ハイスクールD×D ~タイコの戦士、異世界に現る~ (アゲイン)
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転生したらしい……意味がわからん

どうもお久しぶりです、アゲインでございます。
本当に久々の投稿となりますが、内容は以前から練っていたものをある程度形にできたためとりあえず短編形式としてお送りする所存です。
リアルで色々ありまして、景気つけの意味も込めての作品ですのでどうか応援していただけると嬉しいです。
それでは、今作の素材。


ハイスクールD×Dとパタポンのごった煮。


全六話、原作が始まる前のほんの序章でございます。


 自分の人生というものにおいて、まさかの出来事が起こる確率というのはどれくらいだろうか。

 

 事故?

 宝くじ?

 運命の出会い?

 

 まあ、どれもがあり得る、というくらいには普通なんだと自分を評価している。

 0パーセント、ということはないだろうと、そう思っている。

 

 

 ―――それでも、それでもだ。

 

 

 どんなことでも起きるまでは0パーセントじゃないと、俺の父親は言っていたが、それでも絶対にそれはあり得ないということが存在しているはずである。

 

 例えば俺が神様になる、そんなことは想像の世界でしかあり得ないわけである。

 例えばドラゴンが目の前に現れる、とか。これもまた、現実に起こり得るはずがない。

 つまりは0パーセント、コンマ1以下よりも少なくむしろ不可能というような可能性の果てに存在している。

 

 普通な自分を自覚している俺にとって、こういう常識的な範囲で不可能とされるものに対してだけは、あり得るかもなんて微塵も考えていなかったのである。

 だからだろうか、

 

 

 

 ―――ゲームの途中に意識がなくなって、目が覚めたら全く見に覚えのないところに横たわっていたのに、ああ夢なんだなと納得してしまったのは。

 

 

 

△  △

  

 

 

 結論から言おう。

 俺は何故か、子供になっていた。

 特に何らかの兆候があったわけでもないので、首を捻るばかりであったのだが周りを見渡す中で徐々にだが記憶のようなものが浮かんでくるのを感じた。

 その記憶によるならば、俺は今五歳の男の子であるらしい。

 どうにもそれまではぼんやりとした感じの子供だったようで、恐らく自我の芽生えによってようやく「俺」としての意識が甦ったようなのだ。

 それからベッドの上でうんうん唸る俺を見つけた両親と思われる二人の大人に心配されつつも、この世界での自分としての振る舞いを見せることで安心させるのだった。

 

 

 

△  △

 

 

 

 何の因果か転生を果たした俺こと、現在「旗本 奏平」を名乗っている五歳児。

 保育園での生活は中々精神を削られたが、目立つことは避けようと努力した結果大人しい子としてそれなりの認識をされるようになった。

 それを利用して、現在色々と考えを巡らしている最中である。

 本を読むふりをしながら、どうしてこうなったのか、何様のせいなのかを考える。

 以前読んだことのある神様転生という奴だろうか、しかしそれだとその時の記憶があるはずである。しかしそんなことはなく、意味不明なまま至って普通の毎日を送っている。

 

 では別の誰かの思惑があるのか、何様のつもりだろうか、善意であるならお世話様である。

 益体もないことを考えつつ、できれば平和なままの人生を送っていきたいなぁと願うばかりであった。

 

 

 

△  △

 

 

 

 無難に生きようとしたのだが、どうやらそれは無理らしい。

 

 保育園を卒園し、小学生となった俺なのだがどうやらここらへんから結構無理な感じなのをひしひしと理解していた。

 精神年齢が高くなり、幼稚な悪意が芽吹きだす年頃である。それまで大人しい奴として通してきた弊害か、たびたびクラスの奴等にちょっかいを掛けられるようになってきたのである。

 

 バカなことしかしないこいつらと付き合うのは個人的な感情が許さず距離を置いていたのだが、奴等はそれが気に入らないのか俺に何か反応をさせようとチャチな悪戯を仕掛けてくるのである。

 それに反応せずにいたら、今度は直接的な手段できたので困ってしまい、そこでまた対応を間違えてしまったものだから大変なことになってしまった。

 

 というのも、よせばよかったのだが、担任に対してどうにかしてくれないかと訴えてしまったのだ。

 数の違いもあったからそうしてしまったのだが、チクリ野郎だとか卑怯者とかいう、この時期にありがちな逆恨みのような感情を買ってしまいクラスからハブられることとなってしまった。

 

 まあ、だがこれはこれで丁度よかったかもしれない。

 元々反りが合わなかったのだ、無視をしてくれるというならそれなりの行動をさせてもらおう。

 こうして俺は前世の知識を使い、それなりの成績を維持しつつ一人の時間を満喫するようになった。

 ……だがこれも、判断としてはあまりいいものではなかったらしい。調子に載った俺は、この後取り返しの着かないことを仕出かしてしまうのだった。

 

 

 

△  △

 

 

 

 しくじった。俺はそう素直に思った。

 

 小学校での出来事から、一人の時間が増えた俺は探検と称して街を見回ることを繰り返していた。

 一通り範囲内を見終わった俺は、次の目標として学校の裏手に位置する山へと足を運ぶことにしたのである。

 色々と噂のあるところらしく、地元でも恐れられている場所であったのだが全く人の手が入っていないわけではないので俺はあまり気にしていなかった。

 今日はそこにある寺に行ってみたのだが、これがまあ、悪かった。

 

 年期の入った石階段を登り、辿り着いた寺の雰囲気にしばし飲まれていたところ、不意に何かが飛ぶような音が聞こえてきたのである。

 鳥か何かかと思い周囲を見回し、その不気味な様子に何か不味いことが起こっていると感じた俺は一刻も早くこの場所から逃げなければならない。そう判断し猛然と来た道を走れば―――

 

 

 「―――勘のいい、だが未熟に過ぎる」

 

 

 逃げ道を断ち切るようにして、それまでどこにもいなかったはずの誰かがそこに立っていた。

 声から男であることは分かったが、それが人かと問われれば否と答えるしかなく。

 僅かな知識によるならば、その存在が着ているのは修道者や山伏といった者が着ているそれで。

 しかし―――

 

 

 「―――俺の姿は見慣れぬか、であれば素質のあるだけの童であったか」

 

 

