぜ」

 

「ぽい!」

 

……良かった。ちゃんと冤罪であることを伝えられた。

 

「じゃあさ、じゃあさ!私はなんて呼ばれていたの!」

 

 白露が目をキラキラさせて、こちらを見ている。夕立と同じくらい好奇心旺盛なんだよなぁ、この娘。ただ、非常識さでいうと、夕立のほうが断然上だけど。

 

「お前は特攻戦艦って言われていたらしいぞ」

 

「「「「あぁ〜」」」」

 

 俺の言葉にその場にいる白露型は同意の声をあげ、うんうんと頷く。そんなにこのあだ名はあっていたのか?

 

「そんなに白露と合っていたのか?このあだ名」

 

「うん。合ってるよ。というか、それがすごいピッタリフイットしてるよ」

 

「そんなにまで合ってたのか」

 

 俺はちらりと当の本人は照れていて、『戦艦だなんて〜』と独り呟いていた。

 

 

「それじゃあ僕はなんて呼ばれていたんだい?」

 

 時雨は期待している眼差しを俺に向ける。恐らくさっきの白露の様子を見て、好奇心が湧いたのだろう。

 

 まぁ、こいつのも悪くないものだから、恐らく喜んでくれるだろう。

 

「時雨は策士って呼ばれていたそうだぞ」

 

「「「「あぁ〜」」」」

 

 これまた白露型の頭の中ではこのあだ名は一致したらしい。同意の声が出てくる。

 

 やっぱりイメージとあっていたんだろうなぁ。さて、本人は。

 

 そう思い、時雨の方を向くと、何故か彼女は不服そうな顔をしていた。

 

「……どうした、気に入らないのか?」

 

「いや、別に良いんだけどさ、どうせなら『大天使時雨』の方が良かったなぁって」

 

 は?君何言ってんの?お前が大天使だったら、この世が終わるわ。それにお前は策士じゃなくて、どちらかといえば『オ……

 

「雷雨、君さ本人を目の前にして何失礼なことを思っているのかなぁ」 

 

 時雨がどす黒いオーラを纏って俺に威圧する。

 

 これ以上は駄目だ、という警告だろう。これには流石に従わないと未来がない気がする。

 

 と言うか、なんで俺の心を読めるのかな、君は?

 

 

「じゃあ、あたいはなんだよ?」

 

 涼風が時雨の威圧で弱々しくなっている俺に質問をする。あぁ、君みたいに純粋でしっかりとしている娘が増えればなぁ……。

 

「お前は『ツッコミ』だってさ」

 

「「「「あぁ」」」」

 

 白露型でまたしても同意の声が上がる。なんかこうして聞いてみると、仮にだが深海凄艦がつけていたとしたらセンスがいいなと、思ってしまう。

 

 さて、涼風の様子はっと……

 

「なんであたいだけそんなダサいのさ〜!!」

 

 お前のそういうところじゃないか?

 

 

「ねぇねぇ、私は私は?」

 

「そうだぜ!俺らだけまだだぜ!」

 

 夕立と江風が今度は聞いてくる。

 

 こいつらのあだ名は確か……

 

「あれ?」

 

 そういや、こいつらのやつってあったっけな?いや、言われてないなぁ……あれ?俺が単純に覚えてなかったのかな?

 

「すまん、お前らのやつだけ覚えてないや」

 

「えー!」

 

「マジかよ〜!」

 

 二人ともがっかり感を覆い隠せない様子だ。しかし、二人はすぐに開き直って、さっきまでカーテンで包まれていた窓をジャーと勢いよく開けた。

 

 午前六時の陽の光が夕立の白い髪と江風の赤い髪を鮮やかに照らしていた。

 

 




白露が改二になることになりましたね。楽しみにしていた方々にお祝いの一言を送りたいと思います。

おめでとうございます!

まぁ余談としてですが、この話にでてくる白露型は全員改二状態です。はい。 


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11 運が良いと悪いは紙一重

『人生そんなもんよ』 

 ってハードボイルドなおっさんが返してきそうな題名です。


 ピピッピピッ

 

 カチッ

 

 起きてしまった。起きてしまったよ。

 

 

 今は朝の五時。どんどん起きる時間が早くなっていく。

 

「二度寝するか……」

 

 時間はある。日光はカーテンでなんとかなる。夏の暑さはエアコンでどうにかなる。

 

 つまり寝る環境は整っている。

 

 

 寝るっきゃっないっしょ!

 

 

 

「おやす『ガッシャーン』え?」

 

 何か割れた音がする。しかも近くから。

 

『あぁ、どうしよう、どうしよう』

 

 近くから声が聞こえる。恐らく近くで誰かが何か割ったのだろう。

 

 ということで誰か分からんが頑張れ!お兄さん応援してるよ!

 

……え?手伝えって?ハッ!俺はそういうのは手伝わない主義だから断る。だから、おやすみ。

 

『あぁ、どうしよう。どうしよう』

 

「……」

 

『困りました。姉さん達は寝てると思うし』

 

「……」

 

『雷雨君も寝ているし』

 

「……」

 

『どうしたらいいんでしょう?』

 

「……」

 

『はぁ、一人で片付けますか』

 

「いや、俺起きてるから!‼」

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、おかげで助かりました」

 

「……どういたしまして」

 

 あぁ俺の、俺の二度寝が〜……。

 

「いや〜。驚きましたよ。まさか雷雨君がもう起きていたなんて」

 

「まぁな……ところで一つ訊いていいか?」

 

 少女はキョトンとした顔をして「なんでしょう?」と訊く。

 

「お前、誰だっけ?」

 

 少女は俺の言葉を聞くと、少し残念そうにして顔をうつむけた。そして、背中からかなり暗いオーラを放っている。

 

「まぁ、覚えていなくて当然ですよね」

 

 そう言って彼女は顔を上げる。だが、どこか悲しそうな笑顔をこちらに向けて。

 

「……すまん」

 

 罪悪感が込み上げてくる。なんか悪いことしたなぁ。だけど、お前ら全員が自己紹介したのは、かなり前だから覚えてない。

 

「いえいえ、謝らなくてもいいです!というか、自己紹介ですね!」

 

 少女はコホンと咳をしてから、キョロキョロと辺りを見回し、それから口を開く。

 

「私は白露型六番艦、五月雨です。よろしくお願いします」

 

 さっきと打って変わって明るいオーラを放つ。それは眩しく、俺は目をつぶるしか対処ができなかった。

 

 だが、俺はふと、あることに気づく。

 

 

「ところで、五月雨はあそこで何していたの?」 

 

「雷雨君を起こしに来たんです。時雨姉さんから『朝の六時に雷雨を起こしてね』って言われていますから」

 

 チッ!あのおかん。だから、みんな毎朝ドアを色々な方法で突破して起こしに来るのかよ。

 

 というか、待て……。

 

 俺はちらりと腕時計を見る。

 

「なぁ、五月雨」

 

「はい。なんですか?」

 

「今五時なんだけど」 

 

「へ?」

 

 五月雨は状況が分かっていないのかきょとんとした顔になっている。しかし、俺の言った言葉がようやく理解できたのか俺の腕をぐいっと引っ張り、腕時計を見る。

 

 偶に思うけどなんで君達ってそんな強引に物事を引っ張ろうとするわけ?そのせいで、俺が毎回痛い目にあっているんだけど……。

 

 やがて腕を引っ張るのをやめて、がっかりした顔を浮かべる。どうやら現実を受け止めたらしい。

 

「自分の部屋にある時計が六時を指していたから来たのに……」

 

 あぁ、ずれていたのか。でも……

 

「もし六時だったら、とっくのとうに陽が登っているよ」

 

「あう」

 

 五月雨は顔を真っ赤にして、狼狽の色を表した。

 

 この娘、もしかして世にいう『ドジっ子』なのか?……いやでも、普通四時と六時を間違えるか?

 

「ところで、なんで間違えたの?……あ!言っておくけど怒ってないから」

 

 五月雨は狼狽の色を隠せていないものの、吃りながら

 

「えっと……私がリビングで調理をしていて……ふと時計を見ると、針が六時を指して……いたので……その」

 

「うん。理由はわかった。ありがとう」

 

 要するに時計がおかしくなっていたんだな。そうか……。

 

「まぁ、しょうがない。そういう時だってあるさ。さ、リビングに行ってテレビでも見よう、な?」

 

「……はい」

 

 五月雨のその返事で俺はリビングに向けて歩く。五月雨もそれについてくる。

 

 これで彼女も開き直っただろう。そう思っていると、ふとあることに気づいた。

 

「なぁ、五月雨」

 

「はい!なんでしょうか?」

 

 うむ。いきのいい返事だ。

 

「お前が割ったやつってなんだ?」

 

 五月雨はその言葉を聞くと、笑顔で

 

「雷雨君が大切にしていたアニメのキャラの皿です!」

 

 と言った。

 

 

 

 えっ……?あれ割ったの?

 

 俺の大事な大事な宝物をワッタノ?

 

 そんな〜!!

 

 俺はこの後、暫くかなりのネガティブモードになり、ソファーでずっと寝転がっていた。

 

 そして、一つ教訓を得た。

 

 早起きしてもろくな事にならないと。

 




お気に入りの物を壊された雷雨君の気持ちを心からお察ししてあげてください。

あとUAが一万を突破しました。

これは読んでくださっている皆様のおかげです。

ありがとうございます。

駄文ではありますが引き続き読んでくださったら嬉しいです。  


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12 海に泳ぎに行く際に注意するべきは砂浜

砂浜って熱いんですよね〜。


 ここは神奈川で多分一番有名な海、江ノ島。

 

 辺りには猛暑を楽しもうとする若者達がわんさか溢れている。

 

 その江ノ島にとある二人がいた。

 

 それは……。

 

「いや〜、流石ですな。雪原殿」

 

「そうですな、雷雨殿」

 

「いるね〜沢山……」

 

「「『リア充イェ〜イ』とか言っている野郎共が!!」」

 

 哀れな高校生だった。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、毎年来るけどさ。こんなにいるなんてな。アハハ」

 

「そうだなー。なんでこんなにもいるのかね〜」

 

 二人は笑顔で言葉を交わすが、何処かドスがある声で言っている。

 

 

 そう。この二人は前にも本人達が言っていたとおり非リア充組だ。彼女いない歴は年齢に比例する。

 

 そもそも彼らは何故ここまでなってしまったか。

 

 それは……

 

〜高校〜

 

『ねぇ○○君、今日パフェ食べに行こう♪』

 

『いいね。○○ちゃん。行こう』

 

『それでさ〜。俺付き合っている彼女がさ〜……』

 

『あぁ、分かる。俺の彼女もさ……』

 

 

 このように彼らが通っている高校はリア充組が大半、いや八割を占めていた。その中での孤独感、絶望感、嫉妬……などなどがこの二人をこのような哀しい感じにさせたのだ。

 

〜再び江ノ島〜

 

「なぁ、雪原。例のものは?」

 

「あるぜ。ここに」

 

 そう言って雪原は鞄からそれを取り出す。

 

「我等非リア充組の家宝が」

 

 そう言って取り出したのは黄金に輝やく剣だった。

 

 これは我等が最終兵器、聖剣レクスカリバーだ。

 

 この剣を使うと、リア充が消滅するというやつだ。これを使ってリア充消滅させてやんよ!ヒャハハハ!!

 

 プルルルル

 

 俺のスマホが鳴る。電話の主は同志でもあり、隊長でもある委員長こと本居康親だ。

 

「もしもし。どうした隊長」

 

『雷雨、大変な事態が起きた』

 

 本居は深刻そうな声を出す。これは何かあったな……。

 

「何があった」

 

『実はな……』

 

 

 

『向こうでハーレムを作っている奴がいた……』

 

 

 この言葉を聞いて、俺は衝撃を受ける。ハーレムなんて……まさか、そんな!

 

「どうした、雷雨?」

 

 雪原の質問には応じず、俺は駆け出す。レクスカリバーを持って……。

 

 

 

 

 

 

「困ったなー。どうしたんだ、雷雨の奴?」

 

 俺はそう言い、頭をポリポリかく。すると、チョンチョンと誰かが俺の腰を指で突っついて呼んでいる。誰だろうか?

 

「はい、なんでしょうか……え?」

 

 そこに居たのは……

 

 

 

 

 俺は走る。ぐんぐんと走っていく。

 

 レクスカリバーを手に持って走る。

 

 周りの人は俺を変なパーティーピーポーの奴と思っているのかもしれない。

 

 だが、そんなの気にしない。

 

 今の俺にとってはハーレム作っている奴を倒すのが先だ。

 

「待っていろよ!悪の権化め!!!」

 

 天に向かって、一人吠えた。

 




雷雨の持つレクスカリバーは悪を切り裂くことができるのでしょうか!?



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13 旅行はやっぱり日帰りで行ける所がいい

お久しぶりです

 



 俺は戦場へと足を踏み入れる。

 

 この『リア充殲滅』の錦の旗をかかげ、委員長のもとへと馳せ参じた。

 

「よく来てくれた」

 

 委員長は出店のかき氷を食いながら、パラソルの下で休んでいた。

 

 それにしても、あのかき氷、美味そうだなぁ。

 

「おい、何してんだ。雷雨」

 

「なんだ、かき氷」

 

「誰がかき氷だ」

 

 委員長が立ち上がってデコピンをしてきた。まぁ、あんまり痛くないけど。

 

「……で、何処にいるんだ?クソハーレム野郎は」

 

「あそこだ」

 

 委員長の指差すところに例の奴がいた。

 

 なるほど……イケメンだ。肌が白いし、体型も悪くない、顔も……いい。

 

「イケメンだ」

 

「あぁ、リア充そうなイケメンだ」

 

 本当に……

 

 

 

 

 

 

 

 

ニクタラシイナア〜

 

「委員長、俺あいつを倒すよ」

 

 俺の言葉に委員長はクイッと人差し指と中指で眼鏡を上下にスライドさせる。一瞬、日光の反射で委員長の目が見えなくなる。だが、俺は知っている。あれは合図だ。『行ってこい!俺も加勢する!』と。

 

 合図を受け取り、俺は駆ける。目の前にいる憎たらしい敵に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ〜、久しぶりの海水浴はいいのね〜」

 

「もう!イクったら、いつもやってるようなもんでしょう!」

 

「……それ言ったら終わりなのね」 

 

 イクとイムヤが浮き輪で浮かびながら向こうで仲良く遊んでいる。

 

 さて、俺こと柳原龍輝は今家から物凄く遠い江ノ島の海でゴーヤと七夕の日から勝手に居候し始めたイムヤとイクと共に海水浴に来ている。いやぁ〜、それにしても、まさか下校途中に寄った商店街で福引きをやっていたから運試しで引いて、まさかの一等賞の江ノ島、横浜一週間分(しかも宿付き)の旅行券が当たるなんてなだなんてな……。運良すぎだろ、俺。

 

(それにしても、あの二人仲が良すぎだろ)

 

 俺はイクとイムヤを羨望の目を向ける。というのも、俺のいる因島には学校がなく、そのため俺はわざわざ本土の学校に通う必要が生まれてしまうのだ。そのため、俺はあまり仲の良いと言える友達が全くできていない。

 

 

 

 だから正直羨ましい。

 

 俺にもああやって仲良く遊んでみたい、偶にだがふと俺はそんなことを思ってしまうのだ。今まで俺は一人だったから。孤独だったから。

 

「龍輝〜♪何してるでち〜?」

 

 後ろの方から声が聞こえてくる。振り向くと、そこには嬉しそうな顔をしているゴーヤがいた。だが、何故だろうか。ゴーヤの目の中にある光は消えていて、さながらブラックホールみたいに吸い込まれそうな気がする。

 

 一言で言うなら虚ろの目と言ったところか……。

 

「もしかして、あの二人のどっちが好みでちか?教えてよ龍輝〜♪」

 

 なんでそこで俺の好みが来るんだよ……。

 

「いや、ただ羨ましいなぁって思って」

 

「羨ましい?」

 

 あ、目に光が戻った。

 

「あぁ、俺にはずっと友達と言える奴がいなくてな。だから俺はあのいつも一緒に仲良く話している二人が羨ましいんだよ」

 

「あぁ、そういうことでちね……良かった」

 

 何がいいんだ、俺は友達ゼロ宣言して心が荒んでいるのに……。

 

「ん?じゃあ、あそこからこっちに向かってくる人はなんでちか?」

 

「え?」

 

 ゴーヤの向いている向きを向くと、何か言いながら走っている人がいる。気のせいか、こちらに来ている気もするが……。

 

「ーー!!ーーう!!」

 

「何か言っているでちね」

 

「あぁ」

 

「ーね!!ーーー野郎!!」

 

 ほんとにあの人何言ってんの?

 

 だが、そいつは止まる事なく、どんどんとこちらに向かっている。気のせいか手には黄金の剣が握られているように見える。

 

「あいつ何でおもちゃの剣を持って、こっちに来てんの?」

 

「さぁ」

 

 小首を傾げるゴーヤ。……うん、まぁそりやぁそうなるだろうねぇ……。

 

「死ね!!リア充野郎!‼」

 

 俺の近くまで来ると、その人は黄金に輝やくおもちゃの剣を大きく振りかぶって、こちらに振り下ろしてきた。

 

「うぉっ!」

 

 間一髪のところで俺は避ける。だが、その人、いや俺と同じくらいの青年は攻撃をやめない

 

「消えろ!!リア充がーー!!」

 

 訳の分からない単語を言って、斬りかかってくる。というか、リア充って何だよ。新種の果汁か?

 

「避けるな!!下道がぁ!!」

 

「いや避けないと、それ体に当たったら絶対痛いから!」

 

「黙れぇ!!お前はこの聖剣に潔く斬られろぉぉぉ!!‼」

 

 無茶苦茶だよ、この人!!というか理不尽!

 

 そんな事を思っていると……

 

「助けに来たぞーー!!」

 

 青年と同じくらい(つまり、俺とも同じ)の眼鏡かけた奴がこれまたおもちゃの槍を持ってきて、こちらに向かっている。

 

 まさかだけど、仲間!?

 

「助けに来たぞぉぉ!!雷雨!」

 

 なんか海を歩きながら、こちらに向かっている。やばい、この人達。完全に頭が可笑しい人だ。

 

「よし!行くぞ!喰らえ、我が学校に伝わる槍ホイホイボルグ!!グヘェ!?」

 

 なんか聞いたことのある槍の名前を言い終わって、こちらにそれを投げようとした時だった。マッハを超えるような何かが眼鏡の男の顔面に直撃したのだ。

 

 これには俺も青年もびっくりする。やがて、眼鏡の男の顔面をやった凶器がプカプカと浮かび上がった。それは浮き輪だった。

 

 それに見覚えのある俺はちらっと持ち主達がいるところを見ると、さっきまで浮き輪をつけて遊んでいたイクが浮き輪をつけずにいる。

 

「ひゅ〜♪久しぶりにやり甲斐のある敵を見つけたから投げたのね!」

 

 俺の聞きたかった質問を察してかイクは言う。

 

「委員長ーーー!!!」

 

 青年が眼鏡の人のあだ名を叫んでいる。そして、よく映画でやる仲間がやられて、『俺はもう駄目だ……後は頼む』風な感じで委員長と呼ばれた男は力尽きて、浮き輪をつけて気絶した。

 

 

 

 

 

……ナニコレ? 