 ―――しかし、その相貌はどうみても烏のそれであり。

 

 

「―――では名乗ろう。我が名は蒼天、鞍馬山よりこの地へ来た烏天狗なり。小僧、お前には我らをして無視できん力が眠っておる。制御できねば災いがお前を襲うであろう。

 どうだ、戯れだが身を守る術を教えてやろう。お前が思っているほど、この世界は安全でもなければ優しくないのだからな」

 

 

 ―――その背中からは、黒々とした漆黒のような翼が生えていた。

 

 まさかが起こるのはいつだってわからない。起こるまで0パーセント以下であったはずのそれが、目の前で百になってしまった。

 幻想が実体を持ち、意思ある者として俺に問う。

 認めよう、そうであってほしくなくて考えていなかった可能性。足を踏み外したのはこれで二回目だというのなら、もうこれは逃れられない運命なのだ。

 

 

 ―――この世界は、どうやら人じゃないヒトたちがいるらしい。そして自分はその世界へ一歩、足を踏み入れてしまったようだ。

 ああ、どうしてこうなった。




読了ありがとうございました。
感想など大募集しておりますのでよろしくお願いいたします。
評価、ブクマも御一考!


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修行ということらしい……まさかがまたも

第二話、修行編。
ここら辺はさくさくいきます。


 鞍馬天狗の蒼天と名乗る妖怪と出会った転生者こと旗本ジュニア、小学二年生の夏をかの地にて過ごしている。

 そう、俺だ。

 夏休みという青春の代名詞という期間だが、驚くなかれ現在絶賛鍛練中である。

 

 あの後、拒否を許さない鋭い眼光に射ぬかれた俺がどうこうできようはずもなく、宿っているかも怪しい自分の力とやらを制御するための修行を始めることとなり既に一年以上の時間が経過している。

 小学校に上がってから速攻でヤベー事態に巻き込まれた俺にとっては二度目の夏休み。去年は精神的な鍛練が多かったためまだ何とかなっていたのだが、俺の人格及び精神が異常なところを見抜かれたことで早々に肉体の鍛練に移ったものだからやんなっちゃうよね。

 

 こうして平和と自由を奪われた俺は、渋々とだが力とやらの制御のために日々修行を重ねていたのである。

 

 

 

△  △

 

 

 

 小学三年生。

 魔力の扱いができるようになる。

 防壁の構築だとかを身に付けるために毎日のように火炎の礫を投げ付けられた。

 死にそうで死なない感じがヤバかった。

 

 

 

△  △

 

 

 

 小学四年生。

 基礎的な武器の扱いを学びだした。

 木刀から始まり、槍、弓と一通りの距離で扱えるものを身に付けるためらしい。

 魔力によってそれなりの身体能力を発揮できるのだが、そもそも体がいうことを聞いてくれないために中々難しいものだ。

 毎日が全力である。余力などない。

 

 

 

△  △

 

 

 

 小学五年生。

 クラスでのいじめ問題は解決していないものの、それが逆に俺がまだ人間であることを証明してくれているのがなんだか皮肉に感じるこの頃。

 

 心、技、体。

 この三つを主軸とした鍛練もそれなりの進展を見せ、正直ここまで強くなれるのか、という驚きが大きく戸惑うばかりである。

 しかし、俺が抱えるという力についてはあまり理解が進んでいない。

 何というか、蒼天師匠が言うには俺の力というのは魔力とはまたチャンネルが違うらしい。

 種類の違う力にはそれぞれ違ったアプローチが必要なのだが、それがまた特殊なようで一向に発現する様子がない。

 

 まあそんなこんなで今まで通り鍛練を続けているのだが、どこかのタイミングで遠征を行うことを計画していたのだが、ここで何やら不穏な噂を耳にするようになる。

 いささか不安になるもので、俺たちの隣の地域で連続殺人が起こったようなのだ。

 これだけならまだ警察仕事しろやとと宣うだけなのだが、どうにも師匠がそのことを気にしているのがそこはかとなく不味い気がしてならない。

 

 そんな不安を断ち切るようにしてなおさら修行で身を鍛えることを続ける日々。

 年月の流れは凄まじいまでに早く、もうすぐそこに小学生六度の夏が来ようとしていた。

 

 

 

△  △

 

 

 

 小学六年生。という肩書きも今日までのこと。

 桜舞い開く頃合いとなり、俺は無事この学校を卒業する。

 ……いや、これは嘘だ。

 これは卒業が、ということではない。寧ろ成績ならほぼトップといっていい。いじめなんて物ともしない圧倒的な成績だ。

 ……そう、無事に卒業、というところが嘘である。

 今にして思えばあれがフラグだった、そうとしか思えないほどに今の俺はグラついている。

 

 俺が五年生のころ、連続殺人が起こっていた。

 注意換気などを各所で行い、一人では帰らないようにというように言い聞かされていた。

 まあ天狗の弟子である俺には修行のために行方を眩ます術を学んでいたためにそこら辺誤魔化しが効いていたから結構はぐれてたんだがな。

 その日も修行に明け暮れていたのだが、急な天候の悪化のせいで早めに切り上げることになった。

 いつもより早い帰宅に意気揚々としていた俺は、家のインターホンを押そうとして顔を上げ、

 

 

 

 ―――ノブに着いた赤い液体によって、呼吸と思考が凍りついた。

 

 

 

 匂いで分かる、これは「血」だと。

 よく扉を見れば若干開いている、中からは更に濃い匂いが漂ってくる。

 息をすることがこんなに難しいことだったかと思うほど、自分の呼吸が五月蝿く耳を叩く。

 恐る恐る扉を開ければ、そこには想像だってしたくないモノが横たわっていた。

 

 

 ―――それからのことは記憶が薄い。後で現場に来てくれたらしい師匠に聞いた内容でどうなったかを何とか理解できた。

 

 まず、母親が亡くなった。

 家で一人だったところを襲われたらしく、入り口で犯人を出迎えようとしたかのように争った後すらなかったようだ。

 

 そして父親。

 母が亡くなったことを警察から知らされた父は会社を早退、車に乗って急いで帰ろうとしていたところを信号無視のダンプカーに吹き飛ばされた。

 即死だと、一目みてそう分かるような死に方だったらしい。

 

 

 