 

 

 

 

 

 俺はその場に茫然と立ち尽くす。

 

 すると、青年はこちらに近づいてきて、こう言う。

 

「おのれ!リア充やろうがぁ!!この恨み果たしてくれるわ!!」

 

 また意味の分からない単語『リア充』を使っている。仕方ない。

 

「あの〜」

 

「なんだ?」

 

「リア充ってなんですか?」

 

 青年はきょとんとした顔をして、こちらを見る。……え?そんなに変な質問だった?この質問。俺はちらっとゴーヤ達を見る。しかし、彼女達も俺を同じような目で見てくる。……え?そんなに変な質問だった?この質問(二回目)。

 

「それ、本気で言っているのか?」

 

 何故か苦笑いされている。こんなおもちゃの剣を持った奴に。

 

「はい。そうですけど」

 

 すると青年はため息を一つつく。呆れてはいるようだが、意味は話してくれそうな雰囲気を纏っていた。

 

「リア充っていうのは要するにリアルで充実している、という意味なんだよ」

 

「だったら、俺はリア充ですね」

 

 その言葉を聞き、青年がまたおもちゃの剣を手に取る。え?ちょっと、やめて!

 

「てめぇ、やっぱりいるのかよ!(彼女が)」

 

 何言ってるんだろう、この人。なんでそうなるの⁉俺に何があるっていうの……は!そうか!そう言えばこの人の言っていたリア充とかいうやつに一つだけ達していないところがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友達だ!

 

 俺には友達が一人も居ない、つまりそれはリア充という言葉には合わない!

 

 しまった!今から訂正しなくては!

 

「すみません。やっぱりいませんでした(友達が)」

 

「あ〜良かった〜いなかったか〜(彼女が)」

 

 あ、剣をしまってくれた。

 

「はい。作りたいとは思うんですが(友達を)」

 

「あぁ分かるぜ、その気持ち!俺も作りたいんだけどな〜(彼女を)」

 

 もしかして、この人も友達いないのかな……あれ?だったらさっきの眼鏡の人は何だろう?

 

「あの、さっきの眼鏡の人は違うんですか?(友達じゃないのかな?)」

 

「え?違うけど?(俺にそういう性癖はねぇよ!)」

 

 へ〜じゃあ、あの人一体何なんだろう。

 

「それよりさ、お前」

 

「ん?」

 

「ほら、あそこに男女の一組がいるだろ?」

 

「はい、いますね」

 

「あれ見てどう思う」

 

 どう思うって言われたって……。

 

「仲がいいなぁ、と」

 

 そう言うと、「違う違う」と言って青年は俺の意見を否定する。

 

「そういうことじゃなくてな。つまり、あの二人を見てお前はどう思うかについてだ」

 

 え?俺から見て?

 

「そりゃあ羨ましいなぁとば思いますけど」

 

「だろう?俺もだ」

 

 うんうんと頷く青年。やっぱり友達欲しいんだなぁ。

 

 あ!そうだ!

 

「良かったら俺達友達になりませんか?」

 

「は?」

 

 案の定首を傾げる青年。でも俺等の共通の悩みを解決するにはこれしかない。友達がいないという深刻な問題を今ここで解消なければ前に進めないからだ。

 

「ですから、俺と友達になってリア充になっていきましょう!」

 

 俺の台詞に青年は首を横にも振らず、縦にも振らずただ「お、おう」とさっきの勢いをなくして承諾した。

 

 この後、二人で携帯の番号を教え、青年と別れた。

 

 ただその間ずっとゴーヤ達が呆れた目で見ていたのは何故だろうか?

 

 

 

「おい!どこ行ってたんだよ、雪原。俺らピンチだったのに」

 

「すまん、お兄ちゃんがいたから少し話してた」

 

「おいおい」

 

 




お気に入り百人突破しました。

自分でも驚いています。

これも皆様のおかげです。

ですので、引き続き読んでくださったら作者として嬉しい限りです。 


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14 テスト勉強は自分にとってベストコンディションでやるのがよろしい

僕はこういうタイプの人間です。


 みなさん、おはようさん!

 

 皆のアイドル雷雨だよ〜♪キャピ♪

 

 何処にでもいる高校二年生♪

 

 皆、今頃起きてるよねぇ?ねぇ?十時だもんね?夜の。

 

「雷雨君、さっきから何アイドルのやるようなポーズをとっているんですか?」

 

 後ろから、優しいオカンのような声がすると同時に頭に何者かがチョップする。

 

 その衝撃によってか、俺は先程の変な感じを抜け出すことができた。

 

 

 さて皆さん、何故俺がこんな目にあっているのか、それを説明しなければいけないだろう。そう、それは二時間前のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜食った食った」

 

 夕食のカレーライスを食べ終わると、俺はベッドでゴロゴロダラダラしながら漫画を読もうと、自室に向かう。

 

「待ってください」

 

 自室に行こうとした俺を止める声が後ろからした。俺は知っているこの声を。あの忌まわしき声を。

 

 振り返ってみると、やはりそうだった。

 

 白い髪に青い目、何処からか出てくる優しそうな雰囲気……そう、奴だ。

 

「なんだよ海風」

 

 オカン二号こと、海風だ。

 

「『なんだよ』じゃありません、雷雨君。雷雨君は今日が何日か知っていますか?」

 

「八月三十日ですね」

 

「なら、私が何を言いたいか、分かりますよね」

 

 

 ハッ!これはまさか世に言う『宿題イベント』ってやつか!この場合、俺は宿題をやっておらず「ごめん、やってなかった」と言って、宿題を海風と一緒にする……まぁ、こんな感じか……。

 

 だが、しか〜し!!俺はもう既に宿題はちゃんと終わらせているのだよなぁ〜海風君。いやぁ、残念無念ですよ。君と宿題ができないなんて♪

 

「宿題か?それなら、もう終わっているぞ」

 

 ドヤ顔で俺は海風を見下す。だが彼女自身それに驚きもせず、ただきょとんとした目で見てくる。

 

「何を言っているんですか、雷雨君?」

 

「へ?」

 

 何を言っているって、宿題の件だろ?

 

 そんな俺の本心を悟ったのか、海風ははぁ、とため息をつく。

 

「宿題なんて期限内にできていて、むしろ当たり前です!それよりも」

 

 こほん、と咳き込んでから海風は言う。

 

「課題テストの勉強をしなくてはいけないでしょう!」

 

 俺は内心『そんなのあったな』と思い出を振り返るような感じでいた。

 

 というのも、俺はあらゆるテストが何時あるのかすら全く覚えていない。

 

「まさかとは思いますが、課題テストは『課題だけやればどうにかなる』とでも思っているんですか!」

 

 ぐ……逃げ道が……。

 

 

「とにかく!課題テストまでの残り少ない日数は全て勉強に費やしてください!あと私も手伝いますからね!」

 

 

……

 

 

………

 

 そうだ。そうだった。俺はあの後、海風と勉強することになって、それでこうなったのか。さっきまでやっていた現代文の漢字に苦戦しまくったんだっけ。

 

『雷雨君!なんで『丁寧』っていう漢字がどこをどうやったら『帝寝威』って書けるようになるんですか!』

 

『『難かしい』じゃありません!『難しい』ですよ!』

 

『雷雨君!なんで『摩天楼』だけ漢字が完璧なんですか!?』

 

 あぁ、嫌なことしか出てこない。今は休憩時間。このすきに逃げたいところだが、生憎海風が部屋のドアの前で本を読んでいるため突破できるかどうか微妙なところだ。

 

 ちらちらと俺が見ているのにに気づいたのか読書をやめた海風がこっちを睨んでくる。う〜怖い怖い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は数学をやりますよ、雷雨君」

 

 海風の台詞に俺は反論する。

 

「おい、海風。数学はやんなくていいと俺は思う」

 

「それは何故ですか?」

 

 笑顔の海風だが、内心凄い怒っていると思う。仕方ない、理由をいうか。

 

「俺はこう見えて数学だけそこそこできるんだよ。こう見えてもな」

 

「なるほど……でも、それは所詮高校になったら通用しませんよ。実際、小中学はできても高校になったらできなくなるっていう人が居るのも聞いたことがあります」

 

「……それ誰情報?」

 

「加賀さんからですが」

 

 母さん、なに海風にそういう事を言うんだよ!

 

「まぁ、お前のことだ。俺がどれだけ言ってもすぐに信用してくれないだろう?こういうのは『百聞は一見に如かず』だ。試しにほれ」

 

 俺は一学期の成績表を海風に渡す。

 

 海風はそれを黙って見る。だが、彼女はある項目を見て絶句して声を出した。

 

「雷雨君、これ……」

 

 海風の指が示す先は数学の成績が書いてあるところだ。そこに書いてあるのは十という数字。これはもちろんの事だが、十が満点のである。

 

「なんで数学だけこんなにいいんですか!?」

 

「あぁ、それはな多分ギャンブルのおかげだよ」

 

「は?」

 

 ぽかんとする海風を放っておいて言う。

 

「俺はギャンブラーになり始めた時にそれ専用の専門書や必勝法といったやつばかり読み腐っていたからな。それでまず、数の強さやルールを学んでいったらこんな頭になってたからな〜。今では全ての数学の問題は暗算で出来るよ」

 

「……嘘ですよね?」

 

「ほんとだ」 

 

「9808909+9808909は?」

 

「19617818だろ?」

 

「789120÷789120は?」

 

「1だな」

 

「すごい……一瞬で」

 

 海風はやや後ろへ下がる。引いているのだろうか。

 

「あなたは本当に雷雨君ですか!?」 

 

「いや、雷雨だけど!?」

 

 

……

 

…………

 

 

 

 

 

 

〜当日〜

 

「雷雨……どうしたんだ?そのクマ」

 

「あ……あぁ、ちょっと色々あってな」

 

 あの後、馬鹿みたいに海風に勉強させられた。それも三日間ずっと三十時間の勉強時間。繰り返される罵声。文字や数式が時には浮かんでいるようにも思えてきたときもある。

 

『違います!ここはこの単語じゃありません!』

 

『だから、何故レオナルド・ダ・ヴィンチを織田信長と書いて、織田信長をシンデレラって書いたんですか!?」

 

『主語が二つあります!あと動詞の位置がおかしいです!』

 

 くそ、オカン第二号。お前のせいで俺はヘトヘトだぜ。こんなんでテストなんか受けられるのか?

 

 しかし、やるしかない。あの、あのオカン二号の威圧から救われるために!

 

 やるっきゃねぇーー!!

 

 

 

 

 

 テストが終わった二日後。

 

 テストの結果公開の日になった。

 

 廊下にある順位表を前に生徒達は我先にとばかし食い入るように見ている。その中にはもちろん俺もいる。

 

 さて順位はというと、

 

 現文 百位/二百位    古典 百位/二百位

 

 数学Ⅱ 一位/二百位    数学B 一位/二百位

 

 英語 百位/二百位    日本史 百位/二百位  世界史 百位/二百位

  

 化学 三十二位/二百位

 

 

 という結果になっていた。

 

 順位は全部の教科が上がった。だが……

 

「半分ばっかりだな……」

 

 なんかこれはこれでショックを受けた俺なのであった。

 

 ついでにこの後、これを海風に伝えると、

 

「半分も取れたなら、上々ですよ!!」

 

 と嬉しそうに言いながらも、

 

「次こそはオール一位、狙いましょう♪」

 

 とも言っていたのであった。

 

 

 学生は辛いよ……

 

 

 




ちょっと急展開にさせすぎた節がありますね。すみません。

 


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15 ハロウィンで日本のオバケの格好している奴は多分いない 

ハッピーハロウィン!

お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!


 皆さんはこのセリフを言うときにどんな仮装をしますか? 

あと遅れてすみません


 十月三十一日……。

 

 今日、俺はとんでもないことに気づいた。

 

 そう、今日は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日だ。

 

 待ちに待った休日。どう過ごそうか、そう思いドアを出る。

 

 その時だった。

 

 

 

 

「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ♪」

 

「しちゃいます//」

 

 

 ノリノリの白露と赤面顔の五月雨がいた。

 

 俺は思った。

 

(そうか、今日はハロウィンか)

 

 

 

 そう思って見ると、なるほど。ちゃんと二人共仮装している。白露は西洋の歴史にでも出てくるような騎士の鎧(らしき)ものを身に着けているし、一方の五月雨はタロットカードにもありそうな死神の格好をしている。

 

 だが、それにしても凄いな騎士と死神の組み合わせって……。もし、ここに勇者の格好をしている奴がここに加わってパーティーを組んだら間違いなく魔王までは一気に行けそうだな。

 

「ねぇ!お菓子は!?」

 

 回想にふける中、白露が目をキラキラさせて、こっちを見る。このパターンどっかで見たことあるなー。

 

 にしても、お菓子か……うーむ。

 

 あ!そういえば昨日本屋のおばちゃんが買い物をした際くれた飴があったな。

 

「ほれ、お前らお菓子だ」

 

 ぽいっと二人のいる方に投げる。すると、二人はそれに釣られるかのように飴玉を手でとった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「チェッ、お饅頭が貰えると……って痛い痛い!!」

 

 文句をたれる白露に対し俺は頭をぐりぐりした。こいつ変なところで強欲なところが出てくるからな。

 

 こうやって、やらないとこいつのためにならない。

 

「文句言わないから許して〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 白露と五月雨と別れて下に降りてみる。

 

 すると、下のダイニングからいい匂いがしてくる。それを辿ってみると、ダイニングにそれがあるのがわかった。そして、そこにあったのは……

 

「こ、これは!?」

 

 ダイニングの机にある、それの正体はハロウィンらしく南瓜料理(かぼちゃ料理)がある。煮物に豚汁に、関係ないけど白飯がある。だけど……

 

「なんかこうして見ると、ハロウィン料理じゃなくて、これって冬至の料理だろ」

 

「それ言われたら終わりだね」

 

 声のした方向を見るとオカン一号こと、時雨がいる。 

 

 

 彼女の服装も一応見ておくとしよう。時雨は黒い魔女の格好をしていて、それはまぁハロウィンでの定番中の定番の格好であるのでなんか安心した。ただ強いて変わっているところと言えば魔女の衣装の下には緑色の小さいバッグが少し見え隠れする位置にあることぐらいだ。

 

「どう、似合うかな?」

 

「似合っているよ」

 

「そっか」

 

 嬉しそうな顔を浮かべる時雨。それには何処か照れ笑いにも近いものが含まれているような気もする。こいつってオカンの部分を除けばかなり可愛い娘になると俺は思うんだけどな〜。

 

「ところで雷雨」

 

「む?どうした」

 

 時雨が俺をじっと見てくる。気のせいだろうか。何故か知らないけど俺の服を見ている気がするのだが……

 

「雷雨、なんでそんな格好しているんだい?」

 

「へ?」

 

 間抜けな声を出して俺は聞き返した。そんな俺には目もくれず時雨は、こちらに近づいてくる。

 

「え?なに?」

 

「雷雨、今日はハロウィンだよ。だからね……

 

 

 

 

 

 

 仮装しなきゃ駄目だよ?」

 

 マジですか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「似合ってるよ雷雨!」

 

 時雨にコーディネートされること十分。俺は完璧と言ってもいいほど見事な仮装をさせられた。どんな格好?と言われれば簡単に言うと亡霊船に乗っている海賊の団長という設定の格好だ。青い二等辺三角形の髑髏(どくろ)のマークの帽子に顔には眼帯をつけられて、服は軍服にも似た青い上着に背にはマントと、本格的すぎる海賊の格好をしている。

 

「時雨、お前これ、何処から……」

 

「俺達からだぜ!雷雨!」

 

 聞き覚えのある声が後ろからする。

 

 俺は声のした方向を振り向く。

 

 そうしたら、やっぱりそうだった。俺のお母さんと親父だ。

 

「雷雨、トリック・オア・トリート」

 

「お菓子をくれなきゃ……って、何処に行くんだ!?」

 

 

 

 うるせー!あんたらから関わりたくないからだ、この野郎!