 ……両親の死に、俺はかつてないほどに衰弱した。

 葬式は母親の方の親類がやってくれたようだが、俺は心が折れないようにするのに必死で二人にお別れを言うまでが精一杯だった。

 とても優しい両親だった。

 俺みたいなおかしい子供、普通なら嫌うはずだが二人はそんなことなくいつも暖かく見守ってくれていた。

 自慢の親だった、だからこそ悔しかった。

 守れたかもしれないのだ、あの時俺がもっと早く帰っていれば、母は死なず父は焦りながらも事故にあうようなことはなかったはずである。

 三度目のまさかは、俺の中の0パーセントを最悪の形で覆ってしまったようだった。

 

 何のための力だと、自分に問いかける。

 ひたすらに自分のためだけに培ってきた力は、自分の望む未来を導くことができなかった。

 そんな力しか持たない俺が、死んでしまった両親のためになにができるというのか。

 千々に乱れる感情、後悔、虚しさ、愛情、そして大きすぎる怒り。

 自分から幸福を奪った存在に対する憎悪に近い怒りの感情、制御のできないそれはいつの間にか俺の体をある場所へと走らせていた。

 

 

 

△  △ 

 

 

 

 月や星が分厚い雲に隠され、夜の闇が濃くそこにある。

 空間そのものが生物の存在を拒絶しているような深夜の山、ひっそりと佇むように、何も変わらない寺がそこにあった。

 

 

「……来たか」

 

 ここに来たのはほぼ無意識であったが、それを見越していたかのようにその存在はいた。

 闇に溶け込むように、寧ろ浮き上がるようにして漆黒を身に纏うこの存在は、今の俺のとって唯一の活路を知っているはず。

 

「……知ってることを聞かせてくれ。あんたは何かを知ってるはずだ」

「聞いてどうする」

「仇を討つ」

「何故にだ」

 

 理由だと、そんなことは決まっている。

 

「……俺で最後にするからだ」

「……」

 

 睨み付けるように、いっそそれで目の前の存在を圧倒することができればと願いすら込めて、烏天狗という異形を視界に納める。

 

「怒りはある、大いにある。だがそれだけじゃない。ようやく俺が力を持ったことの理由が分かったからだ」

「使命か」

「そうだ。俺に、俺が力を持ったことに理由があるのなら、それは今まさにこの時だからと理解したからだ。

 師匠、俺は自分の運命に打ち勝ちたい。悲劇のままで終われるわけにはいかないんだよ、これ以上悲劇を広げちゃいけないんだよ。断ち切るなら今しかないんだ、だからここで終わらす。

 

 ―――だから師匠、俺を戦士として認めてほしい」

 

 師匠との鍛練を続けるなかで、あることを聞いていた。

 武術、魔力の扱いをある程度まで納めたと師匠が認めたとき、力の全てに責任を負う覚悟をもって一人の戦士として認めるということを。

 小学生を卒業するまでは認めることはない、そして師匠の許しなく勝手に力を振るうことを禁ずる。

 そう言われていた、しかし、もう待ってはいられない。

 

「……お前の親の死には、我にも僅かではあるが責任がある。お前が我に仇討ちを望むなら、叶えてやろうと思っていた。

 戯れとはいえお前は我が弟子、しかし理解しているか。お前が仇を討とうとしている敵は、お前を殺すことに何の躊躇もないのだということを。それは今までお前に向けてきた幼稚な殺意とはまるで異なる、真の悪意と対峙することなのだと」

 

 

 

「―――望むところだ、俺の怒りはそれを遥かに勝ってる」

「―――いい啖呵だ、死地に挑むに相応しい」

 

 

 ―――それではこれを試練としよう、見事乗り越え真の戦士となってみせよ。

 

 バサリと師匠の両翼が広がって、体を捕まれた次の瞬間には空を飛んでいた。

 目を開ければ街の明かりが夜空のようで、上下が逆になっていることを理解した。

 向かう先は停止された工場の跡地。

 

 

 ―――待っていろ殺人鬼、今からお前を終わらしてやる。



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決戦ということらしい……お前を殺す

第三話、物語が大きく動くとき。
主人公が戦う理由を作るための話です。


 殺人鬼によって崩されてしまった日常、その落とし前をつけるべく廃工場へと俺たちは来ていた。

 師匠の協力によって空を高速移動した俺は、その大きな見かけによらず柔らかな着陸を成した翼に興味をそそらせつつも、どことなく違和感を覚える工場を見据えていた。

 

「分かるか」

「うん。これ人払いだわ」

 

 違和感の正体は思った通り、魔術的なものの力によって人の意識を向けさせないような結界が張り巡らされていた。

 これによって今まで捜査の手を逃れていたのだろう、そしてその正体もまた、いくらか見当がつくというものだ。

 

「……これが師匠の言ってた違和感か」

「そのようだ、しかもこれはまた拙いものだ。人間相手であれば効果を発揮するが我らのように知識のある者から見れば逆に気付かれる」

「で、こんなことをするようなゲス野郎に心当たりは?」

「個人的にはそこまでおらんが、種族的にいうのなら鬼であろう。が、ある時から我ら妖も居場所を追われている。「聖書」とかいう奴等の、それも悪魔の仕業であろう」

 

 廃工場の中にいるだろう奴に向けて睨みを利かせながら、その正体について語る師匠。

 しかし……悪魔か。そうか悪魔か。

 

「ぶち殺す」

「まあ待て、素手でやるつもりか」

 

 悪魔であるならば情けなど要らないだろう。後悔という後悔を全てさせてからこの世から消し去ってやる。

 そう覚悟を決める俺の猛りを宥めるようにして、師匠は俺に得物を差し出してきた。

 

「お前の武器だ、渡すのはもう少し後になるはずだったのだがな」

 

 そういってどこからともなく取り出してきたのは、小学生の俺でも扱えるような小降りな太刀であった。

 シンプルな作りのそれは蒼天の漆黒のイメージとよく合い、手に持てば自然と馴染むような感覚がした。

 

「我がまだ師と共にあった頃、予備として持っていたものだ。整備は欠かさずしておるでな、よく斬れるであろうよ」

 

 抜いてみろ、というので遠慮なくその刀身を抜き放った。

 

「ほう……」

「どうだ、これならば仇討ちにも相応しかろう」

 