 

「雷雨、お菓子をくれないんですか。お母さんはお腹が減って仕方がないんです!」

 

「母さん、あんたにやれるだけのお菓子はこの家にねぇんだよ!」

 

「おい、けちすぎやしないか、雷雨。お菓子の二つや三つ程度お母さんにあげてもいいだろうに」

 

 こいつ……分かってて言っているな……。親父は家の柱に背をもたせていてかっこつけて喋っているが、分かっているのだ。母さんの有り得ないぐらいの暴食の限りを。そして、その果てを。

 

 俺は考える。どうやったら、この両親を追い払うことができるのかを。そして、思いついた。とっておきの策を。

 

「親父、お母さん」

 

「なに?」

 

「なんだ?」

 

 俺はにやりと二人の前で悪巧みをしてそうな顔で今さっき思いついた策を言葉に出した。

 

「トリック・オア・トリート、お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ♪」

 

 この言葉に二人はびくっとする。多分、俺が何か企んでいるのに気づいたのだろう。さっきまでの余裕そうな顔色がすっと抜けていた。

 

「ハロウィンってさ、もとは収穫祭でその豊作を祝ってやる祭りなんだよね。そして、そこでは子供達がおばけの格好をして、お菓子をあげるんだよね?だったらさ、大人が仮装しても意味がないんじゃない。そして、この場合親父達が俺に言っても、それは無効化されて、逆に俺がさっき言った方が有効化されるんじゃないの?」

 

 一旦、言葉を区切って俺は両親に近づき、王手を決めた。

 

「だからさ、お菓子頂戴?」

 

「雷雨、衣装は後から私の家にダンボール箱に入れて返してきなさい。私は今用事を思い出しましたから!」

 

「あぁ〜、腹がーー!!ってことで、さいなら〜!!」

 

 二人は韋駄天のような速さで玄関から出ていった。

 

 こうして、疫病神は去っていった。そして、俺に残ったのは圧倒的勝利による快感と……

 

「雷雨〜、早く食べなよ〜♪ご飯冷めちゃうよ〜♪」

 

 鬼のように怒っている時雨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わり、暇になった俺はリビングに行ってテレビを見ることにした。番組ではあちらこちらでハロウィンに関することが多くやっていて、アニメとかもそればっかりだ。  

 

 ふと体に寒い風が当たって、ぶるっと身震いした。

 

 やはり、十月末になると冬だな。

 

「そろそろ炬燵を出してもいいのかもな」

 

「……そうじゃないと、困る」

 

 机の下から声がする。

 

 思わず体がびくっと飛び跳ねる。

 

 お化けか、それとも……そう思い、俺は声のした机の下を上から凝視してみる。

 

 すると、ほんの少しだけ、見覚えのあるものが出てきた。

 

 それは緑色の長い髪の毛だった。

 

 俺はため息をついた。机の下にいる奴の正体が分かって、少し恐がっていた自分を恥じているのだ。

 

「山風、驚かすんじゃねぇよ」

 

「ごめんなさい」

 

 そこに居たのは猫のように机の下で丸まっている山風だった。そんな山風もコスプレはちゃんとしている。黒猫だ。服装は黒猫感を出そうと、黒猫の着ぐるみをを着ている。なんかよく似合ってるよ、お前……うん。

 

「どう……似合う?」

 

 ふわぁ、と大きなあくびをして山風は訊く。もう猫でいいじゃんお前。

 

「似合ってるよ」

 

 俺は意思表示も込めて頭をなでなでする。

 

「ん……」

 

 最初は少し驚いた顔をした山風もやがて受け入れて、気持ち良さそうな顔をする。親父もこんな事を山風に、艦娘達にやったのだろうか……。

 

「あ、雷雨君!」

 

「おー雷雨じゃん!衣装似合ってるぜ!」

 

 後ろから声がする。振り向くと、村雨と涼風がいる。村雨は白天使、涼風は時代劇のアウトローの格好をしている。 

 

「二人もよく似合っているな」

 

「えへへ」

 

「そうだろ!」

 

 村雨は顔を赤くして照れ笑いをし、涼風はえっへんとでも言いたげなポーズをする。

 

 ふと涼風のズボンの腰のところに引っ掛けてある銃が目につく。

 

 あれって確か……。

 

「ん、これが気になっているのか?」

 

 俺の視線に気づいた涼風は銃を手に取る。

 

「良いだろ!これがよ、割と細かく作りがいきとどおいているからな。あたい的にはお気に入りだぜ!」

 

 そう言って、銃を自慢げに見せてくる。これに村雨も「すごい!」と言って、まじまじと見る。

 

 ……ごめんな涼風。それこないだ近所の駄菓子屋行ったら、三十円で売られていたおもちゃのやつだわ。

 

……

 

………

 

 

…………

 

「おう、雷雨!やっと来たか!お客さんだぜ!」

 

 ドラキュラの仮装をした江風が外に出ようとした俺に声をかける。雪原の家に行って、大量のお菓子を(無理矢理)貰ってこようとしていた。だって、俺の格好は海賊じゃん?だったら、奪えそうなところから奪う(お菓子を)のは当然だと思うのだが。ということで『ヨーソロー!』と心の中で叫んでいこうとして、これだ。俺は不機嫌になりつつもその客のいるダイニングに行く。

 

 声がダイニングから楽しそうな声が聞こえてくる。ダイニングには五人いるらしく、また女性四人、男性一人という感じだ。だが、俺はこの声の主達を全員知っている。

 

 

 

 はぁ、とため息をしてからダイニングへと入る。

 

「「「「トリック・オア・トリート、お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!!」」」」 

 

 そこには海風、春雨、夕立、初霜そして当の雪原がいた。クソッ、先手を打たれた!

 

「ギャハハハ、雷雨君よ〜♪君の考えはお見通しなんだよねぇ〜♪」

 

 マットサイエンティストの格好をして俺を嘲笑う雪原。

 

「お菓子くれっぽい、雷雨!」

 

 手をお椀のようにして、お菓子を貰おうとする学ラン姿(帽子付き)をしている夕立。

 

「テストの時のお礼として勿論くれますよね?」

 

 錬金術士の格好をしている海風。

 

「雷雨さん……その……ください!」

 

 遠慮しながら言う銃士姿の初霜。

 

「お菓子をください!」

 

 ストレートに言う魔法少女姿がよく似合い、可愛い春雨。

 

 一方の海賊の格好をしている俺は獲る側の人間にも関わらず、多くのお菓子を獲られたのであった。

 

 




僕はドラキュラがいいです


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16 クリスマスは家族と過ごすのがオチ

彼女とデート、なんて事中々ないと僕は思います。


「なぁ雷雨、どうしたら初霜と仲良くなれるだろうか」

 

 親友である雪原の突然のこの台詞。俺は度肝を抜かれた。

 

 まさか、こいつ……

 

「本格的にリア充の道を歩みだす気か、コンニャローーー!!」

 

「ちょっ、声がでかい!」

 

 慌てふためいている声音をして俺を止める雪原。顔は真っ赤になって目はぐるぐる模様になっている。

 

 ……本当に分かりやすいな、お前。

 

「大体お前って奴はねちっこいんだよ。変にさ」

 

「なんだよ、それ。そういうお前こそどうなんだよ」

 

「何が?まさか恋についてか?残念、俺にそういう浮ついた気持ちは一切生まれていない!」

 

 ギャハハハ!この俺様に恋という名の甘い甘い感情は未だ生まれていないんだ、雪原!

 

 ギャハハハ、泣きそう。

 

「で、なんだ。雪原君、どうせだから君と初霜のラブ、いや関係はどこまでいったんだ?」

 

「ラブってなんだよ!あと俺のこと急に君呼ばわりしたな雷雨!」

 

「どうどう、落ち着きたまえ雪原君」

 

 雪原を取り敢えず落ち着かせ、俺はドラマとかでよく見る紳士系のやつがする腕組みをやって神妙そうにしてみた。ほら、こういうのって一度は憧れない?

 

「なんかムカつくな、お前」

 

「ひどい!」

 

 雪原の罵倒は的確なところではあり、俺の心にそこそこのダメージを与えるに至った。

 

 だが、なんだかんだで、この日俺は雪原を散々弄りたおすことになった。

 

 え、雪原の質問?

 

 そういやぁ、そんなこともあったなぁ。

 

……

 

………

 

…………

 

 

 

 次の日

 

「雷雨さん、どうしたら雪原さんともっと仲良くなれるんでしょうか?」

 

 お前もかよーー!!

 

 なんだよ、これ!一体なんなんだよ、これ!

 

 なんか急に電話なってさ、相手が珍しく初霜ちゃんでさ、昨日俺が雪原を弄った喫茶店に来てって言われてさ、来てこれかよ!

 

 なに、お前らテレパシーとかで実は繋がりあってんの!?それとも、なにお互い何かチップか何か埋め込まれてんの!?

 

 というか、なんで人様の恋愛に俺は今週の休日全て消費してんだよ、どうしてくれんだよ!

 

「どうしました、具合でも悪いんですか?」

 

「……お気遣いなく」

 

 まぁ、いいや用件だけでも聞こう。だが、もしこれで同じ感じの内容の話だったら帰って寝よ。

 

「ところで今日って何日か知っていますか?」

 

「いきなりですね……確か十二月二十四日でしたね」

 

「そうです……あっ、有難うございます」

 

 話の最中、先程注文しておいた俺と初霜ちゃんのコーヒーが届いた。

 

 淹れたてのため、かなり湯気が出ている。火傷しないように気をつけなければ。

 

 ついでに俺のやつはブラック、初霜ちゃんのはミルク多めである。

 

 え、渋い?

 

 そう?俺はコーヒーには何も入れないスタンダード的な方が美味しいと思うんだけどなぁ。

 

 と、誰かとの会話を打ち切り、湯気がモクモクと出ている中を突き進んで飲もうとする時、今日が何の日か思い出した。

 

「そういえば、今日はクリスマス・イブでしたね」

 

「そうなんです」

 

 こくこく、と初霜ちゃんは首を縦に振る。

 

 俺はやっと彼女の言いたい事を何となく理解できた。

 

 つまり……

 

「初霜ちゃんは雪原とクリスマスデートをしたいわけですね」

 

「はい、そうです……じゃなくて〜〜!!」

 

 初霜ちゃんは思いっきし飲んでいたコーヒーを受け皿にたたきつける。ただ、それはかなり大きな音だったため、周囲の客達はこぞって俺達を見る。

 

 これにはっと気づいた初霜ちゃんは「すみません!」と言って頭を下げた。一方の俺は軽くペコリと頭を下げた。

 

「まぁ、冗談はこの位にしておいて……で、具体的にはどういうご用件なんですか?」

 

「それは……その……まだ決めていないというか……」

 

 なるほど、先ずそこから出来ていなかったのか。

 

「初霜ちゃん、ところでなんでそれを今日という日まで考えてなかったんですか!?これじゃあ、プレゼントを準備するにしろ、何にしろ遅すぎじゃありませんかね!?」

 

「しょ、しょうがなかったんですよ!だって、計画をたてる度に段々胸がドキドキしてしまって、考えられなくなってしまうんですよ!!」

 

 いや、それで前日になって『さぁ、今から一から計画練りますよ〜』なんざ、できるか!!プレゼント買うにしろ、何にしろ時間がかかるじゃないかよ!

 

「はぁ、とりあえず考えてみる事にしましょう」

 

「はい」

 

 俺と初霜ちゃんはまず最初の地点へと話を戻す。

 

「まずだけど、雪原は何か家で欲しいものを言っていたりしなかったか?」

 

「……いえ、特には。雪原さんは何しろ私の事をずっと気にかけてて、話題というのも特には」

 

 まぁ、あいつは基本無欲だからな。一応、想像どおりだ。

 

 ただ……

 

「あいつの事だから基本気持ちが込もっていたら、何もらっても嬉しがると思いますよ」

 

「そうなんですか!?」

 

「はい」

 

 ま、俺はあいつにまともなプレゼント送らねぇからな。

 

 確か、去年はカーネーションの花束、その前はチューリップ一本、さらにその前はじゃがいもだった気がする。

 

 え、なんで花ばっかなんだって?

 

 そりゃあ、いじるためですけど?

 

 ドヤッ!

 

「でもでも、もしそれが他人の意に反していらない物をあげたら、と思うと」

 

 なるほど……確かに本人がいらないものをあげても、貰った本人がそれに気を遣って「ありがとう、嬉しいよ!」と言われても、嬉しくないよなぁ。

 

 俺は雪原にだけはそんなのお構いなしだけど。

 

「料理とかってできる?編み物とかもいいけど」

 

「ちょっと、そういうのはあまり……そういう類の物は姉さんや雪原さんがやってくれていましたから」

 

 それはまずいな。

 

 男性に喜ばれるプレゼントランキングが確か一位ぐらいにあったのが『女性の手作りの物』だった気がする。理由としては彼女の成長が見える、とか言う感じのだった。と言うか、このランキングに入っている彼女達は彼氏達にいつも料理とか編み物させてたのかな?

 

「……やっぱり、もう少し早く考えていればこんな事には……」

 

「初霜ちゃん……」

 

 ん?待て、そう言えば……。

 

 俺は頭の中でふと、ある事を思い出した。

 

 そして、閃いた。

 

「初霜ちゃん」

 

「なんでしょうか?」

 

「一つ、提案があるんだけどさぁ……」  




珍しく続くスタイルです


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17 ホワイトクリスマスができるのはせいぜい北海道かロシアぐらいじゃないかなぁ

絶対寒いです

 


 十二月二十五日、クリスマス。

 

 今日はサンタが子供達にプレゼントを「えっさほいさ」と言って届ける日ーー。

 

「いや、サンタは『えっさほいさ』って言わないですよ」

 

「右に同じく」

 

 俺の構想に村雨と涼風が口を挟む。

 

 まぁ、何がともあれ今日はクリスマス。いつもは家にいるのが恒例だが、今年はこの二人と隣町にある遊園地に来ている。

 

 一つ言っておくが、別に『リア充な感じを周りにアピールしたい』とか『ハーレム気分を味わいたい』という理由で来たわけではない。

 

 俺、ひいては俺達の目的は別にある。

 

 それは……

 

「雷雨君、来ました」

 

「やっとか」

 

 村雨の言葉を聞いた俺はその辺にあった叢へと隠れ、首に掛けてあった双眼鏡を使って見る。

 

 その視線の先に何があるかというと……

 

 

「初霜、急にどうしたの?遊園地に行きたいって」

 

「いえ、あの、近所の人に貰ったんですよ!遊園地のチケットを!」

 

「そ、そうなの」

 

「そうなんです!」

 

 二人は取り敢えず、遊園地の中へと入って行った。 

 

 

 

「行きましたよ、雷雨君」

 

「よし、行くぞ!お前ら」

 

 俺はそう息巻いて二人を連れて遊園地へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 さて、どうしてこうなったかと言うと、昨日俺が初霜ちゃんにある提案をしたからだ。

 

それは『遊園地に行ったら、どうですか?』というものだ。

 

 しかし、初霜ちゃんは

 

「雪原さんは了承しないと思います。と言うのも、雪原さん自身はお祖父さん、お婆さんにお小遣いを貰ってはいるのですが、私の家具とかを揃えるのにお金を使っちゃったようで、ほとんど持っていないようなんです。もちろん、私が払えばいいんですが……頑なに断るんですよ。『それは初霜ちゃんが欲しいものややりたい事ができた時に使いなさい』って。だから……」

 

 と言って、しょぼんとした様子でうつむいた。

 

 なるほど、言われてみればこの頃、『遊ぶ』と言っても雪原の家で『戦闘高』とか『大乱闘ボクサーエジソン』というゲームで遊んたり、公園で委員長達と一緒に『講義王』というカードゲームしかしていなかったような気がする。

 

 なるほど、そういう事なのか。

 

 しかし、一応こんな駄目になりそうな雰囲気になるのはこれまでの経験上(今日一日)により想定済みだ。

 

「実はね初霜ちゃん。家にね『遊園地特別招待券』って言うのがあるんだよ」

 

「招待券?」

 

 実感が分かっていないのか、ハテナマークが出そうな顔をしている。

 

「うん。実はその券があると対象の遊園地が無料で入れるという魔法のアイテムなんだよ!」

 

「えぇ、そうなんですか!?」

 

 うんうん、いいリアクションだね。お兄さん、わざわざやったかいがあったよ。

 

「だけど、困った事にこの券の期限は明日までなんだ」

 

「え、だったら、どうにかしないと!」

 

「そうそう、どうにかしないと行けないんだよなぁ」

 

 そう言うと、俺はちらっと初霜ちゃんを見る。初霜ちゃんはモジモジしながら何か言いたげにこちらを見てくる。

 

 俺はそこですかさず決め手となる言葉を吐く。

 

「良かったら、あげようか?」

 

……

 

…………

 

……………

 

 そして今に至るのだ。

 

 俺の提案を受け入れた初霜ちゃんは雪原と絶賛遊園地のアトラクション巡りをしている。そして、俺と村雨と涼風も二人を見つつも、アトラクションを楽しんでいる。

 

 ついでにだが、俺達は自腹で行ったのではない。

 

 これは初霜ちゃんには言っていないのだが、実は招待券は五人分あったのだ。そもそも、あの券は家の親父とお母さんが二年ぐらい前に知人から貰ったという代物でその中には五人分の招待券が入っていた。まぁ、何故五人分なのかは分からないが。それを先月辺りに海風が見つけて、俺に渡してきてくれたのだ。

 

 曰く『友達と一緒に行ったら、どうなんです』と。

 

 まさか、何気に受け取ったあの券にこんな使い方があるなんてな。いや〜、雪原と初霜ちゃんがイチャイチャしているのかどうかやっぱり気になっちゃうからな〜俺達。

 

 と言う訳で、俺は迷彩柄の服装と双眼鏡という格好をして、叢とかから尾行している。もちろんだが、村雨と涼風は流石に私服で一般の客達と一緒に遊んでいるような感じでしてもらっている。もし一緒にやったら絶対バレやすくなるし。

 

……

 

 俺は内心今すごい嬉しい。

  

 まさか初霜と一緒に遊園地に行くことになるなんて夢にも思わなかった。最初に誘われた時はびっくりして、「うん、分かった」というありきたりの返事しかできなかった。

 

 そして一時間後、ようやく実感が湧いてきて思わず頬を十回ぐらいつねったっけ。まぁ、夢かどうか確かめるとはいえ、もし仮にそれが夢だったら俺は泣くけどな。

 

 そんな訳で今遊園地に来ているわけなのだが、最初はどれに乗ればいいのだろうか?俺、なんだかんだで久しぶりに来たからな、遊園地。取り敢えず初霜の要望を聞いてみるとするか。

 

「初霜、何か乗りたい物とかはある?」

 

「いえ、特には雪原さんが選んでください」

 

「分かった」

 

 ふぅむ……これは困ったぞ。別に俺は乗りたい乗り物とかは……ん?なんだ、これ?『マーライオン』?

 

 ……なんか面白そうだなぁ。

 

……

 

「雷雨君、雪原さんと初霜ちゃんが『マーライオン』に」

 

「なに!?」

 

「おいおい、初っ端からすげぇ所に行くな、あいつ等」

 

 『マーライオン』……これを聞いたら、普通の人は温泉においてある物を思い浮かべるかもしれないが、それは違う。この遊園地での『マーライオン』は獅子の口から乗客が乗っているアトラクションがマーライオンのように吐いているように見えるからつけられた名前で、本当は八十度にも及ぶ急激な坂が初っ端からあるトラウマ度八のジェットコースターだ。

 

 ついでにトラウマ度とは、この遊園地により生まれるトラウマの大きさの事である。

 

「……どうする、二人とも。行くか?」

 

「私、行きます!」

 

「あたいも行くぜ!」

 

「よし!じゃあ、行くぞ!」

 

 俺は二人とともに雪原の後をつけていった。

 

……

 

…………

 

……………

 

「いやぁ、楽しかったなぁ!」

 

 俺と初霜はさっきから『マーライオン』についての感想を言い合っていた。

 

 俺の感想はと言うと、かなり急勾配なジェットコースターで、それによるドキドキ感などがあってとても楽しかった。

 

 そして、これはあくまで俺の希望なのだが、できるなら後ろ向きのやつにしてほしい。そうしたらか、もっと楽しめると思う、といった感じだ。 

 

「本当ですね、また乗りたいです!」

 

 初霜も同調して、こくりとうなずく。

 

 ただ、どうやら初霜の場合はあれをもう一個坂を追加すれば、さらに楽しくなるとのこと。

 

 俺はそれになるほど、と思い、心の中で納得する。

 

「さて、次はこれにするか!」

 

……

 

………

 

…………

 

「無事か、皆」

 

「……はい」

 

「なんとか」

 

 顔が青ざめているだろう顔色を出しながら俺達は会話をしている。雪原が選んだ『マーライオン』はその名に相応しくないぐらいの恐怖を俺達に与えることとなった。

 

 俺達は尾行している事などを忘れて絶叫していた。もう見つかる恐れなんて気にしないぐらいの恐怖だった。

 

「はぁ……もう絶対にあんな乗り物に乗らないぞ、あたいは」

 

 まぁ、そう言いたくなる気持ちは分かる。最初からあんな地獄のようなアトラクションに乗るのは確かにきつかった。

 

「雷雨君!」

 

 双眼鏡を使って雪原と初霜ちゃんを監視させていた村雨が俺のもとに駆けつける。買ってきたのであろうソフトクリームを左手に持って。

 

「初霜ちゃん達が『絶叫観覧車』に!」

 

「何!?」

 

「また、そんなんに乗るなんて……」

 

 『絶叫観覧車』。普通にガイドとかに書いてあるのには普通の観覧車と書かれている。だが、本当はそれは回る速度九十キロを超える恐ろしい乗り物だ。

 

 これのトラウマ度は七。さっきのよりかはマシな感じらしいが、やはりトラウマになる人は少なくないらしい。

 

「……行くか」

 

「「おー」」

 

 俺達はやる気のない声と共に乗り物の所へ行った。

 

……

 

………

 

「終わったな……」

 

「はい」

 

 俺と初霜はふらふらとよろめきながら歩く。

 

 簡単に言うと、俺達は酔った。乗り物酔いではない。景色を見ようとしたら、段々目がぐるぐるになって酔ってしまったのだ。

 

「やばいな……これ」

 

「はい、酔いました」

 

 スタッフさんや他の人達にぶつかりそうになりながら、俺と初霜は空いているベンチを目指して、歩いて行った。

 

……

 

………

 

「なんか楽だったな」

 

「あぁ」

 

「さっきのアトラクションが酷かったんですよ」

 

 平然と歩いていく俺達。言っておくが別に頭がおかしくなったのではない。ただ観覧車で恐がることが出来なかっただけだ。

 

 と言うのも、観覧車の中はあまり揺れないし、怖くなりそうになったのも、最初と最後ぐらい。これを怖がれるのは余程心臓が弱い人ぐらいだ。

 

「まぁ、何がともあれ、あんな思いをしなくて良かったです」

 

「本当だよなぁ」

 

 ハハハ、と笑う村雨と涼風だが目が笑っていない。二人がどれだけ「マーライオン」に恐怖したのかがよくわかる。それは俺も同じなのだが。  

 

「とりあえず、お昼にしようか。腹減ったし」

 

「そうですね」

 

「だな」

 

 こうして、俺らは一旦昼飯を食うために尾行を中止した。

 

……

 

………

 

…………

   

 この後も雪原と初霜の「絶叫アトラクション」をどんどん乗り、「楽しかった」だの「もうちょっと恐くしてほしい」という楽観的な物が口から出るのに対し、俺達はそれを尾行していく事でアトラクションにも乗り、地獄を体験した。

 

 あるときは涼風がものすごく揺れるメリーゴーランドに乗って酔ったり、村雨は知らない間に遊園地のデザートを全部平らげるし、俺はコーヒーカップに乗って紅茶を優雅に飲もうとして失敗するという散々な目にあった。

 

 おかげさまで俺達が家に帰ってきたときは涼風は俺に担がれ、俺はびしょ濡れになりながら帰ってきた。

 

 ついでにこのことを春雨に話すと、

 

「楽しそうですね!」

 

 と言った。

  




こんなにまで前話との間を空けて、尺の都合でこんな締まらない終わり方をしたな、とつくづく思います。



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18 人類最強の敵……その名はコタツ

コタツは最強



遅れてしまってすみません。色々とあって、この時期に出しました。申し訳ありません。


「おこたから出たくない」

 

 この言葉を言ったのは家の中で一番の引き籠もり、山風。感じ的にはハムスターのような小動物にある愛くるしさがある娘だ。

 

 エメラルドのように綺麗な翠色をしている髪に、それを束ねるためにある割と大きめなリボン。目は青色をしていて、本人自身は変に目立ちたがらず、大人しい性格である。もし、これだけ聞くならば、白露型としては珍しい常識人になった筈だ。

 

 ただ、悪いことはと言えば、大人しすぎる事である。それも大人しいという次元を通り越して、引き籠もりなのである。

 

 江風曰く、昔はまだマシだった、酷くなったのは俺の家に来てからとのこと。多分、今まで深海棲艦を相手にして忙しかったからお首に出なかったのだろう。だが、それが安息の地、すなわち俺の家に住めるようになったので、その引き籠もり癖が発動されたのだろう。

 

 今では、というか今以外は知らないのではあるが、立派な引きこもりだ。

 

 そんな彼女と俺は今、こたつに入ってQS4のゲームをしている。題名は『モンスター猟師5〜塩と胡椒を携えて〜』をやっている。ゲーム内容は沢山のモンスターを色んな武器を使って狩り、モンスターの肉を調理して一級品の料理を作る、という感じだ。ついでにこのゲームではバトル時も調理時も絶対一回は胡椒と塩を使わなければいけないというルール付きである。これは運営がタイトル詐欺と思わせないための苦肉の策だろう。

 

「やっぱし強いなぁ、ルシファーは」

 

「うん、強い」

 

「……山風、自分でそんな事を言ってるけど、敵の体力をほとんど削ったのはお前だからな」

 

 たった今、敵であるルシファーの体力はおおよそ八割は削れており、そのほとんどが山風が大根で斬りまくって与えたダメージだ。……おかしい。俺と山風は同じ五十レベで俺の武器はレベルマックスの星四の大砲で、あっちは星一レベル一の武器である大根を使っているのに、こうまで活躍の差が開けるなんて……解せぬ。

 

「なんで、俺と同じレベルなのにそこまで強いんだよ……」

 

「う〜ん……技術かな?」

 

 あからさまに俺の技術が下手であることは指摘する山風。だが、これは俺が下手ではなくて、山風が上手いだけなのだと、俺は気づいている。

 

 まぁ、それをこの場で言っちゃうのは何となく違う気がするので何もツッコまないでおく。

 

「これで……決める!」

 

 山風の一言ではっとなり、そっちの方向を見てみると、山風がとどめのいちげきを出していた。

 

「ちょっと待て、山風!」

 

 まずい……このままだと素材を全て取られてしまう!それだけは避けないと!

 

「山風、俺はまだレアアイテムであるルシファーの冠を入手したことがないんだ。もし、それがあったら取らないで残しておいてくれ!」

 

 山風の顔をちらっと見る。彼女の顔は何も変わっておらず、無表情。全く顔の筋肉や眉毛は微動だにせず、せめて動いているといえば瞬きぐらいな物だ。大体真剣モードに入った山風はあんな感じだ。

 

 画面の方に目を向けると、山風はがっつりルシファーからアイテムを入手していく。

 

「ヤメロォォォォォ!!」

 

 俺は全力でキャラクターにダッシュさせて、山風の元へと向かった。

 

……

 

………

 

……………

 

「まぁ、冗談でやっていたから取っていなかったんだけどね」

 

「嘘つけ……お前のあの目からして、本気だっただろうが」

 

 結局、俺は目的のアイテムを寸でのところで取ることに成功した。

 

 それにしても……山風は今こうやって「冗談冗談」と言っているが、多分あれはある程度本気だったと思う。もちろん、待っててくれていた事は理解できていたため、嘘ではないのだろうが、もし後ほんの少し遅れていたら取っていた可能性もなくはなかった。実際、アイテムを取ろうと、採取ボタンを押しかけていた。

 

 危なかった。危うく取られるところだった。

 

「ねぇ、雷雨」

 

「ん、どうした?」

 

「雷雨って料理とか作れるの?」

 

「え?何急に」

 

 山風がこたつで蕩けながら、俺に尋ねる。それにしても何処か猫のような気持ち良さそうな顔をしている。ロリコンの人なら一発でノックアウトされるぐらいだ。ロリコンではない俺でもかなりドキッとした。まぁ、このことを本人に言うと、無自覚になってやっているらしい。すごいな、あいつ。

 

「いや、パフェが食べたくなったから……」  

 

 山風はそう言って、上目遣いでこちらを見てくる。かわいい……こんな妹が俺は欲しかったなー。

 

「パフェはお姉ちゃん達に頼めば良いんじゃないかな?」

 

 俺は思った事を取りあえず、山風に言う。だって、時雨や海風は料理得意だし、他の子もやらないだけで別にできるだろう。だって、時雨と海風が居るし。

 

「たしかに、時雨姉さんと海風姉さんはすごいできるけど、白露姉さん達は……」

 

「あ」

 

 なるほど、確かに言われてみれば。うん、よくよく考えてみたら、そうだな。

 

 だって、白露や五月雨なんて色々とやらかしそうだし、夕立とかもなんかすげえモンが作られそうだ、唯一春雨は出来そうだけど、山風がこう言うんだからできないんだろうなぁ。

 

「まぁ、俺も軽くしか作れないけど、パフェは無理だな」

 

「そっかぁ、温かいパフェ、食べたかったなぁ」

 

 残念そうな顔をしているな、山風。可愛そうだけど……ん?

 

「山風」

 

「ん?」

 

「温かいパフェってなんだ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 なに、この『お前、なにいってんの?』っていう雰囲気。俺が悪いの?いや、おかしいだろ。だって、温かいパフェって、そんな物あるわけがない。

 

 もしかして、汁物系とかと(おもにおしることか)勘違いしているかもしれない。だって、甘くて、温かいわけだし。

 

「山風、それってどんなのだ?」

 

「どんなのって……クリームがかけてあって、イチゴが乗っているらしいんだけど」

 

 うわぁ、まじなやつだ……って、え?

 

「山風、『らしいんだけど』って……食べたことないの?」

 

 無言で山風は頷く。っていう事は誰かが山風に自身の体験とかを言ったって事か。誰が言ったんだろうか?

 

「山風、それを言ったのってーー」

 

 んん?ちょっと待て。そもそも普通に考えて、温かいパフェを食べたことのある奴なんていないはずだ。ということは……

 

「なぁ、それを言ったのってお前らの提督か?」

 

「……そうだけど?」

 

 やっぱりか、あのクソ親父〜〜!!流石だよ、本当に尊敬しちゃうよ!こんな純粋なニートにそんな嘘をつくなんて!今度あったら、豆でも投げつけてやる。

 

 そんな風に俺が親父に対し、怒っている最中に足音がリビングの方から聞こえてくる。リビングから、ということは……あいつか。

 

「雷雨、山風、今日の昼ご飯に何にするか希望ある?」

 

 白露型で一位二位を争う時雨だ。

 

 どうやら、エプロンをしていないあたり、まだ作りはじめても準備もしていないらしい。きっと何にするか迷っているのだろう。

 

「パフェが食べたい!」

 

 珍しく威勢のいい声で山風が声を上げる。ただ、パフェはあくまでデザート。時雨はこの発言に対し、苦い笑いをする。

 

「山風、それはデザートだから流石に駄目だよ」

 

「え〜……あっ、でも私の言うパフェはただのパフェじゃないよ」

 

 おいおい、まさか、俺は山風の発言をやめさせようと言葉を出しかけたが、間に合わなかった。

 

「温かいパフェだよ」

 

 言ってしまった。俺は困惑しているだろう時雨の方を見た。しかし、意外にも当の本人は困惑している顔色を一切出さないばかりか、笑ってさえいた。これにはこちらが驚いた。

 

「あははは、山風、それってさ提督が言ったんでしょう?」

 

 うん、と山風は頷く。時雨は「やっぱり」と言って、笑顔のまま、

 

「それ、嘘だよ」

 

「え、そうなの?」

 

 山風は目を丸くして、時雨を見る。

 

 時雨もそれに気づいて、山風に「そうだよ」と自身の意見をさらに肯定する。

 

「……残念」

 

 本人の言葉通り山風は悲しそうな顔をしている。余程食べたかったんだなぁ、温かいパフェ。

 

「そうだ」

 

 その時、時雨は何か閃いたらしい。台所に早歩きで向かっていく。

 

 何を思いついたのだろうか。

 

……

 

………

 

…………

 

「ご飯だよ、雷雨、山風」

 

 時雨の声に呼ばれて、俺と山風はあれから再びやり始めたゲームをやめて、ダイニングへと向かう。そこには既に白露型の面々がもう来ており、俺達待ちであった。

 

 これに関してはもうちょっとゲームを早くやめれば良かったかな、そしたら皆に待ってもらわなくても良かったのに、と思ったが白露のご飯早く食べたいオーラを前にして、そんな事はどうでもいいか、と思ってそんな考えはごみ収集車の中に捨てた。

 

 それにしても昼飯は何だろう、そう思って席に座り、机の方を見ると、そこにあったのはおしるこだった。どうやら出来て間もないらしく、ほかほかと湯気がたち、小豆の中の餅ももちもちの状態である。

 

「美味しそう」

 

 控え目な声ではあるが、嬉しそうだ。パフェではなかったが、これはこれで満足しているらしい。良かった。

 

 時雨には感謝しないとな。

 

 そう思うと共に俺はおしるこをすすり、温まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 後日、俺はお母さんに親父のエロ本の居場所をメールで知らせた。もちろん、あの件への復讐でだ。

 

 そして、親父のエロ本はすべて処分され、親父が悲鳴をあげたという。

 




山風は白露型でゲーム最強です。

 


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19バレンタインデーといえば、友チョコだよね、諸君

三月三日ーーひな祭りではなく、バレンタインデーのお話です。

季節外れ過ぎますね。


「頼む、雷雨!」  

 

「駄目だ、お前の意見は聞き入れられない」

 

「そこをなんとか!」

 

「無理なモンは無理だ、江風」

 

 江風の俺を全くもって受け入れない俺。こんな状況を見たら、俺が女性のお願いを断りまくる最低な奴に見えるかもしれない。だが、これには深い訳がある。

 

 そんな訳でこの話の原点に俺は一度戻ろうと思う。

 

 

……

 

………

 

 二月十三日。それは男の人は誰でも一回はチョコをもらえるんじゃないかと期待するバレンタインデーの前日。

 

 俺も当然、そんな期待をしてしまうお年頃だ。誰かから貰えるかな〜と思ってその日を過ごす。まぁ、貰えた経験ゼロだけど。あ〜、明日貰えるかな〜。

 

 そんな事を思いながら、部屋でごろごろしていると、誰かがノックしてくる音が聞こえてきた。

 

「いるか、雷雨?」

 

「いるが、何のようだ?」

 

「ちょっと話したいことがあるんだ」  

 

「わかった。入っていいぞ」

 

 ガチャ、とドアが開くとともに部屋に入ってきたのは意外な奴だった。

 

 そいつは個性的な白露型でも印象に残りやすい江風だった。

 

「珍しいな、お前が来るなんて」 

 

「まぁ……な」

 

 江風の喋り方が何故かいつもよりぎこちない。さては……

 

「また問題を起こしたのか、お前」  

 

「ち、違うんだ雷雨!」

 

 江風はあたふたしながら、俺の言葉を否定する。

 

 江風は見た目だけだと、とても美女ではある。実際、長い赤い髪の毛に、青色の目と、外国人のような見た目をしているため、見た目的にはヨーロッパらへんの貴族として居てもおかしくない。

 

 ただ、この見た目とは正反対に性格としては男っぽく、いつも近くにある駄菓子屋で少年達と遊んでいる。それだけならいい。だが、彼女はそれだけでは収まらない奴だった。

 

 なんと、彼女はその子達とおもちゃやお菓子なんかを賭けて遊んでいたりするのだ。これには流石に時雨や海風の鉄拳をくらわされていたが、それでも本人はやめない。そして、ついに恐れていたことがつい最近起きた。

 

 なんと、家に今までの借りを返せない、だから、どうにかしてほしい、と俺に訴える奴が出てきた。

 

 ん?なんで俺に訴えたのかって?

 

 そりゃあ、訴えてきたのが……

 

 江風だったからだけど?

 

 まぁ、とりあえずそれは置いとくとして、ともかく、こいつは白露型で問題を引き起こしやすい(大体は小二とのトラブル)奴なのである。ようは問題児だ。

 

 そして、今日も江風は何かやらかしたようだ。

 

「そんで、今度は何だ?」

 

「えぇと、それはその……」

 

 口ごもる江風。どうやら、前回と同じような事をまたしでかしたらしい。

 

 しょうがない奴だ。

 

「ほれ、今度は何をやらかした?別に怒りはしないから」

 

「本当か?」

 

 江風はようやく俺の顔を見てくれるようになった。

  

 そして、手を頭の後ろにやって、照れながらこう言った。

 

「実はさ、雷雨。お前に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女装してもらいたいんだ」

 

「は?」

 

 

……

 

………

 

 

 そして、今に至る。

 

 俺は江風の必死の説得を断りつづけている。だって、女装だよ?黒歴史確定物だよ?

 

 そんなのやるわけないじゃん。

 

「お願いだって、このままだと明日のバレンタインデーで姉さん達にチョコを渡せないんだよ〜!!」

 

「それだったら、誰かと一緒に作ればいいじゃないのか!?」

 

「無理だよ、時雨姉さんと海風姉さんも春雨姉さん達に一生懸命教えて、大変なのに俺も加わる訳にはいかないだろ」

 

「初霜ちゃんがいるじゃないか!」

 

「あいつは今頃想い人の為に告白の予行練習で忙しいんだよ!」

 

 なんでだよ!

 

「じゃあ、母さんに……」

 

「加賀さんは今遠くにいるんだよ!」

 

 そうか、でも電話が……しまった。母さん、機械音痴だから電話使えないんだ。それに父さんは元提督だから、最近あっちこっち何処かで講演をしていたりするから無理だ。

 

「そもそも、俺がチョコを作れるか分からないじゃないか」

 

「え?でも前に山風に『俺は料理に関しては普通にできるよ』って言っていたって俺は聞いたぞ!」

 

 山風ー!!

 

 というか……

 

「なんで、そもそも女装させようとするんだよ!別にやらなくてもいいだろ!?」

 

「でもよ〜、男の人にチョコを渡すイベントだからな、一応。それでよう……その男の人に手伝ってもらうのは……ちょっと」  

 

「なんで、そこで見栄を張るんだか」 

 

 そんなのにこだわるのであったら、もっと努力しろ、と思ってしまうが仕方がない。江風は変なところで発揮するプライドがあり、これが度々江風が問題を引き起こす原因にもなっている。

 

 まぁ、それは長くなるから置いておくとして。

 

「とにかく駄目は駄目だ。もう諦めて、海風達に教えて貰いに行け」

 

「そんな〜そこをなんとか〜!」

 

 哀願してくる江風。こんな美女が泣いてまでお願いされると、普通のお願いなら男性の誰でもその願いを叶えてあげるだろう。

 

 だが、『女装してくれ』という男にとって、これ以上ない屈辱を受ける願いは大体が拒むのは当然のことだ。

 

「まぁ、チョコ作り頑張れよ」

 

 江風の申し出を突っぱねて俺は部屋から出ようとドアへと早足で向かう。

 

 その時だった。

 

「江風〜、チョコ作りどう〜?時雨が心配して……ってなにしてんの?」

 

 白露がこっちに来た。恐らく、江風()の心配をしていてのことだろう。

 

 チャンス!