 鞘の作りと変わらない、実直な刀身。

 刀身に波紋のない、遊びを廃した直刀の小太刀。

 大人であれば後ろ腰にでも抱えてそうなそれは、今の俺にとってこれ以上ないくらいお似合いの武器であった。

 

「……ありがとう」

「礼には及ばん。では、行くとするか」

 

 準備は整った。

 決着を着けに、さあ前に。

 薄気味の悪い悪党の根城に気を使うこともあるまいと、無造作にひたすらに前へと。

 

 

 

△  △

 

 

 

 師匠が案内をし、一つの倉庫のような場所へと辿り着いた。

 地面に散らばる物に若干の生活感を感じることから、ここを拠点にしていたことが伺える。

 あちらとしても俺たちがやってきたことぐらいはわかっていたのだろう、そいつは待ち構えるようにしてそこにいた。

 

 

 

「―――おいおい、誰かと思ったら子供と化け物かよ。面白い組み合わせじゃねえか

 

 

 

 そいつのことを見た瞬間、嘲るようなその表情に怒りがまた吹き出しそうになる。

 しかし、持っていた小太刀を握りしめその感情をグッと抑える。

 

「しかしまあ、俺のところにきたのがお前みたいなのだったらまあ納得かな。で、そっちのガキは何? どっかで恨み買ったか?」

 

 面白そうなものを見るような目で師匠の方へと向けていた視線が俺にも向けられた。

 男、であると思う。

 そうというのもまるで霞でも被っているかのように曖昧に見えるのだ。辛うじて目だけは分かるもののどんな形をしているかはまるで分からないのだ。

 これが今まで正体を掴ませることなく犯行を続けてこれた理由なのだろう。姑息な手段を使うものだ。

 

「……数日前にお前が殺した女性がいるだろ、その息子だよ」

「あぁ? 何だよ子持ちだったのかよ、ついてねぇなあ……」

「は?」

 

 ついてない、だと? 何だその態度は、おい。

 犯人のふざけた態度は俺にとって到底我慢できることではなかったが、前に出そうになった俺の肩を師匠が押さえて止めてくれる。

 そんなことを気にする様子もなく、犯人は自分の独白を続ける。

 

「つまんねぇの……折角子供が生まれる前に殺してやろうと思ってたのに、これじゃあ殺し損だ。輝かしい未来の種が芽吹く前に殺してやるつもりだったのに」

 

 

 

 ―――『ああ、面白くない』

 

 

 

 そう、心の底から言っているのを、理解して、

 

 

 

「―――次はもっとよくやらなくちゃな」

「―――次なんてねぇよ、クズ野郎」

 

 

 

 ―――もう、どうしようもなくこいつを殺したい、殺さなくちゃいけないんだと、そう思う心が自然と俺を動かしていた。

 師匠も最早俺を止めず、抜き放った小太刀は魔力を巡らせた身体能力によって人間が出せないような速度で振るう。

 

「バーカ、お前みてぇなガキが俺をどうにかできる訳ねぇだろ」

「シッ……!!」

 

 しかし、それを座ったままの体勢で何ともなしに素手で止められる。即座に切り返し追撃を放つが、同じようにして防がれ傷を負う様子もない。

 

「人間ごときのちゃちな武器で俺が殺せるかよ。俺は冥界でも名の知れた悪魔なんだぜ……俺を殺したいなら、この位はしてくれなきゃなぁあ!!」

「っくそ!!」

 

 幾度かの攻撃を防がれ、その内の一つを捕まれたかと思えば大きく振り飛ばされ空中で動くことのできない俺に向かって魔力の礫のようなものが追撃してくる。

 咄嗟に鞘を盾にしつつ腕を交差させ、魔力で防御を高めることでダメージを最小限に抑える。

 

 その高い威力によってさらに距離を開けられるも、何とか体勢を立て直し地面へと足を着ける。

 

「……ふぅ」

 

 急ぎすぎたと自戒しつつ、一息つく。

 ……予想はしてたが、思って以上に強すぎる。

 俺と同じように魔力による強化を行っているのだろう。ただ、鍛練を積んではいるものの子供である俺と幻想種の代表格とも言える悪魔とではその総量と技術に格差が存在しているのだ。

 そうでなくてはここまで簡単にあしらわれることもないだろう。

 しかし。

 

「……関係ねぇ。殺す、必ず……っ!!」

「くそガキがぁ!! 悪魔を敵に回したことを後悔して死になぁああ!!」

 

 小太刀を持ち直し、もう一度突撃の構えをとる。

 悪魔は俺が怯えずまた向かってくるのを激昂しながら空中に浮かべた幾つもの魔弾で迎え撃つ。

 それに込められた魔力の大きさに眉を潜めるも、俺の決死の覚悟が折れることはない。

 

 

 ―――そして俺が動き出すのを皮切りにして、魔弾の死雨が降り注いだ。



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苦戦ということらしい……そしてここ一番の

第四話、苦戦を演出。
跳躍のための屈伸のようなお話。


 顔のない殺人鬼、冥界の悪魔のと戦いは熾烈を極めた。

 

 魔弾を操る悪魔は俺を徹底して近づけさせようとせず、終始距離を離しながら死角より襲いかかってくる。

 俺は当たれば致命傷が確実な目の前の魔弾へと意識の多くを割かなくてはならず、死角から奇襲に対応が遅れ何度も傷を負うこととなってしまった。

 戦況は至って不利、しかし俺にはこの状況を打破するための秘策があった。

 それを実行するために、今は耐えるしかなく。

 それでもじりじりと削られていることには変わりなく、一度しかないであろうチャンスが早く来てくれないか、今か今かと構えている。

 

「ちぃ……っ!!」

「ほれほれどうした、どうしたくそガキぃいいい!!!」

 

 自分が優勢であることを理解しているからだろう、調子のいいことに高笑いをしながら攻勢を仕掛けてくる悪魔。

 次々と放たれる魔弾は密度を増し、こちらの退路を奪うようにして宙を飛び交う。

 それでも僅かな隙間を小さな体躯を利用して掻い潜り、魔力を込めた鞘によって軌道を逸らして道を作る。

 

「残念、そこは逃げ場じゃねぇ」

「……っ!?」

 