 

「実はな、白露。こいつがさ〜「姉さん!」」

 

 俺の話に横槍を入れてきた江風は勢いそのままずんずんと白露の元へと行く。白露はただそれに戸惑っている。 

 

「ど、どうしたの江風?」

 

「実はな姉さんゴニョゴニョ」

 

 江風は白露に何か耳打ちをしている。

 

 何だろう、凄い嫌な予感がする。

 

 俺は早足で部屋を出ようと扉の方へ行って外に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出れなかった。

 

「なぁ、白露」

 

「なに?」

 

「その手を離してくれないかな」

 

 白露が肘を掴んで離さない。

 

「嫌だよ、雷雨ここは諦めようよ」

 

 おい待て、てめぇ!

 

 何裏切ってんだよ!(味方にもなっていない)

 

「抵抗はやめなよ、雷雨」

 

「そうだぜ、雷雨」

 

「いやだよ、俺は!」

 

 くそ、二対一だとやっぱり分が悪いな!

 

 ここで誰か助けに来てくれると、助かるんだが……

 

 その時だった。

 

 ガチャ、と後ろにある扉が開く音がする。

 

「雷雨君、白露姉さんと江風見なか……なにしてるんですか?」

 

 入ってきたのはエプロン姿の村雨だった。どうやら、チョコを作っている最中にこちらに来たらしい。なんか申し訳ないな、なんか。それに引き換え、こいつらは……

 

「あ、姉さん!ちょうど良いところに!」

 

 江風は俺の元を離れ、村雨の元へと向かう。

 

「雷雨がよ〜、私のお願いを聞いてくれないんだよ〜!」

 

「へぇ〜、ついでにそれってどんなお願い事なんです?」

  

「いや、別に。ただ雷雨に女装してもらおうと思ってな」    

 

「へ?」

 

 江風の発言に村雨はぴたりと一切の動作を停止させる。まぁ、そうなるよな。

 

「なんで、なんでそうなるんですか!?姉さん何か言ってください!」

 

「私はチョコを貰えるからいいよ!」

 

 なんで……ちょっと待て。

 

「おい白露。俺は別にチョコを作るなんて言ってないぞ?」

 

「そりゃあ、そうだよ。だって江風が私に『雷雨を女装させたら、あいつから手作りチョコを貰おう』って」

 

 ほぅ、白露が珍しく乗って来るから何だと思ったら……そうかそうか、そういうことか。江風の奴、俺を女装させて、さらにチョコ作りをさせようとしていたなんてな。

 

 覚えてろよ……

 

「そ、そんなの駄目に……決まって……いるじゃないですか!」

 

「村雨、何で所々言葉が詰まるんだ!?」

 

「ほほぅ、そういう事か、そういう事でしたか」

 

 江風はニヤニヤと笑いながら赤面の村雨にそっと近づく。そして彼女に耳打ちする。

 

「姉さん、今をおいて雷雨の女装姿を見る機会は今後一生ないかもしれないぜ」

 

「でも、女装なんて……そんなのさせたら嫌われちゃうんじゃ」

 

「大丈夫だって。雷雨は優しいから、それぐらいの事気にしないよ」

 

 おい、聞こえてんぞ江風この野郎。それじゃ耳打ちする意味がないじゃねぇかよ。というか村雨。まさかだけど、そっちに行かないよね?お前は最近何故かは知らんがいい子になっているんだから、この場面で寝返ると、ちょっと厳しいんだよ。 

 

 ね、お願い寝返らないで(味方にはなっていない{二回目})  

 

「それに可愛い雷雨の顔を見ることができるかもしれないぜ」

 

「雷雨君、ちょっと私のお願いを聞いてくれませんか?」 

 

 ズイッと近づいて来る村雨。

 

 何だろう、凄い嫌な予感がする。

 

「女装してくだ『嫌だからな!』そう言わずに〜」

 

 ちょっと、村雨さん!?何処に引っ張っていくつもりなんですか!?

 

「もちろん私の部屋です!あ、もちろんですけどカーテン越しに雷雨君は着替えてくださいね?」

 

「なんで俺は行くことになっているんだ!俺は行かな……ちょっと待て、何お前ら後ろから俺を押していくんだ!やめろ、やめろ〜〜!!」

 

 

……

 

………

 

 バレンタインデー当日。

 

 俺は時雨達から貰ったチョコレートを部屋へと持って行っている。

 

 昨日は結局、俺の抵抗むなしく運命は変えられず、女装させられた。恥ずかしかったよ、ホントに。

 

 ただ、三人共中々ファッションとかには強かったため、中々可愛い少女になった。

 

 見た目的には母さんよりだが本人達曰く、雰囲気は涼風に似た感じらしい(まぁ、息子だからしょうがないけれども)。

 

 まぁ、そんな訳で俺もチョコを白露型全員に作って渡した日だった。

 

 ついでに、このことを雪原に話すと、

 

「俺は猫耳つけるだけで良かった〜」

 

 と言っていた。

 

 艦娘って、こんな奴しかいないのか!?

 

 




友チョコなんて僕はもらいませんでしたけどね。


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20 花より団子とはよく言うものだ

前回書きそびれましたが、UAが二万越えしました。皆様のおかげです。

何時もこんな駄文ですが、読んでくださって、感謝感激です。

……最終回ではありませんよ


「暇でち」

 

 ゴーヤが何かを訴えるような眼差しを俺に向けて言う。一方の俺も何もすることがないので、暇つぶしに縁側に出て、手紙をせっせと書いている。

 

「誰に書いているの?」

 

 隣にいるイムヤが訊く。

 

「遠くにいる兄さんに書いているんだよ」

 

「龍輝に兄さんがいるなんて、知らなかったのね!」

 

 外で野草の水やりをしているイクが意外そうな目でこっちを見た。まぁ、俺からすれば、イクのやっていること自体が驚きなのだが。

 

「龍輝の兄さんは何をやっているのね?」

 

「それ私も知りたい!」

 

「ゴーヤも!」

 

「そんなに人様の家族の事が知りたいのか……」

 

 皆がこっちに寄ってきて、話の催促をしてくる。俺はこれに少々戸惑っている。まさか、ここまでこいつらが俺の家族のことを知りたがっているなんて……

 

「学校の先生をしているって前にきたな」

 

「へぇ〜、じゃあ勉強が凄いできるのでちか!」

 

「いや、そうでもないと思うけど……」

 

 実際のところ、それは分からない。というのも、兄さんは俺とは五つ違いの兄弟で俺が生まれたときには、もう五歳。俺が十二歳の時にはもうこの島を出て都会へと行ってしまったのだ。かといって、その間の十二年間、兄さんと楽しい思い出を作ったこともない。だって、兄さんは何時だって、自分の部屋に引きこもってばかりなうえ何時も俺に邪魔だと言わんばかりの視線を向けてくるのだから。

 

 正直、兄さんがこの家を出ていった時は寂しさよりも安堵が大きかった気がする。

 

「ふーん、じゃあ龍輝も将来はお兄さんみたいに学校の先生に?」

 

「どうだろう……将来とか考えてないからなー」

 

 自分の人生が今後どうなるのか……そんなことこれまで考えた事もなかった。でも、確かに俺は将来何になるのだろうか?そもそも、この島を出ていくのだろうか?ふーむ……

 

「ウゥア〜〜!!」

 

「「「イク!?」」」

 

 何故かは知らないが、イクが急に大声で叫ぶ。これには俺のみならず、その場にいたゴーヤやイムヤ、そして偶然近くにいた木津さんもびっくりしてイクの方を見る。

 

「こんな暗い話はもうやめにするのね!」

 

「そこまで暗かった、この話!?」

 

「暗いよ!今の龍輝はクラスに一人はいるドヨ〜ン系男子になってるのね!」

 

 確かに、暗かったかもな。実際、俺も暗い気持ちにちょっとなっていたし……でも、イク最後の奴はどう考えても『クラスに一人は』は言いすぎだろ。

 

「まぁ、とにかくこの話はこれで終わり!というわけで何かして遊ぼー♪」

 

「実はそれ目的だったでちね」

 

「だな」

 

 うん、どうやらイクは遊びたくて遊びたくてたまらなかったらしい。とは言え、イクがこう言いだしたら、止まらないので何かあるか考えてみる。が、何も思い浮かばない。

 

「何かあるか、二人とも?」

 

 二人に策を求める。が、二人は首を傾げて、苦い顔をする。

 

 どうやら、何も思い浮かばないらしい。

 

 しかし言い出しっぺのイクはどうやら何かを思い浮かんだらしい。 

 

「何か思い浮かんでいるのか、イク?」 

 

「もちろんなのね!」

 

 フッフッと不敵な笑みを見せるイク。だが、何というか……うん、悪巧みではなさそうだ。

 

 

……

 

………

 

「到着〜♪」

 

 そう言ってイクが俺達を連れていったのはこの島で唯一あるお花見場だ。と言っても、これだけを聞いたら勘違いをする人が度々いるが、別に桜の木や紅葉の木は普通に道中で生えている。ただ、ゆっくりまったり桜の木の下にいるのがここだけだ。

 

「なんで、ここに連れてきたのでちか?」

 

 ゴーヤは首を傾げてイクに訊く。確かに上を見ると、確かに満開まではいっていないが、お花見するには十分なものである。でも、ここには全く人はいない。当たり前だ、多くの人は満開になってから、お花見をする。それこそ、テレビの桜の開花予想がない限り人はここでお花見なんてしない。

 

「そんなの簡単なのね」

 

 イクはそう言って、持っているシートを広げる。

 

 そして、そこにぺたんと正座をする。

 

「ここでお花見するのね!」

 

 

……

 

………

 

「ほら、弁当だぞー三人とも」

 

「それじゃあ、皆で食べよ!」

 

 俺は近くの弁当屋に昼ご飯を買いに行っていた。あそこの九十のおばあちゃんはよくわからないが、微笑ましい顔でこっちを見ている。

 

 そして、『あの娘達と仲良くね』と言った。まるで、ゴーヤ達のお母さんのようだ。それと、その時の俺はまるでおばあちゃんの娘を貰う婿みたいだった。

 

 複雑な気分だ。

 

「どうしたの?」

 

 ゴーヤが心配そうにこちらを見てくる。どうやら、心配させてしまったらしい。

 

「なんでもないよ。それじゃあ、皆食べようか」

 

「うん!」

 

 

……

 

………

 

 そこから俺達は貸し切り状態の桜の木の下で弁当を食べ、その後は遊んだりしました。子供のように無邪気に笑い、じゃんけんをして遊んでいるのを馬鹿らしいと思うかもしれません。それでですが、遊んでいると、時折春の風が俺達を通り過ぎていくのを感じました。

 

 もうすぐ、春がくる。俺はそう確信しました。

 

 ()()()、俺ももうすぐ高校三年生になります。受験生として多分、今後頑張っていく歳ですので、よかったら応援の手紙でも貰えたら幸いです。

 

 体にはお気をつけください。

 

 龍輝より

 




次から新学年に一応雷雨達がなります。いわば新学期編です。


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21 変人は変人と友になりやすく、まともな奴はまともな奴と友になりやすい。この事を『類は友を呼ぶ』という

アンケートを何の気なしに取ってみたら、かなりの方が参加してくれました。作者は驚くと同時にかなり嬉しかったです!

そんな訳で今回はアンケート通りの涼風回です。


 自転車に乗って、ぶ〜らりぶ〜らりと行くのは楽しい。しかも、それがお出かけ日和なら尚更だ。

 

「ここかな?」

 

 俺は広場の近くにある駐輪場に自転車をとめ、広場の入口付近へと行く。

 

 え、お前は今から何しに行くかって?

 

 そんなの大体分かるだろ。友達と待ち合わせ場所に行くんだよ。

 

 ん?それって雪原と?いや、違うよ。雪原じゃないけど。

 

 おい、なんだよ。その顔は!まさか、俺が雪原しか友達がいないんじゃないかって思ってんだろ?ちげぇよ、雪原合わせて二人だよ!

 

「……何してんだ、雷雨?」 

 

 おっと友達が来たようだ。

 

「あぁ、涼風。もう来たのか」

 

 

……

 

 俺と涼風は今微妙な雰囲気である。

 

 何故かーーそれは俺がスマホと喧嘩しているのを見てしまったからだろう。

 

 いや、別にあれだよ。俺は別にライトノベルとかで出てくるような能力とか使っていないよ。もちろん、持ってもいないけど……。俺はただ最近流行の『ワルモンGO』をしていただけだよ。

 

 え、なにそれ?……皆知らないのか。じゃあ、説明しよう。このゲームはプレイヤーがワルモンという奴を手に入れて最終的にワルモンリーグに行って、そこのチャンピオンを倒すというものだ。そして、その過程において数知れないワルモンを捕まえなくてはいけない。ところが、そのワルモンの捕まえ方がかなり大変なのだ。まず、ワルモンと遭遇すると、そいつはプレイヤーの外面の悪口をまず言う。

 例えば、『ブス』とか『目つき悪っ!』など。ただ、何故かはしらんが、俺の場合は『……死ね!』と言われる。なんだ、あの間は……。

 

「まぁ、さっきの件は水に流していこうぜ!あたいは何も見ていない、な?」

 

 涼風が苦笑いを浮かべて言う。

 

 まずい……涼風に気を遣わせてしまった。あの涼風に。

 

 涼風は白露型では一番下にいる娘、世に言う末っ子だ。彼女もまた他の姉妹にも負けず劣らず美人。特徴は深い青色の髪の毛を後ろではなく、前の方にリボンで縛るという中々独特な髪型をしていて、瞳は黄緑色に近い色、といった感じだ。

 

 だが、他の姉妹と決定的に違うのが、彼女自身の個性だ。通常、涼風を除くあそこら辺は皆、個性が強い。例えば黒髪のSは母性がかなりあるし、ツインテールMは本人自身は気づいていないだろうが、物事を自らが中心になって引っ張っていこうとする。

 

 というか、今更なんだがあいつらのイニシャルでSが多くないか?今数えてみたら、こいつ合わせて十人中四人いるぞ。流石にこれはダブリ過ぎる。こんなんじゃあ、あいつらのうちの誰かが予告状を出してイニシャルで名前を書かれたらさっぱりわからん。

 

 まぁ、それは置いておくとして。

 

 彼女は白露型で唯一のまともな性格とコスプレを趣味とする以外はこれといった特徴がない。

 

 コスプレも立派な個性だって?そうかもしれないけど、それを上回る位にはあいつら持っているんだよ。やばい個性を。

 

「おい、これからどうする?別にあたいは特に行くところがないけれど……」

 

「じゃあ、最近この辺でできた喫茶店に行こうぜ。かなりオシャレだから中々一人で行けなくてさ」

 

「いいぜ、じゃあ行こうか」

 

 

……

 

「お待たせいたしました。コーヒーブラックとアイスティーです」 

 

 店員さんは注文した品を机に置くと、さっと立ち去って、次の所へと行く。俺は机に置かれたブラックコーヒーを一口飲む。

 

 ここのコーヒーは中々おいしい。今日から常連になろうかな……。

 

「最近、あたいらと暮らしてどうだ、雷雨。楽しいか?」

 

 アイスティーを少し飲んだ涼風が俺にそう問う。

 

 コーヒーをまた口につけていたため、顔は見えない。しかし、それは俺とて同じ事。自分がどんな表情をしているか分からない。ただ、目の前にいる彼女を悲しませる顔ではないことは確かだ。

 

「涼風、急にどうした?そんな一人暮らしをしている娘を心配しているような感じに訊いてきて」

 

「いや、何。今ふと思いついただけさ。深い意味は特に。あと、なんで娘で例えるんだよ。お前、男だろ」

 

 カップを皿に置き、涼風を見る。しかし、彼女の顔は目をつぶってアイスティーを飲んでいるため、どのような表情をしているのか分からない。

 

「で、結局どうなんだ」 

 

「そうだな……」

 

 うーん、そうだなぁ。急にそう言われてもな〜。確かに五月蝿いし、俺に早起きを促してくるし、でも……

 

「楽しい、な。なんだかんだで」

 

「そうか、なら良かった」

 

 カチャリと涼風はカップを置いた。どうやら、話は終わりらしい。

 

「あ、そうだ。雷雨次に行くところなんだけどさ。私行きたい所が前々からあるのを忘れていたよ」

 

「へぇ、じゃあそこに行こうか」

 

「うん!」

 

 笑顔を浮かべる涼風。やっぱ、こうして見ると、姉妹と同じようにこいつも美人ちゃあ美人だよな。

 

 

…… 

 

「なぁ、涼風?」

 

「……」

 

「聞いてるか涼風?」

 

「……」

 

 俺の言葉に耳を傾けてくれない涼風。彼女は完全に自分の世界に引きこもっている。まさか、涼風がコスプレの衣装の店に行って早々こうなるなんて。誰が想像しただろうか。

 

 しかも、引きこもった理由が……

 

「よし、これかな」

 

 同じ帽子の柄の色が青色かそれよりちょっと薄い青色で迷っているからな。俺にはこの違いがイマイチ分からん。まぁ、ファッションセンスをあまり持っていない俺が言うのもなんだが。

 

 あっ、ちょっと薄い帽子を取った。

 

 

 

「次は衣装だな」

 

 そう言うと涼風は右端にある衣装コーナーへと向かって行った。

 

 そこには色んなジャンルの衣装がハンガーに掛けられてある。

 

 ハロウィンで使いそうなお化けのもの、映画に出てくるヒーロー達の衣装、アニメやドラマに出てくるキャラクターの衣装……果ては信号のコスプレ衣装もあった。最後のやつは果たしているのだろうか?