 二つの魔弾をスライディングで避け、奴を視界に納めようと顔をあげればそこは半球の檻のように設置された魔弾に囲まれていた空間。

 誘い込まれたと理解したときには既に遅く、握り潰されるかのように収縮した魔弾の壁によって地面ごと袋叩きにされる。

 ミンチにでもするかのような執拗な攻撃に全身を打ちのめされ、微かに残されていた余力さえ振り絞って何とか守りを固める。

 

「…………くっ……!!」

 

 必死になって身を守るが、体内の魔力が底を尽きそうなのをひしひしと感じている。

 じり貧だというのは身を持って理解できたが、これをどうこうできるような強力な力など俺にはない。

 そもそも身を守りことを念頭に鍛えてきたのだ。相手を傷つける、ましてや殺すなどではなく、安全に取り押さえるような動きを教えられてきた。

 ……そんな俺がこいつを倒そうなどと、土台無理なことであったのであろうか。

 

 

 

(―――ふざけんじゃねぇぞ)

 

 

 

 押し潰されて、ずたぼろにされて、実力の差を見せられて。

 普通なら諦めるはずだ……でも、何かが俺を諦めさせない。諦めさせてくれない。

 

 

 ―――鼓動がするのだ。強く、激しく。

 

 

 追い詰められているのに、鼓動がどんどんと強くなっていく。

 運動とか、感情の動きのそれではない。

 心臓のある場所から、心臓でないものが動いているのだ。

 

 

 ―――鼓動がする。より強く、より激しく。

 

 

 感覚が遠くなる、意識が外界を遮断する。

 そこにあるものが、より大きくその存在を主張する。

 どんどんと、どんどんと、張り裂けそうになるほどに。

 

 

 

(―――、)

 

 

 

 鼓動が一つ、指が動く。

 鼓動が二つ、手首が動く。

 三つ四つと重なれば、それに応じて僅かに動く。

 五つ六つ、七つ八つ。

 枯れていくはずだった魔力と違う何かが、鼓動と共に弱りきった体を突き動かす。

 そう、動くのだ。

 

 

 

(―――動く、なら)

 

 

 

 九つ。

 理由など、知らないままで構わない。

 でも動くのなら、動いてくれるのなら、それでいい。

 だからもっと、もっと、もっともっともっともっと……!!!

 もっと!!!!

 

 

 

「―――これで終いだ!!」

 

 

 

(―――もっと大きく響かせろぉおおおおおお!!!!)

 

 

 

 悪魔が終焉を告げ、これまでよりもはるかに強力な魔弾が俺の真上に出現する。

 周りの魔弾を飲み込むように、塗り潰すかのような巨大な、まるで隕石のようなそれ。食らえば確実に死に、骨すら残らないだろう。

 落下というよりは膨張するように、魔弾は接触するもの全てを破壊していく。

 呑み込まれ、その圧倒的な力によって消え失せる。

 その、瞬間に―――

 

 

 

 ―――ドクン

 

 

 

 と、異様なほどの低音が、倉庫の中に響き渡った。

 

 

 

△  △

 

 

 

「……目覚めたか」

 

 悪魔が撃ち放った巨大な魔弾。

 それに命どころか存在そのものを消し去られようとしている自分の弟子が、ことこの極限に至ってようやく覚醒したことを、蒼天はその音で理解した。

 

 

 始めはただ、おかしな力を持っていると思い、本当に戯れで鍛えてやっていただけだった。

 しかし、一年、また一年と共に過ごす内、成長していく姿が誇らしく思えてきた。

 愚直なまでに鍛練に身をやつす弟子である。異形である自分になんら忌避感もないのもまた、種族の壁を越え好感を持てた。

 このまま、この者の成長を見ていくのもいいのかもしれない。そう思っていた矢先の、あの悲劇である。

 

 あの日は身を隠す術を使いながら、空の散歩と翼を伸ばしていた。強風など烏天狗の自分には関係ない、そう意気揚々と飛んでいれば、

 

 

 ―――狂乱したように叫ぶ、弟子の声が突然、耳に響いてきたのであった。

 

 

 何事かと、声のした方へ急行してみれば見るも無惨な姿となった母親と思わしき人間にすがり付く、哀れなまでに混乱した弟子がそこにいた。

 とにかくまずは落ち着かせなければと、近寄って気付く。

 犯人のものと思われる残留した魔力、その嫌悪感を催される感じから、その正体が悪魔であることを。

 

 それからは人に化けつつどうにか事態を収拾させるために奔走し、時間は掛かりつつも一通りのことを済ませ。

 そして今、弟子の成長とその覚悟を見せつけられていた。

 

 格上を相手に一歩も退かず、身に付けた技術を存分に使いこなしている。

 始めの一振りなど、これまでで一番の出来であっただろう。

 魔力の運用も淀みなく、本来不利であるはずの小さな体すら利用して見せる機転。

 最早一人の武人としての風格すら滲ませる、そんな戦い。

 

 

 しかし。

 

 

 それでも種族の差、経験の差は埋めがたく、徐々に徐々にと追い込まれていく。

 手出しをすることはしない、そう自分に言い聞かせていたものの何度動こうとしてしまったことか。

 それでもなお、食い付いていく弟子の姿を見れば余計なことはできようはずもなく、歯を食い縛りただ耐えるのみ。

 

 

 そして、とうとう悪魔の檻に捕まってしまい、絶体絶命となってしまった。だが、そこでふと思う。

 じっと、その戦う姿を見ていたからだろう。

 最終局面というところで、弟子から漂う気配の変化。それに気付くことができたのは。

 

 押さえ込まれているはずなのに、徐々にだが弟子の体が動くのだ。

 連続する魔弾の攻撃、耐えるので精一杯のはずなのに、それでも動く。

 まるで何か、別の意思、いや力でも込められているみたいに。

 

 それが何であるか思い至る前に、悪魔がとどめを刺さんとここにきてより強大な魔弾を打ち出す。

 もうだめか、そう思ったその瞬間、

 

 

 

 ―――ドクン

 

 

 

 と、響く何かにようやく、あの力が何であるかを理解する。

 

 

「……目覚めたか、遂に! お前だけの『能力』が!!」

 

 