 

「雷雨、こっち来てくれ〜!」

 

 涼風が手を振って呼んでいる。これはまた悩んでいるんだな。

 

「この服とこの服どっちがいい?」

 

 涼風は持っている服二着を俺に見せてくる。

 

 右手にあるのはロックをしている人が着そうな黒ジャンパー。本人曰く、これは最近人気の漫画のキャラクターになるのに必要らしい。この人気漫画は俺も好きなのだが、確かにこんな服を着ているキャラクターはいた。たしか主人公の相棒で男装をしている女の子だったっけ。あのキャラクターは俺も好きだ。可愛いもん、あの娘。

 

 一方、左手に持っているのはフリフリのアイドルもの。本人曰く、最近テレビでやっているアニメのキャラクターが着ているものとそっくりな服なんだと。このアニメに関して俺は知らん。そのため可愛いのかどうかも分からん。残念だったな。

 

 ……俺は誰に喋っているのだろうか。

 

 

……

 

………

 

「重い〜」

 

 俺は涼風の買ったコスプレの衣装が詰まっている袋を持っている。かなり重い。

 

 涼風の奴……あれからかなりの量の服、髪留め、さらには劇にでも使われそうな小道具を買っていったのだ。

 

 もちろんだが、あの二択の内の一つの服である黒のジャンパーも入っている。やっぱり知っているキャラクターのコスプレの方が俺的にも盛り上がれる。まぁ、見る機会はないと思うけど。

 

「今日はありがとな。おかげさまで暫くは衣装に困らなくて済むよ」

 

 ヘヘッ、と鼻の下を指で擦る。

 

 ……やっぱり、こいつは憎めない奴だ。

 

「ふっ、良いってことよ。なにせ俺はお前の大事な、大事な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相棒もとい友達だからな!」

 

 この言葉に涼風は少しびっくりしたような顔をする。しかし、それも一瞬。

 

 彼女は高笑いして、嬉しそうに

 

「そうだな、あたいはお前の相棒かつ友達だからな!」

 

 と言った。 

 




次回は日常回ですかね。

というか、このお話に日常回じゃない話なんてありましたっけ?


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22 スマホゲームの大半にガチャがある

現実が忙しすぎて、かなり遅れました。


「出ない」

 

 雪原が絶望した顔で言う。

 

 彼は左手に持っているスマホの画面を下に向け、残った右手で顔を隠して泣いている。

 

 何故こうなったか、単刀直入に言おう。

 

 雪原が欲しかったゲームのキャラクターが出なかったからだ。

 

 あいつは今HGOという人気スマホゲームを去年からやっており、そこで本人の推しの限定キャラがガチャ内に出たとのこと。そのために先ほど、小手先の十連を引いた結果、大爆死してしまったらしい。

 

 可愛そうに。 

 

「ぐぬぬぬ、諦めてしまう他ないのか……!!」

 

「そうだな、諦めたら?」

 

「……なんか返しが適当過ぎないか、お前」

 

 え……そんな事を言われても。だって人事だし。俺関係ないし。

 

 

……

 

………

 

 数日後

 

 ピンポーン  

 

 部屋で一人チェスをしていると、下からインターホンの音が聞こえてきた。

 

「雷雨出てー」

 

「ほーい」

 

 下に降りて玄関のドアを開ける。

 

「はーい……え?」

 

 俺はドアを開けた先の状況に驚いた。

 

 そこには、顔に生気がなく、右手にスマホを持って倒れている雪原がいた。

 

「おい!大丈夫か!?」 

 

 うぅ、とうめき声をあげて隈だらけの目を開ける雪原。気がついたようだ。

 

「気がついたか!」

 

「すまない、やらかした」

 

「何を、何をやらかした?」

 

 もしかして、雪原は()()何か良からぬ事に関わったのだろうか? だったら助けなければ。

 

「……雷雨」

 

「なんだ?」

 

「……一つ頼みがある」

 

「なんだ?出来ることなら叶えてやる!」

 

「実は……」

 

 

……

 

「はぁ!?HGOのために二日完徹した!?」

 

「雷雨、うるさい!」

 

「……はい」

 

 雪原の衝撃発言に俺は驚き、大声をあげた(まぁ、その過程で時雨に叱られたが)。まさか、こんな近くにゲーム馬鹿がいるなんて。

 

 ほんとに呆れる。

 

「で、俺の家に何しに来たんだ?お前に出せるのはせいぜいきびだんごぐらいだけど」

 

「十分過ぎるだろ。寧ろ何であるんだよきびだんご」

 

 それはもちろん、これをあげて桃太郎の犬、猿、雉のように自分の家臣にするためだけど?

 

「おい、今恐ろしい事を考えていただろ、お前」

 

「考えていないさ、親友」 

 

「いや、お前が俺のことをそう呼ぶ時は大概ろくな事考えてないだろ!?」

 

 チッ、ばれたか。

 

「まぁ、それは置いておくとして、何のようだ?」

 

「あぁ、そうだ。雷雨、頼みがある」

 

「なんだ、馬鹿賢(ばかげん)

 

「おい、音読みになってんぞ。あと、漢字が何一つとしてあってねぇよ」

 

 すげぇ、俺のイメージしてた漢字までツッコミしやがった、こいつ。もう、ツッコミ仙人になれるんじゃないかなぁー。

 

「まぁ、それも置いといて。雷雨、知っているか?運って言うのは生まれながら持っている物って」

 

 知らないよ、初めて聞いたよ。

 

「そして、俺は気づいた!俺はそれを持っていないことを!」

 

 それも知らない。初耳だよ。

 

「ところで、お前の運はどれぐらいだ?」

 

「え?Dだけど?」

 

「A、B、C、D、Eで?」 

 

「あぁ」

 

 低いな、お前の運。普通より下なのかよ。

 

「そこで俺は思いついた!名案を!」

 

 ふーん、それはまた良かったですな。じゃあ、俺の出番はないな。

 

「ちょっと待て!」

 

 この場を去ろうとした俺を引き止めにかかる雪原。なんだよ、まだ何かあるのかよ。

 

「頼む、最後まで話を聞いてくれ!」

 

「嫌だもん、雷雨君は部屋で一人チェスをするもん!」

 

「テメェ、俺より酷いじゃねぇかよ!!」

 

 うるさい!俺の楽しみはもうこれしかないんだよ!邪魔しないでくれ!

 

 あと袖を引っ張るな。服が伸びる。

 

「本当に頼む!」

 

 とは言え、ここまでこいつが粘るのも珍しいな……。うん、親友の頼みだし、ここは……

 

「いいよ、で何がお望みなんだ?」

 

 雪原は嬉しそうな顔をして、その願い事を俺に述べた。

 

 

……

 

「雷雨……ってどうしたの、雪原君」

 

「あ、良いところに時雨」

 

 俺は台所にやってきた時雨に手を振る。一方の時雨はちらちらと雪原の方を見る。

 

 当たり前だ。何と言ったって、こいつ今落ち込みすぎて塞ぎこんでるからな。

 

 まったく……こんなの見られたら、俺が何か酷いことをこいつに向けてしたように見えるだろ。もちろん誤解だ。聞いてくれ、皆。

 

 あの時、俺はこいつにガチャをお前が引いてくれ、というお願いをされた。本人曰く、自分の運はそんなにないから、お前に引いてほしい、とのこと。勿論、断った。加えて自分で引け、とも言った。しかし、こいつはしつこく、粘っこくお願いされたから仕方なく十連だけ引くことにした。

 

 その結果、出た……あいつの欲しかったキャラクターと同じくらいのレアリティーのやつが。しかも、俺好みのキャラクターが。

 

 その瞬間のあいつは凄かった。「これじゃないんだよ〜!!」なんて言って悲しんでいた。

 

 『いや、それ人に引かせといて、それ?』と思ったが、可愛そうなので放っておくことにした。だって本気でしょげてたら言いにくいじゃん。

 

「まぁ、そういう訳なんだよ、時雨」

 

「なるほど……雪原君の自滅か。まぁ、雷雨に引かせたのは間違いだったね」

 

 この時、俺の心にピシッと何か亀裂が入る音がした。

 

「おい、時雨。お前だったら当てられたって言いたいのか?」

 

「え、そうだけど」

 

「無理無理、お前じゃ無理だよ。だって艦娘の中で一番運が良いのなら分かるよ。でも、所詮二番だろ?それじゃあ、当てられないよ」

 

「……へぇ〜、そう思っていたんだ。」

 

 時雨は負のオーラを撒き散らし始める。そのせいで近くにたまたま来ていた涼風が時雨のオーラにびびって逃げた。そして、それ以外の皆は……そもそも別の部屋にいたり、外出していたりするためこの騒動は知らない。皆、普段は思い思いにしたいことをしているからね。

 

「じゃあ、雷雨。そのキャラを僕が引いてあげようか。勿論、僕が引くのは雷雨と同じ回数だけ回す。もし、これで出たら暫くの間は雷雨のおやつをトルコアイスのオリーブオイルかけにするよ」

 

 うわぁ〜、俺のおやつが苦手な食べ物二つでぶっつぶされる!っていうか、何その美味しくなさそうな組み合わせ。

 

「……まぁ、それで良いさ」

 

「良し、じゃあ引くよ。白露型二番艦『時雨』出撃!」

 

 え、なにその決めぜりふ。初耳何ですけど。

 

 

……

 

「姉さん……そろそろ良いか……って、え?」

 

 涼風は俺達の雰囲気に驚いたことだろう。雪原と時雨のどんよりとした感じ、そして、彼等を慰める俺。ぱっと見たら、俺が二人に何か酷い事をしたような感じがあるだろう。

 

 しかし、それは誤解だ。この二人は自爆したのだ。

 

 雪原はさっき説明したのでおいて置くとして、どうして時雨がこんな感じになったかと言うと、さっきの件だ。

 

 時雨はあの後、ガチャを引いた。彼女は自信満々に引いたが、結果は……

 

 お見事、俺と同じ結果になった。

 

 時雨の場合は男か女かよく分からない僕っこを出した。

 

 

 まぁ、そんな光景を見た俺は吹き出して、思いっきり時雨を笑った。結果はまぁ、お察しの通り、時雨はガチで落ち込んだ。さっきから、「良い雨が降っているよ」とずっと言いつづけている。正直怖い。

 

「別に今日は天気が雨降ってないどころか、快晴じゃん」

 

 というツッコミはやめといた。何となく。

 

「どうしちまったんだ、姉さん!雷雨、お前が姉さんを?」

 

 いやいや、そんなサスペンスドラマの犯人を見るような目で見ないでくれ。罪悪感が何処からともなく来るから。

 

 

「涼風、それは違う!誤解しないでくれ!」

 

「いや、お前だろ!お前が姉さんをこんなのにしたんだろ!」 

 

 ぐぐ……それは半分正解だな。俺としてもあまり言い返せない。

 

「取り敢えず、姉さん達に知らせないと!」

 

「え?ちょっと待っ……涼風ーー!!」

 

 

 

……

 

「なるほど、そういう事だったのか……。だったら、もっと早く言ってほしかったなぁ〜。心配して損した」

 

「何が『損した』だよ!俺の方がその台詞を言いたいわ!」

 

 あのあと、俺は涼風を止めることができず、結果白露型全員(時雨を除く)が集まってしまう事態になった。本人達も最初こそは涼風が何か喚き散らしているなぁ、と思っていたらしいのだが、(涼風、お前は以前に何かしたのか)俺が時雨に何か酷いことをした、と涼風が訴えるのを聞いて皆駆けつけてきたのだ。

 

 そして、皆で「雷雨バーカ」「アホー」「雨男ーー!」と散々悪口を言われた。というか、最後のやつに関してはお前らも似たような感じだからな!その理屈だとお前ら雨女だからな!

 

「……ともあれどうするの?時雨姉さん」

 

「こんな状態だしな〜」

 

 本当に時雨は……。どんだけ自分の運を誇りに思っているんだよ。普通、そこまで落ち込まないよ。もうなんか魂抜けそうな感じでいらっしゃるけど。

 

「ねぇ、雷雨」

 

 ぐっと袖を掴んできた感触がしたので、振り向くとそこには山風がいた。何処かそわそわして落ち着かない様子だ。どうしたのだろう?

 

「これ、引いていいかな?」

 

 山風がそう言って指差したのは雪原のスマホだった。あぁ、山風はあいつのやっていたゲームのガチャを引きたいのか……。ん?ちょっと待てよ。

 

 そもそもこんな事になったのはそこに寝ている雪原(ばか)のせいだ。しかも、こいつは言ったじゃないか。『俺の欲しいキャラを当ててって』。時雨は時の流れに身を任せるしかないとしてこいつはまだ救いようがある(そんで早く帰ってくんないかなー。一人チェスができないし)。そして、ここで借りを作れば……うん、いざという時に助けてもらえるかもしれない。(主にその難題を押し付けたり押し付けたりしたりな。)

 

  石も白露型が十連引ける分はある。よし決めた。

 

「山風」

 

「ん?」

 

「引いていいぞ、代わりにこの娘を当てるんだぞ〜♪」

 

「うん、分かった」

 

 

 その後、時雨を除いた白露型全員に引かせた結果……

 

 

 雪原の欲しがっていたものは出た。

 

 しかし、代償は大きかった。それは白露型のsという娘が引いて出した直後、たまたま外で遊んでいた子供たちのボールがたまたまこっちに物凄い勢いで来て、たまたま開いた窓を通って、たまたまあいつの携帯電話をぶっこわしたのだ。

 

 俺達は青ざめた顔をして、壊れた携帯をじっと見るしかなかった。

 

 

 

 

 

 翌日、雪原にその旨を伝えると、あいつは干からびた米に進化した。

 

 

 なお、たまたまデータのバックアップはしていたため新しいスマホを買って、そこからのゼロから始める、なんて事はなかったそうです。

 




次からは新学期偏、別名新学年偏です。

どんな感じになるのかは全く考えていないわけでもありません。


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第二章 出会いは多ければ多いほど苦労はする
23 新しい先生と転校生は新鮮な感じがする


新学期の醍醐味の一つですね。


 俺は今必死になって叢に隠れている。

 

 ドキドキという心臓の音が嫌というほど聞こえてくる。そんな興奮状態の中俺は必死に見つからないよう必死に隠れる。鬼に見つからないように。見つからないように。必死に……

 

「見つけましたよ、雷雨君!」

 

 背後からくる声に振り向くと共に何かが抱きついてくる。

 

 そう彼女だ。

 

「由紀お姉ちゃんにまた見つかったー!!」

 

 悔しそうに俺は顔を引きつらせる。それに彼女、由紀お姉ちゃんはえっへんとして、

 

「ゆ……この由紀姉ちゃんに勝とうとは百年早いですよ!」

 

 と、自慢げにして、えっへんとする。

 

 彼女のその年下に対しても容赦のなさ、幼稚園児のような無邪気さがある。それでいて彼女の見た目は中学生ぐらい。しかも、可愛い。

 

 そんな由紀お姉ちゃんは夕方、わざわざ家にまでやってきて、遊んでくれる。

 

「帰りましょうか」

 

「うん!」

 

 俺は笑顔の由紀姉ちゃんと一緒に帰り道を行く。烏が自分勝手に鳴く中、由紀姉ちゃんがいつも身につけている双眼鏡はぶらぶらと楽しそうに動いていた。

 

ーー

 

 

ーーー

 

 

ーーーー

 

 

「おい、雷雨!」

 

「ん……」

 

 声のした方を見てみると、そこにいたのは何時もと何も変わらぬ雪原だった。

 

「なんだよ」

 

「なんだよじゃねぇよ、人が話をしている時に居眠りするなんて……お前って奴はほんと酷えょなぁ」

 

 やれやれと言わんばかりのため息を口から出す。

 

「で何よ?」

 

「はぁ、もう一回言うぜ。俺達の担任の予定だった武田先生が辞めさせられるらしい」

 

 ……まじで?

 

「あの先生の所業がついにバレたの?」

 

「バレたらしい」

 

 そうか。ついにあの先生も年貢の納め時になったのか。

 

 去年、今年と俺達の担任の先生で英語の先生の癖に授業はやらずに自主勉強ばかりさせてパチンコやりに行ったり、道徳とかの時間に早弁したりオヤツ食ったりしていたあの武田先生がついに辞めさせられたか……。

 

「それでさ、俺等のクラスに新しい先生が来るそうなんだ」

 

「それは本当の事ですかな、雪原君」

 

「本当だとも雷雨君」

 

 腕組みをして、神妙そうに話す俺と雪原。恐らく、こんな馬鹿な会話をしているのは俺達ぐらいだろう。

 

「だが、問題はそこじゃない」

 

「あぁ、そうだな」

 

 そうだな、親友。俺達が通じ合えるとするなら、次発する言葉はこうだ!

 

「「担任が美人の先生かどうかだな!」」

 

 よし、流石親友だ!

 

……

 

………

 

…………

 

 チャイムが鳴り、皆席につく。俺達は先生を迎え入れるための準備を一応している。と言っても、せいぜい『新任先生、ようこそ!』と書いてある程度だが。

 

 それにしてもどんな人が来るのだろうか。やっぱり真面目そうな男の先生だろうか、それとも超絶美人の人だろうか……。

 

 そう思うと、少しわくわくする。なんて言ったって今まで禿げ上がった五十代の駄目駄目おっさん先生だ。

 

 だから誰が来ても正直嬉しい。それは皆も同じことだろう。

 

(どんな先生が来るんだろう?)

 

 そう思っていると、廊下からコツコツという足音が近づいて来るのが分かった。

 

(来た!!)

 

 足音はその思いに答えるかのごとくにどんどんこっちに来ている。

 

 そして……

 

 ドアが開く。

 

 中に入ってきたのは教師としては珍しいツインテールの髪型をしており、髪の色は緑色に近く、見た目からして二十代前半の女性。顔はどことなく活発そうな顔をしていて、雰囲気的には体育の先生という感じの体育会系女性というのがなんとなく分かる。

 

 そして、美人だ。

 

 やはり美女先生だとモチベーションの違いが生まれる。美女先生だとモチベーションはいつも男子だけ高く、やる気の度合いも高くなる。 

 

 そして他クラスに自慢できる。

 

 以下の事からして、もう良いところしかない。よって、美女先生最高!!

 

「今日からこのクラスを担任する鶴見よ、よろしくね!」

 

 元気そうに目を輝やかせて、鶴見先生は言う。 

 

 あぁ、なんて可愛いのだろうか。まるで、少女マンガでよく見る目がキラキラ光っている主人公のようだ。

 

 そういえば、先生って二十代にしては若すぎるような気がする。見た目的には俺らと同じクラスにいてもおかしくはない歳だ。

 

 もしかして先生って若作りでもしているのだろうか。最近流行っている、化粧を上手に使って、シワとかそういうのをなくして美人に見せるってやつ。もしかしたら、そういうのでもやっているのかもしれない。

 

「じゃあ、これから一人ずつ皆さんに自己紹介をしてもらいたいと思います!ですので、一人ずつ黒板の前まで来て発表してね!」

 

 鶴見先生のこの一言で教室(主に男子生徒)が困惑した。

 

 だが、それはすぐに消え、やる気が男子生徒達の間で起きはじめる!今こそアピールチャンスだ。

 

 そう思った男子生徒達による戦いが始まった。

 

……

 

………

 

「出席番号一番、藍川 元貴です。趣味はマカロニサラダを作ることです!」

 

「出席番号九番、菊川 崇です。趣味は埴輪作りです!」

 

「出席番号十二番、撫子 智也です。趣味はウクレレを首振って演奏することです!」

 

「出席番号十五番、萩野 亮です。趣味はうみに潜って魚を取ることです!!」

 

 各々の男子達は各々趣味を先生に自慢する。だが、先生の顔はあまり良くない。というか表情から察するに引いてるね、あれ。

 

 いや、俺も正直引いてるよ。というか、こんな奴らがいたの俺も知らなかったから。

 

「次は雪原君」

 

「はい」

 

 雪原の番になった。こいつの次は俺なんだよなぁ。

 

 自己紹介の内容を考えないと。

 

「出席番号二十二番、雪原 冬樹です。趣味は……趣味は……」

 

 だけど、俺って趣味っていう趣味がないんだよなぁ。まぁ、適当にゲームと言っておけば良いか。

 

 でも、なんかそれだと今までの奴らと比べてインパクトがないんだよなぁ。

 

 まぁ、い「趣味は七並べです」え、雪原?

 

「へぇ、雪原君意外な趣味を持っているんだね〜」「人は見た目に寄らないよね」

 

「七並べ、先生も好きよ」

 

「そ、そうですか!」

 

 おい、嘘着くな!お前、トランプ全般俺に全敗して、しかも「俺、トランプ苦手なんだよなぁ」とか言ってたじゃないか!あの言葉は嘘だったのかよ!?

 

「それじゃあ、次ね。次は……」

 

 まずいまずい。このテンションのまま突き進んだら、「趣味は木馬に跨がって三回転です」とか言いそうで怖い!

 

 何とかして、落ち着かせてくれる時間を作らないと。

 

「吉谷雷雨……あれ、この名前って……」

 

 しかし、先生は何故か名簿をじっと見ていて、俺の名前を言わない。

 

 どうしたのだろう?そんなに俺の名前が変か?確かに雷雨っていう名前は中々不吉な名前ではありますけれど。

 

「確か……」

 

 そこで先生ははっと我に返ったのか慌てて俺達の方を見た。

 

 しかし、その時の先生の目は驚きの色を隠せていなかった。俺達クラスメイトはただ先生の行動を見ているしかなかった。

 

 ついでに自己紹介をこの後、したがあまり受けなかった。その次の奴はかなり好評だったけど。

 

 なんだよ趣味、草むしりって。

 




一応、新しい学年になっています。ですので、雷雨達、三年生です。

ただ、今回いまいち上に上がった感じがありませんでしたね。

自分、個人のイメージだと「担任被っちゃったけど、でもいなくなって代わりに新しい担任が俺達のところに来た!」って感じで書いたつもりでした。はい。

小説って難しい。



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24  運動は基本センスと体力

リアルが忙しくて、かなり遅れました。

一応、また普段のペースで投稿出来るとは思います。


「諸君、今日君らに集まってもらったのは他でもない!あのことだ」

 

「あのことっていうと……やはりあれですか」

 

「そう、あれだ」

 

「ついにやってきましたか」

 

「まぁ、この時期ですからね」

 

「いいか、今年こそあれに勝つのだ!」

 

「「「おー!!」」」

 

 

 

 

………

 

…………

 

「なぁ、雷雨」

 

「あぁ」

 

「それは正気で言っているのか?」

 

「もちろんだ、涼風」

 

「嘘じゃなくてか?」

 

「嘘じゃない、本当だ」

 

「いや、でもお前、これは……」

 

「なんだよ、涼風!そんなに可笑しいか!?俺が……

 

 

 逆上がり出来ないのはよぉ!!」

 

「いや、可笑しいだろ!ていうか、初めて見たわ、逆上がり出来ない奴!」

 

……

 

 一週間後、俺らの高校で体力テストがある。他の皆も恐らくあることだろう。

 

 俺らの高校でやるのは全部で九つの種目。

 

 ハンドボール、反復横飛び、長座たいぜん屈、ダンクシュート、シャトルラン、五十メートル走、長距離走、リフティング、そして逆上がり。

 

 いたって普通の高校の体力テストだ。

 

「いや、何処がだよ!?聞いたことないよ、そんなの!」

 

 あ〜、なんか俺、また心読まれてるな〜。なんでだろ。

 

 まぁ、それはいいとして……。

 

「そんなことないだろ?普通、逆上がりは高校までやるっていうのが定番なものじゃないですかねぇ」

 

「ねぇよ、そんな常識!お前は幼稚園から飛び級で来たのか!?」

 

 なん……だと。まさか、涼風の言っていることは正しいのか!?

 

「というか、お前。よくそんな恥ずかしい事で今までとやかく言われなかったな。寧ろ、すごいわ」

 

 え?

 

「そんな事ないだろ。高校の逆上がりは毎年何処かのクラスで一人できるかどうかだから、ばれるも何もないし」

 

「ごめん、聞いたあたいが馬鹿だったわ」

 

 何だろう……すごい俺、馬鹿にされた気がする。

 

「まぁ、取りあえずあたいに見せてみ。それによってあたいも教え方を変えるから」

 

 うーん……なんか腑に落ちないが、まぁ、やってみるか。

 

「じゃあ行くぞ!」

 

 俺は深呼吸をしてから前方にある鉄棒に狙いを定め、助走をつけ、そして……!

 

 ダッ、ブン……ドサッ

 

「惜しかったなー!!」

 

「何処がだよ!?」

 

 

 いや、惜しかっただろ、どう考えても!?

 

 だって後少しまで行って地面に落ちたんだから、そう言っていいだろ!

 

「なんかお前、不満そうな顔してるけど、そんな顔されてもあたいの考えは変わらないからな!」

 

「なんでだよ!?鉄棒を回りかけてただろ!?」

 

「いや、お前、初っ端で止まってたじゃねぇかよ!しかも、回る素振りは一つもなかったよ!」

 

 ぐ、そこまで酷かったのか、俺の運動神経。おかしいな、これでも一応、軍人になれるような訓練は受けていたんだけど……。

 

 運動神経、酷いのか、俺。

 

「落ち込むなぁ〜、そこまで言われると」

 

「まぁ、それは悪いと思うけど事実は事実だ。現状を受け止めろよ」

 

 そんな涼風の突っぱねるような口振りに俺は内心へこんだ。そして、この逆上がりの練習を後悔した。

 

「まぁ、手伝うよ。乗りかかった舟だ、普通の人が見ても文句なしの出来にしてやるよ」

 

「……涼風」

 

 やっぱり、お前は良いやつだな。

 

 だけどさ……せめて欲は隠すよう努力しような。

 

 さっきから、近くのデザート店をちらちら見るの分かってるよ、涼風さん。

 

 後で奢るから。

 

 

……

 

「まずは補助ありだ。私がお前の逆上がりを手伝ってやるから、お前は取りあえず全力でやれ。良いな?」

 

「あぁ、分かったよ」

 

 俺は涼風に同意した。

 

 すると、涼風は鉄棒の後ろへと行き、補助の構えを取ってくれた。

 

 彼女なりの補助の仕方だろう。

 

「準備オッケーだ!いつでも来い!」

 

 涼風の声に俺は決意を固めた。ここでやらなければ駄目になる気がする!具体的には、白露達に馬鹿にされまくった挙げ句、なんらかしらの意識違いで俺が恥をかくきがする!

 

 そうなったら社会的に死ぬ!!

 

「行くぞ!」

 

 助走をして、勢いをつけていく。

 

 そして俺は鉄棒を握りしめる。すると、すぐに涼風が補助に入ってくれたのが分かる。

 

 俺の視界は一回転した。しかし、それもほんの一瞬で終わった。俺の足が地面についたからだ。

 

 この時、俺は気づいた。自分が逆上がり出来たことに……。

 

「やった、出来たよ逆上がり!補助付きだけど!」

 

「そうだな、出来たな!補助付きだけど」

 

 イェーイ、と喜ぶ俺と涼風。パァン、とハイタッチを決めて、ほいほいほい、とそんな掛け声を掛けて、ハイタッチを続ける。

 

 逆上がりが決めた訳ではないのに、俺達のテンションはかなり高くなっている。

 

 決めた訳じゃないのに。

 

「じゃあ、本番だ!今度は補助無しでやろうぜ!」

 

「おう、任せろ!」

 

 晴れやかな笑顔を向ける涼風を背に、俺はもう一度逆上がりに挑戦する。

 

 今ならやれる、大丈夫だ。問題ない、だって今の俺なら何でもできるからな。

 

 何でも出来るんだぁぁぁ!!

 

 俺はその言葉を心で叫ぶと、俺は助走をつけ、鉄棒を握り、思いっきり地面を蹴り上げた!

 

 ブン……ドサッ……

 

 この時、俺の目に映ったのは鉄棒と、夕焼け色に染まった空の色だけだった。それはとてもとても美しかった。

 

 美しかっ「ただ、逆上がり失敗しただけなのに感傷に浸るんじゃねーー!!」

 

「というか、なんで元に戻んだよ!お前、結構補助付きだと大丈夫だだっただろ!」

 

「しょうがないだろ、いきなり補助をなくされたら無理なもんは無理なんだからよ!」

 

「大体、なんでお前は逆上がりで失敗の原因が鉄棒から落ちることなんだよ!普通、落ちるなんてことはないんだよ!どんな身体能力をしたら、落ちるなんてことになんだよ!」

 

「そんなの俺に言うなよ。そもそもお前らのように俺は身体能力良くないんだよ!」

 

「艦娘じゃなくても、そんなことにはなるかよ!っていうか、何だったらもう一回やってみろよ!そしたら出来るかもしれないからな」

 

「あぁ、いいぜ!やってやるよ!これで出来ない証明をここに打ち立ててやるよ!」

 

「いいよ、やってみろよ!絶対出来ると思うからな!」

 

「じゃあ、いくぜ涼風!」

 

「おう、やれよ!」

 

 俺は怒り心頭になりながら、俺は助走をつける。絶対に出来ない、と俺は思い、鉄棒を握り、地面を蹴り上げた。

 

 その時だった。

 

 俺は自分の体が回っているのに気づいた。

 

 一瞬だけだが、鮮やかな夕焼け色が目に映る。

 

 そこで俺は気づいた。

 

 俺、逆上がりが出来ている、と。

 

 

……

 

 この後、俺は涼風に件のデザート店でパフェを奢った。

 

 まさか出来ると思わなかった涼風は涙を流して、俺が逆上がりできたのを祝ってくれた。

 

 そして、俺は来るべき体力テストの日を待った。

 

 そして、当日……体力テストの日!

 

 俺の逆上がりを出来を見てもらえる機会は 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『繰り返します。台風十七号が列島を直撃し……』

 

 台風によって断たれた。

 

 こうして俺の努力は無へと帰したのであった。

 

 ついでに別の所だと、男二人が大声で喜んでいたのは後の話。



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25 今と昔、ヲタクの定義は変わっている

「お願いがあるんだ、雷雨」

 

「ん〜、なに〜?」

 

 夜二時、俺の部屋に涼風がやってきた。やっと宿題が終わり、寝ようとしていた、ちょうどその時だった。

 

 俺は眠る気しかないため、頭は早く眠りたい、という一点に思考は集中していた。

 

「まぁ、ちょっとした事なんだ。明日お前に手伝ってもらいたいたくてな」

 

「おー」

 

 ちょっとした事とは何か。そんな事を一瞬だけ思うも、やはり眠い、という考えしかない。

 

 いつの間にか右足が貧乏ゆすりをしていた。

 

「だからさ、お願い!明日、〇〇〇で〇〇してくれ!」

 

「いいよー」

 

「本当に!?」

 

「……うん」

 

「よし、じゃあ明日よろしくな〜♪」

 

 俺はその肝心の要件を聞き逃したにも関わらず、適当に了承してしまった。あまりの睡魔の前の事だったが、ちゃんと聞けば良かった、と思ってしまう。やってしまった事はしょうがない。そんな言葉があるが、それでもやはり後悔してしまうのが人間の本性。だから、間違いを何度でも犯す。

 

 俺は今まさに、そんな哲学的な思考を耽りながら、立っていた。

 

 

 

 

 

 

 コスプレをしながら。

 

ーー二時間前ーー

 

「おはよう、涼風」

 

「おはよう、雷雨。今日もいい天気だな〜♪」

 

 久々にけたたましいノックの音を聞いた。あぁ〜うるさかったなぁ、そして懐かしい。最近は普通に早く起きれるようになったからドアをノックされる事がまずなかったから、ちょっと耐性が無くなってたな。

 

 そして、そんなノックに出たら涼風がいた。正直、珍しいと思った。だが、涼風が笑顔でいたため、俺はぞっとした。俺は知っている。こういう感じで出迎えられる時は大抵、ろくでもない事が待っているということを。

 

 しかも、それを普段しない人間がすると余計にだ。

 

 俺は取りあえず自分の部屋に引きこもろうとドアを閉めようとした。

 

「おいおい、何逃げようとしてるんだ、雷雨?」

 

 しかし、俺の逃走パターンを読んでいた涼風はそれを艦娘の力で阻止する。詰んだな、これ。

 

「いや〜、ちょっとゲームの続きを」

 

「じゃあ、なんで見たところゲーム機が置いてないんだ?それに、この家にはテレビゲームはないんだが」

 

 くそ、逃げ道が!

 

「雷雨、別にあたいはお前に金をよこせとか、そういう無茶は言っていない。ただ、あたいはお前に手伝ってもらいたいだけなんだよ」

 

「つ、ついでに手伝いはどのようなもので」

 

 嫌な予感の的中を悟った俺はせめてその手伝いの要件だけでも聞こうと思い、そう訊いた。

 

 すると涼風は笑顔で振り返り、

 

「それは着いてからのお楽しみだな!楽しみにしとけよ!」

 

 と言った。

 

 言ってくれないんですね、はい。

 

……

 

………

 

 そして、俺はここにいる。

 

 ここと言っても、何処だよって感じだろう。

 

 じゃあ、言おう。

 

 ここはコミケだ。

 

 そして、俺は涼風の知り合いの店の手伝いをしている。

 

 いや、おかしいだろ。なんで俺は涼風の知り合いの手伝いをしているんだ?涼風本人ならまだしも、知り合いだぞ。断る理由がいくらでもあったじゃないか。

 

 と言っても、もう遅い、遅すぎた。

 

 もうすでに俺は……

 

「あの〜、良かったら写真を一枚撮らせてくださいませんか?」

 

「なにこれクオリティー高すぎじゃない!」

 

「だよね〜」

 

「決めポーズを取ってください!お願いします!」

 

 ついでに俺は何の格好をしているのか。そう、それは……

 

「すごい、そっくりだね。あの人」

 

「ほんとにクオリティーが高いよね。もしかして、それだけ好きなのかな弾奏少女シロップ」

 

 弾奏少女シロップの格好をしている。

 

 言っておくが、別にこれは俺の趣味でもないし、性癖でもない。

 

 これは涼風が俺用に作ったコスプレ衣装だ。そして、俺はこれを着てただ涼風の知り合いである秋雲とかいう娘の店番をしているだけ。

 

 そうそれだけだ。別にこれを好きで着ているわけではない。

 

 というか、そもそも弾奏少女シロップってなんだよ!?俺知らないよ、そんなもの!

 

 なんか涼風が、「弾奏少女シロップっていうのはなぁ、弾奏少女の中でのクールキャラなんだけど、それでいて、おっちょこちょいな一面があるドジッ娘の一面があって……(以下略)」

 

 とか言ってたけど結局、何のアニメなのか一つも分からなかった。

 

 まぁ、好きな物に関しては愛が強すぎて冷静でいられないことも多いしな。実際、俺もよく好きなことをやって、夢中になって周りが見えなくなるからね。

 

 え?お前の好きなことは大概碌な物がないって?よろしい戦争だ、覚悟しろ。

 

「おーい、何ぼーっとしているんだ?」

 

 声のしたところを見ると、手に大量の本やキーホルダー等々のヲタクグッズを抱えて歩いている涼風がそこにいた。なんか君、開き直っているよね。前までヲタクっていうのをひた隠してたのに、今やすっかり堂々と明かしている。

 

 面倒臭くなったのか?

 

「おいおい、なんだ?あたいを見ても何も生まれやしねぇぞ」

 

「あぁ、すまんすまん。お前を見ていると、なんか腹立つわ」

 

「ひどいな、お前」

 

 苦笑している涼風。怒らないのは、恐らく多少なりとも罪悪感を感じているからか。それとも、別に怒らない性格なのか……。

 

 まぁ、後者だろうけど、とにかくありがたい。どっかのオカンSや一番を夢見る少女Sとは大違い。あいつら、こういうのでも怒るから、本当に思うんだけど、あいつら心狭いよね!うん、俺そう思う!

 

「……なんか雷雨、お前今悪いこと考えていただろ?」

 

「いえ、そんなこと全く」

 

「ふーん」

 

 俺のことを信頼しない目で見てくる涼風。悪いが、そんな目をされても俺はポーカーフェイスを貫いて無視するだけだ。伊達に元ギャンブラーだぞ、こちとら。

 

 そんなことを思っていると、向こうから声が聞こえてきた。

 

 涼風と共に振り向くと、そこには涼風が言うには弾奏少女ソース……の格好をしている、ここの店のオーナーのオータムクラウドこと秋雲。

 

 彼女こそ俺が今の今までコスプレをさせられた元凶だ。というのも、彼女は自分が描いた同人誌を売るついでに、コスプレをするのがほんのちょっとした楽しみらしく、今回はそれで弾奏少女のコスプレをすることに決めたとのこと。しかし、弾奏少女は全部で五人、しかもそれぞれのキャラはキャラで色々と細かい設定があるらしく、それらのせいで一人ではできないとなったらしい。

 

 そこで秋雲は同じ鎮守府にいた涼風に応援を要請。涼風はもちろん、オッケーを軽々と出す。そして、二人なら困るでしょう、ということで俺を無理矢理(涼風は合意の上でとか言っているが、あれを俺は合意とは認めない)連れ出して三人でこうしてコスプレをしている訳だ。

 

「あの〜、俺さっさと帰りたいんですけど」

 

「え〜!まだその格好でいてよ!」

 

 こちらをもったいなさそうに見る秋雲。

 

 なんだよ、そんなに男の女装がお好みなのかよ!

 

「だって、似合っているよ!その衣装。本当に違和感がないぐらいにさぁ」

 

「そんな事言われても『はい、これから着用します』とはなりませんよ!ていうか、さっきから視線がすごくて……」

 

「あぁ、だって似合ってるもんな、その衣装」

 

 いや、だから似合ってるって言われても嬉しさなんて微塵もねぇよ。例え、似合ってるからって注目がこっちに集まるのも嫌なんだよ。

 

 はぁ、さっさと帰りたい。

 

「とにかく、あともう一時間だけ。一時間たてば、脱いで帰っていいから!ね?」

 

 そう言って、秋雲はこちらにお願いする。なんていうか必死さがすごい。どんだけ、帰って欲しくないんだよ!

 

 というか、そんな大声でお願いされると、周りの視線が凄くこっちに刺さる。

 

 まずい、早く止めないと!