 苦節六年弱、いくつもの修行を重ねてもついぞ目覚めなかったその力が、主人の危機と極限なまでの渇望によって目覚めたのだと、烏天狗は理解した。

 そして魔弾を打ち破り、のそりと立ち上がる弟子を見て、この勝負の勝敗が決まったこともまた、確信したのであった。



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決着ということらしい……覚醒しました

第五話、覚醒。
パタポンの設定と精神をこう書きたい。


 所狭しと魔弾が迫り、俺の命を滅せんと、巨大となって視界を奪う。

 

 鼓動が命ずるそのままに、おもむろ手足が動きだす。

 

 一つ二つで足りぬなら、三つ四つと重なり響く。

 

 まだまだ足らぬと五つに六つ、七つ八つと鼓動する。

 

 九つとうとう終わりが見えて。

 

 

 ―――十で至るは、果てなきか。

 

 

 

△  △

 

 

 

 おかしなくらいに高鳴る鼓動が、十回目の音を鳴らした。

 それは今まで俺の内側でしか聞こえなかったはずなのに、今度のはそれじゃあ足りないとばかりに外へと鳴り響いた。

 それからだ、俺は唐突に、自分の力を理解した。

 

 

 

△  △

 

 

 

 人間の子供にここまで手こずることになるとはと、悪魔は内心で臍を噛んでいた。

 悪魔は冥界で名の売れた存在だと言っていたが、それが原因で大物に狙われ人間界に逃げ込んできた。

 悪魔の存在などまるで考慮できない人間を相手に遊ぶようにしてその命を奪うのは冥界での鬱憤が晴れとても楽しかった。

 慎重に慎重に、他の奴等にばれないようにことを進めるのは億劫だったが、ここで身バレしてしまっては元も子もないと慎重にやってきたのだが、今回は生憎感づかれてしまった。

 

 まあ、しかし、それもこれで終わりだ。

 多少出来るようではあったが、それも自分とではまるで相手にならないようなガキであった。

 しかし念には念を入れ、自分が放てる最大級の攻撃でその魂もろとも滅ぼしてやる。

 これで勝った、そう思っていた。

 

 

「……馬鹿な」

 

 

 

 ―――しかし、現実はそれを覆す結果を悪魔に見せつけていた。

 

 そこには自分の攻撃を打ち破り、ボロボロのガキがそれでもふらつくことなく立ち上がる姿があったのだから。

 

 

 

△  △

 

 

 

「……馬鹿な」

 

 目の前の光景が信じられない、そんな感情を吐露するように短く発せられたその言葉に、思わず笑いが出てしまう。

 そんなにあり得ないことだろうか、そんなに信じれないことだろうか。

 しかし目の前でそれが起こったのなら、認めるしかないと思うんだがな。

 

「よう、どうしたよ。終わりにするんじゃなかったのか?」

 

 体の様子とは裏腹に、ピンピンとしていることを示すようにして手を広げて挑発してやる。

 それでも奴はまだ信じられないようで、言葉を発することができないみたいだ。

 まあそれもそうか、よくよく考えてみれば、これはあり得ないはずだからな。

 

「そんなにショック受けるなよ。お前の攻撃を受けて、俺は死ななかった。たったそれだけのこと、どうこう考えるのはナンセンスだぜ?」

 

 でもまあ、種明かしくらいはしてやろう。

 俺は度重なる攻撃にてズタボロになってしまった服を破り、胸元のそれを見せつけてやる。

 そこにはそれまで存在しなかったはずの、円を書くような形の入れ墨のようなものが浮かんでいるはずだ。

 

「何だ……そいつは」

 

 悪魔も見たことはないだろう、そりゃそうさ。こいつは俺の元いた世界じゃ定番とも言われたサークルだが、じゃ配置やマークが違うんだからな。

 

「俺ってば、ちょいと特殊な生まれでね。こいつはその証、俺が持っていた力が形となって現れたのさ。

 

 かつて空想の世界にて、世界の果てを目指さんと、あらゆる障害を乗り越えて様々な強大な敵と戦ってきた部族がいる。

 そいつらも目的はただ一つ、果ての果てにあるという『それ』をその目で見ること。

 神の太鼓に導かれ、戦う彼らを、俺はこう呼ぶ」

 

 

 

 ―――パタポン。またの名を『太鼓の戦士』と。

 

 

 

 そう言葉にするや否や、胸の紋章が輝いて俺の周りのそれらが現れる。

 半透明のそれらは四角を作るように、均等な距離で宙に浮かぶ。

 それぞれが独特な形をしているものの、円筒状であり、正面にはまるで顔のようなものが彫られている。

 これこそが、俺の力。

 この世界において異常となる、俺だけの能力。

 

 

 

「―――異能「四方太鼓」

 神が鳴らした、聴く者の行く末を導く聖なる太鼓だ。

 今の俺は、太鼓が響かせる音色によって大きく強化されている。それは鳴り響く限り、対象を支え強くする。

 

 さあ、行くぞ。もう、お前ごときに時間は掛けたくねぇからな。今度はこっちからやらせてもらう。

 

 ―――これで終わりだ、クソ悪魔」

 

 《ポン! ポン! パタ! ポン!》

 

 四つの太鼓の内、二つが軽快な音を響かせてリズムを刻む。

 それはゲームにおいて「攻撃」を意味するコマンドであったが、俺の異能では攻撃力を上げるものへと変化している。

 そしてもちろん、コマンドはそれだけではない。

 

「はっ!? ち、ちくしょうもう一度だ!!」

 

 度肝を抜かれるような事態に放心していた悪魔も、太鼓の音に反応して攻撃を再開する。

 先程大技を繰り出したというのに魔弾の威力は衰えてはいなかったが、それでも放たれたのは一発。

 

 

 《チャカ! チャカ! パタ! ポン!》

 

 

 その攻撃は俺に当たる前に、次のコマンドは完成している。

 今度のは「防御」のコマンド。

 受け止めることすらできなかった魔弾も、今の状態ならまるで問題なく耐えられる。

 むしろ、

 

「ふんっ!!」

「な、何っ!?」

 

 攻撃、防御ともに強化された状態でならば、小太刀の一振りで打ち払うことも可能である。

 これは流石に予想外だったのか、間髪入れない攻勢が得意であったはずの悪魔も手を止めてしまう。

 その間に更にコマンドを重ね、強化をより強力にしていく。

 