 

「分かりましたよ!やりますから!」

 

「本当に!?」

 

 うわぁ、きらきらした目をこっちに向けて来る。なんか罠にはまった感じで複雑な気分だな〜。

 

「そうと決まれば……はいこれ!」

 

 そう言って渡された物は一つのプレート……ん?

 

「これって」

 

「あぁ、店番のプレートだよ!」

 

 それは分かる。プレート一面に『店番』て書いてますもんね。

 

 だけど、俺が聞きたいのはそういう事じゃなくて……。

 

「なんでこれを俺に『じゃ、そんな訳でよろしく〜♪』あ、ちょっと待て!」

 

 疾風のような速さでいなくなる秋雲。

 

 俺は察した。

 

 これは面倒なことを俺に押し付けたんだ、と。

 

「どうしよう、涼風。こんなの渡されたんだけ……ど」

 

 振り向くと、さっきからそこにいた涼風がいない。

 

 ん、あれ?なんで居ないんだ?トイレか?

 

 いやさっきから声が聞こえないしなぁ……。

 

 あれ、ひょっとして俺……。

 

「面倒臭い事全部押し付けられた?」

 

 俺はそんな独り言をぽつりと呟いた。

 

 レジなんて今までやったことないから分からないんだけど。

 

 まず、どのボタン押すかも分からないんですけど。

 

 どうしよう、どうしよう!

 

 いや、あの二人を捕まえて無理にでも連れて帰れば!

 

「そうと決まれば……!」

 

 そう決心し、俺は正面を向く。

 

 そして、俺は見た。店の前で今か今かと商品を買おうとする客達の姿を。そして、それがかなりの数いることを。

 

 俺は声にこそ出さなかったが、心の中で叫び声を上げた。




今年の夏休みにコミケ行ったんですけど、あんまり艦これのコスプレをしている人がいなかったのが、個人的に意外でした。

そして、唯一コミケで見たのが雪風のコスプレでした。

なんか意外……。

まぁ、個人的には全然よかったですけど(見た時六十パーセントぐらいテンション上がった男の台詞)。


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26  後々、振り返らなくても良いことはある

お久しぶりです。

正直、最近忙しくて中々書くのも厳しい状況の中投稿しました。

ですので、次いつ投稿するかはまだ未定ですので、そこはご理解いただけますよう宜しくお願いします。


「暇だ~」

 

「そうだね〜」

 

「ですね〜」

 

 ソファで寝転がりながら、ぼーっと天井を見ながら俺、雷雨は白露と春雨と一緒に言う。

 

 今日は土曜日。学校が無いという天国を噛み締める事が出来るこの一日(ひととき)を大切にしたいところ。

 

 というわけで、俺はだらけている。一つ言っておくが、これは来週の学校に備えて充電しているだけだ。くれぐれもだらけたいから、とか休日だから何もしたくない、という理由ではない。断じて、それはありえない。

 

 それにしても……。

 

「あ〜だらけるって最高!」

 

「本当にね〜」

 

「そうですね〜」

 

 いや〜、やっぱり休日はだらけるに限るね、うんそう!

 

 もう、この場から一歩も動きたくないよ〜。

 

 そう、こここそが俺達の聖域だ!

 

「ぽいぽ〜い!」

 

 バァンと音を扉を思いっきり開けて、入ってくる聞いたことのある声の主。俺達は突然の出来事に驚いて、起き上がった。

 

 音がした方向を振り向いてみると、そこにいたのは……

 

「事件が起こったぽぉ〜い!」

 

 シャーロック・ホームズのような探偵服を着、一丁前に右手に虫眼鏡を持っている夕立がいた。夕立の顔からは何故か自信に満ちあふれ、目はキラキラとさせている。

 

 というか、その前に事件ってなんだよ。

 

「事件ってなんです?」

 

 俺の疑問を春雨は代弁してくれて訊く。

 

 夕立は流暢に語る。

 

「フッフ〜ン♪そのままの意味だっぽい」

 

 そして、夕立は俺達一人一人の顔を見ると、

 

「実は、この中に昨日の内に時雨の大事なドーナッツを食べた者がいるっぽい!」

 

 推理小説だと、ここら辺で雷の一つは落ちるのだろうが、あいにく今日は快晴。そんな事は起きない。

 

 それにしても、時雨のドーナッツ?あいつ、いつのまにドーナッツ買ってるんだよ。

 

「ねぇねぇ夕立」

 

 隣で白露が手を挙げて疑問を投げる。夕立はぽい、とだけ言って先生さながらに当てる。

 

「そもそもなんで私達の中なの?別に私達以外にもいるでしょ」

 

「いやぁ、それがね」

 

 どや顔を決めて人差し指を立てる夕立。何だろう、なんかムカつくけど。

 

「被害者の時雨が言うにはその日、家に居たのは今の白露達だけだって言っていたぽい。他の皆は買い物に行ったり、ゲームセンターとかに遊びに行ったりと色んな所に行って居なかったということだっぽい」

 

 なるほど、それなら確かに俺達が疑われるのはしょうがないことだな。それにしても、俺達の誰かが犯人ねぇ……。

 

「それじゃあ犯人探しに移るぽい!まずは白露だっぽい」

 

 白露に向け夕立は指を指す。その時に右指で指そうとするも、虫眼鏡を持っていることを忘れていたらしく、虫眼鏡をちょっと落としそうになっていた事には触れないでおこう。

 

 白露は一瞬だけ目を丸くするも、すぐに察したらしく理解の声を上げる。

 

「私はその日、自分の部屋でくつろいでいたよ。テレビでも見てね」

 

「何を見ていたっぽい?」

 

 おい、そこ必要かよ。

 

「確か……『青の境界』を見てたよ」

 

 お前も答えるな。

 

「あぁ、『青の境界』って面白いですよね〜」

 

「そうそう特に主役のキャラクターがいいっぽい!」

 

 おい、混ざるな迷探偵!事件をほったらかしにしてテレビの話をするな!

 

「それで春雨は?」

 

「えぇ……と確か……そう、私は絵を描いていました」

 

「絵?春雨って絵を描くのか?」

 

「は、はい。たまに気が向いたらではあるんですけれどね」

 

 へぇ、春雨が絵ねぇ……かわいい絵でも描くのだろうか。今度見せてもらおうかな。

 

「じゃあ、最後は雷雨だっぽい!」

 

 あー、俺の番になったか……確か……

 

「僕が時雨のケーキを食べた僕が時雨のケーキを食べた僕が時雨のケーキを食べた僕が時雨のケーキを食べた」

 

 そう、僕が……って。

 

「おい、洗脳して俺を犯人に仕立てんじゃねぇ!」

 

 危ない危ない……あやうく犯人になりかけ……おい、今舌打ちしただろ。夕立、なに俺から目を逸らしているんだよ。おい、こっち見ろ探偵。

 

「こほん……とりあえず、これで被疑者の証言は終わりだっぽい」

 

「あの〜」

 

 春雨は手を挙げる。どうやら訊きたいことがあるらしい。素直に手を挙げて質問しようとする春雨、君はなんて素直な娘なんだ!

 

 俺がお父さんがだったら絶対泣いてたわ。純粋過ぎてもう泣きたくなるわ。

 

「ん、なにっぽい?」

 

「百を承知で言うんですけど……まさか夕立姉さんが犯人だったってないですよね」

 

 しん、と静まりかえる。

 

 そんなのないっぽい、とすぐに言うが、しかし俺達はその可能性が十分にありえると考えている。夕立は頭の良さは姉妹の中でも頭が悪い……ということではない。それどころかこの白露型の中だったら割と頭の良さは運動神経並にいい。

 

 だが一つ欠点があるとするなら、こいつは頭がいい馬鹿だ。馬鹿だって言ったら語弊が生まれるだろうから今から訳を話す。夕立は白露型の中で一位二位を争うぐらい記憶力がない。いや、記憶しようとしない。自分の興味あることに関しては物凄い覚える癖にちょっとでも興味が無かったら、その日にあった出来事のほとんどは明日になったら忘れている。そのために彼女は同じ失敗を何回やりまくり、その度に時雨や海風に怒られるのは日常茶飯事だ。

 

 そして今回、俺達の頭の中にあるのは夕立が無意識のうち、もしくは記憶にないところでドーナッツを食ったという説だ。正直ありえないとは思うが、ありそうでもあるのは夕立だからだ。 

 

「まさか、それはありえないっぽいよ!夕立はそんなお馬鹿さんじゃないよ」

 

「そ、そうですよね」

 

 ちらりと春雨がこちらを見る。安心しろ春雨、君の言いたいことは正しいから。

 

「とにかく、この中に犯人はいるっぽい!さぁ今なら遅くないっぽい犯人よ、今のうちに自供するのが身のためぽい!」

 

 夕立は天を指差し言いきったというどや顔を決める。それは確かに探偵が繰り出す王手。そこに付け入る隙がない。

 

 ……ん?いや待てよ。

 

「なぁ夕立」

 

「なに?今いいところなんだけど」

 

「探偵って普通ここら辺で推理の一つ二つかっこよく言うんじゃなかったっけ?」

 

「「「……」」」

 

 辺りはしんと静まり返る。

 

 春雨と白露はただ黙る。だが、夕立はこの言葉を聞いて急にあたふたし始めた。

 

 やっぱり……そうだと思ったよ。

 

「夕立、お前」

 

 言葉を言い終わらないうちに夕立は顔をこちらから反らせる。

 

「何にも考えずにおもしろ半分で設定作っただけだろ。」

 

 なおも夕立は振り向かない。

 

 白露は顔を背けて声を殺して笑い、春雨は諦めの表情をしている。

 

 俺はきっとゲスな顔をしているのだろうが構わずに畳みかける。

 

「まさかだけど、そんなおもしろ半分でよくそんなに俺達を疑ったなぁ?」

 

 夕立の横顔から汗が一筋流れている。

 

 思った通りだ。あの春雨の問いの時に夕立は一瞬だけ何も言わなかった。本当に食べていなかったら、すぐにでも答えていてもおかしくない質問。それをこいつは躊躇った。つまり、食べたのは夕立。そして、この問答はそのことを時雨にばれないようにするための裏工作。恐らく、時雨に「犯人はこの夕立にお任せっぽい!」とでも言ったのだろう。後は適当に時間稼ぎ、とでも思ったのだろうが甘い甘い。

 

 このまま夕立にはとっとと自供してもらって俺は自由を手に入れるんだ!(だらけたいんだ!)

 

「あ、夕立!いたいた」

 

 そんな折、ちょうど時雨がやってきた。彼女は袋を持ってこちらに向かって来る。

 

「夕立、ドーナッツの件なんだけどさ」

 

 夕立に近づいて来る時雨。やはり時雨はドーナッツを食べた犯人について聞くつもりなのだろう。

 

「あれ食べたの、夕立だよね?」

 

 夕立の額から汗がさらに流れる。どうやら時雨は犯人が誰かについてはとっくのとうに気づいていたようだ。

 

「……怒ってるぽい?」

 

 心配そうな声で訊く夕立。

 

 

 時雨は……

 

 

「いや怒ってないけど」

 

「え?」

 

「まぁ僕も皆の分も買わなかったりしたし、ちゃんと言わなかったからね。僕にも非はあるよ。だから別に気にしなくていいよ。それに……」

 

 そう言って袋から何かを取り出した。

 

「ジャーン!新商品のプリン!これを食べるしね♪」

 

 そういうと、時雨は上機嫌で夕立の横を通りすぎて言った。

 

 俺達はただ立ちすくんだ。嵐は通りすぎるどころか消滅してしまった。

 

 ただ、なんにもなくて拍子抜けに終わった。

 

 少しして夕立は不敵な笑みを浮かべると、こちらに顔を向けて、

 

「全てが夕立の推理考え通りっぽい!」

 

「「「嘘つけ(つくな)(つかないでください)!」」」

 

 俺達三人はこのポンコツ探偵に家中に響くぐらいのツッコミをした。

 

 

 

 




あとUAが気づいたら三万を越えました。誠にありがとうございます。

今後とも、お読みいただけたら作者としても幸いです。

作者も作者で精進を続けますので。

では。


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27 先生は基本個性的

やっと出来ました


 二年前ーー

 

 

 私達、艦娘は深海凄艦と熾烈な戦いを繰り広げていた。少なくない犠牲、敗北を積み重ねての戦い。

 

 しかし、それでもめげずに戦い続けた価値は後の反撃のチャンスに大いに使われ、そしてことごとくが身を結んだ。今では深海凄艦の占拠していた海域の九割を取り返し、深海凄艦の大規模攻勢を退けるまでに至った。

 

 深海凄艦の終わりはもう間近。次の決定打で終わるのは誰の目にも明らかだった。

 

 そして、その日は来た。

 

 大本営による血眼の捜索により深海凄艦の本拠地が分かったのだ。

 

 大本営は直ちに全ての鎮守府に通達。選りすぐりの艦娘達を厳選して迎え撃つように指示した。

 

 

 一方、その頃私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひま〜」

 

 自室で暇を持て余していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 戦争が終焉に近づくにつれ、鎮守府は忙しくなる。工廠の明石や夕張組も徹夜で艦娘達の装備を点検し、できる限りの改良をしている。私達のあほ提督でさえも度重なる上からの書類をいつもの倍はこなしつつ、最終決戦の作戦を昼夜考えている。

 

 

 しかし、私のような出番のない者はそんな中で暇を謳歌している。なんだったら、私は今のんびりと煎餅をかじっているところだ。

 

 前にはこんなことがあるとは考えられなかったし、寧ろなりたいと思ったことはなくもない。だけど、なってみたら思いの外なにも感じない。

 

 むしろなにも考えずにぐうたらする日々。ニートとはこういう感じなのか、とか思いながら。

 

 そんな私に比べて、翔鶴姉はというと……部屋に篭って将来に向けての勉強をしている。

 

 曰く『弁護士になるための』勉強とのこと。おそらく、昼にやっていたドラマに影響されたのだろう。よく食堂でやっているのを何回か見た。

 

 私的にはいまいちだったのだが、翔鶴姉は初回から食い入るように見ていた。そう考えると翔鶴姉が弁護士に憧れるのも無理はないかもしれない。

 

 だけど、そのせいで翔鶴姉と一緒にいる時間はほとんどないのも事実。

 

 

 

 さらに私にとっての悪いことは続く。最近、出番がないのだ。

 

 これは私(少なくとも私や翔鶴姉以外の艦娘も)が暇人になった原因だ。この鎮守府には、かの六人衆がいる。深海凄艦も恐れ、支援艦隊がいないにも関わらず最高難度の海域一つを解放した化け物級の彼女達が。だから私のような中途半端な強さを持つものに出番が与えられないのは当然だ。むしろ、あるのがおかしい。

 

 翔鶴姉もその事を自覚し自分の夢に精進している。もちろん私には阻止する権利は与えられていない。

 

 むしろなにも考えていない私の方がおかしいのだ。

 

 将来やりたいことなんて私にはない。今まで一人の艦娘として頑張ってきて、いきなり未来のことなんて考えられるわけがない。

 

「あ〜!どうすれば〜〜!!」

 

 地団駄を踏んでもしょうがないのはよくわかっている。けれど、そういう気分なのだからしょうがない。

 

 

 

 

 

「ねぇ、見た?『十年B組銅八先生』」

 

「見た見た。まさかあんな展開になるなんてね」

 

 私の部屋の側を通り過ぎてゆく艦娘二人。楽しそうに話している様に思わず嫉妬の感情がでてくる。

 

 

 あ〜、もう私らしくない!そうだ、さっき聞いたドラマを見たら心が晴れるだろう。

 

 そう思い、外に出た。

 

 

 

 

……

 

………

 

 

 

「なるほど、その後に見たドラマの影響で先生になる決心をした、と」

 

「そういうことですね」

 

 私、鶴見瑞の話に先輩はゆっくりと頷いた。一年先輩の彼は、この学校の美術の先生で年齢は最年少の二十三。目鼻立ちがよく身体もすらっとしている典型的な二枚目。性格もよく新人の私に色々と教えてくれるいい人だ。

 

 ただ……

 

「自分ならそんな事できないな……楽して艦娘の道に止まりつづけますね俺なら」

 

 コーヒーを一すずりして、ため息混じりに言う。

 

 二枚目だが、目つきの鋭さや、ため息混じの発言が多々あるせいで怖い人だと思われやすい。かくいう私も彼に怯えたのは一度や二度ではない。

 

 この人と仲良くなるなんてありえない、と思ったのは記憶に新しい。

 

「たしかに……ですね。けど、あっちに居続けたところでですよ。私みたいな人は他にもいましたし」

 

 そう、結局はそこなのだ。艦娘として居続けるのもありだった。現に空母や軽空母の艦娘も何人かは軍に残っている。だけど、この職業の素晴らしさに気づいてしまった。提督に進路の話を持ち掛けられた時には頭のなかにその選択肢は消えていた。

 

「そういうもんなんですかね」

 

 ふぅん、とそっけなく返事をする。ただ雰囲気的にはなんとなく察してもらえたらしい。

 

「そろそろ業務に戻りましょう。一ヶ月後に控えている中間テストに向けて頑張らないと」

 

 めんどくさいですがね、と付け足して彼は机に向かう。

 

 私もそれに倣い机に向かおうとした。

 

 そんな折、ふと彼の机が目に入る。書類や自身が担当する美術の授業の教科書が氾濫しているお世辞にも綺麗と言えない机。そんな中に一通の便箋があるのを見つけた。

 

 それはどうやら学校側の書類……というよりかは誰かからの手紙?

 

「あの柳原先生」

 

「はいなんでしょう」

 

 不機嫌な声音で彼は答える。

 

「それは誰からのお便りですか?もしかして生徒の親御さんから」

 

「クレームではありませんよ。断じて」

 

 ……違うのか。

 

「じゃあ誰から」

 

「……他に候補思い浮かばかったんですか」

 

 本日二度目のため息。

 

 だけど、さっきよりは声量は大きくないから、そこまで機嫌を損ねていないみたいだ。

 

「弟からですよ。実家にいる」

 

 その瞬間、思わず驚きの声を上げてしまった。

 

え、弟?この人に?

 

「意外ですか、そんなに」

 

「い、いえ別に……ただいるとは思わなくて」

 

「意外に思ってるじゃないですか」

 

 あ、しまった。

 

 私は慌てて謝辞の言葉を述べる。しかし当の本人は気にしていないです、と一言だけ入れて、

 

『まぁ、隠す努力はしてくださいね』

 

 と言った。

 

 それにしても、柳原先生の弟か……。

 

 一体どんな人だろう。やっぱり兄同様に弟も相当の変人だろうか。

 

 そんな風に思いつつ改めて便箋を見てみる。

 

 宛名には柳原先生の故郷である土地の名と弟の性格を伺わせる綺麗な文字があった。

 

 

 

 




なんかこの話の瑞鶴めっちゃ大人びてますね。


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