「ち、ちくしょう!! 何だ、何だってんだお前は!!!」

 

 そしてその時間が命取り、気付いた時には悪魔の攻撃などもうモノともしないほどに、俺は強くなっていた。

 そして―――

 

 

「―――残念、時間切れだ」

《―――フィーバー!!》

 

 コマンドの詠唱が合計十回となり、全強化状態「フィーバー」へと俺を押し上げる。

 本来ならもっと相応しい使い方があるのだが、今の俺では素の状態でしかこの力を扱えない。しかしそれで十分、今この時だけであれば、それでいい。

 

「―――じゃあな、欠片も残さず消えてくれ」

「まっ、待てっ……!!」

 

 全身全霊を込めた一撃、それなりの距離が空いていたにも関わらずそれを一歩で踏み潰し、小太刀は音速の壁を切り裂いて悪魔の首を切り裂いた。

 

「……ふぅ」

「がっ…う……ぅ…………」

 

 あまりの勢いに悪魔を通りこしてしまったが、地面に足裏を擦り付けて勢いを殺し停止する。

 悪魔はその生命力故か、切り飛ばされて頭部だけとなっても少し意識があるようだった。それとは逆に即座に力を失って倒れていく体。

 どさりと倒れ付したその様子から、もう動き出すことはないと見て頭部の方へと歩いていく。

 

 

「……仇は討てた。誰が喜ぶかは分からないけど、それでも俺の中で決着がついた」

「く……く、そがき……ぃ……」

「お前が俺たちから奪ってきたものを思い返せなんて言わない。ただ、奪われる感覚だけを覚えてこの世から消えていけ」

「お、おぉ……ぉ……、」

 

 弱々しく呻くだけとなり、そして唯一視認できる目を見開いたまま、その瞳から生気が失われていく。

 これでもう、こいつが原因で人間の平穏が乱されることはない。

 一先ずは、これで、

 

 

 

 

「―――だなんて思っちゃいねえよ」

「ごあっ!?」

 

 

 

 背後に向けて小太刀を投じ、それの行動を阻害する。

 強化の切れていない状態での投擲は、例え手首だけを可動させたとしても凄まじい威力をもって目標に突き刺さる。その運動エネルギーはそれなりの重さをもっているはずのそれを吹き飛ばし、勢いのまま壁へと縫い止めた。

 

「く、くそ!! な、なぜきづいた!!」

「気付かれないとでも思ったか、てめぇ悪魔だろうが」

 

 俺が攻撃したものの正体、それは首がないにも関わらず一人でに動き背後から奇襲を仕掛けようとしていた悪魔の胴体である。

 頭を切り飛ばしたことで胴体との距離が空き、それに挟まれるようにして移動したのだが、ある懸念を抱えていた俺はわざとその位置取りをしていたのだ。

 

「お前は悪魔の力がある癖に、俺の母親を殺した手段は刃物によるものだった。使い慣れた力の方が融通が利いたにも関わらずにだ。

 お前が俺との戦闘中、いつそれを使うのか。

 それはとどめの瞬間かと思っていたが、それでもお前は魔弾を使った。そこである仮説が浮かんでくる。

 もしかして、刃物を使うときは何か条件があるんじゃないかってな」

 

 そしてそれは、もう一つの真実を浮かび上がらせてくれる。

 

「お前は殺しをする割りにえらく慎重だ。俺を確実に相手を殺せる手段を選び、殺人をするときは顔を隠して活動している。

 そんなお前が、人間としての姿で俺と戦うのは何か違和感があった。悪魔悪魔と言ってはいても、そんな要素はどこにもない。

 じゃあ、どこにその証拠があるのか。

 そもそも顔を隠しているのも、何か別の事情があるんじゃないのか。

 冷静になって考えてみた、そしてある仮説が俺の中に出来上がる」

 

 

 

 

 

「―――お前は人間に取り付いた悪魔で、お前が顔を隠すのは、逆に顔がないということを印象着けるためなんじゃないかってこと。顔に注目させておいて、その本体は体の方に寄生しているってことがだ。

 お前は人間の肉体を操ることで色んな捜査を掻い潜ってきた。だからこそ、このトリックに自信を持っているはずだとな」

 

 そう、だからこそあえて奇襲のしやすいような位置取りをして攻撃を誘い、まんまとこいつは引っ掛かったというわけだ。

 遠距離での戦いや、座ったままの戦いも、できるだけ生身であると分からせないように工夫をしてのこと。

 一度攻撃が効かないと判断されれば、同じ攻撃はされにくいからだ。

 

「ち、ちくしょう……!!」

「悪いが、裏をかこうってんなら程度が浅いぜ。こっちはそういうことに関しちゃそれなりに知識もってんだからよ」

 

 だてに前世で中学高校とアニメやラノベ、ゲームで小遣いすり減らしてねぇんだよ。

 まさかってものが本当にあり得るのなら、大方の予想はつくってもんだ。

 

「小太刀には太鼓の力が込められている。生半可な抵抗じゃ意味を成さねぇ。さあ、これで本当に仕舞いにしよう」

「くそ、ちくしょう!! 俺が、俺様がこんなところでぇえええ!!!」

 

 抵抗は無意味だと告げても尚逃げようともがく悪魔の本体。お前を守るはずだったその肉体も、今ではお前を縛る檻。

 身動きのできないそこで、消滅する恐怖を味わうといい。

 では、此れにて。 

 

 

「―――往生せいやぁあああ!!!」

 

 

 腰だめに構えた右の拳、縦から横へと回転させ、踏み込みの力を連動させる。

 足から伝わる衝撃を、筋肉で伝え骨で支えて繰り出す。

 形はただの正拳突き。

 しかし、そこにはそれまで溜めに溜めた俺の力が宿っている。

 それを奴の腹部へと打ち付ければ、解放された力が悪しき存在を滅していく。

 そのあまりに強力な力による暴力的な浄化に、もはや言葉すら発することなく、爆発し、粉微塵となり、周囲へとその残骸が四散した。

 

 

 

 



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それからということらしい……旅立ちの時

第六話、これにて序章はおしまい。
少年はこうして夢のために足を踏み出していく。


「……塵も残さねぇつもりだったが、上手くいかねぇもんだな」

 

 鼓動は鳴り止み、倉庫に中には静寂が漂っていた。夜もまた明けようとしているのか、闇がうっすらとなり始めている。

 それほどの激戦をしていた自覚はないが、改めて周囲を見渡してその惨状にため息をつく。

 体が滅んだからか、頭部もなくなっており同じように塵となっている。

 倉庫の床はそこかしこにヒビが入り、特に大技を食らったところにはそれに相応しいほどの大穴が空いている。

 無事な柱を見つけるほうが難しいような内部のせいで、倉庫は崩れる一歩手前といったところだった。

 そうして倉庫Mの惨状を見つつ一息入れていると、それまで見守ってくれていた師匠が近づいてくるのが分かった。

 

「……終わったな、弟子よ」

「ああ、終わった。全部あんたのお陰だよ、あんたが師匠になってくれなかったら、この結果にはならなかった。

 本当に、感謝してる。ありがとう」

  

 まさかの連続ではあった。

 しかし、最悪のまさかを自分の手で決着に導くことができたのも、そのまさかのお陰である。

 それならば、これはいい出会いだったというべきなのだろう。

 

「お前は見事仇を取り、我の試練をも乗り越えた。もはやお前は一人前の戦士。我が教えずとも、この先自然と学んでいくことだろう。

 で、どうするのだ、お前は」

「どうする、ね……」

 

 本当、見抜いてくれるよね、この人は。

 戦いを終えて、今俺が思っていることがあるのをわかってのこの発言だ。おそらくその内容も理解していることだろう

 

「こういうことってさ、俺たちだけが会ってるわけじゃないと思うわけよ。実際、師匠んとこも色々あるみたいなこと言ってたしさ」

「そうだな。「聖書」の連中は色々と傲慢な奴等が多くてな、ぶつかり合うと面倒なのだ」

「そうすっとさ、それで迷惑被ってる人たちが大勢いるわけでしょ。中には俺みたいに、半端に力を持ってたりとか。それが原因で苦しんでる、とか、いるんじゃないかなって」

「ほう、それで」

 

 ここにはそれほど、いい思いでというのもない。

 相変わらずぼっちだし、大人は今回の事件で俺のことを腫れ物みたく扱うだろう。

 親族だって余裕があるわけでもないから、どこで引き取るかなんてこともできない。

 このままだったら、俺は施設に送られることになるだろう。

 それならいっそ、飛び出してみるのもありなんじゃないかと思う。この世界には裏があり、そいつらのせいで迷惑している人たちがいるんなら、手を差し伸べてあげたいと思う自分がいるからだ。

 

「もう俺みたいな思いをする人間を増やしたくない。流れる涙が、どうか嬉し涙でありますように。

 太鼓しかできないような奴が、悲しみだとかを一打ちで払えるようになるにはどうしたらいい、師匠?」

 

 俺がそう問いかければ、烏天狗の鳥顔を器用に歪ませ思案するかのような表情を見せる蒼天。

 

「さてなぁ、我とて万能ではないからな。そのような方法、あれば神を越えておろう」

「そんじゃあ、探しにいきますか」

「ないかもしれんというのにか?」

 

 はっ、そいつは愚問という奴さ。

 

 

 

「―――神様だろうが何だろうが、やってもないのに否定はさせねぇ。果ての果てまで探したか? 隅から隅まで探したか?

 千変万化のこの世界、地図などあてになりゃしない。

 この目で見たもの耳聞いたもの、それらだけが真実さ。

 「それ」を見たことないのなら、果ての果てまで見に行こう。

 いざや進まん旗本集い、意気揚々と旅に出よう。

 

 ……てなぁ具合だよ。

 どうだい師匠、俺は「それ」を探しに行くんだが、一緒にいくかい?

 今なら旗印にぴったりの男がいるし、セットで行進曲もついてくる。つまらない旅にはならなそうだぜ」

 

 

 

「……そうまで言われて、断るのは少々癪というものだな。よかろう、丁度ここいらで山に帰るつもりだったのだ。それが十年二十年延びようが構うまい。

 だが、旗というならもっと立派になって貰わんとな。今のままでは貧相に過ぎるわい」

 

 

 こりゃ厳しいと額に手を当てて、眩しさに目が眩みようやく日が昇ったことを理解した。

 もう思い残すことはない。

 ここでのことに全てケリをつけたなら、大冒険を始めよう。

 

 

 

△  △

 

 

 

 と、いうことがあったのだ。

 あれからまた色々とあり、俺の処遇についての話し合いで揉めて卒業まで時間が掛かったというところなのだが。

 まあこれも、思い残すことの一つではあったのかもしれないのでよしとしておこう。

 クラスの連中とは相変わらず打ち解けることはできなかったが、もうしょうがないことだと納得するしかない。元から違う年代の人間なのだから、このクラスの雰囲気に合わなかったということなのだろう。

 

 そうしてクラスの連中に遠巻きに睨まれつつの卒業式を終えて、俺は自分の身元引き受け人のところへと足を進める。

 あの後、親戚との話し合いで人間に化けた師匠が一喝して、やいのやいのと言い合う連中を押さえて俺の義理の父ということになったのだ。

 これが妖怪のパワーなのかと軽く感心する俺を尻目に、あとは流れでそういうことになっていた。

 

 

 

 俺はここを卒業して、他県へと行く。

 表向きは都会の受験に合格したからだが、本当は日本全国を巡る旅に出るからだ。

 まずは色々なところを見てみないと何も分からない、どこまで悪魔が蔓延っていて、そいつらの何割が悪事を働いているのか。

 天使は、堕天使は?

 そういったことを理解しないまま、ただ方法だけを探すなんて絶対に無理だろう。

 だからこそ、各地を見て回って、人として成長していかなければならないんだと思う。

 できるのかって?

 

 

 ―――俺を誰だと思ってる、太鼓の戦士は、頑張り次第で奇跡を起こせるナイスな男なんだぜ?

 

 

 そんな奴が諦めるなんてことしてちゃあ、両親に顔向けできねぇよ。

 何の因果か転生なんてことを経験したんだ、それなら思いきり生きなきゃダメだろう。

 

 

 

 ―――さあ行くぜ異世界、タイコの戦士が殴り込みだぜ!!




読了ありがとうございました。
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